無口なレッドの世界旅行記 (duyaku)
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1 世界移動

 はるか上空、まわりは空の青さと漂う雲の白さに覆われ、そこは地上のもの全てが粒に見えるような高さであった。そんな人の力だけでは大抵及ぶことのできない場所を1匹の大きな赤い動物が翼を広げ眼を見張るような速さで飛び、その上には少年一人と白に紫がかかった毛並みをもつ猫のような生き物が乗っていた。少年は頭にかぶっている帽子を落とさないように片手で押さえ、もう片手で地図を押さえながら赤い動物を掴んでいる。

 

 …いや動物やら猫やらという表現はここでは間違っている。彼らは「ポケモン」。「モンスターボール」と呼ばれるものに彼らを入れるとポケットにしまえるサイズになるモンスター。つまり「ポケットモンスター」。すなわち「ポケモン」。だれがその呼び名を決めたかは分からないがそのように名づけられた彼らはそう呼ばれ、人間たちで彼らを知らないものはいないと思われるほどこの世界では多く存在している。ポケモンたちはそれぞれ自分のタイプに見合った超現象的な力を持ち、それらを発揮することができる。例えば火のタイプをもつものは炎を操り、水のタイプをもつ者は水を使役したりする。

 

 人は彼らをモンスターボールに入れ自分のポケモンとして持ち、共に生活したり仕事の手伝いにしたりするが、そんな中で自分のポケモンと共に強さを求めて旅に出るものたちもいる。人は彼らをすなわち「ポケモントレーナー」と呼ぶ。ポケモントレーナーはそれぞれの町に存在するポケモンジムの頂点である「ジムリーダー」に挑み、その実力を認められることでバッジを受けとることができる。既定の数のバッジを持ち強さの証明ができる者はポケモンのチャンピオンを決める―チャンピオンリーグに参加する権利を授かり、そこで挑戦者として全ての対戦で勝つことでその地域のポケモンチャンピオンと呼ばれるのだ。

 

 さて、先に紹介した大きな赤い翼をもつポケモン――「リザードン」の上にいる少年も、もちろんポケモントレーナーである。所得バッジ数は8。――過去のポケモンリーグの優勝者である。そんな彼は今無表情のままリザードンの進行先と手元の地図を見広げ悠々としている。通常は座っているのも辛い速度のはずだが、その様子からこの速度でリザードンの上にいるのが慣れているのがよくわかる。その姿を見て横にいる猫っぽいポケモン――「エーフィ」が溜息をつきながら念話を飛ばしている。ちなみに「リザードン」のニックネームは「リザ」、エーフィのニックネームは「フィー」である。名づけ親は彼らの主であるこの少年である。

 

<ねぇ、レッド?あなたのその思いついたら即行動の癖、どうにかならないの?まきこまれる私たちの気持にもなってほしいのだけど>

 

<……>

 

 ジトっと軽く睨むようにしてフィーはその少年――「レッド」の方を見る。レッドは視線に気づいてはいるようだが、何も気にしていないかのように表情を変えない。

 

<……はぁ。またお得意の「……」ね。あなた黙っていればなんとかなると思っているんじゃない? ていうかいつも思うけどしゃべらないのに念話繋げる意味あるのかしら>

 

 フィーは今エスパータイプの能力を応用し自分の考えが相手に届くよう念話ができるようにしている。エスパータイプといえど簡単にできることではないが、飄々とやってしまうその様子からフィーの実力がいかに高いのかが容易に想像できる。そんなフィーの叱咤もまるで届いていないかのようにレッドは念話にも答えない。

 

<がっはっは!坊主のだんまりは今に始まったことじゃなかろうよ!>

 

 リザは長い首を曲げ顔をこちらに向けながら豪快に笑う。彼もまたフィーの能力対象となっているために念話にて意思を飛ばすことができる。レッドは「坊主」と呼ばれたことからムッとした顔になりパシパシとリザの背を叩く。それを受けてリザはなぜかまた「がっはっは!」と笑う。

 

<そうはいってものね。いつまでもだんまりしていたらレッドが将来困るのよ?はやいうちに治さないと。この前なんてショップで店員がおつりを間違えていた時、無言で永遠と圧力かけてたのよ?「おつり間違ってます」くらいいったらどうなの?>

 

<……>

 

 レッドが睨むようにしてエーフィをみつめる。ふんっ!という感じでエーフィは顔をそむけながら攻撃…もとい口撃を続ける。念話ではあるが。

 

<だいたいねぇ、トレーナーに勝負しかける時も無言でずんずん迫っていくだけでしゃべりもしないし。ミニスカート相手の女の子にやったときは大事になりかけたの忘れたの?たださえ表情もめったに変えないのにそんなことして。>

 

<……>

 

 レッドがうつむき心なしか顔が暗くなる。フィーはしかしめずらしく表情を変えたのが暗くなることであったことに気づき少しやりすぎたかなとも思った。

 

 

 レッドはコミュニケーションが下手である。それはもう壊滅的に。なんてったってめったにしゃべらないのだから。俗に言う無口というものなのだろうか、なぜここまでかたくなにしゃべらないかは分からないが、まったくしゃべらないというわけではない。本当に必要な時はしっかりとしゃべる。例えば、ポケモンたちのニックネームをつける時は流石に言葉にしないと伝わらない。呟くようにポケモンに向かってニックネームを告げる。それでも彼がコミュ症なことに変わりはないが、ポケモンたちにとってニックネームをつけられることはうれしい。彼らだって1匹1匹個性があるし、種名で「エーフィ」と呼ばれるのは別に嫌ではないが長く共にするトレーナーにはやはり自分だけの名前をつけてほしいものである。

レッドは例え滅多に話すことがなくても決してポケモンのことをないがしろにするような真似はしない。それぞれのポケモンの性格をいち早く理解し、ポケモンたちがしたいようにさせてくれる。むしろ人との関係より自分のポケモンたちとの関係のほうが大事にしているのかもしれない。しゃべりはしなくてもポケモンたちを愛情込めてなでてくれるし、大切にしてくれるている。そんなレッドの気持ちが直感で本物だとポケモンたちも理解できるので例え彼がしゃべらなくてもついていく。実際レッドとレッドのポケモンたちとの間には言語によるコミュニケーションが必要ないほど深い絆があるのだ。…まぁそれがレッドのコミュニケーションの劣化にさらに拍車をかけているのだが。ちなみにそんな中なぜ念話をするようになったかというと、フィーがもっとレッドと関わりたいと思ったからである。念話なら彼もしゃべれるだろうし自分たちのことをさらに知ってもらえるだろう、そう期待した時期がありフィーが他のポケモンと相談して始めたのであった。結果、レッドが念話でもまったく変わらないという自分のトレーナーのダメダメさに彼らポケモンたちがそろってため息をついたのは簡単に想像できることである。

 

<お、坊主。目的地が見えたぞ>

 

<… …>

 

 レッドが坊主と呼ばれることに抵抗することをあきらめ、前方の目的地に目をやる。リザは先ほどよりも速度を落としバサッバサと大きく羽ばたくように移動する。フィーがレッドの持つ地図を覗き込むようにして、前方の場所と地図を見比べてつぶやく。

 

<思えば長い空旅だったわねぇ。こんな長く空で旅したの初めてじゃないかしら。…うん、地図から見るに場所はあってそうね。あそこが――「テンガン山」>

 

 

「……」

 

 

 それはレッドがテンガン山にむかう前のことである。雪が降る中。いつも通りシロガネ山で特訓をしていると、めずらしく彼を訪ねる者がいた。

 

「レッドさああああん!!」

 

 遠くからレッドに手をふりながら小走りで近づいてくる少年――「ゴールド」はレッドのそばまで駆け寄ると、肩で息をしながら話しかけてきた。

 

「あんたまーだこんなとこにいたんすか。いちいち連絡しにくるこっちの身にもなってくださいよ。」

 

「……」

 

 かなりフランクに話しかけてくるゴールド。雰囲気はちゃらちゃらした感じだが一応彼にとっては全力の敬語なので彼なりにレッドには敬意を払っているのであろう。

 

「…はぁ。いやあんたのだんまり症はもうなれてるからいいっすけどね。オ―キドのじっちゃんがポケモン図艦ちょっぴり更新したいから戻って来いっていってましたよ?」

 

「……」

 

「ちゃんと行ってくださいよ!?ここにこれるの俺かグリーンさんぐらいしかいないせいでいっつもお使い感覚でたのまれるんすから!…え?ポケモン勝負?いやっすよ!めんどくさい!それに今日はあんまり戦闘用のポケモンもってきてないんすから!」

 

 レッドのボールを無言で持ち上げる仕草だけで何をいいたいのか把握できる時点でゴールドとレッドの仲のよさが分かる。少し前まで二人でこの場所で修業し高めあった仲だから当然ともいえるが。ちなみにめんどくさがりのゴールドはその時に二度とレッドと修業しないことを誓ったのだとか。

 

「あーそれじゃ俺帰りますね?あんま長いすると風邪ひきそうですしここ。」

 

「……」

 

「はいはいまた今度ポケモンしっかりもってきますよ。おそらく、たぶん、めいびー」

 

 ゴールドがレッドに背を向きながらめんどくさそうに手をふって帰ろうとする。途中何かに気づいたようにつぶやくようにして言った。

 

「あ、そういえばシンオウ地方のテンガン山に神話に伝わるポケモンが最近一瞬だけ姿を現したらしいっすよ。んでその辺は空間に乱れがみられるから近づくなってマサキがいってましたっけ。わざわざあんなとこまで行くやつなんていないと思うけど」

 

 ゴールドがそう言って振り返るとすでにレッドの姿はなく彼のポケモンの羽ばたくような音だけがかろうじて聞こえた。

 

 

 レッドはテンガン山の頂上「やりのはしら」に到着し、あたりを見渡した。がれきが崩れ今にも壊れそうな場所であるが、それなりに広く床がわりと平らにそろっていて歩くのにそんなに困らないことを考えると、昔は整備された場所だったのが分かる。

 

<ふぅむ。こんな場所に神話のポケモンがのう>

 

 リザが首を下げ短い手で顎をさすりながらいう。

 

<まず、目撃情報からして怪しいのだけれども。一瞬だけあらわれたってどうゆうことかしら。そして空間の乱れっていったいなによ。そんな現象聞いたことないわ>

 

<……>

 

 2匹のポケモンが考察している間、レッドが周りを索敵する。確かに普通はあんな目撃情報じゃ動かしない。いくらレッドがすぐに行動を起こすタイプでも情報くらいは集めてからいく。しかし、神話級のポケモンと言ったらのんびりしていて会える相手でもない。伝説のポケモンは数度しか会ったことがないが、どれも神々しいオーラを放ち目を奪われるような者たちで会った。そんなポケモンに会えるなら会ってみたいという気持ちがあったが、それだけが理由ではなかった。

 何か言い表せない直感があった。そこに行けば何かがあると。最近の退屈な状況から何か変わると。別にポケモンたちと修業するのが退屈だと言ってるわけではない。

 

 ただ、強くなりすぎると変わってしまうものがあるのだ。周りも、自分も。

 

 <レッド?何か見つけたの?>

 

 てくてくとフィーが近づいてくる。なにもないと手振りで示そうとした時、それは表れた。

 

 <何…これ…>

 

 それは確かに空間に存在していた。円のなかに青い流線がうずまき、異様な雰囲気を醸し出すそれ。明らかにこの世界では見たことがないものである。フィーがおそるおそるそれに近づこうとする。

 

「… …フィ!!!」

 

 レッドは本能的に危険を察知して声を荒げフィーを止めようとする。

 

<え…きゃぁ!!!>

 

 久しぶりに声をだしたレッドに驚いたのもつかの間、フィーはその空間に吸い込まれるようにして飲み込まれた。

 

「… …!!!!」

 

 レッドは勢いよく駆けてその空間に手をのばす。

 

<坊主!!!!!>

 

 リザもそんな主につづき猛スピードでレッドを止めようとする。

 

「……………………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 スゥという音がきこえ、一人のポケモントレーナと二匹のポケモンを飲み込んだそれは姿を消した。

 

 




どーもはじめまして。duyakuです。
思い立ったので書いちゃった系です。初執筆です。

小説かいてる人はみんなすごいですね。一万文字くらいのを投稿しづづけてる人はほんと尊敬しました。

今後の構成はまだ悩んでますが、設定として、ポケモンたちはあまりゲーム基準ではないです。ゲームの技などはつかいますが、自分たちでいろいろ応用できる形にする予定です。
また次からは視点をだれかに固定しようとも考えてます。んーフィーとか。

感想、批評まってます。

※9/10少し改訂しました


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2 フィーと千雨

『……フィ!!!』

 

 真っ暗な意識の中、最後に聞こえた自分の主であるレッドの呼び声を思い出す。この時は久しぶりに声に出して名前を呼ばれたため、不意をつかれた感じがして体が少し硬直してしまった。彼が自分の名前を呼ぶということはそれはさぞかし大事がおこったのだろう。

 

 目を開けて周りを見る。そこはベッドやテーブル、テレビまでが設置されている小さな部屋のような場所であり、自分が丸いクッションの上に寝かされていたことに今さら気づいた。また、一人の少女が四角い箱?…たしかマサキがパソコンだとかいってたっけ…の前の椅子に座って、なにやら手を動かしカタカタと音を立てるのが聞こえる。

 

 私はひょいと優雅にクッションの上からおりて、その少女に近寄っていく。

 

「…お。やっとおきたのか。もう体は平気かよ」

 

 丸い眼鏡をかけた少女はそう言って椅子をくるっと回転し、心配そうな顔をしてこちらを見る。そして私をおびえさせないようにか、手を低くしながら伸ばし私のほほをそっとなでる。本当は興味本位などで触られるのはあまり好きではないのだが、少女の顔から私を真剣に心配しているのが理解できるので、甘んじて伸ばされた手を受け入れる。私が目を細めながら「くぅ」と鳴くと彼女は満足そうな顔をし手を遠ざけた。

 

「しかし、なんであんなところで倒れてたんだよ。てかなんて種名だよこの猫…。でかすぎるだろ常識的に考えて…」

 

 また非常識なことかよ…しかも自分で首突っ込んじまった…。などとぶつぶつ呟きながら少女は溜息を吐く。しかし、「でかすぎる」とは?ポケモンの中ではそこまで大きなほうでもないが…。まさか私が太っていると言いたいのだろうか。常に優雅にあろうと体系や毛並みには細心の注意を払っているのだが。おしゃれなどの美的センスがまったくないレッドにも毎日毛づくろいはしてもらっている。戦闘狂である彼でもポケモンを大事にする気持ちは人一倍強いので文句も言わずやってくれるし。

 

 少し睨むようにして彼女を見ると、彼女はまた溜息を吐きながら愚痴を続ける。

 

 「…はぁ。てかなんで猫に話しかけてんだよ私。毎日非常識にあてられすぎてついにおかしくなっちまったか…」

 

 ふーむ。ポケモンに話しかけることは別段おかしなことではないのだけれど…。…うん。この子なら大丈夫そうね。あんまり誰も彼もに念話はしたくないのだけれど。

そう考えて私は彼女の脳内に話しかけるようにして念話を飛ばす。

 

<はーい。こんにちはお嬢さん>

 

 初めのあいさつを考えずにとっさに念話したため、ちゃらいホストが言うような軽い挨拶をしてしまった。

 びくぅ!と彼女の体が動いた後、声のもとを探すかのようにブンブン首を回し周りを見渡す。

 

<ここよ、ここ。あなたの目の前。>

 

 彼女がピタッと首の動きを止めると私に手を向けおそるおそる指をさす。彼女が小さな声で…おまえ?と聞くと、私がにっこりしながら頷いて話しかける。

 

<はじめまして。私はフィーというわ。よろしくね>

 

 「…………………」

 

<…え、えーっと>

 

 固まったままで反応のない少女に再度念話をする。すると彼女はガタッと音を立てて急に立ち上がり大声を出しながら頭を一心不乱にかきだした。

 

 

「だあああああああああああああああああああああ!!!!まじでまた非常識かよおおおおおおおおおお!!!おかしいと思ったんだよ!!!!こんなでけぇ猫があんな道の真ん中で倒れてて!!!!でもしゃべるとはおもわないじゃん!!!おもわないじゃん!!!!でも放っておくほど屑にはなれないじゃん!!!」

 

<ちょっ!どうしたのよ急に!!>

 

 あきらかにキャラ崩壊してる。てかしゃべるというか念話なんだけど。など急に暴走をはじめた少女に言えるひまもなく、フィーはぐいぐいとおされる。

 

「っは!!!しゃべるねこ!?それを拾っちゃう少女!!??これって典型的なあのパターンじゃん!!!ならん!!ならないぞ!!!わたしは魔法少女の鬱さをすでに知っているんだから!!!いやけど本物の魔法少女の衣装着れるのか…過去とか戻れたらあの黒歴史も…いやまてまていく先はバッドエンドだ落ちつけ私!!!いや決めつけるのは早いか!!!もしかしたら月に代わってお仕置きするタイプかもしれない!!!リリカルでマジカルするほうかもしれない!!!でも!!!でも!!!あああああああああ!!!!」

 

 私が念話することは彼女の頭のキャパをオーバーするほどのできごとだったらしい。サイコキネシスで物を浮かし頭にぶつけて黙らそうかとも思ったけど、一応彼女は私を拾ってくれたっぽいため、物騒なことはせず落ち着くまで待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――10分後

 

<どう?落ち着いたかしら?>

 

「……ああ。まだどういう状況かは全然わからんが、とりあえず話は聞く…。えーっと、取り乱してすまなかった。」

 

 いいえ、大丈夫よ。と私は伝え、ほほに汗を流しながら周りをちらりと見る。彼女の暴走によって部屋のものは飛び回り、軽く散乱している。

 

<とりあえず名前、聞かしてもらえるかしら?>

 

「…長谷川 千雨だ」

 

<そう。よろしくね千雨。まずは私の倒れていた状況から教えてもらっていいかしら?>

 

「ああ。そーだな…」

 

 話によると私は桜通りという場所で倒れていたらしい。夜コンビニまで出歩いてた千雨は、そんな私をたまたま見つけ自分の部屋まで運んできたのだとか。

 

<そうだったの。ありがとうね、千雨。でもどうやって私を運んだの?ポケモンに頼んだのかしら?>

 

「ポケモン?なんだそりゃ。どうやってそりゃ普通にかついでだよ。」

 

 かついで…?ポケモンを知らないというのもとても驚いたが、それよりも私をかついだということが興味を引いた。私の体重はだいだい20キロ前半くらい。女子がかつぐにしては重すぎる。力もそんなにあるようには見えないし…。

 

<…ねぇ。なんで千雨は部屋に私を運んだの?倒れている状況ならポケモンセンターでもよかったんじゃないの?>

 

 「ん?だからポケモンセンターてなんだよ。…なんつうかこんな猫珍しいから普通の病院運んだら何されるかわからないだろ?だからとりあえずうちにと思ってな」

 

 私はこの言葉を聞いて全て理解した。彼女は最初から最後まで私の身を案じてくれたのだ。大きな私は道路の真ん中にいたらどうなるかわからない。病院につれていってもポケモンを知らないという彼女からしたら、私がそのまま実験の材料になるのかもと考えたのだろう。私を運ぶという苦労を考えればそのまま置いておけばよかったのに。どう考えてもここまで私を連れてくるのはつらい。それでも千雨は私を背負ってここまで運んでくれたのだ。

 

<っふふ>

 

「なんだよ、急に」

 

<いや、千雨ってとっても優しいのね>

 

「っな!?」

 

 不意にほめられた千雨は頬を赤くして照れる。こんな風にポケモンに優しくできるのはまるでレッドみたいだなと思った。

 

