めぐみんの誕生日 (クワ型まりも)
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めぐみんの誕生日

スピンオフなど、読み終えてない原作箇所もあっての拙作ですが、お楽しみいただけたら嬉しいです。今作はめぐみんに焦点を当てたお話です。


「あ!めぐみん!爆裂魔法にばかり興味がいっちゃってるめぐみんのことだから忘れてるかもしれないけれど、なんと今日はあなたの誕生日なのよ!」

 

  アクアが俺の寝起きとほぼ同じタイミングで屋敷に帰ってきた。どうやら朝っぱらからどこかに出かけていたらしい。

 

「今夜はとっておきの宴会芸を披露してあげるからね!楽しみにしててね!」

 

  言うが早いかすぐ玄関に向かっていくアクア。どうやらまた出かけるらしい。

  せわしないが、あいつなりにめぐみんの誕生日を祝ってやりたいみたいだ。

  気合い十分なアクアのアクティブさにか、目を丸くして少し驚いてるめぐみんに俺は朝の挨拶と今日の祝福を済ませる。

 

「ようめぐみん、おはー。誕生日おめでとう」

「あ、カズマ。もうこんにちはの時間ですが、はい、ありがとうございます」

「?なんだ?テンション低いじゃないか。せっかくの誕生日なんだ、子供らしくもっとウキウキしてるかと思ってたのに」

「なっ!?歳がひとつ上がってなお子供扱いされるとは思いませんでしたよ!」

 

  まあ普段の爆裂関連で誤解しそうになるが、元々落ち着きのあるめぐみんだ。今さら誕生日のひとつで興奮したりはしないのだろうか。

  しかし、いつもながら年齢が絡む煽りにはめっぽう弱い。これだからまだまだこいつはお子さまなのだ。

 

  めぐみんの落ち着いていた態度になんとなく筋を通し、ついでに場を盛り上げるよう善処した。

  ところが後者はさておき、前者に関してめぐみんは自身のそれの理由を呟く。

 

「いえ、嬉しいには嬉しいんです。私が生まれてきた日というだけであんなにも動き回ってくれるのですから、嬉しくないわけがありません。……ただ、その……」

 

  アクアは宴会の口実を見つけて舞い上がってるだけな気もするが……。その辺りはどうでもいいか。

  そういえばめぐみんは貧しい家の出だ。記念日だとしても家族で大々的にドンチャン騒ぎする経験に乏しいのかもしれない。つまり……。

 

「もしかして気恥ずかしいのか?」

「まあ、はい、そうです。里にいたときもみんなから祝ってもらえたりしてたのですが特別なにか催したりというのはなくて。同族ではない、パーティの仲間にこんなよくしてもらえると、なんだか、こそばゆい感じがするのです」

 

  こんな話をしていると、なんてことのない日常の歯車が噛み合っていくように思える。

  ほんの一例だが、シュワシュワ。

  めぐみんにとってのシュワシュワは『みんなと一緒になって騒げる、侘しさを吹き飛ばせるアイテム』だったりするのかもしれない。

  そういうさりげないところに、存外めぐみんの執着が見え隠れしているような。

  俺たちが普段考えているよりも小難しい内面が出てきていたような気がした。

  ……いや、気のせいだろ。家庭の経済事情よりも友達のゆんゆんを意識してそうだ。「ゆんゆんより未発達だからって子供扱いしないでください!シュワシュワくらい飲めますよ!」……こっちの理由のがしっくりくるな。

  でもめぐみんよ、ゆんゆんも酒はまだ飲めないんだぞ?その辺は理解してるのか?

  結論、 飲酒年齢と発育の因果関係は認められない。だがこれは内心に留めておく。

  そんな益体も無いことを思い浮かべていると後ろから聞き慣れた声が届いた。

 

 

「そうか、最近アクアがなにか大掛かりな準備をしていると思ったら、今日はめぐみんの誕生日だったか」

 

  振り返り声の主を確認。ダクネスだ。

 

「おうダクネス、おはよう」

「カズマ、おはようの時間じゃないぞ。貴様は生活習慣をいい加減改めるべきだと思うんだが?」

「めぐみんとおんなじこと言ってるな」

 

  悲しき元ニートの性なのだ。諦めるしかないのだ。

 

「と、そんなことはどうでもいい。めぐみん、誕生日おめでとう」

「ありがとうございます」

「言い訳になってしまうが、近ごろは家の事務作業でごたついていてな。今日という日をうっかり失念していた。なにかプレゼントになるものを買っておくべきだった、すまない」

「いえ、気持ちだけでも十分嬉しいですよ。ありがとうございます、ダクネス」

「むぅ、そう言われるとますます……そうだ、晩御飯は奮発しよう!食材は私に任せてくれ。カズマにそれを調理してもらって、贅沢にパーっといこうじゃないか!」

「ふふっ、それではお言葉に甘えますね。お夕飯、楽しみにしてます」

「おい、さりげなく俺の労力に期待するなよ、別に今日くらい構わんが」

「お前もめぐみんへの日頃の感謝をなにか形にしたいだろう?その一手段を私は提供してやったのだ」

 

  まあ、確かに俺もめぐみんにはいつもお世話に……お世話、に?

 

「俺、むしろお世話しまくってないか?いやめぐみんに限った話じゃないが、なあ?あれ、めぐみんが俺に感謝の気持ちを伝えるべきじゃないか?」

「爆裂散歩に関してのみ、いつも手間かけさせてます。どうもありがとう」

「関してのみってなんだよ!?俺がいつもどれだけ問題児どもの世話に苦心してると思ってんだ!」

「ま、まあまあ落ち着けカズマ。でもそうだな、いい機会だ。明日にでもお前のことはしっかり労ってやる。特別に掃除当番も代わってやろう。だが今日はめぐみんの顔を立ててやらないか?」

 

  どうだ?とダクネス。どうもこうも元々そのつもりだったのだが、ごねてたら明日の仕事がひとつ減った。

  ダクネスはなんだかんだで面倒見のいいパーティのお姉さんポジションに近いのだ。なんか仕事を押し付けることにちょっと罪悪感も出てきた。

  そんなダクネスにあてられて、俺も今日はめぐみんに少しくらい優しくしてやろうと考えた。

  よし、年に一度だ。子供のわがままも甘んじて受けてやる気概で過ごそう。

  それから、これはもともと渡すつもりだったので手っ取り早く済ませる。

 

「しょーがねぇなぁ。ほらめぐみん、これやる」

「そういえばさきほどから手に提げてましたね。……もしかして?」

「プレゼントだよ。誕生日に貰えるのは子供の特権なんだぞ」

「一言余計なんですが!」

「ほう、カズマがこういった行事に積極的なのは意外だな」

 

  うっさい、たまたま気分で付き合ってやる気になっただけだ。勘違いしないでもらおう。

  そのような旨の言葉を紡ごうと口を開いたとき、

 

「でも、ありがとうございます。とても、とっても嬉しいですよ」

 

 プレゼントを両腕で軽く抱きしめて微笑むめぐみんとその言葉で、頭に並んだ文字列が口から出て行くのをやめた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「開けてみてもいいですか?」

 

  どうぞと首を縦に振ると、めぐみんは割れ物に触るかのようにゆっくりと袋を開けていく。

  その仕草はまるで唯一無二の宝物を、少しでも傷つけまいと慎重に取り出すかのように見えて、その一挙手一投足がいじらしく感じられてしまう。

 

「これは……」

「……ふむ、カズマにしてはまとも、というか普通なものを選んだものだ。もっとこう……はっちゃけたものが飛び出てくるかと思ったが」

「おい、俺はこれでもパーティメンバーのなかで一番常識人なつもりだぞ?」

「つもりだろう?」

 

  外野からの茶々が入ってやかましいことこの上ないが、これで一応プレゼントのお披露目は終了だ。まあ、実用的なものだから嫌がられたり、埃を被ったりすることはないだろう。

