クラロワ (青空 優成)
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第1話 始まりは突然に

前置き情報①

・主人公の容姿について

赤髪癖毛 パーマを若干ほぐしたような感じ
黒目
身長 168cm


 

 

「んじゃ次、岩犬 耀(いわいぬ よう)

──七月の後半、炎天下の中、通う高校の校庭に胡座をかいて座り駄弁るオレに、体育の教師である中村が声をかける。

ほんと、ふざけてんじゃないかと思う。

多分今は30度超えの暑さ、そんな中オレ達は体育の授業で、ハードルをやらされている…汗が止まらなくて気持ち悪い。

(早く終わんねぇかな…)

呼ばれたので、仕方なく重くだるい身体を動かして100m走等に使うレーンの前に立った。

「位置について、よーい、ドンッ!」

オレは中村の掛け声と共に駆け出す、ただ…だるいのでジョギング程度の速さでノロノロとハードルを飛んでいく。

ゆっくりと空を仰ぎながら走っていると、鳥が空を飛んでいるのが見えた。

(鳥って、自由だよなぁ…羨ましい、生まれ変わるなら自由に羽ばたいてみたいなぁ…自由って、まじで羨ましいな)

人間は生き物の中でトップクラスに自由だ──

なんて書かれた本をいつしか読んだ気がする。

だけど、16年生きてきて、自由とはなんだろうかと思い始めている。

オレは自由だ、自由なんだと思い聞かせてきたが、そろそろ結論に至ってしまった。

 

 

「オレは自由なんかではない」と。

 

 

それがオレの結論だった。

別に人生苦労しかないとかそんなことは無い。

クラスでは人気者位置に居るし、彼女は居ないが友達は多い。

部活は帰宅部だけど運動音痴ではないし、そこそこ出来る方だと思う。

家庭も裕福で金に困ったことは無い──端的に言って結構良い人生の過ごし方をしていると思う。

じゃあ何故その結論に至ったのかって?

人生にそこそこ呆れ始めているからだ。

6歳から学校という名の檻に入れられ、

勉強という名の刑務を課される。

言っておくが頭が悪いからこの結論に至ったのではない、

頭は良くはないけれど悪くもない、中間。

きっと、大人になってもこの延長でしかないのだと、そう考えている。

学校から会社という檻になるだけ

勉強から仕事という刑務になるだけ──

実に──実に…退屈だし、

そこに自由は無いと思う。

それが16年、そこそこ良い人生を歩んできたオレの結論に至る所以だ。

だが、そんな事考えても全く意味はなくて。

今はただただ

(あー…早く家帰ってスマホゲームの『クラロワ』やりてぇ…)

最近人生の中で中々楽しいと思える時間を過ごしたくて堪らなかった。

 

 

──『クラッシュ・ロワイヤル』通称『クラロワ』

全世界で人気のスマホゲームで、

〔対戦型戦略タワーディフェンスカードゲーム〕だ

76種類あるカード(今後もどんどん追加されていくらしい)から8枚選んでデッキを作り、そのデッキで、相手と戦い先にキングタワーを壊す。

もしくは2つあるサイドタワーを壊して制限時間の3分経過すれば勝ち。

お互いにサイドタワー1つずつ(もしくは2つずつ)壊していて3分経過した場合は延長戦1分へと縺れ込む。

延長戦はサドンデスで先にタワーを壊した方が勝ちで、勝った方が相手のトロフィーを奪えるというシンプルだが奥が深いゲーム。

俺はこのゲームにどハマりしてしまっている。

タワーディフェンスゲームは経験豊富だったのだが、

今までとは異なる相手がNPCではなく対人という点。

クランと呼ばれるグループで人とコミュニケーションをとる点。

3分という気軽に遊べる時間ながらも白熱したゲームが出来る点。

これは、ゲームであって、遊びではない。

──と、某SA〇のセリフが似合うゲームである。

 

 

「はい、岩犬、記録48秒な」

「どうも…」

中村が若干不機嫌そうに記録を伝えてきたので、やる気はねぇよ?とばかりに適当に返事をして、また男子グループの輪に混ざり駄弁り始める。

「ははは、48秒ってめっちゃ遅いじゃんw」

「いーのいーの、つか暑い」

パタパタと体操着を動かして空気を流し込む。

「だりぃよな」

「だな」

そんなどうでもいい会話を、疲れているから適当に相槌を打って

(学校早く終わんねぇかな)

はぁ…と内心ため息をついた。

 

 

 

「よう〜かーえろ!」

「あ、おう」

6時限目の授業も終わり、帰りの会を済ませた2ーGのクラスで、オレに声をかけてきた奴が居た。

──コイツの名前は〔亜南帆 理央(あなほ りお)〕俺よりほんの少しだけ小さく160cmくらい。

黒くサラサラで右側が長い(前髪は眉毛辺り)で左側が短い(前髪はおでこ辺り)髪型と、青い目が特徴。

幼なじみで、ずっと一緒に居る所謂イツメン。家族以外に真正面から自然体で居られる希少な存在…多分、親友なのだと思う。

帰ろうと言われたのでリュックの中に教科書を詰めて、背中に背負う。

「よし、帰るか」

「今日の授業眠かったよね〜、疲れたー」

いつもの様にオレはリオと共に帰り始める。

 

 

 

 

歩きスマホは良くないと分かっているけれど、こんな人通りの少ない路地でしかも田舎なんだし許して欲しい。

俺達しか歩いていない路地は薄暗く、ジメジメしていた。

「暑いしせめて日陰に…って思ったけど、暑いな」

「まぁ夏だもんね…じっとりした暑さだぁぐへぇ」

スマホを見ると時刻は17時を過ぎているというのに、まだ陽は高い。

太陽を見ていると余計暑く感じるので、手元のスマホに目を落とす。

「ラヴァハウンドやっぱ強いな」

やっているゲームは勿論クラロワ、流石に歩きながらバトルはやりたくないので、トレーナーと呼ばれるNPCと遊んでいる。

 

 

ラヴァハウンド

 

──飛行タンク型ユニット 7コスト 攻撃力は微々たるもの

死ぬとラヴァパピィ──アタック型ユニット──を6体排出する。

 

 

そんなラヴァハウンドをオレはすっかり大好きになってしまい、

今まで使っていたジャイアントを辞めて、ラヴァハウンドを使い続けている。

 

 

ジャイアント

 

──地上タンク兼アタック型ユニット 5コスト

 

 

またもラヴァハウンドを使って勝利しご満悦のオレの隣では──

「行っけぇ!穴掘り師!!」

──リオがスマホを弄ってクラロワをしていた。

そう、リオもクラロワに激ハマリしているのだ。

そしてリオが大好きなユニットは穴掘り師と呼ばれるカードだ。

 

 

穴掘り師

 

──地上ノーマル型ユニット 攻撃力体力ともに普通 相手フィールドに直接召喚できる (タワーに与えるダメージは少ない)

 

 

「やった!トロフィー3000超えた!!」

「まじかよ、俺まだ2200らへんだぞ…」

 

 

トロフィー──バトルで相手に勝利すると相手から奪える、奪いまくって集めたトロフィーは自分が持っているトロフィーとして換算されていく。そのトロフィーが3000を超えるとレジェンドアリーナ(今は1つランクダウンしてホグアリーナという名前)にフィールドが変わり、そのフィールドになると、ショップでウルトラレアが売られるようになる。

まず目指すは3000と言われるように1つの通過点である。

 

 

「穴掘り師のお陰だよ〜!!」

「オレだってラヴァで3000目指すぞ」

「頑張ろう!」

ガシッと腕を絡ませて、お互いの士気を高める。

そんな光景に内心すげぇ青春っぽい…ただゲームでこんな盛り上がってんの若干恥ずかしい。

と、顔をニヤつかせながらどこか微妙な表情になったその時───

 

 

クラロワの画面にズズズズズとノイズが走り始めた。

 

 

「な!?バグっ!?」

「いや、僕も同じくなってるよ!」

激しくなるノイズに目がチカチカして痛くなり、思わず瞑ってしまう。

「っ──!?」

すると、頭の中に何やら声が響いてくる。

「我は汝、我、汝の中に居場所を移したり。我、汝に空を飛べる能力と、身体を溶岩に変質出来る能力と、死んだら6体に小さく分裂する能力を与える。この力存分に使いたまえ、願わくば世界の調和を頼まんと──」

「───???!」

意味が分からず、そして何が起きているのかも分からないが、ゴゴゴゴゴゴとノイズ音も走り始め、耳を両手で塞ぐ。

「な、なにこれぇ?!」

「わ、わっかんねえ」

にしてもさっきの声、どっかで聞いた気が──……。

 

 

 

 

ノイズ音が収まったのを確認し、耳を解放する。

「め、目も開けてみるぞ」

「うん、僕も」

ギュッと瞑っていた目を、恐る恐るうっすらと開けてみる。

そして、目に飛び込んで来たのは──

「なぁ………」

「…………え」

呆けた声を二人同時に、そして──

 

 

「「何処だよここおおおおおおおおおお??!」」

 

 

飛び込んできたのは───オレ達が居た路地裏──ではなく

中世ヨーロッパ風の世界の路地裏だった。

まさか、まさか、まさかまさかまさか……

逸る気持ちと信じ難い気持ちでゴチャゴチャになりかけるが、それをなんとか制して…この現象の名前を思い出す。

「理央、これは、これはもしかすると」

「異世界転送って奴だぁぁぁぁああああああッッ」

そう、目を開けたらそこは、異世界なのでした。

異世界転送──本来居るべき世界とは違う別の世界に転送されること。

異世界は元の世界では成し得なかった魔法ありありのファンタジー溢れる世界──と聞いている。

実際転生されるなんて夢にも、ほんと夢にも思っていなかったしいざ転送されてみると…新境地に立たされた気分であまり嬉しくはない。

「にしても、流石に唐突すぎてよく分からん…」

「なんか、目を瞑った時に変な声が聞こえたんだけど、ヨウはどうだった?」

何やらリオにも聞こえたらしい謎の声。

「オレも聞こえたんだよなぁ…なんか能力を与えるとか行ってたけど、まじか?」

「僕も能力を与えるとか言ってたなぁ」

「まじ?どんな能力だ?」

「穴を掘る能力……しょぼい…」

(穴を掘る…能力?)

ここでふと、気付いた、もしかしてもしかすると。

ここでリピート「我は、汝に空を飛べる能力と、身体を溶岩に変質出来る能力と、死んだら6体に小さく分裂する能力を与える」……。

 

 

「まさか!!」

 

 

某メタル〇アでスネ〇クが敵に見つかった時のSEが流れそうな「!」の顔で、リオを見つめる。

オレは、ラヴァハウンドの様な能力を…

リオは、穴掘り師の様な能力を…。

まさか、あの声は──。

「とりあえず、路地裏抜けて、どんなもんか見てくるか」

「さっきの顔は1体なんなの?あと僕のしょぼい能力については無視!?」

オレは地蔵のような顔をして、ポンと理央の肩に手を置くと

「ま、オレは空飛べるし溶岩になれるし死んだら分裂するぞ?」

「はぁっ!?穴掘るだけの僕からしたらなにその豊富な能力!」

「なんか、うん…すまんすまん」

「なんかムカつく」

「んじゃ、行くか」

ラヴァハウンドの能力に酷似、穴掘り師の能力に酷似している件についてはまだ確証が持てないので理央には話さないでおくことにした。

 

 

 

「にしても…まじで中世ヨーロッパ風だな」

路地裏から出たオレ達は、商店街らしい場所に居た。

ワイワイガヤガヤと活気溢れるその場では、明らかに挙動不審なオレ達は完全に浮いている。

「らっしゃぁせ!そこの兄ちゃん、フランコパンは如何?」

パン屋らしきオッサンにフランスパンに激似のパンを「これ買わね?」とばかりに接客される。

一応バッグから財布を取り出して、

「これ使える?」と確認。

だがまあ

「アアン?なんだよこの硬貨は、おもちゃか?さっさと200ペリス出しな!」

勿論、使えなかった。

「ペリスって、どんなの?」

きっとこの世界の通貨なのだろうペリスの形を見ておきたかったのだが…きっと冷やかしだと思われたのだろう。

「商売の邪ぁぁっ魔!とっとと失せろ!」

しっし!と追いやられてしまい、確認出来なかった。

仕方ないので、路地裏に戻り、現在の所持品の確認。

スマホ(さっきまでクラロワやってたから充電40%切ってる)と、財布(使えない硬貨と紙幣)と、教科書(意味無し)と、菓子パン(チョコチップスティックパン)と、スナック菓子(塩味)だけだった。

