骸骨魔王と鬼の姫(おっさん) (poc)
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─プロローグらしい

勢いで筆を執らせて頂きました。
プロットはありません。
プロットなんざ放り投げろ(白目)
基本的には原作に沿ってほのぼのを目指して動いていきたいと思います。

更新は恐らく不定期になるかと…。


というわけで、原作では何かと苦労されているモモンガさんに異世界を楽しんで貰いたくて執筆致しました。
正直、何もかも初めてで手探り状態ですが、見守って頂けたら幸いです。


─西暦2138年。

今、ひとつの《世界》が終わろうとしていた。
その《世界》とは発表当時、一世を風靡したDMMO-RPG。

《YGGDRASIL─ユグドラシル─》

世界樹の名を冠するこのゲームは、無課金でも圧倒的な自由度を誇っていた。更には金さえ積めればほぼ何でもありのDMMO-RPGだった。
プレイヤーのキャラメイキング、装備は勿論、他の追随を許さない職業や種族の数。その組み合わせは無限大。拠点専用のNPCの作成、デザイン、能力、果てはゲーム『外』からデータを引っ張ってきてゲーム内で参照も可能…。
当時は話題に尽きなかった。MMORPG史において、それほどまでに自由なゲームは今まで存在しなかったから当然だ。

─しかし、盛者必衰。どのようなものにも衰えとはあるもので、12年続いた偉大な《世界》もついに終わりの刻を迎える…。







「また何処かで、か…どうして皆、そんな簡単にナザリックを…アインズ・ウール・ゴウンを捨てられるんだ…」

豪奢な部屋だ。綺羅びやかなシャンデリアが吊るされ、室内を明るく照らす。円形の大きな、黒檀で出来た漆黒のテーブルがその存在感を醸し出す。ぐるりと囲むシックで鮮やかな装飾がなされた41脚の『空席』がそれを着飾る。
唯一埋まっている席には、華美な装飾がなされた漆黒のアカデミックガウンを羽織る巨大な骸骨が佇んでいた。骸骨は叫ぶ。

「ふざけるな!ここは皆で創ったナザリックだろうが!」

ガン、と色とりどりの指輪が嵌められた真っ白な手骨が漆黒のテーブルに叩き付けられる。ピコン、と表示されたのは『0』という数字。
骸骨はワナワナと尚も震えていたが、やがて落ち着きを取り戻したのか背もたれに身を預け、力なくポツリと零す。

「そうじゃないよな…解ってるさ、捨てた訳じゃないって…」

いかにも魔王然とした風格だが、独り言を呟く哀愁の漂うその姿に当時の覇気はない。

「─あと1時間か…」

骸骨は天井を仰ぎ見る。巨大で豪華なシャンデリアが視界に入った。あれ一つ作るのにすら相当なこだわりを持って時間を割いた人がいた。その人はもうだいぶ昔にユグドラシルを引退してしまったが。
そんなことをぼんやりと考えていた空間に、音も無く気まずそうに扉が開かれた。

「…今晩は」

ピコン、と笑顔のマークが表示されつつ入ってきたのは艶やかな長い黒髪を無造作に伸ばし、一つの完成された驚くほど美しい日本人形…ではなく、額に二本の小さな角が生えた美少女だ。
見事な色彩の服を幾重にも重ね着た─確か十二単と言ったか。それを着崩して鎖骨辺りまで見せているそれは、傍目には花魁─大昔に存在した娼婦だったかな─のようにも見える。しかし、見た目には重そうなそれを、重さを感じない足取りでスルスルと進み椅子に座った。じゃなくて…

「サキさん!?」

「はい、サキです。遅くなりました」

顔に似合わず低くて野太い声を出しているのは、夜想サキ。彼女─彼のアバター名だ。以前はロールプレイのために寡黙を通そうとしていたのだが、不便過ぎたために今ではロール以外では普通に話している。確か、顔を合わせるのは大体3ヶ月振りになるか。

「モモンガさん、お疲れ様です。間に合って良かった。昨日やっと完成しました」

そう言ってでっかい盾を取り出した。何故盾を?と思ったが、よく見ると違う。自分のこのでかいアバターでも一抱えもするような一冊のデカくて分厚いハードカバーの本だ。表紙には我等がギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の紋章と英字が刻まれている。

「それが前から言ってた『アルバム』ですか!見せて頂いても?」

「ええ、勿論です。ただ、残り時間が少ないので、あとでメールでデータ送っときますからちょろっとにしといて下さいね」

そういう声色はとても朗らかだ。大仕事をやりきった感がとても出ている。分かります、その気持ち。

「おお…凄い…!」

ページをめくると、中身はアインズ・ウール・ゴウンに関するSS(スクリーンショット)やデータが満載だった。
─今は辞めてしまった、かつての仲間たちの勇姿からあらゆるデータ、語録と銘打った様々なセリフ、ここナザリック地下大墳墓の各箇所のSS、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の詳細に至るまでおよそ全てがこの一冊に込められているとのことだ。

「約10年ですか…この一冊に私の持てる全てを籠めましたよ」

ふふん、と画面の向こうでドヤ顔しているのが目に浮かぶ。普段ならイラッとするその仕草も今なら許される。許しちゃう。

「…本当に凄い…他の皆には渡してあるんですか?」

「本当は真っ先にギルド長に見せるべきだったんでしょうけど…驚かせたかったのとユグドラシルが終わる前に、と他のメンバーには分かる範囲で先に送っちゃいました。ごめんなさい」

そう言うとサキさんはペコリとお辞儀した。欲を言えば一緒に添削したかったが、『私の魂を込める、申し訳ないですがこればっかりは一人でやり遂げたいんです』と断られてしまった。
その時はしょうがないと言う気持ちとやるせなさがない混ぜになっていた。でも、それも最早どうでも良い。そう思えるほど素晴らしい一冊だった。

「そんな、全然構いませんよ!顔を上げてください」

これで少しでも他の皆が、我が…─我らがギルド、アインズ・ウール・ゴウンを思い出してくれるならこれほど嬉しいことはない。そう思う横で少しだけ、寂しくもあったが。

「…そう言えば、昨日ってことは今日はどうされてたんですか?朝からいたようですが、最期には間に合わせるから内緒って言ってましたが…」

先程、驚いたのはどこにいるか分からなかったからだ。ログインしていたのはチェック済みだったが…今思うと恥ずかしい事をしていた時は、どこにいるかメンバー表は見ていなかった。

─さっきの聞かれてないよな?

「いや、実はですね。もう一つ報告がございまして…」

画面の向こうでニヤニヤしているのが分かる。どうしよう、落ち着くとやっぱりイラッとする。

「ほう、報告。聞かせて下さい」

思わずイラつきが声に出てしまった。だが、サキさんは余程嬉しいのか全く意に介していない様子で、ひと振りの刀を取り出した。あれは…

「夢だった炎楼(えんろう)・零式がついに完成したんですよ!」

中二病満載の刀、炎楼・零式。元々ランクが神器級(ゴッズ)で名前も炎楼・改だったのだが、結構洒落にならない性能を秘めていたはずだ。今は更に上を行くということか。

かつて『いつかこの刀に世界級(ワールド)ぶち込んで最強の刀を作りたいです』と無茶なことを言っていたのを思い出した。
ギルメンに突っ込まれていたが『《世界》の可能性はそんなに小さくないっ!』とクソ運営の迷言を叫んでギルメンにボコられていた。全部避けていたが。
─下手に煽るからウルベルトさんブチ切れてたなぁ…。あのあと落ち着かせるの大変だったんですからね。
それは置いといて、ついに完成したというのか。というか中身おっさんが無表情でぴょんぴょん跳ねないでほしい。地味に怖い。

「ほ、本当に世界級アイテムを素材にしたんですか?」

「ええ。哀しいことですが、ユグドラシル終わっちゃうんで…怒らないで聞いて下さいね?」

何だろう、確かにそれは哀しいがそう言われると凄い嫌な予感がする。

「…内容によります」

「『アルバム』ネタにして熱素石(カロリック・ストーン)を譲ってもらって、同じくネタにしてそれを素材に鍛冶師に打って貰いました」

「ファッ!?」

なにやってんだこの問題児(ファッキンビッチ)

「イヤイヤイヤ…ちょっと待って下さい。え、この『アルバム』ばら撒いたんですか?この問題児(クソビッチ)

何だか過去の栄光を汚されたようで、凄い嫌だった。それにあまり考えたくないが視点を変えればこの『アルバム』は攻略本になりかねない。目の前の問題児(アホビッチ)はやや申し訳なさそうだったが、次の一言を聞いたらスッと嫌な気持ちが収まった。

「モモンガさん、本音が漏れてます…んんっ、少し考えてみて下さい。この9階層以降はメンバー以外見たことないですよね?勿体無いじゃないですか。他の奴らにうちらはこれだけ凄いんだぞって画像付きで自慢できるんですよ。そう考えたら、コピーだしこれネタに夢叶えちゃおってつい…やっぱり駄目でしたか?」

「…因みに反応はどうでした?」

恐る恐る聞いてみるとある意味では予想通り、あるいはそれ以上の言葉が返ってきた。

「上々も上々。秘密にしろって言ったのにどっかから漏れて、凄い人だかりが出来ちゃって…捌けるのにえらい時間掛かっちゃって、気づいたらこんな時間になってました」

「…!」

ヤバい。ちょっと、いやかなり嬉しい。他人が作った『アルバム』なのに、思ってた以上の好評価にまるで自分のことのように嬉しかった。

「すみませんでした。夢も叶うからって、好評価にも浮かれちゃって考えなしに…よく考えたら、細かいギミックは載せてないので攻略本にはならないはずですが、下手するとこれ片手に攻めてくるやつが─」

あ、感動して黙ってたら怒ってると勘違いしてる。面白いからこのまま続けようかと思ったが、ふと時間を見るとあと30分もない。このまま終わってしまってはお互い最悪だ。
コホン、と咳払いを一つ。

「んん…怒ってませんよ。むしろ好評価で誇らしく思います。良かったですね」

「最期なのに、勝手に色々やらかしちゃったのに怒らないんですか?」

「最期だから、ですよ。幸い今日は攻めに来た奴はいません。ほら、あと30分切ってます。早くしないとこのまま終わっちゃいますよ」

そう言って立ち上がり、自然と後ろの壁際に鎮座している豪奢な杖─ナザリックの心臓であるギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』に手を掛けてしまい、思わず手を放した。
これも皆で作り上げた大事なアイテムだ。わざわざ有給を取ってきたり、夫婦喧嘩をしてまで素材集めに奔走したメンバーが居たくらいだ。
そして、その苦労に見合う性能を秘めており神器級にして世界級アイテムに匹敵すると言っても過言ではない。そんな皆の想いがつまったアイテムを勝手に持っていくのは戸惑われた。

「…どうしました?」

「いえ、勝手に持っていくのもどうかな、と思いまして…」

それを聞いたサキさんはフルフルと首を振って否定した。

「確かに多数決を尊重するギルドですが、そもそもそれはギルド長専用の武器です。長い間、ここを護ってきたモモンガさんなら持つ資格は当然あります。誰も文句なんて言いませんし…─言えませんよ」

哀愁を帯びた声色だった。サキさんはここ2年ほど、たまにしか来られなくなったメンバーだったのを思い出す。
よく『出張先にデバイスがない。ユグドラシルに行きたい。発狂しそう』とメールを貰っていたのも今や懐かしい思い出だ。自分もそんな環境だったら発狂していたかもしれないと思うと、自然と笑みが浮かんだ。

「そんな、哀しそうな声を出さないで下さい。最期なんですから、楽しく終わらせましょう」

「─…それもそうですね。私はロールしちゃうと黙るしかなくなるんで最期のロールは玉座の間でやりたいんですけど、良いですか?」

サキさんの問い掛けにしっかりと頷いて返答する。やっぱり、最期の締めはあそこしかないよな。






名の知れた芸術品と言っても過言ではないほどの見事な天使と悪魔の像に出迎えられた。その造詣は今にも動き出しそうなほどリアリティに溢れている。

─…ほんとに動き出さないよな?ここでトラップ発動したらマジで怒りますよ、るし★ふぁーさん。

イタズラばかりしていたギルドきっての問題児が造ったことを思い出し、少し構えてしまう…隣に問題児(ビッチ)がいたことも思い出したが。

「─大丈夫ですよ。ここら辺に無差別に発動するトラップはありませんから」

同じ思いに至ったのだろう。しかし『アルバム』のためにあらゆる部分を網羅した彼女─彼のことだ。そこは信頼していいだろう。
その言に頷いて返答し、細やかな彫り物がなされ荘厳な雰囲気を持つ重厚な扉に近付くと、音も無くゆっくりと開かれる。
後ろに拠点NPCの執事のセバスを始め、通路で出会ったNPCを連れ出していたら結構な大所帯になってしまっていた。
ゾロゾロと連れ動く様子は雰囲気を壊してしまいそうで戸惑われたがしかし、最期くらい出番を持たせようと連れて来たのだ。ここでお預けを喰らうのはNPCとはいえ可哀想だと思い、そのまま中に入れてやる。

中に入れば壮大な光景が視界一杯に映りこむ。久し振りにここに来たが、恐らくメンバーのほぼ全員がこだわりにこだわった場所の一つだ。玉座の間とは名付けているが、もはや一つの空間と言えるほどに広く大きい。柱一つ一つに各ギルメンの紋章が描かれた旗が掲げられ、メインと言える玉座は世界級アイテムだ。

「─おぉ…」

「…やっぱりあの角度じゃなくてこっちのが良かったかなぁ…いやしかし…─」

感動も虚しく、ブツブツと隣の無表情のアバターが顔に似合わない低い声で呟いているのが聞こえてきた。怖い。

「サキさん…気持ちは分かりますが、凄い怖いので申し訳ないのですが独り言は控えて頂けると…」

「あ、失礼しました。いやー、久し振りに来ましたがやはり素晴らしいですね。どの角度が一番映えるか悩みに悩んだのも良い思い出です。まぁ、改めるとまだ悩んでしまいますが…」

同じメンバーとはいえ、やはり褒められると自分のことのように嬉しく感じてしまう。それ程に、自分はこのギルドに誇りと思い出を持っているのだと再認識すると共に彼女─彼の冷めぬ熱意に笑みが漏れた。

「ふふ、それじゃロールの準備をしますか…─あれ、玉座の横にいるのは…」

早速ロールに入ろうかと思って玉座に視線を向こうとしたが、横に立っていたキャラに目が止まった。
あれは確かタブラさんの…

「おや、凄い偶然ですね。彼女はナザリック内をぐるぐる周回しているはずですが、まさかこのタイミングでここにいるとは」

「確か、タブラさんが創った階層守護者統括のアルベド…」

先程『アルバム』をめくった時に偶々目に入ったのが彼女だ。自分の好みにとても近かったので印象深かった。

「流石ですね。そうです、NPCのトップに設定したアルベドですよ」

「ん?あの手に持ってるものって…」

ふと彼女が心なしか大事そうに両手で持っているものが目に留まった。まさか…

「「世界級アイテム?」」

二人して首を傾げる。サキさんも何も知らされていないようだ。一体誰が…?

「…タブラさんが持たせたんですかね?モモンガさんは何かご存知ですか?」

「いや、私も何も聞いてません…あれは『ギンヌンガガプ(真なる無)』か?」

このギルドはサキさんが言ったように多数決で物事を決めてきた。特に世界級アイテムなんてトップレアに関することなら、まずメンバーに相談するはずだ。しかし、これは…

「…もしかするとタブラさん、アルベドのビルドが専守防衛だから広域範囲攻撃とか持たせたかったんですかね?」

「…」

もしそれが本当なら、いくらタブラさんとはいえ世界級アイテムを勝手に持ち出すなんてそれこそ勝手に過ぎる。苛ついてしまうが、しかし…

「─…もうすぐ、この《世界》も終わりますからね」

サキさんの悲痛ともいえる静かな呟きに、苛立ちが消沈した。考えてみれば自分も、サキさんのお墨付きとはいえ心臓と言えるギルド武器を勝手に持ち出そうとしたのは事実だ。おあいこだと思って『ギンヌンガガプ』はそのままにした。

「…あ、モモンガさん」

「はい、何でしょう?」

「玉座に座る前に待機コマンド入れないと…─大変なことになってますよ?」

振り向くと、確かに凄い光景だった。セバスが片足だけ階段に上がってるとこまで付いて来ていた。その後ろにはメイドたちがズラリ。考え事しててすっかり忘れていた。

「うへぇ…えぇっと、これは位置調整してから待機させるしかないか…─この辺かな、【待機】」

一旦、階段を降りて入口付近まで戻り、良い塩梅のとこで待機コマンドを入れる。すると、セバス以下執事とメイド達が跪く。くっくっ、とサキさんの苦笑する音が響いた。

「ちょ、しょうがないじゃないですか。コマンド入れるなんて何年もしてなかったんですから」

「これは失礼しました。なんか、のほほんとしていたもので、つい」

未だ苦笑が終わらないサキさんを尻目に玉座に座る。ふと、隣に佇む彼女のことが気になった。

「ああ、彼女のことが気になりますか?」

「え、あ。いや、そういうわけでは…」

「ふふ、誤魔化さなくていいですよ。まだ時間に余裕はあります。ギルド武器があれば設定が出来ますから覗いてみては?」

確かにまだ10分ほど時間があった。折角だ、気になるのは確かだし、ここは誘いに乗って見てみよう。

「「…うわ」」

ギルド武器を使ってアルベドの設定を見てみるとズラっと細かい文字が滝のように流れ出てきた。いつの間にかサキさんが隣から覗き見ていた。

「─生で見ると迫力が違うなぁ」

「ああ、そっか。例の『アルバム』にも設定とか書いてたんでしたっけ。あれ、でもこっちで見てないんですか?」

そう言えば、アルベド紹介の右側の『ページ』に黒い何かがびっしりあった気がする。それはつまり、あのでっかい本の1ページ分まるまるアルベドの設定に使われるほどの量ということか。しかも、すごい小さい字で。
アルベドの姿に見惚れ…違う、気になってたからあまり目に入らなかったが。

「実はそうなんですよ。NPCの設定とかはデータだけ吸い出してリアルのPCでしか見てなかったんです…タブラさん、設定魔でしたからね。アルベドは三姉妹って設定なんですが、他の二人も同じくらいの量でして…彼女達だけで何日か潰れました」

「…お疲れ様でした」

意外と几帳面な彼女─彼のことだ。あの文字の羅列を何度も見直したのだろう。その熱意には頭が下がる。ギルドに対する熱意なら自分も負けていないが、NPCの設定だけを何日も見るかと言われると…難しいかもしれない。思わず労いの言葉をかけてしまった。

「いや、思わぬ発見とかもあって意外と楽しかったですよ。─ああ、そうだ。最後の一文、読んでみて下さい」

「はい?…─えぇ…」

勢い良くスクロールさせて飛ばし読みする。すると


【 ちなみにビッチである 】


とだけ、ピッタリ10文字で締められていた。いくら何でもこれは…

「…ああ。タブラさん、ギャップ萌えでしたっけ」

「そうですね。こんだけ長々と書いといて最後はシンプルに締めるっていうのも、もしかすると狙ってやったのかもしれません…流石に意図までは聞けませんでしたが。単に限界まで詰めた結果かもしれませんけどね」

「…」

勝手に書き換えるのはどうかと思うが、流石にビッチはない。少し逡巡して、ある考えに行き着いた。





























ピッ

































【 モモンガを愛している 】



─…タブラさん。文句があるなら今来て下さい。いつでも受け付けますよ。





































「おぉう…モモンガさん、意外と大胆ですね…」

しまった。真剣に考えてたら問題児(こいつ)がいたの忘れてた。

「あ、いや、こりは…!」

しかも噛んだ。問題児(現クソビッチ)がプルプル震えてやがる。

「ああ!もう!」

腕を振って表示を消す。時間も無くなってきた。こうなったら勢いで誤魔化すしかない!

「あはははは!も、モモンガさん最期にそれは卑怯ですよ!ロール出来ないじゃないですか!」

「え、ええい!騒々しい!」

いつまでも笑っている『部下』を魔王ボイスで咎める。それを聞いたサキさんは時間が残されてないことに気付いたのか、少しだけ息を整えて静かに階段を降りた。

「…」

一度だけ深々とお辞儀をして、隣にいるセバスに倣って跪いた。もうお互い、完璧になりきっている。あと3分か…。

「…鬼の姫よ、よくぞ舞い戻ってくれた」

「…─」

サキさんが少しだけ頭を下げて返事をする。今の『彼女』は寡黙な鬼の姫だ。因みに寡黙ではあるが喋れないわけではなく綺麗でよく通る声で喋れる、という設定らしい。

「うむ。だが、残念ながらもう間もなく《世界》が閉じてしまう。恐らくは、このナザリック地下大墳墓も消滅してしまうだろう」

「…─!」

言い終えるとサキさんが差し出すように垂らしていた頭をガバリと上げてこちらを見つめる。本当、問題児(ビッチ)だけどこの人も良いロールするよなぁ。こちらも楽しくなってきて興に乗る。

「だが、栄光あるアインズ・ウール・ゴウンは永遠に不滅である。何故か?」

「…─」

問い掛ければ『彼女』がコクリ、とゆっくりした動作での頷きを以て返す。ああ、もうすぐ()()が、楽しいこの瞬間が終わってしまう。
チラリと残り時間を見れば本当に僅かしか残されていない。立ち上がり、身振り手振りを以て渾身のロールを続ける。

「そうだ。我等の中にアインズ・ウール・ゴウンは在る!我等は不滅であり、よってアインズ・ウール・ゴウンも等しく不滅であることに相違ない!─さぁ、皆の者!我が同胞(はらから)達よ!力の限り《世界》に!その名を轟かせよ!」

決して急がずゆったりとした動作で、しかし間に合うように可能な限り素早く、それでいてあくまで優雅に『彼女』が立ち上がる。ここに来て『彼女』はおよそ完璧なロールを成し遂げた。

そして、大声で叫ぶ心構えをお互いに作る。近所迷惑なんぞ知るか。


「「アインズ・ウール・ゴウン!万歳!」」



























『アインズ・ウール・ゴウン!!万歳!!アインズ・ウール・ゴウン!!!万歳!!!』






























「「─…えっ?」」



─つづく。



ぶっちゃけタグはどうすれば良いか、よく分かっておりません。差し当たって必須のみ設定しております。
ご感想などお待ちしております。

━━━━

シャイタル様

誤字報告ありがとうございます。修正しました。


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─異世界転移らしい(1)

オリキャラ視点で進みます。

表記揺れ、というんでしょうか。そういったものがあるかもしれません。


『アインズ・ウール・ゴウン!!万歳!!アインズ・ウール・ゴウン!!!万歳!!!』






「「…─えっ?」」



《世界》の、つまり《ユグドラシル》の終わりだと思ったらNPC(ノンプレイヤーキャラクター)がいきなり騒ぎ出した。みんな涙を流して力の限り叫んでいる。隣のセバス超うるせぇ。


「…騒々しい、静かにせよ」

モモンガさんがそう言うと、NPC達はピタリと止まって跪く。あの大音量の中でも結構小さい声だったんだが、届くもんなんだな。
突然のことで理解が追い付かず、ぼんやりとその様子を眺めていた。

─…なんだこれ、こんなプログラミングしてたっけ?…知らないうちにギルメンがサプライズで仕込んでたのかな。

「─…鬼の姫よ、こちらに」

「…」

取り敢えずモモンガさんがロールしてるなら俺もロールを続けようと思う。しかし、何なんだ一体…。
周りに跪いているNPCの様子をさり気なく観察しながら、ゆっくりと階段を登ってモモンガさんの目の前で跪く。

「…どう思う?」

「…」

この状況のことを問い掛けてるのだろう。さて、寡黙な美少女が迂闊に低い濁声を出す訳にはいかない。どうしたものかと逡巡する。
すると何か頭の中で糸が差し伸ばされたような感覚がした。よく分からないまま、感覚に従って糸を手繰り寄せて繋げてみる。

〈伝言〉(メッセージ)。サキさん、聞こえますか?》

《おお、[ももんが]さん。はい、大丈夫ですよ》

糸の差出人はモモンガさんだった。頭の中で魔王ロールとは違う、いつもの話し声が響き渡る。
…あれ、〈伝言〉ってこんなだっけ?ていうか、なんか今発音がおかし…いやいや、ちょっと待て。俺の声ってこんな『高くて綺麗』だったか?

《っ!?…サキさん、声が…》

《…何なんでしょうね、これ。()()運営からのご褒美ですかね》

設定通りの、もっと言えば想像通りの綺麗な声だ。自分で喋ってて聞き惚れてしまいそうなくらいだった。…気持ち悪いことを考えてることにも気付いたが、横に置いておこう。

《あのクソ運営がそんな素敵サービスするわけないですよ…サキさん、コンソールは表示されてますか?》

そりゃそうだと変に納得してしまった。あのケチでプレイヤー苛めに熱を上げてたクソ運営が、いちプレイヤーにこんな仕込みをするわけがない。
跪いたまま視線だけ巡らせる。

─さて、コンソールか。視界の中にそれらしいものは一切見当たらないな。…時計表示どこいった。今何時だ?