  ……ただ、ひとつ、たったひとつ。大したことでもないのだが、懸念があるといえばある。

 

「これは……エプロン、ですか」

 

  俺からの誕生日プレゼントは、オレンジ色のエプロンだ。

  腰元のポケットに味噌汁、焼きそばなど以前みんなにご馳走した日本料理のアップリケ。

  それらの中心に爆裂魔法をイメージした赤い刺繍を施した。極めて普通のエプロンだ。

 

「聞いて驚けめぐみん。この爆裂印のエプロンは、なんと耐火性に優れた代物でな?万一火の扱いにしくっても、炸裂魔法くらいの火力ならものともしない超高級品だぞ!」

 

  もっとも、めぐみんが料理で下手することはあまりないだろうが。それでも俺はこのアイデアが浮かんだとき、我ながら名案に思えて居ても立っても居られず、財布も忘れておっとり刀で屋敷を飛び出したくらいだ。

  当のめぐみんはとても嬉しそうにしているが、満面の笑みと表現するには少し複雑な面持ち。

 

「……なるほど。待て、読めた。今回は脳筋と評される私にもカズマの思惑が読めたぞ」

「!?」

 

  いやいや、まさか。この展開は想定外すぎるぞ。あのダクネスがこんだけのやり取りで俺の心中を察するに至るとは。

 

「ぐうたらの代名詞な貴様がわざわざイベントに参加し、プレゼントしたそのエプロンにはなにか含まれた意味があるに違いない!」

 

  脳筋の代名詞ことダクネスの俺へのイメージについては、今度しっかりと詰問してやろう。

 

「ふふん!すなわちカズマ!お前はこれを渡すことで、めぐみんの料理の意欲を高め、あわよくば自分の料理当番の日数を減らす!さらに料理の機会が増えためぐみんは手間を考えて調理に便利な炸裂魔法に手を伸ばすかもしれない!日常面でも戦闘面でもめぐみんの使い勝手がよくなる、一石二鳥な展開だ!そんな考えだ!違うか!?」

「うんそうだな。そうです」

「雑!?」

 

  ダクネスの知力活性が垣間見えるが、おざなりな対応で沈める。このお嬢様に知力なんか求めてないのだ。

  とりあえずステータスに『常識力』って項目があったら無理矢理にでも全スキルポイントを注がせてやりたい。

  ただ、考えることを覚えたダクネスを少し褒めてやりたい気にはなった。

  なんて声をかけてやるか悩んでいると、エプロンを矯めつ眇めつしていためぐみんが口を開いた。

 

「いいですね。料理と爆裂魔法のアップリケ、やっぱりカズマは器用ですね」

 

  ダクネスは放置して品評を続けていためぐみんから嬉しいお言葉。本人に存外気に入ってもらえたようで、渡した側としても気持ちがいい。

 

「ただ……」

 

  と言って続けるめぐみんの顔は不満げというわけではなく、純粋な疑問を主張したいのだといった風だ。

  今の言葉の出だしから浮かびがちなネガティブイメージを、しかしめぐみんが「はやまるな、そうではない」と否定しているようだ。もしそうやって俺に気を使ってるんだとしたら、随分器用な顔の作りである。言葉いらずの便利なコミュニケーションだ。

 

「いや……自分で言うのもなんですが、あの、わたしのイメージカラーって赤だと思ってるんですが。爆裂魔法的にも、紅魔族的にも」

 

  言われてみれば確かにそうだ、と隣のダクネスが頷いている。これに関してはもちろん俺も同意見。

 

「そーだな。アクアは水から青色、ダクネスは家柄から貴色って、それぞれイメージカラーがあるよな」

「おいカズマ。私の黄色はただの好みなんだが、家柄とどう関係があるのだ?」

「貴色の『き』は貴族のきだろ?」

「違わいっ!!」

 

  スパン、とダクネスの手刀がツッコミを名目に俺の頭に振り下ろされる。痛え!

 

「あの、漫才ならお夕飯にいくらでも付き合いますから……あとダクネス、その台詞はわたしが既に特許取得してるのであとで使用料いただきますがよろしいですね?」

「よろしいわけないだろ!?そんなとこばかりカズマの影響受けないでくれ!」

 

  こすいことならなんでも俺のせいにするダクネスのその癖も、たぶんアクアからの悪影響だな。

 

「ん」

 

  そんなことよりわたしの疑問に答えてください、とめぐみん。

  ……これが先の懸念、『色』である。

  心の中で弁明しとくが、まず赤が売り切れてたわけではない。この理由に関してめぐみんが思いあたるようなら心外である。

  なので、自身にとって心外にあたらない程度のでっち上げでとりあえずこの場は凌ぎ切ることにする。

 

「……あー、そのな?ほら、めぐみんって爆裂魔法に熱が入りすぎて、たまにな?たまーにだが、その……面倒なときがあって……」

「はいっ!?」

「まあ、そうだな」

 

  わからんでもない、とダクネス。

 

「『頭のおかしな爆裂娘』って通り名が定着してきたこの頃、めぐみんの爆裂魔法への意欲がちょっとでも和らいでくれないかなーって意味を込めて色は赤を淡くしたオレンジにしてみました」

「よぅし!そこまで言われたら心外じゃないか!いいでしょう!これからカズマには爆裂魔法のなんたるかを語り尽くしその魅力に気づいてもらいましょう!あ、こら!逃げてはいけませんよカズマ!ちょっ、ダクネス!カズマの腕抑えててください!」

「私は夕飯の食材を買ってくる!面倒は御免だ!」

 

  俺にとって心外じゃなくても、めぐみんにとっては心外だったらしい。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「いつかカズマには、自分から望んでこのエプロンを赤色に染めたくなるよう爆裂調教しますからね」

「お前のなかで俺は将来染物屋にでもなってるのか」

 

  さきほどからの流れがいつものなんてことないやり取り、すなわち冗談であることはめぐみんもわかっているだろう。

  長い付き合いだ。仲間を象徴するものを、あるいは仲間の夢の形を貶めるなんて、本気でしようはずもない。

  俺はソファで拗ねてるめぐみんへ距離を縮めることもせず、他愛ないことを話すかのように絨毯で寝転がりながら口を開く。

 

「ところでめぐみん、さっきの理由。オレンジ色のやつ、あれ冗談だ」

 

  俺の言葉を聞いためぐみんに驚いた様子はない。

 

「そりゃわかってますよ……もし本当なら爆裂印はおかしいですから。爆裂魔法を助長する一要因になってしまいます」

 

  やれやれ、と呆れたような顔をしているめぐみん。

  確かにそれは矛盾している。でもお前も自分からこの冗談に乗っかった癖に、その反応はどうかと思うんだが。

 

 

「理由なんだがちょっと言えない、すまんな」

「……いえ、構いませんよ。プレゼント、嬉しかったです。まあ、日頃の感謝を表し、礼節を持って今日という日にわたしを崇めるのなら、今回は特別に見逃してあげましょう」

 

  ………。

 

「……ずいぶんと、態度がでかくなったもんだよなぁ」

 

  俺が起きたときと比べてやたら悪い方向に勢いのついてきためぐみんに俺はつい一言こぼす。

  しかし俺の返しなど予想できていたのか、待ってましたとばかりに顔をニヤつかせてめぐみんは、

 

「それはもちろん、今日がわたしの誕生日だからですよ」

 

 今日だけの特権を主張した。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

  なぜか、ほんとになぜか帰ってきたアクアについてきたバニルが、ほんとになぜか余計なことをしてくれた。

 

「フハハハ!悪魔と一文字違いの名を密かに気にしていたことのある駄女神よ!見通す悪魔が忠告しよう!汝、それとついでにそこのポンコツクルセイダー、貴様らはこの部屋にしばらく留まり続けるが吉!」

「ハン!誰がマジキチ悪魔の戯れ言なんかに耳貸すもんですか!ちょっとダクネス!ついてきなさい!今から最高級の殺悪魔剤を調達しに行くわよ!」

「おいアクア引っ張るな!というかこれからめぐみんの誕生日会だぞ!?」

「その誕生日会にこんな空気悪くする悪魔がいちゃかなわないでしょ!?あいつをぶっ潰して綺麗な会を開くの!!」

 

  騒がしいにもほどがある。ほんとこいつら混ぜるな危険だよな。特に鼓膜が。

 

「それでバニルはなにしにここに?まさかとは思うがめぐみんを祝いにきたのか?」

「まあそんなところだ」

「まあそうだよな……ってうそぉ!?」

 

  今年1番驚いたかもしれない。まさかこいつが人間の慣習に付き合う趣味を持っていたとは!

