リトルアーモリー Lust Bullet (早坂 将)
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内回り
Mission:0


これまでと違ってPCじゃないから書きにくい…。スマホェ…。



「ハァッ、ハァッ、ハァッ…!」

 

激しい喉の乾きと、全身の疲労感のせいで今すぐ止まって座り込みたいと叫ぶ弱気を、俺は根性でねじ伏せる。

崩壊したオフィスビルや民家だった物の瓦礫を踏み越え飛び越え、俺はひたすら走り続けている。

着ている学ランは汗に濡れて乾いているところがないし、この状況を打開しうる能力のある銃は、既に弾切れとなり、ただの重りと化して、スリングで背中に固定されている。あぁ、本当にツイてない。

何を一生懸命走っているのかといえば、後ろを見れば一目瞭然だ。

 

タタッ! タタッ!

 

規則正しく聞こえてくる複数の足音。

 

グルルゥ! グルルゥ!

 

足音に紛れて聞こえてくる、犬系の動物が発する威嚇の声。

 

「クッソォ!こういう時に限って当たって欲しくない予感が当たるんだよなぁ!俺が何したってんだよ!?」

 

悪態をつきながらも走るのは止めない。犬っころに食われるのだけは、死んでもゴメンだ。

なんでこんな事になったかといえば、5時間前まで遡る。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

「おーい、シュウ、午後暇かー?」

 

そう言いながら帰り支度をしている俺、谷岳周紀(たにだけしゅうき)に近づいてきたのは、望月嵩弥(もちづきたかや)。クラスメイトであり、何かと行動を共にする事が多い相棒の1人である。

 

「確かに暇だが…、“クエスト”行くのか?」

 

「その通りだ!話が早くて助かるぜ!」

 

わざとらしい笑顔を浮かべてサムズアップをする。正直イラつくからやめて欲しい。

1週間のうち、火曜日と金曜日の2日間は、午前中で授業が終わる。それを利用して“小遣い稼ぎ”をしようというのだ。

これは別に悪いことではない。むしろ学校から強く勧められている事だ。さらに俺らの成績にも反映される。

 

「また金欠かお前…。余計な“装備”を無駄に集めるからそうなるんだぞ? んで、場所と内容は…?」

 

内心溜息をつきながらも情報を求める。

 

「しょーがねーだろ!?新しいのが次から次へと出てくるんだからよぉ! あー、えっと、“旧市街地”北Eエリアの“偵察”と、…“落し物”拾いだ」

 

「…………落し物か……、分かった。行く」

 

“クエスト”、“旧市街地”、“偵察”。

これらは俺らが厨二病を発症して、話を盛り上げている訳では無い。周りの奴ら、もしくは、この学校と同じように、ある制度を導入している他の学校で、“日常的に”行われている会話である。

 

「装備はどうする?Eだし、落し物拾いだから軽装でいいか?」

 

「まぁ、そうだな。“UMP”で事足りるだろ」

 

「了解。準備すっから受注しといてくれ。他に誰か誘ったか?」

 

「いや、今回は俺らだけ。急ぎってわけじゃないから、1時間後、車庫集合な」

 

“装備”、“UMP”。

ここでの装備とは、戦うための服装や武器を指す。

“UMP”とは、ドイツのH&K(ヘッケラーアンドコッホ)社が制作した強力な45口径弾を使用するサブマシンガンである。

何やら会話が物騒だと思うだろう。間違いじゃない。 俺たちはサバゲーに行くのではない。文字通り、一歩間違えれば死ぬ事になる戦場に行くのだ。

 

「ほいほい。また後でな」

 

軽い挨拶の後、俺らは別れて各自支度をする。

支度と言っても今着ている学ランの上からチェストリグを着けて、小火器庫へ向かい、預けてある銃を受領するだけだから、正直1時間も要らない。

案の定30分もかからずに支度を終えた俺は一足先に車庫へ向かう。

数10台のハンビィがズラリと並ぶ光景は壮観だが、運転するとなると、日本の道路は狭いから正直避けたい。

 

「おまたせ」

 

俺が車庫に着いて10分もしないうちに、王者の風格と言うより三下の風格で現れた望月を鼻で笑い、不満を垂れるのを他所に割り当てられたハンビィの助手席に乗り込む。

 

「お前が受注責任者だから、運転しろよー」

 

「ヘイヘイ、分かってらい」

 

望月の運転でドナドナされる事1時間、専用の高速道路を使い山を越え、目的地に着いた。

5年ほど前のイクシスの大規模襲撃により戦場となり放棄された旧市街地は、長年管理されていないため、ツタなどの植物が建物を多い、なんというか、世紀末感が漂っている。

 

「よっし、いつも通り、落し物拾い始めっか」

 

「おう」

 

車から降りて銃にマガジンを差し込み、薬室に装填して安全装置を掛けるところまでを流れる動作で行い、仕事にかかる。

今日のクエストの目的の1つである“落し物拾い”とは、はっきり言ってしまえば遺骨や遺品などの回収である。

 

(俺らみたいな子供が銃持って彷徨くなんて、世はまさしく世紀末って感じだよなぁ)

 

などと周りの景色を眺めて、民家跡で瓦礫をどかしながら思ってみたりする。

20世紀末にユーラシアを皮切りに世界中にイクシスが出現し、そこから人類と異世界とも異次元ともつかない存在との戦いが始まった。

なんの前触れもなく、あまりに突然すぎたその襲撃は世界を混乱の渦に陥れ、特に人口密集地に至っては物的、人的被害は大規模災害を超えるレベルに達した。

軍はいつどこに現れるか分からないイクシスが現れる穴、空間の亀裂とも言うべき“ネスト”の探知や捜索に手間取り、初期の戦闘は悲惨な結果となったが、初戦から20年が経とうとしている今日、ネストの探知技術の向上と、徹底した敵情分析の結果、かなりの精度で安全な迎撃体制を整える事が出来るようになり、最初期のような悲劇が起きる事はなくなった。

だが、数年前の大規模襲撃の際、従来の獣型を操る人型のイクシスが確認され、危うく前線が突発されかけた事から、敵もこちらを研究・分析し、進化していると考えて油断は禁物であるというのが、世界の常識となっている。

イクシスの襲撃に備えて街を警備するにあたって、軍や警察だけでは人手不足ということもあり、日本ではある特殊な制度が採用された。

 

“指定防衛高等学校”

 

この制度に加盟している学校は、生徒に武装させ、正当に訓練し、通う生徒は、男子生徒は有事の際は軍隊と共に最前線へ、女子生徒は男達が留守の間、街を守る事が義務付けられている。

俺らが通う私立武学高校も例に漏れず、というか“武装学徒”の略とかいう安直過ぎて名前からして丸わかりだけど、防衛指定校の1つだ。

こうした学校は学校毎に特色があり、アメリカ海兵隊基準だったり、自衛隊基準だったりするのだが、武学高校は支給される武器こそドイツのH&K社製に限られているが、訓練に関してはいろんな国の軍隊から教官を呼んで教務をしている。めんどくさいから統一すればいいだろって思ったけど、どうせならいいとこ取りして強くなろうぜって事らしい。こんな校風だから派閥が出来て“1番危ない防衛指定校”なんて言われるんだよ。マジメに過ごしてる生徒への熱い風評被害とかどうにかして欲しいぜ。全く。

 

「あ。遺骨だ」

 

歴史の時間に教わった事を思い返しつつ学校に対する文句を考えながら瓦礫をどかし続けること2時間程。本日最初の遺骨を見つけた。

若い男だろうか、比較的原型を留めているそのご遺体は、ズボンのポケットには財布と思われる革製の物が入っており、身元を特定する上で重要な証拠となる。

 

「望月、1体見つけた。状態が良いからこの方を収容したら車で待ってるぞ」

 

発見したら連絡して収容。マニュアル通りにことを進める。

 

《りょーかい。俺は遺品をいくつか見つけた。そろそろいい時間だし、俺ももど……っ!》

 

中途半端なところで言葉を止めた。嫌な予感がする。

 

「……どうした?」

 

《ネストだっ!小規模だが、もう点滅が始まってる!》

 

「やっぱりかー! 連絡済みだよな!?手はず通りに逃げるぞ!」

 

《もちろんだ!分かってる!》

 

収容途中のご遺体を遺族の元に届けるのは残念ながらまだ先になりそうだ。

場所を地図に記録して車まで走る。

その途中、ふと、崩れたオフィスビルの中から何かが飛び出てきた。

望月かと思ったが、違う。

骨のような尻尾に、2メートルはあろうかという巨躯。口から唾液を垂れ流しながらその中心から覗いている2つの目。

俺らが日頃から“犬っころ”と呼んでいるイクシス。“K9”。数は2つ。

 

「…………っ!!」

 

反射的に銃を片手で構え、安全装置をフルオートに切り替えばら撒く。

反動の強い45口径弾をフルオートで撃つのは、西洋人と比べ小柄で非力な日本人がやってもまともに当たらないため、普段は使わない。まして、俺らみたいなガキなら尚更。

それでもギャンギャン言いながら体液を撒き散らしてK9が倒れていくのは、俺の腕がいいわけではない。単純に距離が近すぎるためだ。

本当に心臓に悪すぎる。死角から飛びたすのだけは勘弁して欲しい。

サプレッサーも付けていない銃をフルオートで撃ったことで、出現したK9はこっちに向かって来るだろう。

さっき飛び出してきたヤツらは、偶然近くにいた“はぐれ”だろうから1人で全部片付けられたけど、恐らく次は俺1人では、いや、望月と2人でも撃退は難しいだろう。

(火薬の臭いと体臭を消さないと…!)

 

辺りを見渡し、ひっくり返ったトラックを見つけた。

すかさず駆け寄り、燃料タンクにナイフで穴を開け、ガソリンを被る。整備担当にタコ殴りにされることを覚悟して、銃にもガソリンを掛けた。近くの瓦礫の隙間に身を潜める。

その直後、コンクリを爪で引っ掻くようなK9の足音と10頭前後の鳴き声が聞こえてきた。

 

(来やがった…!)

 

息を潜め、ひたすら待つ。

物音1つでもたてたら、その時点で俺は犬っころのディナーになっちまう。

酷いガソリンの匂いに頭が痛くなってきた頃、遠くから銃声が響く。望月が交戦してるんだっ!

 

(クッソ!)

 

一瞬考えた後、K9の後を追う。

 

(相棒を見捨てるなんて、出来るわけねぇ!)

 

だが、今日という日はどうやら俺にとっての最大の厄日であったようで。

走り出した矢先、進行方向にまた、“はぐれ”のK9が現れた。

 

グワォン!

 

と、俺の知ってる犬とは違う恐ろしい鳴き声を1つ放ち、こちらに走り込んでくる。

距離があるため銃を構える。

俺の位置がバレようが関係ない。

望月に向かった犬っころを限りなく少なくするために位置を晒してやる!

という意気込みであったのだが、現れるK9の数が10を超えた辺りで作戦変更。全力で逃げる。

置き土産に手榴弾を転がしたり、地形を使って逃げ続ける事かれこれ10分くらいといったところだが、正直、そろそろ限界だ。

散々走ってガソリン被って、疲労もそうだけど、すぐ後ろから、犬共の息遣いがはっきり聞こえてきてるんだもん。あー、泣きそう。

 

(望月は逃げ切っただろうか…?)

 

なんて事が頭を過ぎったとき、足元に払っていた注意を反らした結果、盛大に地面を転げ回った。クソ痛ぇ…。でもそれより今は……。

「フッ…!っらァ!」

 

すかさず愛用の短刀を抜き放ち、飛びかかってきた1頭のK9の足を切りつける。

1頭ずつ仕留めるのではなく、ここは文字通り出血を強いて時間稼ぎだ。

 

「来るなら来やがれ!相手になってやる!」

 

弱気を見せてはいけない。隙を見せたらその時点で終わりだ。

感覚を研ぎ澄まし、次に来るやつを見極める。………左!

 

「もらった!」

 

来るのが分かれば迎撃は楽だ。飛びかかってきたところをしゃがんで躱し、無防備な腹に短刀を突き立てる。

盛大に体液とか内臓とかがぶちまけられて頭から浴びたけど、そんな事はどうでもいい。また次が来る。

例に漏れず飛びかかってきたヤツの顔を切り裂いて引かせ、背後から襲って来る2匹のK9には、まず蹴りで1匹を沈めて残る1匹の首を切り裂く。

掠れた声で鳴き声をあげながら倒れた奴を飛び越えて更に2匹。そして右と左からもそれぞれ1匹づつ。

左から来る奴に向かい、寸前で躱してから振り向きざまに頭に尖ったコンクリ片を叩きつける。

よろけるK9を他所に続けて走り込んでくる3頭相手に、俺はまた正面から迎え撃つために踏み込んだが、割れたアスファルトに躓いて転ぶというとんでもないバカをやらかしてしまった。

 

(クッソ!痛ってぇ!)

 

顔を上げると、このチャンスを待ってたと言わんばかりに、デカい口を開いて俺に食らいつこうとしていたK9の頭が爆ぜた。

遅れて聞こえてくる1発の銃声。この音は、ライフルの音だ。

さらに続けて1発2発。犬っころが倒れるたびに聞こえてくる銃声の意味を理解した瞬間、力が抜けた。

 

(また、味方に助けられたか…)

 

安堵の溜息を1つつき、銃声がした方を見ると、救援の女子生徒達が各々の武器を持ち走り寄って来ていた。

最後まで泣く事はなかった。




どうも、初めましての方は初めまして、スティクロSSを読んで頂いている方はお久しぶりです。早坂です。
就職して教育期間という名の研修期間が終わり、実習期間に移行してどこに赴任するのかと思ったらまさかの沖縄。……おかしいな、希望には沖縄のおの字も書いてないのに……。

ずっと書きたいなーと思っていた「リトルアーモリー」のSSをこの度書かせていただきました。スティクロの方はPCで書いているので、書き溜めたデータがなく申し訳ありませんが更新出来ないです…。情報保全の関係でPCはおろかUSBメモリーすら持ち込めないの環境なので……。私の仕事について、お察しの方もいると思いますが、敢えて言いません。ただ、64式は素晴らしい銃だと言うことをこの場で叫んでおきます。ホントすっごい……、狙ったところに当たってくれる…。

誤字脱字など、訂正箇所がありましたら教えて下さると助かります。
更新は昼間仕事しながらプロット考えて夜執筆って感じになるので、ペースは不定期です。今回は5000字近くまで行きましたが、キリのいいところで終わらせていく予定なので、毎回この長さとは限りません。ご了承ください。
本作については柔軟に対応していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

それでは、次回お会いしましょう。
ではまたーノシ


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Mission:1

なんか書きたい事がうまく書けんなぁ。
描写を細かくしすぎるのも読んでて疲れるだけだろうし。ぐぬぬ…。


酷い匂いのためか、しかめっ面をしながら近づいてきたセーラー服にマルチカムのプレートキャリアー、M4とM9にヘッドセット装備の女子生徒に担当教官(女性幹部陸上自衛官)の元へ連れられ、状況の説明を強いられる俺ら。

望月も同じようにガソリンやらなんやらを全身に浴びて、潜んでいた所を発見された助け出されたようである。

道中、死体あさりとか、男のくせに前線に出てないとか散々陰口が聞こえてくるが、正常心を保って乗り越えた。

 

「で、たった2人でK9の群れを相手にしていた理由は?」

 

愛想笑いすら浮かべず、不機嫌そうな声から始まる事情聴取は心底居心地が悪い。

 

「えーっとですね……」

 

望月をチラ見しつつ、俺が口を開く。

 

「旧市街地北Eエリアにて別れて偵察及び落し物捜中、既に点滅が始まっているネストを発見し、その場での迎撃が困難と判断し撤収した所、はぐれの群れと遭遇しまして…」

 

望月の説明を俺が引き継ぐ。

 

「足止めしつつ合流を試みましたが、いかんせん数が多くて、放棄されたトラックからガソリンを拝借して臭いを消したのですが、それも、なんというか、運悪く逃げているところを見つかってしまい……」

 

「追い詰められてもうダメかと思ったところに、皆さんの救援に助けられた次第です…。はい…。」

 

俺の説明を望月が締めくくり、会話のバトンを教官に渡す。

 

「あなた達2年生よね?任務中は2人以上で行動するようにって、教わらなかったのかしら?」

 

うぐっ…。

声にならない呻きを2人してもらす。

 

「確かに、教わりました…」

 

「すいません…。我々の慢心です…」

 

こういう時はヘタに楯突かずに、相手に従っておくのが1番だ。

 

「武学高校の噂はいろいろ聞いてるけど、ここまで酷い学校だったとはね」

 

呆れを通り越した冷たい目を向けられ、さらに萎縮する俺ら。

周りの女子生徒達も同じような態度と視線を送ってくるあたり、自覚しているが、事の大きさを知る事ができる。

 

「本当にすいませんでした。以後このようなことがないように、気をつけます…」

 

「すいませんした…」

 

「はぁ、もういいわ。行きなさい」

 

短い溜息をつき、帰れという教官。

俺らはまだ、1つだけ用がある。

 

「あの、ネストを発見する前に発見した、遺骨と遺品の収容したいのですが…」

 

「そう、見つけたのね。なら、それらを収容後、予定通り撤収しなさい。バラバラの所にあるのかしら?」

 

仕事はしてたんだな的なニュアンスと表情で聞いてくる。サボってたわけじゃないんですよ?

 

「はい、別行動でしたので…」

 

俺が肯定すると、

 

「なら2人づつ人を貸すから、素早く行いなさい」

 

「「了解しました」」

 

事情聴取から解放され、無線で指示されたであろう女子生徒と合流し、地図を見ながら別れて向かう。

朝霞の生徒と、最初に案内をした生徒。2人とも態度が嫌々なのは、俺らの酷い臭いのせいか、それとも騒ぎの元凶である俺らについて行きたくないのか。恐らく両方だろう。臭いとか、ツイてないとか話してるの聞こえてくるし。あー、モチベーション下がる。

 

「ここだ」

 

極力余計な事を考えないようにして、遺骨を覆っている瓦礫を退かしていく。

露になった遺骨を見て、後ろの女子生徒に妙な緊張感が走るのを感じた。

 

「最前線は、こんなもんじゃないぞ」

 

気付けばそんな事を口走ってた。反省してないと思われたらどうすんだよ俺。

雰囲気でこちらの話に耳を傾けた事を察した俺は、そのままの勢いで言い続ける。

 

「骨だけだから、臭いもしないしまだ見てられるけど、襲撃直後の街は、この世の地獄だった」

 

忘れはしない。あれは入学して1か月後の学校行事の事だ。

ヒーローに憧れて、銃を撃ちたくて、家族の敵を討ちたくて、様々な理由を抱えて入学した俺たちは、1か月間座学で戦闘や武器について教務を受けた後、“現地実習”という形で、前線視察を行った。

いち早く戦いの空気に慣れされるための行事だが、本当は、新人たちの反応を見て、本当に戦闘に向いているかを確かめることが目的だという事を、俺は先輩からこっそり聞かされていた。

血とは少し違うが、血よりも不快な悪臭を放ち、辺り一面に広がる、イクシスだったモノ。

その中に紛れる、人間だったモノ。

戦いや戦争という物を映画や本でしか知らなかった俺たちは、現実に直面し恐怖した。

目を背ける者、嘔吐する者、泣きだす者。

いろんな奴がいたけど、俺は、これは始まりに過ぎないんだろうなと、視覚的にも嗅覚的にも不快な空間で考えていたのを覚えてる。

 

「正直な話、今日みたいに追いかけ回されたのは、初めてじゃない」

 

思考を現実に戻し、話を続ける。

 

「今日はK9だけだったから、そう考えれば、運が良かった。ヴォイテクとか、人型が居なかっただけマシだ」

 

考えられる最悪の事態を想像し、軽く震えそうになるが、ここは我慢だ。

 

「今日の俺らの行いを正当化する気なんてないし、真似して欲しくもないけど、去年最前線に出てて、失敗から学ぶって言うのも必要な事だと思ったよ。同じミスをして、次も生き残れる保証はないし、俺は死ななくても、他の奴が死ぬかもしれない」

 

すげぇ余計な事言った感ハンパない。

こりゃあ、やっちまったなぁ…。

 

「まぁ、何もかも当たり前のことだけどな。悪いな、1人語りしちまって。聞かなかったことにして、忘れてくれ」

 

最後に早口で捲し立てると、意外な事に返答があった。

 

「私は今年入学したばかりで、まだ紙と木の的しか撃った事がありません」

 

思わず作業の手を止めて振り向くと、陸自配下の朝霞の制服を着た生徒が真剣な目でこちらを見ていた。

隣の生徒も思うところがあるのか、何も喋らないが、目線で訴え掛けてくる。

 

「今日、急にこの任務に呼ばれて、漠然とついてきましたが、遺骨を見て、先輩の話を聞いて、なんとなくですが、ついてきて良かったって、思えました」

 

驚く俺を他所にその生徒は頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

 

「あぁ、いや、まぁ、なんだ、入ったばかりで不安な事とか、分からない事とか沢山あるだろうけど、それは皆経験してるし、当たり前のことだから、抱え込まずに身近な先輩とか教官とか友達に話せば多少は身軽になるだろうから、その時は遠慮なんかする必要は無い。どんどん話な」

 

予想外すぎてしどろもどろになりつつ、再び作業を続けながらこれまた当たり前のことを返す。

言ってから、もっとうまい言葉があったんじゃないかと思ったが、今更訂正なんて出来ない。

 

「もうすぐ夏の演習で他校の生徒と合同で動く事になるだろうけど、任務を遂行する上でそういう繋がりも今後重要になってくるから、積極的にコミュニケーションを取ることを進めるよ。情報を共有しあっておかないと、1つの勘違いが甚大な被害に繋がる事なんて、珍しくないし」

 

遺骨を丁寧に専用の袋に移し終え、腰を鳴らしながらストレッチをする。

 

「まぁ、まだスタートしたばかりなんだから、深く考えすぎずに、気楽にやれ。ガチガチになりすぎても、動かなきゃいけない時に動けないからな」

 

微笑を浮かべて締めくくった俺は、今の自分の状態を思い出して、恥ずかしさがこみ上げてきた。

ガソリンとK9の体液と内臓(さっきの狙撃で脳漿も掛かった)塗れで、何を偉そうなことを言っているのか。

「「はい」!」

 

思わず顔を背けてしまったが、片方は元気に、片方は平坦な声の返事を聞いて、また俺は笑を浮かべたのだった。

 

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

翌日、土曜日。夏休みが近いというのに我が母校である武学高校は敵に対し素肌を晒すことを良しとしないので、任務に出る際は季節問わず長袖長ズボンが推奨されている。

それに則りいわゆる冬服で任務に出た結果、制服を廃棄することになった。あんなの洗うより捨てた方が早いだろうしね。

こういった事態を想定してか、幾つか書類を書かないといけないが、制服と最低限の装備は無償で支給されるのがこの学校のいい所でもある。

故に俺と望月は休日登校し、報告書と始末書を提出しなければならなかった。

昨日1晩で書き上げたけど、それなりの物を仕上げたつもりである。

 

「おう、早速提出に来たか。はよ渡せ」

 

担任の長峰先生に提出し、チェック欄にハンコを貰う。

 

「よし。次は砂東教官のところだな」

 

担任、担当教官、理事長の順番に、ハンコを貰えば、晴れて休む事ができる。

 

「「ありがとうございます」」

 

「にしてもお前ら、よく群れに追いかけ回されて生き延びられたな。普通ならすぐに追いつかれて食われるだろうに」

 

「俺らの足と頭が良かったんですよ」

 

ニヤつきながら感想を述べる長峰先生に、同じようにニヤつきながら望月が答える。

 

「そんな事が言えるなら、またお前らを生徒会に推薦しておくけどいいよな?」

 

「「冗談はよしてくれ」」

 

思わず真顔でタメ口をきいてしまうほどシャレにならない冗談を言われた。

 

武学高校の生徒会と言えば、多数の派閥とゴロツキ共を束ねるヤバイ奴らの集まりで、“学徒連合”と呼ばれる選抜メンバーで構成された直轄の学生部隊がある。

そいつ等は並の学生では相手にならず、自衛隊との合同演習では、陸自の1個小隊を壊滅させ、参加した指揮官たちを軒並み辞職に追い込んだ輝かしい実績がある。

何故そんなことを知っているのかというと、俺と望月は、期間限定ながらその直轄部隊に所属していた事があるのだ。

 

「K9の群れを乗り物を使わずに数10分逃げられる奴らなんてお前らくらいだろうな。まぁ、無駄話はこれくらいにしておこう。行ってこい」

 

ひと安心しつつ紙を受け取り、持回りを再開する。

ハンコを貰う先々で色々話し込んだりしたおかげで、終わる頃には昼食の時間になっていた。

食堂で適当に注文し、さっさと済ませて各々帰路につく。

帰宅後は私有の装備品を整備して、受け取った新しい制服を準備する。

武学高校の制服はごく普通の黒い学ランだが、左肩に校章である、白い6角形の枠に黒い2重の六芳星、その中心に同じく黒で『武』の文字が入ったワッペンが縫い付けられている。生徒会と風紀委員は白枠がそれぞれ水色、山吹色になっている。装備にもどこかにワッペンを付けることが校則で決まっているため、任務へ行く時は、どこへ行こうにも武学高校の生徒であるという事を隠せないのだ。ワッペンを見て露骨に距離をとる他校生徒もいる。

俺の基本装備は、ODのチェストリグにこれまたODのポーチ類を付けただけの簡素なものだ。

望月には、『もっとオリジナリティをだなぁ!?』と叫ばれるが、あまりゴテゴテしてるのは性にあわない。

HK416や417を使う事が多いため、必要以上に重くしたくないというのが本音だ。

イクシス相手に重武装して動きが鈍るより、俊敏に動ける方が戦い安いって常識でもあるし。

もちろん中には軽機関銃をアサルトライフル感覚で扱うようなヤツが、力を見せつけるために敢えて重装備で参戦するが、消費する体力と水分が見た目以上に多いため、そういう奴は敬遠される。

昨日あれだけ走り回ったせいか、持回りと装備品の整備が終わった途端睡魔に襲われた俺は、欲に身を任せベットに倒れ伏した。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

月曜日、何事も無く登校し新しい1週間を始めようと思った矢先、それは起こった。

 

「今年の夏演習について、幾つか連絡事項があるからしっかり聞くように」

 

いつものようにチャイムから少し遅れてやってきた長峰先生は、あまり感情が感じられないいつも通りの声で示達を始めた。

“夏演習”とは、毎年夏に行われる防衛指定校が参加する大規模な合同演習で、任務内容の違いから通常男女で別れていて、全く違う場所で実施される。

 

「本来なら男女で違う演習だけど、今年は内回りの戦力強化の為に男子生徒を何人か回すことになったから。メンバーについては既にこちらで選抜済みだし、変更は利かないからそのつもりでいてくれ」

 

ザワつくクラスの生徒達を他所に、一人一人呼び出して、夏演習のメンバー表が配られる。

 

「谷岳ー、来ーい」

 

「はーい」

 

呼ばれて教卓前まで向かうと、先生が小声でボソリと呟いた。

 

「ある意味お前の実力が評価されてのことだ。頑張れよー」

 

「はぁ…?」

 

どういうこっちゃと思いつつ、渡された紙を見る。

 

『夏期共同演習において、貴殿は以下のチーム編成とする。

 

私立古流高校1年、朝戸未世《シューター》

私立古流高校1年、白根凛《ポイントマン》

私立八野辺高校3年、西部愛《ガナー》

国立朝霞高校1年、豊崎恵那《テールガン》

都立零葉高校1年、照安鞠亜《マークスマン》

私立武学高校2年、谷岳周紀《コマンド》

以上6名』

 

 

「……え…?」

 

(選抜された何人かって、俺のことかよ!?)