《見当たらないですね。時計表示どこいったんでしょうか》

《…相変わらず、こういうハプニングがあった時はちょっとズレてますね。安心しました》

─えぇ…俺、そんなにズレてる?時間は大事でしょ。

そんな社会人として真っ当な考えをしていたら、近くで跪いていたアルベドが()()()()()()

「如何なさいましたでしょうか、モモンガ様?」

二人してアルベドを見つめたまま、固まってしまった。なんで勝手に動いている。これ、定型文か?こんな定型文が設定されていたか思い出せない。
理解が追い付かない。だが、妙に冷静に考えている自分がいる。それも奇妙に思えた。

「失礼致します」

そう言うとアルベドは、やや前傾姿勢でモモンガさんの眼窩の赤い光を覗き込む。アルベドの豊満な胸が動きに合わせて目の前で揺れた。

─うほ、おっぱいたゆんたゆん…馬鹿なこと考えてないで、現状を考えろ。情報は何よりも優先すべきことだろ。

「…アルベドよ、何でもないのだ。下がっていなさい」

「ハッ、失礼致しました」

モモンガさんがそう言うとアルベドは大人しく引き下がり跪いた。少なくとも、モモンガさんの言うことには従うみたいだな…。
何時までも〈伝言〉で喋っていては不自然だろう。勝手に動き出したNPCといい、優先すべきは演技(ロール)ではない。今は、何が起こっているかの確認と把握をすべきだ。立ち上がり、話し掛ける。

「…[ももんが]さん、今は[ろぉる]より現状の確認と把握を優先させましょう」

「そうですね。丁度、私もそう思っていたところです。取り敢えず…─GMコールが効かない。強制ログアウトも無理、と…」

骸骨の魔王が、自分の頭蓋骨をわさわさと弄ってる光景はとてもシュールだった。そして、その目の前で手を振って踊っている自分は何なのだろうか。先程から妙に冷静な頭が、客観的に今の状態を認識させてくれた。

「えーっと…[こんそぉる]が非表示になっているわけじゃないみたいですね。表示も何も出来ないです。─…電脳世界に監禁?いや、法律で禁止されているはずだし、[りすく]がでか過ぎるな…」

「失礼致します、夜想サキ様。監禁、で御座いますか?」

─…不穏な空気だな。うなじがチリチリする。これは、()()…?

目の前の顔を上げたアルベドが、鋭い目つきでこちらを『睨んでいる』。むしろ、これは敵意というより()()に近い。迂闊なことを言えば、殺されてしまいそうな雰囲気だ。生温い風のようなものが体を通り抜けていく。
…だが、それだけだった。本来なら、きっとへたり込むであろう圧を受け流している自分がいる。特に反応がないが、モモンガさんは何も感じていないのだろうか。

─…さっきからどうしてこんなに冷静でいられるんだろう?

「アルベドよ、こちらの話だ。口を挟むな」

モモンガさんがピシャリと咎めると、当のアルベドは一気に『顔』を歪め、絶望に染まった雰囲気を醸し出した。さっきから一体何なんだ…。

「もっ申し訳御座いません!二度も失態を犯すような、愚かな未熟者は死んで償います!矮小な命では御座いますが何卒、平にご容赦を…!」

言うが早いか、アルベドがどこからか禍々しい造詣をしたバルディッシュを取り出し、自分の首筋に宛てがった。つつ、と赤い『血』が垂れる。

「待つのだアルベド!勝手に死ぬことは私が許さん!」

モモンガさんが慌てて叫ぶとアルベドの動きがピタリと止まった。アルベドは絶望の『表情』をし、頬に『涙』を流したまま、固まっている。赤い『血』が刃を伝ってポタポタと垂れた。

「良いのだ、アルベド。お前の全てを私は赦そう」

「っ…─嗚呼、慈悲深きモモンガ様…愚かなシモベであることをお赦し頂けるので御座いますね…」

モモンガさんが片膝をつき、アルベドの肩に手を置いてそう言うと、アルベドは静かにバルディッシュを膝元に置いて頭を垂れた。いつの間にか血が止まっている。
モモンガさんの手が触れた時にビクッと震えていたが、罰せられるかと()()()()んだろうか。しかし、なんだこのイケメン魔王。どこのモモンガだ。

─…さっきからアルベドに妙な違和感があるな。いや、違和感しかないのが現状だが、特にアルベドが顕著だ。これは一体…?

「…アルベドよ、手を触るぞ。良いな」

「は、はいっ!お好きなだけお触り下さい!」

─えぇ…このタイミングでセクハラっすか…?

モモンガさんにセクハラ噛まされた途端に、先程の絶望顔はどこへ行ったのやら。上げた顔の目が潤み、肌は上気している。心なしか口元から涎が出そうに…あ、そうか。違和感の正体がやっと掴めた。

「─…っ!」

モモンガさんがアルベドの手首を掴むと、アルベドが顔をしかめた。…ああ、さっきのはパッシブスキルの【負の接触】(ネガティブ・タッチ)の影響だったか…。
そう。違和感の正体はこのコロコロ変わる『表情』だ。よくよく考えてみれば普通に『会話』をしているのもおかしな話だった。そんな究極的に高度なAIは積んでないし、積めない。

「むっ…─そうか、【ネガティブ・タッチ】…すまなかったな、アルベド」

「いいえ、モモンガ様。お謝りにならないで下さいませ。私のことはどうか、お気になさらずに…」

モモンガさんがアルベドの手首から手を離して立ち上がった。あれで満足したのだろうか。それとも他の目があるから考え直した…?
こちらに振り向いた、眼窩の赤い光と視線が交差する。

「─サキさん、気付いてますか?」

「…表情と会話ですか?」

「その通りです。NPCに表情があり、涙を流し、血を流している。体温と脈動も確認出来ました。その上、会話が成り立っている。─これらは現状の技術では、まず有り得ないことです」

その言葉にしっかりと頷く。…そうだ。そんな技術が《ユグドラシル》にあれば皆もっと課金を…─違う、そうじゃない。

「─そして、匂いを感じます。鈍いですが感触も妙に現実味を帯びているようです。現行の電脳法では、いずれも禁止事項です」

『リアル』の腐敗具合は、まさに地獄だ。自然環境も体制も人間さえも、みな腐り果てていた。そんな《世界》にも、やはり『法律』という秩序は存在する。
掃いて捨てるほど溢れているとはいえ、社会の歯車どもが電脳世界に入り浸らないように電脳法という法律が明確に、匂いや感触など視覚と聴覚以外の五感をハッキリと再現するのは禁止している。
脳みその中だけでも、リアルの腐った食事ではなく大昔にあった()()の食材の匂いを感じ、あまつさえ味を感じられるなんてことになったら誰もリアルには帰らなくなってしまう。そうなってしまったら、年内で確実に人類は滅亡するだろう。それを防いでいるのが電脳法だ。違法者には苛烈な《罰》が待っている。

「あの()()運営が多大な[りすく]を払ってまで法律に触れる訳がない。そんな技術も確立していない…まさか…」

「あくまで可能性の一つです。答えを出すには早すぎます。しかし、現状で考えられる可能性としては最も高いと見て良いでしょう」

電脳(ゲーム)の《世界》が現実(本物)になった?





あの後、モモンガさんがセバスやメイド達にナザリックの周囲探査及び上の階層である9階層入り口の警護を、アルベドには4階層と8階層の安全確認及び6階層への守護者召集を指示して、玉座にいるのは俺達だけになった。
NPCがいなくなったところで最後の確認のためにあることを試みる。

そう、18禁行為─つまりセクハラだ。

これは女性キャラに触れる程度では抵触しない。当てはまるならば、モモンガさんは既にアウトだ。
あのズボラなクソ運営ですら電脳法に始まり、その辺の法律関係にだけは異様なほど目を光らせていた。大勢の人がいるところで「ち○こ」と呟いただけでイエローカードがすっ飛んでくるほどだ。実際にやらかしたから間違いない。
それを考えるとうちのギルドよく続いたな。…ペロロンさんに茶釜さんを筆頭に、その他数名は何故アカウント抹消(BAN)されなかったのか。ナザリック七不思議の一つに数えていい。閑話休題。
…つまりだ。女性キャラの自分が自分の胸を揉む。それだけで即警告がすっ飛んでくるか下手をすればBANされる。自慰行為と見なされるためだ。
触れる程度なら見逃されるが、揉むとなると明確な意志がそこに在ることになる。言い逃れは出来ない。

「ふー…取り敢えず、こんなとこですかね」

と言うわけで、隣の骸骨を尻目にいそいそと服を脱ぎ始める。それを見た骸骨は叫ぶ。

「ちょっ!?サキさん何やってんですか!」

「何って最後の確認のための十八禁行為ですよ」

しれっとそう言えば骸骨が慌てて止めに入る。
…そのまま揉めないのかって?十二枚も布が重なってるんだぜ。かてーよ。…それなら、露出している胸の谷間から手を入れたらいいんじゃないかって?ハハッ、谷間なんかないよ!
外からは見えないようになってるが一番下にさらしを巻いているため、全部脱ぐ必要がある。これは18禁行為対策のためで女型和服系には全て標準装備されている。
骸骨が襲い掛かる間も脱ぎ続けるが…この服、凄い脱ぎにくいな…。

「いや、それは!─必要かもしれませんけど!─ぐっ、BANされたら!─どうするんですか!」

「大丈夫ですよ。そしたら、ただの[げぇむ]だったで済みますし」

それはもう、凄い勢いで掴みかかってくる。止めようと躍起だが、回避系統にステータスを全振りした前衛を後衛が捕まえることはよっぽど油断でもしていない限り不可能なのだが、焦りや混乱で頭からスッポリと抜け落ちてるみたいだな。

「イヤイヤ!─ダメです!─一人だけ!─逃げようったって!─っそうは!─させません!」

「逃げるだ、なんて失敬な。これは必要事項ですぅー」

モモンガさんのアバターはでかい。2mくらいあるんじゃなかろうか、というくらいだ。一方、こっちのアバターは美少女なだけあってかなり小柄だ。向こうの手だけでこっちの頭が覆われるくらい違う。そんな巨大な手が自分を捕まえようと何度も迫るが、その度にするりと抜け出す。

「回避超特化型を捕まえられるのは[くそ]運営だけですぅー」

「なっ!?─この問題児(クソビッチ)が!─本当に変態(ビッチ)になったか!─中身おっさん!」

「哀しいけどこれ、性能差なのよね」

ひょいひょいと避けつつ、つい癖で煽ってしまう。あー、なんか懐かしいな。何故かウルベルトさんがよくブチ切れてたなぁ…その後のモモンガさんからの小言も凄かったけど。







─結論から言えば、幸か不幸かBANどころか警告すらなかった。隣でまだブツブツと小言を呟く骸骨はさて置き、現状を把握する上でひとまず()()が現実のものと仮定して話を進めることにする。
もし『これ』がクソ運営とは関係のない別のゲームだとしても、強制ログアウトも─命の危険もあるが─デバイスを直接外すことも出来ないというのは考え難い。
そもそも現実(リアル)の腕を動かそうとしても、どうやってもアバター(こちら)の腕が動くのだ。他に出来ることがない。

「─…[ももんが]さん、調子に乗ってすみませんでした。反省してますから戻って来て下さい」

「…」

ジトッと眼窩の妖しい赤い光がこちらを射抜く。まだ何か言い足りなさそうな雰囲気だが、話を進めなくては。

「昔を思い出してつい煽っちゃったのは、本当に反省してます。ですので話を進めませんか?」

「っ…。─ハァ…何があるか分からないんですから、勝手なことはしないで下さいね?」

『昔』に反応した気がするが、ひとまず置いておこう。

─…落ち着いたら、ちゃんと話し合わないとな。

「はい、分かりました。取り敢えず、『これ』が現実のものと仮定して進めましょう…いやしかし、流石[ぎるど]長ですね、曲者揃いを纏めていただけはありますよ。あの短時間であれだけの指示を出せるとは」

「…曲者筆頭候補が何言ってんですか。俺も混乱してますよ?でも、急に感情が平坦になるというか抑制されるんですよね。さっき追い掛けてた時も何度か抑制されました。煽られて、すぐ沸騰しましたが。─種族特性の【精神作用無効】が働いていると睨んでいるのですが」

─え、俺ってそんな位置付けだったの?いや、それよりも…

「ほんとごめんなさい。─[ももんが]さんもですか?実は私もなんですよ。妙に頭が冴えるというか動揺をほとんどしないんです。私の性格的にこういう場合、もっと()()()()するはずなんですが…それに種族特性や[すきる]に【精神作用無効】は付いてないですし…」

「ああ、それは俺も不思議に思ってました。アクシデントに遭うと凄い慌てますもんね。見てるこっちが落ち着くほど」

カラカラと骸骨が笑う。そういやモモンガさんも表情が動いてるな、これ。ていうか、俺ってそこまで酷かったのか…気を付けよう。

「そんなに酷いですかね…ああ、そう言えば[ももんが]さんも表情?が動いてますね。顎が()()()()と動いてますよ」

「そのようですね。サキさんは口以外、さっきからずっと無表情ですが」

顎をさすりながら話すモモンガさんの言葉で違和感に気付いた。このアバターはほとんど無表情を貫くほど感情表現が乏しい、という設定をしてある。もしかすると、それが原因かもしれない。

「…もしかすると私の場合、この[あばたぁ]の設定の影響かもしれません。発音がたまに辿々しいのも設定のせいだと思います。─この[あばたぁ]はほとんど無表情で過ごす設定と生まれたのが英語が伝わる前、という設定をしてますからその影響かも…」

「ああ、そうでしたね…上手いこと考えましたよね。ゲームだと表情が変わらないからでしたっけ?」

モモンガさんの問いに頷いて返答する。さて、自身の違和感の正体は掴めた。俺らが設定やスキルの影響を受けているということは、同じくNPCも設定などの影響下にあると思われる。過信は禁物だが。
ただ、アルベドの件がある。少なくともギルメンが創ったNPCの設定には1()()を除いて皆忠誠を誓っていると書かれていたはずだが、それならばアルベドのあの視線には違和感を感じる。忠誠を誓っている相手を睨みつけるものだろうか?さっきの様子をもう一度思い浮かべてみる。

─…敵意。敵意か…そういやスキルに【敵感知】(センス・エネミー)があったな

このアバターには敵対状態を感知する【敵感知】とそれの強化スキルがパッシブスキルとして設定してある。強化スキルの影響でバグったか、過剰反応を起こしたのか…それとも、アルベドの反応の原因は設定を変えた影響か?─もしくは自分の言葉に過剰反応しただけか?─そもそも本当に敵意だったのか?疑問は尽きない。
虚空に手を突っ込んで中を確かめているモモンガさんに思い切って聞いてみた。…もしかして、あれはアイテムボックスか?

「…[ももんが]さん。さっきは[あるべど]が敵意を向けていたように思います。何か感じませんでしたか?」

「─…え?」

右肘から先が無くなった骸骨がこちらを見て固まった。まぁ、この状況でいきなりNPCが敵対してるかもって言われたら固まるわな。さっきまでそのNPCが周りを囲んでいたわけだし。

「あれが殺気、っていうんですかね?こちらを睨み付けて、生温い風のようなものが私の身体を通り抜けたんですよ。うなじも、何だか()()()()しました」

「…その殺気というものが、実際はどう感じられるのか分からないので何とも言えませんが…気のせい、とかではないんですよね?少なくとも私は何も感じませんでした」

やはりそうか。この状況で()()を受けて何も言わないのは不自然だ。逆に何も感じなかったからこそ、疑問が出てこなかった。

「そうですね、気のせいではないと思います…杞憂だといいのですが。ただ、それを抜きにしても[あるべど]のあの反応はちょっと過剰に思えるんですよね。考えられるのは現実化したことで設定に変化があったか、それとも…─」

チラリ、とモモンガさんに思わず視線を送ってしまう。まさかこんなことになるとは思わなかったから仕方ないが、なんだか責めているようで気が引ける。

「私が設定変更した影響ですか…。─タブラさん…」

─すみま「[ももんが]さん」

「─…え?」

遮られて呆けてる骸骨を真正面から見つめて、続ける。

「責めてるわけじゃないです」

眼窩に灯る炎に似た赤い光が揺れる。

「『あれ』で良かったんですよ。後悔しないで下さい。[あるべど]が可哀想ですよ?」

その言葉を受けて、赤い光が目を見開くように強く大きく輝く。

「本当は良くはないのですが…─良いじゃないですか、嫉妬深い『彼女』らしいと思えば。あとで話をしてみましょう」

「…」

『アルバム』作りのために何ヶ月も毎日、色んな設定やらSS(スクリーンショット)やらとにらめっこしてきた。彼女がどういう存在でどういう性格をし、どういう()()()があるのか。
『アルバム』にも載ってない、ほとんどの裏情報をも網羅している俺にとって彼女は…─彼女()はただのNPCではない。現実(リアル)には何も無いのも手伝って、このナザリックが『我が家』であり彼女達は『家族』であり『息子』や『娘』も同然だ。

─アルベドは嫉妬深い設定だ。中身おっさんとはいえ、きっと見た目は美少女が愛する人と仲良く話しているように感じられたのだろう。それ故の嫉妬から来る敵意だったんじゃないか?

ならば、『敵意』があろうと『殺気』を向けられようとも俺にとっては─

























()()はただ、駄々をこねているようにしか感じないのだ。





























「ところで[ももんが]さん」

「…はい」

「時間…大丈夫ですかね?」


























「─…あっ」



─つづく。



シャイタル様

誤字報告ありがとうございます。修正しました。


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─異世界転移らしい(2)

実はこの話まで下書きしていたので比較的早めに投稿できました。逆に言えば、このあとは…。

上手く区切れず、前2話に比べ文字数が倍に。どうしてこうなった。

6階層までモモンガさん、あとはオリキャラ視点です。


「…あっ」


アルベドに自分の階層を見回りさせた守護者達を六階層に集めるよう指示していたことをすっかり忘れてた。しかも、スキルや魔法の検証も全然進んでいない。主に目の前の問題児(ファッキンビッチ)のせいで。
やったことと言えば問題児(こいつ)を追い掛けてたのが大半じゃないか?

「…早く六階層へ行きましょう。あの子達、怒ってるかもしれません」

「誰のせいだと…。─くっ、全然検証進んでないのに…」

「きっと大丈夫ですよ。最悪、指輪で宝物殿へ逃げましょう…。─ちゃんと機能すればですが」

きらり、と問題児(ビッチ)が目の前に持ってきた右手中指で煌めく指輪はリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。ギルドメンバーだけが持つことを許されており、これがあれば名前のある─玉座の間を除いて─あらゆる部屋に回数無制限で転移出来る、ナザリックの()()だ。
そして『宝物殿』と呼ばれる場所はこのギルドの大半の財宝が納められており、あらゆる空間から隔離されている。つまり、この指輪でしか行けないわけで、現状では最も堅牢で安全と言えるだろう。…ただ()()を除けば、だが。

「怖いこと言わないで下さい…仕方ない。指輪の検証も含めてこれで転移しましょう。─…っと、その前にセバスに外の様子を聞いてみます」

「ああ、そう言えば偵察に出していましたね」

こめかみに指を当てて〈伝言〉(メッセージ)を唱えると頭の中で一本の糸が繋がり、セバスの声が響き渡る。

《〈伝言〉。セバスか?》

《これはモモンガ様。はい、セバスで御座います。ご報告させて頂いてもよろしいでしょうか?》

《うむ》

次の瞬間、頭の中が真っ白になった。

《まず、ナザリックの上空は星空が広がっております。また周囲は辺り一面が草原となっており、人工的な建造物やおよそ知能を持つようなもの、及び脅威となるようなものはおりませんでした。知能を持たない小さな虫や鼠などの小動物でしたら確認を致しました》

《─…何だと?》

これは一体どういう事だ…本来、ナザリック周辺は常に暗雲で覆われた薄暗い毒の沼地だ。嫌らしく醜いモンスターも溢れんばかりに蠢いていた。─決して星空なんか見えやしない。草原なんぞある訳もない。先程から()()が現実であると仮定して話を進めているが、これは想定外だった。
万が一、ここがユグドラシルだったならば、別のサーバーに飛ばされただけという可能性もなくはないが…もう少し詳しく確認を取る必要がある。

《如何なさいましたか》

《セバス。空に浮かぶ城や島などはないのだな?》

《ハッ。星が瞬く夜空だけが広がっております。他には何も浮かんではおりません》

《草原とのことだが、氷などで出来た草で踏むとダメージがあるなどそういうものでもないのだな?また、周りに大きな岩などの遮蔽物になるようなものは?》

《ハッ。ただの柔らかい青草が辺り一面に生えているだけで御座います。遮蔽物になるようなものは一切御座いません。平坦な草原が続くのみで御座います》

《虫はただの虫で、鼠もラットなどのモンスターではなく、本当にただの小動物なんだな?》

《ハッ。仰るとおりで御座います》

─あとで自分の目でも確かめる必要があるな。プレイヤーやモンスターが今すぐ攻めてくるわけでもなさそうなのが救いか…。

《…分かった。六階層に守護者達を呼んである。もう少しだけ探索したら、お前も来て皆に説明せよ》

《かしこまりました》

頭の中の糸が切れた感覚を確かめ、隣でこちらを伺っている鬼の姫に向き直る。

「どうでした?」

「…星空が広がっていたそうです。周辺1キロ程度ですが、辺りはただの平坦な草原とのことです。モンスターや脅威になるものはいないようですが…」

衝撃の一言だったようだ。初めて表情が動いたように思う。極々僅かに、それも一瞬だが目を見開いていた。

─…まるでゲームのシナリオだな。《世界》が終わった途端に別の《世界》へ、か…。

「…実際に見てみないと何とも言えませんが…脅威が無いならそれに越したことはないでしょう。その辺りの確認は、予定通り守護者達に会ってからにしましょうか」

「…そう、ですね。セバスには六階層に来るよう伝えました。それと念の為に支配者ロールでいきましょう。向こうに着いたら〈伝言〉を繋げておきますので、サキさんも合わせて下さいね?」

「了解です」

こうして俺達は指輪に意識を集めて、玉座の間から姿を消した。結論から言えば、六階層に無事転移できたわけだが…。










「─…おっ」

「─…っと」


淡い光に包まれた石造りの通路に出た。いくつもの〈永続光〉(コンティニュアル・ライト)が通路に規則正しく並び、照らしている。
その通路は後ろに長く伸びており、前方には大きな鉄格子が降りていた。床の砂がざり、と音を立てる。
頭の中で糸が繋がる。上の掛け声が繋がったようなのは気のせいだ。

《〈伝言〉。検証は成功…指輪は問題ないようですね》

《そのようですね。それじゃ、[ろぉる]で行きますか?》

《はい。指示通りに動いているならもう守護者たちが集まっているでしょうし》

それに頷きを以て返す。巨大な鉄格子が嵌められた方へ通路を歩いていくと鉄格子はひとりでに上がった。─こういうのはゲームと変わらないみたいだな。それとも誰か操作しているとか?
それをくぐると、見事な星空が煌めく幅広い楕円形状のところに出た。あの陰鬱な沼地の曇天が、今はブルー・プラネットさんが丹精込めて創ったこの空みたいになっているというわけか…。
今、俺達がいるここは円形劇場(アンフィテアトルム)といい、密林が広がる第六階層に鎮座する古代の建造物を模したものだ。ここに来るのも久し振りで、昔はよく侵入者の『演劇』を貴賓席から観ていたものだ。
その舞台─処刑場とも言える場所の中央付近に種族も大小様々な者たちが集っている。階層守護者達だ。

─…何か話しているな。

「…本当にここで良いのですね?アルベド」

「ええ、モモンガ様は確かにそう仰られていたわ。守護者達は各々の階層に異常がないか確認の後、ここに集まるように、と」

─…やっべ、すげぇ待たせてたんじゃねぇ?これ。

話しているのはNPC(ノンプレイヤーキャラクター)のトップであるアルベドと第七階層の守護者に設定してあるデミウルゴス。共にナザリックの智者とも設定されているだけあって、話し合っている様子は知的に溢れている。
その横でちびっこ達がギャーギャー騒いでいる。言い争っているのは…この六階層守護者のアウラと第一から三階層守護者のシャルティア。アウラの横でオロオロしているのはアウラの弟に設定してあるマーレ。そして、黙している巨大な青白い人を模した昆虫は…第五階層のコキュートス。

『!』

「すまないな。待たせてしまっ─…たか?」

モモンガさんが話し掛ける直前にザッ、と一糸乱れぬ様子で守護者達が一斉に跪いた。…忠誠心半端なさそうだな、これ。

()()など、そのような事は御座いませんわ、モモンガ様。我ら守護者一同─いえ、このナザリックの全てはモモンガ様、ひいては至高の御方々のもの。如何様にもお使い下さいませ」

代表してアルベドが応える。後ろで跪く守護者達が同意するように頭を深く下げた。心なしかぷるぷる震えている。緊張でもしているのだろうか。

─先程のアルベドのように『敵意』があるわけでもなさそうだが…アルベドからも今は何も感じないな。

「…そうか」
《サキさん、これどうしたら良いんですかね。こいつら忠誠心半端なさそうなんですけど》

「…」
《うーん…どうしましょうかね》

その言に内心苦笑いだ。こんな傅かれるなんてことは現実(リアル)でしがない会社員(サラリーマン)だった俺らにあるわけない。と、アルベドが何やら立ち上がった。

「モモンガ様…忠誠の儀を行わせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「う、うむ…?」
《サキさん、『忠誠の儀』ってなんですか。そんなの設定にありましたっけ?》

「…」
《いや、そんな設定はなかったように思いますが…》

「では、皆。忠誠の儀を」

〈伝言〉で話していたらあれよあれよと守護者達が一斉に階層順に並び、順繰りに一歩前へ踏み出し跪いた。

「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

─その様相はとても優雅で。

「第五階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」

─その動きはとても力強く。

「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ」

「お、同じく。だ、第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ」

『御身の前に』

─その仕草は気品に溢れ。

「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

─その儀礼は、内に秘める忠誠心を全身で表しているかのよう。

「階層守護者統括、アルベド。御身の前に。第四階層守護者ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除き各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。─ご命令を、至高なる御方々。我ら守護者一同、至高の御方々に全ての忠誠を捧げます」

言い終えたアルベドは差し出すように頭を垂れた。後ろの守護者達もそれに続く。一糸乱れぬ様はすごく練習したんだろうなぁ、と思考が現実逃避を始めた。

《えっ…なんですかこれ。どう応えればいいんです?》

《やだなぁ、一社畜に聞かないで下さいよ》

二人とも幸い顔には出ないが、それでも戸惑いを表に出すわけにはいかない。といっても、何をしたらいいか分からないので棒立ちだ。あんまり時間かけると変な空気になるぞ、これ。お?アルベドが顔を上げて…?