 

「単純なご馳走でもあるが、これは未来への先行投資。恩は今のうちに売っておかねばな」

 

  うん?なに言ってんだこいつは?

 

「誕生日プレゼントは純粋に嬉しくもその色合いの理由をそれなりに気にしてる爆裂娘よ」

「な、なんですか?別に理由はそこまで気にしてませんよ」

「そうかそうか、まあいい。我輩からの誕生日プレゼントは……」

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

  あのゴミムシがめぐみんに送ったプレゼントは、『佐藤カズマの内心』とでも言えばいいだろうか。

  あのカスはエプロンがなぜオレンジ色なのかを暴露しやがった。

  ちなみに去り際に、

 

「いつか将来、今日という日の我輩に感謝するときがくるだろう!うむ!悪感情たいへんに美味である!それではごちそうさまでした!」

 

 とか宣っていた。爆ぜろ。

 

 

  アクアもダクネスもいないリビングに俺とめぐみんの2人だけが佇む。

 

 

「聞いてるこっちまで恥ずかしくなりましたが、褒め言葉として受け取っておきましょうかね」

 

  俺が今日、めぐみんへの誕生日プレゼントとして渡したエプロンは、本人のイメージカラーとは少しだけ外れたオレンジ色だった。

 

「優しい人、ですか。……ふふっ、カズマの評するわたしは、それなりにしっかりやっているということでしょうかね?ね?」

「聞くだけ野暮だぞ」

「まったく、こんなときまで捻くれなくてもいいじゃないですか。もう割れた情報なんですから答えなくても一緒ですよ?」

「じゃあ聞かないでくれよ!」

 

  俺がオレンジ色を選んだ理由に、特に深い意味はない。俺の思うめぐみんは、感覚だが赤よりは穏やかなのだ。

  赤を柔らかくしたらオレンジかなって、そう思って決めたのだ。つまり、赤より優しいめぐみん色がこのエプロンに表れている。

  俺は冒険を通してめぐみんの優しさに触れてきた。例えば。

 

「俺が冬なんちゃらとかいう似非モンスターにやられたとき。あのときなんかも、まあめぐみんのイタズラのせいでうやむやになったが、一番近くで泣いててくれてたしな」

「言葉の節々に憎しみと苛立ちが見え隠れしてますね。でもあのイタズラに関してはカズマが悪かったですよ……」

「ああすまんね!悪かったね!悪かったからそのしょんぼりした顔やめてくれ!」

 

  閑話休題。色選びはこんな具合で、特に深い意味はない。直感みたいなものだ。

  が、俺にとって重い意味はあると考えている。

 

「しかし今の話を終えてしまってはもう色を染めようとは思えませんね」

「染めることに関してはマジだったのかよ……個人の好みにとやかく言うつもりはないが、オレンジも多分似合うと思うぞ。お前、見てくれだけはいいからな、なんでも似合う」

「む、なんだか複雑な心境です。褒められてるのか貶されてるのか…って、カズマさっきわたしのこと優しいって言ってくれてたじゃないですか!見てくれだけじゃないじゃないですか!」

 

 

  ところでバニルが将来がなんだかんだと厨二的な発言をしていたが、あれは忘れておく。

  深い意味はなかったのだと、とりあえず今は解釈しておく。これから先の将来なんて、別にすぐ考えなくてもいいしな。

  今日に限っては面倒ごとはこれでおしまい。これから始まるパーティーに心を踊らせ、それを理由にこの火照った顔を少しでも誤魔化せることができたらありがたい。

 

 

 

  なあ、お前もそうだろ?めぐみん。

 

 

 

 

 




この話の元を描いたのがもう半年くらい前になるので、原作最新刊などどキャラの関係性がズレているかもしれません。ご了承ください。
矛盾点、誤字等がございましたらお手数ですがご指摘お願いします。
ここまでお読みくださってありがとうございます。


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後日談

前話での高評価やご感想、ありがとうございます。
今回のお話は時系列で前話の翌日、めぐみんの一人称となっております。
蛇足かもしれませんが書きたくなったので書いてしまいました。

どうぞお付き合いください。


  「んっ……ふぁ〜、っと」

 

  カーテンの隙間から日光が差しこんでます。朝の到来です。

  窓を開けると眩しくて、心地よく風がそよいできます。

  今日もいいお天気です。絶好の爆裂日和です。

 

  まずはカズマを誘って、ご飯を食べて支度を済ませるのです。今日は湖を爆裂させて、水しぶきに架かる虹と併せて堪能しましょうか。

  1日の予定を考えながら階段を降りているとアクアと鉢合わせました。

 

「あ、めぐみんおはよー」

「おはようございます。リビングにカズマいますか?」

「カズマ?ちょっと待ってね、カズマー!?いるー!?……返事がないわね、たぶんいないわ」

「そんな適当な……」

「まあまだ寝てるわよきっと……あっ」

「?どうかしましたか?」

「そういえばカズマったら今日は朝早くから遊びに行くって昨日話してたわね、お昼ご飯の当番には間に合わせるよう戻って来るとかって」

「そうでしたか。ではアクアにお願いできますか?午前中にドカンと1発かましてやりたくて」

「爆裂魔法に付き合ってほしいの?まあ、いいわよ。どーせ家にいてもダクネスもいないし」

 

  ………。

 

「……ダクネスは、カズマと一緒に出かけたのですか?」

「え?んーと、たしか一緒じゃなかったわよ。ダクネスはアクセルの巡視だとかでご飯も食べないで出てったから。貴族のご令嬢も割りかし大変なのね」

 

  この街の治安はなかなかのものだと思いますが、時々ダクネスにその手の話が回ってきます。

  クルセイダーでこの街でも有名、加えての家柄もあってダクネスが見回りをすると警備が引き締まるのだそうです。

  ……それにしても……。

 

「?どしたのめぐみん?そんな浮かない顔しちゃって」

「……いえ、なんでもありません」

 

  今の話を聞いてほっとするわたしがいます。

  ……このもやっとするやつ、なんとかならないものでしょうかね?

 

「ま、なにはともあれ朝ごはんよ!適当に作っておいたからさっさと食べちゃいましょ!」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「遅い!遅いわよあのヒキニート!」

 

  それは日課をこなしてお腹も空きだした頃合い、いつもならお昼を済ませているあたりの時間帯。

  一向に帰ってくる気配を見せないカズマにしびれを切らしてアクアが騒ぎだしてしまいました。

 

「こうなったらめぐみん!カズマにツケてお高いランチと洒落込んじゃいましょうっ!」

 

  勢い込むアクアのお腹はさきほどから悲鳴を上げています。あ、また鳴った。

 

「わぁ〜〜〜〜ん!!ほらさっさと行くわよ!胃が破裂するくらいたらふく食べてあのバカの懐に大打撃与えてやるんだからっ!!」

 

  でもそうですね、確かにちょっと遅すぎますし、今日は外で食べちゃいましょうか。

 

  ……あっ、そうだ。いいこと思いつきました。せっかくの機会です。

 

「……あの、アクア、お昼でしたらわたしが作りましょうか?食材は残ってますしちゃちゃっとできるものを」

 

  癇癪を止めてわたしに真顔を向けるアクア。

 

「なに、めぐみんってばどうしたの?あ、家事の手伝いでお駄賃を狙ってるの?」

「アクアにとって家事手伝ってお小遣いねだるほど子供に見えるのですかわたしは!?」

 

  アクアからたまに飛んでくる一撃はカズマのそれと違って本心から言ってそうで結構グサッとくるんですが!!

