魔女と怪異と心の穴───もしくは一ノ瀬巽の怪異譚─── (タキオンのモルモット)
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番外編
ハロウィン特別番外編────没ネタとキャラ毎のヤンデレSSの説明────


俺はぼっちハロウィンなのでいつもの様に眠るだけ!!




巽「と、いうわけで皆さんおはこんばんちわ、主人公で、今回のみ作者代理の一ノ瀬巽です」

 

和奏「今作のメインヒロイン、仮屋和奏です!!」

 

めぐる「どうせ全√書くと作者が言っていたので別にメインヒロインじゃなくてもいいや、出番あるし。因幡めぐるです!!」

 

紬「この作品では圧倒的サブヒロイン······でも私が初登場した話が一話目を除いてUA一番多いからそれで満足、椎葉紬です」

 

柊史「原作主人公、保科柊史です!!」

 

寧々「その恋人の綾地寧々です」

 

秀明「作者が『海道主人公の番外編何時か書こうかな······』とか言っててテンション上がってる海道秀明です!!」

 

七緒「攻略不可のサブキャラからヒロイン候補に昇格してる相馬七緒だ。」

 

憧子「ヒロインから外されて出番がない戸隠憧子です······な、なんで私だけ······」

 

巽「作者曰く『憧子√やる前にパソコンぶっ壊れてサノバ出来なくなって共通√の憧子しかわからないから書くの無理』だそうです」

 

憧子「(´;ω;`)ソンナ~……」

 

和奏「ていうか作者何したのさ?」

 

巽「曰く、『ポケモンで絶対零度三連続ヒットの逆転負けくらって頭きて机叩いたら机の上のパソコンにも被害が出て壊れた』らしい。」

 

一同「本当に何してんだよ作者!!」

 

 

────ごめんなさい(´;ω;`)────

 

 

 

 

 

 

 

 

巽「······さて、ハロウィンということで、何かしらハロウィンネタやろうとしたら本編でもう終わってるから突発的に始めたこの企画!!」

 

紬「先ずは······ヒロインが出てくる予定だった没ネタ集······だよね?」

 

巽「うん、実は紬はもっと出番がある予定だったんだ······が、話に合わないという理由でカットされた。そのシーンがあるので、先ずはそれから流していこう。どうぞ!!」

 

 

 

椎葉紬の場合────

 

 

 

 

とある日の夕方。一ノ瀬巽は浮き足立ちながら廊下を歩いていた。

 

昨日、メールで好きなアーティストのライブチケットが当たって有頂天である彼は後ろからつけられている事に気づかなかった────。

 

 

 

椎葉紬は、一ノ瀬巽の心の欠片が回収できる状態にあるのを確認し、魔装する。この時だけ着ることの出来る女の子らしい可愛い服────に、不釣り合いなハンマー。

 

そのハンマーで、一ノ瀬巽を殴らなければ心の欠片は回収できないのだ。

 

(······ごめんね、一ノ瀬君!!)

 

一度殴らなければならない罪悪感を背負いながら、椎葉紬はそのハンマーを振り下ろし────

 

それに間一髪で気づいた一ノ瀬巽はかなり本気で後ろ回し蹴りを放った。

 

そしてそれは────振り下ろしたハンマーに直撃する。

 

鈍い音が鳴り響いた────その衝撃で椎葉紬は後ろに飛ばされる。

 

幸運な事に、身体には何一つダメージは無かった。

 

が、一ノ瀬巽がそのままにする訳がなく、追撃が来る。

 

何とか紙一重で避ける椎葉紬は必死で声を上げる。

 

「ま、待って一ノ瀬君!!わ、私だよぉ!!」

 

必死の弁解、しかし────

 

「あ?少なくともてめえみたいな格好したロングヘアーのやつは知らないんだが?」

 

────そうだった、私魔女服だった!!!?いやそれでも声で気づくでしょ普通!!

 

「全く────知り合いを装い命を狙いに来るとは······いい度胸してるじゃないか······!!」

 

(こ、っ、殺されるううううううう!?)

 

この後────綾地寧々と保科柊史が現れるまで必死の逃走劇は終わらなかった。

 

 

 

 

 

紬「私こんな酷い目に会う予定だったの!?」

 

巽「因みにボツにした理由だが────『主人公の追撃をやり過ごせる時点でおかしい』という理由だ。この時点で紬、お前は魔女ということがバレるという設定だったのだが······如何せん主人公強く書きすぎてな······実は魔女だから、って理由で強くしてもよかったんだ。実際綾地寧々の銃弾を打ち返していたし······ただそれだとバトル漫画になる······という理由でこれもボツになった。」

 

紬「······因みに······ヒロインの好感度下がりそうだからって理由もあったりする?」

 

巽「いや、そこは微塵も考えてなかったらしい。······まあ、そこにも後々気づいたわけだが······兎に角、こんな理由だ。」

 

紬「······ええー······あ、あともう一つ気になるんだけど······なんで一ノ瀬君は意識していない限り見えない魔女の事が見えるの?」

 

巽「······その辺は紬√で明らかになるらしい。明らかになるのは強さの秘密とかだな。」

 

紬「そ、そうなんだ······と、取り敢えずこれで終わり?」

 

巽「うむ、という訳で共通√紬没話でした!!」

 

 

 

因幡めぐるの場合────

 

 

 

 

めぐる「······で、次は私ですか······」

 

巽「まあ、お前の場合物語の方には何も関係ない没話······というか没設定だが。」

 

めぐる「······その時点ですごく不安なんですけど······」

 

巽「······それではどうぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部室に到着すると、目の前でウロウロしている明るい髪の女子がいた。

 

「······何してるんだ?そんな所で······」

 

「わひゃあっ!?······あ、一ノ瀬センパイ!?」

 

────はて、

 

「え、誰なのお前」

 

「ちょっ、わ、私の事忘れたんで······ゴホッゴホッ!!」

 

声をちょっと上げた途端咳き込むほどの身体の弱さ────まさか······

 

「······お前、因幡か?」

 

「そ、そうですよ!!か、髪の毛変えたくらいでわからなくなりますか普通!!」

 

んな事言われましても······

 

「雰囲気とか完全に違ったからなぁ······病弱なのは相変わらずのようだが······」

 

「······しょうがないじゃないですかぁ·····生まれつきなんですから······」

 

そんな無駄口を叩きながら思い出す。中学時代の日々。

 

地獄のゴールデンウィークとなった、中二の出来事を。

 

 

 

 

 

巽「つまり、原作で言う『ちーちゃん』不在というシナリオだね。」

 

めぐる「どうしてそうなったんですか!?あれ一応私の√には欠かせない人間関係ですよね!?」

 

巽「どうせ没なんだからいいじゃん······因みに没理由はただ単純。プロット書いてる時にアイディアでなくなって心折れたから。」

 

めぐる「え、なんですかその理由······」

 

巽「······実は俺の没設定も関わってくるんだが······最初俺の設定が『怪異に家族を殺され、怪異を憎むようになり特務科に協力する高校生』という設定でまだこの時は小説家という設定がなかったんだ。」

 

めぐる「······?それと何の関係が?」

 

巽「その後の展開として、めぐる√の場合、めぐるの難病を治すために医者になるという話だったんだが······何年もキンクリしなきゃいけないし学園系ラブコメに入る作品なのに明らかにアフターの方が話長くて本編になったし······」

 

めぐる「······もうその時点で訳がわからないんですけど······」

 

巽「因みにこの時に『ちーちゃんも難病にかかっていて同じ病室にめぐると入院、芽生える友情、しかしその後、同じタイミングで容態が急変する。その病気の手術が出来るほどの腕を持つのは主人公だけ······めぐるは友情のためにちーちゃんを治してと懇願し、主人公は大切な人のお願いを聞き入れるか、聞き入れず大切な人を助けるか······』みたいなノリをやろうとしたらしいんだけど······ネタが尽きたらしい。書けなかった。」

 

めぐる「重っ!!話重っ!!」

 

巽「だからやめたんだとさ······まあ、ただでさえめぐる√は原作よりも重くなってるからそれ以上に重い√を書くのは嫌だとかなんとか······」

 

めぐる「······なんで私だけこんなにくっそ重いんですかね······?」

 

巽「ま、没案ですから······という訳でめぐる没設定でした!!」

 

 

 

 

海道秀明の場合────

 

 

 

 

秀明「え、俺のがあるの!?」

 

巽「実は······まあこれも設定に近いんだけどね?それでは海道秀明没案!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────最近、何かが俺のことを絶えず見ている気がする

 

そんな確信を海道秀明は持っていた。

 

つい最近、自身の父親が突如単身赴任で遠くへ行ってしまった辺りからだろうか······どこで何をしていても、何かがつきまとっている感じがしてしょうがなかった。

 

「こんな時に一ノ瀬は行方不明だし······なんて間の悪い······」

 

こんな時に頼れる唯一の人間は行方不明。どうしようもなかったので、仕方なく、そのまま日々を過ごすことにした。

 

────まさかこの後、あんな大事件に自身が巻き込まれるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

秀明「······これなんて√?」

 

巽「丁度今共通√······怪異症候群2のシナリオの時に海道の家族が操られて日本崩壊の危機────みたいなのをやる予定だったらしい。没理由は『新たなキャラを増やすのがめんどくさかった』だそうだ。」

 

秀明「ちょっと待て理由!!理由酷くね!?」

 

巽「この話が本当に書かれたら海道主役級へ昇格してたんだわ、主に推理パートでな。」

 

秀明「ウソダドンドコドーン!!」

 

巽「プロット見たらほぼお前が主役でマジびびったわ······という訳で、共通√没案、名探偵海道秀明√でした!!」

 

秀明「今からでも遅くねえ!!本編に加えろおおおおおおお!!」

 

巽「······作者曰く読者に見たいという声があったら考えるだそうだ······ま、頑張れwww」

 

 

 

戸隠憧子の場合────

 

 

 

 

 

憧子「え!?私のただでさえ出番少なかったのに没案あったの!?嘘でしょ!?」

 

巽「実はあるんだよなぁこれが······それではどうぞ。共通√、憧子の絡み没案です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん!!このままだとオカ研廃部になっちゃう!!」

 

開口一番、頭を下げながら戸隠憧子はそう言った。

 

────どういう事だ。と保科柊史は思考を巡らせる。

 

この後世世界では一ノ瀬巽というイレギュラーがいる。そのせい────いや、そのお陰でオカルト研究部は文化祭で出し物をするという実績を作った。前世世界ではそれが足りなかったが故に起きたイベントであって、今世世界であるのはおかしい筈だ。

 

現に────

 

「······どういうことか説明しろ戸隠、実績があるから後は部員だけ────と言ったのはお前だった筈だが?」

 

普段、目上の人間には必ず敬語を使う一ノ瀬が、敬語を使うのを忘れるほどにキレている。前世世界と同じ条件だったのは確認できた。

 

「そ、そうなんだけど······が、学生の一部から文句が出ちゃって······」

 

「······何処の?」

 

「ぶ、文芸同好会と写真同好会が口を揃えて······『一ノ瀬巽の功績は文芸同好会寄りの事と写真同好会のやっている事とほぼ同列。オカルトと付けば何をしても許されると思ってるんじゃないのか。そんな奴らに何故部室があって俺達に部室がないんだ』って······」

 

そう戸隠先輩が言うと、一ノ瀬は忌々しげに大きく舌打ちをする。

 

「あいつら······そこまで俺が文芸同好会入りを断ったこと根に持ってるのか······完全な八つ当たりじゃねえか······うざっ」

 

「え、そんな事があったのか?」

 

「ああ······あいつらは純文学系の小説を書こうとしている奴らだった······だが俺はホラー小説以外の物を書くつもりは無いと断った瞬間罵詈雑言をくらったよ。以来そいつらとは関わってないんだが······今になってイチャモンつけてくるとは······そういや写真同好会の会長って確か文芸同好会の会長と兄弟だったな······」

 

「······つまりあれですか?兄が弟を丸め込んで一ノ瀬センパイに八つ当たりしようとしてるってことですか?」

 

「······まあ、写真同好会の連中も俺に恨み持ってるんだろうけどな······コトリバコの事件以降に送られてきた心霊写真の中に写真同好会の奴らが持ってきたヤツあったんだが······出来の酷い偽物だったな。······自分の撮ってきた心霊写真を偽物と見破られたのが悔しかった、とかそんな理由じゃねえの?」

 

「結局八つ当たりじゃないですか、しかも相当タチの悪い!!」

 

────まあ、それは置いておいて────

 

「まあ、こっちで手を打って······ハロウィンパーティーの手伝いをして欲し────」

 

「その必要は無い。」

 

────は?

 

全員が一ノ瀬の方を振り向く。その顔は憤怒の顔に染まっていた。

 

「俺がアイツらが二度とこんなこと出来なくなるくらい······徹底的にあいつらの立場をぶっ潰してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巽「と、こんな具合に生徒会を巻き込んだ大バトルに発展する予定だった。ちなみに没理由は『ハロウィンパーティーに主人公関わらせないってのは流石に······』という理由だ。」

 

憧子「え、そうだったの?」

 

巽「うん、遠目から紬とめぐるの隣で見てるだけという設定にしようとしたみたい。まあ、後の理由としては······」

 

憧子「······は?」

 

巽「最初の通り、『パソコン壊れたから』なんだよなぁ······それまでは一応ヒロイン候補だったんだぜ?だがそれにより無理になって······結果として七緒さんがサブヒロインに昇格したんだよね。」

 

憧子「そ、そんなぁ······(´;ω;`)」

 

巽「と、言うわけで、戸隠憧子さんの没設定、没ストーリーでした!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巽「ハロウィン企画第二弾!!ヒロインのヤンデレ祭りー!!」

 

一同「どうしてそうなった!!」

 

巽「······いやあ、この小説にヤンデレタグあるじゃん······でもこれストーリーに出てくるとあるキャラ(ほぼほぼモブ)と紬のかなり弱めなレベルのヤンデレくらいしか無くてね?······あまりにも勿体ないから······じゃあ番外編でやれば良くね?と。」

 

和奏「······にしたってさぁ、普通こういうのって纏めずに一話一話投稿するものじゃないの?」

 

巽「ん?それは勿論そうする予定だよ?だからここでは説明かな?────まず今日中に因幡めぐる、椎葉紬、仮屋和奏、相馬七緒の四人書き上げます。この時点でキツイ。」

 

寧々&憧子「私達は!?」

 

巽「読者様から『書いてください!!お願いします!!』みたいな要望があったら書くよ?という訳で四人には台本を渡しておくね······で、まあ注意事項だけど、固有名詞────つまり名前が出てきません。読者様の名前を当てはめて脳内変換してください。君とか言わないキャラがいるからねぇ······その辺の違和感は自分で処理してくださいとしか言えねえ。」

 

和奏「······ああ、納得。私とか基本誰でも苗字だしね。」

 

巽「その点因幡は楽でいいよ、センパイだからね。めっちゃ楽ちん。」

 

めぐる「す、素直に喜べない······」

 

巽「あ、後読者様から要望があれば色んなキャラのヤンデレSSを書くのも良いかも?······流石に別作品、例えば千恋*万花とかは別に小説作らなきゃならんけど······ヤンデレ海道とかヤンデレ柊史とかヤンデレ久島先生とか······需要は無いだろうけどネ!」

 

秀明「······確かに、男のヤンデレは需要ないよなぁ······というか俺公式設定でドMってなってるのにヤンデレとか······想像出来んわ。」

 

巽「······世の中にはドMなんてまだマシなレベルの変態がいるんだよ海道······覚えておけ······」

 

秀明「何があったのか聞きたいけど怖くて聞けねえ!!」

 

七緒「······というか、私のヤンデレも需要あるのか?」

 

巽「······七緒さんはT〇itterで人気あったよ?」

 

七緒「なん…だと…」

 

巽「ま、そんな訳でして、後で四人分あげます!!以上、次回本編の更新をお楽しみに!!

 

 

 

あ、それと皆さん────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Happy Halloween!!」

 

 

 

 

 

 

 




という訳でヤンデレ四連発やります!!


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ヤンデレ短編────椎葉紬の場合────

紬ママああああああああああああああああ!!


 

「あ、やっと起きたんだね!!」

 

目が覚めると、見知った部屋だが、自室ではない部屋のベッドで拘束されていた。

 

声のした方向を向くと自分の恋人である椎葉紬が笑顔でこちらを見ていた。

 

「ん?ここは何処、って?ここは私の家の私の部屋だよ······結構な頻度で来てるのに忘れちゃったの?」

 

忘れてるわけがない。が、この状況は全くもってわからない。そう言うと、彼女は「なるほど。」と言ってポンと手を叩く。そして、こう繋いだ。

 

「だって────ここなら他の雌豚から君を隔離できるから」

 

────今なんて言った?

 

理解出来なかった、普段なら彼女から絶対に出ない言葉が出たのだ。無理もない。

 

雌豚、確かにそう言った。

 

「君、最近ラブレター、貰ったでしょ?」

 

確かに、貰った。それは事実だ。だが、自分には紬が居た。だから断った。しっかりと断ったのだ。

 

「うん、君が私を裏切るなんて微塵も思ってないよ。ちゃんと君から愛してもらってるっていう実感を君は毎日私にくれるから······君を疑ったりはしてないよ?ただ······我慢出来ないの!!」

 

驚いた。彼女はあまり大声を出して怒ったりはしない。なのに今日は、今まで聞いたことないレベルの大声だった。それに────目の焦点が合っていない。黒く黒く、濁った目をしている。

 

「君は私のなのに────君は私だけのものなのに!!馴れ馴れしく近づいて!!手を握って!!発情期のウサギみたいな目で君を見て!!擦り寄って!!私から君を盗ろうとして!!」

 

後半に若干盛られたであろう単語が聞こえた気がするが特に指摘せずに黙って聞くことにした。

 

「だから······隔離することにしたの、こうすれば私以外の女の子は近づけない、近寄らせない。アカギもお母さんも誰一人として近づけさせない!!大丈夫、君のお世話は私が全部してあげる。食事も着替えも用意してあるしトイレだって私が連れていけば何の問題もないし────性欲だって処理できるし······」

 

最後だけやたらと声が小さくなった。自分の発言に照れているようだ。しかし、直ぐにハイライトの無い、暗い目でこう言う。

 

「だから安心して、何も問題は無いよ。私がぜーんぶしてあげるから、ね?」

 

確かになにも問題は無いんだろう。きっと俺が働けないとか言うと『私が働くから』といって封殺される未来が見える。それくらいの覚悟はあるだろう。

 

だが、パソコンやソシャゲが出来ないというのは地獄だ。100%『そんなのより私を見て』とか言われるだろう。さてどうしたものか────

 

と、考えた時。とあることに気づいた。

 

────だが紬、これだとお前とデートが出来ないしお前を抱き締めることもできないのだが。

 

そう伝えると、顔を真っ赤にして照れながら暫し考えているようだ。

 

五分くらいだろうか、はっ、として顔を上げた彼女は足と手の拘束を解いてくれた。わかってくれたようで何よりだ。

 

────計画通り

 

礼を言って抱き締めて頭を撫でる。

 

「あっ······えへへ······あったかい······」

 

さっきまでの表情から一転し、ふにゃふにゃと表情が砕ける様子が非常に可愛くて何よ────

 

ガシャン!!

 

······ガシャン?

 

音がしたのは左の手。

 

目だけを動かして左を見ると、紬の右手と繋がっていた。

 

「これなら······問題ないよね?勿論、授業中とかは外すけど······登下校、昼休み、休日のデート、家の中、こうやって、手錠で繋げばいいよね?これなら君も動けるし、私を抱き締められるでしょ?」

 

 

どうやら彼女の方が一枚上手だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、本当にデートする時や登下校の時に手錠を付けながら歩いているのを生徒指導の先生に目撃されて、説教をくらうのは別の話。

 

 





ヤンデレでも圧倒的癒し────!!


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ヤンデレ短編────因幡めぐるの場合────


センパイだから書きやすくて助かるぜ


 

「センパ〜イ、明日の休み何処かへ行きませんか?その後お泊まりしましょう!!めぐるの家、明日から親がいないんで♪」

 

金曜日の放課後、彼女である因幡めぐるからそんな提案をされたので二つ返事で了承した。

 

「やったー!!ふふっ、遅刻厳禁ですよ?セーンパイ?」

 

────そう言ってこの前のデートで遅刻した挙句超上から目線で「出迎えご苦労」と言ってきたのは誰だっけ。

 

「いや、あれはジョーダンですってば!!それに許してくれたじゃないですか!!」

 

いや、まあ本気で怒るわけが無いのだが。

 

凄いおまいう案件だったから突っ込んだだけで。他意は無い。

 

「な、何も言い返せない······ッ!!」

 

そう言って蹲るめぐるを放置し、とっとと帰るぞ、と言葉をかける。

 

「あっ、待ってくださいよセンパーイ!!」

 

大声をあげながらめぐるは、その背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。特に早く出たわけでもないし、何かあったわけでもないけれど、十五分ほど早く来てしまったので珈琲を飲みながらめぐるを待っていると────

 

「あれ?どうしてこんな所に君が?」

 

オカルト研究部の椎葉紬に声をかけられた。どうもオカルト研究部がめぐるの後押しをしていたらしく、たまにだが、自分を見たら話しかけてくるのだ。

 

めぐるを待っていると伝えると、彼女は笑顔で

 

「うん、仲が良好なようで何より!!」

 

と、心底そう思っているような顔で言ってきた。

 

いやまぁ、彼女達からしたら凄く苦労した事がちゃんと成功しているという安堵からの言葉なのだろうけれど。それは彼女達のせいだ。自分のせいじゃない。

 

そう思っていたら────どうやら口に出ていたらしい。心底呆れた様子で彼女は口を開いた。

 

「そりゃ告白の返事が『ドッキリか何かですか?』って言われて、焦っている間にこっちの協力が全面的に裏目に出てたのを指摘されて危うく大変な事になってたからね······」

 

いや、あれだけ露骨だと疑うのは当たり前だ。最初なんの接点もないめぐるからいきなり校舎裏で寝てたところを強襲されて「モン猟りやりませんか!?」って言われただけでもかなり驚いたのに。露骨に保科が好きなものとか聞いてきた挙句、君達が周りを嗅ぎ回ってたらそりゃそうなるわ。九割······いや、全ての人間がドッキリを疑うだろ。集団でハメに来てんのかと思った。

 

ちなみにその時、めぐるが泣いて弁明して本気だとわかったので受け入れた。────これは蛇足だが、その後オカルト研究部の連中に「そこまで協力してやらずに全部因幡にやらせたら疑わなかったのに」と言っておいた。遠回しに第三者があまり関わるなと言ったのだが、どうやら身内だからやった感があり、反省もしてたのでもう特に何も言わない。

 

「うん、あの時の事は本当に反省してる······流石に干渉しすぎたよね······あはは······」

 

うん、まあそんな話は止めておこう。

 

「そっかそっか、ちゃんとお付き合い続いてるんだね」

 

そこからはただの世間話が続く。

 

それから数分くらいだろうか、椎葉紬が自分の後ろを見て、ニヤニヤし始めた。

 

「ほら、愛しの彼女さんがこっちに向かってきてるよ?」

 

どうやらめぐるが来たらしい。時計を見ると待ち合わせの五分前だ。

 

────ドサッ

 

と、なにか音がした。振り返るとめぐるが自分の荷物を落として呆然としている。

 

「······セン······パイ······、な、なんで椎葉センパイと······」

 

「······へ?」

 

「な、なんで······なんで······嘘だ······嘘······嘘だ······」

 

虚ろな目をして泣き始めた。

 

ただごとではない、そう判断し、めぐるに問いかける

 

前に、こちらに向かって抱き着いてきた。

 

 

 

「センパイ、嫌だ嫌だ······すてないでください······な、何でもしますから······!!センパイの言う事なんでも聞きますから!!ダメな所があったら直しますから!!わ、私をすてないで······!!」

 

泣きながら懇願するその目はどこまでも暗く濁っていた。

 

取り敢えず、慰める。

 

棄てたりしないと、何回も言い聞かせる。落ち着かせる。

 

 

数分後、落ち着いためぐるに話を聞くと、どうも自分と椎葉が抱き合ってたように見えたらしい。それで自分が棄てられたと、勘違いしたようだ。

 

その後、めぐるが赤面して蹲ったのは言うまでもないだろう。

 

その後は、普通にデートを楽しんだ。

 

 

 

────だが、その日からだろうか?

 

日に日にめぐるはおかしくなっていった。

 

今までは休み時間の度に自分の教室に来るなんてことは無かったのに来るようになったし、クラスメイト······特に女子と話しているところを見られた後の休み時間は人気のない所に呼び出され、「棄てないで」との懇願。行為の時も、自身の体力の限界を迎えてもまだ求めてきたり。

 

 

まるで、依存しているような────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「センパイ、私はセンパイの事が大好きです。愛してます。もう離れたくありません。」

 

そう、もう大切な人と離れるなんて嫌だ。

 

親友が突然いなくなったとき、私は心にポッカリと穴が空いた気がした。

 

────そして、それ以上の喪失感を、あの日、味わいそうになった。

 

センパイも居なくなったら────そう考えるだけで吐き気がする。棄てられないか不安で不安でしょうがない。そんな気持ちが、私の心を蝕んでゆく。

 

「センパイ······私はセンパイの為なら何でもします、悪い所があれば直します、常にセンパイにとって『1番』の女になります。ペットになれというならペットになりましょう。奴隷になれと言うならなりましょう。なんでも、なんでもしますから────」

 

 

 

 

 

どうか、私を棄てないでくださいね?センパイ?

 





んー、難しい······これはヤンデレ······だよね?


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ヤンデレ短編────仮屋和奏の場合────


先に言っておきます。キャラ崩壊注意(今更)


 

最近、仮屋の様子がおかしい。

 

いや、別に挙動不審とかそういう話じゃなくて。よくモノをくれる······主に食べ物とか、ジュースをくれるようになった。

 

本人曰く「最近、料理にハマってて······男子の意見も欲しくてさー?でも保科は綾地さんが作ってきてくれてるし海道は味音痴で信用出来ないから」らしい。

 

まあ、美味いし食費が浮くので本当に助かっているのだが。だが────

 

「今日も美味しかった?それは良かった!!明日は何が食べたい?」

 

わざわざリクエストまで受け入れてくれるとは、サービス過多な気もするけど。

 

唐揚げが食べたいと素直に言うと、仮屋は笑顔で頷いて

 

「わかった、それじゃあ明日も楽しみにしててね!!」

 

と、受け入れてくれる。唐揚げもう今週入って三回目のリクエストだけどな。

 

 

 

 

 

「······なあなあ、和奏ちゃんってさぁ······お前の事好きなんじゃないの?」

 

唐突に海道がアホな発言をした。

 

何言ってるんだ、ンなわけねえだろ。そう返す。本心からそう思う。

 

「わざわざ弁当毎日作ってきてくれてるんだぜ······?」

 

いや、前々から普通にモノ分けてくれるし、根拠としては薄いだろう。そう返す。

 

実際入学して、一年の頃から一緒のクラスだが、毎日何かしらくれたので、特に不思議に思わない。

 

「お前······オカズ一品分けてくれるのと弁当作ってきてくれるのは違うだろ······?」

 

そうは言っても、仮屋が作ってくれるのはオカズだけだ。だから何が違うのかわからん。ちょっと量が増えたくらいだ。

 

何より弁当作ってきてくれるようになったのは本当に────大体三週間くらい前の話である。その時から弁当作り······というより料理にハマったらしいのでまだ飽きてないというだけなのではないだろうか?

 

「······三週間前?そういやお前告られてなかったか?」

 

そう言えば────確かに告られた。

 

ふったけど。

 

「勿体ない······別にあの娘顔もスタイルも悪くなかったじゃないか」

 

知らない人間からいきなり告られても困るだけなのだが。というかなにか裏があるとしか思えん。

 

心の底からそう思う。いや、本当に知らない奴だったし────そういや1年だったなあの娘。大方罰ゲームか何かでテキトーな先輩に告白しろ、とでも言われたのだろう。可哀想だなぁ······。

 

────思えば仮屋が食べ物だけではなくジュースをくれるようになったのもその時からだ。

 

······いや、何の関係もないだろう。

 

そう自己完結して、俺はケータイを起動してソシャゲをやり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······まさか、告白されるとは思って無かったな······」

 

そう言って仮屋和奏は自身の家の台所で呟く。

 

「断ってくれたからセーフとはいえ······そろそろ行動に移そうかな。······っと、できたできた♪」

 

そこに鎮座していたのは唐揚げ。リクエスト通りの品。

 

そこに仮屋和奏は怪しげな液体をふりかける。

 

「······さて、効果は抜群ぽいし······ふふっ、楽しみだなぁ······もうすぐ私だけのものになるんだ······」

 

あの日、告白された現場をたまたま目撃してしまった時、物凄く焦った。それはもう焦った。まさか彼に手を出してくる雌がいるとは思わなかった。

 

だから、計画を練った。

 

弁当に、中毒性のある媚薬を混ぜて食べさせた。

 

この媚薬の最大の特徴────それはセットで使わないと効果が無いということ。

 

Aの媚薬の効果を発動させるにはBの媚薬も混ぜないといけない。しかし効果は絶大、と書いてあった。

 

必ず両方同時に使用すること、と書いてある。理由はもう一つある。それはAの媚薬だけを摂取し続けると身体に残る、という性質。

 

Aだけを摂取すると少しづつ体内に蓄積し続けるのだ。

 

そんな身体にBを摂取させたらどうなるか?

 

答えは今まで蓄積させた分の効果が一斉に出る、という事だ。

 

被検体────というよりそれを試してみた秋田さん曰く「7時間くらいずっと犯られっぱなしだった」そうだ。

 

これを次の休みあたりに家に招待したときにBを盛った料理を食べさせて、襲わせて既成事実を作る。

 

少し罪悪感があるし────あっちから告白してきてくれたら嬉しいな、と思う部分もあるが、もうなりふり構っていられない。

 

犯された後に、優しい言葉を投げかけて、赦し、付き合う。完璧な作戦だ。

 

アイツは優しいから犯した責任を取って────ずっと私のそばに居てくれるだろう。

 

「────でも、その前に、あの雌は処分しないとなー······あくまで念のためだけど、殺っておいて損は無いよね♪」

 

その瞳は何よりも暗く染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

後日、一人の一年生が姿を消した。

 

 





ヤンデレとは何かわからなくなってきました(白目)


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ヤンデレ短編────相馬七緒の場合────


疲れた······(白目)

······これもヤンデレだよね?


 

最近、猫を拾った。

 

なかなか賢くて可愛い雌猫だ。

 

親に相談したら普通に許可を貰えたので、そのまま家で飼うことになった。

 

 

名前は、何故だかわからないけど、一番しっくりきた『ナナオ』という名前にした。これから宜しくな、ナナオ。

 

自分がそう言うと、彼女は俺の言葉を理解したかのように「にゃあ」と鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナオは午後からふらりと出かけて夕方頃ふらりと帰ってくる。そんな生活を繰り返している以外は普通の猫だった。

 

まあ、猫というのは気まぐれな生き物だ。ふらふらと出かけることくらい普通だろう。ちゃんと帰ってきてくれるなら何の問題もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナオを拾ってから一月程経っただろうか。

最近、運が良くなってきた気がする。と言っても宝くじが当たったとかそういう訳じゃなく。ただ単に無くしたものをナナオが何故か探し出してくれたのだ。

 

賢い猫だ────そう思いながらわしゃわしゃと撫でてやる。

 

ナナオは嬉しそうに鳴いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心にきた。なんのことは無い、ただイジメが始まっただけだ。殴られたりされるのは前からあったし特になんの心配もない。ただ、耐えればいいだけだ。何も反応しなかったら「つまんねえ」と言って帰る、そんな連中だ。

 

耐えればいい────耐えれば────

 

 

 

 

 

 

その夜夢を見た。自分の部屋に薄桃色の髪の毛の美女が全裸で立っている夢だ。どうやら自分は欲求不満のようだ。

 

その女性は自分のところへ近づき、布団に潜り込んでくる。

 

そして、そのまま抱きつかれ────頭を撫でられた。

 

「······可哀想に、あんなに殴られて······大丈夫な訳が無いだろう······安心しろ、私が癒してやる······私がどうにかしてやるから────今は私に身を預けるといい。」

 

何故かその女の体温や肌触り全てが夢じゃないような、そんな感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────アイツらは全員始末してやるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんな淫夢を見た次の日の朝。俺を殴りつけてきた不良グループの三人が登校途中、交通事故で亡くなったそうだ。

 

何かタイミングが恐ろしい程にいい気がして怖くなったが、辛い思いをしないならそれでもいいか、と思い流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの淫夢を見てから六ヶ月、大学受験のシーズンになった。俺はひたすら勉強に打ち込む毎日だ。

 

ナナオを膝の上に乗せて勉強していると何故か捗る。からここ最近は家でずっと一緒にいる。

 

そしてもう一つ────

 

 

 

あの淫夢がさらに激しくなった。具体的に言うと搾られる。そんなに欲求不満なのだろうか、週二、三くらいのペースで見るようになった。

 

あの薄桃色髪の女性は、一体誰なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

────もう少しで、人間になれる────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一志望校に合格した日の夜、夢を見た。

 

そこには薄桃色の髪の女性が、いつも通り、全裸で添い寝してきた。

 

だが、彼女はいつもの様に自分を搾り取るわけでもなく。抱き着き、耳元でこう囁いた。

 

 

「────君に聞きたい、君は私の事が好きかい?」

 

この時、俺はどうせ夢だと思って、しかし、心の底から思った事を伝えた。

 

────好きだ、と。

 

夢でしかあったことが無いけれど、辛い時に慰めてくれて、話を聞いてくれた、そんな人が嫌いな訳あるもんか。

 

そう言うと彼女は満足そうに頷いてこう言った。

 

「その答えを聞いて安心したよ······大丈夫、もうすぐ会えるから······」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日から、飼い猫のナナオは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の第一志望校となった大学には所謂「コミュニケーション能力を高める」ためのプログラムがあるらしく、それでクラス分けされていた。

 

たった週1時間だけにしか顔を合わさないクラス。ただそれだけ。上辺だけの関係で終わる、そう思ってた、その中に────

 

 

あの薄桃色の髪の美女が、目の前に立っていた。

 

彼女はこちらを見ると、何処か暗い目でこう言った。

 

「────やっと会えたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、私は昔から君を知っているんだけど······しかし、ダメじゃあないか、ちゃんと辛いなら辛いと言いなさい。夢の中で悩みを吐き出すのもいいけどね?しかし······いじめの標的に君が選ばれるとは思ってなかったよ······少しやりすぎてしまったかもしれないけど······ま、それは愛ゆえという事で────っと、自己紹介がまだだったね」

 

 

「私の名前は『ナナオ』。『相馬七緒』だ。」

 

 

────これから末永く宜しく頼むよ?





間に合ったああああああああ!!

あっぶねえまじあぶねえ!!セーフ!!

という訳でいかがだったでしょうかハロウィン特別企画ヤンデレ四本立ては!!書いてて楽しかったけどこれヤンデレかなぁって思うのがいくつかあったよ私は!!あっはははははは!!(深夜テンション)

それでは次は本編で


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番外編 正月ハイテンション

Q.なんでこんなに遅れた?
A.テスト、レポート、ボックスガチャ、高難易度イベント

和奏「ギルティ」

ハイゴメンナサイ

あ、今回番外編ということで主人公が既に和奏とくっついていますが気にしないで下さい。和奏の出番ほぼ無いんで。

和奏「………………は?」

さーて本編行くぞー

和奏「ちょ、まt」


 

1

 

「……暇だ……」

 

海道秀明は暇していた。

 

1/1日。午前11:00元旦に家で独りぼっちで居ることほど悲しいことはないだろう。

 

別に死別したとかそんなんじゃない。両親が昨日からデスマで帰ってきてないだけである。

 

年末年始デスマとかどんなブラック企業なんだろうか。絶対にコネがあっても入りたくない。

 

しかし、本当に独りというのは淋しいものだ。と痛感する。普段通りの正月ならほぼ暇している柊史や巽と新年早々カラオケ行ったり初詣行ったり鍋囲んでいたりするのだが、二人に彼女が出来てから誘うことも躊躇うようになってしまった。ぶっちゃけた話をすると羨ましすぎて殴りたくなるだけなのだが。

 

「……ゲーセン行くか……」

 

もうこうなったら一人を満喫するしか無い。そう決めた海道秀明は外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ理論値ィ!!」

「ちょ、センパイマジですか!?」

「マジかよ一ノ瀬すげえな!!」

 

 

 

 

「いやなんでお前らここに居るんだよ」

 

 

駅前近くのゲーセン。音ゲーコーナーに一ノ瀬巽、因幡めぐる、保科柊史の三人が揃って同じゲームをしていた。

 

「あ、海道先輩、ちゃろーです」

 

「あ、うん、ちゃろー……で、お前ら二人は何してんの?浮気か?」

 

「因幡にコミケでパシられて買わされた物を届けに来たんだけど待ち合わせ場所がここだった。」

 

「親父が新年早々飲み会行って酔い潰れたから暇だったからゲーセンで遊んでたらこの二人が来た。」

 

「てっきり彼女と過ごしているのかと思っていたよリア充」

 

いや、綾地さんは多分家族と過ごしているんだろうが。

 

「巽が何で一人でここに居るのかが解せねえよ。確かお前と和奏ちゃんが当てた福引きで和奏ちゃんの両親は今日まで旅行なんだろ?和奏ちゃん放っておいて何してんだお前は」

 

「ああ、和奏だったら今日は起きれないだろうな……」

 

「お前まさかヤってたのかっ!!リア充め!!」

 

「いや……」

 

即座に首を振って否定して、巽はこう呟いた。

 

「奴にコミケは早かったようだ……泥のように寝てたから寝かせておいてやったよ。」

 

「あっ(察し)」

 

「ま、起きたとしても筋肉痛で動けんだろうな……」

 

「それ尚更放置するのはどうかと思うんだが……」

 

「ダメですよ海道先輩。ここは心を鬼にして放置しないと。それを乗り越えて初めてスタートラインに立てるんですから!!」

 

「……まあ、帰りに湿布を買ってやるくらいのことはしてやらないとな……俺は筋肉痛とは無縁の身体してるから家に湿布どころか救急箱すら無いし」

 

「結局、一人で買い物行く結末は変わらなかったと言いたいのか……まあ別に俺には関係ないから良いけどさぁ……」

 

なんだろう。カップルだけど何かズレてるような。

 

「まあいいや、折角四人になったんだ何かゲームやろうぜゲーム。」

 

「なら湾岸やりますか?」

 

「うわ、ガチ勢二人に勝てる気がしない……」

 

「……ま、良いんじゃねえのこんなのも……」

 

少なくとも一人よりは遥かにましだ。

 

そう思って、海道秀明はそのまま三人について行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

「……なぁ、海道」

 

「……なんだ?」

 

「いや、お前本当にあの人を……?」

 

「……悪いか?」

 

「いや、早く貰ってやれよ、と思いまして。」

 

そんな俺達の視線の先には────

 

「おるぁあ!!死ねやああああああっ!!」

 

我らが担任教師にして海道秀明の思い人、久島佳苗が絶叫しながらガンシューティングで遊んでいた。

 

それも、ガッチガチのゾンビもの。

 

絶叫しながら、新年早々。

 

「……海道先輩、選べる立場じゃないのは解ってますけどそこまで悲観しなくても……」

 

「酷いな因幡さん!?俺にも佳苗ちゃんにも!!」

 

「まあ、傍目から見れば『あんな大人にはなりたくないランキング』上位に入る行動だから因幡の言っていることも解らなくはない。」

 

「ふぅー……ゾンビものはいい、カップルは基本死ぬってところが実に良い……!!」

 

「……にしても、久島先生ってあそこまでヤバい先生だったか……?」

 

「保科、下を見てみろ、お酒の空き缶がいっぱい入った袋があるじゃろ?」

 

「あっ……(察し)」

 

まあ、あれだ、文章にすると『新年早々自棄酒してリア充に対する恨みをぶちまけながらガンシューティングゲームやってる可哀想なおばさん』ということだ。

 

そんな俺達の視線を感じ取ったのか、突然、ぐりん!!と後ろを振り向いてきた。

 

怖い、怖すぎる。具体的には貞◯より怖い。

 

「あん……?お前らぁ……何見てんだこのリア充がっ!!」

 

「あの人酔いすぎだろ!!」

 

「まずいな、このままだと久島先生捕まって週刊誌載るぞ……?」

 

「呑気にそんなこと言ってる場合ですかセンパイ!!こっち来ますよ!!」

 

「……しゃーない、南無三!!」

 

そう言った次の瞬間、一ノ瀬巽の拳が久島佳苗の顎先を掠めた。

 

三人は手加減したあまり外したのか、と思ったが顎先を拳が掠めた瞬間、久島佳苗は前のめりに倒れた。

 

「……脳を揺らして気絶させただけだ、死にはしない。海道。担げ、取り敢えず近くの公園で介抱するぞ」

 

「「「アッハイ」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

そんなこんなで、現在。海道秀明は思い人を公園で膝枕するという美味しいシチュエーションを味わっている訳なのだが。

 

何故かしっくりこない。ていうか逆が良かった。

 

何より時たまに「うえっ……」とか言うのが心臓に悪い。

 

因みに残り三人は酔い止めだとかその辺を買いに行ってしまい、現在二人きりである。

 

そして僅か五分で久島佳苗は目を覚ました。

 

「……ん……わ、私は一体……!?か、海道!?」

 

「ちょ、佳苗ちゃん、いきなり飛び起きたr」

 

ゴツッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……い、家を出てからの記憶が無い……何で私は新年早々生徒に公園で介抱されてるんだ……?」

 

まさか酔って生徒に絡んだところを返り討ちにされました、とは口が裂けても言えず、テキトーに「その辺で酔い潰れていたから」と誤魔化す。

 

「……新年早々何してるんだ私は……」

 

「なんか寝言でリア充死ねとか言ってましたけど何かあったんですか?」

 

そう言うと久島先生は苦虫を噛み潰したような顔をし、顔を手で覆い、項垂れ、呪詛のような言葉を吐き始めた。

 

「……いや、ホントさぁ……婚活始めたは良いものの何回も失敗して……遂にスタッフに顔を覚えられたんだ……『早くいい人見つかると良いですね』って……そいつの手には指輪ついてるけどな……クソッタレ……」

 

失言だった。先生がダークサイドに落ちてしまった。

 

「だ、大丈夫ですよ!!まだ若いですし俺は先生のこと好きですよ!!」

 

「そんなこと言って保科とか一ノ瀬みたいにいつの間にか彼女作るんだるぉ!?どいつもこいつも私より先にやることやりやがって!!この歳でまだ処女だぞ私は!!糞が!!」

 

「落ち着いて、落ち着いて自分の言動をどうにかして振り返って!!相当ヤバいこと言ってる自覚を取り戻して!?」

 

二人きりというシチュエーションにつられた俺が馬鹿だった、と思いながら必死に宥めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

さて、他三人、因幡めぐる、一ノ瀬巽、保科柊史は……

 

「まさか保科が帰るとは……」

 

「寧々先輩がまさかあそこまで大胆だなんて……」

 

先程、近くの神社に初詣に来ていた綾地一家と遭遇、哀れ保科は彼女の願いを無下に出来ず、食事へ連れて行かれた。

 

「あの流れはあれですよね、『娘さんを僕に下さい』ってやつですよね」

 

「どーだか、綾地も綾地で割と問題のある性格だからな逆だったりして」

 

まあ、そんな事はどうでも良い。

 

「……で、偶には海道も報われるべきだと思ってわざと遠回りしてる訳だが、余計なお節介というやつなのかなこれは。」

 

「珍しいですね、センパイがこんなことするなんて」

 

「……まあ、色々世話になっちまったからな、少しくらい恩は返すさ」

 

「……本当に変わりましたねーセンパイ。前のセンパイだったらこんなことせずに割って入っておちょくるような人だったのに」

 

「はっはっは、因幡、喧嘩なら買うぞ?」

 

「売ってませんから……しかし、良いんですかね?」

 

「何が?教師と生徒の恋愛の話?」

 

まあ、確かに。倫理的にはダメとされているけども。

 

「いや、それに関しては問題ないんじゃないですかね?これが教師が男で生徒が女だったら純愛じゃ無い限り大惨事ですけど、教師が女で生徒が男で純愛ならいいんじゃないですかね?」

 

「ま、芸能界なんてロリコンで叩かれてもおかしくない年の差婚あるしな。」

 

「私が懸念しているのはですね、彼女持ちの男と二人きりで歩いてることですよ。」

 

「……ふむ、確かにクラスメイトと会ったらとんでもない事にはなりそうだね。」

 

第三者から見たらただの浮気現場だよなこれ。

 

「まあ、大丈夫じゃないか?普通に和奏差し置いてお前とクラスでモン猟することは珍しくないし」

 

「……今更ですけど普通おかしいですよね!?なんで彼女差し置いて私とやってるんですか!?彼女とやりましょうよ!!」

 

「あー、今度プレゼントに買ってやるかモン猟……」

 

「え、仮屋先輩持ってないんですか?」

 

「ほぼギターに全部使ったんだろうな、デートするときは全部俺が出してるんだが、申しわけなさ六割、羨ましさ四割で俺の財布を見てくるときがある。」

 

というか、「これぐらいは私が出すから……」って言ってるのを制して出してるだけなんだけどね。……いや、流石に女に支払いさせるわけにも……ねえ?

