うちの姉様は過保護すぎる。 (律乃)
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戦闘曲
【暁 歌兎】 灼鎚(やつい)・ミョルニル


作詞が私ですので、所々に拙い歌詞となっていますが、歌兎の事をもっと読者の皆さんに知ってもらえたら嬉しく思います。







灼槌(やつい)・ミョルニル】

 

 

1.

 

閉ざされた世界に 小さな兎

一人迷い込んだ 森の中

大きな穴から拾い上げた 一つの宿命-カルマ-

 

閉ざされた世界に 轟々と燃え広がる(ほのお)

兎は叫び やがて憧れは燃え尽き 灰と化す

抱き上げ零れ落ちた腕から 大きな宿命-カルマ-

 

思い出す 思い出す 過去

思い出して 思い出して 涙が一つ

 

繰り返す 繰り返す 悪夢

繰り返して 繰り返して 後悔が一つ

 

小さいままじゃあ 救えない 報われない 守れないと分かった

だから今こそ Scorchihg sun

痛む間もなく 打ち砕いてあげましょう こんな輪廻(りんね)

 

 

 

サビ1.

 

君から託されたこの力

君から託されたこの心

君から託されたこの命

僕は守り 繋いでいく そう、繋ぐッ!

だからこそ望む未来をこの手で掴み 僕はここに戻ってくる

 

 

 

 

2.

 

飛び出た外の世界 一匹の小さな兎

見上げた空には ニコニコ笑顔のお日様とお月様

二つが歌う調 夜道を照らす

 

天翔ける鳥が奏でた 翼の音は頼もしく

舞い落ちる雪の音は 優しく包み込む

白く暖かい世界に 夢を抱きたくて

 

思い出す 思い出す 未来

思い出して 思い出して 笑みが一つ

 

繰り返す 繰り返す 理想

繰り返して 繰り返して 使命が一つ

 

凛と立つ花が繋いでくれた手に救われ 切なく響く胸の歌に背中を押された

だから今度こそ Scorchihg sun

痛む間も無く 打ち砕いてあげましょう こんな運命-さだめ-

 

 

サビ2.

 

皆から託されたこの力

皆から託されたこの心

皆から託されたこの命-めい-

僕は受け取り 繋いでいく そう、繋ぐッ!

だからこそ望む未来をこの手に掴み 僕はここへと舞い戻る

 

 

間奏.

 

悪夢さえも粉砕(ふんさい)し、今こそ望む理想へとーー

 

 

サビ(1+2).

 

君から託されたこの力

君から託されたこの心

君から託されたこの命

僕は守り 繋いでいく そう、繋ぐッ!

だからこそ望む未来をこの手で掴み 僕はここに戻ってくる

 

皆から託されたこの力

皆から託されたこの心

皆から託されたこの命-めい-

僕は受け取り 繋いでいく そう、繋ぐッ!

だからこそ望む未来をこの手に掴み 僕はここへと舞い戻る

 

 

胸に響く切なく歌と共に…

奏でよう 独奏-カデンツァ-のセレナーデ…

 




 

 

 

〜戦闘曲の説明文〜

 

 音調は【和ロック】となってます。

 

 歌詞の解説の前に歌兎が纏っているミョルニルの特性の説明をさせていただこうと思います。

 特性は【思う存分に打ちつけても壊れる事なく、投げても的を外さず、再び手を戻る】【自在に大きさを変えられ、携行できる】です。

 また、ミョルニルは常に灼熱の焔に包まれており、持つには必ず《ヤールングレイプル》という鉄製の手袋が必要とされていると言われています。

 なので、歌詞の所々に上の説明を思わせる単語が含まれています。

 例えば《轟々と燃え広がる(ほのお)》や《悪夢さえも粉砕(ふんさい)し》等ですね。

 

 また、歌詞を読まれた方は薄々と気づいていらっしゃると思いますが、所々に装者のみんなや歌兎が影響を受けた人を思わせる単語や文章が含まれており……

 

 歌兎に沢山影響を与えているのはやはり彼女のお姉ちゃんである暁 切歌……切ちゃんですので、歌詞のイメージは技名で使われている【童話】をイメージしたものとなっており……《だから今度こそ Scorchihg sun 痛む間も無く 打ち砕いてあげましょう こんな運命-さだめ-》などは切ちゃんの【獄鎌・イガリマ】の《いますぐに just saw now 痛む間も無く 切り刻んであげましょう》からヒントを得て書かせてもらってます。

 

 また《Scorchihg sun》は翻訳すると《焼け付く 太陽》となっており、《Scorchihg(焼け付く)= 歌兎》《sun(太陽)=切ちゃん》と二人の仲の良さを表してみたりした歌詞だったります(笑)

 

 説明文を読んで、『ふむふむ』と思われた方はもう一度歌詞を読み返していただけると作詞させて頂いた身としては嬉しく思います(土下座)



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1章
001 僕の姉様は過保護すぎる


この作品は作者が大好きな切ちゃんに甘えたいが為に主筆したもので、作者の欲望と妄想が多々含まれており……原作とはかけ離れたものとなっている可能性が高いです。

ジャンルはシリアスとバッドエンドが多めではありますが、日常系とギャグも混ぜさせてもらっており、話的にシスターラブのような……姉妹同士での恋愛というのが書かれているものもあります。

そういうのが嫌な方は迷わず回れ右して頂き、そういうのがあっても構わないという方は最後まで私に付き合ってもらえると嬉しいです!!

#時間軸は【2.5期】です#

#【にゃっぴーorサン】に深い意味はなく、仮につけたタイトルとなってます。ちゃんとしたタイトルは後々つけたいと思ってます#

※※※※※※※※※※
今後は【脚注タグ】を使わせていただき、作中に出てくる補足したいワードを説明していこうと思ってます。
脚注タグが付いているワードには色が付いており、ワードの前についてある番号を押していただけると説明文が表示されている場所まで飛びます。
※※※※※※※※※※

#本作主人公・暁 歌兎(あかつき うたう)の簡単なプロフィールを脚注にて載せてます#


1.

 

 僕、*1暁 歌兎(あかつき うたう)には姉がいる。

 

 姉の名は、暁 切歌。

 

 三つ上の姉は、僕にとってとても頼りになる(ひと)であり、僕の心の支えともなる大切な人だ。

 性格はお気楽というか、物事をポジティブに考えることができる人だと思う。でも、時に思い込みが激しく、一人で突っ張ってしまうこともあり……その都度、本人曰く黒歴史とやらが増えるらしいが、それも姉が僕や他の仲間たちを大事に思っているからこそだと思っている。

 

 そのことをもっと掘り下げれば、姉は一段と仲間や家族に対する思い入れが強いのだ。

 

 そう、姉は他の皆よりも家族や仲間たちのことを"大切に思っている"

 

 

故に、姉は僕に対して––––

 

 

 

–––––過保護すぎる、のだろう。

 

 

 

2.

 

「起きるデス、歌兎。朝になったのデスよ」

 

 ゆさゆさと身体を揺らす感覚と、おでこと頬に広がる柔らかく程よい弾力性を持つ何かによって、ゆらゆらと眠りの海を漂っていた僕の意識が覚醒していく。

 

(……ん?)

 

 ゆっくりと目を開けると、まず最初に目に映るのが真っ白な天井……続けて視線を下にずらすとチャーミングな癖っ毛が特徴的な金髪の少女が僕を見下ろしていた。

 

(ああ……そっか……また、姉様に起こしてもらったんだ……)

 

 自分の寝起きの悪さに嫌気をさしながらもまだ眠たくて、うとうとと瞑ろうとする目をこすりながら、身体を起こすと太陽のような明るい笑顔を浮かべる姉が僕へと話しかけてくる。

 

「おはようデス、歌兎」

「……ん、おはよ、ねえさま……」

 

 うとうとと小舟を漕ぎ、まだまだ寝ぼけ眼な僕の周りを慌ただしくバタバタと動くのが、姉様で–––。

 

「……えーと、今日はどんな服にしましょうか。これも可愛いデスし……この服も捨てがたいのデス……」

 

 僕が座るベッドの足元にある箪笥の真ん中の引き出しから着替えを取り出しながら悩みに悩み抜いた末に花緑青(エメラルド)色と黒を基調とした長袖の上にカーディガン、短パンとニーソックスというコーディネートに決めたらしく、それを両手に持ってから僕の前に腰を通す。

 

「歌兎、着替えましょうか? パジャマのボタン外していいデス?」

「……ん、いいよ」

 

 こくんとうなづく僕のパジャマへと両手を添えると慣れた手つきでパジャマのボタンを外し、指示を出しながら脱がせると持ってきた洋服を着せてくれる。

 

「歌兎、こっちに右手を通すデスよ」

「…こう?」

 

 半分意識は眠りに入りながらも姉様の指示通りに右腕と左腕をカーディガンへと倒していく。

 

「そうそう。それと左腕をこっちへ」

「…ん」

 

 カーディガンのボタンを留めながら、目の前で小さく小舟を漕いでいる僕を見つめ、小さなため息をついた姉様の口元は"仕方ないなぁ……"という意味が込められているであろう微笑で形作られており、小さな注意が飛ぶ。

 

「二度寝はダメデスよ、歌兎」

「…ん…分かってる…」

 

 そう答えながらももう眠気に耐えきれなくなった僕の瞼が閉じていっているのをパジャマのズボンを脱がせにかかっていた姉様が気づき、僕の小さな肩へと両手を添えると乱暴に上下に体を揺さぶる。

 

「って、言ってるそばから寝てるじゃないデスか!!」

「…ね…てない…よ、ねえさ……スゥ……」

「ウ・タ・ウ! 起きるデス!! 二度寝はダメデス!!」

 

 姉様の怒声と乱暴に体を上下に揺すられて、ハッと目を覚ますと僕はキョロキョロと辺りを見渡し、見慣れた黒髪がないことに気づくと目の前で短パンを履かせ終えて、ニーソックスへと取り掛かっている姉様へと問いかける。

 

「…姉様。シラねぇは?」

「調なら朝ごはんを作ってるデスよ」

「…そっか。シラねぇが……」

「なんデスか? 歌兎」

 

 ジィ––––と目の前でニーソックスを右脚を履かせ終えて、左脚へと取り掛かっている姉様の適度に整った顔を見つめながら、ふと思う。

 

(そういえば、姉様がお料理してるところ見たことないなぁ……。僕は姉様の料理も好きだから、食べたいんだけど……)

 

 そこまで考えたところで、リビングの方から白米の匂いとお味噌汁の匂いが漂ってくるとその香りたちに刺激されたのか、グーグーとお腹の虫が鳴り、姉様がクスッと笑う。

 

「お腹が空いたのデスか? 歌兎」

「…ん、空いた」

『切ちゃん、歌兎、ご飯できたよ』

 

 ドア越しから、聞き慣れた声が聞こえてきて、着替えさせてもらった僕はベッドから立ち上がると姉様へと右手を差し出す。

 

「…シラねぇが呼んでる。行こ、姉様」

 

 それを嬉しそうに握った姉様は意地悪な笑顔を浮かべると僕へと顔を近づける。

 

「はい、行きましょう。と、その前に歌兎〜ぅ、朝にお姉ちゃんにすることを何か忘れてないデスか〜ぁ?」

 

 ニヤニヤと笑いながら、顔を近づけてくる姉様の仕草で忘れている事……いいや、忘れていたかったものが思い出され、僕はそっと姉様が視線を逸らすと白い頬へと朱を混ぜる。

 

「…アレは恥ずかしいよ、姉様」

「姉妹なのデスから。恥ずかしがることなどないのデスよっ。ほらほら、歌兎っ」

「…っ」

 

 慣れた様子で右頬を僕の方へと突き出す姉様の様子に僕は覚悟を決めると羞恥心でやめたくなる衝動を抑え、突き出されている姉様の頬へと自身の唇を近づける。

 

「…ちゅっ」

 

 小さなリップ音が自室へと響き、続けて上がるのは嬉しそうに顔をデレデレに緩めた姉様の弾んだ声である。

 

「えへへ〜♪ 歌兎からおはようのキス貰ったデス〜♪」

「…」

「お返しにお姉ちゃんからも歌兎にキスするデス〜♪」

「…」

 

 僕へと抱きついて、ちゅっちゅっと頬へとキスする姉様を僕は不思議そうな顔で見つめる。

 

(なんで、姉様はこんなにも恥ずかしいことを毎朝したがるんだろ…)

 

 物心つく頃からずっと疑問に思っていることなのだ。

 いくら姉妹とはいえ、おはようのキスとおやすみのキスは流石に恥ずかしすぎる。

 のだがーー嬉しそうに、にこにこと笑う姉様のこの笑顔を守るというのは大袈裟だけど、見る為ならば僕の些細な羞恥心などあってないようなものだ。

 姉様は心ゆくまで僕の頬へとキスを落とすと、僕の手を握り、そして、ドアへ向かって歩き出す。

 

「さて、朝の挨拶も終わったので、調たちのところに行きましょう」

「…ん」

 

 差し出せる姉様の左手を握り、僕は姉様と共にリビングへと歩いていった……

 

 

 

3.

 

 僕の自室は学生寮の間取りでいうとリビングへと続く廊下の一番奥……即ち、リビングに近い所に位置している。

 そのリビングに続く廊下を歩いて行き、扉を開けると既に自分の席へと腰を掛けている三人の姿があり、僕と姉様は三人へと頭を下げていく。

 

「おはよう、歌兎」

「…おはよ、シラねぇ」

 

 キッチン寄りの席に座るのが僕と姉様と共にこの学生寮に住んでいるシラねぇこと月読調。

 そんなシラねぇの向かい側に腰掛けているのが昨日外国のチャリティライブから帰ってきたマリねぇことマリア・カデンツァヴナ・イヴとセレねぇことセレナ・カデンツァヴナ・イヴである。

 

「おはよう、二人とも」

「おはようデス! マリア」

「…おはよ、マリねぇ」

「おはようございます、暁さん、歌兎ちゃん」

「おはようデス! セレナ」

「…おはよ、セレねぇ」

 

 二人が腰掛ける席には三つ並んだ椅子があり、二人が腰掛けてないそこの席が僕の指定席なのだが……姉様は僕の手を離すことはなく当たり前のように自分の席へと座ろうとする。

 

「歌兎、こっちにくるデスよ」

「…ん」

 

 そんな姉様の行動を戒めない僕自身"姉のすることはいつも正しいと考えている"のと"いつも自身のことは時の流れに任せている"ことから––––今日も姉様の言う通りにしようと、そちらへと向かった時だった。

 姉様の席の前に腰掛けている伸びた桃髪が特徴的なマリねぇが姉様を叱るのたが、何故か姉様は怒られたと言うのに、どこか自信満々な様子で……。

 

「こら、切歌! そっちに歌兎が行ったら、貴女が座れなくなるでしょう」

「大丈夫デスよ。歌兎はあたしの膝の上に座るのデス」

 

 得意げに自分の太ももを叩く姉様へとマリねぇは即座に注意する。

 

「行儀が悪いでしょう。取り敢えず、その案は却下よ」

「むー、マリアがケチなのデス」

「ケチで悪かったわね。兎も角、歌兎は私の右隣が空いているのだから、そこに座りなさい」

「…ん、マリねぇのとこ行く」

 

 マリねぇの正論にぐうの音も出ない姉様が頬を膨らませる中、僕は離れた手から身を翻すとマリねぇが自分の右横の席を叩くのでそちらへと向かう最中に後ろで何かが倒れこむ音が聞こえたが気のせいだろうか?

 

「なんデスと!? 歌兎はお姉ちゃんが嫌いになったのデスか!?」

「歌兎に限ってそれはないよ、切ちゃん。だから、泣き止んで、ね?」

「ゔぅぅ……やっぱり調は優しいのデス」

 

 マリねぇに手伝ってもらい、自分の席へと座った時に見た光景に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 その光景とは……ガ〜〜ンと文字が浮かびそうなほど、落ち込んでいる我が姉の背中優しく撫でているシラねぇ–––という構図は俗に言うと百合百合しいのだろう。そんな雰囲気を漂わせる二人に、マリねぇの左横へと腰掛けるセレねぇが苦笑いを漏らす。

 

「……」

「…あはは」

「さて、ご飯を食べましょうか? 歌兎、セレナ」

「…ん、マリねぇ」

「そうだね、姉さん」

 

 二人の世界に入っている二人は放置しておいてもいいと判断したマリねぇに声をかけられ、僕は目の前に並んでいる箸を掴もうとして……目の前から箸が姿を消すので横を見るとそこには僕の箸を鷲掴みにした姉様が血相を変えて、僕の隣に腰掛けるマリねぇへと怒声を上げていた。

 

「あぁっ! 歌兎、箸は持っちゃダメデスよ! マリア、歌兎に箸を持たせちゃあダメじゃないデスか!」

「切歌、今更だけど貴女は過保護すぎるわ。そんなにしなくても歌兎は大丈夫よ」

 

 姉様が騒ぎ立てる中、マリねぇは大人の余裕を漂わせながら、僕の頭をポンポンと撫でながら、対抗していく。

 

「マリアは何も分かってないデス! 歌兎はマリアが思っているよりも繊細な子なのデス。箸を持っただけでも筋肉痛になる子なのデスよッ!?」

「そんなわけないでしょう!? 切歌、話を盛るのは良くないことよ。それと歌兎はそこまでヤワじゃないわ。切歌のソレは度が過ぎてると私は思うの」

 

 姉様へと向き直って、諭すようにそう言うマリねぇへと姉様は僕の箸ごと机の上へと両掌を叩きつけると垂れ目がちな瞳が鋭く挟まる。

 

「歌兎を大切に思う気持ちのどこが悪いんデスか! 妹が危険へと足を踏みいれようとしてるのデス! それを守って何が悪いのデスか! ソレは姉として当然の権利だと思うのデス!」

「だから、それが貴方は普通よりも多いというの!!!!」

「多いに越したことはないと思うデス!!!!」

 

 今日も白熱していく姉様とマリねぇの喧嘩に堪らずセレねぇが仲裁役をかって出てくれるのだが、見事に同期(シンクロ)した動きで返ってきた言葉にセレねぇは撃沈(げきちん)

 

「まあまあ、姉さんも暁さんも落ち着いてください」

「セレナは黙ってて!!」「セレナは黙っててください!!」

「…あ、うん、ごめんなさい…口出ししちゃって……」

 

 しょんぼりするセレねぇの裾をくいくいと引っ張るのは近くで喧嘩が始まって席についているのが気まずくなった僕で、袖を引っ張る僕の方を向くセレねぇへとテーブルの上に並んだ料理を見つめながら言う。

 

「……」

「どうしたんですか? 歌兎ちゃん」

「…セレねぇ、僕お腹空いた」

「そうですね。私もお腹空いちゃいました。そうです、歌兎ちゃん、私の上で良ければ座ります?」

「…ん、座らせてもらう」

「はい、どうぞ」

 

 よいしょっとセレねぇの膝の上へと座った僕へと前の席に座るシラねぇが僕の料理を手繰り寄せるとその中からおかずを箸でつまむと差し出してくれるので、申し訳なく思いながらも空腹には勝てず、おかずを大きな口を開けて、口の中へと招き入れるともぐもぐと咀嚼(そしゃく)する。

 

「歌兎。はい、これ」

「…あーん。もぐもぐ」

「美味しい?」

「…ん、美味しい」

 

 自分の作ったおかずの出来を首を傾げて尋ねてくるシラねぇへと素直な感想を言い、再度箸を差し出してくるシラねぇに応じて、また大きな口を開ける。

 

「そう、良かった……まだまだあるから、しっかり食べてね。セレナも食べよ」

「そうですね、月読さん。歌兎ちゃん、味噌汁は美味しいですか?」

「…ん、シラねぇのお味噌汁はいつでも美味しい」

「歌兎が褒めてくれると私も作った甲斐がある。いつも褒めてくれて、ありがとう」

 

 頭を撫でてくれるシラねぇの掌の暖かさに触れて擽ったくなりながら、僕はもぐもぐと朝ごはんを食べ進めていくと時々上手く口に含めなくて頬についたご飯粒などをセレねぇに拭いてもらいながら、僕は無事朝ごはんを終える。

 

 そして、食べた食器を持っていこうと立ち上がる僕の手を掴むのは––––もちろん、姉様で……

 

「歌兎の食器はお姉ちゃんが持っていくデス」

「…ん」

 

 素直に姉様の指示に従い、食器を渡そうとすると、そこへ割って入ってくるマリねぇのツッコミである。

 

「そこ、甘やかさないの! それくらい、歌兎なら出来るわ!」

「出来ないデス! それに出来たとしても、絶対させないデス!」

 

 強引に僕から食器を受け取り、キッチンへと向かおうとする姉様の前へと両手を広げたマリねぇが姉様を説得させようとするがそれで大人しく僕に食器を返す姉様ではない。

 案の定、形のいい眉をひそめてると睨みを効かせるように不機嫌な声を出すと自分の行く手を阻むマリねぇと果敢に立ち向かっていく。

 

「させないと歌兎がダメ人間になるでしょう!」

「もしも、歌兎の持っていた皿が割れて、歌兎の綺麗な身体に傷がついたらどうするデスか! そんなの絶対そんな事をさせたあたしがあたし自身が許せないのデス!」

「だからって加減をしらなさすぎるわ。だから貴女は過保護すぎるのよ!!!!」

「これが普通デス!!!!」

「貴女が普通なわけないでしょう!!!!」

 

 いつもの如く、続く姉様とマリねぇの喧嘩を聴きながら思うことは、ただ一つ––––

 

 

––––やはり、僕の姉様は過保護すぎる、と。

*1

名前|暁 歌兎

読み方|あかつき うたう

一人称|僕

 

家族|暁 切歌(姉)

 

年齢|G(二期)登場時・12歳 → 2.5期・13歳

誕生日|4月13日(姉と同じ)

血液型|O型

身長|143㎝

体重|36㎏

3サイズ|B61・W45・H62

 

好物|麻婆豆腐

苦手な食べ物|特に無し

好きな果物|梨

 

使用ギア|$€×€2$2€(のちのち出てきます)

 

外見|

陽が当たると水色に光る銀髪は腰あたりまで伸びている。眠たそうに半開きされている瞳の色は黄緑色。顔立ちは整ってはいるが童顔な為、年相応に思われないことが多い。全体的に線は細く華奢で、姉からはもっとご飯を食べて肉を付けなさいと言われている。

 

性格|

無表情で無口な僕っ娘で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に加え、()()()()()()()()()()()()()()という特殊な方針の為、自分に関して無関心。極度に自分の事を過小評価している。

羞恥心は特にない。理由は過保護な姉やお世話になっている人達に着替えやお風呂等を手伝ってもらう為、だが好きになった人や異性には恥じらいの表情を見せ、年相応に恥ずかしく感じる事もある。

また、勉強家な一面を持っており、一度集中すると姉や他の人が声をかけてもなかなか自分の世界から戻ってこない。

 

その他|

名前に"兎"という文字が入っているからか、動物に異常に好かれる。



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002 過保護な姉たちとおでかけ

4.

 

 朝の大騒動……いや、大喧嘩から30分後。

 僕と姉様。そしてシラねぇとマリねぇ、セレねぇの計五人は猛スピードで街中を走っていた。

 何故、そんなに急いでいるのか? その理由は簡単だ–––今日の朝、9時頃から装者のみんなで買い物やカラオケなどと遊びに出かける約束をしていたのだ。

 そんな約束をしていることもすっかり頭から落ちてしまうほどに白熱していたマリねぇと姉様の大喧嘩がやっと終わって、壁にかけている時計を見れば、約束時間の10分前に針が時間を刻んでおり、五人は暫し事実を受け入れられずに呆然とし、きっちり10秒後血相を変えたねぇや逹と姉様、僕は大慌てで部屋を飛び出るとそれからというもの、ずっと目的地まで走りぱなしというマラソン状態になっていた。

 先頭を走るのがシラねぇとセレねぇで、その後を僕と姉様が追いかけている感じで、そのさらに後ろをマリねぇが走っている。

 真っ直ぐ前を見つめ、走り続ける僕へと隣を走っている姉様が話しかけてくる。そちらへと視線を向けると、僕と同色の黄緑色の瞳が少し伏せられ、心配そうに僕を見つめていた。

 

「歌兎、大丈夫デスか? 疲れてないデス?」

「…ん、大丈夫だよ、姉様」

 

 姉様へと心配かけないようにと淡く微笑んでみせると、姉様は安心したように此方へと微笑んでくれた。しかし、僕は一つだけミスを犯してしまったらしく……姉様が優しい声音で言ってくれたセリフに対する返答を掠れ声で言ってしまったらしい。

 気付けば、嬉々した様子で僕の前へと腰を折る姉様の姿とそんな姉様へとツッコミを入れるセレねぇの姿があった。

 

「疲れたなら、いつでも言ってくださいね。お姉ちゃんがおぶってあげるデスから」

「…ん、わかっ…だ……っ」

「ハッ!?もしかして、疲れたのデスか、歌兎!」

 

 いつでもバッチコイと言わんばかりの輝いた笑顔でタイルへと片膝をつき、僕へと背中を差し出す姉様へとキレキッレのツッコミを入れているセレねぇはまさにシュールと言わざる終えなかった。

 

「どうして、暁さんはそこで嬉しそうにしてるんですかっ!? 私にはそれが疑問ですよ!」

「セレナ、それが切ちゃんのいいところだよ」

 

 かの状況に対して冷静かつ常識的な対応を見せてくれたセレねぇの肩をポンポンと叩くのは優しく微笑むシラねぇである。

 

「月読さんといい歌兎ちゃんといい、二人は暁さんのやる事なす事に全肯定は良くない傾向だと私思いますよ!?」

「大丈夫、歌兎も私も切ちゃんの事を信じてる」

「それはさっきの私の発言に対する答えなんですか!?」

 

 どんな時でも過保護な姉様の言動を優しく見守ってくれ、受け入れてくれるシラねぇには感謝しかないのだがセレねぇの言う通りで……僕とシラねぇは姉様に対して甘々すぎるのだろうか?

 そんなくだらないことを考えながら、僕は目の前で繰り広げられている光景を冷静な視線で見て見るとふとも思う––––この五人の中で一番苦労してるのはセレねぇなのではないのか、と。

 マリねぇも僕達を見守ってくれるお母さんのようなお姉さんのような存在だけど、私生活でも肝心な所抜けてるところとか時々あるし……その抜けているところをさり気なくフォローしているのは言わずもがなセレねぇだもんね……。

 そんな隠れ苦労人・セレねぇのツッコミ虚しく、姉様は僕へと促しの声をあげるのを聞いて、敬愛する姉様の命令に逆らえるわけもなく……僕は姉様の背中へと抱きつく。

 

「ささっ、歌兎。早くお姉ちゃんの背中におぶさって、身体を休めるといいデスよ」

「…ん」

 

 だが、しかし、そんな甘えを許すマリねぇではない。

 姉様の背中へとおぶさろうとしていた僕と姉様を指差すと、大声を上げる。

 

「こらっ、そこ! ごく自然におぶろうとしない! 歌兎も歌兎よ。安易に切歌におんぶしてもらわないの!」

「ちぇー、マリアは外でもケチんぼなのデス……」

 

 そう頬を膨らませながらも僕を下ろすことなく、その場に飛んで微調整した姉様は周りでガミガミ言うマリねぇへと皮肉を混ぜた反論をいう。

 

「だから、これはケチんぼでもなんでもなくて。私は一般的に意見を言ってるだけなのよ」

「そんな意見など、あたしの辞書にはのってないのデス。ほら、歌兎、ガミガミうるさいおかんマリアなどほっておいて……しっかりお姉ちゃんの背中に掴まってるデスよ。歌兎が筋肉痛に倒れちゃったりしたらいえないので」

「…ん、姉様」

 

 皮肉を混ぜた姉様のそのセリフを聞き、マリねぇのガミガミが更に強くなった気がするが–––。

 肝心の姉様はどこ吹く風の様子でマリねぇをほっておいて、タイルを一歩一歩踏みしめていく。

 そんな姉様から落ちないようにしがみつきながら、申し訳なそうな声で問いかける。

 

「…重くない? 姉様」

「全然大丈夫デスよ、歌兎はもっとお肉をつけるべきデス。軽すぎるデスよ」

「…それは姉様にいうセリフ」

「お姉ちゃんは歌兎よりも身長もありますし、肉もついてるんデスよ。なので、歌兎は気にしなくいいのデス。今晩は、いっぱい食べて、栄養を付けるデスよ。参考までに聞きますが、歌兎は晩御飯は何が食べたいデスか?」

 

 チラッと僕の方を向いて聞いてくる姉様の少し垂れ目な大きな瞳を見つめ、僕は朝に思ったことを言う。

 

「…姉様の手料理が食べたい」

「ッ!?」

 

 すると、姉様が泣き出す寸前みたいな顔をするのを見て、少し焦った僕は首を傾げて、もう一度問いかける。

 

「…ダメ?」

「もちろん、いいデスともッ!! お姉ちゃん張り切って、美味しいもの沢山作るデスからね!! 歌兎の大好物もいっぱいいっぱい作るデスからね!!」

「…ん。しゃのひみ…」

 

 僕をガシッと抱きしめ、スリスリと頬をすり寄せてくる姉様の温もりを感じながら、姉様の背後を見てみると–––僕ら二人を遥か先を走っている三人の姿があり、三人は走りながら、僕ら二人へと叫び声をあげる。

 

「切ちゃん、歌兎、行くよ。みんなが待ってる」

「暁さん、歌兎ちゃん〜! もうみんな待ってますよ〜」

「そこの二人、早くなさい」

 

 今だに頬スリスリをしている姉様の背中をポンポンと叩き、顔を離した姉様へと僕は背後を見つめ、指差しながら言う。すると、姉様も僕のその仕草だけで状況を理解したらしく、僕を背負い直すと……

 

「…姉様。三人が呼んでる」

「分かってるのデス! 歌兎、しっかりお姉ちゃんに掴まっててくださいね」

「…ん」

「猛スピードデスよ〜! 三人へと追いつくデス!」

「…姉様、ファイト」

「任せてください、歌兎!」

 

 僕を背負っているとは思えないほどのスピードで、約束場所へと向かう姉様。

 僕はその背中に揺られながら、姉様へとエールを送っていた……

 

 

 

 

5.

 

 約束場所へとついた僕と姉様を出迎えてくれたのは、先に着いていたシラねぇとセレねぇ、マリねぇの三人と今日、一緒に遊ぶことになっていた四人の少女逹で……その中の一人、白銀の髪をピンクのシュシュでお下げにしている少女・クリスお姉ちゃんが横目で姉様を見ると、ため息をつきながら問いかけてくる。

 

「んで、お前はなんで妹を背負ってるんだよ」

「それがお姉ちゃんとしての責任だからデスよ!」

 

 その問いかけに対して、誇らしそうに胸を張り、ぽよんと大きく実っている双丘を叩きながら答える姉様へと両手をポキポキと鳴らしながら、クリスお姉ちゃんが近づいてくる。だがしかし、うちの過保護な姉様にそんな脅しなど通じるわけもなく、姉様はいつもの如くちんぷんかんぷんな方向へと真っしぐらに進んでいく。

 

「よぉーし、お前の言いたいことは分かった。だが、それが約束時間を一時間も遅れた理由だとしたら、あたしはお前をブツぞ」

「歌兎が……あたしの可愛い妹が走り過ぎて倒れかけていたんデスよ!? それを助けて、何が悪いのデスか!? も、もしかして…そんな歌兎をほっておいて。あたしだけここへ向かえばよかったと言うデスか…? クリス先輩は鬼なのデス!! この鬼クリスっ」

「お前はいつも過保護すぎんだよ!! それと、お前さっきあたしのことを鬼って言ったか!?」

「クリス先輩まで過保護とあたしを呼ぶデスか!? やっぱり、マリアとクリス先輩は鬼デス! 鬼畜デスよ!! あんなに可愛い歌兎へと厳しく当たろうとするなんて! なんで、二人は歌兎を甘やかそうとしないデスか!? 歌兎が可愛くなのデスか!」

「可愛いからこそだろーがッ! この過保護!! お前には、可愛い子には旅をさせようという諺はねぇーのか!?」

「そんな諺は既にあたしの辞書から削除したデスよ〜」

「お前な……」

 

 あっかんベーと舌を出す姉様に対して、遂に堪忍の緒が切れたらしいクリスお姉ちゃんはグーで姉様の頭を殴ろうとするのを見て、姉様に近づく前に右手の裾を引っ張った僕は不機嫌そうにこちらを見てくるクリスお姉ちゃんの髪と同色の瞳をまっすぐ見つめて、お願いする。

 

「…クリスお姉ちゃん、姉様は悪くない。悪いのは僕だから、ぶつなら僕をぶって」

「チッ……そんな顔したガキを殴れるわけないだろ」

 

 何故か頬を朱に染め、横を向いてポツンと呟くクリスお姉ちゃん。それに首をかしげる僕とその呟きを聞いたらしい明るい茶色の髪が特徴的な少女・響お姉ちゃんが不満そうに何か呟いた愚痴を聞いたらしいクリスお姉ちゃんが響お姉ちゃんへの頭へと拳を埋める。

 

「……私のことはしょっちゅう、ぶつのに…。なんだかんだ言って、クリスちゃんが切歌ちゃんの次に歌兎ちゃんに甘い気がするよ〜」

「お前はいつも一言多いんだよ!」

「痛ぁあああ!?」

「響、大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ〜、未来〜ぅ」

 

 痛みで埋まる響お姉ちゃんへと優しく声をかけるのが、響お姉ちゃんの親友の未来お姉ちゃんだ。涙目で痛みを訴える響お姉ちゃんの髪の毛をかき分けてながら、何かを応急処置をしている。

 そんな二人を見ながら、僕と姉様へと視線を向けたクリスお姉ちゃんは吐き捨てるようにいう。

 

「たくっ。あのバカより遅刻するなんて、お前らが初だぞ」

「ちょっと、クリスちゃんそれはひどいよ〜。その言い方じゃ、いつも私が遅刻してるみたいじゃん」

「いつもしてるだろ!」

 

 響お姉ちゃんへと怒声を飛ばすクリスお姉ちゃんの右手をくいくいと引っ張り、こっちを向けさせると僕はいつも思っていることを言う。

 

「…」

「んだよ」

「…クリスお姉ちゃん、あまりカリカリしないで。僕はクリスお姉ちゃんの笑った顔が大好きだよ。だから、笑顔見せて」

「〜〜ッ」

 

 僕のセリフを聞いたクリスお姉ちゃんの顔がみるみるうちに赤くなっていく。それを見ていた響お姉ちゃんがクスクスと嘲笑うのようにちょっかいをかけるようにクリスお姉ちゃんへと声をかける。しかし、それを聞いたクリスお姉ちゃんはポキポキと両手を鳴らす。

 

「おや〜? さっきまでの怖いクリスちゃんはどこへ行ったのかな〜?」

「お前は本当にあたしに殴られたいらしいな」

 

 しかし、そんなクリスお姉ちゃんへと近づいているのは響お姉ちゃんだけではない。我が姉様もクリスお姉ちゃんに近い場所に立っていた僕を自分の方へと引っ張ると、僕をクリスお姉ちゃんから守るように抱き締める。

 

「クリス先輩よりも歌兎は姉のあたしのことが大好きなのデス。そこだけは誤解しないで欲しいのデス! それと、歌兎は何があってもクリス先輩に渡さないデスよ!!」

「お前は引っ込んでろ! 話がややこしくなるだろ!!」

 

 もう既におでこへと血管が浮き出るほど怒っているクリスお姉ちゃんへとセレねぇが声をかける。どうやら、この収集がつかなくなった喧嘩を仲裁してくれるらしく、割って入ったセレねぇは後ろに聳え立つショッピングセンターを指差す。そんなセレねぇのセリフに肯定する形で、未来お姉ちゃんが響お姉ちゃんを引っ張って。ショッピングセンターへと一番先に向かっていく。

 

「まあまあ、クリスさん落ち着いて。響さんも暁さんもこれ以上ここで言い争っていても時間の無駄なので、約束のショッピングへと行きましょう?」

「セレナちゃんの言う通りだよ。響もあまりクリスをからかわないの。ほら、行くよ」

「ちょっ、未来!? そんなにいきなり引っ張られたら、バランス取りにくいよ!?」

 

 そんな二人に続く形で、クリスお姉ちゃんが向かい、僕と姉様、セレねぇとシラねぇも三人の後を追う。

 その際に姉様が僕へと問いかけてくる。それに正直に答えると、何故かその場に崩れ落ちる姉様。

 

「切ちゃんと歌兎も行こ?」

「分かったのデス、調! そうデス、歌兎はこれから向かう道中、誰と手を繋ぎたいデスか?」

「…ん〜、とね。…シラねぇと繋ぎたい」

「私と? 切ちゃんじゃなくていいの?」

「…ん」

「そっか。じゃあ、はい」

 

 まるで某アニメの燃え尽きた後の感じになり、真っ白な灰へとなりかけている姉様へとセレねぇがツッコミを入れながらも優しく声をかける。

 

「なっ…ななな、なんデスとぉおおおぉおおおぉお!!? これが…これが俗に言う反抗期なのデスか…? 歌兎はお姉ちゃんのことを嫌いに…? あたしが調みたいに大人じゃないからデスか…?」

「そんなわけあるはずないじゃないですか…。ほら立ってください、暁さん。ここに座っていたら、みんなに置いていかれちゃいますよ」

「離してください、セレナ! 歌兎に必要とされないあたしなんて、この世に存在する価値すらないゴミクズのような存在なのデスからっ」

「…あぁ、どうしよ…、これはかなり重症だよ…。私じゃあ手に負えない奴だよ…。歌兎ちゃん…月読さん…助けてぇ…」

 

 シラねぇに手を引かれながら歩く僕の後ろを歩く姉様とセレねぇ。そんな二人へと視線を向けると、大泣きして暴れている姉様とそんな我が姉を見て、げんなりしているセレねぇの姿があった。その光景に首を傾げて、前を向く僕はトボトボとショッピングセンターへと一歩、また一歩と近づいていく。

 そんな騒がしい姉様とセレねぇの後ろを歩くのが、マリねぇと藍色の髪を結んでいる女性・翼お姉ちゃんである。

 マリねぇと共に歩きながら、翼お姉ちゃんは暴れている我が姉を見て、苦笑いを浮かべる。

 

「いつもの如く賑やかだな、マリアの所は」

「賑やかすぎて、疲れるくらいよ…。出来ることなら、変わって欲しいくらいだわ」

 

 マリねぇは疲れたように右手で顔半分を隠す。その様子を見ていた翼お姉ちゃんは、マリねぇのその仕草で今朝、部屋の中でどんなことが繰り広げられていたのかを安易に想像できてしまい、マリねぇへと問いかける。

 

「貴女がそんな弱音を吐くとは珍しい。もしかして、今朝既に?」

「えぇ、一戦交えてきたところよ。あの子の過保護は今に始まったことじゃないけど、そろそろどうにかしないと歌兎がダメ人間へとなってしまうわ。歌兎には歌兎の人生があるもの…死ぬまで、切歌が世話するなんて出来ないのよ」

 

 マリねぇは、暴れ疲れたのか大人しくなり、セレねぇに支えられながら、トボトボと覇気なく歩く金髪の妹分を見て、ため息をつく。

 そんなマリねぇの様子を見ていた翼お姉ちゃんが口元を緩めると笑い声を出す。それを聞いて、翼お姉ちゃんへと向くマリねぇ。

 

「ふ」

「何がおかしいのよ」

「いや、済まない。今のマリアが本当にあの四人の母親みたいに見えてな」

「ちょっ、そんな歳じゃないし、そこまで母親ぶってないわよッ」

「そんなにムキにならなくてもいいではないか。私は似合ってると思うぞ、マリアお母さん」

「か、からかわないでよ、翼」

「済まない済まない。さて、私たちも行くとしよう。皆と距離が開いてしまった」

「えぇ、そうね」

 

 ショッピングセンターの入り口でマリねぇと翼お姉ちゃんを待っている僕たちの元へと、二人が近づいてくる……



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003 過保護の姉たちとかいもの

番号の前に【**】が付いているものは、第三者視点となってます。


※※※※※※※※※※
本作は会話文と戦闘曲を区別する為、戦闘曲の時は色をつけてさせてもらってます。
色付けは各キャラクターのイメージカラーとなってます。

(例)
歌兎 ➡︎ 水色
響ちゃん ➡︎ 橙色
翼さん ➡︎ 青色
クリスちゃん ➡︎ 赤色
マリアさん ➡︎ 銀色(灰色・濃い)
調ちゃん ➡︎ 桃色(ピンク)
切ちゃん ➡︎ 緑色
セレナちゃん ➡︎ 銀色(灰色・薄い)

といった感じです。
※※※※※※※※※※


6.

 

 翼お姉ちゃんとマリねぇを待って、ショッピングセンターへと入った僕と姉様たちは今後の予定について、再度確認する為に他のお客さんの邪魔にならないところに固まる。

 

「さて、着いたわけだが……ここから何すんだ?」

「予定としては、みんなで服を見たり、アクセサリーを見て回るんでしたよね。その後は、みんなでお昼ご飯を食べて、カラオケでお終いって流れだったと思います」

「なら、早速そこの服屋から見て回るとするか」

「えぇ」

 

 集まった人達の顔を個々に見渡したクリスお姉ちゃんが問い、それにセレねぇが返答し、それを聞いた翼お姉ちゃんが近くにある店を指差すのを見て、みんながそれに同意するように其々首を縦に振ってからそのお店に足を運ぶ中、姉様が僕に向かって聞き手を差し出す。

 

「歌兎、はぐれるといけないので。今度はお姉ちゃんと手を繋ぎましょう」

「…ん」

 

 小さくうなづき、差し出される姉様の掌へと自分の手を添えてると嬉しそうに表情を崩した姉様がギュッと握ってくれるので握り返していると先に行っていたクリスお姉ちゃんから声が聞こえてくる。

 

「おい、そこの二人、早くしないと置いてくぞ」

「はーいデス! さぁ、行きましょう、歌兎」

「…ん」

 

 クリスお姉ちゃんに急かされ、姉様と一緒に店へと足を踏まれた瞬間、姉様の少し垂れ目がちな瞳が段々と大きくなっていくと次の瞬間、僕の両手をガシッと掴むとブンブンと上下に振る。

 

「にゃっにゃーッ!!? 歌兎歌兎、歌兎ッ!! ナウい洋服がこんなにもいっぱいデスよ!?」

「…ん、いっぱいあるね。あと、そんなに呼ばなくても聞こえてるよ…姉様……」

 

 そんな僕の小さな抗議は姉様が立てる風によって吹き飛ばされ、すっかり興奮しちゃっている姉様に導かれるままにズンズンと店内へと入り込み、とある商品棚の前に来ると一つの服を手に取る。そして、僕の方へと近づけると満足げに何度も首を縦に振る。

 

「これとか、歌兎に似合ってると思うデスよ。これも可愛いのデスッ! 歌兎が着たら宇宙一可愛いに違いないのデスよ! 今すぐ着てみましょう! ささっ!!」

「……う、うん……」

 

 いつも以上に元気MAXな姉様に気圧されながらも手を引かれて近くの試着室へと入っていく。

 本来なら試着室には僕一人が入り、僕が姉様の選んだ服を着て、カーテンの向こうにいる姉様へと見せるのがこの試着室の使い方なんだろうと思う。

 

 そう……普通の姉妹または普通の姉であれば……–––––だが、僕と()()()()()()姉様は違う。

 

 まず、最初の順序から違うのだ、普通と……過保護な姉様はさっき気に入った洋服とは別に物色して良いと思った洋服を両手いっぱい持ちながらも器用にカーテンを開け、僕を中へと招き入れると器用にカーテンを閉める。

 そして、当たり前のように僕の服を脱がし始めると脱いだ服は姉様が近くのハンガーにかけ直すと試着する服を着せてくれる。

 着せてもらった後は選んでくれた服を揺らしながら、その場で1回転してから姉様へと『どう? 似合ってるかな? 』と聞くのがこの試着室での僕が体験している一連となる。

 

 で、決まって、尋ねられた姉様は僕の問いかけにこう答えるのだ––––

 

「最高に決まってるのデス!! やっぱり、お姉ちゃんの見立ては間違ってなかったんデスね!! お姉ちゃんの目には、今の歌兎が天使に見えるデスよ!! はぁ……天使様、エンジェル様、あたしのところに妹として生まれてきてくれてありがとうございます」

 

 組んだ両手を胸の前へと移動し、腰を折って片膝をつけてから僕を見上げる姉様は少し垂れ目な黄緑色の瞳いっぱいに歓喜の波を揺らしながら、大袈裟なことを(のたま)う姿を見つめながら思い、喉から出ようとしている言葉は–––

 

(––––それは流石に言いすぎたと思うよ、僕)

 

 というセリフなのだが……太陽のように光り輝く笑顔が曇ると思うと言い出せず、僕は曖昧な笑顔を浮かべたまま、その後も姉様が見立てた服を試着していき、試着し終えて姉様のお目にかかった洋服のみがレジへと運ばれてから購入という形になるものを離れた場所で見る。

 

 正直、こんな歳になっても、姉に服を買ってもらうというのは恥ずかしいことだし、本当ならば僕も自分で洋服の一つも買ってみたい––––だがしかし、僕の金銭的にはこればかりは仕方がない……。

 だって、僕のお給料は姉様の手によってしっかりと握られ、管理されている。なので、毎月のお小遣いは3000円。因みにF.I.S.の時は100円とか300円だった。

 

 お小遣いの事でいうと……これは僕もマリねぇも、もちろんシラねぇやセレねぇも不思議がっているのだが……僕が関わると買い食いや"うまいもんマップ"なるものに惜しげもなく投資したり、その他諸々残念な感じで自分のお小遣いが消滅していく普段の姉様とは異なり、僕のお給料が振り込まれている通帳、そしてF.I.S.の時にこっそりと貯めていたヘソクリの紐はビクともしないくらいに固く、管理も厳重なのだ。

 

 お給料といえば、今のお小遣い制度に文句も何もないのだが……姉様は僕がどれくらい稼いでいるのかというのを見せてくれようとしてくれない。お給料明細も姉様の方が僕のと自分のを貰い、確認した上で僕へとお小遣いをくれる。

 お小遣いが足りなくなれば、姉様へと頼めば追加してくれるのだが……僕だって自分がどれくらいお金を貰っているのか気になる。気になるからこそ前にその事について姉様へと尋ねてみた事がある。そして返ってきた言葉が以下の通り『今から貯金しておく事に意味があるのデス。歌兎が将来、働かなくても暮らしていけるくらいは貯めるべきデス。だから、お金の管理はお姉ちゃんに任せてください』との事。

 それ聞いて思ったのは"働かなくても暮らしていけるくらい貯めるってどこくらいなのだろうか? "と"F.I.S.時代から姉様がそう言って貯めてるので、もう目標金額間近ではないのだろうか? ""そもそも姉様は僕の将来を思い貯めているお金は何万…何千万円となっているのか? ""そして僕は言いように言いくるめられてないか? "となどなど思う事も僕の将来の資金に関しても謎が深まっていく中、ツンツンと肩を叩かれて考え方から覚醒する。

 

「歌兎! これとか、調に似合いそうではないデスか?」

「…?」

「これデスよ」

 

 覚醒して横に立っている姉様の方を見るとどうやら今度はシラねぇの為に服を選んでいる様子で満面の笑顔で問われ、姉様の視線を辿り、そこにかけられてあるワンピースを視界に収めて、脳内で想像してからコクンと首を縦に振る。

 

「…ん、似合う」

「デスよね! 白とピンクのワンピースに少し黒が入ってるところとか清楚な調らしいのデス!」

「…ん」

「そうと決まれば、調を探すデス!」

 

 姉様はキョロキョロと辺りを見渡し、丁度近くを歩いていたシラねぇを発見すると『歌兎はここで待っててくださいね』と僕を居残りさせて、シラねぇの右手を掴むと

 

「調、ちょっとこっちに来てください!」

「何? 切ちゃん」

 

 僕の前まで連れてくる際にチラッとシラねぇの顔を見てみると少し困惑気味なご様子なのだが、姉様は気にする事なくさっき見ていたワンピースを手に取るとそれをシラねぇへと差し出す。

 

「この服、歌兎と一緒に調に似合いそうって話してたんデスよ!」

「…ん、シラねぇからきっと似合う」

「ん……二人がそう言うなら試着だけでもしてみようかなぁ…」

 

 シラねぇのその言葉を聞き、テンションが更にハイとなった姉様はガシッとシラねぇと僕の手を掴むと猛スピードで試着室へと突っ走る。

 

「そうと決まれば、善は急げと言うのデス、調! 早速、試着室へ行きましょう!」

「ちょっ、き、切ちゃんッ。嬉しいのはわかるけど、もっと常識人らしく落ち着いて……」

「…僕も入るのかな……」

 

 そんな僕らの周りで買い物していたマリねぇとクリスお姉ちゃんの鋭い注意が飛ぶのだが、案の程姉様の耳には届かない。

 

「そこあまり騒がないの! 他の人に迷惑でしょう」

「そうだぞ! お前ら」

「まぁ、いいではないか。暁もみんなでこれで浮かれているのさ」

「そうだといいんだけどね……」

 

 マリねぇの危惧は的中し、その後も姉様の溢れ出る好奇心は何人(なんぴと)たりとも止むことが出来なくなり、僕とシラねぇは姉様に引きずられる、といえば人聞きが悪いのだが、あちらこちらへと連れまわされて……終いには、僕をシラねぇに任せて、単独で探索に駆り出す始末。

 そんな暴走気味な姉様を見て、思わず僕とシラねぇが苦笑いを浮かべてしまったのは、どうか許してほしい。姉様に呆れてしまったというわけではない。ただ、いつもよりも元気2000倍……いいや、元気2億倍くらいの姉様の行動力に疲れてしまっただけである。本当にそれだけである。

 

 姉様が一人探索へと駆り出して、丁度30分後。

 シラねぇと一緒に服を見て回っている中、目の前を横切る金と黄緑色の疾風は、目を丸くしている僕とシラねぇの手をそれぞれ掴むとまるで太陽のようなキラキラ輝く笑顔を浮かべる。

 

「調、歌兎。二人とも探しましたよ。こっちに来て欲しいのデスよ」

「どうしたの? 切ちゃん」

「…どこまで行くの、姉様」

 

 僕とシラねぇを連れて、とある店へと入っていった姉様はジャジャーンと自分が注目している服へと両手を向けると、パタパタと指を動かしてみる。

 

「これ見てください! この服、とっても可愛いのデスよ」

 

(ふわぁ……かわいい……)

 

 そこにかけられていたは、太陽と月、そしてうさぎのイラストが描かれたTシャツで……そのデザインがすっかり気に入った僕はシラねぇと共に姉様を見やる。

 

「あっ、本当だね。それに色違いもある」

「デスデス。なので、この服を三人で一緒に買いませんか?」

「いいね。私は賛成だよ」

「歌兎はどうデス?」

「…ん、僕もこのTシャツ欲しい」

 

 シラねぇと僕のその言葉を聞き、姉様は瞬時に黄緑、桃、そして花青緑(エメラルド)のTシャツを取り、猛ダッシュで合計へと向かう。

 

「なら、決まりなのデス! 早速、買ってくるデスよ!! 調と歌兎とお揃いの服、GOGOデェース!!!」

「あっ、切ちゃん、待って。まだ、見てないところがあるから、一緒に見よ……って、もうあんなところにいる」

 

 シラねぇのいう通り、姉様は三つのTシャツを両手に持ってニコニコと満足げな笑顔を浮かべながら、長い列に並んでいた。

 暫く見てから、小さく溜息をついたシラねぇは僕へと腰を折ってから目線を合わせると小首を傾げながら尋ねる。

 

「切ちゃんの分まで私と歌兎の二人で他のところ見て回る?」

「…んっ」

「じゃあ、あそこのお店に行ってみよう」

 

 シラねぇとお店を回っている間にTシャツを購入した姉様が合流し、流石にはしゃぎ疲れてしまったのか……さっきまでの姉様とは別人のように静かになった姉様はシラねぇと僕のペースに合わせて、買い物に付き合ってくれた。

 

 そして、丁度、お昼の12時となる寸前グゥ––––と同時になる三つのお腹。

 

「お腹空いたよ〜ぉ」

「お腹空いたデス〜」

「…お腹空いた」

 

 未来お姉ちゃんと手を繋いでいる響お姉ちゃんがお腹をさすり、僕と姉様も響お姉ちゃんと一緒行動をとるのを見ていたクリスお姉ちゃんがため息混じりに言う。

 

「こんな時だけ、お前らの腹時計って正確なんだな」

「だって、仕方ないじゃん〜。ご飯は生きていく上で必要な行動なんだよ〜」

 

 そう言い、はぶてたように頬を膨らませる響お姉ちゃんを見て、笑う未来お姉ちゃん。僕は近くに立っていたセレねぇの裾を引っ張り、視線を下げてくるセレねぇの澄んだ水色の瞳を見つめていると僕のお腹が限界に近い事が分かったらしく、セレねぇは"仕方ないですね"と微笑むとトントンと僕の頭を撫でながら、近くにある定食屋を指差す。

 

「なら、あそこで昼ご飯にしましょうか?」

「あぁ、それがいいな」

 

 みんなで近くにある店へと向かおうとしたその時だった。

 僕たちの二課から貰ったデバイスがけたたましい音を鳴らし、装者全員が電話に出て、耳へと押し付けるのを見てから代表として出るのは翼お姉ちゃんでデバイスから漏れ出る声はもうお馴染みとなっているOTONA集団こと二課の司令官・風鳴弦十郎様である。

 

「はい、翼です。皆も近くにいます」

『そうか。楽しい休暇中に済まないが……今いるショッピングから左へと10キロ進んだ先にある工事現場へと向かってもらえないか? ヘリの方は既に向かわれてある」

「おい、待ってくれよ、おっさん。窃盗とか強盗とかは普通は警察の仕事だろ? あたしらの出る幕じゃねぇ」

『それがなぁ……その工場に出たのはノイズだそうだ』

「…ノイズ」

 

(つまり、そこに行けばあの人がいるということか……)

 

 ギュッとパーカーの裾を握りしめ、唇を噛みしめる僕の頭をポンポンと撫でられる感触を感じ、顔を上げるとそこにはにっこりと微笑む姉様の姿があり、さっきまでの元気一杯の声から想像がつかない落ち着いた声が鼓膜を擽る。

 

「……大丈夫。みんな、あの事は気にしてないデスよ」

 

 あの事……それは僕が犯してしまった絶対許されない罪。"気にしてないから"という理由で忘れてはいけない罪……だって、僕があんな事をしでかしてしまったが故にこの世界はノイズという脅威に晒され、今こうしている時も何処かで誰かが亡くなっているのかもしれないのだから……。

 

(……なら、その罪を償う為にも僕は率先して、その工場現場へと行くべきだろう)

 

 それぞれがヘリが到着する場所に向けて移動する中、僕もねぇや逹とお姉ちゃん逹とともに向かおうと出そうとしている僕の両肩へと両手を置いてから自分の方に向けさせるのは、いつものニコニコ笑顔ではなく、真面目な顔つきをした姉様で––––。

 

「歌兎はダメデス。ここで未来さんとお留守番デス」

 

 "なんで?"が最初に思った疑問だった。

 そこに行けばあの人……ウェル博士が居る。ウェル博士からソロモンの杖を奪い取り、バビロニアの宝物庫を閉じることさえ出来ればもう誰も傷つかずに済む。僕があの日、ウェル博士の逃走を手伝ってしまったが為に起こってしまった惨劇を食い止められる……ううん、僕はここに居る誰よりもその場に駆けつけないといけないのに……なんで、姉様は––––僕を止めるの……?

 

「…でも、姉様。ノイズが出現してるんだよ!? 出現して居るって事は博士もいる。僕は博士を捕まえなくてはいけないっ。あの日、してしまった罪を償う為にもッ。だから、今日ばかりは僕も––––」

「歌兎」

 

 だが、姉様は僕の名前を力強く静かに言うと、僕の肩へと両手を置く。

 ただそれだけの事なのに……目の前で優しく微笑んでいる姉様から視線が離せなくなり、反論しようとして居た口元が自然と閉じる。

 そんな僕の瞳を暫く無言で見つめた姉様はギュッと僕を胸元へと抱き寄せると安心させるようにトントンと背中を撫でる。

「本当に優しくて良い子デスね、歌兎。そんなにもあの日の事に責任を感じていたんデスね。でも、大丈夫デス。大丈夫デスからね」

「……」

 

 何が大丈夫なんだろ……?

 僕にはその"大丈夫"って言葉自体がある種の呪いのように思えて……"嫌だ、僕も行く"という我が儘を全面に押し出して、ギュッと背中へと手を回してみるがその手はゆっくりと外され、代わりにポンポンと頭を撫でられる。

 

「お姉ちゃんが歌兎が今感じている不安も罪悪感も全部お姉ちゃんがなんとかしてあげるから。工場に現れたっていうノイズも博士もけっちょんけっちょんにして、捕まえて帰って来てあげるから。だから、ね……歌兎はここでお姉ちゃん達の帰りを待っていて欲しいんデス。お姉ちゃんのお願い聞いてくれる?」

 

 僕を安心させる為なのかニッコリとどこか陰のある笑顔を浮かべてみせる姉様を見ていたら、自然と唇を噛んでいた。

 連れて行ってもらえなくて悔しかったのではない……ただただ大好きで敬愛している姉様にこんな表情をさせている自分自身が許せなかった。

 だから、僕は食い下がろうとしていた言葉をグッと飲み込み、コクリと首を縦に振る……。

 

「…分かった」

「よしよし、いい子。流石、あたしの妹なのデス」

 

 ぐしゃぐしゃと僕の髪を撫でると、姉様は立ち上がると未来お姉ちゃんへと僕を引き渡す。

 

「未来さん、歌兎のことをよろしくお願いしますデス」

「うん、任せて。切歌ちゃんもみんなも頑張って」

「じゃあ、未来行ってくる」

「うん、いってらっしゃい、響。気をつけてね」

 

 ヘリが到着する場所へと駆けて行く姉様たちの背が消えた後でもその場に留まり、消えて行った方向をジッと見つめ続ける僕を見下ろした未来お姉ちゃんは目の高さに腰を折って話しかけてくれる。

 

「歩き疲れちゃったね、歌兎ちゃん。あそこのベンチで少し休もうか?」

「…ん」

 

 未来お姉ちゃんに連れられて、ベンチへと腰掛けると未来お姉ちゃんがポツンと呟く。

 

「切歌ちゃんはきっと歌兎ちゃんのことが心配なんだと思うよ」

「……」

「たった一人の家族だもの。居なくなって欲しくないし、傷ついて欲しくない……私が切歌ちゃんの立場ならそう思うな」

 

 そう言って、ニッコリと微笑んでみせる未来お姉ちゃんもそして他の装者のお姉ちゃん逹も優しくて暖かい……僕はそこまでしてもらえるような人では無いのに…………。

 

「…ん、分かってる。でも……」

「うん。歌兎ちゃんも同じくらい、切歌ちゃんのことが心配なんだよね。でも、歌兎ちゃん……時には信じて待つってことも必要なんだよ」

「…」

 

 未来お姉ちゃんが言ってる意味が分からず、首をかしげる僕の方へと微笑みかけてからついさっき姉様達が走り去っていった方向を遠い目で見つめる。

 

「私の親友は切歌ちゃんよりも無茶して帰ってくるから、いつも心配なんだ。でも、私は響の事を信じてる。心から信じているからこそ通じ合える……ってらしくないこと言ってるのかな? 私。あはは…なんか、ごめんね。ちゃんと言葉に出来ないだけど……切歌ちゃんは歌兎ちゃんが悲しむことは絶対しないと思うんだ。だから、私とここで待っていよ? ね…?」

「…ん、未来お姉ちゃんと姉様達を待つ」

「うん、よく言えました」

 

 優しく頭を撫でられ、くすぐったさから目を細めると未来お姉ちゃんと他愛のない話をしながら、姉様達が帰ってくるのを待った……

 

 

 

 

7.

 

 姉様たちがノイズ討伐へと向かって、数時間後。

 僕は未来お姉ちゃんと一緒に座っていたベンチ近くにあるワッフル屋さんへと並んでいた。理由は僕が未来お姉ちゃんへと"お腹が空いた"と言って、それなら軽く食べられ、小腹を満たせるデザートを二人で食べようということになったから。

 未来お姉ちゃんは『みんなには内緒だよ』と意地悪に微笑んで、座っていたベンチの近くに立つワッフル屋さんを指差すと僕もコクリとうなづき、並び始めて15分後になって順番が遂にきたというところで、ショッピングセンターの入り口付近から聞こえてくる悲鳴が聞こえ、僕はハッとして未来お姉ちゃんと繋いでいた手を離すと脇目も振らずにその悲鳴がその悲鳴が聞こえてくる場所へと疾走する。

 

「…ッ!!」

「待って、歌兎ちゃん! ギアだけは纏わないで!」

 

 後ろから聞こえてくる未来お姉ちゃんの制止の声を振り切り、僕は入り口を飛び出して、そこに広がっている光景に歯を噛みしめる。

 

「ギャアアア!?」

「助けてくれ! 死にたくな–––」

 

 突然、現れた半透明な生物によって、次々と真っ黒な灰へと姿を変えていく人々たち。

 その人達の日常を奪ったのは他でもない僕だ。こんな事で償えるか分からないけど……何もしないよりかは罪を償えるだろう。

 そう考えた僕はその人たちへ向かって走っていく。

 

今まさに襲われそうになっている人たちの前に進み出ると––––

 

(行かなきゃ! 僕がここにいる人たちを守るんだ!!)

 

––––“生身の姿のまま”でノイズへと回し蹴りを食らわせ、胸に浮かぶ聖詠を歌う。

 

「…*1multitude despair mjolnir tron–––––ハァァァッ!!」

 

 突然、目の前に現れた僕にびっくりしている様子の人たちへと顔だけ振り返ると

 

「…死にたくないなら、必死に走って逃げて」

「あっ、あぁ!」

 

 パタパタと複数の足音が聞こえ、ひとまず、彼らを助けられたことに小さく安堵の溜息をつくとすぐに表情を引き締め、真っ直ぐ前を見据えると僕は肩に金槌を担ぐ。

 

「…ここにいる人たちには指一本触れさせない。ここにいる人は……僕が守るッ!!」

 

 そう宣言した瞬間、両耳のイヤフォンから【灼槌(やつい)・ミョルニル】の伴奏が流れて、僕は空気を小さく吸い込むとフレーズを口ずさみながら、襲い掛かってくるノイズに向かって金槌を振り下ろしていく。

 

小さいままじゃあ 救えない 報われない 守れないと分かった だから今こそ Scorchihg sun 痛む間もなく 打ち砕いてあげましょう こんな輪廻(りんね)

 

 群れをなして襲いかかってくるノイズが近づいてくる中、そんなノイズの集団へと金槌を振りかざした……

 

 

 

 

**8.

 

 S.O.N.G.のミーティングルームでは忙しなくキーボードを打つ音が聞こえくる。

 薄暗い室内の中、目の前の巨大なスクリーンに映し出させる映像や情報が慌ただしく、場面を移り変わっていく中、画面にいっぱいに警告音と共にノイズの出現を知らせる文字が点滅する。

 

「司令、響ちゃんたちが向かったところとは別にノイズが出現しました」

「なんだとッ!? 場所はどこだ?」

「さっきまで響ちゃんたちがいたショッピングセンター前です」

 

 短い焦げ茶色の髪を揺らし、キーボードを打っている藤尭 朔也は続けて画面に表示されるアウフヴァッヘン波形に驚きの声をあげ、その声を聞いてきた赤髪に赤いカッターシャツを着た風鳴 弦十郎が眉を顰めつつ、藤尭へと問いかける。

 

「ん"これは!?」

「どうした?」

「ミョルニルが……戦闘中です。そのノイズたちと」

 

 藤尭の返答に弦十郎は頭の中が一瞬真っ白になるような感覚に陥る。

 

 コードネーム、ミョルニル。

 その聖遺物を所有している装者はS.O.N.G.にも世界中にもただ一人しかいないだろう––––その装者の名は、暁 歌兎。

 

 恐らく"アノ事"を危惧して、歌兎の姉である切歌辺りが彼女をショッピングモールに残していくのは読めて、響達が工事現場の方に向かっている中必然的に現場に近い彼女がノイズと対峙するのも分かる。分かるこそ弦十郎は表情を険しくさせる。

 

「くッ」

 

 苦虫を噛みしめるというのはこの事を言うのだろう……。

 画面の右端で自身の背丈くらいを振り回しながら、現れたノイズと戦闘を繰り広げる歌兎の左腕は細い腕に食い込むほどに強く巻かれた包帯がある。

 その包帯の下に隠された本当の左腕は大変痛ましいことになっており、彼女の腕をそう至らしめた元凶こそか弦十郎達を苦しまされている原因なのだ。

 もし、この戦闘中に歌兎がソレを発動させてしまえば––––––––––。

「……大の大人が子供のする事を信じられないでどうする」

 

 弦十郎は最悪の事態を思い浮かべそうになり、頭を軽く横に振ると職員へとこう呼びかける。

 

「翼たちの討伐完了次第、応援を呼びかけよう」

 

 それまで歌兎が持ちこたえてくれる事を弦十郎達は願うしかなかった……

 

 

 

**9.

 

 そんなやりとりがS.O.N.G.であったとは露とも思わない装者たちは着実にノイズの数を減らしていき、遂に壊滅させた。

 

「ふぅ……はぁ……やっと終わったのデス」

「切ちゃん、お疲れ様」

「調もお疲れ様デス」

 

 肩で息をしている切歌へと調が声をかける。

 切歌は調へとにっこり微笑むと姿勢を正して、自分達がヘリでやってきた方を向くのを見て、クスクス笑うと結局この場所でも見当たらなかった白髪の青年を思い浮かべながら、調は切歌へと声をかける。

 

「結局、ここには博士居なかったね…」

「そうデスね……くっそ、あのトンデモもッ! 一体どこにいるんデスかっ。あいつが居ないと歌兎が……歌兎が助からないのに……」

 

 両手に掴んでいる(みどり)の刃を持つ大鎌を悔しそうに握りしめ、唇の端から血が出てきそうなほどに噛み締めている切歌をギュッと真っ正面から抱きしめる調。

 

「し、調……?」

 

 突然のことに唖然とする切歌を見上げながら、調は落ち込んでいる親友を鼓舞する為に言の葉を紡ぐ。

 

「切ちゃんがそんなに弱気になってたら駄目だよ」

「……」

「歌兎なら大丈夫。あの子はこれまで色んなところで私達の事を助けてくれたし、何よりも切ちゃんの悲しむことするわけないよ。うん、するはずない……だから、早くアレを歌兎から取り除いてあげよ」

「……うん…」

 

 まだ不安そうにしている切歌のおでこへと自分のおでこをくっつけた調はまっすぐ垂れ目がちな黄緑色の瞳を見つめ、切歌もまたつり目がちな桃色の瞳を見つめる。

 二人の間に言葉はいらない、ただこうして目と目を合わせているだけで何もかも通じ合え、悩みも苦しみも喜びだって半分こ出来る気がした。

 

 数分後、調は切歌から身体を離す時には切歌もすっかり元の調子に戻っているようでブンブンとオーバーリアクションを取りながら意気込む切歌をクスクスと笑う。

 

「……切ちゃん、みんなと合流しよ」

「はい! よーし、今度こそあのトンデモをこてんぱんのデストローイにして歌兎の前に引きずり出してやるのデスッ!!」

 

 切歌が意気込む中、二人のデバイスが同時にけたたましい音を辺りへも響かせるのを見て、二人は急ぎで装者が集まっているところへも走って向かう。

 

「あなた達遅いわよ、何をしていたの」

「ごめんなさいデス。少し手こずっちゃって……」

「何はともあれ。皆無事で良かった。それでは電話をとるぞ」

 

 そう言って、翼が代表して通信を取った瞬間、むこうから切羽詰まったような声が聞こえてくる。

 

『翼か?』

「はい。皆も無事戦闘を終え、一箇所に集まっています」

『そうか』

 

 ドクンドクン……と弦十郎の切羽詰まった声を聞いているうちに切歌は着々と嫌な予感が胸を埋めるのを感じるが首を横に振る。

 つい先ほど、調に励ましてもらったばかりではないか。それにずっと前からマリアにも『切歌。貴女は歌兎の事を何でもかんでも悪い方に考え過ぎよ』と言われている。

 

(そうデスとも。歌兎が心配すぎて、またいつもの癖で悪い方向に考えているだけなんデスから)

 

 やれやれ、困ったものだと自分のことながら……呆れていると、奇しくもその嫌な予感は見事的中することになる。

 

『翼、響くん達も一戦交えた後に済まないが……今から早急にみんなが買い物していたショッピングセンターへと戻ってくれないか?』

「はーぁ? なんでだよ、おっさん」

『……歌兎くんが一人でノイズと戦っているんだ。そのショッピングセンターの前で』

 

「–––––エ?」

 

 デバイスから聞こえる弦十郎の声に切歌の頭を一瞬真っ白になる。

 

(歌兎が戦っている……? 一人で、ショッピングセンターの前で……ノイズと……、なんで………)

 

 湧き上がってくる疑問、焦り、困惑。

 しかし、そのどれよりも胸へと飛来したのは––––––

 

(ノイズと戦っているってことはギアを纏ってる!?)

 

 ––––––このまま、歌兎がノイズと戦い続けていれば、自身に訪れるであろう喪失感……。

 

「くッ」

 

 切歌は弦十郎の話を途中で切ると勢いよく後ろへと振り返ってからひたすら足を動かした。

 

「「「!?」」」

 

 突然の出来事に装者達が反応できない中、いち早く硬直から回復したのは切歌の大親友である調であった。

 

「待って、切ちゃん!!!!」

 

 猛スピードで自分達から離れていく緑色の華奢な背中へと声を上げるが今の切歌には調の声も届かない。

 両耳を切る風に頬を叩かれながら、焦りに満たされる黄緑の瞳が見つめる先にあるのは–––––最愛の妹と別れたショッピングセンター。

 

(何してるデスか! 歌兎! あんなに約束したじゃないデスか! ギアを纏わないでって!!)

 

「歌兎…歌兎、どうか、無事でいてください。お願いだから…」

 

 貴女が居なくなってしまったら……あたしは、お姉ちゃんは……どうしたらいいんデスか……。

 

 このまま、歌兎(いもうと)が居なくなってしまった事を思い浮かべ……両目から霞むのを強引に拭ってからビルの間を大きくジャンプする切歌の脳裏には昔マムと交わしたある約束が流れていた。

 

『切歌、これは大切な事です。落ち着いて聞いてください』

 

 切歌の両肩へと両手を置いたマムのいつにも増して真面目な顔に当時の切歌はギュッと両手を握りしめる。

 切歌にはマムが言わんとしていることは自然と分かっていた……分かっていたことこそ否定して欲しかった。

 しかし、マムが口にしたのは切歌が想像していたよりも過酷なことだった……。

 

『––––今後、歌兎が《完全聖遺物・ベルフェゴール》を発動し、暴走するようならば……切歌、貴女の手であの子を殺しなさい』

『エ……?』

 

 衝撃から意識を取り戻し、マムがいった意味をゆっくりと自分の中で咀嚼し、理解した当時の切歌は目の前にいる彼女へと酷い言葉を浴びせ続けた。

 だが、マムは目の前で罵倒を繰り返す切歌へと申し訳なさそうな…寂しそうな…なんとも言えない表情で見つめ、『もういい! マムなんかに今後一切頼まないのデス!! 』と乱暴に扉を閉める当時の切歌の背へと一言こう呟いたのだ。

 

『…ごめんなさい』

 

 その"ごめんなさい"の意味は今でも分からない。分からないが、マムがそう自分へと言った意味ならわかる。

 

「……大丈夫デスよ、マム。歌兎の事はあたしに任せてください……」

 

 小さく影がさした表情で呟く切歌は目の前に見えてきたショッピングセンターへと飛躍するのだった……

*1
【ミョルニル】

 かの女神トールが使っていたと言われる"どんなに強く叩きつけても破壊できない"といわれ、雷を起こすこともできる(づち)

 ドイツからアガートラーム、イガリマ、シェルシュガナと共に渡ってきた聖遺物で、強すぎる力により、当初はギアにすることが躊躇われていたが実験最中に珠紀(たまき)カルマの歌声により起動を確認し、彼女がミョルニルの装者になる。

 だが、ネフィリムの起動実験でネフィリムを止める為に絶唱を歌ったカルマのギアが弾け飛んで、近くにいた暁歌兎の胸元へと破片が突き刺さり、融合症例第一号となり、歌兎がミョルニルの二番目の装者となる。

 

聖詠|multitude despair mjolnir tron

 

メインカラー|花緑青(エメラルド)

メインアーム|基本は"金槌"。だが、今の適合者である歌兎が時間の流れや自分に対して無頓着(むとんちゃく)な性格の為、"自在に大きさを変えれる"という特性が"自在に大きさや形状を変えられる"と変更し、その場に合わせたメインアームを作り出すことが出来る。金槌以外の種類は"ブーメラン""棒""ダーガー"などなど。



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004 完全聖遺物・ベルフェゴール

10.

 

 両耳なら流れる《灼槌(やつい)・ミョルニル》を口ずさみながら、迫ってくるノイズの群れが放つ攻撃を寸前で交わして、自分の体を軸にしてグルッと金槌を振り下ろす。

 

「ハッ!」

 

 だが、それくらいで減るノイズではない。

 半透明な拳が此方へと振り下ろされるのを寸前で交わし、そのノイズの腹へと蹴り入れると一息つくために数歩後ろへと飛ぶと息を整える。

 

「はぁ……っ、っ……は……」

 

(次から次へ湧いてくる)

 

 戦闘を始めて、もう一時間くらい過ぎたがノイズの群れは減るどころか、最初の頃よりも増えている気がする。

 肩で息をし、頬を流れる汗も気にせずに目の前で溢れているノイズの群れをどうするべきか頭を悩ませる。

 

(このまま戦っていてもジリ貧だ)

 

 どんどん溢れてくるノイズを今まで通りに倒しているようならば、元々少ない僕の体力の方が底が見えてきてしまう。

 

 ならば、どうするべきか……?

 

 きっと、今の僕に出来るのは工事現場にノイズを倒しに行っている姉様達が帰ってきてくれるまでの時間稼ぎしか出来ないだろう。

 

「……ッ」

 

 "不甲斐ない"と思わず唇を噛み締める。

 結局、僕自身は姉様や他の装者のお姉ちゃん達に比べると力も実力も全くない、それどころか迷惑をかけてばっかりだ。

 

(もっと強くなりたい。姉様や他の人達の力を借りなくても一人前に闘えるほどの–––)

 

––––力を欲するか、同胞(どうほう)

 

「!?」

 

 ドクンドクンと*1左腕が脈立ち、僕の脳へとアレの声が反響する。

 むわんむわんと視界が歪み、片膝をついた僕はやけに嬉しそうなアレの声を黙らせようとギュッと包帯でぐるぐる巻きにされた左腕を握り締め、右掌で冷や汗が流れる顔を覆う。

 

(……煩い。今は君に構ってる暇なんて–––)

 

 アレを抑えるのに必死な僕は背後にいるそいつへと注意を怠っていた。

 とんがった右手がバットのように横に振られ、ドンと身体へと強い衝撃が走り、前のめりに倒れこみ、真上から何かが迫っているのを感じて、横へと転がることでなんとか攻撃を避けた僕は肩で息をしながら、攻撃を受けたお腹をさする。

 

「…痛ぅ…」

 

 お腹をさすり、思った以上にダメージを食らったことで僕の心は苛立つ、こんな些細な攻撃を受けてしまった自分自身の弱さに。

 その苛立ちに反応したのだろう左腕が脈立ち、続けて聞いているだけで気分が悪くなる声が脳内へと響く。

 

我を解放しろ。そすれば、この状況を打破(だは)出来るぞ

 

(くっ…煩い、黙って。君はお呼びじゃない。僕だけでもこれくらい撃破出来る)

 

そうか。精々、抗うといい。どうなっても其方(そなた)は我を呼ぶことになるのだからな。我はいつでも其方の呼びかけを待っておるからな

 

 首を横に振り、アレを追い払うことに成功した僕は自分の左腕に埋め込まれたいるソレを思い浮かべる。

 

–––*2《完全聖遺物・ベルフェゴール》

 

 僕の腕をこんな風にした元凶。

 ぐるぐるにいつも巻いている真っ白な包帯の下には正反対の色に変色したげっそりと痩せ細り、骨ばった醜い腕が広がっている。

 思い出したくもない、ずっと忘れていたいとすら思うもうひとつの僕の罪。

 

「……ちっ」

 

(やばい。これ以上、ダメージを食らったら……アレが出てきてしまう。それだけはどうにかして避けないと…)

 

 舌打ちして、金槌を担いだ僕へと見知った声が掛けられる。

 

「歌兎ちゃん、前!」

「…!?」

 

 未来お姉ちゃんの叫び声で前を見れば、もう寸前までにまでノイズたちが居て–––––大きく振られた腕や拳は僕のお腹や顔に殴り、僕は近くにあるビルへと叩きつけられる。

 

「がっハッ……げぼっげほっ…」

 

 その際、余りの衝撃に唾を吐くと、ドテっとその場へと崩れ落ちる。

 数回深呼吸をし、ギュッと片平に投げ捨てられている金槌を引き寄せて、ギロッと前を向く。

 

 これくらいで負けるわけにはいかない……負けられるわけがないッ!!

 

(ここで僕が倒れたら、ここにいる人たちが、未来お姉ちゃんが灰へと成り替わる。それだけは何としても避ける! 僕が引き起こしてしまったことなんだ。僕が責任を取らなくてはいけないんだッ!

 

 –––––––例え、この身がアレに取り憑かれようともッ!! )

 

「歌兎ちゃん!!」

 

 悲鳴じみた声を上げながら、近寄って来ようとする未来お姉ちゃんを掌を見せることで止めてから、僕は大きく息を吸い込み、心の中に居座るアレへと呼びかける。

 

なんだ? さっきまで我の力なぞ借りぬとほざいておったくせに…どういう風に吹き回しだ?

 

(……生意気なことを言ってごめんなさい。この状況を変えるためにはあなたの力が必要なんです。お願いします、力を………貸してください)

 

クククク、アハハハハ、よいよい。我は素直な其方の事を()いているからな。存分に力を貸してやろう

 

 アレは僕の呼びかけに嬉々として受け入れ、僕へとその力を受け渡す。

 

––––––ほれ、受け取れ、望みの力だ

 

「ガ………ッ」

 

 膨大な力の束が僕の心臓近くにあるミョルニルへと流れ込み、僕の身体は沸騰しそうなほど熱くなる。僕から発せられる蒸気により、周りの風景が歪み、ガクッと倒れそうになるのを何とか耐えると、引き寄せていた金槌へと手を伸ばし立ち上がろうとするが……余りの熱さと暴走する力により、両膝を地面へと付けた僕は左腕を強く握りしめる。

 

(熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。身体が熱い、胸が…左腕が…左目が…全てがあつい、アツイ、熱いッ!!

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。目の前のやつが憎い、僕を苦しめるやつらがにくい、ニクイ、憎いッ!!

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 

こいつらも、後ろでギャアギャアうるさい奴もすべて、スベテ、全て…この金槌でーー殺すッ!!!! )

 

「あっ…あぁああ…ッ!」

 

(って何を考えてるんだ、僕はッ。未来お姉ちゃんや守ろうとしていた市民の人まで手にかけようなんて……)

 

何故我を拒む? 同胞。後ろにいる奴も周りにいる奴も其方の事なんてどうとも思ってない。我が身が可愛いロクデナシばかりだ。どうせ周りのいる奴らも後ろにいるあの黒髪も其方の左腕を見れば『気持ち悪い』『悪魔』って(さげす)むに違いない。同胞が命を懸けて守ってやる価値すらないクズだ。

 

(ち、がうっ。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う……違うッ!!!! 未来お姉ちゃんはっ。そんな人じゃないっ。クズなんかじゃ……ないっ。僕の事を、何よりも姉様達を受け入れてくれたそんな人が悪い人なわけないッ)

 

違うと思うのならば、何故このような粗末な白い布などで我を隠す? 其方も気づいているのではないか。もう自分自身が黒髪や周りの奴らよりとは違う異端の奴らだと

 

(だまれ)

 

おおコワイコワイ。そんなに睨みを効かして、我を威嚇するということはさっきのことは図星ということか?

 

(煩い煩い煩い、黙れ黙れ黙れ、もう喋るな)

 

もういい加減、認めたらどうだ? 其方は……いや、同胞はもうとっくに我の一部なのだよ。今更何をしても誰も同胞を救うことは出来まい

 

(いち……ぶ?)

 

ああ、その証拠に––––

 

パチンと指を鳴らすような音が脳へと反響し、肢体の隅々まで音が響き渡った瞬間から視界が真っ暗になり、ぬめぬめした感触に顔をしかめると足元がコポコポと音を立てて、墨のような液体へと引きずりこまれていく。

 

こうすれば、我が同胞の心体を自由に操ることができる

 

 どろどろした真っ黒い液体に乗り込まれていく中、僕が見たのは–––––

 

『安心してよ、僕。ボクが僕の分までここにいる奴もこの世界も壊してあげる。そして、作ってあげる、キミの暮らしやすい世界を』

 

 ––––––僕を見下ろすのは日が当たると水色に光るロングの銀髪、眠たそうに見開かれた黄緑色の瞳が特徴的な小柄な少女。

 で、僕との違いは瞳に光沢がないのと銀髪の毛先が青紫なところだろうか。

 

 っていうよりも………僕ッ!!?

 

『ふふ……』

 

 びっくりしている僕を沼から引き上げた瓜二つのボクはそのままの勢いで僕を抱き寄せ、イタズラに笑いかけてから、その小さな唇を僕の唇へと合わせる。

 

『ん……っ』

 

『んッ!?』

 

 目を丸くする僕の身体は次第に薄くなっていき……合わさっている小さな唇に吸い込まれていくかのようにボクの中へと溶けていき………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、一つとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 混ざり合い、産まれた新たなボクの瞳に映るのは破滅と支配の二文字。

 

『さあ、始めよう、愚か者達への反乱を。新たな世界の礎の為に!!』

 

 ニンヤリと小さな唇が不敵な笑みを作り出した。

*1
《完全聖遺物・ベルフェゴール》と同化したその腕は真っ黒に変色し、骨ばっている。

それを何も知らない者が偶然その腕を見てしまったならば口を揃えてこう言うだろうーー"悪魔の腕"と。

 

故に、彼女はその醜い自身の左腕を包帯で隠すことに決めた–––––。

 

優してもらう価値すらないこんな自分のことを"大切な仲間"と言ってくれた暖かい人々達を悲しませないために、驚かせてしまわないために………そして何よりも嫌われないように………

 

*2
ベルフェゴールは、キリスト教における七つの大罪に比肩する悪魔の一柱で、『怠惰』『好色』を司る悪魔である。男性を魅了する妖艶な美女の姿で現れて、『好色の罪』をもたらす悪魔とされ、さらに占星術では性愛を司る金星の悪魔とみなされている。

また、中世のグリモワールに発明を手助けする堕天使として紹介されて、便利な発明品を人間へと与え、堕落させるという『怠惰』の悪魔にふさわしい力を持つ。

 

故にベルフェゴールは『装着者を堕落させるためならば手段を選ばない』。

心へ、脳へと甘言を囁き掛け、自身の膨大な力を分け与え続けることで装着者を忽ちに墜落させ暴走させてしまうのだ。

ベルフェゴールが引き起こす力を、暴走を繰り返していると終いにはベルフェゴールに神経・身体を乗っ取られてしまう。

 




闇落ち歌兎、好きな人居るのかな?(ふと思う)


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005 いつもと何かが違う歌兎(いもうと)

※※作中で登場する装者のみんなの技はアプリを元に書いています。※※


11.

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!!!」

 

 ビルとビルの間を背中に装備したブースターの力を借りながら、短距離であのショッピングセンターの付近へと駆けつけたあたしの耳に届いたのは大気を揺らす声。

 叫んでいるとは訳が違う。喉が裂けるほどに()えているのだ。

 

 –––誰が?

 

 その問いに関する答えは出ていた。

 大気の空気を揺らし、自分の耳へと届くこの声を聞き間違うわけがない。

 彼女が産まれてから13年。

 あたしはずっと彼女の側にいて、その声をずっと聴いていた。

 桜色の唇から漏れ出る声音は物静かで、可憐で、あたしを見かけるたびに『おねえちゃん』『姉様』って親しみを込めて呼んでくれた。

 

「……嘘デスよね? 歌兎」

 

 ––––そう、この声は歌兎(いもうと)のだ。

 

 認識した瞬間、血の気が引いていくのを感じる。

 嫌な予感が身体中を駆け回り、脳内には"アノ状態になった妹"が近くにいる人々やビルを破壊している姿が浮かび始めて……あたしはギュッと(みどり)の刃を持つ大鎌を握りしめると嫌な予感を払拭(ふっしょく)する為に首を横に振る。

 

(まだ、そうと決まったわけじゃない……。歌兎は無事なはず。だって、最速であたしは歌兎を護るために戻って来たんデスから)

 

 もう寸前まで来ていたショッピングセンターの入り口向けて、止まっていた両脚を動かして、ビルの下を覗く。

 

 そこに広がっていた光景ははっきりいって最悪だった。

 

 入り口付近にある大きな道路には"アレ"を隠す為にきつく巻かれた包帯を握りしめたまま、項垂れている最愛の妹の姿があり、その周囲には工場よりも多くのノイズが道路を埋め尽くしている。

 思わずガリッと奥歯を噛み締め、今すぐにでも歌兎を助け出そうとした時だった。

 

「歌兎ちゃん! 歌兎ちゃんッ!! どうしちゃったの? しっかりしてッ!!」

 

 その声の主はノイズの群れには目もくれず、ガラスとヒビが入ったビルから顔を出して、大きな声をあげて、妹の名前を連呼している。そして、その正体は–––

 

(––––未来さん!? なんで、そんなところに!?)

 

 歌兎の事だ。未来さんを巻き込む事況してや戦場の近くに避難させることはしないはず…。

 ならば何故未来さんがそこにいるのか、理由はきっとあたしにあるのかもしれない。

 

『未来さん、歌兎のことをよろしくお願いしますデス』

 

(あたしってば大馬鹿者デスッ)

 

 未来さんは責任感がある人だ。

 それに歌兎が聖遺物との融合例であることも知っているし、響さんが融合例だったこともあり、歌兎にも思う事はあった筈。

 ほんとは市民に混ざって逃げるべきだと思っても歌兎の事が心配になって、戦闘の邪魔にならないところに避難して成り行きを見守っていたのかもしれない。

 

「……」

 

 歌兎の事は確かに気になるし、早く助けてあげたい。だが、それは今は脇に置いておくべきだ。幸い、脱力させている小柄な身体を覆うのはミョルニルのギアで解除される様子はない。

 ならば、早急に自分が行うべきはノイズに居場所を把握され、ジリジリと距離を詰められている未来さんの救出だ。

 

「うりゃあああッ!!」

 

 ヘッドホンから《獄鎌・イガリマ》の伴奏が流れ、あたしはビルから身を乗り出すと両手に持っていた大鎌を足へとくっつけ、背中にあるブースターで加速し、未来さんに群がろうとしているノイズ目掛けて突っ込んでいく。

 

 【断突・怒Rぁ苦ゅラ】

 

 足に付いたアームドギアに触れたノイズ達が灰に変わるのを見て、すかさず両手に大鎌を構え、迫ってくるノイズの白く尖った拳を避け、お返しとばかりに緑の刃を振るう。

 

警告メロディー 死神を呼ぶ 絶望の夢Death13

 

 【怨刃・破アmえRウん】

 

 上から鎌をすくい上げるようにしておきた緑の波動が何層にも重なり合っているノイズの群れに一筋の道を作るのを見て、両手に持った鎌を振り回しながら、未来さんへと近づいていく。

 

レクイエムより 鋭利なエレジー 恐怖へようこ––––

 

「きゃああああッ!!」

 

(未来さんの声!?)

 

 どうやら周りにいるノイズに気を取られている内に一体程未来さんへの接近に許してしまったようだ。

 ガリッと歯を噛み締め、邪魔するノイズをがむしゃらに鎌を振ってから灰へと変えていく。

 

「ッ……」

 

 未来さんへと無慈悲に右手を振り下ろそうとしているノイズを真っ二つに切り裂き

 

–––––そッ!!

 

 パラパラと黒い灰になって落ちていくのを確認してから未来さんへと近づく。

 

「未来さん、大丈夫デスか?」

 

 振り下ろされる腕に恐怖を感じたのか、咄嗟に目を瞑って震えている未来さんへと恐る恐る声をかけると固くつむっていたピクピクと震えながら、ゆっくりと瞼が上がっていく。

 

「切歌……ちゃん?」

「はい、助けに来ました。じきに響さん達も駆けつけてくれるはずデス」

 

 コクンとうなづくあたしにホッとため息をつく未来さんはハッとした様子で数歩近づくと心配そうな声で尋ねてくるのでポンと胸を叩いてから、ニコッと笑う。

 

「そうなんだ、良かった……。…そうだ、歌兎ちゃんは? 歌兎ちゃん、変な声を上げてから動かなくなっちゃったの……無事だよね?」

「無事に決まっているじゃないデスか。歌兎はそんなにやわじゃないデスし、何よりも世界で一番あたしの可愛い妹なんデスからっ。あんな奴らに負けるわけないデスっ! 可愛いは正義なんデスからっ」

「ふふふ、そうだね…」

 

 クスクスと笑う未来さんの肩を掴み、後ろに下がって欲しいという意味を込めて押すとコクンとうなづいてくれた。

 

「だから、未来さんはもう少し離れたところに居てください」

「うん、分かった。切歌ちゃん、歌兎ちゃんの事よろしくね」

「任せてくださいデス!」

 

 未来さんが離れていくのを確認してから、今度は歌兎を取り囲んでいるノイズの群れを親の仇を見るような目で睨む。

 慈悲なんてない。

 こいつらはあたしの一番大切な家族を……妹をいたぶり、苦しめ、傷付けて、あんな声を上げさせた。

 

「あたしはお前達も……そして、お前達をここに呼び出したあいつも許さないッ! イガリマの怒りの刃、その身をもって味わうといいデス!!」

 

 ブンブンと両手に持った大鎌をがむしゃらに振るい、この塀の向こうで今だ力無く項垂れているのであろう妹の事を思い浮かべる。

 遠目に見た感じでも歌兎はボロボロだった。左腕に巻きついている包帯には砂埃がついて、ギアのあちらこちらには切り傷によって空いた穴があった。

 

 あの子は自分があいつ……ウェル博士を逃走へと加担していた事を悔いていた。"みんな気にしてない"と伝えても、ノイズや博士の情報が入るたびに眠たそうな瞳に罪悪感が混じり、小さな唇を噛み締めていた。

 あたしはそんな様子の歌兎が見ていられなかった……ううん、見たくなかった……そんなに悔やまらなくていい、貴女は貴女の考える最善の道を選んだだけなんだから…貴女がそんなに後悔することはない。貴女のおかげで助かった命、そして救われた人が沢山いるんだから…って伝えたかった。

 でも、上手く言葉に出来なくて、言えることは"気になくていい"や"大丈夫"といったありふれた言葉。

 これ以上傷ついて欲しくない。これ以上頑張らないで欲しい。これ以上戦わないで欲しい。これ以上傷を作らないで欲しい。これ以上心配させないで欲しい。これ以上………あたしの前から居なくならないで、欲しい…。あたしには貴女が必要なんだから…貴女が居ないときっと弱くなっちゃう……。

 こんなにも伝えたい気持ちも伝えたい言葉も沢山あるのになんで伝えられないのだろう、なんで伝わってくれないのだろう。

 ううん、それよりももっと許せないのは……。

 知っていながらも此処まで妹の事を追い込んでしまった––––

 

––––自分が許せない

 

 【怨刃・破アmえRウん】

 

 上から鎌をすくい上げるようにして歌兎の前に連なっているノイズを軒並み、黒い灰へと変えるのを見てから

 

 【切・呪りeッTぉ】

 

いますぐに just saw now 痛む間も無く 切り刻んであげましょう 信じ合って 繋がる真の強さを 「勇気」と信じてく そう紡ぐ手 きっときっとまだ大丈夫、まだ飛べる 輝いた絆だよ さあ空に調べ歌おう

 

 その場でジャンプして三つに分かれている刃を思いっきり前へと振るう。

 

「はぁ……はぁ……、歌兎………」

 

 歌兎の周りにいたノイズも周りにいたノイズも全部駆逐した。ここにいる人たちに迫る危機は脱したというのに、最愛の歌兎(いもうと)は今だ左手を掴んで項垂れたままで……あたしはグッと変な声が喉から鳴るのも構わずに歌兎へと一歩、また一歩と近づいていく。

 

(もう終わったんだよ、歌兎…もう頑張らなくていいんだよ…)

 

 あたしが駆けつけるまでに傷ついたその小さな身体を今すぐにでもギュッと抱き締めたい。そして、トントンと背中を撫でながらこう言うのだ、"よく頑張ったね"と"だから、今日はもう帰ってぐっすり寝よう"と。

 でも、早く寝ちゃったら、調に怒られちゃいますね……『怪我してるんだから、手当てしてもらわないとダメ』って。だから、寝るのはメディカルを受けて、あったかいお風呂に入って、美味しい晩御飯を食べた後になっちゃうけど……ごめんね。その分、お姉ちゃん、歌兎の好物の麻婆豆腐、頑張って作るから……。

 

(だからね…)

 

「歌兎…」

 

 もう、顔を上げて…欲しいな。お姉ちゃんに可愛い顔見せて、いつもみたいに言ってよ…『…姉様、心配しすぎ。僕なら大丈夫だから』って。

 

「……っ」

 

 身動き一つしない歌兎に泣きそうになる気持ちを押さえつけ、項垂れている歌兎の近くに膝付き、労いの意味を込めて、その身体を抱きしめてあげようとした時だった。

 

「ふんッ!」

 

 さっきまで項垂れていた歌兎が突如左手に持ったダガーへと変化した金槌を横へと振るうのを寸前で交わし、そのまま数歩後ろへと下がり、歌兎の出方を伺う。

 伺っている間、あたしの頬へは冷や汗が一筋流れ、頭の中では警告音がカンカンと鳴り響く。

 

「…流石、姉様だね。あの攻撃も交わしちゃうんだ」

 

 感心したように呟きながら、立ち上がる歌兎にあたしは目を疑い、思わずこう呟く。

 

「…貴女、誰なの…?」

「…誰って酷いな、お姉ちゃん。ボクだよ、歌兎。まさか、妹の顔を忘れちゃったなんて言わないよね?」

「……」

 

(訳がわからない……何が起きてるっていうの……?)

 

 あたしの方へと悪戯な笑みを浮かべる小柄な少女は確かにあたしの妹だ。最愛の妹を見間違うなんてありえない、この子は歌兎だ。

 だけど、何かが違う……何かが腑に落ちない。

 

 –––––––––––確かに目の前にいるのは歌兎だ、だけど歌兎じゃない。

 

 だって、あたしの知っている歌兎(いもうと)の黄緑色の瞳は眠そうながらも日向のようなぬくもりを、優しい光を浴びているはずだから。

 でも、目の前にいる歌兎(しょうじょ)の黄緑色の瞳は眠そうながらに開かれたその先には光沢が浮かんでおらず、まるで鏡のような感じだ。

 腰まで伸びた銀髪もだ。歌兎(いもうと)は光を浴びるとキラキラと光る水色なはずなのに……目の前の歌兎(しょうじょ)は光を跳ね返す上に毛先が青紫色に変色している。

 

 そして、最も違う箇所は()()だ。

 

 歌兎(いもうと)の左腕はその下にある骨ばった漆黒の染まる醜い腕を隠すために真っ白い包帯で巻かれているはずなのに……目の前の歌兎(しょうじょ)の左腕は漆黒に染まっているわけでもなく、骨ばっているわけでもない…年相応の膨らみを持った滑らかな白い肌が広がっていた。そう、右腕と同じ腕が付いているのだ、左腕に……。

 

 その瞬間、あたしはある可能性を考え、目の前で起きている状況を整理し、その仮説が正しいことに気づく。

 気づいた瞬間、あたしはギュッと大鎌を握りしめると喉が壊れんばかりに咆える。

 

「……歌兎を。あたしの歌兎(いもうと)を何処へやったァァァァ!!!! ベルフェゴールゥゥゥゥ!!!!」

 

 敵意を剥き出しにし、八重歯を覗かせ…隙さえあれば喉元を引きちぎらんとしているあたしに歌兎(ベルフェゴール)は可愛らしい唇へとニタァと背筋に悪寒が走るような不気味な笑みを浮かべると無機質な瞳を細めるのだった…。




次回、姉妹(?)対決!


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006 切歌(あね)VS悪魔(いもうと)

12.

 

飛び出た外の世界 一匹の小さな兎 見上げた空には ニコニコ笑顔のお日様とお月様

キラービートMAX ボリュームフルテン 脳髄の隅まで教えるDeath

 

 旋律(イガリマ)旋律(ミョルミル)大鎌(イガリマ)短剣(ミョルミル)

 二つの音の間に二つの歌声が重なり合い、垂れ目がちな黄緑色の瞳と眠そうに見開かれた黄緑色の瞳の間でも火花を散らす。

 

「歌兎を……歌兎を何処にやったッ!! ベルフェゴールゥッ!!!」

「…はぁ……。僕のお姉ちゃんの癖に分からず屋だな……。さっきから何度も言ってるでしょう。僕はボク、二人は一つになったって。だから、ボクがアナタの妹なんだよ」

「お前が……お前みたいな悪魔があたしの妹なわけ…っ––––」

 

 垂れ目がちな瞳がぐわっと細まり、大鎌を握り締める両手が力みすぎて軋む。

 こんな奴が歌兎(いもうと)なわけない。あの子は誰よりも優しく思いやりに溢れた子だ。

 "自分の住みやすい世界を作るために世界を壊す"なんてふざけたことは絶対言わない。それは姉であるあたしが一番知ってる。

 あたしの妹は人が傷つくところを見るよりかは自分が傷つく方がいいと考える子なのだ。本当に優しい子なのだ…。

 

(そして、あたしはその優しさに甘えすぎてしまった…)

 

 きっと振り返れば、妹が背負わなくてもよかった重荷や罪があるはず。

 全部妹が背負う必要なんてなかったのだ。だけど、あたしは妹を苦しめていることを知りながら、自分が楽な方へと逃げてしまった…。

 

 思わず、苦笑いが漏れる。

 

 何が妹が一番大切で、大事で、大好きだ。

 その大切で、大事で、大好きな家族を…妹をここまで追い込んでしまったのは他でもないあたし自身だってのに……。

 

二つが歌う調 夜道を照らすッ!!

 

【攻気・鳶目兎耳】

 

 二つに分裂したダガーが淡い光を放ち、勢いよく身を屈めると両足についたブースターが音を立て、クロスしたダガーがあたしの胸へと突き刺さる。

 

「––––ガッハ!?」

 

 近くにあるビルに背中から衝突し、その衝撃で肺に溜まっている空気を吐き出しながら、地面へと倒れこむあたしは唇の端から垂れてきた唾液を乱暴に拭う。

 そして、さっきまで考え込んできたネガティヴな考えを頭を振ることで無理やり振り落とす。

 

(今は歌兎を取り戻すことが先デス。あんな悪魔なんかにあの子を渡してたまるもんかデスッ)

 

「ゴホッ……くっ」

 

 と意気込んでも、正直いってやりにくい。

 目の前にいるのは歌兎(いもうと)じゃない、歌兎(いもうと)の筈ないのに……。

 なのに、なんで……ッ。

 あの子と同じ表情を、あの子と同じ声音を、あの子同じ仕草を、される度にこうも反応しちゃうんデスか…ッ。

 あと少しで碧刃が当たる寸前で脳裏にチラつく妹の残像が目の前の悪魔と重なり、真っ直ぐ振り下ろすだけの軌道が乱れ、あらぬ方向に向かう。

 

「さっきから攻撃に躊躇(ためら)いが見られるね? そんなにボクが大事なんだ、お姉ちゃん♪ ありがと☆」

 

 悪魔は人の弱みに付け込む生き物だ。

 その生き物があたしの弱みに気づかないわけがない。

 あの子と同じ顔でニタニタと気悪い笑みで安い挑発をしてくる悪魔の誘いに思わず乗りそうになり、"いけないいけない"と首を横に振る。

 

「う…る、さい……ッ!! 誰がお前なんかに攻撃する事を躊躇(ためら)うかデスッ!!」

 

 気を引き締めるとお返しとばかりに挑発してみるとみるみるうちに可愛らしい顔が瞋恚に満ち満ちていく。

「そういうお前こそ、あたしにトドメ刺すのを嫌がってるんじゃないんデスか? ずっとヘッポコ攻撃ばかりで、その調子なら何十……いいえ、何百年経ったってあたしを倒すことなんて出来ないデスよ」

 

 怒りの沸点が低いのも悪魔の特徴ということなのだろうか…?

 と下らないことを考えていると眠そうな瞳が真っ赤に染まっていくのを感じる。可愛らしい唇からは八重歯が覗き、剥き出しの怒りがあたしの瞳を貫く。

 

「…あんま調子乗んなよ、雑魚(ザコ)。僕のお姉ちゃんだから手加減してやってるだけなのにさ。……もういいや、そんなに早く僕と同じところに逝くのがお望みなら、今すぐにでもボクが連れて行ってあげる」

 

 そう言って、ダガーを腰へと直した悪魔は腰につけてあった丸いブーメランを手に取るとこっちを睨む。

 

「やっと本性出しましたね、悪魔」

 

 ニンヤリと笑うあたしにもう怒りを抑えきれないのか、両手に持ったブーメランを勢いよくあたしへと投げる。

 

「だから、言ってるでしょう、ボクは悪魔なんじゃない……って!!!!」

冥界のマスカレードッ!!

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 交差し迫ってるブーメランを寸前で退け、その場でぐるっと回ってから三つに分別した刃を悪魔へと放つ。

 すると、悪魔は一つ、二つは避けられたが後ろから迫ってきていた刃には気付かないで居たらしく……細い肩へと(みどり)の刃が触れ、大きな切り傷を作り出す。

 

「チッ」

 

 イガリマの刃によって引き裂かれた右肩を抑えながら、悪魔は大きな舌打ちをするとイガリマを構えるあたしを感情が消え去った瞳で睨みつける。

 色が浮かばない眠そうな瞳は無機質な赤い光を放ちながら、歯型が付くほどに噛み締めている桜色の唇からは赤黒い血が頬や顎を濡らす。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

 地団駄を踏んでいる悪魔から漏れ出る囁きは純粋な怒りで満ちており、こっちを半目で睨む表情はあたしの知る妹ではなくなっていた。

 漏れ出るオーラも禍々しいものへと移り変わり、あたしは冷や汗が頬を流れるのを感じるとごくりと喉を鳴らす。

 ここで踏ん張れば、きっと妹が帰ってくる。そんな風にあたしには思えた。

 

「オマエ、ブッ殺スッ!!」

 

【分気・烏兎匆匆】

 

「…くっ」

「殺ス殺ス殺ス殺ス殺スゥゥゥゥ」

 

 戻ってきたブーメランを左右へと納め、ガチャガチャと音を立てながら如意棒を作り出す。

 そして、それを強く握りしめると両足にパワーを溜め込んでからがむしゃらに振り回してくる棒を鎌で受け止めながら、我を失っている悪魔の背中へと取っ手を叩き込む。

 すると、より一層悪魔が纏うオーラが、表情が禍々しいものへの変わっていく。

 

交錯してく 刃の音が 何故か切ないラプソディーに

舞い落ちる雪の音は 優しく包み込む 白く暖かい世界に 夢を抱きたくて

 

 悪魔が怒り、禍々しくなるたびに攻撃は単調となり、読みやすくなる。

 フラフラと振り回してくる棒を交わし、がら空きのお腹へと蹴りを食らわす。

 

「死ネ死ネ死ンジマエェェェ!!!!!」

 

【鬼気・狐死兎泣】

 

籠の中から 救ってあげる

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 爆裂音と爆裂音。技と技がぶつかりあい、地を震わせ、近くにあるビルのガラスを破裂させる。

 轟々。轟々。轟々。パリン。パリン。パリン。

 悪魔の攻撃を受け止めるたびにあたしの身体は爆風で弾け飛び、がむしゃらに鎌を動かしては防御に徹して、悪魔の攻撃を見極めるのに努める。

 

(だんだん、パターンが読めてきた)

 

 あたしは息を整えながら、血相を変えて怒涛の攻撃を放ってくる悪魔を見つめる。

 愛らしい顔は激怒の一色に染まっており、そこに妹の面影は最早ない。

 これなら悪魔に勝てるかもしれない。

 

––––––僕はボク。二人は一つになったんだよ。

 

 しかし、悪魔が言っていたその言葉が何故か引っかかる。

 もしも、仮にその言葉が本当であるならば………悪魔を消滅させると言うことは、妹も一緒に消滅させることになるのではないか?

 二人が一つになったということは…………。

 本当に救うことが出来るのだろうか、この悪魔からあの子を……。

 

(……何、弱気になってるデスか。あたしが助けてあげなくて誰があの子を助けるっていうんデスか)

 

 大きく深呼吸し、自分目掛けて振り下ろされる棒を横にスライドしてから躱す。

 ドンッと地面を叩く棒の先を唖然とした表情で見る悪魔の身体目掛けて、膝蹴りを食らわす。

 

両断のクチヅケで

「ゴホ……」

 

 血が滲む唾液がコンクリートを濡らし、無抵抗となった悪魔へと立て続けに攻撃を放っていく。

 肩。頬。胸。腹。腰。脚。ありとあらゆる所に刃が向かい、華奢な身体に切り傷が出来る度に頬が見えない涙で濡れる。刃の軌道がずれそうになる。守りたいって思っていた人をなんであたしは傷つけているのだ、と。

 

伝えきれない ココロをいまぶつけよう

 

(ううん。ココが踏ん張りどころデスっ。……歌兎、もう少しの辛抱デスからね。きっとお姉ちゃんがあなたをそこから救ってあげるから)

 

きっときっと そう「大好き」伝えたい

 

(歌兎にッ!!!!)

 

 宙へと舞い上がり、鎌を脚へと装着すると背中のブースターが火を噴く。

 この一撃で決める、垂れ目がちな瞳に決意の光が浮かぶ。

 この闘いが終わり、無事あの悪魔から妹を取り戻せたら、自分が思っていたことを包み隠さず話そう。それで妹には休んでもらおう。頑張りすぎたあの子には暫くの間休息が必要だ。あんなに頑張ったんだ、少し休むくらい罰は当たらないだろう。

 そして、あたしは今までしてあげられなかった事をしてあげよう、あの子に。沢山甘えさせてあげて。沢山我が儘も聞いてあげよう。ギュッと繋ぐこの手を二度と離さないために。

 

【断突・怒Rぁ苦ゅラ】

 

 ブースターの勢いによって近づいてくるあたしの刃にゆらゆらと起き上がった悪魔は漸く気づいたようで眠たそうに開かれた瞳が驚きから垂れ目へと変わっていく。

 赤い瞳は迫ってくるあたしをまっすぐと見つめており、あたしはその視線から目を逸らし、この技を決めるだけを考える。考えていた……。

 

「…お姉ちゃん」

 

 だが、その呼び方一つであたしの動きはピタリと止まり、刃はあらぬ方向へと向かい始める。

 だって、その呼び方も、話し方も、何もかもがあたしの記憶にある妹のものだったから……。

 

「ッ!?」

 

 足に装着した刃は悪魔に触れることなくコンクリートへと突き刺さったまま、悪魔の横振りをまともに食らったあたしはガラスが割れたビルへと叩きつけられ、地面へと倒れる前にもう一度技を喰らい、ビルが砕け、瓦礫が降り注いでくる。

 

「…けほけほ。くっ…そっ」

 

 降り注いできた瓦礫を避けていると思いっきり右肩を踏まれ、地面へと再度叩きつけられる。

 見上げるあたしにはニンヤリと片頬をあげるようにして嗤う悪魔の姿があった。

 

「お姉ちゃんは本当に優しくて僕の事愛してくれてるんだね」

 

 ギアが割れた所へと足を置き、ゴリゴリと痛みを与えるように力を入れる。

 全身を駆け回る痛みに顔が歪み、それを見下ろす赤い瞳が面白いものを見たように細まる。

 

「それが命取りのも知らずに–––––」

 

 クククク、と細い喉が揺れ、不気味な笑い声が漏れ出る。

 

「–––––馬鹿なお姉ちゃん(ひと)

 

 そこで言葉を切った悪魔は身体へと置いていた脚を元へと戻し、代わりに両手に持った棒へとガチャガチャと物を装着し、大きな槌へと変化させると振り上げる。

 

「……く」

「…さようなら、お姉ちゃん。今までもこれからもずっと愛しているよ。一足先に僕のところで待っててね」

 

(ここで終わってしまうんデスか……あの子を取り戻せないまま。こんな奴にやれて……しまうん、デスか……)

 

 悪魔が握る大槌があたし目掛けて振りかぶっていく。

 迫ってくる槌を見つめながら、脳裏に浮かぶのは様々な思い出(メモリア)。ああ、これが俗に言う走馬灯というものなのかもしれない…。

 あたしが目を瞑り、大槌に潰されるのを待つ。

 もし出来るのならば、生まれ変わってもあの子の……歌兎のお姉ちゃんに生まれたい。

 ポロ…と瞼から熱い雫が流れる。

 

「!?」

 

 悪魔の驚いた声に目を開ける。

 すると、あたしと悪魔の間に大きな薄水色の壁みたいなものが地面へと深く突き刺さっている。

 軽く咳き込みながら、上半身を起こし、目の前にある壁をジィ––––と見てみると青い筋が走っているように見える。しかもあたしの顔が映り込んでいる……この壁は鉄で出来ているのだろうか?

 

(デデデ、なんデスか、このトンデモ……。ん? あれ? でも、この模様……何処かで見たことがあるような………)

 

 そう、遠くない。遠くない、遠くない過去にこれと同じものをあたしは間近で見たような……。

 その出来事を思い出そうと眉を潜めてると壁の向こうから悪魔の驚きに満ちた声が聞こえてくる。

 

「…壁? いや、これは––––」

「–––––剣だッ!!」

 

 悪魔の声を遮るように凛々しい声が大気を震わせた途端、見知った旋律と銃弾の音が辺りに響き渡った。

 

挨拶無用のガトリング ゴミ箱行きへのデスパーリィー




・全シリーズの中で翼さんの一番好きなセリフは『剣だ!』

・Gで一番好きな戦闘曲は『Bye-Bye Lullaby』
 因みに一番好きなフレーズは"閻魔様に土下座してこい"デス……

・獄鎌・イガリマで一番好きなフレーズは『冥府のマスカード』
 "マスカード"の所のタメが好きなのデス……


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007 蚊帳の外なんて嫌ですよ…。

回想シーンも含めてかなり長め、ゆったりとご覧ください。


**13.

 

「待って、切ちゃんッ!!!!」

 

 デバイスから聞こえてくる弦十郎の声を聞いている最中、いきなり通話を切って、後方へと走り去っていく緑色の背中……暁切歌を立花響はただただ呆けて見送るしか出来なかった。

 猛スピードで自分達から離れていくその背中から漂ってくるのは焦りと怒り、罪悪感……そして、華奢な背中では背負いきれないくらいの悲しみ……。

 悲壮感が漂うその背中を見て、響は悟る。自分が知らないところで何か良くないことが現在進行形で起きているんだ、と。それも歌兎ちゃん関係で。

 じゃなければ、切歌ちゃんの突然の単独行動。調ちゃんやマリアさんたちが師匠の話の間、一瞬浮かべた"不味い"と顔をしかめた……苦虫を噛み潰したようなあの表情に説明がつけられない。

 

「待ちなさい、調」

 

 考え込む響の耳に凜とした声が大気を揺るがし、自分の耳へと届くその声と対立するように切羽詰まった声が聞こえてくる。

 その声の主は黒い髪をピンク色のシュシュでツインテールにしている月読調で響はより一層驚きを強めていく。

 普段は物静かで、自分から言動する事も少ない調が自分を止めているマリア・カデンツゥヴナ・イヴへと感情の全てをぶつけている。

 『偽善者』と呼ばれたあの時よりも今の調は彼女の内に眠る感情を表に出していると思う……。

 

(やっぱり歌兎ちゃんに何かあったんだ……)

 

 知らない内に響は両手を握りしめていた。

 "誰かが困っている時に差し伸べるため"の両手を今必要としている人達が目の前に、そして一番必要としているであろう二人が遠くにいるのに……肝心の自分は彼女達が何を困っていて、何を必要としているのかを、彼女達の事情を知らないでいる。

 悔しかった……目の前に困っている人がいるのに、手を差し伸べられない自分自身が不甲斐なくて、情けなかった……。

 

「でも、マリアっ。切ちゃんが……歌兎が……ッ。私も行かないと……!」

「貴女が今行っても切歌の……歌兎の邪魔になってしまうかもしれないわ」

「そんな事ない!!」

 

 自分を掴んでいるマリアの右手を振り解くように横へと手を振った調は桃色のつり目の目端を上げていく。

 

「マリアだって知ってるでしょう? 歌兎がアノ状態になったら、切ちゃん……歌兎の事……殺さないといけないんだよ!? マムにそう言われてたの、マリアだって、セレナだって聞いてたよね!?」

 

 調から聞こえてくるセリフに響も隣に立つ雪音クリスも風鳴翼も凍りつく。

 

 –––––ウタウガアノジョウタイニナッタラ、キリチャン……ウタウノコト……コロサナイトイケナインダヨ!?

 

 そう、調は言ったのだ、はっきり。

 

 なんだそれは。なんなんだ、それは……ッ!!

 

 噛みしめる唇から僅かに血が滲む。

 

 響が切歌と歌兎と知り合い、仲間になったのはごくごく最近だ。

 だが、僅かな間でも切歌が妹である歌兎の事を大切に思っている事は伝わってきた。

 何処に行くのも二人、そして調は一緒で微笑ましく感じる事も沢山あった。時折、切歌の過保護が装者の中で炸裂(さつれつ)して、主にクリスやマリアから注意される事も最近では響の当たり前の日常となっていて……そして、切歌と歌兎を見ていて、羨ましく思うことがあったのだ。

 一人っ子である響では分からない絆。家族でもない……姉妹という枠では測れない……二人だからこその絆。

 暖かくて……見ていたら、目を細めたくなるような眩い太陽のような……絆。

 

 その絆が今壊されそうとしている––––。

 

 このまま、黙って蚊帳の外で傍観者でいるなんて響にもクリスにも翼にも出来るわけなかった。

 もう彼女達と関わってしまったのだ、今更他人事のように振る舞えるわけがない。

 三人は視線を交差させ、アイコンタクトを交わし、自分達が思っていることが一緒なことを知り、"ふ"と口元を緩ませる。

 

「……今回ばかりはバカに賛成だな」

「……ああ、どうやらいつの間にか私も雪音も立花に考え方が染まっていたようだな」

「クリスちゃんも翼さんもなんだか言い方に棘があるよ……。でもいいんですね?」

「愚問だ。立花。私は暁達がどんな問題を抱えていようが受け入れる自信はある。今更仲間外れなんて悲しいではないか」

「まー、チビやあの過保護が心配なのはあいつらだけじゃないからな…」

 

 決意を新たにする三人の前では、今だ言い争う三人の人影がある。

 荒ぶる調を落ち着かせようと彼女の小さな肩へと両手を置くマリアを信じられないものを見るような目で見つめ、睨む調は最早正常な判断が出来ないくらいに心を乱している。

 当たり前だ。彼女にとって大切な人が、家族が、今現在進行で傷ついている……傷つけあっているのかもしれないのだ。彼女はその争いを止めたくて、二人に傷つけあって欲しくなくて…早くその場に駆けつけて、止めたいのだろう。

 その気持ちを理解しているからこそ調を止めているマリア自身も辛いはず…。

 

「まだ、そうなったとは限らないわ。今まで歌兎がその状況になっても切歌の呼びかけ、私達が攻撃を与える事で元に戻っている。今回も–––」

「––––なんで、そんなに冷静で居られるのッ!!」

 

 両手を握りしめて、ブンと下へと振るった調は彼女の心を表すように黒いツインテールを振り回す。

 

「私には分からないよッ。マリアの事も、セレナの事もォッ!!」

 

 頭を抱えて、その場に崩れ落ちる調を抱きとめるセレナも駆け寄るマリアの事も自分から遠ざけようとしている調を見て、響はここが自分たちが割り込まれる最後で最初のチャンスかもしれないと思う。

 だから、一歩彼女達に近づいて、声をかける––––彼女達が助ける(ひとたすけの)為に。

 

「……もしかして、歌兎ちゃんに何かあったんですか?」

「……どうして、そう思うの?」

 

 マリアにそう聞かれた響は自分をまっすぐ見てくる薄青色の瞳を見つめ返しながら、自分の思いを口にする。

 

「……私、バカですし…難しいこととかよく分からないですけど……仲間…マリアさんや切歌ちゃん達の事なら分かります。ううん、分かるなんて身勝手な事言ってはいけないですね……」

「–––」

「でも、分かりたい……苦悩を共にしたいって気持ちは本当の私の気持ちです。マリアさんが、調ちゃん達が困っているなら力になりたい……それは私だけじゃなくて、クリスちゃんも翼さんも思っている事です。私達、仲間になったんですから」

「貴女の気持ち、そして翼とクリスの気持ちは理解したわ。でも、その気持ちと歌兎の事は平行ではないわ。残念だけど、この事は私達の問題なの。貴女達が口を挟めるものではないわ」

 

 冷たく突き放すように言うマリアが瞳が一瞬伏せるのを見て、響は引き下がることなく食い下がる。

 マリアもセレナも調も、きっと切歌や歌兎だって、自分たちの問題に響達を巻き込みたくないのだろう……巻き込んでしまって、響達が傷つくのを見たくないから……。

 

 どこまでも優しい、他人思いな人たちなのだろう、元F.I.S.組は……。

 

 だからこそ、響達は手を伸ばし続けたいのだ、彼女達に–––。

 

 優しい彼女達が悲しい思いをするのは……彼女達が自分たちを遠ざけようとしている気持ちと同じくらい…響達にとって許しがたいことだから…。

 

「切歌ちゃんがッ!」

「……」

「切歌ちゃんが……この場から走り去って行くときにチラッと見た顔は焦りに満ちていて、それでいて…一瞬でしたが、何処か悲しそうでした……。私はあんな顔の切歌ちゃんを見た事ない。切歌ちゃんがあんな顔をするって事は歌兎ちゃん関係なんですよね…? 私はマリアさん達に比べると切歌ちゃんとも歌兎ちゃんとも仲良くなったのは最近ですし、二人のことをよく知ってもいませんッ。ですが、切歌ちゃんが歌兎ちゃんを、歌兎ちゃんが切歌ちゃんをどれだけ大好きなのかは分かりますッ!!」

 

 そこで言葉を切った響は自分を見つめてくる三つの視線をゆっくりと交差させていき、照れなさそうに笑い、胸へと拳を押し付け、握りしめる。

 

「私はそんな二人が好きで、二人の笑顔がもっと大好きです、ずっと見ていたいです。きっとこの気持ちはマリアさんや調ちゃん達と同じ筈です。マリアさんはさっきこの問題は私達の問題で私やクリスちゃん、翼さんには関係ないことだと言いました。それは大きな間違いですよ…。こんなにも切歌ちゃんが、歌兎ちゃんが、マリアさん達の事が大好きになってしまったんです…。私は私の大好きな人が困っているのなら……ううん、知らない人だってこの手を繋ぎたいです。困っているのなら助けたい。いらないお世話って言われても手を差し伸べたいです! だってそれが私の親友が好きだって言ってくれた(こぶし)だからッ!!

一度は繋いでくれた手じゃないですか……今更、私達だけ蚊帳の外なんて嫌ですよ…マリアさん」

 

 そう言って、マリア達へと手を差し伸べる響をまっすぐ見て、セレナと調へと視線を送ったマリアは"フ"と鼻で笑うとその手へと自分の手を重ねたのだった。

 

「やっぱり敵わないな、立花響」

「って事は––––」

 

 パァァと満面の笑顔を浮かべる響を手で制してからマリアは表情を暗くする。

 

「––––待って頂戴(ちょうだい)。ソレ……歌兎の事は私の口からは話せないわ。あの子の事を、事情をより深く知っているのは切歌……だろうから。でも」

「でも?」

「私の知り得る事は全て包み隠す事なく話すわ。今はそれが最善だと思うから。風鳴指令もいいわね…?」

 

 切らないでおいたデバイスへとそう問いかけたマリアへと弦十郎は暫くの間、沈黙し、静寂を作ってから重々しい声で返答する。

 

『切歌君、歌兎君には俺から事情を話しておこう』

「…ありがとう。恩にきるわ」

 

 マリアはお礼を言い、瞼を一回閉じてから遠い昔の記憶を呼び覚ますように目を細める。

 

「さて、何処から話しましょうか…? そうね、まずは––––」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ––––その出来事が起きたのは、私とセレナ、切歌と調がマムとウェル博士……ドクターの命令を破り、外出禁止を言付かっている時だった。

 その日、ドクターは響とクリス、翼をネフィリムを完全覚醒させる餌として呼び出し、ノイズをくっして、クリスと翼を動けなくさせた後に響を捕食させようとした……。そうしたであって、だったという過去ではない。

 本来ネフィリムに捕食される予定だった響を体当たりし、軌道を逸らした小さな人影がその運命を捻じ曲げたのだ。

 自分の思い通りに動く出来事に溢れ出る歪んだ笑顔を浮かべていたドクターは自分の完璧な計画を寸前で木っ端みじんに叩き割った人影を睨みつけ、眼鏡の奥の瞳を大きくしていく……。

 

『何をしているのですか…? 何をしているのですか––––

暁歌兎ゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』

『––––』

 

 大気を揺らす憎悪の声が自分に投げかけられていることを知り、チラッと瞋恚で血管を浮き出しているドクターを一瞥した小さな闖入者(ちんにゅうしゃ)・歌兎は何も喋る事なく、肩に担いだ大鎚を地面へと叩きつけ、クリスと翼を束縛しているノイズを消滅させた。

 その後、歌兎は三人が立っている地面に向けて、技を放ち、三人を戦場から離脱させた。

 飛んでいく三人を見送った歌兎は自分に向かって歩いてくる激怒に顔を歪ませているドクターを見つめながら、そっとミョルミルのギアを解除したのだった。

 

『ごほっ……』

 

 歌兎が当然行った行動に反応することも出来ず、モニターで終始を見守るしかできなかった私達の前に歌兎が連れてこられたのはほんの数分後だった。

 乱暴に右手を引っ張られ、私達が見ている前で床に投げ捨てられた歌兎はバランスを崩して床に倒れこむとその身体へと逆上の一撃を埋め込まれる。

 

『お前の所為でぼくの計画は全て泡だ。どうしてくれるんだ! この役立たずがァッ!!』

『ゲホッ、ゴホッ…がはっ……おほっ……』

 

 白い短髪を振り回しながら、湧き上がる激怒のままに小さな身体へと埋め込まれる革靴は頬や胸、横腹や下腹部、脚や足首へと生傷を作っていく。

 白い肌に新たに作られていく青あざに、ドクターが行う度を過ぎた制裁に切歌は自分の両手で顔を覆う。

 

『……っ』

 

 顔を塞いでも聞こえてくる妹の苦しそうな声に小さな肩が震える。

 そんな切歌の様子を見ている私もウェル博士の鬱憤(うっぷん)を晴らすような制裁に目を塞ぎたくなる気持ちだった…。

 こんなのあんまりだ、と。彼女が何か悪いことをしたのか、と。

 歌兎は正したことをした。確かに敵を助かるなんて正気を疑う行動だ。だが、更に正気を疑うのはドクターの行動だ。ネフィリムを覚醒させるに必要だからと敵の装者を捕食させようとした……彼女達がギアを纏っている状態のままを、だ。彼女達も敵とはいえ私たちと同じ人だというのに……。

 

『はぁ…はぁっ…。思い知りましたか…英雄のぼくに逆らうとどうなるか、を』

『……ごほっ……けほっ……』

 

 何度も自分の思いのままに足を振り下ろすことでドクターが抱いていた怒りは小さくなったようで苦しそうに咳き込みながら、血が混ざった唾液を吐き出している歌兎を見下ろしている。

 その見下ろしている瞳を睨むように見上げるのは眠そうに半開きしている黄緑色の瞳だ。

 痛みで瞳を潤ませることもなく、ただ自分を責めるような視線を送り続けてくる歌兎にドクターの静まりかけていた瞋恚の炎がその瞳を見ていくうちに着火していく…。

 

『なんですか、その生意気な()は』

『…何にも。ただ、貴方の言う通り、思い知っただけ…。…貴方がどれだけ英雄に不向きなのか、を』

『このッ!!』

 

 トドメと言わんばかりに下腹部を蹴飛ばされた歌兎は壁の方へと転がる。小さな身体は壁へと激突し、私達の方を向く華奢な背中が何度も咳き込み、僅かに震えるのを見ていると隣にいる切歌の細い喉から『ぁ……』と声にならない声が漏れ出て、思わず歌兎へと駆け寄ろうとするを制している。

 すると、大きく咳き込んだ歌兎は青あざが多く作られた両手を床へと付けると生まれての子鹿のようにぷるぷると両脚を痙攣させながらも立ち上がる。

 そして、後ろにある壁へと背中を預けた彼女は長くなった前髪を横に払うと息を切らし、自分を睨むドクターを鼻で笑うとどうでもよさそうに吐き捨てる。

 

『…僕を殴ったり蹴ったりすることで貴方の気持ちが晴れるならそうすればいい』

 

 壁へと全体重を預け、大きく息を吸い込んだ歌兎はドクターを、そして私達を見渡す。

 所々、肌が露わになっている所は青あざと血が滲み、光に当たると水色に光る銀髪はボサボサと目を塞ぎたくなる容姿(すがた)をしていたが……この場にいる誰よりも輝いていた。

 

『でも、僕は自分の気持ちを曲げてまで貴方の非道に加担する気は全くない! あのお姉ちゃん達を使って、ネフィリムを覚醒させるなんて絶対嫌だッ!! 僕たちはお偉いさんのせいで差別を受けている人達を……困っている人達を助けるために活動してるんでしょう!? なのに、逆に困っている人を傷つけて、増やして……何が救済、英雄なの!? こんなの間違ってるッ!!!!』

 

 激昂する歌兎に私達も切歌も言葉を失う。

 目の前にある彼女が自分たちの知っている歌兎だと認識できなかった。だって、私達の知っている歌兎は物静かで人と付き合うのも自分を表すのも不向きで、いつも切歌にべったりな甘えん坊だったから……。

 甘えん坊で泣き虫で……誰かついてないと危なっかしいそんな子……だったのに、今はその子が誰よりも先に間違いを指摘して、正そうとしている。私達では思っていても出来なかった偉業(こと)を、歌兎(あのこ)が最初にしようとしている……。

 

『煩い煩いうるさぁぁぁぁぁぁぁい!!!! 青二才がァッ!! 英雄のぼくに知ったような口を聞くなァァァァ!!!!』

 

 八重歯をのぞかせ、喚き散らすドクターを一瞥した歌兎はぶんと両腕を振るう。

 

『…なら、尚更だ!! 貴方は頭がおかしい。ううん、貴方みたいな人についていこうとする姉様やマム達もおかしい……よく考えてよ。他人(ひと)の幸せを踏みにじって手にした栄光に、名誉に、救済にどんな価値があるっていうの? その人達が僕達のように不幸になるだけだよ……っ。誰かが幸せになるために誰かを犠牲にするなんて……そんなの僕が望んでいるやさしい世界じゃないよッ!!

それに、貴方みたいな身勝手で自己中な英雄についてくる人なんて居るわけないっ……ううん、みんながついていっても僕一人が貴方の行動を否定し続ける』

 

 眠そうに見開かれた瞳へと闘志を燃やし、そう言い切った歌兎に感情が抜け落ちた表情のまま近づいたドクターは自分を睨みつける歌兎の前髪を鷲掴みにする。

 

『どうやら、貴女には身を以てぼくの素晴らしい作戦を体験してもらう必要がありますね』

『痛ぃ……痛いっ』

『つべこべ言わずぼくに着いて来なさい』

 

 前髪を引っ張りながら、歌兎を引きずるようにネフィリムが閉まっている檻がある部屋へと入っていったドクターの後を追いかける私達の耳に聞こえてきたのは……廊下に反響するほどの大きな悲痛な歌兎の叫び声とむしゃむしゃと何かを咀嚼する音、そして狂ったように笑うドクターの声だった……。

 ドア越しに聞こえてくる三つの音だけでも中で何が行われているのかは想像がついた。ドクターは敵の装者……響達にしようとしていた事を歌兎で行なっていたのだ。むしゃむしゃと何かを噛み砕く音が聞こえてくると言うことは、既に歌兎はネフィリムに身体のどこかを食べられてしまったのだ……。

 

『……こんなの…こんなのってあんまりデス……歌兎が、あの子が何をしたっていうんデス? 人を助けただけじゃないデスか……それなのに、なんでネフィリムに身体を食べられているんデスか……? 可笑しい、可笑しいデスよ! あたしがあの時、あいつらから無理矢理でも奪っていたら、歌兎がこんな目には遭わなかったんデスか……? 歌兎……歌兎っ、ごめんね……不甲斐ないお姉ちゃんで……ごめんね、うたうっ……』

 

 顔を覆い、身体を震わせ、潤んだ声で問いかける切歌の疑問に誰も答えることが出来ないまま、ドアを開けて助けに行くことも出来ないまま、時間だけが無情に過ぎていって……ドアの向こうから聞こえる声が弱々しく『たすけて……もう、たすけてください……』という声に変わったのを聞いて、私は血の気が引いた。

 ドクターなら歌兎が死んでしまうようなことはしないだろうと勝手に思って期待していた。しかし、あの男は世界が自分中心に動いてないと堪忍できない甲斐性無しだったらしい。

 自分の思い通りに動かない歌兎は不要と切り捨て、ネフィリムに捕食させようと考えた……声からしてもう多くを食べられているのだろう…。

 

(くそっ。どこまで非道なの! あの男!!)

 

 今すぐにでもギアを纏い、歌兎を助けださねばならないだろう。

 だがどうやって? 歌兎を助け出すこと自体は簡単だ。だけど、その後はどうすればいい?

 医療の知識は私は齧るくらいしか学んでない。ネフィリムに肢体を齧られ、出血が激しい歌兎は早く血を止めなければ、出血多量でその命を散らしてしまうかもしれない……。

 歌兎の命を守るための手術が出来るのは悔しいがあの男だけだ。だから、あの男に逆らい、歌兎を助けた瞬間、歌兎の命を助ける術を失う。だが、今乱入せねば、歌兎がネフィリムに食われてしまう……どうすればいい? どうすれば、歌兎を救える? どうすれば……。

 

『……ま、マム…ッ! マムッ!! ドクターを止めて、歌兎を助けてあげてください……お願いします……お願いデスから……ドクターを止めて……歌兎を、妹を助けてください……ゔっぅっ……』

 

 部屋への乱入を躊躇う私の目の前で切歌はマムの目の前に進み出ると彼女へと縋り付きながら、廊下へと崩れ落ちた。そして、マムのロングスカートの袖を握りしめながら、その場に跪くと頭を廊下のタイルへと擦り付ける。

 

『この通りデスから……助けてあげてください……。さっきの歌兎の行動に罰を与えなくてはいけないっていうのなら、あたしも受けます、同じように……ううん、それでドクターの怒りが収まらないのならもっと強くしてもいいデス。いいデスから、歌兎だけは……見逃してください……。それとも、さっきの歌兎の言葉使いが悪いっていうなら、今からあたしがしっかりと言い聞かせて、もう二度マムやドクターに歯向かわないように躾けますから……謝って欲しいっていうなら、二人で謝ります……。だから、マム……ドクターを止めてください……。この通りデス……誠意が感じられないっていうなら、あたし……なんだってしますから……ッ』

『切歌、やめなさい』

 

 タイルに顔を擦り付け、おでこをタイルへと何度も叩きつけながら土下座を続ける切歌の肩へと両手を添えたマムが彼女の身を起こそうとするが敵わなかった。

 

『本当になんだってします。あたしに出来る事なら……なんだって……なんだって、するから……。早く……ドクターを止めて……止めてくださいッ!! 早くしてくれないと––––』

 

 ポロポロと廊下を濡らす涙、そして涙に震える声にマムも私達も動きを止める。

 

『–––––このままじゃ、歌兎死んじゃうよ……』

 

 ひんやりした廊下に響くその声に答えるように目の前の扉が開き、壁へと白い何かがぶち当たる。

 切歌と私達が見ている中、砂埃の中立ち上がったのはドクターでひび割れた眼鏡でさっきまで高笑いをしていた部屋を恐怖に満ち満ちた瞳で見ている。

 

『なんなんだ……あの化け物…』

 

 その呟きに抗議をあげるように部屋の中から赤い物体がドクターの目掛けて、飛んでいき、ベチャと彼の顔を汚した後、その赤い物体目掛けて、赤黒いオーラを纏ったモノが壁を貫く。

 

『ア"ア"ア"ア"ア"』

 

 壁を貫き、廊下にヘタリ込むドクターを見下すのは、禍々しい赤黒いオーラに全身を纏った歌兎だった。

 鋭く尖った赤い瞳、ミョルミルのギアのようになっている禍々しいシルエット……この姿は前にも見たことがある歌兎の暴走した姿だった。

 

『ヒィ……』

 

 寸前で攻撃を交わしたドクターはピクピクと身体を震わせながら、恐怖で抜けた腰を無理矢理起こすと私達には目もくれず、走り去ろうとするドクター目掛けて瓦礫を持ち上げた歌兎はドクターの逃げ場を塞ぐようにぶん投げる。

 

『バ、バケモノォォォォォ』

 

 それを交わし、廊下へと何度も倒れこみながら走るドクターが曲がり角に消えるのを見て、私達へと無差別に攻撃を放っていた歌兎が壁を両足で駆け、ドクターへと蹴りを入れろうと助走をつけている寸前、切歌がドクターと歌兎の間に立ち塞がる。

 

『ア"ア"ア"ア"ア"』

『切歌っ。何をしているの! 早くそこを退きなさい。今の貴女では歌兎は止められないわ!』

『切ちゃん! 歌兎から離れてッ』

『マリアも調も心配性なんデスから……』

 

 "やれやれ"と呆れたようにため息をついた切歌は蹴りから自分を攻撃するために尖った爪を突き立て、壁を蹴って近づいてくる歌兎へと満面の笑顔を浮かべて、両手を広げる。

 

『暁さん!』

『切歌!』

 

 セレナとマムの声が廊下で反響し、両手を広げた切歌は歌兎の爪を頬の皮を一枚擦るくらいで躱すとそのまま自分の腕に飛び込んできた歌兎を強く抱き締める。

 

『ア"ア"ア"ア"ア"』

『よしよし、いい子デスね、歌兎』

 

 自分の腕の中で暴れる歌兎に笑顔が崩れそうになりながらも切歌は赤黒く染まった髪の毛をいつものように撫で、背中をトントンとあやすように優しく叩く。

 小さな肩へと顎を乗せ、歌兎に呼びかけるように優しい声音で囁きかけ、その声を聞いていくうちに歌兎の禍々しいオーラが小さくなっていく。

 

『痛かったんデスよね、辛かったんデスよね、許せなかったんデスよね……』

『ア"ア"……ア"…』

『歌兎の気持ちは全部お姉ちゃんが受け止めてあげるから…。だから、今はいつもの貴女には戻ってください……お姉ちゃんはどんな歌兎も大好きデスが、一番は笑顔の歌兎なんデスから…。いつものように可愛い笑顔をお姉ちゃんに見せてください…ね、歌兎?』

 

 にっこりと笑う切歌を間近で見つめる赤い瞳が涙で濡れ、すぅ……と禍々しいオーラが払拭され、眩い光の後に切歌の腕に抱き寄せられているのは()()()()歌兎で眠そうな瞳は自分へと優しく微笑みかけている切歌を見つめ、桜色の唇がわずかに揺れてから物静かな声を漏らす。

 

『………ねえ、さま…? 僕、一体……。たしか、ドクターに連れられて……ネフィリムに身体を食べられて……それで……。それで……どうしたんだっけ…?』

『思い出せないってことは疲れているってことデスよ! だから、歌兎は今からお姉ちゃんと晩御飯が出来るまで寝ましょう!』

『え…? ね、寝るの?』

 

 切歌を見ていた視線がこっちを見て、さっき自分が破壊した壁や廊下を塞いでいる瓦礫を見てから申し訳なさそうに私達を見てくるので、マムが代表して切歌の提案の後押しをする。

 

『切歌の言う通りですね。歌兎は疲れているようなので休息は必要でしょう。廊下の掃除や瓦礫の片付けは私達に任せて、貴女は切歌と休んでなさい』

『…マムがそういうならそうする』

『なら、ベッドまでお姉ちゃんが抱っこしてあげますね♪ えへへ〜、歌兎すっかり大きくなりましたね〜♪』

『…そ、そうかな…? 自分じゃよく分からないけど…』

 

 そう言った歌兎は切歌に連れられ……抱っこされて、休息を取ることになった。

 

 

 

 

 

 そんな出来事の後、歌兎の左腕が骨張った真っ黒い腕に変わっていることを知って……そうなる前にドクターに歌兎を呼び止めていた目撃証言からドクターをひっ捕らえ、白状させようとしたがそれどころではない出来事が立て続けに起きて、気付けばドクターは私達から逃走した後だった。

 

 歌兎の腕に《完全聖遺物・ベルフェゴール》という厄介者を押し付けたまま––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私から話せるのはここまで。私でもあの子が何処で、どんな風にアレ……完全聖遺物・ベルフェゴールを植え付けられたのか。いつから使うようになったのかは分からないわ。そこからは切歌に聞かないと……でも一つだけ確実なのは、博士がこの案件に関わっているって事…。だから、私たちは密かにドクターを捕らえることに専念していたわけ。受け付けたのがドクターなら外す方法も知っているでしょうからね」

 

 マリアから歌兎の身に起きていること、彼女達が抱えている問題を聞かされた響達はそれぞれの反応を見せた。響は琥珀の瞳を丸くし、両手をギュッと握りしめ……クリスは赤いヒールで地面を蹴飛ばす。そして、翼はそんなクリスを窘めている。

 

「あのくそったれッ!」

「雪音」

「分かってる! だがよ。先輩は悔しくないのか…? チビはあたし達のせいで……」

「そうだとしても今するのは悔やむことでも暁に謝る事でもない。どうやって、暁達を救い出すか、だ」

「ああ、そうだな……。あのチビと過保護を助けださないといけないんだもんな……おいバカ! こういう時こそお前のバカ元気が役に立つ時だろ」

「酷いよ、クリスちゃん……」

 

 響がクリスに頬を膨らませて、抗議し終えた後、響達は話し合い。響とクリス、翼はクリスが作り出すミサイルに乗って、一足早く切歌と歌兎の元に駆けつけることにし、残りの装者は本部から送り出されたヘリと共に現場に到着する事になった。

 

 クリスのミサイルに乗り、移動している最中に響の頭の中で流れるのは現在歌兎を蝕む元凶の説明。

 完成聖遺物・ベルフェゴール……装着者を自分の巨大な力を与え、堕落させ、暴走させる。それを何度も繰り返していくうちに装着者の精神は薄れ、ベルフェゴールに乗っ取られてしまう、と言う。

 

「チビも過保護も何でそんな大事なことを言わねぇーだ。あたしらがそんな事でチビを気味悪がったり、嫌いになるわけないだろッ!」

 

 響達に包帯の下に隠された黒い骨ばった腕を見られた途端、嫌われてしまうのではないかと歌兎は心配し、切歌やマリア達、S.O.N.Gのクルーザーや司令にこの事を秘密にしてくれた頼んだらしい。

 唇を噛み締め、吐き捨てるように言うクリスの言葉に響は心の中で深くうなづき、胸にある掌を握りしめる。自分を必要としてくれているであろう二人ともう一度手を繋ぐために……響は拳を振るい、クリスは銃弾を放ち、翼は剣を振るう。

 ミサイルから降り立ち、自分へと見事な連携技を放ってくるクリスと翼を睨みつけ、地面に倒れこむ切歌を抱きかかえる響に舌打ちする歌兎へと視線を向ける切歌は響へと弱々しい笑顔を浮かべながら呟く。

 

「…カッコ良すぎデスよ、三人共…」

「…そんな事ないよ。切歌ちゃんの方がもっとカッコいいよ。一人で歌兎ちゃんを助けるために戦っていたんだよね…こんなにボロボロになりながら……」

「えへへ…そうデスかね…? 歌兎、あたしのこと…見直してくれたデスかね…」

「もちろんだよ。こんなカッコいいお姉ちゃん、他にはいないと思う」

「褒めすぎデスよ、響さん」

 

 響の返答に微かに微笑んだ切歌を戦場から離れた場所に運んだ響は近くにあるビルの壁に彼女を座らせる。

 普段着へと変わった切歌の両手を膝の上に乗せた響は弱々しく自分を見つめる垂れ目がちな黄緑色の瞳を力強く見つめ返す。

 

「歌兎ちゃんの事は私達に任せて。だから、切歌ちゃんは今は調ちゃん達が来るまでここで休んでてね」

 

 それだけ伝えてから立ち上がった響の背中へと切歌の呼び声が掛かり、響はその場に立ち取ると勢いよく振り返る。

 

「響さん」

「なあに? 切歌ちゃん」

 

 白いマフラーをはためかせ、にっこりと笑う響の姿を見て、何か言いたそうに口ごもっていた切歌の唇がゆっくりと笑みを浮かべると穏やかな声が空気を揺らす。

 

「…歌兎の事、よろしくお願いします。あの子は…本当は甘えん坊でさみしがり屋であたしがいないと泣いちゃう弱虫さんなんデス…。だから、あの子がこんな事を望むわけないんデス……歌兎は、誰よりも優しくて思いやりに溢れたあたしの自慢の妹なんデスから」

「うん、分かってる。切歌ちゃんの気持ち、歌兎ちゃんに(ぶつ)けてくるねッ!」

 

 切歌の方に向けていた右拳を自分の胸に押し付け、にっこりと笑う響にこくりとうなづく切歌の垂れ目がちな黄緑色の瞳はしばらく自分から遠ざかっていく響の背中を、風にはためく白いマフラーを見送った後でゆっくりと瞼が閉じていく。

 閉じた瞼の裏に浮かぶのは、照れたように淡く微笑む最愛の妹の笑顔で……。

 

(歌兎……お姉ちゃんと、みんなと一緒に帰りましょうね……)

 

 切歌から思いを受け継いだ響の琥珀色の瞳に映るのは、クリスと翼の連携を交わしながら、小さな唇から鋭い八重歯を覗かせ、眠そうな瞳へと憎悪と激怒という負の感情で、ばさっと宙を舞う銀髪も普段の彼女と違い禍々しい。

 どうやら、危惧していたことが起きてしまったのだろう……だが、それがどうした。ベルフェゴールという聖遺物の支配よりも切歌の歌兎への気持ちの方が強いに決まっている。少なくとも響はそう信じている。

 

「切歌ちゃんから受け継いだこの気持ち。必ず、歌兎ちゃんへと届けてみせるッ!」

 

 響は右拳をベルフェゴールへと乗っ取られたしまった歌兎の胸に向かって突き出すのだった……。




次回、ベルフェゴール(あかつきうたう)攻略戦。

響ちゃん達は、マリアさん達は、そして切ちゃんは歌兎を元に戻すことは出来るのでしょうか……?

第一章、クライマックスまで  あと三話…





追記(2020/3/15)
これからの予定表。
《#1》こと一章の終わりから二章の始まりまでを一気に投稿。
 のため、また暫く更新は休止します。
 その回が全部書けた後は次の日に投稿、と予定してます。


ちょっとした雑談。
2020/3/15の昼頃、切ちゃんの極MAXのカードを計3枚達成!

極クエストを進め、ニヤニヤ…デレデレしました…(//∇//)

偶然拾った手紙を見てしまい、切ちゃんにーーされるのならば、それもまたいい人生ではないかと思う作者でありました。(そして生まれ変わったら、切ちゃんの大鎌になりたい……鎌になりたい…(大事なことなので二回言う)


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008 ベルフェゴール(あかつきうたう)攻略戦

技が2期・3期とごちゃごちゃかもしれませんが、書きたい展開・やりたい展開は全部ここに詰め込みましたッ。



※※※※※※

戦闘曲で一緒に歌う所は其々の装者の歌詞を「」『』の中に収めております。

※※※※※※


14.

