響かない声 完結 (レイハントン)
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Episode 声を出せない彼女との出会い

こんにちは。

絶賛続きを書いてる途中ですが、途中報告も込めて1話完結の短編を書きました! 実はあの約束の続きだったり………。ここのアニメ回に関してはいろいろ言いたい事があります。香澄だって悪気があって声を潰したわけじゃないと思うんですよ。

長くなるので、続きは読んでから!


 最近風邪を引いてしまった。熱はないけど、鼻づまりが凄くてね。梅雨に入る前は少し気温が高くて、梅雨に入ってからは気温が低い。そんな感じで気温の変化が激しかったから、風邪を引いてしまったわけでこうして病院に居る。

 

 やっぱり風邪を引いて病院に来る人は沢山居るみたいだ。周りを見ると、まだ小学生くらいの子をよく見かける。まだまだ成長期の子供だから、風邪を引くのは当たり前だね。僕もよく風邪引いてたし。中学生くらい頃から引かなくなってきた。高校1年生になって初めての鼻風邪はとても辛い。鼻で呼吸出来ないのが特にね。

 

 そんな僕だけど、ふと気になったのが隣に座る不思議な髪型をしている茶髪の女子高生。制服を見る限り、花女──つまり花咲川女学園の生徒さんかな? あそこは中高一貫の女子校だから、よく女の子が中学を受験するときによく行くんだよね。僕の通ってた花咲川中学からもかなりの人が受けたらしい。因みに、ごっちゃにならないように、花咲川女学園は花女。花咲川中学は花中。花咲川高校は花高と略されて呼ばれている。ややこしいね。

 

 スマホを取り出してなにか通知が来ているか見ると、友達から一件来ていた。

 

 えっと………『サボり?』と一言だけのメッセージに『違うよ』とだけ返してポケットにしまった。・・・・隣だとどうしても視界に入っちゃうものだ。どうやら今は診察を受ける前に、どういう症状か書く所みたいだけど………看護士さんに質問されてるけど、声が小さくて聞き取れていないのか、看護士さんは微妙な表情をしていた。

 

 それも仕方ないだろう。病院内は静かと言っても雨が降っていたり、小さい話し声が響く空間。おまけに泣いてる子供も居る。自慢じゃないけど、僕は耳だけはいい。こんな状況でも彼女の小さくか細い声は聞こえていた。

 

「声出ないって言ってますよ」

 

 彼女の言葉を看護士さんに伝えると、「そうでしたか。聞き取れなくてすいません」と彼女に謝っていた。周りの事を考えると看護士さんを責められる人はどこにも居ない。人間誰にだってそういう事はあるから。

 

 しばらく1人で上に設置されている診察番号を眺めていると、肩をトントンと叩かれた。隣を見ると肩を叩いた人は、さっきの花女の生徒さんだ。

 

「ありがとうございます」

 

 小さな声でお礼を言われた。

 

「いえいえ。声、枯れちゃったんですか?」

 

 無言で首を振る。でも、今考えたら枯れてるわけではなさそうなんだよね。ガラガラしてる感じはないし。

 

「大きい声……出せなくなっちゃって」

 

「そうですか…。声出ないって大変ですね。さっきみたいな事があったりしますから」

 

 また無言で頷く。大人しい子なのかな? 彼女を見ていると、隣に置いてある大きな鞄に視線がいった。あの形……大きさ、間違いない。ギターだ。この子もギターやってるのかな? ってことは歌い過ぎて声が出なくなったとか?

 

「花高の人ですよね?」

 

 いろいろ考えていると、以外にも質問が飛んできた。

 

「そうですよ。それがなにか?」

 

「大切な友達が通っていたので……」

 

「そうなんですか。……通っていた?」

 

 思わず、“通っていた”という言葉に違和感を感じ聞き返してしまった。“いた”ってことは今はもう居ないってこと……だよね? 卒業したとかかな。

 

「はい。引っ越しちゃったので」

 

「そうですか……」

 

 なぜここで、僕は彼女に名前を聞こうと思ったのだろうか。小学生の頃から友達が少なくて、女の子の友達なんて1人も居なかった。接し方もわからなくて、何を話せばいいかも。そんな僕だけど、なぜかここでは彼女と仲良くなりたいそう思った。

 

「「あの……名前は」」

 

「「あっ……」」

 

 ハモった。名前を聞きたかったのは彼女も同じらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 これが、僕──石川優都と戸山香澄ちゃんとの出会い。

 

 

 

 

 

 

 

Episode 声を出ない少女

 

 

 

 

 

 

 

 どうや彼女はPoppin'partyというバンドをやっていて、ヴォーカルなんだけど練習のし過ぎで声が出なくなってしまったらしい。バンド活動をしてる以上それは困ったことだ。落ち込む戸山さんを僕は見ることしか出来なかった。

 

 だけど、やりたい事が出来ない辛さはなんとなくわかるかもしれない。僕が好きなギターを弾けなくなったらと考えると辛い。後、鼻づまり辛い。

 

 ずずーっと鼻をすすっていると、戸山さんがおもむろにポケットティッシュを渡してくれたのを「ありがとう」と言って、受け取った。ちょうど切らしてたから助かったよ。

 

 鼻をかんで、ゴミ箱を探すが見つからずとりあえずポケットにしまった。

 

「こういう時、石川くんならどうする?」

 

「んー。そういう立場で考えられるかわからないけど、僕なら今出来る事をするよ」

 

「今、出来ること?」

 

「うん。今出来なくたって、いつか出来る日が来ると思うから」

 

 戸山さんを見ながらそう答えた。我慢強いというよりかは、マイペースなのかな? 僕は。焦ったって意味がない。余計に状況を酷くすることだってある。

 

「だから……戸山さん。焦っちゃダメだよ?」

 

「………うん。ありがとう」

 

 この時見せた彼女の笑顔はどこか寂しそうだったけど、可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 その後は診察して薬を貰って、帰るだけになったけど、戸山さんの姿はどこにもなかった。きっともう帰ったのだろう。最後にもう少し話たかったな~なんて………。思うくらいなら罰は当たらないよね。

 

 雨が振る中、傘を差して花高へと向かった。授業はほとんど頭に入ってこなかったのは此処だけの話。

 

 この日から普段、彼女はどんな声で話すのだろうか。そんな事ばかり考えるようになった。戸山さんの事を考えるとなんでか、胸が苦しくなる。どうしてだろう………。その日の夜はなかなか寝付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 今日は昨日と違って晴れた。教室の端っこの自分の机に座って授業も聞かずに外を眺めている僕はどうもおかしい。いや、行動とかじゃないからね? 昨日から戸山さんの事を思い出すと、ドキドキするし、胸が苦しいし、忘れられないのだ。忘れたいわけでもないけど………。本当にどうしちゃったんだろう、僕。この日も授業は頭の中に入ってこなかった。

 

 

 

 

 時間はお昼休み。午前中の授業は何を学んだかわからない。来月テストあるのに、このままだとヤバいかも………。赤点取ったらお母さんに叱られるんだよね。そう考えた瞬間、背筋が凍る。それほど怒ると怖いということ、怒ってる時には角が見えるくらいだよ。実際は生えてないけどね。

 

 そんな怒ると怖いお母さんが作ってくれた弁当を食べながら外をぼーっと眺めていると、昨日サボり? と連絡をしてきた張本人が現れた。

 

「どした? 元気ないな~優都ー」

 

「なんか食欲なくてね」

 

 空いてる前の席に座って購買で買ったのであろう、メロンパンを食べる僕の友達、宇崎徹君。たまに僕の所にお昼を食べに来るのだけれど、最近は毎日来る。いったいどうしたのだろうか。……そうは思っても聞く気にはなれず、目の前で、「ここのメロンパン不味い」と平気で言う徹君。購買の人に失礼だよ。

 

「不味いとか言っちゃダメだよ」

 

「いやいや。やまぶきベーカリーのメロンパンを食べたらわかる。ここのメロンパンは死んでる」

 

「そんな、お祭り男みたいな言い方されてもね………」

 

「あーあ。やまぶきベーカリーのパン食べてー」

 

 さっきから徹君が言っているやまぶきベーカリーのパンは商店街にあるパン屋さんで凄く美味しい。たまにしか行かないけど、あそこの娘さん? なのかな。花女に通ってるみたいなんだよね。花女………戸山さん元気かな?