「至高の御方々は戸惑わられているご様子…無理もありません。我らは、至高の御方々のお力に比べるべくもない矮小な身では御座います。しかし、いかなる難行も全身全霊を以て必ず遂行致しますことを至高の御方々に、アインズ・ウール・ゴウンに誓います」

『誓います』

…ロールもあるが、言葉が出ない。圧倒的な雰囲気。─そこには6人の絶対な意志が秘められているのが感じられる。
だが、感動も虚しくすぐに沈静化されてしまう。透き通った頭の中は静かに6人を眺め、隣の骸骨をちらりと盗み見る。な、なんだ。ぷるぷる震えている…?

「…素晴らしい」

─…は?

「素晴らしいぞ、守護者達よ!お前達ならば我が目的を理解し、失態なく事を運べることを今、強く確信した!」

魔王が感極まってなんか言ってる。【漆黒の後光】も【絶望のオーラ】も垂れ流しだ。ギルド武器(スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)の上乗せもあってすんごい威圧感だな。いや、まさに魔王してて格好良いからいいんだけどさ。

「…だが、残念なことに現在ナザリックは未曾有の緊急事態にあると思われる…何か異常を感じ取った者はいるか?」

「いえ、どの階層も異常は見つからなかった、とのことで御座います」

アルベドが皆を代表して答える。あの子達もモモンガさんの言葉を受けて感極まったり戸惑ったり忙しそうだなぁ…。あ、セバスが遠くで跪いてる。

「ふむ…セバスはいるか?」

「─こちらに」

床が砂なのにスッと音もなく俺達に近付き、程近いところで跪いた。この身のこなし…これがLv100のモンクよ。

「お前が見てきたものを守護者達にも伝えよ」

「ハッ。かしこまりました」

セバスが守護者達に説明してる間に俺らも〈伝言〉で会話を続ける。

《それじゃ、サキさん。守護者達が気になってるみたいですし、戻ってきたって発表しましょうか》

《ああ、確かに。まだ何も喋ってないですし、ちらちらこっち見てましたね》

色々あってすっかり忘れてたが、ナザリックに戻るのは3ヶ月振りになる。その前は確か5ヶ月振りだったかな…その間ずっとここを維持してくれたモモンガさんには頭が上がらないな。煽るけど。
しかし、守護者達も流石に想定外だったのかセバスの説明を受けて驚愕しているな。ただ、何でそんなに悔しそうにしているのだろうか。

「…さて、情報共有は済んだようだな。今、聞いた通りだ。現在のナザリックは外界が不明瞭にある。これは我らが危機にあると考える…。─しかし、吉報もある。この度、我が友である夜想サキさんがナザリックに帰還した」

『!』

「…ただいま」

《─…え、それだけですか?》

《寡黙な美少女ですから》

一瞬の沈黙の後、守護者達が泣き出した。それはもう凄い勢いで。
シャルティアはアンデッドなのに涙と鼻水でグジュグジュだし、アウラとマーレは抱き合ってわんわん泣いている─かわいい─し、デミウルゴスは一滴の涙が頬を伝う程度だが、爪が太ももに食い込み血をダラダラ垂れ流している。えぐい。
コキュートスは流石に涙が出ないようだが、周りの地面がバッキバキに凍り付いているな。雄叫びがうるせぇ。セバスは流石にかわらな…。─ギリギリと音が聞こえるほど握り締めた(こぶし)から血をダラダラ垂れ流している。デミウルゴスといい、お前ら仲良いな。たっちさんとウルさんみたいだ。
全く変わらないのはアルベドだけか…心なしか冷めた表情だ。ぱっと見は本当に全く変わっていないが、纏う雰囲気というか、そういうのが冷めているのが何故か分かった。

《えぇ…すっごい泣いてる。─このままじゃ収拾つかないんで、他になんか言って下さいよ問題児(クソビッチ)が》

《な、なんか当たりが強くないですかね…うう、分かりましたよぉ》

魔王の眼窩の炎が異様に燃え盛り、こちらを睨み付けるのが分かった。おっかないから何とか言葉を捻り出す。あ、沈静された。

「…久方振りだが…変わらぬようで安心した…。─しかし、長の言うとおり…今は我らの危機…泣く暇はない…」

『!』

《ちょっ、何言い出してんだ問題児(ファッキンビッチ)!》

《まぁまぁ》

魔王の後光が強くなった気がする。ていうか、本当に暴言酷くないですかね。こんな人だったっけ?…こんな魔王だったな。

「…本来なら…泡沫に消えるはずだった《世界》…しかし、未だ在ることは…我らの預かり知らぬこと…」

「─その通りだ。どうやら、この現象は我々にしか知覚できなかったようだが…未だナザリックが健在なのは慶ばしいことである。しかし、これは同時に危機でもある。故に今一度、気を引き締めよ」

『ハッ!申し訳御座いません!』

おお、ナイスフォローですよギルド長。ロールで喋ったことないからどんな感じなのか手探りだったけど、意外と良い感じじゃなかったか?
こほん、と咳払いの真似事をした魔王は続ける。

「差し当たって、周りに遮蔽物が無いのならナザリックの隠蔽を図る必要があるが…案はあるか?」

「は、はい。あ、あの…つ、土で隠すというのは…。─っ!」

アルベドが凄い勢いで振り返った。マーレの怯えようからすんごい睨んでるんだろうなぁ…。

「─畏れ多くも栄光あるナザリック地下大墳墓を土で汚すと…?」

「止めよ、アルベド。どのような意見でも今は咎める時ではない」

「っ…。─ハッ。失礼致しました」

モモンガさんに咎められて、また凄い悲壮な顔をしたが一瞬でNPCのトップに相応しい凛々しい顔つきに戻る。この切り替え速度は流石としか言いようがない。

─…今のところ百面相一等賞だな。流石、守護者統括…。

《良いんじゃないですかね。周りを埋めて、上だけ幻術かける感じで》

《そうですね。あとは周りにダミーを作る感じで行きましょう》

魔王が顎に手を当てて何か考える振りをして〈伝言〉で相談し合う。裏舞台を知ってるとカンペ見てるみたいでちょっと笑えるなこれ。

「…よし、マーレの案を採用しよう。但し、土を掛けるのは壁周りのみとし、上空には幻術を展開してカバーする。周りが平坦な草原ならばダミーとして似たような丘をいくつか作るべきだと思うが…。─セバス、どうだ?」

「それならば問題ないかと思われます」

セバスも凛々しいなぁ…まさに理想の執事って感じだ。初老だけど、肉付きも逞しいし背筋もピンと張ってる。確か、たっちさんが自分をモデルにしてるんだよな。歳を取るならこうなりたいって自分の理想の未来を象ったんだったかな。

「よし…マーレ、今しがた聞いた通りだ。出来るな?」

「は、はいっ!お、お任せ下さい!」

マーレのビルドが広範囲に影響を与えるドルイドだから指示したんだろうな。もしかすると、気配りなギルド長のことだからさり気ないフォローもあったのかもしれない。
─…うーん、健気だなぁ。モモンガさんに頼られて眼がキラキラしてる。アルベドの眼に嫉妬の炎が微かに燃えているのは気にしないでおこう。てか、周りの眼にも嫉妬が宿ってないか?これ。

《サキさんからは何かありますか?》

《うーん…あ、そうだ。一つだけ》

モモンガさんが顔をこちらに向ける。オッケーということだろう。頷いて一歩前に出る。

「私から…皆と話したいことがある…後で呼ばれた者は…来なさい…」

『ハッ!かしこまりました!』

《ちょっ、この問題児(クソビッチ)は…また勝手なことを…》

勢いで言ってしまった。これは流石に申し訳ないのでモモンガさんに頭を下げて謝った。何も喋ってないので傍からはお礼のお辞儀に見えるだろう。

《勢いで言ってしまったことは謝ります。ですが、これは大事なことなんです》

眼窩に宿る赤い光を真正面から見つめると、魔王の光が揺らいだ。真面目な話だとは思わなかったのかもしれない。煽るとき以外はいつも真面目なんだけどなぁ…。

《…あとで内容と理由を聞かせて下さいね》

《勿論ですよ。私からは以上です》

《分かりました。それじゃいくつか指示を出して終わりにしますか》

バサッとガウンを広げて最後の厳命を言い渡した。…なにちょっとカッコつけてんだ、この骸骨。格好良いけど。

「─…では、デミウルゴスとアルベドの両名でシモベの情報伝達をより密に、迅速になるよう再構築を命ずる。その他の守護者は別命あるまで待機とする。侵入者に備えよ」

『ハッ!』

「…最後にお前達に聞きたいことがある…私とサキさんのことをどう思っているか。忌憚なく述べよ」

《ちょっ、何か言い出したぞこのしゃくれ骸骨》

─ちょっ、何か言い出したぞこのしゃくれ骸骨。

《お返しですよ。あとしゃくれてないから。宝物殿裏集合な》

─やっべ。心の声がそのまま出ちまった。

冗談は置いておくとして、実際のところ聞いておきたいことではあった。さて、どんな言葉が飛び出すのか…。

「では、私から…。─モモンガ様は、まさに美の結晶。麗しいお身体は何者にも勝る常世の至宝。この世で一番敬愛すべき美しい御方でありんす。─夜想サキ様は、純白の化身。万人が触れることの出来ない珠玉の白いお肌は、瑕を作ることなく永久(とわ)に輝くことでありんしょう」

《ぶふっ》

《ぇー》

─これは…思ってた以上の破壊力だな…。

彼女はペロロンチーノさんに創られたNPCだ。真祖の吸血鬼(トゥルーヴァンパイア)として生まれ、色々てんこ盛りの設定だったがその中の一つに死体愛好家(ネクロフィリア)も混じっている。だからモモンガさんにあんなに熱っぽい視線を送っているんだろう。─…業が深い人だったな…。

「次ハ私ガ…。─モモンガ様ハ、守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニ、ナザリックノ絶対的支配者ニ相応シイ御方…。─夜想サキ様ハ、不可能ヲ可能トスル類稀ナルオ力ヲ持ツ御方。ソノオ力ハ三千世界ニ轟キマショウゾ…」

《…これって、もしかして世界級(わぁるど)を避けた時のことを言ってるんですかね?》

《ああ、ありましたね。そんなこと…初めて見た時はマジでチートだと思いましたよ》

かなり昔の話だ。課金パワーで回避系統のみを極めたら世界級アイテムの効果を受け流し(【パリィ】)したのだ。
─本来なら世界級の名を冠するものには世界級の名を冠する何かでしか防げない。世界級アイテムの所持、世界級チャンピオンだけが持つスキルの使用…その程度しか手段がない。なかった筈なのだが、上記の通りだ。

コキュートスは武人建御雷(ぶじんたけみかずち)さんに創造されたNPC、自分の倍はある体高を持つ蟲王(ヴァーミンロード)だ。武人に憧れていた彼に設定されただけあり、コキュートスもまた武人気質だ。力に言及する辺り、()らしいと言える。

「今度はあたし達が…。─モモンガ様は慈悲に深く、配慮に溢れた御方です。─夜想サキ様は博愛に富み、慈愛に満ちた御方です」

「─モ、モモンガ様はすごく優しい御方です…。─や、夜想サキ様はすごく綺麗な御方です…」

《アウラって意外と大人びてますね。マーレは癒やされるなぁ》

《意外と難しい言葉を使いますね…[まぁれ]の()()()()した視線が痛い…》

ぶくぶく茶釜さんに創られた双子のNPCだ。二人ともオッドアイを持つダークエルフとして生まれた。実年齢76歳なのだが、長命のために外見は子供だ。
アウラは白いスラックスを履いた見た目は男の子だが、男装した女の子だ。マーレの姉として生まれた。
一方、弟のマーレは白いスカートを履いた見た目は女の子だが女装した男の()だ。
─もう一度言おう。スカートを履いた男の『娘』だ…茶釜さんの業の深さが伺えるな。ペロロンさんにはよく喧嘩という名の制裁をしていたが、姉弟だけあって業の深さが良く似ている…本人には内緒な。

「私ですね…。─モモンガ様は賢明な判断力と瞬時に実行される行動力を有される御方。まさに端倪すべからざる、という言葉が相応しい御方です…。─夜想サキ様は理という概念を超えた御方。疾風を超え、雷電をも超える。まさに鬼出神行、という言葉が相応しい御方…」

《世界級は避けるわ、弐式炎雷さんの奇襲攻撃(アンブッシュ)すら避けるわ…》

《あれ、すげーびっくりしますからね?》

彼は最上位悪魔(アーチデヴィル)としてウルベルト・アレイン・オードルさんに創られた。三つ揃えのスーツを着た、デキる悪魔()だ。ナザリック随一の知略を誇り、彼の知恵には期待したいところ…だが、ウルベルトさんは悪に拘った人だ。現実になったことで変に設定がねじ曲がっていなければ、彼はきっと忠義に厚い頼れるNPCの筈なんだが…話をするまでは様子見だな。

「では、僭越ながら…─モモンガ様は至高の御方々の総括であり、最後まで私達を見捨てず残って頂けた慈悲深き御方です。─夜想サキ様は寡黙ながらも慈愛に満ちた、いと深き御方で御座います」

《…なんか、さっきからサキさんの評価高くないですかね?》

《ぉ、[ぎるど]長。あまり苛めると泣きますよ?》

()()()()、か…。

セバス─正式名称はセバス・チャン─はたっち・みーさんに執事として創られたNPCで、ナザリックではかなり珍しい極善のカルマを持つ竜人だ。あまり設定がされてなかった筈だが、さっきからよく動いてくれるな…他のNPCと何か違うのだろうか?

「私が最後ね…。─モモンガ様は至高の御方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。そして…私の愛しいお方です。─夜想サキ様は敬愛すべき至高の御方の一人です」

《うぐっ…なんかアルベドだけサキさんに対して妙にあっさりしてますね》

《まだ後悔してるとか言ったら怒りますからね?─その辺りも後で確認したいのですが…多分、嫉妬ですよ》

《えっ?》

《ほら、何か言わないと。不自然ですよ》

守護者達が段々と不安そうな雰囲気になってきた。自分が言ったことでモモンガさんが不機嫌になったんじゃないかと勘繰ってるんじゃないか?

「…うむ。皆の考えはよく分かった。さて…」

また顎に手を当てて、考えるポーズで時間稼ぎしてる。まぁ見た目には様になってるし違和感もないから大丈夫だろう。

《ふぅ、それじゃあ行きましょうか。転移先は円卓の間で良いですか?》

《あ、[ももんが]さん。ちょっと待って下さい》

《どうしました?》

《円卓の間で私と大事な話があるから呼ぶまで誰も近付くなって言って頂けますか?》

《それは構いませんが…話ですか?》

《はい。お願いします》

「では、私達はこれより円卓の間にて大事な話がある。呼ぶまで誰も近寄るな」

〈伝言〉で頼み込むとイケメンボイスで指示を出してくれた。ふー…この評価のあとに重い話か。気も重いぜ。

「お待ち下さい、モモンガ様」

「どうした?アルベドよ」

いざ行こうとしたらアルベドから待ったが掛かった。─…この子、顔は心配そうにしてるけど、先程と同じように俺に僅かな敵意というか殺意が見え隠れしているな。うなじがチリチリする。モモンガさんは気付いてないみたいだ。やっぱりスキルの影響っぽいな?

「現在、栄光あるナザリック地下大墳墓が未曾有の緊急事態とのこと。これに気付かぬ愚かなシモベでは御座いますが、御身をお守することが我らが使命なれば、せめて扉の前でだけでも護衛させて頂きたいと愚考致します」

モモンガさんがこちらをチラリと見ると頭の中で彼の声が響く。あー、その視線の動きは…ほらぁ、アルベドが一瞬だけどすんごい形相だったぞ。

《どうします?》

《断って頂けますか。万が一聞かれるとちょっと不味いので…》

「ならん。お前達を信頼してはいるが、万が一でも我々以外に漏れてはならぬ内容なのだ。すまぬが、先程言った通りだ」

「ああ、どうか御謝りになられないで下さいませ!…左様で御座いますか。畏まりました」

さすが長年魔王やってきただけはある。あんな頼み方でよくここまで魔王できるな。この人もしかして本当に魔王か。魔王だった。

「それじゃあ、サキさん。行きましょうか」

ズッコケそうになった。最後の最後で敬語って…終わったと思って気が抜けたのかな。モモンガさんらしいけど。

転移の直前、微かではあるがアルベドから明確な殺気が叩き付けられた。モモンガさんのあとであの子とも話しなきゃならんのは…『家族』とはいえ、本当に気が重くなるなぁ…。─どこぞにいた反抗期の子供を持つ親ってこんな気分だったのかね?






指輪を使い、円卓の間に転移する。心労がハンパないが、今から話すことを考えると余計に気が滅入ってしまう。あ、沈静された。

「何なんですかね、あの高評価」

「ええ…アイツら、マジか…」

お互い豪奢な椅子に座り、方や綺羅びやかなシャンデリアを吊した天井を仰ぎ見、方や黒檀で出来た綺麗な漆黒のテーブルに突っ伏した。

「…それじゃ、[ももんが]さん」

真面目な声で話し掛けるとガバリと骸骨が起き上がる。

「…話ってなんですか?随分、重い内容っぽいですけど」

「…[ももんが]さん、皆に…─[ぎるめん]に思うところはないですか?」

そう問い掛けるとモモンガさんが固まった。こうなる前の、先程の独り言を思い出しているのだろう。

「…アレを聞かれちゃいましたか」

「ええ。咎めようとかそういうのではないのでご安心を…[ももんが]さんの心の内を今のうちに聞いておきたいんです」

頷いてそう返すとモモンガさんは天井を仰ぎ見、少しして空いている他の椅子を見つめた。

「どうしても…言わなきゃ駄目ですか?」

そう言って眼窩に妖しく灯る赤い光を顔ごとこちらに向けてくる。俺はそれに頷きを以て返す。

「こうなった以上、隠し事は無しにしたいのです。私も考えてることはきちんと話します。[ももんが]さんが疑うことは無いと信じていますし、それは[ももんが]さんも同じでしょう?」

「そんなの当たり前じゃないですか。それでも言わなきゃ駄目なんですか?」

眼窩の赤い光が明滅する。気持ちは分かるが、万が一もある。どこかで齟齬が生じ、仲違いになるかもしれないのだ。後になればなるほど修復は難しくなる。こういうのは早いほうがいい。

「 気持ちは分かります。ですが、相互理解は今のうちにしておきましょう。燻ってるものがあるなら、早めに消火しないと火事になりますよ」

巨大な骸骨が項垂れる。酷な事だと自覚はしている。だが、それは俺も同じだ。本当なら言いたくないし、言うまでもないことなのだろう。しかし、それでも─

「…分かりました。でも、始めに言っておきますけど、決してギルメンを恨んだりなんかしていませんよ。ナザリックを、このアインズ・ウール・ゴウンを見捨ててしまったのか。なんで、そんな簡単に捨てれるんだ…俺にはここしか縋れるものがない。それでも俺を見捨ててどこかに行ってしまったのか…そう思ってしまったのは事実です」

「…」

顎が尖った頭蓋骨の眼窩の赤い光が消えそうなほど細く、しかし確かな熱を持って輝いた。
その熱が広がってこちらに向いた。柔らかな光だった。

「─でも、それだけです。事情があるのは分かってますし、現実(リアル)が大事なのも、現実に大事なものが皆にはあるってことも頭では理解してるんです…みっともないですよね?いい年したおっさんがこんな子供じみた駄々をこねてるなんて…」

そう言うとモモンガさんがまた項垂れる。言ってて虚しくなったんだろう…言わせてごめん。でも、中にあるものを吐き出せばちょっとはスッキリするべ。あとはフォローしてやればきっと上手くいくはず。

「…みっともなくないですよ。私も似たようなものです。何ヶ月も掛けて、あんな[あるばむ]を作って過去に縋りましょう、なんて言うくらいですからね」

「あんな、なんて言わないで下さい。すごい良いアルバムじゃないですか。何よりの宝物ですよ」

ちょっとウルッときた。だが、すぐ沈静化される。良いんだか悪いんだか…。

「ありがとうございます。作った甲斐があります…。─話を戻しましょう。まぁ、何が言いたいかというと、[ぎるめん]をどう思おうとそれは[ももんが]さんの権利です。恨もうが許そうが自由です。そして、私は[なざりっく]を、『我が家』を守ってくれた貴方の意志を尊重します」

「…」

「一応、言っておきますが私も皆のことは恨んでいません。しょうがないことだと理解しています…先程は過去に縋りましょう、と揶揄しましたが、あれは他に何もない現実([りある])だったからです。しかし、今は[なざりっく]が、[あいんず・うーる・ごうん]が在る。ならば、前を向いて歩いていきたいと思います」

「…それは他の皆のことは忘れて生きていきましょうって事ですか?」

眼窩の光が妖しく輝く。【漆黒の後光】まで出てきた。ちょっと怒ってるな。闘っても負けないけど迫力が違う。怖ぇ…あ、沈静…。

「早とちりしないで下さい。いないなら奇跡を信じて探せばいいんです。いなかったらいないで、忘れなければいいんです。図書館に記録が残ってるはずですし、最低でもこの[あるばむ]には全ての[めんばぁ]が載っています。記憶が朧気になることはありません…前を向いて歩こうっていうのはそういうことです。─『我らの中に[あいんず・うーる・ごうん]は在る』、ですよ」

「…」

どうだ…本心ぶち撒けてみたが、果たして納得してくれるか?しかし、本当に魔王だなこの骸骨。言い出しっぺだけど正直、逃げたい。おっかないクソ上司に怒られてる時を思い出すが、また沈静された。

問題児(ビッチ)のくせに何格好つけてんですか…。─ええ、そうですね。いないなら探しましょう!探して説教してやりましょう!」

急に元気になったな。てか、待って。探すのはいいんだけど、俺が理解して欲しいのはそこじゃない。やっぱり納得できないのかな。

「…ごめん。怒らないで聞いてね?探すのは良いんだ。もちろん、全面的に協力する。でも、言いたいのはそこじゃない。─[ももんが]さん、俺が言いたいのは[ぎるめん]を探すことじゃなくて『今』を理解して納得して、その上で探すなり、たまに昔を懐かしんだりして生きていこうねって言いたいんだ。もちろん、理解してすぐに納得しろっては言わないよ。それは心の整理がきちんと済んでからだべ…ごめんなさい。上手く伝えられないけど、私が言いたいのはこういうことです」

どうしても長ったらしくなってしまう。考えを伝えるのはやっぱ苦手だな…難しい。─さて、どうだろうか、伝わったかな。ていうか、焦って思わず()で話しちゃったけど大丈夫か?