 

「その考え方は色々間違ってると思いますが……まあ、それはともかくセンパイの財布の中身見たら誰だってそうなりますよ……てかセンパイ本当におかしいくらい稼いでますよね……一般的に作家だけで生きていくのは厳しい筈なんですけど。」

 

「いやほら、存在自体頭おかしいからね俺は。」

 

「んー、納得できない……ですけどまあ、考えたらきりが無いので置いておきましょう、それよりもです。この光景、本人に見られたら不味くないですか?」

 

ケータイを弄りながら、因幡はそう発言する。が、しかしだ。

 

「まず見つかるわけ無いだろ、あいつ俺の買い物に初日と二日目歩き回って、三日目に関しては俺のブースで売り子を四時間くらいさせてたんだぞ?疲れて泥のように眠ってたから昼くらいまでは起きないって」

 

「……確か完売しましたよね、関東怪奇探偵団シリーズの短すぎて短編集にも載らなかった短編集でしたっけ?」

 

「うん、出しても良いって許可貰ったからね。」

 

「……何部刷ったのかは聴かないでおきます。で、センパイはそれで疲れて寝てるから見つかるわけ無いと?」

 

「初参戦であれだけ動いたんだ、そりゃ寝るさ。」

 

「そうですか。ところでセンパイ。ケータイどうしてます?」

 

「ん?あー、そういやマナーモードにして……た……」

 

 

仮屋和奏 不在着信 988

 

 

「………………」

 

「………………」

 

ヴーッヴーッヴーッヴーッ

 

「……仮屋先輩からですよ?大丈夫ですかセンパイ?」

 

「大丈夫じゃない、問題だ。……でも出なきゃもっと大問題だよなぁ……もしもし?」

 

『……ねえ、巽、私今ね────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「貴方の後ろに居るの」』

 

「ひっ!?」

 

耳元で、ゼロ距離で、いつの間にか接近していた和奏に囁かれて、思わず声が出てしまった。

 

「ねえ、巽。何で私は新年早々彼氏が浮気しているところを見せられなきゃならないのかな?かな?」

 

「いや、待て、落ちつけ和奏、浮気は誤解だ。俺はただ因幡に頼まれたものを渡しに行っただけ────」

 

「ふぅん……?まあいいや、ぶっちゃけ因幡さんに話聞いてたから解ってたんだけどね」

 

「ヲイ」

 

「……でも許すかは別問題だから」

 

うん、どうやら相当ご立腹の様子だ、自業自得だけれども。

 

「全く……なんでこんな面白いことに誘ってくれないのさー!!」

 

「あ、そっちなの?」

 

「そりゃ彼女を差し置いて常日頃から後輩女子と仲よく遊んでる彼氏に思うところが何もないわけじゃないけどさ」

 

「マジでゴメンナサイ」

 

「私達が恋仲になった途端に散々からかいまくった海道が先生に恋してるんでしょ?拡散待ったなしですわー」

 

「うわあ、すげえ恨みのオーラが見える……!!」

 

そんなに根に持ってたのか。確かにうざかったけども。

 

「で?どうなってるの?ねぇねぇ、どうなってるの?巽の事だから逐一把握できるように海道に盗聴器くらい付けてるんでしょ?」

 

「そんな事はしてないさ、ただサブのケータイを海道の上着に仕込んでLI◯E通話で拾ってるだけだよ」

 

「立派に盗聴してるじゃないですかセンパイ……」

 

はっはっは、ナンノコトカナー?

 

「待ってろ、今スピーカーに……」

 

『……海道……すまん、私は……もう我慢できない』

 

「「「…………はぁ!?」」」

 

いきなりの展開に思考が少し停止した。が、直ぐに頭を落ち着かせる。

 

『ちょ、ま、マジで……!?』

 

「……マジかよ!?マジかよ!?」

 

「公園戻りましょう!!楽しいことになってますよきっと!!」

 

「急げ、急いで海道を脅してしばらくパシリにするんだ……!!」

 

「だから和奏はなんでそんなダークサイドに落ちちゃったんだよ何があったんだよ後で教えろよ!!」

 

軽口を叩きつつ、公園まで走る。

 

そして公園の入り口に辿り着き───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   「オロロロロロロロロロロロロロロロロ」

 

「ぎゃー!!ストップ!!こっちじゃなくてトイレに行ってくださいお願い後生だからお願いします!!」

 

 

「「「し っ て た」」」

 

 

こうして海道秀明は新年早々、思い人のゲ◯を受け止めるという……ドMの海道なら喜びそうな体験をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───オマケ、その後の巽と和奏───

 

「で、この鎖は何でしょうか和奏さん?」

 

「いや、言ったじゃん?許すかは別問題だからって。」

 

「うん、そうだね……で、なんで手錠?」

 

「いや、冬休みってまだまだいっぱいあるじゃん?」

 

「そうだね」

 

「流石に他の女に会うなって言うのは無理じゃん?」

 

「そりゃ俺の担当さんが女だからね。」

 

「だから他の女に目移りしないように……誘惑に屈したとしても勃たないレベルまで搾ろうかなぁって?」

 

「何さらっと恐ろしいこと言ってるんですかね!?ちょ、ま────────」

 

 

 

 

 

 

 

 





和奏「いや流石に遅すぎるでしょ、もう一月終わるよ?」

いや、ホント御免なさい。単位が……単位ががががが……

紬「……進級大丈夫なのか不安なんだけど」

大丈夫じゃない問題かもしれない

めぐる「死亡フラグじゃないですか……いや……逆に大丈夫なのかな?」

次はもっと早めになるように前向きに検討もとい健闘するから許してください(白目)



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CHAPTER:0 綾地寧々の憂鬱
綾地寧々の憂鬱 その一


リハビリ兼ねて番外編⋯⋯


 

 

0

 

私が柊史君の存在を入学式で確認して、次にやった事は環境作りだった。

 

これ以上未来を大きく変えないように、前世と同じ環境を目指し、努力すること。それが私のやらなくてはいけないことだった。

 

入学当初のオカルト研究部は黒魔術を主に三年生が遊びのように偶に来る程度の部活だった。新入部員は私以外居ない、存在自体が幽霊のような部活だった筈だ────なのに。

 

 

「凄いな今年新入部員が二人も来たぞ!!あ、二人とも自己紹介ヨロシク!!」

 

「一年B組綾地寧々です、よ、よろしくお願いします⋯⋯」

 

「一年A組一ノ瀬巽です。仕事で多々来れない日があるかもしれませんがよろしくお願いします。」

 

────どうしてこうなった!!?

 

 

1

一ノ瀬巽。中学二年でデビューを果たした、稀代の天才ホラー小説家。

 

確かに前世にも居たが、彼はどの部活にも属さず普通の高校生として生活していた筈だ。────実は前世の学院でまことしやかに「一ノ瀬巽はあの人気小説家だ」という噂が流れていたのだが。それは関係ないので置いておこう。

 

なのに何だ、何だこれは。

 

前世界では新入部員は私一人だけだった筈なのに⋯⋯

 

私が思考の海に浸っていると先輩方が自己紹介を始めた。

 

「私は三年C組の九鬼焔(くきほむら)。ここの部長だよ!!」

 

「僕は三年D組の山崎奏(やまざきかなで)。一応副部長だ」

 

「⋯⋯三年D組、園原黎(そのはられい)。よろしく。」

 

「ふむ、快活元気ポニテ娘に金髪セミロングのボクっ娘、無口なクーデレって中々キャラ濃いですね。」

 

「あはは、面白いこと言うね!!」

 

どうやら一ノ瀬巽はもう馴染んだようで、先輩方と談笑している。特に山崎先輩はサインをねだっているようだ。

 

だがそんな事を考えている暇などなく、私の頭はただ混乱するばかりであった。

 

 

 

2

それから二ヶ月すぎて六月になった。

その間は特に何事も無かった。元々柊史君と自分が出会ったのは二年の時。何かして歴史を変えてしまうのはいけない、と考えると遠目から柊史君を見ることと、前世でやっていた相談くらいしかやる事が無かった。

 

因みに相談はこの部活では今のところやっていない。前世でも三年引退後に始めた事だしそれは問題ない。

 

なので、部活は受験勉強をやりつつ、お喋りくらいしかやることが無いのだが────

 

「⋯⋯⋯⋯山崎先輩、どうしました?顔色悪いですよ?」

 

「え?あ、ああ⋯⋯大丈夫だ⋯⋯」

 

「⋯⋯の割には数学得意な山崎先輩にしてはとんでもないケアレスミスしてますよ、ここの式代入するのはこっちの方では?」

 

「────あ。」

 

「え、ちょっと待って一ノ瀬君なんで三年生の問題わかるの」

 

「少し休みましょうや、なんなら珈琲入れましょうか?」

 

「⋯⋯ああ、頼む⋯⋯」

 

「ねえ、ちょっと、無視?無視なの?」

 

九鬼先輩の言葉を無視して珈琲を入れるのを横目に私は山崎先輩に「何かあったなら相談くらいなら乗りますよ」と持ちかける。というのもこれは前世にもあった流れなのだ。確か彼女は妹との関係が上手くいかなくて悩んでいたはずだ。

とはいえ少しのすれ違い程度。すぐに片付いた問題だった。比較的簡単に前世で心の欠片を回収させてもらった。

今世で心の欠片は回収出来ないし、必要ないのだが、これ以上前世と違うことをすれば何が起きるか判ったものではない。だから私は前世と同じ言葉をかけた。

 

 

 

「⋯⋯実は、妹が一週間前から家にひきこもってしまったんだ⋯⋯」

 

「────え?」

 

だが、口から出てきた悩みは前世とは比べ物にならないくらい重い内容だった。

 

「────ほう、なぜ引きこもってしまったので?」

 

「それが解らなくてな⋯⋯酷く怯えている事くらいしか⋯⋯」

 

「⋯⋯へぇ⋯⋯」

 

その言葉を聞いた瞬間、一ノ瀬巽の顔は面白いものを見つけたような顔になったが、そんな事はもうどうでもよかった。

 

────どうして、ここまで変わってるの?

 

両親の離婚を先延ばしにしてしまった事がこんな所にまで、影響が出ているのだろうか?

 

まるで、前世と同じ道を歩めると思うなよ、と世界に言われたかのような衝撃を受ける。

 

そんな綾地寧々を横目に、一ノ瀬巽は質問を重ねる。

 

「山崎先輩の妹さんはどちらの学校で?」

 

「私立菊川学院だ、そこの二年生なんだが⋯⋯」

 

「私立菊川学院⋯⋯部活は?」

 

「?バレー部だが⋯⋯それがどうかしたのか?」

 

「⋯⋯成程、部活間じゃないとすると⋯⋯あー、先輩。ちょっと調べてくるんでこれ明日に持ち越しで良いですかね?」

 

「へ?あ、ああ⋯⋯」

 

そう言って一ノ瀬巽は部室を駆け足で後にした。

 

「私立菊川学院⋯⋯二週間前に自殺者出てなかった⋯⋯?それが友達だった⋯⋯とか。」

 

「確かに自殺者は出て大いに問題になった⋯⋯だが、それは妹となんの接点も無かったはずだ」

 

「う、うーん⋯⋯原因不明すぎる⋯⋯」

 

そのまま三人が考察し始めたが、私の頭の中に周りの言葉は入ってこなかった。

 

結局、翌日が休みだから、皆で説得しに行ってみようという話になり、この日はその場で解散した。

 

 




~オリキャラ紹介~

九鬼焔
快活元気ポニテ娘。お前本当にオカルト研究会か?ってくらいリア充オーラを出している。仲間思い

山崎奏
金髪セミロングのボクっ娘。実は主人公の好みドストライクはこの辺。まぁ主人公にそんな感情があればの話だけど。

園原黎
無口なクーデレ。黒髪ロング。三年組の中で一番頭がいい。しかし猫を見ると猫語が出るタイプ。


一ノ瀬君への質問コーナー▽

Q.仮面ライダージオウについて一言

A.「ライダーって書いてあるのに気づくのに一時間かかった⋯⋯平成も終わりかぁ⋯⋯」

Q.ちっぱいと巨乳どっちが好き?

A.「正直どっちでもいい」

Q.どんな人と結婚したい?

A.「簡単にコントロールできる人かな、要するにちょろい人」



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共通ルート
設定※ネタバレ注意



今更感

と言ってもオリ主とクロスによって設定が変わった人たちのみですがね


 

一ノ瀬 巽(いちのせ たつみ)

誕生日12/12日。

身長175cm体重60kg。

オカルト研究部副部長。

まるで何処ぞの吸血鬼モドキの高校生の様なアホ毛が特徴。やや女顔。

全国模試1位。

趣味:アニメ鑑賞やゲーム。そして心霊スポット巡り。

 

日本で最も有名なホラー小説家で万能の天才。できないことは無いと噂されている。現在一人暮らしで事故物件に住んでいる。今の家族とは仲が悪いらしい。小説家デビューは中二。その時に初めて怪異に遭遇し、真正面からぶん殴り解決。以来、特務課からスカウトを受けている。人の事をあまり信用していない。好きな仮面ライダーは鎧武とフォーゼ。

 

仮屋和奏

 

原作のサブヒロインもしかしたら今回のメインヒロイン。巽とは小学校時代途中まで一緒だった。しかし巽が転校し仮屋自身も転校したため行方が分からなかったが高校でまさかの再会。今のところヒロイン力が一番高い。

 

因幡めぐる

 

原作よりも人間関係で酷い目にあっている後輩。中二の時に巽に助けられ色々な影響(主にゲーム関連)を受けた。時折一緒にオンラインでFPSなどもやっている模様。巽曰く「モン猟は優秀なサポート、FPSはキル厨」

 

椎葉紬

 

天使。唯一全く巽と接点が無い。が、ありとあらゆるものを受け入れる天使の如き精神で巽から『癒し要員』の称号を貰った。なお、菊川市S区に住んでいる模様。あ・・・(察し

 

相馬七緒

 

アルプと言われている本作では怪異寄りの突然変異生命体(ってことになってる)。猫のアルプで物凄く顔が広く情報網は烏にも負けてない。巽の望む情報を与える代わりに人間とはどういう生き物なのかを講義してもらっている。面白い話を聞くという体で。尚、巽のせいで仮面ライダーにはまった模様。好きなライダーは電王と剣。

 

氷室等

 

怪異症候群2の主人公で菊川署の刑事。特務課という怪異専門の部署に勤めている。また特務課で唯一巽と仲がいいため、常に上から『どうにかして引き入れろ』と言われ続ける日々のせいで胃薬を常備している。

 

加賀剛

 

怪異症候群より、オカルトジャーナリスト。若干空気が読めなかったりするものの根はいい人。氷室の友達らしい。

 

霧崎翔太

 

怪異の専門家で大学の教授。メガネ。謎の技術力を持っている。

 

神代由佳

 

ひとりかくれんぼ起こした張本人。

 

姫野美琴

 

怪異症候群の主人公。寧々の隣のクラス。色々な怪異に巻き込まれる『怪異症候群』の中心。

 

綾地寧々

 

柊史が寧々ルートをクリアした後の存在。過去とあまりにも違いすぎる為混乱している。因みに柊史に記憶が戻るまでのいざこざはたまたま夏休み中に人混みでぶつかった際、過去から持ってきた欠片が柊史に反応して元に戻ったから二学期始まってもいざこざは無かった。

 

保科柊史

 

サノバウィッチの主人公。過去世界の記憶が戻り平和な日々を送る────筈だった。五感で人の心がある程度読める。

 

海道秀明

 

無駄に洞察力が鋭くなったサブキャラ。この後ヤバイ位の働きを見せる。

 

 





ざっとこんなもん?


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邂逅とコトリバコ 前編

また書いてしまった······

奇妙勢「ふざけんなこっち書け!!」
IS「こっちも止まってるぞ!!」
デュラ勢「はよ(ノシ 'ω')ノシ バンバン」

夏休み唐突にこんなの思いついちゃって勢いで投稿しました、反省はしてるけど後悔はしてない······紬ママ天使。めぐるまじ可愛い。和奏まじ可愛い。


とある学院のオカルト研究部にはとある噂があった。

 

曰く、『何か悩みがあるならば綾地寧々に頼めばいい、そして何かヤバイ事────特に常識で測れないような出来事があったらもう1人の男に相談しろ』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1

9月。始業式から数日後。とある男女が他人に聞かれていたら訳の分からないであろう会話をしていた。

 

「えっと······前のセカイと違う?」

 

「はい、そうなんです······」

 

綾地寧々と保科柊史の2名である。

 

言っておくが、彼等が中二病ということは全くない。

 

ただ一つ補足説明をすれば、原作で言うならこの時期は綾地寧々がタイムループした後で保科柊史に思いを告げられることが出来てフラグが立った後の話であることをここに付け加えておく。

 

そこまでの過程は概ね原作通りに進んで何の問題もない、筈だった。

 

「つまり、俺がオカルト研究部に入ってしまえばもう廃部の話が一時的に無くなるのかな?」

 

「いや、まあそうなんですけど······」

 

ただ単に、魔女だった頃の彼女の感覚というか、気になることがあるのだとか。

 

「兎に角、来てくれればわかると思います······同じクラスですし、今更揉め事とかは起きないでしょう。何だかんだ言って彼と仲いいじゃないですか。」

 

「いや、まあそうなんだけどさ······」

 

保科柊史にはとある能力がある。それは人の感情を味覚で受け取ってしまうエンパス能力だった。

 

その彼の感情を受け取った時。彼が味わったのは()()()()。つまり、何も感じ取れなかった。

 

故に、保科柊史は彼が非常に苦手なのである。

 

「まあ、悪いやつじゃないってのはわかるんだけどさ······」

 

「2人っきりで部活というのが出来ないのが残念ですけどね······でも冷静に考えたら後々増えていくから変わりないのでしょうか(ボソッ)」

 

「?······っと、着いたよ、寧々」

 

オカルト研究部と書かれたプレートのある部屋。

 

そこは前世の記憶を若干取り戻した彼にとって、そして記憶を保持し続けている彼女にとっては思い出深い場所で────

 

 

 

 

 

「チクショウ!!スタートに戻った!!」

 

「なんで一人で双六してるんだお前は!?」

「なんで一人で双六してるんですか!?」

 

前のセカイでは絶対にありえない光景を目の当たりにした。

 

 

 

2

一ノ瀬 巽(いちのせ たつみ)

誕生日12/12日。

身長175cm体重60kg。

オカルト研究部副部長。

まるで何処ぞの吸血鬼モドキの高校生の様なアホ毛が特徴。やや女顔。

全国模試1位。

趣味はアニメ鑑賞やゲーム。そして心霊スポット巡り。

備考────日本で最も有名なホラー小説家

 

「いやー、ネタが出ないから気晴らし兼ねて遊んでたんだよねー。」

 

「だからと言って一人双六はどうなんだお前!?」

 

また、かなり奇行が目立つ人物でもある。

 

 

 

「ほう、君達付き合い始めたのかおめでとう。リア充爆発しろ。で?入部しに来たのか。まあ俺に拒否権は無いだろうから別に構わないけどね!」

 

と、かなりあっさり柊史を受け入れた。

 

「別に部員が誰と付き合おうと俺にはどうでもいいし。まあ執筆時に五月蝿くしなければ。」

 

「いや、そろそろここで書くのやめてくださいよ······」

 

「いいじゃん別に······あ、そんなことよりも綾地を訪ねてきた相談者が居てね?」

 

「はい!?で、でも今あなた一人しか······」

 

「20分くらい前に来たんだけどあまりにも来るの遅くてお腹空いちゃってさ、パン賭けて神経衰弱したら勝っちゃったから今彼が買いに行ってる」

 

「何してるんですか!?」

 

こんな楽しそうに話していても、巽からは何も感じない。感じ取れない。

 

(無味無臭なんて事は基本無かったし能力も無くなってないから······どういう事なんだろう?アイツにだけ効かない何かがあるんだろうか?)

 

と、そんな感じで思考を回し続けていると、後ろからガチャリ、とドアの開く音がした。

 

「ハァ······ぱ、パン買ってきました······ぜー······」

 

そこには小太りの男子生徒が息を切らしながら倒れかけていた。ていうか倒れた。

 

 

 

3

「実は、彼女と一昨日から連絡が取れなくなったんです」

 

そう言って相談者こと小室遼(こむろりょう)が話し始めた。

 

「事の発端は8/31日、夏休みの最終日です。」

 

夏休み最終日。彼は彼女である同級生の三田村かなでとデートの約束をしていたのだが。その日の朝。

 

『ごめん、風邪ひいたっぽい』

 

とメールが来たらしい。

 

見舞いの品を持って家を訪ねたところ、彼女は母親と共に寝込んでいた。どうやら四日ほど前から少し体調が悪かったらしい。そしてその日は見舞いの品だけ渡して帰宅した。

 

そして次の日の始業式。

 

彼女は学校に来なかった。

 

連絡を入れてみたものの繋がらず───結果としてその日は帰宅した。

 

そして今日も────

 

「連絡がつかなくって······」

 

「「それって警察に相談した方が良くない(ですか)?」」

 

寧々と柊史が突っ込んだ。

 

「いや、それ以外にもちょっと理由が······実は彼女が体調を崩してから、近所の女性の方々も体調崩しているらしくて······」

 

「「警察案件!!」」

 

「でも流行り病の可能性もあるじゃないですか!!だから相談しに来たんです。こういう時どうしたらいいんですか!?」

 

すぐに答えられるわけがなかった。当たり前である。

 

こんな相談は初めてだった。どうしようか、と寧々が悩んでいると────

 

「······何個か質問していいか?」

 

今まで黙っていた巽が唐突に口を開いた。

 

「まず一つ目。その彼女の家族構成に父親が登場してなかったな?父親はひょっとしていないのか?」

 

「あ、丁度8/30から二週間ほど出張らしいです······」

 

「その時、もしくはその前に父親が体調を崩していた、なんて話を聞いたりしたかい?」

 

「無いです。『どこから移されたのかわからない』と言っていたので恐らく······ですけど······」

 

「二つ目。登場していなかっただけでその彼女とやらに兄弟は居るのか?」

 

「いません、三人家族です。」

 

「······三つ目、近所で体調を崩し始めているのは本当に女性だけなのかい?」

 

「はい、そう聞きました。近所で立ち話していたおばさんから、その人も若干顔色が良くなかったです。」

 

そこまで聞いた巽は「そっか······そうかぁ······」と言って天を仰ぐようなポーズをする。

 

「えっと······一ノ瀬君?何か······?」

 

寧々が彼の様子を見て心配するような言葉を投げかける。

 

「あー、うん。ごめん、大丈夫。ただある意味大丈夫じゃない。」

 

「は?何言ってんだお前······?」

 

柊史が訳がわからんと言いたげにこっちをジト目で見てくる。

 

やがて巽は重々しく、しかしハッキリとこう言った。

 

「今すぐ────いや、もう手遅れかもしれないけど、君の彼女の家に強行突入した方がいいな。」

 

 

 

4

という訳で────

 

「全力前進だ!!急げ!!案内よろしく!!」

 

「わ、わかりました、こっちです!!」

 

三田村家へ全力ダッシュで向かうのは三人。

 

小室遼、保科柊史、一ノ瀬巽。以上、三名。

 

「おい、なんで寧々を置いてきたんだ!?ていうか説明しろ!!」

 

柊史が突っ込むのも無理はない。

 

「とにかく急げ、まだ手遅れじゃない可能性もある」と急かされ、但し寧々には「綾地、お前は付いてくるな、いいな?絶対だぞ?振りじゃないからな!?」と全力で来ないように説得(という名の脅し)を使ってオカ研部室においてきたのである。

 

「今は説明してる暇も惜しいんだよ!!良いから走れ!!」

 

しかし、決してこれ以上説明はしなかった。

 

仕方なく、本当に仕方なく柊史は一旦、説明を求めるのをやめて走り出した。

 

 

「ここです!」

 

学院から走って約五分くらいだろうか。

 

三田村家へ到着した────────

 

「なん······だこれ?」

 

直後、柊史に大量の憎悪が味となって彼に降り掛かってきた。思わず吐きそうになるのを抑える。

 

だが、そんなのを気に止めず、巽はチャイムを押す。

 

だがしかし、帰ってきたのは静寂だった。

 

そして何回押しても返事が返ってこないのを確認した彼は「チッ」と舌打ちをすると柊史の方に向き直りこう言った。

 

「おい、今すぐ119と······この名刺の電話番号に掛けろ。俺の名前を出してここらの住所を言えばすぐにくるから。」

 

そう言って彼は一つの名刺を渡してくる。

 

氷室等、と名前と電話番号しか書かれていない簡素な名刺を渡された。

 

「小室、お前はナビ頼む、今からこの家に侵入するぞ。事態は一刻を争う。柊史、連絡頼んだ────ぞ!!」

 

そう言って巽は制服の上着を脱いで腕に巻き────

 

パリィイィン!!

 

と、一階の庭に面している窓をぶち破り、侵入した。

 

 

 

 

中に入るとリビングに一人の人間が横たわっていた。

 

「かなで!?しっかりしろ!!かなで!!」

 

どうやら三田村かなで本人だったようだ。

 

取り敢えず彼女を外に運ばせるよう、指示する傍ら、目的のものを見つける。

 

「······これか······」

 

それは小さな木箱だった。

 

三田村かなでが倒れていたすくそばの棚の上にそれはあった。

 

「よし、取り敢えず回収っ······さて······」

 

そして部屋を回る。二つ目の部屋で三田村かなでの母親らしき人間を見つけ、外に運び出した。

 

 

 

 

外へ出ると既に救急車と1台の覆面パトカー、数台のパトカーが来ていた。

 

「氷室さん!!」

 

「巽君!!これは────」

 

「んな事より車出して!!イッポウとはいえ長く放置するのはマズイ!!」

 

そう言って巽は女性を地面に寝かせて片方のポケットからとあるものを取り出す。

 

それは柊史が思わず見蕩れる程に綺麗な小箱だった。

 

氷室はそれを見ると全てを察したのか車に巽を乗っける。

 

そしてそのまま車が発進し────

 

「······こっからどうしろって言うんだよおい。」

 

残された柊史はそう呟かざるおえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5

翌日、金曜日。

 

幸い二人は一命を取り留めたらしい。

 

因みに学校はこの騒ぎで休校になった。

 

そりゃ自分の学校の生徒が衰弱して死にそうになったのだからそうなのかもしれないけど。

 

尚、近所に住んでいた人達も多少衰弱していたが命に別状はないらしい。

 

 

 

「さて、何から説明したものか······ホントどうしよう?」

 

と、そう切り出したのは氷室等(ひむろひとし)という刑事の隣に居る一ノ瀬巽である。

 

因みにここはシュヴァルツカッツェと言う喫茶店である。

 

そこの一番でかいテーブルに小室遼、綾地寧々、保科柊二、────何故かここの店主である相馬七緒も相席していた。

 

まあ、ここの店主が人間じゃないことは原作でわかるだろうし、綾地寧々、保科柊二の二人は一方的に知っているから何の違和感もない。ついでに言うなら氷室等は色々と彼女に関わってしまっているためなのかはわからないが諦めたかのように同席を許可している。

 

「全部ですよ、全部説明してください。何故私と柊史君の仲を引き裂いたんですか!!」

 

「寧々、気持ちは嬉しいけど論点がズレてる!!」

 

「ていうかその言い方やめてくれないかな?まるで俺が保科目当てみたいな事······俺は普通に女子が好きだ!!」

 

「お前もそこに論点を持っていくな!!」

 

────閑話休題────

 

「まあ、結論を言うと、あれはコトリバコだよ。」

 

「「「コトリバコ??」」」

 

「そう、コトリバコ。漢字で書くと子獲り箱。水子の死体の一部などを細工箱のような小箱の中に入れて封をし、パズルや置物などともっともらしい嘘をついて殺したい人物の身近に置かせる。っていう呪いの箱でね、簡易でありながら超が付くほどの強力な呪いだよ。」

 

「「「なっ······!?」」」

 

まあ、驚くのも無理はないだろう。

 

特に彼女が呪い殺されかけていた、なんて聞いた小室遼の顔は────信じられんて顔している。まあ呪いなんて信じろと言われてもね?

 

「この呪いの大事なところってのは子供と女性以外には効かないところ······なんせ子獲り箱だからね。子供と子供を産む母体────つまり母親。母親とは女性だろ?人間は単位生殖なんて出来ないからな。」

 

「じゃあ······昨日言ってたイッポウっていうのは?」

 

「ああ、呪いの強さの話だな。水子の死体を使用するかによって呪いの強さが大きく変化して、一人から順に「イッポウ」「ニホウ」「サンポウ」「シホウ」「ゴホウ」「ロッポウ」「チッポウ」もしくは「シッポウ」「ハッカイ」という順番で強力になっていき、名前も変わっていくんだ。彼女の家にあったのは一番弱いイッポウだった訳だ。」

 

「······ハッカイってのはどれだけやばいんだ?」

 

「んー······そうだなぁ······6時間生き残れたら奇跡レベル?まあ今回みたいに何日も放置したらあの辺の家は全滅だっただろうね。」

 

────今度は絶句。

 

そんな危険なものだったのか、と。

 

「だから私に留守番を······?」

 

「まあそんなところだ。さて、説明はこの辺りでいいだろう。さて、問題はそこじゃないんだよね小室君。」

 

と、今まで黙っていた氷室が口を開く。

 

「単刀直入に聞く。君、何か心当たりはないかな?恨まれたりとか、ね。」

 

 

6

結論を述べると、全く進展しなかった。

 

「まあ、そりゃいきなり『誰かに恨まれてませんか?』って聞かれてすぐ答えられるわけねえわな。」

 

と、解散になった。

 

「巽君。何かわかったら連絡をくれ······間違っても小説のネタにするなよ!?絶対だからな!?」

 

と、氷室さんに念を押された。ちくしょう。

 

「しかし······ここから先どうしたらいいんでしょうか?」

 

「······確かに······手掛かりが何も無いんじゃなぁ······」

 

「······え、何言ってるのお前ら?」

 

本気で、訳がわからん、と言った目で巽は彼等を見る。

 

「あいつが持ってきた依頼は『こういう時どうしたらいいんだ』······まあ要するに『助けるのを手伝ってくれ』って事だろ?なんで犯人まで探すんだよ。そこからは警察の仕事だ。」

 

「「なっ······」」

 

信じられないような目で見てくる2人。いや、そりゃそうだろ。

 

「そもそも俺達が探したところでどうにもならねえよ、少なくとも犯人が学校にいる可能性は限りなく低い。」

 

「「えっ······??」」

 

惚けた声を出す二人。本当に息ぴったりか。

 

「······いいか?コトリバコってのはとても強力な怪異なんだ。だけどその分、メチャクチャ材料に手間がかかる。何てったって水子の一部だぞ?たかが一介の高校生が手に入れることの出来るものじゃあない。」

 

「で、でも手に入れることだって不可能ではないんじゃないですか?」

 

「そうだな、だが手に入れたとしてもう一つ問題が出てくるんだよ。」

 

「問題······?」

 

自分の頭で少し考える努力をしてくれ。続きをせがむような目で見るんじゃない。

 

「······イッポウだからこそ、今回の被害が防げた訳だが。イッポウだからこその問題がある。さっきも言ったろ?強ければ強くなるほど強力になると。つまりイッポウは一番弱いんだ。そして弱いからこその弱点。時間がかかるんだよ。」

 

「······あ」

 

と、ここまで話してようやく綾地がなにか閃いたように呟く。

 

「······お父さんの、存在······?」

 

「え?······あ」

 

「コトリバコは男に効かない。つまりお父さんには何の影響もないんだ。と、なると。万が一お父さんの出張がなかった場合、衰弱具合をみて即座に救急車呼んで下手したら入院コース。だから、殺すまでに至らない。呪いから離れてしまうから。そして離れて放置されると呪いが広がって流石に不審に思った特務課が動いちゃう······あ、特務課ってのは氷室さんの所属しているところでコトリバコみたいな怪異専門の部署だよ。······話を戻すけどお父さんの出張の期間をまるで図ったかのようにコトリバコを置くことが果たして出来るかな?」

 

「でも······友達に話していて、それを聞いた────みたいな事もありえるでしょう?」

 

「なら三つ目────お前ら、仮に二つの条件を満たしたとして、呪いなんて信じる?」

 

「「··················」」

 

あまりにも当たり前のことで考えてなかったって顔をしている。

 

「仮に呪い殺したいと思ってそれを用意しても呪いなんて眉唾物信用できる?余程のオカルトマニアだろそんなのするの。」

 

確かに、と二人は思った。自分たちは魔法なんてファンタジーに関わったから信じることは出来るが、そんな関わりがなかったら信じてないだろう。

 

現に小室君は呪いそのものを信じられないって顔してたしね。

 

「そう考えると犯人は────彼女の父親の関係者かな?あったとしたらの話だけど。ただのイタズラの可能性もあるしなぁ······」

 

まあ、結論────

 

「と、まあ。こんな感じで。どうしようもないんだからさ?何も出来ないんだよ俺達は。だから────」

 

犯人探しなんて時間の無駄。

 

そう締め括って、俺は家に帰った。

 

 

『という訳で巽君、調べてくれないか?』

 

その言葉を帰った瞬間に撤回することになるとは思わなかったが。




因みにコトリバコの効き目の基準はかなりテキトーです。ただ、怪異症候群2のヤツを参考にしてます······一応。

それとヒロインですが後々、和奏、紬、めぐるの3名でアンケート取ります。戸隠先輩がいない理由?

作者が年上苦手なんだよ!!←

別に嫌いじゃないんですけど······ね?


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邂逅とコトリバコ 後編

二話目ー!

FGOのボックスガチャ200とかいってる人たちやばくないですかね!?まだ俺1桁ですよ(周回に飽きたやつの末路)高難易度たのしーい!


7

週明けの月曜日。保科柊史と綾地寧々は朝、一ノ瀬巽に部室に呼び出された。

 

「で、どうしたんです?」

 

「まさか、コトリバコの件か?だったらお前の言った通り学校で捜査する事ないんじゃないのか?」

 

「ご尤もな意見だが、まさかまさかの低確率が起きたらしい。」

 

話は金曜の夜に遡る────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『······以上だ。という訳で決して学生が犯人という可能性が無くなったわけでも無さそうなんだ。』

 

「······マジすか······」

 

金曜の夜、特に問題なく一命を取り留めた三田村母と三田村かなで、そして出張中だったが会社が手を回してくれたので戻ってきた三田村父(但し三田村父が戻ってきたのは土曜なので三田村父は土曜に)コトリバコに見覚えがあるかどうか聞いたらしい。のだが────

 

「そもそも荷物が届いたのも数える程で尚且つコトリバコに見覚えがないときたか······しかも親父さんの出張を誰にも教えてなかったし親父さんの同僚が家に招待された事実も、誰かから何かを受け取ったという事実も全部無いと!?」

 

『君の推理────とは言えないか、推測だが完全に合ってると思っていたからこっちもビックリだ······可能性は二つだ。誰か家族三人を恨んでる人間が侵入して置いた。もう一つは────こっち側の人間が無作為に置いたとか』

 

「嫌な予感しかしないじゃないですかヤダー······中学時代の再来とか勘弁ですよ俺」

 

『ま、そうでないことを祈るばかりだな······あれは本当に君がいなきゃ死人が出てた······』

 

「······じゃあ、俺が学校側を調べて────」

 

『こっち側は俺達に任せろ。調べておく。』

 

────回想終────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、送られてきたものでも、プレゼントでもらったものでもない、となると。一番可能性が高いのは侵入して直接置いたという可能性だ。三田村かなでに確認したところ友達を何回か呼んだことがあるらしいから······不自然なく置けても不思議じゃあない。」

 

「でも······金曜日に一ノ瀬君の言った通り、水子の一部なんてどうやって······?」

 

「入手方法はこの際問題にもならん、というより、そっちは氷室さんが調べてるから問題ない。お前らに協力して欲しいのはこっちだ」

 

そう言って巽は束ねた紙を投げ渡した。

 

「······これは?」

 

「三田村かなでが夏休みに家に招き入れた人間のリスト。んで一番上がコトリバコの写真。······お前らに頼みたいのはその三人の友達への聞き込みだ。」

 

「······あれ?お前は?」

 

「俺は俺で別の事調べる。言ったろ?人手が足りない、と。お前らなら相手の反応見て嘘かどうかくらいなら判断できそうだからな。」

 

一瞬、ビビった。

 

まさか俺の能力がバレているんじゃないか、と。

 

だが、まあただの買いかぶりらしい。

 

「という訳でよろしく頼んだぞ?対象はその3人、齋藤乃々華、神崎ハルノ、三ノ宮早苗だ。一応小室遼が連絡先を持っている程度には親しい人物らしいぞ?その過程で仲良くなったようだな。······結構あいつ見た目によらずモテるんだな······」

 

「あの、ひとつ聞いていいですか······?」

 

「······どうした?綾地」

 

「······何故、貴方はその頼みを受けたんですか?昨日言ってた言葉は······」

 

「いや、警察の捜査に協力するのは市民の義務だろ」

 

その言葉からは、薄いが、嘘の味がした。

 

 

 

8

という訳でダイジェスト風。聞き込みの様子をご覧下さい。

 

 

 

 

齋藤乃々華(さいとうののか)の場合。

 

「え?箱ですか······?あ、この箱だったら私が来た時には既にありましたね。ええ、リビングに飾ってありました。確か······最新のスマホが発売された翌日くらいかな?これが何か······え?これが嫌がらせに使われていた?わ、私じゃないですよ!?────え?疑ってるわけじゃない?······うーん······でもかなでちゃんが恨まれるのは想像できないなー······あの子デブ専って事以外は本当に理想の女の子って感じで······なんて言うか、女性にも敵がいないタイプ?って感じですよ?」

 

 

 

 

神崎ハルノ(かんざきはるの)の場合。

 

「は?箱?なにそれ知らないけど······見覚えもないなぁ······ケータイ買い換えたあとあたりに呼ばれたけどそんなのあったっけ······え?嫌がらせ······?私はそんな事しないから······いや、大体なんで箱置いただけで嫌がらせなの······?え?他に何か気になる事······?うーん······デブ専以外は至って普通の子だよ、彼女は。」

 

 

 

 

 

三ノ宮早苗(さんのみやさなえ)の場合。

 

「え?箱?見たことないなぁ······うん、無いね。ケータイを変えた後に招待してもらった時にはなかったと思う。······え?嫌がらせ?いやいや、そんな事は無かったよ?私もしてない。そんな事する前に身体が動くタイプだしね、私は。······え?何か心当たり······ないなぁ······あ、でも彼女の中学時代の友達は彼女を恨んでるみたいよ?······よく分からないけど。え?中学校?······確か第七中学だったはずだけど······」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9

 

「全員、嘘をついているようには見えなかったな。」

 

と、いうか、能力でわかった、と言うべきなのだが。

 

昼休み、部室で昼を食べながら、報告をした。

 

「そうか······中学······第七······」

 

その報告を聞いた巽は鞄の中からパソコンを取り出し、おもむろに何かを調べ始める。

 

「あの······一ノ瀬君何を調べているのですか?」

 

「第七中学の話が気になってさぁ······お、あったぞ。」

 

そう言って彼はパソコンの画面に表示されている記事をこちら側に向けてきた。

 

『第七中学で自殺未遂。原因は痴情のもつれか?生徒の多い校門で見せつけるように』

 

「······これは?」

 

「第七中学で起きた事件と言ったらこれ位なんだよなぁ······」

 

「え?でもこれなんも関係なくね?『女が男を盗った』でその女が三田村さんだったら恨まれるのもわかるけど、記事見る限り逆パターンだよな?」

 

「そうですね、記事にはそう書いてあります。」

 

しかも未成年だから実名は公開されてない。

 

これが関係あるとは思えないのだが────

 

「······あー······そういう事?ひょっとして······」

 

「「え??」」

 

そう言って彼は夏休み中に発売された新型のスマホスマホを取り出し────

 

「もしもし、氷室さん?至急調べて欲しいことがあるんだけど─────────」

 

『ああ、わかった、すぐ調べてみる。』

 

 

 

 

 

 

10

放課後。オカルト研究部の部室。

 

「犯人わかったわ、協力ありがとう。」

 

そう言って巽は部室のドアを開け放ち、開口一番そう言うと踵を返して出ていった。

 

「────ちょっと待て!?」

「────待ってください!?」

 

しかし、回り込まれてしまった!▼

 

「犯人がわかったってどういう事だ!?」

「説明くらいしてくださいよ!!」

 

と、まあ当然だろう。ここまで協力したのに説明、というか真相を教えてもらえないとはどういう事だ!!と突っかかってきた。

 

「いやー、これは知らない方がマシだと思うよ?」

 

そう言って巽は全力で逃げた。

 

撒かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある病院の個室。

 

三田村かなではボーッと外を見ていた。

 

あの事件から少し母娘揃って入院することになったが特に問題もなく、明日退院出来るらしい。母親とは別の部屋に担ぎ込まれているから、退屈以外の何物でもない。

 

ただボーッとしていると、ノックが聞こえた。

 

「どうぞ?」

 

そこに立っていたのは、一ノ瀬巽と氷室等だった。

 

「えっと······刑事さんと······一ノ瀬先輩でしたよね?助けてくださってありがとうございました」

 

「いやいや、偶々居合わせただけだから······あ、これ御見舞のフルーツね。折角だから食べようか」

 

「あ、ありがとうございます······」

 

そう言って巽は袋の中からカット済みの西瓜を三人分出した。

 

「────お前最初から食べるつもりだっただろう。」

 

「はて?何のことやら?」

 

 

「えっと、それで今日は一体?もう全部話したと思うんですが······」

 

と、話をしているのを病室の前で聞いている影が三つ。

 

保科柊史、綾地寧々、小室遼の三人である。

 

「······よく分かったな寧々、あいつがここにいるって······」

 

「さっき三田村さんには話さない、とは言っていなかったので······もしかしたらと」

 

「しっ、話が始まります······」

 

 

 

「いいかい?三田村さん、これに関して確固たる証拠というものは無い、状況証拠から考えただけの推測に過ぎない。まあ、笑い話程度に聞いてくれればいい。オーケー?」

 

「?は、はい」

 

「じゃあ早速────コトリバコを置いたのは君じゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

11

 

「「「「えっ······?」」」」

 

思わず病室の前にいる三人と、三田村かなでの声が重なった。

 

「なんで、わ、私がそんな事を────」

 

「第七中学の自殺未遂と同じだろ?」

 

「────ッ!!」

 

「当時君に聴取した人に聞いたよ。なんでも、当時付き合っていた恋人が信じられなくなったんだって?まあ、そりゃドッキリとは言え、不良に絡まれている君を見捨てて逃げる、なんて酷いことをしたよね、そいつは。」

 

「な、なんでそんな事まで知って────誰にも話してないのに────」

 

「で、周りからこう言われたんだって?『やっぱ所詮アイツはこの程度のやつだったんだ』だったかな?でも、君はその恋人が、彼が好きだった。『そんな人じゃない!!証明してやる!!』って躍起になったそうだね······?だから────」

 

────自分を絶命一歩手前まで追い込んだ。

 

「目の前で彼女が死にかければ助けてくれると思った────でも、その彼はそうしなかった。寧ろいきなり自分の目の前で死のうとした事に恐怖してしまった。」

 

「────や、やめて······」

 

「恨まれるわなそりゃ、これが原因でドッキリ=イジメというイメージができてそのお友達は推薦取り消されたそうだし······話を戻そう。そして君はその後その彼氏と別れ、学院に入って────再び恋をした。だけどまた、不安になった。」

 

「やめて、やめてよ······」

 

「だから────同じ状況にすればまた助けてもらえると思った。でも、中学時代の方法じゃダメだって流石に学んだんだろ?そんな時にコトリバコを手に入れた。そしてまた────」

 

「やめてっ!!」

 

肩で息をしながら、大声で叫んだ。

 

「その反応を見る限り、俺の予想であってたみたいだな、冷静に考えれば、父親の出張なんて家族が把握してない方がおかしい。────しかしまあ、頭が働くね?自ら被害者になることで容疑者から外れるとは······」

 

「アンタに、アンタに、何がわかるのよ!!」

 

三田村かなでは叫び続ける。

 

「私が一般的な人とは違う性癖をしてるのは自覚してる、それを不思議に思ったこともない。寧ろ周りは『あんなデブのどこがいいの?』って言うタイプの人間ばかりだったから······こんな事になるなんて思ってなかったのに······!!なんで私のモノにしたら周りはちょっかい出してくるのよ!!巫山戯るな!!彼は私のものだ!!高校になっても······なんで!!他人のものになった瞬間······!!」

 

「ああ······三人を夏休みに呼び出したのはそういう事か。」

 

盗られると思ったから、中学時代もそうやって失ったから。

 

尋問したのか。

 

あの三人を。

 

小室遼と、連絡先を交換するほど仲良くなった人間を。

 

でも彼女等は違ったのだろう。

 

「違うってわかってても、怖かった。だから────」

 

「だから三人の家にも送り付けたのか。コトリバコ。」

 

「······既に回収済みだ、どれも失敗作だったがね。」

 

そう、今日氷室さんに第七中学の過去の事件と────念のため三人の友達の家を調べてもらったのだ。

 

コトリバコ()()()がちゃんと出てきた。

 

尤も、モドキである為、放っておいてもせいぜい浮遊霊が釣られてやってくるぐらいの代物だったが。

 

「自分のお父さんの出張期間に体調が悪くなるように仕向けたものを同時に発動させて、誰を選ぶか、確かめるつもりだったのか?」

 

「そうよ、乃々華は一人暮らしだし早苗は単身赴任で父親が不在、ハルノは離婚して母方の方で暮らしてる。男性不在の家よ。」

 

仕掛けろ、と言わんばかりの偶然が重なった。

 

────だから、仕掛けた。

 

仕掛けたら誰かに助けを求めるしかない。でも外まで声が聞こえないどころか、呪いの中心に居るから、影響を受けて、そんなこと出来る体調ではなくなる。

 

────危なくなったら、ケータイに頼るしかない。

 

「そして更に都合のいい事に三人は流行に乗り遅れたくないタイプだった。発売されたもんな、従来のスマホよりもさらに高性能な新型が。」

 

夏休みの後半の出来事で、彼女等は新しく買ったばかりだった。しかもそのケータイ、新型すぎて連絡先などを引き継げないのである。そのタイミングで彼女達を自分の家に上げて、取り敢えず自分と、元々連絡先を交換しているのを知っていた小室の電話番号も渡した。これで、小室に掛けるか三田村に掛けるかの二択になる。そして自分は出なければいい。こうすれば小室に電話するしかなくなる────そう考えたのか。

 

「ま、ぶっちゃけ意味の無いことだよねー、ただの友達にそんなの頼むかよ普通。冷静に119に連絡するだろ。」

 

ここまでやっておいて、なんだけど。普通はそんな事しない。当たり前だ。誰でも119押すだろ。

 

······話を戻そう。

 

「まあ、結果的には良かったんじゃない?小室君は助けてくれたんだしさ?」

 

結局、彼女は彼氏に心配して欲しかったのだ。

救って欲しかっただけなのだ。

 

 

 

────まあ、そんな事は非常にどうでもいいのだが。

 

「そんなことを聞きたいんじゃないんだよ······コトリバコ()()()()()()?」

 

気になるのはこの一点。水子を媒介にした呪いだから、こんなの一介の学生が創れる怪異じゃない。

 

なら至極単純、完成品を貰えばいいのだ。

 

そして、彼女の口から出てきた言葉は想像を絶するものだった。

 

「······若い、男の人で······顔にオペラ座の怪人のマスクに警察官の制服を着ていました」

 

「名前とかそういうのは······?」

 

「······聞いてません······」

 

「そう────ですか······」

 

氷室はそう言って少し考え込むと、口を開いた。

 

「念のため、その時に身につけていたものをこちらで調べさせてください。指紋などが残っているかもしれないので」

 

 

 

 

「────そんじゃ、まあ、こんな馬鹿な真似は二度とするなよ?」

 

やってる事は殺人未遂なのだからな。

 

そう話を切り上げて立ち上がり、ドアに手をかける。

 

「────待ってください。」

 

が、呼び止められた。

 

「なんで、私が怪しいと。疑ったのですか?少なくとも警察の皆さんは完全に騙されていたのに······」

 

「────ああ、そのこと?強いて言うなら倒れていた方向と場所だな。」

 

「倒れていた、方向と······場所?」

 

くるり、と振り返り、彼はこう言った。

 

「君は心配してほしいだけだ。恋人にそばにいてほしいだけだ。構ってほしいだけなんだ。決して自殺志願者ではない。······体調が悪い時普段は自室で寝るだろう?なのに君はリビングにいた。そしてそのすぐ側の棚にはコトリバコがあった。」

 

────つまり

 

「お前は死にたくはないんだ。だからコトリバコを処分しようとしたんだな?苦痛に耐え抜いて、限界まで近づいたけど、そこで力尽きたんだろう。────さて、ここで問題だ。君はなんで体調不良の原因を知っていたかのような位置に倒れていたんだろうね?まるでコトリバコ本体を取りに行ったかのような位置に倒れていたんだろうって·····ちょっとだけ疑問に思っちゃった、それだけ。実際俺も最初は誰か別の人間の仕業だと思っていたしね。」

 

そう言うと、彼は今度こそ病室から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12

────後日談────

 

「さて、バカップルども、何か弁明は?」

 

「「ないです本当に申し訳ありませんでした」」

 

朝から教室でカップルに土下座させている鬼がいた。ていうか俺だった。

 

「いやさ?別に聞く覚悟があったならどうでもいいんだ。現にあいつらには実害無いみたいだし?まあ盗み聞きは許そう。だが────」

 

そう言って彼は自分の机の上を見る。

 

そこには、心霊写真や曰く付きのアイテムなどが鎮座していた。

 

「心霊相談は俺におまかせとか言ったせいで大変なことになってるじゃねえか!!」

 

あの病室問答(?)の次の日、どこから漏れたのかオカルト研究部に依頼が来たのだ。心霊系の。

 

そしてあろう事かそこのバカップルは俺に全てを押し付けたのだった。

 

だが、その相談者は当然というか、綾地寧々を頼って来た人間だったので納得するはずが無かったのだが。

 

だから、綾地寧々と保科柊史は話やがったのだ。

 

この前のコトリバコの全容を、掻い摘んで。そしたら────

 

「俺は確かに!!好きでホラー小説書いてるよ!!でもなぁ、別に心霊関係の全ての事柄を『捜査』するのは好きじゃねえんだよ!?あとコレクターでも無いわ!!」

 

どう曲解されたのかはわからないが。『 俺が何故か心霊現象専門家でその手のグッズを集めている。』だの『ガチの心霊系の相談をオカルト研究部の一ノ瀬巽に持っていけば秒で解決してくれる』と噂が広まっていたのである。

 

そして今朝学校に来たら────これなんてイジメ?というレベルで曰く付きの写真(大体男女のツーショット)が机の上に重なっていたのである。何が悲しくてリア充の写真を見なきゃならんのだ。〇ねばいいのに。

 

「ま、まあ、その辺にしておきなよ······二人も反省してそうなんだしさ······」

 

「いや、ダメだ。仮屋。自分の立場になって考えてみろ?こんなの押し付けられて嬉しいか?」

 

「ごめん、綾地さん、保科、今回は擁護できないや」

 

「「なん・・・だと・・・」」

 

「少しは反省してくれませんかねぇ!?」

 

こうして、オカルト研究部に関して、こんな噂が広まった。曰く────『常識では測れないようなヤバイ事はオカルト研究部の一ノ瀬巽に相談してみよう』と。

 

 

因みに────

 

「大半は見間違いだけど何個かまじもんあるね······ココとここには近づかない方がいいと思う。」

 

一応全部調べて新聞部に調査結果を新聞にして貰って貼っつけておいた。

 




なんてこった、ヒロイン(候補)の和奏が予想以上に出番が少ないどころかまだ他のヒロイン(候補)は出てない始末!!果たして、ヒロインはいつになったら出るのだろうか!?ていうかいつになったらデート回とか書けるのか!?と言うよりこの作者がまともな恋愛描写とか書けるのか!?