 

紙に書かれた名前6人中、5人の名前がどう見ても女性名であることを認識し、どうやら俺の他にクラスで3人同じく選抜されたようで同時に溜息をついたが、3人のうちの1人である望月は、鼻息が少々荒かった。




次回は休日外出した時に原作を買い直してからその要素を付け加えようと思うので、少し先になります。
ヒャッハーもう我慢出来ねぇ!と先走って投稿するかもしれませんが、その時は暖かい目で読んでて頂ければ幸いです。

ではまたーノシ



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Mission:2

でかい本屋を2件まわったのに売ってなかったから電子書籍で買いました(半ギレ)
その代わりエアガン本2冊買いました(ご満悦)


夏メンバーの発表の翌日、演習までのペアを組むことになった望月と2人で、その後発表された歩哨担当区域を、早速警らすることになった。

歩哨は当番制で定期的に回ってくるのだが、どうやら俺らが最初のようで、街を歩く市民は男子生徒が街の警備をしていることに初めは疑問を持ったようだが、事情を察してか、それとも深い興味はないのか、特に話しかけられることもなくスムーズに事が進んでいた。

事前に配られた地図を見ながら、行き止まりのところも隅々まで見て回るとあっという間に時間が過ぎて、あと1時間もすれば終わりだ。

 

「地図通りじゃない旧市街地とか外よりは単純でやりやすいけど、なんか物足りねーなー」

 

街の真ん中でなんてことを言うんだこの望月(バカ)は。

 

「おい、声がデケェよ。何も無いにこしたことないだろうが。俺はこんな静かな街に銃声を轟かせたくはないぞ」

 

「分かってっけどさ、なんかこう、いつもと違うから?違和感だらけなんだよ」

 

「それはまぁ、確かにそうだが…」

 

これでも去年1年生の間は、激戦の外回りを経験して、その空気に慣れて当たり前と化していた俺たちにとって、“楽な仕事”はやりづらい仕事になっていた。慣れって恐ろしい。

イヤーマフをしていても聞こえてくる銃声と爆発音。

支援砲撃の全身に響く衝撃波と地響きが轟く機銃陣地。

離れているのに燃えた火薬の匂いよりも強く臭ってくる、肉が焼ける臭いと血の臭い。

銃を撃ってる間は何も考えずにただ引き金を引き続ければいいが、戦闘が終わって、安全確認のためにイクシスの死骸の山に入りこみ、死亡を確認するまでが武学高校では1年生の役目だった。

確認が終わる頃には、死骸の山の側にゲロの池が追加されるのは毎回変わらなかったなぁと思い出していると、こちらに駆け寄ってくる市民が1人。ファンの人かな?サイン求められたりする?それとも握手?

 

「おい!大変だ!何てんだっけアレ!ネットだっけ?とにかくあっちの路地にあんだよ!」

 

お兄さん、もしかしてネストのことですか?

 

「落ち着いてください。我々が対処しますので、避難を急いで下さい」

 

「お、おう!後は頼んだぞ!」

 

おー、逃げ足が早いこって。

 

「仕事だ」

 

「そうだな!」

 

土方風のお兄さんに言われた通りの路地を覗くと、確かにネストがある。

まだ点滅はしていないが、もうすぐ始まると、感覚が告げていた。

 

「ネストシードを発見しました!近隣住民の方は速やかに避難を開始してください!繰り返します!」

 

俺がでかい声で避難を促す傍らで、望月は司令部に通報を入れる。

周波数を同じに設定してあるため、オペレーターの声だけが聞こえてくる。

 

〈DDA武学……、例の2人か。了解。増援を向かわせます。万が一間に合わなかった場合、足止めは頼みます〉

 

「問題ありません。やって見せますよー!」

 

オペレーターの真面目な声に対し、望月は楽しそうな声で応答していた。それにしても、“例の2人”とはいったいどういう意味だろうか?もしかしてこの前の件がもう広まっているのか?

避難誘導と無線でやり取りをしている間に点滅が始まったの見て、銃にマガジンを差し込み装填する。

今日は望月がHK416で、俺が支援を目的にHK417を装備している。

『HK416』はM4をドイツのH&K社が改修した発展型であり、泥に漬けても軽く振るえば撃てるほどの耐久性を持ち、416が5.56mm弾を使用するのに対し、俺が使う『HK417』は7.62mm弾を使うため、高い命中精度を活かし狙撃モデルも存在する。

 

「さーて、何が出てくるか」

 

接敵するまでの時間に流れる緊張感は、どうやら外回りも内回りも大して変わらないようだ。いや、人が少ない分、内回りの方が少し不安があるか?

ネストから70mほど距離を取り、横目で望月をチラ見すると、いつものマジキチスマイルで銃を構えているのが見えて、不安とか、違和感とかが全部吹き飛んだ。ホントこいつはブレないな。

 

「来るぜ!この前散々追いかけ回してくれた恨み、ここで果たしてやるぜ!」

 

「その通りだ!」

 

気合を入れ直して前を向くと、点滅していたゴルフボール大のシードがフワッと空間に広がり、中から聞き慣れた犬系の唸り声が聞こえてくる。

 

「犬っころ、数は…」

 

「5以上!」

 

はい望月君、元気があって大変よろしい。だけど…。

 

「……アレを用意しよう」

 

「くー!燃えてきた!」

 

「そうだな。大炎上の予感だな」

 

これからドンパチおっぱじめると思えない会話が続いているが、これが外回り、ひいては武学高校の平常運転なのだ。

イクシスを吐き出したネストはそのまま消え去り、ゆっくりヒタヒタとK9とヴォイテクが姿を表すが、まだ撃たない。

キョロキョロと辺りを見渡し、やがて人間の匂いを嗅ぎつけたのか、それとも火薬の匂いを嗅ぎ分けたのか、現れたK9の群れ、数にして10頭と1頭のヴォイテクが一斉にこちらを向く。

吠えながら走り寄って来るのは愛玩動物だけにして欲しいところだが、相手はイクシス。容赦はしない。

K9との距離が約50mを切った時、俺は用意していた物を飛ばした。

轟音が街に轟き、民家の窓が割れる音があちこちで聞こえる。

 

「流石武学高校理科部謹製、“下瀬火薬”グレネード。桁違いの燃焼力だなぁ」

 

日露戦争の日本海海戦で砲弾の火薬として使われた下瀬火薬。TNTより燃焼力と爆発エネルギーが高いそれを再現し、現代の化学と融合させ安定性を向上させた物をグレネードとして活用したうちの学校の理科部は、表に出たら輪っぱ掛けられて仲良くへいないぐらし!確定だろう。

 

「やっぱり町中で使うもんじゃなかったかー…」

 

「大丈夫大丈夫!イクシス保険入ってるだろうしさ!」

 

俺は予想以上の威力にドン引きするが、望月はいろいろぶっ壊れているため、特に何も思わないようだ。

だってさ、出てきたK9、半分以上消し炭すら残ってないよ。ヴォイテクはまだ生きてるけど、俺思わず、うわぁ…って言っちゃったよ。火薬の量は最小限のはずなんだけどなぁ。

 

「見ろ!イクシスがゴミのようだ!」

 

「無駄口叩いてないでトドメ刺すぞ」

 

アドレナリンがドバドバでハイテンションの望月を抑えつつ、生き残ってるK9の掃討をする。

後方にいて無事だったが耳をやられたK9が匂いと目を頼りに走ってくるが、セミオートで確実に仕留めていく。

残すはヴォイテクのみであるが、こいつ、あの爆発の後なのに、まだ立ち上がる体力があるのか。やっぱり恐ろしくタフなヤツだ。

 

「肩のグレランは壊れてるな。畳み掛けるぞ」

 

「おうともさ!」

 

2人揃って動きが鈍くなったヴォイテクの急所に照準をつけて、同時に引き金を引いた。

至近距離で放たれたFMJ弾はヴォイテクの目と口を貫き、脳を破壊し延髄をぶっちぎり後ろに抜ける。

事切れたヴォイテクはその場に崩れ落ちて、2度と起き上がることはなかった。起き上がってきても困るだけだが。

 

「残敵はいないな?」

 

「そうだな!いやー!スカッとした!」

 

「…報告は俺がやっておくから、周囲の警戒を頼む」

 

「あいよー」

 

ストレスを発散してご満悦の望月を他所に、俺は無線のスイッチを押す。

 

「DDA武学、普2-C谷岳。エリアカラーイエロー、死傷者無し。民家への火災発生」

 

〈エリアカラーイエロー了解。消防を向かわせますので、現地に残り誘導をお願いします。……火災が発生した原因を聞いてもいいですか?〉

 

おっと。それを聞いちゃいますか。

 

「出現したヴォイテクの対処に手間取りまして、やたらめったらグレランを撃つものですから、肩のグレランを破壊した時には既に…」

 

〈…了解しました。そういう事にしておきましょう〉

 

深く追求されずに済んだ俺らは、程なくして到着した消防に何系の火薬による火災なのかを報告し、真実の中に嘘を混ぜるやり方でやり過ごした。

様子を見に来た増援の女子生徒は、オペレーターの報告でK9の群れとヴォイテクを2人で倒したと聞いて信じていないようであったが、現場を見て納得せざる負えなかったようだ。さらに、死体の側で携行食をパクついてる俺らを、この人たち頭おかしいんじゃないの?的な目で見ていたが、この非常識こそが俺らの常識となってしまっており、これもやはり慣れなのだ。

こうして俺らの記念すべき第1回目の市街地警らは、まるで今後の道のりを示すかのように、血の匂いが満ちていた。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

「いや、ホントだって!」

 

少し離れたクラスメイトが、大きな声で叫んだ。

 

「私も最初は信じなかったけど、オペレーターの人が言ってたんだもん!」

 

大きな声と言っても、喧騒に包まれた教室では大して気にならない程度だったが、次に放たれた言葉で周りが一気に静まり返った。

 

「ホントに2人で10頭以上のK9の群れと、ヴォイテクを無傷で倒してたんだって!」

 

静寂に包まれた教室で、話すのに夢中で自分の周りに気づいていない彼女は声のトーンを変えずに話し続ける。

 

「私達が駆けつけた時にはもう終わってたけど、辺り一面血の海って言うか、グチャグチャになったK9の死骸だらけでさ!離れたところに頭が半分無くなったヴォイテクも倒れてるし!あんな光景見たことなかったよ!」

 

朝から血生臭い事を話しているせいで何人かの生徒が顔を顰める。

 

「落ち着いて、声でかいよ?まぁ、ゆっちが見た光景がホントだとして、流石に2人でって言うのはモリすぎじゃない?」

 

教室の現状に気づいた1人が窘める。

 

「そーそー、流石に女の子2人でそれだけの規模を返り討ちにするのはねー」

 

ゆっちと呼ばれた生徒の後ろにいた生徒が同調する。確かにさっき言っていた敵戦力だと、相当優秀な学生でなければ無傷で切り抜けるのは難しいだろう。

 

「あ、いや、女の子じゃなくて、男だったよ」

 

さらに爆弾が放り込まれた。“内回り”に“男”?

 

「え?なんで街の歩哨に男がいるの?」

 

そういえばチラッと先生が話していたことを思い出す。

今年の夏演習は、戦力強化のために男子生徒が何人か内回りに組み込まれると。

同じ事を思い出した1人が説明すると、みんな思い出したようで、どんな人が来るのか、強い人が来るのか、イケメンなのかなど、噂と憶測が教室中に広がり、喧騒が元に戻った。

もし噂が本当なら、その2人の男子生徒は余程の実力者だという事が分かる。

 

「ちなみにその男2人って、どこの生徒なの?」

 

再び静寂に包まれた教室で、みんなが答えを待つ。

 

「えーと確か…」

 

ゆっちが視線を上にあげ、考える素振りを見せる。

私も目線は本に向けたまま、意識を次の言葉に集中させる。

 

「私立武学高校の、谷岳って人と、望月って人だった気がする」

 

悪名高い、私立武学高校。

これまでとは違うタイプの静寂に包まれた教室で、私、西部愛は、今年の夏演習は楽しい事になりそうだと1人、笑を零した。




お待たせしました。早坂です。

ようやく外出が許されたのですが、初回は引率外出と言って、どこに何があるかを先輩に案内してもらうのですが、近場かと思ったらまさか市をまたぐ事になり、アニメイトで仕入れるという事前に立ててた計画を変更。複合商業施設の本屋とイオンの本屋を探したのにどこにもありませんでした…。悲しみの果てにサブ目標にしてたエアガン本2冊を買って、ダメだったら電子書籍で買おうという決心に従い電子書籍版を買いました。
ただし、電子書籍は余計なものまで買ってしまうので気をつけましょう(戒め)

この調子で1週間に1話以上は必ず投稿したいですが、原作に追いついてしまったらストップしてしまうため、どっかで小話を挟むか、新しいSSを始めるか検討中…。原作早く続き出して!そうすればみんな救われるから!

読者の皆様、毎回読んでくださりありがとうございます。これを励みにして、続きも盛り上げていこうと思います!

ではまたーノシ


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Mission:3

気がついたら9000文字超えてました。


夏休みに入った次の日に俺は、同じように内回りを指定された3人と共に、旧市街地へはぐれ討伐任務に来ていた。

前回出現したK9はすべて倒し切ることが出来ず、数頭逃がしてしまったため、そいつらを片付けるのが今回の目的だ。

 

「よーし、到着だー」

 

今回も望月の運転で現地へ到着する。ちなみにジャン負けで決まった。

 

「んー!やっぱ廃墟の街と銃は似合うなぁ!」

 

背伸びして体をほぐしながら出てきたのは、関口一士(せきぐちひとし)。M4をこよなく愛する自他ともに認めるM4キチだ。

背が平均より少し低い事を本人は気にしているが、容姿は整っており、これまでに数人交際経験があるようだが、本性を知られ捨てられるという事を繰り返している。

 

「旧市街地なんて久しぶりに来るけど、前より景色変わった?」

 

あとから降りてきたもう1人が、波瀬翔(なみせしょう)。こいつは入学前に、アメリカのPMCで基礎訓練を積んでいるため、頼りになる奴だ。実家が金持ちという事もあり、自宅には様々な銃が保管されているとかいないとか。羨ましい話である。顔もいい為尚更嫉妬の嵐に晒されるが、人当たりもよく頭も切れる良き戦友である。

 

「俺らが来ない間にドンパチ賑やかにパーリーしただろうからな。そりゃ多少景色は変わるだろ」

 

例えばこの間の件とかな。

 

「まぁ、それもそうか。んじゃ、いこうぜ」

 

波瀬に続き、望月、俺、関口の順番で捜索を開始する。

今日の装備は波瀬、関口が416で、望月が417、俺はMG4という軽機関銃だ。関口の416にはM320というグレネードランチャーが取り付けられている。武学高校としてはごく標準な装備である。服装は、学ランは流石に暑すぎて着ていないが、全員袖を捲った白いシャツに夏用の薄手のズボンといったスタイルだ。

サブアームにはそれぞれUSP45、HK45、VP9、ガバメントを使用していて、全員支給品ではなく、個人購入した物である。

時に静かに、時に話しつつ捜索を続ける事1時間。遂に痕跡を見つけた。

 

「足跡だ」

 

波瀬が指差した所にある、埃をかぶったコンクリの上に、ハッキリとしたK9の足跡がある。

 

「まだ掠れてないから新しいな」

 

俺の見解に異議を唱える者はおらず、ここからは慎重に事を進める。

 

崩れたビルや民家の陰、路地裏や壁がなくなり上から見渡せるようになった2階以上のフロア。油断なく隅々まで捜索ルートを地図通りに進む。

 

「………っ!」

 

片側2車線の道路を挟んだ右側のケーキ屋だった建物の陰で、何かが動いたのを俺は見逃さなかった。

すかさずハンドサインで全員に知らせて、全方位を警戒する。基本群れで動くK9は1匹で動く事は滅多にないため、必ずこの周りにはぐれが潜んでいるはずだ。

ツンツンと背中を関口につつかれる。後ろを振り向くと、ハンドサインで『2匹いた』と伝えてくる。

『了解』を示し、前2人にも同じ事を伝えた。

俺達は、本格的に“縄張り”に足を踏み込んだようだ。

周りの物音と動きに全神経を尖らせる。

何匹逃したか定かでない以上、広い通りで迎撃するの分が悪いため、事前に決めていた地点まで後退する。

K9は1度定めた標的を狩るまで追い続ける習性があるため、ここはその習性を利用してこちらに有利な所まで引きつける作戦だ。もしその前に仕掛けてくるようなら、身近な建物に篭もり応戦する手筈でいる。

途中で仕掛けてくると思っていたが、結局迎撃地点までたどり着いた俺達は素早く布陣を済ませ、銃を構える。

すると、右のコンビニの陰から顔を出し、こちらを窺う犬が1匹。

 

「来るぞっ!」

 

3倍ー9倍のスコープを覗いてその姿を確認した望月は、今度は興奮を抑えた声で伝える。

全員の殺気がヤツらに伝わったのか、1頭が飛び出た瞬間、すかさず望月が胴体を撃ち抜く。

事切れたK9はその場に倒れ伏すが、その後から、別のところで出現し、合流したであろう群れが姿を現した。数は、50はいるだろうか。

 

「思ったより多いな」

 

と一言つぶやき、皆とは少し離れた崩れた民家の1階でMG4を構えていた俺は、適正位置まで引き付け引き金を引く。

2脚をコンクリ片で固定しているため、ブレが少なく、狙い通りに当たってくれる事に悦びを覚え、銃身の過熱を防ぐため、連射は10発以下に抑える。

俺の発砲を合図に、全員が攻撃を開始すると、ただ真っ直ぐ突っ込んでくることしか能が無いK9は、面白いくらいバタバタ倒れていく。特に関口のグレランは群れに対し絶大な効果を持っていた。

 

「この瞬間を待ってたんだぁ!」

 

マジキチスマイルを浮かべた関口が416の弾切れの合間に、グレネードを放つと、『ポンっ』という気の抜けた音とは裏腹に、この前同様、改良型下瀬火薬を使っているため、40mmという大きさに似合わない派手な爆発を起こす。

 

「うおっ!えっげつねぇ!」

 

関口の隣で416を短連射していた波瀬が、初めて見るその威力に驚きの声をあげた。

 

「俺らはこのグレネードを町中で使ったんやで」

 

狙撃を続ける望月が一言漏らすと、

 

「お前らマジパナイわ!」

 

褒めているのか、呆れているのか、波瀬は半笑いを浮かべながら、リロードを行った。

それぞれの狙いが正確なため、無駄に弾を消費すること無く、体感ではもっと長かったが、実際は1分も経たないうちに片付いてしまった。

残弾を整理してマガジンをリロードし、全ての装備に以上が無いかを確かめてから、残りが出てこない事を確認し、死骸が散らばる所へ全員で向かう。

 

「あれだけ撃ち込んで、生き残ってるヤツがいるもんかね?」

 

望月の疑問は最もだが、最後まで油断はしてはいけない。

 

「後で痛い目見たくなければ、確認は欠かさない事」

 

波瀬が臨時リーダーらしく望月を窘め、丁寧に確認を行ったが、やはり生き残りはおらず、すべて死んでいた。

波瀬がオペレーターに任務遂行と処理班の要請をした後、到着までの間に軽く携行食を口にしていたその時だった。

 

ヴゥーン、ヴゥーン

 

と、常にマナーモードになっている俺のスマホが震えだした。

振動の長さからメールではなく電話と気づき、番号を見るが、全く知らない携帯からの電話だった。

イタズラや間違いの可能性を考慮し、少しそのまま放置するが切れる気配がないため応答する。

 

「はい…、どちら様で?」

 

通話ボタンを押し、警戒しつつ、声のトーンを落として相手の声を待つ。

 

『あ、良かった。繋がりましたね』

 

以外や以外。女の子の声だ。それも柔らかく、かつ聞き取りやすい心地のいい声。きっと可愛い人だ。

だが騙されてはいけない。こういうのは宗教勧誘とか、悪質な詐欺電話と相場が決まっているのだ。

 

「……俺は神も仏も天使も信じてないし、敵に回さない方が身のためだぞ?」

 

さっきよりもドスを効かせた声で警告を放つ。大概はここで切れるが、今回は違った。

 

『えっ?……えっと…、谷岳周紀君の電話で間違い無いですか…?』

 

なぜ俺の名を?どこで漏れた?ていうかこの反応は予想外なんだけど…。

 

「……どちら様で?」

 

ちょっとやな予感を感じつつ、改めて聞く。

 

『私は、八野辺高校3年の西部愛です。今年の夏演習で同じチームになる事になっていますが……、もしかして通達されていませんか…?』

 

八野辺、西部愛、夏演習。あぁ…、これは…。

 

「すいませんでしたっ!!」

 

K9の死骸に囲まれて、少し裏返った声で謝罪した奴は恐らく俺が初めてじゃないかと思う。

驚きのあまり肩をビクつかせこちらを見る波瀬達の視線の先には、必死に先輩に対し謝りまくる俺の姿が映っていたであろう。おい望月、何わろてんねん。後で八つ当たりだぞ。

事情を説明すると、先輩も察してくれたようで、

 

『まぁ、仕方ないわね』

 

と、少し笑いながらさっきの無礼を赦してくれた。前言撤回、天使は電話越しにいた。

 

『じゃあ、私がみんなに連絡するから、みんなの都合が合う日に集まるということで』

 

今日の電話は、夏演習前に紹介がてら集まりましょうという誘いだった。もちろん断る理由はないので快諾した。

 

「すいません。気を使わせてしまって」

 

『いいのいいの。貴方も内回りの演習は初めてでしょうから、いまいち勝手が分からないだろうなぁって思って。私達のチームは1年生が多いから、一緒に頑張りましょうね』

 

あぁ。普段基本的に野郎としか話さないから、同年代の女の子と話すと、戦闘とは違う緊張が走る。

それでも、先輩との会話が苦にならないのは、電話越しでも分かるくらいの母性というか、相手に安心感を与えるその声音にあるのだろう。絶対可愛い人だ。

 

『もしかして、今何か作業中だった?』

 

このまま一旦切れるかと思った電話は、予想に反しまだ続いた。

 

「今旧市街地で任務中です。もう戦闘も報告も終わって、処理班が来るまで待機してます」

 

後ろを振り返り皆の様子を伺うと、一様に俺を見ている。俺が敬語で謝った相手が気になるようだ。後でいろいろ聞かれそうだ。

 

『あら、そうだったの。ごめんね?忙しい時に』

 

申し訳なさそうに謝られてしまった。

 

「いえいえ、お構いなく。何事もなくスムーズに終わってむしろ暇してたくらいですから。むしろ先輩と電話ができて、今日は運がいいと思ってます」

 

努めて明るい声でフォローを入れる。ついでにそれとなく好感度も上げておく。

 

『ふふっ、口がお上手です事。イクシスの規模はどれ位でしたか?』

 

電話越しで微笑んでいる姿を想像して少しニヤけてしまった。冷静に冷静に。

 

「今回はK9が50頭ほど。対策が完璧だったので、大したことなかったですね」

 

公園で猫が群れてたよ的な感覚で今日の戦果を報告したが、返事があるまでに少し時間があった。あれ?なんか変な事言ったっけ?

 

『……何人で行ったの?』

 

「自分含め4人です」

 

『たった4人で、50頭を無傷で?』

 

ん?何かおかしい事があるかな?

 

「えぇ、無傷で」

 

『…是非話を聞きたいわ。次会う時が楽しみね』

 

間が空いて、是非話を聞きたいと。俺、そんな先生キャラじゃないんだけどな。すっごい小さな声で、『予想以上かもしれない』って聞こえてきたけど、俺らそんなに大したことしてないぞ?

話していたら処理班が到着した。クソ、まだ話していたいのに…。

 

「自分もお会いするのが楽しみです。処理班が到着したのでそろそろ切りますね。今年はよろしくお願いします」

 

『えぇ、こちらこそよろしくお願いします。日程は決まり次第連絡するから、待っててね?』

 

最後の『待っててね?』の破壊力はヴォイテクのワンパン並の破壊力だった。ヤバイヤバイ。でも何発でもくらいたいレベル。

 

「了解です。では、失礼します」

 

先輩の『またね』を聞いてから、電話を切った。ヤバイ、今になって堪えてきたニヤケが出てきた。平常心を保つのだ俺よ。

 

「誰から電話だったよ?」

 

望月もニヤニヤしながら聞いてくる。

 

「夏演習でチーム組む先輩からだった。演習前に顔合わせしようってさ」

 

皆の所に戻りながら、別に隠すこともないから正直に伝える。

 

「へー、なんて名前の人?」

 

と、聞いてきたのは波瀬だった。

 

「八野辺高校の西部愛って人。声から察するにすげぇ可愛い人だろうな……って、なんだお前らその顔は」

 

なんか皆表情と空気が変わったんだけど。なんだこれ?

