もしもバーン様が逆行したら? (交響魔人)
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お気の毒ですが、バーン様が逆行しました。

勇者側では無くて、たまにはこういうのも有りだと思って書きました。


 余が…敗れる?悲願達成の直前に…

 数千年かけた、計画が…三か月、で?

 …太陽を、我が…手…に……

 

 そこまで考え、魔界の神と呼ばれた大魔王バーンは、意識を失った。

 

 

 だが、消えたはずの大魔王バーンは、何かの声を聞く。

 徐々に意識が戻っていく。触覚、聴覚…そして、視覚。

 目の前の光景を見て、呆けた顔をする大魔王バーン。

 

「…偉大なる大魔王バーン様、今ここに邪悪の六芒星を司る最強の精鋭達が揃いました。

この鬼岩城を拠点とし再び世界を暗黒に染め、バーン様に献上する所存にございます」

 

 これは、何だ?覚えて居る、鬼岩城完成、そして軍団長が集った日。

 暴魔のメダルを授けようとした際に、氷炎軍団長フレイザードが取った日だ。

 

 信じられないが… 時が、巻き戻った?鬼岩城完成の時、に?

 

 

「??バーン様?」

 

 困惑した声を上げるハドラー。

 

『……実に。実に頼もしい顔ぶれだ、ハドラー。余は大変満足しておる……』

「ハハーーッ」

 

 恭しく頭を下げるハドラー。

 

 時が逆行しているのか、夢なのか分からぬ。

 もしも。もしもここで暴魔のメダルを取れるかどうか、余のメラで試さなかったら、どうなる?

 

『お前がかつて成し遂げられなかった、地上征服の野望を果たすが良い』

「ハハーーッ」

 

 …変わった。やはり、間違いない。自分は時を逆行した。

 三か月前、に。

 

 

 他の軍団長が下がった後、バーンはミストバーンを呼ぶ。

 即座に駆け付けた忠臣に、バーンは告げる

 

「ミストよ…余は。夢を見ていた。」

 

 夢を見ていた、太陽を取り戻す夢なのかと思っていたミストバーンだったが。

 

「余が、地上の人間に打倒される夢だ。」

「なっ?!」

「…余を討ったのは、デルムリン島にいる、勇者ダイと魔法使いポップ、そして…神の涙」

「か、神の涙ッ?!あれがデルムリン島に?!」

「…この後、ハドラーを送り込む予定であったが…変更だ。ミスト、ついて参れ。

奴らは三か月で余を打ち倒す程強くなる。ここで…終わらせる」

 

 にわかに信じられない事だったが、忠臣は素直に従う。

 主君の言葉こそ、最も優先されるのだから。

 

 

 

『…ハドラーよ、勇者アバンはデルムリン島に居る』

「ハッ」

『だが、余とミストも共に赴く。仕留めねばならぬ相手が居る』

 

 大魔王が直々に動いて仕留めないといけない相手が居る?

 それほどの強敵が、と思いつつもハドラーに反対する権限など無い。

 

 

「わかりました」

『では。行くとしよう』

 

 

 こうして、デルムリン島、レベル1のダイとポップ、ゴメちゃんがいる所に、

 大魔王バーン、ミストバーン、ハドラーが襲撃するのであった。



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さらば!地上の勇者!

結果の見えた勝負はつまらない、と思うのですが続きを投稿します。
勇者の終わりまで見届けて下さい。


 デルムリン島

 

 そこではダイを勇者にするべく、特訓が行われていた。

 ドラゴラムでドラゴンに変身し、ダイに海破斬を会得させていたアバンは、突如膨大な魔力を感知する!

 

「何者かがこの島に入り込んだようです…なんと恐ろしい魔力!」

 

 警戒して洞窟から出たアバン、ダイ、ポップ、ゴメちゃん、そしてブラスの前に

 老いた魔族と白い衣装を纏った者。そしてハドラーが立っていた。

 

「久しいな、勇者アバン」

「エッ?!」

「せ、先生が勇者…?」

 

 バーンは眼前の少年たちを見る。まだ、大して強くも無いこの少年が…三か月で余を打ち倒すまで成長する。

 もはや、生かしてはおけない。部下に誘った所で、こやつは余を倒して地上を去ると言いおった。

 光魔の杖を構える大魔王バーン。

 

「即時粉砕!やれ、ミスト!」

『闘魔滅砕陣!!』

 

 暗黒闘気が勇者アバン、ダイ、ポップ、ゴメちゃんを捕える!

 

「?!なっ、なんという力!!」

「うわぁああああああああ?!」

「い、いてぇええええ?!」

「ピィイイイイイ!!」

 

 

「あっ、アバン?!」

 

 宿敵が苦痛の表情を浮かべた事に思わず声を上げるハドラー。

 魔影参謀ミストバーンは寡黙な男だと思っていたが、

 今の奴は何だ?すさまじい憎悪と殺意をむき出しにしている、熱い男だ。

 

 そこに、大魔王バーンは全力でカラミティウォールを放つ!

 すさまじい衝撃波がアバン達を襲う!

 

「うわぁああああああああ?!」

 

 絶叫をあげるアバン達に、火の鳥が襲い掛かる!

 

「カイザーフェニックス!!」

 

 一撃では無い!二発目が即座に練り上げられ、放たれる!

 

 

 圧倒的な火力に、恐れおののくハドラー。

 そして…

 

「…ダイ、ポップ、そして神の涙は滅んだか…だが」

「?!あっ、アバン?!」

 

 よろよろ、と起き上がるアバンを見るバーン。

 その眼差しは鋭いままだ。まだ、油断はしない。

 

「…だ、ダイ君?ポップ?」

 

 呆然と呟くアバンを見て、バーンはハドラーに声をかける。

 

「…カールの守り、か。持ち主の命の危険を一度だけ守ると言う…ハドラーよ、これが勇者の恐ろしさだ。

故に、全力で排除せねばならぬ」

「はっ、ハハッ!」

「だが、奇跡は二度も起きぬ。ハドラーよ、もう一度アバンを殺せ。」

 

 そう告げ、光魔の杖をしまうバーン。

 握っているだけで魔法力を消耗する。故に観戦するのに持っている意味は無い。

 

 

 

 ハドラーとアバンの戦いが始まる、だが戦う前からアバンの敗北は確定していた。

 カールの守りで一命はとりとめたが、もはや満身創痍。さらに13年という歳月は彼を衰えさせていた。

 一方でハドラーは新たな肉体を得ている。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ…」

「…老いたな、勇者アバン」

 

 ハドラーの心境は複雑だった。野望を阻み、命まで奪った憎い相手。それを始末できるというのに、何の感慨も無い。

 だが…始末しなければ自分の命は無い。後ろの大魔王バーン…老人の姿であるが、それが無言ですさまじい圧力をかけてくる。

 

 さっさと仕留めろ、と。仕留めねばお前もろとも先ほどの炎で焼くぞ、と。

 

 

「死ね!勇者アバン!」

 

 地獄の爪で突き刺すハドラー、それに対し、アバンは両手の指をハドラーの頭に突き刺す!

 

「?!ぬっ、こ、この呪文はまさかぁ?!」

「は、ハドラー!お前だけはここで道連れにす」

 

 直後に、アバンの顔半分が消える

 

 

「?!あ、アバン!!」

 

 ミストバーンが主を見ると、右手を突き出していた。超濃縮した暗黒闘気を放ったようだ。

 

 力なく崩れ落ちる勇者アバン、否、アバンだった肉塊。

 

「ハドラー、アバンの首を刎ね、メラゾーマで焼け」

 

 確実に死んでいる相手に対し、あまりにも冷酷な言葉。

 

「あ、あぁあああ…」

「聞こえなかったか?」

 

 恐怖に狩られて、ハドラーはアバンの死体を破壊し、焼き尽くす。

 

「…これで、最大の危機は去った。ハドラー。もう一度鬼岩城に全軍団長を集めよ。

命令を与える」

「はっ、ハハッ!」



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軍団長への通告

バーン様が勝つ二次創作があってもいい。



 鬼岩城にて。

 氷と炎が合体した魔物、老いた魔族、鎧をまとった剣士、フードを被った男、背中に長剣を背負った男、斧を持った獣人が歩く。

 

 

「…また全軍団長集結とは。」

「全くのう。」

「バーン様のお言葉は、全てに優先する」

「リンガイアへ向かう直前に呼び戻されるとは、な」

「この前全員揃ったばかりだというのに、何かあったのか?」

「まぁ、行くしかあるまい」

 

 軍団長がお披露目した場所に、再び集う。

 ややあって、六芒星の中心にある像の両眼に光が宿る。

 

 

『…全員揃ったようだな。地上制圧として、百獣魔団はロモス、不死騎団はパプニカ、、氷炎魔団はオーザム、妖魔士団はベンガーナ、魔影軍団はカール、超竜軍団はリンガイアを任せていたが…刻限を定める』

「こ、刻限ですかっ?!」

『そうだ。今から三か月後までに、制圧を完了せよ』

「さ、三か月?!」

 

 意図が読めない5人の軍団長とハドラー。

 ミストバーンは三か月後に討ち取られたという夢に対する意趣返しと即座に気が付くが沈黙を保つ。

 

『遅れは許さぬ。例えば、クロコダインよ、そなたは三か月以内にロモスを落とせば良し。だが…他の戦線で苦戦する軍団が出て来るやも知れぬ』

「そ、それは…」

 

 クロコダインは言葉を濁す。バランはかなりの手練れだが、それでもリンガイアはかなり苦戦するだろう。

 その実力は未知数だが、ミストバーンが担当するカールは勇者アバンを輩出した騎士団を擁するかなりの難敵だ。

 

『もしも、三か月後にも制圧が完了していない王国があった場合、その者も含めて罰を与える』

「ば、罰?」

『そうだ、フレイザードよ。』

 

 突如、すさまじい業火が軍団長の前に現れる!

