仮面ライダーゲンム~Vengeance is mine~ (K/K)
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Stage 1

殆どゲンムというか檀黎斗は出ていませんが、次の話では活躍する予定です。


 2016年。人類は新たなウイルスの脅威に脅かされていた。その名はバグスターウィルス。

 コンピューターウィルスとして生まれたソレはあろうことか現実世界の人間に感染し、バグスターウィルス感染症、通称ゲーム病という病気を発症させ人々を苦しめてきた。

 バグスターウィルスの最大の特徴は、感染した患者の肉体を乗っ取りバグスターと呼ばれる実体となること。肉体を乗っ取られた患者はいずれこの世に何一つ残すこと無く消滅してしまう。

 しかし、人類もそれを黙って見過ごしている筈も無くそれに対抗する為に国が動き、衛生省によって極秘組織電脳救命センター――CRが組織される。

 この組織に属する若き医者たちは日夜バグスターウィルスから患者を救う為に戦い続ける――筈であった。

 

 

 ◇

 

 

 舗装された道を、コンビニ袋を片手に歩く白衣を着た青年。まだ幼さが残る容姿をしている彼は、CRに勤める研修医宝生永夢。

 日々、バグスターウィルスから患者を救い続けてきた彼であったが、彼も生身の人間。空腹では力も出ず、頭も働かなくなる。何時でも十二分の実力を発揮する為に近くのコンビニで昼食を買って、CRに帰る途中であった。

 このまま何事も無く無事に――

 

「ぐあっ!」

 

 ――という訳にもいかずトラブルが向こうからやってくる

 永夢の前に転がる様にして現れたのは、茶と黒を基調として装甲に覆われた怪人であった。頭部は境目の無いヘルメットの様な形状をしており、顔の上半分黒いゴーグルに覆われており、目らしき白い点が二つ。

 異形な姿。目の前にすれば、普通ならば避けるか逃げるかのどちらかであるが、永夢は躊躇うことなくその怪人に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!」

 

 コンビニ袋を捨てて安否すら心配する姿。まさに医者のあるべき姿と言えた。彼が躊躇うことなくこの怪人に近寄ったのは勿論訳がある。彼は、この怪人が何者か知っているからだ。

 怪人が動こうと手を上げるが、永夢はその掴み強引に止める。

 

「動かないで下さい!」

「うう……俺は……彼女を……」

 

 怪人の譫言に永夢は一瞬悲し気な表情になる。

 

(この人も仮面ライダークロニクルで、大切な人を……)

 

 仮面ライダークロニクル。バグスターウィルスを世に蔓延させた全ての元凶、幻夢コーポレーションから発売されたゲーム。しかし、それは様々な思惑が交差することによって生み出された悪夢のゲーム。

 今、目の前にいる怪人こそ仮面ライダークロニクルの参加者〈ライドプレイヤー〉なのである。

 

「すぐにCRに運びます。安静に――」

「あれぇ? 何でお医者さんがここにいるのぉ?」

 

 声はすれど姿は見えず。しかし、ライドプレイヤーが襲われたとなると相手はバグスター。

 そこから先の永夢の動きは流れる様であった。

 白衣の下から覗く私服の腰にいつの間にかベルトが巻かれる。蛍光グリーンの厚みのある外装をしたバックル。中央には蛍光ピンクの大きなレバー。その右部には何かを差し込む為の二つのスロットが備わっている。

 このベルトこそ研修医である彼をもう一つの姿へと変えるアイテムの一つ、ゲーマドライバー。

 永夢はベルトに装着されているサブホルダーから一本のアイテムを抜き取る。

 透明な基盤。その下はピンク色の外装パーツに覆われており、グリップの様な形状をしている。その側面には一頭身のキャラクターと『MICHTY ACTION X』の文字が描かれたシールが貼られていた。

 見る者が見れば、彼が突然ゲームソフトを取り出した様にしか見えないだろう。しかし、これこそが彼を変えるもう一つのアイテム、ライダーガシャット。

 ライダーガシャットに備わっているスイッチを押し起動させる。

 

『マイティアクションX!』

 

 快活な音声が鳴り響き、永夢の背後にゲーム画面が浮かび上がる。その画面に描かれるのはガシャットと同じ『MICHTY ACTION X』。そして、同時に浮かび上がる『Game Start』の文字。

 ガシャットが軌道すると共に永夢の中のスイッチも切り替わる。かつて畏怖と敬意から天才と呼ばれたゲームプレイヤー『M』としての顔が表に出る。

 

「この人の運命は――俺が変える!」

 

 ガシャットを持つ手を前に突き出し、腕を大きく回しながらガシャットを顔の横にまで持っていき、そこにもう片方の手を添え、剣の様に構える。

 

「変身!」

『ガシャット!』

 

 掛け声と共にガシャットがゲームドライバーのスロットに差し込まれた。

 

『レッツ・ゲーム! ムッチャ・ゲーム! ワッチャ・ネェィム!』

 

 永夢の周囲を旋回する複数のパネル。その中の一枚に向かって手を突き出す。

 パネルが永夢の前で止まり、パネルが永夢へと重なる。

 

『アイム・ア・カメンライダー』

 

 重なるパネルが永夢の姿を変える。

 特徴すべきはその姿。胴体の幅と同等の大きな頭部。首など見えず頭から直接生えている様に見える短い手。手に比べれば幾分マシに見えるが、それでも短く感じさせる足。

 顔を覆う大きなゴーグルとそのゴーグルに保護された大きな目。頭部には『く』の字型のピンクのヘッドパーツが天に向かって連なる。

 白い胴体には四色のボタンと一本のゲージ。

 どこかのマスコットキャラクターを彷彿とさせ、とても戦いが出来る様には見えない外見をしていた。

 これこそが永夢のもう一つの姿。仮面ライダーエグゼイド。

 

「うん? 仮面ライダークロニクルにそんな可愛い系のキャラなんて居たっけ?」

 

 背後から聞こえた声に気付き、エグゼイドは振り返り、そして驚愕する。

 丸い頭部。茶色の装甲。胸にはシャッターの様な装甲。自分の背後に横たわっているライドプレイヤーと全く同じ姿。正確に言えば少しだけ違う点があった。両腕にベルトが巻かれ、そこに二本ずつガシャットが差し込まれ、腰にも左右にホルスターが増設されており、そこに三本ずつガシャットが差してある。

 エグゼイドの前に立つライドプレイヤーは計十本のガシャットを身に付けていた。

 

「そんな……」

 

 思わず言葉を失う。今までライドプレイヤーを襲うのはバグスターだという先入観があった。事実、彼はバグスターによってゲームオーバーにされるライドプレイヤーたちを目撃している。

 ライドプレイヤーを襲うライドプレイヤー。この現実にエグゼイドは酷く動揺した。

 

「どうしたの? 何かビックリしてる?」

 

 エグゼイドの動揺を知ってか知らずか目の前ライドプレイヤーが馴れ馴れしく話しかける。

 その両手には倒れているライドプレイヤーから奪ったのか、銃と短剣が一体と化した武器ライドウェポンが一本ずつ握られている。

 

「プレイヤーがプレイヤーを襲うなんて……」

「ルール違反っていいたいの? でも幻夢のホームページにも仮面ライダークロニクルの説明書にもPlayer Killing――PK――はダメって書いてなかったと思うけど……」

 

 信じられない様子で呟くエグゼイド。それを聞いていたが、悪びれた様子は無かった。

 

「そういう問題じゃない! 仮面ライダークロニクルをプレイすること、そしてゲームオーバーになるとどうなるか知っているのか!」

「知っているよ。消えて無くなるんでしょ? 衛生省が散々テレビで言ってたからね。正直、あれ勘弁して欲しかったよ。あれのせいで見たい番組が潰れたし」

「ふざけるな!」

 

 仮面ライダークロニクルはプレイするだけでバグスターウィルスに侵され、ゲーム病に罹る。そして、ライフが尽き、ゲームオーバーになればその肉体は消失し消えて無くなる。それを解決する方法が無い現状、それは死と同義であった。

 だというのにこのライドプレイヤーは知っている上でプレイし、更には他のプレイヤーも襲っている。

 ゲーマーMとしてスイッチが入っているせいで只でさえ口調が荒っぽくなっているが、相手のふざけた態度で、そこに怒りが加わる。

 

「まああれこれ言い争うのなんてどうでもいいじゃない? こっちはやる気、そっちは?」

「待――」

 

 最後まで聞かずライドプレイヤーが一歩踏み出す。たった一歩。だが、その一歩で数メートルはあった距離が詰められ、ライドプレイヤーの間合いとなる。

 腰から顔を狙い、ライドウェポンが斬り上げられる。

 エグゼイドの知っているライドプレイヤーとは比較にならない速度。仮面の下で驚きつつも、身に染みている経験が体を動かし、その場から後退させる。

 眼前を通り過ぎていくライドウェポンの刃。間一髪避けることが出来たエグゼイドだが、ライドプレイヤーはそこから踏み込み、踏み込んだ足を軸に体を旋回。勢いのまま後ろ回し蹴りを胸部に打ち込まれた。

 

「ま、無くても出して貰うけどね。やる気」

「うあああ!」

 

 三頭身の身体が地面を勢い良く転がっていく。転がりながら、永夢はこのライドプレイヤーが普通ではないと考えていた。スピード、パワーの桁が違う。高レベルのバグスターか仮面ライダーと戦っている様な気分である。

 転がり終え、身体を起こす。エグゼイドの目に武器を振り上げて迫って来るライドプレイヤーが映った。

 エグゼイドに向け二つの刃が振り下ろされる。が、鳴り響く金属音。エグゼイドが手に

 持っているハンマーがそれを阻む。

 

「ん?」

 

 突然現れた武器に少しだけ驚くライドプレイヤー。エムはその隙にハンマーを突き上げ、ライドウェポンを撥ね上げた。

 

「おっと」

 

 撥ね上げられた勢いで数歩後退するライドプレイヤー。

 僅かに出来た時間の猶予。それを見逃さず、エグゼイドはゲーマドライバーの中央にあるレバーを握る。

 

「大変身!」

『ガッチャーン!』

 

 掛け声に合わせグリップを引く。中央のモニターが展開。そして、エグゼイドの前にピンク色に光の壁も展開された。光の壁にはエグゼイドに良く似た、だが頭身が違うキャラクターが描かれている。

 

『レベルアップ!』

 

 エグゼイドが目の前にある光の壁に飛び込む。

 

『マイティキック! マイティジャンプ! マイティ! マイティアクションX!』

 

 エグゼイドから手足胴体が離れ、顔だけになったかと思えば、そこから新たな、そして長い手足が出る。更には新たな頭部も現れ、顔だったものは背部のパーツと化した。

 振り返りその姿を見せる。

 三頭身の姿はエグゼイドアクションゲーマーレベル1。これは患者からバグスターウィルスを切り離す為の姿。

 そして、これがより格闘戦に特化した姿アクションゲーマーレベル2。エグゼイド三頭身の太ましい体はすらりとした体型となり、白の外装はピンクのボディスーツに変化、頭部も標準的なものになりヘッドパーツはより鋭角になる。

 

「ああ、お医者さんってレアキャラだったのか」

 

 変化したエグゼイドを上から下にかけて眺めた後、一人納得する。

 彼の言う通り仮面ライダークロニクル内において、永夢たち仮面ライダーはレアキャラというポジションに置かれており、倒せば強いアイテムが入手出来るという設定にされている。これは仮面ライダーが救うべきライドプレイヤーたちが仮面ライダーに牙を剥く様にする為のものである。

 

「なら、やる気も湧いてくるねぇ」

 

 常に覇気の無い喋り方をしていたライドプレイヤーであったが、少しばかり言葉に喜色が混じる。

 ライドプレイヤーが飛び掛かり、左のライドウェポンを頭部目掛けて振り下ろす。エグゼイドは再びハンマーでそれを受け止めるが、空いた脇腹目掛けて右のライドウェポンが奔る。