「うっわ、しょぼい…使えそうなのが菓子パンとスナック菓子くらいしかない…リオは?」

理央の方を見ると、殆どオレと同じ所持品に、飲みかけのコカ・コーラがあるだけだった。

「ごめん、僕もこんな感じの貧相だよ」

「いや、悪いのは唐突に異世界転生された理不尽さだ…予告しといてくれたら準備万端で来たんだけどな」

「にしても、どうしよっか?」

「この世界のこと、多少なりとも理解しておきたいし、聞き込みいくか?」

まだ何も分からないこの世界について、少しでも良いから理解しておきたい。

「そうだね、じゃあ行こうか?」

オレ達は立ちあがり、また路地裏から商店街に出ようとしたその時だった──

 

「お願い!その子捕まえてええええ」

 

 

ヒュンヒュン!と何やら結構なスピードで駆ける小柄な少女を、追いかける見た感じ背丈は同じくらいの女性。とりあえず目の前を通り過ぎようとしていた少女の肩をガシッと掴む。

「ちょ、離せッ!」

「ありがとう!はぁ、はぁ……はぁ」

「ゆっくりでいいぞ、押さえとく」

銀髪ポニーテールで可愛らしい顔立ちが特徴で羽衣みたいなのを纏った彼女は「はあはあ」と息を切らしながら

俺が押さえてる黄色髪ツインテールでやんちゃそうな印象の少女に歩み寄る。

「さぁ、私の宝玉を返しなさい?」

「や、やだね!これが絶対の絶対に必要なんだよ!!」

「「?」」

状況がよく分からないオレとリオだが、何やら少女が彼女から宝玉を盗ったらしいということは分かった。

「ん…盗みは良くないぞ?ほら、お姉ちゃんに返しな」

「うん、僕もそう思うな、困ってても人から盗るのは良くないと思うな」

「っーーー!!るっせぇんだよ!」

 

 

「ぇ?────」

 

 

何やら腹部辺りにズブリと何かが刺さるのが分かる。

「なっ!……───っぁ」

口からは唾液がポトポトと滴り落ち、異常な不快感に身体を侵される。

見ると、腹にナイフの様なモノが刺さっていた。

「───は?……?」

「え?」「え?」「は?」

刺されたオレは勿論だが、それにビックリしたのかリオと銀髪少女も驚く…しかし何故か刺した本人の金髪少女も驚いていた。

だがすぐに我に返ると

「退けよッ!」

バン!と跳ね飛ばされた。

急な衝撃にオレは尻餅をついて、少女を手放してしまう。

その隙に少女はダダダと駆けて壁をスタタンと跳ね、足早に去ってしまった。

「ぁ…ぐ。痛って」

「だ、大丈夫?じっとして!」

「大丈夫ヨウ!?」

「あ、ああ、平気だ、って君…あの子追いかけなくていいのか?」

「あ!……ううん、追いかけたいのは山々だけど、放ってはいけないし!」

「いや、オレのことはいいから、追いかけなっt………」

あ、駄目だ、意外と出血量多かったらしい。

なにやら彼女が身体に何かを塗ってくれている感覚はするが、何を塗られているのかは分からない。

だが不思議と痛みがスーッと引いていくのが分かった。

魔法かなにかなのだろうか──。

遠のく意識の中、必死になってくれてる彼女と、慌てふためくリオを眺めながら、意識は遂にそこで途切れた──



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第2話 部兵人形

(ん……)

朦朧とする意識で覚醒した俺は、

すぐさま疑問が浮上する。

───(ここってコンクリートの上だよな?)

寝そべり体勢なのは直ぐに分かった…だが解せない点がひとつ

──(コンクリートを枕にしているのなら頭は痛いはずだが…?)

まだ目を開けていないので状況を完全に理解している訳では無いのだが、置かれた状況は分かった。

───(この感触は…少し筋肉質なのが気になるが…膝枕?)

そう、膝枕をされているらしいのだ。これは、健全たる高校生である俺にとって、興奮してしまう、目を開けて真相を確認せねば──

 

 

 

「あ、起きた…、えと、大丈夫?」

「─」

目を開けて最初に声をかけてくれた彼女の声は、頭上からではなく

足元の方から聞こえてきた、ということは…

「おはよう大丈夫?」

「なんでお前っ!?」

筋肉質な時点で少し怪しかったが、そこで気が付くべきだった

どうやら俺に膝枕してくれていたのは亜南帆 理央(あなほ りお)だったらしい、なんとも期待外れ。

「よっと」

身体を起こして、軽くストレッチをしてみる。

「……大丈夫だ、刺さらたというのにな…」

「あ、うん、それはアリサのお陰だね」

身体は問題なく動き、腹部の痛みもない、完治のようだ。

「だな、ありが……アリサ?………え?」

銀髪ポニーテールの彼女をアリサと呼んだのは理央だ…んん?

「いや、お前…なんで名前知って?しかも呼び捨て…?」

「あ、うん。それは耀が寝てる間暇だからお話してたからだよ、ね、アリサ」

「無事みたいで良かった!そ!ヨウが寝てる間暇だったからリオと話してたの」

「そ、そうなのか」

俺が知らない間に名前を知られ呼び捨てにされてる辺り大分親しくなったのだろう…だが改めてアリサの方に振り向いて

「よし、んじゃ改めてお礼と自己紹介を、まず、ありがとう助かった、死ぬとこだったよ割とガチで。ほんとにありがとう。んでえっと、自己紹介か…そうだな。俺の名前は、岩犬 耀…ヨウでいい…ってもう既にヨウか。後は…異世界から転送されたからこの世界のことが分かってない無一文…よろしく」

とりあえず軽く自己紹介をして、反応を待つ。

すると首をちょこんと傾げてアリサ

「イセカイ?ってのはよく分からないけど、よろしくねヨウ!じゃあ私も軽く自己紹介しとこうかな、私の名前はアリサ、アリサと呼んでね、世界を旅する旅人で、目的は宝玉(トロフィー)を10万集めて世界の王への挑戦権を手に入れて勝つ!そして王になること。………でも宝玉(トロフィー)を盗まれちゃって……」

今度は俺が首を傾げてリオに問う。

「宝玉ってなんだ?」

リオは、コンクリートに正座したままなのは辛かったのか、よいしょと胡座(あぐら)体勢に移行する。

「ん〜…僕よりアリサに聞いた方が…いいと思うよ。説明も難しいし」

(それもそうだな)

反射的にまだ出会って自己紹介しかしてないアリサよりかは14年の付き合いになる幼なじみのリオに何かと喋りかけてしまう。

なんというか安心感というか信頼感というか、そんなもので。

「えっと…アリサ、宝玉(トロフィー)ってなんだ?」

「宝玉はね、15歳を迎えた時に運営(カミサマ)がくれる物なの。…渡してくるっていうほうが正しいかも。皆最初は1000しか宝玉無いんだけど、〔バトル〕での賭けで10万集めると王への挑戦権が手に入るの。でも宝玉が0になると、宝玉は消えちゃって、王への挑戦権が手に入れられなくなっちゃうんだ。だから私ビビって、まだバトルしたこと無いんだよね…」

「なるほどなるほど…ん?〔バトル〕?」

「〔バトル〕というのは、この世界独自のルールで、何か欲しいものがある時、トロフィーが欲しい時にバトルを申請することが出来るの…バトルではお互いに賭け金(無くても可)と、賭けトロ数を決めて(最低でも1は賭けなくてはならない)、両者その賭けに納得したらバトルスタート。バトルの内容は8対8のタワーディフェンス…3日間バトルを行って勝利条件は3日経過した時により多くの城を壊していた方が勝ち、もしくは先に3つ城を壊した方の勝ちってルールだよ。たまに独自のルールを作ってやってる人もいるけど…」

「──クラロワみたい…だな?」

アリサの話を聞いてみて、なんか面白そうな世界だということは認識できた。だが問題なのは────

「…その宝玉とやら、盗まれちゃったんだよね?」

リオが心配そうに言うと、アリサは立ち上がって、涙目になってしまった。

「そ、そうなの…!どうしよう〜……!!」

「いや、でも待てよ…宝玉って15歳になったら貰えるものなんだろ?じゃあ何故盗む必要があったんだ?」

「きっと、売るんだと思う」

「?う、売る?いやでも…貰えるなら買う必要も、売る必要もないって言うか需要がなくないか?」

売るのだとしても、買い手がいなければそれは商品ではなく展示物だ。

皆が貰えるもの、つまり既に持ってるものもしくは貰える予定のものをわざわざ買うだろうか…?

疑問に思っていると

「基本的には需要はないし買い手も付かないけど…でもごく稀に闇ルートで売買される時があるんだよね…何に使ってるのかは分からないけど」

「何に使ってるか分からないってのがな…でも盗られた宝玉を売られるかもしれないのか…」

そこで遅くもその事実に気が付く…

「って話してる場合じゃなくないか?あの小娘を探さないと」

刺された報復を兼ねて絶対に探し出してやる!腕をブンブンと回して

「んじゃちょっと空飛んで探してみるか」

何者かから授かった空を飛べる能力を思い出したので、それを駆使して空から探してみることにする。

「ん──?」

中々に名案だと思ったのだが、何故かアリサは俯いてワナワナと肩を震わせている。もしかしたら何か勘違いをさせてしまったのかもしれない。

「勘違いするな?俺は鳥人間とかじゃない正真正銘ヒトだ。空飛べるのはこの世界に来る前に何者かに能力を授かってな…ってまぁまだ使ったことないから本当に飛べるかは分からないんだが」

「ヨウっ!あなたもしかして部兵人形(ユニットドール)なの!?」

近寄ってきて、やたら興奮気味に、俺の肩に手を置いてぴょんぴょんと跳ねるアリサ。ただ喜んでいる理由にピンと来なさすぎて困惑顔になってしまう。

「いや…あの…興奮のところ悪いんだが…ちょ、揺れる…!揺れる!!」

「だって!凄いんだよ!凄いんだよ!!」

「お、おう…何が凄いのかは分からないけど、とりあえず落ち着け」

窘めて、とりあえず落ち着くようにと促す。

空が飛べるだけでこんなに興奮するということはもしかすると…

「この世界って〔魔法〕……ないのか?」

魔法があるのなら何も空が飛べるというだけではこんなに興奮したりしないだろう。

気絶する前は青かったが今は薄暗くなってきている空を見上げても、空を飛ぶ亜人や獣人種も見かけない。飛んでいるのは地球でもよく見かける鳥のような生物─至って平和な空だ。

「この世界にも魔法はあるけど…人間で使える人はとても希少で、部兵人形(ユニットドール)と一部の人達だけだから、勿論私は使えないし…」

なるほど、人間は。ということは他の種族は使えるのだろう、そこは流石異世界といったところ、一部の人達って言うのも気になるが、アリサが魔法が使えないということに驚きが隠せない。

何せ、先ほど気絶した時に魔法(?)のようなもので治療してくれたのはアリサだから

「え?アリサ…魔法使ってなかったのか?俺を治療してくれた時に」

服を捲って、刺された部位を確認してみても、傷跡がさっぱりと消えている。こんな芸当魔法で無ければ出来ないと思ったのだが

「魔法を?ううん、私がようの治療に使ったのはこのディアっていう回復薬だよ、首切断とかそういう致命傷以外なら何でも治る万能薬…結構高いんだよ?」

高いんだよ?の部分に少し後ろめたい気持ちになる

旅人と言っていたし、金銭に余裕は無いのだろう、

使ってくれて助けてくれたということにただただ感謝しかない

アリサに向けて手を合わせてペコリと一礼をすると

アリサは手をブンブンと振って苦笑いで応じると、

頬をポリポリと掻いてから

「あのさ、ヨウとリオにお願いがあるんだけど」

「ん?」「うん?」

暫し、「うーん」「でもなぁ」「そんな厚かましい…」

なんてブツブツと呟いてから、俺とヨウの方にハッキリと身体を向けて、

「お願い、私にその力を貸して!」

「……?」「…??」

唐突に力を貸してと頭を下げられた俺達は戸惑ってしまう。

力を貸してとは文字通りこの能力を使って旅の助けをして欲しいとの事なのだろうか

「えっと、それはつまり?」

とリオがアリサにどういう意味かを尋ねる。

「あ、えっと…私の夢は〔宝玉を10万集めて王に挑むこと〕って説明したじゃない?それで宝玉を集める方法はバトルで勝つことって言ったよね?そこでヨウとリオの力を貸して欲しいの。具体的には、バトルでは部兵人形ならではの強さがあって、しかも部兵人形は希少価値が高く、あんまり部兵人形に協力してもらってる者は少ない。だからヨウとリオが居れば心強いし、夢に一歩近づけるの、お願い!どうかその力を私に貸してほしい!」