次回!!『仮屋和奏とバイト先の怪!!』

更新日時は未定!!←


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仮屋和奏とバイト先の怪 前編

マーリンピックアップ、無事爆死しました、どうも幼女先輩です。お金ください(真顔)




 

 

 

だいぶ昔の話。確か、小学校低学年くらいだったと思う。

 

私はアイツと同じクラスで、そこそこ親しかったのを覚えてる。

 

でも────あの日以来、アイツは変わってしまった。

 

────そして再会した今でも、元に戻ってない。

 

 

 

 

 

1

「バイト先で幽霊を見たぁ?」

 

「そうなんだよ!!」

 

コトリバコの一件から約一週間後。

 

あれから特にこれといった出来事はない。強いて言うなら今まで綾地の相談や占いがメインだったオカ研に俺宛に心霊写真や呪いのビデオとか呪われた人形だとかの鑑定を依頼してくるやつが増えたくらいだ。

 

何でそんなものを持ってるんだ、とツッコミたくなるが、まあ大した量じゃないし、本職の〆切は守れている程度には余裕がある。その程度だ。

 

だから別に相談を受けること自体はどうでもいい。寧ろネタに出来るならとことん使わせてもらうつもりだ。が、何でだろうか、凄く嫌な予感がする。具体的にはコトリバコで感じた嫌な予感の倍くらいは。

 

「頼むよ一ノ瀬!!他に頼れる人が居ないんだよぉ!!」

 

「つってもなぁ······バイト先にどう説明するんだよ?部外者が入るの迷惑じゃない?」

 

「ああ、それなら大丈夫、どうにかできるよ。」

 

「······は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、仮屋和奏のバイト先、カフェ『ラビリンス』

 

「いやぁ、まさか『夢の館』の一ノ瀬巽君を生で見れるとは!!あ、サインくれるかい!?」

 

超歓迎ムードのオッサンが手厚くもてなしてくれた。

 

「店長が一ノ瀬のファンなんだよ······」

 

「これか、大丈夫ってのは······」

 

そう言って店内を見回す。

 

······至るところに俺の本の広告等が飾ってあった。

 

地味に恥ずかしい。

 

「因みにここのスタッフはほぼ全員一ノ瀬のファンだよ」

 

店長に洗脳されたのかな······?

 

「ていうかよく『夢の館』知ってますね?」

 

あれ、知り合いに頼まれて仕方なく書いたフリーホラーゲームなんだけど、俺の中じゃ黒歴史の中の黒歴史だ。

 

まあ、そこから今の職に行き着いたのだけれども。

 

「ああ、店長ガチゲーマーだから······偶に『ゲームの大会あるから休む』とか言って休むしね。」

 

「M.U.〇.E.NもBLAZ〇LUEもME〇TY BLOODもやったぜ」

 

「妙なところ攻めますね!?」

 

「〇鬼とか夜〇もやったよ、そんでコミケ行って同人ゲーム買い尽くしてやってたら君の作品に出会ってね!!」

 

いや、〇廻は違くね?にしても────

 

「よく俺だとわかりましたね?」

 

確かに俺あの時顔出したけど。後ろの方で整理してただけだしなぁ······。しかもあの時とペンネーム違うんだけど。

 

「文体とか似てたし、顔みたことあったからねぇっと、世間話はここまでにしようか。」

 

そう話を打ち切り、店長はこう言った。

 

「それもそうですね······でもいいんですか?心霊現象の為に部外者入れるなんて」

 

「大丈夫、話はもう通してあるから······あ、でも一つだけお願いがあるんだけど。」

 

「なんでしょう?」

 

「ここで起きた心霊現象ネタにする時にここの宣伝してくれないかなーって······」

 

「「それが狙いか!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

「まず、初めの心霊現象は三週間前の事だった。」

 

「ちょ、待て待て待て待て待ってください。」

 

のっけからおかしな話になった。

 

「仮屋、お前が幽霊見たのは?」

 

「昨日だよ······あ、言ってなかったっけ?この店三週間前くらいから幽霊が出るようになったんだ。」

 

「それも二ヶ所に、別々のね。」

 

店長の虬隆起(みずちりゅうき)が付け足す。

 

「二ヶ所に、別々の幽霊ねぇ······あ、すんません話の腰折っちゃって······続けてください」

 

話を促すと、店長は再び語り出した。

 

 

三週間前の事である。

 

このカフェ『ラビリンス』は昼の11時から開店で、この日、店長の虬隆起(みずちりゅうき)が一番最初に出勤する予定だったのだが。警察から『アンタの店から物凄い異臭がする』と連絡を受けたので、店へ。

 

どうやら、店の裏手に物凄い臭い液体が零されていたらしい。

 

犯人特定のため、防犯カメラの映像を見ることに。

 

そしたら────

 

「これが、その映像だ。」

 

P.M.01:00

 

そう表示されていた映像には、黒い、軟体動物の様に蠢くナニカが居た。

 

「なんだこの魔神柱ミニチュア版みたいなやつ······」

 

他に適切な表現が思いつかなかった。

 

もしもわからなかったらググってくれ。FGO、魔神柱で出ると思う。アレを小さくして液体にしたかのようなものがぶよぶよと蠢いている。

 

「因みに、臭いの原因である液体って何だったんです?」

 

「何だったかな······確か某動画サイトの有名人がやってた『絶対に嘔吐する液体』だった気がする」

 

その後、急遽休みにして何とか撤去したのだとか。

 

「······因みにその後つい三日前に同じバケモノがシュールストレミング落としていったよ······」

 

「ただの嫌がらせなんじゃないですかねそれ······」

 

なんだろう。明らかに人の仕業のような気がする。

 

「ところで、防犯カメラは何処にあるんですか?」

 

「店の裏手と······店の前と店内に幾つか······」

 

「ふむ······店の鍵は?ここのセキュリティが万全じゃないなら中にぶちまけるけどな俺は······」

 

「仮屋君以外は私よりも早く出勤したりとかあるから······全員持ってるよ?」

 

「セキュリティはしっかりしてるようで······ところで······この防犯カメラ、三日前のもののようですが?」

 

「······実は······節電の為に三週間前まで防犯カメラ切ってたんだよ······そしたら『絶対に嘔吐する液体』をばら蒔かれて······次こそ捕まえてやると思って節電やめたんだ······そしたらこいつが」

 

これ三週間前の映像じゃないんかい!!

 

まあ、異臭騒ぎの方は取り敢えず置いておこう。

 

「で?仮屋。お前の見た幽霊ってのは?」

 

「あ、うん······えっと······」

 

 

 

 

 

 

 

昨夜、バイトが終わり女子更衣室で着替えていた時だった。

 

────何か、見られている気がする。

 

何となく、そんな感じがした。

 

だが、おかしい。今女子更衣室どころか、女子従業員は私しかいない筈なのに。

 

────まさか、覗き?

 

の、割にはその視線は入口からではなく、自分の右隣。壁の方から感じる。

 

さっさと着替えて出てしまおう。そして帰ろう。

 

そう思って、ちゃっちゃと着替えて、ドアを開け、外に出て、施錠しようとした時に、見てしまったのだ。

 

奥にあるでかい鏡。その側に、髪の長い女が居た。

 

 

 

「············」

 

「っていうのが昨日見た幽霊の話」

 

なんてベタな······そして────

 

「ところで仮屋さん?」

 

「どうした?いきなり敬語になっちゃって」

 

「俺に、女子更衣室を調べろと?」

 

「あっ······」

 

「······帰ってもいい?」

 

「ちょっ、待って!!大丈夫!!今私以外に女性従業員居ないから!!大丈夫!!みんなとっくに仕事してるから!!」

 

「入っただけで変態扱いされるのでNG」

 

いや、俺変態になるつもりは無いから。

 

「男なのに女子更衣室入りたいと思わないの!?」

 

「何を言ってるのお前!?」

 

流石にそこまでしてネタを掴もうとは思わないしぶっちゃけ人に害を及ぼすタイプの幽霊じゃ無さそうだから本当に出番がなさそうな件。

 

だがしかし、最終的に

 

「なら私と仮屋君の監視の元行くのはどうだろう?」

 

との店長の提案を受け入れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

「ふうん······?特に変な気配は無いけど······?」

 

女子更衣室には特に何も無かった。

 

ロッカーが右側に置いてあり、長椅子が中心に置いてある、何の変哲もない更衣室だった。

 

「で、これが例の鏡か······」

 

更衣室の左端、壁際にあるその鏡は、特に何の変哲もなく俺のことを写している。

 

「······でも何でこんな所に鏡?普通真ん中とかに置かない?」

 

「あ、それは昔の名残だね。」

 

「昔の······名残?」

 

「ここが私のカフェになる前、鏡の迷路みたいなアトラクション系の店だったんだよ。で、そこのオーナーとは仲が良くてね、所々使えそうなところを残しておいてくれたらしいんだ。」

 

「へぇー······」

 

詳細を後で検索してみよう、ただの好奇心だが。

 

「······んー、仮屋ー?」

 

「何ー?」

 

「この鏡の辺りで幽霊を見たって言ってたよね?顔とか見てないかな?」

 

「あー······一応、見覚えがあったんだよ······」

 

「······幽霊の顔?」

 

「うん、実は────」

 

と、仮屋が語ろうとした瞬間

 

「言うな!!」

 

と、静止する声が聞こえた。

 

「あいつは······まだ!!死んでない!!」

 

いつの間にか、そこには男が立っていた。

 

年齢は20くらいだろうか。

 

金髪に、ピアス。見るからにチャラ男を体現したかのようなその男は、本気で怒鳴っていた。

 

店長がその男を宥めている間にこっそりと聞く。

 

「あの人は誰?」

 

「同じくバイトの潜木尚人(くぐるぎなおと)さん。芸大の三年生······で、その······私が昨日見た幽霊の恋人」

 

なんですと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

幽霊の心当たり。

 

その人は失踪したのだ。丁度、異臭を放つ液体をばら蒔く幽霊が最初に出る三日前から行方不明になっていたらしい。

 

「三上美香(みかみみか)。芸大二年でさっきの潜木先輩と一緒の芸大で学部も専攻も一緒らしいよ」

 

「その先輩が、お前が昨日見た幽霊にそっくりだと?」

 

「うん、私ハッキリ見たもん」

 

潜木さんを店長が無理矢理仕事に突き出し、店長も仕事に入り、今は応接室で仮屋から話を聞いていた。

 

オーナー曰く「仕事に影響が出ないようにローテーションで話を皆からしてもらう事にしたからよろしく」だそうで。

 

おかしいなぁ、俺は警察じゃない、探偵でもない、ただの小説家なんですけど。

 

「幽霊が出たなんて言ってもなかなか信じる人は居ないしね、一ノ瀬みたいな人が居るだけでも有難いんだと思う。後はこの出来事をネタにしてもらおうという魂胆が八割かな?」

 

「ファンなのは嬉しいけどねぇ、これでもネタにするものは厳選してるんだよ?」

 

何でもかんでもネタにしたら不謹慎だからな。と付けたし、珈琲(店長の奢り)を啜る。

 

「まあ、店長さんがいいと言って、他の人もいいと言ってくれるなら俺も断る理由はない。全力で捜査という名のネタ探しをさせてもらうぜ。」

 

なかなか続けているとネタ切れになる事が多々あるからなぁ。

 

「じゃあ、お前から幽霊の話は聞いたし······まずここの従業員のことを教えてもらおうか?店長と潜木さん、行方不明の三上さんにお前を除いてもあと何人か居るだろ?ここそれなりに広いし。」

 

元迷路系アトラクションハウスという事だけあり、このカフェはかなり人が多い。

 

少なくとも四人で回せる広さでは無さそうだ。

 

「うん、後厨房に二人、ホールに一人いるよ。厨房の人は······」

 

という具合に、教えてもらった。幸い、今日のシフトは仮屋が休みで他全員が入っているそうなので、全員から話を聞くことが出来る。

 

それでは、前回同様。取り調べモドキスタート

 

 

 

潜木尚人の場合────

 

「お前があの夢の館の制作メンバーの一人か······いや、一回会っては見たかったんだ」

 

「ん?俺がやったのはシナリオとか背景デザインくらいっすよ?」

 

「それだよ。背景デザインだよ。テキストからも伝わってくる怖さを引き立たせてた背景とかはお前が設定したんだろ?店長から勧められて大学構内でやってたら教授も乱入してきて一緒にやってたんだが······教授が褒めてたぜ?『素人のクオリティとは思えないくらい怖い』ってな。」

 

「それは······ありがとうございます。」

 

正直自分の中では『黒歴史二作目』なのだが、賞賛は素直に嬉しい。

 

「さて······で、聞きたいのは三上さんの事なんですが······」

 

「美香は死んでない······!!」

 

「いや、誰も死んだなんて言ってないじゃないですか。大体生霊って可能性もあるんですから」

 

まあ、希望的観測だけども。

 

「······お前、その言い分だと『自分幽霊見えます』って言ってるようなもんだが······マジで見えんの?」

 

「信じるかはあなた次第ですが、まあ見えますよ?」

 

これについては正直わからん、生まれた時からそんな感じだったし。

 

────実は見えるだけじゃないのだが。

 

「······まあいい。で、お前は何が聞きたいんだ?」

 

「三上さんが失踪する直前の行動とか知ってるかなぁ、と思いまして。」

 

「······その日はたまたま俺が休みだったから知らん。ただバイトのシフトだったのは覚えてるし、その日は美香とその他三人くらいが終わりまで働いてたらしいが、帰るところまでは見たそうだ。」

 

「そしてその夜から帰ってないと······」

 

「ああ、あいつは実家暮らしなんだが、美香の両親から電話がかかってきてな······」

 

その日彼は大学の男友達と飲み会をしていたらしい。

 

そしてその電話を受け取った時、初めて失踪したことを知ったそうだ。失踪してから二日目のことである。

 

そしてそのまま三週間経ち、昨日の幽霊騒ぎだ。しかもその幽霊は自分の恋人と酷似しているときた。

 

そりゃ冷静ではいられないだろう。

 

 

「────なるほど、では次に。異臭を放つ液体をぶちまけた奴に心当たりとかあります?」

 

「······実はな、店長と二人でしばらく張り込んでた時期があるんだが······その時だけは絶対現れなかった。」

 

「ふむ······なるほど、ありがとうございました。」

 

 

厨房スタッフ鯨義琴音(くじらぎことね)の場合────

 

「はじめまして、鯨義琴音です」

 

流れるような黒髪。そして眼鏡、美人。典型的な『クラスの優等生』みたいな風貌をした人だった。

 

「どうもはじめまして、一ノ瀬巽です。早速ですが質問させてもらいますね。貴方方厨房スタッフは店長さんと古い付き合いだとか。」

 

「はい。そこからずっと虬さんの店で働いてます。大体六年くらいですかね?私が丁度27位の時ですから······」

 

歳と見た目が全然あってないんですが······まだ大学卒業したくらいかと思ってた······。

 

「······あー、それじゃあ質問させてもらいます。店長さんに恨みを持ってる人とか心当たりあります?」

 

「······?多分かなりいますよ?」

 

予想外の答えが返ってきた。

 

あんなに人が良さそうなのに······

 

「虬さんは本当に貴方の小説の大ファンで······時折周りの人に勧めていたんですが······確か『クロの部屋』という小説を勧めた際に『面白かったけど怖すぎて夢に出てきて眠れねえんだよ!!』とか言われて後日虬さんの手帳が赤いジャムに染められたとかなんとか」

 

「あれは店長さんのせいか!!時たまに『夢に出てきて眠れなくなって不眠症になったぞ!!』みたいな抗議文届いたのは!!」

 

因みに、その意見が多くてその次の巻から若干表現をマイルドにするという修正をしていたりする。

 

つっても上下巻構成だったので本当に若干だが。

 

「他にもそんな事が多々あったみたいで······」

 

「······つまり、店にシュールストレミング等をぶちかますほど恨んでるやからが居なくてもおかしくはないと······」

 

「······あ、あれは人間の仕業なんですね?」

 

「少なくともシュールストレミングや絶対に嘔吐する液体をぶちまける様な幽霊は居ないでしょ······」

 

どんな悪霊だよそれは。

 

「······まあこの件に関してはもういいです······次の質問いきますね······さっき本人に聞くのはどうかと思ってしてなかったんですけど、潜木さんと三上さんの馴れ初めとか、最近何かすれ違いがあったとか······知ってますか?」

 

「?何故そんなことが······?」

 

「いやぁ······気になる事があるだけですよ」

 

さっき潜木さんには言ったが仮屋の見た霊がもし三上美香だった場合『生霊の可能性がある』。

 

そして生霊が現れる理由は多々あるのだが、行方不明の今。考えられるのは『助けを求めている』という可能性。何処かに監禁されていて、生命の危機に立たされて、『助けて欲しい』という想いや『ここから出たい』という想いが原動力となり幽体離脱する例だ。これに関しては氷室さんから前例があったと聞いたことがある。

 

で、気になったのは『もしそうなら何で仮屋の目の前に現れたのか?』という点だ。

 

ぶっちゃけ、仮屋なんかよりは異性の彼氏の方が頼れるだろうに。

 

まあ今のは本当に全部が過程なのだが。もし何かあったのなら────

 

「うーん、確かに居なくなる前に三上さんがちょっと変だったけど······そこまで深刻そうじゃなかったよ?馴れ初めは······多分あいつなら知ってるんじゃないかな?」

 

 

厨房スタッフ叶奏汰(かのうかなた)の場合

 

「ああ、あの二人の馴れ初めか······」

 

黒い短髪、顔はそこそこイケメン、高身長────ただ何か住んでる世界が違いそうな位に筋肉質の男。東京ドームの地下の闘技場で戦ってそうな見た目をしている。ムッキムキの武闘派のような人間だった。

 

因みに、潜木尚人の通っている芸大のOBらしい。

 

「ん?······ああ、この身体はなぁ、従兄弟に勝つために鍛えてるんだ······トラックに跳ねられても死なないやつでな······」

 

やっぱ住んでる世界が違う。絶対にグラップラーだろ!!

 

「で、あの二人の馴れ初め······正直あまり話してて気分のいい話じゃないんだが······まあいいか。実はな······潜木は二人目なんだよ。」

 

「······二人目?」

 

「アイツの前に付き合ってた奴がいたのさ······名前は国東徹(くにさきとおる)。」

 

何でも、国東徹、潜木尚人、三上美香は同じ大学の同じ学部で専攻も一緒だったらしい。

 

三人で切磋琢磨し、三人の合作はコンクールで優勝したとかなんとか。

 

そして、三上美香と国東徹は付き合い出した。

 

そんな二人を潜木は心から祝福し、彼等は結婚も決めていたのだが────

 

「三上の両親に挨拶する、と言った翌日、国東は殺されたのさ。」

 

「────殺された?」

 

「ああ、犯人はまだ捕まってない。」

 

そして、その後、三上はとてつもないショックを受けて引きこもった。

 

一時期後追い自殺しかけたこともあったそうだ。

 

だが、そんな彼女を支えたのが潜木だったという。

 

「そして三上復活からのゴールイン、という訳だ。」

 

「────なんていうか、失礼かもしれませんが······ベタですね?」

 

「うん、正直俺も何の三流恋愛小説だよ、と思った。」

 

「······その前は三角関係だったりしました?」

 

「いや······そこまでベタじゃ無かった筈だが······潜木も心から祝福してるように見えたし······」

 

「なるほど······わかりました。ありがとうございます。」

 

 

ホールスタッフ暁茜(あかつきあかね)の場合

 

「······で?私に聞きたいことってある?」

 

「······取り敢えず店長さんの昔からの知り合いらしいので色々と聞こうかとは思ってますけど······」

 

暁茜。銀髪身長約140後半、童顔、紛うことなきロリ。胸を除く。これで20超えてるんだから詐欺だ。

 

「んー?どうしたー?お姉さんのおっぱい見て興奮しちゃった?」

 

「いえ、別に······」

 

「遠慮しなくて良いんだよ?キミ私の好みのタイプだから······一回くらい、私と寝てみない?」

 

「ロリ巨乳が嫌いな訳ではないけど、あまりにもアンバランスすぎる、あと痴女は好みじゃない。チェンジで。」

 

「酷いっ!?」

 

もういい、先に進まん。

 

「んで、店長さん恨んでる人に心当たりあります?特にこの人が恨んでるとかあれば教えて欲しいんですが」

 

「そんな事言われてもなぁ······そもそも私は最近知り合ったばかりだし······」

 

「······え、そうなんですか?」

 

「うん、私22なんだけど、琴音さんの紹介で最近知り合ったばかりなの。」

 

因みに、琴音さんとは地元のフィットネスクラブで意気投合したのが出会いらしい。

 

「うーん······じゃあ何か気になったこととかないですか?最近の心霊現象とか、失踪する前の三上さんの様子とか」

 

「んー······私は特に······そもそも三上さんとあんまり仲良くなかったんだよね」

 

「そうなんですか?」

 

「常に私の胸を睨んではブツブツ言ってたよ?」

 

「オケ把握」

 

進捗無しかよ

 

 

 

 

 

 

 

 

4

 

「えっと······国東徹······殺人事件······」

 

全員の取り調べモドキを終えた後。

 

応接室で仮屋と二人で国東徹の殺人事件を調べていた。

 

「······あ、あったよ一ノ瀬。」

 

「どれどれ······ふうん、通り魔の仕業ねえ······」

 

死因はナイフで刺されたことによる失血死。現場には防犯カメラもなく、犯人の目撃情報もなし。場所は────

 

「これここの近くじゃない?」

 

仮屋の言った通り、現場はここから200メートルしか離れていない公園だった。

 

「ふむ······バイト先から帰る途中で刺されたと思われる······ねえ······」

 

「何かわかったかい?」

 

と、思考を巡らせていると店長が入ってきた。

 

「ん?この記事······ああ、国東君の?」

 

「え?知ってるんですか?」

 

「知ってるよ。何てったってここがミラーハウスの時にバイトしてたんだよ。潜木君も三上君もその時に出会ったのさ。」

 

「ミラーハウスでバイト······そんなに必要だったんですかね?迷路でしょ?」

 

「ああ······ホラー系の要素もあったんだよ。袋小路に入って引き返すといつの間にか後ろにお化けの格好したスタッフがいたりとかね。」

 

そんな施設だったのか······。

 

「あ、一ノ瀬。こんなの出てきたよ。三人の合作が賞を取った時の打ち上げかなんかの写真ぽい」

 

「あ?そんなの見たって······ん?」

 

そこには七輪を囲みつつ焼肉を楽しんでいる三人の写真。だが、それよりも────

 

「······このケータイストラップどっかで見たことあるんだよなぁ······」

 

三人がお揃いで付けているケータイストラップ。

 

何かのキャラクターを模しているキーホルダーをどこかで見た覚えがある。

 

「あー、このストラップ確か一時期話題になったんだよねー。確か人形の身体を摘むと録音ができるんだよ。」

 

「······は?録音?」

 

録音······ねえ······。

 

「······ちょっと潜木さんに改めて聞きたいことがあるんですが······」

 

 

────────

 

「ストラップ?これか?」

 

休憩していた潜木さんに頼んでそのストラップを見せてもらう。

 

「これは、三人全員で買ったんですか?」

 

「おう、折角だから何か買おうって話にたまたまなった事があってな······徹が「これを買おう」って言って買ったんだ······懐かしいなぁ」

 

「国東さんが······そうですか······ありがとうございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······取り敢えずここには幽霊は居ないよ。それは断言できる。」

 

「え、じゃあ私が昨日見たのは!?」

 

「偶々三上さんに似た幽霊を見たんだろ?多分浮遊霊か何かじゃないかな?······まあ美香さんの件は警察に任せましょう。俺の知り合いの刑事さんにも頼んでおきますね。」

 

「ちょ、ちょっと待って!!じゃああの液体は!?シュールストレミングは!?」

 

「······この店への嫌がらせの可能性が高いです。」

 

「うーん······私何かしたかね?」

 

無自覚って怖いねー······。

 

「······いや、そもそも高校生にこんなの頼む方がおかしい気がするんですが」

 

「ド正論ですな叶さん······」

 

まあ、取り敢えず何も無いんだ。良かったとは言えないけど。

 

「これで一先ず······もしまた有り得なさそうな事があったら呼んでください。話は聞きます。」

 

「よし、じゃあ巽君!!おねーさんがご飯奢ってあげるよ!!そのあと······うへへへへへ」

 

「すいません、仮面ライダーの溜め録り消化しなきゃいけないんで帰ります。」

 

「つれないなぁ!?」

 

そんなどうでもいい会話をして帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜のカフェ・ラビリンスに黒い何かが鍵を開けて入ってきた。

 

黒くてうねうねしてて、気持ち悪いナニカ。

 

それは真っ直ぐ、女子更衣室を目指し、侵入する。

 

更衣室には元々鍵がついてないのでどうにでもなる。

 

────早いとこコイツを回収しなくては────

 

そして黒いナニカは左奥の鏡の縁に手をかけ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「犯人、みぃーつけたぁー」

 

突然、室内に明かりが灯る。

 

「!?」

 

そこには、夕方来ていた、あのホラー小説家のガキが来ていた。

 

「いやぁ、まさか今日来てくれるとは思ってなかったよ。正直数日くらい間を開けてもおかし······くはないか。とっととそれを捨てたいだろうしねぇ」

 

飄々とした口調で、話しかけるその後ろには自分以外のラビリンスの店員がいた。

 

「────」

 

────待ち伏せされていたのか。

 

気づいた時には遅かった。ガキは自分に近寄ってきて────

 

────俺の被っていた袋を取った。

 

 

 

 




さて、ここに現れた人は誰でしょう?当ててみてください、一応今まで出てきた情報で動機以外は······わかるように書けてればいいんだけどなぁ······。

ていうかホラー作品なのにいつの間に推理小説になったんや······まあいい!!解決編書いたらめぐる登場、そしてその後から怪異症候群やるんだから······!!

あ、それとTwitterのアカウント作者紹介ページに貼っておきます。······まあリア垢兼ねてるので小説の進行とかは呟きませんが······それでもいい方はフォローしてください。

それではまた次回······


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仮屋和奏とバイト先の怪 後編

FGOのモチベが上がらないでござる!!

にしても俺のガバガバ文章で真相に辿り着く猛者がすぐ現れるとは思わなんだ


 

5

 

「お昼ぶりですね、潜木尚人さん?」

 

黒い袋の正体。そして今回の一連の事件の諸悪の根源。

 

一部は違うのだが。

 

「さて、まずその前に。とっとと三上さんと証拠を回収してしまいましょう。────でもその前に逃げないように取り押さえておいてください、店長さん。」

 

「あ、ああ。わかった。」

 

そう言って店長は潜木尚人の手首と足首にガムテープを巻き付ける。

 

その様子を見た巽は女子更衣室の左端にある姿見の目の前に皆に背を向けて座り徐に工具を取り出しながら

 

「さて────」

 

語り出した。

 

6

 

「まあ、俺のは推理じゃない推測だから間違ってるかもしれないけどそこは諦めてね。先ずは三上さん殺害の件からいこうか。」

 

「······やっぱり三上さんは死んでたの?」

 

「そうだな。殺されたのは────多分『絶対に嘔吐する液体』をぶちまけられた日の夜だと思う。順をおって説明していこう。先ず三上さんが潜木さんを何らかの理由で呼び出し、口論になったのかどうなのかは知らないけど三上さんを殺害。そして遺体を隠して帰ったのさ。」

 

「ん?でもそれはおかしくないかな?」

 

とそこで口を挟んできたのは店長だった。

 

「何故隠す必要があったんだい?ここの防犯カメラは私が経費節約のためにその日まで切っていたのに······」

 

「偶然ですよ、偶然。たまたまその日に、あの液体がまかれたのです。多分、その時丁度三上さんを殺した直後で遺体が目の前にあったのかな?まあそこまで詳しくはわかりませんが。────潜木さん、多分その時に吐いてしまったのではないですか?」

 

「「「────は?」」」

 

潜木を除く全員の声がはもった。

 

ただ1人、潜木は信じられないような目でこちらを見ている。

 

「たまたま殺した直後にその液体にあてられて、仕方なくここに隠したんだよ。······あの液体我慢しようと思っても出来るものじゃねえからな。少し嗅いだだけで本当にヤバイ」

 

そこまで語ると、潜木が始めて口を開いた。

 

「······まるで嗅いだことのあるような口ぶりだな?」

 

「······中学の時、調理実習でとある男子が巫山戯てそれを錬成してどったんばったんなんかじゃ済まないほどの大騒ぎになったからな······」

 

あれは嫌な事件だった······。

 

「······さて、話を戻そうか。吐き気が止まらなくなり······仕方なく貴方はここに死体を置いて行くことにした。まあ、吐き気がありえないくらい止まらなくなったらそうなるわな。少なくとも死体を持ち運ぶことなんか出来ないだろう。だから隠したんだ。この鏡の······後ろにな······っと」

 

ガコン、と音がしてギギッ、と古びたドアの様な音を立て、鏡が開いた。そしてそこには────

 

「仮屋、今すぐ目を瞑れ。これは見ちゃいけない。」

 

そこには半分ほど骨になった一人の遺体があった。

 

 

7

 

「うっ······これは······」

「三上さん······か、面影はある······」

 

鏡の裏には人1人が余裕で入れるスペースがあり、そこに屈むような形で死体が座っていた。

 

「おかしいとは思ったんだ。こんな端っこにこんなでかい鏡があるなんて。普通なら真ん中にあるのが自然なものだと思うが······多分ここが店長の言ってた袋小路に当たる場所なんだろうな。ミラーハウスだった時にスタッフがここに待機していて脅かしたんだろう。」

 

どうやって後ろから現れたか、なんて考えるだけ無駄だったのだ。最初から後ろにいたのだから。

 

「さて、話を続けよう。ここに隠した後、回収しようと思っていたのに回収できなくなってしまった。店長が液体ぶちまけた犯人を捕まえるために防犯カメラを作動させたからだ。防犯カメラさえ作動させてなかったらそのまま運べるが······」

 

「ん?でもそれなら最初からこの袋を着て幽霊のふりして回収してしまえば良かったんじゃないかな?」

 

暁茜の言う通りだ。

 

「そこまでは知らん······だが多分、待ってた方が運ぶ時は楽に運べるからじゃないかな?」

 

「······え?」

 

「人の死体運ぶより骨運ぶ方が楽だろ?だから完全に骨になるまで放置しようとしたんじゃないか?だからシュールストレミングぶちまけたんだろ?腐臭を誤魔化す為に。」

 

「────······その通りだ。」

 

本人があっさり認めた。

 

「因みに最初からそれを着て運び出さなかった理由はただ単に思いつかなかったからだ······今日まで······まあお前が来たから慌てて運ぼうとしたというのもあるが」

 

······わりかしアホな理由だった。

 

「まあいいや······それで動機は······多分これだろ?」

 

そう言って死体の側に置いてあった、少し錆びているストラップを見せる。

 

「そ、それが動機?何でまたそんな······」

 

「多分、これは国東徹殺人事件の証拠なんじゃないかな?」

 

「「「はぁ!?」」」

 

「ちょ、国東もこいつが殺したのか!?」

 

「このストラップ録音が出来るんだろ?そうだな────例えば、殺される直前、このストラップの録音機能を作動させ、証拠として残した。潜木さんはそれに気づかず、そして警察もそれに気づかずにそのまま遺留品を遺族に返した······それが何らかの理由で元カノである三上さんの手に渡った。そして何気なく再生したら────」

 

「今の彼氏である潜木が国東を殺したという証拠が出てきた、そして自首を促す為にここに呼び出し、ここで殺したのか······」

 

叶奏汰が巽の言葉を引き継ぎ、巽は頷く。

 

「······本当に見てきたかのように語るな······一字一句その通りだよ······!!」

 

「······国東さんを殺した動機は────三角関係?」

 

「その通りだ······!!全くそこまで当てるとは······」

 

「······ふむ、この流れで行くと、恋人を殺され傷心中の彼女を慰めて付け込み、そのポジションを奪うというのが大まかな計画かな?」

 

「そこまで当てられると本当に腹が立つなぁ······!!」

 

あまりにも単純にして、どこの三流小説だ、と突っ込みたくなるような計画だった。

 

「さいってー······」

 

「はっ、仮屋貴様はまだ子供だなぁ······ま、何れ解るさ。好きな人を何としてでも手に入れたい気持ちというのが······そして────」

 

途端に、スッと潜木は立ち上がった。

 

────おかしい、ガムテープで手足巻かれてるのにそんなにスッと立てるなんて────

 

「この状況下でも、まだ諦めない気持ちが沸いてくる、謎現象がなぁ!!」

 

いつの間にか手にナイフを持ち仮屋の首にそのナイフを当てていた。

 

「仮屋!?」

 

「動くなよ!!動いたらこいつを殺す!!」

 

 

8

 

「······まさかここまでテンプレを往くとは······」

 

「おっと、逃げたりもするなよ?その場合も殺す!!」

 

やれやれ、面倒なことになった。

 

「やめろ、潜木!!そんなことしても何にもならんだろう!!」

 

そう叶が叫ぶ、が

 

「動くなって言ってるだろうが!!」

 

聞く耳を持たない。

 

「さて、まずそのストラップを渡してもらおうか!!」

 

「────その前に聞きたいことあるんだけど」

 

と、巽が問う。

 

「······なんだ?」

 

「いやさぁ、なんでそんな見向きもされてないのにここまでやるかなぁって思って。」

 

「────なんだと?」

 

だって────

 

「なんで三上さんの幽霊が現れたと思う?」

 

「······あ?」

 

「お前以外の人が良かったんだとよ。」

 

「············あんだと?」

 

「お前以外の人間なら誰でも良かったのさ、まあ、そりゃそうだよなぁ、大切な人も、ましてや自分自身も殺されたのに······死体まで触られるのは許せねえよな」

 

「おい、その口を閉じろ······」

 

「もし死体が見つかっても······いや、ひょっとしたらわざと見つかるように仕向けて完全なる被害者でも演じようとしてたか?まあそうじゃなくても、自分を殺した人間がのうのうと葬式に出るのは許せねえだろうな」

 

「黙れ······!!」

 

「でさ、ここまで拒絶されてるのに······なんでお前そんなに執着してるの?はっきり言って、キモいよ?」

 

煽る。煽る。兎に角煽る。

 

そして────

 

「黙れええええええええええええええ!」

 

遂に、堪忍袋の緒が切れたのか、仮屋を突き飛ばし、ナイフを構えて巽に突進する。

 

「一ノ瀬────!!」

 

叶が動き出すがもう遅い、その凶刃は巽の身体を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、菊川警察署

 

「おい、氷室。」

 

「どうした剛。何かあったのか?」

 

怪異専門のオカルトジャーナリストの加賀剛(かがつよし)は用があって警察署を訪れていた。

 

そこでついでと言わんばかりに、前々から気になっていたことを聞いてみようと思い、何となく呼び止めた。

 

「いやよ、お前みたいな堅物────それこそ何時もなら『一般人はもうこれ以上関わるべきじゃない』とか言うお前が、なんであの一ノ瀬巽を怪異に関わらせてるのかと思ってな······」

 

「ああ······その件か······」

 

氷室は珍しく面倒くさそうに応答する。

 

「あれは別に俺が関わらせているってのは大きな間違いだ······どちらかと言うと上······つまり特務科の方からアイツはスカウトを受けているんだ······」

 

「────は?」

 

「ああ、お前アイツを現場で見たこと無かったか······アイツは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

その凶刃は、素手で止められた。他でもない、一ノ瀬巽の手によって。

 

刺さる前に、手首をガシッと掴んで、離さない。

 

「ぐっ······!?な、おま······!?」

 

そしてそのまま────()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は、はぁ!?」

 

「全く────危ないじゃないですか、こんなの振り回して······まあいいや、殺すつもりでやって来たんだろうし······」

 

 

「ぶん殴っても、文句は言われないよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツは────生身で怪異に殴り勝つ程のバケモノだぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理不尽と言われている怪異をぶん殴って消すことが出来る更なる理不尽。そんなバケモノの手加減した拳は潜木尚人の顔面にめり込み────────

 

 

 

 

 

 

彼の身体は宙を舞い、ロッカーにめり込んだ。

 

 

 

 

9

「······やりすぎたかなぁ······」

 

もう夜も遅いので(危うく補導されそうになったが店長が保護者役という言い訳を使い逃れた)帰路につく。

 

因みに仮屋がどうやって深夜のラビリンスにいたかと言うと「友達の家に泊まるって言ってきた」らしい。つまり────

 

「まあ、いいんじゃない?······確かに救急車で運ばれたのを考えるとやりすぎかもしれないけど······そんな事よりまだ着かないの?一ノ瀬の家。」

 

今日、仮屋は一ノ瀬家に泊まるのである。

 

と言っても正しくは仕事場のようなものなのだが。

 

因みに潜木尚人は病院に運ばれた後警察に捕まった。あのストラップには国東徹を殺した時の音声が、そしてロッカーの下から三上美香殺害時の音声が録音されていたキーホルダーが見つかり、本人も自供したのだとか。

 

「そろそろ着くけど······あ、ここだよ俺の家。しかし、一人暮らしの男の家に泊まるのはどうかと思うぞ······」

 

「まさかこんな時間になるとはねー······ま、一ノ瀬なら何もしないでしょ?」

 

「······随分と信用してるんだな俺を······まあ、明日は学校休みだからいいか······さて、着いたぞ。」

 

「······え、ここに一人暮らし?」

 

「······?そうだけど?」

 

「いやいやいやいや!?」

 

そこは一軒家だった。しかもそこそこ高級そうな。

 

「ちょっ······ここに住んでるの!?」

 

「言っとくが俺もう税金払う程には稼いでるんだからな?」

 

仮屋は忘れていた。

 

一ノ瀬巽は成績優秀、文武両道のバケモノであり、日本で最も有名なホラー作家であると。

 

「正直このまま何も書かなくても十年は生きていけそう。余程の贅沢しなければだけど。一応今の両親に管理してもらってるし······引き出し自由だけど」

 

「それは管理って言わない······自由に使えてる時点で管理されてない······」

 

「······まあ、寒くなるからとっとと入れ」

 

「あ、うん。お邪魔しまーす」

 

促された和奏は家に入った。

 

 

────数時間後に、割と後悔することを知らずに。




次回!!まさかのお泊まり会、メインヒロインが決まってないのにフラグを立てるか!?

次回:一ノ瀬家は異常!!

────え?主人公がチートすぎる?

ヒントをあげよう。今回の本文と原作←


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一ノ瀬家は(ある意味)異常

ゆずソフトショップで和奏のネコ耳クッション買ってきたんですけど毎日眠る時抱いてねる程気に入りましたわ。和奏マジ可愛いわかにゃんマジ可愛い

だからヒロイン力を爆上げします(嘘)

正直蛇足感半端ない


1

小説家というものは存外大変な仕事だ。

 

まずネタを考えるために色々と勉強しなきゃいけない。

 

完全にオリジナルの場合でも何かしらリスペクトしたものはあるだろう。

 

そして、ホラー作家というのはネタには困らない。なんでもネタに出来るといえば出来るからだ。だからこそ、いろんな分野を勉強しなきゃいけないわけで────

 

「だから、多少汚くても見逃してね!!」

 

「全然『多少』の範囲じゃない!!」

 

一ノ瀬家のリビング。そこには大量の本が散乱していた。

 

医療関連の論文が積み上がっていたり、法律関連の本もあれば、ノラ〇とやマヴ〇ブ等のゲーム、ジ〇ジョ等のジャンプコミックスまである始末。

 

「こんなに本棚あるんだから仕舞えばいいのに────」

 

「ごめん、仮屋。これ本棚に入り切らなかったやつ。」

 

「嘘ォ!?」

 

一ノ瀬家のリビングには大量の本棚が並んでいた。それこそ、扉の前や庭へ通じる窓、キッチンへ行く通路以外の全ての壁際にでかい本棚がある。

 

トータルで500冊は入るであろう本棚に、まだ入らないというのか。

 

「いや、本棚に全部本が入ってるわけじゃないし、仮面ラ〇ダーだの円盤系やMELTY BLOODみたいなゲームの箱とかも入ってるし······」

 

「じゃあせめて他の部屋に置いたら?例えば······あの部屋とか」

 

仮屋はそう言ってリビングを出て真正面にある部屋の扉を開ける。

 

────またもや本棚でほぼほぼ構成されている部屋だった。

 

「一ノ瀬どんだけ本あるの!?」

 

「?さあ?数えた事ねえなぁ······あ、でもこち亀は全巻揃ってるよ?」

 

その時点で既に200は確定である。

 

「······まあいいや、とりあえずリビングどうにかしようよ······」

 

2

その10分後、仮屋和奏はリビングのせめてもの整理すら諦める事にしたのか椅子に座り、ぐったりしながら巽が夜食を作り終えるのを待っていた。

 

「おにぎり作るけど具は何がいい?鮭と牛筋とカツとおかかがあるけど。」

 

「牛筋とカツのおにぎりって何さ······鮭でお願い。」

 

如何せん、論文系統が多すぎたのだ。そのへんの本よりもはるかに重い物が多い。よって、諦めた様だ。

 

「ほれ、出来たぞー」

 

そう言って巽はテーブルの上におにぎりが二つ乗った皿を置く。

 

そして恐らく自分の分であろうチキンラーメンを作り始めた。

 

「······一ノ瀬おにぎり要らないの?」

 

「二つとも食っていいぞ。俺はそれじゃ足りないからチキンラーメンと余った飯食うから」

 

その言葉を聞くと「やっぱり男だから食う量も違うんだなぁ」と何となく思う。

 

(······冷静に考えたらこの状況ヤバくない?一人暮らしの男子の家に上がり込んで泊まるって······!!)