 

「おぃ……、シュウェ………」

 

ユラリとゾンビみたいに望月が近づいてくる。キモい。

 

「シュウキェ……」

 

「谷岳ェ……」

 

望月だけじゃなく、関口と波瀬まで。え、何これ?一体何が始まるんです?

 

「「「死ねぇい!!!」」」

 

「ぬわぁ!あぶねぇ!何しやがる!」

 

あいつら一斉にコンクリ片投げつけてきやがった!

 

「フザケンナヤメロバカ!!怪我したらどうする!」

 

「うるせぇ!無知は罪だ!大人しく食らっとけ!」

 

華麗な投擲モーションで、コンクリ片に恨みを込めて投げつけてくる望月。いや、マジであぶねぇって。

 

「ちょっとそこの男子ぃ!遊んでないで手伝いなさいよ!」

 

処理班の護衛の女子生徒に怒られるまで、俺は逃げ続けていた。コンクリ片は1発も食らわなかったが、望月達のせいで、4人仲良く拳骨を食らうハメになった。

後で調べてわかったことだが、八野辺高校の西部愛と言えば、指定防衛校の男子の間で1番人気がある女子生徒らしい。大いに期待しておこう。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

というのが数日前の話。先輩はすぐに全員と連絡を取り、素早く日程を調整してくれたお陰で、案外すんなりと顔合わせの日が決まった。今日はその顔合わせをする日だ。まだ少しタンコブが痛む。あのアマ、思いっきり殴りやがって…。まぁ悪いのは俺らなんだけど…。

 

(えーと、指定された集合場所はここだけどー)

 

電車に揺られること約40分。ポーランドのタクティカルウェアメーカーのワークパンツとポロシャツという服装のせいで、PMCにしか見えない格好になってしまった。服装については、外回り組は服より装備に金を使うため、これが精一杯なのだ。許して欲しい…。

 

(目立つミリタリーハードケースを持ってるって話だったけど、このご時世大体みんな持ってるよなぁ)

 

デコられたハードケースを想像して、そんな馬鹿なと考えながら改札を出た俺は、言葉を失った。

 

(ゴーストバスターズ!?)

 

霊的な札があちこちに貼られたハードケースとそれを囲む美少女達。おかしい。ゴーストバスターズの続編は日本が舞台なのか?あ、でも、札だからどちらかと言えば陰陽師か?

 

「あ!あの人じゃないですか?」

 

紫ショートボブがこちらに気付いたおかげで、視線が俺に集中する。こ、怖っ!

突然紫ショートボブが走り寄ってきたため、俺は思わず気圧されて1歩下がってしまったが、そんな事お構い無しに話しかけてくる。

 

「あの、もしかして谷岳周紀先輩ですか?」

 

あー、やっぱりこいつらなのか。

 

「あぁ、俺が武学高校の谷岳だよ」

 

「やっぱり!私は私立古流高校1年の朝戸未世です!よろしくお願いします!…あとは零葉高校の照安さんだけ何ですけど…」

 

最後の1人がいないと。何気なく後ろを見ると、オドオドとしながらこちら見ている娘が1人。もしかしなくてもあれだろ。

 

「なぁ、彼女じゃないか?」

 

親指で後ろを指してやると、俺の正面にいる朝戸さんが上半身だけ横に倒して後ろを見る。

 

「かもしれないですねぇ。聞いてきます!」

 

俺に近づいてきた時と同じ様に走って零葉の生徒に近づくが、思いっきり怖がらせてる。涙目になって引いてるよ。

話をつけた朝戸さんは零葉の生徒、照安さんの手を引いて、俺の横で、『みんなの所へ行きましょう!』と言い、俺もあとに続く。

 

「谷岳君と照安さんね。私が八野辺高校3年の西部愛です」

 

この声、忘れはしないぜ。御本人が目の前にいるとは、感激だ。

 

「私立武学高校2年の、谷岳周紀です。よろしくお願いします」

 

先輩が自己紹介をしたのを皮切りに、1年生達も自己紹介を始める。

 

「改めまして、私立古流高校1年の朝戸未世です!よろしくお願いします!」

 

「…同じく、白根凛です。よろしくお願いします」

 

「国立朝霞高校1年の豊崎恵那です。よろしくお願いします」

 

「と、都立零葉高校1年の、照安、鞠亜です…。よ、よろしく、お、お願いします……」

 

我らが天使西部先輩に、元気いっぱいな方が朝戸さんで、黒髪クールが白根さん。真面目キャラの豊崎さんと、小動物系の照安さん。OK。覚えた。

 

「簡単な自己紹介はここら辺にして、どこか涼しい所に行きましょう」

 

先輩の提案に反論するやつはいる訳もなく、満場一致で移動を開始する。

近くの喫茶店に入り、改めて詳しい自己紹介をした後、古流高校には豊崎さんの姉(幹部自衛官)が教官として在籍している事が分かったり、照安さんがハーフで、引っ込み思案なせいで、まだ狙撃のパートナーを見つけられないのをフォローしたりと、女の子は話題が繋がりますねー。自己紹介とフォロー以外口開いてないよ俺。

連絡先を交換してから、さっきから気になってるんだけど、なんか先輩が俺をじっと見つめてきてる。いや勘違いとかじゃなくて。それも少しヤな予感が…。

 

「あの…、先輩?何かお聞きしたいことでも?」

 

いい加減スルー出来なくなった俺は意を決し聞く。

 

「谷岳君の話が聞きたくて」

 

悪戯が成功した子供みたいな笑を浮かべて即答する先輩。俺にそんな笑顔を向けないで…。目を合わせられない…。それにしても俺の話ってもしかして…。

 

「な、なんの話でしょうか…」

 

「それはもちろん、この前の戦闘についてよ?」

 

やっぱり知ってたか。俺は思わずため息とともに顔を手で覆う。

 

「調べたんですか?」

 

「調べたりしなくても、今の貴方はそれくらい有名なのよ?望月君だっけ?彼と一緒にね」

 

知らないところで名前が一人歩きしてて、軽く恐怖を覚える。まぁ、“調べてない”と言っていない以上、多少は調べられてるんだろうな。

1年生達はよく知らないようで、一様に小首を傾げているが、最前線で戦っていた上級学年という事に思い至った白根さんが、その事を言うと、なにかに気付いた顔になり、話を聞くモードになってしまった。

 

「奴は高校で知り合った仲ですが、共に死線を何度もくぐり抜けた相棒ですからね。何かと行動を共にするんですよ」

 

「夏休み前に市街地の歩哨で、10頭以上のK9と、ヴォイテク1頭を2人で撃破した時の話が聞きたいわ」

 

1年生組が驚愕で息を呑むのが見なくても伝わってくる。

ルーキーの彼女らにとって、ごく少数のK9ですら強敵であろうに、ヴォイテクなんて出会ったら死を覚悟する相手だろう。

対する先輩は、目をキラキラさせて俺の言葉を待っている。まったくこの人は…。

 

「あの1件は少々黒歴史なんですが……。特に特別な事はしてませんよ?出現までに時間的余裕があったので、万全の体制で迎撃できた。それだけです。市街地ですから、イクシス側が進めるルートは限られてますし、アイツらの頭はタダの獣ですから。こっちに有利になるように、上手く誘導してやる事が出来れば何頭出てこようが、武器さえあれば撃破出来ます」

 

真剣に話を聞いている1年生達は、途中相槌をうったり、小声で相談をしながら聞いているが、先輩の目は依然変わらない。

 

「じゃあ、旧市街地の戦いはどうなの?」

 

これ以上黒歴史を掘り返すのはやめて下さい…。

 

「あ、あれは……」

 

「乗り物も使わずに単独でK9の群れから生き延びただけでなく、取り囲まれても数頭返り討ちにしたって聞いたわよ?それもナイフで」

 

「ええぇ!?」

 

ついに朝戸さんが驚きの声を上げた。白根さんも『嘘でしょ…?』と小声で呟く。他の2人も似たような反応だ。

 

「……どんな状況でも最後まで戦い抜くのが我々の務めです。諦める事は絶対に許されません。俺はそう教わりましたし、生き残る術も学んで来ました。それを戦場で実践したまでです」

 

「そう…。ごめんね?たくさん聞いてしまって」

 

満足したのか、話を終わらせようとする先輩だが、俺はまだ言うことがある。

 

「ただ、俺が今まで生き残れたのは、無条件で背中を任せられる相棒がいたからですし、救援で駆けつけてくれた他校の学生達のお陰です。戦場では1人では生き残れません。“仲間”という存在の大切さを、俺は去年、最前線の戦場で気付かされました」

 

視線を1年生達に向け、1人1人の目を見る。

朝戸さんの驚いた顔、白根さんと豊崎さんの真剣な顔、照安さんの戸惑う顔、演習とはいえ、チームとなった以上、俺はこいつらに戦闘を教えなければならない。

 

「お前達はまだ入ったばかりで、ようやく銃の扱いになれてきた頃だろう?もう始まってるだろうけど、街の歩哨で敵と交戦することになるかもしれない」

 

この時、朝戸さんと白根さんの表情に変化があったのを、俺は見逃さなかった。この2人は恐らく既に戦闘を経験しているのだろう。その上で、反省点があったと見える。

 

「失敗してもいい。負けても、死ななけりゃそれでいい。重要なことは、“何が悪かったのか”を考える事だ」

 

少し俯いていた朝戸さんと白根さんが顔を上げる。

2人を見ながら、言葉を続ける。

 

「お前達に求められているのは、とにかく学ぶ事だ。同じミスをしないように、失敗から学ぶ。考えても分からなければ、学校の先生でも、先輩にでも聞けばいい。もちろん、俺や西部先輩だっていい。誰かを守りたいとか、何か目標を達成するには、お前達はまず強くなる必要があるという事を忘れるなよ?……長話して悪かったな。以上だ」

 

話を終わらせて先輩を見ると、俺に優しい笑みを向けていた。え、何これ?

 

「先輩…?」

 

俺が問いかけると、

 

「思ってた通り、貴方がこのチームにいてくれて良かったわ」

 

「え?」

 

と笑顔のまま真っ直ぐに言われ、俺は恥ずかしさと照れが混じりどんな顔をすればいいか分からなかった。

 

「さてっ!難しい話はここで一旦お終い!本題に入りましょう」

 

先輩がパンっと軽く手を叩き、話題を変える。なんか、先輩にいいように動かされた感がする…。

本題とはどうやら、それぞれのポディションの確認と説明、夏演習の内容についてだった。

ちなみに俺は今回新たに作られた『コマンド』というポディションに指定されてる。

『コマンド』は軍事用語として訳せば、『遊撃兵』という意味であり、様々な事態に適応し、対応するオールグラウンダーな役目である。

更に隊長と副隊長を決めるにあたって問題となったのが、このポディションと学年である。

最上級生の先輩は『ガナー』であり、隊長に向いておらず、序列的に2番目の俺は、指示を出して動かすより、自ら動く事が求められる。だがそうなると、残りは経験が皆無と言っていい1年生達になってしまうため、隊長も副隊長も任せられない。

俺が隊長をすればいいと1年生達は言っていたが、外回りの指揮しか知らない俺が隊長をやると、少し過激な指揮になりかねないという事を、先輩は俺のこれまでの戦い方をある程度は知っていたるめ、指揮を任せるより動いてもらった方が上手くいくと理解していたお陰で、指揮官からは外された。

そこで俺が提案したのは、隊長を先輩にやってもらい、副隊長は1年生の誰かにやってもらうという事だ。

先輩には少し苦だが、このバランスの悪い編成を通達した教師陣が悪い。

副隊長である1年生を俺がフォローして経験を積ませるという趣旨を伝えると、他に良い案が思い浮かばなかったため、話し合いの結果、副隊長は朝戸さんに決まった。

 

「まぁ何事も経験だ。フォローはしっかりやってやるから、気楽に行けよ」

 

少し不満顔の朝戸さんであったが、思ったより切り替えが早く、もっと親交を深めたいようで、皆で遊びに行きたいと言い出した。断る理由はないが、美少女5人に男1人ってすげぇ気まずい。

 

「谷岳先輩も来ますよね?」

 

俺に直接聞いてきた朝戸さんは、少し緊張が見られたが、まぁ、必要な事だと割り切って肯定する。

 

「じゃあ、決まりね」

 

先輩の宣言に従い、また数日後集まることを約束しその場はお開きになった。

ルーキーばかり4人も押し付けられて最初は困惑したが、逆に考えれば、4人の今後は俺と先輩の手にかかっていると言っても過言ではなく、かなり重要な役回りを任されたことを自覚した。後輩を育てるのは初めてで、まして女の子なんてやりづらいことこの上ないが、もう演習は始まっていると考え、これも訓練だと思いながら、俺も帰路についた。




どうもー、早坂です。

プロット通りに書いてたら9000文字を超えてしまいました。特に後悔も反省もしていませんが、次からはもう少し短くしたいです。

さて、今更ですが、この作品は小説版を読んでいることを前提に書いていますので、初見だと訳が分からん所があると思います。何が言いたいかというと、超面白いですし、絵も可愛いので原作小説もぜひ読むことをオススメしますってことです。
絵といえば、ふゆの先生がイラストを手がけたラノベを電子書籍で買ったのですが、一気読みしてしまうくらいいいものでした。『僕の学校の暗殺部』、良いですよ。モロR-18な内容を含みますが、“制服×銃”というのが大好物な私にとってどストライクな作品でした。

次回は望月視点から始まる予定です。お楽しみに!

2022.5.22.原作の設定に合わせ一部変更
ではまたーノシ


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Mission:4

プロットはあるけどちょっと執筆ペース落ちそう(小並感)


夏休みのある日、俺は今ファミレスにいる。

いや、なんかさ、てきとーに家でグダグダしてたら電話かかってきて、誰かと思ったら『夏演習でチームを組む蓮星と申します。私立武学高校の望月嵩弥さんでお間違いありませんか?』って。今まで聞いたこともない透き通った綺麗な声で話されたもんだから、俺の脳ミソ溶けかけたよ。割とマジで。

まぁそんなこんなで1度メンバー集めて顔合わせしましょうって事で、例年通り猛暑日の中駅近くのファミレスに来たわけですよ。来たんだけど…。

 

(き、気まずい!)

 

内回りでチームで男俺1人って知らされて、『やったぜ』って思っていた時期が俺にもありました。まず精神的に来るものがある。これならまだヴォイテク相手にしてる方がマシなレベルで。しかも合流した時と注文する時に少し話をしたけど、品物が届いた後も沈黙が続くってなに!?皆飲み物と軽食くらいしか頼んでないのに、1人でハンバーグパクついてる奴いるし!

誰かこの空気を打開して!と、心の中で叫んでいると…、

 

「よくもまあ、こんだけ優秀な面子が揃ったもんだ……」

 

伽鳥先輩の呟きが流れを変えた。流石っす!

蓮星さんはどうやら今回組むメンバーについて下調べを既にしているらしく、伽鳥先輩は、整備に関してかなり優秀なお人らしい。便乗して整備を依頼しようとした荒くれ巨乳こと芙蓉さんは伽鳥先輩に一睨みされたが、特に怖がる気配もなく受け流した。複数の意味で大モノだわ。

ここで相変わらずハンバーグを食ってる沢城さんがようやく話し出した。

曰く、「演習なのに1年生が1人もいないチームなんて聞いたことがない」と。

ごもっともである。俺も聞いたことない。そんでまた便乗する形で芙蓉さんが同意する。

「そうそう。ボクもそんな感じで、なんかきな臭いなーって思ってた。まあ、何がどうとか聞かれると、勘なんだけど」

 

さらに沢城さんが勘できな臭さを感じ取っているのは、スナイパー故なのか、考えすぎなのか。あと、腕を組んで考え込んだ芙蓉さん、目のやり場に困ります。

同じ事を伽鳥先輩も思ったようだが、ここは気付かないふりだ。

 

「オレとしては、このチームの中核になるであろう椎名六花と、悪名高い武学高校のお前の意見も聞いておきてえんだけどな?」

 

うぇへぇ。ついに俺にも会話のバトンが回ってきてしまった。

周りの視線を受け止め、口を開こうとしたその時。

 

「あれってなんの意味が」

 

俺も噂には聞いたことがある、椎名六花がフワァと手を挙げ、天井でグルグル回ってる例のアレを指差し呟いたお陰で出鼻をくじかれた。え、話聞いてなかったパターン?嘘でしょ?

 

「……は?」

 

呆気に取られる伽鳥先輩。予想外過ぎてついてついてこれなかった人が俺だけじゃなくて良かった。

 

「あ、ええと、すいません。六花さんはスイッチが入ってない時はポンコツ気味で……」

 

すかさず蓮星さんがフォローを入れるが、オンオフの差ありすぎでしょ。

 

「まあ…、いいわ…。んで、お前はどうなんだよ?」

 

気を取り直して改めて俺に意見を求める伽鳥先輩。

 

「自衛隊が絡んでるからミスって事は無いだろうし、何かしら意図があってのことだろうとしか現段階じゃあ分かりませんよねぇ」

 

そう言うと、伽鳥先輩は少し意外そうな顔で、

 

「まあ、確かにオレたちが考えたってしょうがねえ事ではあるんだけどな」

 

と呟いて、話は終わりと思ったが、そんなことはなかった。主に俺に対してだが。

 

「お前、噂に聞いたぞ。K9から足で逃げ切ったって。囲まれても何頭か返り討ちにしたって話も、ホントなのか?」

 

皆の纏う空気が変わるのを間近で感じる。怖いからやめて欲しい…。椎名さんもなんとなくスイッチ入った気がするし。

スウゥゥ…と、言葉を選びながら息を吸い、口を開く。

 

「……あぁ、今日もいい天気だなぁ」

 

「おい、露骨に話題逸らすんじゃねえよ。どうなんだよ」

 

睨みながら伽鳥先輩の追求が入る。皆もはよ話せ的な目をしている。もう逃げ場がない…。

 

「本当ですけど、別に、これと言って特別な事はしてませんよ?」

 

全員から目をそらして言う。

 

「おいおい、お前の“特別”とアタシらの“特別”を一緒にすんなよ。武学高校ってのは色々ぶっ飛んでるんだろ?」

 

芙蓉さんの追撃で、どうやって逃げたかまで話さないといけない事も悟った俺は、潔く話した方が早いと判断して、説明をする。

 

「人の匂いと火薬の匂いを消すために車の下に潜って、ガソリン被ってコソコソしてただけだよ。隙を見て移動してっていうのを何度も繰り返したのさ。まぁ、結局見つかったけど」

 

あんまり思い出したくないけど、話さないといけない満足しないだろうから、簡単にまとめて話す。

 

「囲まれてどのように生き延びたのか、今後のために教えていただきませんか?」

 

蓮星さんも興味があるようだ。ここのメンツはかなり優秀な人材だから、少しでも知識を蓄えたいのか。

 

「冷静になって気配を感じ取れば、どこから仕掛けてくるかは大体分かるし、あとは難しい事は考えずに本能に任せればいいだけ。あと、経験かな」

 

「経験って、まさか過去にも囲まれた事があるの?」

 

驚きの声を上げたのは沢城さんだけど、言いたいことは皆同じのようだ。

 

「何度かね。詳しくは言えないけど、少数で動かないといけない任務の時に」

 

“少数で動かないといけない任務”というワードに事情を察してか、これ以上の追求は無かったが、皆の俺を見る目が少し変わったように感じられた。

基本的にイクシス相手には少数ではなく、周到な準備と充分な戦力を以て交戦する事が勝利の条件とされている。そんな中で、“少数で動く任務”に従事するということは、並以上の能力が求められる。

さらに言えば、現段階で情報に強い蓮星さんが、最近になるまで俺についてあまり知らなかったということは、情報が漏れてはいけない任務に関わり、誤魔化すために普段は簡単な並以下の任務をこなしていたということまで推測されてしまう。

ある意味俺たちにとって、あの旧市街地での1件は、大きな失態でもあったと言える。

 

「どっちにしろ、囲まれるのは2度とゴメンだけどなー」

 

あの時を思い出して軽く震えが出てしまったが、冷房の効きすぎってことで誤魔化しておいた。実際少し寒いし。

話も一段落ついて、そろそろお開きにしようということになり帰り支度を始めた頃、前から集団か来るのを感じ取り、ふと視線を上げると、

 

「「あ」」

 

美少女に囲まれたシュウと目が合った。

 

「…お前のチーム?」

 

一瞬考え答えにたどり着き、聞いてみる。

 

「あぁ、そうだぞ」

 

「あ、ふーん。そっかー」

 

生返事を返して美少女達に視線を向けるが、なんというか、シュウのチームは初々しく感じるな。

 

「谷岳君、お友達?」

 

シュウの後ろからこちらを見てそう聞いているのは、なんと、指定防衛校の男子学生から圧倒的な人気を集める、西部愛先輩その人だった。

 

「あぁ、こいつは…」

 

シュウが言う前に俺が先手を打つ!

 

「初めまして、私立武学高校2年の望月嵩弥です。シュウとは入学以来からの相棒です」

 

キリッとした声と表情で紹介を済ませる。

すると、西部先輩は「あぁ!」と、合点がいった表情になり、

 

「貴方が谷岳君の相棒の望月君ね。噂は聞いてるわ。初めまして、私立八野辺高校3年の西部愛です。よろしくお願いします」

 

「「あ」」

 

ご存知とは光栄です。と返して話を続けたかったのに、伽鳥先輩と紫ショートが発した声でチャンスを逃してしまった。

 

「そういえば、夏前にこいつらがあんたらに助けられたんだっけな。先輩として礼を言ってなかった。わりぃな」

 

このやり取りを見て世間は狭いなぁと思ったが、内回りなら助けて助けられてって言うのは日常茶飯事なのか?

 

「貴方が谷岳周紀さん?」

 

と、蓮星さんがシュウに声をかけたのを見て、話に意識を移した。

 

「そうですが…、例の噂の件ですか?」

 

ちょっとうんざりした感じの声で先を読んだシュウ。こりゃ西部先輩からもいろいろ聞かれたんだな。

 

「話が早くて助かりますわ。今度お時間がある時に貴方からもぜひお話をお伺いしたいです」

 

チラリとシュウがこちらを見て答える。親指でも立てておくか。

 

「望月が言ったであろうことと大体同じだと思いますけどねぇ…」

 

「情報は多いに越したことはありません。ご本人から直接お伺いしたいのです」

 

ため息をついて言うが、なおも食いついてくる蓮星さん。シュウがちょっと押され気味だ。

 

「まぁ、機会があればいいですよ」

 

諦めたのか、早めに折れたシュウは蓮星さんとその場で連絡先を交換した。この手があったか!

 

「西部先輩、シュウの事で何か聞きたいこたがあればぜひ俺に連絡下さい」

 

気を引き締め改めて西部先輩声をかけると、

 

「へ?あぁ、うん。ありがとう。そうさせてもらうわね」

 

と、困惑気味な対応だったが連絡先の交換に成功した。

 

「なあ、こんな通路の真ん中で立ち話してたら迷惑だし、さっさと行こうぜ。こいつらの邪魔してもわりぃしよ」

 

芙蓉さんが若干不機嫌な声と表情で言い放つと、そのまま会計に行ってしまった。なんやあいつ。

その流れで俺らは会計を済ませて外に出たが、どうも芙蓉さんと西部先輩の学校はライバル意識が強く仲がよろしくないそうだ。うちの学校なんて生徒間でいろいろ派閥が出来て校内で分裂してるのに。

次に、あの紫ショートは『イクシスと仲良くやる方法』を目指しているらしい。その為に強くなるとも。

ゾワりとした。仲良くする?今まで殺し合ってきたヤツらと?シュウは知っているのか?

俺もシュウも、最前線でアイツら殺り合って、沢山殺したし、仲間も何人か殺られてる。

 

(ルーキーにありがちな現実味の無い理想としては、少しばかり離れ過ぎてると思うな)

 

口には出さなかったが、これまでの戦場を思い出し少し殺気立ってしまった。もしかしたら雰囲気でバレたかもしれないが、暑さに苛立ったと誤魔化すしかない。

この時から俺は、シュウのチームは3分の2が1年生というのと、俺らのチームに1年生が誰もいないという事に対する疑念が、少し強まった。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

望月達のチームと入れ違いという形でファミレスに入った俺らは、おしゃべりのお供にドリンクバーと、軽くデザートを注文する流れになったのだが、すんなり決まる俺とは対照的に、女性陣は考える事が多いようである。ここは余計な口出しをしてはイケナイところだ。

先輩が店員を呼んでそれぞれ注文するが、最後に俺がサラっと1人前注文すると、朝戸さんに睨まれた。

 

「男の人は特に気にしなくていいですねぇ……」

 

ジトーっと見てくる朝戸さんだが、

 

「別にいいじゃない、先輩が何を食べても。あなたも好きなように食べればいいのに」

 

「うぅー…、そういう問題じゃないんですよぉ……」

 

豊崎さんの援護射撃で朝戸がダウンした。ナイスキル!

それぞれ飲み物を持ってきたところで、おしゃべりがタイムスタートするのだが、どうもこう、女子校のノリというか女の子同士の会話って入りずらいモノがある。

ていう理由で聞き手に回っていると、白根さんは手榴弾のピンを固定できて、使う時は簡単に千切れるテープを探しているという事だった。

 

「谷岳先輩、何かいいテープ知りませんか?」

 

白根さんが聞いてきた。

 

「いやー、俺テープとか使ってないからなぁ」

 

「「「「「え」」」」」

 

5人の声がキレイにハモって視線が向く。

 

「何かコツがあるんですか!?」

 

朝戸さんが皆の疑問を代弁してくる。

 

「俺が使ってる手榴弾は特製だから……、はっ!」

 

やべぇ!これ言っちゃいけないやつだった!ついうっかりしてた!