 

 周りを見渡しても、天井を見ても、床を見ても漆黒……底なし沼の底のような場所で僕は両膝を抱えて、目の前にあるスクリーンを気怠げに観ていた。

 縦は自分の身長くらいある大きなスクリーンの中では碧刃(イガリマ)を纏う姉様が映っている。

 垂れ目がちな黄緑色の瞳はまっすぐ正面を睨みつけ、怒りからか構えている大鎌がギシギシと軋んでいる。

 

『……歌兎を。あたしの歌兎(いもうと)を何処へやったァァァァ!!!! ベルフェゴールゥゥゥゥ!!!』

 

 八重歯を覗かせ、吼える姉様の姿観て、僕はそっと目を伏せる。

 スクリーンから聞こえてくる姉様の声からも、真っ暗な部屋に響くベルフェゴール(ボク)の声からも、今は逃げ出したかった。何も聞きたくなかった。

 

(……僕、何してるんだろ…)

 

 –––他人(ひと)の幸せを踏みにじって手にした栄光に名誉に、救済にどんな価値があるっていうの? その人達が僕達のように不幸になるだけだよ……っ。

 

 いつか自分の口から出た言葉––––。

 その言葉が今自分へと突き刺さる。

 思い出すだけで目の前がぼやけ、胸が罪悪感で苦しくなっていく…。

 

 ––––誰かが幸せになるために誰かを犠牲にするなんて……そんなの僕が望んでいるやさしい世界じゃないよッ。

 

 今、そんな世界を作ろうとしているのは誰だ? –––僕だ。

 

「ゔぅっ……」

 

 ポロポロと涙がとめどなく奥から溢れては床に広がっている粘ついた漆黒の水へと落ちていく。

 "こんなはずじゃなかった"っていう白々しい言葉が頭中を駆け巡り、より一層顔をスクリーンから晒した。

 

『お前が……お前みたいな悪魔があたしの妹なわけ…っ––––』

 

(そんな事ない。僕、姉様の大嫌いな悪い子になっちゃった……。ごめんなさい…ごめんなさい……姉様……)

 

 いつしか溢れ出した涙は堰を切ったように頬を濡らし、僕はその涙をがむしゃらに拭う事で止めようとするが、より一層強くなってしまう。

 

 いつかいった僕が望むやさしい世界。

 それはみんなが毎日ニコニコ笑ってて、美味しいものをお腹いっぱい食べられて、綺麗な風景を"綺麗だね"って言い合えて、今日も一日幸せだったね、楽しかったねと起きた出来事を思い出して笑顔になれる–––そんな世界。

 そっと手紙に添えられていた一文『この世界ぜんぶハッピったらいつか笑おうデス! 』は時折、姉様が口にしていた台詞でそれを聞いて育った僕はその言葉が現実になったことを夢見るようになった。

 世界がハッピーになって、そんな世界で笑いあっている姉様達と僕を思い浮かべたら、胸が熱くなった。そんな世界があるのなら行ってみたい、住んでみたいって思った。そんな世界を作るための活動があるのならば参加したいと思った、手助けしたいって思った。その力を僕は受け継いだのだから……。

 そっと、右下腹部を撫でる。そこから伝わってくる硬い感触は昔ある人から受け継いだ力の証、ピリッと指先を流れる雷は不甲斐ない僕を責めるある人の怒り。じんわり熱くなる指先にはある人から受け継いだ願い。

 受け継いだ願いは僕の"強くなりたい"という身勝手な考えのせいで踏みにじられ、壊されそうとしている……他ならぬ僕の手で。

 やはり、あの時受け入れるべきではなかったのだ、ベルフェゴール(この力を)

 

「……僕は…ただ、笑っていたかった……っ。笑っていて欲しかった、お姉ちゃんに…大切な人達に……なのに……っ」

 

(……僕、大好きな姉様からも他の人からも笑顔を奪っちゃった…)

 

 スクリーンの向こうでがむしゃらにアームドギアを振るい、僕を元に戻そうと奮闘してくれている姉様が居る。

 大鎌の刃が四肢を切り裂くたびに揺れるスクリーンと閉じ込められている真っ暗な部屋、反響する声も憎悪に満ちている。

 その声を聞くたびに、ボクが行なっている言動に(みどり)刃の軌道が揺れ、顔に一瞬の躊躇がよぎる。

 その度に思うのだ、そんなに気にしないで、と。姉様は自分の使命を全うしようとしているだけなのだから……姉様との約束を、マム達との約束を破った悪い子の僕がこれからどんな目に遭ってもそれは自業自得だ。姉様が悔やみ、悲しむことはない。悪いのは全て僕。そう割り切ってくれればいい。

 

 そう思っていたのに––––

 

『お姉ちゃん』

 

 僕の声音でボクが放った(こえ)にトドメを刺そうと技を繰り出していた姉様の顔が驚愕し、放たれている技の軌道がされるのを見て––––

 

 

 ––––思わず、笑みが溢れてしまう。

 

 

 やっぱり僕は悪い子だ。

 姉様がピンチな時に笑ってしまうなんて……僕は悪い子。ううん、いつか言われた悪魔の子、なのかしれない。

 だけど、そんな悪い子を助けてくれようとしている姉様(ひと)を傷つけるのは絶対嫌だッ!

 

 真っ黒い水から立ち上がり、黒い壁に向かって拳を振るうその度にぐちゃぐちゃと嫌な感触が両手に広がる。

 その間にもボクの声が部屋へと響き渡り、スクリーンには痛みに歪む姉様の顔が写り、揺れる黄緑色の瞳に大槌が映し出され、その側面が徐々に近づいていく。

 

「…誰か……っ。誰か助けてくださいッ!! 僕のお姉ちゃんを……助けてください…」

 

 真っ暗な部屋の中、僕の叫び声だけが反響し、やがて消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

**15.

 

「おい、あそこ。チビと過保護じゃねぇか?」

 

 雪音クリスが作り出したミサイルに乗り、先行して暁切歌と歌兎の救出、援護を目的として結成された組にはクリスの他に風鳴翼と立花響がいる。

 並走する三つのミサイルは右から翼、クリス、響の順で三人の目には歌兎と小日向未来と別れたショッピングセンターが映る。

 数分前とは異なる周りのビルも含めて粉砕され、瓦礫まみれになったその区画に二人の姿を見かける。

 遠目にしか見えないため、詳しくは状況はわからないが緑と花緑青(エメラルド)が刃を重ねているように見える。

 

「確かに暁達だな。だが…」

「様子がおかしいですね。二人共、戦っているように見えます」

 

 薄紫の瞳が挟まり、刃を重ねあっている二人を捉えた瞬間、驚愕で大きくなり、眼球が揺れる。

 

「戦ってるんじゃねえ! あのチビ、過保護を(たお)そうとしている」

(たお)そう……そんな……もしかして……」

 

 琥珀色の瞳が瓦礫の山から出て来た切歌を足で踏み倒し、大槌を振り下ろそうとしている歌兎を捉える。

 風にそよぐ銀髪は先の方が青紫に色づき、地面に背中を預け苦悶の色を滲ませる切歌を見下ろす瞳は真っ赤に染まっている。浮かべる笑みも仕草も普段の彼女とは異なり、禍々しくなっており…翼はそれを見た、唇を噛みしめる。

 

「くっ。どうやら、マリア達が危惧していた事が現実になってしまったようだな」

「ベルフェゴールの支配か。くっ、厄介な時になりやがる!」

 

 ミサイルは二人に近づいていく中、翼は響とクリスへと視線を向けると最終確認とばかりに指示を出す。

 

「まずは暁達を切り離すことだ。暁は遠目に見てもアカツキと対峙したことで重傷を負っている。一旦、戦場(いくさば)を離脱し、傷を癒すべきだろう」

「そうですね。そういう事なら切歌ちゃんは私に任せてください。私が安全なところまで運びます」

「ならば、私と雪音は立花が暁を連れて、戦場(いくさば)を離れる間、アカツキの足留めだな」

「ああ、あのチビには少しお灸を据えてやらねぇーとな」

 

 バキバキと両手を鳴らすクリスとギュッと右手を握りしめる響へと翼はミサイルから足を踏み出しながら、声をかける。

 

「立花、雪音、いくぞ」

「はい!」

「ああ」

 

 ミサイルから身を投げ、暴風に身を任せる翼は二人の間に向かって大きな剣を整形すると柄の端へと足を乗せ、そのまま二人に向かって刃先が向かっていく。

 

【天ノ逆鱗】

 

 二人の間に深く埋まった大きな剣を見て、歌兎はトドメを刺そうとしていた時に邪魔されたからか『チッ』と大きな舌打ちをし、目の前に刺さる剣をどうにかできないかと眉を潜める。一方の切歌は苦しそうに上半身を動かして剣を見つめ、暫くしてハッとしたような顔をしたところで歌兎が目の前の正体に気づいたようだった。

 

「壁? いや、これは––––」

「––––剣だッ!」

 

 翼がそう声高らかにいい、飛び降りるのと同刻クリスがガチャっと両手に銃を歌兎に向けて全銃弾を放っていくのを歌兎は両手に持った大槌で弾き返しながら、後ろへと大きく飛躍する。

 

挨拶無用のガトリング ゴミ箱行きへのデスパーリィー

 

 クリスの胸にある想いをイチイバルが汲み取り、作り出したのが《Bye-Bye Lullaby》。

 戦場に響く歌声に歌兎は大きく舌打ちし、両手に持っている大槌を横にスライドするとクリスに向かって飛び出していく。

 赤く染まった両目にあるのは憎悪と激怒。いつもなら眠そうに見開かれている瞳も怒りのあまり釣り上がり、普段の彼女の面影は最早ない。

 

「チッ」

「舌打ちとは貴女らしくない。どうやら、ベルフェゴールに飲み込まれてしまったのは本当のようだ」

 

 クリスに近づこうとしている歌兎の右横へと迫った翼が大きく両手に持った剣を振りかぶるのを見て、赤い瞳が丸くなる。

 

「しまった!?」

 

 咄嗟に受け身を取ろうとした歌兎の肢体へと斜め右方向に薄青色の疾風が襲いかかり、後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

【蒼ノ一閃】

 

 瓦礫にぶち当たり、咳き込みながら起き上がった歌兎の怒りの矛先は翼へと移行してしまったらしい。

 攻撃を食らうたびに、歌を聴くたびに燃え盛る瞋恚の炎は最早消えることはないだろう。

 

「ゴボゴボ……くっそ」

 

(別人じゃねえーか)

 

 剣を構える翼に向かって駆けていく歌兎の横顔は歪み、血管が浮き出る程の怒りを自分達へと向けていることは明白だった。

 今までここまで感情を露わにした彼女を見たことがあっただろうか……否、クリスと翼が見たことがあるのはいつも眠そうに切歌に手を引かれている姿だった。

 うとうとと小舟を漕ぎながら歩く姿と目の前で怒りに任せる姿のどっちが似合っているかは……見比べる間も無く、姉に手を引かれている姿だった。

 

(似合わねえ事してねぇで、さっさと戻ってきやがれッ。ドチビッ!!)

 

One.Two.Three 目障りだ

 

【QUEEN's INFERNO】

 

 歌兎の横腹へと鉛玉が撃ち込まれ、ミョルミルのギアの装飾品が砕かれ、砕かれたところから赤い血が流れるのを赤い瞳が見て、おでこに浮かぶ血管がより深くなっていく。

 

「邪魔を………ボクの邪魔をするなァァァァァァァァ」

「これは……」

「馬鹿には急いでもらわないとヤバイかもな……」

 

 翼は剣を、クリスは銃口を歌兎へと向ける。

 そんな二人へと視線を向ける歌兎から漂うオーラはより禍々しくなり、毛先だけだった青紫色が真ん中進み、花緑青(エメラルド)色のギアが青紫色に侵食され、真っ赤に染まっていた瞳がより色濃くなっていく。

 

「ボク……我をここまでコケにしたのだ。最早慈悲も甘えも必要なかろう?」

 

 対面した時とは違う古風な言い回しに翼とクリスは眉を潜め、目組ませ、ジリジリと歌兎との距離を計りながら警戒は解かずに意見を交わす。

 

「一種の暴走ってことか?」

「いや、どうやら今目の前にいるものこそが我々が求めていたものらしい」

「コソコソ話は終わったか? 終わってなくとも我から仕掛けさせてもらうぞ」

 

 ニヤッと片頬を上げた歌兎は青紫に染まった大槌を振り上げ、クリスに向かって駆けていくのを翼が割り込み、剣を振るうのを大槌で迎え撃った歌兎との間で火花が散り、苦悶の色をのぞかせ、両手を添えて歌兎の攻撃を止めている翼。

 

「くっ……威力も腕力も前とは比べ物にならない。やはり貴女こそベルフェゴールなのか? アカツキはどうした? その身体の主は無事なのだろうな」

 

 両手を添えて、歌兎の攻撃を押し返している翼からの問いかけに歌兎、いや、ベルフェゴールは鼻を鳴らして、馬鹿にするように笑う。

 

「死にゆく者に語ることなどないが、せめてもの手向けだ。同胞は我の考えに賛同し、身体を貸すことで大義を成そうとしている」

ドタマに風穴欲しいなら キチンと並びなAdios

 

【MEGA DETH PAPTY】

 

 自分目掛けて飛んでくる銃弾やミサイルを大槌で弾き返したベルフェゴールは舌打ちしながら苦々しく吐き捨てる。

 

「忌々しい……。同胞が奏でる歌も、主達が奏でる歌もな。」

 

「ハッ。その歌をさっきまで歌っていたんだろ?」

 

 クリスの問いかけにベルフェゴールは自分の身体を両掌で撫でながら、眉をひそめるクリスと翼へと片眉をあげて挑発する。

 

「主らが纏っているシンフォギアというのはそうした方が効果があるようだからな。それに同胞も自身が奏でる歌によって緑のが傷ついていく姿には随分と堪えていたようだからな。この身体が我のものになるのはもう目の前だ」

 

(堪えていた? この身体が我のものになる? 妙な言い方をする…。もう既にアカツキの体はベルフェゴールのものではないのか?)

 

 マリア・カデンツゥヴナ・イヴから聞いた《完全聖遺物・ベルフェゴール》の話はそうであった。

 暴走を繰り返していくうち、ベルフェゴールに精神を乗っ取られて、終いには心身の自由がきかなくなり、身体の機能が全てがベルフェゴールのものになる、と。

 見た感じ、目の前にいるのはベルフェゴールで間違いない。一瞬もアカツキの雰囲気を感じられない。

 だがしかし、さっき語った台詞が全くのデタラメで切り捨てたいかといえば判断しかねる。

 

(少し揺さぶってみるか?)

 

「…つまりアカツキはまだ貴女に屈してないということか? 完全に支配してないとギアの力もアカツキの身体も制御できないところがある、違うか?」

 

「主、耳ざといな。ま、喋りすぎてしまった我にも責任がある

 

 つまり肯定。

 アカツキが暴走し、ベルフェゴールに心身を乗っ取れてしまった。

 だが、完全に屈してないと思われるアカツキの抵抗により、ベルフェゴールは本来の力を完全には引き出せてない。

 それは身に纏うミョルミルのギアも同じ。

 

(相手が相手なだけにどこまで信じればいいか判断できない。だが、この情報が戦いの突破口になることは違いないだろう)

 

 翼は弾き返したベルフェゴールの身体へと一閃入れようとして、その攻撃を弾かれ、代わりに大槌の側面が彼女の身体へとカウンターを食らわす。

 弾かれ、後方に飛ぶ翼の援護をする為にクラスの両手に持つ銃口が火花と騒音を辺りへと散らす。

 

One.Twe.Three 消え失せろ

「貴様がな」

 

 そのクリスの鉛玉を弾き返しながら、ベルフェゴールは切歌が眠っていたところに一直線で向かう。

 この戦い、切歌が鍵を握るだろう。切歌が傷ついていくときに揺らぐ歌兎の心は激しかった。もう少し揺さぶり、甘言を囁けば堕ちてしまうくらいに。

 少し痛ぶっただけでそれほどなのだ、もし目の前で切歌が操られているとはいえ自分の手で(たお)されたならば……その後は赤子の手をひねるくらいに容易いだろう、本格的に肢体の自由を、思考の自由を奪うのは。

 

(同胞が我を委ねた瞬間、この世界は我のものとなる)

 

 歌兎へと行った通り、歌兎の住みやすい世界に作り変えるのも一興。思うがままに世界を壊して回るのもまた一興かもしれない。

 

(ククク。先のことはその時に考えばよいか)

 

 今は緑のギアを纏ったあの少女を両手に握る大槌で潰すだけ。

 その後は考える間も無く終わるだろう………とベルフェゴールは考えていた。

 しかし、その考えはすぐに浅はかであったことを知る。隙をつき、一直線で戻ってきたところには緑のギアを纏った少女は居らず、瓦礫のみが転がるのみ。

 

「……あの緑は……。ククク…我としたことがまんまんと人間どもに嵌められていたということか」

 

 ベルフェゴールは舌打ちをし、こちらには目もくれずに戦場を後にする黄色いギアを纏い、白いマフラーをはためかせている少女・響へと襲いかかろうとし、忽ちミサイルと一閃により妨害され、地面へと墜落した。

 苦々しく顔を歪め、起き上がるベルフェゴールの行く道を塞ぐようにそれぞれのアームドギアを向けるのはクリスと翼。

 

「待ちな。あんたの相手はあたしらだ」

「貴女に立花の邪魔はさせない。それにまだまだアカツキに対して聞きたいことがあるからな」

 

 ベルフェゴールは唇を噛み締め、翼とクリスの後ろをかけていく白いマフラーを見送るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

16.

 

 両手についた真っ黒い粘ついた水を振り払うのも忘れ、スクリーンの奥で響お姉ちゃんに抱えられ、戦場を後にする姉様の横顔を見送った僕はその場に崩れ落ちる。

 

「……良かった…、良かった……お姉ちゃん……っ。うゔっ……無事で、良かった……」

 

 ペチャッと黒い水へと音を当てながら、崩れ落ちてから年甲斐もなくポロポロと涙を溢れさせる。

 溢れてくる涙を黒い水に汚れた両手で拭きながら、思い出すのはあのままトドメを刺していたらの事だ。

 もしも、あのまま姉様の事を(たお)してしまうことになってしまったら、僕は自分の事が許さなく、憎むようになり、姉様のいない日々に絶望し、屈していただろう、この悪魔(ベルフェゴール)に。

 

 

(もう嫌だ。こんな暗いところでうじうじ悩むなんて……)

 

『待ちな。あんたの相手はあたしらだ』

『貴女に立花の邪魔はさせない。それにまだまだアカツキに対して聞きたいことがあるからな』

 

 スクリーンから聞こえてくる見知った声に奮起する、両手両脚を絡めようとしている黒い水から抵抗するように。

 

撃鉄に込めた想い あったけぇ絆の為 ガラじゃねぇ台詞 でも悪くねぇ

 

 スクリーンから流れる旋律(うた)に希望が湧いてくる、もう一度大好きな姉様に会いたいという。

 

 部屋に響く苦悶の声に耳も貸さず、僕はこの部屋から出る為に近くにある壁をひたすら叩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**17.

 

 S.O.N.Gが用意した救護ヘリから目下に広がる光景を心配そうに眺めている月読調の頭をポンポンと撫でるのは桃色のロングヘヤーを揺らし、淡く微笑むマリアだ。

 

「そんなに慌てなくても大丈夫よ、調」

「暁さんも歌兎ちゃんも強い人達です。きっと負けませんよ。それに立花さん達が先に向かってくれてます。きっと、きっと大丈夫です」

 

 調の両手に自分の両手を添えて、微笑むセレナとマリアに調は潤みそうになる瞳をギュッと詰まるとぶんぶんと頭を振るい、迷いや不安を払拭してから桜色の唇へと笑みを浮かべる。

 

「うん、二人ともありがとう」

『三人とも聞こえるか?』

 

 三人が互いを励ましあっている中、デバイスからS.O.N.Gの司令・風鳴弦十郎の声が聞こえ、同期(シンクロ)した動作で耳へと添える。

 

「聞こえているわ。現状はどうなのかしら?」

『響君達が先行し、得た情報は歌兎君はベルフェゴールに取り込まれ、切歌君はその歌兎君と戦闘を繰り広げ、重症だ』

 

 調の喉から変な声が漏れ出る。

 心配していた事が現実に起きてしまった、やっぱり自分も無理を言ってクリスにミサイルに乗せてもらうべきだった。

 今の自分から歌兎と切歌が失われてしまうなんて考えられない。

 

 空いている手を握りしめているとそっと掌が添えられる。

 前を向く調へと優しく微笑みかけているのはセレナだった。添えられている掌が震えているところ見ると彼女も先程の弦十郎の報告に心を乱し、二人の身を案じているようだった。

 そんな二人へと視線を向けていたマリアは弦十郎へと問いかける。

 

「切歌は……大丈夫なの?」

 

 微かに揺れる声音からマリア自身も切歌の身を案じている事が伝わってくる。

 

『切歌君は響君に救出され、安全なところにいる』

 

 その報告に安堵のため息を同時に吐き出してしまった三人は気恥ずかしさから笑い合い、マリアは気を引き締めると弦十郎へと自分たちの役割の確認を取る。

 

「なら、私たちの役割は切歌の保護ね?」

『切歌君の保護とは別に未来君もいいだろうか?』

「未来さん?」

 

 意外な人の名前に調が小首を傾げる中、セレナがハッとした様子でデバイスへと問いかける。

 

「小日向さん、まだ逃げてないのですか? ショッピングセンターから」

 

 セレナの問いかけに調は思い出す、あのショッピングセンターから離れる前に装者みんなと未来と買い物等を楽しんでいる時に呼び出しがかかり、切歌が歌兎の事を預けていた事を。

 そして、未来がノイズが現れた時に取る行動と歌兎が戦っている時に取る行動を思い浮かべ、ショッピングセンターから離れないことの方が可能性が高いと判断し、デバイスからの情報を聞き逃さないように耳を傾ける。

 

『切歌君と合流し、戦場を離れたようなのだが我々の部隊が到着する前にノイズの群れに襲われてしまったようで、今は––––』

「––––悠長に話している場合じゃ無いじゃないッ!!」

 

 マリアは乱暴にデバイスを切った後にヘリコプターの窓を開けると後ろへと振り返る。

 振り返った先には私服から赤い結晶を取り出して、瞳へと闘志を滾らせた調とセレナの姿がある。

 

「それでは行くわよ! 二人とも!」

「うんっ」

「うん…」

 

 ヘリから身を投げた三人は胸に浮かんだ其々の聖詠を歌う。

 

*1Shield Ionginus defend tron

「Various shul shagana tron」

「Seilien coffin airget-lamb tron」

 

 空で三つの光が半壊し、瓦礫が道路へと落ちている元ショッピングセンター跡に向かって、ゆっくりと落下していく。

 

 

 

 

 

 

 

18.

 

「ぐっ……」

 

(痛い痛い痛い、イタイッ!! 飛び上がりたいくらい痛いのデスッ)

 

 激痛で顔が歪む、激痛で動きが鈍くなる。

 ギアを纏っているというのに肢体が鉛を抱えているように遅くなり、ノイズの攻撃が寸前でないと交わせない。

 だからと言って、未来さんを抱っこしてビルの上へと飛んだり、安全地帯まで運ぶことも今のあたしでは無理だろう。

 先程までの戦闘で歌兎を乗っ取ったベルフェゴールから受けた攻撃がここまで深く、長引くものだとは知らなかった。最後にグリグリと踏まれた時の痛みが今だ全身を駆け抜け、脂汗がおでこを濡らし、背中をも濡らしているように思える。

 軋む身体、広がる痛みは正直、未来さんの手を引いて走って逃げられている事自体が不思議だった。

 

(LiNKER(リンカー)を予備で持って行きなさいって言ってくれた救護班の皆さんには感謝しかないデスが、こんな状況、あたしは予測もしてなかったデスし、望んでもなかったデスよォッ!!)

 

 そんな事を言えば、妹がベルフェゴールに乗っ取られる事自体も望んでいたわけではないのが……ぐっ……痛すぎて、意識が朦朧としてきた。目の前が霞む、ギアが自然と解除されそうになる。

 

(しっかりしろッ! 暁切歌ッ)

 

 ぶんと首を横に振り、持っていかれそうになっていた意識を無理矢理引き戻してから、大鎌を握りしめる。

 今ここであたしが倒れれば、待つのは未来さんがノイズに襲われ、灰になる未来(みらい)だ。

 響さんに歌兎のことを託したあたしが真っ先に響さんの大切な人を犠牲になるような選択をしてどうする! あたしは歌兎だけじゃない、みんなが笑ってる世界に住みたいんデス。その未来(あした)に辿り着くために歌兎も未来さんも誰一人も欠けてはいけない。

 

(女は愛嬌。長女は度胸。お姉ちゃんは根性デスッ!! どんな時だって、お姉ちゃんは強しって事をノイズに分からせてやるデス!)

 

 その為にはひとまず未来さんを安全な場所へと送り届けなければっ。

 

【怨刃・破アmえRウん】

 

 大鎌を下から上に掬い上げるように攻撃を放ったあたしは未来さんに断りを入れてからお姫様抱っこする。

 

「未来さん少し失礼するデス」

「わっ!? き、切歌ちゃん……?」

「少し揺れますけど、許してくださいね」

 

 びっくりした様子であたしを見上げる未来さんに笑いかけながら、背中をブースターを着火し、半壊したビルに向かって走り寄ると砕けたところへと思いっきり踏み込み、近くにあるビルへと飛び移る。

 全身を駆け巡る痛みは無理矢理忘れる為に脳内で歌兎の事を考えることにする。痛みと歌兎への愛ならば愛が勝つに決まっている。

 

(歌兎が一人。歌兎が二人。歌兎が三人。歌兎が四人。歌兎が五人。一気に飛んで、歌兎が百人)

 

 脳内では一面見渡せば歌兎だらけの空間にあたし一人がぽつーんと真ん中に突っ立っており、そんなあたしに向かって歌兎達がそれぞれ『姉様』『お姉ちゃん』と言っている。それもバリエーションがあり、恥ずかしそうに言ってたり、嫉妬してたように言ってたりと…様々な呼び方をされる中であたしは頬を自然でだらしなく緩んでいた。

 

(ななッ!? ここは天国デスか!? 一生離れたくないんデスけど!?)

 

「切歌ちゃん、さっきから顔を青ざめさせたり真っ赤にしたり大丈夫? もし重いなら、私を置いても」

「心配無用デス! 少し歌兎の事を考えていたら、歌兎まみれの部屋になっただけデスから」

「そ、そうなんだ……」

 

 一気に未来さんの心配そうな目が可哀想な人を見る目に早変わりしたデス……。

 そんなにイケナイ想像だっただろうか? 歌兎が百人いる部屋というのは……。

 しかし、憐れむ視線とは裏腹に百人から可愛らしく名前を呼ばれた途端、全身を駆け巡っていた痛みは一気に吹き飛び、今はいつも以上に身体が好調な気がする。

 

(このまま、未来さんを連れて逃げ切れたらいいんデスが………って、そんなにうまく物事が進むわけないデスよね……)

 

 とほほ…と肩を落とすあたしの瞳に映るのは翼を持った飛行するノイズでそれをあたしと同じように発見した未来さんが心配そうに肩に添えていた手に力がこもるのを感じ、不安をかき消す為にニコッと笑う。

 

「切歌ちゃん……」

「未来さん、大丈夫デスよ。あんなのサクッと終わらせるデスよ。なので、未来さんはしっかりあたしにしがみついててくださいね、落ちたら危ないんで」

 

 そう言いながら、近くにあるビルの屋上に飛び移り、ブースターを使いもう一つ飛び乗ったあたしは未来さんをゆっくりと下ろす。

 

「未来さんはここで待っててください。ここなら地上にいるノイズとも距離がありますし、飛んでるヤツとも離れてるデスから」

 

 そう言って、くるっと向き直ったあたしは飛んでるヤツを睨みつける。

 距離があるといっても近づかれるのは時間の問題だろう。出来る限り迅速にあの大きなヤツを切り刻んで、マッハで未来さんの所に戻って来られるでだろうか?

 いや、だろうかではない。するのだ。助けが来るまで未来さんを守れるは自分一人なのだから。

 

「それじゃあ、あたしはちょっくら行ってくるデス」

「うん、気をつけてね」

「はい、未来さんを気をつけてくださいね」

 

 ビッシと敬礼し、ニカッと笑ってからビルから次のビルに向かってブースターで飛び乗りながら、飛行ノイズへと近づいていく。

 

(うわ……遠目でも大きいデスが、近づいたらもっと大きいデスね)

 

警告メロディー 死神を呼ぶ 絶望の夢Death13

 

 飛行ノイズが生み出している小さなノイズを切り裂きながら、辺りを見渡し、どのビルに飛び移れば飛行ノイズに近づけるかを見極め、そこに陣取るノイズを片っ端から灰へと変えていく。

 

「邪魔するなァッ!」

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 三つに分かれた刃を前へと投げ飛ばし、その刃に触れた瞬間灰へとなるノイズの亡骸を踏みつけながら、ビルの端に片脚をつけたあたしは思いっきり踏みしめると隣のビルへと飛び移り、そこに広がる惨状に頭を抱えた。

 

「次から次へと。飽きもせずに……。でも、ここが踏ん張りどころデス。早く倒して、未来さんの所に戻らないと」

 

 屋上にいっぱいに産み落とされていたノイズを二つに分裂したアームドギアで切り裂いていく。

 

レクイエムより 鋭利なエレジー 恐怖へようこそ

 

 産み落とされたノイズは半分位は葬った。

 後は空いた場所から飛んでるやつの近くまで飛び上がって、切り裂くだけ。

 背中にあるブースターが着火し、ブーブーと爆音を辺りへと響かせ始めたのを見計らって、両手に持った大鎌をギュッと握りしめ、トントンと床を駆け抜け、空を飛んでいるノイズに向かって飛躍していく。

 

「今までの恨み辛み全部まるごと詰め込んで、一気に決めさせてもらうデス!」

 

 思惑通り飛んでいるノイズへと近づいていくあたしに気付いたのか、はたまた偶然か。タイミングを見計らったかのように小さなノイズがあたしに向かって降り注いでくる。つまり、空を飛んでいるノイズが小さなノイズをまた産み出してしまったのだ。

 

「……痛ぅっ……」

 

 背中から思いっきり落ちたせいか、忘れかけていた痛みが全身へと広がり始めている。

 迫ってくるノイズを鎌を杖に起き上がったあたしは寸前で躱すとカウンターを決め、灰へと変えてから、息をする度に顎から流れ落ちる冷や汗を拭い、痛みを忘れるためにさっき行ったことをもう一度行う。

 

(こう言う時は歌兎デス。歌兎パラダイスデス。百人で駄目なら千人。千人で駄目なら億人。億人で駄目なら兆人デス。………、………。やっぱりここは天国デス!?)

 

 兆人の歌兎に『お姉ちゃん、頑張って』『姉様、頑張って』と言われる度に冷や汗が引き、ギュギュ–––ッと押し付けられる小さな身体から伝わる感触、ぬくもりで痛みが引いて行き、淡く可愛らしい笑顔に頑張ろうという気持ちが湧いてくる。

 

「……えへへ。やっぱり歌兎は最強の妹であたしの宝物デス」

 

(そんな妹が慕ってくれてるお姉ちゃんがこんなことでへこたれてたら駄目デスよね)

 

 歌兎は響さん達がなんとかしてくれる。あたしは三人が心配なく前線を戦えるように後方でサポートに回るだけだ。今のあたしではそれしか出来ない。

 

「って事で悪いデスが、生まれて数分で地獄へと舞い戻ってもらうデスよ」

 

【怨刃・破アmえRウん】

 

 生み出した緑色の波動が新たに生み出されたノイズも残っているノイズも一直線に葬っていくのを見て、両手に持った大鎌を振るいながら飛行ノイズを見るとそこには大きく空いた穴から生み出されそうになっている無数のノイズがいて––––

 

(ってうわわわ!? そんなのありデスか!?)

 

 ––––そのノイズはあたしの上に降ってくるのと周りに落下するので忽ち辺りがノイズまみれになる。

 切っても切っても増え生まれ続けるノイズ。これには苦笑いと溜息を漏らさずにはいられない。漏らしたところで弱音は呟かないし、諦めも湧いてこない。

 あたしには帰る場所も守りたい場所も両方あるのだから……。

 

 そんなあたしへと一斉に攻めてくるノイズの何処から突破口を開こうかと辺りを見渡している時だった、旋律が聞こえたのは–––。

 

DNAを教育してく エラー混じりのリアリズム

 

【γ式 卍火車】

 

 ぶん投げられた桃色の刃を持つ鋸があたしを取り囲んでいたノイズを真っ二つにしていくのを見て、ハッとしたようにそちらを見ると紅刃(シェルシュガナ)のギアを纏った調が足元についたタイヤを走らせ、あたしの近くに近づいていた。

 

「切ちゃん、お待たせ」

 

 キュッという音を響かせ、あたしを見上げてくる調に安堵と心細かった気持ちが満たさせ、思わず目の前が潤む。

 

「今日の調も響さんたちもカッコ良すぎデスよ…」

 

 ゴシゴシ目の前を乱暴に擦る。

 来て欲しい時に、居て欲しい時に駆けつけてくれるのだから、調も響さん達も。これがカッコよくなくてなんだというのだろう。

 

「そんな事ない。私にとって切ちゃんはいつだってカッコいいよ」

「えへへ、ありがとうデス」

 

 背中を合わせ、互いのアームドギアを構える。

 そして、じわじわと近づいてくるノイズを睨みつけながら、小声で話しかける。

 

「まだ行ける?」

「もちのろんデス。これくらいでへこたれてたら歌兎に笑われちゃいますからね」

「うん。早くノイズを片付けて、響さん達の所行こ」

 

 それを合図にあたしは目の前を、調は後ろのノイズへと刃を振るうっていく。

 碧刃と紅刃によって切り裂かれていくノイズは忽ち分解し、ビルの上を真っ黒な灰で染め上げていく。

 

人形のようにお辞儀するだけ モノクロの牢獄

 

 調の背後にいるノイズを切り裂き、またノイズを産もうとしている飛行ノイズを見上げながら、思うのは助けに来てくれたのが調だけなら足止めをここでされている間に待っていて欲しいと置いてきた未来さんの安否だった。

 

「調。未来さんは? 未来さんは大丈夫なんデスか?」

「うん。マリアとセレナがS.O.N.Gの人のところまで連れて行ってくれてる」

 

 なるほど。まず、調とマリア達が未来さんに気づいてくれて、調はきっと未来さんからあたしの居場所を聞いたのだろう。

 経路はどうにせよ、未来さんが無事なら良かった。マリアとセレナの二人ならきっと未来さんをS.O.N.Gまで届けてくれるだろう。

 

「なら、遠慮なく(やれ)そうデスね」

「うん、二人であの大きいの倒そう」

「調となら大きなだけじゃなく下にいるノイズも全部倒せそうデス」

 

 ギュッと大鎌を握りしめながら、背中にあるブースターを着火させ、ビルの端から近くにあるビルの壁へと飛び移り、飛行ノイズに向かって、ワイヤーを放ち、引っかかったのを見て、思いっきり自分の方へと引き寄せる。

 

だから そんな… 世界は… 切り刻んであげましょう

いますぐに just saw now 痛む間もなく 切り刻んであげましょう

 

 生み出されたノイズは調に任せて、あたしは体に巻きつくロープから逃れようと暴れるデカブツを引き寄せることだけに専念する。

 

【α式 百輪廻】

 

 ツインテールの所から無数の小さな鋸が放出され、生み出されたノイズが倒れていくのを横目に最後の踏ん張りとばかりに両手へと力を加えていく。

 

(うりゃああああああ!!!!)

 

 ギアが壊れてしまうかもしれないと思うくらい力み、暴れる飛行ノイズを無理矢理屋上へとくくりつけたあたしは自分に近づいてきているノイズを横払いで追い払ってから調へとワイヤーを放つ。

 

誰かを守る為にも 真の強さを「勇気」と信じてく そう夢紡ぐTales

信じ合って 繋がる真の強さを「勇気」と信じてく そう紡ぐ手

 

 ガチャガチャと接続される音が聞こえ、其々のアームドギアを変形させていく。

 あたしはギロチンの形に、調はタイヤの形に。

 ロープでぐるぐる巻きにされた飛行ノイズは自分を切断しようとしている二つの刃を見る。

 一つはギロチンのように変形した碧刃の上に乗っかり、背中にあるブースターが火を吹き、自分を見ているあたし。

 もう一つはツインテールが重なり合い、紅刃の部分が体を包み込むように円を描いて、その中央にいる調。

 黄緑の瞳と桃色の瞳の視線が交差した瞬間、ブースターによって加速する碧刃と高速で近づいてくる紅刃が重なり合った。

 

忘れかけてた笑顔だけど大丈夫 まだ飛べるよ 輝く絆抱きしめ 調べ歌おう

きっと きっと まだ大丈夫、まだ飛べる 輝いた絆だよ さあ空に調べ歌おう

 

【禁殺邪輪 Zあ破刃エクLィプssSS】

 

 大きな爆裂音と共に飛行ノイズが撒き散らす灰が辺りに舞い、あたしと調はハイタッチをしていた。

 辺り一面にはノイズの灰、地面にはまだ飛行ノイズが産み落としたのであろうノイズが存在しているが、地上のノイズを増やしていた飛行ノイズを撃破出来たのだ。充分勝利と位置付けてもいいだろう、油断はまだ出来ないが。

 

「やったね、切ちゃん。私たちの勝利だよ」

「当たり前デス! なんたって、あたしと調は最強無敵コンビ……向かう所敵無し……なん……デ、スか……ら………………」

 

 バタッと言っている途中で全身の力が抜け、ビルの屋上にコンクリートの固さと冷たさだけが身体に広がる。

 調に心配かけてはいけないと身体に力を入れようとするが上手くいかず、代わりに瞼がゆっくりと閉じていく。

 

(あれ……可笑しいな……。さっきまであんなに元気だったのに……)

 

「切ちゃん!? どうしちゃったの!? ねぇ、切ちゃんッ!!」

 

 あたしの体を揺さぶる調へと"えへ…"と照れた笑顔を浮かべてから、あたしの意識は闇へと落ちていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**19.

 

撃鉄に込めた想い あったけぇ絆の為 ガラじゃねぇ台詞 でも悪くねぇ

 

(チッ。なかなか隙を見せねえ)

 

 バンバンと銃口から火炎が飛び散り、硝煙が鼻を燻る中、クリスは自分の攻撃と翼の攻撃から器用に逃げ惑うベルフェゴールに攻めあぐねていた。

 追い詰めようと攻めれば、クリスは翼に。翼はクリスに攻撃が当たるように誘導され、謝って相手に当たることが少なくともあった。

 つまり、今の二人にできるのはベルフェゴールが見せる隙に全力の技を叩き込むだけ。

 

【QUEEN's INFERNO】

【蒼ノ一閃】

 

 ひょいひょいと技を交わしたベルフェゴールは小さな口元を上げる。

 その仕草でクリスと翼は思うのだ。さっきの隙は()()()作ったものだ、と。

 

「さっきまでの威勢はどうした? こうも鈍い技ばかりだと欠伸が出てしまうぞ」

「ちっ。ペラペラと減らねぇ口だな」

 

 パンパンと自分に向けて撃ってくる鉛弾を避け、身を屈めて、クリスへと近づいてくるベルフェゴールを翼が追撃するべく並走する。

 

Hyaha! Go to hell!! さぁスーパー懺悔タイム 地獄の底で 閻魔様に土下座して来い

 

【MEDA DETH PARTY】

 

 迫ってくる鉛弾、ミサイルを弾き飛ばし、一気にクリスへと両脚に付いたブースターで加速して近寄ったベルフェゴールはニヤァと肩頬を上げる。

 そして、両手に持った大槌が淡い光を放ち、身を屈めたベルフェゴールに技が繰り出されると予感したクリスはその場を離れるべく、受け身を取りながら後ずさるがベルフェゴールの攻撃の方が一足早かった。

 

Hyaha! Go to hell!! もう後悔はしない 守るべき場所が出来たから…もう逃げない!

 

【攻気・鳶目兎耳】

 

「がっは」

 

 クリスへと入った膝蹴りはお腹へとのめり込み、空気を吐き出し、唾液も橋から垂れる。

 お腹を庇いながら、倒れるクリスをベルフェゴールは冷めた赤い目で見送る。

 

「フ。他愛もない」

 

 地面に倒れるクリスへともう一度蹴りを入れ、近くにある瓦礫へと蹴飛ばしたベルフェゴールへと翼の太刀が迫っていた。

 

一つめの太刀 稲光より 最速なる風の如く

 

【蒼ノ一閃】

【千ノ落涙】

 

 自分に向かって飛んでくる水色の波動を交わしながら、降り注いでくる小太刀を大槌からダガーへと変えていたベルフェゴールが弾き返しながら、攻撃を終えた翼を切り裂こうとしていたベルフェゴールの赤い瞳が驚きに充ち満ちる。

 

「同じ技ばかりとは能がない。これでは相手するだけ無––––ッ!?」

 

 一歩も踏み出せない身体に赤い目がまん丸に変わっていく。

 一ミリも動かせない身体を見やり、唯一動かせる目で原因を探してみるが原因が見つからず、苛立ちがこみ上げていく。

 

「貴女はもう少し周りに目を向けるべきだ。思わぬ所に落とし穴があるかもしれない」

 

 そういい、ベルフェゴールの影を流し見る翼の視線を追った悪魔は赤い目をさらに邪悪なものへと変貌させる。

 

【影縫い】

 

 影に刺さっているのはさっき弾いていたはずの小太刀。

 自分の影に突き刺さって居る小太刀は影を縫ったように動きを封じれており、ベルフェゴールは身体の主人である歌兎の記憶からこの技が"影縫い"であることで知り、その才能や効果を知って、更に激怒が湧き上がっていく。

 

「くっそ。くそォォォォォ」

 

 メキメキとベルフェゴールのおでこが怒りに満ち満ち、血管が浮き出る。

 

「雪音。大丈夫か?」

 

 一方の翼は瓦礫へと倒れこむクリスへと手を差し伸べ、立たせると笑いかける。

 

「ああ、心配いらねぇ。少し擦り傷が出来たくらいだ」

「そうか。ならばもう少し行けるな?」

「ああ、あのチビを連れて帰らないと過保護に怒鳴られるからな。それにバカが戻るまであたしらがあいつを食い止めねぇーとな」

 

 其々のアームドギアがベルフェゴールの方を向き、キラリと光りだす。

 赤い瞳を見つめる藍と薄紫の瞳には一踏ん張りと意気込む色が滲み、奥の方ではこれで終わって欲しいという願いが見え隠れしていた。

 

【千ノ落涙】

 

百鬼夜行を恐るるは 己が未熟の水鏡 我がやらずて誰がやる 目覚めよ…蒼き破邪なる無双

 

「もってけ。全部盛りだッ」

 

【MEGA DETH PAPTY】

 

 翼の千を超える小太刀が、クリスが放つ無数の銃弾とミサイルが小さな身体を貫き、纏うミョルミルのギアを破壊していく中、ベルフェゴールは自身の激怒のみで影縫いから逃れようと身体へと力を込めていた。

 

「ォォォ……オオオオオオオオオオオオ」

 

 ベルフェゴールのこめかみに浮かぶ血管が破裂しそうなほどに浮かび上がり、小さな唇から溢れでる声は獣のソレ。

 

「くそ、あの野郎。まだやるつもりだ」

「くっ……」

 

 其々のアームドギアを構える中、ベルフェゴールは遂に目的を果たすことになる。

 

「ヲ"ヲ"ヲ"……」

 

 影縫いを無理矢理解いたベルフェゴールは声にならない声を漏らしながら、ただただ目の前に立つクリスと翼を睨む。

 純粋な怒りのみに支配された赤い瞳から視線を下へと向かわせれば、青紫に色を変えたミョルミルのギアはボロボロとなっており、露わになったところからは血が滲み、肌が見えているところは最早隠せてない。

 その姿からも声からも小さな身体は既にボロボロで限界が近いことも目に見えてわかる。

 

「………これ以上、ダメージを与えるとチビに何かありそうだな」

 

(雪音のいうとおり。中身は違くともアカツキはアカツキだ)

 

 さっきの攻撃で活動を停止してくれ、眠ってくれるか気絶してくれると良かったのだが、それは高望みということを突きつけられる。

 だが、殿(しんがり)を。そして、アカツキを待っている暁の為にもこの戦い、勝利を掴みとらねばならない。

 

「雪音、一気に決めるぞ」

「ああッ!」

「ア"ア"ア"ア"ア"」

 

 漏れ出る禍々しいオーラを放ちながら、翼とクリスの間に爪を振るったベルフェゴールはつり上がる赤い瞳に捉えた者を無作為に襲っていく。

 

「もう自我も保ててないのか」

「早く眠らせてやろう。それが彼女とアカツキの為だ」

 

 自分へと右拳を振るってくるベルフェゴールの攻撃を交わし、身を屈めた翼は腹部へと剣を振るう。

 

幾千、幾万、幾億の命 すべてを握りしめ 握り翳す その背も凍りつく断破の一閃 散る覚悟はあるか?

 

「雪音。今だ!」

「これでさっさっと元に戻りやがれッ! ドチビ!!」

 

【QUEEN's INFERNO】

 

 体勢を崩すベルフェゴールへと叩き込まれる無数の鉛玉にミョルミルのギアが剥がれ落ち、露わになるのは華奢な身体のラインを露わにしている花緑青(エメラルド)色の水着のような服へと今度は翼の刃が迫る。

 

今宵の夜空は刃の切っ先と よく似た三日月が(かぐわ)しい

 

【天ノ逆鱗】

 

 胸へと埋まる刃先は確実にベルフェゴールへとダメージを与えていき、地面へと大きな窪みを作って、ベルフェゴールの動きはようやく止まったかのように思えた。

 

「ア"ヲ"ヲ"ァ"ァ"ァ"……」

 

 しかし、それではベルフェゴールの怒りの感情を止めるには弱すぎた。

 砂場が舞う窪みから起き上がるベルフェゴールは身を屈めるとひょいと翼とクリスへと飛来する。

 

「くっ」

「チッ」

 

 お返しとばかりに放ってくる拳を庇いきれずに身に受け、よろめく二人へと渾身の一撃が見舞われる。

 

「ア"ヲ"ヲ"ア"ア"ァ"ァ"……ヲ"ヲ"ヲ"ヲ"ヲ"ヲ"ッ!!!!」

 

 横殴りにされ、重なって地面へと倒れこむ二人へと再度拳を埋めようと飛来するベルフェゴール。

 

ぎゅっと握った拳 1000パーのThunder 解放全開…321 ゼロッ!

 

 倒されると覚悟して、拳を振り上げるベルフェゴールを見ていた二人の目の前から突然姿を消したベルフェゴールは横へと吹き飛び、代わりに現れたのは二人が待ちわびていた人物だった。

 

「クリスちゃん、翼さん、遅くなりました」

 

 ふわりと白いマフラーを風に揺らして、振り返る響に翼とクリスは安堵の声を漏らす。

 

「立花」

「バカ。遅すぎるんだよ…」

「二人は少し休んでてください。あとは私が……」

 

 そう言って、二人の前に立つ響の横へと並ぶのは其々のアームドギアを握りしめる翼とクリス。

 

「バカ言ってんじゃねえーよ。ここで逃げたりしたら後味悪いだろ」

「クリスちゃん……」

 

 そう言って、起き上がっているベルフェゴールを見る薄紫色の瞳が揺れる。

 言葉には出さなくとも彼女も歌兎の事が心配なのだ。

 

「皆を守るのが防人の務め。ここで折れるようならば、それは最早剣と言うまい」

「翼さん……」

 

 そして、それは翼も同じようだ。

 

(ねぇ、見えてる? 歌兎ちゃん……)

 

 起き上がるベルフェゴールの真っ赤に染まった目を見つめた琥珀色の瞳が僅かに揺れる。

 ボロボロになった彼女の姿を見せたくない人がいる。きっと待っているその人は元気な彼女が見たいはずだから。

 

 ギュッと握っている右拳を胸へと押し付ける。

 

(見えているのなら、聞こえているのなら、答えて。ここにいるみんな。遠くで戦っているマリアさん達。そして何よりも切歌ちゃんが歌兎ちゃんの帰りを待っているんだよ。受け取った気持ち、今全部(ぶつ)けるからッ!)

 

 立ち上がるベルフェゴールに向かって走り寄る響の右拳が光りだす。

 

最短で 真っ直ぐに 一直線 伝えるためBurst it 届け

 

 響の右拳がめり込む下腹部が押し出される空気を吐き出しながら、ベルフェゴールは近くの瓦礫へとぶち当たった。

 

 

 

 

 

 

 

20.

 

最短で 真っ直ぐに 一直線 伝えるためBurst it 届け

 

 響お姉ちゃんの右拳に溜め込まれた爆発的なエネルギーはボクの下腹部で爆発し、その衝撃で近くにある瓦礫へとぶち当たった衝撃で白いヒビが生まれた。

 そして、そこから流れて出してくるのは、生を受けたその日から側で聴いてきた声。

 

 –––歌兎が優しい子ってことはお姉ちゃん知ってるからね。

 

 そう言って、抱きしめられて、頭をポンポンと撫でられたことは沢山あった。

 

「…おねえ、ちゃん…っ」

 

 頬を涙が伝う。

 

 –––…歌兎の事、よろしくお願いします。あの子は…本当は甘えん坊でさみしがり屋であたしがいないと泣いちゃう弱虫さんなんデス…。だから、あの子がこんな事を望むわけないんデス……歌兎は、誰よりも優しくて思いやりに溢れたあたしの自慢の妹なんデスから

 

 きっとそれは響お姉ちゃんに言った台詞。

 

 両手で顔を覆い、首を横に激しく振るう。

 

「…そんな、こと……ないよ…っ。僕、お姉ちゃんの事もみんなの事も沢山傷つけた。優しくて思いやるのある子なんて……そんな事ない……。だって、僕悪い子だもん!」

 

 また頬を流れる涙に、僕は昔と変わってないことを思い知らさせる、泣き虫で弱虫で人見知りで、姉様が居ないと何も出来ない幼い自分と。

 そんな自分に決別したくて、望んだ力に逆に支配され、親しくしてくれた沢山の人を傷つけている現状を。

 その現状を作り出している自分の弱さにまだ立ち向かう勇気が出なくて、僕はヒビ割れた壁に両手をつきながら、その場に腰を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**21.

 

「歌兎ちゃん、聞こえているなら答えて! みんな、歌兎ちゃんの帰りを待ってる。切歌ちゃん、すごく心配してたよ………ね? そんな所いないで、一緒に帰ろうよ」

 

 響に一撃くらい正気を取り戻したベルフェゴールは内側に閉じ込めたはずの歌兎が頑丈な壁を叩き割り、少しずつ身体の主導権を握ろう(表に出よう)としているのに気付き、目の前にいる響を睨む。

 

「………何をしている」

「ねえ、歌兎ちゃん!!」

「貴様………キサマァァァァ!! さっきから何をしているんだ。同胞に、何を!!」

 

 自分から解放されそうになっている歌兎を無理矢理奥へと封じ込め、ベルフェゴールは響を黙らせるべく殴りかかるが交わされ、代わりにお腹へと拳を埋め込まれる。

 体を折りたたみながら、数歩下がったベルフェゴールは身体を起こし、構えを取る。やっと外に出られたのだ。またあの場所に閉じ込められるなんてうんざりだ。

 

「出来るなら貴女とも手を取り合いたかった。だけど、歌兎ちゃんを……私の大切な仲間を傷つけるのならば、私は貴女を許さない」

「傷つけている? 我は同胞を助けているだけだ。欲しいという力を与え、必要ならば我が表に出て、支援している。これのどこか傷つけているというのだ?」

「違うッ! 貴女がしているのはただの支配。それでは誰も貴女の事が分からないよ! だから、教えて。私は貴女の事を知りたい」

「知ったような口を」

 

 ああ……イライラする……。

 ベルフェゴールはガリと奥歯を噛みしめる。

 お前達のように恵まれた環境に生まれたものは口を揃えてそう言う、"貴女の事を分かりたい"と綺麗事を並べて、それを信用して、失ったものをお前達知らないくせに……。

 信用して裏切られて失って……もう虚しい思いをするのも、真っ暗で何もないだけの世界に閉じ込められ続けるのもごめんだ。

 

「何故私でなくちゃならないのか?」 道無き道…答えはない

 

 ベルフェゴールは響が放ってくる拳を交わし、代わりに拳を埋めるべく右腕を振るうが回避され、代わりにお腹へと埋まる。

 

君だけを(守りたい) だから(強く)飛べ 響け響け(ハートよ) 熱く歌う(ハートよ)

 

 巫山戯るな。こんな所で終われるわけないだろう。

 やっと出られた外の世界、光に溢れた世界を自分好みに作り変えてやるんだ。

 その野望を邪魔するものはどんな奴でも敵だ。

 

 ぶつかり合う拳と拳は大気を揺らし、巻き起こる爆風は砂埃を巻き起こす。

 

へいき(へっちゃら) 覚悟したから 例え命(枯れても) 手と手が繋ぐ(温もりが)

 

 忌々しい。腹ただしい。

 戦場に響く旋律(うた)は自分の大嫌いな綺麗事で作られている。知らないもので作られている。暖かいもので作られている。

 それがベルフェゴールには悲しく、激怒を覚えるものだった。

 

ナニカ残し ナニカ伝い 未来見上げ 凛と立って きっと花に 生まれると信じて…

 

 響の攻撃を喰らい、半壊したビルへと叩きつけられたベルフェゴールは降り注ぐ瓦礫を跳ね除けながら、頑丈に作った壁が崩れ、ゆっくりと表へと歌兎が歩いてきているのを知り、大きく舌打ちをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

22.

 

 黒い部屋へとヒビが入った白い隙間から聞こえるのは響お姉ちゃんの声。

 スクリーンに映る顔は、瞳はまっすぐ僕を貫き、此方へと向けられる両手に思わずたじろいでしまう。

 

『歌兎ちゃん、聞こえているなら答えて! みんな、歌兎ちゃんの帰りを待ってる。切歌ちゃん、すごく心配してたよ………ね? そんな所いないで、一緒に帰ろうよ』

 

 見えているのだろうか?

 そんな風に思える台詞に僕はもう一度ギュッと拳を握り締める。

 スクリーンへと伸びる手へとこの手を重ね合わせてもいいのだろうか?

 元を正せば、僕がベルフェゴールを解放しなければ……こんな事には……。

 

 躊躇する僕の耳へと旋律(うた)が聞こえてくる。

 

「何故私でなくちゃならないのか?」 道無き道…答えはない

 

 そう思ったことは沢山あった。

 ミョルニル(この力)を受け継いだその時から。

 ほんとは僕なんかが受け継ぐべきではなかったのでは…? と感じることさえあった。

 小さくて未熟で弱い自分が昔と全然変われてないって痛感させれたから。

 メキメキと強くなっていっている姉様達と僕との溝が深くなっていくようで……。

 無力な自分を突きつけられているようで目を逸らしたかった。

 

 ああ、そっか。そういうことか……。

 

(……結局僕は姉様の為とかねぇやの為とか都合のいい言い訳を探して、理由に無理矢理埋め込んで、自分を守っていただけなんだ……)

 

 ゆっくりとヒビが入った場所へと歩み寄り、そのヒビへと右手を添えるとそこから聞こえてくる声、ぬくもりに思わず涙が溢れる。

 

(……こんなに待ってくれている人が居る)

 

 今度は受け継いだ力を正しい事に使いたい。姉様達の為に使いたい。

 こんな僕を必要としてくれる人の為にこの力を。

 

君だけを(守りたい) だから(強く)飛べ

 

 ヒビから聞こえる旋律(こえ)に合わせて、ヒビへと拳を埋め込んだ。

 握った拳を開き、もう一度姉様(ぬくもり)と手を重ね合わせるために。

 

響け響け

ハートよ

 

 ぶん殴る。

 二つあった大きなヒビから木々の枝のように小さなヒビが生まれる。

 

熱く歌う

ハートよ

 

 胸が熱くなる。

 喉がひりつき、渇望する––––歌いたい、と。

 

へいき

へっちゃら

 

 どんな事があっても平気な気がしてきた。

 

「『覚悟したから

覚悟したから』」

 

 うん、した。

 もう何からも逃げない。

 自分がしたいと思う事を、やりたいと思う事に全力投球する。

 

例え命

枯れても

 

 うん、枯れても信じた道を歩む。

 この決意は揺るがない。

 もう迷わない。

 

手と手繋ぐ

温もりが

 

 生まれた時から繋いできたその手は僕にはもったいないくらいに暖かく、僕のことをここまで守ってくれ、僕のことを見守ってくれていた。

 今度は僕が守りたい、お姉ちゃんをッ!!

 

「『ナニカ残し ナニカ伝い 未来見上げ 凛と立って きっと花に 生まれると信じて…

ナニカ残し ナニカ伝い 未来見上げ 凛と立って きっと花に 生まれると信じて…』」

 

 思いっきり振り上げた拳が埋まったところから網目のように小さなヒビが入っていき…パリンッと大きな音が鳴り、叩き割った壁の向こう側に広がる世界を見つめながら、僕は一歩前へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

23.

 

(あれ? ここは……? 確か、あたし、響さんと別れた後にノイズに追われている未来さんと合流して……調と一緒に空飛んでるのを倒して……それで。それでどうしたんでしたっけ?)

 

 ぼやける視界を数回瞬きする事で正常に戻したあたしは見知った真っ白い天井に眉を潜める。

 さっきまで戦っていたのは屋外で、確かビルの上だったはずだ。ならば、倒れてみるのは必然と空に––––

 

「切ちゃんっ」

「ぐへッ!?」

 

 ––––思いっきりに痛む身体を抱きしめられ、その衝動でいままで無理していた分の痛みが全身を駆け巡り、悶絶してしまいそうなほどになる。

 思わず潤む瞳で抱きついてきた人を見るとピンクのシュシュで黒髪をツインテールにしている後頭部が映り、その後頭部が僅かに震えているのに気付き、言葉を失う。

 

「切ちゃん…良かった……良かったよ、切ちゃん…」

「……」

 

 ポロポロと涙を流し、強く抱きついてくる調の背中を撫でながら、心配を掛けてしまった事を心の中で謝る。

 謝る代わりに撫でていた手へと力を加え、自分の方へと抱き寄せると顔を上げる調の涙を指先で拭う。

 

「切ちゃん……」

「調、もう泣かないで…。あたしはほら、もう元気になったから」

「…嘘。こんなにボロボロになって……、突然倒れて……私、もう目を覚まさないかもって……心配、したんだから……っ」

 

 指を拭うあたしの手へと自分の手を重ねる調のつり目がちな桃色の瞳を見つめる。

 電灯にあたり、キラキラと間近で光る桃色の瞳は場違いかもしれないがずっと前に偶然見た宝石の何かに似ているように思えた。

 キラキラと光るその瞳をもっと近くで見たくて、背中に回していた手を腰へと添えて、自分の方にもっと寄って欲しいという意を込めて、抱き寄せる。

 

「もう無理しない?」

 

 その意を汲み取って、近寄ってくる調の小さな桜色の唇から涙に濡れた問いが聞こえてくる。

 

「時と場合によります。それに歌兎の事になるとあたし……我を忘れることとか、沢山ありますから」

 

 "えへへ"と笑うあたしの瞳をまっすぐ見つめてくる瞳が潤み、縋るような色になるのを見て、更に腕へと力を入れる。

 

「なら、切ちゃんが無理しちゃう分、私が頑張るから。だから、私も頼って欲しいな、頼りないかもしれないけど」

「そんな事ないデス。調はいつもあたしのヘマや暴走を止めてくれて、その上に歌兎の事もサポートしてくれて…感謝してます」

「私にとって切ちゃんと歌兎も大好きで大切な人だから」

 

 間近でそうはっきりと言われ、ボッと頬が赤くなるのを感じて、誤魔化すために笑い声を漏らす。

 

「面と向かって、そう言われるとなんか照れちゃいますね」

「本当。切ちゃんの顔真っ赤」

 

 その後は自然と口元が緩み、笑い声が病室へと響く。

 ひとしきり、笑った後はおでこをくっつけて、繋いだ手へと指が絡まってくる。

 掌から伝わってくるぬくもりに口元が緩み、同時にやる気も出てくる。もうひと頑張りしようと思うやる気が。

 

「歌兎が帰ってきたら、三人で何処か行きましょう」

「ピクニック?」

「はい。歌兎とあたしと調の大好物を沢山作って、お弁当に入れるんデス。あたし、それまでに麻婆豆腐作り頑張りますから」

「でも、それ運んでいる最中にぐちゃぐちゃにならないかな?」

「なんと!? 麻婆豆腐をそのままお弁当に入れてはいけないのデスか!?」

 

 顔をくっつけていたのを外し、目をまん丸にするあたしを見て、クスと笑う調。

 不安な出来事よりも未来のことだが楽しい事を調と話している方が楽しい。笑った調の顔も見れたし、この話題を振ってよかった。

 

「だから、切ちゃんの麻婆豆腐は水筒にでも入れて、待っていこう」

「そうデスね。アツアツのまま持っていけますし、ああ、でもそれだと歌兎が火傷を……しかし、歌兎の麻婆豆腐は譲れないデスし……代わりに梨を? いいえ、出来ればどっちも食べて欲しいデスし……ぐぬぬぬ……どうすれば……」

 

 悩むあたしの耳へと勢いよく扉が開かれる音が聞こえ、そちらを見るとマリアとセレナが肩で息をして、ベッドの上で向き合って話をするあたしと調を見て、安堵の笑みを浮かべる。

 

「切歌、目が覚めたのね」

「暁さん、良かったです……本当に……」

「二人とも心配をかけちゃってごめんなさいデス」

 

 駆け寄ってくるマリアとセレナにニコッと笑ってから、調を身体から外しながら、二人へと頭を下げてから顔を引き締めると尋ねる。

 さっき話した未来を迎える為にもあたしにはしなくてはいけない事が、迎えに行かないといけない人がいるのだから。

 

「戦況は。戦況はどうなってるんデスか?」

 

 そう言いながら、無理矢理ベッドから立ち上がろうとするあたしに慌ただしく駆け寄るマリアの手がベッドに戻そうと押すのを払いのける。

 

「貴女。その状態で行くつもり。今日は––––」

「––––歌兎がッ。響さん達が頑張ってるんデス。あたしが行かないで、誰が行くっていうんデスか? マリア」

 

 マリアの水色の目を真っ直ぐ見つめ、"行かせて欲しい"と目で訴えるとマリアが小さなため息の後、困ったように眉を下がらせる。

 

「……。全く……頑固な子。調、セレナ、切歌を支えるわよ。私達も司令のところに向かうわ」

「うん」

「分かった」

 

 三人に支えられ、一歩一歩と進んでいく、永く感じる真っ白い廊下を。

 進んだ先に望んだ未来がある事を願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**24.

 

「……くっ」

 

 ダメージが蓄積され、思うように動かなくなった小さな身体を庇いながら、ベルフェゴールは目の前に立ち塞がる響達(しょうがい)を睨む。

 

(もう切り上げた方がいいかもしれないな)

 

 ベルフェゴールは自分の束縛から脱出し、動き出している歌兎の気配を感じ、ここで粘るのは得策ではないと悟る。

 もう既に身体のダメージの蓄積は限界を軽く超えており、無理を押し倒しての身体の運営はもう制御が出来ない。そして何よりもここで粘っていても鍵を握るあの緑色の装者は帰ってこないだろう。ならば、もうここに留まる必要はない。

 

「……ふ」

 

 まさかここまで自分が人間如きに追い詰められるとは思いもよらなかった。

 警戒するべきは緑色の装者と認識していたが、どうやらその認識は改めないといけないらしい。

 そして、もう一つ。自分の核心部へと歩いていっている歌兎の強い意志にも敗北する原因があったのだろう。

 総合して、今回の敗北は人間の底力を侮っていた自分自身という事だろう、イレギュラーな事があったとしても。

 

「何がおかしい」

 銃口を自分へと向けてくるクリスへとお手上げの意味を込めて、ひらひらと両手を振るうベルフェゴールにクリスは眉をひそめ、翼は両手に持った剣を強く握りしめ、響は強張っていた表情を解かさせる。

 

「いいや。ここまで追い込まれるなんて思いもしなかったよ、正直。暴走しても倒せなかったわけだし、お姉ちゃん達強いんだね。ボク関心しちゃった」

 

 ニコッと笑うベルフェゴールに響が近寄ろうとして、翼が手で制して、笑みを浮かべる赤い瞳を藍色の瞳の視線が貫く。

 

「つまりそれはアカツキに身体を返す事に賛同したという事でいいのだな?」

「返す? おかしな事を言う翼お姉ちゃんだね。ボクこそが暁歌兎その人だ。それは未来永劫変わる事も覆す事もない」

 

 はっきりとそう言うベルフェゴールにクリスの手に持っていた赤いピストルが火を吹き、発射された弾がベルフェゴールを貫こうとした瞬間、俯いていた唇がニンヤリと気味悪い笑みを浮かべる。

 

「寝言は寝て言いやがれ!!」

 

 いつの間にか手に持っていた大槌を思いっきり地面へと叩きつけた瞬間、バァン!! と耳を塞ぐほどの爆音と風が巻き起こる。

 

 

「寝言……ね。なら、言葉に甘えてそうさせてもらおうかな……」

 

【鬼気・狐死兎泣】

 

 巻き起こった風により、砂を吸い込んだクリスは咳き込みながらも辺りを見渡し、姿を消したベルフェゴールを探そうと視線を巡らせる。

 

「ゴホゴホ…。あいつ……」

「ベルフェゴールは……あんなところに」

 

 翼の視線の先には半壊したビルを駆け上がり、次のビルへと飛び移ろうとしているベルフェゴールの姿があり、響はその後ろ姿へと呼びかける。

 

「待って、歌兎ちゃん!!」

「……」

 

 響の呼びかけに立ち止まり、振り返ったベルフェゴールの腰まで伸びた銀髪が光を浴びて、水色の光る。

 近寄ってくる響を見下ろすベルフェゴールは素っ気なくそう言うと勢いよく振り返る。

 

「多勢に無勢。流石のボクもあなた達三人を相手するのは疲れちゃうから、今は休ませてもらうよ。それに–––」

 

(–––今は、半身を黙らせる方が先決だからな)

 

 ぴょんぴょんと瓦礫を跳ね、ビルの上へと登っていくベルフェゴールの背を響達は見送るしか出来なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**25.

 

 その様子を見送るしか出来なかったのは指令室も同じだった。

 目の前で流れるスクリーンにはビルとビルの間を飛び乗りながら、響達から離れていくベルフェゴールの姿が映っており、行先を調べていたS.O.N.Gのクルーザー・藤尭朔也と友里あおいの動きが止まり、瞳が驚きで小刻みに震え、唇から乾いた声が部屋に響く。

 

「ミョルミル、ベルフェゴール共に反応消失。スクリーンからも各地に設置した防犯カメラからも確認出来ません」

「……そんな、歌兎……」

 そのセリフに切歌の瞳から光が消え、両脚の力も無くなって崩れ落ちそうになり、近くにいる調とセレナに支えられるのを見ながら、風鳴弦十郎は指示を出す。

 

「直ちに装者たちの回収を」

 

 響達を回収するべく向かうヘリが飛び立つのを確認して、数分後、響達が指令室へと集まるのを見て、弦十郎は装者へと向き直る。

 

「皆、ご苦労だった。ショッピングセンターの周りは半壊・全壊したビルが多いが、人害は出ていない。これは皆が食い止めてくれたおかげと言える、ありがとう。だが、その反面我々は歌兎くんを失う事になった。逃げ去った先も行く先も検討はつかない。しかし、歌兎を取り戻す機会は今後もあると俺は思っている」

「そうデス! まだ、歌兎が死んだってわけじゃないんデス! 取り戻す機会も会える機会もあります!」

 

 弥十郎のセリフにオーバーなほどにリアクションを取る切歌にさっきまでの落ち込みを見ていた調、セレナ、マリアは安心したような呆れたような笑みを浮かべ、響と未来も同じように笑い、クリスは呆れたような表情を浮かべつつも口元へと薄い笑みを浮かべ、翼も同じように笑った後に表情を引き締める。

 

「だが、我々はその機会を今回のように見逃すわけにはいかない。確実にベルフェゴールからアカツキを取り戻すためにも」

「翼の言う通り。我々は歌兎くんを確実に取り戻すために情報を共有されねばならない。ということで、今歌兎くんに起こっていることを順を追って整理してみよう」

 

 そう言い、弥十郎はスクリーンへとショッピングセンターでギアを纏った歌兎の姿とアウフヴァッヘン波形を映し出す。

 そこにはミョルミルのアウフヴァッヘン波形が映し出されており、その波形の隙間から見えるのがベルフェゴールのものだ。

 

「まず、歌兎くんは切歌くんが到着するまで一人でノイズと闘い、ベルフェゴールを解放。飲み込まれたと予測される」

「その事に関して、我々」

「私達も同じね」

 

 弥十郎の推測にうなづくマリアと翼。

 そして、翼達が歌兎の秘密(ベルフェゴール)を知っている、教えた事はマリア達から教えられ、既に切歌は知っていた。

 そうするしかなかった事は想像出来るし、何よりもいずれは彼女に話す予定だった話だ。心配していた事は起きずに。知った後も歌兎から離れずに救おうとしてくれている翼達に感謝の気持ちを抱きながら、自分へと視線を向けている弥十郎にうなづき、口を開く。

 

「翼達、マリア達、司令達、みんなが知っている通り、歌兎の左腕には《完全聖遺物・ベルフェゴール》が埋め込まれているデス。性能は装着者を誑かし、自分の力を与え、暴走させる。そして、それを繰り返していくうちに装着者の意識は薄れ、ベルフェゴールに乗っ取られる。それが歌兎の身に起きたのだと思うデス。あいつからは歌兎の気配は感じられなかった……確かに目の前にいるのは歌兎なのに……」

 

 そう言いながら、下がっていく視線を無理矢理前に向けさせる。

 心配そうに見上げてくる調へと弱々しく笑い、重ねてくる手をギュッと握る。

 掌に伝わってくるぬくもりに取り乱しそうな心が鎮まっていく…。

 

「つまり、歌兎くんは()()()ベルフェゴールに操られているという事なのか?」

「ええ、その認識で間違いな–––」

「–––割って入ってすまない。その点はマリア達は認識を間違えている」

「間違えている? どういう事かしら?」

 

 マリアにそう尋ねられた翼の横にいるクリスが腕組みしながら、答える。

 

「バカが過保護を安全なところに避難させに行っている時にベルフェゴールが言ってたんだよ」

「––––主らが纏っているシンフォギアというのはそうした方が効果があるようだからな。それに同胞も自身が奏でる歌によって緑のが傷ついていく姿には随分と堪えていたようだからな。この身体が我のものになるのはもう目の前だ、とな」

 

 翼のセリフに"訳わからない"と小首を傾げる響。"何かおかしな事があっただろうか? "と考え込む切歌の二人へと視線を送ったマリアはヒントとばかりに注目するべきところを言う。

 

「確かに変よね。この身体が我のものになるのはもう目の前だ、なんてね」

「た、確かに!! 可笑しいです!?」

「歌兎はベルフェゴールに乗っ取られてました。なのに、なんでベルフェゴールはそんな言い方をッ。確かに変デス!?」

 

 難問を自力で解いてスッキリした時のようにはしゃぐ響と切歌の隣では未来と調が小さく溜息をついていた。

 そんな四人へと視線送り、"もう続きを言っていいか? "とわざと咳き込む翼に騒いでいた響と切歌が静まるのを待ってから知り得た情報を伝える。

 

「さっき暁が言った通り、私も思ったのだ。既にアカツキはベルフェゴールに乗っ取られていた。つまり、アカツキの身体の自由はベルフェゴールにある。なのに何故"この身体が我のものになるのはもう目の前だ"なんて遠回しな言い方をするのか、と。

それでカマをかけてみたのだ。アカツキの身体を完全に支配してないとミョルミルも身体も制御出来ないのか? とな」

「結果はどうだったんですか?」

 

 セレナの問いかけに翼は一息ついてから、静かに答えを言う。

 

「肯定だった」

 

 肯定。つまり、ベルフェゴールに歌兎は完全に乗っ取られてなく、本来の力も出し切れてないので弱体化していると……朗報ではないか!

 

「なら、今すぐベルフェゴールを探しましょう! そんでもって、パパッと倒して、歌兎を取り戻しましょう! だって、弱体化している今なら簡単に–––あいたッ!」

「これで少しは落ち着いたか、過保護」

「ひ、ひどいデスよ、クリス先輩…。あたし、病人なのに……」

 

 涙目を浮かべる切歌を鼻で笑ったクリスは苦々しく、ミョルミルを包んでいくベルフェゴールのアウフヴァッヘン波形を見る。

 

「相手はベルフェゴールなんだぞ。簡単に信じてんじゃねぇよ。それに今のあたしらじゃ、その弱体化したベルフェゴールを数人がかりでも倒せなかったんだろ。まだ、実力差があるって事だ」

「クリスの言う通り、今の私達では立ち向かったとしても完全に回復したベルフェゴールにはすぐに倒されてしまうわね。だからこそ今は些細な情報が必要なの。その情報が突破口になるのかもしれないのだから」

 

 そう言ったマリアは黙って、翼達の会話を聞いていた弥十郎へと視線を向ける。

 

「というわけで、私たちが知り得る情報はこれだけよ。次は司令の憶測、情報を教えてもらえるかしら?」

「我々のベルフェゴールへの理解はマリアくん達と変わらない。だが、一つだけ確信しているのは–––––」

 

 そこで言葉を切った弥十郎は真っ直ぐ切歌を見る。そして、その切歌は何故自分が見られているのか分からずに小首を傾げる。

 

「––––歌兎くんを奪還する鍵は切歌くんのイガリマかもしれない」

「ふぇ? あたしのイガリマ、デスか?」

「女神ザババの双刃の一つ、碧刃(イガリマ)には魂を分裂する力を持っているのだったな」

「そうデス、けど……」

 

 切歌は思う、確かにそうだが。何故それが今話題に上がるのか? と。今は歌兎をベルフェゴールから取り戻す為の話し合いをしていたはずだ。なのに何故、突然イガリマの話になるのだろうか? 意味が分からない。

 考え込む切歌、悩む響と違い、弥十郎の説明には他の装者達は理解しているようで理解してない二人にも分かるように代わり番のに説明していく。

 

「…なるほど。切ちゃんのイガリマは魂を切断する力を持っている」

「そして、歌兎ちゃんとベルフェゴールは今魂までも重なり合っている状況ですが」

「あいつの言ってる事が正しいなら、チビとあいつはまだ完全に重なっているわけじゃねぇ」

「つまり、どこかに()があるという事」

「その隙を暁のイガリマで両断もしくは切断すれば一つになった二人を分裂できるかもしれないという目論見というわけですね、叔父様」

「そういう事だ。完全に重なってない今だからこそ出来る荒技」

 

 弥十郎は切歌を見る。

 真っ直ぐ見てくる視線には"それでもやるか? "という意味が込められている。

 

「上手くいくかは分からない。雲をつかむよりも困難で、先の見えない戦いになるか可能性が高い。それでも––––」

「––––するデス!」

「切歌」

「切ちゃん」

「暁さん」

 

 弥十郎のセリフを切り、切歌は即答する。

 問われる前から決まっていた。あの子を救える方法があるのならどんな些細なものでは行うと。

 もう二度とあの子を悲しい思いをさせない、辛い時泣きたい時は側にいて支えてあげるのだと誓ったのだ。もう一度手を繋ぎ合わせる事ができるのならば、もう二度離さないと。

 

「それで歌兎が救えるんデスよね? 少なくても先が見えなくてもあの子を救えるのならあたしはするデス! 決めたんデス! あの子を救う為ならばなんだってするって!」

「だからって、貴女はまだ傷が癒えてないじゃない」

「なら、危なくないところまで参加するデス」

「参加って貴女の性格では危険てみなされても撤回しないでしょう。それに歌兎の事が絡むと貴女はいっつも無茶を……」

「無茶をしなくちゃいけない時にするだけデス。それに歌兎を救えるのならあたしがなくな––––」

 

 切歌が反対しようとしているマリアと口論を繰り広げている中、ホールへと驚きの声が聞こえた。

 

「––––これは……」

「どうした?」

 

 白熱していく喧嘩を止めようと動き出した弥十郎は後ろを振り返り、声がした方を見ると藤尭が画面を真剣に見ていた。

 

「さっきから歌兎ちゃんと切歌ちゃん、響ちゃん達の戦闘を見返し、分析していたのですが……司令これを見てください」

「これは……同化していたミョルミルとベルフェゴールのアウフヴァッヘン波形が乱れ、一瞬ミョルミルが強くなってる?」

 

 キーボードを打ち、スクリーンへと画面を転送した動画には乱れるベルフェゴールのアウフヴァッヘン波形からミョルミルのアウフヴァッヘン波形が現れ、忽ちに表に出るのまでが一瞬だが映っていた。

 その動画に切歌の曇っていた瞳が明るさを取り戻し、我先に情報を得ようと藤尭のところへと駆けていく。

 

「ど、何処デス! その時は何処なんデスか! 藤尭さん」

 

 階段を駆け下り、藤尭のところまで駆け寄った切歌に画面が見えるように席を譲りながら、藤尭は見つけたところを指差していく。

 

「ここだよ。切歌ちゃんにトドメを刺そうとした時と響ちゃんと戦闘している時」

「それじゃあ……」

 

 今まで乗っ取られた歌兎には声が届かないものだと思っていた。

 だが、違ったのだ。確かに届いていた、声も旋律(うた)も想いも、全部が届いていたのだ、歌兎に……。

 切歌はギュッと手を握りしめる。嬉しかった、これで歌兎を取り戻せる可能性が上がったから。もう一度この腕に抱きしめてあげれると分かったから。

 

「……」

 

 切歌から遅れて、スクリーンへと流れたそれはその場に集うもの達を勇気付けた。

 響は嬉しさのあまり、涙目になりながらも声を上げる。

 

「師匠の作戦は無謀でも無茶でもなかったってわけです!」

「ああ。歌兎君の心を揺さぶり、ベルフェゴールとの同化を緩め、我々はその緩みから隙を見つけ出し、そこを切歌くんに切断してもらう。今まで以上に辛く長い戦いと思う、だがここが正念場だ。我々で必ず歌兎くんを救うぞ」

「はい! (デス! )」

 

 装者の返事が揃い、ホールへと力強い声が響き渡るのを聞き、満足そうにうなづいた弥十郎はすぐに指示を出す。

 

「撤回した歌兎君がいつ現れるか、分からない。各々、準備は怠らずに身体を休めてくれ。それでは解散だ」

 

 弦十郎からの指示に装者が各々帰り支度する中、切歌のみが藤尭のところで俯いたまま、動く気配が感じられず。

 

「切歌ちゃん…?」

 

 藤尭が声をかけながら、顔を除きこもうとした瞬間、勢いよく顔上げて、ニコッと笑ってから頭を下げる。

 

「藤尭さん、見せてくれてありがとうございます。司令も友里さんもスタッフの皆さんも歌兎の事よろしくお願いします」

 

 しばらく深く腰を折った切歌は身体を正すと階段を駆け上がり、もう一度頭を下げてから調の元へと駆けていく。

 ドアが閉まる前に調と並んで、ニコニコと笑いながら廊下を歩く切歌の横顔を見て、友里が口を開く。

 

「切歌ちゃん、無理をしているみたいですね」

「無理もないさ。歌兎ちゃんがあんな事になっちゃったんだから」

「だが、まだ全部終わったわけではない。歌兎くんを取り戻せる機会がある。我々はその一瞬のより良いものにするために仕事するのみだ」

 

 弥十郎の言葉に首を縦に振るのは友里と藤尭のみだけではない。クルーザー全員がそう思っているのだ。

 KODOMOの幸せを守るのがOTONAの役目、二人の幸せを守るのが自分たちの役目だと。

 その日、潜水艦は日があけても光がついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**26.

 

 深夜3時を過ぎた頃、調は喉の渇きを感じ、ベッドから起き上がるとリビングに明かりが点いていることに気付き、ゆっくりと扉を開ける。

 そして、リビングのソファに腰掛け、一生懸命に右手に持った針でチクチクと指に間違って突き刺しながら、編み目が破け、中から綿がはみ出している古い兎のぬいぐるみを縫っている寝間着の切歌が居て、目を丸くする。

 

「……切ちゃん…?」

 声をかける調に気付いた切歌はハッとした様子で電灯の光を見ると眉を潜める。

 

「ごめんなさい、起こしちゃったデスか?」

「ううん。丁度お水飲もうと思ってたから。それって歌兎の誕生日に切ちゃんがあげた兎のぬいぐるみ?」

 

 切歌の横に腰を落としながら、さっきまで縫っていたぬいぐるみを見るとやはり見覚えがあるものだった。

 確か、歌兎が12歳になるときに切歌がマム…ナスターシャにお小遣いを前借りして、ゲームセンターで取ってきたものだったと思う。

 そして、調の記憶はあっていたようで切歌はコクっとうなづく。

 

「あの時、あげてから所々破けているのは知っていたんデスが、なかなか直してあげられなかったデスからね…」

 

 直しかけのぬいぐるみの頭へと手を置いた切歌はいつも歌兎にしているように撫でる。

 垂れ目がちな黄緑の瞳には目の前にいるぬいぐるみが何に見えているのか、調には分からなかった。

 

「帰ってきた歌兎をびっくりさせたくて、さっきから縫ってるんデスけど…あたしってば不器用デスね……あまり上手に出来なくて……」

 

 "えへへ…"と照れたように笑う切歌の笑顔は疲れが滲んでいるように思え、調はそっと切歌の手へと自分の掌を添える。

 

「調…?」

 

 びっくりしたように自分見てくる切歌の瞳をまっすぐ見つめる。

 すると僅かに視線を晒された気がして、心配になる。

 

「あまり無理しちゃダメだよ」

「無理しているように見えますか?」

 

 おちゃらける切歌を顔を見て、調はコクリとうなづく。ずっと見てきた切歌の顔、仕草、笑顔、記憶にあるその全てを比較しても今の切歌は無理をしている。そう判断できた。

 

「少なくとも私には」

「あはは〜、やっぱり調には敵わないデスね」

 

 そう言って、切歌はテーブルの上にぬいぐるみを置いてから調の手へと自分のを添える。

 途端、震えだす切歌の両手を安心させようともう一つの手を添えて、切歌へと向き直る。

 

「あれ……可笑しいな……調にバレただけなのに……。両手が震えて止まらない……」

 

 弱々しく笑う切歌は調から視線を逸らすとゆっくりと自分の気持ちを吐露する。

 

「切ちゃん……」

「嬉しかったんデス、あの子をベルフェゴールから取り戻せるって聞いて。でも、安心したら、凄く心配になってしまって…あたしに出来るのかなって、歌兎の事を救えるのかなって……あたし、今まで沢山失敗してきたから……」

 

 "失敗してきた"という言葉に調も思うところがあった自分だって、歌兎が苦しいときに辛いときに助けてあげられなかった。

 行動に移した切歌を呆然と見ることしか出来なかった時もある。

 そんな自分と違って、ちゃんと行動し、歌兎を守ろうとしている切歌は凄いと思う。そして、そんなに切歌に思って貰っている歌兎の事が少し羨ましく思う。

 

「きっと大丈夫。切ちゃんなら歌兎の事助けられる」

「うん、ありがとう……調……」

 

 切歌をギュッと抱きしめる調は耳元で囁く。

 

「だから、今から麻婆豆腐の練習して、歌兎の事もっとびっくりさせようね」

「うん、そうデスね!」

 

 調のセリフにうなづく切歌をカーテンの隙間から一人の少女が見ていた。

 月夜に照らせるのは腰まで伸びた銀髪、どんな感情も浮かんでないように思える半開きの瞳は黄緑。

 その後、ゆっくりと伏せられる瞳に浮かぶ唯一の感情を誰も知る由はない。

 

 

*1
【ロンギヌス】

 ミョルミル、イガリマ等と共に渡ってきた聖遺物。

 神話にて神のトドメを刺した槍と言われ、"神殺し"と呼ばれている。だが、ガングニールと同じものなのかは研究者の中では把握できてない。

 今の装者、マリア・カデンツァヴナ・イヴに渡った経緯は立花響にガングニールを渡し、ギアを纏う事が出来なくなった彼女にS.O.N.Gが渡したのがロンギヌスだった。

 ガングニールと同格の装者を生み出すために造られたが、纏える装者が居らず。厳重に保管されていたのをマリアがお試しで触れた瞬間、同調し、ロンギヌスの装者となる。

 

聖詠/Shield longinus defend tron

 

メインアーム/槍

 

ギアの色/金と黒

 

タイプ/トリッキーに攻撃を繰り出すバランスタイプ

 




 次回、最終決戦(それはのぞみ)

(のぞ)みと(のぞみ)。それは果たして、誰の"のぞみ"なのだろう…?

第一章、クライマックスまで 後 ニ話…




  〜投稿予定表〜

 2020/3/31 記

 ▼#1ー8  【投稿時間/0:00】

 ▼#1ー9  【投稿時間/12:00】

 ▼#1ー10  【投稿時間/17:00】


 切歌と歌兎の二人が織りなす最初の物語の終焉(クライマックス)
 最後まで見守っていただけると嬉しく思います。
 どうかよろしくお願い致します(土下座)


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009 最終決戦(それはのぞみ)

※※作中にある「__➖–––➖」などは読者の皆さん、個人でセリフを考えつつ、読んでいってください(土下座)


**27.

 

   モウイヤダ。タスケテヨ。

 

 

 何処からか声が聞こえてくる。

 

 

   ナニモナイ。クライダケノセカイニカエリタクナイ。

 

 

 泣いているの…?

 

 

   クライノハヤダ。ダレカソバニイテ。

 

 

 ここにいるよ。

 

 

   ナンデダレモミテクレナイノ? ソノチカラハワタシガアタエタモノナノニ。ナンデ、アルジバカリミルノ? ワタシモミテヨ。

 

 

 見てるよ。

 

 

   ウソツキ。ウソツキ。ウソツキ。ウソツキ。ウソツキ。ウソツキ。ウソツキ。ウソツキ。ウソツキ。ウソツキ。

 

 

 嘘じゃないよ。

 

 

   ドウセステルンデショウ? ホシイチカラヤチエヲワタシカラウバッタラ。

 

 

 そんな事ない。

 

 

   ウバワレルダケナラ。ダレモワタシヲミトメテクレナイノナラ。ワタシトイテクレナイノナラ…。

 

 

 待って!

 

 

   ワタシハ……イイヤ、ワレモウバオウ。タイセツナモノヲ。

 

 

 そんな事したって、誰も君の本当の望みを理解してくれないよ!!

 

 

   ホントウノコトイッタッテ。ダレモリカイシテクレナイヨ。ダッテ、ワレハアクマ……ベルフェゴールナノダカラ……。

 

 

 

 

 

 

 

 その声の後、自分へと流れ込んでくる思い出に少女は目を伏せる。

 

 

 

 

 

 

 

 ミイラ取りがミイラになる。木菟引きが木菟に引かれる。人捕り亀が人に捕られる。

 

 つまりそういうことか。

 

 君も最初は人が好きな優しい子だったんだね。

 

 だけど、認められず。

 

 力や知恵のみを奪われていくうちに人を憎み、人を蔑んだ。

 

 本当は側にずっといて欲しかったのに……ただそれだけが君の望みだったのに……

 

 

 分かったよ、ベルフェゴール。

 

 

 なら、僕が君の側に居てあげる。

 

 

 だから、教えて……

 

 

  君の本当の(のぞみ)は何?

 

 

 

   ワレノ……ワタシノノゾミハ……

 

   ー➖__ー➖––––ー–––___ー

 

 

 うん、分かった。

 

 それが望みなんだね。

 

 君の(のぞみ)は僕が叶えてあげる。

 

 

 

 だから、今は少しの間

 

 

 

「………おやすみなさい」

 

 

 

 カーテン越しに見える横顔へと小さく"ごめんなさい"と呟いた少女はその場を後にした。

 

 伏せられる瞳に浮かぶ感情を読み解けるものは誰も存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

**28.

 

 暁歌兎を乗っ取った完成聖遺物・ベルフェゴールを装者達から逃走して数週間がすぎたある日。暁切歌は一人、毎日の日課となった麻婆豆腐の練習を行うために親友から教えられた材料が安いスーパーをはしごして、買い終えた荷物を揺らしながら、帰路を急いでいた。

 そんな切歌を見下ろしている少女の腰まで伸びた銀髪が赤い夕焼けに照らされ、茜色に光を放つ。

 

(さてとここを通り過ぎたら、もう学生寮デ––––)

 

「––––こんにちは、お姉ちゃん♪」

「––––」

「よっ……と」

 

 目の前に降り立った小柄な人影は紛れもなく失踪していた暁歌兎で、おどけてみせる仕草からしてまだ操られていることに違いないだろう。

 切歌は唇を噛みしめる。はっきり言ってタイミングも何もかもが最悪だ。

 あの時に比べて、身体の回復はしているがまだ痛む場所も少なからずある。

 

(ここは一旦退却して、助けを……)

 

 後ろを振り返って逃げようとする切歌の前に回り込んだ歌兎。いや、ベルフェゴールが挑発するように片眉を上げながら、尋ねてくる。

 

「折角再会したのにダンマリ? 酷いな」

「ふん。あたしが会いたかったのは歌兎デス」

「歌兎だけど?」

「冗談は寝て言えデス。お前みたいな奴、誰一瞬たりと妹って認めてやるかデス。それに……あんたがここに来たのはあたしにお姉ちゃんって認めさせるだけじゃないデスよね? 大方、あたしを倒して、歌兎を完全に我が物にしようとしている、とかデス?」

 

 赤く染まった半開きの瞳がまん丸になり、マジマジとあたしを見つめ、感心したように口笛を吹く。

 

「これは驚いた。お姉ちゃんって難しいこと全然理解してないだろうって思ってたけどちゃんと理解してるんだね。感心、感心♪」

 

 こーの"ーぉ、あ"くーまーぁ"ぁ"。

 響さん達の前など自我を失って、本来の素の状態で会話していたっていうのに……あたしには随分と上から目線じゃないデスか。

 勝手に人の妹を乗っ取って、好き勝手動かした上に大きな傷も負わせたと聞いた。女の子なのに生傷が増えたらどう責任を取ってくれるというのだろうか、この悪魔は。

 

「で? もう少し世間話をするんなら、一ついいデスか? さっさと歌兎を返せ。この悪魔」

「ごめんね。それは無理」

「はぁ…頭の悪い悪魔にいうことじゃなかったデスね。なら……」

 

 首元から赤い結晶を取り出し、突きつける。さっさと返さないと此方は実力行使もいとわないという意を込めて。

 これをハッタリと見るか本気と見るかはベルフェゴール次第だ。

 もしどっちに転んだとしても妹を取り戻した瞬間、一発は頬へと埋め込まなければならないと思っている。

 

 怒りを露わにし、自分を睨みながら、結晶を突きつけ続ける切歌に困ったようにベルフェゴールは肩を上下させる。

 

「はぁ……やれやれ。ほんとお姉ちゃんは何も分かってないね」

「何も? 何を?」

 

 左手を自分の胸へと押し当て、ニンヤリと片頬をあげる。

 

「ボクの事。そして、僕自身の事」

 

(あたしが分かってないデスって? 歌兎の事を?)

 

 あたし、カッチンってきちゃいましたよ。

 誰が誰よりも歌兎を知らないって? 少なくともあんたよりもあたしの方が歌兎のことを知ってるし、愛している。

 ほんのちょっと歌兎と一つになったからって調子に乗りすぎだ、この悪魔。

 何度だって言ってやる。あたしがあんたよりも歌兎のことを知らないだって、劣ってるだって……巫山戯るなッ!!!

 あたしほど歌兎の事を愛してる人、知っている人、時間を共にしてきた人は世界中探しても居ないだろう。

 

「初めて、言ってくれた言葉が『ねーね』だったデスよね…」

 

 遠い昔を思い出すように遠目を見ながら、ポツリと声を漏らす。

 呟きを聞いたベルフェゴールが"なんだ、こいつ"とマジマジと見てくるのを心で笑いながら、続ける。

 

「ハ?」

「初めて、歩いてきてくれたのもあたしのところだったデス」

「ハア?」

「ギュッて抱きしめてくれたのも、小さな手を重ねて散歩したのも、頭を撫でてくれたのも、離乳食もあたしがあげないと食べてくれないって言ってましたっけ……」

「さっきから何を言ってる……」

「にこって笑ってくれたもの、あたしが最初だったデスよね…」

「さっきからなんなんだ! 意味わからないことばかりペラペラと……イライラが募っていくだろう!」

 

 聞くに耐えないと声を荒げるベルフェゴールへとビシっと右指を突きつけた切歌は鼻で笑うと結晶をギュッと握りしめる。

 やはり何も分かってないのはそっちの方だ。あたしが知っている事を何も知らないなんて……お前にとってはどうでもいいものでもあたしにとってはどれも大切な記憶だ。

 

「意味わからないことないデス。あんたはさっきあたしが歌兎の事を何も知らないって言ったから話しているんデスよ。あたしは歌兎との思い出を一つも忘れたことはない。生まれた時の事もさっきのことのように思い出せる………つまり、あたしと歌兎の絆、舐めんなよッて事デス!」

 

 そして、胸に浮かんだ聖詠を口ずさむ。

 

「Zeios igalima raizen tron」

 

 身に纏うイガリマのギアを揺らしながら、先手を取るために身を屈めて、ベルフェゴールへと二つに分裂した鎌を交互に突きつける。

 

警告メロディー 死神を呼ぶ 絶望の夢Death13 レクイエムより 鋭利なエレジー 恐怖へようこそ

 

【怨刃・破アmえRウん】

 

 切歌の乱撃から逃れようと後ろに飛ぶベルフェゴールに向かって飛んでくる緑色の波動に着ていた服を切り裂かれ、可愛らしい顔が激怒に染まる。

 

「本当に忌々しい……お前も同胞もお前らが奏でる歌も何もかもッ! Multitude despair mjolnir tron」

 

【分気・鳥兎匆匆】

【切・呪りeッTぉ】

 

 分裂し、切歌を潰そうと振り上げられるダガーを三つに分かれた緑の刃が追撃し、当たる直前で躱すベルフェゴールの運動神経に()()()を覚えながらも切歌は攻める手をやめない。

 

不条理な未来叫んでみたけど ほんとは自分が許せない すべて刈り取り 積み上げたなら 明日へと変わるの?

閉ざされた世界に 小さな兎 一人迷い込んだ 森の中 大きな穴から拾い上げた 一つの宿命-カルマ-

 

 防御に徹してぐらつく身体へと刃を振り下ろしながら、切歌は至近距離でベルフェゴールの眠そうに開かれた瞳を睨みつける。

 

「何故そこまでして歌兎を狙うんデス! 貴女の力を欲しいって奴なら他にあるでしょう」

「使い勝手がいい。心が揺れやすい。つまり、扱いやすいって事だ。今まで色んな奴を見てきたがここまで相性のいい身体はない」

「歌兎をモノのように言うなァァァァァッ!!」

 

 ダガーを重ね合わせ、切歌の攻撃を受け止めているベルフェゴールへと一閃食らわせるべく、力を更に加えていく。

 膝をつき、こっちを見上げてくるベルフェゴールの眠そうな瞳を睨みつけながら、覆いかぶさるように取手へと両手を添えて力を加えていく中、ダガーが傾き、バランスを崩す切歌へと淡く光る刃が突き刺さる。

 

【攻気・鳶目兎耳】

 

 無防備になった腹部へと入った技にゴホッと唾を吐き出した切歌へと回し蹴りをするベルフェゴールの脚を代わりに掴み、放り投げる。

 

いますぐに just saw now 痛む間もなく 切り刻んであげましょう

 

 放り投げられたベルフェゴールへと飛び上がった切歌は脚へと鎌を装着し、背中のブースターが着火し、スピードを増して、ベルフェゴールへと突き刺さろうとして寸前で交わされる。

 

【断突・怒Rぁ苦ゅラ】

 

 地面へと突き刺さる切歌へとダガーを振るいながら、かわしていく切歌を睨む。

 

「モノのようになど一度も使ってない。我には同胞が必要だから同行を求めているだけだ。強制は強いしておらん」

 

 ギュッと取手を握りしめて、強まる力によって軋む取手の音を聞きながら、切歌は目の前にいるベルフェゴールを睨む。

 垂れ目がちな黄緑色の瞳に映るベルフェゴールの半開きした瞳が意思の強い光を放つ。

 

「歌兎が……歌兎がっ。お前に操られている方が幸せって言うんデスかっ。そんなわけないでしょう! あの子は今まで辛い思いを沢山してきたッ。今度はその分、楽しい思いをする番デス!」

「主は同胞にとってたかが他人だろう? 何故、他人に幸せの基準を押し付けられなければならない。フ……案外、同胞も我に操られている方が幸せと感じているやもしれぬぞ?」

「貴様ァァァァ!!!!」

 

 分裂した鎌を交互に振るいながら、自分へと襲いかかってくる切歌の攻撃をニンヤリと片頬を上げながら、ひょいひょいと躱すベルフェゴールに切歌の怒りのポルテージが上がっていく。

 

(歌兎があたし達といるよりも早くベルフェゴールといる方が幸せ? そんな事ない! だって、みんなと居る時の歌兎は幸せそうだった。その幸せを壊すことは誰であろうと許さない!)

 

信じ合って 繋がる真の強さを「勇気」と信じてく そう紡ぐ手 きっと きっと まだ大丈夫、まだ飛べる 輝いた絆だよ さあ空に調べ歌おう

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 後ろへと後退りながら、逃げていくベルフェゴールを追い詰めるべく、放つ三つの刃は両手に持ったダガーにより弾き返され、代わりにベルフェゴールは両手に持ったダガーを地面に突き刺す。

 

閉ざされた世界に 轟々と燃え広がる(ほのお) 兎は叫び やがて憧れは燃え尽き 灰と化す 抱き上げ零れ落ちた腕から 大きな宿命-カルマ-

 

【鬼気・狐死兎泣】

 

 地面から噴き出る花緑青(エメラルド)の波動にカウンターを受けた切歌の腕や頬へと疾風が吹きあられ、切り傷が新たに作られて、衝撃により背中から地面に倒れこんだ切歌は鎌を突き立てながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「くっ」

 

思い出す 思い出す 過去 思い出して 思い出して 涙が一つ 繰り返す 繰り返す 悪夢 繰り返して 繰り返して 後悔が一つ

【分気・鳥兎匆匆】

 

 立ち上がる切歌の懐へと潜り込んだベルフェゴールは交わそうとする切歌の行動を先読みし、後ろに飛び退ける無防備な背中へと技を決めていく。

 左右に高速で動くダガーにより肢体が切り裂かれていき、倒れこもうとする切歌に追い討ちとばかりに両手に持っているダガーを前へと放り投げる。

 

小さいままじゃあ 救えない 報われない 守れないと分かった だから今こそ Scorchihg sun 痛む間もなく 打ち砕いてあげましょう こんな輪廻(りんね)

 

【効気・鳥飛兎走】

 

 放り投げれたダガーは切歌の右肩、左腰へと切り傷を作った後にベルフェゴールの元へと帰ってくる。

 二つのダガーを()()()()()()受け取ったベルフェゴールはまだ戦意が感じられる切歌を見下ろす。

 

「ゴホゴホ……。くっそ……」

 

 立ち上がる切歌を見下ろすベルフェゴールを睨みながら、切歌は先程から感じる違和感を再認識する。

 素早く辺りを見渡し、挑発されるがままに誘導された場所が周りに住宅街がない空き地ということを確認し、見慣れた構えでダガーを持ち、こっちを見やるベルフェゴールに違和感が増していく。

 数週間前に戦ったベルフェゴールは激怒に身を任せており、周りに民間人が居ようが関係なく技を繰り出して、一撃でビルを半壊させるほどの力を遺憾なく発揮していた。

 だが、目の前にいるベルフェゴールはなんだ? 前のように無闇に膨大な力を放つのではなく、こちらの隙を見て最小限の技を繰り出してくる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「戦闘中に考え事とは随分舐められたもんだな」

「チッ」

 

【攻気・鳶目兎耳】

 

 淡い光を放ち、自分へと攻撃を放ってくるベルフェゴールの技を捌きながら、間近でベルフェゴールを見ていく。

 言動、仕草に見知ったものがないかを記憶の中に刻みつけている妹と重ね合わせていく。技を放つタイミングや溜め方、身のこなしまでありとあやうるものを重ねていくうちに照合していくものが増えて、切歌の表情に動揺が走る。

 

キラービートMAX ボリュームフルテン 脳髄の隅まで教えるDeath 断頭の音階 背筋も凍る 冥府のマスカレード

君から託されたこの力 君から託されたこの心 君から託されたこの命 僕は守り 繋いでいく そう、繋ぐッ! だからこそ望む未来をこの手で掴み 僕はここに戻ってくる

 

【鬼気・狐死兎泣】

【怨刃・破アmえRウん】

 

 技と技がぶつかり合い、爆風が巻き起こり、一定の距離を取る二人の中で流れる沈黙を破ったのは切歌だった。

 動揺を顔全体に覗かせ、目の前にいるベルフェゴールの風に揺れる日の光を浴びると水色に光る銀髪を見やり、自分を感情が消えた眠そうに半開きしている黄緑色の瞳を見てから記憶にある妹を思い浮かべると震える声で問いかける。

 

「………お前、誰なんデスか…?」

「……」

「お前は誰なんデスか!!」

 

 ベルフェゴールを見る瞳が懇願の色を覗かせる。

 

 目の前にいるベルフェゴールは余りにも暁歌兎(自分の妹)()()()()()()()()

 鏡で写したかのように、言動も仕草も動作も何もかもが妹なのだ。

 口調も何度も真似をして、コツを掴んで、一生懸命演じているような違和感を感じる。

 

 ここまで瓜二つということは考えられる可能性は二つ。

 一つ目は、逃走したベルフェゴールが姿を消していた数週間の間に歌兎を完全に支配し、前は操れなかった所まで操れるようになってしまった。

 二つ目は、逃走した数週間の間に何かベルフェゴールと歌兎の間にあり、歌兎がベルフェゴールの支配から逃れており、暁歌兎に支配権が渡っている。

 もしも、一つ目ならばこれまで対策してきた方法が全部無駄となってしまう。だが、二つ目の場合ならば、ベルフェゴールから身体の支配権を奪った歌兎が何故、ベルフェゴールの真似事をして、切歌に襲いかかっているのか? という疑問が発生する。

 

(分からない。何も分からないデスよ……)

 

 切歌は頭がこんがらがってくるのを感じ、ベルフェゴールの重い口を開くのを深呼吸して待つ。

 頭がジリジリする。嫌な汗が流れる。頼んでもないのに、頭の中でカンカンと警戒音が鳴り響く。

 

「ずっと前から言っているであろう。ボクは僕、二人は一つとなった。ボク……我こそが暁歌兎と」

「……」

 

 "暁歌兎"と名乗るベルフェゴールに納得してしまう。前に戦った時はその口から名前を挙げられるだけでも、違和感の正体に気付く数分前も同じように嫌悪感が湧いてきた。

 

 なのに、今は納得してしまっている。

 

 目の前の人こそがその名前を口にするべきだ、言って欲しいと本能が叫ぶ。

 

「–––」

 

 両手に持つダガーを構えながら、切歌との距離を図っているベルフェゴールを……いいや、歌兎を見やり、気づくと両手を握りしめていた。

 訳がわからなかった。なんでそんな事をしているのか、意味が分からなくて、イライラして、切歌は両手に持つ大鎌を歌兎(最愛の妹)へと振り下ろす。

 切歌の鎌を受け止める歌兎の吊り上がる眠そうな瞳を間近で睨みつけながら、視線で訴える。

 教えて欲しかった。なんでそんな事をしているのか。なんで敵に屈しているのか。なんで自分を襲っているのか。妹の言動全てが意味不明で理解できなくて………思いを増していく切歌の押さえつけていく力が強くなっていく。

 

交錯してく 刃の音が 何故か切ないラプソディーに 籠の中から 救ってあげる 両断のクチヅケで

飛び出た外の世界 一匹の小さな兎 見上げた空には ニコニコ笑顔のお日様とお月様  二つが歌う調 夜道を照らす

 

 口ずさむ歌声、旋律(メロディー)に表情が暗くなっていく。

 その一文は今の歌兎に歌って欲しくなった。

 今までどんな気持ちでみんなが貴女を探すために尽力を尽くしてきたのか、S.O.N.Gのスタッフは今も寝る間も無く、貴女を捜索してくれている。なのにどうして、その人達の気持ちを、苦労を踏みにじるような行動に出ているのかが理解できなくて、切歌は二つに分裂した大鎌で歌兎へと切りかかる。

 切歌が振るう緑の刃を受け止める花緑青(エメラルド)の刃の間で火花が飛び散り、爆音が大気を揺らし、近くで組み立てている鉄骨を揺らす。

 

叫んでみて call now 涙ごと全部 切り刻んであげましょう 伝えきれない ココロをいまぶつけよう 「遠慮」なんていらない さあ試す愛

天翔ける鳥が奏でた 翼の音は頼もしく 舞い落ちる雪の音は 優しく包み込む 白く暖かい世界に 夢を抱きたくて

 

 戦場に響く旋律と旋律は重なり合い、それぞれのアームドギアの様に火花を散らし、其々の魂を揺さぶる。

 一つは問いただす様に。もう一つはのらりくらりと追及を交わす様に。

 感情のままに鎌を振り続ける切歌の攻撃を弾き、歌兎は回し蹴りを食らわせる。

 ガチャンを音を立て、激しい二人の戦闘によりぐらついていた留め具が外れ、切歌と歌兎へと降ってくる。

 

きっときっと そう「大好き」伝えたい 煌めいた運命に 嗚呼溶ける月と太陽

凛と立つ花が繋いでくれた手に救われ 切なく響く胸の歌に背中を押された だから今度こそ Scorchihg sun 痛む間も無く 打ち砕いてあげましょう こんな運命-さだめ-

 

 切歌は降ってくる鉄骨が逃げようと身を翻そうとしたその時、自分目掛けて降ってきている鉄骨から逃げようとせずに上を向いて、その場に留まろうとしている歌兎へと抱きつく。

 降ってくる鉄骨から歌兎を守りながら逃げる切歌の手に握られている大鎌を見ている歌兎が一瞬、寂しそうに…申し訳なさそうに微笑んだ後に緑の刃が自分の心臓を貫く様に設置する。背骨に当たる刃に歌兎はゆっくりと目を瞑る。

 

「はぁ……はぁ……っ、っ…」

 

 そして、遂にその時はやってきてしまった……。

 鉄骨から逃げるのに必死だった切歌が歌兎と共に鎌を地面へと下ろしてしまった。

 グチャとやな音が鼓膜へと響く。右手には柔らかいものを尖ったものが突き刺さる感触を感じ、切歌の垂れ目がちな瞳が更に丸くなり、目の前の光景を網膜へと嫌でも焼き付けていく。

 

「ごほ……けっほ………」

 

 寝かせて持っていた筈の大鎌の緑色の刃の先が主張があまりない妹の胸の間から伸びており、そこからドボドボと溢れてくる赤黒い粘液が花緑青(エメラルド)と真っ黒いギアを濡らしていく。青白くなっていく顔は激しく咳き込む度に血が噴き出て、顎と頬を濡らしていく。

 

「…え?」

 

(へ? え?)

 

 突然の事に頭が回らない。

 目の前のこの光景はナンダ? なんで、歌兎から血がデテイル? なんで守ろうとしただけなのにコンナコトニナッテイル?

 切歌は訳が分からなくて、訳が分からないことが分からなくて、何をしたらいいのさえ分からなくて、分からないことが辛くて苦しくて……歌兎の血に濡れた手を握りしめる。

 

「歌兎っ…うた、う……歌兎…ぅ、あたし…お姉ちゃんは…っ」

 

 ポロポロと大粒の涙を流す切歌の頬を流れる涙を拭ぐろうと手を伸ばした歌兎の掌から肢体、身体全体が黄金の光となる。

 そして、何かを伝えようと唇を開く歌兎が切歌に触れた瞬間、彼女を模っていた黄金の光が小さな玉となり弾け飛び、夕暮れの空へと舞い上がっていく–––––。

 

「…あ"あ"ぁぁぁぁぁ…」

 

 切歌の喉から声にならぬ声が漏れ出て、風によって攫われていく歌兎だった粉を少量無我夢中で手繰り寄せようとする垂れ目がちな黄緑の瞳には瓜二つの姿を持つ少女達が笑顔を浮かべて、仲よさそうに手を繋ぎ合わせてから空へと歩いていこうとしている姿が映る。

 右は日の光に当たると水色に光る銀髪を腰まで伸ばし、眠そうに黄緑の瞳を開いた可愛らしい顔立ちをした少女。

 左は右の少女と同じように腰まで伸ばした銀髪の毛先を青紫に染めて、眠そうに開かれた瞳を真っ赤に染めた可愛らしい顔立ちをした少女。

 二人はお互いの顔を見合って笑い合うと右の少女だけが切歌の方に振り返って、小さく何かを呟いた後に左の少女の手を引いて、空へと登っていく。

 

 遠ざかっていく小さな背中から溢れる黄金の光が切歌の掌へと乗っかり、切歌はそれを抱きしめながら嗚咽を漏らしながら崩れ落ちる。

 

「ゔぅっ……ぁっ……ッ」

 

 抱きしめる黄金の光から微かに『…姉様、痛いよ』と困ったような妹の声が聞こえ、切歌はより一層胸へと抱きしめる。

 

(歌兎。歌兎歌兎歌兎…うた、う…っ…)

 

 お姉ちゃんはどうしたらよかったんデスか? 貴女を守る為に……貴女が笑顔で居られる為に……。お姉ちゃんはどうすれば……。

 あたしは…お姉ちゃんはただ、貴女と居られるだけで、貴女の可愛い笑顔を近くで見ているだけで幸せだったのに……なのにどうして…ッ。

 なんで、こんな事になってしまったのだろう…どこで何を間違えてしまったのだろう…、もう何も分からない…分かりたくもない…何もする気にならない…。

 

 もう埋まることはない胸にぽっかりと空いた穴、そして脳へと反響するのは、最後に歌兎(いもうと)が言ってくれた三つの言の葉。

 

『ごめんね…』

 

 こんな苦しい役割を切歌に押しつけてしまったこと。辛い・悲しい思いをさせてしまった事への謝罪。

 

『ありがとう…』

 

 ここまで育ててくれたことを、愛情を注いでくれた事への感謝。

 

 そして、『大好き』

 

(バカ…。バカ歌兎…っ。あたしの方が、お姉ちゃんの方が貴女のよりも何倍も何十倍も何百倍……ううん、何億倍だって貴女のことが大好きデス!!)

 

 大好きで大切だからこそ––––

 

 –––––生きてて欲しかった。隣で笑っていて欲しかった。一緒に歳をとって欲しかった。大人になって欲しかった……。成長した貴女の姿が見たかった……。

 

「………うた、う…」

 

 そう名前を呼ぶたびに自分へと抱きついてきてくれた。親愛を込めて『姉様・お姉ちゃん』と言ってくれていた。幼い頃は切歌が居ないと顔をぐちゃぐちゃにして泣くほどに泣き虫で甘えん坊で、大きな音などに震えてしまう弱虫だった。だから、守ってあげなくては、と思い、ここまで生きてきた。

 

 切歌は気付くと顔を覆っていた。

 

(……なんで、あたしの周りからは大切な人も記憶もなくなってしまうんデスか……)

 

 歌兎との思い出も忘れてしまった思い出達の様に忘れてしまうのだろうか……。辛い悲しい思い出もあったが殆どが幸せな思い出なのに……自分は忘れてしまうのだろうか?

 妹の存在を全て忘れて、自分には妹がいないと振舞って生きていくのだろうか?

 

(そんなの嫌デス! あたしにとって歌兎は……歌兎はッ!)

 

「切ちゃん!」

「……」

 

 切歌の耳に調の声が届く。

 背後に無数の足音が聞こえてくる。どうやら、調だけでなく装者全員が駆けつけくれたらしい。

 ならば、みんなにあまり心配をかけない様に早く振り返って、答えなくては…………。

 そう考え、切歌は乱暴に溢れてくる涙を拭いながら、顔を上げる。

 

「しらべ。みんな……」

「!?」

 

 振り返った切歌は顔を涙でぐちょぐちょにし、大粒の涙を垂れ目の黄緑色の瞳から絶え間なく溢れさせながらも––––桜色の唇は両端、上へと上がっている。

 そう、それはいつか調が見た…見ているこっちも胸が苦しくなる

 

 

 

   –––––痛々しい笑顔、だった。

 

 

 




【__ー––––__side】


   __––––ー


 え? どうしたの?


   __––––ーー


 そんな事を気にしてたの? 大丈夫。姉様ならきっと分かってくれる。

 それに僕は約束したから……

 君をもう二度と一人にしないって


   ➖___–––


 お礼なんていいよ。僕はあの時、決めただけだから。

 自分が信じた道を命が枯れても貫き通す、って。


   –––➖––___


 うん、そうだね。そろそろ、つ___➖––➖➖––。








 次回 第一章・最終話
 1ー10/リフレイン–––もう一度、歌兎(きみ)に会う為に…

 失ったものを取り戻す為、少女は一人。(なが)(なが)い旅路の入り口に立つ。

 –––––もう二度と繋いだこの手を離さない

 第一章 クライマックスまで  後一話…


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010 リフレイン–––もう一度、歌兎(きみ)と会う為に…

   第一章完結ッ



**29.

 

 暁歌兎の葬式又の名を送別会は顔馴染みのみで行われた。

 S.O.N.G内にある小さなミーティング室に集まったスタッフ、装者達は思い思いに歌兎との思い出話を語らい、用意された箱へと彼女との思いの品をしまっていく中、一角で騒動が巻き起こっていた。

 

「お前、いい加減にしろよッ!」

 

 ミーティングの中を反響するのは雪音クリスの悲痛な叫び声。

 その叫び声を真正面から浴びているのは歌兎の姉・暁切歌がであった。

 切歌の黒いTシャツの襟首を鷲掴みにし、自分の方へと引き寄せたクリスの薄紫の瞳に映るのは()()()()()()()()()切歌だった。

 

「……」

 

 困ったように見えるがそれ以外は()()()()()()()()()切歌は涙で頬を濡らすことなく、そうする事が最善なんだと。それが自分の役割なんだと。その役割を全うするかのように笑顔を浮かべ続けているように見える切歌にクリスの両手の力が強くなっていく。布地が掌へと食い込む。

 彼女の笑顔が映っている薄紫色の瞳は潤み、襟首の掴む両手が上下に揺らさせる。

 しかし、それも騒ぎを聞きつけて二人の元へと駆けつけた仲間達により止められるがクリスの怒りは、彼女の思いは切歌から離れていなかった。

 

「なんで…ッ。なんで、お前はそうなんだよッ! いっつもいっつもそうやってヘラヘラ笑って……こういう時こそ泣けよッ! お前が一番悲しいんだろッ!! チビが亡くなってッ。あたしらよりもお前がッ!! な……そうだろ……」

「クリス……」

「雪音……」

「クリスちゃん……」

 

 クリスを切歌から離して、右腕を取り押さえていた小日向未来。左腕を取り押さえていた風鳴翼。腰を掴んでいた立花響が彼女の思いを聞き、何故こんな行為を行ったかを悟り、ゆっくりと両手を放していく。

 

 切歌は感じる、自分に集まる視線を。クリスのセリフに同意するみんなが自分を責めているような…説明して欲しいと懇願するような視線を。いいや、それは自分がそう思っているだけだ。本当は頼って欲しいのだ、自分達を。

 だが、切歌はそれらの視線を()()()()()()()()()()で逃げる。

 そして、クリスは、その笑顔を見ている仲間達は顔を悲しみで歪ませる。

 

「あたし達はそんなに頼らないのかよッ! お前が素直に悲しむことが出来ないくらいに……脆くて守ってやらないといけない存在なのかよッ!! あたしは少しだけならお前が背負ってる荷の肩代わりが出来るくらいに親しくなったって思っていた。強くなったとも………でも、それはあたしだけがそう思ってて、お前は違っていたのかよッ!? なッ!」

 

 叫んでいる最中に感情が高まり、涙を流したクリスはそれだけ言うと目の前で何も言わずに笑顔を浮かべ続ける切歌を睨み、暫くしてから乱暴に涙を拭いてから回れ右をする。

 

「……わりぃ。少し頭に血が上っちまったみたいだ。頭を冷やしてくる」

 

 追いかけてくる仲間達の方には振り返る事なく、素っ気なくそれだけ言ったクリスがガチャンと音を立ててから部屋を出ていくのを、その背中を見ていた切歌はそっと視線を落とす。

 そして、みんなが集まるドアの方へと向かうとガチャとドアノブを回して、自分が通るくらいの隙間を開ける。

 

「……切ちゃん?」

 

 隙間に身体を滑り込ませようとしている時に切歌の隣で騒動を見守っていた月読調が駆け寄ってきて、心配そうに切歌を見つめ、声をかけてくれる。

 そんな調へと照れたように笑ってから要件を答えるとその場を後にする。

 

「えへへ、あたしも少し外の空気を吸ってくるデス」

 

 部屋を出て、廊下を歩いている最中に無理矢理貼り付けていた笑顔の仮面が剥がれるのを感じとり、その場にしゃがみこむ。

 

(……もう何も分からない)

 

 何が正しくて何が間違っていて、自分は今何をするべきなのかも何もかもが分からない。考えようとする気力もやる気も湧いてこない。しゃがんでいるのも歩いているのも全てが億劫で。目の前の光景が他人事のように思える。

 

 ううん、そんな事よりもなんで歌兎はあんなことをしたのだろう?

 ベルフェゴールの真似をして、わざと自分を挑発するような事をして、イガリマで自分の命を絶つような………。

 

 今までは妹のする言動はどんなことだって分かってきたし、したい事ややりたい事も何も言わなくても察しが付いていたのに………今回のことだけは訳がわからない。もう考えるのも疲れた。

 

(……歌兎。やっぱり、貴女が居ないとお姉ちゃん駄目だよ……)

 

 瞼を閉じると浮かぶのはこっちを見上げ、薄く笑う妹の愛らしい顔。両手に今だ妹のぬくもりが、感触を思い出す。

 笑顔(仮面)が剥がれた両手で覆い、より強く願う–––––

 

(––––もう一度、歌兎(きみ)に会いたい…)

 

「その気持ち、誠か?」

 

 強く願う切歌の耳へと聞いたことがない声が反響し、その場から飛び退け、勢いよく辺りを見渡すが人の影は見当たらない。

 

「誰デス!?」

 

 見落としがないか、もう一度キョロキョロと辺りを見渡すが結果は1回目と同じで切歌は突然背中をはしる悪寒にぶるぶると震える。

 

「はぁ……。要らぬことはせんでいいのじゃ。それに()は霊体ではない。よく見よ。主の目の前におるじゃろうが」

 

 謎の声にそう言われ、切歌は"もしも幽霊ならばどうしよう"とピクピクと震え、心の中でお経を唱えながら、目の前の空間を凝視してみる。

 すると、目の前の空間がだんだんと歪んでいき、後ろの光景が透けているが確かにそこに人がいるような……透明人間がいるような感じに見え、切歌の震えが増していき、一歩一歩遠ざかっていくのを見て、大きな溜息をついた謎の声は一トーン下げた凄みのある声で問いかける。

 

「はぁ……。埒があかんのじゃ。主はただ余の問いにのみ答えよ。主はもう一度あの子……暁歌兎に会いたいか?」

 

 その問いかけに切歌は震える身体を押さえ込みながら、声を絞り出す。

 そんなの迷う余地すらない。離れたその時からずっと心が叫んでいる、会いたいと。会って、言いたい事したい事謝りたい事が沢山ある。もう一度会えないと分かっていても会いたいと思ってしまう。

 

「……会いたい。だって、歌兎はあたしのたった一人の妹で、家族で……あたしの大切な人だからッ!!」

「家族? 家族はあの子以外にも居るじゃろ? あの者たちでは物足りぬ。あの子の代わりにならぬと……そう申すか?」

「なれるわけないデス! 歌兎は歌兎。調は調。マリアはマリア。セレナはセレナ、デス! みんな、あたしの大切な家族デス! 代わりなんて誰一人いません! それは歌兎だけじゃなくて調達もデス! みんな大切なあたしの家族で………歌兎はかけがえない存在。あたしの宝物なんデス! あの子がいない日々なんて考えられないんデス…」

 

 いつの間にか身体の震えが収まり、前のめりで断言し即答する切歌を暫し見ていた謎の声の主は微かな笑い声を漏らす。

 切歌には謎の声の主が可愛らしい笑みを口元に浮かべているのが見え、目をパチクリさせる。

 

「ふ……合格じゃ。主ならばあの子を_--_から救ってくれるやもしれん」

「え?」

 

 肝心の単語が聞こえず、切歌が唖然とする中、声の主は一歩切歌に近づく。

 そして、彼女の癖っ毛が多い金髪を"よしよし"と優しい手つきで撫で、ボソボソと何を呟いた後、耳元で聞き覚えのない謎の単語を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リフレイン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 単語が音となり、耳から脳へと向かい、延々と反響し、"待って! "という声すらも目の前の眩い光に包まれていく––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**1.

 

 眩い光にパチパチと瞬きする。

 そして、辺りを見渡すとここが記憶の中にあるマム。ナスターシャの私室である事を知る。

 ドアから入って真正面にはシックな長机と黒い椅子。両端には子供にはわからない難しい参考書や本が並んでおり、時折本や参考書を取り出し、写真やイラストを見せてくれる事もあった。

 

(っていけないデス。なんであたしがここにいるのかを考えないと。マムの部屋があるって事はここは白い孤児院の中って事なのだろうか?)

 

 レセプターチルドレン……フィーネの器とみなされる身寄りのない乳児・幼児をリンカネーションに備えて、フィーネが米国政府と共に一箇所に集めたのが白い孤児院と呼ばれる研究所。

 そこに集められたレセプターチルドレン……観測対象には色んな事が行われていた。非人道と思うことも嫌なこともされた。仲間たちと暮らした思い出の建物でもあるが、楽しいことだけではなかったように切歌は思えた。

 

(でも、その辛い事も歌兎が……調達が居てくれたらこそ乗り越えられたんデス)

 

 特に妹の存在は強かった。

 当時は泣き虫で弱虫で甘えん坊だった妹が周りに打ち解けるには時間がかかり、そんな妹と自分達が置かれた環境を見て、思ったのは"この子を守れるのは自分だけ。自分がしっかりして妹を守らないと"だった。

 乱暴に研究員に連れて行かれて、大泣きする妹を庇って、代わりに殴られた事とかあったっけ…。

 

 思い出に浸る切歌を正面から眉をひそめて見上げている人影が居た。

 濃い紫色の髪を後ろでお団子状に結び、髪と同色の瞳で物思いに耽る切歌を心配そうに見上げ、肢体を覆うのは長スカート。

 そして、言葉を発する事なく、考え事に夢中な切歌へと声が掛けられる。

 

「切歌? どうしました?」

 

 凛とした中にも優しさや厳しさを感じる事が出来る懐かしい声に切歌の下を向いていた視線は勢いよく前を向き、まじまじと目の前に座る人物…ナスターシャを見るのだった。

 

「……ま、マム?」

 

 声が掠れ、裏返る。

 だって、切歌の知っている記憶ではナスターシャは切歌達人類を守るために一人で月の遺跡に行って、そのまま……だったのだ。

 さっきまでここは白い孤児院に似た別の場所と認識しようとしていた。だが、目の前で心配そうにこっちを見てくるナスターシャは生きている。それに顔のシワが少なく、年が若返っているように見受けられる。

 

(ちょ、ちょっと待ってください。どういう事デスか? これは……マムが生きてる? そんなの過去に時間を戻さなくてはあり得ないこと。しかし、あたしは時間を巻き戻す聖遺物にも触れてないし、そんな聖遺物が存在している事も知らない。つまり、これは……夢?)

 

 困惑する切歌にナスターシャは眉をひそめ、ゆっくり視線を下へと向けた後、固く閉ざされていた口が開き、重々しく感じる声音で呟く。

 

「仕方ありません……。貴女にはまだこの話は難しく、理解するのに時間が掛かるでしょう。それに内容が内容なだけに混乱もしているのかもしれません。今日の話はここまでにして、日にちを置いた後にも一回話をしましょう」

 

 今の状態を整理するのに精一杯で絶賛混乱中の切歌がナスターシャに話し合いの終了を告げられたその時、コンコンと微かなノック音が聞こえ、続けてドアが僅かに開いてからちょこんと見知った銀髪が顔を出す。

 電灯の光で水色に光る銀髪に切歌は心臓が見えない手で握られているかのような…息苦しい感覚を感じる。カンカンと頭の中でサイレンが鳴り、ゆっくりと隙間から現れる銀髪に視線が釘付けになり、片目だけ出して遠慮深くこっちを見てくる可憐な顔、眠そうな黄緑色の瞳にずっと押さえつけていた想いが溢れて、目頭が自然と熱くなってくる。

 

「…大事なお話ししている時にごめんなさい、マム、姉様…」

 

 物静かな声でそう言い、向かい合う切歌とナスターシャを見ているのは紛れもなく暁歌兎だった。

 数日前に光の砂となり、大気へと溶けていった姿よりも幼く思える妹をまじまじと見つめながら、切歌は溢れそうになる涙を必死に耐えていた。

 どんな時でも妹に弱いところを見せたくない。それは姉としての切歌の意地だった。

 

 そんな切歌の様子に気付かないナスターシャは半分だけ顔を覗かせている歌兎へと手招き、部屋に入るように指示する。

 その指示に自分を見たまま動かない切歌(あね)とナスターシャを交互に見て、視線を地面に向けてから数秒考えた後に歌兎は切歌の隣へと歩いてくる。

 

「ふふ。いいのですよ、歌兎。丁度切歌との話は終わりました。それよりも何か用事があったのでしょう? 話してごらんなさい」

「…うん。あのね、シラねぇが晩御飯にしようって……僕は二人を呼んできてって、マリねぇに言われたの」

「そう。ならご飯が冷めてしまう前に向かうとしましょう」

 

 車椅子を動かすナスターシャの先回りをして、自動車椅子が通れるくらいにドアを開けた歌兎は今だ身動きしない切歌へと駆け寄ると右手へと自分の手を重ねると淡く微笑む。

 

「…姉様も行こ。ご飯冷めちゃうよ」

「––––」

 

 自分の手に重ねられる小さな手から伝わってくるぬくもりと鼓動。

 自分を不思議そうに見上げてくる半開きした瞳を見下ろしながら、切歌はそっと身体を折る。

 

「…姉様?」

「……っ」

 

 身体を折る姉の行動に小首を傾げる歌兎を見つめながら、腰をゆっくりと落とし、膝立ちになった切歌はギュッと力強く小さな身体を抱き寄せる。

 突然の事にピクッと震える小さな身体を更に強く抱き寄せるとおずおずと背中へと小さな掌が添えられる。

 そっと目を閉じ、記憶にある彼女と比べていく……。

 

(この感触…このぬくもり…)

 

 夢ではない。これは現実だ。

 あの謎の声が関係しているのか、今ははっきりしない。だが、これではっきりした。死んだはずの二人が若返った姿で目の前に現れた。きっと自分が体験している現象は()()()()()()()()()()()()()()だ。原因は分からないが過去に戻ってきたのだ––––

 

「…ねえ、さま?」

 

 ––––もう一度、歌兎(このこ)に会う為に…。

 

 ずっと会いたかった。

 ずっと抱きしめたかった。

 ずっと謝りたかった……辛い思いをさせてごめんねと守ってあげられてごめんね、って。

 ずっと名前を呼びたかった……"歌兎"って。

 そして、その可愛い声であたしのことを呼んで欲しかった"姉様・お姉ちゃん"って。

 

「…歌兎…うたう……、歌兎…ぅ…」

 

 気持ちが溢れて止まらない。何から伝えればいいのか分からなくて声が詰まる。だけど、やっと取り戻したぬくもりを離したくなくて……抱きしめる力のみが強くなっていく。

 

「…お姉ちゃん、どうしたの? 泣いてる、の? マムに怒られちゃった?」

 

 切歌の只ならぬ雰囲気に当てられ、いつもの『姉様』ではなく、昔の『お姉ちゃん』に呼び方を変えている歌兎の困惑した様子に切歌は冷静さを取り戻し、ゆっくり身体を外す。

 そして、眠そうな瞳を間近で見つめながら、安心させるようににっこりと笑う。

 

「…ううん、マムに怒られていないデスし、お姉ちゃんは泣いてなんかないデスよ。ただ、歌兎に会えたのが嬉しくって…」

「…? いつも会ってるのに?」

 

 キョトンとしている歌兎へと再度両腕を広げて、そのまま勢いよく抱きしめる切歌に歌兎の眉がハの字になる。

 

「お姉ちゃんにとっては1分1秒離れただけでも1年一生のように感じてしまうんデス! って事でもう少し歌兎要素を補給させてください。ぎゅー」

「…ん? んー? う、うーん……分かったような分からないような……。でも、ぎゅー。これでいい?」

「…うん、いいデスよ…。えへへ〜♪ 歌兎ってもふもふさんのほかほかさんなんデスね。ギュッてしているだけで暖かいデス」

 

 心も身体もさっきまで感覚が感じられないくらい冷たかったはずなのに……今は肢体の隅々までぬくもりが渡り、感覚を取り戻しつつある。

 

「…そうかな? 僕自身よく分からないけど…」

「歌兎には分からなくてもお姉ちゃんにとってはそうなんデス…」

 

 困惑しつつも切歌に習ってギュッと抱きついてきてくれている歌兎の銀髪を撫でながら、首元へと顔を埋める。

 

(もう二度、このぬくもりを、この子を離さない。あんな辛い思いを、悲しい思いをさせたりしない。今度こそは絶対守りきってみせるんだ–––ドクターからも、運命からも……)

 

 垂れ目がちな黄緑の瞳へとふたたび闘志の炎が灯った瞬間だった……。




   ニ章突入ッ!

 次回 #2ー1/今日の姉様なんか変

いつもよりも自分とスキンシップしてくる姉を妹は不思議に思う。そして思い出す。自分は昔から姉に"よしよし"と頭を撫でられるのが好きだった、と。


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2章
011 今日の姉様なんか変


 2章開幕ッ!


2.

 

 僕、暁歌兎には三つ上の姉がいる。

 名前は切歌。暁切歌。

 僕の性格が内向的であるならば、姉は正反対の社交的な性格である。

 外見も僕が腰まで伸びた銀髪で眠そうな瞳。そして成長を迎えることなく…このままぺったんなのでは? と思うほどにスットンと小さな胸にちんまりした身長。

 一方の姉は肩まで伸びた金髪でたれ目がちな瞳。そして成長期を迎え、どんどん大きくなっていく胸にサラッと伸びた長身な身長。

 似ているところといえば前髪と瞳が黄緑なところだろうか。それ以外は悲しいほどに似ていない……。

 

「––––」

 

 にしても、なんで姉……姉様は僕のことをジ–––ッとシラねぇ如き熱き視線を僕に向けてくるのだろうか。

 昨日からどこか様子が可笑しかった姉様に誘われて、一緒のベッドに潜り、眠ったのだが……いつの間にか起きていた姉様により僕は普通の枕から腕枕に変更させられた。右腕の上に乗っかった僕の後頭部を自分の方へと引き寄せた姉様は起きた僕を見つめながら、銀髪へと右掌を差し入れたまま後頭部を撫でる。

 

「…あ、あの…」

「なに? 歌兎」

 

 眠そうに見開かれた瞳に映るのは淡く……どこか疲れを感じさせる笑みを浮かべる姉様の姿で。

 優しく撫でてくれる掌の感触も間近でこっちを見つめ続ける黄緑の瞳も淡い笑みを浮かべる桜色の唇も……記憶にある姉様のどの表情よりも大人びているように思えて、気付くと僕は縋るように姉様の方を向き、ギュッと寝間着を握りしめる。

 

「歌兎?」

「…今日も。今日も……一緒に居てくれるんだよね?」

 

 両手でしがみついていないと姉が何処かに行ってしまいそうな気がして……そうしないといけないような気がして……思わず我が儘を言ってしまった。

 

(我が儘……。僕、悪い子になっちゃったのかな……)

 

 自分勝手な我が儘を言ってしまい、心配そうに見上げる僕を空いた左手で"よしよし"と頭を撫でた後に微笑む姉様に僕はコクンと頷く。

 

「ええ。今日も明日も明後日もずっと一緒にいましょう。…………そのためにあたしは戻ってきたのデスから…」

 

 最後に呟かれる小さな声は聞こえないまま、僕はなでなでと優しく髪の毛を撫でる姉様の掌に夢心地になりながら、僕は更に身を寄せるのだった。

 

 

 

 

 

 

3.

 

 気持ちよさに目を細める妹の姿を目下で見下ろしながら、あたしは昨日から考えていることへと思考をチェンジする。

 

(ここはやっぱり過去なのだろうか? そして、過去ならば………あたしは()()()()()()()()()()()()しまったのだろうか?)

 

 昨日、マムの部屋にいつの間にか居たあたしはご飯を呼びに来た歌兎と共に晩御飯を取り、お風呂というよりもシャワーを浴びた後に一緒にベッドへと潜り込み、掛け布団を胸元まで引き上げてあげて目を瞑った。

 数分後、スヤスヤと健やかな寝息を立てる妹の声に目を覚ましたあたしは今まで見ていた光景を思い出していた。

 ゴロンと妹の方へと寝返り、枕を頭を乗っけて気持ちよさそうに眠りにつく歌兎の頭へと自分の右腕を差し込む。自分の方へと妹を引き寄せながら、おでこへとキスを落とし、前髪へと鼻を押し付け、軽く目を瞑り、考え事と見たものを順番に並べていく。

 まず、晩御飯の時に見たみんなについて。既にリビングのようなホールに居たのはウェル博士。そして、調とマリア、セレナにマムを加えた計5人。歌兎に導かれるままに自分の席に座り、周りにいるみんなへと視線を配らせ、記憶にあるみんなと重ね合わせてみせる。すると、やはり記憶にあるみんなよりも()()感じられた。調もマリアもセレナも記憶にある三人よりも若く幼いように思え、不思議がられると思いながらもお風呂の時に思い切って、歌兎に『何歳なのか?』と聞いてみた。そして、少し困ったような顔をしながら返ってきた答えが––––

 

(––––11歳)

 

 "11歳"。つまりここは2年前の過去ということになるのだろうか? 歌兎の言葉通りならば。

 仮に。だとしたら。あたしはかなり昔まで時間を遡ってしまったらしい。まだ確信しているわけではないが……。

 

(でも、マムが歌兎がドクターがいる。歌兎と一緒に建物を探検した内装は響さん達と戦う前に潜伏していた廃病院と一緒だった)

 

「はぁ…………」

 

 思わず深いため息をついてしまう。

 分からないこと、理解できないことが沢山ありすぎて、頭が痛い。

 しかし、確認しなくてはいけないこと、考えなくてはいけないことがまだ沢山ある。これくらいで休むわけにはいかない。

 

「…姉様?」

 

 全てはこの子を守る為に。

 全てはあの結末を迎えない為に。

 

 

 もう二度、この手を離さないと決めたのだから……。

 

 

「なんでもないデスよ、歌兎」

 

 そう言って、更に歌兎を引き寄せたあたしはすんすんと鼻を鳴らしながら、小さな身体を自分の方へと更に手繰り寄せる。

 

「…姉様、苦しいよ。それにもう少ししたらシラねぇが起こしにくるよ」

「なら、それまで歌兎成分の補給をするデス」

「…ちょっ、姉様。そこは……っ」

「およ? 歌兎、ここは成長期デスか? 前よりもここは大きいような……」

 

 その後、身体を捻り逃げようとする歌兎との謎の攻防戦がベッドの中で行われ、決着が着く頃にはあたしも歌兎も瞼を閉じ、すやすやと寝息を立てて、二度寝へと移行していた…。




次回 聖遺物・メギンギョルズ

 かの女神が使っていたと言われる力帯。
 かの女神の神力を倍増させるその力を彼らは人の想いで変化させようと目論む。
 その目論見は過去の産物。


 だが、その目論見は平面化が変化を遂げていた–––––。


 その変化が齎らすのは破滅か希望か…












シンフォギアライブですが…………私は落選しました(お"お"お"お"お"お"ぉ"ぉ"の"の"の"の"の"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"……)

暫く"るぅーるぅーるぅー"と悲しみの唄を歌いながら、絶望オーラを纏いながら、更新していこうと思います……

軽く泣けてきました……(最早号泣)

最近、何もやる気になれないし…する気も湧かないし…気力も活力も元気も湧かない…

ガチャじゃ切ちゃんあんまりきてくれないし……偶に来てくれてももう上限解放している奴だし……

私はこれから何を糧に生きていけばいいのだろう……




だとしてもッ!!!!




某Xデー(4/13)はもうすぐッ!!

今回はどんな4コマ漫画、メモリアになるのかワクワクしつつ、Xデーガチャを沢山回せるよう歌唱石を集めていこうと思います!

Xデーからのフレンド欄は"中の人繋がり"で《切ちゃんと弓美ちゃん》にしようと思ってます。メモリアの方も二人が映っているものを載せようと思いますが…無ければ、切ちゃんオンリーにしようと思います。

世の中、全国ではコロナが流行っておりますので……読者の皆様はどうかご自身のお身体にお気をつけて、日々を過ごしてください!!


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012 聖遺物・メギンギョルズ

切ちゃん、歌兎、誕生日おめでとーッ!!!!(((o(*゚▽゚*)o)))

これから続く一年が二人にとってはっぴーにゃっぴーな。はっぴーすまいるのような笑顔に包まれる日々になる事を。

切に、切に、私は願ってますッ!

そして、いつも私に癒しを、元気を届けてくれて…だんだん (←ありがとうの意)


4.

 

「…姉様、今日は何処を探検する?」

 

 ギュッとあたしの右手を握りしめて、廊下の中央に立ち止まり、いつものように見上げてくる歌兎(いもうと)の頭をポンポンと撫でてあげながら、少し考え込む。

 というのも理由も分からず。過去に戻ってしまってからというもの、あたしは"情報収集"、そして"妹と共に行動を共にするための口実"として"寝泊まりしている建物とその周辺の探検"を日課というには大げさだが、行なっている。

 だが、その"探検"も日数を重ねれば、二重になってしまう箇所が多くなる。

 只でさえ()()()()()()()()()()()()。正確にいうと未来から舞い戻ったせいで記憶が混雑しているあたし的には新鮮で興味そそるものでも、()()()()()()()()()()()歌兎には退屈な物も中にはあるのだろう。実際、ついて来ているのも気分転換と暇つぶしが基本なのだろう。風景や物も少し見ただけで後はあたしにべったりだし、あたしの興味を引くものを見つけた時は思いっきりウエストに抱きついてきては満面の笑みと"褒めて褒めて"といっているように見えない尻尾をぶんぶんと左右へと振っている。まるで人懐っこい仔犬だ。

 妹のあまりの可愛さについつい可愛がりすぎてしまうのもやむおえまい。もしやするとこれを人は過保護というのだろうか?

 

(でもでも。こんな可愛い子を可愛がらないなんてお姉ちゃん失格デスし、何よりも––––)

 

「––––…えへへ…」

 

 頭を撫でてあげるだけでここまで愛らしい笑みを浮かべられるものなのだろうか。

 可愛いってものじゃない。カワイイ曰くKAWIIだ。ううん、そのKAWAIIも何億回も上限解放して、KAWAIIでは言い表せないほどだ。

 きっと妹は"大袈裟"と言うと思うがあたしにはそんな彼女が天使に思えるし、彼女の姉に生まれてきて本当に良かったと思える。

 だから、その感謝を伝えるためにあたしは全力で妹を可愛がるし、甘やかす。

 過保護なんて単語はとっくの昔に頭の辞書から引き抜いた。

 

「今日は歌兎の行ってみたいところに行きましょうか」

「…ほんと?」

「ええ、本当デス」

 

 妹の目高さまで腰を折り、小首を傾げる歌兎にコクンと首を縦に振ってから手を差し伸べる歌兎の掌に自分のを添えようとした時に角から見知った黒髪が姿を現す。

 

「ここに居ましたか、切歌。それに歌兎も」

「…マム。どうしたの?」

 

 あたしから離れ、角から現れたマムへと駆けていく妹の後を追いながら、自動車椅子の近くまで駆け寄る。

 駆け寄ってきた歌兎の両手を優しく握っていたマムはあたしを見上げると優しい表情から真面目な表情へとシフトチェンジする。

 

「数日前に話した事を貴女のお姉ちゃんと話し合いたいと思いまして…切歌を探していたのです」

 

 "こう言えば、もう要件は分かるでしょう? "と見上げてくるマム。そのマムに両手を握られて、形良い眉を八の字にし、小首を傾げる歌兎を交互に見た後にあたしは意を決するとマムに提案する。

 

「マム。その話し合い、この子も一緒でいいデスか?」

 

 マムと歌兎の両目が丸くなるのを感じながら、一歩前に出てからとんとんと歌兎の頭を撫でる。

 

「マムのその表情からその話し合いの内容をこの子にも伝えるべきだと思うんデス」

「…?」

「本当にいいのですか?」

 

 マムの問いかけに『もちろんデス』と答える。

 マムが険しい表情をするのだ、きっとロクでもない話だろう。だが、今は少しの間でもこの子と離れるのが怖い。ちょっと目を離した瞬間にドクターに唆され、左腕に《完全聖遺物・ベルフェゴール》を装着され、その先にあの結末(みらい)が待っていると思うと少しの間でも妹から離れられない。

 そういう気持ちがあるから、あたしは妹と日々探検をしているのだろう。

 ずっと彼女の側に居るために…。

 

 

 

 

 

 

 

 

5.

 

 フロールリジ計画。

 

 その計画を初めて耳にしたのは"白い孤児院"と呼ばれたF.I.S.の研究所だったように思える。

 セレナが偶然アガートラームとの共鳴を果たし、F.I.S.初めての装者となった時、レセプターチルドレンの中で同一の者は居ないかと調査が行われ、その調査でマリア、調とあたし。そして、もう一人が選抜された。

 選抜されなかった者はあたし達とは別にとある計画へと秘密裏に参加させられていた。

 

 それがフロールリジ計画。

 フロールリジ…それはとある女神の別名。

 

 此方を見つめ、懸命に説明する正面のマムからチラッと隣に座り、真剣に話を聞いている妹の横顔、そして右下腹部へと視線を向ける。

 過去へと舞い戻ったあの日、妹の現状を知るために一緒にお風呂に入った時に見たのは彼女の下腹部に痛々しく残る手術痕で。

 あたしはそれを見た時にこの世界は間違いなく過去であることを突きつけられる。出来れば、その手術痕は無かったことにしたかった。妹だけは、妹には普通の女の子としての人生を歩んでいってほしかったから……。

 

 だが、現実はいつも残酷で。

 泡を洗い流す際にそっと手術痕を触った時に柔らかい肌の感触から刺々した固い感触へと変わった。

 つまり、其処にはミョルニルの欠片が埋まっているのだと思い知った。

 

 ミョルニル。それはフロールリジと別名で呼ばれた女神。トールが使っていたと言われている槌。

 神話の一節ではロキと呼ばれる悪戯好きの神により取っ手の部分を短く切り落とされて握りにくくなり、不恰好なままになってしまったとかいつも焔に包まれており、素手で握れないためにトールはいつもミョルニルを使用するために"ヤールングレイプル"と呼ばれる籠手を必要にしたとか言われている。

 そしてもう一つがマムやドクター、当時の研究者達が血眼になって研究していた、このフロールリジ計画の要。その名をメギンギョルズ。

 

 女神トールの神力を倍増させるために着用していた力帯。

 その聖遺物を秘密裏に入手したF.I.S.はミョルニルと共にそのメギンギョルズも研究していた。

 数多く行われた研究目的を端的にいうと力や能力を倍増させる性質を持つメギンギョルズを装着者の願いで変化させ、あたしや調、マリアがギアを纏う際に使用しているLiNKERの代わりをさせようという研究内容だった気がする。

 

 マムの説明を聞きながら、顎に親指。下唇へと人差し指を添えながら、考え込む。

 

「……」

 

 LiNKERを打たないでもギアを纏えるように。そして、メギンギョルズの倍増の力でギア、適用者の能力を強めることが出来れば…その研究結果は世界的な偉業として轟くことだろう。

 だが、その偉業を成し遂げるために何人のレセプターチルドレンが。子供が。人が犠牲となった?

 目先の偉業に目をくらませ、 人をモノのように扱う研究者達が当時から嫌いで、あたしはそのフロールリジ計画の参加者として妹の名前が挙げられた時、マムや研究者達に猛反発し、騒動や問題も起こしたことがある。

 あたしのそういった活動のおかげか、メギンギョルズを発動出来る子が居なかったのか……いつの間にか、フロールリジ計画の名前も効かなくなったのだが……。

 

(まさか、性懲りも無く。こんな事をしているなんて……)

 

「…この腕輪がそのメギンギョルズなの?」

「ええ」

 

 妹の目の前に置かれた腕輪へと視線を向けながら、思わず大きなため息をつきそうになる。

 この腕輪は計画が停止になった時に少数の諦めが悪い研究者達が作り出したものらしい。この腕輪作るために一体何人の犠牲があったのだろうか……考えただけで吐き気がする。

 

「それでこの腕輪をなんであたしに見せたんデス?」

「…実際に使用してみて、効果を知りたいと向こうが言ってましたね」

 

 なるほど。その少数にとってあたし達装者は彼らが作り出したオモチャの能力を知るために必要な実験動物ってわけだ。

 マムには悪いと思うが、やはりあたしはフロールリジ計画の内容もこのメギンギョルズの腕輪を使用することに関しては反対だ。況してや、それらに妹を関わらせることも。

 だが、あたしのそんな想いとは裏腹に。妹はジッと腕輪を見つめていたかと思うとそっと自分の掌に乗っける。

 

「歌兎?」

 

 妹の行動に眉をひそめるあたしをゆっくりと見上げる眠そうな黄緑の瞳には強い意志が灯っており、嫌な予感が身体中を駆け巡り、喉がヒリつくのを感じる。

 

「…僕、この腕輪を使いたい。使って、マムの。姉様やねぇや達の力になりたい」

 

 小さな唇から流れた物静かな声音に乗せた決意を聞いたあたしは呆然と妹を見下ろし、マムが『歌兎、ありがとうございます』とお礼を言う声も掠れて聞こえ、ゆっくり運命の歯車が狂い始めているのをひしひしと感じていた。




次回 とある日の探検

 食糧を買い求めるために少女達は見知らぬ地へと赴く。
 黄緑の(まなこ)に映るは真新しい発見の数々。

 ひとときの安らぎの中で彼女らは何と出会う…?







