Fate/Grand Order side blood (シアンコイン)
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File00「彼」

どうも、シアンコインです。

ガバガバ設定、見切り発車が多いシアンコインです。

気分転換にブラボに触れて啓蒙が備蓄されたので書いてしまった……。




ただ少しだけ変な奴だっただけだ。

高校からの付き合いで大学も同じ、まるでお互いに依存するように孤立しながらも固まる自分たちのグループの一人だった。

 

皆で馬鹿騒ぎをする時、自らはその輪に入る事はなく隅で大人しく微笑み飲み物を口にするだけのその同級生。物静かで何をするにも誰よりも一歩身を置いていたソイツ。

 

ふとしたきっかけで自分からソイツと話しかけてしまった事から俺の行く末は決まっていたのだろうか。

話をしてみれば悪い奴ではない、何かと話の種になった事には反応を示してくれて愛想も良い方だった。

 

意気投合するとまではいかなかったけれど関わり始めてからは段々とソイツと話をする回数が増えていき。その内には二人で遊ぶこともあった。

 

そしてソイツとまた二人で遊びにソレは起こった。

 

 

 

「私ね、血が好きなんだ。真っ赤で、温かくて、綺麗で、だからね―――――――死んで?」

 

 

 

突然だった、視線の先で微笑んでいたアイツが唐突に懐のに飛び込んできて何をするにも遅く、鋭い異物が自分の腹に入り込んでいた。

一瞬の衝撃を後に残ったのは痛みではなく、痺れ。目の前が段々と白く発光するみたいにボヤけていき身体は力なくその場に崩れ落ちていく。

 

僅かに残った意識と力でソイツを見上げた。

 

 

 

「大好きな君の血ならきっと綺麗なんだろうなって、想像通りだったよ。ありがとう、大好きだよ―――――君。」

 

 

 

もう何者も捉えていない、狂気に染まったその瞳を見つめながら自分の意識は遠のいていく。

まるで血に飢えた狼の如く自分の血を浴びて愛おしそうに血に染まった手に舌を這わせるその光景はまさしく

 

 

 

 

 

 

 

 

                   『獣だった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいかい、マシュのその盾を使って魔法陣を成型し魔力を流し込み立花君に呼応した使い魔を呼び出す。戦力が心もとない今出来る最善の行動だ。出来るね?』

 

「はい。頑張ります。」

 

「私もサポートします、先輩お願いします。」

 

漆黒の空の下、炎上し続ける街並みの瓦礫、その場に転がるは朽ち果てた人だった物。

その街並みから離れた教会の片隅で三人の少女と青く投影されたモニターに映る男性が何やらを言葉を紡いでいた。

 

緊張した面持ちで画面越しに立花と呼ばれた少女に語り掛けた男性、その傍らで心配そうに彼女を見やる少女とその後ろで何や物思いに耽っている白髪の女性達。

彼女らは突如としてこの場所に飛び込んでしまい、現状は街に蔓延る非日常的な化け物から身を護るために新たなる戦力を呼び出そうとしている最中だった。

 

「……始めます!!」

 

立花は床に置かれた自らの身の丈ほどある十字型の盾を前に、赤い文様が輝くその左手を前に掲げ瞳を閉じる。彼女は一般人より少し特異な人間であり現状において最後の魔術師候補である。

やがて彼女の身体が仄かに光を帯び、盾を中心に光の輪が浮かび上がっていく。

 

その身に宿る魔力を糧に今、彼女は人類史に置いて英雄と呼ばれる存在を呼び出そうとしていた。

重なる三つの光の輪が広がりやがて一つに収束する、弾けるように光が爆ぜたその瞬間にその場に居た誰もが瞳を閉じてしまった。

 

「成……功…?」

 

数秒の後に立花を最初に各々が瞳を開けると眩い光の中から現れる一つの人影を見つける。

その風貌はイタリア、あるいはイギリスの近世を彷彿とさせ黒を基調とされたその服装、何より特徴的なその帽子は鍔がクラウンにピッタリと反り立つ様に曲げられ、口元は黒いコートにより隠され覗かせる瞳は赤く輝いていた。

 

「…………………。」

 

「……………。」

 

一時、現れたその男と立花は互いに目を奪われるように見つめ合い、やがて男は何かを確認するかのように辺りを見渡していた。

何を言うべきか、そう考えた召喚者である立花は言葉を探し口に出そうとして思わず口を閉じてしまった。

 

気づいたのだ、呼び出したその男がその手に持つ物を。

左手には薄汚れた古い銃を携え、その片手には夥しい赤い赤い血に濡れた刃物を手にしている事に。

 

声を上げず驚く素振りを見せなかった彼女は賢明だっただろう。傍らで心配そうにこちらを見ている女性二人に心配させずに居られたのだから。

 

「………サーヴァント、バーサーカー……。悪夢を………終わらせよう。」

 

ゴクリと生唾を呑み込んだ彼女が今度こそと声を上げようとした瞬間に目の前の男が低くそして透き通る声で言葉を発する。

思わず目を見開いた立花をよそにバーサーカーと名乗ったサーヴァントは、短銃を仕舞うと徐にその手で彼女の頭をなではじめる。

 

「……次は(・・)………一緒だ…。」

 

まるで自らを戒める様にそう呟いたバーサーカーの瞳は何処か優し気で、そして悲し気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――という具合でして、現状戦力が心もとない状況でして貴方を呼び出しました。差支えなければ御身の真名そして出身を教えていただけないでしょうか?』

 

「………英霊…自分はそんな上等な存在じゃない……ただの狩人…。……最後の狩人(ラスト・ハンター)…だ。マスターもそう呼んでくれ。」

 

「えっ、あっ、ハイ!!」

 

バーサーカーを召喚した後、一行は自己紹介兼、意思の疎通が可能という事で彼女らが所属する『カルデア』という組織のロマニ・アーキマンとの情報交換をしていた。

教会の椅子に腰かけたバーサーカー、その隣に座るマスター藤丸立花、そしてデミサーヴァントと呼ばれる特異の存在マシュ・キリエライト。

 

その対面に座るのはオルガマリー所長、カルデアで起こった事故に巻き込まれてこの場に来てしまったカルデアの所長である。

彼女は何やら不満げに眉を顰め、目の前のバーサーカーを睨みつけていた。

 

「立花!! 貴方は仮にもマスターでしょう、もっとシャキッとしなさい!! これから他のサーヴァントと戦う事になるのだからそんなんじゃ死んでしまうわ!!」

 

「はっハイ!!」

 

「それとバーサーカー、貴方が何処の英霊かは問わないけれど力を貸してくれるのかしら?」

 

「…………あぁ、もう……知り合いが死ぬのは……勘弁だ…。」

 

先程の凛とした雰囲気の彼女は何処へ行ったのか、バーサーカーの隣でオドオドとしていた立花にオルガマリーが喝を入れ。バーサーカーに確認をとる。

勿論と頷いた彼に満足したのか彼女は笑みを浮かべると隣のモニターへと視線を向けた。

 

『イギリス……狩人……。情報が足りないけれどそれはいずれ聞かせて下さい、では次に―――――』

 

「――――獣だ。」

 

ロマニが場を仕切り現状の再確認をしようと言葉を紡ごうとした瞬間だった。

徐に椅子から立ち上ったバーサーカーは腰に下げた短銃を掴み取り右手には血に濡れた剣を掲げる。

 

周りが何事かとバーサーカーの視線の先を見つめた、その先に居たのはフードを被る人影、そのてに携えるは長い鎌だった。

 

「マシュ……だったか…。マスターと所長を………。」

 

「は、はい、了解です!!」

 

慌てて盾を構えたマシュに彼女らを任せバーサーカーが一歩前へ歩み出る。

 

「血の臭いに誘われて来てみれば、新鮮なマスターとサーヴァント。ふふふふ、楽しみが増えましたね。」

 

「…………。」

 

「頑張って、バーサーカー!!」

 

「………………。」

 

背後から絞り出すように声援を送るマスター、その言葉にバーサーカーは左腕を横に伸ばし握り拳を掲げて答える。

バーサーカーにとってマスターは命とも言えて、同時に今度こそ必ず守り抜く対象と成り得ていた。

 

「狂戦士、まずは貴方の血からいただきましょうか!!」

 

棒立ちでその場で待ち構える様に立ち続けるバーサーカーに対し、相手のサーヴァント、棒状の武器からしてランサーのサーヴァントは武器を構えその場から姿を消す。

 

「ハァッ!!」

 

「ッ……。」

 

言葉の通り刹那、消えたと思えばバーサーカーの目前に姿を現し槍を振り上げたランサーを前に彼は狼狽える事無くその場を飛びのき攻撃を避けてしまう。

驚いた素振りは全く見せずに飛びのいたその瞬間ステップを踏むように剣で相手に切り込む。

 

一閃、振り抜いたその一撃は槍の柄で受け止められ弾き飛ばされる。

 

「甘い!!」

 

好機と剣を弾いたその瞬間に片手で槍を取り回し穂先でバーサーカーを狙うランサー。

 

「バーサーカー!!」

 

思わず声を上げて彼の名を叫ぶマスターの耳に届いたのは内臓をぶちまけたような水音ではなく、小さな金属音だった。

 

―――――パンッ

 

乾いた音がその場に響き、ランサーは体制を崩してしまう。

隙とはつまり、相手にも隙であるという事、弾かれた右腕ではなく左腕の短銃からは硝煙が上がり怯んだランサーの腹部には赤い穴が開いている。

 

間髪入れずに短銃をその場に落としたバーサーカーはその左腕で、穴を起点に引き裂くようにランサーの腹部に腕をねじ込み強引に引き抜いた。

赤い鮮血を全身に浴び、巻き散る臓物を捨てる様に投げ捨てたバーサーカーは合間を置かずに剣を鞘だと思われる背中に背負った鉄の鞘に差し込むとランサーの頭部を叩き潰すように大剣と成り替わったそれを叩き付けた。

 

――――ガキィィィィン!!