「…大丈夫です、ちゃんと理解してますよ。先程も言いましたが、事情があるのは理解してます。過去の栄光に縋って生きるんじゃ駄目だって言いたいんですよね?納得…はまだ難しいですが。それよりも『素』を出してくれて、そっちの方が俺は嬉しいですよ」

カラカラと乾いた音を立てて骸骨が笑う。うーん、恥ずかしいことをサラッと言ってくる。これがオトナの余裕か…俺と歳変わんないはずなんだけどな。

「…この姿での『素』は違和感が凄くてあんまり出したくないんですよね…それでも良いならそうしますよ。まぁ、私の拙い説明でも理解して頂けたならもう言うことはないです。心の整理は時間が解決してくれるでしょう。今はそれでいいと思います」

「『素』でも俺は違和感ないですけどね。楽な方でいいですよ。─ああ、なんだか心も体も軽くなった気がします。ありがとうございました」

そう言ってモモンガさんがお辞儀する。─下手すると亀裂が入ったまんま過ごさなきゃならんかった事を考えるとぞっとするが、結果オーライだな。

「いえ、言い難いこと言わせちゃって申し訳なかったんですが、そう言って頂けると提案した甲斐があります。─さて、それじゃ次は『あの子達』の気持ちや考えも聞いておきましょうか」

「ああ、そうです。何故、改まって彼等と話す必要が?」

カクンと骸骨が首を傾げる。不覚にも可愛いとか思ってしまった。ガワは魔王、中身は歳近いおっさんなのに…。

「話す内容は今しがた言った通りです。理由としては…私はあの子達を『家族』であり『息子』や『娘』だと思っています。蒸し返すようで申し訳ありませんが、[ももんが]さんでも[ぎるめん]に対してそう思ったんですから、皆の『子供』と呼べるあの子達はもっと深いかもしれません。─杞憂で済めばいいのですが」

内心苦笑いだ。感情表現が凄い乏しいから見た目は全くの無表情だが。

「…」

「─…あの子達に感情や意志が在るなら、『それ』がもし歪んでたりしているなら、『それ』を助けてあげるのは『親』の努めだと思います…。─親を捨て、子育てもしたことないおっさんが言う台詞ではないでしょうけどね」

表情には出ないが、自嘲してしまう。本当なら、親を捨てた自分が偉そうにあの子達に講釈を垂れる資格は無い。

「…サキさんの過去に触れるつもりはありません。でも、もし零したいことがあればいつでも聞きます…。─彼等がギルメンの子供、ですか」

「多分、愛着に近いんでしょうね。[あるばむ]のために長いことあの子達と向き合ってきましたから。─…繰り返しになりますが、私にとってあの子達は[ぎるめん]の子であり『我が子』ですよ」

モモンガさんは深く腰掛け、眼窩の光が消えた。話してみて分かったが、やはりモモンガさんはこのギルドに…もっと言えばギルメンに執着している。そんな彼にとっても思うところがあるのだろう。

「…─そう、ですね。話せば何かしら見えてくるかもしれませんしね…それでは、誰から呼びますか?」

やがて光を取り戻したモモンガさんが顔を上げた。取り敢えず、話すことに納得はしてくれたようだ。

「階層順で行きましょうか。─となると、[しゃるてぃあ]ですか。どこでやります?円卓(ここ)や玉座だとちょっと広すぎる気がします」

うーん、と二人で悩む。俺かモモンガさんの部屋が丁度いいんじゃないかと思うんだが…どうだろう。言い出しっぺだし、やっぱ俺の部屋がいいか。

「うーん…俺の部屋でやりますか?かなり散らかってるんで片付けに時間掛かっちゃいますが…」

「─ありがとうございます。提案させといてなんですけど、それでしたら私の部屋でやりましょうか。畳と装飾品以外ほとんど何もないのでちゃぶ台と座布団だけ出せば済みますよ」

先に言われちゃったか。申し訳ないな、後で片付け手伝おう。

「いえ、大丈夫ですよ。でも、流石ですね」

「 何がです?」

「整理整頓をきちんとしてるところとかですよ。俺なんか部屋にあんまり興味なかったんで放ったらかしです」

モモンガさんはそう言うとポリポリと頬骨を掻いている。凝り性とただのロールなんだけどなぁ…現実の俺の部屋は結構汚かったぞ。

「ただの凝り性と[ろぉる]ですよ。現実([りある])は結構酷いですよ?」

「それでも、です。俺の現実の部屋は綺麗っていうよりデバイス以外何も置いてませんでしたから…」

あれ、地雷?自分で言っててなんか沈んでるぞ、この骸骨。尊敬はしてるけど…やべぇ、思ってたより面倒クセェ。

「そういう意味じゃないですよ。ごみとかその辺に置きっぱなしって意味です。つまり、()部屋です」

「エー…」

本気で引かれた。いや、事実だから良いんだけど、いや良くはないけど…ああ、モヤモヤする。まぁ、気が逸れたみたいだからよしとするか…。しかし、この程度だと沈静化されないのか?よく分からんな。

「本気で引かないで下さいよ。傷付くじゃないですか」

「エー…いやいや、エー…」

「ぶっとばすぞこのやろう」

カラカラと骸骨が笑う。元気が出たようで何より。モヤっとするけど。

「─さて、それじゃ場所と心の準備をしましょうか」

「分かりました。うう、緊張するなぁ…」

「気楽に行きましょう。魔王と姫のお悩み相談室ですよ」

(おっさん)でしょう?」

「うっさい禿げ魔王」

「は、ハゲてねーし!」

そう掛け合って骸骨の魔王が笑う。鬼の姫は相変わらずだが、よく見れば口角がほんの少しだけ上がっていた。


































「─…手伝いますから後で部屋の掃除しましょうね」

「─…はい」


─つづく。



『子供達』の闇が思ったより深そうです。
ギルド長はまだまだギルメンの影を追い求めてます。早めに等身大のNPCを見てほしいものです。

早く黒歴史を出したい。かっこいい。


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─家族面談らしい(1)

今更ですがオリ設定多数です。

段々とオリキャラの奔放(暴走)ぶりが発揮されてきました。


面談前はモモンガさん視点、面談開始後はオリキャラ視点です。



─そういえば、()()に入るのは初めてだな…。

そこは八畳一間の、他のメンバーの部屋と比べると少し()()()()()とした部屋だった。一段床が高く作られた部屋には、床の間というちょっとした空間が壁際にあるだけで、他に目立ったものといえば襖という布でできたドアと障子という紙─和紙というらしい─でできた窓があるくらいだ。
しかし、部屋全体が障子と天井に貼られてある和紙の中からの、〈永続光〉(コンティニュアル・ライト)の間接的で柔らかな光に包まれており、ある種神秘的で非常に落ち着いた雰囲気が漂っている。

「おー…落ち着いてて、いい感じの雰囲気ですね」

「そうでしょうとも。くつろげる空間を目指してこだわりましたからね」

ふんす、と腰に手を当て無表情ながらもどこか自慢気に語るは、はだけた服装の鬼の姫(おっさん)。隣にいるは大柄な骸骨の魔王(オレ)
日本人のマナーとしてこういう部屋には、二人とも履き物はちゃんと脱いで上がる。うーん、畳なんて現実(リアル)では見たことなかったけど…何ていうか、この独特な匂いといい感触といい…日本人としての魂が揺さぶられる気がするな…。

─…良いな、この部屋。ちょっと羨ましい。

「実は障子の向こうにちょっとした庭園もあるんですよ。まぁ、それはまたの機会ですね。─それじゃ、ちょいと高級座卓と高級座布団を置きまして…」

非常に気になることを言い捨てた鬼の姫(おっさん)がどこからともなく、表面が磨きぬかれた黒くて木目がある脚の短いテーブルと3枚の鮮やかでいて落ち着いた色合いの薄いクッションを取り出して各所にセットしていく。淀みない動作は随分と手慣れた感じがした。
そういえば、昔はいつも模様替えのために部屋に篭っていたな、とかつての光景が思い出された。

「─はい、終わり。あとはお茶とお茶菓子を用意すれば万全ですよ」

「…俺、飲食出来ないと思うんですが…」

新たな嫌がらせだろうか。確かに偉い人との会議や面談といった場面では多少はマシな飲み物とほんの少しだけまともな食べ物は出てきた。
上から食べていい、と言質が取れれば食べていたが、忠誠心の塊っぽい部下(NPC)がおいそれと食べるわけはないし…まさかサキさん(こいつ)、一人で楽しむつもりじゃなかろうな。
こちらの話を聞いているのかいないのか。ぽん、ぽん、と心なしか楽しげな様子でテーブルにお茶菓子セットを置いていく。自由か。ていうか何でお茶菓子セット(そんなの)持ってんだ。

「あー…雰囲気ですよ、雰囲気。それより現実になると[げぇむ]の食べ物って良い香りもするし、より美味しそうですよね。あとで食べてみますか?」

「話聞いてる?この問題児(ファッキンビッチ)

さっぱり会話のキャッチボールが成り立たず、思わず悪態をついてしまう。だが、奔放者(サキさん)はそれにも全く意に介さずに、のほほんと爆弾発言を落としてくる。…平常運転(いつものこと)だった、と昔を思い出して頭を抱えそうになった。

「あれ。『人化の指輪』、持ってないんですか?貸しますよ?」

「─…え?」

─人化の指輪ってあの()()()()()()()なアイテムか?

「ですから。人化の指輪が余ってるので貸しますって言ってるじゃないですか、この禿げ」

「ハゲじゃねぇ!…え、なんで持ってるんですか」

人化の指輪とは、もう何年も前にクソ運営から異業種に配られた文字通り人間種に化けられる異業種用の指輪だ。これがあれば、人間種のみしか入れない街に大手を振って入れる…と思うだろうが、実際のところ、デメリットがかなり大きい。
まず、職業レベルだけ残り、種族レベルが無くなる。人間種に種族レベルが設定されていないからだ。俺の場合、レベルが60まで下がる。
そして、基本的には人化の際に偽名を用いたり職業などを偽装したりする。隠蔽魔法やアイテムでそういった偽装をするのだが、場所によっては隠蔽禁止の区域がある。露天などは詐欺防止などのためにそういう所に多いのだが、うっかりそこに入ってしまうと気付かないうちに隠蔽魔法やアイテムが全て解除されてしまう。
そうなるとアバターにターゲティングする(ターゲットを合わせる)だけで本当のアバターネームがバレるのだ。ちょっと調べれば取得している種族なんかも簡単にバレる。
そして、指輪を外すには街外に出なくてはならない…そう、待ち伏せ(PK)だ。
人化の指輪を外す直前の弱っている状態でPK(プレイヤーキラー)されてしまう事件が多々あったのだ。俺や仲間もやられたことがある。
逆手にとってPKK(やり返)したが…それ以来、人化の指輪はデメリットが大きく、メリットを得るための労力が割に合わないとされて、超微妙アイテムとなってしまった。
今じゃ持っている異業種はいるのかいないのか、とまで言われていた。─そのためにある意味、希少になってしまった。PKされた時にドロップ(落と)してそのままにしてしまったのが悔やまれるな。

そんな希少(微妙)アイテムを何故この問題児(ビッチ)が持っているのか。それも複数。羨ましい。

「んー…要らないなら()()って言って[めんばぁ]から貰ってたんですよ。─…いつかの夢のために」

「…ああ」

()()()()直前の会話を思い出した。…人間種に種族レベルはない。逆を言えば、人間種のほうがより職業レベルの高い鍛冶師がいるのだ。自身の武器に世界級(ワールド)アイテムを込められるほどの。
そのために、予備も含めてずっと何年も取っておいたということか…。

「そういうわけで目出度く夢も叶いましたし、近いうちに宴会とかやりたいんですよね。やりません?」

「ほんと自由人(フリーダム)だなあんた」

─感傷に浸る暇もない。もしかしたら、さっきの雰囲気が雰囲気だっただけに、この人なりに気を使っているのかもな…。

どこか目がキラキラしている無表情の問題児(ビッチ)を見ていると、無性に腹は立つがお祝いはしてあげたいと思う。『アルバム』のお礼もろくに出来てないし。

「…まぁ、目出度いことは確かですし、考えておきましょう。今はその前に目の前の問題を─」

「よっしゃ、言質取ったで!…あ、沈静。絶対やりましょう」

前言撤回。やっぱ祝わなくていいんじゃなかろうか…。







面談の前準備を済ませた俺達は、床の間の前…いわゆる上座側にモモンガさんを座らせて、自分はその隣で正座だ。─この身体、正座が凄い馴染むな…いつまでも座っていられそうだ…。
こちらの準備も終わり、部屋の前で待機していたメイド─戦闘用メイドであるチーム六連星(プレアデス)の長女である『ユリ・アルファ』─にシャルティアを呼んでくるよう伝えたら、それはもう嬉しそうに凄い勢いでとんでいった。一瞬だけ顔を引きつらせていたが。
まぁ、実際はあくまで上品に、表情も表面上はキリッと澄ましていたが、それでも可能な限り速く歩いていったわけだ。それにしても凄い早歩きだったな。大昔にあったオリンピック?ってやつで1位が取れるんじゃねってくらい。

─…準備はこっちでするって言ったら死にそうなほど悲壮な雰囲気になったけど、終わったら守護者呼んで貰うから待ってろって言ったらパッと明るくなるんだもんなぁ…命令されるのがよっぽど嬉しそうだったな。

因みに、最初は自分は面談の対象外だと思っていたセバスが、緊急事態であるならば自分が扉の前で警護につきます、と執事という設定通りの言動でモモンガさんに食い下がっていた─俺からすると駄々をこねているように感じたが…まるで親から離れたくない子供のように。─のだが、セバスも対象だしそれなら戦闘力のあるプレアデスにやってもらうから、と言いつけたら渋々ではあるが了解したのだった。

「あー、緊張する…」

「気楽に行きましょう。多分ですけど、守護者達のほうがもっと緊張してますよ?」

あの忠誠心を間近で見たら、きっと誰だってそう思う。
俺達で言えば、社長か会長辺りに直に呼び出されるようなものだ。呼び出されることは元より、忠誠心なんかなかったがそれでもきっと、緊張はしただろう。

「いや、それはそうでしょうけど…営業と違って、こっちが上の立場で話すっていうのは初めてですし…」

「最初は()()()()()()()()()()()子に設定されてる[しゃるてぃあ]です。さっき話し合った通りに話せば、大丈夫ですよ」

そう。色々と設定がてんこ盛りのシャルティアだが、その中の一つに通称『ポンコツ』がある。()()にもよるが、忠誠心も手伝ってこっちの話に疑問はあまり持たないと思われる。
ただのプログラムだった(AIで動いている)頃は何とも思わなかったが、実際に動いて喋っているのを見てからだと…なんか貶してるみたいで、ちょっと嫌だが。

「…だと良いんですけどね」

話し合った内容とは主にギルメンの行方と思惑だ。
さっきはセバスが見捨てられたと思ってるみたいだったってモモンガさんに言ったら【漆黒の後光】に【絶望のオーラ】が溢れ出して、それはもう凄かった。外にいるユリが()()()って言ったらすぐに消沈したが。
ギルメンの行方だが、現実(リアル)の話を交えないと正直に言えないし、ちゃんと伝わらない。しかし、それを言って果たして大丈夫かは分からない。飽きてどっか行きました、なんてとんでもない。…その辺は割り切ってはいるが、やっぱりそれは無いと信じたい。
そもそも、()()は『悪』を掲げた異業種オンリーのギルドだ。1500人の人間(プレイヤー)が攻めてきたこともあるし、人間に対していい思いを持っているかと問われれば疑問が持たれる。
俺ら、実は人間なんだよねって言われるのは、俺らの親が実は宇宙人なんだよねって言われるようなもんだろう、きっと。忠誠心が高いあの子達では、ショックで寝込むやつがいるかもしれない。それはだめだ。
だから、人間ということは伏せて伝えることにした。それで…─

─コンコンコンコン。

4回のノックの音が響く。紙でできた襖なのに、なぜドアを叩いた音が響いたのかは謎だ。ほんとに。ナザリック七不思議の一つに入るな。

「…どうぞ」

部屋の主であり一応、魔王の部下という設定でもある俺が返事をする。すると、緊張でビクビクのシャルティアが、恐る恐る入ってきた。勿論、ちゃんと靴を脱いで、だ。

「し、失礼致しんす…」

「…座布団に…座って」

手を添えて促してやると、頭の中で糸が繋がった感覚がした。隣の骸骨の声が響き渡る。

〈伝言〉(メッセージ)!おいぃ!?それじゃ余計緊張するだろうが!》

《しょうがないじゃないですか。寡黙な美少女なんですから》

隣の骸骨の目配せが凄い。しかし、動揺が体に全く出ていないのは流石である。
いや、だってしょうがないじゃん。寡黙で通していたのが、いきなりフレンドリーになったらビビるじゃろ。
…って、なんで入口付近で跪いているの、この子。

「?…どうしたのだ、シャルティア」

「─はい…至高の御方々の前で座るなど…不敬かと存じ上げるでありんす…」

─あーそうかー。そう来るかー…それは想定外だったわー…。

モモンガさんも同じように思ったんだろう。ちょっと固まってる。そこまで忠誠心が高いとは二人とも想定外だった。本当に考えものだな、これ。

「…[しゃるてぃあ]」

「はひっ!?」

ビックゥ!という擬音がまさに当て嵌まる驚きようだ。そんなにビビんなくてもいいじゃない…。

「不敬など…ありません…我らは…『家族』です…」

《おいいぃぃ!?この問題児(クソビッチ)!!それは話が進んでからって言ったでしょおおおぉぉ!?》

《いやぁ…やっちゃいましたな》

《─あとで絶対しばく…絶対にしばくからな…》

不穏なことをプルプルしながら囁く骸骨はさておき、シャルティアの様子が変だ。この子もプルプル震えてる。まさか…。

「や゛、や゛ぞう゛ザギざま゛(夜想サキ様)あ゛あ゛ぁぁぁ…が、がぞぐな゛どお゛ぞれお゛お゛い゛でず(家族など畏れ多いです)ううぅぅ…」

─…やっべぇ、号泣。また涙と鼻水でグジュグジュな上に、ルビ振らねぇと何言ってっか全然わかんねぇ…。

収拾つくんだろうか、これ…と遠い目をして現実逃避してしまう。だが、そこは隣のイケメン魔王。スッと立ち上がる。

「シャルティアよ、良いのだ…さぁ、涙を拭いてそこに座りなさい」

「モ゛、モ゛モ゛ン゛ガざま゛(モモンガ様)あ゛あ゛ぁぁぁ…!」

さり気なくシャルティアの隣に移動して、取り出したハンカチで涙を拭いてやる魔王。この天然()()()め…ていうか、何でハンカチ(そんなの)持ってんだ。
流石に鼻水は自分で拭いたシャルティアは、まだ若干ビクビクと緊張が出ていたが落ち着いてきたのか、無理矢理落ち着かせたのか、取り敢えず元には戻ったようだ。

「…大変、失礼致しんした。それでは、こちらのお席に失礼致しんす」

綺麗なお辞儀をして、用意した座布団に正座する。こうして見ると、マジで教養のある淑女にしか見えないんだけどなぁ…。

「では、シャルティアよ。この度呼んだ理由…それは、我が友…ギルドメンバー達がここ、ナザリックを離れたことについて、だ」

「…っ」

─…まぁ、そうだよな。信じてた親がいなくなって、その事について改めて話そうってのはちょっと酷かもな…。

俺もモモンガさんも既に親は他界している。理由はそれぞれ違うが、人が生きるには厳しすぎる、あの腐った世界では感傷に浸る暇もなく生きるしかなかった。そういう意味では振り返る余裕があるだけ、この子達は幸せなのかもしれない。
モモンガさんは分からないが、少なくとも死別してからもう二十年近くも経っている俺は今更話しても後悔以外感じないだろうから…。

「…まず、あなたが…[しゃるてぃあ]が…どう考えているのか…聞かせてほしい…」

「─辛いだろうが、これは必要なことだ。嘘偽りなく、正直に答えてほしい」

「…かしこまりんした」

了解したシャルティアはぽつりぽつりと、話し出した。自分の想いや忠誠心を今一度、確認するかのように。

「…最後に、ペロロンチーノ様が私にお声をお掛けになられたのは…確か、3年と4ヶ月前だったでありんす…『もう会えないかもしれない。でも、いつかきっと会いに戻るから』と震えるお声で仰られていたでありんす…私はそのお言葉を信じて、お待ちして…ですが、何年経ってもお戻りになられない内に…ふ、不敬ですが…お、お亡くなりになられたのかと…うぅ…っ」

─…ああ、そうか。この子達は親が生きているのか死んでいるのかさえ分からないのか…。

俺も何人かは流石に分からないが、少なくとも守護者達の製作者の生死は確認しているから、まずはそれを教えてあげないとな…。
それと、ユグドラシル(プログラム)時代の記憶があるのか…。あれ、ちょっと待って。それじゃ、俺のロールって意味ないんじゃ…。

…いつかの記憶が呼び起こされる。あの時はシャルティアの前でペロロンさんとエロゲーの話で盛り上がっていた。そこに他のメンバーが現れ、やがてバカ騒ぎになり、何故か俺だけモモンガさんにドヤされるという凄惨な過去が…いやいや、それは取り敢えず後回しだ。今はシャルティアの話に集中しなくては。
ここは思考が混乱している俺よりもモモンガさんが適任だ。任せよう。

《[ももんが]さん。[ぺろろん]さんは生きています。まずはそれをうまいこと教えてあげて下さい》

《丸投げか問題児(クソビッチ)。まぁ、ペロロンチーノさんはこないだメールの返信を貰ってるんで、それは俺も確認済みです。何とかやってみましょう》

流石ギルド長。頼りになるお言葉を頂きました。
咳払いを一つして、魔王が静かに告げる。

「んん…。─そうだな。まず一つは、ペロロンチーノさんは死んではいない。それは確かだ」

その言に涙に溢れていたシャルティアの表情がパッと明るくなったが、続く言葉で困惑した顔を浮かべる。

「─だが、恐らくは…戻ってくるのは難しいかもしれん」

「…えっ」

「その日にペロロンチーノさんは私にこう話したのだ。『シャルティアを、俺の嫁をどうか、お願いします』、と…」

「─っ…そ、そんな…」

俺の()で反応したシャルティアだが、まるでこの世の終わりと言えるほど、目が大きく見開かれる。…事実として、この状況ではメンバーが戻ってこれるかは非常に難しい話だと思われる。まだ、探してもいないので何とも言えないところだが…。

「…さて、混乱しているだろうが、ここで幾つか前提を話さなくてはならない。…大丈夫か?」

「はっ…はい…」

「─今から話すことは…とても大事なこと…聞けば、理由が分かります…落ち着く時間が…必要なら…待ちましょう」

「いえっ、お待たせするなど滅相もございんせん…どうか、お聞かせくんなまし…」

現実(リアル)の代わりになるように例えて話すのは難しいが、頭の良いギルド長ならやってくれるはず…ここも丸投げ一択だ。

「…まず、ユグドラシルという世界だが…我々からすれば箱庭のような世界なのだ。そこに、化身(アバター)を作って入り込む…ここまでは良いか?」

驚愕に染まり、声が出せないようだがなんとか頷くシャルティア。魔王がそれに応え、続ける。

「そして、箱庭の外の世界に我々が生活しているのだが、まさに地獄でな…常に死を覚悟しなければならぬような世界なのだ…」

「─恥じることは、ありません…理解出来ないのは、仕方のないこと…理解できたところだけ…言ってみなさい」

目をパチパチさせてるシャルティアに取り敢えず、フォローを入れてやる。…なんか、嘘は言ってないんだけども凄くスケールが大きくなってる気がする…いや、俺じゃ他に上手く例えられないから、何も言えないんだけどさ。

「え、えぇと…至高の御方々の…今のお姿は、仮のお姿で…本当のお姿は別にある…ということで、宜しいのでありんしょうか…」

辿々しいながらも、ちゃんと理解出来ていることに安堵する。分からなかったらいつでも聞いてほしい。隣のギルド長がきちんと説明してくれるよ。

「合っていますよ…今は、時間がありませんが…面談が終わったら…理解出来ないところは…説明しましょう」

「─うむ。聞くことは決して不敬などではない。恥じることもないのだ。何度でも説明しようとも」

「は、ハッ…未熟者であることをどうか、お許し下さい…」

─あ、この流れはまずい。

俺とモモンガさんは、共に平社員で他社の人と交流したこともある。その時の日本人特有の謙遜という名の終わらない応酬を繰り返したことを、二人とも思い出した。
ありがとう、ならいいのだ。そこで一旦、話がまとまる。しかし、謝罪は駄目だ。どうしてもこちらこそ、いやいや…が始まる。どちらかが折れない限り、続くのだ。

それを察知したモモンガさんが営業で培った経験を活かして─
























「─うむ、お前の全てを赦そう。それでは続けようか」

間髪入れずに強引に話を逸らした。流石である。

「…本当の姿をしている世界で我らは…全てのプレイヤーは生きている。─…ペロロンチーノさんもそこにいる」

「─…!」

取り敢えず、ペロロンさんがいれば良いっぽいな、この子…ペロロンさんのとこだけ反応してる。
モモンガさんもそれに気付いたのか、ペロロンさんに関係するところだけ説明し始めた。

「だが、今現在、ペロロンチーノさんのいる世界と交流が出来ない状態なのだ…ペロロンチーノさんが死んでいないと言ったのは、今の状況になる前に生存が確認できたからだな」

「そ、そうでありんしたか…ペロロンチーノ様…」

─この子、ペロロンさんの名前が出ると理解力が格段に上がってないか…?

頭が足りていない設定のはずだが、製作者が絡むと設定の枷が外れでもするのだろうか。謎は深まるばかりだな…。

「ペロロンチーノさんが来れなくなった理由だが…本当の姿の世界は過酷でな。生きるのに必死だったのだ。そちらの世界で死ぬと、もう二度とユグドラシルに来れなくなってしまうからな…生きてはいるが、こちらに来れる余裕が無くなってしまった。─っ…故に、私に…お前を託したのだ、と…思う」

「あなたには…酷なことかも、しれません…ですが、最後まで…彼はあなたのことを…想っていましたよ」

「あ、ああ…ペロロンチーノ様ぁ…うっ…ぐす…」

うんうん。あとは思う存分、泣きなさい…モモンガさんにも酷なことを言わせてしまったな。まだ納得していないのに、改めて自分から言うのはきっと辛かっただろう…よし。

《…[ももんが]さん》

《っ!─…はい》

骸骨の魔王の眼窩に灯る赤い光を真正面から見つめて、鬼の姫は言葉を紡ぐ。ほんの少しだけ口角が上がった微笑みを添えて。
























《辛かったら…俺の胸で泣いていいんだぜ…?》
























魔王はそれに応えるように。
表情の出ない白い(かんばせ)が確かに微笑んだ。

























《…あとで宝物殿裏集合。なっ?》
























─…あるぇー?



─つづく。



ペロロンチーノさんが生きていると言っているのにいつの間にか死んだ流れになってる。何故だ。

ふと思ったんですが、階層順に難易度が上がってますね。7階層から跳ね上がってますが…。



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─家族面談らしい(2)

今回もオリ設定多数です。
グロ表現あり。

終始オリキャラ視点となります。


あの後、我が子とも言える存在(シャルティア)が泣き止むまで俺達は黙って見ていた。怒りの魔王(モモンガさん)は表情が無い骨なのに超良い笑顔で。鬼の姫(オレ)は内心ガクガクすぅー…と怯えと沈静を繰り返して。
ただただ、泣き止むのを黙って見ていたのだった。

やがて泣き止んだシャルティアは、元々赤かった目が死者(アンデッド)なのに更に赤く腫れて、しかし顔はどこか清々しい表情だった。先程のような怯えた雰囲気もなく、真っ直ぐにこちらを見つめている。

─…一応は、スッキリしたのかねぇ…。

「─大変、見苦しいところをお見せ致しんした。この罪は、我が命をペロロンチーノ様に…」

「─って、ちょい待てぇ!」

『え?』

─あ、やべ。思わず叫んじゃった。

寡黙な美少女で通してたのに感情移入し過ぎて、『我が子』が自殺宣言するもんだから勢い余ってやってしまった。沈静化、仕事しろよぉ…。
ぽかん、と骸骨と吸血鬼がこちらを呆けて見ている。誤魔化すなら今しかない。

「こほん。─…[しゃるてぃあ]、お止めなさい…()は…悲しゅう御座います…」

《こ、この問題児(クソビッチ)…貴様、覚悟は出来ているか…?》

「ほら…()も悲しい、と…申しております…」

《ファー!?》

なんだ今の声。面白すぎるぞ。
とまぁ、冗談は置いといて。これは最低でも守護者全員に言うつもりだ。いずれはギルメンに創られた他のNPCにも伝えたい。父母(ギルメン)がいないなら、せめて俺達がなってあげなきゃな…因みに夫婦って意味じゃないからね?