  お知らせデース。
 次回の後くらいに、改めて"切ちゃん・歌兎"の誕生日エピソードを書いていこうと思ってますので、楽しみにしててください!

 また、タグの方の書き直しを行おうと思います。

 そして、これも予定ですが……【うち姉ひろば】ってのを活動報告の方に作りまして、裏話等を自由に、適当に載っけていこうと思ってます。
 興味がある方はそちらも含め、ご覧ください。


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013 とある日の探索

お久しぶりです!

新しく更新するのに1年数ヶ月掛かってしまいました、すいませんでした……。

誕生日のエピソードはまだまだ先ですが……ちびちびと進めていきますので、待っててもらえると嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ!


6.

 

 マムとの話し合いが思いもしない結末で終えた後、あたしと歌兎は廃病院の廊下を歩いていた。

 所々剥がれたタイルにヒビの入ったコンクリートの壁。隙間風がコンクリートの隙間から吹いてはあたしと歌兎の身体を駆け抜けては床へと落ちていく。

 隙間風が秋から冬へとなっていくにつれて、身に染みるようになり、ついはだけてしまっている前を空いている手でギュッと握りしめる。

 

「…ふわぁ……ぁ……、っ……」

 

 一方の歌兎(いもうと)は、あたしの手に引かれながら、ウトウトと小舟を漕ぎつつもトボトボと廊下を着実に一歩ずつ歩いて行っている。

 そんな妹の横顔と左手首で揺れている腕輪を交互に見ながら、苦笑を浮かべると曲げた人差し指、親指を(おとがい)へと添える。少し目を伏せてから考え込む。

 

(メギンギョルズの腕輪……)

 

 そんな腕輪、前の世界には無かった……。

 ならば、これから待ち受ける未来(あした)はあたしが知っている前の世界(あした)ではないということか。

 ならば、あの惨劇は起きないという事だろうか……?

 

 目を閉じなくても思い出せる。

 

 悲しそうな表情をしながら、自ら幼い命に終わりを告げた妹の姿が。

 眩い光に溶けていくように、光の粒となって、茜色の夕焼けの空へと上がっていく。

 両手を必死に伸ばし、かき集めようとするあたしの手のひらをすり抜けていくあの感触。

 目蓋を閉じただけでも思い出す、あの日のやるせなさと後悔。

 

 知ってた筈だった。

 

 装者としての役割も、姉としての役割も。いつも言われてきたことで思い続けていたことだ。

 妹がミョルニル()に飲み込まれ、自我を失って暴走した時に止めるのはあたしなんだ、と。

 しかし、想像しているよりも実際は苦しくてつらくて悲しくて胸が張り裂けそうで……そんな簡単には出来なくて……。

 

「……っん……んっ……」

 

 チラッと妹の方を見てみると必死にあたしの歩幅に合わせようと大股で歩こうとしている妹の姿がある。とても愛らしい。

 あたしのペースに合わせるのに一生懸命歩き続けているせいか、自分を見ているあたしの視線には気づいてないようだった。

 愛くるしい表情を気持ち、キリッと引き締め、いつもよりも眠そうに開かれている黄緑の瞳に真剣な色が浮かぶ。

 小ぶりの唇はよっぽど必死なのかギュッと引き締まって、繋いでいる手にゆっくりと力が篭っていく。

 

 本当に可愛らしく愛おしい。

 

(あたしはまたこの子を失わなくてはいけないんデスか……)

 

 今のところ、不安要素となるのは上に挙げている《メギンギョルズの腕輪》のみだ。

 だが、その不安要素も前回になかったものなのでどう判断していいのか分からない。このまま考え続けなくてはいけないのか、それとも関係ないと切り捨てていいのか……いや、まだ油断は出来ない。あの時になるまでまだ時間があるのだから……それまでに様々な不安要素が浮き上がってくる事だろう……。

 

(ああっもう!!)

 

 わけわかんないことが多すぎて、考えなくてはいけないことが多すぎて、対策しないといけないことが多すぎて……頭が痛い。頭痛が増していく。これが恐らく知恵熱というものだろう、目の前がボヤァってする。グシャッて廊下の床が歪み、これ以上は考えてはいけないと奥にあるもう一人の自分が叫ぶ。

 

「………はぁ……」

 

 痛みが広がっていく脳内に刺激を与えるためにポンポンとおでこを拳で叩いてから、短くため息を漏らす。

 

(何はともあれ、あたしは見極めなくてはいけない。この腕輪がこの子のためになるものか、それとも害になるものか、を……)

 

 そして、害になるのならばどんな方法を使ってでも跡形も残さずに排除し、もう二度とこの子に近づけさせないように周りを固めていかなければーーーー

 

「すぅ………ハァ!? ぅ………すぅ…………」

 

 ーーーーにしても、危なっかしいデスね。

 さっきまで必死にあたしに追いつこうとしていた歌兎だったが、今では眠気が勝っているのか……一歩、また一歩と前に出す脚が絡んでは前のめりに倒れ込みそうになっては、その寸前に「ハッ! 」と目が醒めては持ち直す。だが、すぐに眠気が強くなり、脚がもつれ始める。

 

 その様子をしばらく様子見してみるが、いつにも増して、ヨチヨチとぎこちなく歩く妹にハラハラしながらその場に立ち止まる。

 

 そういえば、昨日一緒に布団に入った時にあたしはすぐに寝れた感じだったが、妹の方は腕輪に興奮してしまっているのか……ゴソゴソと身体を動かしていたような気がする。その後もゴソゴソと動かしては興奮して寝れなかったんだろう。

 つまり、何が言いたいかといえば、単に寝不足であろう。

 歌兎のこの強すぎる眠気は。

 

「はぁ……」

 

 呆れたようなため息を漏らしながらも口元が思わず緩んでしまう。可愛すぎるのだ、妹が。

 必死に眠気に耐えながらもあたしに追いつこうと早足で歩くも耐えられなくなり、コトコトと小舟を漕いでしまい、脚がもつれては前のめりに倒れ込みそうになる。そして、目を覚ましてはまたコトコトと小舟を漕ぎながらも必死にあたしに追いつこうと歩く姿があまりにもひよこっぽくて可愛らしく愛らしい。もうギュッとしまいたいくらい可愛すぎる。

 

(だがしかし、仕方ない。ここは)

 

 眠そうな顔で突然立ち止まったあたしを見上げる歌兎ににっこりと微笑みながら、あたしは眠そうな黄緑の瞳と同じ高さまで腰を落とす。

 

「歌兎」

「…?」

 

 とろーんとした目で突然立ち止まり、自分の視線の高さにまで腰を落としたあたしを不思議そうな目で見つめながら、"何? "と言いたげに小首を傾げる。

 

「昨日、あまり寝れてなかったでしょう? スーパーに着くまでの少しの間お姉ちゃんが抱っこしてあげるから寝てなさい」

「…でも、僕、重い……よ」

 

 そう言いながら、距離を取ろうとする歌兎を素早く抱き上げ、お尻へと両腕を添える。

 

「歌兎一人抱っこ出来ないなんて、お姉ちゃんの名前が泣きます。それに歌兎は重くないデスよ、軽いくらいデス。もっとご飯食べて大きくならないといけませんね」

 

 耳にかかる房を耳へとかけ、露わになった頬へとチュッとキスを落としてからとんとんと優しく頭を撫でる。次第に肩へと頭を押しつけてくる。

 

「だから、今は少しだけお休みなさい」

「…ん」

 

 ギュッと首の後ろへと両手を添えて、忽ち右肩に顔を押し付けて寝落ちする妹の後頭部を撫でてあげながら、あたしは"よいっしょ"と軽く飛んでから妹を抱き直す。

 そして、乱暴に右ポケットに突っ込んでいたメモを器用に広げてからそこに書かれているものを確認しながら、もう一つの目的も確認する。

 

「さてと。今日は調から買い物リストを頼まれてしまいましたし……それにーーーー」

 

 今日は4月11日。

 4月13日(Xデー)までたったの2日。

 この街へと買い物はそのXデーをより良いものにするための下調べということだ。

 

 

 

7.

 

  誰かがないている……

 

『おね……ぅっ……ちゃ……ん……ゔぅぅ……』

 

  誰かが泣いている……

 

『おね……っ……ちゃ……ん……どこ……? 』

 

 そうか、これは僕の記憶なんだ。

 あの時の僕は何も出来なくて、ちっぽけで弱虫で。何をするのも姉様が居なくては何も出来なかった。何をするのも姉様の後ろに隠れてばかりでいつも助けてもらってばかりだった。

 

 だがしかし、今は力がある。

 

 腰付近に埋まっているミョルニルの破片。

 手首にはめられているメギンギョルズの腕輪。

 この二つがあれば、きっと僕も姉様の……ううん、お姉ちゃんのーーーー

 

「ーーーーう」

「……」

 

 誰かの呼び声が聞こえる。

 幼い頃から聴き続けているような……懐かしさを含むこの声は。

 

「……たう」

「……」

 

 誰かが僕の名前を呼んでいる。

 聴いているだけで心が温かくなるような、元気が沸き上がってくるようなそんな声。

 その声は僕の知ってる中では一人しかない。

 そう、この声はお姉ちゃんだ!

 

 そう思った瞬間、目が醒めて。目をパチクリ開けたその瞬間、目の前にある垂れ目がちな黄緑の視線と視線が交差する。

 

「うたうッ」

「……ん?」

 

  目をパチクリしながら起き上がるとにっこりと微笑む姉様の顔があり、僕も吊られて、にっこりと微笑む。

 

「おはようデス、歌兎」

「…ん、おはよ、姉様」

 

 お互いに挨拶を交わし、そっと腰を落としてから地面に両脚が触れるのを待ち、靴底にコンクリートの硬い感触を感じた後はスクッと立ち、ゆっくりと立ち上がる姉様が差し出す手へと自分の手を重ねる。

 

「さぁ、いきましょう、歌兎」

「…ん、姉様」

 

 繋いだ手を引っ張られながら、僕は人波をかき分け、街並みを歩く。

 見上げる姉様の空いた手にはシラねぇから頼まれた買い物リストが握られていて、もう一方は僕の手と繋がっている。

 そして、垂れ目がちな瞳にはもう好奇心が芽吹いており、僕の鼻腔には左右に並んでいるお店から漂ってくる食べ物の香りが擽ぐる。

 

 ぐぅぅ……

 

 大きなお腹の音が真横から聞こえて、びっくりして見上げるとそこには照れたように笑っている姉様の姿があった。

 

「あはは……朝ごはん食べたのに、もうお腹空いちゃったみたいデスね」

 

 そして、僕はというと小さくお腹の音が鳴った気がした。

 なので、微かに笑いながらも姉様にうなづきかける。

 

「そうだね、僕もお腹空いちゃった」

「歌兎もデスか。なら、どうしましょうか……少し多めには貰ってますが、あまり使えませんし……」

 

 そう言って、周りをキョロキョロ見渡した姉様は何かを見つける。そして、目をまん丸にすると、ちょんちょんと近くに建つスーパーを指さすのだった。




 次回 雨

目新しい商品や店々に心を躍らせる姉妹の上には不穏な雨雲。

水分を多く含む真っ黒い雲からぽつりぽつりと降ってくる雨粒を避けるように近くの店に入った姉はそこで気付くーーーー

確かに繋いでいたはずなのに……

固く繋いでいたはずなのに……

今でも温もりが残っているというのに……

ーーーー妹の姿が何処にも居ないこと、を







ちょっとしたお知らせです。
何日かかるか、いつからするかはお伝え出来ませんが……章の整理と話数の整理をさせていただきたいと思っております。
今しおりをしてくださっている方や読者の方には多大なるご迷惑をおかけすると思いますが、無事に新しい並び替えと章の出来上がりを待っててもらえると嬉しいです。
では、次の回にて会いましょう!


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+α
001 調べ歌う二重唱


この【+α】章はゲームアプリのイベントシナリオに名通り"+α"で本作の主人公である暁 歌兎を加えてのシナリオの追体験となってます。
故にあまり違いが見れないかもしれませんが、暇潰し感覚で読んでもらえると嬉しいです!

記念すべき最初のイベントは登場するロボ達の可愛さと二人の絆とロボ達との絆にほっこりさせられた【調べ歌う二重唱】となっております。では、本編のどうぞ!!


part1『小さな分身たち』

 

1.

 

ピロロン…という音が聞こえたかと思うとS.O.N.G.の倉庫にて管理させている"金色に光る林檎"から青白い稲妻が走り、その稲妻が電流を伝い、辿り着いたのは大量の資料の山の中で机に伏せて眠りについている小柄な肢体を大きめな白衣で隠して、薄い色合いの金髪をしている少女の側でメンテナンスという名目で持ち主から預かっている桃色の塗装と緑色の塗装、花緑青の塗装で塗られたロボット達でーー

 

「……ッ!」

「再起動完了」

「システムチェック、オールグリーン」

 

ーーロボット達の中へと入っていった青白い稲妻はロボット達の電源と共に言語を司る部分を弄り、人工知能を搭載させるとひとりでにロボット達が目を覚まして、小さな肢体をギコ…ギコ…と動かすと邪悪な雰囲気が漂う赤い瞳へと闘志をたぎられながら、其々の武器を手にこう宣言するのだった。

 

「人類は……」

「…一人残らず」

「デストローーイ!!」

 

 

2.

 

その日、僕は姉様、そして装者のねぇや、お姉ちゃん達と共にシミュレータ室にて訓練に勤しんでいた。

シュミレータによって映し出されるアルカノイズの攻撃を寸前で避けた僕は両手に持っている棒を思いっきり横に振るうとピョ〜ンと宙返りしながら後ろに飛ぶ。

「…ふん! よっ……ト」

 

そのすぐ後をピンク色のヨーヨーがビューーと飛んできて、アルカノイズを足止めする間に走り寄ってくる緑色の疾風を見下ろしながら、両脚に備え付けられている花緑青色のボールを両手に取る。

 

「切ちゃん、今ッ!」

「了解デースッ! はあああーーッ!」

 

姉様の緑色の刃をした大鎌に切り捨てられて、赤紫色の灰になるアルカノイズの後ろから更に迫ってくる団体さんに向かってボールを投げつけるのを後ろ目で見た姉様は鎌へと紐を巻きつけると僕に向かって親指を立てる。

 

「歌兎、いつでもバッチコイデスよ。今こそあたし達姉妹の超絶カッコいい連携を見せつける時デス」

「…ん、分かったよ、姉様」

 

その言葉の後に姉様はグッと自分の方へと紐を引っ張るとその力によって近づいてくる僕を鎌の刃の面に乗せると思いっきりアルカノイズの方に向かってフルスイングする。そして、敵に向かって飛んでいく僕は片手に持った棒を横一文字にスイングしながら叫ぶのはとある装者の名言で当本人は忘れたいと言っているのだが、僕達がどうしてもその名言の衝撃を忘れられずに時折姉様と真似しながら訓練している時に偶然生み出してしまったこの技でその名言を言わないというとは失礼と言えるだろう。

 

「僕も飛ぶんかーーい」

 

という事で大きな声で真似をしながら、見事アルカノイズを一発で倒した僕はグイッと引っ張られる糸に導かれるままにストンと姉様の腕の中に着地して、ゆっくりと地面へと下ろさせるの見てから、僕と同じミョルミルを纏ったマリねぇが僕達へと声をかけてくれる。

 

「3人とも、そこまでにしなさい」

「ふう……」

「お疲れ様デースっ! 調も歌兎もいい感じに決まったデスねッ!」

「…姉様とシラねぇお疲れ様。前よりも上手く連携が取れたね」

「うん、上手く連携がとれたと思う」

「…友里お姉さん、どう?」

 

とお互いを労わり合いながら、シュミレーター室にてスコアとデータを取ってくれていた友里お姉さんへと三人同時に視線を向けると優しく微笑んでくれた。

 

「ええ、良いデータがとれたわ」

「…そうなんだ。なら、スコアも上がったってこと?」

「個々のスコアは正直課題の残るものだけど……」

 

その言葉に目に見えて残念そうな顔をする姉様へと友里お姉さんは横並びに並んでいる僕達を見渡してからにっこりと微笑む。

 

「だけど、連携戦闘になると格段に撃破効率が上がるわね。すごいスコアだわ」

「本当デスかッ!?」

「ええ」

 

嬉しそうに僕とシラねぇへと飛びついてくる姉様へと暖かい眼差しを向けながら、マリねぇがクスクスと笑う。

 

「フフ。お互いの得手不得手をよく把握して、上手く立ち回っているみたいね」

「はい、攻撃の呼吸やその後の隙までよく見て動けてます。流石、暁さんと月読さん、歌兎ちゃんですね」

「…へへ」

「やったね、切ちゃん、歌兎」

「へっへーんッ! それほどでもあるデースッ!」

「少しは謙遜しろっての……たく」

 

マリねぇとセレねぇに褒められて、僅かに口元を緩めるのを見た姉様は僕を抱き寄せながら、頭を撫でるのを受け入れていると僕達の方へと真っ赤な顔をした翼お姉ちゃんが青い髪を揺らしながら近づいてくるのを小首を傾げながら出迎えると凄い形相で指をさされる。

 

「…どうしたの、翼お姉ちゃん」

「どうしたもこうしたもないわ! あの言葉は忘れてって言ったじゃない」

 

僕に向かって涙目で激怒する翼お姉ちゃんの後ろでは僕の渾身モノマネが面白かったのか、奏お姉ちゃんとカルねぇが腹を抱えて笑っている。

 

「そもそも、これは立派な訓練であってお遊び半分でするものではないのよ! 切歌も分かっているわね」

「デ! デース……」

 

まさか自分にもお怒りが向くとは思ってなかったらしく完全に油断していた姉様はこってりとシュミレーター室の隅に連行され、翼お姉ちゃんのいつになく熱のこもった説教を頂戴したのだった。




とりあえず、きりのいいココまでを更新します!
この【+α】はのんびりと書いていくつもりなので更新日とは関係なく書き終えたら、更新していくスタンツでいこうと思います! なので、知らぬまでに更新してるってことはあるかもしれません(笑)

余談ですが、翼さんの『私も飛ぶんかーーい』って凄く好きなんですよね、私。
あの翼さんが真面目な顔をして、そんなことを言っていると思うとジワリと笑いがこみ上げてくるというか…(笑)
なので、XVの二話目の感想を書かせていただく前に笑いを取り入れらせてもらいました!





さーーて、二話目の感想いっちゃいますよ!!
三話目をご覧になられた方もいらっしゃるので、ガンガンネタバレと変態コメント満載でいこうと思います!
故に、そういうのが嫌な方は迷わず回れ右か高速スクロールをお願いいたします!!







まず、冒頭からですが……これは一話目の総集編的な感じなので触れるところは前に触れたので飛ばして、OPですが……みなさん、びっくりされませんでしたか? 初っ端から幼少期のマリアさんとセレナちゃんが登場したの。ちょ、ちょい待てよ……え? へ? まさかのここでセレナちゃん!? セレナちゃんが回想でも復活してくれるのは【きりセレ広め隊】である私からすればこの上なく嬉しいことだけど……つまり、マリアさんのCDリリースが遅いのってそういうこと? どういうこと?(絶賛混乱中)

ま、いいや……そのことについては後々明かされていくと思うので、それを楽しみにしつつ、配信日を待つとして……

クリスちゃんの「えっくしぶ」やあの高垣さんがデザインなされた流行りのキーホルダーが映るカットを『すっごい……クリスちゃんがダジャレ言ってる!?』や『うわぁ〜、なつぃわ〜』と思いながら観ていると画面に突然、サングラスかけたマリアさんが現れて、口に含んでいた茶を吹きかけました(笑) いかん、アレは反則デスよ(口元を押さえて笑う)

その後のシーンですが……ふぅ……初っ端ならやってくれましたね、何がってきりしらシーンですよ!!
やべーデスね、これ……(何度見返しても頬がにやける)
ヘリから……というよりもロケット(?)から飛び降りる際に抱きしめ合いながら、互いの首へとリンカーを……くっ、鼻血が出るッ。

その後、切ちゃんの戦闘曲である【未完成愛Mapptatsu!】が流れましたねッ! いやー、CDで聞いてもいいけど本編で聴くのもいいですね!! あ、この戦闘曲で一つだけつっこみたいところがあるんだった……切ちゃん、戦闘中にあんたさんは『肉が食べたい』と思っているのかい? そんなことを言われてもアルカノイズさんはどうにも出来ないでしょう……だから、戦闘中は戦闘に集中を。終わったら、私がお肉をたらふく食べさせてあげるからっ! 私の小説の中で(笑)

と、戦闘曲よりも前にもっとやべーシーンがありましたね……切ちゃんの変身バンク……これは変態と自負している私でも目のやり場に困る(が、結局はガン見する私)
大鎌に足を開けてからのポールダンスっていうのかな……? これ??? 兎も角、どのシーンを取ってもエロの塊だったけども……私が好きなシーンは切ちゃんが自身の下腹部辺りから太ももを撫でてニーソックスを弾くシーンとバッテンを描いてニカッと笑うシーンにズキューンとなりました。やっぱ、切ちゃんは可愛いですが、かっこいいですね。

さて、その後は贅沢にも調ちゃんの戦闘曲も流してくれるという大盤振る舞い……はぁ……やっぱり調ちゃんの戦闘曲好きですわ……時々物騒な単語とかあったけど可愛い調ちゃんの前では些細な事なのですっ!

と、先週触れた切ちゃんの変顔シーンですが……あぁ〜ぁ、なるほど……アルカノイズが迫ってくるのに狭い通路で大鎌振るうから引っかかっちゃってのだったのね。それはあんな顔になりますわ(納得納得)

しっかし……今回の切ちゃんって鎌で波乗りサーフィンしてたり、調ちゃんとの合体技にていきなりヨーヨーをホームラン待ったなしのバッキングを決めたり、鎌から駒の飛び出たりとか戦い方が"天真+ 爛漫×"じゃなくて、"破+ 天荒×"なような……ま、そういう所も含めて、切ちゃんはカッコ可愛くて大好きなんですが(照)

そんな二人によって撃退されてしまったエルザちゃんがヴァネッサさんに帰投を命じられる際に「可愛い」で頬を染めるシーンに悶絶しました。やっぱり、この子が今回の敵の中での私の一押しですわ……可愛い……けど、恐らくこの子がOPから察するにきりしらに何かを仕掛けてくるのだろうからな……果たして、私はその時もこうして『エルザちゃん可愛いッ!?』とはしゃいでられるのか……? ま、これもその時になってみないと分からないことですね(笑)


よーーし、後半戦にいきましょうかね……いきたくないけど(滝汗)

まずは、翼さんとマリアさんのライブシーンのお二人の衣装、すっごい私好みです!!
翼さんのポリスっぽい服装もさながら、マリアさんの大人びたドレス姿に数分前にサングラスをかけていた人とは思えませんでした!

しかし、その後からはまさに地獄のような光景でしたね……あれは翼さんじゃなくても『やめてくれ!!』ってなるよ……。
だがしかし、翼さんとマリアさんが頑張りって守ろうするうちから散っていく命……特に翼さんのシーンが切なくって……。

そして、ミラアルクさんが登場してからのあのシーンだよ……
ミラアルクさん、いくら弱くて他に捨てるものが無いからって、あんな小さい子を吊るし上げてから心臓貫く必要なくない? なんで、あんなとこを……。
確かに、色んな錬金術師の方が多くの民衆の命を奪ってきました……来ましたが、ここまで残忍じゃなかったと思う……

その後は翼さんがミラアルクさんに「こくいん」という名の何かをかけれてましたね。しかし、このシーンで今後の展開が読めた気がしました。

最後にDPですが……これまた、他のシリーズにはない新たなDP映像でしたね! シルエットじゃないみんなが見えることにテンションが上がる一方、未来ちゃんがシルエットなのが引っかかる……

ということで、長くなってしまいましたが……二話目の感想を終えたいと思います。






最後に、これは切ちゃんのカップリング曲である【はっぴーばーすでーのうた】についてのちょっとした感想とお知らせなのですが……

まずは、"はっぴーばーすでーのうた"はジワジワ泣けてくる曲ですね(涙)

もうね、この曲を何十回聞いた後にクリスちゃんが手を合わせていた仏壇の近くに置かれていた写真で響ちゃんに寄りかかって"1・8"の旗を持ってはしゃいでいる切ちゃんと【Lasting Song】のアニメ盤で頬にクリーム付けている切ちゃんをみていると泣けてきてね……裏では"風邪の鼻詰まりに似たような感覚"だったり、トイレに行ってくるって抜けて"誰にも見せない顔"してたのかなぁ〜と思うと……ね………(涙)

極め付けは『誕生日を勉強したんデス』と『みんなが笑っていたから真似して』だよ。
誕生日は勉強するものでもないし……みんなが笑っていたから"一緒になって"じゃなくて"真似して"だよ。無理してるんじゃん。

でも、『あたしは毎日がバースデー 笑って毎日バースデー』ってことは装者のみんなや調ちゃんと日々過ごしている何気ない日常があたしにとってはバースデーのようにハッピーで幸せな事だから毎日バースデーなんだよってことなんでしょうね。

しかし、この曲を聞いても胸が苦しくなった私は【はっびーにゃっぴーのうた(仮)】という章を作り、原作の切ちゃんと歌兎を会わせたいと考えてます。
こちらはじっくり考えたら更新したいと思うので、8月に入ってしまうかもしれないですし、9月になってしまうかもしれません。


また、これも予定なのですが……ミョルミルを纏った歌兎と歌兎ロボのイラストを描いて載せようと思ってます。
そして、時間が空いた時にあらすじと章を整理したいと思ってます。



最後にここまで読んで頂きありがとうございます(礼)


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002 調べ歌う二重唱

お久しぶりの【調べ歌う二重唱+α】の更新、読者の皆さんで内容をお忘れのようならば、今すぐアプリを開いて、【調べ歌う二重唱】の予習を!

また、ハーメルン様にて【歌詞の使用】が認められたので、過去の話を書き直したり、空白や段落を入れていく中で入れられなかった姉様や装者達、そして歌兎の曲も挿入できればなぁ〜と思ってます(敬礼)
といいつつ、歌兎は二期(登場曲)のしか作曲出来てないんですよね………頑張っらにゃっ……あ、動揺しすぎて噛んでしまった(大汗)

しっかし早いですな……もう10月が終わり、11月になったら未来ちゃんの誕生日デスよ。
盛大にお祝いしたいけど……何をするかなぁ……。狂愛回のアフターでも書こうかなぁ……(思考)
いや、やっぱやめよ……どんなアフターを思い浮かべてみても、切ちゃんが未来ちゃんによって姿を消す未来しか思い浮かばない(大汗) 冗談抜きでね。

それでは余談を挟んでしまいましたが、本編をどうぞ!!

※キャロルちゃんの口調が不安ですが、楽しく読んでもらえると嬉しいです!


3.

 

「…すごく怒られちゃったね」

「まさか、あたしにまで火花が飛んじゃうなんて思わなかったデス……」

「二人が調子に乗るからだよ」

「面目無いのデース……」

「…ごめんなさい……」

 

 僕と姉様が激怒している翼お姉ちゃんに連行された為、僕とザババコンビこと姉様・シラねぇ組の訓練が終わりを迎え、シラねぇが心配そうな視線を向けてくれて、後ろでは師匠&クリスお姉ちゃん組VSマリねぇ&セレねぇ組が白熱した訓練をしている中、僕と姉様は慣れない正座を強制……ううん、しなくてはいけないオーラに負け、二組の対戦訓練が終わるまで延々と小言を頂戴することになった。

 その為、普段は使わない筋肉をフル活動し終えた僕と姉様は声にならない悲鳴をあげながら、シュミレーター室をのたうち回ったことは想像するのも容易いだろう。

 なんとか正座による痺れが治り、今は姉様とシラねぇと共に訓練で流した汗を流す為にシャワールームに向かって、すっきりしたので学生寮に帰ろうとしている道中というわけだ。

 

「…ぅっ……」

 

 その道中の中、朝から無理をしてしまったツケが回った上にシャワーの心地よいぬくもりに眠気が倍増してしまったのか、仲良く肩を並べて歩く二人の半歩後ろをコトコト歩いているだけなのに、メギンギョルズを使用した事による眠気が押し寄せてくる。

 自分では抵抗出来ない、受け入れるしかない強烈な眠気によって、僕の目は掠れていき、視界が涙ぐんだ時のように霞んでいく……半開きだった瞳が一ミリ……また、一ミリ……と下がっていくのを歩くのが遅れ出した僕を待ってくれているシラねぇと姉様が気づく。

 

「歌兎?」

「今日は訓練の前に響さんに付き合って、ランニングとかしてましたからね……それで疲れちゃったのかもしれません」

 

 "あちゃー"と顔全面でオーバーリアクションを取る姉様に全てを悟ったシラねぇは既にウトウトと小舟を漕いで危なっかしい足取りで自分達の方へと歩いてきている僕の腰から肩にかけてかけるようになっている深緑色のポーチを見つめた後に隣にいる姉様を見上げる。

 

「そっか。今歌兎のポーチの中って《覚醒剤》入ってなかったんだっけ?」

「そうなんデスよ。今日の朝に使い切っちゃって、エルフナインかキャロルに頼もうと思ったら、二人とも顔出してくれなくて……本当はこの後、調に歌兎を預けて、こっそり二人の研究室に訪れようと思ったんデスけど……この調子じゃあ早く家のベッドで寝かしてあげた方が良さそうデスね」

 

 シラねぇの視線に気づいた姉様は苦々しく笑うと遂にその場に立ち止まって、眠ろうとしている僕に慌ただしく駆け寄ってから脇に両手を入れるとそのまま胸中へと抱き寄せると素早く両手をお尻へと添える。

 

「…ぅ、ぅん……すぅ……」

「あ、こらっ。歩いたまま寝ては駄目っていつも言ってるでしょう。そんなに眠いなら、お姉ちゃんのとこおいで。抱っこしてあげるから」

「…ん。だっ、こ……」

「よいっしょっと」

 

 既に眠たさがキャリアーバーだった僕はこてこてと何度もよろめき、立ち止まっているところを持ち上げれて、姉様の胸の中へダーイブッ! その後はいつもの如く、右肩へと顔を埋めると一秒もかからないうちに『すやすや』と寝息を立て始める。

 

「やれやれ、この子ってば……もう」

 

 そう言ってから、その場でジャンプしてから体制を整える姉様へと申し訳なそうに眉をひそめたシラねぇが謝りながら、声をかけてくるのをニッコリ笑顔で応じる。

 

「ごめんね。切ちゃん……。私も歌兎を早く寝かせてあげたいんだけど、その前に、ちょっと寄りたいところがあるんだ」

「滅多にない調からお誘いなら喜んで付き合いますよ。こうやって歌兎を抱っこするのには慣れてますし、何よりもこんな近くで健やかに眠る大好きな妹の寝顔が何時間も見放題なんてあたし得なのデスッ!」

「うん。ありがと、切ちゃん」

「えへへ〜、当たり前のことにお礼なんて照れ臭いからやめてほしいデスよ」

 

 そんな会話ののち姉様を連れてシラねぇが訪れた場所は姉様も行こうとしていた《キャロル&エルフナインの研究室》で、目をまん丸にする姉様が入りやすいように扉を抑えるシラねぇへと頭を下げながら、研究室に入っていく姉様の足音に気がついたのか、並んでごちゃごちゃ色んなものが乱雑に置かれている机から振り返ってくる。

 

「失礼します」

「失礼するデース!」

「なんだ、騒がしいなって貴様らか」

「こんにちわ。調さん、切歌さん。そして、歌兎さん?」

 

 椅子に腰をかけて、同期した動きで振り返ってくるのは金髪を三つ編みにして腰辺りまで伸ばして、小柄な体型を真っ赤なヒラヒラが可愛らしいワンピースで包み込み、その上に白衣を着ている少女・キャロルお姉ちゃんと緑色の色味が入った金髪を後ろで小さく三つ編みにして、キャロルお姉ちゃんと色違いの黄色のヒラヒラが可愛らしいワンピースの上に同じく白衣を身に纏ったエルフナインお姉ちゃんに頭を下げたシラねぇと姉様、そして抱っこされている僕を視界に収めた瞬間、キャロルお姉ちゃんは怪訝そうに眉を顰め、エルフナインお姉ちゃんは心配そうな視線を向けてくる。

 

「……たく。懲りない奴だな。いつものようにメギンギョルズの負荷行使か」

「ポーチの中に補充した覚醒剤は? もう使ってしまったんですか?」

 

 姉様に抱きつき、気持ち良さげな寝息を立てている僕がいつものように左胸に人工的に埋め込まれた聖遺物・メギンギョルズを酷使したことを一目見ただけで分かったキャロルお姉ちゃんは失笑すら浮かばず、"呆れ果てた"と言わんばかりに苦々しい顔で憎まれ口を叩き、エルフナインお姉ちゃんの方はというと僕が愛用しているポーチを下げている事に眼ざとく気付き、姉様に尋ねるも返ってくる答えはいつもの通りで……。

 

「それがもう使っちゃったんデス。眠気が抜けないときは立て続けに打つ事がありますし……歌兎が勝手に打ってた時もあるデスし……」

「ハッ。妹も妹ならば姉も姉か。そのまま、無茶苦茶な薬の摂取を続けていたら、そのうち世界を救う前に灰になってしまうな。こんな事なら俺直々に世界を破壊しておくんだった」

「キャ、キャロル。歌兎さんの身が心配なのは分かるけど、言い方があるよ」

「なっ、こんな自分から進んで破滅しにいくような愚か者の心配なんか俺がするかッ」

 

 勢いよくそっぽを向くキャロルお姉ちゃんを見て、顔を見合わせた姉様とシラねぇはくすくす笑うのを横目で見て、顔を真っ赤に染めたキャロルお姉ちゃんが半端押し付けるように姉様へと作り置きしててくれた覚醒剤を渡すとぽすんと椅子に腰掛けるとシラねぇを見上げる。

 

「この愚か者達の用事は終わったが、そっちは何の用事だ?」

「調さんの用事はアレですよね?」

「うん、アレの確認がしたくて」

「アレってなんデスか? 二人はさっきからなんの話を……」

 

 シラねぇを見上げながら、含みのある言い方をするエルフナインお姉ちゃんにコクンと首を縦に振るのを僕が落ちないように微調整しながら見ていた姉様が眉を潜めるのを見て、シラねぇが机の上に並べてある四体へと視線を向ける。

 

「調ロボと歌兎ロボ、切ちゃんロボ達のことだよ」

「あぁっ!! そういえば、キャロルとエルフナインに修理をお願いしてたんでした!」

 

 そう素っ頓狂な声をあげた姉様はシラねぇと共に誰もいないはずの空間へと振り返る。

 そして、寝ている僕が落ちないように片手で抱っこしながら、空いた人差し指を立てるというクルクルと回しながら、隣に並んでいるシラねぇと共に"そこで見ているのであろう誰か"へとロボの説明をしていく。

 

「突然デスが、説明するデスッ!」

「説明をします」

 

 そう言う二人とすやすや寝ている一人の前にはメンテナンスを受けているはずの四体のロボが姿を現れており、どうやら、この不思議な空間……二人とそこにいる誰かの心意によって形作られているようだ。

 

「調ロボと歌兎ロボは、あたしの誕生日にプレゼントしてもらった、調の形を、歌兎の形をしたロボット達デスッ!」

 

 そう言って、自分の前に並ぶピンク色のギアを纏い、黒い髪をツインテールにしている調ロボと花緑青(エメラルド)色のギアを纏い、水銀の髪をしている歌兎ロボを指差す。どうやら、歌兎ロボは調ロボに比べると一回り小さく作られているようだった。

 

「切ちゃんロボは、切ちゃんの形をしたロボットです。切ちゃんロボは大きい子と小さい子がいて、大きいのが私が誕生日に貰ったもので、小さいのが歌兎が誕生日に貰ったものです」

 

 続けて、シラねぇが両手を広げて目の前を指差した先にいたのは緑色のギアを纏い、癖っ毛の多い金色の髪をしている姉様ロボで……シラねぇの説明通り、大きい方がシラねぇが誕生日に貰ったもので、小さいのが僕の誕生日に貰ったものとなっている。

 

「キャロルとエルフナインに協力してもらって、腕によりをかけて作ったデス」

「調理機能や黒歴史破壊機能、清掃機能などなどあると嬉しい各種機能つき」

「調と歌兎にもらってからは、いっしょに遊んだり、お料理をしたり掃除したりしているのデスッ!」

「最近、ダンスも覚えたんだよね」

 

 シラねぇのその問いかけをその空間にいるロボ達は理解し返答するように各自答えていく。

 

「……ん」

「デスデースッ!」

「じー……」

 

 そんなロボ達を見つめる二人の視線はすっかりデレデレ状態でロボ達が二人、そしてすやすや寝ている一人に大切にされていることが一目瞭然だろう。

 

「調と歌兎が小さくなったみたいで可愛いデスし、癒されるのデス」

「大きい切ちゃんロボも小さい切ちゃんロボも凄く可愛い……」

「……ん。かわいい……」

 

 最後だけそう言った僕へと穏やかに笑った後にロボ達をもう一度見た瞬間、その不思議な空間が靄が晴れていくように変えていき、後に残るのは誰もいない空間に話しかけている二人というなんとも不思議な……二人がおかしくなってしまったのではないかという微妙な空気だけで、キャロルお姉ちゃんとエルフナインお姉ちゃんはお互いに顔を寄せるとコソコソと二人に対して意見を交わす。

 

「エルフナイン。あいつら、誰に向かって話しかけているんだ?」

「……さあ? ボクにもわかりません」

 

 後ろから自分達を訝しがる声が聞こえた姉様とシラねぇはシンクロした動きで後ろを振り向くと慌てて二人へと謝る。

 

「はッ!? これは失礼しましたデス」

「ロボたちは、メンテナンスと新機能の追加のために預けてたんだよね」

「新機能、楽しみデスね。調ロボはお湯の温度を変えられるようになるとかッ! 歌兎ロボはモップ手裏剣だけではなくて、雑巾手裏剣も出来るようになるとかッ! あたしがこっそりためた歌兎トンデモ可愛いボイスが追加されてるとかッ!!」

「切ちゃんロボ達は微塵切りだけじゃなくて、薄切りとか皮むきができるようになるんだよね」

 

 意気揚々と預けているロボ達の出来上がりを楽しみにしている二人へと掛けられるのは素っ気なセリフで、それに食ってかかるのは人一倍その出来上がりを楽しみにしていた姉様だ。

 

「そのことだが、まだ進んでないぞ。急な依頼が入ってな」

「なんでッ!!!! キャロルなら急に依頼が入ってもビューーのシュパって即解決じゃないデスかッ!!」

「俺のことなんだと思ってるんだ、お前はッ。それにお前、どんだけあの薄気味悪いボイスが聞きたいんだ……必死すぎるだろう……」

「薄気味悪くなんてないデス。歌兎の天使にも等しい可愛さに気づかないなんて、キャロルもクリス先輩の次に残念な人なのデス……」

 

 やれやれと肩をすぼめる姉様の仕草にキャロルお姉ちゃんも抑えていた怒りやら呆れが溢れてきたようで二人揃って声が荒げていく。

 

「な、残念とか言うなッ。大体お前の可愛がりは異常なんだ。普通は妹の寝言で噛んだボイスを端末に集めてたりしないぞ」

「チッチッ。キャロルはなんも分かってないのデス。あたしの妹は世界中の妹の中での頂点に輝く妹なんデスよ。キュート部門でも、ビューティ部門でも、クール部門や他の部門だって総ナメに違いないのデスッ! そんなパーフェクトシスターな歌兎の魅力を世界中に……いいえ、宇宙中に広めるのがこの子の姉として生まれてきたあたしの役目なのデス」

 

 自分の野望に目をキラキラさせる姉様に終始呆れ顔のキャロルお姉ちゃんは終いには頭を抱え、顔を両手で覆う。

 

「やめといてやれ。自分の観賞用だけで留めてやれ。今からでもあいつが顔を真っ赤にして両眼に涙を浮かべている様子が目に浮かぶぞ……」

「もちろん、自分の観賞用も三つはコピーしてますよ。あたしが見る用、飾っておく用、誰かに貸す用デスね。アルバムも同じようにしてますし……」

 

 得意げに人差し指、中指、薬指を立てる姉様に呆れと怒りがキャリーオーバーしたのか、眉間に血管を浮かばせると研究室が揺れるほどの大きな声を出す。

 

「お前、やっぱ異常だろう!? 病院に通えッ!!!!! そして、精神剤飲めッ!!!!!!」

「あたしは異常じゃないデス!! 他のお姉ちゃん達よりも妹が好きすぎるだけで必要以上に世話しちゃうだけなんデス!!!!」

「それが過保護って言うんだッ!!!!」

「あたしは過保護じゃないデスッ!!!!」

 

 至近距離で睨みを効かせながら、延々と子供の悪口のような言い合いを続ける姉様とキャロルお姉ちゃんを止めようとあたふたするエルフナインお姉ちゃんに近づくのは見慣れた景色に放置を選んだシラねぇである。

 

「あ、あの……キャロル、切歌さん……そ、その……あの……」

「エルフナイン。キャロルが言ってた急な依頼って何? もしかしてだけど、今二人のモニターに映っているこれのこと?」

 

 シラねぇが身を乗り出して、見つめる先には厳重に管理されている黄金に光る林檎(りんご)があり、エルフナインお姉ちゃんはまだ二人の喧嘩のことが気がかりなようで何度もチラチラと見ながら、シラねぇと会話していく。

 

「はい、そうです」

「金色の林檎に見てる……」

「これは日本政府から解析の依頼で預かっている、完全聖遺物なんです」

「完全聖遺物ッ!? これが……? 危ない物なの?」

 

 心配そうに眉をひそめるシラねぇに首を横に振ったエルフナインお姉ちゃんは黄金の林檎へと視線を向けながら、穏やかな口調で説明を続ける。

 

「いえ、そこまで危険な物ではないことは分かっています。しかし、既に起動状態にあるので、S.O.N.G.のコンピュータを使って慎重に解析を進めているんです」

「……そうなんだ、ほっとした」

 

 右手を胸の真ん中へと置いて、安心したように吐息を漏らしたシラねぇは乗り出していた体を元に戻すと今だに発熱していっている喧嘩を見てから、エルフナインお姉ちゃんへと頭を下げる。

 

「お仕事中だったのに大勢で押しかけちゃってごめんね」

「いいえ、こちらこそすいません。手があき次第、すぐとりかかりますので」

「ありがとう。それじゃ、あまり邪魔したら悪いし、歌兎もふかふかのベッドで寝かせてあげたいし、そろそろ帰ろうか。切ちゃん」

 

 トントンと遂におでこをくっつけてキャロルお姉ちゃんへと睨みを利かせている姉様の左肩をトントンと叩いたシラねぇに素っ頓狂な声を上げるのを聴きながら、左手指へと自分の指を絡めると入り口に向かって歩き出す。

 

「ふぇ?」

「切ちゃんの用事も、私の用事も終わったから帰ろうって言ったの。それに早く歌兎をベッドに寝かせてあげたいから」

「確かにそうデスか。キャロルが言ってた急な依頼ってなんデスか?」

「そのことは話しながら帰るから……」

「ちょ、ちょっ、し、調!?」

 

 今だに渋る姉様の手を強引に引きながら、姉様を先に研究室から出した後、一瞬だけ後ろを振り返ったシラねぇが血が今だに登っている感じのキャロルお姉ちゃんへと声をかける。

 

「キャロルもお仕事頑張ってね。エルフナインと同じで無理はしては駄目だよ。ロボ達のことは後からでいいから」

「ふん、要らぬお世話だ」

 

 壮大に鼻を鳴らして横を向くキャロルお姉ちゃんの頬が赤く染まるのを見て、エルフナインお姉ちゃんと笑いあったシラねぇは何かまだ言いたげな姉様の背中を押しながら、研究室を後にして、学生寮に帰った後は僕をベッドへと寝かしてくれるのだった……




この世界線の切ちゃん、腕力凄いだろうな……歌兎の事をずっと抱っこしている時もあるくらいですからね(微笑)
後、あいも変わらずに姉様が暴走してしまってすいません……(大汗)


ここから先は【用語解説】と【なんで、キャロルちゃんが生きているのか?】を説明していこうと思います(敬礼)

【作中にて登場する用語解説】
●メギンギョルズ
 暁歌兎の左胸に人工的に埋め込まれた完全聖遺物。
 元はかの女神トールが彼女の神としての力を倍増させる為に着用していたと言い伝えられている力帯。
 その力帯の能力は《神の力の倍増》でそれを歌兎の『姉や家族たちの力になりたい』という強い思いで《適合係数や装者達の能力を倍増させる》に変更できないかと行われた実験により無事人工的に左胸へと埋めこむことに成功。
 歌兎と完全に融合した今では《適合係数や装者達の能力を倍増させる》能力を使いこなせてはいるが、使いすぎると圧倒的な眠気が襲ってきて、その眠気に負けると能力が使えないという特性を持つ。

●ミョルニル
 かの女神トールが使っていたと言われる『どんなに強く叩きつけても破壊できない』といわれ、雷を起こすこともできる(づち)
 ドイツからアガートラーム、イガリマ、シェルシュガナと共に渡ってきた聖遺物で、強すぎる力により、当初はギアにすることが躊躇われていたが実験最中に珠紀(たまき)カルマの歌声により起動を確認し、彼女がミョルニルの装者になる。
 だが、ネフィリムの起動実験でネフィリムを止める為に絶頂を歌ったカルマのギアが弾け飛んで、近くにいた暁歌兎の右腹部へと破片が突き刺さり、融合症例第一号となり、歌兎がミョルニルの二番目の装者となる。
 聖詠は【multitude despair mjolnir tron】。ギアの色は【花緑青(エメラルド)】。メインアームは基本【金槌】だが、メギンギョルズの特性と今の適合者である歌兎が時間の流れや自分に対して無頓着(むとんちゃく)な性格の為、『自在に大きさを変えれる』という特性が『自在に大きさや形状を変えられる』と変更し、その場に合わせたメインアームを作り出すことが出来る。
 メインアームの種類は【金槌】【ブーメラン】【棒】【ダーガー】などなど。

●覚醒剤
 覚醒剤といってもヤバイものではなく、単にメギンギョルズからの眠気、メギンギョルズとミョルニルを同時に使用した際に現れる強い眠気に対抗するために作られた液体状の薬。
 色は発光する黄色いもので、針なしの注射器の中に入っており、いつも欠かさずに持ち歩いている歌兎愛用ポーチの中には常に10本入っているが、メギンギョルズの進行が想像以上に進んでいるせいで1本では眠気が治りきらずに、二本、三本と立て続けに打つ事は偶にではなくよくあり、この事態を重く受け止めているフィーネこと櫻井了子とウェル博士、キャロルとエルフナインの四名が歌兎の今の体調にあった効果が今よりも強い覚醒剤の開発に精を出している。

●歌兎の愛用ポーチ
 歌兎が愛用している深緑色のポーチ。
 設計は姉である切歌によって手掛けられており、ギアを纏う前からサポートを生業とし、人命救助などで常に動き回っている彼女が自分の力を発揮出来るように設定されたポーチは激しい動きが多い中でも取れてしまわないように肩と腰にかけるようになっている。
 ポーチの中身には《覚醒剤が10本》《UUKA(ウッカ)が40個》《AntiーLiNKERが三本》が欠かさずに入っており、空いた隙間には彼女が必要と思えるものを詰め込んでおり、いつもポーチはぱんぱんに膨れ上がっている。

UUKA(ウッカ)
 "歌兎のためだけの""歌兎専用の""切歌特製""愛の結晶"をローマ字で書いて、頭文字を取って名付けられた結界を張るまでの用具。
 ピンボール球くらいの大きさのウッカの中には歌兎が人工的融合症例1号と融合症例第一号の時に身体から現れた結晶を細かく砕いた欠片が入っており、結界はその結晶の力をメギンギョルズで倍増させることにより張ることが出来る。
 一人を覆うには一つだけで事足りるのだが、集団を囲んだり、境界線を作るときは大量のウッカを辺りにばらまかなければならない。

●結界
 ウッカの中にはめ込まれている結晶の力をメギンギョルズで倍増させることで作り出せる絶対防壁。
 絶対防壁の前ではどんな攻撃も無効化となり、結界の向こう側にある人々を傷つける事は出来ない。
 はめ込まれている結晶は体内で融合したメギンギョルズとミョルニルで出来たもので、歌兎が逃げ遅れた人の体調によって微調整している。
 メギンギョルズの力の方を多く倍増する時は集団の中に怪我人がある時で、逆にミョルニルの力を倍増させる時は頑丈な結界が更に頑丈になり、上手く調整すれば結界を使った反撃も可能。

以上が今回現れた用語の説明でした(敬礼)

続いては【なんで、キャロルちゃんが生きているのか?】の説明ですが、この世界線でも魔法少女事案は同じような展開を進み、最後の落ちるシーンにて歌兎が力を使い果したキャロルちゃんへとメギンギョルズの力とキスをして自分の記憶を譲り、今に行っているというわけです。
 もっと詳しい内容は一番上のメインストーリーを進めていき、書いて行ければと思っています。

とここまで書いて思ったのは、歌兎がだんだん僕TUEEEEEEEE化していってるのと……もう既に人間じゃないような気がしていることですね(大汗)
メギンギョルズとは完全に融合しちゃってますしね………。
ここまで人間じゃないほうにしていってしまうか、はたまた人間に戻すまでに頑張るべきか悩むところです(思案)


最後に余談ですが、次回の【戦姫絶笑シンフォギアRADIO】の74回《11月8日放送》のゲストが【茅さん】が来てくれるそうでテンションが変な方に入ってます(声にならない声で大暴れする作者)
切ちゃんの裏話やら何やらが聞けるのが今から楽しみです!!


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クロスオーバー:ご注文はうさぎですか?
001 ご注文は迷子ですか?


ifストーリーの方じゃないんデス…、本当に申し訳ない…。

ただただ、私の中にある私欲を抑えられなかったのデス…。どうしても、あのアニメとクロスオーバーさせたいッ!とうずうずしてしまいまして…、ほぼ勢いだけで書きました(汗)

クロスオーバーしたアニメは『ご注文はうさぎですか?』です。
なんで、クロスオーバーしたかったのかは本編でも、後書きでも書きたいと思ってます( ̄^ ̄)ゞ


※今回の歌兎は、甘えん坊な要素を多く含んでおります。本編と比べると、五割増しくらいになってます(笑)


よく晴れたある日、僕は姉様と二人で商店街を歩いていた。

僕の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いてくれる姉様の方へと向くと、にっこりと微笑んでくれる。太陽に明るい笑顔を向けられ、僕も自然に口元に笑みを浮かべると、つい先ほど姉様から貰った緑色のパーカーを見つめる。

そして、姉様の方を向くと僕は眉をひそめて、恐る恐る姉様の方へと問いかける。

 

「…姉様、本当にいいの?これ、とっても気に入ってたでしょう?」

「いいんデスよ。歌兎の服には、上着なかったデスからね〜」

 

そう言って、僕の頭をくしゃくしゃと撫でてくれる姉様は本当に気にしてないように思えるが、僕だって馬鹿ではない。この服を姉様がどれくらい大事に着てきたか、そして愛着を持っているかくらいは知っている。

なので、眠たそうに開いている瞳へと心配そうな色を浮かばさせていると姉様はニッコリと笑うとクルクルと指を回しながら答えてくれる。

その答えと態度から嘘とは判断出来たが、これ以上姉様を困られるのはかなり忍びない。

 

「ーー」

「そんな顔しなくても大丈夫デスよ。そのパーカーは、もう一着あるのデス。だから、お姉ちゃんとお揃いデスよ、歌兎」

「…ん」

 

(…僕が知ってる限りじゃあ、もう一着なかった気がするけどな…。

でもーー)

 

「えへへ〜、歌兎とお揃いって嬉しいデスねぇ〜。ねぇ、歌兎?」

「…ん。僕も嬉しいよ」

「えへへ〜、歌兎もお姉ちゃんとお揃いは嬉しいんデスね」

「…ん。僕は姉様のことを尊敬してるから」

「もう、歌兎ってば、可愛いのデス!!」

 

ーー僕へと抱きつき、こんな幸せそうな笑顔を浮かべる姉様の善意を裏切るなんて、僕には到底出来ない。なので、僕は姉様がすりすりと頬をすり寄せてくるのを自分からもすると小さく呟く。

 

「……お姉ちゃん、ありがと」

「ん?歌兎、なんか言ったデスか?」

「…ううん、言ってないよ。それより、姉様あそこに美味しそうなものがある」

 

眉をひそめる姉様の背後へと指差す僕の視線を追った姉様の少し垂れ目な瞳が段々と大きくなっていく。

 

「うわぁああああ!!!」

「…寄って帰るの?姉様」

「デスデス!」

僕の問いかけに元気よく答えた姉様は、僕の手を引くと屋台へと繰り出していく。

屋台で思う存分食べた後というのに、姉様はコンビニによるとお菓子やらを買っていこうと僕を引き連れて、コンビニの中を探索する。

ポテトチップスやジュース、時折僕の方を見て、どれがいいかと問いかける姉様に指差して欲しいものを伝えていく。

お菓子やらが沢山入ったビニール袋を空いている手で店員さんから受け取った姉様はその中からあるものを取り出すとパクッとかぶり付く。

もぐもぐと幸せそうに食べる姉様を見ていると、なんだか僕も幸せな気持ちになってくる。見上げてくる僕の方を見た姉様はパクパクと食べているそれを僕の方へと差し出す。

真っ白でふかふかな生地が包む焦げ茶色のものは、美味しそうな肉汁を溢れ出しており、僕は思わずゴクリと生唾を飲み込むとそれへと齧り付こうとするが、そうする前に姉様の注意する声がかかる。

 

「歌兎。これ、食べるデスか?美味しいデスよ」

「…ん。欲しい」

「暑いデスからね。ふぅーふぅーしてから食べるのデスよ?」

「…ん。ふぅーふぅー」

「あーんデス、歌兎」

「…あーん」

 

姉様から肉まんなるものをもらおうと思い、ふぅーふぅーと息を吹きかけてから食べようと大きな口を開けた僕の目の前を薄灰色の物体が横切り、「パック」と姉様が持っている肉まんを咥えていってしまう。

それを見て、唖然とする僕と姉様。

 

「…!」

「デス!?」

 

だが、その後の僕と姉様の行動は大きく違っていた。ぼくは姉様の肉まんを取り戻そうと薄灰色の物体(それ)を追いかけて、姉様は取られてしまったショックと僕の行動の速さにびっくりしているようだった。

 

「歌兎、待つデス!」

 

薄灰色の物体を追いかけるのに、必死な僕は姉様の停止の声を聞こえず、建物の細い路地へと足を踏み入れて…そこから先からの記憶はない…

 

 

 

 

 

ⅰ,

 

「…ん?ここは…」

 

僕は頭を抑えると、首を横に振るとゆっくりと立ち上がる。

 

(…うーん、ここは…何処だろ?)

 

さっきまで、姉様と居た街とは建っている建物が違う。

赤と白が織りなす石畳の道の横には、どうやら川が流れているようだった。太陽の光を反射し、キラキラ光る水面をゆったりと流れていく小舟まで見たところで、僕はいよいよここが何処なのかわからなくなった。

 

(どうしよ…。姉様ともはぐれちゃったし…)

 

姉様と合流するのが一番なんだけど…、ここが何処かわからないのに勝手に動き回るのはかえって迷子になってしまう気がしてならない。

 

「…お姉ちゃん…っ」

 

姉様から貰ったパーカーを握りしめ、泣き出しそうになる気持ちを抑え、僕はこの街の探索に出ることに決めると路地から顔を出すとゆっくりと歩き出す。

年季の入った建物の間に埋まっている木や、この街の中を流れる雰囲気を感じているととても健やかな気持ちになれる。

ゆったりと流れる時間と、早く姉様と合流しなくてはと焦る気持ちにより、この街の探索は思った以上に捗ったが、それによってわかったのは、この街は一度も来たことのない街であること。そして、今絶賛迷子中ということだった。

近くにあるベンチへと腰掛け、僕は背もたれへと縋ると上を向くと目を瞑る。そして、小さく呟く。

 

「…あぁ、疲れた…。…どうしよ、ここから…」と。

 

 

 

 

 

 

 

ⅱ,

 

私は今、親友の宇治松 千夜(うじまつ ちや)ちゃんと一緒に帰っている。

帰路の時に通る公園の差し掛かった時だった。見知った人物がベンチに腰掛けて、空を疲れた様子で見つめている。

その時、さらっと水色が入った銀髪が風に遊ばれ、その人物が着込んでいる悪魔をイメージしたような緑色のパーカーがふわりと揺れる。

私と千夜ちゃんは顔を見合われると、その人物へと近づくとその華奢な身体へと抱きつく。

 

「あっ!チノちゃんだ!」

「あら、本当に。あんなところでどうしたのかしら?」

「チーノちゃん♪こんなところでどうしたの?」

「…うわ!?」

 

抱きつき、問いかけてくる私の顔をジィーと見て、キョロキョロと辺りを見渡すチノちゃんに私は眉をひそめる。

 

「チノちゃん?」

「…そのチノちゃんって、僕のことですか?」

「「ーー」」

 

チノちゃんのそこの言葉に私と千夜ちゃんは絶句し、勢いよく顔を見合わせるとアタフタとする。そんな私たちに囲まれて、チノちゃんもしどろもどろに声を漏らす。

だが、絶賛混乱中の私たちにはその小さな声は聞こえない。

 

「千夜ちゃん、どうしよう!チノちゃん、記憶喪失みたいだよ!」

「…えっと…僕、そのチノちゃんって子じゃないんです。だから、人違いだと…」

「何処か、頭を打ってしまったのかもしれないわね!ここからだと…」

「…あっあの、僕はチノちゃんじゃないんです」

「フルール・ド・ラパンだね!ほら、チノちゃん立って」

「…あっ、あの…僕は…」

「大丈夫よ、チノちゃんッ!私たちが直してあげるわ」

「…だから、違うんです。僕はーー」

 

私と千夜ちゃんはチノちゃんの手を掴むと、頼りになる友達がいるフルール・ド・ラパンへと走っていった…

 

 

 

 

 

 

 

ⅲ,

 

「で、その子をチノと間違えて連れ回してしまったというわけか」

 

私はカウンター席に大人しく座る悪魔をイメージしたような緑色のパーカーを着込む水色が入った銀髪を持つ少女へと視線を向けると、その少女の目の前にいるチノへも視線を向けると、目の前にいる三人が間違えてしまったのもうなづける。

肩にかかる水色入った髪の長さも色合いも目の前にいるチノと全く同じだし、身体つきや雰囲気などもチノと全く同じだ。恐らくだが、年も同年代くらいなのではないかと私はよんでいる。そんな瓜二つな外見を持つ二人の違うところというと、目の色くらいだろうか?

カウンターの向こうにいるチノの瞳は髪と同色で大きいのに対して、カウンターに座る少女の瞳は黄緑で半開きである。

 

「ごめんなさい、先輩。私もついていながら…」

「いいさ。シャロがあの子の名前を聞いてくれなかったら、今ごろ大騒ぎになっていただろうからな」

申し訳なそうにしている学校での後輩へと声をかけると、四人で少女の近くへと歩いていく。何故なら、迷子だと判明した彼女自身の情報がもっと欲しいからだ。

シャロが聞き出してくれた彼女の名前は、暁 歌兎(あかつき うたう)。彼女の情報は今のところ、それだけだ。

 

その歌兎はというと、チノが淹れてくれたミルクとお砂糖多めのカプチーノを前にして固まっている。そんな歌兎に、チノが申し訳なそうに声をかける。それに歌兎はパタパタと手を振る。

 

「ごめんなさい。コーヒー、嫌いでしたか?」

「…あっ、違うんです。ただ、姉様とねぇやたちが居ないのに…こんな美味しそうなコーヒーを飲んでいいのかなぁ…って思って」

 

コーヒーに映る自分を見つめて、そうぽつんと話す歌兎の様子から“姉様とねぇやたち”という人達との絆の深さが読み取れる。恐らく、その絆の深さは私たちには想像できないくらいものなのだろう。

ならば、尚更その人達へと歌兎を返す義務が私たちにはあるだろう。

それにチノに似てる歌兎をこのまま置いておくとは、かなり後味が悪い。

 

チノがカップを拭きながら、歌兎へと問いかける。チノの質問にうなづいた歌兎は“姉様”を思い浮かべているのだろう。乏しい表情を穏やかなものへと変える。

 

「歌兎さんはお姉ちゃんがいるんですか?」

「…はい、とっても素敵な人なんです。そこにいてくれるだけで、周りの人を明るくしてくるというか…まるで太陽みたいな人なんです。僕はそんな姉様が大好きで…」

「歌兎さん?」

 

穏やかなだった表情を歪めて、ぽろりと強く握って、膝の上に置いている両手へと透明な雫が落ちる。

 

「おい、泣いてるのか?」

「…姉様に迷惑をかけちゃったって思うと…自分が不甲斐なくて…。姉様、きっとすごく心配してる…」

「大丈夫だよ!歌兎ちゃん。ココアお姉ちゃんが絶対、お姉ちゃんに会わせてあげるからね!」

 

ガシッと歌兎に抱きつくココアを見て、やれやれと思う私とチノ、シャロと違い、千夜はココアとは違う位置から歌兎に抱きつくとココアとうなづき合う。

 

「えぇ、私たちに任せて!早く会わせてあげるからね」

「…ん、ありがと。ココアお姉ちゃん、千夜お姉ちゃん」

 

そう言って、涙を拭いた歌兎はその後ラビットハウスで暮らすことになり、ただで泊まるのは嫌だと言う本人の意見からラビットハウスで暫く働くことになった…




というわけで、姉様が迎えにきてくれる。ココアたちが姉様を探し出すまで…ラビットハウスで働くなった歌兎ですが…

姉様が迎えにきてくれるのは、いつのことになるでしょうか…?




前書きで触れたこのクロスオーバーを書こうと思った理由ですが…

本作の主人公・歌兎が、このごちうさで登場するチノちゃんに似ている事でした。

姉となる切ちゃんと正反対となる性格と色にしたいなぁ〜と考えてしまった結果、無意識に似てしまったわけなんですが…

ここまで似ていると、それをネタにごちうさとコラボしてみたいなぁ〜と思い、今回の話を書いてみました(笑)

少しでも、読者の皆様にこのコラボが気に入っていただけたのであれば、いいと思ってます…m(_ _)m


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002 ご注文は姉妹ですか?

すごく遅くなってしまいました。本当にすいませんm(_ _)m

今回の話は、切ちゃんの側の話が多くなっています。そして、かなり簡潔に書いてるので…読者の皆様が楽しんでくださればと思います。

今回のあらすじを簡単に説明すると、歌兎と別れてしまった切ちゃんは家へと戻り、その翌日から他の奏者のたちと歌兎の捜索に精を出すが、成果は出ず。
考えた切ちゃんは、歌兎が居なくなった状況を再現しようとしてーー

では、本編をどうぞ!

*今回はかなり長めとなってます。


「…」

「月読さん、どうしたの?」

「切ちゃんと歌兎の帰りが遅いって思って」

「そうだね。どうしたんだろ…」

 

マンションの台所に立ち、晩御飯をおさんどんしていた調とセレナが顔を見合わせて、余りにも帰りが遅い切歌と歌兎の心配をしていた。

調に至っては、二人が交通事故やらにあったのではないか?と思考回路がマイナスの方へといってしまうらしく、セレナはそんな調の不安を取り除こうとわざと明るい声を出して、調を励ます。

 

「大丈夫ですよ、月読さん。きっと暁さんが歌兎ちゃんを連れて、近くのコンビニとかを回ってるんに決まってるんだから」

「…そうかな?」

「そうだよ。そのうち、ひょっこり元気な顔して帰ってくるよ、きっと」

「うん、きっとそうだよね」

 

調がセレナの励ましにうなづくと、目の前にある野菜を切っていく。

その際、小さい声だが見知った声が聞こえた気がして、動き始めた右手を止めると…再度耳をすませると、どうやらその泣き声みたいなものは玄関から聞こえてくる気がする。

調は包丁を置くと、近くにあるコンロの火を止めると玄関へと走り出す。

 

『ーーゥゥ…』

「…!」

「どうしたんですか?月読さん」

「何か聞こえる…。玄関の方からだ」

「月読さん!?」

 

調のその行動にびっくりしつつも、只ならぬ雰囲気を感じ取ったセレナも調の後を追う。

すると、玄関を開けたままの状態で止まっている調の背後から覗き込むようなことをすると

 

ーーそこには、玄関の近くに蹲り、両膝を抱えて大泣きしている明るい金髪に✖︎マークがトレードマークの少女がいたーー

 

「うぅ…ぅ…」

「え、暁さん!?」「どうしたの?切ちゃんっ」

 

セレナと調は大泣きしている少女がさっきまで心配していた姉妹の姉の方だと気付いた瞬間、声をかける。

声をかけた瞬間、ビクッと肩を震わせた少女・切歌は涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、セレナと調へと抱きつく。

 

「しらべぇ…せれなぁ…」

 

そんな切歌を抱きとめた二人は、キョロキョロと辺りを見渡すと見慣れた水色の入った銀髪がないことに眉をひそめる。

目の前で大泣きしている切歌と、彼女と行動を共にしていた妹の姿がないことが何かに共通点があるのか?と思ったセレナは切歌に問いかける。

すると、セレナのそのセリフに切歌は分かりやすいほど反応すると、顔をグシャッと歪める。そして、更に大きな声を上げて泣く切歌を見て、隣にいる調の視線が鋭くなる。そんな調に頭を下げるセレナ。

 

「暁さん。歌兎ちゃんは?」

「うぅっ…歌兎ぅぅ…」

「セレナ」

「月読さん、そんなに睨まないでください…。私が悪かったですから…」

「切ちゃん、泣かないで」

「うぅ…調、セレナもありがとうデス…。やっと落ち着いたんデス」

 

調の励ましに落ち着いてきた切歌が、事の成り行きを説明する。

 

「二人で祭りに行って…その後、コンビニに寄ったんデス。そこで肉まんを買って、歌兎にあげようとしたら、灰色の何かに肉まんを取られて…それで歌兎がそれを追いかけて、どっか行っちゃったんデス…。慌てて、後を追いかけても…そこに歌兎は居なくて…」

 

その光景を思い出してしまったのか、また垂れ目気味の黄緑色の瞳を潤ませる切歌に調が優しく語りかける。

 

「切ちゃん、マリアたちにも相談してみよ。歌兎なら大丈夫だよ」

「そうですね!歌兎ちゃんは暁さんよりもしっかりしてますから」

「そうデスね!…って、セレナのはどういう意味デスか!」

「あはは、それくらい元気なら大丈夫だよ」

「む…セレナがいじわるデス…」

 

翌日、二課と他の奏者のみんなへと状況を説明した切歌たちはノイズを討伐する傍ら、今だに行方不明の歌兎の手掛かりを掴もうと、手分けして彼方此方を調べ回った。

だが、一向に成果は無く…気付くと、行方不明になった日から一週間が過ぎていた…

 

 

 

 

 

ⅰ,

 

一方、奏者のみんなが総出で捜索してるとは知る由もない歌兎はお世話になっているラビットハウスのお手伝いに精を出して居た。

まだ作りかけだった緑色の制服を、自分のサイズに合うようにリメイクしてもらい、それを着用して下にある喫茶店のお仕事を精一杯頑張る。

ちなみに緑色の制服にしたのは、歌兎の姉のイメージカラーからということであった。

 

「…リゼお姉ちゃん、このパスタはブルーマウンテンを注文したお客様であってる?」

 

鉄でできたお盆にチノから受け取ったブルーマウンテンを載せた歌兎はちょこちょこと無駄のない動きでパスタやサンドイッチを仕上げていくリゼの元へと歩いていく。

ちょうど出来上がったナポリタンをお盆に載せた歌兎は、忙しそうなリゼを見つめると問いかける。

 

「あぁ。あと、このサンドイッチもな。多くなっちゃったけど、歌兎、運べるか?」

「…ん、出来る」

 

リゼは歌兎の質問にうなづくと、近くにあったサンドイッチも載せる。心配するリゼへと力強くうなづいた歌兎は、両手で慎重に目的地となる白いTシャツが似合うお客様へと向かうと、零さないように三つの注文の品を置くと頭を下げる。

 

「…お待たせいたしました、お客様。ご注文のブルーマウンテン、ナポリタン、サンドイッチでございます。ご注文の品は以上でよろしかったでしょうか?」

「あぁ、ありがとう」

「…ゆっくりお楽しみください」

 

働き始めて、一週間とは思えない見事な接客にチノとリゼ、ココアが歌兎に感心していると、その話の途中に帰って来た歌兎が三人が自分の方を見ていることを不思議に思ったらしくこてんと小首を傾げる。

そんな歌兎の様子が面白かったのか、三人がクスクスと笑うとおいでおいでと右手を振る。

 

「歌兎ちゃん、すごいね〜」

「あぁ、ココアにも見習ってもらいたいくらいだ」

「そうですね。ココアさんも歌兎さんくらい働けたら、言うないんですけど…」

 

話の続きと言わんばかりにココアを見て、ため息をつくチノとリゼの姿にココアは涙を浮かべながら、歌兎へと抱きつく。そんなココアを抱きとめた歌兎は背中を撫でながら、ココアを慰める。

 

「うぁん、歌兎ちゃんっ!二人がいじめる!」

「…わぁ!?僕はそんなココアお姉ちゃんのことが好きだよ。だから、気にしないで…自分のペースで頑張って」

「うん、お姉ちゃん頑張るね」

「…ん、頑張って」

 

颯爽と入ってきたお客様の接客に精を出すココアを見て、肩をすくめるチノとリゼ。そんな三人を見て、自分ももっと頑張らねばッと意気込むのが今のラビットハウスでの歌兎の生活でもあり、未来(これから)になりかけているものであった…

 

 

 

 

 

ⅱ,

 

 

行方不明となった暁 歌兎を奏者のみんな、二課の人たち総出で捜索し始めて、早くも一ヶ月が過ぎた頃…二課にあるミーティングルームでは重い空気が流れていた。

それは隈なく探しても、手掛かりどころが目撃情報もない歌兎のことをここにいるみんなが心の片隅で既に亡くなっている(マイナス方面)に考えていることであった。

 

「…以上。私とマリアが調べた結果だが、立花たちは?」

 

重苦しい雰囲気の中、先陣をきって活動報告をした翼は近くにいる響と未来へと視線を向けるが、二人の表情も翼と同じで悲痛な表情を浮かべながら、自分たちの結果を話していく。

 

「私と未来も翼さんたちと同じです。歌兎ちゃんの姿を見た人も居ないらしくて…」

「クリスとセレナちゃんのところは?」

 

未来に話を振られ、渋い顔をしたクリスは小さく首を振ると舌打ちをする。

 

「チッ。あたしたちのとこも同じだ」

「聞いてみた人全員に知らないって言われちゃって…」

「クソッ!どこいちまったんだ、あのチビ!」

「もう一ヶ月ですもんね。…調べるところもなくなってしましたし…。やっぱり、もう…歌兎ちゃんは…」

 

セレナのその一言で、みんな心の中にあった最悪な考えが浮かんできて、揃って下を向いては唇を噛みしめる。クリスに至っては、ブーツで悔しそうにタイルを蹴飛ばす。

そんな重苦しい沈黙を絶ったのは、今まで口を一文字に結んでいた切歌であった。

垂れ目気味な黄緑色の瞳に強い意志をたぎらせ、まっすぐ前を見ると大きな声で叫ぶ。

 

「そんなわけあるわけないデス!!」

「切ちゃん…」

「調も言ってあげてください!そんなことないって!」

「…」

「なんで黙るデスか、調…」

 

まっすぐ見つめてくる切歌から視線を逸らす調に、切歌は服の裾をギュッと掴むと下を向いているみんなへと視線を向ける。

 

「あの歌兎が亡くなってるわけないんデス!あの子はああ見えて、逞しい子なんデス!それはマリア、セレナ、調も知ってるデスよね!?」

「ーー」

「みんなして、タチが悪いんデスよ!歌兎が…歌兎が亡くなってるわけ…ないんデス…ッ」

 

そこまで言って、溢れ出る涙が我慢できなかったのか…切歌が泣き出してしまう。そんな切歌をマリアが抱きしめ、調とセレナが背中を撫でる。

暁 歌兎がもう既に亡くなっているーーそれは、暁 切歌にとって認めたくない事実であり、しかし ここまで手掛かりをないとなると認めざるおえない事実でもあった…

 

 

~*

 

 

翌日、切歌は一人あの日妹の姿を見失ってしまった路地へと来ていた。

まっすぐ前を見つめ、どこか薄暗く何か出て来そうなその路地へと一歩、また一歩と足を踏み入れていく。

 

「やっぱり、ここに何あると思うデスよ」

 

薄暗い路地の中、しっかりした足取りで進んでいく切歌はギュッと裾を掴むと空気を吸い込み、さらに暗くなっているところへと視線を向ける。

 

「待っていてください、歌兎。お姉ちゃんが迎えに行きますから」

 

真っ暗闇の中、切歌は知らぬ間に意識を手放していた…

 

 

~*

 

 

「うぅ…ここはどこデスか…?」

 

切歌は右手で抑えて、軽く頭を横に振りながら立ち上がると衣服についた砂を落とす。

辺りを見渡してみると、美しい深緑と緑、黄緑のコントラストが美しい山や森林が広がっていた。そう遠くないところに川が流れているらしく、ザァーザァーという音が聞こえてくる。

 

(…すぅ…。空気が美味しいデス…)

 

そこまで思った時には、既に遅く。

グゥー、と可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。

そう言えば、妹探しに精を出しすぎて、朝ごはんもそこそこに夕方まで走り回っていた気がする。

 

(それはお腹すくはずデス…)

 

だからと言って、財布などは持ってない。買い食いに使いすぎてしまい、持っていても仕方ないと持ってこなかったことをここまで後悔したことはない。

困り果てる切歌の鼻腔へと香ばしい香りが漂ってきた。くんくんと鼻を鳴らすと、その香りが目の前にある【Hot Bakery】という看板がかかってある家から漂ってくるのに気づき、お腹がぐーぐーへりこファイアーな切歌はその匂いにつられるようにその家へと足を踏み入れていた。

足を踏み入れた先には、白い三角巾とエプロンが似合う茶色い髪を後ろでゆったりと結んでいる、優しいそうな雰囲気を醸し出している女性が居て、丁度出来上がったパンを並べている最中らしく、ケース越しに入ってきた切歌に視線を向けては微笑んでいる。

 

「あら、いらっしゃい、可愛いお客さん」

「あっ、こんにちわデス」

「こんにちわ。ごめんなさいね、今準備中なのよ。だから、もう少しだけ待ってね」

「…はい、デス…」

 

お腹を抑えて、もじもじしている切歌に女性は何かを察したらしく、切歌を手招きするとにっこり微笑んで店裏を指差す。

 

「少し作りすぎてしまったパンがあるの。一緒に食べてくれる?」

「…へ?」

 

戸惑う切歌の右手を掴んだ女性は店裏に歩いていくと、リビングみたいなところへ着くと切歌を座らせる。そして、ジュースと複数のパンを切歌の前におくと椅子に腰掛ける。

 

「どうぞ。お腹を空いてるんでしょう?」

「…デスが、あたしお金…」

「ふふふ、良いのよ。言ったでしょう、作りすぎてしまったパンだから。私とお母さんの二人じゃあ、とても食べきれないから。是非、あなたが食べてあげて」

「そういうことでしたから…いただきますデス」

目の前に置いてあったクロワッサンへと手を伸ばし、一口噛り付いた切歌の黄緑色の瞳を大きくする。そんな切歌の様子ににこにこ笑う女性は切歌にジュースを差し出しながら、もぐもぐとハムスターのようにほっぺを膨らませている切歌に話しかける。

 

「美味しい?」

「はい、すっごく美味しいデス!こんなにふわふわもちもちなパン食べたことないデス!」

「ありがとう。私の名前は保登 モカ(ほと もか)っていうの。あなたは?」

暁 切歌(あかつき きりか)デス。モカさん、本当にありがとうございますデス。助けてもらったお礼に、このお店のお手伝いをするデスよ」

「いいのよ、切歌ちゃん。お手伝いさんだっているんだから」

「いいえ、働かせてください!そうしないと、あたしの気がすまないのデス」

「そこまでいうのなら、手伝ってもらおうかしら」

 

パンを平らげ、親切な女性もといモカに三角巾とエプロンを付けてもらった切歌はHot Bakeryのお仕事に精を出した。

最初こそ戸惑ったが慣れてみると楽しく、お手伝いといってもただひたすらパンを袋に詰める作業だった為、切歌でも安心してできた。その後、町まで配達するモカに付き添い、夜にモカの妹から届いた手紙の中に入っていた写真にずっと探して居た最愛の妹・歌兎の姿を見つけ、切歌ははしゃぎ、モカへと抱きつく。

 

はしゃぎ、モカに抱きついた日から数週間前、その町に行く予定があるモカに連れられて、電車に乗っていた。嬉しそうにパタパタと足を動かしている切歌にモカが話しかける。

 

「良かったね、切歌ちゃん。妹さんに会えて」

「はいデス!これもモカさんのおかげデス。本当にありがとうございます」

「いいのよ。切歌ちゃんのサプライズに妹さん、喜んでくれるといいね」

「はい!歌兎をびっくりさせるのデス」

 

意気込む切歌にモカは微笑むと、丁度電車が目的地に着いたらしく、切歌は旅行ケースを引くモカの手を引っ張る。

 

「モカさん、早く!早くデスよっ!」

「ちょっと待ってっ、切歌ちゃん」

 

元気よく走り出す切歌の後を追いかけるモカの表情も明るく、二人はうさぎとカップがデザインされている喫茶店へと向かった…

 

 

 

 

ⅲ,

 

一方、二人が向かっている喫茶店の中、四人の店員さんがそれぞれの仕事に精を出していた。

食べ終わり、飲み終わったお皿やカップをお盆に乗せ、机を拭いていた緑色の制服をしている水色が入った銀髪の店員・歌兎が何かが聞こえた様子でふと窓の外へと視線を向ける。そんな歌兎に桃色の制服を着ている店員・ココアが声をかける。

 

「…ん?」

「どうしたの?歌兎ちゃん」

「…姉様の声が聞こえた気がしたんです」

「姉様って…。あっ、切歌ちゃん?」

「…はい。でも、そんなわけないですよね…」

 

淡く微笑み、そんなことはないと首を横に振った歌兎は今日の仕事へと精を出す。

 

 

 

 

ⅳ,

 

 

目的地に着いた切歌は勢いよく扉を開けると、キョロキョロと辺りを見渡してーーびっくりした表情を浮かべている“水色の制服”を着ている水色が入った銀髪の店員へと顔を歪めると勢いよく抱きつく。

 

「歌兎ぅうううう!!!!!」

「きゃあ!?」

 

そんな切歌の奇行に店内いたお客さんや店員全員が固まり、後から入ってきたモカは切歌が抱きついている店員が誰か知るとあらら…と苦笑いを浮かべる。

そんな店内のすべての人から視線を向けられているとは知らずに、切歌は目の前の店員ーーずっと探していた最愛の妹へと語りかける。

 

「歌兎歌兎歌兎歌兎歌兎歌兎歌兎歌兎ぅうう〜〜。どこに行ったデスか!とても心配してたんデスよ」

「あっ、あの!」

 

がっしり抱きついてくる切歌におどおどしながら、“水色の制服”を着ている店員さんが小さい声だが、はっきりした口調で切歌がおかしている間違いを指摘する。

 

「どうしたデスか?歌兎。ハァ!?もしかして、長らく会わなかったので…お姉ちゃんの顔を忘れてしまったデスか?」

「その…私、歌兎さんではないです」

「へ?」

「私、ここのオーナーの孫の香風 智乃(かふう ちの)です。なので、私は歌兎さんでは…」

「へ?え?ってことは…歌兎は?」

「歌兎さんはあそこに居ます」

「…」

 

ずっと最愛の妹と思っていた店員が赤の他人と分かると、切歌は唖然としながらも自分の妹を探す。そんな切歌の問いにチノは切歌の背後へと視線を向ける。振り返った先には、眠さそうに黄緑色の瞳をあげている“緑色の制服”を着ている店員の姿があり、切歌は両目に涙をためるとその店員に向かって走り出す。

 

「歌兎!お姉ちゃんが迎えにきたデスよっ!」

 

だが、そんな切歌を一瞥した緑色の制服を着た店員・歌兎は尊敬する姉がチノと自分を見分けられなかったのが気に入らなかったのか、プイとそっぽを向くとスタスタと切歌と反対方向へ歩いていってしまう。

 

「…チノお姉ちゃんと僕を間違えるなんて…。姉様なんて嫌い」プイ

「あぁ…っ…歌兎ぅ…」

 

感動の再会どころか、最悪の再会となってしまった歌兎との再会に切歌は涙をポロポロと流す。

目に入れても痛くないくらい可愛がっている妹の口から放たれた『きらい』の三文字は切歌の胸に深く突き刺さっており、糸の切れた操り人形のように喫茶店から出ていった切歌は出入り口の片隅に膝を抱えるとズーンという文字が出てきそうなほどに落ち込む。

 

「そんなつもりはなかったんデスよ…。ただ、歌兎に会えたのが嬉しくてっ…舞い上がっちゃって…もう、ダメデス…。あんなに歌兎に嫌われてしまったあたしは生きていける気がしないのデス…あたしはどうすればいいデスか…?どうすれば、歌兎は機嫌を直してくれるデスか…?そっか、あそこに流れる川に飛び込めば…」

「死んじゃダメだよ、切歌ちゃん!ほら、まだ完全に嫌われたとは限らないでしょう?」

 

優しく話しかけてくれるモカに光を宿してない瞳を向けた切歌はぽつんと呟く。

 

「あたしに嫌いなんていう子じゃなかったのデス…。そんな子があたしに…姉様、嫌いって…うゔ…ッ。やっぱり、あの川に飛び込むしか…」

「ダメダメダメ!ダメだから!まだ、歌兎ちゃんにあれも渡してないでしょう?」

「…?」

 

本気で川に飛び込もうとしていた切歌をなんとか、あの手この手で引き止めたモカは切歌と二人で暫く、ラビットハウスで暮らすことになった…




本当は詳しく書きたいところがたくさんあったんデスが…文字数により簡潔に書かせてもらいました。

切ちゃん以外の奏者メンバーの追加は考え中デス(。-_-。)

この後の話は、ごちうさの原作で大好きなエピソードを暁姉妹と共に追体験したいと思ってますm(_ _)m


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003 ご注文はプニプニですか?

久しぶりに再開したコラボの話がこれでいいのか…と思う私ですが…

今回の話にモカさんは現れません!
何故なら帰ってるからです!えぇ、展開が早いですよね……なので、モカさんが在中している所はまだ途中更新となってしまいますが、書いていこうと思ってます(礼)

では、久しぶりのコラボの話…視点がバラバラとなっているかもですが、本編をどうぞ!


紅と白のタイルが作り出す鮮やかなデザインが素敵な通りを抜け、白い壁や紅いレンガで作られた家が所狭しと並んだ小道の先にその店はあった。

兎がカップを持っている看板が吊るされている扉を開けて、入っていった二人を出迎えるのは《緑》の制服を着た明るめの金髪に黒い✖️(バッテン)マークの髪飾りをつけた少女・暁 切歌と《黄緑》の制服を着た水色の入った銀髪を小さな✖︎(バッテン)が付いているヘアゴムでポニーテールにしている少女・暁 歌兎である。

この二人は姉妹であり、その仲の良さと姉・切歌による妹・歌兎への過保護はこのラビットハウスにしかない名物となっており、実際この二人目当てに店に通うお客さんやリピーターが数名と出来ていた。

二人のリピーター曰く切歌ちゃんの姉らしかぬ所がツボ。子犬のような切歌ちゃんと子猫のような歌兎ちゃんに癒せるとの事。

 

そんな二人が揃って、お客さんをお出迎えというのはここ最近珍しく、ラビットハウスに入った二人は今日は偶々暇な日にお邪魔したんだと思い、そんな二人へとニコニコと元気一杯に頭を下げる切歌と違い、ボソボソっと挨拶した歌兎は入ってきた二人組が自分たちの知っている顔見知りだと気付くと驚いたような声を上げる。

 

「いらっしゃいデェース!」

「…いらっしゃいませ…と、千夜お姉ちゃんとシャロお姉ちゃん?」

「なんデスとぉ!?」

「ふふ、こんにちは、切歌ちゃん、歌兎ちゃん」

「すっかり慣れたみたいね、二人とも」

「…ん、ラビットハウスのお姉ちゃん達が僕と姉様に優しく教えてくれるから」

 

歌兎の驚きの声より数倍大きな声で叫び、ブンッと音がしそうなほどに顔を上げた切歌はそこに並ぶ二人組…白い緩やかなシャツに深緑色の薄手のロングスカートを着用した宇治松 千夜とレモン色のカッターシャツの下に濃いオレンジ色の短パンを着込んだ桐間 紗路を見て、ニコニコ笑顔がまるで太陽のように明るい笑顔へと変わると二人の手を掴んで、四人テーブルへと案内する。

 

「さぁ、ここで立ち話もなんデスから…席に案内するデスよ」

 

そんな切歌の行く先へと先回りして、千夜とシャロが座る席を引くのが歌兎の役目となっているのだがーー

 

「あぁっ!?そんな重いもの持っちゃあダメデスよ!!歌兎!歌兎がそれで筋肉痛になったらどうするデスか!お姉ちゃんが椅子を引く役割をしますから、歌兎は千夜さんとシャロさんを」

「…ん、分かった」

 

ーーこの通り、歌兎が落ち着いた雰囲気が素敵な椅子の背もたれへと小さな両手を添えただけで切歌の慌てたような声が掛かるのだ。

それは椅子だけにあらず、鉄のお盆やコーヒーカップも持ってはダメときつく言われ、今の歌兎の仕事は注文を取るのとお皿洗いとなっている。本当は料理が空いているのだが、そちらは油が歌兎の綺麗な肌にかかるといけないからと切歌がやらせない。しかし、歌兎がそういった雑用係に回れるのは、妹が関わることによって普段の数倍の力を発揮している切歌の働きによるものだった。

 

そんな過保護な切歌が椅子を引く係に回るのをカウンター越しに見ていた《水色》の制服を着ていた水色の銀髪を腰のあたりまで伸ばした少女・香風 智乃とその隣にいる《紫》の制服を着用して、紫の掛かった黒髪をツインテールにしている少女・天々座 理世は同時にやれやれと呆れたように首を横にふる。二人ともこの過保護な姉に常日頃から振り回され、疲れが溜まってしまっているのだ。

 

「…千夜お姉ちゃん、シャロお姉ちゃん。後少しだけど、ここから先は僕がご案内するね」

「えぇ、よろしくね、歌兎ちゃん」

 

尊敬する姉から託された仕事を全うしようと歌兎は千夜とシャロへと両手を差し出す。その歌兎の両手を掴んだ二人は歌兎の案内により、着実に席に近づいているのだが…

 

「…千夜お姉ちゃん…っ、そんなに手をふにふにされるとくすぐったいよ」

 

そう、千夜が何故か歌兎の左手をプニプニと触っているのだ。その際に千夜の指先が手の甲に当たり、歌兎はくすぐったそうに千夜を見つめる。そして、見つめられた千夜は申し訳なそうにしつつもその手の動きを止めようとしはしない。

そして、千夜のその発言に寄ってくるのが《桃》の制服を着て、明るい栗色の肩まで伸びた髪を揺らしながら、歌兎に近づく少女・保登 心愛で千夜が触っている左手をモミモミと感触を確かめようと触っている。

 

「あら、ごめんなさい。歌兎ちゃんの手って小さくて可愛い上にプニプニで触り心地がよくってつい」

「本当?私も触ってもいい?」

 

千夜とココアによって、左右からモミモミと掌を触られる歌兎はくすぐっそうに身をよじり、その白い頬へと朱が混ざる。

 

「なななっ!?千夜さん!ココアさん!二人して何してるデスか!」

 

椅子を引きつつ、二人にくすぐれ、頬を赤く染める歌兎を視界に収めた切歌はあたふたと歌兎の助けに入ろうか、しかしまだ椅子を引き終えてないことに迷っているらしく…しかし、その二つよりも切歌はとある事が羨ましかったらしい。

 

「歌兎の頬と手をプニプニするのは姉であるあたしだけの権利デスーっ!!」

「そんなわけないだろ!!」

「そんなわけないでしょ!!」

「もしそうなら歌兎さんが可哀想です」

「チノちゃん、それどう意味デス!?」

 

嫉妬のあまり意味わからないことを言ってのける切歌へとリゼとシャロの鋭いツッコミとチノの憐れみを含んだツッコミに切歌が不本意そうにカウンターへと振り返る。振り返る切歌へとチノは手元にあるミルを回しながらボソッと答える。

 

「そのままの意味ですよ」

「歌兎だってあたしにプニプニされるの嬉しそうなんデス!だから、あたしの言ってることは正しいのデス!はい、椅子を引き終えました!そこの二人、あたしの可愛い妹から離れるデス!」

 

頬をパクーと膨らませ、ブンブンと両手を振り回しながら突進してくる切歌を見て、千夜とココアは二人揃って歌兎を解放し、前へと差し出す。そして、忽ちに歌兎は切歌の熱い抱擁に会うのだった。

緑と黒のエプロン型の制服の上からでもわかる双丘へと顔を押し付けられ、歌兎は苦しそうに姉の背中を叩くが、一方の切歌はそれどころではないらしく、「ごめんね」と謝る千夜とココアを拗ねたように睨むとより一層歌兎を抱きしめるのだった。

 

「…ね、姉様ぐるじい…」

「もう、絶対千夜さんとココアさんの近くを通らせないデス」

 

そして、その抱擁は切歌の背中を叩いていた歌兎の手が力無く下に落ちるまで続くのだった……




歌兎の手を千夜ちゃんとココアちゃんにプニプニされ続け、嫉妬してしまう切ちゃんというしょーもない話です(笑)

と、次回の話ですが…実はシャロちゃんが切ちゃんをどう呼ぶかで悩んでます(笑)
普通に「切歌」か「切歌ちゃん」はたまた別の呼び名か(思考)

私の記憶が正しければ…確か、切ちゃんとシャロちゃん・ココアちゃん・千夜ちゃんは同い年の16歳だった筈と思うんです。そして、リゼちゃんが一個上の17歳だった筈…んー、シャロちゃんって同級生は基本呼び捨てなんですよね、だからやっぱり「切歌」かなぁ…(笑)
同い年といえば、歌兎とチマメ隊も同い年の13歳なんですよね…改めて思うと、チノちゃんって本当しっかりしてますよね…(感心)
私が13歳の時なんて、流行りのアイドルか声優さんにハマりつつ、FF13か零式をコーヒー飲みながら夜更かししてゲームクリアするまでやってた記憶しかない(苦笑)
しかし、そんなだめだめだった私よりもうちの歌兎が駄目人間へとなりつつある…しかし、私は切ちゃんを過保護にしたことを悔やんでません!だって、大好きな切ちゃんに甘えたかったんだもの!!

と、話が逸れましたね(笑)

次回は容姿が何処と無く似ている切歌ちゃん・シャロちゃん…あと、歌兎がメインとなる話となってます!そちらの話もしょーもないものとなるかもですが…楽しんでもらえればと思います(礼)


此処まで読んでくださった読者のみなさま、去年よりも熱い夏にも負けず!新たに現れた台風にも負けず!この夏を乗り切りましょう!

私は夏バテ気味ですが…XDで大好きな切ちゃんに癒されたり、かやのみで癒されつつ、この夏を乗り切ろうと思います!!

そういえば、この前念願だった☆5怪盗セレナちゃんをゲットしまして、奏者のみんなの☆5は揃ったかなぁ〜と思ったのですが…まだ、未来ちゃんを当てておりませんでした…(汗)
んー、今やってるXDフェスガチャ回そうかなぁ…と思いながら、しかしこのXDフェス、切ちゃんのXDも来ますよね、当然ながら…なので、まだゲットしてないXD切ちゃんの為に歌唱石を残しておこうかと迷ってます(笑)
また、海賊までガチャがありましたからね!あれは…復興ガチャっていうのかな?(あやふや)
きっと、近いうちにアリス切ちゃんとバイクギアの調ちゃんが来るはず!アリス切ちゃんは課金をしたんですが…当たらなくってゲット出来なかったものなので、是非とも欲しいですし…バイクギアの調ちゃんも可愛いんですよねぇ…(微笑)

しかし、『片翼の奏者』の続編『双翼のシリウス』があったということは…『翳り裂く閃光』『イノセント・シスター』の続編もありそうな気がしますし…ここはまだ見ぬ切ちゃんの為と思い、確実に10回回せるくらい貯めとくべきか…

んー、悩みますね(笑)


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004 ご注文は三姉妹ですか?

前に紹介していただいた通り、今回の話も前と同じようにしょーもないものとなってます。
ですが、歌兎と切ちゃんの可愛さが読者の皆さんに伝わればいいなぁ〜と思っております。

では、本編をお楽しみください!!

※前の話でみんなの本名を書いたので、この話はみんなの下の名前で統一して書いております。


「はい、シャロお姉ちゃん。ご注文のアイスココアです」

「ありがとう、歌兎ちゃん」

「ゆっくり楽しんでいってね」

 

そう言って、落ち着いた色合いの椅子に座るシャロの前にアイスココアを差し出す歌兎。

歌兎から受け取ったアイスココアを除くシャロを映し出すのは、薄茶色の液体で満たされた白い陶器で作られたコーヒーカップだ。丁寧に磨かれているのだろうスベスベとした肌触りが実に気持ちいい。

 

「こちらは千夜さんのデス」

「ありがとう、切歌ちゃん」

「…どういたしましてデス」

 

そう言って、千夜に注文の品、カプチーノで満たされたコーヒーカップを差し出すのは切歌である。まだ、歌兎の手をプニプニした事を怒っているのか、千夜を見る目に怒りの炎が僅かに灯る。

それ見てをやり過ぎたかもと後悔する千夜はカプチーノを一口含み、正面に座るシャロと真横でプクーと頬を膨らませている切歌を見て、とある事を思いつく。

 

(これなら切歌ちゃんも機嫌を直してくれるかもしれないわ)

 

そんな千夜の思惑を知ってか知らずか、シャロが自分と切歌を交互に見つめている千夜を睨む。

 

「な、何よ。さっきから私の顔と切歌の顔を交互に見たりして」

「いえ、改めて見ると切歌ちゃんとシャロちゃんって似てるわよね」

「突然、何を言い出すのよ」

「瞳も水色に黄緑色でしょ?それに髪の毛も金髪に癖っ毛なところなんかも似てると思うだけどどうかしら?」

「どうかしらもなにも他人の空似でしょう?大袈裟にしすぎ」

 

そう言い、シャロは優雅にアイスココアを口に含む。そんなシャロの言い分に千夜は異論があるようで、顔をキリッとさせる。

 

「いいえ、これは大袈裟なんかじゃないわ!きっと、切歌ちゃんとシャロちゃんは生き別れた姉妹なのよ!」

 

ブゥーッ!!?

 

千夜の発言に飲んでいたアイスココアを吐き出してしまうシャロ。

幾ら何でも飛躍しすぎだろう、何がどうならばそんな発想になのだろう。

シャロは千夜に呆れつつ、千夜の勘違いを解いていこうとする。

 

「そんなわけないでしょう…そもそも、私と切歌は同い年なのよ?流石に無理があるでしょう」

「いいえ、ここは切歌ちゃんにとっては異世界。前の世界との流れも異なっているはずよ」

「もう、なに言ってるのか分からないわよ…。異世界なら尚更、姉妹ってことあるはずないじゃない」

 

呆れた表情を浮かべたシャロが一口アイスココアを口に含むと視界の端には少し垂れ目の黄緑色の瞳をまん丸にした切歌と眠たそうに半開きした黄緑色の瞳をまん丸にした歌兎がいた。

 

(もしかしてだけど…切歌と歌兎ちゃん、千夜の妄言を信じている…?)

 

そう危惧するシャロの考えは当たることになる。

 

「ななな…シャロさんがあたし達のお姉ちゃん?」

「…シャロお姉ちゃんが僕と姉様のお姉ちゃん?」

 

そう呟く暁姉妹を見て、シャロは唖然とする。

そして、二人がこんなことになってしまった主犯を文句の一つでもいってやろうと正面を見るが、そこはものけのからでシャロはキョロキョロと周りを見渡す。

すると、カウンターに腰掛けている白いカッターシャツに薄い緑のロングスカートを身に纏っている少女を見つけ、シャロの怒鳴り声がラビットハウスに響く。

 

「ちょっと千夜ぁ!!なにやっちゃってくれてるのよ!二人ともあなたのデタラメを信じきっちゃてるじゃない!!」

 

喚くシャロに千夜は舌を出してごめんなさいとジェスチャーする。

それを見て、苦虫を噛むような表情を浮かべるシャロの右手を両手でギュッと握るのが緑と黒の制服を着ていることから切歌だろう。

シャロがそちらを見ると垂れ目の黄緑色の瞳がキラキラと宝石のように輝いていた。その純粋な尊敬の眼差しを前にして、シャロが一歩後ろに下がる。

 

「シャロさ…いいえ、シャロお姉様!」

「お、おねさ?」

 

一歩下がったシャロの左手を両手でギュッと握るのは黄緑と黒の制服を着ていることから歌兎あろう。

歌兎も切歌と同じように眠たそうに開かれた黄緑色の瞳へと敬愛の色を多く含ませて、シャロを見つめる。

シャロはその敬愛の眼差しから逃げようとまた一歩後ろへと下がる。

 

「シャロ姉上様」

「あねうえさ?」

 

そんなシャロに二人は嬉し涙を浮かべると同時に抱きつく。

 

「「会いたかった「のデス」

 

二人している甘えたように抱きついてきて、シャロは苦笑いを浮かべる。

幾ら何でも信じすぎだろう。

シャロはこの二人の相手を疑わない純粋無垢さに慄き、同時に二人揃って悪い人に捕まらないか心配になるのだった。

その思考こそがまるでお姉ちゃんらしいとは知らずに。

 

「ちょっと待ちなさい二人共。流石にそれは信じすぎでしょう!そもそも私と切歌は同い年じゃない!

「…シャロお姉様はあたし達のお姉ちゃんじゃないんデスぅ…?」

「…そうなの、姉上様ぁ…?」

「ゔぅ…」

 

抱きついていた二人して泣きそうな瞳で上を向く。

まるで捨てられた子犬のような瞳にシャロは喉を詰められせるとギュッと目を瞑るとヤケになったように叫ぶ。

 

「分かったわよ!二人のお姉ちゃんって認めればいいんでしょう!!」

 

その後、シャロはじゃれつく二匹の子犬…切歌と歌兎の頭を優しく撫で続けていたのだった。




というわけで、暁三姉妹爆誕デスッ!
時折、このネタは挟んでいこうと思っているので…楽しみにしててください!!



また、今日から天神ビブレ(福岡)のキャラポップストアが開店されましたね!!
実を言うと行きたかったんですけど…色々立て込んでて、行けなかったんですよね…(微笑)
もしかしたら、この小説を読まれている読者の皆様は行かれた方はいらっしゃるかもしれませんね(笑)

なので、明日はその天神ビブレに行って、楽しみでこようと思います!!
第一目標は切ちゃんグッズの確保ッ!これはすごく重要です!!
第二目標は調ちゃんグッズの確保ッ!こちらも大事ですからね!
第三目標は翼さんとクリスちゃんグッズの確保ッ!この二人も好きですからね!

あとは、キーホルダーを奏者全員買えたらいいなぁ〜って思ってます。あと、手提げ鞄かなぁ…。しかし、マグカップやガラポンも当てたいなぁ…切ちゃんのカードケースとかバッチとか…(願望)

と、明日はもし可能なら更新した際にその成果をご報告するかもです!
では、ここまで読んでくださった方ありがとうございますm(_ _)m


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005 ご注文はお泊まりですか?

TAIHENッ!
OMATASESHIMASHITAッ!!

お待たせした上に、今回の話は三つに区切らせてもらって…割と簡単に書かせてもらってます。
なので、内容が読者の皆さんに伝わるといいのですが…(汗)

というわけで、本編をDOUZOッ!

※この話の何処かに珍しい事が起こります。
その珍しい事を見つける事ができた人は明日いいことがあるかもデス!

では、そちらの方も楽しみにしつつ、ゆっくりとご覧ください!


切歌と歌兎の二人が千夜の妄言(デタラメ)を信じきり、シャロを実の姉と認識してしまってから数時間後、すっかり茜雲が空を覆い始めるのを見たシャロは椅子から立ち上がると店を仕舞う為に掃除をしているチノ、ココア、リゼに習い、モップで床の掃除を始めていた切歌、歌兎へと声をかける。

 

「それじゃあ、私たちはもう帰ります。二人はちゃんとチノちゃんのいうことを聞くのよ」

「ふふふ、すっかりお姉ちゃんね。シャロちゃん」

「茶化すな!」

 

ぽこん、と千夜の頭を軽く叩いてからシャロは千夜と共にラビットハウスのドアへと向かう。

その後ろ姿を見て、寂しそうにしているのが言わずもがな、切歌と歌兎である。

 

「…お姉様、帰っちゃうんデスかぁ…?」

「…姉上様ぁ…」

 

遠のいていくシャロの背中を見つめながら、潤んでいく少し垂れ目と眠たそうに半開きした黄緑色の瞳からの視線を感じとり、シャロは顔を苦渋で歪める。

しかし、そんなシャロの顔に負けずに視線を送り続ける二人にシャロは後ろを振り返ると大きな声で叫ぶのだった。

 

「あぁ、もう!分かったわよ!二人とも私の家に来ればいいじゃない!そうしたら、いつまでも一緒に居られるでしょう!!」

 

半ヤケ気味に叫ぶシャロの言葉を聞いて、二人は顔を見合わせると嬉しそうにその幼さが残る輪郭を笑みで歪める。

 

「ん、泊まる!」

「デスデス!!」

 

モップを持ったまま、嬉しそうにその場に利き手をあげてぴょんぴょんと飛び跳ねる二人にシャロは片手を見せる。

 

「じゃあ、五分だけ待ってあげる。だから、着替えとか準備してきなさい」

「…ん、分かった」

「30秒で充分なのデス!行こう、歌兎」

 

モップをその場に放り投げ、切歌は歌兎の右手を握りしめると階段を駆け登る。

二人の姿がいなくなってから、シャロは二人が放り投げたモップを床から持ち上げるとチノ達の方へと持っていく。

 

「はい、これ」

「ありがとう、シャロちゃん」

「別にココアのためじゃないから」

 

そう言って、ココアに渡したところでバタバタと階段を降りてくる足音が聞こえ、続けて現れるのが緑色と花青緑色のリュックを背負った切歌と歌兎であって、二人はニッコリと笑うとシャロへと敬礼する。

 

「準備」

「…終わった」

「のデス!!」

 

何故か、ハイテンションな二人を見て、呆然としていたシャロがひたいを抑えると切歌へと声をかける。

 

「……そう、で…切歌はなんで歌兎ちゃんを抱っこしてるの?」

 

そう、中に着替えやその他諸々入っているであろう緑と花青緑のリュックを歌兎が大事そうに持ち、その歌兎を切歌が背負っているのだ。

一体何があれば、そうなるのだろうか?

シャロが呆れながら聞く中、切歌は自信満々に胸を張ると当たり前のようにそれを答えるのだった。

 

「それはもちろん!歌兎が階段から足を踏み外さないようにデスよ!もし階段で転んだりしたら危ないデスからね」

「そう…」

 

(確かにこれは過保護ね)

 

時々、リゼと帰り道を共にする時に聞こえてくる"切歌の過保護"がここまで酷いものとは思わなかった。

シャロはひとまず、切歌から歌兎を降ろすと歌兎の手を握るともう一度、チノ・ココア・リゼへと頭を下げるとドアに向かって歩いていく。

 

「それじゃあ行くわよ、二人とも」

「はーいデス。リゼさん、ココアさん、チノちゃん。お疲れ様デス」

「…また、明日お願いします」

「あぁ、お疲れ様」

「お疲れ様〜。切歌ちゃん、歌兎ちゃん」

「お疲れ様です、お二人共」

三人にぺこり、と頭を下げた切歌・歌兎がドアから外へと出ていくと残された三人に妙な沈黙が降りてきて、気まずくさを感じてきた頃

 

がちゃん

 

とドアが開く音が聞こえ、人一人顔を出せるくらいに開いたドアの隙間からひょこっと顔を出すのが、さっきシャロと切歌に両手を繋がれ、この店を後にした歌兎であった。

 

「あれ?歌兎、どうしーー」

 

眠たそうに開かれた黄緑色の瞳を忙しなくキョロキョロと動かす歌兎にリゼが問いかける。

そんなリゼのセリフを遮った歌兎は小さく息を吸い込み、ぎゅっと唇を噛む。

 

「ーーこれだけは言っておかないとって思ったから…」

「「「?」」」

 

三人が首を傾げる中、歌兎はもう一度空気を吸い込み、チラッとチノの方を見ると蚊が鳴くような声で呟く。

 

「………おやすみなさい、チノ」

 

チノの方をジィーーと見つめたまま、頬から耳にかけてを真っ赤に染める歌兎にチノも同じように頬を染めながら、返事をする。

 

「はい、おやすみなさい。歌兎さ…歌兎」

 

チノの返事を聞いた歌兎は淡く微笑むとぱたぱたとチノに向かって右手を振り、目が合ったココアとリザにもう一度頭を下げると姉達の後を追うのだった…

 

 

 

ⅰ.

 

切歌と歌兎を家に招いたシャロは困っていた。

その理由はこの二人が喜びそうな晩御飯が材料的に作らない事だった。

 

(さーて、どうしたものかしら…)

 

冷蔵庫を見つめたまま、晩御飯の献立を立てるシャロの耳に届くのは、リビングではしゃぐ暁姉妹の笑い声である。

 

「…わぁー、このうさちゃん、もふもふっ」

「歌兎、見て見てください。このうささん、葉っぱ咥えてるデスよ!」

「…本当だ、じゃあ君はワイルドうさちゃんだね」

「デスね!」

 

という話し声から恐らく、部屋に入ってきたワイルドギースを二人が見つけて、ワイルドギースを抱っこする歌兎を切歌が抱っこしているって感じだろうか。

この短期間でここまで具体的に状況が浮かぶということは、シャロも切歌の過保護節が痛いほど感じ取っているということだろう。

 

「…ぁっ…」

「…逃げちゃったデスね…」

 

二人が残念そうな声を漏らす中、シャロは冷蔵庫から材料を取り出すと早速、晩御飯を作り始めるのだった…

 

 

 

ⅱ.

 

作り終えた料理を切歌と歌兎に手伝ってもらって、盛り付けたシャロはリビングにあるこじんまりした机を囲んで、料理を口に含む。

 

しゃきしゃき

 

と白く細長いものを噛み砕くたびに広がる食感に歌兎は左隣に腰掛け、静かに食べるシャロへと声をかける。

 

「…姉上様、これってもやし様?」

「様?」

 

確かに、目の前に広がる料理にはふんだんにもやしを使用しているが…何故、歌兎はもやしの事を様づけしているのだろうか?

首を傾げるシャロの左隣にいた切歌がその垂れ目を大きく見開く。

 

「あぁ、何処かで食べた事がある食感だと思ったら、もやし様でしたか!お久しぶりデス、もやし様」

「…もやし様のおかげで、僕らはここまで大きなったんだよ」

 

それぞれ、大事そうに箸で一本のもやしを味噌汁から摘まみ取り、恭しく頭を下げる切歌と歌兎。

 

「こら、やめなさい!二人共。食べ物を粗末にするじゃないの!」

 

シャロが二人の箸を下ろそうとするもすかさず、切歌が抵抗する。

 

「これは粗末にしてるんじゃないんデス!」

「…あの頃、お世話になったもやし様との再会を噛みしめている」

「意味が分からないわよ…」

 

普段は、シャロのいうことや周りのいう事を素直に聞く歌兎もこのもやし様との邂逅の時間だけは邪魔されたくなったらしい。

眠たそうな瞳を不機嫌そうに細めながら、シャロを睨む歌兎や切歌の突然の奇行に頭を抱えるシャロ。

 

しかし、それくらいで二人の奇行は止まらず、エスカレートしていくのだった。

箸でつまむ事さえも拝ましいと思い始めたのか、二人はもやし…いいや、もやし様を両手に乗せると天に向かって持ち上げると深々と頭を下げる。

 

「…もやし。それは最早僕らの命の恩人とも言える白いお方。…そう、あのお方で僕らは出来ている」

「もやし。それはあたし達のお財布が絶唱をしてしまっても何処からか現れて、S2CAであたしと調を救ってくれたあの時の響さんのように、もやし様はあたし達のお財布を忽ちにエクスドライブさせてくれるのデス」

「意味がわからないけど、取り敢えずその響さんって子には謝るべきだと思うわよ、私。あのもやしと同じ扱いなんてあまりにも不憫すぎるわ…と、それよりも歌兎ちゃんのさっきのセリフは何?もやしで出来てるって」

「…もやし、と呼び捨てするのも拝ましい程にお世話になったあの方。あの白くて凛と天に向かって伸びるあの姿に僕らは勇気付けられ、あのシャキシャキとした食感に明日を生きていく為の(かて)を貰った」

「デスデス。あの三文字を耳にしたり口にする度につい様って付けないと身体がむず痒くなっちゃうデス」

「そこまでなの!?そこまでもやしを崇めてちゃってるの!あなた達!!?」

 

突然始まった語りに果敢に突っ込むシャロはほっておいて、暁姉妹は心ゆくまでもやし様と感動の再会を堪能するともやし様とのエピソードを話しつつ、シャロが作ってくれた料理を口に含んであったのだった……




今回もしょーもない話となりましたが…次回から割とちゃんとした話になる予定です。
回想回とかも含めるので、皆さんも見たことあるシーンも登場すると思いますッ!

と、今週の木曜日は響ちゃんの誕生日と切ちゃんの中の人こと茅さんの誕生日デスね〜♪
折角なので、この二人…響ちゃんと切ちゃんが絡む話でも書こうかなぁ〜…と思ってみたりするのですが、間に合うかなぁ…(苦笑)
間に合わなければ、また翌日書かせてもらうかもです。

また、こちらもしてみたいなぁ〜と思っていることなんですが、ごちうさとのコラボが終わった後に他の作品ともコラボしてみたいなぁ〜と考えております。
私のただの願望なので…実行しないかもですが…、実行出来るように本編の方も進められたらと思います(土下座)


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006 ご注文はお風呂ですか?

お久しぶりです(土下座)

昨日シンフォギアラジオ40回と金子さんのツイッターを聴き見てきました。

あぁ…、これはクリスちゃん、XVで『ダジャレを学ぶ旅』行っちゃうのかなぁ…(遠い目)

もし、行くのだとしたら…翼さんも行くのかなぁ…?
シンフォギアライブで、『私たちは運命共同体』と言ってましたし…(苦笑)


と、話が逸れたが今回の話はほのぼのした話となっています。
ほのぼのとした癒しを読者の皆さんへと提供できればと思っております(礼)

では、ご注文はお風呂ですか?開演デェース!!

*今回は久しぶりに歌兎だけの視線となっております。


「悪いわね、千夜」

「いいのいいの、一人で入るよりもみんなで入った方がきっと楽しいわ」

 

姉上様が千夜お姉ちゃんにお風呂を借りて欲しいと頼んで、許可をもらってから数分後。

お礼を述べる姉上様に右手を頬を添えて、心なしが嬉しそうに微笑む千夜お姉ちゃんの後ろに続くのが、僕と姉様となっている。

姉様は自分と僕の着替えを小脇に抱えると僕を率いて、我先にと千夜お姉ちゃんが案内してくれた脱服室に続く、半透明なガラスの扉を勢いよく開けた姉様にすかざす、姉上様の「こら!行儀が悪いでしょう!」という注意が飛ぶが、もう姉様の垂れ目な黄緑色の瞳には目の前に広がる脱服室の広さとそこから続く僅かに見える和風な造りのお風呂場に夢中な様子だった。

 

「ふわぁあああ!!!千夜さんの家のお風呂、広いのでデスっ!!まるで温泉みたいデェース!」

 

と言い、僕をも小脇に抱えて、そのお風呂場に向かって駆け出しそうになる姉様の黒いパーカーをむぎゅ、と掴んだのはどうやら姉上様のようだ。

 

「だから、言った矢先から走りだそうとしないの。それ以前に服を脱がないとお風呂に入らないでしょうが」

「ぐえ」

 

(あっ、さっき姉様から乙女らしからぬ声が聞こえたような…)

 

チラッと上を見れば、見事に緑色のゆったりしたTシャツが首にめり込んでいる。

しかもあそこは喉仏辺りではないだろうか?

 

(あ、あれは苦しいよ…)

 

僕と着替えによって、両手を塞がれており、空いた手で首にめり込んでいる服を引っ張ることができないのだろう。そんな事を考えている間に姉様の顔がだんだん青白くなっていってる。

 

(これは本格的にやばい)

 

そう思った僕は姉上様へと声をかける。

 

「…姉上様、姉様の首にTシャツがめり込んでる」

「へ?」

 

きょとんとした様子の姉上様に僕は視線で姉様の方を見ると、姉上様はパッと掴んでいた手を離す。

 

「ごごめんなさい、切歌」

「ぃぃ…の、デス…ょ…」

 

流石に僕を下ろし、首をさすりながら姉様が謝る姉上様に気にしなくていいといっている。青白かった顔へとだんだん赤みが戻る。

 

「ふぅ…」

 

大きく息を吸い込んだ姉様は僕を引きつけると僕の服へと手をかける。

そんな僕たちの近くには姉上様と千夜お姉ちゃんがいて、こちらも服へと手をかけると脱いで、近くにある籠へと入れる。

 

「はい、歌兎。ばんざいデス」

「…ん」

 

腰をおり、僕の目線に立ち、慣れた手つきで白いパーカーを肩からズラし、ストンと落ちたパーカーを籠に入れ、今度は花青緑色のTシャツを持ち上げて、脱がせると姉様が僕の胸元を見て、目を丸くしている。

 

「おぉ…歌兎、身長と同じようにこっちも成長期デスね」

「…そう、かな?」

「デスデス、常に歌兎を些細な変化も見逃さないようにこの目と両手に覚えこませている『お姉ちゃんによる愛する歌兎成長期日記』を信じてください!」

 

へ?お姉ちゃんによる愛する歌兎成長期日記ってなに?

 

初耳だよ?僕?

もしかして、最近よくスキンシップしてくるなぁ〜って思うのはそういう事をやってるから?スキンシップが激しい時があるのはそういう事なの?そういう事だからなの?姉様。

 

(もう、うちの姉様かなりヤバイところまで来てるんじゃあ…)

 

もしかしなくても、一般的には充分悪いところまで来ているのだが、僕や姉様がそれに気づくとかはないだろう。それだけ僕と姉様は共依存してるのだから。

 

そんな事を考えていると、姉様が突然顔を覆い泣き出した。

 

「ゔぅ…ぅ…っ」

「ね、姉様…?」

 

ガチ泣きされてるんだけど、姉様が。

 

(こ、困った…)

 

まるで万華鏡のように目まぐるしく変わる姉様の表情やオーバーリアクションは見ていて飽きないものがあるが、そこまで両極端だと反応に困る。

 

「あんなに小さかった歌兎がこんなにも大きくなって、いつしかあたしのことを『姉様なんてウザい』とか『姉様なんて嫌い』とか言って、反抗期になってあたしを遠ざけるようになり、最終的にはあたしの手の届かないとこに行ったり遊びに行ったり友達を作ったりして、どこの馬とも知らぬ男に恋をして、その男と身体を重ねるんでしょうね………許さない、ユルサナイのデス…もし、そんな事になってしまった場合は相手は速やかに闇に葬らないと…。あたしの歌兎に手を出したのが悪いんデス…万死に値するのデス…万死、そう万死デス。マストダーイだけじゃなくて、木っ端微塵にもしてやるデス…っ、跡形も残さないのデスよ…」

 

泣いていた黄緑の瞳が忙しなくくぐもっていき、光も失っていく上に口元へと僅かな笑みを浮かべる。

 

(怖い怖い怖い、怖い!!)

 

呟かれるセリフもアレだけど、言ってる時の顔もアレだよ、姉様。

 

「ーー」

 

どうやら、この世界に来た時に僕が嫉妬に任せて言ってしまった『姉様なんて嫌い』というセリフがあまりにも衝撃的だったらしい。もっというと、『姉様なんて嫌い』は姉様が来てからは毎日とは言わないが、一週間に1、2回は言っていた気がする。

だから、姉様の心がここまで歪んでしまったのは僕のせいということに…

 

(今度からは発見には気をつけよう…)

 

そう心に決め、すでに危ない顔をしている姉様をどうにかしないと声をかけようとした時だった。

 

「大袈裟よ、切歌」

「あだ」

 

ぽすん、と手刀を姉様の頭へと落とした姉上様は呆れたように溜息をつく。

 

「いいから早く服を脱ぎなさい。私たちは先に入ってくるから、あなた達も早く来なさいね」

 

最後は穏やかにそう言った姉上様は千夜お姉ちゃんと共にお風呂場へと入っていく。

残された僕と姉様はというとーー

 

「…早く脱いで、行きましょうか?歌兎」

「…ん」

 

 

 

ⅰ.

 

姉様に身体と髪の毛を洗ってもらい、僕もお返しに姉様の髪の毛と背中を洗うと四人並んで湯船に浸かる。

 

「…ふぅ…、いい湯なのデス…」

「…ん」

「やっぱり、四人となると狭いわね」

「そうね」

 

並び順は右から姉様、僕、姉上様、千夜お姉ちゃんという並びで僕は横で気持ちよさそうに背伸びする姉様と左端にいる千夜お姉ちゃんの湯船に浮かんでいるそれを交互に見るとさっき成長期と言われた胸元へと視線を落とす。

 

じぃーーーー。キョロキョロ、じぃーーーーー。すぅ……ガクっ

 

(やっぱり、大きいなぁ…姉様も千夜お姉ちゃんも)

 

千夜お姉ちゃんは言わずもがな、姉様のも湯船に浮かんでいて、さっき背伸びをしていたので僅かに上下に揺れている気がする。

そして、スゥーと横を見ると同じように姉様と千夜お姉ちゃんの一部を交互に見ている姉上様の姿があって、僕はコソッと姉上様に聞く。

 

「…ねぇ、姉上様」

「なに?歌兎ちゃん」

「…どうしたら、あんなに大きくなれるのかな?」

 

純粋な質問は時に人を傷つける、それも悪意がないほどに。

 

「それを私に聞くの?歌兎ちゃん」

 

そういう姉上様の胸元を見つめ、僕は顔を僅かに曇らせると

 

「…ごめんなさい」

「やめて!謝れると更に虚しくなるでしょう!」

「…ごめんなさい、姉上様。僕、どんな姉上様でも大好きだよ」

「だから、やめなさいって言ってるでしょう!!」

 

そんなシャロの悲鳴が風呂場に響く中、穏やかに時は過ぎて、僕たち三人は千夜お姉ちゃんの部屋に泊まることになり、思い出話に花を咲かせたのだった……

 




というわけで、千夜ちゃんのお風呂場を借りに行った暁三姉妹の話でしたが…どうだったでしょうか?
ほのぼのと出来たのならば嬉しいです(笑)


と、随分遅くなった上に今更感が半端ないんですが…

なんと!!うちにメカニカル切ちゃんをお迎えすることができました!!
もうぉ〜、感激デス!!
可愛すぎるでしょう!!特にモーションが!!モーションが可愛すぎて…つらい、私は萌え死そうですよ…。
腰を折って、前のめりで左手をパタパタ振るとか……もう、いかんいかんこれはいかんですよ!!(あまりの可愛さにジタバタする私)

そんな切ちゃんと違い、メカニカル調ちゃんはクールなモーションとなっているんですね〜♪
左手を腰に当てて、右手を下に下ろしている調ちゃんはかなり新鮮なように思えます。
しかし、固定技でピョーンと飛んで攻撃するところとか、右手を胸に当たるモーションとか可愛いところもあり…こちらもイベント同様、大満足でした!!


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007 ご注文は呼び捨てですか?

こんばんわー、どうも律乃デス!

久しぶりの続けての更新ですが…この話は前の話の答え合わせとなっております。
さて、前の回にて皆さんは珍しい事を見つけることができたのでしょうか?そして、その珍しい事はあっているのでしょうか?

それでは…本編をどうぞ!

※毎度のことながら、読みにくいかもです…(ぺこり)


「お姉様、スポンジどこデス?」

 

流し台に置いてある食器やお椀に僅かに残る汚れを水で流しながら、切歌はキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「スポンジならそこね」

「…ありがとうデース」

「どういたしまして」

 

切歌に問われたシャロは流し台の近くに置かれている小物入れからスポンジを取り出すと切歌へと差し出す。

それを受け取った切歌がお礼を言う中、とてとてと両手に盛りつけ皿を持った歌兎が歩いてくる。

 

「…姉上様、お皿持ってきた」

「ありがとう、歌兎ちゃん」

「…へへ」

 

歌兎から皿を受け取ったシャロがさりげなく頭を撫でる中、ぷくーっと頬を膨らませている者が一人。

 

「…お姉様も歌兎もばっかりずるいのデス」

 

成長すればきっと美人になるであろう整った顔立ちの原型をとどめてない程に膨らむ切歌の頬を見て、シャロは小さくため息をつくと

 

「切歌もお皿洗いありがとうね」

「はいデス!」

 

なでりなでり、とシャロに明るめの金髪を撫でられながら、切歌は嬉しそうに顔を綻ばせる。

その笑顔を見て、思わず可愛いわね…と思ってしまったシャロはもうすっかり二人のお姉ちゃんであろう。

 

しかし、そんなほっこりした話で終わることがないこの二人のお泊まりはやはり切歌の日頃の行いが悪いからなのであろうか?いいや、恐らく常に波乱の道を歩いてきた暁姉妹だからこそだろう…そして、その暁姉妹に加わってしまったシャロもその波乱から逃れることはできないだろう。

 

「…姉上様、お風呂の湯出ない」

「へ!?うそっ!?」

 

一人、お風呂の湯をためようとお風呂場に行っていた歌兎が戻り、そう言うとシャロが血相を変えて、蛇口をひねるが全くもって湯が出る様子はない。

 

「…はぁ、困ったわね…。いつも通っている銭湯は今日は運悪く定休日だったと思うし…これは千夜にお風呂借りるしかないわね」

 

頭を抱えたシャロは切歌がお皿を洗い終えるのを待って、隣の《甘兎庵》へと向かうのであった……

 

 

 

 

ⅰ.

 

「え、えっと…ココアさん…?リゼさん…?どうして、私を見たまま黙ってるんですか?」

 

チノはコーヒーカップをふきんで拭きながら、自分を見つめたまま黙ったままのココア・リゼを見て、困惑している。

 

「びっくりするよ!!だって、歌兎ちゃんとチノちゃん、お互いを呼び捨てにしてたんだもの!」

「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」

 

興奮が冷めらないのか、前のめりで問い詰めてくるココアと純粋に疑問なのか、リゼも僅かながらに前のめりになって問いかける中、チノが言いにくそうにその訳を話すのであった。

 

「実は…」

 

それは珍しくチノが忘れ物をした時のことだった。

取りに帰ろうか、隣の席の人に借りようかで迷っているチノの耳へと聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

『…チ…!…て』

 

振り返るチノが見たのは、チノが忘れた数学の教科書を持って走ってくる腰の辺りまで伸びている水色の入った銀髪を風に遊ばせ、悪魔を象った半袖パーカーを揺らしながら、華奢な足を懸命に動かしているチノの家に実の姉と暮らしている少女で、チノの目の前に止まった少女…歌兎は肩で息をしながら、チノへと数学の教科書を差し出す。

 

『はぁ…はぁ…、良かった…。間に合って…』

『ごめんなさい、歌兎さん』

『…いいよ。僕と姉様はチノお姉ちゃん達の家に居候させてもらってるんだから』

 

淡く微笑み、そう言った歌兎はチノと並んでいる二つの人影に気付く。

歌兎の視線に気づいたのか、チノと並んでいる二つの人影…マヤ、メグの方へと手を向けたチノが二人を紹介する。

そして、紹介された歌兎も自己紹介をして、そこで話が終わるものだと思っていた。

 

だがしかし、マヤの何気無い一言がいつまでも歌兎の心に残ってしまうのだった。

 

『そういえばさ、なんで歌兎って私達のことを"お姉ちゃん"って言うんだ?』

 

腕を後ろに組み、八重歯をのぞかせながらそう問うマヤに歌兎は右手の人差し指と親指を顎に添えて、暫し考えた後

 

『…んー、癖だと思う。僕は産まれた時から周りは年上ばかりだったから』

『ふーん、ならこれからは私らが同い年だからお姉ちゃんつけなくても良くなるな』

 

ニコッと笑うマヤに歌兎は顔を固くしたところで、チノの回想は終わり

 

「というわけで、歌兎さんは頑張って、私とマヤさん、メグちゃんを呼び捨てにする為に密かに二人で特訓してたんです」

 

チノが言う特訓というのが、歌兎が戻ってきて言った『おやすみ、チノ』というものだろう。

確かに、恥ずかしがり屋である歌兎やチノにはそういうちょっとした事から慣れていくのが一番いいかもしれない。

 

「じゃあ、チノちゃん。私のこともお姉ちゃんってーー」

「ーーココアさんはココアさんですよ」

 

ココアのセリフを遮り、そう言うチノにココアがいつものようなリアクションを取って、ラビットハウスでの一波乱が終わりを迎えたのであった……




というわけで、マヤちゃんの一言で歌兎がチマメ隊の名前を呼び捨てする為に毎晩、チノちゃんのへと『…おやすみ、チノ』と練習する歌兎の話でしたが…次回は、千夜ちゃんの風呂場を借りに行った暁姉妹三姉妹の話となると思います。



と余談なんですが…今回のイベントが可愛すぎてつらい…。
切ちゃんが可愛いのは痛いほど分かるのですが、切ちゃんロボと調ちゃんロボの可愛さたるや…それに、昔の自分を象ったロボに鬼神の形相となるマリアさんが面白すぎるっ!私、今回のイベントのマリアさん好きですよ!

さて、後半戦はどんな話となるのか…楽しみに待っていようと思います!

そして、まだロボギアの切ちゃんをお迎え出来てないです……。
しかし、新しいアイコン…白衣を着た切ちゃんが調ちゃんロボを頭に乗せているものをゲット出来たので、嬉しいのですが…やはり、ロボ切ちゃんが欲しいなぁ…(切望)


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008 ご注文はおつかいですか?

お久しぶりです(土下座)

また、すごく今更感ありますが…『ご注文はうさぎですか??キャラクターソロシリーズ』ココアちゃん・シャロちゃん・モカさん・青山ブルーマウンテンさんの四人のCD発売、大変おめでとうございます!!
思えば、モカさんの曲の発売日にこの小説も二年目へと突入し、更新速度も少しずつですが上昇すればと思っていますが…なかなかなんですよね、忙しくて(汗)

また、『ご注文はうさぎですか?』も新たに2019年に新作OVA、2020年に三期決定と嬉しい事尽くめな情報が多く…心がドキドキするのと、公式サイトにて描かれているみんな自身のカラーをしたひし形が描かれたセーターとベレー帽をちょこんと被ったみんなの可愛さたるや……あぁ〜、心がぴょんぴょんするじゃ〜

と、話が壮大に逸れてしまいましたが…今回の話で注目して欲しいのは歌兎とチノちゃんの絡みだったりします。二人の可愛さが伝わるように書ければと思うので、どうかよろしくお願いします。

では、本編をどうぞ!!

*この話は歌兎視点で、回想となっています。
なので、チノちゃんの事を『チノ』で統一していこうと思います。しかし、会話文は『チノお姉ちゃん』です。


僕の純粋な質問が姉上様の心を抉ってしまってから数分後、僕は姉様がこの世界に来てから何処からか入手したもふもふのうさ耳がついたパジャマを姉様に着せてもらい、今はその姉様の膝の上にちょこんと座り、僕たち用の布団を引いてくれている姉上様と千夜お姉ちゃんを見ている。

何故手伝わないのか?と思う人がいると思うけど…僕と姉様も手伝おうとしたのだけど、千夜お姉ちゃんと姉上様によって手伝わなくていいと強く言われてしまったかつ千夜お姉ちゃんに姉上様が長女としてやってあげたいと言っていたと言わられてしまったらもう何も言えなくなってしまう。

 

というわけで、せっせと布団を引いてくれている姉上様の前で僕ら年少チームは畳に座り、姉様に至っては僕を後ろから抱きしめて、自分の頬を僕の頬へと擦り付けていた。

 

「あぁ〜、歌兎がもこもそのもふもふで抱き心地が気持ちいいのデス〜」

 

それは僕じゃなくてこのパジャマの性能が高いのでは?という意見は姉様の心を傷つけしまうと思い、グッと飲み込み、なすがままになっている僕と姉様の頭を撫でるのは今方布団を引き終えた姉上様だったりする。

 

「さて、引き終えたから寝るわよ、あなた達」

「…はい」「デース」

 

そして、その後どの布団に誰が寝てるかという話になり、姉様の「あたしと歌兎はお姉様と千夜お姉ちゃんの間デース!!」というセリフから僕と姉様は真ん中、そして姉様の隣が千夜お姉ちゃんで僕の隣が姉上様ということになった。

それぞれ、決まった布団に寝転がり、あとは寝るだけとなった時に千夜お姉ちゃんが不思議そうな顔をして、僕と姉様の携帯端末に着いてあるキーホルダーを見ている。それに気づいたのか、姉様が千夜お姉ちゃんに聞いている。因みに姉様のパジャマは緑のタンクトップに黄色いふわふわした短パンとかなりな露出度をほこっている。千夜お姉ちゃんは薄黄緑色の緩やかなワンピースだし、姉上様はダボっとしたTシャツに黄色いゴム入りの短パンとかなりラフな格好だが姉様に比べるとそこまでではない。

 

(ん、やっぱりうちの姉様はすごい)

 

身動きするたびに緑色のタンクトップに包まれた双丘が揺れ、姉上様が渋い顔をされるが敢えてそこはスルーとしよう。僕は失敗から学ぶ子だからね、人が触れてほしくないことには触れないに限る。

それより、何故千夜お姉ちゃんが僕と姉様のキーホルダーに興味を持ったのかが知りたい。

 

「千夜さん、あたし達のキーホルダーに興味があるんデスか?」

「えぇ、そのキーホルダーって手作りだったりする?」

「……」

 

千夜お姉ちゃんの質問に固まる姉様。

 

「あぁ、もしかして間違えていたのならいいのよ。私の見間違いかもしれないから」

 

そして、慌てる千夜お姉ちゃんの肩へと思いっきり両手を置いた姉様が心底驚いたように口を開く。

 

「千夜さん、あなたは天才デスか!何故、このキーホルダーが歌兎の手作りだと思ったデスか!」

「えっと、市販に比べては縫い目が少し荒いかなぁ〜って思って…」

「流石、お姉様の幼馴染さんデス!これからお師匠と呼んでもいいデスか?」

「えぇ、良いわよ。一人前に私がしてあげる」

「ありがとうございますデーー」

「ーーやめんかい!」「あだ」「いた」

 

真剣に千夜お姉ちゃんを尊敬する姉様、そんな姉様のキラキラした視線に心をよくしたのか悪ノリへと走りつつある千夜お姉ちゃんの暴走を未然に防いでくれたのは今まで傍観者を決め込んでいた姉上様だった。

ぽかぽかと姉様と千夜お姉ちゃんの頭をリズミカルに叩いた姉上様は呆れたように千夜お姉ちゃんを見る。

 

「全く…あまりうちの妹をいじめないでくれる?」

「まあ、あんなに渋っていたのに…もう、すっかりいいお姉ちゃんね、シャロちゃん」

「別に良いでしょう!!」

 

千夜お姉ちゃんのからかいに顔を赤くして抗議した姉上様は僕を見ると尋ねてくる。

 

「それよりも切歌がそのキーホルダーが歌兎ちゃんの手作りだと言ってるけど本当なの?」

「…ん、本当。僕のこの姉様の形をしたキーホルダーはお誕生日にお返しにもらった」

 

そういって、僕の端末についている姉様の形をしたキーホルダーを見せる。それを手に取り、眺める姉上様は感心したように姉様を見る。

 

「確かに縫い目が荒いわね。それにしてもこれを切歌が作ったの?しっかり作れてるじゃない」

「えへへ〜、あたしもやるときはやるのデス」

 

姉上様に褒めれたのが嬉しかったのか、頬を染めて照れている姉様を見ながら、僕はこんなやり取りをしたあの日のことを思い出していた。

 

 

 

ⅰ.

 

そう、それはまだモカお姉ちゃんがラビットハウスに暮らしていた時のことであった。

 

「いいデスよ、それは歌兎のデス」

「…ううん、やっぱり緑色は姉様の色だよ」

「ここは違う世界なんですから、そういうのは関係ないデスよ」

「…ダメ、姉様といえばイガリマと緑が似合うと相場が決まってる」

「いやいや、あたしだって他の世界では違うギアを……って、今はそういう話じゃなくてデスね」

「…姉様が緑の制服着てくれるまで僕はここを一歩も動かない」

「えぇえええ!!?なんで、そんな妙なところで頑固なんデスか、歌兎…」

「ぷく…」

「へ?もしかして、話も聞いてくれないって感じデスか!?」

 

そういって、姉様は僕が渡そうとする緑色の制服を受け取ろうとしてくれなく、僕もこればかりは譲るわけにはいかないと僕はその場に立ち、頬を膨らませる。

そんな僕の様子に困ったように頭をかく姉様を今まで見ていたモカお姉ちゃんがパチンと手を叩くと僕たちに近づいてくる。

 

「じゃあ、歌兎の制服を切歌ちゃんが手作りで縫うっていうのはどうかしら?」

 

モカお姉ちゃんの提案に反論する姉様と僕にモカお姉ちゃんはにこにことした笑みを崩すことなく、姉様へと更にとある提案を持ちかける。

 

「なんの解決にもなってないデスよ、モカさん」

「ぷく…」

「いいえ、よく考えて見て、切歌ちゃん。歌兎ちゃんの制服を手作り出来るということは自分の趣味も加えられるってことよ。切歌ちゃんも出ることなら可愛い歌兎ちゃんを見たいでしょう?」

「可愛い…歌兎…」

 

ごくんと喉を鳴らす姉様にモカお姉ちゃんはもう一息と押してくる。

 

「そう可愛い歌兎ちゃん、私も見たいなって思って」

「やるのデス!可愛くてみんなが仰天天外するような歌兎の制服を作るデス!!」

「…あ、あの…あまり原型から逸れるものは…」

 

気合い十分な姉様に弱々しく原型をとどめて欲しいと願うチノの言葉は当然、姉様の耳には届いていない。ブツブツ呟かれる言葉から想像する制服は本来の制服の原型は既に失われていた。

 

(これはそこはかとなくフォローしないとラビットハウスのお姉ちゃん達やタカヒロ様に迷惑かかるな…)

 

そんな事をそっと思っている僕にモカお姉ちゃんは近づくと腰を折って笑いかけてくる。

 

「というわけだけどいいかな?歌兎ちゃん」

「…ん、姉様がそれでいいなら僕からいうことはないよ」

「そっか。なら、早速だけどお使い頼まれてもいいかな?」

「…ん、いいよ」

 

即答する僕の頭を「いい子です」と撫でたモカお姉ちゃんから頼まれたのは僕の制服を作る前に必要となる布で、心配してついて来ようとする姉様はリゼお姉ちゃんにラビットハウスでの接客などを教えてもらうために残ってもらう必要があり、姉様の代わりに僕の買い物の相手として白羽の矢が立ったのがチノだった。

 

 

 

 

ⅱ.

 

「歌兎さんとこうして二人で街を歩くのは初めてですね」

「…ん、そうだね」

 

そよぐ風に水色が入った銀髪を遊ばせながら、肩を並べて歩く。

そして感じるチノからの視線に僕は横を見ると眉をひそめる。

 

「…どうしたの?チノお姉ちゃん」

「その…歌兎さんのパーカーから覗くそのキーホルダーって手作りなんですか?」

 

遠慮がちに聞くチノに僕は淡く微笑むと答える。

 

「…ん、僕の姉様と大切な人たちから誕生日に貰ったんだ」

 

そう言って、端末をポケットから取り出すとチノに見えるように持ち上げる。

そこには姉様の形を用いた小さなぬいぐるみやシラねぇ、セレねぇ、マリねぇだけでなく、響お姉ちゃんや翼お姉ちゃん、クリスお姉ちゃんを用いた小さなぬいぐるみが左右に揺れている。

 

「大切にしてるんですね、あまり汚れてないです」

 

左右に揺れるミニ姉様達を見ながら微笑むチノに僕はこくんとうなづく。

 

「…ん、姉様はもちろん大好きだけど…他のお姉ちゃん達も大好きだから。もちろん、チノお姉ちゃん達も好きだよ」

「…そ、そうですか…あり、がとうござい、ます…」

 

何故か頬を染めて、横を向くチノに眉をひそめる僕の前を野うさぎが通るのであった……




どうだったでしょうか?
二人のこのおつかいはもう暫し続くと思います。その間に少しでもキュンキュン出来る出来事を加えられればと思います(笑)


と、今やってる戦国ギアですが…私の趣味どストレートなんですよね(キラキラ)
マリアさんの必殺技がかっこいいのは言わずもがな…なんですが、必殺技といえば翼さんの方がずるいんですよねっ!『常在戦場』と書かれた旗が迫ってくるんですよ?私だったら、翼さんに切られる前に笑い死んでるかと(笑)

また、新たに始まる『機械仕掛けの奇跡』にて現れる新たなオリジナルキャラクターの『シャロン』ちゃんですが…いかんですね、この子。
大きめのパーカーに大人しそうな外見…私のどストレートです!!
和服も好きなんですが、パーカーとかラフな格好も私好物なので…果たして、この子がどのようにストーリーに関わっていくのか?楽しみにしてます!(ワクワク)


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009 ご注文はもふもふなウサギとトンデモ可愛い妹たち、どっちですか?

本編とクロスオーバーのUAを見て、思った事は…皆さん、本編よりもこっち(クロスオーバー)の方が見たいのかなぁ〜って事です(笑)

本編はそこそこに、クロスオーバー中心に更新していこうかなぁ…まだ、決めかねてない展開も本編であるので…ということで、再来週はクロスオーバーの方が更新が多めとなると思います!!

と、お久しぶりとなる今回は…歌兎とチノちゃんがモカさんに頼まれて、新しい制服を作るための布を買いに向かうとこですね(笑)

今回は出来る限り二人の可愛さをつめのんでみました!!二人の冒険模様、ぜひご覧ください…では、本編をどうぞ!!


「あっ、子うさぎです…」

「…ん?」

 

チノと姉様達特製の手作り携帯ストラップの話をしている最中、僕らの足元を通り過ぎるお尻の辺りに黒い縞模様がある子ウサギが何かに引き寄せられるように、立ち止まると僕の方をちらりと見上げて、ぴょんぴょんと僕の足元へと舞い戻ってくる。

スリスリともふもふと触り心地のいい毛並みを擦り付ける子ウサギを腰を折って抱き上げた僕は赤子を抱くように子ウサギを抱き直すと淡く微笑み、問いかける。

 

「…おいで。君は迷子なの?ママやパパは?」

 

くんくん、とピンクの鼻をひくつかせる子ウサギの頭を撫でながら、僕はチノの方を向く。

すると、チノは驚いたような顔をしながら僕と子ウサギを交互に見つめて、やがてそわそわと落ち着かなくなる。

 

「…触ってみる?この子は毛並みが細くて柔らかいからいいもふもふだよ」

 

持ち上げては下がる小さな手、チラチラと好奇心が入り混じった眼差しが子ウサギに向けられているのを知った僕はチノが子ウサギを触りたいのだと思って、そう提案する。だが、チノは力なく首を横に振る。

 

「私、ティッピー以外のウサギに懐かれないんです。私が触ろうとしたら、みんな逃げていってしまうんです」

 

そう言って、悲しそうな表情をした後で上げたようとした右手を下ろすので、僕はその右手首を掴むとやや強引に子ウサギへと触れさせる。

 

「う、歌兎さん!?」

 

驚くチノの右手の甲へと自分の右手を添えて、チノの手を動かすとチノの水色が入った銀色の瞳がみるみるうちに丸くなる。

 

「…ほら、この子もふもふ気持ちいいでしょう?」

 

そう問いかける僕にさわさわと子ウサギに触れながら、年相応の可愛らしい笑顔を浮かべて答えるチノ。その笑顔を見て、淡く微笑む僕は添えていた右手を退けると今度は左手で触る。

 

「はい、こんなにももふもふな毛並み知らないです。ティッピーとも違うんですね」

「…ん。こっちの方がふわふわでしょう?」

「はい」

 

二人して、腕の中にいる子ウサギを思う存分撫で回していると子ウサギが僕の腕から飛び降りる。それを見てガッカリ顔のチノと僕の顔を交互に見て、前を向き、ぴょんぴょんと飛んだ後にまた振り返り、僕らを見た後でまた進むを繰り返す子ウサギ。

一瞬、何をしているんだろう?と思うけど、この子ウサギが行なっている行動は前に一回見たことがある。

 

「…どうやら、付いてきてって言ってるみたいだね」

「そうなんですか?」

 

不思議そうに僕をみるチノにコクリとうなずく。

 

「…ん、前にもこういったことがあったから」

 

僕らが付いてきているのを確認しながら、進んでくれているのか?

子ウサギは立ち止まっては振り向く、立ち止まっては振り向くを続けてくれているので、歩いてでも余裕を持って付いていけた。

 

「…前にもって、歌兎さんはウサギに好かれる人なんですか?」

 

とてとてと肩を並べながら、何処か羨望の眼差しで見つめ尋ねてくるチノ。僕はチノに小首を傾げる。

 

「…んー、どうかな?…警戒して来てくれない子も居るけど…多分、嫌われているってことはないと思うよ」

 

思えば、前の世界でもよく動物が近づいてくることがあった。姉様やシラねぇが学校、マリねぇとセレねぇが仕事の時はよく一人出掛けては、動物達を撫でていたものだ。

しかし、思えばなんで彼らは僕に近づいてくるのだろうか?餌をあげたりとか傷を直してあげたりしたのはほんの数回でしかないというのに…あ、そういえば、前の未来お姉ちゃんに言われたな、『歌兎ちゃんって、名前に"(うさぎ)"って入ってるでしょう?だから、動物に好かれるのかもしれないよ』といつものように白熱する姉様とマリねぇの僕の洋服選びに付き合ってくれた時に、並んでクレープを齧りながら話したのが、そういう話題だった。なんで、そんな話題になったのか?はペットの出入りもOKな飲食店で偶々お隣さんとなった女性がラブラドールを飼っていて、そのラブラドールがじゃれ付くように僕に身体を擦り付けてきたからだと思う。

 

そんな出来事を思い出しつつ、僕は心配そうに振り返ってくる子ウサギを見つめながら、答える。

 

「…多分、僕の名前にウサギが入ってるからだよ」

「そういうものなんでしょうか?」

「…そういうものだよ」

 

納得できなさそうなチノに淡く微笑みながら、僕達は子ウサギの後を追った。

 

 

 

 

ⅰ.

