バカと緋弾と武装探偵 (DJTAiGA)
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0弾 プロローグ

 ――空から女の子が降ってくると思うか?

 

 映画やアニメではいい導入かもな。

 それは不思議で特別な事が起きるプロローグ……

 

 ――なんて回想は今はどうでもいい!

 

 俺、遠山キンジは――

 現在進行形で危機的状況に瀕している。

 しかもそれは1つではなく3つ。

 それも、跳び箱の中で。

 意味がわからない。

 

 まずは落ち着け、落ち着いて今の状況を整理するんだ。

 

 まずはここが何処であるか。

 俺が跳び箱に嵌っている点。

 体育の授業で使うような道具が多数ある点。

 これらにより、ここは体育倉庫であると認識できる。

 

 次に3つの危機がどのようなものであるかの整理だ。

 まずこの場所の外。

 あの事件(・・・・)が夢でないのならそろそろ確実に追加攻撃……

 UZIが搭載されたセグウェイもしくはそれ以上のヤバイ何かが来るはずだ。

 これが危機その1。

 

 そして眼前。

 先ほど起きたとある事件。

 その影響で今だ気絶している女の子(可愛らしい下着丸出し)を抱っこしているようなこの状況。

 そしてあろうことか俺はその美少女の胸に手が触れてしまっている。

 多くの男からみれば羨ましい状況なのだろうが俺にとってこれは危機なのだ。

 さらに言えばこの状況が3つ目の危機の原因であると予想される。

 これが危機その2。

 

 そして3つ目の危機……

 ――今のところこれが一番厄介なんだ。

 

 俺が嵌った跳び箱から5メートル程離れたところにある同じ形容の跳び箱。

 そこに俺と同じように嵌っている俺の友人であるはずの人物。

 吉井明久は――

 

「死にさらせ! この変態ロリコン野郎!」

 こう言い放つのであった……

 

 俺が一体なにをしたと言うんだチクショウ!

 

      ☆

 

 空から女の子が降ってくる――

 

 それって魅力的な事だと思うんだ。

 それは不思議で特別な事が起きるモノレール……

 あれ? なんか違う? まぁいいや。

 主人公はその女の子の為に戦い正義の味方への道を進んでいくことになるんだろう――

 

      ☆

 

 ……パチ

 

 目を覚ます。

 それと同時に違和感を覚える。

 

 なんでこんな狭っ苦しいところで寝てたんだ?僕。

 まず、寝ていたにしては体制がおかしい。

 

 箱にお尻から嵌ったような感覚。

 その箱の感触は固く、質感からして恐らくこれは木材でできた箱だろうと予想する。

 

 というかそもそもここはどこだろう。

 とにかくまずは脱出しないと。

 

 上半身はかろうじて動く状況だったので何とか試行錯誤し謎の箱からの脱出を試みる。

 しかし中々抜け出せない。

 

 くそう、うまい具合に嵌っちゃってるなこれ。

 

 体を横にひねったり箱の端を持って体を持ち上げようとしてみたがうまくいかない。

 しかし脱出を試みて暴れてる間にカラーコーンやハードル、バレーボールなどが目に入った。

 それでここが何処だか理解する。

 

 体育倉庫だね、ここ。

 

 そうだ……

 確か自転車に爆弾が……

 

「う……っ。痛ッってぇ……」

 

 必死に先ほどまでの事を思い出していると少し離れた場所から声が聞こえた。

 今の声はキンジだな。

 

 あぁ、思い出した。

 一緒に登校してた時にあの事件(・・・・)に巻き込まれたんだった。

 変な嵌り方をした所為かキンジのいる方向は見えないけど取り敢えずお互いの生存確認の為に声をかけないと。

 

「キンジ、無事かい?」

「ぅぐッ……。吉井こそ無事か?」

 

 意思を伝えられる程度には無事らしい、まずはよかった。

 そして試行錯誤し続けたのが幸いしたのか少し嵌りが緩くなった。

 このまま抜け出せそうだ。

 徐々に体制を変え抜け出していく。

 そしてキンジの方を見ることが出来るようになったのでそちらの状況を確認しようと視線をキンジに向ける。

 そして目に入ったのは……

 

 跳び箱に嵌ったキンジand同じ跳び箱に嵌っている美少女(シャツ捲り上がり状態)

 

 ――ズガンッ!

 

 おっと、手が滑って発砲してしまった。

 

「おまっ! なんて事するんだ! この跳び箱が防弾じゃなきゃ当たってたぞ!」

「ごめんごめん、手が滑ったんだ」

「お前のM93Rは腋のホルスターにしまってあるはずだろ!」

「そんなことはどうでもいいんだよキンジ、その女の子の状況について説明を求めるよ。 そのシャツは君ががめくったのか!」

「ち……違うッ! これは偶然だ!」

 

 そんな羨ましい偶然があってたまるか。

 ともあれいきなり発砲するのはよくないよね。

 まずは無駄だとしても言い分を聞かなきゃ。

 

 ――チャキ。

 

「おいまて、なんで銃を構え直してるんだ」

 

 おっと、また手が滑るところだった。

 ひとまず僕に攻撃の意思はないと伝えなきゃね。

 

「犯罪者に命は必要ないと僕は思うんだ」

「まてまてまて! 誤解だと言っているだろ! それにそれは武偵法違反だ!」

 

 武偵法?『仲間を信じ仲間を助けよ』って奴だっけ?

 そんなの今は関係ないじゃないか、僕は犯罪者と仲間になったつもりはないからね。

 他にも9個ほどあった気がするけどどうでもいいや。

 

「吉井、恐らくお前が今考えているのは武偵憲章だ。武偵法とは違う」

 えっ、あれ? そうなの?

 武偵法ってなんだっけ?

 てかなんでキンジは僕の考えていることが分かったの?

 って、危ない危ない、気を逸らされるところだった。

 これが誘導尋問って奴か......キンジめ、やるじゃないか。

 だけど残念ながら僕には通用しない!

 観念しろキンジ!