 だが、それが届く前にエグゼイドの爪先がライドプレイヤーの右手首を蹴り上げ、その手から武器を手放させる。

 

「あ」

 

 ライドプレイヤーの目線が上空で回転するライドウェポンに向けられた間に、エグゼイドはハンマー――ガシャコンブレイカーの側面に備わっているAとBのボタンの内、Bボタンを三度押し、柄にあるトリガーを押す。

 密着した状態から『HIT』という文字と派手なエフェクトが立て続けに三回起こり、その文字が示す通りにライドプレイヤーの左手に三度の衝撃が奔った。

 

「わお」

 

 仰け反るライドプレイヤー。エグゼイドは、今度はガシャコンブレイカーのAボタンを叩く。

 

『ジャ・キィーン!』

 

 ガシャコンブレイカーの頭から折り畳まれていた剣身が展開。先端が伸びてハンマーモードからブレードモードになる。

 

「おお。カッコイイね、それ」

 

 呑気に褒めているライドプレイヤーに向け、ガシャコンブレイカーを振り下ろ――すことは出来なかった。

 患者を、命を救う為に仮面ライダーになった。いくら目の前のライドプレイヤーが人を襲っていたとしても、このライドプレイヤー自身も既にゲーム病に罹っている。病人に対し、仮面ライダーとして医者として、ただ力を振るうことは永夢には出来ず、代わりに突き放す様にライドプレイヤーの胸に掌打を打ち込む。

 ライドプレイヤーは数歩後退したもののダメージは殆ど無かった。

 

「ふーん……」

 

 突然、攻撃方法を変えたエグゼイドに対しライドプレイヤーは、見詰めながら先程打たれた箇所を撫でる。

 

「優しいねぇ、お医者さん。まあ、まだやる気が出ないのはこっちの実力不足にさせてもらうよ」

 

 あからさまなことをしてしまったせいで、本気になれないことを易々と見抜かれる。

 

「レベルアップだったけ? さっきしたの?」

 

 そう言いながらライドプレイヤーはホルスターに入れてあるクロニクルガシャットを一本引き抜く。

 

「ならこっちもレベルアップだ」

『仮面ライダークロニクル!』

 

 ガシャットを起動させ、それを再びホルスターへと差し込んだ。

 

『仮面ライダークロニクル!』

『仮面ライダークロニクル!』

 

 差し込むと同時に他のガシャットも自動的に起動し。音声が立て続け鳴る。

 

『エンター・ザ・ゲーム! ライディング・ジ・エンド!』

 

 見た目に変化は無い。そもそも、ライドプレイヤーにレベルという概念は無い。しかし、ゲーマーとしての勘がエグゼイドに警鐘を鳴らす。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 左手に持つライドウェポンの剣背を押し、剣身をほぼ九十度曲げる。短剣モードから銃モードへと変わり、その銃口をエグゼイドに向け、柄にあるトリガーを三度引く。

 銃口から放たれる三発の光弾。それら全てがエグゼイドに向かう。

 ガシャコンブレイカーを構え撃ち落とそうするが、光弾の軌道を見てその動き止める。三発の内二発は、エグゼイドの左右を通過していき、三発目も頭上を通り過ぎていってしまった。

 文字通り的外れな撃ち方。あれほど何かを仕掛ける気配があったのに適当としか言い様のない撃ち方にエグゼイドは逆に動揺してしまう。

 

「うあっ!」

 

 だが、その動揺も背後から襲ってきた三度の衝撃によって掻き消される。

 背中から白煙を立ち昇らせた状態で咄嗟に背後を見る。他に仲間が居るかと考えたが、後ろにいるのは横たわってライドプレイヤーのみ。

 

「びっくりした? 次はもっと分かり易くするよ」

 

 そう言って頭上目掛け光弾を数発発射する。空目掛けて飛んでいく光弾だったが、ある程度の高さまで行くと突如角度を変えて、エグゼイドに向かって降り注ぐ。

 不可思議な軌道を描く光弾に驚くも、その光弾に向けガシャコンブレイカーを振るう。しかし、光弾がガシャコンブレイカーに触れようとしたとき、再び軌道を変えガシャコンブレイカーの刃の下へと潜り、そのままエグゼイドに着弾。派手な火花を散らす。

 

「うあああ!」

 

 堪らず地面を転がるエグゼイド。すぐに立ち上がるが、そのときには目の前に銃モードから短銃モードに戻したライドウェポンを振ろうとしているライドプレイヤーが居た。

 横薙ぎに振るわれるライドウェポン。それに合わせる様に振るわれるガシャコンブレイカー。

 しかし、互いの刃が交差することは無かった。ライドプレイヤーの刃もまた光弾と同じ不自然な軌道を描いてエグゼイドの刃を躱し、胸元を斬り付ける。

 火花と共に『HIT』の文字が浮かぶ。

 

「くっ!」

 

 痛みに耐えながらもお返しといわんばかりにライドプレイヤーの胸部に横蹴りを放つ。しかし、当たったと思った瞬間、『MISS』の文字が浮かび、その文字が示す通り足から蹴ったという感触が伝わってこない。

 不可思議な戸惑うエグゼイドにライドプレイヤーは肩から脇腹を袈裟切り、刃を返して今度は脇腹から肩にかけて斬り上げる。

 ×の字に斬られるエグゼイド。そこに追撃の膝蹴りがエグゼイドの顎を突き上げた。

 後方へ蹴り飛ばされるエグゼイド。膝蹴りで一瞬意識が飛びかけたせいで手からガシャコンブレイカーが離れ、地面に落ちる。

 エグゼイドは地面に膝を突きながら着地し、軽く頭を振るう。

 相手の攻撃は当たるのにこちらの攻撃は当たらない。何か理由がある筈だが、それが分からない。

 今のレベル2では不利だと考え、新たなライダーガシャットをゲーマドライバーに挿入しようか迷う。

 今所持している『マイティアクションX』以外のガシャットは4つ。その中で一番レベルが低いのはレベル3だが、おそらくそれでは歯が立たない。しかし、それ以上のレベルのガシャットとなると相手が無事で済まなくなる可能性がある。

 苦悩する永夢を他所にライドプレイヤーは地面に落ちてあるガシャコンブレイカーを拾い、しげしげと眺めていた。

 

「へぇー」

 

 握りを確かめ、軽く振った後、ガシャコンブレイカーにあるスロットに注目する。

 

「これは――こうすればいいのかな?」

 

 ライドウェポンを地面に突き刺し、腕のベルトに差し込んであるガシャットを抜いて、ガシャコンブレイカーのスロットに挿し入れる。

 

『ガシャット!』

 

 その音声はエグゼイドの耳にも届く。ガシャコンブレイカーを構えるライドプレイヤーに、エグゼイドもまたゲーマドライバーに挿してあるガシャットを抜く。

 

『ガシューン』

 

 抜いたガシャットをベルトの左腰部分に装備されているキメワザスロットホルダーに挿し込んだ後、ホルダー側面にあるスイッチを押す。

 

『ガシャット!』

『キメワザ!』

 

 エグゼイドは軽く屈み、右足を一歩後ろに引く。その足からは極彩色の光が放たれていた。

 

『ライダークリティカルフィニッシュ!』

 

 ライドプレイヤーのガシャコンブレイカーもまた黒と緑が混じった派手派手しい光を剣身に纏わせる。

 凝縮された力が一点に集い、互いに必殺の一撃を放つ準備が整う。

 

「ふっ!」

 

 先に動いたのはライドプレイヤーであった。

 下から上に向けガシャコンブレイカーを振り上げる。刃の軌跡から三日月状の暗緑の光が生まれ、それが斬撃と化し、地面を砕きながらエグゼイドへ一直線に飛ぶ。

 エグゼイドは曲げた膝をバネにし、向ってくる斬撃へ跳びながらもう一度キメワザスロットホルダーのスイッチを押した。

 

『マイティクリティカルストライク!』

 

 前宙返りをして体勢を変え、極彩の光を放つ右足を前に突き出し光刃を迎え撃つ。

 エグゼイドの放つ光とライドプレイヤーの放った光が衝突し合うとき、凄まじい爆発が生じ、その音が広がると共に地面を覆っているアスファルトが一気に剥がれ、周囲に飛び散る。

 

「くうっ!」

 

 爆発の中から転がり出てくるエグゼイド。体の至る所から白煙が上がっているが、すぐに立ち上がってみせた。完全とは言えないが相手の技を相殺出来た為、見た目よりも軽傷で済んだのだ。

 一方、ライドプレイヤーはというと斬撃を放ったガシャコンブレイカーの剣腹を愛でる様に撫でている。

 

「いいねぇ、これ」

 

 先程の一撃でガシャコンブレイカーをひどく気に入った様子であった。

 エグゼイドにしてみれば新しい武器を手に入れるということは、更なるPKの被害者を生まれることを意味している。ましてやそれが自分の武器ならば尚更取り返さなければならない。

 

「貰っていい? これ」

「いいわけないだろ!」

 

 駆け出そうするエグゼイドに、ライドプレイヤーはガシャコンブレイカーの切っ先を向ける。しかし、よく見ると向けられた切っ先はエグゼイドから少しずれていた。

 

「そっちは放っておいてもいいの?」

 

 その言葉が気になり、切っ先の示す先に目を向ける。

 最初に助けたライドプレイヤーの変身が解除されており、三十代前後の男性が胸を押さえて苦しんでいる。更には体にノイズが奔り、オレンジ色の光が回路図状に体から放たれている。

 男性はゲーム病が発症していた。

 悶え苦しむ男性。

 

「お医者さん、忙しくなりそうだからここまでにしようか」

 

 ライドプレイヤーがエグゼイドに背を向ける。

 エグゼイドは選択を迫られていた。男性を救護するか、ライドプレイヤーと追うか。追えばこれ以上PKの被害を出さずに済む。しかし、ゲーム病で苦しむ患者を見捨てることになる。

 エグゼイドが選ぶ選択は――

 

『ガッシューン』

「大丈夫ですか!」

 

 患者を救う選択をした。変身を解き、すぐに男性の症状を確認する。そして、すぐにCRへと連絡を取った。

 その際、ライドプレイヤーが立っていた場所が視界の端に映る。そこには誰の姿も無かった。

 

 

 ◇

 

 

 CRに何とか男性を連れてくることができ、ゲーム病の症状を安定さられた永夢は、部屋に設置されている机に思わず突っ伏す。ライドプレイヤーとの戦いから立て続けに患者の治療を行っていたので、かなりの疲れが溜まっていた。

 

「永夢、大丈夫?」

 

 伏せる永夢に話し掛けるのは、明らかに医療現場から浮いた恰好をし、少々テンションが高い喋り方をする女性であった。

 髪型はピンク色のボブカット。その頭にはスピーカー型の帽子が乗っている。薄黄色のトップスに袖は白い薄地の布。肩部は露出している。スカートはパニエによって広がっており、音符の形をしたアクセサリーがあしらってある。

 

「ありがとう。ポッピー」

 

 心配してくれたことに疲れを隠し笑顔で応じる。しかし、相手の表情は曇ったままであった。

 永夢を心配する彼女の名はポッピーピポパポ。名前の通り普通の存在では無い。彼女の正体はドレミファビートと呼ばれるゲームから生まれたバグスターであり、それも数少ない人に害意を持たない良性のバグスターである。

 普段は仮野明日那という名と人間の姿で、看護師としてCRで働いている。

 

「元気が無い。何かあったでしょ?」

「……やっぱり分かる?」

「永夢の本当の笑顔がどんなのか私、ちゃんと知ってるからね!」

 

 明るく言われ永夢は少し照れてしまう。隠すつもりは最初から無かったが、言い出すタイミングが中々見つからなかった。しかし、ポッピーのお陰で言い出す機会を得られる。

 