 

「ひょ、ひょげええええええ?!」

「ぬぅっ?!」

「なっ…」

 

 凄まじい熱気、フレイザードの氷の半身は既に溶け始めている。

 ややあってその業火は消えるが、一同の顔色は悪い。

 

『この炎が直撃する事となる。一人でも期限までに担当地域を制圧できなかったという失態を犯せば…な』

 

 押し黙る5人の軍団長、ミストバーンは黙したまま。

 本来、地上制圧は自分一人でも十分、魔王軍は余興のつもりだと聞いていたが…

 思えば、忠誠心を見込んだクロコダインはロモス攻略に余り乗り気ではなかったようだが…その顔に浮かぶ汗を見る限り、やる気を出したようだ。

 他人にこびへつらうザボエラも、追い詰めれば自分の手足を動かすだろう。

 

 

 そして、先ほどの冷酷さを目の当たりにしつつも、軍団長だけと言う言葉に内心ホッとしたハドラーに、絶望的な言葉がかけられる。

 

『無論そなたもだ、ハドラーよ』



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獣王とハドラーの受難

 硬直していたハドラーは、我に返って叫ぶ。

 

「な、何をして居るッ!さっさと任務につけッ!」

 

 軍団長が出撃した後の広間にて、ハドラーは震える。

 たかが人間の子供相手に、あれほどの攻撃。一体彼は何者だったのか?

 いや、今更考えても意味は無い。それよりも…

 

 地上の世界地図を広げ、ハドラーは頭をかきむしる。

 三か月以内に落とさねばならない、落とした軍団を苦戦している戦線に投入していくしかない。

 しかし、いくら考えても分からないのは「三か月」という刻限。

 一年という切の良い区切りでも無い。

 

 

 ラインリバー大陸。南西部に位置するロモス王国。

 その王宮は何時になく慌ただしかった。

 最近は魔の森から魔物が現れ、その対処に苦労していたのだが、今日は事情が違う。

 

 元々、ロモスは強国では無い。クロコダインは自分が出るまでも無く落とせる。そう思える程度の質と数しか持っていない。

 故に期限三か月と定められ、業火を見ても担当地域についてはさほど心配していない。あくまでも通過点に過ぎない、と。

 そしてその考えは正しかった。

 

 百獣魔団の猛攻の前に、兵士は一人、また一人と倒れ、防衛戦線は瓦解していく。

 

「こ、国王様!魔の森から多数のモンスターが襲撃してきます!」

「なっ、なんじゃと?!」

「陥落は時間の問題かと…お逃げください!我々がお供します!」

 

 たしかに詰み、ではある。だがロモス国王シナナは逃げるわけにはいかない。

 

「何を言う!城の者達を見捨てて逃げるわけにはいかん!

戦うのじゃ、最後の最後まで希望を捨てずに!神は逃げ出した者に奇跡を与えはせんぞ!」

「!!」

「王の逃亡は敗北と同じじゃ!わしは非力な年寄りじゃが…断じて逃げるわけにはいかんのじゃ!」

 

 逃げれば敗北を認めた事になる、未だ命がけで戦っている兵士がいるのに。

 主君の覚悟に応えようと、決意を新たに立ち向かう覚悟を決めた彼ら。

 

 アバンは死んだ。だが、希望が完全に尽きた訳では無い。

 

 

 獣王に率いられ、進軍する百獣魔団のモンスター。

 共に最前線で力押しをするクロコダインは勝利を確信していた。

 そんなクロコダインの所に一報が入る。

 

「ガルッ!」

「?老人が立ち向かってくる?しかも一人で?こんな国に手古摺っている暇など無い。」

 

 忠誠を誓った大魔王バーンとハドラー、彼らにロモス制圧の報告を早急に入れたいクロコダインは部下の一人を差し向ける。

 ライオンヘッド、ベギラマを得意とする精鋭の一匹だ。老人如き、一ひねり。

 

 思考を切り替え、ロモス王宮へ攻め込もうとした直前にまた一報が入る。

 

「…ライオンヘッドが敗れた?オレが行こう」

 

 時間的余裕があれば、強者の登場に戦意高揚していたであろうクロコダインだが、そんな余裕はない。

 獣王痛恨撃を放つべく、闘気をためる。最初の一撃で終わらせる。

 

 そんなクロコダインの様子をガルーダは訝し気に見つめる。

 彼の良く知る主君ならば、こんな一見無茶かつ合理的な戦術はとらない。

 何をそんなに焦っているのか?

 ややあって現れる老人にガルーダは目を向ける。

 

 

「ギッ!」

「…あれか」

 

 老人だが、素早い身のこなしで自軍を翻弄している

 咆哮を上げ、それを聞いた百獣魔団のモンスターは即座にその場を退避。

 こちらに目を向けた老人に向かって、獣王痛恨撃が放たれる!

 

 大通りをさらに拡張させ、動く物が無いと確認したのち、クロコダインは城へ目を向ける。

 

「クエッ!」

「ぬっ?!」

 

 忠臣、ガルーダの警告を聞いてそちらを見たクロコダインは

 直後、青空を仰ぎ見ていた。

 

 

 自分が投げ飛ばされた事を悟ったのは、地面に叩きつけられてからだった。

 

 

 

「ぐっ…」

 

 真空の斧を構え、眼前の老人を睨むクロコダイン。

 対峙していた老人…ブロキーナもこれが大将と判断し、構える。

 

 

 容易ならざる相手、だが。城を落とせば全ては終わる!

 部下に総攻撃を命じようとした次の瞬間。

 

 

 老人とは思えぬラッシュがクロコダインを襲う!

 頑強なクロコダインも耐えきれず、ダウンしてしまう。

 

 ありえない光景に、周りの百獣魔団のモンスターが硬直する。

 

「クエエエエエ!」

 

 忠臣、ガルーダがクロコダインを掴み、大声を上げる。

 軍団長に何かあった、と悟った他の戦線で戦っていた百獣魔団のモンスター軍団達も撤退を開始する。

 

 敵の老人が追撃してくるのでは?と思い警戒していたガルーダだったが、不思議な事に追撃は無かった。

 敵は撤退していくが、受けた損害は深刻であり、とても凌ぎきったとは思えないロモス王国軍。

 

 

 

 

 

 魔の森のアジトにて

 

「…何故ひいた、ガルーダ」

「クエッ」

「時間が無い…ぐっ」

 

 ダメージが大きい、薬草を食べて体力は回復したが…怪我は癒えて居ない。

 悪魔の目玉が洞窟内に入り込んでくる

 

 

「む、これは…」

『クロコダインか、ロモス攻略は』

「お、おお…魔軍司令殿…不覚を取った」

『なっ?!ば、馬鹿な!ロモスにそんな戦力があるはずが…』

「やたら強い老人がいた、武道家だろうが…恐ろしい手練れだった』

 

 老人で武道家。ハドラーはある人物を思い出した。

 アバン、マトリフと共に刃向かって来た相手…

『老人、武道家…?!アバンの仲間にそのような者が居た!お前でも倒しきれなかったか…。

分かった、しばし休め。』

 

 

 

 

 鬼岩城にて、ハドラーは頭をかきむしる

 アバンに協力していた武道家の老人。奴がまだ生きていて、しかもクロコダインが撃退されるとは!

 

 第一報が凶報だった事で、ハドラーの不安は増大する…。

 かつての己でも討ち取れなかった相手だった。今の軍団長で奴を倒せる者は…バランだろうか?

 

「ま、まずい!まずいぞこれは…」

 

 ハドラーの胃がギリギリと痛む。

 



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パプニカ軍殲滅戦

女性に手を上げるなど、という精神は立派だと思いますが、立ちはだかってくる以上倒すしかないと思います。

貴方はヒャダインを使えるレベルの賢者に手加減出来ますか?


 地底魔城から、次々と出撃するアンデッド軍団。

 対するは、パプニカの賢者と魔法使い。

 魔法攻撃で数を減らされても、アンデッド軍団はその努力をあざ笑うかの如く湧き、

 魔力が尽きた魔法使いから順番に殺害されていく。

 既に国土のほとんどはアンデッドが制圧し、残るは…神殿に立てこもるパプニカ軍のみ。

 

 頃合いだ。ヒュンケルはそう判断すると最前線に出撃する。

 敵の新手、と見て魔法が次々と放たれるが、鎧の魔剣は電撃以外は通じない。

 

 剣を一閃させ、最後の防衛ラインを守っているパプニカ兵を切り捨てるヒュンケル。

 ベギラマが通じず、呆然とする魔力が尽きたパプニカ王にその刃を突き刺し…

 

 

「…これで終わり、か。魔軍司令殿、に報告しなければ、な」

 

 不甲斐ないせいでバルトスが命を落とす要因になったハドラーを、ヒュンケルは快く思って居ない。

 だがあの日。失態に対して業火でもって罰すると告げた大魔王は、ハドラーに対しても連帯責任を求めた。

 今は不本意だろうが協力してやらねばなるまい。クロコダインとバランはともかく、フレイザード、ザボエラは…

 ミストバーンはどうだろうか?相手はカール。

 

 他の戦線に想いを馳せていたヒュンケルの所に、腐った死体が近づいてくる。

 敵では無い。腹心の一人だ。

 

「ヒョッヒョッヒョッ…」

「モルグか」

「ヒュンケル様、制圧おめでとうございます」

「フン…まだ国は6つある。クロコダインとバランに増援は無用だろうが…」

「大魔王バーン様から、勅命が出ております…」

「?!俺に?!」

「はい、なんでも」

 

 

「パプニカ王女レオナとその護衛は、バルジ島に逃げ込む。入り込んだら気球を破壊し、確実に抹殺せよ、と」

 

 その言葉に絶句するヒュンケル。

 

「…バーン様は、どこまでご存知なのか?」

「悪魔の目玉を通して見ておいでなのでは無いでしょうか?」

「そう、だな。大事なのはどうやって知ったかでは無い。俺が何をするべきか、だ。しかし王女か…」

「女性は殺したくありませんか?」

「まぁな」

「…ご命令通り、女性は捕えましたが…全員地底魔城に幽閉するおつもりで?」

「女性に手をあげるな、父の教えだ」

 