 

「どしたー? そんな恋煩いみたいな顔して。一目惚れでもしたか?」

 

「一目惚れ? そんなのするわけ………一目惚れ……」

 

「ん? 心辺りが?」

 

 じーっと弁当を見つめながら、一目惚れという言葉が頭の中で響く。そうか……僕は戸山さんに一目惚れしたのか。え? でも一目惚れってこんな感じなの? 経験したことないから全然わからないや。

 

「おーい。優都くーん? 聞いてますかー?」

 

「ねぇ……徹君。ある人の事を忘れられないのはなんでかな?」

 

「忘れられない? なに? 恨みでもあるの?」

 

「違うよ。なんかこう、胸が苦しくて、その人の事を考えるだけで、ドキドキしたりするんだけど」

 

 するとメロンパンを僕の机の上に置いてなにやら深刻そうな表情を浮かべる徹君。思わず唾を飲み込んだ。少しすると、さっきまでのテンションの高さはなかった。冷静に話始めたのだ。こういう時の徹君は本気だ………と思う。

 

「いいか、優都。それは病気だ。決して薬で治ることのない不治の病」

 

「不治の……病? そんな大きな病気なの? 僕は」

 

「ああ……でもな。1つだけ治す方法があるぞ」

 

「本当に?!」

 

 不治の病と聞いた時はもうダメかと思ったけど、治る可能性はあるんだ! ん? 待てよ。そんな病気聞いたことないんだけど。

 

 すると徹君はメロンパンを人かじりして袋にしまった。あっ……もう要らないんだ。

 

 口に含んだメロンパンを飲み込むと、天上を見上げてなにやら思い出話を始めた。

 

「これは聞いた話なんだが。その人も優都と同じ不治の病にかかった人の話だ。そいつは……不治の病に気付いてた。でもな。治そうという努力はしなかったんだ。小学生の頃からその病と戦っていた」

 

 小学生の頃から……凄いな。僕なんて小学生の頃はこうして教室の端っこで本読んでたっけ。でも、1年だけ2人だったんだよね。僕とは違う感じで教室で本を読んでいた。でも僕みたいに絵が多めの本じゃなくて、音楽に関する本だったかな? ギターの本だったけ? もう忘れちゃたけど、その子も1人だった。

 

「中学生になっても同じように。だが、中1の頃にその病は一旦、体を蝕むのを止めたんだ。処方箋が効いたんだな」

 

「それで治ったの?」

 

「いいや。高1で病は再びそいつの体を蝕み始めた。でもな、そいつは不治の病と戦う決意をして、必死に戦ったんだ。そして最後は………」

 

 どこか上の空で話す徹君。

 

「治した。想いを伝えるっていう薬を使ってな」

 

「それが……薬なの?」

 

「もち。“恋”っていう病には、自分の想いを伝えるって方法がオレ的には、最高の特効薬だと思うぜ」

 

 恋………想いを伝える。そんな事、今の僕に出来るのかな………? 戸山さんに好きって伝える。ん~考えただけでも顔が熱くなるし、胸が張り裂けそうだ。

 

 

 

 

 

 

 結局、徹君が言ってた事を実践出来るかかなり不安のまま1日が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

─────☆

 

 まさか、優都に好きな人が出来るとはな~。友達として鼻が高いぜ! ・・・・あれ? もしかして先越されそうな感じ? それと、好きな人の名前を聞くの忘れた~。まぁ、いっか。

 

 …………そう言えば、あいつ、オレにはなんも言わないで行っちまったけどー、何も言わなくてもわかるってことだろ? さっすがオレの親友だぜ。

 

 

 

 

 

──────☆

 

 学校の帰り道。いつも僕は1人だ。同じ方向に帰る友達が居ないからなんだけど………今は1人が凄い心地いい。徹君と話た後は、ため息が止まらなかった。そこからさらに戸山さんの事が忘れられずに居た。おかげで授業はいつの間にか終わってるし、ノートは真っ白。症状が大きくなりすぎだよ…………。

 

「あ~どうしよう………」

 

 ぼーっと歩いているうちに公園にさしかかった。この公園には大きな滑り台があって、よく小学生が集まるんだよね。前に一度見たんだけど、大きな人も居た。男の人、1人と女の人が2人だったかな。時間は確か夕方だったはず。

 

「ちょっと寄って行こうかな」

 

 公園に足を踏み入れて、階段に鞄を置いて座った。鼻風邪はまだ治っていない。寝るときが本当に苦しいし、恋の事があったからなかなか寝付けないしで………。

 

 疲れが溜まっているのか、だんだん眠気に押されてきた。少し寝ようかな……。目を瞑って下を向いた。頭をかくん、かくんと揺らしていると、後ろから足音が近づいてくる。慌てて起きると、たぶん………いや、間違いなくあの人の声が聞こえてきた。

 

「石川……くん?」

 

「戸山さん?」

 

 後ろに振り返ると、そこには昨日と同じ格好でギターケースを背負った彼女の姿。飛び上がりそうなくらい嬉しい気持ちを抑えつつ、立ち上がる。いつの間にか眠気はどこかにいった。声は相変わらずか細いけど、聞き取れる。

 

「ここでなにしてるの?」

 

「いや……ちょっと休憩してた」

 

「そっか」

 

 そう言うと戸山さんはギターケースを下ろして僕の隣に座った。僕もゆっくり再び腰を下ろし公園を眺める。昨日は普通に戸山さんの事を見れたのに今は直視出来ないでいた。心臓がドクンドクンと早鐘のように打つ。告白するってわけじゃないのに何を言っていいかわからない。

 

 無言の時間が続く。

 

 その時間を破ったのは、戸山さん。

 

「今日…石川くんに会えて良かった」

 

「え? 僕に?」

 

 無言で頷き、話を続ける。

 

「学校いったら、友達に怒られちゃった……」

 

「そうなの? でも……戸山さんの事が心配だったんだよ。優しい友達だね」

 

 そう声をかけて、隣に座る彼女を見るとなぜか涙を流していた。

 

「え!? あっ、その! 僕──」

 

「違うの……。石川くんのせいじゃなくて……」

 

 戸山さんはそれ以上なにも言ってくれなかった。僕は心が締め付けられる思いでいっぱいだ。少しでも彼女の悲しみを癒やしてあげたい。そういう思いが強く前に出たのかな。気が付くと戸山さんの手を握っていた。

 

「大丈夫。声なんて明日にでも出るよ。それに……歌えないのが辛いなら、一旦歌うって事から離れてみない? 僕、結構そういう所があってさ。ギターで出来ないコードがどうしてある時は一旦離れて、しばらくしてからやったら出来たとかあるよ?」

 

 どんな事を言っていいのかよくわからなかったけど、とりあえず今は戸山さんが落ち着ければそれでいい。悩みなんて誰にでもあるし、立ち止まる事だってある。でも、今の戸山さんにとっては歌えないのがかなり重くのしかかっているのだろう。

 

「私……どうしたら……」

 

「バンドの仲間にちゃんと悩みを打ち明けてみたら? そしたら楽になるよ。僕に話したら少しは楽になった?」

 

「うん」

 

「じゃあ、信頼出来る仲間ならもっと楽になるよ。こんな普通の僕に話して楽になるんだから」

 

 笑顔でそう言うと、戸山さんは涙を拭いて優しく声をかけてくれた。

 

「そんなことない。石川くんは優しくて、格好いいよ」

 

 途中まで僕の事を見て言ってくれたのに、格好いい辺りで顔を逸らされた。嬉しいけど、なんで顔が赤くなっているのかが僕にはわからない。それでも戸山さんは再び僕に視線を向けてくれた。

 

 お互いじっと見つめあう。

 

 忘れていたドキドキ感が再び僕の中にこみ上げてくる。何を思ったのか、僕はここで────

 

 

 

 

 

 

 

 

「戸山さん……僕と───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時の事は今でも鮮明に覚えている。僕の目の前で楽しそうにオレンジジュースを飲みながら、香澄ちゃんの会わせたい人が来るのを待っていた。どんな人なのか聞いてはみるものの「秘密~」と何ひとつ教えてくれなかったんだよ。ちょっとくらい教えてくれてもいいのにさ。

 

「まだかな~」

 

 鼻歌を歌いながらそういう香澄ちゃんを眺めながら、コーヒーの入ったカップを口まで運ぶ。一口飲んでから、カップを置いて腕時計で時間を見ると約束の時間の5分前。再び視線を上げる。ふと香澄ちゃん越しに見えた1人の男の人。どこかで見覚えもある。その男の人が香澄ちゃんの後ろで立ち止まった。するといきなり───

 

「急に呼び出してなんの用事だバ香澄。こっちは忙しいんだよ」

 

 優しくチョップをしてからそう言ったのだ。というより、バ香澄って………人の彼女をそんな呼び方するのはいったい誰だよ。なんて、若干怒りにも近いような感情が湧いてくるも、香澄ちゃんが立ち上がって講義を始めたので、その怒りがどこかにいってしまった。講義する彼女はとても楽しそうだったから。

 

「え~良いじゃん! せっかく会えたんだから!」

 

「はいはい」

 

 すっごい仲良さそう。いったい誰なんだこの人は。よく見ると結構なイケメン………僕とは大違いだ。

 

「あっ! この人私の彼氏の石川優都くんだよ!」

 

 いきなり紹介された僕は立ち上がって頭を下げて挨拶をした。すると、「お、おう」と若干引き気味で答えてきた。もしかしてうざいとか思われちゃったかな?! ヤバいヤバい! なんとかイメージを変えなければ!

