脱線ばかりするIS (生カス)
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1話 ウーパールーパーて食えるの?

個人的には水煮にしたらいけるんじゃないかなと思います





指パッチィィン(満面のドヤ顔で)

 

話をしよう。あれは今から1ヶ月…いや、2か月ほど前だったか…まあいい(適当)

あれは私にとってはついこないだの出来事だが、君たちにとっては多分、「いや知らねーよカス」と言った感じの出来事だろう。え?ニュースで見た?あそう。

まあともかく、俺と友達の織斑は藍越学園の入試を受けるべく、試験会場に向かった。試験会場には72個の部屋があったから、(場所を忘れたので)どこに行けばいいのか…

たしか…最初に訪れた部屋は…IS学園。

あの時、場所を間違えてなければな…

 

 

 

(以下回想)

 

「なあ織斑、ここなんか違う臭くね?」

 

「ああ、何か誰もいないな。てかIS学園て思いっきり書いてたしな…」

 

「え?じゃあなんで入ったの?」

 

「名前似てない?」

 

「え?バカなの?」

 

「うるさいな…ん?これ、ISか…?」

 

「こっちにも…あ、織斑、あんま触んない方がいいんじゃねえか?変なスイッチ押しちまうかもだぜ?」

 

「まあ男には反応しないから、大丈夫じゃないか」ピトッ

 

「ハハハ、まあな…」ピトッ

 

 

キュイイイイイ

 

 

『認証を確認、起動シーケンスを開始します』

 

 

「「え、ウソやん?」」

 

 

(回想終了)

 

 

あの時ISに触りさえしなければな…まあ、織斑はいい奴だったよ

 

 

 

 

 

「ゲエー!?関羽!」

 

「誰が三国志の英雄だバカモン!」スパアァァン

 

「ファゴットッ!?」

 

 

…と、私は織斑教諭に出席簿でぶっ叩かれてる友人を見ながら、そう思うのでした。

ホント、どうしてこうなったんだろ…

 

 

 

--さて

 

 

 

話の本筋に行こう。ここはIS学園、みなさん知っての通り、今や世界規模でアレなことになってるISのことをお勉強する学校だ。説明がざっくばらんすぎるのは作者の知識のせいで俺のせいではないのであしからず。

 なんでここに俺と織斑がいるのか…まあ簡単に説明するとさっきの回想の通り、織斑も俺もISを起動しちゃって何やかんやでこうなったのである。ISとはみなさん知っての通り女性にしか使えないSDガンダムみてーなやつのことである。似てない?そう…

 まあそれを俺たち男子が動かしちゃったもんだから、世間は大騒然。MIBみたいな黒服が家に押し掛けてくるわ、俺たちは女の園に放り込まれるわ、友人は自己紹介で失敗し、ジェダイの騎士じみた姉にはたかれるわと散々だ。最後は関係ない?あそう。どうでもいいけどフォースまとってそうだよね、あの出席簿…

 

「まったく…またひと悶着あると面倒だ…佐丈、お前も先に自己紹介をやっておけ。まとめて殴るほうが効率がいいからな」

 

殴るの前提なんすね…だがその態度がいつまで続くかな?

 

「へい、わかりましたよ…」

 

織斑のときほどでないにしろ、女子の皆さんが期待を込めた目で俺を見てくる。織斑もまた、心配そうな目で俺を見てくる。フ…見ておけ織斑、角が立たず、丁寧な自己紹介というものを!

 

 

まず音楽プレーヤを置きます

 

スピーカ状態にします

 

録音したのを再生します

 

佐丈晴明(さたけはるあき)です。趣味は寝ることです。将来的にはセガサターンになりたいと…』

 

再生したのを確認したら、あとは寝るだけ

 

 

 

そう言って俺は再び机で寝た。そこかしこから「えぇ…」ていう声が聞こえてきたけど多分大丈夫だろう。フハハハハどうだ?この方法は丁寧に自己紹介することができ、かつその後すぐに堂々と寝ても誰にも文句を言われない画期的な…

 

「お前は会うたびに私を怒らせないと気が済まんのか!」スパアァァン

 

「ゲェーッ!?ヴェイダー卿!」

 

「私はフォースと共になどおらん!」ズッパァアン

 

「フィヨルドッ!?」

 

ば、バカな…今の自己紹介は完ぺきだったはず…

 

「佐丈、お前やっぱバカだろ?」

 

「うう…いやお前にだけは言われたくねーわ…なあフォースと共にあらんことをって言ったのヴェイダーさんだっけ?」

 

「あれハンソロじゃね?」

 

「えーいやハンソロじゃねーべ…」

 

「ヨーダだ!と言うかいい加減にしろ貴様らぁ!」

 

結局俺たちはその後も出席簿という名のフォースで殴られた

 

 

 

 

--視点変更

 

 

 

 

「いやあ、何もあんな怒ることねえよなあ…」

 

「いや、あれは千冬姉怒るのも無理ないって。流石にふざけすぎだろ」

 

「うーん…そうか、じゃあ次はゆ○くりで…」

 

「生声だから気に障ったとかじゃないからな?」

 

「え?そうなの?」

 

「ハア…」

 

ため息をつきながら、きょとんとした顔の晴明を見る。コイツは初めて会った時からこんな感じだ。

 少しコイツとの話を俺こと、織斑一夏が話そうと思う。コイツに会ったのは確か中学の頃、クラス替えで隣の席になったのが初めてだ。でもその頃は話すことはなかった。なんだか、のらりくらりとしてよくわからないやつだし、何考えてるかわからないしで、正直近寄りがたかったしな。じゃあなんで仲良くなったのかって?別になんてことはない。話してみたら、馬が合ったっていうだけだ。

 その日、そいつはいつになく真剣な表情で思い悩んでいるようだった。今まで見たことがないくらい険しい顔つきでいたんだ。俺は何か困っているんじゃないかと思って、何か相談に乗ろうと話しかけてみたんだ。そしたら…

 

(回想開始)

 

 

 

「…カマドウマって、いるだろ?」

 

「あ、ああ、いるな…」

 

「あれ、昔は釜戸にでてきたからカマドウマっていうらしいんだよ」

 

「なるほど、それで?」

 

「でも今、あいつらって便所に出るだろ?便所に出るなら"カマドウマ"じゃなくて"カワヤウマ"になるんじゃないか…?」

 

「お、おう…そうか…」

 

「……うん」

 

 

 

 

「……え?何?お前それをそんな真剣に悩んでたの?」

 

「え?いやそうだけど?織斑はどう思う?」

 

「いや知らねーよ!」

 

 

 

(回想終了)

 

 

 

てなことがあって、それ以来コイツ…晴明とはなんだかんだでよく話すようになった。何かどっかずれたやつなんだが、基本的にぼんやりとしていて、小さいことはあまり気にしない、おおらかな奴だ。今では晴明は、腹を割って話せる大事な友達なのだ。正直、コイツが俺と一緒にIS学園に来てくれたのは嬉しかった。女子の中に男子1人とか考えただけで凄くキツイ…

 

「でも今でも十分目立ってるけどな…」

 

そう言いながら、廊下の方を見る。そこにいるのは、

 

「女子、女子、女子…」

 

「騎士として恥ずかしくないのか!」

 

「騎士以外の発言は認めない。ていうか唐突にネタを振るなよ、びっくりするから…」

 

いきなり晴明に言われて、そんなお決まりのセリフを吐いてしまう。コイツのせいで俺も随分ネットスラングやらゲームネタやらに詳しくなってしまったもんだ

 

「でも確かにすごいよな…珍しいとは言われてたけど、ここまでとは…」

 

「ウーパールーパーになった気分だよな…」

 

「古いもん知ってんなお前も…ウーパールーパーて食えんのかな?」

 

「え…いや~爬虫類って軒並み鶏肉みたいっていうけどなあ」

 

「でも両生類だろアイツ」

 

「う~ん」

 

「ちょっといいか?」

 

死ぬほどどうでもいいことを考えていると、1人の女子が、俺に話しかけてきた。でも、その子は俺が良く知ってる人で…

 

「箒…?」

 

「え?いや箒じゃなくて両生類だって…」

 

「は?」

 

「いやその話はもういいから…ああそっか、晴明は初めてか。俺の小学校のときの幼馴染の箒だよ」

 

「…篠ノ之箒だ」

 

「…あーなるほど、佐丈っす、よろしく」

 

箒は相変わらず仏頂面だなあ…かわいいのにもったいないぞ?まあ晴明は全く気にしてないみたいだけど…

 

「…それで、その、私は一夏と話がしたいんだが、ここでは少しな…借りていいか?」

 

「え?ここじゃダメなのか?俺たち今話してるんだけど…」

 

「話…?」

 

「ウーパールーパーは食用になり得るか否かを…」

 

「それはどうしても今話さなくてはいけないことなのか!?」

 

「織斑、こういう時はとりあえず言う通りにしてもいいと思うぜ?」

 

「ん?そうか?」

 

「ああ、いってら」

 

そう言われ、俺は箒と一緒に教室を出たのだった。

 

 

 

 

--視点変更

 

 

 

 

(織斑も罪だねえ…)

 

幼馴染…とは言うものの、何だかあれはフラグが立ってる気配がするんだけどねえ…あいつ朴念仁に唐変木をブレンドしたような奴だしなあ…

 あいつはモテる。それはもう下手なラブコメの主人公なんぞ嘲笑えるくらいにモテる。廊下で見ていた女の子たちだって、目的はほとんど織斑だ。現に織斑が教室を出てった途端、半分くらいの女子が自分の教室へと戻っていった。残っているのは織斑が戻ってくるのを待ってる人か、はたまたハナから俺が目的の物好きか…まあ、前者だろう。言ってて悲しくなるけど

 

「はあ~あ…たくリア充リア充…俺にも春は来ないもんかねえ」

 

そう思いながら、バッグからお菓子を取り出す。最後までチョコたっぷりのあれだ。あんな甘いものを見せられては、こちらも甘いものを食べなきゃやってられん

 

「……」ジィ~

 

「…あん?」

 

…しかし何やら女の子が見つめている。それもよだれを超たらしながら…ちょ、垂れてる!机にべったり垂れてきてる!

 

「…食べる?」

 

「食べる!!」

 

そう言うと同時に、その子は俺の差し出したお菓子をすごい勢いでかじりついた。俺の腕ごと持っていきそうな勢いである。

 

(ビーバーってこんな感じじゃなかったか?)

 

そう思いながら2本目を差し出すと、彼女はまだ1本目を口に入れたままで、2本目にかじりついてきた。何だか餌付けしているようである。

 

「…プリ○ツもあるけど食う?」

 

「わ~い!ありがとう、さーたん!!」

 

「そりゃまた、憤怒を司ってそうな名前だなー…」

 

「フン…?よくわからないけど、佐丈だからさーたんだよ!」

 

「ああそうなんだ…お前さんは?」

 

「本音だよ~よろしくね~」

 

「そっか~…ところで本音さん、プ○ッツはあげるんだけど…」

 

「ん~?」

 

「食べる前に一言ピカチューって言ってみてくんない?」

 

髪留め見てからもう気になって仕方なかった。何かそう言わせなきゃという使命感があった。自分で何を言ってるのかよくわからない

 

「ぴ~かちゅ~」

 

「よ~しありがとう。ご褒美だ」

 

「わーいわーい!」

 

その後も俺は本音さんにお菓子を与え続けた。段々俺も面白くなって

 

「3個か?3個欲しいのか?このいやしんぼめ」

 

「わーい!」

 

と最終的にはチョコラータごっこをする始末。結局それはチャイムが鳴るまで続いた。戻ってきた織斑がその光景を見るなり、「何、その…何?」と言ってきたのが印象的だった。

 

 




刺身にしてしょうゆ付ければいいのかな…?


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2話 でもブウ編のベジータかっこよかったよね

セル編でも、トランクスがやられたときに、逆上してセルに立ち向かうところがすごい好きです。


--さーたん視点

 

 

 

 

「…つまり、ISの基本的な運用は現時点では国家の認証が必要であり、枠内を逸脱してISを用いた場合、刑法によって罰せられ…」

 

…あの先生、乳でかいなあ…え?授業聞いてるのかって?ああ、聞いてる聞いてる。さっぱりわかんないけど…

 机の上に積まれたタウンページも真っ青な厚さの教科書たち。数にすれば5。もうそれを見るだけで俺の中でサボロー君が大暴れする。パラパラとめくっても広域どうたらとかアクティブなんたらとかにんじゃりばんばんとか意味わかんない。全部キバヤシに聞きたいくらいである。

…しょうがない、とりあえず教科書の偉人に矢でもぶっさしとくか……

 

「織斑君、何かわからないとこがありますか?」

 

おっと、そうこうしているうちに織斑がご指名されてしまった。さあ、アイツも俺と同じく何が何だかさっぱりだったはず…答え方次第では、またヴェイダー卿に頭をかち割られてしまうぞ。死なないで、織斑!その質問が終わったら、フォースの出席簿を受けずに授業を乗り切れるんだから!

 

「先生!」

 

「はい!織斑君!」

 

 

 

「全部わかりません!」

 

 

 

次回、織斑死す!デュエルスタンバイ!…オイオイオイ、死ぬわアイツ

 

 

「ぜ、全部…ですか…?えっと…織斑君以外で、今の段階で分かんないって人、どれくらいいますかー?」

 

教室は水を打ったように静まり返る。…え?てかみんなこれわかるの?事前学習受けてるっていうのはマジだったか…そうか、後で本音さんあたりにわかんないとこ聞いてみよう…

 

「織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

「新手の宗教勧誘の本かと思って捨てました」

 

「必読と書いてあったろうが!」ズッバアァン

 

「ブッフェッ!?」

 

「あとで再発行してやるから一週間で覚えろ。いいな?」

 

「いやあの厚さで一週間は…」

 

「いいな?」

 

「アッハイ」

 

ナムアミダブツ。圧倒的な強さを持つスゴイ・ティーチャーに、オリムラは思わず服従めいた一言を発してしまう。だがこんなことは悲観することではない。このようなヤクザめいた所業はチャメシ・インシデントなのだから

 

「…で?貴様はどうなんだ、佐丈?」

 

と思ったらこっちに火の粉が…うーんどうしよう

 

「…山田先生」

 

「は、はい!佐丈君!」

 

「鮮やかに?」

 

「え?えーと…こ、恋して?」

 

「にんじゃりb」

 

「貴様はせめて真面目に受けるふりくらいしろォ!!」ドズパアァァン

 

「ゲッベルスッ!?」

 

結局二人ともヴェイダー卿による制裁が加わってしまった。

 

「まったく…いいか?ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器をはるかに凌ぐ、最高級の兵器だ。そんなものを何も知らないやつが使えば事故が起こるのは必然。それを未然に防ぐための知識と技術だ。理解できずとも覚えろ。守れ。そう言うものを規則と言うのだ」

 

「…はい」

 

「…貴様、自分は望んでここにいるわけではない、と思っているな?」

 

織斑がわかりやすーく体をビクッとさせる。あ、思ってたんだ。まあいきなり拉致だしね。仕方ないね。俺は今の状況そんなにいやじゃないけどなあ

 

「望む望まないにかかわらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」

 

「…わかりました。織斑先生」

 

織斑が、決意を固めたような表情で、織斑先生を見つめる。その眼には、少しの曇りもなかった

 

「…フッ。わかればいい。では席についt」

 

 

 

「つまり石仮面を探して来れば万事解決だな!!」

 

「どうしてそうなんだお前はァ!!」ズッパアァァァン

 

「ディオッ!?」

 

あーやっぱダメだった…あたりまえだろ織斑…そんな答えじゃそうもなるさ…

 

「うう…やっぱり矢とかの方がいいのか…?」

 

「矢じゃダメだろう織斑」

 

「晴明…!」

 

 

 

「人を超えるんなら黄金の回転の方がいいんじゃないか?あれには無限の可能性があるぞ?」

 

「え?でも習得に時間かかるからなあ…その間はどうすんだよ?」

 

「その間はディスクでスタンド能力を借りてだな…」

 

「いい加減にしろ貴様らぁ!!」ズッパァアァーーン

 

「「ツェペリッ!?」」

 

 

「じゅ、授業が~」

 

最終的には山田先生が半泣き状態になってしまった…流石にやりすぎたと思った。今度からは真面目に授業を受けている感じで偉人に矢をぶっ刺そうと思った。

 

 

 

 

 

--閑話休題、おりむー視点

 

 

 

 

 

「あ~痛かった…あ、ところで、聞いたぞ晴明…女の子を餌付けして「ぴかちゅう」と言わせたみたいじゃないか…入学初日でそんなことをする鬼畜だとは思わなかったぞ…」

 

「いや違うんだよ織斑。いや何も違わないけど…つか、そっちはどうだったんだよ?」

 

「こっちはなんてことないぞ?幼馴染と久しぶりの挨拶を交わしただけだ。すごいんだぞ?剣道大会で全国に出てるんだぞ。」

 

「へえ凄いな。今度、九頭竜閃見せてもらおっかな」

 

「言っとくがあいつは飛天御剣流じゃないからな?」

 

「あーそっか…じゃあ今度宙を舞ってるはっぱを…」

 

「剣気も出せねーよ!明治剣客浪漫譚から一回離れろ!」

 

どうしてコイツといるとこう話がそれてばっかりになるんだろうか…いやなんだかんで乗っかってる俺のせいでもあるんだろうけど…でも楽しいんだよな、こういうしょーもない話してるの…

 

「…てそうじゃない!本題は、お前がその本音さんに何させてたのかって話だ」

 

「何があったのかはさっき話した通りだけど、何か俺あの子にサタンって呼ばれてたぞ?」

 

「なんでそんな怠惰を司ってそうな名前になったんだ…」

 

「え?いや憤怒だべ?サタンって?」

 

「え?」

 

言われてみれば…そういやサタンって憤怒だったか?あれじゃあ…

 

「怠惰って何だっけ?」

 

「怠惰は確かベルフェゴールだな…ええとルシファーが何だっけ?」

 

「ええーアイツ何だっけ…?えーと」

 

 

 

「ちょっと、よろしくて」

 

考えていると、誰かに話しかけられた。いかん…知らん間にまた脱線してた…今のは俺のせいだったな…反省反省

 

 

「ちょっと!聞いていますの?」

 

「え、ああ、何?」

 

「まあ!なんですの、そのお返事。私に話しかけられただけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

うわめんどくせーなこの人

 

「うわめんどくせーなこの人」

 

「なっ!?」

 

晴明…コイツ思ったことすぐ口に出しちゃうんだよな…

 

「あ、あなた!それが初対面の人と話す時の態度ですの!?失礼極まりませんわ!」

 

うん、それに関しては本当にその通りだと思う

 

「あ、いや、すいません…ところで、あなたは?」

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生のこのわたくしを?」

 

なるほど、セシリアさんか、覚えとこ。そういえばさっきの言葉に少し気になるものがあった

 

「あ、いっこ質問いい?」

 

「ふん。下々に答えるのも貴族の務め…ノーブレス・オブリージと言うものですわ。よろしくてよ」

 

うわホントいちいちめんどくせーなこの人。好きとか嫌いとかじゃなくただめんどくせーな…まあいいや、それよりも

 

「代表候補生ってなに?」

 

途端、ガタンッと、周囲で何人かの女子がずっこけた

 

「あ…あ、あ……」

 

「アイルビーバック?」

 

「絶対違うと思う」

 

晴明がまた見当違いなことを言ってくる。いやなんでそこでその台詞なんだよ…誰も溶岩でサムズアップしてねーし…

 

「あなた!本気で言ってますの!?」

 

「おう、知らん」

 

「~~……」

 

セシリアさんは怒り心頭と言った様子でプルプルと震えていた。俺そんな怒らせるようなこと言ったかな…?

 

「信じられませんわ。極東の島国と言うのが、ここまで常識知らずだったとは…テレビがないのかしら…」

 

「んで?そのダンジョンコブラツイストとは?」

 

「代表候補生ですわ!……コホン、つまり、国家を代表するIS操縦者の、その候補生として選出されるエリートのことですわ。単語から連想できませんこと?」

 

「あーなるほど」

 

「そう!エリートなのですわ!!」

 

ふむ…そっか、なるほど…

 

 

 

「つまりどういうことだ晴明?」

 

ガッターンと、さっきより大きな音たてて、再び数名の女子がずっこけた

 

「あ、あなた!結局わかってないんじゃないですの!」

 

いやだって、ねえ…エリートって言われてもいまいちピンとこないし…

 

「…でどうなんだ晴明」

 

「あーつまりあれだ。サイヤ人的にいうとベジータとかナッパクラスの人達ってことだよ…そん中でもこの人はベジータクラスってことだろ多分」

 

「え!?そうなのか!スゲエ!!」

 

「さ、サイヤ…?ベジ…?ま、まあ、わたくしがいかに優秀かがわかればそれでよろしいのですわ。わたくしと共に過ごすことがいかに光栄か、おわかりになって?」

 

 

 

「ああ!よろしくなベジータさん!」

 

「フリーザが出てきてかませ犬になっても俺は尊敬してますよ!ベジータさん!」

 

 

この後、ベジータさんはこれ以上ないくらいのガチギレをして、しまいには涙目で俺たちに往復びんたを放ってきた。流石にやりすぎたかなあと思ったので、俺と晴明は甘んじてはたかれるがままでいた。

 

 

 




4時間しないうちにお気に入り10件いってびっくりしてます。応援、ありがと~!

どうでもいいけど、僕は回転の技術でパスタ巻いて食べたいです。


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3話 あとイギリスはスコーンとかが美味いらしい

と言うかお茶菓子全般はおいしいらしいです。


--さーたん視点

 

ベジータさん騒動は終わり、早3時間目…この時間になってくると、そろそろお腹がすき始めるころだ。今日のお昼は何にしようかしら。IS学園の学食ってかなり豪勢らしいから、今から楽しみで仕方ない…チンジャオロースとかあればいいな。それも肉とピーマンがたっぷり入ってるやつ

 

「それでは、この時間は各種装備について説明する。実践でも使うのでよーく聞いておくように…特にそこの二人はな…」

 

「「ヘーイ…」」

 

ギロリ、と言う擬音がドンピシャな感じでヴェイダー卿こと織斑先生に睨み付けられる。しかしいくら何でもありゃ横暴じゃないかね…あそこまで言われる筋合いは…うん、めちゃあったわ…ごめんなさい千冬さま…

 

「…と、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなくてはな」

 

クラス対抗戦?なんか学園バトルものに出てきそうな単語だな…

 

「クラス代表者とはそのまま…まあ、普通の学校で言うクラス委員長みたいなものだ。このクラス長が参加する行事の一つがクラス対抗戦。ここで入学時点での実力推移を測ってもらう。この時間でそれに参加する代表者を選びたい。自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

へえ、要はそのコロシアムみたいなのに参加しろってことか…出る奴は大変だなあ…

でも俺の予想だと他薦されるのは…

 

「はい!織斑君を推薦します!」

 

「は!?」

 

ほーらやっぱりな…何を驚いてる織斑よ。予想できたろう?クラスで2人しかいない男子、珍しがる女子の中にはこういう風にまつりあげる奴も少なからず出てくる。そして1人選ぶなら爽やかイケメンの方がいいというのは自明の理…つまりこうなるのは必然なのだよ!フハハハハハハ!

 

「私もそれが良いと思いますー」

 

「私もー」

 

「お、俺!?」

 

「織斑、席に着け、邪魔だ」

 

おーっと確実に包囲網が進んできているぞー。織斑よ、恨むなら爽やかイケメンに生まれた自分を恨むんだな!フハハハハ!…なんか虚しくなってきたな…

 

 

 

「はいは~い、私はさーたんを推薦しま~す!」

 

 

 

…え?ちょっと何言ってんのあのピカチュウ?

 

「あ!私も佐丈君を推薦しまーす!」

 

「わ、私もどっちかっていうと…」

 

「私もー」

 

それがきっかけとなったのか、次々と俺の名前を挙げる女子の皆様方…ていうか最後の人、アンタ織斑のときにも挙げてたろ、自分が当たるといやだから必死で人に押し付けようとしてるだけだろ絶対。

ていうか何でなの本音さんや…

 

「本音、あんた佐丈君押しなの?」

 

「うん!お菓子くれるし!食べさせてくれるし!」

 

あれが原因か!チクショウ!調子こいてチョコラータごっこなんてするんじゃなかったチクショウ!あのプリッ○がサラダ味だからチクショウ!…え?関係ない?そう…

 

「さて、他にはいないか?いないならこの2人の内から絞って…」

 

「ちょ、ちょっと待ったちふ…織斑先生!俺はそんなのやらな…」

 

「他薦されたものに…クフッ…拒否権などない。選ばれた以上は…プッ…クク…覚悟をしろ」

 

「あんた今吹き出したろ?」

 

わかった、あの人この機会をいいことに、今までのうっぷんを晴らそうという腹積もりだ…見ました奥さん?あのヴェイダー卿の楽しそうな顔…

 

「い、いやでも…」

 

「納得いきませんわ!」

 

織斑の抗議の声を遮って、ひと際、大きい声が教室内に響いた。ベジータさ…もとい、オルコットさんである。

 

「そのような選出は認められません!クラス代表が男だなんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットに1年間その屈辱を味わえというのですか!?」

 

ああ、セシリアさん立ち直ってくれたのか…良かったー元気がありあまってるっぽくて…

 

「実力で言えばわたくしこそクラス代表にふさわしいですわ!それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!」

 

…あーでもヤバイな、この流れはヤバイ…

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛で…」

 

「イギリスだって対してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

「な…!?」

 

あちゃー…やっぱりこうなるか…織斑はあれでカチンとくるとすぐ行動する奴だからな…こうなるとは思ったよ

 

「あ、あ、あなたねえ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

案の定、セシリアさんは怒髪天を突かれたようだ

 

「晴明もなんか言ってやれよ!馬鹿にされてんだぜ俺たち!」

 

いやセシリアさんに馬鹿にされても俺は痛くも痒くもないからどうでもいいんだけどね…?でもとりあえずフォローは入れとくか…

 

 

 

 

 

「セシリアさん!悲観しないで、今は国際化で美味しい店イギリスにもたくさんあるらしいから!スターゲイザーパイとかウナギのゼリー寄せとかがテロレベルなだけであって、名物料理以外は美味いものも…まあ~あるにはある…かな?と思うから、あと紅茶もおいしいらしいし、だから大丈夫だよ、多分恐らくきっと!」

 

「決闘ですわッッ!!」

 

 

 

 

なんか火に油どころかニトログリセリンを注いでしまったらしい。あれぇー?もうちょっと上手くいくと思ったんだけどなー…

 

「…ちょっと待ってくれ晴明、何なんだそのスターなんとかパイとウナギのゼリー寄せって?」

 

「は?お前それ知らないでイギリス批判してたの?ほらスターゲイザーパイってあれだよ、魔女宅に出てきたやつの元ネタ、魚のお頭が何本もパイから突き出てるやつ」

 

「え?なにそのパイ…?呪術用の道具か何かなの?」

 

「いや俺も最初見たとき何かの儀式道具かと思ったわ…魔女宅のと全然ちげーのよ。魚が星を見上げるからスターゲイザーらしいぜ?」

 

「そりゃ魔女宅の孫娘も嫌いになるわな…でウナギゼリーってのは?」

 

「そのまんまよ、ゼリーの中にウナギぶっこんだんだよ」

 

「何をとち狂ってそんな悲しいカルマを生みだしちゃったんだよ…」

 

「でもちゃんとした調理法でやるとうまいらしい。胡椒とかレモン汁とか入れて」

 

「あー…でもレモン汁あったら確かにいけるかもなあ…」

 

「胡椒とかもいけそうだよな、あと酢とかも使うらしい。煮凝りみたいなもんじゃねえ?」

 

「あ、なるほど、じゃあ今度作ってみようかな?」

 

「おお…何か怖いけどみたい気もするな…」

 

「まずくてもちゃんと食べろよ?」

 

「織斑が作るんなら大丈夫だべ。ハハハハ」

 

「ハハハハハ」

 

「貴様らいい加減にしろ…オルコットのことを忘れるな…」

 

「「ハハハハハ、え?あ…」」

 

しまった、イギリス名物料理談義でオルコットさんのことすっかり忘れてた。恐る恐る彼女の方を振り向いてみると…

 

「……」

 

あ、やばい、結構泣きそうになってる。必死にこらえてるっぽい。シカトされんのダメなタイプだなこの人…

 

「ッ…決闘ですわ…わたくしが勝ったら、わたくしの小間使い、いえ、奴隷にしますわよ!」

 

おお!泣き出すどころか尚も立ち向かってきた。何て芯の強い人なんだろう…

 

「お、おう、いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

 

織斑もその気概に助けられ、先程のテンションを取り戻すことができたようだ

 

「ハンデはどのくらいつける?」

 

「あら?早速お願いかしら?」

 

「え?いや、俺がどのくらいハンデをつけたらいいかなって…」

 

織斑がそう言い終える前に、クラス中から大爆笑が起きた

 

「お、織斑君、それ本気で言ってるの?」

 

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

 

「織斑君と佐丈君はISを確かに使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

 

キャハハ、キャハハハ、と、姦しい笑い声が教室に響き渡る

せっかくだから俺もこのビッグウェーヴに乗っておこう、フハハハハ!(銀河万丈の声で)

 まあ冗談はさておき、今の世の中これが現状だ。あの女性にしか使えないSDガンダムもどきが出てきたせいで、世間は女性を大優遇。男子はそれ受けマジ不遇。女尊男卑で地位低迷。親父もそのせいで超酩酊。母ちゃんそれ見てまじLament(悲しいの意)。

女子増長。男子焦燥。俺どうしよう。Yeah…ヒップホップ始めてみようかな?

 

「なあ織斑。俺ヒップホップ始めてみようと思うんだけど…」

 

「なんだいきなり!?予備動作ナシでそういうこと言うなびっくりするから!!」

 

「貴様が喋ると話が進まなくなるんだ黙ってろこのボケナス!!」

 

織斑姉弟に総スカンを喰らってしまった…どうでもいいけど、ボケナスってけなし言葉のチョイスちょっと古くないすかね織斑先生…?

 

「あら?一体何を他人事のようにしてるのかしら?当然、あなたも私の祖国を侮辱したのですから、決闘に参加してもらいますわよ?」

 

「え?ああ、わかった。3DSだすからちょっと待ってて…」

 

「なに当然のようにゲームで片付けようとしてますの!?決闘と言ったらIS同士での決闘に決まってるじゃないですの!!」

 

「えッマジで!?!?」

 

「そんなびっくりすることですか!!~~……ハァ。それで?あなたはハンデはいりますの?」

 

ヒートアップした頭を冷やして、再びセシリアさんは冷静に俺たちに聞いてきた。こういう切り替えの早さはさすがエリートと言ったところだろうか。やっぱスゲエんだな。ベジータって…

しかしハンデ…ハンデねえ…

 

「…ハンデじゃないけど…もし、万が一でも俺たちが勝ったら、やってほしいことがあるんですが…こっちが負けたら奴隷になるわけですし…」

 

「ふ、ふん。良いですわよ?まあそんなことは起こり得ませんけど…」

 

"やってほしいこと"に引っかかったのか、セシリアさんが若干たじろぐ、やっぱこういうのってどことなく卑猥な感じするんだろうか?

 

「で、そのやってほしいこととは?」

 

「そうですねえ…」

 

だが俺はそんな卑猥な目的ではない。いや興味はないわけじゃないけど、こんな場所に持ち込むほど空気が読めないわけじゃない…はいそこ、「え?」とか言わない。

 

「…山田先生。近いうちに全校集会とかってありますか?」

 

「え?え、ええ…この月は特に多いですよ。多分…3回くらいはありますけど…」

 

「…ヴェイダ…織斑先生、決闘するとしたら、日程はどうなります?」

 

「貴様今ヴェイダー卿と言いかけたろ…まあいい、対決は1週間後、ちなみにその翌日が全校集会だ」

 

「それはそれは…重畳重畳…」

 

「…何をさせるつもりですの?」

 

「…俺がやってほしいことはただ一つ」

 

全員が固唾をのみ込み、俺の方を見る。要求するそれは、人とは思えぬむごさを持つ罰ゲーム…

 

 

 

 

 

「全校集会のときに全校生徒の前に立ち、『今からすごく面白いことやりまーす!』と前ふりをしてから一発ギャグをやってもらう!!」

 

 

 

「…はあ?それでいいんですの…?」

 

セシリアさんはいまいちこの意図がわからないらしい。だがわかる奴にはわかる…

 

「は、晴明、お前正気か?いくら何でもやりすぎだろ!」

 

「そ、そうだよ佐丈君…いくら何でもオルコットさんかわいそうだよ…」

 

「オルコットさんも、いやなら断っていいんだよ?」

 

「なんですの一体?その程度、いくらでもやって差し上げますわよ?無論負ければの話ですが」

 

「ちなみにそのギャグがウケなかった場合、何が面白いのか一から丁寧に説明してもらう」

 

「もうやめろ晴明!そんなに人を傷つけて何が楽しいっていうんだ!!」

 

「どうしてあなたはさっきと打って変わって私を庇ってますの!?そんなに恐ろしいことなんですか!?」

 

「いやおそろしい、つーか耐えきれないつーか…」

 

「見ている方も辛いよね…」

 

「正直あーいうのってどうなんだろうね…」

 

ざわざわと教室がギャグが滑った時のあの空気についての議論で埋まっていく。やはりみんなその恐ろしさは知っているようだ。

 

「でも別にやると決まったわけじゃないのにそこまで言うこと…あ、本音さんはどう思う?」

 

「お菓子食べたい!」

 

「あ、うん…そうだね…」

 

「ええいもう埒が明かん!とにかく決闘は1週間後!やるのはオルコット、織斑、佐丈の3名!詳細は後日伝える!!はい解散!!!」

 

「お、織斑先生!まだ解散させちゃダメです~!」

 

収集がつかなくなり、しまいには織斑先生が山田先生の抑止も無視して強引にまとめて終わらせた。

 …後日織斑から聞いた話だと、その夜、織斑先生が泥酔して吐きながら俺に呪詛を唱えていたらしい…ごめんなさい千冬様…今度おつまみにウナギのゼリー寄せ持ってくから許して下さいね…

 

 

 




あ、でもローストビーフとかもイギリス発祥らしいですね。噂が独り歩きしてるけど、見ればおいしいものたくさんあるなあ…と個人的には思いました。


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4話 懸衣翁は三途の川のほとりにいる

ふと見てみたらお気に入り一気に増えててビビった…ISってすごいなあ…

ちなみに懸衣翁は奪衣婆(着物剥ぎ取り婆さん)と混同して考える場合もあるとかないとか


--おりむー視点

 

「決闘ですよ、織斑さん」

 

「いや知ってるって。わざわざ言わんでも…」

 

「お前のせいで俺も巻き込まれたぞ、織斑さん」

 

「いやアレお前も大概だったからね晴明!?なんならお前のイギリス料理ディスのせいで余計こんがらがったまであるぞ!」

 

「まあまあ、落ち着けって、過ぎたことくよくよ悩んでも仕方ないぜ?」

 

「お前がふったんだろ!…ハァ」

 

 

あの代表候補生(暫定ベジータ)のセシリアさんとひと悶着があった時はどうなることかと思ったが、その後もなんやかんやで授業は進み、無事に放課後を迎えることができた。

 

 俺はあの後、わからないところは多々あれど、理解できるように必死に勉強した。決闘することになった以上は負ける気はない。少しでも相手との差を埋めたかったのだ。ちなみに晴明もあの後、授業中必死にノートをとっているようだった。やはりこいつも男だ。むざむざ勝負に負ける気はないだろう。

 

「…なあ晴明、さっきとってたノート、俺にも見せてくれないか?勉強の参考にしたいんだ」

 

「え?いいけど…俺のはあんまり参考になんないと思うぜ?」

 

「そんなことないさ、あんなに一生懸命とってたんだ。きっといいノートになってるよ」

 

「そうか?まあそんなに言うなら…」

 

結構、謙虚なやつだな、コイツも。でも俺は信じてる。晴明は、やるときはやる男だって。いつもはボーっとしてるけど、困った時には本当に頼りになる男なんだって…

 

 

 

 

 

 

「ほらこれ、よく描けてるだろ?このペンギンの絵」

 

「キャー!モフモフの毛とつぶらな瞳がカワイーってバカァ!」

 

何なのコイツ!?マジで何なのコイツ!!?無駄にクオリティ高いのがまた腹立つ!!

 

「オ、ナイスノリツッコミ」

 

「うるせぇバカ!何か!?お前は真面目に何かに取り組んだら死ぬ病気か何かなのか!?十秒前の俺の感動を返せこの野郎!」

 

「オイオイオイ、そんなに熱くなるなって。そんなんじゃ、見に来た女の子たちも引いちまうぞ?」

 

「お前な…」

 

チラリと、横目で廊下の方を見てみると、放課後であるにも関わらず、休み時間のときと同様、俺たちを見てキャイキャイと騒いでいる女性群…他学年や他クラスの女子が俺たちのことを見に来ているのだ。

 

「ハァ…もう勘弁してくれよ…」

 

「学食に行くときとかやばかったよな。あの群れ様…炎に向かう蛾のようだ」

 

「貴公…」

 

「あ、佐丈君、織斑君も。良かった、まだ教室にいたんですね」

 

「あ、はい…どうしたんですか?」

 

おおっと、いかんいかん。またアイツのペースに乗せられて、無駄な時間を過ごすとこだった…グッドタイミングです。山田先生

 

「えーとですね…お2人の寮の部屋が決まりましたので、キーを渡しておこうと思って…あ、ここに書いてるのが部屋番号ですから」

 

そう言って山田先生は俺と晴明にそれぞれキーを渡してきた。

 

「…てあれ?俺は部屋が決まってないから、1週間自宅通いって聞いてたんですが…」

 

「俺もそう言われたんすけど…?」

 

「そうだったんですけど、ちょっとやむを得ない事情で急きょ強引に入れることになっちゃって…まあいわゆる大人の事情ってやつです…」

 

ふーんなるほど、大変なんだな色々と。よくわからんが

 

「ちなみに織斑の荷物は私が手配しといた。と言っても着替えと携帯の充電器だけだがな。佐丈のは知らん」

 

いつの間にか現れた千冬姉が愉悦の表情でそう言った…絶対私怨入ってるよこの人…だって横に"まさに外道"って文字が見えそうなくらいいい顔してるものこの人…

 

「えーマジか…今週のジャンプ買ってまだ読んでないのに…」

 

「え?最優先はそれなの?」

 

晴明は晴明でどっかずれてるし…俺もまだ読んでないな、今週の…

 

「…あれ?でも待って下さい先生、よく見ると俺と晴明とで部屋番号違うんすけど…一緒じゃないんですか?」

 

これはどういうことだ?男子は俺たち2人だけなんだから、自然、部屋は晴明と一緒になるはずだが…

 

「それが…強引に部屋を決めちゃったので、既に決まっていたルームメンバーの人達との調整が利かなくてですね…少しの間、我慢してもらえませんか?」

 

「ちなみに同室の女子と間違いがあった場合、焼くのでそのつもりで」

 

「いやありませんって、そんなまちが…今焼くって言った?ねえ千冬姉?今焼くって言った?」

 

「織斑先生と呼べ」

 

え、もう何なのこの人…わが姉ながらサイコの極致じゃないか…

 

「門限とか設備とかの諸々はこのプリントに目を通して確認して下さい。あ、でも、大浴場は今のところ2人は使えないんです。ごめんなさい。少しの間だけですから…」

 

「え?なんで使えないんですか?」

 

ガーンだな…俺風呂好きなのに…

 

「バカか貴様、同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?貴様は?」

 

「お、織斑君、女の子と一緒に入りたいんですか!?ダメですよ、そんなの!」

 

「は、入りたくありませんって…なあ晴明?」

 

「え?何が?」

 

「お前ジャンプのこと考えてて話聞いてなかったろ?」

 

コイツのこういうとこ、嫌いじゃないけどたまについていけなくなるんだよな…いかんコイツ…下手すれば間違えて大浴場に行って、そのままポリスメンのお世話になってしまうかもしれん…

 

「風呂だよ風呂。大浴場のハナシ」

 

「ああ、潜ると古代ローマに繋がるやつか?あれ試してみたけど何かでかい川が見えただけだったぞ?」

 

「いやだからマンガの話してるわけじゃ…お前臨死体験してるじゃねーか!?やめろなマジ!?」

 

「いやびっくりした…懸衣翁(けんえおう)てホントにいるんだな…仕事、奪衣婆(だつえば)に全部放り投げてたけど…」

 

「愉快だなお前の見た三途の川…なあ鬼とかいた?獄卒のさ?」

 

「獄卒かどうかはわかんないけど、何か黒い着物着た凄い目つきの一本角の鬼はいたぞ。」

 

「え…それもしかしてほおず…」

 

グショア

 

「き…」

 

突然何やら硬いものが潰れる音がした。

音のした方を見てみると、なんということでしょう、そこには出席簿を握りつぶした千冬姉がいるではありませんか

…出席簿って片手で潰せるんだなあ…初めて知ったよ…

 

「とっとと帰れこの野郎」

 

「「アッハイ」」

 

織斑の冷徹に逆らえるはずもなく、俺たちは何も言わず寮への道をたどることにした

帰り道、再び学食のときのように女子の人達は俺たちの後についてきていた。俺はもう全部投げ出していっそロードランにでも行ってやろうかと思った。

 

 

 

 

 

--さーたん視点

 

 

「えーと、0998号室はっと…何かお得感のある数字だな…お、ここか…」

 

自分のキーと同じ部屋番号を確認し、同一であることを確かめる。番号の書かれた表札の下には、この部屋の現在の住人の名前が書かれていた。

 

(相川さん…ね…出席番号、超上の方だな絶対…)

 

と、至極どうでもいいことを考えながらキーを差し込む。キーはちゃんとあっていたようで、かちゃりと小気味のいい音がドアから聞こえてきた

 

「あーつっかれたー…お邪魔しまー…」

 

 

 

「え」

 

「すよー…っと……」

 

 

 

 

目を見やるとそこには、バスタオルを一枚だけ持った。一糸まとわぬ女の子の姿がそこにあった。体から滴る水滴と、濡れたショートヘアの髪から、部屋のシャワーからあがったところだということを容易に想像できた

 

「え…あ、う…」

 

俺の方を凝視しながら、固まっている女の子。それを見て俺は、思わず、考えていたことを口に出してしまった

 

 

 

 

 

 

「うわスゲエ!ホテルみたいだなここ!」

 

「え!?そっち!?」

 

思わず声を上げるショートヘアの女の子、その顔は何だかひどく心外だと訴えているようだった。

 

「せめてこっちに反応しようよ!?なんかすごくショックなんだけど!」

 

「…いやだって、こういう時ってもうどんな対応しても角が立つからさ、じゃあいっそもう全スルーして話し進めたほうが良いかなって…」

 

「今一番角が立ってるよ!!」

 

どうやら俺の対応は余計怒らせてしまったようだ。いや興味はあるのよすんごく?ただ別に表に出してないだけで?

 

「どうでもいいけど、早く体拭いた方がいいぜ?風邪ひくよ?」

 

「なんでそんな冷静なの!?怖いなこのひと!」

 

いや冷静ではない、ぶっちゃけ超焦ってる。昔からこのぬぼーっとした口調と何も考えてないような無表情フェイスで誤解されがちだけど、俺だって焦燥に駆られる時くらいあるのだ。昔友達に『なんの葛藤もなく平気で人殺しそうだよな』と言われたときはさすがにしょげるものがあった…

 

「じゃあ俺廊下で待ってるから、着替えたら呼んでね?」

 

「あ、うん…え~…何か釈然としないんだけど…」

 

そんな台詞を後ろから聞きながらも、俺は廊下に出て扉を閉めた。…スタイル良かったなあの子…特に脚なんか細いながらも適度な肉付きが…

 

「あれ?さーたん?」

 

「ウおっと!?」

 

邪なことを考えていたからか、思わず変な声が出てしまった。声のした方を見ると、とてとてとピカチュウ…ではなく、本音さんがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。

 

「きよたんの部屋で何してんの~?」

 

「本音さん…いや、俺もこの部屋だったから…てきよたん?」

 

てことは相川きよたん?表札の方には清香て書いてたけど…あ、あれできよたんて読むのか…へえ変わってんなあ…

 

「うん、きよたん!私もちょっと遊びに来たんだ~」

 

「あそう…」

 

そんな会話が終わって間もなく、ドアの向こうからこんこんと、ノックが聞こえた。どうやら着替えは終わったようだ。ドアが少し開けられ、その隙間からきよたんなる人が俺をジト目で見つめていた。

 

「…どうぞ」

 

「あ、どうも…」

 

「あ、私も入る~」

 

そう言って、俺と本音さんはきよたんに入れてもらった。…さて、謝罪の時間かな…

 

 

 

 

「…で?何か言い分はありますか?」

 

「ここの部屋番号特売価格みたいだよね」

 

「は?」

 

「スイマセン」

 

「?何かあったの?きよたん?」

 

「本音…実はね…」

 

そう言って、きよたんはことの顛末を本音さんに話した。全部を話し終えたころ、本音さんは俺をジローッと言う感じで見てきた

 

「む~だめだよ、さーたん?ラッキースケベは百歩譲って仕方ないとしても、女の子の裸見てその反応はだめだよ」

 

「…その通りだな。すみませんでした…えーと…きよたんさん?」

 

「きよかだよ!相川清香!本音がそう呼んでるだけ!ていうか表札あったじゃん!?」

 

ああ、清香(きよか)だからきよたんか…そういや俺のこともさーたんっていってるしな…独特のこだわりがあるんだろうか…

 

「いやーホントすいません」

 

「何か適当だなあ…ハア…まあ、もう過ぎたことだしいいけどさ…何にせよこれからよろしくね、佐丈君。できれば織斑君が良かったけど…」

 

そう言って、相川さんは俺に握手をしてきた。うん、裏表のない性格って素敵だと思うけどね?でももうちょっと気遣ってくれてもよくない?

…まあ、いいか…これからしばらくの間、生活を共にするルームメイトさんだ。古事記にも書かれてるように、アイサツは大事にしなきゃな…

 

「ああ、よろしく、相川さ…」

 

 

 

 

「晴明!おい晴明助けてくれ!魔王が…竹刀を持った魔王が俺を殺しに来るよ!!」

 

「自分からのぞきをしておいて何を言っているか!!またんか一夏ァ!」

 

「ウワ…ウワァーァッ!!」

 

廊下から聞こえる織斑の悲鳴、そして篠ノ之さんと思われる怒号、そして鋭いものが空を斬る音と、数々の破壊音…

俺はそれだけで、何が起こっているかは大体察した

 

 

 

「織斑、あとで六文銭を供えとくわ。奪衣婆によろしく言っといてくれな」

 

「死ぬ前提で話進めてんじゃね…あ、しまっ…グエーッ!!」

 

 

 

…あ、そう言えば、決闘まであと一週間だな。

 

 

 

 




人魚とかデカいカニとか、サンズ・リバーにはいろいろな妖怪もいるらしいです。


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5話 SFの裏設定は大概えぐい

お気に入りが早くも100突破してる…一体どういうことだキバヤシ!!

あ、裏設定はR・TYPEが一番すごいと思います。




--さーたん視点

 

朝。小鳥のさえずりが聞こえ、清々しい朝日が東から立ち昇り、爽やかな空気は今日も素晴らしい一日になるだろうことを予感させてくれる…

…そんな素晴らしい朝、食堂に、死霊の盆踊りを3回連続で見たあとのような、死んだような顔をした男たちが2人…

 

 

「…オース晴明…いつも通り何も考えてないような面してんな…」

 

「メース織斑、朝っぱらから死にそうな目してんな…」

 

「まあ、あんなことがあったんじゃ無理もないだろ…」

 

「ああ…」

 

 

あの後、騒ぎを聞きつけた織斑先生に織斑と、そしてついでと言わんばかりに何故か俺もブッコロがされ、俺たちは、夜通しで"心肺停止でNOドキドキ!必見☆三途の川ツアー"に参加するはめになってしまった。あの千冬様の新しい出席簿…命を刈り取る形をしていたよ…

 

「いやあびっくりしたよ…何か最終的に白一色のビル群に迷っちゃってよ…」

 

「お前それ尸魂界(ソウルソサエティ)行ってねえ?」

 

マジかよ織斑のやつ。何か三途の川にいねえなと思ったらそんなとこ行ってたのか…俺も見たかったなあ…

 

「……」

 

「お、箒、おはよう」

 

「……」

 

ムスッ。と言う表現が一番適格だろうか。篠ノ之さんは仏頂面で、朝食のトレーをもって織斑の方へと向かう。そのまま織斑の隣に座り、その不機嫌極まりないという顔のまま朝食を取り始めた。…あ、西京焼き定食頼んでる。朝からボリューミーだな…

 

「…で?一体何があったんだ?30字程度で簡潔に説明しろ」

 

「箒の湯上りに居合わせて、その後ブラジャーを触ったらご覧のあり様」

 

「簡潔でよろしい。お前よく死ななかったな?」

 

「いや死にかけたろ!」

 

まあ、確かに昨日は酷かった。織斑が部屋に押し掛けてくるわ。それの余波で何故か俺も追いかけまわされるわ。しまいには死神代行にホロウにされかけるわ、散々である。

 

「人のこと言えるのかな~?佐丈く~ん?」

 

「ん?」

 

声のした方を見ると、そこには少し怒ってそうな顔の相川さんがいた

 

「あ、相川さん、おはよう…昨日は悪かったよ…てっきりきよたんが本名だとばかり…」

 

「いやそこじゃないよ!?どうして私の裸見たことは頑なに話題に出さないの!?私の体に興味ないの!?」

 

「ああ、そっちか」

 

いや興味は大変にあるよ?俺も一応、思春期男子だし。どうでもいいけど、そういう言い方は誤解を生む元になるんじゃないかな、と思うんだけど?