  ……カズマもたまに本心で言ってそうですが……。

 

「別に今日付き合ってくれたお礼ですよお礼!それにわたしは貧しい思いしてません!お金は問題ありません!」

「あ、なんだそういうこと。そうね、せっかくお礼って言ってくれるのならお言葉に甘えようかしら」

「リクエストとかありますか?」

「今私ってばとってもひもじいからすぐできるものならなんだっておいしく頂けるわよ」

 

  じゃあよろしく、といい笑顔のアクア。

 

 

 

 

  台所に着きました。カズマがくれたエプロンを着ます。

  少しソワソワします。なんとなく、機会があればすぐに使ってみたかったのです。

  しかし逸る気持ちは抑えましょう。手を滑らせでもしたら包丁は危険です。

  心を落ち着かせながら、私は調理を開始しました。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「今帰った」

「見ればわかるわよゴミニート」

「すまないアクア、めぐみん。ちょっとしたアクシデントでカズマの力を借りていたのだ。食事はもう済ませたのか?お詫びに昼は私が奢ろう」

 

  ちょうど食事の準備ができたところで、2人は帰ってきました。2人で。

  またダクネスはこっそりカズマを誑かしたのかとか、カズマもカズマでホイホイついていかないでほしいとか思いながら頭の中で文句を整理していたら、どうやらそれは冤罪だったみたいです。

  なんでも小難しい事務仕事を、途中で鉢合わせたカズマに手伝ってもらったのだとか。そういうことなら、おとなしく溜飲を下げましょう。

  もっとも、アクアのほうは散々待たされたことでひどくお冠のようす。

  でもこんなところで立ち話はいけません。ご飯が冷めてしまいます。

 

「お昼はわたしが作っておきました、ちょうどできたところです。冷めないうちに頂きましょう。ほら、アクアも恨みつらみはいったんお腹にもの入れてからにしましょう?」

「……めぐみんに免じてお叱りは後回しにしてあげるわ」

「悪いなめぐみん、当番は俺だったのに。ところでなにを作ってくれたんだ?」

「手っ取り早く、余ってる食材で作れるものですよ」

 

  それは以前に教わったカズマの国の、『チャーハン』と呼ばれているらしい料理です。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

  幾度かチャーハンを口に運んでからカズマが一言呟きました。

 

「なるほど。めぐみんはチャーハンもちもち派かぁ。俺、パラパラ派だから次からはもうちょい長めに炒めてくれ」

 

  この男っ!!当番遅れたくせにわたしの調理にケチつけてきましたよ!

 

「なに贅沢なことを言ってるのですか!せっかく人が当番でもない日に作ってあげたのに!」

「あ、卵は炒める前によくご飯と絡めておくんだぞ?そのほうがパラる」

「聞いちゃいないうえにダメ出しまでされましたよわたし!」

 

  そもそも短く炒めたのはお腹を空かせたアクアのためであってですね!

  言いたい放題のカズマになんだかはらわたが煮えくり返ってきました!この怒りを原動力に今日はもう1爆裂いけるんじゃないだろうか!

 

「変な動詞を作るんじゃないぞカズマ」

「そこは今気にするところじゃないと思うの」

「やかましいですよそこの2人!」

 

  ダクネスは近ごろカズマに甘いところがありますからね。せめてアクア!アクアだけでもわたしの味方をしてください!

  そういったニュアンスの目配せをしてみたらアクアがそれとなく話し始めました。

 

「カズマ、たぶんめぐみんはお腹を空かせた私を案じてちゃちゃっと仕上げたかったのよ。あまり文句言わないであげなさい」

 

  ……おお。アクアが珍しくまともな講釈をカズマに垂れてます。

  ……というか、そもそも目配せがうまくいったという事実に軽く衝撃を受けてるわたしがいます。いや、ほら……あのアクアですよ……?

 

「ちなみに私もパラパラ派だから、ね?めぐみん、次からはよろしくね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……ちょっ、とめないでくださいダクネス!わたし今からあの2人に目に物見せてやるんですから!

 

「ほら、そんなことでゴタついてないでさっさと食べちまおうぜ?冷めちまうぞ?」

 

  なんでこの男こんなマイペースなんですかっ!?

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「にしても、味はそこそこいい感じだったな」

「そうね、これなら私の高貴なお腹も十分満足してるわよ」

「また随分と上から目線なっ……はあ、もういいです。お粗末さまでしたっ」

 

  もうこの2人のことでとやかくは言うまい。埒があかない。

  くたびれた内心が顔に出ていたのか、ダクネスが気を遣ってか労いの言葉を掛けてきた。

 

「いやおいしかった。ありがとうめぐみん。これで午後からの業務も全力で取り組めるぞ」

 

  ダ、ダクネスっ……!

 

  しかしわたしがダクネスの言葉に感動しているなか、脇になぜかカズマのニヤついた顔が映った。

  そして一言。

 

「それでどうだった?」

「……は?」

「エプロンどうだったかって聞いてるんだよ、あれすぐ使ってみたくって今日は昼飯作ったんだろ?」

「うっ……そ、そんなわけないじゃないですか!まったくわたしもナメられたものですね!そんな、人を『新しいおもちゃ買ってもらったときの子ども』みたいに……お、おい。みんなしてその温かい感じの目でわたしを見る理由を聞こうじゃないか」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

  あのあと散々からかわれて、今はソファでぐったりしてます。今日は厄日です。

  隣でカズマが、なにやらまたよくわからない工作をしてますが突っついてやる気力も湧きません。

 

  ………。………。……でもこれだけは。

 

「カズマ、エプロン……」

「ん?あれがどうかしたか?」

 

  『あれ』と言ってカズマが向く方にわたしも顔を向けると、そこにはエプロンをいじくり倒すちょむすけの姿が。……って。

 

「ちょ、ちょ!ちょむすけ!?それは大事なものなので!」

 

  慌ててちょむすけを引き剥がし、エプロンの無事を確認する。

 

「ここも、ここも……ふぅ、大丈夫そうですね」

「別にそんな慌てなくても。もし破けてたりしたらまた同じの作ってやるぞ?」

「……そういう問題じゃありませんよー」

 

  まったくホントにこの男ときたら。

 

「にしても気に入ってもらえたみたいでなによりだ。俺も手間かけた甲斐があったってもんだ」

「そうですね、アップリケは可愛らしいですし。カズマはやはり手先が器用ですね」

 

  おや?なぜかカズマが頭を抱え始めました。

 

「俺としては手先とか運とか、そういうのじゃなくてもっとこう……まあいいや」

 

  あー、カズマにも冒険者として思うところがあるのでしょう。そういえば以前はちょくちょく耳にしたその手の愚痴を最近は聞かなくなりましたね。慣れ、でしょうか?