 

 一国を攻め滅ぼしておきながら、女性だけは全員捕えろ。

 鼻白むモルグ。だが、それよりも…

 

「…では、バルジ島へ出撃しますか?」

「勅命とあれば」

「ヒョッヒョッヒョ、では手はずを整えましょう」

 

 

 

 地底魔城にて、モルグは主君に説明をする。

 バルジ島は大きな渦があり、入るには渦を迂回していくしかない。

 気球があるとなると、パプニカ残党は空から入っているのだろう。気球とはそういう事だろう。

 

「まずは気球をどうにかするしかない、か」

「その件ですが、魔軍司令様が増援を送ってくださいました」

「何?」

 

 一瞬目つきが鋭くなるヒュンケルだが、自分が失態を犯せば揃ってあの業火に焼かれる。

 魔軍司令殿も必死と言う訳か。

 

「親衛隊のガーゴイルです…おや、到着されたようで」

「む…」

 

 

 入って来たのはガーゴイルだった。がに股で歩いてくる。

 

 

「ヒュンケル様、ガーゴイル部隊到着しました!」

「…ご苦労」

 

 内心快く思わないハドラーの直属。表面上のねぎらいはかける。

 それに対し、ガーゴイルは深々と頭を下げる。

 

 

「…ヒュンケル様、非礼を承知で申し上げます」

 

 その様子に反応するヒュンケル

 

「我らは死力を尽くして任務遂行に励みます。ヒュンケル様はどうやらハドラー様に思う所があるご様子。

ですが。」

 

 キッと顔を上げるガーゴイル。

 

「三か月の間、我慢頂けませんか?」

 

 三か月。その刻限が何を意味するのか分からないヒュンケルでは無い。

 

「…努力はしよう」

「我らはマホトーンを得意とします。必ずや気球を破壊し、敵の退路を断って見せましょう!」



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死闘!オーザム王国!

オーザム王国の王族、軍人は作中でほとんど描写されていないので、オリキャラが登場します。ご了承下さい。


 オーザム王国。極寒の地であり、王国はあれどさほど強国では無い。

 その国に、フレイザードが攻め込む。

 

「ぎゃあああああ!」

「うわぁああああ!」

 

「クカカッ!脆い、脆すぎるぜ!この程度のレベルが最強の騎士か?」

 

 高笑いを上げるフレイザードは、村を、街を焼き尽し、王都へと追い込ませる。

 

「フレイザード様、人間どもは王都へ集中していますが…」

「これでいい。まとめて始末する。それにここに集結させれば『アレ』を使うにはうってつけだろう?」

「な、なるほど…」

 

「だが、念には念を入れねぇとな。爆弾岩を配置しろ。フレイム軍団は炎魔塔、ブリザード軍団は氷魔塔を作り出した後、守り抜け。

連中が塔の破壊を狙わず、ただ結界外へ逃げようとしたら…」

「ドッカーン、と言う訳ですね…」

「念入りに準備しろよ…この一戦で確実に、潰す」

 

 そう言っているフレイザードの目は、オーザム王国の吹雪もかくや、と言うほど冷たく、冷酷だ。

 

 

 一方、オーザム王国の王宮は。

 

「み、皆の者!心配する必要はない!奴らが攻め込んで来ようと、王都にて迎え撃てばよい!」

「リンガイアへの救援要請も出した!そうすれば魔物如き」

「お、おお!確かリンガイアには英雄ホルキンス殿と、猛将バウスンとそのご子息、ノヴァ殿も居るとか…」

「実に頼もしい!内外から攻めたてれば魔物どもなど」

「オーザム王都に籠城するもよし、城壁内に敵を誘い寄せて分断することで各個撃破も出来る!」

 

 

 

「情けない」

 

 静かな声が放たれると、王宮の喧噪はシン、と静まる。

 

「貴方達は恥ずかしくないのですか?リンガイアからの増援に縋り、王都の防壁に縋り。

私達は、オーザム王国軍ですよ。」

「メアリー殿」

 

 メアリー、と呼ばれた少女は冷たい目で周りの将軍と参謀を見渡す。

 

「田畑を焼き、村を焼き。ここまで国土を蹂躙されて、何故戦おうとしないのですか?」

「我が国最強の騎士が手も足も出ずに討たれました。我らはもはやリンガイアの増援が間に合うのを神に祈るしか」

「王都の城壁に縋り、リンガイアの増援に縋る。我々が王都に籠城させようとしている事に、何故気が付かないのですか?」

「な、何の為に!」

 

 ため息をついて、メアリーは告げる。

 

「我々を一人も生かして帰さないため。そう考えれば敵の行動は理に適って居ます。

辺境の村や町を焼き、徐々に王都へ迫る。王都を落とすだけならば、そんな事をせず王都を強襲すればいい。

今までの戦い方を見るに、敵将は炎の如き暴力性と、氷の如き冷徹さを兼ね備え…そして、非常に用心深い。」

「ではどうしろと?」

「…皆さま方は王都の防衛に当たって頂き、私は直属を率いて出撃しましょう」

「か、勝てるのですか!」

「王都を戦場にしてどうするのですか!」

 

 

 カツカツカツ、と音を立てながらメアリーは王宮から立ち去る。

 王宮の一角に辿り着くと

 

「メアリー様。ご命令通り、出撃準備は整っております」

「そう……全員、出撃せよ!我々の、オーザム王国の為に!」

 

 

 直属を率いているメアリーは、思考を巡らす。

 敵将はこちらの士気が低く、守りに徹すると思っている。故にその守りを打ち砕き、しかる後に殲滅出来るだけの準備を

 整えようとしている。つまり。この状況で出撃してくるとは思って居ないはず!

 

 

 

 

 

 フレイザードが手勢の配置を確認していると、一報が入る。

 

「オーザム王国軍が出撃してきただとぉ!」

「は、はい!」

「ケッ、ここまで蹂躙すれば出てこないと思って居たら…手間が省けた!一人も生かして帰すなッ!」

 

 

 出撃したフレイザードは、オーザム王国軍を眺める。

 

「全く、また我こそはオーザム王国最強の騎士、とでも言うのかぁ?何人いるんだ。」

 

 片手を持ち上げて、フレイザードは煽る。

 

「オーザム王国最強の騎士様は、よ?」

 

 その煽りに、笑い声をあげるフレイム軍団とブリザード軍団。

 メアリーは一切動じずに、杖を構える。

 

「ん?」

「イオラッ!」

 

 中級の爆裂魔法が炸裂する!フレイザードはとっさに躱すが、砕け散った氷の欠片がフレイム軍団に当たり、

 動揺が広がる。

 

「イオ系が得意、か。ケッ、メラ系、ヒャド系なら…まぁいい。こっちの番だ!メラゾーマ!」

「バギマッ!」

 

 バギ系も使える事にフレイザードは目を細めるが、直後に大きく見開かれる!

 迎撃では無く、身を守るように張り巡らした為だ。

 

「…なるほどなぁ、真空のバリアーで俺様のメラゾーマを遮断した訳か、意外と頭が回るみてぇだな。」

 

 

 今まで始末してきた相手とはレベルが違う、と判断し、フレイザードは攻勢に出る!だが

 

「メ・ラ・ゾ・-?!」

 

 フィンガーフレアボムズを放とうとすると、イオラが飛んでくる。メラゾーマ、マヒャドを試しても真空のバリアで届かない。

 呪文のランクを落とし、メラミを連発して数を稼いでも、相手はちょこまかと回避する。

 

「チッ…おい、お前はメラ系やヒャド系も使えないのか?俺様の炎の半身に、ヒャド系をぶつけようとは思わねぇのか?」

「そうしたら片方の手で呪文のエネルギーを吸収するのでしょう」

 

 思わず黙るフレイザード、それが正解であることをメアリーは確信する。

 30分程の戦闘ではあるが、互いに魔力が尽きる。

 

「く、くそっ!この女!」

「引き上げよ!」

 

 

 

 王都へ戻ったメアリーは、部下の報告を聞く。

 

「メアリー様、爆弾岩を複数確認しました、やはり敵は…」

「包囲殲滅が狙いみたいね…それが分かっただけでも十分だわ。」

 

 

 一方、フレイザードは

 

「あ?オーザム王国兵が偵察に来たが突破を狙わなかっただぁ?」

「はいっ、フレイザード様」

「…まずいな、さてはあの女、俺との対決を避けて爆弾岩を狙い撃ちにして突破口を開くのが狙いだな?」

「?!も、もしもオーザム王家を取り逃がせば」

「俺の氷の半身はこの世から消滅しちまう…氷岩魔人を護衛に当て、爆弾岩の間隔を開けろ。誘爆したらたまったもんじゃねぇ…」

 

 

 楽勝と思っていたオーザム王国攻略だったが、不穏な気配が立ち込める。



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激戦!カール王国!

またオリキャラが登場します。カール王国の騎士団長はロカでしたが、彼の後任は明言されていません。


 カール王国。アバン、ロカを輩出したカール騎士団を有する彼らを担当するのは、魔影参謀ミストバーン。配下のモンスターと自身の暗黒闘気で攻めたてる。

 魔影軍団最強の兵士、デッドアーマーすら投入し、一気呵成に王都へ攻め込むミストバーン。カール騎士団員でも特に腕利きな者に対しては暗黒闘気で縛り上げ、部下に抹殺させる。

 

「我が分身シャドーよ、カール女王は何処だ?」

「発見しましたが…近衛兵が妨害を」

 

 

 その返答に対し、ミストバーンはデッドアーマーを三騎差し向ける、が。

 

「させるかぁ!」

 

 大槍がデッドアーマーの一体を大破する。

 それをやってのけた騎士にミストバーンは目を向ける。

 

「フローラ様には指一本触れさせぬ!このカール騎士団団長、レイガンスが相手だ!」

 

 大槍を構える、長身で均整の取れた体格の騎士にミストバーンは眼光を光らせ、剣を取り出して構える。

 

「ははっ、槍に剣が敵うか!所詮魔物だな!」

 

 カール王国騎士団長を名乗るだけの事はあり、レイガンスの槍捌きはミストバーンの剣術と互角だ。

 だが

 

 

「ぐっ、こいつ出来る!」

「…カール王国騎士団長よ、確かにお前は腕が立つのだろう…だが、お前では私に勝てぬ。」

「だとしても!」

 

 ガギン、と槍と剣がぶつかり合う。

 

「フローラ様の命は、全てに優先する!」

「?!」

 

 信念と共に突き出されたレイガンスの一撃は重く、ミストバーンをじりじりと押す、

 このまま体勢を崩させようとするレイガンスに対し、ミストバーンの眼光が鋭くなる。

 

「…バーン様のお言葉は、全てに優先する!」

「ぐっ?!」

 

 力負けしたのはレイガンスの方だ。ミストバーンは剣を構え、レイガンスを睨む。

 

「ぬぅっ!」

 

 十合、二十合と槍と剣がぶつかり合う!