 

アスファルトの地面を粉砕し、夥しい鮮血を散らしまるでザクロの如く花を咲かせ光に変わっていくランサーを見やりバーサーカーは静かに左腕を胸元に持っていきお辞儀をしていた。

 

 

 





仕事の合間を縫って考えてしまったこの話。

ぶっちゃけ狩人に防御力なんて飾りみたいなものだしfgo基準で打たれ弱くても良い気がするんだ(安直)

因みに作者の心はガラス、後は言わなくても分かるな…?






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file01「狩るモノ、狩られる者」


二話同時投稿って大変ですね……。

因みにもうストックないのでちょっと待っててほしいゾ。


file01「狩るモノ、狩られる者」

 

 

 

(少し、やり過ぎただろうか………。)

 

ふと狩人ことバーサーカーはそう考えた、教会から離れマスター含め彼女らの目的を達成する為に移動を開始した面々。

仮にもサーヴァントとはいえ半分が人間であり実戦経験が無いマシュには、マスターらの護衛を彼女に任せバーサーカー自ら先導し足を進めている現状。

 

焼け崩れ最早人が住む事も不可能になった正に悪夢のような街並みを横目に彼は少しだけ視線を後ろに向けて歩いていた。

槍兵を倒したあの瞬間、彼には背後で小さな悲鳴が上がった事に気づいていた。大剣の血を振り払い、仕掛けを外し元の剣に戻すと再び彼は血を拭い自らにこびり付いた血を拭う。

 

床に落ちた短銃を拾い上げ、懐にしまい振り返った時に彼の目に飛び込んだのは放心するようにこちらを見つめるマシュ、よほど驚いたのかその場でペタリと座り込んだ所長。

そして僅かに震える身体を誤魔化すようにこちらに笑顔を向ける立花だった。

 

狩りは決して輝かしい、誇り高い事ではない。血を血で洗い、血生臭い戦いを続け時には夢に落ちやがて抗う為に目覚め止まる事の無い意志で狩を始める。

剣と剣で戦うようなお行儀のいい戦いなどした事はない、正々堂々何て言葉など誰も考えない。ただただ狩り、奪い、血を求め、何が相手でも一人で戦い続けてきた。

 

脳裏に過ぎるのは自分ではなかった頃の色褪せ穴が開いた記憶、そして言葉を交わした獣ではなかった人々達の言葉とその果て。

 

『夜に呑まれるんじゃないよ』

 

『ありがとう狩人さん』

 

『どうせお前もそうなのだろう……?』

 

『狩人など、お前らも血濡れだろうが!!』

 

 

 

 

 

『―――――死を受け入れたまえよ』

 

 

 

 

 

幾何もの間、己を殺し朝を迎える為、意思を継ぐため、悪夢を終わらせるために戦い続けた。数えきれないほど力尽きた事もある。

その姿を見るだけで身の毛もよだつ様な恐怖に駆られ、狂いそうになるほどに憔悴しきった記憶もある。

 

最早この身体は人間ではなく、獣でもない。ただの狩人である。その選択には微塵も後悔はない。

何度も繰り返した狩りの中で唯の一つも助けることが叶わなかったヤーナムの少女、今この場に居る『彼女』を今度こそ守りぬく。

 

殺すだけだった立場の自分には気の利いた皮肉だと内心では笑ってしまうがそれもまた一興。

今も目前で瓦礫の影から現れた髑髏を大剣の背で殴りつけ壁に叩き付ける。

 

奇襲を卑怯だとは言わない、相手を倒せばそれでいい。

 

「―――――貴様も、そうなのだろう?」

 

刹那、交差した(・・・・)互いの視線を切っ掛けに眩い閃光が一直線に狩人に殺到し男は焦った素振りも見せずに大剣を横なぎに振るい、その光を大剣の背で受け止め弾き飛ばそうとする。

が、相手は一歩上を行っていた。重金属で出来ていたはずの大剣の背には深々と捻じ曲がった剣のような物が突き刺さっている。

 

瞬間、間髪入れずに大剣である金属の鞘から中の剣を投げ捨てる様に前方に切り離した狩人が見たのは、青の閃光が走り自らを引きずり込まんと爆発する剣だった。

 

「バーサーカーさん!!」

 

爆発に巻き込まれ、声を上げたマシュ、その言葉に反応を示すように砂にまみれた身体を煙の中から現した彼は片手で近寄ってくる三人を制すと物陰へと避難した。

 

「バーサーカー、あれは……?」

 

「……ここから南西、ビルの最上階からの狙撃……血を流し過ぎたか。」

 

「そ、狙撃ですか!? では相手は……」

 

「弓兵のクラスね、一度ここは迂回して別のルートを……バーサーカー、貴方何を。」

 

「足りないモノを補っているだけだ…。」

 

徐に取り出した赤黒い液体の入った注射器を取り出した狂戦士は戸惑い無く太ももにその針を突き刺し液体を流し込んでいた。

傍から見れば血迷った行為にも等しいそれを戸惑いもなく平然と行うその姿に唖然とした三人だが、彼のクラスが狂戦士だと気づくとどこか納得したようだった。

 

「………行け。」

 

徐に狩人が脇道を指さし懐から歪な黒いナイフのような武器を取り出す。何を意味しているのか最初は分からなかった三人は言葉を詰まらせ次の瞬間には彼に詰め寄っていた。

 

「馬鹿な事言わないで頂戴、私達だけでどうしろというの!!」

 

「そうだよ狩人、相手は遠くに離れているんでしょう。だったらこのまま隠れてた方が…」

 

「……いずれ追いつく、遠く離れた俺を正確に狙う相手が迂回路を視野に入れていない可能性の方が低い。マシュ……マスターと所長を頼む。……また約束を破る、か……。」

 

三人の制止を聞かず、物陰から飛び出した狩人は短銃を懐にしまうとナイフの柄を指で弾き器用に刃を回転させ、黒く輝く刃を二対に変え両手に構え疾走を始める。

上空から降り注ぐ閃光を前に飛ぶことで避け、瓦礫で凌ぎ、その刃でいなすように弾き飛ばす。相手が居ると思われる建物まで距離を詰めていった。

 

高くそびえ上がる建造物の下まで辿り着いたその瞬間、俄かに照らされた自分の影が僅かに陰った事に気づいた彼はその場を飛びのき上を見上げた。

先程まで自らが居た場所には巨大なビルの瓦礫が叩きつけられ砂塵が辺りに舞う、そしてそれはその瓦礫の上に降り立った。

 

「無謀だな、あるいは自らを犠牲にした選択か。どちらにしろ愚かに変わりはないか。」

 

「……夜に呑まれたか?」

 

「…無謀ではなく、狂っていたのか、これは失礼狂戦士は『狂っていた』は失言だったな。」

 

「皮肉などに興味はない、俺から言えば貴様こそ自らを犠牲にしているだろう。」

 

「ほう、会話など期待していなかったが言葉を理解できるレベルの狂化か。」

 

「理解できないな、俺は『狂ってなどいない』」

 

「……ふん、やはり言葉は無駄か。」

 

「刃を交えた瞬間、結末は生きるか死ぬかだ。」

 

再び交差する互いの視線、その手に弓を構えた赤い外套を腰に巻いた白髪の男は視線を鋭く研ぎ澄ますと狩人が駆け出した瞬間にその場を後ろに飛びのき弓を放つ。

紙一重でそれを躱す狩人は相手に肉薄し踏込と同時に二対の刃を突き出した。

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

「……こちらには敵性エネミーは居ないようです。」

 

「そう、上手く狂戦士が引き付けてくれているのね。」

 

盾を構え慎重に街角から大通りを覗き見たマシュは一息つくと後ろで控えていた二人に声をかける。

所長ことオルガマリーがその言葉に安堵し、溜息をもらしたが背後のマスターである立花は心配そうに後ろを振り返っていた。

 

「マスター……心配でしょうが今は狩人さんを信じましょう。」

 

「……でも…。」

 

立花を気遣う様に声をかけたマシュ、視線をそっちへ向けた彼女は後ろ髪を引かれる思いで言いよどんだ。

先程の奇襲に自分たちは反応さえできなかった、狂戦士だけが相手に気づき対処していたとはいえ軽傷とは呼べない程に傷を負っていた彼を一人残すのに抵抗があるのだ。

 

「…気持ちを切り替えなさい、あの狂戦士は私達の目の前で槍兵を倒しているのよ。そうそう簡単に負けはしないはずよ、サーヴァントの心配よりも今を気にしなさい!!」

 

そんな彼女は所長叱責するが、言葉の節々に立花を気遣っている所を見るに非情に成りきれない面もあるのだろう。

 

「――はい!!」

 

「―――――おーおー、元気だこって。こんな場所に小娘三人とはちと不用心じゃねぇか?」

 

気を取り直した彼女たちの元に頭上から男性の声が響く。すぐさま反応したマシュは二人の前に立ち戻り盾を構えるが何も起きる事はない。

数秒の後にマシュは視線を巡らせてようやく気づいた。ビルが崩れた壁面から自分たちの背後を眺める様に見つめニヤリと微笑む青いフードの男が居る事に。

 

「あっちであの野郎と殺り合ってるのはアンタらのサーヴァントかい? それにしても激しいな、あんな戦い方でよく消滅しねぇな。」

 

「…貴方は?」

 

「俺かい? 俺は魔術師(キャスター)、訳あって向こうの弓兵とは敵対しててな、さっきの教会での戦闘も覗かせてもらったぜ。そこで提案なんだがどうだ? 手を組まないか?」

 

身を翻し何の事もなくその場から飛び降りた魔術師と名乗る男は垣間見えた、赤い瞳を覗かせ口元を釣り上げる。

警戒を怠る事もなく盾を構えたマシュ、その後ろに控えた二人は目の前の魔術師に疑念を覚えていた。

 

 

 

 





これはアレなのだろうか。
そのうち英霊のステータスを書いた方がいいのかな。


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File02「獣」


どうも、シアンコインです。
ボケーッとスランプ気味に過ごしていたらこの作品に感想と評価を下さる方々がが……。

ありがとうございます、ありがとうございます……。

あぁ、豚は焼かれて出荷されろ………






 

 

『アンタの死を……狩人に死を!!』

 

 