「…っ」

シャルティアがまた感極まって爆発しそうだ。今にも溢れそうなほど目に涙をためてプルプル震えている。
…不味い。問題児()の血が騒いできた。よし、追加投入しようそうしよう。

「[しゃるてぃあ]…母の胸に…おいでな─ごふぉうぇ!!?」

「─え?」

想像以上の破壊力だった。シャルティアが泣きべそかきながら突っ込んで来たときはすんごい嫌な予感はした。
純粋な想いで突っ込んできたみたいだからか【敵感知】(センス・エネミー)は全く反応しなかった。しかし、動きは完全に見えていたし体の反応も超余裕で間に合ったので避けるのも容易かったのだが…。
我が子が胸に飛び込んでくる夢にまで見たこのシチュエーション!受け止めるしかないだろ!ってテンション上がって受け止めたら、この()()だよ…沈静化が間に合わないってどういうことだよ…。

凄まじい勢いで壁に頭を打ち付け、腹は上と下にお別れする寸前だ。皮3枚で辛うじて繋がってる感じか?
頭も割れてるくさいな、これ。ああ、目がくらくらする。頭が鈍器でガンガン殴られているみたいだ。すんげぇ甘ったるい匂いが鼻一杯に香る。今は正直きつい。腹が灼けるように痛い。これが…ダメージか…。

「これが…[だめぇじ]か…ごふっ」

「ちょっ!?何やってんですか!?ああ、不味い。回復しなきゃ…!」

隣で()()()()と慌てている骸骨が虚空からHPを回復出来るポーションを大量に取り出して、()()を頭からぶっ掛けた。因みに胸元にはまだ呆けているシャルティア(アンデッド)がいる。今、んなもんぶっ掛けたら─























「あぁっっっづううぅぅいいいぃぃでありんすううぅぅぅ!!?」

俺は回復したが、今度は頭からポーションを引っ被ったシャルティアが地獄を見る羽目になった。まさに地獄絵図。
ああ、綺麗な頭が()()()()()…。

「あああぁぁ!?シ、シャルティアアアァァァ!!?」

「ぺ、『[ぺす]』を!?─いや、[しゃるてぃあ]!〈大致死〉([ぐれぇたぁ・りぃさる])を!」

「っ!─〈魔法最強化〉(マキシマイズマジック)〈大致死〉(グレーター・リーサル)!!」

回復してすぐに沈静化がおき、冷静になった俺はシャルティアに指示を出した。この魔法は大量の負のエネルギーを対象に当てる魔法だ。生者にはダメージが与えられ、アンデッドには回復をもたらす。
シャルティアは灼ける痛みに悶えながらも()に向けて魔法を放った。

─って俺かよおぉ!?

「っ─【[まじっくぱりぃ]】!…お馬鹿!自分に掛けなさい!」

間一髪…どころか、これも超余裕を持ってスキルを発動し、魔法を受け流した。先程はテンション上がってて気に留めなかったがすげぇな、この体。攻撃を受けそうになると〈時間停止〉(タイム・ストップ)ばりに周りが止まって見えるのか。
ユグドラシル(ゲームの時)では、回避補正は速度が変わらない代わりにAIがある程度補佐をしてくれていたから、その辺りが現実(こっち)にきたことで変わったのかもしれない。

「あががっ…ぼうじわげごじゃんぜ(申し訳御座いんせ)ぇぇぇ…〈魔法最強化〉(まぎじまいずまじっぐ)〈大致死〉(ぐれぇだぁ・りーざる)ぅ!」

ポーションの侵食が進み喉まで焼け爛れてしまってまともに発声出来なくなっていたが、なんとか魔法を発動させることが出来たようだ。すると膨大な負のエネルギーが具現化した黒い霧のようなものにシャルティアが包まれ、瞬く間に回復したのだった。

余談だが先程受け流した魔法は『ペス』を呼ぼうとしていた魔王に当たり、しゅわしゅわと回復していた。何ともはや。





綺麗な土下座だった。それはもう見事に。美しささえ漂っていた。

「…この度は本当に…誠に申し訳御座いませんでした…」

落ち着きを取り戻した一同は衣服を整えて改めて席に戻ったのだが、シャルティアがそれはもう悲壮な顔で土下座を敢行したのだった。間違った(くるわ)言葉も流石に鳴りを潜めていた。

「顔をお上げなさい、[しゃるてぃあ]…母は怒っていませんよ」

「っ!」

ビックゥ!と肩を震わせてシャルティアが恐る恐る顔を上げる。今の俺の顔は無表情だが、それはもう聖母の雰囲気を存分に漂わせて、内心ニッコリと微笑む。

「…さぁ、改めて()()()()()…母の胸においでなさい」

《なにビビってんだこの変態(ファッキンビッチ)

《いや、しょうがないでしょう…。─また繰り返したいんですか?》

ぷい、と骸骨の魔王があさっての方向に顔をそらした。俺が悪かったのは明白だが、流石に先程の騒動は繰り返したくないようだ。
…俺も御免こうむる。

「夜想サキ様ぁ…」

ふわり、とすんごい甘ったるい香りが鼻孔をくすぐる。頭がクリアなこともあり先程のような気持ち悪さはない。
あの騒動の中では感じることの出来なかった冷たくも温かくて柔らかな感触が腕の中にあって、なんとも言えない気持ちだ。
いやらしい、とかそういうものじゃない純粋な気持ち良さだ。なんだろう、心が温かくなるというのはこういうことを言うんだろうか。
…涙をためたシャルティアが()()()()と必要以上に胸に顔を押し付けているのはご愛嬌、か。体を(まさぐ)らないのは忠誠心が頑張って()()しているんだろうきっと。…ペロロンチーノォ!

鳥がものすっごい良い笑顔でサムズアップしたのは気のせいだな、うん。

《嗚呼…[ももんが]さん。()()凄い癒やされます…感無量です…》

《─…良いなぁ》

《[せくはら]禿げ魔王》

《ハゲじゃねぇ!?いや、違いますよ!これは純粋に─》

シャルティアの頭を撫でながら、隣の骸骨魔王(モモンガさん)の言い訳を生まれて初めて感じる心の平穏に身を委ねて聞き流す鬼の姫(おっさん)の姿が、そこにはあった─。





ひとしきり堪能してまたゆっくり話そうとシャルティアに言い渡し、待機という名の任務に戻らせる。勿論、ここであったこと、話したことは絶対に他言しないようにモモンガさんに厳命してもらった。見てるこっちまで清々しくなるような笑顔を見せていたが…大丈夫だよな?変態鳥(ペロロンチーノ)さん…。

ブーブーとサムズダウンしている鳥を幻視した。気のせいだな。

因みにユリには呼ぶまで決して入るな。耳をそばだてるな。と言いつけてあったのだが、シャルティアの悲鳴が聞こえてきて命令を守るか中に入るか葛藤してずっとオロオロとしていたらしい。
可哀想だったのでお詫びにお茶菓子をあげたら顔を真っ赤にしてまたオロオロとしていた。可愛かったので頭をポンポンと撫でたら頭が取れた。魔王に怒られた。解せぬ。

そして、暫し休憩という名の話し合いが始まった。

「…おい変態(ファッキンビッチ)

「はい?」

「いや、はいじゃなしに。どうしてですか」

目の前の魔王は【漆黒の後光】を滾らせて詰め寄る。眼窩の赤い炎がギラギラと輝いていた。視線で殺せるんじゃないかっていうくらい怒りに燃えていた。あ、うまい。

「うまくねーし。─じゃなくて、どうして()()()()()言ったんですか」

「なんで地の文読めるんですかね…。─[ももんが]さん、先程言いましたよ?彼らは[ぎるめん]の()()だと…やはり、彼らが子供であると思えませんでしたか…?」

もしかして、モモンガさんは子供として見れなかったのだろうか。やっぱりギルメンの影にしか見えなかったのだろうか…。
モモンガさんがあの子らに対してどう思うかはモモンガさんの自由だ。それ以上はこちらの都合であり、勝手ではあるが認められないとなるとやはり淋しい気持ちになる。

「…そこじゃないですよ。少なくともシャルティアにはペロロンチーノさんへの『愛』が感じられました。そういうところは製作者のペロロンチーノさんによく似ていると思います…。─短い時間しか彼らと接していませんし、子供と思えるかどうかはまだ分かりませんよ」

ああ、そりゃそうか、と一人で納得した。
一方通行とはいえ、俺はじっくりとNPCと向き合ってきた。だから、子供と思えるし、家族にも思える。でも、モモンガさんはその間は、きっと仲間の…ギルメンの帰還を願っていた。俺が教えるまでNPC(セバスや他のメイド)の名前すら出てこなかったのだ。
いくら仲間(ギルメン)が創ったとはいえ、いきなり子供だと言われて、はいそうですかと思えるほど人は単純じゃない。自身の短絡さに自嘲してしまうな。

「…やっぱり少しズレてますよね、サキさんは。─なんで俺も巻き込んだんですかって言ってるんですよこの問題児(ファッキンビッチ)

「あー…母親が一人なのはきっと辛いですよ?的な─」

ピタリ、とモモンガさんの動きが止まった。眼窩の赤い光が見開くように爛々と輝いている。突き付けた指先がほんの微かだが震えていた…なんか変なこと言ったか?

「…ど、どうしました?何か変なこと言いましたか…?」

「…サキさんは、俺の過去を…俺は()()()に過去を話したことが、ありましたか…?」

何だろう。ツッコミすらしない。こんなモモンガさんは今までに見たことがなかった。こんなに静かに怒っている…。─いや、怒っているんだろうか?…感情が静か過ぎて全然()()()()。強烈な重圧が部屋中にのしかかっている。
うなじが()()()()した。片っ端から沈静される。怖い。

「…気に触ることを言ったのでしたら謝ります…。─[ももんが]さんの過去、ですか…幼い頃に親が他界したことと小卒ということしか聞いてませんが…」

「…親というのは…片親か両親かまでは話しましたか…?」

あ、ヤバい。母親が地雷だったっぽい。で、でも片親だなんて聞いてねぇもん。泣くぞちくしょう。…むぅ、正直に話すしかねーな。

「親、としか聞いてませんよ。私は単純に幼い頃にご両親が亡くなったのだと思ってましたが…?」

()()とうなじの()()()()も目に見えない強烈な重圧も消えた。まるで何事もなかったかのように静けさが部屋を満たした。
腰を曲げた目の前の魔王が、先に静寂を破った。

「…失礼しました。多分バレてると思うので正直に話しますが、私が幼い頃に死別したのは片親だった母なんです。─…まるで母の苦労をバカにされたように感じてしまって…それで…」

「あー、はいはい。[すとっぷ]、そこまで」

開いた片手を骸骨(モモンガさん)に突き付ける。ストップのジェスチャーだ。
遮られて困惑している骸骨をよそに続ける。

「知らなかったとはいえ、触れちゃいけないとこに触れたのは俺だ。だから、謝らなきゃいけないのは俺だ…ごめんなさい」

社会人として、人としてきちんと()()()をつけるために、しっかりと頭を下げて謝罪をする。()()()()のは俺がこの世で最も忌み嫌うことだからだ。
…俺が言えたことじゃないんだけどな。同族嫌悪ってやつかな。

「…謝罪を受け取ります。ですから、顔を上げて下さい」

「…本当にごめん。馬鹿にしたつもりはなかったんだけど─」

今度は魔王が開いた片手を突き付けてきた。ストップのジェスチャーだ…。

「ストップ、そこまでです。知らなかった上にサキさんは悪気があって言ったわけじゃないんでしょう?…なら、お互いに水に流しましょう」

ああ、そうか。()()()()人だったな。だから、ギルメンの皆がついてきたんだ。
現実(リアル)に何もなかった寂しい骸骨。だからこそ、ユグドラシル(あっち)で出来た友人を無条件で信じる身内にくそ甘い骸骨の魔王。

─…そういうとこに惹かれてたんだって言ったら悶死しそうだな。お互い。

「…分かりました。でも、一人だと厳しいっていうのは本心なので、そこんとこは分かって頂ければ、と」

「…ハアアァァ。─分かりましたよ。父親役なんて務まるか分かりませんが、やるだけやってみましょう」

特大のため息を吐かれた。なにゆえ。





話もまとまったところで次は5階層のコキュートスの番だ。4階層のガルガンチュアはゴーレムの上に下手に絡むと暴走する恐れもあるので、用事があるときだけ命令をすることで意見が一致した。若干の不満はあるが、致し方ない。
先程の、咄嗟に出てきたとはいえシャルティアに話したことは上手い具合に元人間であることを()()せそうだったので、その設定でいくことになった。
さて、コキュートスはどんな思いを秘めているのだろうか…。

因みにユリにコキュートスを呼ぶように伝えたら、心なしか頬を染めてまた爆()でとんでいった。なんかさっきより速くねぇ…?

─コンコンコンコン。

シャルティアの時と同じようにノックの音が4回。なんで布で出来ているのに叩くとあんな音がするんだろう…。

「─[こきゅうとす]ですね?…お入りなさい」

部下たる俺がやはり声を掛けてやる。さっきの影響か、段々とこの喋り方が億劫になってきた。
…もう普通の速さで話すかなぁ。ユグドラシル(ゲーム時代)の記憶があるならロールあんまり意味ないし…。

「オ待タセ致シマシタ、コキュートスニ御座イマス。失礼致シマス」

()()()()()()()()、とどこぞの人型ロボットのような足音で入室する蟲王(ヴァーミン・ロード)
うーん、格好良い。タケさん、いい仕事してますわ。

「よくぞ参られました。まずは席にお座りなさい」

「─ハッ…シカシ、シモベ如キガ至高ノ御方々ノ前デ席ニ座ルナド…」

やはり、高すぎる忠誠心が邪魔をして席に座ろうとしないな。しかし、隣にいるのは泣く子はもっと泣き喚く魔王だ。この場で()()()()は聞きません。

〈伝言〉(メッセージ)。うーん、やっぱり座らないですね》

《[ももんが]さん、不機嫌そうに言ったほうが言うこと聞くと思うんでお願いします》

《はいはい》

「…コキュートス、まずは席に座るのだ。話が進まん」

「ハ、ハッ!ソ、ソレデハ失礼致シマス!」

わざと不機嫌そうに言って貰ったらコキュートスがおっかなびっくり席に座った。怖がらせてごめんね。

「ごめんなさいね。それでは、これからとても大事な話をします」

「ッ。─…カシコマリマシタ」

不敬だの何だのと、そういうやり取りは正直に言えば飽きた。話を進めるときは多少強引でも話を進めるのが吉、とシャルティアとの対応で俺達は学んだのだ。
しかし、綺麗な正座だが座りづらくないのだろうか。特にその脛の角ばったところとか…。

「コキュートスよ。─…ギルドメンバー達が来なくなって久しいが、お前は何を感じ、どう考えているのだ?忌憚なく述べよ」

「…辛いかもしれませんが、ありのままに答えなさい。最後に出会った頃も覚えているのなら、そちらも」

踏ん切りはそう簡単にはつかないよなぁ…モモンガさんには辛いことばかりさせている気がする。
やはり、俺の胸を貸してや─

《結構です。今は面談(こっち)に集中して下さいこの変態(ビッチ)が》

《だから何で地の文が分かるし…》

「…カシコマリマシタ。─…我ガ創造主デ在ラセラレル、武人建御雷(ぶじんたけみかずち)様ガ最後ニオ越シ下サッタノハ、4年ト2ヶ月前ニナリマス…暫ク私ヲ眺メラレタ後、『斬神刀皇』ヲ下賜サレテカラハ、オ見エニナラレテオリマセン…─」

─そうか…たっちさんが辞めてその後燃え尽きちゃって、そのままユグドラシルを辞めたんだよな…あの時からそんなに経ったのか…。

斬神刀皇を託した時の心境は計り知れない。たっちさんが辞めたことを知った時は、暫くは独り(ソロ)で活動していたものだった。何をどう考えていたかは分からないが、きっと色んな葛藤があったのだろう。

「…キット何処カデ研鑽ナサレテイルノデショウ。オ側ニオ仕エ出来ナイノガ不甲斐ナク、ソノ中デコノ様ニ愚考致スノハ不敬ナノヤモシレマセンガ…願ワクバ、マタ、アノ凛々シイオ姿ヲ拝見シタク御座イマス…」

なるほどな。武人であるコキュートス()()()
『力』が根幹にあるコキュートスの場合は、バイセクシャルの『情愛』を是とするシャルティアのような不安ではなく、より高みを目指していると信じているわけか。

《…生死は勿論ですが、現実(向こう)での生き様を教えてあげたほうがいいかもしれませんね。まぁ、私達の想像になっちゃいますが》

《─ですね。確認はされているんですか?》

《はい。とは言っても半年くらい前なんですけどね》

《了解です》

モモンガさんは仰ぎ見、昔を思い出すように…いや、実際に思い出しているのだろう。力を求める武人として振る舞い、雄々しく意外と頑固な彼のことを。

「…そうだな。まず、彼は…武人建御雷さんは生きているはずだ。きっと今も精進していることだろう…かつてのように武を高めんとして、な」

「オオ…左様デ御座イマスカ…!」

ブシュウ、と顎の辺りから冷たい息が吐き出される。やっぱり生きていると分かると嬉しいよな。…冷気無効なかったら凄い冷たそうだが。座卓の一部が凍り付いてる…。

「しかし、だ。ここからが肝心なのだが…今現在、彼が生きているかは分からない。その理由を今から話そう」

「…ハッ」

動揺もあるだろうが、表に出さずに一言も聞き逃すまいと姿勢を正す。この辺りは流石だな…シャルティアが迂闊すぎるだけかもしれないけど。

鳥がサムズアップしてる。なんで今出てきた。

「…前提として、まずユグドラシルという世界は我々プレイヤーにとって箱庭のようなものなのだ。この姿は仮のものであり、本来の姿の世界は箱庭(ユグドラシル)の外にある…ここまでは良いか?」

「…何ト…流石ハ至高ノ御方々…故ニ絶対強者デ在ラセラレタノデスネ…!」

─あれ、なんか反応が思ったのと違くねぇ?

何か「オオォォ…!」とか言って崇めてるんだけど。シャルティア(ポンコツ)コキュートス(武人)ってこんなに違うの?

鳥。いちいち出てくんな、こっち見んな。

《…なんか予想とだいぶ違うんですけど…これ、もしかして他の─》

《[ももんが]さん。取り敢えず続けましょう。今は考えちゃ駄目です》

《…ハァ》

俺もため息つきたい。なんでこの子達、こんなに忠誠心高いの。高すぎでしょ。

「…続けるぞ。本来の姿の世界は本当に地獄でな…我々が箱庭に来れるのは余裕があるときだけ…つまり、武人建御雷さんが来れなくなったのは…っ。」

「─その余裕が無くなったから…。そちらの世界で死ぬと二度と箱庭に入ることが出来なくなるのです。そして、今現在はそちらの世界と交流が出来ないのです」

モモンガさんが辛そうだったから引き継ぐ。()()()()()()本当の理由は、流石に言えない。知らない方がいいこともある…よな、うん。
万が一、コキュートスが覚悟を決めて聞きに来たときにきちんと話そう。今言ったら、多分この子は()()()。下手をすればセバスに掴みかかる。

─…そうなったら、内部崩壊間違いな…あれ、もしかして俺達ってかなり綱渡りのことやってる?

「ソノヨウナコトガ…イエ、シカシナガラ私ハ武人建御雷様ハゴ存命デイラッシャルコトヲ、信ジテオリマス…キット今モ、ソノオ力ヲ高メテオラレルト…」

「そう…強いのですね、[こきゅうとす]は。ですが─」

─ここしかない。今!ここで決める!























「私達は…『家族』です。いつでも『母』や『父』に頼ってよいのですよ…?」

《あああぁぁぁもおおぉぉぉ!!このタイミングかよおおぉぉ!!》

《ふふー。余り()()()()で頂きたい》

《こ、この変態(クソビッチ)…いつか絶対ぶっ飛ばしてやる…》

「そっ…そうだぞ、コキュートス。ち、父にいつでも…頼りなさい…」

コキュートスは元が虫ゆえに涙が出ない。その代わりに顎が()()()()と震えている。こえぇよ…何か畳も凍り始めたぞ…。
しかし、モモンガさんもちゃんと合わせてくれて良かった。危うく滑るところだった。凍ってるだけに。あ、うまい。

《だからうまくねーよ。なんかコキュートスの様子が…大丈夫なんですかね、あれ》

《俺が言うのもなんですけど…もう突っ込まないからな》

体がぷるぷる…いや、()()()()()()と震えている。感激…しているのか?

「オ、オオォォ…勿体無キ…オ言葉…!─…デスガ…タカガシモベ如キニ─」

「[こきゅうとす]!!」

コキュートスの体が()()()と止まる。
魔王の眼窩の光がこちらを見つめている。
頭が冷える。沸騰する。

()()()、などと必要以上に自分を下げるのはやめなさい…それ以上は、父が許しても母は許しません」

何であろうと、これだけはマジで許せない。我慢ならない。自分自身であろうと誰であろうと、()()()()()を下げる発言は本来なら絶対に赦さない。ナザリックは俺達で創った最高傑作だ。それを貶めるやつは誰であろうと赦さない。
…でも、この子達は忠誠心から自分達(ギルメン)より下だと思っている。だから、ある程度はしょうがないと我慢した。

だが、今のコキュートスの発言はそうじゃない。それこそ『たかが』自動湧き(POP)するモンスター(有象無象)と一緒だと、そういう()()を込めて言いやがった。()()()()()

─…でも、この子は俺が()()()()やつだと知らなかった。だから、今回は許す。『息子』だしね。

「…その辺にいるような、()()()()()()()()()とあなたが同じなわけないでしょう。─…紛れもなく、あなたは私達の『息子』であり、『家族』なのですよ」

怖がらせてしまったから、お詫びではないが近付いて頭部の甲殻を撫でてやる。冷気無効があるはずなのに、その表面は()()()()としていて心地良かった。

「…有リ難キ…幸セ…」

《サキさん…あなたは…》

《ほら、[ももんが]さんも撫でるんだ。早よ》

《ぐっ、この問題児(ファッキンビッチ)が…。─あとで聞きたいことがあります》

《…何でも答えましょう》

骸骨の魔王(モモンガさん)を手招きして、この子(コキュートス)の頭を撫でさせる鬼の姫(おっさん)
傍から見れば紛れもなく、『家族』の姿がそこに在った。






















─蟲王は若干の畏怖と感動と恐縮など様々な感情をかき混ぜて()()()()と震えていたが。





()()()()に固まってしまったコキュートスに時間があるときにまた話をしましょう、と言い付けてシャルティアと同様に待機任務に戻らせた。勿論、他言無用を隣のハゲ「ハゲじゃねぇ!」…骸骨の魔王に命令してもらった。
また休憩という名の話し合いだ。

「サキさんは…シモベ如きとか矮小って発言には怒らないのに、さっきは何故…?」

「あー…どこから話すべきかな…」

うーん。参った。こういう自分の考えを整理して説明するの苦手なり。まぁ…まず根本から、かね…。

「…根っこから話しますね。私はこの[なざりっく]を…つまり、[ぎるめん]と創ったこの最高傑作を愛しているんです。そこは分かりますよね?」

その言葉にしっかりと頷くモモンガさん。この辺は共通認識だろう。

「勿論です。このナザリックは最高のところです」

「でも、私は[ぽっぷ]する雑魚は含んでいません。あくまで、彼らと共に創った部分()()を愛しているんです。芸術の如く美しい柱一本から共に作り上げた[えぬぴいしい]の指先に至るまで…分かりますかね?」

「うーん…分かるような…」

頭をひねる骸骨。いまいち伝わらなかったようだ。あー、これ言ったほうが良いのかなぁ…怒るかなぁ…言ってみるかぁ。

()()()()は早めに修正しないとな。うん。

「はっきり言っちゃいますね。今現在の[ももんが]さんは友人達([ぎるめん])を求めています。その[ぎるめん]が絡んでいるから[なざりっく]を愛しているんです。私は逆です。[ぎるめん]をそこまで求めていません。勿論、帰って来てくれるなら大歓迎ですが…─」

「…」

まだ何もないな。重圧も感じない。何を感じて何を考えた…?
眼窩の光は消えたままだ。ただ、()()()俺の言葉を聞いている。ある意味、それも怖かった。

「─…私はこの[なざりっく]自体を愛しているんです。そこに[ぎるめん]が絡んでいるから彼らのことは好きです。この最高傑作を創り上げてくれた友人達には感謝しかありません。でも、そこまでなんです。それ以上は、私自身は求めていないんです…幻滅しました?」

恐らく瞳を閉じて考え込む骸骨の魔王(モモンガさん)。眼窩にまだ光は灯らない。
今度は俺が()()()待つ番だった。

「─ふふ。思っていたよりバカなんですね、サキさんは」

「…おぅ?」

()()()()と肩を震わせる魔王。重圧は何も感じず、楽しげな雰囲気…愉快な感情が()()()

「さっき言ってたじゃないですか。『今を理解して納得しろ』って。その時点でああ、俺と違ってちゃんと踏ん切りついて納得してるんだなって思いましたよ。…それはそれで、少し淋しい気持ちもありますが…」

「んー…まぁ、そういう意味ではそうなんですけど…まぁいっか。さっきも言いましたけど、俺はこの愛する『我が家』と『家族』を守ってくれた[ももんが]さんには尊敬と信頼を持ってついていきますよ。そこは何があっても変わりませんから」

「ふふ、ありがとうございます…で、話を戻しますが、それがさっき怒ったことと関係が?」

なんか杞憂だったみたいだ。うっわ、恥ずかしい。穴があったら目の前の骸骨入れたい。まさに墓穴。じゃなくて。

「ああ、そうそう。私にとって[ぽっぷ]する雑魚は言わば()()と一緒なんです。愛する息子が、たかが俺みたいな益虫を…って[にゅあんす]の感情が読めたからつい怒っちゃったんですよ」

「なるほど。…で、その感情が()()()、というのは?」

あー、やっぱりそこ食いついちゃう?俺も気になってはいたんだよね。多分、スキルだと思うんだけど。
【敵感知】とそれの強化スキル。この辺が絡んでいると思う。多分。
それか【直感】(インスピレーション)か…あれ、こっちじゃね?