「と……取りあえず俺もこの跳び箱から抜け出す! だから一旦落ち着……」

 僕の様子を察知したのかキンジは慌てて抜け出そうとし──

 

 ――フニュッ

 

「「・・・・・・・」」

 

 キンジは触れた。

 まだ幼いであろう少女の胸に……

 これを犯罪と言わずなんというのか。

 

 ――死刑確定だ、遺言も聞かず殺してやる。

 

「死にさらせ! この変態ロリコン野郎!」

 

     ☆

 

 そもそもなぜこんな事になっているのか、それは1時間前から始まったある1連の出来事が原因だった……

 




自分の文章力のなさを呪いたい。
とりあえずそれぞれの原作の文章に似せるために1巻から読み直してきます。


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1弾 始まりの朝

お気に入り登録してくださった方々ありがとうございます!


 ……ピン、ポーン……

 

 慎ましやかなドアチャイムの音で目が覚めた。

 ……いけね。

 どうやら僕は昨夜ゲームの途中で寝落ちしてしまったらしい。

 部屋の時計で時刻を確認すると――午前7時。

 

(……こんな朝っぱらから誰だろう)

 

 まぁ今のチャイムの鳴らし方で大方想像は付くよね。

 キンジも羨ましいよ、あんな可愛い子が幼馴染だなんて。

 取りあえず起き上がりキンジと同居しているマンションの部屋を渡り……ドアの覗き窓から来訪者を確認する。

 

「やっぱり星伽さんか」

 純白のブラウス。臙脂色の襟とスカート。

 武偵高のセーラー服を着て、漆塗りのコンパクトを片手にせっせと前髪を整えている。

 うわぁ、分かりやすいなぁ。

 恐らく同居人のキンジを意識してのことだろう、なんだかあいつに殺意が沸いてきた。

 おっと、そろそろ開けてあげないとね。

 

――ガチャ

 

「おはよう星伽さん」

「キン……あっ、吉井君おはようございます!」

 

 一瞬僕の顔を見てガッカリしたのか曇り顔になったが次の瞬間には笑顔になって僕に挨拶を返してくれた。

 いい子だなぁ……

 出会った最初の頃は人見知り具合にてこずったけど慣れてしまうととてもいい子だった。

 ますますキンジに殺意が沸いてきたぞ。

 

「こんな朝っぱらから玄関で何をしているんだ吉井げっ……白雪」

「キンちゃん!」

 どうやら目を覚ましたらしいキンジが眠そうな目を擦りながらやってきた。

 それを見た星伽さんは、ぱぁっっと顔が明るくなる。

 星伽さんの前だし僕の殺気を読み取られないよう普段通り挨拶しよう。

「おはようキンジ、最後の朝の気分はどうだい?」

「あぁ、おはよう。 その殺意丸出しの挨拶はギャグか?」

 

 おっと殺気は隠せても殺意は隠せなかったようだ。

「とにかくその銃をしまって殺気を放つのをやめてくれ……心臓に悪い」

 どうやら殺気どころか武器も表に出てしまっていたらしい。

 まぁ良い取りあえず今はこの辺にしておこう。

「ところで白雪、こんな朝早くから何しにきたんだ?」

「そういえばそうだね、何か用事でもあったの?」

 リビングへと案内しながら訪ねてみる。

「あっあのね……! キンちゃんの為に朝ごはん作ってきたの。いつもは吉井君が作ってるんだろうけど今日は始業式だしもしものことがあるかも……と思ってね。よければ吉井君もどう?」

 星伽さん、君はエスパーか何か?

 まさか僕が長期休暇で生活リズムが狂っているのを見抜かれるとは……

 なにはともあれ。

「助かるよ星伽さん、仰る通り今日は寝坊しちゃってたんだ」

「うん、じゃあ準備するね」

 そうして星伽さんは星座をすると持っていた和布の包みをほどいていく。

 そこから出てきたのは漆塗りの……重箱?

 星伽さんはそれを机に置き蓋を開ける。

「こ……これ星伽さんが作ったの……? 朝から?」

 程よく火入れされた卵焼き、銀鮭、西条柿、エビなんかも入ってる。

 なんだろう、僕も料理には自信があるんだけど敵う気がしない。

「作るの大変だっただろ?」

「う、ううん、ちょっと早起きしただけだよ」

 いや、とてもじゃないがこれはちょっと早起きしただけで作れる代物ではない。

 キンジに対する愛故だろう。死ねキンジ。

 まぁ学校に着いたら異端審問会にかけてやるとして今はこの豪華な朝食をありがたくいただくとしよう。

 

「お……おいしい」

「やっぱ和食で白雪に敵うやつはいないな」

 見た目もさながら味も絶品、完全敗北だ。

「白雪、その……ありがとな」

 キンジが礼を言うなんて珍しいこともあるもんだ。

「えっ。あ、キンちゃんもありがとう……ありがとうございますっ」

 そういって星伽さんは三つ指を付き、美しい座礼をした。

「なんでお前がお礼をするんだよ」

「だ、だって、キンちゃんが食べてくれてお礼を言ってくれたから……」

 どんだけ思われてるんだキンジは。

 これは有無を言わさず有罪だ。隙を見せたら背後から射殺してやる。

 そんなことを考えているとキンジが何かから慌てて目を逸らした。

 なんだろう。

 キンジが目を逸らす前の場所を確認してみる。

 するとそこには……

 

 ――黒………だと!?

 

 座礼をしている星伽さんのセーラー服、その胸元には深ぁーい谷間が覗いており、高校生ならぬ黒のレース下着が……!

 

「「ご、ごちそうさま!」」

 僕とキンジは慌てて星伽さんから離れて学校へ行く支度を始める。

 僕も然りだが、こういう時のキンジはいつもやけに慌てる。

 なにかあるのだろうか。それともただのムッツリ?

 そう考えながら防弾制服(・・・・)に袖を通していく。

「はい、二人とも拳銃も忘れないようにね」

 そう言って星伽さんは僕のM93RとキンジのM92Fを持ってきて手渡す。

「始業式ぐらい拳銃持ってかなくていいだろ」

「だめだよキンちゃん、校則なんだから」

 

『武偵高の生徒は、学内での拳銃と刀剣の携帯を義務づける』

 

 最初こそはこの校則に驚きを隠せなかったけど、もう1年もこの学校に通ってたとなるといい加減なれちゃったよね。

 自分の身は自分で守らなきゃだし持って行くことに抵抗はない。

 星伽さんから受け取ったM93Rを腋のホルスターにしまう。

「それに、また『武偵殺し』みたいなのが出るかもしれないし」

「武偵殺し?」

 ってなんだっけ?