  カズマがコホンとひとつ咳払いして続けます。

 

「話を戻そう。しかも、しかもだ!昨日も話したがこのエプロンにはな?耐火性のある素材が使われててな?調理時の飛沫はもちろん、『なにを間違ったか炸裂魔法が飛んできた!』なんてアホみたいなシチュでも安心の一品に仕上がっている!」

 

  おひとつどうか?とふざけるカズマに思わず吹き出してしまいます。

 

「ぷふっ。……でもそうですか、安心ですか。そんな変に性能高いと確かにあのお店好みかもですね」

「店ってよか店主だな」

「お値段は?」

「このくらいでいかがか?」

「ふふっ」

「ははっ」

 

  くだらない茶番にひとしきり笑い合う。こんなひと時も結構……。

 

 

 

 

「さて、と」

 

  カズマが立ち上がりました。どうやら作業が終わったようです。

 

  そういえばさっきは話しそびれていました。

 

「カズマカズマ」

「1回で十分だ。どした?」

 

 

 

「……このエプロン、着けるととても安心できますよ」

「そりゃ今話した通りだからな。じゃおやすみー」

「……ふふっ、おやすみなさい。カズマ」

 

 

 

 

  たぶんわたしのこの感覚、お品の性能によるところではないと思うのですがね。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ………ん?おやすみ?お日様、まだ………。

  いや、あの男のグータラっぷりは今さらですかね。ふふっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話は執筆時に少々期間が空いたこともあり、あまり一貫性のない文体に仕上がってしまっているかもしれません。要反省です。
しかし私個人としてはなかなか楽しく書けたので、この感覚を少しでも多くの方と共有できたら幸いです。

お読みくださいましてありがとうございました。


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カズマの誕生日

タイムリーなのかそうじゃないのか分からない内容になりましたが、書きたいものを書いてるので仕方がないのです。


 

 

 

「カズマへの誕プレ?」

 

  目を丸くしてわたしの台詞をおうむ返しするアクア。

 

「はい。もうすぐカズマの誕生日ですが、なにをプレゼントしたらいいかなと」

 

  朝のリビングにカズマはいません。生活リズムのだらしないカズマのことです、今日も降りてくるのはお昼ごろになるのでしょう。

  もっとも、今のわたしにとっては都合がよいのです。気恥ずかしさなんてものも少しはありますが、やはりサプライズ的な意味で、プレゼントを渡すだなんて事前に本人に知られたくないので、今のうちにとアクアに相談してみます。

  なんだかんだでアクアとカズマは付き合いが長いですから、よいアドバイスを頂けるのではないでしょうか。

 

  聞かれたアクアはあーだのうーだの、しばらく唸り声を上げたのち、ようやくなにか閃いた様子。

 

「カズマへのプレゼントなら全自動卵割り機なんてどうかしら!?あのダメニート、この前『卵割るのがめんどくさい。割るとき白身がこぼれて手につくの腹立つ』ってぼやいてたわよ!思うにカズマは一見ちまちました作業が得意だけれど、それでもやっぱり省けるものは省きたいんじゃないかしら?」

 

 と、朗らかな声でまくし立ててきました。

  ………。

 

 

『お誕生日おめでとうございます。こちら、プレゼントの全自動卵割り機です。よかったら受け取ってください』

『おお!全自動卵割り機だって!?これでようやくあの面倒な卵割りとおさらばかぁ!いやありがとうめぐみん!本当にありがとう!』

 

 

  ……これはないですね。ないと思います。

 

「それか適当にそれっぽいもの買いこんでまとめて渡しちゃえばいいんじゃないかしら?プレゼントに個数制限なんてないんだし」

「誕生日に下手な鉄砲打たれるカズマの身にもなってあげてください」

 

  どうやら相談相手を間違えたようです。ここは早々に見切りをつけて他の人に尋ねることにしましょう。

 

 

「少し出かけてきます。お昼には帰りますので」

「もう買いに行くの?ギルドの近くの雑貨屋さんに置いてあったからね」

「卵割り機買いに行くわけじゃありませんよ」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

  靴を履いて屋敷を出ます。向かう先はギルドです。

  もちろんギルドの近くの雑貨屋さんに行くわけではありません。カズマにとって気の置けない人たちからなにかプレゼントのアドバイスを頂けたら、と考えています。

 

  到着してギルド内をしばし徘徊……顔見知りの何人かにあたってみて、あることに気がつきました。

  紅魔族たるわたしとしたことがなんたる失態。

 

「カズマと気の合う連中に聞いたってろくなアドバイスもらえるわけがないのです」

 

  類は友を呼ぶ。すなわちギルドの荒くれどもに聞いたって気の利いた意見が出てくるはずもなく、やれ『肩叩き券』やら『1日爆裂魔法禁止券』やら、わたしを子どもかなんかだと考えてるのでしょうか。

  しだいには『卵割り機』とかまで出てくるものですから、やはりここは無駄足に終わってしまいそうです。

  諦めてギルドを後にしようと踵を返します。

  ところがくるりと回ったわたしの目の前には、呆れたような表情を浮かべた見慣れた女性が、腰に手を当てて立っていました。

 

「なんだかよくわからないが、さりげなくカズマを貶めているな」

 

  声の主、ダクネスにはどうやらわたしの小言が聞き取れていたみたいです。

 

「なんだ、ダクネスですか」

「なんだとはなんだ……ところでめぐみん1人か?珍しいな。ギルドになにか用事か?」

「ええ、まあ。でも着いてみてから用事がここじゃ叶わないことに気づきまして」

 

  わたしの言葉が曖昧なばかりに、頭にハテナを浮かべるダクネスですが、まあ特段細かく話すことでもないでしょう。

  それに、このお嬢様に相談してもあまりよいアドバイスをもらえるとは思えませんし。

 

「……なあめぐみん、今なにか失礼なことを考えてないか?お前のその顔、なんだか私を馬鹿にしているときのカズマに似ているような……」

「気のせいではないのではないでしょうか?そんなことよりダクネスはなぜここに?」

「ああ、それはだな……うん?なんだか今のセリフには違和感が……」

 

  話を逸らすため、わたしが聞かれたことを、そのままダクネスに返します。

  なにか引っかかるところもあったようですが、まあ些細なことでしょう。ダクネスも追求することなく話を本題に戻そうとします。

 

「まあいい、私がここにいるのは……」

 

  言いかけてダクネスは思い出したかのように手をポンと……今どきそんなポーズ取る人めったに見かけませんよ、ダクネス。

  騙されやすいダクネスのことです。どこぞの俗人にまたあらぬことでも吹っかけられたのかもしれません。

  しかしこれ以上話の腰を折っていたらキリがありません。ここは黙ってダクネスが世俗に染まっていく様を見届けようではありませんか。

 

「そうだめぐみん、この後ヒマか?」

「忙しいです」

 

  わたしにはカズマの誕生日プレゼントを探すという、とても大事な任務があるのです。

  悪いですがダクネスに割いてあげる時間はありません。

 

「爆裂散歩なら私があとで付き合ってやろう」

「用件を聞きましょう」

 

  仲間であるダクネスの誘いです。これを断るほどわたしは義理人情に疎くありません。

  まあでも正直に言うと、爆裂散歩に関してはカズマにお願いしたいのですが。

  魔法の採点もできて、なにより、なんといいますか……2人でどこかに行くいい口実で……しかし毎日毎日というのではさすがのカズマもくたびれて、愛想を尽かしてしまうかもしれません。

  これは丁度よい機会でしょうね。用件次第ですが、今日の爆裂散歩はダクネスにお願いしちゃいましょうか。

 

  「無理にとは言わないんだが、ほら、もうすぐカズマの誕生日だろう?」

 

  うん………?