 

「つうかさ。お前の彼氏の紹介よりも、俺の紹介しろよな」

 

「ごめ~ん。コホン。改めて紹介するね! 優都くんに会わせたい人! 神山恵ちゃん!」

 

「おい。紹介するときくらいちゃんはやめろ。………あ~俺は神山恵。よろしく」

 

 そう言って右手を差し出してきたのを握り返して、僕も自己紹介をしてた。

 

「石川優都です。よろしくお願いします」

 

 こうして僕は新たな出会いを果たしたのだった。

 




前書きの続きですが、香澄だって一番出来てなかったと言われれば落ち込むし、練習だってたくさんするでしょう。あんまり香澄を好きになれないあなたへ! そんな悪い子じゃないですよ~香澄は! ということで香澄回でした。徹の話の内容は……ね?

途中報告

続きの内容ですが、すでに決まっていますので書き上がり次第投稿します! 他には、読者様のリクエストがあれば、リクエストに沿って書こうかなと思っているので、新作が投稿されましたらTwitterの方にこご一報ください!

クロスオーバーの方ですが、短編小説なのでそんなに長くは書きません。クロスするライダーはまだ秘密ですが、ヒントです!

2色

これがヒントです。具体的には赤が入っていますよ。作者は赤が大好きなので。

それとどうでも良い話をここで、1つ。今回のバンドリのイベントは頑張っております。順位は7000より上ですかね。

それでは続きの小説で会いましょう!!


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Episode ひと夏の恋い編
1.見失った道


こんにちは。

報告を兼ねて投稿しました。さて、今回は親との仲直り回を考えております。少しどころか、かなり複雑な方法で解決していくわけです。

最後に重大発表がありますので、最後まで読んでみてください!


 正直あんな体験をしたのは初めてだし、どうして良いかわからなかったけど……俺は心のままに動いた。全てが終わった時には………いつも通りに戻る。まるで何もなかったように。

 

 

 

 

 最初に言っておく。彼女を責めないでほしい。

 

 

 

 

 

Episode ひと夏の恋い

 

 

 

1.見失った道

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカに引っ越してから2度目の夏休みのある日の朝。朝ご飯のシリアルを食べながら、俺は少しばかり。いや、かなりイライラしていた。理由は至極簡単。クソ親父がまた勝手な事を言い出したのである。その勝手な事にどれだけ振り回されたことか。引っ越しの事だって、入院してた時の事だって許したわけじゃねぇし。

 

 これ以上クソ親父の文句を言い出したらキリがないからここまでにしておいてやるけど、理由がクソなんだよ。

 

「次のライブ日本でやるから、お前ら着いてこい」

 

 ほらな? 自分のライブくらい1人でやってこいよポンコツ。なにがお前ら着いてこいだ。俺はお前の命令で動くほどバカじゃないんでね。

 

「僕はいいよ」

 

 雅史は普通に承諾。日本に帰れるならと思ってるんだろう。確かに日本に帰れるならいいけど、有咲達に会えるわけじゃない。そんなの帰る意味なんてないな。どうせまた荷物持ちかなんかだろし。

 

「俺がはいそうですかなんて言うと思ってるか?」

 

「じゃあ一週間1人で居るのか?」

 

「そうだな。そっちの方が精々する」

 

 クソ親父と一緒に旅行なんて死んでもごめんだね。だったら1人で家でゴロゴロしてる方が10の10乗マシだ。勝手に行ってこいよ。

 

 いつもこの気まずい雰囲気を和ませるのがうちのお母さん。

 

「せっかく家族旅行出来るんだし、騙されたと思って行かない?」

 

「その言葉には異議がある。騙されたと思ってとか言うけど、騙されたくはない」

 

「屁理屈ばかり。まだまだ子供だな」

 

「うっせ。何でもかんでも自分たち中心で決める利己的な人に言われたくない」

 

 こうして喧嘩で始まって喧嘩で終わる神山家の朝は過ぎてゆく。まあそれも仕方ないことだ。向こうがああやって喧嘩を売ってくるんだもの買うしかなじゃん。いつもいつも人の気持ちも考えないで勝手に物事決めてさ。

 

「喧嘩ばっかりするならわたしは行かないわよ?」

 

「なんでそうなるー」

 

「そうだよ。お母さんはいつも頑張ってるんだから、たまには息抜きしないと」

 

「どうして、さっきまで喧嘩してた2人が同じ意見を出せるの?」

 

 確かに。お母さんを思う気持ちが一緒なのは認めるけど、それ以外は認めん。

 

「とにかく。恵も一緒に行くの! わかった?」

 

「……………わーったよ」

 

 もし結婚したとしたら、将来は尻に敷かれるタイプかな……俺。

 

 

 

 

 

 

 

 今の季節は夏の朝方。クソ親父の付き添い+家族旅行という名目で日本の京都に来ている。久しぶりの日本はやっぱり落ち着く。アメリカと違ってあまりうるさくないし、空気がキレイだ。ビルが多く立ち並ぶ場所に住んでるから日本の京都と比べるとな。

 

 唐突だが、夏=恋という考えは俺にはなかった。ここ1年は恋なんてしなかったからだ。恋に興味は特になかったし、そういう仲になる相手もいなかった。まるで恋というのを忘れてしまったようだ。なぜこんな話をしたかと言うと、飛行機の中で見た恋愛映画のせいだ。他に意味はない。

 

 俺が居る旅館の部屋は結構いい感じだ。真ん中に脚の低いテーブル。そのテーブルを挟むように置かれた座椅子が1つずつ。テレビもあって外の景色も最高で文句のつけどころはない。

 

 だけど………気を使わない相手と一緒か1人だったら、もっとリラックス出来たのかも。

 

「さっきからつまらなそうにしてるけど、私と居るのがそんなに嫌?」

 

 旅館の部屋の窓際で外を眺めていると、テレビを見ていた白鷺千聖さんが声をかけてきた。言葉からは嫌な感じはしないものの、1人で外をずっと眺めていれば嫌な気持ちにもなるだろう。それはわかってる。わかってるけど………。

 

「別にそういうわけじゃないですよ」

 

「そうは感じられないけど?」

 

「俺はいつもこんな感じなんですよ」

 

「無愛想なのね」

 

 それを相手が居る所で堂々言うんですかあなたは。つうか、誰だってあんたみたいな世間一般的に美人、可愛いと呼ばれる人と同じ部屋に居れば、居心地悪いでしょ。別に文句言ってる……な。

 

「そんなにお父さんが気に入らない?」

 

「はい」

 

「どうして?」

 

「あなたに話す義理はないです」

 

 クソ親父と白鷺さんが所属するバンド、pastel*paletteのメンバーは仲が良いらしく、今回白鷺さんが主演する映画の役者としてクソ親父に声がかかった。でもクソ親父に演技なんて出来るのか? そんなの見たことも聞いたこともない。

 

 さらに面倒な事に泊まる部屋がスタッフさんの予約ミスで1つ減った。で、クソ親父は他の役者の人と。お母さんは雅史と一緒の部屋。わがままを言って1人にしてもらったのが仇となって、俺と白鷺さんが一緒の部屋になった。

 

 話を戻すと、さっきからあんな感じの話ばっかりだ。仲良くなろうとしてるのか、ただ話かけてきてるだけなのかは知らないけど気を使わなくていいのに。もう、面倒だから言っておこう。

 

「別に気を使わなくて良いですよ。白鷺さんのやりたい事をやってください」

 

「あなたと仲良くなるのが私のやりたい事だったら?」

 

「からかわないでください」

 

 この人と居ると疲れるな………。こっちとしては、ほおっておいてくた方がマシなんすけどね。って言ってもこの人は構ってくるんだろうな。そんなのやってる暇があるなら、セリフの1つでも覚えた方が良いと思うけど。あっ…俺が邪魔か。

 

「外出ますね」

 

「そう」

 

 意外とあっさり外に出れた事に少し驚いたが、こっちとしては好都合だ。でも京都って………行くとこはいくらでもあるけどー。なんか気分が乗らない。今頃、お母さんと雅史は楽しんでいるだろう。そうなると部屋に残っているのはクソ親父ということになる。

 

 あー胸クソ悪りー。適当に時間を潰すか。

 

 

 

 

 

 この時、少したりともあんなことになるとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

───────☆

 

