デート・ア・鎧武 (紅遊星)
しおりを挟む

第1話 精霊との遭遇

天を獲る。

世界を己の色に染める。
その栄光を君は求めるか。
その重荷を君は背負えるか。

人は、己一人の命すら思うがままにはならない。
誰もが逃げられず、逆らえず、運命という名の荒波に押し流されていく。

だが、もしもその運命が君にこう命じたとしたら?
「世界を変えろ」と。
「未来をその手で選べ」と。
君は運命に抗えない…だが、

世界は君に託される。

それでは第1話スタート


――――紘太視線――――

今日は四月十日昨日で春休みが終わり、今日から学校という朝。

俺は今、琴里が士道を起こしに行っているので朝ご飯を作っている。

するといきなり琴里がダッシュで降りてきた。

「琴里、どうしたんだいきなり」

見てみると琴里が思いっきり震えっていた

「これはどういう事だ?」

すると士道の声が聞こえてきた

「・・・・あ?」

士道がやらかしたな

 

―――――士道―――――

「・・・・・」

足音を殺してテーブルの横側に回り込む。

案の定、琴里が体育座りをしながら身を震わせていた。

「がーっ」

「ギャー!ギャァァァっ!」

士道が肩をつかむと、琴里は欠片らも色気のない絶叫を上げて手足をばたつかせた。

「落ち着け落ち着け。いつものおにーちゃんだ」

「ぎゃー! ぎゃー……あ? お、おにーちゃん? 本当におにーちゃん?」

「本当本当」

「こ、怖くない?」

「怖くない怖くない。俺、琴里トモダーチ」

「お、おー」

すると紘太兄さんの声が聞こえた

「いつまでやってんだ?士道は早く朝飯の手伝え」

そう言われると俺は

「分かったよ紘太兄さん」

―――――紘太視線―――――

あいつらホント仲いいなぁ、ミッチ達今頃何してるんだろ?

紘太と士道が朝ごはんの準備をしていると、背後からテレビの音が聞こえてきた。どうやら先ほどの騒動から落ち着いた琴里が電源を入れたらしい。

 彼女の日課は毎朝星座占いと血液型占いを見る事なのだが、そういうコーナーは大体は番組の最後に放送されている。彼女は一通りチャンネルを変えると、仕方なくニュース番組を見始めた。

 そんな時だった。

『今日未明、天宮市近郊の……』

「ん?」

 アナウンサーの口から発せられた自分達の街の名前に、士道がカウンターテーブルに身を乗り出すようにして画面に視線を放ると、そこには滅茶苦茶に破壊された街の様子が映し出されていた。 

「ああ……空間震か」

 紘太は呟きながら、うんざりと首を振った。昨日も確か起こったはずなのに、どうやらあれからまた起こったらしい。あまりの空間震の多さにため息をつきながら、士道は琴里に言った。

「一時は全然起こらなかったのに。どうしてまた増え始めたんだろうな」

「どうしてだろねー」

 琴里はテレビに視線をやったまま首をかしげる。琴里に言っても理由は分からない事は重々承知の上だったが、それでも言わずにはいられない。何せ昨日に続いて今日再び起こったのだ。いくらなんでも回数が多すぎる。

何か、ここら辺一帯って妙に空間震多くないか? 去年くらいから特に」

「んー、そーだねー。ちょっと予定より早いかなー」

「早い? 何がだよ」

「んー、あんでもあーい」

 その声に、紘太と士道は準備の手を止めた。

 琴里の言葉の内容も気になったが、何よりも彼女が発した声が後半から少しくぐもったからだ。士道は無言でカウンターテーブルを迂回すると、ソファにもたれかかった状態でテレビを見ている琴里のそばに歩いて行く。

 彼女もそれに気付いたのか、士道が近づくに合わせるかのように徐々に顔を背けていく。まるで、士道に顔を見られるのを恐れているかのように。

「おい琴里、ちょっとこっち向け」

「………」

 いつまでも黙った状態なので、士道は実力行使に出る事にした。妹の頭に手を置いて、無理矢理彼女の顔を自分の顔の正面に持ってこさせる。

 すると士道の予想通り、彼女の口元にはあるものが咥えられていた。

 それは、琴里の大好物であるチュッパチャプスだった。士道はやれやれを言うようにため息をついてから、少し怒ったような表情で言う。

「こら、飯の前にお菓子を食べるなって言っただろ」

「んー! んー!」

 雨を取り上げようと棒を引っ張るが、琴里は唇をすぼめて抵抗してくる。凄まじい間でのチュッパチャプスへの執着だった。士道はこれ以上続けても無駄という事を悟ると、チュッパチャプスの棒から手を放した。

「……ったく、ちゃんと飯も食うんだぞ?」

 そう言って琴里の頭をぐりぐりやってから、士道はやっぱり琴里にやさしいな再び料理の準備をするために台所に戻る。

「おー! 愛しているぞおにーちゃん!」

 妹からの愛の言葉を、しかし士道は適当に手を振って流すと作業に再び入る。

「そう言えば、今日は中学校も始業式だったよな?」

「ん、そうだよー」

「じゃあ昼時には戻ってくるよな……。昼飯に何かリクエストはあるか?」

 その言葉を聞くなり、琴里は目を輝かせて士道に半ば叫ぶように言った。

「デラックスキッズプレート!」

「当店ではご用意できかねます。またのご来店をお待ちしております」

「即答!?」

 ガーン、と効果音が出そうなぐらい驚いた琴里は不満そうにキャンディの棒をピコピコと上下に動かす。それを見て士道ははぁと嘆息し、肩をすくめた。

「ったく、仕方ないな。折角だから昼は外で食うか」

「本当!?」

「おう。んじゃ、学校終ったらいつものファミレスで待ち合わせな」

 すると、琴里は興奮した様子で手をぶんぶんと振り始めた。

「絶対だぞ! 絶対約束だぞ! 地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」

「いや、占拠されてたら飯食えねえだろ」

台所の子窓を開けて、晴れ渡っている空を見上げる。

 今日ぐらいも平和で入れますように、と紘太は心の中で本当にいるか分からない神様に拝んだ。

 

士道と紘太は学校に着くと、廊下に張り出されているクラス表を確認してから一年間お世話になる教室へと向かった。ちなみに士道の新しいクラスは二年四組だった。

 三十年前の空間震が起こってから、空間震で更地になってしまった一帯は様々な最新技術のテスト都市として再開発が進められてきた。現在士道が通っている都立来禅高校もその例の一つである。

 都立高とは思えない充実した設備の上、数年前にできたばかりのため学校そのものの損傷もほとんどない。しかも旧被災地の高校のため、地下シェルターも最新のものだ。

 ちなみにそのためからか入試倍率は低くなく、ただ単に家が近いからという単純な理由で受験を決めた士道は少々苦労する事になった。

 士道は教室に入ると、何となく教室を見回してみた。

 まだホームルームまで少し時間があるが、結構な人数が揃っている。しかし、士道の知った顔はあまりいなかった。退屈なので士道が黒板に張り付けられている座席表の紙を確認しようとしたその時。

―――――士道視線―――――

「五河士道」

 士道の後ろから、と唐突に静かな声がかけられた。

 ん? と聞き覚えのない声に士道が振り返ると、そこには細身の少女が一人立っていた。

 肩に触れるか触れないかくらいのショートカットの髪の毛に、人形のような顔が特徴的だ。

 人形のような、という形容はやや失礼かもしれないが、それ以外に少女の容姿を最もうまく言い表せる言葉が無いのも事実だった。

 美少女、と言える顔立ちであると同時に、彼女の顔には感情と呼べるものがまったく窺えないからだ。

「えっと……俺……だよな?」

 士道は自分を指さしながら恐る恐る尋ねる。

「そう」

 そんな馬鹿な行動にもまったく表情を変えず、少女は小さく頷いた。

「な、何で俺の名前を知ってるんだ……?」 

 目の前の少女とはまったく面識がない。なのにどうして自分の名前を知っているのか士道が怪訝に思っていると、何故か少女は不思議そうに首を傾げてきた。

「覚えてないの?」

「う……」

 士道は思わず黙り込んでしまった。この少女の口ぶりからすると、どうやら自分はこの少女と前にどこかで会った事があるらしい。しかし、それでも士道はまったく思いだす事ができなかった。するとその士道の反応を肯定とみなしたらしい。少女は特に落胆らしいものも見せずにそう、と短く言うと窓際の席に歩いて行った。

「……何なんだろう、あの子」

 士道が眉をひそめると、突然背中に衝撃が走った。士道はそれに驚きながら、振り返って背中を叩いた犯人を睨み付ける。

「ってぇ、何しやがる殿町!」

 こちらの犯人はすぐに分かった。士道の友人、殿町宏人だ。彼は何故かにやにやと笑いながら、

「おう、元気そうだなセクシャルビースト五河」

「誰が淫獣だよ」

 士道が言うと、殿町は肩をすくめて、

「お前だよお前。いつの間に鳶一と仲良くなったんだよ、ええ?」

 そう言いながら殿町が士道の首に腕を回し、ニヤニヤしながら聞いてきた。士道はその名前に心当たりはなかったが、ある事に気づいて友人に言う。

「鳶一……? あ、もしかしてさっきの女の子か?」

「正解だ」

 殿町はそう言って、窓際の席を示した。

 そこには先ほどの少女が座って、何やら分厚い技術書のような本を読んでいた。

 と、士道の視線に気づいたのか少女が目を本から外して、士道に目を向けてくる。士道は思わず息を詰まらせて、気まずそうに目を背ける。

 それに対して、殿町は馴れ馴れしく笑って手を振った。

「………」

 しかし少女は特に何も反応を示さず、手元の本に視線を戻した。

「ほら見ろ、あの調子だ。うちの女子の中でも最高難度。永久凍土とか米ソ連とかマヒャデドスとまで呼ばれてんだぞ。お前、一体どうやって取り入ったんだよ」

「はぁ……? 一体、何の話だよ」

「……え、もしかしてお前本当に知らないのか?」

「ん……。確か前のクラスにはいなかった気がするし……」

 すると、殿町は信じられないといった具合に両手を広げて驚いたような顔を作った。いちいち動作がオーバーな少年である。

「鳶一だよ、鳶一折紙。ウチの高校が誇る天才。知らないのか?」

「ああ、初めて聞くけど……すごいのか?」

「すごいなんてもんじゃねえよ。成績は常に学年主席、この前の模試にいたっちゃ全国トップとかいう頭のおかしい数字だ。クラス順位は常に一個下がる事を覚悟しといた方が良いぜ」

「別にそこまで気にしてないけどな……。ってか、なんでそんな奴が公立校にいるんだよ」

「さぁてね。家の都合とかじゃねえの?」

 大仰に肩をすくめながら、殿町がさらに続けてくる。

「しかもそれだけじゃなく、体育の成績もダントツ、ついでに美人ときてやがる。去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』でも第三位だぜ? 見てなかったのか?」

「やってた事すら知らねえよ」

「お前何してんだよ」

「ったく、お前って奴は……。っと、『恋人にしたい男子ランキング』での第二位は、お前だ紘太」

「ふ~ん・・・はぁ!?」

「お前は。鳶一ほどじゃないけど成績は常に上位にいるし、運動神経も抜群。しかも優しいから、女子からの人気はめちゃくちゃ高い」

二位に入っているのだから大したものである、と士道は思う。そしてそこまで聞くと、自分が一体何位だったのか少し興味が湧いてくる。すると士道の考えを察したのか、殿町が口を開く。

「ああ、ちなみにお前は匿名希望さんから一票入ったから52位だ。安心しろ」

「微妙な数字だなー……」

「安心しろ。『腐女子が選んだ校内理想のベストカップル』では、紘太とセットで見事一位だったぞ。何でも、『五河君が受けで紘太君が責め』らしい。良かったじゃないか!」

「ふざけんな! どこをどう安心しろっていうんだよ!!」

 あんまりな言いように士道は思わず立ち上がって怒鳴った。

 するとそれと同時に、ホームルームの始まりを告げる予鈴が鳴った。まだ自分の席を確認していなかった士道は黒板に書かれた席順に従い、窓際から数えて二列目の席に鞄を置いた。

 そこである事に気付いた。士道の席は、鳶一折紙の隣だったのだ。紘太は窓際で、相川始の席は士道の左斜め上である。

 折紙は予鈴が鳴り終わる前に本を閉じ、机にしまい込むと視線を前に向けて美しい姿勢を取る。

 始は予鈴が鳴ると同時に自分の席に着くと、退屈そうに頬杖をついて視線を前に向けた。

「………」

 何故か二人を凝視している自分に気付いた士道は慌てて二人と同じように視線を黒板の方にやった。

 それと同時に、教室の扉が開かれると教室に眼鏡をかけた小柄な女性が現れ、教卓につく。士道の周りから、嬉しそうな声が聞こえてきた。

「タマちゃんだ」

「マジだ。やったー」

 生徒からそんな声を受けて、タマちゃんと呼ばれた女性は微笑むとクラスの生徒達に挨拶をする。

「はい、みなさんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任を務めさせていただきます岡峰珠恵です」