<照れなくていいのよ千雨。あなたのおかげで私はほんとに助かったわ。感謝してる>

 

「…おう」

 

 まだ頬を染めながらぶっきらぼうに千雨は答える。どうやら私は彼女のことを好きになれそうだ。

 

<ふふ。じゃあ話を続けましょうか。さて、千雨。あなたはポケモンを知らないといったけどこれは本当?>

 

「ほんとだよ。てかそれは結局なんなんだ?」

 

<そうねぇ。ポケモンというのはね…>

 

 ポケモンという存在、その力、この念話について。千雨にポケモンについて教えながら私は考える。どんなふうに生活していても、ポケモンを知らないということはあり得ない。ポケモンは遥か昔からいるし、人と共に生活してきたのだから。つまり、ポケモンを知らない人がいるということは…。私は一つの予想を立て、話をしていく中で自分考えはあっているだろうとなんとなく確信した。

 

 

「やっぱしらねぇな。ポケモンなんて。ていうことはフィーはそのポケモンとかいうやつなのか?」

 

<そうね。私はポケモン。ポケモンは私たちの世界では多く存在しているわ>

 

「…ん?私たちの世界?」

 

やはり千雨は賢い子ね。そう思いながら私は念話を続ける。

 

<そう私たちの世界では。どうやら私、違う世界からきたみたい>

 

にこっとしながらそう答えると千雨はまた固まった。

 

「ええええええええええ!!!!」

 

固まったと思ったらまた急に大声を出した。また暴走するなら次は物をぶつけようかしら。いいわよね。うん、きっといいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――10分後

 

<話を続けて大丈夫かしら?>

 

「はい…」

 

しばらくして千雨が落ち着くとまた念話を続ける。千雨の頭には軽いたんこぶができていて涙目になっていた。ぶつけたのは広辞苑だったからそれなりに痛かったのかもしれない。

 

<まぁ世界を移動した原因は割と想像がついているのだけど。とりあえず、この世界のことおしえてくれないかしら?>

 

「そりゃあいいんだけどよ…」

 

<…?>

 

千雨が言い淀んで声をこぼす。

 

「フィーは辛くないのか?他の世界にひとりぼっちで…。」

 

<ああ、そのことを心配してくれたのね。ほんとに千雨は優しい子だわ。でもね大丈夫>

 

「…なんでだよ」

 

 

本当に彼女は優しい。でもは私は大丈夫と断言できる理由がある。

 

<レッドがいるからよ>

 

「レッド?」

 

<私の主>

 

どんなところにいても彼なら向かいに来てくれる。私たちへの愛情が何より大きい彼が私一人を放っておくはずがない。どんな手をつかってもここまで来てくれる。というかもしかしたらもう来ているかもしれない。私の後をおってあの空間の乱れに突っ込んで行ったりして。そう思えるから私は大丈夫。

 

ここまで考え、思い立ったらすぐ行動するレッドを思い出し、ふふっと笑う。

 

「…そうか、なら安心だな」

 

<ええ、安心よ。どんな時も。どこにいても>

 

 

 

あわてなくてもレッドは必ず来てくれる。ならそれまで私は私ができることをしよう。

 

 

 

<では千雨。この世界のこと教えてくれるかしら?>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って感じかな」

 

<なるほどね…>

 

 千雨の話を聞き自分の頭の中で情報をまとめる。どうやらこの世界の人々は、人間の力のみで生活している。足りない力は科学に頼るので、いくつかの分野ではこちらの世界の方が発達していそうだ。まぁこの世界でモンスターボールなどがつくれるかどうかは分からないけど。

 

 

<さて、ではいきましょうか>

 

「へ?どこへ?」

 

千雨かきょとんとした顔でこちらをみる。私はゆっくりと玄関と思われる扉に向かって歩き、振り返ってにこりと笑った。

 

 

 

<私が倒れていた、桜通りと言う場所にね>

 




ポケモン図鑑

№484 パルキア

くうかんを ゆがめる のうりょくを もち シンオウちほうの しんわでは かみさまとして えがかれている。

 はい、フィーたちが世界を移動してしまった原因ですね。これから出番があるとはわかりませんが。これは「ダイヤモンド」のポケモン図鑑の説明文です。ほかの図鑑には平行してならぶ空間のはざまにいるだとか空間のつながりを自由に操るだとか言われてます。ちーとっすね。


№196 エーフィ

ぜんしんの こまかな たいもうで くうきの ながれを かんじとり あいての こうどうを よそくする

はい、ヒロイン?のエーフィです。レッドのエーフィの名前は「フィー」。念話とかいうよくわからん能力を持ってます。ポケモンの意思をしゃべらすのは賛否両論だと思いますが「…」しかいわない主人公とガウガウいってるだけのポケモンじゃ話が進まないので…んで設定だと体重26.5キロもありますこの子。作中で言った20キロ前半が本当か彼女の見栄張りかは想像ににおまかせします。


さて2話ですね。見直したとき自分の文才って…なるのは俺だけでしょうか。そしてネギまを読み直すと細かい設定がたくさんあってびっくり。どうしようか…

次はたぶん戦闘できるかなぁとおもいます。戦闘描写しっかりかけるかめちゃ不安ですが…。


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3 過去とこれから

 豪雪が吹き荒れ轟々しい雰囲気を放つシロガネ山。野生のポケモンがあまりに凶暴で、内部も入り乱れた構造になっているために、ここに訪れる人はめったにいない。しかしそんな物騒なシロガネ山であるが、ある時から妙な噂が流れるようになった。曰く、「シロガネ山の頂上にはポケモントレーナーの頂点たる人物がいる」と。そんな噂が流れてから、そのトレーナーを一目見ようという野次馬根性をもつものや、頂点たるトレーナーと戦いたいという野心あふれるトレーナーがその山の山頂を目指した。しかし、過酷な環境と襲いかかるポケモンたちに心が折れ、多くのものが途中で挫折していく。そんな中、万に一人ほど頂上にたどり着く者がいる。

 シロガネ山の頂上は決して運でたどり着けるような場所ではない。奥に進むほど増していく野生のポケモンの獰猛さには、自ら育てたポケモンと共に切磋琢磨に乗り越えて、迫りくる自然の環境には、強靭な忍耐力で耐えなければならない。シロガネ山の頂上に辿りつけるという事実だけで、そのトレーナーは世界でも上位を目指せるものだと言えるだろう。

 

「お前が頂点と呼ばれるトレーナーか」

 

 その青年もまたシロガネ山という過酷な道を乗り越え、噂のトレーナーと戦いにきた一人である。青年はシロガネ山の頂上たるところにただずむ、赤い帽子をかぶった少年に話しかける。

 

「… …」

 

 赤い帽子の少年は答えない。しかし青年はこいつこそが噂のトレーナーだということが確信できた。姿こそいまだ幼さを残しているが、彼を前にした時、言い表せない圧力を感じたのだ。巨大な力と能力を持つポケモンにそれを感じることはあれど、トレーナー自身からそのような圧力をかけられたことは青年にとって初めての経験であった。

 

「手合わせ…願おうか」

 

「… …」

 

 やはり少年は答えない。しかし青年の意思は伝わっているようである。青年がボールに手をかけると、少年もまた自らのボールを手にし、前に向ける。その動作だけで空気が変わった。豪雪も気にならないような存在感を少年は放ち、青年は冷汗をかき、肌にピリピリとした感触を残す。だが青年もこのようなプレッシャ―だけで引き返すほど安いプライドはもっていない。

 

「では…勝負!!!」

 

「… … … …」

 

青年のプライドと意地をかけたポケモンバトルがはじまった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「あら、レッドもう終わったの?早かったわね」

 

 長い金髪をなびかせた黒い服の女性が、二足歩行する青いドラゴン「ガブリアス」の上からひょこっと顔を出す。どうやらガブリアスは彼女を背中におぶさっているようだ。彼女は先の戦いを少しばかり見える位置にいたようであった。

 

「……」

 

 退屈そうな顔をしながらレッドと呼ばれた赤い帽子の少年は先ほどの女性「シロナ」に目をやる。

 

「そんな顔しないの。彼も彼なりに本気で勝負を仕掛けたんだから」

 

 そう言いながら倒れているガブリアスが青年をひょいと背負う。先ほどの戦い、一言でいえばレッドの圧勝であった。しかも青年が6匹のポケモンを使用したのに対し、レッドが使ったポケモンは1匹だけ。それも進化前のポケモンである。ポケモン同士の戦いといえど、自分の自慢のポケモンたちがたった1匹にあっという間に倒されていく姿をみたら青年が気を失ってもおかしくない。

 

「……」

 

「私はたまたまカントーに用事があったから、ついでにレッドの様子を見にきただけよ。」

 

 ボールを持ち、その手を前にし交戦の意思を示すレッドに、なだめるようにシロナが言う。

 

「だいたい、私でももうあなたとは勝負にならないわ。」

 

「… …」

 

 そう言うと、レッドは手を下に向け、視線も下にする。彼は悩んでいるのだろう、そう思うと、シロナはそんなレッドの姿にいたたまれなくなってしまってつい言葉をもらしてしまう。

 

「ねぇレッド…。あなた最近バトルを楽しめているかしら?」

 

「……」

 

 無言でうつむき続けるレッド。無言なのはいつも通りなのだが、やはり表情はいつもより暗い。

 言ったらだめだ。そう思っていながら私は前から考えていた言葉を彼にぶつけてしまった。

 

「レッド…。あなたは強くなりすぎてしまったのね。ポケモンバトルを楽しめないほどに。頂点とはよくいったものね。もうあなたの実力は「ポケモンバトル」という枠を完全に超えているわ。他の誰がどれだけ修業しようときっとあなたには追いつけない。例え誰かが二回目の人生を迎えて鍛えても、あなたには勝てない。あなたはすでに「ポケモンバトル」という限界値すら超えているのよ。あなたにはポケモンバトルの才能も、上に向かい努力する才能ももちすぎたのだわ。」

 

「… …」

 

「…きっとあなたはなにか新しいことを見つけた方がいいわ。世の中にはいろんなことがあるんだから」

 

「… …」

 

「……じゃあね。」

 

 手を軽く振り別れを告げ、シロナはガブリアスによろしくと頼む。ガブリアスが低い声で唸ったあと、シロナと青年を背に乗せてロケットのように飛んでいく。カブリアスの上で小さくなっていくレッドを見ながらシロナはなんて残酷な事を言ってしまったのだろうと後悔した。レッドはきっとだれよりもポケモンバトルが好きで、だれよりも努力してきた。そんな彼から有り余る才能は、ポケモンバトルの楽しさを奪ってしまった。努力すればするほど、ポケモンバトルが楽しくなくなる。

 それはいったいどんな気持ちであろう。彼が一番勝利の神に微笑まれているのに、彼自身が微笑むことなどない。このままいけばレッドは好きなものが嫌いになってしまう。シロナはそれだけは防ぎたかった。残酷なことをいってでも、せめて好きなものは好きなもののままで終わらせてあげたかった。

 シロナは彼にポケモンバトルをあきらめるという選択肢しか出せなかった自分が嫌になる。私がもっと強ければ彼にこんな思いをさせずに済んだのに。

 知らぬ間にシロナの目から涙がこぼれた。

 

「ごめん…ごめんね…レッド…」

 

「… …」

 

小さくなっていく赤い帽子の少年の顔は最後まで下を向いたままだった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 目を覚ますとまず、嫌な夢をみたな。と思った。体はまだだるい感じがしたが、むりやり腕を動かし、腕で目を覆いながら、俺は夢での出来事を忘れようとした。

 

「がう、がうがう」

 

 

 肩を揺らされる感触を感じて腕をよける。俺の目の前には心配そうな顔をしたリザが目に映った。俺の方を覗きこんで次は鼻で顔を揺らし俺の反応を確かめる。まだ少し寝ぼけたまま、起こしてくれたリザに感謝の意を込めて、そっとリザの顔をなでた。リザは満足そうな顔をすると俺の首根っこをくわえ、無理やり立たせようとしてきた。少し体勢を崩しそうになりながら立って周りを見渡す。

 

「… …」

 

 暗闇の空には月が浮かんでいることから時間は夜であることがわかる。月の光とリザのしっぽの炎のおかげで比較的周りはよく見えて、ここは明らかにテンガン山ではないことが分かる。自分が寝ていた場所は軽い草原のようになっていて、それよりさらに奥は森が広がっている。さらに遠くをみると信じられないような大きさの木があった。

 

「… …」

 まずはフィーの手掛かりを見つけなければいけない。自分たちがあのよくわからないものに触れてここに来たということはきっとフィーもまたこの近くにいるであろう。そうは思うがどこに行けばいいかまったく見当がつかなかった。とりあえずリザに乗って上空を飛びまわってみるか。そう考えていると先ほどの大きな木の近くから音が聞こえた。それはキンという金属音のようなものから、ドスンという重低音までまざって鳴り続けている。

 

「… …」

 

 とりあえずそこに向かおうと俺は決める。リザも俺の横に並んでドスンドスンと音を立てながら歩き始めた。

 

 あの音はおそらく戦闘の音。どのような音かは想定できないがここまで聞こえてくるということはかなり激しい戦闘なのであろう。リザ一人でも問題はないであろうが、万が一を考えておきたい。そう思いポケットからひとつボールをだし、開閉スイッチをおしてから前に放り投げた。

 

「ぴかぁ!」

 

黄色のネズミみたいなポケモン、「ピカチュウ」はボールから出るとすぐに俺の体を登るように駆けていき、帽子の上に自分の腹を乗せた。

 

「ぴかぴ!」

 

「… …」

 

 こいつの名前は「ピカ」。まるで進め!とでもいうように小さな手を前に出しもう片方の手でぺしぺしと俺の頭をたたく。毎度思うがなぜこいつはいつも俺の上に乗るのであろうか。別に重いというわけではないが当然のように頭にのられると少し思うところもある。まぁいいんだけど。

 

 俺たちはゆっくりと歩いて音の元へと向かっていく。

 

 フィーのことは、きっと心配はいらないであろうと思う。フィーはずいぶん前から共に旅する仲間であり、彼女1匹で何体か同時に相手してもほとんどのポケモンを殲滅できるほどの力を持っている。というか俺のポケモンは大体そのくらいの力は持っているのだが。

彼女のしっかりとした性格は把握しているし信用もしている。自分がここに来た時点でお互いが探しあっていればいつか必ず会えるであろうという確信があった。

 

 

 …俺はまだここがどこなのかはまだ分からない。しかし見たことのないこの場所は何か新しいものを俺に与えてくれるのではないか。何も根拠となるような理由はないのだが何故かそう思った。聞こえてくる音は間違いなく戦闘の音。ここでの戦闘は俺を楽しませてくれるのであろうか。そう考えていると自分が珍しく少し高まっていることがわかる。新たな出会いに期待を寄せながら俺は歩き続けるとそんな俺を見てリザは「ぐおお、ぐお、ぐお」と吠える。フィーに念話を繋げてもらったら、きっとまた<がっはっは>とでも笑っている声が聞こえるのであろう。そんなリザの声さえ心地よく思いながら俺は目的地に向かっていった。

 

 

 




ポケモン図鑑

№6 リザードン

つばさで おおぞらたかく まう。たたかいの けいけんを つむほど ほのおの おんどは あがっていく。

はい、おっちゃんキャラのリザードンです。飛べるのでこれからも出る機会は多そうですね。ゲームでも御三家の中じゃ使えるほうですし。カメ?なにそれ。


№25 ピカチュウ

しっぽをたてて まわりのけはいを かんじとっている。 だから むやみに しっぽを ひっぱると かみつくよ。

なんかかわいい説明文。ピカチュウ版の説明ですね。名前もいつもどおりそのまんま。何人か候補にこいつをあげてくれたけどやっぱりレッドにはこいついりますよね。まあこいつの性格はフィーがこないとわからないっすね。


てことで3話です。過去の話いれたら戦闘までいけなかった…つぎこそは…!

では感想批評評価などどんどんお願いします!


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4 エヴァとレッド

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!氷の精霊17頭!集い来たりて敵を切り裂け!『魔法の射手・連弾・氷の17矢』!!!」

 

 魔法薬の入ったフラスコと試験管を投げつけながら私は呪文を詠唱する。本来の魔力を発揮することのできない私には必須のアイテムであるが、これらを用いても私の全盛期には遠く及ばない。

 

「茶々丸!!下がれ!」

 

 試験管が割れフラスコの中身と液体が混ざりあうと、17つの氷塊が群がる化け物たちのもとに向かう。前方で接近戦をしていた茶々丸後ろに下がり、彼女とスイッチするように氷塊は走り抜け、着弾する。パキィと氷の柱を立てる音が聞こえるが、相手の数が多いだけに威力が拡散して思うよりダメージを与えられない。

 

「っち!数が多すぎる!最初の報告とずいぶん違うではないか!」

 

「マスター。私たちがここに到着してからそれに合わせたように召喚されています。これは…」

 

 初めの報告では、私が向かう先では5体程度の敵しかいないはずであった。それが今では50体以上の妖魔が私たちに向かってきている。初めは他の数か所でかなりの数の化け物が確認しているため、学園側は多くの戦力をそちらに投入した。満月でもない時期であるため力をろくにだせない私はここに向かわされたわけだが…

 

「…もとから私が目的というわけか」

 

 賞金はなくなったとはいえ真祖の吸血鬼。捉えれば使い道はいくらでもある。他の場所はただの誘導であり、私を一人でここに向かわせるためにわざわざ数を操作したのであろう。敵は私の力が弱まっていることに調べがついているということか。でなければ私が少数の妖魔のもとに向かうことが分かるとは考えられない。

 そして他の場所でも私の助けに来られないようにしっかりと足止めされているのだろうな。この数を召喚できるとなるとかなりの実力者。実力だけでなく、腹立たしいことに、この敵は賢くて用意が周到だ。

 

「茶々丸!召喚師の位置は!」

 

「だめです。電波情報が錯乱されていて正しい位置情報がつかめません。…!マスター後ろ!」

 

「っな!!」

 

 茶々丸が勢いよくブーストをかけ、かばうように私の後ろに回る。

 多数の敵と戦うときの基本は囲まれないようにすること。この戦力差ではそれがかなり大事であり、茶々丸を前方におき、私が後ろから援護する形で敵に背後に回らせないように戦ってきた。その陣形が突然現れた敵によってくずされる。

 

「茶々丸!!!」

 

 ドゴと低い音が鳴り、私をかばった茶々丸が敵に殴りつけられる。服が裂け機械部を露出させながら飛ばされた茶々丸のもとに駆けよる。そのままバチバチと電気がはじける音がする自分の従者を拾って、距離を取ろうと後ろに下がる。が…

 

「…っ。囲まれたか」

 

「マ、マスター…。私のことは放っておいてどうか…」

 

「ふん。できるなりとうにそうしている」

 

 置いて逃げろという従者に皮肉をいう。この状況を切り開くには魔法の触媒も魔力も残り少ない。頭には絶体絶命という文字が浮かぶ。

 

「…マ、マスター…」

 

「……」

 

 茶々丸はどうにか私を逃がそうと立ち上がろうとしている。だが体に力を入れるたびにピシっという音を立て崩れる。その間も化け物たちはじりじりと近寄りとどめを刺そうとそれぞれがもつ武器に力を入れる。

 

 

 

 誇りある悪として、いつか自分が滅ばされるのは覚悟していた。それだけのことはしてきたし、自らの生に後悔しているわけではない。だが…

 

『光に生きてみろ。そしたらその時お前の呪いも解いてやる。』

 

「……うそつきが」

 

 自分に呪いをかけたやつの最後の言葉が頭に浮かび、すがるように声をもらす。

 