 永遠に続きそうな戦いだったが

 

 四十合を超えた所でバキン、という音と共に武器が砕け散る。武器の方が先に限界を迎えたのだ。

 

 砕け散った武器は、剣!

 

「この機は逃さん!」

 

 レイガンスの一撃がミストバーンを襲い、

それに対しミストバーンは片手に暗黒闘気を収束し、迎撃する!

 本当の切り札を使う訳には行かない、それは最後の手段。

 

「闘魔最終掌!」

「?!」

 

 愛用の得物が先端から粉砕されていく様を、信じられないという表情で見ていたレイガンス。そしてその掌は彼自身を襲う!

 

「がはっ……ふ、フローラ様…不甲斐ない私をお許し下さい……」

 

 ドサリ、と倒れ伏すカール王国騎士団長をミストバーンは見下ろす。

 

「シャドー、報告を」

「…ミストバーン様。カール女王は逃げおおせました…」

「……」

 

 その報告を聞き、改めて敵の騎士団長を見つめるミストバーン。

 彼は敗れたが、使命を果たした。

 右手に握っていた剣の残骸を見ていたミストバーンだったが、魔影軍団に命じ、カール王都を完全に破壊する。




原作でロカが何時死亡したのか謎です。アバン一行の戦士を討ち取った、と聞いたら当時のハドラーは酒宴を開きそう。


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ベンガーナ攻防戦!

自身の魔法で戦うザボエラって、こういう魔法戦をすると思います。
科学者としての印象が強い彼ですが、純粋な魔法戦ならばどこまで通じるのでしょうか?

マトリフには及ばないと思いますが…


 サタンパピー、バルログを率い、ザボエラはベンガーナの城壁を見下ろす。

 超魔生物を完成させてから、と考えていたが。到底間に合わない。

 ならばこの魔法の力で倒すしかない。

 妖魔士団の中でも精鋭を率い、現時点投入できる最大戦力を投入する。

 一見無茶。だが実に合理的な思考。

 出し惜しみしていて失敗を重ねるわけにはいかない。時間は、限られている。

 

「攻撃開始じゃあー!」

 

 一斉に放たれるメラゾーマ。次々とベンガーナ兵を焼き尽す。

 だが彼らも訓練を受けた精鋭。即座に大砲で反撃を開始するが、

 

「キィ~ヒッヒッヒ!遅い遅い!」

 

 ザボエラの息子、ザムザは回避し、敵の砲台にメラミを放ち、火薬に引火させて爆発を引き起こし、沈黙させていく。彼に続いて、バルログも次々と砲台を沈黙させていく。

 

 

「ようやった!サタンパピー!ワシにメラゾーマを撃て!」

 

 サタンパピーから放たれたメラゾーマを一身に受け、増幅するザボエラ。

 自身の切り札たる、マホプラウスだ。

 

「灰になれぇええええ!」

 

 その一撃は、ベンガーナ王国の外壁を完全に粉砕する。

 ベンガーナ史上、長らく敵の侵攻を許さなかった外壁に風穴があく。

 

 

「キィ~ヒッヒッヒ!燃やせ燃やせぇ!」

 

 ザボエラの命令に従い次々と火を放つ妖魔士団。

 だがベンガーナの消防隊が消火活動に励み、ベンガーナ軍も市街地から応戦を開始する。

 

「ぬぅっ、流石にこの攻撃で完全には落とせぬか」

 

 ザボエラを指揮官と見たアキームは、部下と共に砲撃を開始しようとするが

 

「イオラッ!」

 

 ザムザはそれを見逃さず、イオラで先制する。

 飛び散った砲台に足を挟まれたアキームに追撃をしようとするザムザだが

 

「?!」

 

 飛んできた弾を見、放った敵兵を見る。

 

「外したか…兄さん、無事ですか!」

「アレンか、すまん、助かった」

 

「ちっ、ベンガーナ兵か、邪魔をするな!メラゾーマ!」

 

 ザムザは敵の指揮官の弟と思われる男にメラゾーマを放つが、攻撃を回避される。

 息子の判断ミスを見、ザボエラは叱咤する。

 

「馬鹿者!こういう時はこれじゃ!メダパニ!」

 ザボエラが放った魔法がアレンに炸裂する。

 

「お、おい!大丈夫か!」

 

 声をかけるアキームは、弟の眼を見て戦慄する。

 まともな眼では無い、これは…

 

「う、うわぁあああああ?!」

「?!あ、アレン?!」

 

 突然、暴れ始めた弟を見て驚くアキーム。

 

 

「攻撃魔法を放つだけが魔法使いの戦いでは無いわ!こういう場合は敵を混乱させて…イオラッ!」

 

 ザボエラの放つ魔法は、アレンを取り押さえるべく駆けつけたベンガーナ兵士の小隊をまとめて吹き飛ばす!

 

「ぐわあああああああ!!」

「ぐっ、何と言う事だ…!」

 

 

 混迷を極める戦場に、更に敵が駆けつける。

 

「お、おお!ベンガーナ重装歩兵団!」

「アキーム殿、ここは我らが。ふん、魔法などこの対魔法装甲で武装した我らの敵では無い!かかれっ!」

 

 向かってくる重装歩兵達をザボエラは冷たい眼で見つつ、トベルーラで空中へと退避する。

 

「?!ひ、卑怯者!降りて来て正々堂々と戦え!」

「…この国には阿呆しかおらんのか?ベギラマッ!」

「馬鹿め、魔法なほぶぅううううううううう?!」

 

 

 直後に絶叫上げてのたうち回る重装歩兵達。

 

「ば、馬鹿な…どうして…魔法が…」

「魔法の威力は術者の魔力によって決定する、その程度の守りも敗れぬ程度の魔力しか持たぬ魔法使いしか、

この国には居ないようじゃな。」

 

 周囲を見渡すと、メダパニをかけられた者は取り押さえられ、ベンガーナの騎兵隊も駆けつけてきている。

 

「…潮時じゃの」

「父上!まだ戦えます」

「馬鹿者、魔力に余裕があるうちに撤退じゃ。」

 

 

 狡猾なザボエラは即座に引く。

 この分であれば、この国の攻略完了はそう長くはかからないと判断したためでもある。

 砲台はほぼ潰した。まずまずの戦果と言えよう。



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リンガイア攻防戦!

原作でリンガイアやカールを落としたバランですが、その戦いには竜騎衆も参戦していたのでしょうか?

また、バランと渡り合えるホルキンスの剣技も凄いですが、オリハルコンの真魔剛竜剣と渡り合えるホルキンスの愛剣も凄いと思います。一体誰が作ったのでしょうか?

ホルキンスはカール王国の騎士団長でした…大変申し訳ありません。


 城塞都市リンガイア。堅牢で知られたこの王国を担当するのは、超竜軍団長バランとその配下の竜騎衆、そしてドラゴン軍団である。

 

「ここがリンガイア…堅牢ですなぁ」

「うむ、ワシも初めて見るが…これはすさまじい」

「バラン様、配置は完了しました。いかがいたしますか?」

「ラーハルトは北門を、ボラホーンは西門、ガルダンディーは東門を、私は南門から攻める。一時間後に総攻撃だ」

「「「はっ」」」

 

 部下が出撃したのを見て、バランは眼前の城塞都市を見る。

 堅牢だ。だが。

 

「ヴェルザーの居城には及ばぬな」

 

 この分ならば、竜魔人になる必要はないだろう。

 

 

 一時間後。総攻撃が開始される。

 

 

 

 リンガイア王宮にて

 

「ど、ドラゴンの軍団が!」

「配置は?」

「北門と南門のドラゴンが多いです!西門と東門は若干手薄ですが…」

「ぬうっ…バウスン!」

「はっ」

「北門へ向かえ!西門、東門は陽動、敵の狙いは北と南であろう。」

 

 そこまで言うと、リンガイア王は傍らの客将を見る。

 カール王国から軍事指南として訪問していた兄弟だ。

 

「ホルキンス殿、大変申し訳ないが脱出を。お二人が脱出する時間は用意する」

「いえ、我らも助力します。魔王軍相手に背を向けたとあっては、先代騎士団長ロカ様に顔向けできません」

「感謝する。では南門へ向かって頂きたい!」

「お任せを」

 

 リンガイア王は部下の猛将を迎撃に向かわせる。

 

 

 

 北門にて。

 

「フン、所詮は人間か」

「ぐっ…コイツ、早い!」

 

 リンガイア兵をラーハルトは蹴散らす。魔族の血を引く自分はともかく、

 人間である母まで迫害した人間という種族その物への憎しみと、深い絶望。

 

「お、おお!魔物め!お前はもうおしまいだ!」

「ほう?」

 

 ラーハルトは途端に態度が変わるリンガイア兵を内心見下す。

 出てきたのは、なるほど。少しは骨がありそうだ。

 

 

「魔族…では無いな、混血児か?」

 

 一目で見抜かれた事に内心驚くが、表情を変えずにラーハルトは対峙する。

 

「ここの指揮官だな?」

「いかにも。我が名はバウスン!」

 

「ば、バウスン様!奴は混血児なのですか?」

「そうだ。」

「に、人間の血が混じっているのに魔物に味方するとは、何と言う恥知らず!」

 

 槍を構えるラーハルト。

 

「俺はおしゃべりをしに来たわけじゃあない。構えろ」

「…そうさせて貰う。行くぞっ!」

 

 

 リンガイア兵は呆然としていた。カール王国の英雄ホルキンスは剣の達人。

 彼と比べればバウスン将軍は若干劣る。それでもトップクラスの武人だ。それが

 

 

「ぐっ、くそっ!」

 

 バウスンが振るう剣はかすりもしない。一方でラーハルトの攻撃はバウスンに手傷をつけていく。

 

「うぉおおおおっ!」

 

 一撃を与えんと全力で攻撃しても、その一撃が当たらない。

 焦りと、徐々に失われる体力と全身から発生する痛み。

 

 素早さでは遠く及ばない、ならば。

 

 バウスンは剣を構える。かくなる上は一撃をあえてくらい、カウンターを狙う!