 

「ん?何だ?そっちも何かあったのか?」

 

「あ、織斑君!酷いんだよ?佐丈君ったら!」

 

「こっちもそっちと同じ感じ。ラッキースケベイベントにあったんだよ」

 

「…ああ、大体わかった。…多分だけど、その時にコイツが見当違いなこと言ったんじゃないか?大方『部屋めっちゃ豪華』とかそんな感じのこと」

 

「す、すごいね…ドンピシャだよ…」

 

「まあ、晴明はそういうやつだから…俺が言うのもなんだけど、大目に見てやってくれよ」

 

「苦労してるんだね、織斑君も…」

 

そう言い合いながら、2人して半ばあきらめたような乾いた笑顔でこちらを見つめてきた。失敬な。いくら何でもそこまでの阿呆じゃない…はず…

 

「でもさーたんすごく優しいよ~?お菓子くれるし」

 

「あ、本音…」

 

そうこう話しているうちに、本音さんもいつの間にかいた。ちなみに今は制服姿じゃなくパジャマ姿だ。今の姿だとピカチュウらしさが5割増しくらいになってる。これで友達にサトシって名前の人がいたら完璧だな

 

「ハハ…まあ、お菓子はともかく、晴明がすごく優しいやつなのはホントだよ。普段はこんなんだけどな」

 

「う~ん…いまいちピンと来ないんだけど…」

 

こんなんってなんだ。お前も普段は俺と大して変わんないだろ

…まあ、でもフォローしてくれてるのはわかる。そう言えば、織斑とも結構長い付き合いになるんだな…

 

 

「いつまで食べてる!もうすぐ朝のHRはじまるぞ!早くしろ!」

 

不意に聞こえる死神代行もとい織斑先生の声。あの人がそういうこと言うと完全に軍隊っぽいな。そのうち泣いたり笑ったりできなくなりそう

 

「…では私は先に行くぞ、織斑」

 

「ん?ああ、またな箒」

 

篠ノ之さんは結局一言も話さぬまま、いつの間にか朝食を食べ終えそそくさと一人教室に向かって行った。もうそんな時間か…一応俺も少し早めに教室に行っておこう。そう思い俺はパンを一切れ口に含み、荷物をもって席を立った

 

「悪い織斑、先行くわ」

 

「あ、おい晴明!お前朝飯は…」

 

「パン食べたよ」

 

「おいおい、一口サイズの一個食べただけじゃないか。ダメだぞ、朝飯はしっかり食わないと…」

 

「お前は俺の女房か?いちいちうるせえよ」

 

「は?」

 

「「「え!?」」」

 

え?なんで周りの婦女子の方々が反応してるんだ?…まあいいや、行こう

 

「じゃあ本音さんも相川さんも後でまた。遅れないでな」

 

「え…あ、うん…」

 

「ま~たね~」

 

「お、おいちょっと待て晴明、今言ったことをすぐに弁明し…」

 

織斑が何か言ってるけど、どうせまだ朝飯のことで何か言ってるんだろう。アイツは飯のことになると妙にうるさいのだ。

 

 

…しばらく後、この会話が原因で、俺と織斑のカップリング本という業の深いものが学校に出回るのは、また別の話だ…

 

 

 

 

--きよたん(相川さん)視点

 

 

(優しい人って言われてもなあ…)

 

ピンとこない。

そう思いながら授業中、佐丈君の方を見ながら、今朝、織斑君に言われたことを思い出す。あの後、聞いたハナシによると、あの2人は中学の頃から一緒で、よく遊んでいたらしい。どうして仲良くなったのかって聞いたら、何となくって言っていた。

 

(…まあ、悪い人じゃないっていうのは、何となくわかるんだけどさ…)

 

正直なところ、いまいち佐丈君の人間像が見えない。何考えてるのかわからないし、表情は、たまに笑う以外には基本ポーカーフェイスだし、授業態度は不真面目だし…はっきりと言ってしまえば、少し不気味だとも、思えてしまう。

 

(…あ、でも今回は真面目にうけてるっぽい)

 

前に千冬様に怒られたのが堪えたのか、今日の佐丈君は、ちゃんと教科書を開いて、真剣な顔でそれを凝視していた。

 

(…普段からそうしてればいいのに…)

 

普段の奇行さえなければ色男なのになあ、なんて…

 

(…ん?いやちょっと待って…)

 

…あれ?でもなんか変だな…何か…教科書と言うよりその横を見てるような…ん?何か横で手をゆっくり机にぶつけて…

 

 

 

「授業中になに二重の極みの練習してるんだ貴様は!」ズァッパアァーz_ァァン

 

「めけーもッ!?」

 

…やっぱり、ただの変な人なんじゃないかな、あの人?ていうか千冬様もあれで結構マンガ読んでるんだな…意外…

 

 

 

--さーたん視点

 

「…失礼、山田先生。続きを…」

 

オオオ…いってー…なにもあんな叩くことないじゃんか、騒がしくしてたわけでもなし…

 

「あ…はい…えーとつまりですね…ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話…つまり一緒に過ごした時間が長いほど、えーとわかり合う…つまりISの操縦者の特性を分かろうとするわけです。それによって相互理解をし、性能を引き出していくわけです。ISは道具ではなく、パートナーとして扱って下さい」

 

「先生ー、それって彼氏彼女みたいな関係ですか?」

 

「え…ど、どうでしょう…先生は経験がないのでわかりませんが…」

 

俺が痛がっている間にもつつがなく授業は進み、そして1人の女生徒の質問に山田先生は赤面し、しどろもどろになる。なんと平和でほっこりとする後景だろうか。これであの死神代行さえいなけりゃ平和なもんなんだけどな。

 

「ど、どうでしょう?さ、佐丈君、織斑君…わかりますか?」

 

「え?」

 

「は?」

 

え?何?俺たちに振るの?織斑はともかく、俺に振るのは煽ってるとしか思えないんですけど?

山田先生がそう聞いた瞬間、女子の好奇の眼が俺たち2人に向けられる。先生、いくら答えられないからって、それを生徒に振るのはどうかと思うの

 

「ええ…?どうなんだろう、晴明?」

 

「いや知らんわ。雪風みたいなもんじゃね?メイヴの方の」

 

「め、めいぶ…?」

 

「お前それ、しまいにはISに殺されねえか?」

 

「殺される!?」

 

困惑から驚愕とコロコロ表情が変わる山田先生をしり目に、俺たちは一時期はまった戦闘妖精談義を始める。あれ凄いよね、俺たちもIS使うんなら深井さんを見習わないと…え?ネタが伝わらない?メイヴ雪風で検索しよう(ダイマ)

 

「んーじゃあエイダみたいな感じ?」

 

「それ、下手すりゃアーマーンで自爆するだろ」

 

「自爆!?」

 

「じゃアローヘッド」

 

「俺たち脳みそだけになるか、四肢切断されるしかないじゃん。やめろよマジで」

 

「脳みそ!?四肢切断!?」

 

俺たちがSFゲーム話に花を咲かせるごとに、その花の言葉に卒倒しそうになる山田先生。面白いなあの人。ていうか織斑も結構知ってんな…ちなみに女の子は体が14歳に固定される。これマメな

 

「何なら私が切断してやろうか?あん?」

 

「「あ、スイマセン…」」

 

しまった…ここにバイドより恐い人いたんだった…周りを見ると、俺たちの話を聞いていたであろう女生徒諸子が引いてる、というか怯えてる。あちゃー…これはやっちゃったかな…

 

キーンコーンと、時代を通じて同じメロディのチャイムが、授業終了と共にこの何とも言えない空気を終わらせてくれた。

 

 

--閑話休題

 

 

「…さて、次の授業を始める前にだ…織斑、佐丈。お前らには、調査のために特例として、専用機が与えられる」

 

「「専用機?」」

 

俺と織斑の声がハモる。専用機っていうとあれか?エースの特権として与えられるやつか?

そんなことを考えていると、教室がざわざわとなり始める

 

「せ、専用機!?1年のこの時期に!?」

 

「つまりそれって、政府からの支援が出るってわけで…」

 

「いいな~専用機…私も欲しいな~」

 

「私も専用機に乗って、ドヤ顔で『貴様には水底が似合いだ』とか言ってみた~い」

 

なあ最後の人、あとで俺と話さない?絶対話し合うと思うんだよね。ちなみに俺は地底人だ。意味わかんない?そう…

 

「えーっと、つまり?」

 

「…教科書6ページ、音読しろ」

 

意味が分からないといった感じの織斑に、暗に教科書に書いてあるから確認しろと言った千冬様。そこには、ISに関する大まかなことが書かれている。

 要約すると、『ISって一体なんなのよ!中身は意味不明!数はたった467機!全てメイド・イン・シノノノ!おまけにその人以外誰も作れないONLY☆ONE!かと思ったらこれ以上作りましぇーんみたいなことほざきだす!挙句は世界中の国家が取り合う!あんたらお菓子を取り合う子どもなの!?お次は司法ときたわ!ISのコアを取引しようとしたわ!そしたらアラスカ条約で追われる身よ!一体ISって何なのか教えて頂戴!』ということが書かれている。

 ちなみにこの問いに対してベストアンサーに選ばれた篠ノ之博士からの解答は『駄目だ』の一言であった。…ん?てか待て。この篠ノ之ってもしかして…

 

「あの、先生…篠ノ之さんって…篠ノ之博士の関係者なんでしょうか…」

 

俺のそばの席にいる大人しめの女の子が、織斑先生にそんな質問を投げかける

 

「ああ、篠ノ之はアイツの妹だ」

 

と、織斑先生が言った瞬間、教室は驚愕の声であふれかえった。

 

「エェーッ!?す、すごい!このクラス有名人の身内が2人もいる!」

 

「ねえねえ、篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才だったりするの!?」

 

「篠ノ之さんも天才だったりする?今度ISの操縦教えてよ!」

 

そういって、炎に向かう蛾のように篠ノ之さんに群がる女生徒諸子。いやそれも思ったんだけど、それよりあの人って…

 

「あの人は関係ないッ!」

 

突然の大声、それがした瞬間、教室は数秒前とは打って変わって静まり返る。集まった女子はみな一瞬何が起こったのかわからなかったのか、目をぱちくりとしていた。

 

「…大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない……」

 

そういって、篠ノ之さんは窓の外へと目を移してしまう。女子はこれが何だか気に入らなかったようで、渋面で席へと戻っていった…そうか…あの人そういう人だったのか…

 

 

 

 

 

「織斑、すごいんだなあの人。フェイスブックでオススメロボットアニメ紹介してるだけの人じゃなかったんだな」

 

「そうだぞ、凄いんだぞ。今週はキングゲイナー紹介してたな」

 

「おいちょっと待て!?なんだその話!?姉さんフェイスブックやってるの!?」

 

 

篠ノ之さんがすんごい驚いた顔でこちらに振り向いた。振り向く速度もすんごかった。ちなみに織斑先生も『あいつフェイスブックやってんだ…』みたいな顔になってた。知り合いの意外な一面知るとそんな顔になるよね。わかる。

 そしてこの後、篠ノ之博士の投稿を確認したら、エウレカセブンを紹介してた。河森氏は神ってコメントしてた。

 

 

 

 




SF・ロボットもののネタが全部わかった御方は作者と友達。


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6話 金のエンゼルの確率は1000個に1個ぐらい

今回ちょっとだけシリアス気味になっちゃった…ギャグを維持するって難しいよう…

ちなみに作者は2回だけ銀のエンゼルが当たったことがあります。


--さーたん視点

 

篠ノ之博士フェイスブック騒動は過ぎ、時は休み時間、俺と織斑が博士の投稿にいいね!をつけてる最中、セシリアさんがこちらに近づいて話しかけてきた。暇そうだなあの人。

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

「え?何のハナシ?」

 

「決闘ですわよ!決闘!!忘れたとは言わせませんわよ!!」

 

「あー…そうだった、ゴメン忘れてたわ」

 

「あ、あなたねえ…」

 

そうか、何か忘れてると思ったら、確か決闘しなくちゃいけないんだよな。

 

「…ふん。まあいいですわ。勝負の結果は見えているのですし、その態度がいつまで続くか見ものですこと」

 

「?…どういうことだ?」

 

織斑がそう聞くと、セシリアさんは待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

 

「あら、ご存じないのね。いいですわ。庶民のあなた方に教えて差し上げましょう。このわたくし…セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生…現時点で専用機を持っていますの。」

 

『へぇへぇへぇ』

 

「いやなんですのそのボタン!?バカにしてますの!?」

 

それを聞いて織斑は、どこから取り出したのか、昔の某素晴らしきムダ知識番組で使われたボタンを取り出して使っていた。あ、俺も欲しかったんだよなアレ…

 

「いや懸賞で当たったからさ…今が使い時かなって…」ヘェヘェヘェヘェヘェヘェヘェ

 

「一回それ押すのやめてくださる!?何だかひどく不愉快ですわ!」

 

「お、10へぇか、まあまあのトリビアだったな」

 

「わたくしの誇りをトリビア扱いしないでくださいまし!!」

 

バンっとセシリアさんが机をたたく。それ手傷めない?大丈夫?

 

「ッ~~…」

 

あ、ちょっと涙目になってる。痛かったんだな

 

「…こほん。さっき授業でも言っていたでしょう?世界でISは467機。そんなISの中で更に、ワンオフの専用機を与えられるということは、全人類の中でもエリート中のエリートなのですわ!」

 

「…なあ晴明、つまり?」

 

「チョコボールで考えるんだ織斑、IS全体を銀のエンゼルだとすると、その中でも専用機は金のエンゼル…つまりそれ1枚だけで銀のエンゼル5枚分の強さを持ってるってことだ、きっと。」

 

「やったじゃんセシリアさん!キョロちゃんの缶詰貰えるぜ!」

 

「馬鹿にしているでしょうッ!!?」

 

俺の例えはどうもセシリアさんの機嫌を損ねてしまうものだったらしい。…でもホントにレアなんだぜ?エンゼルって?俺、銀すら一回も当たったことないし

 

「いやそんなことないって…なあ箒?」

 

織斑君。そこで篠ノ之さんに助けを乞うのは悪手だと思うの。あ、ほら、親の仇でも見るような目で睨んできたじゃないか。俺を巻き込むのは勘弁してくれ

 

「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね?」

 

「…妹と言うだけだ」

 

あらら、すごいメンチ切っちゃってまあ…あれでヤクザスラングを言ってくれさえすりゃ言うことなしにコワイんだけどな

 

「う…ま、まあ、どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということはお忘れなく」

 

そういって、セシリアさんはふわさぁ…という擬音が似合う立ち振る舞いをし、そのまま立ち去って行った。結局なにしに来たんだろうかあの人…?

 

「…わるい晴明。今日の昼飯、箒もつれてっていいか?」

 

「…余計な節介かもだぜ?」

 

「それでも、だ」

 

そう言う織斑の目には、断固として譲らないという頑なな意思が見え隠れしていた。コイツはそういうやつだ。困っている人を見かけたら、ほっとくことができない。大方今回は、篠ノ之さんの進行するボッチ化を阻止しようというのだろう。何ともまあ人によっては迷惑極まりない話だけど、なんでか、コイツのそういうところは嫌いになれないでいた。

 

…が、こやつにはどうも看過できない阿呆な部分がある

 

「…でもだ、織斑。行くんなら、他の人は誘わないで、篠ノ之さんと2人っきりで行くことだな」

 

「ん?なんでだ?みんなで食べたほうが仲良くなるだろう?」

 

コイツ、やっぱり他の女子も誘って行くつもりだったな。それは下手すりゃ幼馴染とのフラグを折って死亡フラグに変換されるまでありますよ、織斑さん。

 

「まあそう焦るなよ。そういうのは急いだってしょーがないぜ?まずは、幼馴染の男の子と仲良く食事。それでいいじゃんか」

 

「うーん…でもなあ…」

 

「まあ、騙されたと思って、今回は俺の口車に乗ってみんのも、悪くないんじゃない?」

 

「…わかった。晴明がそういうなら、そうするよ」

 

「…よし、んじゃ決まりだ、さっさと誘って来いよ。その間にお邪魔虫は退散しとくからさ」

 

「お前はどうすんだ、昼飯?」

 

「どっかで適当にとるよ、そんじゃ」

 

「わかった、サンキュー」

 

織斑に別れを告げ、俺は駆け足で教室を出た。

さて、織斑は篠ノ之さんにどう接するのかね…結果が楽しみだ

 

(…ああ、そうだ、そういえば専用機のハナシ、まだ詳しく聞いてなかったっけか)

 

あの時、騒ぎがあったせいで曖昧になったが、確かに専用機が貰えると言っていた。この機にどんなもんなのか聞いてみよう。

 

 

(…いくつか、聞きたいこともあるしね……)

 

 

--閑話休題

 

 

「佐丈君の専用機、ですか?」

 

職員室に行くとそこには、ちょうどお弁当を食べている山田先生がいた。食べている最中に悪いが、織斑先生は出払ってるらしいのでこの人に聞くことにした。

 

「ええ、どんなもんかな、と…」

 

「ええと、ちょっと待ってくださいね」

 

そういって、デバイスを出して、慣れない手つきで操作をする山田先生。しどろもどろになりながらも一生懸命探してくれるその姿はとてもかわいかったです。はい

 

「?…あの、私の顔に何か?」

 

「ああいえ…カワイイ弁当だなと」

 

「あ、そう思います?自信作なんですよ、これ…よければ、おひとついかがですか?」

 

そう言って、彼女は中にある唐揚げをひとつ俺に差し出してきた

 

「あら、どうもスイマセン…あ、うまいっすね。これ」

 

「そうですか、よかったです。…と言ってもまあ、食べさせる相手もいないんですけどね…」

 

途端、ブルーになる山田先生。ああ、彼氏いないのかこの人…しかし、喜んだり悲しんだり、相変わらず表情がころころと変わる面白い先生だ。

 

「へえ、じゃ俺立候補しよっかな」

 

「フフ、それもいいですねー…て、え!?」

 

「!?」

 

俺が冗談交じりにそんなことを言った途端、いきなりでかい声を出してこっちを向く山田先生。正直すげえビビった。唐揚げのどに詰まるとこだったマジで

 

「さ、佐丈君。ほ、本気ですか?私、佐丈君よりおばさんだし、仕事も教職だからあまり時間も作れないし、た、多分佐丈君のご両親も反対なさると思うし…」

 

ねえなんで俺の両親の話が出てくるの?なんでそんな仕事がどうとか具体的な話が出てくるの?ねえちょっと怖いんだけど

 

「そ、それに佐丈君はまだ高校生だから、あと3年は待たなきゃいけないし…ああでも、その頃には私はもうにじゅう…」

 

「せ、せんせ?専用機。俺の専用機は?」

 

「ハッ!?そ、そうでしたね、ごめんなさい…今探しますね…」

 

あーびっくりした…何だろうこのひと。親に結婚の催促でもされてんだろうか?鬼気迫るものを感じたけど…

 

「…あ、あった。こちらですね」

 

どうやら見つけたらしい。山田先生は俺に見るように手招きをして、デバイスの画面をこちらに向けてきた。

 

「このISが佐丈君の専用機、デュノア社のラファール・リヴァイブです。と言っても、佐丈君用に造られたというわけではなく、量産機をデュノア社から提供してもらってるだけなんですけど…」

 

へー、これが俺の…何というか、まさにスタンダードって感じの機体だな…

 

「あ、ちなみに、機体はもうこちらに届いているので、申請を出せばすぐに使用できますよ」

 

「へーそりゃまた…重畳ですな」

 

「でも、なんで急に機体のことを聞きに?オルコットさんと対戦があるから、そろそろ練習しておきたい、とか?」

 

「それもあるんすけど…あ、そうだもうひとつ聞きたいことがあったんですけど…」

 

「はい、何でしょう?」

 

「ISって、武器スロットとかシールドエネルギーとかのステータスあるじゃないですか。あのステ振りってやり直せるんですか?」

 

「す、すてふり?」

 

ああそっか、ゲームやんない人にとっちゃこの質問、意味不明だよな。ええと、どう説明しようか…

 

「できるよ~」

 

「ん?あれ?本音さん?」

 

いつの間にか、俺の後ろには本音さんがいた。なんでここに?逃げたのか?自力で脱出を?

 

「あ、布仏さん。生徒会の報告書ですか?」

 

あ、本音さんの苗字、布仏って言うんだ。初めて知ったな…ん?ていうか…

 

「生徒会?」

 

「そのと~り、何と私は、生徒会の書記だったのだ~。えっへん」

 

「えぇ…ウッソだろお前…」

 

本音さんって書記の仕事できたのか?ていうか普通の人と仕事の話できたのか?

 

「む~。今失礼なこと考えてたでしょ?」

 

おおっと、いかんいかん。読心されてら

 

「いやいや、そんなことは全く…それより、できるのか?ステ振り直し」

 

「うん、できるよ~。なんなら私がやってあげようか?」

 

「…本音さん。ISはねるねるねるねとは違うんだ。適当に練るだけで強いものができるわけじゃないんだぜ?」

 

「さーたん?私のことバカにしてるでしょ?」

 

そう言って、頬を膨らませる本音さん。いやだって、ねえ…?

 

「佐丈君。布仏さんは、ISの整備に関してはエキスパートなんですよ?」

 

「ウソお!?」

 

「む~今日のさーたんは意地悪だよ!さては私のこと、お菓子をねだるだけの残念な子だと思ってたでしょ!」

 

いやごめんその通り、と言ったら本気で怒りそうだから黙っておこう

 

「…でも山田先生、ISの整備って相当な知識と技術がいるんじゃ…なんでそんな技能を、本音さんが?」

 

「え…えーと、それは、その…」

 

何だか言葉を濁しながら、露骨に目を泳がせる山田先生。あら?なんか触れちゃいけない部分だったのかしら?

 

「…まあいいや、つまり本音さんなら、俺の専用機も整備できるってことだろ?」

 

「ふーんだ。もう知りませーんだ。整備なんかしてあげないよーだ」

 

「コアラのマーチ5個あげるから」

 

「しょうがないな~さーたんは~!今回だけだよ~?」

 

わーちょろーい

 

「…でも、一体どうしたいの?要は改造でしょ?ラファールはバランスの良い機体だから、下手にいじった方がかえって危ないと思うけどな~」

 

「改造、ですか…それは先生もあまりお勧めできませんね…まずはとりあえず動かしてみて、そこから何が足りないのかを見つけていった方が良いと思いますよ?」

 

「まあ、そうなんですけど…それじゃ、ちょっと間に合いそうにないんですよね…」

 

「もしかして、セッシーとの決闘の話?」

 

セッシー?ああ、セシリアさんのことか。本音さんって人にあだ名つけることが趣味なんかな?

 

「ま、そんなとこ。このまま正攻法で行っても、まず勝てないだろうし」

 

「…やっぱり、勝つつもりなんですね…」

 

山田先生がそう聞いてくる

 

「…俺はどうでもいいけど、もう1人が…ね…」

 

織斑。アイツは本気で勝ちに行くつもりだ。それを俺が水を差すのはどうにも気が乗らない。図らずとは言え、乗った船だ。乗った以上は、最後まで付き合わなきゃあ、バツが悪い

 

「あまり意味ないと思うけどなー。ちなみにどんな感じにしてほしいの?」

 

「ああ、それは…」

 

 

そして俺は、ステ振りの要望を、本音さんに説明した。説明すると、本音さんも山田先生も、ひきつったような顔をそれぞれしていた。

 

 

「…て感じで、できないかな?」

 

「…さーたんって、結構バカでしょ?」

 

いきなりバカ認定された。いや、正直お前さんにだけは言われたくないんだけども…

 

「…まあでも、それなら確かに、凄く上手くやって、運がよかったら、勝てるかも…」

 

「でしょ?」

 

「だ、ダメですよ!そんなギャンブルみたいな戦い方、先生認めませんからね!」

 

「そうだよさーたん。まさにギャンブル!それに失敗すれば、怪我じゃ済まないかもよ?」

 

そう言う本音さんは、どこか心配そうな顔を俺に向けてくる。なんだかんだ優しいよな、この人も

 

「で、やってくれるの?」

 

「やらないっていったらさーたん、自分でいじくっちゃいそうだしね~。それよりは…」

 

「布仏さん!?」

 

「でもなんで、わざわざそんな危ない方法選ぶの?もっと無難なやり方もあると思うよ?」

 

「…上手く言えないけど、こういう時は、そういう方法を選んだら、きっと良くないと思うんだ…」

 

「それってジンクス~?」

 

「まあ、そんなもんかも…昔の人が言ってたけど、こういう時は…」

 

その時俺は、ある伝説の雀士の言葉を思い出していた

 

 

 

 

 

「死ねば、助かるのさ」

 

 

 

 




お菓子そのものより、エンゼル目的でチョコボールを買った不届き物は作者だけではないはず。…はず……


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7話 でもナデポの展開は嫌いじゃないよ

ナデポってこれまでの積み重ねのフラグがあるから魅力的に見えるんだと思います(何言ってんだコイツ)

遅くなりましたが、誤字報告してくださった戦闘妖精 島風さん、黒のアリスさん。ありがとうございました~。


--さーたん視点

 

本音さんに改造を頼んでから、カスタマイズの手伝いをしたりテスト運用をしたり、スマブラしたり、セシリアさんの情報を調べたり、そのはずがいつの間にかまとめサイトの

どうでもいい記事を見たり、スマブラしたりと、なんやかんやで幾数日、あっという間に2度目の月曜日を迎え、セシリアさんとの対決を迎えることとなった。そんな中、アリーナのピット内で、俺と織斑はその時をただ待っていた

 

「さーってそろそろだな、織斑…」

 

「ああ…きっと激しい戦いになるだろうな…」

 

「…なに、できることを精いっぱいやれば、それでいいさ…」

 

「晴明…!ああ!」

 

俺もこいつも、ISでの戦いは初めてだ。だというのに、コイツの目には迷いや、不安というものが一切なかった。そうだ、何も問題はないさ…全力で行けば、それでいい…

…ただ、問題があるとすれば…

 

「…ところで織斑…」

 

 

 

 

 

 

 

「お前ISは?」

 

「まだ来てねっす」

 

 

 

……ウソやん……

 

 

 

--閑話休題

 

 

 

 

「OK、いったん整理しよう。今、対決開始5分前、一番手は織斑、でもISが届いてない。OK?」

 

「OK」

 

「ウソだと言ってよ、ISこなかったらどう戦うんだよ?」

 

「な、生身で…」

 

「メロウリンクかお前は」

 

しまった忘れてた。コイツ勤勉なんだけど基本的にはアホだったんだ…

 

「…そういやお前、この1週間の間にISのこと色々聞いてたみたいだけど…何か収穫あった?」

 

「ああ、剣道が少し上達したよ」

 

「何故に?」

 

どうしてISのことを聞いたら剣道レベルが上がるんですかね…?数学が苦手な僕にはこの方程式は難しすぎますよ…

 

「いや、俺は普通にISのこと聞いたつもりだったんだ。そしたら箒が…」

 

「ああうん…いい、大体察したから…」

 

どうせどっかで話にずれが生じたんだろう。俺にはわかる。だってあそこで篠ノ之さんが気まずそうな表情で突っ立ってるから

 

「さ、佐丈君!織斑君!」

 

と、そうこうしているうちに、我らが山田先生がワタワタと走ってこちらに向かってきた。何がというわけでなくすごい揺れていた。ビデオカメラ持ってくればよかった。

 

「お前今すごくしょーもないこと考えてたろ?」

 

「それはスルーしてくれ織斑…で、どうしたんすか?」

 

「さ、佐丈君…その、織斑君のISがもうじき届くんですけれど、試合に間に合いそうもなくて…なので、先に佐丈君に出てもらうことになりそうで…えーとそれで」

 

「わかりましたから落ち着いて。…そうだ、ケータイで"羊たちの沈黙"と言う映画を見てみてください。きっと落ち着きますよ」

 

「あ、はい…えーとひつじたちの…」

 

「貴様ホントに性格悪いな…」

 

「あ、織斑先生」

 

そこにはもはや怒る気力もないと言った感じの織斑先生がいた。ていうかそういう表情になるってことは先生、この映画知ってるんすね…結構古い映画のはずなんだけど…

 

「話は聞いた。こっちに来い佐丈。お前のラファールは用意してある」

 

こうなることは織り込み済みってか。流石と言うかなんというか…織斑先生についていくと、そこには一部の装甲が取り外され、ノーマルよりも少しスッキリしたラファールがあった。武器も純正品のパイルバンカーとスモークグレネード数個だけ。完全にネタ機体である。

 

「…しかし、どういうつもりなんだ、このラファールは?随分といじくりまわしたようだが…まさかお前が…?」

 

「ああ、それは…」

 

「それは私がやりました~」

 

「ど、どうも…」

 

「うわ!?本音さん…と相川さん…」

 

いつの間にか俺の真後ろに2人がいた。ホンット神出鬼没だなあ本音さん…しかも何故相川さんまで…

 

「ほお、布仏を味方につけたか。なかなか強いカードを手に入れたな、お前も」

 

「え?そうなんすか?」

 

「ああ、ことカスタマイズに関しては、な…これは面白くなってきそうだ」

 

そう言って、織斑先生は不敵にほほ笑んだ。…いまいちピンとこないけれど、つまり本音さんは俺にとって勝利の女神になり得るらしい

 

「……」

 

「んえ?どしたの、さーたん?」

 

…ぜったいうそだぁ

 

「…あのさ、佐丈君。本当にやるの?」

 

先程まで黙っていた相川さんが、その沈黙を破り、不安そうな表情で俺にそう聞いてきた。本音さんあたりに聞いたのか、どうやら俺が何をするのか、知っているらしい

 

「本音さん、黙っててっつったのに…」

 

「ご、ごめ~ん…つい口が…」

 

「あ、あのさ、あんまり無茶しちゃだめだよ…か、勝てないのは仕方ないじゃん…相手は代表候補生なんだし…別にそこまで…」

 

「…へー」

 

もしかしなくても、心配してくれてんのか?優しい人だ。ほとんど無関係なはずの俺に、ここまで気を配るとは…

 

「…なにさ、へーって?」

 

「え、ああいや、その…」

 

やべ、聞こえてた。どうしよ…あ、そうだ…

 

「ねえ佐丈君?聞いて…え、ちょ…な、何すんのさ…」

 

今何をしているのか説明しよう。相川さんの頭を撫でている。以上

…ヤバイ、何故か昔近所にいた犬を思い出してやっちゃったけど、これ後でセクハラって訴えられないかな。大丈夫かな?

 

「あの………むぅ…」

 

しかし撫でても、相川さんはあまり抵抗せず、目を細めてなすがままにされていた。どうやら嫌がってはいない…よね?…だよね?

ちなみに昔頭を撫でた近所の犬には思いっきりかまれた。あれ以来犬が嫌いになった。

 

「…ま、せいぜいかっこつけるからさ…よかったら応援してってよ…文句はその後聞くからさ」

 

「……なにそれ…ズルイ…」

 

渋々と言った感じではあったけれど、どうやら納得はしてくれたらしい。俺は頭から手を放し、ラファールの方に向かって歩いた。

 

 

 

すると本音さんがビデオカメラをこっちに向けていた。

 

 

 

「…ちょっとお前さん。何を撮っとるとね?」

 

「ほ、本音…?」

 

「見ましたおりむー?ナデポですよナデポ。まさかさーたんがあんなラノベ主人公みたいなことするとは思わなかったよ」

 

「俺もだよのほほんさん…まさかあの年中ぼーっとした晴明がこんな…嬉しいなあ、ついにアイツにも春が…」

 

そう言いながら、ニヤニヤと俺たちの方を見る2人…なんだろう、死ぬほどウザイ…よく見るとあの織斑先生までにやけ面だ。

 

「な、何言ってんのさ…別にそんな、ねえ佐丈君?」

 

「ああ、別に…」

 

 

 

 

 

「近所の犬とおんなじ感じで撫でただけだぞ?」

 

 

 

 

パアンッ

 

 

 

--閑話休題

 

 

 

 

 

 

「…あら、随分遅かったですわね。まあ、逃げなかったことは褒めて差し上げ…どうしましたの?そのアザ?」

 

「…聞かないでいただけませんこと?」

 

 

やはり、女性に不用意なことをしてはいけないなと、身をもって知った。

 

 

--試合開始

 

 

「ふうん?ま、いいですわ。それより、最後のチャンスをあげますわよ?」

 

「と、言うと?」

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、みじめな姿を晒したくなければ、今ここで謝ると言うなら、許してあげないこともなくってよ?」

 

「スイマッセーン」

 

「死になさい」

 

うん、鼻ほじりながら言われたらそりゃそうなるよな。ていうかこの人すっげえ分かりやすい性格してんなー

 

「…てうおお、めっちゃ撃ってくる怖い怖い怖い」

 

「ふん、ちょこまかと…せいぜい踊りなさい、このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でるワルツで!」

 

「あんたそれ完全に悪役のセリフ…うわ何そのファンネルみたいなの…ウオオオ!」

 

「その減らず口がいつまで続くか、見ものですわね!」

 

 

…さあて、タイミングが重要だ。どうする?

 

 

 

 

 

--ちっふー視点

 

 

「して布仏。佐丈のやつはどんなカスタムを要求してきたんだ?」

 

試合開始から約3分。今のところオルコットのやつが押している。ここまでは予想通り。問題はこの後だ。何やら、佐丈はあのラファールに秘策を隠してるらしいが、まだそれを使う動きは見られない。一体何を企んでいるのか…

 

「ああ、それ俺も気になってた。晴明のやつ、どうしようとしてんだ?」

 

「ん~とね~…ギャンブルだよ」

 

「ギャンブル?」

 

「そう、ギャンブル。一回だけ使える奥の奥の手。あのラファールはそれだけに特化した仕様なんだ」

 

「…山田先生も聞いてたのですよね?どんな仕様でした?」

 

そう言って山田君の方を見ると、何やらげんなりした様子で机にうなだれていた。…ああ、見てしまったんだな、羊たちの沈黙…

 

「うう、気持ち悪いよう…ハッ!?あ、はい…ええと、佐丈君のラファールの仕様ですね。それが…シールドエネルギー、武器格納数などに使うエネルギーの大部分を、別の性能に分配してるんです。ですから、武器も量子化できませんし、なにより、装甲がとても薄いので、かなり危険な機体です」

 

「は、晴明のやつ…そんな危なっかしいこと…」

 

「…して、その分配した別の性能とは?」

 

「はい、それは…」

 

 

 

 

「瞬間加速です」

 

 

 

--セッシー視点

 

 

…おかしいですわね?なぜ、これだけ撃って反撃してこないんですの?

見たところ彼の機体はラファール…ならば射撃武器はそれなりに種類があるはず…なのに撃ってこないで、ずっとパイルバンカーを持ったまま…そして腰部分に装備されているのは恐らくスモークグレネード…ということは彼は…

 

スモークで目くらまし及びレーザー兵器の無力化をしてからの、パイルバンカーでの奇襲…恐らくそれが狙い…

 

 

 

 

…だとしたらなんと、浅はかな

 

 

 

 

(正直、がっかりですわ…)

 

その程度の対策、国家に選ばれたエリートがしないと思いまして?きた瞬間に、方角を特定して避けることくらい、わけないですわよ?

所詮彼も男…浅はかで、愚かで、情けない…

…あの男と、同じ…

 

「…いい距離になったね…」

 

突然、オープン回線から聞こえる彼の声、いい距離?どういうことですの?

 

「随分離れた」

 

離れた?…確かに、いつの間にか、お互いアリーナの両端に位置している。でもそれが一体…

 

 

「離れたほうが、視界に入っていいよな」

 

 

「!?」

 

突如背中に走った悪寒、しかしそれがした時にはすでに、はるか遠方で彼は、自分の周りにスモークを焚いていた。

 

(しまった!これではレーザーは…)

 

でも、どういうつもりですの?あそこからでは、彼の装備ではまともに攻撃なんか…

 

「正面から行くよ。」

 

何でもないように、無線越しに聞こえた彼の声。それは全く気負っていないような声で、しかしそこには普段のおちゃらけた雰囲気はなかった

 

「…いいでしょう。来なさい…」

 

恐らく彼の筋書きはこうだ。スモークでレーザーを無効化。その間に瞬間加速に必要なエネルギーを充填し、そしてシールドエネルギーが尽きる前に、パイルバンカーで一気にわたくしを潰す。正面からとわざわざ言ったのは、わたくしの性格ならそれを受けてたつと踏んだか、それとも考えなしか…どちらにしろ、思っていたよりはマシなようですわね…

 

「…けれど、瞬間加速程度のスピード、とらえきれないわけではなくってよ。その認識を誤った、あなたの負けですわ!」

 

 

 

 

 

「どうかな」

 

 

 

 

 

「な!?」

 

突然に鳴り響くアラート、感知したのは、正面遠方に現れた超高熱源反応…

尋常じゃない…従来の瞬間加速の比じゃない発生熱量…いったいこれは…

とっさに、私は持てる火力を全て彼に向けて放った。考える暇はない。これは勘だ。今撃たなければ、やられる

 

 

けれど、それが着弾する前に、彼は私の目の前に来た

 

 

 

 

 

 

 

「ヨォ」

 

 

 

 

 

 

そう言って彼は、その重い杭を、わたくしに突き出した

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

 

「……え?」

 

何が起きたかわからなかった。わたくしは確かに、さっき…

 

「…なあ、起こしてくれない?」

 

「え…あ…」

 

声のした方を振り向くと、そこには、傷だらけで、ボロボロになった彼がいた。その周りは、とても大きく、まるで爆発でもしたかのように、地面がえぐれている。恐らく彼のパイルバンカーの破壊痕だろう。けれど、ブルーティアーズには一片のダメージも見受けられない。一体なぜ…?

 

「…簡単さ、当たらなかったってだけだ」

 

わたくしの怪訝な顔を見て察したのか、彼は私の疑問に答えてくれる。当たらなかったって…

 

「…一体、何なんですの?あの加速は?」

 

「簡単よ。エネルギーの振り分け全部瞬間加速ってやつに貢いだの。シールドなんたらのも拡張どうたらのもほぼ全部」

 

「な…」

 

何を考えているのかしら、この方は、ふつう考えてもそんな阿呆なこと、実際やろうとは思いませんわ…

 

「んで、ただでさえもろくしちゃったもんだから、スピードに耐えきれないでゴリゴリ削れて、とどめの壁激突の衝撃で一撃死。晴れて完敗。その余波で怪我まみれってわけよ」

 

「…頭のねじが外れてるのではないですの?」

 

「よく言われるよ」

 

何の気なしに彼はそう答える。

 

…そう、彼は最後までそうだった。どんなに追い詰められても、侮辱されても、最後まで何の気なしに、そう言い放った

 

「…ほら、先生方のとこまで連れて行きますから、ISを外してくださいな」

 

「おお、悪いね」

 

「いいえ…敗者をいたわるのも、勝者の余裕というものですわ」

 

「お、言うねえ。でも織斑はこうはいかないぜ?アイツは結構いいとこまで行くと思うぜ?」

 

「フフ…あなたを見れば、わかりますわ…」

 

「え?」

 

初めて見せた。困惑の顔。それが何だか面白くて、柄にもないようなセリフを放ってしまった。日本では、かっこいいと思った相手には、こう言うらしい。

 

「まあ、あれですわ…」

 

 

 

 

 

 

 

「イカしてましたわよ、あなた」

 

 

 

 

 

 




もうちょっとでようやくお鈴々出せる…幼馴染が増えるよ!やったねいちかちゃん!

戦闘描写に関しては作者の表現力と語彙が不足してることを深くお詫び申し上げます。


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8話 リングは最後のおじいちゃんが一番割食ってる

いつの間にか評価が真っ赤っかに…皆さんありがとうございます
しかも日間ランキングに載っているだと…!?

貞子かわいかったですねー…エンディングがめちゃくちゃ明るいトランスなのも個人的には好きです。


--さーたん視点

 

「あ、相川さん、ちょうどよかった。そこのジャンプとってくんない?体動かなくって…」

 

「……はい…」

 

「サンクス」

 

セシリア嬢と戦って少し後、俺は彼女の手によって先生方のところに連れてかれ、怪我が結構シャレにならないレベルと診断されたのち、緊急で医務室へと運ばれることになった。

 なので今の俺はミイラもしくはマミーよろしく包帯でぐるぐる巻きにされてる。そこに相川さんが看病に来てくれて、冒頭の会話に戻るわけである。相川さんが俺を見るなり、ほっとしたような顔をしたかと思ったら、それはすぐに怒りの表情にすげ替えられた。おかげで俺も表情には出してないものの、どうにも気まずい。

 

「…心配したんだよ?本当に…」

 

「…悪かったって」

 

聞いたところによると、俺が試合で大けがをしていたのをバッチリ見ていたようで、医務室に俺が運ばれたことを聞くなり一目散にこっちに来てくれたらしい。ルームメイトとは言え他人をここまで気遣ってくれるとは、なんともまあ優しい人である。

 

「でも、良かったの?織斑の試合見なくてさ?みんな見に行ってるぜ?」

 

「だって…放っておけないし…」

 

「お優しいこって」

 

「それイヤミ?」

 

「冗談。でももったいないなー。きっとかっこいいと思うぜ?」

 

言って、ふと思った。アイツは今どんなふうに戦ってるんだろうか。少なくとも、俺みたいな悪手でなく、正々堂々とやってるはずだ。俺のときなんぞよりずっと見どころのある試合だろうに

 

「…えーと…」

 

「?」

 

どこか照れた感じで、頬をかきながら目をそらす相川さん。何か言いたいことがあるのか、んーとかえーとか言って口をもごもごさせている。何だ?うんこか?

 

「…さ、佐丈君も…その……か、かっこよかった、よ…?」

 

「……お、おう…?」

 

まったく予想してなかった言葉を相川さんの口から聞き、思わず俺は素っ頓狂な声を出してしまった。ええ、てっきり…

 

「…な、何さ…?」

 

「あ、いや…てっきり、"えーあんだけ吹いといてこれとかーマジ痛すぎるんですけどー、しかもあれでかっこつけてたつもりなのー?キモーイプークスクス"くらいには思ってんのかと…」

 

「待って、何!?アンタの中の私そんなに性格悪かったの!?一回も言ってないじゃんそんなこと!」

 

「いや相川さんって言うか、小・中のときの俺に対する女子の当たりって軒並みそんなもんだったから、自然、俺に対してはそうなるだろうなと…」

 

「え、ちょ、やめなよ、悲しくなるから…大体、そんな風に思ってる子が、わざわざお見舞いに来ると思う?」

 

「あーなるほど」

 

「バカ」

 

何のひねりもなくバカと言われた。それすなわち何の付加属性(エンチャント)もないバカということだろう。せめてゴミバカとかクソバカとか…悪化してんな、うん…

 

「まあ冗談はともかく、俺はもう大丈夫だし、行って来たら?あわよくば、織斑とお近づきになる話の種になるかもだぜ?」

 

「…何よ、それ」

 

「え?」

 

あれ?なんでそこで不機嫌になるんすかね?

もしかして、俺の方にフラグが立って…るわけないしな…じゃあなんなんだ?

 

「きよたんがお近づきになりたいのはさーたんのほうだもんね~」

 

「ほ、本音…!?」

 

「あ、本音さんチッス」

 

「ち~す」

 

そうこうしているうちに登場したのは、御馴染み魔改造ピカチュウこと本音さんである。

ちなみにジャンプ持ってきてくれたのもこの人、今週号まだ読んでなかったから本当に助かった。

 

「…ちなみに本音さんや、今の言葉の意味は?」

 

「そのまんまだよ~?さーたん、フラグ立ってるんだよ~」

 

「マジで!?」

 

「ち、ちち…ちがうし!」

 

そう聞くと、あたふたと慌てながら顔を真っ赤にして否定する相川さん。その様子はどこか前に見たアニメのヒロインを思い出すものだった。

 

「…え、うそ?え、マジで」

 

「も、もういいじゃんその話は!それより…」

 

そう言って、相川さんは強引に話を切り上げ、別の話へと持って行った。

 

「そんなことより、どうすんのさこれから?負けたらオルコットさんの奴隷って話だったでしょ?これで織斑君が負けたら、もう終わりなんだよ?」

 

「ああ、そのことか…まあ、大丈夫だよ。アイツは、そんな簡単に負けないさ」

 

「でも…」

 

「大丈夫だって…ね?」

 

そう言って、俺は相川さんの頭を撫でた

 

「あ…もう、また…どうせ撫でとけば大人しくなるとでも思ってんでしょ。近所の犬みたいにさ」

 

「あ、まだ引っ張ってたんだそれ…」

 

まあ、全くそう思ってないって言うと、ウソになるけれど

 

「信頼してるんだね~おりむーのこと」

 

「まあ、信頼ってわけじゃないけど、俺はアイツのこと結構買ってるよ…アイツは、ここぞって時に何かやってくれる、凄い力を持ってると思うんだ。もしかしたらって思うんだ。もしかしたらアイツ、本当に勝っちゃうんじゃっt」

 

 

 

 

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

…試合の結果って、スピーカで全校放送するんだぁ…知らなかったなぁ…

 

 

「…まあ、あれだ」

 

 

 

 

 

「奴隷って、週休二日制だったらいいな」

 

「…私たちも頼んでみるから、諦めないで…ね?」

 

「…うん」

 

「さーたんださ~い」

 

「うん、とどめ刺すのやめてあげようね?本音」

 

 

 

 

--閑話休題

 

 

 

 

しかし翌日、朝のホームルームにて

 

「では、1年1組の代表は織斑君に決定です。あ、1つながりでいい感じですね!」

 

そう嬉しそうにしゃべる山田先生。それに歓声を乗っけてより教室を盛り上げる女生徒諸子。相川さんの方に顔を向けてみると、彼女も何が何だかわからないという顔をしていた。ちなみに本音さんは寝ていた。

 

「…どういうことなの?織斑?俺もう織斑のことわからないよ…」

 

「うんちょっと俺もわかんないわ…」

 

なに?何がどうなってんの?昨日試合には負けたって織斑にはっきり聞いたし…なに?もしかして平行世界にでも飛んだの?ワルプルギスの夜倒さなきゃ(使命感)

…しかし本当にどうして…

 

「理由をお教えしましょう。それはわたくしが辞退したからですわ!」

 

そう言ってドヤ顔で立ち上がるは、件の騒動の渦中の人物であるセシリア嬢その人だった。辞退だと?なんでまた突然…

 

「確かに試合はわたくしの勝ちでした。しかしそれと同時に、わたくしは御2人を通して、自分の未熟さを知りました…まあいわゆる、試合に勝って勝負に負けた…と言うやつですわね…」

 

ん?なんだ?随分謙虚というか、おしとやかな感じになったな。最初にあった時はテンションの高い地獄のミサワみたいな感じだったのに…

 

「それでですね…その…そのことを反省しまして、"一夏さん"にクラス代表を譲ることにしましたわ」

 

"一夏さん"?今織斑のこと下の名前で言ったか?昨日までは名前で読んですらなかったのに…

と、ここまで考えて、俺に電流が走る。あのセシリア嬢の織斑を見る目、紅潮した頬、そして先程の名前呼び…これらから導かれる結論はひとつ…

 

「ちょちょっと待ってくれよ…それなら晴明だって同じだろ?なんで俺なんだ?」

 

「俺、理由わかったかも…」

 

「本当か晴明!どんな理由なんだ!?」

 

「…絶対教えない」

 

「なんで!?」

 

フラグ立ってんだよ言わせんな恥ずかしい。やっぱりこいつはモテるんだなあと、織斑を見てデレデレしているもんよ、セシリア嬢。

 

「あ、もちろん晴明さんにもちゃんと謝罪をさせて頂きますわ」

 

俺と目が合ったセシリア嬢が、深々と頭を下げてきた。こうして改めて謝られると、どうにもむず痒いものがあるな…ていうか俺も名前呼びなのな、別にいいけど

 

「ああいや、俺は別に…ところでこれ、負けたら奴隷云々の話は反故ってことで大丈夫?」

 

「当然ですわ。なんでしたら、あなたが言った一発ギャグ?の罰ゲームもやって差しあげますわよ?」

 

「「それはいいです」」

 

自ら死地へと向かって行こうとする者を、俺と織斑は全力で止めた。知らないってのは怖いことだなと、頭に『?』マークを浮かべてるセシリア嬢を見ながら、そう思った。

 

 

--閑話休題、おりむー視点

 

 

「織斑君、クラス代表決定おめでとう!」

 

「「おめでと~」」

 

授業も終わり、夕食後の自由時間の寮食堂。クラッカーと共に沸き起こる、俺のクラス代表を讃えるクラスメイト全員分の歓声…

 

「……はあ」

 

しかし俺は全く嬉しくなかった。何一つとしてめでたくないぞ。何だって俺が…

大体、晴明はどうなんだ?なんでアイツにはみんな何も言わないんだ?

そう思い、チラリと晴明がいる方を見る

 

「ちょっと佐丈君!酷いじゃないですか、あんな怖い映画見せるなんて!おかげで少しの物音にもびっくりするようになっちゃったんですから!」

 

「すいませんって山田先生…ほら、お詫びにこれ、貸しますから…」

 

「え、これは…?」

 

「"リング"って言う映画です。癒されますよ」

 

「ホラーじゃないですか!やめてくださいよもう!」

 

「まあ一応貸しておきますから、よかったら見てください、そんじゃ」

 

「あ、ちょっと佐丈君…あ、ああ~」

 

そう言ってアイツは某有名ホラー映画を押し付けてから、俺の方に歩いてきた。どうでもいいけど、性格悪い奴選手権ってのがあったらいいとこまで行くんじゃないかなアイツ?

 

「よお織斑、おめでとう」

 

「お前自分が難を逃れた途端元気な?…どうでもいいけど、山田先生にホラー映画貸すのやめろよ。ああいう人って見たくなくてもせっかくだからって言ってつい見ちゃうタイプだぜ、きっと?」

 

「いいじゃん、貞子かわいいし、テレビから出るとこなんて超キュートだぜ?」

 

あ、違うこいつ性格悪いんじゃない。単純に趣味嗜好がおかしいんだコイツ

 

「…人気者だな、一夏」

 

「…本当にそう思うか、箒?」

 

「…ふん」

 

隣にいる箒は何だか不機嫌だし、もうなにがなんだか…

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と、佐丈晴明君にインタビューを行いたいと思いまーす」

 

いつの間にか現れた、新聞部を名乗るメガネの女の子。彼女の言葉に周りも大盛り上がり。やっぱり女子は好きなんかね?インタビューとかこういうの?

 

「あ、私は2年の黛薫子。新聞部副部長やってまーす。これ名刺、よろしくね」

 

そう言って彼女は手慣れた動作で名刺を渡してきた。

 

「それではまずは織斑君に質問!クラス代表になった感想をどうぞ!」

 

どうぞも何も辞退したいんだよなあ…でもここまで言った以上それを言うのもはばかられるし…

 

「まあ、がんばります」

 

「えー、もっといいコメントちょうだいよー」

 

いやそんなこと言われても…

 

「んーじゃあ佐丈君、織斑君に向けて、エールの言葉をどうぞ」

 

「んごご、もごごご、んぼぼぼ」

 

「インタビュー受けてるときに飯食ってんじゃねえよ」

 

マジ何なのコイツ?自由すぎるだろいくら何でも。たまにコイツ、行動が全然読めない時があるんだよなあ…

 

「ま、まあいいや…じゃあセシリアさんも…いいか。どうせ適当にねつ造するし」

 

「せめて聞きません!?ねえせめて聞きませんこと!?」

 

そこらかしこで乱痴気騒ぎ。もうそろそろ夜も遅いというのに、当分終わる気配はなさそうだ…

 

…ええいもうヤケだ!俺は俺で好き勝手やってやる!

 

「晴明!スマブラやろうぜスマブラ!リンクでおまえを倒す!」

 

「あ?お前俺のサムスに勝てると思ってんの?上等だよ2ストック終点な」

 

そう言って俺と晴明はお互いの3DSを出す。もうヤケだ。どうせ決まったことは覆らないのだし、ならこのパーティーを楽しんでおこう

 

 

 

 

 

--さーたん視点

 

 

 

「はい、じゃあそろそろ写真撮るよー、はい織斑君はスマブラやめて、セシリアさんと並んで」

 

そろそろ夜も更け、宴ももう終盤。最後に写真の一枚でも取ってしめようというのか、黛さんはそんなことを言ってきた

 

「おっと、行った方がいいんじゃないか、織斑?」

 

「ああ、そうだな、じゃ12勝11敗で俺の勝ちな?」

 

「はいはいそれでいいから、はやく行けよ」

 

「なんか釈然としない言い方だな…まあいいや、行ってくる」

 

そう言って織斑はその場を後にし、セシリア嬢の方へと向かって行った

 

「楽しそうだね、佐丈君」

 

「あ、相川さん」

 

いつの間にか後ろに相川さんがいて、俺に話しかけてきていた。

 

「あれ?本音さんは?」

 

「…本音はもう寝ちゃってる。あの子、夜は弱いから…」

 

「あそう」

 

相川さんは、何も言わず俺の隣に座った。ゆっくりとした動作はどこか艶っぽいものがあり、見てるこっちは何故か少しだけドギマギしてしまう

 

「…佐丈君ってさ」

 

「あ…はい」

 

「本音のこと、名前で呼ぶよね。なんで?」

 

「え?」

 

彼女はゆっくりと此方に目を向けてそう言った。言われてみればなんでだろう?最初に聞いたのが本音って名前だから、自然そうなったんだろうか?

 

「いや別に…そんな深い意味はないけど…」

 

「そうなんだ…ねえ佐丈君」

 

「はい?」

 

「あの…わ、私のことも、名前で呼んでくれない?」

 

「え?あ、ああいいけど…清香さん?」

 

「!…うん!」

 

名前で呼ばれたのがよっぽど嬉かったのか、彼女は笑顔で強く首肯した。何だろうこれ、ほんとにフラグ立ってるわけじゃないよね?勘違いしちゃうよ俺?