「ほら、あの、年明けに周知メールが出てた連続殺人事件のこと」

 そんなのいたっけ。

「でもあれは逮捕されただろ」

 キンジは知っているらしい。あれ、僕が知らないだけ?

 そんな僕だけが置いてきぼりになり会話は進んでいく。

「で、でも模倣犯が出るかもしれないし、キンちゃんの身に何かあったら私……ぐすっ」

「わかったわかった、ほら、これで安心だろ?」

 そういってキンジは拳銃とバタフライナイフを装備する。

「キンちゃんかっこいい……『正義の味方』って感じだよ」

「やめてくれ、ガキじゃあるまいし」

 そんな会話を聞きながら僕も準備を進めていく。

「さて、準備も整ったし行くか……といいたいんだがPCでメールのチェックをしていきたい、吉井と白雪は先に行っててくれ」

「あ、僕も洗濯ものを干して行きたいからもう少し残るよ、星伽さんは先に行ってて大丈夫だからね!」

「あ、じゃあ私も何か……」

「いいって、朝ご飯もごちそうになったのにそんな」

「うん……わかった、じゃあ先に行ってるね」

そうして星伽さんを見送り、僕は洗濯ものを干す作業にかかる

 

     ☆

 

 ――まずい。ゆっくりしすぎた。

 時刻は7時55分。

「あ、やばいな……バスに間に合わない」

 キンジもPCでだらだらしてたらしく、今気づいたようだ。

「仕方ないね、自転車で向かおうか」

 

 こうして僕らはそれぞれの自転車で学校に向かう。

 

 

 今思えばこの7時58分のバスに乗り遅れたのは運命のいたずらだったのだろうと痛感する。

 このバスに乗り遅れたからこそ、僕たちは幸か不幸かあの少女に出会ったのだ。

 僕たちの運命を大きく変える、空から降ってきた少女――

 

 神崎・H・アリアに……

 

 




今のところの登場人物は
キンジ、アリア、白雪、明久だけですね...
徐々にお馴染みのキャラ達を出していくのでお楽しみに!
次のお話でバカテスお馴染みのあの人達を出せるところまで行けたらいいなぁ~と考えてます。
明久×優子展開はまだまだ先になりそうです...


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2弾 チャリジャック

「その チャリには 爆弾 が 仕掛けて ありやがります」

 

 朝、僕たちはなんでだらだらと過ごしてしまったんだろう。

 その結果がこれだよまったく。

 

「チャリ を 減速 させやがったり 降りやがると 爆発 しやがります」

 

 僕らの後方にはセグウェイという乗り物が併走していた。

 この間抜けなしゃべり方の主もこのセグウェイに取り付けられたスピーカーかなにかだろう。

 そして問題なのはそこじゃない。

 このセグウェイ、厄介なことに自動銃座が取り付けられている。

 銃の種類はUZI

 秒間10発の9mm弾をぶっ放すサブマシンガン。

 つまりこれは……自転車ジャック?

 なんだそのバカみたいにしょぼいテロは。

 だけど実際に起きているわけで……

 

「キンジ! これってなにさ!何が起きてるのさ!」

「知るか! わかることは最大級のピンチだってことだ!」

「そんなことは誰でもわかるよ! というか爆弾!? どこにさ!」

「こういう時仕掛けられるとしたら普段目につかない場所だ! サドルの下とかに仕掛けられてるかもしれん!」

 

 頭パニックだが取りあえず状況を把握しないことにはどうしようもないので言われた通りサドルの下を探ってみる。

 すると爆弾と思われる物体は――ない。

 

「僕のサドルの下にはないみたい! 他に考えられるところは……キンジ?」

 

 キンジも同様にサドルの下を探ったようだが様子がおかしい……まさか。

「キンジ? ひょっとして……」

「あぁ……ある、タイプまではわからないがC4、プラスチック爆弾だ。しかもこのサイズ、チャリどころか車でさえ吹っ飛ばすぞ……」

 

 なんだって!? 本当に爆弾が仕掛けられているだって!?

 さらに頭はパニックになる。

 どうすればいいんだ、くそっ、まずは助けを……

 僕がポケットからスマホを取り出そうとすると。

 

「助けを 求めやがったり 携帯 を 使用しやがると 爆発 しやがります」

 

 畜生! やっぱダメか!

「吉井、お前は離れろ、恐らくターゲットは俺一人だ」

「そんなことできるわけないよ! 友達を見捨てるなんて!」

「バカヤロウ、そうじゃない、離れれば助けを呼ぶことも可能だろうが、俺一人だったら助けを呼びに行くことも出来なかった。今は吉井だけが頼りなんだ」

 

 バカか僕は、そうじゃないか、キンジはこんなところで死ぬわけがない。

 見捨てるんじゃない、互いに信じて出来ることをするんだ。

 『仲間を信じ、仲間を助けよ』

 いくら頭が悪くても、これだけは忘れるもんか!

 

「わかったよキンジ! 助けを呼んでくる! なんとしてでも助けるよ!」

「あぁ、俺は今から第二グラウンドの方へ向かう、そっちのほうが人気も少ないだろうし安全だ。あと吉井、念の為お前のスマホは使うな、電波が読み取られてるかもしれん」

 

 そういってキンジはスピードを少し上げる。

 ここで二手に分かれようという合図だろう。

 そして僕は次の交差点をキンジとは逆の左に曲がった。

 早く人を探さないと……!

 

     ☆

 

 キンジと別れた僕は始業式の行われる体育館に向かっていた。

 恐らくそこには武偵としての仲間、助けを求められる人がたくさんいるはずだ。

 だが体育館はまだ少し遠い上に第二グラウンドからも離れている。

 そこへ行くまでになんとか人を見つけたい。キンジの体力も無限じゃない。

(くそっ! 誰かいないのか!)

 だが運が悪いことになかなか人が見つからない。このままでは――

 

 そして、見つけた。

 赤髪でツインテールの女の子を。

 武偵高のセーラー服……だけど背が小さいような?中学生?

 まぁいい、今は猫の手でも借りたい気持ちだ。

 

「君! 大変なんだ! 助けてほしい!」

「え、何どうしたの?」

 

 息を切らしながらその子に追いつく。

 まずは状況を簡潔に伝えないと!