戦闘の最中、不意に狩人の頭を過ったのは先駆者であり、そして偉大な狩人の言葉。一度は共に戦い眠りに落ちていった。

二度は彼女の警句であった夜に呑まれ刃を交えた。三度、共に戦いそして聖堂前で静かに役目を終え消えて行った偉大なる狩人。

 

何故この場においてあの言葉を思い出したのか、目前で切り結ぶ互いの刃を意に介する事なく思考する狩人。

切り傷一つなかった彼の身体は既に血に濡れ装束は切り裂かれている。拮抗したその実力は両者に致命傷とは成らずとも傷を刻んでいた。

 

ふと、狩人は気づく、なるほど、彼女を思い出すほどの強敵なのかと。

 

「余所見をする余裕があるのかね!!」

 

「………」

 

何時切り替えたのか、白と黒の双剣を手にした外套の男は刃を振り下ろす。

対する狩人は言葉を返す事なくその刃を右の刃で受け止め左の刃を横薙ぎに振るい、男の腹部を狙う。

 

臆することなく飛び退く事で一撃を避けた男は見切りをつけたのか、距離を取る様に飛びのき両手の剣を宙に溶かす様に消すと再びその手に黒い弓を出現させる。

何かを感じ取り追撃をやめた狩人は手元を確かめる様に刃を掌で逆手に持ち替える等して感触を確認していた。

 

「どうやら奴が動いたようだ、時間をかけている暇もなくなった。」

 

「……結末は変わらん。」

 

言葉を交わすと狩人は距離を詰める為に再びアスファルトを蹴り上げた。

男の手には何処からともなく黒い矢が現れ弓に番えられる、キリキリと軋む弦と共にその矢先は青く閃光を纏いはじめる。

 

「ふ……、確かにその通りだ。…赤原を行け、緋の猟犬……赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

相対した相手に距離を取られ遠距離攻撃を加えられようとしている状況下において、策もなく容易に飛び込む事は無謀の他ならない。

それでも狩人は足を止めなかった、番われた矢がその指から解き放たれた瞬間に直感を頼りに彼は斜め前にステップを踏みこむことでそれを避ける事に成功した。

 

「ッ」

 

瞬く間に外套の男に接近した狩人は右手の刃を男に投擲し、再度足を強く踏み込んだ。

 

「アレを避けるか貴様、クッ」

 

狙い通り相手の注意を引く事に成功した狩人は弓により投擲した刃が弾かれるのと同時に、腹部目がけ力強く得物を突き出した。

 

「―――だが、早計だったな。」

 

「ッ!?」

 

あと僅かでその肉体に傷をつけようという時、外套の男は勝ちを確信したように口元を歪める。

刹那、狩人の身体に大きな衝撃が背後から叩き付けられた。

 

まるで待ち構えていたように外套の男はその手に先ほどの小ぶりの剣を持ち、突き出すわけでもなく狩人が自らその刃に向かうのを待ち構えていた。

前へと加速していた狩人に最早速度を止める事は出来ず、その身体は男の身体に飛び込むように吹き飛ばされる。既に左肩に痛みはなく肉が割け、骨の間に異物を感じ、腹部には一対の刃が深々と突き刺さっていた。

 

返り血でなく自らの鮮血、何度も見た光景だと、焦る事も無いその瞳は目前で勝利を確信した男に向けられた。

 

「終わりだ、せめて潔く消滅するが良い。狂戦士。」

 

終いだと、口にし、そう告げる目の前の男。

その言葉に狩人は満面の笑みをコートの裏で浮かべ、ギラギラと光る赤い瞳で食い入るように男を見つめ、そして発した。

 

「――吹き飛べ」

 

男が反応するよりも早く、左手の得物を手放した手でその腕を強く握りしめる。

驚きに染まる男の瞳に映ったのは狩人の右腕に抱えられた巨大な大砲に火が灯る刹那だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――彼のアーサー王を倒せばこの聖杯戦争は終結するのね。」

 

「あぁ、その通りだ。俺と盾の嬢ちゃん、加えアンタらが呼び出した狂戦士が生き残っていりゃ無理な話じゃない。」

 

廃校舎、屋上にて魔術師、クーフーリンと所長ことオルガマリーは彼女の備え準備を片手間に今回の騒動の原因を話していた。

聖杯戦争、過去の英霊を呼び起こし願いを叶える願望器、聖杯を求め七人の魔術師と七人の英霊が競い殺し合う表ざたには決して出る事の無い儀式。

 

この荒廃しきった世界は過去に起こった聖杯戦争が発端として滅び生まれた物だという事、そしてその根底には聖杯を手にした剣士の英霊、ブリテン王、アーサーペンドラゴンによるものだとオルガマリーは聞かされた。

先程の邂逅から時間は経ち、協力関係を築けた両者は惜しみなくその情報を交換する。

 

その目的が生き延びるためならば特に可笑しな事ではない。

片や人類史に置いて英雄と認められ呼び出されるほどの英傑、片や生きながらも更なる叡智を求め追及する魔術師が限りある生を惜しむのは当然の事だ。

 

「随分とマシュと狂戦士を気にするようね、何か理由でもあるの? 傍目に見ても狂戦士はそれ程名の通った英霊とは思えないのだけれど。」

 

「いや、何。あの弓兵は剣士絡みでなければ滅多に動かねぇ、加えてその盾の嬢ちゃんを差し置いて先に狂戦士を狙ったとなると、あの滲み出る奴の雰囲気に脅威を感じたんだろう。」

 

「滲み出る……雰囲気…? 確かに少し不気味だけど珍しく会話は出来るタイプよ?」

 

クーフーリンの言葉に訝し気に首を傾げたオルガマリーの脳内に浮かぶのは、血まみれの装備を身に纏い眉一つ動かさない長身の男。

確かに世間一般からすれば異様な雰囲気で、という言葉は理解できるというかほんの数時間で狂戦士の姿に違和感を覚えなくなっている自分に少し悲しくなってしまった。

 

「ほう、ソイツは珍しい。となると割かし低い狂化か、あるいは………」

 

彼女の言葉に驚いたように返答したクーフーリンは顎に手を当て、再び考え込んだ。

遠目ではあるがまるで獣を彷彿とさせる戦い、雰囲気、佇まい、そして見た事も無い薄汚れた武器を手足の様に巧みに扱う技術は狂戦士というクラスに置いて些か不釣り合いだ。

 

本来狂戦士は理性を失う代わりに持ちえぬ力を手にする、いわば『弱い英霊』に付与されるモノ。

理性を失ってるのなら武器を持ち替える事などしないだろう、ましてあのように使いこなす事もない。

 

オルガマリーが言う様に理性を残しているのなら無理な話ではないが、どうにもクーフーリンには狩人が不自然に思えた。

 

『――――お話の所失礼します、未だ狂戦士からの連絡はありませんが徐々に聖杯らしき反応が強まりつつあります。』

 

どうやらもう休憩は終わりの様だと、杖を抱えたクーフーリンは不敵な笑みを浮かべオルガマリーが手にしていた石を複数かすめ取る。

抗議の意を唱える彼女を横目に出発だと、魔術師は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――これはなに?

 

 

藤丸立花は零れる様にその言葉を口にした。

目前に広がるは人智を超える超常の戦い、つい数刻前に知り合った自らを先輩と慕ってくれた女の子が盾を持ち人間とは思えないほどに禍々しい気配を撒く存在と戦っている。

 

先程知り合った魔術師という男性は巧みにその杖を振るい、指で文字を写しその黒い騎士を戦っている。

あまりにも激しく、そして一方的な戦い、刹那の如く振るわれる剣戟はマシュが構える盾を大きく揺らし、彼女の体力を削っていた。

 

その隙を狙う様に魔術師は騎士の背後を取るが、剣士と魔術師では分が悪いのか瞬く間に薙ぎ払う様に吹き飛ばされ剣士に大きな傷はつけられていなかった。

 

「―――――極光は反転する。光を呑め・・・!」

 

追撃が止んだと思ったその時、その騎士は天に向かいその剣を掲げると何かを口にしていた。

収束するように黒い力の塊がその剣に集まり巨大な剣となっていく中、彼女は脇目も振らずに走り出した。

 

目の前ではその攻撃を迎え撃つ様に盾を構える少女の姿、そのすべてを吹き飛ばさんと力を溜めるその剣は今や今やと振り下ろされんとしていた。

背後で立花を制止する言葉が叫ばれているが彼女は止まれない。

 

愚かだと、自殺行為だと笑うなら笑え、だが目の前で果敢に戦う少女を見捨てる事など彼女にはできなかったのだ。

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバーモルガン)』!!」

 

その光景を形容するならばまさに闇、具現化された闇の一撃がその盾に叩きつけられとてつもない衝撃がマシュに降りかかる。

握り締める手は時間が経つにつれ感覚を無くし、今にも体制が崩れそうになる。

 

最早これまでかと、諦めそうになった瞬間だった。

 

「――大丈夫、信じてる。……マシュ!!」

 

ふと耳に届いた声音が彼女の意識を引き戻し、再び彼女は瞳を開く、目の前でこちらを見据え共に盾を支えていたのは彼女の主人だった。

重ねられた手から魔力が伝わりマシュは立ち上がる。光を取り戻したその瞳は闘志に燃え、その意思に呼応するかの様に盾は眩い光を灯した。

 

「ハァァァァァァァッ!!」

 

形成されるは光の門、堅牢なその城壁(・・)は闇の光を反射させ始める。

 

「あの盾はッ!?」

 

騎士が反応するよりも早く、その盾は光を剣士に跳ね返した。

力の衝撃により舞う砂塵の中から現れた騎士は判断を見誤ったか、不意の一撃に消耗した様子で忌々しげに光の門を睨んでいた。

 

そして――――

 

 

 

「――――不意打ちを恐れろ」

 

 

 

何処からともなく姿を見せた(・・・・・・・・・・・・・)赤黒い曲刀が剣士の背後から振るわれる。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

思わず態勢を崩した騎士が垣間見たのは背後にて歪な大ぶりの曲刀を振り抜いた男の姿。

続いて反撃する暇もなく、剣士の耳に言葉が届く。

 

 

 

 

「焼き尽くせ木々の巨人。 『焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』! 」

 