 

「しかし私は世間知らずゆえ、いったいなにをプレゼントしたらいいかわからなくてな。よければ買い物についてきて、色々とアドバイスをお願いしたいのだが」

 

  なるほどなるほど。

  なんとなくイラっときました。

 

「まずカズマの誕生日はきっちり覚えてるくせにわたしのそれは忘れていた理由を聞こうじゃありませんか!」

「いやあのときは本当に多忙で……ちょ、こらめぐみんどこを触って!こ、こんな公の場で……んんっ…!」

 

  しかしどうやらこのお嬢様とわたしの目的は、計らずも一致していたみたいです。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「今なにかものすごく俺得なイベントが発生してる気がする」

 

  ……なんだかわからないが、ふっと脳内が冴え渡って目が覚めてしまった。

 

「………………ま、いっか。二度寝二度寝っと」

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「まったく!まったくまったく!めぐみんは少し乙女としての恥じらいをだな!」

「ダクネスにだけは言われたくないのですが。というかお店の中であまり騒がないでください、はしたないですよ?」

「くっ!」

 

  わたし達はアクアの言っていた雑貨店にいます。

  無論、全自動卵割り機を買いに来たわけではなく。

  ただ、プレゼントを探すにあたってそれなりに適当な場所だとは思うので、こうしてダクネスと2人、あーだこーだ意見を交わしながらプレゼントを探しています。

 

  恨みがましい目線を向け続けるダクネスはさておき。

  さて、どうしましょう。カズマのことですから、小綺麗な飾り物よりかは、まめまめしいもののひとつでも渡したほうが喜ぶでしょう。

  うーん。しかしカズマは家事当番のような日常でやらなくてはいけないことに関して自身考案の『便利グッズ』なるものを既に活用しています。

  今さらわたしがその手のものを考えてプレゼントしても、それはカズマにとって既に持っていたり、あるいは作る気にすらならない不要なものだったということになるでしょう。

 

  ……まったくカズマときたら、人がプレゼントを選んであげるときまで面倒臭い男だとは。

  仕方がありません。助手の手を借りましょう。

 

「ダクネス、最近カズマはなにか屋敷で困っていたりしませんでしたか?」

 

  助手ことダクネスに聞いてみます。なんでも構いません。カズマのちょっとした独り言とか、ふとした行動でもなにかしらのヒントになるかもしれません。

 

「ふむ、なんだかんだ私は屋敷の外での時間がそこそこ長いからなぁ。あまり思い当たることはなくて……」

 

  ダクネスは手にした小瓶を見つめながら、空いた片手を顎に当て記憶の糸を辿っている様子。

 

「ほんとに些細なことでもいいのです。なにかなかったでしょうか?」

 

  しかし期待した答えは返ってきそうにありません。

 

  これは思った以上に難題かもしれません。

 

  正直なことを言うと、わたしは以前、あのエプロンを渡されてとても嬉しい思いをしました。……その、ゴニョゴニョな人に渡されたからというのももちろんありますが、中身も最高で、わたしのことを考えてこれを選んでくれたんだなって思うと嬉しくて嬉しくて。

  おそらくカズマは表に出さないだけで、あのプレゼントにたどり着くまで多少なりとも時間をかけて悩んでくれていたのではないでしょうか。それとも、わたしが喜ぶプレゼントをまさか一瞬で思いついたのでしょうか。

  いずれにせよ、少しでも、ほんの少しでも、そのお返しがしたい。プレゼントを、わたしがもらった幸せを……日頃の、感謝とあわせて。

 

  しかし頼みの綱のダクネスは少々見当違いな記憶を辿り始めている様子。

 

「うーむ、最近カズマが困っていること……カズマに困らされていることならあるのだがな」

 

  手元はしきりに商品棚の香水を取っ替え引っ替えしながら、しかし表情は器用に苦々しく、それでいて満更でもなさそうな。

 

「たしかにその手の話なら枚挙に暇がありませんが、今は置いといてください。愚痴なら散歩のときいくらでも聞いてあげますから」

「とはいえ、風呂上がりに舐め回すように見られるのは私だけでなくめぐみんにとっても問題だろう?近ごろは遠慮もなくなってきて……私はともかくめぐみんはそういうの嫌だろう?」

「そりゃ嫌ですが、だいたいカズマの猥褻なんて今に始まったことじゃありませんよ。お風呂上がりだって、わざとらしくこちらを振り返って見てくるくらいじゃないですか」

「うん?」

「?」

 

  ?

 

「……………あっ」

 

  『あっ』?

 

「そ、そうかそうだな!確かにそのくらいの猥褻は別に今さら目くじら立てるほどでもないな、うん!」

「そうですよダクネス、そのくらいで……」

 

  言いかけて、気づく。そう、そのくらいのことです。そのくらいのこと『にもかかわらず』、なぜ今さらダクネスは私を心配したのでしょう?

  わたしにとっての『今さら』と、ダクネスの受けている猥褻に違和がある?

  思考が加速して、加速して、そしてある1つの推測が浮かんできました。

 

「ダクネスは先ほど『お風呂上がりに視姦される』って言ってましたよね?」

「そこまでは言ってない!ただ、うん、あれだ!私もかるーく、チラッと見られたりしてな!そういうのもしかしたらめぐみん嫌なのではないかなと!」

 

  手をわっちゃわっちゃさせて慌てふためくダクネス。

  別にいいんですよダクネス。わたしをここまで腹立たせた、諸悪の根源はあの男……。

 

「そうですね、嫌だったかもしれませんね。『舐め回すように見られる』ほど身体に魅力がないわたしには、到底わかりかねますがねっ!」

 

  あの男、どうやらわたしとダクネスで、視姦の度合いが違うらしいです!

 

「お、落ち着けめぐみん。ほら、他の客もこっちを見て…」

「そうですね!落ち着かないのでお店を出ましょう!プレゼントは決まりましたよどデカイプレゼント箱に紐で縛った裸のダクネスでも入れてやりましょう!『プレゼントはワ・タ・シ♡』です!これでどうでしょうカズマもきっと喜びますよっ!!」

「店主すまない迷惑をかけた!もーほらわかった!一度出よう!」

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

  結局参考になるアドバイスなんか手に入らず、お昼時も迫ってましたので屋敷に帰ってきました。

 

  ダクネスは雑貨店で手に取っていた香水をプレゼントするそうです。中身がアレでも一応は貴族、その類の良し悪しはきっちり判別つくそうで。

  ただ、せっかくの香水をあの似非セレブに堪能することができるのかといえば、わたしはそうは思えません。

  まあ、大事なのはそんなことではないのでしょうが。相手を思ってプレゼントを贈る……いわずもがな、その心が大事なはずです。

 

  ……大事、なはずですが……。

 

  わたしは嬉しかったのです。なんでもないことのような素振りでも、その日プレゼントを渡してくれたことが。

  わたしは嬉しかったのです。中身に細かな手作り感ととささやかな思いやりが込められていたことが。

 

  わたしは、嬉しかったのです……プレゼントを選んでくれた、カズマのその理由を聞けて。

 

  仲間を想うだけじゃなく、仲間を理解できていて初めてできる贈り物。

  ほんとに、ほんとにほんとにほんとに、仲間想いな彼だからできた贈り物。

 

 

 

「ほんとに、あのひとは……」

 

 

 

 

 

  顔が赤くなるのを感じながら、わたしは部屋を出てリビングに向かいました。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

  ちょっとしたハプニングが起きました。

 

「あ、そういえばさっきめぐみんが、カズマの誕プレなににすべきかって悩んでたわよ?」

「アクア!?」

 

  リビングで食事をしていたら、アクアがなんてことのないような顔で人のサプライズを暴露してくれやがりました。

 

「あのアクア、こういうものって当日ババーンって渡して驚かせるものでは?本人がいるところで話すのはあんまり……」

「俺は日々お前らがいろいろやらかしてくれてるからもう驚き慣れてるよ、別に今さら」

「えっ。いやあの、そういう話ではなくてですね……」

「なによめぐみんってば。プレゼントなにがいいかなんて本人に聞けば一発じゃない。それをあんなにうだうだ悩んで」

「アクア、俺が言うのもなんだがお前はもうちょい情緒というものを学んだほうがいいぞ」

「説教なんていらないわよ、せっかく気を利かせてあげたのに。もういいわよ、私ギルドに遊びに行ってくる」

「馬の耳に念仏か」

「誰が馬よヒキニート!」

「あっ、お前食器はちゃんと自分で片せよ……まったく」

 