「俺達が居れば、アリサの助けになるってのは分かったんだが…部兵人形が居ると、なんでアリサに利点があるんだ?そんなに強いのか俺達って…?」

首を傾げて質問する俺たちに、「あ!」と思い出したように慌て出すアリサ

「って宝玉が無きゃ始まらない!!探しに行かなきゃ!売られる前に!」

「っ!そうだな!話し込んでる場合じゃねぇ!んじゃちょっと空から───」

と空を飛んでみようと足をグッと曲げて、さながらスーパーマンの如く空に飛び立とうとした所をガッとアリサに掴まれる。

「そ、それは駄目!!」

「……?んん?」

「ここ人間の街【バルンブルク】では魔法の使用が禁止されてるの!使ってるのをバレたら即逮捕だよ?」

「っまじかよ…んじゃあ歩いて探すしかないわけ?」

「それは急がないとじゃない?尚更話してる場合じゃないね」

「だったね…とりあえず商店街を抜けて、通りに出てみましょ!」

空から一気に見つけるという策が、逮捕という言葉にビビってあっさり断念…、歩いて探すしかないということに一気に脱力感を覚えるが、これもアリサの為だと思い、路地裏から駆け出す。

 

 

 

 

 

「んで。何処に居るかだよな…検討は?」

走りながら横を走るアリサに聞いてみる。

「…そうだね…私もこの街に来て数週間経つけどあの子を見た記憶は───」

うーんと悩むアリサ、その横にはゼェゼェと息を切らしているリオの姿が。

リオは元サッカー部なのだが、今は帰宅部と俺と同じで最近運動を怠っていたので、商店街の人混みの中走るのは堪えるのだろう。

そこでうーんと悩んでいたアリサが急に立ち止まり、

ハッ!と声を上げた。

「────そういえば、病院にこの前来てたような気が…」

「病院?」

「うん!そこに行けばもしかしたらの可能性しかないけど居るかも!」

「もしかしたらの可能性でも有るだけマシだ…、よし行こうぜ、案内頼むぞアリサ」

アリサは頷いて早速また走り出したので俺も続いて走り出す、

後ろでは

「はぁ…はぁ…ちょ、まっ───」

リオが息を切らしていた。

 

 

商店街を抜けて、走ること数分した場所に、大きく読めない文字が書かれた看板の立てられた病院があった。

石造りで出来た建物は、少しばかり汚れてはいるが比較的綺麗で、中には人も結構居るようだ。

「はぁ…はぁ流石に疲れたな……」

「はぁ………ぁ…僕も…」

疲れて膝に手を当て、肩を揺らす俺達2人に対してアリサは「んん!」と手と手を合わせて伸びをする

「良い運動になったかな〜」

この20分走りっぱなしだった状況を「良い運動」なんて言ってのける辺り流石旅人と言わざるを得ない、同い年のアリサに運動量で劣っているのは凄く恥ずかしい話だが如何せん運動をサボってきた2人だ…仕方ないっちゃ仕方ない。

そして2人共に「運動しとくか」と小さく呟いて、身体を起こす。

「うっし…じゃあ、居るといいな、入ってみるか」

「だね…これで居なかったら…もう走れない。いや走るけどさ」

「居て!お願いっ!」



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第3話 金髪小娘を追いかけて

病院の中に入ると、

ズラリと横に並べられた木造の椅子が5つほどあり、

6人ほどがカウンターの中で、順番票を渡したり、診察代や治療費を受け取っていた。

外から見た時は大きく感じた建物だったが、

中に入ってみると小さく感じるのは

大勢の患者のせいだろうか。

地球と変わらず病院では大勢の患者達がワイワイと騒がずに、大人しく静かにしていた。

ぐったりと椅子にもたれかかる患者も居れば、ごほんごほんと咳き込むマスクを付けた患者も居る…

周りを1通り見回した俺は、

「こ、こんな中…、おーい金髪娘ぇ!居るんだろぉおお…なんて、騒げないわな…どうするか」

病院では騒ぐな。と言われた経験を思い出し、どう探すかと悩んでいると、診察室から____

「ッはァ!?んな金用意できるわけねぇだろうがよっ!」

______そんな叫び声が。

そして、同時に確信する。

「この声は…!」

俺達のお目当ての金髪小娘の声に間違いない。

俺達は顔を見合わせて互いに頷く。

「よし、居ることは確認できたな、どうするか?」

乗り込むという選択肢もあるにはあるのだが、あまり騒ぎを起こしたくないのでとりあえず保留。

騒ぎにならないよう、なるべく外で話したいのが本音だ。

2人も同じ考えなのか、ううーんと悩む。

すると、診察室のドアがバァン!と開いて、

「…頼むからあとちょっとだけ待っててくれよ!ぜってぇ金はなんとかするから!!」

中から紛れなくあの金髪小娘が、勢いよく小走りで出てきた。

_____そして、声をかける間もなく外へと駆け出して行ってしまった。ドタバタと音を立てて。

体調が優れない患者たちは、騒がれるのが嫌だったのだろう、その背中を睨んでいた。

「っあ」

「ぁ…」

そして俺達は、声をかけれなかったショックと、周りなんてお構い無しに騒ぎながら外へと駆けていった金髪小娘を立ち尽くして見送り、

ようやく我に返ると…

「お、追わないとっ!」

「!だ、だな」

「あの子苦手なタイプ…」

追いかけて外へと出ていった。

 

 

 

「なっ、年齢制限ゥゥ!?そ、そんなの聞いてねぇぞッ!」

外に出ると、病院の前でなにやら、1人で騒いでいる金髪小娘の姿が。

「ねぇ、あの子、何してんの1人で…」

その姿に少し、関係ないのに心が痛くなったのかリオが俺達に視線を向けてくる。

確かに、1人で騒いでいるその姿はちょっとイタイかもしれない。

しかしアリサはえ?と驚いた顔をして、

「あれは電映通話装置(コール・トーカー)___通称コルトだよ、私は旅人で、電波が届かない場所もあるし月額でお金もかかるしで持ってないんだけど、手頃なサイズで四角い装置で、離れた場所に居ても話せる未来装置……知らなかったの?」

なるほど、つまりはスマホみたいなもんか。

「あ、あー…、分かった。じゃあイタイ奴じゃ、無いってことだね」

「んな事より、早く話しかけようぜ、宝玉(トロフィー)返してもらわないとだろ?」

金髪小娘の近くに近づくと、なにやら肩がふるふると震えていた。

さっき思いがけず聞いてしまったが、なにかの「年齢制限」に引っかかってしまったのだろう。

「おーい、そこの!」

後ろから、声をかけると、ハッとした様子でこちらに振り向く。

心無しか、目元が少し潤んでいる気がする。

そして、俺たちを見ると、ようやく気が付いたのか

「っ!な、なんの用だよ!あの宝玉(トロフィー)はもうアタシのもんだぞ!」

俺達から一歩離れ、そう言ってきた。

しかし、アタシのもんと主張する金髪小娘に、黙ってはい、そうですね。と言えるほどの事情でもないので

「ねぇ、お願い、それは大事なものなの…話だけでも聞かせてくれない?」

少し下手に出て、話をしようと始めるアリサ。

金髪小娘の背丈は、アリサより15cmほど小さいのでアリサは膝をついて話しかけた。

アリサの旅人っぽくない羽衣の服に比べ、金髪小娘の服は薄い布1枚で、まだアレが発展してないからそこまで唆られないものの、発展していたらこの格好はある意味ヤバイと思うくらいに質素な格好をしていた。

金がなんとかって、病院内で騒いでいたし、もしかして裕福な生活を送れていないのだろうか?

「は、話すことなんて…………ねぇ…」

尻すぼみになって話す金髪小娘に、

「何か困ってたから、盗ったんでしょう?事情を話してくれたら協力するから」

アリサが優しく微笑んで金髪小娘に一歩近づく

それに、一瞬金髪小娘が「え」と小さく漏らしてから

「話したら…協力…してくれんのか…?」

「そうね、だから、話してくれる?」

「ああ…出来る範囲で」

「うん、理由なしに盗みをする人なんて居ないんじゃないかな、きっと君も、何か理由があったんでしょ?」

3人とも、頷いて、理由を話すように促す。

すると、金髪小娘は目を潤わせながら、話してきた

「…………なら、話すよ。えっと、まず、アタシはエルゼだ…んで、アタシは見ての通り、貧乏でな…、1日1日を必死に生き抜いてたんだ!毎日必死に爺ちゃんの店の手伝いをしてな…裕福じゃないけど、爺ちゃんとの暮らしは本当に楽しかったんだ…でも、そんな時だった…爺ちゃんが倒れたのは」

初対面の印象はヤンチャそうで、悪戯っ子な印象があった金髪小娘(エルゼ)だが…話しているうちに遂に涙が頬を伝っていた。

「…」

俺達はただ黙って話を聞いていた。

「〔悪性皮膚砕病(バスキケン)〕だったんだ…、爺ちゃんは入院することになってな…、しかも悪性皮膚砕病はそこまで認知度も高くなく、治療も発展してる病じゃないそうでな……それはそれは高い治療費を請求されちまってるんだ…勿論んな金ねぇしで、悩んでたところに、政府が声をかけてきたんだ「金を貸してやろう」ってな」

「…」

「んで、アタシはその時本当に切羽詰まってたしで、政府から金を借りちまったんだよ…、でもそれでも爺ちゃんの治療費は足りなくて、どうしたらいいかと政府に尋ねたらこう言うんだ、宝玉(トロフィー)を「闇ルートで売ったらどうだ?」ってよ。でもアタシには宝玉をまだ配布されてねぇし………んで、まぁ…そこの銀髪の宝玉を掠めたって理由だ…」

「そういう理由だったのね…」

黙って聞いていた俺達だったが盗られた理由があまりに悲しい経緯で、盗まれた本人のアリサでさえ悲しい表情になっている。

しかしそれはそれ、これはこれだ。

「確かにそっちの事情はよーく分かった。でも、だからといって黙って宝玉を売られるわけには行かないんだ、そこの銀髪姉ちゃんの大切なものだからよ」

エルゼは、掌サイズの宝玉をポケットから取り出して、俺達の方に差し出すと

「ただでアタシも返すわけじゃねぇ。手伝ってくれるって言ったよな?」

「ああ…手伝うって言ったな…で、何をすればいいんだ?」

「実は爺ちゃんの治療費は既に払い終えてるんだ、でも政府に借りた金を返せてねぇ…十万ぺリス足りねぇんだ…だから、十万ぺリスをアタシにくれたら返してやることにする」

そう言ったエルゼを見て、俺達は自分の財布を取り出して、エルゼに見せる

「ごめんね…私も旅人で、ぺリスに余裕はないの」

「俺はこの硬貨と紙幣しかない…というわけで無一文」

「僕も同じく素寒貧」

「ダメじゃねぇかっ!じゃあ交渉は決裂!」

俺達の金は無い発言を聞いて、そそくさとポケットに宝玉をしまうエルゼ

だが俺には考えがあった。

アリサが言っていた事を思い出していたのだ。

「じゃあアタシは忙しいんだ、じゃあな!」

もう話は無いとばかりに、去っていこうとするエルゼの肩を俺は掴み

「ちょっと待て…、俺に考えがある」

ウザそうに顔をしかめたエルゼに俺は憎たらしい顔でそう告げた

「な、なんだよ考えって…金(ぺリス)は無いんだろ?話はおしまい!じゃあかな!」

「まぁーて、待て待て…待てって。お前、この世界の【ルール】忘れたわけじゃないだろ?金が無いのなら稼げばいい、それも働かずにな」

「はぁ?」と何言ってんだコイツと呆れ顔でエルゼは肩に乗せたままの俺の手を退かす。

「働かずに稼ぐだァ?んなこと出来るわけ___」

エルゼの言葉を遮り俺が

「出来る。【賭け】で金(ぺリス)を賭けさせ、勝てばいいのさ。それがこの世界のルールだろ?欲しいものがあるなら、勝利して手に入れろ…違うか?」

「いや…確かにヨウの案は良いんだけど、こっちは何を賭けるの?金はお互い無いのに…相手が十万ぺリスも賭けてくれるかしら?」

「ふふん、こっちは()()()()()()()()()良いんだよ___だが」

と、俺の発言に、アリサは益々困惑顔で

「そ、それじゃあ尚更十万ぺリスなんて賭けてくれるはずないじゃない?!」

「だろうな、それだけじゃあ賭けてくれないだろうな、だが、もう一つ賭けるものがあったはずだ…そう、俺達は賭け金は無しだが、逆に()()()()()()()()()()3()0()0()()()()()()