「実は――」

 

 患者をここに運んで来るまでの間のことをポッピーに話す。

 

「えー! ガシャコンブレイカー、取られちゃったの!」

「……ごめん」

「でも、そんなプレイヤーがいるなんて……! 私、許せない!」

 

 PK行為をするライドプレイヤーに怒りを覚えるポッピー。だが、永夢の話はポッピーだけではなく『あの人物』の関心をも引き寄せる

 

「その話、私にも詳しく聞かせてもらおうか」

 

 声の出処は、CRの隅に置いてあるドレミファビートのゲーム筐体。ポッピーの部屋として機能しているそれの画面には、パソコンの前に座っている一人の男性が映っていた。

 恥じらいも無く神を自称し、質が悪いことにそれに相応しい富んだ才を持つ天才にして傲慢の化身。あらゆる人間の悲劇と因縁の糸を辿れば、その先に座す男。

 その名は――

 

「黎斗さん……」

「新・檀黎斗だ! 間違えるなっ!」

 




個人的に書きたかったシチュエーションを色々と書いていく予定です。
時系列としては38、39話の間としていますが、違和感を覚えることもあるかも。


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Stage 2

 檀黎斗。この人物が如何なる者かを説明するには一言では難しい。

 ゲーマドライバー。そして、ライダーガシャットを生み出した天才的ゲームクリエイターであると同時に、バグスターウィルスによるパンデミックを引き起こし、多くの人々を消滅させた『ゼロデイ』という事件の元凶である。

 表向きは紳士。しかし、裏の顔は堂々と神を名乗り、自らの才能に絶対的自信を持つエゴイストであり極悪人そのもの。

 様々な悲劇を起こし、それを実験とし全く悪びれる様子も無ければ罪悪も持たない。

 はっきりと言えば諸悪の根源であり今すぐにでも罰すべき存在なのだが、彼が最も質の悪い理由として、彼の悲劇を起こす才能は同時にあらゆる人々を救うことが出来る救済の才能でもあるということである。

 

 

 ◇

 

 

「その話の詳細をもっと詳しく」

 

 ドレミファビートの筐体の中にいる黎斗が永夢へ話し掛ける。画面の中から外の住人に普通に話し掛けてくること自体、常人から見れば異常な事態であるが、黎斗はそれが可能な『特別』な存在であった。

 黎斗が椅子から立ち上がり画面に向かって歩いて来る。その姿が画面一杯になったとき黎斗の姿が消え、画面からオレンジ色の光の粒子が飛び出し、それが黎斗の形となる。

 檀黎斗が現在人間ではなくバグスターであるからこそ出来る能力である。自らの詰めの甘さと傲慢さのツケの代償を人間としての死で払ったが、そこから持ち前の才能によってバグスターとして復活するという、転んでもただでは起きないことを行動で証明してみせた。

 患者や他者に対し常に優しさを以て接する永夢ではあるが、この黎斗だけは例外であり過去にしたこと自分にしたことも含めて許すことの出来ない存在である。尤も彼本来の性格を知って嫌悪しない人間の方が少数ではあるが。

 本来の立場は宿敵同士だが、仮面ライダークロニクルを終わらせるという点で利害が一致しており、現在は協力関係にある。

 永夢も黎斗の人格には理解を示せないが、ゲーム関連の知識や技術は信用していた。

 

「君はそのライドプレイヤーが特殊な能力を使ったと言っていたが、具体的にはどんな能力を使ったんだい?」

「正確に言うと……向こうの攻撃が必ずこっちに当たる様になりました。全く違う方向に撃った筈の弾が全部命中したり、衝突する筈の剣がすり抜けてきたり。こっちは逆に全く攻撃が当たらなくなって――いや、当たっている筈なのに全然手応えが無かったです。あ、あと、その能力を発動した途端、急に強くなりました」

 

 永夢の情報に、黎斗の表情は険しくなる。

 

「エナジーアイテムも無しにそんなことが? ライドプレイヤーなのに永夢みたいなことが出来るの?」

 

 エナジーアイテムとは、ライダーガシャットを起動し、ゲームエリアが展開されると同時に至る所に置かれるライダーを強化または補助をするアイテムのことである。現在は『とある事情』によって使用することが出来ない。

 相手の能力を無効化する。エグゼイドもそれは使用可能ではあるが、それには永夢という特別な存在と特別なガシャットが必要になる。

 

「仮にエナジーアイテムを使用したとしても、そもそもそういった効果のアイテムは設定していない」

 

 ポッピーの疑問に黎斗は眉間に皺を寄せたまま答える。

 

「もしかしたら……」

 

 何か思い当たることがあったのか、黎斗は言葉を小さく洩らす。

 

「何? 何か分かったの? 黎斗?」

「……少し調べたいことが出来た。席を外させてもらう」

 

 そう言い残し黎斗はオレンジの光となって姿が消える。

 

「ちょ、ちょっと黎斗!」

 

 勝手な行動を咎めようとするが、その声が届く前に黎斗が何処かに行ってしまった。

 

「もう! 勝手に動いちゃダメじゃない! 衛生省の人たちに見つかったらすぐに逮捕されちゃうっていうのに!」

 

 まるで保護者の様に勝手な行動をする黎斗に怒りを見せる。そんなポッピーを永夢は苦笑しながら宥めた。

 

「黎斗さんも騒ぎを起こせばどんなことが起こるか理解している筈だし大丈夫だよ――多分」

「むぅ……そうだよね。黎斗も馬鹿なことはしないよね? ね?」

 

 二人揃ってはっきりと断言出来ないのが、檀黎斗という存在の面倒さを表しているとも言えた。

 

「――あっ。そうだ。私、院長に渡さなきゃならない資料があるんだった」

 

 ポッピーは、その場でくるりと一回転する。桃色の髪は黒のショートカットとなり、カラフルでな衣装は白一色の看護服に変わる。

 ポッピーピポパポから仮野明日那に切り替る。

 

「じゃあ。私、院長の所に行くから。ついでに黎斗のことも探してみる。病院の外には出てない筈だから」

 

 口調も落ち着いた年相応のものになる

 

「分かりました。いってらっしゃい」

 

 明日那は机に置いてあったファイルの束を取ると、CRから出て行く。CRの外にある扉の中に入る。そこはエレベーター内であり、先程明日那が入ってきた扉はCRへ行く為の隠し扉なのである。そこから普通にエレベーターから聖斗大学付属病院内に出ると院長室へと向かう。

 途中、ファイル内の資料がきちんと揃っているか確認する為にファイルを開き、軽く目を通す。

 僅かに視線を落としていた瞬間、前から軽い衝撃を受け、その場から数歩後退してしまった。

 誰かにぶつかったのだと気付き、慌てて謝罪する。

 

「ごめんなさい! 大丈夫ですか!」

 

 明日那と衝突したのは、見た目が十代後半ぐらいの少年であり、身長は平均的だがかなりの痩身であり、下手をすれば明日那よりも細い体格をしていた。

 

「いえ。こっちもちゃんと前を見ていなかったので……」

 

 目線を伏せる少年。その目線を追うと片手に携帯ゲーム機が握られていた。

 

「本当にすみません……」

 

 申し訳なさそうに肩を落とす少年の姿に、明日那は慌てて慰める。

 

「謝る必要なんてないです。こっちも不注意でしたし……あの、怪我は無いですか?」

「はい。大丈夫です。こんな見た目ですけど大きな怪我はしたことはないので」

 

 自虐なのか冗談なのかいまいち分からず、明日那は愛想笑いも浮からべれないまま複雑な表情で止まってしまう。

 このままではいけないと思い、ふとゲーム機が目に入ったので無理矢理話題をそちらに向けた。

 

「それって新作のゲームだよね? よくゲームはするの?」

「はい。と言っても趣味の範囲ですけど。天才ゲーマー『M』 とか一億プレイヤー『N』 には遠く及ばないですけど」

 

 先程よりも口調が速い。かなりのゲーム好きらしい。

 話題を逸らすことが出来たが、代わりに知人の名前が急に出てきてドキリとする。そんな明日那の反応を他所に少年は饒舌に話続ける。

 

「最近のゲームも悪くないですが、どうもいまいち熱が入らないんですよ。このゲームも面白いのことは面白いんですけど、やり込む要素が足りないというか――やっぱり幻夢コーポレーションのゲームが肌に合います。でも社長が代わってからはちょっと……檀黎斗社長のときのゲームが一番好きでした」

 

 黎斗の名前が出てきたことに更にドキリとした。黎斗自身、ゲーム作成に異常なまでの情熱を注ぎ込み、その結果多くの人を苦しめることを良しとしている。だが、それでも彼が創り出した物で目の前の少年の様に憧憬を持つ者も居ることを知ると内心複雑な心境となる。

 明日那が複雑そうな表情をしていることに気付き、少年は気まずそうな顔になる。

 

「ああ、すみません。いきなり一人で喋り続けて。しかも初対面の人に。鬱陶しかったですよね?」

「そ、そんなことないですよ。聞いいて本当にゲームが好きだってことが伝わりましたから」

 

 嫌味も皮肉も無い純粋な評価に少年は照れた表情となる。

 対照的に明日那は表情を引き締め、少年の会話で気になったことを問う。

 

「君が幻夢コーポレーションのファンらしいけど、もしかして――」

「仮面ライダークロニクルをやっていないかどうかですか? 安心して下さい。やっていません。怖いゲームらしいですからね、今は普通の店では売ってもいません」

 

 先回りして答える少年。それを聞き、明日那は安堵する。この様な若い少年が仮面ライダークロニクルのプレイヤーだったら、それだけで気が滅入ってしまう。

 

「ごめんなさい。ちょっと気になって」

「仮面ライダークロニクルは色んな人たちに広まりましたから、気になるのはしょうがないですよ」

「そうね。……あ、ごめんなさい引き留めて」

 

 自分の仕事を思い出し、明日那は少年に軽く頭を下げる。

 

「少しですけど話して楽しかったです。さよなら、お姉さん」

「貴方も体を大切にして下さいね」

 

 互いに別れを告げ、離れていく。明日那は足を止めずに院長室に向かうが少年は数歩進んで足を止め、背後を振り返り小さくなっていく明日那の背を見詰める。

 

「やっぱりそうだよな……あのお姉さん」

 

 確信を含んだ言葉。少年は明日那と話していた時以上に愉し気な笑みを浮かべると、携帯ゲームをしまい、代わりに携帯電話を取り出す。登録されている番号を選び、そこに電話をかけた。

 

「もしもし――うん。そうだよ。今、時間ある?――ああ、あと適当に二、三人程誘っておいて。――場所は聖斗大学付属病院。――うん、そうだよ」

 

 ひ弱な印象を受ける少年。だが、今の彼からは触れることを躊躇う程の気が放たれていた。

 

「ああ。ゲームをしよう」

 

 

 ◇

 

 

 とある病院の一室。その中では本をめくる音だけが一定の間隔で流れていた。

 本をめくるのはベッドの上で上半身だけ起こしている黒髪に所々白髪が混じった男性。病衣から覗く包帯が痛々しく、まだ傷が癒えていないのが分かる。

 ベッドのすぐ側では長い髪にカラフルな帽子、それに合わせたカラフルなジャケットを羽織るストリートファッションを着こなす顔立ちの整った少女がイヤホンを挿した携帯ゲームを黙々とプレイしていた。

 互いに会話が無いが、決して険悪な空気が流れている訳では無い。寧ろ逆に二人によって空間が完成されており、外部の者が入るのを躊躇わせる。

 が、そんな空気など構うことなく入って来る者が居た。

 いきなり病室内に集まり始めるオレンジ色の粒子。それを見て本を読んでいた男性は、持っていた本を投げ捨てると共に側に居る少女を庇う様に自分の後ろへ下げる。

 