  食べ終わったアクアは、食器を片付けないまま出掛けていってしまいました。

 

 

「で?なんかプレゼントしてくれるのか?」

「なにニヤついてるんですか!ええそうですよ、プレゼントくらいしてあげますよ!ですからその顔やめてくださいなんか腹が立ってきます!」

 

  調子づいてきたらしい目の前の男は、どうもわたしをからかいたそうにしています。

  三十六計逃げるに如かず。カズマの国にはそういった格言があるそうです。

  いわく、『逃げるに勝るものはない』と。

 

「わたしも出かけてきます。当日は楽しみにしててください、それでは」

 

  簡潔に会話を終わらせてリビングを離れましょう。

 

「おいめぐみん」

「なんでしょうか」

「食器」

「……」

「それと」

 

  なんとなく居心地が悪いわたしをよそに、カズマは話を続けようとします。

  手元のコップを指先で突きながら、なんてことのないような声音で。

 

「あれだ、俺は貧乏性だからな。なにをもらってもしっかり使いこなせる自信があるぞ」

 

  ……つまり、なにを渡されても使えるから、いちいち悩む必要はないぞ……とでも言いたいのでしょうか。

 

「べつにプレゼントなんて渡す側のエゴみたいなところもあるし、俺が渡したエプロンだってわりかし」

「それは聞き捨てなりませんっ。カズマは自分でわたしにしてくれたことを悪く言うんですか?」

 

  カズマの発言を遮り、わたしは以前のカズマの真意に言及します。

  あんな理由でプレゼントを渡しておいて、今さら自身の行為を……わたしが受け取った幸福感を、否定するようなことは言わないでほしいです。

 

「いや、そういうわけじゃないんだが……」

 

  カズマなりに、わたしに気を遣ってくれているのはわかりますが、ここだけは譲れません。

  ジロリと睨みつけ、発言の撤回を促します。

  そんなわたしの姿勢を見て、カズマはホッと一息吐きました。

 

「なんですか今のは?ため息ですか?」

「悪態つかないでくれよ。めんどくさい性格してるなって思っただけだよ、お互い」

「わたしはカズマほどめんどくさくないですよ。サバサバ系女子を自負してます」

「どこでそんな言葉覚えたんだ?」

「アクアが前に話してました」

 

  ある種の男性にはウケるとかなんとか。カズマがそこに含まれているのかはわかりませんが。

 

「めぐみんはサバサバ系とは違うな。うんけっこう違う、あれだ、妹系」

「またそれですか!?」

 

  ひとり納得したような風のカズマに釈然としないでいると、今度は半分真面目そうな表情で話し始めました。

  いつもながら突拍子がないです。

 

「この際だから言っとくが、こないだエプロンを渡したときにダクネスがしてた邪推は、てんで的外れってわけでもないんだからな?」

「……?」

 

 えっと、ダクネスの邪推?なんの話をしてるのでしょう?

 わたしが怪訝そうにしていると、カズマは右手で後頭部を掻きながら面倒そうに口を開きました。

 

「ほらあのお嬢様、俺がエプロンを渡した真意はめぐみんに料理当番を押し付けて楽するためだー、とか言ってたろ?別にあれも間違いじゃないってこと」

 

  そういえばダクネスは以前そんなことを言っていましたっけ……って、いやいや!

 

「さすがに騙されませんよ!カズマともそれなりに長い付き合いですからね!これがいつもの『ツン』だってことくらい分かりますよ!」

「俺がツンデレだとかいう謎のイメージをいったい誰が広めてんのかはさておき、じゃあお前は俺がなんの打算もなしに誕プレなんてリア充みたいなことすると本気で思ってんのか?」

「えっ?……打算がなくちゃ……してくれなかったんですか……?」

「へっ?……いや気分でテキトーになんかするかもだが、今回に関してはダクネスが言ってたような打算があったかもってことだよ!しゅんとするな悪いことした気分になるだろ!」

 

  ……しゅんと、ですか。

  なるべく感情を表に出さないよう努力したつもりなのですが、近頃のカズマは感情の機微に敏いような気がします。いえ、わたしの隠し方が下手になってきてるのかもしれません。

 

「とにかく!人に贈るプレゼントなんてそんな感じでいいんだよ!渡したら自分の得になるようなものな!見返りが目的でいいんだよ!」

「カズマは見返りが目的だったのですか?」

「...ゴッホン!んなこと今どうだっていいの!」

 

 カズマはひとつ咳払いをして、わたしを睨みつけました。

 

「なにニヤついてんだそのしたり顔やめろ!」

 

 そう言うとカズマは踵を返して部屋のドアノブに手を掛けました。

 

「いいかめぐみん!誕プレなんて渡す側のエゴでいいんだからな!そもそも渡される側はそんなもんに大して期待してねえし、まず欲しいもんがありゃとっくにテメエで買ってるっての!」

 

 言い終えるが先か、豪快にドアを閉めて出ていってしまいました。

 

 プレゼントに関しては、未だまったく進捗なし。

 ...にもかかわらず、心が温かく満たされることを、わたしは今さら不思議には思いませんでした。

 

「プレゼントに、関して『は』……ふふっ、ずるいですよまったく……」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

「『渡したら自分の得になるようなもの』……」

 

  べつにカズマのへなちょこなアドバイスを参考にするわけではありませんが、気晴らしに少し考えてみましょうか。

  本心はさておき、カズマは料理をしたくなくて、わたしが料理をしたくなるようなプレゼントを贈りました。要するに利得の一致ということでしょうか。

  あるいは『したくない』というネガティブな動機でなくともそれは構わないのでしょう。

  例えばカズマが二人用のボードゲームをこよなく愛していて、わたしもそうであれば、プレゼントはボードゲームで決まりです。

  カズマは楽しく遊ぶことができ、その相手にわたしがなればいいのですから。

  無論、そんな都合よく趣味や好みが一致してるわけがなく、わたしが愛しているのは爆裂魔法。難儀なことに、世間はこの魅力に未だ気付けずにいます。

  『カズマがなにかしたくて、それにはわたしの爆裂魔法が必要不可欠』……みたいなシチュエーションがあればいいのですが。

  『日頃の鬱憤を晴らしたく、爆裂魔法を見て爽快感を味わいたい』……それこそ日頃の散歩に同行すれば問題ありませんし。そもそも爆裂散歩に関してはこちらがお願いしてる側です。

  『俺をいじめてくるあいつを、爆裂魔法でぶっ飛ばしてくれ』...報復にしてはやりすぎです。それに誕生日プレゼントの前提がいじめいじめられ、というのも……。

 

  そもそもプレゼントが『行為』になってしまうところから考え直してみましょうか。プレゼントが爆裂魔法を撃つ行為そのものになる必要はないはずです。その行為に至る一要素として成り立てば、カズマの言う利得の一致は達成できるのです。

  わたしが爆裂魔法を撃つ、撃つ機会、カズマが撃ってほしいとする状況、どういう状況、カズマにとってのメリット、メリットがプレゼント、うーんうーんうーん。

 

「さっきからなにをぶつぶつ言ってるの?」

「どひゃあっ!」

 

  不意に後ろから声を掛けられ、思わず飛び上がって素っ頓狂な反応をしてしまいました。

 

「わっ!ちょっとおどかさないでよめぐみん!」

 

  振り向くとそこにはビックリ顔でこちらを見るアクアがいました。

  いつの間に帰ってきてたのでしょうか。

 

「あ、ああ、アクアでしたか。いやそれはこっちのセリフですよ。まったくカズマといいアクアといい、あまりわたしの寿命を縮めるようなことはしないでください」

「なに、めぐみんってば私がめぐみんをビックリさせようとしたとでも思ってるの?私さっきっから何回も名前呼んでたんですけど」

 

  そ、そうだったのですか。これは恥ずかしいことをしてしまいました。

 