 初めて会ったけど、思ったより無愛想な人ね。本当に哲夫さんが言ってた息子さんなのかしら。なんか思ってた人とかなり違う。哲夫さんみたいに明るくて、よく喋る方だと思ってたけど、違ったみたいね。……でもそれは私の勝手なイメージ。彼には彼の考えがあるもの。

 

 それと、やっぱりギターはどこにでも持ってくるのね。そこは哲夫さんと同じみたい。………どんな音を奏でるのかしら。少し聞いてみたい気もするけど………弾いてくれる気はしないわね。

 

 彼の荷物が置いてある壁に立てかけてあるギターケースを見ながらそんな事を思った。・・・・今はほおって起きましょう。

 

 そう決めてテーブルに置かれた台本を手に取ってセリフを声に出して覚え始める。

 

 

 

 

 

 

 私はまだ彼の本当の思いや優しさに全く気付いて………気付こうとしていなかった。神山恵という人間にこれから先、短い間だけ振り回されるとは誰も予想がつくはずもない。

 

 

 

───────☆

 

 結局あんまり時間は潰せなかったものの、部屋に戻るとすでに白鷺さんの姿はなかった。どうやら、撮影にでも行ったのだろう。帰って来るのは夜とかクソ親父が言ってたな。

 

「………やっと1人になれた」

 

 窓際で寝転がり天上を見上げてボソッと言った。

 

 なんか最近……目標的な事を持てない。前までは日本に帰りたいって思いが強かったけと、一時的に帰ってきたという事が大きいのか、急に喪失感が出てきた。何に対してもやる気も興味も起きない。こんな事じゃダメだってわかってる。白鷺さん相手にキツい態度をとることだってダメなのはわかる。でも……なにかに当たらないと気が済まない。

 

 そう思ったらいてもたってもいられなくなった。持ってきたギターケースからギターを取り出して周りに音が漏れないようにセットして行き場のない怒りを発散するように力強く弾き始める。

 

 この1年で自分でもわかる程、俺は変わってしまったと思う。事あるごとに親父の名前を出されるのが嫌だった。心配をかけたくないお母さんにどうしても心配をかけてしまうのが嫌だ。雅史にも変な気を使わせてしまって申し訳ない。

 

 こんなポンコツな自分を許せるわけはなかった。人間、口では大丈夫と言っても体には出るらしいからな。まぁ……俺も大丈夫ではない。次会うときまでにはなんとかしないと。

 

「なんか弾くか」

 

 スマホを操作してなにも見ないで弾ける曲がないか探し始めた。と言っても最近はあんまりギターに触れてなかったから、弾けるレパートリーは増えてない。下にゆっくりフリックしながら曲名を眺めていると、ふと目に入った曲が1つ。

 

「前へススメ………懐かしいな」

 

 去年辺りに動画を上げるサイト、YOUTUBE(ようちゅーぶ)に投稿されてたのを聴いてから、この曲が好きになった。この曲を作った時にあいつらがどういう気持ちだったかはわからないけど、ある人の手紙から生まれた曲。そう説明されていて、嬉しかった。

 

「ホント……全部がどうでも良くなるよ……」

 

 結局ギターを弾かずに前へススメをずっと聴いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから勉強、睡眠で時間を潰していつの間にか夕方になっていた。今の今まで寝ていたからか、いまいち頭が回らない。けど、イラつきは全くと良いほどなくなっていた。確かに親父はクソで自己中だけど、旅行を計画してたみたいだし今回は許そう。…………にしても。

 

「体が痛てーな」

 

 背中をさすりながら、上半身を起こした。畳の上で寝たせいか背中が痛い。これが普段からふんわりした布団で寝ている代償か。これは辛い。

 

 ふと外を見ると、綺麗な夕焼けが見えた。夏で日が伸びてるからか、普通の家庭なら夕飯時の時間でもまだ明るい。

 

「そう言えば、有咲と最後に話した時もこんな感じだったな」

 

 昔の思い出に浸っていると、ドアが開く音が聞こえた。視線を向けると、疲れた様子で戻ってきた白鷺さん。朝から夕方までとはいえ、ご苦労なこって。

 

「お疲れ様です。終わるの結構早いんですね」

 

「今日は早く終わっただけよ。明日どうかしらね」

 

 結構疲れてるんだな。朝と違って声の感じが違うというか、なんというか・・・・よくわからん。でもあんまり話かけない方が良いってのはわかる。とりあえず黙っとこ。

 

 黙っておくのは決まりだが、ただぼーっとしてるわけにもいかない。自分の鞄をあさって数学の参考書とノートを取り出して、勉強を始めた。

 

 来年には日本の大学を受験しようと思ってるんだ。帰って来るって約束したし。

 

「なにかあった?」

 

「はい?」

 

 意外にも白鷺さんから話かけてきた。

 

「特になにも………」

 

「本当? 朝とは別人のようにも思えるけど」

 

「気のせいですよ」

 

 それ以上は追求してこなかったが、変な人と思われてないかと少し不安になった。話はそこで一旦終わり、再び参考書に目を落とし

問題を解く。

 

 んー。やっぱ証明問題は苦手だな。って言っても苦手な人は多いのではないだろうか。俺も習った当初はホントにわけわからなかった。今は前よりはマシかなってくらいだけど。

 

「数学の証明かしら?」

 

「うわっ?! 痛っ!」

 

 話かけられ顔を上げると、目の前には白鷺さんが座って居た。あと数センチ顔を近づければキスが出来てしまうような距離。思わずびっくりして後頭部を壁に激突させた。ジーンとした痛みがする場所を左手で抑えていると、当の本人はクスクス笑っていた。ほとんどあんたのせいなんですよ。

 

「いきなり目の前にこないでくださいよ」

 

「あら? 嫌だったの?」

 

「嫌では……でも、良いってわけでもないです」

 

「それって嫌だってことよね」

 

 あー! もうなんなのこの人。絶対からかってるだろ。年下だからってなめやがって。白鷺さんみたいなタイプはホント苦手だ。人の恥ずかしい所を突いてくるというかなんというか。とりあえず苦手だ。

 

 2人で居る時は勉強は手につかないことはわかった。参考書を手にとって鞄にしまい部屋を出ようとドアの方に向かっていく。

 

「どこに行くの?」

 

「トイレですけど、なにか?」

 

 さすがにからかい所がないと思っていたが、「そう」と言って白鷺さんが立ち上がると、俺の事をじっと見ながら歩いてくる。

 

 えっ? ………嘘だろ?

 

 不適な笑みを浮かべて前に立つ彼女から距離をとるように一歩後ろに下がる。

 

「あなたって面白いのね」

 

 この日見た彼女の笑顔の中で一番輝いていた。別の意味で………。

 




まさかの展開に困惑する主人公。いったいどうなってしまうのやら。

高評価くださったアラタクさんありがとうございます!

いや~。毎回最新話を投稿する度にアラタクさんといろはすさんから感想をくれるので、投稿して感想来なかったらどうしようという思いはないですね。毎回助かっています!!

さて、ここからは重大発表!

今週の日曜日に仮面ライダーとのクロス作品が投稿されます! 日曜日まではどのライダーかは秘密ですが。言っても短編なので10話くらいで終わる予定です。

大ヒント 平成2期の仮面ライダー(サブライダー含めて)の誰かですぞー。 

これからも作者が書く小説をよろしくお願いします!


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2.やるべき事

こんにちは。

前回に続いて千聖編です。主人公以外の心理描写は難しいですね。ちょっとおかしな部分がかるかもです。

それではどうぞ


 あれからというもの、精神的に来るものがあった。なぜ精神的に来ているのかわかんない。俺と一緒に居るのはあの白鷺さんだ。なのになぜ精神的に来るのか………ここでやらかせば、世間の人や白鷺さんのファンに殺され兼ねない。社会的な意味で。

 

 神山哲夫の息子 白鷺千聖と熱愛か?! みたいな記事を出されてみろ、俺がどうにかなるわ。テレビなんて出たことないのに、そんな理由で出てたまるかよ。少なくともあと数日の辛抱だ。耐えてみせる。

 

 なんて思いを心で決めたは良いが、女優の大変さを目の当たりにした。それが今なんだけどな。

 

 数日前の夜。部屋に布団を少し距離を開け、2つ敷いて就寝した。俺は精神的に疲れていた為かすぐに寝れた。ふと夜中に目を覚まし、水分をとろうとしたが布団には白鷺さんの姿はなく、部屋に居たのは俺だけ。トイレかな? と思い再び布団に入って寝ようとしたものの、なぜか気になりなかなか寝付けなかった。

 

 いったいどこに行ったんだ? あんまり詮索して良いことじゃないと思うけど、なんか気になるんだよな。…………はぁー。

 

 布団から出て部屋をあとにして、旅館内を散策し始めた。ここの旅館は高級なのかめっちゃ広い。もし、旅館内に居るとすれば中庭が見える縁側辺りか? 