冷や汗をかきながら反応を見る。

 

「特製手榴弾ってどういう事?普通と違うの?」

 

先輩が聞いたことないと言いたげに質問してくる。

 

「えぇとー、うちの学校って、ドイツのH&Kがスポンサーなんですけど、その関係でいろいろと…」

 

しどろもどろになりつつそれっぽい事を言う。この話が他に広まったらマジでヤバイ。

 

「あぁ、なるほどね。大手メーカーがスポンサーって凄いわね」

 

「そうでしょう!あ、でも、この話、広めないで貰えますか?本当は言っちゃいけない事なんで」

 

声を潜めて皆に言うが、なんか手遅れな気もする。

 

「企業の新製品は戦争みたいなものですもんね」

 

ある意味1番純粋な豊崎さんが同意して、その場は収まった。危なかったー…。

 

「まぁ、マスキングテープか普通のビニールテープがいいんじゃないか?」

 

話題を元に戻して、例のアレ(下瀬火薬手榴弾)から遠ざける。アレは知らない方が彼女らのためだ。

次の行き先はホームセンターか文具屋だが、朝戸さんはその近くにあるデザート屋で悩んでいるようだ。相当甘い物好きなんだな。俺もだけど。

 

「ちょっと先輩らしい所見せちゃおうかしら。クレープは私がみんなにご馳走するわ」

 

(んん!先輩マジすか!)

 

真っ先に喜びの声を上げた朝戸さんが豊崎さんに怒られるが、任務で稼いでいるからと言ってのける。

先輩がここまで言ってるのにここで大人しくしてたら男が廃る。言ってやるぜ!

 

「そんなこと言ったら外回りだった俺の方が稼いでますよ?」

 

「あら、じゃあ谷岳君の奢りかしら?」

 

先輩の挑戦するような視線を真正面で受け止めて、大きく頷く。

 

「何だったら今日1日は俺の奢りとしましょうか?」

 

言ってやったぜ。1度は言ってみたいセリフ!

 

「先輩流石にそれは…」

 

朝戸さんを叱りつけた豊崎さんが困り顔で言ってくるが、そんな事は関係ない。

 

「俺はあまりあれこれ装備を買わないから、報酬が貯まる一方でね、こういう機会にパーっと使うくらい、なんて事無いさ」

 

ここまで言ってやると誰も文句は言わず、豊崎さんを除く1年生達は一様にキラキラした目で俺を見てた。いやー、いい気分だ。

女神みたいな微笑みを浮かべた先輩が、この後の行動を決めた途端、朝戸さんが手を挙げながら立ち上がり、ホームセンター近くのパンケーキ屋を押してくるが、またしても豊崎さんに怒鳴られる。

その光景が、なんというか、微笑ましくて自然と笑いがこみ上げてきた。

思えば、こんなふうに戦闘に関係ない事で盛り上がったのは本当に久し振りに思える。同じ笑いでも話題と人が違えばこんなにも気分が晴れやかなものになるとは、今まで気づかなかった。

こんな日が続けばいいなと思う反面、それは無理だと囁く直感が、俺の心を揺さぶっていた。




お待たせしましたぁ!早坂でーす!

原作ストーリーの中にオリジナルを組み込むのって結構大変(´-﹏-`;)
ここに組み込んだらこの会話を変えなきゃとか、ここで会話させて後々伏線回収しなきゃとか、原作とにらめっこしながら書き上げました。
不定期と言いながらペースを維持しておかないと、放置状態になりかねないし、他に娯楽もないのでこんな感じで書いていきます。

土曜日にタクシーでほぼ1時間かけて最寄りのガンショップに行ったのに、丁度前日から社員旅行で1週間休業になってて藤原竜也化しかけました。公式サイトしっかり見てなかったぁ…。゚(゚´Д`゚)゚。
東京みたいに、◯◯駅から徒歩△分じゃなくて、◯◯自動車道から車で△分って感じの立地なので、本当に不便で困ります…。東京ガ恋シ…。そもそも電車が走ってなくてモノレールが最低限の観光地まで続いてるくらいなので、せめてモノレール沿いに店を構えて欲しかったですね。(自己中)

次回は戦闘回になります。お楽しみに!

ではまたーノシ


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Mission:5

つうしんせいげん が きてしまった !



遊んだりちょっとした任務に呼ばれたりしながら夏休みを過ごしている俺の元に、先輩からの電話が来たのは、望月との電話が終わって直ぐの事だった。

 

「…先輩?どうしました?」

 

望月との電話が少々重い内容だったため、先輩に対しての対応まで重くなってしまいそうだ。

 

『谷岳君、こんにちは。今大丈夫?』

 

気付いていないようで、普通に接してくれている。先輩の明るい声を聞くと、モヤモヤが吹き飛んで行くように感じられる。

 

「ええ、この前みたいに任務中って訳でもないですよ」

 

そのお陰で、少し冗談を言う元気も出てきた。

 

『ふふふっ、それは良かったわ。…本題に入るわね。演習の前にあの子達と任務をこなしたいと思うのだけど、どうかしら?』

 

晴れ間が見えてきた心に、また雲が出始める。

 

「……いいと思いますよ。賛成です」

 

断る理由は無い。現実を知るにはいい機会だろう。

気付かれないように、務めていつもの声音で話す。

 

『きっと賛成してくれると思ってたわ。何かいい任務に宛はあるかしら?』

 

「あー、すいません。うちの学校って、本人のレベルに合わせた任務が自動で割り振られるんですけど、今こっちが受注できる任務は無いですね…」

 

本来は自由に任務を受注出来るのだが、うちの学校の場合、上級生が楽な任務ばかり消化して、下級生に任務が回らなくなることを防ぐため、学校側から任務を指名されるのだ。この任務は人員まで指定され無視することは許されず、確実にこなさなければ単位も報酬も出ないため、皆真面目に取り組んでいる。

 

『んー、分かったわ。そういうことなら私が受注しておくわね。それにしても、変わった制度だけど、よくよく考えてみれば、全体的な練度を確実に上げるいい制度ね』

 

「これはこれでめんどくさいんですよ…」

 

知らない人が聞けば斬新でいいかもしれないが、こっちの預かり知らぬ所で勝手に事が進んでしまうので、突然知らされると本当に大慌てで出撃しなければいけない事もある。その分報酬も高いし、授業を休んでも出席扱いになるから、喜んで飛んでく奴も大勢いるけど。

少し話したあと、『決まり次第また連絡するわ』と言い先輩は電話を切った。

1年生達が参加するということは、そこまでキツい任務ではないだろうが、この前みたいに油断はしない。

以前聞いておいた各人の装備を思い出して、俺も装備を考えた結果、メインにHK417、サブとしてVP9を選択した。使わない事を願うが、下瀬火薬手榴弾も持って行く。

準備を整え終わって早めの昼飯を食べ終わった頃、遂に先輩からの呼び出しがかかった。

ワンコール終わる前に電話に出た事に驚いていたが、“スイッチ”が入っている事を感じ取ったのか、詳しい集合時間と場所を告げたあと、『頼りにしてるわ』と言い残し、通話を終わらせた。

そこにはいつものように気楽な無駄話はなく、簡潔に連絡事項を告げただけだったが、今回はこれでいい。

伝えられた場所に20分ほど早く着いたが、そこには先輩の他に豊崎さんと照安さん、さらに女性幹部自衛官もいた。なんで?

 

「谷岳君!」

 

先輩が八野辺高校所有のハンヴィーの運転席から手を振って名前を呼んだ。

黙礼をしながらハンヴィーに歩き寄ると、

 

「お疲れ様です。谷岳先輩」

 

「お、お疲れ様ですっ!」

 

89式を脇に置いて助手席に座っていた豊崎さんがわざわざ降りて頭を下げるのに続いて、ハンヴィーの脇で対物ライフルを抱えた照安さんも頭を下げてきた。

そこまでしなくていいと思ったが、先輩よりもさらに上の人の目があるため口には出さない。

 

「貴方が噂の谷岳周紀君ね。私は豊崎和花。幹部陸上自衛官だけど、古流高校で教官をやっているわ。よろしくね」

 

そう言って握手を求められたため応じる。ん?豊崎?

 

「こちらこそよろしくお願いします。…もしや姉妹ですか?」

 

助手席の豊崎さんに視線を送ってから聞いてみると、どうやら当たりのようだ。そういえば、初顔合わせの時姉がいると言っていたな。

 

「ええ、そうよ。聞いてなかった?」

 

「いえ、初顔合わせの時に姉がいるという話は伺っていましたが、ここでお会いすることになるとは思っていなかったので…」

 

「そうだったの。まぁいいわ。私は貴方の話を聞きたいの」

 

右手に持っていた64式小銃を吊れ銃(つれつつ)の状態に保持し、ズイっと距離を詰めて耳元で囁いて来る。反射的に後ずさって距離を取ってしまったが、これくらいでは諦めないようだ。

 

「あの件の話ですか…。正直何度も同じ事を聞かれてうんざりしてるんですけど…」

 

望月との電話の件を引きずって少々機嫌が悪かった俺は、不機嫌な態度を隠さない。

 

「皆話題に飢えてるのよ。私達(自衛隊)も一様に」

 

「報告書に書いてある通りです。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

毅然として答えたら、いくらかこっちの感情を察してくれたのか、踏み込んだ事は聞いてこなかった。大方、この後調べるつもりでいるのだろうが。

普通じゃない空気で話したせいか、隣で涙目でオロオロする照安さんに軽く声をかけたあと、ハンヴィーの中へ移動し装備の確認を始める。異常を起こさないためには何度でもチェックする事が1番の予防となる。

程なくして朝戸さんが来るのが見えてきた。

今日望月との電話で名前が上がっていた人物だ。

 

「お待たせしました」

 

とハンヴィーの中にいる俺らに挨拶をする朝戸さんに短く返事を返す俺と、『早く乗れ』と無言で訴える豊崎さんの目は、タイプの違う鋭さがあるように見えるだろう。

白根さんも到着したタイミングでブリーフィングが始まり、既に交戦経験がある朝戸さんと白根さんはリベンジ意識を持ち、今回が初陣の豊崎さんと照安さんは緊張を隠せていない。

今回の任務はT字路に発生したネストシードがネストになる前に布陣を完了し、出現したイクシスを制圧する事で、幸い工兵部隊が道路の封鎖を済ませているらしく、イクシスの迎撃は容易のようである。

 

「……谷岳君?難しい顔をしてるけど、何かあった?」

 

全体にいうことを言い終えた先輩が、いつもと違う俺の表情を見て聞いてくる。

 

「…いえ、こいつらがつまらない事で怪我をしないか心配なだけです」

 

本心は隠して傍らで思っていた事を答える。ただし、声と表情は変えないままで。

 

「心配しなくても、私達でサポートしてあげましょう?そのための私達先輩2人なのだから。ね?」

 

「…当然です。俺がそばにいる限り、こいつらには牙も爪も届かせやしません」

 

微笑む先輩を見て、少しばかり気を張りすぎていたかと思う。だが、戦闘が終わった後、俺は朝戸さんを呼び出して話をしなければならないと考えると、上手く笑ったり誤魔化す事が出来なかった。

 

「最前線帰りの人からその言葉を聞くと、本当に頼もしい限りだわ。よろしく頼むわね」

 

照れ笑いを浮かべて運転席に座る先輩を見て、俺らも席に着く。

最初に言われた通りに銃座につこうとする白根さんを俺は呼び止める。

 

「白根さん、助手席に座りな」

 

「え…、…ですが、それでは先輩が…」

 

驚きと困惑が混ざった顔で言ってくる白根さんに、

 

「立ちっぱなしじゃ緊張は和らがないだろ?現地に着くまでは座っとけ」

 

「…あ、ありがとうございます…」

 

申し訳ない気持ちを抑えた声で礼を言われ、気にするなと手をヒラヒラさせる。

 

「谷岳先輩、今日はよろしくお願いします!」

そう言った朝戸さんに反応し後ろを見ると、不安な顔をした2人と目が合った。

『任せておけ』という呟きは、ハンヴィーのエンジン音にかき消されて、音にならない口の動きだけになり、彼女らの耳には届かなかった。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

現地に着くと既に点滅が始まっており、出現まで時間が無いことを知らせていた。

車を降りてすぐ走って指定された位置まで向かうが、1年生達が少々遅れている。

 

「おい!何やってんだ!走れ!」

 

もうここは戦場だ。いつもの緩い空気は必要ない。

あえて無線を使わずに怒鳴ると、4人が走って向かってきた。

 

「すいません!」

 

豊崎さんが真っ先に謝って位置につく。皆初っ端から怒鳴られて少し気落ちしているようだ。

 

《谷岳君、程々にね》

 

個別チャンネルで先輩に注意された。

 

「厳しめの方がいいんですよ。初めから緩い空気だと、戦闘というモノを勘違いしかねません」

 

《確かに…そうだけど…》

 

少々意見が食い違うことはよくある事だから、後々調整して行けばいい。それより今は目の前のネストシードだ。

各人が配置に付いたことを確認して最後に一声かける。

 

「引き金を引くのはお前らのタイミングでいい。焦って震える指で無理に引き金を引くな。カバーは俺と先輩でいくらでもやってやるから安心しろ。いいな?」

 

声の大きさなどに違いがあるが、全員からの了解が聞こえた事に俺は笑を浮かべた。

近づいてくる戦闘の気配に合わせて、癖になる独特の緊張感に包まれながら照準はネストシードから外さない。

 

《その通り。仲間がいるのよ、1人じゃないんだから》

 

先輩の聞き手に安心感を与える声のお陰で、1年生達の気も少しは紛れただろうか。

白根さんが豊崎さんと照安さんに声をかけて、軽く会話をしている。会話ができるだけそこら辺のルーキーよりマシだろう。

 

(来る!)

 

そう思った瞬間、ネストシードはネストとなり、大量のK9が走り出してくる。

しかし、先輩が横からM240Bで7.62mm弾をバラまいてくれているお陰で、9割方は出てきた瞬間体をズタズタに引き裂かれて肉の山を築いていった。

1年生達も恐怖心に抗いながら、引き金を引き、仕留めている。今のところは、まずまずと言ったところだろうか。

撃ち漏らして危ない距離まで接近してきたK9や、倒れてもなお息のあるヤツらに、俺は止めを刺してゆく。

第1派と第2派を凌いだところで、先輩と1年生達がリロードに入る。

その間俺がカバーのためネストを見張るが、何か嫌な予感を感じ、意識せずに無線に話していた。

 

「違う奴が来る!リロード急げ!」

 

《え!?どうしたの?…谷岳君!?》

 

ジャラジャラとベルトリンクの音と一緒に先輩が聞き返してくるが、敵は待ってはくれなかった。

 

「……熊」

 

と白根さんが呟いたのを聞いた直後に、俺は引き金を引いた。

先輩と同じ7.62mm弾が、ヴォイテクの左目を撃ち抜き、仰け反るのを確認したが、まだ倒れない。皆もひたすら撃ち込み続けるが、毛皮が厚いヴォイテクには5.56mm弾を乱射したところで大したダメージは食らっていない。

だが、姿勢が戻ったヴォイテクの肩のグレネードランチャーが動くのが見えたタイミングで、俺は仲間の1人に声をかける。

 

「照安さん、準備は出来たか?」

 

返事の代わりに返ってきたのは、12.7mmの弾丸だった。

弾丸はヴォイテクの左胸付近に命中し、骨を砕き心臓と肺などを引き裂きながら貫通し、撃たれた側は、大量の血飛沫を花のように空中に咲かせながら背後の建物に叩きつけられ、そのまま地面に倒れ伏した。

 

「や、や、やっちゃいました……」

 

『照安さん、お手柄よ。ネストも閉じたし、今回は無事任務完了ね』

 

先輩からの通信が入り、1年生達が一息つく。

銃を持ってハンヴィーまで戻ると、ボンネットからM82A1を下ろした、疲れ顔の照安さんの元へ向かう。

 

「装填していた弾丸を徹甲弾に切り替えて撃ったか」

 

ボンネットに転がっている弾丸を手に取り、同じようにボンネットに置いたままになってるマガジンに装填して渡す。

 

「初陣にしちゃぁ上出来だ。次回も頼むぞ」

 

おっかなびっくり受け取った照安さんの頭を撫でたところで、先輩が合流する。

さて、俺はここからやる事がある。

 

「先輩、先に反省会始めててください。朝戸さん、話がある。着いてこい」

 

「わ、私ですかぁ?」

 

1年生から死骸の山を隠すように立っている先輩に声をかけて、朝戸さんを呼び出す。

 

「え?えぇ、分かったわ。皆、集まりましょう」

 

呼ばれるとは思っていなかった朝戸さんは素っ頓狂な声を出すが、そんな事はどうでもいい。

少しばかり離れた道の角を曲がり、完全に死角に入ったところで話を切り出す。

 

「時間がないから単刀直入に聞く。お前、イクシスと仲良くする方法を探るんだって?その為に強くなると?」

 

なぜ呼ばれたのかわからない顔をしていた朝戸さんだが、どストレートに聞いたおかげで、今まで見た事がない暗い顔をした。

 

「はい、私は小さき頃に人懐っこいK9の子供に会った事があるんです。今回で戦闘は2回目ですが、私の気待ちは変わりません!」

 

何か言われることを覚悟していたのか、取り乱すことなくハッキリと言ってのける。

 

「お前のその考えは、いずれお前自身だけでなく、仲間を危険に晒す可能性が高い。自分か仲間、どちらかを切り捨てる決断を下さなければならない場面に遭遇する事も充分考えられる。その時お前は、正しい判断を下せるのか?」

 

一瞬の静寂。

風が吹き、微かに血の匂いが漂ってくる。

 

「私はまだ、武器の扱いも、戦い方も、教わり始めたばかりです」

 

1度顔を伏せた朝戸さんが、真っ直ぐ、俺の目を見て口を開いた。

 

「谷岳先輩が言っていることは、正しいです。私はまだ半人前で、言っていることは、タダの綺麗事に過ぎません」

 

俺は無言で続きを促す。

 

「それでも、私は実力をつけて、手を尽くすまでは、絶対に諦めません!」

 

最後まで目を逸らさず、むしろ睨んで来て、主張は変えないと来たか…。

 

「お前が武学高校の後輩なら、馬鹿な事言ってねぇで現実見ろって、指導してやるんだがな…」

 

ため息を一つつき、続ける。

 

「強くなるって、宛はあるのかよ?」

 

ここまで言うからには、何かしらコネでもあるのか?

 

「え、あ、いえ…。無いですねぇ…」

 

えへへ…と、誤魔化すような笑いを浮かべられたせいで、毒気を抜かれた俺は、口調はそのままで声音だけを少し柔らかいものに戻した。

 

「見切り発車かよ…。……もし、訓練相手がいなかったり、どうしようもなくなったら、俺に言え…」

 

「え…?それって…」

 

正直呆れたが、強くなろうとしている後輩を見捨てるのは、先輩のやる事じゃない。

 

「勘違いするなよ?俺はお前の考えに賛同した訳じゃない」

 

明るくなりかけた表情に、また影か差す。

 

「だが、強くなるために努力しようとしてる後輩に、手を差し伸べないってのは、大きな間違いだ」

 

驚いた顔をして、俺を見上げる朝戸さん。表情がころころ変わる忙しいやつだな。

 

「困ったことがあったり、助けが欲しけりゃ、俺に連絡すればいい。少なくとも、1年間は助けてやれる」

 

最後に威圧感を消して言ってやると、

 

「…ありがとうございますっ!ご指導よろしくお願いします!」

 

勢いよく頭を下げて、再びでかい声で言った。

 

「話はこれだけだ。皆が待ってるから、さっさと戻るぞ」

 

言いたい事は大体言ったし、本人の意思も分かった。

朝戸さんの目標には、思ったよりしっかりした根拠があるようで、安心した自分がいる。もしこれが本当の理想論だったら、徹底論破で砕いていただろう。

 

「あの、谷岳先輩!」

 

歩き始めた俺を追いかけて、朝戸さんが右隣に並びながら、呼び止めた。

 

「どうした?」

 

その場に止まり、右を向いて朝戸さんに正対する。

 

「周紀先輩って、呼んでもいいですか!その代わり私の事も、未世で構いませんから!」

 

そんな意を決した告白のように言われてもな。

 

「はぁ?…別に好きに呼べばいいだろう?わざわざそんな事のために呼び止めたのか?」

 

「そ、そんな事って…、私男の人を名前で呼ぶの初めてだから、結構勇気出したんですよ!?」

 

「知らん、好きにしろ」

 

また進み始めた俺の右隣で文句を垂れる未世をあしらいながらハンヴィーまで戻る。

先輩になんの話だったのか聞かれ、未世の覚悟を知りたかったと答えると納得したが、名前呼びに変わったところを指摘されて、未世が話を混ぜっ返したお陰で、釈明がめんどくさくなった。戦闘より釈明の方が無駄に疲れた腹いせに、元凶である未世にデコピンをして話を強制終了させた。

俺と未世が話している間に、プールに行く事が決まったようで、正直休みたかったが、先輩の誘いを無碍にする選択肢は存在せず、2つ返事で承諾した。

未世だけでなく、他の1年生達にとっても、初めての戦闘で各々ショックを受けただろうが得るものがあったはずである。

今回の経験を次の戦闘や訓練でどう生かすかは、本人達のやる気と、俺達の指導力次第であるが、一先ず、心身共に大きな怪我も無く無事に終わる事が出来たことに、俺は銃座から顔を出し、風に当たりながら1人密かに喜んだ。




ウィッス、チース、早坂でーす。

休日に電子書籍やGoogle Playで時間を潰していたら、通信制限が来てしまいました。結構いろんな本やら映画を買ったから容量追加すると今月の請求が笑えない額になっちゃう…。ヤバイヤバイ…。
ちなみに観た映画はバトルシップとバイオハザードヴァンデッタです。
バトルシップは、地上波を見る事が出来なかったので、悲しみの果てに買って観ました。旧世代の戦艦で宇宙人に挑むって、インデペンデンス・デイ並に燃えますね。バイオハザードヴァンデッタの方は、これはバイオシリーズに言えることですが、アクションシーンがクソかっこよすぎて堪らなかったです。主人公達に同じ動きをさせたい……。
最後に電子書籍。あれは毒です。普段は表立って買わないような本にもついつい手を出してしまうので、ホントに毒です。バイオハザードヘヴンリーアイランド面白かったです(^q^)
バイオとか観た後に無性に銃を弄りたくなる症状に名前をつけたい…(末期)

次回はプール回です。派手なことは演習開始まで待ってくだされm(_ _)m

ではまたーノシ


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Mission:6

銃が欲しい


翌日、集合場所であるバス停に向かうと既に俺以外は全員揃っていた。

思っていたより暗い雰囲気はないことに安堵して、小走りで皆の元へ。

 

「さーせん、遅れましたー」

 

「全然大丈夫。気にしないで」

 

暑い中待たせてしまったというのに、先輩は花が咲いたような笑顔でそう言ってくれる。それだけでも来た甲斐が有るってもんだ。

 

「女の子を待たせるなんて、周紀先輩、彼女できませんよぉー」

 

「OK未世。そんなに俺に訓練されたいなら今ここでつけてやる」

 

ニヤニヤしながら茶化してきた未世のデコに渾身のデコピンを食らわすと、短い悲鳴を上げて俯いて静かになった。

 

「…先輩と未世、昨日から随分仲良くなりましたね…?」

 

相棒である白根さんが、少し眉間に皺を寄せて呟く。その背後には『痛いですぅー…』と言いながら額を摩る未世がこっちを睨んでる。

 

「未世だけじゃなくて、お前達も希望するなら訓練なり何なり付き合ってやるから連絡しな」

 

昨日は未世だけに言った事を改めて1年生に伝える。先輩は1年生達の後ろで俺らのやりとりを静かに見守っている。

 

「訓練だけじゃなくても、救援が欲しい時とか、助けが欲しい時はいつでも呼べ。力になってやる」

 

「それは私にも言ってるのかしら?周紀君?」

 

なんか先輩からも名前呼びされたんだけど。何で?