 危険ではあるが、これ以外に手は無い。

 

「…覚悟を決めたか!」

 

 放たれた一撃をこらえ、必殺の想いを込めて振るう!だが手ごたえが無い!

 

「?!」

 

 自信の身体を見ると、そこには槍では無くて手甲が刺さっている。

 狙いを見抜かれていた事にようやく気が付くバウスン

 

「しまった!」

「ハーケンディストール!」

 

 呆然とするバウスン。直後に鎧と剣が砕け散り、倒れ伏す。

 

「所詮は人間か。」

 

 敵兵を見るラーハルト。

 

「ば、バウスン様がやられた…?」

 

 呆然としているリンガイア兵の前で、ラーハルトは槍を下す。

 

「…終わりだ」

「何、を…アガッ?!」

 

 絶叫を上げて倒れ伏すリンガイア兵達。

 いつの間にか斬られていた。

 

 ドラゴン達を呼び寄せ、ラーハルトは城門への攻撃を開始させる。

 

 

 

 

 東門を担当するガルダンディーの前に立つのは、リンガイア兵の守備隊。

 魔法使いと戦士の二人組が指揮を執っていたが…

 

「ぐううっ!」

「な、何だ、力が…」

 

 ガルダンディーの放った羽根に魔法使いは魔力を奪われ、戦士は体力を奪われる。

 配下の兵士はスカイ・ドラゴンに次々と焼かれていく。

 

 

「死ねぇっ!」

「ガハッ!」

「ゴハッ!」

 

 ガルダンディーのレイピアに貫かれ、指揮官達が戦死する。

 それを見届けたガルダンディーは家族であるスカイドラゴンのルードに乗り、城門の破壊に取り掛かる。

 

 

 

 西門を担当するボラホーン。

 魔法使いと戦士の指揮官が指揮を執っていたが…

 

「ぬぅん!」

「ぐわぁああああああ!」

 

 その剛腕の前に戦士は一撃で仕留められてしまい、魔法使いのメラゾーマは吹雪に圧倒され、そのまま氷漬けにされてしまう。

 

「フン、ひ弱な人間どもめ。」

 

 配置されているリンガイア兵達は城門を閉ざし、守りを固める。

 

「…やれ」

 

 ボラホーンの命令を受け、配置されていたドラゴン軍団が城門に襲い掛かる。

 

 

 

 

 南門。ここを守っているのはカール王国の英雄、ホルキンス。

 対するは、ドラゴンの騎士、バラン。

 

 バランの命令を待っている、超竜軍団のドラゴン達とヒドラ、そしてリンガイア兵達は眼前の戦いを固唾をのんで見守っている。

 

 

 バランが愛剣、真魔剛竜剣を一閃させればホルキンスはそれを受け流し、

 ホルキンスが鋭い突きを繰り出せばバランはそれを躱す。

 

 十合、二十合と渡り合う二人。

 

「ぬぅん!」

 

 バランが渾身の力を込めて真魔剛竜剣を振り下ろす!剣ごと相手を両断、この一撃で終わらせるつもりだったが

 

「?!」

 

 折れない、斬れない。相手の剣は自分の真魔剛竜剣より劣るはずなのに。

 つばぜり合いが続き、ややあってホルキンスは大きく下がり距離を取る。

 

「……」

 

 完成されたドラゴンの騎士である自分と剣技で互角とは。

 やや侮っていた。戦力を冷静に分析するバラン。

 

 

「ふむ、これ以上時間をかけられんな」

「時間、だと?」

 

 当惑するホルキンス。バランの額に奇妙な紋章が浮かび上がる。

 

「?!な、何が起こっている…?」

 

 バランが剣を高く掲げる。陽光を反射し、輝く刀身。その切っ先に…

 

「ギガディン!」

 

 雷が落ち、刀身が激しい紫電を帯びる。

 

「ば、馬鹿な!剣と魔法を同時に操れる訳が」

「受けよ、我が秘剣!」

「ぐっ!」

 

 ホルキンスも愛剣を構え、迎え撃つ。

 

 

「ギガブレイク!」

「?!」

 

 ホルキンスが最後に見た光景は、愛剣が砕け散り、紫電を帯びた刀身だった。

 

 その日、リンガイアは陥落した。城塞都市リンガイア。その最期は一日と持たず、非常にあっけない幕切れだったという。




神「おお!リンガイアよ!バランと竜騎衆が率いる超竜軍団に一日で陥落させられるとは情けない!そなた達にもう一度チャンスを与える!バランが攻めて来る当日まで逆行させてやろう!」


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おお、はどらーの胃よ!しんでしまうとはなさけない!

「報告を聞こう。ヒュンケル」

「…パプニカ王女への追撃の為、準備中だ」

 

「…フレイザード」

「後は王都とオーザム王国軍を残すのみ、包囲を敷いて居る最中」

 

「ザボエラ」

「ベンガーナに損害を与えた、まだ秘策もある。心配は無用じゃ、ハドラー様」

 

「…ミストバーン」

「カール王都は落とした…女王と近衛兵を追っている」

 

「バラン」

「ふっ、リンガイアはもう潰した。だが今は少々休ませねばならん」

 

 リンガイア陥落、という吉報はあった物の報告を聞いたハドラーは腹を押さえて倒れ込む。慌ててアークデーモンが胃薬と水を持ってくる。

 

「はぁっ、はぁっ…ま、まずいまずい!リンガイアは落ちたが、他はまだか!クロコダインへの増援として他の軍団を動かす必要があると言うのに」

「落ち着いてくださいハドラー様、まだ時間はあります」

「ふ、ふざけるなぁああああ!」

 

 激昂するハドラー、顔にはびっしりと脂汗が浮かび、頭をかきむしる。

 

「三か月!三か月しか、否、もう三か月もないのだぞ!査察に行かねばならぬ…」

「なるほど。直接見る事で現状を把握すると」

 

 感心するアークデーモン、その凡庸な態度にハドラーは若干落ち着く。

 次のセリフを聞くまでは

 

「それで、最初はどこの戦線でしょうか?」

「それを今!悩んでいるんだろうがぁあああああ!くそっ、クロコダインとフレイザードから見るべきか?ザボエラは策があると言う、ヒュンケルはあの鎧で魔法使いに遅れは取るまい。バランは放置だ」

 

 考えこむハドラーに、アークデーモンは小首をかしげて呟く

 

「あの、ミストバーン様は?」

 

 その空気の読めない指摘に、ハドラーは歯ぎしりする。

 

「王都を落としても女王を取り逃がす、となるとかなり苦戦しているのでは?カールの騎士団は精強と聞いておりますが…」

 

 バーン様のお覚えが良い軍団長が居る。ミストバーンとヒュンケル。

 かつて自分が倒せなかった王国の騎士団。

 それを始末出来るか否かはかなり気になるがかといって最初に査察に行けば、バーン様のお気に入りを六大軍団長の中で一番信頼していないと明言するような物である。

 

 

「やはりですね、ここは一番最初に気になるカール王国の戦線を査察、そのままベンガーナ戦線、パプニカ戦線、ロモス戦線、最後にオーザム戦線という順番で行けば移動時間もスムーズに」

 

 世界地図を指示しながら、「私、良いアドバイスしています!」とドヤ顔で言うアークデーモンの前で、ハドラーは静かに床に倒れ込んだ。

 

 

 ただ、彼が倒れている間に、北方のオーザム王国では動きが起きていた…

 

 

 

 オーザム王国にて

 

「ちっ…」

「引き上げよ!」

「……」

 

 数度にわたる交戦で、フレイザードは冷静にメアリーの戦略を読み切っていた。

 

 

「…ふ、フレイザード様!アレを使っては?」

「阿呆、なんで連中が時間稼ぎをしていると思っている。増援が来るからだ」

「なっ?!では我々は挟撃を受けて」

「増援ごとまとめて、アレに嵌める。その時こそ、アイツラの最期だ。」

 

 それなりに苦戦させられたが、これで終わりだ。

 彼の前で吹雪が吹き荒れる。

 

 

 翌日。

 

「ふ、フレイザード様ぁ~!」

 

 部下の声色から大体の状況を察するフレイザード。

 

「来やがったか、増援共。」

「はぁ、はぁ。リンガイアの北の勇者を名乗る子供が、部隊を連れて攻めてきます!」

「よし、アレの準備だ。お前らはそのガキと俺が戦い始めたら予定しているポイントへ向かえ、

俺がそいつを派手に戦う。そうなればあの女もやってくる…そこを」

「まとめて始末、ですか…」

「そういう訳だ。合図を待て」

 

 

 

 

 リンガイアからオーザム王国への救援として向かったノヴァは、見た事も無い怪物と遭遇する。半身が氷で、もう半分が炎の化け物。

 

「お前は」

「魔王軍六大軍団長、氷炎将軍フレイザードだ。」

「僕は北の勇者、ノヴァ。化け物め、覚悟!」

 

 ノヴァとフレイザードが激突する。剣技で応戦するノヴァと体術で応戦するフレイザード。やがてメラ系を使い始め、それに対抗するべく、ノヴァはマヒャドを使うが…

 

 マヒャドにフレイザードの氷の手が触れると、氷の部分が大きくなっていく!