 

 そうとも限らない為、遠回りしつつ縁側に向かう。しかしどこにも姿はない。居ないくらいで少し騒ぎ過ぎじゃね? と思う人も居るだろうけど、主演女優を1人にでもしてなにかあったら俺が疑われるだろ。

 

 そうは思っても頭のどこかには、心配する気持ちがあったのだろう。アメリカに行ってから、よく心配性だよなと言われる事が多くなったけど、その自覚はこの時はほとんどなかった。

 

 縁側に着くと、予想通り浴衣姿の白鷺さんが1人で喋っていた。普通の人ならおかしな人だろうけど、彼女は主演女優。明日のセリフを覚えてるんだろう。

 

「気、使わせたわけか」

 

 部屋で呑気に寝てる俺に気を使ってくれた事を考えると心が痛い。

 

 一旦部屋に戻り、財布を持って旅館内にあるちょっと高めの自動販売機で缶のお茶を2本買って縁側に戻った。覗くように見ると、ちょうど休憩に入ったのか景色を眺めている。普通に白鷺さんの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「こんな時間までよく頑張れますね」

 

「あら。眠れないの?」

 

「いえ。居なかったもんですから」

 

 白鷺さんから少し離れて縁側に座り、お茶を差し出した。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 すぐに缶が空いた音が聞こえた。自分の分のお茶を脇に置いて、じっと綺麗な景色を眺めている。たまには心地よい涼しい風が吹き込む。夏だというのにあんまり蒸し暑さは感じない。今年の日本は去年とは違うようだ。

 

「ここの中庭…綺麗」

 

「そうですね。アメリカとは大違いですよ」

 

「アメリカがそんなに嫌?」

 

「いえ……好きですよ。日本とは違って都会って感じがしますし、街ゆく人も良い人ばっかりですし」

 

 さすがに1年住んでいればそうなる。今話したのは実際そうだし、日本より良いことはたくさんあった。逆に日本の方が良い所もある。例えば自然の景色とか。特に京都は古い建物とかが良い感じだ。将来どっちに住むと聞かれたら、答えるのにかなり困ると思う。

 

「アメリカは良いのに、それを決めたお父さんは嫌なんだ」

 

「…………白鷺さんは俺みたいな経験した事がないからそういう事が言えるんですよ」

 

「あなたがどんな経験したのかはわからないけど。哲夫さんは良い人よ?」

 

「いっつも喧嘩売ってくる人が良い人? 寝言は寝てから言ってください」

 

 例えあの人が良い人と言われても俺は信じられない。息子が倒れて入院してるのに、叱る人がどこに居る? 人を追い込むように雅史と比べられてさ。そんなクソみたいな親を信じられるかよ。

 

「そう。あなたは知らないのね」

 

「知らないって……何をです?」

 

「神山恵君。あなたの事は嫌って程、哲夫さんから自慢話を聞かされたわ」

 

「は? それって……どういう」

 

 思わず白鷺さんに視線を向ける。

 

 俺の自慢を嫌って程聞かされたって、もうそれほとんど悪口にしかなってないんすけど。そんな事よりも一番驚いてるのは、あのクソ親父が俺の自慢をしている事だ。そんなの考えられるか? 答えはNOだよ。

 

「たまにバンドの指導してくれるのだけれど、事あるごとにあなたの名前が出てくるのよ?」

 

 そんなのは普通嫌な思い出になるはずなのに。話をする白鷺さんはどこか楽しそうで、嫌みは少したりとも感じない。どうしてだ? 比べられてるんだぞ? しかも会ったこともないやつと。それなのにどうして笑ってられるんだよ…………あんたは。

 

「嫌じゃないんですか? 比べられるの」

 

「全然。哲夫さんの場合は、私達の間では親バカだよねって結論になったわ」

 

「なんですかそれ………」

 

 でも不思議な気分だ。あれだけ文句ばっか言って、嫌ってたのに………クソ親父だっていつも俺に喧嘩ばかり仕掛けてきて。もうわけわかんねぇ。本当はなにがしたかったんだ?

 

 1人で俯いて考えていると、隣に気配を感じて横目で見る。

 

「何があったのかはわからないけど、もう少しお父さんを信じてあげたら? 悪気があったわけじゃないのよ」

 

 俺の手に自分の手を重ねながら、そう言う白鷺さんについ見とれてしまった。整った顔に、綺麗なピンク色の瞳。すぐに視線を逸らす。ゆっくりなテンポで動いていた心臓がワンテンポ早く動いているのがわかる。

 

「ふふっ♪ わかりやすいのね」

 

「はい?」

 

「“けい”は……恋をしたことある?」

 

「したことくらいありますよ。バカにしてますか?」

 

 そうは言ってみたが、目は合わせられなかった。俺の手に重なる白鷺さんの冷たい手をじっと見つめていると、その手がゆっくりと俺の顔を捉える。心臓が早鐘のように動く。こんな間近で白鷺さんの顔を見れる機会なんてあるだろうか。

 

「なんの真似ですか……?」

 

「………もし、私があなたを好きって言ったらどうする?」

 

「質問の答えになって───」

 

「答えて。私の事が好きか……嫌いか」

 

 言葉を遮られ、質問の答えを迫られる。少しも視線を泳がせずに俺を捉える瞳から目を逸らせなかった。

 

 ここで好きと言ってしまったら、前に言ったように大変な騒ぎになってしまう。そんな事になれば、白鷺さんが危なくなる。これから先、いくらでもやり直しが効く俺の人生と違って、白鷺さんの人生はやり直しが効かない。それを避ける為には…………。

 

「ごめん」

 

 断る。

 

 まだ会ったばかりで好きかどうかの判断は出来ない。今はしてはいけないような気がする。こんな勘違いをして、家族とすれ違っちまう俺と恋なんて。許されるはずがない。

 

「もっと……自分の人生を大事に───?!」

 

 いきなり顔を近づけてくる白鷺さんわとっさに強めに引き離してしまった。

 

「いきなり何を?!」

 

「嫌だったかしら?」

 

 少しも悪意は感じやかった。逆にそれが、俺のイラつきを加速させたのだ。

 

 首を傾げて答える彼女に思わず声を荒げて言ってしまった。

 

「わかってるのか?! これ以上先に進めんで、週刊誌にでも撮られてみろ! 今の人生を棒に振ってどうすんだよ! あんたは良いかもしれないけど………俺は嫌だ。こんな俺のせいで、君の夢を壊してほしくない」

 

 後半は冷静さを取り戻して、自分の思いを伝えられた。こんな俺のせいで人生を棒に振ることはないんだ。せっかく主演で映画を撮ってるんだからさ。

 

 俺は自分のお茶を持ってその場をあとにした。

 

 罪悪感に押しつぶされそうだ。もし本当に俺の事を好きだったなら、かなり悪い事をしてしまった。でも、今の俺に……親の気持ち1つに気付けない俺に彼女を好きになる資格なんて……ない。

 

 

 

 

 

────────☆

 

 予想以上に彼はガードが堅かった。告白紛いな事をしたのは私だけど、どうしてかしら。心にぽっかり穴が空いたような感覚に支配されていた。

 

 今回の映画で良い演技をするには、どうしても彼の力が必要。恋をしたことがない私には今の役には入りきれない。せっかくの映画の主演なのに………。

 

「どうすれば………」

 

 でも、よく考えたらおかしいわよね。役作りの為に彼を騙して付き合おうとしたんだもの。そんなの断られて当然。せっかく勇気だして、キスまでしようとしたのに………。

 

 今日までいろいろなドラマを撮影してきてたけど、キスシーンだけはNGを出していた。ファーストキスくらいは好きな人としたいもの。でもこの業界で生きていく為には、キスシーンでもなんでもやらなくちゃ。今回の映画の主演だって、キスシーンNGだったら出来なかった。

 

「頑張らないと」

 

 貰ったお茶を飲んで、台本を持ってこの場を後にした。

 

 

 

───────☆

 

 あの夜の出来事から彼女を見る目は変わった。あんな事をされたらどう頑張っても意識しないようには出来ない。おかげで昨日はなかなか寝付けなかった。今日も朝から映画の撮影で居ないので、俺にとっては好都合だ。ようやくゆっくり寝られるんだからな。

 

 そんな事を思いつつも眠気は来ず、むしろ冴えていくばかり。目を瞑ればあの状況。俺はどうすれば良かった? 彼女の願いを断ったのが正解か? それとも…………。

 

「あーー! マジなんなんだよ……。人で遊んでるのか?」

 

 でもあの時に悪意は全く感じなかった。むしろドキドキする気持ちの方が強い。

 