 

「…っ」

 

カツンカツン、と忙しなく踏みつけられるラビットハウスのタイル。

そのタイルを踏み続ける明るい金髪をショートヘアーにし、左側の前髪に大きな✖︎(ばってん)マークの髪飾りをつけている少女に隣にいるリゼが相変わらずの過保護を発揮する少女に呆れつつ話しかける。

 

「切歌、落ち着いたらどうだ?」

 

話しかけられた金髪の少女こと切歌は貧乏揺すりしていた右脚を止めるとリゼをチラッとみる。

垂れ目がちの黄緑の瞳に溢れんばかりの憂慮を貯めて、桜色の唇は珍しく一文字に結ばれている。

 

「あたしはただ心配なだけデス。一時間前にチノちゃんと出掛けたっきり、歌兎は帰ってこないのデス…。うゔぅー、心配デス…あの子、動物に何故か懐かれるデスし…あの子自身も動物が好きですからね。この街は野うさぎがよく街に現れるって…ココアさんも言ってましたし…ハッ!?もしかして、野ウサギを追って野、へ…?」

 

今度は貧乏揺すり出なく、組んだ腕の左肘を右人差し指でトントン、と叩きながら、思考に思考を重ねていく切歌ハ段々と良くない方へと思考を働かせていき、その表情がだんだんと青ざめていく。

 

(それは無いだろう)

 

ブツブツと呟かれる切歌の独り言を聞いて、リゼがツッコミを入れる。

 

「イヤイヤ、切歌。流石にそれは無いだろう、おんぶにだっこな赤子では無い。怪しいところには行かないだろ」

「いいえ!あの子は純粋な子なんデス!それにあたしがいないと何も出来ない子なんデス…今頃、野に一人膝を抱えているに違いなのデス!!歌兎、今お姉ちゃんが行くデスからね!待ってください!!」

「だからって、店を放り出すな!ココア、お前もだぞ!!」

 

駆け出そうとする切歌の暴走を抑え込みつつ、リゼはこっそりと出て行こうとしているココアへも注意を飛ばす。

 

「あはは、バレちゃった?」

「あはは、バレちゃった?じゃない!!お前と切歌がいなくなったら、わたし一人でどうやってこのを切り盛りするんだ?」

 

リゼのその質問に二人は

 

「リゼちゃんなら出来るよ〜」「リゼさんなら出来るデス〜」

 

笑顔を浮かべて、そう答える二人に呆れて何も言えなくなったリゼの耳に軽やかな音が聞こえる。

 

「あ、歌兎からデス」「私はチノちゃんからだ」

 

心配していた張本人達からのメールに目に見えて喜びの表情を浮かべる過保護な姉と自称姉。

二人は同時にメールを開き、メールに添付されていた写真を見て固まる姉二人。

そんな姉達が固まるメールを盗み見たリゼは二人が固まった理由を知る。

 

添付されていた写真には---仲むすましく右手と左手を繋ぎあい、瓜二つと言われるほどによく似通った顔立ちをしている少女達が多くのウサギに囲まれている写真だった。それぞれ膝の上に子ウサギを載せていて、手前に移る眠たそうに黄緑色の瞳を眠さそうに開けている少女の頭にもちょこんと子ウサギを乗っかっている--ということは、その姉達が喜びそうな要素がこれでもかというくらいに盛り込まれているのだ。

 

「チノちゃんが抱っこしている子ウサギ可愛い」

 

しかし、二人とも見つめている箇所は違うらしく…ココアは大事そうに膝の上にいる子ウサギを抱き寄せる髪と同色の水色の入った銀色の大きい瞳を持つ少女よりも抱っこしている子ウサギに興味があるみたいで、一方の切歌は---

 

「…うちの妹がトンデモ可愛すぎるのデス。なんなんデスか…白や黒、茶色のもふもふウサギに囲まれ、そのウサギ達に微笑を浮かべる歌兎…絵になるデス。本当にこんなに可愛い子があたしの妹なんデス?本当は女神さまなのでは…?そうデス、女神さまなのデスよ!あぁ、女神さま、あたしの妹に生まれてきてくれてありがとうございますデス」

 

---カメラを気にかけながらも膝の上に乗っけた子ウサギや周りのウサギへと薄い微笑を浮かべている血を分けた肉親へも試験が向いているようで、もうよくわからない事を言いながら、ボロ泣きしながら天に向かって祈りを捧げている。

 

「…なに、ガチ泣きしながら天に祈りを捧げているんだよ」

 

そうボソッとつっこむリゼの呟きはやがて床へと沈んでいった…




と、二人の可愛さにキュンキュンしていただけたでしょうか!
少しでもキュンキュンしていただけたのならば、嬉しい限りです。



また、今週の木曜日、10月25日はクリスちゃんの中の人・高垣彩陽さんのお誕生日だったんですね!
改めまして、お誕生日おめでとうございます!高垣さん!!
クリスちゃんの『ばぁん』は何度聞いてもドキッとしてしまいます。

そして、今日クリスちゃんのユニゾン必殺技ギアガチャと『Change the Future』も楽曲に追加されましたね!
ということは、『風月ノ疾双』『必愛デュオシャウト」もいつかは追加されるのでしょうね…楽しみだなぁ。
どの曲も私は好きなユニゾン曲なので、追加させるのは嬉しいです!!


また、随分遅れましたが…かやのみの最新ですが、私は最初のヨーグルト甘酒に興味をそそられました!甘酒は私好きなものなので。
私はあまり、お酒が得意ではないので、また日本酒も実を言うと飲んだことがないんです…ですが、かやのみが紹介される日本酒はどれも美味しそうなんですよね〜…飲んでみたい!しかし、飲み酔った後に大暴れして、物とか壊したら…と思うと踏ん切りが付かず、手を出さずにいる日本酒…。
いつかは一口は飲んで見たいなぁ…と思う律乃でした(礼)


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010 ご注文は売り場ですか?

更新は本当は来週にしようと思ったのですが…あの情報を見てしまってからはどうしても書きたくなってしまいまして、書かせて貰った次第です。

文字数はいつも通りで、今回の話で歌兎とチノちゃんのおつかいは終わりを迎えます。
ここまで、二人のおつかいを見守っていただいた読者の皆様ありがとうございます(礼)

二人の冒険で少しでも皆様が癒されたのならば嬉しく思います、では最後となる冒険をご覧ください!


子うさぎに連れられて、向かった先にあったのはまさかの野うさぎたちの村みたいなものだったらしく…僕もチノも最初こそ戸惑ってしまったけど、クリクリのまん丸で見上げてくる野うさぎ達の可愛らしい仕草に我慢できなくなり、蹲ってスリスリと身体をすり寄せてくる子うさぎを抱っこしたときにはその気持ちいい感触に頬が思わず緩んでしまった。

その後、どんどん集まってくる野うさぎたちに囲まれながら、彼らをもふもふしていたら、いつの間にか空の色がだんだんと暗い方に向かっていっていて…膝の上に乗せている子うさぎを名残惜しそうに地面に置いて、僕らはその場所を後にした。

 

「…もふもふ暖かくて気持ちよかった」

 

まだ掌に残っているそれぞれ違う野うさぎ達の毛並みを思い出しながら、左隣にいるチノに話しかける。

すると、興奮気味の様子で僕の方を見ると、髪と同色の水色の入った銀色の瞳をキラキラをさせながら、早口で話し出す。

 

「はい、どの子達もそれぞれ違っていて…あんなにもふもふ出来たのは初めてです」

「…それなら良かった。また、一緒にもふもふしようね」

「はい」

 

暫くの間、あの野うさぎ達の村は僕らの秘密基地のようになるのだろう。

野うさぎ達に貰ったもふもふパワーで歩くスピードが上がる中、空を見上げて、花青緑色の端末へと視線を落とすと時刻は13:05となっていて、チノと出掛けたのは11:00だった気がするので…きっと今頃、うちの姉様が暴走するかしないかのギリギリのラインではないかと思う。

姉様曰く僕と長い時間離れてしまうと"歌兎エキス"がだんだんと減っていき、尽きると身体が重くなったり、気分を害したり、ひどい時にはめまいに続いて、嘔吐と…かなりヤバイ状態となるらしい。らしいというのは、シラねぇ越しから聞かされたからで、僕自身そこまで弱っている姉様を見たことない…いや、僕が《嫌い》と言ってしまった時は号泣しちゃって、弱々しかったか…。

しかし、その弱々しかった姉様も僕に抱きつき、頬をスリスリするだけで"歌兎エキス"が補給出来るそうで、忽ちに元気になる。

強く抱きしめてくる時は苦しいけど、その分姉様が元気になってくれるのならばそれでいい。姉様には笑顔が似合うし、シラねぇや他のお姉ちゃん達もどんよりしてる姉様よりも明るい方が好きだろうから。

 

しかし、元気すぎるというのも考えもので…これは、リゼお姉ちゃん。明日げっそりしてるんじゃあ……。

 

(…明日、リゼお姉ちゃんにお礼言っとこ)

 

「ココアさんも切歌さんも心配してるでしょうね」

「…ん、でもココアお姉ちゃんよりも姉様の方が心配」

「そう、ですね…。リゼさん、大丈夫でしょうか」

 

僕の台詞に苦笑いを浮かべるチノも姉様が大暴れして、それを取り押さえるリゼお姉ちゃんのことを心配しているようだった。

取り敢えず、これ以上リゼお姉ちゃんの負担にならないようにするには---

 

「---…姉様が心配して、ラビットハウスを飛び出す前に帰らないと」

「そうですね」

 

チノとうなづきあい、僕はラビットハウスから徒歩50分程度の所にあるスーパーみたいな建物へとチノに連れられて入っていく。

 

 

 

 

ⅰ.

 

「…えーと、モカお姉ちゃんに貰ったメモに書いてあるものは揃ったかな」

 

そう言って、僕は繋いでない方の手に摘んでいるメモへと視線を通す。

因みに、なんで手を繋いでいるのかというと、夕方言えど人が多くてはぐれてはいけないというわけで…深い意味はないのだが、何故か道行く人に《まぁ、仲のいい姉妹ね。どちらがお姉ちゃんなの?》や《よく似てること、初めてのおつかいなのかしらね。微笑ましいわ》、《そこの双子のお嬢さん達、これおじさんからのサービスね》と目的地に向かう前に屋台のお兄さんやお姉さん達につかまり、駄菓子やたい焼きを貰う始末。

 

(そんなに僕とチノお姉ちゃんって似てる…?)

 

よくうちの姉様やココアお姉ちゃんは間違って、声をかけてくるけど、他のお姉ちゃん達やお客さん達は間違えずに呼んでくれるから…あの二人だけが特別だと思っていたのだが、ここまで見知らぬ人に声をかけられるのはそれだけ似ているということなのだろう。

 

(…着ている服は真反対って感じなんだけどな)

 

僕の服装は、姉様が何処からか入手した可愛らしいしろくまさんの顔がプリントアウトされているフード付きのダボダボっとした真っ白なパーカーから僅かに覗くのは、丈の短い花青緑色のショートパンツ。そして、僕の脚を包み込むのは真っ白なニーソックスである。

一方のチノは、長い水色が入った銀髪をポニーテールにして、真っ白なカーディガンに腰のところにアクセントとして大きなリボンが付いているワンピースを着用している。

 

ボーイッシュな服装で固めている僕と女の子らしくキュートな服装で固めているチノ。

明らかに違うのだが…思えば、上に羽織っているパーカーとカーディガンの色が"白"という面は一致しているため、つい双子に見えてしまうのかもしれない。

 

(そもそもうちの姉様、本当にどこからこんな服買ってくるのかな)

 

姉様のアニマルフード好きは今に始まったわけじゃないけど、僕は姉様が何処からか大量のアニマルフードを入手してくるのかが不思議でたまらない。

と、余計なことに思考を割いていると、チノが身を寄せてから僕の手元にあるメモをのぞいてくる。僕はチノに見やすいようにメモを向けると

 

「えっと…無地のシャツと黒いスカートは手に入れましたね。あとは---」

 

---僕の制服の色となる"黄緑"の生地をこの膨大な布の海から探し出すだけなのだが…ひとまず、緑色系統が積み上がられている布地のコーナーに二人で向かう。

 

「この黄緑とかどうですか?」

 

目の前にある黄緑の布を取り出すチノが僕にその布を当てる。それを見て、僕は渋い顔をすると

 

「…んー、もう少し薄い方が好き」

「そうですか、ならこれは」

 

その後もチノに見立ててもらい、気に入った黄緑色を見つけた僕とチノは無事、ラビットハウスに帰った瞬間にそれぞれの姉に抱きつかれたのだった…




ということで、無事おつかいを終えた二人に抱きつく姉達…そして、その姉達を取り押さえていたリゼお姉ちゃんとモカさん、お疲れ様です(礼)
…へ?モカさんは本編に出てなかった?
あはは、いやですね、皆さん〜。モカさんは文字には出ていませんでしたが、ちゃんとそこには居ましたよ(皆さんから視線をそらす私)


さて、話を返させてもらいまして…私がどうしてこの話を書いたのかというと、私がXDと一緒にプレイされて貰っている『きららファンタジア』の方にごうちさの『チノちゃん』と『ココアちゃん』の二人の参戦が決まりまして、嬉しすぎて、テンションがおかしい方に向かう前に文字に残そうと書かせてもらった次第です。
待ちに待った二人の参戦、これは是非ともゲットしたい!!と意気込む中---

---XDで、今日から始まった『絆結ぶ赤き宝石』で登場した『カーバンクル』が可愛いのと…響ちゃんと未来ちゃんのイチャイチャ。そして、さりげなく優しいクリスちゃんにニヤニヤがとまりません!
まだ、イベントをされてない方がいらっしゃると思うので多くは語れませんが…ひびみくの絡みはヤバイとだけ伝えておきます。また、マリアさんも可愛かった…(*´Д`*)

また、今回のイベントで井口さんと高垣さんがラジオで書かれたメモリアが実装されるんですね。
二人が演じられているキャラでのイベントでしたので、まさかと思いましたが…まさかここでくるとは…!?と驚きが隠せませんでした。
二人のメモリア、是非ともMAXまで鍛えたいものです(微笑)

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
夜風がだんだんと寒くなっていきますが、風邪などひかれないようにお気をつけ下さい、ではでは〜(о´∀`о)


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011 ご注文は再会ですか?【未来ちゃん誕生日記念】

お久しぶりです(土下座)

今回の話はそのまんまの話です。
なので、未来ちゃんとごちうさのみんなとの絡みを楽しんで見ていただけると嬉しいです。

では、本編をどうぞ!!

※ものの数分で読めるように簡単に書かせてもらいました。読者の皆様が楽しんで読んでもらえれば幸いです。

※※長めです


ちゅるるちゅるる

 

と、のどかな小鳥のさえずりが何処からか聞こえてきて、私は目をゆっくりと開ける。

 

そして、私は目を見開くことになるのだった。

 

(ここってどこなの?)

 

私がいるのは落ち着いた雰囲気が漂う石畳みの家が立ち並んだことによって出来た小道で、そこから前に向くと赤煉瓦が敷き詰められた歩道があり、その先には緩やかに流れている川があり、その上をスイスイとゆったりと進んでいく小舟。

 

明らかに私が住んでいる街ではない光景に辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「…どうしよ。ここって並行世界、なのかな…?」

 

しかし、並行世界に繋がる聖遺物や出来事に巻き込まれてしまったという覚えはない。

 

ならここは何処なのだろうか?

 

悶々と並行世界に来てしまった経緯を思い出していると

 

「…未来お姉ちゃん」

 

小さな声で名前を呼ばれた後、ちょんちょんと背中を突かれる。

 

「きゃあ!?」

 

周りが見えなくなるくらいに考えていた時につんつんと背中を突かれたことに飛び退ける勢いで驚愕し、振り返った先に居たのは---

 

「…?」

 

---眠たそうに半開きしている黄緑色の瞳に映る私の目は円を見事までに描いていて、可愛らしい系統に整った顔立ちは不思議そうに首を横にしていて、(くちばし)を閉じているひよこがプリントアウトされたフードを浅く被り、そこからはみ出いる水色が入った銀色の髪の毛は胸元まで垂れ下がっていて、卵のポケットが付いたダブダブのパーカーから覗く手脚は細っそりと肉が付いてないように思えて、今に倒れそうな感じに思える。

 

それらの容姿が該当する人物は私は一人しか知らない。

そう、彼女は私の世界では数ヶ月前に行方不明になったままになっていた暁歌兎ちゃんだった。

 

「…うた、う…ちゃ、…ん?」

 

一人探しに出かけた彼女のお姉ちゃんと共に行方不明になって、もう一年とちょっと。

私達は二人が生きているとは思えなくて、捜索隊も打ち切られて、調ちゃんもセレナちゃんもマリアさんもみんなも二人を失った悲しみを乗り越えて、ここまで生活してきた…なのに、どうして…ここで歌兎ちゃんに…。

 

元気そうな様子の歌兎ちゃんを見ていたら、涙が溢れてきて、歌兎ちゃんが私の涙を見てアタフタしていた。

 

「…み、未来お姉ちゃん?どうして泣いてるの?僕悪いことした?」

「…んん、歌兎ちゃんは悪くないよ。ただ」

 

ただ、元気そうな姿が見れて嬉しい。今まで亡くなってしまったと思っていたから、と言おうとした私の声を遮るのは聞き覚えのある元気一杯の声で。

 

「あっ、歌兎!コラ、知らない人に声をかけちゃ誘拐されま---あれ?未来さんデス」

 

私達の方に掛けてくるその声の主は私の思った通りの人だった。

赤煉瓦を蹴るのは緑色のスニーカーで妹と同じように細っそりとした素足を包むのは薄紫色のニーソックスで、その上を身体のラインを隠すようにダボっとした橙のパーカーから覗くのは緑色の短パンのダメージデニム。

走るたびにバサバサと揺れる明るめの金髪はショートで、妹と話している私を見て、垂れ目がちの黄緑色の瞳は丸くなり、綺麗系統に整った顔立ちを驚きに染めている。そして、何よりも彼女のトレードマークとなっている特徴的な《デス口調》と前髪の左側に大きな✖︎(ばってん)マークがあしらっている髪飾り。

 

歌兎ちゃんがいるということは彼女といることは安易に想像出来るそんな人物、歌兎ちゃんの実姉である暁切歌ちゃん。

 

彼女も私達が探していた人物で。

 

「切歌ちゃんも無事だったんだね…」

 

(本当に良かった…)

 

二人が無事だったこと、そして二人を見つけられたことに安堵して涙が止まらない。

響もみんなにもいい知らせができる。

 

「あわわわ!?未来さんが泣いてるデス!?」

「…どどどどどうしよう!?」

 

わんわんと泣く私の周りをあたふたしていた切歌ちゃんと歌兎ちゃんは私を連れて、お世話になっているというラビットハウスという喫茶店へと案内してくれた。

 

 

 

 

ⅰ.

 

「ただいま」

「…デース」

 

兎がカップを持っている看板が掛かっている喫茶店へと意気揚々とは入っていく二人の後に続く私を見るのは喫茶店にいた白いワイシャツに黒いロングスカートの上に紫色・水色・桃色の黒いフリルが可愛いベストを着用した私や切歌ちゃん、歌兎ちゃんと同じ年頃の女の子たちだった。

 

「遅いぞ、二人共」

「どこで道草うってたんですか」

「…あれ?切歌ちゃん達の後ろにいる人って?」

 

不思議そうな顔をする三人に「ふっふふ」ともったいぶるように笑う切歌ちゃん。

 

「この人はデスね」

 

ニヤリと笑い、私を紹介しようと両手を広げた切歌ちゃんの声を遮るのは歌兎ちゃんである。

 

「…この世界に迷い込む前にお世話になっていた小日向未来お姉ちゃんだよ」

「…デデデース…」

 

バタンと倒れこむのは切歌ちゃんでもったいぶるつもりがあっさりと歌兎ちゃんに紹介されたのがショックだったのか、薄っすらと涙が見える。

そんな切歌ちゃんの様子には目もくれず、歌兎ちゃんは入り口付近で立ち止まったままの私を三人の前まで連れていくと今度は三人の紹介をしてくれた。

 

「…水色の制服を着ている人がこのラビットハウスのマスターのお孫さんであるチノお姉ちゃん」

「香風智乃です。切歌さんと歌兎さんにはいつもお世話になってます」

 

私へとぺこりと頭を下げる水色の制服を着た子はチノちゃんという名前だそう。

会釈したことによってふわりと揺れるのは水色が混ざった銀色の髪の毛には両サイドに✖︎(ばってん)マークがあしらっている髪飾りを付けていて、私をまっすぐ見つめる垂れ目がちな瞳は髪の毛同色。年相応の幼さを残りつつも整った顔立ち。全体的な華奢な身体付きを水色の制服で包み、そして私が目を引いたのは頭の上はちょこんと乗っかっている真っ白な毛玉で---

 

(なんだか…切歌ちゃんと歌兎ちゃんを足して割ったような子だな)

 

---私の視線に気づいたのか、チノちゃんが頭の上に乗っけていた毛玉を抱きかかえると歌兎ちゃんへと差し出す。

 

「アンゴラウサギのティッピーです」

「…もふもふで気持ちいい。未来お姉ちゃんも触ってみて」

「そ、そうなんだ…」

 

チノちゃんから差し出されたアンゴラウサギを私へと差し出す歌兎ちゃんから受け取った私は一回手元にある白い手玉もといアンゴラウサギを見つめ、恐る恐るそのフサフサな毛並みへと両手を沈める。

すると、そのフサフサな毛並みにびっくりした後ともふもふとティッピーを撫でる。

 

「そんなにくしゃくしゃにするでない。擽ったいではないか」

「…へ?」

 

(このウサギ喋った?)

 

目をぱちくりする私にすかざすチノちゃんが有無を言わさぬ勢いで言う。

 

「さっきのは私の腹話術です」

「…チノちゃんの?」

「はい」

「…ん、本当」

 

チノちゃんから横にスライドすると、私の視線の意味を汲み取った歌兎ちゃんがコクリとうなづいていた。

そのあと、ティッピーをチノちゃんに返した後に次は隣にいる紫色の制服を着ているツインテールの子の紹介にうつる。

 

「…紫色の制服の人がリゼお姉ちゃん。絵も料理も上手」

「天々座理世だ。よろしく頼む」

 

紫が入った黒髪をツインテールにして、つり目がちの髪の毛同色の瞳は私を見ていて、淡く微笑む口元も合わせて顔立ちは整っている。紫色の制服が隠れている身体のラインは出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるという同じ女性でも一目見て綺麗と思ってしまうくらいに顔立ちと合わせて整っている。そして、男勝りのような口調と何処か鋭い雰囲気の中に隠れている優しさに。

 

(リゼちゃんは翼さんとクリスを足して割った感じかも)

 

そして、最後は桃色の制服に身を包んだ子の紹介をしてくれるんはずなのだが---

 

「…ピンクの制服の人はココアお姉ちゃん。僕のこっちのお姉ちゃんでパン作りのお師匠さん」

「歌兎のお姉ちゃんはあたしだけデス!!」

 

---歌兎ちゃんのココアちゃんの紹介文の一部に過剰反応を示した切歌ちゃんが銀色のお盆を持ったココアちゃんの肩を強く揺さぶる。

 

「どういうことデスか!ココアさん!!あたしを裏切ったんデスかっ!!」

「きりかぁーちゃーんー、めがーぁーまぁーるよー」

 

強く揺さぶる切歌ちゃんの両手首を掴むココアちゃんは明るめの栗色の髪の左がに桜の髪飾りを付けていて、顔立ちは可愛いと人懐っこい雰囲気が滲み出でいるような感じで、桃色の制服に隠れている身体は年相応な感じに出ているところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいるって感じだろうか。

 

(この子は響と切歌ちゃんを足して割ったような子かも)

 

人懐っこい雰囲気といい、何処か犬を連想させる仕草も含めて、彼女は二人に似ているような気がする。

 

(それよりも)

 

もうココアちゃんの瞳が渦巻きを作っているのにいまだに揺さぶっている切歌ちゃんの過保護は私の知っている時と同じで苦笑いを浮かべる。

 

「…未来お姉ちゃん、こっち来て」

 

苦笑いを浮かべる私をカウンター席に座らせた歌兎ちゃんが焼いてくれたパンとチノちゃんが入れてくれたカプチーノを飲みながら、私は切歌ちゃんとココアちゃんの喧嘩(?)が終わるのを待った……




ということで、未来ちゃんとごちうさのみんなとの会話でした。
シャロちゃんと千夜ちゃんの紹介は後々に更新します!そちらも楽しみに待っていただけると幸いです。






と、ここから雑談コーナーとなりますが…そこそこ長めとなるので、読んでる最中に眠たくなった時は我慢せずに寝てくださいね。
それでは、そこそこ長めですが…雑談コーナーの始まりです。


今日、11月7日は様々なものがありますが---まず小日向未来ちゃんの誕生日ですね!
未来ちゃん、お誕生日おめでとうございますっ!!!(๑>◡<๑)

誕生日限定メモリア、もうニヤニヤが止まらなかったです(ニヤニヤ)
特に最後のあのシーンが好きなのですが…ネタバレとなるといけないので、気になる方は是非ともメモリア獲得頑張ってください!

と、そのメモリア獲得のミッションが未来ちゃんに因んだ《39》だったのもつい笑みがこぼれましたね。
スタッフの皆さんの未来ちゃん愛が眩しいです(о´∀`о)

また、XD公式サイドに載せてあるスペシャルの四コママンガですが…こちらも可愛かったっ!
あの人をかたどった遊園地で遊ぶ未来ちゃんが幸せそうで…そして、なんだかんだ言いつつ、未来ちゃんに付き合ってあげるクリスちゃんはいい子だと思いました(微笑)



そしてそして、11月7日といえば…《ココアの日》だそうで、ある企業とコラボしたグッズ---私はゲット出来なかったんですが---もあり、本編も本当はココアちゃんと未来ちゃんの会話文で埋め尽くしたかったんですが…私の腕ではこれが精一杯でした(苦笑)

また、私はココアを飲みそびれてしまったんですが…皆さんはココア飲みましたか?

ココアって美味しいですよね〜♪
寒い季節になると、ココア・コーヒー・抹茶ラテ・コンポタージュの四点セットが無いと生きていけない律乃であったりします(笑)



ココアちゃんといえば、今日はご注文はうさぎですか?最新刊と千夜ちゃんソロキャラソン発売日ッ!!だったのですが、私はまだどちらも獲得できてないです(汗)

本屋さんに立ち寄ってみたのですが、置いてなかったですね、最新刊。売り切れていのか、はたまた置き忘れていたのか…恐らく前者だと思うので、もうしばらく経ってから最新刊は買い求めようと思います!

そして、ソロキャラソンといえば、どのCDにも収録されている《わーいわーいトライ!》って曲が私は好きなんですっ!
理由は歌詞の一部である『くるりと一回転』の『いっかいてん』の部分の『か↑』と跳ね上がるところが好きなんです。贔屓とかそんなんじゃなくて、モカさんの『か↑』の伸ばしが美しいのと『かぁ』ってなる所も好きでして…なので、《わーいわーいトライ!》では、みんなの『か↑』の所を全神経集中して聴いているっていうしょうもない話です、すいません(土下座)



しょうもない話で終わってしまいましたが、これで雑談コーナーお終いです。
ここまで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m


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012 ご注文はノーパンですか?

断じて、如何わしい内容じゃないデスよ!

本当に如何わしくなんかないんデスよっ!

では、本編をどうぞ!


「…未来お姉ちゃん、どうぞ」

「ありがとう、歌兎ちゃん」

 

私の視界の端で今だに続く切歌ちゃんとココアちゃんの喧嘩が終わるまでにと出された歌兎ちゃん特製の食パンを使ったハニートーストとチノちゃん特製のコーヒーを見る。

綺麗なキツネ色に焼かれたトーストの上にはバニラアイスと蜂蜜がふんだんに使われており、バニラアイスの上にはちょこんとミントが乗っかっている。

本来、ハニートーストは食パン丸々一個を使用して、バターと蜂蜜を沢山かけるといったシンプルな食べ物なのだが、年頃の女の子がそのハニートーストに挑むとなると話が変わってくる。まずは食パン丸々一個という量、そして一番の問題は食パン一個とバターが沢山入っているというカロリー摂取量である。

 

(でも、響なら美味しそうに食べちゃうんだろうな…)

 

ふらわーのお好み焼きや白米をぱくぱくと頬を膨らませながら食べる彼女の事だ。

普通のハニートーストはもちろんのこと、歌兎ちゃんが作ったトーストを使用して作ったものとなるといつもよりも張り切って食べてしまうかもしれない。

 

(…響)

 

確かに行方知らずだった切歌ちゃんと歌兎ちゃんが見つかったのは嬉しい。しかし、わがままを言うと響が居ないのは寂しい。

 

(一緒にハニートースト食べたかったな…)

 

今こうしている時でも隣に座って、美味しそうにぱくぱくとハニートーストを口にいっぱいに含んで、『未来、美味しいね!』と笑う響の姿が目に浮かぶ。

 

「もしかして、コーヒー嫌いでしたか?」

 

おずおずといった感じでカウンターの向こうにいたチノちゃんにそう言われ、私に首を横に振る。

 

「あっ、違うの。ただ…」

「ただ?」

「…未来お姉ちゃん、あーん」

「っ!?」

 

ちょんちょんと肩を突かれ、私は歌兎ちゃんの声がした方に向くと突然放り込まれるハニートースト。

バニラアイスがサクサクのトーストが熱に溶かされて染み込み、トーストを包み込むように優しい甘さを加えてくれている蜂蜜…うまく言えないけど、美味しい。歌兎ちゃんが作ったと言っていたトーストは外はサクサクなのに中はしっとりした舌触りで本当に美味しい。

 

「…どう?」

 

不安げにそう聞いてくる歌兎ちゃんに笑顔で答える。

 

「うん、美味しいよ」

「…良かった。チノお姉ちゃんのも美味しいよ」

「いただきます」

 

歌兎ちゃんは嬉しそうに淡く微笑むと右手に持っていたフォークを私が持ちやすいように置くとチノちゃんが淹れてくれたブルーマウンテンをふぅーふぅーと冷ましつつ飲んでみる。

 

(美味しい!)

 

ハニートースト自体が甘めなので、ブルーマウンテンは苦いのだが…さっぱりとした味なのでしつこくなく、どちらかとなるとしつこい甘さのハニートーストとの相性がいい。

なので、ついつい手が動いてしまう。

フォークで抑えながら、トーストにナイフを入れる。ナイフを動かすたびにサクサクっという音が辺りに響いて、ブルーマウンテンでさっぱりした口内へと蜂蜜の優しい甘さが広がる。

 

「…喜んでもらえたようで良かった」

 

美味しそうに食べる私をみて、嬉しそうな歌兎ちゃんにリゼちゃんの注意が飛ぶ。それはどうやら、歌兎ちゃんが着ているひよこパーカーだそうで

 

「なぁ、歌兎」

「…?なに、リゼお姉ちゃん」

「お前、そのパーカーの下に何か履いてるのか?」

 

(…確かに履いてるのかな?)

 

私の隣に立つ歌兎はダボダボのひよこパーカーは大きすぎるのか、太ももの半分を隠してはいるが…それ以外はニーソックスもレギンスなども履いてないのだ。もし…もし、そのパーカーの下に何も履いてないのでないのでなければ、危険な状態で外を歩いていたということになる。

 

(ま、まさかね。切歌ちゃんがそんなことするとは思えないけど…)

 

だけれども、そんな私の心配が届いたのか、歌兎は暫しキョトンとした後にひよこパーカーの裾を握ると---

 

「…ちゃんと着てるよ、ほら」

 

---なんの躊躇いもなく上へとたくし上げる。

 

 

 

「…へ?」

「…なっ」

「…え?」

「…あっ」

「…デっ」

 

 

 

 

其々が間の抜けた声を漏らした後、辺りは静寂に包まれた------。

 

 

 

 

 

 

 

まさかの口答でなく行動にて返答した歌兎ちゃんの行動に私や質問した本人であるリゼちゃん、チノちゃん達が驚愕で固まる中、私たちの視線は不可抗力でバッチリと歌兎ちゃんのひよこパーカーの下に履いてあった花青緑色の短パンをおさめる。

 

「うううううううた、うたたたたた、歌兎ぅうううううううっっっ!!なななななにに、ににになななに、ししししててててる、デデデデスかぁーー!!!」

 

(凄く切歌ちゃんが動揺してる)

 

身動きが取れない私たちと違い、流石というべきか、誰もよりも早く驚きの硬直から立ち直った切歌ちゃんは顔を林檎のように真っ赤にすると勢いよく歌兎ちゃんがたくし上げているひよこパーカーを引きおろすと赤顔(せきがん)のまま歌兎ちゃんへと説教している。

 

「皆さんがいる前でいきなりパーカーの裾をたくし上げるなんて何を考えてるんデスか、歌兎!!」

「…リゼお姉ちゃんがパーカーの下に何か履いてるのかって聞くから」

 

何処かふてくされたように言う歌兎ちゃんの肩に手を置いた切歌ちゃんは興奮気味にまくし立てる。

 

「聞くからじゃないデス!!ここは店の中でありますが、人の目がある外なんデス!自室とはワケが違うんデスよ!お客様がいきなり入ってしたりしたらどうするデスか!」

「…入ってきても下に履いてるから別に見られても気にしない」

「気にしないと駄目デスっ!!」

「…なんで?」

 

私たちに見られたと言うのに全然気にしてない様子の歌兎ちゃんに切歌ちゃんの説教が熱を増していく。

 

「なんでって恥ずかしいからデスよ!」

「…花青緑の短パン見られるだけだよ?いつも姉様やリゼお姉ちゃん達に見せてるのに、なんで今は駄目なの?一緒じゃないの?」

「歌兎、少しこっちくるデス」

 

そのあと、切歌ちゃんの手によって店の隅に連れていかれた歌兎ちゃんは椅子に座らされ、切歌ちゃんはその歌兎ちゃんの両手を掴んで視線を合わせるように膝を折ると"なんで、人目がある前でパーカーの裾をたくし上げては駄目なのか?"を一生懸命説明していた。

 

そんな二人の様子を見て思うのは、切歌ちゃんもちゃんとお姉ちゃんしてる時もあるんだなぁ…だった。

過保護の場面が強すぎて、彼女のお姉ちゃんらしいところは掠れてしまうが、悪いことは悪いと説明しているところを見るといいお姉ちゃんだとおもう。

しかし、そんなお姉ちゃんの説明に終始首を傾げている歌兎ちゃんも私の印象に残るのだった……




というわけで、人目(未来ちゃん、姉様やチノちゃん達)の前でひよこパーカーをたくし上げた歌兎ちゃんの話でした(笑)
切ちゃんが大慌てになるのも分かりますよね…人目でそんな行動されたら…(大汗)
歌兎ちゃんですが、切ちゃんの必死の説得によって、人目でたくし上げてはいけないことが分かったそうです(笑)








と、ここからはかなり長めの雑談コーナーでして…読み疲れたときは飛ばしてください(礼)


口いっぱいにハニートーストを口に含み、『うまうま』する響ちゃんと切ちゃんがみたいデス。そして、口元を汚す二人をハンカチで拭く未来ちゃんと調ちゃんがみたいんデス(切実)
『なら書けばいいじゃん!』と意気込んでネタを考えていたら何故か、ギアの色の食べ物しか食べたくなくなる聖遺物(そんなのあったらすごいですけど)によって…切ちゃんは緑色の野菜をむしゃむしゃ食べて、調ちゃんはハムをぱくぱくと食べて、マリアさんは白米をぱくぱくと食べて、翼さんは青魚をぱくぱく食べて、歌兎ちゃんはかき氷を食べるって話が浮かびました(笑)
歌兎ちゃんと未来ちゃんはかき氷同盟を組んで、マリアさんとクリスちゃんは二人で日の丸弁当《説明:マリアさんは"白米"、クリスちゃんは"梅干し"から》になったり、切ちゃんと調ちゃんはほうれん草だから二人で一つってことになる《説明:ほうれん草は茹でると根っこのところが鮮やかな"桃"になり、葉っぱは濃い"緑"》って話なんですが…意味わからんですよね、はっきりいって(笑)
ボツネタかなこれは…きゅうりをうまうましてる切ちゃん、リスっぽくて地味に可愛いと思うんですけど…この話を分かりやすく書けるくらいの力がないんですよね…(汗)
気が向いたら書くかもですし、書かないでお蔵入りかもです。


そしてそして、先日から『アニマルギア』が登場しましたねッ!
いやぁーっ、響ちゃんも奏さんもカッコ可愛いッ!
響ちゃんのツインテール可愛いですし、必殺技の暗闇の中赤い目が動くところとか『ヤベェ、カッコいい…』ってなりましたし、奏さんのポニーテール姿が可愛いですし、必殺技の狐火を登場させるところとか『これ…私の好みだ…』ってなりました!

アニマルギアっていいですよね…(微笑)

私が響ちゃんと奏さん以外の奏者のアニマルギアを勝手に考えてみると以下の通りになります。

○切ちゃんは奏さんと一緒で狐。
理由は、切ちゃんと狐耳尻尾って相性いいと思ったからのと、私の趣味です!趣味の方が割合が多いですね(笑)

○調ちゃんはウサギ。
理由は、四コマのバニーガールの『1人だと寂しくて死んじゃう』にズキューンってしたから。

○クリスちゃんは猫。
ツンデレなところとか、シャム猫とか似合いそうだなぁ〜と思ったから。

○マリアさんはアライグマ。
テレビでお世話好きなアライグマが居たので、奏者のみんなの世話をついつい焼いてしまうマリアさんにぴったりかと。

○翼さんはペンギン。
『ファーストペンギン』とは天敵がいるかもしれない海の中に果敢に乗り込んでいくペンギンの事で、そこから転じて、リスクを恐れず初めての事に挑戦していく勇敢な人例えだそうです。なんだか、翼さんの為にある様な言葉のように私は思えたので、ペンギンとなりました。

○未来ちゃんは犬。
未来ちゃんが付けたら、可愛いかなぁ〜と。人当たりもいいですし、犬っぽいと思ったから。

○セレナちゃんはシロクマかウサギ。
どちらも似合いそうですし、シロクマで『がおー』ってやってるのを想像すると萌えたから。

因みに歌兎は九尾狐です。
銀色の毛並みを揺らす九尾ってなんか萌えません!?って…そんな感じで、私の趣味です。


とここまで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
次回は恐らく、金曜日か土日となります!


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013 ご注文は決闘ですか?

すいません……大変、お待たせ致しました(大汗)
最近色々と忙しく、文が進まず、週の最後の更新となってしまいました(汗)

先に『ユニゾン切ちゃん』ガチャの結果を報告させてもらいますね…………読まれている方でフレンドの方はご存知だと思いますが、結果は爆死でした(滝涙)
結果として、☆5メモリア数枚は限界突破出来ましたし、マリアさんやクリスちゃん、調ちゃんも二回限界突破出来ましたので正直嬉しかったデス(●´ω`●)
でも、なんか酷くないデスか……ガチャの間は☆5奏者は"必愛組"だけは絶対当たらず、他のメンバーだけ当たるんデスよ?(震え声)
私、切ちゃんと響ちゃんに悪いことしたかな………アッ、でもあの話は……と、私のことはこのまでにしまして。

必愛切ちゃんをゲットされた方、おめでとうございます!!!

あの切ちゃん、倒されても一回復活するので欲しかったんですが……仕方ない!!
また、復活ガチャが来た時に当てましょうっ!!

というので、長くガチャ報告をしてしまいすいません……内容をタイトル通りです。では、本編をどうぞ!!


「歌兎成分が足りないデェェェェス!!!!」

 

未来お姉ちゃんもこの世界に慣れてきて、一緒に働き出してからのとある朝のラビットハウス。

未来お姉ちゃんと一緒に階段を下りてみると、開店準備に追われる最中、うちの姉様が体を折った大声を出して駄々をこねていた。

 

その様子に僕と未来お姉ちゃんは苦笑いを浮かべ、リゼお姉ちゃんはやれやれと呆れ顔を浮かべて、ココアお姉ちゃんは何故か分かる分かると首を動かしていた。そして、駄々をこねる姉様の近くの机を拭いていたチノがボソッと注意する。

 

「切歌さん、今はお仕事してください。開店まで時間がないんですよ」

「そんなの関係なんデス!!あたしにはこっちの方が重要な問題なんデス!!」

 

がっついてくる姉様にびっくりしたのか、チノが引き気味に苦渋を提示する。

 

「どう考えても開店の方が重要ですよ……。そもそも切歌さんはずっと歌兎さんといるじゃないですか……何が足りないんです?」

「何もかもが、全てが足りないんデスよぉ。このままお仕事したら、あたし絶対倒れるデスよ、いいんデスか!? だから、チノちゃ----」

「----いいからお仕事してください」

 

これ以上姉様の意見を聞いても仕方ないと判断したらしいチノは机拭きを再開する。

遂に誰も相手してくれないと悟った姉様は遂に両手に持っていたモップを床へと投げ捨てると地団駄を踏みはじめる。

 

「今がいいんデ〜スよ〜、今じゃないと嫌なんデ〜〜スよぉ〜〜」

 

地団駄が次第に大きくなり、次第に姉様は身体を折っていき、最終的には頬を膨らませてながらその場に腰を落としてしまった。

 

(これはもう)

 

"幼子のようだな"と思ってしまったのは僕だけじゃないはずだ。

(げん)に未来お姉ちゃんは元の世界でもこの光景を見飽きられるくらい見てきたから、もう苦笑いを通り越して呆れ顔を浮かべている。

 

(ともかく、姉様を止めないと)

 

"そうしないとお世話になってるラビットハウスに迷惑がかかってしまう"と思って、膝を抱えて涙目になっている姉様に近づこうとしてーー

 

「話は聞かせてもらったわ!」

 

ーー凄く凛々しいキメ顔をして、ラビットハウスの扉を開け放った千夜お姉ちゃんによって、制止させられた。

 

僕の方に右掌を見せて、姉様に近づいた千夜お姉ちゃんに続くように入ってきたのは見知った癖っ毛が多い明るめの金髪をショートにしている少女であって、彼女は店内を見渡して、千夜お姉ちゃんが近づいている先にいるはぶてたように床に膝を抱えて座る姉様を見て、一瞬で状況を把握(はあく)したようだった。

 

「こら千夜!そんな大きな声をあげたら、チノちゃん達にめいわ----あぁ、そういうこと」

 

千夜お姉ちゃんに止められている僕の方をチラッと見て優しく微笑み、ラビットハウスのみんなへと静かに頭を下げている。

流石、姉上様である。姉様の扱いに慣れている。

最近、一緒に暮らしている間に過保護な姉様扱いスキルを不可抗力で習得してしまったらしい。

 

「もういいわよ、歌兎」

 

因みに、姉上様が僕のことを名前呼びし始めたのは、未来お姉ちゃんと顔合わせした時に"あれ? シャロちゃんは歌兎ちゃんを名前で呼ばないんですね"と言われたからで、まだぎこちない気がするのは慣れてないからだろう。

 

「‥‥ん、分かった。姉上様」

 

姉上様に動いていいと言われたので、ぴったり止めていた動きを再開するとチノ達が驚愕(きょうがく)で目をまん丸していた。

 

(あれ? 僕何か変なことしたかな?)

 

小首を傾げる僕に未来お姉ちゃんの呟き声が聞こえる。

 

「……そう言えば、歌兎ちゃんって緒川さんに忍術習ってたものね」

 

(ん? 確かに僕は緒川様に忍術を習っているけれども……それとこれと何か関係があるのだろうか?)

 

「……こういう所が切歌ちゃんと似ているよね」

 

(ん?? ますます、未来お姉ちゃんの呟きにうなづいているお姉ちゃん達が分からない)

 

僕が小首を傾げている中、千夜お姉ちゃんが姉様へと手を差し伸べてから身体を抱き起こすとにっこりは微笑みかける。

 

「切歌ちゃん、これから勝負をしましょう」

「勝負……デス?」

 

こて、と不安げに千夜お姉ちゃんを見上げる姉様に千夜お姉ちゃんは両手を壮大に広がるとその勝負の内容を説明するのであった。

 

「勝負というのは制限時間までに歌兎ちゃんに切歌ちゃんがタッチすることが出来れば、歌兎ちゃんを一日中好きにしていいことにしましょう」

 

(え、え〜〜)

 

どうやら、僕はその勝負にて参加が絶対条件で勝利賞品にも絶対参加らしい。

しかし、それで姉様がラビットハウスのお仕事に精を出してくれるのなら参加することも(いと)わない。

 

(ん〜〜、それに姉様がその勝負を勝って、一日中一緒に居られるのだとしたら……それは僕にとっても嬉しい事だ)

 

あっ、でも姉様の事だから。

朝を起きる時から夜寝るまで僕に抱きついて離れないかもしれない。となると、もしかしたら、僕はその日は抱き枕のような扱いになるのかもしれない。

 

(そ、それは流石に……ね)

 

服を脱がせてもらって着替えさせてもらっている時点で既に手遅れ気がするが、一人でトイレやその他諸々少しずつでもできることを増やしていかないと姉様が用事の時で出掛けている時に何にも出来なくなるし、分からなくなる。

 

(なら、姉様になんとか勝たないと)

 

小さく意気込む僕を見て、この勝負は開催することは決定らしい。

姉様の方を見るといつもの調子が戻った様子で不敵に笑っている。

 

「時間は夕方までね。他に説明はいるかしら?」

「‥‥はい」

「何かしら、歌兎ちゃん?」

 

先を促す千夜お姉ちゃんに僕はラビットハウスに集まっている人からとある条件に合う人を探し出そうと視線を走らせる。

そして、見つけ出すとその人を指差しながら尋ねる。

 

「‥‥逃げきる為の助っ人としてリゼお姉ちゃんを借りてもいいですか?」

 

リゼお姉ちゃんが"私かぁ!? "と驚いているが、リゼお姉ちゃんにしか頼めないことなのだ。

千夜お姉ちゃんは僕に向けていた視線を姉様に向けると小首を傾げる。

それの仕草に姉様は鼻を鳴らす。

 

「リゼさんが相手だろうがなんだろうが、あたしと歌兎の姉妹愛の前には単なるコソ泥に過ぎないのデス!!」

「いやいや待て待て。何故私が怪盗のような立場になっている。私は助っ人であって、泥棒とは----」

「----やはりリゼさんはあたしから歌兎を奪う怪盗でしたか!?」

「お前は少し他人(ひと)の話を聞けぇええええ!!!!」

 

リゼお姉ちゃんが渾身のツッコミを姉様へと炸裂(さくれつ)したところで、始まっても終わっても僕への負担が多い勝負が幕を開けたのだった------。




というわけで、姉様の我儘によってから始まった鬼ごっこですが、どちらに勝利の女神は微笑むのでしょうか?

因みに、リゼちゃんが歌兎ちゃんを守りきった時は"一日中歌兎を好きに出来る券"はリゼちゃんの物になります。(やはり、歌兎への負担が大きい……しかし、あの姉様には歌兎が一番の勝利賞品でしょうからね(笑)

と、話を戻しまして‥…それを知ったリゼちゃんの反応は以下の通りです。
「私には必要ないことじゃないかぁ!?」
確かに、一日中歌兎を好きにしてもいいと言われても、どうしたらいいのか……困りますよね、リゼちゃんの反応はごもっともです。

私がもし、リゼちゃんの立場で歌兎を一日中好きに出来るだとしたら……一緒にパンとか、ホットケーキとか作りたいですね(微笑)
それ以外は一緒に寝るとかかなぁ…(笑)



ここからは雑談コーナーです。
ネタバレは避けつつ、書いていこうと思います。

【アルケミックオーダー】
前半から後半まで感動でした。
サンジェルマンさん、カリオストロさん、プレラーティちゃん三人の絆に感涙(かんるい)ッ!!
響ちゃんのどの世界の人にも手を差し伸べ続ける理由と熱意に感涙ッ!!
カリオストロさんに『おチビちゃん』と言われて、プリプリする切ちゃんに萌え死にそうになったり
あの名言が画面に出た時は一緒に叫んだり
あの人がこの世界線では善人だったり
と、最後の最後まで驚きと感動に包まれた素晴らしいシナリオでした!

また、追加された『永輝ーエィヴィガーブントー』はその名の通り、希望に溢れた明るい曲調に歌詞でしたねっ!
私はまだゲットしてないので……早くゲットしたいものです。

そして、早くフルが聴きたいという気持ちに駆られます。まさか、この三人の新曲を聴けるとは思ってなかったので……シナリオを考えてくださった方には敬意しかありませんッ。


【雪上のクリスマス】
復刻となるこのストーリーは私よりも読者の方の方が詳しいと思います!
何故かというと、私がXDを始めたのは『戦姫海賊団』からなので(微笑)

と、話を戻しまして……もう、このシナリオーー私を萌え死にさせる気ですかッ!?(鼻と口を抑える)
ガチャでは☆5切ちゃんが当たらない、しかしこのシナリオの切ちゃんは普段の数割り増しで可愛すぎるッ!!‥…なんだか、飴と鞭を貰ってる気持ちになります(笑)

しかし、まだストーリーの触りしか触れてないので……まだ、可愛すぎる切ちゃんを堪能できてないんですよね。
そして、今日も忙しくて……可愛すぎる切ちゃんはどうやら、来週にお預けのようです。
ですがですが、用事さえ終わればストーリーを堪能することが……これ頑張るしかないなぁ!!(単純)




そんな雪上のクリスマスでは"サンタさんはいると信じていた切ちゃん"の妹でこの作品の主人公である暁歌兎をここまで更新を送らせてしまったお詫びとして描かせていただきました。
また、前に彼女をお披露目した時はかなり雑に書いてしまい、落胆された読者の方も多いと思うので……それに対してのお詫びも含めています。

シチュエーションは、ラビットハウスでの接客中に呼び止められて、振り返った様子となっております。

では、前振りが長くなりましたが……どうぞ!!



【挿絵表示】



どうだったでしょうか?

接客中に両手に何も持ってないのと、背景が変なのは……私の未熟ゆえです。
また、この歌兎を描かせていただく際に注意されて頂いたのは、凹凸のない身体つき。切ちゃんと似ているところを加えつつ、チノちゃんに似せることでした。
その点が皆さんに伝わっていたら、嬉しいです(●´ω`●)

また、歌兎ちゃんが左側に留めていた髪留めのエピソードは後々『うちの姉様は過保護すぎる』章にて、更新しますので楽しみにしててください。
そして、髪留めに着いている兎の飾りは絵の右上と左下に大きく描いてますので、その飾りが付いているのだなと思っていただけると嬉しいです(笑)



ここからはお知らせとなります。
早ければ今日、遅ければ来週の火曜で更新させていただく総数は50話で一旦この『うちの姉様は過保護すぎる。』の更新を休ませてもらうと思います。
理由は更新出来ずに溜めてある作品の更新もしたいと考えているからです。
また、再開は年初めかその前の週から更新させてもらいます(。-_-。)


では、長くなってしまいましたが……風邪を引かれないようにお身体にお気をつけて、ではでは〜( ´ ▽ ` )ノ”


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014 ご注文は衝突ですか?【クリスちゃん誕生日記念】

クリスちゃん、誕生日おめでと~~ぉ!!!!

ツンツンしつつもなんだかんだみんなに優しく世話好きなクリスちゃんが私は大好きデス!!

さて、今回の話はそんなクリスちゃんを登場させつつも----大暴れするのは我らが過保護な姉様だと思います(笑)

では、本編をどうぞー!!

※すいません、タイトル間違えてました(大汗)
なので、『うたずきん』から『衝突』へと変わってます。


「はぁっ…はぁっ…なんだだよ!あいつ!!」

 

そう悪態をつきながら、路地を駆け抜けるのは僕をお姫様抱っこするリゼお姉ちゃんである。

 

「隙ありデス!リゼさん!!」

「って、あぶなっ!?」

 

上から降ってきた姉様の指先が僕に触れそうになり、クルッと回り自分の身体を盾にすることで回避したリゼお姉ちゃんにタイルに片足をつけて立ち上がった姉様が不敵に笑う。

 

「リゼさん、なかなかやるデスね」

「歌兎を時間まで守るって約束したからな。そう簡単に切歌に歌兎触れさせるわけにはいかないからな」

 

リゼお姉ちゃんも挑発とばかり不敵に姉様へと笑いかける。

その笑顔が、そのセリフが、ギュッと抱きしめられて感じるリゼお姉ちゃんの体温についドキドキしてしまう。

 

「‥‥リゼお姉ちゃん」

 

リゼお姉ちゃんを見上げ、惚ける僕を見て、唇を噛みしめる姉様は悔しそうに地団駄を踏むとビシッとリゼお姉ちゃんを指差す。

その時の顔は今にも泣き出しそうな、それでいて湧き上がってくる他の気持ちにも翻弄されているような、なんともいえない顔をしていた。

 

「なっ、なななな……ぐぅうううぅ〜〜ぅ……。もういいデス!リゼさんの事なんか大っ嫌いになったデス!!あたしから歌兎を攫ったばかりか、歌兎の心すら攫おうするリゼさんなんか大っ嫌いデス!!この悪魔ッ!怪盗ッ!コソ泥ッ!!」

「だからなんでそうなる!?」

 

リゼお姉ちゃんの悲鳴じみたツッコミからまた再開する千夜お姉ちゃんの『よーい、スタート』というなんとも間の抜けた合図から始まったこの【歌兎ちゃんにわんつーたっち】という名の逃走劇は、果敢に攻めてくる姉様に勝敗が傾いているように思えた。

 

(それにさっきの挑発から攻めもやけっぱちになっているような気するし)

 

このままでは姉様に触られるのも時間の問題と考えた僕はリゼお姉ちゃんへとお願いごとをする。

 

「リゼお姉ちゃん、そっちの角を右へお願い」

「分かった」

 

リゼお姉ちゃんが方向転換し、レンガの家とレンガの家に挟まれて作られた小道へと足を踏み入れるのを見届けた僕はごそごそとポケットを探る。

 

「姉様、ごめんなさい」

 

と、姉様に詫びを入れてから僕は勢いよく"ソレ"を地面に転がせた。

そして、ソレを勢いよく踏みしめてしまった姉様はバランスを崩して尻餅をついてしまう。

 

「ふふ、そんなところに逃げ込んでもあたしには––デデッ!? 何でこんなところにビー玉がぁああ!!?」

 

ドッスーン、と大きな音が聞こえてきたから、きっとかなりの勢いで尻餅をついたのでないだろうか?

そう思い、リゼお姉ちゃんの左肩越しに後ろを見てみるとーー

 

「ふふふ……フフフフ……歌兎ってば、お茶目ちゃんデスね……こんなところにビー玉なんて投げ捨てるなんて……そんなに、そんなにもリゼさんがいいんデスか? あたしという姉が居ながら……もう手加減しないのデスよ……」

 

ーーそこには、ゆら〜りゆら〜りと不自然な起き方をして、光が灯ってない淀んだ黄緑色の瞳は笑ってないのに、桜色の口元は笑っているという不気味かつ底冷えする笑い方をしている姉様がいた。

 

(怖いコワイこわいッ!追いかけてくる姉様の顔がマジすぎて怖い!!)

 

「歌兎、リゼさんッ!!」

 

何処かのマラソンランナーのように背筋を伸ばし、両手を振りながらも迫ってくる姉様の顔は真顔ときた。これが怖い以外のなんだというのだろう。

リゼお姉ちゃんも後ろを見てから怯え出した僕を見て、チラッと後ろを見た瞬間、逃げるスピードが加速した。やはりリゼお姉ちゃんの目から見てもマラソンランナーのように背筋を伸ばし、真顔で迫ってくる姉様は恐怖の対象の何者でもないらしい。

 

少しでも姉様の脚を緩ませようとクネクネと小道を通るが、そこは元の世界での出動や特訓で鍛えている姉様にとっては苦でもなんでもない。

どんどん迫ってくる真顔姉様にリゼお姉ちゃんが小さく「ひぃ…」と悲鳴を言った時だった。

 

ドッシーン、と誰かとぶつかったのはーー。

 

「てて……なんだってんだ」

「すまない。私が前を見てなかったばっかしに……」

「いいや。こんなところにつったてたあたしも悪いんだから、気にするな……って、なんでこんなとこ居るんだよ、チビ」

 

そう言って、リゼお姉ちゃんの腕に抱かれている僕を見て目をパチクリさせているのは、薄紫色が入った白銀の髪を赤いシュシュでお下げにして、赤を基調とした服に身を包む少女・クリスお姉ちゃんだった。

 

「‥‥クリスお姉ちゃん?」

 

と、唖然と呟く僕にリゼお姉ちゃんが耳打ちしてくる。

 

「クリスお姉ちゃん? もしかして、この子歌兎の知り合いの子なのか?」

「‥‥うん、元の世界で未来お姉ちゃんと共にお世話になっていたお姉ちゃん」

「そうなのか」

 

未来お姉ちゃんの時もそうだったけれども、こうも突然に知り合いに出会ってしまうと何を話したらいいのか分からなくなる。

未来お姉ちゃんによるとあっちの世界では僕と姉様が行方不明になって結構な時間が経ってしまっているとのこと、故に捜索隊も解散し、自然と僕と姉様は最悪の結果になったというのが大師匠様が出した決断だったとの事。

その決断に多くのお姉ちゃん達が、ねぇや達が、S.O.N.G.のスタッフの皆様が心痛めたのだろうか。それは僕では想像もできない。

だからこそ、目の前で複雑な感情を持て余しているクリスお姉ちゃんには叱られてもいいと思っている。

 

「歌兎、ギューーッ、デス」

 

クリスお姉ちゃんの重たかった口が開き、何か言われると思い、目を瞑る僕は突然横からかっさられるように奪われると鼻腔を擽ぐるのはいつも嗅いでいる匂いだった。

それにびっくりして、目を開けるとデレデレと頬を緩ませる姉様の顔がすぐ近くにあった。

 

「‥‥へ?」

「えへへへ……やっとリゼ泥棒から歌兎を取り戻してみせたデスよ。あぁーっ、数時間ぶりの歌兎デス!!スリスリスリスリ」

「‥‥ちょっ、姉様っ。くすぐったから……って、そんなところ触っちゃやだよっ」

「いいじゃないデスか、姉妹なんデスから」

 

僕の頬へと自分の頬をくっつけ、ウリウリウリッと擦り付ける姉様の行動がくすぐったく、離れようとする僕を姉様は離してくれないどころか、変なところまで触れてくるし、撫でてくる。

 

(姉様…っ、そこはーー)

 

「ーーいい加減にしやがれ、この過保護ッ!!いつも言ってるだろ、そういうのは家でやれって!!」

 

そう言って、姉様から僕を剥ぎはがしてくれたクリスお姉ちゃんを見て、やっと姉様はクリスお姉ちゃんの存在に気づいたらしく、キョトンとした様子でクリスお姉ちゃんを見ていた––––––。




クリスちゃんの口調、優しくなっちゃったかも(笑)
っていうか、クリスちゃんの出番少なかったですね……これはあかんな(汗)
次回はバァ〜ンと活躍してもらいましょう!!(笑)

そして、勝利の女神は姉様に微笑んでしまったらしいです。
これで歌兎の抱き枕生活は確定ですね(苦笑)

しかし、リゼちゃんとの絡みも書きたかったんですけどね……仕方ない、ここはルート式にして『姉様Winバージョン』『リゼちゃんWinバージョン』を書くとしましょう!
しかし、一旦は参戦したクリスちゃんとの絡みを書きたいので……リゼちゃんWinバージョンはもう少しだけお待ちを(礼)



また、ここから先は予告と題した私なりの目標でして……12月31日に【繋がる陽陰の太陽】の第2話の更新、1月1日に第3話の更新と新年を記念した着物の姿の歌兎を後書きにて掲載出来ればと思います。
なので、それまで挿絵となる歌兎を描いたり、第2話と第3話を書き進めるのに時間を取られて、更新出来ないかもです(笑)

繋がる陽陰の太陽の第2話と第3話は色んな意味で衝撃的なものとなる予定ですので、楽しみにしててくださいッ!




さて、最後にここ最近の私のガチャですが……クリスマスセレナちゃん。限定解除切ちゃん(技属性と体属性)を其々のガチャ、10回目でゲット出来たのまでは良かったのですが……今行われている新必殺技バージョン・イグナイト切ちゃんはからっきしダメでして…(涙)
最近、切ちゃんのガチャの飴と鞭の落差が激しくて、泣きそう……


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015 ご注文は遠出ですか?【切ちゃんWinルート①】

大変遅くなりましたがーー巫女ギア切ちゃんの上限解放を手伝ってくださったフレンドの方、救援してくださった方本当にありがとうございますッ!!(土下座)

この切ちゃんは是が非でもレベル70にしてあげたかったので…ほんと嬉しかったです…。


改めて、救援ありがとうございました!


そして、ほんの些細な物なのですが…お礼として、歌兎のミニキャラを描いてみました。
テーマはプレイヤーアイコン風の【毛布だるま】と【九尾狐】です。



【挿絵表示】



どちらもイマイチな出来となってしまった…(大汗)
ミニキャラって難しい……まだまだ精進あるのみですね…(微笑)

其々の注目してほしいポイントは【毛布だるま】は歌兎の鼻水を吸い込もうとしている顔と色とりどりの毛布ですね。実はこの毛布の色…読者の皆さんにも私にも馴染みのものから色を塗っているんですよ(微笑)
きっと皆さんならピンと来るはずです…あと、毛布の色分けの意味も分かってくるかも…あっ、でも一つだけ色分けでわからないものがあるかもですね(微笑)

続けて、【九尾狐】は歌兎の表情と髪型、そして服装です。
表情は泣きそう感じみえますが…本当は上目遣いに服装と九尾狐の耳と尻尾が似合っているのか、と皆さんに聞いているんですよ、歌兎が(微笑)
なので、九尾狐歌兎に服装の感想などを言ってやってください(笑)
続けまして、髪型は分かりにくいのですが…ポニーテールにしてあります。理由は九尾狐耳にポニーテールって似合いそうという私の趣味ですね(笑)
服装は未来ちゃんが加入する際に着ていたダボダボのひよこパーカーです。『ご注文はノーパンですか?』ではバッチリ下を履かせてもらっていた歌兎ですが……今回に限って、姉様のうっかり(短パンの履かせ忘れ)が発動したらしく、そのパーカーの下はーーーーとなっているわけですね(笑)


そして、最後に何故私がそこまでしてこの巫女切ちゃんをレベル70にしたかったのかと申しますと…この切ちゃんの必殺技【圧殺・覇iンRい火】は本作の主人公・暁 歌兎(メインストーリー)の技に似ている…そう私が想像していたものだったんですよ(微笑)
メインストーリーの彼女のメインアームは大槌ですからね(笑)

なので、私には……あくまでも。あくまでも、私個人としての視点でいうと……まるで作品の枠を超えて、歌兎が姉様を助けているように見えたわけなんです(微笑)

そんな姉妹ユニゾン必殺技(私個人の視点)があるこの巫女切ちゃんをレベル70まで上げなくてはッ!!歌兎に顔向け出来ないッ!!!

という具合で、必死にこの巫女切ちゃんのレベルを上げていたというわけです。

やってみてわかったのですが、この上限解放って地味に疲れる…(膝をつく)
しかし、私がフレンドされていただいている方々はフレンド枠を両方レベル70まで上げていらっしゃったり……とキャラクターへの愛、またシンフォギアへの愛がヒシヒシと伝わってきます(微笑)

私もフレンドの皆さんを見習って、もう一人ほど上限解放を……んー、誰にしようかな…(悩)
切ちゃんもいいけど…調ちゃん、クリスちゃんも捨てがたいんですよね……まぁ、ボチボチ上げていこうと思います(微笑)


さて、本編を読む前から長々とすいませんでした…(大汗)

今回の話はクリスちゃんが加入時にリゼちゃんとの勝負…まぁ、姉様が一方的に駄々をこねて、千夜ちゃんが面白半分で作った勝負なんですけど…その勝負に勝った姉様と勝負の勝利品・歌兎の話です。
内容はタイトル通りで…今回は珍しく奏者チームだけの話になるかもです(微笑)


コトンコットン

 

と汽車が線路を走っていく中、大きめの窓から外の景色を見れば、遠ざかっていく‥‥すっかり見慣れた木組みの家と石畳の街のシルエット。

横を見れば、赤や橙、黄色に緑に色づく葉っぱの形が見えれば、掠れて、窓枠の外へと消えていく。

 

そして、窓に映るのは景色だけでなく、もう一つあり、それはーー

 

「えへへ〜〜っ、歌兎〜〜ぅ」

 

ーー窓の外を見つめる僕の右頬へとスリスリと自身の左頬を擦り付ける癖っ毛が多い明るい金髪のショート、垂れ目がちの黄緑色の瞳、ゆるゆるな頬に可愛らしくも美しい顔立ちが残念な方に緩みに緩みきっている少女・暁 切歌‥‥僕と血が繋がった実の姉であり、その過保護さは凄まじく、一度暴走モードに入ってしまうと誰も彼女を止められない。

 

「ーー」

 

そんな姉様と膝の上に座る僕のやりとりをにこにこと穏やかな笑顔を浮かべて見つめるのは……ショートヘアの黒髪を白い大きなリボンでくくり、大きな水色の瞳に穏やか笑みと相まって柔らかい物腰はまさに大和撫子といえるだろうその少女の名前は小日向 未来お姉ちゃん。

 

「ーー」

 

姉様と僕、未来お姉ちゃんの目の前の席にドカンと座り、脚を組んで時折僕と姉様のやりとりを見て、疲れたように頭を抱えるのは……薄紫色の銀髪をお下げにして赤いシュシュで結び、髪と同色の少しつり目がちの瞳を不機嫌そうに細める少女の名前は雪音 クリスお姉ちゃん。

 

未来お姉ちゃんとクリスお姉ちゃんはこの世界に迷い込む前に知り合い、苦楽を共にしたかけがえのない仲間……ううん、家族のようなものだと僕は思っている。

 

そんなお姉ちゃん達と僕、そして姉様が何故か汽車に揺られているのか?

その答えを知るには数時間前まで時を巻き戻されねばならない。

のだが、その前にリゼお姉ちゃんとの勝負の結果と僕はどちらの手に渡ったのかを明確にしないといけないだろう。まず、勝負の勝ち負けは上の文章を見ての通りで姉様が勝ち、リゼお姉ちゃんが負けてしまったというわけだ。なので、その勝負の賞品として絶対参加だった《僕を一日中好きに出来る券》は必然的に勝った姉様の手に渡ったというわけだ。

そして、姉様はその券を欲張りなことに翌日に使うことにしたらしく……その日、姉上様の家に姉様と共に泊まっていた僕を寝る前から起きてからも抱き締め続け、姉上様が作ってくれた朝ご飯の時も僕を後ろから抱きしめ、僕の頬をスリスリしながら、朝ご飯を食べさせてくれるわけでもなくイチャつくのみだったので……姉上様の観念の尾が切れてしまったというわけだ。

パクパク食べていた茶碗を卓袱台(ちゃぶたい)へと叩きつけ、僕と姉様を指差すと

 

『切歌、歌兎。私、メロンパンが食べたいわ』

 

静かにそう言う姉上様の水色の瞳を見つめ返す僕達に姉上様は静かも怒りを含んだ声音ではっきりとこう仰せになったのだ。

 

『今日はココアの実家までいって、メロンパンを買ってきなさい。分かったわね?』

 

その有無を言わさない口調に僕と姉様は顔を見合わせた後にコクリと頷いたのだった。

そして、姉様に服を着せてもらい、久しぶりに会うモカお姉ちゃんに出会えるのを密かに楽しみにしつつ、姉様に手を引かれながら、汽車の乗り場まで歩いている時に未来お姉ちゃんとクリスお姉ちゃんに出会い、二人はモカお姉ちゃんに出会ったことがないとのことで……二人も僕達と共にココアお姉ちゃんの実家まで向かう事になったということだ。

 

 

そして、時を戻して今現在。

 

僕は姉様の膝の上に座り、頬を常にスリスリされ、ナデリナデリと服越しに身体や頭を撫でられながら、汽車に揺られながら……ボゥーと外の景色を見つめている。

 

その時に背後から呼びかける甘い声に僕は後ろへと振り返る。

 

「歌兎っ、歌兎っ」

「‥‥なに? 姉様」

「えへへ〜、呼んでみただけデス」

「‥‥そう?」

 

小首を傾げる僕に心底嬉しそうに上機嫌な満面の笑みを浮かべる姉様、まるで仔犬のしっぽのように姉様の気持ちを表しているぱたぱたと動く脚がソファに当たる度に、未来お姉ちゃんの注意が飛ぶ。

 

「切歌ちゃん、あまり物音立てちゃあダメだよ。周りの人には寝ている人もいるからね」

「あ、あう……。ごめんなさいデス……」

 

未来お姉ちゃんに注意され、しゅーんと下がった脚を見て呆れたようなため息をつくクリスお姉ちゃん。

 

「はぁ……、あとそのイチャイチャもどうにかしろよな」

「ふぇ? なんでデス?」

「なんでデスって……そりゃあ、その……」

「クリスは目のやり場に困るっていいたいんだよね」

「なっ、ばっ……馬鹿ってんじゃねぇーーッ!!」

「クリスも大きな声出しちゃあダメだって」

「くっ……これはお前が変なことをーー」

「ーーさぁ、歌兎。今度はお姉ちゃんの方を向いてください」

「‥‥ん」

 

姉様のそう言われ、一旦太ももから降りると姉様の方を向き、抱き上げられる。

 

「んぅーーっ、歌兎の体温がダイクレクトンに伝わってくるデス。歌兎、もっと顔をお姉ちゃんによく見せてください」

「‥‥ん」

 

なんだか向かい合うように抱っこされているせいか、顔が普通よりも近い……いいや、姉様から距離を縮めていってるのか。

ど、どうしよ……姉様の吐く息が頬に当たるんだけど……。

唇もあと少しでーー

 

「ーーい……いい加減にしやがれぇ!!そういうのは家でやれって言ってるだろぉおおおお!!!!」

「クリス、しぃー、だよ」

「お前はなんで冷静なんだよ!?あの過保護馬鹿をどうにかしないとチビにとって大事なものが無くなりそうだぞ!?」

「そう? このやりとりはいつもの事でしょう」

「お前までボケるな

 

その後、キョトンとする未来お姉ちゃんとその隣でイチャイチャを再開する僕達を見て、"もういいや"と壮大な溜息をつくクリスお姉ちゃん。

その後、三人でモカお姉ちゃん似合いに、ココアのお姉ちゃん実家のパン屋さんまで歩いていったのだった……




というので、次回はモカさんのところで姉上様の好きなメロンパンを買い、未来ちゃんとクリスちゃんを紹介する話デス。

きっとモカさんによって、未来ちゃんとクリスちゃんはもふもふされちゃうんでしょうね(微笑)
また、折角なのでクリスちゃんとリゼちゃんの銃対決とかしたいと思ってます…未来ちゃんは誰とのイベントがいいかなぁ……誰とでも良さそうな気がしますね…(微笑)

それでは、出来れば…今日中にもう一話更新する予定ですので…楽しみにしててくださいね(*´ー`*)


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クロスオーバー:うたわれるもの
001 しょうかんせしもの


【うたわれるもの 偽りの仮面】とのクロスオーバーです。

今回の話は歌兎と切ちゃんが偽りの仮面の主人公・ハクさんと出会う場面まで書きました。
文字数は少なめなので、すらすらと読めると思います。

では、本編をどうぞ!!

※このクロスオーバーは新ストーリーの設定を採用してます。


1.

 

「すっかり秋になって、寒くなりましたね……」

 

 そう言って、肩からズレている僕の黒い線が入った黄緑色のカーディガンを直しながら、大胆に肩をさらけ出している黒い✖️(ばってん)の所をさすっている姉様へと直してもらったカーディガンを脱いで渡そうとする僕の頭を"お姉ちゃんは大丈夫だから着てなさい"とポンポンと撫でてから、腰を落とすとちょんちょんと近くにあるコンビニを悪戯に笑ってから指差す。

 数分後、コンビニから出てきた姉様と僕の間には小さなコンビニ袋があり、左右の持ち手を其々握るとシラねぇとマリねぇ、セレねぇとカルねぇが待つマンションに向けて歩き出す。

 ガサガサと音を当てて、中から出した白い紙袋に入ったものを取り出した姉様は「熱いから気をつけて持つんデスよ」と注意してから僕へとその袋を手渡す。

 受け取った僕がゆっくり紙を開く中、豪快に破いた姉様は中から飛び出してきたほかほかと湯気が立つ白い円状のものに齧り付くと忽ちにっこり笑顔へと早変わりする。

 

「寒い季節になったら肉まんと相場は決まっているのデスッ! あむ……うん、おいしいっ」

「…ん、おひい」

 

 手間取りながら、紙を開いた僕は中から飛び出してきたほかほかと湯気が立っている白い円状のものこと肉まんへと「ふぅ……ふぅ……」と息を吹きかけながら、齧り付くと忽ち中からじゅわ〜ぁと肉汁が溢れ出しては舌を濡らし、粗挽き肉本来の甘みを与え、もぐもぐと食べ進めていくとコリコリと歯ごたえの良いタケノコが食感を楽しませてくれる。

 肉まんをちびちびと食べ進めていく僕の嬉しそうな顔に満足したように微笑んだ姉様がもう一口肉まんに齧りつこうとしたその瞬間、辺りが白景色へと早変わりして、僕と姉様は両目と口をまん丸にしてからその場に立ち尽くす。

 

「……へ?」

「……デ?」

 

 確かにさっきまで僕達は見慣れたビルやマンションが立ち並び、行き交う人々や広告などの音が溢れた見慣れた風景にいたはずだ。

 なのに、どうして……。

 

「ふぁぁ……」

 

 今の状況に戸惑いながら、何か情報を集めるため辺りを見渡す僕の方をジィーーと見て、まん丸だった瞳をキラキラとした好奇心に変えた姉様に"なに?"の意味を込めて、小首を傾げてから上目遣いすると姉様は何故か頬へと朱で染めると改まった感じで僕へと尋ねる。

 

「歌兎、ギュッてしていいデスか?」

「…へ? ね、姉様がしたいならどうぞ」

「なら、失礼して……」

 

 腰を落としてから僕の視線へとなった姉様はどこか興奮した様子でギュッと僕を抱き寄せてから髪の毛を撫でた後にすぅ……とお尻へと手を向かわせ、そこから生えているもの(・・・・・・・・・・・)を無邪気に手つきで撫で始める。

 そこを撫でられた瞬間、ゾクゾクと不思議な感触が背筋を走って、脳へと流れては困惑する僕を鼻息がだんだんと荒くなっていく姉様は既には年頃の乙女がするべきでない色々と緩みにゆるかった顔を僕の顔……詳しくは耳へと押し付けると僕の疑問を解いてくれた。

 

「あぁんもう〜ぉ。いきなり変なところに来たかと思ったら、宇宙一可愛いうちの妹にもふもふふわふわの耳と尻尾が生えてるなんてここは天国デスかッ。ええ、ここは間違いなく天国なんデスねッ。いい行いしてたあたしのことを神様は見守ってくれてたんデスねッ!! ありがとうございます……あたし、今すごく幸せデス。大好きな妹のこんな可憐な姿を見れて……」

 

 興奮したようにまくし立てながら、僕へと熱烈な頬ズリと抱擁(おうよう)、なでなでを心ゆくまで行った姉様は幸せそうに「ふぅ……」とやけに色っぽい吐息を漏らした後、その場に跪き、この世界の神様? へと感謝の祈りを捧げていた。

 そんな姉様と異なり、心ゆくまで色んなところを隅々までモフられた僕は大事なものを多く失った気がししながら、その場に崩れ落ちて、荒くなる息を整えていた。

 その時、自分の状況を確認すると姉様が言う通り、僕のお尻付け根からはふさふさと白銀の狐の尻尾が生えており、いつの間にか耳も普通の耳から白銀の狐の耳へと早変わりしていた。今の自分の状況を受け止めるのに時間が掛かり、僕は暫く項垂れるのだった。

 

「…むぅ」

「う、歌兎ごめんね……」

 

 数分後。

 息を整え終えた僕は必死に頭を下げる姉様から視線をプイッと晒すと頬を膨らませていた。恐らく、あの数分に僕は多くのものを失ったのだ。これくらいの反抗期許してもらえるだろうと僕の反抗期に既に半泣き状態になってる姉様を横目にその場を見渡していた僕は枯れ木を掻き分けて、現れたそれに目を見開くと姉様の手をとって、その場から逃げる。

 

「う、歌兎……?」

 

 さっきまで不機嫌状態だった妹がガッシリと自分の手首を掴んでから血相を変えて逃げているのだ。訳も分からないし、困惑もするだろう。

 

(と思ったけど、姉様は嬉しかったみたい)

 

 時間にして30秒くらいだったと思うのだが、その間だけでも冷たくされたのが堪えたらしい。自分の手首をギュッと握る小さな手を見つめた後に嬉しそうな笑顔を浮かべるとようやく背後から聞こえてくる奇妙な音に気付いたのか、後ろへと振り向いた瞬間、その幼さを残しつつも美人と評される顔立ちは恐怖と困惑へと変わる。

 

「なんなんデスか〜ぁ!! アレェエエエエエエエエエ」

 

 前を走っていた僕をいつの間にか追い越した姉様は隣を走っている僕をお姫様抱っこすると絶叫しながら、ギグザクに枯れ木をぬぐいながら、白い絨毯のように思える雪道を全力疾走する。

 

「ギヤァアア」

 

 そんな僕達を一度ロックオンしたアレは不気味な声を上げながら、追いかけてくる。

 僕達を追いかけるアレとは巨大な蠍のようなモンスター? で、全長は僕の数百倍で小さな小山くらいあると思う。色合いは気味が悪い緑のような青のような感じで……確かに前の世界でも巨大なノイズやアルカノイズと対峙したことがあるし、倒したりもしたけど、あんな如何にもヤバそうな蠍と戦ったことはないし、感でも思いつきでもない本能があの蠍とハサミを一撃食らったら終わりと告げている。

 

「ギア纏えないんデスか!?」

「…駄目だと思う。さっきから聖詠が胸に浮かばない」

「くっ。どうするデスか……このままではあたしも歌兎もアレに……でも、ここであたしも歌兎も死ぬわけにはーーあいたっ」

「痛……なんだよ……」

 

 前を見て走ってなかった姉様がぶつかったのは、緑色の病衣に身を包んだ鶯色の髪をした幸の薄そうな20代後半くらいのお兄さんでーー

 

 

 

 ーー僕と姉様はまだ、このお兄さんとの出会いが運命だとは気付かないでいた…………。

 

 




ということで、歌兎もうたわれるもので暮らすデコイと同じように耳と尻尾が生えました(笑)
普通の耳は白銀の狐耳へと変わり、お尻の付け根からはふさふさの狐耳が生え、姉様は大喜び。完全に我を忘れてましたね……(失笑) そんな姉様のせいで多くのものを失った気がする歌兎は果たしてどんな風にモフられたのでしょうか、姉様に……。
でも、私も姉様の立場なら間違いなく、歌兎をモフらまくりますねッ!! ふっさふさの狐の尻尾が目の前にあるんですよ……これがモフらずにいられますかッ(鼻息が荒くなる変態作者)

って、早速変態なコメントをすいません……(大汗)
これから先も変態なコメントが多く見受けられると思うので、苦手な方は回れ右をよろしくお願いします!!(敬礼)

話を戻しまして、解説ですがーーーーこの世界での切ちゃんの武器は後々出てきますが【薙刀】、歌兎は【小太刀の二刀流】となってます。
また、ギアは纏えませんが……切ちゃんはイガリマの【魂を両断する】能力を
歌兎はメギンギョルズの【自身・味方の能力・力を倍増させる】、ミョルニルの【投げた物が帰ってくる・どんなに叩かれても壊れない】の能力を
使えることが出来ますが、歌兎はこの世界に召喚されたばかりなので、メギンギョルズの能力しか使えません。

因みに、二人のレベルは5です(笑)




さて、ここからはXVの12話の感想を書きたいのですが……その前に前の回で書き忘れていたことを書こうと思います。

まず、10話での切ちゃんによる『翼先輩』呼びッ(大興奮)
今までのシリーズでクリスちゃんが翼さんの事を『先輩』と呼ぶことがありましたが、他の人が翼さんの事を『先輩』と呼ぶことはなかったですよね!? なので、このシーンはすごく印象に残っているんです……戸惑う翼さんの手を握る響ちゃんと後ろに並ぶみんなの微笑みがうるってきましたし……(号泣)
しかし、切ちゃんいきなり翼さんを『先輩呼び』ってどうしたんだろ……単にクリスちゃんの真似をしたと考えられるけど、ここはやはり二人で秘密裏に温泉旅行に行って、密会して色々と親密になったからではないでしょうか!?(9割冗談1割本気)
という9割がた冗談を言ったところで、続いて11話の翼さんとマリアさんがユニゾンしたところですね!
前でも言いましたが、ここでGのライブシーンの再現はヤバイっス、号泣しちゃいます。
特に『スターダスト』で横並びの二人がかざしているそれぞれの武器が不死鳥になるところとかもう……何度見返しても鳥肌が立って(ゾクゾク) 翼さんの刀? 剣? がタイミングよく炎を吐き出すのもいいですよね! あと、翼さんとマリアさんにプロレス技を決めるミラアルクさん……あんな薄手であんな風に首に絡みついたら、絶対アソコに当たってますよね……何がとはいいません、これ以上言ったら流石にヤバイと思うので。


ここからは12話の感想ですが……

まさかの翼さんとマリアさんがユニゾンしている時から……時を遡ってのストーリーとなるとは思いはしませんでした。

そして、一人……いいえ、二人でシェム・ハの野望を阻止しようとするエルフナインちゃんとキャロルちゃんに涙が……(ぽろぽろ)

しかし、大人の時と違い、万全じゃないキャロルちゃんと違い、万全なシェム・ハを止めることは二人には出来ず……地面に倒れるキャロルちゃんが『シンフォギアァァァァ』と叫ぶシーンがなんとも(涙)

あぁ、ダメだな……今回のシーンは全部通して涙が止まらんです……。

続けて、ヴァネッサさんと響ちゃん、クリスちゃんとの戦闘ですが……もう胸が痛い、張り裂けそう……。
そうですよね……三人はただただ"普通の女の子・女性に戻って、みんなと仲良くしたかった"だけなのに、シェム・ハに完全な化け物に作り変えられてしまって……完全な化け物になってしまった自分達に手を差し伸べてくれるのはもう居ないと決めつけてる。
ヴァネッサさん、冷静になって前を見てみてください……あなたは居ないと決めつけるけど、化け物だろうと何であろうと手を繋ぎたいと言ってくれる優しい子が、その子によって変えられた子達が居るんです。彼女達はあなた達を絶対見捨てない優しい人達なんです。
ほら、とどめを撃たれると思って身構えたその時、守ってもらったでしょう? クリスちゃんのセリフに感動し、納得したのならば彼女達と手を取りあってほしい。

しかし、 そうはいかないのはシンフォギア。

ヴァネッサさんにも自分の分身を潜ませていたシェム・ハ。
本当に腹ただしいけど……CVが日高のり子さんだから、素直に憎めない……。
しかし、シェム・ハが神の中で反乱を、自分が支配者はなろうとしなければこんな惨劇は起きなかったんですからね!? うん、やはり許すまじ、シェム・ハ!

そんなシェム・ハによって爆発される月の遺跡からノーブルレッドの三人によって助けられる装者のみんな。
ヴァネッサさんがいう『呪い』という言葉へと『呪いは祝福へと変えられるはず』と返答した響ちゃん……なるほど、あのラーメンのシーンはここの伏線だったのですね……。
そして、ノーブルレッドのみんなが消えてしまう前に、ヴァネッサさんが言った『ありがとう』には『大嫌い』と別の意味が込められていると思います。

最後はシェム・ハの『流れ星……落ちて、燃えて、散って……』………このセリフを未来ちゃんが言って、未来ちゃんの瞳に流れ星が映るっていうのが泣ける……。未来ちゃんと響ちゃんにとって流れ星は特別なものだと思うので。

『そして』
みんなの新しいエクスドライブが解禁されましたねッ!!
みんなゆらゆらしてる……すっごいゆらゆらしてる……かっこいいし、可愛い(照)
そんな中で一番の変化が見れたと思ったのはは切ちゃんですねッ!!
一瞬、新キャラかな? って思っちゃったもの……いやーまさか、髪の毛が伸びるなんて………ね。
ショートヘアーの切ちゃんもいいけど、ロングヘアーの切ちゃんもいいですな〜♪ 可愛いに違いはありませんが、どことなく大人びているようにも見える……いい作画ありがとうございますッ!!

違うといえば、今までのエクスドライブでの調ちゃんは黒髪をギアへと収納していましたが、今回は収納されてませんでしたね!? ストレートというよりも少しふわっとしていて、大変トキメキました。

ときめいたといえば、やはり響ちゃんはイケメンですね。最後の静止画、かっこよすぎでしょう……。
また、響ちゃんのマフラーが赤に染まっているところを見て……あぁ、なるほどと思いました。奏さんがエクスドライブで首に巻いているのは赤の三角巾ですからね。

さて、来週で最終回となりますがどうなることやら……楽しみに待ちたいと思います。


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002 とうそうするもの

久しぶりのうたわれとのクロスオーバーの章、今回の話は第三者視点のハクさん寄りとなってます(敬礼)

ネコネちゃん登場までまだまだだ〜ぁ………更新頑張ろっ(ぐっ)




2.

 

「痛……一体なんなんだ……」

 

 そう呟いた青年は雪の上に尻餅をついては自分へと思いっきりぶつかってきた少女の容姿をまじまじと見る。

 自分にものすごい勢いでぶつかっていたのであろう少女は青年と同じようにふかふかの初雪の上にお尻を沈めており、痛そうに病衣の上からお尻をさすっていたかと思うとハッとした様子で青年の事を見つめ、申し訳なそうに形良い眉をひそめる。

 

「ごめんなさいっ。思いっきりぶつかっちゃって、怪我はしてないデスか?」

 

 前のめりでそう青年に尋ねてくる少女の容姿は青年の目から見ても控えめにいって美少女と分類される人種だと思った。

 前のめりになることによって揺れる明るめの金髪は肩のところで切りそろえられており、左側に大きな✖︎(ばってん)型の髪留めがつけられていて、こっちを心配そうに見つめる瞳は垂れ目がちの黄緑色でキュッと結んでいる唇は桜色。輪郭は幼さが残っているものの年を重ねていくたびに美人へと育っていくのであろうと想像出来た。

 また、青年にぶつかった反動で細身な体躯を包んでいる病衣がはだけてしまったらしく、V字に開いている襟首から華奢な身体に不似合いな二つの膨らみが織りなす谷間が見えてしまっている。

 

 青年は暫く少女を見つめて、口を開こうとして口を閉ざした。本当はここがどこなのか? この近くに人家はあるのか?と尋ねようとしたのだが、目の前の少女の服装が自分に酷似しているところを見ると目の前の彼女も自分と同じように記憶が曖昧になっているのかもしれない。

 なので、青年は少女へと僅かに遅れたが返答する。

 

「ああ、自分は問題ない」

「そうデスか、良かった……」

 

 安堵からか胸に手を置いて、溜め息を一つ着くと金髪の少女は自分の目下へと視線を向けるとそこには胸に抱かれた小さな塊がいた。

 

「歌兎も大丈夫デスか? 何処か痛いところとかはないデスか? あったなら、おねえ–––」

「–––…ううん、僕なら大丈夫だよ、姉様。姉様の方こそお尻大丈夫?」

 

 金髪の少女が胸に抱えた小さな塊は身動きすると自分の方を見つめている黄緑の瞳の中で渦巻く心配の色が増していっているのか、言動がオーバーになっていっている金髪の少女へと淡い笑みを浮かべて、物静かな声を上げる。

 

(……ボ、ク? 自分と同じ男なのか? それよりも姉様だ、と? 自分の前にいる二人組は姉弟(きょうだい)なのか?)

 

 青年が見つめる先で金髪の少女・姉の胸から離れた弟? は淡い光の中でも水色の光る背中まで伸びた銀髪を揺らして、金髪の少女を見上げる。

 見上げる瞳の色は目の前にいる姉と同じで黄緑色で眠たそうに半開きしており、男性にしては可憐で愛らしい顔立ちは幼さが残っており、丸みを帯びている。

 またこちらも姉同様細身で小柄な体躯を包んでいる病衣から肩と胸が見えてしまっているのだが………青年はそこであることに気づき、慄いた。

 

(ふさふさの耳にしっ、ぽだ、と?)

 

 そう姉と会話している弟の本来耳があるところには白銀の狐の耳みたいなものが付いており、病衣からはふさふさの狐の尻尾がまるで生きているかのように左右へと揺れているのだ。

 それにズレているところからチラ見する胸は男性にしては小さいながらも柔そうに膨らんでおり、青年は驚きと共にさっきまでの間違いに気づく。

 

(姉弟ではなく姉妹だったのか……)

 

 しかし、どういうことだろうか?

 姉の方は青年と同じように耳がふさふさの獣耳に変化しておらず、お尻からもしっぽが生えているわけではない……では無いのに、妹の方にはそれが生えてしまっている。

 そもそも、本当に青年の目の前にいる少女達が姉妹なのかも本人達に聞いてないので分からない。

 

 困惑する青年とは違い、目の前にいる姉妹は会話を重ねているうちにあることに気づいたらしく、勢いよく雪から立ち上がると左右から青年の手を掴む。

 

「…それよりも姉様、あいつが来てる」

「そうデス! あいつから逃げてたんでしたっ。お兄さん、立てますか?」

「お、おい……」

 

 自分に起きていることも分からず……自分の前にいる二人組が姉妹なのか、姉妹ならば何故妹の方に普通はついてない獣耳としっぽが付いているのか……それも聞くことが出来ず、ただただ困惑し固まる青年を左右から手を引っ張ることで無理矢理地面から起こした二人は次の瞬間、脇目もふらずに雪の上を疾走する。

 

「…お兄さん、巻き込んでしまってごめんなさい。でも、今は何も言わず僕達と一緒に"アレ"から逃げる事に専念して––––ッ!?」

 

 そこで言葉を切った妹は青年ごと姉へと飛びつき、次の瞬間三人が走っていた頭上の上を鉄と鉄がぶつかるような耳障りな音が聞こえ、妹によって押し倒され、姉の上へと倒れこむように崩れ落ちた青年はそこでやっと姉妹が何から必死に逃げていたのかを知る。

 

(なんなんだ、アレは……)

 

 地面に倒れこむ青年達を見下ろすのは小山一つくらいある蠍のような……ムカデのような……薄鈍青色をしたもので–––青年の記憶にあるものよりもスケールも自分達を引き裂こうとしている左鋏と右鋏の大きさも見たことがない。

 

(あっ、そっか、これは夢なのだな……)

 

 だが、夢にしてみては自分の下敷きになっている金髪の少女から漂ってくる女の子特有の甘い香りとほんのり温かい体温、そして顔を押し付けている大きく柔らかい二つの膨らみの感触もリアルだ。

 

「いったた……お兄さんは大丈夫デ、デデデっ––––いつまであたしの上に乗っかってるデスか!?」

「ぐべしっ」

 

 目の前で起こる自分の知っている現実からかけ離れた事が続き、現実逃避しようとしている青年が自分の胸へと顔を押し付けている事に遅くなってから気づいた金髪の少女は顔を真っ赤に瞬時に染めると凄まじい勢いで自分から引き剥がす。すると青年はその勢いのままに地面へと後頭部をぶつける。

 

「それと歌兎。危ないデスよっ!! いきなり押し倒してきたらっ」

「…ごめんなさい。でも、そうしないとあいつの攻撃から姉様とお兄さんを守れなかった」

 

 そう言いながら、水銀の少女は警戒するように目の前にいる蠍とムカデを足したような奇妙な蟲を睨みつけながら、地面に倒れている姉と青年を背後に守るように立ち回りながら、周りを手探りで武器になりそうなものを探し出していると彼女の右手の中に小さな小石が当たる。

 

(これは……)

 

 少女が持ち上げたその小石がだんだんと薄花(うすはな)色へと変色していっているのを見て、少女はハッとしたようにその変色した石を今まさに少女達へと振り下げようとしている左鋏に向かって変色した小石をぶん投げる。

 すると、暫くしてカッチンと小気味よい音が聞こえ、小石を当てられた左鋏は物凄い力に引っ張られるように空に向かって伸びていき、その結果蟲の巨体がグラつく。

 それをマジマジと見せつけられた青年はあんぐりと口を開けてから、蟲の体制を崩した水銀の少女を見つめる。

 

「なぁ……」

 

(なんなんだ、なんなんだよ、自分は一体何を見ている……)

 

 呆然とする青年を再度起き上がらせた姉妹は蟲から逃げるように足を高速で動かしつつ、お互いに顔を見合わせると情報交換を行っている。

 

「歌兎、さっきのって……」

「…ん、メギンギョルズの力だよ。小石がギアの色へと変色したからもしかしたらって思ったら使えた」

「なるほど……」

 

 金髪の少女はさっきの光景を思い出すと暫し思考する。

 

(でも、どういう事デスか? あたしも歌兎もペンダントを持ってないのに……どうして、聖遺物の力……メギンギョルズが使えるんデスか?)

 

 しかし、先程妹が見せつけた力は窮地立たされた時に助けられ、経験したメギンギョルズのもので間違いはない。

 妹の胸に人工的に埋め込まれた聖遺物は"対象の能力、力と呼ばれるものを倍増させる"という能力を持つ、つまりさっき妹がしたのは自分の"腕力"と小石がぶつかる時の"威力"を倍増させたのだろう。

 

「…姉様、このままじゃ追いつかれるっ」

 

 金髪の少女は妹からの悲鳴めいた声によって考え事から覚醒し、腹を決めたように妹は空いた手を差し出す。

 

「こうなったらっ。歌兎、お姉ちゃんの"脚力"を倍増させてください」

 

 金髪の少女が差し出す手を握った妹が集中するようにブツブツと何かを呟いている中、青年は今だに現実逃避の考えから抜け出せずにいた。今に自分達を追いかけてくる巨大な蟲、その蟲をよろめかせるほどの力をいきなり披露した獣耳としっぽを生やした少女。そして、現在進行形で速度が上がっていっている金髪の少女の脚力……もう何一つ意味がわからないし、夢なら覚めて欲しい。

 しかし、そんな青年の願いとは裏腹に寒さで感覚が無くなりつつある頬を鞭のように叩きつける冷風と–––

 

「もっと早く……もっと早く走らなくちゃダメなんデスっ。こんなところで死にたくない、死なせたくない……ん、デスッ! 歌兎を、巻き込んでしまったお兄さんをッ。だからッ!!」

 

–––自分と妹の手を引き、生きる為に鬱蒼(うっそう)と生い茂る森林の中を疾走する金髪の少女の必死な表情を見ていると"夢"と片付けるにはあんまりな気がする。

 

 

 

 圧倒的な情報に押しつぶされそうになっていた青年がやっと現実と向き合おうとした最中、青年達の姿は暗闇の中へと姿を消していったのだった––––––。

 




切ちゃんと歌兎はうたわれるものの世界に召喚された際、着ていた衣服は病衣へと変わりました。
今まで彼女達が寒さに気づかなかったのは状況整理が間に合ってなかったのとボロギギリとの対峙でそれどころでなかったのが主です。
以上、ちょっとした本編の補足でした〜。

しかし、書いててなんですが……ハクさんが切ちゃんの胸にダイビングしたところは心の底から"ハクさん羨ましい……私と位置変えて欲しい"と切に、切に思いました(ブレない変態作者)




朗報です!!!

遂に、やっと遂に……うたわれるもののアプリゲーム【うたわれるもの ロスト・フラグ】が11月26日に正式にサービスを開始しますねッ!!(歓喜の舞)
私はツイッターの方でアプリゲームが制作されていることを知り、すぐに事前登録をさせていただき、Suaraさんの【天命の傀儡(マリオネット)】をYouTubeの方に聞きに行ったり、暇な時はスマホに入れている《キミガタメ》や《恋夢》《夢想歌》を中心的に聞いて、今か今かと開始日を楽しみにしてたんですが……待った甲斐があった……(嬉し涙を拭く)

個人的に嬉しかったのは【散りゆく者への子守唄】【偽りの仮面】【二人の白皇】に登場した人物達が登場している点です!!

開発途中の戦闘動画のルルティエちゃんの必殺技? 固定技? が《花神楽》だったのは意外でしたし……何よりもシス姉様に出会えるのが飛び上がるほど嬉しかったですっ。
デレる前のシス姉様、デレデレなシス姉様、陶酔するシス姉様は本当に可愛らしく、個人的に大好きだったので……(照)


また、【二人の白皇】もアニメ化が決まり……うたわれるもの関連のニュースが朗報続きで私の興奮は留まることを知りませんっ!!


最後に、うたわれるものとのクロスオーバーにて切ちゃんと歌兎の飲酒シーンは書いても良いかというアンケートにて貴重なご意見、アンケートに答えてくださった方々ありがとうございます(土下座)
締め切りまでは早いと思いますが、締め切らせていただこうと思います。
アンケートの結果は、二人には思う存分飲酒して貰おうと思ってますっ。


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003 にげまどうもの

この話は歌兎視点となってます。


3.

 

 姉様が必死にあのサソリのような、ムカデのような、なんとも言えない巨大な鋏を持つ青鈍色の小山一つ分くらいある蟲から逃げ切ろうとキグザグに走ってくれている中、誤って地上に空いていた穴を踏み抜き、そのままその穴へと落ちていってしまった……僕と姉様はお兄さんのおかげで岩場で怪我をすることがなかったのだが……代わりにお兄さんの方が背中と腰を岩へと叩きつけ、重傷。

 

「お兄さん、ごめんなさいデス……」

 

 姉様は悶絶しているお兄さんに向かって、ひたすら謝り、僕はお兄さんの手を握り、メギンギョルズでお兄さんの"回復力"を倍増させていると……暫くして、お兄さんが不思議そうな顔をして、地面から起き上がってくれた。それに姉様と僕は安堵のため息を同時に着くとそんな僕たちを見つめているお兄さんへとズイッと身体を寄せる。

 

「…良かったのデス……もう痛くないデスか?」

「あぁ……自分はもう大丈夫だ」

「…本当に良かった。僕のメギンギョルズがお兄さんにも効いて…」

「メギンギョルズ?」

 

 そうお兄さんが怪訝そうな声を上げた瞬間だった、あの薄気味悪い足音が聞こえてきたのは……三人して、肩を震わせると薄暗い岩道を照らしてくれている頭上の穴を見つめ、そして縦穴が続き、先が見えなくなっている洞窟の奥へと目配せする。

 

(こんな所にずっと居たら、姉様もお兄さんも僕だってあ蟲に食べられてしまう……)

 

 その動作、そして僕が考えていることも姉様とお兄さんは考えているようで……三人で素早く立ち上がると勢いよく岩場を走っていく。

 岩場は自然に作られたような岩を剥き出し、時には尖った物も転がっている上に上から水滴がポタポタと落ちては薄暗い空間へと音を響かせる。

 

「……デ…、デデ……う、ううう歌兎。怖くはないデスか……?」

 

 三人並んで走り続けている中、そう言ってこっちを見つめてくる姉様の表情と視線は真剣でもあるが何かに怯えているようにも……あ、さっき水滴が落ちた瞬間、肩をビクつかせた。

 

(な、なるほど……そういえば、姉様って服装や装飾品には好んで、悪魔や死神などオカルト系を選んでいるけど……その本質は怖がりさんなんだよね……)

 

 ずっと前も教室に教科書かノートを忘れてしまって、シラねぇとマリねぇを引き連れ、取り行ってたっけ。

 僕も付いて行きたかったんだけど……姉様とマリねぇに"暗い道を歩かせるなんて出来ません"と二人に諭され、セレねぇと一緒に待つことに……帰ってきた姉様とマリねぇが顔を真っ青にして居たのはシラねぇが怪談噺を披露したからとか。

 そんな怖がりさんな姉様がこの薄暗い空間の中でポタポタと水滴が落ち続ける音や水滴に恐怖を抱かないかといえば無理かもしれない。

 なので、僕はそっと姉様の方へと手を伸ばすと水滴が落ちるたびにピクピクと小刻みに震えている両手の片方をぎゅっと握りしめ、先を走っていくお兄さんの背へと追いつこうと走っていくのだが–––次の瞬間、ぞくっと悪寒が背筋を駆け回り、なんともいえぬ恐怖に身体を震わせていると方向進行から見たくなかった青鈍色が現れ、前を走るお兄さんを巨大な鋏で引き裂こうとあげるのを見て、乱暴にお兄さんの病衣を握るとグイッと自分の方へと引き寄せる。

 

「うわっ……」

「にゃっ……」

 

 お兄さんはいきなり後方に向かって引っ張られたことでバランスを崩し、僕と手を繋いでいた姉様を巻き込むようにして尻餅をつくのをチラッと見てから前を向くとそこにはやはりあの蟲が行く手を塞ぐように立ちはだかっていた。

 

「ギギィギィ……」

 

 確実に獲物を仕留められると振りかぶった巨大な鋏に何もヒットしなく、邪魔をした僕が許せないのか……無機質な丸い目へと明らかな敵意を含ませながら、今度は取り逃がしてなるものかと慎重に僕らを壁際に向かって追い詰めていく。

 互いの背中でゴツゴツした岩の感触が伝わってきた瞬間、血の気が一気に引いていくのが分かる。

 じわりじわりと近づいてくるあの薄気味悪い蟲から僕を守ろうとプルプル震える腕で抱き寄せながら、背へと庇おうとする姉様から漏れ出る声には諦めの色が滲んでいて……

 

「…ここまでなんデスか……」

 

 僕たちの隣にいる巻き込んでしまったお兄さんも同じように呆然とした様子だった。

 

「…自分はこのまま死ぬのか……こんな所で、よくわからないやつに喰われて……そのまま……」

 

 せめてもの抵抗で岩へと身体を密着させる僕らへと更に近づいた蟲はもう我慢できないと言わんばかりに大きく顎を開ければ、僕らを一飲み出来るところまで歩みを進めた上にギギ……と薄気味悪い音を響かせ、ポタポタと涎のような粘液を垂らしながら、大きな口を開けて、ゆっくりと丸呑みしようと近づいてくる。

 

 ––––食べれるッ。

 

 そう直感的に思い、僕は姉様の手を強く握りしめ、巻き込んでしまったお兄さんへと心の中で謝り続けて、その時をずっと待っていた……。




次回はアレとあの人の登場です!!



11月30日から始まった【ゴジラ】とのコラボイベント、そしてガチャの方は皆様如何でしょうか?

イベントの感想は子供の時に見ていたゴジラとそこに暮らす人達と装者のみんなが肩を並べて戦う姿は胸熱ッですし……何よりもどの世界線でもF.I.S.組に嫌われ続けるウェル博士が可哀想なんですが、なんだか笑っちゃうんですよね(笑)
そして、今回のイベントは緒川さんの弟である捨犬くんも出ていましたね! あのイベントだけなのかと思いきや、ここで現れるとはびっくりさせられました……(驚愕)
あと、今回も安定のきりしらでよかった…………にしても、ふわふわもこもこ調ちゃん可愛すぎるだろッ!!

また、今回は交換☆5シンフォギアカードが我らが切ちゃんでしたね!!!(うぉぉぉぉぉ)
なので、もし切ちゃんが交換シンフォギアカードで現れてきた時に最速で交換してあげたかったので……コラボガチャの方を30連回させてもらって【響ちゃん・調ちゃん】をゲット。そこからフレンドの皆さんのお力をお借りいたしまして……イベント開始から約14時間後に無事70レベの上限解放することができました!! フレンドの皆さん、本当にありがとうございますっっっ(土下座)
最速かは分からないですが……コラボギアの切ちゃんを無事上限解放まで育成できたことがよかった……ずっと前のガルパコラボギアは結局最後まで育てきれなかったですから…(やりきった顔)

にしても、今回のコラボギアはどのギアもいいですよね………切ちゃんでいうと待機ポーズの両手を上にあげてから得意げな顔をするところがなんとも……(悶え死)




ロスト・フラグの方は、最初の10連で☆2キウルくんをゲット。その後の10連で☆3クロウさん。その他、ガチャチケットのような巻が結構溜まったので回しているうちに☆3ウルゥル・サラァナちゃんをゲット。

今はネコネちゃん実装を心待ちにして、宝珠を貯め中ってところです。

因みに、ゲーム本来は周回重視の育成ゲーって感じだと私的は思ってます。
思う所は沢山あるし、楽しみにしていた分『ん……ちょっとなぁ……』と残念に思うところもあるけど……まだ始まったばかりですし、今開催しているイベント【剣奴(ナクァン)の灯火】にて私にとって……いいえ、きっとうたわれファンならば間違いなく嬉しい事がありましたので……今後に期待しつつ……今ゲットしているメンバーを育成していこうと思ってます!!

因みに、ウルサラは契約5までいって……イラストが変化して、育成が楽しくなってきてます(笑)






最後にお知らせで……またかと思われると思いますが、メインストーリーの方をいじらせてもらうと思ってます。
色々とごちゃごちゃになると思いますが、どうかよろしくお願いします(土下座)


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漫談編 ホロロン鳥と兎と時々意地っ張り。 前編

本編の直しもうたわれの方もまだあまり進んでないけど、どうしてもアンソロジーのこの話が書きたかった……っ(切実)

何故なら大好きなネコネちゃんが奮闘する話だからですッ!!!!

って事で……この作品の元となる話は【うたわれるもの 偽りの仮面 電撃コミックアンソロジー】の中にある【森野カスミ先生】の【ホロロン鳥の飼い方】という作品です。
本作を読ませて原作を読ませたいと思われた方は……振り返らずに本屋へと突っ走れッ!!


1.

 

 ホロロン(ちょう)

 

 この世界に暮らす人にとってその鳥はとてもポピュラーだそうで……僕と姉様がこの世界に召喚されて、最初に出会った"ココポ"もそのホロロン鳥だそう。

 

 だそうと曖昧な言い方をするのは、そのココポを見た時のクオンお姉ちゃんやネコネお姉ちゃん達がなんとも言えない顔をしていたからである。

 正直、僕も姉様もホロロン鳥はココポしか見たことがないし……ココポの育ての親であるルルお姉ちゃんが「ホロロン鳥」というのならばそうなんだと思う。

 

 といった感じで結果、ホロロン鳥とココポの真相についてイマイチよくわからないままにここまでこの世界を過ごしてきた僕と姉様はある日、どこか興奮した様子のネコネお姉ちゃんとクオンお姉ちゃん、そしてその二人の後ろで眠たそうに大きな欠伸をしているハクお兄さんに呼ばれるがままに白楼閣の荷物置き場へと連れてこられていた。

 

 そこに置いてあった木で出来た箱の前に腰を落とすクオンお姉ちゃん、ネコネお姉ちゃんに習う形で僕と姉様も腰を落とした瞬間、垂れ目がちな黄緑の瞳と眠たそうに開かれた黄緑の瞳が徐々に開いていき、キラキラと光りだす。

 

「ふわぁ………」

「……これはヤバイのデス……」

 

 キラキラと光り出した理由は目の前に開かれている木で出来た箱の中にある。

 まず、箱の底にはふかふかの暖かそうな(わら)が所狭しとひきつめられており、その上をふわふわもこもことした小さな物体が『ピヨピヨ』と可愛らしい声をあげながら歩き回っているのだ……これが可愛くないわけがないッ。

 

「ピヨ」

 

 小さな両脚でしゃがんでいる僕と姉様の前へとトコトコと歩いてきて、一言だけ鳴いてから小首を傾げるその姿も大変愛らしく、すっかり骨抜き状態の僕と姉様はゆるゆるな表情へと早変わりし、僕たちの横にいるクオンお姉ちゃんとネコネお姉ちゃんも同じように目の前にいる小鳥の愛らしさにメロメロな様子だった。

 

「姉さま……やばいです」

「えぇ……ヤバイかな……」

 

 四人で目の前の木箱の中を自由奔放に動き回る小鳥達を見つめ続けていると僕の方へと一匹が近づいてくるとジィ–––と見つめてくるのでその円らな真ん丸な瞳を同じように見つめてみる。

 

「そうデス。クオンさん、ネコネ、この子達ってなんなんデスか? 歌兎に優りそうな可愛さと愛くるしさだったので聞くのを忘れてしまっていたんデスが」

 

 箱の中の一羽とにらめっこしている僕の横顔を見やり、更に表情をにやけさせながら自分の目の前にいるクオンお姉ちゃんとネコネお姉ちゃんに木箱の中にいる小鳥達の正体を訪ねる姉様の緩みに緩みきった表情を見ながら、苦笑いを浮かべるネコネお姉ちゃんがボソッと呟く。

 

「キリカさんの基準ってなんでもウタウさんなのですね………」

「ふぇ? 何か言ったデス? ネコネ」

「いいえ、なんでもないのです」

 

 澄まし顔のネコネお姉ちゃんを暫くキョトンとした様子で見ていた姉様へとクオンお姉ちゃんが箱の中を指差しながら首をかしげる。

 

「ええと、この子達のことが知りたいんだよね? この子達はホロロン鳥かな」

「な……なんデスとォォォォォォォォォ!!!!?」

 

 今日一の姉様の『なんデスと』は白楼閣の外へと鳴り響き、近くの山へとぶつかっては木霊(こだま)して返ってくる。

 

「…ピヨ」

「…ごめんね、うちの姉様が大きな声出しちゃって。そんなにピクピクしないで、怖くないから……」

 

 そう言って、一匹掌に乗って背中を優しく指先でさすってあげるとその様子を見ていた箱の中のホロロン鳥達が『僕も、私も撫でてッ、撫でてッ』と言わんばかりに群がってきてしまい、みるみるうちに僕の上半身はもふもふふわふわの波に飲み込まれていき……その様子に気づかないほどに姉様は動揺しきっており、自分の頭の中にあるホロロン鳥のイメージと僕に群がるホロロン鳥を交互に見比べては自分の中で整理できないままに情報だけが脳へと蓄積させていき、垂れ目がちな黄緑の瞳の中がぐるぐると渦巻きを作っていき……そして、"ばたんきゅ〜"とその場に倒れてしまったのだった。

 

 

 

2.

 

 姉様が目を回してしまい、倒れてしまったから……数十分後、クオンお姉ちゃんとネコネお姉ちゃん、ハクお兄さんにおぶさって貰い、居間で横にしてもらった姉様の横に腰を落とした僕をなんとも言えぬ顔で見つめてくるハクお兄さん、どこが羨ましそうに見つめてくるクオンお姉ちゃんとネコネお姉ちゃんへと小首を傾げる。

 

「…ハクお兄さん、クオンお姉ちゃん、ネコネお姉ちゃん? 僕に何かついてる?」

「僕に何かついてる……って沢山()()()()()()だろう。クオン、どうするんだ?」

 

 ハクお兄さんの茶色い瞳越しに僕自身の身なりを見てみるとほんの少し頭の上や肩に鮮やかな毛並みをしたふわふわもこもこの小鳥達が乗っかっているくらいでハクお兄さん達の様子がおかしくなるようなことはないと思うのだけど……。

 

「んー、いいんじゃないかな? この子達もウタウの事を気にいる様子で、ウタウ自身も気にしてない様子かな」

「気にしてない様子かなって……後で面倒事になっても自分は知らんぞ」

 

 ハクお兄さんの言う面倒事とはなんのことだろう……? と小首を傾げる僕に合わせて、頭の上と肩に乗っかっている小鳥達も同期(シンクロ)した動きで(クエッション)マークを沢山浮かべているとネコネお姉ちゃんがズイッと身を寄せてくる。

 

「ウタウさん、羨ましいのです。わたしもウタウさんのようにホロロン鳥に……動物に懐かれたいのです」

「懐かれてもうっとおしいだけだろう」

「ハクさんは夢のカケラも持てないヒトなんですね……」

 

 やれやれと言った感じで小馬鹿にしたようにそう言うネコネお姉ちゃんにハクお兄さんはムッとした様子で売り言葉に買い言葉で声を荒げる。

 

「なら、ネコネはホロロン鳥と動物に好かれて、何がしたいんだ?」

「決まってるじゃないですか! 飼うのです!」

 

 胸を張り、得意げにそう言うネコネお姉ちゃんに僕とハクお兄さんは眉を顰める。

 

「…飼う? ホロロン鳥を?」

「はい、そしていつかはココポのように大きく育ててあげたいのです!」

 

 ホロロン鳥ってココポのように大きくなるものなんだーと呑気に思いながら、僕は自分に群がっている小鳥達を見やり、この子達がココポのように大きくなった様子を想像して、嬉しく–––––なるわけはなく、ゾッとしていた……。

 

(もし、この子達がココポみたいに大きくなっちゃったら……僕潰されちゃう……)

 

「ピヨ」

「…ふふ、ありがと。君たちは僕の事を心配してくれてるんだね」

 

 僕を元気付けようとしてくれているのか、スリスリともふもふふわふわボディを頬や首筋、髪の毛へと擦り付けてくれている小鳥達を指差しで撫でてあげながら……目の前で口論しているハクお兄さんとネコネお姉ちゃんのやり取りを静観(せいかん)してみる。

 

「ココポのように育ってたいって……ココポと違ってウタウに群がってるのは普通のホロロン鳥だろ? よくわからんが」

「……」

「ハク……」

「えっ、何?」

 

 意気揚々としていたネコネお姉ちゃんの赤い瞳が目に見えて暗くなるのを見て、クオンお姉ちゃんが可哀想な人を見るまでハクお兄さんを見つめる視線を受けて、ハクお兄さんはなんでそんな目で見られているのかが分からない様子でキョトンとしている。

 そんな様子のハクお兄さんから視線を逸らしたクオンお姉ちゃんは隣で落ち込んだ様子のネコネお姉ちゃんの背中を撫でる。

 

「ネコネ。()()は気にしなくていいのよ」

「…アレって」

 

 アレ呼ばりにハクお兄さんは物申したい様子なのだが……傍観しててなんだけど、僕もさっきの言い方はないと思う。

 

「……ん? あ、れ……? あた、し……何して……」

 

 ハクお兄さんが女性陣に知らぬ間に冷たい視線で見られている中、タイミングが良いのか悪いのか……うちの過保護な姉様が右手で顔半分を覆いながら起き上がる。

 

「…おはよ、姉様。もう大丈夫?」

「うん、大丈夫デスよ、ウタ………」

 

 ど、どうしよ、姉様が起きて早々、僕を見つめたままフリーズしちゃったんだけど………おーい、ねえさーま? 僕が見えてますか?

 あんぐりと口を開けてから僕を見つめたまま、フリーズする姉様へと近づくために前のめりになって、目の前で小さく掌を降ってみたりしても反応は無くて、困惑する僕の耳に聞こえるのはハクお兄さんのムッとした声で–––––

 

「そんなことよりも鳥の飼い方とかわかるのか? たとえ大きく育てたとしてもチビっ子一人で世話できんのか?」

「ハク〜〜〜〜? ちょっと大人気ないかな」

 

–––––そして、瞬時にクオンお姉ちゃんの毛並みが美しい白い尻尾によってこめかみの辺りをギシギシと音が鳴るくらいに締め付けられて、苦しそうに顔をしかめるのが通常の流れで……

 

「く、くるしい……」

 

 僕は思わず失笑してしまっていると突然ドスンと横から体当たりされ、畳の上に倒れこみそうになりながらも耐えて、横を見やるとそこに居たのは鼻息が荒く、表情がダラダラにだらけきっている乙女がするべきではない顔をしている姉様だった。

 

「…姉様。あまりギュッてされると苦しいよぉ……」

「ああん、もうぉ! どういうことデスか!? この状況ッ。気絶してかと思うと目の前にもふもふふわふわづくしの妹がいるなんて……はあ……ウタウ、可愛すぎるのデス、大好き」

「…僕も姉様の事が大好きだよ。だから、もう少しだけ離れて……があっ……これ以上しめちゃ、だめ……」

 

 いつにも増して万力の力で抱き寄せ、強烈な頬ずりする姉様から一ミリでも良いから逃げようと身をよじっていると突然居間へと響く可愛らしい怒鳴り声。

 

「飼い方ぐらい知っているのです。ハクさんに言われると癪ですのでココポでやってみせるのですよ!」

 

 ハクお兄さんにそう宣言したネコネお姉ちゃんは此方も同じようなやりとりを行なっている僕と姉様の手首を其々掴む。

 

「にゃっ……ネコネっ、いきなり引っ張られるとバランスが崩れるデス!?」

「…おっとと……」

「ネコネ!」

 

 バランスを崩しながらもネコネお姉ちゃんに導けるままに部屋を後にする僕と姉様の背中に投げかけるのはクオンお姉ちゃんの叫び声だった……

 




後編に続く〜

今度はもっとネコネちゃんと歌兎を絡ませたいっっ。



【ゴジラVSシンフォギア】、最後の最後までいいシナリオでしたね……(しみじみ)
そして、何よりも番外編の最後の最後に現れたイラスト……はぁ……やっぱ切ちゃんって可愛いな…(デレデレ)

切ちゃん可愛いといえば……皆様は12/4に発売された【XV3巻】【XDアルバム2】を無事手元にゲット出来たでしょうか?
私はどちらもアルバムの方は遅れてしまいましたがネットの方で購入させていただきました!
3巻の表紙のクリスちゃんもさることながら内容、そして特典映像の【しないシンフォギア】と私にとっては大満足な内容でした!
また、12月28日は表紙を飾っているクリスちゃんの誕生日ということで……ネタバレになるかもしれさんがしないはそのクリスちゃんの誕生日にまつわるエピソードでしたね!
個人的に好きなのは最後の最後にあるひびみくのシーンです!!! 思わず『うおお……』って歓喜の声が漏れちゃいましたから……改めて、響ちゃんと未来ちゃんの絆は固いと思いました。
きりしら関係のシナリオではニヤニヤさせられ、クスッと笑わされました。
まず、本当に場外ホームランを決めた切ちゃん……落ち込んでいる様子が可愛いけど……調ちゃんのいう通り、昔のわんぱく野球アニメじゃないんだから……加減しないと……(.失笑)
しかし、割れたガラスを弁償するくらいにお小遣いを貰っている事に驚愕。
一応調べてみたけど、一枚安くて約五千円。高くて約一万円。
ふーむ、修理代で蒸発したってことは……切ちゃんのお小遣いは五千〜一万内って事かな? んー、今時の高校生にしては少ない気も……ハッ!? うまいもんマップ完成のための買い食い資金が多いのか!?(閃き)
兎も角、その後の『調と共同作業』『ケーキ入刀』は調ちゃんじゃなくてもそりゃ照れちゃうなって思いました(笑)

【アルバム2】の感想はフルで聴くとやはりどの曲も名曲ですね……特に響ちゃんの【KNOCK OUTッ!】はフルでも名曲ですし……響ちゃんのシャロンちゃんへの気持ちが沢山入った曲でもありますし、何よりも勇気をもらえるッッ!!! 因みに、好きなフレーズは最後の最後にある【君は強い】です。
また、クリスちゃんの【SONG FOR THE WORLD】も間違いなく名曲……クリスちゃんの心境が沢山含まれてますし、ずっと前にラジオで高垣さんが言っていた事はそういうことか……と納得させられる事が歌詞を読んでありました。まだ解読できてないところが多いと思いますので、またゆったりと歌詞を読んでみようと思います!
さて、ここからは【ダイスキスキスギ】と【アカツキノソラ】の感想を書こうと思います。
まず【ダイスキスキスギ】は聴いているだけでニヤニヤしてくる歌ですね〜♪ なんだよ『愛が過呼吸すぎて』って……もう!! お祝儀あげるから、そのまま結婚しちゃえ!!!(大興奮で変なテンションになる)
そんな二人のラブラブ感がふんだんに入ったこの曲で好きなところは調ちゃんは『分からず屋』。切ちゃんは『にゃっにゃ……暴走』ってとこです。まず何よりも『にゃっにゃ……暴走』の歌い方可愛すぎるだろッッッ(吠える)こんなんどうにかなっちゃうわァァァァ!!!(発狂)
また、【アカツキノソラ】は切ちゃんらしい曲でしたね……確かにスピード感があり、可愛らしい歌詞でしたが……読み込んでいくとぐさっとくる所がある……。『誰かの笑顔 誰かの幸せ 積み重ねた絆のメモリー 失ったら…?と思うと 何よりも怖くて いっそ自分が消えて みんなを守るのなら…』のところ、何度うるってきたことか……(号泣)でも、間間の『NoNo』が可愛いんだよな……こんちくしょー(可愛さを噛みしめる)
また、この曲の"太陽"は"希望(たいよう)"と書くのですね……。

希望(たいよう)に……なれるように』……か。

私は既に切ちゃんは希望(たいよう)になれてると思っているんだけどな……。
私にとっての切ちゃんは出会った時から希望(たいよう)でしたし……切ちゃんへの気持ち、中の人・茅さんへの気持ちもこれからも変わる事はないでしょうからッ!!!!(断言)

ま……私よりも切ちゃんへの愛が凄い人、茅さんへの愛が凄い人がいると思うので……あんまり偉そうな事は言えんですけどね……(大汗)
ですけど、私なりに二人への気持ちと愛をこれからも伝えていきたいと思います。




最後の最後にロスフラではルル(ルルティエ)さんを単独ガチャでゲットして……嬉しすぎて、契約6まであげちゃいました(照)


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漫談編 ホロロン鳥と兎と時々意地っ張り。 中編

昨年は大変お世話になりました。

今年もよろしくお願いいたます(土下座)


3.

 

 ネコネお姉ちゃんに引っ張られるままに廊下へと連れ去られた僕と姉様はズンズンと迷いない足取りで進んでいくピンク色の着物に覆われた小さな背中を見つめながら、小さな声で隣で同じく"なぜ自分が連れ出されたのか? "理由がわからず、整った顔立ちをキョトンとしている姉様と意見を交わす。

 

「……ココポでお世話するって事はこれから向かうところはルルお姉ちゃんのところかな?」

「……そうじゃないデスか。それならあたし達まで付いて来ちゃって良かったんデスかね?」

「……んー」

 

 姉様から問われ、チラリと前を歩くネコネお姉ちゃんの横顔と足取りを盗み見て見るとどうやらハクお兄さんへの怒りで一杯一杯なのか、ふんふんと廊下を踏みしめていくので僕はゆっくりと自分の中で吟味し、姉様の方を見て小声で答える。

 

「……良かったんじゃないかな?」

「……歌兎がそういうなら。あたしはそれでいいデス」

 

 ほんわりとそういった姉様へと淡く微笑んでから、今回はネコネお姉ちゃんの用事に付き合うことにする。そう決まった瞬間、引っ張られるだけだった足取りが弾むようになるのを見ると僕はもちろんのこと、姉様もさっきのホロロン鳥のヒナでココポのお世話をしてみたくなってしまったらしい……。

 

 三人で並んで、ルルお姉ちゃんことルルティエお姉ちゃんの部屋の前に並び、代わる代わる身振り手振りで説明すること数秒後、ルルお姉ちゃんは三人を見渡しながら確認とばかりに問いかける。

 

「ココポのお世話…ですか……?」

「はいなのです! ココポみたいな大きな子でもちゃんとわたしとお世話できるってハクさんに証明したいのです! 切歌さんと歌兎さんも一緒に」

「切歌様も歌兎様もご一緒に」

「…ん」

「デース!」

 

 ネコネお姉ちゃんの言葉に力強くうなづく僕––––の頭の上と肩の上に乗っかっているホロロン鳥のヒナ達–––––と力強く右手をおでこに押し当ててる姉様まで見た後、ルルお姉ちゃんはハッとしたような顔で自分を見上げてくるネコネお姉ちゃんの決意とは別に大きく燃える対抗心の炎が映る丸い赤い瞳を見て、全てを悟ったような顔をする。

 恐らく、ルルお姉ちゃんのことだからネコネお姉ちゃんがハクお兄さんと味を張り合っていることは察しているのかもしれない……。

 

「あ……でも……」

 

 なので、僕たちを気遣ってくれてお断りするかもしれないと内心ハラハラしながら、ルルお姉ちゃんを小鳥達と見上げているとルルお姉ちゃんは形良い眉をひそめて、何かに葛藤しながら歯切れ悪く言葉を発する。

 

「でも……?」

「デス……?」

 

(でも……? でもに続く言葉とはなんだろうか?)

 

 僕と姉様が同期(シンクロ)した動きで小首を傾げているとルルお姉ちゃんは首を横に振り、僕達を見渡してからニッコリと笑う。

 

「ううん……どうか……ココポを……よろしく……お願いします……!」

「ありがとうございます、ルルティエさま! がんばりますです! 行きましょう、切歌さん、歌兎さん」

「はい、ココポをあたし達で隅々まで掃除してあげましょう!!」

 

 ネコネお姉ちゃんと姉様がココポが居る小屋に向かって小走りで向かっていくので僕も置いていかれまいと追いつこうと足の向きを変えた瞬間、ルルお姉ちゃんがこいこいと僕のことを手招きしているのに気づき、ちょこちょこと近づく。

 すると、頭の上にいた一匹の小鳥がルルお姉ちゃんの掌にピョンと飛び乗って、ほっそりしている指先で頭を撫でられているのを見てから、ルルお姉ちゃんが僕だけを手招きした理由を知る。

 

「ふふ、可愛い……みんな、ココポの小さい時にそっくり。この子達は歌兎さまが飼っているのですか?」

「…んん、着いて来ちゃったの。朝、姉様達とこの子達が詰まってる木箱を見に行った時から」

「そうなんですか」

 

 ルルお姉ちゃんはさっきの僕の言葉足らずな説明でも理解してくれたようで僕の目線まで腰を落とすと遠慮がちに尋ねてくれる。

 

「その……歌兎さま、もし良ければ、わたしがこの子達をお預かりしていましょうか? 初めてなさるココポのお世話をされながら、この子達のお世話をするのは難しいと思いますから」

 

 目の前にある優しく慈愛に満ちたピンクの瞳を暫し見つめた後に静かに首を横に振る。

 

「…ルルお姉ちゃんの気持ちは嬉しいけど、この子達を連れて来ちゃったのは僕だから。僕が責任を持ってお世話してあげないとっ」

 

 そう意気込むととんとんと優しく頭を撫でられて、前を向くとルルお姉ちゃんの手が頭の上で動いていた。

 

「……あまりご無理はなさらないでくださいね。ココポの事どうかよろしくお願いします」

「ん、ココポのお世話任せて」

 

 ポンと胸を叩いてから、ルルお姉ちゃんへと振り返ってから小さく手を振って、廊下を小走りで向かおうとした瞬間、廊下の角から血相を変えた姉様が走ってきて、自分の目の前に現れた僕をギュッと抱きしめると安心したようにため息をついてから、身を離すと二人で手を繋ぐと小屋に向かって歩き出すのだった……




ということで後編は早ければ今日、遅ければ近いうちに更新させていただきます!

ネコネちゃん、歌兎、切ちゃんの三人は協力してココポのお世話をこなせるのでしょうか?
あと、小鳥達とココポが仲良くなれるのかも心配ですね…(微笑)



という事で、話が繋がっているの分からないですが……うたわれの世界で暮らす二人の服装をまだ装飾品や柄を付け加えると思いますが……私なりにデザインして、うたわれ衣装ver暁姉妹を描いてみました!
私のへっぽこ画では切ちゃんの可愛さはもちろんのこと、歌兎の可愛さも微塵も伝わらないと思いますが……参考程度に立ち寄ってもらえると嬉しいです。



【挿絵表示】



ということでどうだったでしょうか?
最近忙しくて、歌兎もですが……切ちゃんも久しぶりに描いたので、全然似てないと思いますし、可愛くもないと思いますが…うたわれでは二人はこういった服装なんだと読者の皆様のイメージ作りに役立ててもらえると嬉しいです(土下座)




と、かなり遅いですが……【シンフォギアXD】の重大発表はシンフォギアライブでしたね!!
しかも開催日が響ちゃん&切ちゃんの中の人、茅さんのお誕生日だということに大興奮し『絶対行きたいッ!!』と意気込んで、ふと思ったんですが……今回のXDの切ちゃんのカップリングソングって"お誕生日"の歌でしたよね…(ガタガタ)
つまり【はっぴーばーすでーのうた】は茅さんにとっては本当の"はっぴーばーすでーのうた"ってなるわけですね!! 『あたしにばーすでー』となるわけですね!! ってはしゃいじゃってますが……あの曲は良くも悪くも切ちゃんらしい曲ですから……あまり素直に喜べませんが……こういうキャラと演じていらっしゃる方がクロスするとついテンションが上がってしまいます! って何言ってるのか、分からないですね…すいません…(大汗)




最後となりますが……前書きでも書かせていただきましたが、昨年は大変お世話になりました(土下座)

私欲に溢れた話や更新が遅くなってしまう時が沢山あり、楽しみになされている読者の皆様をお待たせしてしまうことになり、申し訳ありませんでした…。

今年はもう少し更新スピードを速めたい……と書きたいのですが、次回の話後、本編にてまだ終わらせられてないメインストーリーの手直しに掛かりっきりとなるので半年はあまり話を更新出来ないと思います…(大汗)

なるべく早く終わらせたいと考えていますが、何日、何ヶ月必要かは現状では分からないで……のんびりと更新を待っていただけると嬉しいです!

今後とも本作【うちの姉様は過保護すぎる。】と主人公・歌兎。そして、(わたくし)律乃、共々どうかよろしくお願い致します(敬礼)






R2.1.1.追記.雪音クリスちゃんの【SONG FOR THE WORLD】について。

前編の方にてアルバムXD2に収録されている雪音クリスちゃんの【SONG FOR THE WORLD】の解説と言ってもがっつりしたものではなく、軽い感じのを高垣さんがラジオにて言っていたとお伝えし、感想の方にて"その回はどこなのか"というご意見を頂き、私の記憶の中はあるその回を探してみたのですが……完全な確信は持てないのですが【73〜75回】の間で間違いないと思います。
理由はそのお話を聞いた時、茅野さんがゲストに来られる回に近いか、その回だった気がするので…気持ちがソワソワしていた記憶があるのです。
なので、【73〜75回】を聴いていただけると高垣さんのお話が聞けると思います。

また、それに似た話していらっしゃった内容に似ている文章を高垣さんのオフィシャルサイト【あやひごろ】の【シンフォギアXDクリス新曲♪ 】にもありましたので、気になった方は確認していただけると嬉しいです。

さて、もう少し語らせていただくと……高垣さんは私がなるほどと思った会話にて『XDの曲だけど、原作の装者のみんなの気持ちも含まれている』と言われていたと思うのです。
確かに【SONG FOR THE WORLD】もですが、他の曲にも原作のみんなの心境といいますか……高垣さんのお言葉をお借りしていただくと『あの時感じていた気持ち』なのかなぁ……と思う歌詞が多々あるんです。

クリスちゃんでいうと『受け継いだ愛情を胸いっぱい込めて放て』というところがそこなのかな…と思っていたりします(微笑)


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漫談編 ホロロン鳥と兎と時々意地っ張り。 後編

ということで後編の開幕です!

今回の話は私の小説らしいところが沢山あると思うので、三人が頑張る姿にほのぼのしつつ、楽しんで読んでもらえると嬉しいです!

※【4.】は歌兎視点。【5.】は第3者視点、となってます。


4.

 

「もう、ウタウったらすぐに離れ離れになったらダメデスよ。迷子になっちゃったかも……って心配しちゃったじゃないデスかっ」

「…ごめんなさい、姉様」

 

 ギュッと抱きしめられ、安心したように短い溜息をついて、身を離された姉様はもう僕が迷子にならないようにと繋いだ手をより一層ギュッと握りしめるのを見て、罪悪感から素直に頭を下げたけど……これ、僕悪くないよね?

 

(……そんなに心配しなくても僕は子供じゃないんだから、白楼閣で迷子になんてならないのに……)

 

 それに僕はただルルお姉ちゃんとお話ししてただけなのに……何だか、こっちの世界に召喚されてしまってから姉様の過保護度が始まりから終わりまでMAXでッ!! って感じになってる気がする……姉様って、こんなに心配性だったっけ?

 あ、そうか…あっちの世界では暴走しちゃう姉様のブレーキ役としてシラねぇとセレねぇが側にいつも居てくれたから、僕にとっては姉様の過保護節が弱いように思えたんだ…。

 

「……」

 

 ふと、繋いでいる手から視界を上に向け、時々形良い眉をひそめてはキョロキョロと分かれ道で立ち止まり、記憶を探るような心配になってくる足取りで向かっていく姉様は僕の視線に気付いたようで小首を傾げて、見下ろしてくるのでゆっくりと首を横に振る。

 

「にゃ? なんデスか、ウタウ?」

「…ううん、何でもない」

 

(何はともあれ、姉様が行うことは疑うなんてしたらダメだよね。姉様はいつだって僕の為、みんなの為に行動する人なんだから……。あんまり心配かけないようにしないと)

 

 一人うんうんとうなづきながら、分かれ道で目的地と違う場所へと向かおうとする姉様と繋いでいる手をくいくいと引っ張ってからこっちを見てくる姉様を見上げながら小屋の方向を指差す。

 

「…姉様、そっちじゃないよ。小屋行くならこっち」

「ありゃ? そ、そうでしたか……?」

「…そうなんです」

 

 カッコよく連れていくつもりが間違えてしまったのが恥ずかしいらしく真っ白い頬へと朱色で染めながら、小屋に着いた僕達を出迎えるようにココポのお世話を既に行なっているネコネお姉ちゃんが振り返ってくる。

 

「キリカさん、ウタウさん居ましたか?」

「はい、ルルさんとお話ししてました。ネコネも心配してたんデスから。ほら、歌兎」

「…ネコネお姉ちゃん、心配かけちゃってごめんなさい」

 

 ぺこりと頭を下げてからネコネお姉ちゃんが運んできたのであろう桶いっぱいの餌をカリカリカリと嘴でつついているココポに近寄って見て思うのは、やはり–––

 

(–––ココポ、やっぱり大きい…)

 

 見上げながら近寄ってくる僕と姉様へとご飯を食べていたココポが気付いたようでこっちへと視線を向ける。

 目の前にあるまん丸な黒い瞳、日向に干したふかふかのお布団のような黒と白のもふもふな毛並み……。

 

「ホロロロ〜」

 

 僕達に気付いたのか、一声そう鳴いたココポに僕はもちろんのこと、姉様は一気にココポに抱きつくとそのふかふかの毛並みに顔を埋めると顔を上げてから頭を下がる。

 

「…ココポ、今日はよろしくお願いします」

「お願いしますデス!」

「ホロロ〜♪」

 

 どうやら、ココポは寛大な心の持ち主なようでお礼を後回しにして抱きついてしまった僕達も許してくれるようで……ご機嫌に一声鳴くと僕の周りにいる小鳥達へと視線を向けてからチラッと自分の餌を見てから、お母さんが子供達へと食べ方を教えるような感じで嘴で突いて食べるのを見て、小鳥達もココポが食べている桶に向かって群がるのを見て、僕は眉をひそめつつ、ココポを撫でる。

 

「…ごめんね、ココポ。折角のご飯なのに、この子達に分けてもらっちゃって…」

「ホロロ〜♪」

 

 "気にしないで"と言わんばかりに鳴いてから小鳥達と餌を突くココポの毛を"ありがとう"の意を込めて撫でてから姉様とネコネお姉ちゃんの所に駆け寄る。

 

「餌やりはネコネがしてくれたんデスよね? あたし達は何をしたらいいんデス?」

「そうですね。キリカさんはホロロン鳥の飼い方はどこまでご存知なのです?」

「さっぱりデス。前にほんの少しルルさんのお手伝いはしたことがありますけど、あの時は覚えようと思ってしたわけじゃないデスからね…」

 

 肩を竦める姉様から駆け寄ってきた僕へと視線を向けたネコネお姉ちゃんに僕も姉様と同じという意味で首を横に振るのを見て、ネコネお姉ちゃんの顔が見るからに歪んでいく……恐らく、戦力外の二人を自分は呼んできてしまったと思っているに違いない。

 

「ホロロン鳥の飼い方はまず、餌をあげますです。そして、小屋に引いてある藁などの掃除をして、水浴び、お散歩、日光浴の順でするのです」

「デデ……って事は、餌はネコネがしてくれたので次は三人で手分けして小屋の掃除デスね!」

「…頑張る」

 

 其々の器具を手に取った僕と姉様、ネコネお姉ちゃんは三等分した自身の区画の汚れた藁を一箇所に集めた後、その藁を外に持っていこうとした瞬間、ひょこっと見知った金の疾風が横切ると幼い頃から近くで聴いてきた声が聞こえてくる。

 

「ウタウの所の汚れた藁はお姉ちゃんが持っていってあげますね」

「…ん、ありが–––––姉様ッ!?」

「?」

 

 思わず、素っ頓狂な声が出てしまった……え? ふぇ? なんで、姉様ここに居るの……? 確か三等分に分ける時に『二人はあたしに比べると小さいデスからね。あたしが半分受け持って、その半分二人で手分けしてしてください』といって『子供扱いしないでくださいっ。キリカさんだって子供じゃないですかっ』とプンプン怒っているネコネお姉ちゃんをしりめに黙々と半分の区画を掃除していってたよね……? 小屋といってもココポがゆったりできるように大きめに作られて居るこの小屋の半分といったらかなり大きいはずなのに……もしかして、僕が重い藁を持とうとしているから自分の仕事をほったらかしにして駆けつけたと、か?

 

「……」

 

 そっと姉様が担当している場所を見てみるとそこは綺麗に掃除されており、所々引いている新しい藁にムラがあったり、隅の方に汚れた藁が落ちてあったりとしているものの……僕が危惧していた通りではなく、姉様は自分の仕事をしっかりと終えた後に僕の手伝いをしに来てくれたようだ。

 

「ウタウー。何をしてるんデスかー、早く新しい藁を引いてあげてくださいー」

「…ん、分かった、姉様」

 

 その後、姉様に手伝ってもらいながら、自分のところを終えた僕はネコネお姉ちゃんと合流し、餌を食べた事でお腹がまん丸になっているココポの背中の上で分けてもらった餌で同じくまん丸なお腹をポヨンポヨンと揺らしながらご機嫌にはしゃぎまわっている小鳥達を連れて、水浴びに適した小川へと入っていく。

 

「ひや……」

「…冷たい」

 

 この季節だが小川は氷が溶けたようにひんやりと冷たく、僕とネコネお姉ちゃんがその冷たさに耐えることができなく動けなくなる。

 

「ひやぁ!? …ココポやりましたね」

「ホロロ〜」

「そっちがその気ならあたしだって全力で応戦デス!!」

 

 一方、姉様はココポが嘴で器用に自分に水飛沫を掛けて意地悪に鳴くのを聴いて、形良い眉や垂れ目がちな瞳へと挑戦的な色を浮かべて、腕まくりをした後に『おりゃおりゃ』と両手を高速で動かし、掌で掬った水をココポへとかける。

 

「ホロロ〜!」

 

 その攻撃にココポの中の闘志に火がついてしまったらしく、嘴で器用に水を掬うと姉様に高速で掛けていき、二人の攻防が白熱していく中、僕とネコネお姉ちゃんは背中から逃げてきた小鳥達と共にパシャパシャと両脚を動かして小川を楽しんでいた。

 

「…見て、ネコネお姉ちゃん。あそこに小魚の群れがいる」

「本当なのです。ウタウさん、あそこに咲いている花綺麗なのです」

「…あ、本当に綺麗。花冠作る?」

「いいですね! 作りましょう」

 

 数分後、水かけ選手権で勝利の女神が微笑んだのはどうやらココポのようで……。

 

「うゔぅ……びしょびしょなのデス…」

「ホロロ♥︎」

 

 二人のところに駆け寄った僕達を出迎えたブルブルと身震いして水を弾いた得意げな様子のココポとは対照的に悔しそうな顔で自分の身体に張り付き、水が染み込んだことで肌が透けている着物をギュッと絞っている姉様で、その姉様は時々『えっくしゅ』とくしゃみしながらもココポの散歩に付き合っている。

 

「…姉様、帰らなくても大丈夫? あとは散歩と日光浴だけだから僕とネコネお姉ちゃんだけでも大丈夫だよ」

 山の中なので肌が透けていても他の人に見られる心配はないのかもしれないけど……根本的にここまでびしょ濡れな姉様が着替えもせずに僕達についてきて、風邪を引いてしまったらと思うと気が気ではない。

 そんな僕の気持ちを知ったか知らずか姉様はニコッと太陽のようにまばゆい笑顔を浮かべるとポンと大きく実った胸を叩く。

 

「大丈夫デスよ! さっきしっかり絞ったので散歩と日光浴の最中に乾くでしょうし」

 

(そういう問題ではないと思うんだけど……)

 

 という言葉をグッと飲み込み、僕は散歩の最終地点の丘で日光浴を始めたネコネお姉ちゃんとココポの近くに姉様を連れていき、ココポの体温で温まってもらいつつ、後ろに回ってから水気を帯び、陽の光に合わせてキラキラと光る金髪を予備で持ってきていたタオルで拭いてあげる。

 

「う、ウタウ、そんなことしなくても大丈夫デスって…っ。髪の毛も服と一緒に自然乾燥しますから…っ」

 

 まさか髪の毛を拭かれるとは思いもしなかったのだから、ボォッと頬を瞬時に真っ赤に染めてからあたふたしている姉様の髪の毛を水滴をトントンと取ってから、タオルを被せてから両手をわしゃわしゃと動かしながら、鋭い声を上げる。

 

「…大丈夫じゃない。こんなに濡れて、風邪でも引いたら大変でしょ。いいから、大人しくしてて」

「あ、ハイ」

 

 普段見ぬ僕からの有無を言わさぬ覇気を感じとり、姉様がシュン……と大人しくなるのを見て、してもらっているように髪の毛を拭いているとグレたような声が聞こえてくる。

 

「むー、なんだか今日のウタウはいつよりも強気さんなのデス……このままじゃ、あたしのお姉ちゃんとしての威厳が……」

「ウタウさんが怒るのも当たり前なのです」

「ネコネの言いがかりデス! ウタウがあたしに怒ることなんて今までも今からも一度たり……いだっ、う、うたう……ウタウってば、尻尾がお姉ちゃんを叩いているデス。いた、痛いっ」

 

 ココポの陰からひょっこりとネコネお姉ちゃんが顔を出して、髪の毛を拭いてもらっている姉様を呆れたような顔で見るのを見て、姉様が声を荒げて反省の色が見えないのでビシビシと尻尾で叩く。

 

「よし、これで髪の毛が乾いたよ」

 

 水気が完全に取れたとは言えないけどある程度は取れたので、この陽の光ではものの数秒で乾くことだろう。

 

「ありがとう、ウタウ」

「…どういたしまして」

 

 姉様の隣でちょこんと座るとココポの背中の上で寝ていたはずの小鳥達から三羽がぴよぴよと歩いてくると可愛らしい尻尾をぴこぴこと揺らしながら僅かにはだけている僕の着物の隙間に顔を突っ込むとその中へと入っていく。

 

(………え?)

 

 三匹の突然の行動になすべなく着物の中へと招き入れてしまった僕はすぅ……と下を向くと悲しくなってくる谷間すらない小さな膨らみよりも更に下、お臍辺りに蠢く愛らしい丸みを帯びた三つのシルエット、そしてお腹を擽るふわふわの羽毛の感触に目を細めながらもこの三匹は何故こんな事…破廉恥な事をしているのか、分からずに気持ちよさそうに重なって眠りについている三匹をマジマジと見つめる。

 そんな僕達の様子を微笑ましそうな表情で見つめる姉様がトントンの膨らんでいるお腹の––––三匹が身を重ね合って眠りについている––––ところを撫でながら、優しい声音で呟く。

 

「この子達はウタウが好きなんデスね」

 

(そうなのだろうか?)

 

 正直、この三匹が目の前で仕出かした出来事によって喜びよりも驚きの方が優ってしまい、素直に喜べない……。

 その瞬間、ビュ〜と風が耳元を吹き、思わずブルッとその冷たさで震えてしまうの見て、そこで気づく。

 

(な、なるほど……この子達が僕の両手ではなく、懐に入ってきたのはその方が人肌をより近くに感じられるのだろう)

 

 なら、もっと抱き寄せた方がいいのかもしれないと思い、膨らんでいるお腹へと優しく両手を添えるとギュッと抱き寄せるのだった……。

 

 

 

5.

 

「ふわ……ぁ」

 

 大きな欠伸を噛み締めながら、歩くハクの前を高速で走り過ぎていく三つの影が角に消えていくのを見送った後、ハクはハッとした様子でさっき横切った顔を思い出す。

 最初に通ったのは焦げ茶色の髪をピンクのリボンでくくりツインテールにしている表情を暗くした少女、そのあとに続くよう、同じように表情を暗くした金髪をショートにしている少女。その少女と並行して走っている銀髪を背中まで伸びた少女の横顔。

 

「ネコネ? キリカ? ウタウ?」

 

 横顔に浮かぶ暗い色にハクは最悪だった場合のシーンが頭を掠め、三人を止めようとするも三人の姿は忽ち闇へと消えていった……。

 

「おい、おま……」

 

(まさか、ネコネ達に何かあったのか!? 部屋を飛び出して行ったってことは……!)

 

 ハクは駆け出す。

 自分が焚きつけたとは言え、ネコネが、あの二人に何かあったかとすればクオン達が黙っていないだろうし、何よりも居心地が悪い。

 

「おいクオン! ネコネ達がっ……」

 

 故にハクは一番頼りになる、自分の保護者である少女へと助けを求めようと彼女が居る居間の戸を解き放って中を見た瞬間、焦りに満ち満ちていた顔が呆気にとられる。

 

「ただいまです、姉さま、ルルティエさま! 今日ココポとすっごく仲よくなりましたです!」

 

 ハクが見たその光景とは居間に並んだ腰を落としているクオンとルルティエの近くでハクが心配していた三人が横並びで興奮気味に聞いて欲しいと言わんばかりに我先にまくし立てている。

 

「あたしはココポと水掛け選手権をしたんデスよ!」

「…お散歩の後にぴったりくっついてお昼寝もしたよ。もふもふで気持ちよかった」

 

 ネコネとウタウの尻尾が同期(シンクロ)した動きで左右に揺れるところを見るとハクが考えていたような最悪な事にはならなかったようだ。

 

「ふふ」

「それはよかったね」

「「「それと……」」」

 

 三人がまだクオンとルルティエの二人に聞いて欲しいことがあるのだろう、身を乗り出す三人越しにハクの姿を見たクオンがキョトンとした様子で小首を傾げる。

 

「あらハク、どうしたのかな?」

 

 クオンのその声で入り口で立っているハクに気づいた三人は勢いよく振り返ると其々が違った反応を見せる。

 ネコネは不敵に笑い、キリカとウタウはハクにも聞いて欲しいのかズイッと身を寄せる。

 

「…ハクお兄さん! あのね、あのね……っ」

「ハクさん、ハクさん! あたし達、今日一日中で沢山ココポと仲良くなったんデスッ。それであたしはココポと水掛け選手権したんデスよ!」

「…僕はね、昼寝はこの子達とココポにくっついて寝たの」

 

 そう言って、ウタウが自分の着物の端をつかみ、お腹の所でまだ寝ている三匹を紹介しようとした瞬間、もともと着物の帯が緩かったのか、ハラリと解けては床へと落ちていく。

 その帯を見つめるのは半開きの黄緑と鶯色の瞳で–––––––––。

 

「…へ?」

「…は?」

 

 床に完全落ちた帯から視線を上に向けると自分の着物の両手に持ち、前をはだけさせているウタウの姿があり、鶯色の瞳にはバッチリと慎まやかな真っ白い丘の上で呼吸をするたびに揺れるピンクまで見た後、ウタウの頬がぼうっと朱に染まるのとハクを襲ったのは音速を超えたスピードで自分に迫ってくる拳のどっちが早かったのかは当事者でも分からないであろう。

 

「デストローイッッッ!!!」

 

 だが、ハクに迫った拳は左顎へとめり込んだ後、斜め上に向かってつきあげられ、ハクは天井に後頭部を叩きつけた後に廊下の上をコロコロと転がった後にその場で意気消沈するのだった……




ということで、私はやっぱり変態ですのでどうもR15、R18寄りになってしまうのです。
しかし、そういうのも含めて私の小説を読んでくださっている方は楽しんで読んでもらっていただいていると思うので……この話から【メインストーリーの手直し】に入ろうと思いますので、手直しした際に必要となる話数は更新すると思いますが…それ以外は更新しません。
なので、メインストーリーの手直しが終わるのをこれまで更新した話を読み返しつつ待っていただけると幸いです!