 

 

視線を前に向ければ不敵な笑みを浮かべた、魔術師が杖を掲げ魔術を行使した瞬間だった。

自らの足場が崩れ巨大な木の巨人が姿を現す、抵抗も虚しく騎士は捉えられ、その身は炎に焼かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……グランドオーダー、聖杯をめぐる戦いは始まったばかりだ。』

 

 

魔術師の魔術により、決定打を与えた騎士は遂に敗れこの聖杯戦争は終結を迎え、剣士ともども魔術師も役目を終え消えて行った。

騎士が残した言葉に不安を募らせた面々だが、やがて地面から金色の光が溢れ聖杯と思われるモノが出現する。

 

放心したようにその場に立ち尽くしたマシュと立花はすべてが終わった事を確認するように、顔を見合わせると笑顔を浮かべこちらに向かってくる足音に気が付く。

 

「狩人……!! 無事だったんだね、ありがとう!!」

 

「狂戦士さん、先ほどは危ない所をありがとうございました。」

 

足音の主に気が付いた二人は安堵の笑顔を咲かせると狩人の元へ駆け寄った。

その手に携えたのは鎌のように湾曲した剣のような武器、そして武骨な大砲だった。

 

みれば身体の至る所に傷が見えるが本人は至って問題無い様に振る舞うと、立花の頭を優しくなでる。

 

「……すまない、遅れた。……無事で良かった…。」

 

「ううん……ありがとう。狩人。」

 

「…マシュ、貴公も勇敢だった。敬意を。」

 

頭に添えられた手を掴んで微笑む主人、そして狩人は隣のマシュに視線を向けると小さくお辞儀をする。

慌てた様子でお辞儀を返したマシュをみやり立花は和やかに微笑むと再び狩人に視線を向け、言葉を詰まらせた。

 

 

 

 

「あぁ……ああぁ……、匂う、匂い立つぞ!!」

 

 

 

 

狂戦士の言葉に違わぬ程に敵意を振りまくその姿は出会った頃とは程遠く、別人とも思える程にその瞳は血走り、身体は衝動を抑えられない様に震えていた。

手に持った武器は手放し、懐から布に巻かれた丸鋸のような物を取り出した彼は視線を振り撒いた。

 

 

 

やがて、その瞳は一つの人影を見つける

 

 

 

「計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。」

 

 

 

聳え立つ崖の上に立つ、一つの人影を

 

 

 

「レフ教授!!」

 

 

 

その人影に覚えがある者は喜びの声を上げ、そして

 

 

 

「―――獣だ」

 

 

 

狂戦士は標的を見誤る事無く声を張り上げた

 

 

 

 

 

 







FGOやってる人なら『獣』の意味はすぐ分かるよネ!!

ぶっちゃけ私個人のブラボ考察は友人に鼻で笑われてるから、あんま期待しないでいただきたい!!

え?
展開早い?
気のせいじゃろ。

関係ないけど豚の事故死が一番腹立つの……






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File03「狂戦士」


今回で冬木は終わりです。
はい、展開は早く行かないと詰まっちゃいますからねぇ。

ややブラボネタが混ざっていますので、分かりににくかったらごめんなさい!!




 

 

 

時は遡る

 

外套の男をその身諸共、大砲により吹き飛ばした狩人は砂塵が舞うビルのエントランスで片膝をつき荒々しく息を吐いていた。

左肩に深々に刺さった赤い螺子のような剣を右手で強引に引き抜いた彼は、地に流れる夥しい鮮血を見つめ右手を再び動かす。

 

「…………ッ。」

 

そして徐に取り出すは先ほども使っていた赤黒い液体が入った注射器、無造作にそれを自らに突き刺した彼はみるみる塞がっていく傷を気にすることなく立ちあがった。

視線を辺りに当て相手がどうなったか確認しようとする狩人に特有の声音が届く。

 

「なぜ、消滅しない……狂戦士。」

 

砂煙が晴れ、そこから姿を現す弓兵、瓦礫を背に力なくそれに寄りかかる彼は既に足元から消えかかっていた。

 

「………特別な理由は無い、腹は裂かれ慣れているだけだ。」

 

「成る程、貴公がどんな修羅場をくぐったのか想像も着かないが……やはり…いや、無粋か……」

 

平然と放った、腹を裂かれ慣れているという言葉に狩人自身は眉一つ動かす事無く答え、それを聞いた弓兵は一時表情を凍らせると自嘲するように小さく笑い消滅していった。

 

「……」

 

血に濡れた手先を静かに胸元へ寄せ、小さく確かにそこに居た弓兵へとお辞儀した狩人は踵を返す。

瓦礫の下から拾い上げた黒い刃、『慈悲の刃』をもう一対取り出し再び一つに戻した彼は別の武器を取り出した。

 

同時に背負い上げたのは二つ折りにされ薄汚れた布切れで巻かれている柄らしき棒状の物、その手にしたのは剣と呼ぶには余りにも歪で統一性の無い形状をした刃の曲刀だった。

武器を確認する手前、ふと狩人は何の気も無しに上を見上げ納得するように一、二回頷くと再び歩みを始めた。

 

主人である立花とは彼が重んじる『血』とよく似たモノで繋がっていると判断した狩人は迷うことなく足を進めた。

その場に残されたのは赤い光に仄かに照らされた何もない大広間、祭壇は存在しないがその場は確かに鴉の狩人との記憶を思い出させていた。

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

マシュと黒騎士の戦闘が始まった時、会的する敵には目もくれず狩人は疾走していた、無限に感じるほどの時の中で彼が学んだことは無理な戦闘は避ける事、背後に気を付ける事、不意打ちを戸惑わない事、無視が時には有効であるという事だった。

 

「――――………ッ」

 

しかし、そんな狩人でも無視できないモノが存在した。

思わず立ち止まった彼の視界内にあるのは恐らく主人が居るであろう場所に繋がる一本道、そしてもう一つ映るのは意味ありげに開かれた獣道、その先に見える小さな横穴。

 

獣狩りの狩人であると同時に、元人間である彼にとって欲という物は必ずしも無縁ではない。

そんな時に彼ら狩人はこんな言葉を残す。

 

 

 

 

『全ては探究心のせいだ………』

 

 

 

 

いつの間にか居なくなっていた狩人が居た場所には、灰色の泡が立っていたとか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

幸いにも横穴は立花の居る洞窟へと繋がっており、結果オーライとなったのだが何やら不穏な雰囲気と危機迫る状況だと判断した狩人は懐から青い液体の入った小瓶を取り出すと迷いなくソレを飲み干した。

まもなく狩人の意識が一瞬薄れるが瞬く間に取り戻すと、マシュに対して攻撃を仕掛けていた騎士の背後へと疾走し不意打ちを仕掛ける事に成功、というのが黒騎士に一撃を見舞うまでの一連の経緯である。

 

―――そして、現状

 

狂戦士の名に相応しい程に視野を狭めた狩人は誰の制止も聞かず、常人離れした脚力を持って右腕の得物を振りかぶり崖上の人影、カルデアの副所長であるレフ・ライノールへと牙を剥いた

 

獣を忌み嫌うが故により獣らしく、何かに取りつかれたように武器を振り下ろす。

英霊として、そして狩人として振るわれるその刃は人であるならば容易く標的を両断する程の威力を誇るだろう。

 

本来ならば標的と化した時点で相手に浮かぶのは困惑、あるいは恐怖の感情である筈がレフの表情は一切崩れることはなくむしろ笑みを深めていた。

それはまるで自身が死ぬ、負けることなどありえないといった余裕がある様に。

 

「―――ッ!?」

 

やがてその表情の理由が姿を現した。

 

狩人の得物、『鋸鉈』が彼に襲い掛かる刹那、突如として赤黒いナニカが狩人を振り払う

 

予見する事など適わない不意の一撃は狩人の腹部に強く叩きつけられ彼の身体は宙を舞った、立花はその光景に目を剥き、マシュは数秒の後に盾を構え彼女の前に立つ。

そして誰よりもレフの生存を喜んでいたオルガマリーはその場に座り込んでその光景を唖然と眺めていた。

 

姿を現したのは禍々しく赤く躍動する黒い触手、目を凝らせばその触手には無数の目が蠢いていた。

アレは魔術の範疇に納まるモノではない、より異質で、異形の存在、それを操って見せたのがレフであるのならば…。

 

「まったく、予想外の出来事で頭に来る…。狂戦士のサーヴァントだと? 厄介な者を召喚してくれたも「アァ”!!」何ッ、クッ!?」

 

眉を顰め怒り笑う様に顔を歪めたレフは平然とその触手に触れ言葉を紡ぐが、無数の閃光が彼に襲い掛かる。

立花が捉えたのは視界の端、宙を舞った狩人が祈る様に両腕を強く握りしめ天に掲げた瞬間、白く輝きその身体から無数の光の弾丸がレフ目がけ飛んでいく様子だった。

 

「ッ!! アァ!!」

 

着弾と共に爆発する閃光、それに思わず怯んだレフをしり目に背面から地面に落ちながらも即座に体勢を立て直し一目散にレフへ駆け出す。

対してその触手は迎撃の如く狩人に殺到し大きく振るわれた、がその攻撃をかいくぐる様に右に左へと紙一重で避けても尚狩人の足は止まる事無くレフへ接近する。

 

血眼、まるで何かに憑りつかれた様に怒り狂う狩人の様は彼が口にする『獣』と呼ぶに相応しく成り果てていた。

 

――――殺せ、殺せ、殺せ、殺せ

 

彼の脳裏に過ぎるのは呪いの二文字

 

――――汚らわしい獣を、殺せ

 

生前の彼ならば思い留まるか警戒し、一時、間を置いただろう現状に狩人は自我を無くし襲い掛かる。

 

――――消さねばならぬ、清潔にしなければいけない、終わらせろ、夜を終わらせろ!!

 

――――血、血、血、血、血!! 青ざめた血を!!