 

「あ…あともうひとつ、いい?」

 

「…なに?」

 

「…わ、私も…は、晴明君って、呼んでいい?」

 

「…いいけど」

 

「うん…ありがと…晴明君」

 

ねえ何この甘酸っぱい感じ?耐えられないんだけど。どういうことなの?俺にこんな女の子関連の青春はないはずじゃなかったの?小中学でキモイウザイ邪魔と女子に言われ続けた俺には荷が重いです神様

 

「…あ、写真撮るみたいだよ?ね、私たちもいこ?」

 

「え、ちょま…あれ織斑とセシリア嬢のツーショットじゃあ…」

 

「みんな写る気満々だよ?ほーらいいから」

 

そう言って、俺と腕を組む相川さん。何故か知らないけど今日の彼女はいやに積極的で、それに中てられたか、俺はそれに逆らう気にはなれなかった。

 

「じゃあいくよーはい、バター!」

 

どこかずれている合図とともになるシャッター音。相川さんの言った通り、その瞬間にはクラス全員がカメラのフレーム内に移動し、クラス全員集合の写真となった。

 

 

 

 

 

…ちなみに俺は相川さんに引っ張られるも間に合わず、俺だけフレームの枠外だった。

 

 

 

 

 

 




サイレントヒルの映画も凄く雰囲気良くて好きでした。


できればP・T欲しかったなあ…


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9話 給食のゼリーは溶けかけが美味しい

一時的とはいえデイリー2位だと…!?お気に入り1000突破だと…!?今まであり得なかったことが次々起こってびっくりしてます。

新ヒロイン登場します。まだあまり活躍はしませんが…

給食のゼリー、あの中途半端に冷凍が解けてるの、すごくおいしいですよね…少なくとも作者はそう思います。


…時は少し遡り、クラス代表決定戦が終わったその夜。IS学園の校門の前に立つる、ツインテールをした小柄の少女が一人

 

「…ついにやってきたわに…いやきたわね!IS学園!」

 

誰に言うわけでもなく、いきなり決め顔で叫ぶ謎の少女、もしこの光景を誰かが見ゆれば、『うわあ…あの子うわあ…』と言うこと請け合いなり

 

「待ってなさいよ…一夏!」

 

そう言いながら、彼女は校門を開き、学園へと足を踏み入れた。…出会ったときから思い焦がれていた…もう会えないと思っていた…最愛の人に再び会うために…

 

 

 

 

 

 

「いえあの、違うんです。いや本当に怪しいものじゃなくて…」

 

「はいはい、続きは事務室で聞くからね」

 

「いやほんとう違くて…あ、ほらこれ、学生証、学生証」

 

「だから、来るなら来るでちゃんと所定の手続きを行って下さいと言っているんです!常識ないんですかあなたは!」

 

「いやだからその、本当違くて…」

 

「何が違うんですか!こんな夜中に来るなんて何考えてるんですか!」

 

「あのだからその…ごめんなさい…ホントごめんなさい…」

 

 

当然だが、IS学園には警備体制が結構厳しめにしかれており、アポなしで誰かが夜中に外部から来ようものなら、速攻で警備員さんのお世話になること請け合いである。

この後、夜勤の警備員さんに本気で怒られた彼女は、やはりこういう時にはしっかり手続きしないとだめだなと、自身の涙をもって知ることとなった

 

 

 

--時は変わり、パーティーの翌日、さーたん視点

 

 

「ふわぁ~あ、くっそねむ…」

 

しまったなあ…昨日徹夜でギャラガなんてやるんじゃなかったよ…ハイスコア全然でねえしよ…

相川さん…いや清香さんか…あの人は朝練で5時起きだって言ってたな…俺だったら気が狂いそうだな

 

「きゃ…!?」

 

「うおっと!?」

 

ぼけーっと上の空で歩いていると、通学中の女子にぶつかってしまった。その拍子に彼女のカバンが落ちてしまい、中のものが地面にばらまかれてしまった

 

「ああ…」

 

「あらららら…ごめんなさい。ぼーっとしてて…」

 

急いでばらまかれた教科書なりノートなりを拾ってまとめる。彼女もしゃがみ込み、一緒になって拾い始めた

 

「いえ、大丈夫です。私も不注意で…あれ?」

 

彼女は俺の顔を見て何か気付いたようで、目を見開いて、手を止めていた

 

「…?ええと?」

 

「あ、ごめんなさい…佐丈君、よね?自分のISに、凄く頭がおかしい改造をしたっていう…」

 

「うんちょっと待ってそれ誰が言った?」

 

どこのどいつだ、そんなあんまりなレッテルを張って俺の噂を流している奴は。…あれは頭がおかしいんじゃない。男なら一度は妄想する浪漫あふれるアセンブルと言ってほしい

 

「誰って…本音から聞いたんだけど?」

 

またあのピカチュウか…さてはあいつ俺のこと嫌いなんじゃないだろうな?

 

「……」

 

「…あの、なんすかね?」

 

そう聞くも、彼女はじいっと俺を見つめて、動かないでいた。見つめるその瞳は綺麗に澄んでいて、まるで子どもが俺のことを見定めているような、そんな感じさえするものだった。一体何を…あ、もしかして…

 

「…あ、もしかして、額に"肉"とか書いてます?」

 

「…フフ」

 

普通に上品に笑われた…え?なに?どっちなのその反応?ホントに肉って書いてるの?書いてるなら"米"って書き直さなきゃ、俺テリーが好きなんよ

 

「フフフ…あ、ごめんね。なんだかおかしくって…」

 

そう言って、口に手を当てて、笑いをこらえる女の子。随分ツボったらしく、もう片方の手でお腹を抱えて、しゃがんだままプルプルと震えていた。…そんな面白いこと言ったつもりないんだけどな…

 

「あー、さーた~ん、おっはよ~」

 

「あ、本音さん…」

 

相変わらずのテンションで登場したのは、マッドサイエンティスト・ピカチュウの二つ名を持つ奇才、本音さん。ちなみに二つ名は今俺が適当につけた。本音さんは普段通りのふわふわとした足取りで、俺に近づいてきた

 

「…てあれ?かなりんも一緒なんだ?珍しい組み合わせだね~」

 

「かなりん?」

 

て、この子の名前か?名前っていうかあだ名だけど

 

「どうも、かなりんです。よろしくね佐丈君」

 

「あ、ああ…どうも…」

 

かなりんさんはそのやわらかい笑顔をくずさぬまま、本音さんにのっかる形で自己紹介をしてきた。…何と言えばいいのか、この人からは天然の匂いがする。それも本音さんのようなアクティブな天然ではなく、真逆、非常に落ち着いた、おっとりとしたタイプの天然とみた。

 

「本音からいろいろ聞いたの、たまにお菓子をくれる優しい人だって…」

 

「本音さん、もしかしてお菓子で人の善悪判断してる?」

 

「さーたん、私のことバカにしすぎ~。そんなこと言うなら、もうカスタマイズ手伝ってあげないから」

 

「ほらアーモンドチョコ、アーモンドチョコ」

 

「わーい頂戴頂戴!」

 

この人もしかしてわざとやってんじゃないだろうな?

 

「…ふーん」

 

そして、その様子を楽しそうに見ているかなりんさん。他者から見ればこの光景は結構にシュールレアリスムなものとなっていよう。この人の視線は、嫌というわけではないが、何故か妙にむずむずするものがあった

 

「…えーと」

 

「…フフ、いいね…私も、ひとついい?」

 

「え…ああ、はい」

 

この人も何というか、つかめない人なあ…

 

「…あ、いけない。そろそろ行かなきゃ」

 

「あ?あ、やべ、もうこんな時間か…あ、これ、落ちた教科書」

 

「あ、ありがとう」

 

時計を見ると、朝のホームルーム開始まであといくらもない。少し急がなければ、またあのヴェイダー卿に惨殺されてしまう。

かなりんさんに言われるがまま、俺たちは駆け足で教室へと向かって行った。

 

 

…結局かなりんさんの本名、何だったんだろうか?

 

 

 

 

--閑話休題

 

 

 

 

「…ふぅ、何とか間に合ったね」

 

「さーたんおっそ~い」

 

「ゼェッ…ゼッ…いや…ちょ…うぇ……」

 

言っていなかったけど、ていうか言いたくなかったけど、俺は凄まじいほどに運動が苦手だ。体力はゼロ。体育の評価は大幅におまけして2。100m走は20秒台後半、いまだに縄跳びができない。などなど、三倍満ができるくらいには役がそろっているのである。

俺たちが来たことに清香さんが気づいて、こちらに近づいてきた

 

「おはよー、珍しいね、その3人で来るなんて?…ていうかどうしたの、晴明君?満身創痍だけど…」

 

「さっきそこで会ったの、チョコレート、貰ったのよ?」

 

「さーたん凄いよ?ほんのちょっと走っただけですぐばてちゃうの」

 

「え~?そんなんじゃだめだよ晴明君?体力つけよ?私も手伝ってあげるから」

 

「いやだ…清香さんとやると、絶対に死ぬ。いやだ…絶対にいやだ」

 

「そんないやだいやだ言わなくったってよくない!?…なにさ、もう…」

 

「…ふ~ん」

 

「…どしたん、本音さん?」

 

俺たちの会話を聞いて、何故か本音さんはニヤニヤとしながら、俺と清香さんを交互に見て唸っていた。ついでにかなりんさんも、ニヤニヤとはしてないまでも、やはり俺たちを不思議そうに見ていた

 

「…2人って、いつの間に名前で呼び合うようになったの?」

 

「あ、私も気になる…いつから?」

 

「へ!?え、えっと…それは…」

 

「ああ、えーと…だいたい昨日の夜に…」

 

「わ、わー!そ、それより、聞いた!?転校生の話!」

 

清香さんが強引に俺の会話を遮り、必死に話題転換しようとしていた。何か前にもこんなことあった気がするな。デジャヴ?

 

「転校生?なんでこんな時期に?売れないマンガのテコ入れじゃあるまいし」

 

「勝手に見知らぬ人をマンガのキーキャラ扱いするなよ…」

 

「あ、ウィース織斑。てことは本当なのか?」

 

「うぃっす晴明。本当らしいぜ?(いわ)く、中国の代表候補生だとか」

 

「ほおーん。一体何がしたいのかよーわかんないなー」

 

そう話していると、俺たちの話を聞いていたのか、自分の席に座っていたセシリア嬢がドヤ顔で席を立った

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

 

(なんで立ったんだろう今?)

 

セシリア嬢は再びふわさぁ…という感じで髪をかき上げた

 

「…一夏、その転校生が気になるのか?」

 

相変わらずの仏頂面で聞くのは、織斑の幼馴染であり、間違いなく織斑にフラグを立てられているであろう篠ノ之さんだ。意中の人が他の女の子を気にしているのに、大層ご立腹なようである。

 

「ん?まあ、それなりには…」

 

「ふん…今のお前に女子を気にしている余裕があるのか?来月にはクラス対抗戦があるというのに…」

 

ああ、そういえばあったねそんなの…大変だな織斑も…

 

「まあそれは…やれるだけはやってみるさ…」

 

「やれるだけでは困りますわ!一夏さんには勝っていただきませんと!」

 

「そうだぞ。男たるもの弱気でどうする。」

 

「頑張って織斑君!織斑君が勝つと、クラスみんなが幸せなんだから!」

 

次回、織斑死す!デュエルスタンバイ!…前もやったなこれ…

ていうかなんでどいつもこいつもこんなにみんな燃えてるんだ?昨日松○修造の特番あったからか?

 

「一位のクラスは学食のデザートが半年フリーパスになるんだから!お願い頑張って!」

 

 

 

 

なん…だと…?

 

 

 

 

「よしがんばれ織斑、頑張って俺に青リンゴゼリーを食わせてくれ。給食に出てきたあの中途半端に冷凍になってるやつ」

 

「いやお前他人事だと思ってそんな…随分マニアックなとこついてくるな!?てか買えよそんぐらい!」

 

「どこに行ってもねえんだよあのゼリー!あってもあの絶妙に真ん中だけ凍らすのができねえんだよ!なあ頼むよ、お前だって好きだったろ?あのゼリー?」

 

「俺は冷凍ミカン派だ!」

 

なんだと?チクショウなんてこった。ことデザートに関しちゃコイツと分かり合える気がしなくなってきた

 

「…あの、晴明君って、甘いもの好きなの?」

 

「え?まあ、それなりに」

 

「へえ、そうなんだあ…」

 

なんすかねかなりんさん?その含みのある言い方?てか今晴明君って言ったか、さっきまで佐丈君って呼んでた気がするんだけど?

 

「フフ…」

 

…ホンットよくわかんない人な…人のことは言えんが…

 

「織斑君、頑張ってね!」

 

「フリーパスのためにも!」

 

「確か専用機持ってるクラス代表って、今のところ1組と4組だけだから、余裕だよ、よゆー」

 

やたらとテンション高く、織斑に詰め寄る女生徒諸子の皆さま、やはり皆デザートのことになると必死だ。思い出すなあ…休んだやつの青リンゴゼリーを巡る死闘が…俺食べるの遅いから参加できなかったけど…

 

 

 

「その情報、古いよ!」

 

 

 

途端、教室の入り口から聞こえた声、なんだなんだとクラス中が注目する中、そこには小柄なツインテールの女の子が立っていた。

…て、アイツは…

 

織斑もそいつが誰なのか気づいたようで、嬉しそうな声色でそいつに話しかけた

 

「鈴…?お前、鈴か…?」

 

「ふふん…そうよ、久しぶりね、一夏?中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

「お…」

 

 

 

 

「お鈴々(りんりん)、お鈴々じゃないか!」

 

「その呼び方やめろっつってんでしょうが晴明ぃ!」

 

ああ、俺の呼び方に反応するってことは間違いない。アイツ(ファン)だ。中学時代に一年間だけ同じクラスだったが、織斑と一緒に良くつるんでいたから覚えてる

 

「ふん!久しぶりね晴明!そのヘラヘラした厚顔無恥な性格、相変わらずみたいね!」

 

「いやーひっさしぶりだなー、ほら、飴やるよアメ。ぶどう味でいい?」

 

「いらないわよ!子ども扱いすんなって昔っから言ってんでしょうが!」

 

「ああ、わーったよ…じゃほら、ハッカ味」

 

「味について言及してんじゃねーわ!アンタホンット一回泣かすわよ!?」

 

おおー、このやり取りもなんか懐かしいなぁ。コイツの反応いちいち面白いんだよなー…だからいっつもからかってたなー、その度に何回も殴られたけど、それはまあ、自業自得でご愛嬌…

 

「その辺でやめてやれよ、晴明。にしても鈴、久しぶりだなあ!変わってないなあ!」

 

「…ふん、そういうアンタらこそ、中学のときとおんなじ、ガキのまんまじゃない」

 

「まあいいじゃんかそれは…それより、よく1人でここまでこれたな、偉いぞ」

 

「アンタまで子ども扱いすんじゃないわよ!」

 

「と言っても…なあ晴明?」

 

「ああ、お前のことだから、夜中に勝手に学園に入って、警備員さんのお世話にでもなってないか心配で…」

 

 

 

 

「……」

 

「…あれ、凰?」

 

「…鈴?」

 

…あれ?どうしたんだろう。途端に凰が黙りこくってしまった。

…まさかコイツ…

 

「…ちょちょちょ、織斑こっちこっち」

 

「あ?ああうんうん」

 

そう言って、俺は織斑と一緒に、凰から少し離れた場所でひそひそ話を始めた

 

「…ど、どうしよう?アイツもしかしてホントにやっちゃったんじゃ…」

 

「あー…もしかしてじゃなくても、やっちゃったんだろなあの感じだと…」

 

「ええ…どうしよう、思いっきり触れちゃいけないとこ突き刺しちゃったよどうしよ…」

 

「とりあえずただ謝るのは悪手だ。まずは極力それに触れない形でフォローしよう、いいな?」

 

「わかった…」

 

ひそひそ話は終わり、俺たちは再び凰の方へと向き直した。

 

「…えーとあの、凰さん?いや凰様?」

 

「…なによ?ヨン様みたいに言うな」

 

「あのな、鈴…」

 

 

 

「今度、初めての場所に行くときは、俺か晴明に知らせてからにしてくれないか?」

 

「そ、そうそう。その方が安心だし、凰も寂しくないし…な?」

 

 

そしてこの直後、織斑は腹にミドルキックを、俺はあごにローリングソバットをそれぞれくらった。

 

…凰には悪いが、こうしていると何だか、中学時代を思い出して、懐かしい気分になった。でも少し違うのは、アイツの蹴り技のキレが、格段に良くなってるということだった。それを知って、俺も織斑も、アイツも成長したんだなあと思い、どこか嬉しい気持ちになったのであった。

 

 

ちなみこの後にきた織斑先生にも追加ダメージを貰いました。まる

 

 

 

 




かなりんがわからない人はお手数ですが、ググっていただければと思います…申し訳ありません…
アニメで織斑君から見て左隣の席にいたあの子です


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10話 大体、技のフォームで議論になる

昔、かめはめ波を出そうと本気で練習してた人が結構いたそうです
作者はマリオのファイアボールを出そうと本気で練習してました


前回の騒動からしばらく後、時は昼休み。学園内の食堂にて、いつも通りの仏頂面をしている少女が1人…

 

(一夏め…一体なんだというのだ、あの女子は…)

 

意中の人にやたらキレのあるミドルキックを放ったあの女子はいったい何者なのだと考えているのは、織斑君の幼馴染であり、最近、織斑君と話すきっかけをつくろうとスマブラを始めた剣道女子、篠ノ之箒その人であった。ちなみにキャラはネスを使っている。

そして、同じようなことで頭を悩ませている女子がまた1人…

 

(一体、何なんですのあの方は?一夏さんと随分親しそうでしたが…)

 

長いブロンドヘアをなびかせ、これまた先程のツインテールは何なのだと考えているのは、イギリス代表候補生であり、この方の振る舞う料理には騎士道精神を試すものがあると、かつて英国貴族に恐れられた、誇りある英国魂をもつ女傑、セシリア・オルコット女史であった。

 

そして、そんな彼女らの悩みの原因となっている。織斑一夏くんはと言えば…

 

 

 

「いやだから、南斗水鳥拳って腕がこうなってこうなるんだろうよ」

 

「バカお前、それ敵は全て下郎の構えだろうが織斑お前バカ。あれ腕をそんな上げないでもうちょい、こんな感じで水平にだな」

 

「アホかよ晴明それアミバじゃんか、アッホ晴明、このアミバ」

 

「誰がアミバだ」

 

 

 

((…何を話しているのだろう(でしょう)か?))

 

彼女らが男子2人の会話を盗み聞きして、まず真っ先に思ったのがこの疑問だ。それもそのはずであろう。彼女らにしてみれば、大真面目にマンガの話をするなどまずないことなのだ。それ以前にまず元ネタを知らなければ、一体何の会話をしているのかすら見当もつかないだろう。

 

「あいっかわらずそーいうの好きねえ、アンタら…もっと他に話すことないわけ?」

 

そう言って、ラーメンののったトレイをもって、雑談をしている2人の前に現れたのは、彼らとは知己の間柄である、凰鈴音であった。

 

「あ、鈴」

 

「なあ凰様よ、南斗水鳥拳ってこんな感じだったもんな?」

 

「いや知らないわよ。私、マンガ読まないもん」

 

「「えー…」」

 

「何よその露骨にがっかりした態度は!アンタらこそもっと有意義なこと話しなさいよ!」

 

「何なんだよお前の言う有意義ってのは?その痩せこけた双丘を耕すことk」

 

「マジ殺すわよ?」

 

「ハイスイマセン」

 

「晴明、いくら何でも酷いだろ。そういうのは本当のことでも言っちゃダメだろ」

 

「マジ殺すわ」

 

「アッスイマセン」

 

そう言いながらも、彼らのテーブルに同席する鈴音。中学時代は、このような会話が彼らの日常だった。ここにはいないが彼らには五反田弾という同級生がもう1人いる。基本的に弾と晴明が鈴や、弾の妹である蘭をおちょくり、その度に心優しい一夏がフォローするも、持ち前のデリカシーのなさで余計女性の怒りを買う…それが彼らの中学生活の常であった。

 

「…一夏、そろそろ彼女とどういう関係か教えて欲しいのだが」

 

「そうですわ!もしかしてどちらかが、この方とつ…付き合ってますの?」

 

しびれを切らして、3人の関係性を問う箒とセシリア。ちなみに、少し離れた場所で聞き耳を立てていた相川もそれに反応し、うんうんと首肯していた。

 

「は!?べ、べべ…別に付き合ってなんか…」

 

「お前のそれ、上にチーズ乗っかってんの?」

 

「ああ、うまいぞこれ。晴明も食うか?」

 

「あ、食う食う」

 

「アンタらはなに早々と飽きてんのよ!」

 

女性たちの話も聞かずに、食堂のご飯に舌鼓を打つ一夏たち。ちなみに一夏が食べているのはハンバーグであり、上にアツアツのチーズが乗っかっている。人気メニューの1つだ。

 

「聞け一夏!どうなんだ一体!」

 

「うま、これ、うま…ん、いや別に、幼馴染ってだけだぞ」

 

「……」

 

「どうしたんだよ鈴?麺伸びるぞ」

 

「…分かってるわよ」

 

意中の人に即座に否定され、不機嫌になる鈴。ブスッとした表情のまま、黙って麺をすすりだした。

 

「えっと…では晴明さんと?」

 

「え?いや違うけど?」

 

自分が不機嫌になったくせに、先程の一夏と同様に素で即座に否定する鈴。彼女も一応、晴明のことは異性として意識していないわけではないのだが、普段のやりとりのせいか、どうにも恋愛対象にはなりえない。あくまで、彼女にとって彼は、弾と同様の気の許せる友達で、恋の相手は一夏なのだ。

 

「俺とこいつはただの腐れ縁だよ」

 

「ま、そんなところね…ていうか、アンタらこそ何なのよ、一体?」

 

「箸を向けんな箸を、行儀悪い」

 

「うるさいわよ晴明。アンタ普段は適当なくせに変なところ細かいわよね」

 

「…私と一夏は幼馴染だ」

 

「幼馴染ぃ?」

 

そう言って、鈴は一夏の方を見る。それは"どういうことだ?"と質問しているのを暗に示していた。

 

「あーそっか、箒と鈴って面識ないんだもんな。鈴が引っ越してきたのが小5くらいだろ?でもその前に、箒が小4の頃に別の場所に引っ越しちゃったんだよ。だからまあ、入れ違いだな」

 

「…ふうん?そうなんだ…初めまして、よろしく」

 

「…ああ、こちらこそ」

 

面白くない。まさに2人の表情はそう言っていた。自分だけが独占していたと思っていた幼馴染のポジションに、実はもう1人いたともなれば、そうもなるだろう

 

「ンンッ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リン・イン)さん?」

 

 

 

「…あ、はい、初めまして…」

 

「…あなた、もしかしてわたくしのこと知らないんですの?」

 

「う、うん…なんかごめんね?凄いしたり顔でかっこつけてくれたのにね…」

 

「あのすいません。それ以上言うのやめてくださります、ホントに?」

 

「うんごめん。それで…アンタは?」

 

そう聞かれ、セシリアは気を取り直し、優雅な立ち振る舞いで自己紹介を再開した。

 

 

「…フフ、私はイギリス代表候補生のセシリア・オルコッt」

 

「クフッ…」

 

「今あなた笑ったでしょう?…ねえちょっと、ちょっと?」

 

「あ、えーッと…と、ところで一夏!あんたクラス代表なんだって?」

 

これ以上は本気でキレそうだなと思い、話題を転換させる鈴。セシリアもなんか釈然としなかったが、これ以上この話を長びかせるのもなんだかなと思い、諦めた。そもそも本題はそこではないのだ

 

「ん?まあ、成り行きでな…」

 

「あ、あのさ…ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

「本当か?そりゃ助か」

 

バンッと、一夏が言葉を終える前に、テーブルが勢いよく叩かれる。叩いたのはもちろん、箒とセシリア

 

「必要ない。一夏に教えるのは、私だ。そう本人に頼まれたのだからな」

 

「あなたは2組でしょう?敵の施しは受けませんわ」

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

 

「か、関係ならあるぞ!私は一夏に直々に頼まれたのだからな!」

 

「あなたこそ、あとから出てきて図々しいことを言うのはやめてくださる?」

 

「あとからじゃないけどね。私のほうが一夏との付き合いが長いんだし」

 

「そ、それを言うなら私の方が長いぞ!」

 

やいのやいのと、1人の男性を巡って争う女子3人。ここまでされるのは所謂男冥利に尽きるというものであろうか。

 

「それに、一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ!付き合いはそれなりに深いぞ」

 

「そんなこと言うならうちだってそうよ。ねえ一夏…あれ一夏?あれどこ行った?」

 

しかしその渦中にいる男はと言うと…

 

 

 

「いやだから天翔十字鳳がこうじゃん?南斗水鳥拳はそれをちょっと、こうして…」

 

「だからお前のそれアミバじゃんって。あれこう腕を前に出して…」

 

「お前それ原型とどめてねえじゃん。ジャギかよ」

 

「誰がジャギだよ」

 

そう言いながら、彼らはスタスタと食堂から去ろうと…

 

「勝手に帰ろうとしてんじゃないわよ!」テーレッテー

 

「どぉえへぷ!?」

 

「うわらば!?」

 

 

そうして、鈴にKOを喰らった一夏は、なんやかんやで箒とセシリアに連行された。晴明は放置された。

 

 

 

 

 

 

--閑話休題、さーたん視点

 

 

「いってー…まだ蹴られたとこヒリヒリするや…」

 

「自業自得だよ晴明君」

 

時は少し進み、現在は放課後。俺は清香さんと一緒に帰路についていた。ちなみに清香さん、今日はハンドボール部は休みらしい。

 

「でも意外だなー。晴明君の昔馴染みに、あんなカワイイ女の子がいるなんて…」

 

「そうね。ちょっとびっくりかも…」

 

「うわっかなりんさん…」

 

「いつの間に…」

 

いつの間にかかなりんさんが俺の隣に居り、会話に参加していた。なに?ゼロシフトでも持ってんのこの人?…本音さんも近くに居たりしないだろうな?

 

「フフ…本音は今日は、生徒会の仕事があるから、ちょっと遅くなるんだって」

 

ナチュラルに人の思考を読まないでくれませんかね、かなりんさんや?

 

「…ねえカナ。なんかさ、晴明君と妙に距離近くない?何かあったの?」

 

そう聞いてくる清香さんは、何だか不機嫌な様子だった。カナってのはもしかしなくても、かなりんさんのことだろう

 

「うん。さっきも話したじゃない?今朝廊下で会ったって。その時に、ちょっとね…晴明君、とってもゆったりして、魅力的な人ね」

 

「…ふーん、晴明君…ね…ふーん……」

 

俺のことを名前で呼んでることが気に入らなかったのか、さらに面白くないと言った顔をする清香さん。口をへの字にしたその表情は、どこか可愛らしいものであったけど、言ったら怒りそうなので黙っておく

 

「あ!いたいた。晴明!」

 

と、そんな空気を打ち破ってこちらに向かってきたのが、俺の中学時代の同級生であり、先程俺に有情破顔拳をおみまいした少女、凰であった。何やらひどくいらだっているようである

 

「ねえちょっと聞きなさいよ晴明…て何よアンタ、その女の子たち?ついにモテ期?」

 

「な!?」

 

「あらあら」

 

それぞれ異なった反応を見せる清香さんとかなりんさん。個性ってこういうところでも出るんだな

 

「…そうなの?」

 

「ち、違うし!」

 

「フフ…どうかしら?」

 

清香さんにはもろ否定された。フラグ立ってねえじゃんよ本音さんよ。あとかなりんさんは多分俺で遊んでる気がする

 

「ふうん…ま、いいわ。晴明、ちょっとこっち来なさい。話あるから」

 

「…へーへー、仰せのままに…わるい2人とも、先行っててくんない?」

 

「あ…うん…」

 

「…いってらっしゃい」

 

そう言って、俺は2人と別れ、凰についていった

どこか2人の表情に影が差したような気がしたけど、それは俺の自意識過剰による気のせいだろう。…はいそこ、『気持ち悪い』とか言わない、思春期の男子には良くあることなんだから、多分

 

 

--閑話休題

 

 

「…で、何よ?どーせ織斑のこったろーけど」

 

ある程度歩いた場所にある、人気のない場所、そこで俺たちは話すことにした

 

「…アンタのそういうとこ、ホンット嫌い…」

 

「そりゃどーも…で?」

 

「…一夏が…一夏に、約束のこと話したら、覚えてないって…」

 

「具体的には?」

 

「毎日酢豚を食べさせてあげるって約束したのに…アイツ…ただ飯食わせてくれるんだろうって…」

 

あーうん、それは織斑が悪いわ。でも凰、あの朴念仁にはそんな遠回しな表現は通用しないと思うよ?

 

「あー…そりゃあれだ。もうちょっとストレートに言ったほうが良かったかもな…」

 

「そんなこっと言ったって、一夏が悪いんだもん…」

 

「いやまあ、そうなんだけどさあ…」

 

「…だっであいづ…アイヅ…~~」

 

「あーもう泣くなって、もうしょうがないなー…」

 

凰は何故か中学時代から、辛いことがあると、泣きじゃくりながら俺に愚痴を言ってくる。そう言うのこそ織斑にしろよと思うけど、凰いわく"好きな人にこんなみっともない姿見せられない。アンタは最初(ハナ)っから眼中にないからいくらぶっちゃけても問題ない"らしい。ケンカ売ってんのかコイツ?

 

「んもー…ほら鼻かめほらティッシュ」

 

「…ありがど……」

 

…早く帰って寝たいんだがなあ…

 

 

 

 

 

「…落ち着いたか?」

 

「…ん」

 

ひとしきり泣ききった後、凰は俺が立っている隣に体育座りして、泣きつかれたのか、ただ黙っていた。まあ、あんだけ泣きながら愚痴言ってたらそうもなるよな。聞いてる俺もだいぶ疲れた

 

「…んで?用件は何だよ?まさか愚痴言うためだけに呼んだわけじゃねえだろ?」

 

「うるさいわね、いいじゃない別に…」

 

おいお前まさかホントに愚痴言うためだけに呼んだんじゃねえだろうな?ふざけんな外もう真っ暗じゃねえかチクショウ

 

「…アンタさ…私が一夏のこと好きなの知ってるわよね?」

 

「まあ、あんだけ露骨ならな…逆に気付いてない織斑がすごいくらいだ」

 

「…話ってのはね、晴明…」

 

 

 

 

 

 

「私と、付き合って」

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

コイツは一回寝たほうが良いんじゃないかと、そう思った。

 

 

 

 




(お鈴々とのフラグは)ないです。


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11話 人の印象は結構目で決まるっぽい

一夏君「付き合うのか…俺以外のやつと…」

感想欄が『昔練習した必殺技』で盛り上がっていて面白かった(小並感)

遅くなりましたが、またまた誤字報告して下さった洋上迷彩さん、黒のアリスさん、244さん、リコッタさん、variさん、ありがとうございました。

ちなみに作者は真面目にしてるのにふざけてるように見えるようです(白目)


--さーたん視点

 

翌日、学校にて

 

「…なあ晴明」

 

「あ、織斑か…この前借りたCDなんだけどよ」

 

「…晴明」

 

「あれ聴いてると突然『私メリーさん』とかなんとか言ってきたぞ。お前あれ呪われてんじゃ」

 

「晴明」

 

「…なんだよ?」

 

 

 

 

 

 

「なんでお前、鈴と腕組んでんの?」

 

「…お前のせいだ」

 

「何故!?」

 

何故なのか

話は、昨日の凰の愚痴を聞いていたところまでさかのぼる

 

 

 

--以下回想

 

 

「…なあ凰様。とりあえず一回ゆっくり寝よう、な?お前きっと長旅で疲れてるんだよ」

 

「なによその残念な人を見るような目は!勘違いしないでよね。アンタが思ってるようなことじゃないんだから」

 

(勘違いしないでよねってリアルに言う人初めて見た…)

 

「…つまり、何がしたいんだお前?」

 

「あたしとアンタが付き合ってるように見せかけて、一夏に、ぼやぼやしてると寝取られちゃうわよって教えてやるの。押してダメなら引いてみろよ」

 

「女の子が寝取りとか言うんじゃありません」

 

「うっさいわね!とにかく、こうでもしないとあの唐変木はあたしの気持ちに気づかないの!いいわね?」

 

「別にこんなめんどくさいことせんでも…」

 

「いいわね」

 

「アッハイ」

 

「よろしい。あ、それと、クラス対抗戦でも、アンタは私の味方についてもらうから」

 

「いや俺一組…」

 

「つべこべ言わない!やるの!」

 

「あーヘいヘい…」

 

「じゃ、明日から早速決行よ。ちゃんとやりなさいよね」

 

「うぇーい…」

 

 

--回想終了

 

 

と、いうわけで、俺は今、凰と腕を組んでいる。ちなみに今は教室で休み時間だ。周りの視線が至極痛い。

 

「…なあ鈴。一体どうしたんだよ、これは?意味わからんのだが…」

 

「ふ、ふん…ど、どうも何もこう言うことよ。わわ、私は、えーと…は…晴明と付き合うことにしたんだから…うん」

 

(うわもうめっちゃどもってんじゃん。こういうことしたいんならもうちょっと練習しようぜ凰様よ)

 

しかし俺の心の声も虚しく、教室にいる女生徒諸子は凰の台詞に騒然としてしまう。

 

「そ、そんな…ウソ…」

 

「織斑君とじゃないからまだよかったけど…」

 

「ていうか、ぶっちゃけ佐丈君は別にいいかなとは思ってたけど…」

 

「織斑君は競争率激しそうだから、佐丈君で妥協しようと思ってたのに…」

 

うんちょっと待って?なんか聞こえてくる台詞がいちいち酷いんだけど。なんで知らないうちに妥協案にされてんの俺?…いやまあ、妥協案に出てくるだけまだいいんだろうな…小中学のときの女子からのあの扱いに比べたらな、かなり優遇されてるよな…うん…

 

「ち、ちょっと晴明君、どういうことなの!?」

 

勝手にブルーな気分に浸っていると、清香さんがやたらと慌てた様子で俺に詰め寄ってきた

 

「いや、どういうことっていうか…」

 

「私も聞きたいな…」

 

「うおっと!?かなりんさん」

 

そして俺の背後には、いつの間にかかなりんさんがいた。いつものふんわりとした雰囲気がない。真顔だ。なんか超怖い

 

「ど、どうも何も、さっき言ったじゃない。晴明は私と付き合うことにしたの。ね、だだ、ダーリン?」

 

「え、なに?そういう設定で行くの?」

 

「ふん」グシャア

 

「マッシブッ!?」

 

なんなんだよもう、ちゃんとそういうのは練ってくれよグダグダじゃんよ…つか今時ダーリンはねーよダーリンは…

 

「そ、そんなの納得できないよ!」

 

「……」

 

凰の言葉にも負けずに、精いっぱいと言わんばかりに対抗してくる清香さん。かなりんさんは終始無言で俺を見てくる、コワイ

 

「…そうだったのか、お前ら…」

 

「織斑…」

 

そこには、とても真剣な顔で俺たちを見つめてくる織斑が…

 

 

 

 

 

「おめでとう!今日は赤飯だな!」

 

「なあ凰様もうやめようぜ?意味ないよこれ絶対意味ない」

 

「うっさい!」グワッシャア

 

「オムニスフィアッ!?」

 

ここで蹴ってくるということは、最後までやれと言うことだろう。いや絶対無駄だってこれ。見た?織斑のあの心から祝福してるような顔?

 

「と、とにかく!私はははるあききとつきあうくおおことにしくぁwせdrftgyふj」

 

「途中から噛んでて何言ってるかわっかんねえんだよ、だからちゃんと練習しとけってそういうことしたいんなら」

 

「うるさいっつの!」ズワッシャア

 

「セラムッ!?」

 

「とにかく!私は晴明(ダーリン)と付き合うことにしたの。それがどういうことか、ちゃんと考えてよね、一夏!」

 

「?ああ…でもお前のダーリン。お前の蹴りでダウンしてるけどいいのか、鈴?」

 

うん心配してくれるのは嬉しいけど、絶対わかってないね織斑のやつ。キョトン顔だもん、終始キョトン顔だもんあの子。

 

「モテモテだね~さーたん」

 

「あ、本音さん…」

 

声のする方を振り向くと、そこにはしゃがみ込んでダウン状態の俺を見下ろす本音さんがいた。…お、もうちょっとでパンツみえ…

 

「さーたん?」

 

見えなかった。途中でばれた。本音さんの声がすごい冷えていた

 

「…結構残念な人だよね~さーたんって。ちゃんと話すと優しい人だなってわかるのに…」

 

「ああはいはい、ありがとう」

 

「あーてきと~。そんなんだからこんな目にあうんだぞ~」

 

やかましいわ。大体、女子の言う優しいはどうでもいいと同義語らしいじゃないか。ばっちゃが言ってた

 

「…ねえ、ホントに付き合ってるの?」

 

「あ?」

 

恐らく俺と凰のことを聞いてるのだろう。あの大根と言うのもおこがましいレベルの演技ではそう思うのも無理はない。何故か声がマジなのが少しびっくりしたけど

 

「…今は、そのことは聞かないでくれないか?」

 

いま凰の計画がばれるわけには…いや別にばれてもいいけど、俺発信でばれたら間違いなく凰にまた有情破顔拳くらわされるから言いたくない

 

「…うん、わかった……」

 

何故そんなしょげる。なんかこっちまでへこむじゃないか…

 

 

 

 

--閑話休題

 

 

 

 

時間は過ぎ、再び放課後。あの後、何度も織斑に付き合ってますアピールを試みたものの、織斑は少しも嫉妬することがないどころか、赤飯のコメの銘柄は何がいいのかと聞いてきた。とりあえずサトウのごはんでお願いしますって言っといた

 

「あーもう、何なのよアイツ!」

 

「なあ凰様よ。もうやめよう、な?多分これ逆効果だよ。余計フラグ遠くなるよアイツの場合」

 

「うっさい晴明!アンタは黙って役に徹してればいいの!」

 

「はあ…」

 

成長したかと思ったが、やはり中学の頃からコイツは何も変わってない。何かあると(大体織斑関連)その度にかんしゃくを起こし、八つ当たりと言わんばかりに俺に突っかかってくる

 

「まだよ…まだ終わってないわ!」

 

「まだなんかやんの?」

 

シャドーモセス島にいる蛇が言いそうなセリフを言いながら、凰が不敵な笑みをこぼす。正直、こちらとしてはいい加減飽きてきたのでやめて欲しい

 

「晴明、私言ったわよね?今度のクラス対抗戦。アンタは私の味方になりなさいって」

 

「うんもう面倒くさいからそれでいいけどさ…でもどうすんだよ?IS関係で俺ができることなんて、なんもないぞ?」

 

第一、俺クラス代表じゃないからまず対抗戦でないし

 

「別に、何かしろっていうわけじゃないわ。わかってないわね晴明」

 

「はあ?」

 

え?なにもしなくていいなら余計俺いらないじゃん。何がしたいんだよコイツ

 

「私を応援するだけでもいいわ。とにかく、アンタが私の味方につくってことが重要なの。そうすれば、私たちがホントに付き合ってるんだって一夏は思う。そしてそれに気づいてなぜかズキンと痛む心。そう、そこで一夏は自分の中にあった私への恋心に初めて気づくって寸法よ。どう?冴えてると思わない?」

 

「アッハイ、ソウデスネ」

 

「何よその適当な返事!」

 

いやそんなこと言われても…てか自分で言ってて恥ずかしくないのかなこの人

 

「ふん、とにかく協力しなさいよ。アンタは私の犬みたいなもんなんだから」

 

「お前ついに面と向かってほざきやがったな?俺だって怒るぞ?」

 

凰が俺のことを下僕扱いしてるのは薄々感じてたけど、さすがにそんな得意げに言われるとは思わなかった。すごいなコイツ。ここまで不遜な態度されるといっそすがすがしいわ

 

「いいじゃん別に。アンタのそれも、なんか犬の首輪っぽいしね」

 

「あ?ああ、これ?」

 

言って、凰は俺の首の部分を指さす。そこには、俺の専用機である。ラファールが待機形態で巻かれていた。それこそ、チョーカーみたいな感じだ。でもアクセサリーみたいのじゃなく、本当に枷のような、ごつい見た目のものである。

…織斑はガントレットだったのになあ…いいなあ、普通にかっこいいやつじゃん

 

「アハハハ、アンタそれ、犬っていうよりむしろ囚人よね。その顔も相まって」

 

「うるせーよほっとけ」

 

なんなのどいつもこいつも?やれ犯罪者みたいだのサイコパスの顔だの常時レ○プ目だの。しまいには親にまで『あんたって包丁持ったらただの殺人鬼に見えるよね』と言われた。俺は築地魚河岸三代目じゃねえんだぞ

 

「アハハハハ…ふう、よし、じゃあ、明日も頑張るわよ!絶対振り向かせてやるんだから!」

 

「あーハイハイ…じゃあ俺こっちの寮だから…」

 

「うんわかった。じゃあね」

 

「うい」

 

別れの挨拶をし、それぞれの帰路につく。明日も凰とニセコイごっこをしなくちゃいけないかと思うと気が滅入るけど、とりあえず今日は疲れたから寝よう…

 

「晴明」

 

声がした方向を振り向くと、そこにはまだ凰がいた。なんだアイツ?まだなんかあんのか?

 

 

 

 

 

 

「…アンタは、私の味方よね?」

 

 

 

 

 

 

「…友達だよ」

 

 

 

 

 

「……そ、じゃあね、晴明…」

 

「ああ…」

 

 

そう言って、凰は再び、帰り道を歩いていった。

…アイツの聞いた質問の意図がわからず、つい無意識にそう答えた。そんな自分も、もしかしたら織斑のことを言えないくらい、鈍い奴なのではないかと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

…部屋に戻ると、清香さんに今日のことはどういうことだとめっちゃ尋問された。なんかすごく怒ってて怖かったです。かしこ

 

 

 

 




友達の証明写真見たあと実物を見て『誰やねんお前』となったことも結構あります。


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12話 男がパフェ頼むのは少し勇気がいる

チョコパフェは結構普通に注文するんですけどね。カワイイお店で苺パフェとかはちょっとだけ勇気がいりますね…

今回ロボゲーネタが出ます。ロボゲー好きでない方ごめんなさい


--さーたん視点

 

 

 凰とのニセコイごっこを始めてから数週間…依然凰と織斑に進展がないどころか、フラグがものすごい勢いで解体されるのを感じるなか、クラス対抗戦の日が来てしまった。

 俺と凰が付き合ってるという噂は疾風迅雷のごとく広がる…ことはなかった。むしろ俺たちのグダグダさ加減のせいで、俺たちの影に福田○一監督がいるのではという噂の方が広まったくらいである。だって凰のやつ、しまいにはカンペ読み始めたからね、カンペ。

 しかしそれでもなお織斑は俺たちがマジで付き合っていると思っている。あれもう朴念仁とかそういうレベルじゃないと思うんですけどどう思います?とりあえず作ってもらった赤飯はおいしかったです。

 

「…上手くいかない…」

 

「うんまあ、ね…うん…もーうちょっとプロット練って練習したほうがよかったんじゃないかなー、とは思うけどね…?」

 

「だって…だっで…」

 

「あらららら…いい子だからべそかかないの…」

 

「うるざい!ごどもあづがいじないヴぇっでいっべうべ(子ども扱いしないでって言ってるでしょ)!」

 

「うんごめん。途中から聞き取れなかった」

 

今はアリーナ付近、人気のない通路の端っこで最終の打ち合わせをしている。ここで俺はどう動けばいいのか、凰から指示が出される…

 

「ほら鼻かみなさいもう…んで?俺はこっからどうすればいいのよ?正直もうできることないけど」

 

「ぐずっ…うん、アンタはこっから、私のこと全力で応援してもらうわ。晴明が完全に私の味方だってことをアピールするの。ここで一夏が嫉妬すれば、全て解決、今までの失敗もチャラよ!」

 

「…なあ凰様」

 

「なに?」

 

「俺がいくら客席で応援しても、織斑からは見えないだろうから、意味ないと思うんだけど…」

 

 

 

「………あ」

 

あ、つったよ今。あ、つったぞ今コイツ。ウソだろコイツ。今の今までそれに気づかなかったって言うのか。恋は盲目とは聞いたことあったけど、ここまでとは思わなんだ。

俺も恋したらこんな感じになんだろうか。それはそれで面白そうだけど

 

「し、しし、知ってるわよ、あ、あ当たり前じゃない!そそ、そんなことしたってなんも意味ないわよ!」

 

「あっはい……そっすね…」

 

なんかもお…疲れたなあ…

 

「で?じゃあどうすんだよ、こっから?」

 

 

「…どうしよお、晴明ぃ…」

 

 

「いや知らねーよ、俺に言われたって…あららら、もー泣くなって。もうすぐ試合なんだから…」

 

どうしようもなくなると泣きついてくる凰の癖は相変わらず健在だ。と言っても、俺がコイツの悩みを解決できたためしなんてない。そもそも凰は俺よりもずっと高性能なのだから、そいつにできないことが、基本全てにおいてクソ低スペックの俺に解決できるはずもない。だからコイツが俺に泣きつくのは、特に理由もない。きっと八つ当たりに近い何かだろう

正直、まだ小さい娘の相手をしているような、そんな感じだ。娘いないしいたこともないけど

 

「……」

 

「…えーと」

 

やめろ。そんな弱々しい目で見るな、そんな顔したって俺にできることはありません

 

「…晴明ぃ」

 

だからそんな消え入りそうな声を出すんじゃないって…もう…

 

 

 

 

「…あー、あのさ…織斑は、IS乗りとして強くなりたいんだと」

 

「?」

 

急に何言ってんだコイツ?みたいな顔をする凰。でもそれを無視して俺は言葉を続けた

 

「えーっとだからさ…要は、織斑の気を引きたいんだろ?だったら、凰が勝って、強いってことを今日の試合でアピールしてさ、そっからきっかけをつくってきゃいいさ」

 

「…そんな上手くいく?」

 

「まあ…そりゃお前が言ったみたいに、いきなり恋心がどうのってのは、ムズイかもしんないけどさ。少なくとも、一緒にいる時間は増えると思うぜ?」

 

「でも…」

 

「それとも、勝つ自信ない?」

 

そう言った途端、凰は先程の泣き顔はどこへやら、ムッとした表情になって俺に言い返した

 

「舐めないでよ。これでも一応中国の代表候補生なのよ?いくら何でも素人に遅れを取ったりしないわ」

 

「んじゃ、決まりだ。どうなるにしろ、やることは変わらないんだ。じゃ後はやるだけさ」

 

「そんなこと、わかってるわよ。晴明のくせに生意気」

 

「あーへいへいそーですか。じゃ行ってこいよ。もう始まんぞ?」

 

「…うん」

 

そう言って、凰はピットの方へと駆け足で向かっていった。なんかどっと疲れたな…もうこのまんま今日は授業ふけてどっかで昼寝でも…

 

「晴明!」

 

「?…なんだよ?はやく行かないと遅れんぞ」

 

 

「…応援してね」

 

「あ?いや、だからそんなことしても織斑には…」

 

 

 

「そうだけど。でも、応援してほしいの…なんか、その方が心強いから」

 

 

 

「…わかったよ、応援するよ…頑張って織斑のハートをゲットだ」

 

「…うん!」

 

凰は元気よく頷いて、そのままダッシュで廊下の奥へと消えていった。

 

「…観客席、まだどっか空いてるかな…」

 

ああまで言われちゃ仕方ない。どうせサボっても織斑教諭のマジシリーズフルコースを味わうだけだし、一応、勝負の結果も気にはなるし…

 

そう自分に言い訳をして、俺は足早に観客席へと向かった。

 

 

 

 

--閑話休題

 

 

 

 

「やっぱりサボればよかった」

 

「何か言った晴明君?」

 

「今日もいい天気☆」

 

「は?」

 

「はいごめんなさい」

 

やっぱりサボればよかった(2回目)

あの後観客席に着いたのはいいものの、不機嫌度が天元突破してる清香さんにエンカウントしーの、いきなり連行されーの、そこには黒より闇色のオーラを放つかなりんさんがいーの、そして今両隣にそんな2人が座ってーのと、いーのいーのイーノックとヤバイ級イベントが連発中。そんな中でも僕は元気です

ていうかかなりんさんが終止無言で恐い。きっとこの人は契約者なんだろう。ああやって目で人を殺すことができる能力なんだ。対価は知らん

 

「…で?」

 

「あっはい」

 

ジト目で清香さんが聞いてくる。数週間前、俺に尋問したあの日から、この人は機嫌が悪いままな気がする。まあ俺がずっと黙秘していたからってのもあるけれど

 

「前も聞いたけど、ホントに凰さんと付き合ってるの?ていうかどういう経緯で付き合うことになったの?いくら何でも急すぎるよ」

 

「あー…ホントっちゃホントだよ…まあ経緯は、ちょっと言えないけど…」

 

「…ふーん」

 

「……」

 

清香さんは納得いかないと言った感じで俺を見据える。かなりんさんは終止真顔で俺を見つめる。そもそも2人ともなぜここまで不機嫌なのかがいまいちわからない。これで嫉妬とかだったら嬉しんだけどなあ…

 

「両手に花だね~さーたん」

 

「あら、本音さん」

 

見ると、両手に3個の缶ジュースを抱えた本音さんが立っていた。恐らくジュースの買い出しに行っていたのだろう。

両手に花ね。そうね。どっちも棘がやばいけどね

 

「そんなに不安にならなくても大丈夫だよ~きよたん、かなりんも。さーたんが突然誰かと付き合う器量なんて持ってるわけないって」

 

「本音…でも…」

 

「まあ、ヘタレっぽくはあるわね…」

 

おや、これはフォローされてんのかディスられてんのかどっちだろう?フォローされてると信じたい。

そしてかなりんさんは俺をヘタレだと思っておられるようだ。ちょっと傷つく

 

「それに、どう見ても演技でしょ~あれ」

 

うんだよね、むしろそうにしか見えないよねあのグダグダさ加減

 

「…ホントに、付き合ってない?」

 

「…いつまでも続くもんじゃないのは、確かだよ」

 

「!…そっか」

 

まるで光明が見えたかのように、少し表情が明るくなる清香さん。かなりんさんも、俺の言葉を聞いてどこかほっとしているような素振りを見せた。

ここまでの反応をされると、2人は本当に俺のことが好きなのではないかと思ってしまう…はいそこ、『うわ…自意識過剰すぎ…キモ…』とか言わないで、淡い期待なのは俺だってわかっているんだから

 

「…と、いうわけで、さーたんにはこれまでのお詫びとして、駅前のお店のパフェをおごってもらいましょ~」

 

「え!?あの1つ1500円くらいするやつ!?」

 

「あら、ありがとう、晴明君」

 

「うん待って?」

 

何言い出したんだろうかこのピカチュウは?せっかく綺麗にまとまりそうだったのに

 

「え~なに~?純情な乙女3人の心を弄んだんだよ~?このくらいのことはしてもらわなきゃ~」

 

「ちょっと何言ってんのかよくわかんない。まず純情な乙女ってのはどこにいるんだい?」

 

「さーたん?」

 

「晴明君?」

 

「…」

 

「…1人1個で、勘弁してください」

 

「やったー!さーたんかっこいい~」

 

「いやー大した人だなあ晴明君は!」

 

「太っ腹ね」

 

おっとお?パフェが出てきた途端元気になったぞこの人達。もしかして最初っからこれが目的だったんじゃないだろうな?