 そう言って頭を下げると、サイズが合っていないためか微妙に眼鏡がずり落ち、慌てて両手で押さえた。

 生徒と同年代に見える童顔と小柄な体、さらに口調からも分かる通りののんびりとした性格で生徒の間で絶大な人気を誇る先生である。まだ結婚相手はいないらしいが、士道としてはまだ結婚相手が見つかっていない事が不思議でしょうがなかった。

「………?」

 その時、士道は何故か横から強い視線のようなものを感じて顔を横に向けてみる。

 すると、士道の左隣に座っている折紙とばっちり目が合ってしまった。どうやら先ほどからの強い視線の正体は彼女が送っていたものだったらしい。士道は慌てて目を逸らすが、折紙の視線は変わらず士道の方を向いている。

 一瞬士道の先にあるものを見ているのではないかとも思ったが……違う。これは明らかに士道の顔をガン見している。

 何故自分をそんなに見ているのかと尋ねたかったが、ホームルーム中であるし、勘違いであったら恥ずかしいので、士道は額から汗を一筋垂らしながらホームルームを過ごした。

 

 

 

 そんな事が起こってから約三時間後。

―――――紘太―――――

「おい五河に紘太。どうせ暇なんだろ、飯いかね? 最近お前バイトとかで忙しそうだったけど、今日は大丈夫だろ?」

 始業式を終えて、俺と士道が帰り支度を整えていると殿町が話しかけてきた。昼前に学校が終わるなどテスト期間以外ではそうないので、士道達以外にも友人とどこで昼食を食べるかを相談している集団の姿が見る事ができる。

「悪い。今日は先約があるんだ」

「俺も、すまないな」

「何?まさか女か?」

「あー、まぁ一応」

「何だと!」

 殿町はまたもや大げさに驚いた。大げさすぎじゃね?と、紘太は内心ツッコミを入れる。

「一体昼休みに何があったっていうんだ! 鳶一と仲良くお話しするだけじゃ飽きたらず、女と昼飯の約束だと!? 誰だコノヤロー!」

「うるさいぞ、ちょっと静かにしろ!!」

すると殿町は

「はい」

すると士道が喋りだした

「殿町一応言っとくが相手は琴里だぞ。」

「んだよ、驚かすんじゃねえよ」

「そういうことだ」

「お前が勝手に驚いたんだろ。俺のせいにするな」

「でも、琴里ちゃんなら問題ねえだろ。俺も一緒に行って良いか?」

「ん? ああ、別に大丈夫だと思うけど……」

 士道がそう言うと、殿町が士道の机に肘を載せて何故か声をひそめるように言ってくる。

「なあなあ、琴里ちゃんって中二だよな。もう彼氏とかいんの?」

「………多分いないと思うけど、何でだ?」

 一瞬昨日彼女の部屋で発見してしまった怪しげな雑誌の事を思い出してしまい遠い目になる士道だったが、すぐに我を取り戻して逆に問い返す。

「いや、別に他意はねえんだが、琴里ちゃん、三つくらい年上の男ってどうなのかなと」

「……やっぱ却下だ。お前来んな」

「お前ちょっと外で話そうか」

俺が睨みながら言うと、殿町は肩をビクッとさせた

「冗談です。俺も兄妹団欒をつっつくほど野暮じゃないです。」

「どうしていっつも一言余計なんだよ、お前は」

 俺がため息をつきながら立ち上がりかけたその瞬間。

 

 

 教室の窓ガラスをビリビリと揺らしながら、街中に不快なサイレン音が鳴り響いた。

「な、何だ?」

 殿町が窓を開けて外を見やる。教室に残っていた生徒達も、サイレンの音に会話をやめて目を丸くしていた。

 そして、サイレンに次いで機械越しの音声が響いてくる。

『――――これは訓練ではありません。これは訓練ではありません。前震が観測されました。空間震の発生が予想されます。近隣住民の皆さんは速やかに、最寄りのシェルターに避難してください』

 その声の内容を理解すると同時、今まで黙っていた生徒達が一斉に息を呑んだ。

 空間震警報。

 クラスに残っていた全員の予想が、確信に変わった。

「おいおい、マジかよ……」

 士道の横で、殿町が渇いた声を発した。

 しかし、士道や殿町を含め、教室にいた生徒達は緊張と不安が入り混じった表情を浮かべているものの、パニックなどにはなっていない。

 天宮市は三十年前の空間震によって深刻な被害を受けているため、士道達は幼稚園にいた時から嫌と言うほど避難訓練を繰り返している。それに加えて、ここは生徒が集まる高校だ。全校生徒を収容できる規模の地下シェルターが備え付けられている。

「シェルターはすぐそこだ。落ち着いて避難すれば問題ない」

「お、おう。そうだな」

 士道は殿町に言いった。

 廊下にはすでに生徒達がシェルターに向かって列を作っていた。

 しかし、俺はある事に気付いた。

 一人だけ、列と逆方向……昇降口の方に走っている生徒がいたからだ。

「鳶一……」

 その人物は、士道の隣に座っていた少女、鳶一折紙だった。

「お、おい! アンタ 何してんだ! そっちには……」

「大丈夫」

 折紙は一瞬足を止めると、士道にそれだけ言ってから再び駆け出していく。

「大丈夫って、何だよ……」

 首をひねりながらそう呟くと、士道は再び生徒の列に並ぶ。彼女の事は心配だが、もしかしたらただ単に忘れ物でもしたのかもしれない。警報が発令されたからと言ってもその後すぐ空間震が起こるというわけでもない。すぐに戻ってくれば大丈夫なはずである。

 士道は列に並びながら、ある事を思い出してさっき取り出した携帯電話を再び開く。

「士道、どうした?」

「いや、ちょっとな」

 言葉をかけてきた殿町に返しながら、士道は電話帳の中から『五河琴里』の名前を選んで電話をかける。

 だが、繋がらない。何回か試してみても、結果は同じだった。

「……駄目か」

 士道は繋がらない携帯電話の画面を見つめながら、小さく呟く。彼女がまだ中学校にいるならば安全のはずだ。しかし、すでに学校を出てファミレスに向かっていたら話は別になってくる。

 いや、と士道は首を横に振る。ファミレスの近くにもシェルターはあるし、普通に考えれば問題はないはずだ。

 だが……士道の胸から不安が消え去る事はなかった。警報が鳴っても、ずっと士道を待っている妹の姿が想像できてしまっていて。

「い、いや。あいつもさすがにそこまで馬鹿じゃないし……。そうだ。GPS……」

 琴里の携帯電話はGPS機能を用いた位置確認サービスに対応している。携帯電話を操作すると、街の地図と琴里の位置を指し示す赤いアイコンが表示された。

「……っ!!」

 その赤いアイコンを見て、士道は思わず息を呑む。

 そのアイコンは、約束のファミレスの前で停止していた。

「あの……馬鹿!!」

 毒づきながら携帯を閉じて、士道は生徒の列から飛び出して昇降口に向かう。

「お、おい! どこにいくんだ五河!」

「忘れものだ!」

「おい、紘太もどこ行くんだ」

「あいつを止めてくる」

 適当に言いながら、俺は士道は全速力で追いかけに行った。

―――――士道視点―――――

学校を出た士道は学校前の坂道を全速力で駆け下りていた。桜ハリケーンを使えばもっと早く行けたのかもしれないが、残念ながら桜ハリケーンは現在士道の家に置いてある。バイクが無い以上、走っていくしかない。

「こんな事になったら、普通避難するだろうが……!」

 士道の視界には不気味な光景が広がっていた。

 道路には車が通っておらず、街並には人影がまったくない。

 どんな時間帯でも誰か一人は必ずいるはずのコンビニでさえも、人はいなかった。

 大空災以来、神経質なほど空間震に対して敏感に再開発されたのがこの天宮市だ。公共施設の地下だけでなく、一般家庭のシェルター普及率も全国一位だという話をどこかで聞いた事がある。

 それに最近の空間震の頻発もあるのか、避難は迅速だった。

 なのに。

「何で馬鹿正直に残ってやがんだよ……!」

 全速力で走りながら、携帯を開いて現在の琴里の位置を確かめる。

 アイコンは、やはりファミレスの前から動いていない。

 士道は携帯電話をしまいながら、走り続ける。

 そうして走り続け、もうすぐファミレスに辿りつくと思われた時だった。

「……? 何だ、あれ?」

 視界の端に何か動く見えたものが見えた気がして、士道は思わず空を見上げる。

 数は三つか四つ。空に何やら人影のようなものが浮いている。

 衝撃が、士道を襲った。

「うわっ!?」

 何が起こったのかよく分からなかった。ただ、突然進行方向の街並みが光に包まれた事だけは、何とか知覚する事が出来た。さらにそれに続いて、鼓膜を破るんじゃないかと思ってしまうほどの爆音と凄まじい衝撃波が士道を襲う。

 士道は吹き飛ばされ、地面に叩き付けられながら何とか受け身をとって衝撃を軽減する。それからゆっくりと立ち上がると、目の前の光景に思わず間抜けな声を発してしまっていた。

「はっ……?」

 街並みが、無くなっていた。

 比喩でもなんでもない。まるで地面が丸ごと消し飛ばされたかのように、街の風景が浅いすり鉢状に削り取られていたのだ。初めて目の前で見る空間震の力に、士道は自分の手が震えるのを感じる。

 そして士道は、ある事に気付いた。

 クレーターのようになった町の一角の中心地。

 そこに、何か金属の塊のようなものがそびえていたのだ。

「何だ……?」

 細かい形状までは読み取る事は出来ないが、その金属の塊がまるで玉座のような形をしているのはどうにか視認する事が出来た。

 しかし、重要なのは玉座ではない。

 その玉座の肘掛けの部分に足をかけるようにして、奇妙なドレスを纏った少女が立っていたのだ。

「あの子、どうしてあんな所に……」

 士道が怪訝な表情を浮かべながら呟くと、少女の視線が自分に向けられるのを感じた。

 すると、少女はゆらりとした動作で玉座の背もたれから生えた柄のようなものを握ると、それをゆっくりと引き抜いた。

 それは幅広の刃を持ち、不思議な光を放つ巨大な剣だった。

 その光は、士道が使うブレイラウザーの刃が放つような金属特有の冷たいものではない。虹のような、星のような幻想的な輝きだった。

 少女が剣を振りかぶり、その軌跡をぼんやりとした輝きが描いた次の瞬間。

 ゾワッ!!

「っ!?」

 士道の背中を突如寒気がはしり、士道は思わず頭を下げる。直後、少女が士道の方に向かって剣を横薙ぎに振るったのがかろうじて見えた。

 今まで士道の頭があった位置を、刃の軌跡が通り抜ける。当たり前のことだが、剣が直接届くような距離ではない。士道自身も、今の攻撃は空振りだと思った。

 だが、実際は違った。

「……嘘……だろ……!?」

 振り返って街の光景を見た士道は、かすれた声を喉から出していた。

 後方にあった家屋や店舗、さらには街路樹や道路標識などが一瞬のうちに全て同じ高さに切り揃えられていたからだ。遅れて、遠雷のような崩落の音が聞こえてくる。

 それを見ても、士道の頭の中は真っ白のままだった。 

 それからようやく理解できたのは――――さっきとっさに頭を下げていなければ、自分の頭は今頃輪切りにされていたという事だった。

士道が何とか足を動かして逃げようとした時だった。

「お前も、か……」

「っ!?」

 ひどく疲れたような声が、頭の上から響いてくる。

 気が付くと、目の前にはさっきまで遠く離れていたはずの少女が立っていた。

「あ……」

 意図すらしていないのに、声が漏れる。

 年齢は大体士道と同じぐらいだろう。

 膝まであるのではないかと思うほどの黒い髪に、愛らしさと凛々しさの両方を備えた容姿。

 その中心には、まるで水晶のような瞳がある。

 彼女が身に纏っているのは、これまた奇妙な物だ。

ドレスのようなフォルムの彼女の鎧は布なのか金属なのかよく分からない素材で作られている、神秘的な鎧だ。その継ぎ目やインナー部分、スカードなどは不思議な光の膜で構成されている。

 さらにその手には、身の丈ほどはあろうかという巨大な剣。

 それらの衣装や現在の状況などは、どれも士道の目を引くには十分なものだった。

 だが士道の目は、ただ少女のみに引きつけられていた。

 それほどまでに、少女は暴力的なほどに――――美しかった。

「……君、は……」

 呆然と士道が声を発すると、少女がゆっくりと視線を下ろしてくる。

「……名、か」

 とても静かで、とても美しい声が士道の鼓膜を震わせる。

 だが少女は悲しげに、こう言った。

「そんなものは、ない」

 その時、士道と少女の目が初めて合った。

 すると少女が憂鬱そうにも、今にも泣きだしてしまいそうにも見える表情を浮かべながら、剣を握る。

「ま、待ってくれ!」

 さっきの攻撃の破壊力を思い出した士道は、必死で声を上げた。そんな士道の様子を不思議そうに見ながら、少女は士道に尋ねる。

「……何だ?」

「ど、どうする気だよ……!」

「……? もちろん、早めに殺しておこうと」

 当然だろう? と言いたそうな表情を浮かべている少女に、士道は顔を青くする。

 顔を青くしながらも、士道は必死に少女に語りかける。

「な、何でだよ……!」

「何で……? 当然ではないか」

 物憂げな顔を作りながら、少女はさらに続けてくる。

「だってお前も、私を殺しに来たんだろう?」

「え……?」

―――――紘太―――――

このままじゃ士道が死ぬ!人が目の前で死ぬなんてもういいんだよ。

「久し振りにやりますか!」

「変身!」「オレンジアームズ! 花道オンステージ!」

このアームズでどこまで持つか?考えるのはやめた!!