 

今更そんな結論に辿り着いたようだ。

 

よく良く考えればバイト先の同僚の女性の家に泊めてもらえば良かったのだ。

────因みに巽の家に泊まることを決めたその時、バイト先の人間、全ての視線が生暖かかったのをここに記しておく。

 

だがしかし、仮屋和奏は知っている。

 

(まあ、一ノ瀬の性格からして何も考えてないな······女子を泊めたっていう認識すらあるか怪しい······)

 

昔からそうだった。

 

良くも悪くも彼は男女を区別しない。

 

そのせいで昔は女子の友達が私しか居なかったのはまだ記憶に残っている。

 

しかし何だろう、女子扱いされないというのは────

 

 

「······なんかムカつくなぁ······」

 

「ん?何が?」

 

「いやぁ、昔の事を思い出してただけだよ······一ノ瀬は良くも悪くも男女区別してなかったなぁって······」

 

「······あー、懐かしいなぁ。」

 

「容赦なく女子の顔面ぶん殴る様な男子は今のところ一ノ瀬しか知らないよ······」

 

「女子だからって殴られないと思ったら大間違いだぜ?例えば俺は綾地が何か裏で人の道を外していて俺に被害が出るようなことをしているなら例え全校生徒の前であろうとぶん殴って止めるさ」

 

「その暁には学校中の嫌われ者になるだろうね」

 

「それどころか作家生命も危ういだろうね······でもさぁ」

 

────悪人が裁かれないなんて間違ってるだろ?

 

そうだ、一ノ瀬はあの日からこういう人間になったんだ

 

「······一ノ瀬、やっぱりまだ諦めてないの?」

 

「······当たり前だろうが······!!」

 

怒鳴らなかっただけ、まだ偉いと思う。

 

「────ごめん、嫌な事思い出させたね······」

 

「······いや、いいさ。俺もお前に嫌な思いさせたろうし······思い出すもクソもない、忘れたことなんて一日たりとも無いんだから。」

 

 

······その声には七年以上溜め込んだ怒りと憎しみの怨嗟が満ちていた。

 

その後の会話は無く、シャワーを浴びて、眠りについた。

 

 

 

3

 

誰かの怒鳴り声が聞こえる。

 

────巫山戯るな!!なんでアイツが無実なんだよ!!

 

これは、間違いなく、あいつの声だ。

 

さっきまで、おにぎり食べながら話していたあいつの声だ。

 

────責任能力不十分ってどういう事だ!!

 

七年前の絶対に忘れられない、自分の無力を痛感した記憶。

 

私は何も出来なかった。慰める事も、止めることも。出来なかった。

 

────アイツだけは絶対に────────

 

私はあいつに助けられたのに、私はあいつを助けられなかった。

 

 

 

4

 

「······嫌な夢を見たなぁ······」

 

一ノ瀬家の二階にある客室。

 

時計はまだ午前2時を指していた。

 

寝てからまだ2時間くらいしか経ってないのか、と思いながら起き上がる。

 

「水飲ませてもらおっと······」

 

そう言って1階に降りる。

 

電気を付けて、台所で水をコップに汲み、一気に飲み干す。

 

────もう1杯くらい欲しいな。

 

そう思い水をもう一回汲もうとしたその時────

 

 

バンッ!!

 

と何かを叩いたかのような音が聞こえた。

 

音の発生源は本棚だった。この部屋には今、私以外は誰も居ないはずなのに、本棚が開いている。

 

「······え、あれ?私が入ってきた時には閉まってたような······」

 

そう呟いた次の瞬間────

 

バンッ!!

 

再び音がした。さっきよりも私に近い所にあった本棚が突如思いっきり開いたのだ。

 

「な、なに······?」

 

バンッ!!

 

また、開く。

 

開き、開き開き開き開き開き開き開き開き開き開き────

 

バァンッ!!

 

全ての本棚がひとりでに開いた。

 

最早声は出なかった。ただただ怖かった。

 

────だけどこれだけじゃ終わらない。

 

ガタッ、と何かが動く音がする。

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

────本が、本棚の本がひとりでに動き始めた。

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタタッ!!

 

そして大量の本が射出された。

 

「なんだうるさいな······またかよ畜生!!」

 

と、そこで一ノ瀬が音で起きたのか、部屋の中に入ってきた。

 

────その瞬間、全てが止まった。

 

 

 

 

 

「いやー、最近どうもポルターガイストが酷くてねぇ······」

 

「酷くてねぇ······じゃないよ!!なんで教えてくれなかったのさ!?」

 

「二日くらい来なかったからもう大丈夫かなぁと。」

 

一ノ瀬曰く、ここは所謂事故物件なのだそうだ。

 

ネタ半分で買ったところ、特に何も無かったのでそのまま住み続けたらしいのだが、何でも『浮遊霊などが集まりやすい家』らしい。だから偶に金縛り等が起こるのだとか。今回もその一例らしい。

 

「······よし、取り敢えずこれで出ないだろ。」

 

部屋の四隅に塩を置いた一ノ瀬は満足気に呟いた。

 

「さて······まだ時間は早いしお前もはやく寝ろよ······て、おい、どうした?」

 

仮屋はパジャマの裾を握り、こう呟いた。

 

「──── 一緒に寝て」

 

「え、なんでさ······」

 

「あんな事があったのに一人で眠れるかっ!!」

 

「んな事言われてもなぁ······もう眠くないんだけど······」

 

「······確かに私も眠くないんだよなぁ······あれだけの恐怖体験したから眠れないよ······」

 

「······仕方が無い······」

 

そう呟いて一ノ瀬は仮屋を抱き上げた。

 

「ちょ!?な、な、何してんだ!?」

 

「何って、腰抜けてんだろ?歩けねえんじゃしょうがない」

 

「だっ、だけど!!まだはやいって!!付き合ってもないのに!!た、確かに一緒に寝ようなんて言った私にも非はあるかもしれないけど······!!」

 

顔を赤らめて抵抗する仮屋。

 

そんな仮屋の抵抗を無視し、そのまま一ノ瀬は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレビの前の座布団に座らせた。

 

「────え?」

 

そのまま台所へ向かい二人分のコップとコーラ、そしてスナック菓子を持ってきて、テレビとP〇4の電源をつける。

 

「────寝れないなら、朝までゲームだな!!」

 

MA〇VEL VS CAP〇OMを付け、笑顔でそう宣う一ノ瀬の顔を見て

 

「何を想像してたんだ私は······!!」

 

暫く立ち直れなかった。

 

 

 

 

翌日、いつの間にか寝落ちして11時に起きた二人は昼飯を食べてから警察署に向かい、昨日の調書制作に協力、終わった時には6時になっていた。

 

「······調書って疲れるんだね······」

 

「巻き込まれる度毎回俺あんな事してるんだぜ?正直辛い」

 

そんな愚痴を言い合いつつ、帰路についた。

 

「じゃあ、また明日学校で」

 

「おう、また明日。」

 

こうして、仮屋和奏の心霊相談は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────と、こんな風に、綺麗に締まればよかったのだが。

 

「おい巽どういう事だ!?」

 

「何が!?何が!?何で怒ってんの海道!?」

 

「惚けるなああああああああああああ!!ちょっと大きめなスポーツバッグを持った和奏ちゃんが日曜日の昼、お前の家から出るのを目撃した奴がいるんだよ!!」

 

「「「「何ィイイイイイイイイイ!?」」」」

 

「ちょ、誰だよ見てたヤツ!?」

 

仮屋や俺も含め大混乱になる教室。さらに────

 

「おうおう、なんだゴシップか!?私にも聞かせろ!!」

 

担任まで止めずに攻めていくスタイルである。

 

「さあ、吐け!!二人は!!泊まりで何をしていたんだ!?」

 

「まて、泊まりとは限らないじゃないか!!」

 

「いいや、それは無いね!!大方和奏ちゃんのバイト先で起きた事件を解く前に和奏ちゃんが家を抜ける言い訳として『友達の家に泊まる』とでも言ったんだろう!!その友達がお前なら十分筋は通ってる!!」

 

「「何で知ってる!?」」

 

ほぼ事実を述べた海道。ひょっとしてコイツ探偵の素質でもあるんだろうか?

 

「宿題のプリント学校に忘れたから問題だけ教えてもらおうかと思って電話したら親御さんがそう言ってたからな!!最初は純粋に友達とお泊まり会かと思ってたが、目撃情報を聞いた瞬間解ったのさ。お泊まり会から直で巽の家に行くほど和奏ちゃんも常識知らずではない、つまり、友達とは巽だと······!!」

 

「何でこいつこういう時だけめちゃくちゃ冴えてるんだ!?」

 

「海道どっかに頭ぶつけた!?」

 

「保健室行くか!?」

 

「体調悪いなら帰った方がいいぞ!?」

 

「なんで俺が心配されてるの!?あれ!?────まあいい!!さあ巽、何をしていたんだ!?ナニをしていたんだ!?」

 

何をしていたと言われてもなぁ────と、仮屋と目を合わせて唸り────

 

「「······徹夜でマヴカプしてた?」」

 

真実を伝えた。

 

「「「「······え?」」」」

 

結果として何故か俺に『ヘタレ』の称号が付き、この騒動は終わりを告げた。

 

 

 




若干シリアス混じりで伏線をばらまいていくスタイル。

────ところで、皆さんに聞きたいんですけど、七緒さんヒロインって需要あります?

冷静に考えたらきょにゅーの喫茶店のお姉さんって需要しかなくない?


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因幡めぐるの相談

 

1

「······で、先生。何故俺は呼び出されたのでしょうか?」

 

とある日の放課後、俺は担任の久島佳苗(ひさしまかなえ)に呼び出されていた。仮屋の持ってきた事件から約二週間が経過している。因みにあの後店長さんはラビリンスを閉めて別の県でカフェをやっているらしい。仮屋は別の喫茶店に移ったようだ。この間綾地に相談を持ちかけていた。

 

「いや、まあ色々あるんだがな。まずは一つ。お前この間賞とったろ?」

 

「────ああ、取りましたね。どうかしたんですか?全校集会か何かで表彰とか?」

 

「まあ、その通りだ。三日後の全校集会で表彰されるぞ、部活動が一通り終わった後に。今回はお前一人の功績だしな。」

 

「そりゃそうだ······で二つ目は?」

 

「······この進路希望調査だよ。大学には行かないのか?」

 

「······んー、行ってまで学ぶ事無いんですよね。もうほぼほぼ学び終えたと言いますか······イザとなったら独学でどうにでもなりますので······」

 

「······いやまあ良いんだけどさぁ······私の仕事も一つ減るわけだし······ぶっちゃけ何もしなくてもお前ならどこでもいけるだろ。······ただなぁ、もう少しお前は人と関わった方がいいと思うんだが······」

 

「冗談じゃねえ、ただでさえ怪異絡みで人と関わって厄介な思いしてるってのに······」

 

事実、未だに特務課は俺のことスカウトしようとしているしな。本当に碌なことが無い。特に最近。心霊相談が殺人事件になったりとかな。

 

「······?まあいい、お前もあまり人とは関わらないタイプの人間だからな······」

 

「そりゃ俺に近づいてくるやつなんて俺のネームバリュー利用して他の有名人のサインを頼んでくるやつか金目当てのどちらかですからね。」

 

唯一違うのは柊史とその周りだろうか。

 

本当に人と関わるのは嫌になる。

 

「有名人も大変だな······まあ一応今の所大学進学は考えてないってことでいいんだな?」

 

「ええ、それでお願いします。」

 

そうして軽い二者面談は終わった。

 

2

 

オカルト研究部部室前に着くと髪の明るい女の子が立ち止まっていた。

 

「······何してんのお前」

 

「うわひゃあっ!?」

 

めちゃくちゃ驚かれた。

 

「な、なんですかいき······な······い、一ノ瀬センパイ!?」

 

「ん?俺のこと知ってるのか?」

 

「忘れられてる!?」

 

はて、何のことやら?少なくともこんなオレンジ色みたいな髪色の知人は居なかった筈だが······

 

「思い出してくださいよぉ!!私です私!!因幡めぐるですよ!!」

 

「────────────誰?」

 

「本当に忘れてる!?嘘でしょ!?信じられない!!」

 

ンがー!!と奇声を上げながら怒鳴る後輩。

 

はて、本当に知らんのだが。

 

「あ、あの······どうかしましたか?」

 

「ああ、悪いな綾地。なんでか知らんが1年に因縁つけられてな·····」

 

「センパイが薄情にも私を忘れたんでしょうが!!」

 

「えー······人違いじゃね?」

 

「本当に忘れたんですか!?あの桜事件の時の因幡めぐるですよー!!」

 

桜事件────ああ、

 

「あの時の地味な三つ編み眼鏡?」

 

「覚え方が酷すぎませんか!?」

 

いや、流石に変わりすぎだろう。

 

そう思った俺は悪くないはずだ。

 

 

「えっ、お二人は知り合いだったのですか?」

 

「ああ、中三の時にコイツが桜の木の下に埋まってた赤ん坊に呪われてな。その時に知り合った。」

 

「ひょっとして彼処の中学か?そういや1回だけテレビに出てたな······死体遺棄がどうとかって」

 

「それそれ、その事件。あれな、地面に埋まってた赤ん坊が怪異化して大変だったんだぜ?」

 

ギャーギャー喚いていた因幡を落ち着かせオカ研の中に引きずり込ませ、オカ研部室内で柊史と綾地に因幡との関係を説明した。

 

「しっかし変わったなお前······前は地味子を王道で行くような奴だったのに······」

 

「さっきから女子に失礼すぎませんかね!?デリカシーってものが無いんですか!?」

 

「事実を言って何が悪いのさ······」

 

「すっかり忘れてた······この人素でこういうこと平気で言うんだった······!!」

 

それを見ていた柊史が

 

「お前······やけに因幡さんにあたり強いけど何かあったのか?」

 

と質問する。その答えは────

 

「うん、ちょっとめんどくさいから説明は省くけどコイツのせいで学校そのものに呪いかかって学校がデストラップ塗れになった。」

 

そりゃ何かあったんですよ。ええ。俺基本的には女子に優しいもん。何かない限りは。

 

「あれだけ忠告したのに······絶対に赤ん坊に耳を傾けるなと言ったのに······」

 

「うぐ······!!」

 

図星当てられた因幡はうめき声を上げ黙る。罪悪感はあるらしい。

 

「······一体何をしたんですか······?」

 

「んー······一から説明すると番外編という形でまた連載小説が増えるほど濃かったから省くけど······わかりやすく言うなら『ほのぼのアニメの世界にコ〇ン君連れてきて、そのせいで事件が起きた』みたいな?」

 

「「うわぁ······」」

 

「お二人までっ!?」

 

いや、ほんとにその規模で酷かった。死人が出なかったのが不思議だ。

 

まあ出たっちゃ出たんだけども。あれは死んだというのだろうか?

 

「お蔭でゴールデンウィーク潰れるわ皆勤賞潰れるわ······地味に狙ってたのに······」

 

「いや、その、本当にごめんなさいいいいい!!」

 

────まあ、この辺で因幡イジリは終わりにしよう。

 

「で、お前オカ研前で何してたの?」

 

「っと、そうでした、綾地センパイに相談があるんです」

 

本来の目的を思い出した因幡はそう言うと、こう言い放った。

 

「────私を人気者にしてください!!」

 

思わず吹いた。

 

3

 

「くっ、ひひひひゃははははははははははアハハハハハハハハハハハは、、に、にんきものってひゃひゃひゃお腹痛いあはははははははははははははげっほごっほ!!」

 

「ちょ、おい一ノ瀬!?」

 

因幡さんの相談を聞いた瞬間、一ノ瀬は狂ったように笑い出した。

 

「一ノ瀬君、流石にそれは酷いですよ!!」

 

寧々も激怒している、がそれよりも。

 

因幡さんからの匂い────間違いない。呆れている。そんな匂いだ。

 

まるでこうなる事を予想してたかのように。

 

「はぁー────因幡、お前それ本気で言ってるの?」

 

そして、一ノ瀬から途切れ途切れに、しかし漂ってくるこの匂い────呆れ。そして、本気の心配。

 

「お前人気者になりたいって······要するにあれだろ?上辺だけでもいいから、取り敢えず喋れるような仲間が欲しいと?」

 

「······概ねその通りです。それが何か?」

 

「────お前中二の時あんな事あったのによくもまあそんなこと言えるな······何かあったのか?」

 

「······色々あったんですよ。」

 

「······ふうん······まあ、聞かないでおいてやるよ。上辺だけの関係が危ない事はお前が一番よく知ってる筈だしな。何か事情がある······ということにしよう。決意が硬いなら何も言わんよ、俺は。ただ気をつけろよ?」

 

「はい、わかってます。大丈夫······です」

 

そう言って一ノ瀬は椅子から立ち上がる。

 

「ま、怪異関係じゃないなら俺はもう帰るぜ、〆切もあるしな······」

 

そう言って一ノ瀬は部室を去った。

 

────って

 

「「帰ったあああああああああああ!?」」

 

 

4

 

「いらっしゃいませー······って一ノ瀬!?」

 

「ん?仮屋か······仮屋!?」

 

俺の行きつけの喫茶店Schwarze Katze。

 

そこは店主が一人でやっている小さな喫茶店だったはずなのだが────

 

「お前の新しいバイト先ってここだったのか······」

 

「うん、綾地さんに紹介してもらったんだ。」

 

まさかクラスメイトが居るとは思わなかった。

 

「あ、一ノ瀬、ここのバイトなんだけど────」

 

「安心しろ、言わねえよ。誰にもな。」

 

「うん、なら良かった······おっといけない、1名様ですね?こちらの席にどうぞ。」

 

「板についてるなー······流石飲食店バイト······」

 

「まあ、これ位なら前からだからねえ······っと、注文決まりましたら────」

 

「じゃあブレンドコーヒーとチョコレートパフェ」

 

「······常連だったんだ?かしこまりました。以上でよろしいですか?」

 

「うん、あ、それと仮屋。」

 

「?何?」

 

「その制服似合ってるぞ、マジで。」

 

「────ッ······あ、ありがと······お、オーナー、オーダー入ります!!」

 

ありゃ、逃げられたか。

 

そして仮屋と入れ違いでここの店主の相馬七緒(そうまななお)が入ってきた。

 

「おや、来ていたのか巽君······また随分と酷い顔をしているね」

 

「お久ー······って酷いですね?」

 

「なんて言えばいいかな······まるで老人の様だ。タダでさえ君心がぽっかり空いてるのにもっと広がりそうだよ?」

 

「あっはっは、もうそれすら諦めてる。正直どうでもいいさそんなもの。」

 

「ふうん、これも一つの壊れた境地、というヤツなのかな?お待たせ、ブレンドコーヒーだ。パフェはもう少し待っていてくれたまえ。」

 

相馬七緒は人間ではない。アルプという、どちらかと言えば怪異寄りの生物である。

 

詳しくはよく知らん、ただ彼女が猫又の一種ってのは知っている。だから、と言えばいいのか、ネットワークがやたらと広い。だからと言ってはなんだが、彼女は一応俺の協力者だったりする。

 

「そう言えば七緒さん、コトリバコの件で暗躍したと思われる警察官の男について何かわかったりしてない?」

 

猫ならばどこに居ても極論不思議じゃない。まあ渋谷とかコンクリートジャングル等なら話は別かもしれないが······少なくともこの辺はビル群のある町とは言えないからどこに居ても不思議ではない。

 

だから、コトリバコの時に暗躍した警察官を探してもらっている。アルプである彼女のネットワークなら怪異の匂いだとかで見つけそうなものだが────

 

「いや、まだ見つからないね。この辺の交番は全て当たったから交番勤務から移動になった可能性もある。っと、ご注文のチョコレートパフェだよ。」

 

「どーも。そうかぁ、七緒さんでも見つけらんないか······困ったなぁ。被害が拡大しなきゃいいけど······」

 

とまあ、こんな具合で探してもらっているのだ。因みに対価は面白い話。人間を理解しようと努力している七緒さんは、人間の起こす出来事に非常に興味と関心を持っていてるのだ。どちらかと言うと面白いというより人間を理解するためにためになる話とかそんなのが多いが。

 

「さて、では何か面白い話はないかな?」

 

「今日あった出来事でいいなら、どうぞ?」

 

 

 

 

──── 一方のオカ研部室。

 

「と、それが原因です。」

 

綾地寧々、保科柊史の二人はあまりの前世と違いすぎる世界に戸惑っていた。

 

ただ、この学校でデビュー失敗した原因は変わっていないようだ。

 

「······あの、因幡さん······さっき一ノ瀬が言ってた······あんな事って?いや、言いたくないなら良いんだけど······」

 

「いえ、それならお話します······先程、怪異関連と聞いた時どうもある程度二人共知ってるみたいなので、話しても信じてもらえるでしょう。」

 

そして語られ始めたのは想像を絶する過去だった。

 

 

 

「そいつさぁ、中学二年生の時、つるんでいたグループも含め、赤子の霊に呪われて学校内に閉じ込められた時────最初怪異に襲われた時、いきなり盾にされたんだよ」

 

「そこを、たまたま通りかかった一ノ瀬センパイが助けてくれたんです。」

 

「その後も酷かった酷かった、男子生徒は早々に裏切ってそのままだったけど女子の方はね?こんな事を言ったんだよ、『男子でグループのリーダー格であるアイツに逆らう事は出来なかった。私達は裏切るつもりはなかった』ってさ!!」

 

「そして、私は────その言葉を信じたんです。でも······」

 

「結局、その女子生徒も裏切ったよ、因幡のことを。」

 

 

「······え、じゃあ······本当になんでこんな依頼を······?」

 

「······すいません、そこまでは話せないです。」

 

「······そう、ですか。」

 

オカ研の部室は沈黙に包まれた。

 

だがSchwarze Katzeの方ではまだ話は続く。

 

「そこまでボロカスに裏切られて、酷い目にあって、確実にトラウマものの体験をしたやつが集団に溶け込みたいときた。訳分からんだろう?」

 

「なるほど······人間というのはまだ理解できそうにないね······中々面白い人間もいるものだ。ドMというやつかい?」

 

「中三に何かあったかドMに目覚めたかのどっちかでしょ······と、そろそろお暇しますね。ご馳走様でした。」

 

「お、一ノ瀬帰るの?」

 

「ん?まあ仕事あるしなぁ。なんか面白そうな話思いつきそうなんだわ。」

 

「そっか······頑張れ!!お会計750円になります。」

 

「あいよ······と、丁度だ。」

 

「ありがとうこざいましたー!!」

 

「また何か聞かせてくれたまえ。そうでなくても歓迎するよ。」

 

こうして俺はSchwarze Katzeを後にした。

 

6

 

次の日。保科が学校に居なかった。

 

綾地も居なかった。

 

ので、昼休み────

 

「因幡ー、あの二人どこいったか知らねえ?」

 

「なんで教室きたんですか!?LI〇Eとか最悪Sky〇eでいいじゃないですか!?ていうか昨日あんな雰囲気出しておいてよく顔出せましたね!?別に私はいいですけど!!むしろ大歓迎ですけど!!」

 

「いやぁ、昨日お前が依頼持ち込んだからこっち居るのかなぁと······って、お前やっぱりドMに目覚めたの?」

 

おかしいな、昨日結構忠告込めて酷いこと言ったつもりだったのに歓迎されるなんて······。

 

「違いますよ!?······センパイが私の身を案じて言ってくれてるのはわかってますから······あ、後二人の件なんですが、今朝、私のケータイにこんなメールが届きました。」

 

「あ?メール?」

 

件名:今日の部活

本文:保科君とデートに行くので学校休みます。今日は一ノ瀬君に対応してもらってください。多分何だかんだ何かしら考えてくれると思います。一ノ瀬君にもそう伝えておきますね。

 

「────アイツら学校サボって何してんだ······」

 

「で、伝えられてないんですか?」

 

「昨日FGOとデレステの周回してたら寝落ちしててケータイ朝から充電しっぱなし。まあモン猟やるから別にいいけどさぁ······」

 

「あ、なら私もやります。まだ揃ってないんですよ。中々涙が落ちないんですよねー······」

 

「FGOのイベ礼装ドロップ並だもんなー······」

 

と、ぐちぐち言いながらやっていたところ────

 

「え、因幡モン猟やってるの!?」

「ランク幾つ?」

 

「えーっと······91くらい?」

 

なんかクラスメイトがやたら集まってきた。

 

「······依頼完了でいいのかね?これは······」

 

まあ、今はそんな事より────

 

「い、一ノ瀬センパイ······あ、あの······」

 

「折角だから四人プレイでやるか、因幡は銃だよな?そっちの2人は?」

 

「「両方槍です!!」」

 

「じゃあ俺も銃担いで行くか、そっちの二人メインアタッカーよろしく、因幡は基本回復で、俺は後方からひたすら麻痺弾撃ち続けるから」

 

この後、メチャクチャモン猟した。

 

7

 

えーっと、『モン猟やってたら依頼が解決してた。因幡のことはもう大丈夫である』送信っと······

 

「よし、これでいいのか?因幡。」

 

「はい、ちょっとだけ女子から反感は買いましたけど本当に一部ですし。」

 

放課後、オカ研の部室にて。

 

因幡の依頼が解決したのを綾地にLI〇Eで送り、これにて依頼は完了した。

 

「あ······センパイ······たまにここに遊びに来てもいいでしょうか?」

 

「どうせなら入部したら?別にここ何かやるわけじゃないし文化祭はほぼほぼ俺が全部やってるから楽だよ?まあ入部に関しちゃ綾地に一任してるから何とも言えねえけどな」

 

「じゃあ綾地センパイに明日聞いてみますね、じゃあゲームしましょう!!」

 

「結局昼休み落ちなかったもんな······にしてもまさかモン猟がこんなことに役に立つとは······」

 

彼女はグループに裏切られるという事にトラウマを抱いていた。だから一人仲のいいやつがいればいい、中学二年でそんな結論に至っていた。しかし中三に何かあったのか、また集団に溶け込みたいときた。

 

なら簡単な話だ。

 

グループに所属しなければいい。

 

テキトーにクラスでモン猟広げれば勝手に集まってくる。

 

その時だけ集団は形成され、終われば解散する。

 

そしてクラスの中で存在を作っていけば······休みの日に遊びに誘われることも多々あるだろう。目標は達成されたのだ。モン猟によって。

 

常にグループに所属しなくてもいいのだ。

 

冷静に考えたら、『グループに所属したい』とは言ってなかった。

 

「まさに盲点って感じだったなぁ、最初からグループを作らなければいいという考えがあるとは!!」

 

「モン猟万々歳ですね〜」

 

「······あれ、お前グループに所属することにはトラウマまだあるんだよね?」

 

「トラウマって程じゃないですけど······まあ」

 

「さっき提案した俺が言うのもなんだが、ここに所属するのはいいのかよ?」

 

一応、ここだって部活という一つのグループだ。そういうのは忌避すると思っていたのだが······

 

「別に綾地センパイも保科センパイもいい人そうですし────何より、何かあったら何だかんだ言って一ノ瀬センパイが助けてくれるでしょ?」

 

「······信じすぎるのもどうかと思うけど?」

 

「何だかんだ優しいですし。今回だって······センパイちょっと怖かったですけど······何だかんだこっちを心配して言ってくれてるのはわかるので、むしろ気分がいいです」

 

「やっぱドMに······?」

 

「目覚めてないです!!目覚めてないですよ!?······違うよね?」

 

「何でそこで自信なくしちゃうんだよ!?」

 

こうして、因幡の持ち込んだ相談は一応解決した。

 

────ああ、平和だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8

翌日、学校が何故か全校集会のみで解散となったので昨日の依頼に関して聞きたいことがあった綾地寧々と保科柊史は因幡めぐるをデパートのフードコートへ呼び出し、昨日の事を聞いていた。

 

二人共過去と大体同じ結末になったことに安堵しているようだ。

 

「あのー、私もオカ研入部してもよろしいですかね?」

 

「はい、大歓迎ですよ。」

 

と、前の世界でもやったやり取りを済ませて────

 

「そういえば一ノ瀬センパイは?」

 

今日はオカ研全員を呼んだと言っていたのに一ノ瀬巽がいない事に違和感を覚えた因幡めぐるがそう質問する。

 

「そう言えばいないな······」

 

「一応呼んだのですが······まだ寝ているのでしょうか?」

 

と、そこまで話したところで寧々のケータイが鳴った。

 

「あ、一ノ瀬君ですね、えーっと······」

 

『助けて、怪異に巻き込まれて過労死しそう』

 

「「「────は?」」」

 

 





一体何が起きたんだろーなー(棒)

めぐるちゃんには酷いことをしてしまった······まあ簡単に流れをまとめると

元々集団の中に→怪異関連の事件で裏切られてメンタルボロボロ→主人公卒業後ちーちゃんと出会う→ちーちゃん原作通り失踪

······アカン()

もうこれヒロイン1人1人個別ルートって形で書いた方がいいな。うん。


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男の下半身だったら怪異だろうとなんだろうととりあえず金的すればどうにかなる


怪異症候群は一気に書かないと······あれRPGだから忘れないうちに書かないと死ぬ(確信)


1

 

因幡めぐるの依頼が解決した次の日の深夜3時。

 

一ノ瀬家に電話が鳴り響いた。

 

「······はい、もしもし?」

 

『やあ、巽君、遅くにすまない、君に頼みたいことがあってね』

 

「······すんげー嫌な予感がするんですが······なんです?」

 

その問に、氷室はこう答えた。

 

『オッサンの下半身を退治してほしいのだが······頼めるかい?』

 

「────は?」

 

 

 

 

 

2

 

現場の神代邸には救急車とパトカーが群れていた。

 

そしてそこに如何にも────というより、メディアで取り上げられている高校生が来たらどうなるか。

 

「あ、こら君!入ったらダメだ!!」

 

「······特務課の氷室さん呼んできてください。」

 

下っ端警官に絡まれる。

 

これがあるからウザい。え?なら特務課入れよって?やだよ。小説書けなくなるじゃん。副業禁止なんだから。

 

「すまないなこんな時間に······」

 

「そう思ってるなら迎えに来てくださいよ、菊川市って聞いたから遠くないかなぁって思ったら思いっきり郊外ギリギリじゃないですか······」

 

「いやぁ、現場を離れるわけにもいかなくてな······まあ話は後だ。2階から降りてこなくて······救急隊が突入できない挙句閃光銃が何故か効かないんだ。」

 

「······はぁ?」

 

現場となった神代家の2階。

 

そこには上半身の消えた下半身が移動していた。

 

「······これさぁ、『テケテケ』と『トコトコ』に別れてるんじゃねえの?んで『テケテケ』の方が本体とか」

 

「いや、上半身は既に回収した。だからあれだけなんだが······何故か効かん。」

 

「ていうかアレなんなの?これ『ひとりかくれんぼ』の惨状なんじゃないの?」

 

「多分怪異の空気に当てられて死体が怪異化したんだろう······で、倒せるか?」

 

「ん?まあ······倒せるでしょ」

 

そう言って巽は廊下の端っこまで移動する。廊下をぐるりと一周してくる下半身を端で待ち続ける。

 

「来たな······」

 

そう呟いた巽は全力で下半身だけの怪異に向かって走り出す。

 

そして数メートル手前で飛び上がり────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライダーキックの要領で股間に飛び蹴りをかました。

 

「────────!!────!!/:4tdtki41@@jptlvsns!?」

 

人語ではない奇声を上げた怪異はそのままピクリとも動かなくなった。

 

「一 件 落 着 ! !」

 

「相変わらず規格外だな······金的で怪異を退治するなんて······!!」

 

「いや、そこ悔しがるところじゃない。」

 

外野が煩いが無視だ無視。

 

 

 

 

 

3

 

「······ふうん······その神代由佳が『ひとりかくれんぼ』を始めた張本人か······何してんだか······」

 

「彼女はギリギリ一命を取り留めた。妹である神代春子くんも無傷だ。それ以外は全滅。そして────」

 

「たまたま巻き込まれた姫野美琴が解決したと?······一般人の女子高生が?」

 

「君だって似たようなものだろう······まあ、君のように規格外な力を持ったわけでもない女子高生が『ひとりかくれんぼ』をクリアしたとは予想外だがね。」

 

菊川署の一室。会議室なのだろうか?よくわからない部屋で氷室さんと俺は先程の事件について話していた。

 

「まあ、今回は暗躍とか無さそうじゃないっすかね?面白半分にやったら最悪の結果を招いただけでしょう。つーわけで寝かせてもらえません?まだ4時っすよ4時。どうせこの件で明日学校休みか一限で終わりでしょうし。」

 

神代も姫野も同じ学院の生徒だったようで。学院の生徒の家が······多分強盗のせいか何かにされて全滅となれば臨時集会か休校はあるだろう。マスコミ張るだろうし。

 

「ああ、悪かったな。こんな夜遅くに呼び出して。ゆっくり休むといい、仮眠室を使って構わないぞ。」

 

「りょーかい。じゃ、おやすみ」

 

こうして俺は眠りについた────

 

───────

────────────

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······お······た······!!」

 

なんだうるさいなぁ······なにか聞こえるんだけど。

 

体感的にまだ六時間も寝てねえんだけど。

 

「んあ······なんすか氷室さん······まだねみぃんすけど······」

 

「どんだけ寝るつもりだ君は!?もう11時······いや違うそうじゃない!!」

 

もう11時だったのか······どーりで腹減ってるわけだ······

 

「はぁ······飯買ってきていいっすか?」

 

「もう買ってきてある!!とにかく早く来てくれ!!美琴君がまた怪異に襲われている!!」

 

────は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

「白いナニカ······間違いなく『くねくね』ですよねそれ」

氷室さんに無理矢理車に乗せられ(霧崎さんと加賀さんも一緒に)田舎の方へ走る車の中で聞いた話によると。

 

姫野美琴が目を覚まし、家へ帰らせたところ駅とは全く逆の方向に気づいたら進んでいたらしく、しかも道がループしているとの事。仕方なく近くの農家の家へ、そこのおじさんに事の顛末を説明し、暫く世話になる予定だったのだが、その時畑から白い、くねくねしたナニカを目撃。その瞬間おじさんは発狂し失踪。その後自身も襲われ、撒いた後で氷室に電話。しかしその途中でその怪異に通話を邪魔されたようだ。

 

「────よくもまぁ『くねくね』に出会って生きてるな姫野······あいつまじ何者だよ······」

 

くねくねとは。白くて常にくねくねした動きをする怪異で、見たら発狂し二度と戻らないという性質を持つ、初見殺しという概念のような怪異だ。

 

多少怪異に耐性を持ってたりすると大丈夫らしいが。

 

「事は一刻を争う······早く辿り着かなければ······」

 

「全くだ!!」

 

「······あんたら随分燃えてますね······」

 

「剛は兎も角、等がここまで熱くなるとはな······」

 

何故か燃えている氷室と加賀に対し、霧崎と一ノ瀬の二人は完全に冷めている。

 

「お前等が冷めすぎなんだよ!!ていうか巽!!お前はあの娘と同じ学校なんだろ!?なんでそんな冷めてんだよ!!」

 

「会った事も無い、会話もした事ない、名前だって昨日はじめて聞いただけの人間のために何でそこまで熱くなれるんだよ、そっちの方が謎だわ。」

 

「お前等が熱くなりすぎてて一周まわって冷静になったんだよ······」

 

「翔太はまだいい、が巽は相変わらずクソだな!?」

 

「当たり前だ、こうしている間にも俺は新たな物語を紡ぐ時間を無駄にしてるんだ······ケータイで打った後にパソコンで色々しなきゃいけないのがどんだけめんどいと思ってるんだ······」

 

「そんな事思ってもいねえだろ······!!」

 

「思ってるさ、2割は。」

 

「······参考までに聞くが残りの8割は?」

 

「ラーメン食べたい、おにぎりじゃ足りねえ」

 

お昼時なのにお昼ご飯のこと考えてねえわけねえよな?

 

と、そこまで話したところで氷室さんのケータイが鳴る。

 

「もしもし────美琴くん!?」

 

どうやら被害者からの通信らしい。

 

曰く、順調に逃げきれているのだとか。そして、住所も聞き出せた。

 

「まあ、菊川市近郊の田んぼつったらその辺だろうな·····」

 

「丁度向かってるところだからすぐに着くだろう、待っててくれ美琴く」

 

「そうはいかねえだろ。」

 

横槍をいれて悪いが、流石にすぐは無理だ。

 

「あ?何言ってんだ!?」

 

「────まさか気づいてないんですか?加賀さんは兎も角氷室さんまで気づかないとは······え?霧崎さんも?」

 

驚いた、全然気づいてないらしい。

 

「何ですぐには行けないなんて言うんだ?······理由があるんだろう?」

 

 

「────さっきからこの車、なんで走り続けてる?」

 

「は?何でって────」

 

 

 

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「は!?んなモンたまたまじゃ······」

 

「幾ら田舎って言ったって、俺達は裏道を走ってるわけじゃないんです。なのに何故、信号に一度たりとも引っかかっていないんですか?」

 

氷室がまさかと思い、カーナビを見る。

 

そこは姫野美琴が居るであろう村に入る唯一のルートに近い所にある道路だった。

 

「つまり俺達はもう······怪異の影響を受けている!!!?」

 

「さっきから景色が全く同じだ······多分そうなんだろう。」

 

 

このタイミングで巽のケータイにメッセージが入る。

 

綾地寧々からの連絡。

 

『今日皆で集まることになっているのですが······もしかしてまだ寝ていますか?』

 

俺はすぐさま、返事を返す。

 

『助けて、怪異に巻き込まれた、過労死しそう。』

 

精一杯の愚痴を込めて。

 

 





【悲報】ひとりかくれんぼ冒頭で終了。

ま、しょうがないね!


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道は道と認識していれば何処であろうと道


和奏にディープキスされたい
紬ママの胸に埋もれたい
めぐるによしよしされたい

変女おもしれえ


 

4

 

「まだ抜け出せねえのか!?」

 

「ダメぽいですね。また同じ所だ。」

 

あれから三十分くらいだろうか?

 

未だに道路のループから抜け出せない。

 

「しかし一体なんの怪異だ?」

 

「わからん、戻れないし進めない、空間を歪める怪異なんて聞いたことないっすよ?」

 

「くねくねに引き寄せられた怪異が重なってたまたま起きた現象かもしれない。」

 

「あー······その可能性もあるのか······」

 

四人で打開策を話し合うが、何一つとして解決策が思いつかない。

 

「せめて原因が目の前に現れてくれればなぁ······」

 

巽は怪異を物理的に殺すことが出来る。だがそれは原因が目の前に来ないと殺せない、ということなのだ。

 

つまり、こういう持久戦はクソ苦手なのである。

 

ただでさえ手の方が先に出るような性格してるのに。

 

「······もういい、あれだ。抜け道探した方が早いかもしれん。」

 

「なるほど、しかしどうやって?」

 

「んー······俺だけならあの雑木林無理矢理越えられると思うよ。」

 

元の身体能力もおかしいレベルにある巽にとってそれは簡単な事だった。

 

「なるほど、ならばそれでいくか······もし雑木林を突破できたら真っ先に美琴くんを探してくれ。お前ならくねくねも殴れるだろう?」

 

「多分平気。じゃあ、10分経っても帰ってこなかったら、多分通れるようになってるから」

 

そして、俺は雑木林の中に突っ込んでいった。

 

「早くしないと夜の9時から相〇始まるしな!!それまでには帰りたい!!」

 

 

 

 

 

 

 

5

 

抜けるだけなら、簡単な事だった。

 

所詮は『くねくね』という強い怪異に引っ張られて来た低級怪異の集まり。流石に道周辺の時空を歪められても、道の上である上空の時空までは歪められないという可能性があるのなら。

 

一番高い木から飛び移ればいいのだ。

 

「よっこい······しょ!!」

 

上空約7mを彼の身体は舞った。

 

そのまま木の上をぴょんぴょん跳びながら進む。

パルクールという技術を見様見真似で再現しているのだが、まるで熟練者のように林の中を駆け巡る。

 

暫くして開けた土地に出た。

 

「────墓地?」

 

出た場所は墓地だった。

 

舗装もされていないのを見る限り、廃れているのだろうか。そして端の方に井戸がある。

 

「なんだあの井戸······」

 

中を覗いてみるが特に何も無い。枯れ井戸のようだ。

 

「······ふむ、特に何もなしか。やれやれ参ったな······元凶を叩いた方が早いか、空間を歪めている原因だけ取り敢えず叩くか······」

 

暫く考える、こちらとしては戦力不足、ここにいるのはそこそこ怪異に耐性のある一般人と俺。姫野美琴と合流する方が得策か?────うーん、考えても仕方ない。

 

「取り敢えず怪異に会ったら殴ればいいか!!」

 

そう結論付けて、巽は村の方へ走り出した。

 

そのすぐ後に、謎の中年のババアが墓地に侵入した。

 

 

 

 

6

 

「······地味に広いなこの村······だが見つけた······!!」

 

あれから約9分。村にある公園で空間の歪みを引き起こしている原因となっている怪異を見つけた。

 

まるでまっくろくろすけのような黒の球体。くねくねに引き寄せられた低級怪異の集合体。

 

「さて────取り敢えず······ぶん殴るっ!!」

 

握り拳をつくり、怪異を力任せにぶん殴る。

 

ゴツッと鈍い音が響き渡る。

 

が、手応えがない。

 

「あら?」

 

音は鳴り響いたのに何も殴れてないような感覚。

 

「球体には実態がない、となると······」

 

この公園にある遊具、滑り台、砂場、ブランコ、雲梯────トンネルのある半ドーム状のなにか。

 

このどれかが、怪異そのものだ。

 

「ふむ······全部壊すと多分氷室さんがグチグチ言うだろうし······」

 

そう考えている間に、割と簡単に敵は答えを出してくれた。

 

半ドーム状のトンネルから黒い棘のようなものが生えてきたのである。

 

「うっへえ······あれぶん殴るのか······痛そう······」

 

だがしかし、やらない訳にはいかない。

 

こちらに向かってくる棘を全て避け、遊具に近づく。

 

そして間合いに入ったところで遊具に蹴りをぶちかます。

 

ドゴッ!!

 

と鈍い音が鳴り響き遊具が崩れた。

 

怪異は遊具に擬態していたがその形を保てなくなり、崩れた。

 

それを確認した巽は氷室に連絡を入れる。

 

「もしもし?氷室さん?取り敢えずこっちに来れない原因だけは排除しておいた。姫野は未だ見つからず。」

 

『了解した、こっちもすぐ向かう、引き続き美琴くんを探してくれ』

 

「うぃーっす」

 

さて────

 

「この広大な村で人1人ピンポイントで探すのがどれだけ大変だと思ってるんだ······はぁ······」

 

この村、なかなかに広い。

 

ていうかあんまり田舎じゃないここ。コンビニがある。

 

「······めんどうだなぁ······」

 

そう思いつつ、走り出し、捜す。

 

「────ん?あれは······」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7

 

現在、姫野美琴は怪異から逃げている真っ最中だった。

 

全ての原因が謎のおばさんということを突き止めた。くねくねの正体はそのおばさんが殺して棄てた実の子供だった。

 

そして目の前でおばさんが怪異に殺された。

 

────逃げなくては、殺られる。逃げなければならない。

 

必死だった、必死だったからこそ起きた出来事。

 

「きゃっ!?」

 

ただ足元を見てなかった。台車に引っかかりこけてしまった。

 

その間にも怪異は迫ってくる。

 

立ち上がろうとする、が足に激痛が走る。

 

どうやら今コケた時に怪我をしたようだ。

 

(······っ······こんな所で────)

 

こんな所で私は死ぬのか。

 

嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ────!!

 

だが、くねくねは目の前まで迫ってきている。

 

そしてくねくねが完全に姫野美琴に────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオオォオン!!

 

 

 

プチっと音がした。

 

 

接触する前に、空から人が降ってきた。

 

「あぶねーあぶねー、危うく氷室さんに怒られるところだった······」

 

くねくねをぶっ潰した男はそう言うとケタケタと笑う。

 

「しっかし、運が良かったなーお前。丁度俺が公園から出た時にたまたま出会えるとは······あれ?俺の方が運いいんだなこれ。」

 

「あ、あの······ありがとうございます······貴方は······?」

 

「あれ?意外と有名だと思ってたんだけどなぁ······まあ、ダメな人もいるか、万人受けする作品とは言い難いし······」

 

何やらわけのわからないことを呟き始めた。

 

不審者────では無さそうなのだが······

 

「っ、美琴くん!!無事か!?」

 

「氷室さん!?か、加賀さんも!?────えーと······」

 

一人だけ知らない人がいる。誰だろう?