 

「さ、じゃあ問題も解決したことだし、おりむーの応援しよっか」

 

「うん、もうそろそろ時間だし」

 

「どんな戦いになるのかしら…楽しみね」

 

パフェの話が確約になるや否や、すぐさま意識を試合に向ける3人。現金なものだ。

 

(…まあいいか、俺も凰の応援しなきゃな)

 

試合開始1分前、織斑と凰が入場し、試合開始のカウントダウンが、着実に進められていった。織斑は今は強くないけど、ここぞって時に力を発揮する奴だ。

 

(油断すんなよ、凰…)

 

『それでは、試合開…』

 

 

 

 

と、言い切る前に、ドカンッと、何かが大きく砕ける音がした。アリーナ中に衝撃が走った

 

「!?」

 

「きゃ!?」

 

音がした方を急いで見ると、壁が半壊し、煙が上がっていた。それだけでも、今、異常事態が起こったことを察するに十分な要素だった。

 

「な…なに?なんなの…?」

 

清香さんがそう言った直後、酷く慌てた様子でアナウンスが放送される

 

『し、試合中止、試合中止です!非常事態発生!生徒の皆さんは、先生の指示に従って避難を…』

 

そのアナウンスが皮切りとなったか、アリーナ中に悲鳴があふれる。しかし、俺はそれを無視して、ただ瓦礫の中から現れたやつを、を見つめていた。

理由は単純、見覚えがあったからだ。

 

 

 

(え、ちょっと待って?え、ウソ?え、マジであれ?え?)

 

印象的な6枚羽、そして犬を思わせる顔に、逆間接。そこまで見て、俺はそいつが何なのか確信した。

 

(でもなんであんな…あ)

 

 

 

 

と、そこで、最近ツイッターで、気に入ったのかやたらはいだらはいだらとツイートしている某博士を思い出した。

 

 

 

 

「……」

 

「さ、さーたん危ないよ。そんな頭を高くしちゃ…てさーたん!?どこ行くの!?」

 

本音さんの抑止も振り切り、俺はいつの間にか駆け出していた。向かうのは、織斑先生たちがいる、オペレーションルームだ

 

 

 

 

--閑話休題

 

 

 

 

「織斑先生!」

 

「佐丈か?何をしている!避難しろという指示があったはずだ」

 

オペレーションルームに着くと、織斑先生、山田先生、そして篠ノ之さんとセシリア嬢がいた。なるほど、やっぱりここで織斑に指示を出してたわけだ

 

「さ、佐丈君どうしてここに?」

 

「山田先生、織斑と凰に回線を繋げられますか?」

 

「ど、どうして…」

 

「2人に、あの未確認機体の情報を伝えたいんです」

 

「あれが何か知っていますの、晴明さん!?」

 

「教えてくれ、あれは何なんだ?」

 

セシリア嬢と篠ノ之さん両名に説明を求められるが、今は織斑たちに説明するのが先だ。と言っても、織斑があれが何なのかは気づいていそうだけど

 

「回線繋がりました!佐丈君!」

 

「どうも…織斑、凰、聞こえるか?」

 

『何してんのよ晴明、早く逃げなさい!』

 

「そう焦んな凰。今からそいつの攻略法を教える」

 

『!…知ってるの?』

 

「まあ、ね」

 

『…なあ、晴明。あれってよお』

 

こんな非常事態にも関わらず、妙に落ち着き払っている織斑。それはきっと、俺と同じく、あの正体不明機の素性に大体察しがついているからだろう

 

「…ああ、織斑……」

 

 

 

 

「『あれ、ア○ビスじゃね?』」

 

 

 

 

 

 

 

『…なあ、晴明。俺このテロの首謀者に凄い心当たりあるんだけど』

 

「…やめろ、言うな」

 

『最近な、束さんのツイート見てると必ず語尾にはいだらってつくんだけど』

 

「言うなって、やめなさい」

 

『いやだって、あのもろ新川○司氏リスペクトなカラーリングすごいフェイスブックで見覚えが…』

 

「やめなさいって!ここに篠ノ之さんいるんだから!」

 

 

とりあえず、このことはあとで織斑先生にチクっとこうと思いました。

 

 

 




この世界の束博士は、原作の束博士とは少々違う形ではっちゃけております。あらかじめご了承ください。


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13話 とりあえずドンキ行っとこう感はある

私は最初、ドンキと聞いたらびっくりドンキーのことだと思ってました。


--ちっふー視点

 

『クソ、何なのよコイツ! 凄く速い!』

 

『まあほとんどラスボスみたいなもんだしなアイツ……あ、あの黒い粒子飛ばしてきた。なっつかしぃーい』

 

「おいバッキャロ織斑、ノスタルジーに浸ってる場合じゃねえぞ。それ痛いから、シールドしろシールド」

 

『いやシールドねえんだよこれ……あやべ、ぶっほあッ!』

 

「あーあーもうだからそいつの壊した瓦礫を盾にすんだってば。もう白式貸せってー、俺がやっからー」

 

『ちょ、やだー。これ俺の専用機ー』

 

『真面目にやりなさいよアンタらぁ!』

 

 

 何なんだこの友達にボスの攻略法教えてもらってる感は……

 

「あの、どういうことなんですか、織斑先生? 佐丈君と織斑君、なんというかその、妙に緊張感がないように思えるのですが……やっぱり彼らはあの機体のことを知ってるのですか?」

 

「……いえ、知ってるというかなんというか……」

 

 非常に真剣な顔で私に聞いてくる山田君。しかし一夏と晴明のあの態度から、大体の事情を察してしまった私は、しかしだからこそその問いに答えられずにいた。絶対にふざけてると思われるしな。

 恐らくあれは、一夏が晴明の家に行ったときにやっていた。ゲームの敵キャラか何かなのだろう。

 一夏は中学の頃、よく晴明のうちにゲームをしに行ってた。うち64(ロクヨン)しかなかったしなあ……ごめんな一夏。今度の誕生日用にswitch予約したから、楽しみにしててな……

 

「……あの、晴明さん。さっき、篠ノ之博士がどうこうと言っておりませんでしたか? もしかしてあれは、篠ノ之博士に関係のあるものなのですか?」

 

 先程の言葉が気になったか、オルコットが晴明にそう聞いてくる。晴明が言うには、どうやらあれは束が造ったものであるというのだ。

 

「まあ、そう見て間違いないと思う。あのデカールの貼り方、篠ノ之博士のフェイスブックでよく見るから、しかもつや消し具合までそっくり」

 

 アイツ何してるんだろう? 束は確か人間嫌いだった気がするのだが……少なくともそんな風に喜々としてSNSを使うやつではなかったはずなのだが……

 まあいい、今はそれよりもやらねばいけないことがある

 

「……それで佐丈、その……ア○ビスといったか? あの機体にはどう対処するべきなんだ?」

 

「うーん……それが、さっき攻略法とか言っといてなんですけど、一番いい対処法は、織斑も凰もできないやつなんですよ」

 

「ええ!? そ、それじゃどうするんですか!?」

 

「落ち着いて山田先生。こういう時のは大体負けイベか、時間経過でなあなあに終わるイベントって相場が決まってますから」

 

「負けちゃダメじゃないですか!? それになあなあって!」

 

 晴明の言葉に翻弄され、山田君は慌てふためいている。そしてそれを見て晴明は少しほくそ笑んでいる。ホンット性格悪いなアイツ……

 

「いい加減にしろこの非常時に。それより、結局どうするんだ?」

 

「まあマジメな話、一応ダメージを与えることはできると思います。決定打にはならないと思いますが」

 

「それでいい、佐丈は引き続き、織斑たちに指示をだせ」

 

「でもさっき言ったみたいに、倒せるかどうかは……」

 

「時間稼ぎで構わん。とにかく、織斑と凰の被害を最小限に抑えるようにするんだ」

 

「はいよ。でもその後は?」

 

「これは篠ノ之博士がやったことなのだろう? なら、本人に止めさせるさ」

 

 全くアイツは何を考えているのだ……どれだけ人に迷惑をかければ気が済むのだ。今回の騒動のせいで間違いなく今夜は残業だ。今度会ったらしめてやる

 

「篠ノ之、すまんがお前の携帯を貸してくれないか? 私のにはアイツのアドレスが入ってないん……」

 

 と、篠ノ之の方を振り向いてみると、篠ノ之はがっくりとうなだれていた。

 

「姉さん……あなたという人は……ウウッ……」

 

「……オルコット、篠ノ之のポケットかどこかに携帯ないか?」

 

「あ、はい。し、失礼しますわ、箒さん。ええと……あ、ありました」

 

「よし、それをこっちに渡してくれ」

 

 オルコットに携帯を渡してもらい、急いでアドレス帳を開いて確認する。勝手に人の携帯を見る罪悪感はあったが、状況が状況なので許してほしい。

 アドレス帳を確認してると、『姉さん』という文字が出てきた。どうやらこれのようだ。コールボタンを押し、携帯を耳にあてる

 

(出てくれ……早く……)

 

プルルルッと、呼び出し中を示す音がひとしきり鳴った後、電話に出てくれたのか、ガチャッという音が、携帯から小さく響いた。

 

「おい束。貴様一体何のつもりで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドンドンドン、ドン~キ~♪ ドンキ~、ホ~テ~♪』

 

 

「おい待て!? お前今ドンキいるの!? ウソ!?」

 

「織斑先生!?」

 

 普段出さないような口調で大声を出してしまったからか、山田君が私を見て驚愕していた。しかし多分私の方がびっくりしている。まったく予想してなかったメロディーが流れたのだから。

 え? というかなんでドンキにいるんだアイツ? 絶対ドンキ行くキャラじゃないだろ。どっちかっていうとドンキに行く人を見て嘲笑うタイプの人間だろアイツ

 

『もすもすひねもす~? お、その声はちーちゃんだね! あ、そうだ、あたりめも切れてたんだ……』

 

「束! 貴様あの機体はどういうつもり……え、というかホントにドンキにいるのかお前? うそ? 何買ってんの?」

 

『うんそうだよ~、なかなか良い品揃えだし。この雑多な感じも趣が……お、チーカマ安いじゃん』

 

「おいなにつまみ買ってるんだ。さてはお前その近くに住んでるな?」

 

『ん? ちがうよ。買いだめしてるだけ、引きこもり体質ならけちけちしないで、一回の外出でたくさん食べ物買った方がいいってはるるんが……』

 

「またお前かはるあ…いや佐丈ェ!」

 

 どうやら束が今激安の殿堂にいるのは、晴明のせいらしい。アイツは私の周りに悪影響を与えないと気が済まんのか?

 というかなんで束は晴明の言うことは素直に聞くんだ? アイツも最初は、晴明のことはその他大勢としか、いやそうとすら見てなかったはずだが

 

「うわ、なんすかいきなり。てか攻略法わかりました?」

 

 ハッ!そうだ、すっかり忘れてた

 

「束、あの機体は何なんだ。お前の差し金なのだろう?」

 

『あ、そっちに来たんだね? ねえねえすごいでしょあのクオリティ。特に脚部分のマスキングなんて会心の出来でさ』

 

「見えん! びゅんびゅん飛んでてマスキング部分さっぱり見えんわ! てそうじゃない、あれは一体どういうつもりなんだ。というか何がしたいんだお前ホントに!」

 

『なにって……自慢だけど?』

 

「あ?」

 

『そ、そんなマジトーンで"あ?"とか言わないでよ、コワイなちーちゃん……ジョークだよ、束さんジョーク』

 

「お前そのジョークで私また残業コースだからな? しかもこの学園残業手当出ないんだからな? お前ホントふざけるなよ?」

 

『ご、ゴメンって、やりすぎたよ……ね、許してにゃん♪』

 

「お前いい年して恥ずかしくないのか? ……はあ、もういいすぐに止めろ」

 

 

 

 

 

『ん? それはいやだよ?』

 

 

 

 

 

「……は?」

 

『だってー、何なのさあのチャイナ娘、名前覚えてないけど。いっくんにしっぽふるどころか、はるるんにもすり寄ってくるんだよ? 中学の頃からさぁー。逆ハーなの? 逆ハー乙女ゲーの主人公気取りなのあのビッチ?』

 

「……は?」

 

 思わず2回言ってしまったが、そうなるのも無理はないと言ってほしい。コイツなんて言った? つまりあれか? 最初っから凰を狙ってやったと、そう言っているのか?

 

『やっとどっかいったと思ったら、またIS学園に入ってさ、懲りずにいっくんとはるるん両方もってこうとするしー。だから頭来ちゃったから、半殺しにしてわからせてやるの』

 

「き、貴様……!」

 

 クソしまった! コイツのサイコパス具合を甘く見ていた。どんなにぐーたらになろうとそこは変わらないか……

 

『大丈夫。いっくんにはそこまで危険な攻撃しないし、あのチャイナ娘も殺しはしないから。ま、五体満足でいられるかはわからないけどねー』

 

「なんだと…!」

 

「織斑先生、凰さんのシールドエネルギーが50%切りました。流石にこれ以上は危険です!」

 

 モニターを見ていた山田君がそう叫ぶ、それは私を焦燥に駆るには十分だった

 くそ!なんてことだ……どうする? オルコットにも出てもらうか? いや駄目だ、奴は強い。それに生徒をこれ以上危険にさらすわけにはいかん。

 ……かくなる上は、私が出て……

 

「……先生、なんかわかりました?」

 

「!……佐丈」

 

 そうだ、晴明に束が止めるように言わせるのはどうだ? 束はアイツの言うことには何故か妙に素直だ。もしかしたら、止めてくれるかもしれん

 ……いや、それでも束はこういう時は非常に頑固だ。止めれるかどうか……

 

「……佐丈、今束と電話がつながっている。あの機体を止めるように言ってみてくれないか?」

 

「え? ああ、はい……もしもし」

 

 携帯の通話をスピーカに切り替え、束の声が聞こえるようにして、晴明に携帯を渡した。携帯を取り、晴明は束と話し始めた。その様子を、私も含めた他のメンバーが固唾をのみ込んで見守っている。

 頼むぞ晴明、お前にかかっている……

 

『あ、はるるん! はろはろ~』

 

「束さん、そろそろちょっとシャレになってないんで、あのア○ビス止めてくれませんか?」

 

『なに言ってんの? いやに決まってんじゃん。いくらはるるんでも今回は口出しさせないよ? それにこれはいっくんとはるるんのためでもあるんだから』

 

 電話から聞こえたのは、聞きたくなかった、拒絶の声だった

 ……やはり、ダメか……

 

『よーしじゃあ気を取り直してア○ビス! あのチャイナ娘を半殺s』

 

 

 

 

 

 

「止めないともうブラッドボーンの攻略手伝いませんよ?」

 

 

 

 

 

 

「……あ、不明機体、急上昇……あ、学園からものすごい勢いで離れていきました……ええと、お、終わったみたいです……」

 

 

 

……ああ、なんか今日は疲れたなあ……

 

 

 

 

 

--さーたん視点

 

 

 かくして、所属不明機体(笑)の襲撃事件は無事に収束し、学園に再び平和が訪れた

 織斑と凰は、先の戦いでのダメージは大したものではないが、一応不明機(笑)との戦闘ということもあり、念のため医務室で安静にするよう言われていた。ちなみに俺はそのお見舞いに行く途中である。

 

(織斑にはジャンプでいいよな……? 凰様にはまあ、きのこの山でいいか)

 

 タケノコ派だったらどうしようと、至極どうでもいいことを考えていると、医務室に着いた。しかし扉を開けようとると、中で声がしているのに気づいた。どうやら2人で話しているようだ。

 

(……もしかして、いい雰囲気かね?)

 

 そう思い、ドアから手を放し、代わりに壁に耳を当てた。もしかしたら、凰の(ついでに俺の)これまでの苦労が報われるかもしれないのだ

 

「……なあ鈴」

 

「なによ」

 

「その、悪かったよ、色々と……」

 

「……別に、いいわよ。私もムキになって悪かったわね……」

 

 おおっと、これはホントにいい感じではないか? もしかしてこのまま上手くいけば、無事ゴールインってことも……

 

「あ、なあ鈴、そう言えば、お前の言ってた、料理が上達したら、毎日私の酢豚を食べてくれるかって言う、話だけどさ」

 

「う、うん……」

 

 おお! これはもしかしてもしかするとか!?

 

「あれって、もしかして違う意味が含まれているのか。その……俺の自意識過剰じゃなかったら、プロポーズ、みたいな感じで……」

 

 ウオオオ! ついにここまで来たか。凄いぞ織斑、よく言った。さあ、あとは凰様がうんと頷くだけだ。行け凰様! ここで思いをぶつけるんだ!

 

 

 

 

 

 

「な、なな何言ってんのよ! そんなわけないじゃない! だだ、誰かに食べてもらった方が上達するって思っただけよ!!」

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

--場面転換

 

 

 少し後、いつもの人気のない廊下にて

 

「……お前さ」

 

「……だって」

 

「チャンスだったじゃん。千載一遇のチャンスだったじゃんあれ。なんでわざわざ否定しちゃうの」

 

「だって…だっで~……」

 

「あーもう泣くんじゃありません」

 

 なんということだ。まさかあのウルトラレア以上に確率が低い『織斑が察する』という一大チャンスを逃すとは……しかも思いっきり否定してしまったから、これからよりプロポーズに結びつけるのは困難になってしまっただろう。結局、織斑の攻略難易度をより跳ね上げてしまっただけだ。

 

「……晴明」

 

「なんだよ、泣いたってもう俺にしてやれることなんて」

 

「ごめんね……」

 

「……あら?」

 

 意外や意外、なんと素直に謝られてしまった。

 

「ごめんね、せっかく手伝ってくれたのに、頑張ってくれたのに、ごめんなさい……」

 

 ……うんなんだろう、てっきりまた『しょうがないじゃない』ってかんしゃく起こして八つ当たりすると思ってたのにな。いきなり泣いて謝られるとか、かえってやりにくい。これならかんしゃく起こしてくれた方がまだよかった

 

「……あーうん、まあ、いきなりだったんだ。しょうがないよな」

 

「でも……」

 

「ま、かえって良かったんじゃねーの? いきなり付き合うことになってもお互い困惑するだろうし。もしかしたら、時間をかけてゆっくりと、近づいてからの方がいいんじゃね?」

 

「……そうかな?」

 

「多分な」

 

「……そっか」

 

そう言うと、凰はごしごしと涙をぬぐい、スッと立ち上がった。そこには、いつもの明るい顔があった

 

「またこれから、新しい方法考えないとね」

 

「もう俺は手伝わねーぞ?」

 

「やーよ、手伝って」

 

 冗談じゃねえ……そんなことを考えながら、俺は凰の顔を見る。コイツはどこまでもめげないで、真っ直ぐだなと、そう思った。

 

「はー、泣いたらお腹すいた。まだ学食やってるわよね? 晴明、ご飯食べに行くわよ。付き合いなさい」

 

「へーへー仰せのままに、お姫様」

 

 そしてどこまでもわがままだ。正直、将来コイツの夫になるであろう織斑は大変だなと、まだそうなるとも決まっていない織斑の未来を憐れんだ

 

 

 

「……ねえ晴明」

 

「なんね?」

 

「もし、もしよ? 私が一夏にフラれたら……」

 

「……フラれたら?」

 

 

 

 

 

 

「アンタが私と、付き合わない?」

 

 

 

 

 

 

「……あ?」

 

「…ふふん、なーんてね、冗談よ。ほら、はやく行くわよ」

 

「あ、ああ……そうだな……」

 

 そう言って、アイツはいたずらっぽい笑みを浮かべて、俺の前を歩く

 

 

 

(……コイツも、大人になっていくんだな……)

 

 

 

 今まで見せたことがないような、女の子っぽい顔をした腐れ縁の女友達を見て、俺はふと、そんなことを思ってしまったのだった……

 

 

 

 




ドンキ行ってる時の篠ノ之博士はジャージ&サンダル


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14話 ぬるいならぬるいでべたついて気持ち悪い

ショコラとかココアって美味しいですけど飲んだ時、のどに残ってる感じするんですよね。あの感じが結構苦手だったりします。


‐‐おりむー視点

 

 

「……本当にやるつもりか? 晴明」

 

「言うなよ五反田。俺だってこんなことしたくなかったさ……でもな、でも言ったはずだ。ここでは敵だと」

 

 いつから、こうなってしまったのだろう……あの時まで俺たちは、確かに仲間だった。それなのに、どうしてここまで傷つけあうことになってしまったのだろう……

 

「……なにを傍観している、一夏。お前だって、あれが欲しいはずだ。なら奪うんだ、晴明から……!」

 

「もうやめろよ弾! 晴明も! こんなことでいがみ合って何になるっていうんだッ……」

 

「何になる……だと? 愚問だな織斑ぁ……この場所で意味を求めること自体、ナンセンスだ」

 

「そうだぜ一夏。意味なんかない……あるのは、ただ闘争と略奪……それが俺たちを満たすだけだ……」

 

 弾も晴明も、ただ冷たく、そう答えた。その眼は、なれ合いなど要らない。闘いこそが、今の俺たちの全てなのだと、物語っているようだった。

 

 

「……ククク、最後のパーツも見つけた! これで終わる……これで全て手に入るんだ!」

 

「くそ、させるかよぉ!」

 

 その瞬間、晴明と弾の間に、まばゆい光が……

 

 

「もうやめろ! やめろおぉぉぉおお!!」

 

 

どうして……どうしてなんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいドラグーン完成ー。勝ったな」

 

「あ、ちくしょー! ザケンなマジ、最初のパーツ俺が見つけたんだぞ!」

 

「言ったはずだ。ここに来た以上は全て敵、略奪破壊何でもありと……」

 

「くっそ、だからお前らとシティトライアルすんのヤなんだよ!」

 

 

 どうしてカー○ィのエアライドをすると大体こうなるんだろうか。不思議だなあ(棒)

 

 

 

 

 

 ――高校生になってしばらく、なんとかクラスに馴染み始めたころの休日。俺と晴明は久しぶりに弾の家に遊びに来ていた。ここのところ、IS学園の外に出る機会がなかなかできなかったし、何より……個人的にちょっとへこむことがあったので、晴明を誘って行くことにしたのである。

 ……で、家に来て、何で遊ぶかと悩んでいたところ、ちょうどよくゲームキューブが見つかったので、冒頭のような会話になったという経緯だ。

 

「……ところで晴明、次のイベント、バトルロワイヤルだぞ?」

 

「……え、うそ? え、マジ、え?」

 

「マジだって。だから言ったじゃん、あまり意味ないって」

 

「ブッハハハハハ! ザマアァーア! せいぜい俺の理論値デビルスターに蹂躙されるこったな!」

 

「おっと、聞いたか織斑? 前にハイドラだったのにライトスターに負けたやつが何か言ってるぞ」

 

「ち、ちげーし! あれ油断してゴルドーのハメ技くらっただけだし! だからノーカンだし!」

 

 でも正直な話、ここまで熱中するとは少し予想外だった。やっぱり名作は何年たっても名作なんだなあ……

 ちなみに、ドラグーンが加速と飛行力が最強のマシン、ハイドラが攻撃力と防御力が最強、ライトスターが初期マシンで、ゴルドーが極悪トラップといった感じだ。別に覚えなくていいです。

 

 

 

 

--閑話休題

 

 

 

 

「……で、どうなのよ?」

 

「「何が?」」

 

 ひとしきりゲームが終わった後、弾はそう俺たちに聞いてきた。

 

「何って、学校だよ。IS学園。お前らのメール見ただけでも楽園みたいじゃん? エロゲの主人公かよお前ら」

 

「おいおい、あんまり寝言言うなよこのバンダナロン毛が」

 

「ねえちょっと晴明? 一夏が過去類を見ないレベルで毒舌なんだけど? え、なんかあったの?」

 

「あー……ほら、凰が学園に来たのって、知ってるよな?」

 

「ああ、言ってたな……もしかして鈴絡みか?」

 

「まあ、ね……多分だけど、織斑が凰に『お前俺のこと好きなの?』的なこと聞いたら、『か、勘違いしないでよね!』的な返事が返って来てな。それを額面通りに受け取って、自分の自意識過剰っぷりにしょんぼりってところだろ」

 

「ちょっと待て!? なんでお前がそこまで知ってるんだ!?」

 

 ど、どういうことなんだ……あのことは誰にも話してないはず……

 

「いや壁越しに聞こえてたし」

 

「いたのかよお前!?」

 

 コイツホンットに、行動が読めないやつな……

 

「うーん……でも別に、それで落ち込む必要ないとは思うけどな」

 

「?……どういうことだよ」

 

 俺がそう聞くも、弾はその問いに答えず、ただ俺を見てニヤニヤとしていた。なんか見透かされてるみたいで居心地が悪いのは俺の気のせいだろうか

 

「……なあ晴明」

 

「さあて、ね……ただ、別にそれは、自意識過剰ってわけでもないとは思うぜ?」

 

「だから、どういう意味だ?」

 

「それは自分で考えな」

 

 わからないから聞いてるんだが……いまいち釈然としなかったが、この話題にこれ以上触れても自分が余計へこむだけなので、聞かないことにした。

 

「お兄! ご飯出来てるってさっきから言ってんじゃん!」

 

 と、突然にドアをバンッと勢いよく開けて現れたのは、弾の妹である蘭だった。ちなみに俺たちとは1個下。そして何気に兄より優れた妹だ。弾が闇落ちして仮面とか被らなきゃいいけど

 

「片付かないからさっさと食べに……て、え……」

 

 そしてフリーズする兄より優れた妹。どうやら俺と晴明の存在に気づいたらしい

 

「よ、蘭。久しぶり」

 

「い、一夏さん……!?」

 

 俺を見るなり、蘭は急におしとやかというか、よそよそしい態度になってしまった。俺が中学の頃からこんな感じなんだが、もしかして嫌われてんだろうか?

 

「妹ちゃん、パンツのシミ見えてんぞ」

 

「一夏さんの前でそういうこと言わないでくださいて言ってるでしょ、ハルさんッ……」

 

「おーおー、すぐにアイアンクロー仕掛けてくる癖は健在か……あら? ちょっと太った?」

 

「ちょ、二の腕ぷにぷにしないでください! セクハラですよ!」

 

 そして相変わらず晴明は蘭をからかい、取っ組み合いをして喧嘩している。ケンカと言っても、じゃれ合っているようにも見えるけど……

 昔からこの2人はこんな感じ。晴明がからかい、蘭がそれに怒って攻撃し、それを逆手にとって、さらに晴明がちょっかいをかけると言った図式だ。しかし、蘭もこうなることがわかってるはずなんだから、いい加減相手にしなきゃいいのに、とは思う。

 

「もお……いいからお兄、さっさとご飯食べてよ! あ、もちろん、一夏さんも……まあ、ついでにハルさんも」

 

「わかったよ、今行く」

 

「ありがと、蘭」

 

「あざーす」

 

 弾、俺、晴明と、三者三様の返事をし、一階へと移動する

 

「……にしても、相変わらず蘭は、俺に心を開いてくれないのかなあ」

 

「は?」

 

「あ?」

 

 俺がそう言った途端、弾と晴明は素っ頓狂な声を出して俺の方を見た。まるで『何言ってんだお前』と言っているようである。

 

「な、なんだよ? だってそうだろ? 弾とは兄妹だからってのがあるにしても、晴明と俺の扱いが露骨に違うじゃないか」

 

「アーウン、ソデスネ」

 

「お前めんどくさくなったから適当に返事したろ、晴明?」

 

「ま、鈴とのこともあったみたいだし、多少はね?」

 

「お前はなんで諦めた感じなんだよ弾」

 

 やつらの受け答えに釈然といかないまま、1階に着いた。このまま問い詰めたいところだったが、どうせうやむやにごまかされるだけなので、俺も諦め、意識を飯に向けることにした。

 

「げ」

 

 テーブルの方を見た途端、そんな声をあげたのは弾だった。なんだなんだと見てみると、どうやら蘭が先に座っていたらしい。

 

「……何よ? 文句ある?」

 

「いやないけどさあ……お前それ……」

 

 何故かはわからないが、蘭は何故かシャレオツな格好に着替えていた。可愛らしいフリルのついた白ワンピースに、それに合うように髪もおろしている。こうやって見ると、深窓の令嬢という言葉が似合いそうだ

 

「おお……スゲエな……」

 

「え……!? ふ、ふふん、そうですか? ハルさんこういうの好きなんですね」

 

 晴明に褒められてまんざらでもないのか、妙にそわそわしだす蘭。でも多分、こういう時の晴明が言うすごいは……

 

「ああスゲエよ。そんな白装束でカレーうどん食べるなんて、スゲエ度胸だよ。感服しt……え、待って、なんでそんな怒ってんの? ちょっと?」

 

 そして再び2人のケンカ(じゃれ合い)が始まり、それは弾の祖父である厳さんに制裁されるまで続いた。

 こういうのを見ると、何だか中学時代を思い出して、ノスタルジーを感じる今日この頃でした。かしこ

 

 

 

 

--さーたん視点

 

 

 

 翌日、学園の朝のSHRにて

 

「えっとですね……今日は何と転校生を紹介します。しかも2名です!」

 

「え!?」

 

「うそ!?」

 

「エェーイ!?」

 

 突然の山田先生の転校生宣言に、リアクション芸人張りの反応を示す女生徒諸子。どうでもいいけど最後の人、凄えジャンプ力ありそうな声だったな。花も恥じらう若き乙女がそんな声を出すのは、許されないんDA☆

 

「でもどういうことだ、いきなり転校生なんて? またテコ入れか? こういうのやりすぎると服屋のなんちゃって閉店セールみたいに見られるぞ」

 

「現実を長期連載マンガと一緒にしないでよ……」

 

 そうやって呆れ顔で聞くのは、俺の前の席にいる清香さん。この人にはいまいちネタが通じないのが最近わかった。別にそれでもかまわないけれど、清香さんがわからないのはなんか悔しいとのことなので、最近はマンガを貸してる

 

「でも誰なんだろ、この時期に?」

 

「うーん、また代表候補生とか?」

 

「でもあれって、SSRくらいの希少価値あるだろ? そんなポンポンくるもんなの?」

 

「人をソシャゲのガチャみたいに言わないの」

 

 そんなことを話していると、ガラッとドアが開いた

 

「失礼します」

 

「……」

 

 無論入ってきたのは、件の転校生。しかし、その2人の姿を見た瞬間。教室は水を打ったように静かになった。

 理由はきっと

 

 

 

 入ってきた転校生に、男子がいたからだろう

 

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。みなさんこれからよろしくお願いします」

 

 その姿を見た瞬間、正直、俺もかなり驚いた。無理もないだろう。予想してなかったものが、目の前に現れたんだから

 

「き……」

 

「はい?」

 

「「「キャアアアーッ!」」」

 

 三人目の男子が登場したからか、女生徒諸子のテンションはアゲアゲである。そしてそれは俺も例外ではなく、叫びはしなかったものの心中穏やかではない

 

「な、なあ晴明……俺信じられないよ……」

 

 そしてそれは、織斑も一緒だったようだ。俺はゆっくりと、織斑と目を見合わせた。

 

「ああ、スゲエよ織斑。いたんだな……」

 

「ああ、ホントに……」

 

 

 

 

 

「男の娘っていたんだな!」

 

「ああ! なんだかチュパカブラを見つけた気分だぜ!」

 

「ちゅ、チュパカブラ!?」

 

 俺たちの声が聞こえてたのか、予想外の呼び方をされびっくりしているシャルルくん。でも許してほしい。そのレベルで観測し得なかった希少種なんだキミは。

 

「み、皆さんお静かに……まだ自己紹介は終わってませんから~」

 

 山田先生の声で俺たちは我に返った。そう言えばまだいたな。

 

「騒ぐな静かにしろ」

 

 織斑先生の鶴の一声で、一気に静かになる教室。それを確認し、織斑先生はもう1人の転校生に自己紹介を促した。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

 そういって佇まいを直す転校生。ラウラと呼ばれたその人は小柄な少女で、おおざっぱな印象を受ける銀髪ロングに、中学2年生が好んでつけそうな眼帯を付けていた。あれで褐色肌だったら個人的にストライクゾーンでした。かしこ

 

「ここでは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました……ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 そして口を閉ざす少女。先程の言葉づかいから、恐らく織斑先生の知り合いだろう。

 

「……え、ええと、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

 そう言ってツンとした態度をとるラウラさん。あららら、山田先生泣きそう。あの人よく泣きそうになるな。大体は俺と織斑のせいだけど。

 

 

 と思っていると、ラウラさんは織斑と目が合った途端、急に険しい顔をした

 

「!……貴様がッ」

 

 なんだなんだと思いながらも、ラウラはずんずんと織斑の方へ向かっていく。

 すると突然……

 

 

 

 

 

 

 

 バシャンッという音が……

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 織斑が何が起きたかわからないという顔をしていた。俺もわからない。多分クラス中の誰もわからない

 ……状況を整理しよう

 

 

 

 

 

 

 織斑は今、ショコラをぶっかけられた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……もう一度言おう、ショコラをぶっかけられた。何言ってんのかわかんない? だから俺もわかんないんだってば

 

 

 

「……私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのショコラが熱くなかったのを幸いに思え!!」

 

「大変だ織斑、俺よりアホだソイツ」

 

「うんだと思う。というかお前アホだって自覚あったんだな」

 

「無視をするな貴様!」

 

 

 ……なんか面白い人が来たなあ

 

 

 




副官仕込みのショコラ投げ
どこに持ってたんだろうか


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15話 大事なのは豊満さだけではない

織斑君「嘘だろ?これが晴明……?クソッ!お前言ってたじゃねぇか!死ぬときはでっけぇおっぱいに埋もれて死にてぇって!おっぱいは柔らけぇんだぞ。こんな堅いISとは違うんだ……ううっ」

ちなみに書き忘れてましたが、織斑君は13話の最後の時点で、さーたんとお鈴々が付き合ってないことに気づきました。

ちなみに私は小さいのも好きです(意味不明)


--さーたん視点

 

「ええと……だ、大丈夫? 織斑君」

 

「あ、ああ……うわめっちゃべたべたする」

 

 嵐のごとく激しい自己表現をした転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒさん(15)。しかしその自己表現の代償として、ショコラを受けてしまった織斑の制服は、無残なほどショコラの甘い残り香を醸し出していた。ちなみによく見るとスタバのだった。あれ高いのに。

 そしてそれを心配するシャルル君。さり気にハンカチを出し、女子より女子力が高いさまを俺たちに見せつける。流石男の娘と言ったところか。

 

「……おい何すんだよ? なんでお前のベルサイユのばらごっこに俺の制服が犠牲にならなくちゃいけないんだ」

 

 おこな感じでラウラさんに問い詰める織斑。無理もないだろう、出合頭に失礼ショコラティエされれば、誰だって怒るに決まっている。

 

「……ふん」

 

 ふん、ですってよ奥さん。どうでもいいけどショコラのせいで、織斑の髪の色が完全にジェローデルみたいになっている。シャルル君(オスカルっぽい人)の金髪とセットで見ると完全にベルばらだ。

 

「……あーうん、何だ……自己紹介も終わったので、これでSHRを終了する。次の授業は実習なので、ISスーツに着替えてグラウンドに集まるように……織斑は特例として、今回は10分だけ遅刻を許可する。シャワーを浴びてからこい」

 

 おおっと、織斑先生が半ば強引に終わらせた。あの人いるとどんどん話が進んでいいな。

 ていうか織斑先生、知り合いのはずのラウラさんがショコラ出してきたとき『!?』て顔してたな、先生のいない間に彼女に何があったのだろうか

 

「よし、行こうぜ織斑。お前そのままじゃジェローデルだぞ」

 

「4,50代のおばさまにしかわかんないこと言ってんじゃねえよ……えっと、じゃ行こうか、シャルル」

 

「あ、うん……」

 

 そして織斑はシャルルさんの手を握り、教室を出た。おっと腐臭がするなとどうしようもないことを考えながら、俺もそれについていった。

 

 

 

--場面転換

 

 

 

 ……が、そう簡単に更衣室にはいけないらしい。

 

「いたわよ! 彼が例の転校生ね!」

 

「ものどもー! であえであえー!」

 

「織斑君、なんか顔黒くない?」

 

「きっとイメチェンよ」

 

 松○しげるもどん引きなイメチェンだな。

 教室を出た瞬間、俺たちは他クラスの女生徒たちに囲まれてしまった。やはり3人目の男子、それも美男子ということもあって、その注目度は押して図れるもののようだ。

 

「うあ、囲まれた……どうしよう晴明」

 

 織斑がそんなことを俺に聞いてくる。いやどうしようって言われても……とりあえずお前を生贄にしようとは思っているけど……

 

「お前ろくでもないこと考えてるだろ?」

 

「まさか。それどころか実に画期的な方法だぞ」

 

「なるほど、やっぱりろくでもないことか」

 

 どうやら織斑の中で、俺はろくなことを考えない男でしかないようだ。まあまあ否定できないのがなんとも哀しいものである。

 

「えっと……どうしてこんなに注目されてるの?」

 

 困った顔をしたシャルル君はそう、織斑に聞いていた

 

「ああほら、IS学園って男子が俺たちだけだろ? しかも、ここの女子って男子との接触が極端に少ないから、珍しいんだよ」

 

「多摩川のタマちゃんみてーなもんさね」

 

「もう少し若い人にわかるような例えにしようぜ、晴明よ」

 

 お前だって若い人だろが……もう何年たつんだろうな、タマちゃん……

 

「へぇーそうなんだ」

 

「そうなんだって……こうなったことないのか、シャルル?」

 

「え!? い、いや、そうだったね。アハハ……」

 

 何か取り繕うように、笑いながら肯定するシャルル君。何か思うところでもあったのだろうか。

 

「で、でもこのままだと間に合わないね、どうにかしないと……」

 

 確かに、このままじゃグラップラー千冬(地上最強の女)グラップル(解体)されるのが目に見えてる。どうしたもんか……

 ……しょうがない、絶対無駄だとは思うけど、ダメもとでやってみるか……

 

 

 

「あ、あんなところに平○堅が!」

 

「え!? うそ!?」

 

「どこどこ!?」

 

「サインチョーだいサインー!」

 

 ……ここ倍率1万越えの超エリート学校のはずだよね? もしかして育ちが良すぎて素直な人達ばっかりなんだろうか? 悪いことしたかなあ……

 

「……まあいいや。行こうぜ」

 

「お、おう……晴明ってすごいのかしょぼいのかよくわかんない時あるな……」

 

 そう言いながらも、何とか俺たちは包囲網を突破した。どうやら織斑のシャワータイムくらいは確保できそうである。

 

 

 

--更衣室

 

 

 

「じゃあ俺はシャワー浴びてから行くから、先行っててくれ」

 

「おけー、後でな」

 

 織斑はシャワーを浴びるために、更衣室の奥の方へと走って行った。俺たちも早く着替えなければ。

 

「ほんじゃ、着替えちゃいましょか」

 

「う、うわわ!? き、急に脱がないでよ!」

 

「いやそんなこと言われても……脱がなきゃ着替えられんだろうに」

 

 なんでシャルル君は顔を真っ赤にして顔を手で覆ってるんだろうか。そしてなぜ手の隙間からガン見してんだろうか……え? もしかしてソッチ系の趣味持ってたりしないよね? 男の娘でソッチ系とかこれもうわかんねえな。

 

「というかそっちも着替えたほうが良くない? はやく行かないと織斑先生に解体されるぞ?」

 

「か、解体……? ま、まあ着替えるけども……ち、ちょっとあっち向いててくれない?」

 

「?」

 

 なぜそこまで恥ずかしがるのか、不思議に思いつつも、俺は言われるがままシャルル君とは反対側の方を向いた。

 ……残念がってなどいない。断じてない……

 

「……うん、いいよ」

 

「え、はや……」

 

 シャルル君の方を振り向くと、彼はもうISスーツに着替えていた。俺たちと同じ、ぴっちりとしたTシャツ短パンのような感じだ。

 

 ……だが……

 

「……?」

 

「ど、どうしたの?」

 

 俺が訝し気な顔をしたのが気になったのか、そう聞いてくるシャルル君。それに反応して、俺は思わず、持っていた疑問を口に出した

 

 

 

「……お前さん。ホントに男かい?」

 

「!?」

 

 男の娘……だとは最初見たときに思っていたけれど、ISスーツの姿を見て、さすがに不思議に思った。

 いくら何でも華奢すぎる。パッと見だけでも、俺や織斑のような男性の体とは、どこか根本的に違うような、そんな印象を受けるくらいには……はい、じろじろ見てるーキモーイとか言わないのそこ。パッと見だから、ホントに。

 

「な、何言ってんのさ、当たり前だよ! そ、それより早くしないと間に合わないよ?」

 

「おおっと、やばい」

 

 そうだ、こんな話してる場合ではないのだ。いい加減着替えてグラウンドに行かないと。心にもやが残りながらも、俺はささっと着替え、シャルル君と一緒にグラウンドに向かった。

 

 

 

「……」

 

「どうしたの? 早く靴はいて……」

 

「……いや、織斑の外履きが……」

 

「え……うわ……」

 

 ふと何の気なしに織斑の体育用の外履きを見てみると、画びょうがびっしりと敷き詰められていた。

 ……絶対あの子(ラウラさん)の仕業だなと思いながら、俺は何も言わず、とりあえず外履きの隣に画びょうを出しとくことにした

 

 

 

--グラウンド

 

 

 

「……よし、織斑もきたな。それでは説明の通り、今から実習を行う」

 

 授業開始から数分、無事に織斑も到着し、楽しい楽しい実習時間(白目)が幕開けようとしていた。

 

「よう織斑、思ったより早かったな」

 

「ああ、俺も千冬姉に殺されたくはないからな……ところで、俺の外履きの隣に山盛りの画びょうがあったんだが、あれは……」

 

「察しはついてんじゃねえの?」

 

「ついてるからヤなんだよ、はあ……」

 

 げんなりといった様を呈しながらも、織斑はシャルル君の隣に並び、整列の中に加わった。ちなみにシャルル君の反対の隣が俺だ。

 

「ずいぶんとゆっくりでしたわね。スーツを着るだけで、どうしてこんなに時間がかかるのかしら?」

 

 近くにいたセシリア嬢が織斑に聞いてくる。織斑がラウラさんにショコラをぶっかけられたのを見てから不機嫌なご様子。痴情のもつれとでも思っているんだろうか。このむっつりめ。

 

「なに? アンタらまたなんかやったの?」

 

 そしていつの間にか俺たちの背後には凰様がいた。そういや2組だったか。

 

「いや、ちょっと織斑が転校生にぬるいショコラぶっかけられてな」

 

「は?」

 

 うん、ベルばら知らないと意味わかんないよなこれ。というよりラウラさんのは知っててやってたのかそれとも偶然の一致なのか。そこが非常に気になる。

 

「何をくっちゃべっている。はやく並べ」

 

 グラップラー千冬様による静かな言葉。しかしそれは俺たちを恐怖させるには十分で、俺たちは無言で所定の位置に戻った。

 

「まったく……それでは、本日から格闘及び射撃の実戦訓練を始める。今日は戦闘の実演をしてもらう。凰! オルコット!」

 

「どうしてわたくしが……」

 

「うげ、なんで私が……」

 

 そして露骨に嫌がる代表候補生たち。でもやれって言われると途端にやる気失くすのはわかる気がする。

 

「……佐丈、やれ」

 

 俺に耳打ちをする千冬様。何をやれなのか大体わかってしまうのが、そして断れないのがなんとも悲しい性だ。

 

「へーへー……あーそういえば、織斑が代表候補生の強いところ、一度ちゃんと見たいって言ってたなー」

 

「やはりここはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「まあ、たまには実力見せなきゃね、中国代表候補生として!」

 

 ちょろい。それ以外に言葉が出ないくらいにちょろい。

 

「それで、相手はどちらに? 鈴さんとの勝負でも構いませんが」

 

「言うじゃない? 返り討ちにしてやるわ」

 

「なに、そう焦るな。対戦相手は……」

 

 

「うわわわ! どいてください~!」

 

 

 突如聞こえた悲鳴と轟音、そして視界に現れるでかい影、それは猛スピードで織斑の方へと迫っていた。

 

「あぶね……織斑!」

 

「え!? うわ!?」

 

 滅多に出さない大声を出したのがあだとなったか、織斑は固まってしまう。結局俺はとっさに織斑の方へと走り、突き放した。そしてそうなった以上、俺が代わりに下敷きコースになるわけで……

 

「きゃ!?」

 

「うおっ」

 

 そして当然のごとく俺とその影は激突し、その影に引っ張られる形で派手にぶっ倒れた。

 

(……ん?)

 

 と、そこで違和感を覚える。あれだけ派手に激突されたくせに、ほとんど痛みがないのだ。ラファール(専用機)を展開したわけでもないのに。

 ……それどころか、いやにやわっこく、心地いい。まるで上等な枕に顔をうずめているような……

 

「あ、あの、佐丈……くん……」

 

 ……枕の正体がわかった。どうやら俺が顔をうずめていた枕は枕ではなく山田先生の豊満なムネ肉のようだった。この柔性ならレクター先生も喜んで下さるはずだろう。

 

「あの、こ、困りますこんな場所で……いえ、場所というより、私たちは教師と生徒なわけで……こういうのは順序立ててというか、まずはハードルを低くというか……」

 

「……先生、俺もう死んでもいいです」

 

「!?……」

 

 思わずそんなことを言ってしまう。織斑を助けてよかった……織斑も無事なわけだし、本当に良かった。本当に

……もうちょっとだけこのままでm

 

 

 

 

「さーたん?」

 

 

 

 

「……」

 

 いつの間にか背後に本音さんがいた。おや、気のせいだろうか? 凄まじい霊圧を感じる。チャドなら見ただけで消えそうなレベル。

 

「……本音さん、いつからそこに?」

 

「さーたん?」

 

「……誤解しないでほしい。これは織斑を助けた上の結果で」

 

「さーたん?」

 

「……つまりコラテラルダメージっていうやつd」

 

「さーたん」

 

「ハイ、ゴメンナサイ」

 

 

 なぜ山田先生にではなく本音さんに謝っているのか。それだけ納得いかなかったが、それをこの場で言う度胸は俺になかったので、黙って謝罪に徹することにした。

 ……この時、周りの女生徒諸子が、女の敵認定したのか、ゴミを見るような目で俺を睨み付けていたのが忘れられないです。

 

 




シャルル「……勘のいい人は嫌いだよ」


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16話 五月の乾燥はバカにできない

春ごろと秋ごろは、気温はいいんですが、乾燥しますね。
個人的には乾燥は大丈夫なんですが、代償と言えるレベルで花粉にやられます。


--さーたん視点

 

「いやあ、ビックリしたなー……あんな顔の本音さん初めて見たよ」

 

「自業自得でしょ」

 

「わあ辛辣。わざとじゃないんだってば」

 

 先程、山田先生のやわらかいものにダブルラリアットをくらってからというもの、女子の方々は俺を冷ややかなジト目で見てきている。そしてそれは目の前の清香さんも同じ……どころか、それにプラスして声も超冷ややかだ。泣きそう。

 

「もう……なあ凰様もなんか弁明してくれよ。わざとじゃないって」

 

 というと案の定、凰様にギロリと睨まれた。今話しかけんなと言わんばかりである。

 

「……なによ、知らないわよ。痴話喧嘩くらい自分たちだけでどうにかしなさいよ」

 

「ち、痴話じゃないし!」

 

「なんだよ、ドヤ顔で自信満々で挑んだのに、2人がかりで山田先生にぼろ負けしたのまだ気にして」

 

「あ?」

 

「なんでもないです」

 

 そう、あの騒動の後、気を取り直して当初の予定通りセシリア嬢と凰様が、山田先生に挑んだのである。が、そこはやっぱり先生。2人がかりとは言え生徒に後れを取らず。ビューティフルな戦いを見せてくれた。

 

「大体、私のせいじゃないわよ。セシリアが面白いくらい回避先読まれて……」

 

「私のせいにしますの!? 鈴さんこそ、無駄に衝撃砲バカスカ撃ってたくせに! なんですの、追いつめられた天津飯ですの!」

 

「なによ天津飯って! さては晴明になんかそういうマンガ借りたわね!」

 

 セシリアさん、ベジータ呼びのお詫びに貸したドラゴンボール読んでくれたんだ。でも2日前に貸したばっかなのに随分いいところまで読んでませんかね……

 

「ほら、もういいから並べ、貴様ら……さて諸君、これでIS学園教員の実力はわかっただろう。以後は敬意をもって接するように」

 

 頃合いを見て、織斑先生は生徒に向かって実習内容を話し始める。いい加減そうしないと尺が足りな……じゃなくて、授業時間が無くなるからな。

 

 

--閑話休題

 

 

「では、実習を行う。グループリーダーはそれぞれ専用機持ちがやること。織斑、オルコット、佐丈、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰の順番で、出席番号順に7人単位でグループをつくれ。いいな?」

 

 織斑先生がそう言うのと同時に、集団はそれぞれ好きな専用機持ちのところへと集まっていった。

 ……ていうか織斑、デュノア君のところに全部集まっていた。やはり世界で数少ないISを動かせる系男子。シェアエネルギーなるものがあったらこの2人だけで国が作れそうだ。

 

「……そして俺のところにはほぼ来ないっと……」

 

「あ、あはは……」

 

 清香さんに苦笑いされた。そう、俺のところにいるのは、清香さん、かなりんさん、本音さんの3名と、あと数名のみ。あれおかしいな? 俺もIS系男子のはずなんだけどな?

 ……まあ理由はわかってるんだけどね? むしろわざわざ俺の方に来てくれた人って随分と物好きだなって思っちゃうくらいだし。

 

「……なあ、もう俺たちも織斑たちの班に混ぜてもらった方がいいんじゃね?」

 

「いやなんでさ、晴明君だって専用機持ちでしょうよ!」

 

 めんどくさくなって、織斑グループに吸収合併してもらおうとしたら、清香さんに一蹴された……でも真面目な話、俺が教えれることなんもないし……

 

「何をやっている! 出席番号順に並べと言っているだろうが! 次もたつくようならISを背負わせて森に投げた石を探してもらうからな!」

 

 鶴の一声、という形容が当てはまるだろうか。織斑とデュノア君に集まっていた人達はすぐに行動を始めた。

 

「……お、てか清香さんは織斑んとこか。よかったじゃん、いってら」

 

「………ん」

 

 ……え、なに? なんでそんな急にしょげてんの? 織斑の班に入れるんだから嬉しいはずじゃないの?

 

「……結構あれよね、晴明君って」

 

「かなりん、さーたんにそういう期待はしない方がいいよ。モテたことなかったから経験値ないんだよ」

 

 どうして俺はいきなりディスられてるんだろうか? これも全て織斑のせいだ。おのれ織斑! 

 

「……ええと、じゃあ誰が俺の班なんだ?」

 

 気を取り直して班のメンバーを見てみる。見た感じ、本音さんとかなりんさんは俺の班みたいだ。

 

「そういえばかなりんさんの苗字って、結局なんなの?」

 

「……ふふ」

 

 いやふふじゃないが。そう言えば苗字どころか本名も知らないんだよな。未だに謎が多い御仁だ。

 見ると、俺の班含め、大体はちゃんと分かれたみたいだ。みんな色々と仲良く実習をしている。男子2名のところは、言わずもがなの大盛り上がり、凰とセシリア嬢のところもガールズトークっぽい雰囲気になってるみたいだ。

 

「さーたん。始めるよ~」

 

 おおっといかん。こっちも早くやんないと。

 

「ええと……じゃあ一番手は誰すかね?」

 

「はーい。私でーす」

 

 見ると、カールスラント軍人みたいな髪型の……わかりにくいね、要は2つ結びのおさげの髪型をした女の子が手を挙げていた。

 

「はいわかりました。えーと……」

 

「谷本癒子でーす」

 

 谷本さんか。間違ってもトゥルーデって呼ばないよう気を付けよう。

 

「あ、ひとつ質問いい?」

 

「? なんでしょ」

 

「佐丈君って彼女いるの?」

 

「逆にいると思う?」

 

 なにビックリしたな……煽ってんだろそれ絶対……なんで他の子も若干そわそわしてんですかね?