 

まるで複数の自分がいるのかと錯覚しそうなほどに支離滅裂な脳内は最早意味を持たずただの狩る者に成り果てた。

迫りくる触手を避け、その側面に鋸鉈を押し付け、疾走と共に切り裂きその身に鮮血を浴びる

 

むせる事無く、怯むことなく、滾る感情を全面に押し出すように我武者羅に切り付け、やがて男に辿り着いた。

 

「アアアアアアアアアアアアアア!!」

 

咆哮、自我を失い、ただただ襲い掛かり鋸鉈を構え振り下ろそうと力を込める

対するレフは受け止めるよりも逃れることを優先するように鋸鉈の範囲外へと飛び退いた。

 

「ハアアァァ!!!」

 

が、その判断は仇となる

左手の銃を手放した狩人、後ろへ振りかぶった鉈を上に掲げた瞬間に大剣の様に両手持ちに切り替え即座に柄についた大きなレバーを握り『変形』させた。

 

―――ガチャン!!

 

刹那、けたたましく鳴る金属音と共に丸鋸のようだった刃のロックが外れ文字通り鉈へと形を変える

瞬く間に攻撃範囲が伸びたその凶器はレフの身体へと届き得たのだ。

 

ガリ、ゴリ、と両腕にかかる骨の感触を感じながら飛び散る鮮血をその身に浴び、鉈から伝う血を垣間見ると視線を上げ狩人はその顔を歪めた

何処かで、何かが狩人の耳に届くがその視線は逸れる事無く視界の先で尚、肩から胸にかけて大きく食い込んだ鋸鉈を意に介する事なく不気味に笑うレフの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァ!! レフ、レフ!!」

 

狩人の刃がレフに届き、その身を切り裂いた刹那、甲高い所長の悲鳴が唖然としていた立香、マシュに届き二人は我を取り戻す。

 

『立香ちゃん、どうなっているんだい!? レフ教授に何があったんだ!?』

 

「それが……狩人が、レフ教授を、切り、切り裂いて……」

 

『狂戦士がレフ教授を!? 教授は今「ハハ、ハハハハ!!」』

 

「……なん、で…」

 

その場の誰が漏らした言葉だったか、あり得ないモノを目の当たりにしたように驚愕と困惑、そして僅かな恐怖が含まれたその言葉を皮切りに皆が視線を集める先で一人の男が黒いナニカを撒き散らし始めた。

 

『フフフフフフフフ…………ハハハハハハハ!! よもやこの私に傷を負わせるとは!! 理性無くしても英霊という訳か……しかし、この程度で思い上がッ!?』

 

渦巻く黒い力の余波の中、中心にて声高らかに叫ぶ男レフは達観するように余裕を滲ませ言葉を紡ぐがそれは不意に途切れさせられる。

驚愕に顔を歪ませ身体に走った衝撃の根源に視線を向ければ右腹部から飛び出している、黒い突起。それが何か理解し同時に何が起きたのか察した男の身体はより一層、力を放出し始めた。

 

「………獣がッ」

 

吐き捨てる様にレフの背後から姿を現した狩人は忌々しげにその手にしていた、『教会の杭』を手放し次の武器を取り出す。

『鋸鉈』に『教会の杭』、二つの武器をその身体にくらいながら死の気配を見せない男に狩人は次の選択肢を探し出す。

 

―――――いいや、選択等必要ない、殺せ

 

再び姿を見せる意思の影、その言葉にその通りだと疑う事なく再び武器を取り出した狩人は躊躇なくその剣を大槌へと変形させる。

 

『調子にのるなぁ!! 虫ケラがぁぁぁぁぁあ!!!!!!』

 

雄叫びと同時に発せられた怒気は憎悪に変わり、無数の触手が狩人目がけ姿を現し殺到する。

最早躱す事は叶わない程に速度を上げたソレが狩人の身体に突き刺さろうとする瞬間、その場で立ち尽くしていた立香、そしてマシュは垣間見る。

 

「アァああァァァァァァああああああ!!!!!!!」

 

身が竦むほどの雄叫びを上げ、今か今かと迫る触手を巨大にして武骨な石の大槌で叩き潰し、払い除け、その身に突き刺さる触手を意に介する事なく片腕の腕力だけで引きちぎるその様を。

徐々に血みどろに、えずく程に凄惨な光景が広がりだした。その姿は正に狂戦士と呼ぶに相応しく理性を無くした化け物と何ら変わりない。

 

顔の真横を掠り抜けた触手のせいで狩人の口元は露わになりそして二人は知る。

 

 

―――――狩人が笑っている事に

 

 

その身を焦がす程に壮絶な戦いを、どちらかの命を奪うまで終わる事の無い戦いの場を、化け物を狩り続けたが故に薄れていた死の恐怖との再会を彼は喜んでいたのだ。

 

だがそんなひと時も遂に終わりを告げる

 

『チッ………、想像以上に厄介だ!! 仕方ない、この場は引いてやろう。だがな、これで終わりではないカルデアの諸君、人類史は消失したのではない……焼却されたのだ、我が王の寵愛を無くしてな!! フフフフフ………ハハハハハハハハ!!』

 

逃げ帰る様に声高らかにそう叫ぶレフはその手に光り輝く何かを手に、姿を消した。

 

その場に残されたのは放心する所長、そして二人の少女と、全身に血を浴び得物を取り逃がした事に腹を立て雄叫びを上げる狩人の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

人理継続保障機関フィニス・カルデア

人類の未来を語る資料館とされ、その内部には魔術そして科学を要し世界を観測し人類の決定的絶滅を防ぐために特務機関が存在する。

 

立香含めマシュ、オルガマリーはそこで起こった事故により冬木と呼ばれる地獄のような場所に飛ばされていたのだが。

その冬木を歪めていた原因を絶やした事によりカルデアでナビゲートをしていた研究員そして何よりロマニ・アーキマンの尽力のおかげでその場に転送された。

 

同時に立香とサーヴァントの契りを交わしていた狩人も転送され現在、ロマニ・アーキマンと言葉を交わしていた。

 

「――――貴方が何故、レフ教授を攻撃したかは最早問う事はしません。あの言葉を聞く限り彼は人類の敵という他に判断は出来ませんので。」

 

「………貴公にとって奴が友人であったのならば詫びよう。だが、俺は少しばかり鼻が利く奴からはハッキリと匂ったのだ。堕ちた獣の臭いを。」

 

「度々口にするその『獣』とは一体何を指しているのですか。私には獣と呼んだ存在の共通点が見つからなくて………。」

 

「…人ならざる者、そして人から堕ちた者、あるいは血に酔い外道と成り果てた存在だろう……。俺自身、身体が反応すると制御が効か無い時もあるからな。」

 

何時の間にか血濡れの装束から小奇麗な神父服に着替えていた狩人は感慨深そうに瞳を細め言葉を紡ぎ、対するロマニは彼の言葉に何か引っかかる事があったのか考える様に口元に手を置いた。

 

(制御が効かないという事は……狂戦士になった故についた『狂化』のせいか? ある限定的な特性でその『狂化』が発動するというならあの行動にも理解できるけど……。)

 

そんなロマニを前に狩人は腰かけていた椅子から立ち上がると、指先を動かしその掌に一匹の灰色の人型を呼び出した。

人のうめき声のような声を上げるその存在を徐にロマニの膝に乗せると狩人は佇まいを直し始める。

 

「えっと、急にどうしたんで……ってええええええ!? ちょっ!? 何これ、何なんですかこれぇェェェ!?」

 

狩人が立ち上がった事に数秒の後に気づいたロマニは顔を上げて彼に声をかけると同時に、膝にかかる重さに視線を向けて声を上げて驚き始める。

そんな光景にマスクの下でクツクツと笑いを漏らした狩人は口を開いた。

 

「何、心配する事は無い。その人型を俺達は使者と呼ぶ、中々に商売上手な奴等で何かと便利な小間使いのようなモノだ。何か用があればソイツに言ってくれ、問題なければすぐにむかう。」

 

「な、なるほど。使い魔のような存在ですか………にしても個性的な…。」

 

ロマニ膝の上で快適そうに寝転んだ使者を見て狩人は再び笑いを漏らす、早々に気に入られているようだなと。

因みにロマニに至ってはその顔を盛大に引き攣らせ使者をどうするべきか困っているようだった。

 

「貴公、ロマニ、と言ったな。俺が鼻が利くというのは覚えているだろう?」

 

「え、えぇ。それが何か?」

 

そして徐に狩人はロマニの前で顔を寄せてこう呟く。

 

「貴公からは、友人の匂い、そして――――」

 

ゆっくりと紡がれる狩人の言葉、そして紅く光る瞳に彼の視線は釘付けにされた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――嘘吐きの匂いがする」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、一言だけ呟いた狩人は最後に、唯の戯言、気にする事は無いと言葉を残してその場を後にした。

 

 

 

 

 

 






おい、誰か忘れてねぇか?
そんな言葉が聞こえるような聞こえないような……。

大丈夫です、忘れてませんよー。
次回ちゃんと説明入りますから、いや、マジで。

変身前は攻撃チャンス、狩人ならアタリマエ




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File04「万能人」

ハッピーニューイヤー……(小声)

どうも、お久しぶりです。
シアンコインです。

前回所長の安否が判明すると書いたのに触れられてない件………。
次回まで待ってて下され………

先にこっちが書きあがったので投稿。
短いのはご愛嬌。



追記

最後の方で所長についての書き加えをさせていただきました。
作者の力量じゃ次の話に入れられなかったんじゃ、許して(土下寝)









「……………静かなものだな」

 

一人ごちたのは神父服に身を包み与えられた部屋の中で落ち着かない素振りの狩人だった。

武器は今は無用だと備え付けの机の上に置いてあり、どうにもやる事が無いというは狩人にとって些細だが悩みになりつつあった。

 

不自由ではないのだがどうにも落ち着かない、考えてみればヤーナムの血の医療を受けて以来、こうした平穏というものとは無縁のままだった。

何かにつけて血を欲し、血晶を求めそして青ざめた血を望んでいた。夜を終わらせる為に、夢から覚める為に。

 

果たしてその目的を果たせたのかと問われれば狩人は肯定しないだろう。

幾つもの夜を明け、繰り返し、繰り返し、繰り返し、そして辿り着いたのは幼年期の始まりという途方もない終着点であり始発点だったのだから。

 