ここからは雑談なのですが……

アプリ内にて1/1〜3まで更新なされていた出張版シンフォギアラジオは皆様全部聴きましたでしょうか?

私は全部聴きました〜!!!

1日は、【シンフォギアXV】の追加 & 【4.5】の追加ッ!
2日は、次回の新イベントの主役は【未来ちゃん】ッ!
3日は、【金子さん主筆のイベント】が作成中ッ!

との事で……皆様はどの情報が一番気になったでしょうか??

一つ一つ取り上げさせていただくと……まずこんなに早くXVをアプリ内で楽しめるのも嬉しいのですが、その前の4.5期というのが楽しめるのがニクいなぁ〜と思いました。シンフォギアというストーリーはXVで終わってしまったのですが…4.5期とついているだけで新しいみんなのストーリーが見れ、新しいみんなに会えると思うと胸がワクワクしちゃうというか……うん、何言ってるか、分からんですね(笑)
でも、一番嬉しいのはノーブルレッドのみんなに会えることかな……確かに二話のミラアルクさんは許されないことをしたし、その後もこの子達は許させないことをしたけど……この子達にも譲れない信念があっての事でああいう事になったのだから……私は素直に彼女達を憎まないんですよね…、なので彼女達が復活するイベントが今後用意されているのならば、響ちゃんと手を繋いで欲しいですね…(願)

続けて、新イベントの未来ちゃんですが……これ、シルエットからある程度どんなギアを纏うことになるのか想像ついちゃいますよ(ニヤニヤ)
どういうイベントになるかは分かりませんし、心から楽しみなのですが……まず一つだけ、未来ちゃんは本当に響ちゃんが大好きですし、ラブラブなのが伝わってくるシルエットだなと思いましたッ。

最後に金子さんが直々に主筆なされるイベントということで……こればっかりはどんな風になるのか分からないですね……。
個人的には、個人的にはですよ……これから先も公開する気はないという深い切ちゃんの過去をイベント化して欲しいなぁ〜と(切実)
と書きつつ、5.5期ってストーリーも有りかな〜って思いました! 響ちゃんと未来ちゃんのラブラブ新婚生活を覗きみたいですし…。
あと、ラジオ内で日笠さんがおっしゃっていた醤油を持ったマムの復活は個人的に見て見たい!!! 醤油の攻撃って地味にキツイと思いますし……あと、醤油を持ちながら攻撃してくるマムが笑えてくる…。



最後の最後に……

この作品の主人公である歌兎が纏うギアは【ミョルミル】で、光栄な事に【UXのオリジナルストーリー】にてそのミョルミルを使っていただき、私にはこのミョルミルがうちの子・歌兎に思えてならなかったんです。
なので、すごく強いギアと紹介された時や大暴れしているときは頭が下がる一方でした……『うちの子がなんかすいません……』と(大汗)
そんなミョルミルとミーナさんが響ちゃんに力を貸してくれるシーンは涙が溢れましたし……原作の響ちゃん達とうちの子が肩を並べて、戦うことができて、本当に良かったと心から思いました。
なので、ミーナさんが……うちの子が……何よりも響ちゃんが頑張った証である【ミョルミルギア】を必ず上限解放まで集めてあげようと思っていたんです。

その強い思いが通じたか、前の回で絵を描かせていただいたからか分かりませんが……

最初の『10連で2枚』から20〜40連までスカ、『50連で1枚』、60連はスカでこのままでは期間が終わるまでに上限解放まで集めてあがらないなぁ…と思っていたら、『70・80連目にそれぞれ1枚ずつ』来てくれて…90連はスカってしまいましたが、確実に来てくれる100連目まで回せるところまでこぎつける事ができました!!

今のミョルミルは4限界突破で『58』なので、後は確実に来てくれる一枚を獲得したらMAXになるんですよね〜♪

MAXまでいったら即上限解放出来るように素材は全部集め終えておきましたから……後はその一枚を回すまでに200個貯めるためなのですが、これがいつ頃になるか分からないんですよね……(大汗)

何はともあれ、うちの歌兎のギアであるのでミョルミルギアはこれから先も特別な時以外はフレンド欄に入れ続けようと思います!!



末筆ですが、ここまで読んでいただきありがとうございます(土下座)


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漫談
師匠と訓練



*今回はかなり少ないです…


一ヶ月絶対安静から、やっと解放された僕は約束通り、響お姉ちゃんに稽古をつけてもらうために指定された公園へと来ていた。

ヨイショ、ヨイショっと背中に固いでいる花青緑のリュックサックを右左と揺らしながら、公園へとついた僕をニコニコ笑顔の響師匠が出迎えてくれた。そして、僕が背負っているリュックを見て、唖然。そんな響師匠を見つめながら、僕は首をかしげる。それに響師匠はツッコミを入れる。

 

「…お待たせしました、師匠」

「ううん、私もさっき来たところだから、大丈夫…って、えぇええええ!!!?」

「…?」

「いやいや、歌兎ちゃん。そこで頭をかしげるところじゃないからね!?」

「…そうなんですか?」

 

響師匠にツッコまれて、僕は改めて姉様にコーディネートされたうさ耳付きジャージと半強制的に持たされた中身が満タンのリュックを見て、また首をかしげる。

それに響師匠は呆れを通り越して、苦笑いを浮かべると僕へと話してくる。

 

「そうだよ!ツッコミどころが多すぎでびっくりだよ、私。もしかして、そのリュックを準備したのって…」

「…姉様です」

「だよねぇ〜。だと思った!想像通りすぎて、私はびっくりだよ。切歌ちゃんはブレないね」

 

そう言うと、「あはは」と明るい笑い声をあげると僕へとリュックの中身を問いかけてくる。

僕は地面へとリュックを下ろすと、師匠共に中身を確認していく。

 

「それで、そのリュックの中には何が入ってるのかな?」

「…僕も分からないんです。姉様に持っていくように言われただけですので」

「なんだろ。私だけかな?嫌な予感がするのは…」

 

顔が強張ってくる師匠と顔を見合わせた僕はリュックの中をガサゴソと下がると手に当たったものを引っ張り出す。僕の手に合う形のそれを見た師匠の頬を冷や汗が垂れ落ちる。

 

「…これは?」

「…なんで、スタンガンなんて入れてんだろ…切歌ちゃん」

「…師匠、これは知ってるの?」

「…うん、知ってるけど…歌兎ちゃんは知らなくていいかな。他には何が入ってる?」

「…?」

 

僕が握っていたそれは師匠の手によって回収され、僕は首を傾げつつもリュックからものを取り出す。

そして、出てくるわ出てくるわ、過保護な姉様による重すぎる愛が多く詰まったものたち。それには、僕も師匠も苦笑いしか出てこない。

 

「えっと…入れてあって分かるのは、汗拭きタオルと着替えの服かな?この際、1日だけの練習でタオル5枚は多すぎとか、着替えの服が何故ジャージとか動きやすいものじゃないの!?ってツッコミは無しとしよう」

「…はい、師匠。しかし、なんで、姉様。缶詰めとか果物ナイフとか入れてるのかな?他にも、一週間ぐらい遭難しても暮らしていけるくらいのものが揃ってる…」

「…歌兎ちゃんの上げてくれたもので、切歌ちゃんが抱いてる私へのイメージがひしひしと伝わってきたよ…」

 

項垂れる師匠はパチンと頬を叩くと、僕と共に練習へと性を出すのだった…




そして、そんな二人を木の陰から見ている三人の影があった…


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みんなで出かけていたら眠っちゃった話。

お待たせしました(汗)

最終回までの話が書き終わるまでは、漫談編を更新していきます(笑)
そして、次回の話と違い、今回は切ちゃんの過保護度がMAXで進んでいきます。その過保護に巻き込まれていくみんなをどうか、暖かく見ていただければと思います…(笑)

また、今日の日間ランキングにて…ほんの少しほど本作がお邪魔しました。
多くの方に読んでいただいていることへの感謝と、めちゃくちゃな展開なのですが、暖かく見守っていただいている読者の皆さんへとお礼を。

本当にありがとうございます(礼)


※今回はかなり短めとなってます。


10/6〜誤字報告、本当にありがとうございます!


「マリアは本当に分からず屋デスね!この白うさぎの方が似合ってるに決まってるじゃないデスか!」

「切歌こそ分かってないわ!いつも同じ服装では見えてこないものがあるの。ここはそれに挑戦してみる価値があると私は思うわ!」

「それがこの黒猫というデスか?マリアは愚かデス、ポンコツデス!そんなに黒がいいんデスか!」

「ちょっと、切歌っ!あなた、私のことをポンコツって言ったわね!」

「言いましたよ〜。マリアはポンコツデス。このポンコツマリア!」

「あなたね…っ」

 

赤いレンガと青いレンガ、白いレンガによって綺麗な柄を作っている歩道のど真ん中、桃色の髪を背中まで伸ばした女性と明るい金髪をショートヘアにしている少女がすごい剣幕で言い争っている。

その女性と少女の喧嘩を野次馬たちが傍観している中、桃色の髪を持つ女性へと青い髪を結んでいる女性が歩み寄り、その肩を軽く叩いて止めに入る。そして、もう一方の金髪の少女の方も茶色を背中まで伸ばしている女性が肩を叩く。だが、そんな二人の仲裁も払いのけ、桃色の髪を持つ女性・マリねぇと金髪にバッテンの髪留めをつけている少女・姉様の口喧嘩は白熱していく。それに、頭を抱えて引き下がった青い髪を結んでいる女性・翼お姉ちゃんと茶色の髪を背中まで伸ばしている女性・セラねぇは同時にため息をつく。

 

「まあまあ、二人とも落ち着け。マリアも少し大人気ないぞ」

「翼の言う通りだよ。暁さんも落ち着いて、姉さんの意見も取り入れてみる価値と思いますよ」

「翼とセレナは黙ってて!」「翼さんとセレナは黙っててください!」

「…口出し無用だったか、すまない…」

「…もう思う存分、喧嘩してください…二人で…」

 

退散してきた二人を出迎えるのは、右側からクリスお姉ちゃん。シラねぇ、響師匠に未来お姉ちゃんの四人とシラねぇに手を握られている僕を合わせての五人だ。

顔を近づけて、至近距離で睨みきかせながら、互いの悪口を言い合う二人ははたから見ていると子供っぽい。

そんな二人を呆れ顔で見つめながら、クリスお姉ちゃんが呟く。それに深く頷くのはシラねぇで、それに続く響師匠はこの二人の喧嘩を見慣れたせいか、そんなに気にしてない様子だった。

 

「しっかし、相変わらずだよな、この二人は」

「ですね。マリアも切ちゃんも、二人とも歌兎のことを目に入れても痛くないくらい可愛がってますから」

「あはは。でも、いいんじゃないかな。喧嘩するほどなんとかっていうじゃない?」

「響、それをいうなら…喧嘩するほど仲良しだよ」

「あはは、そうともいう〜」

 

穴あきを未来お姉ちゃんに埋められ、響師匠は誤魔化すように明るい笑い声をあげる。そんな師匠を仕方ないなぁ〜みたいな顔で見ていた未来お姉ちゃんは、シラねぇと手を繋いでいる僕をみると腰を折って話しかけてくる。

そんな未来お姉ちゃんの声にぽや〜んと瞼を持ち上げながら見ると、今度はシラねぇが腰を折って話しかけてくる。

 

「…んぅ」

「歌兎ちゃん?」

「歌兎、眠たいの?」

「…ん…」

シラねぇの質問にこっくんと頷くと、 シラねぇと未来お姉ちゃんは顔を見合わせて笑い合う。未来お姉ちゃんが僕の顔を覗き込みながら問いかけてくる。それに頷き、答えた僕へとシラねぇが頭を撫でてくれる。

 

「また、夜遅くまで友里さんか藤尭さんのところにいたの?」

「…ん、早めに切り上げようって思ったけど、調べていくと歯止めが効かなくなっちゃって…」

「歌兎は本当に頑張り屋さんだね。マリアと切ちゃんの喧嘩はまだ続くから、それまで私の背中で寝る?」

「…いいの?シラねぇ」

 

とろ〜んとした目で見つめるとシラねぇが首を縦に振る。腰を折ってくれるシラねぇへと抱きつき、シラねぇの暖かさを背中から感じて、僕は瞬く間に目を閉じて、静かに寝息を立て始めた。

器用に僕をおぶりなおしたシラねぇへと僕の寝顔を見ていた未来お姉ちゃんが話しかける。そんな未来お姉ちゃんへとシラねぇが礼を言う。

そんな二人へと師匠たちが近づいてくる。

 

「…すぅ…すぅ…」

「本当に疲れていたんだね、歌兎ちゃん。調ちゃん、疲れたなら言ってね、私が変わってあげるから」

「ありがとうございます、未来さん。疲れた時はよろしくお願いします」

 

師匠がシラねぇの背中へと顔を押し付けて眠りこける僕を見ると、顔を綻ばせる。それは師匠だけではなく、他のねぇややお姉ちゃん達も一緒みたいでクリスお姉ちゃんに至ってはぷにぷにと僕の頬を突く。

 

「あれ〜?歌兎ちゃん、寝ちゃったの?」

「それは寝るだろ。こいつだって疲れてるんだしな」

「月読、疲れるだろ。私が変わろう」

「まだ大丈夫です、翼さん」

「そうか…」

「そんな残念そうな顔しなくても大丈夫ですよ、翼。月読さんなら翼の気持ちもわかってくれて、早く歌兎を抱っこさせてくれると思いますから。あっ、でも、余りにも可愛いからってお持ち帰りは禁止ですよ。私たちが暁さんに怒られちゃいますから」

「セ、セレナ!私はそんなこと企んでないわ。それにお持ち帰りって…」

「翼さん、素に戻ってますよ〜。素直に抱っこさせて貰えばいいじゃないですか〜」

「センパイも可愛いところがあるんだな〜」

「なっ…立花、雪音まで、私をそのように…なんという屈辱か…」

「………。翼さん、歌兎抱っこしてみます?」

「いいの?」

「はいどうぞ」

 

その後の話を師匠とシラねぇに聞いたところ、姉様とマリねぇの喧嘩は夕暮れまで続き、その間にも僕は眠り続けて、ねぇやたちやお姉ちゃん達が変わりばんこに背負いあってくれていたそうで、僕は申し訳なくなり、今度からはみんなで出かける時は夜更かしをしないと心に誓うのだった…

 

そして、もう一つセレねぇに聞いた話なんだが、翼お姉ちゃんが僕の抱っこ権をなかなか誰かに譲らなかったそう。それを聞いた僕はこう思ったーー翼お姉ちゃんにもかわいい一面があるのだなぁ〜と。




この漫談編で明るいのと可愛いのを補充しておかないと…これからの本編が辛くなるので…(汗)

そして、これはお知らせで最終回までの話は一気に更新出来ればと思っているので…それまでは、こんな感じで漫談編が続きますので、よろしくお願いします(礼)


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001 お泊まり

今回の漫談はとにかく楽しい話を書こうと思い、書いたものデス。
なので、この話を読んで、読者の皆さんが笑ってくださったらと思ってます。

まぁ、今回の切ちゃんも過保護度は安定の100パーセントですので…それに巻き込まれるみんなはとても大変だと思います(笑)

今回の話のあらすじは
学校で仲良くなった友達の家へとお泊まりに行こうとなった切歌と調だが…。そこで、切歌が歌兎を置いて、お泊まりにはいけないとタダをこねる。そこで、歌兎も切歌を説得しようとするが…、切歌は聞く耳を持たずに。終いには、切歌が泣き出してしまうといったところから、スタートとなっております。

過保護な姉様が織りなすハチャメチャなお泊まり劇をどうぞ!

*今回はかなり短いです。


二課にある休憩所の中。金髪に黒のバッテンの髪飾りが特徴的な少女が膝立ちになって、目の前にいる水色が混ざる銀髪を背中近くまで伸ばした少女へと抱きついて、ポロポロと涙を流している。

その様子に周りにあるものは唖然とし、ある者は苦笑いを浮かべ、またある者は申し訳なそうな表情を浮かべ、最後の一人に至って呆れ顔を浮かべている。

いつものことながら、この二人ーー暁姉妹は波乱の中を生きている。いや、姉の方が進んで、波乱を進んでいくのだ。故に、妹もその姉の背中を追いかけてしまってるため、もう誰もこの二人の暴走を止められないのだ。

 

「…うぅ…歌兎ぅ〜…」

「…姉様、泣かないで。明後日には会えるから」

 

年甲斐もなく、妹・歌兎の胸へと顔を押し付けて泣いている姉・切歌へと歌兎は姉の頭を撫でながら、優しく語りかける。しかし、歌兎の励ましの気持ちは肝心の姉には届かずに、またしても姉様お得意のちんぷんかんぷんな方向へと話が進んでいく。それには、流石の歌兎も困った表情になっていた。

 

「1日も離れ離れなんデスよ!明日、お姉ちゃんはどうすればいいのデス?」

「…姉様にはシラねぇがいるから。それに、僕は友達とも仲良くしてほしいって思ってる」

「なんデスと!!?歌兎はお姉ちゃんと離れ離れでも寂しくないと…そういうデスか…?」

「…ううん、そうじゃなくてね…。僕が言いたいのは…」

 

そんな二人の様子を遠くから見ていた明るい茶色の髪をしている少女・響が切歌を見てはポツンと呟く。 その隣にいる青い髪を結んでいる女性・翼は眉を潜めると、事の成り行きを見守っている。そして、そんな翼の横にいる白髪の髪を赤いシュシュで結んでいる少女・クリスが実に様々な表情を浮かべている元F.I.S.組へと問いかける。

 

「あらあら、随分荒れてますなぁ〜」

「むぅ?何故、切歌は歌兎に抱きついて泣いているのか?」

「…なぁ、なんだ?これ」

 

顎で目の前の光景を指され、元F.I.S.組は視線を下へと向けると揃って頭を下げる。それはまるで、うちのダメ娘がまたやんちゃを…とお詫びの品を持って回る親の姿によく似ており、この三人が普段からこの過保護な姉に手を焼いているのかがよく分かる反応であった。

 

「え…と…」

「三人ともお騒がせしてごめんなさいね」

「明日、私と切ちゃんが友達の家にお泊りに行くんです。何ですが、切ちゃんが歌兎を置いてはいけないって。私は皆の邪魔になるし、最も歌兎が居づらいだろうから。諦めようって言ったんですが…終始、こんな状態でして」

 

漆黒の髪をツインテールにしてる少女・調はチラッと切歌の方を見ると、まだ抱きつかれている歌兎へと視線を向ける。歌兎は調たちの方を見ており、その眠たそうな黄緑色の瞳には大きく“たすけて”の四文字が浮かんでいた。

基本、姉には絶対服従の妹すらもドン引きの駄々をこね続ける切歌。だが、ここに居る誰もが歌兎へと期待をしているのだが、この状態では切歌の勝ちとなってしまうかもしれない。

しかし、意外な人が発した言葉により、この話は終焉を迎える。

 

「あぁ、なるほど、そういうことか。でも、それって、たった1日だけなんでしょう?私や未来もよく遊びに行ってるし、切歌ちゃんも楽しんでくるといいよ。歌兎ちゃんはここにいるみんながしっかりお世話するからさ」

「そういう簡単な問題じゃないんデスよ!響さんっ」

 

響が何気に発したセリフに切歌がつっかかる。グイッと整った顔立ちを響へと近づけると、力強く肩を揺らす。それに、響は目を回す。

 

「おぉっ!?急に食いついてきたね、切歌ちゃん」

「響さんまでなんでそんなこというデスか!?そんなにあたしと歌兎を切り離して、何を企んでるんデスか!あたしが悲しむ姿を見て、みんなして笑ってるんデスか〜っ」

「肩を揺らさないで、切歌ちゃ〜ん〜」

 

高速で前後ろと響の肩を揺らすたびに、響の首がカクンカクンと良からぬ音を立てており、琥珀色の瞳はぐるぐると渦巻きを作っている。その様子に、今まで傍観していた翼が興奮している切歌の方を叩く。

 

「まあまあ。落ち着け、切歌。誰もそんなことは考えてない。ただ、切歌にも楽しんできて欲しいだけなんだ、友との思い出、とてもいいではないか。私は切歌にも…もちろん、月読にも心に残る思い出を作って欲しいと思っているぞ」

 

翼の暑いスピーチの後、目を回している響の肩を強く握りしめて、下を向いている切歌はポツンと呟く。それには眉をひそめるクリスに切歌は大きな声でちんぷんかんぷんな事を言う。

 

「…さい」

「はぁ?なんて言ったんだ?」

「じゃあ、今日だけは歌兎とずっと一緒にいさせてください!それで、明日を生き抜く為の歌兎成分を貯めるのデス!」

 

その時、ここにいる人たち誰もが思っただろうーー

 

(ーーいさせてくださいも何も毎日一緒にいるじゃないか)と。

 

それと、(歌兎成分ってなんだ?)とも。当事者である妹の歌兎までもが、普段は絶対服従の姉へと何言ってるんだ?こいつ、みたいな顔をしているのを周りにいる誰もが目撃していた…




というわけで、次回はお泊まり前日と当日の話を書こうと思います。

主人公が誰の家に泊まるかは…次回までのお楽しみということで(笑)


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002 お泊まり

遂に、お泊まりへと向かう切ちゃんと○○○お姉ちゃんの家へとお泊まりに行くことになった歌兎。

二人は果たして、無事にお泊まりを終えることができるでしょうか?


10/12〜誤字報告ありがとうございます!


大きな声でちんぷんかんぷんな事をおっしゃった姉様は、それ以降、僕を膝の上へと載せるとニコニコと満面の笑みを浮かべている。ギュッと抱きしめては、スリスリと頬を擦り付けてくるのが擽ったく、僕は身をよじる。だが、強く抱きしめられた両腕のせいで、僕は思ったように動かずに、姉様のなすがままになっていた。

そんなご機嫌な姉様へとマリねぇがため息混じりに聞いてくる。それは、僕のことであった。

 

「それで切歌。歌兎はどうするの?もちろん、私たちが見るのよね?」

「そうだね。歌兎ちゃんの家は私たちのところだし、他のみんなに迷惑はかけらーー」

 

マリねぇのセリフにセレねぇが頷き、勝手に話が進んでいく。だが、それを聞いていた姉様の少し垂れ目な瞳が一瞬修羅のようになる。それに驚く僕の方は見ずに、姉様は真っ直ぐにマリねぇとセレねぇを見つめる。

姉様のトレードマークとなっている“デス”口調も消えたマジ口調で淡々と二人をディスる姉様に、シラねぇと周りのお姉ちゃん達はぽかーんとしていた。そして、ディスられた二人は涙目になって、姉様へと抗議していた。

 

「マリアは今までの行いから信用出来ないので却下。絶対、あたしがいない間に歌兎へと鬼畜な事をしでかすに決まってる。大体、歌兎に料理を教える腕がマリアには無い。なのに、歌兎に料理や他のことを教えようなんてちゃんちゃらおかしい」

「ちょっと、切歌。それは流石に言い過ぎよ!私だって、料理くらい作れるわ」

「…ふっ」

「なによ、その深み笑いは!私だって出来るんだから…本当なんだから…」

「そして、セレナ。あなたもあなただよ」

「へ?」

「あなたの人生は流されてばかりだ。どうせ、今回もマリアに流されるに決まってる。そんなセレナには歌兎は預けられない」

「ちょっと暁さん、それは言い過ぎたよ!私の人生まで否定するなんて!」

 

抗議してくるカデンツァヴナ・イヴ姉妹が周りで騒いでいるにもかかわらず、姉様は真剣な表情でブツブツと独り言を呟いている。そんな姉様が怖く、僕は姉様の隣に立っているシラねぇへと視線を向ける。

 

「こんな二人は例外。クリス先輩も例外。あの人こそ、歌兎になにをしでかすかわからない」

「…シラねぇ。今の姉様、怖い。すごく怖いんだけど」

「奇遇だね、歌兎。私も怖いよ。こんなに真面目な切ちゃん、初めて見たかも」

「…そう言われるとそうだね」

 

僕とシラねぇは密かに思う。

この集中力をもっと他のことへと向けてくれたならば、他の人はもっと助かるのに…と。

そして、暫し、ブツブツ呟きていた姉様は突然、前を向くと僕を連れてある人のところまで歩いていく。その人の前に来ると、頭を下げる。

 

「翼さん。あした、歌兎のことお願い出来ないデスか?」

「私か?別に構わないが…マリアたちはいいのか?」

 

青い髪を揺らして、マリねぇとセレねぇのいるところへと視線を向ける翼お姉ちゃんにねぇやたちは頷く。

 

「えぇ、大丈夫よ。そうしないと、この子がまた駄々をこねそうだし」

「私からも歌兎のことよろしくお願い、翼」

「うむ。マリアたちがそこまで言うのであらば、この剣。責任持って、歌兎を預ろう。そして、無事に歌兎を切歌へと返すことを誓う」

「はいデス、翼さん。歌兎のことよろしくお願いします」

「…お願いします、翼お姉ちゃん」

「あぁ、こちらこそよろしく頼むぞ、歌兎」

 

自信満々に胸をはる翼お姉ちゃんを側から見ていたクリスお姉ちゃんと響師匠がポツンと呟く。

 

「…おい、本当に先輩で大丈夫とおもうか?」

「…んー、大丈夫なんじゃないかな。ほら、翼さん自信満々だし!きっと、大丈夫だよ」

「…はぁ…、お前もあそこにいるやつもお気楽だな」

 

クリスお姉ちゃんだけ、このお泊まり会に不安を感じていた……

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

今朝の今朝まで、僕にベッタベタだった姉様は泣きそうな顔をしながらもシラねぇの手を握り、愛用している黄緑色のショルダーバッグを担ぐ。そんな姉様の手を握っているシラねぇは桃色の手提げカバンを持つと、二人揃って振り返ってくる。

 

「うぅ…これで最後になるのデスね…」

「暁さんは大袈裟だよ。たった1日でこれなら、三日とかになるとどうなるんだろ?」

「明後日には会えるのだから、その為に歌兎は翼のところに泊まりに行くのでしょう。あなたたちも楽しんできなさい」

「セレナとマリアには、あたしのこの気持ちはわからないのデスよ!うぅ…歌兎ぅ…」

 

マリねぇとセレねぇの言葉にむくれた姉様が僕へと抱きついてくる。そんな姉様を受け入れながら、僕はゆっくりとシラねぇへと姉様を引き渡す。

 

「…姉様。僕なら大丈夫だよ。だから、シラねぇと楽しんで来て」

「…うっ…分かったのデスよ。歌兎も翼さんに迷惑かけちゃダメデスよ」

「…ん。任せて、翼お姉ちゃんには迷惑かけない。姉様たちが帰ってくるまでいい子にしてる」

「うん、約束デス」

 

姉様とゆびきりげんまんをした僕へと、まだまだ何が言いたそうな姉様の首根っこを掴んだシラねぇがずるずると姉様を引きずって、ずんずんと歩いていく。対する姉様は来ている服が首にしまって、苦しそうであったが…。

 

「そろそろ時間になる、切ちゃん。マリア、セレナ、歌兎、いってきます。切ちゃん、行くよ」

「わわっ!?調、いきなり引っ張ったらこけるデスよ!?こけるっ、こけるデスっ!あと、首が絞まって苦し…」

 

セレねぇと共にバイバイする僕たちへと、シラねぇと姉様がバイバイしてくれる。そんな二人へとマリねぇがお母さんみたいな発言をすると、セレねぇがそれをからかう。

 

「いってらっしゃい。月読さん、暁さん」

「泊まる人に迷惑をかけちゃダメよ。あと、調はちゃんとは歯磨きして…それから、切歌は…」

「姉さん、本当にお母さんになったよね」

「なっ!?セレナ。私、まだそんなに歳じゃないわよ!それにあなたまでそんな事を言うの!」

「歌兎ちゃんもそう思うよね」

「…ん、マリねぇは僕たちのお母さん」

「歌兎まで…そんな事を…。私、そんなに老けてるのかしら…?」

 

僕の発言にがくっと膝をつくマリねぇ。セレねぇはからかいすぎと思ったのか、マリねぇへと謝罪している。そんな二人から視線を逸らして、遠ざかっていく姉様の背中を見ているとあることを言うのを忘れていたことを思い出し、僕は駆け足で二人を追いかける。

 

一方、シラねぇに手を引かれている姉様はチラチラと後ろを振り返っては、寂しさと心配で顔を歪める。そんな姉様へとシラねぇが優しく話しかける。

 

「…うぅ…歌兎が遠くなってくデス…」

「そんな顔しないで、切ちゃん。これは歌兎に対して大事な事なんだよ。そろそろ、姉離れしないと…、このままじゃあ歌兎の為にならない。それに当てはまるのは切ちゃんもだよ。切ちゃんがいつまでもそうだと、歌兎も成長できない」

「そうデスが…調…。歌兎は普通の身体じゃないんデス…。いつ、ミョルニルが歌兎に牙を剥くかと思うと…あたしは…」

「うん、分かるよ。切ちゃんの気持ち。私も歌兎の事は心配だよ。本当なら、このお泊まりをやめて、あの子のそばに居てあげたい。でも、それはダメなの、あの子の将来のためにならない。だから、ここは心を鬼にするべき」

「うん…分かってるデス…。これも歌兎の為デス、心を鬼さんにするデスよ!」

「うん、そのいきだよ、切ちゃん」

 

繋いでいた手をさらにギュッと強く繋ぐと、二人の足取りが軽くなる。二人がどんどんとマンションから離れていく中、姉様は何を思ったのか、突然シラねぇへと抱きつく。じゃれついてくる姉様にシラねぇも嬉しそうな、困惑してるような表情を浮かべる。

 

「デスが、やっぱり、調は優しいのデス!そんな調があたしは大好きデスよ!」

「きゃあっ!?切ちゃん、歩きづらいよ。そんなに抱きつかれると」

「いいんデスよ。歌兎が側に居ない間、あたしは調といちゃいちゃするのデス」

「…いちゃいちゃするの?姉様。シラねぇと」

「はいするデス!…ん?」

 

僕の質問に元気よく答えた姉様は、不思議そう表情を浮かべると後ろを振り返ってくる。そして、真後ろにいる僕を見て、シラねぇと同期(シンクロ)した動きで飛び退くと上ずった声を上げる。それを聞いて、首を傾げる僕。

 

「…?」

「なぜ、歌兎が」「ここにいるデス!?」

「…そんなに驚いてどうしたの?姉様、シラねぇ」

「なんでも」「ないデスよ、歌兎」

「…?」

 

何故か、二人が顔を赤くしているのがまだ分からないが、僕は要件を言う。それを聞いた姉様は目を見開く。

 

「それで歌兎。どうしたデスか?」」

「…姉様に言う事を忘れて」

「あたしにデス?」

「…姉様。はっぴー」

「!! にゃっぴー」

「…頑張る」

「デデデース!」

「…魔法の言葉。姉様、シラねぇ、気をつけていってらっしゃい」

 

僕は背伸びして、姉様とシラねぇへとキスを落とすとバイバイする。それに嬉しそうに手を振る姉様、その隣にいるシラねぇへともう一度頭を下げる。

 

「えへへ…、じゃあ、行ってくるデス」

「…ん、いってらっしゃい、姉様。シラねぇ、姉様の事、よろしくお願いします」

「うん。歌兎も気をつけてね」

 

その後、姉様たちは無事に友達の家へと到着したらしい。僕も愛用してる花青緑色のリュックへとお泊まりの時に着るパジャマやらを入れると、マリねぇとセレねぇに連れられて、翼お姉ちゃんのマンションへと向かう。

ピンポーンとチャイムを押すと中から翼お姉ちゃんが出てくる。そして、マリねぇとセレねぇは翼お姉ちゃんへともう一度、頭を下げると自分のマンションへと帰っていったのだった…




と、かなり駆け足気味の前日と当日ですが…次回こそがこの話の本番ですので、お楽しみにm(__)m



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003 お泊まり

大変、大変お待たせいたしました!(汗)
過保護な切ちゃんと歌兎の波乱に満ちたお泊まり会ですが…最初は前半戦をどうぞ。
理由は本編を見ていただけるとわかると思うんですが…切ちゃんの『手紙』が思った以上に長くって…(汗)
前半、後半で分けることなってしまいました…本当にすいません…。

そして、今回の話の流れですが…

最初が【歌兎】⇨【切歌】みたいな感じまで書ければと思ってます。

また、切ちゃんと調のクラスメイトは私が考えたオリジナルキャラですので…どうか、そちらもよろしくお願いします。


*また、翼さんの部屋の家具や飲み物は私のイメージですので、どうかよろしくお願いします。


青い髪を揺らして、僕を部屋の中へと招き入れてくれた翼

お姉ちゃんの後をリュックを揺らしながらついていくと、リビングが現れる。

 

(…あれ?クリスお姉ちゃんが翼お姉ちゃんの部屋は汚れてるって言ったけど…そうでもない?)

 

黒と青を基調とした家具が置かれている。小綺麗に整えられているそれの上に、ほこりまたはその他のゴミを見せることはかなり難しい。僕が不思議そうに部屋の中を見ていると翼お姉ちゃんが冷蔵庫を開きながら、僕へと話しかけてくる。

 

「歌兎。そこにでも荷物を置くといい。疲れたであろう、何か飲み物でも飲むか?何がいい?」

「…んー、苦いものじゃなければなんでも」

「ふっ。なら、茶でもたてようか?抹茶は飲めるか?」

「…ん。大丈夫…だと思うよ」

「ふふ、何も経験だ。少し待っていてくれ」

 

翼お姉ちゃんが何か道具を取りに奥の部屋へと向かった瞬間、僕の視界の端に白いものが映る。それを拾い上げてみると、そこにはこう書かれていた。

 

(…あっ、これ)

 

小さいメモ帳の切れ端には綺麗な字でこう書かれていたーー【歌兎さんが来るとの事でしたから、いつもよりも念入りに掃除しておきました。緒川より】

 

「………」

 

僕はそれをなんとも言えない顔をして、静かに戻すと同時に、奥の部屋で道具を取りに行っていた翼お姉ちゃん帰ってくると、その翼お姉ちゃんのところへとトテトテと走っていく。そして、翼お姉ちゃんが見事な腕前で立ててくれた抹茶を和菓子共に飲んで、一息いれるとそこで姉様に渡すように言われていたものを思い出す。

 

「…あっ、これ、姉様から翼お姉ちゃんへって」

「うむ?なんであろうか?」

 

翼お姉ちゃんは僕が猫耳がついたパーカーから出した手紙を受け取るとそれを開くとその形良い眉をひそめる。

それを抹茶をすすりながら見ていた僕は翼お姉ちゃんに近づくと、その手紙の内容を盗み見る。そして、そこに広がっていたは…僕のよく知る姉様の残念すぎる文章たちで、大真面目な顔で真剣に解読しようとしている翼お姉ちゃんへと僕にも見せて欲しいと頼む。

 

「むむ…これは切歌から私に対する暗号なのか?切歌は私を試そうとしてるのやもしれぬ。この私が歌兎を守りに値する防人かどうかを!これは何としても解かねば、民を守る防人としての誇りとして!」

「…そんな大げさなものじゃないよ、翼お姉ちゃん。ちょっと、僕にも見せてみて」

「ああ」

 

翼お姉ちゃんが僕にも見えるように傾けてくれたおかげで、残念すぎる手紙の内容が露わになる。以下が、その残念すぎる手紙の内容だ。

 

【拝啓、つばさサン。

 

歌うの事、アズかっていたダキありがとうござイマス( ̄^ ̄)ゞあたしも調といっしょに友達のいえでの音鞠貝たの死んでキマス!(*'▽'*)

着きましては、つばさサンにお願いしたいコトがあるデス(>_<)

 

それは、歌兎の事デシ手…歌うは姉のあたシがいうのも難ですが、とても千歳な子なのデス(>_<)

ナノで、以下のことを顔つけて上げてくだ材デスm(__)m

 

一つ、木が絵はてつだって揚げて下さい。お願いしマス。

二つ、漁リは辛いモノか宙カヲ棚であげください。二つとも、歌兎の鉱物デスのでよろ昆布と思うデス。

三つ、おふ炉は一緒に入って、身体やあた間を洗って揚げて下さい。また、アガった後はかみの毛をよく吹いてあげてくだ材デス。風を弾いたら、恐いデスから。

四つ、お風呂のあトハ、濱餓鬼を詩テ挙げて星いのデス。最後のシア気磨きは絶対お願いシますデス。貴重面に見えて、歌兎はザツなのデ…そういうとコロを見て欲しいとデスよ。

五つ、錬るトキはトナリで寝てあげて星いのデス!歌うはサミシ狩り屋デスから、手をギュっと二切手あげるとイイと思うデス。

 

以上の五つの事と歌兎の麺ダウ、どうかよろしくお願いしマスデスm(__)m

Biきりか】

 

(…もう、ツッコミどころしか見つからない…。見つからないよ、姉様…。なんで、姉様は普段は素敵で頼りになるのに…こういうところは残念すぎるんだろ…)

 

僕は翼お姉ちゃんの方をチラッと見ると、手紙の一箇所を指差す。

 

「…これは【濱餓鬼】って書いてあるけど、本当は【歯磨き】って書きたかったんだと思う」

「歌兎は読めるのか?この暗号が」

「…うん。姉様が無意識に築き上げてしまった黒歴史を隣で見てきたから…」

 

姉様とねぇやたちと共に、刑務所で捕まっている時に、二課の皆様から届いた包みの中にあった“あの手紙”の存在に気づいて、『それは!それだけは見てはダメデェース!!歌兎!!』と必死になってそれを取ろうした結果、その場に居たみんなへと“あの手紙”を見られてしまった姉様の顔は、羞恥心で真っ赤にして、涙目になって後ずさり、近くにあったドアへと弁慶の泣き所を思いっきりぶつけてしまった姉様は余りにも惨めというか…可哀想だった。そして、僕は姉様の隠れた趣味(?)に愕然としたものだ。

あの時から比べたら、姉様の文章力も上がったと思っていたのだが、そうではなかったようだ…。そっとため息をつく僕の頭を何を思ってか、翼お姉ちゃんがポンポンと優しく撫でててくれた…

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

一方、妹に同情されてると知らない切歌は調と友達と共に、ジェンガなるものを楽しんでいた。勝負も終盤へと差し掛かり、わざとブロックをみだしておいた策士の活躍もあり、切歌の出番となった頃にはいつ崩れてもおかしくないとこまで来ていた。

緊張のあまりプルプルと震える切歌に隣座る調が声をかける。そんな調の声援に応えるように気合を入れ直した切歌は、何故か“勢いよく”グラグラしている中心部分を引き抜くーーそれには、調も周りにいるクラスメイトもぽかーんとしていた。

 

「…ここ、行くデスよ!」

「切ちゃん、落ち着いて。そんなに緊張しなくても大丈夫。切ちゃんなら出来るよ」

「はいデス!調の期待に応えるデスよ!うりゃー!!!」

 

ドヤ顔を浮かべる切歌めがけて、ジェンガが倒れてきて、ブロックに目やら頭やらを打った切歌は涙目で周りにいるメンバーを見つめる。だが、ルールはルールはそう簡単に曲げるわけにはいかないのだ。

 

「痛タァ…デース…。ぅぅ…あかねぇ…みずはぁ…はずきぃ…しらべぇ…嫌デスよ…」

「いや、そんな目してもダメだから、キーの負け。負けだから」

「ごめんね、切歌。私もこればっかりは助けられないかな」

「暁さん、どうしてドヤ顔でそんなところを抜いたんですか?まだ、勝ち目はあったのに」

「…切ちゃん、ごめんね。私もみんなと同じで力になれそうにないよ」

「…うゔぅ…嫌デス!もう、あのトンデモ飲みたくないデス!」

 

連敗が続く切歌は目の前に置かれた凄まじい色をした飲み物をみては顔をしかめて、隣の調へと助けを求める。だがしかし、調は静かに首を横に振り、それを見て、覚悟を決めた切歌は目をギュッと瞑るとその黄土色した飲み物を一気に喉へと流し込む。

そして、一気に弾け出す様々な味覚達。切歌はカップを机へと置くと苦しみ出す。

 

「辛!?苦!?甘!?いや…これは苦い…ウプッ、かと思ったら…激甘がきたデスよ…。ヴエェ…」

 

バタバタと苦しんだ切歌は水を持ってきた調に助けてもらいながら、なんとか一命をとりとめたのだった…。

そして、そんな切歌の様子を見て、ゲラゲラ笑うこのトンデモ飲み物を生み出した元凶を一瞥すると、その元凶に向けてもうひと勝負を挑む切歌。

その後の展開は、彼女達のみが知る…。だが一つだけ分かるのは、負けたものは毎度『デデデース!!?』と言っては床へと倒れていったそうだ…




次回はこの後半戦を書きたいと思います!

安定の過保護と残念な部分をいたんなく発揮する切ちゃんはお姉ちゃんの鏡なのデス。

歌兎ならそういうと思いますよ(笑)




◎オリジナルキャラクター説明

調、切歌のクラスメイト。

伊勢野 紅音《いせの あかね》
切歌が飲んだトンデモ飲み物を作り出した張本人。とある企業社長の一人娘で、その為料理などは全然出来ずに、誤って食べてしまったものは瞬時に気絶する。

幅井谷 水羽《はばいたに みずは》
紅音とはお隣同士の幼馴染で、暴走する紅音のストッパーである。だが、殆どが間に合わない為、紅音の犠牲者は後を絶たない。

皆之富 はずき《みなのとみ はずき》
紅音作のトンデモ料理の最初の犠牲者。それがきっかけで、二人と仲良くなったが、身をもって紅音のトンデモ料理の破壊力を知ってるので、水羽と共に紅音の暴走を止めるべく奮闘する。

以上、簡単な自己紹介でしたm(__)m


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004 お泊まり

大変、遅くなりました…

過保護な姉様こと切ちゃんと、姉様には基本絶対服従な妹こと歌兎のお泊まり会ですが…果たして、無事に終わる事が出来るのでしょうか…?

それは神のみぞ知る事でして…誰にも分からない事なのです…


翼お姉ちゃんの家にて、ゆっくりさせてもらっているとあ

っという間に、定期的に行なっている響師匠との訓練の時間となり、翼お姉ちゃんのバイクに乗せてもらって、約束場所に着くと橙のジャージを着た響師匠が軽くストレッチをしていた。翼お姉ちゃんにヘルメットを返していると、師匠が歩いてくる。

 

「あっ、歌兎ちゃん、翼さん、こんにちは」

「…こんにちは、師匠」

「こんにちは、立花」

 

自身のヘルメットも外し、バイクへとかけた翼お姉ちゃんに師匠は頬を照れたようにかきながら話しかけてくる。それに微笑みを浮かべながら、答えた翼お姉ちゃんは僕の方をチラリと見ると遠い目をする。

 

「いやぁ〜、びっくりですよ。翼さんまで来るなんて」

「いや、私も来るつもりはなかったのだが…歌兎をここまで、私が付いて行かずに歩かせて来たとなると…切歌がな」

 

その藍色の瞳にはここには居ない僕の過保護な姉様が映っており、それには師匠も僕も頷く。あの姉様が僕をここまで歩かせるわけがない…実際、毎日僕を半分以上の距離背負って歩いているし…。

そんな事情を知る師匠は苦笑いを深くすると頷く。

 

「あはは、そう言えば切歌ちゃんって毎日欠かさずに、歌兎ちゃんを近くまで送ってくれますし、帰りにはここまで迎えに来てくれるんですよ。本当、いいお姉ちゃんですよね〜。ねぇ、歌兎ちゃん」

「…ん。僕の姉様は世界一優しくて素敵な人」

「あはは!それは私と翼さんではなくて、切歌ちゃん本人に言ってあげて、泣いて喜ぶよ、きっと」

「…ん、そうする」

 

師匠と僕の回答に曖昧だったものが確信へと変わった翼お姉ちゃんは、心の中で何あっても僕を一人で行動させないようにしようと、心に決めたのだった。

しかし、そこでふと不思議に思う事があったらしく、僕と師匠へと視線を向けると問いかけてくる。

 

「うむ、やはりな。だが、何故、行きだけはここまで来ないのだろうか?」

「…それはシラねぇに怒られたから…じゃない、かな?」

 

僕が思い浮かぶ人物を上げると、それに師匠と翼お姉ちゃんも二人揃って意外そうな顔をする。だって、その人は僕の次…いいや、僕よりも姉様のことを理解して、信頼を寄せている人だったから。

 

「調ちゃん?なんで?」

「…姉様が余りにも僕を甘やかしすぎるから」

「あぁ…」「なるほど」

 

僕が理由を言うと、師匠と翼お姉ちゃんは同時に深く頷く。

当時の僕も姉様がシラねぇに怒られないようにと頑張ったものの、慣れというか…人というものはやらなくなったものに関して、どうも感覚が鈍ってしまうみたいだ。シラねぇ監督の元の一般生活の試験を行ったものの、掃除・料理・洗濯・買い物・着替えのどの項目は散々な結果となってしまった。

それをみたシラねぇ・マリねぇ・セレねぇの三人は事の重大さを重く受け止め、僕の一般生活スキルの上昇と姉様の妹離れへと勢力を向けているが…僕の方はまだしも、姉様の妹離れはもう手遅れかもしれない。だって、姉様の過保護が最近ではマリねぇにも移ってしまって、僕を二人して甘やかすのだから…。

でも、そんな過保護な姉様・マリねぇも僕のことを思い、敢えて厳しくしてくれるシラねぇ・セレねぇも僕はみんなみんな大好きだ。

だから、そんな四人の期待には答えたいと思っている。

 

「マリアさんだけじゃなかったんですね」

「あぁ、切歌の意識改革から始めようと、月読も頑張っているのだな」

 

師匠と翼お姉ちゃんが微笑み合うのを見て、僕も笑う。だがしかし、ある事を思い出して、苦笑い浮かべてしまう。

 

「…でも、姉様。シラねぇが居ないところでもいつもと変わらないから…」

「うん、まぁ…それこそ切歌ちゃんって気がするね」

「あぁ、切歌が過保護でなくなったならば…少し物足りない気がするかもしれないからな」

「…ん」

 

そのあと、三人で笑いあい、僕と翼お姉ちゃんも待っている間暇だからということで、師匠との特訓に精を出していった…

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

空が暗くなり、あたしと調は紅音たちと共に、お風呂に入っていた。騒いでいる四人よりも一足早く上がったあたしは、自分の布団を引きながら、思うは妹のことだ。

ちゃんとお風呂に入ったのだろうか、着替えはちゃんと出来ているのだろうか、ご飯はしっかり食べたか、響さんとの訓練で期待に応えようと無理はしなかったのか、考え出せば何十個も上がる心配事に、思わずパジャマの中に右手を突っ込むと中から黄緑色の携帯端末を取り出す。

だが、この豪邸・伊勢野家へ向かう途中に調にしつこく、このお泊まり会が終わるまでは歌兎へと連絡しないと約束している。それを破るとどうなるか…だがしかし、歌兎のことが心配でならない。

あたしは決意を固めると携帯端末から【大好きな妹・歌兎】を電話帳から探し出すとビデオ通信を押す。

 

「うぅ…デスが、調には歌兎に電話をしてはいけないと言われたけど…凄く気になるデスよ…。ちゃんとご飯食べたのかとか、お風呂の入ったのかとか、歯磨きは隅々までしたのかとか…気になるとキリがないのデスよ!」

 

(これは…あたしの不安を取り除くためにするのデス。そう、決して歌兎のお泊まりを邪魔しようとか…そんな気はさらさらないのデスよ。良しっ、そうと決まれば、こっそり、歌兎に電話するデェース!)

 

プルプルプル…と三回コールが鳴った後、あたしが呼び出していた相手が出る。

眠たそうに半開きした黄緑色の瞳が画面に映るあたしを見ると、目をまん丸にする。水色が入った銀髪がしっとりとしているように見えるのは、数時間前にお風呂に入っていたからだろう。

久しぶりに見る妹の顔に、あたしはニコニコと満面の笑顔を浮かべる。それを見た画面の向こうの歌兎もニコリと笑うと頭を下げてくる。

 

『…こんばんは、姉様』

「こんばんはデス、歌兎!」

 

歌兎に挨拶に元気よく答えるあたしに、歌兎はキョロキョロとあたしの周りを見ると小首を傾げる。恐らく、調が居ないことを不思議に思っているのだろう。

 

『…こんな遅くにどうしたの?シラねぇとお友達は?』

「調は紅音たちとお風呂デスよ」

『…そうなんだ、姉様は?』

「はい、先にお邪魔させてもらったデスよ。ほら、この通りデス」

 

画面にいる歌兎へとまだ水気がある明るい金髪を見せると、クスリと笑った歌兎が注意してくる。その注意に関して、胸を叩いて答える。あたしの答えに納得した様子の歌兎は携帯端末を置くと、身振り手振りで翼さんのお風呂の話をしてくる。その嬉しそうで楽しそうな顔を見ていたら、胸へとなんとも言えない気持ちが湧き上がってきて、あたしは知らぬうちに、ぷくーと頬を膨らませていた。

 

『…ちゃんと髪の毛拭かないと風邪ひいちゃうよ?』

「それに関しては大丈夫デスよ!後で、調に乾かしてもらうデス」

『…なら、良かった。僕もさっき、翼お姉ちゃんと入ってきたんだよ。お風呂、すっごく大きかった!足を伸ばしても付かないんだよ!」

「へぇ〜、そんなんデスか」

『…姉様?…何か、怒ってる?』

「別に〜ぃ、歌兎が楽しそうならそれで良かったデスよっ」

『…?』

画面の向こう、キョトンとしている歌兎に頬を膨らませていると、後ろから物静かな声がかけられた。それにビクッと肩を震わせるあたし。

ゆっくりと振り返ると、薄桃色のパジャマを着ている調と紅音たち三人がタオルで頭を拭きながら、部屋へと入ってくるところだった。

それに、冷や汗が頬を流れるのを感じたあたしは手に持った黄緑色の携帯端末を背中へと隠す。それを眼ざとく見ていた紅音に茶化され、あたしは思わずそれを口にしてしまう。

 

「…切ちゃん、誰かと話してるの?」

「!?調!?」

「おっ!キーってば、浮気かぁ〜?これは、シーが怒るっしょ」

「ちちち、違うデスよ!これは妹デス!浮気なんて…っ」

「ジィーーーーーーーーーーーーー」

 

滑らせてしまったセリフをしっかりと聞き取った調は“ジィーー”と責めるように、あたしを見てくる。それに、焦ったあたしは言い訳じみた事をいい、それによって更に調の無言のプレッシャーがあたしへと降りかかってくる。

 

「…あっ、やば…っ。ちちち、違うんデスよ…調…。これはデスね…、その…訳がありましてね…。どうしても、歌兎が心配で心配で仕方なかったんデスよ…本当に…それだけ…デ…スから……うぅぅ…」

「ジィーーーーーーーーーーーーー」

「痛い…痛いデスよ、調。視線が…痛い…胸をえぐるデス…。…ごめんなさいデスから…許してほしいのデス…。約束を破る気は…これっぽっちも…」

「ジィーーーーーーー。本当にそう?あの時の切ちゃん、すごく不服そうな顔してたよ?」

「うぐっ…あたし、別にそんな顔してな…」

「してた。切ちゃんは分かりやすいから、すぐに分かるの」

「ごめんなさいデス、確かに調が居ないうちに歌兎に電話しようと思っていたデスよ…」

 

正座をして自白するあたしの右手首を掴んだ調は、あたしを連れて、廊下へと出ようとする。その際に、黄緑色の携帯端末を落としてしまって焦るあたしのことを気にせずに、ぐいぐいと引っ張ってくる調にあたしは涙目を浮かべる。

 

「はぁ…やっぱり。切ちゃん、ちょっとこっち来て」

「へぇ?あっ、ダメデスよ!?スマホっ!スマホが!?調!歌兎が…歌兎が晒し者になるデス!?」

「すぐに済ませるから、早く来て。ちょっとだけお説教」

「怖い!調のその言葉がすごく怖いのデス!!歌兎、助けてください!!」

『…姉様?姉様が居なくなっちゃった…それに姉様の悲鳴が聞こえたような…?』

 

あたしが落としていった携帯端末へと紅音たちが群がる。いきなり、知らない人が映し出され、びくっと肩を震わせる歌兎を見て、黄色い声を上げる紅音たち。

 

「これが噂の妹さん?本当に切歌に似てないっ!すっごくかわいいぃ〜」

「どれどれ、私も見せて!おぉっ!本当、かわいい!キーより小さいんだね〜」

「それは妹さんの方が年下なんだから…そうなんじゃ…」

「はずきも見て見なって。すっごく可愛いのよ」

 

紅音と水羽に促され、歌兎を見たはずきは頬を綻ばせる。確かに二人が言う通り、可愛らしい外見を持った少女がキョロキョロと三人を見つめていた。そして、ある事を思い出したのか、ゆっくりと頭を下げてくる。

 

『…僕の姉様と調お姉ちゃんがお世話になってます。僕、暁 切歌の妹の暁 歌兎というものです。僕の姉様が皆様へと迷惑かけてないですか?』

「「「……」」」

『…あれ?皆様?僕…変な事言いました?』

 

本当に画面に映るこの少女が、あの常識人を保てぬほどの非常識100倍の大大スマイルぜんかーい!なクラスメイトの妹と言うのだろうか?

それにしては、雰囲気や性格とかも正反対な子だ。ぽかーんと自分を見つめる六つの瞳に歌兎はあたふたとしている。

そんな軽いカオス空間を生み出す四人の中に、調からのお説教を終えたあたしが帰ってきた。ガラッと扉を開けて入ってくるあたしと調へと振り返ってきた三人は口を揃えて、失礼な事を言ってくる。

 

「うぅ…酷い目にあったデスよ〜。調もそんな怒らなくてもいいじゃないデスか…」

「私に怒られるような事をした切ちゃんが悪い。約束は

「…ごめんなさいデス…」

「「「ねぇ、本当にこの子。君の妹?」」」

 

その失礼な言い分にあたしは三人から黄緑色の携帯端末を取り上げると顔を真っ赤にして怒る。怒るあたしのセリフにシンクロした動きで右手を横に振る三人。

 

「帰ってきて、突然口を揃えて、なんて事言いやがるデスか!失礼デスよっ!みんなしてなんなんデスか!どっからどう見ても、あたしの妹デスよ!目元とか雰囲気とか似てるでしょう!」

「「「いやいや、正反対でしょ」」」

「むきぃー!誰がなんというと、歌兎はあたしの妹デス!大体、あたしと歌兎の何をあなた達が知ってるというデス!」

「いや、知らないけど。性格真反対に、姉がこれって…あっ、なるほど。この姉だから…」

「水羽、それ以上は言うもんじゃないわ。キーも薄々は気づいているのよ」

「なんデスか!!その言い分はっ!紅音と水羽の言いたい事はあたしには分からないデスよ!!」

 

顔をトマトのように真っ赤にしたあたしへと右手に持った端末から歌兎の声が聞こえてくる。その声は悲痛な響きを秘めており、あたしはあたふたと言い訳みたいな事を言うと笑う。

 

『…姉様、怒ってるの?僕、怒った姉様嫌いだよ…。笑った姉様が好きだから、笑って…ね?』

「「「……」」」(((何この子…可愛くて、健気…))

「うっ…歌兎、違うんデスよ…あたしは怒ってないデス。ないデスから…そんな顔しないでください…」

「私から見ても大丈夫だよ、歌兎。切ちゃんは怒ってない」

 

調のサポートもあり、なんとか機嫌を直したらしい歌兎へと見知った声がかけられる。芝居のかかった凛とした声と共に現れた藍色の髪を背中に流している女性・翼さんは歌兎が持っている端末へと視線を落とすと微笑む。

 

『…そう?なら良かった…』

『歌兎?誰かと話しているのか?』

『…あっ、翼お姉ちゃん。ごめんなさい…うるさかった?』

『いいや、私もちょうど起きて、水を飲もうと思っていたところだ。電話の主は切歌か?』

『…ん、友達の楽しそうにしてた。みんないい人みたいで、僕も安心してる』

『ふむ。それならよかった』

 

ほっそりした右手が歌兎の水色の入った銀髪を撫でている。それを目を細めて、受け入れている歌兎の嬉しそうな顔を見ているとあたしの顔が段々と険しくなっていく。それを隣で見ていた調が声をかけてくる。

 

「…」

「切ちゃん、顔が怖いよ。そんな顔しなくても大丈夫。翼さんがそんな事しない。それにそもそも、切ちゃんが一緒に寝てほしいって言ったんだよ?」

「…分かってるデスよ。デスが…なんて言うんデス、ここがモヤァ?…雲がかかったみたいですっきりしない感じなんデスよ…」

『こんばんは、切歌、月読。楽しんでいるか?』

 

そんなあたしへと翼さんが声をかけてくる。本当に寝ていたらしく、いつもは剣の如く鋭く尖った光を放つ藍色の瞳が普段以上に暖かい光を宿している。そんな翼さんへとあたしは頭を下げるとお礼を言う。それを軽く手を振って、気にしなくていいと笑う翼さんは本当にいい人だ。

 

「こんばんは、翼さん。はい、切ちゃんと一緒に楽しんでます」

「翼さん、歌兎のこと面倒見てくれてありがとうございますデス」

『いいや、気にしなくてもいい。私も普段は一人で寂しいが、歌兎が来てくれて、久しぶりに楽しい一日を楽しませてもらったよ』

「それならいいデスが…」

 

その後、翼さんも交えての雑談を2時間くらいして、あたしは調の横で眠りについたのだった…




そして、翌日は大雨が降る中、ずぶ濡れで帰ってきた切ちゃんはその後大風邪を引いたそう…。そして、歌兎は風邪が移るといけないので、ということでもう一泊翼さんのところにお泊まりをしたそうです。




今回出てきた用語説明

【月読 調、監督の元行われる一般生活試験】
月一か年一で行われる暁 歌兎をダメ人間にさせないために行うことになった試験。
その科目は《掃除》《洗濯》《料理》《買い物》《着替え》の五つで、一科目の合格ラインは8。
だが、今回行われた試験にて、歌兎は全ての科目を3か1という散々な結果を残してしまい、歌兎の一般生活スキルの低さに事の重大さを知った調・セレナ・マリアはそれぞれの方法で歌兎のスキル上げの手伝いをしている。

→なんで、試験官を調にしたのかというと…F.I.S.組の『おさんどん』担当という事と、私個人の感想ではあの四人の中で一番、家事をこなしてそうと思ったからです。

因み、10〜1の評価欄は下の通りです。
10・・・パーフェクト。最早、達人レベル。文句無し。
9・・・生活していける上に、細やかな気遣いができている。
8・・・普通に生活出来るレベル。
7・・・抜けているところはあるもの、生活は出来る。
6・・・手伝わなくても一人で出来るが、あっちこっちに汚れが溜まっており、一人前とはとても言えない。
5・・・手伝って、何とか時間内に全部が終わる程度。
4・・・手伝って、何とか二分の一が終わる程度。
3・・・手伝って、何とか三分の一が終わる程度。
2・・・一人で生活はやばいレベル。
1・・・動くだけで汚れ、片付けようとすれば逆に汚れる。

また、今回の歌兎の結果が
《掃除/3》《洗濯/3》《料理/1》《買い物/1》《着替え/1》
です。


以上、用語説明でしたm(_ _)m


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001 夏

うちの姉様は過保護すぎる。というタイトルにして、今まで過保護な場面は書きつつもシリアスな話ばかり書いてきたので…この『うちの姉様は過保護すぎる。』という名の章はただ、過保護すぎる話とほのぼのっとした日常を書ければと思っております(礼)

では、本編をどうぞ!!


夏--それは暑く、熱い季節。

 

夏--それはかき氷やアイスクリーム、西瓜が美味しい季節。

 

夏--それは課題は多いが、長い休暇が取れる季節。

 

夏--それは開放感、そしてどこか気怠く思う季節。

 

夏--それは(りょう)を求め、人々が青々と茂った山林や碧く澄んだ海へと集まる季節。

 

 

というわけで、僕達は今は海に来ていた。

 

 

「‥‥海っ!!」

「だーーぁ!!」

「デェーース!!」

 

前を見れば何処までも広がる青い空、サンサンと照りつる太陽に熱せられた白い砂浜。そして、何よりもその白い砂浜へとさざ波を打ち付けている青い海。

それらを視界に収めた途端、姉様とその腕に抱かれている僕が少し垂れ目と眠たそうに半開きした黄緑色の瞳をキラキラとさせる。

そんな僕たちの隣に立つ橙のビキニの上に白と水色のシマシマシャツへと身を包む響お姉ちゃんが今にも海に駆け出そうとしている中、後ろから物静かな声が聞こえてきた。

因みに呼び止められた僕達の服装は姉様から説明すると、黒と緑色を基調としたビキニの上から薄手の黒いパーカーを羽織っていて、僕は白と花青緑を基調としたビキニの上から黒いTシャツを着ている。

 

「切ちゃん、歌兎、はしゃぎすぎだよ」

「そうですよ、私達は遊びでここに来ているのではないんですから」

「響もはしゃぎ過ぎだらこけちゃうよ」

 

今にも駆け出そうとしている僕たちを追いかけてきたピンクのワンピース型水着の上に白い薄手のパーカーを身にまとったシラねぇとその隣にいる白いビキニの腰へとエメラルド色のパレオを巻き、頭の上に麦わら帽子を被ったセレねぇ、薄紫色のワンピース型の水着に白いフリをあしらった水着の上に白いカーディガンを羽織った未来お姉ちゃんが(たし)める。

そんな三人の注意を聞き、僕と姉様、響お姉ちゃんは目に見えて悔しそうな表情を浮かべる。

だって目の前にこんなに綺麗な涼しそうな海が待っているというのに、そこに向かっていけないなんて、まるで大好物を目の前に置かれて飼い主に待てと指示されている飼い犬のような気持ちだ。

 

「うぅ……そうデスけど……目の前の海が」

「私達を呼んでるんだよ」

「‥‥ん」

 

残念そうな顔をしてみても、やはりこればかりはどうにもならないようだ。

 

「なら、早くギアを水着ギアへと変化させるこったな」

「そうすれば、早く海にも入れるわよ」

「弥十郎のダンナがそう言ってたしな」

「私としてみれば、そのような時間も己が剣を鍛え上げるために使うべきだと思うのだが」

 

僕らを止めた三人の後ろから四人並んで歩いてくる右端から赤いビキニの端に白いフリをあしらい、その上から薄桃色の薄手のパーカーを羽織るクリスお姉ちゃん。

その隣が何故か大きめなサングラスを付けて、白と黒を基調としたビキニを身につけたマリねぇ。

その横を歩くのが、ニカッと片頬をあげた笑顔が眩しい橙と黄色を基調としたビキニに身を包む奏お姉ちゃん。

その奏お姉ちゃんの隣を歩くのが渋い顔をしている藍色の薄手のパーカーに水色のビキニを身につけた翼お姉ちゃん。

 

そんな翼お姉ちゃんのセリフに奏お姉ちゃんとマリねぇが失笑し、それぞれ好き勝手言っている。それを聞いた翼お姉ちゃんは忽ちに顔を真っ赤に染め、異論を唱えているがそこに戦場(いくさば)に立つ防人としての凛々しさはなく、ただからかわれたので言い返している子供のような愛らしさがあり、僕は心の中で最近の翼お姉ちゃんは本当に愛されるからかわれキャラになった気がすると思うのであった。

 

「翼は真面目すぎるんだよ。今からそんなんだと身が持たないぞ」

「奏の言う通りよ、翼。そんなにカチンカチンに鍛え上げてもいざという時に根元からポッキリ折れては使い物にならないわ。だから、今はカチンカチンに鍛え上げるよりもそこに柔軟(じゅうなん)さを備えるべきだわ」

「さ、防人の剣はそう簡単に折れはしない!ましてや、根元からなぞ……いくら、マリアでも言っていい事と悪いこーー」

「ーーはいはい。ほら、私達はこっちで待機組よ」

 

そんな翼お姉ちゃんもマリねぇによって水着ギアを変化させてない組を待つ待機組の陣地へと引っ張られていく。マリねぇに手首を掴まれ、連れていかれる翼お姉ちゃんを見ていた奏お姉ちゃんは振り返るとセレねぇ、シラねぇ、姉様へと声をかける。

 

「セレナ、調、切歌。あたしらもマリアと翼の後を追うぞ」

「はい、分かりました、天羽さん。月読さん、暁さん、私達も」

「うん、行こう、セレナ。というわけで、切ちゃんは私と一緒にこっち組」

 

セレねぇに声をかけられたシラねぇはコクリとうなづくとガシッと姉様の手首を掴むと暴れる姉様をズンズンと自分達の陣地へと引きずっていく。

 

「ふぇ?あぁ〜っ!歌兎がぁあああ!!歌兎があんな所にぃ!!!調、あと少しあと少しだけ待ってください!歌兎に最後の挨拶をぉおおお!!」

「ダメ。そう言って、歌兎に抱きついて離れようとしない切ちゃんを何度も見てきた。だから、絶対ダメ」

「うぅ……でも、でもぉ……今あの場所には激鬼怖いおっぱいおばけしか居ないんデスよ?あんなおっかない所に歌兎を置いておけないのデス」

 

引きずられている姉様はポカーンと立ち尽くす僕へと左手を伸ばし、バタバタとシラねぇへと抵抗しながら、何も関係ないクリスお姉ちゃんをディスる。

どうでだろうか、何故か最近姉様がクリスお姉ちゃんを集中攻撃する事が多くなった気がする。しかも、敵視しているような気がするし……学校での様子では仲良しな先輩後輩ってシラねぇや響ちゃん、未来ちゃんに聞いてるのになぁ……学校と今では何が違うと言うのだろうか?

そんな事を思っていると、ディスられたクリスお姉ちゃんの我慢の緒が切れたのか、首からかけていたイチイバルの赤い結晶を鷲掴みにすると聖詠を口にしようとする。

 

「こら!てめぇ、誰が激鬼怖いおっぱいおばけだぁ!!!

あの過保護ぉ!今度という今度は袋の蜂にして、もう二度とあの過保護な口が開かなくしてやる!!」

 

そんなクリスお姉ちゃんを宥めるのが未来お姉ちゃんと響お姉ちゃんである。

シラねぇに引きづられて去る姉様に向かい走っていこうとするクリスお姉ちゃんの右腕を自分の左腕を絡めているのが未来お姉ちゃんで、左腕は自分の右腕を絡めている響お姉ちゃんで二人ともあたふたと荒れ狂うクリスお姉ちゃんを静める言葉を掛けている。

 

「まぁまぁ、クリス。落ち着いて」

「そうだよ、今の私の先生は"頼れる"クリスちゃんしか居ないんだから」

「‥‥ん、クリス先生頼れる。だから、僕たちに水着ギアを変化させる方法を教えて欲しい」

 

念押しとばかりにそう言う僕達にさっきまで暴れていたクリスお姉ちゃんは頬を赤く染めるとそっぽを向いてぼそっとつぶやく。

 

「しゃ……しゃーねぇーな。お前達がそこまで言うんなら、あたしが直々に教えてやるよ」

 

(ちょろい)

 

つい、そう思ってしまったのは許してほしい。

前々から思っていたけど、クリスお姉ちゃんは人の甘言(かんげん)にフラフラッと泳がされすぎだと思う。ここまで掌で踊れやすい人となると、将来悪い人に捕まらないかと心配になってくる。

 

「……時々、クリスちゃんのちょろさが怖く感じるよ」

「……将来、悪い男の人に捕まらないように今からそのちょろさを直しておかないと」

「‥‥ん、これもクリスお姉ちゃんの為だもの。僕、お姉ちゃん達の言うとおりに行動する」

「……じゃあ」

 

響お姉ちゃん、未来お姉ちゃんと顔を合わせてボソボソと作戦会議をしていると、後ろを振り向いたクリスお姉ちゃんが怪訝そうに眉を潜める。

 

「お前らそこで何こそこそ話してやがる」

 

そんなクリスお姉ちゃんに三人してあたふたと慌てながら近づくと其々、クリスお姉ちゃんの身体を押して陣地に向かう。

響お姉ちゃんと未来お姉ちゃんが左右の手首を掴んでいるので僕は後ろからクリスお姉ちゃんの背中を押す。

 

「なんでもないよ、クリス先生」

「さぁ、私達は早い所自分の陣地行こう」

「‥‥ん、行こ、クリス先生」

「ん? あぁ……って、変なところを押してんじゃねぇーよ、チビ!!」

「‥‥? 僕、変なところ押してる?」

「お、押してるだろ!!あ、あたしのお、おし…っ」

 

だが、クリスお姉ちゃんは顔を赤く染めると背中を押している僕を睨んでくる。

なので、僕は自分の小さな両手が触っている所を見てみるすると二つの丘の間に隙間へとめり込んでいた赤い布に白いレースがあしらっている…う、うん…どうやら僕は思いっきりクリスお姉ちゃんのお尻を鷲掴みにしていたらしい。

 

「……あっ、ごめんなさい」

 

と謝罪してから、小さな手を僕は薄桃色のパーカーによって隠されているクリスお姉ちゃんの背中を押そうとして--後ろに引っ張れ、パフっと緑色と黒のトップスに覆われた双丘へと顔を押し付けられる。

 

「そんなおっぱいおばけよりもあたしの方が数倍頼りになるデス!だから、歌兎。あたしの事も先生と呼んでくださいのデスよ!!」

 

そうまくし立てる姉様の登場は僕を始めとした水着ギア補習組の面々が驚きのあまり固まってしまった。だって、姉様はついさっきシラねぇとセレねぇの手によって待機組の方へと連行された筈……なのに何故、僕の目の前に居るのだろうか?

 

(姉様、僕に黙って……緒川様に忍術習ったのかな?)

 

まさに神出鬼没な姉様の行動に驚きから復活したクリスお姉ちゃんのキッレキレなツッコミが炸裂(さくれつ)し、姉様はシラねぇとセレねぇに捕まり、またしても待機組へと舞い戻りするのであった。

 

「だから、おっぱいおばけおっぱいおばけ(うるさ)いんだよ、この過保護!!そもそもどこから湧いてでやがった!?お前は先輩達の所だろ!早い所行きやがれ!!」

「もう、切ちゃん。クリス先輩と響さん達の邪魔してはダメだって」

「これも歌兎ちゃんが水着ギアに変化するために必要なことなんですよ。さぁ、翼と姉さんの所に戻しましょう?暁さん」

「離してくださいぃいい!!!調ぇっ!!セレナぁあ!!歌兎ぅううう!!!!」

 

大暴れする姉様を見て、呆れ顔のクリスお姉ちゃんが僕の方を見るが……その表情かまたしても驚きで満たされる。

 

「お前、よくあんな暑苦しい奴と一緒に居て辛くならないな……って、え? へ? へ? 今、あいつらに……? へ? なんでここに居るんだよ、お前」

 

そう、クリスお姉ちゃんの前に居たのはにっこり笑顔で日焼け止めを手に持っている姉様であって、僕の前に腰を落とすと手に持った日焼け止めのキャップを取り、掌で馴染ませた日焼け止めを僕の身体へと塗りたぐる。

もちろん、その際に行うクリスお姉ちゃんへと集中攻撃も忘れてない…流石、姉様抜け目がない。

けど、塗る前に気付いて欲しい。今、凄いカオスな空間なんだよ? クリスお姉ちゃんは怒りで顔真っ赤だし、響お姉ちゃんと未来お姉ちゃんなんて両目が落ちそうなくらいに目が見開かれているんだよ? 僕はそれにハラハラなんだよ?

 

「何故って、歌兎に日焼け止めを塗る為デスよ。歌兎の綺麗な肌が黒く染まってしまったら、あたしがテンパりファイヤーデスからね。そんな簡単なことすら分からないとは、さてはクリス先輩は脳への栄養もその大きな胸に持っていかれたのではないデスか?」

「よぉーし、お前はあたしにボッコボコにされたいんだな?」

 

背後でポキポキと手を鳴らすクリスお姉ちゃんの存在や両目が落ちそうほど驚いている響お姉ちゃん・未来お姉ちゃんの存在など最早、過保護な姉様の前では意味を成さず…僕はハラハラしながらも姉様の言うとおりに両腕を単に伸ばす。

 

「はい。歌兎、ばんざーいデスよ。ばんさいをしてください」

「……ん」

「あたしの話をきけぇ!!!」

 

そして、遂にクリスお姉ちゃんの叫び声が炸裂していても、姉様のヌリヌリと僕の身体へと日焼け止めを塗る手は止まることなく、それを見ていたクリスお姉ちゃんは疲れたように右手で顔を覆うと首を横に振る。

 

「よし、これで前はOKデスね。次は後ろデス」

「……姉様、くすぐった、い……よ……っ」

「じっとしててくださいね?これも歌兎の綺麗な肌を太陽から守る為なんデスから」

 

誰も姉様の過保護節を止める人が居なくなった今、過保護な姉様は誰よりも最強であり、ヌリヌリと塗りたぐる日焼け止めの量がいつもよりも1.5増しになってる気がするのは僕のせいであって欲しい。

あって欲しい上にさっきから姉様のほっこりした掌がこんな公衆の面前で触ってはいけないところを触っている気がしてならない……というか、触ってるっ!今確実に触ってるぅっ!!

 

(僕のトップスの中に手を突っ込んでるし……今、丘の天辺を姉様の掌が通ってーー)

 

僕はそこで顔を真っ赤にして固まっていた顔を後ろに動かし、姉様を止めようと試みる。

 

「……ね、姉様!?そこは日が当たらない所だからっ、いいって……!!日焼け止めなんて塗らなくてもーー」

「ーーダメデス!そう言って油断していたら、痛い目に合うのデスよ?歌兎をあの日焼けの痛みを味あわせるわけにはいかないのデス!」

「だからって……っ!」

「あぁっ……歌兎、動いちゃあダメデスよ。いい子デスから、お姉ちゃんの言うことを聞いてください」

「……ゔぅっ……っ……」

 

ヌリヌリと僕のトップスの中を塗り終え、最終確認ということで片手でサワサワと触っている姉様は空いた右手を今度は下へと滑り込ませようとしている。

そんな暴走する姉様の後頭部を思いっきりしばくのはクリスお姉ちゃんである。

 

「い、い……いい加減にしろぉ!!この過保護バカっ!!!」

 

顔を茹でタコよりも赤く染めたクリスお姉ちゃんは"はぁ…はぁ…"と肩で息をしながら、自分をジト目で見てくる姉様を睨みつける。

 

「過保護バカとは心外(しんがい)デス。あたしは過保護バカなどではなく、トンデモ過保護なんデス!そんだそこいやの妹好きとはわけが違うんデスよ、トンデモ過保護は最強なのデス!」

 

僕ですら意味わからない基準を持っている姉様にクリスお姉ちゃんは呆れながらもご丁寧にツッコんでいく。

 

「どっちも変わんねぇーし、意味が分かんねぇーよ!!あと、そんなくだらない事でドヤ顔を浮かべて、胸を張るんじゃねぇ!良いからその妹のトップスの中に滑り込ませている手と下へ向かっている手を退けやがれ!いつも言ってるだろ、そう言うのは家でしろって!!」

 

クリスお姉ちゃんのツッコミにキョトンとした表情で答える姉様にクリスお姉ちゃんが反射的に聞き返している。

 

「家でもしてきたデスよ?」

「なら、何故今してるんだ!?」

「クリス先輩、備えあれば憂いなしという素晴らしい言葉があるのデス」

 

にっこりと悟った笑顔を浮かべる姉様にクリスお姉ちゃんは失笑した上で力無くその場にへたり込みそうになる。

 

「……はぁ……、頼む。誰か、この過保護をどうにかしてくれ。あたしはつっこむのが疲れた」

 

こうして、砂浜について1時間も経ってない間からうちの過保護な姉様に疲れ果ててしまうクリスお姉ちゃんであった----。




妹への愛さえあれば忍法なんてちょいのちょいなのデス!って感じで、始まった水着ギアの特訓ですが…正直セレナさんと奏さんのが決まってません!(笑)

なので、この続きは8月の後半か…9月頃になるかもです!

そして、うちの姉様が過保護すぎる。を評価、お気に入り、誤字報告してくださる多くの読者の皆さま、本当にありがとうございます(土下座)

これからもうちの過保護な姉様とその姉様に可愛がれ逞しく成長していく主人公をよろしくお願いします!


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002 夏

大変、お待たせしました(土下座)
ここ暫く、体調が優れなくって…更新を休ませてもらっていました。

そして、今回の話は前の話からの続きですが…少し内容が安易で急展開かもしれませんが楽しんでもらえると嬉しいデス!

では、本編をどうぞ!!


「ーー」

 

真横を見れば、どこまでも広がる青い空と碧い海のコントラストが美しい地平線が広がっている。

真下を見れば、真っ白でサラサラな砂浜がサンサンと照りつけてくる真夏の太陽に熱せられている。

 

そして、そこから顔を上げて--

 

「…………補修組のみなさん、ご迷惑かけてごめんなさいデス」

「これは切ちゃんの暴走を止められなかった私の責任でもあるから。だから、クリス先輩、響さん、未来さん、本当にごめんなさい」

 

--真っ正面を見れば、ふて腐れた顔をした表情のままにシラねぇに後頭部を添えられ、共に頭をさせている姉様--

 

「私もちゃんと暁さんを監視しておくべきでした。ごめんなさい」

「あたしも調やセレナに任せっきりだったからな。反省してる、すまなかったな」

「私も一瞬切歌から目を離したことが悔やまれるわ。クリスにもあなた達にも迷惑かけちゃったわね。切歌は私が責任持って、もうあなた達の邪魔をさせないようにするから。歌兎の事、よろしくね」

「私からもよろしく頼む。切歌は我ら待機組全員が責任持って監視する」

 

--だけでなく、そんな姉様とシラねぇを基準に一直線に並んだ待機組の皆さんが一寸のくるいなく頭を下げてくる。

綺麗に並んだ皆さんに綺麗にお辞儀された補修組の皆さんもきっと僕と同じ気持ちだろう。

 

(まさか、うちの姉様が暴走した結果がこんな結末になるとは…)

 

と。

 

未来お姉ちゃんと響お姉ちゃんはまさかの総出の謝罪に苦笑いを浮かべつつ、顔を上げてくれるようにと逆に頼んでいる。

 

「いいですよ。切歌ちゃんも歌兎ちゃんが心配でしてしまった事でしょうから」

「そうですよ、だから切歌ちゃんと調ちゃん、マリアさん達も顔を上げてください。ほら、クリスちゃんも何か言ってあげて」

 

しかし、クリスお姉ちゃんは姉様に言いたい事があるようで、シラねぇに頭を下げられている姉様の方を見る。

 

「あたしはまだおっぱいおばけって言われたことを許したわけじゃね」

 

(あぁ…確かにそんな事を言われてたね、クリスお姉ちゃん…)

 

クリスお姉ちゃんのそのセリフを聞いても、姉様はそれを言ったことを悪いとは思ってないらしく、(たちま)ちにシラねぇからのお叱りを受ける。

 

「嫌デスよ、本当のこーーいだっ!?」

 

パチン、と軽く頭をはたかれ、姉様はシラねぇの方を涙目で見るが、こればかりはシラねぇの方が正しいだろう。

 

「切ちゃんが悪いの。悪いことをしたら、謝らないとダメ。ほら、クリス先輩にごめんなさいって言って」

「……」

 

"ジィーー"とシラねぇからの熱視線に姉様は観念したく、腕を組むクリスお姉ちゃんの方を向くとぺこりと頭を下げる。

 

「……クリス先輩、おっぱいおばけって言ってごめんなさいデス」

「まぁ、そこまで言われちゃ仕方ねぇーよな」

 

姉様から謝ってもらったクリスお姉ちゃんは恐らく自分では凛々しい顔つきをしていると思っているのだろう。

しかし、実際は口元はゆるゆるでなんだか嬉しすぎてか、ゆるゆるを通り越して、むにゅむにゅしている。

 

(クリスお姉ちゃん、チョロすぎだよ…)

 

やはり、クリスお姉ちゃんは安定のチョロインでした。

 

そんなむにゅむにゅしているクリスお姉ちゃんをチラッと見た姉様は横を向いて、すっごい悪い顔をして舌打ちする。

 

「……ちっ」

「切ちゃん?」

 

そんな姉様を(たしな)めるのがシラねぇで、嗜まれた姉様はしょんぼりしながら、もうクリスお姉ちゃんにつっかからないと誓うのだった。

 

「……分かってるデスよ、調。もう、あんなこと言わないデス」

「きっと、歌兎と最近仲良くなっているクリス先輩に嫉妬してあんなこと言っちゃったんだと思うんです。だからーー」

「ーーもう、いいって。分かってるからさ。まぁ、任せろ。このチビはあたしがちゃんと面倒見るからさ」

「よろしくお願いします」「デス」

 

シラねぇのおかげでクリスお姉ちゃんと姉様が仲直り(?)が出来たそんな出来事から数時間。

 

何故か僕は……ううん、僕達は--

 

「なんでお前ら、あたしが少し目を離した隙にびしょ濡れなんだよ!!?」

 

--そう、びしょ濡れになっていた。

 

クリスお姉ちゃんの悲鳴じみたツッコミが炸裂する砂浜へとポタポタ落ちる透明な雫。しかも、その雫もすぐ蒸発気へと化す。

 

そんな雫を垂らす僕達を疲れたように見ながら、クリスお姉ちゃんが目の前の出来事を整理しようとする。

 

「展開がいきなりすぎて、あたしも頭が付いていってないんだ。ひとまず、びしょ濡れは置いておいて…お前ら、いつの間に水着ギアに変わったんだ?それにその其々の腕に抱かれている子猫はなんなんだ?それなのか!?それが原因なのかっ!!?」

 

そう、クリスお姉ちゃんが指摘した通り、僕たちの腕の中には其々子猫が抱かれていて、その猫からも雫が滴り落ちていた。

そんな猫達へと視線を向けて、僕達は其々にうなづく。

 

「……えーと」

「……まぁ」

「……そうだね」

「お前らも大概(たいがい)にしろよな!!!」

 

そんなクリスお姉ちゃんのツッコミが炸裂(さくれつ)した後、僕らは水着ギアに変身した時の状況を説明していた。

 

「はぁ……海に溺れた三つ子の子猫とその両親猫を助ける為に必死になった結果と……」

「どうしたの?クリスちゃん、頭を抑えたりして」

「お前らも本当に人助けが好きだと思ってな。感心するよりも呆れてた所だ」

 

クリスお姉ちゃんのその言い草に同時に頬を膨らませる僕達はしょげたようにクリスお姉ちゃんを非難する。

 

「それはひどいよ〜、クリスちゃん〜」

「そうだよ、クリス」

「……ひどい、クリスお姉ちゃん」

「なんで、あたしが集中攻撃させれてるんだよ!?」

 

"もういい"とおさげにそう言ったクリスお姉ちゃんは改めて僕達の水着ギアを見ていく。そして、僕と隣に立つ未来お姉ちゃんを交互に見ると何か言いたそうに口元を動かそうとしていいどもる。

そんなクリスお姉ちゃんの行動に首をかしげる僕は自分の服装と未来お姉ちゃんを交互に見て、やっとその行動の答えを知ることになる。

 

(わかった…僕と未来お姉ちゃんのギアって何処と無くエロいんだ)

 

未来お姉ちゃんのギアは一見見ると、頭に乗っかっている白を基調にした帽子のつかや帯に紫をアクセントとしてあしらったものを被っていたり、白と紫のトップスや腰に巻いた紫色のスカートなど、未来お姉ちゃんらしい清楚(せいそ)大和撫子(やまとなでしこ)って感じの雰囲気の水着ギアとなっている。

だがしかし、よくよく見ると腰に巻いた紫色のスカートはスケスケの素材を使っており、そのスカートの奥にある水着が丸見えになってしまっている。

 

(たい)する僕もそんな感じで、黒いトップスを隠すように羽織っている花青緑色の薄手のジャケットはその本来の役割を果たせないくらいにズレ落ちており、黒いトップスの方も真ん中に一直線に未来お姉ちゃんのような半透明な布があしらわれている。そして、それは下の方も同じで白い短パンは履ききれておらず、その間から見える下着は丁度半透明な所できっと角度によっては、僕が隠しておきたいものが見えてしまっているのではないだろうか。

 

何を思って、ミョルニルが僕にこんな格好をさせたのか分からないが……こんな格好を姉様が見てしまったら、また暴走しかねない。

 

そう危惧(きぐ)する僕の耳元に砂浜を走ってくる音が複数聞こえ、クリスお姉ちゃん、響お姉ちゃん、未来お姉ちゃんの順に顔がこわばっていったのであった----。




というわけで、今回の話では未来ちゃんと歌兎しか水着ギアをちゃんと解説出来なかったので…次回はみんなの水着ギアを詳しく書いていければいいなぁと思ってます。

思っていますが、今回の説明文で未来ちゃんと歌兎の水着ギア分かったでしょうか?(不安)
未来ちゃんのはXDで登場された水着ギアをそのまま書かせてもらって、歌兎の水着ギアは彼女は私服や普段着が基本的に可愛い系統なので、敢えてエロくしようと思ってデザインさせてもらったんですが……読者の皆さんはこんな歌兎もありでしょうか?
ありならば良かったと肩を撫で下ろします…(微笑)

因みに、彼女の武器であるブーメランは小型のバナナボートへと変化を遂げました…(汗)

だって、ブーメランに似てるのって…バナナしか思い浮かばくって…(汗)
他になんか無いかなぁ…と思っても、やはりバナナしか………しかし、バナナボートにそんなエッチな姿の歌兎を跨がせるって……

…………………(思考)

やはり、いくら考えてもこの作品的にもアウトで、社会的にもアウトな気がしてならない!!!(大汗)

これは、今日にでも私は過保護な姉様に「デストローイッ!!!」されますね…(遠い目)
歌兎にエッチな格好させて、私は満足ですし…きっと読者の皆さんも喜んでいるはず!
どうやら、私の役割はここなのかもしれませんねぇ…(手紙を書き始める私)




と、この水着ギアの話はここまでにして…『ご注文は三姉妹ですか?』の後書きで書かせてもらった天神ビブレに行った時の話をさせてもらおうと思います。

まず、福岡に着くまでに新幹線に揺られながら、『かやのみ』を見てました。
丁度、最新話が三色団子編でして、オープニングでそれを表現する茅さん(私が勝手に茅野さんをそう呼ばせてもらってるんです)が可愛いかったです(微笑)
その後のトークも素晴らしく、南條さんと日笠さんの服装や髪型も素晴らしかった。


と天神ビブレに着き、その結果は…

・スタンドチャーム…切ちゃん×2。響ちゃん、翼さん、クリスちゃん、マリアさん、調ちゃん。

・ソフトキーチェーン…切ちゃん×2

・マフラータオル(調ちゃん&切ちゃん&マリアさん)

〜絶唱ガラポン〜

・ICカードケース…切ちゃん

・缶バッチ…切ちゃん、調ちゃん、翼さん

・ステッカー…切ちゃん(単独)

でした。

無事、目標となる切ちゃんグッズの確保が達成できたので胸を撫で下ろしております(安堵)





また、昨日から『シンフォギアライブ2018』のDVD&Blu-rayと『XDのキャラソンアルバム1』が発売されましたね!
ついさっきまで、ライブの方を見ていたのですが…改めて、シンフォギアって素敵な作品だなと思いました。
本当はもっともっと書きたいことがあるのですが…あまりこの後書きで書くと読まれる方が大変だと思うので、その感想はもしかしたら活動報告の方で投稿してるかもしれません。
時刻はお昼か夜くらいだと思うので…良ければ、遊びに来てください。

と、かなり長くなってしまいましたが…皆さん、夏も後少しとなりましたが、暑さに負けずに頑張りましょう!!


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001 秘密

響ちゃん、そして茅さんお誕生日おめでとうございますッ!!!

そして、今回の話はかなり短めです。あっという間に読み終えてしまうかもしれませんが…読者の皆さんに楽しく読んでもらえればと思います。

ーーーー

歌兎「…今回の話は姉様がやけ食いしてる話だよ」
切歌「なんデスとぉおお!!?」

って話。


「ごくんごくん」

 

右手に持ったジョッキの中に入っている薄茶色のしゅわしゅわっとした飲み物…コーラを(あお)るように飲んだあたしは勢いよく木で出来た机へとジョッキを叩きつける。

 

「ぷわぁー」

 

コーラの弾ける泡で僅かに汚れてしまった口元を乱暴に吹いたあたしを見て、にこにこ笑うのが真向かいに座る癖っ毛の多い短めの茶色の髪に琥珀色の瞳を持つ少女…響さんで、このふらわーに来る前に表を歩いていたのでほぼ強引に連れ込んだという経緯があったりする。

 

しかし、そんな経緯も無かったように響さんも楽しげにコーラで喉を潤したり、目の前でじゅうじゅうと美味しそうに焼けているお好み焼きを突いたりしているので、成り行きとはいえ響さんを捕まえられて良かったかもしれない。

 

(よぉーし!今日は飲んで!食って!忘れてやるのデス!調や歌兎の事なんて)

 

ふらわーのおばさんが注いでくれたコーラをまた一気飲みし、子コテでお好み焼きを切り取り、口に運ぶ。

 

「おぉ、すごい勢いで食べていくね、切歌ちゃん。私も負けたらないね!」

「おばさん、コーラもう一杯おかわりデス」

「はいよ」

 

熱々に熱したお好み焼きを冷まさずに口に含んだ為、火傷してしまった舌を氷の入ったコーラで冷やしながら、響さんとお好み焼きを突いていると、響さんが不思議そうな顔をして、あたしの短パンにあるポケットを見つめる。

 

「そういえば、切歌ちゃん。いつも大事そうに持ってるミニ歌兎ちゃんキーホルダーはどうしたの?無くしちゃった?」

 

響さんがいう"ミニ歌兎ちゃんキーホルダー"とは、今年のあたしの誕生日に歌兎から貰った誕生日プレゼントであって、歌兎を象ったぬいぐるみが付いたそのキーホルダーは歌兎の手作りらしく、他にも色んな服装を着た歌兎のぬいぐるみが腕に収まりきらないほどに贈られ、その歌兎たちはあたしのベットの上に綺麗に並んで座っている。

 

そんな歌兎ぬいぐるみを思い浮かべながら、あたしはキリッと響さんを睨み、ドンドンと机を叩く。

 

「そんなわけないデスッ!!あたしが歌兎を無くすなんて…!今日は…たまたま家に置いてきているだけなのデス」

「そうなんだ」

 

歯切れ悪くそう言うあたしにうなづいた響さんがごくんとコーラを一口含み、お好み焼きを子コテに乗せ、かぶりつく。

もぐもぐと頬を膨らませ、お好み焼きを食べる響さんに習い、あたしもお好み焼きにかぶりつく。

 

その会話から沈黙が降ってきて、無言でコーラを呷ぎ、お好み焼きを食べ尽くしたあたしと響さんはお腹を抑えながらもやけ食いへと街へ繰り出すのだった…




というわけで、突然始まった切ちゃんのやけ飲み食い。
彼女がこうなってしまったのには、ちゃんと訳があるのデス…その訳を次回は書ければと思います(礼)


今日から始まった『調べ歌う二重唱』の後半戦ですが…一言、感動しました(涙)
ネタバレになるといけないので、多くは語られませんが…ラストの挿し絵は卑怯デス…とだけ書かせてもらいます。

また、新たに追加された『ダイスキスキスギ』はきりしらファンには堪らん楽曲ですねっ(大興奮)
調ちゃんも切ちゃんの声がどこかしっとりしてるのも私的にはグッとでした!!
また、最後の歌詞がズルいですね……

あぁ、早くフルで聴きたいなぁ…(〃ω〃)


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002 秘密

最速でッ!
最短でッ!
真っ直ぐにッ!


一直線にッ!!


フラグ(必愛デュオシャウトガチャ)を回収しちゃいましたね、私

可笑しいなぁ……

待ちに待っていた筈なのに、目の前が何かで霞む……(ごしごし)


※ものの数分で読めるような話を目指して書きました。
主に切ちゃんがボケ、響ちゃんがツッコミというレアケース(?)となっております、時々"クス"や"あはは"と楽しんで笑いながら読んでもらえればと嬉しいです(土下座)


「で、そろそろ聞かせてくれないかな?」

 

ふらわーから出てから至る所にある屋台に立ち寄っては買い込んだ食べ物をベンチに置き、ペットボトルのジュースを歩き疲れた身体に流し込み、癒した後に"まずは串焼きからトライデス!"と大きな口を開けて、噛み応えのある豚肉を噛んでいる時にそう尋ねられ、響さんへと小首を傾げる。

 

「ふらわーじゃあ聞きそびれちゃったんだけど、今の切歌ちゃんは落ち着いて見えるから」

 

その後に続く言葉はきっと"あたしが落ち込んでいる理由が知りたい"って事だろう。

やっぱり響さんには敵わない。

仕方ない、ここは白状しよう。

 

…歌兎が最近隠し事をしてるみたいなんデスよ。あたしには今日も内緒で調やクリス先輩、未来さんと会ったりして、キャッキャウフフしてるんデスっ、あたしはもういらない子になったんデスよ!!

 

嘆くあたしの告白に一瞬口をあんぐり、琥珀色の瞳をまん丸にして、暫しぽかーんとした響さんはおずおずとあたしへと尋ねてくる。

 

「切歌ちゃんのいらない子発言はまず置いておいて…あの歌兎ちゃんが切歌ちゃんに隠し事?本当に?」

 

あの歌兎がデス、本当にデス。この目で見たんデス

 

「切歌ちゃんのいう事ならなんでも聞くあの歌兎ちゃんが?見間違いとかじゃなくて?」

 

だからさっきからそうだと言ってるデスッ!!!

 

くどい響さんにプチ()れるあたしに響さんは両手を顔の前に重ねて謝る。

 

「あはは、ごめんね、切歌ちゃん」

 

"笑い事じゃないデス"とあたしは太ももに置いてある屋台で買った串焼きをやけ食いし、その横に置いてあるたこ焼きやたい焼きをガブガブと口に詰め込むあたしへとペットボトルの蓋を取り、差し出してくれる響さん。

 

「本当にごめん、切歌ちゃん。まさか、お姉ちゃん大好きっ子な歌兎ちゃんが切歌ちゃんに隠し事なんて珍しいなって思っちゃってね。その隠し事は今朝からなの?」

 

そんな響さんから乱暴に飲み物を受け取り

 

「…今朝じゃないデス。始まりはーー」

 

そっぽを向いて語り出すのは、この出来事の始まりであの日である。

 

『ーー』

 

その日、歌兎は熱心にソファに座って雑誌を読んでいて、あたしはその雑誌が気になった。

理由は、歌兎が本や絵本ではなく雑誌を熱心に読んでいたからで。

 

『歌兎、何読んでるデスか?』

『…!?』

 

そこであたしは考えた。いつものノリで後ろから抱きついてから、その雑誌の中身を一緒に見よう…後ろから抱きつくのが駄目なら、歌兎を太ももの上に乗せて、一緒に読めばいいじゃないか。そう思って、あたしは後ろから抱きつこうとして歌兎の後ろに忍び寄り、いざ抱きつこうとしたら思いっきり避けられ、手元にある雑誌へと手を伸ばそうとしたら怒鳴られた。

ショックだった、忽ちに頭が真っ白になった。

 

「そんな些細な事で---いいや、切歌ちゃんならあり得るのかな」

 

響さん、失礼デスね。凄く失礼な人デスね。あんなに可愛い歌兎に拒絶されたんデスよ?『姉様、それに触っちゃダメ!』ってキツく…ッ、キ…ツ、く言われたんデスよ。誰だって天地がひっくり返る気持ちになるデスよ?え、分からないデスって…いいデス、ここから歌兎講座に入りましょう。歌兎の可愛さを響さんに存分に教えてあげるデス!!

 

「あ、うん…話の腰を折ってごめんね。講座はまた後で受けるから、切歌ちゃんがグレちゃってる理由の続きどうぞ」

 

ごほん。

グレてはないデス、グレては…ただ、歌兎があたしに構ってくれないから…あれ?響さんが可哀想な子を見る目になってるデス、なんでデスかね?

と話を戻して、その後はつんつんと歌兎に頬を突かれて、意識を戻したのデス。

 

「…放心状態だったんだね、切歌ちゃん…」

 

響さんの可哀想な子を見る目が加速していってる!?意味がわからんデス!!

 

「…うん、分かったから話を進めて」

 

分かったのデス。

頬をつんつん突いていた歌兎がいったセリフが以下デス。

 

『…姉様、顔が真っ青だけど大丈夫?』

 

思わず、叫びそうになったデスよ、"あたしが顔が真っ青なのはあなたのせいデス!!"って。

 

「…う、うん…そう…だね…」

 

なんか、響さんの表情がだんだん悪くなってるデス、もう可哀想な子を通り越して、生暖かい眼差しになってるデス。しかし、あたしの怒りと悲しみはここでは終わらないのデス。

 

その次の日も次の日も、次の次の次の日も歌兎は自室にこもってばかりであたしのことを構ってくれないデス。

 

「そうなんだね…、それは辛いね」

 

なんだか投げやりな慰め方デスね、響さんっ!あたしはこんなにも悲しんでいるっていうのに!!

歌兎には部屋に入ろうとすると『姉様は入っちゃダメ!』って言われるし、調やマリア、セレナは良くて…なんであたしはダメなんデスぅ…?朝はいつものあたしよりも早く起きてるし、寝る時はあたしよりも早く寝るし…っ、ゔゔぅ…ぅ……、歌兎成分がぁ…歌兎成分が足りてないんデスよぉ…くすん。

 

「なんだかもう…どっちがお姉ちゃんか分からないな」

 

なんか言ったデスッ!!?

 

「ううん、何にも!!」

 

両手をブンブン横に振る響さんは不意に端末をいじると勢いよく立ち上がる。

 

「切歌ちゃん、そろそろ帰ろうよ。もう辛くなってきたしさ」

 

いやデス…あたしはあの家ではもういらない子なんデス…。歌兎には調にマリア、セレナがさえいればいいんデス。あたしはこのベンチに膝を抱えて座って、大きなキノコになるデス…。

 

「何故そこできのこぉ!?」

 

膝を抱え出すあたしを無理矢理立たせた響さんは爽やかに笑う。

 

「へいきへっちゃらだよ、切歌ちゃん!歌兎ちゃんはお姉ちゃんが世界一…ううん、宇宙一大好きな子なんだよ!そんな子が切歌ちゃんを大嫌いになるわけないじゃない。だから、今日は帰って歌兎ちゃんとよく話してみたらどうかな?」

 

もし帰って、へいきへっちゃらじゃなかったら、毎晩響さんの枕元に正座して、怨みの念を送り続けてやるデス。それでもあたしを帰らすデスか。

 

「怖ぁ!?切歌ちゃん、怖ぁ!!?」

 

そう言いながらも響さんはベンチに置いたままにしてあるやけ食い用のプラスチック容器をビニール袋に入れ直すと嫌がるあたしの手を握り、何故かルンルンと鼻息交じりにずるずるとあたしをマンションへと送ったのだった……




さてさて、切ちゃんは自宅に帰り、歌兎と仲直りが出るんでしょうか?
そもそもこれは喧嘩と言えるのか!?
それは読者の方のご判断にお任せ致します(笑)



さてさて、過保護な切ちゃんのことも気になるでしょうが…私の必愛ガチャの結果も気になりますよね。

結果は以下の通りデス。

11回の1回目、☆5は出たが『技属性のクリスちゃん』。

2回目、☆5全く出ず。

3回目、みんなの名言(?)がカッコいい文字で書かれているカットインが入り、"こ…これ、来ちゃったんじゃないデスかッ!?"とテンションがハイになり、来たのが☆5の『心属性のマリアさん』と『力属性の翼さん』の年長コンビ…嬉しい…震えるほどに嬉しいんですが…1回目のクリスちゃん同様、三人のファンの皆さん心からすいません(高速土下座)
思っちゃったんです…"あんた達じゃねぇー!!"って


今は4回目に向けて、ちょくちょくと石を貯め中デス。

恐らく、早くてこの更新後くらいにはガチャれているでしょうか…フレンドリストの方に"必愛切ちゃん"を載せていられることを願いつつ、必愛ガチャ報告を終わろうと思います。

秋も終わりに入り、冬になりつつある今日この頃寒い日々が続いているので、皆さまお身体を温めつつおやすみください、ではでは(。-_-。)


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001 妹恋(うたこい)

大変お待たせしました……(大汗)
サンタ切ちゃん復活ガチャに吊られたり、様々な用事が重なり…ここまで遅くなってしまいました。
はい、サンタ切ちゃんに吊られたのは私が悪いですね……ほんとすいません(土下座)

さて、今回の話はきっと2話構成か今回だけの話となるかもしれません。
内容はタイトル通りで【妹の恋】と書いて【歌兎の恋】となってます。
その恋のお相手は虎々絽(こころ)ちゃんではありません、彼女との恋路は【ハードラブ・ミッション】と【繋がる陰陽の太陽】にて書くので…今回は残念ですが、お引き取りいただきまして、ノーマルな恋路を書こうと思ってます。
つまり、歌兎ちゃんが恋するのは普通の男性ということで……と、ここまで書くと読者の皆さんはうちの姉様がどんな行動を取るのかはお分かりですよね?

って事で、そんな感じの話となると思います…では、本編をどうぞ!!



※あいにくの読みにくさ。そして、長めですので…切ちゃん・歌兎やみんなの可愛さに触れつつ、お楽しみくださいm(__)m

こっそり【きりしら】と【きりセレ】を文章に入れてみました(微笑)
皆さんは何個見つけられるでしょうか?

……なんだか、うちの姉様がだんだんと鈍感系ハーレム主人公と化してる(笑)


「‥‥姉様、あのね」

 

最近、歌兎(いもうと)がお小遣いをおねだりする事が多くなった。

値段は500〜700円程度なのだが、それがほぼ毎日となると姉ながらにそのお金が何に使われているのか、と気になってくる。

また、お小遣いを貰った後、真っ先に飛ば出して行って、帰ってきた時にいつも両手いっぱいに持っている駄菓子の袋はなんだろうか?

 

もしかして……これはもしかしてなのだが、歌兎が毎日お小遣いを貰うのは、外で遊んでいるときに良からぬ輩に捕まり、毎日嫌々ながら貰った小遣いで駄菓子を買わされているのではだろうか? もしくは、その500円や700円をカツアゲされているのでは…?

 

いいや、もうそれしかない!もう、それしか考えられないッ!!

 

「って、事で奏者のみんなで歌兎をびこ……じゃないデスーー」

 

因みに、あたし達がいるのは、マリアとセレナが暮らしているマンションでーー最初はあたしと調、歌兎で住んでいるマンションに集まろうとしていたが、学生ではない年長組を部屋へとあげるのはなかなかに難しいらしくーー都合よくみんなが住んでいる家の中央に位置していたマリアとセレナのマンションに集まったというわけだ。

 

そんなマンションの居間に鎮座(ちんざ)しているのは、シンプルな形なのだが、大型のテレビで……そのテレビを取り囲むように真っ白なソファが三つほど置かれている。

座り順なのだが、テレビ側から見て……右側に置かれているソファに座っているのが、右から未来さん・響さん・マリアとなっている。続けて、左側に置かれているソファに座っているのが、左側から奏さん・翼さん・クリス先輩となっている。そして、中央に置かれているソファに座っているのが、左側から調・あたし・セレナとなっている。

 

「ーー愛ある監視をするデスよ!!」

 

と、シャキーンとその大型のテレビを指差してドヤ顔するあたしに呆れ顔のみんな。

 

(あ、あれ…?温度差がおかしくないデスカ……)

 

「切ちゃん、それだ監視よりもさらに酷くなってる」

「愛ある監視って……なんだか、愛が重い気がしますね」

 

(うっ……うぐ、セレナに愛が重いって言われちゃったデス……)

 

ガックーン、と落ち込むあたしを見て、あたふたとセレナが弁解しているけど、その弁解の内容が更に落ち込みへと拍車をかける。

そして、そんな様子を見て、呆れた様子のクリス先輩は決めつけたような口調で吐き捨てる。

 

「毎日ちびちび500円から700円くらいを奪うか、その程度の駄菓子を買ってこいっていう不良がいるわけないだろーが。あたしがそいつらから一気に1万くらいぶんどる。つぅーことは、今回もお前の過剰な過保護だ。もういいか、あたしは帰ってから観たいものがあるんだ」

 

颯爽と立ち去ろうとするクリス先輩を邪魔するように先回りして、立ちふさがるあたしを退けようとするクリス先輩。

 

「待って欲しいのデス〜〜、クリス先輩!!!クリス先輩の言いたい事は1億歩譲るデスっ、デスが、もしもがあたしの頭から離れないデスよーーぉ!!」

「だから考えすぎだ過保護。こら、離せって!!」

 

なんとかかんとかクリス先輩を元の位置に座って貰って、あたしはテレビの前に進み出ると『フ』と不敵に笑うと正面へと右掌を差し出す。

 

「みんな呆れ顔をしているのも今のうちなのデスよっーー緒川さん!!」

「ここに」

 

あたしの呼びかけに音なく右手にビデオカメラを装着した緒川さんにみんなが目を丸くする。

 

ふふふ、もっとびっくりするがいいのデス!!

 

「…………得意げな切ちゃん可愛い」

「…………得意げな暁さん可愛いです」

 

なんか中央の二人はあたしを見て頬を染めてるデスが…….ハッ!? もしかして、二人して風邪を引いてしまったのデスか!?

 

「何故、切歌が得意げなのかが分からないわ……」

「まぁ、そこが切歌ちゃんの魅力ですから……」

「響。それフォローになってないよ……」

 

そして、何故か右側から生暖かい視線と共に酷いこと言われている気がするデスがいいデス……何故ながら、左側のお三方がいい感じでびっくりしてくれてるからデス!!

 

さぁ、あたしの切り札デスよ。もっと驚くがいいのデス!!

 

「緒川さん!?」

「何やってんだ!?」

 

フフ、奏さんと翼さん驚いてるデスね。

さてさて、クリス先輩はあたしの顔を見た後に安堵したように微笑む。

 

「そのアホ面見ているとなんか落ち着くな」

「それどういう意味デス!? 喧嘩デスか? 喧嘩を売ってるんデスか!アァン!!」

 

緩めの深緑色のニットを腕まくりしながら、クリス先輩にヅカヅカ歩いていくあたしを後ろから抱きしめて止めるのは調である。

 

「切ちゃん、どうどう。クリス先輩も悪意があるわけじゃないんだから」

「それ更にひどいデスよ!?」

「まあまあ」

「そのまあまあってなんデスか!?」

「切ちゃん、今日のおやつに取ってあるチョコプリン食べる?」

「……食べる」

 

(強引に話題をそらされたデスが……もうプリンで嫌なことを忘れてやるデスっ!!)

 

調にチョコプリンを手渡され、はぶてたようにパクパク食べるあたしの頭を撫でるセレナがあたしの代わりに緒川さんを呼んだ理由を説明してもらう。

お礼にチョコプリンを一口あげたのデスが、その時セレナの顔が真っ赤っかだったのはやはり風邪でも引いてしまったのだろうか?

 

「緒川さんならNINJAなので、動物的勘の鋭い歌兎ちゃんの警戒心を解けると暁さんは考えたみたいなんです。なので、明日は歌兎ちゃんの事よろしくお願いします、緒川さん」

「えぇ、任されました」

 

にっこり微笑む緒川さんがあたしを見て、爽やかに笑う。なんデスかその笑顔は、このチョコプリンはいくら緒川さんでもあげないデスよ。もう一つは調ので、三つ目のは歌兎のなんデスからっ。

 

「……動物的勘って、そういう所も姉妹なんだね」

「……そうだね。あの時の切歌ちゃんも歌兎ちゃんも凄かったもの」

 

響さんと未来さんが微笑ましそうにあたしを見てくるデス……だから、このチョコプリンはあげないデスよ、そんな目をしても。

 

もう二つのプリンを死守するあたしを何故かそんなの皆んなと緒川さんが暖かい笑みを浮かべつつ、呆れを8割加えるというなんとも不思議な笑顔を向けられながら、歌兎の監視作戦がこうして始まったのだった----。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

そんな作戦が立てられているとは知らない歌兎は実に言いにくそうにソファに座り、漫画を見ているあたしの横に立つとモジモジと身体を揺らしながらいつものようにおねだりする。

 

「‥‥ね、姉様。そ、の……今日は500円をちょうだい……ダメ、かな?」

「はいどうぞデス、歌兎」

「‥‥へ?」

 

あっさり渡された500円玉に歌兎は目をパチクリしてる。

 

「‥‥姉様?」

 

漫画を机に置き、自分へとにっこり微笑むあたしをマジマジと見てくる歌兎。

 

「500円が欲しかったんデスよね?」

「‥‥うん、そうなんだけど」

「歌兎が欲しいって言ってるものをあげないわけないじゃないデスか」

「‥‥そっか、ありがとう。姉様」

 

なんか歌兎が引いてるように思えるデスがいいのデス。

 

(これも歌兎の為なんデス。歌兎を魔の手から救い出す為にあたしは心を鬼さんにするのデスよっ!)

 

歌兎は心配そうにあたしを見た後に身を(ひるが)すとお気に入りの薄茶色のブーツを履く。

そして、振り返るとあたしへと小さく右手を振る。

 

「‥‥姉様、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい。暗くなる前に帰ってくるのデスよ」

「‥‥ん、分かってる」

 

ガチャンとドアが閉まる音ともに飛び出してくる奏者のみんなが素早く昨日と同じ席に腰掛けるとあたしは緒川さんへと話しかける。

 

「緒川さん。歌兎はマンションを出たデス、あとはお願いしますデス」

『分かりました』

 

そう言った途端、近くにある山を映していた画面が路地をトコトコと歩く冬服に身を包むようあたしの宇宙一可愛い最愛の歌兎(いもうと)が映し出される。

 

(画面に歌兎が……へへへへへ…)

 

画面いっぱいに映し出される歌兎に頬を緩ませるあたし。そんなあたしを見て、頬を緩ませる調とセレナ。

 

「切歌、そして、月読とセレナもみんなでここ集まっている意図は理解しているのだろうな?」

「分かってるデスよ、翼さん」

「本当なんでしょうね……」

 

翼さんもマリアも酷いのデスよ、こんなにも目を光らせて画面を見ているというのに。

 

「そのゆるゆるな顔が問題なんだよな」

 

(うぐ、奏さんに言われたなちゃったならば……ここは顔を引き締めて、しっかり歌兎を監視しなくては!!)

 

と思った矢先、画面から流れてきた歌兎のセリフは以下の通りだ。

 

『‥‥んー、姉様。変なの食べたのかな? それにどこか様子も白々しかったし……僕に内緒で何かしてる?」

 

「おい、いきなり怪しまれているじゃねーかよ、姉様」

 

あ、あれーぇ? おかしいデスね…、あたしの演技は完璧だったばすなのに。

 

『‥‥ううん、姉様が僕に隠し事なんかしないよね。なら、きっとテストの点数が悪かったんだ。何か元気になるものでもあげよう』

 

そう言って、徒歩を早める歌兎の姿からーー正しくは画面から視線を横にスライドしたあたしはクリス先輩へと"ホラ見たことか"とフンと鼻を鳴らす。

 

「いや妹にテストの点数で心配される姉は普通じゃねーからな」

 

呆れ顔のクリス先輩に何を言われても今のあたしには痛くも痒くも無いのデスよ。

 

「あっ、歌兎ちゃんが駄菓子屋さんに入って行くよ」

「本当だ。今の所誰にも会ってないのに」

「って事は結局は切歌の早とちりだったのね。歌兎ももう子供じゃないのだから、そんなに心配しなくても大丈夫よ」

 

アァーアアァー聞こえないのデース、特に右側の左が言ってることが一番聞こえないのデース。

 

「全く歌兎よりも切歌の方が子供よね。緒川さん、もう少しだけ歌兎の事映してくれるかしら?」

『分かりました』

 

そう言って、緒川さんが駄菓子屋さんに足を踏み入れ、歌兎を映し出した時にその場に居たみんなが絶句(ぜっく)した。

 

『‥‥ん』

 

所狭しと駄菓子が積まれ、薄暗くなったカウンターの上で両腕を組んで、うたた寝しているきっと翼さんと同い年くらいの青年の短めの黒髪から覗くおでこへと頬を赤く染めた歌兎がその小さな唇をくっつけている。

 

そう、歌兎は営業中だというのに居眠りしているこの駄菓子屋さんの店主であろう青年にキスしてるのである。

 

キスをしているのである。

 

スをしているのである。

 

をしているのである。

 

しているのである。

 

ているのである。

 

いるのであーー

 

(ーーアノ男、ブッ殺ス)

 

衝撃の事実から現実逃避していた思考が頭の中でこだまする"キスをしているのである"って言葉に否応なく覚醒させられ、続けて起こる出来事はあたしのおでこへと血管が浮き上がる。

 

素早く襟首から赤い結晶を取り出し、イガリマの聖詠を歌おうとするあたしを奏者のみんなが止めに入る。

 

「Zeios iglima razen tぉろーーむぐっ!?」

「こら過保護。一体全体何しようとしてやがる!?」

「ギアで一般市民を切り捨てるなど防人として以ての外だぞ、切歌」

「しかもイガリマは魂を両断する力を持ってる」

「尚更止めないとッ!!」

うぐなひぃふるえふが(このなにするデスか)

 

大暴れするあたしの視界の先にはいまだに駄菓子屋さんの青年へとキスしている歌兎が映っていた----。




アァー、やっぱりこうなった(大汗)
これはもう時に身を任せるしか無いのデス。

過保護な姉様が妹離れ出来る日が来ることを願って……暫し、更新を休憩させてもらいます(土下座)

そして、今回登場した冬服の歌兎ちゃんを【総数50話記念】として、描かせてもらいました。

テーマは『あったかいもの、どうぞ』デス。


【挿絵表示】


可愛らしく書くつもりが、なんだか大人っぽくなってしまった歌兎ちゃんでありました(笑)
眠そうな目って大きく描くとなると大変ですね……しかし、こんな可愛い子におでこキスしてるんデスよ?

…………うむ、わたしなら悶えるな。

と、これはお知らせなんですが…来年のどこかで【ハードラブ・ミッション】のオリジナルキャラである『虎々絽(こころ)』ちゃんも描いてみようと思います(笑)





ここからはちょっとした雑談コーナーで……中にはど変態な発言も含まれてますので、そういうのが嫌いな方は見たいで回れ右をしてください!



さて、クリスマス2018の☆5メモリアと☆4メモリア、やばいデスよね…?(大興奮)

まず、☆5メモリアの切ちゃん・調ちゃん・セレナちゃんの可愛さたるや……すいません、今こうしている間もあの可愛い三人を思い出しては悶えてます(ジタバタ)

切ちゃんは雪だるまコスが似合いすぎるし……マリアさんが倒れてしまったから、心配なんでしょうね、少し涙目なのがもう可愛すぎるッ!!大丈夫だよって抱きしめたい!!
っていうか、毎晩抱き枕にして眠りたいデスけど、雪だるま切ちゃん。もふもふしてそうですし…。

調ちゃんのサンタコスは猫のような耳が付いてますよね? ちょ…、調ちゃんに猫耳サンタが似合わないわけないじゃないデスかっ!!
くっ、こちらもお持ち帰りしたい!!

そんな二人とは対照的に清楚な感じに仕上がってるセレナちゃんにキュンキュンデスよ!!
しかも上目遣い…ぐぶっ、子猫みたいじゃないデスか……がはっ(三人の可愛いさに出血多用)


☆4の彼氏シャツしてる調ちゃんもヤバイ……胸元空きすぎッ!そして、あのどこかぽやーんとした顔……くっ、これはヤバイッーーと、これ以上は本当にみなさんのお目を汚す発言を書いてしまいそうなので……ここまでで雑談コーナーを終わります。

次回は年終わりか初めか、クリスちゃんの誕生日くらいに更新すると思います( ̄^ ̄)ゞ
寒い日が続くので、読者の皆さんお身体にお気をつけて…ではではm(__)m


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002 妹恋(うたこい)

あけましておめでとうございます!

今年も【うちの姉様は過保護すぎる。】を宜しくお願い申し上げます(土下座)

そして、ここまで更新が遅くなった上に予定していた【重なる陰陽の太陽】の3話ではなくてごめんなさい。
内容や文字の色を変える作業が多すぎて、まだ更新出来そうありません(汗)

でも、約束していた着物の歌兎は下手っぴかもしれないけど描いたから許して……このとーりデスから(土下座)



※ちょっと長めです。

では、本編をどーぞっ!


「ーー」

「‥‥」

 

(え、え〜と……これはどんな状況なんだろうか?)

 

現在が僕がいるのは、マリねぇとセレねぇがS.O.N.G.の皆さんが日本で暮らす為にと用意してくれたマンションのリビング。

正面に大きめなテレビが置かれ、そのテレビを取り囲むように真っ白な皮のソファが三つ並び、その中央の間スペースには本来ならば(・・・・・)シックな造りのガラス張りのテーブルが鎮座(ちんざ)してある。

そう、それはあくまでも本来ならばの説明であって、今はマリねぇかセレねぇか分からないけどどちらかの私室の椅子が置かれ、その上にちょこんと僕は座らされている。

 

そして、そんな僕を取り囲むように奏者のお姉ちゃん達と未来お姉ちゃんが勢揃いというわけだ。

みんなを無口で僕の事を見てくるだけで、気まずい他ならない。

 

「‥‥」

 

(な、なんでこんなことに……)

 

家に帰ろうとしたら、緒川様が突然現れて、『切歌さんが呼んでいるので来てもらっていいですか?』と爽やかな笑顔で強引にお姫様だっこされて、連れてこられたこのマンションであれよあれよとこの位置に追いやられ、こんな状態になっているという……。

 

(意味が分からない)

 

いつもなら、姉様の行動全てが理解出来るのだが……今回のこの行動だけは理解出来ない上に真顔がなんだか怖い。

 

「歌兎。お姉ちゃんに言うことはありませんか?」

 

重い口を開く姉様の口調はいつもの砕けた感じではなく、怒りを全面に出している感じで、僕はそんな姉様に震え上がりながら、暫し考えた末に思い浮かぶことがないのでそのまま答える。

 

「‥‥お、思いつかないよ」

「白を切るつもりデス?」

「‥‥白なんてきってないよ」

「ほぉ〜〜、ならこれを見てもそんな事が言えるデスかね」

 

そう言い、姉様はテレビの電源を付ける。

 

そして、画面に表示されるのはつい先刻僕が行っていたこと。

もっと厳密にいうと、机の上でうたた寝をしている黒髪を短く切りそろえている青年のおでこへとキスをしている僕の姿だ。

 

(‥‥な、なんで……)

 

「緒川さんに付けてもらっていたんデス」

 

し、知らなかった……。

でも、言われてみれば、何処か視線を感じることが多かったし、見知った雰囲気を感じ取れることも多々あった。

それが緒川様だったということか。

 

(今度からもっと気を張って、外を歩かないと)

 

顎に右手を添え、緒川様や姉様達から逃げ切るためのルートを頭の中で組み立てる僕を見ていた姉様は普段垂れ目な黄緑色の瞳を吊り上げて、空気を吸い込む。

 

「歌兎ゥ!!!!」

「にゃい」

 

姉様の怒声に思わず噛みながら返事する僕は肩をビクつかせながら、姉様の方を見る。

すると、姉様はソファから立ち上がると僕の周りをぐるぐる回り始める。

 

「歌兎。お姉ちゃんは今凄く怒ってます。その理由は分かりますか?」

「‥‥わ、分かりません」

 

ボソッと答える僕に突然顔を近づける姉様。

 

「それは歌兎が知らない男性のおでこにキスをしているからデス!!

歌兎は普通にしていても可愛い子デス、そんな可愛い子にキスされてときめかない男性なんていないのデス!あんな事をしてあの男性が突然襲い掛かってきたらどうするつもりだったんデスかッ」

「‥‥そんな事しないよ。駄菓子屋のお兄ちゃんは優しい人だもーー」

「ーーだまらっしゃいデス!!」

「はいっ」

 

姉様の怒声に背筋を伸ばして、姉様の質問を答えていく。

 

「歌兎はあの男性が好きなんデスよね?」

「‥‥は、はい……好きです……」

 

(は、恥ずかしい……)

 

なんで僕。隠し撮りされて、誰にも知られたくない秘密を一番知られてはいけない姉様に見られた上に、親しくしてくれているお姉ちゃん達に囲まれて公開告白なんて恥ずかしいことしてるんだろ。

 

顔をうつむけ、頬を染める僕をビシッと指差した姉様は得意げにしたのセリフを口にするのだった。

 

「歌兎の気持ちはよく分かりました。なので、明日お姉ちゃんもその人に会いに行きます、歌兎を連れて」

「‥‥へ? だ、駄目ッ!お姉ちゃんとあの人を合わせちゃったら……。あの人がころさーー」

「ーー歌兎心配ないよ。切ちゃんが暴走しないように、当日は私とセレナが付いていくから」

「本当は私ではなくて、マリア姉さんや風鳴さんの方が力になれたと思うんですけど。任されたからには、精一杯頑張らせてもらいますね」

 

そんなこんなで僕は明日、姉様達と共に思い人に会いに行くことになったのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

当日。

姉様達と共に駄菓子屋に立ち寄った僕は姉様によって後ろに下げられていた。

そして、姉様は駄菓子をカウンターに置き、会計している店長であるお兄ちゃんへとズバッと切り込む。

 

「所で、貴方はあたしの妹のことどう思ってるんデス?」

「ハイ?」

 

(ね、姉様ぁああああ!? ダイレクトになんて事聞いてるの!?)

 

駄菓子を左手に持ち、右手はレジのボタンを押している柔らかい印象を受ける顔にはめ込まれている焦げ茶色の瞳をまん丸にしているお兄ちゃんの姿が見える。

そして、僕もズバッと本題を切り込んできた姉様に慌てはためき、姉様に近づこうとして、シラねぇとセレねぇに捕まえられる。

 

「歌兎、ここは切ちゃんに任せて」

「‥‥で、でも!」

「大丈夫ですよ、暁さんなら」

 

(全然任せられないし、大丈夫でもないっ!)

 

見た感じだとお兄ちゃん戸惑ってる様子だし、突然こんな事聞かれても迷惑なだけだと思うし、何よりも僕なんかお兄ちゃんの中では眼中にないのかもしれないし……こんな形でフラれるなんて悲しく辛い他ない。

 

「えー……と、君の妹さんというと? そっちの黒髪をツインテールにしてる子の事かな?」

「その子はあたしの親友デス。あたしの妹はまん丸にいる銀髪の子デスよ。あんな可愛い子が見えないなんて貴方の目は節穴デスか、そうデスか、そうなんデスか、そのまま病院行って入院しちゃえばいいんデスよ。この店番中居眠り男」

「ソノゴメンナサイ……………ってあれ? なんでこの子、俺が店番中に居眠りしてる事知ってるの?」

 

(それは盗撮されたからです……なんて言えないよね)

 

姉様の気迫に押されっぱなしのお兄ちゃんはシラねぇとセレねぇに取り押されられている僕を見て、ハッとした様子を見せる。

 

「あっ、その子って……いつも俺の店に来てくれてる」

「そうデス。いつも貴方の駄菓子屋に通い詰めてる子デスよ。その子のことをどう思ってるのかと聞いているのデス、あたしは」

 

トントンとカウンターを叩く姉様を怯えた様子で見ながら、お兄ちゃんは僕の方をチラチラ見ながら、不機嫌そうな姉様へと視線を戻す。

 

「いまいち君の言いたい事が俺分からないんだけど」

「チィッ」

 

(あっ、姉様。壮大に舌打ちした)

 

鈍い反応を見せるお兄ちゃんに苛立ちが募っていっているのか、姉様は眉間に皺を寄せると更にお兄ちゃんを睨む。

 

「だ〜〜か〜〜ら〜〜デスね。貴方は歌兎と手を繋いだり、キスしたり、デートしたり、一緒に大人の階段を駆け上がりたいのかとあたしは聞いているんデス、どうなんデス?」

「……き、ききすしたり、おおおおとなのかいだん!? って、その……いやらしい意味での?」

「それ以外に何があるデスか」

「それをそ、その子と?」

「えぇ、そうデス。したいんデスか? 歌兎と」

 

睨みを利かす姉様にお兄ちゃんはそっぽを向くとボソッと答える。

 

「……それは凄く可愛い子だし、そんな可愛い子と純潔(じゅんけつ)が捨てられるのならしたいけど」

「相手が可愛ければなんでもいいと…………このクズロリ男、万年ロリコン野郎」

「本当の事答えたのになんて言われよう!?」

 

お兄ちゃんが悲鳴をあげるのを身を引いて、変質者を見る目で見ていた姉様は大きなため息を吐くともう一度聞く。

 

「はぁ……もう一度聞くデス。貴方はあたしの大切な妹の事をどう思っているんデスか? 今までのあたしの質問からこの質問の意味は分かりますよね?」

「……っ、分かってる」

「なら答えてください。ほら早く」

「……す、好きだよ。俺だってその子の事が前から気になっていた!これでいいだろうっ」

 

顔を真っ赤に染め、そう答えるお兄ちゃんを見て、姉様は満足そうにうなづくと僕の背中を押すとお兄ちゃんの方へと近づける。

 

「ね、姉様っ!?」

「良かったじゃないデスか。両思いだそうデスよ」

 

いきなりの展開すぎてついていけない僕が姉様の方を振り返ると姉様は柔らかい笑顔を浮かべていた。いつもの太陽のような明るい笑顔ではなく、僕の恋路を、成長を祝福してくれているような暖かくも柔らかい……美しい笑顔。

その笑顔に背中を押されるように僕は前を向くと、まだ顔を赤くしているお兄ちゃんに向かってずっと胸に秘めていた思いを口にする。

 

「‥‥貴方の事がずっと前から好きでした。僕と付き合ってくれませんか?」

「……そ、その……はい……よろしくおねがいします」

 

カウンター越しに微笑み合う僕達を穏やかな笑顔で見ていた姉様はビシッとお兄ちゃんの方を指差すと声を荒げる。

 

「お付き合いを始めたからって、あたしの目が黒いうちは歌兎とキスやそれより先はさせないデスからねっ!手を繋いだりするだけデス!それ以上をしたら、あたしが貴方をぶった斬りにくるデスーー分かったかデス」

 

光の消えた瞳で見てくる姉様にお兄ちゃんは震え上がりながら、コクンコクンと高速で首を縦に振るのを見届けた姉様は僕へと声をかけてくる。

 

「歌兎。あまり遅くならないうちに帰ってくるのデスよ」

「‥‥ん、分かってる」

「それじゃあ、あたし達は帰るとするデス」

 

そうして、姉様はシラねぇとセレねぇを連れて、一足先に家に帰り、僕は暫くお兄ちゃんとお話しした後に家に帰ったのだったーー。




姉様の目が黒いうちはデートをしてもキスやその先は無しで、手を繋いだりするだけとなかなかに厳しい条件ながらも姉様は駄菓子屋のお兄ちゃんと付き合うことを認めてくれて、お兄ちゃんも歌兎が好きという事で……無事恋路が実って良かったね、歌兎!

まずはお兄ちゃんとのお付き合いおめでとう!歌兎っ!!
姉様からの圧力に負けないで!駄菓子屋のお兄ちゃんっ!!


二人のこれからに祝福を!!╰(*´︶`*)╯


さて、この回で【妹恋(うたこい)】は終わりますが、この世界線の続きは【姉恋(きりこい)】という話にて続きます。
まぁ、タイトル通りで今回は切ちゃんの恋ですね(微笑)
歌兎との絡み・過剰な過保護を加えつつ、乙女チックな切ちゃんを書いていければと思っておりますので……次回を楽しみにしててくださいっ!




おめでたい回となった今回に合うかどうかは分かりませんが、前書きに書いていた【着物姿の歌兎】デス。

テーマは【和】かなぁ……あんまり和らしくないけど(苦笑)あと、そんなに上手でもないから期待しないで見てくださいね(笑)



【挿絵表示】



これでも可愛く描こうとしたんだよ?
精一杯可愛くしようとして……何故か色っぽくなった、なんで(汗)
まぁ、偶にはこんな歌兎もいいよねっ。
姉様も凄い喜んでると思うし!!




さて、少しだけ雑談コーナーを入れさせてもらって……今日から始まった【夕暮れに舞う巫女】。

巫女ギアのF.I.S.のみんな可愛すぎるでしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!(絶叫)

和装大好きな私からして見たら夢あるシナリオです!!(目をキラキラさせる私)

そんなイベントのシナリオはまだ1話目しか進めてないので、私はこれを更新した後に速攻で進めます!!

そして、アイテムを集めて、巫女切ちゃんと交換しないとッ!!

この切ちゃんはいつもの切ちゃんと違い、いい感じでお淑やかな感じがして……いいのデス!!


という感じで雑談コーナーを終えます。


読者の皆様にとって、これから始まる一年がいい年となりますように(*´꒳`*)


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くしゃみ

土日か来週辺りに出来れば、連続更新で暗めの話(私の趣味で書く下の章の2つ)を更新しようとしているので、その前のウォーキングアップというか

ゆる〜い、しょーもない…ほんとしょーもない話を挟んでおきたかった。

ただそれだけの話ですので、会話文多め、説明文そこそこ多め、文字数は多めだがギャグばかりなのですらすら読める量で。
今回だけの話、続きはなし。

内容は歌兎が『ですです』『にゃっにゃっ』して、切ちゃんが可愛いを熱く語り、みんなは其々好き勝手する話デス。

本当しょーもないので、頭は出来る限りからっぽにした上で読んでください(礼)

では、本編をどうぞ!!


冬も深まり、マンションの窓から外を見ればチラホラと白い結晶がキラキラと冬の淡い光にあたり、美しい白銀の光を放つ。

そんな美しくもどこか肌寒さを感じる風景をマリアとセレナが住むマンションのリビングにある窓から外を覗くあたしは視線をゆっくりと前へと向ける。

真っ直ぐ見つめるあたしの視線の先には、白いソファに包まるもふもふな(かたまり)がある。

 

「‥‥でっすっ。‥‥でっすっ。‥‥にゃっくしゅんっ‥‥すんっ」

 

(かたまり)の主な色は花青緑色の毛布で、その毛布から覗くのはまん丸な黒い瞳が付いている焦げ茶色の布地に白い小さな角、ピンクのまん丸の鼻が付いたもの。

総合的に、"いのしし"のアニマルパーカーといった所だろうか。

 

今朝この"ひつじ"にしようか、"いのしし"にしようか、と悩みに悩み抜いたあたしだったけれどもーー

 

「結局いのししにしたあたし、グッジョブデェースッ!!!!」

 

ぐっ、と力強く両手を天井に突き出して喜び叫ぶあたし。

 

そんなあたしを見つめる、いいや見あげているのはーーソファに丸まっているもふもふな塊で、潤んだ半開きの眠たそうな黄緑の瞳、すんすんと鼻を鳴らし、たら〜んと透明な粘り気のある液体を垂らしながら、あたしが用意した最強最高トンデモの装備(ふく)に身を包むその正体はあたしの最愛の妹・歌兎である。

 

「潤んだ瞳……すんすん鳴ってるちんまりした鼻……赤らんだもちもちな頬……もふもふなトンデモ装備品……まん丸なシルエット……くっ、これがーー」

 

ーーこれこそが可愛い……可愛いなのデスね……っ!

 

 

 

可愛い。

 

人はその感情をどんな時に思い浮かべるのであろうか?

自分よりも小さいものを見た時?

それとも、まん丸なものを見た時?

はたまた、精一杯頑張っている者を見た時だろうか?

いや、上の案にはないのかもしれない。

 

 

可愛い。

その感情は実に直感的に、瞬発的に浮かんでくるもの。

 

 

そんな可愛いの文字を分解してみるとーー。

 

 

可。

その意味は、それでよいとすること。よいとして認めること。

 

愛。

その意味は、かわいがり、いつくしむ心。

 

総合して、よいとして認めて、かわいがり、いつくしむ心。

 

 

それこそが可愛いッ!!

 

 

故に可愛いは、全ての世界で、全ての属性において頂点に君臨(くんりん)するものだといえよう!

 

 

 

Kッ!

 

Aッ!

 

Wッ!

 

Aッ!

 

Iッ!

 

Iッ!

 

 

 

 

KAWAIIッ!!!!

 

 

 

 

そう、KAWAIIこそが人間が永遠に追い求めるテーマであり、この世界を生き抜くための(かて)ッ!!

 

 

 

 

「‥‥でっす。‥‥でっす。‥‥にゃっくっしゅん、にゃっくっしゅん」

 

 

 

 

あぁ……こんなKAWAII存在が今まで居たでしょうかっ。いいえ、居る筈がないのデスッ!!

 

 

ありがとう神様、ありがとう仏。ありがとう、歌兎……あたしの妹に産まれてきてくれて……。

 

 

 

「‥‥で、で‥‥ででで‥‥で、にゃっくっしゅん!」

「歌兎、鼻水が垂れてる。ほら、しゅーんしよ」

「‥‥ん、しゅーん」

 

 

 

ふふふ、でへへへ……鼻水をかんでる姿もKAWAIIデス……。

あらあら、鼻のてっぺんが真っ赤じゃないデスか……エヘヘヘヘ。

 

 

 

「‥‥でっす。‥‥でっす。‥‥にゃっ‥‥っ、にゃっくっしゅん!」

 

 

あぁ……どんな姿もKAWAII。

うちの妹がKAWAIIすぎるデス。

 

 

時折、KAWAIIは正義という言葉を耳にするけどもうなづけるデス。

 

 

そう、今の歌兎はーーううん、KAWAIIこそがーー

 

 

「ーー正義なんデスよぉおおおお!!!!」

「ちょせぇ!!」

「にゃっふっ!? い、痛いデスよ……クリス先輩、なんで本気で蹴飛ばすデスかぁ」

 

顔から床へとダイビングしたあたしを見下すのは、何故か両手いっぱいに毛布を持ったクリス先輩。

 

「自称トンデモ過保護がいつにも増して馬鹿な事を言ってるからだろーが!

たっく……妹が風邪をひいたみたいで死にそうだから助けてくれっていうから来てやったってのに……あたしやバカ、先輩たちに働かせて……お前はのうのうと妹見物か?」

「そういうわけじゃないデスけど……歌兎があたしが見えなくなったら心配するかと思ってデスね」

「言い訳はいいから、こっち待ちやがれ」

「ぐふっ!? こ、これ前が見えんデス」

「あと数歩だろ、我慢しろ」

 

そのクリス先輩に近づくのは、毛布に包まる歌兎の世話をしている調である。

 

「クリス先輩、毛布ありがとうございます。切ちゃんもありがとう」

「えへへ、こんくらいどってことないデスよ」

「なんでお前が偉そうにしてんだよ……あいつらの部屋から毛布を掻き集めたのはあたしでここまで運んだのもあたしだろーが」

 

肩を落とすクリス先輩。その隣にいる筈の翼さんにあたしは小首を傾げる。

 

「クリス先輩。翼さんは?」

 

その問いの瞬間、マリアとセレナの部屋の辺りからドッチャンガッチャンガッタンコと凄まじい騒音が渡り廊下に響く。

 

「あれで察してくれ。頼む」

 

あぁ……なるほど。そういうことデスか。

 

クリス先輩と翼さんで毛布を持ってくる係に任命され、二人で毛布を持ってくる時に翼さん立ち寄った部屋だけ不運に不運という名の押入れの中にある物の雪崩れが重なり、立ち寄った前と後ではすごい差が付いてしまったと。

翼さんは義理堅い性格デスから、なんとか不運が起こる前の状態に部屋を直そうとして、その度に不運が重なり続けていくと。

 

「クリス先輩、お疲れ様です」「デス」

 

頭を下げるあたしと調にクリス先輩はなんともいえない顔をしていた。

恐らく、翼さんがやらかしてしまった後始末に頭が痛いのだろう。

 

そして、歌兎はあたしたち三人の手により、更に毛布のぐるぐる巻きになってしまい、それを見たクリス先輩が言ったセリフは"毛布の雪だるまだな"であった。

 

「ここまでぐるぐる巻きにすれば、風邪も忽ち直るデスよ!」

「うん、そうだね」

「流石にやり過ぎだろ。身動きすら取れなさそうじゃねーかよ」

「歌兎には悪いデスが、これも風邪を治す為なんデス」

「でも、トイレ行きたくなったら言ってね、歌兎」

「‥‥で、すっ……すんっ」

 

うなづきにくそうにする毛布雪だるま状態の歌兎。

そんな歌兎を見たあたし達は毛布を肩や膝の部分だけにかけることにしたのだった。

 

「これで良しか。おい、他にすることあるか?」

「他はマリアとセレナの様子を見て来てもらっていいですか? 奏さん、未来さんが二人のおうえんをしに行ってくれたんですけど……時間が経っている様子なので」

「分かった。ほら、姉様も行くぞ」

「そんなセッションな!!」

「……お前、辛辣(しんらつ)とか文字数多い難しいのは覚えてんのに。なんで、セッショウをセッションって間違えてるんだよ……色々と残念なやつだな、ほんと」

「……へ? 何が違うんデス?」

「お前ってはやつは……あいも変わらず、妹が大好きなだけの成長しないただのバカだよな」

「それどういう意味デスか!?」

 

暴れるあたしの首根っこを掴んだクリス先輩はズルズルとキッチンへと向かって歩いて行き、絶句していた。

その理由は、マリアと奏さんコンビが高級そうな濃い緑色のガラスに入った紅い液体を鍋に投入して、ぐつぐつしていたから。

それにどちらも顔を赤くしているところを見るとぐつぐているものを一杯……ううん、数杯は味見と言い張って、ひっかけた様子。

 

「ヒック……お? クリスに切歌じゃねぇーか。お前らもどうよ、一杯飲んでく?」

「いやいや未成年だから飲めないですよ……っていうか、あんたら何楽しく断熱グラスで飲み交わしてるんだよ!? あのチビの世話に来たんだろ!? 違うか!?」

「固い事は言いっこなしだぜ、クリス。それに熱でアルコール飛ばしてんだ、普通のぶどうジュースと変わりしない」

「ぶどうジュースと赤ワインは大違いデスよ、奏さん……あと、あたしはクリス先輩じゃないデス」

「奏の言う通りよ。あまり眉間にシワを寄せると可愛い顔が台無しよ、クリス。切歌もお疲れ様さま、歌兎の様子はどうかしら?」

「マリア……そっちはクリス先輩で、あたしはこっちデス。

お酒に酔っていても間違えるなんて酷いデス、あたし達が一緒に暮らした数年はそんなに安いものだったんデスか……」

「あら、ごめんなさい。切歌、わざとじゃないのよ」

「だから、そっちはクリス先輩デスって言ってるでしょうぉおおおおおお!!!!」

 

酔っ払いの顔を無理やりあたしの方に向ける。

 

「あらほんとね、こっちが切歌だわ。あら? 切歌が二人? ここで分身の術を使うなんてお茶目さんね」

「何を言ってるデスか、この酔っ払いろくでなしマリアっ!

もうどんだけ飲んだんデスか、吐く息がお酒くさいのデスーーって、本当どんだけ飲んでるんデスか、この酔っ払い達ッ!?」

 

ろくでなしマリアから視線を流し台に向ければ、そこには一本二本三本どころじゃない七本のガラス瓶が置かれており、酔っ払い奏さんに絡まれているクリス先輩が絶句してる……いいえ、呆れてものが言えなくなっている。

 

「おいおいマジかよ……味見と評して、六本ひっかける奴が居るかよ……」

「これも歌兎の為なんだって……ヒック……、なぁ? マリア」

「えぇ、そうよ。私達は調から頼まれたの……そう究極のホットワインっていうのを。

究極というのは、これまでに類を見ないという事。即ち、歌兎の舌を唸らせるホットワインを作り出さねばならないということよっ!!

このマリア・カデンツァヴナ・イヴと天羽 奏に妥協の二文字はないわッ!!」

 

そう無駄にカッコいいセリフとキメ顔をして、温め終えた赤ワインを奏さんと自分の断熱グラスに注ぐ酔っ払い駄目駄目マリア。

 

その瞬間、あたしとクリス先輩からハイライトが消えた。

 

「クリス先輩、こいつらどうしようもない駄目駄目大人代表デス。もう手に負えないくらいの醜態(しゅうたい)を晒してるデス」

「あぁ、珍しく意見があったな、姉様。酔っ払いはここに置き捨てて、もう行くぞ」

「デスデス」

 

"か〜んぱぁい"と優雅に断熱グラスをぶつけ合い、グビグビとホットワインを飲んでいく駄目駄目酔っ払い達をキッチンに置き捨てたあたしとクリス先輩は今度はセレナと未来さんの様子を見に行く。

二人の担当は風邪の時に食べる胃に優しいもの……即ち、おかゆという事だ。

そんな二人はキッチンをあの酔っ払い達に手渡した為に、隣の部屋を大家さんに許可を貰って、貸してもらっている。

 

「フ。マンションの大家さんですら(とりこ)にしてしまう歌兎の可愛さはやはり偉大デスよ。前世が天使なだけあるデス」

「無駄口叩いてないで行くぞ、過保護バカ。前世がそんなファンタジーなわけあるか、バカ」

「そんなバカバカ言わなくてもいいじゃないデスかっ」

「バカにバカ言って何が悪いってんだ」

 

クリス先輩が軽口を叩きつつ、マンションの扉を開けて、隣の部屋に続く渡り廊下を向いた瞬間、疲れたように顔を覆った。

その理由をあたしもすぐ知ることになる。

 

「うぐっ、むぐっ、美味しい!ごはん&ごはん、美味しいっ!」

 

駄目駄目な人がここにも居ました。

 

癖っ毛の多い栗色の髪、輪郭を隠すように伸びている二つの房にパチリとはめているNマークの髪留め、美味しそうなお粥を見つめる瞳は琥珀ーーーーはぁ……響さん、貴女って人はもう……どんだけごはん好きなんデスか……。

 

さっきの残念酔っ払い年長チーム・ごはん大好きっ子響さんといい……もうなんなんデスか、うちの奏者達。

うちの奏者達、残念すぎるでしょう……。

あたしも含めて、マトモな人居ないんデスかぁ……。

 

「一応聞くデスか、響さん。何してるんデスか?」

「ぐっ!?」

「おっ、バカがむせた」

 

クリス先輩がそう言いつつも、バカビキ……げふんげふん、響さんへと水のペットボトルを部屋に戻り取ってきて渡す。

 

「お前、妹が関わると忽ちに辛口になるよな。普段はぽや〜んとアホ全開の喋り方なのに」

「歌兎の粥を盗み食いした響さんが悪いんデスっ。あたしは悪くないデス……って、クリス先輩あたしのことそんな風に思ってたデスか!? 酷いデス!!」

「ちょせぇ、顔近づけんな。しっしっ……さて、バカ言い訳は思いついたか?」

「すいませんでしたぁ!」

「素直でよろしいデス」

 

睨みをきかせ、見下ろすあたし達の迫力に恐れをなしたのか……コンマ0秒くらいの音速で綺麗な土下座を決める響さんを心が海のように広いあたしは許してあげることにした。

 

「いや、バカビキって言ってる時点で駄目だろ、色々と……」

「クリス先輩はバカビキさんとあたしのどっちの味方なんデスか!?」

「ほら、バカビキって言ってんじゃねーか。……はぁ、これだと話が進まれねぇーな。バカ、なんでつまり食いなんかしてた?」

「あ、美味しそうな匂いがしてからつい……ね?」

「ね? じゃねーよ!ね? じゃ!!」

 

今日も炸裂するクリス先輩の鮮やかなツッコミに聞き入っていると響さんが表情がいつもと違うのと手に持っているお粥から変な匂いが漂ってくるのに気付く。

 

「響さん、なんだか頬が赤くて目がいつもよりもとろ〜んとしているように見えるんデスけど……そのお粥、ちょっと貸してもらっていいデス?」

「へ? 別にいいよ。歌兎ちゃんに食べてもらう前に切歌ちゃんにも食べてもらってって言われたから」

「あ、あたしに? セレナがそう言ったデスか?」

「ううん、未来」

 

ん? んー??

ますます怪しい。

未来さんを疑うわけじゃないけど、あの人は響さんが物事に関わると関わらないとじゃあ危険度と要注意度が月とスッポンくらいに変わってくるデスからね。

 

ここは用心に用心を重ね、毒味はあたしではなくクリス先輩にーーーーここデスっ!!