「あっ!」と手をポンと叩いて、アリサは納得する。

「それなら、賭け金が無くとも、賭けトロが多いから、王を目指している者ならノッてきてくれるかも?!」

「そうだ、な?これなら勝てば十万ぺリスだ…悪い話じゃないだろう?」

俺がニヤリと微笑んでいると、隣でリオが

「ほんと、こういう時だけ頭が切れるよね」

「褒められてる気がしない」

そんなやり取りを交わす俺達の前で、エルゼは「ぬ…」と、腕を組んで険しい顔で悩んでいた。

「なぁ…別に悪い話じゃないだろ?さっき聞こえちゃったんだが、お前…年齢制限が何かに引っかかってるんじゃないのか?」

その言葉に「んぐっ!」と明らかに図星を付かれた顔をして、「た…確かに…年齢制限で…どうにもならないし…」

そして、エルゼがポケットからまた宝玉を取り出して

「よし、分かった…取引だ、その【バトル】をやるには宝玉が必要だろ?だから一旦返してやることにする、ただ返したらそのまま逃げられたなんて事になっちゃぁアタシも流石に困るからな、アタシも一緒に行動させてもらうぞ!正直、この宝玉を闇ルートで売って、政府にその金渡そうって計画してたんだが、闇ルートの販売は年齢制限で出来なくてな…困ってたんだ…助かるぜお前ら」

にしし!と悪戯っぽく笑うエルゼにリオは真顔で、

「いや、エルゼの為にやるんじゃなくて僕達の為にやるんだよ。まぁ正直盗まれたものを取り返すのにアリサの宝玉(トロフィー)を300賭けないと行けないってのはちょっとアリサに申し訳ないけど…」

確かにアリサの許可なく色々と決めてしまっていた…、アリサの許可を得なければこの方法では宝玉を取り返すことは出来ないのだが…

とアリサを見ると

「あ、気にしないで!盗られた私も悪いとこあるし、それにバトルで賭けたトロフィーは勝てば減らないし!私にはヨウとリオっていう部兵人形(ユニットドール)も居るから!」

そう言ってくれたアリサにペコリと、勝手に決まってしまった無礼の謝罪と、感謝を込めて手を合わせ頭を下げる。

「ん、そうだ、バトルとか、部兵人形とか…あんまり詳しく聞けてなかったな…改めて教えてくれる?」

大雑把な説明しかされていなかったことを思い出して、詳しい説明を求める

「あ、そうだったね…じゃあえっと、メモ取れるものあった方が良いかも!」

メモを用意した方がいいかもと言われたので、バッグから筆箱を取出してシャーペンを手にする。そしてルーズリーフが丁度あったのでそこにメモを取ることにした。

「うん、じゃあ説明するね

 

 

【バトルでは賭け金と賭けトロをお互いに賭け行う】

【勝利した方は賭けを貰え、負けた方は失う】

【8枚ずつユニットor魔法カード選びデッキを作る】

【何かユニットor魔法カードを使うには指揮官の燃料(エリクサー)を消費する。体力は時間とともに回復する】

【城を3つ先に壊すor3日間経過した際に城を1つでも多く壊していた方が勝ち】

【基本NPC(ユニット)を指揮官が動かし戦うが、例外として部兵人形(ユニットドール)が存在する】

【部兵人形はスキルを所持していて、生存中1度だけ使用可能】

【死亡した場合は、指揮官がもう一度体力を消費することで復活が可能。その際はもう一度スキルが使用可能になる】

【部兵人形は指揮官の指示を聞いて動くか、自分の意思で動くことが可能】

【部兵人形は攻撃目標〔対建物〕や〔対地/対空〕を持たない】

【3日間経過しても城が両者1つも壊せていなかった場合は先に城を1つ壊した方が勝ちというサドンデスルールに移行する】

【バトル中は、不眠不休、食事無しでも活動できる】

【バトル中の不正、違法行為、チート、イカサマは発覚した場合運営にBANされる。BANされた場合、相手の不戦勝となり、宝玉は運営に没収される】

 

 

が大まかな説明…分からないところあったら質問して?」

ゆっくりと説明してくれたので聞き漏らしなくメモが取れた…。

手が痛くなったのは内緒にしておこう。

シャーペンを筆箱に入れ、バッグにしまう。

「質問、部兵人形が所有するスキルって…?」

リオはまだメモ帳を手に、アリサに質問する。

スキル…確かによく分からなかったな…俺も聞いておこう

「あ、スキルっていうのは…各自部兵人形が持つ技みたいなもので…どんなスキルを保持しているのかはバトル開始前にならないと分からないんだけど…」

「なるほど、バトル開始前にならないと分からないのか…分かったありがとうアリサ」

リオは満足したのか、バッグにメモ帳とペンをしまって背負う。

「さて、とじゃあヨウ、アリサ……エルゼもだっけ?とりあえずバトルを受けてくれる人を探しに行かないと!」

「だな」

「うんっ!」

「アタシも付いてくかんな?逃げられたりしたらまじで洒落にならんし」

エルゼが手にしていた宝玉をアリサの方に差し出して、アリサは立ち上がりつつ宝玉も受け取る。

「うんっ、ありがとう!絶対十万ぺリス勝ってゲットするからね!」

3人と1人、まずはやはり賑わっている商店街の所に行って探してみようという意見で一致し、商店街へ。

だが、この作戦____1つ欠点があった。

 

 

商店街へ行くとやはりワイワイと賑わっていた。

だが相変わらず、店の文字は読めない。

「んで、どうやって探すかだよな」

「バトル開始方法が分からないからなんとも…ってそうだ、バトル開始方法とバトル中の様子を教えてほしい!」

ヨウがアリサの方を向いてそう質問する。

「あ、うん、バトル開始方法は声をかけて、バトルの賭けをまず両者決めて【バトル申請】をすればいいんだよ、でもバトル申請には宝玉が必要だから今バトル申請出来るのは私だけだね」

「バトルをするには宝玉が必要…ってそういうことか」

「ふんふん、バトル中はどんな感じなの?普通にもしここ商店街でやるなら商店街で【バトル】をするの?」

「ううん、バトル中は参加者である【指揮官】と【部兵人形】と【観戦者】の意志だけをバトルフィールドと呼ばれる異空間に転送されて行われる。じゃあ現実の私達はどうなるのか、それはあの人達を見てくれれば分かるよ」

そう言ってアリサが指差した方向には、二人の男性が何やら淡く光った球体のドームらしきものに包まれていた。

「あの人達は現在バトル中、意識がない植物人間状態になってるはず、でも大丈夫…あの淡い光のドーム__安全空間状態(セーフルーム)___の中の居るから安全!あのドームは外から刺激を与えても、何をしても、弾き返される絶対防御の空間になってるから!」

なるほど、俺達が見ている2人は本当にピクリとも動か植物状態…だが、あの空間の中にいる限り安全…か。

だが、バトルは最大三日間と呼ばれていた___その間食事や水分補給は…?

そう疑問に思い質問してみる

「なぁアリサ。あの中に居る人達は意識が無いんだろう?でもバトルは最大3日行われる、その間飯とか…どうするんだ?」

「それは大丈夫!あの空間にいる限りお腹が減ることも無ければ餓死することもないし、干からびる事も無い。あの空間は文字通りセーフルームだから」

「なるほど…じゃあバトル終わって現実に戻ってきたら死んでた!なんて事はないわけだ」

「うん、そこは安心して大丈夫」

よし、と一通り今現在質問したいことはなくなったのでズラリと店や屋台の並ぶ商店街を歩きながら、バトルを受け付けている人を探してみるが____

「………全然居ないな」

_____全然居なかった。皆のほほんと買い物を楽しんでたりして、バトルをしてくれそうな気配もない。

あ…あれ…?俺のイメージ的には、バトルばっか行われて欲しいものは力づくで手に入れる…そんな世界をイメージしていたのだが。

「全然居ないね…」

「おかしいな」

そこでこの作戦の欠点を理解してしまう。

「おい、アリサ…まさか…まさかだが…」

ワナワナと震えた手と顔で、アリサを見る。

一息すぅっと吸って、険しい顔つきになり俺は

 

 

「この世界!全ッ然王目指してる人居ないんじゃないのかァッ!?」

 

俺がアリサに向かってそう叫ぶと、

一瞬周りを歩いていた家族連れや、通行人に「?!」みたいな顔で見られるが、関係ない!

この世界の事実を確認するのが優先だ

だがそんな迫真の顔した俺に対し、アリサはのほほんとした顔で

 

 

「あ、うん、あまり【人間種】(ヒュマニド)で王目指してるっていう人は居ないんじゃないかな。人間種(ヒュマニド)は全種族の中でも1番弱い種族だし…、王にはなれないって諦めちゃってる人が多いから…特にここ【バルンブルク】では裕福な人達も多いし今の生活に満足してる人たちが多いから…王にはならなくていいやって考えの人たちも多いかも」

あっさりと肯定してきた。

________なるほど…よく分かった。

人間種の殆どは、諦めてるわけだ。

_______弱小の故に。

そしてここバルンブルクでは、王になるのを志さない人たちも居るわけだ。

______裕福たる故に。

ガクリと商店街路上の真ん中で膝をつき落胆す俺。

「……やべぇ…どうしよう」

初めてあった第一村人が王を志している者だったから、てっきり殆どの人が目指してる者だと思っていた。

だからこそ、エルゼに対し10万ペリスを用意する、してやると意気込んだ訳だが…

欠点があったようだ。

_____バトルしてくれる人が居ないんじゃあ…用意することも出来ない。

「……………なぁ、そういえばまたひとつ質問が出来た」

膝をついてとうとう、頭を下げ前のめりに腕さえも地面についてアリサに問う。

「う、うん…いいけど…通行人の邪魔になっちゃうし、とりあえず立って…?」

促されるまま「ぁあ…」と力なく立ち上がる。

「……じゃあ質問だ。【王になったらどうなるんだ?】」

そこが分からなかった。

王になる。王を目指す。と聞いてはいたが、

王になってどうなる___!?

そのこの世界での核の部分をついた質問に、アリサはまたものほほんと答える。

 

 

「【王になったら___願いがなんでも叶う】だから私は王を目指してる叶えたい願いがあるから」

 

 

「「願いが……なんでも…?」」

被る俺とリオの声。

「アリサは王を目指してる…王になったら、何を願うんだ?」

「それは内緒」

内緒と答えたアリサの顔が少し強ばった表情になったが…

流石にそこを付けるほどまだ親しくもない。

とりあえず今はこの状況をなんとかしないと…。

「ああ…バトル誰かしてくれないと困る」

そんな時だった_____。

商店街の奥の方から

「だ!誰かァバトルを!バトルを行ってくれェェッ!絶対…絶対に俺は王になるんだァァァッ」

と叫び声が聞こえたのは。

4人バッと顔を見合わせて、

「居た!」と叫ぶと同時、奥を目指して駆け出した




どうも青空 優成です
今回のプロローグでいよいよ色々な情報や設定が浮き彫りになりました。
そして、エンディングの構成も出来上がりました。
いつエンディングになるのかは分かりませんが
とりあえず【そこ】に行き着くまでの物語を描いていきます。

さて、ようやくプロローグが書き終わりました。
いよいよ次回は【バトル】に入っていきたいと思います。
戦闘描写下手なんだよなぁ…ガクガクブルブル…
まぁそこは初心者ってことで多めに見て欲sy………(パタッ
ではまた次回でお会いしましょう!