だが気が付けば彼は受け継いだ狩人の夢を離れ、マスター、藤丸立香という少女に召喚され従者としてこの場に存在していた。

過去に、カインの騎士として女王に仕えていた事もあり気にしては居ないが長らくヤーナムから離れる事が無かった狩人にとってこの場は眩しい場だった。

 

獣の病が蔓延していたヤーナムの街並みは薄暗く、人を襲う獣、そしてソレを狩る街人、そして導かれた狩人達により混沌に包まれ元は人だったモノの死体が磔にされ火をくべられ。

全てを狩るまで終わるの無い狩りが途方もなく続けられていた。

 

少数のみが生き残ったカルデアが命の溢れた場と言われれば大概の人間は否定するだろう。

しかし狩人は肯定を示すだろう、死が溢れていたあの街、いや『世界』に比べればこの30人にも満たないこの場は間違いなく命の溢れた安全な地だと。

 

どこもかしこも哀しみ、そして狂気に満ちていた世界を抜け出した今。

安息という物を得られたと感じた彼は一人俯き、一人の狩人が愛用していた帽子、そして上着を脱ぎ素顔を晒した。

 

黒髪だった髪質はまばらに白く染まっており、その隙間から覗かせる一対の瞳は紅く輝く。

想像よりも端正に整った顔立ちは何処か儚げで憂いを帯びていた。

 

「鏡を見たのは……メンシスの時以来か……。」

 

『オォォォ……マジェスティック!!』

 

「…………、やれやれ…。奴は今も何処か悪夢に居るのやもしれんな………。」

 

備え付けの鏡を覗きこみ、懐かしげにそう呟いた狩人の脳裏に不意に一人の探究者の叫びが木霊する。

思わず真顔になった狩人は小さく息を漏らすと面白おかしそうに言葉を残した。

 

一時の間でも血を被る事が無いのならば今はこのまま、素顔で過ごすかと安易に決める狩人はシミ一つない純白のシーツのベッドに横になるのだった。

眠りにつく事はやや迷いがあったがそれも些細な事。もしかすればこの現状こそが悪夢であり眠りに落ちれば再びあの夢に戻れるのではないかと何処か期待していた。

 

『―――おかえりなさい、狩人様』

 

幻聴かもしれないが、聞こえたその言葉に狩人は静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 

 

『狩人よ……聖域を目指したまえよ。』

 

静かに瞳を開いた狩人は泡沫の囁きを脳裏に浮かべ、その穏やかに眠るような囁きからくみ取れる思惑に屈託のない笑みを浮かべるとベッドから上体を起こし身なりを整える。

思えば『自分』が始まったのもベッドの上である。ココが新たな始まりの場なのだろうと勝手に解釈する。

 

(毎回毎回、知り得もしない事柄を当たり前の様に伝えに来る貴方には助けられていたのか……それとも…。)

 

黒の神父服に両腕には包帯を巻きつけ、狩人の帽子を纏った狩人はその部屋を後にする。

どこか足取りが軽い彼は何故か感慨深そうに一度振り返り明かりの消えた部屋を見据えると、再び歩き出しやがて部屋の扉は閉められる。

 

扉が徐々に閉まる中で扉から差し込んでいた蛍光灯の明かりはありもしない、車椅子の影を映し出していた。

彼の聞いた囁きは彼の思い込みか、それとも幻聴か、あるいは本当に誰かがその場にいたのかもしれない………。

 

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

 

「――――、マスター。居るか?」

 

「………狩人?」

 

「あぁ、少し話をしたいのだが、構わないか?」

 

「う、うん。ちょっと待ってね。」

 

「………」

 

「どうぞ、」

 

「失礼する」

 

「……えっと、どうしたの?」

 

「いや何、主人の気晴らしに話をしようと思ってな。」

 

「私の? 私は大丈夫だよ、皆優しくしてくれるし別に何も悩んでなんか「嘘は必要な時に着くモノだ」ッ…。」

 

「ロマニ、彼からこの顛末を一通り聞いた。よもや俺の知らぬ世界で人類が滅亡したとはな……笑えない冗談だ。そして君の立場もだ、気を病まない理由は何処にもない。」

 

「うん、そうだね……確かに狩人の言う通り、気分は最悪で、どうしたらいいか何て分からなくて、堪らなく怖いよ……。悩みよりも絶望って言うのかな? もう頭の中グチャグチャで見当もつかない…。辛い、辛いよ……。

 

………それでもね、私がやらなきゃいけないんだもの。泣いてられないの、怖い、逃げ出したい、戦いたくない、けどそれじゃあの時助けてくれたマシュにも狩人にも、所長にも…申し訳ないじゃん。だから……大丈夫!!」

 

「そうか、言葉は不要だったな。……しかし、限界が来た時は素直になる事だ。よもや……発狂ほど、悲痛な終わりはない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……工房か?」

 

主人の部屋を後に気の向くまま施設内を練り歩いた狩人は突き当りの人気のない扉の前に立った。何処か鼻に着く機械油のような匂いを感じた彼は伺う様に静かに扉を開く。

その先にはこれまでの施設とは一風変わった雰囲気の内装の工房らしきものが広がっていた。乱雑に積まれた書籍の数々、地面一杯に散りばめられた紙。

 

宙にから吊るされた鳥のような模型に机の上には何処かで見たような文字の殴り書きと羽ペン。どうやらこの部屋の主は早急の用事でこの部屋を後にしたのだろう。

机や棚を一瞥してもどうやら自らの装備をメンテナンスする事は出来ても、修理するには道具が足りない事は明らかだった。

 

それもそうだ、この場に『血』の技術があってはならないのだから。

 

だが、この部屋の設備もそれはそれで興味をそそられるモノがある。壁に立てかけられた何かの設計図に、走り書きのメモ。

本棚に並べられた書籍の一つに手を伸ばそうとした瞬間だった。

 

「――おやおや、人が部屋を留守にしていたら思わぬお客さんが現れたもんだね。」

 

背後から投げ掛けられた言葉に、狩人はゆっくり振り返ると帽子の下で瞳を見開いた。

 

「……また、奇妙な夢だな。」

 

思わず自然とそう呟いた彼の言葉に視線の先で微笑みを浮かべ続けている貴婦人は組んでいた腕を解き、ゆっくりと彼へ足を進める。

 

「夢とは面白い表現をする、いやはや夢と形容するのも致し方ない。今や世界中にて絶世の美女として語り継がれるモナ・リザが目の前に居るのだから!!」

 

意気揚々、得意げにそう口にした美女は綺麗な顔に妖艶な笑みを浮かべ狩人の顔を下から覗き上げる。

何処かに興味を引かれているのか値踏みするような視線に彼は気にする様子もなく、視線の先の女性に視線を合わせて沈黙を貫いた。

 

「フフフ、そんなに見つめるなよ。流石の私も照れてしまうじゃないか。」

 

「…………サーヴァント、バーサーカー…。 ここは貴公の工房だろうか?」

 

おどけた女性の言葉に、仕切り直す様に小さく小首を振った狩人は部屋を見渡して向かい合っている彼女に視線を合わせた。

するとわざとらしく肩を竦めた女性は微笑んだまま口を開く。

 

「そうとも、ここは私ことレオナルド・ダ・ヴィンチの魔術工房さ!! あっ、私の事は気軽にダヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ。」

 

ほう、そう小さく呟いた狩人はかの有名な発明家にして画家、天才と崇められた自称『レオナルド・ダ・ヴィンチ』を目にして瞳を見開いた。

よもやこんな場所で過去の偉人に出会う事に成ろうとは思いもしなかったのだろう。

 

しかし、あまりにも口調が軽い。まさか男として伝えられていた人物が美女の姿でウインクしてくれば戸惑うのも無理はないだろう。

まるで人間のような反応をした自分に気づき自嘲するように小さく笑った狩人だった。

 

「さて、自己紹介も終わった事だしお茶でもと言いたい所だけど。状況が状況だ、さっきからロマニのコールが煩くてね。バーサーカー、君も当然関係する話だろうから一緒に行こうじゃないか。」

 

「分かった…。」

 

サーヴァントとして、狂戦士と自らを語った狩人に驚く様子も見せずに当然の様に彼を狂戦士と呼んだ目の前のダヴィンチ。

動揺なく、悠然と構え何か面白そうに笑みを絶やさない女性の底が見えなかった。同時にこの状況をいち早く理解し、冷静に判断できる人物だとも理解できた。

 

身体の奥底、何かしら特出した力を持っている人間はその身に独特の雰囲気を漂わせている。かつての狩人達の中にはそれを匂いとも呼んでいる者も居た。

視線の先で煌びやかな装飾の為された手甲を着けた手で取り回し難そうな杖を手にした、ダヴィンチからも勿論、匂い、雰囲気が溢れている。

 

包み隠さない余裕の表れというのだろうか、全身から漂うのは決して折れる事の無いであろう意思の強さ。彼を見ていた彼女の瞳には好奇心が滲んでいた。

そしてあふれ出ている神秘の力。人間ではなくなったが故に感じる事の出来るその力の大きさに狩人は小さく首を振って笑みを零した。

 

よもや(ミコラーシュ)を思い出したのは彼女の存在に何処かで察してしまったからかもしれないと。

しかし、彼女がかのレオナルド・ダ・ヴィンチだとするならば納得できてしまう。両者共に叡智を求めた人物であるのだから。

 

カツカツと軽快な音を鳴らし、明るく照らされた通路を歩く彼女の後ろに着いていく様に歩みを進める狩人は徐に懐に手を入れ何かを取り出した。

そして現れる使者の一人。彼の腕にしがみ付く事で服の中から姿を現した使者は古ぼけた青い用紙を彼に広げて見せた。

 

用紙を掴み上げ、一瞥した狩人は使者に用紙を渡すとゆっくり窓際に使者を降ろしレオナルドの後を追いかけていく。

やがて用紙を丸めた使者は灰色の泡をたて床の中に溶けていくように吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かの特異点、冬木での聖杯戦争は終結した、レフという異常を除き、やがてその世界は修正される。

その中で、一つの問題が顔を出した。それは所長、オルガマリー・アニムスフィアが死亡していたという事実だ。

 