「……何しに来やがった、てめぇ」

 

 粒子が人の形、檀黎斗になった途端、警戒は露骨な嫌悪に変わる

 

「そう身構えないでくれ。君に用が会って来た訳じゃないんだ、花家先生」

「だったらとっとと消えろ」

「傷の具合はどうかな?」

「お前の顔を見るだけで悪化しそうだ」

 

 白髪混じりの男性――花家大我は表情を顰めながら辛辣な言葉を返す。敵意を隠そうともしない。事実、黎斗の無駄に爽やかな笑顔のせいで腹が立ち、宿敵との戦いで受けた傷がそのせいで疼く。

 彼は聖斗大学付属病院の元医師であり、そしてCRにも所属していた仮面ライダーだが、あることを切っ掛けに医師免許を剥奪され、CRからも追い出された。彼もまた黎斗によって人生を狂わされた一人である。敵意を見せるなという方が無理であり、寧ろ今にも襲い掛かってもおかしくはなかった。

 

「早く失せろ」

「用が済んだらさっさと出て行くさ」

 

 黎斗の目線が大我から黒髪の少女に向けられる。黎斗に見られた途端、少女は怯える様に大我の術衣の袖を掴む。

 

「西馬ニコくん。今日は君に頼みたいことがあるんだ」

「……何?」

 

 優し気に頼む黎斗に対し、野良猫の様な警戒心を剥き出しにする。

 西馬ニコ。天才ゲーマーMに匹敵する腕を持つゲーマーであり、年収一億を稼ぐゲームプレイヤー『N』という顔を持つ。ゲーム病を患った際に大我に面倒を見て貰ったことを切っ掛けに彼の患者という立場で共に行動する様になった。

 

「君のクロニクルガシャットを貸して欲しい」

「はあ? 何であんたに貸さなきゃならないの?」

 

 にこやかに頼む黎斗とは真逆で顔を嫌悪感で歪めながら黎斗の頼みを一蹴する。

 爽やか笑みが一瞬だけ引き攣る。

 

「決して悪い様にはしない。だから貸してくれないか?」

「いーやー!」

 

 舌まで出して拒否するニコ。

 

「この私がここまで頼んでいて何だその態度はぁぁぁぁぁ!」

 

 紳士の顔が一気に剥がれ落ち、中から素の性格が表に飛び出る。

 

「いいから貸せ!」

 

 ニコに詰め寄る黎斗。

 

「離れろ!」

 

 大我が読んでいた小説の角を黎斗の側頭部に叩き付ける。

 

「くぉっ!」

 

 バグスターであっても痛いものは痛い。少しの間沈黙するが、黎斗は悪鬼の如き形相で今度は大我に詰め寄った。

 

「貴様ぁぁぁぁ! 私の神の頭脳が傷ついたらどうするつもりだぁぁぁ! 私の才能は世界の財産よりも価値があるものだぞ!」

 

 怪我人でも構うことなく術衣の胸倉を掴んで揺さぶる。

 

「大我から離れろ!」

 

 ニコは背負っていたリュックサックを黎斗の後頭部目掛けでフルスイング。

 

「ぶぇっ!」

 

 リュックサックにはバッチがいくつも付けられおり、それの直撃により黎斗は悶え苦しむ。が、すぐに立ち上がってみせた。

 

「君たちを遊んでいる暇はない! いいから出せ! 出せぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 ◇

 

 

 院長にファイルを渡した明日那は、別件の仕事の為にCRへ帰ろうとしていた。

 

「看護婦さん!」

 

 すると突如呼ばれ、すぐに声の方に目を向けると必死な形相をした見知らぬ少年が奔り込んできて、明日那の前で勢い良く転倒する。

 

「だ、大丈夫!?」

 

 突然のことに驚きつつ、少年を起こそうとすると、少年は顔を上げ半泣きの表情で起こそうとしていた明日那の腕を掴んだ。

 

「た、助けてくれ! 俺の友達が! 友達が!」

 

 半狂乱となっている少年を何とか落ち着かせようとする。

 

「どうしたの? 何があったの? 落ち着いて話して」

「い、いきなりた、倒れたと思ったら苦しみ始めて、そ、そしたら体が透けたり、変な光を出したり!」

 

 明らかにゲーム病の症状。一刻を争う事態だと分かり、明日那の表情が険しいものになる。

 

「場所は何処?」

「こ、ここからそんなには遠くないです!」

「案内してくれる?」

「はい!」

 

 少年は頷き、走り出す。その後を明日那も追う。

 このとき、明日那は疑問に思うべきであった。周りを見れば看護師の姿がちらほらと見えるというのに、何故その中で明日那のわざわざ選んだのかを。尤も少年の必死さな様子にそのことに気付くことは出来なかった。

 人を救いたいという優しさの為に。

 

 

 ◇

 

 

 少年に案内された場所は病院から走って十分程の場所であった。両脇に年季の入ったビルが建ち、日を遮っているせいか空気が冷たい。人通りから少し離れていることもあり人気も無かった。

 

「あそこです!」

 

 少年が指差す方向には蹲っている少年の姿があった。明日那は急いで駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!」

「う、うう……」

 

 返事は無く呻くだけ。明日那は首に掛けてある聴診器を向ける。

 聴診器型機器、ゲームスコープから出た光が少年に当たる。この光を当てれば、どんなバグスターウィルスに侵されているかモニターに表示される。

 

「――え?」

 

 明日那は戸惑った声を出してしまう。浮かび上がったモニターに何も表示されていない。つまりバグスターウィルスに感染していないことを意味している。

 

「へぇ。CRってそんな機械まで持ってるんだ」

 

 初めて聞く声。振り返ると明日那の顔を間近で覗き込む白色の双眸。

 

「だ、誰!?」

 

 思わず仰け反る。そこで相手の全体像が見えライドプレイヤーであることに気付いた。

 ライドプレイヤーは明日那の質問に答えるよりも先にクロニクルガシャットを取り出す。

 

「ああ、もういいよ」

「ほぉーい」

 

 気の抜けた返事と共に蹲って少年が立ち上がり、体に付いたゴミを払う。

 

「これ、約束の」

 

 ライドプレイヤーが少年に向かってクロニクルガシャットを投げ渡す。それを受け取ると少年は手の中のクロニクルガシャットを嬉しそうに眺めた。

 

「おーい、『テン』。俺の分はー?」

「分かってるよー」

 

 新たなクロニクルガシャットを取り出し、明日那を連れてきた少年に渡す。

 

「はい。特別仕様」

「うおし!」

 

 受け取ると嬉しそうにガッツポーズをとる。

 

「なんかずりーなー」

「おいおい。成功したのは俺の名演技あってこそだぜ?」

「嘘吐け。絶対下手くそだっただろ」

「はっ! 今度見せてやんよ! 俺のアカデミー級の演技を」

「言ってろ」

 

 まるで何事もなかったかのような日常会話。状況を呑み込めず取り残されていた明日那であったが、自分が嵌められたことに気付くと困惑が怒りに染まっていく。

 そのとき、改めてライドプレイヤーの姿を見て通常のライドプレイヤーとは異なる姿をしていることに気が付く。腰と腕に装着されているクロニクルガシャット。彼女が永夢から聞いていたPK行為をするライドプレイヤーと同じ特徴であった。

 

「まさか……貴方が永、エグゼイドを!」

「エグゼイドっていうだ、あの人。格好良い名前だね」

 

 明日那の問いに答えながら正解と言わんばかりに手の中にエグゼイドから奪ったガシャコンブレイカーを出現させてみせた。

 

「貴方たち! どうしてこんな真似をしたの!」

 

 声を荒げる明日那であったが、当の少年たちは平然とした態度でマイペースに会話を続けていた。

 

「で? この女の人誰なの?」

「前に見たんだけどね、仮面ライダークロニクルのマスコットで審判みたいなことをやってたお姉さんだよ」

「え? この人、CRなんじゃないのか? 何で感染者増やしている仮面ライダークロニクルに関わってんの?」

「そんなこと知る訳ないじゃん。何かあるんじゃないの? 特別な大人の事情ってやつが」

「……やっぱり人違いなんじゃないのか?」

 

 少年二人は疑い目で明日那を見る。

 

「絶対合っているって。あの時は派手な格好していたせいで最初は気付かなかったけど。名前なんだった? パピプペポーみたいな感じのだったような」

「何それ? 変なの……」

「パッピーパピプペだったかなー?」

「ああ、何かそんな名前のキャラがドレミファビートに居たなぁ。ピッピーピポピポだったけ?」

「ポッピーピポパポッ!」

「そうそう! それそれ!」

 

 間違い続けられる自分の名に堪らず正しい名を叫んでしまう。テンと呼ばれたライドプレイヤーは、つっかえが取れた様な態度で明日那に拍手を送った。

 

「でもさぁ。会いたいのは、そっちじゃないんだよね」

 

 テンはガシャコンブレイカーで肩を軽く叩きながら明日那を見詰める。仮面越しだというのに明日那はその視線に嫌なものを感じた。

 

「変身、してたよね? 道具使ってパァっと。あれ、見せてくれないかな?」

「……そうしたら、貴方たちはどうするつもり?」

「そりゃあ、お互いに変身しているんだから戦うに決まっているでしょ?」

 

 さも当然の様に言うテンというライドプレイヤーに寒気を感じる。ライダークロニクルは決して遊びでは無い。命懸けの戦いなのである。

 

「私は……変身しない」

 

 明日那はテンの願いを拒否する。人を守る為に戦ってきた。人の命を奪う真似をすることなど彼女の良心が許さない。

 

「え? しないの? どうしよう?」

 

 本当に困った様子で周りの少年たちに意見を聞く。

 

「いや、どうしようって……。ノープランなのかよ」

「変身出来ないって言うんだったら変身させる理由を作ればいいんじゃないの?」

「変身する理由か……」

 

 少しの間、考える仕草を見せていたが急に何かを思い付いたらしく勢い良く手を打ち鳴らす。

 

「そうだ! 確かお姉さん、ルール違反にペナルティーを与えるときに変身してたよね? だったら何の問題も無いね」

 

 いまいち話が嚙み合っていないことに気付く。明日那は、この少年たちが未だに自分が仮面ライダークロニクルの運営側に関わっていると勘違いをしているのではないかと思い始めていた。

 

「ここにいる全員『ルール違反者』だから、安心して変身していいよ」

 

 彼が何を言っているのか意味が分からない。見た目は少し変わっているが一体どんなルール違反をしているのだというのか。

 重要な告白をしたというのに行動する素振り全く見せない明日那に、テンは困った様に後頭部を掻く。

 

「まだダメ? はぁ……あんまり暴力的なのは好きじゃないんだけど仕方ないか。二人とも準備」

 

 テンの指示に従い、二人の少年はクロニクルガシャットを構える。

 

「だ、ダメ!」

『仮面ライダークロニクル』

 

 止めようとする明日那の声を無視し、二人の少年はガシャットを起動させた。クロニクルガシャットから発せられた光が少年たちを包み込む。

 

『エンター・ザ・ゲーム! ライディング・ジ・エンド!』

 

 電子音声が鳴り響く中で、少年たちはライドプレイヤーに変身する。

 

「そんな……」

 

 それ以上言葉を続けることが出来なかった。クロニクルガシャットを起動させれば確実にバグスターウィルスに感染する。目の前でみすみす患者を生み出してしまったことに、明日那はショックを隠せない。

 そんな明日那の様子など気になどせず、変身した少年たちはライドプレイヤーの感触を確かめる様に、拳を振るったり、蹴りで空を裂いたりなどしてはしゃいでいた。

 

「で、こっちの準備は出来たけどお姉さんはどうする?」

 