 斧をもった一匹が手を高く上げ、その武器で私を振り抜く準備をする。その斧には再生不可の呪いのついた印がみえ、どこまでも用意のいいやつだ。とあきらめたような乾いた笑みとともに呟いた。

 

 

 

「マスター!!!」

 

 

 

 妖魔の手が振り下ろされ、茶々丸が叫んだ。斧が私の頭に届こうとする。その時。

 

 

 

 

 

 炎の柱が横向きに突き抜け、化け物たちを灰にした。

 

 

 

 

「…は?」

 

 状況を理解できず、間抜けな声がでる。助っ人かと思ったが、学園にこんな高密度の炎を打ち出す魔法を使えるものはいない。なにより驚くことは、この炎には魔力を感じなかったのだ。

地面がジュウと焼けるような音を立てる。前をみると敵の4分の1は今の炎で消えていった。

 

「マ、マスター…あれ…」

 

 炎の発射先であろう方向を茶々丸がボロボロな手を上げ指さす。つられてそこに視線を向けるとそこには

 

 

 赤い帽子をかぶりその上に黄色い動物をのせる少年と、赤い竜がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからはまさに独壇場といえるものであった。

 敵と私が唖然としていると、少年は妖魔たちの方向に手を向けた。それを合図に竜がすさまじい勢いで低空飛行をし、そのまま妖魔たちの群れに突撃して蹴散らした。ばらけるように敵の陣形はくずれ、私を囲っていた奴らは弾き飛ばされていった。

妖魔は竜を標的とし、一斉に向かっていく。竜は低い声で唸りながら勢いよくしっぽを振り抜いた。しっぽに当てられた妖魔は吹き飛ばされシュウウウウと音を立てて自らの世界に帰っていく。

 向かってくる敵を爪で引き裂き、翼で打ち、尾で払う。大きさは成人男性ほどの竜であるが、その姿はまさに伝説で聞く竜にふさわしいものであった。竜は赤い少年の方にたまに目線をやりながら妖魔を殲滅していく。その時妖魔の中で弓をもつものが遠距離から矢を射る。しかし竜はその妖魔の存在を認知していたかのように振り向きざまに炎を直線状に吐き、放たれた矢ごと妖魔を焼失させる。

 

「茶々丸。あれはなんだ。」

 

「わかりません。あの竜も少年も、その上の黄色の動物も照合データはありません」

 

 茶々丸には魔法界のデータも検索できるようにしてある。それにひっかからないということは魔界などから呼び出されたものなのだろうか。つくられた生物ではないことはわかる。あの動きや迫力はそんなもので表わすことはできない。創生できる竜の実力などたかが知れている。図書館島にもドラゴンがいるが、あれにも優るとも劣らない力である。なにより恐ろしいのは完成されたその動き。どんな状況でも臨機応変に対応するその姿は、まるで百戦錬磨の人の知恵をもつかのようだ。

 その動きを指示しているのは…間違いなくあの少年であろう。私にはわからんが目線や手振り、少ない動きで竜に的確な指示を与えているようだ。

 

「あのガキが主か」

 

「おそらく。しかし竜を使い魔にできるとは」

 

「相当な実力者だろうな。指示も的確で完全に使いこなしている。だが主自ら戦場にでてくるとはな」

 

 妖魔たちが竜を相手にするのは不可能と悟り、少年の方に向かっていく。召喚師や獣使いは見えないところや離れたところで使役するのが常套手段だ。主が前に出てくればそれを狙うのは当然である。

 

「ッち!茶々丸動けるか!」

 

「…!手助けなさるのですか?」

 

「当然だ!やつの目的は分からんが借りを作ってしまったまま死なれるのは癪だ!」

 

「…く!すいませんマスター!正常な動作はまだ…!」

 

「くそ!」

 

 この距離だと呪文を詠唱しても間に合わん。竜も他の妖魔に足を止められていて主のもとまで行けそうにない。妖魔たちが少年に斬りかかろうとする。しかし少年の顔には何も焦燥の様子はなく…

 

 

 

 

 轟音とともに少年の周りに黄色い閃光が駆けた。

 

 

「…は?」

 

 本日二回目の間抜けの声を出す。綺麗に少年の周りにだけ雷が落ちて妖魔たちは消滅していた。上にいる動物の赤い頬からビリビリと電気が漏れていて、雷の原因が分かった。

 

「なんて無茶苦茶なやつらだ…」

 

「マスター。今の雷にも魔力反応はありません」

 

「自然発生の雷を呼び起こすだと?どういう理屈だそれは…」

 

 見上げると少年の上には黒雲が漂っていた。少年は狙われることも当然のように察知していたのであろう。そのために雷を操る獣を頭にのせ戦場まで出てきたのだ。

 

 竜の方を見ると、どうやら最後の一匹を消滅させたようだった。ドスンドスンと音を立てながら主のもとに近寄っていく。少年はお疲れとでも言ってるように竜をなでる。すると上の動物がピカピカ言いながら少年をたたく。少年は手を頭にやり、頭の上の動物をなでてやると動物は満足そうな鳴き声をあげた。

 

 その後、少年たちはゆっくりと歩いてこちらに近づいてきた。

 

「マスター」

 

「大丈夫だ茶々丸」

 

 私の前に出て、私を守ろうとする茶々丸をなだめる。

 

「… …」

 

 少年は何もしゃべらない。

 

「貴様は―――――」

 

「エヴァ!!!」

 

 何者だ。と聞こうとすると男性を背負って駆けてやってきたタカミチに遮られた。

 

「大丈夫かい!」

 

「無論だ。私を誰だと思っている」

 

「さきほどまでボロボロにやられそうでした」

 

「おい!このボケロボ!!…その背負ってるのなんだ」

 

「この事件の黒幕さ。ここに向かう途中に見つけてね。」

 

「っは。用意周到だったくせに最後はポカか。しまらない奴だ」

 

「はは…。――――それで…君は何者かな?」

 

 少し威圧するように少年に声をかける。見たことのないものを2匹もつれているのだ。怪しさは半端ではない。不思議なことに少年からは魔力も気も感じれないが、戦いに慣れているのであろう雰囲気だけは出ていた。

 

「… …」

 

 少年は答えない。それが怪しさを際立たせる。タカミチが臨戦態勢に入ろうとしているのでひとまず止めておく。

 

「まて、タカミチ。一応こいつには借りがある。…おい貴様、麻帆良の人間ではないな。どうやって麻帆良に侵入した。ここには浸入者を感知する結界があるのだが貴様を感知した覚えはない」

 

「… …」

 

「っ!」

 

「おちつけタカミチ」

 

 質問に答えない少年にタカミチが痺れをきらすがそれをなだめる。

 

「答えられることだけ答えればいい。目的はなんだ」

 

「… …」

 

「…その二匹は使い魔か?」

 

「… …」

 

「なぜ私を助けた」

 

「… …」

 

「……名前は」

 

「… …」

 

「…おい貴様!なめてるのか!!」

 

「マスター落ち着いて」

 

 何も答えない少年に次は私がしびれをきらしてしまった。どうどうと茶々丸が馬を静めるように私をなだめる。…このロボも大概私をなめてるな…。

 

「ふぅー…。なにも答えてくれないんじゃ埒が明かないね…。それじゃあこれだけ答えてくれるかな」

 

「… …」

 

 ゴゥと音を立ててタカミチの周りに風が舞う。

 

「僕たちがここのトップの所まで君を連れていかなければならないと言ったら――――抵抗せずについてきてくれるかな?」

 

 タカミチが気を強め挑発するように言う。言葉の裏には答えなかったら無理やりにでも連れていくという気迫があふれていた。しかし少年は

 

 

 

「… …」

 

 

 

 答えない。

 

 

 

「…仕方がないね」

 

 

 

「まてタカミチ!」

 

 

 

 タカミチが呟き少年に向かっていくのを私は止められなかった。




はい、どうも4話です。

いやぁ無口って大変ですねぇ。そりゃあなんもしゃべらない人が暴れてたら警戒もしますわな。
ボツネタとしてはエヴァをゲットしようとモンスターボールを投げつけちゃって戦闘に入るとかもあったんですけどね。妖魔はともかくエヴァはポケモンには見えませんよね。

次はレッド視点で書くつもりです。今回いきなり妖魔と戦闘しだすレッドに違和感感じる人いるかもしれませんがそれを説明できたらいいなぁて少し思ったり。


そういえば少し短いっていわれたんですが、大体いつも4000文字くらいでいい区切りになっちゃうんですよねぇ。あとこれ以上多く書くと更新ペースもちょっと変わってくるかと。うーんどうしよう。まぁこれからはもうちょいかければと思ってます。

では!


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5 昂ぶるレッド

いつの間にかお気に入り100件突破!!
ありがとうございます!!!


 それぞれが異形の形を成し武器を持つ化け物たち。足の裏のブーストを使い戦場をかけ、所々に機械のようなものを身に着ける少女。そしてなにやら唱えるととも氷の塊を飛ばす金髪の幼女。その光景を見た時、俺は何が起きているかを把握することできず言葉を失った。……もとから失うほどの言葉は持ち合わせていなかったけど…

 

 

 

 

 まずはあの異形の化け物たち。最初は新種のポケモンかと思ったがそれは違うとすぐに思い直す。

 あれはポケモンなんかではない。今まで何匹ものポケモンを誰よりも近くで見てきた。少女たちに蹴散らされるのを見て、ダメージを負ったからといって消えるポケモンなど聞いたことがない。また、姿形があれよりおかしなポケモンはいくらでもいるだろうが、全てのポケモンに乏しくも少なからず感情がある。しかし、あれには感情などが見えない。あれのように「敵を倒す」という、ひとつの意思のみで動かされているものなどいなかった。

 いや、奴らはその意思しか持てない様にできているのだ。

 

 それらに相対しているのは2人の少女。どちらもまだ幼く、しかも一人は小学生ほどだ。だが機械を身に纏う少女は、自らに付属する機械を存分に使い少女とは思えぬ力と速さであれらを蹴散らしていく。金髪の幼女は前衛を援護するかのようにポケモンの技に似た何かを打ち出している。

 この二人はポケモンでも化け物でもない。おそらく人に近い何かのはずだ。もしかしたら機械の女性は本当に機械で体全体ができているかもしれん。金髪の幼女は形は完全に人だがポケモンの技を打ち出すとなるとそうはいえない。…いやそれよりほんのわずかだが人にはない違和感を感じる…。

 

 二人はあれら相手によくやっていた。うまく陣形をつくり、敵を前方におき前のみに集中できるように戦っている。言葉にすると簡単だが実際は用意ではない。敵もその陣形を崩そうと回り込もうとするのを幼女が奇妙な術でけん制して動きにくくしている。

 

 しかしそんな戦法ではひっくり返せない戦力差がそこにはあった。数が違いすぎるのだ。2人に対してあれの数は約50匹ほど。

群がる自軍に隠れて1匹が地面に潜っていく。おそらくその一芸に熟練したものなのだろう。そいつはあっという間に地面を掘り抜けたのか、すぐに金髪の幼女の後ろから飛び出て、殴りつけようとする。

 

 機械の少女が幼女をかばうように飛び出し痛手を負う。先ほどの陣形を崩されて二人はあれに囲まれる。絶体絶命というやつだ。

 

 

「ぴかぴか!」

 

 

 状況を把握しようと、しばらく様子を見ていた俺をピカが上からはたく。

 

 

「がうう」

 

 

 リザも俺に向かって唸る。

 

 

 

 ああ、そうだな――この状況―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――あれらと戦ってみたらどんなにおもしろそうなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の口角が釣り上がるのがわかる。ゾクゾクと自分の体が震えた。

 

 

 敵を倒すという意思しかもたない?50体もの数?それがどうした。それを全部自分に向けてくれたらあれらは俺と対等に戦えるのか?

 

 

 

 ポケモンではないという敵がいったい自分達に何をしてくるのか。自分の興味心が刺激される。

 

 

 

 

「ぴか!」「がうう!」

 

 

 俺が笑みをポケモンたちに向けるとも答えるようにポケモンたちは吼えた。長いこと一緒にいるこいつらには俺の内心が筒抜けだったみたいだ。

 

 

 二人の少女を囲むようにしていたあれの群衆に手を向ける。

 

 

 すぐに意図を察したリザがすぅと空気を軽く肺にねじ込み

 

 

 

 

 

 高熱の炎を勢いよく吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎により何匹か片付けたあと、リザは地面すれすれをかなりの速さで飛び、あれの群れに飛び込んでいった。リザには目線や手振りで指示を与えながら、頭を上向きに軽く二回揺らす。上にいるピカが「ぴか」と返事をし、雷雲をつくり自分の周囲に雷を落とすための準備を始めた。

 

 

 これはポケモンバトルではない。ともすればいずれあれらがこちらを狙ってくるのは当然。そのために自分の身を守る準備をしておく。自身が狙われるという戦いは何も初めてというわけではない。

 

 シルフカンパニーに突入し、多くのロケット団と戦ったとき。容赦なくトレーナーをねらうあの組織相手では、自分の身を守りながらの戦いであった。またシロガネ山でも気性の荒いポケモンは見境なしにこちらに向かってくる。ルールも何もない戦いであったがその経験は今に役立つ。

 

 

 

 リザを見ると、圧倒的な力で敵を蹂躙していた。1匹が武器を弓に持ち替え距離を置いたのを察知し、俺はリザにその方向と弓の発射予想時間を伝える。手振りだけでそれがわかってくれるのは長い時間が作った信頼の証だ。

 

 

 リザが弓兵を焼き尽くした後、何匹がこちらに向かってくるが焦ることはなかった。ピカがタイミングをよんで、多くの敵に被弾するように雷を落として、こちらに向かってきた奴等を消滅させた。

 

 

 その後リザが最後の敵を踏み潰しシュウウと音を立ててそれは消える。全ての敵を倒し終えたリザはドスドスと地面を踏み鳴らし、こちらに向かってくる。

 

 リザをおつかれと軽くなでると、『自分も!』とピカが急かすのでそちらもなでる。

 

 

 

 

 

 

 

 なんというか…意外とあっけなかったな…。もうちょい手ごたえある思ったんだが…。

予想より大した事ない戦いに少し落胆する。まぁ久々に思いっきり暴れれたリザが満足そうだからよしとするか。

 

 

 視線を感じて目線を向けると、その先には先ほどの二人の少女がいた。二人は驚嘆半分警戒半分という顔をしている。

 

 

 けっきょくこいつらはなんだったんだろうか。幼女はなんか「つららおとし」みたいのしてたし…。1度モンスターボールぶつけてみるか。でも途中しゃべってたしなぁ。しゃべるポケモンなんか―――――あ、いつかしゃべるニャースがいたな。

 

 

 そう思いながら近づくと金髪の幼女が口を開いた。

 

 

 

「貴様は―――――」

 

 

「エヴァ!!!」

 

 

 

 

 その言葉が、凄い速度でやってきた男性に遮られた。「大丈夫かい!」と心配そうな声で幼女に駆け寄り会話を始めた。途中で背負っていた気を失っている男性を下ろしながら俺のほうを向き

 

 

「――――それで…君は何者かな?」

 

 

 

 そういうと彼の放つ雰囲気が変わった。軽く威圧してきたようだが、その変り様は人に飼われているような穏やかそうな動物から檻から放たれた猛獣のようだ。

 

 

「……」

 

 俺は驚いた。人がこんな圧力をだせるものなのか。そう考えていると、彼から感じる圧力がさらに上がる。それを止めるように金髪幼女――エヴァと呼ばれた者がなだめる。

 

 

 

「まて、タカミチ。一応こいつには借りがある。…おい貴様、麻帆良の人間ではないな。どうやって麻帆良に侵入した。ここには浸入者を感知する結界があるのだが貴様を感知した覚えはない」

 

 

 

 

―――――――――――――――あんな圧力、強者の持つポケモンを前にしても何度かしか体験したことがない。

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 

「おちつけタカミチ」

 

 

 

 

 俺が先ほどの圧力の前に未だに唖然としていると男からの威圧感がさらに上がった。それを前にして俺の体は刺戟されていく。

 

 

 

 

「答――――こと―――答え――ればいい。目的は――だ」

 

 

 

 

―――――――――――――エヴァというものからの質問。先ほどからよく聞こえない。

 

 

 

 

「…――二匹―使い――?」

 

 

 

 

―――――――――――――こいつの動き、気配、すべて人から感じられるレベルではない。

 

 

 

 

「なぜ――――」

 

 

 

 

 

―――――――――――――ここに駆け寄った時の速度。あれも半端なポケモンなど置き去りにする速さだった。

 

 

 

 

 

「―――名――」

 

 

 

 

 

――――――――――――――こいつと戦ったらどれだけ楽しめる…!!!

 

 

 

 

 

「…――――!―――――!!」

 

 

 

 

 

 

―――――もはやあふれる動悸を止められない。好奇心ががりがりと俺の心を削っていく。

 

 

 

 

 何やら声を発した後ゴゥと音を立てて男の周りに風が舞う。

 

 

 

 

―――――――――――そっちもやるきじゃねぇか…!!!!

 

 

 

 

 向かってくる男を見ると、俺は自分の笑みを抑えることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 男が凄まじい速さでこちらに向かう途中、この場に及んでポケットに手を入れている姿が目に入る。

 

 この状況であの構え…!意味のない構えのはずがない!

 

 即座にリザに一歩前に出て防御するように指示する。リザも咄嗟の指示に反応し素早く俺の前に移動して自前の翼を前方でクロスさせるようにして防御態勢に入る。パパパン!と弾けるような音がリザの翼から鳴る。

 

「っ!」

 

 男は防御されたことに少し驚くが、そのまま防御をこじ開けようと攻撃を続ける。その間に俺は男を観察する。

 

 あの被弾音。そしてポケットに入れてみせない手。攻撃の発射部分もポケットだから…まさかポケットからなにか打ち出してるのか。しかし威力はそこまでたかくない…。――なら次のやつの立ち回りは!

 

 一瞬で頭に考えをめぐらし行動する。

 

「……!!!」

 

 ピカに後ろに電撃を放つように指示すると、ピカも俺の指示に疑うことなくそれを実行し、黄色い閃光が駆ける。―――――ドンピシャ!!!