 

「?!呪文のエネルギーを吸収しているのか!」

「クカカカッ、そらそらどうしたぁ!」

 

 直後に、フレイザードはその場から大きく跳躍し、後ろに下がる。

 先ほどまでフレイザードが居た場所に穴が出来上がる。

 

「これはイオラ…」

「外したか、リンガイア王国の方ですね?」

「あ、ああ。僕はノヴァ。北の勇者!」

「感謝します、私はオーザム王国軍所属のメアリー。こいつが先日より我が国を脅かす魔物の指揮官です。」

「やはりそうか。」

 

 これで圧倒的に有利になった、この機を逃さずに仕留める。そう思うメアリーの前で、フレイザードは笑う。

 

「かかったな阿呆が!氷炎爆花散!」

「「?!」」

 

 驚くメアリーとノヴァの前で、フレイザードの身体がバラバラになって襲い掛かる!

 回避能力が高いメアリーも回避しきれずダメージを受け、ノヴァも少なくないダメージを受ける。二人の前で、フレイザードの身体が元に戻る。

 

 

「ぐっ…まだこんな隠し技を」

「だが、耐えられない程では無い!」

「ククッ、さぁて、地獄のバトルの始まりだぁ!」

「何を言って」

 

 

 当惑するノヴァ。直後に地震が発生する。

 

「?!なっ!じ、地震?!我が国で地震など起きた事などないはずなのに!」

「貴様、一体何をした!」

「ククク、カカカッー!」

 

 

 炎の塔と氷の塔が天を貫く勢いでせりあがっていく。

 

「これは一体…」

 

 ややあって膨大な光が周囲を包み込む。

 

 

「な、何だ!あの塔は!」

 

 説明しようとしたフレイザードだが、敵に説明してやる義理も義務も無いと思う。

 彼に余裕があれば得意げに説明したかもしれない。だがバーンが見せた炎。

 それはフレイザードから余裕を奪い、代わりに非情さをもたらしていた。

 

 

「この距離なら外さない!イオラッ!」

 

 だが何も起きない。

 

「?!い、イオラッ!イオラッ!どうして発動しな」

 

 メアリーが言えたのはそこまでだった、直後に顔を炎の手で鷲掴みにされ、絶叫を上げる。

 

 

「貴様ッ!女性の顔に!」

 

 激昂して切りかかるノヴァだが、全く力が出ない。

 

「なっ?!」

 

 氷の腕でメアリーの腕をつかみ、そこから全身を氷漬けにするフレイザード。

 

「さぁて、北の勇者さんよぉ。こいつを助けたいなら、俺を始末するしかないぜぇ?」

「言われずとも!」

 

 ノヴァは懸命にフレイザードに切りかかるが、急激にパワーアップしたフレイザードの素早さと防御力についていけない。

 

「ぐっ、貴様、自分の素早さと防御力を上げたのか!」

「クックック…そろそろトドメと行こうか。メ・ラ・ゾ・-・マ!」

「メラゾーマを5発同時に放つだと!ば、化けも」

 

 ノヴァが言えたのはそこまでだった。

 最期に彼が見た光景は、すさまじい業火だった…

 

 

「…敵の増援部隊の指揮官は叩いた、後は…」

 

 リンガイアの増援部隊にフレイザードは目を向ける。

 

「マヒャドで氷漬けにした後、王都を落とせばお終い、だな」

 

 メアリー率いる部隊とリンガイアの救援部隊の全滅、という報告はオーザム王国軍の士気を根こそぎ奪いさった。皮肉にもオーザム王国への救援は逆の結果をもたらしたのであった。

 

 

 この後、リンガイアの救援部隊とオーザム王家は潰える。

 




自分の技や能力について得意げにべらべらしゃべるキャラって、完全に油断して慢心していますよね。教える義理も義務も無い訳ですから。

もっともそれをやると、読者が付いていけなくなってしまいますが…


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ベンガーナ崩壊!

ダイ大の人類が嫌いと言う訳ではありません。あしからず。


 ベンガーナ王都は混迷のただ中にあった。

 妖魔士団の猛攻。魔法を得意とする彼らにより、砲台は潰えている。

 燃え上がる街で、消火活動を行う部隊は先ほどの戦闘で狙い撃ちにされた。

 

 

 その復興もまだ癒えて居ないにも関わらず、再度の猛攻。

 隊長格と副官クラスがメダパニで混乱させられ、指揮系統が崩壊。まともに動ける兵士は魔法で打倒され、敵はその場を離れる。

 

 

 ザボエラは精鋭を率い、王宮を狙う。倒すべきは、クルマティッカ七世。

 奴を討てば、ひとまず首は繋がる。

 

 

「キィ~ヒッヒッヒ!」

 

 ザムザの担当はベンガーナ市街。ここを抑え、ベンガーナ王を追い詰めるのが任務だ。

 

「お、おのれっ、魔王軍めぇ!」

「またお前か」

 

 彼の前に対峙するのは、アキーム。

 

「フン、その頭…先ほどの失態で頭を丸めたか?」

「俺は元々こういう髪型だ。今日でお前は終わりだ!魔法が得意ならば、こちらも魔導で対処するまで!」

「ほぉ」

 

 

 人間の魔法使いが現れる。

 

「我が名はフォブスター。魔王軍の手先め、覚悟するがいい!」

「魔法戦でこの俺に挑むとはな。キヒヒッ、いいだろう、遊んでやる!」

 

 

 その様子を見、アキームは配下に命じる。

 

「よし、奴らの戦いが白熱してきたら、矢で射止めるぞ」

「砲台が潰されていなければ…」

「いうな。砲台を狙ったという事は、それだけ恐れているという事。ならば飛び道具で討ち取ればいい。頼むぞ、ヒルト殿」

「任せて置け!」

 

 

 互いに対峙し、にらみ合う。先に動くのはザムザ!

 

「メラゾーマ!」

「ヒャダインッ!」

 

 炎と冷気がぶつかり、消滅する。

 

「ちっ、イオラッ!」

「バギマッ!」

 

 

 逸らされたイオラは後方へ流れ、誰かを巻き込む。

 

「う、うわぁああああああ!」

「ひ、ヒルト殿?!」

 

 

 横目で見ると弓矢を持っている狩人だった事で、アキームの策をザムザは見破る。

 フォブスターの魔力は互角、そして敵は狙撃を狙っている…ならば…

 

「キヒヒッ」

「くっ、こいつ出来る…」

 

 フォブスターは眼前の相手しか見えて居ない。魔力で互角である以上、よそ見は出来ない。

 

 

 

 その場は地獄になっていた。風が吹き荒れ、爆裂魔法が炸裂し、炎と冷気が舞い踊る。その中でザムザは冷静にフォブスターと戦っている。

 

(こいつは気が付いて居ないな)

 

 ザムザが攻撃魔法を放ち、フォブスターが逸らした時。その先には必ずベンガーナ兵が居る。

 フォブスターが躱しせば、その先に瀕死のヒルトが居る。

 狙撃しようにもフォブスターが邪魔になるよう、ザムザは動いていた。

 

「ぐっ、ま、魔力が!」

「終わりだぁ!メラゾーマァ!」

「ぐわぁあああああああ!」

 

 絶叫を上げて倒れるフォブスター。彼は最後の最期まで気づかなかった。

 この場に人間は一人も生き残っていない事を。

 

 

「…抵抗は止んだか。市街地は制圧完了、だな」

 

 ザムザはトベルーラで空から見下ろす。

 残るは王宮。

 

 

 

 

 ベンガーナ王宮。かつては財力に物を言わせた豪奢な城は無残に焼け落ちる寸前。

 

「キィ~ヒッヒッヒ。王宮は無残に焼け落ち、家臣は逃げ出した。のう、ベンガーナ王」

「……」

 

 対峙するのは、ベンガーナ王。経済力で世界の覇者とならんとし、そして今まさに潰えようとしている。それでも傲然と玉座に座っている。

 

「ほう、まだ策があるようじゃな?」

「賭けに勝つコツは、最後の最期まで自身の勝利を疑わぬ事よ!」

「?!」

 

 ベンガーナ王の後ろにかかった国旗を破り、巨大なロボットが出現する。

 

「こ、これはぁ?!」

「フハハハハ!パプニカ王国の司教に高い金を払って手に入れた兵器!魔王ハドラーが使っていた兵器だ。自分の仲間の武器で死ぬがいい!」

 

 敵の指揮官クラスをおびき出す為の餌として、ベンガーナ王は自身を囮にザボエラを誘いだす。その計略は成功した。

 

「ハドラー様の兵器、か。参ったのぅ…」

「そうだろうそうだろう!」

「壊してしまったらご不興を買うのぅ。まぁ、誰にも知られずに始末すれば良いか」

「何を戯言を!やれっ!」

 

『はいっ、父上!』

 

 ベンガーナ王子が操るキラーマシーン。かつてハドラーがアバン抹殺の為に開発した旧魔王軍兵器は時を超えて、新生魔王軍の前に立ちはだかる。

 

「バギクロスッ!」

『うわぁああああああ?!』

「な、何ぃ?!」

 

 ザボエラが放ったバギクロスを受け、あっさり転倒して吹っ飛ばされる。

 だが吹っ飛ばされただけで、まだ壊れて居ない所を見てザボエラは舌打ちする。

 

「チッ、まぁ良いわ。子供は親に逆らえぬしの…」

「な、何を…」

 

 クルテマッカが最期に見た光景は、ザボエラの爪が自身の腕に刺さる瞬間だった。

 

 

『くそっ…だが、こんな事では負けない!父上と母上、そして双子の妹の為にも…』

「威勢はいいのぅ、じゃがワシと戦う前に、こやつと戦って貰おうか」

『?!新手か!だがこの兵器の前に』

 

 そこまで言って、言葉が途切れる。

 実の父が剣を振りかざして襲ってきたからだ。

 

『?!ち、父上!くそっ、メダパニか!』

「さてどうかの…ワシは特等席でベンガーナ王家の親子喧嘩を見せて貰おうかの…キヒヒ」

 

 ザボエラに何かされたと思われる父と、息子は戦いを始める。

 クルテマッカは決して強力な戦士では無い。キラーマシ―ンの敵では無い。だが実の父と殺し合いする気にはなれないため、動きは鈍い。

 その間にも、クルテマッカの攻撃は一点を集中して襲う。

 

 

 こんな戦い方はメダパニでは出来ない。錯乱されているのに一点を集中して攻撃する芸当はどんな戦士にも不可能。ザボエラ自身の体内には数百の毒素があり、それを調合した物をクルテマッカに注入した。これにより彼は、意のままに動く木偶の棒に成り下がった。

 

『くそっ、くそっ、くそぉ!父上!申し訳ありません!』

 

 ベンガーナ王子は泣きわめきながら剣を振り下ろす!