「…多分ですけど【直感】([いんすぴれいしょん])の影響じゃないですかね」

「ああ。でも、それって回避補正が付くだけですよね?」

そう。このスキルは回避補正を上げる、というものだ。実際はパリィ出来るタイミングが表示されるだけなのだが、意外と便利なパッシブスキルだ。…たっちさんみたいな超人だけだよ、これなしで毎回パリィするの。意外と難しいんだぞ、パリィ。
しかし、これの設定では『感覚的に物事を捉え、閃きを得る』と説明されていた。それが、影響しているのかも。

「実際は[ぱりぃ]する[たいみんぐ]が分かるだけだったんですけど、設定にある説明文に閃きを得るってあるんですよ」

「なるほど…目に見えない感情を閃きで読むってことですか…うーん、ちょっと弱くないですかね?」

「となると他の[すきる]と影響し合ってる?…うーん、よく分かりませんな。しかもまだ馴染んでいないせいなのか分かりませんが、たまに読める程度なんですよ。いつもじゃないんです」

二人して()()()、と悩む。
もっと深刻な問題は山積みなのだが、問題児(おっさん)がかき回すせいで遅々として進まないのであった。
























「ところで寡黙ロール止めちゃったんですか?」

「[てんぽ]悪すぎ。めんどい」

「ああ…」



─つづく。



オリジナルスキル

・【マジックパリィ】
魔法攻撃を受け流す。
ミサイルパリィは飛び道具を反射、とあるようなのでこちらは物理系のみとしました。

・【直感】
本文にもありますがパリィ系のタイミングを表示するだけです。タンク初心者御用達。
━━━━
やっとオリキャラが爆弾処理の危うさに勘付きました。
ペロロンさん出過ぎなのでだんだん扱いが雑に…。

オリキャラの防御力は紙どころじゃないです。
プレアデス以下です。森の賢王どころかガゼフ(国宝なし)以下かもしれません。HPは…プレアデスくらい?

皮3枚繋がったのはすぐ後ろに壁があったからです。アホですが運は悪くないみたいですね。


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─家族面談らしい(3)

萌え回。

例によって捏造多数。
双子に違和感あるかもしれません。

オリキャラ視点のみです。


()()()、としばらく唸っていた骸骨の魔王(モモンガさん)鬼の姫(オレ)。結局、己らの設定など細かいことは後にして面談を先に済ませてしまおう、という結論になった。検証は後でなんぼでも出来るしね。
余談だが前の二人にお茶を用意していても、やはりどちらも手を付けなかった。座卓の上に残っている()()()お茶には茶柱が一本立ったままだ。
飲食不要及び疲労無効の装備を着けているために体調が変わらないせいで忘れていたり、()()()()と騒動があったりとそういうこともあったが、やはりこちらから促さないと絶対に手を付けそうにない。
まぁ雰囲気作りのために出しただけだから、どうということはないんだけども。

そんなことを考えながら座卓のお茶をユリに手渡して片付けて貰った。湯呑みを預かるときに顔を真っ赤にして()()()()と慌てていたが、何だったのだろうか。なんか支配者が自ら片付けるなどどーのお呼び頂ければ我々がこーのと言っていたが。
そういえばあの子も死者(アンデッド)だ。シャルティア含め何故にあんな顔色が出来るんだろうか…謎だ。
話してるから、はよ捨ててきてって強引に渡したらどこかへすっ飛んでいった。今までで一番早かった。

「次はアウラとマーレか…。─二人同時にやりますか?」

「んー…別々に行きましょう。多分、[まぁれ]の考えや想いが[あうら]の言葉に染まるか埋もれてしまうかと」

そう。あの二人は双子で姉弟。姉のほうが立場が強く、弟は姉の言うことによく従う。そのように定められている。()()()()と弱気な性格にされているのも拍車をかけていることだろう。
弟は姉に従順であるべし、とよくよく言っていた姐さんの言葉が思い出される。

「そうですか。それじゃ…アウラから行きましょうか」

「了解です。─ああ、そうそう。姐さんはご存命ですから」

その時。()()()、と魔王の首がこちらを向いた。今の動きはおっかなかった。

「そうですよ!何で聞いてなかったんだ俺!─生存が確認できたギルメンを教えて下さいよ!」

そういえば言っていなかった、と()()と手を打つ。眼窩に赤い光を灯す骸骨の表情は固い。骨密度も高そうだ。うまい。

「うまくねーし。早く教えなさい、この問題児(クソビッチ)

「了解しましたって…えぇと、少なくとも守護者達を創った方達は生きているはずです。半年以内に返事を頂いています」

「ふむ、他のメンバーは?」

どうだったかな、と天井を仰ぎ見るが温かな光も直接目に入ると眩しく感じられた。目を細めて、ふと正面にある金銀に彩られた見事な水墨画が描かれた襖を見やった。どれが良いか、『朱雀』さんによく相談していたのも今や懐かしい記憶だ。

「…朱雀さんは不明な人の一人ですね。あとは─」

覚えている範囲で各メンバーの状況…とはいっても『アルバム』作成の過程で、メールでの相談の返信が貰えたり貰えなかったりとその程度ではあったが。
因みに相談と言っても裏話程度の内容だ。『アルバム』を作るだけなら一人でも全く問題はなかったが、今だからこそ言える話とかそういうのもなるべく押さえておきたかったのだ。
愛する存在(ナザリック)をより深く知るために。

一通り話し終えて双子の面談はまず(アウラ)から、と決まったところで再開となった。さて、意外と大人びているアウラだがどんな想いを持っているのやら。

因みにユリは、あのあとすぐに洗った湯呑みを持ってきてくれた。お礼にお茶菓子をあげたらまた顔を真っ赤にして()()()()と慌てていた。かわいい。





─コンコンコンコン。

4回のノック音。全員の面談終わったら原因を調べてみよう、と密かに決意する。

「─どうぞ。お入りなさい」

やはり部下たるこの部屋の主が声をかけて入室を促す。
そっと顔を出したのは緊張を滲ませたアウラだ。失礼致します、と微かな不安げなの色を隠し切れず、しかし凛としてゆっくりと入ってくる動作は幼さを感じさせない美しさがあった。
だが、鬼の姫(おっさん)からすれば背伸びをしているようで微笑ましい。かわいいなぁ。

「お待たせ致しました。アウラに御座います」

一礼してすぐに跪こうとするが、それをモモンガさんが手で制する。アウラは不思議そうな顔で動作を止めた。やはり、かわいい。

「よい。まずは席に座りなさい…座らない限り、話をすることは出来ん」

「っ!─し、失礼します!」

流石モモンガさん。有無を言わせずに話を進めるつもりだ。怯えて震えながら座るアウラが少し可哀想だったが。…うん、かわいい。

〈伝言〉(メッセージ)。かわいい連呼すんな変態(おっさん)。んなこた分かってんだよ》

《…姐さんも良い仕事してますよねぇ》

()()()()と震えて待つアウラを前に好き勝手言い合う支配者(ダメ親)どもだった。

「─さて、アウラよ。これよりとても大事な話をする。いくつか質問をするが心して答えてほしい」

「あなたの考えや想いを述べて頂きますが、不敬だとかそういう事は考えないように。ありのままを言えば良いのです」

「は、はい!どのようなことでもお聞き下さい!」

アウラのオッドアイの瞳にはそれぞれ決意と覚悟の光が宿っていた。忠誠心から成せる姿勢だが、幼いアウラにはあまり()()()()()は出来ればやって欲しくない、というのが正直なところだ。
忠誠心からではない姿勢で、子供は子供らしくいてほしいと願う。

「…アウラにとっても辛いことだが、我が友人達…ギルドメンバー達がいなくなって久しい…そのことについて、だ」

「─…っ」

「最後にあった日のこと、それからのこと、そして今。─…言葉を飾る必要はありません。重ねて言いますが、想いや考えをありのまま言えばいいのです」

やはり辛い質問だろう。いくら大人びているとはいえ、アウラは子供だ。目に涙をためて、必死に口を結ぶ姿は見るに痛ましい。
僅かの間だが、沈黙が部屋を満たした。

「…最後にぶくぶく茶釜様の姿がお見えになられたのは5年と1ヶ月前です…。私とマーレを並ぶように立たせたあと『アウラとマーレは今日も可愛いね。…ごめんね』…とだけ、仰られて…頭を撫でて頂きました。その後、しばらく眺められてから…どこかへと、お出になられました。─…いつかきっと、また会いに来て下さると…それまで私とマーレで、第六階層を護るのだと…その想いで今日までお仕えして参りました…で、でも…いつしか私は、もう会いに来て下さらないのでは、と…お、お嫌いになって、しまわれ…たので…。─しょう…かっ…ぐっ…!」

途中から泣くまいと必死にまぶたを閉じて言葉を繋げていたアウラだったが、ついに涙が堰を切ったように流れ出す。()()()()と目尻から溢れる水の玉が頬を伝い、座卓の下に消えていく。むせび泣く声が胸中を抉った。

「─…[あうら]。ぶくぶく茶釜さんが、あなた達を嫌いになることはあり得ません。彼女は、ずっとあなた達のことが心残りだったと耳にしています」

「やむを得ない事情があったのだ。それを今から話そう」

二人の言葉を聞いて()()()()と目をこすり、覚悟を決めたように真っ直ぐで綺麗なオッドアイがこちらを見つめた。

「…かしこまりました。どうかお願い致します」

「うむ、まずは前提から話そう…。─実は我々のこの姿は仮の姿でな。本来の姿の世界というものがあり、そこからこの姿の中に入ってユグドラシルで活動をしていたのだ…ここまでは良いか?」

アウラはやはり驚愕に目を見開き、絶句している様子だがなんとか頷いてみせる。…俺やモモンガさん、ないし()()()()がこんなことを言われたら驚く前にまず相手の正気を疑い、言葉の真偽を確かめようとするだろう。
前の二人もそうだったが、忠誠心が高すぎるゆえに俺達の言葉を疑う、ということがないようだ。疑惑を晴らす手間がない分、楽ではあるが一方でとても危ういと思う。こういうのはちょっとしたことで瓦解したりするからなぁ…。

「もし分からないことがあれば遠慮なく聞きなさい。分からないことをそのままにすることこそ、不敬なのですから」

「…問題御座いません。どうか、お聞かせ願えますか」

モモンガさんの説明をなんとか飲み込めたのか、立ち直ったアウラにモモンガさんは頷いて続けた。

「うむ。─それで本来の姿の世界…これを我々は現実(リアル)と呼んでいるが、その現実は地獄を体現したような世界でな。生きるのに精一杯だったのだ…そして、その現実で死ぬと二度と生き返ったり、ユグドラシルに来たりすることは出来ない」

その時のアウラの心情はきっとこうだろう。自分の親が死んでしまった、だから会いに来れなくなった、と。
容易に想像が出来てしまえたほどに、オッドアイの視線が揺らぎ、絶望に染まった顔は青褪めた。
だから、そんなことはないと助け舟を出してやる。

「安心なさい。ぶくぶく茶釜さんは生きています。─…ただ、[ゆぐどらしる]に入る余裕がなくなってしまったのです。今もきっと生きるために必死でしょう」

「…ぶくぶく茶釜様は、今も戦っておられるのですね」

生きている、という言葉にやや安堵したアウラだが、緊張の色は落ちない。今も生死をかけた戦いを繰り広げているのだと、そう感じているようだ。()()、と歯軋りしているのは、その場に駆け付けられないことが悔しいのかもしれない。
生活が掛かっている、という点では『戦い』とそう表してもいいのかもしれない。

「口惜しいかもしれんが、彼女には彼女の戦いがある。我々が手を出すわけにもいかんのだ…今は彼女の無事を祈って成すべきことを成すのだ」

「…はい。─…いつか…いつか、また会いにお越し頂けますよね…?」

アウラの質問にモモンガさんは表情の変わらない骸骨のくせに難しい顔をして腕を組む。意味が分からないと思うだろうが、そう感じたのだからしょうがない。

─自分自身の葛藤もあるのかもしれないな。

「…それは難しいかもしれん。今現在、現実との交流が隔絶されていてな…」

「─現実(あちら)から来れるのか、()()()から行けるのかも不明なのです。少なくとも現時点でこちらから私達が戻ることは出来ませんでした」

「…それは…モモンガ様と夜想サキ様もいずれは、『りある』へお帰りになられる、と言うことでしょうか…?」

不安が極度に達して声が震えてきたアウラ。かわいいが言葉が悪かったな、といたたまれなくなる。現実に戻れたとしても、()()が残るならまたすぐにナザリックへ戻って入り浸ることは言うまでもないことだ。そもそもが仮に現実に戻れたとしても、また()()()に来れる保証はない。現状でそんな博打は絶対にご免だ。
…元々、ユグドラシルが終わったあとに『アルバム』を見て満足したら死ぬつもりだったのだ。
こんな素晴らしい場所は二度と無い。仮にメンバー全員が戻ってきて一から作り直したとしても、それは()()()()()()()()()。よく似た『まがい物』だ。
そんなのを見るくらいならナザリックとともに死ぬ、と覚悟を決めていたら奇跡が起きたのだ。離してなるものか。

「─ああ、そう心配しないで。私が…私達があなた達を置いていくことは決して有り得ません。ここは私達にとって帰るべき『家』…そして、あなた達の『親』です」

「あ、あ…そ、そんな…恐れ多いこと…」

突然に親だと言われて戸惑っている。
見た目が子供ということもあり、経験はないが連れ子ってこんな感じなのかな、と思う変態(おっさん)だった。

《むぅ…悔しいですが、まずまずの良い流れですので、良しとしましょう》

《うーん、あと()()()()って感じですかねぇ》

頬は赤く染まり、目は潤んでいる。今は()()()()している見た目は子供のアウラだが、しかしその割に大人びているとは思っていた。だが、栄えある守護者として甘えるわけにはいかない、でも親に甘えられなかった子供として甘えたい、と葛藤しているのがよく分かった。

「不敬ということはありません…それでも心配であるというならば─」

このタイミング、完璧だ。自分でも惚れ惚れしちゃうね。



























「[あ「─()()()…こちらへ、『父』の胸に飛び込んでおいで」

「モ、モモンガ様あああぁぁ!」

「」

アウラが叫び、隣のセクハラ魔王(モモンガさん)の胸元へ飛び込む映像がやたらスローに見えた。
あゝ、世は無情なり。やたら大人しいとは思ったが隣の骨はタイミングを伺っていただけなのだ。()()()()()()()を虎視眈々と…。

《…この変態魔王。虎視眈々と狙ってやがったな?》

《ふ、情報収集は基本中の基本です。二度も同じ手が通用すると思わないことです》

()()()()顔の骨がなんか言ってる。そういやこの骨、情報の処理と運用能力がやたら高かったな、とどこか遠くを見るような呆けた視線でじゃれている二人を眺める敗北者(おっさん)であった…。





ひとしきり堪能したセクハラ禿げ魔王(モモンガさん)の頭蓋骨は心なしか()()()()と艷やかになっていた。こっちの心は()()()()だが。
気を取り直して、落ち着いたアウラに話しかける。

「…[あうら]。無理はしなくてよいのです…何か困ったことや相談したいことがあれば遠慮なく言いなさい」

「─うむ。不敬など考えなくて良い…私達はそなたらの『親』だ。気軽に『父』や『母』として接してほしいと思う」

「はっ、はい…あの、えぇと…」

マーレのように()()()()とらしくない様子で耳まで真っ赤にしたアウラが言い淀んでいる。何か言いづらいことがあるのだろうか…。

─まさか、『女の子』の相談か?

《なにか不穏なことを考えてないかこのど変態(ファッキンビッチ)

《なんで考えが読めるんですかねこの[せくはら]魔王は…》

やがて意を決したアウラが顔を上げて、真っ直ぐなオッドアイの瞳で両人を見つめて口を開いた。
嵐の前のような静けさが部屋に漂っていたのはきっと気のせいではない。

「お」

『お?』
























「『お父さん』…『お母さん』…」

『─ぐはっ!』

─これは…破壊力満点ですな…。

自信の表れであった凛とした眉はハの字に垂れ下がり、潤んだオッドアイが上目遣いでこちらを見ている。
頬は上気して赤くなり恥ずかしさからか肩をすくめて、指なんか()()()()しちゃってる。
見た目は男の子にされているが、本質はちゃんと女の子してるんだなぁ…と微笑ましすぎて鼻血が出そうになりながらいつの間にか抱き締めていた。

「やっ、夜想サキ様!?─モモンガ様!?」

《嗚呼…[あうら]も可愛いねぇ》

《…否定はしません…茶釜さんは間違っていなかったんや…》

モモンガさんも近付いて頭なんか撫でていた。《さらさら》とした質のよい綺麗な金髪が指骨にかき分けられて、見ているこちらも気持ち良くなりそうなほどだった。






あのあと、最初こそ戸惑いから慌てていたアウラだったがしばらくすると封じ込めていた、創造主(姐さん)がいないことで積もり積もっていた寂寥感が爆発したのか嗚咽から始まり最終的には大声を上げて泣いていた。
それを二人はなんとも言えない気持ちで方や抱き締めながら。方や頭を撫でながら眺めていたが、やがて落ち着きを取り戻したアウラは、シャルティアと同様にどこかすっきりとした笑顔を浮かべて綺麗なお辞儀をしたのだった。
そんなアウラに、伝え忘れていたゴーレムなどを使ってマーレを手伝ってやってほしいと頼んで任務に戻ってもらった。多くの魔獣を使役するアウラだ、指揮官としても優秀なはず。きっと上手く使ってくれるだろう。

因みにユリにはシャルティアの時の二の舞いにならないように耳栓をしてもらって、用事があるときはモモンガさんの〈伝言〉で呼んで貰うことにした。
耳栓だと万が一の対応に遅れてしまうなどと拒んでいる様子だったがお茶菓子を渡して黙らせた。また顔を真っ赤にしててかわいかったな。

「さて、次はマーレか…作業中だと思いますけど、どうしますか?」

「…()()()の方が大事だと私は思います。よっぽど危険な状況なら考えますけど、一、二時間程度なら他の偵察用[もんすたぁ]とかで周辺を見回りさせておけば大丈夫なんじゃないですかね」

マーレには先程出した壁周辺の隠蔽作業という現時点では最重要任務に当たらせていたわけだが、きっとマーレもアウラと同じような悩みを抱えているだろう。双子の弟だし。
守護者(あの子)達を見ていると俺達の言葉こそが最重要とか言い出しそうな勢いだったが…まぁ、その辺りの認識は追々として今は面談を終わらせるほうが先決だろう。
モモンガさんにデミウルゴスへの〈伝言〉で現在の状況確認とそろそろマーレの面談を行うために、その間の偵察部隊の編成や運用を行って貰うことやゴーレム等をアウラに貸してマーレの作業を手伝って貰うように伝えて貰う。

「…デミウルゴスは本当に優秀ですねぇ」

「どうしました?」

デミウルゴスが優秀なのは当然だ。ナザリックでトップを張れるほどの頭を持つのだから、俺達じゃ考えつかないことまで考えているだろう。

「さっき与えた命令のついでに警戒網の草案も作っていたようです。防衛時の指揮官として全て任せるって思わずぶん投げちゃいましたよ」

「おー…流石ですね。私なんか面談のことしか頭に無かったですよ」

創ったのはウルさんだが我が子が優秀なのは良いことだ、と()()()()と相槌を打つ。

「…まぁ、話してみて分かりましたが守護者達の抱えているものは意外と大きかったようですね」

「…ある意味、良かったと思ってますよ。何も感じないんじゃただの[ぷろぐらむ]と変わらないですから。─…思うことがあるってことはあの子達は紛れもなく生きているってことです」

「そう、ですね…」

モモンガさんにとってもこの時間は無駄にはならないはずだ。親ならばギルドメンバーの子供たちと触れ合う時間は多い方がいい。

「あ、そうだ。[まぁれ]に壁周辺の土掛けてもらってるなら何か良いもの渡しません?頑張ってるならちゃんと褒めてあげないと」

「そうですね。ナザリックの壁も意外と大きいですからね…うーん…信頼の証ってことで『指輪』を渡しますか」

時間が止まった。〈時間停止〉(タイムストップ)は掛けてないし時間対策はしているはずなのに、確かに時間が止まってしまった。一瞬、こいつ何言ってんの?って思わず蔑みの目で見てしまうほどに。

「…いやいやいや!なに勘違いしてるんですか!─『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』のことですよ!」

「ああ」

その言葉にようやく得心した。このハゲ魔王、さっきといい姉弟丼でも食べる気かとか思ってしまったのは内緒だ。
でも、その指輪はちと()()()()じゃないか?と心配になる。
ナザリックの急所を渡すのは確かに信頼の証としてはこれ以上ないと思うが…。

「またよからぬことを考えてるなこの変態(クソビッチ)。─…もちろん、外出の必要があれば誰かに預けさせますし、最終的には守護者全員に渡すつもりですよ」

「まぁ、それなら…」

一人だけだと不和の元だ。順番が出てしまうのはしょうがないが、頑張ったら褒めて貰えるという見本には丁度いいのかもしれない。

「…さて、それじゃマーレを呼びますか」

「了解です、お願いします」

さて、マーレとアウラは同じことを考えているのかいないのか。()()()()と内気なのは、あくまで設定だからだ。ああ見えて男だし、意外としっかりしているかもしれない。





─コンコンコンコン。

モモンガさんに〈伝言〉でユリにマーレを呼んで貰うように伝えて少しした後、4回のノック音が鳴り響いた。どうぞ、と声をかけて入室を促す。

「し、失礼します…お、お待たせしました、マーレ・ベロ・フィオーレです…」

「よく来ました…さぁ、まずはこちらに座るのです。─座らなければお話は出来ませんよ?」

跪こうとしたマーレの肩が跳ね上がった。かわいい。
姉のアウラ以上に()()()()と震えている。…これ演技じゃなくてマジの方だな。

「マーレ、何も心配はいらない。叱るなどそういったことではない、まずは腰を落ち着けて話そうではないか…とても大事な話なのだ」

「!…わ、分かりました。失礼します…」

まだ怯えた表情ではあるが、怒られるわけではないと知ってやや安堵しているのが伺えた。
しかし、この子も綺麗に座るなぁ。この子達が()()()()()()とされているからなのか、NPCは皆そうなのか、気になるところだ。

「さて、それでは始めよう。話というのは、ギルドメンバー達…特にぶくぶく茶釜さんについて、だ」

「─っ」

「まずは、あなたが最後に会った日のこと。そして、それから今日までのこと…辛いでしょうが、あなたの想いや考えを嘘偽りなく正直に話してほしいのです」

マーレが息を呑み、体の震えが大きくなる。目も大きく見開いているこの子にはやはり、辛すぎるか…。

「…マーレ。どうしても辛いというのなら今は…」

「いっ、いえ!大丈夫です!…は、話させて頂きます…」

モモンガさんに中止しようかと促されたがそれこそ不敬だとか考えでもしたのか、珍しく大きな声で否定した。一度だけ深呼吸して、姉のアウラとは色が反対の綺麗なオッドアイに決意を含ませて話し始める。

「…さ、最後にぶくぶく茶釜様がお越しになられたのは…ご、5年と1ヶ月前です…。お、お姉ちゃんとぼくを並ばせられたあと『アウラとマーレは今日も可愛いね。…ごめんね』…とだけ、仰られて…ぼ、ぼく達の頭を撫でて頂きました。そ、その後、しばらく眺められてどこかへと、お出になられました。─…き、きっと、また会いに来て下さる…そ、それまでお姉ちゃんとぼくとで、一緒に第六階層を護るんだって…思いました。─で、でも…もう何年もお会い出来なくて…ぼ、ぼく達のこと、お嫌いに…なっちゃったんでしょうか…」

最後の方には目も伏せて、目尻には涙が浮かんでいた。
だが、いくら男の()であれ、と設定されていたとしてもやはり『男の子』なのだな、というのが正直な感想だ。姉のように嗚咽を上げることなく、歯を食いしばり必死に耐えている。

─…マーレは強いなぁ。

「[まぁれ]…大丈夫です。ぶくぶく茶釜さんは、いつもあなた達のことを心配していましたよ」

「うむ、あれだけお前達のことを想っていたのだ。今更嫌いになるわけがなかろう」

その言葉にマーレの顔に笑顔が浮かんだ。本当にこの子達は純粋だなぁ。

「さて…それで、そのぶくぶく茶釜さんが来れなくなってしまった理由だが…まず、話さなくてはならない前提がある」

「─分からないことがあれば、いつでもお聞きなさい。不敬などと考えてそのままにすることこそ、不敬ですからね」

「は、はい!分かりました!」

二人の言葉を聞き逃してなるものか、とでも言いたげな鋭い眼をして()()()()と頷く。

「その前提だが…まず、ユグドラシルでの私達のこの姿は仮の姿だ。本来の姿をした世界、というものがあってな。その世界からユグドラシルに仮の姿を作り、入り込んでいたわけだ…ここまでは良いか?」

「は、はい…大丈夫です…」

おや?と思った。驚愕に染まるわけでもなく、理解出来ていないわけでもない。なんでこんなに落ち着いているのか。

─…まさか姿形はどうでも良いとか、そう考えているのか。

「うむ。そして、その世界…現実(リアル)と我々は呼んでいるが、その現実とは地獄と言ってもいい世界でな…常に生死が隣合う世界なのだ」

「─その世界からこちらに入る余裕が無くなってしまった…今も彼女は生きるために頑張っているはずです」

「そ、そうだったんですね…あ、あのぼく達が、その[りある]に行ってお手伝いをすることは…出来ないんでしょうか…!」

オッドアイの瞳に微かな炎を灯らせて、決死の覚悟を浮かべた男の顔だ。その覚悟に応えたいと思うが、残念ながら手段がない。

「…今は現実と交流が断絶していてな、手立てがないのだ…それに、現実での戦いとはユグドラシルとは異なり自分自身で何とかするしかなくてな…今の我々に出来ることは彼女の無事を祈りながら、すべきことをすることだ」

「彼女は強い。それはあなた達も知っているはずです…長の言う通り、今は無事を祈り、信じましょう」

「は、はい…ぼ、ぼくには自分だけでしなきゃいけない戦いっていうのは、よく分かりません…。─っでも、信じるしかないなら信じます!」

ああー…可愛過ぎる。垂れ気味のオッドアイに灯る決意の炎は未だ燃えている。()()()と握った拳は、力を入れ過ぎて微かに震えていた。

「…[まぁれ]。こちらへおいでなさい」

《あっ…ちょっと待ちなさいこの変態(クソビッチ)

《もう誰にも止めることが出来ないこの情熱…この子にも捧げましょう》

《意味分かんねぇ…》

もうマーレは目の前だ。下手に止めると不審がられると思ったのか骸骨の魔王(モモンガさん)は諦めたようだ。しめしめ。

「さぁ、『母』の胸の中に飛び込んでおいで…頑張っている[まぁれ]の頭を撫でてあげましょう」

「え、えと…あ、あの…」

むぅ、流石に急ぎ過ぎたか。目の前に来たのはいいが、撫でて貰うなど不敬だとか考えてるなこの顔は。
どうすればいいのか分からず、()()()()と戸惑っているマーレも可愛いがこのままではセクハラハゲ(モモンガさん)に盗られてしまう。
その時、閃いた。まさに天啓。

─…来ないなら自分から行けばいい!