 

「っな!」

 

 ちょうどそのタイミングで後ろに回り込んだ男に電撃襲いかかる。男は電撃を避けるために体勢を崩しながらも攻撃を繰り出しそれが俺の頬をかする。

 

「……!!」

 

 リザが体勢を崩してる奴に攻撃をしようと距離を詰める。男は距離をとろうとリザの爪をいなしながら後ろに跳ぶがそうはさせない。リザに極力距離を詰めるように指示し跳ぶ男に飛んでひっついていく。

 

 あの見えない攻撃。おそらく間合いを詰められて手数を増やされると出すのは困難。ならリザにはどんどん攻めてもらう。あの瞬間的に移動する技はほんの僅かなタメがいり、直線状だけっぽい。なら初動に気をつければピカでなんとか対処できる。

 

 ピカに次の指示を出そうとするとパンと弾けるような音が俺の前で鳴る。ピカの尾が俺の前で振り下ろされたおかげでなんとか俺は男の攻撃を受けずに済んだ。

 

 あのやろう…!リザと戦いながら隙あれば俺に攻撃してきやがる…!――――――――はは、何て野郎だ。

 

 思わず声が漏れそうになる。自分の身すら危うい状況。少しでも隙を見せてあの攻撃を食らえば一瞬でノックアウト。指示のひとつもミスは許されない。

 

 久々に感じる戦闘の緊迫感。それは確実に俺の体を掻き立て、昂ぶらしていく。

 

 

 リザに詰め寄られている男が後ろに向かって瞬時に移動し、距離をとることに成功する。まさか後ろにも移動できるとは…。

 

 

「君はすごいな…。僕の技を一瞬で見抜き対応してくる…。そうそうできることじゃないよ」

 

「……」

 

「悪いが、このままじゃ危ういんでね。僕も本気を出させてもらう。」

 

 そういうと男は両手をポケットから出した。

 

「左腕に『魔力』右腕に『気』」

 

 それぞれの手からッボという音を立てが光を放ち始める。

 

「ばか!タカミチ!!やりすぎだ!!」

 

 幼女が叫ぶ。――確かにあれはやばそうだ。溢れる風圧に押されそうになりながら俺はあいつの入ったモンスターボールを手にする。

 

「ごうs――――」

 

 俺はモンスターボールを投げあいつを出そうと動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<そこまでよ>

 

 

 

 

 

 頭に声が鳴り響き戦いが止められる。俺の手にかけたモンスターボールは空中に浮かされ、男は金縛りにあったように動けなくなっていた。

 

 茂みから出てきたのは凛とした態度でこちらに向かうフィーと困惑した様子の眼鏡をかけた少女であった。

 

 

 

<ここまでよ、二人とも。レッド?この人相手にあいつを出したらどうなるかくらい分かるでしょ?>

 

「……」

 

<…はぁ。まぁいいわ。相当テンションあがって全然周り見えてなかったものね。――そこのダンディーなおじさん?私たちをここのトップの下に連れて行ってほしいのだけど。別に暴れたりするわけじゃないわ。>

 

「…本当かい?」

 

<誓って>

 

「…わかったよ」

 

 男は困惑するように答える。すると同時に男にかけていた金縛りが解けた。

 

<そこの気を失っている青年はいいとして、あなたたちも大丈夫かしら?>

 

 フィーは傷だらけの二人に声をかける。

 

「ふん。どうってことない。立てるか茶々丸?」

 

「もう大丈夫ですマスター」

 

 そう言って二人は立ち上がった。

 

 そのまま男の方に目をやると眼鏡をかけた少女と向き合っていた。

 

「高畑先生…これは一体どういうことで何が起こっているのですか…?」

 

 

「……すまない長谷川君…」

 

 

 少女が苦慮した声で話しかけるのに男は申し訳なさそうに呟く。

 

 

<千雨。込み入った話は後にしましょう。―――それでは向かいましょうか>

 

 

 

 

 

 

 

 この夜の関係者と巻き込まれた少女一人が学園長室に向かった。




ちょっと自分の無知のせいで迷惑をかけたのでここでもお詫びを。詳しくは小説の説明本文を見てください。


はい、5話ですね。
レッドさんはただの戦闘狂でした。そしてエヴァは実はがん無視されてただけ。てかレッドさん話きかなすぎです。
「タカミチ手出すのはやすぎじゃね?」という意見がありましたがまぁこれだけ闘志向けられたら手も出ちゃうんじゃないんすかねぇ。
エヴァはエヴァ自身に闘志向けられてるわけじゃないし、所詮一般人の闘志なんで気づかなかったってことで←適当

そして前回同様急に誰かが乱入するご都合主義。芸がなくてごめんなさいい。


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6 千雨の苦悩

なんか日間ランキング2位になってて「…は?」って声が出ちゃいました。みなさんありがとうございます。


<ねぇ千雨?私こんなに堂々と外を歩いて大丈夫なのかしら>

 

 千雨を連れて彼女の部屋を出た後、私たちは外套に照らされた夜道を歩んでいた。外の気温が少し寒いせいか、彼女はコートを一枚羽織って、手をすり合わせながら私の横を歩いている。シロガネ山に籠っていた経験がある私からしたら何ともない寒さなのだけど。

 

「んあ?大丈夫だろ。多分。この辺を夜出歩くやつはすくねぇし、ちょっとでかい猫いるの見たくらいじゃ騒ぎにならねぇよ」

 

 そうかしら?私、猫と比べたら相当大きいのだけど。と横目にしながら告げると、ここじゃあ大した問題にならねえんだよ…。とため息を吐きながら千雨は呟く。

 

「それより私としちゃフィーに一人で話しかけてるのを誰かに見られるのが辛い。クラスメイトに見られたら絶望だ。特に朝倉」

 

 個人名を挙げながらぶつぶつと文句をいう。というか

 

<あなたも念話で返せばいいじゃない?頭で思ってることを私に伝えようと意識する感じで。なれたらそんなに難しくないわよ?>

 

「いや、私は私のアイデンティティを貫く。念話とかしだしたら他の奴に異常なんて言えなくなっちまうかもしれねえ。」

 

 私と話してる時点で常識から遠のいてると思うんだけど…。別世界から私がきた、という話だけで彼女の脳内容量の受け入れが一杯らしく、自分をほんの少しでも非日常から遠ざけ一線を踏みとどまることで自我を保っているらしい。彼女にとって自身が常識の範疇にいることが大切なのであろうか。だとしたら悪いことしたかしら…

 

「…いや、フィーが気にすることねぇよ。フィーだって来たくてこっちに来たんじゃねぇし、フィーを拾ったのは自分の意思だ。後悔なんて今さらしてねえよ」

 

 少しふさぎ込んだ私を察して千雨はぶっきらぼうに言う。まだ短い時間しか千雨と共にしていないが、ちょっと斜めに構えた節があるけれど実際は面倒見が良くてお人よしなことが分かる。

 

 励ましてくれた千雨にお礼を言おうとすると、遠くでした大きな音を耳が拾い、ピンと耳を立たせる。

 

 

<…あっちで何かやっているわ。>

 

「あっち?あのでかい木の方か?私はなんも聞こえねーけど」

 

<私ちょっとは耳がいいのよ。…様子を見に行くわ>

 

「…!行くのかよ…」

 

 千雨はあきれた様子で私を見る。持ち前の直感で、その方向にいったらさらに巻き込まれるのを感じたのであろう。

 

<千雨は部屋に戻ってていいわ。何があるかわからないし>

 

 ここまでしてくれた千雨を危険な目に合わせるわけにはいかない。そう思い忠告すると千雨は自分の頭を片手でガシガシ掻きながら唸りだした。

 

「………あーーー!…どうする私!いわばここはひとつの分岐点!きっと後戻り不能地点!普通に部屋に戻ったらいつも通りの日常!だが…!」

 

 ついに頭を抱えて座り込んでしまった。でも何を悩んでいるのかしら。彼女にとって私についてくる利点なんてないのに。むしろついてくることで日常と非日常の一線を踏み越えてしまう可能性だってある。なのに…

 

 少しの間静かになった後、おもむろに立ち上がってこちらを見た。

 

「…私もいくぞ」

 

<え?なんで?別についてくる必要なんか…>

 

「いいんだよ!行くったら行くんだよ!なんか分からんが多分厄介事なんだろ!フィーに何かあったら拾った身としては気になって寝れねえんだよ!」

 

<え?え?大丈夫よ?私強いし>

 

 

「せっかく決心したのに一つ前の選択肢にもどらすんじゃねえよ!強いんなら何かあっても私を守れよな!!」

 

 

 無茶苦茶だ。勝手に付いてきながらしかも守れとまで言う。しかし私は彼女の気遣いがうれしかった。嫌悪を示してる非日常に自ら足を突っ込んだのだ。彼女がなぜこんなにも私を気にしてくれるかは分からないが、その気持ちに全力で答えようと思う。

 

<分かったわ。一緒に行きましょ。千雨のことは守るわ。何があっても。>

 

「…おう」

 

 彼女は乱暴に返事をする。

 少し急ぎ足で音の下へ向かう途中、素で話せるようになった奴なんて多くねーんだよ…。と彼女が呟いたのが耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 目的地につくと、異類異形のもの達が群がり、それと戦う主の姿が見えた。私たちは見つからないように少し遠めにその様子を見る。千雨は常識からかけ離れた状況をある程度覚悟していたようで、平静を保とうと頑張りながら私に聞いた。

 

「…あれもフィーみたいな「ポケモン」ってやつなのか?」

 

<いいえ。違うわね。あんなのは私の世界にはいないわ。あれはきっとこの世界の産物ね>

 

「……私の世界にもあんなの居るはずはないんだが…」

 

千雨がぐったりとしながら頬をぴくぴくとさせる。

 

<あれと戦ってる赤いのと帽子かぶった人の上にいる黄色いのが「ポケモン」。あ、帽子かぶってんのが私の主ね。>

 

「…まぁ、あの化け物たちよりは万倍は良い外見だな。てか主見つけたのにえらい冷静だな」

 

<いつか会えるって分かってたのだもん。まさかこんな早く会えるとは思わなかったけど。てか私を探さず何バトル楽しんじゃってんのかしら。…後で問い詰めなきゃね…。>

 

 

 少し怒りを露わにすると千雨が冷や汗をかきながら少し引いた。ああいけない。ちょっと威圧しすぎたわ。

 

「…主の戦闘手伝わなくていいのか?」

 

<あの程度なら今出しているポケモンで十分よ。それにここから離れてあなたが狙われたら困るしね>

 

 それに、レッドずいぶんと楽しそうにバトルしている。急な横やりをいれて邪魔をしたくなかった。

 

 

<あそこにいる二人は…襲われてたのかしら?>

 

 私が化け物の近くで座り込んでる女性二人を示すように言うと、千雨が「ッげ」と声を漏らした。

 

 

<知り合い?>

 

「クラスメイトだ…。なんでこんなとこに…。」

 

 

<…私には片方はロボットに見えるのだけど。>

 

 

「ああ、よかった。そう見えるならきっとクラスメイトに間違えない」

 

 

<……もう片方は金髪外人の幼女に見えるのだけど。>

 

 

「ああ、よかった。それも間違いなくクラスメイトだ」

 

 

<………あなたのクラスってなんなの?>

 

 

「私が聞きたい」

 

 

 そんな受け答えをしていると、いつの間にかレッドたちが敵を倒し終えたようだ。レッドはポケモンを連れて千雨のクラスメイトに近づいていく。

 

「…っ!」

 

<大丈夫よ。流石にレッドはあんな子供たちに手を出さないわ>

 

 先ほどまで暴れていた連中がクラスメイトに近づくのは千雨に不安をよぎらすが、それを私がなだめる。

 

 すると次に壮年の男性が凄まじい速さで跳んできた。

 

 

「<は??>」

 

 

 千雨の声と私の念話が重なる。

 明らかに外観は人間なのだが、あの速さは人間が出せる速度ではなかった。

 

 

<なんなのあれ…>

 

「……私のクラスの担任だ」

 

 

 まさかあんなびっくり人間を知ってるはずない、と答えを得るつもりもなく呟いたが、驚くことにあれも千雨の知り合いだったようだ。

 

<…………あなたのクラス…>

 

「言うな!もう言わないでくれ!流石に理解しきれん!!」

 

 クラスメイトが化け物たちと一緒にいたのは、何かしらあって巻き込まれたのであろうと無理やり自分を納得させたが、担任がびっくり人間でしたというのは、千雨には納得しきれなかったようだ。

 

 

 その後、びっくり人間の気に当てられてレッドにスイッチが入ったようで、二人は戦い始めた。千雨の担任が信じられない動きをする度に、彼女の顔が青ざめていく。身近な存在、それも教壇に立って自分たちに物を教える人間が化け物と戦えるような人間でしたというのは、彼女にとってショックなことだったのであろう。

 

 

 やっぱり無理やりにでも置いてくればよかった。と彼女の心を守り切れなかったことに私は後悔した。

 

 戦闘が熱を増していくと、千雨の担任が本気を出すようで、雰囲気が変わる。それにあわしてレッドがあいつの入ったモンスターボールに手をかけた。

 

<まずいわ!!!!>

 

「…!どうした!」

 

<…!戦いを止めるわ!>

 

 説明する暇もなく、要件だけ述べて戦場にかける。千雨も慌ててついてくる。

こんなところであいつを出したら当たり一面どうなるかわからない。千雨の身を守るためにも絶対に止めなくてちゃ!

 

 そう判断してからすぐに、二人の間に跳び込み、戦闘を中止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 戦いを止めてから、壮年の男性――タカミチという人に案内をされ、大きな建物の中に入った。ここは千雨が通う女子校の中等部らしい。…女子校の中にいるトップってどうなのかしら。

 

 レッドが出していたポケモンはモンスターボールに戻らず一緒に歩いていた。初めて来る地なのでボールの中ではなく外で景色を見たかったらしい。

 

 

<まったく。あなた達がいながらなんでレッドを止められないのかしら>

 

<え、えっとね!ちょっとこっちもノッてきちゃってね!ちょっとだよ!ちょっと!!んでね!僕もね!駄目だとは思ったんだけどね!ついね!ねぇレッド?>

 

「……」

 

 

 ピカが「てへっ」と舌をだしながら悪びれずに言う。レッドは当然答えない。念話は私たちの間にしか繋がっていないはずだが、そんなピカの様子に惹かれたのか、緑の髪の機械の少女――茶々丸がピカをジィっと見つめる。

 

 

<……リザ。あなたも…>

 

<いやあ、久しぶりの戦闘だったもんでな!周りなぞなんも見えておらんだわ!がっはっは!!>

 

 急に笑うように吠えるリザの声で、周りの人間がビクっと肩を震わしリザを見る。<いやあ、すまんすまん!>と適当に謝るリザを無視し、全員に<なんでもないわ。うちのバカがごめんなさい>と代わりに謝罪を入れておく。タカミチは少し気にした様子だったが、気を取り直して案内を始めた。

 

 

 私たちの中でも戦闘好きだけが戦線にでたのが問題だったわね…。いや、比較的みんな戦闘は好きなんだけど、こいつらは特に周りが見えないから…。

 

 

 

 しばらく中を歩くと目的の場所に着いたらしい。タカミチが「僕たちが先に中に入って事情を説明してくる。少し待っていてほしい」といって扉をノックする。

 

「学園長。僕です」

 

「うむ。入っていいぞ」

 

 中から老人の声が聞こえると、失礼します。と言いタカミチが中に入る。千雨のクラスメイトの金髪幼女――エヴァと呼ばれていた人もそれに続き、中に入ろうとする。

 

「茶々丸。お前らはこいつらを見張っていろ。何かあったらすぐに呼べ」

 

「はい。マスター」

 

 エヴァは茶々丸に指示を与えてから、ギィっと音を立て扉を閉めた。

 

 

「「「……」」」

 

 誰も声を上げようとしなかったので、少し表情を暗くしている千雨に話しかける。

 

<千雨。大丈夫?>

 

<ああ、大丈夫だ。心配掛けたな>

 

 すでに非日常に半身が浸かってることを自覚しているのだろうか、千雨は念話で答えた。それが私に罪悪感を植え付ける。

 

<…ごめんね、千雨。あなたを巻き込むようにしちゃって>

 

<謝んなって。拾ったのも踏み込んだのも自分の意思だ。これでも後悔してねぇよ。ただ担任があんなんだったってことに整理がつかないだけさ>

 

 千雨が軽く私をなでながら言った。素直になでられてる私をみてレッドたちが珍しいものを見たという顔をした。…あとでシメル。

 

 

 

「…千雨さん」

 

 急に茶々丸が声をだし、名を呼ばれた千雨が驚いた様子で茶々丸の方を向いた。

 

「あんたから話しかけられるとはな、茶々丸さん」

 

 下の名で呼び合うような仲でもないのであろうが、名で呼ばれたのを皮肉っぽく返すように千雨も茶々丸と名で呼んだ。

 

「あなたはこの方たちと知り合いだったのですか?」

 

「いや、知り合いってほどでもねえよ。この猫みたいのを拾って、飼い主の下に返そうとしたら巻き込まれちまっただけさ」

 

「そうですか、では、…あの…」

 

 歯切れが悪そうに言う茶々丸に千雨が「なんだよ」と乱暴に返事をした。

 

 

 

 

 

「その…。その猫と黄色いの…触らせてもらってもよろしいでしょうか」

 

 

 

 

 

 

<<「「……」」>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後すぐにタカミチが「入っていいよ」と呼びに来たせいで、結局茶々丸は私たちをなでれず、ロボットなのに悲しそうな顔をしていた。

 

 




はいどうも、6話です。
話がぜんぜん進んでねぇ…。
3視点はやりすぎた感。まぁ次からは普通に進むんでご勘弁。

千雨は基本クラスメイトを苗字で呼ぶイメージですが、漫画では最初から茶々丸と言ってた気が…いや違ったらすません。まぁこの作品ではこんな感じで名前を呼び出したってことで。

そして千雨のちょろさ。彼女もあっという間にフィーと仲いい感じになってますが、このころの千雨が素で話せる相手って少ないんで大事にしたかったんじゃないっすか?それにネギま勢って基本ちょろいからね、うん(オイ


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7 学園長と対談

 案内された扉の先は大きな部屋であった。二階に繋がる階段まであり、低くて広い机に並ぶように置いてあるソファーと、奥にはそれなりの高さで書類や本が綺麗に置かれている机があった。その机の奥に座っていたのは―――

 

<まさかとは思うけど、ここのトップってあそこのぬらりひょんみたいな人じゃないわよね?>

 

<ね!ね!すごいね!ぼく妖怪初めて見た!!!>

 

「…いきなり失礼な奴らじゃのう。」

 

 本気で疑問を感じている私と無邪気にはしゃぐピカを見て妖怪ぬらりひょんはあご髭をさすりながらフォッフォッフォと不気味な笑い声を立てた。

てかお前らぬらりひょんとか知ってたんだなっと千雨がぼそりと呟いた。

 

 ちなみに、現在念話は円滑に情報を伝えられるように全員にオープンにしてある。こちらだけで相談がしたくなったらその都度念話を切り替えるつもりだ。

 

「さて…まずは自己紹介をしとこうかの。ワシがこの麻帆良学園の学園長、近衛 近右衛門じゃ。」

 

<学園長ねぇ…。学校の長がなぜこの地のトップと呼ばれているの?>

 

「この土地は大規模な学園都市でのう。あらゆる学術機関が集まってできた都市なんじゃ。そのため学園長と理事長を請けおるワシが実質この土地の責任者となっておる。」

 

 …でもそれって女子中等部に部屋をつける理由にはならないと思うのだけど…。なにか特別な目的があるのかしら。とかあまり関係ないことが頭をよぎってしまった。

 

「さて、そちらの名前を教えてくれるかの?」

 

 近右衛門がレッドを見ながら尋ねた。しかしレッドはいつも通り

 

「……」

 

「……」

 

 皆がレッドの方を向くがレッドが答えないせいで沈黙が続いた。変に怪しまれないうちにフォローを入れておきましょう。ていうかいつも思ってたのだけれど自己紹介の度に私が言わなきゃいけないのよね。ほんとにまずいわ私の主。ネームプレートでも張ってもらおうかしら。

 

<ごめんなさいね。私の主あんまり口を開かない主義なの。彼の名前はレッド。そして私がフィーよ。>

 

 そしてこれはピカとリザ。と適当に紹介すると、<うわ!ついで!ついでだよ僕ら!>とピカが騒いだ。

 

 さっきからうるさいからこの子だけ念話つなぐのやめとこうかと考えた。フルオープンなせいでこの子の会話も全員に聞こえている。茶々丸だけピカがしゃべると妙にほっこりしているけど。

 

「…「口を開かない。」というのは「開けない」という訳じゃないのだろう?」

 

「……」

 

 タカミチが疑うようにこちらを見る。それはそうだ。自分の名前すらしゃべらないと言うのはいささか怪しい。しかしそれにはなんの理由もないのだから怪しまれたって困る。

 

<そうよ。悲劇的な事故にあって口を開けなくなった訳でもないし、先天的な病気で口が開けられないという訳でもないわ。ほんとに無口なだけ。こればっかりは今や治しようのない呪いレベルだから悪いけど気にしないでほしいわ。代わりに私が必要な事は伝えるから>