 

「爆弾の友達が今自転車で第二グラウンドに!」

「は?」

 

 なにを言ってるんだ僕は!

 焦りすぎてて説明になってないじゃないか!

 ほら、この女の子にもかわいそうな目で見られてるよ!

 

「はぁ、まずは落ち着きなさい、武偵たるもの状況説明は落ち着いた状態で正確にね」

 

 こんな小さな子に諭されてしまうなんて情けない……だけど今は落ち込んでいる暇なんてない。言われた通り落ち着いて説明しないと。

 そして僕は現在起きている事件をなるべく簡潔に説明した。

 

「なるほどね、理解したわ」

「じゃあ早く教務科に連絡を――」

「そんな悠長な暇はないわ、行くわよ」

「え……行くってどこに?」

「決まってるでしょ」

 

そしてこの女の子はさも当然かのように言い放つ。

 

「あんたの友達を助けに行くのよ」

 

 

 

 

 

 




全っ然話が進みませんでした。
文字数も少ないですが区切りがいいので一旦切らせていただきます。
続きは明日投稿しますので話が進まなかったことをお許しください。


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3弾 La bambina da l'ARIA

UA1000突破ありがとうございます。
地道に頑張っていきます。


「ねぇ! 助けに行くってどうするのさ!」

「ゴチャゴチャうるさいわね、今はとにかく全力で漕ぎなさい」

 僕らは今第二グラウンドの方に向かって全力で自転車を漕いでいる。

「ちょっと、こんなスピードじゃ間に合わないかもしれないじゃない。あと仮にも私を乗せてるんだからもう少し安全運転に心がけて」

「無茶振りだ!」

 訂正、全力で漕いでいるのは僕だけだ。

 この子は一体何なのだろうか。

 この子に助けを求めたのは間違いだったかもしれない、という不安に煽られながらも何気に自転車で女の子と二人乗りをするのは初という嬉しさも合わさって良くわかんない感情に陥っている。

「ん、第二グラウンドが見えてきたわね、思ったより早いじゃない。褒めてあげる」

 本当になんでこんなに偉そうなんだ。

 確かに助けを求めたのは僕だけど僕ってこんな小さな子に下に見られてるの?

 いや、今はそんな事よりキンジを助けなきゃ。

 第二グラウンドにもうすぐ着く。

 爆音などが聞こえなかったことを考えるとキンジはまだ無事と考えていいだろう。

 だがキンジの姿が見えない。

 僕らより先に向かったはずなのにどうして?

「あんたの友達、どうやら人気のないところをひたすら回ってるっぽいわ、多分私たちが到着する時間を見越して時間稼ぎをしてるんだと思う。なかなか優秀よ」

 僕もわかっていたよ、うん。

「それで、こっからどうすればいいのさ、助ける手段があってここまで来たんでしょ?」

「アンタはもう何もしなくていいわ、足手まといだから」

 なんでだろう、涙が出てきた。

「じゃあアンタはここで待機してて、私は救助に向かうから」

 そういって少女は第二グラウンドに隣接している施設、その中でも一番高いビルに向かって走っていった。

「あっちょ! ……行っちゃったよ」

 

あの子は一体何者なんだろうか。

 

      ☆

 

「足がもう限界だ!」

 吉井は助けを呼ぶことはできたのか!?

 体力ももうない、吉井を信じて第二グラウンドへ行くしか……!

 ――俺は、ひたすら走り、走り、第二グラウンドへ向かっていく。

 金網越しに見たグラウンドにはいつも通り人はいない。

 だがグラウンドの端の方、体育倉庫側に一人だけ見知った人物がいた。

「吉井! 助かった!」

 俺はそこにいた吉井を見て安堵し思わず叫んでしまったが違和感に気づいた。

 吉井一人だけ……?

 おかしい、俺は助けを呼んでこいと言ったのだ、だが吉井以外に人はいない。

 失敗……したのか?

 いや、最後まであきらめるな、アイツはバカだがここにいるという事は何か策があるとみていいのだろう。

 今はそれに懸けるしか……

 そう考えた瞬間――

 

「上だ! キンジ!」

 

 吉井が俺に対し、第二グラウンドに隣接するビル(たしかあれは女子寮だ)の方向を見るよう促してきた。

 なんだ、一体。

 チャリを漕ぐ足は止めず、促されるままにそちらを向く。

 そして俺はありえないものを見た。

 女子寮の屋上の縁に女の子が立っていたのだ。

 遠目にもわかる長いツインテールを靡かせ、屋上から飛び降りた(・・・・・)

 その女の子はそのままパラグライダーを開きこちらに向かってくる。

 そして――

「そこのバカ! さっさと伏せなさい!」

 ――ズガガガガンッ!

 一瞬でUZI搭載セグウェイを破壊してしまった……

 拳銃での交戦距離は通常約7m。

 彼女からセグウェイまでの距離はおおよそ20mはあった。

 しかも彼女はパラグライダーという不安定な状況での射撃だ。

 あんな凄いやつ、うちの学校にいたか……?

 吉井の方を見るとアイツも唖然としていた。

 そしてその女の子はどんどんこっちに迫ってきている。

「おいっバカ! こっちに来るな! このチャリには爆弾が――」

「知ってるわよそんな事! 『仲間を信じ、仲間を助けよ』これを守らずしてどうするの! いくわよ!」

 

 ……いくわよ?

 

「ま、まて! 何をする気だ!」

 

 少女はまったく聞く耳持たず次の行動へ移る。

 そして――ぶらん。

 さっきまで手で引いていたブレークコードのハンドルに足を突っ込み逆さ吊りの状態になった。

 そのままもの凄いスピードで突っ込んでくる。

「まじかよ」

 意図は理解したが、いや、理解できてないが……

 やるべきことはわかった。

 俺も全力で漕ぎ、チャリをなるべく遠くまで飛ばせるように仕向ける。

 ってちょっとまてこの角度――!

 このまま俺がこの少女につかまり後ろに逸れたら……

 吉井に――ぶつかる!

「ちょっと後ろのバカッ! なにやってるのどきなさい!」

「へ? え? 僕はどうなるのこれ、どうすればいいの!」

 だが、もう遅い。

 俺と少女はどんどん距離を詰めていき、上下逆のまま抱き合う形になった。

 そして。

「ぶべぇっぶぅ!」

 間抜けな声を上げるバカにもぶつかり――

 

 ドガァァァァアアアアアアアン!