「さぁ、ここからはオレのステージだ」

―――――士道視点―――――

俺は今かなりパニックになっている。

いきなり紘太兄さんが光りだしたら、鎧武者になっていたからだ。

「紘太兄さんその姿は?」

紘太兄さんに聞いた

「これの姿は俺が昔戦っていた時の姿だ、まさか、また使うとは思いもしなかったけどな!」

少女と紘太兄さんの剣がぶつかり合った箇所から凄まじい衝撃波が発せられ、士道は危うく吹き飛ばされそうになるもどうにかこらえる事に成功する。

 紘太兄さんが弾かれる形で二人は一旦距離を離し、武器を構えて互いを睨み合う。その眼には、互いに対する殺気しか存在しない。士道はそれにはさまれる形で立っているのだから、たまったものではない。

 士道は今すぐにでもここから早く離脱したかったが、こんな緊張感が満ちる戦場で動ける人間はそういないだろう。彼の足が微かに動き、じゃりっと音を鳴らす。

 その時、急にポケットの中の携帯電話が軽快な着信音を響かせた。

「「………っ!!」」

 それを合図にし、少女と紘太兄さんが同時に地面を蹴り、士道の真ん中で激突する。

 士道は圧倒的な風圧で吹き飛ばされ、彼は塀に強かに体を打ちつけて気を失った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 ラタトスク

今回は紘太は出ません

では本編スタート


――――士道視点――――

 ――――久しぶり。

 

 頭の中で、声がする。どこかで聞いた事のあるような、ないような。そんな不思議な声だ。

 

 ――――やっと、やっと会えたね、×××。

 

 まるで、懐かしむように、慈しむように。

 

 ――――嬉しいよ。でも、もう少し、もう少し待って。

 

 お前は誰だ、と問いかけても答えはない。声は、ただ自分に向かって語りかけてくる。

 

 ――――もう、絶対離さない。もう、絶対間違わない。だから、

 

 それを最後にして、不思議な声は途切れた。

 

 

 

 

 

「……ん」

 士道はうめき声を出しながら、目を覚ました。何やら不思議な夢を見ていた気がするが、夢の内容がなんだったのかよく思いだせない。それに、思い出す暇もなかった。

「うわっ!」

 と、士道は思わず叫んでしまった。

 何故なら、見た事も無い女性が士道の瞼を開いて、小さなペンライトのようなもので光を士道の目に当てていたのだから。

「……ん? 目覚めたね」

 その女性は、目元にくっきりと濃い隈を浮かべた女性だった。どうやら気絶した士道の眼球運動を見ていたらしく、妙に顔が近い。女性からわずかに漂ってくる良い香りに士道は自分の鼓動が高鳴るのを意識してしまいながら、女性に尋ねる。

「だ、だだだだ誰ですか?」

「ああ」

女性はぼーっとした様子のまま体を起こすと、垂れていた前髪を鬱陶しげにかき上げる。

 軍服らしき服を纏った二十歳ぐらいの女性である。無造作にまとめられた髪に、眠たそうな瞳、そして何故か軍服のポケットから顔を覗かせている傷だらけのクマのぬいぐるみが特徴的だった。

「……ここで解析官をしている、村雨むらさめ令音れいねだ。生憎医務官が席を外していてね。……まぁ安心してくれ。免許こそ持っていないが、簡単な看護くらいならできる」

 と女性――――令音はそんな事を言うが、士道はまったく安心できなかった。

だって明らかに士道よりもこの令音という女性のほうが不機嫌そうに見えるである。

と、状態を起こした士道は令音の言葉に引っ掛かりを覚えた。

「……ここ?」

 言いながら周囲を見回す。

 士道は簡素なパイプベッドに寝かされていた。その周り取り囲むように、白いカーテンが仕切りを作っている。まるで学校の保健室を真似て作ったような部屋だった。

 天井で剥き出しの状態になっている無骨な配管や配線だろう。

「何処ですか、ここ」

「・・・・ああ、〈フラクシスナス〉の医務室だ。気絶していたので勝手に運ばせてもらったよ」

「〈フラクシスナス〉・・・・?ていうか気絶って・・・・あ――――」

そうだ、士道は謎の少女と紘太兄さんの戦闘に巻き込まれ、気を失っていたのだ。

「・・・・・・え、ええと、質問いいですか。ちょっとよくわからないことが多すぎて―――」

頭をくしゃくしゃとやりながら声を発する。

しかし令音は応じず、無言で士道に背を向けた。

「ちょ、ちょっと……」

「……ついてきたまえ。君に紹介したい人がいる。……気になる事はいろいろあるだろうが、どうも私は説明下手でね。詳しい話はその人から聞くと良い」

 言いながら令音はカーテンを開けた。カーテンの外は少し広い空間になっていた。ベッドが六つほど並び、部屋の奥には見慣れない医療器具のようなものと妙な機械が置かれている。

令音が部屋の出入り口らしい方向に向かって歩みを進める。

 だが、すぐに足をもつれさせると、ガンッ! という音を立てて頭を壁に打ちつけた。わりとシャレにならない音だったので、士道が慌てて声をかける。

「だ、大丈夫ですか!?」

「……むう」

 令音は壁にもたれかかるようにしながら呻く。

「……ああ、すまないね。少し寝不足なんだ」

「ど、どれくらい寝てないんですか?」

 士道が尋ねると、令音は少し考え込んでから指を三本立てた。

「三日もですか。そりゃ眠いですよ」

「……三十年、かな」

「ケタが違ぇ!」

三週間くらいまでの答えだったら覚悟していた士道だったが、さすがに予想外の答え過ぎた。しかも明らかに彼女の外見年齢を超えている。

「……まあ、最後に睡眠をとった日が思い出せないのは本当だ。どうも不眠症気味でね」

「そうですか・・・・・」

「……ああ、すまない。薬の時間だ」

 言いながら懐を探ると、錠剤の入ったピルケースを取り出した。そしてピルケースの蓋を開け、ピルケースの逆さまにして中に入っていた錠剤を一気に口の中に放り込む。

「っておい!」

 ついに敬語すら忘れて士道が叫ぶ。彼女はかなりの量の錠剤をバリバリグシャグシャバキバキゴクゴクと中々凄まじい音を立てながら飲みこむと、士道に視線を向ける。

「……何だね、騒々しい」

「いや、なんて量飲んでるんですか! 何の薬ですかそれ!?」

「……全部睡眠導入剤だが」

「それ死ぬッ! さすがにシャレにならねえ!」

「……でも今一つ効きが悪くてね」

「マジですか!?」

「……まあでも甘くておいしいから良いんだがね」

「それラムネじゃねえの!?」

ひとしきり叫んでから、士道ははぁ、とため息をついた。

「……さ、こっちだ。ついてきたまえ」

 令音は空になったピルケースを懐にしまい込むと、再び危なっかしい足取りで歩き始め、医務室の扉を開ける。

「なんだこりゃあ・・・・」

部屋の外は狭い廊下のような作りになっていた。

こちらはスペースオペラなどに出てくる宇宙戦艦の内部や潜水艦の通路を連想させる。

「なにをしているんだ?」

その光景に戸惑いながらも、士道は令音の背中を追いかけていく。

 しばらく歩くと、令音が突然立ち止まった。

「……ここだ」

 二人が立ち止ったのは、横に小さな電子パネルが付いた扉の前だった。すると次の瞬間、電子パネルが軽快な音を鳴らして扉がスライドする。

「……さ、入りたまえ」

 令音が中に入ると、士道もそれに続くように部屋の中へと足を踏み入れる。

「……こりゃあ……」

 扉の向こうに広がっていた光景に、士道は思わず声を漏らした。

 一言で言うならば、船の艦橋のような場所だった。半楕円形の形に床が広がり、中心には艦長が座ると思われる椅子が設えられている。左右両側にはなだらかな階段が伸びており、そこから下りた下段には複雑そうなコンソールを操作するクルー達が見受けられる。全体的に薄暗いせいか、あちこちにあるモニタの光がいやに存在感を主張していた。

令音が頭をふらふらと揺らしながら誰かに言った。

「……連れてきたよ」

「ご苦労様です」

 礼をしながらそう言ったのは、艦長席の横に立った長身の男だった。ウェーブのかかった髪に、日本人離れした鼻梁をしている。一言で言ってしまえば、かなりのレベルの美青年だ。

「初めまして。私はここの副司令、神無月かんなづき恭平きょうへいと申します。以後お見知りおきを」

「は、はい……」

 士道は戸惑いながらも、小さく頭を下げる。

 士道は一瞬、令音がこの男に話しかけたのだと思った。

 だが、実際には違った。

「司令、村雨解析菅が戻りました」

 神無月が声をかけると、士道達に背を向けていた艦長席が低い唸りを上げながらゆっくりと回転した。

 それと同時に、士道に聞き覚えのある声がかけられた。

「――――歓迎するわ、士道。ようこそ、ラタトスクへ」

 可愛らしい声を響かせながら、真紅の軍服を肩掛けにした少女の姿が明らかになる。

 黒いリボンで二つにくくられた髪に、小柄な体躯。どんぐりのようなくりくりっとした丸い目に、口にはくわえたチュッパチャップス。

 その少女の姿を見て、士道は思わず眉をひそめながら、少女の名前を口にする。

「………琴里?」

 そう。いつもの姿と違いは結構あるが、艦長席に腰掛けている少女は紛れもなく士道の妹である五河琴里だった。

 

 

 

「で、これが精霊って呼ばれてる怪物で、こっちがAST。陸自の対精霊部隊よ。厄介な物に巻き込まれてくれたわね。私達が回収してなかったら、今頃二、三回ぐらい死んでたかもしれないわよ? で、次に行くけど――――」

「ちょ、ちょっと待て!」

 いきなり説明を始めた琴里を制するように、士道が声を上げた。

「何、どうしたのよ。折角司令官直々に説明してあげるっていうのに、もっと光栄に咽び泣いて見せなさいよ。今なら特別に、足の裏くらい舐めさせてあげるわよ?」

 軽く顎を上に向け、士道を見下すような視線を送りながら、いつもの無邪気な琴里とは思えないほどの暴言を吐いてくる。

「ほ、本当ですか!?」

 何故か琴里の横に立っていた神無月が喜びの声を上げると、琴里が「あんたじゃない」と言いながら彼の鳩尾に肘鉄を放つ。

「ぎゃぉふっ……!」

 苦しそうな声を出しながらも、何故か神無月は嬉しそうだった。ああ、この人ドMなんだな……と士道は半眼で神無月を見ながらそう思った。それから琴里に視線を戻して、改めて彼女に問う。

「……ってか、お前琴里だよな? 無事だったのか?」

「あら、妹の顔を忘れたの、士道。物覚えが悪いと思っていたけど、さすがにそこまでとは私も予想外だったわ。今から老人ホームを予約しておいた方が良いかしら」

 妹の毒舌に目を丸くしながらも、士道は後頭部を掻いて琴里に言う。

「……なんかもう意味が分からなすぎる。とりあえず一つ一つ説明してくれ」

「安心しなさい、言われなくても最初からそのつもりよ。じゃあまず、こっちから理解してもらうわ」

 言いながら琴里が艦橋のスクリーンを指さす。

そこには、先刻士道が遭遇した黒髪の少女に、機械の鎧を身に纏った人間達の姿が映し出された。

「確か、精霊って言ったっけ?」

 先ほど、琴里は彼女の事を説明する際にそう言っていた。

 不定期に世界に出現する、正体不明の怪物。

「そ。彼女は本来この世界には存在しないものであり、この世界に出現するだけで己の意志とは関係なく辺り一帯を吹き飛ばしちゃうの」

 ドーン! と琴里が両手を思いっきり広げて爆発を表現する。そこだけは何故か歳相応な気がして微笑ましいが、今の士道はそれだけではない。まだ琴里の話を完全に理解できていないのだ。

「……つまり、どういう事だ?」

 すると琴里が肩をすくめながら息を吐き、事実を告げる。

「つまり、空間震って呼ばれてる現象は、彼女みたいな精霊がこの世界に現れる時の余波なのよ」

「なっ……」

 士道は思わず声を出した。

 空間の地震。空間震。

 人類を、世界を破壊する理不尽極まる現象。

 その原因が、彼女だというのだろうか?