「とりあえず寝るか」

 

 考えるのはいつでも出来る。今は体を休めて夜に備えよう。

 

 しばらくぼーっとしていると、ようやく眠気に襲われ眠った。

 

 

 

 

 

───────☆

 

「はぁー。やっと帰って来れた………」

 

 今日の撮影は思った通りにいかなくて、かなり長引いてしまった…………ダメね。哲夫さんだけじゃなくて、恋人役の方にも迷惑かけちゃったし。監督の言う恋をしてる感じがしないってどういうことかしら。考えれば考える程答えが出ない。

 

 疲れきった体を引きずって部屋に戻ると、私の分の布団が敷かれていた。たぶん神山君が敷いてくれたのかしら? でも肝心の彼の姿はなかった。

 

「…………後でお礼言わないと」

 

 鞄を置いてその場に座りこみ、なんとなく寝転がってみた。鼻で呼吸をする度に畳の香りを感じる。

 

 明日は撮影…押さないようにしないと……。それにお風呂も入らなくちゃ……。朝早くからでも入れるって旅館の人が言ってたわね。だったら朝にでも────。

 

 気を失うように私は意識を手放した。

 

 

 

───────☆

 

 あーーやっぱ風呂で考え事をするんじゃないな。風呂に入ってから軽く1時間経ってしまったよ。10時に入ったから、11時くらいか? 今は。なんなせよいつ帰ってきても良いように布団は敷いてきたけど、さすがに帰って来てるか。

 

 なんて話かけるか…………。お疲れ様? 今日は遅いんですね? やっぱこの辺が安定だよな~。昨日あんな事があったかいからって、変に気安く行くよりはいつも通りにして相手に違和感を与えない方がいいな。

 

「よし。それで行こう」

 

 部屋に着き、ドアを開ける。そこには床に横たわる白鷺さんの姿が。

 

「え?」

 

 なに? 死んで………ないよね。そんなわけないよね。ね? ね?

 

 近づいて耳をすませると、一定のリズムで寝息を立てていた。死んでない事に安心はしたものの、あまりにも無防備過ぎる姿にため息を吐いてどうするか考える。このままほおって置くわけにはいかない。そこでだ。

 

 どうやって彼女を布団まで運ぶ?

 

 俺の頭に浮かんでいる方法は3つ。1つ目は起こす。2つ目は転がす。3つ目は………お姫様抱っこで運ぶだ。明らかに2つ目の選択肢など潰れている。むしろ無いに等しいくらいだ。1つ目も俺の中では、ほぼほぼ無いに等しい。疲れてるんだろうから、こんな所でもぐっすりなわけで。

 

 残りはもう1つしかない。

 

「・・・・・起きない……よな?」

 

 抱っこした時に目を覚まされるのが一番ヤバいし、めんどくさい状況だ。でも、畳の上で寝る辛さは知ってる。もし明日の仕事に支障をきたしたらそれこそ問題だ。だったら、たかが数秒の間抱っこして運ぶだけだし問題ない。

 

「そうと決まればさっさとやるか」

 

 二の腕の辺りと膝の辺りに手を忍ばせ、「失礼します」と小さな声で言って持ち上げる。

 

「あっ……意外と」

 

 ここから先はご想像にお任せしますはい。俺から言うことは出来ないです。起こさないようにそっと運んで、布団の上に置いた。お姫様抱っこをされて運ばれたにも関わらず、彼女は変わらず小さな寝息を立てて寝ている。

 

 すぐに寝返りをうって、体制が横に変わった。なんとなく横に座って彼女の顔を見つめた。

 

「なんで俺なんかに好きか嫌いか聞いたんだか………あなたにはもっと素敵な人が居ると思うのに」

 

 そんな事を言っても彼女は答えてくれるはずもない。今日1日考えてみたけど、彼女の気持ちが本当でも俺が釣り合うわけがない。相手は小さい頃から芸能界で働いていて、主演までしている女優。方や一般人。どう考えても無理だ。

 

 自分に自信がないと言えば全て片付いてしまう。俺をここまで引き止める理由は1つしかない。

 

 

 

 

 

 有咲との約束だ。

 

 

 

 

 

 これ以上俺は約束を破るわけにはいかない。だから───

 

「んっ……? 神……山君?」

 

「あ、起こしちゃいましたか?」

 

「ううん。気にしないで」

 

 目をこすりながら上半身だけ起こすとため息を吐いた。よっぽど疲れているのか、一点を見つめている。

 

「お疲れのご様子で」

 

「ええ。今日はいつもより長引いてしまってね。ほとんど私のせいなんだけど」

 

 白鷺さんは笑顔で言うが、その笑顔からも疲れが感じ取れる。これは俺と話してる場合じゃないな。

 

「なら、ゆっくり休まないと。明日も朝早いんですよね?」

 

 俺の質問に対して無言で頷く。なおさら邪魔は出来ないと思った俺は立ち上がろうと手を自分の膝の上に置いた。

 

「待って……」

 

「え?」

 

「行かないで……」

 

 服の袖を掴んで弱々しい声で訴えてくる。

 

「私の……そばに居て…今だけで良いから」

 

 そんな事を言われて無理だとは言えるわけがない。なぜそこまで俺に気を許すのだろうか。不思議でしょうがなかった。でも……彼女も辛いんだろう。普段は誰かに相談したりするだろうけど、今回は相談出来る人は居ないと言っても過言ではない。

 

 だったら………。

 

「話……聞きますよ?」

 

 話を聞くだけならと心を許した。こんな状態でほおっては置けない。

 

 俺は話を聞いてある決意を胸に一歩踏み出す。

 

 




次回でラストです。

そして本日の8時35分に仮面ライダービルド~約束という名の誓い~が投稿されますので、よろしくお願いします!
原作は仮面ライダーになってるので間違えないようにです




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3.俺に出来ること

こんにちは。

千聖編最終話です。最後の方千聖ファンには少々刺激が強い内容が含まれてるかもです。そんな事はないと思う方もいらっしゃるかと思いますが。

それではどうぞ


 朝方。小さな物音で目を覚まし天井を見上げていると、白鷺さんが俺の顔を覗き込んでくる。ファンだったらもう即死のレベルだな。俺はその……もう慣れたと言うか。

 

「起こしちゃった?」

 

「いや……。もう行く時間ですか?」

 

「ううん。もう少し時間あるわ」

 

「そうすか」

 

 頭を少し上げて後頭部を掻き、上半身だけ起こして背伸びをする。もう1度彼女を見ると昨日の夜の事がまるでなかったような、清々しい表情だった。

 

 あれから話をたくさん聞いた。撮影で辛かった事や、思い通りに行かない辛さを。正直白鷺千聖という人間はなんでも出来てしまう。そう思っていた。だが、そんなことは1ミリもなかったのだ。今の自分があるのは努力をしたから。

 

 でも。その努力を全く見たことがない俺からすれば……やっぱりなんでも出来てしまう印象が強かった。そんな彼女の言葉に俺は凄まじく共感した。

 

 

 

 努力は人に見せるものじゃない。

 

 

 俺もずっとそうだった。家族が居る所ではあんまり努力する姿は見せずに、見ていない所で頑張る。そんな感じで過ごしてきた。

 

 だからわかる………なんでも出来ると思われる辛さが。俺の小さい頃なんて、よくギター出来るの? とか聞かれたもんだ。親がそういう事をやってると、な?

 

「昨日は本当にありがとう。おかげで自信が持てたわ」

 

「俺はただ話を聞いただけですよ。白鷺さんの気持ちは痛い程わかりますし」

 

「ふふっ。あなた、お人好しってよく言われない?」

 

「言われますよ。今までいろんな人にお節介してきましたから」

 

 たぶん俺のやりたい事はこれから先も変わらない。困っている人が居れば…真っ先に助けに行く。例え自分に不利益だとしても。

 

「今日の撮影。頑張ってください」

 

「ありがとう♪ 頑張るわね」

 

 その笑顔だ。俺が初めて出会った時に一番輝いていた時の白鷺千聖の笑顔。ようやく本調子に戻ってくれたみたいでなによりだ。

 

 1人で安心していると、俺の頭を不思議そうに見つめる白鷺さん。ん? とでも言いたげな表情をすると、「ゴミが付いてる」と言って、俺の目の前でしゃがんだ。

 

「どこすか?」

 

「私がとってあげる。ちょっとあっち向いて」

 

「はい」

 

 右側に視線を向ける。すると───チュッと柔らかい何かが俺の頬に当たった。俺の視線の先には窓。そこにくっきりと映っている。白鷺さんが俺の頬にキスをしているのが。

 

「え?! あ……なっ!?」

 

「ふふっ♪ 昨日のお礼」

 

「お礼って………」

 