 

「私たちにはまだ経験も実力も足りません。昨日は援護ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

 

豊崎さんが暑苦しいほど礼儀正しく言葉を繋いで頭を下げたのに続いて、1年生達が全員頭を下げた。

 

「ちょ、お前達、そんな畏まらなくていいから」

 

最後に先輩がテンパリ気味に頭を上げさせる俺に、声をかける。

 

「彼女達だけじゃなくて、私も感謝してるのよ?昨日の任務は周紀君がヴォイテクを引き付けてくれたから照安さんが撃つことができたの。たとえ周紀君が稼いだ時間が一瞬だったとしても、その一瞬が私達の命運を分けたと言っても過言じゃないわ」

 

手放しで褒められて、だんだん気恥ずかしさがこみ上げてきた。最近は問題ばかり起こしていたから、嬉しい反面、むず痒くもある。

 

「俺はいつも通りやってるだけです。武学高校の連中と任務に行った時も、大体こんな感じですよ」

 

先輩達の目を見てられなくなって、堪らず視線を逸らす。

横目で見ると、先輩はともかく、1年生達には最初に感じられた俺に対する緊張感が無くなり、代わりに信頼感を感じられた。そんな純粋な目で俺を見ないでくれ…。浄化されそう…。

 

「あれあれ?周紀先輩照れてるんですかぁー?少しは可愛いところあるんですねぇー」

 

懲りずにまたもや茶化して来る未世。この野郎…。

 

「おい未世。てめぇプールに沈めてやるから覚悟しろよ?」

 

「きゃーこわーい!先輩!周紀先輩が虐めてきます!」

 

「だめよー周紀君。女の子虐めちゃ」

 

未世はわざとらしい悲鳴をあげて、今度は先輩の背後に隠れた。

先輩も便乗して笑いながら俺を叱ってくる。

他3人も便乗しだしてしまい、正直こうなった女性陣は止められない。

騒がしくなった女性陣から逃れたかった俺は、タイミングよく到着したバスに逃げ込む選択肢を選んだ。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

それぞれで入場料金を払って施設に入った後、別れて更衣室に入り、脱いで着るだけの俺はさっさと着替えを済ませて、更衣室前の丸テーブルを囲むようにして置いてあるベンチに座る。

至って普通のトロピカルカーキの水着に、化繊のスポーツシャツをあわせているが、普段外でこんな薄着をしないため、かなり落ち着かない。同行者5人も容姿が良い事も考えると尚更。望月達が戦闘とは違う緊張で少しソワソワしてる今の俺を見たら何と言うか。揃って爆笑するに違いない。そしてその後殴ってきそうだ。『リア充爆発しろ!』って言いながら。

 

(あいつらも、俺みたいに演習メンバーで遊びに行ってんのかな)

 

なんて事を考えながら、頬杖付いてプールを眺めていると、

 

「わあ……、な、なんだか遊園地みたいですね……」

 

聞き覚えのある声を聞いて更衣室を見ると、着替え終わった女性陣が揃って出てきていた。

 

「おーい、こっち」

 

椅子から立ち上がり手を振りながら全員を呼ぶ。

真っ先に気付いた先輩が先頭を歩き、話しながらゾロゾロと歩いてくる。

途中、数人の男が先輩達を見て顔を輝かせ、進行方向にいる俺を見て恨めしい視線を送ってくるが、全て無視だ。

 

「お待たせ周紀君、待たせちゃったかしら?」

 

「いえ、全然。揃いも揃ってよくお似合いで」

 

照安さんが真っ先に顔を真っ赤にして、他の3人も気まずそうに顔を逸らす。先輩は何と言うか、余裕そうである。皆個性的で魅力的な水着を着ているが、白根さんは…、きっと調達が間に合わなかったんだろう。そういうことにしておこう。

 

「ありがとう。周紀君も似合ってるわよ。さあ、とにかく、みんな着替え終わったんだし、早く準備運動して泳ぎましょ」

 

微笑みながら言う先輩にこちらも礼を言う。

セクハラ発言をした未世が水着の価値観で白根さんに撃沈されたりしているのを見かねて先輩が急かす。

ウォータースライダーを指さした先輩の、『アレに乗りましょうか』という提案に俺は真っ先に乗っかる。

 

「お2人共、ああいうの好きなんですか?」

 

「ええ、もちろん好きよ。絶叫系のアトラクションも大好き」

 

「気が合いますね。俺も大好物です」

 

未世の問いかけに、俺と先輩は顔を見合わせて答える。

他の1年生達も先輩対して意外がるが、俺にはというと、

 

「谷岳先輩は…、何となく分かります」

 

「確かに、好きそうですよねぇ」

 

「おいそれはどういう意味だ?先輩が大人っぽいって事は、俺は子供っぽいってか?」

 

白根さんと未世のコメントに食いつき睨むと、未世が慌てて弁明する。

 

「そ、そういう意味じゃなくてですねぇ…、えーと、その」

 

「しどろもどろになってる時点でもう答えは出てるじゃねぇーか!」

 

デコピンの刑に処すべく未世を捕まえると、

 

「そういうところじゃないでしょうか…」

 

という豊崎さんの呟きで我に帰った。

ハッとして豊崎さんを見て未世を解放すると、そそくさと先輩の所に逃げて背後に隠れる。

なんというか、このトムとジェリーみたいなやりとりが、今後も続くような気がする…。

 

「とにかく、俺と先輩はアレに行く事は確定だけど、お前達は来ないの?」

 

俺は〇〇するけどお前はしないの?的な煽りをかまして、未世と照安さんはその場でノッてきたが、豊崎さんは無言の圧力をかけてようやく動き出した。白根さんは最初から付いてくる気だったようで、豊崎さんが動いたのを見てクスりと笑いあとを追ってきた。

 

「なんだかんだで豊崎さんが1番楽しそうだったな」

 

滑り終わって最初に思った事をそのまま口にする。

 

「先輩、うるさいです」

 

余計なこと言うなとでも言いたげな顔でそう言う豊崎さんも子供っぽいと思います。口には出さないけど。

 

「あれ…、凛さんはどこに行ったんでしょう……?」

 

照安さんがキョロキョロしながら言う。確かに姿が見えんな。

疑問に思ったのもつかの間、すぐに姿を表した。

 

「きゃっ!?」

 

反射的に避けたが、白根さんが持っている水鉄砲から出た水は、未世の眉間に見事命中し、その顔面を濡らす。

奇襲に成功した白根さんは大いに満足そうである。

どうやら水鉄砲は無料で貸し出されているらしく、他にも手榴弾として使うのか、水風船まで持っていた。

豊崎さんが白根さんから水風船を受け取り、投げた先には先輩がいて、顔面にクリーンヒットして弾けた水風船は先輩の顔を未世の比じゃないレベルで濡らす。

応戦のため貸出受付に走り出した先輩と未世を見送り、俺も遅れてオロオロしてる照安さんを連れて受付へ向かう。

プールサイドを舞台に2人づつのペアで始まった水銃撃戦は、一般客からしたらそこそこ面白い見世物になったようで好評だった。ただし男共の俺への目線は険しいものだった。悔しかったらお前らも銃を取れ。

程々に疲れたタイミングで着替えてまた集まる。

未世と白根さんと照安さんが売店を見に行って、程なくして照安さんが豊崎さんを連れて行った。

その際、照安さんが『しばらく先輩の注意を反らせてくださいっ!』と小声で言われ、何となく察して目線で了解を伝える。

照安さんに手を引かれ駆け足で売店へ向かう豊崎さんを見送って、言われた通り先輩の注意を引くために話しかける。

 

「先輩、今日はありがとうございました。そしてすいません」

 

「急にどうしたの?」

 

突然お礼と謝罪を言われてキョトンとする先輩に微笑みかけ続ける。

 

「普段俺の周りにいる奴らは“出来る”奴らなので、正直メンタルケアについて気にしたことが無かったんです。俺も考えてやらないといけなかったのに、ほとんど先輩に丸投げしてしまったので」

 

そこまで説明すると先輩も何が言いたいか分かったようで、

 

「今までずっと外回りで、内回りの勝手を知らなかったのだから仕方ないわよ」

 

と微笑みながら言ってくれる。

 

「それでも、あいつらが1年生だって事を少し考えれば、簡単に思い至る事ですから、その辺の配慮が足りなかったです」

 

荒療治で無理やり慣れされる外回りと、労りながら慣れていく内回り。

イクシスの脅威から守るべきものを守るという、共通の目的があるものの、その道のりは違うものなのだ。

 

「先輩がいて下さって、本当に助かりました。もし、このチームの上級生が俺一人だったら、こんないい空気にはならなかったでしょうね」

 

少々自虐的な言い方になってしまい、外回りで起こった事を思い出す。

PTSDになる者や、そのせいで学校を去った者。

“生き物を殺す”という事を躊躇い逆に殺された者や、そのせいで仲間を死なせてしまった者。

それらを振り払うため目を瞑り頭を振って、先輩に向き直る。

 

「実戦経験を積むことばかりに気を取られて、他の事が疎かになっていた事に気づきました。正直な話、名簿を見た時、面倒臭い事になったと溜息をつきましたが、今はもう、そんな事は思っていません」

 

俺は真剣な顔で、対する先輩は見た人を安心させるような、優しい笑を浮かべて。

 

「これから演習も始まりますが、改めてよろしくお願いします」

 

無帽の敬礼(10°の敬礼)をして頭を上げる直前。

 

「あなたの噂は、名簿が配られる前から聞いていたけど…」

 

変わらない笑顔のまま、先輩は俺の目を見て続ける。

 

「初めは怖い人かと思ったわ。噂だけ聞いてれば、当然ね。でも実際に会って話して、任務に行って、こうやって一緒に遊んで、あなたは少し不器用だけど、仲間や後輩想いの優しい子だってよく分かったわ。今みたいに自らの至らない点を認める事も、純粋な証だもの」

 

ここまで言って、先輩は手を差し出す。

 

「朝も言ったけど、このチームにあなたがいてくれたお陰で本当に助かったわ。こちらこそ、改めてよろしくお願いします」

 

「ありがとうございます。先輩と俺で、あいつらを“強く”してやりましょう」

 

差し出された手を握り返し、俺も笑を返す。すると、

 

「愛って呼んで」

 

「え?」

 

「前から思ってたのだけど、朝戸さんだけ名前呼びなんて、何となく壁を感じるわ」

 

「そう…ですか?」

 

「そうなの。だから、私の事も名前で呼んで?」

 

俺はあまり、人を名前で呼ぶことは無い。

別にこだわりがある訳じゃないのだが、何と言うか、違和感があるのだ。

だが、先輩がここまで言うのなら、断る事はできない。

 

「……分かりました。愛さん」

 

「うん!よろしく、周紀君!」

 

先程よりいい笑顔になった先輩に釣られて、俺も笑う。

 

「先輩方!お待たせしました!」

 

2人だけの空間のように話して笑いあっていた所で、未世が介入してくる。

 

「谷岳先輩、時間稼ぎお疲れ様ですっ!」

 

「時間稼ぎ……?」

 

先輩が崩れた敬礼をした照安さんが言ったことに疑問を浮かべて、首を傾げる。

 

「……これを先輩達に」

 

白根さんが俺と先輩に一つづつ紙袋を差し出す。

どうやら、未世の発案で奢ってもらったり助けてもらったお礼にプレゼントをしようということになったらしい。

驚きの声と表情を浮かべる傍らで、俺は予想外すぎて真顔になる。

 

「これまで奢って頂いたり、助けていただいたことに比べれば、全然安いもので申し訳ないですが……」

 

白根さんが謝るが、先輩が礼を言い開けていいかと聞く。

俺も同じように聞いて、全員の返事を確認してから開ける。

先輩にはアニメのステッカーが4種類。

俺にはデフォルメされたシャチ、サメ、クジラ、イルカのキーホルダーだった。

正直、涙こそ流さなかったが、ちょっと涙腺にクルものがあった。

先輩のチョイスは例のガンケだと思うが、俺のチョイスはどんな基準で?

 

「周紀先輩は、シャチみたいに賢くて、サメみたいに強くて、クジラみたいに力強くて、イルカみたいに可愛いところがあるって意味を込めました!」

 

未世の解説で理解したが、最後はどうにかならなかったのか。でもまあぁ…、

 

「そうか、ありがとな」

 

嬉しさ6割、照れ4割の声と表情で全員に礼を言う。

 

「ありがとう、みんな……。なんだか感動しちゃった」

 

微笑みを浮かべて喜ぶ先輩。

 

「や、やだなあ、先輩、そんな大袈裟な……。いくらもしませんし……」

 

未世言葉に3人が同調するが、俺が返す。

 

「値段の問題じゃない。気持ちの問題だ」

 

「その通りよ。あなた達の気持ちが嬉しいの」

 

昨日の任務は最高の成果だったという先輩の言葉に続いて、それぞれが反省点を冷静に見極めている事が分かった。だからといって自身を失わずに、しっかり前を向けている事を知って、こいつらが演習の後輩で良かったと心から思えた瞬間だった。

 

「それと周紀先輩、この際よそよそしいのは無しにしましょう?」

 

「どういうこっちゃ?」

 

先輩だけでなくこいつらからも似たようことを言われて少し考える。そんなに距離を感じるような態度だっただろうか?

 

「…私たちのことも名前で呼んで下さいってことです」

 

「この際、私ももう気にしないことにしました。名前で呼んでくださって結構です」

 

「わ、私もっ、鞠亜で構いません!」

 

信頼、諦め、羞恥。

三者三葉の態度だが、今日集合した時に感じた視線は、間違いじゃなかった事が証明された

 

「そうか。じゃぁ、遠慮なく呼ばせてもらうからな」

 

「さあ、もう今日は帰りましょうか。豊崎さんも、もう眠いんじゃないかしら」

 

見守るような暖かい目で成り行きを見ていた先輩の一声と豊崎さんの眠気を鑑みて帰宅が決まる。

帰りのバスの中は静かなものだったが、安心感がある静寂で、とても心地のいいものだった。




はーい、早坂でーす。

朝早起きしないと行けないのに、遅い時間まで執筆して翌朝眠気と格闘って事をたまにしています。マネしないでね☆

土曜日にアウルの森という動物カフェに行ってきました。
カピバラが歩き回ってオウムとフクロウが飛び回る楽しい所でしたが、カフェとは名ばかりに自販機とアイスがあるだけで期待外れでした。
でもフクロウとハリネズミとフクロモモンガが可愛かったので満足です。

来週辺りは3度目の正直で遂に銃を買いたいです。
車もバイクも許可されてないので、往復6000オーバーのタクシーで買いに行かないといけません。
沖縄のタクシーの運転手はナビを基本使わないので住所を言っても「分からない」と言われます。東京と同じ感覚で使うと苦労します。そもそもナビが付いてないタクシーが半分くらいあるので、何か目立つものを目印にした方がいいです。

次回は演習前の望月チームの戦闘回です。お楽しみに!

ではまたーノシ


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Mission:7

銃欲しいし猫もモフりたい
癒しがないんじゃ!


夏休みも後半に差し掛かろうとしている8月某日。

連星さんからのハーレムデート(討伐任務)のお誘いを受けた俺は、夏演習メンバーで初となる任務に赴いた。

旧市街地に現れる事が“予想された”ネストシードを先回りして待ち受けて、出現したイクシスを片っ端から片付けるのが今回の任務だ。

どういうカラクリかは知らないが、イクシスとの戦いが始まってそろそろ20年。人類はネストシードが現れる位置をかなりの正確さで探知できるようになり、指定防衛校の定期巡回も相まって、街中が地獄絵図となったり、放棄された地域がイクシスの巣になるような事は無くなった。

 それでもはぐれが現れたりするから、油断はできない。

 はぐれに偶然出くわして襲われた何て事件は、今どき珍しくもない。

 

「到着しましたわ」

 

連星さんの声で意識が現実に戻ってくる。

気がつけば、外の景色は人と活気に溢れる市街地から、世紀末を窺わせる廃墟の街へと変わっていた。

空気も数倍ホコリっぽいし、この場にいるだけで心躍る……じゃなかった、ゾンビでも出てきそうな緊張感に溢れている。

 

「あ゛ぁ゛ー、立ちっぱなしで疲れたもぉぉぉん」

 

ハンヴィーを降りて背伸びを一つ。

肩周りと背骨や腰をポキポキ言わせながら体を捻っていると、

 

「何親父くせぇ事言ってんだ。さっさと行くぞほら」

 

AKMを持った伽鳥先輩が仏頂面で背中を叩いてくる。

バシィン!じゃなくて、ポンって感じなところに優しさを感じる。普段つるんでる奴らがアレなせいで涙が出そう。

ストレッチパワーを溜めていたお陰で、2番目に車を降りたのに最後尾を歩く事になってしまった。ちょっと急ごう。

 

「旧市街地なんてあまり来ないけど、なんかイヤな雰囲気だよね。建物の影からゾンビとか出てきそう」

 

M24SWSを担いでそんな事を洩らす沢城さんは、いざとなればゾンビの頭を吹き飛ばしてくれるだろう。

 

「気味わりぃこと言うんじゃねぇよ…。それより、ようやくお前の実力をこの目で見れるのが楽しみで仕方ないぜ?」

 

お持ちのM240Gで獲物を蜂の巣にしそうな芙蓉さんが不敵な笑みを浮かべて俺を見る。

 

「同感ですわ。期待してます」

 

SCARーHを持ったお嬢様然とした雰囲気と言葉遣いの連星さんが、無線越しに言って顔をこちらに向ける。

2人とも楽しみにしてる感が滲み出て、俺にとっては逆にプレッシャーとなる。

 

「接敵前に俺のHPをゴリゴリ削るのは楽しいですかー?んんー?」

 

少々わざとらしい態度で不機嫌を装う。

 

「ほとんどデータがないあなたの実力を測るのに今日はいい機会ですので、私はとても楽しみですの。ねぇ、六花さん?」

 

ウキウキかよこの人。はぁー、イヤになりますよー。

 

「んー」

 

相変わらず気の抜けた適当な返事を返す椎名さんは平常運転だ。戦闘前はマジでいつもこんならしい。

 

「ほら、六花さんも楽しみにしてるそうですよ?」

 

「嘘つけ絶対適当だゾ」

 

コロコロと笑いながら俺をからかってくる連星さんは、新しい玩具を貰った子供のようで、大人びた雰囲気とのギャップもあって、凄まじい破壊力もって心を揺さぶった。

瓦礫を越えて歩く事30分。指定された場所に到着した俺たちは、ネストシードを探すために、連星さんと椎名さん、先輩と芙蓉さん、俺と沢城さんの2人ずつに別れて動く。

大まかな捜索範囲を決め、発見したら報告して合流する事を確認し行動を開始する。

今日の俺の装備はM320を取り付けたHK416D。グレランの弾は例の如く下瀬火薬グレネードだ。

他には、5.56mm曳光弾を5発に1発の割合で装填してあるマガジンを6つ、ポーチに収めてある。これと言って使う機会は少ないが、何かを爆発させたい時には便利な代物だ。

 

「『コマンド』なんて、なかなかおかしなポディションだよね」

 

無言でサクサク進んでいた矢先、沢城さんが突然呟いた。

 

「そんなにおかしなポディションか?」

 

疑問をそのまま口にする俺に、

 

「いや、何がどうおかしいかって聞かれたら、勘なんだけど」

 

「はい出ましたー。沢城さんの『勘』。まぁその勘もバカにはできないから俺もなんも言えないけども」

 

みんな何となく思ってはいるが誰も口にしないだけで、『コマンド』というポディションに疑問を抱いているのは確かだ。

協力が求められるチーム戦において、各メンバーをサポートする事が求められる一方で、いざという時には1人で行動する事が要求されるこのポディション。

ある意味戦況を良い意味でも悪い意味でもひっくり返す事に繋がりかねない危ない役回りなのだ。

今回招集された武学高校のメンバーの経歴から察するに、上の連中は今後市街地でも俺らのような役が必要になるという答えを導き出しての事なのであろうが、どんなデータを元に導き出したかは恐らく連星さんも分からないだろう。お先真っ暗過ぎて戦艦クラスの探照灯が欲しいくらい。

 

「おっと、めっけた」

 

無駄話をしながらも周囲を索敵していると、遂にネストシードを見つけた。

崩れた木造民家の庭の真ん中にポツリと浮かぶそれはまだ出来たばかりのようで、大分小さいから余裕はある。全く予測する人たちは未来人かなにかか。

 

「みつけたよ。別れたところから東へ大体1kmくらい。スモーク焚くから集まって」

 

沢城さんの報告に、全員からの了解がヘットセットから聞こえてきて、そのまま沢城さんが無線のチャンネルを切り替えてオペレーターに報告を行った。

みんなそんなに離れていなかったお陰で15分もしないうちに集合が完了し、決められていた配置に就く。

みんなで障害物を退かしたり即席のバリケを組み上げ機銃陣地を構築する。

それが終わったら、俺と沢城さんは狙撃位置まで移動する。全体が見渡せる壁が抜けてオープンになったビルの3階で、これなら支援射撃もやりやすい。

伏射ち(ねうち)の姿勢をとった沢城さんの横で、俺は立膝をついて待機する。

 

《皆さん、配置に就きましたか?》

 

連星さんの声は戦場にいる事を忘れそうになるほど澄んでいて、アナウンサーのように聞き取りやすい。これはこれで病みつきになりそうな声だ。

 

「期待してるって言った割には、俺は後方なんだな」

 

不満ではないが、からかわれたお返しに言う。

 

《私は前線に置きたかったのだけど、直前になって六花さんが配置換えを申し出たましたの》

 

「え、なんでや」

 

《何となくだけど、あなたは前線にいない方がいいと思って》

 

スイッチが入った椎名さんが言葉で返してくれる。

 

「あ、そっかー…」

 

これもしかして俺disられてるの?椎名さんに嫌われるようなことしたっけ?連星さんと椎名さんの空間にいる俺という男が邪魔的な?泣いていい?

1人で負の空間へダイブしかけていると、連星さんの声が聞こえてくる。

 

《六花さんは別にあなたが邪魔とかではなくて、あなたを沢城さんの護衛につけた方が良いと、『勘』を働かせてのことでしてよ。ご心配なさらず》

 

連星さんの熱いフォローが入ったところで、そろそろ時間が来たようだ。

 

《無駄話はここまでだ!ヤツらが出てくるぞ!》

 

伽鳥先輩が大きな声で言ったもんだから、音量が高めだったせいで耳にダメージがきた。反射的に外したヘットセットからは芙蓉さんの殺る気に溢れる声も漏れてきている。うん、前線に居なくて良かった。椎名さんありがとう。

空間に大きな穴が開き、K9が続々出現する。

ある程度出てきたところで前衛が攻撃を開始し、射線から外れて別方向に進もうとするK9を俺と沢城さんで仕留めていく。

スリルのある的当てと化してしまってあまり楽しくないが、楽な任務でそれなりの報酬を貰えるなら文句は言わない。

 

「この調子なら、俺の実力ってやつは見せることなく終わりそうだな」

 

軽い口調で掛け直したヘットセットに喋ると、

 

《機会は作ればいくらでもありますわ。とても楽しみに……、少々お待ちくださいませ》

 

連星さんは少し残念そうな声だったが、最後まで言い切ることなく終わってしまった。別のところから無線で通信が入ったようである。

 

《……皆さん、この近辺にもう1つネストが確認されたようです》

 

《なにぃ!?》

 

伽鳥先輩の声はこれまた大きいのだったが、今度はヘットセットを取る余裕がなかった。

 

(既に弾薬は半分以上消費してるのに、このタイミングでか!?)

 

《規模は小さいようですが、沢城さんと望月さん、警戒をお願いします》

 

「了解。沢城さん、拳銃持ってる?」

 

こうなった以上は仕方がない。嫌でもやるしかない。

狙撃位置のビルを降りて追加で言われた辺りまで移動する。

 

「……拳銃は苦手だから持ってないんだよねえ」

 

てへっ☆みたいにチロっと舌を出す沢城さん。まぁ、いいや…。

 

「アサルトライフルなら使えるでしょ?遭遇戦になるだろうから俺の416使って」

 

「え、拳銃とナイフだけで戦う気?」

 

正気を疑う目を向けてくるが、こうするしかない理由がある。

 

「イクシス相手に格闘戦挑めんの俺か椎名さんしかいないでしょ?…というわけで援護は頼んだ」

 

渋々といった様子でグレランを外した416を受け取った沢城さんに軽く扱いを教えていたその時。ビースト型イクシス特有の獣臭が風に乗って漂ってきた。近いな。

 

「この臭い、イクシスが…っ!」

 

手で沢城さんの口を塞ぎ、視線で『喋るな』と伝える。

足音や気配を探るのに気が散るというのもあるが、声でこちらの居場所を気づかれたら不味い。

聴覚を集中させて離れたところから聞こえる銃声の合間に潜むイクシスの存在を探す。

 

「……見つけた!」

 

右後方に振り向きざまに拳銃引き金を引くと、発射された9mmパラベラム弾は、物陰から走り寄って飛び掛ってきたK9の頭に命中し、3分の1を吹き飛ばす。

これが合図のように、次々と建物の影から飛び出てくるK9。ざっと見た感じでも10頭以上。

 

「沢城さんは距離があるヤツだけ狙ってくれ!5m以内に入ってきたヤツは俺が片付ける!俺から離れるなよ!」

 

「り、了解!」

 

普段のんびりした雰囲気を纏っている沢城さんが、酷く焦っているように見えるのは、こんな経験をした事がないからだろう。まぁ狙撃科の人間がこんな距離でイクシスと殺り合うなんて、滅多にないからしょうがないだろうけど。

セミオートで1発づつ当てようとするが、狙撃銃との勝手の違いと交戦距離の違いからか、思ったより仕留められなかった。

撃ちながら広い通りから路地に移動して、残ったのは6頭。前回の旧市街地の件と比べれば大したことないし、何より、あれから俺達は1対多数の訓練をやってきた。問題ない、やれる。

 

「ごめん!撃ち漏らした!」

 

「充分!助かるぜ!」

 

(むしろ慣れない銃でよく削ってくれた方だぜ!)

 

一定の方向から6頭が一斉に走ってくる。

俺の背後では新しいマガジンをリロードした沢城さんが、援護の用意を済ませてくれている事に安心して、K9が来るのを待つのではなく、俺はあえて打って出る。

驚く声を上げる沢城さんを置いて、先頭の1頭が飛びかかるタイミングでスライディングをし、がら空きの腹に右手に持ったナイフを刺して、すれ違いざまのお互いの運動エネルギーで切り裂く。

俺の頭を飛び越えた辺りで内臓をブチ撒けて絶命したK9を無視し、間髪入れずに左手に持ったUSPを2発撃つ。

首と頭に1発づつ受けて倒れた右から喰らいつこうとしてくる1匹の頭に、起き上がるついでに体を回転させながら踵で蹴りを入れ、拳銃で左からくる2匹を射殺しつつ蹴りで体勢が崩れたヤツの首にナイフを突き立てる。

仕上げに、飛び掛ってきた最後の1匹を左に躱して、右手で首をホールドし、急に止まった時に掛かる負荷とテコの原理で首をへし折る。

 

「っふぅ、……もう居ないよな?」

 

後ろを振り向いて沢城さんに確認すると、驚きのあまり声が出ないようで、口をパクパクしながらコクコクと首を縦に振っていた。

 

「よろしい。報告するかねー」

 

ヘットセットの送信スイッチを入れてイクシスの撃破を報告すると、全員のこちらを案ずる声が聞こえてきて、あちらも問題ないようで安心する。

 

《状況の報告をしたいので、沢城さんを連れてこちらに合流してください。お疲れ様でした》

 

連星さんの通信が切れたところで、しゃがんだままの沢城さんに近づいて声をかける。

 

「合流しろってさ。行くべ」

 

「あ、あぁ、そうだね…。ありがと」

 

手を貸して立たせたあと、銃を返してもらい合流地点へ向かう。

服の下に付けているプロテクターのお陰で怪我はないが、制服があちこち擦り切れてしまった。こりゃまた新しいのを受け取らないといかんな。

面倒な書類と持回りの事を考えて溜息をついた後ろには、終始無言で一定距離を離れて着いてくる沢城さんがいた。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

「報告は以上です…」

 

先程の戦闘の報告を連星さん達に行った俺は、驚きを通り越して呆れムードが漂い始めた事に、小言を言われるのではと身構えて、敬語を使ってしまった。

 

「なんつーか、もっと頭のいい戦い方をするのかと思ってたぜ…」

 

芙蓉さんが初めに半笑いで感想を漏らすと、みんなが口を開き始めた。

 

「先程の報告をそのまましても、1回では信じてもらえるか不安ですわ…」

 

連星さんの言う事はご最も。俺なら信じないね。

 

「1人で6頭のK9を格闘で仕留めるって、お前とんでもねぇな…」

 

「いやぁ、沢城さんの支援体制がバッチリだったから安心して突っ込めたんスよ。沢城さん、ありがとうございやした」

 

そう言って沢城さんに頭を下げると、ハッとした様子で顔を上げて、こっちを見た。

 

「あぁ、うん。どういたしまして…」

 

普段とは違う歯切れの悪い返事を返したが、それに気付かず連星さんが続く。

 

「それにしても六花さん、関東最強の座が揺らいでいる事に何かコメントはおありですか?」

 

6頭を1人で片付けただけで関東最強なのか?ハードル低くね?武学高校の1部の生徒はこれくらい余裕ですよ?