「ま、規模はまちまちだけどね。小さければ数メートル程度、大きければ……それこそ大陸に穴が開くくらい」

 それは、三十年前確認された最初であると同時に最悪の空間震、ユーラシア大空災の事を言っているのだろう。そして彼女の言葉は、それも精霊がこの世界に現れた事で発生したものだという事を暗に意味していた。

「運が良いわよ士道。もし今回の爆発規模がもっと大きかったら、あなた一緒に吹っ飛ばされてたかもしれないんだから」

「………っ」

 確かに妹の言うとおりだった。今思えば、あの時の状況は本当に空間震に巻き込まれてもおかしくないレベルである。運が悪ければ、士道の五体は今頃この世に存在してないだろう。そう思うと、士道は自分の体が震えるのを感じた。そんな士道を琴里は半眼で見つめ、

「大体、あなた何で警報発令中に外に出てたの? 馬鹿なの? アホなの? 死ぬの?」

「いや、だってお前……」

 ポケットから携帯電話を取り出し、琴里の位置情報を表情させる。やはり、琴里の位置を示す赤いアイコンはファミレスの前で停止していた。

「ん? ああ、それね」

 だが琴里はポケットからある物を取り出して士道に見せた。それは琴里の携帯電話だった。

「あれ? 何でお前、それ」

 士道は自分の携帯電話の画面に表示されている赤いアイコンと、目の前に掲げられている琴里の携帯電話を交互に見る。こんな所に琴里がいるので、てっきり士道はファミレス前に携帯電話を落としたのかと思っていたのだ。

 琴里は肩をすくめ、はあと嘆息した。

「何で警報発令中に外にいたのかと思ってたら、それが原因だったのね。私をどれだけ馬鹿だと思ってるのかしらこのアホ兄は。空間震警報が鳴ってるのに、外に出てると思ってるの?」

「じゃあ、このアイコンは……」

「簡単よ。ここがファミレスの前だからよ」

「……? どういう事だ?」

「そうね、百聞は一見に如かずって言うし……。一回フィルター切って」

 琴里がそう言うと、薄暗かった艦橋が一気に明るくなる。

 証明が点けられたわけではない。どちらかと言うと、天井にかけられていた暗幕を一気に取り払ったという表現の方が正しい。

 事実、辺りには青空が広がっていた。

「な、何だこりゃ……」

「騒がないでちょうだい。外の景色がそのまま見えてるだけよ」

「外の景色?」

「ええ。ここは天宮市一万五千メートル。位置的にはちょうど、待ち合わせしてたファミレスのあたりになるかしらね」

「一万……って、ここってまさか……!?」

「そう。このフラクシナスは空中艦よ」

 腕組みし、まるで誇るように琴里がふふんと鼻を鳴らす。一方、士道は愕然としていた。「ってか、何でお前が空中艦なんかに乗ってるんだよ」

「だから順を追って説明するって言ってるでしょう? 鶏だって三歩歩くまでは覚えるでしょうに」

「む……」

「でもケータイの位置確認で調べられちゃうなんて盲点だったわね。顕現装置リアライザで不可視迷彩インビジブルと自動回避アヴォイドかけてたから油断してたわ。あとで対策打っておかないと」

最後はこっちよ。AST。アンチ・スピリット・チームでAST。精霊専門の部隊よ」

 琴里はスクリーンを先ほどのものに戻すと、そこに映し出されている一団を指さす。

「精霊専門の部隊って……。まさか、殺す、とか?」

 士道が恐る恐ると言った状態で言うと琴里はあら、と意外そうな表情を浮かべた。

「よく分かったわね。その通りよ」

「………っ!」

昔紘太兄さんに聞いたことがあるどんなことがあっても殺しちゃいけないと殺せば一生後悔するとそんな士道の頭にあの少女の顔が浮かんできた。

『だってお前も、私を殺しに来たんだろう?』

 少女があんな事を言った理由が、ようやく理解する事が出来た。

 そして彼女が浮かべていた、今にも泣きだしてしまいそうな顔の意味も。

「まあ、普通に考えれば死んでくれるのが一番でしょうね」

 特に何の感慨もなさそうに、琴里が言った。士道は拳を強く握りしめながら口を開く。

「なん……でだよ」

「なんで、ですって?」

 士道の言葉を聞いて、琴里が興味深そうに顎に手を当てながら言う。

「何もおかしい事はないでしょう? あれは怪物よ? この世界に現れるだけで空間震を起こす最凶最悪の猛毒よ?」

「で、でも空間震は精霊の意思とは関係なく起こるんだろ?」

「ええ。少なくとも現界時の爆発は、本人の意思とは関係ないっていうのが有力な見方よ。まあ、その後のASTとドンパチした破壊痕も空災被害に数えられるけどね」

「だってそれは、ASTの連中が攻撃するからじゃないのか?」

「そうかもしれないわね。でもそれはあくまで推測の話よ。もしかしたらASTが何もしなくても、精霊は大喜びで破壊活動を始めるかもしれない。」

「………それは、ねえだろ」

 士道が俯きながら言うと、琴里が不思議そうに首を傾げる。

「根拠は?」

きこのんで街をぶっ壊すような奴は……あんな顔は、しねえよ」

 それは、根拠と呼ぶにはあまりに曖昧で薄弱すぎるものだった。しかし、何故か士道はそれを心の底から確信していた。

それよりも、暴れるのは精霊本人の意思じゃねえんだろ? それなのに……」

「随意か不随意かなんて、大した問題じゃないのよ。どっちにしろ精霊が空間震お起こす事に変わりはないんだから。士道の言い分も分からなくはないけど、かわいそうって理由だけで核弾頭レベルの危険生物を放置しておくことはできないわ。」

「でも……それでも殺すなんて……」

 士道が追いすがると、琴里はやれやれと言うように肩をすくめた。

「数分程度しか接点のない、しかも自分が殺されかけた相手だっていうのに、随分精霊の肩を持つじゃない。もしかして、惚れちゃった?」

「……っ、違ぇよ。ただ、殺す以外に方法があるんじゃねえかって思うだけだ」

「……方法、ね」

 士道の言葉を反芻すると、琴里はふうと息を吐いた。

「それじゃあ聞きたいんだけど、他にどんな方法があると思うの?」

「それは……」

 琴里に言われて、言葉が止まってしまう。

 頭では理解できてしまっているのだ。

 出現するだけで空間震を起こし、世界に深刻な爪痕を残す異常、精霊。

 そんなものは迅速に殺さねばならないのかもしれない。

 しかし、たった一瞬ではあるが士道は見た。

 あの少女の、今にも泣きだしてしまいそうな顔を。

 そして、聞いてしまった。

 あの少女の、今にも泣きだしてしまいそうな悲痛な声を。

「……とにかく」

 気が付けば、士道の口は自然と言葉を紡いでいた。

「一度、ちゃんと話をしてみないと……分かんねえだろ」

 確かにあの時の死の恐怖は未だ体に残っている。

それに士道には、あの少女をこのまま放ってはおけなかった。

 だって彼女は、士道と同じだったのだから。

 すると、その士道の言葉を待っていたかのように、琴里は笑みを浮かべた。

「そう。じゃあ手伝ってあげる」

「は……?」

 思いもよらなかった言葉に士道が思わず口をぽかんと開けると、琴里が両手をばっと広げた。

 まるで、令音を、神無月を、下段に広がるクルー達を、この空中艦『フラクシナス』を示すように。

「私達が、それを手伝ってあげるって言ったのよ。『ラタトスク機関』の総力をもって、士道をサポートしてあげるって」

 その言葉に、士道は戸惑いながらも声を発する。

「な、何だよそれ。意味が……」

 だが士道の言葉を遮るように、琴里が声を上げる。

「良い? 精霊の対処方法は、大きく分けて二つあるの。一つはASTのやり方。戦力をぶつけてこれを殲滅する方法」

「……じゃあ、もう一つは?」

 士道が尋ねると琴里は笑みを浮かべながら、

「もう一つは、精霊と対話する方法。私達は『ラタトスク』。対話によって、精霊を殺さず空間震を解決するために結成された組織よ」

 士道は眉をひそめた。何の目的でそんな組織が結成されたのかとか、琴里が何故その所属しているのとか、聞きたい事はたくさんある。しかし、今はそれよりも気になる事が一つある。

「……で、何でその組織が俺をサポートするって話になるんだよ」

「ていうか、前提が逆なのよ。そもそも『ラタトスク』っていうのは、士道のために作られた組織だから」

「は、はぁっ!?」

 士道は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「ちょっと待て。俺のため?」

「ええ。まあ、士道を精霊との交渉役に据えて精霊問題を解決しようって組織って言った方が正しいのかもしれないけれど。どちらにせよ、士道がいなかったら始まらない組織なのよ」

「ま、待てって。どういう事なんだよ。ここにいる人達が、全部そんな事のために集められたって事か? ってか、何で俺なんだ?」

 士道が問うと、琴里はキャンディを口の中で転がしながら告げた。

「そうね……。一言で言えば、あなたが私達の『切り札』だからよ。士道」

「……切り札」

 士道は口の中でその言葉を繰り返した。自分が何故彼女達の切り札なのかは分からない。だが、琴里が発したその言葉には、どこか確信じみた響きがあった。士道が黙り込むと、琴里がさらに続けてくる。

「まあ、理由はその内分かるわ。良いじゃない、私達が全員、全技術を以て士道の行動を後押ししてあげるって言ってるのよ? それとも、また一人で何の用意もなく精霊とASTの間に立つつもり? 死ぬわよ、今度こそ」

「……で、その対話っていうのは具体的に何をするんだよ」

 すると琴里は再び小さく笑みを浮かべた。

「それはね」

 そして顎に手を置き、

「精霊に、恋をさせるの」

 ふふんと得意げに、そう言った。

「………」

 それを聞いた士道は一瞬聞き間違いかと思ったが、どうやら自分の鼓膜はいたって正常らしい。しばし魔を開けてから、

「………はい?」

 と、思わず間抜けな声を出してしまっていた。頬に汗を垂らしながら、眉をひそめる。

「……すまん、ちょっと意味が分からん」

「だから、精霊と仲良くお話してイチャイチャしてデートしてメロメロにさせるの」

「……ええと、それで何で空間震が解決するんだ?」

 琴里は指を一本顎に当てながら、んーと考えるようなしぐさを見せた後に口を開いた。

「武力以外で空間震を解決しようとしたら、要は精霊を説得しなきゃならない訳でしょ?」

「そうだな」

「そのためにはまず、精霊に世界を好きになってもらうのが手っ取り早いじゃない。世界がこんなに素晴らしいものなんだー、って分かれば精霊だってむやみやたらに暴れたりしないでしょうし」

「……まあ、そうだな」

「で、ほら、よく言うじゃない。恋をすると世界が美しく見えるって。――――というわけでデートして、精霊をデレさせなさい!」

「いや、意味が分からない」

 明らかに論理が飛躍しすぎている。だがここで駄々をこねれば、ではどういう手段を取れば良いのだという話になってくる。士道がうーんと悩んでいると、士道の考えを察したのか琴里が言ってくる。

「腹の底では全部に賛同してなくたって良いわ。でも、あなたが本当に精霊を殺したくないって言うのなら、手段は選んでいられないんじゃない?」

精霊相手に動いてくれるとは考えにくい。

 かと言ってASTのやり方は論外だし、琴里達だって要は精霊を籠絡して良いように利用しようとしているようにしか思えない。

 だが、他に方法が無いのも事実だった。

「……分かったよ」

 士道が苦々しく頷くと、琴里は満面の笑みを作った。

「よろしい。今までのデータから見て、精霊が現界するのは最短でも一週間後。早速明日から訓練よ」

「……は? 訓練?」

 士道は、思わず呆然と呟いた。

 

 

その会話をある場所から聞いているものがいた

「・・・・・あいつは精霊ていうのか」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 話し合い

今回も紘太は出ません

では本編スタート


時刻は、一七時二十分。

避難を始める生徒たちの目を避けながら、町の上空に浮遊している<フラクシナス>に移動した三人は、艦橋スクリーンに表示された様々な情報に視線を送っていた。

軍服に着替えた琴里と令音は、時折言葉を交わしながら意味ありげにうなずいていたが、正直士道には、画面上の数字がなにを示しているかいるのかよくわからない。

 唯一理解できるのは、画面右側に表示されているのが士道の高校を中心にした街の地図である事くらいだ。

「なるほど、ね」

 艦長席に座ってチュッパチャップスを舐めながら、クルーと何やら言葉を交わしていた琴里が小さく唇の端を上げる。

「士道」

「何だよ」

「早速働いてもらうわ。準備なさい」

「――――」

 その言葉に、士道は身体を硬直させる。

 予想はしていたし、覚悟もしていた。 だがやはり、実際にその時が来てしまうと緊張を隠せそうになかった。

「もう彼を実践登用するのですか、司令」

 突然、艦長席の隣に立っていた神無月がスクリーンに目をやりながら不意に言った。

「相手は精霊。失敗はすなわち死を意味します。訓練は十分なのでしょげふっ」

 最後まで言い切る前に、彼の鳩尾に琴里の強烈な右ストレートがめり込んだ。

「私の判断にケチをつけるなんて、随分偉くなったものね神無月。罰として今から良いと言うまで豚語で喋りなさい豚」

「ぶ、ブヒィ」

 何故かかなり慣れた様子で神無月が返す。すると琴里がキャンディの棒をピンと上向きにしてから、スクリーンを示す。

「士道、あなたかなりラッキーよ」

「え?」

 琴里の視線を追うように、スクリーンに目を向ける。

 さっきと変わらず意味が分からない数字が踊っていたが、右側の地図には先ほどと違った所があった。

 士道の高校には赤いアイコンが一つ、その周囲には小さな黄色いアイコンがいくつも表示されているのだ。

「赤いのが精霊、黄色いのがASTよ」

「それのどこがラッキーなんだ?」

「ASTを見て。さっきから動いてないでしょ?」

「ああ」

「精霊が外に出てくるのを待ってるのよ」

「何でだよ。突入しないのか?」

 士道が尋ねると、琴里が大仰に肩をすくめた。

「ちょっとは考えてものを言ってよね恥ずかしい。粘菌だってもう少し理知的よ」

「な、なにおう!」

「そもそもCR-ユニットは、狭い屋内での戦闘を目的として作られたものではないのよ。随意領域テリトリーがあるとはいっても遮蔽物が多く、通路も狭い建造物の中じゃ確実に機動力が落ちるし、視界も遮られるわ」