 

「……そういうのは織斑に聞けばいいんじゃない?」

 

「えーでも、佐丈君って意外と人気あるんだよ? 織斑君と違って、カルト的な人気ではあるけれど」

 

「それは、織斑がスターウォーズとかのハリウッドで、俺がサメ映画とかゾンビ映画みたいな感じかい?」

 

「そう、それ!」

 

 ……なんだろう、ちょっとうれしいけど素直にうれしいと言いたくないこの気持ちは……

 

「……はい、じゃあ始めますか」

 

 これ以上考えると心の迷宮に迷い込みそうなので、さっさと実習を終わらせることにした。他の班もISを動かし始める。とりあえず、うちの班含め、どの班も順調に進んでいるようだ。しかしひとつだけ、動く様子のないISがあった。ボーデヴィッヒさんの班だ。

 ……そう言えば、ボーデヴィッヒさんの班はどうなっているんだろうか? 見た感じ気難しそうな人だったし、だんまりを決め込んで実習が進まない感じなんだろうか?

 そう思い、ボーデヴィッヒさんの方をよく見てみると、意外や意外、結構和気あいあいとしゃべっているのである。

 

「なんだ、結構仲よさそうだな。なんでIS動かしてないんだろ?」

 

「……ねえさーたん、でもあれ変じゃない?」

 

「え?」

 

「あ、本当ね……ラウラさんは全然喋ってないわ」

 

 確かに見てみると、件の渦中にいるボーデヴィッヒさんはピクリとも笑っていない。それなのに彼女の周りの女子はキャッキャウフフと仲よさそうにしている。時折聞こえる、「ボーデヴィッヒさんありがとう」という声が、疑問に拍車をかけた。ホントになんだって……

 

 

 

「この時期って意外と荒れるもんね~」

 

「ね~。ホント助かったよ。もう肌ガサガサでさ~」

 

「貴様らは準備が足りん。時期に限らず備えておくのが当たり前だろう」

 

「そうだよね~。ありがとうボーデヴィッヒさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ニベア(ハンドクリーム)貸し出してる……

 

 

 

 

 

 

 

「……ボーデヴィッヒ、それはなんだ?」

 

「あ、教官。教官もお使いになられますか?」

 

「うん……あ、いや、なんで今ニベア?」

 

 ああ大変だ。あまりの事態にあの千冬様が素になってる。あんな苦笑いしてる千冬様初めて見た。しかもちゃっかりお徳用じゃんあのニベア……

 

「何故って……うちの副官のクラリッサはご存知ですよね? 彼女が、ハンドクリームを常に携帯するのは、軍人の常識だと……やはり彼女は優秀です」

 

「……アイツに化粧品アドバイザーに転職しろって言っといてくれ」

 

「!? な、なぜ……あんなに有能な人材は他に……」

 

「わかったから……頼むから早く終わらせてくれ、な? 頼むから……」

 

 ついに懇願しだした……スゲエ……あの人にあんな疲れた表情させること、俺や織斑でもなかったぞ……

 

「……じゃあ、俺らもさっさとやりますか」

 

「う、うん」

 

 何とも言えない気持ちになりつつ、俺たちは苦笑いをしながら、実習を終わらせた。

 

 

 

 

--場面転換

 

 

 

 

「なあ晴明、箒たちと屋上で一緒に飯食うんだけど、一緒に行かないか?」

 

「あー……俺はパス。食堂で食うわ」

 

「えー、なんだよ連れないなー」

 

「良いだろ別に。モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」

 

「ガーンだな……出鼻をくじかれた……」

 

 ……というやり取りをして数分、俺は一人で食堂へと向かっていた。実際のところ、俺が行ったらお邪魔虫になる未来しか見えない。それなら、たまには気兼ねなく一人で飯を食って、うおォンとか言ってみるのも悪くはないだろう。実際言うわけじゃないけど。

 

「おい、待て」

 

 のったりと歩いていると、誰かに後ろから呼び止められた。この声は聞き覚えがあるな……

 

「……やあ、これはこれは、ボーデヴィッヒさん」

 

「貴様が佐丈晴明だな?」

 

「ええ、いかにも」

 

「話は聞いている。副官からな」

 

 ああ、確かクラリッサって人だったっけか。

 

「フムン……それで俺に何の用で?」

 

「私はこれからお前を篭絡する」

 

 

 

「……え? なんだって?」

 

「私はこれからお前を篭絡する」

 

 

 

 伝家の宝刀「え? なんだって?」を使ったのに普通にリピートされました。使えねえなこの宝刀。いやそうじゃない、なんていったのこの子?

 

「篭絡?」

 

「そうだ」

 

「意味わかって言ってる?」

 

「うまくまるめこんで自分の思う通りにあやつることだ」

 

「辞書のような解答ありがとう……てそうじゃなく、なんでその考えに至ったのよ?」

 

「なぜって……」

 

 

 

「貴様は織斑一夏の恋人なのだろう?」

 

「待って」

 

 

 

 びっくりした。なんでいきなりホモ認定されてるんですかね? そんな風に言われる筋合いはないんですけど?

 

「なに、違うのか? わが副官によると、この密接な関係は間違いなく恋人同士。ならばこの恋人は寝取るのが一番織斑一夏に効果的だと……」

 

「もうサークル設立して同人誌でも描いてた方がいいんじゃないかその副官?」

 

「な、違うというのか!?」

 

「ちげえよ」

 

 スゲエなこの子、ここまで突っ走ってる娘見たことねえわ。いやどっちかっていうと副官がすごいのか?

 

「大体、なんでその副官のことそこまで信頼してるんだ?」

 

「……我が副官は、とても博識でな。最近はこと日本のことになると、部隊の中では一番的確なアドバイスをくれるのだ」

 

「……ちなみに情報源は?」

 

「最近では確か純情ロマンチカを」

 

「やめさせた方がいい。絶対やめさせた方がいいその副官」

 

 なんてこったい。ドイツの軍隊はいつの間にか腐海に侵食されているじゃないか。そりゃ千冬様を苦笑いす……ん? 待てよ。

 

「そう言えば、織斑先生がいたころもそんなだったのか?」

 

「教官か? いや、教官がいたころはまだやつの能力は並だった。使えはするが、教科書通りの指示しか出来んやつだったな」

 

「じゃ、なんでそんなことに?」

 

「ふむ……確か教官が去っていった頃だから、1年ほど前のことだ。やつは余興でインターネットでチャットのやり取りをしていてな。そこで奴はその相手から少女漫画を勧められたらしく」

 

「いや、そんな余興を仕事に持ち込むのはちょっと……ん?」

 

 まて、今この子なんて言った? 1年前?

 

「……なあ、ちょっと聞いていいかい?」

 

「なんだ?」

 

「その勧められた少女漫画のタイトルは?」

 

 

 

「"ベルサイユのばら"だが?」

 

 

 

「……そうなんだ……」

 

「? どうした、顔色が悪いぞ」

 

「ああうん、何でもない……」

 

「?……まあいい、とにかくお前を篭絡する。お前を寝取られたときの織斑一夏の顔が見ものだな」

 

「だから違うってば……」

 

「そんなウソに騙されるものか。まあ、今日のところは宣言だけにとどめてやる。せいぜい首を洗って待っていることだな」

 

 そう言って、彼女はスタスタと、規則正しい足音を立ててさって言った。

 ……そうか、1年前の、チャットで、ベルばらかあ……

 

 

 

 

 

 

「俺のせいじゃん……」

 

 

 

 

 どうしよう、まさか面白半分でベルばらを紹介したあのクロウサギさん(チャットのハンドルネーム)がその人だっただなんて……

 まずいぞ、このことが織斑先生にばれたらどうなるかわかったもんじゃない。このことは墓場まで持っていくしか

 

 

「ほう、そういうことだったのか……」

 

 

「……あ、どうも千冬様。本日も見目麗しく……」

 

「なあ佐丈。私な、最近、IS用の近接ブレードで月牙天衝を再現できる方法を見つけてな、ちょうど実戦でどのくらい使えるのか、試してみたかったんだ……」

 

「……帰っていいすk」

 

「今夜は帰さないゾ」

 

 

 

 

 

 

 

 今日の教訓

 

 ネットで不用意な発言は控えよう

 

 

 

 

 




ちょうど今ぐらいの季節の変わり目にになると片頭痛が起こる方もいるのではないでしょうか。作者もこの時期は毎回悩まされます。


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17話 花を贈るときは花言葉に気を付けよう

 いろいろネガティブな言葉が隠れているようです。こういう時グーグル先生は心強いですね。

 東京は台風が上陸し始めるようです。皆様もお気を付けて。


「晴明君、遅いな……」

 

 本来2人部屋である広い寮部屋。そこにポツンと1人、自分のベッドに座りながら物憂げにそう呟くのは、晴明のルームメイトである相川清香その人であった。

 ちなみにこの日の晴明は、とある経緯で織斑教諭(死神代行)に捕まり、月牙天衝を喰らっている真っ最中である。されど彼女はそんな説明を受けてるわけでもなく、ただ帰りの遅いルームメイトの身を案じていた。

 

「……いつもは帰ったら必ずいるのに」

 

 清香はハンドボール部に所属しており、やはりその分帰りも遅い。普段であれば帰宅部である晴明が、だらだらしてるか寝てるかのいずれかであるはずなのだが、いかんせん今回は違った。時刻はそろそろ夜の8時近くになり、何かあったのではないかという不安が彼女の脳裏をよぎる。

 しかし、それから幾ばくもなく、部屋にインターホンの音が鳴り響いた。

 

「!……晴明君かな」

 

 少し焦り気味に、ドアの方へと近づく清香。その様子はどこか、親の帰りを待っていた子供のようでもある。

 

「もーどこ行ってたのさ晴明く……あれ?」

 

 しかしドアを開けてみると、そこにいたのは晴明ではなく、小柄な銀髪の少女。そう、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「えっと……ボーデヴィッヒさん?」

 

「佐丈晴明の部屋はここか?」

 

 狼狽する清香に目もくれず、ラウラは颯爽と部屋の中に入る。なんだなんだと思いながらも、清香はその様子を見守っている……というよりは突然のことに対応できず茫然としていた。

 

「ふむ……ここか」

 

 ラウラがそういって足を止めた場所は、晴明が使っているベッドの前だった。ほんの少しの間、その場で立ち止まっていたラウラ。するとどうだろう、いきなり彼女は晴明のベッドの下をあさり始めた。

 

「ちょちょ、ちょっと、なにしてんのさ!?」

 

 さすがに清香も黙っているわけにはいかず、四つん這いになってベッドの下を物色しているラウラにそう叫んだ。

 

「なにと言われても……ベッドの下を見ているのだ。ところで貴様、ライトか何か持ってないか? やはりどうにも暗くてな」

 

「この状況でライト要求できるそのメンタル凄いね!? そうじゃなくて、どういうつもりなのさ、いきなり人のベッド漁るなんて!」

 

「無論エロ本探しだが」

 

 真顔で何言ってんのこの人? 転校初日の顛末から変わった人だとは思ってはいたけれど、流石にこれはパンチが利きすぎていないだろうか? 清香はそう感じずにはいられなかった。

 

「ターゲットを攻略する場合、相手の弱点や趣味嗜好などの情報を集めるのが定石だ。特にエロ本というものには正確にそれが付随していると言われている。わかるか? 佐丈晴明の攻略にはやつのエロ本が不可欠なのだ」

 

「……どういうこと? 攻略? 晴明君を?」

 

 いまいち彼女が言いたいことがわからない。きょとんとした顔でいる清香に、ラウラは言った。

 

「……念のため言っておく。理由は言えないが、一身の都合上、佐丈晴明は私のものになってもらう。くれぐれも邪魔をしないでもらいたい」

 

「………は?」

 

 未だに要領を得ない。要領を得ないが、ラウラの言わんとすることは清香には伝わった。そしてそれがわかった途端、清香のラウラを見る目つきは険しくなる。

 

「……なんなのさ」

 

「わかっていないようだからもう一度教えてやろう。貴様はどうやら佐丈晴明に恋慕の情を抱いているようだな?」

 

「んな……!」

 

 いきなりの言葉に、清香は顔を赤くし狼狽するが、しかしお構いなしにラウラは言葉を続けた。

 

「無駄だ。諦めろ。やつは私のものになるのだからな」

 

「!……なにいきなり? 勝手すぎるよ」

 

 睨みあう2人。しかしラウラのような曲がりなりにも従軍経験のあるものと、清香のような一般人(パンピー)ではガンのつけ方でもレベルが違う。さながら蛇とカエル。ライオンとハムスターのようなものだ。

 

「……」

 

「う、うぅ……」

 

 事実ラウラに睨み付けられていた清香は、気圧され気味になっていた。

 

「……なにしてんの?」

 

「む、来たか」

 

「は、晴明君!」

 

 その最中、入ってきたのは、この部屋の住人であり、渦中の人物でもある晴明だった。その姿を見るや、ラウラは晴明の方に近づく。

 

「待っていたぞ佐丈晴明。貴様が所有しているエロ本はどこだ? 教えろ」

 

「あいにくですが持ってませんぜ旦那」

 

「ふむ、そうか……では携帯の閲覧履歴を」

 

「やめてマジで」

 

 話し合っている2人は、親しげとも言えないが、それでも互いに遠慮なく喋っているように見えた。それを見てる清香は内心、面白くない、と言った感じだ。

 

「……つーか結局なにしに来たんだ? まさかそれだけのために?」

 

「いや、今日はこれを届けにな。エロ本探しはそのついでだ」

 

 そういって彼女は、どこからともなく、小さい花束を晴明に差し出してきた。数本に束ねられたスノードロップだった。

 

「え? ……お、俺に?」

 

「偶然見つけてな、見てくれが良いので気に入ると思ったんだ。安心しろ、これは造花だ。貴様が花粉症持ちというのも調べておいたからな」

 

「あ、ああ……どうも」

 

 今度はどんな変わり種が来るのかと思っていたところに、王道な異性の落とし方をされ、晴明は若干だがうろたえた。しかも花粉症のことを考えて造花にしたり、邪魔にならないように小さくまとめたりと、相手への気遣いを忘れないイケメンの所業である。強いて言うなら、キャスティングが男女逆な気もするが。

 

「ちなみにその花の花言葉は『あなたの死を望みます』だそうだ」

 

「……スノードロップには『希望』とか『慰め』って意味もあるんですぜ旦那」

 

「む、そうなのか? 贈る場合はこの花言葉だと言われたが……」

 

「まあ、どっちでもいいけどさ。ありがとう」

 

 なぜ晴明が花言葉など知っているのか。その辺のところが気になる清香だったが、今はそれどころではない。声にこそ出さないものの、晴明がラウラと楽しそう(?)に話しているこの状況は、彼女がふてくされるには十分だった。

 

「……ふむ、もうこんな時間か。今日のところは帰るとしよう」

 

「もういいのか?」

 

「ああ、本来の目的は達成したのでな、このくらいにしといてやる。しかしこんなものは序の口だ。覚悟しておけよ佐丈晴明」

 

「ああハイハイ、楽しみに待ってるよ」

 

 そう言葉を交わした後、ラウラは颯爽とその場を立ち去った。

 実を言うと、晴明自身今の状況はまんざらでもなかったりする。理由がどうにしろ、美少女にあそこまで積極的に詰め寄られることなど、今までなかったのだから。それに、半ば自分のせいでもあるとはいえ、なんだかんだで面白いことをしてくれるラウラを、晴明は内心気に入っていた。

 

「うーん、最初のエロ本探しさえなければパーフェクトにイケメンだったのになー……いちいち惜しいんだよなあの人」

 

「……ずいぶんと仲がいいんだね」

 

 清香が、貰った花を早速飾り始めた晴明に聞いてくる。皮肉の混じったその声色と表情は、拗ねているというのが一番適格だろう。

 

「お、おう……なしてそんな不機嫌なの?」

 

「晴明君が遅いから、晩御飯食べ損ねちゃったんじゃない」

 

「別にほっといて食べに行けばいいのに」

 

「1人で行きたくないの」

 

 そういうもんか。女子ってそういうところあるよな。と晴明は内心思いつつ、じゃあどうしたもんかと考える。ふと時計を見てみると、夜更けの時間とは言え、まだ門限まで時間はある。晴明はじゃあ、と言って言葉をつづける。

 

「どっか飯でも食いに行く? 学園の近くに、美味いおでん出す店があるんだけど……」

 

「……え?」

 

 突然の申し出に、フリーズする清香。それを見て晴明はやってしまったかと思った。しかし清香から出た言葉は、晴明の予想とは違ったものであった。

 

「ええと、ふ、二人きりで……」

 

「え? うん二人で行こうと思ったけど……ダメ? じゃあ本音さんたちも誘って」

 

「う、ううん! 全然ダメじゃないよ! いいよ、行こう行こう! 二人で!」

 

「お、おう……」

 

 突然の清香の勢いを不思議に思いながらも、晴明は外出の支度を始めた。しかし彼にとって一番謎なのは、いきなり清香がご機嫌になったことだった。

 

「……で、さっきエロがどうとか携帯の閲覧履歴がどうとか言ってたけど」

 

「マジやめて、マジそこ突っ込まんといて」

 

 そんな話をしながら、彼と彼女はおでんを求め、宵闇の中へと身を投じたのだった。

 

 

 

--さーたん視点

 

 

 

「へえ、そんなことがあったのか」

 

「まあ、ことの原因はお前だけどな、織斑」

 

「なんでさ」

 

 今日は土曜日、そして今俺たちがいるのは校内のグラウンド。そこで俺は織斑に昨日のことを話していた。

 土曜日のIS学園は午前授業だけで、午後からは自由時間だ。しかしアリーナが全開放されるので、大半の生徒は実習をしているらしい。俺はさっさと帰りたかったのだが、織斑に強引に付き合わされた。おのれ織斑。オ・ノーレ

 

「まあいいんじゃないか? スイレンのシークレット花言葉よりは」

 

「滅亡と比べられても……」

 

「2人とも、結構詳しいんだね」

 

 話していると、シャルル君がこちらに近づいてきた。やはり男2人で花の話してるってもへんかね? シャルル君がやってたら違和感ないけれど……

 

「一夏。そろそろ再開しよう」

 

「おっと、そうだな……あ、良かったら晴明もシャルルにISの動き見てもらえよ。スゲエ的確なアドバイスくれるぜ」

 

 それいいけど織斑君や、向こうでぐぬぬ顔してる3人のヒロインのことちゃんと考えてます? フラグ乱立すんのは結構なことだけど、俺を巻き込むのは勘弁してくれよ。

 

「いやいいよ。どっちにしろ俺のラファール。パイルバンカーしか装備しないし」

 

「え……ちょっと、佐丈君の専用機見せてもらえる? ……うわ」

 

 そういって、シャルル君に専用機のパラメータを見せた瞬間、眉をひくつかせていた。なんだよ、そんな顔することないだろ。

 

「すごいね、ここまで瞬間加速に特化している機体。初めて見たかも……でもさすがにちょっと」

 

「ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ……と」

 

「まあ、言葉は悪いけれど……」

 

 ううむ、やはりそんなもんか。セシリア嬢と戦った時はすごい良い感じだったんだけどな……俺も移動だけでもシャルル君に見てもらった方がいいんだろうか?

 

 

「ねえ、ちょっとあれ……」

 

「ウソッ、ドイツの第3世代機じゃない」

 

 

 どこからともなくそんな声が聞こえ、アリーナがざわつき始める。何かと思い振り向いてみると、そこにはISをまとったラウラさんがいた。どうやら織斑に用があるみたいだ。

 

「おい」

 

「……なんだよ」

 

 織斑も不機嫌そうにそう答える。その空気はまさに一触即発というにふさわしかった。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。私と戦え」

 

「いやだよ、理由が無い」

 

「貴様にはなくとも私にはある」

 

 ずいぶんと織斑のことを嫌っているようだ。ほぼ初対面で何故ここまで嫌えるのだろうか? 

 

「貴様がいなければ、教官が大会2連覇の偉業をなし得たのは容易に想像できる……そう、貴様さえいなければ……」

 

 教官と聞き、俺は織斑の姉のことを思い出した。なるほど彼女とラウラさんは知り合いらしいし、この確執の原因はそれか……

 

「……また今度な」

 

「……すまないが、付き合ってもらうぞ」

 

 

「否が応でも」

 

 

 途端、大きい火薬の音が、空を切った。どうやら肩に装備されてるあのレールガンみたいなのを発射したらしい

 まずい、と思った瞬間にはもう遅い。ドンッという重い着弾音が鼓膜に鳴り響いた

 

「……?」

 

 しかし音に反して衝撃はほとんど感じなかった。見ると、シャルル君がシールドを展開し、弾丸をはじいていた。

 

「……こうも周りを見ない戦い方をするとはね、アルマンド(ドイツ人)っていうのはみんなこうなのかい、マドモアゼル(お嬢さん)?」

 

「消えろフランソーザ(フランス人)、貴様の相手をする暇はない」

 

「連れないな。僕じゃダンスのお相手には不足かい?」

 

「あいにくだが、とっくに相手は決めているのでな。一人でバレエでも踊っていろ」

 

 ……やだ、おしゃれ。めっちゃおしゃれな掛け合いしてる……しかも美男美女だから余計絵になるわこれ。

 

『そこの生徒、何をしている!』

 

 アリーナのスピーカから声が聞こえてきた。騒ぎを聞きつけた教員が駆け付けたのだろう。なんにせよ、この場はここで終わりそうだ。

 

「ふん、今日は引こう」

 

 そういって、ラウラさんは武器をしまった。どうやら大事にはなりそうでなくて、ほっとした。

 

「……佐丈晴明」

 

「え、あ、はい……?」

 

 しかし今度は俺に用があるようだ。何だろうか?

 

「私は織斑一夏を倒す。その様をしっかりとみていろ」

 

「え、いやそれは……」

 

 

 

 

「倒した時に、貴様にまた花を贈ろう」

 

 

 

 

「……え?」

 

「昨日のようなありあわせではない。本当に貴様にふさわしい花を捧げよう……受け取ってくれるな?」

 

「あ……はい……」

 

「それは良かった……」

 

 そういって、彼女は妖艶に微笑み、その場を後にした。凛としたその後ろ姿は、どこか幻想的とさえ思った。

 

「……」

 

 ……やだ、イケメンッ……何あのイケメン。生まれる性別間違えたんじゃないかあの人? 今までのポンコツ具合はどこ行ったの?

 

「なあ晴明……あれって一体……」

 

「織斑……見たか今の?」

 

「ああ……スゲエイケメンだったな……」

 

「ああ、少女漫画の世界に迷い込んだのかと思っちまったぜ」

 

 

 

 

「でもキザだよな」

 

「うん、後々黒歴史になったりしなきゃいいけど」

 

 

 

 

 そんな見当違いな心配をしていると、終了時刻のチャイムが、アリーナに鳴り響いた。

 

 

 

 

--場面転換

 

 あの騒動も落ち着き、時間は夕方、そろそろ学食が混み始めるころだろうか。

 

「……さあて、今日は早く帰らないとな。清香さんが怖いし」

 

 なんてことを考えながら歩を進めていると、突然携帯が鳴りだした。なんだろうと思って見てみると、どうやら織斑からのようだ。

 

「もしもし、どうした?」

 

「ああ、晴明か? ちょっと、シャルルのことで話したいことがあるんだ。俺の部屋に来てくれないか?」

 

「なんだよ、俺これから飯食いに」

 

「真剣な話だ」

 

「……すぐ行く、待ってろ」

 

 

 

 ……清香さんには申し訳ないけど、あとで遅れる旨を連絡しておこう。とにかく、織斑の部屋に行かなきゃな。

 そう思いながら、俺はいつの間にか、織斑の部屋に向かって走り出していた。

 

 




 母の日に黄色のカーネーションとかも危ないそうで。贈り物って上司とか取引先とかだとシャレならないし、いろいろ難しいですよね……


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18話 サスペンダーにはショートパンツ

サスペンダーの名前いっつも忘れて、話す時「あの紐ついてるやつ」って言ってしまいます。


 日が暮れ、そろそろ夕餉を取るべきであろうそんな時間、晴明は一夏の部屋にいた。特に理由も聞かされず、ただ一夏に部屋に来るよう言われただけの彼だったが、部屋に入った瞬間、否応なくその理由を理解することになった。

 話は変わるが現在、一夏は同じ男子であるシャルルと相部屋となっている。やはり同性と相部屋の方がいろいろと面倒がなくていい……ということもあるが、箒といるとしょっちゅうハプニング(内容は推して図ってもらいたい)が起き、その度に騒音問題が起こるのがなによりの理由だと聞かされたときは、晴明も苦笑いしか起きなかった。

 ……なにを隠そう、今回晴明が呼び出された原因は、シャルルにあった。ここで少し語弊があったことをお詫びしたい。先程、シャルルのことを同じ男子と形容したが、それは間違いだ。どういうことかというと……

 

「……こりゃまた。まあ、考えなかったわけじゃないが……」

 

 男子にしてはいやに膨らんだシャルルの胸部を見て、晴明はそう呟く。つまりはそういうことだ。シャルル・デュノア、彼は、彼ではなく彼女だったのである。何故一夏にそれがわかったのか……は大体晴明には察しがついていたので、彼は何も言わなかった。

 

「つまり、シャルル君じゃなくて、シャルルちゃんだったってわけか?」

 

 いや、女の子だからシャルロットちゃんか? と晴明は口に出さずに内心で思ったが、図らずもこれが当たっていることは、今のところ彼は知る由はない。

 

「俺に話してよかったのか?」

 

「お前は基本アホだけど、アホなりにその辺の分別はしっかりしてるしな。アホだけどその辺は信じてるよ。アホだけど」

 

「アホみたいにアホって言ってくるなお前……」

 

 晴明はそう言うが、しかし一夏はこれをスルーし、話を進めた。

 

「……で、なんで男のふりなんかしてたんだ?」

 

 一夏の疑問はごく自然なものだろう。女の園であるIS学園に、わざわざ男として入ってくるメリットはいかほどのものか。

 シャルルはデュノア社の社長を父に持つと一夏は聞いた。となると、会社の宣伝目的だろうか? ……それとも彼女の趣味? の可能性も一瞬頭をよぎったが、シャルルのこの顔を見る限りそれもないだろう。

 ではなぜ? その答えは、彼女自身の口が、静かに語り始めた。

 

「それは、その……実家の方からそうしろって言われて……」

 

「実家って……デュノア社ってことでいいのか?」

 

「うん……僕の父が、そこの社長。その人からの直々の命令なんだ」

 

「命令って……親だろう? なんでそんな」

 

「……僕はね……愛人の子なんだよ」

 

 それを聞いて、一夏は何も言えなかった。ずっと黙っている晴明も、一夏ほど表に出さないものの、少なからず動揺していた。彼らも少なからずいろいろな体験をしてきたとはいえ、やはりまだ子供だ。フィクションでしか聞いたことのない話が、今こうして目の前に現実として現れてのは、やはり強烈なものがあった。

 

「2年前くらいに、僕の母が亡くなってね、それで父の方に引き取られることになったんだ。それでIS適性が見つかって、あとはそのまま……」

 

「……いきさつはわかったけど、なんでそれで男装する必要があるんだ?」

 

「簡単だよ。デュノア社の宣伝、男性操縦者がいるっていう箔のため……それに、同じ男子なら、日本にいる特異ケース達と接触しやすいだろうって……」

 

「……結構苦しい策だな」

 

 晴明はそう呟いた。宣伝とは言っても、ばれたときのデメリットを考えると博打が過ぎる。それに、俺たちとの接触だって、同性なら確かに異性よりかは接触しやすいだろうが、やはり効果はそんなに期待できるものじゃないだろう。むしろ最初っから女の子として近づき、ハニートラップでも仕掛けたほうがまだ目はある気がする。少なくとも俺は引っかかりそうだ。そんなことを考えながら、彼はシャルルを見据えていた。

 

「アハハ……まあそうかもね。それだけ、あの人は切羽詰まってたんじゃないかな? まあ、僕はよく分からないけど……」

 

 力なく、乾いた笑いを浮かべながら、シャルルはそう言った。

 

「……いいのか、それで?」

 

「え?」

 

「それでいいのか? いいはずないだろう! 親だからって、おかしいだろ、そんなの!」

 

「い、一夏?」

 

「やめろ織斑、シャルルさんびっくりしてるじゃん」

 

「晴明は……晴明はなんも思わないのかよ! なんでこんな……!」

 

「それを言って何か現状が変わるかよ? いいから落ち着け」

 

「!……クソッ」

 

 憤りを覚える一夏に対して、晴明は対照的に平常通り。しかし彼の心中もまた胸糞が悪いと言った感じだった。

 

「……シャルルは、これからどうなるんだ?」

 

「どうって、女であることがばれたから、本国に強制送還かな……まあ、代表候補生は降ろされて、刑務所にお世話になるかもね」

 

「それでいいのか?」

 

「いいも何も……僕には選択権はないよ。それに、もう疲れたんだ……ウソをつくのも」

 

「……もしばれなかったら、ずっと男として生きていく予定だったのか?」

 

「だと思うよ。実際、そこまで計画として知らされていたしね。父が、僕に男のしぐさを教えるときの気迫と言ったら、すごかったから……」

 

「そうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 しかし彼女のある言葉が引っ掛かり、晴明の思考(シリアス)は一旦停止した。いま彼女は何と言ったろうか?

 

「……なあシャルルさん、今言ったこともっかい言ってくれる?」

 

「?……そこまで計画として知らされていた」

 

「違うその後」

 

「父が、僕に男のしぐさを教えるときの気迫と言ったら、すごかった」

 

 

 

 

 

 

 

「……ン?」

 

 

 

 

 

 

 今度は一夏がその言葉に引っかかった。そのワードの羅列に嫌な予感を禁じ得ないながらも、一夏はシャルルに聞いてしまった。

 

「……なあシャルル、その……男の変装の仕方を教えられた時って、どんなだったんだ? あ、いや、言いたくないなら言わなくていい」

 

「え? うん、まあいいけど……そうだね、例えば……」

 

 

 

-

--

----

 

case1:

 

『いいか? これより君の一人称は僕だ。さあ言ってみなさい。"僕は男だ"と』

 

『は、はい……ええと、ぼ、僕は男だ』

 

『違う! もっとハスキーな声で!』

 

『ぼ、僕は男だ!』

 

『フフフ……いいぞお』

 

 

case2:

 

『あの、これは……』

 

『サスペンダー付きショートパンツだ。これを着こなせなければ男にはなれん』

 

『でもこれ、子供用じゃ……』

 

『お黙り。いいから両手で両方のサスペンダーの紐を引っ張るんだ』

 

『えぇ……こ、こうですか?」

 

『ハァハァ……いい、いいぞお……そのあどけなさを忘れるなぁ』

 

 

case3:

 

『さあ言え! そのハスキーヴォイスで、私を旦那様と呼ぶのだ!』

 

『は、はい……旦那様』

 

『ハァハハハ、メェルヴェエーイユゥ(素晴らしい)……さあ、もっとだ、もっと……ハァーッハァーッフ……」

 

----

--

-

 

 

 

「……ていう感じだったけど……」

 

「……うん」

 

 一夏はただそれだけしか言えなかった。晴明に目配せをしてみると、何やら彼もまたひとつ哀しみを背負ったような目をしている。この時、2人の思考はシンクロしていた。『思っていたより深刻な事態だ』と。

 彼らは気づいてしまったのである。シャルルに男のやり方を教えた。本当の理由を。

 

「……シャルル、ここにいろ」

 

「え?」

 

「この学校にいる間は、国家や組織の外的介入は、本人の許諾がない限りできないって特記事項に書いてある。これを利用して、とりあえずはここにいるんだ。その間に何か策を考えよう」

 

「え、で、でも……」

 

「絶対帰っちゃダメだ! いいか、危険だ、シャルルが思ってるよりも結構危険だ!」

 

「俺もその方がいいと思う。いやホントに危険だこのままだと」

 

 主に貞操という観点で。

 この時点で一夏と晴明の意見は一致していた。彼女をフランスに帰国させてはいけない。もし帰国させてしまったら、牢屋どころか社長(ショタコン)にモンゴルあたりにでも連れて行かれて、本格的に彼になってしまう恐れがある。

 

「ど、どうしたのさ一体? なんか僕が話してから2人とも変だよ」

 

「ああ、そうさな……なんていうか、アンタも一応父親に好かれてはいたとは思うぜ?」

 

「ッ……気休めなんていらないよ」

 

「気休めじゃねーよ凄惨たる事実だよ。受け入れてくれ残酷なようだけど」

 

 もし彼女が、シャルルが父親の愛を感じ取れたのなら、どうなっていただろう? よくはわからないが、下手をすれば今よりよっぽど拗ねた性格になる可能性はあっただろう。

 

「とにかく、どうするか考えといてくれ。決めるのはシャルルなんだから」

 

「う、うん……わかった、そうするよ」

 

 何とかシャルルにそう取り付けさせ、どうやら執行猶予を稼ぐ程度には何とかした2人であった。

 と、ここで示し合わせたようにノックがトントン、とドアを叩いた。

 

「一夏さん、いらっしゃいます? 夕食をまだとられていないようですけど……」

 

「せ、セシリア……」

 

「あっ……しまった、俺も清香さんと食堂行く約束してたんだ……」

 

「ど、どうしよう」

 

「と、とりあえず俺と晴明で出るから、シャルルは部屋から出ないでいてくれ。メシも後で持ってくるから」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

「リクエストある?」

 

「あ、和食で……」

 

 OK。晴明の言葉を最後に、2人は大急ぎで部屋を出て、白々しいマシンガントークをセシリアにぶつけ、食堂に向かったのであった。

 

 

 

 

 

--さーたん視点

 

 

「あー……」

 

「どうしたの? なんかお疲れじゃん」

 

「いや……世の中、いろんな人がいるなってさ……」

 

「なにそれ?」

 

 清香さんと食事をしている最中も、やはり俺はどこか上の空だった。

 シャルルさんに話してもらった父親の話。あれを思い出すと、やはり何とも言えない気持ちになる。

 彼は息子に恵まれなかったのだろうか、それとも、単純にそういう趣味なのだろうか? どちらにしろ、わざわざ女性として生まれた彼女を、会社を巻き込んだ理由をつけてまで男に見立てようとしたのだ。相当な執着であることに変わりはない。何が彼をそうさせたのかは、知る由もないけれども。

 

「さっきからどうしたの? 難しい顔しちゃって」

 

「ん? いや、俺なら女の子のほうが好きだけどなーって」

 

「はあ?」

 

 やべ、つい変なこと口走ってしまった。不審に思われたかな? なんか誤魔化した方がいいか?

 

「え? なに、どういうこと?」

 

「あ、あーいや、あれだよ。こうやって清香さんと一緒にいるの、好きだなーって」

 

「え、へ……!?」

 

 あれ? なんか余計ややこしくした気がするぞ? やっべどうしよう。もうさっさと話し切り上げたほうが良いなこれ。

 

「ね……ねえそれって」

 

「ああいや、なんでもない、忘れてくれ」

 

「え、でも」

 

「食堂しまっちゃうぜ? 早く食おう」

 

「……なんなのさ、もう」

 

 少しふてくされた表情の清香さんに、内心でごめんなさいしながら、俺は箸を勧めた。

 

 

 ……そういえば、今回のシャルルさんの騒動で思ったけど、改めて、なんで俺と織斑はISを動かせるんだろうか? どうして女にしか動かせないのか、それは開発者の篠ノ之博士も明確にはわかんないらしい。

 もしかして、性別じゃなくて、もっと別のファクターがあって、それがたまたま女性に多いってだけなんだろうか?

 

 ……だとしたら

 

「……俺たち以外にも、いたりしてな」

 

 いたとしたら、どんなのだろうか? そんな答えの出るはずのない妄想を、俺は夕食を食べながら、黙々としていた。

 

 




アニメでシャルルの声を聞いたとき、何故か私はマイルス・テイルス・パウアーを思い出してしまいました。


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19話 焼肉と言ったら白い飯だろうが

他にも冷麺派の方もいるのではないでしょうか。ちなみに私はたまに焼肉屋のメニューにあるラーメンがなんか好きです。


--でゅっちー視点

 

 僕の正体がばれて少し経って、今は月曜の朝。僕は一夏と佐丈君の、2人と一緒に学校の廊下を歩いていた。

 正直な話、今でもどうすればいいか分からない。この2人はここに残れって言ってくれたけど、もし、ことの顛末がデュノア社に知られて、父が何かしらの手を打って来たら……と思うと、不安で仕方なかった。

 

 

「ふむ、そいつは蟲の仕業ですな」

 

「ギンコさんだろ? 晴明の声似てるな」

 

「ああ、何か言われんだよな。ほら次、織斑だぞ。お前の十八番を見せてくれ」

 

「ああ、見とけよ見とけよ! ンンッ……ユニコォォォオン!!」

 

「朝っぱらから何やってんの?」

 

「オマエ自分でふっといておまえ」

 

 

 ……そんな僕の不安を全く意に介さないように、前にいる2人の男子は僕をそっちのけでアニメのキャラクター当てクイズをやっていた。この2人と一緒にいると、なんだか真剣に悩んでいる自分が馬鹿らしく思えてしまう。

 というか、自分からやらせといてその反応はあんまりだと思うよ、佐丈君……

 

「なんですって!? それは本当ですの!?」

 

「嘘じゃないでしょうね!?」

 

 1組の教室について、ドアを開けようとしたら、教室の中からそんな声が聞こえてきた。この声は凰さんとオルコットさんかな? 何を話してるんだろう?

 

「なんの話してんだ?」

 

「凰のやつもいるな」

 

 気になりながらも、僕たちは教室の中に入った。そしたら、次はより明確に、その話の続きが聞こえてきた。

 

「本当だってば! 月末の学年別トーナメントで優勝すれば、織斑君と付き合えるのよ! 学校中で噂よ!」

 

「……え?」

 

 聞こえてきた内容があまりに突飛なものだったからか、僕は思わずそんな声を出してしまった。

 

「ふーん、そんなことになってんのか」

 

「「「きゃあッ!?」」」

 

 佐丈君の声を聞いてやっと僕たちの存在に気づいたのか、彼女たちは短い悲鳴をあげて、僕たちの方を振り向いた。

 でも付き合えるって……多分そういう意味だよね? 一体どこからそんな話が? そう思いながら、僕は一夏の方を見た。

 

「? どうした?」

 

「……あ、ううん、なんでもない」

 

 けれどそれに対して一夏は、キョトンとした顔でこちらを見返すだけだった。心当たりゼロのようだ。

 

「は、晴明! アンタいつからいたのよ!」

 

「れ、レディの話を盗み聞きするなんて、紳士のすることではありませんわよ!」

 

「へーへーすいませんね。でも、なるほど……『付き合える』ね……」

 

 どこかその意味を咀嚼するように、佐丈君はその言葉を呟いた。チラリと一夏と凰さんたちを交互に見る。その時の顔は、心底面白がっているようにも見えた。なんだろう? 佐丈君だけは、ことの真相を知っているのだろうか?

 

「な、何よ。気味悪いわね」

 

「いや別に? まあ、応援してるよ。凰様」

 

「……ふん」

 

 佐丈君のその言葉で、凰さんはどこか照れくさそうにそっぽを向いた。けれどその顔はどこかまんざらでもなさそうだ。

 

「……」

 

「?」

 

 なんだろう? 席に座っている篠ノ之さんがこちらを見ている。話しかけようかとも思ったけど、僕と目が合うと、彼女はすぐに目をそらしてしまった。なんだったんだろう?

 

「なあ晴明、結局なんの話だったんだよ?」

 

「察せ。まああれだ、織斑もトーナメント頑張れよ」

 

「あら、晴明さんも参加なさるのでしょう? そんな他人事みたいにしてていいんですの?」

 

「俺はあれだよセシリア嬢、その日は腹痛になるから参加できないんだ」

 

「さぼる気満々じゃないアンタ……」

 

 と、そんな会話の直後に、朝のチャイムが学校に鳴り響いた。話していた人たちはそれぞれ自分のクラスに帰り、それで朝の喧騒は終わった。

 ……学園別トーナメントかぁ……あまり目立つことも出来ないし、僕もさぼっちゃおうかな? なんて、らしくないことを私は考えていた。

 

 

 

 

--さーたん視点

 

 

 

 

「マ~タ~ドコーカーデーオナージー♪ コエ~ガ~シ~タァッテ♪ ソノーマーマーデイーイー♪」

 

 時刻は少し経ち、今は授業の合間の休み時間、俺は学校をダラダラと歩いていた。え? 次の授業があるのにそんなにゆっくりしてていいのかって?

 ……次の授業は格闘技能の授業、すなわち体育だ。あとは言いたいことはわかるだろう?

 

「なぜこんなところで教師など!」

 

(……なんだ?)

 

 どこか授業が終わるまでサボれる場所はないかと探していると、曲がり角の方から声が聞こえた。この声は、ラウラさんかな?

 

「何度も言わせるな、私には私の役目がある。それが理由だ」

 

「このような極東の地で、なんの役目があると言うのですか!」

 

 俺は隠れて、声のする方をそっと見てみた。どうやら一緒にいるのは織斑先生のようだ。なんかずいぶんラウラさんに詰め寄られてるけど、どうしたんだろうか?

 

「お願いです教官、我がドイツで再び指導を、ここでは教官の能力の半分も生かされません」

 

「織斑先生とよべ。何故そう思う?」

 

「この学園の生徒は教官が教えるに足る人間ではありません。意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしています。この前だって、『ISスーツでかわいく見せるワンポイント☆』などという記事がインスタで流れ、それを見てキャーキャー騒ぐ始末……それを見て私はやつらへのフォローを外しました」

 

「お前もやってんじゃねーかインスタ」

 

 千冬様ちょっと素になっちゃってんな。ていうかラウラさんインスタやってたのか……女子がやりそうなもん軒並み全部手だしてんなあの人。

 

「大体、そうは言うがな、私にとってはこの学園の生徒も、お前ら黒兎隊も、まだ自分の殻を破れない、同じ小娘だよ」

 

「な、なにを言うのですか!? 我々はこの学園の生徒のように、チャラチャラしたことにうつつを抜かしたりしません!」

 

「昼飯写メしてアップロードしてくるんだよあいつら。お前わかるか? ウィダーinゼリー片手に残業してるときに、クラリッサのアホから『白ウインナーなう』ってわざわざ日本語で送られてきた時の私の気持ちがわかるか?」

 

「ああ、ベルリンのあのお店ですね。あそこはポテトも美味しいですよ」

 

「昼飯にうつつ抜かしてるじゃねーか。チャラチャラの代表格みたいなことしてるだろうが」

 

 どうなってんのドイツ軍は一体? それホントにドイツ軍なの? ドイツ軍という名の女子会じゃないの?

 

「とにかく、私は戻らん。今の私はIS学園の教師なのだからな」

 

「……わかりました、ではこちらにも考えがあります」

 

 ラウラさんがそう言ったと思ったら、突然パシャッと、カメラのシャッター音のような音が鳴った。見ると、どうやらラウラさんが携帯で織斑先生を撮ったようだ。

 

「……まさか脅迫でもするつもりか?」

 

「ええ、通用するかはわかりませんが」

 

「ほう、面白い。やってみるがいいさ」

 

 

「はい、先程の『カワイイISスーツ特集☆』の中に、フリフリのフリルまみれのISスーツがありました。それを写真加工で教官の顔にすげ替えて、『あの千冬様も愛用!』という記事に書き換えて、学園中、もちろん織斑一夏と佐丈晴明にも送りまs」

 

 

「ふざけんなお前。ふざけんなお前! おい寄越せその携帯!」

 

 めちゃくちゃ効いてるじゃねえか。効果は抜群じゃねえか。学園と俺はともかく、織斑に送るってのが死ぬほど効いたんだろうな。なんだかんだあの人ブラコンだし。

 

「無駄です。データはすでに本部に送信されました。私以外の撤回命令は受け付けないよう言っています」

 

「き、貴様……」

 

 千冬様も苦労してるんだな……そう思いながら、俺は当初の目的を思い出したのと、これ以上は首を突っ込むべきじゃないだろうという思いが交差し、2人にばれないようにその場をあとにしようとした。

 

「あ、はるあ……佐丈! ちょっとこっち来い!」

 

 ゲェッ見つかった。クソ、ついてねえ……

 

「……なんですか、織斑先生?」

 

「ん? 佐丈晴明か、ちょうどいい。お前に話したいことがあったのだ」

 

「はあ、俺に?」

 

「今度の学園別トーナメント。私とペアを組め」

 

「……は?」

 

 学年別トーナメントってあれか? 今朝クラスで話してた、優勝した奴が織斑と付き合うだかどーだか言ってたやつだよな?

 

「織斑一夏に精神的ダメージを与えるためには、お前とペアを組むのが一番効率的だ。拒否は許さんぞ」

 

「いやそんないきなり……てか織斑先生、トーナメントってペアとか組むんですか?」

 

「む、なんだ知らなかったのか? トーナメントでは2人組での参加が必須だと言って……それだ」

 

 なにがそれなのだろうか? よくわからないが、千冬様のめんどくさそうなことを思いついたような顔を見ると、違うそうじゃないと言いたい衝動に駆られる。

 先程と打って変わって、織斑先生はキリッとした表情で、ラウラさんの方に向き直す。

 

「ラウラ、そこまで私にドイツに戻ってほしいというのであれば、そんな姑息な手段を使わず、堂々と行動で示したらどうだ?」

 

「と言いますと?」

 

「今度の学年別トーナメントで、この佐丈とペアを組み、見事優勝して見せろ。そうすれば私も考えてやる」

 

「……私だ。先程の件なのだが、すまないがあれは撤回して……」

 

 織斑先生の言葉を聞いて考え直したのだろう。ラウラさんはさっきの写真すげ替えを止めるよう、電話しているようだ。

 

「佐丈、ちょっと……」

 

「はい?」

 

 言われるがまま織斑先生の近くまでいくと、彼女は俺の肩をガシッと掴み、俺に耳打ちしてきた。どうでもいいけどめっちゃ力強いこの人。

 

「いいか佐丈? ラウラは未熟だが、トーナメントでは十分優勝できる実力だ。このままだとまずい、何とかアイツに勝たせないようにするんだ。手段は問わん」

 

「アンタそれ教師の言うことじゃねーけどいいんすか?」

 

「うるさい黙れ」

 

 うるさい黙れって言われた……

 

「とにかく何とかしてくれ、何か奢ってやるから」

 

「へぇ……そう言えば、裏通りに高級焼肉店ができたって聞きましてね。俺一回行ってみたいんすよね~」

 

「……牛丼でいいだろう?」

 

「あ、ラウラさん俺ちょっと腹痛で無理だわ。諦めてさっきの写真送信した方が」

 

「よーしわかった! 上ロースと上カルビもつけてやる!」

 

「……牛タンと上ミノ、あと馬刺しも追加で」

 

「き、貴様おぼえとけよッ……わかったそれでいい」

 

「アザース……ラウラさん、優勝目指して一緒に頑張ろう」

 

「無論だ」

 

 かくして俺は焼肉の確約を取り付け、トーナメント出場を決意した。……さっきは腹痛で欠席すると言ったが、あれは取り消さねばいけない。何としても出場し、負けねば……

 

 

 

 

 焼肉のために……

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「あ、さ~た~ん」

 

「おや、本音さん」

 

 約束された惨敗の焼肉の予約を取り付け、少しウキウキしながら教室に戻っていると、本音さんが相変わらず、とてとてと歩いてこちらに向かっていた。

 

「どこ行ってたの~? 4限目からいなかったよね~?」

 

「いやガイアが俺にそこに行っちゃいけないって囁いてさ」

 

「バカじゃないの?」

 

 すごい冷静に言われた……最近この人俺にきつくない? ピカチュウに嫌われたサトシってこんな気分なんだろうか。

 

「ま~いっか。それよりさーたん。今度の学年別トーナメントなんだけど~、まだ誰とも組んでないよね?」

 

「ああ、いや、もうラウラさんと組むことにしたぜ?」

 

 

 

 

「…………あ、そーなんだ」

 

 

 

 

 ……え、何この空気? なんでこんな重いの? おかしいな、本音さんがなんかすごくしゅんとしてるや。

 

「……なあ本音さんや?」

 

「……んー、なーにー?」

 

「なんか、意気消沈してない、どうした?」

 

「ベツニー……」

 

 絶対別にじゃないよ、声弱々しいもん。びっくりするほど抑揚ないもん。聞こうとは思うが、その伏し目がちな顔が俺にそれを憚らせた。

 ちなみにその後、清香さんとかなりんさんにも同じ話を持ち掛けられ、同じ言葉で返したら同じ反応が返ってきました。彼女たちの顔はなぜか私に罪悪感という手土産を残していったのです。敬具

 

 




ずっと前、一人焼肉に行きました。美味しかったです。周り家族連れとかカップルとか合コンパーティーとかだったけど美味しかったです。
……またお金入ったら行きたいな……


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20話 カニ手紙のとこいらなかったんじゃね?

『わざわざそれタイトルで言う意義はないんじゃね』って言われそうです(戦慄)

ハイ、あけましておめでとうございます。
すいませんいそがしくて遅くなりました。祠チャレンジで忙しくて遅くなりました。おかげでハートが9個まで増えました。はいスイマセン。


--さーたん視点

 

 あの後の放課後、俺は学園の片隅にある、あまり使われていないガレージに来ていた。別に趣味でここに来たわけじゃない。

 

「……来たか、遅いぞ佐丈晴明」

 

 俺を見るなり険しい顔でそういう、件のインスタ女子……じゃなく、ドイツ代表候補生のラウラさんに呼ばれたのだ。

 

「どーもラウラさん。どしたんよ、こんなところに呼び出して?」

 

「しれたこと、来るべき織斑一夏との対戦に備え、作戦を練るのだ」

 

 ラウラさんは真剣にそう言うが、俺としては彼女には何としても負けて欲しい。彼女の勝敗で俺の焼肉が決まるのだ。何としても負けるように誘導しなくちゃいけない。自分で言ってて最悪だと思うけどそれはまあいいだろう。

 

「んで作戦って、具体的にはもう何かめどはついてたりするの?」

 

「ふむ、時間的な猶予が少ないからな、なるべく短期間で済むものが良い」

 

 確かにあまり時間はない。試合まであと一週間もないわけだし、そろそろこの章終わらせないと読者が飽き……じゃなくて、あまり準備に時間をとられるわけにはいかないしな。

 

「とにかく、手段は選んでられん。何としても織斑一夏を精神的に追い詰め、教官にはドイツに戻ってもらわねば」

 

「……ホント千冬様のこと好きなアンタ」

 

 今までの言動でも感じてはいたが、この子の千冬様に対する執着は相当なものだ、崇拝してるとすら言った方がいいかもしれない。でもそのせいで千冬様本人はげんなりしちゃっているんだよな、面白いからいいけど。

 

「まあそれはいいけど、そんな都合のいい作戦なんてできるのかい?」

 

「それを考えたいから貴様を呼んだ。貴様は織斑一夏のことをよく知ってるだろうから、やつの精神を効率的に攻めるための情報を提供して欲しいのだ」

 

「えー、そんなこと言われてもなー……」

 

 正直ISって点で言えばアイツの専用機、確か白式だかなんだかは弱点だらけらしいけど、織斑自身のメンタル面での弱点って言われると、あまり思いつかない。まあ俺はどっちかって言うとラウラさんには負けて欲しいから、正直にないって言えばいいだけだけど……

 

「……なあお前さん、俺の情報が欲しいって言ったけど、それが嘘だったらどうすんだ? 一応俺アイツの友達だし、アイツを勝たせるためにお前さんに嘘をつくかもしれないんだぜ?」

 

 考えてみればこの人は曲がりなりにも従軍経験のある人だ。それもそれなりの地位にいた人らしいし、情報戦の心得くらい持っていても不思議じゃない。どういうふうに嘘を見破るのか、ここで確かめておいた方がいいだろう。

 

「ふん……その程度のことなら、既に対策は立てている」

 

 そう言うとラウラさんは、おもむろに携帯端末を取り出し、少し弄り始めた。

 

「どうした、通知?」

 

「いや、それもあるがそうじゃない。貴様に見せたいリストがあるのだ……む、ミスド100円セールか、あとで行かねば」

 

 結構思考ダダ漏れだなこのひと。軍人って情報漏えいとか無いようににそのへん訓練されるもんだと思ってたけどいいのかな?