 

「クリス先輩、あ〜んデス♪」

「むぐっ!? ごほんごほんっ……いきなり、なんてもん食べさせてやがる、この過保護っ!」

 

ペッペッとあのお粥を吐き出すクリス先輩を見て確信する犯人は未来さん(あのひと)だ、と。

 

「やはり、このお粥には怪しい薬が含まれているのデスね。響さん、解毒剤あるデス?」

「げどく? けとく? けっとく? 切歌ちゃん、まだ怒ってるの? 私がお粥食べたこと」

「響さん、あ〜んデス!」

「むぐっ!?」

可笑しな事を言い始めている響さんの口に問答無用で解毒剤をねじ込み、水を流し込む。

ごくんごくんと響さんの喉が鳴るのを見届けて、水のペットボトルを外すとキョトンとした様子の響さんが居た。

 

「あれれ? 私、なんで歌兎ちゃんのお粥を食べてたんだろ……?」

「バカの台詞に今日一の悪寒が走ったんだが……」

「あの二人は組んではいけなかったんデスね」

 

最近、怪しい行動が見られる二人を怪しい薬を近いうちに使ってくると踏み、あたしと響さん、みんな用に解毒剤を作って置いた歌兎の頑張りがこんな所で発揮されるなんて……なんだか、悲しいデス。

 

「これ、響さんに渡しておきますね」

「へ?」

「歌兎特製の解毒剤デス。お礼は後で言ってあげてください」

 

そっと響さんの掌に解毒剤が入ったケースを置き、握らせるあたしを見た響さんは何ともいえない顔をしていた……いいや、状況についていけてないのか、キョトンとしていた。

 

「響さん、未来さんに薬を盛られた時にでも使ってください」

「未来を酷く言わないで!未来は私にそんなことしないよ。未来はいつだって私の陽だまりなんだからっ」

「いや、同居人に怪しい薬盛る陽だまりがあってたまるかよ」

「でも、そこは未来だし。私はどんな未来でも……ううん、未来だからこそ側にーー」

「あーあー、末長く」

「お幸せに、デス」

 

恥じらいなく甘々なセリフを言ってのける響さんをおさがりにあしらったあたしとクリス先輩は追ってきた響さんと共に隣の扉のドアを開く。

 

「おかえり、響。あれ? クリスに切歌ちゃんもどうしたの?」

 

未来さんはきっとあたしとクリス先輩が乗り込んできた理由を知っているはずなのに……それなのに、こんな温かい笑顔を浮かべられる未来さんはーー。

 

「未来さんの笑顔に悪魔だって真っ青顔デス」

「お、お前な……」

「へ? へ? 何で未来の笑顔が悪魔だって真っ青顔なの?」

「はぁ……。今この場所にはバカしかいないのか」

 

疲れたようにそういうクリス先輩。

確かにここに辿り着くまでに、クリス先輩は至る所で律儀にツッコんでいたからそれは疲れてしまうだろう。

 

へ? 違うデス?

お前もバカと一緒に引っ込んでろ?

クリス先輩、何だが酷いデス。

 

「おい、こいつじゃ吐きそうにないからお前に聞くな。お粥に変な薬入れたの、お前達か?」

 

クリス先輩の問いにキッチンに立ち、あたふたしていたセレナが観念したように言う。

 

「は、はい……小日向さんに言われて……そのごめんなさい……」

 

おずおずと差し出される怪しい薬の瓶の量にあたしもクリス先輩もあの酔っ払い達よりも絶句して、未来さんをマジマジと見る。

そんな私たちの視線に未来さんは可愛らしくテヘッと舌を出していた。

 

「これぞまさに地獄からテヘペロちゃんデス」

「そ、そうだな」

 

クリス先輩はそういうと怪しい薬を回収した後に、お粥を作ると慎重に歌兎がいるリビングへと持っていこうとした時だった。

 

「見てくれ、雪音!私なりに整理整頓なるものを実行してみーーあっ」

「ひゃあ!?」

「……へ?」

 

突然、翼さんに声をかけられ、肩を叩かれたクリス先輩がびっくりして可愛い悲鳴をあげて、慎重に持っていたアッツアツなお粥がよそってあるお盆を勢いよくひっくり返してしまい、その中身は綺麗な円を描き、あたしへとーー。

 

「あっちちちっ、あっちちっデス」

 

頭から服にかけて、アッツアツの粥まみれになったあたしは大慌てで服を脱ごうと裾を掴もうする前に翼さんの手があたしの服を掴む。

 

「火傷してはいけない。服を脱がせるぞ、切歌」

「デデデっ!? 翼さんっ!? なっ、何を!!」

「元はというと、私の不始末が招いた事だ。それに切歌に火傷をさせたなのとなると、歌兎とマリア達に申し訳が立たないからな」

「いいい、いいデスっ。自分でするデスからっ」

 

翼さんの手を振りのけたあたしはリビングへと走っていき、もうすっかり出来上がった様子のマリアから服を借りることで火傷は低度ですみ、歌兎もみんなの……っていうよりもクリス先輩と調、あたしの頑張りによって風邪が治ったのだった––––。




ということで、約7000文字ちょいのしょーもない話どうだったでしょうか?

シンフォギアらしいドタバタと騒がしい感じとスピード感が出せていたならば嬉しく思います。


さて、少しこの話について語らせてもらうとーー最初にこの話を書こうと思ったのは、私がくしゃみをしている時に【歌兎のくしゃみが『でっすっ』だったから可愛いだろうな】って思った事からでした。

そこから、戦姫絶笑RADIOを聴いたりして、話に糊付けをして……お披露目になったという感じデス。


切ちゃんに可愛いを熱く語ってもらったり、マリアさん&奏さん年長チームを酔っ払いにしたり、セレナちゃん&未来ちゃんチームを怪しい薬を使うやばい人扱いしたり、翼さん&クリスちゃんを最後の最後でドジっ子キャラにしたり、響ちゃんを『バカビキ』とか書いてしまったりしたけれども……まずは一つだけ、それぞれのキャラのファンの皆様すいません!!(汗)
偶にはこういうぶっ飛んだのもいいかなぁーと思い、書かせてもらいました!

機会があり、話のネタがあれば後々に……ではでは。


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001 友達

歌兎ちゃんが友達を家に招き入れる、それだけの話となってます。

それだけの話なのですが、一番に私好みの話となりました!!

その理由は本編にて‥‥では、どーぞ!!

※気になった部分を直しました(土下座)


「なっ‥‥このっ!!HP少ないのに‥‥こういう時に限って‥‥連続ドロップ‥‥って、あぁーーッ!!シラベがーーぁ!!シラベがあたしを庇って‥‥くっ、あの鉄ミミズ許すまじデスッ」

 

マリアから貰っているお小遣いをちょっとずつ残していってやっと買えた○layStat○on4と共に購入した緑色のコントローラーを操作しながら、テレビの画面を喜怒哀楽の表情で見つめながら、自分でカスタマイズしたあたしっぽい主人公が茜色に染まった砂漠フィールドを駆ける。

 

(むぅ‥‥銃って操作するの難しいんデスね。クリス先輩はあんなに簡単に操ってるのに‥‥)

 

「だからって、光剣って柄でもないデスからね、あたし‥‥」

 

このゲームを始める頃、翼さんのようにかっこよく剣を扱ってみたいと思い、光剣という名のピンク色の光を放つ剣を片手にフィールドに現る敵を倒そうと奮闘したのだが‥‥振るタイミングが早いのか、空振りを繰り返してしまい、パーティに迷惑をかけたという実績があり、あたしはあれ以降光剣は使わないと決め、メニューの一番奥に仕舞ってある。

 

しかし、このまま全滅して、街に強制的に送られるのもごめんだ。

ここまで来るのに他のフィールドで何回も全滅させられ、諦めようとしたその回でなんだかストーリーを進めるためのクエストをクリア出来て、何度も死にかけてここまで来たというのに‥‥ここで全滅してしまったならば、またここまで来るのに一苦労というものだ。

 

(ここは倒れてしまったみんなを助けて‥‥総攻撃デス)

 

あたしにはそれしかないと決め、砂に潜っては背後に現るを繰り返す鉄ミミズの攻撃を掻い潜りながら、砂漠に倒れるみんなを順を追って助け出す。

 

「‥‥んま、このポテトチップス美味しいデス」

 

パリパリとソファに座り、テーブルの上にあるバターにはちみつを合わせた味のポテトチップスを頬張りながら、なんとかさ鉄ミミズを倒した後、次に現れたエネミーに全滅させられ、そのエネミーよりもレベルを上げるためにフィールドを巡回して順調にパーティのレベルを上げていっていると玄関の扉が開き、聞こえてくるのは小さな呟き声だ。

 

「‥‥あれ? 姉様、帰ってきてる。今日、早く授業が終わったのかな?」

 

(にゃっ? 歌兎が帰ってきたデスね)

 

そういえば、今日、調はメディカルルームに寄った後、晩御飯の買い物をしてから帰るといっていたので、その間は歌兎と二人きり‥‥つまり調が帰ってくるまで歌兎を膝の上に座らせ、抱っこしてモフモフしながらこのゲームが楽しめるというあたしにとってのパラダイス。

 

帰ってきた調に怒られるでしょうが、その間だけはこのパラダイスを心ゆくまで楽しまないといけないだろう。

 

早く歌兎がリビングに入ってこないかと慌ててソファに横たえていた身体を起こして座り、ドアを見つめているとひょっこり顔を出す見慣れた水色の入った銀髪。

 

「‥‥姉様、ただいま」

「おかえりなさいデス、歌ーーうぅ?」

 

んんっ?

リビングに続く扉を開けた歌兎の後ろから入ってくるのは、見慣れない歌兎と同世代の子達。

爽やかな青いカッターシャツに真っ黒なセーラー服のワンピース型の制服を着て、お好みでその上にカーディガンを着込める様子で‥‥現に4人とも今日が肌寒かったのか、色とりどりのカーディガンを羽織っている。

また、4人が身動きするたびにワンピースと同色の帽子が揺れる。

そんな4人が着ている制服が歌兎が司令の配慮で通わせてもらうようになった中学校のものである。

 

ということは、彼女達は同級生ってことなのだろうか?

 

「おぉー、ここがウタの家?学生寮って言ったけどひろ〜〜ぉ」

 

と、最後に入ってきた癖っ毛の多い栗色の髪を襟首の後ろで軽く結んだ少女が幼いながらも将来美人へと成長する面影を見せている丸みを帯びた輪郭を笑みで変えて、キョロキョロと忙しなく空のように蒼い瞳が辺りを見渡す。

 

陽菜荼(ひなた)さん、行儀が悪いでございますよ」

 

そんな陽菜荼と呼ばれた子を嗜めるのは、(うぐいす)色の腰の近くまで伸ばし、年相応の幼さを残しつつも凛とした威厳溢れる美貌を遺憾なく見せつけている少女で琥珀色の大きな瞳は呆れを主に浮かべている。

 

そんな少女に対してニカッと悪ガキのように笑った陽菜荼と呼ばれた子は反省の色がない口調で、恐ろしいほどに綺麗な子をいじろうとするのだが、すぐに鋭いカウンターを受けてしまい、撃沈していた。

 

「そういう固いことは言いっこなしだよ、コウ。ウタも気楽にしてって言ってたじゃん」

「それは家族の方がいらっしゃらない場合ですよ。それにいいこなしも何もあそこに歌兎さんのお姉さまがいらっしゃってます、まだ気づきませんか、陽菜荼さん」

「‥‥へ? マジ」

 

そんなやりとりを繰り返す二人の真横、歌兎の袖をギュッと掴み、その背後からチラチラと顔を出す少女は肩まで伸びたサラサラな水色の入った銀髪に同色の垂れ目をしており、常にピクピクと震えているので小リスのような‥‥小動物のような気配を感じる。

 

「歌兎‥‥」

「‥‥美留(みる)、大丈夫だよ。ソファの上に座っているのが僕の姉様なんだ。見た目通りの人で全然怖くなくない優しい姉様なんだ」

「そうなの‥‥?」

「‥‥ん。世界一優しくて素敵なお姉ちゃん」

「歌兎がそういうなら信じてみる‥‥」

そう言って、歌兎は他の二人にも声をかけて、あたしの近くまで歩いてくる。

 

(なっ‥‥なんなんデスか!?このチビチビパラダイス!?)

 

あたしの前で立ち止まった歌兎はまずあたしの方を紹介することにしたのか、くるっと体を翻すとあたしへと右手を差し出す前にこそっとあたしへと謝罪する。

 

「‥‥姉様、いきなりごめんね。後ろの三人は僕の友達なんだ」

「そうなんデスか」

 

謝罪を終えた歌兎はあたしの方を右手を向けると

 

「‥‥まずは僕の姉様から三人に紹介にするね。

僕の隣にいる人が僕の姉様で名前はーー」

「ーー暁 切歌デス。歌兎といつも遊んでくれてありがとうデス」

「‥‥この通り、居てくれるだけで辺りを明るくてくれるような太陽のような人なんだ。‥‥笑顔も素敵なんだけど、いざって時はいつも僕を助けてくれる僕の心の支えのような人。‥‥でもよく似てないって言われる」

「あはは、確かによく似てないって言われるデスよね?」

「‥‥似てなくても血は繋がってる。‥‥姉様はいつだって僕の中で世界一のお姉ちゃんで唯一の肉親に変わりはないから」

「歌兎ぅうう‥‥っ!!」

 

ヒシッ、と歌兎を抱きしめようとした瞬間、おずおずとあのトンデモ綺麗な子が歌兎へと話しかける。

 

「その、そろそろ姉妹だけでイチャイチャされてないで‥‥コウ達の紹介をして頂けませんか?」

「‥‥あぁごめんね、紅里(コウリ)

 

歌兎はあたしから離れると今度は友達の三人の方へと向くと今度は手前の子から右手を差し出して、その都度其々の子があたしへと自己紹介してくれる。

 

「‥‥まずは」

「はいはーいっ!あたしからね!あたしの名前は香水 陽菜荼(かすい ひなた)。まぁ、この中ではメードメーカーかな」

「‥‥続けて、隣が」

紅里(こうり)でございます。苗字は白谷(しらたに)で、続けますと白谷 紅里でございます。この中ではお姉さんという立ち位置でしょうか」

「‥‥最後に」

香風 美留(かふう みる)‥‥。今日はよろしくお願いします‥‥。えっと‥‥この中での立ち位置は‥‥」

「‥‥そうだね、美留の立ち位置は僕達の妹なのかもしれないね」

「歌兎がそう言うなら‥‥そうです‥‥」

 

なるほどなるほどデス。

栗色の癖っ毛の子が陽菜荼ちゃん。

あのトンデモ綺麗な子が紅里ちゃん。

歌兎から離れないあの子が美留ちゃん。

デスか。

 

みんな、歌兎に負けず劣らずに可愛いデスねぇ‥‥って、何思ってるデスか!?

あたしには世界‥‥宇宙一可愛い妹がいるのデスっ。

他の子に惑わされるなんてーー

 

「‥‥僕、ジュースとお菓子を用意してくるね。姉様、みんなの事お願い」

 

そう言って、トコトコとキッチンへと歩いていく歌兎の背中を見つめながら、あたしは周りにいる歌兎の同級生達を見渡して困ったように眉をひそめる。

そんなあたしの緩めの深緑色のニットをツンツンと引っ張るのは、3つの手で

 

「ウタのお姉ちゃん、椅子に座らないの?」

「コウは歌兎のお手伝いをしてきますね」

「‥‥ぅっ‥」

 

あたしの手首を元気よく引っ張るのは陽菜荼ちゃん、歌兎の後を追いかける紅里ちゃん、あたしの後ろに隠れてプルプルと震えながらニットを握りしめる美留ちゃん。

 

ーーそんな事はあってはいけない、そう思えば思うほどに周りの子達が可愛く思えてしまう。

 

「陽菜荼ちゃん、引っ張りすぎデスよ。ほら、美留ちゃん、あたしに捕まるといいデス」

「だって、あっちからいい匂いがしてさぁ」

「うん、お姉ちゃん‥‥」

 

こうして、あたしの少ない時間ながらも慌ただしくも充実した時の始まったのだったーーーー。




と、今回の話は今まで一番私の趣味にまみれた話だと思います(微笑)
なんせ、切ちゃんが作中でプレイしているのは【SAO FB】ですかねっ。
また、切ちゃんのアファシスの名前は【シラベ】です。
セレナにしようかなぁ〜とも思いましたが、やはりここはきりしらファンとして調ちゃんの名前をアファシスちゃんにつけさせてもらいました(微笑)

今回、初登場の登場人物‥‥歌兎の同級生達は私が他の小説で作り出したオリジナルキャラであって、見覚えのある方はいらっしゃると思うのですが‥‥簡単に説明するとーー

■香風 美留 / かふう みる
『ご注文はにゃんこですか?』のオリジナルキャラ。
作中ではチノちゃんの妹で、この話でもチノちゃんの妹です。しかし、話にチノちゃんは現れません。

■香水 陽菜荼 / かすい ひなた
『sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜』のオリジナルキャラ。
作中では無自覚天然たらしですが、小さくなったこちらでもその力は健在となってます。

■白谷 紅里 / しらたに こうり
『うたわれるもの 紅き者の切望』のオリジナルキャラ。
作中ではコウリですが、この作品に登場人物させるにあたって‥‥苗字と名前を付けてみました。
因みに、白谷にはお父さんが『ハク』という名前なので‥‥そこから取らせてもらいました。

ーーというようになってます。

また、歌兎達の制服はごちうさのチノちゃん達が着ているものの色違いのようなイメージさせてもらいました‥‥前にフードといったラフな格好が好きと言いましたが、チノちゃん達の制服の帽子‥‥えっと、あれはベレー帽なのかな?
あぁいったちょこんと乗っかってる帽子も好きなんですよ、私♪



と、ここからまたいつもの長々と雑談をしようと思います(笑)
読み疲れた方は高速スライドをどうかよろしくお願い致します(土下座)

早速ですが‥‥2月16日には調ちゃんの誕生日、2月27日にはシンフォギアGのボックスが発売されますね(微笑)
また、私事ですが‥‥私の誕生日も2月なんですよ(笑)
なので、調ちゃんの誕生日ケーキとボックスは自分への誕生日プレゼントとして買いたかったんですけど‥‥2月は色々とありましてね、どちらもゲットとは要らないのです‥‥(無念)

と、そんな調ちゃんの誕生日記念ケーキのイラストはまだご覧になってない方がいらっしゃっるかもなので‥‥多くは言えませんが、"あのイベントで大活躍した子"と可愛らしい笑顔を浮かべた調ちゃんが特徴的な絵でしたね(微笑)
また‥‥って、これは書いていいのかなぁ‥‥?
んーーーっ、やっぱ、やめよ‥‥。
調ちゃんの誕生日記念ケーキ、気になった方はチェックしてみてくださいね(微笑)

きりしらファンとしてみたら‥‥欲しいんですけどね、この調ちゃんのケーキ‥‥しかし、経済的に‥‥(無念)

と、そんな調ちゃんは『夕暮れ舞う巫女』にて大活躍でしたねっ!
また、調ちゃんの過去にも触れる(?)事もでき‥‥ファンとしては大満足のイベントでした!!
個人的には、みんなに意地悪しようとする切ちゃんの悪ガキっぽい可愛さに悶えてしました…(悶)


また、シンフォギアXD公式攻略サイトにて『わたしが選んだ好きなオリジナルギアランキング』という記事(?)を見かけまして‥‥皆さんはどのようなランキング付けられたでしょうか?

私はですね‥‥めっちゃ悩んでます‥‥(笑)

切ちゃんだけランキングならばーー
1位は虚激・威Sゥん暴uシ
2位は圧殺・覇iンRい火
3位は即馘・Aるu薇イDあ or 殲狩・Tぅ璢Uでe
ーーとなりますね。
やはり私にとって"和"はかけがえないもので‥‥一位の切ちゃんの着崩しが好きなんですよね(笑)

しかし、尊さを優先したランキングならば‥‥ハロウィン切ちゃんと調ちゃんは欠かせないですし、ウェデイングの響ちゃんと未来ちゃんも欠かせません。
そして、メカニカル切ちゃんと調ちゃんも欠かせんですよね‥‥(悩)

他のランキングにしても全く違う形になってしまう‥‥どのオリジナルギアも魅力的で困ってしまう。


と、ここで雑談コーナーを終わろうと思います(土下座)

インフルエンザが流行り、風邪も流行るこの季節‥‥どうか、お身体にお気をつけてくださいね(微笑)
私は何故か両肩がずっと痛いので‥‥ゆったりと休養しようと思います。

ではでは〜(礼)


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002 友達

こちらの話は、おそらく今日の夕方17時に来るであろうユニゾン切ちゃんがわが陣地に来てくれるように祈願の念を込めた話デス。

来てくれ‥‥頼むからぁ‥‥この通りだから‥‥切ちゃん‥‥(高速土下座を繰り返す私)

と、祈願の念はここまでにして‥‥今回の話の説明をします。
今回の話のサブタイトルは『陽菜荼の誘惑』ってなっていまして‥‥私なりにドキドキ、キュンキュン出来るように話をなるべく詰め込みましたっ!!

なので、読書の方も切ちゃん共に小悪魔・陽菜荼にキュンキュンしてくださると嬉しいです!!

では、本編をどーぞ!!


「‥‥姉様、陽菜荼。留守番よろしくね」

 

と歌兎が友達の紅里ちゃんと美留ちゃんの二人を伴い、丁度きれていたお菓子を買いに近くのスーパーに買い物に出かけている間、あたしと陽菜荼ちゃんはやりかけのままにしてあったテレビゲームを一緒にプレイしていた。

そう、プレイしていたはずなのにーー

 

「キリねぇ‥‥はやく‥‥咥えてよ‥‥」

 

ーー何でそんな事になっているんデスかぁ‥‥

 

年相応の幼さを残しつつも色っぽさを感じさせるアルト寄りの声‥‥

上目遣いに見つめてくる空のように澄んだ蒼い‥‥何か期待を含んだ潤んだ瞳‥‥

将来美人と言われる事が決まっているかのように適度に整った顔立ち‥‥

薄くスライドしたジャガイモをはちみつとバターを混ぜたスパイスで味付けしたものを若々しくぷるんぷるんと彼女が喋るたびに揺れる桜色の唇‥‥

13歳とは思えないくらいにサラッと細身ながらに引き締まった制服に包まれた幼い肢体‥‥

 

そのどれもが幼く、触れれば壊れてしまうくらい細い‥‥華奢だからこそ強く拒否することもできずに、あたしは3歳下の子に攻められていた。

陽菜荼ちゃんの左手があたしの肩に置かれ、右手はあたしの左手首を上から押さえつけて、右太ももに座った陽菜荼ちゃんが軽く咥えたお菓子をあたしへと突き出している。

 

「どうしたの、キリねぇ‥‥?」

 

そう言い、小首を傾げる陽菜荼ちゃんは年相応に可愛い。

しかし、その彼女が作ったポッキーゲームならぬポテトチップスゲームにあたしは冷や汗‥‥脂汗がだらだらと背中を伝っていた。

 

あんな小さなポテトチップスの両脇を咥えるなんて‥‥それだけでも顔が近くて、お互いに吐き出す息すらも肌で感じてしまうだろう。

 

危険と犯罪の匂いしか漂わないポテトチップスゲームをする気満々な陽菜荼ちゃんにあたしは冷や汗を流しながら掠れた声で尋ねる。

 

「そ、その本当にするデスか?このゲーム」

「ん、だって面白そうじゃん」

 

そう無邪気に笑う陽菜荼ちゃんは可愛い、だがしかしそんな天真爛漫な子と二人きりでソファの上に密着して座り唇が触れてしまうかもしれないゲームをしようとしている。

 

(こんなのあかんデス)

 

そう、あかん。

あかんの三つ文字にかかる。

 

もしも、限りなくゼロに近いもしもなのだが、唇が触れてしまって‥‥歯止めが効かなくなり、その先に行ってしまったならば、あたしは歌兎にも調にも顔向けできない。

 

(ということで、絶対やめさせるデス)

 

「ほ、他のことしませんか?陽菜荼ちゃん。この遊びはお終いにして‥‥あたし、陽菜荼ちゃんに手伝ってほしい、エネミーがいるんデスよ」

 

目の前の期待を含む蒼い瞳から視線を逸らしたあたしの視界の端で口に咥えたポテトチップスを開いた右手で取った陽菜荼ちゃんは安堵するあたしの耳元でやけに色っぽい声で誘惑してくる。

 

「キリねぇ‥‥もしかして、事故で唇が触れちゃったことのことを気にしてるの‥‥?そんなの気にしないでいいよ、これは単なるゲームをなんだよ。だから、気楽な気持ちであたしと遊んで欲しい。

それにーー」

 

(ごくん‥‥)

 

気付くとそう生唾を飲み込み、あたしは視線を横へと向けて、そして息が止まった。

そこには大きめの瞳を細めて、妖艶に笑う一人の少女が居たのだから‥‥。

彼女から囁かれるセリフは蜜のように甘く、どろりと粘っこくあたしの中へと入り込んでいく。

 

「ーーキリねぇになら、あたしの初めてあげても‥‥いいよ」

 

幼い少女が放った色香に当てられたあたしはただただ彼女が再び咥えなおした唇で軽く挟むくらいにしているポテトチップスに釘付けになっていた。

 

間近にある蒼い瞳があたしの顔を見た後にポテトチップスの端を見る。

 

その仕草に誘われるようにふらふらっとあたしはパクパクと空気を吸い込むだけだった震える唇をゆっくりとあげると小さくポテトチップスの端へと齧り付く。

 

「‥‥パク」

 

カリッと怖いほどに静まった部屋の中へと響き渡る。

 

ドクンドクンと馬鹿みたいに煩い心臓音の中、交互に齧っていくあたしと陽菜荼ちゃんの咀嚼音だけがハッキリと聞こえ、あたしの視線は若々しく咀嚼する度にぷるんぷるんと揺れる唇にくぎつけになっていた。

 

いつの間にか小さくなっていたポテトチップスにだんだんと焦ってくるあたし。

 

(こ、これ‥‥本当に唇触れちゃうデスよっ!?)

 

本当にこれは遊び‥‥ゲームなのだろうか?

こんなにバクバクと煩い心臓音は‥‥ゲームによるものなんだろうか?

 

もう何が何だかわからなくなり、テンパり出すあたしを目の前に迫った蒼い瞳が先を促す‥‥

 

そして、あたしは暫し躊躇した後に数センチとなったポテトチップスに齧り付き、遂に唇がふれあーー

 

「ーー」

 

ーーう前に何者かによって後頭部をおもっきり叩かれた陽菜荼ちゃんがあたしの方へと倒れ込んでくる。

 

「あだっ!?」

 

その際、僅かに触れてしまった陽菜荼ちゃんの唇の感触‥‥小さいのにしっかり柔らかくぷるんと瑞々しい感触にあたしの目を回してる間に陽菜荼ちゃんは後頭部を抑えながら、身体を起こすと勢いよく後ろを向く。

 

「いった‥‥あと少しでいいところだったのに‥‥誰だよ、邪魔したの!‥‥あっ」

「いいところ?ふぅーん、そんなにいいところだったんだ。ごめんね、邪魔しちゃって‥‥いいよ、ここでジィーーっと見ててあげるから。続きして」

 

何処から持ってきたのか、分からないハリセンをパンパンと小刻みにテンポよく左掌に叩きつけながら、歌兎は眠たそうに見開かれた黄緑色の瞳へと絶対零度のような冷たさを持つ光を放ちながら、あたしの上に座っている陽菜荼ちゃんを見下ろしている。

 

「‥‥そこに立っておられるのは歌兎さんであらせられますか?」

「へぇー、僕は陽菜荼には暁歌兎にすら見えないんだ?」

 

絶対零度がマイナス50℃くらいになった時には陽菜荼ちゃんはあたしから飛び降りると歌兎の目の前で美しい土下座を繰り返していた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ウタのお姉ちゃんのいじめがいがありそうって思うっていじめているといい反応してくれるから、楽しくなっちゃってーー」

「ーー誰が"僕の"姉様に手を出していいって言ったの?ねぇ、陽菜荼」

「ひぃ‥‥」

 

その後、歌兎にこびっとく怒られた陽菜荼ちゃんはあたしから一番離れた席に座らされ、首から《あたしはドスケベ泥棒猫です》っていうプレートを下げられ、チビチビとお菓子を意気消沈した様子で食べていた。

 

そして、被害者であろうあたしの頬へとキスを落とした歌兎は拗ねたような顔を浮かべると

 

「‥‥これは浮気した姉様へのお仕置き」

 

と呟いて、友達の所へと歩いて行ったのだった。そして、残されたあたしはボッと頬を赤くすると五人分の食器を無心で洗い続けたのだった‥‥‥




いつも姉様が嫉妬するので、偶には歌兎から嫉妬をしてもいいかなぁ〜と思って書いた話ですが‥‥どうだったでしょうか?

私が作中の中で好きなシーンは、ポテトチップスゲームの時の切ちゃんと陽菜荼のところが好きです。
きっとドキドキが止まらなかった切ちゃんと違い、陽菜荼は平然としていたと思います(笑)
彼女の目的は切ちゃんをいじり、反応を楽しむ事ですので‥‥多少、唇が触れてしまっても狼狽する切ちゃんと違い、『あはは、キスしちゃったね、キリねぇ』と無邪気笑うだけかと(笑)

また、次回はお泊まり会となっており‥‥切ちゃんは違う子にドキドキさせられることにーー気が休まらない!(笑)



気が休まらないといえば、明日の夕方17時は私は気が休まらないですね。
なんとか20回は回せるくらいはあるので‥‥その間に当たってくれると嬉しいのですが、こればかりは運を信じるしかないですねっ‥‥


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髪の毛吹きの輪

ユニゾン切ちゃんガチャの結果デスが‥‥もう、フレンドの方はお分かりの方もいらっしゃると思いますが、一応ご報告をさせてもらいます(礼)

さて、私、律乃ですが‥‥ユニゾン切ちゃんを無事ーー


ゲットしましたぁ!!!(ガッツポーズ)


いやぁ〜っ、テンションがうなぎのぼりになりましたねっ!!(大興奮)

しかも今まで当たらなかったのが嘘のように初めの10連で‥‥黄金の輝きを纏って、うちの陣地へと舞い降りてきてくれましたぁ!!!
もう、切ちゃんもお人が悪いだから‥っ。
周りもすっかり黄金の輝きだから、『あぁ‥‥今回もまたスカか』って飛ばしちゃったじゃないですか。
そしたら、左側にちゃっかりいるんですもの‥‥思わず二度見してから、『キタァーーーーァ!!!?』って叫んじゃったじゃないですか(笑)

因みに、限界突破を目指したの20連は‥‥奏者のみんなの名言カットが入った後からの安定のマリアさん(☆5体)でした。
『うん‥‥だよねー』って思ってしまった私が心の中にいる(笑)
マリアさんもお人が悪いんですよね‥‥こういう時には来てくれるのに、麻呂ギアは来てくれないんだから(笑)


と、ガチャ報告でかなり長くなってしまいましたね(微笑)


今回の話は短い上に純粋にのほほ〜んとした話を書きたかった。
読書の皆さんの癒しになるかは分かりませんが、読んでもらえると嬉しいデス!

では、本編をどーぞ!!


その日、僕は姉様、奏者のお姉ちゃん、ねぇやたちに連れられ、S.O.N.G.に備え付けられているシャワールームに足を踏み入れていた。

姉様が左隣、右隣がシラねぇという大の仲良しザババコンビに囲まれた僕は時々姉様の過保護、シラねぇの世話を受けつつもゆっくりと自分の身体や頭をボディーソープやシャンプーで訓練の疲れと汚れを下のタイルへと流していった。

 

(‥‥ふぅーー、訓練の後のシャワーって最高)

 

そんな事を思い、顔へと生ぬるいお湯をかけている僕と同じことを思ったらしい姉様が金髪へと湯をかけていく。

 

「ふぅーー、訓練の後のシャワー最高デスよぉ」

 

シャンプーを両手に伸ばし、ワシャワシャとやや乱暴に髪の毛を洗った後にブンブンとまるで水をかけられた子犬のように首を横に振るう。

その仕草によって被害を被ったのは、薄紫色の銀髪を柔肌へと伝わらせているクリスお姉ちゃんであって、文句を言われた姉様は何故かキョトンとしている。

 

「こら、過保護っ!髪の毛に泡が付いている状態で髪を振るんじゃねぇ」

「そんなことでケチケチするなんて‥‥クリス先輩はもっと広い心を持った方がいいと思うのデス」

 

やれやれと肩をすぼめる姉様のセリフにおでこへと怒りの血管を浮かばせたクリスお姉ちゃんは"ふぅ〜、ふぅ〜"と深呼吸することで怒りを爆発させずに済んだらしく、その後は姉様の事は構ってもろくな目に合わないと思い、とことん無視を決め込んでいた。

 

そんな姉様と異なり、右側のシラねぇは隣にいるセレねぇと楽しくお話ししながら‥‥身体を洗っているようだった。

漆黒の腰まで伸びた髪が対照的な色の肌へと張り付き、湯気やぬるま湯によって火照った赤い肌が何処か色っぽい。

 

「セレナの髪、とてもサラサラで綺麗」

「それなら月読さんの方がサラサラで綺麗ですよ」

 

お互いの髪質を褒め合い、肌を褒め合うシラねぇとセレねぇを微笑ましい表情で見守るのはセレねぇの隣にいるマリねぇで‥‥髪の毛を洗い終えた後、首を横に振るうと背中へと艶やかなピンク色の髪から流れる雫が腰のラインへと流れていく。

 

〜数十分後〜

 

ポタポタと落ちていく雫がタイルに落ちていく中、僕の背中へと体当たりしてくるのがうちの過保護な姉様である。

その両手には黄緑色なもふもふのタオルが握られ、そのタオルは忽ちにポフッと頭へと乗っけされる。

 

「おりゃ〜おりゃ〜ッ!!歌兎の髪の毛はしっかりお姉ちゃんが拭いてあげますねっ」

「‥‥わわっ!?姉様、くすぐったいよ」

「動いちゃ駄目デスよ」

 

ニコニコ笑いながら、僕の髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのは姉様で

 

「もう。切ちゃん、ポタポタって水滴が落ちてる。そのままじゃあ風邪引いちゃうよ」

「わわっ!?調くすぐったいデスよぉ」

「動いちゃダメ」

 

その姉様の髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのはシラねぇで

 

「月読さんも髪の毛が濡れてますよ」

「あっ‥‥ありがとう、セレナ」

「いえいえ、これくらいどってことないですよ」

 

そのシラねぇの髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのはセレねぇで

 

「セレナ。貴女も髪の毛がしっかり拭けてないわよ」

「マリアお姉さん、ありがとう」

「こら、動いてはダメよ。しっかり拭けないわ」

 

そのセレねぇの髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのはマリねぇで

 

「そういうマリアも髪が湿っているぞ。どれ、私が拭いてやろう」

「なななッ!?つつ翼、私なら大丈夫よ!自分で拭けるわ」

「そんなに慌てなくてもいいではないか」

 

そのマリねぇの髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのは翼お姉ちゃんで

 

「じゃあ、あたしは翼の髪の毛拭くぞ」

「奏!?いい、いいわ。一人で拭けるもの」

「あはは、顔真っ赤にして照れてるのか?可愛い奴め、おりゃおりゃ〜ッ」

 

その翼お姉ちゃんの髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのは奏お姉ちゃんで

 

「奏さん。私、奏さんの髪の毛拭いていいですか?」

「おっ、いいよ。ガシガシって乱暴にやってもいいからな」

「ガシガシってですねっ!分かりました!!」

 

その奏お姉ちゃんの髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのは響師匠で

 

「響、まだ先の方拭ききれてないよ」

「ふふふ、タオルの端が首筋に当たってくすぐったいよぉ、未来」

「じっとしてないとダメでしょう」

 

その響師匠の髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのは未来お姉ちゃんで

 

「そういうお前も先の方拭ききれてねぇーじゃねぇーか。しゃーない、あたしが拭いてやる」

「ありがとう、クリス」

「バッ、こんくらいの事でいちいちお礼言ってんじゃねぇ」

 

その未来お姉ちゃんの髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのはクリスお姉ちゃんで

 

「クリスお姉ちゃんの髪の毛、水が掛かると色が濃くなるんだ」

「こら、チビ。どこ触ってやがる!?」

「? ‥‥クリスお姉ちゃんの髪の毛の先だよ」

 

そのクリスお姉ちゃんの髪の毛をゴシゴシとタオルで擦ってくるのは僕

 

という事で、いつの間にかシャワールームの中で髪の毛拭き輪が完成していたのだった‥‥




ということで、最初は少しだけシャワーシーンを加えて、ちょっとエロくしてみて、最後はタイトル通りの話にしてみました(笑)

ずっと前からこの話を書きたかったのですが、ストーリーの構成に手間取ってしまいまして‥‥遅くなってしまいましたが、ここでお披露目させてもらうことになりました(土下座)


さて、ここから雑談コーナーで‥‥かつシンフォギアにも関係ないのですが、新しく始まったアニメの話を一つしてみたいなぁ〜と思いまして‥‥

新しく始まったアニメはどのアニメも面白いですよねっ!!
【五等分の花嫁】【ブギーポップは笑わない】【私に天使が舞い降りてきた!】【えんどろ〜!】などなど素敵なアニメが多い中‥‥

私は【エガオノダイカ】ってアニメが気になってます‥‥いいえ、ハマってますッ!

理由は一話と二話を見た後での衝撃がいい意味で激しかったんですよね(微笑)
また、『笑顔』っていう三文字がこのアニメを見た後だとなんだか歪なものに見えてきてしまって‥‥あと、『無垢』の二文字がどんだけ罪深いことかと‥‥(汗)

また、その上の意味を考えさせられるのはOPとDPなんですよね‥‥。
OPの最初の歌い出しは『蝶の羽 毟る 少女は 村の大人に 無垢に笑いかける 「綺麗だよ」と』
『夜の街を舞う 過去の傷を えくぼで覆う』
と他にも気になる点が多いOPの歌詞。
また、DPの最初の歌い出しは『笑った私は綺麗でしょう?』というのがあって‥‥この歌詞の一部は三話を見た後にぞくってしてしまいましたね。
しかし、ステねぇの狂った笑みは違う意味でぞくってしてしまいました(ここで突然飛び出す変態な私)

と、上の感想はあくまでも私の個人的なものですので‥‥見当違いな事もあると思いますし、それぞれ考え方も違うと思いますが‥‥気になった方がいらっしゃっれば、チェックしてみてくださいね(微笑)



そして、最後に2019年3月に吉井ダン先生の新規書き下ろし切ちゃんの抱き枕、アンリミアクリルキーホルダー2の予約が始まりましたねッ!!
正直、切ちゃんの抱き枕ですが‥‥エロい(真顔)
おんな切ちゃんを抱きしめて寝るなんて‥‥逆に興奮して寝れないですよっ、私!(大興奮)


と、最後にここまで雑談コーナーを読んでいただきありがとうございます(土下座)


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001 録音

数ヶ月ぶりデスッ!
更新出来る環境になったので、更新させていただきました!!
しかし、前みたいに頻繁には更新が出来ないと思いますが、自分のペースでゆったりと他の章も書いていけたら嬉しいと思っていますっ。

さて、久しぶりに更新となる今回の話は今、更新させてもらっている【トゥルーエンド】とは別に【ダークなシーンを沢山入れたトゥルーエンド】での世界線で暮らしている主人公・歌兎(うたう)姉様(ねえさま)達の日常を書いたものとなっております。
また、作中にて《クリスちゃん》のことを歌兎が《姉様(あねさま)》と呼んでいるのは、今日の9時からYouTubeにて毎日更新となっている【戦姫絶唱シンフォギアG】のストーリーにて一時期、クリスちゃんと姉妹だった時期が歌兎にありまして、その名残となっております。

それでは説明が長くなってしまいましたが……本編をお楽しみください!
では、どーぞ!!


「ーー」

 

僕はぽっつーんとだだぴろっい部屋の中央部に突っ立っていた。

 

(ほんと、なんだろ、これ……)

 

綺麗に磨き抜かれた黄緑色のタイルの上には何も鎮座しておらず、だからといってこれから何かが出てくるのは僕の目の前でがっちゃんこがっちゃんこ何か線を繋げていっている三人を見ていれば安易に想像できるので、僕はそんな必死な三人から視線を逸らすと"今自分が置かれている状況の確認"と"何故、こうなってしまったのか?"を思い出していくことにする。

 

まずは"今自分が置かれている状況の確認"を順にしていくことにしよう。

ひとまず、今の僕の服装は《私立リディアン音楽院中等部》の制服でデザインと色合いは目の前にいる三人のお姉ちゃん達––といっても、若干一名高校を卒業しているので、性格には二人––が来ている高等部と同じで、違いを述べるならば上着がセーラー服のようになっており、線やネクタイが青いということだろうか……あっ、あと何故かベレー帽みたいな帽子を登校するときに着用しないといけないことかな。

と、制服のことはひとまず置いておいて……今、僕が置かれている状況の確認だが、僕は学校の教室のような部屋の中にいる。無駄に広い空間の中には黄緑色のタイルが所狭しと並んでおり、中央部に立つ僕を取り囲むように真っ白な壁が四方を取り囲んでいる。その取り囲んでいる壁の一つは3分の2をガラスで出ていて、ガラスの向こうには色んなボタンやレバーがある大きな機械が置いてあるようだ。

 

「おいバカ、そっちじゃねーぇ」

「へ?でも、説明書にはこの線とあの線を繋がってーー」

「ーー切歌。その線ではなく、こちらの線ではないか?繋ぐ形が似通っている」

「なるほどデース!流石、翼さんデスっ。なら早速あたしがつなーー」

「ーーいやいや全然違うから。貸せ!あたしがする」

 

次に"何故、こんなことになったのか?"だが、それは10分前に僕の実姉・暁 切歌から送られてきたメールにあるだろう。

実物の文面は僕の中では伝説となった"手紙"や"おきてがみ"のような暗号めいたものとなっているので、僕なりに解読した事を簡潔に書くと"早く帰ってきてくれないと大変な事になってしまう"といったもので、血相を変えた僕は友人に別れをいうと猛スピードで家に帰った途端、姉様(ねえさま)が体当たりしてくるような勢いで抱きついてきて、みるみるうちにこの部屋の真ん中へと立たされていた。

 

(ん……やっぱり、なんでこんな事になっているのか、分からない……)

 

やはり考えてみても僕がここにいる理由が見当たらない。三人の作業が終わるまでジッとしておこうと思ったけど、そろそろ制服から私服に着替えたいし……その、と、トイレにも行きたいし……動いてもいいかな?

そう思い、目の前にしゃがんでいる三人へと視線を向けると丁度作業が終わったらしい。

 

「歌兎!お待たせしたデース!」

「…ううん。そんなに待ってないからいいよ」

 

目の前に人の頭部が付いているマイクがニコニコ笑顔の姉様の手によって置かれるのを見てから"このマイクは何?"という意味を込めてから姉様を見ると得意げに鼻をフンと鳴らす。

 

「このマイクはデスね。バイトアールと言いましてね。それはそれはすごーー」

「ーー早速間違えてどうすんだ!バイトアールじゃなくてバイノーラルだろ!」

 

スパーンと姉様の明るめのショートヘアな金髪を叩くのは、薄紫色が混ざった銀髪をお下げにしているクリス姉様(あねさま)で叩いた衝撃でアホ毛が左右に微かに揺れている。

 

「…姉様(あねさま)。バイノーラルってなに?」

「ア?あぁ、ステレオ録音の方法の一つらしくてな。この頭部の音響効果を再現するダミー・ヘッドやシミュレータを利用して鼓膜に届く状況で聞く事によってあたかもそこに誰かいるかのように聞こえる技法らしい」

「続き。その収録した後はヘッドホンかイヤフォンで聞かないと効果がないそうデスよ」

「…そうなんだ」

 

この何処かの銅像みたいな頭部が付いたマイクにそんな凄い機能が備わってるんだ。

感心の眼差しでマイクの周りをグルグルする僕を優しい眼差しで見守っていた姉様が鼻を突然擦る。

 

「ふふふ。偶然、動画でバイトアールマイーー」

「ーーだから、バイノーラルな。お前の相方の苦労が今分かるな」

「げぶんげふん。バイノーラルで撮った動画を見てから、お小遣いを貯めていたんデスよ!全てはバイノーラルで撮った歌兎の声で気持ちよく起きる為に!!」

「そっか。良かったな」

 

素っ気なく返事するクリス姉様(あねさま)に姉様がニンヤリと意地悪な笑みを浮かべるとツンツンと横腹をつつく。

 

「大丈夫デスよ、クリス先輩!歌兎に頼んで、クリス先輩用にも声を取りますデスから。今日から毎日、歌兎と一緒で寂しくないデスね!」

「な、バッ……あたしは今の生活で充分だ!チビの声なんていらねぇーよ」

「とか言いながら、一昨日歌兎が泊まりに行った時、夜一緒に寝た時に抱きついてきて可愛かったって歌兎が言ってたデスよ」

「〜〜ッ!?あ、あのチビの口を今から塞いでやる!!」

「まあまあ、雪音。歌兎の口を塞いだら、録音が出来ないじゃないか」

 

僕に掴みかかろうとしていた真っ赤な顔をしたクリス姉様(あねさま)を暖かい穏やか笑顔を浮かべた翼お姉ちゃんが姉様とともに出て行ってしまった。

と思ったら、ボタンとかがいっぱいある機械の前に三人で腰をかけている。

 

(それで僕はなにをすれば……って、ボード?)

 

「…えーと、これからボードに書くセリフを囁いてほしい?これに?」

 

あ、姉様が首を縦に振りながら『デスデス』言ってる。って事は横にスタンバイしていたらいいのかな?

クリス姉様(あねさま)、姉様、翼お姉ちゃんが身を寄せ合って、セリフを考えているのを僕はバイノーラルマイクの横でただジッと見ていた。




次回はバイトアール……げぶんげふん、バイノーラルマイクでの録音シーンとなっております。
因みに、この話を思いついたのはニコニコ動画で放送している【五等分の花嫁】の最終回目前での生放送のラストでこのマイクが登場して、本当にその場に居るという感覚を味わえたのでーー妹大大大好きな姉様ならきっとそのマイクで撮った歌兎の声を毎日聞いていたいだろうな〜ぁと思ったのがこの話を書こうと思ったキッカケです。

もし、バイノーラルマイクで各キャラが耳元で囁いてくれるならば……クリスちゃんは間違いなく『ばぁん♡』だな。あれに私はハートを撃ち抜かれたもの…(赤顔)
切ちゃんは……切ちゃんはどうしようかな〜ぁ(激悩)
どのセリフも好きだしな…天使可愛いしな……くっ、本当どうしよ……悩みすぎて、セリフが思いつかない!!(大汗)
強いて…強いて言うならば『小さな事を気にする事はよくないデス。考えてもどうしようもない事なら考えるだけエネルギーも無駄デス。どーんと構えてやるデスよ!』かな〜♪時々聴いては勇気もらってますもの…。
響ちゃんは『ご飯の時間の邪魔はさせない』で翼さんは『常在戦場』、マリアさんは『何故そこで愛ッ!』かな……いや、かなり大きいだろうから…鼓膜壊れちゃうかな…?(笑)
調ちゃんはおさんどんの歌を歌って欲しいです!!いや!調ちゃんも切ちゃんと同じでどのセリフも激かわですからね!どんなセリフでも私はオーライです!!

ここまで更新をサボっちゃったので、書きたい事は山ほどあるのですが……あまり長々書くのは宜しくないと思うので、ずっと前に約束していた【60話記念画】を載せたいと思っています。

テーマは、私は横顔が好きなので……【横顔】です。


【挿絵表示】


今までの作品の中で自信を持って、発表できる作品です!!
歌兎の眠たそうな目も可愛く描けましたし、何よりも歌兎の横顔が描けたので…充分ですッ!!



今 私のフレンドリストは【翼さんの誕生日ウィーク】となっており、シンフォギアカードからメモリアまで翼さんで固めております。本当は奏さんかマリアさんをメモリアに入れようと思ったんですが……偶には、誕生日の主役のみでもいいかなぁ〜と思い、翼さんのみとさせてもらいました。
期間は今週の金曜日までとなっております、イベント的には全然お役に立てないと思いますが…使ってやってくださいませ(土下座)


また、五月の末から【SSSS.GRIDMAN】のコラボイベントが始まりますね!
今、公開されている響ちゃんと翼さんのギア、カッコいいですね!!
敵や内容はどんなものになるのか、ドキドキワクワクが止まりません!


最後に、これまでのガチャは配信公開ガチャでメダルとガチャにて【限界解放ギアのセレナちゃん】をMAXまで上げることができました!!(ガッツポーズ)
後は、素材を集めてから上限突破させるのみ!!
ふぅーー、これでなんとかまともにチャレンジカップを勝ち抜けていけるはず…(安堵)
あと、これで【きりせれ】のみの構成も可能になります!!(笑みが思わず溢れる)

とチャレンジカップといえば、達成ポイント5000Pにてゲット出来る☆5シンフォギアチケットでゲットしたのは【アラビアンギアのクリスちゃん】でした!
こちらは未獲得でしたので、ハイテンションとなりました!!


かなり長々と書いてしまい、すいませんでした…(大汗)
朝昼晩の温度差が大きいので、どうかお身体に気をつけてください!
私は風邪気味でして…頭痛や節々の痛み、鼻水などが酷くて…ヤバイです…(苦笑)


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001 肝試し

今回はネタに全力疾走したものとなってます。
歌兎がすごいツッコんでます……この子は私の心のダーク部分のせいで【"死んでしまう話数"と"ヤンデレ奏者のみんなに愛される話数"】でUA伸びがいい主人公となってますからね(笑)

私の笑いのツボは他の人に比べると可笑しいと思いますが、楽しんで読んでもらえると嬉しいです!

では、本編をどうぞ!!


7月6日。

暦の上ではすっかり夏となり、外国での仕事が早めに終わったとのことで日本に帰国したマリねぇとセレねぇ、そして何故かクリスお姉ちゃんの提案により《TIKITIKI 奏者勢揃い肝試し大会》というのが半強制的に開かれたのだった。

本当になんでそんなにノリノリなのか分からないクリスお姉ちゃんが肝試しを行う場所として提案したのはこれまた大定番のその地域で何かが出ると噂に上がる廃墟であった。そんな時にそんなベタなところでしなくてもいいのに……怖がりではうちの姉様とどっこいどっこいであるクリスお姉ちゃんは何故ここまで乗り気なのだろうか? 何か変なものでもマリねぇとセレねぇに飲まされたのかな?

 

そんなこんなで現時刻 23:00。

 

良い子は既に夢の世界へと旅立っている時刻にマリねぇの『狼狽えるなッ!』と『セレナぁあああああ!!!!』という雄叫びで叩き起こされた……ううん、ツッコまされた僕達はうとうとしている間にパジャマから私服へと着替えさせられ、意気揚々とマリねぇ、セレねぇの手に引かれて、後部座席へと押し込まれてから点々と散らばっている奏者のお姉ちゃん達を拾っていったのだった。

というか、起こしに行くマリねぇってなんで『狼狽えるなッ!』と『セレナぁあああああ!!!!』という雄叫びしかあげないんだろ……ここまでその声が聞こえてくるし……助手席で待ってるセレねぇが顔真っ赤にしてる理由が僕にも分かるからやめてあげてほしい。後、さっきから姉様が僕を抱き枕か何かと勘違いしているのかギュッとして離してくれないのをどうかしてほしいし、さっきからブツブツと小声でお経唱えるのもやめてほしいというよりやめて! こんな深夜に聞くと本当に怖いからっ。

 

「あァッ! 歌兎なんで離れちゃうデスかっ」

 

なんで離れるって今この瞬間の姉様が一番怖いからだよ! だって、僕の顔を"この世の終わりだ"みたいな青白い真顔で見つめてくるだけじゃなくてボソボソお経唱えてるんだよ? この状況が怖くない人が居たら挙手してほしい。

 

「…姉様、暑い」

「あたしは暑くないデス。むしろ寒いデス……これはきっとトリハタってもんデス」

「…鳥さんが旗を振ってるの? ともかく僕が暑いから少しあっちに行って」

「ゔぅあぁあああああん」

 

泣いたっ!? どうして!?

垂れ目がちな黄緑色の瞳から大粒の涙をポロポロと流しながらワンワンと赤子のように泣く。

そんな姉様に抱きしめられながら、僕はワタワタと助手席に座るセレねぇや姉様の左肩にちょこんと頭を乗せて眠りについていたシラねぇへと視線を向けると丁度シラねぇが姉様の鳴き声で浅い眠りから起きたところだった。

とろ〜んとした薄桃色の瞳をパチクリとした後に隣でガン泣きしている姉様にギョッとしている。

 

「…! あれ? 切ちゃん、なんで泣いてるの?」

「歌兎があたしのことを要らないって……ゔっぅっ……あっちに行けっていうんデス……」

「ーー」

 

ゔっ……シラねぇの"ジィーー攻撃"が胸に痛い。

で、でも 僕の言い分だって聞いてほしい……だってこの車に乗った時から青ざめた顔を間近で見ながらお経だよ? これが怖くないわけないでしょう? 今、真夜中だよ? いくら大好きな姉様でも怖いものは怖いんだもん……仕方ないでしょう……。

 

シラねぇのジィーー攻撃から視線を逸らしたその時だった勢いよくスライド式の扉が開き、向こう側からドヤ顔のマリねぇが眠たそうな響お姉ちゃんと未来お姉ちゃん、そして後で分かるマリねぇとセレねぇの協力者であるクリスお姉ちゃんを連れてから大泣きしている姉様へと雄叫びを上げたのはーーーー。

 

「切歌、狼狽えるなッ!」

「うっさいんデスよ!!!!! こっちは妹に拒絶されたんデスよ!!!!!! 狼狽えるよりもこっちの方が一大事デスよ!!!!」

 

今度はキれたッ!?

しかもあんだけ『狼狽えるなッ!』って言ってマリねぇが姉様の怒声に狼狽えちゃってるよ……姉様って太陽のような明るい性格な上にあまりマリねぇに怒ることってないもんね……。

 

「うろうろうろうろうろうろ……狼狽えるなッ!」

「マリア、いい加減にしないと頭かち割りますよ」

 

うわーーお、砕けた"デス"無しのマジ口調での脅しがきたよ。あっ、マリアからドヤ顔が消えて、代わりに悲しそうな顔をしてる。

 

「ちくしょう……かなわないわけだ」

 

へ? は? ねぇ、何がッ!? 何がかなわないのっ!? やめて、閉めないで!! 今、この小さな空間にカオスが充満してるんだよ!?

ほら、響お姉ちゃんも未来お姉ちゃんもクリスお姉ちゃんだって姉様とシラねぇの向こう側座りにくそうにしてるよ!?

 

(セレねぇ……)

 

あぁ、セレねぇでもこのカオスをどうにかすることはできないと……本当にどうするの……このカオス。

 

「それじゃあ、出発するわよ」

「…マリねぇ。翼お姉ちゃんと奏お姉ちゃん、カルねぇは?」

 

今この場所にいるのは、今だにワンワンと泣いている"姉様"に"僕"、"シラねぇ"の向こう側に涎を垂らしながら"未来お姉ちゃん"の肩で眠りにつく"響師匠"に両腕を組んで不敵に笑う"クリスお姉ちゃん"。そして、この車を運転している"マリねぇ"と助手席に座っている"セレねぇ"の8人だ。

今、S.O.N.G.に所属している奏者は11名ーーなのだが、確実にいうとカルねぇはマリねぇへとギアを渡しているので奏者ではないのーーだが、ここには8名と3名も居ない。

 

「フ。歌兎、横を見てみなさい」

 

(へ?)

 

って何アレ!?

僕らが走っている車の横に青い線が走る銀色の巨大な壁みたいなものがある。いやちょっと待ってこの展開ってーー

 

「ーーいや、剣だ! 歌兎」

 

そんな声と共に大きな壁……剣からかっこよく宙返りしながら降りて来た三人の人影は僕がさっきマリねぇに訪ねたその本人達だった。

 

「私の車では8名が限界だから、翼に奏とカルマをお願いしたのよ」

 

『お願いしたのよ』って……翼お姉ちゃんが運転出来るバイクって最低でも二人乗りだった気がーー

 

「ーーフ。問題はないさ、歌兎。奏には私の右側の剣に乗ってもらい、左側の剣にはカルマに乗ってもらって、私の肩にしっかりつかまってもらっていたからな」

 

何その芸術乗りっ!? 普通に危ないよ。

でも僕の○ギン○ョル○も危ないし……二人を助けたくてもガン泣き姉様が僕を離してくれない。

そんな中、マリねぇの車から降りたシラねぇがちょんちょんとカルねぇの横腹を突く。

 

「カルマ、私の禁月輪に乗る?」

「翼のバイクも良かったけどあまり邪魔するのもあまりスリリングすぎるのもな……調、頼んでもいいか?」

「うん、いいよ。ーーVarious shul shagana tron」

 

ピンクと白……そして、何よりも今僕に抱きついてガン泣きしている姉様が身につけているイガリマと対となるギア・シュルシャガナの技である【禁月輪】にて運ばれることになったカルねぇを見届けた後、目の前でガン泣きしている姉様をどうにかして泣き止ませる方法を考える。

そして、姉様のガン泣きも僕の必死の呼びかけにてすっかりよくなり、僕は姉様をまた泣かせしまわないように今度は僕から姉様に抱きつき、僕のすっと〜んな胸元とは比べ物にならないほどに女性らしい曲線美を描く胸元へと顔を埋めて眠りにつくことにした。寝ていればきっと姉様のお経も聞こえないはずだから……うん、絶対聞こえないからっ。そう思い込むことで眠りにつくことに成功した僕はスヤスヤと寝息を立てていたのだがーー

 

「ーー……う、……たう……、歌兎っ」

 

という姉様の必死な呼びかけに目を覚ました僕はいつの間にかおんぶの状態になっていることに気づく。

 

「…ん?」

「歌兎、起きたデスか……?よかった……ひぐっ……本当によかったデス……ゔぅあぁあああああん」

「…ね、姉様……?」

 

なんでまた泣いてるの? というよりもここどこ!? 意識が途切れる前にマリねぇが説明していた話ではこんな森林の中ではなかったはずだけど……?

 

「みんなとはぐれて……迷子になっちゃったんデスぅううううう」

 

そう泣きわめく姉様に僕は絶句するのだった。




あんまり面白くなかったデスかね(笑)
でもハチャメチャな方が私は書きやすいのデス!(何故か得意げ)
因みに、この話の時間軸はメインストーリーのパラレルワールドとなっており、歌兎が【ミョルミル】とは別のギアを纏うようになってます。そのギアは今後登場させる予定なので伏せ字でのお披露目とさせてもらいました(礼)
ということで、切ちゃんと歌兎は無事奏者のみんなのところへと帰ることが出来るのでしょうか?
次回をお楽しみにです!



ここから余談に入ろうと思うのですが……その前に前の更新ですっ飛ばしてしまったガチャのご報告をさせて頂こうと思うのですが……定期的に☆5は翼さんは舞い降りてくれまして、翼さん以外は奏さん・マリアさん・クリスちゃんといった年上組となっております。
思えばこの小説を書き始めてから、年上組が来てくれるようになったんですよね……溢れ出る"甘やかされたい"という念が年上組を引き寄せてしまうのか……?よくわかりませんが、【シンフォギア1〜4期放送記念ガチャ】の100枚メダルにてあと一枚で切ちゃんの【終曲・バN堕ァァSuナッ血イ】が上限解放できるところまで来ました!!(ガッツポーズ)
また、驚くことにAXZ配信ガチャの最初の10連にて☆6ギアのマリアさん……【Vitalization】が当たりました……(放心)

今後する切ちゃんのギアもこんな風に来てくれるとありがたいんですけどね……こればっかりはもう運しかないですよね……(笑)




さて、皆さんは既に知っていると思われますが……なんとッ!XVのキャラソンのジャケットが響ちゃんに引き続き、切ちゃんが解禁されましたッ!!!(うおおおおおおおおおおお)

響ちゃんのジャケットデザインはもうカッコいいの一言に尽きると勝手ながら思っていまして…切ちゃんのジャケットも最初に拝見した時は『カッケー』でしたね!!
そういえば、今回の切ちゃんの構えって珍しいデザインデザインですよね…【G/AZX】では脇が見えるような感じで鎌を構えていて、【GX】では下から刈り上げるように構えているんですよね。
それが今回はなんていうんですかね………うまく言えないんですけど、違う構えとなっているので……気になった方は是非是非チェックしてみてくださいね!

また、切ちゃんの戦闘曲とB面も発表されたんですが……思わずつっこんじゃいました、『いやいや、真っ二つにしちゃあダメでしょ!?』って……まー、ザババは二人で一つだからねっ。きっと調ちゃんの戦闘曲で切ちゃんに足りないものを補ってくれてるバス!


そして、B面の『はっぴーばーすでーのうた』は見るからに涙が溢れてくる(涙)
確か公式のツイッターにて『切歌はこれからも本当の誕生日を知らないまま生活していきますが、この誕生日(4/13)をこれからも大事にしていきます』的なメッセージが公開されたと思うんですが……そのメッセージはここの歌のフラグでしたか……(勘違い?)
はっぴーばーすでーのうたということはXVの本編にて切ちゃんの本当の誕生日……過去が明かされるってことでしょうか???

んー分からぬ(悩)
今回の話はキャッチコピーから明らかに響ちゃんと未来ちゃんの話となるでしょうからね……その上に切ちゃんの過去まで触れてたら、話数が足りなくなりそう(笑)

だがしかし、公開さんが本当の誕生日を知らないままって書いてるんですから……知らないままなのかな……なんか悲しいけど……(涙)

ともかくこのはっぴーばーすでーのうたって前のB面のはっぴーにゃっぴーばけーしょんと似てて可愛いですよね〜(ニヤニヤ)
どんな曲になるかは分かりませんが、私は切ちゃんのCD発売を心待ちにするばかりです!!!


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二本立てッ!

ラジオに茅さんが来てくださったので––––嬉しさ余って、二本立てデスッ!! (テンションMAX)

みんな、わたしについてこーい!!! (テンションハイ⤴︎⤴︎⤴︎⤴︎)



※ストーリー1は第三者視点でマリアさん寄り。

※ストーリー2は場面が次々と変わるので『〜*』のみで表現することがあると思いますが、読みづらさMAXですので…予めご了承下さい(土下座)


▼ストーリー1【マリねぇと焼き芋】▼

 

1.

 

 秋も深まり、山々や街道の脇に植えられている木々が赤や黄、茶へと色づき始めた頃、とある学生寮ではいつものように元気一杯な声……ではなく、わんわんと大泣きしている一人の少女を取り囲むように一人の少女、そして女性がいる。

 

「ゔゔっ……ゔっづ……」

 

 わんわんと朝から泣いているのは私立リディアン音楽院高等部の制服に身を包み、明るめの癖っ毛が多い金髪を肩のところで切り揃え、左側に大きな✖️(ばってん)マークの髪留めをしている少女・暁切歌。

 

「ほらもう泣かない。夜には歌兎に会えるんだから……ね?」

 

 そのただをこねるように泣き噦る切歌の背中を摩り、落ち着かせようとしているのは漆黒の黒髪をピンクのシュシュでツインテールにし、切歌と同じようにリディアンの制服に身包んでいる少女・月読調である。

 

「で、でもぉ……じら"べ」

 

 だがしかし、大親友である調に背中を摩ってもらっても切歌のブルーな気持ちは晴れないようで……啜り泣くのはやめても潤んだ黄緑の瞳はいまだに"うたうのへや"と書かれたプレートが下がっている部屋を見つめたままで、調はギュッと切歌の手を握る。

 

「切ちゃんの気持ちは私も痛いほど分かるよ。でも、歌兎の事を心配する気持ちと同じように……切ちゃん、この遠足楽しみにしてたでしょう? 歌兎も自分の事よりも切ちゃんには楽しんできて欲しいんじゃないかな」

「でもぉ」

「それに……今日はマリアが見てくれるんだもの。心配なんてないよ」

 

 そう言って、いまだに心配そうな切歌を抱き寄せて、コツンとオデコを重ねる調のツリ目がちなピンクの瞳を暫し見つめた切歌は声が震えているが遠足に向かうことにしたらしい。

 

「……う、うん。そうデスね。マリアが見てくれるんデスもんね……」

 

 玄関先で互いを抱きしめあっている調と切歌を優しい眼差しで見守っているのは玄関で白と水色を基調とした私服の上にピンクのジャケットを羽織り、ピンクのロングヘアーの上に水色の花を用いた髪飾りをつけている女性、マリア・カデンツァヴナ・イヴである。

 

 マリアが見守る中、ゆっくりと身体を離した二人はギュッと恋人繋ぎで振り返るとぺこりとマリアへとお辞儀する。

 

「それじゃあ、そろそろ行こ? マリア。今日、歌兎の事もよろしくね」

「えぇ、任せなさい。二人とも楽しんでいらっしゃっいね」

 

 右手を振るマリアへと近づいた切歌が自分を真っ直ぐ見上げてくるので慄きながら、受け答えすると帰ってきたのはいつも彼女言っていることでだった。

 

「ま、マリアァ!!」

「な、なに? 切歌」

「あの子は人よりも敏感で、体調も崩しやすいデスから。出かける時は–––」

「–––しっかりと重ね着をした上にニット帽、そして手袋をつけてください。でしょう?」

 

 耳がタコができるほどに聞かされてきたその注意を切歌の声に重ねる形で言ってのけたマリアは唖然としている切歌へとウィンクすると安心したようにコクンと大きくうなづいた切歌は先に歩いて行っていた調へと駆けって追いつくとその左手へと自然に指を絡めるのを見て、二人が階段を降りていくのを見送ったマリアはさっきのさっきまで切歌が心配そうに見つめていた"うたうのへや"のドアノブを回しながら、中へと入っていく。

 

「さて、と。そろそろ、歌兎を起こそうかしらね」

 

 そう言いながら、真正面に鎮座してあるベッドへと近寄ったマリアは自分の方へと毛布と掛け布団を引き避け、自分の誕生日に貰った沢山あるぬいぐるみの一つ、切歌を用いたものを大事そうに胸に抱き寄せて「すやすや……」と寝息を立てている少女・暁歌兎の枕元へと腰を落とす。

 

(いつもなら切歌じゃなくて他のぬいぐるみを抱き寄せて寝ているのに……)

 

 言葉には出さなくても歌兎も大好きなお姉ちゃんが遠くに行ってしまうのは寂しいのだろう。その寂しい気持ちを埋めるために、恐らく無意識で切歌を用いたぬいぐるみを選んで、抱きしめながら眠りについたのだろう。

 普段から溺愛っぷりを周りへといっかんなく発揮する切歌と違い、歌兎は自分自身に無関心すぎる上に終始眠そうな無表情と無口という無の連鎖で彼女の感情や気持ちを深くまで読み取れるのはマリア達の中でも数少ない……いいや、もしかすると実姉である切歌しかできないことかもしれない。

 だからこそ、こうやって自分の感情をあまり表に出さない歌兎が気持ちを表に出すような行動をとるとついいじらしく思えてしまう。

 

「って、いけないわ。早く朝ご飯が食べさせないとコーンスープが冷めちゃう」

 

 コーンスープを前もって温めていた事を思い出したマリアは気持ちよさそうに寝ている歌兎を起こす事に気が引けたが、朝ご飯を食べさせない方が問題と判断し、小さな肩へと右手を置くと左右に揺らす。

 

「歌兎。歌兎、朝よ。起きなさい」

 

 数回揺らした後、軽く閉じていた長い銀色の睫毛に象られた瞼が数回震えた後、まだ眠そうにとろ〜んとしている黄緑の瞳が目の前にいるマリアをジィ–––と見つめながら、さらさらと光が当たると水色の光る銀髪を揺らしながら上半身を起こすとキョロキョロと辺りを見渡して、もう一度マリアを見つめて、キョロキョロとして小首を傾げる動作するのを黙ってみていると小さな呟きが聞こえてくる。

 

「…髪の毛がピン、クで……おっぱいがおおき、い……? マリ、ねぇだよね……? なんで、マリねぇが僕の部屋に……?」

 

(歌兎が私を私と認識しているのはそこなのッ!?)

 

 じ、地味にショックだわ……。

 切歌に比べると全然かもしれないが、二課と呼ばれていた今所属しているS.O.N.G.のメンバーに比べると長く月日を過ごしているはずなのに、そこしか判断できないって……歌兎は今まで自分のことをどのように思っていたのだろうか? そこばかり気になってしまい、マリアがモヤモヤしているとはつゆ知らず。歌兎は切歌を用いたぬいぐるみを抱き寄せながら、ベッドの下にひかれてあるカーペットへと両足を下ろすと壁にかけてあるカレンダーを見つめるとハッとした表情をしている。

 

「……? あ、そっか……今日、姉様とシラねぇは遠足だったね」

「そうなの。だから、今日一日中よろしくね、歌兎」

「…こちらこそお世話になります、マリねぇ」

 

 ぺこりと頭を下げる歌兎が自分のことをどう思っているのかは今は置いておいて、朝ご飯を食べさせる事にしたマリアは歌兎を洗面台に連れて行って、顔を洗うのを手伝った後にリビングの椅子へと二人して腰掛ける。

 

「…あむ、うむ……」

「あまりがっつきすぎないの。唇の端にコーンスープが付いているじゃない」

 

 頬を丸々にしながら、焼いた食パンとコーンスープを胃へと流し込んでいっている歌兎の向かいに座り、時々頬を拭いてあげながら、マリアは美味しそうに朝ご飯を食べている歌兎の顔を見つめながら、暫し考え事をする。

 

(朝ご飯は調が作ってくれたらいいとして……お昼ご飯、どうしようかしら?)

 

 折角、歌兎と二人っきりなのだから。外食してランチというのもいいかもしれないが、そうすると歌兎が遠慮してお腹いっぱい食べない可能性の方が高い。

 だがしかし、家で食べるとなると出前となってしまい、栄養価が偏ってしまうかもしれない。それは育ち盛りの歌兎の成長や健康面を考えると了承できない。

 となると、最終的にはマリアが料理を作る事になるのだが––––

 

(––––その選択肢もボツね)

 

 理由は言わずもがな、である。

 

「ふぅ……」

 

 こんなにも考えても出てこないなら、思いっきって歌兎に聞いてみてもいいかもね。

 最終的にそう結論づけたマリアは歌兎がパンを飲み込んでから尋ねてみる事にした。

 

「お昼ご飯、どうしようかしら……何か希望ある?」

 

 自分の口サイズに食パンをちぎっていた歌兎はマリアからの視線からそっと横へと晒した後に恥ずかしそうに、反対されないか心配そうに小さな声で答える。

 

「…焼き芋」

「やきいも?」

 

(焼き芋って……あの焼き芋よね?)

 

 意外な物を挙げた歌兎をパチクリと瞬きしながら見つめてくるマリアに歌兎は恥ずかしそうに頬を染めながら、たどたどしく理由を説明する。

 

「…うん、焼き芋が食べたい。あ、あのね、マリねぇ。前に響師匠と未来お姉ちゃんと一緒にしたの。落ちた落ち葉で焚き火をして、そこにホイルを巻いたさつまいもを入れてね、それで–––」

 

(あぁ……なるほど)

 

 響と未来とした落ち葉でも焼き芋が楽しく美味しかったので、いつかはマリア達としてみたいと思っていたが……直に燃え盛る炎を使う焼き芋を過保護すぎる切歌が許すわけがないと判断し、言い出せずにいるところで今日のように切歌が家を空けている日が出来たのでやってみたくなったといった感じだろうか?

 

両手の指を合わせながら、心配そうにチラチラと此方を見てくる歌兎へと優しく微笑む。

 

「–––ふふふ。そんなに必死に説明しなくても大丈夫よ」

「…それなら」

「えぇ、切歌にも歌兎の希望に応えて欲しいと言われているし……」

 

(……何よりも私が歌兎の希望を、笑った顔を見たいものね)

 

「朝ご飯が終わったら、落ち葉拾いとさつまいもを買いに出かけましょうか?」

 

 そう言って、微笑むマリアに元気よくうなづいた歌兎はよっぽど嬉しかったのか、普段はあまり見せない満面の笑顔をマリアへと見せる。

 

「…んッ! マリねぇ、ありがとう! だ〜いすきッ」

「––––」

「…マリねぇ?」

「な、なんでもないわッ」

 

 満面の笑顔&『だ〜いすき』という言葉にクリティカルヒットしたマリアは心配そうに見つめてくる歌兎から視線を逸らすのだった。

 

 

2.

 

「これで準備は整ったわね」

「…ん」

 

 流石に学生寮の庭で焚き火をするわけには行かず、マリアと歌兎はマリアが暮らしているマンションの敷地内になる小さな公園に来ていた。

 さつまいもを買いに行く前に大家さんに許可を貰い、公園内や敷地内にある落ち葉を掻き集め、一箇所に集めた二人は買ってきたさつまいもへとアルミホイルを巻きつけてから掘った穴へと僅かに落ち葉を敷き詰めて、その上へとさつまいもを並べていく。

 

「歌兎。手袋に落ち葉がくっついてしまうわ。外しておきなさい」

「…ん、分かった」

 

 切歌の言う通りに薄手のインナーヒートテックの上に厚めの長袖を着た上にダウンジャケットを羽織った歌兎は口元を覆っている花緑青(エメラルド)色のマフラーをぐいっと下に下げてから、もこもこの手袋を白いニット帽を揺らしながらダウンジャケットのポケットへと突っ込む。

 動きにくそうにさつまいもを巻いている歌兎を見ながら、マリアは苦笑いを浮かべる。

 

(切歌に言われたからって……流石に着せすぎたかしら?)

 

 確かに今日は寒い日だけど、焚き火が始まったらマフラーと手袋、ダウンジャケットくらいは脱いでみてもいいかもしれない。

 そう考えながら、マリアは最後となるさつまいもを穴へと並べると残りの落ち葉をホイルの姿が無くなるように被せながら、燃えやすいものへと火を付けるまでに歌兎を一歩後ろヘと下がらせる。

 

「火を付けるから、後ろに下がってなさい」

「…分かった。マリねぇも気をつけて」

 

 歌兎を後ろに下がらせたマリアは火がついた物を焚き火の中に入れると忽ち落ち葉が火炎に包まれていく。

 ばちばちと言いながら、ゆらゆらと静かに揺れながら燃える炎は黄、橙、赤、紅へと大きくなるにつれて、色を変えていき、ジィ–––と見つめていると心が安らぐ……そんなことを思いながら、その優しい光に照らされながら、二人が暖を取っていると

 

「ここに居たのか、マリア、歌兎」

「こんにちは、マリア、歌兎」

「おお、焚き火とは風流なことをしているね、お二人さん」

 

 見知った声が聞こえ、二人して振り返るとそこには青いジャケットの下に白と水色を基調とした私服を見つけている青い髪をサイドテールにしている少女・風鳴翼。

 翼の後ろでひらひらと片手を上げて、もう一方の手に何かを携えて、S.O.N.G.スタッフの制服に身を包んでいる女性・珠紀カルマ。

 翼の隣で焚き火の前に腰を落としている二人の姿を見て、ニッカと笑いながら近づいてくるのはオレンジ色のセンターの上にダウンジャケットを身に纏い、癖っ毛の多い赤い髪を持つ女性・天羽奏である。

 

「…カルねぇ」

「翼……奏まで、三人でどうしたのよ」

 

 想像してない三人の登場にマリアと歌兎は目をパチクリしながら立ち上がり、近づくと三人が其々にここに集まってきた理由を話し出す。

 

「いやね。切歌が今日は遠足で歌兎を置いて行かないといけないってワンワン泣いていたことを思い出したもんだから。様子を見にちょいっとね」

 

 そう言って、お茶目を出しながら笑うカルマは歌兎の近くによるとその頭をニット帽越しに乱暴に撫でる。

 そんな二人のスキンシップと焚き火を見守りながら、翼と奏のそばに寄ったマリアは二人の後ろに音もなく佇んでいる黒いスーツをビシッと着こなし、爽やかな笑顔を浮かべている青年・緒川慎次に会釈してから、二人がここに来た理由が何となく分かった気がした。

 

「私と奏は早めに仕事が終わったのでな。歌兎の事が気がかりなら心から楽しめないだろうと思い、様子を見に来たのだが……学生寮に居ないのだから、心配したぞ」

「その後はカルマと合流してな。歌兎が行きそうな場所を回っていたら、ここに辿り着いたってこった」

「そう、三人とも心配かけちゃったわね」

 

 そう謝りながら、マリアはカルマによっていじられた髪の毛とニット帽を直している歌兎を見て微笑むとトントンとニット越しに頭を撫でる。

 

「いや、此方こそ要らぬ世話を焼いてしまったものだ。それよりこのような場所で焚き火などどうしたのだ?」

「…翼お姉ちゃん、焚き火じゃないよ。焼き芋してるの」

 

 そう言う歌兎の言う通り、辺り一面にさつまいもの甘い香りが漂ってきて、奏がニカッと笑うとマリアへと問いかける。

 

「へぇ〜、焼き芋ね。マリアの考えかい?」

「いいえ、私じゃないわ。歌兎が前にあの子達としたようでね、してみたいって言ってくれたのよ」

「あの子達?」

 

 首をかしげるカルマの声を遮るようにドタバタと元気一杯の足音と声が聞こえてきて、カルマを始めとした三人はマリアが指している"あの子達"とはこれから顔を表す彼女達のことだと分かる。

 

「クリスちゃん、未来ッ! マリアさんと歌兎ちゃん、ここにいるよ!! って、あれ〜ぇ? なんで、翼さんと奏さん、カルマさんがいるんですか?」

 

 遠くからマリアと歌兎の姿を見つけ、あっという間に駆け寄ってきた肩まで伸ばした茶色い髪の両端へと赤いN文字を象った髪飾りを付けて、リディアンの制服に身を包んでいる少女・立花響。

 で、響は二人以外にも見知った顔がある事に目を丸くする。

 

「恐らく、立花達と同じ理由さ」

「響。あまり先に行かないで。あれ? 翼さんに奏さん、カルマさんも……こんにちわ」

 

 制止する声も聞かずに走って行ってしまった響を窘めようとしていた肩のところで切りそろえた黒髪の一部を白いリボンを後ろに結び、響と同じようにリディアンの制服に身を包んでいる少女・小日向未来は響の前にいる三人をびっくりしたような顔で見た後にぺこりと頭を下げる。

 

「こんにちわ。未来」

「…はぁっ……はぁっ……っ」

 

 最後に現れたのは薄紫色の光る銀髪を赤いシュシュでお下げにし、響と未来のようにリディアンの制服に身を包んでいるの少女・雪音クリスは近寄ってくる奏を見て、びっくりしたような顔をするが直ぐに事情を把握したようで苦笑いを浮かべる。

 

「クリス大丈夫かい?」

「…はぁっ……はぁっ……。大丈夫なわけ……奏先輩? それに先輩やカルマも……あぁ、なるほどな。みんな、あの過保護バカと同じようにチビがほっておかなかったというわけか」

「クリスはもっと素直になった方がいいぞ? 本当はクリスが一番歌兎の事を––––」

「––––ふんっ!!」

「いだぁっ!? なんで、私!?」

「うっせぇっ!! バカがそこにいたからだ」

「それはないでしょう、クリスちゃん〜ぅ……」

 

 その後、集まったみんなで焼き芋を食べたり、緒川がいつの間にか用意していたバーベキューセットでお肉を焼いたり、野菜を焼いたりしながら楽しく過ごし、マリアは隣で焼きたてのさつまいもへと「ふぅ……ふぅ……」と息を吹きかけ、しっかりと冷ましてから小さな口を開けてから焚き火に照らされて黄金色に光る表面へとかぶりついている歌兎の視線に合わせるように腰を落とすと問いかける。

 

「歌兎、今日楽しかったかしら?」

「うん、楽しかったよっ」

 

 歌兎はマリアへと勢いよく振り返ると今まで見たことがないような満面の笑顔を浮かべながら、元気よく答えたのだった。

 

 

 

 

 

 




 

▼ストーリー2【歌兎の留守番風景】▼

 

「––––」

 

 朝起きると手紙一つだけリビングの机の上に置かれて、部屋の中でものけ空だった。

 

(……僕捨てられた?)

 

 過保護の化身である姉様に限り、そんな事はないと思いながらも一応シラねぇがしっかりと管理してあるへそくりや姉様が僕のためにと貯金している秘密の場所からお金が消えてないか確認した後でテーブルの上に置かれている置き手紙へと視線を送る僕の足をツンツンするのはどうやら姉様を用いたロボット・姉様ロボでズボンの袖を掴んでテーブルに向かわせようする。

 

「デース」

「…まずはこの手紙を読みなさいって事? 姉様ロボ」

 

 置き手紙を手に取り、姉様ロボを見下ろしているといつの間にか他の三体も集まってくる。

 

「デスデス」

 

 恐らく姉様とシラねぇが居ない間、僕のお世話を頼まれたのだろう……姉様ロボ以外にもシラねぇロボ、その二体よりも一回り小さい姉様ロボと歌兎ロボまでも集まってきて、四体にも見えるように身を屈めて、手紙を読んでいく。

 

『歌兎、おはよう(デース)。

本当は切ちゃんが書くって言ってたんだけど……歌兎を置いていく事が辛くて涙が溢れて、書けないっていうから私が代筆するね』

 

(ね、姉様……)

 

 目を瞑るとその光景が手に取るように想像でき、僕は苦笑いを浮かべながら続きを読んでいく。

 

『まず最初になんで手紙を置いて出て行ったかというとね、私と切ちゃんが今日どうしても行かないといけない用事があって、歌兎には悪いけど手紙だけ残して家を出ました』

 

(そういえば、前に姉様がその日は大事な用があるから、朝から歌兎エキスを補給できないから今補給するのデスッ! 的な事を言って、一日中ギュッとされ続けた事があった)

 

 姉様が言ってた大事な用がある日っていうのは今日だったんだ、と一人納得する。

 

『朝ご飯は温めるだけにしてあるから温めて食べてね。多分、お昼までには帰れると思うけど帰れなかったら、冷蔵庫の中に昨日の残り物があると思うから温めて食べてね。

 調、切歌より』

 

 手紙を読んだ後、朝ご飯を火傷しないように食べた後、

僕は茶碗やお椀を洗いながら、眉を潜める。

 

「…何しようかなぁ」

 

 友達からオススメされたゲームはもうクリアしてしまったし、漫画や絵本も何百と読み返して、内容もしっかりと分かるほどになってしまったので折角なら他の事をしたいのだが––––。

 

「…? どうしたの? みんな」

 

 そんな事を思いながら、辺りを見渡しているとカーペットの上に四体が自力で乗っかっており、僕が手を拭きながら歩いてくるのを見計らって、シラねぇロボが何処からかボードを引っ張り出しては三体で支え、大きい姉様ロボがスポッとマジックの蓋を取ると文字を書く。

 

〈カラオケしませんか?〉

 

「…カラオケ? 僕はしてもいいけど、家にカラオケ機なんてあったかな?」

 

 記憶を辿ろうとしている僕へとブンブンと首を横に振ったロボ達は自分達を指差しながらマジックを動かす。

 

〈それなら心配いらないのデス。あたし達には既に家カラオケ機能が追加されたのデス〉

 

 得意げに書く姉様ロボと他の三体をマジマジと見つめながら、僕は驚きのあまり固まる。

 

(い、いつの間に!? 僕、そんな機能付いていたこと、今さっき知ったよ!?)

 

 驚く僕をしばらく見ていたシラねぇロボが姉様ロボからマジックを受け取るとその機能を付けるようになった経緯を説明してくれた。

 

〈この前、本物の私と切ちゃんがエルフナインとキャロルと一緒にカラオケに行ったらしくて、その時に二人のデュエットに点数が負けたから、家でも練習できるようにして欲しいって二人に頼んだんだって〉

 

(負けず嫌いなのか、残念さんなのかよく分からない……)

 

 のだが、僕はそういうところも含めて姉様の事が大好きだし、敬愛しているので僕は立ち上がるとロボ達が家カラオケの準備するのを待っている間に追伸で殴り書きのような、溢れ出る悲しみを抑えきれなかったような震える文字で"食べていいからね"と書かれていた姉様のお菓子コレクションから少しだけ拝借して、ジュース片手にテーブルに戻ってくるといつの間にかお立ち台みたいなものも出来上がっており、余りにも本格的で僕が戸惑いを前面に出していると半強制的にお立ち台の上へと押し出せては、どこから入手したのか分からないマイクを持たされ、ロボ達はそれぞれタンバリンやマスカラを手にするとニュースを流していたテレビがカラオケへと早変わりし、見知ったイントロが流れ出すので僕はあたふたと慌てながら、映し出される歌詞を見つめながら、大きく息を吸い込む。

 

Now praying for your painful cry… Fu-uh yeah…Fly

 

 

〜*

 

 一方、姉様達はというと家カラオケを始めた僕がいる学生寮にほど近いスーパーにて炭酸飲料やお菓子を袋いっぱい買っていた。

 姉様の傍らにはシラねぇとクリスお姉ちゃんがいて、心なしか上機嫌な姉様が炭酸が入った袋を振るうので鋭い注意が飛んでいる。

 

「おい、過保護。そんなに炭酸を振るんじゃねぇ!!」

「そんなに心配しなくても大丈夫デスよ、クリス先輩♪ それよりも早くみんなの所に向かいましょう! あーぁ、楽しみデスねっ。歌兎、あたし達のサプライズに喜んでくれるでしょうか」

 

 「フフフフーン」と鼻歌交じりにターンを決めたり、意味なくジャンプしたりしている姉様のはしゃぎっぷりにシラねぇとクリスお姉ちゃんは顔を見合わせると肩をすぼめてから姉様の後に続く。

 

 その後、三人はS.O.N.G.本部である潜水艦の中に入るとすれ違うスタッフの人に挨拶しながら、食堂の扉を開けた姉様はそこに集まっている人へと満面の笑顔を浮かべながら敬礼する。

 

「今日はあたしの妹のために集まってくれてありがとうございますデス!」

「翼さん、奏さん。マリアとセレナ。カルマもありがとうございます。お仕事のスケジュールをずらしてもらって」

 

 姉様の隣でぺこりと大人組へと頭を下げるシラねぇへと五人がほぼ同時に『気にしないで欲しい』と言うのを聞いた姉様とシラねぇ、クリスお姉ちゃんは其々の席に腰掛ける。

 

「それじゃあ、これから『暁歌兎びっくり仰天誕生日会』の話し合いをするデス」

 

 『暁歌兎びっくり仰天誕生日会』というのは、姉様と僕の誕生日が同じ事からついついどちらか……主に当日前からソワソワし始める姉様の方を壮大にお祝いしがちな為、僕にも姉様と同じようにお祝いしようと計画してくれたもので、姉様はその計画者の第一人者なので凄く張り切っているのだが……そんな姉様を見つめる周りのねぇや逹とお姉ちゃん達の表情は何処と無く落ち着かない。

 

「では、意見がある人はどんどん出して欲しいのデス!」

 

 再度立ち上がった姉様はパンと机を叩くと次々出てくる案を借りてきたボードへと書き写そうとした瞬間だった、言いにくそうにセレねぇが声をあげたのは––––。

 

「あ、あの……暁さん、一ついいですか?」

「およ? なんデスか?」

「歌兎ちゃんの誕生日プレゼントなんですが、実は私たちみんなで出し合って決まってるんです」

「デ?」

 

 セレねぇの衝撃的なカミングアウトに姉様が放心状態で見渡すと視線を向けられたねぇや逹とお姉ちゃん達が居た堪れないように首を縦に振るのを見て

 

「じゃあなんでみんな集まってくれたんデスかぁあああああ!!!!」

 

 と悲痛な叫び声を出してしまっても仕方ないだろう。

 

〜*

 

幾千億の祈りも やわらかな光でさえも 全て飲み込む 牢獄(ジェイル)のような 闇の魔性

 

〜*

 

 衝撃的なカミングアウトのショックから立ち直った姉様は買ってきた炭酸を飲もうとして、蓋を開けた瞬間 バァーーンッ!! と大きな破裂音が聞こえ、茶色い噴水が明るめの金髪から肩出しの黄緑色の長袖、その下に履いているスカートまでも濡らし尽くすとその場には涙目の姉様とそんな姉様の髪の毛を乾いたタオルで拭いてあげているクリスお姉ちゃんだ。

 

「……ほら見たことか。あんなに振るからだ……」

「ゔぅ……ベタベタの濡れ濡れデス……」

 

 シラねぇから新しいタオルを受け取った姉様は自分の身体を吹き、金髪を拭かれながら、小さく嘆息する。

 

(こんな調子で歌兎に喜んでもらえるのでしょうか…)

 

 という意味合いを込めて。

 

 

〜*

 

カルマのように

 

〜*

 

 バァーーンッ!! と姉様が自分が汚してしまったテーブルや周りをシラねぇ、クリスお姉ちゃんと協力しながら拭いていると先程聞いたばかりの破裂音が食堂へと響き、三人は目を丸くしながら音がした方へと視線を向けると姉様と同じように茶色い噴水を頭から被り、私服へと染み渡らせているカルねぇがいて

 

「カルマ。貴女、切歌のを見てなかったの……。今、炭酸を開けてはダメよ」

 

 カルねぇの隣に腰掛けていたマリねぇとセレねぇが呆れたような表情を浮かべながら、カルねぇの周りへと吹き飛んだ雫を乾いたタオルで拭き取っているのを申し訳なさそうな表情で頭を掻きながら、ささっと受け取ったタオルで自分の周りが汚したところを拭いてから、姉様のところへと歩み寄る。

 

「すまない。なんだか手元が狂ってね……切歌、一緒に着替えに行こうか?」

「デース……」

 

 カルねぇが差し伸べる手へと右手を差し伸べた姉様はギュッと手を握ると哀愁漂う背中を食堂に残る人達へと晒しながら、シャワールームへとカルねぇと共に向かったのだった。

 

〜*

 

賛美歌(キャロル)のような

 

〜*

 

 姉様とカルねぇがシャワールームへと向かって数分後、机の上や床を濡らした茶色い水溜が無くなり、片付けに勤しんでいたみんなが息をついた頃 バァーーンッ!! と見慣れた破裂音がまたしても食堂へと鳴り響き、みんながその音がした方へと振り返ると

 

「––––」

 

 そこには込み上げてくる怒りを抑え込んでいるようなキャロルお姉ちゃんが三つ編みにした金髪へと茶色い噴水を頭から被りながら、赤いワンピースを濡らしている姿で

 

「キャ、キャロル……?」

「マ、マスター……?」

 

 隣にいたエルフナインお姉ちゃんやオートスコアラーのお姉ちゃん–––但し、ガリィお姉ちゃんは笑いが抑えきれないようで笑っていた–––が普段のキャロルお姉ちゃんならしない失敗にびっくりしたように目を丸々にしながら自分を呼ぶので、キャロルお姉ちゃんは更に不機嫌な顔になるとギロッと隣を睨みつける。

 

「……なんだ?」

「ううん、なんでも。それよりキャロルも着替えてくる?」

「言われずともそうさせてもらう。こうもベタベタと身体に張り付いては気持ち悪くて構わん」

 

 心配そうなエルフナインお姉ちゃんから「ふん」とそっぽを向くと立ち上がり、ズカズカと不機嫌を表に出した足取りで食堂から出て行く。

 

〜*

 

強く 強く 戦う この胸に響いている (奏でるまま) この闇を越えて

 

 歌い終えた僕はぺこりと深く頭を下げるとパチパチとソファに並んで座って聞いてくれていたロボ達が拍手してくれるので、照れたように頬を朱に染めていると僕のその表情に気を良くしたのか、大きい姉様がマジックを滑らせながら新しいカラオケを流すのを聞いた僕は目をパチクリさせる。

 

〈今度はこれデス!〉

 

「…え? 一曲じゃないの?」

 

〈誰も一曲で終わりなんて言ってないのデス〉

 

(そ、そんなぁ……そんなの詐欺だ……)

 

 ガク……としそうになる僕は続けて鳴り始めたイントロに沿って流れる歌詞を見つめると一回は下ろしたマイクを口元に持っていく。

 

(でも、ロボ達が喜んでくれるならいいかなぁ……)

 

 カラオケをやめてもする事は無いし、何もせずに時間を過ごすよりかはロボ達と楽しく過ごす方が有意義だろう。

 

「すぅ……」

 

 そう考え、ロボ達が気がすむまでカラオケに付き合ってあげようと思った僕は息を大きく吸い込むと歌い始めるのだった。

 

〜*

 

 突然か必然か連続コーラ破裂事件の被害者になった姉様、カルねぇ、キャロルお姉ちゃんがシャワーを浴びて、新しい私服に着替え終え、自分たちの席に腰掛けると姉様がわざとらしく「ごほん」と咳き込む。

 

「気を取り直しまして、歌兎のプレゼントの案を出したいのデスが……みんな、もう決まってるんデスよね」

「ごめんね、切ちゃん」

「気にしないでほしいのデス。それよりもあたしが歌兎に何を贈るかなんデスよね……」

 

 申し訳なそうにするみんなへともう気にしてないと両掌をブンブンと横に振った姉様は困ったように机へと倒れこむ。

 

「それなら、切歌ちゃんが前に私に教えてくれたアレならどう?」

 

 名案と言わんばかりに右人差し指を立てながら、案を出す未来お姉ちゃんへと力無く机に伏せたままの姉様は左右に顔を振ると消え入りそうな声で答える。

 

「……アレならもうしちゃったんデスよ……」

「そっか。しちゃったんなら仕方ないね……」

 

 姉様と未来お姉ちゃんがシンクロした動きで力無く下を向くのを見て、みんなが案を考えようとしていく中、クリスお姉ちゃんのみが姉様と未来お姉ちゃんを交互に見て、ツッコミを入れるべきが入らないべきかで眉をヒクヒクさせている。

 

(あたしの勘違いならいいが、あの過保護があいつに提案した案って確か『自分の体にリボンをつけてから"もらって♡"って言いながらプレゼントする』ってバカげたものだったよな? それをあいつのみならず、過保護までやってたなのかッ!? しかも妹相手にそれをするってこの過保護の神経どうなってるんだよ!? 妹が大好きすぎるだけじゃ説明できないだろ!?)

 

 そこまで考えたクリス先輩は姉様の事ジィ–––––と見つめると心底呆れたような口調で呟く。

 

「なんでお前ってそんな大バカなんだ?」

「突然人をガン見してきたかと思えば、カイトウイチバンがそれってあたしに喧嘩売ってます? クリス先輩」

 

 その後、姉様とクリス先輩の間で乱闘が起きそうになり、その場にいる人たちで二人をなんとか宥めた後、次々と案を出して行くのだが、これといって決まる事がなく時間のみが刻々と過ぎていった。

 

〜*

 

「…ふぅ……」

 

 結局ロボ達に薦められるままに歌ったのは【不死鳥のフランメ】を皮切りに、姉様とシラねぇのユニゾン曲や他のねぇや達、お姉ちゃん達とユニゾン曲、その他にも僕が見ているアニメの曲を歌った。

 

(もう結構歌ったよ……)

 

 チラッと時間を見れば、もう夕方近くになっていて、カーテンが開いた窓から茜雲とオレンジ色に染まった空が見える。

 もう終わろうという意味を込めて、ロボ達を見ると四体がボードにあらかじめ書いてあった文字と

 

〈最後はこの曲を歌って欲しいのデス!〉

 

「…こ、これを……?」

 

 そこに表示された曲名に高速で首を横に振る。

 へ、やだ。そういう曲は僕のようなちんちくりん無愛想なのが歌うじゃなくてもっと正統派かつ可愛らしい……そうアイドルのような、シラねぇのような可憐な人が歌うからこそ曲が引き立てられるのであって……僕みたいなのが歌うと曲が汚れる。だから、いくら敬愛する姉様とシラねぇを象っているロボ達の頼みでもしない、ゼッタイ。

 

〈なんでデスか。歌兎ならきっと可愛く歌えるはずデスよ〉

 

 そういう問題ではない……いや、そういう問題もあるんだけど。

 僕が曲名よりも一番気にしてるのは君たちが持っている不穏な匂いがするその服であって––––

 

〈これデスか? いつか大好きな歌兎に着てもらうだと思って、こっそりあたし達で作った服デス! 喜んでくれましたか?〉

 

(や、やっぱり……)

 

 その服を着ながら、その曲を歌うなんて罰ゲーム並みに恥ずかしいし、したくない、ゼッタイ。

 なので、僕は俊敏にマイクをその場に置くと自室に逃げ込もうとリビングの扉へと向かうがそこは既に先回ししたロボ達により閉鎖されており、僕は狩人に追われる兎のように怯えたようにブラブラとその服と装飾品を揺らしながら、近づいてくるロボ達に眠たそう黄緑の瞳を潤ませ、首を横に小さく振りながら、懇願する表情を向ける。

 

「…い、いや……」

 

 何かに躓き、壮大に尻餅をつきながら、懇願する表情を浮かべながらも後ずさる僕は普段の僕とはかけ離れたもので、取り囲むロボ達のやる気を更に向上させてしまったようでリビングの壁に背中がぴったりとつき、もう逃げ場を失ってしまった僕が逃げられないように取り囲んだロボ達はニタニタと悪党のような笑顔を浮かべているようには僕には思え、ピクピクと震えている身体へと小さな丸い手が四つ添えられると僕の恐怖は最高潮となり、今恐らくシラねぇと楽しい時間を過ごしているであろう敬愛する姉の姿を思い浮かべながら、悲鳴をあげるのだった。

 

「ね、ねえ、姉様……た、たすけ、助けて……い、いやぁあああああああ!!!!」

 

 しかし、悲鳴は姉様へと届かず、懇願はロボ達へと届かず––––。

 抵抗むなしく僕の私服はロボ達が手により、みるみる脱がされていくのだった。

 

〜*

 

 無機質なコンクリートの小道がオレンジと茜色に染まる頃、S.O.N.G.の潜水艦から表情が浮かないままの姉様は首に巻いているマフラーをより一層強く巻くと大きなくしゃみをする。

 

「結局、歌兎のプレゼント決まらなかったのデス。……えっくしゅ」

「切ちゃん? 大丈夫?」

「頭からコーラ浴びたらデスかね。身体がすっかり冷えちゃったみたいデス」

 

 テヘヘ…とシラねぇへとはにかむ姉様はズルル…と鼻水を啜るのを見ていたクリスお姉ちゃんは何か言おうと唇を数回開けたり閉じたりした後に意を決したように仲良く手を繋いでいる二人の前へ向かうと頬を染めながら、提案する。

 

「そのまま帰っても風邪引くだけだろ。あたしんち来るか? 丁度、こたつが届いたし……………このまま、お別れとか味気ないだろ……」

「デデデ? クリス先輩、最後なんて–––––」

「––––––いいから。これからみんなであたしんちで鍋パーティするから来いって言ってんだッ!! 後輩からつべこべ言わず、先輩の言う通りにしろよなッ!!」

 

 顔を真っ赤に染めてから半ギレ口調で早口言うクリスお姉ちゃんの提案に顔を見合わせた姉様とシラねぇはコクリとうなづく。

 

「じゃあ、クリス先輩のお言葉に甘えさせてもらうデス」

「ぬくぬくおこた楽しみ」

「デスね〜♪」

 

 嬉しそうな表情の姉様とシラねぇからそっぽを向いたクリスお姉ちゃんが嬉しそうに笑うのを見て、奏お姉ちゃんはカルねぇとセレねぇの肩を抱く。

 

「それなら鍋の具材を買って来る担当はあたしとカルマ、セレナ。あと、偶には外の空気を吸うのもいいだろうし、エルフナイン、キャロルとオートスコアラーのみんなも手伝ってくれるかい?」

 

 『なんで俺がそんな面倒なことを……』とブツブツ文句を言っているキャロルお姉ちゃんは満面の笑顔を浮かべたエルフナインお姉ちゃん、そしてオートスコアラーのお姉ちゃんたちによって連れ去られ、奏お姉ちゃん達の姿が街の中に消えていくのを見送ったマリねぇは暫く心配そうな表情をした後に残ったメンバーへと視線を向ける。

 

「さて、残った私たちは切歌達の学生寮で大人しく留守番している歌兎を迎えにいく係になりましょうか?」

 

 その言葉に深くうなづいた残りのメンバーは僕が待つ学生寮へと向かうとガチャンと鍵を開けるとゆっくりと玄関を開ける。

 

「すっかり遅くなっちゃったので、歌兎心細くて泣いてないデスかね……」

「切ちゃんじゃないからそれは心配しなくてもいいような……ほら、リビングの方が電気付いてるし、歌兎の声も聞こえて来るよ」

 

 僕の長い間学生寮に置いてしまった事に後悔と罪悪感が溢れてきた姉様が垂れ目がちな瞳へと涙を溢れさせる中、シラねぇがボソッと辛口を言うと安心させようとリビングと廊下を隔てるガラス戸を指差す。

 確かに明るい穏やかな電灯の光が漏れ出るリビングのガラスからは僕の声も漏れ出ている。

 

「……良かった。歌兎、泣いてないようで……。頑張って、お留守番してくれたお礼にギュッてしてあげるのデス」

 

 ひとまず安心した姉様はリビングに続くガラス戸へと手を掛けるとガラガラと開いた瞬間、その場で時間が止まったように固まる。

 

「切ちゃん?」

「切歌ちゃん?」

 

 一ミリも動かすその場に硬直する姉様へと心配そうな表情を向けた後、黄緑の瞳の視線を辿った他のねぇや達、他のお姉ちゃん達も信じられない光景に目を見開き、口を僅かに開けてから硬直する。

 

 姉様とねぇや達、お姉ちゃん達が硬直する程の衝撃的な信じられない光景とは––––

 

ご奉仕メイドモードで 未来をキラキラChangin’

 

 –––––フサフサと電灯の光によって水色に光る銀髪へと垂れている白兎の耳が付いたフリルのあしらわれたカチューシャを可愛らしく揺らし、キャピ☆ キャピ☆ とアイドル顔負けの可愛らしい振り付けをしている華奢な上半身は胸元のボタンのところにフリルがあしらわれた半袖のシャツの上に胸元がパカッと開いた黒いベストの下に白い丸みを帯びたフリフリのエプロンで包まれ、両手首には白いフリフリが付いた手首までのブレスレットが嵌められており、軽やかなステップを踏む下半身には激しい動きが多いのか下にある白いフリフリが黒いミニスカートから見えてしまっており、恐らく角度によってはその下にあるものも見えてしまっていると思うから、そこから視線を足元に向けるとダンスをするので白いフリルがついたニーソックスがズレ落ちないように配慮してか白いガーターベルトが細っそりした柔肌を晒す絶対領域へとくいこんでおり、お立ち台のような場所を踏みしめているのは黒いファンシーな靴で…………直訳すると垂れ耳兎フリル満載のメイド服を着用した僕が可愛らしい曲に合わせて、キャピキャピ☆ と普段は眠たそうに半開きしている瞳を全部開けて、無表情へと満面の笑顔を貼り付けて、ノリノリでキレキッレの踊りと歌声を披露している姿なのだ。

 

「……私達は幻を見ているのか?」

「……私、疲れているのかしら?」

「み、未来。私の頬を抓ってからないかな?」

「い、一緒に抓ろう、響」

 

 最後列の翼お姉ちゃんとマリねぇは衝撃のあまり現実逃避を始め、その前にいる響師匠と未来お姉ちゃんはお互いの頬を抓りあって、目の前で起こっているのが真実であることを再確認している間にも僕はダンスと歌を歌う事に必死で姉様達が絶賛鑑賞中であることも露知らず、ソファに並んで腰掛け、花緑青(エメラルド)色のサイリウムを左右に振っているロボ達を見つめながら、踊り歌い続ける。

 

お気に召しますでしょうか? メイドのわたし…

 

 その場に腰を落とし、両手を合わせてから、上目遣いをする仕草を取る僕の姿に見て、謎の震えを起こした姉様はコツンと扉にぶつかり、鼻を押さえながら、プルプルと震える右手に端末を握りしめ、動画モードに設定しようとするのを寸前でクリスお姉ちゃんに止められる。

 

「……このプリティーエンジェルを写真と動画に撮っていいデスか? 今撮らないともう二度と撮れない気がするってあたしの中のお姉ちゃんレーザーが警告音を出してるんデス」

「おいやめろ、あのチビにあたしらが見ていることがバレるだろ」

 

 邪魔された姉様が暴れるのをシラねぇが宥めている中、クリスお姉ちゃんは冷や汗を一筋流す。

 

(お、おい……こんなの洒落にならないだろ……)

 

 メイドのコスプレをしながら、アイドル顔負けの可愛らしい振り付けと歌声をノリノリでしている姿を大好きな姉ばかりか知ってる奴に見られるとか地獄図でしかないぞ。

 もしも、今の僕の立場が自分だった場合、恥ずかしすぎて軽く二回は死ぬとクリスお姉ちゃんがその光景を想像して頬を真っ赤に染める中、強制的にメイド服を着せられ、

歌わされている僕は歌い始めた頃から羞恥心が麻痺しており、歌が終盤になり、これで解放されると思うと振り付けにも歌声にも力が入る。

 

ご奉仕メイドモードで 未来をキラキラChangin’ 大事なご主人様に お仕えしますLove ノイズの除去はYes お任せあれギコギコキュイーン Caution×2 ハートがキュン×2

 

 もう既に放心状態から解放した姉様とねぇや達、お姉ちゃん達は大人しく、僕のノリノリなダンスと歌声を聴く事にしたらしく、ウェイトレスがお盆を持っているようにマイクを持ってない方の手を動かすとリズミカルに片脚を動かす様子……詳しくはマイクを持ちながら、半開きでは全開きで満面の可憐な笑顔を浮かべている僕と最前列にいる姉様の垂れ目がちな瞳を交互に見つめながら、改めて気づいたかのように呟く。

 

「……改めて思ったんだが、チビとお前って本当に姉妹だったんだな」

「それどういう意味デスか!? クリス先輩ッ」

 

 "心外だ"と言わんばかりに頬を丸々に膨らませると怒ったように声を荒げる姉様を見つめながら、今度は翼お姉ちゃんがポロリと漏らす。

 

「……雪音の言う通りだな。改めてこうして見ると歌兎と切歌が姉妹であることが分かる」

「まさかの翼さんまでッ!?」

「……うん、クリスちゃんと翼さんが言いたいところ凄く分かる」

「……目を全部開くと垂れ目になるんだね、歌兎ちゃん」

「響さんも未来さんも酷いのデスよぉ!! そんな所確認しなくてもあたしと歌兎は血が繋がった姉妹デス!!」

 

 喚く姉様の声に被せるように最後のフレーズに差し掛かった僕はサイリウムを最後まで振ってくれたロボ達に向かって、投げキッスをするような振り付けをする。

 

ご奉仕タイム メイドメイドメイドモード Chu×2

 

 その振り付けのポーズで暫く待機した僕はロボ達が満足したようにサイリウムを振ってくれるのを見てから、大きく溜息を付いてから調子に乗って、激しく動いたことで肩からずり落ちているベストとめくれ上がっているミニスカートを直そうとして……そこで自分に注がれている複数の熱視線に気づき、オイルが切れたロボットのような動きでそちらに視線を向ける。

 

「か、帰ったデスよ、歌兎」

「う、歌兎、クリス先輩のお家で鍋パーティしよ」

 

 明らかに気を使っている生暖かい表情で声をかけてくる姉様とシラねぇ、そしてその後ろにいるマリねぇとお姉ちゃん達に見て、瞬時に"僕の人生終わった……"と判断した僕は

 

「にゃっ!!」

 

 と悲鳴を上げてから、更に終わらせないために自分のメイド姿を隠すように両腕をクロスさせてからお立ち台から飛び逃げるとカーテンに絡まる。

 

「う、歌兎……?」

 

 心配そうに近寄ってくる姉様達にプルプルと震えながら、耳まで真っ赤に染めてから震えた声でさっきまでの自分の行為を否定する。

 

「……ち、ちが……」

「ちが?」

「違うんです。さっきのはロボ達がどうしても見たいって言うからしただけであって、僕の趣味ではなくて––––」

「そんなの分かってるデスから、カーテンから出ておいで、歌兎」

 

 カーテンに絡まる僕は顔から湯気を出しながら、羞恥心でキャリーオーバーした思考で瞳をグルグルと渦巻きを浮かべながら、早口で捲したてる。

 その様子に良からぬ物を感じた姉様達が刺激しないように声をかけてくれる中でも僕の思考は正常じゃない方向へと突き進んでいく。

 

「––––そもそも、僕みたいなちんちくりんがメイド服なんて似合うわけなくて––––」

「そんなことないと思うよ、歌兎。だから、カーテンから……」

「––––なのに、メイド服を着てしまった僕は罰当たりなわけで––––」

「……お、おい、チビ……早まるなよ……」

「––––そんな罰当たりは自害して、罪を償わせていただきますぅううううううう!!!!」

 

 両掌で顔を隠して、玄関に向かって駆けていこうとする僕はその後、無事姉様達の手によって捕まり、クリスお姉ちゃんの部屋にて鍋パーティに参加することが出来たのであった。




ストーリー1は、マリアさんのホームボイスが余りにも素晴らしく、今丁度メインイベントをしているので主筆しようと思ったことが始まりです。

ストーリー2の最後のシーンは本当はうたすぎんのコスプレをして【とどけHappy うたずきん!】を歌っている歌兎を姉様達に発見してもらう予定だったのですが、うたずきん!の楽曲コードが見つからず……家族に見られて、恥ずかしいコスプレで可愛いのはどれかな〜ぁと考えた結果––––ごちうさのフルールラパンの制服を着て、【ご奉仕…メイドモード】を歌っている姿でした。
何故、フルールラパンにしたは垂れ兎耳カチューシャを揺らし、フリフリのメイド服を揺らしながら踊っている歌兎は絵にもなるし、可愛いのではないと思いまして……ガーターベルトを付けたのは自分の趣味で……ご奉仕…メイドモードの振り付けはライブにて南條さんが踊られたものに少しだけオリジナルを加えたものとなってます。

また、本作は楽曲と会話文を区別するために、曲を歌っているキャラクターのイメージカラーで表示することにしました。
例)歌兎なら水色。切ちゃんから緑。調ちゃんならピンク。


最後に、シンフォギアラジオ74回の熱い感想はまた後々に改めて書かせてもらおうと思いますが……まず言いたいのは、茅さんが来てくれて本当に良かった……(感涙)
貴重なお話、そして演じていらっしゃる切ちゃんへの愛のみならず……調ちゃん、南條さんへの気持ちと愛……F.I.S.組への深い思いと愛情が語ってくださったこと。
所々、切ちゃんを入れてくださるサービス精神と二言で快く一人きりしらをしてくださったこと……そして何よりも茅さんと切ちゃんをここまで大好きにしてくださった、出会わせてくださったこの【戦姫絶唱シンフォギア】という作品に感謝の気持ちしかありません。
心からのありがとうの気持ちと感謝の気持ちを持って、筆を置かせてもらいます。


追伸

前々から話題に上がっているXVの切ちゃん変身バンクが再生回数一位を維持していることを記念して、先程歌兎に見せた結果、余りにも刺激的なシーンが多かったようで顔が湯気を出して、フリーズしてました(笑)
なので、フリーズから覚めた後で『姉様と食べてね』と言って、ポッ○ーとプ○ッツを渡しておきました(笑)
二つとも美味しいですよね……(しみじみ)


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001 シュレンディンガーのキス~()~

更新遅くなりました……大変お待たせしました……(高速土下座)
6月の初めから高熱を出してぶっ倒れていましたが、体調もだいぶん良くなってきたので……亀のようにゆっくりですが、更新していこうと思っております。

今回から始まる【シュレンディンガーのキス】は【幾千のバットエンドを乗り越えて】の世界線での話となっています。
簡単にあらすじを書かせていただくと……本作の主人公・歌兎を含めた奏者達は"とある訓練"の為にS.O.N.G.が用意した訓練施設へと来ており、その訓練をしている最中にオートスコアラーの襲撃が起こり、交戦後にいつものように実姉である暁 切歌の背中でスヤスヤと眠りについている歌兎へと密かに想いを寄せているとある少女こと"その少女"とその少女が引き起こしてしまった"キス事件"がこの話のキーワードとなっております。

読者の皆様も歌兎と共に"その少女"とは誰なのか?を推理しつつ、シュレンディンガーのキスをご覧ください!

では、本編をどうぞ!!


 その日、その少女(・・・・)彼女(・・)を含めた全奏者達はとある訓練の為【 《S.O.N.G.》が用意した訓練施設へと来ていた。

 しかし、訓練の最中に新しい敵…オートスコアラーが出現し、交戦後にいつものように姉の背中でスヤスヤと眠りについてしまった彼女の年相応の無垢(むく)な寝顔をチラッと見てしまったその少女の胸の底にひっそりと育んでいた恋心が急速に実っていくのを感じた。

 

 訓練施設へと戻った奏者達は姉の背中でスヤスヤ眠りにつく彼女を労う声をかけるのを待ってから"うっこらしょ"とその場にピョンと飛んだ姉は左肩に顔を埋めて眠る彼女へと優しい眼差しを向けた後に奏者達へと視線を向けてからぺこりと頭を下げる。

 

「歌兎、疲れたようなので寝かせてくるデス」

 

 と頭を下げたことでズレ落ちてしまった彼女を落とさないように器用に抱っこし直した姉はトコトコと寝室まで歩いていき、彼女を抱っこしながら、布団を敷くとゆっくりと布団へと横たわらせて、水色が掛かった銀色の伸ばしっぱなしである前髪を手櫛で掬うとそのおでこへと唇を寄せるとチュッとリップ音を暗闇の中へと響かせた。

 そして、慈しむような眼差しをスヤスヤ寝息を立てている彼女へと向けた姉は微笑みながら、彼女のさらさらな髪へと手を差し込む。

 

「おやすみなさい、歌兎……しっかり休んでくださいね」

 

 その一言だけ伝えるとスクッと立ち上がり、彼女が眠る寝室を後にした。

 姉が寝室を後にした数時間後、彼女を取り囲むように部屋に集まっていた少女達が寝室を埋め尽くすように布団を敷き、其々何気ない会話の後に眠りについた。

 全員が眠りにつき、まん丸お月さんが灰色の夜空を優雅に泳いでいっている中、その事件は起きたのだった––––––––。

 

 

 

 今日の出動により、より一層彼女への想いを強めていったその少女は寝静まった寝室で一人起き上がると抜き足忍び足で彼女の布団へと歩み寄ると仰臥位(ぎょうがい)で健やかな眠りにつく彼女の下腹部へと跨がる。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 そして、穏やかな寝息を漏らす彼女の年相応に幼くも適度に整っている顔の挟み込むように両手をついたその少女は改めて彼女を見下ろす。

 僅かな光を灯す電灯に照らし出されたサラサラな肌触りが気持ちいい水色の掛かった銀髪はシーツへと円を描くように広がっており、彼女が寝返りを打つ度に緩やかな波を立ててはその少女を魅入(みい)らせては吐息を漏らす。

 

「ーー」

 

 暫し、銀髪に魅入っていたその少女は今度は彼女が身につけている寝間着へと視線を向ける。

 彼女は普段から"自分の事は時の流れに任せる"と"姉には絶対服従(ふくじゅう)"という不思議な性格の上に"自分の事よりも他人(ひと)の事が第一"という自己犠牲が周りにいる人に比べて多く備わっていた、故に彼女が今のような状況に陥っているのは必然ともいえた。

 

「んぅ…っ……んーーっ、ん……」

 

 ゴロンと寝返りを打とうとした彼女が今回身につけてもらった寝間着はどうやらいつものように彼女の姉が好んで着せている色んな動物がプリントアウトされた大きめなサイズのパーカーのようで、今回はレッサーパンダようだ。クリクリなまん丸な瞳の周りにはふわふわな真っ白と真っ黒、黄土色のボア生地で彼女の華奢な身体を包み込んでいる……そう、本来ならば包み込んでいるのだが……彼女はどうやら寝相というものが悪いらしく、彼女の臀部(でんぶ)の所まであるはずのダボっとしたパーカーはお臍の辺りまで捲れ上がっており、サイズが大きなせいで右肩からずり落ちた襟首からは小さな肩と鎖骨、膨らみかけの胸元が半分以上があらわになっており……その少女は自然と生唾を飲み込んでいた。

 

「……ごくり」

 

 細身なのにしっかりと筋肉がついた小さな肢体……シミやシワひとつない真っ白できめ細やかな肌へと思わず手を伸ばしたその少女は自身の掌から伝わってくる感触についつい我慢ができなくなってしまった……。

 今の今まで募らせていった彼女への小さな恋心はその少女が思っているよりも破裂しそうなほどに胸へと募っていたのだ。

 

 

 

 

––––––––––故にその少女は彼女の唇へと自分の唇をくっつけてしまったのだろう……。

 

 

 

 

「……んっ」

 

 最初に唇をくっつけた時は触れるか触れているか分からないようなもの……そして、続けてくっついた時は最初よりも長くしっかりと……その次からはべったりと小さな唇の形や瑞々しい感触を味わい尽くすように上唇、下唇を引っ張っては摘み引っ張っては摘みを繰り返す。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

––––心が、身体が熱くなってくる……

 

 彼女と唇をくっつけるたびに溢れんばかりの高揚感がその少女を襲うが……同時に多福感と罪悪感が溢れてくる。が、その少女は彼女の唇を奪うことをやめなかった。

彼女が眠っている時にもしかしたら初めてだったかもしれないファーストキスを奪ってしまったかもしれないという罪悪感よりも彼女とのキスで得られる多福感の方が優っていた。

 

「……んんっ、あむ、れろ…」

 

 圧倒的な多福感を貪り尽くすためにその少女は彼女の唇を奪い、遂には小さく赤い舌へと自分の舌を絡めていく。上下に絡めるのを延々と続ける。その度に彼女の唇の端からは涎が垂れては下に引いてあるシーツへとシミを増やしていく。

 

「……れろれろ、あむ……はぁ……っ、ん……っ」

 

 酸素が薄くなり、遂に唇を離したその少女は自分の唇から流れて汚れた頬を拭った後に涎で汚れる彼女の頬を慈しむように拭った後に今度ははだけた寝間着から覗く小さな膨らみへと唇を寄せるとパクリと滑らかな白い肌を咥え込み、続けて強い力で吸い付く……のを二箇所付けた後にジィ––––とアニマルパーカーのチェックを下までさげた後に左右へとはだけさせたことにより、半裸になった彼女へとその少女は同じように"赤いアト"を付け続ける……頬を赤らめ、胸に溢れてくる多福感に導かれるままに。




ということで、"その少女"とは誰なのかでしょうか?

と言いながらも全然情報がないですものね……(汗)
少なくとも今回の犯人は"姉様"ではないので、容疑者リストから除外してください(笑)

因みに、容疑者リストに載っているのは……

◆立花 響 ちゃん
◆風鳴 翼 さん
◆雪音 クリス ちゃん
◆マリア・カデンツァヴナ・イヴ さん
◆月読 調 ちゃん
◆天羽 奏 さん
◆セレナ・カデンツァヴナ・イヴ ちゃん
◆珠紀 カルマ さん

となっております。

この中の誰が"その少女"なのでしょうか?
"その少女"……この表現だけでも数名は除外できますね(笑)




最後に、今始まっているイベントやガチャについて語りたいのですが……あまり長く書くと目星をつけていらっしゃる読者の皆さんの邪魔になるので、簡単に述べますと……ここ最近の出る出るパワーにより翼さんがより多くうちの陣地に舞い降りてくれます!
本当にありがたい……(手を合わせる)

続けて、お知らせなのですが……来週から"うちあね"こと"うちの姉様は過保護すぎる。"は【毎週火曜日】に更新しようと思っています。あくまで予定なので、一日早かったり遅かったりとなると思いますが、変わらずに応援していただけると嬉しく思います!


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002 シュレンディンガーのキス-(しょう)~

火曜日の更新日には早めですが、お知らせしたいことがあり更新させてもらいました(敬礼)
お知らせは後書きの最後にて書かせてもらおうと思います!!

それでは、本編をどうぞ!!


「…ん?」

 

 薄暗かった寝室へと陽の光が差し込み始めた頃、僕は寝苦しさを感じて、薄っすらと目を開けるといつもの如く捲れ上がっている寝間着がわりの動物を(かたど)ったパーカーの袖を気怠げに両手で掴むと下へと引き下げようとする。

 

(…? なんだろ、これ。お臍のところに赤いのがある)

 

 体を起こし、ジィ––––と赤い所を観察してみると分かったことがいくつかあった。

 一つ、大きさは僕の親指くらいということ。

 二つ、どうやらこの赤いのはお臍以外にも胸元や鎖骨辺りなど様々なところにあること––––その二つが今の所分かっていることで、僕はもう一度よくよく見てみる。

 

(んー? 虫にでも刺されたのかな?)

 

 この季節は汗をかいたりする事から外に出るとよく蚊や虻に刺されて、家に帰ってそれを告げると血相を変えた姉様が虫刺され薬を塗ってくれるというのが一連の流れとなっていた。

 つまり、この赤いのも虫刺されということだろう……と結論づけてからというもの、さっきまで痒くなかった赤い所が痒くなってきて、そっと赤い所に触れてから爪を肌へと突き立てようとした時だった。

 

「駄目デスっ!」

 

 と大きな声が寝室に響き渡ったのは––––。

 

「…!?」

 

 ビクッと肩を震わせてから声がした方へと視線を向けると緑と白のシマシマから黒いブラジャーを覗かせるという露出度が半端ない大胆な寝間着に身を包んだ明るめの金髪に✖︎(ばってん)印の髪飾りが特徴的な僕の実姉である暁 切歌が険しい顔をして入り口に立っており、今まさに爪を立てようとしている僕を視界に収まるとズカズカと近づいてくる。

 

「歌兎、さっき何をしようとしてたの」

「…爪を立てて搔こうとしました」

 

 特徴的な"デス口調"でも優しく諭してくれる"敬語口調"でもない"タメ口"でのお叱りときて、姉様が本気で怒っていることを感じた僕はそっと赤い所から手を退けるとシュンと肩を落とし、観念したように今しようとしていた事を言うと「…はぁ…」と小さな嘆息が聞こえてくる。

 

「歌兎、いつも言ってるよね? 虫に刺されても掻いてはいけないって。歌兎はお姉ちゃんとの約束が守れない悪い子になってしまったの?」

 

 両肩へと手を置いて、塞ぎ込む僕の顔を覗き込むように見上げてくる垂れ目がちな黄緑色の瞳や怒声の中にも優しさを感じとり、僕のことを心配して本気で怒ってくれる姉様にこれ以上心配させてはいけないと素直に頭を下げる。

 

「…ごめんなさい…姉様…」

「分かればいいのデス。ほら、一緒に顔を洗いに行きましょう。その後に虫刺されに薬を塗ってあげるデスから」

「…ん」

 

 片足をついて中腰になって両手を広げる姉様へとトコトコと近づくと首へと両手を回す僕のお尻へと両腕を回す。

 

「しっかりつかまるデスよ」

「…ん」

 

 その場にピョンピョンと器用に飛ぶと僕を抱っこしやすいところへと微調整した姉様は朝に使う用にと小分けしている緑色の巾着袋を肩からかけるのを見て、その緑色の巾着袋に寄り添うように置かれていた桃色の巾着袋が無いことに気づいた僕は姉様へと尋ねてみる。

 

「…シラねぇ、もう起きてるの?」

「えぇ、セレナとマリア、未来さんに誘われて、少し外の空気を吸いに散歩してくるそうデスよ」

「…そっか」

 

 今回のお泊まり合宿で僕は左胸に埋めれている【メギンギョルズ】の能力を自分のものとしないといけない。

 

(…僕はいつだって未成熟で未完成で頼りない…だから、オートスコアラーに勝てないんだ)

 

 そんな事を考えているとギュッと急に抱きしめられて、いつの間にか下を向いていた顔を横に向けるとニコッと雲間から顔を覗かせているお日様のように暖かい笑顔を姉様が微笑んでいた。

 

「…姉様?」

「歌兎が居てくれるだけであたし達は助かっているんデス。だから、あまり無理しないでくださいね」

「…無理はするためにあるって前に姉様が言ってた」

「ありゃ〜、あたしってばそんな事を歌兎の前で言ってたデスか」

 

 "しまったデスね"と苦笑いする姉様から視線を前に向けると丁度目の前から桃色のフリルのついた白いゆったりしたTシャツに赤いホットパンツといった出で立ちのクリスお姉ちゃんの隣で大きな欠伸をしているお腹のところにひよこがプリントアウトされた橙のTシャツに短パンといった出で立ちの響師匠が並んで歩いていた。

 

「…ふわ〜〜ぁ」

「…ふわぁ……ちっ、バカの欠伸がうつっちまった」

「そんな〜ぁ。クリスちゃんが先に欠伸したのに!」

 

 前から歩いてくる二人へと小走りで駆け寄った姉様は右手を元気よくあげて挨拶するので僕も右手を上げて挨拶をする。

 

「先輩方グッモーニングデス!」

「…クリスお姉ちゃん、響師匠、ぐっもーにんぐです」

「おはよう、切歌ちゃん、歌兎ちゃん。こんなに暑いのに相変わらずだね」

「えへへ〜♪ 歌兎を守るのがあたしの役目デスからね。歌兎はさっき起きたばっかりなので寝ぼけて壁にぶつかってはいけないデスから。歌兎は抜けているところが沢山あるデスから、あたしが守ってあげないと」

「なるほど、寝ぼけているとついつい壁に行っちゃうよね。私も今日寝起きで壁に頭をぶつけちゃって、未来に手当てしてもらっちゃったよ」

「デスデス。あたしも今日壁にぶつかっちゃって、調とセレナに手当てしてもらったばかりデスよ」

 

 「あはは」と今朝の失敗談を笑い話にする響師匠と姉様を見て、頭を抱えるのはクリスお姉ちゃんだ。

 

「バカが二人で話がミキサーになってやがる」

 

(話がミキサーってなんだろ……あっ、ミキサーのようにぐちゃぐちゃになってるってことか!)

 

 "クリスお姉ちゃん語録"を自力で解明できたことが嬉しくて、クリスお姉ちゃんの方を見ると薄紫色の瞳の下に黒いものが化粧を塗ったようになっているのを見て小首を傾げる。

 

「…? クリスお姉ちゃん、眠れなかったの?」

「あ? どうして、そう思うんだ?」

「…だって目の下にクマが出来ているから」

「あっ、ほんとデス。クリス先輩、夜更かしは駄目デスよ」

 

 "チッチッチ"と舌を鳴らしながら、リズミカルに右人差し指を横に振る姉様を見て「はぁ……」と深く溜息をついたクリスお姉ちゃんは右親指で隣に立つ響師匠を指差す。

 

「…あたしが寝れなかったのは隣のバカが原因だ。真夜中だってのに大声でピーチクパーチク喋りやがって」

「だって、奏者のみんなでお泊まりだよ!? うら若き乙女達が集まっているんだよ!? 折角なんだから夜遅くまでお話ししたいもの」

「ああそうかい。あたしはお前の中ではうら若くないんだな」

「そんなこと言ってないでしょう。ねぇーってば、クリスちゃ〜ん」

 

 半泣きで抱きついて来ようとする響師匠をめんどくさそうに頬に手を置いて突っ張るクリスお姉ちゃんに頭を下げた僕と姉様はトコトコと洗面所に向かって歩き出す。

 そして、洗面所に着くと僕用に姉様が家からわざわざ持ってきた幼稚な台を引っ張り出すと僕を下ろすと台に乗るように言う。

 

「朝から先輩方は仲良しさんデスね。はい、歌兎。気をつけて、台に登ってくださいね」

「…よいっしょっと」

 

 台に乗り、両手を洗面台につくと後ろに回った姉様が巾着袋からやや乱暴に畳んで入れてあった防水エプロンをつけてもらってから姉様に髪の毛を結んでもらう。

 

「エプロンはこれで良しっと……あとは髪の毛が濡れないように髪の毛結びますね」

「…ん」

 

 寝癖が付いていた髪の毛を櫛で付いてもらってから、器用に姉様が僕を髪を結んでいく。その手慣れた手つきは恐らく僕やシラねぇの髪の毛を結ぶことがあるからだろう。

 

「えへへ〜、歌兎だけに兎さんヘアーデス」

 

 ジャジャーンと両手を僕の方へと向ける姉様の声に気づいて、櫛をといてもらう心地よさから半分寝ていた僕は目を擦ると鏡に映る左右に大きな団子が付いてある自分の姿を視界におさめると自然と頬が緩む。

 

「…可愛い。……姉様、ありがと」

「これくらいお安い御用デスよ!」

 

 ニカッと得意げに笑う姉様が見ている前でバシャバシャと顔を洗う中、扉を隔てた廊下側から次のような話し声が聞こえてきた。

 

「雪音、立花、廊下まで騒ぎ声が響いていたぞ。まだ寝ているスタッフの人もいるのだ、ここにいるのは我々だけではないとくれぐれも肝に命じてくれ」

「ごめんなさい…」

「すまねぇ…」

「分かればいい。どれ、私も顔を洗うとするか」

 

 クリスお姉ちゃんと響師匠に注意してから扉を開けたのは水色のカッターシャツに青いジャケット、白い短パンに身を包んだ翼お姉ちゃんで僕の顔をタオルで拭いている姉様に苦笑いを浮かべている。

 

「およ? 翼さん、グッモーニングデス」

「…翼お姉ちゃん、ぐっもーにんぐです」

「あぁ、おはよう、二人共。相変わらず仲がいいな」

「えへへ〜、歌兎はあたしがいないと駄目駄目デスからね」

「そうか? ま、切歌がそういうのならばそうなのか」

 

 鼻の下を人差し指でなぞりながらそう言う姉様のセリフに首をかしげる翼お姉ちゃんに不思議そうな顔をする姉様だったがあまり深く考えないことにしたらしく、使ったタオルとエプロンを巾着袋へと入れると台から僕を下ろす。

 

「台をここに直して……歌兎、お姉ちゃんのところにおいで」

「…ん」

「よいっしょっと。それでは翼さん、あたし達はこれで」

 

 ぺこりと頭を下げる姉様にタオルから顔を上げた翼お姉ちゃんがニッコリと微笑む。

 

「あぁ、朝ごはんの時に会おう」

 

 洗面所を後にした僕達は再び寝室へときていて、僕と合同の緑色のスポーツバックから自分と僕の私服を取り出した姉様はさっさと着替え終わると虫刺され薬を片手に僕の目の前に腰を落とすと万歳するように言う。

 

「はい、歌兎。バンザイデス」

「…ばんざい」

 

 両手を上に持ち上げるとすんなりとアニマルパーカーとその下に着ていたTシャツを脱がされて、上は花緑青色のブラジャーで下は短パンという姿になった僕の肌にある赤いところがどれくらいあるか数えてから困ったように眉をひそめる。

 

「ありゃ〜、これは前よりも酷いデスね。ここにも背中にもありますし…足のところにもあるってことはもしかしたら、下にもあるかもデスし…」

「…全部塗るの?」

「塗らないと痒いと思うデスからね…」

 

 虫刺され薬のキャップを取って、いよいよお臍の赤いところへと塗ろうとした時だった、静かに寝室の扉が開いたのは––––。

 

「帰りました」

「あら? 歌兎着替え中だったかしら?」

「切ちゃん。歌兎、蚊に刺されたの?」

「赤いところが沢山あるね」

「うちのも貸そうか」

「あたしものあるぞ」

「にゃっにゃ!?」

「…わっわっ」

 

扉の向こうから現れたのは、廊下ですれ違った三人以外のこの合宿に参加している奏者達で姉様は口々に話しかけてくるのを聞いて目を丸くさせていて、僕は忽ちその人影に埋もれていったのだった。




ということで、次回は朝ごはんの場面と訓練、 そしてお風呂シーンを書かせてもらおうと思います。

さて、今回の話で絞り込めた読者の方はいらっしゃったでしょうか?
因みに、カルマと奏さんは散歩をしている四人に後で合流したそうで、響ちゃんのガールズトークには未来ちゃんはもちろんのこと、調ちゃんにセレナちゃん、マリアさんと奏さん…クリスちゃん渋々付き合ったそうですよ(微笑)
本当は切ちゃんもガールズトークに参加する予定だったのですが、歌兎ちゃんを寝かしつけるのに子守唄を歌い、次第に自分も眠くなり、歌兎ちゃんと一緒に眠りについたようです。

また、みんながどんな風に布団を並べていたかというとーー

上の列・・・翼さん / 奏さん / 響ちゃん /未来ちゃん / クリスちゃん

下の列・・・カルマさん / 調ちゃん / 切ちゃん / 歌兎 / マリアさん / セレナちゃん

ーーとなってます。




明日から7月に入るということで、いよいよ【シンフォギアVX】が放送開始ということで【第1話プレミア上映会】がありましたね! 私は行けませんでしたが、もしかすると読者のみなさんの中では行かれた方がいらっしゃるかもしれませんね。行かれた方、大変お疲れ様でした!(敬礼)

また、VXも響ちゃん、切ちゃんに引き続き調ちゃんのジャケットのイラストが解放されましたね!
今回のジャケットはみんながカッコいいですね!! 凛々しい顔つきの調ちゃん、カッコ可愛くて好きです…(ジーン)
そして、B面…カップリング曲の【君が泣かない世界に】ってタイトルだけで泣きそうになります…(涙)
私、きっときりしらのカップリング曲で号泣すると思います…




さて、前書きにてお知らせしたお知らせなのですが……メインストーリーの方を書き直した後に他の章も同じように書き直します。
書き直そうと思った理由は色んな世界線を書いてきて、私自身も読者の方も訳わからなくなってきていると思いますし、私自身が何を書きたいのかがよくわからなくなってきてしまいまして…なので、一旦白紙に戻して、私が書きたいものを見つけていこうと思いますので…どうか、ご理解頂けると嬉しいです(土下座)


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003 シュレンディンガーのキス~(しょう)~

主筆の時間上、朝ごはんシーンしか書けませんでした…(大汗)

短いですが、楽しんでもらえると嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ!!


沢山のねぇや、お姉ちゃんたちの手により、体の至る所にあった赤い所に虫刺され薬が塗られ、僕が感じていた痒みもすっかり直り、再び姉様の腕に抱かれて、食堂へと向かっていた。

ガシッとさっきよりも抱きしめてくるのはきっと恐らく数分間の間だけど僕を他のねぇやたちやお姉ちゃんたちに弄ばれたからだろう。

 

(僕は弄ばれたって思わないんだけど…)

 

だがしかし、それはあくまでも僕の気持ちであって、姉様の気持ちではない。

ドスンと勢いよく椅子に座り、頬をまん丸に膨らませている姉様の右隣に腰掛けるのは僕で左隣に座っているのがシラねぇだ。

 

「切ちゃん、ごめんね…。みんな、歌兎の事が心配で仕方ないんだよ…悪気があるわけじゃないの、分かってあげて」

 

そう言って、日替わり定食Aのメインのおかずが乗っけてある藍色の皿からハンバーグを一口サイズに箸で器用に切り分けたシラねぇは左手を受け皿に隣にいる姉様へと「あーん」と差し出すと口を開けてパクリと食べた姉様はまだ怒りが収まらないのか、口を動かしながらも愚痴を漏らす。

 

「もぐもぐ…分かってるデスが、歌兎はみんなの妹じゃなくて、あたしの妹なんデス。なのに、あたしの前であんな風に歌兎をーー」

「切ちゃん、そんなに掻き込んだらむせるよ」

 

いつものように姉様とシラねぇが仲むずましく食事を取っているのを横目で見ながら、僕も目の前にあるエビフライ定食へと手をつけていく。

まずは小皿に盛り付けてある微塵切りにされたキャベツと人参に甘酸っぱいドレッシングがかかっているのを平られた後にメインであるカリカリに揚がったエビフライを口に含むとじゅわ〜りと甘みと油が舌に広がり、唇は油によってテカテカになってしまうのを紙ナプキンで拭こうとした時に不意に尿意に襲われてしまった。

 

(…あっ、トイレ行きたくなっちゃった)

 

ジッとしてたら大丈夫かなって思ったけどこれトイレに行かないとダメみたい…と判断した僕は隣でまだ頬を膨らませている姉様の膝の部分を人差し指と親指で詰まるとくいくいと自分の方へと引っ張る。

 

「あむ? どうしたデスか、歌兎?」

 

まるでハムスターのようになっている姉様へと「トイレに行ってくる」とだけ伝えて、付いて来ようとするのを止めてからスタスタとお手洗いへと向かう。

 

「…ハンカチはここにあるから…」

 

このハンカチでしっかりと手を拭いてから、トイレを出ようとした時だった…ドッシン、と誰がにぶつかったのは。

ぶつかった衝撃で軽く弾かれてよろめいた僕は慌てて頭を下げる。

 

「…ごめんなさいっ。僕、しっかり前向いてなくてーーいった」

 

僕がぶつかってしまった人は怒っているのか、下を向いている僕を壁へと押し付けると前を向こうとする僕の顔へと何かを掛けた誰かは何回も深く息を吸い込んでから、僕の唇へと柔らかくハリのあるものを押し付けてきたのだった。

 

「…んっ!?」

 

突然の事に脳が状況を処理が追いつかない中、掛けられた布の隙間から見えたのは谷間に隠れるように並んでいる二つのホクロだった。




という事で、何者かにまたキスされている歌兎ですが……犯人はどうやら【谷間に隠れるように並んでいる二つのホクロ】がいる人らしいですね。

因みに、この特徴は私が原作を観ていて、この子にそんなホクロがあったらいいなぁ〜と思って書いたものなので、もしかしたら原作と違うかもしれません(大汗)

なので、後少ししたら書こうと思っている【お風呂シーンにて犯人はこの子か!】と目星をつけていただければ嬉しいです!


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004 シュレンディンガーのキス~(しょう)~

ばんわー!

ギリギリ間に合った……(大汗)

案の定、文字数は少なめです。

それでは本編をどうぞ!!


目の前に人の気配を感じられなくなってから暫く経った頃、誰かに押し付けられた壁沿いにズルリとピンク色のタイルへと腰を落とした僕はさっきまで自分の身に起きていた事を受け入れられずに目の前の白い壁を茫然と見つめる。

 

(……プルってしてて……少し湿っていて……生暖かくて……そして、柔らかった……)

 

自分の唇をなぞり、さっきまで押し付けられていたものを思い出すとやっぱりあれは誰かの唇だったと考えられるだろう。

 

(でも、誰が僕に?)

 

自慢じゃないけど、僕は誰かに好意を抱かれるような立ち振る舞いをしてないし、台詞も言ってないように思い出せる限りではないように思える。思えるのだが、僕は数秒前までこの場所で壁に押し付けられた後に何かを顔にかけられて、軽く唇を押し付けられた後にペロリと上唇と下唇を舐められて、啄まれた。

 

(……初めて、あんなキスされた……)

 

その時の光景を思い浮かべるだけで顔が真っ赤になり、耳まで熱を帯びていく。

いつもは姉様に恥ずかしいけどおはようとおやすみにキスをおでこか頬にされたりしたりするくらいで誰かと唇でキスをした事ない。

 

(……そっか、さっきのが僕のファーストキスなんだ……)

 

ファーストキスという言葉自体に強いこだわりや思い出があるわけではないけど、言葉にすると何か込み上げてくるものがある反面、何故誰かがこんな事をしたのかが気になる。

 

「…!」

 

(そうだ! 僕の顔にかかっているこの布にさっきの人の名前が書いてあるかもしれない)

 

大急ぎで顔にかかっている布を手にとってみると薄い布生地の下の所に《暁 歌兎》と見知った名前が同じく見知った文字で書かれてあり、思わずガクと気を落としてしまう。

 

「……ってこれ。僕のじゃん」

 

折角誰かが反面すると思い期待していた分、呆気ない結果で終わってしまい、ついガッカリしてしまう。

恐らく、さっきの人とぶつかってしまった時に落としてしまったのを見ていて、拾ってくれたのだろう。

 

振り出しに戻ってしまった"僕にキスをした人探し"に他にヒントになるものはないかと首を捻って考えていると廊下の方から叫び声が聞こえてくる。

 

『……う〜ぅ! 歌兎! 何処デスか〜ぁ!!』

 

(姉様?)

 

常日頃から耳にしている特徴的な"デス口調"を壁越しに耳にして、眉をひそめているとギィ……とドアが開く音が聞こえ、ひょっこり顔を出すのは明るめの金髪に大きな✖️(ばってん)印の髪飾りを付けたうちの姉様で垂れ目がちな黄緑色の瞳を忙しなく動かした後に壁にすがって床に座っている僕を見て、みるみるうちにニコニコ笑顔が曇りだしていく。

 

「歌兎、発見デス! ってあれ? トイレの床に座ったりして具合でも悪いんデスか? ハンカチを握りしめたりして……」

「…ぁっ」

 

しまった、さっきまでの出来事を考えるのに夢中ですぐに立ち上がることが出来なかったと後悔しつつ、スクッと立ち上がった僕はポンポンとお尻を叩くと薄っすらと涙まで浮かべている姉様を納得させられるような言い訳を考える。

 

「…なっ! なんでもないの」

「なんでもないならなんで床に変わってるんデスか……っ」

 

声まで涙声になるのを聞いて、考えるよりも口から飛び出たのがーー

 

「…これはその…少し疲れちゃったから…休憩してたの」

 

ーーという苦しまみれの言い訳だったのだが、姉様は安堵の溜息をついてから、胸をなで下ろす。

 

「そんなんデスか。なら早くお姉ちゃんを呼んでくれたら良かったのに」

 

淡く微笑みながらそう言う姉様は僕に向けて両手を広げると近づいてくる僕を抱き上げてからそのままトイレを後にすると食堂へと舞い戻ると僕を椅子に座らせると隣に腰掛けてからエビフライ定食の器を触れてから僕を見る。

 

「すっかり冷めちゃったデスね、温めてもらいますか?」

「…んん。僕が早く食べなかったのが悪いんだからそのまま食べる」

 

零したから服が汚れるということでエプロンを付けてもらってからモグモグと冷めてしまった定食を食べていく中、僕はまだ食堂に残ってからご飯を食べているお姉ちゃん達とねぇや達を見ていく。

 

僕が食べている席の斜め前に腰掛けて、食事するのは未来お姉ちゃんと響お姉ちゃん、クリスお姉ちゃんでどうやら未来お姉ちゃんは既に食べ終わっており、まだ食べている響お姉ちゃんとクリスお姉ちゃんが食べるのを待っている様子だ。

 

「もう、響もクリスも早く食べないと訓練に遅刻しちゃうよ」

「うっぷ……クリスちゃんが帰ってくるのが遅いからっておかわりするんじゃなかった……」

「お前、どんだけおかわりしたんだよ」

「んーとね、確かこれで5杯目だったと思う」

「お前馬鹿だろ!? おかわりで富士山築いてどうすんだよ!? おかわりで世界遺産狙うつもりか!?

 

目の前で山盛りのご飯を片手に「えへへ」と笑う響お姉ちゃんに呆れ顔のクリスお姉ちゃんの二つ席空けてから向かい合うように座り、食事を取っているのがマリねぇとセレねぇだ。

 

「セレナ、大丈夫? トイレから帰ってきてから顔色が悪いわよ」

「え? そ、そんなことないよ。マリア姉さんの見間違いだよ」

「そうかしら? 頬が真っ赤よ。熱があるのかもしれないわ、おでこをどしてごらんなさい」

 

そう言って、マリねぇがセレねぇのおでこを触るところを見てから、僕も早く食べないと特訓に間に合わなくなると心早足で定食を掻きこむ。




さりげなくヒントは潜ませておくスタンツで今週の土日のどちらかでお風呂シーンを書ければと思います!