「なるほど……」

理屈は分かったが、琴里の台詞に引っ掛かりを覚えた士道は琴里に半眼を向ける。

「だけど、精霊が普通に外に現れてたらどうやって俺を精霊と接触させるつもりだったんだ?」

「ASTが全滅するのを待つか、ドンパチしている最中に放り込んでたわね」

「………」

 士道は先ほどよりも深く、今の状況が本当にどれだけありがたいものかを思い知った。「じゃあ、早いところ行きましょうか。インカムは外してないわね?」

「ああ」

 答えながら士道はインカムが装着されている右耳に手を触れた。

「よろしい。カメラも一緒に送るから、困ったときはサインとして、インカムを二回小突いてちょうだい」

「ん、分かった。だけど……」

 士道は琴里と、艦橋下段で自分の持ち場についている令音に視線を送る。

 訓練の時の助言を思い出してみると、正直心細いサポートメンバーである。

 士道の表情から思考を察したのだろうか、琴里が不敵な笑みを浮かべる。

「安心しなさい、士道。フラクシナスのクルーには頼もしい人材がいっぱいよ」

「ほ、本当か?」

 士道が心配そうに尋ねると、琴里が上着をバサッと格好よく翻して立ち上がる。

「たとえば」

 言いながら、艦橋下段のクルーの一人をビシッと指差した。

「五度もの結婚を経験した恋愛マスター・『早すぎた倦怠期バットマリッジ』川越!」

「四回は離婚してんじゃねーか! 離婚マスターに改名しろ!!」

「夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る、『社長シャチョサン』幹本!」

「金目当てだろどうせ!!」

「恋のライバルに次々と不幸が! 午前二時の女・『藁人形ネイルノッカー』椎崎!」

「絶対呪いかけてるだろそれ!」

「百人の嫁を持つ男・『次元を越える者ディメンション・ブレイカー』中津川!」

「ちゃんとz軸のある嫁だろうな!?」

「その愛の深さゆえに、今や法律で愛する彼の半径五百メートル以内に近づけなくなった女・『保護観察処分ディープラブ』箕輪!」

「なんでそんな奴ばっかなんだよ!!」

 頭を抱えて士道は絶叫した。

「……皆、クルーとしての腕は確かなんだ」

 艦橋下段からまるでフォローするようにぼそぼそと令音の声が聞こえてきた。

「そ、そう言われても……」

「良いから早く行きなさい。精霊が外に出たらASTがあっという間に群がってくるわよ」

 令音に士道が苦情を発しかけるが、そんな士道の尻を琴里が勢いよく蹴った。

「痛って……、こ、このやろ……」

「心配しなくても大丈夫よ。士道は一回くらい死んだもすぐニューゲームできるわ」

「ざっけんな。俺は普通の人間だぞ」

「マンマミィーヤ。妹の言う事を信じない兄は不幸になるわよ」

「兄の言う事を聞かねえ妹に言われたくねえよ」

 士道はため息混じりに言うが、そのまま大人しく艦橋のドアへと足を向ける。

「グッドラック」

「おう」

 ビッと親指を向けてくる琴里に、士道は軽く手を上げて返した。

 緊張が完全にほぐれたわけではないが、この機を逃すわけにはいかなかった。

 琴里達には悪いが、倒すとか、恋をさせるとか、世界を救うとか。士道はそんな大それた事はまったく考えていなかった。

 ただ。

 あの悲しそうな表情をした少女ともう一度話をしてみたい。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 名前決めと戦闘

今回は十香の名前決めと折紙と紘太の戦闘回です


 琴里の話によると、フラクシナスの下部に設えられている顕現装置リアライザを用いた転送機は、直線状に遮蔽物が無ければ一瞬で物質を転送・回収できる代物らしい。ちなみに士道はこの話を最初に聞いた時、本当にすごい科学技術で造られてるなと心の底から思った。

 最初は船に酔ったかのような気持ち悪さを感じたものの、数回目となるとさすがに慣れてきた。一瞬のうちに視界がフラクシナスから薄暗い高校の裏手に変わったのを確認してから、士道は酔いを醒ますかのように軽く頭を振るう。

「んじゃ、まずは校舎内に……」

 そう言いかけて、目の前の光景に言葉を止める。

 目の前にあるコンクリートでできた校舎の壁は冗談のようにごっそりと削り取られており、その内部を覗かせていた。

「実際見るととんでもねえな・・・・」

「まあ、ちょうど良いからそこから入っちゃいなさい」

 右耳のインカムから、フラクシナスにいる琴里の声が聞こえてくる。

 士道は「了解……」と呟きながら校舎の中へと入っていく。のんびりしていたら精霊が外に出てしまうかもしれないし、それ以前に士道がASTに見つかってしまったら『保護』されてしまう可能性もある。

『さ、急ぎましょ。こっちからナビするわ。精霊の反応はそこから階段を上がって三階、手前から四番目の教室よ』

「分かった」

 士道は頷いて一度深呼吸をしてから、近くの階段を駆け上がっていく。

 すると一分とかからず、士道は指定された教室の前まで辿り着いた。

 扉が開いていないせいで、中の様子はうかがう事ができない。しかしこの教室の中に精霊がいると思うだけで、士道の心臓は自然と早鐘のように鳴った。

「って、ここって俺のクラスじゃねえか」

 教室の前の扉に掛かっている室名札を見て、士道が思わずそう口にするとインカムから聞こえてくる琴里の声が再び士道の鼓膜を揺らした。

『あら、そうなの。じゃあ好都合じゃない。地の利とまでは言わないけど、まったく知らない場所より良かったでしょ』

 そんな事を言われても、実際にはまだ進級してそう日が経っていないのでそこまで知っているというわけでもない。

 とにかく、精霊が気まぐれを起こす前に接触しなくてはならない。士道はごくりと唾を呑みこんだ。

「……やぁ、こんばんわ、どうしたの、こんな所で」

 小さな声で、精霊にかける言葉を何度か繰り返す。

 そして、士道は意を決して教室の扉を開けた。士道の目に、夕日で赤く染められた教室の姿が映り込んでくる。

「――――――」

 その、瞬間。

前から四番目、窓際から二列目。ちょうど士道の机に、不思議な輝きを放つドレスを身に纏った黒髪の少女が、片膝を立てるようにして座っていた。

 幻想的な輝きを放つ水晶色の目を物憂げな半眼にして、どこかぼうっとした様子で黒板を眺めている。

 半身を夕日に照らされた少女は、見る者全ての思考能力を一瞬奪うほどに、ひどく神秘的だった。

 だが、その完璧に近い光景は、一瞬のうちに崩れる事になる。

「――――ぬ?」

 士道が教室に入って来た事に気付き、少女が目を完全に見開いてこちらを見てくる。

「や、やあ……」

 士道が心を落ち着けながら手を上げようとした瞬間、少女の目に敵意が宿るのを感じて、士道は思わず手を上げるのをやめて顔を素早く横に動かす。

 刹那。

 少女が無造作に手を振るい、士道の顔のすぐ近くを一条の黒い光線が通り抜けた。

 一瞬の後、士道が手を掛けていた教室の扉とその後ろにある廊下の窓ガラスが盛大な音を立てて砕け散る。

「………っ!」

 士道は驚きながらも、少女から視線を外さない。少女は鬱々とした表情を作りながら、腕を大きく振り上げた。掌の上には、丸く形作られた光の塊のようなものが危険な黒い輝きを放っている。

「ちょっ……」

 士道が叫びを上げるより早く、急いで壁の後ろに身を隠す。

 直後、先ほどまで士道がいた位置を光の奔流が通り抜け、校舎の外壁を容易く突き破り外へと伸びていった。

 その後も、士道を狙うかのように連続して黒い光が放たれる。

「ま、待ってくれ! 俺は敵じゃない!」

 随分と風通しのよくなった廊下から少女に向かって声を上げる。

 すると、士道の言葉が通じたのか、それきり光線は放たれなくなった。

「……入って、大丈夫なのか?」

『見たところ、迎撃準備はしてないわね。やろうと思えば、壁ごと士道を吹き飛ばすなんて容易いはずだし。逆に時間を空けて機嫌を損ねても良くないわ。行きましょう』

 独り言のような士道の呟きに琴里が答えた。恐らくカメラはもう教室に入っているのだろう。

 唾液を飲んでから、士道は扉の無くなった教室の入り口に立った。

 そんな士道に、少女は無言でじとーっとした目を向けてきていた。一応攻撃はしてこないが、その視線は猜疑と警戒で満ちている。

「と、とりあえず落ち着い……」

 士道はとりあえず敵意が無い事を示すために両手を上げながら、教室に足を踏み入れた。

 が、

「――――止まれ」

 少女が凛とした声音を響かせると同時に、士道の足元の床を黒い光線が灼いた。その攻撃に、士道は慌てて体を硬直させた。

「………っ」

 少女が士道の頭頂から爪先までを舐めるように睨め回し、口を開く。

「お前は、何者だ」

「あ、ああ。俺は……」

「待ちなさい」

 士道が答えようとしたところで、何故か琴里からストップがかかった。

 

 

 

 

 現在フラクシナスの艦橋のスクリーンには、光のドレスを纏った精霊の少女がバストアップで映し出されていた。

 愛らしい顔を刺々しい視線で飾りながら、カメラの右側――――士道の方を睨んでいる。

 そしてその周りには『好感度』をはじめとした、各種パラメータが配置されている。令音が顕現装置リアライザで解析・数値化した少女の精神状態が表示されているのだ。

 さらにフラクシナスに搭載されているAIが二人の会話をタイムラグ無しでテキストに起こし、画面の下部に表示させている。

一見してみると、士道が訓練で使っていたギャルゲーのゲーム画面にそっくりだった。

 特大のスクリーンに表示されたギャルゲー画面に、選りすぐられたクルー達が至極真面目な顔をして向かい合っている。本人達は大真面目なのだろうが、傍から見るとシュールな光景この上ない。

 と、琴里がぴくりと眉を上げた。

『お前は、何者だ』

 精霊が士道に向かって言葉を発した瞬間、画面が明滅して艦橋にサイレンが鳴り響いたのだ。

「こ、これは……」

 クルーの誰かが狼狽に満ちた声を上げる中、画面の中央にウィンドウが現れた。

 ①「俺は五河士道。君を救いに来た!」

 ②「通りすがりの一般人ですやめて殺さないで」

 ③「人に名を訊ねる時は自分から名乗れ」

「選択肢……っ」

 琴里はキャンディの棒をピンと立てた。

 令音の操作する解析用顕現装置リアライザと連動したフラクシナスのAIが、精霊の心拍や微弱な脳波などの変化を観測して、瞬時に対応パターンを画面に表示したのだ。

 これはいつでも表示されるわけではなく、精霊の精神状態が不安定である時にしか表示されない。

 つまり、正しい対応をすれば精霊に取り入る事ができる。

だが、もしもこの選択肢を間違えれば――――。

 琴里はすぐさまマイクを口に近づけ、返事を仕掛けていた士道に制止をかける。

「待ちなさい」

『………?』

 士道の息を詰まらせるような音が、スピーカーから聞こえてくる。きっと琴里が言葉を止めさせた事に困惑しているのだろう。

 精霊をいつまでも待たせるわけにはいかない。琴里は目の前のクルー達に向かって叫んだ。

「これだと思う選択肢を選びなさい! 五秒以内!」

 するとすぐに、クルー達が一斉に手元のコンソールを操作する。その結果はすぐさま琴里の手元にあるデイスプレイに表示される。

 最も多いのは、③の選択肢だった。

「どうやらみんな、私と同意見みたいね」

 琴里が言うと、クルー達は一斉に頷いた。

「①は一見王道に見えますが、向こうがこちらを敵と疑っているこの場で言っても胡散臭いだけでしょう。それに少々鼻につく」

 直立不動のまま神無月が言うと、艦橋下段にいる令音もそれに続いて声を発する。

「……②は論外だね。万が一この場を逃れる事が出来たとしても、それで終わりだ。次に精霊と接触できる保証はない」

 その言葉に琴里は頷きながら、

「そうね。その点③は理に適っているし、うまくすれば会話の主導権を握る事もできるかもしれない」

 そして士道に選択肢を伝えるために、琴里は再びマイクを引き寄せた。

「お、おい。どうしたんだよ」

 少女の鋭い視線に晒されながら言葉を制止された士道は、気まずい空気の中そこに立ちつくしていた。さっきから琴里に声を小さくして話しかけているものの、インカムから声はまったく返ってこない。