■1話に1回自己紹介のコーナー
勿論ラヴァ使い


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第4話 初めてのバトル

声のした商店街の奥の方に行くと

ムキムキマッチョの某モンスターハン○ーの鍛冶屋みたいな男がそこには居た。

通りゆく人々に「バトル!!バトルゥゥゥッ!」

と声をかけているが、奇異なものでも見るような目でスルーされている。

横に居るアリサとその横のエルゼも同じように冷めた目で見ていた。

ただ俺達はこの男に声をかけなくてはならないのだ…

「よし…行くか…」

他にバトルをやってくれそうな人は居ないし、しょうがない。

「そ、そうだね」

アリサも若干引いたまま同意して、俺達は男へと近づいていく。

男はこちらに気づき、今までと同様俺達に

「ば、バトルお願いだあああああっ!!」

声をかけてきた。

道行く人々の視線が俺たちに向けられているのが分かる

俺は男の顔を見て、若干死んだ顔で言う

「ああ、バトル頼むよ…」

「「な!……!」」

通行人達と、男の声が被る。

全員もれなく驚いてるみたいだ。

「……いいんだな?」

「うんっ!お願いします!」

「じゃあ、そうだな…バトルの【賭け】を決めよう、お互い納得したら…バトル成立だ」

「うん。分かった、それではまず私の方の要求は【賭け金 10万ペリス】」

と、いきなり10万ペリスを要求するアリサに男は驚き

「はぁっ!?10万!?じゃあこっちもそれなりに要求させてもらうぞ?」

「こちらの【賭け金は 0ペリス】」

そして追い打ちのようにこっちは何も賭けん宣言に男はとうとう呆れ始める

「はぁっ!?0!?いやいや待て待てェッ!おかしいだろ!辞めだ辞めェ!バトルは成立しな------」

しかしその言葉を遮りアリサ

「でも、私の要求する【賭けトロ】は最低賭けトロの1でいい…そしてこっちの【賭けトロは300】賭ける…どう?貴方の叫び声をさっき聞いていたけど、王になりたいんでしょう?それならこの300トロは悪い話ではないと思うけど?」

「300……トロ…だと…!?」

その提案に男が下を向いて何やら計算を始める。

すると、顔を上げた時には最初と同じように「やったぜ」という顔をしていた

「よし、いいぞ、その賭け条件で…んじゃあさっさとバトルやろうぜぇぇッ!」

「うん!」

アリサが応え、バトルの準備を始める。

男もそれを見て、バトルの準備を始めた。

お互いに宝玉(トロフィー)を取り出し、目の前に差し出す。

そして宝玉を持ったいない方の手で相手の宝玉に触れて、唱えた。

 

 

「「クラッシュ!バトルッ!」」

 

 

すると、宝玉からブゥゥンと淡い光が漏れだして、俺たちを包み込む。

そして包み終えた瞬間に宝玉から無機質な声が流れ始めた。

「警告--------ここでバトルを行うと、他の方への邪魔となります、近くの空き場へと移動させても宜しいでしょうか?」

「だ、誰の声!?」

いきなりの知らない人の声でリオが驚く。

「これは運営(カミサマ)の声だ…知らないところを見ると、バトル初心者か?」

ムキムキマッチョの男がリオに顔を向ける。

「あ…はい…初めて…です」

俺とリオは勿論の初心者だ。

そしてアリサも、初心者って言ってたな。

「そうか、手加減はしないからな」

内心カモだと思っているのだろう男はほくそ笑んだ。

だがそうはならない。俺達は部兵人形(ユニットドール)…相手は1人だったのを見ても部兵人形が居ないのは明らか。

「(この初バトルは俺達次第だな)」

グッと両手を握り込み、静かに闘士を燃やす。

あまり運動は得意ではないし、好きでもないが、

勝敗がつくゲームや戦いは別だ。

基本楽しめばいい〔快楽主義者〕の俺も、

本能的に、勝たないとつまらないのは分かっているからな。

そんな事を考えているうちに周りの景色は商店街から、人気のない路地裏へ変わっていた

「それでは両者【賭け金】【賭け宝玉(トロフィー)】を設定してください」

またも流れてくる無機質な運営の声。

「こちらの【賭け金は0ペリス】【賭けトロは300】ね!」

「こちらの【賭け金は……10万ペリス】【賭けトロは1】だ」

お互いに賭けるモノを宣言して、宝玉に触れる

淡く光を放ち続けていた宝玉はその宣言に色をより一層濃くした青い色を放って、すぐに元の淡い光に戻る。

濃い色に変わることで、承認との事だろうか?

「両者その賭けで宜しいですか?」

「うん」「ああ!」

「両手の承諾が確認されました。それではバトルの設定を始めます-------」

「アリサ陣営の指揮官を選出してください」

指揮官を選出しろとの命令が下され、勿論こちらはアリサを選出する

選出されたアリサは宝玉に手を触れて、またも宝玉が色濃く変わって元に戻る。

「【アリサ】が選出されました-----」

「それではアレス陣営の指揮官を選出_____、自動的に【アレス】が選出されました」

男の名前が判明、アレスというらしい如何にもムキムキって感じの名前だった

そして1人しかアレス陣営には居ないので自動的にアレスが選ばれたといった感じだ

慣れているのか余裕の表情でアレスは首に左手を当ててグキグキ鳴らしていた

「!-----------アリサ陣営に部兵人形を確認しました。参加しますか?」

「ああ」「もちろん!」

「【ヨウfeetラヴァハウンド】【リオfeetディガー】が選出されました」

「--------それではバトルを開始します」

と、バトルがいざ始まる!といったことろで1人の男が叫んだ

「ッ!おおおおおぃいっ!聞いてねぇぞぉ!!部兵人形が居るなんてよォオ」

見るとアレスが先程とは打って変わって焦った表情に変わりながら地団駄を踏んでいた。

しかし俺は冷めた表情でアレスを見て言い放つ

「そういうのはバトル開始前に確認しとかなきゃなぁ?まぁ、そっちは何回かバトルやってて慣れてるみたいだし、こっちは初心者なんだからそれくらいのハンデはあってもいいんじゃないスカ?」

「くっ、…いや、でもそっちは指揮官も見た感じ初心者だし…そうだな、まだ勝機はある」

指揮官がどれくらい重要なのか俺はまだ分かっていないがきっと重要なのだろう。

そしてアレスも言った通り、アリサは初心者だ。

このバトルはクラロワに酷似しているし、少しでもアドバイスをしといた方がいいな。

そう思い、横にいるアリサに耳打ちをする

「極力燃料(エリクサー)は俺とリオに使え、あと無闇にNPCユニットを出すなよ?俺達の声がお前に届くのかは分からんが…とにかく----------」

しかし言い終わる前に視界が真っ白に包まれてしまう_____。

「(な…)」

声に出そうと思った言葉は声にならず、宙を舞う。

そしてフワフワと意識は飛んでいってしまった。

 

 

「バトルフィールドに到着しました。それではお互いにデッキを構築してください。尚、部兵人形は入れても入れなくても構いません」

目が覚めた時、そこは神殿のような場所であった。

立ったまま寝ていたらしく、棒立ち状態。

先に目覚めていたのか、アリサ、リオ、エルゼ、アレスの4人は俺から少し離れた前に居たので慌てて駆け寄る

「っと、悪ぃ悪ぃ…」

「揃ったね!よし、じゃあ…バトルを始めよう」

「------------バトルを開始します」

目の前にデカいモニターのような物と、端末のようなものがアリサとアレスの前に登場した。

画面には、所持カードと括られた一覧と、八つの空いたパネルが表示されている

「(まんまクラロワっぽいな…)」

どうやら所持カードから8枚カードを選び、パネルに埋め込んでデッキを作れとのことらしい。

アリサとアレスは両者画面が見えないように移動すると神殿内に分厚い壁が出来て、アリサ陣営とアレス陣営がキッパリと別れる。

これでお互いの声は聞こえないし、姿も見えない。

アリサは初心者だからか所持カードが少なかった…これではデッキの構築の幅も狭まってしまう。どうやって新カードを入手するのだろうか。

だがそれでも救いはクラロワと違い、レベルという概念が存在しないことだろう。

言うなれば、レベル統一状態。

レベル差にごり押される悲しい事件は起こらなそうだ。

アリサが作成したデッキは

「ヨウ(ラヴァ)、リオ(ディガー)、ジャイアント、マスケット銃士、ナイト、アーチャー、ファイアーボール、矢の雨」

アレスが作成したデッキは分からないが、これが最善だと俺も思う。

とりあえずまんまクラロワということが分かったので、別にクラロワ上手くはないが簡単にアドバイスでもしといてやるか

「アリサ、よく聞け」

俺が教えたのは

「燃料はなるべく俺とリオに使うように」

「無闇にファイアーボールや矢の雨を打つな、ジャイアントなどのHPが多い敵には絶対に打つな」

「なるべくジャイアント単体じゃなく、ナイトでもマスケでもアーチャーでも…他のユニットを後ろに付けろ」

のたったの三つだけだ。

アリサはうんうんと頷いて聞いてくれていたからきっと、初心者でも下手なりには指揮してくれるはずだ

俺は「まぁ」とポンとアリサの肩に手を置いて

「そこまで緊張する事は無い。俺達がなんとかする」

「う…うん…」

ブーッ!とブザーのような音がした後、

「お互いデッキが完成した事を確認しました。それではバトルを開始します_____」

アリサの持つ端末に、

アリサの残り燃料(エリクサー)

マップ

現在の所持手札と次に廻ってくるカードが表示されている。

今回のマップは平原、相手の城が自分の陣地から見えているオーソドックスなフィールドだ

これなら相手の位置も分かるし対策も立てやすい。

「じゃあ、ヨウ!お願いね!」

「おう」

アリサは手札にあった俺を体力7消費して召喚した。

俺は神殿からワープして、アリサの端末から眺めていたマップと思われる場所に飛ぶ。

 

 

一瞬の間にして、石造りの神殿から草生い茂る野原へと転送された俺は、横にあるサイドタワーに近寄る。

「(なるほど、部兵人形(ユニットドール)は対地対空対建物などの攻撃目標が無いと聞かされてはいたが、本当のようだな、自由に動ける)」

サイドタワーは一周にしておよそ10メートルくらいの大きさで、中には梯子があるだけ

サイドタワーの上には弓兵らしき者が居る。

多分クラロワ同様近づいてきた敵を狙撃するのだろう。

コンコンと表面と叩いてみる、どうやらハリボテではなく本物の石建築。

周囲を見渡してみると、平線上の反対側にもうひとつサイドタワー、右斜め後ろにメインタワーと思われるサイドタワーに比べ大きな建物があり、相手のゾーンにも同じ構成だ。

「(ようっ!大丈夫?!私初めて部兵人形使ってから心配…)」

脳内に直接アリサの声が響いてきた。

一瞬驚くも、戦場であることを意識し、最低限のリアクションに留める。

「(アリサかっ!?どうして会話が出来る?)」

「(ヨウを召喚してから運営の声に指揮官(プレイヤー)と部兵人形は戦闘中でも会話が出来るって言われたから試しにやってみたの!本当に出来た!)」

「(なるほど、これなら多少のアドバイスを出来る上に、第三者目線としての情報を受け取れ、大分有利になるな)」

「(あ!そうか!そっちだと相手の様子とか分からない感じ?)」

「(いや、そういう訳では無いが…)」

ここのフィールドは、シンプルな構造で、建物が3つあるだけ、相手の様子は丸わかりだが、ここのフィールドがそういう構造をしているだけであって、他のフィールドでは障害物などで相手の様子が分からない状況になるかもしれない。そんな時には天の目であるアリサの情報は大変貴重と考えての発言だったのだが。

「(まぁとりあえず今燃料(エリクサー)はどれくらいある?)」

「(ずっと10のままだね)」

「(いや使えよッ!)」

確かに上級者は相手が動くまで先に動かないという話を聞いたことはあるが…

もう既に俺を召喚してしまって動いたのだし、動かず体力を温存するのは良い手ではない

「(うーん…でも燃料は温存したいし…)」

「(燃料は時間とともに回復するんだから使わない方が勿体ないだろう…それに相手はまだ部兵人形である俺を出したのにも関わらず何もしてこない、今のうちに攻めるのもいいと思うぞ?)」

「(そうだね!じゃあ、リオを召喚っ!)」

俺の目の前にリオが穴を掘って召喚される。

「ぶばァっ!」

穴から飛び出たリオはスコップ片手にロウソク帽子、服は作業服とthe炭鉱夫みたいな格好をしていた。

「あれ、穴掘ってたのに疲れてない」

「登場モーションで体力を消費するのは流石に理不尽だろ…っていうか部兵(ユニット)に体力という概念は存在するのか?」

「どうなんだろ…でも攻撃力、体力はfeet〇〇と同じらしいよ…だから例えばヨウが一撃でビルを崩壊させられるほどの打撃力の持ち主だとしても、ここではラヴァとしての打撃力が反映される…つまりは攻撃目標が自由だけど、敵部兵を殴っても倒すことは厳しいってこと」