お待たせしてしまい、すいません……(大汗)


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005 シュレンディンガーのキス-(しょう)~

今まで【転話】で表示していたのを全部【承話】に変更しました。
理由は【承話】を歌兎視点での話、【転話】を犯人の少女の視点にしようと思っているからです。

また、今回もお風呂までいけませんでした、次回こそは絶対いくのでもう暫くお待ちを。
お風呂までいっちゃったら、一万いきそうなんだ……


僕の左胸に人工的に埋め込まれた"聖遺物《メギンギョルズ》"は"神力の倍増"という特性を持っており、その特性を僕の願いによって変換させたのが、"触れたものの適合数の倍増と個人の力の倍増"だ。

しかし、この力も無限に使えるというわけではなく、どういう原理かは不明なのだが、僕が眠りに落ちてしまうと力が弱まってしまうのだ。その特性を見抜いた錬金術師やオートスコアラーはまずは僕の排除から入る節があり、僕が今回身につけないといけないのは能力の使いすぎによる疲労に慣れることと眠ってしまってもメギンギョルズの能力を維持することだ。

 

今日の訓練を終え、タオルで首筋や二の腕を拭いているとヘトヘトな様子で姉様が僕に近づいてくると身を屈めて心配そうに見上げてくるのを淡く微笑んでむかえる。

 

「ふぅ……今回もハードだったのデス……。……歌兎は大丈夫デスか?」

「…訓練が効いてるのか、まだ全然眠くないよ」

「そうデスか。頑張ってますね、歌兎」

「…へへ」

 

なでなでと優しい手つきで髪の毛を撫でてもらっているとその様子を遠くで見ていたカルねぇが髪の毛をタオルで拭きながら近づいてくると僕の左胸をチラッと見てから尋ねる。

 

「そういえばさ。ふと気になったんだが、歌兎のメギンギョルズは今纏っているギア以外にも纏う事が出来るのか?」

「…出来るよ」

 

ボソッとではあるが即答した僕の答えが聞こえなかったのか、カルねぇが否定的なことを言うのをただ黙って聞いているとカルねぇの顔が徐々に歪んでいき、僕を二度見した後に素っ頓狂な声を上げるのをクスクスと笑う。

 

「そうだよな。そんな簡単にホイホイ他のギアが纏えたらーーって出るのかよ!?」

「…やっぱりカルねぇのノリツッコミは面白いね」

「ぽわわんと笑ってないで説明をしてくれ」

 

顎に人差し指を添え、眉をひそめながらなんとか自分が体験していることを説明しようとするが僕はあまりこういう説明は向いてないようだ。

 

「…んー、僕自身も深いところまで理解しているわけじゃないけど。僕がメギンギョルズの力を使うときは触れた人の脈動、そして聖遺物から僅かに発せられる脈動を感じ取っているの」

「にゃ? にゃう?」

「…聖遺物の脈動とその人の脈を重ね合わせることによってギアを纏えているのだけど……それを具体的に説明しろと言われるとよく分からない。了子お姉さんは確か、アウフ……ヴァッヘン……波形……? を僕が無意識のうちに感じ取っているからそんな荒技使えるとかなんとか……。んん、アウフヴァッヘンは聖遺物か破片が歌の力に反応した時に発生させるエネルギーだから……ん? ならこの説明で合ってるのかな?」

「…ゔっぅっ……」

「…!?」

 

さっきまで隣で難しい顔をしていたと思っていた姉様がいつの間にか垂れ目がちな黄緑色の瞳に涙を溜めて、ワンワンと泣いていた。

その様子に壁際で桃色のタオルで全身拭いてスポーツドリンクを飲んでいたシラねぇが血相を変えて飛んでくる。

 

「切ちゃんっ!? どうしたの?」

「あたしが知らないうちに歌兎はこんなに立派に成長したんだなぁって思うと涙が止まらなくって」

 

飛んでくるシラねぇに抱きついた姉様はシクシクと鼻を鳴らすのを呆れ顔を浮かべて見下ろしたシラねぇはナデナデと姉様の頭を撫でる。

 

「えぇ、そうね……。立派になったものね、あんなに小さかった歌兎もすっかり大きくなって……いつお嫁に出しても大丈夫だわ」

「お嫁さん!? それは駄目デスッ。マリアが良くてもあたしが断固拒否させてもらいます! だって、歌兎はまだ小さくてあたしが守ってあげないといけないのデス! マリアだってセレナをお嫁さんに出すの嫌デスよね?」

「……。…………確かにそれは嫌ね」

「もう、マリア姉さんも暁さんもしっかり歌兎ちゃんの説明聞かないと駄目ですよ」

「セレナの言う通りだよ、二人とも」

 

(あはは……)

 

うちの姉様とマリねぇは通常運転の様子でカルねぇはカキカキと頭をかくと眉をひそめる。

 

「うちもだけど誰一人として分かってない感じだな。切歌に至ってはなんか泣いてるし……って、マリアもかよ!?」

 

キレキッレなカルねぇのツッコミが炸裂する中、僕は左胸をチラッと見てから僅かに目を瞑り、もう少し無理をしてみても大丈夫だと判断してから小首を傾げてから尋ねてみる。

 

「…僕は口下手だから。実際にやってみたほうがいいと思うの」

「おいおい、大丈夫なのか? さっきまでメギンギョルズを使用して眠たいんだろ」

「…カルねぇ、ありがとう。今は本当に全然眠くないから大丈夫だよ」

 

本人がそう言っても副作用となる眠り……その間、ギアが纏えなくなる装者達のことを考えると自分の疑問なんて些細なものだと思いはしたが、やはり気になるのか、風鳴司令を見るカルねぇに司令はニカッと笑う。

 

「ま、いいんじゃないか? 歌兎くんがやる気の様だし、我々もメギンギョルズの新たな能力を知ることができて助かるしな」

「でも、終わった後は私のところに来てちょうだいね、歌兎ちゃん。メギンギョルズの進行も気になるから」

「…わかりました」

 

ヒラヒラと白衣を翻して、シミュレータ室を後にする了子お姉さんの後を追うのは司令で恐らく外から今から行われる出来事を見守ってくれるのだろう。

 

(…なんか緊張してきた)

 

"出来るとは言ったものの実際にした事はないのだ、もし心配してしまったならばここにいるねぇや達やお姉ちゃん達をがっかりさせてしまうかもしれない"と顔が強張る僕を勇気付けようとしてくれたのか、ドッシンと体当たりしてくる響師匠をよろめきながら受け止めた僕へとニッコリ微笑む。

 

「歌兎ちゃんなら大丈夫だよ。なんたって私の自慢の弟子だからね」

「もう響。それだと歌兎ちゃんにもっとプレシャーを与えてどうするの!」

「あっ!? ごめんね、歌兎ちゃん。私はそんなつもりはなくてね」

 

アタフタと顔に薄っすらと汗を出しながら、なんとか弁解しようとする響師匠をジィと見ているとポンポンと頭を撫でられる感触を感じて見上げるとニカッと笑う奏お姉ちゃんの姿があり、今だに心配そうな顔していたのか、ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でる。

 

「歌兎は歌兎のいつもしていることをやればいいんだよ……って事を言いたかったんだろ? 響」

「そうです、奏さん! ありがとうございます!」

「あはは、いいっていいって。それで誰がするんだ?」

 

辺りを見渡す奏お姉ちゃんに両手を上げて、ぴょんぴょんとアピールするのがうちの過保護な姉様だ。

 

「はいはーい! それならあたしが一番目をやりたいデス! それでセレナのアガートラームを纏ってみたいデス!」

「え? 私のアガートラームをですか?」

「はいデス! 剣が宙を浮いて、ビューンって飛んでいくのカッコよくてずっとやってみたんデスよ!」

 

戸惑っているセレねぇの両手をギュッと握ってから身振り手振りでセレねぇの技のモノマネをする姉様の隣を通り過ぎて、何故か頬を赤く染めてさっきギュッと握られた手を見ているセレねぇへと近づくと両手を差し出す。

 

「…セレねぇ。少しだけアガートラーム貸してくれる?」

「え? はい、いいですよ」

「…ありがと」

 

ニッコリと微笑んで、アガートラームの破片が入っているペンダントを手のひらに置いてくれるのをぺこりと頭を下げてから姉様へと振り返る。

 

「…姉様、僕の身体のどこでもいいから触れてくれる?」

「デース!」

 

嬉しそうにドッシンと体当たりしてきた姉様のニコニコ笑顔を真横に感じながら、苦笑いを浮かべながら言う僕は姉様はチッチッチと指を横に振る。

 

「…えーと、普通に手を握るだけでもいいんだよ?」

「ノンノン。あたしにとっての普通はこれデスよ? 歌兎もお姉ちゃんを全身で感じられて嬉しいデスよね? お姉ちゃんは嬉しいデスよ」

「…あーうん、そうだね」

 

(どうしよ、姉様の愛が時々強すぎて……反応に困る)

 

とりあえず、答えにくい事を聞かれたらスルーしようと心に決めたから左手にアガートラームのペンダントを握りしめると右掌を姉様へと差し出す。

 

「じゃあ、姉様。僕の右手に掌を置いてくれる」

「こうデス?」

 

キョトンとしながら、僕の言う通りに掌を乗せてくれる細っそりした指へと自分の指を絡めてからギュッと握ると目を瞑ってからアガートラームから伝わってくる波動と姉様の鼓動を掌から感じ取ろうと必死に神経を研ぎ澄ませていく中、モジモジと小さな声が右耳から流れ込んでくる。

 

「…そんな……指と指を絡めるなんて……お姉ちゃん……嬉しいデスけど……反応に困るデスよ……あ、でも積極的な歌兎も……いいデス……」

 

(…どうしよ、姉様が煩くて集中出来ない)

 

苦笑いを思わず浮かべそうになり、ブンブンと首を横に振る。

駄目駄目、こうやってすぐに心を乱してしまうから、僕は未熟なままなんだ。しっかり集中すれば、僕はなんだって出来る。出来るようになるためにこれまで練習してきたのだから、だからもう一度集中しよう。

 

「すぅ……」

 

深く息を吸い込み、右手から伝わるドクンドクンと姉様の鼓動を覚え、続けて左から僅かに伝わるアガートラームの波動を左手から感じ取り、二つの鼓動で似ているところを探していくとそこからゆっくりと照合していく。

 

(…一つ目の照合クリア。二つ目もクリア、三つ目もクリア。四つ目はーー)

 

ひたいへと薄っすら汗を掻き、息を早めていく僕に姉様が心配そうな視線を送り、これ以上負担をかけるわけにはいかないと右手を抜き取ろうとした時だったーー僕が右手と左手を合わせるようにして、アガートラームのペンダントと姉様の右手をくっつけたは。

 

「……Seilien coffin airget-lamh tron」

 

小声でセレねぇが口にしているアガートラームの聖詠が無意識で姉様の口から流れると眩しい光が姉様を包み込み、忽ち真っ白いギアを纏った姉様が姿を現わす。

セレねぇと違うところを述べるならば、ティアラがあった場所にちょこんと乗っかっている大きな✖️(ばってん)印が印刷させている帽子と白というよりも淡い黄色の面積が多く、右腕を包み込む銀色の部品が禍々しく所々とんがっており、あと何故か両手にゆる〜くカーブした短剣を持っている事だろうか。確か、セレねぇは重そうに短剣を一本だけ持っていたと思うのだが……ってこれ以上頭を使ったら眠たくなってしまう。

 

「って、あれ? あたし、アガートラームを纏えちゃってるデスゥ!?」

 

垂れ目がちな黄緑色の瞳をまん丸にして、驚愕する姉様を見届けてから大きく息を吸い込んでからどこか壁に縋れる所を探そうと動こうとした時には脚がもつれ、そのままタイルへとダイブしようとした所をひょいと支えられ、そのまま抱っこさせる。

 

「…ふぅ……なんとか上手くいった。……あっ」

「おっと……お疲れさん、歌兎」

「よくやったわね、歌兎」

「…もうくすぐったいよ、奏お姉ちゃん、マリねぇ」

 

ゴシゴシと頭を乱暴に撫でられ、目を細めていると血相を変えた姉様が走ってくると奏お姉ちゃんに抱っこされている僕を心配そうに見上げる。

 

「歌兎!」

「…僕なら大丈夫だよ。姉様が剣をピューンってするまでは眠らずに頑張るから」

「あまり無理しちゃダメデスよ。あたしはアガートラームを纏えただけで満足デスから」

「切歌、歌兎の頑張りを無駄にするものではないぞ」

 

ポンと姉様の肩を叩くのは今まで事の成り行きを見守っていた翼お姉ちゃんで姉様は尚も食い下がろうとするが息を吸い込み、一旦落ち着いてから早く技を出す事で僕を解放することに決めたらしく、ギュッと両手に持っている短剣を握りしめるとその場でブンブンと短剣を振るうと手に持っているのをジッと見てからボソッと呟いた。

 

「ナイフデース」

 

ガクッと装者のみんながなるのを不思議そうに見ている姉様へと駆け寄るのはセレねぇで

 

「暁さん、それはナイフじゃなくて短剣ですっ」

 

と間違いを訂正すると姉様は頭を照れたように掻くと掌に握っている緩くカーブしている短剣を見下ろす。

 

「なるほど、ナイフではないんデスね。確かに大きさが違いますもんね」

「それで切歌。ギアの出力はどうだ?」

 

訪ねてくる翼お姉ちゃんに姉様は苦い顔をすると首を横に振ると自分の体を見下ろす。

 

「…少し重たいデスね。やはりあたしはイガリマじゃないとダメなようデス」

「…多分、それは僕があまりアガートラームの波動をインプット出来なかったからだと思います」

「インクがプッと飛んでいく?」

「バカは黙ってろ」

「酷いよ、クリスちゃ〜〜ん」

 

泣きそうな顔をする響師匠をクリスお姉ちゃんはフッと鼻を鳴らす。

その様子に淡く微笑んでから、さっきの説明の続きを言う。

 

「…インプットっていうのは記憶するってことなんです。セレねぇのアガートラーム、響師匠のガングニール、翼お姉ちゃんの天羽々斬、クリスお姉ちゃんのイチイバルは僕の力があまりなくても、弱点となっているところの倍増だけすれば良かったのであまり深く形を覚えてなくて……その事が姉様が感じているギアの重さだと思います」

「つまり、もう一度じっくりと私たちのギアから発せられる波動を覚えこむ事が出来れば、重さを感じる事なく纏う事が出来るということか?」

「…そういう事です」

コクリと首を縦に振ると得意げに鼻を鳴らす姉様にクリスお姉ちゃんがげんなりしている。

 

「えへへ」

「…なんで過保護が得意げなんだ」

「あたしの妹が宇宙一可愛くて賢いのが誇らしいのデスよ」

「ああ、そうだな。お前は残念だけどな」

「クリス先輩、それはあんまりデス! あたしだってやれば出来るんデスよ!」

 

プンプンと頬を膨らませて怒る姉様はその後、セレねぇに教えてもらったりしながら、念願だった剣をピューンとする技を出す事が出来て、僕はそれを見届けた後にゆっくりと瞼を閉じたのだった。




GXのラジオ9と10をリピートする中で『ナイフデース』の一言に大変惹かれまして、何としても切ちゃんにそのセリフを言って欲しかったので書いてみました(笑)






さて、ここから先はAmebaさんで13日に鑑賞させてもらったシンフォギアVX1話の感想を書かせてもらおうと思います!
早い方なら2話を見ているからネタバレがんがんしていいよね? もうガンガン、自分の思っている事書くからね!? なので、 途中で気分が悪くなった方は高速スクロールしてください!!
私は自分でいうのもアレですが、変態で視点が他の人とズレてますので……気分を害させる方がいらっしゃれないか心配です……(大汗)
心配なのですが、どうしてもエロに全力で走ってしまうのが律乃というこの私なのでどうか許してください!!


という事で、まずは初めから新キャラ登場の上に『すまない、フィーネ……』のセリフが意味深でしたよね……。
そのシーンで私が気になったのは『システム・オール・グリーン』でしたね……どうも『システム』というセリフを聞くとどうしてもSAOを思い出してしまう(笑)

続けて、一気に北極での話となりましたが……ヘリでの移動中に寒がっているのが元気印が似合う響ちゃんと切ちゃんだけだったのがなんだか可愛かったです。あと最初の「デース」を頂きましたッ、大変可愛くニヤニヤしてしまいました…ありがとうございます!!
このヘリのシーンで個人的好きなのは、髪の毛をかきあげている調ちゃんなんですよね……そして笑いがこみ上げてしまうのが、マリアさんの凛々しい立ち姿……なんで笑っちゃうんだろうな(笑) そういえば、一話鑑賞会の時にもマリアさん立ってたよね…あれは後ろの人には邪魔だよね(笑)

棺の事を話している時のシーンの切ちゃんが可愛すぎでしょう!? 前屈みで目がいつもよりもまん丸で…頭をカキカキしてるし……『常識人には酷な事聞かないでほしいのデス」ってまだ常識人設定を引っ張っているのか!? 切ちゃんっ!! 君はもう常識人じゃないだろ!!? もう色々と漏れ出ているんだよ!? というツッコミを入れてしまいそうにもなりますが、やはり切ちゃんは可愛い……ほんと可愛い、ハァーーッ、こんなカワイイ生き物が居ていいんでしょうか(悶え死)
あと、このシーンの調ちゃんって切ちゃんよりは少ないかもしれないけどペチャパイじゃなかったよね? あの影の入れ方はある方だよね?(たまに現れる変態)

あと、翼さんとマリアさんは最初から飛ばしすぎでしょうっ!? 名言と迷言のオンパレードでニヤニヤが止まらないですよ!!?

また、ヘリから飛び降りる時、みんなは顔からダイブしているのに切ちゃんだけで脚から飛び降りてましたよね!!(ハイテンション)
一瞬映る切ちゃんの顔のドアップが可愛すぎてテンションがマックスになりました!! 私はここまでたどり着くまでに何回も切ちゃんに可愛さでdeathされていることか……切ちゃんを推し続けてよかった…(喜びに打ちひしがれる)

その後は響ちゃんの変身バンクでしたよね!!!!
これ半端なくてヤバイですね!!!!!!
もう無印〜AZXの良さがここぞとばかりに入ってしましたよね!? ガングニールが作り出した空間(?)でカンフーをする響ちゃんがカッコよすぎました!!
私の小説を読んでいらっしゃる方なら知ってると思うのですが、私はマフラーが……マフラーを巻いている子が大好きなのです!! なので、口元にかかるマフラーを鬱陶しそうにクイッと下に下げる仕草にはテンションが上がり、悶えましたね!!

また、スケートシーンもいいですよね!!
響ちゃんの後ろを滑る調ちゃんと切ちゃんがクロスしてからの技をする時……んーと、ここの切ちゃんは『やっ』と言ってるのかな? それとも『にゃっ』? どっちを言ったのかな??

ともかく、ここの戦闘シーンは六人の連携がいい味を出してますよね……今までは二課チーム、F.I.Sチームでの連帯感は確かにあったけど、六人でここまで息のあったシーンはなかったよな……なので、かなり新鮮でしたね。

同じくスケートシーンでは、調ちゃんの後ろにいた切ちゃんがクルッとターンしてからの一連流れはいかんでしたね(興奮しすぎて鼻血を抑える)
調ちゃんを抱きかかえてのピョーンと自分の肩に乗せるんだよ!? ザババの二人の連携とイチャつきは大変いいです………(尊さを噛みしめる)

また、翼さんの技からの響ちゃんとマリアさんのあの名セリフを言ってから拳を棺へとたたきこむのはテンションが120%になりますね!!
しかしその後の棺からのビームに氷漬けになって倒れてしまう装者のみんなからの日常シーンからの未来ちゃんの『私が誰かを困られていたらどうするの』のシーンは意味深でしたね……(大汗)

北極に行く前のミーティングで『氷漬けにされた蠍』で思ったのが、オリオン座の事。
確か、オリオンはなんかの神様の息子で巨大で腕の立つ狩人でその事を自慢して回っていたらしく、その事で女神の怒りに触れたオリオンが巨大な蠍の毒に刺されて亡くなったという神話なのですが……オリオンというとAZXにて地面に書いた鏡写しのオリオン座が現れていましたよねってことは………と考えてしまいました。ま、私が直感で思った事なので外れる事の方が多いと思います(笑)

その後は現在の北極のシーンに戻り、氷漬けにされてイナバウアーしてる切ちゃんに笑っちゃいました。口を開けて気絶している姿は可愛いのに、仰け反っているせいでエロく感じる……いや、私の目が悪いのか(ゴシゴシ)
しかし、その後の戦闘シーンの鎌をブンブンしている切ちゃんはカッコよかった(余韻を噛みしめる)

また、エルフナインちゃんの「ぶん殴ってください」からの響ちゃんの「言っている事よく分かりません」のやり取りは新鮮でしたね…。
あの短時間でここまでのことをやってのけるエルフナインちゃんはほんとに成長しましたね…!!

また、水中戦の「だとしてもッ」からのクリスちゃんの「焦るな…焦るな…焦らせるな」からの棺を狙い撃ちは汗水流れましたねっ。流れているというのに、何故か切ちゃんの水着(?)のシマシマ部分に視線がいってしまう私はつくづく変態だなぁ……と(笑)

あと、狙い撃ちして撃破した後にマリアさんに抱きついている切ちゃんが可愛すぎて鼻血が出ました……だがしかし、切ちゃん……ここはマリアさんでなく調ちゃんでは? いや、切ちゃんって末っ子属性強そうだし……そういう面でのママリアさんなのか?(悩)

また、Cパートでミイラになっていた謎の人の名前がエンキさんという事が判明しましたね!!
恐らく、今後エンキさんが物語に関わっていくのでしょうね……いやー、二話が楽しみだな!! チラッと公式サイトの予告編見てきましたが切ちゃんが変顔してました……しかも、その変顔の画像押したら揺れるんですよ!? 他のは揺れないのに(笑)
その下はなんか鎌を構えてるし……切ちゃんって良くも悪くも先輩方の影響を受けてますよね…微笑ましい…。

最後に途中で流れた六人曲【六花繚乱】の中に気になるワードが入っていたので、早くフルで聴きたいですね(微笑)

では、中々と感想を書いてしまいすいませんでした(土下座)間を空けずに次回を更新しようと思っており、更新した後はその週の更新日はお休みしようと思います。ご理解の程をよろしくお願いします(敬礼)


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006 シュレンディンガーのキス~(しょう)~

一話で終わらそうと思ったら、思ったよりも筆が乗ってしまった……(汗)

ということで、皆さんお待ちがねの……いいえ、お待たせしてしまったお風呂回の前半戦です!

作中にて登場する装者のみんなのホクロ場所は私のオリジナルとなっております。

それを踏まえた上で……本編をどうぞ!!


眠りの海原の上にプカプカと浮いている僕の身体を右、左、右、左、と心地よいリズムで波が揺らすのに任せ、身体に広がる優しい暖かさ……そう、まるで木漏れ日のような温もりへと縋るように自分の方へと手繰り寄せながら、僕はスヤスヤと深い眠りへと付いていた。

 

「……う、歌兎」

 

そんな眠りの中、上下の揺れと共に見知った声が聞こえ、ゆっくりと意識が覚醒していく。

 

「…ふぁ?」

 

まず目に入ったのは、襟首が黒く、肩が✖️(ばってん)型に露出している黄緑色の長袖でそこから顔を上げると寝起きの僕へと雲の隙間から優しい光を大地に注ぐ太陽のような優しい笑顔を浮かべている姉様が出迎えてくれる。

 

「おはようございます、歌兎。お風呂についたデスよ」

 

涎が垂れていたのか、僕の頬を拭った後にキョロキョロと辺りを見渡している僕へと小首を傾げる。

 

「…え……でも僕、了子お姉さんにメディカルルームへと顔を出せって」

「その用事ならさっき済んじゃったデスよ。了子さんの質問にしっかり答えていたのに、あの時からもう寝てたんデスか?」

 

"困った子"というようにクスクスと笑った姉様は僕を深い桃色の絨毯に静かに下ろした後に辺りを素早く見渡してから入り口付近の横に設置してある団欒コーナーに設置してある紙コップ式の自販機で水を押して、水が入った紙コップを僕へと差し出すのを素直に受けると紙コップへと唇を付けてからゴクゴクと程よく冷たい液体を体内へと取り込む。

 

「はい、さっきまで寝てましたからね」

「…ありがと、姉様。…ごくごく」

 

使った紙コップは自分でゴミ箱へと片付けてから、トコトコと豪快に私服を脱いでいる姉様の隣で僕もゆったりと私服であるパーカーのファスナーを下へと下ろしてから肩から外して、目の前にある籠へと入れると続けて、Tシャツを脱ごうとして、隣にいる姉様に話しかけられる。

 

「歌兎、一人で出来そうデスか?」

「…ん、できーー」

 

隣を向いて答えようとした時には既に上半身を脱ぎ終えていた姉様がいて、僕は半裸状態の姉様に絶句する。

 

「ーー歌兎?」

 

絶句する僕に心配そうな表情を浮かべる姉様の顔を見ることが僕には出来なかった。

理由は露わにされた上半身で……僕には似ても似つかぬ同い年の人よりも大きな実りをつけた双丘が織りなす谷間から視線を下に下ろすと細身なのに日頃の訓練や毎朝のランニングによりしっかりと縦線に割れた筋肉に同性で家族なのについ見惚れてしまう。

 

(だがしかし)

 

前々から思ってたけど、姉様って全然プニってなんていないよね。過去の姉様がやらかしてしまった数々が綴られ、イガリマによって歌にされたアレの一節には"プニったお腹も"的な事を言っていたものがあったけれども……。

 

(縦に線が入ってるんだよ!? しかもこんなに細っそりしている上に少し身動きするだけで揺れる大きな胸まで……)

 

なんかイラってしてきた……。

 

「ちょっ……歌兎っ!? なんでいきなり、あたしのお腹を突つくんデスかぁ!? やめっ……本当にやめて……擽ったいって……っ」

 

姉様のお腹に両手を添えて、摘んでみても僅かに肉が挟めるくらいでこれは脂肪ではなく皮ではないだろうか? こっそり僕のお腹も触ってみたけど僅かどころじゃなかった……。

 

「…摘んでもほんの少し。これでプニっているなんて可笑しい」

 

これでプニって太っているって認識されているのなら、僕なんて子ブタさんじゃないか。胸も成長期に入っているかすら分からないし、身体つきは華奢とか言われているけど……簡潔にいえばスットンだよ? 何も凹凸もないから病衣着た時に虚しくなるんだよ!? なのに、姉様ときたらーー。

 

「な、なんで怒ってるのっ? 歌兎」

「…怒ってなんてない。姉様が贅沢者だから戒めてるの」

 

そう言いながら、くびれの部分やお臍の辺りへと指先を這わせて、むにむにと姉様の皮を摘む。

 

「いまし……って本当に擽ったいのっ。やめっ……歌兎ってば」

「こら、歌兎。切歌が困ってるだろう、やめないか」

「…翼お姉ちゃん」

「珍しいな、姉妹喧嘩なんて」

 

右肩を後ろへと引かれて、トンと柔らかいものにぶつかり、凛々しい声が聞こえて上を見上げると普段はサイドテールにしている青い髪を下ろして、胸元にタオルで隠している翼お姉ちゃんが見下ろしており、その後ろから赤いロングヘアを揺らして僕たちへと近づいてくる奏お姉ちゃんがいる。翼お姉ちゃんの助けにより僕の擽り地獄から逃れられた姉様は息を整えながら、今だに怒っている様子の僕に困惑している様子だった。

 

「はぁ……はぁ……、あたしは喧嘩しているつもりはなくて……よく分からないデスが、歌兎がいきなり怒ってきたんデス」

 

そのセリフを聞いて、青い瞳と赤い瞳がこっちを見ているのを感じて、頬をプク〜と膨らませるとふて腐れたように理由を言う。

 

「…姉様が贅沢者だから戒めてたの。世の中には僕みたいなちんちくりんもいるんだから。安易にプニってるって言葉を使って欲しくない」

「にゃ?」

「…くっあははっ」

 

僕の動機に姉様は黄緑色の瞳をまん丸にし、奏お姉ちゃんに至っては数秒フリーズしてからお腹を抱えて笑い出す。

 

「奏っ。歌兎は真剣な話をしているんだから笑うべきではないわ」

「いやー、可愛いもんじゃないか。要は歌兎は切歌のプロポーションが羨ましくて嫉妬しているだけなんだろ? 歌兎の年頃なら誰だって悩む可愛らしい悩みじゃないか」

「そういうことなのか?」

「………」

 

プイと無言で横を向く僕に奏お姉ちゃんの言っていることが肯定である事を察した翼お姉ちゃんは微笑ましそうに僕の頭を撫でると奏お姉ちゃんと共に浴室へと颯爽と入っていた。

翼お姉ちゃんから預けられた僕の目の高さを合わせた姉様は今だに不機嫌な僕に頬をかくと優しい口調で話しかけてくれる。

 

「ねぇ、歌兎。お姉ちゃんは今の歌兎の身体つきでもいいと思うよ」

「…ちんちくりんなのに?」

「ちんちくりんなんてことないデスッ! 歌兎の小さくて腕の中に収まるサイズがあたしは大好きで毎日抱きしめてないと悪い夢見てしまうほどなんデスよ! それに小さいからなんだっていうんデスッ! 小さいなら小さいなりの良さがあるってもんデスッ! そう、例えば 自分の手でそだーー」

「ーー姉様、もういいっ。もういいからっ。姉様の熱意も愛も伝わったからそれ以上はやめよ」

「妹にドン引き気味に止められ、諭されたデスっ!?」

 

喚く姉様の目を真っ直ぐ見つめると騒いでいた声も小さくなっていく。

 

「…いつか、姉様のようになれるかな?」

「なれますとも! もしかしたら、あたしよりも素敵な女性になってるかもしれませんよ」

 

ニカッと笑う姉様につられるように薄く笑うと残りの私服を脱ぐと姉様に手を繋がれながら、浴室へと入っていく。途端、垂れ目がちな黄緑色の瞳と眠たそうに半開きしている黄緑色の瞳がだんだんと大きくなっていく。

 

「ふわぁ……」

「…大きい」

 

浴槽は温度毎に分かられているようで、恐らく右端にある小さな円が一番温度が低く、そこから左側に行くにつれて円も温度も上がっていくと仕様なのかもしれない。

 

「まずは身体を洗いますよ。椅子に座ってください」

「…ん」

 

ゴシゴシと前を洗っている間に背中を洗ってもらい、頭を洗ってもらった僕はさっき迷惑をかけてしまったお詫びとして姉様の背中をゴシゴシと誠意を込めて洗い、髪をザザッと洗った後に円が小さな浴槽に向かって歩き出す。

 

「タイルが濡れているんで騒いだりしたらメッデスよ」

「…ん」

 

手を引かれるように浴槽に近づいて分かったことは円周は椅子のようになっており、円の真ん中はその一段下がった場所にあるようだった。

 

「…シラねぇとセレねぇだ」

「あ、本当デスね」

小さな円に近づくとそこには既に先客がおり、一人は長い黒髪を後頭部でお団子にして白い肌をほんのり赤く染めているシラねぇで、もう一人はそのシラねぇの隣に座り、茶色の髪をシラねぇと同じくお団子にして肩へとお湯をかけているセレねぇだ。

 

「隣にお邪魔するデス」

「…おじゃまします」

 

と歩いてきた方向から近かったセレねぇの隣へと断りを入れてから腰を落とした姉様とその膝の上にちょこんと座る僕を交互に見てからセレねぇとシラねぇが話しかけてくる。

 

「暁さん、歌兎ちゃんのメディカル終わったんですか?」

「えぇ、さっき終わったのでお風呂に入りにきたんデスよ。でも、あまり長くお湯に浸からない方がいいかもしれないデスね……。歌兎、さっきまで寝てたので」

「そんなんだ。なら、あまり長湯しない方がいいかも」

「…さっきお水飲んだから大丈夫」

「大丈夫じゃないから言ってるデスよ」

 

トンッと頭へと手刀を落とされ、頭を抑えた僕はそこからは姉様へと身体を預けて、湯にゆっくりと浸かることで疲れを取っていく。

 

そんな僕をギュッと抱きしめながら、姉様は楽しくシラねぇとセレねぇと他愛ない会話を交わしていく中、僕はふと気になるワードを見つけてしまう。

 

「調の二の腕のところ、ホクロがあるんデスね」

「え? どこ?」

「ここだと思いますよ、月読さん」

 

(……ホクロ?)

 

その三つの文字がなんで、こんなにも気になるんだろう……。

 

考え事をしていく中、段々と顔が水面へと下がっていく僕に構うことなく、姉様達の話とスキンシップは続いていく。

 

シラねぇの左二の腕にホクロをつんつんと指で突くセレねぇによってホクロの存在に気づいたシラねぇは驚いたような顔をする。

 

「こんな所にあったんだ。気づかなかった」

「分かりにくい所にありますもんね」

「そういうセレねぇは鎖骨の下にあるんデスね。小さくて可愛いデス」

「ホクロが可愛いってなんだか複雑です」

「なっ!? そういう意味で言ったわけじゃなくてデスね……」

「なら、そういう切ちゃんにはホクロないの?」

「あたしデス? あたしはどこにあるんでしょうね?」

 

シラねぇに尋ねられ、自分の身体を見下ろす姉様と同じように僕も水面に映る僕自身の顔を……正確的には僅かに空いている桜色の唇越しに朝の出来事を思い出そうとしていた。

 

(あの時……トイレでハンカチを顔にかけられて、"誰か"にキスされた時……僕はキスをしていく際に身動きをして僅かに動いたハンカチの隙間から"胸元に隠れるように並んでいる二つのホクロ"を見たはずだ)

 

そう、ホクロ。

 

なんで今まで忘れていたのだろう、そのヒントをッ!

そして、今こそそのヒントを元に"僕にキスをした誰か"を探し出すベストタイミングじゃないかっ。

 

「…!」

 

"こうしては居られないッ"と姉様から突然立ち上がった僕に楽しく雑談していた仲良し三人娘はピタリと動きも会話も止めて、僕をまじまじと見上げてくる。

 

「歌兎? どうしたデスか」

 

と沈黙を破った姉様の質問に僕は頬をかくと二番目に大きい浴槽の方へと視線を向ける。

 

「…折角だから、全部の浴槽に入ってみたいなぁ〜って思って」

「そうなんデスか。でも、浴槽は逃げないんデスから……そんなにあわてなくてもいいのに」

 

クスクスと笑う姉様と"あまり長湯しない・姉様が呼びにきたら素直に上がる"の二つを約束してから、僕は真ん中に位置する浴槽へと近づいていく。




完全に銭湯感覚で書いちゃったけど……S.O.N.G.が用意した施設ならありそうだよね? いや無いのかな………(不安)

上の歌兎ちゃんが切ちゃんに襲いかかるというよりもプロポーションに嫉妬するシーンは私が歌兎ちゃんの立場なら間違いなく嫉妬するなぁと思い、書いたものです。
彼女も思春期の女の子ですからね……他人のプロポーションと自分のを比べて、もっと成長したいと思うことがあると思うのです。
なのでね、嫉妬歌兎と切ちゃんとのやりとりが思った以上に楽しすぎて筆が進んでしまい、二つに分けることになりましたが……思春期の女の子ならではの可愛い悩みを入れてみました(笑)


最後に、明日7/17にいよいよ切ちゃんのキャラソンと水樹奈々さんのXVのOPが発売されますね!!!!(うおおおおおおおおおッ)
どちらも是非ゲットして聴きまくりたいものです!! というよりも切ちゃんのキャラソンは予約しているので、色んなところで聴きまくろうと思います(ニヤニヤ)

また、遅くなっちゃいましたが……XVキャラソンのクリスちゃんとマリアさんのジャケットイラストがかなり前ですが発表されましたね!!!
クリスちゃんの横顔かっこよすぎで、凛々しい顔立ちのマリアさんもかっこよすぎでしょう……(ジーン)
そんなかっこいいお二人のカップリング曲がね……特にマリアさんのがヤバい……(既に涙目)

私、響ちゃんのカップリング曲【キミだけに】でも号泣したのに……(滝涙)


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001 1129(いいにく)チケット~お誘い~

【狂愛章】は鋭意制作中ですので、もう暫くお待ちください(土下座)
また、狂愛章で【リメイク版】も鋭意制作中なので楽しみしててもらえると嬉しいです! (敬礼)

今回の話は大変わたくし事なのですが、11月29日に特別な事がありまして……その特別な事と切ちゃんの好きな1129(いいにく)を記念いたしまして、作成させていただきました次第です。

内容は至って簡単。切ちゃんと歌兎が肉料理を食べて食べて食べて食べて食べまくる話です。
今回の話はその食べまくる前で……その………大変お見苦しいのですが、切ちゃんの妹愛が大変爆発しております。先に謝ります……うちの過保護な姉様が大暴走してしまってすいません(高速土下座)

お見苦しいところがたくさんあると思いますが、最後まで読んでもらえると嬉しいです。

それでは本編をどうぞ!!


「おめでとうございまーーす!!!」

 

 赤いハッピを着たおじさんはそう言って、右手に持ったベルを陽気に鳴らしながら、口をあんぐり開けているあたしの両手へとトアルモノを乗っけたのだった。

 

「……一生分の運をこれに使い果たしちゃった気がするのデス」

 

 トボトボと肩を落としながら帰路に着く中、あたしは両手の上に乗っかってある金ピカと光っている神々しいチケットへと力無く視線を落とす。

 金色の表面にはデカデカと銀色の文字で"1129(いいにく)"と書いてあり、その下に小さな黒文字でそのチケットの利用方法が書かれている。

 ⑴このチケットは1129(いいにく)の日を記念して作られたものです。なので、このチケットは11月29日でしか使えません。

 ⑵このチケットを翳す事で、全ての店舗での料理が無料になります。

 ⑶このチケットを利用出来る人数は1〜5名。

 ⑷直ち、無料になるのは肉が入った料理か肉料理のみ、他の料理は自腹となります。

 上の文章をあたしなりに説明を解読してみると、この金ピカチケットを翳せば商店街のどの料理屋さんに入って、肉料理をたらふく食べてもタダになるという事だろう。

 

「……はぁ……」

 

 なんで、そういう時に限って、みんな用事があるんデスかね……。

 普段のあたしなら喉から手が出るほど欲しいと思うトンデモチケットをゲットしても浮かない顔をしているのは、そのチケットが使える日である11月29日に装者のみんな全員に用事があるからである。響さんと未来さんは二人でどこかにお出かけで、あたしが一番に誘いたかった調はそんな二人に誘われているらしく一気に三人✖︎(ばつ)となり、凹むあたしは次に誘いたかったセレナに連絡してみるもその日はマリア、翼さん、奏さん、カルマという大人組共にショッピングの予定がありごめんなさいと申し訳なさそうに断られ、残ったクリス先輩には「その日はバイトだから、無理だ」と素っ気なくあしらわれた。

 

「……はぁ……、他に誰か一緒に行ってくれる人居るデスかね?」

 

 流石に一人で商店街肉料理巡りツアーなんて虚しすぎる。想像しただけで泣きたくなるくらいだ。

 なので、なんとしてでもあと一人11月29日に見つけ出さねばッ!! と意気込むあたしはガチャンと学生寮の扉を開けると廊下に響くほどの大きな声をあげる。

 

「ただいまデーース!!」

「……」

 

(あれ? 誰も居ないんデスかね?)

 

 そう思って、玄関に並べられている靴を見ると最愛の妹の靴のみが左端にちょこんと丁寧に並ばれていて、あたしは眉を顰めつつ、"うたうのへや"というプレートが掛けられているドアを一応ノックしてから入る。

 入った瞬間、目に入るのはシングルベッドがある。濃い藍色の皺一つないように広げられたシートの上には小さな兎のシルエットがプリントアウトされている濃い藍色の布団と無地の水色の毛布が丁寧に畳まれ、枕元の方にはあたしとマリアが世話を焼いてあげて買ってあげた本と絵本がO型とは思えないほどに几帳面にあかさたな順に並べられている。足元にはあたしがいつも下着や私服、パジャマを出したり、畳んでいれたりしている木製の箪笥(タンス)が鎮座してあり、その前には木製の壁掛けフックがあってそこには私立メディアン音楽院中等科の制服と帽子が立てかけられている。箪笥の左横、ベッドの足元には木製の勉強机があり、そちらもあたしと同じ血が流れるとは思えない几帳面に整理整頓が教科書やノートが置いてある小さな本棚が普段なら(・・・・)あるのだが、その本棚を隠すように花緑青色と黒を基調としたヘッドホンを両耳につけて真剣な様子でタブレットとゲーム機の画面を見ている妹へと近寄りながら、小さく嘆息する。

 

(はぁ……まったく、この子は……)

 

 嘆息してしまった理由は歌兎の部屋自体が彼女自身の性格を反映させており、最初に部屋に入った時はぽつーんとベッドのみが置かれており、あたしもマリア達も失笑したものだ。

 あたしの妹は生まれた時から物欲そのものが皆無(かいむ)というか……欲そのものが無く、性格自体も自分の事は時間の流れや周りに任せるという自分に関して無関心すぎるのだ。

 

(そんな歌兎が中学校に通うようになって、貯めたお小遣いでゲーム機を買ったり、出来た友達とショッピングに出掛けたりするようになったのは大きな進歩といえますね)

 

 実際、本棚にも友達に借りたのかオススメされたのか、あたしやマリアが買い揃えた覚えのない漫画やゲームの攻略本が取りやすい欄に並べられてあった。

 

「何をしてるんデスか? 歌兎」

 

 なので、自分よりも他人の方が大事な自己犠牲の塊である歌兎に出来た友達が、その友達が歌兎にどんなものをオススメしているのか、姉として純粋に気になるのだ。

 

「…!?」

 

 トンと小さな肩に両手を置いたあたしをビクッと肩を震わせた歌兎は怯えたようにゆっくりと振り返った後、叩いたのがあたしとわかった瞬間、強張っていた肩から力を抜くとタブレットを指で突いて、流れていたアニメを一時停止してからヘッドホンを肩へとかける。

 

「…姉様、おかえりなさい」

「ただいま。それより何をしてるんデスか?」

 

 歌兎の手元を覗き込んでみるとあたしに見やすいようにゲーム機とタブレットの二つの画面を動かしながら、何をしていたのかを説明してくれる。

 

「…友達に見てみてってオススメされたアニメを見ながら、オススメされたゲームしてたの」

 

 そう言って淡く微笑む歌兎の向こうにあるタブレットには夕陽に照らせた教室に大人しそうな雰囲気を持つ白銀の女の子が居て、恐らくこのアニメの主人公なのだろう。

 

(ん"んん"ッ!?)

 

 目を見開くあたしが問題視しているのはその主人公の女の子が怯えたように窓へと追い詰められた上に中性的に整った別の女の子へと顎をクイッとさせてから後寸前で唇を奪われるところまで来ているし、歌兎の手元にあるゲーム機に銀色の髪の少女が別の女の子へと女たらしのようなセリフを吐いている。

 

(……オススメさせたゲームもアニメもやけに百合百合しいデスね)

 

 そ、それに……アニメやゲームの主人公も何処と無く歌兎に似てません? 物大人しそうな雰囲気も一見すると人形のように思える人間離れした可憐さも歌兎っぽいですし……歌兎に声をかける前に僅かに聞こえた主人公の女の子が怯えた声も歌兎の物静かな声に似ていたし……。

 

(これはあたしのお姉ちゃんレーザーにビンビン反応してますよ)

 

 恐らく、歌兎にこのアニメとゲームをオススメしたのも同じ子であるはずだ。それに歌兎に似た子が主人公を務めるのをオススメしてきたという事はーー

 

(ーーつまり、その子は歌兎に好意を抱いている)

 

 そして、ゆくゆくはあたしの大切で目に入れても痛くないほど可愛くて可愛くて可愛くてたまらない歌兎をアニメとゲームと同じような展開で頂くつもりではなかろうか!?

 

(ぐぬぬぬ……そんな事絶対許さないのデス)

 

 あたしの目が黒いうちは……いいや、目が黒くなくなったって……あたしの大切な歌兎を何処ぞの馬の骨にやるわけがないのデスッ。

 決意を新たに、アニメとゲームを歌兎へとオススメした友達ことクラスメイトを見つけ出して、歌兎にアニメやゲームと同じ展開をしようとしてないか訪ねたうちに違うなら解放、そうしようとしているのならば死なない程度に締め上げる……もう二度と歌兎に近づかないように。

 

「…僕の用事は言ったけど、姉様の方は? 僕に何か用事があったんじゃないの?」

 

 そう言って、見上げてくる歌兎の眠たそうに開かれた黄緑には乙女がするべきではない表情で笑うあたしの表情があり、瞬時に表情を引き締めると悪魔を象った緑色のパーカーのポケットに入れてあった金ピカチケットを歌兎へと見せつける。

 

「今日、抽選でこれが当たったんデス」

「…これってチケット?」

 

 ニッコリ笑顔のあたしから金ピカチケットを受け取った歌兎は興味深そうにデスクライトに照らしてみたり、ひらひらと折ったり曲げたりしている姿をかあいい……とデレデレになるあたしはいけないいけないと首を横に振ってから黒文字で書かれているところを指差しながら、ダメで元々で訪ねてみる。

 

「はい。11月29日しか使えないチケットなんデスけど、その日って歌兎空いてます?」

「…んー、少し待ってね」

 

 端末を操作して、カレンダーを暫く見てから電源を切るとうっすら微笑む。

 

「…空いてるよ」

「なら、お姉ちゃんと一緒にお肉食べに行きましょうか?」

 

 歌兎の目線に膝へと両手をついてから前のめりで尋ねるとコクリとうなづく何処か嬉しそうにうなづく歌兎に心底ホッとする。

 

「…うん」

 

 良かった……これで一人で商店街を練り歩くという地獄図を体験しなくて済む。

 そう、あたしは地獄図を体験しなくて済むという事に重要視しすぎていて、最も重要するべき事項が頭からすっかり抜けてしまっている事を……。

 

「…僕以外にはシラねぇ達や他のお姉ちゃん達もくるの?」

「残念ながら、その日はみんな用事があるみたいなんデスよ」

「…そうなんだ」

 

 残念そうに表情を暗くさせたかと思うと金ピカチケットへと落としていた視線を上へと向けると淡く微笑む。

 

「…なら、11月29日は僕と姉様で二人っきりなんだね」

 

 上目遣いで見上げてくる歌兎が何気なしに言ったセリフの一部に片眉がヒクヒクとなる。

 

 え? へ? 歌兎、さっきなんて言ったの?

 11月29日はあたしとなんだって言った?

 二人っきりって言ったよね?

 言い間違えじゃなければそう言ったよね?

 

『僕と姉様で二人っきりなんだね』

 

 歌兎と二人っきり……

 

 二人っきり………

 二人っきり…………

 二人っきり……………

 二人っきり………………

 二人っきり…………………

 二人っきり……………………

 二人っきり………………………

 

 ………二人っきりッ!? 歌兎と二人っきり!!!?

 

「…ね、姉様?」

 

 思えば、最近お互いに部活や訓練などで忙しくて二人っきりでお出かけをしたことはなかった。ずっと昔は何処に行くのにも二人だったというのに。トイレに行く時も食事に行く時も寝る時だって……。

 

『…おねえちゃん、だっこ』

 

 まん丸な頬を淡く朱色に染めてから甘えた声であたしへとトコトコ歩いてくる小さい頃の歌兎の可愛かった事、可愛かったこと……。

 今だって甘えてくれない事はないがあの時に比べると甘えてくれることも二人っきりになる事も少なくなった。

 

(これは神様が今までのあたしの行いを見てきて……大大大好きな妹と一緒にお出かけに出かける権利を与えてくれたのデスね……)

 

 ありがとうございます、と心の中へと喜びの舞を捧げていると心配そうに両眉をひそめた歌兎がくいくいと袖を引っ張っている。

 

「…姉様、大丈夫? 調子悪いの? お出かけやめる?」

 

 ぽやーんとしていた表情を一気に引き締めると尚も心配そうな妹の頭をポンポンと撫でると脇へと両手を入れてから膝の上に乗せてからギュッと抱き寄せる。光が入ると水色に光る銀髪へと鼻を押し当ててるとスンスン鳴らすとくすぐったそうにしている妹の頭を撫でる。

 

「歌兎は本当にいい子デスね。あたしの心配をしてくれるなんて」

「…だって、姉様は僕の大切で敬愛している人だから」

 

 クルッと後ろを振り返ってからあたしを見上げるように座り直すとお臍のところをギュッと握る。

 

「…そんな人が表情を硬ばらせていたり、悲しそうなら僕だって同じように悲しいよ」

 

(あぁ〜ん、もう〜ぉ)

 

 好き好きダーイスキ♡

 

 そんな潤んだ目で……上目遣いで……見つめてくるなんて卑怯デスよ、歌兎〜ぅ。

 

「…姉様、ぐりぐり痛い」

 

 ギュッと抱きしめてからほっぺとほっぺを擦り付けていると痛そうに、苦しそうに胸へと小さな両手を置いてから離れて欲しそうにしている妹の眠たそうに開かれている黄緑の瞳が潤み、上目遣いというダブルクリティカルヒットしたあたしは抑えきれなくなった気持ちのまま小さな肩に両手を置いてブンブンと左右へと振りながら泣き喚く。

 

「そうやってギャルゲーの如く、中学校で手当たり次第女の子を堕として回っているんデスねっ! 女たらしになるなんてお姉ちゃん許しませんよッ!?」

「…ぎゃ、るげー? おん、なたらし?」

 

 ピンとこないようにポカーンとしている歌兎の危機管理のなさにブンブンと上下へと振るう力がだんだんと強くなっていき、目を回しているのに気づいた頃には晩御飯を準備する時間になっており、目を回している歌兎と共に消していいのか分からないタブレットとゲーム機も居間のソファへと運んだのちに晩御飯の支度に取り掛かるのだった。




という事で、うちの過保護な姉様がお見苦しいところを見せてしまってすいません。
もうね、好きなんです……大好きすぎて仕方ないんです、うちの姉様は歌兎(いもうと)の事が。
きっと11月29日ルンルン気分で大好きな妹と共にお肉料理デートすると思います。その様子は後々投稿させていただきます(敬礼)

因みに、最後の方で『あぁん、もう〜ぉ。好き好きダーイスキ♡』とあったと思いますが、元ネタは【緋弾のアリアAA】の【佐々木 志乃ちゃん】のセリフからです。
あのぶっ飛んだ感じ、私大好きでして……兎のぬいぐるみを締め上げる時の声とかもう……『うるさい』や『そこに置いておきなさい』もいいですよね(ゾクゾク)



さて、ここからXVの13話の感想を書こうと思います。
例のごとく変態コメントが所々入ってくるので、そういうのが嫌な方は回れ右をよろしくお願いします!!

まず最初に感じたのは30分が早すぎて、何が何だかよく分からなかったのが第一の感想なのですが……

二周目を見た時は、シェム・ハと戦うことになった奏者のみんなとキャロルちゃんの七人が共闘した事でしょうか。
まさかの七人曲【PERFECT SYMPHONY】が流れた瞬間、鳥肌がぶるっと立って……みんなとの戦闘シーンはゾクゾクの連続でした。
その中でも印象的だったのは翼さんが髪の毛の炎でシェム・ハが呼び出した敵を撃破した時なんですが……ごめんなさい……笑いがでてしまった。なんでだろ……翼さんは真面目に戦闘しているだけなのに、この込み上げてくる笑いは……耐えろ、私っ。
と続けて、クリスちゃんの透明なクリスちゃんが大きな銃を撃つシーンは思わず二度見しました……なんですか、アレ……あれは幻……? それともクリスちゃんに踏まれたいと思う私の欲望の化身なのかッ!?(勘違い)

その後のシェム・ハのセリフがまた泣ける……、未来ちゃん泣いてるじゃん……やめてあげなよ、見てるの辛い……。
"不完全な言葉で伝えられない気持ち・言葉があったからこそ未来ちゃんはシェム・ハを受け入れて"しまったのですね……もうダメだ、涙で画面が直視できない…。

なのに、その後のF.I.S.組のロボ……いいや、これは三色団子ロボといった方がいいのだろうか……。すっごくかっこよくて、三色団子ロボって名前がかさみそうだけど……。
兎も角、そのロボが登場したシーンを一時停止してじっくりと見させていただいたのですが……其々の良さ、特徴がしっかりと入ったロボですね!!
マリアさんのアガートラームは胸から伸びる一振りの銀の剣へ、切ちゃんのイガリマは肩から伸びる二つの緑色の装飾へと、調ちゃんのシェルシュガナは両腕の輪っかへと……ふぅ……いい、いいですわ……。また、頭から伸びる耳がなんだか兎耳みたいですね〜♪ なので、可愛いとかっこいいを調和したロボと……私個人では思いました。

その後はみんなが虹になって拳で未来ちゃんへと殴るとは……しかし、それだけに未来ちゃんのフリをして『呪われた拳で私を殺すの?』ってセリフが対となっていく……その一瞬隙を見逃さないシェム・ハは流石ですね……。

シェム・ハの技を錬金術で支えてくれているキャロルちゃんとエルフナインちゃんの叫びに涙が……画面が……画面がボヤける……。

その後のシェム・ハによって人類の脳を演算にするときにみんなが紫の光に包まれて、瞳に色が無くなるのを見てゾクゾクとしてしまった私は本当にしょうもない変態だな……とそういう時じゃないのに。
しかし、この時最初に装者の中で術にかかったのは切ちゃんでしたね……んー、純粋な子だからなのかな……? 思えば、確かに切ちゃんって催眠術とかそういうのにも罹りやすそうですし……将来悪い人に引っかからなければいいけど……ま、調ちゃんがそばにいるから心配しなくてもいいか!(あっけらかん)
しかし、髪の毛長くなった切ちゃんの横顔も最高だな……(照) その後に項垂れている姿もイイ……切ちゃん大好きです。

とと、項垂れている切ちゃんに見惚れている場合じゃないっ。
ここで響ちゃんは神殺しの力で接続から免れ、未来ちゃんを奪還するための戦闘……セリフに背筋が震えました。確かに響ちゃんの未来ちゃんへの想いは二千年の呪いよりも大きいに決まってます!
また、各地の人が『未来を取り戻す』と言っているのもいいですよね。
その後も装者のみんなが『取り戻すためにィイイイイイ!!!!』と言ってくれましたし……未来ちゃんを抱きしめる響ちゃんの拳は呪われた拳じゃないですよ……その繋いだ手のぬくもりで多くの人を助けてきたんです、だから呪いだって上書きできる……いいえ、既にしてます、響ちゃんなら。

Bパートの最初はキャロルちゃんとエルフナインちゃんの会話シーンから始まったわけですが……いかん、泣く……。さりげなく指と指が絡まってて尊いですし……何よりもキャロルちゃんのエルフナインちゃんへの想いって深いですね……『お前の記憶から消えてしまうのが堪らなく怖くなったんだ』って……。
その後に『また会う日まで』というのが……また……。

敵が間違えてきたときに未来ちゃんが来た時はびっくりしました。
未来ちゃん、シェンショウジンを纏って来た時はもう鳥肌ものでした……また何処と無く今回のシェンショウジンは花嫁さんのような服装なのがイイですね!

また、未来ちゃんを加えた七人曲【Xtreme Vibes】で黄金の光によって現れるフィーネさんを含めた亡くなってしまった人達がみんなへと温かい笑顔を浮かべているのがいいですね……みんな救われてよかったって、キャロルちゃんがイザークさんと手をつないでいるところを見て、深くそう思いました。
あと、笑顔のプレラーティちゃんとエルザちゃん可愛いすぎるでしょッ!? 硬く揺るがない切ちゃん推しの気持ちがクラッと揺らいでしまった……。

しかし……絶唱の前に『未来に響き渡らせるために』か……。

その後、黒いシェム・ハが襲ってきたときは終わったな……って思ったけど、その後のシェム・ハと響ちゃん、未来ちゃんの会話にて優しく微笑んでくれたときはうるっとしました。

シェム・ハさんもとことん悪い人でないんですよね……、くっ……あんなにボロカス言ってしまった自分を殴りたいッ!
シェム・ハさん、切ちゃんを……そして、みんなを救ってくれてありがとうございます!!

しかし、了子さんが作った"7つのシンフォギア"は統一言語を求めた彼女が七つの音階を調和することで成せる神の技に似た力を求めて作られていたなんて……凄いな……了子さんいえフィーネさん……ここまで彼女の掌で踊らさせていたんだ(驚愕)

また、未来ちゃんを含めた七人曲【Xtreme Vibes】は大きくなっているところを取ると【XV】になるんですね……【未来(あした)へのフリューゲル】からも……最後に装者のキャストの皆さんの名前が大きく描かれているところを見ると……ここで本当に終わってしまうんだと悲しくなり、Cパートの初めも涙が……出るけど……ん、待って、少し待ってほしい。
悲しみよりも何よりも気になって仕方ないっ、切ちゃん、何故あなたはドヤ顔で敬礼しているんだい? そういうシーンじゃないでしょうに……って思わずつっこんでしまった、シンフォギアシリーズ終わってしまうのに!?(あたふた)

その後の響ちゃんと未来ちゃんのシーンも印象的ですよね。敢えて、二人が言いたいことを言わせないという焦らし……恐らく、私が思うにこれは響ちゃんのカップリング曲に繋がるんですね!? 『永遠を誓わせてほしい』などなど二人が文字通り夫婦になるのは必然かと……。

ふぅ……、ハッピーエンドに終わってよかった……。響ちゃんも未来ちゃんも切ちゃんも、みんなも幸せになってくれるといいなぁ……。

んー、原作が素敵な終わり方をしてくださった分……切ちゃんの生い立ちも含めて、私の小説は問題が多くなりますな……ギアが沢山あるし、原作は響ちゃんと未来ちゃんの話。私の小説は切ちゃんと歌兎の話ですので……最終的なラスボスは彼女が務めるのが通りでしょうし、だとしたら切ちゃんがどうやって呪詛から放たれたのか考えねばならないし……んー、考えすぎて頭が痛い……(大汗)



最後に、これからお知らせなのですがーーここから先更新がすごく遅れたりすることがあると思うので……先にXDで装者のみんなの誕生日でのフレンド欄について載せておこうと思います。
基本的には、その時に行っているイベントにて役に立つ・対となっているシンフォギアカード、メモリアを載せようと思ってます。また、使うシンフォギアとメモリアはフレンド欄に載せる方だけで固めようと思ってます。

まずは、10月からで……








10月15日/セレナ・ガデンツァヴナ・イヴ ちゃん
⬇︎
フレンド欄に載せるのは【セレナちゃん】と【マリアさん】
期間は【10/15〜10/22】




11月7日/小日向 未来 ちゃん
⬇︎
フレンド欄に載せるのは【未来ちゃん】と【響ちゃん】
期間は【11/7〜11/14】




12月28日/雪音 クリス ちゃん
⬇︎
フレンド欄に載せるのは【クリスちゃん】と【切ちゃん】
※理由は単純に一人称はあたしだからということ。
期間は【12/28〜1/4】




2月16日/月読 調 ちゃん
⬇︎
フレンド欄に載せるのは【調ちゃん】と【翼さん(予定)】
※理由はこのフレンド欄を変えるのも何周目になり、きりしらではテンプレになっちゃうので違う組み合わせをしてみようと思った為。もしかしたら、F.I.S.組の誰かになるかもしれない。
期間は【2/16〜2/23】




4月13日/暁 切歌 ちゃん
⬇︎
フレンド欄に載せるのは【切ちゃん】と【響ちゃん(予定)】
※理由はこのフレンド欄を変えるのも何周目になり、きりしらではテンプレになっちゃうので違う組み合わせをしてみようと思った為。もしかしたら、F.I.S.組の誰かになるかもしれない。
期間は【4/13〜4/20】




5月25日/風鳴 翼 さん
⬇︎
フレンド欄に載せるのは【翼さん】と【マリアさん】
期間は【5/25〜6/1】




7月28日/天羽 奏 さん
⬇︎
フレンド欄に載せるのは【奏さん】と【響ちゃん】
期間は【7/28〜8/4】




8月7日/マリア・ガデンツァヴナ・イヴさん
⬇︎
フレンド欄に載せるのは【マリアさん】と【響ちゃん】
期間は【8/7〜8/14】




9月13日/立花 響 ちゃん
⬇︎
フレンド欄に載せるのは【響ちゃん】と【調ちゃん(予定)】
※理由はこのフレンド欄を変えるのも何周目になり、ひびみくではテンプレになっちゃうので違う組み合わせをしてみようと思った為。もしかしたら、二課組かF.I.S.組の誰かになるかもしれない。
期間は【9/13〜9/20】








以上が誕生日を記念にフレンド欄へと載せる予定となってます。
それでは長々と失礼いたしました(敬礼)


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002 1129(いいにく)チケット~争奪戦~

ども。アニメ【アズールレーン】加賀さんの『姉様』ボイスに“あ"ばばばば……”と声にならない声をあげながら、大興奮している律乃です(至極単純)

因みに、推しキャラは綾波ちゃんとユニコーンちゃんです。
ポニテと守ってあげたくなる雰囲気にやられたんだ……(二人の可愛さに瞬殺KO)

では、シンフォギアとは関係ない余談をしてしまいましたが……本編をどうぞ!!


 歌兎との二人っきりのデートが楽しみすぎて、自室に掛けてあるカレンダーの11月29日へと大きなはなまるマークを書き、1日が終わる毎に大きな✖︎(ばつ)マークを記していくのが日課になってきたそんなある日、あたしはある目的を果たすために妹の自室へと訪れていた。

 トントンと右手の人差し指を折り曲げて、中に聞こえるようにしっかりと木で出来た扉を叩くと

 

「…はーい」

 

 間延びした物静かな声が聞こえ、僅かに開いた扉の隙間からひょっこり顔を出す水色が掛かった銀髪がサラサラと揺れてからあたしを眠たそうに半開きした黄緑の瞳が見上げてくる。

 首元にヘッドホンが掛かっているのを見るとどうやら、歌兎は連休を利用して、徹夜であのやけに百合百合しいオススメされたアニメとゲームを視聴しつつ、プレイしていたのだろう。

 サラサラな水銀の髪は何処と無くボサボサな気がするし、半開きした瞳もいつもよりも眠たそうに思える。

 

(想像以上に高価な買い物でしたが、アレを買ってよかったデスね)

 

 一人、納得するあたしを暫し不思議そうに見上げた後、チラッと壁に掛けてある時計を見る為に振り返ってからキョロキョロと渡り廊下を見渡すその視線から妹が問いたいことが自ずとわかってきて、両膝に手をついて、歌兎の視線と合わせてから優しく微笑む。

 

「調なら今日は響さんと未来さん、クリス先輩とショッピングに行くそうデスよ。だから、お昼は作り置きしてるカレーを温めて、食べてって言ってました。一緒に食べましょうね」

 

 コクンと小さくうなづく歌兎は玄関の方を見てから優しい表情になって静かに微笑む。

 

「…お姉ちゃん達とショッピングか……シラねぇ、楽しんできてくれるといいね」

「はい。調は気配りさんの頑張り屋さんなので、今日は羽目を外して楽しんできてほしいデスよ」

「…うん」

 

 コクッとうなづく歌兎の頭をポンポンと撫でながら、右手を目の前に差し出す。

 

「調が朝ご飯作っていってくれたので一緒に食べましょう」

「…うんっ。あっ、少し待て。朝は寒いからカーディガン羽織ってくる」

 

 自室に入ってからドタバタと白いカーディガンを羽織ってからあたしの手をギュッと握る歌兎の可愛さに瞬時に頬がゆるゆるになるのを我慢しながら、まずは顔を洗いに行く為に洗面所へと向かう。

 

「気をつけて。台に登ってくださいね」

「…よいっしょっと」

 

 白いカーディガンの袖が濡れないようにめくってあげながら、近くに干してある妹の専用の防水エプロンを付けてあげてから右手に付けてあるヘアゴムでサッと前に流れている長い髪を一纏めにしてあげる。

 

「なんと、今日はポニテなのデスッ!」

「…かわいい。ありがとう、姉様」

「えへへ〜♪ 調と歌兎のヘヤースタイルならなんでもござれデスよ」

 

 得意げに笑うあたしにもう一度「ありがとう」とお礼を言ってから、ポニーテールを揺らして、前を向くと小さな両手で水を溜めてから、顔を数回洗う歌兎は朝の冷水にすっかり目が覚めたようで部屋を訪れた時よりかは瞳の半開き具合がミリ単位で違う。

 

「はい。タオルデス」

「…うん……」

 

 トントンと受け取ったタオルで顔についた水滴を拭いた妹からタオルを受け取って、洗濯機へと放り投げてから調に頼まれていた方の籠に入っていた洗濯物も一緒にガラガラと回しているとトコトコと台を片付けた歌兎が近づいてくるので防水エプロンをササッと洗ってから、リビングと向かう。

 

「…僕も手伝う」

「チンするのと味噌汁温めるだけなんで、歌兎は椅子に座ってテレビ見てて大丈夫デスよ」

「…むー、分かった」

 

 シブシブといった感じでリビングの椅子に腰かけた歌兎へと近づくのはあたしの周りでトコトコとお手伝いしてくれている調ロボと切歌ロボよりも一回り小さい歌兎ロボと切歌ロボで足元に近づいてくる二体のロボを机の上に持ち上げた歌兎へと切歌ロボが一生懸命何かを伝えようとしている。

 

「…?」

 

 小首を傾げる歌兎の机の上に重ねてある両手の甲をチョンチョンとまん丸な鉄で出来た手で叩いてから、歌兎ロボが小さな体躯を精一杯使って引き寄せているリモコンを指差す。

 

「…リモコンがどうしたの? へ? 電源? 付けろって?」

「デス」

「…ん」

 

 歌兎ロボの小さな手に導かれるままにちょんと人差し指で赤いボタンを押すのを見届けてから切歌ロボが1~9の数字が描かれている黒いボタンへと小さな両手を添えると「よっこいしょ」と全体体重をかけるとニュースが流れていたチャンネルが料理特集をしているチャンネルへと変わる。

 じゅ〜〜と何かが焼ける音が此方にも聞こえてきて、味噌汁を温めている最中、テレビへと視線を向けるとそこには大きな鉄板の上に赤身へと美しい線が走る如何にも高そうなお肉が焼かれており、切歌ロボは心なしかルンルンと弾むような足取りでテレビから離れた席に座っていた歌兎の袖を小さな左手で引っ張ると一緒に近い席へと向かい、机の端から嬉しそうにパタパタと両脚を動かしながら、机へと身を乗り出す歌兎へと小さな体躯を預ける。

 

「…このテレビ番組がオススメなの?」

 

 切歌ロボが後ろに倒れてしまわないように身を乗り出す位置を微調整している歌兎はポニーテールを左右へと尻尾のように振りながら、目下にいる切歌ロボへと声をかけると歌兎を見上げるように顔を動かすと肯定の()であろう両手をブンブンと振り回す。

 

「デスデスデース!」

「…お肉料理特集か。流石姉様ロボッ。前もって特集でお肉の部位の事やお料理のお勉強しておくことによって、僕がお店での作法やお料理名前を知らないという恥をかかせないだけじゃなくて、部位ごとの美味しい食べ方や豆知識をも身につけられるという一石二鳥なばんぐ––––ううん待って。ま、……まさか、このお肉料理特集は僕に肉料理を作れるようにさせるた、め……? いつもお世話になっているシラねぇや他のねぇや達、お姉ちゃん達が11月29日行けない分。僕が行ったお店の味を覚えて、作ってあげなさいっていう遠回しなエールなの……? ね、姉様ロボ……そんなにも僕の事を考えて、暑いエールを送ってくれたんだねッ!! うん、任せてッ。姉様ロボの暑い気持ちも僕が受け止めて、絶対成功させて、美味しいお肉料理を振る舞えるようになるからねッ!!」

 

(やめてやめてやめてやめてやめてェエ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ")

 

 それ以上、その子を褒めないでッ。敬愛しないでッ。崇拝しないで–––––ッ!!!! 

 お姉ちゃん、恥ずかしさのあまり爆死するからッ!! お庭に花の文字で『ありがとう』書いて、マムがいるところ逝っちゃうからァア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!

 

「デ?」

 

 自分を用いたロボだからこそ分かる、小さい切歌ロボ(その子)は単純に自分が好きなお肉がたくさん映った番組が見たかったのであって、そんな歌兎が思っているような深い意味はない、断じて。

 だって、突然身を乗り出して、真剣な表情で食い入るようにお肉料理を観ている歌兎をぽかーんとした表情で見上げてるんだよ……あたし、歌兎になんて言って誤解解けばいいの。あんな純粋で真剣な表情で作り方覚えてるんだよ……うちの妹っていつからあんなに真面目ちゃんだったんデスか……。

 思わぬところからの精神へとカウンターを食らったあたしが耳まで真っ赤にして、恥ずかしさのあまり死にそうになるのを両掌で顔を塞ぐことでなんとか回避しているのを心配そうな表情で見上げてくる調ロボの頭をポンポン撫でてあげる。

 

「……うん」

「ありがとう、調ロボ。あたしなら大丈夫デスから、お椀やお皿を切歌ロボと一緒に準備してくれます?」

 

 疲れたようにいうあたしに心配そうな視線を送った後で二体は小さな体躯を懸命に動かして、壊れないようにお椀やお皿を運んでくれるのを受け取りながら、白米や味噌汁をよそっていると

 

「…ん」

 

 自分がリモコンを持ってきたのに、切歌ロボとばかりスキンシップを取る歌兎に嫉妬した歌兎ロボがくいくいと全身を使って歌兎の袖を引っ張っている。

 その様子に気づいた歌兎が自分へと視線を向けてくれるのを見届けた歌兎ロボは切歌ロボのようにある数字が書かれたところへと両手を添えると全体重を掛けて、チャンネルを変える。

 

「…可愛い……この番組は動物特集なんだね」

「…んッ!」

 

 丁度、生まれたばかりの子猫達がじゃれ合う映像が画面いっぱいに映され、突然チャンネルを変えられた切歌ロボ以外はその映像の可愛さに思わず頬がゆるむ。

 思わずゆるゆるになる歌兎へと近寄った歌兎ロボは今度は仔犬がじゃれあっている映像が流れる画面を指差しながら、ブンブンとまるで"こっちの方がいいよ"と自重しているかのように右手を振るう。

 

「…へ? そっちよりもこっちの方が僕に似合ってる?」

「…ん。…ん」

「…歌兎ロボが言うならこのままでも……って、姉様ロボ、リモコン取らないで」

 

 時の流れに自分のことは任せ、自分の事よりも他人なザ・自己犠牲な性格は相手が機械でも発動してしまうようで、さっきまで熱く切歌ロボと約束していた事は何処へやら、すっかりこっちの動物特集を観ようとする歌兎からリモコンを奪い取った切歌ロボは"あたしはそっちが観たいのッ! "と言わんばかりにさっきのお肉料理特集へと変えるのをみて、歌兎ロボも"僕の事は僕の方が一番分かってるのッ! "と言わんばかりに動物特集へとチャンネルを変える。

 

「デスデスデースッ!!」

「…んッ!! …んッ!!」

 

 白熱していくチビっ子ロボによるチャンネル争奪戦に中間にいる歌兎はおろおろと二体を落ち着かせようとして、二体が押しているリモコンを上に持ち上げてから、二体が届かないように椅子から立ち上がると画面が分割できる機能を発動させる。

 

「…ふ、二人共落ち着いて。え……と、そうだ。確かこのボタンで………とッ。……ほら、これで二人がオススメしてくれた番組が見れるよ」

 

 其々の観たいテレビが分割されているのを見届けた二体は嬉しそうに両手を取り合うのを見て、歌兎は疲れたように椅子に腰掛ける。

 

「デース」

「…ん」

「…落ち着いてくれたようで良かった」

 

 二体のロボによる歌兎と見せかけてのチャンネル争奪戦はひとまず幕を閉じたようで……今は二つに分かれた其々の画面を机へと身を乗り出す歌兎へと縋るように腰掛ける二体の小さなロボが肩を並べて、一人と二体が仲良くテレビを観ている。

 遠くから小さな一人と二体が身を寄せ合って仲良くテレビを観ている様子は眺めているとほっこりと温かい気持ちになるし、何よりも––––

 

(––––癒されますね……)

 

 そんな癒させる空間を壊すのは嫌だが、朝ご飯をこのまま食べないで歌兎の可愛らしいお腹がぐぅ……と鳴るのは姉として許せないため。

 調ロボと切歌ロボに手伝ってもらいながら、リビングへと調が作っていってくれた朝ご飯を広げると歌兎の隣へと腰掛ける。

 

「…姉様、お疲れ様」

「温めるだけなんでそんなに疲れてないデスよ」

 

(精神的にはかなり心がすり減ったデスけどね……)

 

 歌兎の首元へと顔を洗う用とは別の防水エプロンを付けてから、万が一にもお汁を零して、大火傷をしないように椅子を近づけてあげてからゆったりと朝ご飯を取っている最中にあたしはやっと本題に入るべく、歌兎の目の前へとソレを差し出したのだった。

 ソレを不思議そうに見つめた歌兎は眠たそうな黄緑の瞳をまん丸にするとあたしの顔をマジマジと見つめると小さな声で訪ねたのだった。

 

「…え? 姉様も買ったの?」

 

 と、心底不思議そうに。

 




これでまた一つ切ちゃんの黒歴史が増えたとさ(めでたしめでたし)
あと、歌兎さんは姉様を敬愛するがあまり純真な真面目ちゃんに育ちました(めでたしめでたし)



新しく始まったマリアさんメインイベント【裏切りの独奏曲(カデンツァ)】は読者の皆様は既にプレイなされたでしょうか?

私はのんびりとプレイして、マリアさんらしいシナリオに涙腺がやられつつあります……マリアさん、あんなって人はッ! なんで自分の事も大切にしないのッ!? いや、それは装者みんなにも言えることか……。

そんなイベントで交換できるメモリア【イケてるふたりに大変身ッ!】のシナリオを先日に読んだんですが……やべーデス。切ちゃんも可愛いけど、なんだかんだいって付き合ってくれる調ちゃんの優しさたるや……改めて、きりしらはいいなぁ〜と再認識できるシナリオでした。

また、今回のメモリアの切ちゃんって非常に……いつもの一億倍増しで可愛くありません?(可愛さのあまり数秒固まる)

ぺろっと意地悪に舌を出した表情に、サイドテール……あと兎のマークが押された可愛らしいジュース……あぁ、二人でラビットハウスに買いにいったんですね(的外れ)

あぁ……まさか、切ちゃんが髪の毛結んでいるメモリアが見れるなんて……(歓喜)
前々から切ちゃんって髪の毛結んだ姿も似合うと思ったのですよッ!! やっぱりサイドテール間に合うですが、今度はポニテを。ポニテした姿を律乃めへと見せてください!(必死)

って、かなり暴走しちゃいましたね……今週の未来ちゃんの誕生日は未来ちゃんと響ちゃんを載せる予定ですので、楽しみにしててください!!


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003 1129(いいにく)チケット~情報収集~

デデデ……デースッ!! (←本編どうぞの意)


 

「…え? 姉様も買ったの?」

 

 そう言って、隣の席で目をパチクリしている妹の反応が想像通りなので、前もって準備してあった台詞(・・・・・・・・・)を満面の笑顔を浮かべながら言う。

 

「はい! 歌兎にこの前見せてもらって、面白そうって思ったので」

 

 もちろん、口実である。

 本当の目的はあたしが現在進行形で持っている、歌兎がさっきまでプレイしていたであろう百合百合しいゲームとそのゲームをアニメ化したものを『オススメ』と言って、あたしの可愛くて可愛くて仕方がない妹へと手渡したのが誰なのか、どんな人物で、歌兎とどんな関係なのか等をごく自然と聞き出すためだけの小道具。

 

「…そうなんだ」

 

 歌兎はそう言うとゲームソフトに向けていた視線をあたしへと向けてくる。

 どうやら、あたしの用件がそれだけではないことを薄々感づいていたらしい。

 

“朝ごはんも丁度食べ終わったようデスし、そろそろ切り出しましょうか”

 

 真っ直ぐ見上げてくる眠たそうな黄緑色の瞳を見つめ返しながら、眉をひそめてから段取り通りに事を進めていく。

 

「それで、歌兎にお願いなんデスが。お姉ちゃんにこのゲームの攻略を教えてくれませんか? あたし、あまりギャルゲーとか恋愛ゲームした事なんデスから……やり方がよく分からなくって……」

「…あ、姉様とシラねぇがしているジャンルってRPGや格闘ゲームが主だもんね。ん、いいよ、僕で姉様の力になれるなら」

 

 淡く微笑む歌兎と食べ終わった食器を片付けた後にソファに座ってからゲームをする事を約束してから、流し台で洗い物をしているとふきんを持った歌兎があたしの横に自分専用の台を置いて登るのを見て、ここで茶碗や皿を渡さないのは意地悪しているようだと考えて……姉妹で肩を並べて、仲良く食器を片付けることに専念する。

 

「お疲れ様デス、歌兎。手が冷たくなっちゃいましたね、暖かい飲み物でも入れましょうか」

「…ん、ありがと、姉様」

 

 お礼を言う歌兎のリクエストであるホットココアを其々のマグカップに入れてから、テーブルに置く。

 そこからゴソゴソとテレビゲーム機の電源とテレビの電源を入れてから、ソフトを挿入してからズカとソファに腰を落とすと"どこに座ろうか"と悩んでいる歌兎を手招きして、トントンと妹が腰掛けるくらいに開けた股の間の隙間を叩く。

 

「…失礼します」

「どうぞどうぞ」

 

 誘うあたしと他の隙間に座ろうか、暫く悩んだ歌兎は苦笑いというよりも照れ笑いを浮かべながら、結局はあたしのところに座る事にしたらしく、ストンと小さな隙間へと腰を落とす。

 そして、落ちないよう微調整した後に後ろを振り返って、オズオズと尋ねてくる。

 

「…縋っていい?」

「もちろんデスとも。好きなだけ縋っていいデスよ」

「…ん、ありがと。それじゃあ失礼します」

 

 何故か再度敬語となり、おずおずと縋ってくる歌兎の小柄な体躯がすっぽりと胸の中へと収まるので–––

 

(あぁん、このヒット感……最高デス……)

 

 ––––堪らずギュッと抱きしめるあたしの谷間へと埋まるさらさらな水銀の髪へと手櫛を差し入れながら、ナデナデしていると物静かな声がボソッと何かを呟く。

 

「……………柔らかいのが逆に辛い。神様はどこまでも不公平」

 

 ボソッと呟いた張本人は自身の胸を軽く触った後に眠たそうな瞳が一瞬色を無くし小さく嘆息するのを見て、心配で堪らず声をかける。

 

「何か言ったデス? 歌兎」

「…ううん、何にも」

 

 振り返ってから淡く微笑む歌兎はいつもの可愛さを具現化したような愛らしさでさっきの一瞬感じた邪悪なオーラはなんだったんだと目をパチクリさせているとテーブルの上に置いたままにしてあるコントローラーを前のめりにしてから取ると小首を傾げる。

 

「コントローラー、どうする? 僕が持つ? それとも姉様?」

「お姉ちゃんが持ちますよ。お姉ちゃんが頼んだことデスし」

 

 そうすることで必然的に歌兎を後ろから抱きしめられ、密着できるという下心はひた隠し、あくまでも頼んだのは自分だから自分が持つのが当たり前と言う口実で半端強引にコントローラーを受け取ってから、ギュッと前に座っている妹の背中に密着する。

 

(ぁぁ……歌兎ってば、なんでこんなにも可愛いんでしょうか。180度どこ見ても可愛いとか天使デスか? それとも女神なんデスか? もう大好きッ)

 

「…ね、姉様……そんなに抱きしめられると苦しいよ」

「デ!? ごめんなさい、歌兎」

 

 興奮しすぎて抱きしめすぎてしまったらしく、表情を曇らせながらそういう歌兎から少しだけ身を離してから、小さな指が画面を指差すので視線をそちらへと向けると最初は映像が流れる仕様になっているらしく、主人公である銀髪の少女が攻略対象と思しき少女と接触してしまっている。

 

(しっかし、何度見てもその主人公って歌兎に似てますよね……)

 

 目の前であたしに背中を預けて、画面を見つめる最愛の妹と画面で恋愛ゲーム・ギャルゲーのテンプレであろう曲がった角の先でヒロインとぶつかるというフラグを回収している主人公を務める少女を見比べながら、うんうんと一人納得するようにうなづく。

 

「…姉様? 名前決めた?」

 

 何度見比べても瓜二つと言わざるおえない画面の少女と最愛の妹の共通してないところを逆に探す事に夢中になって、主人公の名前を決める事を忘れていた。

 

(ん……ここは敢えて友達の情報を聞き出すために、歌兎がプレイした時のことを聞いたほうがいいかもデスね……)

 

 そう考えたあたしはこっちを心配そうに見上げている歌兎を見つめながら、問いかけてみる。

 

「因みに歌兎はどんな名前にしたんデス?」

「…僕? 僕は友達の強いススメで自分の名前にしたよ。その方が楽しめるって言われたから」

 

 あっけらかんと言う歌兎をマジマジと見つめながら、心の中で絶叫する。

 

(どんだけ強引なんデスか!? 歌兎の友達!!!?)

 

 今日一でびっくりした気がする。

 この様子だと自分が今画面に映っている少女と瓜二つであることを……瓜二つである少女が主人公を務め、女の子達を堕としていくゲームを故意で友達にオススメされたことは気づいてない様。

 

「歌兎がいい子に育ってくれて、お姉ちゃんは嬉しいデスよ」

 

 よしよし、と頭を突然撫でられた歌兎は目をパチクリしていたがあたしは妹が素直で真面目な子に育ってくれたことが嬉しくて堪らない、さっきその生真面目に新たな黒歴史が作られたことはすっかり頭から抜け落ちていた。

 暫く、頭を撫でた後、「歌兎がそうしたなら、あたしも……」と言いつつ、プレイヤーネームに《切歌》と打ち込み、恋愛ゲームを開始し、表示される会話文を読み、時折アドバイスを貰いながら、進めていく。

 イベントを数回行い、そろそろエンディングかなというタイミングでチラッと真面目な様子で画面を見つめる歌兎へと見ながら、世間話を話すかの様に例の事を問いかけてみる。

 

「その……歌兎……」

「…どうしたの、姉様?」

「歌兎にこのゲームを教えた友達ってどんな子なんデスか?」

「…どんな子? んー、どんな子と言われても困る……」

 

 珍しく言いどまり、眉をひそめながら困惑した様な表情で固まる妹を見つめながら、あたしは内心穏やかなではなかった。

 

(それどういう意味で? もう、手を出されちゃったんデス!?)

 

 歌兎がゲームの主人公を自分と認識ないなんて些細な事だった。

 この子は昔から自分の事に関して無関心である上に時の流れやその場の流れには流されやすく、ゴリ押ししちゃえばゲームの展開とは別に襲えてしまうのではないだろうか? もし歌兎のそういう所を相手が気付いてしまえば……もうそこから先は赤子の手をつねってしまうくらいに簡単な事なのではないだろうかッ。

 

(あばばばば……歌兎がぁ……あたしの可愛い歌兎が……もう大人に……)

 

 みるみるうちに顔色が悪くなっていくあたしに気付いた歌兎は慌てた様にぶんぶんと首と手を横に振りながら、まだ困った様な表情をしながら、時折言葉を詰まらせながら友達がどんな子なのか説明してくれる。

 

「…違うのっ。困るっていうのは一言で言い表せないから困るって言っただけで……。その、ね……最初に会った時はすごく大人しそうな子だなって思ったんだけど……友達……ううん、知り合いになってから、色んな表情を見せてくれるようになったから」

「色んな表情?」

「…例えば、姉様が最初に攻略していった画面の子はツンデレ属性っていうのらしいんだけど……そのツンデレになってみたり、クーデレっていうのになってみたり、急に甘えん坊になったりとか……僕もよく分からないの」

 

(歌兎の友達っていったい何者なんデスか?)

 

 確かにそこまで多くの属性を持っている人はあたしも見たことないデス………とと、あたしも一緒になって困惑している場合じゃないのデス。

 ここから先が一番重要なんデスからッ、と心で意気込んだあたしは未だ友達を一言で表すための最善の言葉を探している様子の歌兎へと一番聞きたかった事を聞く。

 

「歌兎はその友達の事、どう思ってるデス?」

「…どう思ってるか……んーー」

 

 ドクンドクンと脈立つ鼓動を掻き消すように頤へと利き手を添えてから考え込んでいた歌兎が物静かな声があげる。

 

「…そうだね……僕にはもったいない人かな」

「もったいない人、デスか」

「…ん。僕は姉様やねぇや逹、お姉ちゃん逹に比べると表情とか口数も乏しいし少ないほうだから……学校通いだした頃は友達が作れなかったんだけど……その子と友達になってから色んな人と友達になれたし、毎日が楽しいんだ」

 

 そう言って、満面の笑顔を浮かべる妹の姿を見ていたら、あたしがしようとしていること自体が馬鹿馬鹿しいほどに浅ましいことのように思えて……素直に答えてくれた歌兎の頭をポンポンと撫でてから、もう暫くその友達の様子を見ることにしたのだった。




本編のちょっとした補足〜。
歌兎の友達が代わる代わる属性を変えたのは、歌兎がどの属性が好きなのか見極めるためです。



ここから先は前に少しだけしか触れられなかったシンフォギアラジオ74回の感想なのですが……

前にも言いましたが、本当に素敵な回だった……(しみじみ)

所々入れてくださった切ちゃんボイスの『デース』『デデデ』『あったかいものどうぞデス』は可愛いにつきりますし、トークの所がより熱かったですね!!
この前の南條さん回でも語られてた【切ちゃんの過去】の聴いた後はこれまでの切ちゃんの行動にも納得出来るとおっしゃっていましたし……何よりも中の方がシンフォギアを通して、いつの間にか仲良くなっていったというエピソードには聴いている私もF.I.S.組の三人は茅さん、南條さん、日笠さんしか考えられませんし、三人がここまで役を演じてくださったことに感謝しかないです。
また、XVのユニゾン曲完成版が収録の二日前に渡されて、歌えるか不安だったけど『調とだから』つられずに歌えたっていうトークにもう……きりしらファンとしてみたら何よりも嬉しい言葉ですよねっ。

あと、XVで切ちゃんの変身バンクが一位っていうことが話題になりましたね〜♪
確かにあの変身バンクはエロさも可愛さもかっこよさも丁度いいですし……ポールダンスならぬ鎌ダンスの時の動きとか……ね、あれはヤバイです(語尾力無くなる)
また、内側の太ももをなぞりながらのニーソをパッチーンは穴が開くほどみたい箇所ですよね……(しみじみする変態)
因みに私が好きなシーンは切ちゃんが『XV』と書くシーンです……あの時の切ちゃんの笑顔共にイケメンすぎて……もう……(鼻血を抑える)

続いて、復活したメモリアのコーナーも素敵な作品だらけでしたよね〜♪
井口さんも高垣さんも茅さんも絵が上手すぎるっ。
特に茅さんの絵をそのままTシャツかメモリアにするって案には深くうなづきました。
あのゆるい感じの絵は私大好きです!!
茅さん、絵本……書いて欲しいなぁ………

『この手には君を笑い殺す力がある』のコーナーでは、茅さんの一人きりしらが聞けてもう眼福ならぬ耳福です……あそこだけ延々にリピート出来る……またお題もきりしららしいものでしたし……調ちゃんを演じていらっしゃる茅さんの声は今まで聴いた中では聴いたことがない声音でしたし……最後の『し、調。照れるデスよ。そんなデーススクトップにしたら』の言い方が好きすぎるっ。
また、その後のF.I.S.組の高垣さんのマリアさんも良かった……

今回もいいラジオを聴かせていただきました(手を合わせる)


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004 1129(いいにく)チケット~当日・前編~

今回の話には、複数とクロスオーバーさせてもらってます。

敢えて、その作品は表記しないので……『何処かそうなのかなぁ〜』と探してみて下さい!




 11月29日。

 日課にしてあったカレンダーへの✖︎(ばつ)がはなまるにしてあったその日に差し掛かり、あたしは何度もその日なのかを確認すると込み上げてくる喜びに身を震わせた。

 

(遂に、遂に来たデスよ! 歌兎とのお肉デートの日ッ)

 

 大好きなお肉をたらふく食べられ、大好きな妹を一日中誰にも邪魔されずに独占出来る……想像するだけでも幸せが溢れてくるその日が今日なのだ。

 

「ふんふふーん♪」

 

 上機嫌に鼻歌を口ずさみながら、足取りが自然と羽が生えたように軽くなるのを感じて調子に乗ってステップで廊下を駆け抜けると"うたうのへや"というプレートが吊るされている部屋をコンコンとノックしてから入っていく。

 足を踏み入れた先には毛布と掛け布団を自分の方に手繰り寄せ、胸元に古び、所々糸ほつれをしているうさぎのぬいぐるみを抱き寄せて「すやすや」と健やかな寝息を立てて眠る最愛の妹・歌兎の寝顔を見下ろしながら、手早くカーテンを開け放つ。

 そして、カーテンを開け放ったことで差し込んでくる秋の温かな日差しに横顔を照らさせても一向に起きようとしないお寝坊さんな妹に"仕方ないな"と笑いかけながら、あたしは妹の寝顔が最前席で見れる所に腰を落とす。

 

(……もうこんなに気持ちよさそうに寝ちゃって……起こすのが可哀想に思っちゃうじゃないデスか……)

 

 歌兎が胸にギュッと抱いているうさぎのぬいぐるみはあたしの記憶が正しければ、初めて妹がわがままを言ってくれて買ったものだと思う。

 それもF.I.S.の時だったから……マムから貰えるお小遣いは微々、生活費はかつかつで節約に勤しまないと明日喰いしのげるかも不安だったそんなある日、買い出しで街を歩いている時に何かを見つめたまま動かない歌兎が居て、その日は買ってあげられなかったけど……数週間すぎた頃、やっとゲット出来て、妹へとプレゼント出来たことをぼんやりとだが思い出せる。

 

(……こんなボロボロになっちゃって……そこまで大事にしてくれていたんデスね……)

 

 歌兎がギュッと胸に抱いているうさぎのぬいぐるみにはよくよく目を凝らして見ると不器用な縫い目が所々あり、妹がこれまで年季が入り、破れかけてきたぬいぐるみを自身で補強しながら使い続けてくれていたことが自ずと分かってきて、温かい気持ちになる。

 

「さて、と。もう少し歌兎の愛らしい寝顔を見ていたいデスが……そろそろ起こさないと回る予定のお店を全部回れないデスね」

 

 そう呟いてから、あたしは顔を隠すように垂れ下がっている水銀の髪へと左手を差し込んでから丸みを帯びた頬をさらけ出し、現れた頬とおでこへとキスを落とす。

 と、左手を小さな肩へと添えてから優しく左右へと揺さぶる。

 

「歌兎、歌兎ってば。起きるデスよ」

「…ん? ねえ、さま……?」

 

 暫く揺さぶっていると銀色のまつげが縁取(ふちど)る瞼が数回揺れてから、そこからまだ眠そうにとろ〜んとしている黄緑色の瞳が真っ正面に座るあたしの顔を見つめ続けるのでニコッと笑う。

 

「おはようございます、歌兎。今日は絶好のデート日和デスよ」

「…でーと? でーとってなんのことだろ…………んーん? ……あっ、そっか……今日って11月29日で姉様とお肉デートする日なんだね」

 

 まだ眠そうに目をこすりながら、さらさらっと日が当たると水色に見える銀髪を揺らしながら、まだ覚醒してないせいで"デート"の意味が分からないように小首を傾げる歌兎は自分の勉強机の上に置いてある卓上カレンダーをボゥ––––と見つめてからハッとした様子で隣でニコニコ笑っているあたしを見つめる。

 

「ピンポーンピンポーン、大正解なのデス〜♪ 今日は沢山回るところがあるので楽しみにしてて下さいね、歌兎」

「…ん、楽しみにしてる」

 

 その後、二人で顔を洗ってから、私服に着替えてから意気揚々と街へと繰り出していくのだった。

 繰り出した街はすっかり冬の最大イベントであるクリスマスを先取りしているようで、ショーウィンドウには家に飾れる小さなクリスマスツリーや発光ダイオードを使用した二頭身のサンタさんやトナカイさんが置かれており、眺めているだけでもウキウキした気持ちになってくるのだが……それだけに否応なく何をするにも過ごしやすい秋という季節が終わりを迎えていることを思い知らされる。

 

「12月まで今日を合わせてあと二日(ふつか)なんデスね。通りで寒いわけデスよ……ゔゔっ」

 

 真横から吹いてくる冷風に身を震わせているあたしの服装は緑とワインレッドを基調としたパーカーの上に黄緑色の左胸にガイコツの悪魔がプリントアウトしてあるジャージ、頭には悪魔のようなツノが生えた黄緑色のニット帽で上半身を決め、下半身は黒い革生地のミニスカートの下に白いニーソックスという格好で–––

 

「…12月になったら、あっという間に冬休みが来て、年明けだね……。今年もマリねぇ、セレねぇ、カルねぇ、シラねぇと姉様、僕の6人で年を越せたらいいね」

 

 –––寒そうに身を震わせているあたしを見上げながら、繋いでいる手をさらにギュッと握りしめている歌兎の服装は緑とブラックブルーを基調としたパーカーの上に黄緑色の左胸にガイコツの悪魔がプリントアウトしてあるダウンジャケット、頭には黄緑のモコモコのニット帽を被り、首元に白いマフラーで上半身を決め、下半身は黒い革生地の短パンの下に白いガーターベルトという格好をしている。

 

「デスね〜。でも、マリアもセレナも世界中を回ってて忙しいデスからな……」

「…カルねぇもS.O.N.G.の職員としてのお仕事が残ってるのかも……」

 

 同期(シンクロ)する溜め息は白い(もや)となり、目を引くほどに美しい青空に向かって飛んでいくのを見送りながら、妹と繋いでない方の手を無造作に上着のポケットに突っ込んでからそこからこの日の為に綿密(めんみつ)に準備してきた《うまいもんマップ・お肉屋さんversionーX(えっくす)》を取り出してから「うむうむ」とどこから回るかの順序を確認する。

 

 なので、あたしは気づかないでいた……。

 

 歌兎があたしに手を引かれながらもジィ–––と向かい側の店に鏡に映っている自分達を尾行するように数メートル後をこそこそと付いてきている怪しすぎる集団を見つめていることに–––。

 歌兎の眠たそうに開かれた黄緑の瞳には其々のイメージカラーで色付けされた黒縁眼鏡をつけた黒髪をツインテールにしている少女やピンクのロングヘアーへと水色の花の髪飾りをしている女性、茶色いロングヘアーへとピンク色の髪飾りをつけている少女達がマンションの角から身を乗り出して、二人を見ている姿が映り込んでいて……"頭隠して尻隠さず"状態になっている少女達が面白くて、歌兎は向かいの鏡から視線を前に向けると

 

「––––。……ふふふ」

 

 空いた手を口元に添えながら、くすくすと笑う歌兎を何も知らないあたしは目をパチクリさせながら声をかける。

 

「上機嫌デスね、歌兎。何かの良いことでもありましたか?」

「…うんっ、すごくいい事があったよ」

「そうデスか、良かったデスね」

 

 突然笑い出した歌兎を怪訝に思いながらも妹のレアな満面の笑顔を前にしたら"些細な事はどうでもいいか"という思考になり、歌兎の頭をニット帽越しに撫でてあげながら、最初の目的地である《ヨーキな串カツ屋》という看板が掲げられているお店へと入っていく。

 

「こんにちは〜」

 

 カウンターの奥で丁度串カツに衣をつけて揚げている最中の黒いTシャツを腕まくりして白い肩をさらけ出し、その上に赤い"YOKI"とお店のマークが大きくプリントアウトされたエプロンをつけた年が若い女性の店員さんへとあいさつして、店員さんの前へと歌兎と共に腰を落とす。

 

「こんにちは。いつものでいいかな?」

 

 すると、店員さんもあたしに気づいたらしく、肩まで伸ばした黒髪を揺らして、垂れ目がちな焦げ茶色の瞳を細めて人懐っこい笑顔を浮かべると親しげに話しかけてくる。

 

「はい、いつものでお願いするデス」

 

 《うまいもんマップ・お肉屋さんversionーX(えっくす)》を完成させる為に彼方此方へと足を運んでいる最中に見つけたこの串焼き屋さんは一口であたしの胃を掴んでしまい、そこから着々店に顔を出していくうちに『いつもので』というだけでお目当ての揚げ物が出てしまうほどに なってしまった。

 

「はい、どうぞ。串カツに牛カツ、豚ロースと鶏カツだよ。揚げたてで熱いから気をつけて食べるんだよ」

「ありがとうございます」

 

 そう言って、揚げたての串焼き達が乗った皿を差し出す店員さんに頭を下げながら、キョトンとした様子であたしと店員さんを交互に見ている歌兎の前の前に置いてあげながら、自分用のものを受け取る。

 

「あっそうだ、この子が前に話したあたしの妹デス」

 

 受け取った豚ロースを目の前にあるソースに付けてから余分な物を小皿に落としながら、口に含もうとしてハッとしたように隣で見よう見まねで食べようとしている最愛の妹を紹介する。

 

「へー、この子が? 言ってた通りで瞳以外はあんまり似てないかな」

「自分で言うならいいんデスが人に言われると辛いのデス」

「あぁぁ……ごめんね。悪気があったわけじゃないかな」

 

 ハブてるように手に持った豚ロースへと齧り付く。

 途端、ザクカラッと揚がった衣から溢れ出してくる豚本来の旨味を含んだ油と舌を濡らすソースに思わず頬が緩んでしまうのを感じながら、隣で店員さんと話をしている妹へと視線を向ける。

 

「…姉様とお知り合いの方だったんですね。姉様がいつもお世話になってます。僕は姉様の妹の歌兎です、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね、歌兎ちゃん。ボクならよくこのお店で働いているから、今度はお姉ちゃんと一緒に来て欲しいかな。その方がボクも嬉しいから」

 

 頭を撫でられて、気持ちよさそうに目を細めている妹が店員さんに指示されるままに秘伝のソースを付けてから小皿に余分なものをちょんちょんとしてから齧り付く歌兎の眠たそうな瞳が美味しさのあまりまん丸になるのを見て、あたしも店員さんを交えて、世間話をしながら美味しく串カツ達を平らげたあたしはあの金ピカ《1129(いいにく)チケット》を掲げてから店内から出る。

 

「ふぅ……沢山食べましたね〜♪」

「…ん、お腹いっぱい」

 

 最初の串焼き屋さんからトコトコと次の目的地に向けて、通りを歩いていると物珍しそうに周りを見渡していた歌兎がピタリとその場から離れなくなり、引っ張っていた手を押し戻され、バランスを崩しながら、その場へと舞い戻る。

 舞い戻ってみるとそこはゲームセンターらしく、自動ドアが閉まっているというのに外まで開かれている機械達が奏でる音楽と色々なコーナーで遊ぶ人々の楽しげな声が漏れ出ている。

 

「歌兎? どうしちゃったんデスか?」

「……」

 

 腰を落として、歌兎の視線の高さで尋ねてみてもジィ––––とゲームセンターの一角を見つめたまま微動にしない妹に困り果てて、仕方なく彼女の視線を辿ってみるとそこには一台のクレーンゲームが置かれており、その中にはここではよく見えないが白と青緑色のヘンテコな生き物が並べられている。

 

(もしかして、あのトンデモ生き物が欲しいデスかね?)

 

 とりあえず、本人の意思を聞こうと再度視線を戻してから歌兎を見つめながら

 

「歌兎、欲しいんデスか?」

 

 と問いかけるあたしの方には一瞥もくれず、ただトンデモ生き物へと熱視線を送り続けながら、こくんとうなづく姿に腹を決めたあたしは歌兎の手を引きながら、例のクレーンゲームの前に来てみるとトンデモ生き物の全容が明らかになった。

 様々な顔をしているトンデモ生き物は全身をふかふかのボア生地で作成されており、全体的な色味は真っ白でこっちを見つめる円らな瞳は青色で、その下には三本のヒゲが刺繍されており、垂れ下がった長い耳の先にはほんのりと青緑色が付いている。

 

(えぇ……と、これは猫なんデスか? いいえ、仮に猫というには耳が長いデスよね? って事は兎? んーん、兎というには小さすぎるような……やっぱり猫。いいや、兎って可能性も……)

 

 丸みをおびた身体には二本の足と長い耳が其々装着されているのだが……やはり猫なのか? 兎なのか? あたしの中ではよく分からず、頭が痛くなってくるが……隣で眠たそうに開いている瞳をキラキラと輝かせ、奥まで顔のバリエーションが見たいのだろう、つま先立ちしプルプルと震えながら何処か興奮しているように思える妹の姿を見れば何としてでも目の前のトンデモ生き物をゲットしてあげたくなる。

 なので、ポケットから折りたたみ財布を取り出してから500円を投入してから"↑""→"と書かれているボタンを感覚的に押してみるがどれも賞品の受け取り口に繋がる穴に到着する前にクレーンからコトンと落ちてしまう……を二桁くらい繰り返していくうちにあたしの財布からは100と500円玉が綺麗さっぱり姿を消してしまい、思わず声を漏れてしまう。

 

「あ……」

「––––」

 

 チラッと歌兎の方を見れば、さっきまでの興奮した様子が嘘のように、しゅーんと目の前のトンデモ生き物が取れないことへの悲しみを全面から溢れ出している。

 

(くっ……愛する妹が欲しいものをゲットできないで、何が姉様デスかっ)

 

 ここは歌兎とお肉デートをする決まってから、何故かマリアやカルマがくれたお小遣いを使ってでも目の前の猫みたいな兎みたいなトンデモぬいぐるみを入手してみせるッ!!!!

 

「歌兎。お姉ちゃんはお札を両替してくるのでここから動かずに待っててくださいね」

 

 小さな肩へと両手を添えてからそう伝えて、黄緑の瞳へと硬い決心を讃えてから戻ってきたあたしはそこから数回プレイしてから……やっとその瞬間が近づいてきた。

 何度も苦戦させられながら、穴の近くにトンデモぬいぐるみがあたしの必死な気持に答えるようにプルプル…とぐらつきながらも耐えてくれて、穴の真上までたどり着き、絶対的な勝利の前にガッツポーズを決めるあたしとどんよりしていた瞳を再度きらきらさせている歌兎の目の前をすっとんと落下していくぬいぐるみはゲームセーターの店員さんが優しさから取りやすいところに鎮座してあったぬいぐるみをも巻き込みながら、穴へと姿を消していき……数秒後、カタンと音がし、身を屈めてから賞品受け取り口から二つのあのトンデモぬいぐるみを取り出した歌兎は二つのぬいぐるみへとそのプニプニした頬を擦り付けながら、あたしを見上げると今まで見たことがないほどの満面の笑顔を浮かべる。

 

「ありがとう、姉様。この子達を取ってくれて」

「どういたしまして。歌兎がいつもよりも喜んでくれて、お姉ちゃんは同じように嬉しいデス」

 

 店員さんから賞品を入れる袋を貰い、ぬいぐるみを入れてから、ゲームセーターを出た頃にはすっかり人通りが多くなっており、あたしは歌兎の手をギュッと握ってから次の目的地である唐揚げ屋さんを目指していく中、ドンと誰かにぶつかってしまい、慌てて謝ると離れてしまった歌兎の手を再度掴んでからズンズンと人混みを押しのけていく。

 

「歌兎、しっかりお姉ちゃんの手を握ってるんデスよ。絶対離しちゃダメデスからねっ」

 

 あたしの手に引かれている歌兎はあのぬいぐるみがよっぽど気に入った様子で一言も喋る様子もなく、黙ってついてきているのであたしは遅くなってしまい、結局決められなかった愛する妹への誕生日プレゼントを思わぬ形で送れたことが誇らしく、人混みを抜けてからは上機嫌に鼻歌を歌い出してしまう。

 そんなあたしの様子が気になったのか、歌兎は恐る恐る繋いでいる手を見つめながら物静かな声を上げる。

 

「あ、あのっ」

「……もう、なんデスか? うた–––」

 

 上機嫌に振り返った先には………知らない少女が困惑した様子であたしの事を上目遣いで見つめていた。

 さらっと柔らかそうに揺れるのは妹よりも濃い青系統のロングヘアーへと白いカチューシャをつけ、華奢な体躯へと白いカッターシャツの上に羽織っているのは水色のカーディガンを押しのけている二つの膨らみは小さく、下半身は茶色いスカートの下に黒い靴下を履いている。

 

「–––私、貴女の妹さんの歌兎さんじゃないです」

 

 あたしが掴んでいる手をもう一度見てからこっちを見つめる垂れ目がちな瞳の左下には黒子があって……あたしの妹にそんな黒子があった記憶は全く無く……あたしは黙って、少女を掴んでいた手を離すと心の中で絶叫する。

 

(デスよね–––––ッ!!!! あたし、やっちゃった––––ぁ!!!!)

 

 心の中で頭を抱えて恥ずかしさのあまりのたうちまわりながら、少女の友達と少女が合流するまで付き合ってから何度も頭を下げてから謝ってから、あたしは困ったように眉をひそめる。

 

(歌兎……どこ行っちゃったんデスかね……。まさか迷子になっちゃうなんて……)

 

 今絶賛迷子中の妹に想いを馳せていると––––あたしを見失ってわんわん泣いている時に悪い人に声をかけられて、どこに向かっているのかも分からないままに大人なホテルとやらに連れ込まれ、抵抗むなしく乱暴に着ている服を引き裂かれて、そのまま連れ込んだ人と一線を超えてしまい––––というのがすぐに想像出来てしまい、あたしはあわあわと顔を青ざめながら、最悪の結末になってない事を祈りながら、最後に妹と別れた場所……あの人混みが出来ていた通りに向かって走って向かうのだった。




歌兎ちゃんが向かいの鏡越しに見てしまって、思わず笑みをこぼしてしまった怪しすぎる集団とは誰のことでしょうかね(すっとぼけ)



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001 妹が小さくなってしまったデス。

本編じゃなくてすいません……そして、お久しぶりの更新となっております。

今回の話は簡単にいうとーーーーある日を境に1日ごとに1歳若返ってしまう歌兎の話です!

今回はプロローグということで、事件が起きてから数日経ったある日の出来事という感じで書いてます。

久しぶりに過保護切ちゃんを書けて、私はとても嬉しかったです。

それでは、本編をどうぞ!


「コラ!歌兎」

 

S.O.N.G.の食堂に響く怒声に雪音クリスは正面へと視線を向ける。

 

そこには一人の少女と幼女が居た。

 

少女の外見は癖っ毛の多いショートの金髪は後頭部に二本の寝癖があり、垂れ目がちな黄緑の瞳は下を向いている。

 

その垂れ目がちな瞳に映っているのは、自身の太ももの上に腰掛けている幼女であり、小さな腰へと掌を添えており、ぽんぽんと髪の毛を撫でる。

 

幼女の外見は肩のところで切りそろえられている銀髪であり、眠たそうに開かれている黄緑の瞳でまっすぐ前へと向いている。

 

どこか無邪気な雰囲気を感じる眠たそうな黄緑の瞳は自分の近くにある焦げ茶色のお椀へと手を伸ばす手がお椀に触れた瞬間、ハッとした顔で身を乗り出す腰をぐっと自分へと引き寄せる腕を鬱陶しそうに両手を添えてからジタバタする幼女。

 

彼女達の名前は少女の方が暁切歌。幼女の方は暁歌兎。

二人は姉妹であり、このS.O.N.G.内でちょっとした有名人だったりする。

 

(有名なのは、主に姉の行動の方だがな…)

 

クリスは今まで妹を思うあまりに姉が起こした数々の騒動を思い浮かべながら、もぐもぐとハンバーグ定食をスプーンで一口サイズにして、口に含むとくちゃくちゃと咀嚼音を鳴らし食べながら、姉妹のいつもよりも穏やかで可愛らしい攻防を黙って見守る。

 

「…むー」

 

クリスが見守る中、切歌は歌兎が火傷しないように立ち回るのに苦労しているようだった。

そんな姉の苦労を知らない妹は不機嫌な声をあげながら、近くにある焦げ茶色のお椀へと小さな手を引っ掛けて、自分の方へ引き寄せようとしてお椀が傾いて、中に入っている液体が自分の方へと傾くのを見た切歌は瞬時に手を素早く掴んで、空いている手で歌兎の手の届かないところへと移動させた切歌は頬をフグのように膨らませて「むーむー」と不機嫌な声を上げている妹へと叱咤する。

 

「むーじゃありません。これに触ったらあついあついになって、歌兎が痛い痛いになってしまうんデスよ?」

 

「…やだー、すーぷのみたい」

 

「ダメデス!まだ飲めませんっ」

 

姉に怒られても懲りてない様子の妹は身を乗り出してからお椀を掴もうとし、切歌は顔を青ざめさせるとより遠くへと置く。そして、歌兎の手首を掴むと膝の上へと置く。

 

「ダメと言ったらダメデス!まだ熱いので、歌兎にはあげられません。まだお野菜やおかずが残ってるでしょう。先にこっちから食べましょう?」

 

歌兎用に取り分けたプラスチック製の小皿の上に乗っかっている一欠片のオムレツ、ブロッコリー、ミニトマト、小ぶりのふりかけがかかったおむすびが残っているのを見てから、歌兎が右手に掴んでいるスプーンでそれらを掬おうとすると歌兎がブンッと手を横に振る。

 

「…もうあきた。すーぷのみたい」

 

ブンブンとスプーンを振り回しながら、駄々をこねる妹に切歌は困り顔で宥めるが歌兎の我が儘は収まる気配は無く、より強くなっていく。

 

「ダーメ。もう少し冷ましてから飲みましょう……ね?ほら、まだオムレツが残ってますよ。歌兎、このオムレツ甘くて美味しいって言ってたでしょう。お姉ちゃんが食べさせてあげるから、お口開けて…あ〜ん」

 

「…やだー。すーぷ、のむの!」

 

切歌の差し出すオムレツののったスプーンを手で阻止し、さらに加速していく妹の我が儘に折れたのは切歌の方だったようで、小さくため息をついてから、スープでスプーンを掬う。

 

「…はぁ……分かりました。お姉ちゃんがフゥーフゥーしてからね?」

 

「…ん!」

 

切歌がスプーンで掬い、フゥーフゥーと息を吹きかけ、よく冷ましてから目をキラキラさせている歌兎へと差し出してから小さな口へと添えてからゆっくりと傾けてからゴクゴク飲んでいく妹を見下ろし、嬉しそうに微笑む切歌。

 

その様子をクリスは暫く見てから、二人の抗争が落ち着いた頃を見計らってから切歌へと声をかける。

 

「過保護は大変じゃないのか?」

 

「にゃ?」

 

「チビが小さくなり始めてから、ずっとそうやって世話してんだろ?さっきの駄々も毎日となると参ってくるだろ」

 

切歌は暫くぽかーんとしていたが、やっとクリスが尋ねたいことに気づいようでくいくいと袖を引っ張り、二杯目をご所望する歌兎に「フゥーフゥー」と息を吹きかけてから冷ましたスープを差し出しながら、暫く思考した後にクリスへと首を傾げながら問いかける。

 

「クリス先輩はあたしが大変そうに見えますか?」

 

逆に尋ねてくる切歌の顔をまじまじと見つめたクリスは一言言う。

 

「……全然見えないな」

 

というか、いつもよりも肌は艶々しているように見えるし、イキイキしているようにも思える。

 

(確か前に歌兎エキスがなんとかかんとか言ってたな…)

 

今はその歌兎エキスがたくさん摂取出来ているって事だろうか?

しかし、さっきの駄々等を毎日やっていると思うとやはり大変だと思うのだが……お風呂とかもこの調子だと駄々を言ってそうだし……しかし、歌兎の事を大事に抱きしめているこの姉を思うとーーーー

 

(ーーーーその苦労すらも楽しんでそうだよな…)

 

僅かに苦笑するクリスの問いに必死に答えようとしている切歌は歌兎の催促に応えながら、しばらく「うーうー」と唸り声をあげながら、瞼を閉じてから考えた切歌はパッと目を見開くとポツリと問いへの答えを口にする。

 

「確かに歌兎が小さくなって大変だったこともあるデスよ」

 

そう言いながら、歌兎の口元を拭ってあげてから今度はプラスチックの容器にあるオムレツを切ってから歌兎の口に含んでから、今度はスープを冷ましてから飲ましてあげる。

 

「小さくなるにつれて記憶を失っていって、あの時みたいに人見知りになっちゃうし……あたしのいうことを聞いてくれない時もいっぱいありますし……やんちゃばかりして転んだりとか危ないことばかりして……心配しちゃう時もありますけど……」

 

そこで言葉を切った切歌はクリスへとにっこりと笑いかけながら、歌兎のぷにっと膨らんだ頬をツンツンと突く。

 

「でも、どうしようもなく可愛いんデスよね」

 

プニプニする切歌の指を鬱陶しそうに小さな手で防ぐ歌兎の髪の毛を手櫛しながら、切歌はギュッと歌兎を抱きしめる。

 

「迷惑かけられても心配しても何をさせてもこの子の笑顔というデスか……顔見てたら、些細な事がどうでもいいように思えてくるんデスよね。もう可愛いくて愛おしくて……あたしにとって、こうして歌兎と居れる時間がとても大切なんだなって……今回の事件で思ったことデスね」

 

これで答えになっているかとクリスの顔を見てくれる切歌へとクリスはスプーンをお盆へと置く。

そして、一言だけ呆れたように掌を重ねてから席を立つ。

 

「お前の妹好きは筋金入りだな」

 

「ふふ。クリス先輩もようやく気づいたようーーってなんでそんなに呆れ顔してるんデスかっ!?」

 

「お前を心配したあたしが馬鹿だったなーって思ってな。ごちそうさん」

 

お盆を持って、切歌達から背を向けてから食堂を去っていくクリスへと右手を伸ばしてから止めようとする切歌だったが、歌兎の妨害により、それも上手くいかずにクリスの姿が見えなくなってしまう。

 

「って、クリス先輩!?話はまだ終わってないと思うのデス!!まーー」

 

「ーー…おねえちゃん、すーぷ」

 

「はいはい。スープデスね。フゥーフゥー……はい、どうぞ」

 

「って、クリス先輩!!もう居ないデスし……もう…」

 

(クリス先輩は結局、あたしに何を尋ねたかったんデスかね…?)

 

切歌は小さくため息をついてから、クリスが立ち去る前に僅かに口元に笑みを浮かべていたことに眉を顰めながらもくいくいと袖を引っ張ってから新たなスープをご所望する小さな我が儘お姫様へとしっかり冷やしたスープを小さな口元へと添えるのだった。




次回から話を遡って書かせていただきます。

今回の切ちゃんがいつもよりもお姉ちゃんしてましたね(微笑)


〜今回の話の補足〜

今回登場した歌兎は3〜5歳児です。
一人で椅子に座って食べるには背が足りないので、食堂で食事を摂る時は切ちゃんの膝の上に座って食べてます。
といっても、定食は量が多くて食べられないので……切ちゃんが頼んだ定食を食堂で小皿をもらってから、そこにご飯やおかず等を少しずつ取ってもらってスプーンフォークでもぐもぐ食べています。
ですが、作中でもありましたが、お汁物に関しては歌兎が火傷をしてはいけないので…歌兎の手の届かないところに置いて、冷ましてから飲ませています。
そして、お風呂など危険を伴うもの、トイレや着替えなど危険を伴わないものも含めて、切ちゃんが付ききっかりでお世話をしており……歌兎が小さくなってからは切ちゃんの部屋で二人で寝ています。

そして、今回の歌兎を少し駄々っ子のように書いたのは……偶にはそういう彼女でもいいかな〜と思ったからです。
今書き直しているメインストーリーではいい子すぎる程にいい子なので……小さくなった時くらいお姉ちゃんや周りの人たちを困らせる駄々っ子になってもいいかな〜と。
切ちゃんは少してんてこまいな感じでしたが、クリスちゃんのいう通り、切ちゃんはこういう歌兎とのやりとりも楽しんでそうなので…(微笑)

以上、今回の話の補足でした!



最後に、今日は響ちゃんの誕生日であるのと同時に茅野愛衣さんの誕生日ですね!!
お二方の誕生日を心からお祝いするのと同時に、この日にお生まれになられた方々にもお祝い申し上げます、本当におめでとうございます!!!!
響ちゃんと茅野さんが生まれてきてくれたこの日に感謝し、後書きを終えたいと思います。
また、来年もお二方の誕生日のお祝いをできるととても嬉しいです!!



また、最後にちょっとしたお知らせなのですが……

pixivの方で【うちの姉様は過保護すぎる。(チャット風小説版)】を0:00に投稿させていただきました。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16009723

こちらはチャット小説風にこの作品をリメイクしたもので、まだ第1章の始まり部分しか書いていませんが……随時、他の話も載せていく予定です。
あまり文を読まれるのが得意ではない方、ささっと文を読みたい方におすすめとなっていますが、この作品を読んでくださっている方にも楽しんでいただけるよう、新たなセリフの入れていこうと思いますので……この【うちの姉様は過保護すぎる。】【R指定】共に、応援をよろしくお願いいたします(深々とお辞儀)


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クロスオーバー:ナカノヒトゲノム【実況中】
001 シンフォようちえん


最初に更新がここまで遅くなりすいませんでした(高速土下座)

暫く、【狂愛章】の更新に力を入れようと思い……【9/13】といえば、我らが【立花 響】ちゃん……そして、大大大大だーい好きな【茅さん】のお誕生日という事で……《茅さんが演じられる切ちゃんと響ちゃんメイン》の話……『切ちゃんと響ちゃんの二人が歌兎へと危ない愛を向けてしまう又は取り合う話』か『ひびみくがきりうたへと危ない愛を向けてしまう話』のどっちがいいかと悩みに悩みあぐね、所々メインにしたいシーンの案は出てもそこに辿り着くまでの文章のパズルがはまらないという……完全なスランプに陥ってしまいまして……(なんでこんな時にスランプに陥ってしまったんだッ!! 私はッ!!! (血涙))

という事で、最近の夏アニメで見てきた話で気に入った話から引用させていただきまして、今回の話を書かせてもらいました。

引用させて頂いたアニメは《ナカノヒトゲノム【実況中】》、話数は《GAME11/ISOLATED SOUL》 となっております。

内容は多少の変更はありますが、展開的にはそのままに。メンバーをシンフォギア装者に変えて更新しようと思います。

参加するメンバーは下の通りで

▼暁 歌兎
▼立花 響
▼風鳴 翼
▼雪音 クリス
▼マリア・カデンツァヴナ・イヴ
▼月読 調
▼暁 切歌
▼小日向 未来
▼天羽 奏
▼セレナ・カデンツァヴナ・イヴ

となっております。


それでは《シンフォようちえん》開幕でーす!!
本編をどうぞ!!



1.

 

その日、僕 暁 歌兎は【ナカノヒトゲノム】というのをプレイしていた。

ゲーム実況者の中で話題の謎のフリーゲーム。通称、失踪ゲーム。クリア直前で姿を消すプレイヤーが後を絶たないという……。

 

そして、今僕もその失踪ゲームの真相に触れようとしていたーー。

 

 


 

おめでとうございます

 

『選ばれしカリスマ実況プレイヤーの貴女に「ナカノヒトゲノム」クローズドステージのプレイ権限を与えます』

 

『なお、この権限は放棄、譲渡などできません』

 


 

真っ暗い画面に浮かび上がる真っ白い文字は読み上げた僕は参ったように眉をひそめる。

 

「…どうしよ、これ」

 

行方不明者が多発しているフリーゲームを"自分の実力を知りたいから"というふわふわした理由でプレイし、そこまでたどり着いた人は必ず行方不明になるというクリア直前まだ行ってしまったことがあの過保護な姉様知られようものならば……僕は姉様の部屋に軟禁状態になりかねない……沢山の小言をもらいながら……。

 

何か打開策はないかと悩んでいる間に再び真っ黒になった画面に浮かび上がるのは以下の文章だ。

 

 


 

ただちにお迎えにあがります

 


 

「…え、えっ? もう迎えにってーー」

 

 

 

 

2.

 

「…ん? ここは……」

 

いつの間にか意識がきれていた僕が次に目を覚ました場所は生い茂る緑が美しい、壮大な森でした。

 

そこから先の出来事を簡単に綴っていくと……

 

僕はどうやらアルパカのマスクとシワひとつないビッシッと黒いスーツ、革靴に白い手袋といった出で立ちのお兄さん? お姉さん? いや、マスクから聞こえてくるのはお兄さんのそれなので、アルパカのお兄さんに無人島らしき所に立つ"39番街"と呼ばれる大きな街などが鎮座する場所へと監禁されたということ。

 

アルパカのお兄さん曰く監禁された人は僕以外にも複数人いるらしく、その人達に出会うためには一つ目の試練を突破しなくてはいけなかったのだが……僕の試練はものの数十秒で終わりを迎えることになり、迎えた理由は大きなパンダさんに乗った姉様が僕に襲いかかってきた人食いネズミを一踏みで絶命させてしまったからで、地面に練り込む形で絶命する人食いネズミネズミさんに心ばかりの祈りを捧げていると大きなパンダさんから飛び降りてきた姉様に体当たりされ、僕もネズミさんと同じく地面に練り込んでしまったこと。

 

アルパカのお兄さん、姉様と共に廃墟めいた学校に向かった所、そこでこのおかしな街に連れてこられた人物と対面することになり、そこで新たな衝撃に打たれることになり、僕以外に連れてこられた人物達は装者のねぇや、お姉ちゃん達だったこと。

しかも、みんなかなりのゲーマーかつ名の知れた実況者だったという新真実までお披露目されて、僕は戸惑いの渦に居たのだけども……僕が使っているプレイヤー名を明かすとその場にいる人が引いていた、アルパカのお兄さん以外。僕自身、そんなにゲーマーかつ実況者である自覚はなかったのだけれども、いつも僕の味方でいてくれる姉様までドン引いていたので、僕はかなりのゲームという世界にどっぷり浸かってしまっていたことが知れたこと。

 

そして、何よりも重要なのは、アルパカのお兄さんもといパカお兄さんにこの街から無事に帰還するために達成しなくてはいけないことは"再生数1億回"。そして、もう一つルール違反者・リタイア者は失格とみなされ、《白の部屋》と呼ばれるただ白い部屋へと仲間が1億回達成するまでその部屋に永遠待機ということ。

 

仲間の助けを信じ、ずっと待ち続けた人物が白骨していく様子をまじまじと見せられた僕らはパカお兄さんの指示の元、1億回達成を果たすために日々ゲームに勤しんでいたわけなのだが……

 

一回、奏お姉ちゃんがパカお兄さんに刃向かってしまい、白の部屋へと連れていかれた後、僕達みんなはパカお兄さんに全員でのボイコットを起こし、そのボイコットに慄いたパカお兄さんが敗者復活戦をしてくれて、その敗者復活戦を無事終えることが出来て、その敗者復活戦が行われた日も浅い頃、僕達はパカお兄さんに呼ばれて、食堂へときていた。

 

「皆様、お集まりいただきありがとうございます。こ、これより第9ゲームを開始させていただきたく……あ、ダメだったら……明日でも構わないんですけどーー」

「ハッ? 言ってやがる」

「全然聞こえないデスけど」

 

そう弱々しく言うのは、パカお兄さんで食堂と廊下へと続く扉からトレードマークであるアルパカのマスクをひょっこりと覗かせて、此方を伺っており、その様子にガンを飛ばすのはうちの過保護な姉様とクリスお姉ちゃん、翼お姉ちゃんに奏お姉ちゃんの四人でこの【ナカノヒトゲノム】が始まって以来、ずっとパカお兄さんにたて突いている人たちだったりする。

 

「…パカお兄さん、怖がらないで。ここにいる人たちはみんな、パカお兄さんと仲良くなりたいんだよ」

「そうそう。パカさんもここにいるみんなも手を取り合えば……いだぁ!?」

 

そして、その四人とは正反対にパカお兄さんと仲良くしたい・手を繋ぎたいと思っているのが僕と響師匠で二人で悪意はないということを両掌を見せながら、顔をのぞかせているパカお兄さんに近づいていると響師匠はクリスお姉ちゃんに拳を埋め込まれ、僕は音もなく後ろに忍んだ姉様の両手によって腕の中へと捕獲された。

 

「お前、本当のバカだなァ! あたしら、こいつに誘拐されて、ついさっきまで奏先輩が白の部屋へと連れていかれたんだぞ!?」

「あぁ、奏を白の部屋へと連行した罪、その身をもって味わってもらうぞッ」

 

(小さき事は悲しきかな)

 

腕に抱き寄せられたら最後。

パタパタ両脚を動かしても、地面につかねばまるで意味を成さない。

抵抗する事を諦めた僕と違い、翼お姉ちゃんは大切な相棒をあの真っ白い牢獄へと強制連行したパカお兄さんが許せないのか、左腰にさしている鞘から日本刀を抜き取り、今まさに斬りかかろうとしているところを間一髪割り込んだセレねぇによってパカお兄さんは命を救われている。

 

(あ、ガタガタしてる……)

 

「だ、ダメですって! 風鳴さんっ。パカさんを傷つけたら、風鳴さんまで白の部屋に連行されてしまいます」

「は、はなせっ。セレナ! 私は一発奴に一閃をくれてやらねば腹の虫が落ち着かんのだ」

「翼。あたしなら大丈夫だ、お前が汚れる必要はない。これはあたしの問題だ。あたしがケリをつける」

 

と言い、いつの間に手にしていたのか……その手には金属バットがあり、パカお兄さんの震えがさらに強くなったのを可哀想に思ってかどうかは分からないけど、翼お姉ちゃんを押さえつけるのに必死なセレねぇの指示の元、マリねぇが奏お姉ちゃんを捕獲する。

 

「天羽さんまで何してるんですか!? マリア姉さん、お願い」

「えぇ、分かったわ。奏、もう一度翼を……ここにいる仲間を悲しませたいの」

「………わかったよ。当面は大人しくしといてやる」

「……当面じゃなくて、このゲームがクリアさせるまで大人しくしててくれると嬉しいんですけどね」

 

やれやれと言った感じで呟いたマリねぇとセレねぇのファインプレーにより、パカお兄さんは殺させずに済み、僕達は《第9ステージ》の舞台となる《第3研究室》へと来ていた。

扉を開けた先には、中央の柱につながれているカプセルが10つが有り、パカお兄さん曰くこのステージは"5000万再生突破記念"に用意されたもので、実況者全員で楽しめるバーチャルシミュレーションをする為のアバターの同期を行う為に使うものらしいのだけども……。

 

「…なんだか、コールドスリープみたいだね」

「デスね。アニメやゲームでよくある低温保存をまさか自分がすることになるとはびっくりなのデス」

「……」

「えっと……調? そんなにジィーーとあたしの顔を見てどうしたデスか?」

「切ちゃんが一文字も間違えないで難しいことが言えたから、えらいと思って」

「フ。これくらい当然なのデス」

 

誇らしげに胸をはる姉様の頭をポンポンするシラねぇを横目に僕はカプセルの中に横になるとゆっくりと目を閉じる。

 

「これより人格データの同期を開始します。カプセルの蓋を閉じ、横になってお待ちください」

 

 

 

 

3.

 

「……ゃん」

 

(ん?)

 

グイグイと揺さぶられる感覚の後、見知った物静かな声が聞こえ、飛び起きてみるとそこには起き上がったあたしのことを見上げる外見5歳児くらいの水色のかかった銀髪を肩のところまで伸ばした眠たそうに黄緑色の瞳を開いた幼女がいてーーと状況確認する前にあたしの本能は"彼女をお持ち帰りしなくては"という一文字に埋め尽くされ、彼女の脇へと両手を差し込み、持ち上げると同時にベッドから降り、自分の部屋へと駆け込もうとした瞬間、あのアルパカに行く手を塞がれてしまう。

 

「ーー」

「切歌様。その子は持ち帰り禁止でございます。ただちに他の皆様のところへとお返しを」

「……チッ」

 

アルパカとあたしの戦力差は測ってみても差がありすぎる、突破する事は不可能と判断し、しぶしぶみんなの元へと幼女姿になってしまった歌兎と共に舞い戻る。

 

「ごほん。第9ステージはシンフォようちえん。保護者役の皆様はこれから此方の幼児達と仲良くなっていただきまちゅ〜」

 

アルパカの説明も聴きつつ、あたしの視線は目の前であたしの脚へと抱きつき、プニプニな頬をスリスリしているプリティーマイシスターで、この可愛い姿を見てしまえば見てしまうほどに部屋へと持ち帰れなかったことが無念に思える。

 

「……後少しで可愛い姿の歌兎をあたしの部屋に連れ込めたのに……」

「……何度も聞くがお前はあのチビの事をどんな目で見てやがるんだ……。部屋へと、つつつつ、連れ込むって……もしかして、実の妹にいやらしい事をしようとしているんじゃないだろうなっ」

 

隣で耳まで真っ赤にしてロクでもない事を考えているであろうクリス先輩へと小馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

「やれやれ……そういう意味でしか言葉を捉えられないなんて、クリス先輩の頭はお花畑なのデス」

「う、うっせぇ〜ッ!! 年中お花畑のお前に言われたくなんかーー」

「ーーあの……雪音様、切歌様? 説明を続けてもよろしいでしょうか? と、ドサクサに紛れて、小日向様。貴女様もですが幼児のお持ち帰りは固く禁止させていただきます。お返しを」

「……チッ」

 

なるほど。あたし達へと全集中が向かっている今ながら、小さくなった響さんを自室へと連れ込めると未来さんは信じたようだけど、そこはアルパカ。アルパカに死角などあるはずがない。

という事で、おそらくあたしも今の未来さんと同じように乙女がするべきではない顔して舌打ちをしながら、あたしとクリス先輩、一歩後ろで状況を整理している翼さんの元へと戻ってきた。

 

「小日向様も切歌様ももう一度ご忠告申し上げます。その幼児をご自身の自室へと連れ込まれた瞬間、お二方は失格とみなし、白の部屋へと連行させていただきます」

 

戻ってきた未来さんとあたしへとアルパカはクリクリッとした瞳を向けると一トーンを下げた声で最終警告をいうのを黙って聴き、あたしと未来さんは自分の方へと固く抱き寄せていた小さな歌兎と響さんをそっと幼児達の輪へと戻す。

 

「……分かったのデス」

「……分かりました」

 

あたし達の行動に満足げにうなづいたアルパカは"ごはん"とわざとらしく咳払いすると説明を続ける。

 

「さて、説明の続きですが……この子達はインスタントアバター。頭上の植物は親愛度に応じて、開花しまちゅ〜。五体の開花でステージクリア。開花の種類も様々でして〜」

「少し良いだろうか?」

 

今まで黙ってアルパカの説明や大騒ぎしているあたし達を見守っていた翼さんが右手を小さくあげると目の前にいる赤髪を肩までのところに伸ばした幼児……恐らく、奏さんをチラチラと見つめ、頬を赤く染めながら、アルパカへと質問している。

 

「なんでございますか? 風鳴様」

「その……この者達は本物なのか?」

「いえいえ、まさか。ミニクリーイーターの改良種です。AIチップで本人様がらに行動します。ですが、オリジナルは同期中故ゲーム終了までカプセルまで出られません」

 

想像していた通りの答えにガッカリしてしまう気持ちと共に気になるのはアルパカの円らな瞳が怪しげに光り、背筋を通った嫌な予感は当たることになる。

 

「ということは、このままクリア出来ないと響達は……」

「無論。永遠にスリープし続けることになります。ゲームも折り返し時点、皆様の絆がどれ程のものかお手並み拝見と行かせていただきます」

 

部屋を出て行くアルパカへと手に持った積み木を投げつける奏さんと周りを見渡すと此方を不安げに見上げてくる幼児達へと強張った笑顔の上から満面の笑顔を塗り潰し、こうしてあたし達のシンフォようちえんが始まったのだった。




駆け足だったので、説明させていただきますと

目の前の幼児達を切ちゃん・クリスちゃん・未来ちゃん・翼さんの四人でお世話して、攻略しろって事ですね。
攻略出来れば、頭上の双葉が開花し……攻略出来なければ、オリジナルはカプセルの中で永遠にスリープしたままという事です。

果たして、四人は残りの六人を元に戻せるのでしょうか?


こちらの話の続きは、集中更新期間という事で【狂愛章】の間々に更新していければと思いますッ(敬礼)




さて、ここからはアニメの9・10話の感想なのですが………簡潔に、ツイッター式に書いていきますと……

翼さん、皆裏切ったッ!?(目が飛び出る)

訃堂さん、護国を防人る為にそこまでするのか……(ドン引き)

ママリアさん、ナイスビンタッ!!(ぐっ)

パパさん……………(滝涙)

『護国の鬼ィイイイ』

って感じで、ピックアップするところはやはりマリアさんの強烈ビンタと『貴女はいつから他人ではなく自分を守るようになってしまったの』という激アツ台詞ではないでしょうか?
その後の『それなら私は何のために馬鹿みたいに"防人防人"と唱えてきたというのよ……』と装者の先輩として、切ちゃん達の先輩として先頭に立つかっこいい翼さんではなく、奏さんに見せていた年相応の翼さんで……女口調なのが、よっぽど翼さんが追い込まれていたのだとわかり、涙が止まらんかったです……(涙)


続けて、10話のツイッター式感想は

マリアさん……首痛そう……あの圧力、死んでんじゃん(ガタブル)

ノーブル・レッドの三人、本物の怪物に……(涙)

種子島か……小さい頃によく行ったな……(遠い目)

ロケットを間近で見て、はしゃぐきりしらKAWAII(赤顔)

エルザちゃん、つおッ!? ここまでトリッキーに戦うとは……(愕然)

ロケットがぁあああああ(絶叫)

ザババユニゾン無敵デスッ!!

といった感じで、ピックアップしたいのはやはりきりしらのザババユニゾンのシーンではないでしょうか!!
エルザちゃんとの戦闘中、ピンチに陥る切ちゃんのあのビックリ顔がまさかこの回数でまた見れるとは(ニヤニヤ) そして、その後も調ちゃんにお姫様抱っこされたりと……今回はかっこいい切ちゃんというよりも可愛い切ちゃんが多めだったと思います。そして何よりも声を大にしていいたいのは"調ちゃんのヨーヨーになりたい"ですね……調ちゃんの体を駆け上がって行くヨーヨーを見るたびにそう思ってしまう私はやはり変態か……と二人のアマルガムでの武器もお披露目になったわけですが………調ちゃんの盾と見せかけての、ヨーヨーに見せかけての、ロボにはビックリさせれましたね〜♪ そして、これは私だけの感想だと思いますが、切ちゃんの鎌が成長しすぎて扱いづらそうになっているのが気になりまして……と言いつつ、切ちゃんは鎌をぶんぶんする達人ですので何の心配も実はしてなかったりします(笑)



スランプに陥っている間にアプリ内では様々なことがありましたね

まず最初に【XDキャラソンアルバム2】の発売が12/4(水)に決まりましたねッ!
収録される楽曲には既に【ダイスキスキズキ】【アカツキノソラ】が決まっており、私にはこれだけでもう買う価値がありますッ。買って、切ちゃんパラダイスしますッ(決意)

また、今日切ちゃんのラストイグニッションギアガチャが更新され、私は今まで貯めてきた石・ガチャチケットを全部注ぎ込み……そして、MAX限界突破できるところまで漕ぎ着けましたッ!! 後はレベ上げして、上限解放出来る素材はもう既に集まっているので、上限解放して……覚醒とかその他諸々するのみで、早くフレンド欄に載せたいです(笑みが止まらない……)

最後に、明日で終わりになってしまいますが……9/13日の響ちゃんの誕生日をお祝いしてのフレンド欄の変更は、イベントで有利であろう【技属性】と【心属性】を基準に、役に立ちそうなものを選ばせてもらい、
今回の誕生日の主役である【響ちゃん】
そして、響ちゃんといえば【未来ちゃん】
ということで、私なりに役になってくれるであろうお二人にフレンド欄を彩ってもらい、メモリアもイベントでは力になれませんが、二人が映っているものを載せさせていただきました。

ここでメモリアに関するちょっとした裏話なんですが、もしかしたら気づいてらっしゃる方もいると思いますが……響ちゃんがシンフォギアカードの場合は響ちゃんが真ん中になるようにメモリアを設置し、未来ちゃんの場合は未来ちゃんが真ん中になるように設置していることは気づかれてたでしょうか?
前の奏さん誕生日の時も同じように設置してみたんですが…(照れ笑い)

初耳と言われる方はこっそりと私『律兎』のフレンド欄をご覧になってみてみてください。

ではでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございます!!(土下座)


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狂愛
真似だけじゃ足りない《ひびうたエピソード》


響ちゃんファンの方々本当に申し訳ありません(高速土下座)

何故私が土下座をしているのかというと…それは内容がアレだからデス。えぇ、前回の切ちゃん回もアレでしたが、今回はあのアレとは違う分類なんデスが…もうやばいアレデス。故に、響ちゃんファンの方々には不快な思いをさせてしまうと思います。

と、アレアレばかりでは分からんデスよね…(大汗)

今回のアレは変態な分類の方なんデス…。
時々、目を塞ぎたくなる変態な響ちゃんが現れると思いますが…この世界線の響ちゃんにとって、それは歌兎への愛情なんデス。
だから引かないであげてください。
この世界線の響ちゃんに引いた気持ちは私が受け止めますからっ!
どうか原作の響ちゃんとこの世界線の響ちゃんを引いてあげないでください(礼)

というわけで、ここまでこの先に進むことを引きとめようとしましたが…それでもこの先にある話を読みたいという勇敢な読者さん。

そんなにもこの先にあるアレをみたいのデスか、仕方ないデスね…千円札ならぬ、僭越ながら私が力づくで引き止めされてもらいましょう!

さぁ、何処からでもかかってこいデース!(薙刀ブンブン)

…って、おふさげがすぎましたね(笑)
それでは、今度こそ本編をどーぞ!!

※かなり長めです。ゆったりとご覧ください。


一.

 

最近、僕の下着が盗まれることが多くなった。

特に盗まれる率が多いのは、S.O.N.G.での練習後と師匠に稽古をつけてもらった後の二つの場面が最も多くて、盗まれるものはブラジャーにショーツはもちろんのこと、ごくごく最近では汗拭きタオルに姉様がいつも多めに入れてくれている代えのアニマルパーカー、無地のTシャツまで盗まれる始末。

代えのアニマルパーカーや無地のTシャツは洗っているからまだいいとして、何故僕の汗が染み込んでいる汗拭きタオルやブラジャー、ショーツを盗む必要があるのか?臭うだろうし、幼児体型な僕の物を盗んで何の得が…、そもそも盗んだ人の身体にヒットするとは思えないけど…と考えると共に、ここまで多発してくると流石に気持ち悪い。

 

(早く犯人が見つかるといいけど…)

 

と思い、シャワー室から出て、服を着替えようと僕の着替えが入っている籠を見た姉様の年相応な幼さを残している整った顔立ちが曇り、癖っ毛な明るめの金髪を掻く。

 

「ありゃー、また盗まれてるデスね」

「うん、下着だけじゃなくて練習着まで盗まれるなんて…司令に言った方がいいかな?」

「んー、しかしあんまり大袈裟にしたくないデスからね」

「でもこのままっていうのは良くない」

「デスよな…うーん」

 

姉様の隣に立ち、同じく幼さを残りつつも整った顔立ちを曇らせるのは黒髪をピンクのリボンでツインテールにしている少女・シラねぇである。

並んでいる2人の間から僕の籠を覗いてみるとそこには本来なら姉様がやや乱暴に脱ぎ捨てた僕の練習着や下着が重なっているはずだ。しかし、現実は無機質な光を反射する底が見えてしまっている。

僕が姉様に服を脱がせてもらって、一緒にシャワーを浴びていた時間はトータルで10分か20分程度。果たして、短い時間で僕の籠から盗みとることなんて出来るのだろうか?

 

そんな事を籠の底を見ながら考えているとふと視線を感じる。

身体の隅々を舐め回すように見られている感覚…ねっとりと背筋がゾクっとする嫌な視線。

 

「…っ」

 

キョロキョロと辺りを見渡すが、そこにあるのは普段の風景。早めに上がった僕と姉様、シラねぇと違い、まだシャワーを浴びているのはマリねぇと翼お姉ちゃん、クリスお姉ちゃんに響師匠、未来お姉ちゃんとセレねぇという順番でセレねぇとマリねぇは早く着替えない僕たちが気になるのか早めに切り上げて胸元を隠しながら、僕たちのところへと歩いてくる。

 

「早く着替えないと風邪をひくわよ」

「あっ、マリア。そうしたいのは山が二つなんデスが…」

「もしかして、また歌兎ちゃんの下着が盗まれてしまったんですか?」

「そうなの。今回は練習着まで綺麗に無くなっている」

「そう、困ったわね。切歌。ちゃんと歌兎の着替えは二つ持ってきてるわね?」

「…あっ…はい、ちゃんと持ってきてるデスよ…」

 

(あっ、姉様。顔がショックな感じになってる)

 

渾身のシャレをスルーされてしまったのが恥ずかし悲しかったらしい。頬を赤くしながら、なんかプルプル震えている。

穴があったら、今の姉様は飛び入りたいんだろうな…。

そんな事を思いつつ、プルプル震えている姉様の手を握り、見下ろしてくる姉様に淡く微笑んでいるとまたさっきのねっとりした視線を感じる。

素早く視線が感じた方を見てみるとばっちり重なるまん丸な琥珀色の瞳と眠たそうに半開きされた黄緑色の瞳。

 

(…師匠?)

 

髪の毛をワシワシと洗いながら、チラチラと僕の方を見てくる師匠に戸惑いを隠せない。

もしかして、さっき視線も師匠からだったのだろうか?

ううん、師匠と個人訓練をしてもらっている時には何も感じた事ないし、そもそも師匠に未来お姉ちゃんという人が---

 

「---う?歌兎?」

「…!」

 

姉様の声と顔が間近に迫り、僕は驚きから目を見開く。

 

「どうかしたデスか?」

 

間近にある心配そうに眉をひそめた姉様の顔に僕は首を横に振る。

 

「…ううん、なんでないよ」

「そうデスか。なら、もう少しシャワーを浴びてきていいデスよ」

「…?」

 

なんで?という意味を込めて小首を傾げると途端に言いにくそうに視線を逸らす姉様。

 

「そ、それがデスね…出る時にちゃんと入れたはずの歌兎の盗まれた用の着替えが無くなっていましてね…。今から取りに行かないとデスから…その…デスね…」

 

なるほど。マンションまで取りに行ってる際に僕を全裸でここに置いておくわけにいかないから、シャワーを浴びながら身体を温めつつ待っていて欲しいと…しかし、そうすると姉様の方はどうなるのだろうか?きっと全力疾走で走って帰ってくるんだろうから、また汗をかいてしまうんじゃないだろうか。

そんな僕の不安を感じ取ったのか、姉様が苦笑いを浮かべつつも胸を叩く。

 

「大丈夫デスよ!家でも入るデスから、それに歌兎を1人でこんなところで置いておけないデスからねっ!」

「そう思うならしっかりしてほしい、切ちゃんは肝心なところで天然ドジっ子。私が出る時にちゃんと確認してって言ったのに…」

「うぐ…胸がッ、胸が痛いのデス…ッ」

 

姉様がシラねぇからの"ジィーー"攻撃に胸を押さえていた。

そんな姉様のことを仕方ないな…といった感じで見てから、シラねぇは自分の手元にあるピンク色の手提げ袋の中に手を差し込むとカサコソと中を探ると僕の方へと何かを差し出す。

 

「はいこれ、歌兎にあげる」

 

シラねぇの掌の上にあったのはお古と思える下着で…それとシラねぇの顔を交互に見てから、両手を横に振る。

 

「…いい、いいよ…」

 

断ったのは断じて使用したのが嫌だからってわけじゃない。ただ、シラねぇの下着が1着とはいえ、僕なんかのために無くなると思うとなんか申し訳なくなってしまう。

 

「…僕は凹凸のない身体だし、最悪の場合は分厚めのパーカーをこの上に羽織って、帰れば全裸で歩いているとはバレな---」

「---駄目デス!!!!!」

 

更衣室に反響する姉様の叫び声。

 

「調、ありがとうデス!」

「うん」

 

シラねぇにお礼を言いながら、お古の下着を受け取った姉様は僕の肩に両手を添えると諭すように声をかけてくる。

 

「歌兎…お願いデスから、あまりお姉ちゃんを困らせないでください。全裸パーカーなんてハンカチな格好---」

 

あっ、さっきシラねぇが「切ちゃん、それを言うならハレンチ」って言ってるけど、姉様は僕しか見えてないのかスルーしてる。

 

「---で、歌兎をマンションまで歩かせるなんて出来るわけないじゃないデスかっ!!道歩く人に歌兎のうら若き肌を見せつけるなんてっ!そんなの駄目デス!!」

 

その後も延々と続く過剰な被害妄想を加えた説教に僕は苦笑いを浮かべながら、そんな僕らを取り囲む三人は終いには呆れた顔をしていた。

結局、その後はセレねぇに多めに持ってきていた代えの服を貰い、僕は無事マンションに帰ることが出来たのだった…

 

 

 

 

 

二.

 

そんな更衣室とシャワールームでの出来事があってから一週間後、僕は何故か響師匠に茂みに押し倒されていた。

生い茂るスズキによって周りと隔離されたその小さな空間の中、僕は怯えたように真っ正面を見上げる。

 

「…歌兎ちゃん」

 

逆光によって見えない師匠の顔は恐らく笑みを象っているのだろう。

師匠ならこんな事しないと信じていた、なのに真実は逃げ出さないように万力で地面に押さえつけられている師匠と両手と恋人繋ぎしている僕の両手、下腹部のところに腰を落とされ、師匠の両脚が僕の両脚に絡み…僕はこの異様な空間から逃げられずにいた。

逃げようとは試みているしかし逃げようと暴れれば暴れる程に両手両脚は絡み合い、がっしりとホールドされる。

 

「ーー」

 

安易に奪われた唇はぴったりと重なり合うと、強引に閉じていた口を開けさせられると途端にズズッと唾液を吸い取られる。そして、代わりに流し込まれるのは師匠の唾液である。師匠の舌によって直接喉の近くに流し込まれる唾液を不可抗力で飲みくだしながら、舌を絡めてくる師匠になすべなく舌を絡め合う。

 

「…んっ、んんぅん、っんぅ…」

 

くちゅくちゃ、と粘り気のある水音が辺りに響き、返ってくるのは虫の鳴き声である。

誰も助けは来ない、そう遠回りし言われているようで僕は逃げようと力を込めていた両手両脚の力を諦めたように緩める。

それを感じ取ったのか、師匠は更に前のめりになると僕の唇を啄ばむように動かすと溢れ出してくる唾液を啜る。

 

「…っんう…うんっ…んんっ…」

 

もう何分間、唇を重ねあっているのだろうか…。

酸素が欲しいと脳が警告音を鳴らす、それは師匠も同じなようで物音立てずに身体を起こすと肩で息をしている。

 

「…はぁ…はぁ……っ…」

 

乱れた呼吸を整える。

師匠は先に呼吸を整え終えたらしく、どこか恍惚とした様子の師匠が僕へと囁きかける。

 

「私、好きだよ、歌兎ちゃんの事」

「…す、き?」

 

好き?

好きとはどの好きな事のことなのだろう?

師弟の仲を表す時に使う好き(like)?それとも、恋人に対して抱くと言うあの好き(love)

こういう場面でいう好きはきっと後者…だと思う。

 

後者ならば、師匠は僕の事を弟子でなく、ただ一人の女の子として好きという事に。

しかし、そうなると未来お姉ちゃんとの事はどうなるのだろう?