 少し照れながらキスされた頬を抑えて言った。

 

 もはや殺されてもおかしくないレベル。当の本人は楽しそうにクスクス笑っている。これはあれだ。イタズラをした本人は楽しいけど、やられた方は全然楽しくないそれと一緒。もちろん俺は楽しくない。そこで楽しいなんて言ってみろ。もう変態だぞ。

 

「なんか楽しそうですね」

 

「そう? 私はいつも通りよ。なんか神山君を見てるとからかいたくなっちゃうのよね」

 

「なんすかそれ……。ほら、もうそろそろ時間じゃないですか?」

 

「あら…本当ね。じゃあまた後で会いましょう」

 

「は、はい」

 

 出来れば会いたくないと一瞬でも思った自分が居る。これ以上居たら俺がどうにかなりそうだもん。

 

 白鷺さんは鞄を持って部屋を後にした。最後まで見送った俺は、どっと押し寄せる疲労に思わず布団に寝転がる。

 

 正直すごい眠い。

 

 だけど寝てる場合でもない。俺にはやらなくてはいけない事があるからだ。今日こそあの人と決着をつけなければいけない。もう逃げるのは終わりだ。こんな日どころか、仲を戻そうなんて考えが出てくること自体が奇跡に近いような気がする。でも……戦ってるのは俺だけじゃないんだ。

 

「行くか……全てを終わらせるために」

 

 決意を胸にあの人が居るであろう部屋に着替えて向かった。撮影は昨日で終わったらしいからな。

 

 

 

 

 

 

 部屋の前に着いたが、すぐに入るという事は出来なかった。今の今まで喧嘩ばっかりしていたのに、急に謝りに来たらおかしい。俺ならおかしいって思うかも。それに今更って感じもするよな………。散々反抗してきたし、暴言だって吐いてきた。あの親父の事だから、軽い感じで許してくれそうだけどな。

 

 そう思ってもなかなかドアを開ける事は出来なかった。

 

「それでも……」

 

 今は進むしかない。

 

 覚悟を決めてノックした。

 

「どーぞ」

 

 中から聞こえたのはお母さんの声。ドアを開けると、2人で仲良くテレビを見ていた。ホント仲良いよな…あんた達。

 

「どうかしたの?」

 

「うん」

 

 お母さんに返事だけ返して、視線を親父に向けて言った。

 

「あんたに話があってきた」

 

「オレにか。なんのようだ? わざわざ喧嘩しに来たってか」

 

「違う。話があるって言ったろ」

 

 中に入って、ドアを閉める。俺が本気だと言うことに気付いたのか、テレビを消して俺の事を見据えてきた。

 

 緊張感漂う中、話を切り出した。

 

「白鷺さんから全部聞いた。どうして言ってくれなかったんだよクソ親父」

 

「何をだ?」

 

「とぼけんな。俺が居ない所では褒めておいて、居る所では褒めない」

 

 核心をついてるはずなのに、全く顔色1つ変えない親父。しばらく沈黙が続いた後、お母さんがもう耐えられないとばかりにクスクス笑い始めた。こっちは真剣なんだけど………。

 

「うふふ。もうこれ以上は隠せないわよあなた。全部話しましょう」

 

「そうだな。………お前から頼む。やっぱ無理だ」

 

 そうだなと言った割にはどこか恥ずかしそうにそっぽを向く親父。俺は殺意にも似た感情が湧き上がってくる。

 

 なんなんあのクソ親父。こっちは真剣なのにお前自信は話さないんかい!! 

 

「も~あなたったら。恥ずかしがり屋の所は変わらないんだから~」

 

「うるさいよ」

 

 俺は今非常に叫びたい。なぜ17にもなって親のイチャイチャを目の前で見なければいけないのだろうか。良い年の親2人だぞ? せめて俺の居ない所でやってくれ。

 

「で? 結局なんだよ」

 

「お父さんは、恵を褒めるのが恥ずかしかったのよ。雅史と違って物静かだったから、褒めたら怒るかなって」

 

「・・・・・なんだよそれ」

 

 じゃあ今の今まで勘違いしてたって事だよな? なんなんだよって事しかいえねぇんだけど………なんか気にしてたのバカみたいじゃん。じゃあ、入院した時に怒ったのはなんなんだ?

 

「なんで入院した時に心配してくれなかったんだよ」

 

「2人で話す機会がなかったから緊張してたのよ~」

 

「俺に相談しないで、アメリカ行き決めたのは?」

 

「ギターを頑張ってるあなたにもっと良い環境で頑張ってほしかったから」

 

 今まで疑問に思った事を質問すると、全てお母さんが楽しそうに答える。当の親父は俺と全く目を合わそうとしない。確かに昔から、家族の前で香澄みたいなタイプにツッコミをする時のようなテンションは見せた事がなかった。ん? じゃあ家族からはどう思われてるんだ?

 

「お母さんと親父は俺の事をどう思ってるの?」

 

「無口」

 

「寡黙」

 

「ただのコミュ症の人じゃん……。自分の息子なんだと思ってるんだよ」

 

 ため息を吐いて後頭部を右手で掻く。ようやく親父が口を開いた。

 

「悪かったな……。このままじゃダメだって思った。でもな~。普段から喋らない息子になんて声をかければ良いかわからなくてな。ダメな父親だよ」

 

「そうだな。こっちは深刻な問題だったのに勝手にアメリカ行きまで決められて、人が倒れたのに心配もしてくれなくて。ダメな父親だと思ったよ」

 

「うっ……」

 

 もはやダメと書かれた矢が刺さるのが見える。良い年にもなってイチャイチャしてる場合かよ。………でもなんだかな。

 

「………それが本心じゃなくて良かった。裏ではちゃんと心配してくれてたんだな。その……ありがとな親父」

 

「お、おう」

 

「良かったわね~。やっと長男が親父って呼んでくれるようになって」

 

 ん? それってどういう……。

 

「恵が小さい頃から、早く親父って呼ばれたいって言ってたのよ~」

 

「バカ! やめろって!」

 

 酒が回った時みたいに顔を真っ赤にしてお母さんを注意する親父。その姿があまりにも普段よ様子からはイメージ出来なかったからか、思わず笑ってしまった。

 

「なっ! 笑うなって!」

 

「はいはい。話はそれだけだから。じゃあ」

 

 わーわー言ってる親父を無視して、部屋を出た。

 

 結果的に仲直り出来た………のか? なんかあやふやになった感は否めないよな~。でも……仲直り出来たのは白鷺さんのおかげだ。後でちゃんとお礼言わないと。

 

「恵!」

 

 自分の部屋に戻る途中、呼び止められ後ろに振り返ると黒いギターケースを持った親父の姿がそこにあった。

 

「どうしたの?」

 

「遅い誕生日プレゼントだ。受け取れ」

 

 そう言ってギターケースを俺に差し出してきたのを素直に受け取った。受け取る物も受け取った事だし、部屋に戻ろうと振り返る。

 

「ちょ! ここで開けろって!」

 

「いや。通路だし重いし」

 

「いいからいいから」

 

 しつこいなーと思いつつギターケースを下ろして、チャックを開ける。そこには今まで見たことがない赤いボディのギターがあった。カタログをたまに見る事があるけど、少しも見覚えがない。そうなると答えは2つ出てくる。1つは俺の知らないギターなのか。2つ目は───

 

「特注で作ってもらったんだ。本当は去年の誕生日に渡そうと思ったんだけど~。いろいろあったから渡しそびれた」

 

「高かったんじゃないの?」

 

「バカ野郎。息子がここまで成長してくれたんだ。高いわけあるか」

 

 今まで喧嘩してたとは思えない程の笑顔で答える親父。あの出来事から初めて親父の事をすごいと思ったかもしれない。

 

「ありがと。大切に使うよ」

 

「ちっちっちっ。お礼を言うのはまだ早いぜ」

 

 なんかうぜぇ。まだお礼を言うのは早い…………。

 

 ふとケースを見ると、いつもと大きさが違っていた。もう1つのチャックを開けると今度は、これまた赤いボディのベース。

 

「そっちは高1の誕生日プレゼントだ」

 

「マジか」

 

 赤いギターと赤いベース。確かに赤色は好きだからすげぇ嬉しい。両方のチャックを閉じて、ケースを背負った。

 

「今度こそありがとう」

 

「おう!」

 

 再び自分の部屋に向かって歩き始めた。さすがに前よりは重たいけど、今は重いという感情よりも嬉しさの方が俺の心を満たしていた。どちらも特注品。世界に1つしかない俺専用のギターとベース。嬉しくないわけがない。

 

 部屋に戻ってから、白鷺さんが帰ってくるまでずっとギターとベースの調整や演奏をしてたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

────────☆

 