なんて口が裂けても言えないが、関東最強(仮)椎名さんは俺をチラ見したあと、

 

「んー、興味ない」

 

と無関心を貫いた。『んー』以外を口にしたということは、多少は気になるってことなのか?

 

「関東最強クラスが2人もいるチームなんて、今年の演習はどこが相手でも負ける気はしねぇな」

 

芙蓉さんが悪い笑みを浮かべてフラグを立てるのを俺は乾いた苦笑いで返す。

いやー、うちの相棒はですねぇ、本気だすとこのメンバーでも条件次第では負けるくらい手がつけられないですよねー。

相棒について話そうかと思った所で、連星さんが話題を変えた。

 

「そう言えば、昨日、あの子たちも討伐任務に出たらしいですよ」

 

椎名さんの側で言ったが、あの子達って誰?

 

「それが何か?」

 

「興味ありませんか?」

 

興味ないって表情の椎名さんと話したいって顔の連星さん。勝つのはどっちだ?

 

「別に」

 

「……」

 

「言いたいなら言えば?」

 

どっかの女優のように返したが、無言の圧力を受けた椎名さんが根負けして、連星さんが笑顔になる。

 

「なんだー、やっぱり聞きたいんじゃないですか」

 

椎名さんの顔に若干怒りが浮かぶ。怖いなぁ、とずまりすとこ…。

 

「まあ、結論から言うと、1年生は全員キルマークを付けて、予想外だったヴォイテクが出現するも、無事怪我人もなく完了したそうですよ」

 

ここまできてようやくシュウのチームの事を言っていると察した。

まぁ、ヤツがいれば無駄な人的被害が出る前に片付くだろう。当然の結果というやつだ。

伽鳥先輩は後輩2人が何事も無かったことに胸をなで下ろし、戦闘後の軽いショック(?)から復活した沢城さんは、シュウの援護の下でヴォイテクを一撃で仕留めたという愛弟子の活躍を聞いて鼻高々のご様子。にしても、ルーキーだらけのチームでヴォイテクか。

同じことを思った芙蓉さんが憤慨するが、同行した教師も予想外であったと聞くと鎮まった。

 

「何にしても、誰も死ななくてよかった」

 

椎名さんがポツリと呟く。

 

「あぁ、全くだな」

 

少々心にチクリとくるモノがよぎり、誤魔化すためにオーバーに頷きながら同調する。

伽鳥先輩の撤収の提案に賛成してハンヴィーに乗り込むと、伽鳥先輩がラーメンを食いに行こうと言い出した。先輩、この環境でそれを言うのは自爆行為だよ。

 

「おっ、まさか奢りですか、センパイ!」

 

遠慮のない芙蓉さんの便乗が全員に広まり、

 

「先輩流石っす!マジリスペクトっす!アザマッス!」

 

すかさず俺も便乗すると、

 

「てめぇと椎名は外回りと任務で金持ってんだろ!」

 

と、マジトーンで反論する先輩が可笑しくて、帰りのハンヴィーはかなり賑やかなものになった。

思ったよりいいチームになりそうな予感を感じ取って、先程の感傷じみたものは風に舞うホコリのように、どこかへ飛んでいった。




ウィッス早坂です⊂( ˆoˆ 三ˆoˆ )⊃

原作には(ほとんど描かれてい)ない話を創作したので、ちょっと遅れるかもなーと思いながら執筆していましたがなんとか仕上げることが出来ました。
原作では戦闘が終わった直後しか描かれていなかったので、望月の実力を示しつつ後半に繋げて話を合わせるのは難しかったですが、楽しかったです。この間見たバイオハザードの動きを参考にしました。3DCG版はいいゾ^〜

さて、次回から夏演習へ突入予定です。ある意味一段落ついた的な。もしかしたら計画にない小話を挟むかも知れません。そうなると少し更新が遅れると思いますがご了承ください。m(_ _)m
次回もお楽しみに!

ではまたーノシ

2022.5.22.内容を一部修正


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Mission:8

お ま た せ


演習当日の朝、トラックの荷台に荷物と一緒に詰め込まれてドナドナされる。

武学高校のメンバーはこの前任務に行った3人の他にも何人かいたが、知らない奴だったから特に話すことは無かった。

途中で他校の生徒も拾って乗せていくと、あっという間に満員になり、夏の暑さも相まって汗が滲み出てくる。

軽い挨拶をしながら乗ってきた他校生は俺達武学高校勢を見るや否や、ハッとした顔になりなるべく目を合わせないようにしながら、遠いところに座っていった。

そう言えばこんな感じでトラックで運ばれるのは“あの時”以来だが、同じことを思っているだろうに誰も決して口には出さない。口外禁止だから当然か。

それなりの緊張感に包まれている車内だが、俺達はそんな空気も読まずに、遠足気分で雑談をしている。

 

「いやー、今まで年上女子と関わる機会なんて全く無かったけど、あれはいいものだ」

 

「それな。あと、『先輩先輩』って呼んでくれる女の子がいるって最高の癒しだわ」

 

しみじみと頷く望月の意見は全くその通りであるが、我がチームの後輩達も劣っていないだろう。もちろん本人達の目の前では言わないけどな。

 

「やっぱりそうだよな!こうもむさ苦しい所に慣れてると、ちょっとした事でも不意打ち食らうよな!」

 

流石だぜ相棒!と屈託の無い笑を浮かべる隣で、関口と波瀬も同調する。

 

「んー!たまらんよなぁ!」

 

「そうそう、『任せな!』って躊躇いなく群れに突っ込める気がする」

 

「気がするってお前、その時が来たら俺達は躊躇いなくやるだろ!」

 

HAHAHAHAHAHAHAHA!!!!

 

と、各々チームに対する(というかチームの女の子に対する)感想を言い合って、武学高校特有のギャグセンスを発揮するが、周りは完全においてけぼり状態。

何人かがたまに頷いたりしているのを目ざとく見つけた望月が、遠慮なしに声をかける。

 

「なんだよお前らー、混ざりたいなら遠慮するなよー!語り尽くそうぜ?な?」

 

『いいよ来いよ!』とどっかの先輩の真似をするが、これは人によっては嫌悪感を抱かせる諸刃の剣だ。

 

「指定防衛校って共学なのに共学感がまるでないから、こうやって知り合うのも貴重だよな」

 

「その通りだよな。噂だと、この演習チームで知り合ってもう付き合い始めた奴らがいるらしいぞ」

 

「「「「「「「「「おぉ!」」」」」」」」」

 

男って生き物は単純なもので、共通の話題があれば会話は一気に弾むのだ。そりゃもう遠慮なしに。

 

「俺達にもチャンスはあるんスね!」

 

1年生と思しき生徒が1人期待するような口調で声を上げる。

 

「当たり前だろう!むしろこれからだ!やってやろうぜ!」

 

うぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

「お前達騒ぐな!大人しくしてろ!」

 

望月が中心となり野郎共との距離が近くなった結果、助手席の幹部自衛官(男)に怒られたが、その顔は俺らと同じように笑っていた。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

思わぬ交流を深めた俺達は、演習場に着いたら声をかけ合いその場を別れ、それぞれのチームに合流を始めた。

いつもは演習場に着いたら目の前には一面のクソ緑か世紀末コンクリートジャングル(直喩)と野郎共しかいないが、今回に限っては一面お花畑と言っていい状況だ。

 

「さて、皆はどこに居るかねぇ」

 

左肩とチェストリグ右側に付いた武装高校のワッペンを見た女子生徒達が、モーゼの十戒の如く道を開けてくれるんじゃないかと負の想像をしていたが、驚いて数歩下がる生徒はいても、あからさまに避ける生徒は以前と比べてかなり減ったように見える。

 

「あ…」

 

「ん?」

 

途中で何かに気づいたみたいな声が聞こえそちらを見ると、落し物拾いの時の朝霞の生徒がいた。

 

「あぁ、あの時の」

 

やべ、つい声をかけちゃったたけど、これで逃げられたら俺めっちゃ恥ずかしいやん。

 

「お久しぶりです。谷岳先輩」

 

「え、何で名前知ってんの…って、例の噂か」

 

「有名人ですからね、谷岳先輩と望月先輩は」

 

「俺らとしては名前と噂が一人歩きしてて怖いことこの上ないんだけどな」

 

苦笑いで返すと、彼女はクスクス笑った。

 

「悪い噂ばかりじゃないんですよ?」

 

「また違う噂が広まってるのか…、まぁいいや。初めての演習頑張りな。もしそっちの班と合同でやるようなら、その時はよろしく頼むわ」

 

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

手をヒラヒラさせて別れを告げた後、気を取り直して探すために歩き出した時、

 

「周紀先輩ー!こっちですー!」

 

左を見ると、皆の中心でバカでかい声で叫ぶ未世が手を振りながら飛び跳ねてた。

駆け足で近寄ると各々が挨拶をして、俺もそれに応える。

 

「遂に始まりますね。先輩」

 

「“先輩”、じゃないでしよ?」

 

いつも通り先輩に声を掛けたら、思ってた事と違う返しがきた。あれ?いつもの笑顔なのにちょっと怖いぞ?

 

「………、遂に始まりますね。愛さん」

 

「そうね、とても楽しみだわ!」

 

少し考えて、選択肢がこれだけになったので試しに言ってみると、とてもご満悦のご様子。南国のビーチで向けられたいタイプの笑顔だ。こんな笑顔向けられたら大抵の男は墜ちるだろう。俺はギリギリ耐えてる。軽く押されたら墜ちるけど。

 

「うぅー…、なんか緊張してきました…」

 

さっき俺を呼んだ時の元気は緊張を紛らわすためだったのか?よく見ると1年生達は少々落ち着きがないな。

 

「演習で緊張ってお前らなぁ…」

 

「初めてで何があるか分からないんですから、緊張するのは仕方ないじゃないですか!」

 

「いきなり近くででかい声出すな!フォローならいくらでもしてやるから安心しとけ!」

 

不満気な顔の未世だが、俺も初戦の頃は緊張したもんだ。だが、1度火蓋が切って落とされれば、アドレナリンだとかのお陰で撃ってる時は緊張なんて無くなったけどな。

 

「そうよ。私と周紀君で何とかしてあげるから、任せなさい」

 

1年生達にニッコリ微笑みかけてやる先輩を見て、つくつぐ母性に溢れる人だなと見蕩れていると、

 

「足を引っ張ってしまうことが多いと思いますが、よろしくお願いします」

 

恵那らしいいつもの至極真面目な顔と態度であるが、未世程ではないが緊張が見られる。

 

「まぁ、適度に気を抜いて頑張ろうぜ」

 

「…どの程度抜いていいのか分かりません…」

 

凛がうっすらと眉間に皺を寄せ考え込む。

 

「そりゃフィーリングでさ?なぁ、鞠亜」

 

「はぇっ!?あ、え、えぇ…、うぅ……」

 

試しに鞠亜に話題を振ってみたら、顔を真っ赤にして思いっきりキョドられた。うーん、もう少し慣らしが必要か。

 

「周紀先輩!鞠亜ちゃんを虐めないで下さい!」

 

「な!?い、虐めとらんわ!大勢の前で何言ってんじゃ!なぁ鞠亜?」

 

学校的に割とマジでシャレにならん。現に何人もこっち見てるし。

 

「うぅ……」

 

フォローを期待してさっきより努めて優しく声をかけたのに、更に俯いてしまった。

 

「鞠亜ちゃん大丈夫ですよぉ。怖い先輩から私達が守りますからねぇ」

 

ニヤニヤしながら鞠亜の肩を抱いているが、下心が丸見えである。

 

「勝手に私達を共犯にしないでよ…」

 

恵那の文句は未世にも聞こえているだろうが、全力で無視されてる。

 

「何度も何度も俺をおちょくりやがって……。未世、この演習場がお前の墓場だ…」

 

立場上強く出られない事をいいことに、仮にも先輩に何度もちょっかいを出すとは命知らず目め…。

 

「助けて下さい先輩!また周紀先輩に狙われてます!」

 

またってなんだよ。元凶はお前だろ。

 

「もう。2人とも遊ばないの」

 

弟と妹を窘める姉そのものの空気を纏って、『しょうがないなぁ』という感じの顔を向けてくる先輩。兄弟が多いだけあって、従わざる負えない空気を感じる。

 

「くっ…」

 

「なんというか…、谷岳先輩って、西部先輩に弱いですよね?」

 

凛が鋭く指摘してきたおかげで、未世が更に調子に乗って収拾がつかなくなってきた時、整列の放送が掛かり俺は救われた。

未世には渾身のデコピンを食らわせておいた。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

《第1回射撃用意。射撃位置につけ》

 

午前中の基礎トレーニングが終わって午後になると、各チームごとの射撃訓練が始まった。

1チームにつき1射場で並び、1年生には号令次(ごうれいし)を復習させるために、俺が最初で次が先輩だ。

イヤーマフ代わりのヘッドセットから聞こえてくる、射撃教官の号令を合図に、的前に並んだ20人の生徒達が“伏射ち”(ねうち)の姿勢をとる。

 

《前面の標的、伏射ち、脚(きゃく)使用、距離200。予備射手、弾薬受け取れ》

 

“予備射手”とは、俺の次に射つ人のことを言う。

後ろから、「第3的(だいさんてき)!」「第3的33発!」「第3的33発!」という先輩と弾薬係のやり取りが聞こえてくる。

予備射手が洗面桶に入った赤のテープが巻かれたマガジンと、白のテープが巻かれたマガジンを1つづつ持ってくるが、1つには30発フルで装填されているが、もう1つには3発しか装填されていない。他には使用した弾薬確認用の使い古された33発分の薬莢を収める木枠もちゃんと入っている。

射手はこの間に、使用する銃の照準器が200mにセットされているかを確認する。

弾薬を受け取った予備射手が伏せたのを確認してから、号令が次に進む。

 

《零点規正(ぜろてんきせい)を行う、弾込め》

 

3発しか入っていない白いテープが巻かれたマガジンを銃に差し込み、槓杆を引いて切換金(きりかえがね、セーフティ)を確認して、問題がない事を「よし!」という声と動作でハッキリと予備射手に伝えると、赤い旗を掲げる。赤い旗は銃及び武器に弾が装填されたという事を表す合図だ。

 

《零点規正3発、撃ち方始め》

 

セーフティをセミオートに切り替え、アイアンサイトなら、照門から照星を一直線で結び、照星の上に標的を乗せるように狙い射撃を始める。

慎重に3発を射ったら、セーフティを安全位置に入れ、銃から手を離し待機する。

予備射手も赤い旗を白い旗に切り換える。

 

《撃ち方やめ。弾倉抜け、薬室確認、切換金確認》

 

予備射手が白い旗を下げるのと同時に、マガジンを抜いて薬室を後退させて固定し、薬室内に弾が入ってない事を確認して、セーフティが掛かっている事をチェックする。

同じように声と動作で予備射手に伝えると、また白い旗を上げる。

 

《薬莢確認》

 

号令の度に白い旗を上げたり下げたりしないといけないが、これを忘れるとマジで教官に怒られるから、予備射手も油断は出来ない。

ついでに言うと、予備射手は万が一射手が暴走した際に組み伏せる“最後の安全装置”の役割もある。

薬莢受けから3発の薬莢を取り出し木枠に填め、良かったらまた合図を送り、白旗を上げる。

 

《弾痕調べ。照訂(しょうてい)始め》

 

右前にあるモニターを見て、弾着点を確認する。

照訂とは、3発の弾痕を線で結び、三角形を作る。その三角形の中心が的の中心からズレている分をダイヤルで修正し、零点規正は完了する。これがズレれたり間違えたりすると照準器は中心を狙っていても、弾着点は明後日の方向なんてことはよくある。ちなみに、三角形の一辺が的の中心より長い場合は“不軌弾”(ふきだん)と言い、照訂の際参考にしない。修正にかける時間は20秒で行わなければならない。

 

《本射を行う、弾込め》

 

予備射手から赤テープが巻かれたマガジンを受け取り、零点規正の時と同じように弾を込めて赤旗が上がる。

 

《緩射(かんしゃ)30発、撃ち方始め》

 

1発当たり5秒から7秒の間隔で30発を射つ。

よく映画などで、弾が切れているのに引き金を引き続ける描写があるだろう。

観ている側からすれば何とも間抜けな画だが、余程集中したり、焦ったりするとマジで起こる現象である。俺も中学の時に経験して実証済みである。

零点規正を行った後と同じ確認を済ませたら、白旗を上げて号令を待つ。

チラッと点数を確認したら、『99点』と表示されていた。

1発だけギリギリ黒点をはみ出し4点と判定されたようだ。

 

《第1回射撃止め、その場に立て》

 

素早い動作でその場に立ち、“不動の姿勢”をとる。

手や服に付いた汚れやホコリを払うことも許されない。

 

《薬莢回収、番代え》

 

最後の号令が掛かり、先輩から空のマガジンと33発の空薬莢が填った木枠が入った洗面桶を受け取り、弾薬係の下に返却する。

 

「第3的33発異常なし!」

 

「第3的33発異常なし!」

 

俺が言うと受け取ったと同時に復唱することで、俺の番は完全に終わる。

後の5人が終わるまで、後ろで待機してる未世や他の学生と話して射撃訓練は終わった。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

初日の課程が終わり支給されたテントを張るのだが、塹壕(タコ壺)掘って野宿や廃墟で雑魚寝が当たり前だった武学高校の演習に慣れた身としては、やっぱりこの演習の内容に物足りなさというか、甘さを感じてしまう。

その事をポロっと呟いたら、先輩の指示で動いていた1年生だけでなく先輩まで手を止めて武学高校の頭のおかしさとそんな演習を完走してきた俺達生徒に対して敬意の眼差しを向けてきた。実際はもっと過激な演習やらなんやらを経験しているが、これが表に出たら恐らく武学高校は潰されるだろうから言わない。

 

「…その、…苦労してるのね…」

 

最終的な皆の感想はこの一言に尽きる。

とりあえず武学高校が特殊って事だけは伝えておいた。来年とか他の学校の男子生徒と行動する時、武学高校生徒基準で測られたら堪ったもんじゃないからな。

雑談している間にテントは組上がり、女性陣が風呂へ向かっうとのことなので、俺も事前に渡されてた自分の1人用テントを組み立てる。…別に残念とか思ってないんだからね!

10分経たずに組み上げたところで俺も風呂に向かう。

災害派遣でよく見る野営入浴セットが組み上がっているとばかり思っていたら、男共は簡素なシャワー室が急拵えで並んでるだけだった。

シャワーが浴びられるだけマシだから文句はない。むしろあったかいお湯で汗を流せる事に感動しながらさっさと済ませてテントまで戻ると、女性陣は既に戻っていた。

 

「演習でシャワーが浴びれるって素晴らしいな」

 

戻って来て開口一番言い放つと、

 

「……とんでもない環境で演習を強いられていたのね……」

 

色々察し過ぎて、どんな顔をすればいいかわからないという感じの先輩に苦笑いされた。

 

「恵那ちゃんなんか大はしゃぎだったんですよー。『野営入浴セット2型だ!』なんて」

 

「ちょっと朝戸さん!?」

 

は?おい。ちょっと待て。

 

「未世、今何つった?」

 

サッパリした清々しい顔から一変、真顔になった俺に未世も困惑気味になる。

 

「えぇ?恵那ちゃんが大はしゃぎだったんですよ…?」

 

「その後だ」

 

「野営入浴セット2型がどうかしましたか?」

 

若干顔が赤い恵那本人から“その物品名”が言われる。

 

「アー、切レソ…、切レソ……」

 

「先輩?………あ」

 

何かを察した凛が可哀想な目を向けてきた。

 

「こっちには簡素なシャワー室しか無かったぞ!」

 

「私達に言われても……」

 

恵那が『知らんがな』とでも言いたげな顔をしているが、俺だけでなく、参加した全男子生徒の叫びがほぼ同時に森に響いた。

文句はまだあるが空腹が勝ったこともあってこれまた支給された缶飯を食べることにする。もう待遇の差は忘れよう…。

普段クールな恵那が缶飯でテンション上がってるのは見てて笑えるけど、睨まれるだろうから笑うのは堪えた。つーかお茶なんて配られたっけ?

 

「え?各学校で用意されてるはずだけど…?」

 

先輩に気の毒そうな顔を1日に2度も向けられた奴は恐らく俺が初めてだろう。全く嬉しくねぇ…。

 

「ハァー……」

 

クソデカイため息を1つついて無心になって缶詰を開ける。

そのせいで周りの空気が重くなっちまったじゃねぇーかよどうしてくれんだ我が母校。

 

「あの……、先輩…、まだ開けてないので…、これ、どうぞ………」

 

見かねた凛が差し出してくるが、

 

「心配すんな。飲まず食わずで演習なんてよくやってたから…。…ハハッ……」

 

乾いた笑いと笑っていない顔を見て皆との距離がちょっと開いたが、気にしないことにした。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

食事が終わると銃の整備くらいしかやることが無くなったけど、暗い今より朝方の明るい時間帯にやった方が効率がいいから、今日は早く寝ることになった。

周紀君はライトを持っているらしく自分のテントで蚊や蛾と戦いながらやると言って戻ってしまった。その際、余っていた蚊除けを渡したら、ものすごい喜んでいたのが、プレゼントを貰った子供のようで可愛かった。

私達もテントに入って寝転んだのはいいけど、暑さのあまりなかなか寝付けない中、朝戸さんが話題を作ってくれたお陰で暑さを忘れる事が出来た。

そんな時、

 

「こんな時の定番は恋愛トークとかじゃないんですか!?」

 

本当に朝戸さんらしい話題だと思ったけど、指定防衛校は案外出会いが無いため私を含め、皆まともな経験は無いようね。指定防衛校の女の子って、どちらかというと避けられる事が多いし。

 

「でも朝戸さんって、何かと周紀君にちょっかい出して反撃を受けてるけど、もしかして気があるの?」

 

だからと言ってはなんだけど、少し後輩に踏み込んだことを聞いてみた。

 

「えっ!?いや、そんなことないですよ!?」

 

裏返った声で慌てて否定している様子がおかしくて、私だけじゃなく、皆思わずクスクスと笑い出す。

 

「ホントに?」

 

さらに問い詰めてみると、

 

「あ、当たり前じゃにゃいですかぁ」

 

「全然隠せてないし…」

 

「分かりやすすぎ…」

 

「未世さん…」

 

やっぱり、そうなのね。

 

「だ、だって、周紀先輩は私に協力してくれるって言ってくれましたし…、強いですし……、心強いですし……」

 

勇気を出して声に出したけど、段々声音が弱くなってショボショボ萎れていくようだった。

 

「まぁ、確かに、谷岳先輩がいるって思うだけで、かなり心に余裕が出来るけど…」

 

「あら?豊崎さんも周紀君に気があるの?」

 

「違います!あくまで最前線で何度も戦闘を経験した先輩としてです!」

 

「もう、そんなにムキになったら周紀君が可哀想でしょ?」

 

「でも、頼れる人である事は確かです」

 

「わ、私も…、そう思います…」

 

「皆思った以上に周紀君の事を信じているのね」

 

いいチームとしてまとまっている事に、1人で安心を噛み締める。

 

「そういう先輩はどうなんですか!?周紀先輩の事、見つめてる時があるじゃないですか!」

 

仕返しとばかりに朝戸さんが言ってくる。

 

「えー、そんなことないと思うけど」

 

「いえ!絶対見つめてます!すっごい優しい目で見つめてます!」

 

「確かに時々そんな感じで見てますよね」

 

白根さんの援護射撃を得て朝戸さんが『ほらやっぱり!』と続ける。

 

「先輩は谷岳先輩の事、どう思ってるんですか?」

 

豊崎さんがいきなり核心を突いてくる。

 

「周紀君は私なんかより経験も豊富で頼りになる後輩よ。ちょっと不器用だけど仲間や後輩思いで、そのためならどんな危険すら省みないような危ない所も感じるけど、このチームに無くてはならない子よ」

 

ここで下手に隠したりすれば逆に疑われてしまうため、彼の評価を皆に伝える。

 

「……よく見てますねぇ…」

 

「これまでの周紀君の噂や行動を見れば分かることよ」

 

「うーん、先輩の方が周紀先輩を知ってるみたいで、なんか悔しいです…」

 

「この演習きりじゃないんだから、まだまだチャンスはあるわよ。でも、油断したら他の娘の所に行っちゃうかもしれないわよ?」

 

「う、それはイヤです…」

 

「なら、もっと積極的に行きなさい。イクシスにも恋愛にも負けちゃダメよ?」

 

「はい!両立できるように頑張ります!」

 

「はぁ…、全く暑苦しい…」

 

これまで話を聞いていた豊崎さんの苦情で話が途切れたタイミングで切り上げる。

それにしても、暑苦しいのは気温のせいだけじゃないのであろう。

 

「皆もまだ1年生なんだから、焦る必要は無いわよ。いずれ、きっと素敵な人に出会えるわ。…さて、そろそろ寝ないと明日に響くわよ」

 

それぞれの返事を聞いて私も寝ることに意識を持っていく。

皆に言った彼の評価は私の本心だし偽りはない。けど、“私立武学高校”を詳しく調べると、少し妙な裏話みたいなものが出てくる。

曰く、“表向きはガラと頭の悪い指定防衛高校だが、裏では有力な特殊工作員を育成している”だの、“生徒が死ぬような訓練をしている”だの、とても法的に認められない活動の情報がポロポロと見受けられるのだ。

1番驚いたのは、“選抜した学生を『遠征実習』と称して海外で人対人の戦争に従軍させている”というものだった。

 

(あんなに後輩を可愛がる周紀君に限って、そんなことはないだろうけど…)

 

一番確かなのは彼に直接聞くことだけど、こんな事、たとえ事実でも否定されるに決まってる。聞くだけ無駄なことだ。

それでも、何気ない時にたまに感じる彼が纏う空気が、そんな仕事をしていたかのように思ってしまう。

彼を信じる気持ちと、実は本当はと疑う気持ちが入り交じり、モヤモヤした思考と自己嫌悪に陥ったまま、私は眠りの海に沈んでいった。




あーい、早坂でーす。

長らくお待たせしました。本編最新話です。
ネタ集めに電子書籍で小説を読んでいたらこんなに期間が空いてしまいました。自衛隊が異世界で活躍するあの物語を書いた作者さんのタイムスリップ物を読みましたが、面白い作品でした。他にもバンドオブブラザーズを見たりしてました。………つまりサボってたってことです。サーセン_(:3 」∠)_
ちなみに本話中に登場する号令次は、『海』のものであって『陸』のものではありません。漢字も急いで書いたメモを見直したものなので、合ってないかもしれないです。そのへんはご了承ください。
年末の休暇も確定したので後は飛行機を取るだけです。実家に帰って上司・同期とサバゲにコミケが待ってるぜ!クリスマス?あぁ、ケーキ食う日だろ?