言うが早いかならぬ思うが早いか。手を伸ばしたまま立ち上がり─
























「─マーレは偉いな。困ったことがあればいつでも『父』に頼りなさい」

「モ、モモンガ様ああぁぁ…」

「」

いつの間にかハゲ魔王(モモンガさん)がマーレの隣に座って頭を撫でていた。

─また…このパターン、か…フッ。
























《油断しすぎですよ負け犬(ビッチ)

《うるせーこの変態(禿げ)

どっとはらい。



─つづく。



原作では『それ』っぽい印象のマーレですが、何だかんだいって男の子、だと思います。

今更ですが、製作者の引退日などは完全に妄想です。


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─家族面談らしい(4)


オリキャラ視点のみです。



鬼の姫(おっさん)の前で骸骨の魔王(モモンガさん)に撫でられているマーレは随分と心地良さそうだった。

──私の〜前で〜撫でないで下さい~♪ってか。

大昔にいっとき流行ったらしい歌の一節を思い出しながら、目を閉じて未だ気持ち良さげなマーレに声を掛ける。

「そのままでもいいからお聞きなさい、[まぁれ]。──…私達は『家族』です。私は『母』でもあり、長は『父』でもあります」

「そうだぞ。だから、私達に遠慮なく相談してほしいし、頼ってほしい…勿論、その逆もあるがな?」

マーレはオッドアイの綺麗な瞳を白黒させて、こっちや撫でている魔王へ()()()()()()と忙しなく視線を動かしていた。だが、その頬は上気して赤く染まり、目尻には涙が溜まっていた。

「あっ、あの…か、家族…ですか?」

「ええ。勿論、生みの親は茶釜さんですが…私達にも親の務めを果たさせてほしい。少しでもあなた達に寄り添えれば、と思います…」

「嫌なら嫌だとはっきり言うのだ。不敬でもないし、それでお前のことを嫌いには決してならん…。──お前の意志を尊重しよう…どうだ?」

撫でられながら俯いて少し考えている。そういえば、他の子供達があまりにも感動していたから、本当にそれでいいのか聞いてなかったことを思い出した。…あー、でもやっぱり不敬だから止めますなんて言われたらお母ちゃんショックで倒れるかもしれん…。

やがてマーレが意を決したようにオッドアイに光を宿らせて、顔を上げた。

「あ、あの…で、では…──」

『うん?』

























「──お、『お父さん』『お母さん』と…お呼びしても、いいんでしょうか…?」

『』

──…あぁ、ここが天国か。生まれてきて良かった。初めて親に感謝するかもしんない…。

アウラも良かった。だが、マーレも良い。姐さんは業の深い人だと思っていたが、違った。きっとこれを見越していたに違いない…。深謀遠慮とはまさにこのこと…。

などと意味不明なことを考えていたが、早く答えないとマーレの心が離れていってしまいそうだった。
元々涙目だったが、段々と眼のハイライトが失われ不安から絶望へ移行しつつある。本気で不味い。

「もっ…もちろんだ、マーレ。そう呼んでくれて、とても嬉しく…思うぞ…ぐっ」

《…お、おおおぉぉぉ!さす[もも]!よくあの[だめぇじ]から回復しましたね!》

《なんですか、()()()()って…いや、ギリギリでしたよ。色んな意味で…》

モモンガさんのお陰でマーレのハイライトが復活した。今では天真爛漫な笑顔が見られる…この子も、結構あれだな。意外と怖いな。

「…母も嬉しいですよ、[まぁれ]。さて、今の[まぁれ]にはとても大事な仕事を任せています。頑張っている[まぁれ]に私達の信頼の証として──」

「──この『指輪』を渡そう…ど、どうしたのだ?」

そう言ってモモンガさんは虚空から一つの指輪を取り出した。『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』だ。
だが、マーレの様子がおかしい。笑顔が失われ、顔は蒼白になり、目は見開いている。冷汗も見受けられ、()()()()と震えていた。

「そ、それは…リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン…う、受け取れません。至高の御方だけが持つことを許されているんです…ぼ、ぼく()()()が持ってていいものじゃ、ないです…」

「…っ」

《──サキさん、抑えて下さい》

()()()、と反応してしまう。コキュートスは見た目が大人だったから思わずキレてしまったが、この子は子供だ。しかも()()()
沈静化も手伝って何とか心を落ち着かせる。

《…大丈夫です、二の足は踏みません…ですが、訂正はさせます》

《分かりました。くれぐれも慎重にお願いしますよ?》

その返答に目で合図を送り、マーレの()()()()()()()()()発言を訂正させる。
マーレは指輪を持つことは不敬と思っているのか、まだ()()()()と怯えていた。

「[まぁれ]…なんか、などと言ってはいけません。それは[なざりっく]を…ひいてはあなたの母である茶釜さんの『格』を落とすことになります…同格、とまでは言いませんが、あなた達は私達に対しても誇りを見せるべきです…」

「そうだな…マーレはもっと自信を持ちなさい。()()()()とされているのは分かっているが、それでも言葉はもっと選ぶべきだと私は思う…ぶくぶく茶釜さんはお前達、双子の誇りであろう?あの人は貰えるものは堂々と貰っていた。ならば、お前達もそれに倣って()()と言われたならば堂々と貰っても不敬ではないぞ?」

二人の言葉にマーレは徐々にだが理解の色を示した。流石に創った人がそうしているならば子供はそれを見倣ってそうするべき、と言われれば不敬とも思わないだろう。
何故なら守護者(この子)達にとって創造者()とは誇りそのものだろうからだ。
今までのあの子達の親への反応から()()は滲み出ていたように思う。

──…とは言ったものの、()()()()()()()()()()もやりそうで怖いんだよなぁ。

そうならないように俺達()がしっかり監視──もとい、見守ってブレーキを掛けてあげるべきだろう…いや、他人(ひと)のこと言えないんだけどね?

「…分かってくれたようだな?これは大役を務めた(頑張った)者への褒美という形で渡すが、いずれ守護者全員に持たせるつもりだからそう不安になることはない」

「もちろん、[あるべど]にも渡してもらいますから…ただ、あの子は順番にこだわりそうだからまだ内緒ですよ?隠蔽作業が終わるまで隠しておくこと。[あうら]にも悪いですから、そちらにも秘密です」

《え゛。マジですか》

《大[まじ]です。穏便に済ませたいなら、あくまであの子が一番最初ということにして下さいね》

嫉妬深さが一番顕著だろう彼女は、特にモモンガさんから貰えるなら順番には絶対こだわるはずだ。この辺も上手く調整しとかないと不和を呼ぶ。絶対。『アルバム』製作者としての勘なんてもんじゃない。
()()()()()()()()()()()()()()

マーレは先程、そのアルベドに睨まれて怖さを実感したからだろう。()()()()と何度も頷いて、恐る恐る指輪を受け取った。手は未だ震えているが、手のひらの上に乗せられたそれをじっと見つめている。口が若干()()()()いた。

かわいい。





その後、マーレに改めて指輪を隠して持っているよう言いつけたら虚空を開いて、その中に指輪を大事そうに入れていた。
このことからNPC達にもアイテムボックスがあることが分かり、偶然だが検証が一つ終わった。ユグドラシル時代の装備や消費アイテムを恐らくこの子達は持っている。
それはつまり、タブラさんがアルベドに持たせたように──このことはあくまで想像だが──、他のメンバーが勝手に()()を持たせている可能性が出てきた。
その辺の消費アイテムやら装備品なら何も問題はないのだが世界級(ワールド)アイテムをこっそり持たせている可能性もなくはない。

──…後でモモンガさんに相談するか。

「それでは[まぁれ]…ここで話したことやあったことはくれぐれも秘密です。それと[なざりっく]の隠蔽は大役ですが、焦らないように」

「…うむ。ナザリックの壁は広くて高い。アウラにもゴーレムなどで支援するよう伝えたから、上手く連携するようにな。草も生やす必要があるだろうし、MPが足りなくなったら『ペストーニャ』に言うといい。──…大変だろうが頑張りなさい」

「はっ、はい!ありがとうございます!し、失礼します!」

二人の支配者()からの激励にマーレは目尻に涙を浮かべ、丁寧なお辞儀をして退室した。
()()、と静まり返る室内に透き通るような綺麗な声が静かに響いた。

「…あの子達も[あいてむぼっくす]を持っているんですね」

「そのようです…どうします?持ち物検査でもしますか?私は反対ですが」

せっかくギルドメンバー(生みの親)が持たせたものを猜疑心から持ち物検査などしたくない。その心が()()()()と見て取れた。それには俺も同感だ。出来れば持たせた意味は知りたいところだが。

「まさか。ただ、世界級を持っているかくらいは知っておきたいので、後で宝物殿の()に聞いてみましょうよ」

「え…い、いや。わざわざ話を聞かなくても…まだ心の準備が…それに、確認するだけなら私が行って──」

()()

何でこんなに嫌がるのか理解出来ない。
モモンガさんにとって黒歴史ということは知っている。()()()()()()()
恥ずかしい?ふざけるな。

























()()()()()()()()()()()()()

























「自分で生んだ息子だろ…恥ずかしいとか嘗めてんのか」

「──っ」

骸骨の眼窩の光が驚愕で大きく広がる。何に驚いたのかまでは知らないが。
さっきから沈静化が鬱陶しい。

「今まで散々、俺の言動を見といてまだ分からねぇのか?…それでも家族を、息子を恥じるってんなら相手になるけど…?」

勝てるとか負けないとかではない。()()は俺にとって譲れない一線であり許せない一線だ。

「そう、でしたね…すみませんでした…」

「…いいよ…俺も言い過ぎた。でも、あんたの息子であることに変わりはない。それはじっくりと考えるべきだ…あの子は、恥ずかしがって貰うために生まれてきたわけじゃないだろ?」

あの子はモモンガさんが格好良いと考えて、ギルメンの姿を保存したくて創った。ならば、何を恥じる必要がある。

「そんなわけ、ないじゃないですか…あいつは、仲間達の…──」

「あー…分かった、分かりました。言い過ぎてすみませんでした。そんなに落ち込まないで下さいよ。…あの子も哀しみます。それは、俺の望むところじゃない」

「…」

やっちまったなぁ…どうも、この手の話になると歯止めが効かなくなる。次は()()デミウルゴスとの面談だっていうのにこんなテンションじゃ万一があった時、抵抗も出来ずに()()()とやり込められてしまう。

──…本当は疑うなんてことはしたくないんだけどなぁ…。

「ほら。次は[でみうるごす]の番ですよ。どうします?日を改めますか?そんな弱った姿を見せたら幻滅されますよ?」

「…うっさいわボケェ!誰のせいでこんな悩んでっ…──」

モモンガさんの怒声が止まる。何故ならば、目の前の美少女(オレ)が土下座を敢行しているからだ。
和室で正座しているから自然と下座になる。本当は土下座なら障子を開けて中庭でやるべきなんだけど、時間もないし、しょうがないね。

「…言い過ぎたのは本当に謝るよ。まぁでも、俺の気持ちも分かって欲しいかな…()()()()()ってのは、当人にはかなり辛いもんなんだぜ?」

「っ…いえ、こちらも怒鳴って申し訳ありません。ですが、面談が終わったら少しだけ時間を下さい…避けるような真似は絶対にしません。ただ…」

言質は取った。あとはその恥ずかしいとかいう感情を抑えてほしいだけだ。
言い掛けた魔王を手で制する。

「──ちゃんと向き合ってくれるなら今はそれでいいよ。()()、あの子はきっとあなたを誇りに思っている。それを忘れないようにね」

「…はい」

「それじゃあ…あんまり考えたくないけど──」

敵に回ったら一番厄介なデミウルゴス、いってみようか。





──コンコンコンコン。

鳴り響く4回のノック音。

「…どうぞ」

今までで一番緊張している。声が震えていないか心配だった。まぁ…()()()のほうがぶっちゃけヤバいんだけど。

「お待たせ致しました。デミウルゴスに御座います…失礼致します」

たいへん落ち着いた耳触りの良い声が室内に響く。入ってきたのは赤い三つ揃えのスーツを着こなした悪魔、デミウルゴス。設定通りなら全く問題はない。万が一がただただ怖い。まったく、情けなくて涙が出そうだった。

「忙しいなかでよく来てくれた…感謝するぞ」

「『感謝』など畏れ多い…お呼び頂ければ、いつでもすぐに参上致します」

満面の笑みを顔に貼り付けて、社交辞令を述べる…いや、これ本気(ガチ)で心の底からの言葉だな。
なんか、今までで一番分かりやすかった。普通は逆のはずなんだが…何でだろうな。
綺麗な一礼を捧げて、その場に跪こうとするのを手で制する。

「心に留めておきましょう…[でみうるごす]、本題に入る前に席にお座りなさい」

「…かしこまりました。失礼致します」

一瞬、逡巡した後にデミウルゴスは申し訳無さそうな顔で()()()()()
…これは正直意外だった。守護者(子供)達の中で一番忠誠心が高そうで拒絶すると思ったのだが。

──…まさか今の一瞬で、今までの子供達とのやり取りを悟ったのか?

可能性は高く思えた。そのぐらい、きっとこの子は普通に熟すだろう。ナザリック一の悪魔的知能は伊達ではないはずだ。俺達の予想を3周ぐらい軽く飛び越えるはず。
…やっぱり、ある意味一番怖いかも。

「それでは大事な話を始める…嘘偽りなく、正直に話してほしい」

「…あなたの思ったことや考えていることを言いなさい。どのような言葉でも決して不敬ではありません…言葉を濁さずにそのまま話してほしいのです」

「ハッ…かしこまりました。決して嘘偽りなどを申し上げず、言葉も濁さないことを至高の御方々に誓います」

…うん、やっぱりだ。この子は設定通りのようだ。()()()()()()()()()。疑ってごめんよ。
今は神妙な顔つきの固すぎる紳士の体が緊張から若干震えている。…いや、やっぱり歓喜かもしれない。口角がちょびっとだけ上がっている。意外と子供っぽいとこあるな。

「うむ。話す内容は久しく姿を見せなくなってしまった仲間達…ギルドメンバー達についてだ…」

「特に[うるべると]さんが最後に訪れた日、それ以降から今日に至るまで…想いや考えを打ち明けてほしい」

ほんの僅かに上がっていた口角が真一文字に結ばれる。顔もややうつむき加減だ。やはり、思うところはあるのだろう。
ひと呼吸分だけ、時間を空けてゆっくりと口を開いた。

「…かしこまりました。最後に我が創造主であらせられるウルベルト・アレイン・オードル様がお越し下さったのは3年と10ヶ月前で御座います…その時はしばらくの間、私をお見つめなさった後に『今日で最後、か…最高傑作ともこれで見納めと思うと寂しくなるな…。──俺は…結局、あいつと何も変わらなかったんだろうか?…だが、最後まで足掻いてみせる…』と仰って…第七階層からご出立なされました…今日で最後、とのお言葉に絶望し、最高傑作と仰って頂き、まさに天にも昇る気持ちにもなり…形容し難い思いでした…。──()()()、とは誰なのでしょうか。その愚か者と闘っておられるのでしょうか…何故、私を連れて行って頂けないのでしょうか…やはり、栄光あるナザリックを多くの『ぷれいやあ』どもに土足で踏み荒らすことを許してしまった愚か者では…役に立たない、ということなのでしょう、か…っ…申し訳…御座い、ません…」

片手で目を覆い、指の間から()()()()と涙が零れる。さっき、あれだけ耐えたこの子がこれだけ泣くということは、それだけ悔しいのだろう。
一緒に立ち向かえない己の無力に嘆き、動きたくとも指一本動かせなかっただろうユグドラシル時代は、恐らくもっと悔しかったに違いない。

「…よくぞ言いました…辛かったでしょう」

「うむ…お前の疑問に答えよう。とは言っても、憶測も多分にあるのだが…。──『あいつ』とは、恐らくだがたっちさんのことだ。彼らは表面上は常に対立していたからな…」

「っ!…わ、私は何という…ことを…!」

あ、不味い。たっちさん(多分)のこと愚か者って言っちゃったからすんげぇ顔になってる。早く止めないと自害するぞ、これ。
()()()()と震え、頭を押さえている爪が皮膚に食い込み始め()()()()と赤い血が垂れ始めた。

「っ…落ち着け!デミウルゴス!不敬などではない!」

「…し、しかし…」

「──[でみうるごす]…良いのです。私達が赦します…これ以上の言葉が必要ですか?」

デミウルゴスの目が見開かれ、その眼孔にはめられた見事な宝石が露わになる。涙は滝のように溢れ、体は震え、その様相はまさに神を前にした敬虔な信者の如く。…この子からしたらあながち間違ってない例えだから困るのだが。

「お、おお…深淵よりも尚深い御慈悲に多大なる感謝と敬意を…!」

涙を流しながら五体投地で崇める悪魔。なんて絵面だ…ウルさんが見たら卒倒しかねんぞ、これ…。

「う、うむ…お前の忠誠はしかと見届けた。それで、話の続きをしたいのだが…」

「──ハッ、これは大変失礼を致しました。どうか、お願い致します」

なんて素早い変わり身。どこぞの守護者統括を幻視した気がした。

「それでどこまで話したか…ああ、ウルベルトさんが何故連れて行ってくれなかったのか、か…それにはいくつか前提を話さなくてはならないのだが…」

「そうですね…まず、[ゆぐどらしる]における私達のこの姿は仮の姿…本来の姿の世界というものがあります…」

「──…なるほど、流石は至高の御方々…そういうことでしたか」

驚くでもなく、()()()()と笑ったその顔は純粋でとても優しい笑顔だ。この笑顔の前ではどんな人も心を許してしまうだろう。流石は最上位悪魔(アーチデヴィル)

《ちょっ、サキさん!『そういうこと』ってどういうことですか!?》

《あははー。知るわけないでしょうが》

支配者()達は裏で()()()()()()だったが。

「…ふむ。どう理解したのか、教えてくれないか?何か齟齬があるといけないからな」

《おおっ、上手い!伊達に魔王やってませんね!》

《フッ…この程度お茶の子さいさいですよ》

「ハッ、かしこまりました。まず、『本来の姿の世界』とは恐らく至高の御方々が時折お話に出されていた『りある』かと存じ上げます。そして、ユグドラシルは至高の御方々にとって箱庭のようなものと愚考致しました。至高の御方々は『箱庭』における仮の姿をお作りになられ、それを操りご活動に励まれた…しかし、『りある』ではユグドラシルとは比べ物にならない程の脅威が現れ、至高の御方々はそれに対抗すべくそのお力を蓄えるためにお隠れになられた、と…私共では取るに足らぬとご判断なされたのか、それだけが残念でなりませんが…」

支配者()達は呆ける他なかった。思いの外優秀過ぎたデミウルゴスの推理に唖然としている。
デミウルゴスが何か間違っていたかと不安を顕にするまで、ただただ呆けていた。

「…もしや、どこか間違っていたでしょうか…?」

「あ…いやいや、見事だ。流石はデミウルゴス」

「え、ええ…言葉の違いはありますが、大筋は合っていますよ…そうですね。いくつか補足しましょうか」

その言葉に姿勢を今一度正して、神妙な顔つきになる。…これ以上正しようもないと思うのだが。

「ハッ。是非ともご教授願えますでしょうか」

《サキさん、これ以上何を話すんですか…ちょっと言葉替えればもうほぼ正解じゃないですか》

《…一つ大きな誤解があります。このまま無闇に期待を大きくさせると後に必ず響きます…[ももんが]さんには申し訳ないですが…》

《っ…私は大丈夫です。ただ、あまり変なことは…》

それに目で返答をし、デミウルゴスと向き合う。魔王(モモンガさん)に倣って考えるポーズで時間を稼いだから不自然はないだろう。

「…まず現実([りある])での脅威ですが…私達が生まれる前より存在します。それは、世界()()()()なのです。私達は常に生死の(はざま)を生きてきました…[ぎるめん]達が[ゆぐどらしる]に来れなくなったのは、来れるだけの余裕が無くなってしまったためです。()()()で死ぬと二度と[ゆぐどらしる]に来れません。皆、生きるのに必死でした…しかし、[うるべると]さんは常に世界と闘うべく奔走しておりました。少し前に生存は確認できたのですが…今は現実と交流が隔絶され、行き来できない状態です…」

「な、なんと…そのようなことが…しかし、少しでもお力になれないのでしょうか…?」

「…それはならん。彼らには彼らの闘いがあるのだ。それは自身の力で解決しなくてはならないものなのだ。──…助力したいのは私達とて同じだがね…」

相変わらずナイスフォローです、モモンガさん。しかし、やっぱり物理的にも無理だって言われると消沈するよな。さっきの笑顔はどこかに吹き飛んでしまったらしい憔悴したデミウルゴスが、そこにいた。

「…ウルベルト・アレイン・オードル様は…ご自身のお力のみで『悪』を成そうと孤軍奮闘されておるのですね…ですが…!」

()()と、歯軋りの音がなる。覚悟を決めたかのように震える体を押さえた。

「…不敬を承知で申し上げます。お気に障られましたらどうか、首を刎ねて下さいますようお願い申し上げます…。──お言葉ですが、我々は至高の御方々のお役に立つために存在しております。創造主の命の危機に我らが命を賭してでも御身をお護りできずして、『最高傑作』の栄誉は護れましょうか…!」

ああ、そうか。この子も親が死ぬのを…()()()()()()()()()()()()ことを恐れている。遠回しに言うから気付かなかった。
…体は大人だけどまるで親離れできない子供みたいだ。まぁ…生まれてから10年程度だし、ろくに触れ合うことも出来ていないだろうから、しょうがないのだが。

「…違いますよ。あなた達は私達を護るために生まれたのではありません。忘れてしまいましたか?」

その言葉にデミウルゴスの表情が暗い方へと歪む。

「──…あなた達は[なざりっく]を…『我が家』を護るために創られたのです」

「!」

()()とするデミウルゴスはモモンガさんに顔を向ける。そういうことですか、と。
モモンガさんはそれに同意するように頷く。

「その通りだ。私達は保護されなくてはならないほど()()ではない。──…私達が帰る場所。私達が外にいる間に我が家を護って欲しい存在。それがお前達だ」

「…しかし…私達はお役に立っておりません…先程、申し上げました通り…『ぷれいやあ』どもが攻め立ててきたときには呆気なく…。──口惜しいですが、呆気なく果ててしまいました…っ!」

歯を食いしばり過ぎて砕けた音が聞こえた。口の端から血が滴り、尚も食いしばる様子はかつての大侵攻を思い出しているのだろう。1500人による蹂躙。数の暴力。たかがNPC一人では歯牙にも掛けられない。しかし、だ。

「…『足止め』。私達が間に合うための…あなた達が役目を全うしたのです」

「…」

「うむ。はっきり言ってしまえば、あの人数に策なしで対抗など『二十』を使わない限り、私達でも難しい…あの時は、私ですら陥落の二文字が頭をよぎったものだ。しかし、お前達がいてくれたお陰で護り通せたのだ」

()()()。本当はそこまでギリギリでも無かったはずなんだけど、そう言われるとそうだったかなって気がしてきた。まぁ、少しでも時間稼ぎしてくれたのは本当だし嘘は言ってないからね。
それを聞いたデミウルゴスが()()()()震えている。お願いだから太ももに爪食い込ませるくらいなら素直に泣いて。結構えぐいのよ、あれ。

「誇りなさい。あなた達は、十二分に…役目を全うしています。これまでも…。──これからも」

「…ありがとう、ございます…!──感無量に御座います…!」

耐え切れなくなり、ポロポロと涙が溢れる。俺達はそれを愛おしく、微笑ましく見ていた。





泣き終えたデミウルゴスはやはり、入室時と比べると纏う雰囲気が柔らかくなった気がする。

「…落ち着いたようですね。繰り返しますが、[ぎるめん]達が来れなくなったのは決してあなた達の力不足ではありません…現実での闘いに余裕が無くなってしまったからです」

「そうだな…彼らは今も闘っている。いつか、帰ってくる日が来るかもしれない…その時を迎えるまで無事を祈り、このナザリックを護るのだ」

「ハッ…しかと承りました。しかし、流石はモモンガ様と夜想サキ様で御座います…多くの至高の御方々がお見えになられない中でご健在でいらっしゃるそのお力、やはり──」

なんか言い出したぞこの子。

《ちょっ…またですかこれ。おかしくないですか》

《あー…なんとなーく、どこかで()()()()とは思ってました。やっぱり目の付け所が違いますねぇ》

そう、この話はスケールが大き過ぎた。ギルメンは現実を受け止め、俺達はゲーム(現実逃避)していただけの話が、超危険な世界で余裕のあるなしになっているのだ。コキュートスの時もそうだったが…そりゃ、()()()()のも無理はなかった。

《…どうします?こんな立派なもんじゃないですよ、俺達。特に変態(ビッチ)は》

《急に毒吐くの止めて頂けませんかねぇ…まぁ、何とかしましょうか》

「[でみうるごす]」

「──嗚呼、なんとすば…ハッ。如何なさいましたか」

頭では敵わない…考えるな。





──感じろ。

























「私達は『家族』です。『母』は、あまり崇められても困ってしまいます。頼り頼られ、助け合うのが家族…。──[でみうるごす]。私のことは『母』と、長のことは『父』と…そう思って貰えると、とても嬉しい」