 

 タカミチは納得しきれない様子であったがひとまず身を引いた。これ以上この事について話をしても、レッドがしゃべるようになることはないから引き下がってくれて助かった。

 

「おのしが代わりに話を進めてくれるならばこちらは構わんよ。おのしの発言がレッド君の意思と判断してもよろしいかの?」

 

<かまわないわ>

 

「ふむ。心得た。」

 

 近右衛門は一息つくようにまた自分の髭を触った。

 

「まず、レッド君。エヴァンジェリンを救ってくれたことに礼を言わしてくれ。助かったわい。」

 

「ふんっ。」

 

「……」

 

 救われたという事実が恥ずかしいのか気に入らないのかわからないがエヴァは鼻をならしてこちらから目をそらす。

 

<お礼を言われるようなことではないわ。多分レッドからしたら助ける気で助けた訳じゃないんだもの。どーせあの化け物たちと戦いたかっただけだわ>

 

 レッドに言われたお礼に対して私が返事をするのもかなりおかしいが仕方がない。というか実際助けたなんて思ってないだろうし。

 

「それでもエヴァはお主らのおかげで今の命がある。さすがのこやつも再生不可の呪具でやられたら危なかったからのう。こちらの気持ちだけでも受けとってくれんかの」

 

<それでそちらの気が済むなら受けとるくらいはするわ>

 

 覚えのないことに関して礼を言われるということは、受け取る側としたらどうなのだろうか。大抵は「そんなつもりはなかったが助かったならよかった」とでも言って素直に受けとりそうだが、レッドは「そんなつもりはなかったからどうでもいい」と思っているだろう。謂われのないことにお礼を言われても無関心、ならばせめて私が受けとって礼を渡す側の気ぐらい楽にしてやろう。

 

「さて、ここからが本題だが…」

 

「……!」

 

 

 そういうと近右衛門から言い知れぬ圧力溢れる。それに反応してレッドもにやりと口をゆがめる。お願いここで争わないで。話が進まない。

 

 

「お主らは何の目的で、どうやってここに来たのじゃ?なるべく嘘偽りなく話してくれると助かるんじゃが」

 

「……」

 

 私たちが怪しまれるのは当然だろう。侵入者の感知にもひっかからず、一番問題なのはタカミチと戦闘してしまったことだ。本当に無害ならば、その場で怪しいと思われた誤解をなんとか解こうとするものである。こちらは誤解を解くどころかにっこりと戦闘に応じてしまった。

 

 

「……」

 

 

 さらに圧力を増した近右衛門をみて、レッドの口端がおもいっきりあがる。

だめだ、レッドのやつ高揚が高まり続けてる。それにつれて周りも敵対の意思と受けとって気を高めている。このまま戦闘が始まったら修羅場でカオスだ。

 

 

 

 まさに一瞬即発。

 そう思っているとレッドの頭がバリィと弾け、ぷすぷすと音を立ててからレッドは倒れた。

 

 

 

<あ!!ごめん、レッド!!ちょっと高鳴って電気漏れちゃった!わざとじゃないよ!!ほんとだよ!!!>

 

 

 

 レッド同様に気に当てられて興奮したピカが倒れているレッドの頭をゆさゆさと揺らす。グッジョブよピカ。あなた今日一の働きをしたわ。

 

 

 レッドおおおおと叫ぶピカと笑いだしたリザ以外唖然とする周りに、気を取り直して再度会話を始める。

 

<みっともないところみせちゃったわね。まぁ無言の主はいてもいなくても変わらないから問題ないわ。話を続けましょ>

 

 ひでぇなこいつ…と千雨が呟くのが聞こえたけど事実なんだから仕方がない。

 

「う、うむ。それでそちらの目的とここに来た方法なんじゃが…」

 

 同じ質問を繰り返す近右衛門に私は返事をする。

 

<そうね。先に言っておくけど私たちが言う言葉に嘘はないわ。もちろんそちらに対する敵意もない。信じられないかもしれないけどね。さっきのレッドは戦闘狂だからそういうのに当てられると周りが見えなくなっちゃうの。だからそこだけは勘弁してあげて>

 

 どうせ真実を話したところですぐには信じてくれないと思い、軽く予防線を張っておく。ついでにレッドのフォローも。

 

「うむ。そちらの言葉次第じゃの」

 

 まぁ仮にも長だし、流石にそんな簡単に信じてくれないわよね。

 

<まず目的だけどね。私たちに目的なんかないわ。気づいたらここにいたのだから>

 

「それは…どういうことかの?」

 

 近右衛門が不信感をあらわにした声を出す。こちらの意図が読めないタカミチは未だ緊張状態だ。

 

<私たちね。別世界からきたの>

 

<<「「「は??」」」>>

 

 千雨と茶々丸以外の全員の声が重なる。やっぱりピカたちも気づいてなかったのね。

 

 

 

 それからしばらく、私は自分の身の回りの話をした。ポケモンやポケモントレーナーなどの話から私たちが転移するに至った状況、ここにきてからの行動など。レッドの行動はリザに話してもらったけれど。

 全て話し終えると周りは考え込むように静かになった。

 

「…ふぅむ。ポケモンのう。世界を超えるほどの力を使えるモンスターがいるとは恐ろしい世界よのう」

 

「学園長!?彼らを信じるんですか!?」

 

 どうやら近右衛門はひとまず私たちを信じてくれるらしい。しかしタカミチにはいまいち信用されていない。レッドと戦闘をしたというのも大きいのだろうか。

 

「高畑先生。彼らのおっしゃることは信じるに値する要素があります」

 

 思わぬところから助け船がはいる。茶々丸がエヴァに説明しろと促されてそのまま話し出す。

 

「まず彼らの周りからは過剰な魔力、妖力を感知できません。そのことから魔法世界はもちろん、召喚されたものではないこともわかります。そして彼らの外部形態、内部構造を観測すると作られたものではないことが確実です。今この世界ではここまでの知力、機能、をもった生物は存在しません。よって外の世界からきたというのはつじつまが合う意見です。」

 

 淡々と茶々丸が理由を述べることによって、みんななんとか納得してくれたようだった。というか今さらっと聞きなれない言葉が聞こえたのだけれど…。

 

「ふむ、とりあえずそちらの事情はわかった。うちのタカミチも早とちりしてすまんかったのう」

 

「…っ」

 

 そういうとタカミチが申し訳なさそうな顔をした。この近右衛門という老人。トップとして下の者の責任をもつという気概があり、ここにきてようやく少し好感が湧いた。

 

<かまわないわ。こっちの戦闘狂もノリノリだったもの。お互い様よ>

 

<えへへー!><がっはっは>

 

 何故か笑いだす二匹。あちらを見習って少しは申し訳なさそうにしてほしい。

 

<…それより。次はそちらの話をしてくれるかしら?タカミチも近右衛門も普通の人って訳じゃないんでしょう?>

 

 こちらが最も気になることを聞く。ただの人間であそこまで迫力を出せるわけがない。この世界でもタカミチが異質であることは千雨の反応が表わしていたし、大量の化け物についても知っておいた方がいいと思った。

 

「そうじゃのう…。」

 

 近右衛門が千雨の方にちらっと視線を向けた後、驚くことを口にした。

 

「ワシは魔法使いなんじゃ」

 

<<<「は?」>>>

 

 今度は私らポケモンと千雨が出した声が重なった。

 

 

 それから近右衛門は信じられないような話を始めた。この世界の裏側には「魔法使い」たるものが存在していて暗躍している。「魔法使い」は精霊の力を借りて「魔法」を使用する。例外はあれど、「マギステル・マギ」を目指して彼らは精進している。…などなど

 

 信じられるような話ではなかったが、ここでうそをつく理由はないし、タカミチの動きを見てしまったら納得するしかない。

 

<てことはあなた達はみんな魔法使いなのね>

 

「正確には僕は違うけど…まぁそういう認識で構わないよ」

 

 タカミチの言葉を聞き千雨が、まじかよほんとに魔法あんのかよ…と言いながらうなだれている。

 

「さて、お互いの事情が分かったことだしこれからのことを決めようかの」

 

 そうだ。特に私たちは今問題が山積みである。帰る方法、それまでの衣食住などなど。さすがにそれらの話はレッドなしで決めるわけにはいかない。とりあえず今日の寝床だけでも確保してこれからの方針を決めなくては。そう近衛門に告げると

 

「そうじゃのう。あまりおぬしらにうろうろされても問題になる。とりあえずは認識阻害を強めておくわい」

 

 そういって近右衛門が何やら呪文を唱えると私たちとレッドのもつ他のモンスターボールの周りに円形の不思議な紋様が光って消えた。さきほどの私たちの話をきいて、私たち以外のポケモンにも認識阻害がいくように気を使ってくれたらしい。

 

「さて、今日の宿はどうするかのう」

 

「私の家でいい。そいつらには借りがあるしな。」

 

 エヴァが間髪いれず答える。おお、なんと助かる。意図せずレッドが助けたのだが、いい方向に転がったらしい。

 

「ならば今日はそんなところかの。これからの方針がきまったらまた報告にきてくれんか。なるべくワシらも協力するからのう」

 

<ありがとう。助かるわ>

 

 地域のトップの人が手伝ってくれるとなると心強い。基本的にここの人たちはみなお人好しなんだろうか。意外となんとかなりそうで上機嫌になっていると

 

 

 

 

「さて…千雨くん。悪いが君には記憶を消去してもらわねばならない」

 

 

 

 

 なんてぬらりひょんが言いだして、私の中にどす黒い何かが駆け回った。




はい、7話です。ちょっと中途半端なとこで終わっちゃいましたけどこの続き書いたら長くなりそうなので区切っちゃいました。

早々にリタイアするレッドさん。しかしほんとにいなくてもかわらない(オイ
てかフィーいなくなったらこいつらどうするんだ…あれ?主人公フィーじゃね?そしてタカミチってこんなキャラだっけ?

認識阻害はボールにかけたら中までかかるというご都合主義ですいません。でも学園長って強いらしいしこれくらいできるっしょ!うん!(汗

さて次回は新しいポケモンだせたらとか思ってます。
…いまさらだけどしゃべりだすポケモンたちとか地雷臭やばいね…
では!




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8 対談その2

<あ!レッド!やっとおきた!おそい!おそいよ!目覚ますの!>

 

 目を開けた時、ピカが俺の頭を揺らしながら叫ぶのを聞いて、なんで自分が気を失っていたかを思い出した。

 

「……」

 

<ご、ごめん!ごめんて!だからそんな目でみないで!>

 

 お前のせいだろうが、と視線で訴えると激しい手振りでピカがあたふたとしだす。

 

<て、ちがう!ちがうよ!今はそんな場合じゃないんだって!>

 

 ほらあれ!とピカが俺の視線をある方向に促すとそこには

 

 怒りで毛が逆立ちゴゴゴゴと文字が浮かびそうなほどの威圧感をだすフィーの後ろ姿があった。

 

 

 

<今、まさかとは思うけど、千雨の記憶を消すといったのかしら?近右衛門?>

 

 フィーがにっこりと笑みを浮かべながら首をかしげる。表情とは裏腹に、誰がみても分かるような怒りがフィーの雰囲気から溢れ出ていた。

 

「左様じゃ。基本ワシら魔法使いは現代社会と平和裡に共存するためにその存在は一般人には秘密としておる。もし知られたらその記憶を消すなどして対処せねばならばいのじゃ」

 

 フィーの圧力に物怖じせず、堂々と学園長が述べる。それを聞き、千雨と呼ばれる少女がひっ、と短い悲鳴を上げた。

 

<自分たちの都合のために人の記憶をどうこうして良いと思っているの?ずいぶん勝手なものね、魔法使いというのは。記憶を消すというのは当然私たちのことも忘れてしまうということよね>

 

「そうなるのう。おぬしら存在の出所を知っているというのは混乱を招くことになる。特に別世界から来たなんて情報はのう。ワシらと話す前から長谷川君はキミからそのことを聞いておったようじゃしな」

 

 出会いがしらにフィーが自分のことを話したのが少し仇となり、ッチと舌をならす。

 

<もちろん認めないわ、そんなこと。あなた達なんかに私たちの出会いを汚されたくないもの>

 

 フィーの体に力が入り戦闘態勢になる。それに触発されるようにタカミチが口を出す。

 

「だけど!魔法の存在を知っているだけで危険な事が起こることもあるんだ!僕らにだって敵がいない訳じゃない!その敵に魔法関係者と勘違いされて長谷川君の身が狙われることだってありえる!」

 

 知っていると千雨が危険。その言葉によってフィーが少し怯む。

 

「…僕らだって記憶を消したいわけじゃない。だけど、無関係な生徒を危険に巻き込むなんてことをしたくないんだ…。わかってくれ…。」

 

 タカミチがつらそうに言う。タカミチにとっても千雨は自分のクラスの生徒の一人。記憶を消すのが本当にいいことだと思っているわけではない。しかし、それ以上に危険な目にあう可能性は残したくないと思っている。彼はどちらが正しいともいえない2つの選択から、苦い思いで選んだのだろう。

 

「…彼女はいざという時自衛する手段がないしのう。魔法の素質に優れている訳ではない彼女は、いざ魔法を練習したところでたかが知れておる。」

 

 多大稀なる才能がなければ、ゲームや漫画のように急激に強くなることはない。一人の兵隊に勝つことだって簡単ではないはずだ。兵隊だって毎日訓練をしている。それを何日か修業した所で覆せるほど現実は容易くはない。力を知ってから数日の訓練で敵をバッタバッタと倒せるようになるのは、主人公体質たるチートをもつものくらいである。

 

<……でも、私は…>

 

 

 フィーは迷っていた。敵から千雨を守れと言われたら、彼女は迷わず守るであろう。しかし俺たちだってずっとこの世界にいるわけではない。いつか自分の世界に帰った時、千雨の身を守る手段がなくなる。しかし、だからといって彼女との出会いをなかったことにされたくはない。

 

<……>

 

 フィーは苦虫を噛みつぶしたような表情で、顔を下げる。

 

「……」

 

 それを見て、俺は周りに気づかれないようにリザとピカに指示を出す。二匹は親指をぐっと立て、リザは俺と千雨をひょいと持ち上げ背中に担ぐようにする。千雨はうわっと悲鳴をあげなすすべなく持ち上げられる。

 

「っな!」

 

 周りが俺たちの突然の行動に意表をつかれている間に、ピカは激しい閃光を上げて部屋を急激に照らす。皆が目を怯ませているうちに、リザはフィーを拾って全速力で学園長の後ろにある窓に突っ込みそのまま外に飛び出した。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 しばらく空中を移動した後、途中で広場を見つけて、俺たちはそこに下りた。リザとピカにお礼を言い、そっと撫でる。

 

「…」

 

<…千雨、ごめんなさい…>

 

 困惑したような顔をしている千雨にフィーが話かける。

 

<…私、あいつらにあんなこと言っておいて自分の都合であなたに迷惑をかけた…。私たちの出会いをなかったことにしたくないっていう私の都合に巻き込んで…。私は――>

 

「あああ!うるせえよ!」

 

 フィーの言葉が、千雨の大声によって遮られた。千雨はずんずんとフィーに近寄り、人差し指でフィーの額をつきつけながら続ける。

 

「よくわかんねーけど!フィーは私が記憶を消されるのを防ごうとしてくれたんだろ!私だってフィーとの記憶を消されるのは嫌だ!」

 

 それを聞いたフィーが目を丸くして千雨をみつめる。

 

「それに…ほ、ほら、あれだ。私らもう…あー、なんだ、と、友達だろ?友達が私のためを思ってくれてした行為だ。素直にうれしいと思ったさ、う、うん。」

 

 千雨は照れくさそうに、顔を赤くして後ろを向いてしまった。

 

「……守ってくれるんだろ?私を。」

 

<…………ええ。そうね。守るわ。何があっても>

 

 その言葉を聞いて、千雨がへへっと笑った。

 

 

 

 

 

 

<レッド、あなた達にも迷惑かけたわ。ごめんなさい。せっかく学園側と敵対もせずうまくいきそうだったのに>

 

<フィーが気にすることじゃないよ!ぼくらね!フィーの味方だよ!>

 

<そのとおり!我らはレッドに従っただけだからのう!>

 

「……」

 

 俺たちはそれぞれ気にするなという風にフィーを慰める。

 

「…でも別に飛び出して逃げる必要はなかったんじゃねえか?あんな去り方じゃ学園側と決別したみてえだったぞ?」

 

<<<確かに>>>

 

 3匹のポケモンが声をそろえてこちらをみる。ていうかリザとピカ、お前らは飛び出るのに協力したじゃねーか。

 

<坊主のいうことに従っただけだがのう。我はどんな状況でも坊主に従うぞ。どんな指示であってものう>

 

<んー。ぼくはね!なんか悩んでるフィーが見てられなくてね!なんとかできるならと思って協力しちゃった!てへ!>

 

「……」

 

 まぁ結局指示したのは俺な訳で、責任は確かに俺にあるな…。

 

 千雨の記憶を消すか消さないかという2択。正直俺にとってはそのこと自体はどうでもよかった。千雨とはまだ会って少しの時間しか経っていない。感情を入れ込むほどの関係ではないのだ。

 しかし、フィーが苦しんでいた。

 千雨の身を案ずるか、自分の都合を押し切るかでフィーが迷い、悩んでいた。

 それだけで俺が動く理由は十分だ。

 千雨の身をたいして案じてない俺は、フィーの都合を選ぶに決まっている。そのためあの状況では千雨を連れて逃げるしか思いつかなかったのだ。

 自分で言うのも何だが俺はかなりの自己中心主義なんだろう。いつでも自分の気持ちに正直に、したいと思ったことをする。フィーが大事な俺は、フィーのために動く。そのせいで次なる問題が起こったとしても、その都度自分の気持ちに従って動くことが変わることはない。

 

<…いえ、もうこのことはいいわ。レッドが私のためにこうしてくれたのは分かってるし、レッドが少し壊れてるのも知ってるしね>

 

 フィーがため息交じりに言う。しかし壊れているとは何たる言い草だ。フィーの言葉にリザとピカもうんうんと頷いている。お前らはなんか腹立つ。

 

 

 

 

「それで、貴様らはこれからどうするつもりだ?」

 

「……!!」

 

 急に聞こえた声の方向に全員注意をむけ、ポケモンたちは戦闘に入る準備をする。

 

「そう身構えるな。別に襲いかかったりはせん。少し聞きたいことがあるだけだ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら近づいてくるのは、エヴァと呼ばれていた金髪幼女と緑色の髪をした機械的な少女の茶々丸であった。

 

「貴様らが長谷川 千雨の記憶を消したくないのは分かった。だが実際問題こいつの身の安全はどうするつもりだ?貴様らがこの世界にとどまっている間はいいが、帰った後はどうする?貴様らとてこの世界に残るはなかろう」

 

 じりじりと近寄りながらエヴァは問いかけるように話し続ける。

 

「この問題に気がつかなかった訳ではあるまい。まさかとは思うが貴様らのうちどれか一匹残るつもりか?はは、そこまで間抜けとは思わんがそれはお勧めできる解決法ではないな。自分の主がいるくせに他の人間のために一生を尽くすなど、意思をもつ貴様らならいつか思いあぐねてしまう。」

 

 俺達の目の前までエヴァは近づくと凄むようにして言う。

 

「答えろ。これからこいつの身を案ずる手段があるのか。まともな案がないなら無理やりにでもこいつをじじいの下へ連れ戻す。力をもたず知識だけある者などそいつのためにも碌な事はない。」

 

「……」

 

 誰も答えることができず、緊張感が俺たちの周りを駆ける。しかしフィーだけは違った。

 