 

「ああ、初めまして、霧崎翔太だ。」

 

「あ、はい、姫野美琴です······」

 

何故か自己紹介が始まっていた。

 

「氷室さん、くねくねはプチっと潰しておいたからとっとと帰りましょうよ。〇棒見たいんですが。九時までに帰してくれるんでしょ?」

 

「······警察署のテレビを貸してやる······」

 

「え、家帰れねえの!?なんでさ!?」

 

何やら揉めているようだ。と、そうだ大事なことを忘れていた。

 

「あ、あの······」

 

「ああ、名乗り忘れてたっけ?」

 

そう言って彼はこちらを振り返り、こう言った。

 

 

「一ノ瀬巽、訳あって警察の仕事を無理矢理手伝わされている憐れなしがない小説家だ。」

 

 

 

 

 

8

 

「何で帰してくれないのさー······」

 

「この短期間······というかこの二日でここまで大きな怪異に立て続けにあっているんだ、次がないとも限らない。戦力は必要だ」

 

「一般市民を戦力に数えるなよ!?ていうか他の特務課の人達は!?」

 

「全員別件で出払っている」

 

「このタイミングで!?」

 

あの後。くねくねは無事消滅した。

 

被害はあの周辺の住民の集団失踪と最後くねくねを潰した時にできたクレーターだけとなった。

 

────だけと言うのはおかしい話だけれども。

 

「はぁ······まあいいや、飯くらい食ってきてもいいでしょ?太郎で食ってきます」

 

「おっ、何だ太郎行くなら俺も行くぞ!!」

 

っち、逃げようとしたのに加賀さんが乗ってきやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーメン太郎。めちゃくちゃ量のあるラーメンが有名なラーメン店。

 

なのに────

 

「何してんだお前等!?」

 

「一ノ瀬!?」

「一ノ瀬君!?」

 

 

そこには大食いとは無縁な見た目をした少女とその彼氏が居た。

 

 





次回:呪文炸裂、そして猿夢

くねくねは犠牲になったのだ······

あ、私はひとみこ推進派です。



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チャーシューダブル・メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ

真面目に綾地さんの胃袋尊敬するわ()


 

1

 

「お前等何故こんな所に······特に綾地」

 

「前に来たことがありまして······以来たまに来るんです」

 

「なんだ?知り合いか?」

 

「クラスメイトとその彼女だよ······っと、この人はオカルトジャーナリストの加賀剛さん。」

 

「保科柊史です」

「綾地寧々です」

 

「おう、加賀剛だ。ヨロシクな!!」

 

と、まあ自己紹介はこれ位にして────

 

「とりあえず食券買うか······」

「そうですね······」

 

そう言って巽と寧々はチャーシューダブルを押した。

 

「────え?」

「?」

 

まて、待て待て待て。え、今こいつチャーシューダブル押した!?

 

「また食べるのか寧々······胃もたれしても知らないぞ?」

 

「大丈夫です、この前より胃は強くなりました!!」

 

また!?今またって言った!?

 

「······あんな別嬪な嬢ちゃんの何処にチャーシューダブルが入るんだ······?」

 

「マジかあいつ······」

 

まあ、胃薬あるなら大丈夫だろ、普通のなら······

 

そして俺達は座って食券を渡す。

 

────おっと、大事な事を忘れていた。

 

「麺硬辛め野菜ダブル大蒜油マシマシでお願いします────え?」

「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシでお願いします────え?」

 

その後のリアクションまで被った。

 

────待て待て待て待て!?

 

「ちょ、綾地!?正気か!?」

 

「安心しろ一ノ瀬······寧々は前にもスープまで飲み干した。」

 

「「なん······だと······!?」」

 

加賀さんと俺が驚愕する。

 

どうやらそれは他の人も同じ様だ。

 

「嘘だろ······あの娘が······!?」

「馬鹿な······入るわけが無い······!!」

「でもさっき前にもって······」

「ウッソだろお前」

 

店内が騒然とする。

 

「私よく食べるほうなんです!!」

 

「よく食べる方で片付けていいのかわからないんですがそれは······」

 

「私としては一ノ瀬君の方が意外です······そもそもこういう店に来ないと思ってました」

 

「それは俺も思った。顔バレとか大丈夫なのか?」

 

「あー······昨日氷室さんに呼ばれたのが深夜でそのまま朝飯寝てて抜いて昼飯コンビニのおにぎり1個だったから······あと顔バレに関しちゃ大丈夫、中学から割と常連だから」

 

それこそデビューする前から。ラーメン大好きなんだよ。

 

「マジかよ······一体どんな身体してるんだ······」

 

加賀さんは未だ何かにショックを受けていた。大方中年太りでもしたんだろう。

 

「俺はまだ20代だ!!」

 

そーなのかー。

 

「へいおまちぃ!!チャーシューダブル・麺硬め野菜ダブル大蒜マシマシだ!!」

 

そんなやり取りをしていると俺と綾地の目の前にとてつもない量の野菜が乗った丼が目の前に置かれた。

 

それでは────

 

「「いただきます────!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、ラーメン太郎に来ていた人物はこう語った。

 

「昼飯抜いてきたのに······あの二人の食いっぷり見ただけでお腹いっぱいになりそうだった······」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

 

「────ふぅ、腹八分目といったところか」

 

「「「( 'ω')ゴメンチョットナニイッテルカワカンナイ」」」

 

「いや、冷静に考えてくれ。ただでさえ今日おにぎり一つしか食べてないのに跳んだり走ったり落下したりめちゃくちゃ運動してたんだぞ?」

 

因みにこのまま相馬さんの所へ行ってパフェを食べたいくらいにはお腹すいてる。

 

「というか一ノ瀬君帰れないんですか?」

 

「帰してくれないのさー······もうこのまま帰ってもいいんだけど多分家まで突撃してくるねアイツは」

 

いや、ほんとあの人まじなんなの?バカなの?

 

「別に俺は帰っても構わないと思うがな、後で等になんて言われるか······」

 

「なんていうか、大変だな、お前も······」

 

「保科、同情するならミスド奢れ······ポンデリングショコラとフレンチクルーラーな」

 

「なんでミスドなんだよ、そして断る!!」

 

「っち、しょうがない······コンビニのスイーツ買って戻りましょう、加賀さん」

 

「おう、そうだな······お二人さんも早く帰れよ、じゃーな!!何か心霊系のネタあったら持ってきてくれ!!」

 

「はい、では一ノ瀬君、また学校で」

「じゃあな······なんていうか、頑張れ······」

 

慰めの言葉をもらい、俺達二人は警察署へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ今戻りましたー······って姫野は何でここで寝てるんだ······?」

 

警察署へ帰ると会議室のソファで姫野が眠っていた。

 

「何でも、眠れないらしくてな······」

 

「······ソファの方が眠れないと思うんだが、まあ本人が眠れてるならいいか······」

 

変わったヤツだ。

 

そう思いテーブルの上に先程買ってきたコンビニスイーツを置く。

 

「いただきます」

 

「······まだ食うのか······」

 

「誰かのせいでどれだけ走り回ったと思ってる······腹減ったんですよ」

 

「うぐ······」

 

どうやら自覚はあるようで何より。

 

と、そんなやり取りをしていると今まで姫野の方を見ていた加賀さんが姫野に近づく。そして────

 

「······等、美琴ちゃんの様子が変だ」

 

「────なに?」

 

どうやら、まだ休めないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

スパァン!!

 

「────ダメだ、ハリセンで叩いても起きねえ」

 

「「「いや何してるんだお前は!?」」」

 

姫野美琴をベッドに移し、現状を探るため色々試した。

 

鬼畜妹を耳元で音量マックスで流したり、松〇〇造の音声を耳元で音量マックスで流したり、ハリセンで叩いたり。

 

「ここまでしても起きないってことは猿夢の類かなぁ······」

 

「せめて最初の一つで終わらせてやれよ······」

 

まあ、把握出来たからいいじゃん?

 

「にしても、今回は流石に役に立てないなぁ。」

 

それは俺の唯一の弱点とも言うべきものなのだろうか。

 

俺はどんな怪異にも負けないだろう。そんな確信はある。本気出せば口裂け女から逃げ切れるし(パルクールモドキを使えばという注釈が付くが)、ターボババアに跳ねられても死なない自信はある。テケテケだってぶん殴って退治できるだろう。パワーは某ラノベのバーテンダーくらいだという自信もある。

 

それこそ、今回の猿夢だってぶん殴って解決できる自信はある。

 

しかしそれは()()()()()()()()()()()()の話だ。

 

今回、猿夢に囚われているのは姫野だ。

 

猿夢の最も特徴的な恐ろしさ。それは夢の中で殺されること。

 

つまり、猿夢は夢の中にしか存在しない、俺の目の前に実体が現れない。

 

────だから退治できない。

 

反則的な能力であっても、どう足掻いても、姫野を俺は助けられないのだ。

 

「こーゆーのは霧崎さんの領分じゃない?」

 

「確かにそうだ······機材を持ってこよう。大学にあるが20分も掛からないだろう······問題は、美琴くんがそこまで持つか、だが。」

 

「それは本人次第だ······何れにせよそれしか方法がないのなら、早く持ってくるしかない、頼むぞ翔太。」

 

「任せろ」

 

そう言って霧崎さんは部屋を出ていった。さて────

 

「相〇観るか」

 

「「いや、ちょっと待てや!!」」

 

「なんです?」

 

いや、もうやる事ないし。どうしろってんだよ。

 

「いや、お前······心配だとかそんな気持ちはないのか?」

 

「一応同じ学校の生徒なんだろう······?」

 

「微塵もねえよ?」

 

なんで今日出会うまで話した事の無い人間を心配するんだろうか?これがまだ仮屋とか海道とかそのへんの知り合いだったら助けるけど。基本見返りがなければ俺は別に助けようとは全く思わない。第一話?あれはコトリバコとわかった瞬間被害が拡大して俺の知り合いにも被害が出ないとは限らなかったから動いただけだ。

 

「ああ······お前そういえばそういう奴だったな······」

 

「今更すぎるでしょ、特に氷室さん。中学の時から俺はこんな人間じゃないか。」

 

「······そう、だったな。お前は中学二年の後半からそんな感じになっていったんだったな······」

 

当たり前だ、あの時から俺は、上辺だけの人間関係を築いただけの人間だけではなく、友人も、どうにかなったらしょうがないと思うタイプの人間だ。

 

もし、仮屋や因幡みたいに親しい人間がもしピンチになって、最善を尽くしたけど助けることができなくっても、多分俺は

 

────ああ、ゴメンな、助けられなくて。

 

と、たった一言、それっぽい事を言って、その日のうちにそいつの事を何も考えなくなるだろう。そんな確信がある。

 

それ位には、周りなんてどうでもよくなった。よくなってしまった。

 

「さて、今回からまた変わるんだよなぁ、まさか犯人だとは思ってなかったしなぁ······」

 

そういいつつ、テレビを付けた俺の背中を氷室さんは黙って、辛そうな顔で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

4

その日のうちに姫野は目を覚ました。

 

ちゃんと霧崎さんの持ってきた道具で解決したらしい。

 

さて、俺は本当にそろそろお役御免だろう。さぁ帰ろうか────────

 

 

 

 

 

 

 

 

気づいたら車の中だった。

 

「ちょ!?なんで車の中!?てか何処だよここ!?」

 

思い出せ────何があった?

 

確か俺は相〇を見て、姫野が目を覚ましたのを見届けて、その後深夜アニメを見て、寝落ちして────

 

「やっと起きたのか、明け方三時に寝たとはいえ、いくら何でも十二時間半は寝すぎだろう。どうして一人暮らしで学校行けているのか疑問に思えてくるレベルの熟睡だったぞ······」

 

「え、えっと────おはようございます?」

 

「姫野······?氷室さん、どこへ向かってるんです?」

 

「旧神代家だ。」

 

「────────────は?」

 

きゅうかじろけ?

 

「ざっくり説明すると、神代と姫野は元々呪術師の家系で過去に因縁があった。我々は今回の美琴くんの周りで起きている現象────『怪異症候群』を引き起こしている原因が神代家にあると予測した。だから今向かってる。オーケー?」

 

「ちょっ、流石に家に返してもらえないかなぁ!?てか学校になんて説明した!?」

 

「捜査に協力してもらっていると言っておいたぞ?」

 

「何でだろう、何かやばい予感がする······!!」

 

「はっはっは、まあここまで来ちまったんだ、高級旅館らしいから楽しめ!!」

 

いや、せめてせめて────

 

 

「仕事道具(ノートパソコン)を取りに帰るくらいさせてくれよ!!」

 

と、まあこんな感じで。

 

結局最後まで関わることになってしまった俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────オマケ、一ノ瀬巽の居ない学校────

 

「一ノ瀬は今日は公欠だ。んじゃ解散!!」

 

ホームルームが幕を閉じた。

 

「また一ノ瀬休みなの?」

 

「つか、公欠?あいつ何があるんだ?」

 

と、口々に噂している中。

 

「そういや昨日会ったぞ?一ノ瀬に」

 

「「────え?」」

 

仮屋と秀明が声を揃えて驚き、口を開けた。

 

「ちょ、保科、どこで会ったの!?」

 

「え、いや······その······」

 

言い淀む。何故なら昨日、柊史は綾地寧々とデートしていたのだから。そこから話さなきゃいけない。とはいえ、昨日綾地寧々をクラスまで迎えに行った時に完全に把握されていたので今更噂になるのは構わないのだが。

 

「すみませーん柊史君居ますかー?」

 

と、そこに綾地寧々が登場。

 

「「「「名前呼び────だと!?」」」」

 

そこからは阿鼻叫喚の地獄絵図の様だった。特に男子。

 

だがこれにより一ノ瀬との邂逅のことは忘れられ────

 

「で、結局どこで会ったの?一ノ瀬と」

 

無かった。

 

仕方ないので昨日の夜のことを話す。

 

「まず、なんでデートで太郎に行ったのかとか綾地さんの胃袋が中々凄かったとかそんなツッコミは放棄しよう。────警察?マジ?」

 

「なんでも事件に巻き込まれたんだとさ」

 

という話が広まり────

 

綾地寧々と保科柊史の交際によって多少しか話題にならなかったものの『一ノ瀬巽は警察の公安の人間である』という噂が広まった。

 

蛇足乙。

 

 




猿夢に出番はない。誰かさんのルートか共通ルートの中で明るみになる主人公の過去話の出汁になったのだ────。

いや、実際どうしようもないじゃん?怪異症候群の中心は美琴ちゃんだし。


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怪異症候群

⚠︎注意⚠︎
元々の設定通りだけど今回主人公の崩壊がヤバイです

それとお気に入り20突破しました······まさか二次創作を全く見ない作品でここまでいくとは思ってなかった、せいぜい伸びても十越えるのが限界だと思ってました。

こんな作品でよければこれからも宜しくお願いします!!


1

旧神代家。それはお偉いさん御用達の高級旅館。人里から離れた山奥にある、秘境のようなものだ。

 

そこで一ノ瀬巽は────

 

「あははっ!!お兄ちゃんまてー!!」

 

「待てと言われて待つバカは居ないのさ春子ちゃん!!」

 

幼女と戯れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、遊んでいただいて······」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ!!」

 

「お兄ちゃん!!次はトランプやろ!!トランプ!!」

 

「おっし、何やる?ババ抜き?神経衰弱?なんでもいいぞー!!」

 

一ノ瀬巽はテンションが最高潮に上がっていた。それは最早誰が見てもわかるくらいに。具体的にはさっきプリキュアの声真似をノリノリでやっていた。しかも全く違和感が無いというくらいの完璧さで。

 

「······なあ等······やっぱ俺達あいつに頼りすぎてたんじゃないか······?疲れから壊れちまったんじゃ······」

 

「そうではない────と信じたい······」

 

元々壊れているのでそれは若干間違っている。そして元よりロリコンの気質があるだけである。疲れているのは本当だが。

 

疲れが顔に出ていたのか、神代春子(かじろはるこ)────ひとりかくれんぼの生還者────がこちらを心配している目で見ている。

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

「ん?ああ、気にするな。睡眠は取っている······が、家に返してもらえなくてねぇ······」

 

「そうなの?」

 

「ああ、お兄ちゃん実は小説家なんだけど、何故か······急に警察のお兄さんに呼び出しをくらってね······家にも帰れないし······昨日なんかやたらとアクロバティックな動きで村一周して疲れきってるのにさぁ······そのせいかな?」

 

「そうだったの!?大変だねぇ······あ、そうだ!!お兄ちゃん顔をこっちに······」

 

言われるがままに顔を神代春子の目線まで近づける。

 

なでりなでり、と頭を撫でられた。

 

「お兄ちゃん頑張ったね〜いいこいいこ······いいんだよ、偶には誰かに甘えよう?休もう?私だったら何時でもお兄ちゃんの事なでなでしてあげるから、ね?」

 

その時、一ノ瀬巽の何かが壊れた音がした。

 

「············」

 

無言でひしっと、胸に顔を埋める形で巽は春子に抱きついた。

 

「おっ?お兄ちゃん意外と甘えん坊さんなんだね。······いいよ、好きなだけ私に抱きついてていいからね······よしよし······」

 

何か壊れたかのように、巽は無言で、夜飯が出来るまでの間ずっと彼女の胸の中にいた。

 

(······幼女の胸は最高だな······)

 

 

 

「······やっぱ俺達頼りすぎたんだよ······!!」

 

「そう······だな、これからは暫く呼ばない方がいいかもしれない······」

 

因みにこれを見た外野が本気で彼の精神状態を心配したのは別の話。そもそも昔から穴が空いている彼にその心配は今更といえよう。

 

 

 

 

2

 

夜飯の時間、遅れてきた姫野美琴が『能面が動いた』と言い出した。

 

仕方ないので旅館の全ての人間を避難させる事に。

 

「加賀さんだけじゃ心配だ、俺も車で同行しよう」

 

「お前ただ単に春子ちゃんと離れたくないだけだろ」

 

など一悶着あったものの最終的に神代春子の

 

「終わったらいーっぱいナデナデしてあげるから、ね?頑張って!!」

 

の一言に陥落した。

 

「えっと······一ノ瀬君は何があったんですか?」

 

「どうも心に傷を負ったようだ······もはや彼を癒せるのは子供だけになるレベルでな······君のせいじゃないさ······」

 

なんか可哀想なものを見る目で見られているが無視する。

 

 

「にしても能面ねえ······今までで一番弱そうだな······」

 

そう思いつつ、単独行動をとっている俺は能面が保存された部屋に来ていた。

 

「······ふむ、特に他のものが動きそうな気配はないな······なんで能面だけなんだ?」

 

考えてもわからない。何かしら理由はあると思うんだが。

 

そう思いつつ、中庭に移動する。

中庭に移動すると何か奇妙な感覚を覚えた。

 

「────灯篭か?」

 

灯篭が何か、ズレているような感覚。そんな気がする。何となく。

 

で、見たら物の見事にずれていた。物理的に。

 

「······こんなクソ重いもの動かせるのか······?」

 

いや、俺なら動かせるけど。

 

灯篭を動かしたら下に鉄格子があった。中を覗き見ると空間がある。

 

「氷室さーん、姫野ー、スゲーの見つけたぞー」

 

 

 

 

「······なるほど、地下か······巽、壊せるか?」

 

「よゆーよゆー······ぬんっ!!」

 

バキぃ!!と音がして鉄格子が抜ける。

 

「······普通できませんよ······?」

 

うるせえ、出来るんだからいいだろ。

 

「折角使えそうなもの見つけてきたのに······」

 

そう言って脇差を見せてきた。

 

「······梃子で開けるつもりだったの?」

 

「中々アグレッシブだな······それは俺が持っておこう。」

 

そう言って氷室さんは懐に脇差をしまい、下に降りた。

 

それに続いて姫野と俺も降りていく。

 

氷室さんが持っていたライターで燭台に火をつける。

 

「······なんだあれ?奥に······祭壇かなにかか?」

 

そこにあったのは祭壇だった。面を飾るであろう突起が設置されている以外は大体一般的な祭壇だ。

 

「······何もなさそうだな······」

 

「一度上に戻ろうか。」

 

本当に何も無かった。多分何かしらの仕掛けはあるんだろうけど。

 

そして戻ってきた道を進もうとして────

 

 

 

 

 

 

 

目の前に能面が浮かんでいた。

 

「────なんだこいつは!?」

 

「氷室さんアイツです!!私を襲ってきt」

 

ドゴッ!!ガシャアアアアン!!

 

言い終わる前に巽が拳を能面にぶち込んでいた。

 

無惨にも能面は砕け散る、がしかし────

 

 

ジジジッ────

 

という音のあと能面が再生した。

 

 

「なんだと······!?セルか貴様!?」

 

「巽!!下がれ!!」

 

そう言って氷室は拳銃を取り出し、能面の眉間をぶち抜く。綺麗に三つに割れる。そこから更に氷室はその破片に向かって銃をぶっぱなし、完全に消滅させた。

 

「ふう······やったか?」

 

「氷室さんそれフラグ!!後ろだ!!」

 

完全に不意をつく形で後ろから猛スピードで能面が迫ってきた────しかし、特務課のエースはこんな事じゃ動じない。

 

「······刺される方が好きか?」

 

懐から脇差を取り出し、逆手に持ちそのまま突き刺した。

 

能面は跡形もなく砕け散る。どうやら一先ず終わりらしい。

 

「氷室さん······あの段階で『やったか!?』は言っちゃいけない。フラグになるよ」

 

「ああ······身を持って理解した。」

 

 

 

 

 

 

 

3

 

その後、霧崎さんが調べていた書物から全てが明らかになった。

 

神代は代々呪術を使って村を支配していた。しかしその力を扱いきれなくなっていく。そこに姫野が介入し、そんなつもりは無かったのだろうが、村の信用を乗っ取ってしまった。その後、姫野と神代はお互い呪術を捨てて生きていくことを誓ったのだとか。

 

「私は、決着をつけに行きます。全てを終わらせてきます。」

 

そう言って姫野は部屋を出ていった。

 

「待つんだ美琴くん!!」

 

「待つのはお前だ等······」

 

「しかし!!もし万が一があったら────」

 

二人が口論しているのを他所に、俺はなんとなく、嫌な予感がして廊下に出ていた。

 

「······一ノ瀬君?止めに来たんですか?」

 

「まさか、俺がそんなたまかよアホくせえ······」

 

「?じゃあなんで外に······?」

 

「保険だよ保険······とっとと決着つけて帰ってきてくれよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────始まったか。」

 

姫野と別れてから数分後。

 

屋敷の屋根の上から見下ろした光景は、それはそれは地獄絵図だった。

 

沢山の醜悪なナニカがこちらに集まっている。

 

何年も残っている呪いだから、こんな事もあるんじゃないかと思っていたが、これ程までとは。

 

「やっぱ釣られて怪異が寄ってきたか······」

 

凶悪な呪いは周りにも影響を及ぼす。

 

「せめてこの辺は片付けてやるか······パワーアップとか困るだろうしなぁ、アイツも。それに────」

 

と、建前を述べる。結局助ける。助ける理由はただ一つ────

 

 

 

 

 

 

 

 

「春子ちゃんのナデナデが待ってるんだ、ちゃんと頑張らないとなぁ!!」

 

幼女のナデナデ。それが今の彼の原動力。

 

ハッキリ言おう。台無しだった。

 

主人公とは思えないほどに。

 

「等、アイツを休ませてやれよ······最早幼女のナデナデが生き甲斐になってるじゃないか。ぶっ壊れてるぞ」

 

「────ああ、そうだな······暫くはアイツに頼らないようにするよ······」

 

二人のオッサンの憐憫の視線を受けながら、一ノ瀬巽はこの日、二百以上の低級怪異を滅した。

 

 

4

 

後日談という名の今回のオチ。

 

あの低級怪異を二百滅した日。あの日の内に安全が確保されて、旧神代家に居た人は皆戻ってきた。

 

そしてそのまま一泊することに。どうやら明日は学校遅刻確定の様だが、まあ公欠なら構わんだろう。

 

そしてその時、春子ちゃんにちゃんとナデナデしてもらった。オマケに一緒に寝てくれた。最高だった。

 

あ、寝たってただ一緒に寝ただけだからね?何もしてないよ?シてはいないよ?

 

そしてそのまま朝を迎え、学校に行き────

 

「······俺はなんてことを······」

 

自己嫌悪に陥っていた。

 

「······一ノ瀬どうしたの?なんか凄くやばい顔してるよ?」

 

「体調悪いなら保健室行った方がいいんじゃないのか?」

 

(······なんだこの味?嫌悪してる?······何を?)

 

「一ノ瀬君、保健室へ行った方がよろしいかと······」

 

「ちょ、センパイ!?そんな顔色で何で学校にいるんですか!?風邪ならしっかり寝たほうが良いですよ!?」

 

こんな具合に心配(一部変なものを見る目で見られた)された。

 

────まさか幾ら最近辛かったとはいえ二桁行くか行かないかの幼女に甘えた自分に自己嫌悪しているとは言えず、なんとか誤魔化した。

 

ただ、担任にその顔を見られ保健室に強制連行され、授業を僅か一時間しか受けられなかったのは完全に予想外だったが。

 

いや、別に今更教えて貰うことなど無いのだけれど。独学で終わらせているし。

 

そして放課後。オカ研の部室。

 

「······あ、ウラド三世(槍)が宝具5になった······」

 

「クレオパトラは?」

 

「当たらねえよ······パールヴァティーは出たんだけどな······」

 

「星四ですからねぇ······私も爆死しました······デンジャラスビーストしか出ません······」

 

「それは爆死じゃない。」

 

因幡とソシャゲしていた。

 

綾地と保科?アイツらだったら俺らがイベント周回している横でイチャコラしてるぜ?

 

と、そこに唐突にノックの音が鳴り響いた。

 

そこに立っていたのは姫野と────

 

「······どちら様?」

 

知らない茶髪が立っていた。

 

「あ、私は······神代由佳です······」

 

「ああ······もう大丈夫なのか?」

 

「はい······正直まだ立ち直れませんけど······自業自得ですし······」

 

話についていけない部員をほったからし、話を続ける。

 

「で?何用?まさかまた怪異か?」

 

「い、いえ、違います······その、すいませんでした、私の不注意で巻き込んでしまって······」

 

「ああ、別に構わんよ······どうせあの警察のせいで怪異が絡むと遅かれ早かれ巻き込まれるから。」

 

怪異の度に呼び出すのやめてくれや、マジで。

 

「私からはお礼です。ありがとうございました。助けてくれて。」

 

と、言い姫野が有名店のシュークリームを渡してきた。

 

やったぜ。

 

「······ま、もう巻き込まれることは無いと思うけど、余り無茶するなよ?」

 

「「はいっ!!」」

 

「うん、良い返事だ。」

 

頼むから俺を巻き込まないでくれ。マジで。

 

「あ、それでその······綾地さんは······?」

 

「へ?わ、私ですけど······」

 

「なんだ、綾地に用事があったのか······?」

 

姫野はどうやら綾地に相談があるらしい。

 

「あの······その······好きな人ができたんですけど······どんな風にアピールすればいいのかわからなくて······」

 

ふむ、なんだろう、すごく嫌な予感がする。

 

「そうなんですか······その人の好みとかはわかりますか?」

 

「それが最近出会ったばかりで······」

 

うん、もう凄く嫌な予感が止まらない。

 

「どんな人か教えてくれればそこから考えることもできるかもしれないですよ、姫野センパイ」

 

そう因幡が言うと、恥ずかしそうに、しかしハッキリとこう言った。

 

「その······氷室等さんという、警察の方なんですが······」

 

······ほらみろ、的中した。嫌な予感。

 

「────え?氷室さん······ってあのコトリバコの時の人だよな?一ノ瀬······」

 

「ああ、その通りだ······」

 

これは······また面倒な事になりそうだなぁ······

 

「えっと······一ノ瀬君は何か知ってる?」

 

「······いや、すまないが。あの人が好きなものとか全く知らん。」

 

「そう······ですか······」

 

ガッカリするな。

 

「いや、お前結構長い付き合いみたいなこと言ってたろ?何も知らないのか······?」

 

「あの人が好きなこと────強いて言うなら······ゴーストバスターだな。」

 

「「「「「「え」」」」」」

 

全員の声が被った。

 

「あの人怪異のことしか頭にねえから······食事とか全部カロリーメイトとか食べてもコンビニ弁当だし······それすらも怪異が出たらそっち優先だし······怪異が出たと知ったらどんな事があろうと怪異優先の男なんだよ······だから27になっても碌に交際経験無いし、しても全てを怪異に費やして台無しにしてる。」

 

つまるところ、趣味は仕事。女より仕事。自分の体調より仕事という攻略難易度の高いキャラなのである。

 

つまり、何も出来ない。詰みである。この依頼、達成不可能。

 

「······取り敢えずお弁当を作ってあげてはどうでしょう······?」

 

こうして、長期の依頼になる氷室等攻略作戦の為に姫野美琴がオカ研に入り浸るようになった。

 

尚、この攻略作戦は卒業の日まで続くのだが、それはまた別のお話。各自脳内でテキトーに想像してくれたまえ。




さあ、ようやく紬ママが出せるぞ······!!

にしても年下に甘えたりしたい時ありますよね!


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椎葉紬の体験入部────人形────

紬ママああああああああああああああああああああ!!


1

怪異症候群からおよそ三日後。

 

「なんか今回高難易度クエって感じしなくない?」

 

「そうですねー、正直フレンドにオルタニキ居れば完封できます」

 

相変わらず俺と因幡はずっとゲームをしていて。

 

「ダメです······あの人難易度高すぎますよぉ······」

 

「これもダメでしたか······」

 

「どんな難攻不落の要塞だよ······」

 

と、撃沈しては相談に来る姫野を保科と綾地が対応する毎日である。

 

······え?なんで因幡がこっちサイドかだって?

 

本人曰く、「もう少しで育成が終わるんです······」だそうだ。中学時代、暇さえあれば俺とゲームしてただけあってかなり染まっている。

 

「しかし、平和とはいいものだなぁ······」

 

「なんかセンパイがそれを言うと重さが違いすぎるんですけど······重すぎますよ······」

 

「いや、もうホント暫く怪異絡みは勘弁して欲しいね。マジで。」

 

テンションがおかしくなる。定期的に幼女に甘えなきゃテンションどころか正気保てない、なんて事は避けたい。

 

と、そんな感じでぐーたらしていたらノックの音がした。

 

「入るぞー」

 

「······久島先生?」

 

入ってきたのは我らがクラスの担任だった。

 

 

 

 

 

 

2

 

「······つまりその転校生が訳ありで、学校生活をサポートして欲しい、という事ですね?」

 

「ああ、その通りだ、入ってきてくれ。」

 

と、先生が廊下に向かって呼びかける。

 

「えっと······失礼します······」

 

入ってきたのは男装女子だった。

 

「し、椎葉紬(しいばつむぎ)です······宜しくお願いします」

 

ジーッと、椎葉を見る。ふむ······

 

ナニカに見つめ返された。よく見るとナニカが後ろにいる。

 

「ほうほうほう······」

 

「ふぇ?あの······私の顔になにか付いてる?」

 

「おっと、見すぎてしまったな。不快にさせてしまったか、すまないな。」

 

「え?いや、大丈夫だけど······何か私の顔見てたから······なにか付いてるのかなぁって······」

 

「安心しろ、確かに憑いてはいるが悪いものじゃない、寧ろいいものだ。偶に出てくるかもしれないがその時は遊んであげなさい。」

 

「ちょ、ちょっと待って!?なんか『つく』の字がおかしくない!?え!?憑いてるの!?」

 

「お前を守ってくれてる······まあ簡単に言ってしまえば守護霊の様なものだ。害はない。気にするな。」

 

「ふぇえ!?」

 

「え、それマジか一ノ瀬······」

 

「マジだマジ。久しぶりに見たぞ。」

 

と、まあそれは置いておいて。

 

「しかしもっと珍しいとすれば、魔除けか?その男装は。」

 

「へ?魔除け?」

 

「珍しい事じゃない。地域によって異なるが男子が女子の格好を、もしくは逆のことをすることによって育てるとかはあることにはある。······まあ、やるとしたら幼少期でこの年までやってるのは珍しいが······」

 

「へー、そうなんですか?」

 

「ち、違うよ、ちょっと他に事情があって······」

 

「あ、そう······」

 

なんだ違うのか。

 

「っと、自己紹介がまだだったな。俺の名前は一ノ瀬巽。しがないホラー小説作家だ。」

 

「保科柊史だヨロシク。」

 

「綾地寧々です。よろしくお願いします」

 

「1年の因幡めぐるです!ヨロシクお願いしますね椎葉センパイ!!」

 

「オカ研じゃないけど······姫野美琴です、宜しくお願いします。」

 

「うん、みんなよろしく!······ところで一ノ瀬君······そのいきなりで悪いんだけど······」

 

「ん?どうした?」

 

「お母さんが一ノ瀬君のファンで······この学校に所属してるのは有名だから······その······『サインもらってきて』って言われちゃって······お願い······できるかな?」

 

上目遣いでこちらを見てくる椎葉。ハッキリ言おう。カワイイと。

 

「まあ構わ······ない······が······」

 

「ん?どうした一ノ瀬。」

 

いやー、最近怪異ばかり絡んでて尚且つファンに会うのも久しぶりで────

 

「サイン······どうやって書いてたっけ······」

 

「「「「「「────へ?」」」」」」

 

······サインの書き方忘れちゃった。

 

 

 

その後、インターネットで自分のサインをネットで検索してどうにかなった。

 

 

 

 

翌日。ホームルームにて。椎葉紬が同じクラスになった。

 

「しかも隣の席か······よろしくな椎葉。」

 

「うん!!······ところで······何でみんなこんなにも遠巻きに私達のこと見てるのかな······?」

 

「······さあ?」

 

 

 

「海道······何でこんなに皆遠巻きに見てるんだ?」

 

「ん?······ああ、実はあくまで噂なんだが······一ノ瀬が一時期警察に協力という事で公欠になってたろ?」

 

「というかつい最近だよね······」

 

「その時に『一ノ瀬巽は警察の公安の人間』という噂が流れてな······」

 

「······は?」

 

なんだその無茶苦茶な噂は。

 

「隣に座った椎葉は何らかの組織に狙われていて一ノ瀬が護衛······という設定らしい。」

 

一ノ瀬巽のせいで全力で学校生活をバックアップしないと椎葉紬が馴染めないという最悪な状況が作り出された。

 

 

 

3

放課後。オカ研部室にて。

 

「つまり椎葉は体験入部?」

 

「うん、人助けするオカルト研究会って珍しかったし······何より特に所属したい部活もあるわけじゃないし······かと言ってこのままだとなんか馴染めなさそうだし······」

 

「部長は許可したのか?」

 

「はい、大歓迎ですよ。」

 

「ならいいか······じゃ、これから宜しくな。」

 

「うん!それで······普段は何してるの?」

 

「基本、何もなけりゃゲームの周回かなぁ······普通なら綾地の占いか相談目当ての方が多いし······」

 

実際八割くらいは綾地の方目当てで来る奴らばかりだ。どうやら俺が怪異に巻き込まれている間にも来てたらしい。

 

「······?一ノ瀬君は、相談に乗ったりしないの?」

 

「んな事言われたって······恋愛なんて勝手にしてくれと言いたいし占いに関してはもう訳わかんねえし。」

 

「一応マジモンのオカルト相談専門になってるな。」

 

余計な事を言わんでいい、保科。

 

「え······じゃあホントに見える人なんだね······?」

 

「信じるかどうかはお前に任せるがな。」

 

正直どっちでも構わん。本職は小説家なのだ。

 

「ま、オカルト相談なんてなかなかこないから、あんまり信用しなくても────」

 

そこまで言ったところでノックの音が鳴り響いた。

 

「すいません、一ノ瀬先輩に相談があるのですが······」

 

「························」

「························」

 

······勘弁、してくれよ······

 

 

 

4

 

「一年の九十九康人(つくもこうと)です。美術部に所属しています。今回、美術部で起こっている怪奇現象を解決していただきたく、こうして頼みに来た次第です。」

 

一見金髪のチャラ男、だがやたらと丁寧な言い回しに面食らった。

 

「······あ、そう······なら聞かせてもらおうか」

 

「はい、宜しくお願いします。」

 

そして彼は語り始めた。

 

「最初にそれが起きたのは丁度一週間前でした。」

 

美術部は近く、コンクールがあるので夜遅くまで残り、作品を作り続けていた。

その日は九十九康人と部長、副部長が残って作業をしていた。そのまま作品を片付け、帰宅した。そして次の朝、部室(美術室)へ向かうと────

 

「その······髪の毛が落ちていたんです。めちゃくちゃ長い髪の毛が···········まあ、それだけだったので悪戯かなぁと思っていたんです。」

 

ところが、次の日の朝。部室に向かうと、また髪の毛が。今度は作品に絡みついていたらしい。

 

「それから暫くは何も無かったんですけど····つい昨日再び髪の毛が大量に出てきて······もうどうしたらいいか······」

 

「······ふむ、髪の毛ねえ······」

 

毛羽毛現でも居るのだろうか?まあそれは置いといて────

 

「あわ、あわわわわわ」((( ´ºωº `)))ガタガタ

 

ガタガタと震えている椎葉を先ずは落ち着かせるか。

 

「落ち着け椎葉、どうせ俺一人でやる事だ。」

 

「────え?ひ、一人でやってるの?」

 

ああ、なるほど。全員で取り組むものと勘違いしてるのね。

 

「さっき言ったろ?俺は綾地が取り組んでる普通の恋愛相談やらには関与せず、オカルト専門の相談を不本意ながら受け付けていると。」

 

まあ初期······部員が卒業してしまい綾地と俺の二人になった時に『綾地の恋愛相談や恋占いは関与しない、その代わり文化祭の出し物は俺が全部引き受けよう』という契約だったのだが。二学期明けてからオカルト専門の相談を引き受ける流れになってきているけども。

 

「というか、普通の一般人は関わるべきじゃないレベルのものだった場合流石の俺も守ってはやれん。だから1人の方が動きやすいんだ。例外があるとすれば······例えばコトリバコ(低級)を処理する時に男手が必要で保科を頼ったりしたりすることもあるが······」

 

「······?コトリバコ······?」

 

「あー······うん、人の話を聞いて、人手が必要で尚且つ問題ないと判断したら適した人間に頼むという感じだ。」

 

少なくとも、自らの判断で被害者を増やすことは無いように心がけている。一応。

 

だって責任云々とか面倒臭いし。

 

「とにかく、案内してくれ九十九君?俺だけで行こう。何、解決してやるさ。······それではあとは頼んだぞ?綾地。」

 

そして俺は鞄を持って外に出た。

 

 

 

5

美術室に着いたとき、既に先客がいた。

 

「······生徒会長?」

 

「おっ、一ノ瀬君、久しぶりだね~」

 

生徒会長の戸隠憧子(とがくしとうこ)である。

 

「何してんすか?美術室に何か用事でも?」

 

「え?ああ······いや、あれを見ればわかると思うよ?」

 

そう言われて俺は部屋の中を覗く。そこには────

 

「······なんじゃこりゃ······」

 

そこには床一面にばらまかれている勿忘草(わすれなぐさ)があった。ただし、髪の毛で作られた、という単語が前につくが。

 

「なっ!?馬鹿な、あんな出来事があったから作品は各自家に持って帰って調整してるからこの部屋には今日も入ってないですよ!?鍵を持ってるのは顧問だけですし、その顧問だって鍵は絶対に職員室に預けなきゃいけない決まりがある!!」

 

「うん、だから困ってるんだよねー、美術部全員の持ち物検査しても合鍵を作ったという事実は確認出来なかったしね······」

 

「······取り敢えず片付けましょう。」

 

「うん、先生達がゴミ袋取りに行ったからその内戻ってくるから手伝って~」

 

そしてとりあえず掃除した。

 

 

 

「······うーん、特に何か呪われている様な物······と言うより髪の毛が関わるようなものがまず置いてないのに髪の毛が増えてんのは謎だよな······」

 

「ていうか何?イタズラじゃないの?これ······」

 

「イタズラの可能性はすごく低いです。髪の毛で勿忘草なんて難易度高いものばら撒くくらいなら画材ぶっ壊すとか色々あるでしょ、もっと簡単な方法が。」

 

そんな凝ったイタズラは流石にないだろう。まず髪の毛を用意しなければならない。

 

この場合、ただのイタズラという方が非現実的だ。

 

「それにしても何故勿忘草?」

 

「んー······?花言葉は『私を忘れないで』だよね?」

 

「······九十九君、誰か······いや、誰かじゃなくてもいい、何か忘れたりしてない?」

 

「······そういえば一人先輩が転校してしまったんですが······だけど俺は忘れちゃいないし······特に何事もなく転校していきましたよ?」

 

「······君の先輩達······部長さんとかなら何か知ってるかもね。呼び出し······は無理か電話かけてみてくれないか?」

 

 

6

 

その後、部長さんに掛けたところ。暗号を託されたのだとか。

 

『必ず解いてね』そう言われて。

 

しかし、部長は一月かけても解くことが出来ず。そのままコンクールの準備で完全に忘れていたらしい。

 

「······で、これがその暗号らしい。」

 

翌日のオカ研部室。今日は綾地は用事があって、保科は別件で動いているらしい。よって今日は3人。因幡、椎葉、俺。スペシャルゲストに九十九康人君と戸隠憧子。

 

因みに部長さんとかが居ないのは受験の関係である。

 

「······で、何ですかこれ······数字?」

 

11 55 31 23 91 55 14 55 13 91

 

という数字が並んでいた。

 

「今日は皆でこれを解くの?」

 

椎葉が質問する。しかし────

 

「その必要は無い。もう昨日一瞬見たら解った。」

 

「「「「え!?」」」」

 

「ただ、問題はその物の在り処が何処にあるかわからないだけだ。」

 

「え、ちょ、嘘!?」

「私全然わからないよ!?」

「俺も何が何やらさっぱり······」

 

「まじかお前ら」

 

「私も解った~」

 

「「「嘘ぉ!?」」」

 

少し頭が固いんじゃないですかね?

 

「てか因幡。てめえ謎解きゲームやっててこの程度出来ねえのかよ一から勉強し直せ」

 

「辛辣ですね!?······でもわからないから否定出来ない······!!」

 

いや、お前中学の時『西村〇太郎サスペンス』クリアしてたじゃん、初見で!!あれを初見クリアしておいて何故できない!!あれより遥かに簡単だろ!?

 

「······あ、······私わかった······」

 

「嘘でしょ椎葉センパイ!?嘘だと言ってください!!」

 

「······あ、そういう事か」

 

「九十九君ッ!?」

 

どうやら因幡以外は全員わかったようだ。

 

「······因幡······」

 

「そんな可哀想な子を見る目で見るのやめてくださいよ!?泣きますよ!?泣いて転がりますよ!?うー······だ、ダメだわからない······!!」

 

「さて、唸ってる因幡は置いておいて話を進めよう。で、九十九君。心当たりある?」

 

「······確かにそれはありますが······美術室の中ですし、何よりこれ部長にあてられた挑戦状でしょう?自分達だけで解いて進めてもいいのか······」

 

「······部長さんって今回受験関係なんだっけ?」

 

「確か、担任と話し合うと言っていました。」

 

「······なら、終わった後に来てくれと言ってみてくれないか?」

 

 

 

そしてきっかり三十分後。

 

部室に入ってきたのはスポーツマンのような体付きをした男子生徒だった。

 

「美術部部長の宮藤直道(くどうなおみち)だ。で、挑戦状を解いたんだって?」

 

「ええ、解きました。しかし九十九君が『部長にあてられた挑戦状なのにこのまま自分達だけで解き進めるのはどうなんだ』という意見を出しましてね······」

 

「······そんな事言われてもな······最後のコンクールで、その後受験なんだ。そんな事をして何かメリットはあるのかい?」

 

「少なくとも、髪の毛騒動は解決します。」

 

即答した俺を宮藤はじっと見つめたあと、一つため息をついて言葉を口にした。

 

「······解った。いいだろう。顧問に鍵は借りておいた。」

 

そして俺達は美術室に向かった。

 

それの裏にそれはあった。

 

「「「「「「────鍵?」」」」」」

 

何の変哲もないただの鍵。なんだそりゃ。

 

「そういえば部室に開かねえ金庫ありませんでした?」

 

「······試しにやってみるか······」

 

そして金庫が開いた。そしてその中身は────

 

「ひいっ!?」

「きゃあっ!?」

 

「あ、はは······これは私もちょっとびっくりしたなぁ······」

 

「「「に、日本人形······!?」」」

 

そこには一つの日本人形があった。

 

かなり綺麗な日本人形だ。もしかしたら相当高いものかもしれない。

 

「······何か手紙が入ってるぞ?」

 

『宮藤直道くんへ

 

この手紙を見ているということは君はこの日本人形を探し出すことが出来たのだね。おめでとう!!君の頭の固さを考えたら解けないと思っていたから正直びっくりだよ!!その日本人形は君がコンクールで日本人形を題材に書くと言っていたので実家から拾ってきたものだ。それを見て最高傑作を作り上げてくれたまえ、それではさらばだ、愛しのマイダーリン!!