「……もう一度聞く。お前は何者だ」

 少女は苛立たしげに言うと、目をさらに尖らせた。

 するとそれと同時に、ようやく右耳に琴里の声が届く。

『士道、聞こえる? 私の言う通りに答えなさい』

「お、おう」

『人に名を訊ねる時は自分から名乗れ』

「人に名を訊ねる時は自分から名乗れ。……っておい……! 何言わしてんだよ……!」

 琴里の言う通りに言ってから、士道は顔を青くした。いくらなんでもこれは相手に喧嘩を売っているようなものである。どうやってこれを話し合いのための会話だと解釈すれば良いのだ。

 そして案の定、士道の声を聞いた少女は途端に表情を不機嫌そうに歪め、今度は両手を振り上げて光の球を作り出した。士道は慌てて床を蹴り、右方に転がる。

 その瞬間、士道の経っていた場所に黒い光球が次々と放たれた。床に二階、一階まで貫通すような大穴が開く。いや、もしかしたら本当に貫通しているのかもしれない。

 士道はその時の衝撃波で教室の端まで吹き飛ばされたものの、すぐに受け身を取ってから素早く立ち上がる事に成功したために大きな怪我などは見当たらなかった。

『あれ、おかしいな』

「おかしいなじゃねえよ! 殺す気か!」

 心底不思議そうに言ってくる琴里に、士道はややこめかみをひくひくとさせながら返す。

 と、

「これが最後だ。答える気が無いのなら、敵と判断する」

 士道の机の上から、少女が敵意のこもった声で告げてくる。士道はごくりと唾を飲んでから口を開いた。

「お、俺は五河士道! ここの生徒だ! 敵意は無い!」

 降参を示すかのように士道が両手を上げながら言うと、少女は訝しげな目を作りながら士道の机の上から下りる。

「そのままでいろ。お前は今、私の攻撃可能圏内にいる。もしも少しでも妙な行動をしたら……殺す」

少女の言葉は、当たり前の事かもしれないが冗談には聞こえない。士道は姿勢を保ったままこくこくと頷いた。

 少女が、ゆっくりとした足取りで士道の方に近寄ってくる。

「……む?」

 少女は少し首を傾げながら軽く腰を折ると、しばしの間士道の顔を凝視してから眉を下げた。

「……お前、前に一度会った事があるな……」

「あ、ああ。今月の……確か十日に。街中で」

「おお」

 少女は納得したかのように小さく手を打つと、姿勢を元に戻した。

「思い出したぞ。何やらおかしな事を言っていた奴だ」

 少女の目から微かに険しさが消えるのを感じて、一瞬士道の緊張が緩んだ。

 だが、

「ぐっ……!?」

 緊張が緩んだわずかな瞬間に、士道は前髪を掴まれて顔を無理矢理上向きにさせられた。

 少女が士道の目を覗き込むように顔を斜めにしながら、先ほどとまったく変わらない敵意のこもった視線を放ってくる。

「確か、私を殺すつもりはないと言っていたか? ふん、見え透いた手を。言え、何が狙いだ。油断させて後ろから襲うつもりか?」

「………っ」

 士道は小さく眉根を寄せて、奥歯を力強く噛んだ。

 少女への恐怖とか、死の恐ろしさとか、そんなものよりも先に。

 少女が士道の言葉……殺しに来たのではない、というその台詞を微塵も信じる事ができないのが。

 信じる事ができないような環境にずっと晒されていた、というのが。

 士道には気持ち悪くて、たまらなかった。

「……人間は……」

 思わず士道は、声を発していた。

「お前を殺そうとする奴らばかりじゃ……ないんだよっ……」

「………」

 士道のその言葉に少女は目を丸くして、彼の髪から手を離した。

 そしてしばらくの間、怪訝そうな瞳で士道の顔を見つめた後に、小さく唇を開いた。

「……そうなのか?」

「ああ、そうだ」

「私が会った人間達は、皆私は死なねばならないと言っていたぞ」

「そんなわけ、ないだろっ」

「……」

 少女は何も答えずに、手を後ろに回した。

 半眼を作ってから口を結び、まだ士道の言う事が完全に信じられないという顔を作る。

「……では聞くが、私を殺すつもりがないと言うのなら、お前は一体何をしに私の前に現れたのだ?」

「……っ。それは……」

『士道』

 士道が少女の問いに口ごもると同時に、琴里の声が再び右耳に響いてきた。

 

 

 

 

 

「……また選択肢ね」

 琴里は乾いた唇をぺろりと舐め、スクリーンの中央に再び表示された選択肢を見つめた。

 ①「それはもちろん、君に会うためさ」

 ②「なんでもいいだろ、そんなの」

 ③「偶然だよ、偶然」

 手元のディスプレイに、瞬時にクルー達の意見が集まってくる。見てみると、①が一番人気だ。

「士道。とりあえず無難に、君に会うためとでも言っておきなさい」

 琴里がマイクに向かって言うと、画面の中の士道が立ち上がりながら口を開く。

『き、君に会うためだ』

『……?』

 予想外の質問だったのか、少女がきょとんとした表情になる。

『私に? 一体何のために』

 少女が首を傾げてそう言うと、また画面に選択肢が表示された。

 ①「君に興味があるんだ」

 ②「君と、愛し合うために」

 ③「君に聞きたい事がある」

「んー……どうしたもんかしらねえ」

 琴里が悩んだ声を出しながら顎をさすっていると、手元のディスプレイにはクルー達の意見が集まっていた。今度は②の回答が一番多い。

「ここはストレートに言っておいた方が良いでしょう、司令。男気を見せないと!」

「はっきり言わないとこの手の娘は分からないですって!」

 琴里はふむと唸ってから足を組み替えた。

「まあ、良いでしょう。他の選択肢だとまた質問を返されるでしょうし。士道。君と、愛し合うために、よ」

 マイクに向かって指示を発すると、士道の肩がピクリと震えた。

 

 

 

 

「あー……。その、だな……」

 琴里からの指示を受けた士道は、ややうろたえて目を泳がせる。まぁ、あの指示でうろたえるなと言う方が無理かもしれないが。

「なんだ、言えないのか? お前は理由もなく私のもとに現れたと? それとも……」

 少女の目が、徐々に険しいものになっていく。士道は慌てて手を振りながら少女に答えた。

「き、君と愛し合うために……」

「………」

 その瞬間、少女は手を抜き手にして、横薙ぎに振り抜く。

 すると、士道の頭のすぐ上を風の刃が通り抜け、教室の壁を斬り裂いて外へと抜けていった。士道の髪が数本、中ほどで切られて風に舞う。あと数センチ下だったら、今頃士道の顔は真っ二つになっていた事だろう。

「………っ!!」

「……冗談はいらない。本当の事を言え」

 ひどく憂鬱そうな表情で、少女が呟いた。

「………」

 士道は唾液を飲み干した。

 一瞬で今まで感じていた恐怖が薄れていき、心臓が高鳴っていく。

 ――――ああ、そうだ、この顔だ。

 士道が大嫌いな、この顔だ。

 自分が愛されるなんて微塵も思っていないような、世界に絶望した表情。

 その表情を見て、士道は思わず声を発していた。

「俺は、お前と話をするために……ここに来た」

 すると、少女は言葉の意味が理解できないと言うように眉をひそめた。

「……どういう意味だ?」

「そのままだ。俺は、お前と話がしたいんだ。内容なんかなんだって良い。気に入らないなら無視してくれたって良い。でも、一つだけ分かってくれ。俺は……」

「士道、落ち着きなさい」

 琴里が諌めるように言ってくるが、士道は止まらない。

 今士道の目の前にいる少女には、手を差し伸べる人間が一人もいなかった。

 たった一言でも、殺意も敵意もない言葉があれば状況は違ったかもしれないのに、その一言をかけてやる人間が一人もいなかった。

 士道には、両親が、琴里がいてくれた。

 だが彼女には、誰もいなかった。

 だったら、士道が言うしかない。

「俺はお前を、否定しない」

 士道はだん! と足を強く踏みしめると、一言一言を区切るように言った。

「………っ」

 少女は眉根を寄せると、士道から初めて目を逸らした。

 そしてしばらく黙った後、ようやく唇を開いた。

「……シドー。シドーと言ったな」

「ああ」

「本当に、お前は私を否定しないのか?」

「本当だ」

「本当の本当か?」

「本当の本当だ」

「本当の本当の本当か?」

「本当の本当の本当だ」

 繰り返し行われる問いに、士道が迷わずに答え続けると少女は頭をくしゃくしゃと掻いた。それからずずっと鼻をすするかのような音を立ててから、顔の向きを戻す。

「……ふん」

 眉根を寄せて口のへの字に結んだままの表情で、腕組みをする。

「誰がそんな言葉に騙されるかばーかばーか」

 先ほどと比べてやや口調が子供っぽくなったが、この状況でそんな事を指摘するわけにもいかない。士道は慌てて、

「だから、俺は――――」

「……だがまあ、あれだな」

 少女は複雑そうな表情を作ったまま、話を続ける。

「どんな腹があるのから知らんが、まともに会話をしようと言う人間は初めてだからな。……この世界の情報を得るために少しだけ利用してやる」

 言ってから、もう一度ふんと息を吐いた。

「は、はぁ?」

「話くらいはしてやらん事も無いと言っているのだ。そう、情報を得るためだ。うむ、大事。情報超大事」

 口ではそう言いながらも士道の目には、ほんの少しではあるが少女の表情が和らいだように見えた。

「そ、そうか……」

 士道は頬をポリポリと掻きながら返した。

 よく分からないが、とりあえずファースト婚宅には成功したと考えても良いのかだろうか。

 士道が困った表情を浮かべていると、右耳に琴里の声が響いた。

『上出来よ。そのまま続けなさい』

「あ、ああ」

 すると、少女が大股で教室の外周をゆっくりと回り始めた。

「ただし、不審な行動をとってみろ。お前の体に風穴を開けてやるぞ」

「……分かった」

 士道の返答を聞きながら、少女がゆっくりと誰もいない教室に足音を響かせる。

「シドー」

「な、なんだ?」

「早速聞きたいのだが、ここは一体何だ? 初めて見る場所だ」

 そう言いながら、倒れていない机をぺたぺたと触り回る。もしかしたら、学校の机を見るのも初めてなのかもしれない。

「あ、ああ……。学校――――教室、まあ、簡単に言えば俺と同年代くらいの生徒達が勉強する場所だ。その席に座って、こう」

「なんと」

 すると少女は驚いたように目を丸くした。

「これに全て人間が収まるのか? 冗談を言うな。四十近くはあるぞ」

「いや、本当だよ」

 士道は頬を掻きながら、少女の言葉の意味に気付く。

 少女が現れる時は、街には避難警報が発令されていた。少女が見た事のある人間などASTぐらいのものなのだろう。人数もそこまで多くはあるまい。その事から考えてみると、少女のこの発言にも納得がいく。

「なあ……」

 少女の名を呼ぼうとした時、士道は思わず声を詰まらせた。

「ぬ?」

 士道の様子に気が付いたのか、少女が眉をひそめる。

 そしてしばらく考えを巡らせるように顎に手を置いた後、

「……ふむ、そうか。会話を交わす相手がいるのなら、必要なのだな」

 そう言って頷いてから、

「シドー。お前は、私を何と呼びたい?」

 手近にあった机に寄りかかりながら、そんな事を言ってきた。

「……は?」

 言っている意味が分からず、士道は少女に問い返した。

 少女はふんと鼻を鳴らして腕組みすると、尊大な調子で続けた。

「私に名をつけろ」

「………」

 少しの間沈黙した後で、

(お、重いっ!!!)

