監禁しちゃうぞ! (ますち)
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監禁しちゃうぞ!

ツンヤン(ツンデレ+ヤンデレ)というジャンルの男の話です。


・・・俺の恋人は、

 

・・・はっきり言って ”変”だ。

 

 

先程ドーナツをレジで会計した後、ついでにコーヒーも頼んできて一口すすれば、

 

前から感じる、強い、視線。

 

 

だが向こうから俺に声をかけてくる事もなかったので、俺は気にせずコーヒーを堪能した。

 

 

・・・うん、やっぱりこの店のコーヒーはうまい。

 

 

このブレンドコーヒー、ドーナツと一緒に販売してくれねーかな。と一人で考えていたが、

その間にも向かいからの視線は全く自分から逸れることはない。

 

 

・・・いや、気にならないといえば嘘になるんだが・・

 

絶対コイツはロクな事考えてないに決まってる。

 

自分から面倒事に首をつっこむ必要はない。気にするな、俺。

 

 

そうひとり、心の中で一人で葛藤するのは・・・いつもの事。

 

そして、

 

・・・黙ってればイケメンなのに・・

 

 

と思ってしまうのも、いつもの事。

 

 

・・・まぁ、本人が目の前にいるので、その顔を直接見ればいいのだが・・

 

 

アイツは俺をずっと見てる。

 

そして顔を見たいからと俺もアイツを見る。

 

するとお互い見つめ合うかたちになる。

 

・・・そして・・気まずいことになる。

 

 

アイツは見つめ合うかたちになっても気まずいなんて思わないだろうからいいが、

 

一般常識を持ち合わせたシャイボーイな俺は、正直こんな人の多い所で野郎同士が無言で見つめ合ってるって光景を晒してるのは・・・とてもキツイ。

 

なのでズボンのポケットから携帯を取り出して開く。

 

そしてフォルダの開き、とある画像を画面に映し出した。

 

そこに写っているのは紛れもなく目の前にいるこの男で、

 

それはそれは甘くて蕩けそうな笑顔をこちらへと向けている。

 

 

・・・ホント見た目だけは良いよな、コイツ。

 

 

滅多にコイツはこんな心からの笑顔を人に見せることは無いのだが、

 

この時は・・・まぁ状況が状況だった為にこんな表情を携帯に収めることができたのだ。

 

 

綺麗に染まっているこげ茶色の髪。

 

両耳に一つずつぶら下がっているピアス。

 

そして整った顔、引き締まった身体。

 

 

例えほとんど笑顔を見せることは無かったとしても、

 

この条件が揃えば寄ってくる女は星の数だ。

 

 

・・勿論嫉妬しないわけではないが、

 

その気持ちが感づかれれば確実に向こうはつけあがってくるので、普段は気にしないフリをしている。

 

 

「(…それに男が嫉妬とか‥キモい。)」

 

 

そう思ったところで、ザワリ・・と目の前に座っているソイツから、感じる空気が突然不気味なものへと変わって、

 

一気に全身に鳥肌と悪寒がはしった。

 

 

「・・・っ!」

 

 

ああ、もう。

 

 

携帯見てんのにこんな空気の違いを感じ取れるとは。

 

漫画じゃねぇんだから普通そんなの感じとれねぇよ・・全く。

 

 

果たしてそれは俺が凄いからなのかアイツが凄いからなのかは別に興味ないが、

 

俺は勢いよく顔を携帯画面からあげて、正面からソイツに目線を合わせた。

 

すると、途端に大きく揺れるソイツの肩。

 

途端に一気に嫌な空気は感じなくなったが、

 

”何で感づかれたんだ”

 

ソイツの表情がそう語っている。

 

 

「…お前、今何考えてた。」

 

 

目の前の男を睨み付ければ、ソイツは一瞬ポカンとした顔を見せた後、すぐに俺から顔を逸らした。

 

 

「…べっ、別に‥幸也を殺したいなー‥とか、考えてねぇからな。」

 

「……は?」

 

 

今、何と?

 

 

「今すぐ殺した後に家に帰って内臓とか全部取り出して洗って綿詰めてホルマリン漬けにして毎日幸也のこと見ながら一生を終えたいな。…とか、全く考えてねぇんだからなっ!」

 

「……。」

 

 

一気にそう口にした男の頬は、照れているのか薄い桜色に染まっている。

 

 

・・・いやいやいや!何それそこ照れるところじゃねぇだろ!!