 

 閃光と轟音、続けて爆風。

 爆弾はやはり、本物だった――!

 熱風に吹っ飛ばされ、俺たちは三人共々体育倉庫へと突っ込み……

 俺の意識は、途絶えた。

 

      ☆

 

そしてプロローグへと話は繋がる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
チャリジャックでアリアが助けに来るシーンに明久を加えることで「アリアはどうしてあそこにいたのか」という疑問を拭ってみました。(僕がしっかりと読み込んでないだけでちゃんも理由は描写されていたかも?)
更新遅れた件は申し訳ありません。
書き溜めをし、次々回でようやく3人以外のキャラが登場することが分かりました。
順次上げていくのでよろしくお願いします。


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4弾 7つの銃声

 時間はプロローグ後まで進み……

    

     ☆

 

「死にさらせ! この変態ロリコン野郎!」

「待て! 本当に誤解なんだ! 俺はただこの子の捲れ上がったブラウスを直そうとしただけなんだ!」

 

 この期に及んでまだ誤解だというのかコイツは。

 確かに、跳び箱に二人同時に嵌るまでなら有り得ただろうね。

 だが! コイツは! あろうことか揉んだのだ!

 まだ中学生、いや小学生ともとれる女の子の胸を!

 つまりキンジは実はロリコンであり、たった今犯罪を犯した。

 よって有罪! 死刑! 閉廷!

 

「バイバイキンジ、君はもっとまともな奴だと思っていたよ……」

「まて、なんで最後の言葉を俺に投げかける。おい、銃を下ろせ正気か!」

 

 僕が引き金を引くその瞬間。

 

「……へ……へ……」

「――?」

「ヘンタイ!!」

 

 突然聞こえたそれは、アニメ声というか、すごく幼い声だった。

 その顔でそのかわいい声は反則級だと思う。

 だけど僕には聞き覚えがあった。キンジを助ける為にこの子を呼んだのは僕だったからね。

 

「さっ、さささっ、サイッテー‼」

 

 そういいながら少女、神崎・H・アリア(名札が見えた)はブラウスを戻しキンジに向かって力が入っていないハンマーパンチを落とし始めた。

 そんなんじゃ生ぬるいから銃で撃ってやれ!

 

「おい、やっ、やめろ!」

「このチカン! 恩知らず! 人でなし!」

「アホキンジ! ネクラ! 女垂らし!」

「て、てめぇ吉井! ま、混ざんな! いてっ、だっ、だからやめろ! 俺は何も、してな……」

 

 ちぃっ! 僕のさりげない罵声がばれたか。

 そんな事を考えていると……

 ――ガガガガガガンッ‼

 突然の轟音が、体育倉庫を襲った。

 ――えっ?何が起きた?

 キンジとアリアちゃんが嵌っている跳び箱から火花が上がったのも見えた。

 まるで銃で撃たれたみたいな……

 

「うっ! まだいたのねっ!」

「『いた』って、何がだ!」

「もしかしてさっきのセグウェイ!?」

「そうよ!『武偵殺し』のあのオモチャ!」

 てことは今のは、まるで、じゃなくて本当に銃撃だったの!?

 跳び箱が防弾じゃなかったらキンジ達は……ていうか僕も死角に立ってなかったら危なかったんじゃ……

 とっ、とりあえず応戦しないと!

 僕は手に持っていたM93Rをしっかりと構え直す。

「あんたも! ほら! 戦いなさいよ! 仮にも武偵高の生徒でしょ!」

「むッ、無理だ! 少なくとも今の(・・)俺では応戦できない!」

「向こうは7台いる! 少しでも手があったほうがいいわ!」

 

 確かに今のキンジでは無理だと思う。だけどあの時の……受験の時みたいなキンジなら……

 キンジは時々、とんでもない力を発揮することがあるんだ。

 でもそれがどんな状況でなるかは分からない。

 だから今それに頼るのは止めたほうが方がよさそうだ。

 わずかな可能性にかけてちゃ今ここで死んでしまうかもしれない。

 ここは僕がやるしか――!

 そう考え飛び出そうとした瞬間予想外の事が起きた。

 

 ババッ! バババッ!

 

 キンジとアリアちゃんの方から銃撃の音が聞こえたのだ。

 すぐさまそっちを見るとアリアちゃんが跳び箱から腕だけを乗り出して2丁の拳銃を構え応戦していた。

 

 キンジに胸を押し付けて。

 

 あれ、僕の攻撃対象ってあのどうでもいいセグウェイなんかよりこっちなんじゃないか?

 アリアちゃんが一先ず銃撃を終えキンジから身を離すと同時に僕はキンジを撃つ体制に入った。何度目かわからないけど死ねキンジ!

 

「――やったか」

 

 ……!

 この、感覚……この声の感じ……まさか。

「射程圏外に追い払っただけよ。ヤツら,並木の向こうに隠れたけど……きっとすぐまた出てくるわ」

 アリアちゃんはまだ気づいていないけど、これは……

「強い子だ。それだけでも上出来だよ」

「……は?」

 このキザったらしい喋り方、クールな感じ……間違いない。

 これはあのキンジだ。

 アリアちゃんはいきなり何いってんだコイツとなっているが無理もない。

「きゃっ‼」

 キンジはそんなアリアちゃんの足と背中を持ち上げ軽々とお姫様抱っこしてしまう。

「ご褒美に、ちょっとの間だけ――お姫様にしてあげよう」

 そんなことを言われ、アリアちゃんは一瞬で耳まで真っ赤になっていた。

 なんだろう、ものすごくむかつく。

 だけど今のキンジに僕は勝てない。

 強すぎるんだ。このキンジは。

 そんなキンジはアリアちゃんを積み上げられたマットの上に……ちょこん。

 お人形みたいに座らせていた。

「な、なに……?」

 アリアちゃんは先ほどからの急展開続きに困惑しているようだ。

 

「姫はその席でごゆっくり。あとは俺がなんとかするよ」

「あ……あんた……どうしたのよ‼ おかしくなっちゃった?」

 

 そしてキンジはUZIの射撃線が交錯するドアの方へ向かっていく。

 

「あ、あぶない! 撃たれるわ! そこのアンタもなに黙ってみてるのよ! 友達が撃たれちゃうわよ!」

 アリアちゃんが僕に向かってそんな事を言ってくるけど、僕は確信している。

 

「大丈夫だよ、今のキンジは、誰にも負けないから」

「その通りだよアリア、今の俺は誰にも負けない、それにアリアが撃たれるよりずっといいさ」

「はぁっ⁉ だから! さっきからなに急にキャラ変えてるのよ! そっちのバカが言ってることもよくわかんないし! 何する気なの!」

 僕の扱い酷くない?