なるほど、まぁ流石に攻撃力、体力が現実のものが反映されていたらそれはそれでバランスが崩れてしまうしな…

俺なんて体力無いからすぐ死ぬし…。

そんな事を話している間にアレスはジャイアント____

 

ブクブクと太ったおっさん顎横髭が長い盾型ユニット

レアリティはレア。コスト5

【攻撃力/211】【体力/3344】

【攻撃速度/1.5秒】【射程/近接】____

 

を召喚したようだった。

アレスは部兵人形が居ないから全てNPC、ジャイアントは対建物だから俺たちを殴ってくることはないが、放っておくと城を壊されてしまうな。

いよいよ本格的に初めてのバトルが開幕しようとしていた-------




投稿が少しばかり遅れてしまいました。
今回から少しずつペースが落ちていくと思ってください。
理由は来週に定期テストが迫っているのと、それが終わると色々と行事が詰め込んでいてあまり執筆出来る時間が取れないからです。
ですが暇な時間を見つけては執筆したり、プロット帳に展開構想を書いたりとしていますので、どうかゆっくりとお待ちください。

主についてのワンポイントコーナー

チャット大好き勢


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第5話 ユニットドールのスキル

今回から苦手なバトル描写です(泣)
苦手というのもありますがリアルが忙しく投稿が遅れてしまいました
ですがやれるなりに頑張ったのでどうぞお読みください。


ラヴァハウンド(ヨウ)__空飛ぶ魔犬。
死ぬと6体に弾ける。レアリティはウルトラレア。コスト7。
【攻撃力/45】【体力/3000】
【攻撃速度/1.3秒】【射程/2】


ディガー(リオ)__最初から相手フィールドに登場することが出来る。
レアリティはウルトラレア。コスト3
【攻撃力/160】【体力/1000】
【攻撃速度/1.2秒】【射程/近接】
ただしタワーに与えるダメージは【攻撃力/71】


「ふう、やっぱり俺の攻撃力は宛にならないな」

俺(ラヴァ)とリオ(穴掘り師)に加えてナイト____

 

 

名前の通り騎士

性別は男(髭生えてる)体力、攻撃力とやや高い。

手には剣を持っていてそれで相手ユニットを殴る

レアリティはノーマル。3コスト。

【体力/1399】【攻撃力/159】

【攻撃速度/1.1秒】【射程/近接】____

 

 

の3体でジャイアントを殴っていたが、俺の攻撃力は雀の涙程で俺単体では凄く時間がかかっただろう。

しかも現実とは違い殴った後、次に殴れるようになるまで少しインターバルが発生してポコスカとは殴れない。

部兵人形(ユニットドール)と言うのだから、攻撃力低くても手数でなんとかなるっしょ的な考えだったが、そうもいかなかった。

具体的に言うと俺が殴った後1.3秒間は殴ることが出来ないのだ。

だがなんとかリオとナイトのお陰でサイドタワーにノーダメージでジャイアントを倒すことが出来た。

「ふぅンッ…」とか言いながらジャイアントは雫となって砕け散った

ジャイアントを出してからは追加ユニットを出さず何もしなかったアレスは何を考えているのだろう。

考えられる要因は3つ。

ひとつ、手札が悪くジャイアントは捨てカードとして使用した。

俺もたまにやる行為だ、ラヴァハウンドを使っていると手札が事故る事が多い、よって今は必要無いなと思ったカードを捨てて手札を回すのだ。

ふたつ、俺達の様子を伺っていた。部兵人形は珍しいものと予めアリサが言っていたからな。きっとアレスも俺達がどんな風なのか確かめたのだろう。

みっつ、単純にアレスが下手くそ。これは多分無いだろう、先ほどチラリと見えたがアレスの所持宝玉(トロフィー)は5780だった。一番最初に支給される宝玉は1000、下手くそが5780まで貯められるとは考えにくい。

「ん?どうしたの?」

「いやなんでもない、それよりリオ、やはり穴掘りはタワーに対してのダメージは低いがそれでもユニットに対してはナイトと同じくらいある、俺と違って防衛でも役に立ちそうだな」

「まだ慣れないけどね、あんまり人に対して殴ったこととか無いし」

「相手は人間じゃない、ユニット…NPCだ、気負う必要はない、存分に殴ってくれ。俺の代わりに」

「う、うん…頑張る」

本来リオは人に対して殴る蹴るをしない優しい人間だからか、NPC相手でもそういう行為は苦手なみたいだ。

だがそれでもしっかりとインターバルが切れればすぐさま殴ってくれる様子は凄く頼もしい

代わりに俺が殴ってやりたいくらいだ、まぁ俺も一応殴ってはいるんだが…ダメージとしてはもうほんと無いに等しいしなぁ…

「ヨウっ!次、何すればいい?」

アリサから声が脳内に届く。

いちいちビックリしてしまうなこれ…まぁ慣れだな…

「そうだな…」

未だアリサは俺とリオを召喚、そして俺が指示したナイトしか召喚していない。消費した燃料(エリクサー)もきっと時間経過で溜まっている事だろう

なら、1つサイドタワーを落としに行くか。

「今ナイトが橋を渡ろうとしているだろ?その前にジャイアント」

と俺が指示するとすぐさま橋前にジャイアントが召喚される

「の後ろにマスケット」

ジャイアントと俺とリオの間らへんにマスケット銃士と呼ばれるユニット_______

 

 

その名前の通り銃を手にしたユニット、性別は女。

攻撃力、体力は高くもなく低くもない普通だが、地と空両方殴ることが出来るユニットでもある。

射程も銃だから長く、少し離れた位置からも相手ユニットを殴ってくれる。

レアリティはレア。4コスト

【体力/598】【攻撃力/176】

【攻撃速度/1.1秒】【射程/6】

 

 

________が召喚される。

よし、ジャイアントを盾に俺、リオ、ナイト、マスケット銃士の艦隊だ。空が来ても俺とマスケット銃士で対応できる。ジャイアントが死んだら体力には定評のある(ラヴァハウンド)が今度は盾になるという2段構えの布陣だ。

完璧すぎる。

流石にアレスもなにか行動してくるだろう。

ジャイアントが橋を渡って相手のサイドタワー上の射撃兵にターゲットを取られ撃たれ始める、それを見計らったかのようにアレスはナイトとミニペッカ____

 

 

機械型ユニット。

可愛い性格とは裏腹に鋭利な剣を振り回す。

攻撃力がナイトよりも高いが動きが鈍い。

レアリティはレア。コスト4

【体力/1056】【攻撃力/598】

【攻撃速度/1.8秒】【射程/近接】___

 

 

を召喚してジャイアントを倒そうとする。

俺とリオはマスケット銃士とナイトを追い越し、ジャイアントを「ウィンウィン!」と機械音を鳴らしながらジャイアントを斬っているミニペ(ミニペッカ)を殴り始める。

俺達が今やることは、ジャイアントが一撃でも城にダメージを入れられるように邪魔するミニペッカを倒す事だ。

補足しておくと、何故本来動きの遅いラヴァ()がマスケットとナイトを追い越せたか。それは簡単な理由、俺達が部兵人形だからだ。

部兵人形には、攻撃目標が無いように移動速度にも制限は無い。

俺が勢い良く振りかぶり、ミニペッカの頭を殴る

「っ〜!!」

まるで鉄を殴ってるような感覚に襲われた。痛い。

このフィールド上では、現実の俺の体力、攻撃力は反映されない。

だが走るや殴る蹴るなどのモーションを行うと息が切れたりはする。

リオが召喚された時「穴掘ったのに疲れてない」と言っていたがそれは召喚モーションだったかららしい。

そして感覚神経もある。

つまり今俺がミニペッカの頭部分を殴ったが、鉄仮面を被っているため殴ったことにより痛いという感覚に襲われたのだ。

だがそこまでの痛みではない。現実で鉄を本気で殴った時の痛さに比べたら10分の1程度だろう。

まぁ部兵人形は攻撃目標が無いし意思疎通も出来て自由に動ける。それだけでも強いのだが…更に()()()と呼ばれる特殊能力を所持している。

これ位のデメリットはあって当然か。

ただ覚えていてほしい。感覚が無いわけではない、と。

「ふうん……」

「ウィンウィン♪」

全力で殴ったが、先ほど述べたように現実の攻撃力は反映されず、一定のダメージしか与えられなかったのでミニぺを倒すには至らなかった。

ジャイアントが雫になり、標的を倒すことに成功したミニペは次に近くに居たリオ目掛けて振りかぶってきた。

「あぶねえ!避けろリオ!」

俺は咄嗟にリオを突き飛ばし避けさせた…だが突き飛ばした際に前のめりに出てしまった首部分にミニペの剣が振り下ろされる

「ぐっ!」

ミニぺはダメージが高いからな…俺の体力ゲージが目に見えて減ってしまった。しかもなんかチクチクするし…。

──ラヴァハウンドは空ユニットで空を飛んでいるはずだろう?じゃあ何故地上キャラしか殴れないはずのミニペに斬られているんだ?お前はラヴァハウンド(空ユニット)だろうが。そう疑問に思った人も居るかもしれない。

しかし部兵人形であるはずの俺は空を常時飛べていない。俺も最初は疑問に思った…というより今も疑問だ。これじゃあただの盾にしかならない…ジャイアントの様な攻撃力がある訳でもないしな…。

まさか俺も自動的に空を飛べるものだろうと勘違いしていたからアリサに質問できていない…。

「くっ…アリサ…俺ラヴァハウンドの筈なんだが、ミニぺに殴られた!どうやったら空飛べるんだ?」

「そう言えば()()()について詳しく教えてなかった!部兵人形(ユニットドール)は普通のNPC(ユニット)違うっていう話はしたよね?NPC(ラヴァハウンド)は常時空を飛んでいるけど、部兵人形(ヨウ)は飛べていないはず。でも安心して、スキルに『飛行』があるはずだから!スキルの発動方法は簡単、「スキル『飛行』」って念じるだけだよ。因みにだけどヨウは()()スキルがひとつしか使えない…。あと注意して欲しいのはスキル『飛行』で空を飛べる時間は5分間という点、5分経ったらまた地上に戻って2分間のインターバルを置かないと使えないから注意して!」

 

 

アリサがスキルについて教えてくれた。

なるほど、俺達部兵人形は何も万能で更に完全なるユニットではないということか。

ラヴァハウンドの強い点としては【攻撃目標/空】を持つユニットの攻撃しか当たらないという点だったのだが、これでは5分間飛んだ後の2分間は対空ユニット以外にも殴られてしまうという事になる。

NPCは後退が出来ないが、俺達は自由に動けるからその2分間は後退するか…?いや俺の役割は盾だしな…。

最初はクラロワと同じく戦略こそあるものの、めちゃくちゃ考えさせられる!!とまではいかないと思っていたがこれは結構考えないといけない様子だ。

とりあえずアリサと思念通話しながらもザクザクと斬られて体力ゲージ(HP)が半分になってしまったので、試運転試しに空飛んで攻撃目標から外れてみよう。

流石に痛い…。

俺は心の中でさきほど教えられたとおりにしてみた

「スキル『飛行』ッ!」

魔法を使うようなそんな感覚で、厨二病心がくすぐられ少し興奮気味にそう念じる。

すると、俺の背中に赤くゴツゴツして如何にもマグマの羽というような羽が生え、俺は宙を舞った。

見事、ミニペは俺という標的を失い、今度はリオを狙って動き出す……あ、リオが危ない。

そう思ったのも束の間、リオはミニペに殴られ始める

リオも必死に殴ってはいるのだが、ミニぺの方が攻撃力が高く、殴り合いでは完全に劣っている。

そんな光景を空から眺めていた俺だが、そこで一つ気がつく。さっきからチクチクチクチクウザったいなと思ってはいた正体は、相手のサイドタワー上にいる射撃兵に狙われていたのだ。

威力でいえばそこまで高くはないのだが、それでも塵も積もれば…だ。もうHPは殆どギリギリ状態だった。

「(マズイな…まさかミニペ一体にジャイアントはおろか。俺、リオまで追い詰められるとは…)」

「くっ…!」

「リオ!」

「……ウィンウ…」

殴り合いでは負けていたリオだが、どうしてかミニペの方が雫となり消えた。

「……あれ、僕生きてる?」

「危なかったな。あと少しマスケット銃士の弾丸がミニペに当たるのが遅れていたら今頃リオが雫だっただろう」

リオが必死に殴って削っていたミニぺの体力に遠距離からのマスケ(マスケット銃士)の弾が当たり、弾け散ったという具合だ

だがリオのHPはもう殆ど無いに等しい。

同じく俺のHPも。

アレスはメインタワー後ろから、マスケット銃士とアーチャー___

 

 

弓を持った2人1組のユニット。

マスケット銃士よりも単体としては劣るが、2人居ることによって補っている。

レアリティはノーマル。コスト3

【攻撃力/86】【体力/254】

【攻撃速度/1.2秒】【射程/5】____

 

 

を展開してきた。

しっかり空を飛んでいる俺対策としてどちらも対空を持ったユニットか…。

対してコチラは、瀕死の俺とリオに加えて、ナイトとマスケット銃士だけか。ここは敢えて甘んじてダメージを受け入れ次に繋げた方がいいかもな。

「リオ、一旦立て直そう…!」

「え?どういう意味?」

射撃兵の放った矢とアーチャーの放った矢と、マスケの放った弾を全身に受け、一気に俺のHPが尽きる。

視界がバァン!と弾ける。

弾ける寸前「ヨウッ」と叫ぶリオの姿が見えたが、それに応えられるはずも無く、意識が途切れ_______

ずに、俺は小さい6体に弾けた。




次回からはもう少し、投稿頻度上げます(頑張ります…)


最近メガナイトとクロスボウ練習中


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第6話 分裂の操作

ここでひとつ、皆さんに想像してみてほしい。

まず右手と左手を用意してくれ。

そして右手と左手をグーの形にする。

右手の親指と左手の小指だけを上げる。

次にまたグーに戻し

今度は右手の小指と左手の親指だけを上げる。

それを交互にだんだん素早くやってみてほしい

どうだ?