 ガシャコンブレイカーを明日那に突き付け、挑発する様に尋ねてくるテン。明日那は、奥歯を噛み締め悔しそうな表情をしつつ決断する。

 これ以上、彼らのゲーム病が悪化する前に。そして、永夢の武器でPKなどという人を傷付ける行為をさせない為に。

 明日那の手にいつの間にかゲームパッドが握られていた。水色の筐体の中央にはモニターが備えられており、それを挟む様にAと刻まれたボタンとBと刻まれたボタンがある。これだけ見れば只のゲーム機だが、ゲーム機の両端、Aボタン側から突き出た二門の銃口。Bボタン側から伸びたチェーンソーらしき刃を見れば普通のゲーム機ではないことが分かる。

 明日那はそれを腹部に当てる。

 

『ガ・チョーン』

 

 するとベルトが現れ、それを固定した。

 続いて取り出すのはピンクの本体に女の子のキャラクターが描かれたガシャット。そこには『ときめきクライシス』とゲーム名も描かれていた。

 ガシャットに備わったスイッチを押し、ゲームを起動させる。

 

『ときめきクライシス!』

 

 装着したゲームパッド――バグルヴァイザーⅡのBボタンを押し、バグルヴァイザーⅡの上部にあるスロットへと『ときめきクライシス』のライダーガシャットを挿し込み、スロットにあるスイッチを押す。

 

『バグルアップ』

 

 ガシャット内のデータを読み取らせ、変身プログラムを実行させる。

 

『ドリーミングガール 恋のシミュレーション 乙女はいつもときめきクライシス!』

 

 煌びやかに光る光の帯に包まれ、明日那の姿は変わっていく。

 ピンク色のソックスが膝まで覆い、黒のタイツを下地にして金色の装甲が腰回りにミニスカートの様に装着、胸部や両肩にも同じく装着される。頭部はピンクのボブカットの様なパーツで覆われそこにハートをあしらったカチューシャが付けてあった。その顔は青いアイパーツが輝く。

 顔を除けば『ときめきクライシス』に描かれていたキャラクターに酷似したその姿こそ仮野明日那ことポッピーピポパポが変身した仮面ライダーポッピーである。

 

「やっとプレイヤーが揃ったね。じゃあ、二人ともいってらっしゃい」

 

 テンは二人のライドプレイヤーの肩を叩く。

 

「テンはやらないのか?」

「君の試運転の邪魔もするのも何だしね。それに彼のデビュー戦にちょっかい出すのも忍びない。今回はサポートに徹しさせてもらうよ。という訳で気楽にいってくれ」

 

 テンはそう言って二人から離れていく。

 

「そういうことなら」

 

 ライドプレイヤーたちは、ライドウェポンを取り出すと振り翳しながらポッピーに向かって走り出す。

 ライドウェポンの間合いまで接近すると二人は躊躇無くそれを振り下ろした。

 

「え?」

 

 ライドプレイヤーの一人が呆けた声を出す。彼の想像では振り下ろしたライドウェポンの刃はポッピーを斬りつけている筈であった。しかし、目の前で実際に起こっているのはライドウェポンの刃を素手で掴み取っているポッピーの姿である。

 ライドプレイヤーの、それも素人同然の斬撃などポッピーに届く筈もない。文字通りレベルが違う。

 ライドウェポンを掴まれた二人は、取り戻そうと全力で引くがびくともしない。

 

「えい!」

 

 軽い掛け声と共に手を捻る。咄嗟に反応出来なかった二人は、ライドウェポンごと回転し、背中から地面に落ちてしまう。手に持っていたライドウェポンもポッピーにもぎ取られ、遠くへ投げ捨てられてしまった。

 

「いでっ!」

「あがっ!」

 

 受け身も取れず無様に着地する二人。それを見てテンは他人事の様に笑っていた。

 

「あははははは! カッコ悪いな! 凄くカッコ悪い!」

「うっせぇ!」

 

 一人が悪態を吐きながら立ち上がるとポッピーに殴り掛かる。撫でる様な動作で拳を軽々と弾くポッピー。続け様に殴るがどれも軽々と捌かれてしまう。

 

「くそ! くそ! なんだそりゃあ!」

「もう止めて! 大人しく変身を解いてCRに来て!」

 

 熱くなるライドプレイヤーとは反対にポッピーは相手のことを気遣い、冷静に対処する。彼女にとって彼らは敵では無くゲーム病に冒された患者であった。だが、そんな気遣いも彼らには舐めた態度にしか映らない。

 もう一人のライドプレイヤーも立ち上がり、戦いに加わる。二対一となり手数も増えるが、その全てをポッピーは受けるか躱すかして直撃を避けていた。

 まるで大人と子供の喧嘩の様な実力差。本気で攻めているライドプレイヤーに対し、傷付けないようポッピーは守備と説得しかしない。

 絶えず振り続ける拳も次第に振りが鈍くなり、体が思う様に動かなくなっていく。

 二人のライドプレイヤーは肩で息をする程疲れ始めていた。

 

「たあっ!」

 

 疲労する二人の隙を狙い、ポッピーは二人の胸部を強く押す。ただそれだけのことで二人の体は後ろから引っ張られたかの様に飛んで行き、背中から地面に着地。アスファルトを削りながらテンの足元で止まった。

 

「一方的だなぁ。ははははは」

 

 他人事の様に呑気な感想を漏らすテン。この状況においても一切動揺も焦りも見せない。その態度にポッピーは不気味さを覚える。

 

「笑ってんなよ! どうすんだよ! 滅茶苦茶強いぞ! あのナース!」

「まあ、きっとレベルが違うんだろうねぇ。君らがレベル1か2ぐらいだとしたら、向こうはレベル50ぐらいあるんじゃないかな?」

「反則だろ、それ……どうやっても勝てないじゃん。嫌だぜ、俺。初バトルが黒星スタートなんて」

「何言ってんだよ。反則は――」

 

 テンが仰向けになっているライドプレイヤーの一人の上に握った手を突き出す。

 

「――これからするんだから」

 

 開かれる手。その指の間には三枚のコインが挟まれており、力瘤を作るキャラクターが描かれていた。

 それを見たポッピーは、思わず叫ぶ。

 

「エナジーアイテム!」

 

 現在ゲームエリア内で入手することが出来ないエナジーアイテムを持っていることに驚きを隠せない。

 

「どうやってそれを手に入れたの!?」

「手に入れた訳じゃないよ。『創った』んだよ。お姉さん」

 

 テンの指からエナジーアイテムが落とされる。落ちていく最中に少し大きめの硬貨サイズだったのが、人の顔が隠れる程の大きさになり倒れているライドプレイヤーの体の中に吸い込まれる。

 

『マッスル化!』『マッスル化!』『マッスル化!』

 

 何処からともなく鳴り響く声。エナジーアイテムを吸収したライドプレイヤーの上半身は倍以上の厚さに膨れ上がり、無機質な見た目が筋骨隆々とした姿になる。

 

「おおっ!」

 

 自分の体の変化に驚きながらライドプレイヤーを地面に手を着きながら立ち上がろうとする。すると手を置いた箇所を中心にコンクリートに亀裂が生じる。驚き手を離すとそこにはくっきりと手形が残っていた。

 

「おおおー!」

 

 体を起こすという単純な動作でここまでの破壊を生み出したことにライドプレイヤーは更なる感嘆の声を上げた。

 

「何かずるくねぇ? 俺にもそういうの無いの?」

 

 片方がパワーアップを施されたことに不満を漏らすもう一人ライドプレイヤー。

 

「言ったでしょ? そっちは特別仕様だって。そっちのには『内蔵』してあるから」

「内蔵?」

 

 テンの言葉に首を傾げ、暫しの間その場所から動かなかった。

 

『高速化!』『高速化!』『高速化!』

 

 突如としてそのライドプレイヤーの姿が声を残して消える。次の瞬間にはポッピーの背後に立っていた。その手に奪われた筈のライドウェポンを持って。

 

「成程。こりゃいい」

 

 感心しながらポッピーの背を斬りつける。ライドプレイヤーの動きについていけなったポッピーは無防備な背から火花を散らす。

 

「きゃあ!」

 

 不意打ちに悲鳴を上げながら前のめりに倒れていくが、地面に倒れ伏す前にその肩を掴まれた。顔を上げれば上半身を膨張させたライドプレイヤーがポッピーを無理矢理立たせている。

 

「お返し」

 

 静かな言葉とは裏腹に強烈な右ストレートがポッピーの胸部に炸裂する。エナジーアイテムで何倍にも増幅された一撃に耐え切れず、ポッピーは変身を解除しながら地面を転がっていった。

 

「うう……」

 

 胸を押さえながら仰向けに倒れるポッピー。そんな彼女にテンが近付き、その手を伸ばす。

 思わず目を瞑る。しかし、痛みも衝撃も無い。代わりに腹部にあった重みが消えた。

 目を開けるとテンの手にバグヴァイザーⅡが握られており、それを興味深そうに眺めながら挿してあったライダーガシャットを引き抜いた。

 

「ふーん。こうなってんだー。物騒な造りしてるんだねー。で、ときめきクライシスかー。結構好きなゲームだよ。全キャラ攻略したし」

「俺はやってねー。恋愛ゲームは趣味じゃない」

「俺はやった。女キャラよりもデブナルシストの脇役のキャラが濃すぎる。まあ、それが良かったけど」

 

 口々に感想を言いながらこの場を去ろうとする。

 

「ま、待って!」

 

 ポッピーが呼び止めるが、彼らの足は止まらない。

 永夢のガシャコンブレイカーを取り返そうとしたが逆に自分の物が奪われた不甲斐無い結果に涙が出そうになる。

 

「彼女に何をした?」

 

 その声に去ろうとしていたテンたちの足が止まる。新たに現れた声。だが、ポッピーはその声の人物を良く知っていた。

 

「黎斗!」

 

 現れた人物の名を思わず叫んでしまうポッピー。

 

「黎斗?」

 

 ポッピーの呼んだ名に聞き覚えがあるのか、テンは振り返り現れた人物を注視した。

 その人物――檀黎斗の腰にはゲーマドライバーが握られており、その手には漆黒

の外装をしたガシャットが握られている。

 皆の視線が集まる中で黎斗はガシャットを起動させた。

 

『マイティアクションX!』

 

 起動させたガシャットを薬指に引っ掛け重力に任せて垂れ下げる。

 

「グレード0――変身!」

 

 ガシャットをゲーマドライバーに挿し込み、中央にあるレバーを開く。

 

『ガチャーン! レベルアップ!』

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティーアクショーンX!』

 

 黎斗の周囲を回転する複数のパネル。その中の一枚に向かって左手を突き出す。等身大のキャラクターが描かれた光る壁が現れ、それが黎斗を通過する。壁を通り抜けた後の黎斗は人の姿をしていなかった。

 天を突く様に鋭く尖った黒いヘアパーツ。白を中心とし黒と赤が渦巻く様な双眼。黒を主とした体に紫のショルダーパーツ。

 テンが対峙したエグゼイドとは異なる配色をした仮面ライダー。

 

「返答しだいでは君たちにはゲームオーバーになってもらう」

 

 漆黒を外と内に持つ者、仮面ライダーゲンムは敵対する者たちに殺意を込めた宣言をした。

 

 




今年最後の投稿になります。
敵は何となく察したかと思われますが、違法DLと違法改造をモチーフにした敵にしています。


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Stage 3

久し振りの投稿となります。


「おお!」

 

 鋭く尖ったくの字が連なったヘッドパーツ。

 

「おお?」

 

 黒のボディースーツに流れる様に走る銀のライン。

 

「……おお」

 

 ライドプレイヤーのリーダー格であるテンが戦ったエグゼイドとは対照的に暗い色を主とした仮面ライダー。

 その名もゲンム

 

「……」

 

 檀黎斗が変身し、その後の姿を見せるまで興奮した様子を見せたテンであったが、何故か変身後の姿を見ると消沈したかの様に黙ってしまう。

 