<…ふふ、案ならあるわ。さっき思いついたの>

 

 フィーはエヴァの問いかけにまったく引くことなく飄々と答えた。

 

「…ほう、いってみろ」

 

 くだらない案ならば許さん、とでも言うように爪を立てて指を曲げる。

 

<千雨には…>

 

 

 

 

<ポケモントレーナーになってもらうわ>

 

 

 

 

<<「「はぁ!?」」>>

 

 

みんなの叫びが重なって夜の空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいそれは貴様らのどれかがこいつに仕えるということか?」

 

 エヴァは若干青筋をたててリザやピカを指さす。

 

<いいえ違うわ。正真正銘千雨だけのポケモンを手にしてもらう>

 

「で、でもこっちの世界にポケモンなんていねーだろ?!どうやって自分のポケモン捕まえるんだよ!」

 

 ついに黙ってられなくなった千雨が会話に参加する。

 

<ふふ、それはね。レッド、あれを千雨にあげて。どっちでもいいわ>

 

 …ああなるほど、そういうことか。フィーの思いに気づいた俺は自分のリュックをまさぐりあれを取り出す。

 

「…それは――」

 

「……卵?」

 

 俺から片手では持ち切れないような卵を受けとった千雨は、未だ状況を理解していない様子である。あのバッグのどこにあの大きさの卵が入ってたんだ…とエヴァが呟くのが聞こえたがそれはスルーしておいた。

 

<そう、ポケモンの卵よ。あっちにいるときに卵を置き去りにする馬鹿なトレーナーがいてね。仕方なく拾っておいたのよ>

 

「……ふーん…」

 

 千雨は卵をいろんな方向から見たり、持ち上げたりして様子を確かめる。

 

<千雨にはそこから生まれるポケモンを育ててもらうわ。もちろん私たちも協力するけどね。ポケモンは人より大きな力を持つ。自分のポケモンを持てば、その子がきっと身を守ってくれるわ>

 

「…でも、いいのかよ。ポケモンを自分を守るために使うなんて…。」

 

<いいのよ。トレーナーのポケモンはね、好きな主に育てられて、一緒にいて、それに従うことが一番の幸せなの。主の役に立つことが何よりうれしいの。そのポケモンのためにも、あなたを守らせてあげて。あなたはきっといいポケモントレーナーになれるわ。>

 

「…わかった」

 

 千雨は思いを決めたように目をしっかりと開き頷いた。

 

「ッふっふっふ…はーはっはっはーー!!!」

 

 そんな千雨を見て、エヴァは耐えきれなくなったように笑い出した。

 

「まさか、そうくるとはな。麻帆良生まれのポケモントレーナーか。これは面白いものができたな茶々丸」

 

「はい、マスター。…正直千雨さんがうらやm…いえなんでもありません。」

 

 っくっくっくと未だ笑いながらエヴァは腹に手を抑える。

 

「くくっ。学園側にはこっちから説明をしといてやる。じじいから長谷川 千雨のまともな自衛手段がなかったら回収してこいと言われていたがこれなら大丈夫だろう」

 

 学園側との問題も、なんとかなりそうであった。俺としたら対立したらそれはそれでおもしろかったんだがな。強い奴一杯いそうだったし。

 

「さぁ、ではいくぞ。貴様らついてこい」

 

 そういってマントを翻してエヴァは進む。

 

<ねね!どこいくの!>

 

 ピカがいつの間にかエヴァの頭の上に跳び移り尋ねる。

 

「えええい!何だ貴様は!うっとおしいぞ!」

 

「あーマスター。うらやましい…」

 

<ねぇねぇ!どこつれてってくれるの!>

 

 ピカに遊ばれる小学生みたいだ…と思ったが、言ったら怒る気がしたのでやめておく。

 

 

「じじいのところで言っただろうが!私の家だ!!」

 

 

 

 どうやら俺たちは今からエヴァの家に行くらしい。

 

 




はい、どーも8話です。

…どうしてこうなった。
いやあほんとは飛び出してくつもりなんかなかったんですけどね。いつの間にか出て行ってました。そして新しいポケモンは出なかった…すまぬ…

レッドさんの性格のことですけどね、かなりゆがんでます。自己中です。まぁ普通の自己中とは違うつもりなんでいつか説明できたらなと思ってます。

あとは4次元バッグについて。
スルーしてくれたほうが助かります(オイ
ゲームでもってるのもどう考えても四次元バックですよね。チャリが入るんだもの。
まぁ無理やり説明するならモンスターボールにポケモンが入るような機能をもってるみたいな?…うん無理やりっすね。

卵について
卵は手持ちの一匹と数えてません。アニメのカスミみたいに考えるならボールには入れませんしね。


最近少し忙しくて更新ペース遅れるかもですがまたよろしくお願いします。
では。


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9 これからのこと

これから独自設定解釈多くなります。ご了承ください。


「……」

 

「…まじでなんでもありだなこりゃ。マクダウェルも本物の魔法使いってことか…。」

 

「ふん。エヴァでいい。尊敬したか?」

 

<わわ!すごい!すごいねエヴァ!魔法ってすごい!>

 

「ええい!だからなんで貴様は私の上に乗るんだ!主の上に乗れ!」

 

 私が本気で驚いている横で、相変わらずエヴァはピカと呼ばれてる黄色いでかネズミっぽいのに遊ばれていた。でかネズミというと気味が悪いイメージがするが、外見は誰もに好かれるようなかわいらしいものである。夢の国の○ッキーもそうだが、ネズミというのは高スペックであるのが基本なんだろうか。

 しかしエヴァもクラスでは少し幼い外見だがまともなやつだと思っていたのに…。魔法使いなんてあのクラスでも1、2位を争う非常識じゃないか。いやポケモントレーナーになるとかいってる私ももう人のこと言えないか。

 

 私らは今、ダイオラマ魔法球と呼ばれるミニチュアが入り込んだでかいフラスコのような物の中にいた。エヴァの家に来た後、リザがでかくて部屋が狭くなるだのピカやフィーの毛が落ちて人形につくだの文句を言いだし、地下に連れてかれたと思ったらどこからか引っ張り出したこの魔法球の中に転送させられた。これには大体無表情のレッドとかいうフィーの主も驚いた表情をしていた。

 

「これは広さも大したことないし時間設定もしてないやつだがな。私が作った物の中には1時間が24時間になるものもある」

 

 頭にピカを乗せながら言う。どうやらピカを下すことはあきらめたようだった。

しかしまさか精神と時の部屋がリアルで存在するとは。ていうか便利すぎるだろそれ。休み明けの課題とかまったく焦る必要ねえじゃねーか。

 

<では、そろそろこれからのことを話そうかしら。…エヴァ?あなたも聞いていくの?>

 

「当然だ。寝床もないような貴様らに場所を提供したのは誰だと思っている。私も貴様らの話には興味がある」

 

<…場所はあなたの命を救った対価じゃなかったかしら?まぁ命に対して寝床とは安い対価だけど>

 

 フィーの発言にエヴァはうぐっ、と唸った。

 

<まぁいいわ。レッドは対価目当てで救ったわけじゃないし、聞かれて困る話でもないしね。ではまず千雨のことについて話しましょうか>

 

 自分のこと、と聞いて少し私は身構える。

 

<その卵だけど、孵るのにそう時間はかからないと思うわ。詳しい時間は分からないけどね。それまで千雨には肌身離さず持っていてもらいたいわ>

 

「つまり学校にも持って行かなくちゃだめってことか…」

 

「それでももう少しで春休みですからちょっとの辛抱かと」

 

 茶々丸が主の上のピカから視線を外さずに言う。せめて話すときはこっちを向け。

 

 今は中1の三学期。次にある期末テストさえ終わってしまえば春休みだ。しかしそれでも学校に持っていかなければならない時間は心配だった。ただでさえ騒がしいうちのクラスにこんなでかい卵なんて持っていったらどうなるかわからん。割られんようにだけは注意しなければ。

 

<そんなに心配しなくても簡単には割れないから大丈夫よ。卵が孵るまではしばらくポケモンの育て方や特徴について教えていきたいのだけれど>

 

「ん。放課後で問題ないぜ。どうせ帰宅部だしな」

 

 どうせ帰ってもやることはネットぐらいしかない。少しブログの更新が怠りそうだが身の安全のためにはかえられない。

 

<では、放課後に私たちの所へ。っていっても私たちの拠点を決めなくちゃね>

 

 そう言ってフィーはエヴァの方を向く。

 

<ねえ、エヴァ。魔法球の外の家の周り一帯あなたの敷地なのかしら>

 

「そうだな。この辺には他の家などない。裏の山へ続く林一帯私の領地だ」

 

<そう。そしたら少し場所を貸してもらえないかしら?>

 

「林の方をか?野宿でもするつもりか?」

 

<家を建てるわ。木々はたくさんあるし、電気も水もため込むとさえできればなんとかなるわ。ポケモンがいるもの>

 

「別に木を切ろうが構わんが…。少なからず家具はいるだろう。金はあるのか?」

 

<一応たくさんもっているのだけどこの世界で使えるかしら。レッド>

 

「……」

 

 フィーが呼びかけるとレッドは自分のバッグの中から財布を取り出し、1枚紙幣を取り出してエヴァに見せる。

 

「ほう。こことまったく同じものだな。世界が違っても通貨が同じとはな」

 

<不思議なものね。ともかくこれでなんとかなりそうね。この辺に家を建てるから千雨はそこに来て頂戴>

 

「わかった。でも電気や火はなんとかなるのはわかるけどよ。水ってどうするんだ?買うのか?」

 

<飲料水はね。近くに川もあるし必要な分はなんとかなると思うわ。…一応水を出せるポケモンもいるんだけどね…。>

 

「ほう。他にもポケモンをもっているのか。それは見てみたいな、茶々丸」

 

「はい。それはぜひ。ほんとに」

 

「……」

 

 茶々丸がレッドに表情を変えずぐいぐいと近づき、レッドが少し押されていた。フィーは失言をしたという顔をしている。

 

<えー。あいつだすのー?>

 

<坊主。俺はボールにもどしてくれんか?水をひっかけられたらたまらん>

 

 他の二匹のポケモンも露骨にいやそうである。こんな嫌がられるポケモンてどんなのだよ…。

 しかしエヴァと茶々丸は興味津津である。特に茶々丸。つかこのロボこんな性格してたのか。

レッドは諦めたようにリザをボールに戻した後に、ひとつボールを手にとって、それを放ると

 

 

 

<おらあああ!出すのがおせえんだよ!おらああああ!>

 

 

 

 グラサンをかけた水色の小さなカメがいびり散らしながら現れた。

 

 

 

 

 

 

<こんな状況なんになかなか俺をださねえしよお!いったいどうなってんだレッドよお!>

 

「……」

 

 なんというか、うるさい。暑苦しい。涼しげなカラーのくせに。

レッドの膝下ほどの大きさのこのカメは、レッドにむかってグラサンをくいくいしながらどこぞのヤンキーのように絡んでいる。いつも通りレッドは無視である。

 

 茶々丸はあからさまにがっかりした表情を見せ、エヴァは何だこいつは…とあきれたように言う。

 

<ああん?何見てんだ嬢ちゃん>

 

 急に標的を変え、こちらに向かっててくてくと歩いてくる。

 

<話はきいてたぜぇ?ポケモントレーナーになるそうじゃねぇか?っは!んな簡単になれるほど甘い世界じゃねえんだよ!!>

 

 う、うぜえ。ちいせえくせにグラサンなんか掛けやがって。そう思ってカメのグラサンをつかんでひょいと持ち上げる。

 

<あ!な、何しやがる!返せ!グラサン返せ!ねぇ返してよ!!>

 

 グラサンをもった手を高く上げるとぴょんぴょんと目に涙を浮かばせながら跳ねる。てか

 

((グラサン外すとかわいい…))

 

 グラサンのない目はとてもかわいらしい目をしていた。

 

 

 

 その後、私がとったグラサンはいつの間にか茶々丸に処分され、カメは涙目になってしょげていた。そのそばにレッドが座り込み、また買ってやるから、とでも言うようにカメの頭をポンポンと叩いていた。

 

「…そいつが水を出せるポケモン?」

 

 確かに目から水を出してるけどよ。

 

<ええそうよ。名前は「ゼニ」。千雨はレッドのポケモンにお世話になることが多くなると思うから覚えておいてあげてね>

 

「ただの二足歩行するカメにしか見えないけどな…。そいつは強いのか?」

 

 なんというかリザとかはすげえ強そうな外見だったけど、こいつやピカはなんかペットみたいな感覚のが強いな。いやピカはすっげえ電気出してたし強いのは分かったけど。

 

<強いわよ。というかレッドに育てられたポケモンで弱い者はいないわ>

 

<そうだー!強いんだぞー!>

 

<…うう。グラサン…>

 

 エヴァの上で胸を張るピカと泣きじゃくるゼニ。うん、強そうには見えん。

 

<これでもレッドは私たちの世界で「頂点」と呼ばれていたわ。まともに戦えるものが僅かしかいないくらいのね。そのレッドに仕える私たちが弱いわけにはいかないわ>

 

 「頂点」って…つまり最強ってことかよ!そんな人とそのポケモンに教えてもらうってすげえことなんじゃねえか?

 

 急にスケールが大きくなった話に私が驚いていると、ピカを頭にのせたエヴァが急に笑い出す。

 

 

 

「くっくっく。「頂点」か。タカミチとやりあってあの程度の者が。なかなかレベルの低い世界のようだな」

 

 

 

 エヴァは笑いが抑えられないようで、くっくっく、と鼻につく笑いを続ける。

 

 その様子を見てレッドのポケモンたちの雰囲気が変わる。ピカはエヴァからおり真っ赤な頬からびりびりと電気を漏らしてエヴァを睨みつけ、ゼニは急に泣くのをやめた。フィーは学園長の部屋でしたように威圧感を湧きだす。

 

<いくらね。エヴァでもね。レッドを馬鹿にするのは許せないかな>

 

<おいテメー。レッドを「あの程度」だと?>

 

<…エヴァ。訂正するなら今のうちよ。それにあんな化け物どもにやられかけたあなたが言うセリフじゃないわね>

 

「……」

 

 レッドは気にしていない様子だったが、彼のポケモンたちは明らかに怒っていた。

 

「っふ。確かにな。言い訳になるかも知れんが、今の私はタカミチになど遠く及ばん。しかしそれはある理由によって本来の力が出せないからだ。」

 

 エヴァの幼い姿から考えるとこれはただの子供の強がりともとれるだろう。しかし戦いの経験すらない私でもこれが嘘やはったりではないことが分かる。エヴァが発する雰囲気には虚栄を微塵も感じさせないほどの凄みがあった。

 

「本気を出せばタカミチなど私の相手ではない。これでもこちらの世界では「最強」 のうちの一人と数えられるだろうな」

 

「……」

 

 それを聞いたレッドがおもむろに立ち上がりエヴァのそばまで近寄る。二人はしばらく言葉を交わすことなく見つめあっていた。それは恋人同士でやるロマンチックなものとはかけ離れたもので、二人の間には重苦しい空気が流れているようにも感じた。

 

「…ふん。やはり貴様はそういう人種か。いいだろう。力が戻った際には貴様とやりあってやる。全力でな。…だから次は人間相手に手加減しようなんて考えずに向かってこい」

 

「……」

 

 エヴァはレッドの目を見て何かに気づいたのかレッドにそう告げた後、エヴァは後ろを振り返って転移の魔法陣が書かれている場所に歩いていく。

 

「貴様ら今日はここを好きに使っていいからじっくり休むんだな。長谷川 千雨も明日はどうせ土曜日だ。ここで寝ていくといい」

 

「…ではみなさん。失礼します」

 

「……」

 

 歩きながら言うエヴァに茶々丸は少し物足りないような顔でついていき、二人で魔法陣の上に乗ると姿を消した。

 

<エヴァ…気づいていたのね。レッドが全力じゃなかったことに>

 

「高畑せんせと戦った時か?まさかあれで手加減してたのか?」

 

<手加減いうより無意識に本気を抑えていたという感じね。どんな強くても流石に人間相手に本気でポケモンの技をあてることは意識の奥でストップしてたみたい。…まぁ魔法使いと聞いた今、レッドに手加減できるかは分からないけどね>

 

「……」

 

 レッドの方を見ると、僅かだが口元が緩んでいるように思えた。これがきっとこの人にとって嬉しいという表情なのであろう。

 

<もう少し話したいことはあるけど、今日はもう寝ましょうか。千雨も疲れたでしょう?>

 

<そだねー!僕ももうねむいよー!>

 

<…あのロリッ子め。レッドをなめやがって…。ロボットはグラサン壊すし…。ろくな奴らじゃねえな>

 

 フィーもいつの間にか機嫌を直し、ピカもいつものようにひょいっとレッドの頭の上に乗った。ゼニだけは未だ怒っていてグラサンがないのにくいっと上にあげるような仕草をしていた。

 

 私のポケモンもいつかこんなふうに自分のために怒ったりしてくれるのだろうか。そう思うと少しうれしくなり、もっている卵をひとなでした。

 

 

 




ポケモン図鑑№7 ゼニガメ

こうらに とじこもり みを まもる。あいての すきを みのがさず みずを ふきだして はんげきする。


はい、どーも9話です。

無理やり新ポケ出した感?気のせいですきっと。
タカミチの戦闘時の違和感に無理に理由つけた感?気のせいです間違いなく

はい、新ポケゼニガメです。御三家二匹目。結局進化前。さてではもう一匹は…?
グラサンはアニメリスペクト。

エヴァとの絡み。不自然に思えるかもしれないが一応理由があります。

そんで一番重要などうやって帰るかとかの話ぜんぜんしてないじゃんこいつら。…まぁきっと今度話してくれる。

さて、なんか千雨魔改造みたいになってますが、あくまで主人公はレッドとそのポケモンたちのつもりです。まぁクロスとしてネギま側の主人公は千雨なんですけど。
なので基本的にレッドとポケモンに焦点あてたいなーとか思ってたり。いや思ってるだけですが。
原作開始まで1年あります。さぁ何させましょうかね。

では。


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10 ピカと買い物

時系列と視点かわったりしてちょっとわかりにくいかもしれません。


 俺は今、麻帆良の街の方にピカを乗せて出ている。家づくりは木を切ったり運んで組み立てる作業のできる他のポケモンたちに任し、それができない俺とピカは必要物資の買い出し係となった。そのため商店街や繁華街を模索中である。

 ピカを乗せて歩くのはポケモンのいないこの世界では目立ってしまうかと思ったが、エヴァ曰く学園長の認識阻害はかなり強力なので周りには珍しいペットを連れているようにしか見えないらしい。実際周りの人もこちらを一度はちら見する人は多かったが、立ち止まって驚くほどの人はいなかった。

 

「ぴかぴか!」

 

「……」

 

 休日ということもあってか人も多く賑やかな声が聞こえ、買い物リストの紙を持つピカのテンションが俺の上で妙に上がっているのが分かる。かく言う俺も、初めての街を訪れるという久しぶりの感覚に多少の冒険心が刺激され、若干探究心が高揚している。

 

――――――――――――――

 

 昨日あの不思議な魔法球で一晩過ごした後、そこから転移してエヴァの家に戻り、皆でエヴァに宿のお礼をした。あんな啖呵を切ったのにお礼を言われることにエヴァは驚いていたが、俺としては力が戻った時に戦いさえしてくれればいいので、あれくらいで敵対関係になろうなんて思っていなかった。

 

 その時茶々丸が俺たちに、改めてマスターを助けてくれてありがとうございました。と礼儀正しくお礼を言ってきた。こちらとしてはたまたま助けた形になっただけなのでお礼なんていらなかったが、それでも何か手伝えることがあったら言ってください。と言うので、新しい家の電気や機械関係を手伝ってもらうようにフィーが頼んでいた。どうやら茶々丸を作ってくれた人は工学にとても強いらしく何とかしてくれるよう聞いてようだ。