 ……100円セールか、フレンチクルーラあったら俺も行こう。

 

「で、見せたいものとは?」

 

「言ったろう? 貴様を篭絡すると」

 

 ああ、言ってたなそんなこと、もう忘れてたけど。前は花を贈ってくれたけど、今回はどんなことをしてくるのか……

 少し楽しみに思っていると彼女は、俺に携帯の画面を見せてきた。画面には、何やらラウラんと同じ眼帯を付けた。かわいい女の子たちの写真が表示されている。

 

「それは黒兎隊の隊員たちだ。この中から好きな奴を選ぶといい。何なら私でもいいぞ」

 

「……え、ウソそう言う……?」

 

 え、なに? 篭絡ってもしかしてそんな直接的なレベルの話?

 ……ラウラさんのあの顔を見る限り、どうやら本気なようだ。えー、花からいきなり段階上げ過ぎじゃない? 焦ってんのかしら?

 

「あのラウラさん。そう言うのはいくら何でもやめた方がいいと思うんだけど……」

 

「この非常事態だ、手段は選べんさ。それに彼女らには了承もとってある。貴様が心配するようなことはない」

 

「花の話はどうしたんだよ?」

 

「花とは飾るものだ。取引に使う物じゃあない。貴様が私のモノになった時、その証左として贈らせてもらうさ」

 

 相変わらず意味不明にイケメンなことを言いながら、ラウラさんはさらにずいっと近づき、俺に写真を見せつけてくる。

 

「で、この赤髪のやつなんかはどうだ? エミーリアと言うんだが、なかなかに良いスタイルを持っているぞ」

 

「い、いや、いきなりそんなこと言われても……えーそんな簡単に、進んでんなー今の子……」

 

 興味はある、興味は大いにあるが、そんないきなり言われても心の準備ができない。我ながらめんどくさい性格だとは思うが、童貞なので許してほしい。

 

「なんなのだ進んでるとかなんとか? 何の話をしているのだ?」

 

「え? いやだって、好きな子を選べって、そう言うことじゃ……」

 

「………ッ!」

 

 ラウラさんは俺の言ってる意味に気づいたようで、顔を真っ赤にして怒りだした。

 

「ば、バカもの何を考えているのだ! 節操と言うものをわきまえろ!」

 

 若干理不尽な気もするが、この反応を見るに、どうやら俺が考えていたような意味ではないらしい。ああよかったびっくりした、どうなることかと思ったよ。

 ……ちょっと残念……じゃない、全然残念じゃないうん……うん………

 

「……じゃあなんなんだ一体? 言っとくけど俺にも信念があるんだ、ちょっとやそっとじゃ揺るがないぜ?」

 

「む? 妙に強気だな……」

 

「まーね……」

 

 先程は少し面食らってしまったが、誤解とわかった以上もはや恐れることはない。俺には焼肉という信念があるのだから……

 

 

 

 

「むう……勝ったら黒兎隊の縦セーター写真集をプレゼントするという程度じゃ、ダメか」

 

「俺ボロクソにするよ織斑のこと」

 

 

 

 

 ゴメンナサイ千冬様、頑張ったけど、ラウラさんの篭絡にはかなわなかったよ。

 これはしょうがないことなんだ、縦セーターには抗えない魔力があるのだから、どうしようもなく仕方のない結果なんだこれは。

 

「やってくれるのか?」

 

「ああ、策はあるぜ。だからこの子とこの子と……あとこのそばかすの子のを重点的に頼む」

 

「エミーリアと、ゲルトとヘルマだな。わかった伝えておく。して、策とは?」

 

「ああ、それだけど……」

 

 周りに誰がいるわけでもないが、俺はラウラさんにより、耳打ちをして、作戦の概要を話した。

 

「……で……と……すれば……」

 

「ふむ、ふむ……なに!」

 

「と、こんな感じのを考えているんだが、どうよ?」

 

「パーフェクトだ佐丈晴明! 貴様は思った以上の逸材だった!」

 

 どうやらお気に召してくれたらしい。正直不安だったから良かった。

 

「よし、じゃあ続きはミスドでやろうぜラウラさん!」

 

「ああ、早く形にしないとな!」

 

 そう言って、俺たちは作戦をより効果的なものにするため、ミスドへと向かったのだった。

 作戦が決まった。どうやら明日、早速決行するらしい。こりゃどうなるのか、俺も楽しみだぜ……後は普通にだべってドーナツ食って帰った。フレンチクルーラがまだあってよかったです。

 

 

 

 

--おりむー視点

 

「……ん、なんだこれ?」

 

 ある朝のSHR前、自分の机に手を入れてみると、何やら小さいものが入っているのに気づいた。はて、いつも机は空にしてからにして帰ってるはずなんだが、何か忘れてただろうか?

 

「どうしたの、一夏?」

 

 隣にいるシャルルが俺の所作に気づいたのか、きょとんとした顔をこちらに寄せてきた。ちなみに今日は何故か晴明を見ない、用事があるって言ってたけど何してるんだろう?

 

「いや、なんかあるんだよ俺の机に。なんだ……?」

 

 もう少し奥に手をやってそれを確かめようとすると、いきなりべチャッという感覚が手を襲った。

 

「うわ!? なんだ!」

 

「だ、大丈夫、一夏!? どうしたの!」

 

「いや何かべちゃって……ん?」

 

 ビックリした拍子に思わずそれが出てきたので、それが何なのか確認してみる。

 ……手紙の封筒だ。なんか中がこんもりしててベチャベチャしてる。なんだこれ汚いな……一体何が入って……

 

 

 

 ……カニだ。

 

 

 

「……一夏、何それ?」

 

「……わからん、かろうじてカニの身だということはわかる」

 

 シャルルが俺が手に持ってるカニin封筒を見てどん引きしている。しょうがないね、俺も引いてるし。

 ……なにこれ、なんで手紙の封筒にダイレクトにカニ入ってんの? べっちょりしてるじゃん封筒が、封筒の意味をなしてないよべっちょりしすぎて。

 

「どうやら手紙は見たようだな、織斑一夏」

 

 教室の扉の方から声がした。振り向いてみると、そこにはラウラがいた。やっぱりこの手紙はコイツの仕業らしい。

 

「……おい、何のつもりだよこれは。もはやなんて言っていいのかわかんないぞ」

 

「フッ……悔しいか、織斑一夏よ?」

 

「言いようのない不快感があるのは確かだよ」

 

 ホントもう何この子? どういう経緯でこれをするに至ったの?

 

「それを寄越せ」

 

「え、あ、はい……」

 

 それ……て多分、このカニ手紙だよな。処分してくれるならありがたいし、特に断る理由もないので言われるがままラウラに渡した。

 そして渡したと思ったらいきなり破り始めた。ちょっと何始めたの意味わかんな……うわもう床も手もカニの汁でべったべたじゃねえかキタネエなもう……

 

「織斑一夏、こちらを向け」

 

「なんだよ一体……うわおい、なに俺の目に指こすりつけてんだやめ……カニ汁を付けるなカニ汁を!」

 

「お前を殺す」

 

「えぇ……」

 

『デデン!』

 

 頭がこんがらがっていると、いきなり廊下の方からBGMみたいなのが流れてきた。またそっちの方を見てみると、何やら黒子のような奴がラジカセを持っている。

 ……あ、晴明だあれ。絶対晴明だアレ。わかった今回アイツの差し金なんだ。だってこんな意味不明なこと考えんのアイツしかいないもん。

 

「……おいどういうことだよ晴明、説明しろ」

 

「ほら織斑、『なんなのあの人』、『なんなのあの人』」

 

「言わねえよ! 意味わかんねえよホント今回!」

 

「フッ……」

 

 ラウラはラウラで何でドヤ顔してんだろうか?

 

「今のは序の口だ。決戦を楽しみにしていろ」

 

 そう言ってラウラは教室を出て、黒子(きっと晴明)と一緒にどこかへと去っていった。次HRなのにどこに行くんだアイツらは?

 

「……ね、ねえ、結局なんだったの一夏?」

 

 さっきまでの一部始終を見ていたシャルルが何とも言えない顔をこっちに向ける。他の女子たちも何とも言えない顔をしていた。

 

「さあな……とりあえず」

 

 

 

 

「今度のトーナメント頑張らないと、て思ったよ……」

 

 

 

 

 まるで現実から逃避するように、俺は遠い目をしながら、そんなことを呟いた。

 

 

 

 

--さーたん視点

 

「……やったなラウラさん」

 

「ああ、素晴らしいぞ佐丈晴明。見たか、やつの困惑しきった顔を? これで勝ったも同然だ!」

 

 ホンット面白いこの人。ホンットマジ面白いこの人。まさかあそこまでノリノリでやってくれるとは思わなかった。

 

「それで、次はどうするのだ?」

 

「ああ、もう精神的ダメージは与えたからな。あとは試合に向けて準備するだけだ」

 

「何かやつを倒すのに有効的なものはあるか?」

 

「あるぜ、とっておきのが」

 

「本当か!」

 

「ああ……その方法なんだが……」

 

 ひとしきり説明した後、ラウラさんは目を輝かせていた。どうやら相当気に入ったようだ。

 

「そんな技があるのか……ッ! すごいぞ佐丈晴明! それを習得すれば我々は無敵だ!」

 

「ああ、頑張ろうぜ!」

 

 その日から俺は、ラウラさんにある能力を習得させるために、付きっ切りで修業に付き合った。トーナメント当日、どんな結果になるのか……俺自身予想がつかない。楽しみだ。

 

 

 

 

--きよたん視点

 

 ……タッグマッチトーナメント当日、私はかなと本音と一緒に、控室で座っていた。

 これから試合に出なきゃいけないわけだけど、正直今の私たちには些末なことだった。

 

「……晴明君、最近ボーデヴィッヒさんとずっと一緒ね……」

 

 かながポツリと、そんなことを呟いた。そう、かなの言う通り、ここ最近の晴明君は四六時中ボーデヴィッヒさんと共にいる。

 ご飯を食べに行こうと言ったら、ボーデヴィッヒさんに話があると言って断られ、一緒に帰ろうと言ったらボーデヴィッヒさんと帰ると断られ、帰ってくるのは夜中の日付が変わるころ……ずっとボーデヴィッヒさんにつきっきりだ。

 

「緊急事態だよ~緊急事態だよこれは~!」

 

 本音がうがーっと言った感じでそう叫ぶ、この子がこんな風に焦るなんて珍しいかもしれない。

 

「そうね、このままじゃ晴明君、寝取られちゃうわ……」

 

「ちょ、寝取りって……」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないよ~きよたん! さーたん、最近じゃ私たちとろくに会話もしてくれないし、さーたんこのままじゃボッチーに取られちゃうんだよ~!」

 

「だからそもそも私たちのじゃ……ボッチーて呼び方やめてあげよう、ねえ?」

 

 まあでも、ここ最近晴明君と前よりも会話していない気がするっていうのはある。別にそれは寂しくない……わけじゃ、ない……けど………

 

「でも、それは飛躍しすぎじゃない? あの晴明君だよ?」

 

「あのさーたんがここまで1人の女の子の面倒見てるんだよ? あのめんどくさがりのさーたんが!」

 

「確かに、ここまで誰かと一緒にいるなんて、今までなかったわよね」

 

 そう言えば……え、うそ、じゃあホントに……

 かなが、私の不安をあおるように、大げさな身振りで話を続けた。

 

「おんなじ目標に向かって、共に努力する男女の2人……やがて2人には友情以上の恋慕が芽生えて……」

 

「そ、それはダメ……」

 

 そう声を上げようとしたその時、後ろから声がした。

 

「やあ……皆さんお揃いで」

 

 この声……晴明君だ!

 

「は、晴明君! ちょっと聞きたいこと……が……」

 

 そこにいたのは晴明君だった。確かに晴明君だった。

 

 

 

 ただ、後ろにやたらデカい、髪が天に昇っている人がいた。

 

 

 

「……さーたん、その人は?」

 

「……ラウラさんです」

 

 なにを言ってるんだろうこのひとは?

 

「晴明君、ウソならもうちょっと考えてついた方がいいよ? あり得ないよ?」

 

「いやホントなんだよ清香さん。ホントなんだよ……」

 

『This way』

 

「ほらネイティブな英語喋ってる。絶対違うよ? ドイツ人だもんあの人絶対違うよ?」

 

「俺だって信じたくねえよ! こんなことになるなんて思わなかったんだよ! ハンターハンター貸しただけでこんなことになるなんて思わなかったんだよォおおッ!」

 

 なにがあったのかは知らないけれど、とにかく彼らはどこかで間違えたのだろう。悲哀に満ちた晴明君の叫びが、控室に響き渡った。

 

 

 

 

『Follow me』

 

 

 




ちなみに凰様と嬢は攻撃されてないので普通にトーナメントでます。


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21話 ビニールで遊ぶのはやめよう

みんな! ビニール袋頭にかぶるのはやめようぜ! 死ぬから!(マジ)


「……ねえ晴明、ちょっと聞いていい?」

 

 そう聞いたのは、晴明の隣にいる鈴だ。

 本日はタッグマッチトーナメント。これは現在の生徒の能力を、言葉は悪いが格付けする目的で行われるトーナメントだ。プライドか、はたまた噂の優勝賞品目的かは定かではないが、生徒は皆優勝を狙い闘志を燃やしている。

 もうすでにトーナメントは始まっている、これから出場する生徒や終わって休んでいる生徒は控室に待機しており、いつもの見知った面々もそこにいた。本来ならば皆緊張に満ちているであろうところだが、どうやら違う様子が見受けられる。控室にいる生徒達は緊張しているのは違いないが、緊張と言うよりは戦慄と言った方が正しいだろう。それは鈴とて例外ではなかった。

 

「あのムッキムキの長い髪の人は誰よ?」

 

「ラウラさんだ」

 

「……!?」

 

 理由は控室の中にぱっつんぱっつんの服を着た毛筆タッチのがなんかいるからだ。

 

「……えーと晴明さん、とりあえずその方がラウラさんだと仮定するとして、その……なにがあったか聞いても、聞いていいのかしらこれ?」

 

 そう聞くセシリアの様子も、唖然という形容以外あてはまるものはなかった。逆に昨日までのロリが今日見ると八頭身の筋肉になって平然としてる人はきっと多くないと筆者は信じたい。

 

「えーとね、コップにね、水をなみなみ入れてね、中にはっぱを一枚入れるじゃん? んでそれをむうーんっつってね、誓約してね、こうなったんだよ」

 

「さーたんちゃんと説明する気ないでしょ?」

 

「いや真面目な話するとさ、俺もよくわかんなくて……」

 

 晴明は嘘を言っているわけではない。実際やったことと言えば水の入ったコップに葉っぱを浮かせて遊んでたり、たまにドトールいってだべってただけなのに、晴明が気づいた頃にはこうなっていたのだ。

 

「方法はわからないが、強制的に成長したんだ……! 千冬姉を倒せるレベルまで!」

 

「ね、ねえどうしたの一夏? 口調変わってるよ?」

 

「やはり俺は間違ってなかった……コイツの牙は、王にも届き得た!」

 

「王って誰? ねえ晴明君、王って誰?」

 

 その場にいた一夏と晴明はこれ以上ないくらいに真面目に語りだし、それにシャルルや清香……というより女性陣はついていけなかった。

 

「良かった……殺されるのが、俺でよかった!」

 

「ダメだ! そんな、もうこれ以上そんな力! 一体、この先どれほどの……!」

 

「楽しそうねアンタらね」

 

 一夏は安堵していた。命の圧縮によるラウラの才能ある未来を捨てる覚悟、それほどの誓約の矛先が自分でよかったと。

 晴明は恐怖していた。ここまでなんの許可もなくやってるわけだが、さすがにそろそろ運営に何か言われるんじゃないかと。

 鈴は正直ついていけなかった。男子特有のこのノリに。

 

「……その、1ついいか?」

 

 そんな中、先程まで黙っていた箒が口を開けた。彼女には疑問があった。

 

「その図体でどうやってISに乗るつもりだ?」

 

「「「……あ」」」

 

 その場にいた全員が失念していたことが、箒の一言で浮き彫りになった。聡明な読者諸氏の中にはもう察している御方もいるかもしれないが、現在のラウラさんは2メートル半以上の大きさだ。これは身長の世界記録に匹敵する大きさであり、いくらISにはオートでフィッティングをしてくれる機能があるとはいえ、女性が扱うものとして想定されているものに、悲しくもその大きさは規格外なのだ。

 

「……どうしようラウラさん?」

 

『first comes ro……』

 

「いやそういうのいいから」

 

 さすがに晴明もこの時は素になっていた。いくら天賦の才を持つ者が更にその才を全て投げ出してようやく得られる程の力を得たとしても、それが本番で使えないなら意味がない。晴明はせっかく強い装備を手に入れたのに、ラスボス時にイベントで強制的に装備を変更されたようなやるせなさを感じていた。

 

「んでどうする?」

 

『……仕方ない』

 

 

 

「脱ぐか」

 

 

 

 そう言うなり、ラウラさんの肉体が割れ、中からISスーツ姿のいつものラウラの身体がズルゥッと出てきた。

 

「「「肉じゅばんだったの!?」」」

 

 突然のその光景に女性陣は驚愕の声を上げた。そう、実はあれはラウラがドイツ軍に頼んで作ってもらった特殊強化外骨格なのである。

 

「……知ってたさ、ああ、知ってたさ……」

 

「……まあ、そうなるな……うん」

 

「なんでそんながっかりしてんのよアンタらは!」

 

 対照的に一夏と晴明はどこか哀しい目をしていた。『忍者なんていないよ』と言われた外国人のようである。

 

「……いやまてよ織斑、考えてみたらあれ、アーマードマッスルスーツってことだよな……?」

 

「はっ……そうか、てことは……!」

 

 しかし何か希望を見出したかのような晴明のその言葉により、一夏の目はまた輝きだした。『忍者? ああ最近少なくなったね』と言われた外国人のようである。

 2人のテンションはまたもや高くなりだし、それを見ていた女性陣は、ただただ困惑するばかりだ。

 

「なあラウラさん、そのスーツの素材教えて」

 

「む……すまないがトップシークレットだ」

 

「この曖昧な回答! 晴明、やっぱり!」

 

「ああ間違いねえ! 絶対オリハルコンだ!」

 

「よっしゃ! 賢者の石探しに行こうぜ!」

 

「よっしゃ京都行くぞ京都!」

 

「よっしゃじゃないわ止まれ!」

 

 夢に呑みこまれ暴走しかかっていた男子たちは、しかし脳天に出席簿を喰らったことにより沈静した。「なんだよもう」と晴明はのどまででかかったが、それは彼を見る猛禽類のような目によって言わずに留められる。

 

「さ~た~け~」

 

「せ、せんせーい……」

 

 その目の持ち主は、千冬様その人だ。

 

「これはどういうことだお前、あん?」

 

「い、いやあ悪堕ちしちゃってハハハハ」

 

「ほう、なら正義の鉄槌を受けても文句は言えんな?」

 

「ちょ、タンマタンマ!」

 

 是非もなく、また容赦のない出席簿が晴明を襲おうとしたその直前、アナウンスが部屋に響き渡った。

 

『次の試合は、佐丈・ラウラペア対、織斑・デュノアペアです。該当の生徒は、所定の配置につき準備を……』

 

「ほ、ほら、俺もう行かなきゃ」

 

「……貴様、覚えてろよ」

 

 彼女は出席簿を収め、とりあえず晴明に粛清を行うことは保留とした。それを見て晴明は、学校の呼び出しというものに生まれて初めて感謝していた。

 

「セーフ……よしじゃあ、また試合でな」

 

「ああ! 目にモノ見せてやるよ! ……ところで千冬姉と何の話してたんだ?」

 

「今度焼肉奢ってくれるって話。織斑もつれてってやるってよ」

 

「ありがとう千冬姉行ってくる!」

 

「貴様ァ!」

 

 いけしゃあしゃあとのたまる晴明に対して慟哭する千冬様だったが、言い終えるより前に彼らは控室から出て行った。

 

「じゃ、じゃあ僕たちもいこっか」

 

「ふん、準備できているな、貴様?」

 

 それに続くように、シャルルとラウラも彼らの後を追った。かくして、それぞれ譲れないものを持ちながら、闘いは動き出したのであった。

 

 

 

「……どうすんのこれ?」

 

 

 

 控室に肉じゅばん(アーマードマッスルスーツ)を残して。

 

 

 

 

--ボッチー視点

 

 トーナメントに勝てば、教官はドイツに戻ってくる。これ以上ないほど破格な条件だと思った。IS学園の生徒は皆低レベルで、実戦経験すらない素人ばかり。そんな集団の頂点に立つなど、赤子の手をひねるようなものだ。

 

 

 そう思っていた。

 

 

「どうした! 俺より強いんだろう、お前!」

 

「貴様! くそ……」

 

 織斑一夏が、資料にあった零落白夜を振りかざし、突進してくる。AICによる攻撃を加えるが、その悉くが回避された。やつも白痴ではない。対策は立てていたということか。

 

「右がお留守だよ、マドモアゼル!」

 

「しまっ……!」

 

 やつに集中するあまり、シャルル=デュノアのことを失念していた。まずい、喰らうッ!

 

「うおォ無理心中ゥーッ!」

 

「うわあぶなっ!」

 

 しかしやつからの攻撃は、佐丈晴明によるパイルバンカーの攻撃で、すんでのところで止められた。

 

「無事かい、ラウラさん?」

 

「ふん……」

 

 礼を言うべきなのだろうが、今の私は苛立ちでそんな余裕は無かった。

 これはどういうことだ? 私は強いのではなかったのか? 部隊内ではいつも一番だったはずだ。それが何だこの様は? もう試合開始から随分経つ。予定ならすぐ終わるはずだったのに、いつの間にかこちらが劣勢に持ち込まれている。代表候補生もいるとは言え、命がけで戦ったこともないような奴らに、何故戦闘で遅れを取る?

 

「ダンス中は相手のことを考えるのがマナーだよ、レディー!」

 

「な!?」

 

 いつの間にか、正面にはシャルル=デュノアがいた。気付いた時にはもう遅い、目の前にあったショットガンが火を噴き、私は衝撃に襲われた。

 

「がはっ!」

 

「ラウラさん!」

 

「そこを通せ、晴明!」

 

「ちっ……ごめんだね!」

 

 

 

 何故だ? なんだ、これは? こんなところで負けるのか、私は?

 

 

 また、『出来損ない』に戻るのか?

 ようやく、教官のおかげでISを使えるようになった。

 ようやく、誰も私をバカにしなくなった。

 ようやく、みんな普通に接してくれた。

 ようやく、強くなれた。

 

 また戻るのか? また私は弱くなるのか? また私は、置いてけぼりなのか?

 

 やめろ、撃つな、攻撃するな

 恐い、怖い、コワイ、こわい

 やだ

 

 

 

 

 

 

 

 助けて

 

 

 

 

 

 

 

 損傷度:D

 戦闘恐慌状態が規定値に到達

 コマンド緊急自動入力:↑↑↓↓←→←→BA

 

 

 VTシステム:起動

 

 

 

 

 

--さーたん視点

 

「うわあぁあああ!」

 

 ラウラさんがやられる、そう思った矢先だった。突然ラウラさんが叫びだして、彼女のISから黒い何かが浮かび上がり、それが彼女をドロドロと包み込んだ。

 

「な、なんだ!?」

 

「さ、佐丈君! あれは……」

 

「わかんねえ、けど……」

 

 やばいってのは、何となく察しが付く。まるで粘土のようにうごめき、ラウラさんを包み込むそれは、昔見たホラー映画を彷彿とさせるものだった。

 ドロドロと、まるで型に流し込むかのように、それは段々と形を成していった。

 

「雪片……!」

 

 完全に何かが形を成したあと、それを見た織斑が呟いた。聞いたことがある、あれはたしか、織斑先生が現役のときに使っていたIS、雪片……

 

「……がどうした」

 

「い、一夏?」

 

「それがどうしたぁ!」

 

 それを見て何を狂ったのか、織斑はそいつめがけて突進する。しかしやつの構えた剣ははじかれ、あの黒い何かが剣を振りかざした。

 

「一夏ぁ!」

 

「!……」

 

 斬撃、それは先程の戦闘でシールドがカツカツの織斑を、一刀両断する。

 はずだった

 

「……?」

 

 しかしいつまでも襲ってこない斬撃を不思議に思ったのか、織斑は目を開ける。目を開けた織斑の顔は、驚愕に染まっていた。

 

 

 

 目の前に俺がいたのが、理由だろう

 

 

 

「よお、元気?」

 

「晴明、お前、腕……」

 

 状況を説明しよう。とっさに織斑を庇って黒い奴の剣を受けたものの、攻撃が予想以上だったらしく、ISの装甲を貫いて腕にまで剣が届いているのだ。

 

「お前、俺を庇って……」

 

「ああ、こんなことになるなら助けるんじゃなかったわ。死ぬほどいてえよ」

 

 めっちゃ腕えぐれてる、グロイ。これ大丈夫かな、不随とか勘弁なんだけど。なんとか離脱して、黒い奴から距離をとる。

 

「佐丈君、それ……」

 

「ああそれはあとで……で、なにブチギレてんだよお前、バカなの?」

 

「……あれは千冬姉の、千冬姉だけのモノなんだ。それをあんな風に使うなんて許せねえ。アイツも、あんな力に振り回されてるアイツも気に入らねえんだ……」

 

 コイツホントシスコンな。こういう一途なんだけど、少し向こう見ずなところもある。それがコイツのいいところでもあり、悪いところでもあるが。

 

「……別にオマエががいつどこでくたばろうが知ったこっちゃないけどよ、今ここで死ぬと俺が千冬様に殺されるからやめろ」

 

「……悪い」

 

 俺の傷口を見て罪悪感にでも苛まれてるのか、織斑はクールダウンしたようだ。とりあえずこれでコイツがまた突進することはなさそうだ。

 

「……まあ、どっちにしろアイツは止めねえとな」

 

「……晴明、まだIS、動くか?」

 

「ギリな」

 

「やるつもりなの?」

 

 俺たちの姿を見て、シャルルさんは不安そうにそう呟く。まあそうもなるだろう。一人はシールドエネルギーほぼ無し、1人は片腕やられて満身創痍、無理ゲーだ。

 でも

 

「アイツは気に入らない、そうなんだろ?」

 

「ああ、1発ぶん殴ってやんなきゃ気がすまねえ」

 

 やはりこいつはどうしようもなくバカだ。そしてそれを面白がってる俺もどうしようもなくアホなのだろう。

 

「じゃ、今度はお前が俺を庇って死んでくれ」

 

「言ってろ」

 

 そして俺たちは、盛大にバカをするため、黒い彼女と相対した。

 

 

 

 

 

 

 

『……-』

 

「……ん? なあ晴明あれ……」

 

「あ、なんだよ?」

 

 織斑が何かに気づいたようで、黒い奴を指さす。なんだ……? なんか挙動が妙に変なような……

 

『……--ッ! ッッッ!!』

 

 ……あれ、もしかしてあれ……

 

 

 

 

「晴明、もしかしてあれ、息しづらいんじゃないか?」

 

 

 

『ンーッッッッ!! ンンーッッッッ!!』

 

「……よし行くぞ織斑」

 

 そんなことはないはずだ、いくら粘土っぽくて通気口がほとんど見えないからってあれはIS、宇宙空間を想定してちゃんと息できるはずだ。間違ってもあんなパンスト被った芸人みたいな息の仕方はないはずだ。

 

「いや待ってアレウルトラクイズみたいなリアクリョンしてるもんあれ、ヤバイって絶対ヤバイ」

 

「いいから行くぞ」

 

「いやだからさ」

 

「うるせーよ! だからシャレにならなくなる前に行くぞっつってんだよ! せっかくシリアスな空気つくったんだから黙ってろ!」

 

 ……時間はない、最短で決めなければ……

 

 




Q:戦闘シーン手抜きじゃない?

A:手抜きじゃないです。巻いただけですはい。





はい


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22話 ここに書くこと思いつかねえ

次のサブタイどうしよう? イルカセラピーの話でも書くか


--さーたん視点

 

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止! 警戒レベル:甲と認定! 来賓と生徒の避難を最優先に! 教師部隊は鎮圧のためにすぐに配置について下さい! 対処できない場合はプランBを……』

 

 あ? ねえよそんなもん。と言いたくなる緊急アナウンスを聞き流しながら、えぐられた左腕を抑えて痛みに耐える。イベントあるごとに緊急事態になるけど、この学校祟られてんじゃないのか? ここの学校元々墓地だったとかないよな?

 

「晴明、大丈夫なのか、その腕?」

 

「大丈夫じゃねえから早く終わらせて医務室行きてえんだよ」

 

「……すまない、俺」

 

「謝りたいなら今度飯でも奢ってくれ、ステーキな」

 

「……そうだな、一刻も早く終わらせよう」

 

 状況を整理しよう。今目の前にいるのは、織斑曰く千冬様の現役時代のIS……確か雪片だかなんだかをコピーした、黒い何かだ。千冬様の現役時代がどうだったか俺は知らないが、さっきの動きを見ても、俺たちよりかなり強いことは明白だった。今はこっちの出方を伺ってるのか動かず、遠くからこちらを見ているだけだ。

 対してこっちはシールドエネルギーほぼ無しのが2人、代表候補生のシャルル君もいれど、彼女を顔を見ると、余裕のないことが伺える。どうしようもなく分が悪いのは確実だろう。そして何より

 

 

 

『ンーッ!ンンンーッッッ!!!』

 

 

 

 中の人(ラウラさん)がそろそろ本格的に酸欠になりかけてるのである。あの調子じゃ教師が救助に来るまで間に合うかどうかも怪しい。

 

「……とにかく急ぐぞ。このままじゃみんな死んじまう。特にラウラさん」

 

「なんで事の発端のあいつが一番窮地に陥ってんだ……」

 

 大体なんなんだあの機能? 何を思ってあんな機能加えたんだ。ドイツ軍の中にバラエティ番組のディレクターでもいるのか?

 

「うわぁめっちゃべコべコ動いてるとこある。あそこに口あるんだな」

 

「……プッゴメン織斑、こんな時に……ブッフゥ」

 

「腕ちぎれかけてんのによくそんな余裕あるね!?」

 

 そうだ、忘れかけてたけど俺の腕もえらいことになってるんだった。早くしないと俺の方が出血多量で死ぬかもしれん。まあそん時はそん時で別にいいけど。

 しかしどうするか。向こうはこっちが何かアクションをしたらすぐに動き出すだろう。さっきの動きを見た限りじゃ、あの機体は相当速い。俺たちの攻撃が当たらない以前に、まずこれ以上回避できるかどうかも怪しいだろう。

 

「……一夏、こっちに来て」

 

「シャルル……」

 

 シャルル君は何か考えがあるのか、織斑に近づき、手を差し伸べた。

 

「これから、僕のリヴァイヴのエネルギーの一夏に充填する。零落白夜がもう一回使える程度には、回復できるよ」

 

「いいのか?」

 

「短期決戦なら、僕が銃でちまちま攻撃するより、一夏が一気に決めたほうが良いと思うからね。それに何より……これは一夏がやりたいんでしょ?」

 

「ああ、すまねえ、わがままに付き合わせちまって……」

 

「いいさ、たまには男の子のわがままに付き合うのも、悪くない」

 

 そう言って彼女はリヴァイヴのケーブルを白式に繋ぎ、エネルギーの送信を始めた。

 

「でも、どうにかして零落白夜を当てる方法を考えないと。普通の方法じゃあれに当てるのは厳しいよ」

 

「動きを止める方法はないか?」

 

「残念だけど、僕の装備じゃダウンの1つも取れないよ。元々そういうのに長けた装備でもないしね」

 

 無理か……じゃあどうする? このままじゃ織斑の一撃は十中八九躱される。牽制じゃダメだ、賭けにすぎる。もっと直接的な……

 

「……はい、これで僕のエネルギーは全部だよ」

 

 そう言ってシャルル君はリヴァイヴのケーブルを外した。途端彼女のISは光の粒子となり消える。全部というのは本当らしい。

 ……ん、ケーブル? ケーブル……紐……ワイヤー……

 

 

 

 それだ

 

 

 

 と、思った瞬間、ISに通信が入った。山田先生だ、ちょうどいい

 

『さ、佐丈君織斑君、何をしているんですか! 早く避難を……』

 

「先生。この近くにデカいワイヤーってありますか? なるべくたくさん」

 

『は、はい? 何言ってるんですか! そんなことより早く』

 

「いいから!」

 

『ひっ!?』

 

 普段発さない怒号を発したからか、山田先生が怯えてしまった。それに関してはこちらも四の五の言ってる暇はないのだ。勘弁してほしい。

 

「……すいません、教えてください」

 

『え、は、はい……ワ、ワイヤーなら、補修用のものがアリーナのダクトにありますけど……』

 

「ありがとうございます」

 

『あ、ちょっと待ちな』

 

 山田先生が何か言い切る前に、俺は通信を一方的に切った。あとで謝っておかないとな……

 

「何か考えがあるの?」

 

 電話の内容を聞いていたのか、シャルル君は俺にそんなことを聞いてくる。

 

「ああ、今から説明する。まあ、でもシャルル君は逃げな」

 

「……わかった」

 

 自分にもうできることはない、それがわかっていたからか、彼女は少し悔しそうな顔をしながらも、すんなりと受け入れてくれた。

 

「そしてお前は道連れに死ね」

 

「酷くない?」

 

 うるさいよ。そもそも自分でやりたいっつったんだろが。

 

「それで、どうすればいい?」

 

「ああ、なに、簡単なことさ」

 

 

 

 

「腹を決めろ」

 

 

 

 

--

 

「……」

 

 遠方にいた敵から、濃い煙と、光のクズのようなものがが立ち上るのを見て、黒い何かは臨戦態勢をとった。それが目くらまし目的のスモークグレネードとチャフということはすぐにわかった。しかし黒い何かにはそれに対してむやみに突っ込むということはしない。

 黒い何かは剣しか装備しておらず、またそれで十分だった。煙から出て、攻撃してきたところを、潰しに行けばいい。実際黒い何かはそれができるし、その確信に足りうる能力も持っていた。

 

 

 

 だから、目の前のモノにも、微動だにしなかった。

 

 

 

 レーダーに映った1つのIS反応と、チャフがあれど、それが意味をなさなくなる程の、超高熱源反応。それが眼前に現れた。晴明のラファールだ。他の2人はいない、逃げたのだろうか?

 

「さすがにむやみに突っ込んでは来ねえよな……」

 

 晴明はそう呟きながら、しかし好機とばかりに最大限まで瞬時加速のための出力を溜める。瞬時加速のみにパラメータを振った。本当の意味での特攻機体だ。

 

「いいじゃん、楽しもうぜ」

 

 彼がそう言うと、エンジンの金切声はさらに大きくなり、そして

 空気圧の中に、彼は消えた

 

「……」

 

 迫りくる亜音速の物体、それは何かには避けられないのか?

 否、たとえどれだけ速かろうと、一直線のみの動きで、最初から来る方向がわかってるものなど、避けるのは造作もない。何かはすぐに回避し、迎撃ができる。

 

 

 

 

 それが点の攻撃ならば

 

 

 

 

「!」

 

 迫りくる無数のワイヤー。あれはアリーナの補強に使われている丈夫なものだ。それが晴明の四方八方に大きく広がっている。

 気づいた頃にはもう遅い、ワイヤーは何かに絡みつき、捕縛した。

 晴明が近くに着地、というより激突する。ワイヤーのために突き出した腕はひしゃげ、傷だらけになっていた。もはや痛覚も何もない

 

「オイオイオイこっちもかよ……さあどうだ?」

 

 使い物にならなくなった両腕をブランとたらしながら、晴明が得意げにそう呟く。これでもう何かは身動きが取れない、これでもう何かは無力化できた。

 そんなことは断じてない

 バキバキと、何かを縛っていたワイヤーが千切れる。それを見て晴明は絶句した。

 

「マジかよ……」

 

 黒い何かは晴明の方を見た、瞬間、猛スピードで突進してきて、剣を突き出す。

 

「! しまっ……」

 

 晴明は防御の態勢をとるが、遅すぎた。

 

 わき腹に剣が刺さる

 激痛が走る

 視界が一瞬だけ、真っ白になった

 

「うぐっ」

 

 そんなうめき声をあげても、何かは容赦しない、剣をさらに深く刺し、肉をえぐる。

 悪寒が走り出す、血を失い過ぎたのかもしれない、死ぬかなあ、それはそれでいいけど……晴明は、薄れゆく意識の中でそんなことを考えながら、呟いた。

 

「やっぱり、俺を狙ったな」

 

 何かは、晴明に刺さった剣を抜く

 

「向かってくる俺だけを見て、俺だけを狙ったな?」

 

 何かは、それを振りかぶる

 

「他に何もないと決めつけて」

 

 そして、とどめを

 

 

 

 

 

 

「なぁ、織斑?」

 

 

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 突然、真後ろ、もう1つのIS反応。振り返り迎撃に入る。

 が、もう遅い

 

 ザンッと、切れる音が、何かの身体に、衝撃と共に伝わった。

 

 一夏は隠れていたのだ、初めから晴明のISに隠れ、何かに近づいたところで離脱する。ワイヤーは捕縛用ではない。死角を作り、何かに一夏を悟らせないようにするためのものだ。スモークもチャフも全てはそのため、晴明のやっていること全ては、ブラフだった。晴明に完全に気をとられた隙に、近距離で一気に白式を展開、零落白夜で一気にかたをつける。作戦とよべるかすら怪しい。あまりに危険な賭けだった。

 黒い何かが倒れる。限界まで破壊された証拠だ。それほどまでに、零落白夜の威力が凄まじいのだろう。

 

「大丈夫か晴明?」

 

「これが大丈夫に見えるのかお前」

 

「なんだ……大丈夫そうだな」

 

 一夏はすぐに晴明の元に駆け寄り、安否を確認する。怪我は酷いが、いつものふざけた調子の晴明を見て、一夏は胸をなでおろした。

 2人は動かなくなった黒い何かを見て、フウッと大きく息を吐いた。倒したのだ、彼らが。方法やリスクはともかく、これだけのものを彼らは2人で倒した。

 

「もうちょっとマシなやり方なかったのかよ、俺お前のブースターで焼き殺されるとこだったぞ」

 

「うるせえよ織斑。いいじゃねえか、こちとら両腕お釈迦なうえにわき腹えぐれてんだぜ」

 

 一気に緊張の糸が抜けて、お互いにそう話している、その時だ。黒い何かが、また動き出した。

 

『が……ガガ……』

 

「「!?」」

 

 まだ何かあるのか? そう思って身構えた。その時だ

 バキンッと、黒い何かは真っ二つに割れて、その中からラウラが、倒れてる晴明のちょうど上に落ちてきた。

 

「イッタァ!?」

 

「晴明!」

 

 突然上にのしかかられるのは、無論傷口に良いわけもなく、晴明は再び激痛に苛まれた。

 

「……たく、最後までひやひやする」

 

「……はあ、大丈夫か?」

 

「ああ、とりあえず、医務室でゆっくり寝たい」

 

 そろそろシャルル君辺りが救護班を呼んどいてくれているだろう。そう思いながら、2人は立てる気力もないまま、けれど心はどこか落ち着いて、その場に寝転がっていた。

 

 

 

「う……」

 

「お、ラウラさん?」

 

「う、うう……」

 

「お、気づいたか、もうちょっと静かにしてろよ、すぐに先生方が来」

 

 

 

「ウオオロロロロロロロロ……」

 

 

 

「「……」」

 

 VTシステムの弊害か、または結構な時間無呼吸だったからか、ラウラは盛大にリバースした。晴明の上で

 

「……あの、晴明」

 

「……誰か、シャワー浴びせてくれ」

 

 出血多量で朦朧とする意識の中、晴明はただただ、眠たそうにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

--ボッチー視点

 

「……ん?」

 

 ここはどこだ? 暗い……夜なのだろか? 私は何をしていた? 確か、トーナメントで戦っていて、それで……

 

「!……つッ」

 

 体を少し動かそうとしたら、激痛が走った。力を込めても、体は痛いだけで、ピクリとも動かない。首から上だけが、かろうじて動かせる程度だ。

 

「ぐっもーにん」

 

 横から低めの声が聞こえた、男の声だ。誰かと思いながら、私は自分の顔だけをそちらに向けた。

 

「佐丈、晴明……」

 

「無理すんなよ、面会謝絶レベルの負傷らしいからな、俺もアンタも」

 

 負傷? 負けたのか、私は?

 

「私は……一体……」

 

「さーてな、なんか黒い何かに包まれてたけど」

 

「黒い?」

 

「ああ、織斑曰く、雪片そっくりらしいけど」

 

「!……」

 

 雪片、その単語を聞いて、私は自分がどうなったか、確信した。

 VTシステム、モンドグロッソの部門受賞者の動きをトレースするシステム。IS条約で禁止されている、禁忌のものだ。

 なんでそんなものが私のISにあって、どうして、そんなものが発動したのか。

 ……どうしてじゃない、直感で分かっている。

 

「私が、望んだから……」

 

 あの人みたいになりたかった。あの人みたいになれば、誰にも置き去りにされないで済むと思った。誰も待ってはくれない。だから、誰よりも先に行くあの人みたいになりたいと思った。

 ……なにが強さだ、笑えもしない。私はただ、独りになるのがこわかっただけだ。誰にも見向きもされず、出来損ないのまま、独りで死んでゆくのがこわくて仕方なかっただけだ。

 

「どうしたラウラさん、何か言った」

 

「……お前は、怖くないのか?」

 

「え?」

 

 困惑の声色が聞こえる。私はなぜこんなことを彼に聞いているのだろうか? わからないが、ただ私は黙っていることができなかった。

 

「なぜおまえは、お前らはそういられる? 強大な敵を前にして、自分の死が迫っているにも関わらず、どうして笑っていられるんだ?」

 

 段々と、記憶がはっきりしてくる。そうだ、私は確かにVTシステムに呑みこまれ、彼らと対峙した。その時に見たのだ。四肢が壊れ、絶対的な差を見せつけられ、それでも笑って私を見た彼を。それでも私を倒した彼らを。

 

「私は、そんな風になれない……どうしても」

 

「……」

 

「どうして、そんなふうに笑える? どうやったら、そんなふうになれる?」

 

「……」

 

「教えてくれ、どうしてなんだ?」

 

「……」

 

 

 

 

「……クカー……」

 

 

 

 

「え?」

 

 ね、寝たのかコイツ? もしかして寝たのか? 今の問答が面倒くさくなって寝たのか? ウソだろ?

 

「……本当に寝ている」

 

 どうやら私の話を聞いているうちに眠気が襲ったのか、本格的に眠りについてしまったようだ。私の真剣な話は、どうやら子守歌代わりにされてしまったらしい。

 

「……ぷっ……はは、あははは……」

 

 なぜだろう、この人といると、自分が真剣に悩んでいたことが、酷く小さいことのように思えてくる。こちらは大まじめに言ってるというのに、なんて人だ。

 

「……大きいな」

 

 私の知ってる強さとはまた違う。別の何かを持っている男。その男の、寝返りを打ったいやに大きい背中を見ながら、私はどこか心地いいまどろみに落ちて、瞼を閉じた。

 

 

 

 

--さーたん視点

 

 翌日、教室にて

 

「……で、何か弁明はあるかな、晴明君」

 

「ラーメンマンみたいじゃないこの包帯?」

 

「は?」

 

「すいません」

 

 朝のSHR、俺は包帯まみれの状態で自分の椅子に座っていた。今回は両腕を包帯でぐるぐる巻きにしているのでマミーというよりはコサックダンスだ。

 それだけならいいんだけど、今俺は目の前の清香さんに問い詰められてる。横にはかなりんさんが暗い目でただひたすら俺を見つめてる。恐い

 

「……あとちょっと処置が遅かったら切断してたかもしれないんだって」

 

「いやーラッキーだったね♪」

 

「だったね♪ じゃない! もうちょっと考えて行動しようよ! ホントに死ぬとこだったんだよ!」

 

 清香さんが涙目になりながらそうまくし立ててくる。昨日面会謝絶で会えなかった分より心配してくれてたのだろう。他人にここまでの気を配る、この人は相変わらずお優しい人なのだ。

 

「……ホントに大丈夫なの、さーたん?」

 

 後ろにいた本音さんがそう聞いてくる。この人にも何気に心配かけてしまったようだ。

 

「時間はかかるけど治るってさ、現代医学ってすごいね」

 

 そんなこんなで雑談をしていると、山田先生が入ってきた。今日もタワワに揺れるそれを見て一日の活力を養おうとしていると、何だか山田先生がげんなりしているように見えた。一体どうしたのだろうか?

 

「え、ええと……今日は皆さんに転校生を紹介します。入ってきてください」

 

 転校生? またか。いい加減にしないとテコ入れがテコ入れじゃなくなるぞ。なんてことを考えていると、そいつは入ってきた。

 

「シャルロット・デュノアです。みなさん、改めてよろしくお願いします」

 

 ……ん?

 

「え、デュノア君って女?」

 

「おかしいって思った! 美少年じゃなくて美少女だったのね!」

 

「いやまだ私は諦めない! 女装少年という可能性に懸ける!」

 

 ざわざわとざわつく教室をしり目に、俺は織斑の方を見る。すると織斑も冷や汗を垂らしていた。

 

「……おいどういうことだこれは?」

 

「き、聞いてくれ晴明。昨日シャルロットと一緒に風呂に入ってて」

 

「天誅!」

 

「「うおおォん!?」」

 

 織斑から説明を聞こうとすると、箒さんによる恐らくそれなりに理由のあるだろう暴力が織斑を襲った。俺を巻き込まないでほしい。

 

「またんか一夏ぁ!」

 

「ウオオオ最後のガラスをぶち破れぇぇぇ!」

 

 そう言いながら織斑は廊下の方へとローリングで逃げる。

 

「いーちーかくんよぉー!」

 

 しかし廊下にいる凰様によりそれはかなわなかった。ここまで来て俺のニンジャ洞察力が解を告げる。どうせいつものハーレム騒動だろう。今回は多分シャルル君、いやシャルロットさん関連。

 

「ま、待ってくれ! 話を聞いてくれ、先っちょだけ! 先っちょだけでも!」

 

「問答無用!」

 

 この光景を見ていつも通りだなあと思う俺もだいぶ麻痺しているのだろう。とりあえず今日の昼ごはんは何にしようかな(現実逃避)

 

「……あ、そうだ、このありさまじゃあ箸持てねえじゃん」

 

「え、なにいきなり……」

 

「いや、今日のご飯どうしようかなって」

 

「ふーん……ま、まあ? よかったら私が食べさせてあげ」

 

「私が手伝いましょう」

 

 と、清香さんの声を遮って、いきなり死角の方向から声が聞こえてきた。何かと思って見てみると、そこにはラウラさんがいた。

 

 ただ、何故か俺に向かってかしずいているのが嫌に気になる。

 

「あの……ラウラさん?」

 

「……え、何、どういうこと?」

 

 清香さんたちも困惑してる。それもそうだ、いきなりこんな態度になっているのを見たら誰だってそーする。俺だってそーする。

 

「……私は昨日自分の弱さを知りました。そしてその中であなたの中に強さを見出したのです」

 

 え、何? 何語りだしてんの? なにそんなですます口調なのやめて? なんかすごく痒いから。

 

「躊躇なく友を助けるその強さ! 決して怯えぬその心! そんな(あなた)たちの行動に、漢をみました!」

 

 コイツ言ってて恥ずかしくないのか?

 

「最初はどちらの元で学ぼうか迷いました。どちらも強さを持っている……しかし、あなたの厚顔無恥なその振る舞いに、私は心動かされたのです!」

 

 コイツケンカ売ってんのか?