次回は外伝の方を更新するかもしれないです。当分先になるかな?

ではまたーノシ

2022.5.22.誤字を修正


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Mission:9

大変長らくお待たせしました。


 翌朝、朝食として配られた乾パンとソーセージを牛乳で流し込んだら(今日はしっかり配給された)、さっさとをテントを畳み先輩たちと合流する。

 演習2日目である今日は一日かけたフル装備行軍であるため、靴擦れを起こしそうな箇所にテーピングをし、銃を担ぐため肩にはクッション代わりに畳んだタオルを忍ばせる。

 もちろん“フル装備”であるため、武学高校のメンツは真夏にも関わらず学ランを着用している。

 一応夏用の薄めに作られているが、風通しがいいと弾丸も通すため涼しさなど皆無である。

装備に関してもいつものチェストリグではなく、防弾プレート(1枚10㎏×2)入りのコヨーテブラウンのプレキャリにMICH2002タイプのヘルメットとヘッドギアまで着けている。

 つまり何が言いたいかというと。

 

「あ゛つ゛い゛…」

 

シャレにならないレベルでただひたすら暑いのだ。

 

「周紀君、おはよう…って、なんで真夏に学ラン…?」

 

 先輩が困惑した表情に苦笑いを浮かべ至極まっとうな疑問を口にする。

 周りの学生も頭がおかしい人を見る目を向けてくる。

 

「いかんせんフル装備を指定されてしまいましたから…」

 

朝っぱらから汗だくでもうイヤになりそう…。

 

「先輩、本当に今日1日それで参加されるんですか…?」

 

凛に本気の心配をされてしっまた。

 

「当然。今に始まったことじゃないし、まぁ、やるしかないべ」

 

「最大の敵は脱水症状になりそうですね」

 

恵那が聞き覚えのあるセリフを言ってきた。

 

「それBOBのセリフだろ」

 

「わかるんですか!?」

 

「当たり前だろ、何回見返したと思ってる」

 

 通じると思っていなかったのか、オーバーに驚く恵那を横目に、話題についてこれていない2人に目を向ける。

 

「しっかり眠れたか?」

 

「エアコンのありがたさを身をもって知りました…」

 

「暑かったです…」

 

 慣れない環境で寝たせいで、しっかりとは休めていなさそうなご様子。ちょっと気を配ったほうがよさそうか。

 

「恵那が言った通り、脱水症状が最大の敵になる。口に含む程度に適宜水分補給をしろよ。あと携行食もな」

 

 声を潜めて塩飴やらカルパスやらをいくつか分けてやったら、みんな静かに喜んでた。

 自身の暑さを紛らわすために後輩たちに話しかけ、今日の行軍についていけそうか様子を探る。

 幸いにも多少の疲労はみられるが問題はなさそうだ。あくまでも、俺らのチームはの話だが…。

 周りを見ると危なそうな生徒がちらほら見受けられ、総じて経験の浅い1年生に多そうだ。

 

『行軍演習のチーム編成割を渡すため、各チームリーダーは指揮所テントまで。繰り返す…』

 

 他チームと合同で行うため、

 

「行ってくるわね。周紀君、少しの間この娘達をお願い」

 

「了解です。行軍の裏技でも教えておきます」

 

 笑顔で、「頼むわね」と言い残しその場を離れる先輩が戻るまで、俺はチームの1年生たちからの質疑応答タイムとした。

 「なんでも聞いていいぞ」と言った俺に対して、意外にも真っ先に恵那が映画の話題だとかを振ってきて盛り上がり、凛は状況に応じて進撃か撤退かの判断基準、鞠亜は前線での狙撃手の戦い方を聞いてきた。

 と、全体の話がひと段落したところで、珍しく黙って話を聞くだけだった未世が意を決したように口を開いた。

 

「あの!」

 

「お、おう。どうした…?」

 

近くからでかい声で呼ばれて少しびっくらこいた俺。どうしたんだいきなり…。

 

「銃を持ってる女の子は、恋愛対象になりますか!?」

 

 変わらず大声で叫ばれたおかげで、俺らだけでなく、その場の空気が凍った。

 

 

   ‡   ‡   ‡

 

 

 ちょうど行軍演習の説明とチーム割を受け取ってみんながいるところに戻るところで、朝戸さんの声が聞こえた。

 昨日、寝る前に話していたことを、まさかこのタイミングでストレートに本人に聞くなんてさすがに予想してなかったけど、ある意味朝戸さんらしいのかもしれない。

 少し離れたところから観察していると、突然のころで周紀君は何を言われたか分からないような顔をしている。

 これまで任務や遊びを共にして、彼は人の心をある程度表情と言動から予測できることを知っているから、朝戸さんが言いたいことは何となくでも伝わっているだろう。

 周りの学生たちも女子が圧倒的に多いせいか、黄色い悲鳴があちこちから響いてる。

遠くて何が起こったか分からなかった生徒も、次第に歪曲されていった伝言ゲームのおかげで勘違いしてしまっているようだ。実際勘違いではないのだが…。

 お互い後が続かず黙り込み、白根さんたちも周りのギャラリーも状況を見守るしか手がないなかで、どうしようか考えているときに。

 

『行軍演習の位置に並び替える。総員、所定の位置に整列。繰り返す…』

 

 沈黙を破ったのは、やっぱりというべきか、“大人”だった。

 この演習の後、告白しちゃうのかな?なんて考えたら、ほんの少しチクリとする。みんなのところに戻ると、一様に慌てたような態度で迎えられた。まるで存在を忘れていたような雰囲気だったから、つい周紀君にさっき聞かれたことについて、普段の朝戸さんみたいに少しちょっかいを出してみる。

 普段通りの冷静な対応で返されてしっまたけど、どこか、この人はわかっているんだろうな。という視線を向けられた。

 そして、その視線は、私の本心をも見透かしているかのような、静かだけど、鋭く、力を感じさせる視線で、思わず目をそらしてしまった。

 

(朝戸さん、ごめんね。私も、周紀君のこと…)

 

 ここから先を思い浮かべる前に、思考の外に追いやった。

 

 

   ‡   ‡   ‡

 

 

 さっきのは一体何だったのか。

 突然でかい声で恋愛対象を大勢の前で聞かれ、夏の暑さとは違う暑さを、主に顔面に感じてしまった。

 周りも告白が始まるのかと騒めきだし、逃げ場を求めていたタイミングで放送が入ってくれた。

 未世も「聞いてみただけです!」と答えていたが、あれは周りにいろいろと誤解をまき散らしただろう。説明して回るのが面倒そうだ。

 今日の行軍に関しては、演習場近くの山をチェックポイントを通過しつつ一周するというもので、順調に進めば夕方には帰ってこれるスケジュールだ。

 俺らのほかに2個チーム同行するようだが、当然ながら見知った顔はいない。何なら男も俺だけだ。

軽く挨拶を交わしてから行軍を開始して1時間が立つ頃には、最初はガールズトークに花を咲かせていた連中も次第に静かになり始め、『帰りたい』とか『シャワー浴びたい』とか不満が漏れ始めていた。

 先頭を歩く俺も、汗がにじんだ学ランと、プレキャリで擦れた肩の違和感を無視して、たまに後続を確認しながらゆっくりめのペースで進む。

 

「あと1㎞くらいで最初のチェックポイントだから、そこまで行ったら小休止にしよう」

 

 顔だけ後ろに振り向いて伝えると、やる気のないちらほら返事が返ってきた。

 我がチームメイトたちといえば、愛さんがみんなを励ましつつ何とかついて来れてるといった状況だ。

 

「周紀先輩はっ、こういうのっ、慣れてるんですかっ?」

 

汗で顔に張り付く前髪を鬱陶しそうにどかしながら恵那が聞いてきた。

 

「そらまぁ、山1週なんて、俺からしたらハイキングみたいなもんだ」

 

「これがハイキングって…」

 

 普段陸上部で運動してる未世も、フル装備の行軍はさすがに堪えるらしい。

 

「普段どんな訓練をしてるんですか?」

 

頬を伝う汗を拭うこともなく凛が問いかける。

 

「うちの学校は無人島を持ってて、1週間くらい籠って対抗チームと模擬弾撃ち合ったりしてるな」

 

「なんというか…、なんとも実戦的な訓練を日ごろからやってるのね…」

 

愛さんが言葉を選んで感想を言ってくれた。素直にクレイジーといってもいいんですよ?ルーキーズなんて引いてるし。…凛、参考になるなぁみたいな顔をするな。

 

「…その訓練、部外の生徒も参加可能ですか?」

 

「残念だができない。ていうか参加しようとするな」

 

『いい訓練になりそうなのに…。ねぇ未世?』と半ば本気で残念がる凛と、『巻き込まないでくださいよぉ』と、しんどさ倍増な表情を浮かべる未世のやり取りが滑稽で、後続のチームからも笑みが零れる。

 

「谷岳君は、なんで今年は地域巡回になったの?」

 

他チームの同級生からも質問が飛んできた。

 

「こればっかりは俺もよくわからんけど、大方戦力強化とか、お役所お得意の試行とかじゃないかな」

 

「今までどんな戦いを経験しましたか?」

 

「勝ち戦も負け戦も、痛み分けも経験してる」

 

 “負け戦”

 この言葉を聞いて、チーム全体の温度が下がった。

 国内の巡回だと、負傷者が出ることはあっても、殉学者が出ることは稀だろう。

 

「先輩でも、負けたことがあるんですか?」

 

 心底意外そうに凜が零す。

 

「…そりゃ何度も戦闘が起きれば、押されることだってあるさ。一時的に陣地を放棄して、援護砲撃に紛れて第二防衛線まで撤退ってな感じにな。…そういうときには決まって、【キュレーヴ】を含めた人型が複数居やがった。まぁ、詳しいこと聞きたければ休憩中にでも話すわ」

 

 そういって会話を中断した俺は、手元の地図に視線を落とす。

 忘れもしない。

 忘れられるわけがない。

 会話ではある程度誤魔化したが、俺たちは一度だけ、決定的な敗北を経験している。

 その戦いでは俺はまだルーキーだったが、一夜にして指揮していた先輩や、主戦力である生徒の半数が戦死した。

 それもこれもすべては、責任を取ろうとしない大人のせいで。

 

(今は余計なことを考えるな。演習に集中しろ)

 

 深く息を吸って呼吸と感情を整えた俺は、木漏れ日に照らされる山道を進み続けた。

 

 

   ‡   ‡   ‡

 

 

 その一年生は特に他意はなく、雑談を振ったのだろう。

 だが、帰ってきた返事の中にあった、国内にいればまず聞かない“負け戦”の話。

 そして、授業でしか聞いたことのない“キュレーヴ”という存在。

 一番先頭を歩いているから分かりにくいかもしれないけど、それでも無駄話のように語る彼の背中からは、仲間を失った悲しみと、仲間を殺された憎悪の感情がにじみ出ていた。それに気づいたのは、チームメイトである私たちくらいであったけど…。

 彼について知りたいと思うことは私だけじゃなく、みんなが思ってることだけど、思わぬ地雷を踏みぬいてしまうリスクも大いに孕んでいることを私たちは再認識することとなった。

 そして、今の過去話は、ほんの一部にしかすぎず、彼が戦い続ける本当の理由を知ることになるのは、そう遠くない未来であることを、この時の私たちは知らないのである。




こんばんは。早坂です。
長いこと放置してしまい申し訳ないです。
とりあえず手直ししたり付け足したりして仕上げました。
今話で没案になったりした小話や伏線は別の話でつなげたいと思います。

早いことで私も兵卒から下士官となってしまいました。
部隊で見聞きしたことや経験したことを多少ネタにしつつ今後も書き続けたいと思います。
頑張って終結まで持っていくので、見守っていただけたら幸いです。

ではまたーノシ


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Mission:10

行軍訓練中の話は終わりです。
話作るの楽しいけどムズイ。


 最初のチェックポイントにたどり着いた俺たちは、到着の連絡を本部に届けたのち、小休止に入った。

 10分程度しか休ませてやることはできないが、このまま動き続けるよりはだいぶましだ。

 チームとか特に関係なく、ある程度固まって座り込んだ1年生の中には、足を気にしている者もいる。おそらく早くもマメか靴擦れでもできたか。

 それに気づいた先輩が絆創膏と軟膏を出して手当をしていた。

 

「ありがとうございます。先輩」

 

「演習なんだから、助け合わないとね」

 

 他校や他チームとの交流があまりないため、こういう機会は本当に貴重だと思う。

互いにもいい刺激になるし、何より顔見知りが増えることはいいことだ。

 

「そういえば朝戸ちゃーん、今日の朝あの先輩に告白紛いのことしてなかったー?」

 

 負け戦の話でもしてやろうかと思ってた矢先、隊列の殿を務めるチームの1年生が未世に話しかけたというか、不発弾を掘り起こしてきた。堪忍してくれ。

 

「へ?…うぇぇ!?あれは別に告白じゃなくて、単純に私たちみたいな銃を持った女の子は恋愛対象になるのかを聞きたかっただけですぅ!」

 

 あの慌て様。完全に天然を発動していただけだったらしい。

だが、この質問で自分がなにをしたか理解したご様子。時すでに遅し。

 花の(武装)JKが10人以上も集まればそれはそれは喧しいことで、すっかり恋愛トークに花が咲こうとしている。

 

「谷岳せんぱーい、どうなんですかー?」

 

 気配と姿を消そうとしていた矢先に見つかってしまった。

はぐらかしたりするのもらしくないし、答えておくか…。

 

「個人的には、なるかならないかで言ったら恋愛対象にはなるけど…」

 

『おぉ』と、まじめに答えてくれたのが意外だったようで、いいことを聞いたといった感じの反応だった。

 

「ちなみに武器を持って歩いてる女の子を怖いと思ったことはありますか?」

 

今度は未世が聞いてきたが、なぜそんなことを聞く?恵那に軽く睨まれてるがなんかあったのか?

 

「一度もないな。助けられたこともあるし、そんなこと口が裂けてもいえねぇよ」

 

旧市街地の一件とかな。

 

「みんな、そろそろ時間だから、支度しましょう」

 

 静かに会話の行く末を見守っていた愛さんがそう言うと、全員がいそいそと準備を始める。

 

「ありがとうございます」

 

「いいのよ。気にしないで」

 

「正直助かりました。このまま無限に話が続くんじゃないかと思って、どこで切り上げるか考えてたところだったので」

 

「女の子は共通の話題があるとすぐ仲良くなって話し込んじゃうから、こういうことは任せて」

 

「了解です。頼らせていただきます」

 

 愛さんと短いやり取りをして隊列と残留物がないか確認して出発する。

 

 行軍中は基本私語厳禁だが、夏の暑さと早くも溜まり始めている疲労を紛らわすためにも、自由にさせることにした。ただし教官がいるところでは静かにする条件で。

 その後も第2、第3チェックポイントまで順調に進み、次のポイントで昼食となった。

相変わらず休憩中はいろんな雑談に花を咲かせているが、昼を過ぎてからは口数も減り、しんどさが目に見えるようになってきた。ペースも落ちてきているように感じる。

 二番手を歩く恵那に『そのまま進め』と指示をして、隊列の動きを止めることなく、俺は遅れ始めてきた殿チームの様子を見に行く。

 

「大丈夫そうですか?」

 

「荷物を持ってあげてるけど、それでもちょっとしんどそうかな」

 

横目で確認すると、前後の生徒に励まされながらなんとか付いてきている状態のようだ。

件の1年生の隣まで移動して直接声をかける。

 

「もう半分は過ぎてるから、頑張れ」

 

「はい…、足引っ張ちゃってすいません…」

 

泣く一歩手前みたいなか細い声でぽつりと零す。

 

「足を引っ張ってるなんて思ってないから安心していい。それより、めまいとか、熱中症の症状が出てきたらすぐ言ってくれ」

 

『あとは頼むぞ』と荷物を持ってる生徒に伝えて先頭に戻る途中、愛さんから『ありがとう』と言われた。これが俺の今の役目ですよ。

 幸いにも時間には余裕があるから、次の休憩は時間を長くとろう。

 励まされ、時には背中を押されたりしながら進むことおよそ2時間。何とか休憩できる地点までたどり着いた。

 

「大休止、30分」

 

え?そんなに長く?って反応されたけど、タイムスケジュール上これ以上早くなると下手したら先を歩く班に追いつてしまう。

 

「装備を外して一度身軽になれ。プレキャリを着たままだと休まらんぞ」

 

「はい…」

 

元気のない返事だが、声を出す余裕があることを確認して我がチームの相手もしてやる。

 

「調子は?」

 

「アイスが食べたいです…」

 

「こんな時にもアイスって…」

 

未世の戯言に恵那が呆れている。

 

「少なくとも演習が終わるまでは我慢ね」

 

軽機関銃を二脚を展開して地面に置いた愛さんが、大粒の汗を拭いながら言う。

 

「未世、塩飴舐めるだけでも全然違うよ」

 

「おいしいですねぇ」

 

事前に渡した塩飴を口に放り込んだ凜と鞠亜。活用しているようで大変よろしい。

 

「鞠亜、その飴がおいしく感じるということは、脱水症状になりかけてる証拠だ。多少多めに水分を摂れ」

 

そうは言うがこの場にいる人間で塩飴を不味く感じる奴はいないだろうな。

 

「お前たちも装備外して休憩しろよ」

 

そう告げてから少し離れた全体が見える位置に腰を下ろして、俺も装備を外す。

 ポーチから乾燥梅のタブレットを取り出して一粒舌に乗せる。

その瞬間、濃厚な梅干しの香りと、その数倍の酸っぱさが口いっぱいに広がった。

 水を一口飲んで再度地図を開き現在地点を割り出すと、すでに行軍ルートの三分の二以上まで進んでいることを確認した。

やっぱり予想より早く進んでいたことに、『ペースが速すぎたか』とか、『休憩時間が短すぎたか』とか一人で考えていると、殿チームと中堅チームのリーダーを伴って愛さんが近寄ってきた。

 

「周紀君、今いい?」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「後輩たちを気に掛けてくれてありがと。本当に助かったわ」

 

「本当に。わざわざ列外に来てまで様子を見に来る人なんて今までいなかったし」

 

「え、あぁ、いや。そんな礼を言われるようなことでは…」

 

愛さんに無言で促されて一歩進んだリーダーたちに礼言われてしまった。

 

「さすが外回りで鍛えられてるだけはあるね。体力面も雰囲気にも気を配ってて」

 

手放しにここまで感謝されることがあまりない身としては少し照れる。

 

「一緒に行動するからには全体を見ておかないといけませんから。チームを引っ張っていくからにはこれくらいは」

 

「謙遜しないで。私たちはこの演習も今年で3回目だけど、今まで自分のチームの面倒を見るのが精いっぱいで、そこまでする余裕なかったし」

 

「噂の武学の生徒がいるって聞いてどうなるかと思ってたけど、頼れるリーダー格でよかったわ」

 

『今からでもウチに移籍してほしいくらいよ』と、半ば冗談のように語っているが、表情から察するに本音も交じってるようだ。

愛さんもそんな俺を見て、自分のことのように嬉しそうにニコニコしている。

 

「こうやって隊を率いるのは初めてじゃないのね?」

 

「はい。戦地では分隊長やってました。…何度か小隊長もやりましたね」

 

非合法な任務も含めてだけど。

 

「おぉ。道理で。私たちよりもよっぽど経験豊富なわけだ」

 

「噂も本当のことなの?」

 

「一応聞きますがどんな噂ですか?最近尾鰭がついた噂と名前が独り歩きしてるようで…。」

 

「二人でイクシスの群れを撃退したって話。格闘で何頭か仕留めたって聞いてるけど」

 

「私のところでは一人でK9の群れを血祭りにあげたって話が広がってるよ」

 

最初はともかく最後は脚色しすぎだろ!どこのコマンドー大佐だよ!

 

「時系列が混ざってますね。旧市街地で追いかけ回されて、追いつかれたので何頭か返り討ちにしましたけど、別に血祭りには上げてません…。国内配置が決まった後の地域巡回中に、相棒と10匹程度のK9を撃破しただけです」

 

「私たちの常識では二人で10頭も倒すって時点で規格外なんだけど…」

 

「近接戦で勝ったのも本当なんだ…」

 

「位置取りと装備の使い方次第で誰でもできますよ。そんなに難しいことじゃありません」

 

少し引き気味の苦笑いを浮かべる先輩二人。

 

「普通の人はできないからねそれ。関東最強と名高い椎名さんレベルでしょ」

 

「ねー。でも谷岳君たちの話を聞くと、私たちが知らないだけで、強い人はたくさんいるんだね」

 

『やっぱ外回りはレベル高いなー』なんて雑談をしているうちに時間となり、愛さんに促されて二人は戻っていった。

 全員が装備を身に着けたことと、体調に異常がないかを確認して出発する。

その後の道のりは至って順調で、時間管制どおりにチェックポイントを通過。

集合地点には規定時間の30分以上前には到着することができた。

ちらほらほかのチームが帰ってくるのを見守っていたが、肩を貸されたり、荷物を持ってもらったり平穏に終えることができたチームは少ないようだ。

 

「これで行軍訓練を終了する。別れ《わかれ》!」

 

 野営地まで戻ってきたところで今日の訓練の終了が宣言された。はぁ疲れた。

 

「みんなお疲れ様。銃の手入れが終わったら、今日はすぐに寝ましょうね」

 

『はーい…』と気だるげな返事を返した未世たちはふらつきながらもテントへと歩いてゆく。

俺も詰襟のホックを外し、シャツをはだけさせて後を追おうと歩き始めたら、となりに愛さんが並んできた。

 

「今日もありがとう。一緒の分隊長たちも本当に感謝してたわ」

 

「いいんですよ。流れでペースメーカーやりましたけど、俺も時間配分とかいろいろ考えさせられる一日でした」

 

「十分配慮してくれてたと思うけど、気になることでもあった?」

 

「殿チームの1年生が危うく脱落するところでした。もっと早くから全体の様子を見ておけばよかったです」

 

「あの時分隊長の子も言ってたけど、普通は自分の分隊員で精いっぱいで、そこまで面倒は見切れないものよ。むしろ初対面のあの人数をいきなりまとめ上げる人なんて初めて見たわ」

 

「そうなんですか?まぁうちの学校は臨時編成で派遣されたりすることがよくあるので、その経験が生きましたね」

 

「経験か。…経験といえば、“負け戦”について聞いてもいいかしら?」

 

 いつもの優し気な雰囲気を保ったまま、あの後結局誰も聞いてこなかったことを問われる。

 

「あぁ、“第72次派遣隊”は聞いたことありますよね」

 

 

   ‡   ‡   ‡   

 

 

 周紀君の口からその言葉を聞いたとき、私は思わず立ち止まってしまった。

入学したばかりの1年生ならともかく、2年生以上なら必ず知っている“事件”だ。

 陣地構築のために西アジアの某国へと派遣された先遣隊155名の学生と教官配置の自衛官が、突如出現した大型ネストからあふれ出たイクシスの大群の襲撃を受け、殲滅に等しい被害を出した。

救援を呼ぼうにも最悪のタイミングで発生した砂嵐の影響で無線と衛星の電波が遮られ、襲撃を受けていることまでしか伝えられず、通報を受けたアメリカ海兵隊が駆け付けたころには、生存者は27名。五体満足で生還し、まだ戦っている生徒は10人もいないという話だ。

 生還した学生は、『文字通りこの世の地獄だった』とだけ零し、口を噤んでしまったという。

 この事件が報道されたとき、指定防衛校に通う学生は、自分がそうなるかもしれないと気が気ではなく、私も恐怖に震えた一人でもある。

 

「あなたが…、生き残りの一人なの…?」

 

平常心を保とうとしたが、少し声が震えてしまった。

 

「まぁ、そんなところです」

 

「…ごめんなさい。…軽々しく聞いていい話じゃなかったわ…。本当にごめんなさい…」

 

「知りたければ話すといったのは俺ですから、気にしないでください。まぁ未世たちには少し刺激が強すぎるかもしれませんがね」

 

 そうい言いながら歩き始めた彼の数歩後ろを私はついて行く。

 テントの近くでは一足先に装備を下ろした未世ちゃんたちが座り込んでいるのが見える。

 

「せんぱーい!どうしたんですかー!」

 

疲れているだろうに、無邪気な笑顔で私たちを呼んでいる彼女たちがこのことを聞いたら、どんな反応をするだろうか。

 

「愛さん、行きますよ」

 

「…っ!ええ…」

 

 振り向きざまに見えた、彼のはだけたシャツの下。その胸元には、鋭い刃物で切られ、抉られたような傷跡が、一瞬顔を出した。




こんばんは。早坂です。

本当はこんなシリアスな終わりにする予定じゃなかったのに、気が付いたらこんなことに…。どうして…。 

外回りの話もぼちぼち進めていこうと思ってます。
一応今回話しに出た72次隊事件までを描く予定です。

次回からはついに最終日の戦闘演習になります。
こちらもオリジナル展開になる予定ですのでお楽しみに!