 いきなり自分に課せられた重大な責任に、士道は思わず心の中で絶叫した。

「お、俺がか!?」

「ああ。どうせお前以外と会話をする予定はない。問題あるまい」

 

 

 

 

 その頃、ラタトスク艦内。

「うっわ、これまたヘビーなの来たわね」

 自分の兄がかなり重い事を言われているのを見て、琴里は頬を掻いていた。

「……ふむ、どうしたものかな」

 艦橋下段で令音が琴里の言葉に応えるようにうなる。

 艦橋にはサイレンが鳴っているものの、スクリーンにはさっきのように選択肢が表示されていない。

 AIでランダムに名前を組むだけでは、パターンが多すぎて表示しきれないのだろう。

「落ち着きなさい士道。焦って変な名前を言うんじゃないわよ」

 インカム越しに士道にそう言ってから、琴里は立ち上がってクルー達に声を張り上げる。

「総員! 今すぐ彼女の名前を考えて私の端末に送りなさい!」

 言った直後、手元のディスプレイに視線を落とす。するとすでに何名かのクルーから名前案が送信されてきていた。そしてディスプレイの最初に表示されている名前を見ると琴里は顔をしかめて、

「……川越! 美佐子って別れた奥さんの名前でしょ!」

「す、すいません! 他に思いつかなかったもので……」

 司令室の下部から、すまなさそうな音の声が聞こえてきた。

「ったく、他は……麗鐘うららかね? 幹本、なんて読むのこれ」

「麗鐘くららべるです!」

「あなたは生涯子供を持つ事を禁じるわ。変な名前付けられた子供の気持ちを考えなさい」

 琴里が冷たい口調で言うと同時に、ゴンゴンとくぐもった音が艦橋に響いた。恐らく士道がインカムを指で小突いたのだろう。

 スクリーンに視線を戻してみると、少女が腕組みをしながら待ちくたびれたように指で肘を叩いていた。

 琴里は再び画面をざっと見てみるが、ロクな名前はない。思わず、はぁと盛大にため息をついてしまう。

 まったくセンスのない部下達だと琴里はやれやれと首を振った。

 少女の美しい容貌を改めて見る。彼女にふさわしいのは、古式ゆしい優雅さだろう。そう、例えば、

「トメ」

『トメ! 君の名前はトメだ!』

 士道が馬鹿正直に琴里から発せられた名前を言った瞬間、司令室内に真っ赤なランプが灯り、けたたましい警戒音が鳴り響く。

「パターン青! 不機嫌です!」

 状況を見ていたクルーの一人が、慌てた様子で声を荒らげる。

 大画面に表示された好感度メーターが、一瞬のうちに急下落していたのだ。

 さらに画面内の士道の足元に、マシンガンのように小さな黒い光球が連続して降り注いでいた。

『うぉおおおおっ!!』

「……琴里?」

 不思議そうな令音の声が聞こえて、琴里は首を傾げた。

「あれ? おかしいな。古風で良い名前だと思ったんだけど」

「……何故か分からないが、無性に馬鹿にされた気がした」

「す、すまん……。ちょっと待ってくれ……」

 冷静に考えてみれば、トメはない。全国のトメさん達には失礼極まりないかもしれないが、少なくとも今どきの女性達につけるような名前ではないだろう。

 それにそもそも、出会い頭に名付け親になってくれと言われるとは、さすがに予想していなかった。先ほどからバクバクと高鳴る心臓をどうにか抑えながら、考えと視線を巡らせる。しかし、女性の名前など都合よくポンポン出てくるわけがない。士道の頭の中に、知っている女性の名前が浮かんでは消えていく。

 だが、あまり時間が無いのも事実だった。現に今も、少女の顔がどんどん不機嫌になっていく。

「……と、十香」

 と、困った士道の口から、そんな名前が発せられた。

「む?」

「ど、どうかな?」

「………」

 少女はしばらく考え込むように黙り込んでから、再び口を開く。

「……まあ、良い。トメよりはましだ」

 士道は見るからに余裕のない苦笑を浮かべながら、頭を掻いた。

 が、それよりも大きな後悔が後頭部にのしかかってくる。

 その名前の由来が、四月十日に初めて会ったからというのは、かなり安直な気がしたからだ。

「……何やってんだ、俺……」

「ん、何か言ったか?」

「あ、いや、なんでも……」

 士道が慌てて手を振る。少女は少し不思議そうな表情を浮かべながらも、深くは追及してこなかった。すぐに士道に近づいてくると、

「それで、トーカとは、どう書くのだ?」

「ああ、それは……」

 士道は黒板の方に歩くと、チョークを手に取って『十香』と黒板に書いた。

「ふむ」

 少女は小さくうなってから、士道の真似をするように指先で黒板をなぞる。すると少女の指が伝った跡が綺麗に削り取られ、下手くそな『十香』の二文字が記された。

 少女はしばらく自分の書いた文字をじっと見つめてから、小さく頷いた。

「シドー」

「な、何だ?」

「十香」

「え?」

「十香。私の名だ。素敵だろう?」

「あ、ああ……」

 少し気恥ずかしくなって、士道は視線を逸らすようにして頬をポリポリと掻いた。

 しかし、少女……十香はもう一度同じように士道に言った。

「シドー」

 さすがにここまで来ると、士道にも少女の意図が分かった。若干の気恥ずかしさを覚えながらも、少女に向かって口を開く。

「と、十香……」

 士道がその名前を呼ぶと、十香は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

「………」

 その笑顔を見て、心臓がどくんと跳ねた。

 彼女の笑顔を見るのが、これが初めてだったからだ。

 しかし、その時。

「え?」

 突然、校舎を凄まじい爆音と振動が襲った。

 とっさに黒板に手をついて体を支えるも、何が起こったのかさっぱり分からない。

「な、何だ!?」

『士道、床に伏せなさい』

突如インカムに琴里の声が響いてきた。

「へ・・・・・・・・?」

『いいから、早く』

士道はわけが分からないまま言われた通りに床にうつ伏せになる。

 すると次の瞬間、けたたましい音を立てて教室の窓ガラスが一斉に割れた。ついでに向かいの壁にいくつもの銃痕が刻まれていき、教室の中はまるでマフィアの抗争のような有様になった。

「な、何だよこりゃ・・・!」

『外からの攻撃みたいね。精霊をいぶり出すためじゃないかしら。ああ、それとも校舎ごと潰して、精霊が隠れる場所を無くすつもりかも』

「物騒な事をやるもんだな、」

 床にうつ伏せになりながら、士道はそう言った。

 仮に自分達の攻撃で校舎が全壊しようとも、ASTには顕現装置リアライザがある。すぐに直せるので、一回くらいはぶっ壊しても大丈夫という考えだろう。精霊を倒すためとはいえ、中々手荒なやり方である。

 士道が十香に視線を向けると、彼女は先ほど士道に対していた時はまったく違う表情を浮かべて、窓の外に鋭い視線を放っていた。

 もちろん、十香には銃弾はおろか窓ガラスの破片すら触れていない。

 だがその顔は、ひどく痛ましく歪んでいた。

「十香!」

 思わず士道は、さっき自分が付けたその名前を呼んだ。

「………っ」

 そこで十香は、視線を外から士道に映す。

 未だ銃声は響いているが、二年四組の教室への攻撃は一旦止んでいた。だが、もう少し時間が経てばASTの十香への攻撃が再開されるに違いない。

 士道が外に気を張りながら身を起こすと、十香が悲しげに目を伏せた。

「……早く逃げろ、シドー。私と一緒にいては、同胞に討たれる事になるぞ」

「………」

 彼女の言う通り、確かにここは逃げなければならないびだろう。そうしなければ、巻き添えを食う可能性も高い。だが、

『選択肢は二つよ。逃げるか、とどまるか』

 耳元に琴里の毛尾が聞こえてくる。士道はしばらく考え込んだ後、

「……こんな所で、逃げられるかよ。」

琴里の声が再び聞こえてきた。

『まったく、馬鹿ね』

「何とでも言え」

『褒めてるのよ。あと、素敵なアドバイスをあげるわ。死にたくなかったら、できるだけ精霊の近くにいなさい。そこなら攻撃は当たらないはずよ』

「……おう」

 士道は気を引き締めると、十香の足元に座り込んだ。

「は……?」

 十香が士道の突然の行動に、驚いて目を見開いた。

「何をしている? 早く……」

「知った事か……! 今は俺と話してるんだろ。あんなの、気にすんなよ。この世界の情報、欲しいんだろ? 俺に答えられる事なら何でも答えてやる

「……十香は一瞬驚いた後、士道の正面に座り込んだ。

 

 

 

 

「………」

 ワイヤリングスーツを身に纏った折紙は、両手に巨大なガトリング砲を握っていた。

 照準をセットして引き金を引き、大量の銃弾を校舎に放つ。

 随意領域テリトリーを展開しているため、重量も反動もほとんど感じないが、本来ならば戦艦に搭載されている大口径ガトリングである。実際、四方から銃弾を受けた校舎は文字通り蜂の巣になり、その体積を減らしていた。

 とは言っても、これは顕現装置リアライザ搭載の対精霊装備ではない。ただ単純に、校舎を破壊して精霊をあぶりだすためのものだ。この武器では校舎を破壊できても、精霊の霊装を破壊する事はできない。

『どう? 精霊は出てきた?』

 ヘッドセットに内蔵されているインカム越しに、AST隊長である日下部燎子の声が聞こえてきた。

 彼女は折紙のすぐそばにいるのだが、この銃声の中では肉声などほとんど届かない。

「まだ確認できない」

 攻撃の手を止めないまま答えながら、目を見開いて崩れゆく校舎を睨み付けた。

 通常であればまともに見取る事すらできない距離だが、随意領域テリトリーを展開させている今の折紙には、校舎脇の掲示板に張られた紙の文字を読む事も可能なのだ。

 そして、折紙は静かに目を細めた。

 折紙達の教室である二年四組の外壁が、折紙達の攻撃によって完全にくずれおち、殲滅対象である精霊の姿が見えたのだ。

 が、

『……ん? あれは……』

 燎子が訝しげな声を上げた。

 それも当然だろう。教室の中には、精霊の他にもう一人少年と思しき人間が確認できたのだ。一応空間震警報は発令していたはずなのだが、もしかしたら生徒が逃げ遅れたのかもしれない

「何あれ。精霊に襲われてるの……?」

 燎子が眉をひそめながら声を発するが、折紙はそれに反応する事無く教室を見つめ続ける。

 精霊と一緒にいる少年に、見覚えがある気がしたからだ。

「………っ!」

 その少年の姿を見て、目を見開いた。

 何故ならその少年は、折紙のクラスメートである五河士道だったからだ。

「折紙?」

 隣から、燎子が怪訝そうに話しかけてくる。

 しかし折紙はそれに答えず、ただ頭の中で指令を巡らせる。

 全身に纏っている顕現装置リアライザへ、最速起動の指令を。

「ちょっと折紙!? 待ちなさい! 折紙!」

『危険です。独断専行は避けてください』

 さすがに異常に気付いたのだろうか、燎子と本部からの通信がほぼ同時に響く。

 だが折紙はその通信を無視し、両手に携えていたガトリング砲を捨てて、腰に構えていた近接戦闘用の対精霊レイザー・ブレイド『ノーペイン』を引き抜いて校舎へと向かっていった。

 

 

 

 銃弾が吹き荒れる教師で、女の子と向き合いながら話す。

 生まれて初めての経験だった。

 十香の力のためか、凄まじい数の銃弾は二人を避けるように校舎を貫通していく。

 どれくらい話した頃だろうか、士道の耳に琴里の声が聞こえてきた。

『数値が安定してきたわ。もし可能だったら、士道からも質問をしてみてちょうだい。精霊の情報が欲しいわ』

 そう言われて、少し考えてから士道は口を開いた。

「なあ、十香」

「何だ」

「お前って、結局どういう存在なんだ? どうしてこっちの世界に……?」

「む?」

 士道の質問に、十香は眉をひそめながらも答えた。

「知らん」

「知らん、て……」

「事実なのだ。仕方ないだろう。……どれくらい前か、私は急にそこに芽生えた。それだけだ。記憶は歪で曖昧。自分がどういう存在なのかなど、知りはしない」

「そ、そういうものなのか……?」

 士道がやや困った様子で呟くと、十香はふんと息を吐いて腕を組んだ。

「そういうものだ。突然この世に生まれ、その瞬間にはもう空にメカメカ団が舞っていた」

「メカメカ団……? ああ、ASTの事か」

 メカ、つまり機械の鎧を身に纏い空を飛ぶ人間達とくればASTしかない。あまりに単純とも言える単語に、士道は思わず苦笑した。

 すると、インカムから軽快な電子音が鳴った。突然の出来事に士道が思わず眉をひそめると、琴里の声が再び聞こえてくる。

『チャンスよ、士道』

「え? 何がだ?」

『精霊の機嫌メーターが七十を超えたわ。一歩踏み込むなら今よ』

「踏み込むって……何をすれば良いんだよ?」

『んー、そうね。とりあえず、デートにでも誘ってみれば?』

「はぁっ……!?」

 琴里から放たれた言葉に、士道は思わず大声を上げた。

「ん、どうしたシドー」

 士道の大声を聞かれたのか、十香が士道に目を向けてきた。

「い、いや……気にしないでくれ」

「………」

 慌てて取り繕うものの、十香は無言でジト目を士道に向けてきて、士道は思わず額に冷や汗を垂らした。

『さっさと誘っちゃいなさいよ。親密度を上げるためにはこういう事も必要だと思うけど?』

「でも、こいつが出てきた時にはASTが……」

『だからこそ、よ。今度現界した時、大きな建造物の中に逃げ込んでくれるよう頼んでおくの。水族館でも映画館でも、デパートでもなんでも良いわ。地下施設があるとさらに良いわね。それならASTも直接は入ってこられないでしょ。前にも言ったけど、ASTの装備は屋内戦に向いてないんだし』