 

足利弓那(あしかがゆみな)』

 

「······あんの、バカ······普通に渡せよ······」

 

「ていうか恋人いたんすね部長······全然気づきませんでした······」

 

「部内恋愛をそこまで隠し通せたんですか······!?」

 

「いつまでも見つけてくれない日本人形が何か伝えようとした、結果があの髪の毛事件の真相······だったのかな?」

 

「全く······ダメじゃないか宮藤君、彼女さんのプレゼント忘れるなんて。折角遠くへ行って離れ離れになってしまった置き土産だ。大切に扱うといいと思うよ?」

 

そう言って戸隠先輩が宮藤先輩の肩をポンと叩いた。

 

ただ、次の瞬間、とんでもない言葉が宮藤直道の口から吐き出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······でも······俺らまだ別れてないんだけど······連絡もしてるし······」

 

「「「「「······え?」」」」」

 

「そもそもアイツ転校って言ったって隣町に引っ越すだけで、別に会えないってわけじゃねえし······」

 

いや、ちょっと待て、まさか────

 

「会う機会なんていくらでもあったのに······つい一週間前にもあったばかりだぜ?」

 

丁度、事件が起き始めた日だ────。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれます?宮藤さん、まさかアンタ────」

 

何故九十九康人が部室に来たか?それは美術室で作業できなくなったからだ。だから原因の解決を依頼しに来た。

 

作業とは?コンクールで出す作品を作る事だ。

 

そして九十九康人はこう言った。

 

『作品は各自持って帰って』と。

 

つまり、宮藤直道はコンクールに出す予定の作品を既に作っていたという事で────

 

「部長、ひょっとして自腹切ってYa〇〇o!オークションで落札して手に入れた日本人形使って絵を描いたこと話したんじゃ······」

 

「········································································あ」

 

さっ、と宮藤直道の顔が青く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······そりゃ激怒もするわ。邪魔する気持ちもわかるわ。」

 

「······結局、今回の髪の毛事件って······」

 

「珍しい例だが、ほったからしにされた事実を知った足利弓那の怒りの念が、日本人形媒介に呪いのようなものになったんだろうな······」

 

「あ、あはは······でも一件落着······だよね?」

 

「そうだね~当人以外は、だけど。」

 

そう言って戸隠先輩の視線の先には

 

『いやはや、確かに君には多少難しいだろうなと思ったクイズを出したよ。だけどまさかそのまま諦めていたとは······ボクは少々驚いたよ』

 

「いや、その、ホントマジすいませんでしたあああ!!」

 

必死で電話口に土下座をかましている宮藤直道の姿があった。

 

「······というか、よくその場で怒鳴りませんでしたね、その、足利センパイでしたっけ?」

 

「必死に堪えたからこそこの事態になったんだがな······」

 

必死で謝る宮藤直道の悲鳴をBGMに、烏がアホーと鳴いた気がした。

 

 

 

8

今回の結末。

 

「あの後、見つけた日本人形を元手に作り直してるらしいよ。ギリギリ間に合いそうだって」

 

「あ、そうなんすか······てか何故ここに?」

 

「暇だから遊びに来ちゃった♪」

 

あの惨劇(笑)の次の日の昼休み。

 

何故か教室に来た戸隠先輩と因幡、そして椎葉と海道と仮屋に俺といった構成で昼飯を食べていた。

 

「はー、あの大量にゴミ箱に捨てられてた髪の毛はそれが原因だったのか······」

 

「なんというか······アホな先輩もいるもんだね?海道みたいな」

 

「俺関係なくない和奏ちゃん!?」

 

いつも通りの海道と仮屋のコントを見ているとそういえば、と因幡が口を開いた。

 

「結局あの暗号。なんであれが答えなんですか?」

 

────────────

 

俺と戸隠先輩、そして椎葉の顔が凍りついた。

 

「おま······まだわからないの······!?」

 

「あ、あはは······因幡さんって頭硬いんだね······」

 

「うーん、因幡さん、大丈夫?答えみてわからないのはちょっと重症じゃない?」

 

「なんでそこまで言われなきゃいけないんですかぁ!?」

 

涙目になる因幡、しかしここで意外な助け舟が来る。

 

「えっと、因幡さん······だよね?ぶっちゃけ巽は全国統一学力テスト1位の猛者で戸隠先輩も学園内でトップを争う程の頭脳の持ち主だから······椎葉さんの実力は知らないけどその二人基準じゃわからないかもしれないよ?」

 

「うわ、海道が珍しくまともな事言ってる······」

 

海道が本当に珍しく上手く女子をフォローしている。

 

が、しかし。

 

「······いや、これははっきり言ってお前でも解ける。」

 

そう言って俺は昨日のメモを二人に見せた。

 

「······んん?私はパッと見分からないなぁ······」

 

仮屋は多少頭を捻っているようだ。

 

海道は────

 

「······ごめん、因幡さん。流石に答え見てもこれがこうなる理由がわからないのは流石に擁護できない。」

 

「!?!?!?裏切られた!?」

 

「え!?海道わかったの!?今の一瞬で!?」

 

そう言われて海道はこちらに歩み寄り、俺の耳元で答えを囁く。

 

「おお、海道大正解!!」

 

「「何ィ────!?」」

 

因幡と仮屋の絶叫が響き渡った。

 

「よくわかったな本当に······」

 

「いや、こうなんじゃねえかなぁって思っただけだよ」

 

「ぐうっ!!海道に解けて私に解けないはずがない······!!」

 

しかし、海道のやつ。やはり探偵には向いているのではないだろうか?前に仮屋が泊まりに来た時もそうだったし。

 

 

 

────その後、何とかノーヒントで解いた仮屋を見て因幡が沈んだのは別の話。

 

 




めぐる、アホの子になる。

皆さんわかりましたか!?一応五分で考えました!!間違ってたらごめんなさいね!!一応答え考えてみてください。次話に答えを載せますので。


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賭け事は好きか────?

前回の答え

まず五十音表を用意してアカサタナハマヤラワヲンに1から順に数字をつけます。次に各行にも1から順に数字をつけます。

そうすると『あのさくらのえのうら』『あの桜の絵の裏』となります。

ノーヒントではキツかったのだろうか······一応友達はなんの問題もなく普通に3分くらいで解いていたのですが······


1

「······ハロウィンパーティー?」

 

「うん、その運営に協力して欲しくて······」

 

とある日の放課後。戸隠憧子元生徒会長と······誰だお前······がオカ研部室にそんな相談をしに来た。

 

ていうか────

 

「へぇーこの学校そんなのあるんだ」

「この学校そんなもんあったのか」

 

「「「「「「え」」」」」」

 

ん?何か変な事言ったか俺

 

「いや、椎葉さんは転校してきたばかりだからまだしも······一ノ瀬お前······存在すら知らなかったのか······」

 

「記憶にある限り、去年のハロウィンは仕事の打ち合わせで0時半まで担当と愚痴ってたかなぁ」

 

「それなら······しょうがない······のかなぁ······?でも一年の因幡さんも知ってたわけだし······」

 

「それにわざわざそんなものに参加する意味も持ち合わせていないもので。知ってても参加しなかったかと。面倒くさいし。あんまりワイワイしてるの好きでもないんですよ。やるなら多くても人数が10ちょっと位がいい。」

 

「ああ······騒がしいの嫌いなんだね?」

 

「そうだな。そんな騒がしいところに行くとしたら好きなアーティストのライブとかコミケくらいなもんだ。それに俺がそんなパーティー出てみろ、サインたかられるのがオチだ。ソースは俺の中学最後の文化祭。」

 

最後の文化祭。勝手にクラスの奴らが俺の事を無許可で広告塔にして客寄せしたせいでそれはそれはどったんばったん大騒ぎになった。内容はほぼ俺のサイン会。ちなみに、企画を通す時に俺が許可したという事になっていたらしい。頭に来た俺は運営と他の先生に俺が許可していないという証拠(その企画を持っていった時俺は仕事関係で休んでいたという事実)を叩きつけた。あわれ、うちのクラスは開始数十分で文化祭終了、反省文を書くハメになったとか。

 

「あの時はホントびっくりしたぜ······まさか担任が俺を出席した事にして口裏合わせてるとは······思い出したら腹立ってきた······あの糞共······」

 

「そういえばそんな事もありましたね······確か丁度出した作品が百万部突破した時でしたっけ?」

 

「ああ、夏休みにそうなって本当に売れ始めた頃だな。夏休み明けにあんな事になるとは思ってもいなかったよ······はぁ、あいつら全員受験失敗すればよかったのに······」

 

「さらりと恐ろしいことをつぶやくなお前は······あれ?じゃあ去年と今年の文化祭は?」

 

「去年はオカ研先輩方協力のもと、名前隠してホラゲー作って無料配布、今年は『日本心霊スポット絶景厳選』というタイトルで展示して終わり。因みにどっちも当日には仕事の予定入れてた。意図的に。」

 

というか学校行事は大体仕事入れて公欠にしてる。仕事つったってその日に担当との打ち合わせ入れてるだけだし。

 

大人ってこういう時はものわかり良くて助かるわ。『この日じゃないとダメらしいです』と言えば大体『そうか······残念だが仕方ないなそれじゃあ』と解決できる。便利。

 

「······まさかだとは思うけど······去年の林間学校も?」

 

「その日は本当にたまたまイベントと被ってしまって······」

 

ちなみにこれはマジだ。意図的ではなく本当に被った。

 

成り行きでテレビに出ることになってしまっただけである。

 

「あ、参加しようとはしていたのですね?」

 

「······川釣りしたかったなぁ······」

 

それだけは心残りだ。

 

「────っと、とにかく、お願いできないかな?あれ任意の参加なんだけど、だからこそ運営が足りなくて······」

 

「私は構いませんよ?」

 

「俺も別に」

 

「寧ろやりたいです!!」

 

「私も興味はあるかな?」

 

と、4人。

 

「······運営だけで、尚且つ俺の参加がバレないように配慮してください。面倒なので。」

 

「ああ······まあそうだよね。わかった。大変だな有名人も」

 

「大変なんだよ······ええと······綾小路さん?」

 

「誰よそれ!?越路よ!!」

 

路だけ合ってた。

 

 

2

 

「······と、言うわけでコスプレパーティーとバンドをやろうと思う。」

 

「保科が壊れた!?」

 

「誰か保健室連れてけ!!」

 

「保科······一体何が······!!」

 

「なんでそこまでのリアクション取られなきゃいけないんだよ!!」

 

翌日、急に保科の頭が湧いた。

 

「あの保科がそんな事言うなんて······!!信じられない······!!」

 

「本物の保科を出せ偽物め!!」

 

「柊史······もういい、休め······!!」

 

「お前らいくら何でも巫山戯すぎだこの野郎!!」

 

と、まあ巫山戯るのはこれ位にしよう。

 

「誰がやるんだよ、バンド。」

 

「仮屋。」

 

「私っ!?無理無理無理!!」

 

「え?でもやってるんだろ?ギター。」

 

「······あれ、私一ノ瀬に話したっけ······?保科には話の流れで話さなきゃいけなくなったから話したけど······」

 

「指を見ればなんとなく。」

 

「······バレてた······だと······」

 

ガクッ、と膝を付く仮屋。 何をそんなに落ち込んでいるのだろうか?

 

「でも他はどうすんだ?保科」

 

「海道······なにかできそうな感じするよな。モテそうとかいう理由で経験者みたいな」

 

「動機まであてられた!?ドラムやったことあるよコンチクショウ!!」

 

「ベースは仮屋、ドラム海道······後はどうするつもりなんだ?」

 

「ボーカルは······寧々を誘おうと思うんだけど······」

 

ああ、なるほど。そういう事ね。

 

「うへぇ、私達はバカップルの隣で練習しなきゃいけないのか······」

 

「······あれ?柊史は?お前なんか出来たっけ?」

 

「ギターの基礎の基礎だけなら······どうせこんなの失敗しても笑い話だ。死ぬ気で練習するさ。」

 

「······やっぱお前柊史じゃないな!?」

「本物を何処にやった!!ル〇ン!!」

「本物の居場所を吐けルパ〇!!」

 

「誰が〇パンだ!?」

 

────閑話休題────

 

「まあ、これで取り敢えずメンバーは集まったな······」

 

「お前らも良くやるなぁ······」

 

俺はバンドなんかやろうとも思わんぞ······

 

「······ちょっと待って?一ノ瀬は何もしないの?」

 

「学校行事なんて碌な思い出ないからな。参加するけど運営だけという条件での参加ということにしてもらった。面倒だもの。それに楽器とか得意じゃないし。」

 

「うん、まあ有名人なりの苦労はあるよな、ならしょうがないだろ。」

 

「海道最近やっぱり察しが良すぎない?ひょっとしてル〇ン?」

 

「ちげえよ!?」

 

なんだ違うのか······。

 

「いや······私は忘れてないぞ一ノ瀬······!!お前がピアノもプロ級だという事を······!!」

 

「「なっ、何ィ!?」」

 

「おま······何年前の話だよ······」

 

「小学校の時何だかんだ4年くらいまでずっと一緒のクラスだったんだ······忘れる訳ないだろう!!」

 

「てことは······キーボード確保?」

 

「やらねえよ!?絶対やらねえよ!?」

 

誰がやるか!!

 

「そもそもピアノなんて何年もやってねえし弾けるの歴代仮面ライダーの歌とアニソンとゲーソンだけだぞ!?キーボードだってピアノとは違うから無理だって!!」

 

「いや、そんなに弾けるなら普通に凄いんじゃねえかそれ······」

 

海道のツッコミが入るが無視だ。

 

それを聞いた仮屋は少し俯き、その後上目遣いで潤んだ目でこちらを見て────

 

「一ノ瀬······ダメ?」

「ダメ。」

 

「間を開けずに断りやがったよコイツ!!!?」

 

うるせえ、ただでさえ学校行事には参加したくないんだ。裏方で参加すると了承したのすら珍しいくらいには。

 

「······私は······一ノ瀬と······一緒に演奏したかっただけなのに······」

 

遂にこいつ嘘泣き始めやがった。

 

「うわー、仮屋さん泣かしたー」

「おい、流石に謝れよ一ノ瀬ー」

 

周りからヤジが飛ぶ、が。

 

「嘘泣きはやめろよ仮屋。ただ一緒に演奏したいだけ?バンドやろうって持ちかけなきゃ何もしなかっただろうにそれを言うか?」

 

「っち、バレたか」

 

「そうやって無駄だとわかったらスグに切り替える精神嫌いじゃないぜ······」

 

「嘘だろ······今の嘘泣きだったのか······」

「完全に騙された······」

「普通女子が泣いたら戸惑うだろうに一ノ瀬冷静すぎるだろ······」

 

周りからそんな声がチラホラ聞こえる。

 

「まあ、そもそもバンドやるやらない以前の話があってだな?」

 

「「「······え?」」」

 

あれ?知らないのかコイツら······

 

「次のテストで赤点取ったらハロウィンパーティー出れないって戸隠先輩に聞いたけど?」

 

「「「あ」」」

「「えっ!?」」

 

保科、仮屋、海道は「忘れてた」と言わんばかりに、そして廊下で先程から覗いていた因幡とクラスに居た椎葉が驚きの声をあげた。

 

 

3

「······という訳で勉強会をしよう。」

 

放課後のオカ研部室。一ノ瀬巽、仮屋和奏、海道秀明、戸隠憧子、綾地寧々、保科柊史、椎葉紬、因幡めぐる以上8名がオカ研部室に集まっていた。

 

「有志の数的に海道達でやるバンドがいないと厳しい、がかなりの人数成績がヤバイときた。」

 

「数学と英語はマジ無理!!死ぬ!!」

 

とは海道の弁。

 

「強いて言うなら英語は50割りそうかな?」

 

何だかんだ優秀だな仮屋よ。

 

「私は学校の進み具合が違くて······特に化学······数学はここより進んでたんだけどね」

 

とは椎葉の弁。これはしょうがないだろう。

 

そして因幡────

 

「無理ィー······国語と数学以外全然できないです······」

 

「お前どうやってここ受かったの?」

 

アホの子とは思っていたがここまでとは。前回の成績を見たら国語と数学以外全部赤点スレスレである。一応ここそれなりに偏差値あるんだがなぁ。

 

「赤点さえ取らなきゃいいんですよ······テストなんて······ポケ〇ンたのしーい······」

 

「駄目だこいつ・・・早くなんとかしないと・・・」

 

コイツにゲームを教えたのは間違いだったかもしれない。

 

「俺は古典が赤点スレスレになりそうってだけでぶっちゃけ問題は無い」

 

というのは保科。まあお前が落ちても割とやばいから大人しく勉強しろ。

 

「幸いここには学年で一二を争い、既に推薦で受験が終わっている戸隠先輩、優等生の綾地寧々がいる。綾地は保科。戸隠先輩は海道と仮屋を見ればいいかと。ぶっちゃけ仮屋は放っておいても多分大丈夫でしょうし海道メインに見てやればいいかと。」

 

「······あれ?私は······まさか······」

 

「喜べ、俺が直々に見てやる」

 

「ウゾダドンドコドーン!」

 

絶叫した。

 

「そんなに嫌か?」

 

「先輩の鬼授業は嫌だー!!」

 

中学時代のトラウマが脳裏に蘇っているのか震える因幡。

 

「お前······何したんだ?」

 

「······さあ?中学時代に1回だけ勉強見たことがあるくらいだよ?」

 

何もしてないのだが。何をそんなに震えているのやら。

 

「まあいい、問題は場所だよなぁ。」

 

「流石に私の家も入るかどうか······」

 

前世界と比べて若干人数が増えた事により綾地寧々は流石に無理と宣う。······まあ多少『柊史君以外の男をあまり上げたくない』という心の声が聴こえてきそうだが。

 

「私の家もそこまで広くないかなぁ······」

 

「私の家は普通に両親いるし······」

「私の家も無理ですね。」

 

「そもそもこの中で一人暮らしなのって綾地さんと戸隠先輩と······いち······あっ······」

 

余計な事を言った、と思って口を塞ぐ仮屋。しかしもう遅い。

 

「そういえば一ノ瀬センパイは一人暮らしでしたね」

 

「え?俺の家?まあ広さ的には大丈夫だけど······」

 

「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!絶対にいやだああああ!!」

 

絶叫をあげる狩屋を見てただ事じゃないと思ったのだろう。皆がこちらを見てくる。

 

「······いやあ、何も無いですよ?ただ俺の家ちょっと浮遊霊が溜まりやすい立地にありまして······ちょっとポルターガイストが起こるくらいなものです」

 

「「「「「「「十分怖いわ!!」」」」」」」

 

「よくそんな家で生活できるなお前!?」

「なんでそんな家にわざわざ住んでるんですか!?」

 

「夜中寝ている間しか来ないから大丈夫だってば!!」

 

怒鳴り声をあげる一部に対し······

 

「なんだ、浮遊霊程度ですか」

昔の経験から感覚が麻痺した因幡。

 

「なら夕方に帰れば大丈夫そうだね。私はいいよ?それに一ノ瀬君なら何とかしてくれると思うし······」

安全が確保されていると言うのなら別に構わないという椎葉。

 

「え~なんか楽しそうじゃん」

と図太さをみせる戸隠先輩。

 

「······待てよ、万が一心霊現象が起きたら女子の怖がる顔を合法的に見れる·····?」

真理に行き着いた海道。

 

そして自分の家から動きたくない一ノ瀬巽。

 

「多数決の結果、俺の家ということで。」

 

「ウッソだろおい」

 

こうして勉強会が開かれる運びとなった。

 

 

4

次の日の土曜日。午後1時。

 

「「「「「「······うわ、でかっ」」」」」」

 

一人暮らしとは思えないレベルのでかい家に皆が面食らった。

 

「ああ······また来てしまった······」

 

入る前からガタガタ震えている仮屋を除いて。

 

「おう、なんだお前らもう来たのか······」

 

インターホンを鳴らし『入っていい』と言われたので入ると寝ぼけ眼の一ノ瀬が出迎えた。

 

「もしかしなくても一ノ瀬君、ついさっきまで寝てたでしょ?」

 

「あー、基本休みの日なんてこんなもんだよ······仮面ライダーがあれば話は別だけど······でも結局二度寝するから関係ねえか」

 

「もー······ちゃんと健康的な生活送らないと病気になっちゃうよ?」

 

何故か椎葉に説教された。解せぬ。そして病気になっちゃうよという忠告は全く意味が無いのだが······

 

「取り敢えず中に入れ、勉強会するんだろ?」

 

 

 

こうして始まった勉強会だが────

 

「因幡······お前これマジで言ってる?」

 

「?はい、マジですよ?」

 

Q.北極を英語にしなさい

 

A.Eternalblizzard

 

俺が担当している後輩が馬鹿すぎて話になりません。

 

「なんでEternalblizzardなんだよ!?」

 

「だって常に凍ってて寒いじゃないですか!!」

 

「んな事言ったら南極だってEternalblizzardになるだろうが!!」

 

因みに正解はNorth Poleである。

 

「······因幡さんってこんなに残念だったっけ?」ヒソヒソ

「多分ですが······この後世セカイには一ノ瀬君というイレギュラーがいます······多分一ノ瀬君が何かしら影響を与えてしまったのではないかと······」ヒソヒソ

 

実際その通りだった。彼女は元々病弱で中々学校に来ることは無かったのだが、怪異に遭遇し、一ノ瀬に出会ってから仲良くなり、色々なゲームを教えて貰っていたのだ。因みに、何故2年の中盤まで親交が無かったのかと言うと2年に上がった時に連絡先のバックアップを取るのを忘れたのと、忙しかったからである。そして因幡もその時は色々空回りしていて、一ノ瀬のことは完全に頭から抜け落ちていた。ちなみにその時、色々自暴自棄になってFPSにハマった結果成績はガタ落ちした。

 

「あと日本史!!」

 

「ゔぇ!?日本史は得意なほうなんですけど!?」

 

「少なくとも俺は『犬養毅』を『犬養剛』と書き間違えるバカを見たのは初めてだよ······!!はぁ······ヤバイ······一人でどうにかなると思ってた俺が馬鹿だった······!!」

 

「······手伝おうか?」

 

「······お願いします······」

 

結果として戸隠先輩も加わってくれた。が大して変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うへぇ······疲れましたぁ······」

 

「おお、なんだかんだ4時間くらいぶっ通しで勉強してたんだな、そりゃ疲れるわ······」

 

「まあ、これで赤点はないと思うよ······ないと信じたいね······うん······」

 

そりゃかなり頑張りましたからね俺達。

 

「······流石に織田信長を織田信奈って書いた時にはぶん殴ってやろうかと思った······」

 

「わざとじゃないんですってば~!!」

 

わざとじゃないと言われましてもねえ······。

 

「······まあいい、取り敢えず今日はもう解散か?」

 

「そうだな······その前に珈琲くらい入れてやる。······あ、珈琲飲めないやついる?」

 

「「「「「「「大丈夫だ問題ない」」」」」」」

 

さいですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局一ノ瀬はやってくれないの?キーボード」

 

「やらないっての······案外粘るな仮屋······」

 

間違いなく出たら大騒ぎになる。同学年はそうでも無いかもしれないけど1年とか関係ないところから湧いて来るのは勘弁願いたい。

 

「確かにセンパイ出ると大変そうですねー······私何人かにセンパイにサインもらってくるように言われたんですけど······」

 

「そーゆー輩が出るからあんまり出たくないんだよなぁ······サイン自体は別にいいんだけどさぁ······メインが別物になっちゃってどうすんだって話だよ」

 

「······ハロウィンだからあながち間違いとは言えないんじゃないですか?センパイの小説ホラーですし。」

 

「うーん、完全否定できないのが悔しい」

 

ままならないなぁ······。

 

「てかそんなに俺にピアノ······いやキーボード?どっちも変わらないか······?まあいいや、なんでそんなに弾かせたいの?」

 

「······思い出くらい作りたいじゃん······」

 

「いっぱいあるじゃん、特にお前の元バイト先の殺人事件は抱腹絶倒ものだったな。あそこまでテンプレ思考のやつがいるとは思ってなかったぞ」

 

「だからだよっ!!そんな思い出しかないじゃん!!」

 

はて、そうだっただろうか?

 

「それに関しちゃ、和奏ちゃんと同意見かなぁ······1年の校外学習はマジでやばかった······」

 

「あー、舞台を見に行った帰りに保科と俺と海道と仮屋で帰りにゲーセン寄った時のあれか?」

 

「そう言えばそんなこともあったな······プリクラ撮ったら一ノ瀬の後ろから無数どころか千手観音レベルの手が写ってたやつだろ?」

 

「ああ、あれねー、舞台の会場からずっと付いてきてたんだよ。珍しいこともあったもんだと思ったね。多分あの会場のあたり埋立地だったから戦時中海でそこで死んだとかそんな感じじゃないかな?少なくとも死んで20年は軽く超えている古い霊ばかりだったよ?」

 

「────って、こんな思い出ばかりでしょうが!!」

 

いやいや、そんな事は無い。探せばマトモなのあるはず────

 

「カラオケ行った時も一ノ瀬が歌う時に限ってどこからともなくタンバリンの音がしたことあったな。タンバリン部屋になかったのに」

 

「巽がゲーセンで音ゲーやってた時に手元撮影してたら巽に手が重なって幽霊が音ゲーしてたこともあったな」

 

「ホントに幽霊にまとわりつかれるなぁ俺····大した害のない幽霊だから別に構わないけど」

 

「ほらみろ!!ろくな思い出ないじゃん!!」

 

ふむ、そう言われるとそうなんだが······

 

「しかし仮屋。それバンドにも適用されるかもしれないじゃん?なんか一人の生徒がこっそり撮ってて家帰って再生してたら俺の肩から手が生えてる────とか。」

 

「ひ、否定出来ないっ······!!」

 

「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って!?一ノ瀬君そんなに幽霊に!?」

 

「落ち着け椎葉。いつもの事だ。」

 

ハッキリ言おう。もう慣れた。

 

「慣れちゃいけないような気がするんだけどな~······」

 

しょうがないでしょ、慣れちゃったんだから。

 

因みにプリクラ千手観音事件の後からはずっと御札で抑制しているからまだマシになったものだ。

 

「······························」

 

「······?どうした綾地、今にも殺しそうな目で俺達を見てくるなんて······」

 

いや、正確には仮屋を見ているように見える。

 

「······って············のに············」

 

「······え?」

 

「まだ柊史君とカラオケ行ったことないのに······!!」

 

「············保科、ご立腹の様子なので君がどうにかしてくださいね?」

 

「え、ちょっ······」

 

 

 

 

 

 

綾地を保科に任せて残りのメンバーでコーヒーを啜る。

 

「あ、じゃあさ、一ノ瀬。賭けをしよう」

 

「······賭け?」

 

「次の中間──── 一ノ瀬と私の合計点数の差が100以内ならば一ノ瀬は私達と一緒にバンドをやる!!」

 

「······100点よりも差がついたら?」

 

「え······んー······私ができる範囲で何でもしてあげる?」

 

······ほう?

 

「ちょ、そんなこと言って大丈夫なんですか仮屋センパイ!?こういう時の一ノ瀬センパイは容赦ないですよ!?」

 

「失礼な······そうだなぁ······どーしよ?そんなやってもらいたい事なんてねえしなぁ······」

 

「おいおい、巽マジかよ、何でもだぞ?何でも!!」

 

「あ、エッチなのは······ダメだからね?」

 

頼む気もないです。うーん······どうしようか?あ······

 

「じゃあ来月に一番くじ始まるんだけど本気で欲しいもんあるから手伝ってもらおうか。俺はアキバでお前は池袋。金はこっちが持つ。」

 

「······それ、世間一般でいうパシリ······だよね?」

 

「他に思いつかないからしょうがないね。」

 

だって欲しいんだもん。

 

────まあ、その時に俺がいるかどうかは知らないけど。

 

最期くらいそんな賭けも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、因幡今日からソシャゲはログインのみ、他のゲームは封印な」

 

「ウゾダドンドコドーン!!」

 

 

 

 

5

「ばっ、馬鹿な······!!」

 

「どーよ?私だってやれば出来るんだ!!」

 

後日。中間テスト終了。

 

一ノ瀬巽

国語100 数学100 英語100 日本史100 物理100 化学100 古典100

 

仮屋和奏

国語98 数学96 英語90 日本史100 物理90 化学96 古典90

 

「さらっと700点満点取ってる巽もすげえけど······え、和奏ちゃんそんなに頭良かったの!?」

 

「前の期末じゃ中の上だったくせに······!!」

 

「バイト入れてたからね前は······さて、一ノ瀬?賭けは覚えてるよね?」

 

「······っち、約束は約束だ。いいだろう。キーボードだか知らんがやってやるよ······」

 

「やりぃ!!じゃあ早速今日から練習ね!!」

 

まあ、最期くらいやってやろうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、シリアスっぽく締めようとしたのだが────

 

「······え?ちょ、一ノ瀬センパイまでそっちいっちゃうんですか!?」

 

「ただでさえ人が足りないのにー!!」

 

「そ、そうだった······一ノ瀬君がいなきゃこっちが辛すぎるううう!!」

 

考えてみよう。

 

前世世界は当初、仮屋和奏、海道秀明、保科柊史の三人でバンドをやる予定だったところで仮屋が風邪を引いてしまい、そこにボーカルで綾地寧々が入ったのだ。

 

後世世界はどうだ?ただでさえ綾地寧々が最初から練習に加わる事によって運営が一人足りない。その穴を埋める予定でいたのは一ノ瀬巽だったのだ。

 

生徒会側の人間の前で『できるだけ裏方で』と言ったためこれは予想外だったのだろう。

 

「ちょ、なんで!?最初は裏方って言ってたじゃん!!」

 

「······賭けに負けました?」

 

「「「······と、止めるべきだった······!!」」」

 

 

「······仮屋、このままだとハロウィンパーティーの開催も危ないけど······どうする?」

 

「······一ノ瀬······」

 

「······何かなぁ?凄く嫌な予感がするんだけど?」

 

具体的にはこいつの口を今すぐ塞いだ方がいいような気がするくらい。

 

「一ノ瀬、練習よりこっち優先していいよ?······その代わり、絶対に一日で譜面覚えてね♡」

 

「······死ねと申すか······やってやるよぉ!!」(泣)

 

こうして、恐らく俺は最期になるであろうハロウィンパーティーにおいて『社畜』という立場に立たされたのであった。

 

 




共通ルートハロウィンパーティーじゃ終わらないことに気づき章題変えようか悩んでる幼女先輩です(白目)

そろそろアンケートを取ります。

一応言っておきますが今のところヒロインである紬、和奏、めぐるの三√全部書きます。

なので『どのヒロインの√が一番見たいか』のアンケートとなります。近々始める予定ですので宜しくお願いします!!

次回:生意気幼女に萌えるのも限度があるのはロリコンとして間違っているのだろうか(予定)!!


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Halloween Night

英霊剣豪七番勝負ヤバイ!!マジヤバイ!!




ところでめぐると戸隠先輩のコスプレ衣装痴女っぽいと思うの僕だけ?


1

「────せ!!一ノ瀬!!」

 

「······ん、悪ぃ。ミスった?」

 

ハロウィンパーティーが間近に迫っているとある日。

 

運営をどうにかした(具体的には一週間ずっと三人分の作業をやった)俺はバンドの練習組に合流したのだが。

 

どうやらぼーっとしていたらしい。皆に声をかけられるまで動いてなかったようだ。

 

「······なんでこんなボーッとしてるのに演奏は完璧なんだ······?」

 

「尊敬通り越して恐怖を覚えるレベルなんだが巽······」

 

「正直、金払っても聞く価値ある演奏するからね一ノ瀬は······」

 

「一ノ瀬君、上手いんですね······」

 

「これだけは親に勧められてやった習い事の中で唯一熱中できたものだったからな······ま、弾いてた曲はアニソンとかばっかりだったけどね。」

 

『弾きたいと思った曲を全力で弾け』がモットーだったあのピアノ教室は本当に居心地がよかった。年に二回ある発表会でも平然とゲームの曲とか弾いてたしな俺。

 

だから、という訳では無いけれど。熱中してたからこそ身についたというか······ある程度楽譜に目を通せば一、二回の練習で何でも弾けるようにはなった。

 

「しかし······一ノ瀬疲れてるの?なんか演奏は完璧なのに心ここに在らずって感じだよ?」

 

「んー······あー······確かに疲れたっちゃあ疲れた······」

 

「······そりゃそうだ、一週間ずっと三人分の仕事量を全て完璧にこなしてたんだから······」

 

「むしろ疲れない方がおかしいかと······」

 

まあ、本当の理由はもっと別にあるんだけど────

 

それが原因の一つに入っているのは事実だから訂正はしない。

 

「······んー、このまま練習続けて風邪ひかれても困るし······今最も重要なのは個々のスキルアップだから一ノ瀬には聞き手に回ってもらおうかな?」

 

「そうだなー······最低でも巽の足元に及ぶレベルにならないと巽と綾地さんのボーカルが強すぎて俺達が空気になるかもしれん······」

 

「······それは嫌だな······」

 

ならお言葉に甘えて聞き手に回りましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、時間になってしまったので撤退する。

 

「······中々借りれる時間少ないねえ······もう少し練習したいなぁ······」

 

「まあ、しょうがないっちゃしょうがないんだよな······この辺そーゆー事出来るところ少ないし······」

 

「そんなにヤバイか、俺の腕前」

 

「······保科がほぼ初心者だからしょうがないと言えばしょうがないんだよなぁ······」

 

前世界の記憶を頼りにやっているから前世界よりは上手いのだが、やはり基礎をやっただけではダメなのだろう。······前世界と曲が若干違っているのもあるが。全てはキーボードが追加されたせいである。

 

────というか

 

「練習場所あるっちゃあるけど······?防音設備は整ってるし······」

 

「「「「それを先に言え!!」」」」

 

皆につっこまれた。しかし────

 

「え?本当にやる?特に仮屋······」

 

「時間が惜しい!!本当に借りれるなら借りたいんだけど────」

 

「じゃあ、案内するわ。ついてこい。」

 

そして向かったのは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の家の地下室······と言うより本当の1階である。

 

実は俺の家、坂の途中に出来ていて、一階は実はガレージのようなところなのだ。だが家と直結している訳では無いし、別にカウントしなくてもいいよね?という感じ。そしてそこに何故防音設備が整ってるかといえば────

 

「なんでも前にこの家に住んでた人の趣味らしいんだわ。」

 

「······もう一ノ瀬の家はなんでもありなんだな······」

 

「問題があるとすれば······ここ丁度前の家の主人が死んでた場所なんだよねー」

 

「「「「······ゑ?」」」」

 

「まあ幽霊とかその類は出てこないと思うよ?丑三つ時になれば話は別かもしれんけど」

 

数秒の沈黙。それを真っ先に破ったのは仮屋だった。

 

「ちょ······嘘でしょ?嘘だと言ってよ一ノ瀬ェ······」

 

「嘘じゃねえよ、幽霊出る程度じゃ大した事故物件にならねえからな?元々幽霊が集まりやすいのは確かだったみたいだけど······ここの主人が原因不明の心臓発作で死んで以来、その主人が化けて出るとか取り壊そうとした業者の作業員が謎の事故で入院したりとか······そんな事件が起きててほったからしにされてたのを作家デビューしてある程度貯金の溜まった俺が買い取って仕事場にしたんだよ。」

 

いやー、すんごい安かった。具体的には当時義父が「この程度ならお前が金を出すまでもない、俺がプレゼントしてやる」と言えるレベルで安かった。

 

まあ、義父は結構な高給取り······検察庁の人間なのだが。

 

「安心しろ、ちゃんと除霊(物理)はしたから。」

 

「「「「実際居たのか!?」」」」

 

「そりゃもう······あ、丁度今綾地が立ってるところが前の家の主人が遺体で発見されたところだよ」

 

「ひいっ!?」

 

入口近くに居た綾地が悲鳴を上げる。保科が慰めに行くがまだ震えているようだ。

 

「────さて、曰く付きだけどたんまりと練習できる······なんなら泊まっても俺は問題ないぞ?······ここと、時間の短いあのライブハウスだかよく分からんところ······どっちがいい?」

 

────その後四人は死ぬほど悩んで苦々しい顔をしながらこの家を選んだ。

 

 

2

 

それからは練習の日々だった。

 

途中真夜中に海道のドラムがひとりでに鳴っているのが目撃されたり、保科が弾いてないタイミングでギターが鳴ったり、綾地の歌声を録音して聞いたら後半に「お兄ちゃん······一緒に死のう?」と綾地のものではない謎の声が入っていたり、仮屋が弾き始めた瞬間に棚に積んであったジャ〇プとかの雑誌類が崩れ落ちたり、気まぐれにキーボードで某鬼畜妹を弾いてたら本当に幼女の笑い声が聞こえたりしたが、特に問題なく本番を迎えた。

 

「どこが問題なくだ!?」

「問題しかねえだろ!?」

「すごく怖かったです······」

「早く引っ越した方がいいって絶対!!」

 

「······あはは······一ノ瀬君は凄いところに住んでるんだね······?」

「流石センパイ······怪異に揉まれ続けて幽霊とかどうでも良くなったんですか?」

「お姉さんも引っ越した方がいいと思うよ······?」

 

なんと練習しに来ていた四人以外にも言われてしまった。解せぬ。

 

「「「「「「「理解しろ!?」」」」」」」

 

「んな事言ったってなぁ······幽霊だって悪霊ってわけじゃないただの悪戯好きの幽霊とか寂しがりの幽霊なんだから少し構ってあげる方が寧ろ供養になるんだもん。」

 

────まあ、正直、────と────に会えるのかと思って期待してる面もあるけれど。

 

「······」

 

それを見越してか、唯一事情を知っている仮屋がこっちを寂しそうな目で見つめてきた。

 

 

 

「────で、全員コスプレって聞いたけど、椎葉どうした?」

 

運営側は全員コスプレするという事になっていたのだが椎葉のみ制服だった。

 

「それが······男装するってことが伝わってなくて······可愛い服が来ちゃってさ······」

 

「あらら······おかしいなぁ、ちゃんと男装一人って伝えたんだが······」

 

まあ、過ぎたことはしょうがない。

 

「······ところで一ノ瀬君?君は何のコスプレしてるの?······見たところ普通に普段着にしか見えないんだけど······」

 

「ああ······戸隠先輩F〇teとかわからなそうですしね······知らないのも無理はないか······」

 

「いや、センパイ、ハロウィンパーティーなのにハロウィンに関係ないコスプレするのは如何なものかと······」

 

······え?だめなの?

 

「うーん、ハロウィンに関係ないのはちょっとなぁ······」

 

「えー、着替えるの楽だから割と気に入ってたんだけどなぁ······英雄王の普段着······」

 

「······そんな理由で選んでたんですか······?」

 

「あと声真似得意なんだよねー······あー······あーあー······『慢心せずして、何が王か!』」

 

「うわ、そっくり!!上手すぎて気持ち悪っ!!」

 

「酷くない?」

 

なんで上手いのに罵られなきゃいけないのか。甚だ疑問である。

 

「しょうがない······どっちにしようかなぁ······ワラ〇アの夜かアー〇ードにするか······」

 

「······偶にはアニメから離れたらいいんじゃないですか?」

 

「それやるともうコスプレの衣装が仮面ラ〇ダー以外使えなくなるんだが。」

 

「訂正します。サブカルチャーから少し離れた方がいいんじゃないですか!?」

 

「んな事言ってもなぁ、コスプレ衣装なんざ他に持ってねえよ······」

 

「そこまで来ると逆に凄いですね!?ド〇キで売ってるでしょうが!!」

 

「普段行かないからなぁ······よし、ワラ〇アの夜にしよう」

 

そう言って俺はやたらと凝ったマントを取り出し、それを羽織る。

 

「······あ、ウイッグ持ってくるの忘れた······」

 

「「「「「「「そこまでやらなくてもいいだろう!?」」」」」」」

 

いや、そこまでしないとつまらないじゃん?

 

「それはそうと一ノ瀬君」

 

「何ですか?戸隠先輩。」

 

「この中で誰のコスプレが一番似合うと思う?」

 

────ああ、そういえば

 

「人気投票あるんだっけ?完全に忘れてたわ。」

 

「おま······忘れてたのかよ······」

 

いや、こういうのって個人個人で楽しむものであって優劣をつけるものじゃないと思うんだけど。

 

「うーん······えー······わかんねえ、取り敢えず一番マトモなのが綾地ってのはわかるけど。戸隠先輩と因幡はなんて言うか······痴女のコスプレにしか見えないんだよなぁ」

 

「「ごふっ!?」」

 

「い、言いやがった······コイツスタッフの大半が思っていたであろうことを平然と言いやがった······!!」

 

「流石一ノ瀬······俺が言えなかったことを平然と言ってのける······!!痺れも憧れもしないけど!!」

 

「いや······一ノ瀬、それが感想って······どうなの?」

 

「今のところ俺の中で一番似合ってると思ったのが仮屋な件。······でも因幡はまだマシかなぁ?」

 

「シュバルツカッツェの制服だけどね·····コスプレとかしてると上手く弾けなさそうだし。」

 

「ち、痴女かぁ······確かに露出度高いけど······」

「うう······確かに······冷静に考えたらこんなに露出度高い服着てるんだなぁ私······!!センパイの言う通りじゃん······!!」

 

「ちょ、戸隠先輩!!因幡さん!!しっかりしてぇ!!」

 

二名ほど心に傷を負って、ハロウィンパーティーはスタートした。

 

 

 

3

「いやー、いよいよ本番かぁ······」

 

「嘘だろ、まだ周回完全に終わってないのに······!!」

 

「一ノ瀬、平常運転すぎるのもどうかと思うんだけど······」

 

「流石······全然緊張してねえんだなコイツ······」

 

「あはは······」

 

本番直前。俺達は舞台袖で最終調整(一人ソシャゲの周回)をしていた。

 

「おーい、もうすぐ出番だって。スタンバイしておいてって戸隠先輩から連絡来たよ。」

 

「OK、サンキュー椎葉」

 

「かーっ、いよいよかぁ······緊張してきたァ!!」

 

「海道、緊張しすぎて酷いミスはするなよ?」

 

「それかなりのブーメランだぞ柊史······」

 

「んー、ま、最期の学校行事だし······偶には気合い出すか······」

 

最後、と皆は変換した。確かに、時期的にはこれが今年度最後の学校行事だ。

 

「そうだな、頑張ろうぜ!!」

「ああ、そうだな」

「はい、全力を尽くしましょう!!」

 

ただ一人────

 

「······一ノ瀬······まさか······」

 

仮屋だけが、その言葉に唯ならぬ雰囲気を感じたのか、真剣な眼差しで睨んでくる。

 

『それでは続きまして────有志団体によるバンドです!!皆さん拍手でお迎えください!!』

 

しかし、そんなコールが響いてしまってはスイッチを切り替えざるおえなかったようで、仮屋は直ぐ本番に集中する。

 

仮屋は後に語る。

 

『あそこで私がスイッチを切り替えて、完全に忘れさらなければ、運命は変わっていたのかもしれない』と。

 

しかしもう遅い。仮屋は今のでスイッチを切り替えてしまった。最早引き返せない。

 

「ああ────これで、最期の学校行事だ。」

 

そう呟いて、一ノ瀬巽はステージに上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その演奏で、ハロウィンパーティーは今日一番の大盛り上がりを見せた。

 

ノーミスで、パーフェクトな、最高の演奏をした。

 

『以上、有志バンドの皆さんでした!!では最後に一人一言どうぞ!!』

 

「······なにそれ聞いてないんだけど仮屋」

 

「······私も今初めて聞いたよ一ノ瀬······」

 

完全なアドリブにも関わらず、綾地は簡潔な挨拶をする。

 

そして、俺にマイクが回ってきた。

 

「······え?これ一人一人やるの?」

 

「「「「話聞いてた!?」」」」

 

『なんでもいいから〜』

 

なんでも?今なんでもいいって言ったな?