 

 その後、千雨は卵をもっていったん寮に戻った。彼女はまだ昨日の疲れが残っているようでこの土日はのんびりとするつもりらしい。フィーは千雨のことが心配らしくとりあえず送り届けると言い彼女について行った。

 その時に何故か俺の胸辺りをしっぽでポンと叩いてから行ったが…。家づくりは任したという合図なんだろうか。

 しかしフィーは相当千雨になついているな…。短い期間でフィーがこんなになつくのは珍しいので少し驚いたが。

 

 

 フィーと千雨が行った後、俺たちはエヴァが好きに使っていいといった林の方に向かい、ポケモンを何匹か出して概要を伝えた。適当な広ささえあれば特に中身は外観や中身はこだわってないので、後をポケモンたちに任し俺たちは買い出しに出かけた。

 

 

そして今に至る。

 

 

 やはり俺たちの世界にはないものがたくさんあり、何か見るたびに目移りしてしまう。初めて旅にでて、世界の広さを知ったときを思い出し、この感覚を持てただけでこの世界にきてよかったなと少し思った。

 

 昨晩フィーと話した結果俺たちが帰る手段は浮かばず、千雨のこともあるので多少はここに滞在することになった。おそらく俺たちが転移してしまった原因は、ゴールドが言っていたシンオウの神話のポケモンが生み出した空間の乱れというもののせいであろう。ならば、こちらからそのポケモンに干渉する方法がない以上、俺たちには待機して他力本願という手段しか思いつかなかった。俺たちがいなくなったことに気づいたら、もしかしたらグリーンやゴールドたちがそのポケモンについて調べてくれるかもしれない。その時になんかしらの方法でまた空間を繋げてくれればきっと帰れるだろう。…まぁいつになるかは分からないが。しかししばらくはこの世界で新しい発見を楽しむつもりである。強い奴もいるし、今まで見たことないものもある。どうせならこの世界を堪能してから帰りたいものだ。

 

 

 そんなことを考えながら俺とピカは街を歩く。歩くのだが…。…やはり広いな、この街…。初めてだから当然だが自分がどこを歩いているかまったくわからない。とりあえず人ごみに向かって歩いたが店っぽいものはあまり見当たらないし…。そしてなんというか学生が多い。小学生が俺たちを横切り、俺を見た子はちょっと笑うようにしてから通り過ぎていく。…もしかして田舎っぽさがでているのだろうか。少し恥ずかしくなり、どうやら店もないようなので人ごみから外れてまた商店街を探すことにする。

そうして路地裏の方を歩いていると、かわいらしい声が奥の方から聞こえてきた。

 

「やーん。だれかたすけてやー!」

 

「……」

 

「ぴか!」

 

 …どうやら厄介事のようだ。助けを求める声を聞いたとたんピカはやる気満々になっている。俺としたらあまり関わりたくないのだが、無視するとピカの機嫌を損ねて俺が代わりにびりびりされてしまうししょうがない…。魔法や魔法使いのことを言わなければ助けた子も記憶を消されることはないだろう。そう思いながら俺たちは声のする方に向かった。

 

 

 

 

「やーん。だれかたすけてやー!」

 

 どうしてこうなってしまったんやろか、と考えながらウチは住宅街の裏の道を走っていた。

発端はいつも通りおじいちゃんのお見合いをさせようとする嫌な趣味のせいだった。いつもはお見合い用の写真を撮られる段階で逃走を図るのだが、今回の相手はすでにウチを見かけたことがあり、どうやらずいぶん気に入ってしまったらしい。その相手にお見合いを申し込まれておじいちゃんもすっかりその気になり、お見合いの場まで決められてしまった。少しのんびりしてるウチは着物を着せられて場についた時にようやくそれを察しし、急いでそこから逃げてきた。しかし相手方は本気でお見合いするつもりらしく、何人か黒服をきた人がウチを追いかけて来て、いつもの追手より早いその人たちは、路地裏に逃げ込んだウチをしっかり追ってきていた。

 

 ウチはまだ結婚相手なんか決めとうないし、お見合いなんてしとうない。いつもそういってるのにおじいちゃんは無理にお見合いを勧めてくる。相手は大体30代以上やし、自分のパートナーは自分で決めたい。無理やりお見合いなんて嫌や。そう思いながら逃げているが、今回はどうやら捕まってしまいそうである。

 

 

ああ…嫌やなぁ…。

 

 

 後ろからの追手がウチに近づいているのが分かり、諦めたような気持ちになる。必死に走っていて下げていた頭を上げ前を見ると――――

 

 

 

――――――――赤い帽子をかぶり、上に黄色い珍しい動物を乗せた少年が立っていた。

 

 

 

 少年が手を前にやり人差し指を伸ばすと、勢いよく上に乗っている動物が跳び出しウチの頭の上を追い越して行った。ウチを追い越す時、その顔はにんまりと笑っていたようにも見える。

 そのあとすぐに後ろでバリバリと弾けるような音と光がした。ウチはそれにびっくりして立ち止まって振り返ってしまう。

 後ろを見るとさっきまでウチを追っていた黒服の男たちがシュウウと音を立てながらうつ伏せに倒れており、黄色い動物はエッヘン!とでもいうように胸を張っていた。どうやらウチはこの子に助けられたらしい。倒れている黒服を気絶しているだけだと確認した後、ウチはその子を抱き上げた。

 

「ありがとえー。おかげで助かったえ」

 

「ぴかぴか!」

 

 気にするなとでも言うように返事をするこの動物。

 …なんやこれすっごいかわいいえ…。そのかわいさに耐えれず胸にその子を抱え撫でていると、正面から先ほどこの子を乗せていた少年が近づいてきた。

 飼い主さんやろうか?しかしこんな珍しい動物居るもんやなぁ。さっきはなんか電気ウナギみとうなことしてウチを助けてくれたっぽいし。あ、そしたら飼い主さんにもお礼いわな!

 

「えーっと。ウチを助けてくれてありがとう。ウチは近衛 木乃香ゆうんや。…えと、レッドさん?」

 

「……!」

 

 声は出さないがウチが名前を当てたことに驚いてる様子である。…ってことは気づいてないんかな?

 

「あのぅ、胸になんやネームプレートみたいの張ってありますえ?」

 

「……!」

 

 ウチが教えてあげるとレッドさんはバッと素早く胸元を確認した。そこには―――

 

―――――――――『私の名前はレッドです。上にいるのはピカです。』

 

 と書いてあるネームプレートがしっかりと張られていた。レッドさんはすぐにそれを外してポケットに突っ込んだ。

なんやおもしろい人やなぁ。それでこの子はピカっていうんか。かわええなぁ。…ほんまかわええなぁ。

 ウチがかわいがるようにピカを撫でていると、ピカはどこからか紙を取り出してウチに見せてきた。

 

「うーんと、生活用品やら家具やらたくさん書かれとるなぁ。もしかしてこれ買いきたん?」

 

「ぴかぴか」

 

「……」

 

 二人とも頷くように首を下に振る。その動作がシンクロしていてなんだかおかしかった。

 

「この辺は住宅街やからお店はあんまないんよ。…それを知らんてことはもしかして引っ越してきたばっかなん?」

 

「ぴかぴか」

 

「……」

 

 またシンクロして頷く。なんやとっても仲ええんやなぁ、と思い少し心がなごむ。よーし、ウチ助けてもらったし!

 

「ほならウチが商店街を案内する。助けてもらったお詫びやえ」

 

「ぴか!」

 

「……」

 

 ピカが嬉しそうに声を上げる。しかしレッドさんはなんとも言えない表情だ。

 お詫びなんていらないって感じやろうか?というかなんでこの人さっきからしゃべらんのやろうか?まぁええわ。実際困ってそうやし、お見合なんかするよりピカとレッドさんと歩いて回る方が何倍もたのしそうや。

 

「ほな、いこか。」

 

「ぴかぴ!」

 

「……」

 

 ウチがピカを抱いたまま進むとレッドさんもついてきた。やっぱり仲良しさんなんやなぁと少し羨ましくも思いながらウチらは商店街に向かった。

 

 

 

―――――――――

 

「なんやたくさん買い物したえー」

 

「ぴかぁ…」

 

「……」

 

 買い物リストにあるものの大体を買ったウチらは公園で休んでいた。レッドさんもピカもとても疲れたようでぐったりとしている。…ぐったりとしたピカもかわいいえー…。

 

「そういえば、レッドさんはなんでしゃべらへんの?」

 

「……」

 

 やっぱりしゃべらへん…。もしかして…

 

「…しゃべれないってことかえ?」

 

「……」

 

 レッドさんは首を横に振る。ほなら…

 

「…ただしゃべらへんだけかえ?」

 

「……」

 

 うんうんと首を縦にふる。ついでに抱えているピカもぐったりしながらもうんうんと首を振ってシンクロしていた。

 

「…っぷ!なんやそれー!」

 

 あはははとウチは声を出して笑っていた。かわいい動物を飼っているしゃべれるのにしゃべらないなんだか変な人。そんな人に助けてもらってこうやって公園で話しているのがなんだか楽しかった。

 

 その後もウチらは公園でおしゃべりを続けた。といってもウチが一方的に話しているだけやけど。ウチと同じ部屋に住んどる子の事とか、クラスの事とか、…それから、久しぶりにあったのに昔みたいに話してくれへんよ―になった子の事とか。レッドさんはその間もしゃべることはなかったけど、ウチの話を真剣に聞いてくれていることは分かった。せっちゃんの事はあんまりクラスで大事にしとうなくてまだアスナにもいってへんかった。でもレッドさんはうんうんと黙って話を聞いてくれるし、なんだか話やすかった。せっちゃんのことについて答えが見つかったわけやないけど、話を聞いてくれる人がいて、心配そうになめてくれるピカがいて、少し気持ちが楽になった。

 

「…あ、もうこんな時間や!レッドさん。話聞いてくれてありがとうえ。ピカも心配してくれてありがとう。あっちに行けば大きな案内の看板があるからきっと帰りは大丈夫やえ。…ほなら、またいつかお話きいてやぁ」

 

「ぴーかぴー」

 

「……」

 

 レッドさんにピカを返して私は立ち上がる。もう一度お礼を言い、ほなまたなぁと手を振りながらウチは彼らから遠ざかっていく。

 

 何もしゃべらずとも小さく手を振るレッドさんを見て少し嬉しく思いながらウチは寮に戻って行った。

 




はい、どーも10話です。ついに二桁いきました。

今回はこのか登場。京都弁のむずかしさ。違和感かんじたらすいません。

まじでネームプレートつけるフィーさん。ピカが上にいるのも想定済み。おかげでこのかは名前がわかったね!

レッドとポケモンたちはなんやかんや一年かけてクラスの子と知り合っていけたらいいね。
でもしゃべらないの気にしないのこの子だけな気もするね。
あと千雨も一年でポケモンどうにかしなきゃね。


えーお盆はちょっと書ける状況じゃないんで次はしばらく後になるかと。
うまくいけばその前に一話かけるかなぁ…。ちょっとわかんないっすね。

ではまた。


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11  超と家

おそくなってすいませんでした。お気に入り1000件突破ありがとうございます!


 夕暮れ時、このかと別れた俺は頭にピカを乗せ新しく俺たちの居場所になろう所に帰ろうとしていた。少し冷え込んだ気温の影響により若干かじかんだ手で、先ほど購入した必要最低限の日用品を持って歩く。あきらかに手に持つことができないものなどは店側に住所を教え後日届けてもらうように頼んだ。

 ピカは見慣れない風景を見るのにはしゃぎ疲れたようで寝息を立てながらぐっすりと眠っている。歩く振動で振り落とされるかと思ったが、寝ながらも頭しっかりつかんでいて落ちる心配はなさそうだ。まったく、器用な奴。

 

 さて、家を建てるとフィーは言っていたが、あいつらはうまくやっているのだろうか。俺たちは旅の途中はテントを立てたり宿に泊まったりしていたので、家など建てたことはない。修業のため山に籠る時も洞窟などを利用して拠点にしたりしていたし。…まぁフィーが自信満々に家を建てると言ったんだ。なんとかなっているだろう。そう思って歩いていると、林の方から何かが崩れ落ちるような大きな音が鳴り響いた。

 

「……!」

 

(…ん?え!?なになに!?なにごと!?ねぇねぇなにごと!?)

 

 轟音に驚いたピカが俺の上で跳ねあがるようにして起きる。音が聞こえたのは俺たちが帰ろうとしていた場所だ。何かあったのかと思い俺は荷物をその場に置きすぐに音の下へ向かう。フィーたち頼む、無事でいてくれ。そう願いながらその場所にたどり着くと…

 

 

 

 不格好に斬られた丸太が瓦礫のようにばらばらに散乱し、それを囲むようにしてうなだれているポケモンたちの姿があった。

 

 

 

 

 

(ち、ちがうのよレッド。これはちょっと組み立てるの失敗しただけで、あの、せ、精々10回目ほどよ。次はうまくやるわ、うん。)

 

「……」

 

 どうやらあの音は組み立てていた家が崩壊したときに聞こえた音らしい。ていうか精々10回て、10回もこんな騒音ならしてたのか。どれだけ近所迷惑だ。いや近所はエヴァの家しかないからいいのか?

 

(ふーむ。難しいのう。丸太を地面にぶっさして囲いを作ればそれで家になるかとおもったんだが)

 

「……」

 

 リザよ。絶対違う。地面がぼこぼこなのはお前のせいか。

 

(だめだ…。俺はいったい何をすればいいんだ…)

 

「……」

 

 俺が聞きたい。ゼニお前なんでここに?家建てるのに手伝えることあるか?てかグラサンいつのまにつけたんだ。

 

 

 しかし、まさか何の知識もないまま家を建てようとしていたとは。万が一できてたとしても地震なんか起きたら絶対崩れてたな。

 

(…エヴァのログハウス見てたらできると思ったのよ…。)

 

(ねぇねぇ!フィーてさ!たまにね!たまにだけどね!ちょっとあほだよね!)

 

「……」

 

(…ぐす)

 

 他ならぬピカにあほと言われてフィーはずっしりと沈みながら涙目になっていた。まぁ一日で家を建てようとしていたことを考えればこうなるのは予想できたか。だがこれからはどうしようか。数日くらいはなんとかなっても、どれだけの期間この世界にいるか分からない以上しっかりとした拠点は作っておきたい。エヴァの魔法球にお世話になりっぱなしという訳にもいかないし。

 

 そんな風に考えているとピカがピンと耳を立てるようにした。

 

(ねね。だれか来るよ)

 

 どうやら誰かの足音を聞いたらしい。エヴァか茶々丸だろうか?そう思って俺もその人物が現れるだろう方向に目を向ける。…少しするとそこからガサっと音を立てて一人の少女が現れた。

 

「あいやー。なにやらひどい有様あるネ」

 

 その少女は見たことのない子であった。千雨と同じくらいの年齢だろうか。黒髪でお団子にしている髪型がその子によく似合っていた。迷い込んでここに来てしまったのかとも思ったがそれにしては足取りがしっかりとしすぎている。俺とポケモンたちが若干の警戒態勢に入り様子を確かめる。

 

「あーそんな警戒しないでほしいヨ。怪しいものじゃないネ」

 

無抵抗を表すかのように両手をひらひらさせながら少女は笑う。

 

「……」

 

そうは言っても俺たちはこの世界においては明らかに不審人物である。どんな人物が接触を図ってくるか分からない以上警戒するに越したことはない。ポケモンたちも余計な情報を与えないように念話をせずにこの状況の成り行きを見ている。

 

「ふーむ。私から自己紹介した方が早そうネ。私の名前は「超 鈴音」。長谷川さんのクラスメイトで茶々丸の生みの親ネ。茶々丸に恩人が新しい家を建てるから協力してくれないかと頼まれたので様子を見に来たヨ」

 

 少女は笑みを崩さないままでそう言った。そういえば茶々丸が自分を作ってくれた人に頼んでくれるといってたっけ。しかしまだこの少女が本当にその目的で来たかは分からない。

 俺がどう対応すべきか迷っていると、ピカが俺の上からポンと地面に飛び降り超という少女の前に出た。

 

(僕はね!ピカっていうんだ!よろしくね!)

 

 ピカがにっこりと笑いながら小さな手を差し出すと、超はしゃがみこんでしっかりとピカの手を握った。

 

「ピカ、かわいい名前ネ。こちらこそよろしくネ」

 

 本能的にいい人と仲良くなれるピカと信用して手を握り合う姿は、俺たちの警戒を解くのに十分の光景だった。

 

 

 

 

「なるほど。ログハウスを建てようとしてこんな状況になったしまたカ…」

 

(いやあのほら、何事も失敗からっていうじゃない?)

 

(ずっと失敗しかしてないがのう)

 

(俺なんか何すればいいかもわかってねぇぜ)

 

「……」

 

 それぞれが自己紹介をすました後、超がこの状況をみて若干遠慮気味に呟いたのに対しポケモンたちが応える。超は茶々丸のデータを通して俺たちの現状などを知っているらしくあまり説明する暇が省けたのは正直助かった。

 

「流石に設計図もないのは無理があるネ。あなたたちがいいなら私が知り合いに頼んでうまくやてもらてもいいヨ?」

 

(うわ!すごい!すごいね!太っ腹だよ超!)

 

「ふっふっふ、その言葉は乙女には使ったらだめヨ、ピカ」

 

「……」

 

ピカの額をこつんと突いて超が言う。しかしいいのだろうか。超が俺たちにそんな世話をやく理由が分からないし、金銭的にも生活費を考えたらそんなに多くは出せない。

俺のそんな考えを見抜いたのだろうか超が俺を見てにこりと笑う。

 

「心配ないヨ。あなたたちがエヴァンジェリンを救ってくれなかったら茶々丸も壊されていたかもしれない。あなたたちには感謝してるネ。これでもいろんな業界顔は広いし最低限の費用でなんとかしてもらえるヨ」

 

(ほ、ほんと!?)

 

「……」

 

 フィーが顔をあげパァっと喜ぶ。確かにこちらからすれば本当にありがたい話だ。しかし助けたつもりがないのにそこまでしてもらっていいのだろうか

 

「…そんなに気になるなら、今度私が困ったことがあったら手伝ってくれないか?今回のことはその報酬の前払いという形でいいヨ」

 

「……」

 

 相変わらず笑顔を絶やさないまま超は言う。しかし、この時だけ超の顔つきが少し違って見えた。まるで何か大きな覚悟を背負った者のようであった。

 …安易に頷いて良いものなんだろうか。少し考えたが、俺から見てもこの子は悪い子ではない。何かを隠しているようではあるが、それを教える気などなさそうだ。…とりあえず自分とピカの直感を信じてみよう。間違った道であったらまたその時考える。

 そう結論し俺はこくりと頷く。

 

「…ふふ、交渉成立ネ。その時がきたらまたよろしく」

 

 超が差し出した手を俺はしっかりと握った。

 

「…さて、そうは言ってもさすがにすぐに家はできないヨ。それまでどうするつもりカ」

 

「……」

 

「ふん。そのくらいなら私の家に泊めてやろう。もっとも魔法球の中だがな」

 

 それまでは野宿か宿をとるかしようか…。そう考えているとエヴァと茶々丸が林のほうから歩いて現れた。エヴァは右手に茶々丸にどことなく似ている人形を手にしていて、茶々丸は俺が途中で置いてきた荷物を持っていた。どうやらここに来る前に拾ってくれたらしい。荷物のことをすっかり忘れていたから助かった。

 

(あ!エヴァ!ねね!どこいってたの!)