「何だ? その反応は?」

 

 相手の露骨な態度が気になったのか思わず問う。

 

「いや、何ていうかさ……レアキャラと会えたー! って思ったらさ、ただの色違いだったからさー」

「何だと……?」

 

 明らかに失望した態度。それに反応し、ゲンムの言葉に熱が込められ始める。

 

「いっぱいゲームキャラクターを創るのは大変だと思うよ? でもさー折角のレアキャラが手抜きだと、ゲームしている側としては残念というか悲しいというか……せめてあのエグゼイドとかいうキャラと明確な違いがあったらー」

「勘違いをするなぁぁぁぁ! ゲンムはエグゼイドよりも先に生み出されたライダーだっ! ゲンムこそがオリジナルでありエグゼイドの方が二番煎じだ!」

「本当?」

 

 只の色違い扱いされたことに激昂するゲンム。それを疑う様に小生意気な態度で真偽を疑うテン。

 するとゲンムはゲーマドライバーに挿してあるライダーガシャットを引き抜き、テンたちに見せつける。

 

「このガシャットこそ私が最初に作ったα版であり、プロトタイプのゲームガシャットだ!」

 

 黒のガシャットにモノクロのキャラクターが描かれている。

 

「プロトタイプ! いいねー。そういう響きは大好きだ――ところで」

 

 子供の様に一瞬はしゃいだ後、急に大人しくなる。ゲンムはその反応で怒りが冷めたのか、見せつけたライダーガシャットをドライバーに挿し戻す。

 

「そこのお姉さんが、貴方のことを黎斗って呼んだけど。もしかして貴方の名前は檀黎斗で合ってる?」

 

 期待が込められた質問にゲンムは一笑する。

 

「違うな」

「え! そうなんだ……」

 

 否定され肩を落とす。ライドプレイヤーの姿でもがっかりした様子が分かる。しかし、次の言葉でそれも一変する。

 

「私の名は新・檀黎斗だっ!」

『……』

 

 ゲンムの名乗りにテンを含むライドプレイヤーたちは沈黙した後、ひそひそと小声で話し始めた。

 

「え? 急に何言ってんのあの人?」

「なあなあ。会って少ししか経ってないけど、絶対あの人頭が変な人だよ。何か俺、関わりたくねぇよ」

「雑誌のインタビュー記事では普通の大人って感じだったんだけどねー。結構ユーモラスな人だね」

 

 黎斗に対する第一印象をそれぞれ口に出す。

 

「……まあいいや。この際、檀黎斗でも新檀黎斗でも。俺、貴方が創るゲームのファンなんですよ」

「ほう?」

 

 自らファンを名乗るテンに、ゲンムは少しだけ関心を持つ。

 

「ゲンムコーポレーションが出したゲームは全部やったしクリアもしました。当然全部やり込みましたよ」

「感心だな」

 

 如何にファンであるかをアピールする。

 

「だから、一ファンとして当然ゲームクリアをしたいんですよね。仮面ライダークロニクルも」

 

 テンが手を振ると、それに従い二人のライドプレイヤーが構えた。

 

「レアキャラの貴方を倒せば新しい武器も手に入るみたいですし、これとこれみたいに貰いますね?」

 

 バグヴァイザーⅡやガシャコンブレイカーを見せつける。

 

「ゲームマスターである私に勝てると思っているのか?」

「それはやってみなければ分かりません。――じゃあ、行こうか」

 

 それを合図にし、ライドプレイヤー二人が走り出す。

 ライドプレイヤーの一人が拳を大きく振り上げ、ゲンムの顔目掛け横から振るう。

 ゲンムは身を低くしてそれを躱しつつ前進し、ライドプレイヤーの胴体に素早く左右の拳を当てる。計五発のパンチを受け、ライドプレイヤーは大きく後退した。

 ゲンムが攻撃を繰り出している内にもう一人のライドプレイヤーが背後へと回り、拾い上げたライドウェポンで斬り付ける。

 

『ガシャコンブレイカー!』

『ジャ・キィーン!』

 

 しかし、ゲンムはそれを出現させたガシャコンブレイカー・ブレードモードの刃で難なく受け止める。

 鍔迫り合いをする両者。だが、ライドプレイヤーは両手で、ゲンムは片手で武器を握られた状態であり、二人の力の差が現れている。

 

「はっ!」

 

 ガシャコンブレイカーを切り上げると、ライドプレイヤーは力負けをし両手を天に向ける姿となる。

 無防備となった腹部に、ガシャコンブレイカーを一閃させるゲンム。

 

『鋼鉄化!』

 

 刃が届く前に音声が鳴ると同時にライドプレイヤーの体が一瞬銀色の光に包まれた。その直後に横薙ぎの一撃がライドプレイヤーの腹部を直撃する。

 甲高い金属音が鳴り、火花が飛び散る。しかし、ライドプレイヤーの腹部は傷一つ負っていなかった。

 

「黎斗! 気を付けて! その子たち、どういう訳か使えない筈のエナジーアイテムが使えるの!」

 

 明日那が黎斗に声を飛ばす。テンと呼ばれたライドプレイヤーはエナジーアイテムを生み出し、別のライドプレイヤーはエナジーアイテムの効果だけ使用することが出来る。それは今までに無い能力の相手であった。

 ゲンムはそんな明日那の忠告を聞いたか聞いていないか分からないが、ガシャコンブレイカーのブレードを折り畳みハンマーモードにすると、ライドプレイヤーに向かって振りながら素早くBボタンを連打する。

 ガシャコンブレイカーがライドプレイヤーの胸部を叩く。すると浮かび上がる『HIT』の文字。それも一回だけでなく立て続けに数回浮かび上がり、その文字が浮かぶ度にライドプレイヤーの体は衝撃で跳ねる。

 

「うがっ!」

 

 数回の打撃をまとめて受けたことで、防御を高めていたライドプレイヤーも苦しそうな声を上げながら受けた打撃の回数分後退していく。

 二人のライドプレイヤーたちと一定の距離が開いたこの時を狙い、ゲーマドライバーに挿していたライダーガシャットを抜き、ベルト側面にあるキメワザスロットホルダーに挿し込み、すぐ側のスイッチを押す。

 

『ガシャット!』

『キメワザ!』

 

 ゲンムが今から何をしようとしているのかが分かり、明日那は叫んだ。

 

「ダメっ! 黎斗っ!」

 

 その必死の声も無視し、ゲンムは跳び上がる。

 

『マイティクリティカルストライク!』

 

 ゲンムの両足が発光する。黒と紫の入り混じった光を纏わせゲンムは空中で右足を突き出す格好をとる。

 狙う先には先程ガシャコンブレイカーを叩き付けたライドプレイヤー。受けた箇所を押さえてまだ苦しんでいる。

 

「避けろっ!」

 

 味方のライドプレイヤーが叫んだとき、彼はそこでゲンムに狙われていることに気付くが時既に遅し。

 ゲンムの右足が彼の胸元に炸裂。纏ったエネルギーを一気に流し込まれた。

 

「ぐあああああああ!」

 

 だがゲンムはそこで止まらない。続いて左足でライドプレイヤーを蹴り付け、その反動でもう一人のライドプレイヤーに目掛け跳ぶ。

 

「え?」

 

 後転しながら迫るゲンム。その動きにライドプレイヤーは咄嗟に反応出来ず、頭上から打ち下ろされるゲンムの右足を脳天に受け、地面に向かって叩き付けられた。

 

「あうっ!」

『会心の一発っ!』

 

 響き渡る音声と共にライドプレイヤーたちの変身は解除される。その姿を見て明日那は表情を蒼褪めさせた。

 仮面ライダークロニクルで負けるということは、その存在の消滅つまり死に等しい。目の前でこれから消え行くであろう少年たちの命。そして、それを躊躇無く奪った黎斗に呆然とするしかなかった。

 

『ゲームオーバー』

 

 ダメ押しの様に絶望的な一言が添えられ、少年たちはこれから消えていく。

 ――かに思われた。

 パキン、という乾いた音が鳴る。

 明日那が反射的にその音の方へと目を向けると、そこには砕けて壊れたライダークロニクルガシャットが白煙を上げて散らばっていた。

 今まで見たことの無い現象。更には――

 

「う、うぐぐ……いってぇー」

「人に本気で蹴られたの、初めてかもしれない……」

 

 蹴られた箇所を押さえながら、少年たちがヨロヨロと立ち上がる。消滅する所か喋る余裕さえあった。

 

「え? え? どういうこと? 何で無事なの!? もうピプペポパニックだよー!」

 

 事態が呑み込めず明日那姿でポッピーの口調で混乱する。それほどまでに目の前の光景は理解不能なものであった。

 

「やはり……」

 

 黎斗だけはこの事態に落ち着いた様子を見せる。彼には何が起きたのか理解してい態度であったが、心なしかその声に怒気が含まれている様に聞こえる。

 

「貴様ら……!」

 

 今度は分かり易い程の怒りや怨嗟、殺気をテンや少年たちに向ける。

 

「もしやと思っていたが、よくも私のゲームで! それも仮面ライダークロニクルで汚らわしい真似をしてくれたなぁ!」

 

 キメワザスロットホルダーから抜いたライダーガシャットを、今度はガシャコンブレイカーに挿し込み、刃を展開させる。

 マイティクリティカルストライクを放ったときと同じ光を刀身に纏わせ、テンに向かって斬りかかる。

 

「怖いなぁー」

 

 余裕の態度を崩さないまま、テンは体に巻き付けてあるクロニクルガシャットを起動させた。

 

『仮面ライダークロニクル』

 

 音声が鳴る同時にゲンムはテンの胴体を斬り付けた。しかし――

 

『MISS』

 

 直撃かと思われた必殺の斬撃は浮かび上がったエフェクトの通り、テンに対し一切のダメージを与えられなかった。

 手応えの無さに舌打ちをするゲンム。するとテンは飛び下がりながらゲンムに向け、数枚のコインを投げつける。

 反射的に切り払おうとするゲンム。だが、刃がそのコインに触れる前に空中で停止し、巨大化する。

 

『発光!』

 

 視界を焼く強烈な閃光を目の前で放たれた。離れて見ていた明日那ですらその光に目を瞑ってしまう。間近でそれを見たゲンムの目は一時的に見えなくなってしまう。

 

「があっ! 目がぁ! 貴様ぁぁぁ!」

 

 闇雲にガシャコンブレイカーを振り回す。テンには当たらず、ビルの壁やコンクリートの地面を斬り付けるだけであった。

 

「じゃあ、これ貰っていくね」

 

 それだけ言い残すと離れていく足音。

 少し経ってようやく視力が回復したゲンムは辺りを見回す。テンの姿も倒れていた少年たちの姿は無く、更にライダーガシャットごとバグヴァイザーⅡも持ち去られていた。

 

「返せぇぇぇぇぇ! 私のガシャットとバグヴァイザーを!」

 

 怒りが頂点に達したゲンムは、空に向け怨念染みた咆哮を上げるのであった。

 

 

 ◇

 

 

「それでガシャットとバグヴァイザーを盗られちゃったの?」

「ごめーん!」

 

 CRに戻り何があったのか事情を説明する明日那ことポッピーは、永夢の言葉に泣きそうな表情で謝罪する。

 

「永夢のガシャコンブレイカーを取り返したかったのにー!」

 

 自分の無力さを嘆くポッピーに永夢は慰め様に肩に手を置いた。

 

「ありがとう。でも、ポッピーが怪我をせずに戻ってきてくれた良かった」

「永夢ぅー!」

「しかし、ゲームオーバーをしても消滅しないライドプレイヤーとは……今までに無かったケースだな」

 

 飛彩は特異な事態に眉根を潜める。変身中のライダーがライダーゲージ即ち体力がゼロになりゲームオーバーとなったとき、その体は消滅する。絶対に等しいルールであったが、それを捻じ曲げる事態は彼らにとって予想外であった。