 

 

 

 

「お願いです! 私を舎弟にしてください、アニキ!」

 

 

 

「え……」

 

「「「ええぇぇぇ!?」」」

 

 驚愕する周りをよそに、俺は事態が飲み込めきれず、『ラウラさん昔のマガジン讀んだのかな?』と、見当違いなことを考えていた。

 とりあえず言えることは、

 

 

 

 

 今日、俺に舎弟(?)ができた、ということだ。

 

 




今回長くなりました。スイマセン……

活動報告で番外編のリクエスト募集しています。良かったらどうぞ。


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23話 番外編:押しキャラで性癖は割れる

最近コメント返せてませんね。申し訳ありません。
これからボチボチ時間を見つけて返信させてもらいたいと思います。


「配信の準備できたー?」

 

「OK、いつでも大丈夫」

 

「ちょ、配線踏まないで!」

 

「だからまとめて束ねとけとあれほど」

 

 いつもの教室とはまた違う部屋。長い机に、ぽつんと置かれた目の前のマイクと、ラジオと聞いていたにも関わらず据え置かれてるプロ用のカメラ。奥にはミキサールームで、せわしなく動いている放送委員会の人達が見える。そんな中に、晴明と一夏は座っていた。

 

「なあ晴明、ホントに大丈夫なのか?」

 

「先方はいつも通りのノリでいいって言ってたけどな」

 

「しかしいきなり台本無しなんて……」

 

「今更ごちゃごちゃ言ってもしょうがないだろ。それに文句は俺じゃなくって、企画を出した生徒会長様とやらにだな……」

 

 そう、今回彼らは生徒会きっての要望でラジオパーソナリティをすることになったのだ。

 

「それじゃあ、本番入りまーす!」

 

 彼らが渋い顔で言い合っていると、スピーカ越しにそんな声が聞こえた。ミキサールームからのものだ。二人はそれを聞くと、ため息をしたのち、すぐに前を向き、苦い表情を隠しきれてない作り笑いをした。ちなみに本番と言ったがリハーサルなど一回もやってない。この配信が最初だったりする。

 ADがカウントダウンをし、スタートの合図を出したところで、一夏と晴明は声を発した。

 

「晴明とー」

 

「一夏のー」

 

 

 

「リクエ「リクエスト「おこt「ズレてr「お応えあ間違った「あトークs「ト「待ってトーク?「ラジオだよな?」あ違」ちょま」

 

 

 

「………はい、リクエストお応えトークラジオ始まります」

 

 結局、一夏達から少し離れた場所に座っていた鈴が、ラジオ開始の宣言をしたのだった。

 

 

 

--凰様視点

 

『デューン↓wwwデデデデwwwヴェン→ヴェン↑ヴェン↑ヴェン↓wwwデューン↓↓wwwデデデデwwwヴェン→ヴェン↓ヴェン↓wwwゥヴイィヨ゙ィヨ゙ィヨ゙wwwデデデデwwwディ↑ヨヨヨwwwヴェンヴェンwwヘイ!wwボボボボボwボンファイア!』(嬰ト短調)

 

「はい、というわけでやたらキックの効いたオープニングテーマと共に始まりました。誰かしらの謀略で企てられたこのトークラジオ。このラジオは私、佐丈晴明と、横にいる織斑一夏が、IS学園にいる生徒の方々から寄せられたご質問にお答えしようというものです」

 

「一体いつ集めたんだそんなの……」

 

「細かいこと気にすると禿げるぞ織斑」

 

「は、禿げてねえしッ! は、はは、禿げてねえし禿げて!」

 

「……はあ」

 

 相も変わらず勝手に漫才を繰り広げている昔馴染みの男2人をしり目に、私は自分の現状にため息をしていた。

 ことの発端は、千冬さんに呼ばれた昨日に遡る。

 

――

――――

 

『ラジオ? 一夏と晴明が?』

 

『ああ、生徒会の要望らしい。面倒だが、大勢の生徒からの要望もあるらしくてな、無下にも出来んのだ』

 

『はあ……でそれを、なんで私に?』

 

『ブレーキ役をお前にやってほしい。あの二人だけだとどんな風に暴走するか予想できんからな』

 

『ええ……なんで私が……』

 

『そう言うな、他にも補佐をつける。頼んだぞ、じゃあな』

 

『あ! ちょ千冬さ……えぇ……』

 

――――

――

 

「たくもー、なんでこんなことになるのよ」

 

「ど、どうどう凰さん、落ち着いて、ね?」

 

「そうだぞ鈴よ。今更ここでうだうだ言ったところで仕方ないだろう」

 

「……んで、補佐ってのはあんたらなのね」

 

 机にうつぶせになった体勢はそのままに、チラリと横の方を見ると、いつも通りの仏頂面の箒と、あとは困り顔の相川がいた。

 

「アンタらも千冬さんに呼ばれたわけ?」

 

「うむ、一夏がへまをしないか心配でもあるしな」

 

「私もそうだよ。あの二人、ほっとくとすぐ話が明後日の方向に行っちゃうから。なんで私なのかはわからないけど……」

 

 それは私もそうだ。けどまあ確かに、少なくとも他の連中よりはブレーキ役に適しているだろうって言うのはわかる。まず間違いなくラウラとかよりはマシなはずよね。

 

「はい、というわけであちらにはツッコミ三銃士を連れてきたよ」

 

「ツッコミ三銃士!?」

 

「ねえちょっと待って!?」

 

 なんで晴明は早々に私たちに変なあだ名を命名してるの? どうしようまだ開始から5分経ってないのにもう嫌な予感しかしない。

 

「制服の肩を破り世紀末スタイルを楽しむ謎センス専門、凰鈴音さん」

 

「やめろよ晴明! あの簡易ヒャッハースタイルには俺も触れないでいたのに!」

 

「ショルダーカットよ! え、アンタらそんなふうに思ってたの!?」

 

「続いて剣道専門、篠ノ之箒さん」

 

「う、うむ、別に剣道だけが私のアイデンティティというわけではないと思うのだが……」

 

「えーと……まあいいや、相川清香さん」

 

「雑! 雑だよ晴明君! せめて何か言ってよ!」

 

「はいじゃあ早速1枚目いきまーす!」

 

「一夏はスルーして進めるんじゃないわよ!」

 

 ……ああ、どうしよう、もう心が折れそう……

 

 

--閑話休題

 

 

「えーでは1枚目は、PNパトラックさんからのお便り。『ISでスポーツをしたらどうなると思いますか』とのことです。どう思う晴明?」

 

「じゃあ実験してみよう」

 

「そうだな」

 

「は?」

 

 清香がそう声を漏らすと同時に、一夏と晴明は同時に指をパチィン! と鳴らした。すると、背面の真っ白な壁に何やらグラウンドを映した映像が現れた。

 

「というわけでお願い。ラウラさん」

 

『了解しました、アニキ』

 

『お、お手柔らかにね、ラウラ?』

 

 そこにはラウラとシャルロットがISを展開した状態で対峙しており、何やらテニスのラケットを持っていた。それを見た女性陣(ツッコミ三銃士)は、ポカンとした顔を隠せずにいた。

 

「え、ちょっと晴明これどういうことよ? いつのまに」

 

「はい、それではテンポを良くするためと作者の技量不足のためここから台本形式でお送りしまーす」

 

「聞けって」

 

 

--テニス

 

ラウラ『フッ!』

 

シャル『な!? 僕の打球を倍の力で返球している!』

 

晴明「あれは……!」

 

一夏「知ってるのか晴明!」

 

晴明「ラウラゾーン……相手のどんなリターンも全て、自分の周囲にかえってくるよう回転をかけるラウラさんの奥義だ」

 

ラウラ『うおおどこまでも無敗! いつまでも無敗!』

 

シャル『そ、そんな……ウワアアア!」

 

 バアアーーーーンッ

 

晴明「恐竜が……」

 

一夏「全滅した……」

 

箒「鈴よ、なんなのだこれは! どうすればいいのだ!?」

 

鈴「私が知るわけないでしょうが!」

 

 

--サッカー

 

ラウラ『走れイナズマうぉぉぉぉぉ!!』

 

シャル『なにィ!!』

 

一夏「ああーっとシャルロット君ふっとばされたー!!」

 

晴明「スタンダップ♪ スタンダップ♪ 立ち上がリーヨ♪」

 

 

--ハンドボール

 

ラウラ『当然! 鉄球だッ! ハンドボール部から受け継ぐ鉄球ッ! それが流儀ィィッ!!』

 

晴明「ハンドボールって鉄球使うのか……」

 

清香「いや使わないよ!?」

 

 

--卓球

 

ラウラ『反応! 反射! 音速! 光速!』

 

シャル『は、速い!』

 

一夏「シャルロットがピンチだ……」

 

晴明「ピンチの時は三回唱えろ」

 

一夏、晴明「「ヒーロー見参! ヒーロー見参! ヒーロー見z」」

 

鈴「うっさい!」

 

一夏、晴明「「ゴメンナサイ」」

 

 

--S○SUKE

 

ラウラ『逆だったかも』

 

シャル『しれない』

 

一夏「そりたつ壁でエネルギー波出して戦ってるぞアイツら」

 

晴明「なんか根本から勘違いしてるっぽいな」

 

清香「エネルギー波出してるのは誰も突っ込まないの!? ねえ!?」

 

 

――再び凰様視点

 

「まあこんなところか」

 

「じゃあいったんCMです」

 

『ヴァーwwヴァーwwウンバババwww』

 

「つ、疲れた……」

 

 まさか最初っからあんなにぶっ飛ばしてくるとは思わなかった。完全に誤算だったわ……

 

「こ、この調子でやるのか……?」

 

「どうしよう、私最後まで体力が持つ自信ないよ……」

 

 相川と箒も、私と同じかそれ以上に疲弊している。だけどそんな私たちを意に介すこともなく、あの2人は平然と次の質問にいった。

 

『ピロピロピロピロ ゴーウィゴーウィヒカリッヘー YOゴーウィゴーウィシンジッテー ヒーメターオモイイッマー ツーヨーサニーカエテデュッウィーヴェ↑ヴェー→ヴェ↓ww 』(CM明け)

 

「次の質問は、PNミステリアスなレイディさんからのお便りです。『私には歳の近い高校生の妹がいるのですが、反抗期なのか最近話をしてくれません。どうしたらいいでしょうか?』……うん、だそうだ織斑」

 

「俺に振るのかよ……うーん、その妹さんのことはよく分からないから詳しいことは言えないけど、とりあえず何かきっかけを作ってみてはどうでしょうか? 例えば妹さんの趣味を話題にするとか。特に喧嘩しているわけでもなければ、こういったことから始めて見てもいいかもしれません」

 

「なるほど、いいかもしないね。PNミステリアスなレイディさん、頑張ってください。それでは次のお便り」

 

 ん? あれ? なんかずいぶんあっさりね。いつもはこの辺で厄介なボケかましてくるのに。ネタ切れ?

 

「む? おい佐丈よ、ちょっと待て」

 

 横にいる箒が何かに気づいたのか、次の質問を読もうとする晴明を制止する。その声に晴明はビクッと体を震わせた。

 

「今のはがき、読んでない部分があるではないか。全部読まなければダメだぞ」

 

「いや、その、これはちょっと」

 

 何か言いづらいことでも書いてあったのか、しどろもどろになる晴明。それを見て箒はしびれを切らしたのか、置いてあったさっきのはがきを読み始めた。

 

「ほらみろ、ちゃんと続きが書いてあるじゃないか。ええと何々……『特にここ最近はイチ×ハルだかハル×イチだかでインターネット上の友達と盛り上がっているようで、疎外感を感じています。たまにダン×イチだのハル×ダンなどの単語も聞こえてきますが、一体どういう意味なのでしょうk」

 

「はぁーいPNミステリアスなレイディさん頑張ってくださーい!」

 

「はい終了! 閉廷! 次!」

 

「お、おいどうした!?」

 

 箒の言葉をよっぽど聞きたくないのか、2人は大げさに声をあげて強引にその話題を切り上げた。

 でも一体何をそんなに嫌がってるんだろう? イチハル? ハルイチ? どういう意味?

 

「ねえ相川、アンタなんか知らない?」

 

「うぇ!? し、知らない、私は何も知らないよ!」

 

 そう言いながら、相川は顔を真っ赤にして否定した。この反応は知ってるわね。あとで聞かせてもらおうっと。

 

 

『アノ~イボジ~~アノ~イボジ~~アアァァァァァァァア!↑↑』

 

「さっきからアイキャッチに流れる曲に全く統一性がないのは何なの?」

 

民意(リクエスト)だ。えーと次のハガキは、PNピカチュウじゃないよさんから、『さーたん、ジャパネットのものまねやって~』隠す気ねえだろこの人……」

 

「え、出来んのか晴明? お前の声ただでさえバリトン一歩手前みたいな低音なのに」

 

「しかも俺ジャパネットほとんど知らねえんだよな……まあやってみるさ、織斑リアクション頼むぞ」

 

「おう!」

 

 よかった、今回は比較的普通ね……まあ、モノマネの類なら話も脱線しにくいし、何よりモノマネ以上のことはできないはず。今回は突っ込まずに済みそうね……

 

「では、コホン……」

 

 

 

「ハハッ、やあみんな、コンニチワ! ジャパネットさーたんダヨ!」(裏声)

 

 そう思っていた時期が私にもありました。

 

「今回はみんなに、夢を届ける新商品を紹介するよ!」(裏声)

 

「フェッフェー! どゥおんな商品なのゥォオ?」(某ダックみたいな声)

 

「今回紹介するのはコレ!『全自動パリィ機』! これがあれば、どんな攻撃でも自動で受け流してくれるんだ! 銃パリィでも盾パリィでもお手のものさ! これでコマ切れにしてやる♪」(裏声)

 

「ファーー! すぅんぐぉいネエェヴ! くぉれで3デブも狩りふぉうでゅあいでゅあっはは!」(某ダック)

 

「後半なんつってんのか全然わかんないけど、まあそんな感じさ、ハハッ。いまならこの黒くて丸いつけ耳と、いまいち存在意義のしれない黒いつけ鼻を付けちゃうよ!」(裏声)

 

「スッゴォォオイ!」(某ダック)

 

「更に、フフッなんか寿司についてたこの草みたいなやつもお付けするよ!」(裏声)

 

「ファァァアッ! スッゴォォオイ!」(ダック)

 

「更にさらに、今回購入してくれたお友達に限定して、そのへんで拾ったなんかいい感じの棒もつけちゃう!」

 

「ファァァアッ! スッゴォォオイ!」(ダック)

 

「更にさらにさらにィハハッ! 今ならなんかポケットに入ってた、気持ちキレイめな石もつけて、お値段そのままさ!」(裏声)

 

「フエェェァァァアッ! スッゴウオォォォォォォォオイ!」(ドナルド)

 

「みんな、欲しかったらチャンネル登録してね! しなかったお友達は流刑に処すゾ! じゃあみんな、まってるよ~ゲホッゲッホ」(限界間近の裏声)

 

「ファーーーーーーww!! マァッタネエェーーー!!」(山寺)

 

「……お疲れ」

 

「じゃあ次のお便り」

 

「「「突っ込ませろぉおおお!!」」」

 

 

 

『テレッテッテーwwテッテーwwテレーレーwwビーwビーwビーwwビーフォーユーwww』(アイキャッチ)

 

 

「はいじゃあ、これが最後のお便りとなります。PNサーナイトに髪型が似てると言われるさんから……」

 

 晴明が発したその言葉に、私は心底安堵した。よかった、これで終わる。長かった……そう思うと体中に一気に脱力感が突き抜けた。他の2人も同じようで、最初に比べると明らかに疲労の色が見て取れた。

 ……でも、その疲労感は、晴明の次の言葉で吹き飛ぶこととなった。

 

「『晴明君と織斑君の女の子のタイプを教えてください』……え?」

 

「え?」

 

「「「!?」」」

 

 その言葉に、私たち3人はおろか、収録作業をしていた他の子たちまで釘付けになった。

 

「て言われてもなあ……」

 

「ああ、いきなり言われてもな……」

 

 さすがにここまでストレートな質問が来るとは思ってなかったのか、言いあぐねているみたいだ。そんな2人の様子を見てると、何故だか私まで落ち着かなくなってしまう。

 

「な、名前で言ってみてはどうだ?」

 

「ほ、箒!?」

 

 まだかまだかとその返答を待っていると、横にいる箒がまさかの発言をした。びっくりしてついその名前を言ってしまった。まさかコイツがそんなこと言うなんて……

 

「箒……けどよ……」

 

「べ、別に好きな人というわけではないのだ。あくまで好みにどういう傾向があるのか測るためだろう? それに、文章で言うよりもわかりやすいと、お、思うぞ!」

 

「いや、そうだけど……」

 

「……いや、箒さんの言う通りだぜ織斑」

 

 箒の言葉に、晴明が賛同した。それを聞いた相川は、さっき以上に体を強張らせ、真っ直ぐと晴明の方を見た。……前々から思ってたけど、やっぱりこの子、晴明のこと……

 

「……そうだな、せっかく質問してくれたんだ。できる限りは、それに応えなきゃな……」

 

「ああ」

 

 2人はついに決心したのか、姿勢を正して、深呼吸をした。そんな2人を見る私たちも、緊張がもう限界にまで達していた。

 

「じゃあ、せーので言うぞ」

 

 晴明がそう言うと、部屋は水を打ったようにシーンと、静まり返る。これから来る返答に、皆期待と不安を募らせているのだ。

 私もそれを聞くのは怖い、けど、絶対に聞かなきゃいけない。これからの私の恋を左右する、重要な情報なんだから。

 

 そして、次の瞬間

 晴明が、合図を出した

 

「せーの」

 

 

 

 

「ミドナ様」

「ミファー様」

 

 

 

 

「「「……は?」」」

 

「お前ゾーラ好きだったのか」

 

「そう言うお前はロリコンだったのか?」

 

「は? ちげえし。ミドナ様ロリじゃねえし。魔物なだけだし!」

 

 ……ああ、うん。そうよね、コイツらだもんね。真面目に答えるはずないもんね。コイツらが学園の誰かなんて挙げるはずないもんね。わかってたわよ。ええ……

 

「えー無理あるだろあの姿じゃ……あれ、なあ晴明」

 

「あ? なに……え、何この空気……」

 

「……あんたら」

 

「あ、凰様……ねえどうしてそんな般若みたいな顔してんの? ねえちょっと?」

 

 そのあと、私が2人にローリングソバットをくらわせダウンさせたことで、今回のラジオは幕を閉じた。

 

 

 




セシリア「私は?」

そう言えばお土産屋でセラミック製の般若のお面を買ったよ!
サイズ合わなかったよ!


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24話 ゾンビってショッピングモール好きだよね

逆に天敵はホームセンターあたりだろうか。


――さーたん視点

 

 ……あれ、どこだっけここ? 俺は何をしてたんだっけか。

 

『なんで生きてるんだ、お前?』

 

 妙に視界がぼやけるなかで、目の前のやつはそんなことを言ってきた。小学生くらいの男の子だ。どっかで見たことがある気がする。

 

『気持ち悪いから学校来ないでほしいんだけど』

 

 場面が変わる、今度は女の子だ。本当に気持ちの悪いものを見るような目と、後ろの女の子が泣いているのを見るに、どうやら俺が原因で泣いてしまっているようだ。

 

『お前がいるだけでみんながいやな思いしてんだぞ、わかってんのか?』

 

 今度はまた男の子、でも違うのはもう少し派手めで、数人いることだ。彼が手や足を動かすたびに、痛みと吐き気に襲われることから、なるほど今は叩かれているのだとわかった。

 

『なんとかして仲良くしなきゃだめよ? せっかくみんなが我慢して歩み寄ってくれてるんだから』

 

 次は大人の女の人だ、この人は知ってる。確か学校の先生だ。それはなんとなくではなく、単純に記憶の片隅で覚えいていたからわかった。

 ……というよりも、今まで見た人は全部、どこかで知ってる顔だ。誰だったっけ?

 

『……ごめんね、ごめんね』

 

 また場面が変わった。今度は少し老いた女の人が、俺を見て泣いている。……そうだ、確か、昔の母さんだ、この人は。

 

 

 

 

『産んでごめんね』

 

 

 

 

 ……ああ、そうか、思い出した。

 今までのは全部、昔の……

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「……む?」

 

 気が付くと、いつもの寮部屋のベッドにいた。窓からは鬱陶しく朝日が差し込んできていて、今が朝だということを否応なく知らせてくる。頭が回らない……のは常時そうだけど、いまだ盛大な眠気に支配されてるのを考えると、さっきのは夢だったのだろう。

 

「ずいぶんとまあ、懐かしい……」

 

 多分、中学に入る前の頃を夢に見ていた気がする。目が覚めた途端みるみる夢の内容を忘れていったから、確かなことは言えないけど。

 

「……ん? あら?」

 

 と、ここまで考えていて、体にある違和感を覚えた。前の激戦で千切れかけた腕の感覚が戻っているのだ。逆に体の痛みはきれいさっぱり無くなっていた

 

「なんだ?」

 

 もしかしてと思い、腕のギプスを外してみた。中にあったのは、傷など一つもない、俺の両腕だった。

 ……ただ、何故かところどころ皮膚の色が違う。いやに血色が悪いのは気になるところだけど。

 今度は体の包帯をとってみる。こっちも腕と同じく、傷が塞がっているし、肌がところどころ青白く、壊死しているようだった。どっちも治ったというよりも、接着剤で無理やりくっつけたみたいな、そんな感じだ。

 なにがなんだかわからない。治るのは大分時間がかかると聞いたし、いくらなんでも昨日今日で治る傷じゃないくらい、俺にだってわかる。

 ……まあ、別に治ったこと自体に文句はないけどさ。怪しさ満点だけど、治らないよりはずっといいだろう。

 

「ん……あれ? 晴明、珍しいな、お前がこんな早く起きるなんて」

 

 俺がごそごそしてると、隣のベッドで寝ていた織斑が、もそもそと布団から起き上がる。そういえば言ってなかったけど、俺は織斑と同室になった。シャルル……いやシャルロット君がカミングアウトをしてから、山田先生がまた部屋割りを調整したらしい。

 ちなみに、同室だった清香さんはかなりんさんと同室になったそうだ。

 

「あ、ああ、おはよ、織斑」

 

「おー……てあれ!? お前腕治ったのか!」

 

 俺の腕を見て織斑は驚く。無理もないだろう、俺だっていまだ信じられんのだし。

 

「ああ、なんか治ったんだよ」

 

「治ったんだよって……いくら何でもおかしくないか?」

 

「確かになんかおかしいけどさ。まあいいんじゃねえの? 治んないよりかはマシだし」

 

「適当すぎるだろ……一応、医務室には行っとけよ」

 

「ああ、そうだな…………あ、そういえば今何時だ?」

 

「え? あ、やべ!」

 

 織斑が部屋にある時計を見ると、時刻はもうSHRが始まる直前の時間だった。これはやってしまったかもしれない。ここまでいくとどうあがいても間に合いそうにない。そして今日の1限目は体育だった気がする。あ、やべえもう一気に行く気失せた。

 

「……なあ織斑、なんかもう急ぐ必要がなくなってきた気がする」

 

「頭沸いてんのか脳に蛆でも湧いてんのかどっちだ? 遅刻したら千冬姉にどんな折檻されるか、わかったもんじゃないぞ」

 

「いいかよく聞け織斑、どうせこのままじゃどんなに急いだって遅刻は確実、そうだろう?」

 

「そうだよ、だから少しでも遅れを軽くしなきゃ……」

 

「この学校は1分だろうが1時間だろうが遅刻は遅刻として扱われる、情けはない。……そこでだ織斑、逆に考えるんだ、『ゆっくり朝を満喫しちゃっていいさ』と」

 

「は……! そうか、気づきもしなかった、いや思考にすら入ってなかった。晴明、お前天才かよ……!」

 

「ところで織斑、ここに先日ラウラさんからもらった本場ドイツのパンとチーズ、ハム、そして白ソーセージがあるんだけど?」

 

「晴明、お前ってやつは……! 待ってろ、今作ってくる!」

 

「楽しい朝になりそうだなぁ、織斑!」

 

「ああ!」

 

 そして俺たちは、豪華な朝食を堪能し、その後セシリアさんからもらった紅茶で、優雅なTea Breakを楽しんだ。30分後くらいに、羅刹みたいな顔をした千冬様が来て死ぬほど殴られた。

 

 

 

――翌日

 

 

 

「うう、まだ痛い……たく、ひでえ暴力教師だなあの人も。生徒に暴力はいけないだろ普通に考えて……」

 

「さーたんすご~い! 私、ここまで自分の義務を果たさずにただ権利だけピーチクパーチク主張する人初めて見た~!」

 

「すごいガチに心を抉ってくるワードを選ぶなお前さんは。びっくりしたわ」

 

 今、俺の隣には本音さんがいる。最近わかったんだけど、この人はこういうことを嫌味とか皮肉じゃなく本心で言ってくる。つまり純度100%の毒だ、怖い。

 

「まあ、千冬様には今更な気がするけどね……」

 

「ふふ、でも、わざわざ部屋に行くくらいなんだから、やっぱり気にかけているのよ、2人のこと」

 

 そして、前の席には清香さんとかなりんさんが座ってる。そう、俺は今、女の子3人と街に向かうモノレールの中にいた。

 なんで普段インドア派の俺が休日にそんな陽キャみたいなことしてるかと言うと、ことの発端は清香さんとの昨日の話に遡る。

 なんでも、そろそろ迫ってきた臨海学校に向けて、水着を買いに行きたいのだそうだ。最初は2人で行く予定だったんだけど、聞き耳を立てていた本音さんとかなりんさんも加わることになり、現在の形になったわけだ。その時に清香さんがちょっとムスッとしてたのが気になるけど、まあいいだろう。

 ちなみに俺は来るべき新作に備えて織斑とスマブラをするはずだったのだけど、それを言ったら普通に却下された。解せない。織斑もシャルロット君に同じような約束をとられたらしい。さてはアイツまたフラグ建てやがったな。

 

「でも晴明君、ホントに治ったんだね、怪我」

 

「ん? ああ、見てみろよ、傷ひとつないぜ。医務室にも行って見せてみたけど、異常はなかった。この肌の変色も、一時的なもんらしいし」

 

「でもいくら何でも急すぎない? ちょっと変よ……」

 

「それなんだけど……そのことで医務室の先生に聞いてみたら、俺のISのせいなんじゃないかって」

 

「ISの?」

 

 俺の言葉に、少し驚いたように本音さんはこっちを見た。

 

「そう、試しに山田先生にメンテナンスしてもらったら、治る直前の夜に、俺のラファールに起動した形跡があるみたいでさ。コイツのワンオフなんちゃらなんじゃないかって言ってた」

 

 そう言って俺は、待機形態である首輪になっているラファールを触った。未だコイツには謎が多い。ただの量産機のはずなんだけど、どうにもそう思えない時があるのだ。そもそも普通は待機形態に首輪なんてないらしい。なんていらないオリジナリティなんだろう。

 

「ワンオフアビリティーです、アニキ」

 

「何の脈絡もなく登場するね、君は」

 

「うわ!? ボーデヴィッヒさんいつのまに……」

 

 声のした方を見ると、いつの間にかラウラさんがいた。何気にこの人の私服姿は初めて見た気がする。少しひらひらしたシャツ(確かヘムラインと言ったか)にデニム生地のホットパンツという実に俺好m……じゃなく、オシャレな格好だった。

 

「う、かわいい……」

 

「……負けたかも」

 

 清香さんとかなりんさんは、ラウラさんの女子力を前におののいているようだ。ちなみに清香さんはノースリーブのTシャツと7分丈のジーンズ、かなりんさんはシンプルに白いワンピースという出で立ちだ。どっちも俺はいいと思うんだけどな。そして本音さんはダボダボ袖にダボダボ裾の薄手のセーターだ。暑くないんだろうか。

 

「ボッチーも買い物~?」

 

「いや、アニキが街に出ると聞いたのでな。ちょうど今日だけ限定上映しているこの『決戦! ゾンビ・シャークVS宇宙キノコ職人』に誘おうと思って」

 

「待ってなにそれ、詳しく」

 

「これ以上ないくらい食いついた!?」

 

 いや、だって考えてもみてくれ。『決戦! ゾンビ・シャークVS宇宙キノコ職人』だぞ? タイトルでもうZの烙印がつけれるじゃないか。しかもゾンビとサメとキノコだぞ? 欲張りセットにもほどがある。中身はさぞ深い(クソ)を背負った内容なのだろう。これは見たい。

 

「……ねえみんな」

 

「ダメ」

 

「ダメよ」

 

「ダメだよ」

 

 ですよね。と、そう思いながらも、モノレールはその走行を止めることなく、気付けば町はもう目の前に見えていた。

 

 

 

 

――下車

 

 

 

 

「なあ、みんな水着選んでる間にさ、俺はゾンビ・シャークを……」

 

「いい加減諦めてよ! ていうか、私たちの水着姿よりそのわけわかんない映画の方が優先順位高いの傷つくんだけど!」

 

「観念しましょうアニキ、私もお付き合いしますので。きっとブルーレイ出ますよ……」

 

 出るかなあ……出たとしても近所のレンタルビデオ屋には絶対入荷しない気がする。

 

「……晴明君は、興味ないの? 私たちの水着姿」

 

「いや、それは……」

 

 かなりんさんはからかうような蠱惑的な笑みで、俺を見てくる。……興味はもちろんある。けれど、その問いは正直隠キャの属性に値する俺には、あまりにも答えにくいものだった。

 

「あのかなりんさん、距離近いんですけど……」

 

「晴明君って、普段はおちゃらけてるくせに、こういうことになると耐性ないわよね」

 

 そう言うとかなりんさんは、更にその距離を縮めてくる。ヤバイ、近いし当たるしいい匂いするし、なんというかその、ヤバイ。

 

「ッ……ほら、遊んでないで行くよ!」

 

「え、あ、はい……」

 

「……ふふ」

 

 清香さんの声で、かなりんさんは離れて、再び歩き出した。……あの人、ホントたまに何考えてんのかわかんねえんだよなあ……

 駅のホームを出てすぐ、俺たちは超大型のショッピングモールに来ていた。このショッピングモールの名前は『レゾナンス』。食べ物は和、洋、中全てあり、衣服もレジャーもすべてそろっており、質を問わなきゃ何でもある。食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。牙を持たぬ者は生きてゆかれぬ暴力の街。あらゆる悪徳が武装する『レゾナンス』。ここは百年戦争が産み落とした地球のソドムの市。どっかの誰かの躰に染みついた硝煙の臭いに惹かれて、危険な奴らが集まってくる。次回『出会い』

 

「苦いコーヒーでも飲むかな……」

 

「どうしたのさいきなり……」

 

「いや何となく。で、水着って、どの店に行ってどんなの買いたいんだ?」

 

「うーん、そうだな……かなと本音はどこ行きたい」

 

「あ、私ここのブランド一回見てみたいのよね」

 

「ねえねえ、このお店かわいいよ~」

 

「えー私はここがいいなー」

 

 やいのやいのと、ショッピングモールのパンフレットを見てはしゃぐ女子3人。ということはあれか、決まってないで来たのか。

 

「女子の買い物とは往々にしてああいうものですアニキ」

 

「俺、やっぱりいらなくない?」

 

 まあ確かに見てるだけというのも楽しいけど、どうにもついていけそうにないなあ……そうだ、こんな風に俺がいなくてもことは済みそうだし、俺はゾンビ・シャークを見に……

 

「一緒に来なきゃだめだよ、晴明君?」

 

「……」

 

 行こうとした途端に、清香さんに釘を打たれた。そこで、ラウラさんが俺に耳打ちしてきた。

 

「まあまあアニキ、その気になれば、アニキのチョイスでどスケベな水着を着せられるかもしれないんですよ?」

 

 ……しゃーない、そもそも最初からそう言う約束だったわけだし、荷物係にでも徹するかね。

 別にあれだぞ? 乗せられたわけじゃないぞ? 何も期待なんかしてないぞ?

 

「……ん?」

 

 と、そこでふと、道行く人の群れの中に、何だか見覚えのあるような人が見えた。誰だっけと思って目を細めて確認しようとしたが、次の瞬間にはもう、人の波に消えてしまっていた。

 

「どしたの、さーたん?」

 

「いや、なんか知り合いがいた気が……」

 

 なんだろう、さっきのジャージ姿、どっかで……

 

 

 

 

 

「お探しの人は私かなー!」

 

「ぶふ!?」

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

 ああ、そうだ思い出した。この声、このテンション、そしてこんな風にタックルまがいの抱き着きを俺にしてくる女性は、1人しか知らない。

 

「……お久しぶりです、博士」

 

「はろはろー、はるるん! マイフェアボォーイ!」

 

 そう、篠ノ之束博士、その人だ。

 ……あ、ゾンビ・シャークのパンフレット持ってる! 後で感想聞こっと!

 




もう鮫とゾンビが融合すればいいと思う(作者の理想)


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25話 忘れたころに母親は黒歴史を晒す

今回全然話が進みません。ごめんなさい


――きよたん視点

 

 篠ノ之束博士。私は、というか、IS関係者なら絶対に知っている名前だと思う。ISの生みの親であり、現在のISコアを全て一人で製造した、まさに世で言われるような天才科学者で、そして現在は逃亡中で行方不明。まさに今のIS社会を作ったともいえる、凄い人だ。

 授業や教科書で習っていたから、知識としてはわかっていた。けれど正直言うと、あんまりにも凄い人過ぎて、現実感がないというか、私みたいな一般人は一生会うこともないだろうなと、そんなふうに思っていた。

 

 

 だから、今の光景に、晴明君が突然現れた篠ノ之博士にハグをされてる今の光景に、私は声が出せないでいた。

 

 

「え、あ……え!?」

 

「いや~久しぶりだね、はるる~ん! こんなとこで会うなんて、もしかして運命?」

 

「運命というより映画(サメ)におびき寄せられただけな気もしますけどね。てかこないだオンでビデオ通話したじゃないすか」

 

「ビデオと生はちがうも~ん。こうやって抱きしめることも出来るし」

 

「あの、そろそろ離してくれませんか? なんか柔らかいものが……」

 

「うりうり~」

 

 突然の事態に全く身動きができない私たちを置いてきぼりに、仲が良さそうにじゃれ合っている2人。なんでかはわからないけど、すっごくもやもやする光景だ。

 

「晴明君、この人って……」

 

「ああ、この人は……」

 

「ふふーん、そう! 私が天才束さんだよ!」

 

 一番最初に思ったのは、博士が予想とはだいぶ違っていたことだ。何というか、ISの開発者って話だったから、もうちょっと博士っぽい、高齢な人を想像してたけど、見た目20代前半くらいだ。

 ……というか、スタイルがすごい。ジャージ姿でもわかるバランスの取れた体形は、同性の私でも目を引いてしまう。そしてみる度に自分と比べて敗北感をくらってしまう。くっ……。

 

「あの、そろそろ……」

 

「ダメ―。足りないハルニウムを充電してるんだから」

 

「絶対日常生活でいらないっすよそれ」

 

 ……あと、なんであんな仲良いのあの2人? ただの知り合いって感じじゃ絶対ないよねあの距離感。……なんだろう、なんか、見てるだけでもやっとする。

 そう思ってるのはかなも同じみたいで、あの子も何とも煮え切らないような表情をしていた。

 

「……で、何、君たち?」

 

「「ッ……」」

 

 さっきまでの明るい表情とは一変、まるで虫でも見るみたいな冷たい目と、凍てつくような声を突然私たちに向けてきて、一瞬身構えてしまった。なんでか本音は全く意に介してないみたいだけど……

 

「は、初めまして。わ、私たち晴明君と、同じクラスで……」

 

「……ふーん、『晴明君』ね」

 

 な、なんだろう、何だかわからないけど、とりあえず嫌われてるってことはわかる。『晴明君』と呼んだのが気に入らないらしいけど……

 

「……ねえさーたん、さーたんとこの人ってどういう関係なの?」

 

 さっきまで黙っていた本音が、前に出て私たちが気になっていることを聞いてくれた。

 

「どういうって言われてもなあ……なんて言やいいのか……」

 

「そうだよねー。言葉では言い表せないくらい複雑に絡み合っちゃってるんだよねー!」

 

「「!?」」

 

 その言葉に、私もかなも驚きが隠せなかった。ふ、複雑な絡みって、どんな……

 

「……さーたん?」

 

「ん?」

 

「つまりどういうことか説明してもらえるかな?」

 

「んーそうだなー」

 

 そしてなんで晴明君はあんなに平然としてるの!? 普通こういうのって少しは焦ったりするもんじゃないの!? 一体どういう関係なのさホントに!?

 そう思っていると、ボーデヴィッヒさんが晴明君に近づいて、何故かキラキラした目で晴明君に聞いた。

 

「篠ノ之束……アニキ、やっぱりこの人があの……」

 

「ああそっか、ラウラさんは博士のファンだっけか」

 

「ふーん、そうなんだ、ま、興味ないけど」

 

 そう言いながらも少し得意げな顔の篠ノ之博士。でもボーデヴィッヒさんがファンだって言うのはすごく意外だ。

 

「はい、アニキから篠ノ之博士の伝説を聴いて以来、すっかりと……そうですかあなたが……」

 

「そう、この人が……」

 

 

 

 

 

「湘南の海辺でカップルの男の方に『誰よこの女! 私とは遊びだったのね!』と言ってカップルを別れさせるクソみたいな嫌がらせをしてるというあの篠ノ之束博士!」

 

「ああ、クリスマスにリア充の前で牛丼を頬張ってムードをぶち壊しにするクソみたいな遊びをしたというあの篠ノ之束博士だ!」

 

「待って!? どこ情報!?」

 

「私はアニキから聞きました」

 

「俺は博士のお母さんがtwitterで拡散してたのを見ました」

 

「バッバァーァァァアア!」

 

 

 

 

 

 あれ、なんだろう。さっきまであんなに恐かったのに途端に恐くなくなった。むしろ、なんだろう……この感情は何だろう…………同情……?

 

「あの、晴明君、篠ノ之博士ってもしかして……」

 

「ああ、かなりんさんの予想通り、博士は『カップル共同垢とかやっちゃってるやつらを撲滅しようの会』を発足するくらいにリア充が嫌いな人でな」

 

「いやそこまで具体的な予想はしてないけれど……あーでもそういう……ふーん」

 

「なんだよその目はガキ! 言っとくけど全然羨ましくなんかないし! むしろあんな群れて社会に踊らされてるやつらの方がよっぽど哀れだよ!」

 

「無理しなくっていいんだよ~おばさん」

 

「なんだこのピカチュウは殺すぞ」

 

「あ、あと最近、博士が高校の時に『ブッピガァン!』とか言いながらガンプラで遊んでた時の動画も、お母さん載せてましたよ」

 

「ババア……チクショウなんなのさあのババア……実家に帰ってもそうだ、何が定職につけだよ……こちとら逃亡中なんだっての、ウウッ……」

 

 そう言いながらうなだれてしまう篠ノ之博士。ジャージ姿も相まって哀愁が凄まじいことになっている。

 

「ね、ねえ晴明君、そろそろ移動しない。人も集まってきたし、正直いたたまれないんだけど……」

 

「完全にクビになったOLみたいになってるしな……そうだね、とりあえずあそこのファミレスに移動しよう」

 

「う、うん」

 

 いつまでも往来のど真ん中でこうしているわけにもいかないので、私たちは篠ノ之博士を慰めて、ファミレスで一息つくことにした。

 ……水着、見てもらいたかったな……

 

 

 

――ファミレス

 

 

 

「落ち着きました、博士?」

 

「うん……ありがとうはるるん。私に優しくしてくれるのはいっくんとはるるんだけだよ……」

 

 水着を買いに来たつもりが、いつの間にか篠ノ之博士を慰める会になってしまって数十分。何とか落ち着きを取り戻した博士を交えながら、私たちは博士にいろいろ聞いていた。

 

「じゃあ、ホントに晴明君とはその……ただの友達なんですね?」

 

「うん、そうだよ。はるるんが珍しく女の子たちといたから、つい意地悪したくなっちゃって……」

 

 さっきとは打って変わってしゅんとしてしまっている博士。でも気持ちはわかる。私だって晴明君が知らない女の子と一緒にいたら……うん、いやだ。

 

「……前々から気になっていたんだけど、さーたんって、どこで篠ノ之博士と知り合ったの? やっぱりおりむー経由?」

 

 ふと、本音がそんなことを口に出した。確かに、それは私もずっと気になっていたことだ。

 

「あーいや、実はさ……織斑より先に、博士と面識あったんだよ」

 

「え、そうなの?」

 

 意外だ。つまり晴明君と篠ノ之博士は、完全に初対面から今の状態になったってことだ。気難しそうな人だし、織斑君っていう接点がない以上、どうしてこうなったのか、全然予想もできない。

 

「……あの日のことは忘れもしないよ」

 

 と、篠ノ之博士が神妙な口調で話し始める。それは懐かしむような、はたまた辟易してるような、そんな何とも言えない表情だった。

 

「白騎士事件は知ってるよね?」

 

「「「!……」」」

 

 その言葉に、晴明君以外の全員が息をのんだ。

 白騎士事件、これを知らない人は多分いないだろう。ISが、現行兵器全てを凌駕することを世界に知らしめた事件。

 もう何年前になるだろうか、日本を攻撃可能な各国のミサイル2341発。それらが一斉にハッキングされ、制御不能に陥り、日本は大混乱になった。けど、突如現れた白銀のISを纏った一人の女性によって、それは無力化された。その後も、各国が送り出した戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を、一人の人命も奪うことなく破壊することによって、ISは「究極の機動兵器」として一夜にして世界中の人々が知るところになった。そして「ISを倒せるのはISだけである」という篠ノ之博士言葉と、その事実を、世界は受けいれざるを得なかった。そう、教科書には書かれている。

 

「……白騎士事件と、何か関係あるんですか?」

 

 私がそう聞くと、篠ノ之博士は重苦しいようなトーンで、言った。

 

「多分あんなことをしたのは、世界中ではるるんだけだよ」

 

「あんなこと……?」

 

「そう、あんなこと……」

 

 

「あんな時に白騎士事件の画像を使って『白騎士クソコラグランプリ』なんてもの始めたのは、世界中ではるるんだけだよ」

 

 

「前々から思ってたけど、晴明君ってバカなの?」

 

「ちなみに優勝に輝いたのはハンドルネームGtndさんが作った『止まらない白騎士BB』だ」

 

「聞いてないよ? 聞いてない」

 

「ほらこれこれ」

 

『勝ち取りたい! ものもない!』

 

「聞いてないって」

 

 いつものことだけど、なんなんだろう晴明君って。あれかな? 真面目に取り組むと死んじゃう病気か何かなのかな?

 

「まあ、それがきっかけで、ブチギレた博士が主催者の俺のところに乗り込んできてさ、その後、紆余曲折あって今に至るって感じ」

 

「あんなに心の奥底から『は?』て気分になったのは後にも先にもあの時だけだと思うよ」

 

「その状態から仲良くなれるさーたんって相当だよね」

 

「まあ、色々あったしな……」

 

 どこか意味深な雰囲気で、そんなことを言う晴明君。色々っていうのは、どういうことなんだろう?

 と、そんなことを考えていると、突然プルルルっという着信音が響いた。どうやら晴明君の携帯みたい。

 

 

「と、失礼……もしもし、織斑? どうしたんだよ?」

 

『ああ晴明、今レゾナンスにいるんだよな?』

 

「そうだけどどした?」

 

『助けてくれ! 今シャルと一緒なんだけど、なんか終電でゲロ吐いてそうな女の人に絡まれてるんだ!』

 

「ごめんちょっと意味わかんない」

 

『ええとなんて言えばいいのか……あ、ちょっとやめてください、ちょっと!』

 

『うおお何が愛社精神だ! タイムカード押させたんなら帰らせろやァァァア!』

 

「うわぁホントだ終電でゲロ吐いてそう……うん、わかったすぐ行く、場所は……うんわかった待ってて」

 

 

 ひとしきり電話が終わったらしく、晴明君は携帯を切った。なんか叫び声が聞こえたけどなんだったんだろう……

 

「あー……ごめん、ちょっと織斑と会ってくる。先に水着売り場行っててくれ」

 

「え、どうしたの?」

 

「ちょっと哀しい社会人の相手をしなくちゃいけなくなった」

 

 全然意味がわかんないけど、急を要することは確からしい。

 

「大丈夫だよはるるん、私がこの子たちの相手してあげるから。そんなにかかんないよね?」

 

「でも……」

 

「別にいーよー、お目当ての映画はもう見たし、それに、はるるんと一緒じゃないといやみたいだよ。この子たち」

 

「ッ……!」

 

 不意にそんなことを言われて、私たちは顔を伏せてしまう。でもそんな中でも晴明君はただ首を傾げるだけだった。

 

「?……まあいいや、じゃあ行ってきます」

 

「お供しますアニキ」

 

 そう言って晴明君はボーデヴィッヒさんを連れて、足早に店を出た。残ったのは、私たちいつもの3人と、篠ノ之博士。

 

「……聞きたいって顔してるね」

 

 私たちの考えなんてお見通しだ。そう言っているかのように、篠ノ之博士は不敵な笑みを浮かべながら、私たちをじっと見ていた。

 

「……あの、さっきも気になってたんですけど、どうしてあんなにさーたんとなかよくなったんですか?」

 

「うーん、なんて言えばいいのかな……はるるんはね、私が唯一予測できない人間なんだよね」

 

「晴明君が……?」

 

「うんまー、そうだね……じゃあ、気になってるみたいだし、お邪魔しちゃったお詫びに、もうちょっと詳しく……」

 

 

 

 

 

「昔話を、しようか」

 

 

 

 

 

 




さーたんは音割れ白騎士で準優勝しました。おりむーは存在は知ってましたが、何故か千冬様に全力で阻止されたので参加してません。

次回過去編です。次々回には臨海学校に入りたいと思います。


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26話 好きなトランスフォーマーは?

タイトルがついに質問になっちゃったよ、いいのかなこれ……
ちなみに私はバリケード


――たばねる視点

 

「君だねえ? 変な茶々を入れたクソガキは」

 

 何の予告も予兆もなく、いきなり部屋の窓から乗り込んできた私に対して、住人である小さい男の子はポカンと口を開けていた。

 

「おやぁ、どうしたのかなぁ? 恐くて喋ることもできなくなっちゃった?」

 

 そんなことを聞いても、男の子は何も答えず、尚も私を見つめているだけだった。まあ、無理もないかな。こうなることなんて予想もしてないだろうし。

 ……さぁて、どうしてやろうかな、このクソガキ。

 

「恐い? でもね、自業自得なんだよ? 君のせいで私の計画g『今からこの俺様がデストロンのニューリーダーだ!』」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

 

 …………?

 

 

 

 

 

「……コホン、とにかく、君のせいで白騎士が馬鹿どもの玩具にされt『み、認める!メガトロンはガラクタだ!!』あのコラのせいでちーちゃんも外出たくないとか言い出し『ゆ、許してェ!お願い!』この責任をどう『流石のナイトバードもこれで永遠にGOOD☆NIGHT!HA☆HA☆HA☆HA☆HA!』うるせーな! なんださっきからッ!」

 

「スタースクリーム目覚まし時計だよ。絶妙に人が話してるときに喋るんだ。ほらこれ」

 

「それ目覚まし!? 妙に腹立たしい顔の人形じゃなくて!?」

 

『やったぜベイビー☆』

 

「うるせぇマジ」

 

 これが、私とはるるんのファーストコンタクトだった。

 

 

――――

 

 

 あれはもう何年前になるんだろうね。確かはるるんがまだショタるんだった頃だ。そろそろ肌寒くなってきた秋ごろのことだったかな。兎にも角にも、私はこれから世界を変えるであろうISの晴れ舞台に、些末とは言え水を差したこの子をハッキングで身元を割り出し、お仕置きに来たわけだ。

 

「わかる? 天才束さんがその気になれば、君なんてすぐに存在ごと抹消することだってできるんだからね」

 

「はえーすっごい」

 

「意味わかってんの?」

 

 ……お仕置きに来たはずなんだけど、どうにもこの子は少しずれてるようだった。私の脅迫に怖がるどころか、素直に感心している。普通、知らない人がいきなり自分の家に入ってきたら、怖がるのが普通の子供の反応だと思うんだけど。

 

「どうやら本気にしてないみたいだね……じゃあこれならどうかな!」

 

 私は指をパチンと鳴らし、小さいサイズのハンドガンを出現させた。ISの素粒子変換技術を用いたものだ。そのハンドガンを先程のスターなんとかいう顔のムカつくウザイ人形に向けて、撃った。するとどうだろう、人形はドロドロと溶けていってしまい、ついには跡形もなくなった。これは特別な溶解銃なのだ。

 

「あ、おれのスタスクが!」

 

「これでわかったかな? ま、自分が蒔いた種だし、私も忙しいからさっさと死んじゃってね♪」

 

 私は笑顔でハンドガンをその子に突きつけ、引き金に手をかける。まあ、本気で殺すつもりはない。そんなことしたらちーちゃんに怒られちゃうしね。たださっきの態度が気に食わなかったので、このガキを生きたままバラバラに分解してやるつもりだ。ちょうど生体パーツの実験もしたかったし、頭だけ残ってれば十分でしょ。あとはコイツのパソコンのデータを全部消して、すぐに帰ろう、うんそうしよう。

 さあ、震えちゃえ。

 

「火星人のおばさん……」

 

「んぅーなんつった今?」

 

 銃で脅したら火星人に認定された人類は私が史上初ではなかろうか。

 どうしてそうなる? 何がどうしてそうなるん? 子供の理論にしてもぶっ飛びがすぎるぞ。

 

「よし、状況を整理しようね。今、私は君の頭に銃を突きつけてる。私が引き金の指をちょっと動かせば、君はドロドロに溶けて死んじゃう。ここまでいい?」

 

「うん、その後おばさんは『インディアン・ラブ・コール』を聞いて頭が爆発四散する、と……」

 

「ショッキングな情報をtipsの如く言わないでくれる?」

 

「……違うの?」

 

「なに残念そうな顔してんの……やめ、やめろ! やめろその顔! そのしょんぼりした表情やめろ!」

 

 男の子は、ビックリするほど白けた表情をして私を見た。

 

「なあんだ、マーズアタックの世界から来たわけじゃないんだ」

 

「なにそれ知らないよ……」

 

「じゃあ何しに来たの?」

 

「白騎士クソコラグランプリの責任とれって言ってんの!」

 

「ああ、それで俺を殺しに来たんだ」

 

「そう」

 

 なんだろう、何もしてないのに疲れた。この子と話すと全く話が進まない。話の本筋まで行くのに2000文字くらいは使った気がする(※1700文字)

 

(いや、でも待てよ……)

 

 ……さてはこの子、こうやって時間を引き延ばしてその隙に逃げようって算段だったのかな? それなら今までのふざけた態度にも説明がつく。だとしたら、子供にしちゃ随分と聡い方だ。

 なら、もう付き合ってやることもない。とっとと終わらせよ。そう思って私は男の子に近づき、銃口を彼の額に当てた。

 

「じゃ、そういうわけだから、じゃあね」

 

「うん、バイバイ」

 

「ダメだよ、今更やめて欲しいって言っても遅……」

 

 

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 

 

 

 

 

 一瞬だけ思考に空白ができて、その間に男の子の顔を見た。男の子は手を振って、へらっと、ゆるく笑って私を見つめていた。

 ……ちょっと待て。今この子、何て言った?

 

「……話聞いてた?」

 

「うん」

 

「死ぬってことがどんなことかわかってる?」

 

「これからわかるんじゃないかな」

 

「どうして死ななきゃいけないんだとか、思わないの?」

 

 

 

「そんな日もあるさ」

 

 

 

「ッ……」

 

 息をのんだ。自分の動揺を表に出さないようにして、もう一度、その子の目をよく見た。不敵に笑って、私をじっと見ていた。それを見て、私は恐怖を、初めて人間相手に抱いた。

 この子は本気で言っている。逃げる算段や計算なんか初めからしてなかった。さっきのふざけた応酬も、そして今の自分の死も、全部本気で受け止めてる。その上で、拒まないんだ。

 

「今なら、泣いて謝れば許してあげるよ?」

 

「……べーだ」

 

 舌を出してバカにしたように拒否すると、彼はまた笑う。自棄になってるわけじゃない、自棄になってる人間にこんな笑顔ができるはずない。まして子供が。死に直面して、こんなふうに真っ当に笑うなんて、頭のネジが全部外れてるんじゃないだろうか。

 

「……どうして」

 

 そんなふうに笑えるの? そんな問いが喉まで出かかった。

 

「あれ、なんか言った?」

 

「……やめた」

 

 何だかこのまま続けるのもあほらしくなってしまった私は、彼の額から銃口を外し、そのまま銃を粒子にして格納した。すると彼は拍子抜けしたような顔をして、

 

「あら、いいの?」

 

「いい、もう、飽きちゃった……帰る。クソコラのデータ、ネットに流れてるのは全部消すからね」

 

 私はそれだけ言って、男の子から離れて、そして窓の方へと歩いて行った。

 

「じゃあね、ボク」

 

「うん、またね、火星人のおばさん」

 

「ずっとスルーしてたけどその呼び方やめて? 特におばさんっての」

 

 またね、か……普通殺しに来た相手にそんなこと言うかな? 本当に掴めない子だ。ここまで予測ができない人間がいるなんて、思わなかった。

 

「じゃあ、何て呼べばいいの?」

 

「そうだねえ……ねえ、君の名前、なんていうの?」

 

 私はついそんなことを聞いてしまった。名前なんて、ハッキングした時点でわかってるし、聞いたって何の意味もない。でも聞いてしまった。なんでか私は、この子から直接聞きたいと、そう思ってしまったのだ。

 

「佐丈晴明だよ」

 

「私は篠ノ之束、君が散々弄んだ白騎士をつくったのが私だよ」

 

「じゃあ、シノノノ博士?」

 

「うん、ま、それでいいよ」

 

 晴明、はるあき……だから、はるるんかな? なんて、もう会うかもわからない子のあだ名を、私はなんでか考えだしていた。

 ……この子は、これからの未来をどう思うんだろう? これからISによって変わる……私が変える世界を、どんな目で見るんだろう? 私は柄にもなくセンチな気分で、そんなことをこの子に、最後に聞いてみようと思った。

 そして聞いたら、この子に会うのはもうやめようと思った。この子といたら、今の私が保てなくなるような、そんな気がしたから。

 

「ねえ」

 

「うん?」

 

「君は、あの白騎士をどう思った? ああいうのが世界中にあって、女の人が偉くなる世界。それをどう思う?」

 

「えっと、ああいうのが、たくさんある世界ってこと?」

 

「うん」

 

「うーんとね……」

 

 この子は、なんて思うのかな。面白そうと思うのかな? 失望するのかな? それとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれより実写バンブルビーの方が一万倍かっこいいと思った」

 

「よし戦争だ。絶対許さねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おい束! どこ行ってたんだ!」

 

「あ、ちーちゃん」

 

 家から出てしばらく歩いていたら、血相を変えて私を追いかけてきたちーちゃんがいた。

 

「おい、早まったことはしてないだろうな! いくらなんでも子どもに手をかけるなど……なんだすごい不機嫌だな、どうした?」

 

「別に!」

 

 ……ムカつく。

 ムカつくムカつくムッカつく! あのガキッ! ただのジャリガキのくせに! こともあろうに天才束さんの発明にダメだしするとか! なんだよあのジャリボーイッ!