 

「アリアを、守るのさ」

 僕の思考も関係なしにキンジは銃を抜く。

 マットシルバーのベレッタ・M92F

 僕のM93Rと同じ会社のハンドガン。

 その銃を構え、ドアの外へ身を晒す。

 その瞬間7台のUZI搭載セグウェイがキンジに向けて射撃を開始した。

 だがその次の瞬間には――

 ズガガガガガガガンッ!

 

 7つのUZIそのすべてが破壊されていた。

 正直何が起きたのかわからなかった。だけど

 今キンジから聞こえたのは7回の銃声だった。

 つまり、たった7発ですべてのUZIを破壊した。

 そのとんでもない事実だけは理解できた。

 

 ほんとうに、このキンジは化け物だ……

 

 

 

 

 

 

 

 



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5弾 徒手格闘

 キンジがセグウェイを破壊した後の事。

「恩になんか着ないわよ、それに、さっきの件をうやむやにしようったって、そうはいかないんだから! あれは強制猥褻! レッキとした犯罪よ!」

「それは悲しい誤解だよ、アリア、あれは不可抗力って奴だ。理解してほしい」

「不可抗力ですって? 嘘言わないで! だって、あ、あんた……」

 

 アリアちゃんがみるみるうちに真っ赤になっていく恥ずかしさと怒りが合わさった様な表情でキンジを睨み付けている。

 

「あ、あたしが気絶している隙に、ふ、服を、ぬ、ぬぬ、脱がそうとしてたじゃない! それに、む、むむむ、胸、見てたぁああああ! これがどうやったら不可抗力って事になるのよ!」

「そうだ! キンジ! 犯罪者は大人しくお縄につけ!」

「あんたも同罪よ! どうせ黙って一緒に見てたんでしょ!」

 

 ……え?

 

「いやいやいやまってよ! 僕はむしろキンジを止めようとしてたんだよ!?」

「でも! 見てたのは事実! 止められなかったのなら同じ!」

「横暴だ!」

「よしアリア、冷静に考えよう。いいか。俺たちは高校生、中学生を脱がしたりするわけないだろう? 年が離れすぎだ」

「そ、そうだよアリアちゃん! コイツはともかく僕にそんな趣味はないよ!」

「おい」

 

 この言い分ならアリアちゃんも納得してくれるはず……

 あれ? なんか怒ってない?

 涙目になって僕たちを睨んでるんだけど。

 あ! もしかして!

 

「ひょっとしてインターンで入ってきた小学生⁉ ごめん! 気づかなかった! でもすごいよ! その年であんな立ち回りが出来るなんて!」

 

 女の子は実際より年上にみられると怒っちゃうからね! 

 よくやった僕! ナイスフォロー……

 あれ、なんか更に怒って……

 

「アンタ達なんか……助けるんじゃ、なかった!!」

 ズガガン!!

「うおっ!」

 え? 何が起きたの?

 僕とキンジの足元に2発の銃跡……

「え?」

 撃ったの⁉ うそでしょ⁉

 

「 あ た し は 高 2 だ !!」

 

 アリアちゃん……アリアさんが銃を向け直してきた。

「うわ! 待って待って!」

 

 あ、ヤバイこれ死ぬかも。

 なんて思ってたらキンジがアリアさんに飛びついていた。

 ――ズガンズガン!

 キンジはアリアさんの両腕をつかみ銃弾を背後の床に逸らす。

 キンジがあの状態で助かった!

 普段のキンジだったら今頃二人とも床をのたうち回っていただろう。

「――んっ――やぁっ!」

 

 今度はキンジを投げた! 徒手格闘も出来るのか!

 しかも今の……ひょっとして僕より(・・・)……

 

「逃がさないわよ! あたしは逃走犯を逃がしたことは一度も! ない! ……あれ? あれれ?」

 

 いつの間にかキンジは体育倉庫の外に出ていた。

 そして先ほど取っ組み合いになったときに掏り取ったと思われる弾倉を見せびらかしながら……

「ひょっとして探してるのはこれかい? ごめんよ」

 そんな事を言って弾倉を明後日の方向へ投げ捨てた。

 

 ってやばいやばい、このままだとキンジだけが逃げる未来が見えた。

 僕もこっそり……

 

「もう許さない! アンタ達二人! 跪いて謝ったって許さないんだから! ってアンタも何逃げようとしてるのよ!」

 ばれた。

「おいおい吉井、背後からこっそり逃げるなんて、男としてどうなんだろうな?」

 くそう! キンジめ!

 君だって普段の状態ならそうする癖に!

 だけどここは仕方ない!

 ――ダンッ!

 僕は地面を強く蹴りアリアさんの方向へ突進する。

「舐められたものね! さっきの投げを見てなかったの? あたしは格闘術も出来るのよ!」

 アリアさんは素早く僕を掴みにかかろうとしてくる。

 恐らくさっきの投げから見るにこの子の格闘スキルはバリートゥードだ。

 それなら!

 ――僕はアリアさんの手をいなすように躱していく。

 状況的に肩や腰あたりに手を触れさせてしまうけど、掴まれる事は……ない!

 体を上下左右あらゆる方向にひねりながらアリアさんの掴もうとする力を体の外側へと、逸らしていく。

「――っ」

 違和感に気づいたアリアさんが僕の腹部あたりを狙った膝蹴りも織り交ぜてきたけど、それも僕は体を左に逸らし、躱す。

 そしてついには。

 アリアさんの背後にまで回ってしまう。

 

「ゴメンアリアちゃ……アリアさん! 必ずお詫びとお礼はするから!」

 僕は銃や刀剣系の扱いは苦手だけど……徒手格闘には自信があるんだ。

 今はあれの力(・・・・)は使わなかったけど、これくらいの芸当なら出来る!