ならばあの場にいた彼女は一体なんなのか、それは間もなくカルデアからの連絡により判明する。

所謂、魂だけの存在、思念の塊だと、現実、カルデアに帰還すれば憑代、帰る場所が存在しない彼女は消滅してしまうだろうと。

 

だが、修正が始まったこの世界に居ても消滅してしまうだろうと。

狩人の視界の中で泣き崩れ、行き場を無くし、覚悟もなく死を迎えようとしてる女性が彼の瞳には酷く哀しく映る。

 

『最初の頃』は自らもその死に怯えた身、致命傷を受け、血を垂れ流し、臓物を引きづり出され地面に這いつくばり、酷く寒く感じるあの感覚は我ながら精神に傷をつけた。

しかし目の前の彼女はそれを『夢』にできない存在、一度きりなのだ。

 

加えて、気が付けば死んでいたなど常人なら耐えられる事柄ではない。

 

―――――まぁ、最も狩人自身、啓蒙が足りない頃は見えない何かに掴まれて死んだ記憶もあるが。

 

だから、可能性があるのならば。

 

生きたいと願うのならば。

 

一抹の可能性に掛けるとしようじゃないか。

 

徐に、狩人は泣きじゃくるオルガマリーに歪な大鎌を振りかぶり、斬り裂いた

 

 

 

「ほうほう……成る程成る程…。興味深い力、いや宝具なのか、君の持つ武器も、実に、実に興味深い。時間をかけてじっくりと見せてもらいたいものだが今は我慢するとしよう。それで狂戦士――――」

 

―――その目論見の自信は如何ほどに?

 

そう微笑む視線の先の女性、ダヴィンチを前に狩人は静かに息を吸い込むと口を開いた。

 

「………偉大な先駆者の一人が作り上げた人形、その人形は俺達狩人の手助けとして言葉を話し、祈りを捧げ、力を貸してくれていた。」

 

「つまりそれは、その人形が魂を持っていたというのかい?」

 

「…どうであろうな……。しかし彼女は無機質な身体を理解し心を感じていたのだ、そんな彼女に魂の所在を問うなど無粋だろうよ。」

 

――――ならば

 

「魂が存在し、それを受け入れる器があるのなら出来ない道理も存在しない。」

 

懐に手を入れた狩人が取り出すは淡い光を明滅させる球体、椅子に座らせられたクラシックな等身大の人形に向け握力のみで砕く。

 

 

ガシャリ

 

 

ガラスが砕け散るような軽快な音が部屋いっぱいに響くと淡い光は行先を求める様に人形へと吸い込まれていく、神妙な面持ちでそれを見つめる主人、マシュ、ロマニ、ダヴィンチ。

カチカチと振り子時計が音を鳴らし、妙な静寂が部屋を支配した。

 

数分を持って人形の指先が独りでにピクリと動く、それを見据えた狩人はコート裏で静かに笑みを浮かべ掌に巻きつけた包帯を解き素手で人形の頭に触れた。

 

――――目を覚ましたまえよ

 

狩人が一度は終えた狩りの先に手に入れた上位者としての力、それを今人形の中で眠る魂に向かい行使する。

やがて静かに無機質な瞼が開き作り物の綺麗な瞳が部屋を見渡した。

 

満足気に息を漏らした狩人は包帯を再び巻きつけると壁に寄りかかり腕を組んで、この先起きる事に笑顔を浮かべるのだった。

 

「………ダヴィンチ、にロマニ……マシュと立花……? 私は……。」

 

この先を語るのも無粋だろう、だが言うなればそう。

 

少し位の希望もあって然るべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――西暦1431年 フランス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……素手か、手加減はしかねるぞ。」

 

「峰打ちです、バーサーカーさん!!」

 

「盾で峰打ちって……え?」

 

 

 

 

 

 

 

武装したフランス兵たちを前に、人理修復の旅は始まりを告げるのだった。

 

 






ダヴィンチちゃんとミコラーシュって相性どうなんでしょうね(遠い目)


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File05「王国」


お久しぶりです、シアンコインです。
遅くなりましたねぇ(開き直り)

やっと続き書けましたので、投稿します。
あと前話の最後の方で所長について書き加えておりますのでご覧ください。

どうしてもこの話には付け加えられなかったんじゃ、許して………(土下座)





 

 

 

 

 

「ば、化け物ぉぉぉ」

 

人理修復の為、歪んだ歴史を本来の姿を戻す為に最初の特異点、フランスに降り立った藤丸立香、マシュ・キリエライト、最後に狩人の三人は現地のフランス兵を相手に大立ち回りをする羽目になっていたのだが。

最後の一人がそう叫び悲鳴を上げる中、狩人は内心でその通り故に何も口に出来なかった。

 

その場に転がるのは鎧越しの狩人の拳打により沈むフランス兵の者たちと、マシュの得物の盾で盛大に吹き飛ばされた複数。

鎧に拳の跡がついている辺り相当の衝撃があったのは目に見えて分かる。

 

「………、さて、聞きたいことがある。」

 

何処からともなくごく普通の杖を持ち出した狩人は杖先で怯える兵士の顎を持ち上げ、怪しく紅く光る瞳で涙を流す瞳を見つめた。

 

「正直に、話せば何処へなりと消えると良い。」

 

「ひ、ひ……」

 

「貴公らは何故、我々を敵と呼んだのか。その様子を見るに何かから逃げてきたのか?」

 

「お、お、お前ら、知らないのか魔女の事を…」

 

「……魔女…いいや、知らないな。察するに我々を魔女の仲間だと思い攻撃したのだな。」

 

身体を震わせながら何度もそう頷いた兵士に狩人は満足のいく答えを得られたのか、そうかと言葉を切り上げ後はマシュと主人に任せる事とし。

周囲の警戒に意識を向けた。

 

魔女という言葉に心当たりがあった彼ではあるが、正直もう会いたくもないし、もしいたとすれば厄介この上ないので存在を感知すればさっさと始末するのが得策だろう。

無尽蔵に湧き続ける旨味の無い傀儡を相手にするのはもうこりごりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「匂うな………」

 

そう呟く狩人は焼け野原となった街の残骸の上、濃厚な血の匂いが充満する炎の街並みの瓦礫に足をかけ視線を彼方へ向ける。

視線は鋭く紅く躍動する、さぁ、姿を見せろ。狩りは終わらないのだ、人と言う獣が消えぬ限り、そう、終わらない、決して我ら狩人の業は終わらない。

 

しかし、真に獣が人の理を捻じ曲げるのならば、我らの狩場(世界)に足を足を踏み入れた時、その獣も我らが標的である。

戦慄しろ、咆哮を上げよ、生まれいずる憤怒を向けよ。それらを持たぬのならば逃げよ、失せよ、夜を終えよ。

 

我らが狩るのは血に酔い、夜に呑まれ、復讐を誓い、誇りを示し、狂気に溺れ、己の愚行を呪い、未だ死に絶える事の無い途方もない獣性。

そして我らに叡智を与え、呪いを刻み、呪いの血、啓蒙を与えた憐れで愚かな上位者(得物)達である。

 

狩人の背後から叫び声が聞こえた、それは危機を知らせる警鐘、しかし狩人の耳にそれは届かない。

コート裏で唇を歪め、杖を構え散弾銃を取り出した彼は一歩踏み出した瞬間に杖を横薙ぎに振るう。

 

して、当然の様に現れる白銀の槍。軽快な反発音と共に弾かれた両者の得物。踏み込まず退いた狩人が捉えるのは5人の人影。

中央、自らと向かい合う様に佇むはブロンズの髪に色白の長身の男、並び立つは仮面をつけたこれた色白の婦女、その背に見えるは物々しい鉄の棺桶だろうか。

 

羽根つき帽にブロンドの髪、中性的な面持ちの人物に、鉈を手にした白髪の男性、そしてその身に仄かな神秘を纏う杖を持った女性。

全員皆、その瞳に獣性を宿していると見える。唯一理性が残っているのは杖の女性だろうか。

 

未だ、制御が効く狩人の本性、彼は思考する。『これら』は人ではない。自らと同じ英霊なのだろう、使者や獣とは違う、熟練の狩人達と認識した方が正しい。

5人すべてが手練れならばこの場に置いて狩人に勝機は万に一つもない。いや、夢を繰り返せば不可能な限りではないが現状、夢に落ちて戻ってこれるか定かではないそれはできない。

 

3対1ならば可能性はまだ残っていたが如何せん、無理があるだろう。

 

「問おう、汝は何者だ。」

 

「狩人、貴様ら、獣性に呑まれた獣を屠る存在だ。そして今は―――狩りの時だ。」

 

取り出したのは武骨な斧、鈍く光る刃を正面に立つ男らに向け狩人は構える。

 

「余を、獣と呼ぶか無礼者。」

 

ブロンドの髪を揺らした貴族服の男は一歩踏み出すとやがて、その顔に怒りを浮かばせ男を起点に大地から無数の槍が飛び出した。

 

「ッ!?」

 

即座に狩人は飛び退くもその槍は際限なく地から生み出され、彼を貫かんと迫りゆく。

何度も飛びのき距離を置こうにも槍が生み出されるスピードが上をいき、次第に狩人は追いつめられる。

 

「ハァァァッ!!」

 

ならばと、彼は斧を両手に持ち替えると柄を捻るように上下に引き伸ばした。そしてソレを盛大に横降りに大きく振るう。

人の域を超えた膂力を持って、強靭な獣を叩き潰す為に鍛えられた獣狩りの斧を振るい槍を無造作に破壊する。

 

「ほう……!」

 

「ッ、アァッ!!」

 

更にもう一度、慣性に任せ強く回転しながらその刃先を視線の先の男に向け振りかぶる。この一撃で屠れる可能性は限りなく低い。

しかし狩人は至って冷静に目先の事を判断し相手の隙を作る事を選んだのだ。狩人自身、この状況に意識を呑み込まれず居られることに一抹の疑問を感じながらも逃げ道を探している。

 

後僅か、ブロンドの髪の男に斧が今にも届き得そうなその瞬間、狩人とその男の間を割って不気味な鉄の棺桶のような物体が出現し、獣狩りの斧は男に届く事なく弾かれる。

 