 断末魔を上げて、ベンガーナ王は動きを止める。

 

「ほぉ…実の父を殺すか」

『黙れ黙れ黙れぇ!お前さえ、お前達さえいなければぁ!』

「さて、そろそろトドメをさすかの…ベギラゴン!」

 

 ザボエラはベギラゴンを放つ。キラーマシーンの装甲があれば耐えられると思っていたベンガーナ王子だったが

 

『うゎあアアアアアアア?!』

「阿呆が。」

 

 一点を集中させたのは、その装甲を貫く為。

 操縦者である彼が父殺しの直後で精神的に不安定になっている点を突き、ザボエラはキラーマシーンを容易く攻略した。

 

 

「これで終わりじゃの…さて、ハドラー様に報告じゃ」

 

 悪魔の目玉を呼び寄せ、ザボエラは報告をする。




ハドラーはキラーマシーンでアバンを討ち取れると思っていたのか謎。多少は疲弊させられるでしょうが。


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パプニカ王女、カール女王の捕縛

原作知識を知っている、というのが実に強いと実感しています。


 パプニカのバルジ塔で、異変が起きる。

 反撃の機会を練っていたレオナ達だが、そこに不死騎士団が急襲してきたのだ。

 

 

「うわぁああああああ!」

「ど、どうして!どうしてここが分かったの?!」

 

 パプニカ重装歩兵を容易く切り伏せ、ヒュンケルはパプニカ残党と対峙する。

 

「パプニカ王女だな?」

「くっ、パプニカの女性ばかり捕える魔王軍め!何が目的だ!」

「目的?」

 

 国を取る為以外にないと思っているヒュンケルは困惑する。

 マリンとエイミはヒュンケルを睨み付ける。

 

「くっ、マリン、エイミ!姫様を頼む!ここは私が!」

 

 三賢者アポロは単身ヒュンケルに挑む。勝ち目が無いのは百も承知。

 そもそも、バルジ塔ですらこうもたやすく突き止められた以上、逃げ場などあるのか分からない。

 

 

「メラゾーマ!」

「無駄だ」

 

 魔界の名工が作り上げた鎧の魔剣は、電撃以外は通さない。

 効かない、無駄と分かっていてもアポロは構わず放ち続ける。

 

 最後にアポロが見た光景は、自身の心臓が貫かれる光景だった。

 

 

 

 

「姫様、こっちへ!気球で」

「マホトーン!」

「?!」

 

 

 屋上から脱出しようとしたとたん、魔軍司令ハドラー直属のガーゴイル軍団が一斉にマホトーンを唱え、一行の魔法を封じる。

 

「ケケッ、魔法を封じられた魔法使いなど、ひ弱な人間と変わらん!」

「これでパプニカ王家はお家断絶!」

 

 レオナを貫こうとしたガーゴイルの眼前に、剣が突き刺さる。

 

「そこまでだ。女に手を上げるな」

 

 ゆっくりとそちらを向くガーゴイル。彼は以前からヒュンケルに問いたかった事をここで聞く事にした。

 

 

「…ヒュンケル様、それでどうするつもりですか?」

「何?」

「ハドラー様が、いや、大魔王バーン様が王女を殺せと勅命を下すまで殺さないつもりですか?」

「お前に答える義務はない」

「そうですか。貴方にとっては大した相手では無いかもしれませんが我ら魔王軍の兵士にとっては強敵である事、ご理解して頂きたい。」

 

 ヒャダインを使えるレベルの賢者。マホトーンをかけているからこうして自分達は無事だが、これが効かなければ全滅させられる強敵だ。

 

 

 レオナはバルジ塔の屋上から地上を見下ろす。既にアンデッドの群れが島を包囲している。

 

「チェックメイトだ、パプニカ王女よ」

「……」

 

 言いたい事があるが、マホトーンで呪文を封じられ、何も言えないレオナはヒュンケルを睨む。

 

「つれていけ、これでパプニカ制圧は完了だ」

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 ヒュンケルの師でもあるミストバーンはカール女王とその近衛兵が立てこもる砦を強襲する。

 魔影軍団最強の駒、デッドアーマーを東、西、南から攻め込ませる。北だけは開けている。何故か。

 

 そこには自分が待ち構えるからだ。

 

 

 

「ふ、フローラ様!敵軍、城門を突破!進入して来ます!」

「カール重装歩兵隊、苦戦中!」

 

 次々ともたらされる凶報。ここを拠点に再起を図ろうとしていた直後である。

 

「フローラ様!お逃げください!ここは我らが」

 

 こんな時彼なら。彼ならどうしただろうか?逃げの一手だろうか?いや…きっと。

 

 彼なら、敢然と立ち向かうだろう。

 

「報告します!フローラ様!北は手薄です!」

「おお!お聞きしましたか!北へ逃げれば」

「罠ね。ここまでの強襲をしてきた相手が、北だけ手薄な訳が無いわ。全軍!西門へ!一点突破を図ります!」

 

 自身も武装し、西門へ向かう。

 

 

 

 ミストバーンは北門周辺でカール女王、フローラが出て来るのを待ち構えていた。

 敵兵が先ほど偵察した後、戻っていくのが見えた。

 後は獲物が罠にかかるのを待つばかり。

 

 

 

 

 

 西門を担当していたミストバーンの分身、シャドー。

 

「…あれはカール女王?何故北から逃げずにこちらへ…?」

 

 当惑したが、直後に思考を切り替える。彷徨う鎧から、デッドアーマーに入り込む。

 

 

『ここまでだ、カール女王フローラよ』

「?!指揮官ね!ならここで」

『ここで散れ』

 

 シャドーは西門に配置されているデッドアーマー全機を投入する。

 これで勝敗は決した。そう思っていたのだが…

 

『ぐっ…』

 

 デッドアーマーは細かい傷をつけられているが、全機無事。だがさまよう鎧の損耗率が激しい。

 

『…ここを生き延びて、まだ勝ち目があると思うのか?カール女王よ』

「何をそんなに焦っているのかしら?」

『?!』

 

 見抜かれたー?いや、カマをかけただけか?

 一瞬思考が停止する。

 

 直後、デッドアーマーの一つが転倒させられ、脆い関節部分を徹底的に斧で叩かれ、動けなくさせられる。

 残りは二機。南門、東門を突破したデッドアーマーだが、カール兵が作り上げたバリケードをマヒャドで氷漬けにされているせいか、中々合流出来ない。

 

 

 

『み、ミストバーン様ぁ!』

 

 本体を彼は呼ぶ。その叫びは北門にて、デートの待ち合わせ場所に早く来すぎた男のように、待ちぼうけをくらっていたミストバーンまで届く。

 

 

『?!西門か!』

 

 想定外だったが、敵がそちらに来ているなら好都合。ミストバーンは合流するべく、リリルーラを唱える。

 

 

 

 

 デッドアーマー三体のうち、二体が行動不能にされ、シャドーが直接操る一機は苦戦を強いられる。

 死を目前とした状況から、勝利への糸口が見えたというこの状況はカール王国軍の士気を大いに上げていた。

 

 故に気づかなかった。その足元に奇妙な糸のような物が伸びている事に…

 

 

「よし、後は一騎!」

「…そこまでだ。カール女王よ」

「?!」

 

 新手?!空を見上げたフローラの前に、奇妙な恰好の男が浮かんでいる。

 

「…闘魔滅砕陣!」

「?!きゃあああああっ!」

「うわぁああああ!」

 

 ミストバーンが暗黒闘気でその場の全員を縛り上げる。

 それと同時に、ここに投入した戦力がどうなっているのかを把握する。

 デッドアーマーを9体投入、三つの門に三体ずつ配置していたが…二体も行動不能に追いやられている。

 流星は燃え尽きんとするまさにその時、最も輝くと言うが…これが死を目前とした人間の底力、か。

 

「…死ね」

 

 弟子と違い、女性だろうと立ちはだかるなら始末するのみ。

 冷酷なミストバーンはカール王家を断絶に追い込んだ。



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ロモスの最期!

何日たった、という描写は入れて居ませんが、軍団を動員したりするのは大変なのでそれなりに作戦行動には時間がかかっています。ルーラやリリルーラ、キメラの翼はあるのですけれど。


鬼岩城にて。

 

「何!ほ、本当か!」

「はいっ!オーザム、ベンガーナ、パプニカ、カールは陥落!」

「でかした!これで氷炎軍団、妖魔士団、不死騎団、魔影軍団、そして超竜軍団も動員できる!

よし!全軍団長に通達しろ!各軍団長は精鋭のみえりすぐり、クロコダインと合流して総攻撃をしかけよ、と!」

「全軍動員させないのですか?」

「だ、黙れぇ!」

 

 ハドラーは壁にかかったカレンダーに拳を叩きつける!