ぶっ込みやがった(強引にいった)、だと…!?》

《考えるな。感じろ。心の赴くままにゆくのだ》

《あなたが…(問題児)か…》

《…[るび]がおかしくないですかねぇ…?》

見ればデミウルゴスは突然のことに呆けている。あまりの衝撃にデミウルゴス(悪魔の頭脳)でさえ追い付けていないようだ。

──()()だ。ここで畳み掛けろ。

「[でみうるごす]…私達、家族の間に『不敬』など存在しません。嫌なら嫌だとはっきりとおっしゃいなさい」

「…そ、そうだぞ。どうしても主従の関係が良いというなら止めはしない…それは不敬などではない。子供達の『わがまま』をある程度は叶えてやるのも親の務めだろう」

《おぉっ!言いますねぇ》

《こうなったら破れかぶれですよ…》

デミウルゴスは()()()()と震えたままフリーズしている。何かが上限突破でもしたのだろうか。

「──…わ、我々も…家族と…至高の御方々の子である、と…」

「そうだ。私達は…家族だ。違うか?『我が子』よ」

()()、と一滴の涙がデミウルゴスの頬を伝った。ここまで来たら言葉は不要。傍に近寄ってオールバックで纏めてある頭を撫でてやった。

「…辛かったでしょう。苦しみも分かち合うのが家族です…苦しいときや辛いときは遠慮なく言うのですよ」

「…あ、ありがとう…ございます…『母上』…『父上』っ」

見た目は大の大人が、人目を憚らず泣いている。しかし、それを嗤う者などおらず、僅かな嗚咽と頭を撫でる小さな音だけが響く部屋を、温かい空気が満たしていた。





あの後のデミウルゴスは何度も泣いたことを恥じたが、なんのことだ、とモモンガさんがすっとぼけていた。
このイケメン魔王め…とか思っていたら有難う御座います、父上、と小さな声が聞こえた。
二人とも聞こえないふりをして今後の業務に励むよう伝え、今に至る。

「えがったえがった。入ってきた時と比べるとえらい雰囲気が良くなりましたね」

「そう、ですね…皆、少なからず自責していましたが…頭の良いデミウルゴスだからこそ、随分と自分を責めていたみたいでしたから、ね…」

本当にいたたまれなかった。自分の力量が足りなかったからこそ創造主が、ギルメンが離れていったと思い込んでいた。それは違う、と。現実の事情であって決して不満だからいなくなったわけじゃない、と。
まぁ、こんなことあまり考えたくはないが…。

──…飽きたやつがほとんどかも知れんけどな。

デミウルゴスの表情は晴れた。足取りも心なしか軽かった。しかし、どこか歯切れの悪いこの人は…。

「…[ぎるど]長。まさか自分を責めているわけじゃないですよね?」

「…え?」

絶対この人(モモンガさん)、自分の力量が足りなかったとかそんな下らないこと考えてるな。感情を読まんでも分かる。

「自分の力量が足りなかったから皆いなくなった、とかふざけたこと考えてません?」

「いや、それは…」

──はい、確定。

「考えてましたね?あなた馬鹿ですか?馬鹿ですね?」

「は?」

眼窩の光が強く輝き、一瞬だけ【漆黒の後光】や【絶望のオーラ】が噴き出たが気にせずに続ける。

「不満があるならもっともっと昔に空中分解してます。少なくとも、あなたと仲が良かった面子は随分と名残惜しそうに去っていきました。他の人も多かれ少なかれ、そう感じていたでしょう…。──社会人だから勝手に抜けた人はいなかった。それは違います。社会人でもそういうやつはいます。るし★ふぁーさんなんかその筆頭でしょう?」

「…それは──」

「──でも、()ですら辞めるときはあなたに声を掛けたはずだ。装備を置いていったはずだ…あなたにここを、[なざりっく]を託したはずだ」

願望でも嘘でもいい。この人に絶望は味合わせたくない。この人に()()しかないなら、最期まで付き合うのがせめてもの恩返しだと思う。

「…」

「あなたも、もっと自分に誇りを持って下さい。[ぎるど]長としてでなく、[ももんが]さんとして…──」

























「──()さんとして」

























「…!」

ふふん。どうだ、この持ち上げよう。流石だね、俺。中身も女だったら()()()もんだろ、これ。

「…ズルいですよ。ここで本名を持ってくるのは…くっそ、中身おっさんなのに…」

「ふふー。私もまだまだ捨てたもんじゃないようですな」

「調子に、乗るな。──避けんな!」

()()()、と不吉な音が掠めるように顔の横を通り抜けた。スローとはいえ、あのでっかいチョップが迫ってくるのはやっぱり、ちょっと怖い。

「嫌ですよ。角が痛そうですし」

「はああぁぁぁ…」

骸骨の魔王が大きなため息の真似事をする。疲れたサラリーマンみたいな哀愁があった。

「随分と大きなため息ですね。何か悩みでも?」

「誰のせいだ、誰の…」

「むっ、ひどい人がいるもんだ。どこの美少女か教えて下さい」

「こいつっ…確信犯、だと…!?」

「あ、やべ」

「あとでシバく…絶対シバいたるからな…」

「なんで関西弁」

大きな骸骨の魔王と小さな鬼の姫の笑い合う声が、綺麗な和室に響き合う。一瞬だけ途切れることもあったが、いつまでも続きそうな楽し気な声だった。

























「…中身が女だったら惚れてたでしょ?」

「…知るか変態(クソビッチ)



──つづく。



自分より頭良いキャラの台詞や敬語って難しいですね。

モモンガさんとおっさんがなんかイチャイチャしている件。某統括の嫉妬のボルテージが上限突破する…!


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─家族面談らしい(5)

申し訳ありません。
書き方が安定せず、読み辛いかもしれません。

基本的にオリキャラ視点です。


「それじゃ、気を取り直しまして…次は[せばす]でいきましょう」

あんまり弄るとハゲ魔王(モモンガさん)がイジケそうだったため、早めに話題転換を図る変態(おっさん)
魔王はその意図に気付いているのかいないのか、首を()()()と傾げて問い掛ける。
見た目骸骨で中身ほぼ同い年のおっさんなのにどうしてこんなに萌えキャラが出来るんだろう。しかも素で。

──…魔王のくせにそんな動きすんなよなぁ…あ、さっきの流れで俺も真似たらこの人、本気で堕ちるんじゃね?くけけ。

「んん?あれ、次はアルベドじゃないんですか?」

「──…んー…まぁ、[せばす]は九階層の守護者みたいなものですし。[あるべど]は[えぬぴいしい]の[とっぷ]ですし?」

その答えになるほど、とやはりこちらの意図に気付いているのかいないのか、よく分からないまま頷いて納得していた。
アルベドは最後じゃないと正直に言って()()()。あの『じゃじゃ馬娘』とはどう話したらいいか、まだ何も考えていないのだ。
ゲームが現実になってから真っ先に受けた、あの殺気。腰を据えてじっくりと考える暇はなかったが、それでも引っ掛かるものがあった。
…いや、子供達との会話で違和感が()()()()、が正しい。
子供達はいずれも純粋に創造者を尊敬…どころか崇拝していた。それは多かれ少なかれ、俺達にも及んでいる。心の底から忠誠心が湧き出ているのを(スキル)で感じていた。
しかし、思い返せばアルベドには()()が一切感じられなかった。ただの嫉妬なら多少なりとも他の子が抱いている気持ちと同じものがあって然るべきだろう…思い上がりでなければ。

──…ひと悶着ある未来しか浮かばねぇ…困ったもんだ。

隣に座る魔王(モモンガさん)()()()と視線を向ければ、また首を傾げていた。くっそ、萌える。
何でもないです、と首を振って襖を見据える。何もないことを願いつつ、言い知れぬ不安を胸に抱えながら…。





──コンコンコンコン。

規則正しいリズムで4回のノック音が鳴る。
どうぞ、と入室を促せば入ってきたのは老執事。だが、服の上からでも分かる厚い胸板、幅の広い肩は一体どれだけの膂力があるのか。大昔に存在したという『鷹』の目を彷彿とさせる鋭い眼光は見たものを射竦めさせるだろう。()()と張った背筋は老いを感じさせず、むしろ若々しくさえある。
『老』を体現しているのは白髪と生え揃えた白ヒゲのみだ。

「失礼致します。お待たせ致しました、セバスに御座います」

家令もこなす執事として一挙一動に無駄がなく、また気品に溢れる。一礼するだけでもおよそ完璧と思えた。だが、そんな感動に浸る間もなく跪かれる(面倒臭くなる)前に声を掛けてやる。

「よく来ました。まずは席にお座りなさい」

「大事な話だ。席に座らなければ話すことは出来ない」

流石に主たる二人からこうも『まず座れよ』と言われたら頑固そうなセバスでも従わざるを得ない。彫りの深い顔には出ていないが、不服そうな雰囲気を滲ませながらも失礼致します、と大人しく席に座った。

「では、早速ですが…今から聞くことは私達にとってもあなたにとっても、とても重要なことです。嘘や偽ることはもちろん、言葉を選んだりせずに想いや考えを言ってほしいのです」

「忌憚無く述べてほしい。不敬などと考えることはない」

「ハッ。かしこまりました」

鋭い眼光は何を今更、と言わんばかりにこちらを見つめている。実際は決意を新たにしているだけなのだが、まるで睨まれているようだった。

「うむ…。話とは…ギルドメンバー達のことだ。姿を見せなくなって久しい。それについて想いや考えを述べなさい」

「特にたっちさんについて聞かせて下さい。最後に訪れたときのこと、それから今日に至るまで…」

やはり思うところがあるのだろう。一滴だけ汗がこめかみを伝い、白ひげの中へ吸い込まれていく。僅かに伏せた眼に先程のような力強さはなく、()()()()と拳を握り締める音が響いた。
言ってしまうことへの不敬と、言わざるを得ない忠誠への葛藤もきっとあるのだろう。

──…きっと不敬なのに言わなきゃいけないジレンマもあったんだろうなぁ。あの子達。

「…かしこまりました。私の創造主であらせられるたっち・みー様が最後にお越し下さいましたのは、4年と3ヶ月前で御座います。遠くより私を暫し見つめられた後、何処(いずこ)へと歩いて行かれました…。──最初は、またお越し下さると、思っておりました。しかし、1年、2年と過ぎ…いつしか、私は…不敬ですが…()()()に見捨てられたのだ、と…そう、思うように…なりました…」

たっちさんは家族持ちだった。夫婦喧嘩までして入れ込んでいたくらいだったが、やはり家族を取って引退した。現実でのテロも絶えなかったし、しょうがないと言える…爆ぜろとは思うが。
ただ、経緯を考えると見捨てられたと思われても仕方ない。一声でも掛けてくれていればセバスもここまで病まなかったかもしれない。

──…仕方ない。俺しか知らない()()を教えるしかないか。

顔は青褪め、眼はどこか虚ろになっている。改めて口にしたことで絶望に打ちひしがれているのかもしれない。
うん、この子にも早くなんか言ってあげないとヤバい。

「…恐らく、その時だろうな。最後に私と話したのは…さて、一つだけ言っておく。お前達は決して見捨てられたわけではない。気になるだろうが、幾つか前提を話さなくてはならない」

「…やんごとなき理由があります。まず、私達のこの姿は仮の姿…本来の姿を持つ世界があります。私達は、普段はそちらの世界で生活をしていました…ここまでは良いですか?」

セバスは僅かに目を見開いて驚いているようだが、なんとか頷いて返答する。

「私達はその世界のことを現実(リアル)と呼んでいる。その現実とは地獄のような世界で…皆が生きるのに必死だった。そして、段々とユグドラシル(こちら)に来る余裕が無くなってしまったようでな…ああ、心配するな。彼なら少し前になるが生存は確認している」

セバスも一言一句に驚いたり心配になったり色々と忙しそうだなぁ、と思う。それだけこちらの話を聞いており、また信用していることなのだが…。

──…やっぱり危ういよなぁ。

「──ただ…現在は現実との交流が断絶しております。行くことも来ることもきっと難しいでしょう」

「…そう、でしたか…至高の御方々ですら苦しまれるということは、余程の地獄なのでしょう。しかし、それでも微力ながらお力になりとう御座います…やはり、私達如きでは足手まとい、ということなのでしょうか…」

未だ眼光に力は戻らず、不安ばかりのようだ。
…セバスの居る階層は9階層。ここより下にいるアルベドや配下にあたるプレアデス達に出番は結局最後まで無かった。まぁ、あったら既に陥落しているも同然なので悪いことではないのだが、それも拍車を掛けている気がする。要は何もしていないから俺達役立たずだったんじゃね?って思ってるかもしれないってことだ。

「ふむ…そういうことはないと思うぞ。現実という世界はユグドラシルより上位に位置する世界だ。故にお前達を連れて行きたくとも連れて行けなかった…連れて行けるなら皆連れて行くはずだ」

「なればこそ…至高の御方々に届かずとも同じように世界を越えられる力が…私達にもっと力があれば…!」

()()()()と両の手を握り締める音と()()()()と糸の切れる音が…え、ぷちぷちって燕尾服のほつれてる音か?上半身がすげー盛り上がってる。どうやら肩口の糸が切れているらしい。

──おいおい…一応、それ神器級(ゴッズ)なんですけど…。

「[せばす]、落ち着きなさい…仕方ありませんね。これは本人から固く口止めされていたことなのですが…」

《お、おい。なに言うつもりだ問題児(クソビッチ)

《本人以外、私しか知らない秘密その一です。耳の穴かっぽじってよくお聞きなさい》

「耳の穴かっぽじってよくお聞きなさい。[せばす]、あなたは…たっちさんの()()()()()()なのです」

「…は?」

「今、なんと…?」

セバスは目が点になるほど、大きく見開いて驚きを顕にしている。隣の魔王の眼窩の光は小さく輝き、文字通り点になっている。

──ふふー。二人とも目を点にして驚いている。この瞬間はたまらんね。

「ですから、[せばす]はたっちさんがこうなりたい、という将来の自分なのです。あなたはたっちさんの理想(憧れ)なのですよ」

《おい、なんだその話。初耳ナンデスケド》

《ふふー、そりゃそうですよ。1ヶ月前にようやく聞けた新情報です》

ギルメンは少なからずNPC達に夢を詰め込んでいる。漢の浪漫、カッコよさ(中二病)、最強、嫁…様々だ。それは超勝ち組だったたっちさんも例外ではない。本人は恥ずかしがってギリギリまで教えてくれなかった。特にウルさんに知られたくなかったようで、本人はもう辞めたことやユグドラシルが終わること、──これはモモンガさんから既に連絡が来ていたようだ。残念ながら来月はテロ対策で忙しく行けそうにないとの返事だったらしいが。──絶対に他人に漏らさないことを伝えてようやく手に入れた情報だ。
悪を挫き正義を貫く初老で達人なナイスミドル。
それがセバス・チャンに込められた想い。

「私が、たっち・みー様の…理想…」

「そうです。あなたは創造者(たっちさん)の理想の体現者。胡座をかかないよう口止めをされていましたが今のあなたは見るに耐えません…理想であると知ってなお、見捨てられたと思って立ち止まるならばそれも良いでしょう。幻滅はされるでしょうが」

今のお前には失望したぞ、と言われたような顔だ。脂汗が滴るほど溢れ出し、体は震えて今にも倒れそうだ。しかし、目はまだ死んでいない。

《ちょっ、それは言い過ぎじゃ》

《まぁまぁ。見てて下さい》

幻滅される、と言われてこの世の終わりになりかけたが、起爆剤にはなっただろう。裏を返せば、あるがままにいることこそがたっちさんの理想だ。
震えていたセバスの体が()()()、と止まった。





この時のセバス・チャンは、たっち・みーに見つめられていた時のことを思い出していた。遠くで見つめるたっち・みーからの視線が静かに語り掛けてくる。

──《俺の理想…俺は『お前』になってみせる…だから、このまま終わってくれるなよ?》

まるで今までの心の変容を予期していたかのようだった。あの時こう思っていたに違いない、という願望でもあったがそれはまさに今のセバスにとって希望足り得た。

──嗚呼、流石は至高の御方…私の心を試されていたのですね。愚かにも私はとんだ勘違いをしたまま、今日に至りました。しかし、赦されるならば今一度、あなた様の理想の体現者として振る舞いとう御座います。

そう願えば、タッチが頷いたように思えた。いや、確かに頷いてくれた。





セバスの眼に光が戻る。その眼光は、先程より鋭く力強い。体の震えは止まり、姿勢は変わらないはずなのに一回り大きくなったかのようにも見えた。

「…もう、大丈夫ですね。今のあなたを見れば、たっちさんは誇りに思うでしょう。そして、こうなりたいという想いをより強く持ちましょう」

「うむ、確かにそうだな…現実のたっちさんが歳を取ればこうなるかもしれないな」

「有り難き幸せ…そして、夜想サキ様。誠に有難う御座いました。お陰様で目が覚めました…忸怩(じくじ)たる想いです」

《[ぎるど]長。()()()ってなんですか》

《あっはっは。知るわけ無いじゃん》

にべもなく返され隣のハゲ魔王に冷ややかな視線を送り、さてどうするかと考える。しかし、考える時間はない。考える時間がないと考えるほど考えればかんがえる──

──…いっちゃうか。

























「[せばす]や…()()()などと難しい言葉を使われては、『母』は混乱してしまいます…差し障りなければ、教えて欲しいのだけれど?」

《これはまた強引というか雑にいったな…ファインプレーなのか、問題行動(ファッキンプレー)なのか…》

《知ってる?知ったかぶりって一番恥をかく[ぱたーん]なんだよ》

今度は隣のハゲ魔王(モモンガさん)から冷めた目で見られる番だった。いい加減ワンパターンっぽいし、今回はタイミングも悪い。致し方なし。

「…申し訳御座いません、夜想サキ様。今、なんと…?」

《うっは。これは恥ずかしい》

《》

「で、ですから…難しい言葉を使われても『母』は困ります。『母』は困るのです」

テンパってしまい、大事なことを2回も繰り返す羽目になってしまった。セバスは本気で困惑しているようで目が泳いでいる。隣のハゲは肩が()()()()と震えている。一瞬止まるがまた震え出した。こいつ…っ。

「[せばす]…私達は『家族』なのです。ならば、私が母であることに何の不都合がありましょう?」

《不都合しかないだろ。鏡見てみるか?》

《黙れ禿げ。火葬するぞ童貞》

《どど、童貞ちゃうわ!》

などと至高の御方々(アホ親ども)が漫才している間にセバスの理解が追いついたようだ。まだ若干目は泳いでいるが。

「…私共も家族、と…しかし、それは──」

「──[せばす]。家族とは同じ『家』に住む『一族』だから家族なのです。先程、長が申した通り私達は同胞(はらから)…血が繋がっているかどうかなど関係ありません」

《そっかー…()()、伏線だったのかー…》

《びっくりだよね》

隣の魔王からすんごい目力が飛んできているが、()()と目を逸らし努めて気にしないふりをする。目を合わせたら駄目だ、雰囲気に飲まれてしまう。
セバスは感動しているのか、僅かに震えながら目頭を押さえている。よし、このまま押し通る。

「[せばす]や…今この時は、執事という職務は関係ありません。あなた達は私達の子供…私のことは『母』と。長のことは『父』と。そう思ってくれると嬉しい…ねぇ?」

「っ…う、うむ…そう、だな…仲間達に創られたならば仲間達の子供も同然といえる。それは当然私達の子供ともいえるな…違うか?『我が子』よ」





その言葉を受けたセバスは体中に雷撃が走ったのを確かに感じていた。これほどの幸福があろうか。
見捨てられたと思っていたらその逆、自分が御方の理想であるというのだ。それだけに留まらず、こちらにおわす至高の御方々は自分達シモベを家族と仰って下さった。あまつさえ御方々の子供である、と。

──なんと…なんと慈愛に満ちた御方々…これは、不敬などと思うことこそ不敬なのでしょう…。

もはや涙を止めることさえ厭わず、その涙は滂沱として流れ落ちる。感極まる心は、暗澹としていた精神を払拭させ見えるもの全てを神々しく映し出した。元々、目の前に神を超える至高がお掛けになっておられるのであまり変わらないが。そもそも、この部屋は至高の御方の自室だった。

──ここが…常世のシャングリラ、約束されたエデンの理想郷…」





意味不明な暴走をし始めたセバスを止めたのは、美少女(おっさん)の流し目を受けて狼狽える魔王(童貞)。因みに途中からセバスの心情は口からダダ漏れだ。

「セ、セバスさん?感動中申し訳ないが、返事を聞かせてくれると父さん、嬉しいなぁ…」

鋼を彷彿とさせるセバスが粘土に変貌するのを目の当たりにした至高の御方は、あまりのギャップと先程の流し目にキャラが崩壊しつつあった。
根底は一般人なのだ、その失態を誰が責められようか。

《禿げ魔王崩壊中。所詮はおっさんか》

隣に座る友人(問題児)なら責め(いじ)れる。なるほど、道理であった。

《うるせーこのクソジジイ!…いや、ババァ?》

《[ばばぁ]で》

《ア、ハイ》

道理であった。





混乱した場は何とか収まりつつあった。
まだ若干の混乱の状態異常を残していたセバスだが、誠に感謝の極み、至上の幸福で御座います。と返事はしてくれた。しかし、微妙に言葉を濁された感が否めない。それでも、野暮なことは言わない。子供が幸せならばそれでいいのだ。

──とは言ってもこのまま終わるのもなぁ。

「それは良うございました…ただ、欲を言えば一度でいいから[せばす]から母と、そう言われたいです。ねぇ?」

()()()、とあざとい流し目を性懲りも無く繰り返す美少女(おっさん)。しかし、調子こいた彼女(こいつ)は隣にいるのがアインズ・ウール・ゴウンの魔王(頭おかしい集団のまとめ役)であることを忘れていた。

「…セバス、無理はするな。あくまで執事として生み出されたお前には負担が掛かろう…呼びたくなった時でよいぞ…いいか、抵抗を感じるならば無理をして呼ぶ必要はないからな?子供に負担は掛けさせたくない。それは『父』の望むところではない」

《こいつ…っ》

《ハン。同じ手は2度食わないと言ったでしょう》

白磁の頭蓋骨にドヤ顔が()()()()と浮かんでいるのが腹立つ。しかし、調子こいてやらかした手前何も言えないから余計に腹が立つ。
それでも、自分の憂さ晴らしのためにここで引っ掻き回してセバスに余計な負担を与えたいとは思わない。子供に負担を掛けさせたくないという言葉は同意見だがムカつく。

「…お心遣い恐れ入ります。私は大丈夫です、『父上』…」

《おっふ》

《》

欲をかけば()()()()ところを掻っ攫われる。当然の帰結であった。さしずめ無欲の勝利といったところか。

「…『母上』もこの度は誠に有難う御座いました。心のつかえが取れたように思います」

そんなつもりはなくともセバスの心遣いが痛い。明らかな被害妄想ではあるが、視線に憐れみが含まれているような気がした。

「…ありがとう…母と呼んでくれて嬉しく思います」

「うむ。いつでもそう呼んでくれて構わんからな」

「ハッ…慈愛と慈悲に満ち溢れる『両親』の子供でいられることが出来て、セバスは幸せ者で御座います…」

一滴の涙が畳に垂れようと、微かな嗚咽が漏れようと二人はただ微笑ましく眺めて頷くのみ。
野暮なことは言わない。幸せならそれで良いのだ。





セバスの番が終わったので、ユリと交代になった。やはり、耳栓をさせて何があろうと絶対に入るな、と言い付けて、更に扉よりちょっと離れたところで待機して貰う。ユリの顔が心なしか残念そうだったのは言うまでもない。

「さて、いよいよアルベドですね」

「…そう、ですね」

結局、答えどころか足掛かりすら出なかった。最初は今までと同じような感じでいいだろう。何を考えているか、きちんと知らなければ何も言いようがない。しかし…

──本音で話してくれるか、なんだよなぁ。

殺気を向けるということは敵意を向けると同義だ。つまりは、『敵』とみなしているということ。
それは難しい話ではなく極々単純な話だ。自分にとって不快なら『敵』で愉快なら『味方』だ。生物における好き嫌いの原点でもある。

──《敵に馬鹿正直に手の内を晒すアホがいるか、このマヌケ》

あの殺意の目を向けて()()言い放ちそうだと思った。少なくとも脳内のアルベドは言い放ってどこかに消えてしまった。
しかし、隣に唯一のワイルドカードがいる。

アルベドに愛される魔王(モモンガさん)だ。

彼にならきっと打ち明けてくれるはず。少なくとも言うことは聞くはず。害意はない…はず。
()()しか言えないことに心の中で自嘲してしまう。

「?…どうしました?」

無意識のうちにまた目を向けていたらしい。(かぶり)を振って何でもないです、と生返事だけしておく。

──あぁー…もうなるようにするしか無いなぁ…。

対面するその時まで不安は拭えない。いつだって『分からない』というのは不安と恐怖しか生まない。
襖の奥にいるであろう存在(じゃじゃ馬娘)を見据えて臨む鬼の姫(おっさん)であった。





──コンコンコンコン。

「失礼致します──」

























──何だかやけに見つめてくるなぁ…まさか、惚れられた…!?

「それだけはないわー」

「…心を読まないで頂けますか」

「そっくりそのままかえすわー」

「ぐっ…!」



──つづく。



次回、メインディッシュ。
アルベドまでやっちゃうと多分、終わらなくなりそうだったので、今回はセバスのみです。
と言いつつ短かったら笑うしかないよね。

オリ設定補足。

セバスはリアルのたっちさんがモデルらしいので。
多分将来はこういうナイスミドルになりたいんだろうなぁ、リアルじゃ正義を貫くのが難しいからゲームのNPC(子供)に願望を託したんじゃないかなぁ、という妄想。


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