段々と右手と左手がゴチャゴチャになってしまわないか?

そう、人は何かと不器用な生き物でこんな些細な事すら満足に出来ない。

では、もし右手が3つ、左手が3つの計6つあったらどうだろうか

もう無理だ、お手上げだ…

───そんな状況に今の俺は置かれているに等しい

「ヨウッ!」

「ぐはぁっ」

ズキンと後頭部分が痛む。

どうやら俺の分身の一体が死んでしまったらしい

──マスケット銃士(マスケ)とアーチャーの放った弾丸と弓が当たり、俺は死んだかに思ったが、意識は途切れず、なんと俺は6体の小さな俺になっていた

その6体全てが俺の意思で動く、つまり身体が6つに増えたのだ

感覚で言うと、巨大な俺がこの小さな俺をマリオネットの如く操っている…そんな感覚。

勿論最初からうまく扱えるはずも無く、精々2体が限界だった

残り4体は完全に適当に動いている、無意識の内にああやって動かしているのだろうか──

この俺の今の名前はラヴァハウンド(溶岩の犬)なんて大層な名前じゃなくラヴァパピィ(溶岩の仔犬)と言ったところか

 

────6体の小さなユニット。

ラヴァハウンドが死ぬと登場する。

【攻撃力/45】【体力/179】

【攻撃速度/1秒】【射程/2】───

 

既にもう5体死んでしまった

自分自身を操作というのも変な言い方だが、まだ上手く扱えない、

これは慣れが必要だな。

リオやナイト、こちらのマスケが敵のマスケを狙う盤面を空から見下ろしながら、俺は目の前に迫っていた弾丸を顔面で受け、体力ゲージ(HP)が尽きた

「あ、ヨウおかえり」

「ってて…、あ…ここは神殿か?」

死んだ記憶はハッキリしているが、すぐさまに意識は覚醒する。

どうやら死んだら元の場所、神殿へと戻ってくるらしい。

手足がしっかりとくっいている事、顔面がボコボコになっていないかなどをペタペタと触って確認、うん大丈夫なようだ

この世界に鏡という道具があるかどうか分からないが一応あるなら後で買っておこう

もしかしたら、触って確認出来てないだけでヤバイ事になってる箇所があるかもしれない…いやそんな事になってたらアリサが教えてくれるな。でもとりあえず買っておこう

アリサの目の前に表示されてる画面(モニター)を見ると、結構やばい状況になっていた

リオはもう死にそうだし、マスケとナイトも死にそう、対してアレス陣営はメインタワー後ろからジャイアントを展開してきている…おっといけないこのままでは…。

アリサにアドバイスしなくては、と思った刹那─────

「ヨウお願いねっ!」

──────自陣のサイドタワー(左)手前に召喚された

…俺も俺を召喚しろとアドバイスしようと思っていたところだから丁度いいが、アリサおまえもしかして…。

いや、今考えても無意味な事だな。

さてとりあえず先行してタワーを落としに来ている敵のマスケット銃士…いちいち()()ってつけるのもめんどくさいな…こちらのタワーの色は青、相手(アレス)は赤だから、敵のマスケ(赤マスケ)とでも呼ぶ事にしよう…

を止めなくては。

そして、もうそろそろ本格的にタワーを落としに行くとしよう。

「アリサ、今燃料(エリクサー)はどのくらいだ?」

「今は6だね…言ってなかったけど最大10だよ」

「最大10か…これも一緒だな」

「ん?なんか言った?」

「いや…なんでもない。それより赤マスケ…つまり敵のマスケが橋を渡りきりそうだ、とりあえずタワーにダメージは入れないよう俺がターゲットになる。だが受けてるだけじゃ倒せない(こともないが)から俺を赤マスケと赤アーチャーが撃ち始めたらナイトを出してくれ」

「あ…ごめん、今ナイト手札に無い…!」

「まぁ、そういう時もある…じゃあ今何があるか教えてくれ」

クラロワでも同じことが言えるが、手札を見ないで戦おうとしても無理がある。闇雲に出すしか無いからだ…、酷い事になる。

「『ファイアーボール、アーチャー、ジャイアント、リオ』があるよ!」

アリサに手札を教えてもらった俺は、即座にそれで城を落とす算段を考え始める…

クラロワではリオよりもトロフィーが低い『ヨー』というアカウントで普段プレイしていたが、それでもトロが低いなりには頑張っていた

なのである程度、どうプレイしたら良いのかは分かっている。

「よし」

俺は()()()()算段を思い付いた

それを実行する為に必要なのは

「忍耐力」

…だ

ここで忘れてはいけないのはこの『バトル』のルール

今回は『サドンデス』なわけではないのでサイドタワーを落とした所で勝利が決まる訳では無い。

今回勝利が決まる条件としては

・メインタワーを落とす

or

(タワー)を一つでも落とした状態で3日間という時間が経過する

のどちらかだ

もしこの2つが3日間経過しても満たさなかった場合(メインタワーを落とせなかった&城をどちらも全く落とせずに時間経過してしまった場合)は

・城を先に1つ落とした方の勝利

という条件に移行するわけだが。

そんな長いことこんな寝る場所も、気安く休める場所も無いような所に居るつもりは無い

初心者で慣れていないからいつ俺とリオのストレスがピークを迎えるか分からない…それはアリサも同様。

人は退屈な空間に長時間居るとストレスを感じ始め、終いには発狂し始める…

この6つ城がポツリと佇んでいるフィールドも見ていて退屈なものだが、アリサが居る神殿も何もなくて退屈だしな、

それにアリサは女の子だ、早くお風呂に入ったりもしたいだろう

勿論俺もだが。

だが今俺達初心者軍団が、一応手馴れたアレスからメインタワーを落とすのは大分キツイだろう…俺とリオという部兵人形(ユニットドール)が居たとしても…。

先程の感じから慣れるまでは上手く戦え無いということが分かったしな

さて、そうなると一番手堅いのは─────

「アリサ、ジャイアントをこっち側のメインタワー後ろから出してくれ」

「うん!分かった!リオはどうする?メインタワー後ろから?」

ジャイアントが召喚され、俺を撃っていた赤マスケの体力もこちらのサイドタワー上の狙撃手によって倒れる

「いや、リオはまだだ…ディガーは相手フィールドに出すことが出来る…それを上手く利用しないとな」

「あ、うん!分かった!温存しとくね!」

「アリサ、少し戦いには全く貢献できない様な動きを今から俺はするが、決してふざけている訳ではない…勿論タワーにダメージが入りそうになったらしっかり動く」

「え、うん?よく分からないけど、まぁヨウが言うならそれでいいよ!」

「しっかり説明すると、俺は部兵人形としてバトルに参加するのは初めてで色々とまだ不慣れなんだ、だから慣れるために動きたい…今は慣れるために専念して、慣れたら一気に勝ちを取りに行く。無意味な事では無いはずだ」

「うん、分かった!」

さて、今の状況はというと相手のフィールドにはジャイアントが居てこっちに来ようとしている。対してこっちは俺が居るだけ。

「アリサ、ジャイアントを止める為にアーチャーを俺の近くに」

アーチャーが召喚される。俺は立ち止まったままだが、アーチャーはテクテクと相手のタワー目指して歩んで行く

「それで、何が手札に回ってきた?」

「えっと、矢の雨が来たよ」

「………、仕方ない、リオを俺の近くに」

ジャイアント、ファイアーボール(ファイボ)、矢の雨、リオの手札で敵のジャイアント(赤ジャイアント)を倒すには必然的にリオを出すしかない…。

理由としては『攻撃目標』対ユニットであり、『ユニット』である事が必要だからだ…勿論『防衛施設』というのもあるのだが、それは今はデッキに入っていないので置いておく。

「よっと!」

俺のちょっと前らへんの地面からリオが飛び出してきた。

俺も何か登場モーション欲しいなと思ったり思わなかったり。

「いちいち穴掘ってるのか?それとも自動で掘られてそこを自動で通ってきてるのか?」

そんな疑問をリオに質問してみる

「自動だよ、多分目を瞑っててもここには登場するはず、今度目を瞑っててみようかな」

「目を瞑るのはなんか怖くないか?」

目を閉じたまま地面を輸送されるリオの姿を想像すると少し笑ってしまう

「あっ…、そんなことよりジャイアント倒さないと」

「じゃあリオ、頼んだ。俺は少し別の行動をとる」

「え…?」

そう言って俺はこちらの陣地に踏み込んできてるジャイアントを無視して無鉄砲にも、敵陣へと身を投げ出す

相手サイドタワー(左)上の狙撃手が俺を狙って来た─────

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

体力という概念はあるものの、スタミナという概念は無い筈『バトル』だが、不思議なもので息が切れる

きっと動き回ると息が切れてしまうのは人間としての本能なのかもしれない。

「残り時間は…1日と18時間と26分か…、もうそろそろ疲れが見え始めることだな…俺とリオは動いているから勿論だが、アリサはアリサで画面をずっと見つめ続け無ければならない…」

それに、初心者だしな。

もう既に1日以上経過しているんだ…徹夜で。

「ヨウ、どう?身体には慣れてきた?僕は結構慣れてきたよ〜」

と、リオが話しかけてきた

今俺は自分フィールドの真ん中でストレッチをしていた

アレスが何も仕掛けて来ないのだ。

この1日に何度かアレスが何もしてこない事があった

だがその隙を付いていざ攻めようとするとアレスは固い防衛をしてきて突破が出来なかった

俺の隣にリオも来て一緒にストレッチを始める

「ん、まぁそうだな、何度か死んで6体に分裂したからな…大分慣れてきた」

「どんな感じなの?分裂するって」

「いや、言葉に出来ないな…強いて言うならゴチャゴチャな感じだ…いや、うん、やっぱ言葉には出来ないな…」

「あと相手のサイドタワー左の体力は1280だからね、頑張ろう」

「こっちのサイドタワー左の体力は1008だがな…」

「……そうだね」

この1日、色々と攻防を続けてきたがまだお互いに城を落とせてはいない、ただ若干こちらの城の体力が少ないが。

「(まぁ、サイドタワー左は落とされても問題無い、守るに越したことは無いが。だが俺が狙っているのはメインタワー(中心塔)破壊だ…)」

さて、頃合もいい感じになった頃だ。

そろそろ壊す(やる)とするか

「リオ、アリサ…そろそろ終わらせよう。俺とリオも身体に馴染んできたところだし、アリサももう俺の令無しで大分動けるだろ?」

「う、うん…まぁ、多分…?」

「別に変な所に出したりしても怒らない、今のはここに出した方が良いよとかそんなアドバイスをするくらいだ」

「分かった!やってみる」

この1日で分かったことがある

それは部兵人形(ユニットドール)の『スキル』を上手く使うと超強い。って事だ

例えば俺の『飛行』を使ったとする

普通に使うだけならただ俺が5分間空を飛べるだけの普通のスキルに見えるのだが、

使い方を変えると化ける。

だが今回はその使い方をせずに真正面から戦って勝つ。

それが俺の為になるからな

だから今回はその特殊な使い方の説明は省かせてもらおう

何はともあれこの1日で得たものは少なくない

「アレスは相変わらず動き無しか」

平で障害物などが何も無い見通しの良いフィールドだから相手のフィールドも良く見える。そこには何も居なかった

「でもヨウ、いつも通り行ったらまた防衛されて止められちゃうんじゃない?」

心配そうな声でまた同じことの繰り返しになるのではないかと危惧するアリサ

「まぁ、防衛はしてくるだろうな…だがパターンは毎回一緒だった」

「え?」

「アレスは俺達が城を落としに攻め込むと、まず体力の多いジャイアントやナイトでターゲットを取ってくる、そして後方から遠距離攻撃出来るマスケやアーチャーで殴ってくる」