「そ、それはすみません。ちょっと考え事をしてまして」

「まあいいけど。ところでめぐみん、今日の爆裂散歩は私が付き合ってあげる。湖にドカンとぶち込んで、地面に吹き飛ばして動けないお魚をたらふくゲットしようと思うの!いいわよね?ね?」

 

  そう言って朗らかな顔を見せるアクア。

  そういえば爆裂散歩に付き合ってもらえる約束を先ほどダクネスとしましたが……まあそっちはまた後日でも構わないですよね。

 

「わかりました。今日は湖でドカンとデカイのかましてやりましょう!」

「やった!私は大漁、めぐみんは日課、一石二鳥のwin-winってやつね!ほんとはその場で焼いて食べちゃおうとも思ったんだけど、もうお昼済ませちゃったから」

 

  今回はお持ち帰りね、とご機嫌そうに言うアクア。

 

「そうですね。ってあれ、魚を持ち帰るんだったらアクアわたしをおぶれなくないですか?」

「10尾くらいでいいから大丈夫、持てるわよ。無理だったらその場で調理ね」

「お昼あれだけ食べたのにまだいけるんですか?」

「ピクニック気分で行けばまだおいしく頂けるわよ」

 

  半ば呆れつつ、しかしアクアの提案はたしかにwin-winというやつでしょうし、断る理由もありません。

 

「アクアにしては随分とまと……」

 

  言いかけて、ふと思いついてしまった。

 

「トマト?」

「あ、いえ。アクアにしては随分とまともな提案だなと」

「ひどい!めぐみんってばいつのまにかクズマさんに毒されちゃって!待ってて、今頭にヒール掛けてあげるから!」

 

 

 

  そうだ、あれにしましょう。

  カズマの誕生日には、あれをプレゼントしましょう。

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

  カズマの誕生日から一夜が明けました。

  昨日のお誕生会はたいへんな盛り上がりようでした。

  特にアクアの新芸が披露されたときなんかは、魔王軍幹部を倒したときに勝るとも劣らない興奮がありました。さすがカズマが宴会芸の神様と称するだけのことはあります。

 

「ちゃんとハンカチとか持ったー?」

「お前は俺のオカンかっ」

 

  ところで、今日はこれからピクニックに行きます。

  昨日カズマにプレゼントしたものをさっそく使ってみるのです。

 

「おっと、これを忘れちゃいけないな」

「今日の主役ですよまったく」

 

  わたしはカズマに、お弁当箱をプレゼントしました。

  昔我が家に置かれていた、手作り感満載のお弁当箱。作り方を教わったことがあります。

  森に生えてる長く細い緑の木を材料に、割愛しますがうまいこと編み結んでいけば完成するのです。

  お弁当箱まで手作りでまかなうほど実家がろくに物も買えない貧乏だったのが、ここにきて幸いしました。結局中身がなくて、あれは埃をかぶるだけでしたが。

  ……納得のいく仕上がりを見せるまでにけっこうヘマやらかしましたが、そこは気にしなくてよいでしょう。

 

「にしてもよくできてんなぁこれ。竹、だよな?」

 

  タケ、というのがなんなのかわかりませんが、物作りでカズマに感心されるとちょっと誇らしくなりますね。

 

「カズマさーん。ダクネスも準備できたから、そろそろ行くわよー」

「おーう」

 

  ダクネスとアクアはすでに玄関で待機しているみたいです。

  待たせてはいけません。わたしたちも行きましょう。

  カズマに出発を促そうと顔を向けると、どうしてか目が合ってしまいました。

 

「な、なんですかこっちを見て……」

「えっ、ああいや、めぐみんがこんな凄いもん作れんのかってまだ驚いててさ……」

「わたしを見くびってもらっては困ります。わたしにかかればお茶の子さいさいです」

 

  適当に見栄を張って、ついでに無い胸も張ってみせる。

  そんなわたしの態度を前に、しかしカズマの目線はわたしの指に向かっています。

  ……。

 

「ですが少しだけ、そうほんの少しだけ、作るのに苦労もありました。なので、そのぶんしっかり使ってあげてくださいね」

「善処します」

「煮え切らない返答ですね……」

 

 

  プレゼントを決めた理由は、爆裂散歩にあります。

  郊外でなければ爆裂魔法は撃てません。そして郊外といえば自然が豊か。

  そういうところでのんびりと食べるご飯は、なぜだかおいしいものなのです。

  わたしは爆裂魔法を撃てる。カズマはおいしくお昼を食べれる。

  ……まあ随分と利得の比が偏ってるとは思いますが、もう考えないようにします。代わりと言ってはなんですが、お弁当の中身はわたしが料理しました。

 

  しかしやはりこの様子だと、わたしがカズマにもらったほどのプレゼントを、お返しすることはできなかったみたいです。

 

「カズマ、そろそろ」

 

  行かないと、と言いかけてわたしの口が止まりました。

 

「こんな感じの弁当箱が、俺の国にもあったなぁ」

 

  そう言いながら、カズマは懐かしむように、あるいは慈しむように、お弁当箱を撫でています。

 

「…………」

 

  カズマの母国は相当に遠く、もう帰れないかもしれないという話は聞いたことがあります。

  普段サッパリとした性格をしてますが、故郷に戻れないというのは、やはり寂しいものなのでしょう。

 

「カズマ、わたしたちは仲間です」

「お、おう?」

「そして、同じ場所で暮らして、同じご飯を食べて、同じものを見て、同じ時間を過ごして……これはもう、ひとつの家族と言えるのではないでしょうか?」

 

わたしも、アクアもダクネスも、みんな家族みたいなものなんです。

「ですから、寂しくなったら、いつでもお付き合いしますよ」

 

一緒にいてもらって、いてあげて、温まることができる。

せめてそのくらいは……。

 

「なあ、めぐみん」

 

気づかないうちに俯いていたわたしが声に釣られて顔を上げると、カズマの表情はもう明るいものになっていました。

……というより、なんだかニヤついてるような。

 

「こんなところでプロポーズとかいくらお前でも大胆すぎるぞ?」

「は?」

 

プロポーズ?誰が?誰に?どこで?

まったくなにをおかしなことを言ってるのだろう。

…………。

…………。

…………。

 

「ちち、ちがいますよっ!そういう意味ではなくて、わたしはただっ!」

「わーかってるって。めぐみんだけじゃない。ダクネスも、ついでにアクアもな。まあ俺が扶養してやってるわけだし、家族と言えなくもない」

「何様ですかこの男!」

 

……でも、どうやら笑顔になれてるようですし。

ここはわたしも、笑っておくことにしましょう。

 

 

 

 

ひとしきり笑い終えると、カズマは改まったように軽く猫背を直しました。

わたしも、立てかけてある杖を手に取ります。

 

「……よしっ。行くかめぐみん」

「……はいっ、行きましょう」

 

 

  彼の持つ寂しさを、少しでもほぐしていければとわたしは思う。

 

 

 

 

 

 

 

「もう!カズマもめぐみんもなにしてんの!置いてっちゃうわよ!?」

「趣旨忘れてんのか?めぐみん置いてったらなんのために出掛けるのかわかんないだろ」

「それはたしかに。今日はみんなでピクニックだものね」

「それもあるが爆れ」

「はい!」

 

  呆れたようなカズマの返答をわたしが大きな声で遮ります。

  遮って、

 

「今日はみんなで、楽しくピクニックです!」

 

  寂しさなんて吹き飛ばしてみせましょう。

  楽しく明るい毎日も、カズマにプレゼントするのです。

 

 

 

  だって誕生日プレゼントに、個数制限はないのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




けっこう削ってみたんですが、思ったより長くなってしまいました。前後編に分けるべきだったかもしれません。
拙作を最後までお読みくださいましてありがとうございました。色々と読みづらかったかもしれませんが、面白く感じていただけたら幸いです。


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