 

「あと一週間後に、期日である三か月目になるのだぞ!」

「一週間あれば全軍動員も可能かと」

「それで万が一落とせなければどうなる!俺も出る。アークデーモン共にも通達しろ!」

「はっ、腕が鳴ります」

「お前は残れ」

 

 余りにも無慈悲な言葉に、アークデーモンはドヤ顔を浮かべたまま硬直する。

 

 

 

 

 その日、ロモス王宮は混迷のただ中にあった。

 

「ドラゴン、サタンパピー、爆弾岩、アンデッド、巨大な鎧のモンスターが!」

「…魔王軍の戦力は百獣魔団だけではなかったのか…」

 

「魔王ハドラーを確認しました!」

「なんと。あのハドラーが生きていたとは…ふむ。これは厳しいかもしれないねぇ…」

 

 ブロキーナ老師は嘆息する。数はさほど多くないが、どうやら精鋭をえりすぐって送り込んできたようだ。

 

 

「他の国々は大丈夫なのでしょうか?」

「あ、アバンは!勇者アバン殿は!」

 

 騒ぐ他の官吏を見、ブロキーナは最悪の事態を想定する。あのアバンが。ここまでされて動かないはずがない。

 その彼が動かないという事は既にこの世に…

 

 

「ほ、報告します!魔王軍が総攻撃を仕掛けてきました!」

「…ワシが行こう。」

 

 

 歩きながら、ブロキーナは考える。

 あの後、マトリフはパプニカ王家に仕えたが、佞臣の讒言とパプニカ王家直属の女官へのセクハラで追放。

 ロカは病を得て死亡。レイラは一線を退いた。そしてアバンはおそらく…

 静かに闘気を立ち昇らせ、ブロキーナ老師は進む。

 

 

 

 ロモス王国の大通りにて、ブロキーナ老師は自然な体勢で待ち構える。

 

「…あれが。」

「先陣は切らせて貰う。行け、亡者の群れよ!」

 

 最初に動いたのはヒュンケル。アンデッドモンスター達が一斉に襲い掛かる!だが

 老師の拳の前に、容易く粉砕されてしまう。

 

「なるほど、少しはやるようだな」

「キヒヒ、やれっ、サタンパピー!」

 

 命令を受け、メラゾーマが何発も撃ち込まれるが、当たらない。

 その身のこなしを見、これではらちが明かないとザボエラは考えている間に、岩が数個投げ込まれる!

 

「なっ!おぬし!」

「コイツはよけきれねぇだろっ!くたばりやがれ!」

 

『メガンテ!』

 

 爆弾岩の爆発で、大通りに穴がいくつも空くが、ブロキーナ老師は悠然と佇む。

 

「なっ?!コイツ…」

『…行け!デッドアーマー!』

「お前も行け」

 

 らちが明かなない。そうみてミストバーン、バランは部下に命じる。

 それに答え、魔影軍団最強の駒と、超竜軍団のドラゴンが一斉に襲い掛かる!

 だが

 

「…猛虎破砕拳!」

『?!素晴らしい…』

 

 一撃でデッドアーマーが大破させられたことに、ミストバーンは敵ながら嘆息し

 

「閃華裂光拳!」

「?!あれはマホイミ!!奴は僧侶なのか!」

 

 ドラゴンの騎士であるバランは、配下のドラゴンが絶叫を上げ、のたうち回る姿から敵の技を分析する。

 

「ああ?何だマホイミって?」

「確か回復魔法をかけすぎると、肉体の回復機能が暴走する魔法じゃな…じゃがあれは通常のホイミより魔法力を多用するはずじゃて」

「ほぉ。って事はコイツは俺様の獲物って事だな?」

 

 他の軍団長には通用するだろうが、俺様には通用しねぇ。そう思い前に出ようとするフレイザードに待ったがかけられる。

 

「やめて置け、フレイザード」

「…魔王、ハドラー」

「…14年ぶりか。貴様には随分と苦戦させられたが…ここで終わりだ。バラン、ミストバーン。そいつを殺せ」

 

 軍団長を二人も差し向ける。

 過剰過ぎる戦力投入だが、魔王軍の精鋭では相手にならないなら最大戦力を差し向けるしかない。

 

「残りの軍団長はロモス王宮を南北から攻めたてろ。今日で、ロモスを落とす」

 

 刻限は残りわずか。ここで失敗などしようものなら…

 全軍団長の脳裏に業火のビジョンが浮かび上がる。

 

 

 

 残りの軍団長は精鋭と百獣魔団の一隊を借り受け、それぞれ攻め込む。もはや碌な抵抗も出来ずに制圧されていくロモスだが、ある戦線は未だ持ちこたえていた。

 

 

「猛虎破砕拳!」

「ドラゴニックオーラ!」

 

 バランは一撃を正面から抑え込む。全開で守っているが、それでも苦痛を感じ、顔を歪める。

 その攻防の最中、ミストバーンが闘魔傀儡掌で縛ろうとした直前に、するりとすり抜ける。

 

「…まるで枯れ葉を相手にしているようだ」

『…それでも寄る年波には勝てぬとみえる』

「何とも元気な老人だ。だが」

 

 真魔剛竜剣をバランは抜く。

 

「見切った。」

「……」

 

 その双眸と構えから、ブロキーナは己の死を悟った。逃れる術は無いだろう。

 せめて、せめてこの者だけでも!

 フルパワーで攻撃しようとした直前、バランの額が光る。

 

 直後、老師は空を仰ぎ見ていた。腹が、痛い。

 ややあって、老師の意識は暗転する。

 

『紋章閃か』

「かかりおったな…フン、戦いの年季が違うわ。」

 

 そう言い捨てて、バランは剣を一閃させる。

 

 

「これで最期、か。何とか期日までには間に合ったな」

 

 

 その日、ロモスは灰になった。

 




クロコダイン、ヒュンケル、フレイザード、バラン、ザボエラ、ミストバーンが同時に現れて襲い掛かってきた場合、真っ先に何をするべきでしょうか?

私はマホカンタを唱えるのが最善手だと思います。


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終章:さらば地上よ!

最終回です。お付き合いいただき、真にありがとうございます!


 ピラア・オブ・バーンが地上を襲い、大魔王バーンは感慨深げにバーンパレスから眺める。

 

「良くやった。余の心は晴れ渡っておる」

 

 そう告げ、バーンは楽し気に魔軍指令ハドラーと、5人の軍団長を眺める。

 

「一人欠けてしまったが、何、別の者を宛てがうとしよう」

 

 

 バーンはその時の事を思い出す。地上制圧完了後、死の大地を黒の核で吹き飛ばし、バーンパレスを空へと飛び立たせ、軍団長を再び召集し、労をねぎらった。

 

 

 光魔の杖を持ちながら、バーンは部下の前で演説を行う。

 

 

「……太陽。実に素晴らしい力だ。いかに我が魔力が強大でも太陽だけは作り出すことができん。だが神々は人間に地上を与え 魔族と竜を魔界に押し込めた!!人間が我らより脆弱であるというだけの理由でだ!!だから余は数千年にわたって力を蓄え、地上を跡かたもなく消し去る準備を整えてきたのだ。間もなく地上は消えて無くなる…!!そして我らが魔界に太陽がふりそそぐのだ…!!…その時余は 真に魔界の神となる!かつての神々が犯した愚行を余が償うのだッ!!」

 

「では!魔の森はどうなる!」

「消えてなくなる。クロコダインよ、今のうちに部下をこのバーンパレスまで引き上げさせよ。」

「カアアアアアアー!」

 

 ヒートブレス。激昂したクロコダインが焼け付く息を吹き付けるも、バーンは光魔の杖から魔力を噴出させ、その攻撃を防ぐ。直後にミストバーンが取り押さえ、今は魔牢に閉じ込められている。

 

 

 死の大地近くにアジトを作っていたザボエラは、ザムザ共々研究資料を回収してバーンパレスの一室に運び込んでいる。他の軍団長もそれぞれ、部下を引き上げさせている。

 

 地上を見下ろし、ハドラーは激しい葛藤に苛まされていた。

 ようやく制圧したと思ったら、黒の核で吹き飛ばすのが真の目的だったと言われた。

 自分のあの苦労は何だったのか?最初から吹き飛ばしてしまえば。いや、それでは妨害されるだろう。もう二度と手に入らないと思うと、なおさら地上がかけがえのない物に思えてきた。

 

 

 

「…ソアラ」

 

 バランは間もなく消え失せる地上を見下ろす。本当にこれで良かったのだろうか?

 ディーノが生きている可能性は限りなく0だが、これで完全な0になってしまう。

 時として竜族、魔族、人間のいずれかが野心を抱いた際に天罰を与えるのがドラゴンの騎士の使命…だから、自分が人間に天罰を与えるのは間違いでは無いはずだ。

 あの、醜い種族に。

 

 

「さて、ヒュンケルよ」

「はっ」

「パプニカ王女達をそなたが処刑出来ないというのであれば、この黒の核で地上ごと吹き飛ばす。そなたは今までも、そしてこれからも女を手に掛けない魔界の戦士として戦うが良い」

 

 ぐっ、とヒュンケルは握りこぶしを作る。

 詭弁だ。自分が殺さないだけで、他人が殺すのを傍観する。

 父、バルトスならどうしていただろうか?地上を見下ろすも、答えは返ってこない。

 

 

「まもなく、爆発の時だ」

 

 正午。地上に落とされた黒の核が爆発し…地上は吹き飛んだ。

 

 

 閃光が収まると、マグマがたぎるみわたすかぎり不毛の大地が広がる、そこに太陽が降り注ぐ。

 この世の地獄としか言いようのない光景だが、それを見、大魔王バーンは心の底から愉しそうに哄笑を上げる。

 

 その哄笑はしばらく止まらなかった。

 

 のちに、バーンは天界へも攻め込み、冥竜王ヴェルザーを解放。世界は魔に堕ちた。




ロン・ベルクとマトリフは戦いに参加していません。二人とも隠遁生活送っているので、ここ三か月やたら騒がしいな、ぐらいしか思って居ないという設定です。そしてある日窓が光って……

それでは、拙作をお楽しみいただき、真にありがとうございました!


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