 

「そのことなら、今黎斗が調べてるよ」

 

 ポッピーの視線が自分の家であるドレミファビートの筐体に向けられる。画面にはドレミファビートの待機画面――ではなく、画面越しからでも分かる程の鬼気を放つ黎斗が憤怒の表情をしながら滅茶苦茶な勢いでキーボードを叩いていた。

 下手に声を掛ければ凄まじい勢いで噛み付いてくるのが目に見えているので、作業が終わるまで静観することにした。

 と一同思っていると――

 

「あ! いた!」

 

 CRの扉が開きニコが現れ、筐体に映る黎斗を指差す。

 

「アタシのガシャット返せ!」

 

 筐体に近付き、画面をガンガンと叩き始めた。

 

「ちょっとニコちゃん! 止めて! そこは私の家でもあるの!」

「放してポッピー! こいつ嫌だって言ったのにガシャットを無理矢理持っていったの!」

 

 ポッピーに羽交い締めにされても構わず筐体の画面を叩き続けるニコ。

 

「ニコちゃんのクロニクルガシャットを?」

「そう! ひったくって姿を消したの!」

「ちょっと黎斗!」

 

 聞き捨てならずポッピーも画面の向こうにいる黎斗に呼び掛ける。

 すると、キーボードを打つのを止め筐体から黎斗が飛び出してきた。その手に筐体内で使用していたノートパソコンを持って。

 

「うるさいぞ。私に何か用かね?」

「アタシのガシャットを返せ!」

「ほら」

「え! ――うん」

 

 抵抗されるかと思いきやあっさりとガシャットを差し出され、面食らった様子でニコはガシャットを受け取った。

 

「何か分かったんですか?」

「当然だ。私にとっては容易いこと」

 

 いつもならばそこで高笑いの一つでもする筈だが、今の黎斗は苦虫を嚙み潰したような表情をしており、非常に不愉快そうであった。

 その表情のまま黎斗は椅子に座り、ノートパソコンを操作し出す。

 

「先程の戦いで彼らが使用していたガシャットを回収した。殆ど壊れていたが、何とかデータを抜き出すことが出来た。それがこれだ」

 

 黎斗は破損したガシャットを、ガシャット用の機械に挿し込む。そして、皆に見える様にパソコンの画面を見せる。しかし、映っているのはプログラムの羅列であり知識が無い者が見ても全く分からない。

 そこでポッピーがあることに気付く。

 

「あれ? もしかしてこれ、バグスターウイルスに感染して無い?」

 

 同じバグスターだからこそ感覚で分かる。クロニクルガシャットで変身した者は必ずゲーム病に感染する。つまりクロニクルガシャット内に発症させる為のバグスターウイルスにガシャットが汚染されている筈なのだが、そんな形跡が一切無い。

 

「その通りだ」

 

 ポッピーの指摘を黎斗が肯定する。

 

「バグスターウイルスが居ないクロニクルガシャットだなんて……一体何故なんですか? 黎斗さん」

 

 すると黎斗の表情がより一層険しいものとなる。口に出すことすら汚らわしいと言わんばかりに。

 

「このガシャットは通常のガシャットとは違う。……これはコピーされた不正なガシャットだっ!」

 

 湧き出す怒りにじっとしていられないのか、机を叩き付けながら立ち上がり黎斗が吼える。

 

「コピーされたガシャットって……え! それってクロニクルガシャットのプロテクトが破られたってことですか!?」

 

 通常、データを守る為にゲームにコピープロテクトというプログラムが施されている。これによって外部からの解析を不正・違法コピーから守るのだが、黎斗の言葉を信じればそのプロテクトが無効化されたという。

 ポッピーや飛彩はいまいちピンときていない様子であったが、永夢と同等にゲームに詳しいニコも永夢と同じく驚いた表情をしている。

 そこらで売られているゲームのプロテクトが破られたのならこんなには驚かない。ゲンムコーポレーションから発売されたゲームのプロテクトが破られたことに驚愕しているのだ。

 ゲンムコーポレーションは様々なゲームを発売しどれも大ヒットさせてきたが、それに加えて不正・違法行為に対しての対策が他のゲーム会社より頭一つ以上抜けていると評されるほど強固且つ絶対的なものであった。

 ゲンムコーポレーションから発売されたゲームがネットなどで違法に配布されたことなど今まで一度も無く、ゲンムコーポレーションゲームデータは不可侵の領域とまで呼ばれていた。

 

「永夢やポッピーが苦戦したのもこれで納得出来た。彼らのガシャットは不正な改造が施されている!」

 

 攻撃が急に当たらなくなる。逆に外れた筈の攻撃が当たる。使用出来ない筈のエナジーアイテムを生み出したり、エナジーアイテムを使用せずにその効果を得るなどの通常ならば有り得ない現象。だが、中のデータを解析出来ていればそれも可能になる。

 

「おのれぇ……! 私のゲームをチートコードで穢す様な真似を……!」

「でも、それが出来るってことはこのガシャットを人に挙げてたテンって人、かなりの知識を持っているってことだよね?」

 

 いくらプロテクトが甘かろうとそれを破る知識。データを解析出来ようともそれに手を加える技術が無ければ意味が無い。そうなるとあのテンと呼ばれたライドプレイヤーは、黎斗に迫るプログラマーなのかもしれない。

 

「じゃあ、どうしてあの子たちはゲームオーバーになってもデータ化しなかったの?」

「簡単なことだ。このコピーされたクロニクルガシャットは不完全なんだ」

 

 パソコンのキーを叩く。表示された二種類のプログラムコード。よく見ると片方には幾つか欠損している箇所があった。

 

「見たまえ。ゲームオーバーする際、装着者をデータ化するプログラムが入力されていない。このせいで蓄積されたダメージがプレイヤーではなく全てガシャットに向けられる様だ。このクロニクルガシャットのように」

「つまり、クロニクルガシャットが二度と使えない代わりに身代わりになってくれるという訳ですか」

「皮肉だな。正規品よりも模造品の方の安全性が高いとは……」

「私はこんな中途半端なガシャットなど決して認めないっ! 私が目指した仮面ライダークロニクルはこんな子供騙しでは無い!」

 

 使用すれば命に関わるゲームを肯定し、命を奪わないゲームを否定する黎斗に不快感を覚える永夢たちだが、どんなに話し合ってもこの話題に関しては平行線を辿るしかないことが分かっていたので、話を進めることを優先した。

 

「それで、どうしてこんなことに?」

 

 その瞬間、黎斗は机を激しく叩く。

 

「パラドたちのせいだっ!」

「パラドたちの?」

「彼女のクロニクルガシャットを分析して分かった。このガシャットのプロテクトは私が想定していたよりも三十パーセントも守りが甘いっ! これではデータを盗み放題だ!」

 

 歯ぎしりをし、全身から憤怒を溢れさせる。

 

「あのバグスターどもめぇ……ゲームマスターの私を差し置いて仮面ライダークロニクルを奪っただけに飽き足らず、こんな杜撰な管理までしていたとは……!」

 

 黎斗はバグスターになる前にバグスターであるパラドによって消滅させられていた。その後バグスターたちによってゲンムコーポレーションから仮面ライダークロニクルが発売される。その二つに対して黎斗はいまだに強い恨みを持っているが、今回の件でその怨恨は更に深まる。

 

「それだった今のゲンムコーポレーションの社長がどうにかしてくれるんじゃ……」

 

 今、ゲンムコーポレーションはバグスターたちの手から離れある男の支配下にある。より正確に元に戻った、と言うべきだが。

 

「確かに利益を重視するあの男ならばすぐに手を打つだろう。だが! 今のゲンムコーポレーションでは完璧なプロテクトを施すのは無理だ。何故ならこの神の才能を持つ私が居ないのだからなぁ!」

「じゃあ、黎斗さんがプロテクトを作れば……」

「そんなものは既に組んである!」

 

 パソコンのキーを叩くと、画面にプログラムコードの羅列が並ぶ。その仕事の早さは神と自称するだけのことはあった。

 

「それならこれを!」

「どうする? あの男に渡すのか? 素直に受け取ると思うのか?」

 

 その指摘に閉口してしまう。黎斗の言う様に相手の性格を考えると、このプログラムを素直に受け取るとは考えにくい。何か仕込んでいないかと勘繰られる可能性があった。

 

「まあ、プログラムが出来ていることをちらつかせるだけでもいいかもしれないな。時間は掛かるが、我慢出来ずに向こうがこちらに擦り寄ってくるだろう。ゲーム会社にとって不正コピーなど癌に等しいからな!」

 

 恨みを吐き捨てる。未だに黎斗の怒りは収まらない。

 

「ついでに改造コードを打ち消すコードも作っておく! 暫く私の邪魔はしないでくれ!」

 

 黎斗はパソコンを持つと筐体の中へ戻っていった。

 

「……それで、これからどうする? 研修医」

「どうするって……どうしましょう?」

 

 これまでの様なバグスターとは違い、コピーガシャットを使用する者たちの詳細は殆ど知らない。どれだけの規模、数など不明。唯一分かっていることはコピーガシャットをばら撒いているのがテンと呼ばれているだけである。

 ガシャコンブレイカーだけでなく、バグヴァイザーⅡとときめきクライシスのライダーガシャットも奪われた。この三つは玩具に出来るものでは無い。特にバグヴァイザーⅡなど一般人が使用すれば致死量のバグスターウイルスに感染し死亡してしまう危険がある。

 命に携わる者たちとして一刻も早く彼らから取り戻さなければならない。

 しかし、肝心の手段が見つからなかった。

 

「黎斗ー! 何かいい方法は無い?」

 

 筐体に向かってポッピーが呼び掛ける。こういった医療外の分野では黎斗の力を借りるしかない。が、筐体からの返事は無い。

 

「くーろーとーっ!」

 

 声量を先程の倍にしてもう一度呼び掛ける。

 

「静かにしてくれっ! 私のクリエイティブな時間を邪魔するなっ! そっちはそっちで対策しておく! 大人しく待っていろ!」

 

 筐体から頭だけ出し、ポッピー以上の大声で怒鳴る。裏返った怒声にCRの面々はうるさそうに顔を顰め、ニコなど耳を押さえて露骨な態度をしていた。

 怒鳴るだけ怒鳴って黎斗は筐体の中に戻っていく。

 

「……とりあえず僕らで出来るだけのことはしましょう」

「そうだな」

 

 効率的な策は黎斗に任せ、永夢たちは地道な聞き込みから情報を探す方針となった。

 

 

 ◇

 

 

 病院内では老若男女問わず多くの人たちが出入りする。

 

「ちょっといいかな?」

 

 永夢は十代前半の子供を呼び止めた。

 

「何?」

「実は――」

 

 コピークロニクルガシャットのことはなるべく詳細には語らず、最近身近にゲームガシャットを売る、もしくは配っている様な怪しい人物の噂は無いか質問する。コピークロニクルガシャットのことを敢えて隠しておくのは、何も知らない子供が逆に興味を持たない様にする為の配慮である。

 

「ごめんなさい。知らないです」

 

 その子供は心当たりが無いと首を横に振った。

 

「答えてくれてありがとう。呼び止めてごめんね」

 

 礼を言い、手を振りながら去って行く少年を見送る。

 

「すみませーん」

 

 後ろから声を掛けられ、永夢は振り返る。そこには見送った子と同じ年頃の少年が居た。

 

「宝生永夢先生って知ってますかー?」

「え? 宝生永夢は僕ですけど……」

「ああ! いきなり当たりだ! 丁度良かった!」

 

 少年は笑うが、その笑みは無邪気というにはどこか黒いものが含まれていると永夢は感じた。

 

「実は、CRに案内してほしいんですけど」

「CRに? どうして?」

「テンからのメッセージを届けに」

 