 

しょうがない。なんでもいいなしょうがない。

 

「キーボードやらせてもらいました一ノ瀬巽です!!もう知ってる人もいる······っていうか知ってる人が大半でしょうが、三日後読者様のお蔭で百万部を突破した『関東怪奇探偵団シリーズ』の最新巻、『関東怪奇探偵団肆』が発売されますので、壱、弐、参巻を持っている方は是非購入してください!!まだ読んでないよって人は是非これを機に購入してください!!以上!!」

 

「「「「『宣伝するなぁ!!』」」」」

 

「なんでもいいって言ったじゃん!!」

 

宣伝したら怒られた、解せぬ。

 

 

4

 

演奏が終わった後。

 

「······あれ?一ノ瀬は?」

 

「······そういえばいないよね······」

 

最後の最後、綾地寧々に皆で感謝の気持ちを伝えようぜ!!みたいな事をしようと計画していた保科は首を傾げ、一ノ瀬の姿を探す。

 

「わ、私探してくるね!!」

 

そう言って椎葉が離脱する。

 

保科はこれを計画した際、誰でもいいから一ノ瀬に伝えておいてくれと頼んでおいたのだが······

 

「······この中で誰か一ノ瀬にこの計画話したヤツ、挙手。」

 

保科がそう言う────しかし、保科を含め、誰も手を挙げなかった。

 

それを見た保科はこう呟かざるおえなかった。

 

「······後で土下座かなぁ······」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────という訳で、退院後菊川のS区に居るらしいよ、君の家の近所だ。』

 

「······そんな近くに来られると作為的な何かを感じるんだよなぁ······てかそんな名前の家あったっけ······?」

 

『どうやら今まであちこちを転々としていたようでね。まさかこんな偶然があるとは思わなかったけど。とにかくもうそこにいるのは確定。』

 

「そうですか······ありがとうございます。」

 

『いやいや、金を貰ったからには何でもやるさ······しかし、君のような有名人からこんな依頼が来るとは思ってなかったけど』

 

「あっははは、まあいいじゃないですか。んじゃあ、残りの金はもう既に振り込んであるので。」

 

『大丈夫、今確認した。今後ともご贔屓に······とはいかないか。まあ、成功するといいね。』

 

「────絶対成功させますよ。その為に今まで生きてきたんですから」

 

『そうかい、まあ、頑張ってね!!んじゃ!!もし生きてたら博多で会おう!!』

 

「ええ、ありがとうございます。では」

 

そう言って電話を切り、空を見上げる。見事な星空が広がっていた。

 

「······やっと······やっとだ。やっと突き止めたぞ······七年間も隠居しやがって······」

 

七年前の光景が脳裏に浮かぶ。

 

────血塗れのリビング

────嗤う男。

────首が胴体から切り離されていた父。

────そして、自分を庇って死んでしまった母。

 

全部が全部鮮明に思い出せる。

 

これで、改めて決意が、否、殺意が固まった。

 

────さて、後片付けに戻らないと。

 

そう思い後ろを振り返り、その前に、と自販機へ足を運ぶと、後ろから声がした。

 

「一ノ瀬くーん!!」

 

「椎葉?どうしたんだ?」

 

「どうしたんだって······!!保科君が綾地さんに感謝の気持ちを伝えたいから皆でサプライズプレゼントするよ、って話────」

 

「なにそれ聞いてないんだけど!?」

 

「────へ?」

 

声色から本気というのが伝わったのだろう。

 

ちょっとむくれていた椎葉の顔がポカンとした表情に変わる。

 

「本当に聞いてない、なにそれ知らない······あれ?」

 

「······えーっと······」

 

そうこう問答していると海道から電話がかかってきた。

 

「······もしもし?」

 

『おい、巽、柊史の土下座ショーが始まるから戻ってこい。』

 

「······要するに俺だけに伝わってなかったのね!?」

 

『まあ、とにかく早めに戻ってきてくれればいいよ。らしい。』

 

「りょーかい。」

 

そう言って電話を切り、はぁー、と溜息をつく。

 

「えーっと、一ノ瀬君だけに伝わってなかったの?」

 

「······どうもそうらしいな······なるべく早く戻ってこいねえ······そうだ椎葉、折角だからコスプレしようぜ?」

 

「ふぇ?でも私可愛い女の子の服は······」

 

「魔女の装備なら問題ないだろ?」

 

「え?うん······そりゃそうだけ────あれ?私一ノ瀬君に話したっけ?」

 

「······一応言うと、アルプだって怪異みたいなものだからな?」

 

「あ······そういえば一ノ瀬君副業でゴーストバスターやってるんだっけ······」

 

「いや、ゴーストバスターじゃないけど······まあその関係で。後はお前の体質────女性服を着るとではなく、女性っぽい格好をすると吐き気に見舞われるだっけ?そんなダメージを受けるのに寧ろ女子の格好を羨ましく見る限り、トラウマになって着れないってことは無さそうだから魔女の代償かなぁって。」

 

「一ノ瀬君探偵の方があってる気がするんだけど······」

 

────閑話休題────

 

「んじゃ魔女化しようか。」

 

「うん······しょっと!!」

 

光に包まれて魔女の服を着た椎葉が姿を見せる。

 

「んーと······帽子とマントを取って······髪をツインテールにしようか······後は······この羽とカチューシャ、それと槍を────」

 

「どっから取り出したのそれ!?」

 

「さっき使わない備品があったから電話の序に片付けとこうかなぁと思って。その中に入ってた。」

 

そう言って自販機の隣を指さす。

 

そこには大量の備品が入ったダンボールがあった。

 

「さて······これでどうよ?」

 

そう言って持っていた手鏡を渡す。

 

「わぁっ······!!」

 

「うん、満足そうで何より······と、後はプレゼント。」

 

そう言って紙切れを渡す。

 

「これ······コンテストの投票用紙!?」

 

「完全に存在忘れててさー、気づいたら投票締め切られてたw」

 

「ライブ前に話題に上がったのに!?」

 

周回してたら完全に忘れていたんです。

 

「ま、その一票は俺の票だ。誰に投票しても勝手だろう。よって、椎葉お前にやる。今お前のしているコスプレは、俺の目から見て誰よりも似合っているよ。」

 

「────っ!?ななななな、何を言ってるの!?ううー······恥ずかしいよぉ······」

 

「あっはっは、まあ、俺からの最期のプレゼントだ。受け取ってくれ······さてそろそろ戻るか」

 

「······え?最後って······?」

 

さいご、と聞いて呆然として、動けない。

 

「────?どうした椎葉······そろそろ戻るぞ?」

 

振り返った一ノ瀬の目を見てゾッと、寒気が込み上げてきた。

 

────彼の目は黒く濁りきっていた。

 

今まで見たことのない、冷たい目線を見てしまった、身体が動かない。

 

思わず、ギュッと、両目を瞑り、俯く。

 

「しーいーばー?戻るぞー?」

 

そう言われて、ハッと、目を開く。

 

そこにはいつも通りの一ノ瀬巽が不思議そうな表情で立っていた。

 

「あ、あれ?」

 

「ん?俺の顔に何かついてる?」

 

「······ううん、何でもない。見間違いだったかも······」

 

「?そうか。んじゃ着替えて戻るぞ。保科の土下座ショー見たいし」

 

「あ、あはは······手加減はしてあげてね?」

 

 

 

 

 

後に椎葉紬はこう語る。

 

『あの時、踏み込んで「なにかあった?」と一言聞けば、違う未来があったかもしれない』と。

 

しかしもう遅い。────ここでも、駄目だった。

 

 

 

 

 

 

 

5

 

打ち上げをしましょう!!

 

その一言を発したのは因幡めぐるだった。

 

そしてオカ研+三名(戸隠、海道、仮屋)でそのまま騒ぎ────

 

 

気がついたら十時半回ってた。

 

「あっぶねえ、危うく補導されるところだった」

 

そう言いながら、夜の街を駆ける

 

「ところでセンパイ······」

 

「ん?どうした?」

 

「そ、そろそろ地上に戻ってもいいのではないでしょうか?」

 

────民家の屋根の上を。

 

 

 

 

「ああ······怖かった、マジ怖かったです······」

 

「まあ、お蔭で補導されなくて済んだんだ、いいじゃないか」

 

「そりゃ······そうなのかもしれないですけど······」

 

ぐったりと因幡は沈んでいた。

 

「ま、家まで送ってやったんだから文句言うなって······そんじゃ俺はもう行くぜ」

 

「は、はい······ありがとうございました······」

 

「────じゃあな、因幡。」

 

「はい、また学校で会いましょう!!」

 

その言葉に何も返事を返さず、一ノ瀬は夜の街へ消えていった。

 

 

因幡めぐるは後に語る。

 

『変な所は何も無かった────纏っている雰囲気にも、何も。ただ、いつもなら「またな」というセンパイが、「じゃあな」と言ったのは、変だったかもしれない。』と。

 

ここでも、止めることは出来なかった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、一ノ瀬巽は学校に姿を現さなかった。

 

 

 




漸く怪異症候群2に入れる(白目)

怪異症候群2が終わったらアンケートからの個別ルートです。


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復讐の幕開け

 

 

 

────声が聞こえる。

 

『────さん!!なんで、何で俺を────』

 

『────にも、────残って────』

 

子供と、大人の女性の声だ。

 

『────があの程度じゃ────って解っていただろ!?なのに何で!!』

 

『────み、よく聞きなさい────生き────』

 

何を言っているのか、所々途切れてわからない。

 

が、両方聞き覚えのある声だ。

 

そして、暗転。

 

次は何処かの家だった。

 

一人の少年が、机の上に大量の本を置き、叫んでいる。

 

『何であいつが無罪なんだ!!なんで裁かれないんだ!!』

 

『母さんも父さんも殺したやつが!!なんで!!』

 

────ああ、これは七年前の────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······夢······か」

 

そりゃそうだ。夢じゃなきゃなんだ。あれは七年前の私が見た、事件の記憶だ。

 

「······なんでこのタイミングで見るかな······」

 

そう思いつつ、起き上がり、着替え、洗濯機にパジャマを入れ、両親に挨拶し、朝食の準備をする。

 

自分専用のお気に入りのマグカップ。────去年、彼から貰った誕生日プレゼント。それにコーヒーを注いで、それをテーブルの上に持って行く。

 

いただきます。そう言って私はコーヒーを────

 

パキッ!!

 

飲もうとした瞬間に、持つ部分が根元から綺麗に砕けた。

 

「······なんか、嫌な感じがするなぁ······」

 

今日見た夢といい、今起きた現象といい、何かが起きる気がする。そう、彼に関して、何か起きそうな予感がする。

 

「何も無ければいいけど······」

 

そう呟いた、彼女────仮屋和奏はこの後、自身の発言がフラグになるなんて思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 

1

 

「······ここが新S区か······」

 

そう言って氷室等はその街に足を踏み入れた。

 

事の発端はハロウィンパーティーの一週間前。

 

旧神代家で封印されていた『ハッカイ』のコトリバコの封印が解かれたのが引き金になったのか、あちこちで怪異が発生するようになった。そして今日、この菊川市S区の隣────新S区に足を踏み入れた。

 

そして同時刻────彼も新S区とS区の境目に来ていた。

 

「······ん?椎葉······?あいつの家か······?まあどうでもいいか······」

 

見慣れた名前を見つけ、少し足を止める。

 

が、しかしほんの数秒だ。すぐさま気持ちを切り替える。

 

「······さて、ちゃっちゃと決着つけますか······首洗って待ってろクソ野郎」

 

そして、殺気を振りまきながら、一ノ瀬巽は新S区へ侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、学校では緊急の全校集会が開かれていた。内容は『菊川市新S区連続変死事件』についての話で────まあ、なんというか、『夜遅く出歩くな』等の注意喚起だった。

 

そして時は飛んで放課後、オカ研部室にて。

 

「椎葉さんの家って確かS区の方じゃなかったっけ?」

 

「うん······S区と新S区の丁度境目に······」

 

「そりゃまた何というか······怖いなぁ」

 

などと、雑談をしていた時の事だ。

 

コンコンコン、とノックの音が鳴り響いた。

 

「空いてますよー」

 

と綾地が言うとガチャり、と音がして扉が開く。

 

「って、仮屋?どうしたんだ?」

 

そこには息を切らしている仮屋和奏の姿があった。

 

 

 

「······一ノ瀬が着信拒否?」

 

「うん······」

 

今日、珍しく一ノ瀬が無断欠席をした。

 

いつもなら何があろうと連絡はすることで有名なあの一ノ瀬が無断欠席。保科柊史と椎葉紬、そして海道秀明は『まあ、そんな事もあるだろう』と思い特に気にも留めていなかったのだが。というか今訪れた仮屋和奏すらそう言っていた。

 

「でもさっきやっぱ心配になって······電話かけてみたら······着信拒否設定されてたみたいで······LINEもブロックされてるし······」

 

「······あ、私のもなってる······」

 

「わ、私もですね······」

 

「私もなってます······保科センパイは?」

 

「······どうやら俺もみたいだな」

 

LINEはブロック、電話は繋がらず。家にも掛けたが────でない。これは······

 

「失踪······というヤツなのでは······?」

 

因幡めぐるの声が、やけに重々しく聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「······で、一応一ノ瀬の家に来た訳だけど······」

 

何かあったのでは、そう考えた一同は一ノ瀬家を訪れていた。

 

元々仮屋は此処に俺たちを連れてくる予定だったらしい。その為にオカ研部室に来たのだ。最初は一人でもいいか、と思ったらしいが、途中『一ノ瀬の事は心配だけどあの家に一人で行くのは嫌すぎる』と思ったらしい。気持ちは凄くわかる。

 

「しかし······ここからどうするんだ?流石に家には居ないと思うんだが······」

 

「だろうね、だから侵入するよ」

 

「「「「────は?」」」」

 

そう言った仮屋はポストの裏をまさぐり始める。そして数秒後────

 

「ほらあった」

 

その手には鍵が握られていた。その鍵を玄関の鍵穴に差し込むと────

 

ガチャ

 

「「「「あ、あいたー!?」」」」

 

「泊まりに来た時に教えて貰ってたんだ······靴がないって事はやっぱ居ないかな······?」

 

そう言いながら玄関を一瞥した仮屋はこちらを振り返りこう続けた。

 

「······で、誰か、誰でもいいから先入って······」

 

その声と、足はガタガタと震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────取り敢えず全部屋ぱっと見たが、家には居なさそうだな」

 

「······どころか、殆ど生活していた形跡が消されてるような気がするんですが······」

 

いや、本や食器、ゲーム類など全て残ってはいるのだが。

シンクには水滴一つ残っておらず、ゴミ箱も全て空。不気味な程に綺麗にされていた。

 

「······うーん、何かしら手がかりとか残ってるかと思ったんだけどなぁ······ていうか残ってなかったらもう手詰まり何だけど······」

 

「そういや仮屋、あいつが失踪する心当たりとか無いのか?」

 

「······あるけど、それだという確信はないから何も言えないなぁ······あれはあんまり話したくないし······ていうか話したら一ノ瀬に殺されそう······」

 

なんだそれ、逆に気になるんだが。

 

「にしても本当に何も無いですね······って寧々センパイ、どうしたんです?そんなにリビング黙って見渡して······」

 

先程からずっと黙りながらただただじっとリビングを眺めている寧々の事が気になったのかめぐるが声をかける。

 

「いえ······その······気の所為かもしれないのですが······外から見たリビングの広さと中の広さが一致してないような気がしまして······ひょっとして隠し部屋とかあるんじゃないかなーと······」

 

「「「「······え?」」」」

 

いやいやいや、そんなまさか。いや、彼女の言葉を彼氏のお前が信じないで誰が信じるのかと言われそうだけども流石に────

 

「そんなフリーのホラーゲームじゃないんですからぁ!!幽霊屋敷に隠し部屋とかフィクションの世界────」

 

ガラガラガラッ!!

 

「あ、ここの本棚動いたよ!!後ろに扉もある!!」

 

「「「「嘘ぉ!?」」」」

 

 

 

 

「ごめん寧々······疑って悪かった······」

 

「き、気にしないでください!!私だって本当にあるとは思ってませんでしたから!!」

 

と、イチャついている二人を無視し、椎葉紬と仮屋和奏と因幡めぐるは扉を注視していた。

 

というのも────

 

「······暗証番号式······」

 

「うーん、4桁かぁ······これがチャリについてる錠ならまだ楽なんだけどねー······」

 

暗証番号で開く扉だったのだ。

 

「うーん······でもノーヒントじゃどうしようもないよ······」

 

「どっかしらにメモはしてると思うよ?一ノ瀬結構用心深いから。この前だって余裕で覚えられるであろうゲームの引き継ぎコードメモってたし。」

 

となるとどっかしらに答え────とまではいかなくてもヒントか何かはある筈だ。

 

「そういう場合その辺の本棚とかにありますよねー······ゲームではの話ですけど······」

 

「そうだね······大体そういうものって普通肌身離さず持っておくもんね······」

 

「うーん······ここで手詰まりか······」

 

「······?何でしょうこの紙······」

「なんだこれ······漢字?」

 

「「「························」」」

 

綾地寧々は何かを引き寄せる能力を持っているのだろうか、それともフラグブレイカーなのか······何れにせよ、手詰まりは回避できたようだ。

 

三人もその紙を見る。

 

 

響 麻耶 三日月 不知火

 

 

 

「「「「······なにこれ······」」」」

 

いや、本当になんだこれ。こんな四つの単語に意味があるのだろうか。規則性もなさそうだ。

 

というかそもそも、漢字なのだ。四桁の暗証番号に何か関係があるのだろうか。

 

誰もが黙り込んで数分経った頃だろうか。

 

「────あ、解った」

 

「「「「え!!!?」」」」

 

誰もが驚いた。無理はない。なんてったってこれまで散々アホのイメージしか無かったのだから────。

 

「なんですかその驚きっぷりは!?」

 

心外です!!と叫んだ因幡めぐるは頬をふくらませながら暗証番号を入力する。

 

ピー、と電子音がしてガチャリ、と鍵の開く音がした。

 

「「「「なん······だと······」」」」

 

「(´꒳`*)どやあああ」

 

ない胸を張る因幡、そのドヤ顔はとてつもなくウザかった。

 

無視して、その扉を開ける。そこには────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

新S区にて。

 

「······ここか······結構歩いたな······」

 

とある会社の社宅だろうか?良く分からないが普通のアパートのようなところ。

 

「確かここの四階だったか······?」

 

五階建ての社宅の四階の402号室。隣は空いているということは事前に調査済みだ。じゃなきゃ夜に向かう。

 

「······さて······いよいよ、か。」

 

────ここまで長かった。

 

七年待った。色々した。金を工面するために小説を書き、その金で情報を買った。そこからターゲットがあちこちを転々としたためここまで時間がかかってしまったが、漸く、漸く────!!

 

はやる気持ちを抑えてその家のチャイムを鳴らす。

 

もしチェーンを掛けていた時のためにチェーンカッターは既に用意してある。いつでも使える。

 

そして、ドアが開いた。

 

チェーンは掛かっていなかったようだ。

 

男は俺の顔を見て、顔を青ざめさせ、震える。

 

漸く────漸く会えた────!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一ノ瀬邸の隠し部屋。そこには新聞記事が壁一面に貼られていた。

 

「な、なんですか······これ······?」

 

「パソコンと······新聞記事だけ······の部屋?にしたってこの量は一体······」

 

壁の新聞記事には色々書かれている。

 

『一家壊滅、生き残ったのは子供だけ』

『平日の昼起きた悪夢、一家壊滅の強盗事件』

『強盗事件の犯人、責任能力不十分で起訴されず!!』

 

「······七年前の記事?だよねこれ······」

 

誰もが困惑している中────

 

「一ノ瀬······やっぱり······!!」

 

仮屋だけは、ハッキリと。その言葉を口にした。

 

そしてその言葉を聞き流せる、俺達ではなかった。

 

「おい、やっぱりってどういう事だよ仮屋······?」

 

仮屋は、震えながら拳を握りしめて────とんでもない事を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、オッサン。七年ぶりか?殺し損ねた相手が殺しに来てやったぜ?喜べよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「多分······一ノ瀬は······七年前に両親を殺した相手に復讐しに行ったんだ······!!」

 

 

 

 

 

 

ここから先は七年前の物語の続き。────復讐の物語。

 

誰も止めることは出来ず、誰も得する事なく、誰も無傷では終われない。

 

主人公が、壊れるまでの、物語。





新コーナー(笑)

怪異譚ラジオのコーナー!!(唐突)ゲストはヒロインの一人因幡めぐるさんと我らが主人公、一ノ瀬巽君だ!!

めぐる(以下め)「え、何ですかこれ」
巽(以下変わらず)「そもそも質問なんて募集してたのか作者」

いや、募集して無かったよ?ただ、この作品を作るきっかけを作ってくれたリア友が質問あるって言うから······ならコーナーにすればいいかなぁって······あ、これ投稿したら活動報告辺りに質問募集するから

巽「来なかったら?」

この第1回が最初で最後。その可能性はかなり高いぜ。

め「······まあいいでしょう、で、その質問とは?」

友人Aからの質問『めぐるちゃんが中学時代の後輩に似ているんだがお前まさか────』

うん、その通り。原作のめぐるちゃんにリアル後輩混ぜたハイブリッドが今作のめぐるちゃんです。原作よりかなりアホの子になったりしたのもそれが原因。

め「マジですか」

うん、流石にめぐるちゃんとは月とすっぽんの容姿だったけどその娘重度のゲーマーでさぁ······テストはほぼ赤点だったしね。

巽「でも似せた理由ってなんだ?別に似せる必要ないんじゃ······」

いや、たまたま。今回見てわかったろうけどこっから先ゲーム関係の謎解きが多くなるからそういうのに詳しい人間を作りたくて、そしたら適任がいたから。

め「そしたらたまたま似たんですか······その後輩何者ですか」

兄のせいでFPSとかにどハマりして友達いなかったぼっち女子。マキブはやたら上手かった。

巽・め「oh······」

ま、似てる理由はこんなもんだよ、納得してくれたまえ友人よ。

それでは今回は終わり!!じゃあね☆⌒☆⌒☆⌒ヾ(*>ω<)ノ

め「······あれ?まだ残ってますよ質問······」

巽「え?何······」


『ジョジョ早く更新しろカス!!』
『他作品も書けやコノヤロウ!!』

め・巽「······怪異譚次回更新は未定です!!」



────という訳で暫くジョジョの更新を二話くらい頑張るので次回更新は未定です、ハイ。ま、ハロウィンもあるしね?


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追走劇と事件の裏

ポケモン楽しい(☝ ՞۝՞)☝アヘェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!

しっかし番外編どうしようかな······千恋メンバーをこっちに来させるかサノバメンバーを向こうに行かせるか······




1

 

これは、七年前の話。

 

その時、彼────一ノ瀬巽は人生で初めて体調を崩していた。

 

理由は風邪。原因は不明。

 

()()()()()()()()()()()()()が彼を襲っており────彼はずっと苦しんでいた。

 

群発頭痛────別名、自殺頭痛という、本来アルコールによって誘発する病気を発症していた────のだが、アルコールを摂取しているはずのない年齢であったが為に医者はそれに気づかず(当たり前である)自宅療養をしていた。

 

何日も苦しみ続けて、学校を休み続けて一週間。

 

担任教師は『学校に行きたくがないための仮病』と判断したのか、クラスメイト全員に『一ノ瀬君に学校に行こう、と言いに行こう』ととち狂った発言をし始めた。全員渋っていたものの、最終的には逆らえず────結果としてクラスメイト+担任の系31名が一ノ瀬家を訪問した。

 

一ノ瀬家は住宅街を少し外れた雑木林を超えた先にあるちょっとした豪邸だった。

 

門をくぐり、彼等は叫んだ。

 

 

「一ノ瀬くーん!!」

 

 

 

ガシャアアアアン!!

 

 

 

 

────その呼びかけに返ってきたのは、彼の声ではなく、ガラスの割れる音。

 

そして、地面と平行になって飛んでくる、1人の中年男性と、リビングにあるような長机。

 

そんな、ありえない光景が、突如皆の目に飛び込んできた。

 

慌てて担任が家の中に入ると────

 

 

 

 

そこには、既に息をしていない両親の身体を虚ろな目で揺らして、話しかけている一ノ瀬巽の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

 

「────それが、七年前。」

 

「「「「「待って色々追いつかない」」」」」

 

 

────そして数秒の沈黙。

 

「なんでリビングにおいてあるようなテーブルが水平に飛んでくるんだよ犯人と一緒に!!いや多分一ノ瀬がやったんだろうけど······!!」

「七年前って······今私達が16か17だから······大体小学三四年生くらい?」

「え、その時からあのパワーですか?」

「俄には信じられない······いや、信じたくないんですけど」

 

「うん、気になるのはそこなんだ?」

 

語っていた和奏はひとつため息をつき、肩をすくませる。

 

「いや、こんな部屋があってその事件と照らし合わせたら何となくわかるわ!!······最後以外は」

 

確かに柊史の言い分はよく分かる。

 

「まあ、流石に報道規制されてたからねぇ、私達の証言なんて聞いてもらえるわけないし。ま、取り敢えずこれが経緯だよ。」

 

「······つまりその犯人を殺しに行ってるかもしれないって······事だよね······止めなきゃ!!」

 

「でも椎葉センパイ。どうするんです?例えセンパイが把握していても私達は何も知りません。多分センパイのの事ですから手掛かりは何一つ残ってないと思いますし······」

 

「確かに······少なくとも私が事情を知ってるのはあっちだって知ってるから······もし私が氷室さんとかその辺の刑事さんに教えてしまえば止められるかもしれない、と考えたならこの家に復讐相手の居場所なんて残ってないよね······」

 

「······結局手詰まりですね······」

 

と、その時。

 

電話の着信音が鳴り響いた。

 

「······?俺のケータイ······海道から?」

 

何かあったのだろうか、と首を傾げながら電話に出る。

 

『お、もしもし、柊史かー?』

 

「おう、いきなりどうしたんだ?」

 

 

 

 

『いやあ、実はさっき巽に会ってさぁ────』

 

「······は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

丁度仮屋和奏がオカ研部室へ行く数分前。

 

「七年ぶりだな、覚えてるか?」

 

一ノ瀬巽は、家族を殺した男を追い詰めていた。

 

唯一の出入口を背に、じわりじわりと家の奥に追い込む。

 

「ひっ······!!」

 

男は後ずさり、壁際まで追い込まれた。

 

その瞬間、距離を詰め、持っていたナイフを首に突きつける。

 

「······ひとつ聞かせろ、何で俺の家族を殺した?」

 

七年越しの疑問。

 

何故、住宅街の外れにあった家を襲撃したのか。

 

何故、他の家ではなく、一ノ瀬家を狙ったのか。

 

 

 

「わ、わからないんだ······!!」

 

しかし、返ってきた答えは想像の斜め上をいった。

 

「······巫山戯てんのか?」

 

「ふ、巫山戯てない!!わ、私は────あの事件の二日前からの記憶が無いんだ!!」

 

────何を言っているんだこいつは······!?

 

「き、気がついたら病院のベッドの上で······俺が人を殺してしまったのを知ったのもその時だ!!」

 

「巫山戯るなよ!!俺はしっかり覚えてる!!あの日!!お前は俺の事を人質にしようとした!!ただの子供の方が人質としては便利だ────その程度の思考ができる頭はあったはずだ!!それに!!貴様はあの時しっかりと、理性的に喋っていた!!」

 

『────っち、おいそこのガキ!!こっちに来い!!』

 

『ほら奥さんよぉ、子供殺されたくなかったらとっとと金を出せ!!』

 

「それで覚えてないだと!?巫山戯るのも大概にしろよ!!」

 

「し、知らない!!本当に知らないんだ······!!」

 

 

一瞬、一ノ瀬巽の動きが止まる。

 

もしこいつが言っている事が本当だったら────

 

頭を振り、思考を戻す。本当だろうが関係ない、結局自分の家族を殺したのはコイツなんだから────殺して何が悪い!!

 

殺意を固め、今度こそ男の喉にナイフを刺そうとした────その時。

 

「ひっ、く、来るなっ!!」

 

巽の後ろを見ながら、その男はそんな言葉を口にした。

思わず、後ろを振り返る────が、何もいない。

 

「く、くるな······こ、来ないでくれえええええええ!!」

 

絶叫。

 

殺そうと近づいていたために耳元でその絶叫を聞いてしまった巽は怯み、ナイフを喉から離してしまった。

 

「ぐおっ······!?」

 

「く、来るなって!!くるなああああああああああ!!」

 

その隙をついたのか、無意識なのか、男は走り出した。

 

「っ······!!待てこらぁ!!」

 

後を追いかけて、玄関を通り抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、もう男の身体は宙を舞っていた。

 

階段から、飛び降りた。

 

 

 

────ぐしゃっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······なっ!?」

 

一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 

男が転落死した。その事実を受け入れるまでに数十秒かかった。

 

慌てて下を覗くと顔面の潰れた男の死体が転がっていた。誰が見ても、死んでいるというのがわかるくらいの出血が地面に広がっていた。

 

「······冗談だろ······?」

 

落ち着いて頭の中を整理する。

 

────あいつは、何に怯えていた?

 

確かに刃物を持ち、近づいた時も彼は怯えていた。だが、その後。巽ではない、別の何かを見て怯えていた。

 

────記憶が無い······それにさっきの言動······薬中か?

 

しかし、その仮説は次の瞬間、目に映りこんだ光景によって否定される。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「······怪、異······!?」

 

嘘だろ、と叫びそうになった。無理もない。いつも、どんな怪異でも、実体さえそこにあれば、怪異がそこにいるのなら、感じ取れていたのに────

 

(······何で何も感じなかった······!?)

 

その男は身体に戻ろうとしている。

 

「······!!逃がすかよ!!」

 

そう言いつつ階段を使い下の階へ降りた瞬間────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······た、巽君!?」

「────氷室さん!?」

 

その瞬間

 

────チーン

 

エレベーターの到着音が鳴り響き、中から何かが飛び出してきた。

 

バチッ!!

 

と何かの音が鳴り響き────

 

氷室等は何が起きたのかを理解する前に意識を失った。

 

 

「······なんだコイツ!?」

 

灰色の泥人形の様なナニカがこちらを見つめてくる。のよりも、気になったのが、氷室等から出てきた謎の着物の少女。

 

────暫く膠着状態が続き、ナニカは突然ふっ、と消え去った。

 

それを見届けた少女も姿を消す。

 

「······取り敢えず氷室さんを安全なところまで運ぶか······確かめたい事も出来たしな······」

 

復讐どころではなくなってしまった一ノ瀬巽は氷室等を介抱することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4

 

氷室等が目を覚ましたのはそれから十五分後の事だった。

 

「······よう、目が覚めました?」

 

「······君は······何故こんなところに······」

 

「······なあに、ちょっとした野暮用ですよ。それよりもアレはなんなんです?」

 

「······少し待ってくれ······」

 

そう言って氷室はぐっ、と伸びをして、肩を回して、持ち物を確認して公園のベンチに座った。

 

そして今回の事件の概要を話す。

 

 

「────つまり、あれの正体は不明と。」

 

「ああ、ココ最近この地区で起きた不審死事件の原因なのだろうが······」

 

「······氷室さん、因みに捜査資料とかあったりする?今回は全面的に協力するよ?」

 

「······珍しいな、君がそんな事を言うなんて」

 

「知り合いが近くに住んでいるんでね、影響があってもおかしくないんだ」

 

勿論、半分は嘘だ。別に今椎葉がどうなろうが今の俺には知ったことではない。それに────

 

 

「······わかった、見せよう」

 

────タゲ取られてるのが氷室さんなら、椎葉は今の所大丈夫だろう。

 

捜査資料を懐から出す氷室等からは先程の不気味な気配が濃密に感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捜査資料を読み終え、溜息をつく。

 

「なるほど······」

 

整理すると、この新S区は元々霊道が通るかなり危ない土地で、裏で操作し、憑き子持ちを集め、怪異を抑制していたようだ。俺が殺そうとしていた男は憑き子持ちでは無かったようだが······。

 

しかし、一人目の死が引き金となりバランスが崩壊。

 

結果、あの怪異がこの区で暴れているというわけだ。

 

「······しっかし、面倒な事になったな······」

 

協力すると言った手前、まず何とかして氷室さんからあの怪異を引き剥がさないといけない。

 

まあ、少なくとも殺られることは無いだろうから放っておくか······。

 

氷室さんにも何か憑いてるし。

 

「······取り敢えず二手に分かれましょうか。俺はあくまで一般人なので······怪異を探す事にします。氷室さんは情報を集めてください。」

 

「ああ、わかった······まあ君なら大丈夫だろうが······気をつけろよ?」

 

そう言って氷室さんと別行動をとることに成功した俺は誰もいないことを確認し、電話をかける。

 

『もしもし?復讐は果たしたのかい?』

 

「······その件なんだが少々面倒な事態に発展してな······追加で情報が欲しい。俺の復讐相手────物部閇(もののべしまる)の周りの人間の情報をくれ。」

 

『······君はなんというか······いつも貧乏くじを引いているというか······わかった直ぐに調べよう。また連絡する。』

 

その言葉を最後に電話を終え、ふう、と溜息をつく。

 

────これは一度、七年前の事件をまた洗い直す必要があるかもしれないな······。

 

復讐は止めない。やめるつもりは無い。だがしかし、このまま終わったら多分、俺の心は二度と晴れないだろう。

 

多分、まだ他にも犯人がいる。

 

ほとんど勘。だけどその考えは異常にしっくりときた 。

 

────さて、とっとと怪異を殺るか。

 

そう思い一歩を踏み出────

 

 

「あれ?巽?何してんだよこんな所で!!」

 

「······か、海道······?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5

 

海道秀明は暇を持て余していた。

 

親友である保科は部活。仮屋和奏に関しては触れない方が吉と考え、一ノ瀬巽は休み。久方ぶりのぼっち下校である。なので────

 

「おっ、ミニ〇ュウいる!?」

 

ポケ〇ンGOをしていた。それ位暇なのだ。バイトも休みで何もする事がないとたまにこうして街を徘徊するのである。

 

「うわ、タマゴからカビ〇ン産まれた、スクショしとこ!!」

 

凄い満喫していた。この場に仮屋がいたら冷ややかな目で見られるであろうレベルで。

 

「ふーんふふふーんふーん」

 

遂には気持ち悪い笑顔で鼻歌を歌い始めた。そのくらい上機嫌だった。

 

────目の前に、とある人物が映るまでは。

 

「······あ、あれ?一ノ瀬······?何してんだこんなところで······」

 

そこには今日、学校を休み、消息を絶っていた一ノ瀬巽が居た。

 

そしてそのまま流れるように話しかけ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(な、なぜ海道がここに!?家真逆だろお前!!)

 

一ノ瀬巽は内心めちゃくちゃ焦っていた。

 

理由は至極単純。ブロックと着信拒否の言い訳を考えていなかったからである。尤も、この時点で海道はまだそれに気づいていないのだが。

 

────と、取り敢えず平静を装って······

 

「お、おう海道。奇遇だな。こんなところで会うなんて」

 

「だな、びっくりしたぞ。お前何で学校を休んだんだよ、佳苗ちゃん激おこだったぞ?」

 

「うへぇ······まじかぁ······」

 

「んで?なんで無断欠席なんかしたんだ?」

 

────来たなその質問。

 

仕方無かった。誤魔化すしか無かった。後に彼はそう語る。

 

そして、一ノ瀬巽は一世一代の言い訳を語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、実はな。ハロウィンパーティーの数日前くらいからかな、ストーカー被害にあってなぁ、とうとうハロウィンパーティーの日にケータイの電話番号とかメールアドレスとかも全部特定されてさぁ······仕方なく新しくしてきたんだ。過剰かもしれないけどその過程でLINEは全員ブロック、電話も全部着信拒否にしてな。」

 

「······」

「······」

 

どうだ······!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、マジかよ······大変だなぁ、やっぱ有名人だとそういう事あるのか······」

 

────セーフ!!

 

「あれ?でもバンドの練習の時は何も無かったような······」

 

「ああ、家電は既に抜いてたからな。プラグ。基本的にケータイだけにしてたよ。」

 

「なんだ······そうだったのかぁ」

 

────あっぶねえ!!

 

こいつらが居る時に家電鳴らなくて良かったああああああ!!

 

内心冷や汗をドバドバと滝のように流しながら笑顔を作る。

 

「学校休んでもケータイは買い直さなきゃならなくてなぁ、仕事も基本ケータイで連絡取り合ってるしさ。」

 

「なるほどなぁ······大変なんだなやっぱ······」

 

よし、納得してくれたぁ!!

 

「じゃあ、俺この後学校行って経緯を説明してくるよ。んじゃ!!」

 

「おう、あ、巽!!気をつけろよ!!このへん最近殺人鬼がうろついてるらしいからよ!!」

 

「おう、忠告さんきゅ!!じゃな!!」

 

そして、一ノ瀬巽は学校方向へ走り────適当に姿を消し、再び新S区へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『って訳らしいぞー、やっぱ有名人って大変なんだな!!』

 

まさか電話されているとは露知らず。さらに────

 

「······え?でもプラグ······ついてる、よね?」

 

家に侵入されているとも知らず。

 

一ノ瀬巽は意気揚々とS区の捜査へ乗り出した。

 

 




さて、そろそろヒロインアンケートやりますかね!!

めぐる「······でも私と椎葉センパイと仮屋センパイと相馬さん、最終的に全√書くのにやる意味あるんですか?」

後々やる番外編(千恋万花とのクロスとか名探偵海道とか)においてこのヒロインアンケートでトップだった人が恋人になれる。────つまり、番外編ではトップだったヒロイン√の後の話となるよ。という訳で

①イケメン(但し若干ヤンデレ)仮屋和奏√
②ヤンデレ椎葉紬√
③依存因幡めぐる√

の三つから選んでね!!

和奏「······私の√が何かおかしい件について」

主人公を攻略するのが和奏√だから······

七緒「まて、私は!!!?」

七緒さんはサブヒロインなので······

七緒「ウゾダドンドコドーン!」

まあまあ、七緒さん√はしっかり書きますから······

という訳で活動報告にてアンケート実施するので皆さんバシバシコメントください!!

あ、言い忘れてた。紬√も重くなります

紬「えっ」

いやー、プロット見直してたらなんか物たりねーなーと思ってその場のテンションでつい?

紬「ついで重くしないで!?」

大丈夫大丈夫、人は死なないから。

めぐる・紬・和奏・七緒「ふ、不安だ······」

締切は12月5日の0:00────つまり12月4日の23:59まで!!

選択肢は

①仮屋和奏
②椎葉紬
③因幡めぐる

と、なります!!皆さん活動報告へ目を通してどれか一つ選んでください!!


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囮物t…怒られるからやめろや

投票の結果和奏に決定!!
いやー、これで番外編が書けるぞお!!

和奏「何?クリスマスに早速書くの?」

はなしおもいつかないむりしぬ

「「「マジで!?何もしない!?」」」

うっせえボックスガチャは回転数がすべてなんだよそろそろコミケも近いし……

めぐる「ならしょうがないですね」
紬&和奏「いや、だめでしょ!!」

つったって何も思いつかないし……クリスマスとか俺からしたら滅びろ死ねって思ってるし……

めぐる「てかコミケ参戦するんですね、いつ行くんです?」

一応三日間参加しますけど?

「「「え!?」」」

本当は二日目参戦する予定無かったんだけど……おのれゆずめ……茉子セットとか買いに行くしかないんですけど!?

めぐる「正気ですか、二日目企業って……」

まあ、初日に行こうかくそ悩んでるから未定だけどね。
それでは投票してくれた皆さんありがとうございました!


 

 

1

 

「······さて、どうしたものかなぁ······」

 

一ノ瀬巽は一人呟く。

 

復讐相手が怪異になったのは問題じゃない。そもそもあれは単なる実行犯に過ぎない可能性まで出てきた。

 

────まあ、殺す事には変わりないのだが。人が人じゃ無くなっただけで。

 

「······問題はそこじゃない······」

 

今現在、彼は気配を消してとある一軒家の上に登り、新S区とS区の境目を見ていた。

 

そこに彼女達······椎葉紬、因幡めぐる、綾地寧々、保科修史────そして仮屋和奏。

 

全員が、立ち入り禁止テープの前に待機している。

 

「······まずいな······仮屋にバレたか······」

 

あいつは昔を知ってるから何れ辿り着くだろうとは思っていたが、ここまで速いとは。

 

ていうかなんで新S区にいることまでバレてるんだ。

 

海道が教えたか?いや、それなら学校へ向かってるはず······まさかあいつら俺の家に······?

 

いや、入れたとしてもあそこの隠し部屋のパスワードはわかる訳······あ、因幡いるじゃん、終わったわ。

 

という事はこれからはかなり慎重に動かなきゃならんな······。

 

「流石に俺も親友を手にかけるような真似は極力したくないからね 」

 

それは裏を返せば必要があれば親友だろうと邪魔をすれば容赦はしない、という事だが。

 

「······まあ、それはどうでもいいとして────どうやってアイツを倒そうか?」

 

取り敢えず後回しにして、今回の怪異の事を考える。

 

「ポピュラーな怪異だったら既存の倒し方で倒せるんだけどなぁ······」

 

怪異は理不尽の権化だとか言われる事があるが、実は割とそうでもなかったりする。

 

例えば口裂け女は「ポマード」という言葉、もしくはポマードそのものが弱点であるように、河童は頭の上の皿が弱点であるように。

 

倒すだけなら、方法はある。そしてそれがあるならそうしたい。何故なら────

 

「······くねくねの時みたいに周りが田んぼだったり家が無かったりしてりゃゴリ押してるんだけどなぁ······流石に家屋ごとぶっ潰したら怒られるし······」

 

一撃必殺級の威力の弊害。周りの被害が甚大になる。くねくねの時は周りに何も無かったからクレーターで済んでいるがもし周りに外壁があったら衝撃でぶっ壊れているだろう。

 

と、そこまで考えたところで思いついた。思いついてしまった。

 

思いつきさえしなければ、一ノ瀬巽はまだ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……そうだ、空中で粉砕すればいいのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

 

数分後、新S区とS区の境目にある椎葉家のリビングにて。

 

「ねえ、海道。なんでそんなのに騙されるかなぁ……」

 

「いや、ほんと、すんませんした」

 

巽を除くオカルト研究部の全員と和奏が海道を尋問していた。哀れ。

 

 

「……まあ、知らなかったんだからそんなに責めなくても……」

 

「それにどちらにせよ俺たちが着いた時にはもう新S区自体立ち入り禁止になってたんだ。仮に海道が連れてきてもあっちには『超特例措置による捜査協力義務』とか何とか言われてあっちに逃げられるのが落ちだろう。ここで海道責めてもしょうがないだろ、何躍起になってるのかは知らないけど、少し冷静になれよ仮屋。」

 

「うぐ……」

 

紬と柊史に諭され、和奏は唸り、俯く。

 

「……というか、如何するつもりだったんですか?……その、一ノ瀬君を止めたいのは解るのですが……どうやって?」

 

「……確かに。センパイは説得されて止まるほど覚悟がない状態で行動する人でも無いですし、となると物理的手段になりますがぶっちゃけ世界中のマフィアや警察、……いや、下手したら軍隊でも勝てませんよ。というかあの人にゼロ距離で核ぶつけても死ぬイメージがわきません。」

 

そりゃ言い過ぎだ、と柊史は言おうとしたが、言えなかった。

 

冷静に思い出してみる。

 

一年の時、「打ち合わせに間に合わねえ!!」と言いながら窓から飛び降り、人とは思えない速さで帰宅したり、美術の時間に「ここは彫刻刀で削るとミスりそうだな……」と言いながら指で木を彫ったり、ゴキブリが出たとき「うわきもっ!!きもっ!!」と言いながら塵すら残さずに新聞紙で消し飛ばしている姿を見ていると……核云々はやはり言いすぎかもしれないが、生き残るだけなら余裕かもしれない……。というか核を投げ返しそうだ。

 

「……物理的にも、止められるわけ無い、か……」

 

改めて思う。理不尽以上のナニカが一ノ瀬巽なのだと。

 

でも────

 

「「────だけど、友達が、殺人を犯そうとしているのを、ただ黙って見過ごす理由にはならない。」」

 

そうだ。()()()()()()()()()()友達が人の道を外れようとしているのを見逃す理由にはならない。

 

例えそれが人を超えたナニカだとしても。

 

「……でも、どうするんです?仮屋先輩に保科先輩。そりゃめぐるだってセンパイのこと止めるんなら止めたいですけど……センパイに立ち向かうとしたら残機が足りなさすぎます、いえ、例え残機が無限にあっても勝てるかどうか……」

 

「……そこなんだよなぁ……」

 

決意しても、手段が何一つ思いつかない。

 

「センパイは割と目的のためなら手段を選びません。恐らく私達のことも平然と蹴散らすでしょう……いや、センパイの性格からして私達が止めようとしているのをわざと泳がせて、その間にねった策略全てを余すところなく受けて一つ一つ潰すでしょうね。」

 

「……い、一ノ瀬君ってそんなに強いの?」

 

「強いなんてレベルじゃない、やることなすこと人智を超える事を平然とする神みたいなやろーだ。勉強もあい……まてよ?」

 

その言葉に反応した海道が答え、止まり、考えるようにしてその場に座り、口を開く。

 

「……ねえ、和奏ちゃん、確か和奏ちゃんって昔一ノ瀬から色々と習ったって言ってたよね。」

 

「「「「え?」」」」

 

「……あー、そうか。海道は私達の出会ったときのこと話したっけ。」

 

思い出したかのように仮屋は呟く。

 

「そうそう、小学1年生の時に無抵抗に同級生と上級生に虐められてたのを見かねた巽が和奏ちゃん色々と教えて最終的に和奏ちゃんだけで虐めてた奴ら全員にお灸を据えた話。」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

嘘だろおい、と皆は心でそう呟く。

 

「……別に言う必要あったのか今の!!あれはその……若気の至りってやつで……」

 

「いや、そこは重要じゃないんだよ和奏ちゃん。重要なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()があるかどうかなんだ。」

 

そう言って、海道秀明は語り出す。

 

「ずっと前から気になってたんだけど────」

 

その話はあまりにも荒唐無稽で、ただの賭けでしか無くて────

 

でもそれは一ノ瀬巽を物理的に止められるかもしれない唯一の手段だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

「……と、言うわけで氷室さん。夜中のうちに決着を付けようと思うんだ。」

 

「……正気か?」

 

夕方、公園で幼女と戯れていた氷室さんを発見し、俺は話を持ちかけた。

 

内容は至極単純。『本気出してでも粉砕するから新S区から人払いしてくれ』と頼んだだけだ。

 

「……君の知り合いが新S区近くに住んでいて危ないのは解っているが……」

 

「それだけじゃねえよ、危ないのは氷室さんもだ。少し休んだ方がいい。」

 

「何?」

 

勿論、こんなこと微塵も思っていない。正直氷室さんの事なんてどうでも良い。だが、ここから追い出す理由として、非常に都合がいい。

 

「あんたはただ怪異に少し耐性のある一般人なんだ。俺どころか姫野よりも禄に耐性のないあんたが、ハッカイのコトリバコを一人でどうにかしたときにダメージを負っているはずだ。……そのままだと本当に死ぬぞ。冗談抜きで。」

 

「……だが、俺は職務が……」

 

「俺が本気出すって言った、という事実があれば納得されるさ。ある意味怪異よりも俺はヤバいんだから。」

 

特務科は人員不足だ。氷室さんを失うのは惜しいだろう。

 

「……と、言いつつ君は……どういう訳かは知らないが、あの怪異を懲らしめたいだけだろう?」

 

「……バレてましたか」

 

おかしいなぁ、完全に隠したつもりだったのに……

 

「……まあいい、確かに君に任せた方が早く終わるのは確かだろう……ただし何かあったら直ぐに待機している俺の方へ連絡を入れること。」

 

「……了解」

 

……まあ、概ね計画通りにいったから良しとしよう。

 

「しかし、どうやっておびき出すつもりだい?」

 

「……あの怪異、憑き子を狙ってるんですよ、んで、新S区から全員人を避難させれば、自ずととある場所に行くはずです。そこを叩きます。」

 

そう、この区の憑き子を狙ってるなら全員避難させれば、近くの憑き子の家系に辿り着く。もし辿り着かなくてもこっちには氷室さんがいる。

 

「だから、氷室さんも待機するなら目の前でお願いしますね」

 

椎葉紬の家の前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜零時。

 

「おい、紬!!おきるのじゃ!!」

 

椎葉紬は自分のアルプであるアカギの声で目が覚めた。

 

「んっ…どうしたのアカギ……まだ零時……」

 

「それどころじゃない!!何かよくない気配がこちらに近づいておる!!」

 

しかし、その注意は少し遅かった。

 

 

バンッ!!