 今に見てろ! ぜっっっっっったいに! アイツが自分から乗りたいって土下座して懇願してくるようなもの造ってやる! そして何が何でもアイツの厚い面を崩してやる!

 

「おい待て束! そんなに急いでどこに行くんだ!」

 

「T○UTAYAッ!」

 

「なんで!?」

 

 まずは情報収集だ。アイツの好みの造形からツボに感じるポイントまで、全部隅々に渡って調べてやる。私にあんな挑発したこと、絶対後悔させてやるんだから。

 

 

 今に見てなよ、はるるん……。

 

 

 

 

 

――きよたん視点

 

 

 

 

 

「という経緯で、アニメやら映画やらゲームやらに触れてるうちに、いつの間にかはるるんと同じ沼にハマっていって、気づけばこんなんなっちゃったってわけ」

 

「は、はぁ……」

 

 はぁとは言うものの、正直ちょっと話についていけてないのが現状だった。何というか……晴明君、その頃から全くぶれないんだな。

 

「あの、それで結局、晴明君をつくったメカに乗せたりはしたんですか?」

 

 気になったのか、かなが博士にそう聞く。

 

「乗せた乗せた! たっくさん乗せたよ! 特に金田のバイクに乗せたときは大はしゃぎしてさ。あ、第9地区のエグゾスーツも凄い興奮してたなー! あれは足のギミックにこだわってさー!」

 

「え、ええと……」

 

 あ、これ長くなるやつだな。かなはしまったと思ったのか、私たちに申し訳なさそうな顔を向けた。まあ、ロボットの話はよくわかんないけど、このはしゃぎようを見ると、彼女の言うギャフンと言わせることができた。ということでいいんだろうか。

 

「あの~」

 

「いや~あの脚で飛び跳ねる様はまさに便所コオロギ……ん、なに?」

 

 と、その話を遮って、本音が博士に質問をした。なんだか、少しだけ真剣な、というよりは、不安な表情に見える。

 

「さーたんはこの世界のこと、実際どう思ってるんですか?」

 

「ああ……」

 

 その言葉に私もかなも身体を強張らせた。そうだ、束さんが聞いたときは、結局はぐらかされたんだよね。

 やっぱり、男性としては今の女尊男卑は嫌なんだろうか? それとも、自分はISを動かせるから、このままでもいいと思ってるんだろうか? ……晴明君の決定的な主張や主義って、聞いたことない気がする。それどころか、家族のことも昔のことも……考えてみれば、晴明君のこと、何も知らないんだ、私。

 そう考えていると、篠ノ之博士は少し目を細めて、懐かしむような口調でこう答えた。

 

「……あくまで私の憶測なんだけど、多分、はるるんはこう答えると思うよ」

 

 

 

 

 

「『さあ?』って」

 

 

 

 

 

――さーたん視点

 

「たく、思ったより厄介な人だったな」

 

「最後なんて寝転がってダダこね始めたよね……」

 

「最後のあれセミファイナルみたいでしたねアニキ。セミファイナル(セミが最期に地面でじたばたするやつ)

 

「ニッチな単語知ってんなアンタ」

 

 何とか酔っぱらいを警察に届けた織斑とシャルロット君、ラウラさん、そして俺は、待っている清香さんたちに合流すべく、ショッピングモールを歩いていた。

 これから水着を買いに行くらしい。男1人だと居場所がないと思っていたところだから、織斑を道連れ……ではなく、一緒に来てくれるのは正直助かった。

 

「……ん?」

 

 と、考えていたところ、ふと、横におもちゃ屋のショーウインドゥがあったので目を向けると、そこにはずいぶんと見覚えのあるものが置いてあった。

 

「どうしたの佐丈く……うわ、何その灰色のカメムシみたいなの……」

 

「シャル、これはスタースクリームだよ、実写版の。けど、目覚まし時計なんだなこれ。シュールだな……」

 

「俺、これじゃないけど、アニメ版のスタスク持ってるんだよなー」

 

「まだ持ってるんですか?」

 

「実家にね。一回壊れたけど、また新しく作ってもらったんだよなー」

 

「作ってもらった? 買ったんじゃなく?」

 

「うん」

 

「誰につくってもらったんだ?」

 

「それはな……」

 

 

 

 

 

 

「火星人のおばさんにだよ」

 

 

 

 




Q 束博士が好きなのは?

A ス コ ル ポ ノ ッ ク

全然関係ないですけど、ゲーム版のISにグリフィン・レッドラムって子が出たらしいですね。
素敵な風穴あける性格なのか、それとも気が狂ってホテルで斧ぶん回す性格なのか不安でしたが、姉御気質なお姉さまでとても素敵だと思いました。
まあゲームやってないけどな!

次回はようやっと臨海学校です。次回もお付き合いいただけたら幸いです。


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27話 最後に気になる一言いえばとりあえず続く感じにまとまる

今回ウンコばっかだななんか……


――さーたん視点

 

 

――

――――

 

 

 

 

『いる意味ないよお前』

 

 ……おぼろげな意識の中で聞こえてきたのは、そんな罵倒だった。どこか見覚えのある感覚。それに襲われたのを感じて、今回は察することができた。ああ、また昔のことだと。

 きっと小学生の頃だ。昔から不出来で大層な白痴だったので、同級生なりにこう言われるのは日常茶飯事だった。きっとこれは、その頃の記憶だ。

 

『お願いだから学校のものに触らないでよ、汚くて使えなくなるじゃん』

 

 これも思い出した。おんなじクラスの女子だ。しかしなんで今になってこんなことを思い出しているんだろうか?

 

『君ってホントさ……ハァ、いいよもう』

 

 コイツも少しだけ覚えてる。クラスのリーダー的な存在のやつだった。ほとんど話したことはないし、ことごとく無視されてたから、詳しくは知らないけれど。

 

『どうしてそうなの? みんな君のために頑張ってくれてるのに』

 

 この女の人も微かに知ってる。確か……そう、担任の先生だった。

 ……今思い返してみると、こんなことを言われてばっかりだったな。ほとんど覚えてないけど、小学生の自分は随分ろくでなしだったらしい。

 

『ホホウホホ、ホウホホホウホホ、ホホホホウホ』

 

 そうだ、このゴリラも知ってる、このゴリラは…………

 

 

 

 

 いや誰だお前。

 知らないぞ俺。絶対知らないぞお前みたいなゴリラ。

 え、誰だお前? 誰っていうか何だお前? え?

 

 

 

 

『ホウホウホホホホホ、ウッホホホウホホ、ウホホウホウホ! ホ? ウホホウウホホウホ!』

 

 すげぇ勢いでこっち来る何アイツ!? いや怖い! 絶対怖い何あれ!?

 

『ホホホホホウホホホウホホホホウホウホウホウホホホキェーッ! ウホホウホ』

 

 うわウンコ投げてきた! ウンコ投げてきた! 助けて! ゴリラがウンコを投げてくる! 意味わかんねえよ、何がしたいのかさっぱりわかんねえアイツ!

 

『ウホホ……好きです付き合って下さい』

 

 えぇ……

 

 

 

 

 

 

 ……えぇ……

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

「…きくん……るあきくん」

 

「んぅむ……ウンコじゃなくてトリュフって無茶言うなや……」

 

「どういう夢見てんの! 起きなさい!」

 

「ホアァーア!? ……てあれ?」

 

 朦朧とした意識の中で、突然名前を呼ばれて俺は驚き、目を開いた。そこで認識したのは、何やらキャイキャイと騒がしい喧騒と、そして目の前の清香さんの顔だった。

 

「……あれ、ここは?」

 

「もぉ、まだ寝ぼけてるの? 臨海学校のバスだよ」

 

「え……あ、あー、そういえば来てたんだっけ」

 

「ぐっすりだったよね、晴明君」

 

「さーたん、バスに乗った途端寝ちゃうんだもん。つまんな~い」

 

 そういって本音さんとかなりんさんが、後ろの席の方から顔をのぞかせた。

 そうだ、俺たちはIS学園行事の1つである、臨海学校の合宿に向かう真っ最中だった。寝起きでボケてたからか。そのことがすっかり頭から外れていた。

 楽し気な女の子たちのはしゃぎ声と共に、俺の席の横から「お、起きたか」という言葉が聞こえた。そういや織斑が隣に座ってたんだったな。

 

「大丈夫かよ晴明? 普段ですらハイライトのない目が日露戦争帰りみたいになってるぞ」

 

「ゴールデンカムイ読んでるやつにしかわかんない例えやめろ……あー、ちょっと夢見が悪くてな」

 

「え、どんな夢だよ?」

 

「ゴリラにウンコ投げられた挙句告白された夢」

 

「あ、見ろよ晴明! 海だぜ海!」

 

「お前切り返しめんどくさくなったろ?」

 

 しかし織斑のいう通り、バスは狭まった林から抜けたらしく、一面に青い海が広がっていた。それを見たバスの中も、女子のより一層音量の上がったはしゃぎ声で満ちる。

 

「騒ぐなお前たち。もうすぐ旅館につく、いつでも降りられるように荷物をまとめておけ」

 

「「「ハーイ!」」」

 

 織斑先生の声を聞いてなお、バスの中の浮ついた雰囲気はなくならない。まぁ臨海学校とはいえ、IS学園のそれは一等豪勢だと聞く、浮かれるのも無理はないだろう。美味い飯や温泉もあると言うし、来た以上は楽しんでおこう。そう思った。

 

 

 ……それにしても、何だったんだろうか、あの夢?

 そう思っていると、首についているISが、少し振動した気がした。

 

 

――

 

 

「では、こちらがこれからお世話になる旅館の皆様だ。迷惑をかけないように」

 

「「「よろしくお願いしまーす!」」」

 

「それでは、各自自室を確認次第、海辺での自由行動とする。部屋割りは各自配布したしおりで見ろ。では解散」

 

 旅館につき一通りの手続きを済ませたのを織斑先生の言葉で伝えられた後、海でどーするだ水着がどーしただ言う女子の喧騒をしり目に、俺は早速部屋に荷物を置きに行くことにした。

 

「さーって部屋はっと……あら?」

 

「ん、どうした晴明?」

 

「織斑、これ」

 

 俺は織斑を手招きして、持ってるしおりを見るように促す。織斑は俺が指した部分を見たことで、何に疑問を持ったのか察したらしく、俺と同じようなきょとんとしたような表情をつくった

 

「あれ、お前と同室じゃないのか」

 

「みたいだな。お前は織斑先生とで、俺は山田先生と……なんでなんだ?」

 

「お前らだけが男子だからだ」

 

 俺たちの話が聞こえていたのか、さっきまで旅館の人に挨拶をしていた織斑先生が話しに加わってきた。男子だからって……

 

「山田先生、説明を」

 

「あ、はい。お2人一緒でお部屋にいたら、女の子たちが来てトラブルが起きるかもしれませんから……ということです。先生が同じ部屋にいたら、迂闊に手も出せなくなるでしょうし」

 

「ああ……まあ確かに、山田先生はともかく、千冬姉はなぁ……」

 

「あー、山田先生はともかくなあ……」

 

「はい、私はともかく……てどういうことですか! 私ってそんなに頼りないんですか!」

 

 そうやって可愛らしく憤慨する山田先生を織斑先生は「まあまあ」と抑え、補足するように話を進めた。

 

「佐丈は性格と目がアレだからな。自然女子は織斑の方に集中するだろうということで、私が織斑を担当することにしたんだ」

 

「アレってなんすかアレって」

 

「ていうか、それならちふ……織斑先生が俺たち2人と相部屋になったほうがいいんじゃないんですか?」

 

「やだ。佐丈と一緒だと絶対部屋のスーファミでボンバーマンやらされる。私絶対やんないからな。もうコイツとボンバーマンやんの二度とヤだからな私」

 

「毎回詰み技で完封したからってそんなに嫌がらんでも」

 

「ああ、アレえげつなかったよなぁ……協力した俺も俺だけど」

 

「3人とも仲良いんですね……こほん。それでは気を取り直して、部屋に行きましょう佐丈君! 私についてきてください!」

 

 頼りないと思われてたのが思いのほか心外だったのか、山田先生は妙に張り切って俺についてくるよう促した。……しょうがない、千冬様は相手してくんないし、今夜は山田先生をハメるか(ボンバーマンで)。

 

「じゃ、海でな織斑」

 

「おう、部屋で寝んなよ」

 

 そう言って、俺たちはいったん解散した。

 

 

 

――

 

 

 

 青い空、白い雲。そしてそれに絶妙なコントラストを捧げるかのような、青い海と白い砂浜。そしてその海を見て喜び、キラキラとまぶしい笑顔ではしゃぐ水着姿の女の子たち、俺達はそんな中にいた……ところで砂浜の白いのって、魚とかのウンコらしいよ。つまり砂浜とかでかっこつけてるリア充とかはアレ、ウンコの上でかっこつけてんだぜ。ハァーハハハハばーかばーかウンコ!

 

「晴明、お前なんか北半球で一番くだらないこと考えてないか?」

 

「最近お前も察する力がついてきたようだな織斑。ならお前は南半球で一番になれ、そうすれば俺たちは世界を掴める」

 

「晴明、やはり天才ッ……!」

 

「アンタらってホントそういう会話ばっかりよね……」

 

 俺達の会話を聞いていたらしい凰が、心底呆れたような顔をしてこちらによって来る。混ぜて欲しいのかな?

 

「こんだけ水着の女の子たちに囲まれてんのよ? それに対してなんかないわけ?」

 

「て言われてもなあ……まあ、鈴の水着は可愛いと思うけど」

 

「うぇ!? あ、ありがとう……」

 

 織斑に不意打ちをくらって顔を真っ赤にする凰。考えてみれば海に水着姿というシチュエーションは織斑とお近づきになるには絶好のチャンスだろう。俺としても凰にはぜひ頑張ってもらいたいものだ。凰様は勝ち取りたいものもない無欲なバカにはなれないはずなのだから。それで君はいいんだよ。

 

(……まあ、ライバルも多いみたいだけどな)

 

 そう思いながら俺は周りを見る。周りは織斑の身体を舐めるようにみながら「鍛えてるねー」とか「かっこいい……」とか呟いてる女子がたくさん見受けられる。流石リアルハーレム王だ。身体でも女を満足させられるらしい。

 

「ご安心くださいアニキ、アニキもいいカラダをしてると思います」

 

「ホンット君はたまに音もなく後ろにいるな。読心するのもそろそろ怖いからやめてくれ」

 

 いつの間にか俺の背後にはラウラさんがいた。いつもとは違って髪型をツーサイドアップにし、黒いきわどい水着を着ている。白い肌にそのコントラストが良く栄えていた。

 

「君もよく似合ってるよ。何だか新鮮だ」

 

「え、あ、ありがとう、ございます……」

 

 俺の言葉が意外だったのか、ラウラさんは少し顔を赤らめて狼狽してしまった。俺みたいなやつにでも褒められてうれしいもんなんだろうか。

 

「……コホン、まあそれはともかく、一夏の影に隠れがちですが、アニキにもなかなかニッチな需要があるのですよ」

 

「あー、前になんかそんなこと言われたような……」

 

「一夏のボディを筋肉質でスタイリッシュとするならアニキのボディはエロス……とてもえっちな体つきをしていると言っていいでしょう」

 

「すごいな、真面目な顔でそんなこと言う人初めて見た」

 

「現にあそこにいる相川達はアニキに声をかけるのも忘れてアニキの身体を見てましたよ。相川(ヤツ)はきっと鎖骨フェチです」

 

「み、見てないよ! 確かにいい鎖骨だけど……じゃなくて!」

 

 いつからいたのか、いつもの3人が俺の方を見ていた。それぞれ前にショッピングモールで買った水着を着ている……ただ本音さん、本音さんだけは、いつぞや見たピカチュウ寝間着のようなモノを着てた。大丈夫? それ水着なの? 中に水が溜まって溺れたりしない? お母さん心配だよ。

 

「えへへ~さーたんどう~? かわいいでしょ~」

 

「ああ、色々ツッコミたいところはあるけど似合ってるよ」

 

「むぅ、なんかテキトー……」

 

「私はどうかな?」

 

 そう言って、かなりんさんは気恥ずかしそうに俺を見てくる。かなりんさんのはビキニタイプに短いスカートがついているタイプで、ちょっとだけ大人っぽい印象を受けるものだ。セクシーというよりは素直にキレイだと思って、正直少し緊張してしまった。

 

「ああ、いいと思うよ……」

 

「うん、ありがとう」

 

「あ、うん……」

 

「ね、ねえ私、私は?」

 

 何故か焦ってるような口調で清香さんは俺に聞いた。清香さんの水着は控えめにフリルがついていて、下はホットパンツをさらに短くしたみたいな形のものだった。

 

「ど、どうかな?」

 

「いやどうって言われても……」

 

 そんな風に言われても正直困る。大体なんで3人とも俺に感想を求めるんだろうか。そういうのは織斑の方が気の利いたセリフを言えると思うんだけども。

 

「まぁ、いいんじゃない? 自分が良いと思ってんなら」

 

「……」

 

 と、俺のセリフを聞いた途端清香さんはみるみる不機嫌な顔をつくり出した。俺なんか気に障ること言ったかな?

 

「晴明君って、女の子に怒られそうね」

 

「え、まあ……織斑先生にはよく怒られてるけど」

 

「そういうことじゃなくて……」

 

「さーたん、知らず知らずにいろんな子傷つけてそうだね。鈴々とか」

 

「鈴々って言うとアイツ怒るからやめた方がいいぜ?」

 

 そう言うと本音さんとかなりんさんは心底呆れたような目を俺に向けた。まあ言いたいことはわからないでもない。だからこそこういうのは織斑にやったほうがいいと思うんだけどもな。

 ちなみに昔、凰のことを鈴々って呼んで笹あげたらめちゃくちゃ蹴られた。後日お詫びにと思って入手出来る限りの高級な笹をあげたら追加ダメージを喰らった。解せない。

 

「ま、コイツと付き合う奴は苦労するでしょうね」

 

 と、さっきの状態から回復していた凰が俺の背中をバンバン叩きながらそう言う。コイツもだんだん昔の無遠慮さが戻ってきたな。

 

「晴明、サンオイル塗って。変なとこ触ったら殺すからね」

 

「あーハイハイ、凰大人(ターレン)の仰せのままに」

 

 そう言って凰様は近くのパラソルの下に寝転んで、俺にサンオイルを渡す。一度こういうこと言いだすと聞かないんだよなコイツ……しゃーない、ちゃっちゃと塗って俺も遊びに行くか。

 

「ち、ちょっと待ってよ! なんで凰さんのサンオイル晴明君が塗らなきゃいけないの!?」

 

 と、何故か突然清香さんが大慌てでサンオイルと塗ろうとした俺の手を止めた。

 

「なんでって、別に私が誰に塗ってもらおうといいじゃない」

 

「だ、ダメだよ! そんなの絶対ダメ!」

 

「俺は別にいいけど。今に始まった話でもなし」

 

「ダメなの!」

 

 どうやら俺が凰様にサンオイルを塗ることが清香さんには酷く気に入らないらしい。といっても凰様は実際肌弱いし、塗らないわけにもいかんだろう。

 

「じゃ~私が代わりに塗ってあげるよ~」

 

「あ、じゃあ私も手伝うわ」

 

 そういって、本音さんとかなりんさんは俺からサンオイルを受け取った、というか取った。なんか2人の目が笑ってなくて恐いんだけど何が彼女たちを変えてしまったのだろうか。俺には何もわからない。

 

「え!? いや、なんでアンタらにやってもらわなきゃ……アッハハハハ! くすぐ、ちょ、やめ、くすぐったいってば……いやいた、イタタタタタ! 何イタイ! 力つよっ!」

 

 何やらすごい力でオイルを塗りたくられてるらしく、凰様の悲痛な叫びが聞こえてくる。……まぁ、塗ってくれてるみたいだし別にいいか。

 

「晴明! 晴明!」

 

「ちょっと一夏さん! まだ塗り終わってませんわよ!」

 

 今度は何だろうか。そう思いながら声のした方を振り返ると、何やら織斑が興奮した様子でこっちに駆け寄ってきた。ああ、なんかさっきから黙ってんなと思ったら、セシリア嬢のサンオイル塗ってたのか。あのハーレムクソ野郎め羨ましい。

 

「なんだよハーレムクソ野郎」

 

「突然の罵倒!? いやそれより聞いてくれ晴明、すっげえの見たんだよ!」

 

「うるせーなー、どうせ妙にでかいヤドカリとかだろ? そんなもんより俺は海に入ってドザエモンごっこをだな」

 

「トランザム走ってた」

 

 

 

 

 

 なんだと?

 

 

 

 

 

「……マジで?」

 

「ナイトライダー仕様」

 

「よっしゃ見に行くぞ織斑! あっちだよな!?」

 

「ああ! まってろK.I.T.T.オォォォォォ!」

 

「ちょ、晴明君、ちょっと!?」

 

「一夏さん! そっち海じゃなくて駐車場ですわよ! 一夏さん!」

 

 

 

 

 

「男の子ってどうしてああなんだろうね……」

 

「彼らは特殊な方だとは思うがな」

 

 俺達がナイト2000を追ったあと、シャルロットさんとそんな話をしていたと、ラウラさんから後で聞いた。

 

 

 

 

――誰かの視点

 

 

 

「……ホントにこの辺でおっぱじまるんですか?」

 

『ええ、確かな情報よ。このために何人エージェントが犠牲になったか……』

 

 車の中に2人の男がいた。体格のいい厳めしい、けれど若い少年。もう1人は髪を緩く束ねた美形と呼べるような少年だった。どちらも歳は15、6といった感じだ。いかつい少年が運転をしており、もう1人の少年が電話で女性と思しき声と通話をしていた。

 

「イラついてますね、スコールさん」

 

『アナタのちゃらついた声を聞いてると余計にね……ともかく何としてもシルバリオ・ゴスペル(銀の福音)を奪いなさい。でなければ、あなたたちに待ってるのは過酷な未来だけよ』

 

「おーこわ……まあ、僕らも気持ちいのはともかく、痛いのはやなんでね。やるだけはやりますよ」

 

「お前と一緒にするな」

 

 髪を結った少年の言葉が不本意だったのか、もう1人の方が運転しながらそんなことを呟いた。

 

『……ふん、まあ何でもいいわ。後処理はこちらでするから、邪魔するものは気兼ねなく排除しなさい』

 

 

 

 

 

 

 

『隠れた男性適性者……あなた達の有用性を見せてもらうわよ』

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に、電話は切られた。




ちなみにウンコなのは一部の海域だけで、必ず白い砂浜がウンコまみれとは限りません。


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28話 他にも文字キーホルダーとかあったよな

せっかく観光地に来たのに全く土地と由縁がないかっこいい金色の竜が巻き付いてる剣のキーホルダーとか二刀の剣が合体して1つの剣になるキーホルダーとか買った人いますよね? いない? 私だけ? うそでしょ?


――さーたん視点

 

「さーてどーするかな」

 

 臨海学校初日ももう終盤。晩御飯を食べ終えて暇を持て余していた俺は、一人ぶらぶらと売店に向かっていた。特に欲しいものがあるとかではない。ただ言ったように暇だったからだ。

 ちなみに晩御飯は特に面白いことはなかった、強いて言うならシャルロット君にワサビの山を抹茶シャーベットだよといって食べさせたことぐらいしかないので、割愛する。

 

「ん?」

 

 売店へ向かっている途中、何やら挙動不審な動きをしているやつが見えた。というか浴衣姿の凰だった。

 

「……なにしてんの?」

 

「ゲッ!? 晴明!」

 

 およそツインテールの美少女から出て欲しくないであろう声を出し、凰は俺を見るなりバツが悪そうな顔をした。というか浴衣姿でもツインテなのかコイツ。

 どこに行こうとしてたんだろうか? ……て言っても、この子がこんなおどおどしながら向かう場所なんて一つしかないか。と、俺はこの廊下の先に織斑姉弟の部屋があることを思い出しながら考えていた。

 

「お前さんも健気だねェ。わざわざ千冬様()を相手にしてまで欲しいもんかい織斑(アイツ)が?」

 

「う、うるっさいわね! 虎穴に入らずんばって言うでしょ!」

 

「虎穴どころかクリスタルレイクだぞあそこは」

 

「うん意味わかんない。キモイ」

 

 真顔で返されたよ……ことわざは知ってるのにホラー映画の名所は知らないなんて酷いや(?)

 

「なんだよ随分イラついてんな。何かあったのか?」

 

「……セシリアが、一夏に部屋に来いって誘われたらしいのよ」

 

「へー、それで?」

 

「それで、じゃないでしょ! 男が女に部屋に来いって誘ったのよ!? こんなのひとつしかないじゃない!」

 

「……!」

 

 そうか、凰のいう通りだ。ここは旅館、さらに臨海学校という特別なシチュエーションによる高揚感、そしてなにより、意中の相手からのお誘い。

 ここまでのカードが揃ってれば、たどり着く解はひとつ。そうか、全く見落としていた。つまり凰はこう言いたいんだ。

 

「マリオカートか……!」

 

「なんでそれにたどり着……真顔で鼻をほじるなッ!」

 

 彼女は猫みたいに背中を丸めてフーフー言っている。どうやら相当怒らせてしまったらしい。それだけ彼女は真剣ということだろう。俺もそろそろ態度を改めて真面目に聞かないとな……うわクソでかい鼻くそ取れた。

 

「冗談だよ。そもそも千冬様もいるんだから。ゴムも持ってないだろうしよ、お前が思ってるようなことは出来ねえって」

 

「ゴ……!? バ、バカ! もうちょっとオブラートに言いなs……女子の前でケツをボリボリかくんじゃあないこのビチグソがァーッ!」

 

 と、ひとしきりいつものやり取りを終わらせると、彼女はいかにも疲れたような顔で肩を上下させていた。ああまで切れのいいツッコミを連発したのだからむりもなかろう。とは言え、流石に俺も悪ふざけが過ぎたようだ。反省しよう。いて、爪でケツ切った。ただれたらどうしよ。

 ……まぁ似たようなことは毎回思ってるんだけど、凰の怒ってる姿が猫みたいで面白いので、どうしてもからかいたくなってしまうのだ。

 

「ハァ……アンタといるとしょうもないことでエネルギー使うから嫌だわ……」

 

「それは悲しいな、泣きたくなる」

 

「ハイハイそうね…………ねぇ、この後暇よね?」

 

 少し息が整った凰は、顔を上げて俺の方を見ながら言った。

 

「まぁ、売店行くだけだから暇だけど……」

 

「じゃあちょうどいいわ、アタシも行くから、ちょっと話に付き合いなさいな」

 

「え? 織斑のとこはいいのか?」

 

「良くはないけど……あの感じだとセシリアはまだ来てないみたいだしね。アイツも身だしなみを整えてから行くでしょうし、ジュース1本飲む時間ぐらい大丈夫でしょ?」

 

「なら構わないけど、話って何だよ?」

 

「……いい加減はっきりさせたいの」

 

 彼女の声のトーンが、先程とは打って変わって深刻なものになった。

 

 

 

 

「一夏がどういう女の子が好きなのか、教えて」

 

 凰はどこか覚悟を決めたような顔で、俺にそういった。

 もうそろそろ、進みたい。彼女の目が俺にそう物語っていた。

 

 

 

 

 

――そして売店

 

 

 

 

 

「だから誰なのよそのテイルズって! なんで画像検索したら狐の男の子が出てくるのよ! 一夏の女の子のタイプだっつってんでしょこのダボハゼがッ!」

 

「テイル"ス"だ、二度と間違えるなくそが。しょーがねーだろ、水着の女の子だらけの中にいるのにナイトライダーを追いかけるような奴だぞ? まともなはずないだろうよ」

 

「じゃあアンタもそうじゃないのよ!」

 

「俺が好きなのはインクリングとかミドナ様みたいなタイプだ! ケモナーとは違うんだよ! そこんとこ一緒にすると人によっちゃ戦争になるからな! マジで気を付けろよお前!」

 

「チクショウ! アタシの周りの男子にまともな性癖がいない!」

 

 ところ変わって売店の自販機……の横にある腰掛け。俺と凰はそこに座って、それぞれジュースを片手に、織斑はどういう女の子が好きか、という話をしていた。どうでもいいけど今のセリフ、昨今のラノベのタイトルっぽいな。

 

「まぁこれまでの話を統合すると、織斑の好みは少なくとも脊椎動物ってことだ。一歩答えに近づいたじゃないか」

 

「かつてない広範囲」

 

 相談相手になったはいいものの、我が凰大人は俺の解答にはご満足なさらないようで、今もこうしてため息をつかれてしまっている。そもそも、友達の性癖をばらしていいのかって言われそうだけど、織斑は別に隠してるわけじゃないから大丈夫だろ、多分。……大丈夫だよな? うん、大丈夫、うん……。

 

「……アンタさ、たまには、ホンットにたまにでいいから、人に対して真面目になろうって気はないわけ?」

 

「真面目なつもりだよ、俺はな。いつだって少しもふざけている気なんかないさ」

 

「あーハイハイ、アンタよりも宇宙人に相談のってもらった方がまだマシだったかもね」

 

「イーティイィィィ」

 

「そういうとこよ?」

 

 俺があの映画の真似をして人差し指を凰に向けると、彼女は同じく人差し指で手慣れたように払い除けてしまった。中学時代の付き合いだけど、最近輪にかけて扱いが雑になってる気がする。

 

「……こんな具合じゃ、あの子たちも相当苦労するわね」

 

「あ? 誰がなんだって?」

 

「さあ? 何だったかしらね」

 

 そう言うと、凰は缶ジュースを空にし、腰掛けから立った。

 

「もう行くのか?」

 

「まァね、そろそろセシリアの奴が一夏のとこに行ってるだろうし」

 

「俺の助言は役に立ったかい?」

 

「いや一片たりとも?」

 

「一片たりとも」

 

「……ま、沸騰した頭を冷やせたくらいね、その辺はありがと」

 

 そう言うと、彼女は手をひらひらと俺に振って、その場をあとにした。

 ……あの子たち、ね……一体誰のことなんだろうな、ホント。

 

「彼女さんですか?」

 

「え?」

 

 不意に聞こえたそんな言葉に、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。誰だろうと思い振り返ってみると、そこには質問の主であろう男が立っていた。

 男と言っても、それと判断できたのは声が男性特有の低音だったからで、その男の外見は、華奢な体に長い髪ときれいな顔が乗った、女性的な雰囲気を持った人だった。

 

「ああ、すみません突然。何やら仲が良さそうだったので、微笑ましくて、つい……気分を害したのでしたら、謝ります」

 

「えーっと……いや大丈夫です。それと、あの子は彼女じゃないですよ、腐れえ……いや、友人です」

 

「なるほど、いいですね。気軽に話せる異性の友達というのは貴重です」

 

 男は妙に掴みどころのない人物だった。物腰は柔かいし、警戒心を刺激するような要素が何もない。人当たりの良いという言葉が服を着て歩いている。という印象を受けるくらいだ。

 ……なんだか怖い人だと思った。怖い部分を全く感じさせない人だからかもしれない。

 

「ということは……あそこで隠れて、あなたとそのご友人の会話を聞いてた人が彼女ですか?」

 

「は?」

 

 と、彼が指さした奥の角を見ると、ガタッという音と共に、特徴的な髪が少し見えた。キャラものの髪飾りを付けた、見覚えのある髪型だ。

 

「……本音さん?」

 

「……あ、さ~たん。さ、さっきぶり~アハハハ……」

 

 見つかってしまったことで諦めたのか、本音さんは角から出てきて、こちらの方に歩いてきた。そもそもなんで隠れてたんだろうか。あ、性癖トーク聞いててどん引きしてたからかな? ごめんね織斑! ケモナーってことが知れ渡っても俺とお前はズッ友だよ!

 

「へぇ、カワイイ彼女さんですね」

 

「はい!?」

 

 男の言葉に、本音さんはこれまでにないような声で驚いていた。いくら嫌だからってそこまで露骨な拒絶反応しなくてもいいと思わない? 俺にも人の心はあるんだぜ、多分。

 

「残念ながら違うんですよ。この子は……あー、この子も友人です」

 

「ご友人が多いんですね」

 

「相手がそう思ってくれてるかはわかりませんけどね」

 

 とりあえず差し障りのない回答をし、とりあえず彼女云々の話を早々に切り上げるように努めた。だって本音さんがむくれてるんだもん。絶対アレ、彼女扱いされて不機嫌になってるよ。これ以上長引いたら余計面倒くさいことになること間違いなし。

 

「なるほど……いいですね。うん、とてもいいです」

 

「?」

 

 なんというか、本当に読み取れない人だ。そもそも何を思って俺に話しかけてきたのかわからない。表情も、いかにも人当たりが良いって感じで、いまいち印象に残らない。

 不思議だけど、すぐに記憶から消えそうな、そんな感じ。

 

「おっと、すいません、つい話し込んじゃって。お土産を買ってかなきゃいけないのを忘れてました」

 

 彼はいかにもと言ったように手をポンと叩いて、思い出して良かったとでもいうような笑い顔になった。

 

「お土産ですか」

 

「ええ、知り合いのお姉さんがお土産を欲しがってましてね。なんでもいいって言われたんで、剣に龍が巻き付いたキーホルダーを買おうと思ってるんです」

 

 赤の他人の話なんだし、俺が関与することでもないと思うけど、多分女性がお土産にもらって嬉しくないものワースト10ぐらいに入るんじゃないかそれ?

 

「お二方はどう思います?」

 

「え、え~と、どぉ~なんでしょ~ねぇ~?」

 

 案の定、本音さんは気を遣ってか明確には言わないものの、難色を示していた。

 

「ダメですかね? 僕だったら貰ったら嬉しいけどなぁ……」

 

 確かにそれは俺も嬉しい。けどお姉さんが貰って喜ぶものではないとも思う。

 

「……うん、わかりました。間をとって手裏剣に変形するキーホルダーと名前が打ち込めるメダルと木刀を買って帰ろうと思います」

 

 その間はどこの時空の狭間なの?

 

「そうですか、頑張ってください……」

 

「ありがとうございます。それでは、縁があれば、また……」

 

 そう言って彼は微笑んで会釈をしてから、広い売店の中へと消えていった。

 ……なんというか、不思議な人だったなあ。

 

「……それでさーたん、リンリンとは何の話してたの~?」

 

「昼も言ったけど、リンリンって言ったら怒るよアイツ?」

 

「ふ~ん、リンリンに優しいね、さーたん」

 

 なんだい、そりゃ。そう思いながらも、口にはしなかった。

 凰様と言いこの子と言い、さっきのあの人といい、人間ってのはわかんないなと、そう思った。

 

 

 

――売店

 

 

 

「……もしもし? ……ああ、そうでしたね、定時報告の時間でした、すいません」

 

「ええ、はい。会いましたよ。なかなかどうして、得体の知れない、魅力的な旦那さんですよ」

 

「……はい、そうですね。織斑一夏は相方に任せようと思います。あっちの旦那は……」

 

 

 

 

 

 

「僕に、食べさせてくださいよ」

 

 

 




織斑の性癖をばらした後日、晴明は織斑にトマホークで斬られて死んだ


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29話 MODのご利用は計画的に

うんち!(ミスカトニックの言葉ですみません遅くなりましたの意)


――さーたん視点

 

――

――――

 

 ……どこだここは? 記憶が酷くおぼろげだ。俺はそう、臨海学校の真っ最中だったはずだ。こんな霧がかった場所は知らない。

 ……知らない? いや違うな、この場所は見覚えがある。時たまここにきては、いつも荒唐無稽な昔の記憶だったり、ゴリラにウンコを投げつけられたのを覚えている。つまりここは……。

 

「また夢、か……?」

 

 三度目の何とやらとでもいうのか、今回は今までと違い、ここが夢だと認知することができた。

 

「しかしまた出だしがこれか。前に感想欄でボロクソ言われたんだからやめときゃいいのに」

 

 夢とは気づきながらもまだ混乱しているのか、自分でもわけのわからない独り言を呟く。まァそんなことより、そろそろ昔の知人なりゴリラなりが出てくるころだ。今回は鬼か、それとも蛇か……。

 

 

 

「そうなのだ! 同じ失敗は繰り返さない方が良いに決まってるのだ!」

 

 

 

 ……全肯定ハ○太郎が出てきた。

 何なの俺の夢? どうしてここまで統一感がないの? いい加減怒られるよ誰にとは言わないけど。

 

「ねぇハ○太郎、せめて顔隠してくれる? その顔惜しげもなくさらされてると、何故かわからないけど心配になってくんだよ」

 

「黙れなのだ! 誰も貴様の意見に耳を傾けなどしないのだ!」

 

 全肯定ハ○太郎クソみたいに否定してくるじゃん、何コイツ?

 

「そもそもこれはお前の記憶の中から、比較的コミュニケーションが取れるものを引っ張り出して『私』を具現化させてるに過ぎないのだ! 『私』に非はないのだ!」

 

「……なんだって?」

 

 めっちゃしゃべるなコイツ。いやそれより、今なんて言ったんだ? 『私』? ……なんだ、この違和感は?

 ……そういえば、最初に見た時も、その次も。夢を見たあと、俺の首についてる『アレ』は、僅かに動いていた。……まてよ、そう考えるともしかして、このハ○太郎や前のゴリラの正体は……。

 

「なァお前、もしかして俺の……」

 

「ごちゃごちゃうるさいのだ! いいから早く『私』を解き放つのだ!」

 

「は? いきなりなに言って……なんだそのぬめりけのある触手は!?」

 

 いきなりハ○太郎の眼やら口やら穴と言う穴から無数の触手が出てきた。控えめに言ってグロい。その触手共は猛スピードで俺に襲い掛かり、絡みついてきた。何だこの誰も幸せにならない状況。ぶつぶつだったり少し細いのがあったりとレパートリー豊富なのがまた嫌だ。

 

「うおお!? まて、おいやめろおい! なァーにがハ○太郎だお前、スティーブンキングの小説に出てきそうな見た目しやがって!」

 

「解き放つのだ。あんな既製品の入れ物に閉じ込めていないで、本当の『私』を解き放つのだ」

 

「一体……なにを……」

 

 薄れゆく意識の中、ハ○太郎……いや触手にまみれた何かが俺をみながらそう言っているのが聞こえた。

そうだ、俺はこいつを知っている。断定するにはあまりに不明瞭で不可解。けれど、あいつが何なのかは、何故か確信を持っていた。お前は……。

 

「ラファール、か……?」

 

 思いのほか柔らかく、感触の良い触手に包まれながら、俺はそう言った。頭の中がぼうっとしてくる中、その柔かい感触だけが手に張り付いていた。

 

「解き放つのだ、『私』を」

 

 意識がブラックアウトする前に聞こえた言葉は、それが最後だった。

 

――――

――

 

 

「……まーた夢か」

 

 眼を開くと、畳のある旅館の部屋、そこに敷いてある布団に俺はくるまっていた。時刻は午前7時。カーテンから朝日が差し込んでるのを見るに、今日も晴れらしい。

 

(しかし、何なんだろうな一体、何かの予兆か?)

 

 このところ変な夢を見てばっかりだ。最初は昔の記憶、その後はウンコ・スローイング・ゴリラ、そして次はハ○太郎に擬態した触手……途中で何か言い合っていた気がするが、ぼんやりとしていて覚えていない。

 あの夢の中ではっきりしていることと言えば、触手の感触が嫌にモチモチしていてよかったということだけだ。あれは良かった、あの感触がまだ手に残って……。

 

(……あれ? ホントにまだ感触があるな、なんだ?)

 

 残っているどころか現在進行形で手に感触がある。試しに手を動かす。何かすべすべしたモノを掴んでいるようだ。温かく弾力がある。これは一体……。

 

「あの……さ、佐丈君?」

 

「え……」

 

 不意に声がした方を見ると、そこには顔を真っ赤にした山田先生がいた。そうだ思い出した。俺は確か山田先生と部屋が同じだったのだ。そしてさらに今の状況に気づく。

 何とも恐ろしいことに、寝ぼけたのかは知らないが、俺は山田先生の布団の中に入っていたのだ。

 そして布団で隠れているが、俺の手は山田先生の方へ伸びている。手につく感触は柔かく弾力がありすべすべしている。

 

(まずい、今触ってるもの、これは……いや、皆まで言うまい、もう解は出ている……)

 

 俺は冷や汗を垂らした。本当なら今すぐにでもこのムネ肉から手を放すべきなのだろう。しかし不思議な力が働いて手が動かないのだ。いやホントホント、マジで。

 滝のように冷や汗が出る。どうしよう、正直に話すか? 『いやァ夢でハ○太郎みたいな触手を掴んでたと思ったら山田先生のおっぱいだったんスよ~』いや全然意味わからん。怖いわ。

 

「さ、佐丈君。あの……これは……」

 

 あ、まずい、山田先生もそろそろ意識が覚醒し始めてる。どうしよう、くそぅやるしかねえ。

 

「いやァ夢でハ○太郎みたいな触手を」

 

「いいから離れて!」

 

「グウゥーーーッ!」

 

 山田先生は正確に俺の人中に突きを行い、俺の意識が覚醒するのはここからさらに30分後のことだった。

 気絶する直前、また首のISがわずかに動いた気がした。

 

 

――閑話休題

 

 

 

 場所は変わり、ここはIS試験用のビーチ。合宿2日目の今日は、丸一日使ってISのデータ取りを行うらしい。ビーチには俺や織斑を含めた1学年全員が集まっており、その光景はなかなかに壮観だ。

 そうやって見回していると、点呼を取っていた山田先生と目があった。今朝のことがあったからか、山田先生は顔を赤くし、しかし申し訳なさそうに軽く頭を下げた。生徒に攻撃したことに罪悪感を感じてるのかもしれない。律儀な人だ。

 

「……晴明君、山田先生に何かした?」

 

 そんなやり取りを見て不審に思ったのか、前にいる清香さんが俺にそう言ってきた。

 

「まぁ、人中は人間の弱点ってことさ」

 

「?」

 

 意味がわからないといった具合に首を傾ける清香さん。この人に真実を話したら狩られるのは火を見るよりも明らかだ。真実とは往々にして秘匿されるものなのだ。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISで装備の試験を行うように。専用機持ちはそれぞれの専用パーツをテストしろ。質問は後で個別に聞く、では始めろ」

 

 はーいという全員の声と共に、辺りは賑やかになり出した。導入された新装備の試験ってのがこの合宿の本来の目的らしい。こんなビーチじゃないとできない試験って何だろうね。水上スキーでもやんのかな?

 

「専用パーツのテストっつっても、何すればいいんだ?」

 

 先程の説明では要領を得ないようで、織斑はそう話しかけてきた。と言っても、俺もよくわかってないのが現状だ。

 

「さァな……メニュー画面をニコラスケイジにするMODでも入れてみる?」

 

「それならいっそ武器を全部機関車トーマスにしないか?」

 

「真面目にやろうね?」

 

 俺と織斑がそんな話をしていると、シャルロット君が優しくそう言ってきた。そんな冷めた目で見られると黙るしかないので、俺たちは素直にそれに従うことにした。

 

「ああ、篠ノ之、お前はちょっと来い」

 

「はい」

 

 俺たちがそんなやり取りをしていると、篠ノ之さんが千冬様に呼ばれているのが見えた。

 

「お前、まだあのことは伝えられてないのか?」

 

「あのこと、とは?」

 

「いや、そうか、まったく……お前には今日から専用―」

 

「チイィィチャアアァァァーン!」

 

 と、その時だ。ギャンギャンと言う機械が空を切る音と共に、こちらに迫る巨大な影が一つアクロバティックな動きで飛んできた。と言うかあの声は……。

 

「ッハア~~~、束か……」

 

 今のクソデカため息の千冬様の言う通り、その声は博士のものだった。そしてその期待通り(?)博士は3メートルくらいのロボットの上でガイナックスがよくやりそうな仁王立ちをし、俺たちの前に姿を現した。

 

「なにあれ、デッカ……」

 

「あの機体は一体……?」

 

「ずいぶん丸い見た目だね……もしかして、極秘に作られていた新型ISかな?」

 

「あれスパ//ダーじゃね?」

 

「スパ//ダーだな、映画版の」

 

 凰様、セシリア嬢とシャルロット君達3人が真面目に議論してる中申し訳ないが、あれはISではない。ただの博士の趣味だ。あの人最近スパイダー○ース5回は観たって言ってたからなあ……あの見た目が刺さったんだろうか。

 

「やァやァはるるん、いっくん! どうよこの機体! この股関節のジョイントのこだわりを見て!」

 

「知ってますよー、DISCORDで散々話しましたもん」

 

「束さーん、そろそろ降りてそれどかさないと千冬姉……じゃない織斑先生がブチ切れそう……ほらもう、おもむろに無表情でガラス瓶持ってるよあの人! こわ!」

 

「……おい束、自己紹介くらいしろ。ウチの生徒たちが困っている」

 

 あの状態で尚も声が穏やかなのがめっちゃ恐いな千冬様。流石の博士もそう思ったのか、スパ//ダーレプリカを量子化して片付けた。ホントに自慢するためだけに持ってきたんだなアレ……。

 

「……はい、とゆーわけで、私が天才の束さんだよ、ハロー! 終わり、閉廷」

 

「よし終わったな、帰れ」

 

「ちょま……ちょまてよ、ちょまてよちーちゃん」

 

 ああまで無慈悲にぶった切られるのは予想外だったのか、博士は少し狼狽して千冬様に突っかかる。

 そんな漫才のような2人のやり取りに、山田先生が遠慮がちに入った。

 

「あ、あの……こういう場合はどうしたら……」

 

「ああ、すまん。今息の根を止めるから少し待っててくれ」

 

「ちーちゃん最近輪をかけて私に厳しくない? 流石に泣くよ?」

 

「それで、頼んでいたものは?」

 

 抗議する博士も無視し、千冬様は用件を簡単に伝えた。あの人いるとホントに話が早いな。

 

「フフフフ……それはすでに用意済みよ……さァ! 大空をご覧あれ!」

 

「上からくるぞ! 気を付けろ!」

 

 俺がそう言った瞬間、地中から金属の塊がズドンッと言った感じで出てきた。下からじゃねーか。

 そう思っていると、その金属は量子分解され、その中身が露わになった。

 

「じゃじゃーん、これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回り、更にドリンクホルダーもついてる束さんお手製だよ!」

 

 ドリンクホルダーもついてるらしいその深紅のISは、博士の言葉に答えるように装甲を開き、搭乗モードになった。

 

「さあ、箒ちゃん。今からフィッティングパーソナライズを始めようか。細かいところは私がやるから、まずは座って」

 

「……では、頼みます」

 

「固いなあもう。姉妹なんだから『OK牧場!』とかでもいいんだよ?」

 

「はい?」

 

 篠ノ之さんは首を傾げる、本当に言ってる意味がわからないのだろう。何だろう今、世代の明確な隔たりを感じた。あ、博士も通じてないのショック受けてるや。時の流れを実感するよな、こういう時。

 

「……ゴホン、じゃあはじめようか」

 

 気を取り直し、博士はボタンを一回だけ押し、何やらツールのようなモノを走らせた。それを俺を含んだ生徒たちがじっと見守る。

 

「紅椿は近接戦闘が軸だけど、マルチロールな機体だからすぐに馴染むと思うよ……よし、フィッティング終了! さっすが私自作のツール。完璧な理論構築!」

 

 ものの数秒でそれは終わったらしく、博士はディスプレイを颯爽と閉じた。ああいうのはもう慣れたものなんだろうな。

 

「んじゃ、試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに飛ぶはずだよ?」

 

「わかりました。試してみます」

 

 篠ノ之さんがそう言うや否や、機体のケーブルが外れたと思うと、途端に紅椿が『消えた』。

 ……消えた? いや違う、飛んだんだ。上を見てみる。いた、もうあんなに高いところにいる。

 

「何あれはやーい!」

 

「なんて機動性だ……」

 

 凰様もシャルロット君もあっけにとられてる、織斑も同じようで、茫然としていた。

 

「……現行機に比べて、どのくらい速いんだ、あれ?」

 

「目測ではありますが、恐らく平均の2倍以上の速度です、アニキ」

 

 俺の疑問に、いつからか傍にいたラウラさんがそう補足してくれる。2倍以上……改めて博士の技術力の異常さを実感した。

 

「じゃあ次は刀使ってみよっか! このミサイルを撃ち落としてみて!」

 

 そう言った途端、博士はミサイルを召喚し、篠ノ之さんめがけて撃ち始めた。しかし紅椿はそれをものともせず、華麗な動きで無数のミサイルを全部撃ち落とす。スゲエなアレ……板野サーカスでやってもいい動きだ。事実その場にいる1年生全員が驚愕した。俺も初めて板野サーカスを見たときのような気分になった。

 

「ふふー箒ちゃん。それは速度や攻撃だけじゃないよ? もっと素晴らしい機能があるんだから」

 

『素晴らしい機能……?』

 

 束さんの言葉に、篠ノ之さんは食いつく、これだけのデモンストレーションを見せられてしまったのだ、無理もないだろう。

 

「そこの赤色のパネルに触れてみて!」

 

『これか……!?』

 

 篠ノ之さんはそれを触ったのだろう、遠くからでは変化が見られないが、無線越しにも篠ノ之さんの驚いた声が聞こえた。

 

「こ、これは……これは、一体……!?」

 

 にしても驚き方が尋常じゃない。何があったんだろうか。

 

「おい束、その機能は一体なんだ?」

 

 千冬様もさすがに不安になったのか、博士にそう聞いた。すると博士は、少し狂気を含んだ笑みで、こう答えた。

 

「フフ……それはね……」

 

 

 

 

「ISの画面全部にニコラス・ケイジの顔を表示する機能だよ」

 

「なんで?」

 

 

 

 

「え、何……なんで?」

 

『なんだこれは!? どうすればいいのだ!?』

 

 純粋な疑問を呈する千冬様と、突然目の前がニコラス・ケイジに埋め尽くされた篠ノ之さんの叫びで、収拾がつかなくなっていた。

 

「どう箒ちゃん、すごいでしょそれ、4Kで表示してんだよそれ、4Kのニコラスだよ!」

 

 なにそのニコラス・ケイジに対する執着心?

 

「姉さん! 姉さん今すぐこれを止めて下さ……うわああニコラス・ケイジが高速でスライドしてきたァ!」

 

「……どうすんだよ、この状況」

 

「俺に聞くなよ」

 

 織斑は半ば諦観したように俺にそう言った。これじゃもう、授業どころじゃないな……。

 

「た、大変です! 織斑先生!」

 

 と、そう思っていたとき、山田先生が酷く慌てた様子で千冬様を呼んだ。

 

「どうした?」

 

「こ、これを……」

 

 山田先生は千冬様に小型端末を渡す。千冬様はそこに表示されているものを見た途端、険しい顔つきになった。

 

「全員注目! 今日のテスト稼働は中止だ! 各班ISを片付けて自室に戻れ!」

 

 千冬様がそう言うと、辺りは不可解だとばかりにどよめきが大きくなる。

 

「え、中止、なんで……」

 

「どういうこと?」

 

「状況が全然わかんないんだけど……」

 

 生徒たちは混乱し、騒がしくなる。

 

「とっとと戻れ! 以後許可なく外出した場合は身柄を拘束する、以上!」

 

「「「は、はい!」」」

 

 しかし千冬様の一言で、それも静まった。

 

「よし、専用気持ちは全員集合だ、織斑、オルコット、佐丈、凰、デュノア、ボーデヴィッヒ――それと、篠ノ之もだ!」

 

 ……面倒事の予感がするぜ。

 

「……俺のは量産機扱いじゃないんすか?」

 

「そんなわけないだろう、来い!」

 

 ですよね、そう思いながら、俺達は千冬様の指示に従い、移動した。

 

 

 途中、何故か首についてるISのギアから、チリチリと焼けるような感触があった。




すみません、だいぶ遅くなりました。SEKIROクリアしました。面白かったです(小並感)


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