 少年の言葉に、暫しの間永夢は硬直した。手掛かりどころか、向こうの方から現れたことに思考が一瞬追い付かなった。

「メ、メッセージって!」

「それはCRに案内してくれたら教えますよー」

「だったら僕が皆に――」

「テンからは、CRの先生方に直接伝えたいって言われているですよねー。だから連れていって下さい」

「……もし、断るって言ったら?」

「このまま帰るだけです」

 

 永夢は強い意志を込めた目で少年を凝視する。普段は温厚な青年から放たれる鋭さと冷たさが伴った眼光。しかし、少年が怯む様子は無い。優位な立場という精神的余裕があるせいか、あるいは並みの神経を持ち主ではないのか。

 見る永夢とそれを受け止める少年。静かな根比べが病院の隅で行われていた。

 やがて、永夢は眉間に皺を寄せ、苦渋の選択だと言わんばかりの表情となると、少年から視線を離す。

 

「……こっちだよ」

「ありがとう。永夢先生」

 

 礼を言う少年の声だけは、本当に無邪気なものであり、この少年がPKと関係しているのかと思うと、永夢を複雑な気持ちにさせた。

 

 

 ◇

 

 

「……研修医。ここは部外者以外立ち入り禁止だぞ?」

 

 少年を連れてきた永夢を見て、飛彩は静かな怒りを飛ばす。

 

「すみません。彼は――」

「もしかして、その先生もレアキャラ?」

 

 会って早々、少年は飛彩を見て、永夢に質問する。

 

「それは……」

 

 正直に答えず口ごもるが、その反応が答えを言っている様なものであった。

 

「研修医!」

 

 更に強い言葉を飛ばし、連れて来た理由を催促する。

 

「この子が、テンという人のメッセージを届けに来たんです」

「何だと?」

 

 飛彩は、疑う様な鋭い眼差しを少年に向けるが、その眼力に、少年は恐れもせず薄ら笑いを浮かべていた。

 

「教えて! テンって人は私たちに何を伝えたいの!」

「ちょっと待って。えーと」

 

 少年がズボンのポケットに手を入れ、中から年季の入った折り畳み式の古い携帯電話を取り出す。そして、携帯電話を操作しある番号に繋げる。

 

「もしもし? うん。僕。うん。ちゃんと入れてくれたよ。人数? 三人。――いや、居ないよ。代わりに別のレアキャラっぽい人はいる」

 

 電話の向こうの人物と会話した後、永夢たちにその携帯電話を差し出した。

 

「代わってくれって。誰が出る?」

 

 差し出された携帯電話を永夢が受け取る。

 

「――もしもし」

『あー。その声はあのときのお医者さん?』

 

 電話越しから聞こえる声。それはあのとき戦ったライドプレイヤーの声。即ち、テンという人物のものであった。

 

「貴方がテンですね?」

『その呼び方ってあんまり好きじゃないんだよね。体にクロニクルガシャット十個付けていたから、っていう単純な理由だから。でも、フランス語とかドイツ語読みだとちょっと痛々しいよね? 先生はどっちがカッコイイと思う? お医者さんだからドイツ語?』

 

 いきなり話を脱線させてくるテンに、永夢は少し怒りを混ぜた口調で話を元に戻す。

 

「ふざけないで下さい! 不正にコピーしたガシャットを配って、貴方は一体何が目的なんですか!」

『ああ、もうばれてたか。流石はゲンムの元社長』

 

 一人ケラケラ笑うテン。人の神経を逆撫でする笑い声であった。

 

「質問に答えて下さい!」

『そりゃあ、ゲームをする為に決まっているでしょ?』

「ゲームを?」

『衛生省が仮面ライダークロニクルについて注意したから、プレイヤー人口は減った。表向きはね。それでもやっぱり裏じゃプレイヤーは結構居るんだよ。それにクロニクルガシャットが欲しい人も。消えた人を助けたい、とか純粋に刺激が欲しいとか。だからそういった人たちの為に提供しているのさ』

 

 あっさりと目的を語るテン。その内容に永夢は言葉を失う。

 

『今も先生たちのおかげで盛り上がりそうなんだ。貰ったこの武器やガシャットを賞品にして、ちょっと大きめの遊びを、ね』

 

 自分たちの物が、プレイヤーを釣る為の餌にされることに永夢は強い怒りを覚える。

 

「そんなこと絶対にさせない! 阻止してみせる!」

『無理だね。絶対に無理』

「そんなことは無い!」

『無理だよ。もう始まっちゃているから』

 

 その言葉に永夢は絶句した。

 

『中断させたいならどうぞご自由に。場所は教えるよ。場所はね――』

 

 開催場所を躊躇なく教えてくるテン。その思考は永夢には測れなかった。

 

「どうして……」

『先生たちが来たらもっと盛り上がると思ったから。じゃあね。待ってるよ』

「待っ」

 

 通話は切られ、向こう側からは沈黙しか流れて来なくなる。

 

「終わった? じゃあ、僕はこれで」

 

 連絡が終わったのを見て、少年は立ち去ろうとする。

 

「待て」

 

 その前に飛彩が立ち塞がった。

 

「このまま黙って帰すと思ったか?」

「黙って帰した方が良いと思うよ?」

「何?」

「病院に居たのが、本当に僕一人だけって思い込んでない?」

「なっ」

「このまま僕が戻られなかったら。どうなるかなー? 先生はどうなると思う?」

 

 少年の言葉が、はったりか本当かは調べる術が無い。だが、患者たちに危害が及ぶ可能性が一パーセントでも有るのなら、それを無視することなど出来なかった。

 苦渋に満ちた表情のまま、飛彩は少年に道を譲る。

 

「いい人だね、先生は。……うちの両親も見習って欲しいぐらいだ」

 

 引っ掛かる言葉を残して少年はCRから去っていった。

 

「僕たちも急がないと!」

「待て、研修医。一体どんな内容だったんだ?」

 

 通話内容は永夢しか聞けていない。永夢は口早に聞かされた内容を飛彩たちに伝える。聞かされた飛彩とポッピーも、先程永夢と同じく絶句していた。

 

「早く止めないと!」

「場所は分かっているんだな? 研修医」

「はい! ……ポッピーはここで待ってて」

「う、うん……」

 

 変身出来ない自分が向かっても足手まといになることは分かっていたので、永夢の言葉に大人しく従う。同時に何も出来ない自分に対し不甲斐なさを強く感じていた。

 

「早く行くぞ、研修医」

「は、はい!」

 

 落ち込むポッピーにまだ声を掛けてあげたいと思っていた永夢だったが、飛彩に急かされ後ろ髪を引かれる思いで、CRを後にする。

 

「頑張ってね。二人とも……」

 

 二人の無事を祈るポッピー。するとドレミファビートの筐体から黎斗が飛び出して来た。

 

「ん? 彼らは何処に?」

「え? さっきの全く気付いていて無かったの!?」

「私の神聖且つクリエイティブな時間には、些末なことなど耳にも目にも入ってこないのでね」

 

 悪びれる様子もなく逆に誇らしげな表情をする黎斗に、ポッピーは溜息を吐きたくなるのを堪えて、何があったのかを説明した。

 説明を聞き終えた途端、誇らしげな表情が不快の感情で曇る。

 

「私の居ない間にそんなことがあったとは……」

「黎斗も永夢たちと一緒に戦って!」

「いいのかポッピー? ――私のゲームを不正にプレイしている輩などバグスター以上に容赦するつもりはない」

 

 言われてポッピーは思い出す。黎斗とあのライドプレイヤーたちが戦ったときのことを。不正プレイヤーだと知らない状態でも、黎斗は容赦なく相手をゲームオーバーにした。運良く消滅しなかったが。

 黎斗の倫理観は下手をすればバグスター以上に人から離れている。もし、仮に黎斗をライドプレイヤーたちの戦いに参戦させたら――

 そこまで考えてポッピーは頭を激しく振るう。これ以上考えても碌な想像にはならない。

 

「全く。あと少し待てば彼らに神の恵みを授けられたものを……」

 

 嘆息する黎斗の手には、ポッピーが見たことの無いガシャットが握られていた。

 

「まさか、それって!」

「対コピーガシャット用に創った新たなライダーガシャットだ」

 

 そのガシャットをポッピーに手渡す。

 ワインレッドの外装パーツのガシャット。だが、手にしたポッピーは一つの疑問を浮かべる。

 

「これって何のゲームなの? 何も貼られてないよ?」

 

 ライダーガシャットの外装パーツには、それがどんなゲームか一目で分かる様にゲームタイトルと登場キャラクターが描かれたシールが貼られている。しかし、このガシャットにはそれが無い。

 

「そのガシャットはゲームではない」

「え?」

「早くそれを永夢に届けてくれ。使えばすぐに分かる」

 

 これ以上説明する気は無いとポッピーに早く行くよう促す。

 納得し切れ無い様子のポッピーだが、黎斗が創り出す物には一定の信用があったこと、永夢たちが心配だったこともあり、それ以上言及せず現場に向かうことに決めた。

 

「私、永夢たちにこれを渡してくる! 黎斗はここで大人しくしていてね!」

 

 母親が子供に言うような台詞を残し、ポッピーは急いで永夢たちを追いかけていった。

 元より行く気の無かった黎斗は、ポッピーの去っていく姿を一瞥した後、再び創作活動に入ろうと筐体に向かう。

 

 チャチャチャーチャチャチャーチャーチャーチャーチャー。

 

 着信音。見ると机の上に古い機種の携帯電話が置かれていることに気付く。

 予感するものがあったのか、黎斗はその携帯電話を手にし、通話ボタンを押す。

 

『もしもしー。今出ているのは誰ですかー?』

 

 その声の主は黎斗も知っている。間違いなくテンである。

 

「貴様……」

『あ、その声! 檀黎斗さん?』

「新・檀黎斗だっ!」

『ああ、間違いなく社長さんだ』

 

 黎斗の反応に確信し、笑い声を上げる。

 

「何故もう一度掛けてきた? 永夢たちは既に君たちの下に向かったぞ」

『なーんとくっていうやつですかね? もし、もう一度電話をして貴方が出なかったら、そのまま向かおうと思っていたけど予定変更』

「何?」

『社長さん。僕と取引しない?』

「取引だと?」

『僕が奪ったあの武器二つと、ガシャットを返すよ。代わりに社長さんが持ってるレアなガシャットが在ったら交換しない?』

 

 テンの要求に、黎斗の表情が歪む。神と自負する自分に対等の取引を持ち掛けくること自体が不快の極みであった。が、すぐにその表情を不気味な笑みに変える。

 

「いいだろう。とっておきのガシャットと交換してあげよう」

『話が早いねー。楽しみにしていまーす。取引場所は――』

 

 場所だけ聞くとこれ以上話す事は無いと言わんばかり通話を一方的に切る。

 黎斗は笑みを張り付けたまま、ある場所に向かう。

 厳重に施錠された扉。だが、黎斗が少し本気を出せば鍵など無いに等しい。ほんの数秒で扉を開け、中から黒のケースを取り出した。

 ケースには『GD』といマーク記されている。

 ケースを開くと、そこにはケースと同じく黒の外装パーツのガシャットたちが収納されている。

 これこそが五年前のゼロデイを引き起こし元凶。プロトガシャットである。

 

「彼らには、神の罰を与える必要があるなぁ」

 

 並ぶプロトガシャットを見て、加虐的な笑みを深める黎斗。これを使用したときの彼らの反応を想像し、哄笑する。

 

「フハハハハハハハハハハハ!」

 

 このとき彼は気付いていなかった。その笑い上げる黎斗の背を陰から覗く存在のことを。

 

「何か知らないが、ノってるねぇ……」

 

 

 




二次創作ですから、やっぱりオリジナルフォームを出そうと思っています。
一つは次の話で出す予定です。


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