「うん、そんな感じだよね?」

「だが肝心なのはここからだ、(アレス)()()()()なんだ」

そう、奴は燃料(エリクサー)を使いまくって防衛してくるから突破出来ない。だが逆を返せば

「その間に、逆サイド…つまり右のサイドタワーを落としに行けば体力が間に合わず防衛が出来ない、そしてそのままメインタワーにも進撃できる」

「分かった、じゃあ準備はいい?」

「ああ」「うん」

俺は腕を前に伸ばし、手をポキポキと鳴らす。

リオは深呼吸をする。

勝負はここに賭ける

さぁ勝負だ────────



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第7話 初戦─決着

なんだ…こ─────

「(れ…ッ!)」

……声が、出ない?今明らかに発声しようとした筈なのに。

というかここは何処だ…?学校…?

俺は『バトル』中でフィールドに居たはずだが?

それとなんだこの状況

埃っぽいマットや壊れかけの跳び箱が置いてあるここは

学校の体育館倉庫か?

どうして俺はここに?

それに俺はこんな所に1人で居た記憶も思い出もない…

体育館から喧騒が聞こえないということは体育の授業中に何かの片付けでここにいるわけでもないだろう

これは夢────?

 

 

「ぐッ…!」

ズキンと傷んだ頭を抑える。

なんなんだよ…一体────────

 

 

「……邪魔だ」

俺は目の前に迫っていたナイトに思いっきり身体をぶつけて退かす

空いた路を駆けて、俺はタワーに張り付いた。

続いてジャイアントとリオがタワーに到達。

みるみるうちに相手(アレス)のメインタワー体力が削れていく

「らららららららァァァ〜!」

ジャイアント程の攻撃力は持たないがそれでも攻撃した後のクールタイムが終わったら間髪入れずにリオは殴っている。

俺も同じく、攻撃力は皆無だがそれでも無いよりはマシだろう…それに

「マズイな、こっち(アリサ)の左サイドタワーが落とされた。メインタワーに進軍されるぞ…」

先にメインタワーを落としたら勝ちの時間勝負。

「アリサ、防衛に燃料(エリクサー)を使うくらいなら攻撃に燃料を使ってユニットを追加だ!」

「う、うんっ!」

 

 

ボカァンという派手な音と共に、メインタワーが崩れ落ちる

「っ…はぁ…はぁっ」

「…ふぅ」

「ほっ…」

落としたのはこちら(アリサ)だ…なんとか勝てたみたいだな

タワーが落ちた後俺達はフィールド上から『WIN』とデカデカ書かれた文字を見上げながら、次の瞬間神殿へとワープした。

────それにしてもさっきの断片的な記憶?夢?は一体何だったんだろうな。『バトル』で殴り合いをしていると、たまに頭がズキズキ痛むのも何か関係しているのか…?それともただの片頭痛でさっきのも疲れからくる幻覚幻聴の類のものか…?─────

「どうしたの?初めてのバトルで勝ったのに嬉しそうじゃないね?」

「…いや、なんでもない」

「そっか、ならいいんだけど」

俺達とアレスを隔てていた壁が消え、地面に突っ伏しているアレスが見えた

「くっそぉぉぉ何故だァァァ」

相変わらず煩いな、まさかバトル中もあんな感じだったのか?

だがプレイからは冷静さみたいなのが垣間見えて居たんだが…

「いつもと変わらず教えられた通りにやったのにィィィ」

()()()()()()()()…か」

どうやら自分で考えた戦術じゃなかったようだ

だから奴のプレイは冷静に見えたのか

俺は疑問に思い、アレスに近づく

「賭け通り、10万ペリスと1トロフィーを貰う、ところでお前にプレイングを教えたのは誰か出来ればいいので教えてくれないか?」

「はあ?お前ら、初心者とは言っても、まさか『スパセルセンター』を知らないわけじゃないよなァ?」

スパセルセンター?なんだそれ。何故かスパセルという言葉は知ってるんだが…クラロワの開発会社『supercell』を略してスパセルと呼んだりしていたからな

「…………知らない」

「いやマジで知らねぇのかよォォ!おまっ、お前じゃあまさか宝玉持ってねぇのか?いやそんな事はある訳ねぇ!15歳になったら強制的にこの()()()()()に突き落とされてるはずだ!」

…地獄への道…?なんのことだ?

「…俺とリオは宝玉(トロフィー)を持ってないんだ」

「……なんでだ?15歳になったら否が応でも宝玉は渡されるはずだぞッ!だってこの世界の運営(カミサマ)はそのシステムであんな事を──」

アレスが切羽詰まった様子で何かを俺に話そうとしたところで

「バトル終了、お疲れ様でした。『賭け』に従いアレス(敗者)より10万ぺリスと1トロフィーがアリサ(勝者)に付与されました」

と無機質な機械音が流れた。

次の瞬間俺達の目の前はまっしろになる

「それでは現実世界へと帰還します」

「…っ」

意識が段々と薄れてゆく─────

 

 

「ふぅ、今度はしっかり意識を直ぐに覚醒できた…っぽいな」

俺達は元居た路地裏に戻ってきて尻餅をついていた

長い間肉体はここにこうして居たのかと思うと少し硬直が気になるが、

「問題ない…な、どうなってんだ…」

よっ、と立ち上がってみてもなんの障害もなくすっと立ち上がれた

バトル中は肉体と精神は切り離され、精神だけがバトルの会場である神殿へと飛ばされる、その間肉体は安全空間状態(セーフルーム)が発動しているこの空間にて放置状態…だったのでこの2日間何も飲まず食わずだったし運動さえしていない。

しかし流石は安全空間状態(セーフルーム)アリサの説明通り空腹感は無いし、疲労感もない。

「あ、トロフィーが1増えた…それに、ぺリスも!」

「ん?いや、まだアレス手渡してないんじゃ…」

アレスが手渡したようには思えなかった、何故ならアレスは未だ地面に突っ伏しているからだ

それなのにトロフィーは電子的なものだし手渡しではないのは分かるが、ぺリスは物体なのに手渡されてはない

だがアリサの手に持つ財布と思えるハートの刺繍の入ったポーチにはしっかりと札束が分厚く入っていた

いつの間に…俺の見ていないところで?

いや、俺はしっかり目を開けていたし、何よりずっと突っ伏しているアレスの動きもしっかり目に映っていた。

となると…

「【報告】敗者より勝者に賭けが付与されました」

やはり運営(カミサマ)の仕業だったようだ

「【報告】経過時間 2日と2時間、現在時間19時28分」

「お疲れ様でした。安全空間状態を解除します───」

そう言うと俺たちを覆っていた謎の光が消え、声も途絶える

「………くそッ」

未だ立ち上がる気配すら見せないアレスを置いて、俺達は路地裏を後にする

商店街は、バトルを始めた時に比べ、夜なので暗く行き交う人も少なかった。

「…おつかれ、アリサにリオ」

「うん、おつかれ」

「おつかれさまでしたっ」

3人労いの言葉を掛け合うとなんだやりきった感が出てくる。

そんな悦に浸ろうとしているところに

「お前らお疲れさんだッ!」

突然元気な女の子の声が混じる───

「ってエルゼ!おまえ今までどこに?」

───そこに居たのは俺達がバトルをするキッカケにもなった小娘であった

というより本当に今までどこに居たんだろうか

バトル開始の時にはいた記憶はあるが、神殿では見ていない

俺達が持ち逃げするのを心配して見張るとか言って居たのに…

「アンタらがトロフィーに触れて路地裏に飛ばされたのを確認したらそっからはバトルで逃げることは出来ないから、アタシは爺ちゃんが心配だったしここと病院を行ったり来たりしてたんだ…」

「そうだったの…おじいちゃんは平気?」

「ああ、今んとこはな…ただまだ手術は必要だ…んでそこの姉ちゃん、10万ぺリスは用意出来たんだろーな?」

「勿論っ!10万ぺリスは用意できたよ」

「おおっほんとか!うっし、信じてたぜお前らぁ!」

「…早速手渡そうか?」

「…いや、今日は遅いし病院はもうやってない、明日の15時に病院前で待ち合わせだ」

「そう、分かった」

「んじゃあアタシも疲れたし今日は帰って寝るわ!んじゃ15時な〜」

それだけ言い残すとエルザは帰って行った。

俺達はその姿を見送ると、今日の寝床について話し始める

「そういえばアリサ、いつも旅人のお前はどうやって寝てるんだ?」

「野宿ってわけじゃ…ないよね?」

「んー、まぁ野宿の日もたまにはあるけどね〜。でも基本は宿でしっかり休むよ」

野宿の日もあるのか…実年齢こそ知らないが見た感じでは同い年くらいなアリサに野宿は辛いだろう。野宿を耐えてまで宝玉を集める理由とは1体…

疑問に思ったが今それを聞いても不思議に思われるだけだろう。

まだ知り合って数時間の関係だし…

「んで、今日はどうすんだ?」

「そうだね、流石に野宿は辛いしお金に今は余裕もあるし、宿に泊まろっか」

「あ、じゃあ僕とヨウは一緒の部屋でいいよ、いいよね?ヨウ」

「勿論だ、別にリオと一緒で不都合な事も無いしな、それによく分かってない土地で1人寝れるかと聞かれると若干不安だし」

もしベッドがダブルじゃなくシングルだった場合は2人でベッド…いや、片方は床だな…流石に狭い。

「あ、うんそうだね、わたしで一部屋、ヨウとリオで一部屋だね!そうと決まれば早速宿探しだねっ!」

 

 

 

 

「んァー…んぅ…zzz」

「…」

「……むにゃ…うにゃ…zzz」

「……」

………駄目だ、眠れない。

「…はぁ、」

俺は一息付いて身体をむくりと起こす

隣のベッドでは既に眠りについたリオがすやすやと眠っている

その寝顔を見るとやはりリオは顔が丸っこく整っているので可愛くもイケメンに思う。

「(それにしても…)」

今日はなんだか沢山の非日常的現象を体験した気がする。

正確には『今日』ではないのだが

この世界に来た日は2日前の話だ。

だがバトル中には睡眠や食事を一切取る必要が無かったので2日経ったという感覚がない

この世界に来て初めての睡眠、ただまだ現状を理解出来ていない不安からか中々寝付けなかった

「…(でも、実際に俺はこうして存在してるわけだしなぁ…)」

アリサが見付けてくれた宿の部屋の窓から外を見ると、闇の中に月の光だけが光る空間が存在している、ところどころ点々と家の電気が付いてもいる。

こうして見ると本当はここは地球なのではないかと疑ってしまう。

だが先程のバトルは紛れもなく現実味を帯びていない事でもあって。

「……ここは1体何処なんだろうな…」

ふと声に出して漏らしてしまったのは完全なる疑問。

分かるはずもない問いの答えを探すのは野暮だと分かってはいるが、それでも声に出してしまったのは本当に不安だからだろう。

今頃、地球(あっちの世界)はどうなっているのだろうか

俺達が消えたと大騒ぎしている頃だろうか。

「(今考えても意味は無いな…寝るか)」

考える事を辞めて布団に身体を任せると、心地よい眠りがヨウを攫っていった───




遅れて申し訳ございませんでしたァァァ!
バトルがメインの物語なのにバトル描写がとてつもなく苦手なので色々と勉強していました。
良くなってるといいのですが…。
もっとリアルに描写したいです。


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