 

なに”お前のこと可愛いとか思ってないんだからねっ!”とか言ったノリで照れてんだテメェ!何だ殺したいってこの野郎!

 

 

・・・と叫びたい言葉は心にしまっておいて・・

 

(一応ここお店だしね、人いるしね)

 

俺は落ち着いた(様に装った)声で男に質問した。

 

 

「…殺すんなら、一体何で殺すつもりだったんだ?」

 

 

声は明るく装っても男を睨み付けたままそう問えば、男はしばらく気まずそうに目を泳がせた後、逃げられないとわかるとテーブルの上にゴトリと手に持っていた物を置いてみせた。

 

 

「これ。」

 

「…これ…って‥」

 

 

刃物。それは紛れもなくナイフだった。

 

しかも料理で使うとか子供の遊びに使うようなのではなく、

 

本気のタイプ。ジャックナイフ・・とか、そんな名前だった気がする。

 

 

俺は一気に身体中から血の気が引いていって、冷や汗が吹き出るのを感じた。

 

 

・・・あぁ、やっぱ聞いといて良かった。

 

 

「…おま、これ‥どこから…」

 

 

他の客や店員に見られないようにすぐさまそのナイフを取り上げて鞄の中にしまいこめば、

 

男からは”あ、俺のナイフ”という視線が手元へと向けられた。

 

 

「この前ナイフやらは全部捨てたはずだろ」

 

 

それでもう買ってこないって約束だって‥。そう言いかけると、

 

男は「だって。」と視線は今だ俺の手元へと向いたまま言葉を続けた。

 

 

「幸也のこと考えてたら、いつの間にか買ってたんだ。」

 

「…えっ」

 

 

「今日も幸也可愛かったなー。手つきとか腰とかエロかったなー。って考えてたら、買ってた。」

 

「……」

 

 

男はそう言い切った後、急にハッとした表情になると、幸也を一瞬見てから頬を桜色に染め、顔を逸らした。

 

 

「あ…っ、いや、べ、別にそんな事考えてなんかねぇよ!そ…そうどっかの雑誌に書いて‥あったんだよ‥」

 

「……」

 

 

 

な  ん  で

 

 

ちょっと今ときめいたんだ俺ぇぇぇ!!

 

 

 

いやそりゃ「可愛かった」なんて言われたら少しは嬉しくなるし、一瞬ハッっとしたあの表情も可愛かったが・・・

 

相手はコイツだぞコイツ!

 

俺が声かけてなかったらきっと俺の事刺してたぞ!?いや絶対刺してた!

 

 

そしたらそのままホルマリン漬けになっていたに違いない。

 

 

以前家で、アイツの嫌なあの空気を感じてはいたんだが、面倒だからと放っておいて、

 

ふと後ろを見てみれば、そこにはロープを両手でピンとはらせたアイツが笑顔で立っていた。

 

 

・・・なんて時のことを思い出して一瞬体をふるわせた。

 

 

・・・いや、あれは本気で危なかった。

 

あの時後ろを向いていなかったら、今こうしてコーヒーとドーナツを食べてる俺はいない。

 

なのに・・・

 

 

「(何でちょっと嬉しいんだ…俺は‥)」

 

 

殺したくなるほど愛してる。なんてどっかのヴィジュアル系バンドの曲で聞いたことがあったが、

 

・・・そんなことを実際にしようとする奴と出会ってしまったなんて

 

人生最大の誤算だろう。

 

 

そしてこのストーカーみたいな男を好きになってしまったのも

 

人生最大の誤算だ。

 

 

幸也はコーヒーを啜ると、携帯を閉じてから男に笑いかけたのだった。

 

 

「雑誌って‥お前流石にそれは苦しい言い訳にしか聞こえねーよ」

 

 

 

 

俺の恋人は”変”だが・・・

 

 

そんな奴と一緒にいるせいか、俺もなんだか”変”になってきたかな。

 

 

幸也は男と他愛のない話をしながら、瞳を細めたのだった。

 

 

 

 

 

・・・あぁ。

 

やっぱコイツ可愛いな。

 

普段は他人に話しかけられても素っ気ないから女子とかには”クールでかっこいい”とかいわれてんのに

 

俺の前だとそんなに頬染めて照れちゃってさ。

 

 

やっぱ俺、コイツのこと好きなんだなー。

 

好きっていうか・・愛してるに近い感じかもなー。

 

 

・・・あー。

 

ホルマリン漬けってどーすればいいんだっけ。



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