 もっともアリアさんが油断してなかったらどうなっていたかわからないけどね。

 僕はキンジがばら撒いたであろう銃弾を避けながら走って体育倉庫から離れる。

 

「ま、まちなさい!」

 アリアさんはセーラー服の背に手を突っ込み二本の刀を引っ張り出してきた。

 刀も扱えるの!?

「強猥団は神妙に――っわぉきゃ!」

 アリアさんは僕たちに向かってこようとしてキンジのばら撒いた銃弾ですっころんだ。

 冷静さを欠くとあんな罠にも引っかかっちゃうんだね……

「ってうわぁ!」

――ズデン

「痛い! だれだよこんなところに銃弾ばら撒いたの!」

「お前が引っかかってどうすんだ」

 まったくこんな神妙な罠を仕掛けるなんてひどい奴だ。

「まちなさ……みゃおきゃっ!」

 アリアさんは立ち上がろうとして弾を踏んでこけてのループに陥っていた。

 僕は何とか銃弾を避けて立ち上がりキンジの後ろについて逃げる。

 

「この卑怯者共! でっかい風穴! 開けてやるんだからぁ!!」

     

        ☆

 

 まぁ色々あったわけだが、これが俺たちの、なんとも言えない壮絶で最低最悪の出会いだった。

 そして――

 

「先生、あたしアイツの隣に座りたい」

「んなっ!」

 

 ここまでくると何かの陰謀なんじゃないだろうか。

 他の学校とかだとこのまま

『どういうことなの!』『どういう関係なの?』『ひょっとして2人は!?』

 とかいう意味のわからん質問攻めに遭うだけだがここでそれは……!

 

「「これより、異端審問会を開く」」

 

 死を意味するものなんだ!



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6弾 特例

「これより、異端審問会を始める」

「おい! まて! お前らいつの間にそんな服装になったんだ! つか何故俺を縛ろうとするんだ!」

 

 あー、これはキンジ死んだね。

 ざまぁ見ろ。

 

 あの一連の自転車ジャック事件の後、僕たちは結局始業式に出られず鬼教官の鉄人に説教を喰らいそうになったけど、事件の事を報告し、その難は逃れ、新しくクラス分けされたAクラスに向かった。

 どうやらキンジもAクラスだったらしく、一緒に中に入ると、アリアさんが開口一番、キンジを指しして『アイツの隣に座りたい』と述べたわけだ。

 当然、うちのクラスが許すはずもなく……ってあれ?

 今日始業式でクラス分けだよね?

 なんでFFF団がうちのクラスにいるの?

 この人達どっから湧いてきたの?

 僕たちは1年生の時、Fクラスに割り当てられていて、そのFクラスの中でモテない男達が『血の盟約』を結んで結成されたのが『FFF団』だ。

 しかし、今日は始業式でクラス分けがされる。

 つまり団員はバラバラになっているのが普通なのに……

 

「よぉ明久、そのバカ面は2年になっても健在だな、ていうかお前が2年になるまで生きてるなんて思わなかったぜ」

 

 このムカつく挨拶を交わしてくるバカは強襲科の坂本雄二、僕の『いつか事故を装って殺してやるリスト』の一番最初に載っている人物だ。

「やぁ雄二、君こそそのゴリラ頭でよく生き残ってるね」

 生きる死ぬっていうっていうのはこの武偵高では挨拶みたいなものだ。

「あ?」

「あぁ?」

 だけど僕は雄二に対しては冗談じゃなく本気で言ってるよ、うん。

 雄二は今まで僕に対して散々ひどい仕打ちをしてきたからね。

 それに、この頭脳明晰、超絶美男子の僕に向かってあんな事を言うなんて許せるわけないじゃないか。

 

「お前……相変わらずだな……」

 さっきのさっきまでにらみ合っていたはずの雄二が急に冷めた感じになった。

 あれ、なんでそんなに可哀想なものを見る目なの?

 

「お主らは変わらんのう」

 そう言ってきたのは学校一の美少女、木下秀吉だ。ちなみに諜報科、普段から表情に感情があまりでない上に演技力、変声力がすさまじいので諜報科で活躍している。

「なんども言うがワシは男じゃぞ……?」

「まったまたぁ、冗談はよしてよ!」

「いや……はぁ、もうよい……」

 溜息をつく姿もかわいいなぁ。

 

「明久、今最悪に気持ち悪い顔してるぞ」

「おらぁ!」

――シャッ!……ギィイイン!

「おま! いきなり何すんだ!」

 

 くそう! ナイフでの不意打ち程度じゃ殺れないか!

「…………明久、不意打ちするときは気配を消せ」

「うわ! ビックリした、突然出てこないでよムッツリ―ニ」

「…………俺はムッツリじゃない」

 

 この男は土屋康太、並外れたスケベな心がバレバレでありながらもそれをひたむきに隠そうとしている姿から『ムッツリーニ』と呼ばれている。

 ムッツリーニは諜報科、探偵科、情報科、装備科、なんと4つもの掛け持ちをしている。

 本人曰く、すべては至高の宝を手に入れるため、らしい。

 

 というかこのクラス、知り合いが集まりすぎじゃない?

「ねぇ、雄二、このクラス元Fクラスが多すぎない?」

「あぁ、そういや明久は始業式に出てなかったから伝えられてなかったな」

 

 やっぱり理由があるんだね。

「実はな、このクラス、この学園での問題児と優等生を集めて編成されたクラスらしいんだ。そしてその問題児の大半が元Fクラスにいたってわけだ」

 なるほど、優等生とどうしようもない連中を一つにまとめて全体的な向上を目指したのだろうか。

 よく見るとたくさんいるEランク連中に交じってAランクの人たちがそこそこいる。

 にしてもこの学校は見る目があるね、僕を優等生として見てくれてるなんて。

 

「お前は間違いなく問題児側だな」

「なんでだよ! 僕はBランクなんだから少なくとも問題児ではないでしょ!」

「お前……勘違いしてるぞ」

「へ? 何を?」

 

ランク通知にもしっかりとBって書いてあったよね?

「お前はBじゃなくてBKだ」

「BK……? そんなランク聞いたことないけど」

「武偵局が特例で出したんだよ」

 

 特例!? それってすごいじゃないか!つまり世界中に僕一人しかいないランクってことだよね!