ではまたーノシ


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Mission:11

今話から戦闘演習が始めると言ったな。あれは嘘だ。


 親の弁当より食った戦闘糧食(エサ)を水で流し込んでシャワーを浴びた後、翌日の演習内容とシナリオが記された紙をみんなで囲んで読み合わせる。

 

「ほぉ、これはこれは」

 

最終日にしてなかなか面白い内容じゃないか。

 

「む……、無理ですよう……!椎名先輩や桐子さんまでいるチームに、か、勝てるわけないじゃないですかぁ……」

 

半泣き状態で鞠亜が声を上げた。

 

「確かに、かなり厳しいわね……」

 

恵那も険しい表情で同意を示す。

 相手にとって不足はないが、ルーキーだらけのこのチームじゃ少々心もとないのは確かだ。

 

「戦闘に絶対はない。作戦と立ち回り次第じゃ、ジャイアントキリングも狙えると思うぞ」

 

「その通り。やってみなければわからないわよ。実際の戦場では何が起こるかわからないんだもの」

 

 俺と愛さんの励ましにもいまいちな反応を見るに、俺らの言葉は届いてはいるが響いてはいないようだ。未世たちにとってはまさしく雲の上の存在と戦うと言っても過言ではないのだろう。

 地図を見ながら侵攻ルートを考えていると近づいてくる集団がある。ん?あいつらは…。

 

 愛さんの『お手柔らかにお願いするわね』から始まるある意味宣戦布告に近いやり取りをする。

てか未世は椎名にも自分の夢を話してるのかよ。無敵か。まぁ、ある意味無敵か。

 

「そっちのお前はどう考えてんだ?こいつの考えってやつ」

 

気づかれないように装備の分析をしていたところで、芙蓉(だったか?)が俺に話を振ってくる。

 

「考えの内容はどうであれ、そのために強くなろうとするのなら、手助けしたり守ってやるのが先輩の務めってものかと」

 

「……望月の野郎もそうだが、聞いてた話とは違って案外まともなんだな…」

 

ポロっと言ってしまった伽鳥先輩に対し『ひどい!』と一番後ろにいたにも関わらず飛び火した望月が声を上げ、表情筋を微塵も動かすことなく椎名が俺を見据える。

 

「そんなすべての実を拾うようなことが本当にできるとでも?」

 

「確かに俺も望月《アイツ》も現実ってやつを散々見せてけられてきたさ」

 

合法非合法問わず、いろんな作戦に従事してきたからな。

でも、可愛がってる後輩を目の前でけなされて黙っているほど、俺は利口じゃねぇ。

 

「それでも、何も考えずに漠然と銃を持つよりは、自分の考えとか夢ってやつを追い求めようとする後輩がいるなら、降りかかる火の粉くらいは払ってやるさ。その先にどんな答えが待っていて、それを受け入れるかどうかは本人次第だがな」

 

「そう…」

 

俺の回答に満足したかは知らないが、俺とは反対に短く答えてもと来た方向に振り替える。

 椎名に続いて帰ろうとする連中の背中にさらに声をかける。

 

「明日の戦いを楽しみにしてるからな。首洗って待っとけよ!」

 

 この言葉に振り返ったのは望月のみ。ほかのチームメイトたちは本気と受け取っていないのか、無反応で帰っていった。

 ふと視線を感じて振り向くと、みんな俺を見てる。なんで?怖。

 

「さすがね。あの椎名さん相手にあそこまで言える人はそうはいないわよ」

 

愛さんがニッコニコしながら拍手してくる。

 

「…不覚にも、少しかっこいいと思ってしまいました」

 

「周紀先輩…!かっこよかったです…!」

 

「えぇ…、突然どうしたんだ一体?」

 

静かな未世に目をやると、嬉恥ずかしという感じの顔で少しモジモジしていた。

 

「…庇っていただいてありがとうございます!…その、とてもうれしかったです…!」

 

「あー、まぁ、でも、まだまだ実力不足なのは間違いないからな。そこは精進しろよ?」

 

 なんか急に気恥ずかしくなってきた。

 

「もちろんです!うん!なんかやる気出てきた気がします!」

 

「……勝ち負けとか関係なく、思いっきりぶつかってみればいい。こっちは失うモノは何もない」

 

 愛さんが未世の負けたくないという意志を再確認すると、意外なことにお通夜ムードに近かった全体の士気が上がっている。こりゃ椎名に一杯食わされたか?『顔と名前を覚えた』ってのはあながち嘘じゃなく、それとなく気に掛けてますってことなのか?そこまで考えているようには見えなかったが…。

愛さんも同じことを考えていたようで、お互い顔も見合わせ、笑みを浮かべた。

 

 

 

   ‡   ‡   ‡      

 

 

 

 (首洗ってまってろか)

 

 帰り際にシュウが投げかけた言葉。

あんなこと言ってくるなんて、ヤツも本気で来るかもな。

 

「わざわざあんなことを言いに行くなんて、らしくありませんわね」

 

「別に」

 

椎名さんの性格的に冷やかしなんてやらないだろうし、純粋に気に掛けているのか、それとも事前偵察のつもりだったのか。

 

「彼女、そんなに気になりまして?」

 

「気にならないといえばウソになる。でも、単に見ていて危なっかしいと思うだけ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 蓮星さんの問い詰めを聞く限りどうらやら前者のようだ。案外人間らしい一面もあるもんだな。

 

「是非、そうであってほしいね。アタシは絶対負けたくねぇんだ、変に手心を加えるような真似をされても困る。アンタもな、後輩に甘そうな伽鳥先輩」

 

「あ?手加減なんかしねぇよ。実力以上の自信なんか持たせたって本人のためにならねぇんだ。全力でやるさ」

 

芙蓉さんを一睨みして叩き潰す宣言しおった。さすがっす。

 

「わかる。ボクもそう思うし、なんかこう、可愛がってる後輩が全力でぶつかってくるって思うと、ちょっと萌える。そういう意味では、椎名さんのさっきの煽りにはすごくイイネをつけたい」

 

と言うものの、周りから同意が得られずむくれる沢城氏

 

「言いたいことはなんとなくわかるような」

 

「変態め」

 

「なんでぇ!?」

 

伽鳥先輩に突っ込まれた。なんか俺だけ扱いがひどくなってない?

 

「それはそうと、最後のアイツが言ったこと。相棒のお前はどう考えてんだ?」

 

「首洗って待っとけってヤツですか?そのまんまの意味だと思いますよ?」

 

「やりずれぇのは間違いねぇんだけど、オレら相手にずいぶん大見え切ったもんだよな。感心したわ」

 

そういって悪い笑みを浮かべる芙蓉さん。

 

「彼が一番のダークホースにして要注意人物ですものね」

 

「シュウが作戦前にあそこまで感情を出すのはあまり見ないので、警戒したほうがいいっすよ。油断したら、本当に首を狩られます」

 

 おそらくみんな、軽い挨拶程度に思っていて、まじめにとらえていなかったのだろうな。

俺が珍しくガチトーンで言うと、チームから笑みが消えた。

 

「実際どうなのでしょうか?彼の実力は。私たちは噂しか聞いていませんけども、間近で見てきたあなたの意見を聞きたいですわ」

 

「……、たとえ最後の一人になったとしても、最後まで生きて戦い抜くように俺たちは教育されてます…」

 

 言葉を選んで答えようと思った矢先、芙蓉さんに遮られた。

 

「お前、今更情報を出し惜しみするような真似はすんなよ?さっきも言ったが、オレは負けたかねぇんだ。この際お前の戦闘経験も含めて全部教えろや」

 

 いつもよりドスの効いた声と射貫くような視線を向けられる。

 

「チームで勝つにはお互いの信頼関係はとても重要ですわ。この中で一番情報がない望月さんの配置を決めるためにもお願いします」

 

 蓮星さんにも懇願されてしまった。

別に隠し通す気はなかったけど、ここまで言われちまうとちょっと後ろめたい気持ちが出てくる。

 

「公式に発表されるまでは、このチーム内での秘密にしていただいても?」

 

柄にもなく敬語が出てきたことで、聞く側にも真剣みが増す。

 視線で同意を受け取って、少しづつ話始める。

 

「…武学には、選抜された学生で構成された部隊があって、俺たちはそこに所属していました」

 

 俺とシュウ、波瀬と関口も所属していた、学徒連合。

 海外の最前線中の最前線へ投入される部隊であり、派遣されていない間は、一般生徒は参加できない過酷な訓練や、外国正規軍と合同で訓練をしたりと、学生の領分を超えた戦闘部隊として機能している集団に所属していたことや、その過程で、キュレーヴが指揮するイクシス拠点をいくつも破壊していることなど、話せる範囲の“合法な”任務内容を話した。

 すべて話し終わった後のメンバーの表情は、みんな苦い顔をしていた。

 

「お前の話が本当なら、やべぇやつらどころの話じゃねぇ。ほぼ国家正規軍と同等の能力があるってことじゃねぇか」

 

聞くんじゃなかったとでも言いたげな反応の芙蓉さん。アンタが話せって言ったんでしょうが。

 

「お前、よくそんな部隊にいて今まで無事でいられたな…」

 

信じられないものを見るかのような視線を向けられ、クソデカいため息が出る。

 

「もちろん毎回無傷で大勝利ってわけじゃありませんでしたよ」

 

「それだけ転戦していれば相当消耗率も激しかったのではありませんか?」

 

「計算する気にもならなかったですが、小隊の半数が死傷するなんてザラでしたね」

 

「…部隊壊滅がザラって……、正気の沙汰とは思えませんわ…」

 

「………狂ってる…」

 

声に怒りを滲ませる蓮星さんと椎名さん。俺もそう思う。

 

「こんな感じで俺もヤツも修羅場はいくつも潜り抜けてきてるから、常識なんてものが通用するとは思わないほうがいいかもなぁ」

 

 他にも何か言いたげな様子だったが、ここまでで話を切り上げる。

 あんまりしゃべりすぎて、余計な事まで言ったらマズイからな。

 この後の作戦会議は隊長を蓮星さんとして、俺と椎名さんを敢えて遊撃に回すか、守るか攻めるかとかを話し合って解散となった。

 俺は攻勢に出たほうが戦いのペースをつかみやすいという理由から、芙蓉さんの意見に同調したら、『さっすが!わかってんな!』と背中をバシバシたたかれた。結構痛かったけど、もしかしたら芙蓉さんなりの気遣いなのかもしれないと思って、少しオーバーにリアクションをしておいた。

コロコロ笑う蓮星さんとケタケタ笑う沢城さん、対照的にまじめな顔で考え込む伽鳥先輩の輪から少し外れたところで、椎名さんは先ほどの怒りはどこへやら、地面の雑草をぼーっと眺めていた。

 

 

 

   ‡   ‡   ‡

 

 

 

 宣戦布告のあと、みんなで輪になり銃をFX弾ようにパーツを組み替える。

 ちなみに今回の演習で俺が持ち込んでいるのは416とVP9だ。二つとも私物だが、武学の標準と言っていい装備である。

 416のパーツ交換を終え、拳銃をバラすところで未世たちに視線を向けると、愛さんと鞠亜もグロックを使ってるようで盛り上がっていた。

 凛と恵那はSIGのようだが、恵那のは時代遅れも甚だしい220だった。いい加減更新しろよ自衛隊。

 

「周紀先輩の拳銃は何ですか?あんまり見たことないような…」

 

「俺のはH&KのVP9だぞ」

 

「最新鋭のストライカー拳銃じゃないですか!」

 

 恵那が食いついてきた。

 

「前にも言ったけどうちの学校はH&Kと提携してるから、こういった装備も優先的に買わせてもらえるんだよ」

 

「え、それ私物なの?」

 

「今日持ってきてる装備は全部私物ですよ」

 

「416もですか…」

 

「おう」

 

 拳銃の時は無反応だった凜が恨めしそうにこちらを見ている。特殊戦科だから、特殊部隊御用達の銃には憧れがあるのかな?

 あまり装備に詳しくなさそうな鞠亜と未世は頭の上に?を浮かべているが、会話の内容から俺の装備がかなり高価なものであることは察しているようだった。

 

「任務で稼いで余裕ができたら装備をちゃんと整えな。形から入るのも結構だが、ある程度実戦を経験してから自分に合った装備を変えことを俺は推奨するかな」

 

 ああでもないこうでもないと装備論争が白熱しそうな気配を感じて、俺の考えを言うと、愛さんも『使い慣れた装備が一番』と付け足してくれた。

 会話をしながらも手は止めずにいた俺と愛さんは早々に組み立てを終えて、手を洗いに行き、戻ってくる頃には、未世たちも終わったようで作戦会議に移る。

 地下鉄構内の見取り図と周辺地図を広げて先ずは状況整理から入った。

 

「ここが三番線ホームね。この場所を任務終了の時点で占拠しているか、敵チームの全滅が私たちの勝利条件よ。制圧の定義は、相手チームより多い人数がホームに生存していること」

 

「見た感じ、侵入ポイントは階段が3か所とエレベーターが1か所か。意外と多いな」

 

「エレベーターはこの時間、電源が入っていないのでルートとしては使えないと思います」

 

「恵那、それは違うぞ。確かにエレベーター自体は動かないが、扉だけは、コツがいるが手動でも開けられるようになってる。災害だとかで停電したときに開けられないと救助できないからな」

 

「そうなんですか?」

 

「それは初耳だったし盲点だわ。使えるかもしれないわね」

 

思案顔の愛さんを見て俺の見立てを説明する。

 

「今回の演習の最終目的は狭いホームの占領だから、相手が無難な作戦をとるとしたら、ホームに至るまでのルートを塞ぐとかして、侵攻ルートを限定して待ち構えてるだろうな。俺ならそうする」

 

「ホームへのルートは三つで、駅への入り口は4か所もあって守りにくいですけど、実は改札は1か所しかありませんよね。あたしならここに陣取るかなって思います」

 

「いいところに目を付けたな。普通なら、そうするだろう」

 

「普通でない作戦をとってきたとしたら、どうなるんです?」

 

「望月と椎名、この二人を遊撃に回して攪乱。隊列が乱れたところで総攻撃を仕掛けて一気に殲滅だ」

 

嫌な想像でもしたのか、『う…』と一年生たちが不安な表情を見せる。

 そして、鞠亜は今思い出したようで、相手のスナイパーにして鞠亜の先輩にあたる沢城さんは恐ろしいほど勘がいいらしい。スナイパーの勘は馬鹿にはできないな。蓮星さんも随分頭の切れる人材のようだし、俺の実力を知る望月もいるから、一筋縄ではいかないだろう。

 

「あー、もー、どこから攻め入っても待ち伏せされて酷い目に遭う未来しか見えなくなってきましたー」

 

考えれば考えるほどドツボってきた未世たち。慣れなきゃそうなるよな。

 

「大丈夫、相手も人間よ。必ず付け入る隙はあるわ」

 

「その通りさ。完璧な作戦なんてありえないんだ。どこかに必ず穴はある」

 

「……想定イクシスなのでは?」

 

「変わりゃしないさ。実際、海外の戦地だと、“キュレーヴ”が指揮する群れを相手にすることなんてザラにあるからな」

 

「イヤすぎますね……、考えたくないです……」

 

「とにかく、警戒するのはいいけど、過度に恐れるのは逆効果よ。まだ時間はあるし、怖がらずじっくりと作戦を練りましょう」

 

 愛さんがまとめてくれたところで、今日のところは一旦お開きとなった。

 はっきり言ってこのチームでは実力不足は否めない。

それでも必死に足掻こうと、一泡吹かせてやろうと頭をひねる後輩たちを見て、先輩としてどうしても勝たせてやりたいと強く思し、勝負をする以上俺も負けたくはない。

 

(一番の懸念事項は、望月と椎名か…)

 

 一人用テントのシュラフの中で、物思いに耽る。

 あの二人の存在は厄介だ。早々に処理しないと、長引けば長引くほどこっちが不利になる。

 

(どうにか分散させて各個撃破に持っていけないだろうか)

 

 一人で作戦を考えている間に、自分でも気づかないうちに意識が睡魔にのまれ、眠りに落ちていた。




こんばんは。仕事の資格(グレード)UP試験に合格したのと、仕事の競技が終わったのでストレスから解放されてハピハピ状態の早坂です。
あまりのストレスからあれだけ拒否していた煙草に手を出してしまい、上司から不良になったと言われてしまいました。
2か月吸ってすべて片付いたら禁煙しようと思っていたのに、わずか4日で禁煙失敗…。どうやったら止められるの…?

さて、今話から戦闘回にしようと思っていたのですが、原作を読み返したらまだ小話があるのに気づき、ちょっとカットするのが難しそうだったので追加しました。
ついでに望月チームのメンバーにも過去話を通じて武学の本性がチラ見えする回となりました。まったく酷い学校だよ武学高校は。

次回からは戦闘回になります。どんな作戦で仕掛けるかお楽しみに!

ではまたーノシ


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外回り
Mission:1


視点は相変わらず谷岳君で、1年生だった頃の話です。
こちらは読まなくても問題なく本編をお楽しみいただけます。


砂煙を巻き上げながら深夜の砂漠を走るトラックに揺られて、もう2時間は経つだろうか。

普段移動中は無駄口を叩いて騒がしい連中も、珍しく大人しい。

 

「下車用意」

 

抑揚のない男の声に反応して、全員が薬室に弾を込めて戦いの準備を整える。

 

「……今」

 

終始変わる事がなかった感情が感じられない声音を聞いた俺達は、トラックが止まった瞬間、扉を開けて素早く、かつ音を立てずに飛び降りる。

外の景色を見る事が許されていなかったため、集結地点の近代的な空港から、突然そこそこの規模がある砂漠の集落に景色が変わったことに軽く驚くが、余計な感情を捨てて建物の影に身を潜める。

 

《イーグルよりフォックス各員、配置完了を確認した。通信チェック、送れ》

 

荷物を下ろしたトラックが走り去るのを横目で見ていたところに、無線で通信が来る。

 

「フォックス1から5、感あり」

 

《フォックス6から10、感あり》

 

《フォックス11から15、感あり》

 

《了解、全ユニットからの通信を確認した。状況を開始せよ》

 

カチカチと、通話ボタンを2回押して『了解』を示すと、ここから先も一切会話もなく進む。

目指す先にあるのは、真っ暗な集落の真ん中にある、一際明るい日干しレンガで作られた大きな2階建ての建物。

数週間前、中東やヨーロッパで猛威を振るっているテロ組織に占領され、強奪や虐殺があったこの集落は、今やそのテロ組織の補給拠点として機能している。

全員ブラックマルチカムの学ランの上から、同色のプレートキャリアーを着て、アサルトライフルやバトルライフル、スナイパーライフルを持ち、暗視スコープ越しに見える緑の世界を進んでいく。

日干しレンガの小さな無人の家の壁に張り付き、通りの様子を窺うと、人影が2つ、フラフラと話しながら近づいてくる。

後ろの仲間にハンドサインで合図し、家の角を通り過ぎるタイミングで俺ともう1人が同時に2つの影に襲いかかる。

口を塞ぎ、影が持っている武器を押さえて首を切り裂くと、穴の空いたホースから水が漏れ出すように血が吹き出てくる。

無人の民家に出来上がった2つの死体を隠し、更に敵の拠点に近づく。

今回初参加の仲間は少し震えているようだが、気にしている暇はない。この作戦は、スピードが命なのだ。

 

(ここがヤバい学校だって知ってはいただろうけど、まさかこんな仕事までやるとは驚きだろうなぁ)

 

“1人”を切り殺した感触を思い出す。川の流れのようにこなせるようになった自分の成長を褒めるべきか悲しむべきか。

何を隠そう、今日の敵はいつものイクシスではない。“人間”なのだ。

 

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

「諸君らの入学を歓迎するとともに、今後の活躍を期待します。以上!」

 

体育館に並べられたパイプ椅子に座って理事長の演説を聞き流すこと約5分。人によってはもっと長く感じている人もいるだろうけど、左手首につけた入学祝に兄から送られた軍用腕時計で時間を確認した俺は、眠気でコクコクと頭を揺らしてる奴だらけの中で数少ないしっかり起きてる奴だった。

壇上を降りた理事長が着席して司会が閉会の言葉を言い、新入学生が割り振られた教室へ並んで向かう。

体育館と繋がっている武道場と部室棟の階段を上り4階へ上がり、渡り廊下を通って校舎へ移動する。

入学式の受付で渡された紙に書いてあるクラス表と教室前に張り出された座席表を見て、名前があることと席を確認して教室のドアをくぐる。

通常の指定防衛校は女子が内回りで男子が外回りという役目の違いのためクラスが分けられ共学なのに女子校や男子校のような雰囲気になりがちだが、この私立武学高校は、外回りに行きたいか、内回りに行きたいかを男女問わずアンケートを取り、成績や一身上の都合に問題が無ければ希望通りになるため、俺が希望した外回りのクラスにも少数だが女子生徒が見られた。

8列ある内の廊下から4列目の1番後ろの席に座った俺は荷物を机の左側に掛けて一息つく。

チラッと周りを見るが、全員初対面であるため会話はなく、小さな物音が響くくらいの静寂に包まれている。

時間になると担任が教室に入ってきて、軽い自己紹介の後、1人1挺づつ銃が手渡されていく。

『G36K』と『USP』の9mmモデル。ドイツ連邦陸軍の標準と言える装備が配られ、チェストリグやポーチの類も同時に渡された。

装備を既に持っている者は申請をした後その装備を使っていい事や、余裕が出来たら個人で銃を買っていいなど基本的な説明や武器の取り扱いの説明だけで午前中が終わり、クラスメイトで自己紹介をして1度銃を返納した後今日は解散となった。

色んな奴がいた。

銃を手に取り緊張する奴もいれば、テンション上がってその場で怒られた奴も。

むしろ、淡々と銃を受け取り席に戻った俺を、担任と教官は珍しいものを見る目で見ていた。そして、不意にあった目を見て、何か納得したような顔をしたのを覚えている。

実をいうと、俺は既に実戦を経験している。

5歳上の兄貴が高卒で先輩が開設したというPMCに入り、俺も中学1年の時から任務に付いて行っていたからだ。

もちろん俺が見学したのは最前線ではなく、旧市街地辺りの警備活動だったが、“戦い”というのもを実感するのには充分すぎるものだった。

基礎訓練を半年間ほど受けたあと、中1の秋に初陣を迎えた俺は、その時初めて生き物に対し引き金を引いた。

流石に吐きはしなかったが、気にしないようにしても思い出してしまって、何日間かは食が細くなった。

つまるところ、俺は周りの新入生と比べて2年以上キャリアが長いのだ。

 

「なぁ、お前、実戦経験してるだろ」

 

「そういうお前こそ」

 

と言ったように、そういう人間は多くを語らなくとも自然と察し合えるので、後に相棒となる望月や、クラスは違ったが戦友となる波瀬と関口ともお互いの経験や銃などの知識を通じて仲良くなった。

入学して2週間、ある程度この学校にもなれてきた頃、任務など2人1組で行動するためのペアを作ることとなり、周りが悩む中、俺は同じクラスであった望月と申請をした。

 

「お前達2人か、よかろう」

 

紙が配られて真っ先に担任に提出すると、やっぱりなみたいな顔ですぐに承認された。

 

「お前達は教官方も期待してるから、頑張んな」

 

「はい」

 

「うっす」

 

熱い言葉を貰って席につくと、先生が思い出したかのように爆弾を投下した。

 

「言い忘れてた。今回組むペアで、タッグマッチをやってもらうからそのつもりで。要するに、ペア以外は敵として、模擬弾で撃ち合ってもらう。成績とか、配置に関わってくるから手を抜いたりふざけたりはしないようにな」

 

静かだった教室がにわかに騒がしくなる。

少し離れた席に座る望月と目線を合わせ、面白くなってきたと2人で笑をこぼした。

 

 

‡ ‡ ‡

 

 

頭の片隅に残る入学したばかりの頃の記憶。

経験があったから周りより射撃も格闘も上手い自覚はあったし評価もされていたから、俺達は更に訓練を重ねて夏に行われた武学高校の総合テストでそこそこ優秀な成績を残した。

その結果が、“これ”である。

 

「こちらフォックス1、“お焚き上げ”は無事成功。エリアカラーブルー」

 

《こちらイーグル、…確認した。速やかに回収ポイントまで撤収されたし》

 

「フォックス1了解。終わり」

 

撤収を全員に伝え、集合してその場を離れる。

離れる前に、風に乗ってきた異臭に顔を歪めて最後にもう1度だけ燃え盛るモノを見る。

燃えているのは集落の真ん中にあった大きな建物。

そして、その建物を守るために配置されていた見張りの武装集団と、彼らの資金源である麻薬と密輸武器。

 

(イクシスと戦うつもりで入学したのに、人間とも戦うことになるとはね)

 

そこまで考えた後、深く考えることをやめて俺は仲間とこの場を離れる事に集中するため、銃を握る手に力を込めた。

ここもまた、人類の戦場なのだ。




こんばんは、早坂です。

機能テストと実践を兼ねて小話を少し挟んでいこうと思います。原作に追いついてストップしないための時間稼ぎとも言いますね。
その場の思いつき6割で書いているのでなかなか進まないと思いますが、こちらも楽しんで頂けたら幸いです。

この前Twitterを見ていたら今年の12月にようやく第2巻が発売予定のようです。文化祭回があると書いてあったので楽しみですが、1年に1巻ペースかぁ…(白目)
あと、個人的にイチオシのネット小説が今月遂にラノベ化して発売されるとあって、テンション爆上げでございます。リトアモも件のラノベも発売日が待ち遠しいです。
ちなみに銃は買えてません。土日祝日が休業という鬼畜すぎる営業形態のせいで平日の外出に制限がある身としては、実習が終わるまで諦めざるを得ない状況になってしまいました。まぁ、12月下旬くらいにはマルイがUSP9mmのガスブロを出すようなので、多少はね?(震え声)

とまぁ、そんな感じで進めていこうと思います。よろしくお願いします。

ではまたーノシ


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