 今日の撮影は上手くいったどころか、大成功に終わった。物語のクライマックスでは相手の人とキスをするというシーンは一発でOKをもらえたし、他のシーンでも同じようにほとんど一発でOKをもらえたわ。やっぱり神山君に話を聞いてもらえたのが良かったのかしら? 何にせよ彼には感謝しないと。

 

 昨日とは明らかに違う、軽い足取りで旅館の部屋に戻ると彼はヘッドホンをして赤いボディのギターを弾いていた。すごい集中力なのか帰ってきた私に気づかない程。

 

「ふふっ。仲直り出来たのね」

 

 去年見せてもらった彼へのプレゼントの特注した赤いボディのギター。結構値段は張ったけど、息子へのプレゼントに金を渋るかよって………強気に言ってたのが懐かしいわね。それにしても。

 

「赤ばっかり」

 

 ギター、ヘッドホン、スマホ、時計、Tシャツ。身の回りの物が殆ど赤。それも哲夫さんが言ってたわね。赤へのこだわりは半端ないって。そのうちズボンまで赤くなりそう。

 

 集中している神山君に少しイタズラしてみようかしら。せっかく帰って来たのにその態度は少し気に入らないし。……冗談だけどね。

 

 

 

 

────────☆

 

 結構難しいな………しゅわりん☆どり~みん。楽譜無しでやってる俺がアホなんだろうけどさ。出来たらすごいじゃん? 全部が全部合ってるわけじゃないけど。…………さて。考えるのはここまでにして続きを。

 

 いざ弾こうとするが急に目の前が真っ暗になった。この感触は手だ。そしてヘッドホンをしているから声がなかなか聞こえない。ギターから手を離してヘッドホンを外し、首にかける。

 

「だーれだ」

 

「いやいや。1人しか居ないでしょ」

 

「わからないわよ? もしかしたら声のそっくりさんかもしれないわ。それにこれは夢って可能性も捨てられない」

 

「夢? 確かにあの白鷺千聖さんに、ありきたりなイタズラをされるなんて有り得ないと思いますけどね」

 

 じゃあこれは夢? ・・・・・んなハズはないだろ。ん~最後の最後までやられっぱなしってのも気分が悪いな。…………ちょっーと勇気を出してみますかね。

 

「夢……って事なら」

 

「なら?」

 

 一旦目隠しを解いてもらい、ギターを下ろす。そして振り向いて一気に白鷺さんを押し倒した。いきなりの事に彼女も驚いている。そう言う俺も俺で驚いている。

 

 しっかりと両手で白鷺さんの両手を抑えて話かけた。

 

「これ以上先に進んでも大丈夫ですよね? “夢”なんですから」

 

 どうだどうだ。イタズラとは言えなかなか勇気を出したと思わないか?

 

 心に若干しかない余裕の中、じっと彼女を見つめる。あの時の夜みたいに心臓が早鐘なように動いていた。

 

「そうね……いいわよ? あなたがしたいなら」

 

 頬を赤く染めてそっぽを見ながら言う白鷺さんに思わず、「え?」と間の抜けた声が出てしまった。

 

 待て待て! なんで本気にしてんの?! そっちはイタズラじゃなかったのか?! このままだと非常に非常にマズい事になってしまうぞ。早いとこネタばらしを。

 

「じょ、冗談! 冗談! 俺にんな勇気ないです!」

 

 急いで離れて土下座。こんな所で土下座をする事になるとは………。全部俺が悪いんだけども。

 

「ふふっ♪ 引っかかったわね」

 

 白鷺さんは起き上がると同時にそう言った。

 

「へ? それって………」

 

「どお? 主演女優の演技は」

 

「・・・・・・洒落にならねぇよ」

 

 どうやら罠にはまったのは俺の方らしい。全部嘘で、勝手に自滅したのも俺。これはあれだ。冗談で告白して、OKもらった時と同じ気持ちだ。された事ないけど。じゃあわからないって話だ。何言ってんの俺。

 

 1人テンパっている俺の様子を見てクスクス笑っている白鷺さん。元はと言えば全部あんたのせいや。

 

「本当に面白いわね。神山君は」

 

「褒め言葉ですか? それは」

 

「一応褒めてるつもりよ」

 

 どこら辺が面白いのかは皆目見当つかないけど、俺は褒められている。ふと時間を確認するともう夕方を過ぎようとしていた。

 

「ねぇ……神山君」

 

「なんですか?」

 

 急にさびしそうな表情を浮かべて俺に視線を向けてくる。

 

 

 

 

 

「一緒にお風呂入らない?」

 

 

 

 

 

「はい?」

 

 急に爆弾発言をしてきたのだ。これはどう捉えればいいの? 一緒にお風呂ってもうダメなやつじゃん……。お風呂で男女2人ってねー? 思春期真っ只中の男の子とお風呂はいけないよ。

 

 

 

 

 

 

 と、まぁ結果は混浴という方法でした。ここの旅館は男女で入れる露天風呂が設けられていて、体を流した後、露天風呂に通じるドアを開ければ行けるらしい。カップルとかじゃないかぎりあんまり行かないらしい。

 

「はぁー。本当に来ちまったけど良いのかな……」

 

 頭と体を洗った後、屋内の湯船ではなく外の露天風呂へとやってきた。いつ白鷺さんが来るのかとドキドキはしつつも、先に湯船に浸かって空の景色を眺めている。綺麗な星が散りばめられていて満点の星空に思わず見とれてしまった。

 

「綺麗だな~」

 

「そうね~」

 

「え?」

 

 急に白鷺さんの声が聞こえたので振り返ろうとしてしまったが、瞬時に風呂=と考え死なずに済んだ。

 

 ちょうど俺の居る位置は真ん中ら辺で、ちゃぷっと俺の元に迫ってくる音が聞こえる。すると俺の背中に寄りかかるように座ったのだろうか人の背中の感触が伝わってきた。

 

「待った?」

 

「全然待ってません」

 

「ふふっ。緊張しなくても大丈夫よー、後ろに振り返らなければ」

 

「確かにそうですけど……」

 

 俺は今、白鷺千聖と一緒の風呂に入ってると考えただけで鼻血もんだが、なぜか緊張からは解放されつつあった。なぜだかは俺にもわからない。

 

「今日の撮影はどうだったんですか?」

 

「神山君のおかげで上手くいったわ。昨日とは違い過ぎて周りの人、みんな驚いていたのよ」

 

「マジすか。やっぱりすごいですね。白鷺さんは」

 

 俺がそう言ったが、返事が返ってこなかった。疑問に思いつつも空を眺めてゆっくり待った。時折、お湯を肩にかける水音が聞こえる。

 

「最後に……お願いを聞いてくれる?」

 

「内容によりますが……出来るだけ頑張ります」

 

「じゃあ…今夜だけは恋人の関係で居てくれない?」

 

「………それってどういう」

 

「そのままの意味よ。今夜だけ付き合って…けい」

 

 彼女の言葉にはどこか寂しさを感じた。

 

 唐突に告白されたようなもんだが、なぜ今夜だけなのだろうか。それも気になるが、彼女の最後のお願いというのが妙に引っかかる。確かに明日の朝にはお別れだけど、永遠ってわけじゃない。…………今夜だけか。

 

 それなら約束を破った事にはなら、なるか。でも、一瞬だけ破らせてくれ。そんな寂しそうな声でお願いされちまったら、誰も断れねぇよ。

 

「今夜だけ……な。千聖」

 

「ありがとう。少しだけ顔を横に向けてくれない?」

 

「こうか?」

 

 少しだけ右を見る。もちろん真後ろに居るしら…千聖は見えない。いったいこれで何を───

 

「大好きよ、けい」

 

 大きな水の音が聞こえたかと思った刹那。俺の視界には千聖の顔が映った。

 

 

 

 

──────☆

 

 本当は彼を好きになってはダメなのに……それでも好きになってしまった。このドラマが成功すれば、今以上に忙しくなるとマネージャーさんに言われたの。だから遊んでる時間。勉強する時間がぐんと減る。

 

 せっかくの高校生活で青春? しないのも、もったいないわよね。それに私の通う学校は女子高。男の人との出会いなんてほとんどないわ。

 

 だから今、身近かに居る彼でいい。なんて考えで彼にお願いしたわけじゃない。

 

 

 

 

 普通に彼を好きになってしまったから。会ってまもない私を本気で心配してくれる優しいけいを

 

 

 

 

 今だけは……わがままを言わせてください。

 

 




恵「なんでこんな内容になったの………?」
作者「いや~。こういう内容書いたことないから、そろそろ書いてみようかと」
恵「俺が実験台と?」
作者「まぁそうなるよね(真顔)」
恵「おい!」

どういう感想が来るのか楽しみです。

それではいつかまた。




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