 そういえばランク通知は見たけど、Bという文字だけ見て満足してしっかりと見てなかった気がする。

 でもBK? どういう意味なんだろう。

 一応財布の中にしまっていた通知書を出して、それが載ってないか確認してみる。

 

 

――吉井明久 BKランク (バカ)(笑)

 

 よし、武偵局はどこだ、潰してやる。

 ってかバカって何さ! 実力全く関係ないじゃないか!

 

「まぁ、そんなことは今はどうでもいいんじゃが「よくないよ!」……あれは放っておいてよいのか?」

 

 秀吉が言うので仕方なく指を刺す方向を見ると。

 

「吉井! お前は今日俺と一緒にいたからこいつ等をなんとかできるはずだ! 弁護してくれ!」

 

 キンジが僕に向かって助けを求めていた。磔にされながら。

 あ、忘れてた。

「ごめんごめんキンジ、今行くよ!」

「吉井……! 良かった、これで……」

 僕は自分のロッカーから黒いフードを取り出してかぶる。

 

「吉井、準備OKです」

「では団員が揃ったので始めよう」

「お前そっち側かよ!」

 

 



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7弾 血飛沫から始まる新学期

遅くなってしまい申し訳ありません!
金曜日に投稿するつもりが書き溜めを作っていたら投稿するのを忘れてしまっていました。
次回はすぐ更新いたします!


「被告、遠山キンジは異端審問会の血の盟約に背き、自分一人だけ女の子に好かれるという大罪を犯した、これは事実に相違ないか」

 

「「「相違ありません!!」」」

 

「相違しかねえよ!」

 ちくしょう、吉井の奴裏切りやがって……!

「なにこれ、魔女裁判の真似事?」

 アリアがこの状況を見てポカンとしている。

「真似事なんかじゃねえ! コイツらマジで殺しに掛かってくるから(たち)が悪いんだ! お前見てないで助けろ!」

「なんであたしがアンタを助けないといけないのよ、武偵なら自分でなんとかしなさい」

「武偵憲章1条があるだろ!」

「じゃあ私は異端審問会側を仲間として信じるわ」

「ふざけんな!」

「アンタ、私に強猥したこと忘れたの?」

「……なっ!」

 

 ……なんて、事を、言いやがる!

 FFF団(こいつら)の前でそんな事言ったら……!

 

「証人、それは事実か?」

 ほら食いついちまったじゃねえか!

「そうよ、紛れもない事実! コイツは命の恩人であるはずのあたしに向かって猥褻行為を働いたの!」

「判決、死刑」

「まて! まだ弁護側の主張がないだろうが! そもそも誤解だ!」

「では弁護側、何か主張したいことはあるか」

 おぉ!

 俺に弁護人(みかた)がいた!

 少しは反論の余地が生まれるかもしれんぞ。

「特にありません」

「弁護しろよ! てかお前吉井だろ!」

「堪忍しろキンジ! 今朝の星伽さんからの朝食もこの裁判の対象だ!」

 

 白雪からの朝飯? なんであれが裁判の対象なんだ?

「意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ! 第一あれはお前も食ってただろうが」

「……何? 星伽さんが作った朝飯……? キンジ、弁護人、食ったのは事実か?」

 何故かこの会話に団員の一人が食いついた……いや、声で分かったがコイツ武藤じゃねえか。

「あぁ、それは事実だ」

「そうか、キンジは裁かれるから良いとして吉井……お前も食ったんだな?」

「え? うん」

「裁判長、コイツも磔にしていただきたい」

「えぇ‼ なんでさ!」

「承認する」

「ぎゃぁぁぁぁぁ! 待って!待って!」

 よくわからんがざまあみろ!

 

「では被告人、吉井明久に判決、死刑」

「議論すらしないの!? ってまって! みんな銃を向けないで! 洒落になってないよ!」

 よし、しばらくは吉井に注意が向いている!

 この隙になんとか対応策を……

 

「あ、そうだキンジ、はい」

 作戦を練っている俺に向かってアリアが何かを渡してきた。

「ベルト?」

「さっきの事もう忘れたの?」

 あぁ、そういえば(ヒステリアモードの)俺がアリアのスカートのホックが外れたのに気付いて渡したんだったな。

 いやそんなもの渡す暇あるなら助けてくれたっていいと思うんだが。

「キュピーン! 裁判長! 理子分かった! 分かっちゃった!」

 突然俺の隣の席の峰理子がFFF団に混ざって騒ぎ始めた。

 しかも俺の近くまで来て騒ぐもんだから、せっかく吉井に向いていた意識がこっちに戻っちまってるじゃねえか!

「峰団員、何が分かったというのだね」

「はい裁判長! キー君ベルトしてない! そのベルトをアリアが持っていた! つまり! 彼女の前でベルトを取る何らかの行為をした! 要するに二人は――」

 ヤバイ、これはヤバイ。

 なぜかは分らんが明らかな殺意が俺に一転集中しだした。

「熱い熱い、恋愛の真っ最中なんだよ!」

「……」

 一瞬、俺が今までの人生を走馬燈のように思い出していた次の瞬間。

 

「「「「「「コロス」」」」」」

 

 すべての銃口が吉井から俺へとシフトチェンジした。

「お、お前らなぁ!」

 俺がなんとか反論しようとした時――

 

――ズガガン!!

 

 銃声!? ほんとに撃ちやがったのかコイツら!

 と、思ったのもつかの間。

 FFF団が撃った物ではないと気づかされた。

 なぜなら、銃声は俺の後方、FFF団ではなくアリアが立っている場所からだったのだ。

「れ、れれれれ恋愛なんて、くっだらない!」

 

 先ほどまで殺気まみれだったFFF団も呆気に取られてしまう。

「全員覚えておきなさい! 今度あたしの前でそんなくだらないこと言うやつには――」

 

 それが、神崎・H・アリアがクラスのみんなに発した、最初の言葉だった。

「風穴あけるわよ!」

 

「「「「はい、申し訳ございませんでした」」」」

 

 と、俺の2年生スタートは朝からチャリジャック、異端審問会、アリア、と最悪なこと続きだった。

(ほんと、かんべんしてくれ……)

 

「ではキンジは釈放し、吉井の刑を執行する」

「僕はオチ担当なの!? ぎゃああああああああああ! 燃えてる! 燃えてる! 助けてえええええ!」

 

 



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