 

「ひっ!?」

 

ベランダに顔がぐしゃぐしゃに潰れた男が、立っていた。

 

「な、なんじゃあいつ!?」

 

流石にある種の同類であるアカギすらもあれはキモかったのかドン引きしている。

 

「というか、何故この家にそんなピンポイントで降りたって……ぬ?」

 

一瞬、目を離した隙に、その男は消え去っていた。

 

「あ、アカギ……もういない?」

 

「あ、ああ。どうやらもう居ないようj」

 

ドガン!!

 

 

再び、ベランダから轟音。

 

「今度はなんじゃ!?」

 

 

 

それは、あまりにも信じがたい光景だった。

 

流石のアカギも夢を見ているのでは、と思ったくらいには。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに落ちていたのは、人の頭部だった。

 

 




安定のタイトル詐欺

次回は年明け番外編、皆で鍋パーティーして柊史君や海道君との面白エピソードを語る予定!!

秀明「なお、作者の笑いの沸点は人とはズレてるので皆さん期待しないでくださいねー」

やっかましいわ!!


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声届かず

共通√これにて終わり、次回からは紬&和奏共通√です。

……え?意味分からん、だって?いや、話の構成上こうするしかなくて……

それとそろそろリドルジョーカーですね。リドルジョーカーに関しては既にデュラララ!!とガヴドロのクロスにさらにクロスさせるつもりでやっていこうかなぁって、まあ、今書いてるやつが完結した後のSHとのクロスで本気で書いて今連載してる方は要素とちょっとだけキャラ出すくらいの気持ちでいます、今の所は。

今の所は!!


 

1

 

椎葉紬は魔女ということ以外は平凡な人間である。

 

平凡な感性、平凡な価値観を持った、どこにでも居る普通の少女だ。

 

そんな彼女が自室のベランダに落ちてきた生首を見て、気絶しなかったのは奇跡と言っても過言では無いだろう。

 

 

気絶しなかったのはその瞬間、音もなく、首を回収しにベランダの手摺に降り立った、一ノ瀬巽と目が合ったからだ。

 

「──── 一ノ瀬、君?」

 

そんな紬に目もくれず、巽は首を拾い上げた。

 

────まずは1人。

 

そう聞こえた気がした。

 

そのまま巽は下へ首を投げる。

 

外を見ると赤色の光が点滅していたので、恐らく警察の人あたりにでも渡したのだろう。

 

そしてそのまま巽はベランダの手摺に手をかける。そのまま帰るつもりなのだろう。いてもたっても居られなくなり、紬は全力でベランダの窓を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

 

「一ノ瀬君!!」

 

S区の上空へ飛ぶように怪異と化した物部閇を空中へ放り投げ、そこで首と胴体を完全に分離させた後、怪異のみをS区に封印した。今頃氷室が倒している頃だろう。

 

その過程で紬の家のベランダに首を落としてしまった。悪い事をしたとは思ってる。が寝てると彼は思っていた。

 

起きてるのは完全に想定外だった。

 

「··········悪いね椎葉、起こしちゃった?」

 

「え·····?あ、だ、大丈夫。元々起きてたから·····」

 

「まあ、見ての通りいつもの怪異退治────なんて言っても信じるわけないか。大方仮屋から全部聞いたんだろ?」

 

「··········っ」

 

「図星って感じだな·····あんにゃろ、余計なこと話しやがって··········」

 

「よ、余計な事って……か、仮屋さんは一ノ瀬君の事を思って……」

 

「何が俺の事を思ってだ……ったく、折角七年前の復讐が出来ると思ったのに怪異に邪魔されるわ黒幕が存在する可能性があるわお前らにバレるわ……厄年じゃない筈なんだがなぁ……で?椎葉、何か用?態々呼び止めるほどの用でもあるのか?」

 

「え……いや……」

 

言葉に詰まる、が言いたいことはあった。

 

月並みな言葉ではあるが、復讐を止めるように、そう言うつもりだった。

 

だが、巽の表情を見て、絶対に無理だと悟った。

 

彼は、椎葉紬の事を、ゴミを見るような目で見ていた。

 

さっきの言葉を聞く限り、恐らく復讐しきれていないのだろう。だからこそ、一分一秒もお前にくれてやる時間が勿体ない。

 

そんな意思を感じた。

 

「……用が無いなら帰るぞ、俺は忙しいんだ。」

 

そう言って手摺に手をかけて今度こそ飛び降りようとしたその瞬間─────

 

 

 

 

「待て─────────」

 

自分のアルプが一ノ瀬巽を呼び止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、神崎彼方の息子か?」

 

「……なんでお前が俺の母さんの名前を、旧姓を知ってる?」

 

 

 

 

3

 

「……やはりそうじゃったか、確か名前は巽……だったか?」

 

「……なるほど、お前と契約してたのか、母さんは。」

 

「……その一を聞いただけで十を知る所もそっくりだ……まあ、あれもあるんだろうが……」

 

「……母さんどころか家の親戚一同エリート家系みたいなところあるからな、別に珍しくはないだろ?」

 

「……いや、そういうことを言ったのではないのだがな……まあ良い」

 

突然始まった会話に追いついていけない紬はただ呆然とするしかなかった。

 

「え、えっと……アカギ、どういう事?」

 

「どうもこうも無い、紬。お前と契約する前に契約していたのが此奴の母親だっただけじゃ。」

 

「まあ、そんなことはどうでも良い……で、用はそれだけか?」

 

無いなら早く帰りたいんだけど、と言わんばかりに外へ視線を向けている、何か聞こえてくる……呼ばれているのだろうか。

 

「……いや、只の忠告じゃ。お前がどんな闇を抱えているのかは知らないが……復讐なら止めておけ。復讐を果たしても果たさなくても、お前のその心の有様では待っているのは……よくて廃人といったところだろうな。」

 

「じゃあ廃人になる前に果たした方が得じゃん?」

 

「復讐を捨てて新しい事に執着して生きればまだ望みはあるぞ?確か小説家なんじゃろ?好きでやってるんじゃ無いのか?」

 

「資金繰りの一環だけど? 情報って結構お金かかるし……それ以外にも色々とねー……まさかあんなに小説で金を集められるなんて思ってもいなかったけど」

 

言葉が出ないというのは正にこの状態の事を言い表すのだろう、とんでもない台詞が一ノ瀬巽の口から次々と出てくるのを目の当たりにして、完全に椎葉紬は停止していた。

 

少なくとも、部室で執筆している光景を見た限りでは、心の底から執筆作業を楽しんでいるように見えていた。

 

────それすら演技だったの……?

 

その紬の見解は正しかった。

 

中学一年の時、演技を極めて以来、オートで演技をする癖がついた。無論、素が出るときもあるが。

 

内心淡々と感情を捨てて書いている。……蛇足だが、そんな情熱も何もない一ノ瀬巽が何故一財産築けるほど人気が出たのかは本人ですら謎の域である。

 

「この七年間生きてるだけで苦痛だったよ。早く殺したくて殺したくてしょうが無いのに……まずあいつが入れられた病院が警察病院だから迂闊に手は出せないし、何の因果か警察の知り合いが出来て更に動きにくくなるし……」

 

「い、生きてるだけでって……!!何でそんな……!!私達と居ることすら苦痛だっていうの……!?」

 

「……当たり前じゃん……」

 

──────だってお前ら家族居るだろ?

 

「普通に生きてるじゃないかお前らの家族は!!当たり前の生活を享受してるじゃないか!!苦痛じゃないわけ無いだろ!!俺にだってそんな当たり前の!!家族と過ごす生活があった筈なんだよ!!それがもう無いんだよ……それを毎日のように実感するんだ……苦痛に決まってるだろう……!!」

 

日常を過ごしているだけであの時の映像が浮かんで、あの日、何も出来なかった事を後悔して、ずっとずっと生きてきたのだ。

 

辛くないわけが無かった。

 

幾らありとあらゆる事について人類最高と言っても過言ではない才能を持っていたとしても、精神までは年相応だったのだ。

 

「……だ、だからって復讐なんて……」

 

「……人の一生を、日常を奪っておいてのうのうと生きてるってのを見逃せってか?」

 

この様子を見ていると解る。素人でも解る。今まで過ごしていた日常でどれ程分厚い仮面を被っていたか。

 

「…………」

 

「……なんだその顔は……まだ何か文句があるのか?それとも同情か?……まあいい、取りあえずお前に言っておく、後で仮屋達にも伝えておけ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────邪魔するな、お前らでも立ちはだかるというなら序でに斃す

 

 

 

脅迫と言った風ではなく、只淡々と事実を告げるかのようにそう断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

翌日、新S区の封鎖は解除され、いつも通りの日常が戻ってきた。

 

学院も平和そのものだ────一クラスを除いて

 

「あー……一ノ瀬はインフルエンザだそうだ、さっき診断書が郵送されてきた……間違っても御見舞いなんか行くなよ?絶対だぞ!?ふりじゃないからな!?」

 

 

「……って言ってたけど完全に嘘だよなこれ」

 

「あいつ……診断書まで偽造で出すなんて……うわ、公式Tw◯◯terもインフルって書いてる……」

 

「……一度インフルと診断された以上五日は絶対これないのがルールだ。最早どうしようも無いだろ。恐らく昨日のうちに準備してあったんだな……今頃どこに居ることやら」

 

ただでさえクラスの中でインフルが出たという話(勿論誤情報)で気分が重いのに更に四人の人間が気落ちしているとなるとクラス全体の空気が重い。

 

その中で様子を見に来た因幡めぐるは余りの空気の重さに踵を返しかけたくらいだ。

 

「てかやっぱりセンパイはこっちも殺す覚悟ですか……勝ち目無いでしょこれ」

 

「で、でも一ノ瀬君が本当にそんなことするなんて……」

 

「センパイはやると言ったらやりますよ……しかしめんどうですね……ただでさえ単独でも手に負えないのに……」

 

「ちょっと待って因幡さん、今なんて言った?」

 

「え?単独でも手に負えないのにって言いましたけど……?」

 

「……待って待って……え?協力者居るの?」

 

「……え、知らないんですか?」

 

てっきり知ってるのかと思った、そう呟き、因幡めぐるはこう紡ぐ。

 

「って言っても協力者って訳じゃないですけどセンパイの家族……お爺さんが警察庁長官、お婆さんが国会議員、お爺さんの弟さんが警察の上に絡んでて、義父親が警視庁捜査一課の刑事でキャリア組、義母親が弁護士、従兄弟が陸自 なんですよ、その中でも祖父母がセンパイのことめちゃくちゃ猫可愛がりしてて……まあ、センパイが最悪殺したときに全力で揉み消すような人達です。多分復讐するって言ったら完全にバックアップする人種ですね……さて、警察上層部や国会議員……」

 

そんな人達がバックについてるのに……止められます?

 

そう因幡が発言し終えた瞬間、クラスの空気が更に重くなったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───警察庁長官室───

 

「巽!!急に呼び出して済まなかったな!!」

 

豪快な筋肉質の爺……一ノ瀬巽の祖父である。

 

「びっくりしたわ、いきなり『インフルって偽造した診断書用意して職場と学校に渡しておいたから!!ちょっと来て!!』じゃねえよマジで。幸い見られてねえから平気だけどさぁ……一応人気作家だからね?意図してなったわけじゃ無いけどさ」

 

「お詫びにお前が誰かしら殺しても揉み消すから許して」

 

「必要ねえよ、そもそも事件になるか怪しい。怪異の関わってる可能性が出てきたからな……ま、仮に事件になったとしてもだ、俺がやったと公表出来るのか?素手で人の首切るなんて俺くらいしか出来ねえだろうけど、だからこそそんな荒唐無稽な話を信じられるか?」

 

「……な、なら何かあげるから!!」

 

「そこまで必死になってまで俺に頼む事ってなんなんだよマジで!!てか俺が殺そうとしてるの知ってて邪魔したのか!?」

 

「それに関しては本当に済まないと思ってる……が、お前にしか出来ない事なんだ……」

 

本気で声を絞り出す祖父を見て、一つ溜め息をつく。

 

そしてソファに座って一言、こう呟く他なかった。

 

なんだかんだ、祖父母には借りがあるのだ。

 

「……で、用件は?」

 

その一言を呟いた瞬間、一ノ瀬巽の祖父一ノ瀬修一郎は両手を挙げて喜んだ。

 

 

 




次回予告!!

主人公、祖父との取引で特例で菊川署の特務課に期間限定所属!?
ここに来て主人公に新たなる属性が追加される!!

次回!!一ノ瀬巽?誰だそれは!!

お楽しみに!!!


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一ノ瀬巽の転身

からくりサーカスアニメ化決定ィ!!

テンション上がるのが帳消しに成る程バイトが辛い


1

菊川署特務課は混沌とした雰囲気に包まれていた。

 

特務課は怪異を専門とした部署であり、他の部署よりも

例外が多い、 だからこそ、彼が期間限定とはいえ所属するのも納得は出来た。

 

特務課の紅一点、金森雛子(かなもりひなこ)も例外の一人で、年は最低でも23行ってるか解らないレベルの若さで特務課に居るのだ。

 

だからまだ、期間限定所属は解る、まだ解る。高木健二(たかぎけんじ)は特に動揺していなかった。

 

─────この時までは。

 

「え?一ノ瀬巽?誰だそれは!!私の名前は櫛梨在処(くしなしありか)よ、早めに覚えなさいよねっ!!」

 

 

「「「「「誰だよ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

2

「待って、よし落ち着こうか。君は一ノ瀬巽君だろ……だよね?」

 

初めに正気に戻ったのは氷室と行動することが多かった為、一ノ瀬巽と少し接点があった小暮紳一(こぐれしんいち)だった。

 

「あ、やっぱバレましたか。流石ですね小暮さん。」

 

「まあ、こっちは一ノ瀬君が来るって聞かされてたからね……尤も、そんな格好をしてくるとは思ってなかったけど」

 

さて、ここで一ノ瀬巽の今の格好を見てみよう。

 

綺麗な黒髪ロング(アホ毛は自前)、着ているものは女性用のスーツ、胸はそこそこあり、紛うこと無き美少女であった。

 

「……なんで女装してるの?」

 

「いや、祖父が期間限定所属の際に学校休むのに使った言い訳がインフルエンザで……学校の奴等とか出版社の人に見られたら嘘ってバレちゃうんですよ……Twi◯◯erでもインフルエンザって言っちゃったしファンにバレてもまずいので……正体を隠さなきゃいけなくてですね。流石に女に変装すればバレないでしょ。いやー、線が細くて毛深くなくて顔が母親似で本当に良かった……」

 

「普通抵抗とか無いの……?女装とか俺は絶対に嫌だよ、てかどうやって声変えてるの!?」

 

「前々回くらいの冬コミで初めてやったんですが思いの外好評だったのよ。似合ってるなら抵抗無いわ。後、声に関しては名探◯◯ナン見て習得してみたいと思って練習したらなんか出来たわ。」

 

「嘘でしょおい」

 

「ま、そんなこんなで私は一ノ瀬巽じゃなくて櫛梨在処だから、間違っても巽なんて呼ばないでね、ふりじゃないわよ?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

 

次に正気に戻ったのは特務課の金森雛子。

 

「なんで貴方がここに居るの?」

 

「あれ?聞いてませんでした?氷室さんの代役ですよ。」

 

「「「……え?」」」

 

どうやら全員聞かされてなかったらしい。

 

────話は一昨日、爺さんに呼び出された時まで遡る。

 

 

3

「……と、言うわけでお前には氷室君の手伝いをして貰いたい」

 

「……なんで氷室さんの?てかなんで氷室さんの事知ってるんだ」

 

「ん?ああ、言ってなかったか?特務課という部署を作る事を提案したのはこの儂だ。」

 

「……初耳なんだが!?」

 

「うむ……もう亡くなってしまったが儂の友人の息子、当時新人の氷室君、そして最近入った小暮君とまだ高校生だった金森君をを除くメンバーで特務課は始まったのだ……まあ、そんなこんなで氷室君の事を気にかけているのだよ……」

 

まさか、自分の祖父が特務課の創設に関わっているなんて全く思っていなかった。

 

「……氷室君は怪異に少しだけ耐性のあるただの人間だ……昨日、お前が怪異を斃した後、偶々氷室君と会ったのだがね……はっきり言って危ない。あのままでは怪異を無差別に引き付ける。」

 

「……つまり、お祓いに連れて行けと?」

 

「いや、お前には特務課のサポートを一日だけやって貰おうかと思ってな……最近異常なまでに菊川市の怪異発生率は増えている……出来ればお前に特務課に所属して貰いたいんだがな……」

 

「いや、警察なんてブラック企業なんかに所属したくない」

 

「あ……そう……(´・ω・`)」

 

いや、まあ普通に過去の経験から嫌いなのもあるけど、まじブラック企業じゃん。

 

「……まあ、一日くらいなら……」

 

別に良いか、そう思った矢先、電話が来た。

 

「……氷室さんから……?もしもし?────は?警察署が怪異に襲われて二人重体?」

 

 

 

 

……さて、ここからはダイジェストで。

 

この後、すぐさま菊川警察署へ、勿論爺さんも一緒に。

 

その後厳戒態勢を敷いていたわけだが……氷室さんが無理矢理解決、そのまま元凶を斃した後、強制的に除霊させるため、とある寺へ拘束された状態で連行された。

 

というのも、怪異の元凶を引き寄せたのが他ならぬ氷室さんなのだ。本人には言ってないけど。

 

「俺はまだ仕事でき────モガモガッ!!」

 

それが氷室さんの最後の言葉だった。死んでないけど。

 

そしてその一時間後、完全に祓うには三日程かかるとその寺から連絡があり、

 

普通に休ませれば良いじゃん→でも人手不足期間限定で数日くらい所属して?→OK

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事があったんです。」

 

「「「……ええ……」」」

 

「……まあ、そんなわけで、少しの間よろしくお願いしますね?」

 

そう言って彼……否、彼女、櫛梨在処はとても良い笑顔で微笑んだ。

 

序でにその微笑みで金森雛子は女としての自信を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

「では、暫くの間よろしくお願いしますね?高木さん?」

 

「お、おう……」

 

高木健二(たかぎけんじ)は未だ混乱の中に居た。

 

そりゃそうだろう。同僚から聞かされていた常識外れの少年が女装して期間限定でコンビを組むことになったのだから。

 

(……参ったな、これ危ないんじゃないか?)

 

自身の秘密が特大の地雷にならないことを祈りつつ、彼は事件の概要を説明し始めた。

 

 

 

「……成る程?女子高生ばらばら死体の連続遺棄事件ですか……なんでこれ特務課が担当してるんです?」

 

事件の概要はこうだ。

 

十月三十一日、第一の被害者が菊川市郊外の森林公園で発見された。

 

四肢を日本刀のような鋭い刃物で切断され、無造作に転がされていた。

 

二件目はその翌日。今度は菊川市郊外の山中にて、その土地の所有者が発見した。死体の損傷具合など全て一件目と同じである。

 

三件目はつい二日前、菊川市内の公園にて発見された。

これまた死体の損傷具合など全て同じ。

 

「……一見普通の殺人鬼による通り魔にしか見えませんが……?これは一課の仕事でしょう」

 

「ああ、その死体が普通の死体なら良かったんだがな……」

 

「……?普通じゃないところでもあるんですか?」

 

「……よく見ろその死体を、血が出てないだろう?」

 

「?別に何処か別の場所で殺した後ここに棄てたと考えれば辻褄は合うでしょう?」

 

「……ああ、そうだ、普通はな。だが三件目で少し問題が出た。」

 

「問題?」

 

「公園だからな、防犯カメラがあったんだ。といっても入り口だけだけどな……で、被害者が入り口から入っていく姿が映っていたんだ、つまり─────」

 

「犯行現場はこの公園……にもかかわらず、血が飛び散ったような後も無く、ルミノール反応もなかったと……それは異常だな、確かに。……で?特務課の見解は?」

 

そう発言すると高木は一瞬黙り込み、こう紡ぐ。

 

「……鎌鼬《かまいたち》だ。」

「ありえん。」

 

ばっさりと、即座に切り捨てる。

 

「鎌鼬如きがここまで出来るわけがないし、仮に鎌鼬だったら生きてる。」

 

 

鎌鼬。三匹一組の怪異。一匹目が足を絡めて転ばせて、二匹目が鎌で裂き、三匹目が血止め薬を塗る。結果として血の流れない深い傷を作る、その程度の怪異だ。

 

怪異は良くも悪くもルールに縛られる。その程度の逸話である以上、それ以上の結果は出ない。

 

「そうだな、怪異単体ならありえねえな……」

 

「……成る程、人間が何かしら手を加えたと……?そういえばそんな組織がありましたね……ネクタールでしたっけ?」

 

その単語が帰ってきた瞬間、高木健二は恐怖した。

 

「お前……どこまで知ってる」

 

「何でもは知りませんよ?知ってることだけです……まあ、中川さんと小暮さんがエイチエム、高木さんがネクタール、って事くらいですかね?まあ、そんなことはどうでも良いでしょう。今は事件のことです。」

 

「…………」

 

「取り敢えず現場百編とも言いますし、第一の事件現場から見ていきたいのですが……」

 

「……後で覚えておけよこんちくしょー!!」

 

その叫びと共に、高木健二はアクセルを踏み込み事件現場まで急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、何処かの山奥の寺にて────

 

「ばっ、馬鹿な……信じられん……!!」

 

「もう良いか?住職、まだ仕事があるんだ。」

 

そう言って担ぎ込まれ、少なくとも三日は帰れないはずの氷室等は完全復活を果たし、菊川市へ戻ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

4

 

「……うーん、気配は感じる……けど……弱いな……」

 

あれからお昼を挟み、午後二時。

 

第一、第二、そして第三の事件現場全てに微妙に怪異の気配は残っていた。

 

「ただ、何が何なのかはさっぱり解らん。って感じね」

 

「……素が出てるぞ、普通にしゃべれば良いんじゃねえのかもう」

 

「……成る程、高木さんは男勝りな女の子が好みですか」

 

「お前男だろ!!俺の好みは清楚系だ!!」

 

「いや、そこまでカミングアウトしなくても……」

 

聞いてもいないことをカミングアウトする高木に呆れた目線を向けつつ、調査資料に目を通す。

 

「……てか三件目の事件に関してはその辺に結構防犯カメラがあるのに目撃情報無いんだね?」

 

「あ?……そういやそうだな。でもあるって言っても三カ所だし死角くらいあってもおかしくはねえだろ?」

 

「……死角……一応確かめてみるか……」

 

そう言うと巽は徐に屈伸、アキレス腱伸ばしを始めた。

 

「……おい、ちょっと待て、何考えてやがる」

 

「ん?死角ならあるでしょ?上に」

 

「……要するにあれか?お前は街頭とか電柱の上とか通ったって言いたいのか?お前じゃないんだから出来るわけねえだろ!!」

 

「いや、でもほら、新S区みたいに犯人が怪異に乗っ取られてあり得ない身体能力叩き出したりとかあるかもしれないじゃないですか」

 

「それでも流石にそれは……」

 

高木が言い終わる前に真上にぴょん、と軽く跳び、上を覗く。

 

「……ありましたー、下足痕です!!」

 

「嘘だろオイ」

 

「間違いないと思いますよー、若干血痕と土が付着してますね、これで完全に鎌鼬の可能性も無くなりましたね」

 

「……直ぐに鑑識を手配しよう」

 

「序でにこれまでの事件現場の高いところも調べるように言っておいて下さい。」

 

「……ああ……なんで俺は年下に扱き使われてるんだ……?」

 

そう言って高木は電話をかけるために少し離れる。

 

(……しかし、なんでここにしか血痕が付着してないんだ?下足痕に……もっと言ってしまえば土に付着しているから地面に血が染みても可笑しくないはずなんだがなぁ……)

 

そこだけが、謎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5

 

お昼休憩、ということでガ◯トで昼飯を食べながら鑑識からの報告等を整理していた。

 

「……街頭の上についていた血痕は被害者のものと一致した。これでこの事件は完全にこちらが主導権を握った形になる。」

 

「それはいい事です。一般人に出しゃばられても困りますからね」

 

「……君だってコネが無ければ一般人……失礼、逸般人だったな君は。」

 

「逸脱させないでくれるかしら、一応種族は人間です。」

 

果たして誰がその主張を信じるのだろうか。高木達からしたら完全に怪異の範疇だ。

 

だが、勝てるわけがない、よって何とか味方にしようと目論んでいるのだが……果たして上手くいっているのだろうか。

 

そんな高木の悩みなど知ったこっちゃねえと言わんばかりに彼……いや、彼女は事件の話をし始める。

 

「恐らく一件目と二件目も同じように移動したのでしょう、木の上などに下足痕があるかもしれません」

 

「もう調べてある。同じ下足痕が見つかった。だが何処にでも売ってるスニーカーだから特定は難しそうだ」

 

「んー、これはあれですね。新S区のやつと同じパターン。怪異に取り憑かれた人間の仕業、と言ったところでしょう。」

 

「上も全く同じ考えだそうだ。この件は完全に特務課に任せるそうだ。」

 

「……いや、あのさぁ、おかしくない?人手が足りないから俺が期間限定とはいえこっちに来てるんだよ?なのに完全にこっち任せって……聞き込みとかどうするの?まさか二人でやれと?馬鹿なの?死ぬの?」

 

「……俺に言われてもなぁ……」

 

二人揃って愚痴を零したところで丁度料理が届く。

 

「お待たせしました、ハンバーグステーキ大盛りに、ミートソーススパゲッティです」

 

そして店員はハンバーグステーキ大盛りを高木の目の前に、ミートソーススパゲッティを在処の前に置いた。

 

 

 

「…………すいません、逆です。」

 

 

 

「………………えっ………………?」

 




P.SヒロインX引けました


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※この小説のミステリ要素はオマケみたいなものだから真面目に考察しなくても大丈夫by作者

質問コーナーを活動報告に作ったので質問あったら質問してください。結構来ちゃったというね。まあこの作品はツッコミどころ満載だからしょうがないね!
何でも良いですよ、主人公の性癖とか色々でも。


 

 

 

××◯◯の日記より抜粋

 

◯月×日

追っ手はこれ以上私達を追跡するのは困難だろう私は漸く普通の生活を送れるのだ。

 

×月■日

私のお腹に新しい命があることがわかった。嬉しくてたまらない。お義父さんがその病院の院長と友達なのは驚いたが。

 

×月☆日

吐き気などを抑えるために薬を貰った。これから辛いけど頑張ろう

 

×月←日

私は研究者だ、それは解っている、だが同時に、そろそろ母親になるのだ……なのになんでこんな事を考えられるんだろう。

 

×月#日

何故かは解らないが私が私でなくなる、そんな感覚がある。断言できる。私は確かに研究者だがここまでは落ちぶれていなかった筈だ……と書いてみたものの、頭に靄がかかったかのように昔を、自分を思い出せない

 

×月#•日

何が、何が原因ダ?このワタシガ昔のことを、忘れるなド!

 

 

1&=2%ev7月s5rnls日

キづくnがオそsぎt、もuてオkれダ

 

 

───日記はここで途切れている

 

 

 

 

     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1

シュヴァルツカッツェにて。

前々回で手に入れた情報を、椎葉紬は全員と共有していた。勿論、自分のことや魔女のことも含めてだ。

 

「……OK、解ったよ椎葉さん。それは良いんだが……」

 

「……?どうしたの?」

 

その笑顔を見て、若干、海道秀明は……否、海道秀明を含めたオカルト研究部の全員が、恐怖を滲ませるような視線で椎葉紬を見ていた。

 

それはそうだろう、今、椎葉紬は───

 

 

 

「おい、紬!!そろそろあっちの上からどいてくれ、本来鳥類の足はこっち側には曲がらぬのじゃぞ!?」

 

アカギを正座させ、その上に座っているのだ。

 

それはもう、恐ろしい表情で。

 

「どいて欲しいなら早く喋ってくれるかな?巽君の母親は何を願ったのか。」

 

最早ただの脅迫である。

 

だが、確かに知りたいのは事実だ。一ノ瀬巽の強さは魔法だと、昨日の会話からそれは解る。恐らく、母親が何かを願った結果、一ノ瀬巽の強さがあるのだと。

 

「だから、解らぬと言っておるじゃろ!!」

 

しかし、アカギは先程からずっとこの調子だ。

 

「いいや、それはあり得ない。アルプは契約の時、魔女が何を願うかを聞く。それはおかしい。」

 

そして、アカギが解らないというと七緒からのツッコミが飛んでくる。これの無限ループである。

 

「ねー、アカギ?早く答えないとご飯抜くよ?」

 

「鬼じゃ……ここに鬼がおる……だが解らぬものは解らぬ!!」

 

「全く……何とかして巽を止める手がかりになればと思ったんだけどなぁ……あの強さに、例えば制限があるなら止められる可能性もあるかもしれないのに……」

 

「そうだな、仮屋の言うとおりだ。……アカギ、頼むよ、教えてくれないか?」

 

保科柊史もそう言って頭を下げる。だが───

 

「だから!!解らぬと!!言っているじゃろ!!」

 

「ご、強情な……そこまでして言いたくない何かがあるのでしょうか?」

 

綾地寧々はその執念を見て、そう呟く。

 

「……ん?ちょっと待て」

「……あれ?ちょっと待ってください」

 

と、そんな会話を聞いていた海道秀明と因幡めぐるの二名が何かに気づいたように皆を制した。

 

「なぁ、アカギだったか?お前今なんて言ってた?」

 

「だから、解らぬと何度も何度も言っているじゃろ!!」

 

「それって要するに、『知らない』ではないんですよね?」

 

「「「「「「「あっ……」」」」」」」

 

その瞬間、全員が何かを悟った。

 

「そうじゃ!!確かにあっちは彼奴が何を願ったかを知ってはいる……知ってはいるが理解できなかったのじゃ!!難しい単語を幾つも並べおって……!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、紬はあわわと言いながらアカギの膝の上からどいて正座を解かせた。

 

「そ、そうだったの……?ごめんねアカギ、足大丈夫?」

 

「変わり身の早さ異常に早いな紬!?怖いのじゃが!?」

 

と叫び、少ししてアカギは語り始めた。

 

「良く解らんがあいつは『望んだように進化でき、進化し続ける能力を持つ人類を作る』とか何とか言っておった。この時点であっちはもう考えるのを止めた。理解できなかったのじゃ。何もかも。その後専門的なことなどを六時間は語られた。」

 

当時を思い出したのだろう、げっそりとした顔でそう語った。

 

だがそれで、他の全員は理解した。

 

「おい、それって……」

 

「……要するに、あいつが『空を飛べるように進化したい』と願ったらあいつは空が飛べるし、『水中で呼吸できるように進化したい』と願えば息が出来るようになるというわけか……」

 

「ちょっ……なんですかそれ……チートじゃないですか」

 

「……成る程、一ノ瀬の頭脳とかはそれの副作用みたいなものか……文章構成力とか才能系も入って進化し続けているんだ……」

 

「……ハッキリ言って最悪の展開だ。魔法が例えば『身体能力強化』とかならまだ対処のしようはあったんだが……」

 

そう、例えばだ。魔法ありきの身体能力なら魔法を封じてしまえば良いのだ。そうすれば身体能力は封じられる。

 

だが『進化』となると、例え魔法を封じたとしても『進化した結果』は身体に反映されているだろう。

 

「……というか何故お主らは彼奴に関わるのじゃ……もう好きにさせればいいじゃろ……あんな不気味な奴にわっちはもう関わりとうない……というかあの狂人一家に関わりとうない……」

 

「そう?私昔に一ノ瀬の家で遊んだときに両親に会ったけど普通にいい人だったよ?」

 

「……そういや仮屋は同じ小学校で同じクラスだったんだっけ」

 

「学校もクラスも保科と同じだけどね……あんな事があったのに覚えてないなんて……」

 

「しょうが無いだろ」

 

保科柊史はそう呟く。一ノ瀬巽のその時の担任は、前世界の保科柊史に一つのトラウマを植え付け、生き方をねじ曲げた張本人なのだが。今世界では全然覚えていなかった。

前世界で風邪を引いて、治ったものの学校に行きたくないという思いになり、ずっと登校しなかった、そしたら担任がクラスメイト全員を引き連れて……それはまあ大変な思いをした。思い出したくない記憶の一つだろう。前世界なら。

ところが、思い返せば今世界ではそんなことは起きなかった。

何故なら、一ノ瀬巽に、保科柊史よりも先に同じ事をして、その先生が退職してしまったのだ。精神を病んで。そりゃそうだろう、生徒の家に訪問したら家具が飛んで来て、人が吹っ飛んできて、死体を目撃したのだ。トラウマにもなるだろう。寧ろその光景を見てトラウマにならない仮屋和奏が異常なのだ。まあ、それは置いておくとして、奇しくもそれは、前世界で保科柊史が風邪を理由に引き籠もっていたのと同じ時期だっただけで、更にその後、その騒動が原因で学級閉鎖になったのだ。

だから、今の今まで知らなかった。学級閉鎖が解けた頃には既に、一ノ瀬巽は居なかったのだから。序でに言うなら一ノ瀬一家強盗殺人事件は大体五月頃の話である。そして、学級閉鎖は凡そ一週間だったが、その後も気乗りせず、父親に「そろそろ行け」と言われたときには六月が終わりそうだった。クラスに初期から馴染めていなかった保科柊史は、一ノ瀬巽の名前を知らないまま、残りの小学校生活を過ごしたのである。

 

だから保科柊史は一ノ瀬巽の家族を知らない。家庭を知らない。

 

だから、仮屋和奏が唯一、その時のことを知っている。

 

「少なくとも、一ノ瀬の両親はまともな人だったと思うよ。」

 

「はっ、猫を被っていただけじゃ。父親は知らぬが、少なくとも神崎彼方は狂っていた。」

 

「……なんでそんなことが言えるのさ」

 

和奏はアカギを若干殺気を交え、睨みつけ、呟く。

 

しかし、アカギはそれを流し、溜息をつきながら話し始めた。

 

「……彼奴が願いを言ったとき、あっちは碌でもないことだ、と直感で判ったからな、『本当にやる気か?』と問うたのだ。そしたら彼奴はこう言ったよ」

 

アカギは当時を思い出し、少し恐怖に身体を震わせながら、当時の神崎彼方と同じ言葉を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『実験動物《モルモット》のことを気遣う必要など無い』

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

その頃、一ノ瀬巽……否、櫛梨在処と高木健二は一度、菊川警察署に戻り、今後の方針について話をし始めた。

 

「……と言う訳で、我々は新S区のように、怪異に操られている人間の死体が起こした事件だと考えています。」

 

「成る程……確かにそれなら筋が通りますね……ですが何故現場に血痕が残ってないのでしょう?」

 

「わかりません、が仮説の一つとして、事件には関係ないとみています。」

 

「……と、言いますと?」

 

「血痕が残っていないのは別の何かが原因で、直接殺人事件には関与していないのでは、ということです。例えばそうですね……何者かに消されたとか。」

 

「……は?」

 

高木はポカンとする他無かった。だってそうだろう。怪異というのは基本人の益になるようなものは存在しないのだから。

 

「そんな怪異がどこに居るんだよ、それとも人間がやったってのか?」

 

「何言ってるんですか、下足痕は残ってないからそれはあり得ません。怪異だと思いますよ?」

 

「だから、そんな怪異なんか───」

 

「……火車って聞いたことありません?」

 

火車。若しくは化車。悪行を積み重ねた末に死んだ人間の亡骸を奪うとされる妖怪で、特に特定の地域に現れるという事は無く、全国的に有名な怪異である。だが───

 

「死体は全部ある、大体それが何で血痕が残ってないことに繋がるんだ!?」

 

「それがあくまで、偶然だとしたら?」

 

「は!?」

 

「私はこう言ってるんですよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと。その犯人を追っている時に纏っている火の熱量で蒸発したんじゃないかと。」

 

そう言って、彼はパソコンを弄り始め、数分後、ビンゴ!と言い、画面を二人に見せる。

 

「西彰、過去に二件の事件に関わっている、内一件は痴漢でその後、その訴えた女子高生の捏造だとわかり無罪。二年前に人を一人斬り殺しているが、その後正当防衛が認められ不起訴、その判決自体は大して問題じゃないけどね。その後行方不明となり消息不明、尚、行方不明になる直前、二人のバラバラ死体が発見されている。血溜まりの中に西彰の血痕が残っていたから死亡したものと思われたが、そのバラバラ死体の中に西彰のものは無かった。よって、行方不明扱い。西彰の故郷、愛媛県には火車の逸話があるから間違いは無いと思う。現場の二百メートル先の地面におおよそ、普通の生物とは思えないほどの大きさの獣の足跡があったから可能性も高い。」

 

「は?おま……先に言えよ!?」

 

「言ったところで『こんな離れてるところで関係があるとは思えねえ』とか言われそうだし鑑識さんだって暇じゃないだろうし………」

 

「ひ、否定できない……」

 

それを黙って聞いていた中川良助は少し考えて重い口を開く。

 

「……それで、二つ目の仮説は?」

 

「はい、とまぁ、これも簡単な話なんですがね。妖刀かなぁと。」

 

「まだそっちの方が現実味あるんだけど!?」

 

「無難に村正とか……?まあ、そうだとしてもそうじゃないにしても、大体次の現場で取り押さえれば良いんですから」

 

その言葉に今度は二人とも呆けた。

 

「……は?」

 

「……と、言いますと?」

 

「これまでの事件現場は全て半径二㎞圏内にあり、尚且つ人目につきにくい……そんな場所がもう一つだけあります。そこの可能性が高いので……私が囮になります。」

 

それはつまり、JKのコスプレをするという宣言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

シュヴァルツカッツェで話していた面々はアカギの話を聞いて、更に躍起になった。

 

曰く───「それが仮に真実だったら尚更止めなくてはならない」と。「そんな事を言う人間の仇討ちで、あいつの人生を終わらせてはいけない」と。

 

それを見たアカギは、その場を去った。

 

別にどうでも良かった。一ノ瀬巽がどうなろうと、もう破滅は免れない運命だ。それはもう確信を持って言える事だ。果たしたら生きる意味を失うし、果たさなかったら彼は一生後悔するし、真実を知ったら発狂するだろう。

 

ただ、自分は紬の為に動いただけだ。紬が止めたがっていたから、促すようなことを言っただけだ。

 

自分はこれ以上関わりたくなかった。

 

一ノ瀬巽に関わりたくなかった。あんな壊れ方をした化け物に関わりたくなかった。神崎彼方を思い出したくなかった。あんな恐ろしい人間を忘れたかった。

 

ただただ、あの血筋が恐ろしかった。

 

平然と子供を道具として使う神経が恐ろしかった。

 

復讐のためとはいえ()()()()()()()()()()生きている一ノ瀬巽が恐ろしかった。

 

だから、情報を提供すれば解放してくれるというなら───自分は逃げたかった。

 

だから逃げた。計画通りに、逃げてやった。

 

「後は彼奴らがどうにかするじゃろ。」

 

そう思い、彼女は逃げ出した。だが────

 

 

 

「アーカーギー?」

 

「ひっ、つ、紬!?なんじゃ突然!?」

 

「何で逃げたの!!今の所一番情報を持っているのはアカギなんだから、全部話してもらうよ!!」

 

「い、いやじゃ、離せ!!あっちはもうあの血筋には関わりたくないのじゃ!!」

 

「関わらなくて良いんだよ……ただ全部話してくれれば……ね?」

 

「嫌じゃああああああ!!」

 

抵抗虚しく、アカギは連れて行かれ、結果として夜遅くまで、何かと議論していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紬達が立ち去った数分後、その道を姫松学院の女子制服によく似た服を纏った櫛梨在処が通った。

 

「……この辺シュヴァルツカッツェだから万が一を考えて気をつけて通らねえと……」

 

万が一彼奴らが居たらこの作戦に支障が出る。自分が狙われるためにも念には念を入れて準備したのだ。もしターゲットが変わったら面倒なことになるからだ。

 

────そう、今現在、櫛梨在処は犯人に尾行されていた。

 

後数分来るのが早ければ椎葉紬は犯人に遭遇していただろう。

 

無自覚に、無意識に椎葉紬を救った櫛梨在処は、近くの雑木林に犯人をおびき寄せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは成功した。

 

雑木林に入り、暫くしたら人とは思えない速さで斬りつけてきた。

 

それを最小限の動きで避け、軽く腹に拳を軽く叩き込み、飛ばす。

 

「……なるほとわ、半分外れ、半分当たりというところか?」

 

その人間は死んでいた。そして、右腕が刀に浸蝕されていた。

 

「成る程?妖刀に取り憑かれた……とでも言うべきか?」

 

「お前らの、お前らのせイで……俺ハ!俺の人生ハ!」

 

そんな事を言いながら斬りかかってくる。

 

「ああ……成る程、女子高生ばかり狙ってたのはそういうことか。」

 

復讐だ。自分の人生を狂わせた、女子高生に対しての。

 

冤罪と解ったところで、疑われたらそれでお終いだったのだろう。その時から彼の人生は狂ったのだろう。

 

正当防衛で人を斬り殺したときの調書に目を通したとき、彼の故郷は田舎で、まだ村八分のような風習があり、そんな扱いを受けていたと書いてあった。その時に、集団リンチを受けていて、偶々そこにあったナイフで抵抗したら死んでいたとも。

 

彼は悪くない。冤罪で訴えられ、蔑まれ、抵抗した。それだけだ。その後何があったのかは知らないが、復讐のため動くというのは理解できる。それで無関係の人間を殺すのはどうかと思うが理解は出来る。問題は──

 

「何なんだ、その身体は……いや、その刀は」

 

その刀は歪だった。まず形が歪だった。なんと言ったら良いのかは解らないが、あれだ。子供が考えた「ぼくのかんがえたさいきょうのけん」みたいな見た目をしている。少なくとも、刀鍛冶が作ったモノには見えなかった。

 

────まるで、何かを重ね合わせて作ったキメラのような。そんな歪さ。

 

「……まさか、な。」

 

いやまあ、ここまでくれば多分、間違ってはいないと思う。

 

多分これは、ネクタールの研究の一環だと。

 

根拠は、無いことは無い、が何となく、直感が告げている。

 

「……本当に運が無いなお前……せめて一撃で倒してやる」

 

肉体はとうに死んでいる。ならば壊すは右腕の刀のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────パァン!!

 

という炸裂音と共に、西彰は崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、あいつ今……何したんだ……?」

 

その様子を高木健二と中川良助は呆然とした顔で見つめていた。

 

「……見えなかった……何も……」

 

第三者からしたら、それは少年漫画で、パワーインフレの続く漫画のバトルシーンの如く。

 

一ノ瀬巽が彼を通り過ぎたときには、もう勝負が決していた。

 

高速移動による体当たり。

 

「…………あいつは何処まで強くなるんだ……!?」

 

無限に進化する巽に、二人は恐怖していた。

 

 

 

 

「……さてと、やっぱり当たってたな」

 

そう言って巽は上を見る。つられて遠くで見ていた二人も空を見上げた。

 

いつの間にか木に、火車が座っていた。

 

「……火車の一説には『未練の残っている死者の魂をあの世に連れて行く』というものがある……だからお前はこの刀を追っていたのか。……そうかそうか。安心しろ、もうその刀は俺が壊した。」

 

漸く解った。この刀は怪異を作るのだ。正確には怪異の怨念を、刀についた未練を刀傷から死体に送ることで怪異として動かすのだ。

 

それを被害が出る前に、怨念と痕跡を燃やし尽くして、自分たちよりも解決に努めてくれていたのだ。……まあ、そのせいで地面に下足痕が残っていなくて混乱したのは言わぬが花と言うことで。

 

「ありがとう、助かった。」

 

そう言うと、火車は満足したのか、空へ駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4

その日の夜、特務課にて。

 

「はぁ!?氷室が復活して八尺様を退治しに行った!?」

 

「……ええ、小暮くんと一緒に……」

 

「あいつなんで一日で帰ってきたの!?馬鹿なの!?死ぬの!?」

 

特務課は混沌と化していた。氷室さんの短期による復活、そして八尺様というビックネームの討伐へたった二人で行ったという事実に驚きを隠せないでいた。

 

……さて、どうするか、と巽は思考を巡らせる。

 

八尺様に二人組で挑むなど自殺行為にも程がある。それは理解している、一応顔見知りではあるから助けに行っても別に構わない。

 

だがここで助けに行くと千載一遇のチャンスを逃すことになるかもしれない。万が一氷室さんが彼奴らに絆されて俺と敵対した場合間違いなく、最大の脅威になる。

 

……正確には、氷室さんの持っている銃が、ではあるが。

 

 

さて───────

 

 

 





『氷室さんを助けに行く』
『向かわないで計画を進める』◁

みたいな感じで分岐、助けに行くとめぐる√に入りますが既にアンケートで和奏√に行くのは決まっているので『向かわないで計画を進める』を選択して紬、和奏共通√へゴーです。


質問返答コーナー!!!
Q.r18書く予定ありますか?
A.ないです。私にそんな文才はないんです許して。

Q.ゆずヒロインや主人公は陰毛とか脇毛とか生えてませんが巽君は?
A.「生えてないけどその気になれば『髪々の黄昏』ばりに伸ばせるし生やせる、生やせることが出来る分俺の方が異常かな……ってこの元ネタ解る人居るのか?作者……」

Q.巽君ロリコンの気があるそうですが守備範囲は?
A.「正直可愛いなら男でも抱けるとは思う。」
ヒロインズ「……えっ?」

※この小説にホモ要素はありません。


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