「!?」

 

息を呑み、本能的に不味いと察した彼はその場を退こうと大きく後ろへ飛ぶが―――

 

「逃がさない…」

 

「ガ…ァ…!!」

 

失念していた、相手は複数であると、自らの脇腹から白銀に光る細剣が顔を出し血が滴っている。

しかし今はそんな事に構っていられる状況ではない。下げていた視線を上げれば地から生えていた槍が一本、反応するより先に彼の右肩を穿つ。

 

「ッ!! ッ!!」

 

悲鳴にならない声を上げ悶絶する狩人、その様子に興醒めしたのだろうか、ブロンドの髪の男は浮かべていた笑みを消すと傍らにいた数人の人影を引き連れ彼に歩み寄る。

 

「少しは出来るかと期待したが、この程度か。愚者には相応しい姿とも言えるがな。」

 

「貴方の戦いの方がよっぽど獣でしたことよ。フフフ……。」

 

禍々しい雰囲気を纏い、狩人を見やる英霊達。ブロンドの髪の男はその手の槍を狩人に向け。

隣に佇む白髪のマスクを着けた貴婦人は杖を片手に不気味に笑う。背後から腹を貫かれ、正面からは肩を穿つ槍により身動きが出来ない狩人は荒く息を吐き呼吸を繰り返していた。

 

「………血だ…」

 

「何…?」

 

「まだ……残っている!!」

 

しかし、その目はまだ赤く躍動している。

 

声高らかに、手にした斧を男に向け投げ捨てた狩人は鋭角な棘が無数についた棒状の何かを取り出し。

 

間髪入れずにその刃先を自らの腹に、文字通り、突き刺した。

 

「ッ!!」

 

当然、狩人の背からはその棘が勢いよく飛び出し背後に居た金髪の人物に迫る。

間一髪の所でそれを避け、顔を向けた先で見たのはその腹から引きづり出された棒状の何かが、血に濡れ、元の大きさよりを悠に越え血濡れた鈍器に成り替わった姿だった。

 

「此奴、何という武器を…!!」

 

驚愕する男を尻目に狩人はその鈍器、瀉血の槌を大いに振るい辺りの英霊らを退ける、飛び散る鮮血を尻目に狩人は空いた片方の手を懐に忍ばせ、二つの異物を取り出した。

他の連中が横やりを入れる前に狩人は手にした、黒い獣の手の様な物を握りしめると全身に力を溜める様に一瞬蹲る。

 

そして―――

 

「――――xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx!!」

 

言葉ではない咆哮、耳にすれば竦むような重圧な方向が狩人の喉から響き、圧となり周囲の瓦礫諸共、英霊等を吹き飛ばす。

ブロンドの髪の男が反応するよりも早く、再び狩人はその手に白い光を帯びた骨を握りしめる。

 

すると、まるで砂の塊だったかのように残影を残し狩人はその場から消え去った。

 

「ッ……、血を、流し過ぎたか……。」

 

自らの血が滴る瀉血の槌を片手に、物陰で膝を着いた狩人は槌を元の状態に戻すと注射器を取り出し、手慣れた手つきで太ももに突き刺し重い腰に力を入れて立ち上がった。

いい加減、主人の元に戻らなければ心配するか追って来るだろう。

 

聖女、ジャンヌダルクとマシュを置いて一人索敵だと飛び出した彼は追手が来る前にこの場を離脱する為に走り出した。

鋭く研ぎ澄まされた警戒心に、唐突に何かが触れる。それはまるで休日の午後に意気揚々と散歩に出かけるような、そんな朗らかな雰囲気を交え、彼の領域までに踏み込んだ。

 

追手の登場だとマスクの裏で笑みを深めるも狩人が対面したのは、それとはまるで違う存在であった。

 

「―――――血塗れね、それに追われてもいる。さぁお乗りになって、狩人さん。」

 

ガラスの様に透き通った馬の乗って現れた麗しき乙女がその場に現れた。

 

 

 

 

 

「………分かった?」

 

「……………、あぁ。」

 

輝く馬に乗っていた乙女、かのフランスの妃、マリー・アントワネットに助けられた狩人は偶然鉢合わせたのか彼女の仲間であるアマデウス・モーツァルトと共に狩人が戻るのを待っていたようで。

帰った途端に普段は優しい立花が据わった瞳で狩人に説教を垂れていた。

 

何分、団体行動にはなれていない彼からすれば難しい事でもあるが主人が戒めている以上、勝手な事は出来ないようだ。

 

「あらあら、まるで旦那様に怒る奥様の様ね。立花。」

 

そんな様子を火を囲みながら隣で見ていたマリーは面白そうに微笑んで、そう口にする。立花はその言葉に何を慌てているのか即座に否定して顔を赤う染めるも。

狩人は何処吹く風で闇夜に瞳を向けると、物思いに耽った。夫婦、そんなもの狩りの中では望む事の叶わない夢物語。暖かい家庭で病魔も無く、獣も無く、平穏に『血』などまるで関係ない世界など望めるはずがなかった。

 

それほどまでに混沌と、死と恐怖、狂気にヤーナムは濡れていたのだから。

拭えど拭えど消える事の無いあの夜に狩人は、どこかあの街を、世界を求めているのかと我ながら馬鹿らしいと笑い。息を零した。

 

隣ではマシュに立花、マリーにジャンヌ・ダルクと賑やかに乙女達が言葉を交わし。

視線を戻した彼はそんな光景を瞳に焼き付けた。もう、こんなに平穏で、静かで優しいものなど見れるとは思いもしなかったからだ。

 

「君は音楽を嗜むのかな、バーサーカー。」

 

いつしか赤い瞳に宿っていた呪いの炎は消え失せ、和やかに会話を聞いて居た彼に唐突にブロンドの髪の男、アマデウスが笑いかけながら彼に問いかける。

アマデウス・モーツァルト。誰もが一度は耳にするであろう歴史に名を遺した音楽の天才、そんな彼の言葉に狩人は考える素振りを見せ、一度頷いた。

 

「だが、俺の生涯は音楽とは無縁だった……。礼拝堂にいけど、教会に立ち寄れど、誰も楽器など弾けなかったからな……。」

 

記憶の根底を掬えば音楽を聞いて居たのかもしれない、しかしそれは最早自分ではないのだから聞いて居ないのと同義であろう。

 

「つまり嫌いじゃないと、そういう訳だね?」

 

「あぁ、出来れば貴公の音楽を聞かせてほしい。貴公の名は俺の耳に届くほどに偉大だったからな。」

 

「それはそれは、お誉めに預かり光栄だな。そうだね、この旅でピアノでも見つかれば是非演奏させてもらうとするよ、リクエストには答えたいからね。」

 

本心からの笑みだろうか、無邪気に微笑んだアマデウスを前に狩人は是非に、と一言付け加えて頭を下げる。

殺す事しか出来ない自分にとって、暴力以外で人を鎮め、世界に名を残した人物に敬意を払わない理由などない、そして凍りついていた彼の感情が少し動いたという事でもあったのだから。

 

 

 

 

 

 

「この空を、どう思いますか?」

 

立花にマシュ寝静まり、睡眠の必要がないサーヴァントである狩人は彼女達を守るように暖を取っていたマリー達に任せ、狩人は少し離れた草原の上で夜空、そしてその中央に居座る大きく、黒い穴に瞳を向けていた。

するとそんな彼の背後から穏やかな声音が彼に問いかける、背後の人物、聖女、ジャンヌダルクを一瞥した彼は再びその夜空に目を向けると小さく唸った。

 

「……………瞳のようだ。」

 

「瞳、ですか。」

 

「空に丸く描かれた光の輪、そしてその中はまさしく漆黒。俺は、瞳に見えた。」

 

狩人の言葉にジャンヌは成る程と、呟くと同じく空を見上げ口を開いた。

 

「良きマスターですね、彼女は。感情豊かで、優しい……女の子です。」

 

憂う素振りで瞳を細めたジャンヌの様子に空から視線を降ろし、隣を見れば彼女の顔は何処か悲し気にも見えた。

自らの境遇に重ねて立花を見た故の反応だろう。国の為、皆の為に立ち上がったオルレアンの乙女。自らの人生を引き換えに祖国を救わんとしたその姿は紛れもなく英雄そのものだ。

 

立ち上るべくして自ら立ち上がった、覚悟の元に。

しかし彼女はどうであろうか、偶然とはいえ数十人いるメンバーの中で唯一生き残り、焼却された世界を救わなければいけないという使命を押し付けられた少女。

 

境遇は似ていようが過程が違う、そんな彼女を想い。この聖女はそんな現実を憂いているのだろう。

狩人も、似たようなものだ。

 

気が付けば夢の中に居た、生き残りたければ押し付けられた使命。青き血を求め、夜を終わらせるためにと狩りを強いられたのだ。

逃げ場など何処にもない。何処までも追いかけてくる死と、恐怖に呑まれた先で狂い、おかしくなり、文字通り死に絶えた。

 

悲惨だ、取り繕う必要もない程に凄惨な世界に居た。

頼る相手もおらず、あるのは血濡れた鋸と己の拳だけだったのだ。

 

「……恐怖に怯え、動けずに死を待つのは誰にでも出来よう。 だが彼女は前に踏み出す事を選んだのだ、それは賞賛されるべき選択。決して悲劇の少女ではないさ、そうならない為に、俺達が呼ばれたのだろう………」

 

低い声音で空を見上げながら紡いだ言葉に、ジャンヌは同意するように頷くとまた口を開いた。

 

「気難しい方かと思いましたが、確かな意志を持つ御仁ですね。お話で来てよかった、それでは先に戻りますね」

 

夜に咲く向日葵のように綺麗な笑顔を咲かせた聖女は足早にその場を去っていく。

再び一人になった狩人は、帽子を脱ぎ人知れず夜風に身を晒したのだった。

 

 

 

 

 

 






唐突ですが、次回で一応、一区切りとさせていただきます。

申し訳ありませんが、このまま書けずに放置するよりも物語として一幕を降ろそうかと思っております。

それでは、また。



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