「そ、それはそうだけど……」

 士道が言うと、その士道の様子を妖しく思ったのか十香が視線を鋭くして士道に尋ねる。

「さっきから何をブツブツ言っている。……やはり、私を殺す算段を!?」

「ち、違う違う! 誤解だ!」

「なら早く言え。今なんと言っていた」

 そう言いながら十香は指先に光球を出現させ、いつでも士道を狙い撃ちできる準備する。それに士道がたじろぐと、はやし立てるかのような声が右耳に響いてくる。

『ほら、観念しなさい。デート! デート!』

 そして艦橋内のクルーを煽動したのか、インカムの向こうから遠雷のようなデートコールが聞こえてくる。

『デ・エ・ト!』

『デ・エ・ト!』

『デ・エ・ト!』

 ……どうでも良い事だが、現在士道は命がかかっている状況である。なので、インカムの向こうから聞こえてくる大合唱が心なしか少し楽しそうに聞こえるのは気のせいだと思いたい。

「あーもう、分かったよ!」

 あまりの照れくささに頭をくしゃくしゃと掻いて、士道はそう叫んだ。そして十香の目を真っ直ぐ見て、

「なあ、十香」

「ん、何だ?」

「そ、そのだな……こ、今度俺と」

「ん」

「で、デートしないか?」

 すると十香は言葉の意味が分からなかったのか、不思議そうな表情で士道を見つめ返す。

「デェトとは何だ」

「そ、それは……」

 聞き返されると妙に気恥ずかしい気分になって、士道は視線を逸らした。

 その時、右耳に少し大きめの琴里の声が響いた。

『士道! ASTが動いたわ!』

「なっ!?」

 目前にいる十香にも聞こえてしまっているのだろうが、士道は構わずに声を発した。

 その瞬間、いつの間に接近していたのか、教室の外から突然折紙が現れた。

「っ!!」

 十香が一瞬のうちに表情を険しくすると、折紙に向かって手のひらを向ける。折紙はそれに構わずに手にしている機械から光の刃を出現させると、十香に斬りかかる。凄まじい火花が辺り一面に飛び散り、士道は眩しさのあまり思わず目を細める。

「くっ……!」

「――――――無粋!」

十香は一喝するように叫び、魔力で形成された刃を折紙ごと振り払う。折紙は微かに歯を食いしばりながら後方へと吹き飛ばされるが、すぐに姿勢を整えて床に華麗に着地する。

「ち、また貴様か……」

 今まで光の刃を受け止めていた手を、調子を確かめるように軽く振りながら吐き捨てるように十香が言う。

 折紙は士道の方をちらりと見ると、安心したかのようにほっと小さく息をついた。きっと、士道が十香に襲われていると思っていたのだろう。

 そしてすぐに剣を構えなおし、十香に殺気が込められた冷たい視線を放つ。

「………」

 その様子を見た十香は士道を一瞬見てから、自分の足元の床に踵を勢いよく突き立てる。

「塵殺公サンダルフォン!」

するといきなり男の声が聞こえた

「精霊に人間、喧嘩は此処までにしてもらいたい」

その声の人間は紛れもない士道の兄の五河紘汰だった

「紘太兄さん?」

―――――フラクシナス艦内―――――

「紘太なんで此処に!?」

フラクシナス艦内の琴里もこのことにかんしては想定外だったらしい

―――――紘太―――――

「よぉ、士道無事だな」

「あぁ、なんとか」

ふぅ、士道が無事でよかった

「そうか、で折紙と十香だったかお前らはまだ争うのか?」

 

そう言いながら俺は少女たちを睨みつけた。

「私は精霊を殺すためにいる」

「そうかなら俺が力づくも止めると言ったら?」

「・・・・・っ!!貴方を倒してでも精霊を殺す!」

「そうか、なら仕方ないか」「変身」

 

『オレンジ!』『レモンエナジー!』

 

『ロック・オン』

 

『オレンジアームズ! 花道・オンステージ! ジンバーレモン・ハハー!』

 

「此処からは俺のステージだ!」

「・・・・っ!!はああああ」

そして鎧武と折紙は対決した

鎧武はソニックアローで折紙を斬り裂いた。

しかしまた折紙が鎧武を襲う。

それを再び斬る。

その繰り返しだ。

そしてソニックアローで折紙に向かって連射する。

折紙はそれを剣で防ぐ。

そして紘汰ソニックアローにレモンエナジーロックシードを装填する。

『ミックス!オレンジスカッシュ!』

二つのロックシードの力が合わさった矢が折紙を貫き気絶させる。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 士道と十香の二回目の遭遇&別世界での出会い

前回の投稿から2年が経ってしまい本当にすみません。

今回は士道と十香との校門前での出会い&別世界での紘太とルフェイペンドラゴンとの出会いです。


-紘太視線-   

「丈······夫····です·······か·····?」

声が聞こえるので目を開くとそこには、魔女の格好をした一人の少女がいた。

「···君は一体?それに此処は一体何処だ?」

と魔女の格好をした少女に聞くと

「私はルフェイペンドラゴンです。そして、此処は私の部屋です」

と言うので俺は周りを見回すとそこは女の子ぽっい部屋だったので俺は何故此処に居るのかを思い出す。

(俺は確かあの折紙と言う少女と戦ったあとに確か)

『ミックス!オレンジスカッシュ!』 

二つのロックシードの力が合わさった矢が折紙を突き気絶させる。

すると、何処からともなく  

(誰か助けてあげてください!過去の私を!!)

と声が聞こえてくると同時に目の前にクラックが現れるので俺は

「任せろ!」

と言ってクラックの中に飛び込むと同時に意識が途絶えた。

(思い出した、俺はクラックに入ってそのまま意識が途絶えたのか。)

「ありがとな。助けてくれて」

とルフェイに礼を言うとルフェイは

「どういたしまして。」

と笑顔で言った瞬間、外で爆発音が聞こえるので俺は

「なんだ!?」

と立ち上がるとルフェイは「まさか!!」と呟き走って部屋を出ていくので俺は追いかけようとするが、その瞬間周りが光だすので目を瞑りに次に開くとそこには、一人の男性がいた。

すると、男性は

「やぁ、初めまして五河紘太、いいや葛葉紘太くん」

と言うので俺は

「あんたは一体?」

と聞くと男性は

「君の元いた世界で言うならば僕はこの世界の始まりの男さ♪」

と言って神秘的なオーラを放つ剣を構えるので俺も

「変身」

『フルーツバスケット!』

『ロックオープン!」

『極アームズ!』

『大·大·大·大·大·大将軍!』

仮面ライダー鎧武極アームズになって無双セイバーを召喚し構える。

「最初から極アームズとはね本気かい?」

「さぁ、どうだろうな?だが、同じ神の前で手加減は出来ない」

「まぁどっちでもいいや」

こうして始まりの男VS始まりの男の戦いが別世界で始まった。

-士道視線-   

紘太兄さんが消えた次の日

「·······そりゃそうだよな、普通に考えりゃ休校だよな·······」

士道は後頭部をかきながら、高校前から延びる坂道を下っていた。

普通に登校した士道は、ぴたりと閉じられた校門と、瓦礫の山と化した校舎を見て、自分の阿呆さに息を吐いた。

まさに校舎が破壊される現場にいたわけだし、普通に考えれば休校になることくらい推測できただろうが·····そのあまりの日現実的な光景に、無意識下で自分の日常と切り離して認識していたのかもしれなかった。

それに、昨日の夜ずっと十香との会話ビデオを見ながら反省会をさせられていたため、寝不足で思考力が落ちていたというのもあるかもしれない。

「はぁ·····ちょっと買い物でもしていくか」

ため息をひとつこぼし、家への帰路とは違う道に足を向ける。確か卵と牛乳が切れていたはずたったし、このまま帰ってしまうというのも何だった。だか、数分と待たず、士道は再び足を止めることになった。

道に、立ち入り禁止を示す看板が立っていたのである。

「っと、通行止めるか·····」

だかそんなものがなくとも、その道を通行できないのは容易に知れた。何しろアスファルトの地面は滅茶苦茶に掘り返され、ブロック塀は崩れ、難居ビリまで崩落している。まるで戦争でもあったかのような有り様だったのだから。

「ーああ、ここは」

その場所には覚えがあった。初めて十香にあった空間震の一角である。

まだ復興部隊が処理をしていないのだろう。10日前の惨状をそのままに残していた。

「············」

頭中に少女の姿を思い浮かべながら、細く、息を吐く。

ー十香。

昨まで、なを持たなかった、精霊と、災厄と呼ばれる少女。

昨日、前よりずっと長い時間会話をしてみてー士道の予感は確信に変わっていた。

あの少女は確かに、普通では考えられないような力を持っている。国の機関が危険視するのもうなずけるほどに。

今士道の前に広がる惨状がその証拠である。確かに、こんな現象を野放しにしてはおけないだろ。

「····ドー」

だけどそれと同時に、彼女がその力をいたずらに振るう、思慮も慈悲もない怪物だとは、到底思えなかった。

「······い、········ドー」

そんな彼女が、士道が大嫌いな鬱々とした顔を作っている。それが、士道にはどうしても許易できなかったのである。

「おい、シドー」

······まぁ、そんなことを頭の中にぐるぐる巡らせていたものだから、気づいて当然の事態に思考がいかず、校門前まで歩く羽目になってしまったのであるが。

「無視をするなっ!」

「―え?」

視界の奧―通行止めになっているエリアの向こう側からそんな声が響いてきて、士道は首を傾げた。

凜と風を咲くような、美しい声。

どこかで····具体的には昨日の学校で聞いたことのあるような声。·······今、こんなところでは、聞こえてくるはずのない、声。

「え、ええと―」

士道は自分の記憶と今し方響いた声音を照合しながら、その方向に視線を集中させた。

そしてそのまま、全身を硬直させる。

瓦礫の山の上に、明らかに町中に似つかわしくないドレスを纏った少女が、ちょこんと屈み込んでいた。

「と――十香!?」

そう、士道の脳か目に異常があるのでなければ、その少女は間違いなく、昨日士道が学校で遭遇した精霊だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 命を燃やすライダーの力。その名は、仮面ライダー鎧武ゴーストアームズ

今回は紘太が何故デート·ア·ライブの世界に転生した理由と紘太がもう一人の始まりの男と戦闘回パート1です。

ちなみに、オリジナルロックシードが出てきます。


――紘太視線――  

「くっ、」

俺は先ほどから何度も無双セイバーで目の前の始まりの男に斬り掛かっているが

「どうしたんだい?葛葉紘太くん君の力はこんなものかい?」

余裕な表情で持ってる剣でガードするので俺は

(この神に勝つにはやっぱりあれを使うしかないのか!?)

士道のいる世界に転生した時の事を思い出す。

――16年前――

「あぁ~いろんな人達や沢山の仮面ライダーに出会えて楽しかったな。」

と隣にいる舞に言うと

「私もよ紘太。私ね改めて今思った事があるの」

舞はと言い出すので

「何だ?舞」

と尋ねると舞は

「私達って神様らしいこと出来たのかしらね?」

と言って笑っているので

「さぁな、でも一つだけ言えることがある。」

俺は笑いながら言うと舞は

「何?」

と聞いてくるので俺は

「もう一度人生がやり直せるなら今度は誰もが笑顔で過ごせる世界を作りたい」

と言うと舞は驚いたのか数分目を見開いて

「そうね」

と呟き俺達は世界から消えた筈だった。

そして、次に目を覚ますとそこは何処か分からない花畑だった。

「ここは?」

すると、後ろから

「初めまして、別世界の神。いいえ葛葉紘太さん」

と女性の声が聞こえてくるので振り向くとそこには白い髪のショートカットの女性が椅子に座っていたので俺は

「貴方は一体?」

と聞くと女性は

「私の名前は月読。貴方と同じ神様よ」

と言って一つの黒いアタシュケースを俺の前に差し出し

「開けても良いわよ」

と言ってくるので黒いアタシュケースを開けて中を見ると

「これは!?」

俺は中に入っていた物に驚愕した。

すると、月読と名乗る神は

「――――――よ。いつか、貴方が覚悟を決めた時に使えるわ」

と呟くと俺に一つのロックシードと赤色の戦国ドライバーを渡してくる

「これは、私からの一人の少女へのプレゼント。――――――――って言う名前の子に出会ったら渡してくれない?」

と言って悲しみの表情をしていたので俺は

「分かった」

と言うと月読は

「ありがとね」

と言って目の前にクラックを出現させると

「じゃあね、――――のことお願いします」

と言うので俺は

「あぁ、任せてくれ」

と言ってクラックを潜りたどり着いたのが五河家だった。

――紘太視線――

(一か八か賭ける)

と黒いアタシュケースに入っていたレジェンドライダーロックシードの一つを取り出すと始まりの男は

「それは!?」

と驚愕していたので

「仮面ライダーゴースト力借りるぞ!!」

と呟いてゴーストロックシードのロックを解除する。

『ゴースト!』

そして、そのまま戦国ドライバーにセットして

『ロックオン!!』

「変身」

『ゴーストアームズ!命燃やすぜ!!英雄·ザ·ソウル!ハ·ハ·ハ!』

という音声共に俺は仮面ライダー鎧武ゴーストアームズになると無双セイバーとガンガンセイバーを構えて

「命燃やすぜ!」

と言って始まりの男に向かって走り出す。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。