 

「…でも、師匠に未来お姉ちゃんが…」

「未来は親友だよ。確かに普通の友達に比べると距離感が近いかもしれないけど、親友なんだから、それは普通でしょう?」

 

親友ならあれくらいの触れ合いは当たり前…なのだろうな、うちの姉様とシラねぇもあれくらい普通だし、僕と姉様もあれくらいは普通に触れ合ってる。

 

「歌兎ちゃんって本当可愛いね」

「…ッ」

 

考え込んでいると不意に頬を舐め取られ、僕はギュッと目を瞑り、押さえつけられている両手を握る。

 

「本当可愛い。可愛くて愛おしいからこそ私は……歌兎ちゃんになりたくなった

「…へ?」

 

師匠がサラリと言ったセリフに引っかかるものがあった。しかし、師匠は頬から耳元に移動するとすんすんと僕の首裏の匂いを嗅ぎながら、甘く囁く。

 

「歌兎ちゃんが好きで大好きでたまらなくなって、溢れてくる気持ちを埋めるために歌兎ちゃんを感じる物を悪いことと知りながらも盗んで、身につけて、嗅いで、集めた…歌兎ちゃんを感じることさえできれば良かった。良かったはずなのに…いつからか、物足りなくなった。歌兎ちゃんに下着に締め付けられるだけじゃ、歌兎ちゃんの体臭を嗅ぐだけじゃ足りなくなったんだ」

 

そこで言葉を切った師匠は橙と黄色の練習着をたくし上げると僕はと笑いかけてくる。

 

「ほら、これ歌兎ちゃんのでしょう?」

 

確かにそれはあのシャワー室で無くした僕の下着だった。師匠の年相応に実った双丘を押さえつけている水色のブラジャーが食い込む師匠の柔肌から視線を逸らし、横を向くと僕は師匠を睨む。

 

「…僕なりたいってどういう事なんですか?」

「そのままの意味だよ。歌兎ちゃんになりたいんだ、私」

「…意味がわかりません」

 

きっぱりそういう僕に師匠の歪んだ笑みが深みを増していく。

 

「歌兎ちゃんが着ているものを身につけることによって、私の心は満たされた。でも忽ちに物足りなくなった。歌兎ちゃんの服装で全身を染めてみたこともあったでも足りない、何かが足りないって…それで思ったんだ、あぁ私が欲しているのは完全系なんだって」

「…完全系?」

「うん、完全系…それは歌兎ちゃん自身だよ。歌兎ちゃんを形作るものが欲しいんだ、眠たそうに開かれた黄緑の瞳にさらさらな水色の入った銀髪。凹凸のない身体、細っそりした手脚…みんなみんな欲しいんだ。血液も唾液も私のと交換したい」

「…僕をどうする気ですか…」

 

搾り出すようにそう言うと師匠はんー、と考え込むと

 

「実を言うとね、ここで歌兎ちゃんを殺してしまいたいって思うんだ。そうしたら、私は愛おしい歌兎ちゃんと一体化することができる。でも、きっとまた私はそれだけじゃ足りなくなる…歌兎ちゃんの全てって気持ちも入ってるはずだから。だから、私は---」

 

セリフを切った師匠はカブリと僕の首筋へと噛み付く。

 

(いっだ…)

 

僕の首を覆う肌を噛み切るみたいな勢いで突き刺さってくる犬歯という名の白い槍は血管まで貫通し、傷つけるとそこから溢れ出る血を啜り始める。

スゥーと血の気が引く感覚と鋭い痛みと混ざって微かに快感が脳を震わせる。

 

二つの小さな穴から溢れてくる僕の血は師匠の口内を通り、師匠の一部になっていく。

そう考えると何故かドクンっと心臓が大きな音を立てる。

 

(なんで僕こんなにも興奮してるの…?)

 

身体を押さえつけられ、逃げるに逃げられずの状態で無理矢理キスされた上に首筋に犬歯を立てられて、終いには血を吸われている。

僕は被害者のはずなのに…なのに何故か、僕の血を吸い上げ、飲み込む師匠の白い首筋を見ていると通常だった心拍数が波立つ。

 

そんな僕の心境を知らずか知ったか、師匠は僕の首筋から顔を上げると自分の首筋を僕へと見せつける。

 

「…歌兎ちゃんも私のを飲んでもいいんだよ」

 

そういって差し出される師匠の白い首筋を見た僕がとった行動は---

 

「…がぶ」

「…ッ」

 

---師匠の首筋へと噛みつき、溢れてくる師匠の血を吸い、飲み込むだった。

血は決して美味しいものじゃない、鉄の味がするし、甘味なんて無いはずなのに…師匠の血は僅かに甘くて、僕はその僅かな甘味を求めるように師匠の首筋へとしゃぶりつく。

 

 

 

 

 

三.

 

チュパチュパ、と互いの血を無心で吸う音だけが狭い空間の中に響く。

 

(…視界がぼんやりしてきた)

 

師匠と互いの血を吸いあっているという非日常的な光景に脳の処理が間に合ってないのかもしれない。

ギュッと両手を握りしめ合いながら、無心でお互いの首筋へと顔を近づけ、血を吸う10代など僕と師匠しか居ないだろう。

 

(…もっともっと師匠の血が欲しい)

 

僅かに感じていた甘味は吸い続けているうちに、花の蜜のような確かな甘さに変わっており、僕はそれを求める蜂や蝶々のようにひたすら血を吸い上げ続ける。

 

『歌兎ーー!!』

 

僕の首筋に顔を埋めていた師匠がピクリと身動きする。

僕はその仕草に師匠の首筋から顔を離すと間近にある師匠の顔をボヤァとした表情で見つめる。

 

『あれ?どこに行ったんデスかね…?荷物も響さんも見当たらないデスし…。2人でランニング…?いいえ、もう夕方デスし、響さんもこんな遅くからしないはずデス。なら、二人はどこに?うーん、あたしの中にあるお姉ちゃんレーザー的にはあの茂みが怪しい気がするんデスよね…行ってみるデスか』

 

特徴的な《デス口調》に砕けた口調…僕はその二つが一致する人は一人しか知らない。

 

(ねえ、さま…?)

 

なんで、姉様がここに?と不思議に思い、師匠越しに見た空は茜色が混ざっており、もう結構な時間が経っていたことを知らせる。

 

「…チッ。あと少しで歌兎ちゃんになれたのに」

 

師匠はどこから出しているのって思うくらいに低い声で悪態をつくと僕の首筋から顔を上げる。そして、今だに出ている首筋の血を舐め取り、そのまま耳の近くに顔を上げると

 

「この事はお姉ちゃんに内緒ね。それと---」

「…?」

 

師匠の妖艶な声音、僕を見つめる普段はまん丸な琥珀色の瞳は鋭く細められ、紅く光ったように思えた。

 

「---マタ、シヨウネ」

 

シヨウネとはどの行為のことを指しているのだろうか?

酸素不足になるくらいに唇を重ねあったディープキス、それとも今さっきまで行っていた互いの血を吸い取り、なんでいくといったものだろうか。

 

「…」

 

きっとどっちもなのだろう。

間近にある紅く光る瞳は挟まり、笑みの形になる。その紅く光る瞳を見ていると視界がぐるぐると渦巻きのように目を回し、まるで熱に侵されたようなぽわんぽわんと視点が定まらない中

 

「…はい、師匠」

 

僕は師匠の両手を掴むと首筋をスゥーと垂れ流れる血を舐めたり、僕はぽわんぽわんと宙に浮いた気持ちの中、それを口にする。

 

「…師匠、好きです」

「うん、私も好きだよ」

 

首筋に埋めていた唇が磁石のSMのように近づき、流れこんでくる唾液を飲み込み、絡まってくる舌へと絡めていった……

 

 

 

 

その後、茂みに近づいてきた姉様を師匠と二人で"ワァアアア"と両手を広げて茂みからいきなり立ち上がり脅かしてみたところ、姉様は腰を抜かすほどに驚いてくれ、地面に倒れこみながら「デデデ…デ…」と怯えたような声を漏らしながら、少し垂れ目な黄緑色の瞳へと涙の層を張っており、僕も師匠も可愛いと思ってしまった。

しかし、そう思ったのは束の間、驚きの表紙を憤怒に変えた姉様は僕と師匠はお説教を頂戴することになった。師匠は地べたに直接正座して、僕は姉様が胡座をかいているからその上に座らされ、怒りで興奮気味の姉様に延々と叱られたのだった……




というわけで、途中吸血鬼っぽくなってしまった響ちゃんとその吸血鬼(響ちゃん)に魅入られ、最後は堕ちてしまった歌兎の話でした(笑)

思えば、この話が初めましてですね。
おかしくなってしまった原作キャラと歌兎が話の最後で実るのって(笑)
狂愛の1話目は純潔を奪われ、2話目はベッドの上に縛られ寝転がされて、重たい愛を聴かさせ続けるといった感じでしたからね…(笑)

と、次回の話はクリスちゃんか翼さんとなっております。そのあとは、案が浮かんでないので、休憩って感じですね…(笑)
案が浮かんだら、更新しようと思ってます(礼)






ここから雑談コーナーでして…


皆様は"ブルーメナス"のプレラーティちゃんは無事ゲットされたでしょうか?

私はですね……まだ手を出しておりません!(なら何故話題に出したのか(大汗)

理由は、いつかくるであろう切ちゃんと響ちゃんのユニゾン必殺技のシンフォギアカード"必愛デュオシャウト"でして……今は何とか33回は回せるくらいは貯めたんですけど、途中で和装切ちゃんに22連つぎ込んでしまいまして…後悔しているところです。しかし、私に『"和"装"切ちゃん"』を我慢しろなんて無理だったんデス!!(顔を覆う)
私の好きな"和"を切ちゃんが纏ってくれるんです…大好きコラボにもう我慢できませんでした…っ

というわけで、必愛がくるまで絶対ガチャらないって心に決めているんデスが…最近、私の目に毒なガチャが多いっ!!

チャイナ切ちゃん…レインボーガチャのエクスドライブの切ちゃん2枚とも持ってないカードですし…(欲)
それに、エクスドライブの技属性の切ちゃんの必殺技って『冥劫・"兎"ぅr逢アN弩ぉTォ』ですよね…この作品の主人公の名前は『歌"兎"』。私のプレイヤー名が『律"兎"』なんデスよね…。
兎好きとして、ここはゲットを!!
って、ダメダメ。今は我慢しないと…ッ!(11回を押しかけていた人差し指を元に戻す)

ってな感じで、必愛までガチャらないって気持ちがゆらりゆらりと揺らぐ今日この頃。

シンフォギアラジオの44回を聴いて、大爆笑しました。
特に『MEGA DETH DAJARE』で笑いましたね…高垣さんのあのキャラは安定の面白さでしたし、日高さんのあのキャラたちは可愛かったデス!しかし、その可愛さも高垣さんのあのキャラの『僕だよ』に持っていかれるっていう…いいラジオを聴かせてもらいました。

と、ここで雑談コーナーを終わります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m


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チビへの贈り物(gift)《クリうたエピソード》

悪ノPさんの【眠らせ姫からの贈り物 -gift(ギフト)-】からヒントを得て、今回の話を書かせてもらいました。

この曲を聴いたことがおありの方はタイトルから大体察知がついていらっしゃると思いますが…まぁ、そんな感じの話となると思います…(微笑)

ですが、参考にさせて貰った曲とは違い、人は死にません!そこだけは保証します!!

しかし、それ以外のことはーーと、そろそろ本編へのコールをしないといけないようですので…ここで話を切らせてもらおうと思います。

では、最後の最後にゾクリッとする話の開幕デス。

本編をどーぞ!!


って、こんなゆる〜く始めちゃったけど…振り返るのなら今だからね!
あとこの話を読んだ後にクリスちゃんを嫌いにならないでくださいね!

※今回の話はR-15をギリギリまで攻めたものとなってます…。
最後か中盤はエロスが入ります。
故に15歳以上の方は回れ右をよろしくお願い致します(土下座)

また、書きたい事を詰めに詰め込んだので…かなり長めです。
どうか、ゆったりとお楽しみください。


1,

 

食堂に入った僕は食券を買う前に姉様が座る指定の席の隣に座られてもらい、ほんの少し届かない椅子の高さにジレンマを感じつつ、姉様が僕の頼んだ麻婆豆腐定食を持ってきてくれるのを足をパタパタさせて待っていると左隣にドカッと腰掛ける人の気配を感じる。

 

(‥‥? 誰だろ?)

 

チラッと横目で見て見ると見慣れた薄紫色が入った銀髪から生えたアホ毛に紅いシュシュによって括られたお下げが目に入る。

そして、一見すると不機嫌そうに見える幼い顔つきをして、彼女のギアのイメージカラーである赤を基調とした服を身に纏っている少女の知り合いは僕は一人しか知らない。

 

なので、僕は思い当たる人物の名前を隣に座った人へと問いかけてみる。

 

「‥‥クリスお姉ちゃん?」

「あぁ、そうだけど……あたしじゃあいけなかったか?」

「‥‥うんん、いけないことないよ。クリスお姉ちゃん、いつも僕に優しくしてくれるから‥‥僕、クリスお姉ちゃんの事好きだもん」

「そっ、そっか……ま、まぁー、チビを可愛がるのは年上の役目みたいなものだからな」

 

顔を真っ赤に染め、膝の上に置いてあるピンク色の手提げから二つの包みを取り出したクリスお姉ちゃんはそれを食堂の机に置くともう一方を僕へと差し出す。

 

「ほら、チビ、今日も多く作ったらこれやる」

「‥‥いいの?」

 

差し出された水色の包みのへと僕は視線を落として、もう既に自分用に作ってきたのであろう赤色の包みを解いているクリスお姉ちゃんの横顔へと尋ねる。

すると、クリスお姉ちゃんはチラッと僕の方を見て、頬を染めるとボソッと言う。

 

「……さっきも言っただろ。多く作りすぎてしまったし、それにお前はいつまでもチビだからな。あの過保護の事だから、お前の好きなものしか食わさないと思うし……あたしが見てやらないとお前がチビなままだろ」

 

(いいやそんな事クリスお姉ちゃん言ってなかった)

 

"それに僕はそこまでチビじゃない。姉様にも大きくなってきたデスねぇ〜って言われたばかりだから……僕がこのままチビである可能性はない"とむすっとした気持ちで喉まで出かかった言葉を飲み込んだ僕は薄く笑うとクリスお姉ちゃんにお礼を言う。

 

「‥‥ありがと、クリスお姉ちゃん。‥‥食べてもいい?」

「あぁ、好きにしろ」

 

そういえば、ここ最近こうしてクリスお姉ちゃんに弁当をもらうことが多くなった。

渡される理由は"多く作りすぎたから"がダントツ一位で、次が"僕がチビだから"というものだ。

 

水色の包みを外し、中から出てきた藍色の小判型の弁当箱の上に置いてあった箸箱から箸を取り出すと、弁当箱の蓋をあける。

 

(そんなに僕小さいのかなぁ‥‥?)

 

クリスお姉ちゃんは純粋に僕の成長と老婆心からそう言ってくれているのだと思うのだけれども……ここ最近いつもそう言われ、弁当を差し出されると暗い気持ちになってくる。

僕はそんなに小さく、奏者のお姉ちゃん達から頼りなく思われているのか、と。

 

パカっと開けた可愛らしい弁当箱に綺麗に盛り付けられたおかずは、真ん中におむすびとオムにぎが置かれており、おむすびの方には海苔で羽とまん丸な目が付いていて、頭の上には赤ウインナーで器用に鶏冠(とさか)が作られている。隣のオムにぎにもおむすびと同じように羽とまん丸な目が付いていて、頬には人参でまん丸な頬と唇が付いている。

そして、空いた隙間にはミニトマトやブロッコリー、カリフラワーに唐揚げ、半分にしたハンバーグなど彩りよく入れられている。

しかし、その美味しそうな見た目と裏腹に真ん中にドカーンと居座っているのは、おにぎりで出来た鶏とひよこだ。

 

(これって俗に言うキャラ弁だよね‥‥つまり、僕はクリスお姉ちゃん‥‥ううん、奏者のお姉ちゃん達からそう見えるっていう‥‥)

 

ガクーンとなる気持ちを持ち直し、両手を口元の前に重ねてから小さく"いただきます"と言ってから、箸でまず唐揚げを掴み、パクリと一口齧り、途端に溢れ出してくる鶏肉本来の旨味に舌が唸る。

 

「‥‥あむっ。‥‥んまい」

 

パクパクと弁当のおかずとひよこオムにぎを食べているとパタパタと慌ただしい足音が聞こえてくる。

続けて聞こえてくるのは、特徴的な《デス口調》に砕けた幼さが残る声音……これはひょっとしなくても、うちの過保護な姉様に違いない。

 

「あぁーっ!!クリス先輩、何歌兎に弁当あげてるデスかぁ!!今から麻婆豆腐定食を食べるっていうのに!!」

「切ちゃん、食堂ではしぃーだよ」

「デスが、調。クリス先輩がぁっ!!」

「静かにしないと駄目」

「……ごめんなさいデス」

 

弁当に向けていた視線を横に向けるとそこには右手に自分が頼んだデラックス定食、左手に僕が頼んだ麻婆豆腐定食を持った姉様が隣で焼き魚定食を頼んだシラねぇに注意され、しょんぼりしていた。

流石、シラねぇである。伊達に数年うちの過保護な姉様と一緒に行動を共にしているだけあり、姉様の扱いに慣れてる。

因みに姉様がデラックス定食を頼んだ理由は"なんだかデラックスって大きくて強そうデェース!"という独特の価値観からだそう。

 

しょんぼりしつつ、僕の隣に腰掛けた姉様はゆっくりとお盆をテーブルに置くと小言で尋ねてくる。

 

「歌兎、麻婆豆腐定食食べれますか?」

「‥‥頑張って食べる」

「よしよし、歌兎はいい子デス」

 

僕の頭をぽんぽんと優しく撫でた姉様へと口元いっぱいにご飯粒を付けたクリスお姉ちゃんが目の前にある弁当を傾け、小首を傾げる。

 

「お前らも良かったら食うか?」

「いいデス。敵に情けは貰わない主義なんデス」

「お前はいったい何と戦っているんだ……」

 

プスーッと頬を膨らませた姉様は両手を口元の近くに添えると小さく"いただきます"と言ってから目の前のデラックス定食を食べていく姉様にため息を漏らすクリスお姉ちゃん。

 

(しかし、何がデラックスなんだろ?)

 

姉様が頼んだ定食のおかずの量は僕の麻婆豆腐定食と同じように思える。

青い線が走る大皿にハンバーグ、オムレツ、唐揚げといった子どもから大人までもを魅了し続けるラインナップが色どりよく飾られ、小鉢にはきんぴらが添えられている。

 

今の所おかしな所はない。

しかし、視線が持っている茶碗へと向けた瞬間、僕の目はまん丸になった。

 

(へ‥‥? 何それ?)

 

とんぶり茶碗に山盛りによそわれた白米、そしてとんぶりに注がれている豚汁。

まさか、デラックスって……そういうデラックス?

おかずではなく主食を引き立たせる方のデラックス?

明らかにおかずとご飯や味噌汁の量が不似合いな気がするけど……姉様が美味しそうに食べているのなら、まぁ……いっか。

 

「クリス先輩。私、唐揚げ食べたいです」

「分かった。ほらよ」

「ありがとうございます」

 

そんな姉様と違い、シラねぇはクリスお姉ちゃんからおかずを貰うことにしたらしい。

小さくお礼を言うシラねぇを見て、口をあんぐりと開けている姉様は恐らくシラねぇがクリスお姉ちゃんからおかずを貰うとは思っていなかったのだろう。

 

「調に裏切られたのデス……」

「裏切ってないよ、切ちゃん」

「だって、それ……クリス先輩のおかずデス」

「このおかずはこうする為に貰ったんだよ」

 

そう言って、お箸で器用に唐揚げを半分にしたシラねぇが姉様の大皿へとちょこんと片方を乗せるのを見てキョトンとする姉様にシラねぇがは淡く微笑む。

 

「クリス先輩の弁当に残っていた唐揚げを切ちゃんがジィーと見てたから。欲しいのかなって思って貰ったんだけど……迷惑だった?」

「全然迷惑なんかじゃないデス!そうデス。はい、これどうぞデス」

 

お返しとばかりに自分の唐揚げを半分にした姉様がシラねぇの皿に置く。

 

「ありがとう、切ちゃん。焼き魚いる?」

「欲しいデス。じゃあ、あたしからはハンバーグあげるデスね」

「うん」

 

姉様とシラねぇが其々のおかずをはんぶんこにし始めるのを見て、クリスお姉ちゃんがやれやれと溜息をつく。

 

「たく。こいつらはいつでもどこでもだな」

「‥‥そこが姉様とシラねぇのいい所」

「あぁ、そうだな。たく、頬にソースが付いてるじゃないか。喋りながら食うからだ」

 

ごしごしとクリスお姉ちゃんに頬を拭かれ、僕はお礼を言う。

弁当箱に残ったカリフラワーを口を含むと弁当箱を終い、クリスお姉ちゃんに手渡すのだった。

 

 

 

2,

 

クリスお姉ちゃんの手作りの弁当を食べた事によってその美味しさに危機感を覚えた姉様が競う形で作り始めた手作りの弁当を毎日貰う日々の中、ほんの少しだが僕の体重が増えていっているらしい。

嬉しいけど、毎日あの量は流石に胃がもたれてくる。

 

(でも、二人とも僕の為と思って作ってくれてるんだもの。頑張って食べなくちゃっ)

 

そう思い、僕が今日も二人の弁当を完食したそんなある日の夜、僕達は海外のチャリティーライブから帰ってきたマリねぇとセレねぇと共に食卓を囲んでいた。

マリねぇとセレねぇを向かい側に隣にいる姉様がふぅーふぅーと息を吐き、ポトフを僕へと差し出す。

 

「はい、歌兎。あーん、デス」

「‥‥あーん。うむ…ぐむ

 

スプーンの上に乗っかったウインナーを口に含み、噛み締めた瞬間僕は小首を傾げる。

 

(あれ?)

 

パリッとする皮から溢れ出すウインナーの肉汁が舌を濡らしてみても僕の舌はその甘味を感じることが出来ない。

 

(味がしない‥‥?)

 

な、なんで?

う、そっ……嘘だよね?

嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

う、そっ……だよね……こんな事ってありえないっ。

だって、お昼は美味しく食べれていたのに……。

 

「美味しいデスか?歌兎」

「‥‥」

「歌兎?」

 

味の感想を問う姉様の声はパニック状態に陥っていた僕には聞こえなくて、僕はただだだひたすら噛みしめ、噛み砕いていく。

まるでグミやガムを味がなくなるまで噛み続けるみたいにウインナーを噛み続ける僕に姉様は困惑した表情を浮かべ、他のねぇや達も僕の奇行にびっくりしている様子だった。

 

それから数十分後にも噛み続ける僕に姉様が恐る恐る声をかけてくれる。

 

「歌兎、流石に噛みすぎデスよ」

 

僕はゴクリと喉を鳴らして、もう既に形あるものが無くなったそれが胃へと落ちていく中……僕はある事実に打ちのめされていた。

 

「‥‥姉様。僕、味を感じなくなっちゃった」

 

顔面蒼白。

青白い表情をした僕は前を向くとそうボソッと呟き、姉様はその垂れ目がちな黄緑色の瞳をまん丸にする。

 

「へ?」

 

その後の事は何も覚えてない。

気づいたら、姉様とマリねぇ達に抱きかかえられ、S.O.N.G.に駆け込まれ、僕はみるみるうちにメディカルルームに入室され、様々な診察が行われたのだった。

僕はそれを放心状態で受けて、今はベットの上に座って、目の前にいるクリスお姉ちゃんの顔を見ている。

 

「ほら、これやるよ」

「‥‥でも、僕は」

「食べてみないと分からないだろ。ほら、あーんしてやるから」

「‥‥うん、ありがと、クリスお姉ちゃん」

 

こんな異常な時でもクリスお姉ちゃんの弁当だけは暖かくて、美味しくて、泣きそうになる僕の心を癒してくれるのだった。

 

 

 

3,

 

結局、原因不明という結果を受けた僕は暫くS.O.N.G.のメディカルルームに通いながらなら退院していいという許可が出て、僕は退院祝いである贈り物(gift)をあげると言われ、クリスお姉ちゃんの家に来ていた。

ソファに腰掛け、ボゥーとした様子の僕の隣に腰掛けたクリスお姉ちゃんが差し出す。

 

「ほら、これお前の好きなやつだろ?」

 

差し出された大皿の上には僕の好物の麻婆豆腐がなみなみと入れられていた。

 

「‥‥頂きます」

「どうぞ」

 

麻婆豆腐を一口口に含み、その舌をつく辛味に涙する。

 

(僕はもう‥‥この辛味を感じることも出来なくなってしまった‥‥。姉様‥‥泣いてた‥‥)

 

シラねぇ、マリねぇ、セレねぇに背中を撫でられながら、姉様は人目も気にせず泣いていた。

"なんで歌兎が味覚を失われなければならないんデスかぁ!あの子が何をしたっていうんデスっ!!あの子ばっかり……どうしてこんな目に"

ねぇや達に囲まれ、わんわん泣く姉様の柱に隠れて見ていたその時の僕は胸が締め付けれるのを感じた。

 

(僕が姉様を泣かしてしまった‥‥)

 

大好きな姉様を、敬愛する姉様を泣かしてしまった。

その事が何よりも僕には辛かった。

やっと姉様に迷惑をかけなくても生活出来るように……戦闘でも立ち回れるようになったっていうのに……。

 

それを思い出しながら、食べていたからだろう。

気づくと僕はポロポロと涙を溢れ出しながら、麻婆豆腐をかけこんでいた。

 

クリスお姉ちゃんはわざわざ立ち上がってまで水を汲んできてくれたらしく、涙しながら麻婆豆腐を食べていく僕の前へと水が注がれた透明なコップを置く。

 

「泣くほど美味しかったのかよ。ほら、水ここに置いとくな」

「‥‥ありがとう、クリスお姉ちゃんっ」

 

クリスお姉ちゃんが入れてくれた水を口に含み、麻婆豆腐を食べ進めている最中だった。

 

その異変が起こったのはーーーー。

 

「ーービ? おい?」

 

すぐ近くにいる筈のクリスお姉ちゃんの声が遠のき、目の前が高熱に侵されたように目の前が霞む。

 

「おい!どうしたっていうんだよ、大丈夫か?」

 

火の中でドロドロとプラスチックの様に溶けていく視界の中でも目の前でぷるんぷるんと揺れるその年に不似合いな二つの果実だけはバッチリの目が捉えていて、その果実が揺れる度に僕は身体の奥から湧き上がってくる性的興奮を押さえつけない。

 

(この果実にしゃぶりついたら美味しそう‥‥)

 

生唾と共にそう思った瞬間、僕はクリスお姉ちゃんをソファへと押し倒す。

 

「何やってるんだよ…チビ…」

 

肩を押さえつけられ、忽ち自分へと跨ってくる僕を見上げて、唖然とした様子で呟くクリスお姉ちゃん。

そんなクリスお姉ちゃんの赤いセーターに覆われた二つの果実の一つへと掌を添えながら、僕は怪しげに笑う。

 

「‥‥僕の前にこんなものチラつかせたのはクリスお姉ちゃんでしょう?こんなもので挑発して‥‥僕に触って欲しかった?」

「お、お前誰だよ……本当にあのチビなのか?」

 

僕の変貌ぶりが恐ろしいのか、小刻みに震えるクリスお姉ちゃんが次第に愛おしく思えてくる。

 

「‥‥僕は僕だよ、クリスお姉ちゃん。それよりさっきから僕が胸に触るたびにピクピクしてるね? 気持ちいいの?」

「チッ、違っ!」

 

ニヤニヤと不気味嗤う僕がセーター越しに触れる度にピクピク震える事を指摘してみると、クリスお姉ちゃんの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 

(可愛いな‥‥)

 

年上に思えない童顔を不似合いな大きな果実越しに見ているとさらなる性欲駆られる。

この人の全てにしゃぶりつき、味わい尽くしたいという性欲に。

 

(そうだ‥‥このまま、クリスお姉ちゃんを僕のものにしちゃえばいいんだ‥‥)

 

そうすれば、クリスお姉ちゃんの全てが僕のものになる。

 

ここはクリスお姉ちゃんの家だから、誰も助けに来れないし、僕が部屋に入る時に鍵を閉めていたから……行為の最中に乱入者が入るっていう事もないだろう。

 

(じゃあ、決まりだね)

 

僕はクリスお姉ちゃんの両手を両膝で押さえつけると赤いセーターを上へとたぐり上げる時、同時にブラジャーも上に持ち上げる。

 

「ちょっ、馬鹿っ!何やってーーんぅん……っ」

 

つぅーー、と舌でクリスお姉ちゃんのお臍にかけて走っている縦線をなぞりながら、ゆっくりと重力に押しつぶされることなく綺麗な形を保っている双丘の片方へと向かっていってる僕を止めようと身動きするクリスお姉ちゃんは震える声で僕を止めようとする。

 

「や、やめ……ろっ……!チビ……っ。あたしとお前がそんな仲になったって知ったら、あの過保護がーー」

「ーー‥‥今は姉様のことは関係ないでしょう? 」

「関係あるだろ!あいつはお前の事を何よりも大切にしているだろ!?」

「‥‥そうだね、僕の姉様の事が大切で大事にしているよ」

「だったら……ッ」

「‥‥クリスお姉ちゃんは何か誤解をしているよ」

「……へ?」

 

目をまん丸にするクリスお姉ちゃんの顔近くに自分の顔を近づけると、髪と同色の少し吊り目を間近で見つめながら、ハッキリと

 

「僕はただクリスお姉ちゃんからの退院祝いの贈り物(gift)を頂いているだけなんだから」

 

そう言い怪しげに嗤う僕にクリスお姉ちゃんの表情は一気に恐怖で染まる。

そんなクリスお姉ちゃんの唇を奪った僕はゆっくりと開いた掌を下へと向かわせるのだった。

 

(さぁ、目の前のクリスお姉ちゃん(gift)をありがたく頂こう)

 

その後、忽ちに甘い声や如何わしい水音やソファが軋む音がリビングへと響くのだった。

 

 

 

 

エピロ,

 

翌日の朝、静まり返ったリビングのソファには折り重なる様に眠りに落ちている少女達がいた。

ソファに寝そべる薄紫色が入った銀髪の少女の胸元へと顔を押し付け、気持ちよさそうに寝息を立てている水色が入った銀髪の少女。

二人の銀髪は絡み合いながら、ソファからカーペットへと垂れ下がっており、ソファの上に折り重なる両手も髪と同じ様に絡み合っていた。

 

そんな二人から離れた場所にあるキッチンの上に無造作に置かれた大学ノートにはこう書かれていた《愛するチビの為のgift》と。

 

その時、悪戯な隙間風がその大学ノートをパラパラとまくり始める。

どのページにもびっしりと文字と写真が貼り付けられており、その文字や写真から連想するのはどうやらこの大学ノートは薬の配合を書いたものらしい。

時々、グラム数、数字の記号や数式が見え隠れするのだからそういう事だろう。

 

そして、隙間風は飽きた様に付箋が貼られているページを開くと何処かへと消えていってしまい、その不意に開かれたページを照らすのは窓から差し込む陽の光である。

 

その陽の光に照らされているそのページに書かれていたものはーー《味覚を失わせる薬の配合》《媚薬の配合》というタイトルで赤いマジックペンでデカデカと書かれていて、その下にはその薬を使う日にちと時刻が書かれていた。

 

その時、カーテンから差し込む陽の光によって一足先に目を覚ました薄紫色が入った銀髪の少女は穏やかな表情を浮かべると自分の胸元に顔を押し付けて眠りこける水色が入った銀髪の少女の汗よっておでこにへばりついた前髪を指先で横によけるとキスを落とし、そして

 

「……あたしからの(gift)、喜んでくれたか?チビ」

 

こう呟いたのだったーーーー。




ぎ…ギリギリ、R-15だよね?多分(汗)
肌は見せてないし、直接的な言い回しはしてないからね……多分大丈夫だと思うけど、R-18だと思う人は後でこっそり教えてくださいね(微笑)

今回の話は作中にてよく登場した【gift】の四文字がキーワードとなってます。
【gift/ギフト】は《英語では贈り物》の意味、《ドイツ語では毒》の意味という事があり、最後のセリフを《毒でなく薬》にしたのは、諺の中に【薬も過ぎれば毒となる】というものがあり……今回の話ではまさにその状況でしたからね、歌兎は(汗)

タイトルにある【贈り物(gift)】はクリスちゃんが歌兎に送ったもの……そう、お弁当のことを意味しています。
薬に塗れていたお弁当を毎日食べ続けていれば、それは味覚も失われてしまいますよね…(大汗)
また、歌兎が気づかなかったのは、ほんの少しずつ薬を入れられていたからです。



と内容が中々にゾクッとしたものだったと思うので、少々私の事を書くのですが、内容が中に変態じみてるので……そういうのは嫌な方はご覧にならないでくださいね(微笑)




この小説を読まれている方は私が切ちゃんの中の人…茅野愛衣さんを推していることは知っているといらっしゃると思います。

その茅野さん…私は茅さんと呼ばせてもらっているのですが、その茅さんに関する話をさせてもらおうと思います。

私、基本アニメはAbemaにて観させてもらっているのですが…お正月に【ノーゲームノーライフ ゼロ】【ご注文はうさぎですか?? 〜Dear My Sister〜】を観たんですが、その中に登場するシュヴィちゃんとモカさんの「この分からず屋」「ココアの寝坊助」を延々とリピートしていたって話です。
淡々と、クールに罵倒されるのも好きなんですが…ロリ声・可愛い声で罵倒されるのもいいなぁ〜と…もう駄目だな、私(笑)

私は基本茅さんが演じていらっしゃるキャラのセリフはついつい数回リピートしてしまうんですよ…【とある魔術の禁忌目録Ⅲ】の五和ちゃんの『あわわ…』とか可愛すぎて、ついリピートしすぎてしまうんですよね…(笑)


という茅さん話がしたかった私の雑談コーナーをここまで読んでいただきありがとうございます!
寒い日が続き、インフルエンザも流行っているので…どうか、お身体にお気をつけてください(土下座)


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見てしまったそれは衝撃的で《しらうたエピソード》

すいません……(大大汗)

予定していた『きりセレ』はまだ時間が掛かりそうで…金曜日か再来週にはお披露目出来そうです。
それまでどうかお待ちいただければ幸いです。

というわけで、急遽埋め合わせに更新するのは…前にお遊びで書いたものです。
ほぼおふざけで書いたので…余り期待しないで読んでください(礼)

それでは、本編をどうぞ!!

*相変わらずの読みにくさです。


僕、暁歌兎には姉と三人家族がいる。

姉、暁切歌は過保護が度を過ぎるところがあるけど、基本は誰にでも優しく思いやりのある人。そして、僕が心から尊敬し頼りにしている人でもある。

 

そんな姉と肩を並べ、戦場と書いて“いくさば”と読むノイズ討伐に勤しむのが月読調、通称シラねぇと呼ぶその人は姉と同じくらい他の家族よりも側に居て、僕を見守ってくれた人である。

だがしかし、最近そのシラねぇの様子がおかしいのだ。

何がおかしいのかはまだ分からないけど、僕を見守ってくれていた昔のシラねぇと今のシラねぇは明らかに何が違うのだ。

 

無性にお風呂に一緒に入りたがるとか常に僕の隣に居たがるなどといったスキンシップが多くなったというか、ゾクリッと背筋に悪寒が走るような怪しげな視線を送ってくるようになった…とでもいうべきか、その視線を感じるのは主にシラねぇ以外の奏者のお姉ちゃん達と話している時で…シラねぇの姿が見えない時でも感じるので、少し怖く思う。

 

でも、僕といる時は違うのだ、いつもの厳しくも優しいシラねぇであって、しかし他の奏者のお姉ちゃん達と話していると送られてくるあの怪しげな視線はなんなんのか気になり、シラねぇがお風呂に入っている間にシラねぇの部屋を覗いてみたら…そこには僕の想像を遥かに超えるものが並べられてあった。

 

 

所変わって、僕の部屋。

ベッドに腰掛ける僕と違い、呼び出された姉様は硬い表情のまま、カーペットへと腰掛けている。

 

「…姉様」

 

僕が名前を呼ぶとビクッとして、硬い表情のまま乾いた笑い声をあげる姉様。

 

「そ、そんなに顔をおこりんこファイヤーしてどうしたんデスか?歌兎。可愛い顔が台無しデスよ」

「姉様」

「そ、それともお腹がへりんこファイヤーだからそんなにおっかない顔をしてるのデスか?ダメデスよ、お昼ご飯はしっかり食べなくちゃ。歌兎はあたしたちの中でも一番、小さくて小柄なんデスから」

「ネぇ〜エぇ〜サぁ〜マぁ〜?」

 

僕の知りたい情報から興味を逸らそうとする姉様に僕は今まで浮かべた事ないような表情を浮かべる。

それをみた姉様は硬い表情を瞬時に青ざめさせ、小さく悲鳴をあげる。

 

「ひぃいい!?わ、分かったのデス。あたしの知ってること全部話すデスから…その目はやめて欲しいデス…」

 

弱々しくそう言う姉様に免じて、表情をいつものような眠たそうな表情に戻した僕に姉様は安堵の吐息を漏らすと訪ねてくる。

 

「……」

「えっと、歌兎はまず何から聞きたいのデス?」

「…姉様はいつからシラねぇが僕に好意を持っていたことに気づいていたの?」

 

そう、僕が覗き見てしまったシラねぇの部屋の壁には所狭しに僕を隠し撮りしたと思われる写真が何故かハート型に飾られ…もうこれだけでも僕には衝撃的だったのだが、勉強机の上に丁寧に置かれた"ペットボトルの飲み口だけ"切り取られ、ネックレス状に繋がれた不思議なアクセサリー…しかし、僕はそのアクセサリーから視線を横に晒して、背筋を凍らせることになる。

何故なら、昨日僕が飲んで、確かにゴミ箱へと捨てたはずの梨果汁が入った炭酸ジュースのペットボトルが置かれていたのだから…。その他にも、これから飲み口だけ切り取るのであろうペットボトルのメーカーは何故か僕が飲んだものばかり…つまり、それが意味するのは---

 

---あのペットボトルの飲み口だけネックレスは…僕が口を付けた飲み口(・・・・・・・・・)だけで出来ている…?

 

そう結論づいてしまってからは、シラねぇと顔を合わせるのも気まずくなり、真相を知っているであろう姉様を呼び出したと言うわけだ。

 

「F.I.S…デス」

 

そ、そんな前から?シラねぇは僕に好意を寄せてたの…?

ということは、あの謎のペットボトル飲み口だけネックレスはその頃から既に作り始めていた、と?

思わず、背筋に悪寒が走る。

僕はそんないつ愛情が爆発してもおかしくない人の前で無邪気に振舞ってしまっていたのだろうか。今思い返せば、シラねぇに抱きついたりも一緒にお風呂に入ったりもしてた気がする…だって、僕の前では普段のシラねぇだったから!なのに…。

 

だんだん顔が曇っていく僕を見て、姉様は何を勘違いしたのか、わたわたと両手を振りながらまくしたてる。

 

「あ、あたしが検索したんじゃないんデスよ!?調から言っていたのデス、「切ちゃん…私、歌兎が好きみたい」って」

「…そう言われ、姉様はどうしたの?」

「その頃はまだ歌兎の病状も良くなかったデスし、響さんっていうトンデモとの戦闘も控えてたので…気持ちがてんやわんやだったのデス。デスから、その場の勢いで、調の好きにするといいデスよ…って…」

「……。はぁ…」

 

姉様の僕の事を何も考えてないその場しのぎの答えに溜息しか出ない。

いつもの過保護をそう言う時こそ出して欲しかった。

 

「そのマジもんのため息はお姉ちゃんの胸をえぐるデスよ…歌兎ぅ…」

 

呆れたように溜息をつく僕に姉様は垂れ目な黄緑色の瞳を潤ませる。

ウルウルと表面が揺れていることから、マジ泣きらしい。

 

「…姉様が悪い。僕だって姉様にこんな態度を取るのは心が痛いんだよ?でも、姉様が真実を隠そうするからこうなる事で…」

「でも、調が気持ちをオープンにし始めたのは先週からなのデス。それまでは歌兎に嫌われたくないからって、そういう事は隠れてしていたのデス。デスから、被害は最小限に…………歌兎、もしかして先週、調に聞かれたのデスか?私と切ちゃん、どっちが好きかって」

「…ん、聞かれたよ」

 

青ざめる姉様に僕はコクリとうなづく。

 

「もしかして、調に聞かれて答えちゃったんデスか?シラねぇの方が姉様よりも好きだって」

「……ゔっ」

「歌兎!?」

 

姉様ばかりを責めていたけど、やはり一番に迂闊だったのはどうやら僕自身のようだ。

 

「…ねぇ、姉様…僕これからどうなるの…?13歳という若さで大人の階段駆け上っちゃうの?」

「あ、あの調デスよ!そんな事は……、………するデスね。アピールが酷くなってきてるデスし、何よりも最近あたしが歌兎と一緒にいると目が笑ってないことが多くなってきたデスよ」

 

もう完全にそういうフラグが立ってしまってる!というか、姉様にすら容赦無く視線の刃を突きつけるシラねぇって…想像すると怖いけど、シラねぇはつり目だからそういう視線を向けていても綺麗かも…。

あれ…?あ、れ……?

僕、もうシラねぇに篭略(ろうらく)されてる…?攻略済みなの…?あと、同意の上で美味しく僕はシラねぇに頂かれてしまうの…?

 

「歌兎?さっきから顔を赤くさせたり青くさせたりと大丈夫デスか?」

「……っ」

 

(うぅ…あぁああああああん)

 

心配して、僕に近づいてきてくれる姉様に勢いよく抱きつき、そのままわんわんと泣く。

 

「泣かないでください、歌兎。お姉ちゃんがなんとかしてみせるデス!任せてください!!」

「…ほんと?」

 

姉様の胸から顔を外し、心配そうに見上げる僕の頭を撫でて、にんやりと笑う姉様。

 

 

 

そうして、颯爽とシラねぇの部屋へと向かっていった姉様はいつまで経っても帰ってこない。

 

(ね、姉様…大丈夫かな…)

 

心配になり、あの問題となるシラねぇの部屋をゆっくりと開けて中を見るとそこには---一糸纏わぬ姉様がベッドの上に寝転がらせ、際どい黒い下着の上にスケスケの薄桃色のネグリジェを着たシラねぇが右手に持った鞭で姉様を叩いていた。

 

(う…うわぁー……、完全にR-18ものだ。僕が見るべきものではない。だからね、姉様。そんな顔で僕を見ないで)

 

叩かれている姉様は助けるを求める視線を僕へと向けてくるが、僕はそんな姉様から視線をそっと晒し、ドアを閉めようとして…そこで違和感を気付いた。

明るかったはずの隙間が何故か真っ暗になっているのだ…まるで、誰かが立っているような感じに。

恐る恐る晒した視線を共ある場所に戻すと、僕をまっすぐ見つめてくる薄桃色のつり目。

 

(…へ?)

 

パチクリする黄緑色の眠たそうに半開きした瞳をまっすぐ見つめていた薄桃色のつり目はやがて、笑みの形になると可愛らしくも凛々しく思う見知った声…今だけは聞きたくなかった声が聞こえてきて、僕はあまりの恐怖に後ろに尻餅をつく。

 

「歌兎、みぃーつけた♡」

「ひぃ!?」

 

尻餅をつく僕が見たのは、自分の部屋を開け、妖しく微笑むシラねぇの姿で---そのあとは、シラねぇに導かれるままに部屋に連れ込まれ、シラねぇのネグリジェと色違いのものを着せられた僕は姉様の隣に寝転がらさせれ、そんな僕の上に跨るシラねぇ。

 

「ねぇ、歌兎」

 

シラねぇの小さくもほっそりした掌が僕の頬をなぞる。

 

「は、はい…」

「歌兎は言ってくれたよね?私の方が好きだって」

「……い、言いました」

「だよね?なら、今から私がする事も歌兎なら受け入れてくれるよね…?だって、私たち---」

 

頬をなぞっていた指先が段々と下へとざかっていき、ぎゅっと目を瞑る僕の耳元で囁かれるシラねぇの声音は今まで聞いたものの中で一番甘やかで妖艶だった。

 

「---相思相愛だもんね」

 

その後、僕がシラねぇに美味しく頂かれ、姉様もその毒牙にかかってしまったのは想像するのも容易いだろう。




というわけで、『きりしら』でなく『しらうた』でしたが…どうだったでしょうか?

少しでもヤンでる調ちゃんにゾクッとしていただけたならば幸いです。



また、今回の夕方ごろ…10連をした際に、遂に…遂にッ!!
ハロウィン切ちゃんが……キタぁああああああああああああーーーーーっ!!!!!

もう、嬉しすぎて…感無量ですし、感涙が止まらんですよ…(ポロポロ)

これもハロウィン切ちゃんが来てくれるようにと連続更新を願掛けにしたからでしょうか…。

とにかく、嬉しい!育てたい!!

ということで、明日は更新お休みします。
また、このヤン調ちゃんと歌兎の話が気に入った方がいらっしゃるなら続きも書こうかなぁ…と思ってます。しかし、ヤンデレはまだまだ勉強中ですので…ゾクってするシーンは書けないと思いますが(笑)

夜が寒くなりましたが、皆様体調にお気をつけて…ここまでお付き合いありがとうございました!


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縛って囁いて愛されたい。《きりうたエピソード》

禁断の愛に目覚め、開けてはいけない扉を開け放ってしまった切ちゃんの話デス。

前回と引き続き、この話も私の単なる趣味であります。なので、見たくない人は回れ右か高速スライドをオススメ致します。
ですが、狂った切ちゃんが見たいッ!又は、読みたいッ!ヤンデレ好きッ!危ない人が好きッ!という方は伝い文章で御座いますが、読んでいただけると嬉しいですっ!

さて、ここから先は狂った切ちゃんが現れます。そして、この作品の主人公・歌兎が酷い目にあいます。
それでも…それでもいいという方、もう止めはしません!

この先に進むといいデスよ!(なんで上から目線なのだろう私は…)

という事で…タイトル的にもアレですが、『縛って囁いて愛されたい。』開演デース!!


※本編は3話構成で、1・2話は切ちゃんの視点の話でして、3話は歌兎の話となってます。
また、この話は初の試みをしてみた話ですので…そういう面も含めて、感想を頂けると嬉しいです(土下座)


一.

 

(あたしは病気なんデス。妹にこんな感情を抱いちゃうなんて病気に違いないんデス)

 

心の奥深くから『好き。歌兎が好き』と囁きかけてくるもう一人あたしの声に無理やり蓋をして、《病気なんだ》と思い込むように自己暗示をかけてから、色んな意味で最愛の妹の自室へと一応ノックしてから立ち入る。

 

「…すぅ…すぅ……」

 

落ち着いた色で統一されている妹・歌兎の部屋はほとんど家具が置かれてない…のだが、以前に比べるとまだ人間味が溢れる部屋になったと思う。

歌兎自身が時に身を任せすぎているという特殊な性格からか、物欲があまりなく、あたしやマリア達が世話を焼いてあげて、買い揃えた勉強机や本棚はきっと何と無く置いているのだろう、この間取り図は。

 

(まぁ、歌兎らしいといえばらしいデス)

 

因みに、その間取り図は入って真っ正面に素っ気なく鎮座されているシングルベットの頭側にあたしとマリアが送った本や絵本が丁寧に整列してある本棚が並べて二つあり、ベットの脚側の右端には綺麗に整理整頓された勉強机、左端にはあたしがいつも下着や服を出し入れしているタンスがある。

 

「すぅ…すぅ…すぅ……」

 

あたしが入ってきたというのに、いまだに気持ち良さげに眠りこける歌兎は暑かったのか、毛布を蹴飛ばしており、パジャマも毛布につられて捲り上がってしまったようでお臍が見えてしまっている。

響さんと司令の二人に鍛え上げれ、ただ細いだけでなくなった適度に引き締まったお臍が歌兎が寝息を漏らすたびに僅かに凹み、空気を吸い込むたびに膨れ上がる。

 

「…っ」

 

ごくり、と生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえてくる。

『実妹のお臍になに興奮してるデスか!?こんなのただの変態デスッ!!』と喚くあたしも居れば、『もっと近くで見つめていたいデス』『上下するお臍に走る縦縞を舐めたいデス』と私欲に忠実なあたしも居る。

そして、心のあたし達が激論している中、あたしがとった行動というのは---

 

「すぅ…っ、んっ…っ」

 

---上下するお臍に走る縦縞を指でなぞる、だった。

 

つぅー、と右中指で触れた歌兎の肌はシルクのように滑らかだった。確かに、日頃からお世話という名目で歌兎の肌や身体を触っている。しかし、今回のように歌兎の意識がはっきりしてない…無防備という状況で触れた事は歌兎を意識してしまってからは無かったため、ついドギマギしてしまう。

 

(…無防備な時に触れてるって思うと胸がドキドキするデス)

 

病気だと自己暗示をかけていたというのに、あっさりと解けてしまったあたしは続けて無意識で視界に収めたのは、寝息を漏らし、時折むにゃむにゃと緩ませる桜色の唇で。

 

「…すぅ…すぅ…っ、むにゃ…」

 

カーテンからもれている朝日に照らされて光る歌兎の桜色の唇は艶っぽく…あたしはそのどこか色っぽい唇に引き寄せられるように、ギィ……とベッドを軋ませて、両手を歌兎の寝顔を跨ぐように付くとゆっくりとあたしの唇が歌兎のへと近づいていく。

 

熱に侵されたようにぼやける視界の中でも艶っぽい歌兎の唇だけはハッキリと見えて…もうお互いの吐く息が頬にかかっている。

 

(こんな近くに歌兎の顔が…っ)

 

もう3センチ…きっとこの線を超えてしまったならば、あたしはもう戻れないだろう。

それでも…そうだとしてもっ、あたしは歌兎と------。

 

「…んぅっ…、ねえ、さ…ま?」

 

1センチのところで唇が触れ合うというところでぼやぁとまだ眠たそうに半開きされる黄緑の瞳と至近距離で見つめ返す少し垂れ目の黄緑の瞳。

パチクリと瞬きを繰り返すあたしの目をただ黙ってみつめる歌兎…そして、あたしは放心状態から立ち直ると、勢いよく飛び退ける。

 

「デデデッ!?」

 

飛び退いたあたしは秘めた想いを気付かれたのではないかと不安になり顔を青ざめさせ、続けて無自覚であんな事をしでかそうとしていたあたし自身に怒りやら羞恥心やらが溢れ出て、顔が真っ赤になる。

そんなあたしを暫し不思議そうに見つめる歌兎はんーっ、と大きく背伸びするとポンポンとあたしの肩を叩く。

 

「…姉様、具合悪いの?顔赤いよ」

 

振り返るあたしに心配そうに声を掛けてくる歌兎。そんな歌兎にあたしは首を横に振るといつものように答える。

 

「心配しなくても大丈夫デスよ、歌兎。歌兎がなかなか起きないからイタズラしようと思っただけで」

「…そう、なの?姉様のイタズラか…どんなだろう」

 

その後、歌兎の着替えをいつものように手伝い、あたしは調と一緒に学校に行き、その夜に改めて歌兎への想いを再認識してしまったあたしにとっては衝撃的な出来事が待っていた。

 

 

 

 

 

二.

 

あたしの部屋へと心なしが緊張した様子で足を踏み入れてきた歌兎はあたしの隣へと腰を下ろすとソレをボソッと呟いた。

 

「歌兎…さっきなんていったんデス……?」

 

心なしが震える声でもう一度尋ねるあたしに歌兎ははっきりとソレを口にした。

きっと聞き間違いだ。歌兎に限ってそんな事は。だって、歌兎が好きなのはあたしで間違いないのだから。

でも、そんな想いとは裏腹に歌兎がハッキリとあたしの目を見て言ってきた愛の告白(ソレ)はあたしの深いところへと泥水のように流れ込んでくる。

 

僕、好きな人出来たんだ。

 

照れるようにそう言う歌兎。

その幸せそうな顔に何の感情も浮かばなくなる、あたしの中にあるのはただ、裏切れたという真っ黒な感情と好きな人が出来た事を姉として祝ってあげたいという真っ白な感情だった。

 

真っ黒と真っ白は混ざり合わないままに、歌兎は話し続ける。自分の想い人の事を、ほんのりと頬を赤で染めて。

 

そんな歌兎を横目で見るあたしはきっと驚くほど冷めた目をしていたのだと思う。

 

歌兎の口から想い人の名前が漏れる度に、混ざり合わないままであった真っ黒と真っ白は真っ黒が真っ白を飲み込んでいき…------そして、あたしの心の中は泥水のようにドロドロな真っ黒い水で満たされたのだった。

 

そして、思う。

 

なんで、歌兎はあたしが…あたしがッ、こんなにも想っているというのに、どこぞの骨ともわからない男に現を抜かすのだろう。こんなにも…こんなにもッ、あたしは貴女だけを見ているというのに。

 

あぁ、ワカった。愛の告白(コレ)はあタしへのサプライズなんデスね

 

歌兎はイイ子なんデス。あたしか悲シムことはしないハズ。

それに、歌兎ならあたしのキモちにキヅイテくれてイルんですヨね?きづいテテ、そんナいじワルするんデスよネ?

 

あぁ、そっカ。そウにちガイないンデス。

 

歌兎は想い人(ソイツ)にオドさレテルんデスね?よわミをにぎラレて、そんなココろにもナいこトヲいってルんデスヨね?

 

「…姉様?突然、抱きついてきてどうしたの?」

「歌兎、大好きデス」

 

歌兎を後ろから抱き寄せ、耳元で囁く。

 

「…ふふふ、擽ったいよ、姉様。ん、僕も姉様の事を大好きだよ」

 

擽ったそうに身を捩りながら、あたしの方を振り返って、歌兎は明るい笑顔を向けて、あたしへと好きって言ってくれてる。

 

「…ありがと、姉様。話を聞いてもらって、気持ちが楽になったよ」

 

そう淡く微笑み、あたしの部屋を去っていく歌兎の背中を見つめながら、あたしが思うのは----歌兎の想い人(ソイツ)からどうやって、歌兎を解放するか、だった。

 

ソイツの魔の手が届かないところへと避難させて、運命の赤い糸であたしと歌兎を縛って、もう二度と悪い奴に騙されないようにあたしの愛を永遠に耳元で囁き続ける。

 

だって、歌兎もそレヲのゾンでいるんデスかラ…

 

 

 

 

 

 

 

 

三.

 

「…んぅっ、あれ…?僕…」

 

(なんで、眠っていたんだっけ…?)

と、頭を悩ました後に徐々に思い出したことがあった。

そう。確か、姉様に明日彼に初めて誘われたデートにどんな服を着ていけばいいのか、と相談しようと思って、部屋を訪ねてからの記憶がごっそり無くなっているのだ。

 

きっとその原因を知っているであろう姉様の姿も見当たらない。

立ち上がって探そうにも何かが僕の身体に巻きついて自由を奪っている。

 

(待って…何が僕の身体に巻きついてるの?)

 

視線を胸元へと向ける。そこで浮かび上がるのは何故か薄暗い部屋の中に---僕の肢体へと絡みつくのは、真っ赤な縄だった。

 

待って待って待って、なんで僕赤い縄なんてものに縛られてるの?

何か悪いことした?ううん、してない。

してないのに、なんで姉様は僕にこんな事を…。

 

「…ぐっ、だ…め、かたい…」

 

そう簡単に逃げられないように縛られているのだろう。後ろに回された両手も思うままに動かさないままに…辺りを見渡すと、僕を取り囲むように姉様の誕生日に僕が手作りして作った僕を象ったぬいぐるみ達が僕と同じように縛られた。いいや、縛られているのは同じだけど…縛り方が一体一体違う。

 

それに気づいてしまった瞬間悪寒が背中を掛けた。

 

ここ最近、シラねぇが姉様が自室から出てこないと嘆いていた…学校と訓練以外はずっと自室にこもり続ける姉様と僕の周りを取り囲む、赤い縄で縛り上げられた僕を象ったぬいぐるみ達…それもゆうに30体か50体はあると思う。

そのぬいぐるみ達をこの短時間で縛られるわけがない、中にはよく見ると何度も縛り直した跡があるのもあった。

 

それらを合わせると---まるで、姉様が僕を赤い縄で縛り上げる為に練習したようじゃないか

 

「ひぃいい」

 

もう、異様だった。異様としか思えなかった。

 

この薄暗い空間次第も。きっとこのぬいぐるみ達と僕をお揃いの赤い縄で縛り上げたのであろう姉様も。

 

「あっ、歌兎。起きたんデスね」

「…姉様、これとどういう---」

 

---事なの?とキツく尋ねようとして、言葉を失った。

僕を見つめる姉様の瞳に何の感情も浮かんでないのだ、底なし沼のように澱みどんな光も反射しない黄緑の瞳。

鏡のように反射する姉様の瞳に映る僕は眠たそうに見開いている瞳を開けていて、その表情には驚愕と恐怖で埋め尽くされていた。

 

そんな僕の様子など気にとめてない様子で姉様は僕の頬を撫でると笑いかけてくる。

 

「…ふふ、やっぱり歌兎は後手胸縄縛りがよく似合ってるデス。本当は後頭両手縛りも試したかったんデスけれども、あれは長時間続けるのには腕がだるくなるデスからね」

 

まるで世間話をするかのように、日常の一コマを訪ねるかのように、この異様な光景を言ってのける姉様をまじまじと見つめる。

 

可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しいおかし---…

 

(可笑しいよ、こんなの…)

誰なの、僕の目の前にいるこの人は?本当にあの姉様なの?

 

僕が好きだった姉様はこんな何も宿してない瞳をしてなかったし、こんな不気味な笑みを浮かべなかった。

姉様…元に戻ってよ。

僕の願いは叶う事はなく、僕を取り囲んでいたぬいぐるみ達を脇によけると姉様はベッドへと横たわると僕へと身を寄せてくる。

 

「…やっと二人っきりデスね、歌兎」

 

慈しむように僕を抱き寄せ、愛おしそうに僕の水色がかかった髪の毛へと手櫛を入れ、頬を赤らめて姉様は僕へと呟く。

 

「やっと言えるデス…歌兎好きデス…大好きデスよ…一人の女性として、愛しているデス…」

「…何言ってるの、姉様。僕達は姉妹なんだよ?血が繋がってるんだよ?」

「関係ないデスよ。歌兎とあたしは愛し合ってるんデス、愛し合っている二人の間を誰が踏みにじれるデスか?歌兎があたしを求めて、あたしも歌兎を求めて…それ以外に何がいるんデスか?何もいらないデスよね…?ねぇ、歌兎」

 

澱んだ黄緑の瞳を笑みの形へと変え、僕の髪を梳きながら言う姉様。

そんな絵空事のような事、信じているの?姉様。

 

「…可笑しい、可笑しいよ…姉様…。どうしちゃったの…?…あの人との事も応援してくれるって言ってくれたのに…どうして?なんでなの、姉様ぁ…」

「------」

 

ギュッ…っ、と赤い縄の結び目をワザときつく縛る姉様。僕は手首に食い込み、上の皮がむけ、血を流す手首の染みるような痛みに顔を歪める。

 

「…ぐぅ…ッ」

 

そんな僕のことを見つめるのは、氷のように冷たい目をした姉様で。

 

「まだ、そんな妄言を言うんデスか、歌兎。まだ、脅されているんデスね…?脅されているからそんな心にもないことを…大丈夫デスよ、あたしは分かっているデスから。歌兎が世界一好きなのはあたしデスもんね。そんな歌兎の優しい心を弄んだアイツが許せないデスよ…可哀想に…あたしがすぐに始末してきてあげるデスからね。だから、それまでこの目隠しとヘッドホンをしていてくださいね」

 

そう言って、姉様は歪んだ笑顔のまま、僕に目隠しをして…僕の視界は真っ黒になった。

そして、続けてヘッドホンをつけられるのだが…そこから流れてくるのは『歌兎、好きデス。大好き大好き大好き、愛している愛している愛している』と一定の安定と音量で息継ぎもなく喋り続ける姉様の声で---普段とは全く正反対の暗く湿ったその声をこんな暗闇で聞きづけると思うと気が狂ってきてしまう。

 

「…姉様ッ!お願い、このヘッドホンのを止めて!止めたくはないと」

 

僕の気持ちが通じたのか、右側のヘッドホンが外され、流れ込んでくる姉様の声。

 

「あたしの気持ちを沢山詰め込みましたから…じっくり聞いて、あたしのこともっともっと好きになってほしいんデス」

 

そう照れたように言われ、ヘッドホンを再度耳かけられ----僕は絶望した。

 

待って、姉様。待ってお願い、僕が悪かったから…僕が悪いから、お願い。

 

お願いだから…僕を一人にしないで----

 

それを最後に僕は真っ暗闇の中に閉じ込められ、『好き』『大好き』『愛している』の海へと沈んで行くのだった……




というわけで、禁断の愛に走った上に狂ってしまった切ちゃんの話でした。
感情とか表現とかちゃんと書けたかは不安でしかありませんが、楽しんでもらえたならば嬉しいです!

また、初の試みをついてですが…皆さんもご覧の通りで、文章の色や大きさを変えてみました。
少しでも切ちゃんの狂っていく感じや歌兎の絶望感を表現出来たのであれば、嬉しく思います。


今回の話で使った"縛り"なんですが…ずっと前に電子漫画でそれを題材にした漫画がありまして、それを一時真剣に読んでいたなぁ〜と思い出しまして、今回の話に取り入れさせてもらった次第です。
その電子漫画は今やタイトルも思い出せないのですが…兎に角おもしろかったです!


ということで、ここまで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m


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地下室のお人形 《セレうたエピソード》

タイトルからホラーめいてますが、内容もホラーとなっています。
でも、そんなに怖くないかも……全ては私の書き方に問題があるのです(失笑)

夏は終わり、暦は秋となってしまいましたが背筋がゾクっとする体験を楽しんでください! って今回の話は私もやりすぎちゃった感があるので、ヤンデレを楽しまれる前におふざけを……いいえ、変態な事を言わせてください(真面目な顔)

XVの切ちゃんの変身バンクを初めて見た時から思ってました………私、来世があるのならば切ちゃんの鎌になりたいです(キメ顔)
分裂させたり、バッタのように振るわれたりしても構いませんッ! 代わりに細っそりした脚を絡め、大きな実った二つの膨らみを合理的に触れられるんですよ!! そんな素晴らしい事他にないですよねッ!!!!(前のめり)

あー、ほんとすいません………こんな変態で……(大汗)

暴走してしまって本当にごめんなさい。それでは長くなってしまいましたが、本編をどうぞ!!

※【⒈ 〜 ⒊】は歌兎視点で、【4. 〜 5.】は切ちゃん視点となってます。
どちらかというと切ちゃんの方がゾクっとすると思います。

※本作は1万文字を超えてます。
ゆったりと読まれてもよしッ、読みたいと思うところから読まれてよしッ。お好き曲やBGMを流しつつ、読んでください(微笑)


1.

 

最近、セレねぇにショッピングに誘われて、洋服を買ってもらうことが多くなった。

買ってもらう洋服の殆どは今までの僕にはご縁がないザ・女の子というようなヒラヒラが沢山ついたワンピースやカッターシャツ、ミニスカートなどなど。

セレねぇ曰く……というよりも僕が見た感じだとセレねぇは僕に似合っているであろう洋服を値段など気にする様子なく、手当たり次第選んでは僕に試着させて、よりに似合ったものを購入といった感じで、今日もまた僕は試着室に入り、少々手間取りながらも薄水色のヒラヒラが沢山ついたワンピースを試着して、クリーム色のカーテンを開けると試着してみて購入すると決めた洋服を左腕に引っ掛けて持っているセレねぇがまん丸な水色をキラキラと輝かせて、何かに取り憑かれたような覚束ない足取りで近づいてくる。

 

「……可愛くて綺麗……」

 

恍惚といった感じで僕の両手を握るセレねぇの水色の瞳に映るのは果たして本当に僕なんだろうか?

今は両手を握るだけなんだけど、セレねぇの気持ちが高ぶっている時はズイっと僕に身体を寄せてからうっとりとした顔で僕の頬を撫でたり、ギュッと抱きついてきて頭を撫でてくれる、その事について嫌だと思うことは無いんだけど……時々、そうしたセレねぇの行動がとてつもなく怖く感じることがある。

理由は恐らく、ショッピングに誘ってくれる時のセレねぇの僕を見つめる水色の瞳が普段は聖水のように清らかなのだけど、ヒラヒラの洋服に身を包んだ僕を見た途端、無機質なものに変わってしまうのだ。まるで鏡のように……ううん、底なし沼のようになってしまったセレねぇの水色の瞳は僕だけをただただ見つめ続けて、僕はその深い底なし沼に引きずり込まれてしまうのでないかという錯覚……いいや、もうこれは錯覚ではなくーー

 

(ーーって駄目駄目。せっかく、セレねぇが僕の為に洋服を見立ててくれているんだから。変な事を考えてしまったら……考えちゃダメなんだけど……)

 

「…そ、そうかな? 僕には場違いのように思えるけど」

「そんな事ないですよ! 歌兎ちゃんはとっても可愛くて小さくて生きているのに……お人形さんみたい。………歌兎ちゃん、私ね……お人形さんが大好きなんですよ」

「…う、うん……ありがと、セレねぇ。僕もお人形さん好きだよ」

 

そう言うセレねぇの瞳が僕が苦手とするあの無機質なものになるのを視線を横にスライドしてから震える声のままに答える。

 

(やっぱり、どうしても慣れない。セレねぇの"お人形さん"っていうセリフ……)

 

「歌兎ちゃんも好きなんですね、お人形さん」

「…うん、好きだよ」

 

今日は購入したヒラヒラが多くついた薄水色のワンピースで食事に付き合ってほしいと言われて、その格好のままに近くのファミレスに入ったけど、すれ違った人や遠くにいる人が僕を見るなり、口を揃えて言うのだ"お人形さんみたい"と。

 

(やめてよ。僕、その言葉嫌いなんだ)

 

頼むのはセレねぇが差し出してくれるメニューを指差す事で頼み終えると僕は沢山の野次馬の視線から逃れるように下を向くと僅かに唇を噛む。

 

「……」

 

(……僕はウィンドウに飾れているお人形さんなんかじゃない)

 

ちゃんとここに居て、生きているんだ。

なのに、セレねぇだって、ここにいる人も通りすがっていった人もなんで僕のことを"お人形さん"って例えるの? "お人形さんみたい"って褒め言葉なの? このヒラヒラのワンピースを着ているから、僕はお人形さんなの? 僕はお人形さんじゃなかったら誰にも認識してもらえないの? いらない子ってなるの? それだけが僕の存在意義なの? もう、分からない……分からないよ………。

 

悶々とする気持ちのまま、食事を終えた僕はセレねぇと別れた後、真っ先に家に帰り、自室に閉じこもると乱暴にヒラヒラの薄水色のワンピースを脱ぎ捨てるとタンスの一番奥へと仕舞い込み、その日以降セレねぇのお誘いを断るようになり、買って貰ったヒラヒラの洋服たちにも一度も腕を通さなくなり、埃をかぶり始めた頃から周りで奇怪な事件が始めたのだった。

 

 

 

 

2.

 

「ふーふふふ、ふーん♪」

 

適用の油を引いたフライパンの上にやや乱暴な微塵切りにした玉ねぎをキツネ色になるでフライパン返しで炒めている姉様のご機嫌な鼻歌を聴きながら、冷蔵庫からシラねぇが特売セールで買ってきてくれていた半額の合挽き肉を取り出してから調理台へと置いてから"よっこいしょ"と自分用の台へと登った僕は姉様へと問いかける。

 

「…今日、シラねぇ、帰り遅いの?」

 

透明なボールに玉ねぎがキツネ色になっていっているのを見てから合挽き肉を入れてから、用意していた材料をボールへと加えていく僕の横顔を見ながら、姉様が僕の問いに答えてくれる。

 

「調なら本部によってメディカルチェックを受けてから、スーパーの特売セールに寄ってから帰るって言ってたデスよ」

「…姉様は一緒に行かなくても良かったの?」

「んー、あたしも本当は付いていこうと思ったんデスけどね……」

 

ボールから隣にいる姉様へと視線を向けた僕の頭の中に浮かぶのは最近身の回りで起こっている奇怪な事件の事だ。内容は女の人が次々と行方不明になっているというものでここまでなら普通の失踪のように思えるのだが、ここから先が不可解なのだ。それは失踪してしまう女の人の特徴が小柄でヒラヒラのワンピースなど着ている子が殆どということ、誘拐される時刻は決まって夕方16時頃ということ、年齢は決まっておらず通りすがりの犯行と決定付けられたこと、そして誘拐される場所や地域は点々で警察の調査では絞り込めてないこと。

 

(……シラねぇ、小柄だしヒラヒラのワンピースとかよく着てるから…凄く心配……)

 

電灯があるからそんなに夕方の道も暗くないと思うけど、シラねぇ両手に荷物を持ってるし……やっぱり、僕と姉様の二人で迎えに行った方がいいんじゃあ……。

 

「…シラねぇに付いてこなくてもいいって言われたの?」

「そう言われたわけじゃないデスけどね……」

 

歯切れ悪い返事を繰り返す姉様の忙しなく動く垂れ目がちな黄緑の瞳を見上げながら、僕は小首を傾げる。

 

「…二人で迎えに行く? 最近、物騒な事件が沢山起きてるし……シラねぇ、一人じゃ買い物袋も重たいと思うから」

「それは駄目デスッ!!!!」

 

突然大きな声を上げる姉様にビクリと肩を震わせる僕にハッとした様子の姉様は僕の肩へと両手を置くとニッコリと取り繕うような笑顔を浮かべる。

 

「……ま、大人には色々とあるのデスっ。それに調なら大丈夫デスよ! それよりも美味しいハンバーグを二人で作って、調をびっくりさせましょう!」

「…う、うん」

 

姉様の豹変っぷりにすっかり迎えにいこうと思っていた気持ちも不安に感じていたことも頭から抜け落ちてしまい、代わりに思い出し、鼻を擽ぐるのは何かが焦げているような匂いでフライパンを覗いてみると玉ねぎがキツネ色を通り越して、茶色や黒に変わっていっているところできっと玉ねぎの事を忘れているであろう、姉様へとフライパンを指差して焦げている事を指摘する。

 

「…姉様、フライパン見て。玉ねぎ焦げてる」

「なんデスとぉおおお!!?」

 

僕の指摘に瞬時に反応した姉様は"はぁ……"と深くため息をついてから、熱が冷めたキツネ色というよりも焦げ茶色の玉ねぎを入れてくれるのを待ってから具材と合挽き肉をこねこねする。

 

「それより合挽き肉しっかりこねました?」

「…うん、しっかりこねた。こんな感じ」

 

具材が混ざりきっているがマダラなところがあるボールの中にあるネタを見た姉様は眉を潜めると端末を操作して、画像に写っているネタと僕がこねているネタを見比べる。

 

「あともう少しねったら出来そうデスね。腕がだるくなってきたでしょう、お姉ちゃんが代わりましょうか?」

「…ううん、最後まで頑張れる」

「よしよし。本当に歌兎はいい子デスね」

 

撫で撫でと頭を撫でてもらいながら、出来上がったネタを大判型に整えてから、中央部を平らになるくらいにへっこませて、フライパンへと置こうとしたら"歌兎の綺麗な肌に火傷の跡が付いたらいけないのデス"と姉様に止められてしまったので、黙々とハンバーグの形を作るのと整えるのに集中する。

 

「歌兎、もう少ししたら出来そうなので大皿三つ用意してくれますか?」

「…うん、分かった」

 

ぴょんと台から飛び降り、僕の身長よりも10㎝高めの食器棚から背伸びを押して、大皿を三つ取り出してから調理台へと並べる。

そこに姉様がしっかり焦げ目のついたハンバーグを盛り付けるの見て、ミニトマトとレタスを脇に添える。

 

(この少し大きめに作ったのは、シラねぇのだったよね)

 

シラねぇ用に取り分けた他のおかずにもサランラップをしてから、隣にいる姉様を見上げる。

 

「…姉様。シラねぇの冷蔵庫に入れる?」

「んー、もう少し待ってみて戻らなかったら、冷蔵庫に入れましょうか?」

「…分かった」

 

コクンとうなづいてから台からおりると自分の分と姉様の分のおかずをトコトコとリビングのテーブルへと持っていく。

 

「足元をしっかり見て、持っていくんデスよ」

「…りょうかい」

 

最後のケッチャップを台へと置いて、玄関へと続く扉を見つめてみるが、そこからひょっこりとピンクのシュシュで結ばれている黒髪のツインテールが覗く事は一時間待ってみてもなく、姉様は冷蔵庫を開けるとシラねぇ用に用意していたおかずを入れてから、不安げに机の台を掴んで、静かに扉を見つめ続けている僕へと声をかける。

 

「すっかりハンバーグ冷めちゃいましたね。レンジでチンしましょう。歌兎の分とお姉ちゃんの分、持ってきてくれますか?」

「…うん、いいよ」

 

両手に大皿を持って運ぶ真似は姉様が見たら血相を変えて飛んでくるのでやめて、トコトコと自分の分と姉様の分の大皿を姉様へと運び、温め終えたものは"僕が火傷してはいけないから"と姉様が両手に持ってから、テーブルへと置く。

 

「遅くなっちゃいましたが、夕ご飯にしましょう。歌兎、お姉ちゃんの所においで」

 

リビングに置いてある木で出来た小さなテーブルは備え付けの椅子が四つついており、普段は姉様とシラねぇが隣同士で座り、僕は姉様の向かいの席に腰をかけるのだが、時々姉様とシラねぇのどちらかが用事で居ない場合は僕が空いている席に腰をかけて、隣同士で座るのが当たり前となっていた。なっていたのだがーー

 

(ーー姉様がトントンと太ももを叩いてる……これは太ももに座りなさいっていう合図(あいず)? それとも絶対服従の姉様命令?)

 

ここにもしマリねぇとシラねぇが居れば"はしたない!"と叱られる所だが、マリねぇもシラねぇも居ないのではっちゃけちゃおうっていう姉様の粋な計らないなのかな? よく分からないけど……。

 

(とりあえず、姉様に近づこう)

 

トントンと太ももを叩く姉様の真昼を照らす太陽のような輝く笑顔をスルーして、その隣に腰掛ける勇気が僕にはない。

 

「……」

「よいしょっと。えへへ〜♪ 歌兎もすっかり大人の女性へと近づきましたね」

 

近く僕の脇に両手を差し入れ、そのまま抱き上げた姉様はニコニコ笑顔のまま僕をギュッと抱きしめる。むにゅっと背中に広がる柔らかい情報量が僕とは桁違いの二つのふくらみの感触と左肩に顎を乗せている姉様の吐息が耳をくすぐり、少しくすぐったい。

 

「…そうかな? 僕まだちんちくりんだし、姉様に比べると幼児体型で体重も軽いよ」

「そんな事ないデスよ。お姉ちゃんにはしっかりと歌兎の日々の成長が分かってますよ。朝昼晩と歌兎とのスキンシップから得た膨大な成長情報はどんな些細なことでもお姉ちゃんの"歌兎成長日記"へと刻み込まれているのデス」

 

"えっへん"と誇らしげに胸を張る姉様に僕は心の中でツッコム。へ? なにその怪しげな記録日記……いいや、姉様の記憶に刻みつけているんだから、記憶日記か。日々増していってると思っている姉様からのスキンシップはそういう記憶日記の為のだったんだ。

 

(って、わっわっ!?)

 

クルッと向きを変えられ、目を丸くする僕のおでこへとコツンと自身のおでこをくっつけた姉様は瞼を閉じたまま、申し訳なそうな声を上げる。

 

「……さっきはびっくりさせちゃってごめんね、歌兎」

「…ううん、僕こそしつこくしちゃってごめんね」

「歌兎は悪くない。ただね、お姉ちゃんはすごく心配なの」

「…心配?」

「もし歌兎が行方不明になって、あたしの元に二度と帰ってきてくれないと思うと……心配で、心配で仕方なくなるの。だから、出来る限りでいいから夕方からの外出は控えてほしい。お姉ちゃんとの約束、守れる?」

 

閉じられていた瞼は静かに開き、少し垂れ目がちな黄緑の瞳が眠たそうに見開いている黄緑の瞳を貫く。僅かに涙ぐんでいるように見える普段とは違うすがるような弱々しい瞳を見つめながら、驚きで僅かに空いていた唇をギュッと噛むと約束に対しての返事を言うと口を開いた瞬間、見計らったかのように最近頻繁に流れるようになったニュースが流れる。

 

 

 

『本日、夕方16時頃永田町にて16歳の少女が"昨日から家に帰ってこない"と少女の両親から警察に電話があり、友達と買い物に出かけてからの足取りが掴めていないことが分かっており、行方不明になった少女の名前はーー』

 

 

 

チラッとテレビ画面に映っているニュースを見た後に、わざとニュースキャスターの声を遮るように声を上げると意地悪に笑う。

 

「ーー…僕が姉様との約束を守らなかったことがあった?」

「ふふふ、そうデスね。歌兎はお姉ちゃんとの約束を守らなかったことなかったデスね。どうやら神経質になりすぎていたようデス」

 

よしよしと僕の頭を撫でた姉様は安心したように微笑むと僕の向きを変えてからハンバーグへと箸を入れると食べやすい一口サイズに切る。

 

「ふぅ〜ふぅ〜。はい、歌兎、口を開けてください」

「…あーん。もぐもぐ」

「口の端にケッチャップが付いちゃってるデスよ」

「…むぐ。ありがとう、姉様」

「お礼なんていいデスよ。歌兎とご飯を食べられるだけであたしは幸せなんデスから」

「…僕もだよ。今度は僕が姉様にハンバーグを食べさせてあげる」

 

親鳥から餌をもらう雛鳥のように至れり尽くせりの状態で姉様に晩御飯を食べさせてもらったり食べさせてあげたりしている中、僕はジィーーとさっきのニュースを見ていた。

 

 

 

『行方不明の少女が当日着ていた服装はフリルのついたピンクのカッターシャツと白いロングスカート、ピンクの手提げ鞄で、行方不明の少女の特徴は右目下の黒子があり、少女の目撃情報や発見された方は下の番号にご連絡をください』

 

 

 

繰り返させる連続誘拐事件のニュースを見ながら、味噌汁を啜る。

 

(……新たに行方不明になった人って僕と同じ外見してるんだな)

 

物静かそうな雰囲気が漂う顔立ちをした少女の瞳は黄緑色をしており、背中を流れるロングヘアーは白銀色をしていて、ニッコリと微笑んでカメラへとピースしている姿は愛らしいと多くの人は思うことだろう、ただ一人僕を除いてーー。

 

たらりと冷や汗を流す僕が見つめるのはこれまで犯人によって連れ去られた少女や女性達の一覧で、僕の気のせいかもしれないがその全員がどこかしら僕と似ているのだ、瞳の色や髪の色、髪の毛の長さや身長などなど。"気づかなければよかった"と後悔しても気づいてしまったのならば仕方ない。

 

(さっきまで怖くなかったのに、すごく怖くなってきた……)

 

気のせいならば気のせいであってほしい。僕自身誰かに恨みを持たれることも誰かに執拗に付け狙われている理由がわからないのだ。

 

(……姉様)

 

机の上に無意識に乗っけてある左手へと左手を添えて、ギュッとする僕を不思議そうに見下ろした後に玄関に続く扉を見つめて、ポツリと呟く。

 

「調、遅いデスね……」

「…やっぱり二人で迎えに行く?」

 

そう僕が姉様に問いかけた時だった、玄関の鍵が開く音が廊下に響いた後にガサガサと物がたくさん入った袋が何処に置かれる音が聞こえたのは、二人で顔を見合わせていると扉が開き、ひょっこり顔を出す黒髪ツインテールにシンクロした動きで立ち上がると其々ビニール袋を帰ってきたシラねぇから受け取るのだった。

 

 

 

3.

 

(すっかり遅くなっちゃったな)

 

制服から端末を操作して画面を開くとそこにデジタルで表示されている時間は16:12で僕は肩から滑り落ちそうになっている手提げ袋をかけ直すと帰る人の邪魔にならないように校門から離れたところで姉様へとメールを送ろうと立ち止まる。画面に夢中になっている黄緑の瞳が背後に迫る不審者に気づいたのはメールを送信して、端末をポケットへと仕舞おうと電源を切った黒い画面で……。

 

 

恐怖で固まる黄緑の瞳とどんな光も跳ね返す底なし沼のような無機質な水色の瞳が今、黒い画面越しに交差しーー

 

 

「……歌兎ちゃんが悪いんですよ。私がこんなに待っているのに誘っても何をしてもきてくれないから」

 

 

ーーという声を最後に僕の意識は途切れ、知らない部屋で目を覚ました僕は見下ろされている淀んだ水色の瞳を見てしまって、その底なし沼へと意識もろとも引きずり込まれていく……。

 

(……姉様、ごめんなさい。約束守れなかった)

 

ズルズルと引きずり込まれた先には何にもなくて、僕はその真っ暗闇から一生逃げられないと悟り、そっと涙を流したのだった……。

 

 

 

 

4.

 

《部活が長引いちゃった。もう少ししたら帰るから。心配しないで》

 

ピロンとあたしの端末へと届いた絵文字も何もないシンプルなメールはいつもあたしへと送ってくれる妹のもので、あたしはこれからも続くであろう幸せな日々に思い浮かべながら、端末をポケットへと仕舞うと学生寮へと駆け出す。

 

(歌兎、サッカー部頑張ってるみたいデスね。一年生なのにレギュラーに選ばれちゃうなんてすごいデス)

 

メールを読んだ瞬間、ルンルン気分で鼻歌を歌うあたしに調はクスクスと笑うと小首を傾げて尋ねてくるのでメールの内容を見せる。

 

「歌兎からメール?」

「はい、今日も部活頑張ってるみたいデスよ」

「すごいね、歌兎……。確か、レギュラーに選ばれたんだって?」

「デスデス。今週の土曜日に近くの中学校と練習試合するって言ってましたよ」

「みんなで応援しに行こうね」

「はい! 練習試合って事はお弁当がいるデスね。今回も腕によりをかけて作りますよ〜っ」

 

腕まくりするあたしを見て、心配そうな表情を浮かべる調は恐らくこの前の手作りお弁当の大惨事を思い出しているのだろう。その時も今回のようにルンルン気分で手作りお弁当を作ったあたしはどうやらだし巻き卵の砂糖と塩の分量を間違えてしまったらしく、ものすごくしょっぱいだし巻き卵を美味しそうにかぶりついた歌兎は一瞬だけ顔色を変えた後に根性で残りの半分を口に含み、無理矢理呑み込むと強張っている笑顔のまま凄く麦茶をがぶ飲みしていた。あたしがだし巻き卵がしょっぱいことに気づいたのは歌兎を見送った後にみんなで突いた時で……あの日以降、もう二度とあんな失敗を繰り返さないと誓って、調や未来さん、クリス先輩にお料理を習って、少しは料理の腕前も上昇したと思っているのだが、肝心の歌兎が美味しいと思ってくれないと意味がない。

 

「切ちゃん一人じゃ不安だから。私もお手伝いするね。………また、だし巻き卵の塩と砂糖の分量を間違えたら、歌兎が可愛そうだもの」

「デデッ!? 調がお弁当作りを手伝ってくれるのならば鬼にカネボウデス!」

 

なので、お料理の師匠である調がお弁当の手伝いをしてくれるのならばこれほど心強い事も嬉しい事もない。

 

「切ちゃん、カネボウじゃなくてカナボウだよ」

「なんとッ!? 金棒と書いてカナボウって読むデスか!?」

 

"勉強になった"と頭の中にある間違えだらけの辞書へと調が訂正してくれた答えを書き直しながら、学生寮に辿り着いたあたしと調は部屋に入ると早速今日の晩御飯の準備に取り掛かる。

 

「歌兎。凄く汗をかいて帰ってくるでしょうから、サラダのドレッシングは塩気が多い方がいいデスかね?」

 

隣でピンクのエプロンを付けて、せっせと切歌ロボーーあたしの形をしたロボーーが微塵切りにしてくれた野菜を炒めている調へとかき混ぜていたドレッシングへと人差し指を少しだけ付けて差し出すとパクと小さな口が咥え、ペロリと指先についたドレッシングを舐めとる。

 

「んー、どうだろ……。私はこのままでもいいと思うけど……。切ちゃんの言ってる事も分からなくないから、一摘みずつ入れてくれる?」

「了解デス!」

 

ビシッとおでこに右手を押し当てて、透明なボールをかき混ぜるあたしにトコトコと近づいてきて、くいくいと黒いニーソックスを引っ張るのは歌兎の形をしたロボット・歌兎ロボであたしは抱き上げるとトンと調理台へと置く。

 

「……ん。……ん」

 

トコトコとさっきまでかき混ぜていたボールの近くまで歩くと小さな両手でスプーンを持つとクルクルと一生懸命かき混ぜているKAWAII姿に撃沈(げきちん)したあたしはデレデレと緩み切った頬のまま、ひたすらに端末のシャッターを押し続ける。

 

「ふぁぁぁ……」

「……切ちゃん、手が空いたならお皿出してくれる?」

「ハッ!? 歌兎ロボの可愛さに我を失っていたのデス……」

 

"恐るべし、歌兎ロボ"と心で呟いてから調ロボーー調の形をしたロボーーと共に大皿とおわんなどを用意したあたしはチラッと今だに開かないリビングの扉に視線を向ける。その視線に気づいた調は料理を盛り付けながら、あたしに問いかけてくる。

 

「歌兎遅いね。メールじゃあ"もう少ししたら帰る"って書いていたんだよね?」

「うん……」

「リディアンの中等部って高等部の校舎からそんなに離れてなかったよね……」

「うん……」

「お料理、ひと段落したから二人で迎えに行こう? 今、サランラップするから待ってて」

「うん……」

 

サランラップした料理を冷蔵庫に入れて、ロボ達に留守番をお願いしてから、二人で歌兎が寄りそうな場所を巡りながら、リディアンの中等部が通う校舎まで辿り着いて、職員室に寄り中等部の先生に歌兎の居場所を聞いてみても答えは"分からない"で、不安な気持ちになっていくあたしを勇気付けようと左手を強く握ってくれる調の右手を握り返しながら、学生寮に着いたけれども歌兎が帰ってきた様子はなく、あたしと調は本部へと向かうと風鳴司令へと事情を話したのだった。

 

 

 

 

5.

 

最愛の妹・歌兎が行方不明になって、一週間後 あたしはとある人の部屋を訪れていた。

強張った表情を浮かべるあたしの見たその人はいつものように穏やかな表情を浮かべると快く部屋に招き入れてくれた。

 

「暁さんが私を訪ねてきてくれるなんて珍しいですね」

「そうデスか? 確かに最近は訪れなくなっちゃいましたが、前は頻繁に出入りしていたデスよ」

「そうですね。……歌兎ちゃん、まだ見つからないんですよね……」

「全く、みんながこんなに心配してくれているのに、どこをブラブラしてるのだが」

 

やれやれと呆れたようにため息をついているようなフリをしながら、あたしは腰あたりまで伸びた茶色い髪を揺らしながら、前を歩くセレナの行動を凝視する。

 

(……仲間を。……昔から一緒に暮らしてきた家族ようなセレナを疑いたくはあたしもないんデス)

 

だけども、あたしが歌兎の失踪で一番先に疑ってしまったのはセレナだった。

 

なんでセレナなのか、理由を述べるのならば、恐怖から調にも歌兎にだって話さなかったあの出来事を話さないといけないだろう。

 

その出来事が起きたのは、サッカー部の部活や練習試合がない日には必ずセレナと共にショッピングに行っていた歌兎がある日からヘタな嘘をついて、セレナの誘いを断わり続けていた時のことだった。本部での訓練を終え、シャワールームにて汗を流そうと廊下を歩いている時にいきなり壁へと押し付けられて、押し付けられている二の腕をギュッと握られて、痛みに顔を歪ませていると低い声で尋ねられたのだ。

 

『……暁さん、なんで歌兎ちゃんにフリルのついたワンピースを着せてあげないんですか?』

『……』

『……歌兎ちゃんに一番似合うのはお姫様が着るようなフリルが沢山ついた洋服なのに……それなのに、なんで? なんでなの?』

 

あたしの瞳を間近で見つめてくる水色の瞳はどんな光も反射しない真っ暗な闇だけがそこに居座っていて、普段のセレナと余りに違う豹変っぷりにあたしは恐怖から助けを呼ぶ声も出せないまま、ガタガタと震えながら"なんで? なんで? "と繰り返しつぶやきながら、トントンと壁へとあたしを叩きつけていくセレナのなすがままになっていた。

 

その後、S.O.N.G.のスタッフが通りそうになったことでセレナはあたしを解放してくれたが、もしS.O.N.G.のスタッフが通ってくれなかったならば、あたしはあのままずっとセレナに壁へと叩きつけられていたことだろう。

 

セレナに叩きつけられた背中の痛みよりもあたしを見つめるどんより曇った水色の瞳が忘れようにも身の危険を感じる恐怖ということで本能に刻まれ、だからこそハンバーグを作った時に歌兎が調を迎えに行こうと行った時はつい反応してしまった。だって、調と一緒にメディカルチェックを受けているのはセレナだったから……。

 

あの出来事からセレナがあたしを襲うことはない、だけど本能が、刻まれた恐怖が危険信号を出すのだ、"セレナへと近づくな"と。

 

(だけど、いつまでも怯えているわけにはいかないんデス)

 

もし、あたしの悪い感が当たり、セレナが歌兎を襲った犯人であるならば、きっと歌兎は今酷い目にあっているのかもしれないのだから。

 

(だから、あたしが必ず見つけ出して助け出してあげますからね、歌兎ッ)

 

「ここが私の部屋です。お茶を用意してきますから、待っててください」

「お構いなく」

 

と断りを入れつつ、セレナの部屋に入ってみるとそこには可愛らしい動物の絵などが描かれている壁紙やファンシーな家具が鎮座してあった。ズカズカとピンク色のカーペットの上を歩きながら、歌兎が閉じ込められているであろう秘密の部屋に手当たり次第触りながら探す。

 

「……ここには隠してないってことデスか」

 

そもそも、秘密の部屋なんてファンタジーなものが本当にあるのだろうか?

 

(って、あたしのバカバカ。早速弱気になってどうするデスかッ。歌兎を、妹を守ってあげられるのは姉であるあたしだけなんデスから)

 

それに、あたしが所属しているS.O.N.G.にはミサイルを素手で掴んだり、装者を瞬殺するOTONAと自分だけでなく車でさえ分身させるようななんでもありな忍法を使うNINJYAが居るのだ。

 

(あの二人の化け物みたいな強さに比べたら、セレナが秘密部屋を一つ二つ作っていてもおかしくないのデス)

 

うんうんとうなづきながら、チラッと部屋に飾られている時計を見てから"いよいよ時間がない"と感じたあたしは四つん這いになると床を探し始める。

 

「って、あれ?」

 

机の下を四つん這いになって右手を伸ばして探していた時中指が突起に引っかかり、目を丸くしながら、自分の方に引っ張ってみるとカチンと音がして、続けてブゥゥ……ブゥゥ……と機械音が聞こえて、勉強机の下に人一人通れるくらいの階段が現れる。

 

(ビンゴデスッ!!)

 

「いだっ……」

 

嬉しさのあまり、頭を上げてしまったあたしはガツンと机へと頭を強くぶつけてしまい、痛みで頭を抑えながら階段をあまりいくとそこには20畳くらいの薄暗い周りがコンクリート造りの部屋が現れ、チカチカと消えかかりそうになっている電球の明かりを頼りに進んだ先に目がチカチカしそうなほどに真っ白な部屋があり、その部屋の中央部に見知った水色が入った銀髪の背骨まで伸ばした小柄な少女が居て、あたしは泣き笑いを浮かべると探し求めていた最愛の妹へと続くように敷かれている赤いカーペットを駆けていく。

 

「歌兎ッ!!」

「ーー」

 

駆け寄ってくるあたしには目をもくれず金とワインレッド色を基調としたアンティークな椅子へと気怠げに腰掛ける歌兎はその小さな体躯(たいく)をおとぎ話の中に現れるお姫様が着ているような青いドレスを身に纏っていて、こんな時なのに、あたしはその人間離れした美しさに息を飲んでいた。

 

窓ひとつない真っ白い部屋はただただ歌兎が身につけている真っ青なドレスを映えさせており、真っ白な空間を僅かに染めている赤でさえその青には及ばない。

 

(こんな時じゃなかったら、写真を沢山撮りたいんデスけどね)

 

そんなことを思いながら、あたしはこんなに近づいているのに身動き一つしない薄情者の妹へと身をかがめてから抱きつく。

 

「……やっと見つけましたよ、歌兎。お姉ちゃんとの約束を守るなんて、いつから歌兎は悪い子になったんデスか?」

 

一週間ぶりの歌兎は行方不明になってしまう前と変わらない感触であたしは青白い頬へと止めどなく溢れ出る涙が流れる自分の頬を押し付けると溢れてくる愛おしさと安堵の気持ちのままに強く抱きしめ続けるのだが、強く抱きしめれば抱きしめるほどに違和感に襲われるのだ。

 

(あれ? あ、れ………?)

 

歌兎ってこんなに体温低かったっけ?

 

歌兎ってこんなに痩せこけていったっけ?

 

歌兎ってこんなに体重が軽かったっけ?

 

歌兎の瞳ってこんなにガラス玉のように無機質なものだったっけ?

 

「う、そ……デス、よ、ね………」

 

白いタイルを見続けるガラス玉のようにどんな光も通さない黄緑色の瞳を見つめ、椅子の肘置きへと乗っけられている両手首をギュッと握り、脈を測ったあたしはある一つの真実を突きつけられ、その場に崩れ落ちる。

 

「……ゔぅっ、ぅっ……間に合わなかった……あたしっ……歌兎のこと……守れなかった………」

 

そう、あたしの最愛の妹・暁 歌兎は既に息を引き取っていたのだ………。

 

最愛の妹を守らなかった事への悔しさと自己嫌悪から大粒の涙を赤いカーペットへと落としながら、"くそ"と右拳を握りしめて床を叩きつけていると背後からパチンパチンというような誰かが拍手する音が聞こえ、あたしはその場から立ち上がると椅子の背後へと回り、乱暴に袖で涙を拭うと入ってきた人物を睨む。

 

「凄いですね、暁さん。まさか貴女が一番最初にこの部屋に辿り着くとは思いもしてませんでした」

「……」

「睨むだけで一言も喋ってくれないなんて寂しいですよ、私」

 

セレナが近づくたびに後ろ下がったおかげか、部屋の一番端まで辿り着けたあたしは歌兎……ううん、だったものに近づいたセレナが思わせぶりに椅子を動かすのを見て、眉をひそめる。そんなあたしには目もくれずに青いドレスに身を包んでいる歌兎だったものを恍惚した表情で見つめて、愛おしそうに頬を撫でる。

 

「……」

 

異様としか思えないセレナの行動に危険信号が頭の中でカンカンと警報を鳴らし続ける。

 

(ひとまず、ここから逃げた方がいい)

 

セレナが歌兎を誘拐し殺めたことは目の前にあるのが最もな証拠だろう。その証拠さえあれば歌兎の無念を晴らす事が出来るだろう。

 

あたしは歌兎だったものに夢中なセレナを警戒しつつ、セレナの背後にある出口へと向かおうとした時だったセレナへと質問を投げかけられたのはーー

 

暁さんはお人形さんって好きですか?

 

ーー歌兎だったものの頬を色っぽく撫でながら、セレナは流し目であたしを見つめる、あたしに恐怖心を植え付けたあの底なし沼のような無機質な光を放つ水色の瞳で。

 

「そんな質問、今しなきゃいけない事なんデスか?」

 

上ずりそうになるのを抑え込んで、逸らしそうになる視線へと力を込めて、唇を噛んでから威嚇として低い声を出す。

 

「必要ですよ。だって、私が歌兎ちゃんをこんな風にしたのはーー私だけの着せ替え人形が欲しかっただけ、なんですから」

「へ?」

 

え? へ? なんデスか? そのふざけた理由……。

あたしの妹はそんなくだらない自分勝手な理由で13歳っていう短い人生に幕を出さなきゃいけなかったんデスか?

 

「歌兎ちゃんを初めて見た時に心が震えたんです。まるでお人形さんみたいってーー」

 

中学校に通わせてもらって、初めて自分から部活でサッカーをやりたいっていってくれて、そのサッカーでレギュラーの座まで努力で勝ち取ってきた。もし、セレナに捕まるのが遅かったら、他校との練習試合で大活躍していたのかもしれない。

 

「ーー円らな瞳……幼さが残る丸みを帯びた輪郭……僅かに膨らんだ二つの膨らみ……細っそりした手脚……小さな身体……どのパーツを取ってもお人形のようで愛らしくて可愛らしい。私思うんです、歌兎ちゃんはお人形さんになるために生まれてきたんだって……」

 

その未来を……細やかな幸せに満ちた未来を"私だけの着せ替え人形が欲しかったから"って理由で踏み滲んだの? そんな理由で踏みにじれていい人生だったの? 歌兎の……妹の人生って……。

 

(許セナイ)

 

怒りのあまりに奥歯をガリッと噛み締めてしまい、逃げ出そうとしていた足取りと止まってしまったあたしを見つめるセレナの表情が恍惚とした表情からしてやったりというようなほくそ笑む表情へと変わっている事を血が上ってしまったあたしは気づくことができない。

 

「……て」

「なんですか? 暁さん」

「あたしの妹から離れてッ!!!!」

 

怒鳴り声を部屋に響かせたあたしは余裕そうな表情を崩さなセレナに飛びかかろうとした時だった、グラっと視界がふやけ、足元がよじれ、白いタイルへとダイブしたのは。

 

(……いきなり、なんで?)

 

「暁さん、足元はしっかりと確認した方がいいですよ」

「……くっ」

 

セレナの指摘通り、黒いニーソックスが僅かに切り裂かれ、血を溢れされている。その切り傷の近くには何かが塗られているナイフが転がっており、あたしは唇を噛みしめる。

 

(あのナイフに痺れ薬を塗られていたのか)

 

怒りに身を任せてしまい、セレナの狙いのままの行動を取ってしまった。まずはこの場から逃げないといけなかったのに……。

 

痺れているあたしへと近づいたセレナは"よいしょっ"とうつ伏せで倒れているのを後向けに変えると下腹部へと跨り、ポケットから何か分からない液体に満たされた注射器を取り出すとあたしの左耳の穴へと近づける。

 

「やっぱり可愛くて綺麗です、姉妹なんですね」

 

愛おしそうに頬を撫でた後は金髪へと指を差し込み、手櫛をするセレナにバレないように足元に転がっている麻痺薬が塗られているナイフを右手へとじわりじわりと近づけていく。

 

「……意味が分からないデス」

「よくよく見ると歌兎ちゃんに暁さんが似ているんですね。例えば、輪郭も幼さが残っている丸みを帯びた形をしてますし、睫毛もスッとしているところがよく似てます」

「……歌兎ちゃんがあたしに似てるんデス。あたしが歌兎に似てるんじゃないデス」

 

拗ねたように言ってみるとセレナが眉をひそめながら謝罪する。

 

「ごめんなさい。暁さんがお姉さんですもんね、歌兎ちゃんが暁さんに似てるんですね」

「そうデス。もう二度と間違えないで欲しいのデス」

 

(よし、このまま話で時間稼ぎをすればナイフを手元に近づけられる)

 

見えてきた希望を手繰り寄せようと必死になっているとグイっと右耳の中へと注射器の針を入れられる。ピタリと身動きしなくなったあたしに見てから、椅子に腰掛けている歌兎だったものを見つめたセレナはポツンポツンと呟く。

 

「これで歌兎ちゃんも笑ってくれますよね」

「……笑って?」

 

あたしが逃げないように右手を頬へと添える。

 

「この部屋に来てから、歌兎ちゃん悲しそうなんです」

 

確かに白いタイルを見つめる瞳は意思がないというのにどこか寂しそうな雰囲気だった。

 

「前の部屋にいる時は友達がたくさん居たので寂しくなさそうだったんですけどね……。やっぱり一人でこの部屋に来たのが、寂しかったんでしょうね。でも、みんな歌兎ちゃんにどこか似ているから、離した方が歌兎ちゃんの可愛さと美しさを引き立てられると思ったんですけどね」

 

セレナのそのセリフによって全てを悟った、ここ最近頻繁にニュースに取り上げれられていた少女・女性誘拐事件の犯人が目の前にいるこの少女なんだと。

 

(歌兎だけじゃなくて、あんなにも多くの人をこの人は殺めてしまったんだ)

 

そこまでして自分専用の着せ替え人形が欲しかったんだろうか? 人を殺めるという最大の禁忌を犯してまでその私欲は叶えなくてはいけないものだったんだろうか? 何がそこまで彼女をおかしくしてしまったのだろうか?

 

さっきまでセレナに抱いていた怒りは同情・憐れへと変わり、あたしは涙を溢れさせた、もしかしたら彼女もまた被害者なのかもしれないと。

 

「でもこれで歌兎ちゃんも喜んでくれるはずです。大好きなお姉ちゃんがずっと……永遠に隣にいてくれるんですから」

 

穏やかに笑うセレナがあたしの耳へと突き立てている注射器の液体を入っていく前に右手に持っていた麻痺薬が塗られたナイフでセレナの足首を切った後に、痺れているセレナを退かしてから痺れる体に鞭を打って、この場から逃げるために歩き出す、後ろに同じように痺れる身体を引きずり、水色の瞳をどんよりと曇らせ、左手に注射器を持ったセレナから逃れるように。




皆さん、一緒に言いましょうッ

「切ちゃん、逃げてぇええええええええええええええええ!!!!!! 逃げ切ってぇええええええええええええええええ!!!!!!!」


果たして、切ちゃんは無事セレナちゃんから逃げられたのでしょうか?


それは、読者の皆様のご想像におまかせ致します……




ということで、改めて【地下室の人形】はどうだったでしょうか?

この【狂愛】章、始まって以来のbat end…

我ながらなんでこんなものを書いてしまったのか、よく分からんのです……。疲れるのかな? 疲れてるんでしょうね……(苦笑)
この世界線のセレナちゃんも病んでしまってますが、この話を思いつき、主筆した私もある意味病んでしまってるのでは…?(失笑)

ということで、今回のこの世界線のセレナちゃんに引いてしまった気持ちは私が全部引き受けるので、どうかセレナちゃんを嫌いにならないであげてください(土下座)

因みに、歌兎がbat endを回避する為には【⒈】の最後でセレナちゃんのお誘いを受け続ける事でした。
【⒈】の時のセレナちゃんは……いいえ、ストーリーの終わりまでセレナちゃんは単に"自分専用の着せ替え人形"が欲しかっただけなんですから……。セレナちゃんにとって、理想的なお人形さんである歌兎が生きていようが、亡くなっていようが、それは彼女にとって些細な事なのですが、どちらにしても彼女の精神は異常と言えることは他ならないでしょう。

また、【2.】のハンバーグ回はずっと前から言っていた後書きで立て続けていたフラグの回収とXVの用語解説から書いてみようと思い、フレンドの多くの方が"称号・今夜はハンバーグなのデスッ!"になされていたので……うん、やっぱり今夜はハンバーグかなという思い書かせてもらった回となってます。

【4.】のお料理回で現れたロボ達はアプリにて一緒は料理していると書いてあったように思えたので急遽入れてみました(微笑)
歌兎ロボは切ちゃんロボや調ちゃんロボのように何かに特化しているわけではないですが、ちょっとしたお手伝いはそつなくこなす事が出来ます。また、切ちゃん曰く小さい身体を一生懸命動かして頑張る姿が可愛いく、大変癒されるとのこと(笑)




ここから先はXVの7・8話の感想を書かせてもらおうと思いますッ。
例の如く、変態な感想が多くなり、身勝手で直感的な憶測を書かせてもらうと思いますが、そういう考えもあるのだな…と軽く読んでもらえると嬉しいです!
また変態なコントが苦手な方は迷わず回れ右をしてください(敬礼)

まず最初は7話の感想ですが、前半は多くのきりしらシーンや響ちゃんのイケメンな場面が多くありましたね!!
シェム・ハの触手の攻撃から調ちゃんを守る切ちゃんもかっこよかったですが、それ以上に切ちゃんの危機を見事なタイミングで助けてくれる響ちゃんはかっこよすぎました!! 流石シンフォギアの主人公であり、響ちゃんです!!!(大興奮)

そんな前半で私の好きなシーンはシェム・ハの腕輪から発せられる音がマリアさんの始祖が持ち出せた子守唄【Apple】の音と似ている時に変換された音を髪を掻き分けて、耳を凝らす切ちゃんですねッ!!(大興奮)
やっぱり切ちゃんは綺麗系統の顔立ちなのですね〜。耳が見えるだけでここまで印象が変わるとは……いい作画でした(しみじみ)

また、切ちゃんの新技(?)の二つの釜を手裏剣にしてぶん投げる技【凶鎖・スタaa魔忍ィイ】ですが……テンションが上がりましたッ! まさか、切ちゃんが忍法を使ってくれるなんて(勘違い)
にしても、お尻から落ちたけど大丈夫なのかな、切ちゃん……。


後半戦はエルフナインちゃんとキャロルさん、オートスコアラーのみんなの話でしたね。

ただ一言だけ述べるのならば、感涙の一言です。

エルフナインちゃんを体を張って守ってくれるオートスコアラーのみんなへとお礼を口にするエルフナインちゃんの言葉に嬉しそうな表情を浮かべるみんな……そして、再来してくれたキャロルちゃんを見て『その姿ですよ……私たちが見たかったのは……』と呟き、瞳の色が無くなるがリィちゃんのシーンには涙が溢れました。

キャロルちゃんの変身バンクはエロさが程よく大変ニヤニヤさせてもらいました!
三角帽子の赤・青・緑・黄色で其々オートスコアラーのみんなが映るのが泣きそうになりますよね……あと、碧い獅子も再登場しましたね!
また、もっと気持ち悪いことを言わせてもらうならば、ダウルダヴラのファウストロープの端から見えるあばら骨が好きだったりします……出来る事ならーーってこれ以上は流石に気持ち悪すぎることを言いそうになるので言葉を紡ぐことにします。

また、7話のDPは特別仕様でキャロルちゃんの新曲が流れましたねッ!!
かっこいいだけでなく、音程が掴みにくい曲を難なく歌うキャストの皆さんって本当に凄い……(尊敬の眼差し)

今回の話で気になったのは、ミラアルクさんの刻印によって操られたエルフナインちゃんが言ってた『その庭に咲き誇るは けんとの花 知恵のみ結ぶ ディーンハイムの証なり』ですね。
すごく今更なんですが、アウフヴァッヘン波動って其々"花"の形に似てますよね……そして、エピソードのタイトルは【その花の名は、アマルガム】。"アマルガム"はシンフォギアシステムとサンジェルマンさん達のファウストロープが融合した状態……。つまり、聖遺物一つ一つが花であり、それを結ぶことによって……みたいな………(汗) 見当違いかもしれないけど(苦笑)



続けて、8話の感想ですが……まず一言、いい最終回でしたね(しみじみ)
タイトルも【XV】ですし、これまでの未来ちゃんのダイジェスト盤も流れてましたからね……今回のシンフォギア8話で完結なんて悲しすぎるよ……(涙)

という冗談を挟みつつ、前半とキャロルちゃんの戦闘曲【スフォルツァンドの残響】の感想はついて書かせてもらいます!

まずはキャロルちゃんとノーブルレッドの戦闘ですが、息つく間もない激戦なのに、キャロルちゃんの余裕が半端なかったですね……(汗)
攻めているはずの三人が段々と追い込まれていくのを見ると、キャロルちゃんの強さにびっくりしちゃいますね……みんな、こんな凄い子と戦闘してたんだなぁ……(しみじみ)
そして、キャロルちゃんもオートスコアラーのみんなのことを大切に思っていたんですね……(感涙)

スフォルツァンドの残響は音程が掴みづらい曲ですね。特に好きな歌詞は『神も悪魔もどうでもいい』の"いい"の伸ばしがすっごく好きです!!
あと凄くしょーもないんですが『煩わしい』って言葉を聞くとラジオのあのコーナーでのやりとりを思い出してしまう…(笑)

また、キャロルちゃんとエルフナインちゃんの会話はこういう状況なのにほのぼのしちゃいますね……(微笑)
照れた様子のキャロルちゃんってかなり新鮮で微笑ましかったですね……もう少しでいいから見ていたかった……。

その後は響ちゃんを退けた装者のみんなの絶唱からのキャロルちゃんの助力によってのエクスドライブからの大迫力の戦闘シーンにクリスちゃんとマリアさんのユニゾン……ぷるんと揺れる胸の間に挟まりたいと思ったのは私だけじゃないはず。

響ちゃんが加わってからの戦闘も手に汗握るものでしたね……早すぎて、目が追いつかなかったことが沢山あり、何回もリピートさせてもらってます。

しかし、みんなの助力によってシェム・ハを倒そうとした矢先に何故か未来ちゃんが……。
こんな時に何ですが、シェム・ハを纏った未来ちゃんのポニーテールが可愛いと思いました。そして、古風な言い方も……。
あと、変身バンクの最初に服を脱ぎ捨てるシーンは最高ですね!! 後ろからあっている光を前から当てたいっ。

未来ちゃんとシェム・ハを引き剥がすことが出来るのか……遂に本性を現し出した訃堂さんは一体何を考えているのか……?

9話以降の展開が気になりますね……。

また、やはり訃堂さんに使われるだけだったノーブルレッドのみんながどうなるのかも……。
前の更新にてミラアルクさんの事を評価が地に落ちると散々な事を言ってしまいましたが、私そこまでミラアルクさんとノーブルレッドの二人を忌み嫌っているわけではないんですよ。2話でミラアルクさんが言った『うちが二人を……家族を守るんだぁ!!』のセリフから薄々と彼女は三人の中でそういう役割なのかなぁ……と思っていましたが、6・7・8話にかけてその考えは合っていると思いました。もちろん、彼女がした事は許せない事ですが、彼女には彼女で譲れないことがあり、忌み嫌われていた彼女達がこれまで味わってきた苦痛を考えてしまうと……どうもそこまで嫌いにはなれないんですよね………(汗)
それに三人が私には2期のF.I.S.組に思えて仕方ないんですよね……。





最後にアプリの報告ですが、和装切ちゃんの超覚醒は極のレベルを上げるところで解放出来るのですが……これがまだまだ掛かりそうなので、フレンドリストをダブル切ちゃんにするにはまだ時間が掛かりそうです(笑)

また、時々更新が遅れ、今回のように2話の感想を書かせてしまうことがあると思います。読者の皆さんには迷惑をかけます(高速土下座)



それでは、ここまで長文を読んでいただきありがとうございます!!(敬礼)


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狂と愛は紙一重《みくうたエピソード》

狂愛といえば未来ちゃん、未来ちゃんといえば狂愛。

という事で真打ち登場ですッ!!!!

また、この話はR-15のシーンが後半であるので、15歳以下の方は回れ右をよろしくお願いします!(ちょっとエロすぎるかもしれませんが、許してもらえると嬉しいです……)

それでは、本編をどうぞ!!


1.

 

(……姉様とシラねぇ、まだかな)

 

緑色のソファが添えられている小さな憩いの場所にて僕はパタパタと両脚を動かしながら、膝の上に置いた雑誌をペラペラとめくりながら、姉様とシラねぇの訓練が終わるのを待っていた。本当は僕も訓練したかったのだけど、昨日の出撃の時に無理をしすぎてしまい、姉様や風鳴司令からメディカルだけで終わるようにときつく言いつかった為、ワガママを言うわけにもいかず、しぶしぶメディカルだけ受けて、二人の訓練が終わるまで大人しくソファで待機している時に声をかけられ、雑誌から顔を上げるとそこには肩まで伸ばした黒髪に大きな白いリボンをつけた少女が身体を前のめりにしていて、僕はその少女・未来お姉ちゃんへと淡く微笑む。

 

「こんにちわ、歌兎ちゃん」

「…こんにちわ、未来お姉ちゃん」

 

挨拶を交わし、ストンと僕の隣に腰掛ける未来お姉ちゃんを見上げながら、膝の上に置いていた雑誌をゆっくりと閉じる。

 

「歌兎ちゃん、昨日のドラマ見た?」

「…ん、見たよ。星二(せいじ)星三(せいみ)一瀬(ひとせ)に好意を寄せてたのは分かっていたけど、星四(せよ)まで一瀬の事が好きなんて……」

「そうそう。まさか、あそこが伏線だったなんてね。私も響と一緒に見て、びっくりしちゃったよ」

 

最近、よく未来お姉ちゃんと話をする事が多くなった。

会話する内容は世間話を皮切りに学生生活の事や日常生活の事、悩み事などごくごく普通のものなのだが、未来お姉ちゃんは決まって最後に不思議な事を話しかけてくるのだ。

 

「そういえば、昨日の夕方5時 切歌ちゃんと喧嘩して、近くの公園に居たよね。それから2時間後に切歌ちゃんと調ちゃんが迎えに来てくれたけど……駄目だよ、歌兎ちゃん。歌兎ちゃんは可愛い子なんだから、そういう子が夜遅くにあんな人気ないところにいたら悪い人に連れて行かれちゃうでしょう? それに上着も忘れてたでしょう? まだ寒いんだから、風邪をひいちゃうよ」

 

上のセリフのように、その場に未来お姉ちゃんは居なかった筈なのに、居たように事細かな内容を言ってくるのだ。この前は響師匠と休日に映画を観に行った事を何処で待ち合わせて、どの開演時間のどの映画を観たか、僕がどのジュースを頼み、どの食べ物を、どういったグッズを買い、そこから何処に行ったかを時間から頼んだもの、買ったもの、個数までぴったりと言い当てられた事があり、その時は"響師匠に聞いたのかなぁ〜"と思っていたのだけど……その後も"誰と何処に遊びに出かけて、何をしたのか"を寸分も狂わずに言ってのける未来お姉ちゃんの発言に違和感と共に少しの恐怖を抱いてしまうが、いつも良くしてくれている人を疑ってしまったり、露骨に避けるほどに僕は人が腐ってはないと思う。

 

(思うんだけど……今度からは周りをよく見てから外出よう。少しだけ薄気味悪いし……)

 

「…う、うん……気をつけるね」

 

強張りそうになる顔を必死に笑みの形で耐え、コクリと未来お姉ちゃんの提案にうなづく。

 

「また、切歌ちゃんと喧嘩しちゃったなら今度は私の部屋に来て。響も私もいるから、切歌ちゃん達が迎えに来てくるまで歌兎ちゃんの事見れるし。……………それに歌兎ちゃんの事をもっとよく知れるし」

「…? 何か言った? 未来お姉ちゃん」

「ううん、なんでもないよ」

 

何か未来お姉ちゃんが言った気がして小首を傾げて顔をジィーーと見つめるとニッコリと木漏れ日のような暖かな笑顔を向けられ、何かを言おうと桜色の唇が開き始めた頃、渡り廊下の奥から駆けってくる軽やか足音と共に小さい頃からよく聴いている見知った声が聞こえてくる。

 

「歌兎〜ぅ、帰りましょう……って、未来さんも一緒でしたか?」

「こんにちわ、切歌ちゃん」

「こんにちわデース。未来さんは響さんのお迎えデスか?」

 

走って近寄ってきた姉様は僕の隣に腰掛けている未来お姉ちゃんの姿に気づき、ぺこりと頭を下げてから僕の膝から雑誌を取るとソファの近くに設置してある本棚へと戻しながら未来お姉ちゃんと会話していく。

 

「うん、そうなんだ。響、訓練終わったかな?」

「はい、響さんならあたしと同じ頃にシャワールームにクリス先輩と一緒に向かってたデスから、そろそろ出てくると思いますよ」

「教えてくれてありがとう、切歌ちゃん。私、響を迎えに行ってくるね。あっ、そうだ。これ、前に歌兎ちゃんが好きって言ってた梨タルト作ってみたんだ。良かったら食べてみて」

 

透明な使い捨ての容器の中にはお店に出しても可笑しくないくらい綺麗な梨タルトが三つほど互い違いに入れられており、僕はそれを見た瞬間花開くように満開の笑顔を浮かべる。

 

「…本当にッ! ありがとう! 未来お姉ちゃんっ」

 

梨タルトを差し出した未来お姉ちゃんは抱きついてくる僕の頭を優しく微笑みながら、ポンポンと撫でるのを見て、姉様は申し訳なさそうに眉をひそめると頭を下げる。

 

「未来さん、いつもありがとうございます。歌兎の為にわざわざ」

「そんな……お礼なんていいよ。私が好きでしている事だから、気にしないで」

「そうは言っても、結局はあたしと調の分まで貰っているわけデスし……ほら、歌兎ももう一度未来さんにお礼を言って」

「…未来お姉ちゃん、いつもありがとう」

 

満開の笑顔を浮かべたまま、未来お姉ちゃんを見上げながらお礼を言う僕を焦点の合わない視線で無言のまま見つめ続けている未来お姉ちゃんに姉様は心配そうに声をかける。

 

「…未来さん?」

 

姉様の遠慮した声にハッとした感じで元の様子に戻った未来お姉ちゃんは慌てた感じでまくしたてると慌ただしく渡り廊下の奥へと消えて行く前になでなでと僕の頭を撫でる。

 

「ーー。……ッ!? わ、私 響のところ行くね。歌兎ちゃん、食べ終わったら、感想を聞かせてくれる?」

「…ん。分かった」

 

 

 

 

 

 

2.

 

未来お姉ちゃん特製の梨タルトを貰った翌日、学生寮のポストに投函(とうかん)されていた郵便物を朝ごはんの後に取りに向かった姉様は食後のお茶を飲んで、のんびりしている僕へと一つの封筒を差し出す。

 

「はい、どうぞ。これ歌兎宛デスよ」

 

姉様から受け取ったその封筒は可愛らしい文字で"暁 歌兎様"とだけ書いてあり、裏を見ても差出人の名前はない。封筒は綺麗な空色に小さなウサギたちがプリントアウトされている可愛らしいもので僕はしばし目をパチクリさせる。

 

「…僕に手紙なんて珍しい」

「うぐっ。いちいち手紙の三文字に反応しちゃう自分が憎いのデスっ! アレはもう抹消したのにッ!!」

 

僕の横で自分宛とシラねぇ宛に郵便物を分けていた姉様は僕が口にした"手紙"の文字にピクッと肩を震わせた後に悔しそうに唇を噛み締め、小さく地団駄を踏んでいる。

 

「…あ、ごめん。姉様」

「謝らないでッ!? 謝れると逆に傷口をえぐるんデスっ」

 

悲鳴めいた声を上げている姉様へとキッチンで洗い物をしていたシラねぇから呼び出しがかかり、まだ分けきれてなかった郵便物をテーブルに置いた後に軽やかにシラねぇへと駆け寄る。

 

「切ちゃん、ごめん。食器洗いの洗剤の換え取ってくれる? 私の後ろの戸棚にあるから」

「はいはーい。今行くデース」

 

シラねぇのいう通り、後ろの戸棚にあった食器用洗剤を空になった容器へと移し替えている。

 

「この容器に入れたらいいんデスか?」

「うん、そう。切ちゃん、歌兎との会話中に動かしちゃってごめんね」

「えへへ、これくらいどってことないのデスよ。歌兎の事も調の事もあたしととってはどっちもかけがえない程に大切デスから」

 

今日も安定の仲の良さを見せつけてくれるザババコンビのやりとりを淡く微笑みながら見てから視線を封筒へと落とした僕は慎重に封を切ると中身にある物を取り出す。

 

(えーと。手触りからこの二枚は写真で、これが文書かな?)

 

まずは写真から見ようと思い、ひっくり返して、そこに写っている"もの"を見た瞬間、淡く微笑んでいた表情が凍りつく。

 

「ーー」

 

(な、何これ……)

 

二枚の写真に写っていた"もの"……いいや、"者"は僕だった。

右手の方に置いてある写真の中には部活でかいた汗をユニフォームで拭う僕の姿が収められており、左手の方は中学校からの帰りにこっそり買い食いをしている僕の姿が収められていた。

 

(この時もあの時も周りには見知った人居なかったのに……なんで……?)

 

「……」

 

この写真だけでも衝撃的なのだが、文書を開いた瞬間、さらなる恐怖心が浮かび、思わずテーブルへと投げ捨てしまった。

 

「ひぃ……」

 

文書には一定の大きさで上の欄から下の欄を埋め尽くす"あなたが好きです"という8文字が綴られていたのだ。可愛らしい文字で綴られる愛の告白は添えられていた写真と同じく重く僕へとのしかかり、受け止めきれない僕は強張る表情のまま文書と写真を封筒へと戻す。

 

「歌兎?」

「……ッ! 呼んだ? 姉様」

「てが……げふんげふん、アレ見てから様子がおかしいようだけど変なのだった?」

 

シラねぇのお手伝いを終えたのか、手を拭きながらこっちに歩いてくる姉様はいつもの砕けているデス口調ではないタメ口調で心配してくるのを聞き、僕はそれ程までに強張った表情をしているのだと気づき、無理矢理笑みの形へとシフトチェンジして近づいてくる姉様を安心させようとする。

 

「…ううん、全然変なのじゃなかったよ。びっしりと愛の告白? みたいな内容が書かれていて、ちょっとびっくりしただけだから」

 

うん、嘘はついてない。"あなたが好きです"ってそういう意味で送られてきたんだろうから。

 

「なんとッ!? ついに歌兎にもモテ期到来デスか!? 嬉しいような悲しいような不思議な気分デス」

「…あはは、初めて貰ったから。僕、自分の部屋に置いてくるね」

 

そう言って、自分の内側から湧き上がってくるよくわからない感情と戦っている姉様を残して、自室に駆け込んだ僕はカーテンを勢いよく閉めた後、勉強机に腰掛けた後に思いっきり封筒を破り捨て、ゴミ箱へと投げ捨てた後は毛布へと絡まって、ガタガタと震える。

 

 

 

 

 

だがしかし、それはまだ序ロだった。

 

空色にたくさんのウサギたちがプリントアウトされている封筒は毎日僕へと届くようになり、添えられている文書は"あなたが好きです"から"好き・大好き"へと変化していって日を追うごとに枚数も増えていった。

文書と共に入っている写真は、送られてきた当時は部活や帰り道のものだったが次第に部室や女子更衣室で着替えている半裸姿や用をたっしている姿、浴室に入っている姿と変わっていき、一番衝撃的だったのはシャワールームで汗を流している全裸の姿で僕はそれ以降本部でのシャワーを浴びる時は常に周りを気にするようになった。

 

 

 

 

 

 

 

休む事なく毎日送られてくる薄気味悪い封筒が届くようになり、僕の神経は敏感になっているのか、常に外にいる時も学生寮にいる時も誰かの視線を感じるようになって、気が緩めなくなった僕は疲弊しきって、良からぬ考えや妄想を抱くようになっていた。

もしかしたら、すぐ側に封筒の送り主……犯人が潜んでいて、僕が無防備な姿になるのを待って、条件さえ整えば襲いかかろうとしているのではないだろうか?

そう思うといつも通っている通学路の角という角が、電柱の裏が、人気のない細道が、何よりも人の視線が気になるようになっていて、一人でいることを最も恐れるようになり、姉様やシラねぇの二人にべったりになった。二人にべったりしている時はそういった下着姿、半裸や全裸の写真は届かずに届き始めた頃のような服を着ている写真が届いてくれたから……。確かに薄気味悪い文書や写真は送り続けられているけど、下着姿や半裸、全裸のような無防備な姿と違い、まだ心が落ち着ける。犯人は今様子見の状態で僕から離れた場所にいると思うと早まっていた鼓動が鎮まっていくのを感じる。

 

「およ、調からペルプメールデス」

 

今日もソファにすがってゲームをしている姉様の隣にぴったりとくっついて座り、宿題をテーブルに広げてしていると姉様の端末がプルルルルと鳴り、操作した後に画面を見た姉様がセーブをしてからゲームを切るのを見て、"ヒトリニサセル"と思った瞬間さっきまで落ち着いていた心臓がバクバクと音を立て始め、僕は震える手で玄関に向かおうとしている姉様の服の袖をギュッと掴む。

 

「…姉様、どこ行くの?」

「調が買い物しすぎちゃったから、荷物運びしてくれってメールが届きまして」

 

端末の画面を見せてくれるのをチラッと見てから、きっと「すぐ近くだから留守番してて」言おうとしている姉様より先に口を開く。

 

「…なら、僕も行く。上着持ってくるから待ってて」

「へ? すぐそこデスよ?」

「…すぐでもついていくのッ!!」

 

と強い口調で言った後に慌ただしく壁に掛けてあるパーカーを手に持ってから玄関で待っている姉様へと体当たりするように抱きつくと姉様は困ったように笑った後、僕からパーカーを取ると羽織らせてから「歩きにくいデスよ、歌兎」と言いながら、学生寮から出てから鍵をしめるのを袖を掴みながら待っている間も誰ともわからない視線を感じて、歩き出そうとしている姉様へと両手を広げる。

 

「…だっこ」

「もう、歌兎はいつからこんなに甘えん坊になったんデスか?」

 

と呆れたように言いながらも満更でもない表情を浮かべる姉様は僕を抱き寄せると抱っこしながら、シラねぇが待つスーパーへと向かう。

 

 

 

 

 

3.

 

(参りましたね、これ)

 

今、あたしがいるのは最愛の妹である歌兎の自室で壁にかかっている時計は午後10時を指しており、いつも歌兎が寝る時間なのでベッドに横になるように言っているのだが、「姉様も一緒に寝てくれないと横にならない」と毎日言ってくるようになった我が儘を宥めている最中ということだ。

 

「…いやっ」

「いやと言われても、お姉ちゃんこれからすることがあるから」

 

両手をばたつかせながら、いつにも増して抵抗する歌兎の両手を優しく掴むと眠たそうな黄緑色の瞳を見つめる。

 

「…じゃあ、それが終わるまで姉様の隣にいる」

「そういって、何度も途中で寝ちゃってるでしょう?」

「…今日は最後まで起きてるもん」

 

頬をまん丸に膨らませる妹の頑固な一面に困ったような表情を浮かべてしまったのか、歌兎はギュッと毛布を自分の方へと抱き寄せると瞳を潤ませながら、弱々しい声を漏らす。

 

「…僕、わがまま言ってる……? 我儘で姉様を困らせてる? 僕の事嫌いになる?」

 

嫌われてしまうと不安になっている歌兎を胸へと抱き寄せながら、安心させるようにトントンと優しく背中を叩く。

 

「妹が姉に我儘を言うのは当たり前のこと。でもね、お姉ちゃんはソファで座ったまま寝ている歌兎が見てられないの。座ったまま寝ると首痛くなるでしょう?」

「…痛くなんかないもん……。それくらい我慢できるもん……」

「痛くなくても我慢できても寝づらそうだから駄目。これからの用事はお風呂はいってくるだけだから、大人しく寝て待っててくれる?」

 

視線を合わせてからお願いしてみると歌兎は不安そうな表情のままだが、起こしていた身体を横たわらせると毛布と布団を自分の方に手繰り寄せる。

 

「…ほんとに? すぐに来てくれる?」

「お姉ちゃんは歌兎との約束で嘘をついたことなんて無いでしょう?」

 

その言葉を聞いて、ようやく安心したようで瞼が閉じたり開いたりするのを見て、くすくすと笑うと手繰り寄せている毛布を捲ると切歌ロボを側に置いてあげる。

 

「お姉ちゃんが来るまで切歌ロボが歌兎の事を守ってくれるからね」

「…ん」

「目を閉じて」

 

ゆっくりと目が閉じるのを待ってから、とんとんと布団を叩くとうっつらうっつらしていた黄緑の瞳が目を瞑るのを見て、掛けている声も小さくしていく。

 

「ねーんね……ねーんね……ねーんね……」

 

ギュッと切歌ロボを抱き寄せて、小さく寝息を立てているのを聞いてからゆっくりと立ち上がると物音をなるべく立てないように自室から出て、張り詰めていた息を吐く。

 

「歌兎、寝た?」

「うん、なんとかね」

 

調の向こう側に腰掛けてから、差し出してくれるコップに注いであるお茶を一口飲んでから疲れたようにテーブルへとうなだれる。

 

「歌兎、最近すごい甘えてくるね」

「そうデスね……」

「切ちゃんの事だから、すごく嬉しいのかと思ったけど違うんだ?」

 

うなだれるあたしの金髪をつんつんと突いて、悪戯な口調をする調を見上げながら、拗ねたような声で答えながら、視線は歌兎の自室を見る。

 

「嬉しいのは嬉しいデスよ。歌兎は大きくなってからめっきり甘えてきてくれなくなったので、今みたいに……その、あたしが少し離れただけで不安そうになったり、あたしを見るたびに飛びついてきたりするところを見たら、可愛いなぁ〜と思いますし、写真たくさん撮りたいなぁ〜って思うデスよ。でも……」

「でも?」

「……今回の甘えは意味が違う気がするんデスよ」

「違う? どう?」

 

うなだれていた上半身を起こすと小首を傾げる調へと人差し指をクルクルと回しながら、最近妹の様子で可笑しく思う事を思い出しながら、話し合いを続ける。

 

「調も歌兎と一緒に外に出た時に不思議に思いません? あの子、しきりに周りの視線を気にしたり、何かを探すように視線をせわしなく動かすんデス」

「……。……確かにそうだね。私の時もそんな感じでいつも何かに怯えているような気がする」

 

顎に親指を押し当てるとここ最近の事を思い出すように眉をひそめてからこくりこくりとうなづく。

 

「そうそう。何に怯えているのかは分からないけど……常にピクピクしているデスよね、あんな姿の歌兎痛々しく見てられないデスよ」

「ここでもしてるよね?」

「そうなんデスよね……。歌兎がそういった行動を取るようになったのって」

「うん、アレだと思う」

 

調のいう"アレ"とはきっとあたしも思い浮かべている毎日歌兎宛に届いている空色に沢山のウサギたちがプリントアウトされている封筒だ。

 

(これは一旦歌兎に無理を言ってでも封筒の中身を見せてもらうべきかもデスね……)

 

そんな事を考えて、一口お茶を飲もうとした時だった。

キィーーと扉が開く音が聞こえ、奥からうとうとと小舟を漕ぎながら、左腕に切歌ロボを抱えた歌兎が現れ

 

「ーー」

 

あたしは変なところに入りそうになるお茶を無理矢理食道へと押し込んでから、今にもパタンと倒れそうになっている歌兎へと駆け寄ると小さな肩へと両手を置く。

 

「あらあら、もう……。待っててって言ったでしょう?」

「…まっててもねえさまきてくれないから……むかえにきたの……」

 

そう言いながら、あたしへと倒れ込んでくる歌兎を抱き寄せてから一部始終を見ていた調と顔を見合わせてから、苦笑を浮かべるとお姫様抱っこしてから歌兎をベッドへと横にさせてから、おでこと頬にキスを落としてから急いでお風呂に入ってから、髪の毛を調に乾かしてもらってからすやすやと寝息を立てている歌兎の横へと潜り込み、安心させるように抱き寄せると強張って見えた寝顔が安らかなものに変わった気がした。

 

 

 

 

 

 

4.

 

「未来さん、すいません。歌兎の事、頼んじゃって」

 

抱っこしていた僕を地面に下ろしてから、離れたくないと腰に抱きつくのを引き剥がしながら、姉様は2泊3日の間にお世話になる未来お姉ちゃんと話をするのを必死に抵抗しながら聞く。

 

「いいよ。歌兎ちゃんを一人で学生寮で一人残すのって心配だもんね」

「それもあるんデスけど……。この通り、いつにも増して甘えん坊になってしまって、あたしから一時も離れようとしてくれないんデスよ」

「…姉様、どこ行くの。僕を置いていくの? 一人にするの? 一人は嫌なの、一人にしないで……」

 

泣きそうな声で言う僕の言葉を聞いて、表情を辛そうに歪めると腰に巻きついている両手を力強く解く。

 

「普通の甘えならあたしも気にしないデスし、旅行にも連れて行ってあげるんデスけど……。この甘えは違う気するんデスよ。何かに怯えているような……精神的におかしくなっているような気がするデス。だから、少し荒療治デスけどあたしと離れさせようと思いまして」

「そうなんだ……」

 

未来お姉ちゃんは駄々をこね続ける僕へと心配そうな視線を向けるのを感じながら、姉様は腰を折ると僕の黄緑色の瞳を真っ直ぐ真面目な表情を作って見るのを頬を膨らませてから出迎える。

 

「歌兎、これは貴女の為なの。一旦、お姉ちゃんから離れてみたら今の病状が良くなるかもしれないから」

「…良くならないもん」

「それはやってみないと分からないでしょう? 未来お姉ちゃんは歌兎も知ってて優しい人だから大丈夫だよね?」

「…でも」

「歌兎がお利口さんにしてたら、早く帰ってくるから」

 

おでこへとチュッとキスを落としてから身を起こした姉様は未来お姉ちゃんへともう一度頭を下げてから、振り返る事なく階段を降りていく。

 

「切歌ちゃん、行っちゃったね」

「……」

 

姉様の姿が見えなくなり、泣きそうな顔をしている僕を見て気まずそうな未来お姉ちゃんは姉様から預かっていたリュックサックを持ってない手を僕の背中へと置くとリビングへと案内する。

 

「荷物ここに置いとくね。お茶入れるから、ゆっくりしてて」

「…うん」

 

キョロキョロと周りを気にしながら、ソファに腰掛けた僕は未来お姉ちゃんに許可をもらってからテレビを見ることにして、リモコンが何処にあるのかと探している時に視界の端に見知った色合いの封筒が無造作に引き出しの上に置かれていて、既に震え出している体を押さえ込みながらその封筒セットを手に取るとやはりあの空色に沢山のウサギたちがプリントアウトされている封筒で僕は驚きのあまり思考が停止する。

 

(……ここにあの封筒があるって事は……未来お姉ちゃんが犯人なの? あの薄気味悪い封筒の……)

 

ふにゃっと崩れ落ちそうになるのを必死に耐えてから、早く逃げようと後ろを振り向いた途端、目の前に居たのはさっきまでキッチンに居たはずの未来お姉ちゃんで反射する光がない水色の瞳からは覇気を感じられなくて、僕は一歩一歩後ろに下がろうとして何かにつまづいて、尻餅をついてしまう。

 

「ひぃいい」

「……見つかっちゃった」

 

それだけ呟いてから恐怖で筋肉が硬直している僕をリビングのカーペットの上へと押し倒した未来お姉ちゃんは逃げないようにするためか、下腹部へと腰を下ろすとピクピクと震えている僕の頬を愛おしげに撫でる。

 

「やっと二人っきりだね、歌兎ちゃん」

「……」

 

取り敢えず、今この場所から逃げるためにする事は助けを呼ぶ事だという考えに至った僕はこの部屋にいるであろう癖っ毛の多い栗色の瞳に赤いN文字の髪留めを付けている少女・響師匠の姿を部屋の隅々へと視線を巡られて探していると右耳から感情のこもってない声が聞こえてくる。

 

「もしかして、響の事探している? 残念だけど、響ならクリスの部屋にお泊まり会なんだ」

「……」

「歌兎ちゃんが折角家に来てくれるんだもの。邪魔者には居なくなってもらわないと」

「…じゃまもの?」

「歌兎ちゃんと私の仲を引き裂く全てのものの事だよ」

 

右耳を甘噛みしたり、舐めていた未来お姉ちゃんは身を起こすとポケットから端末を取り出して、僕へとそこに保存してある写真を見せる。

 

だから、私は歌兎ちゃんを守ってあげる事にしたの。変な虫が寄り付かないようにするために

 

恍惚とした表情で言ってのけるセリフと見せつけられている写真はどれも隠しカメラで撮っているような視点と下着姿や半裸、全裸のものが多く、僕にはどうしても"守ってもらっている"と思えない。

 

「…こんなの間違ってる。未来お姉ちゃんはやっぱり間違ってるよ」

「……間違ってる? なんで?」

 

焦点が合わない水色の瞳で問われ、ガラスのような無機質な視点に晒されて、恐怖のあまり何も言えないでいるとそっと私服越しに未来お姉ちゃんの右掌の感触があり、凹凸があまりない双丘を壊れ物へと触れるかのようにさするのを見て、これから未来お姉ちゃんがしようとしていることが分かり、ボッと顔から湯気で出てしまうほどに真っ赤に染めるとジタバタと抵抗する。

 

「大好きな人を危険から守りたい、大好きな人の事をもっと知りたいって思うの普通の感情でしょう? 私間違ってるかな?」

「…っん……でも、だからって……っ。盗撮はいけない事だから……っ」

「歌兎ちゃん、少しうるさいから静かにしよう?」

 

そう言って、身体をバタつかせる僕の唇に自分のそれを押し付けた未来お姉ちゃんは開いていた僕の唇へと強引に舌をねじ込むと喉の近くへと自分の唾液を垂らすのでむせそうになりながらも唇を塞がれている為、どうすることもできず自由がきく両脚でカーペットを思っきり蹴る。

 

「んっ! んんっ!!」

 

数分後、カーペットを思っきり蹴っていた小さな両脚はだらしなくカーペットの上に転がっており、僕はというと未だに未来お姉ちゃんと熱いキスを交わしていた。

両頬を両手でしっかりとホールドされた僕の唇を角度を変えてキスしていた未来お姉ちゃんは小さく息を吸い込むとぴったりと唇を合わせると力無くなされるままになっている僕の舌へと自分の舌を絡めながら、ズルズルと僕の唾液を飲み込み、代わりに自分の唾液を僕へと飲ませるのを何度も飽きることなく続けた未来お姉ちゃんは満足したように身体を起こすとだらしなく開いている僕の唇の隙間から見える赤い舌と自分が垂らしている赤い舌へと透明な橋が架かるのを見て、恍惚した表情で頬を赤く染めると突然腰を上下に動かす。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

下腹部へと擦り付けられている布地が熱くなっていくのを感じて、息を整え終えた僕は酸素不足でクラクラする頭を小さく横に振ると興奮したように呼吸が早くなっていている未来お姉ちゃんを見上げる。

 

「歌兎ちゃんっ、もういいよね? 私、もうこれ以上は我慢できそうにないの。歌兎ちゃんが大好きって気持ちが溢れちゃいそうなの……」

 

そう言った未来お姉ちゃんはパーカーのチャックを下に下ろした後、下に着ていたTシャツを力任せに引き裂くとそこから現れるブラジャーを見て、ニンヤリと笑う。

 

「やっぱり今日の下着は水色だったんだね。歌兎ちゃんの事いつも見ていたから下着や服のローテション全部覚えちゃったよ」

 

下腹部から太ももへと座る事を変えた未来お姉ちゃんは下腹部を摩り、肌の感触を掌でしっかり味わった後にブラジャーへと滑り込ませた後は持ち上げるようにたくし上げ、姿を現した小さな双丘へと頬ずりする。

 

「すごく震えてる……。……怖いの? ふふっ、可愛いなぁ……。大丈夫だよ、歌兎ちゃんは何も心配しないで、そこで大人しくしてればいいの。そうすれば、私がぜ~んぶやってあげるから」

 

身体を起こして、猟師に追い詰められた野うさぎのようにピクピクと震えている僕を見下ろす無機質な光を放つ瞳はスゥーと笑みの形に挟まり、頬を撫でていた両掌が小さな双丘へと向かい、そしてーーーー。

 

数十分後、リビングには困惑しているような嬌声と淫らな水音が響き始め、数時間後からはカーペットの上には投げ捨てられ、折り重なるようになっている洋服の近くでは明かりの消えた部屋の中で満月の光に照らさせながら、蠢めく二つの影があり、影が動く度に絡み合う水色が掛かった銀髪と黒髪は朝日が顔を出しても解かれることはなかった。

 

 

 

 

 

エピ.

 

「…姉様、おかえりっ」

「うわっ!? もう〜、甘えん坊はまだ治ってないみたいデスね」

 

妹を迎えに行くために響さんと未来さんの寮のチャイムを鳴らして、ドアが開いた瞬間、嬉しそうにあたしへと抱きついてくる歌兎の頭をポンポンと撫でながら、ドアの向こうから顔を出す未来さんへと頭を下げる。

 

「3日間歌兎の事ありがとうございます。この子、迷惑かけなかったデスか?」

「ううん。歌兎、最初は切歌ちゃんが居なくて寂しそうだったけど、その寂しさにも慣れたようで最後は普通に過ごせてたよ。ね? 歌兎ちゃん」

「…ん」

 

コクリをうなづく歌兎の首元がキラッと光った気がして、目を丸くしていると未来さんがススッと音もなくあたしへと近づくと耳元で囁く。

 

「……私の歌兎ちゃんにあまりベタベタ触ってるとその内、海に沈めるか、消えてもらう事になるから。スキンシップも程々にね、切歌ちゃん」

 

感情が抜け落ち、ゾッとする程冷たい声音にあたしは近くでニコニコと笑っている未来さんの豹変っぷりに身体が勝手に震え出し、マジマジとゆっくりと開いていく水色の瞳を見るよりも先に勢いよく頭を下げてから、歌兎を小脇に抱えてからその場から逃げ去るように階段を駆け出す。

 

「…姉様、急にどうしたの?」

「なんでもなーー」

 

"い"と言おうとした瞬間、あたしは間近にある黄緑色の瞳がどんよりくぐもり、無機質なものになっている事に気付いて、言葉を詰まらせる。そんなあたしのことを不思議そうに見ている歌兎の小さな首にいつの間に付けてある薄紫色のチョーカーが嵌められており、鉄の所に"I ♥︎ MIKU"という掘られているのに気付いて、思わず悲鳴をあげそうになるのを耐えながら、そういえばこのチョーカーをついさっきも見た事を思い出していた。

 

(そう、このチョーカーは近くでニコニコと笑っていた未来さんも首に付けていて……)

 

前のめりになっているその首筋からチラッと見えた花緑青のチョーカーの鉄にもこう掘られていた"I ♥︎ UTAU"と。

そして、確か渡り廊下に燃えるゴミの袋の中に見知った色と柄の封筒が捨てられていたような………

 

そこまで思い出したところで、全ての真相に気付いてしまい、あたしはうなだれるのだった。




って事でゾクってしていただけたでしょうか?

R-15版はなるべくR-18にならないように気をつけたつもりですが……なってたら、速攻直しますのでおしらせください(土下座)


今回の未来ちゃん回の解説かつ裏話ですが……

歌兎ちゃんを盗撮していたカメラは隠しカメラが殆どですが、自室の写真は未来ちゃんがリアルタイムで撮影したものが主です。歌兎ちゃんの部屋は二つの窓があり、着替える時は必ず部屋に入ってからの正面は必ず閉めるのですが、左側のは忘れてしまうようでして…それに前もって気付いていた未来ちゃんは歌兎ちゃんに見つからないかつ確実に裸体や下着姿を撮影できる独自の撮影場所を確保し、歌兎ちゃんが着替える頃になったら、その場所に出かけてから撮影会に没頭するそうです。
また、歌兎ちゃんを尾行する中で未来ちゃんは自分の姿を、存在を消す事に成功し、時折大胆な尾行も行なっていたそうです。

今回の歌兎ちゃんは首にチョーカーを付けられた事で一生未来ちゃんから逃れることは出来ないと悟り、手紙攻撃で疲弊していたこともあり、早く楽になりたいと未来ちゃんに身と心を委ねる事に……【エピ.】にて切ちゃんが渡り廊下で燃えるゴミに捨てられていた大量の"あの手紙"は今の未来ちゃんにとって必要ないものだからですね。





続けまして、XV11話の感想ですが……

最初の緑とピンクの光がぶつかりあっているのを見て思ったのは……"あれ? きりしら夫婦喧嘩してる?"でした(笑)
その後、喧嘩しているのが【エンキさん】と【シェム・ハさん】だったことが明かされ、【アガートラーム】の正体がシェム・ハさんの攻撃を受けて銀になりかけている左手だったとは……びっくりデスよ(驚愕)

にしても、シェム・ハさんって本当厄介な敵ですよね……彼女を形作るのが言語で、人類の全てが彼女のゆりかごになり得るから、今の彼女を倒してもすぐに蘇る……。
フィーネよりも厄介や……こんなんどう倒せっていうんですか……(大汗) あと二話で……。

その反面、エンキさんは月の遺跡・バラルの呪詛にて人類の言語を封じる事によって、シェム・ハさんを封じてくれていた……あんなボロボロになってまで、フィーネの事を、地球に住む人類達を、切ちゃん達を守ってくれていたんですね……(じーん)

また、今回の話はミラアルクさんVSマリアさんと翼さんとの戦闘がありましたが……ここで【不死鳥のフランメ】はズルいですッ!
Gでのあのライブシーンでのセリフがまた聴けるなんて……『イグニッション』がまた聴けるなんて……感激の極みですッ。
今回はマリアさんのアマルガムがお披露目となりましたが……これはな、にかな? 一瞬龍とも思いましたが、蛇でもあるのかな? でも、鳥の頭は違うでしょうし……なんなんでしょうな(悩)

最後にマリアさんと翼さんの所に駆けつける際に勢いあまって通り過ぎてしまう切ちゃんが可愛かったです(デレデレ)
今まで張り詰めていた緊張が一気に解ける気がしました……流石、装者一の自称常識人かつ癒やしですッ!!
あ、癒やしは人それぞれ違うので私の中です……


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