 

「貴様らががしゃんがしゃんうるさくて寝れんから茶々丸のメンテに付き合ってたん…って乗るなといってるだろ!」

 

「ああ、マスター…。…卑怯です」

 

ぴょんぴょんとジャンプしながらピカがエヴァの上に着地するとそれを振り落とすために頭を揺らすが一向にピカが離れる気配がない。

 

「ケケケ、御主人いつの間にいじられキャラになったンダ?」

 

「……!」

 

(おお、人形がしゃべったぞ。すごいのう魔法は)

 

(うわわ!なにそれ!おもしろい!)

 

 エヴァが右手にもっている人形が急に話し出したが、ポケモンたちはもうこの程度の事じゃ驚かないようだ。

 

「紹介しておくか、こいつはチャチャゼロ。機械でなく私の魔力で動く人形だ。まぁ今の私の魔力じゃなんとか声が出せるくらいだがな」

 

「ケケケ、お前らのおかげで退屈な日々からちょっとは抜けれそうダ。だれかキラセロ。あと黄色ネズミ。そこはオレの特等席ナンダガ」

 

(やーだよー。どかないよー。レッドの上でものぼってー)

 

「ケケ、動けるようなったらキッテヤル」

 

「……」

 

 なんというか、物騒な人形だな。人形を魔力で動かすってのはピッピ人形だかも動くようになるんだろうか。頼んでみるか…。…いや性格に難ありっぽいしな。ギエピーとか言い出したらうっとうしいしやめておこう。

 

「しかし御主人ヨオ。ずいぶんこいつらに気を利かせるジャネーカ。…命を救われてアイツと重ねてんノカ?」

 

「…だまれ」

 

「…ケケ、これ以上はいわネーヨ」

 

「…?」

 

 少し小声でエヴァとチャチャゼロが話している。よく聞こえなかったがとりあえずエヴァがあの少しの間家を貸してくれるならそれを使わしてもらおう。

 

「さて、これでひとまず話はまとまりそうネ。明日から本格的に工事が始まると思うからまた困ったことがあったらよんで欲しいヨ。あと食べるものに困ったら「超包子」の点心でももってきてあげるヨ。んでは再見!」

 

 俺たちに手を振って超は帰って行く。その姿を見届けて、俺たちも今日はこれで休もうというは話になり、エヴァの家に入ろうとするとエヴァが思い出したかのように言った。

 

「んん?貴様らと一緒にいて木を切っていた緑のカエルみたいなやつはどうした。」

 

(((あ、そういえば)))

 

「……」

 

 …あいつも出していたの忘れてた。どこいったんだあいつ。

 

 

 

 




すいませんなかなか更新できませんでした。そのくせ短いしこんな質でほんと…

今回は超やらチャチャゼロがでました。チャチャゼロはいつだそういつだそうと思ってました。どっちの口調も難しいです、はい。

ではまた


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12 カエルと刹那

 休日である今日、剣道部の練習も終り本格的に体を動かそうと私は山間部の近くで鍛錬を行っていた。楓曰く、平野に比べ山での修業は足腰などの筋力をもちろん、自身の精神力、状況把握などの力も身に付くのだとか。

 実際今日やってみると、なるほど足場は一定であらず途中途中にあるぬかるみや崖に足を取られることもあり、地形を把握しながら様々な型を取るのは今まで通りにはいかず存外新しい感覚であった。確かに本当の戦いがいつも戦いやすい場所であるとは限らない。このような経験をしておくのは役立つ時が来るかもしれない。

 また、筋力や経験的な意味だけではなく、生きた木々に囲まれて鍛錬するというのは、道場では味わえない清々しい気分にされた。聞こえてくる川のせせらぎやそこに住む動物たちの鳴き声は決して気持ちを揺らがすような物ではなく、自身もまた自然の中の一つであるということを確認させてくれる。道場の匂いや雰囲気も自身の集中力を湧かせているがこのような場所でたまに修業するのも気持ちがいいものかもしれない。

 

 いつもとは少し違った気分で汗を流しながら刀を振る。せっかく広い場所だし人目もないのだから移動術などもたまに織り交ぜ大胆に行動する。そうしていると、少し外れの林の方からどしゃんと何かが崩れるような音がした。初めは大して気にもせず修業を続けていたが、いくつか時間が経つとまた同じような音がする。せっかくのいい気分が少し削がれたような気がして、一呼吸置いた後音が聞こえた場所に木々の上を跳びながら向かっていくことにした。その後も音はなりやまず、それ頼りに移動を続け、ある程度近くの所まで来たかというところでなんとなく地面を見た。すると

 

 

 

 

 背中につぼみと草を生やした大きなカエルがこちらを見上げていた。

 

 

 

 

 「うわあ!」と普段クラスメイトの前では絶対に出さないような短い悲鳴をあげ、木の枝の上にいることを忘れ少し下がろうとして、そのまま枝から落ちる。若干体を委縮していたので受け身も取れず、ドサっという音を立ててお尻から地面に落ちる。体は一般人よりかなり鍛えてあれど多少は痛い。少し涙目になって前を向くと

 

 

 

(おい大丈夫かよ)

 

 

 

 カエルが話しかけてきた。

 

 

 

 私はばっと体勢を立て直し手に持っていた夕凪を前にしてカエルに問う。

 

「…貴様、何者だ」

 

(お、そういや俺念話使える状態のままか。フィーは相変わらず器用だな。いやあいつほどレベル高ければできることなんか。いやぁエスパータイプは無茶苦茶だな)

 

「…質問に答えろ」

 

 確かによく聞くと話しているのではなくて念話で直接語りかけて来ている。だがこの姿、どう見ても魔物や妖怪の類。きっとカエルモンスターやらカエル妖怪やら言う奴であろう。聞いたことはないが。魔物などがこの土地で簡単に現れることは難しいのだからおそらく手引きしたものがいるはず。万が一お嬢様の被害になり得ることを考えると放っておくことなどできない。

 

(あーっと、怪しいもんじゃないぜ?一応俺の主はあんたの所の学園長だかに話は通してあるし)

 

「…確認する」

 

 八重歯をちらつかせながら余裕そうに微笑んでいるカエルを置いておき、学園長へ確認の電話をかける。

 

<学園長、桜咲です>

 

<おお、いつもこのかが世話になっとるのう。何かあったのかの?>

 

<今ほどつぼみを生やした大きなカエルと遭遇したのですが、何やらこれの主があなたと話を通してあるとおっしゃっているのです。これは本当でしょうか>

 

<つぼみを生やした大きなカエル…?…ああなるほど、おそらくレッド君のモンスターじゃな。認識阻害があるからと言ってあまり好き勝手出歩かないでほしいのじゃが…。ん?いや、わしの客人の話じゃ。しばらく麻帆良に住むことになっていての。とりあえずの所害はないはずじゃ>

 

 

 確かにこのカエルには強力な認識阻害がかかっている。こんなものをかけられるのは学園長くらいであろう。これなら町中に出ても麻帆良の人たちなら工学部のロボットやら突然変異やらで騒ぐだけでそこまで大したことにはならないし、このカエルが他の人に害をなさなければ問題はないか…。

 

 

<…わかりました。わざわざすいません>

 

<いや、またなにかあったら連絡をくれい>

 

 失礼します。といって電話を切り再びカエルの方向く。

 

 学園長はカエルの主であろう「レッド」と呼ばれる者のことを客人とおっしゃていた…。つまり私のしたことは…。

 

 自分がやらかしてしまった失態に気づき取り返しのつかない気持ちになる。もし私の行動の所為で客人と学園側の関係に問題が起こってしまったら損害など測りきれないかもしれない。自分の顔が若干青ざめ冷や汗を書いていることがわかる。

 

 

「…失礼しました!学園長の客人の使いともしれず無礼なまねを!この責任は全て私にあります!」

 

 

 私はものすごい勢いで膝をつきカエルに頭を下げる。…いやまさか人生でカエルに頭を下げる経験をすることになるとは思いもしなかったが。いけないいけない。こう思うこともすでに失礼である。

 

(なんだか頭の中の方が失礼な事いってる気がするが…。いやまぁ気にすんなよ。そりゃポケモンしらねぇのに俺達みればそうなるのは仕方ねーよ)

 

 ポケモンが何かは分からないが、無礼をしたのは確かである。

 

「…しかし…」

 

(あ~気にすんなって俺が言ったんだから気にすんな!な!気つかわれる方がしんどいぜ)

 

 つぼみと体の境目から2本の蔓がとびだし、まるで人間が「やれやれ」とポーズをとっているかのように形を成す。

 

「…わかりました。ありがとうございます」

 

(…なぁあんた。生真面目ってよく言われねぇか?)

 

「っう」

 

 銃を好んで使う自分の相棒にもよく言われる言葉を言われ詰まるような声が出る。

 

「…あの、えーとカエルさん」

 

(まてまて)

 

「?」

 

(誰がカエルだって?)

 

 

 いやどう考えてもあなたしかいないのだけれども。いくらつぼみを生やそうがカエルはカエルなんじゃないのか?

 

 

(お前ずっと俺の事カエルだと思ってたの?)

 

「…失礼ながらそれ以外に該当する言葉を知りませんでした」

 

(…よくあんな真顔でカエルと思うもんに「何者だ」とか聞けたな)

 

「カエル妖怪とかだと」

 

(やっぱ失礼だなお前!)

 

 カエル妖怪がイ―っとぎざぎざな歯を見せるように威嚇しながら言う。なんかよくみたらちょっとかわいい気もしてきた。ほんのちょっとだけ。

 

(俺は!「フシギソウ」の「ソウ」っていうの!これからは「ソウ」と呼べ!おけい!?)

 

「お、おけいです!」

 

 ガミガミと迫りながら言われたので咄嗟に答えてしまった。私が答えるとカエ…じゃなくてソウさんは満足そうによしと言った。

 

「それで、えと…ソ、ソウさんは何しにこんな所へ?」

 

(ん。いやぁなんか家を造るから木を切れとか言われてな、結構な量切って渡してやったんだが永遠に作れそうにないんでばっくれてきたところだ。まあ必要な分の材料は渡したし俺がいてもいなくて変わらんだろ)

 

「では先ほどからする音は…」

 

(あいつらが家建てては崩してる音だ。…っお、今ので7回目くらいか)

 

 話している途中にも大きな音が聞こえ、ついでに何か悔しがっているような鳴き声まで聞こえた。材料木だけで家をつくるなんていくらログハウスでも無理がある。…というか客人が家を自作してるって実は大した客人ではないのか。

 

(んで、そーいうお前は何してたの)

 

「桜咲 刹那です」

 

(は?)

 

「私の名前です。お前ではないです」

 

 気を使わないでほしいと言われたので、こちらも少し強気で私の名前くらいは知ってもらおうかと思った。別に大した客人でないと分かったからって気を大きくしているわけではないのである。

 

(…っは。んじゃ刹那、お前はこんなとこで何してた)

 

…まさか名前呼びとは。クラスでもそんないないのにカエルに…。いやカエルじゃなかった。

 

「えと、剣の修業をしていました。そしたら先ほどの音が聞こえ気になったのでこっちまで様子を見に来たんです」

 

(ほーお。修業ねえ…。強いのか、刹那は)

 

 

「いえ、私などまだまだです。もっともっと強くならなければ…」

 

 

 

 自分の弱い気持ちに負けないように。

 

 

 なによりもお嬢様を守れるように。

 

 

 

 

(ふーん…。…よし!わかった!俺も刹那に修業をつけてやるよ!)

 

 

「へ?」

 

 

いやいやいや何がわかったのだろうか。私には話の流れが全然分からない。

 

(まぁまぁまぁ遠慮すんなって。俺もここ二日くらい体動かしてねぇしちょうどいーわ)

 

「いや、あの、私の修業は剣の修業なんで…」

 

(いいんだよ細かいことは!一人より二人のがいーだろ?)

 

「二人と言うより一人と一匹ですよ!」

 

(うるせーよ!一人じゃないのに変わりはねーだろ!)

 

 だめだ、ここで押し負けたら本当に一緒に修業することになる。カエルと一緒に修業をしてるのを龍宮になんか見られたら死ねる。

 

「えと、その!対人の方がいろいろと修業になりますし…!」

 

(その人がいねーから一人でやってたんだろ?いろんなやつと戦うのも経験だぜ?)

 

「いや流石にカエルと戦う経験なんて必要ないですし!」

 

(ああ!??)

 

「ていうかカエルと修業したところで修業になりませんし!せめて同じくらいの実力者同士でないと!」

 

(あああ!????)

 

 ついつい口論がヒートアップしていき、ソウさんのほうが顔に青筋を立ててひくひくとさせている。

 

(なるほど…。お前は俺がお前より劣っているって言いたいんだな…?)

 

 

「……はっきりとは言えませんが…。私などまだまだですが魔物などと戦う経験もしております。遅れをとる気はありません」

 

 

(…はーん。わかった…。ここで一勝負して白黒つけようぜぇ…)

 

「…はい?」

 

 な、なんかまずい話の流れになってしまった。つい言いすぎた感はあるが本当に戦う流れになりそうだ…。

 

 

 

(俺が負けたら修業の話はなしでいい。だが俺が勝ったら刹那はこれから俺のことを「師匠」と呼べ。毎週稽古をつけてやるよ…!)

 

 

 

「んな!」

 

 カ、カエルを自分の「師匠」にしろと!?剣に生きてきた私がいつの間にかカエルを師にするようなってしまうのか!?全然笑えない!というか何の師だ!

 

(おお?断るつもりか?別に大した話じゃない。刹那が勝てばいいだけだ。そしたら今までの話は全部なし。一件落着。…勝てるんだろう?自称俺より強い刹那さんよぉ…!)

 

 

 

 っく、なんかソウさん切れてらっしゃる…。これはもう…。

 

 

 

「…わかりました。私が勝てばいいんですね?」

 

 

 

 私が勝って大人しくしてもらうしかない…!

 

 

 

 私は万が一人が集まって来ないように防音の符を周りに展開する。

 

(いい答えだ…!参ったと言わせるか気を失わせるかで勝ちだ…!おけい?!)

 

 

「お、おけいです!!」

 

 

 絶対に負けられない勝負が始まる。

 

 

 




№2 フシギソウ

たいようの ひかりを あびるほど からだに ちからが わいて せなかの つぼみが そだっていく。


あえてのフシギソウです。まさかのスマブラのトレーナーの御三家。実は一番フシギソウが好きです。フシギソウかわいい。メガ進化は…うん。


そして刹那。こんなキャラだっけ?

ではまた。


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13 決闘とお話

2パート分。


 私は勝負が始まったと感じると同時に、地を蹴り勢いよく前に出る。体全体で風の抵抗を感じ髪が後ろになびく。

 相手は見たところ四足歩行に加え短い手足、素早い動きができるようには見えない。一気に近づき近接戦闘で抜く手も見せず勝敗をつける…!

私はソウさんを斬りつけるのを防ぐため夕凪の握り方を峰側に変えてから振りかぶり、さらに距離を詰める。相手にたどり着くまで後数メートル、という所で突然視界を緑色の物体が埋める。

 

「…っ!!」

 

 私はそれを回避するために一旦私は身を翻す。どうやら植物の蔓であるそれは私の頬を掠りそのまま後ろに通過していく。ボゴンッという音が鳴り、振りかえると蔓が後ろの岩を貫通しているのが分かる。

 

…なんてでたらめな威力…。直撃したら気絶なんかで済まない…!

 

 それはいまいち真剣身になっていなかった私に危機感を与えるには十分な一撃であった。一度の攻撃だけでソウさんが口だけではなく本当の強者であることを実感する。

 

(おいおいよそ見する暇あんのかよ)

 

 そう言うとソウさんの体からでるもう一本の蔓が再び勢いよく私に向かう。ぎりぎり目で追える速度の蔓をかがむことでさける。その時に自分の髪に蔓が掠り勢いのまま何本か髪の毛抜ける音がした。

 

 …見たところ蔓は出せて二本…!なら!

 

 瞬動により一気にソウさんの近づこうとする。…が足が何かにつかまれていて思うように動けないことに気づく。

 

(注意がたりねーなー。俺自身から出てる蔓だぜ?よけて、はい安心じゃ済まねーよ)

 

 見ると一度目に攻撃してきた蔓がいつの間にか私の足首に絡まっていた。

 

(別に蔓は斬ってもかまわねーんだぜ?斬れるもんならよ!!)

 

「っく!」

 

 私が夕凪を使い蔓を切断しようとした所で足首の蔓に力が入り、吊るされるように持ち上げられる。逆さまの状態でそれでも蔓を斬ろうと夕凪を横薙ぎにしようとするがその前に放り出されるように勢いよく投げつけられた。そのまま木にぶつかる前に体をくるっと回転させ木に垂直に立つような形で着地してから再び地面に降りる。

 

 なんにせよあの蔓が厄介極りない…。俊敏さ、操作性、柔軟性、威力…。どれをとっても申し分ない…。

 

 私が思考している間、ソウさんは自らの下へ蔓引き寄せ、馬鹿にするように上方に向けた蔓をゆらゆらとさせている。

 

(なに遠慮して峰打ちしようとしてんだ。余計な心配しなくていいぞ。俺の主は文字通りすげえ傷薬持ってるし…まぁどうせ刹那じゃ俺を斬れないだろうしな)

 

「…では、本気でいかしていただきます」

 

 確かに刃で斬ることに抵抗はあった。しかしもし私の師となるならば真剣を使う私を軽く打ち負かすくらいの実力でなければ師とは呼べない…。だめだだめだ、負けた時の事を考えてどうする。本気で勝って私の実力を認めさせる。ただシンプルにそれだけでいい

 

 私は夕凪を握り返し構えをとる。

 

「…神鳴流秘剣……斬空閃!!!」

 

 空を切り裂くように夕凪を斜めに振り抜く。刀身から込めた気が刃のように打ち出され途中雑草などを切り裂きながらソウさんに向かっていく。

 ソウさんは、あらよっと呟きながら二本の蔓を地面に押し当てその反動で体ごと浮かし気の刃を避ける。

 

 蔓を移動に使用した…!!今が好機!!

 

 私はすかさず瞬動でソウさんに近づく。相手は空中で動きができない。蔓も防ぐのに追いつきそうにない。

 

……もらった!!

 

私は刀を振り下ろした。

 

 

(…おしかったな)

 

 振り下ろした私の刀はソウさんの体からでる葉の淵で受け止められていた。そのまま、ぼんっという音と共に蕾から出た粉末を直撃し、私は意識がなくなった。

 

 

 

 

(…おら、おきろ)

 

 頭に響く声によりばっと私が起きるとソウさんが真横にいた。慣れない顔にうお!っ

と驚くとソウさんが心外そうな顔をした。

 

「す、すみません。少し驚いてしまって…」

 

 ソウさんは気にするなとでも言うように蔓を左右に揺らした。

 

「私は…負けたんでしょうか…」

 

(ああ。負けも負け。歴史的超大敗北ってやつだ)

 

 どやぁと顔をにんまりさせながらソウさんは言う。…それが敗者にみせる顔ですかっ…!ジロっと睨むようにしてソウさんを見るとくっくっくと笑い声を漏らしていた。

 

(まぁ、思ったよりよくやってたぜ?身体能力や反応スピードはそれなり。最後の刃を飛ばして蔓を使わせたのも上出来だったしな)

 

 思いがけず褒められて私は少し驚いた表情をする。

 

 

(でも最初に策もなく突っ込んできたのは最悪だな。俺の外見だけで突っ込むのが正解と判断したろ?俺が本気ならあそこで蔓を当ててただろうし、レッドまでついてたらなんとか避けてもその避け道まで予測されてノックアウトだ。戦いは詰まる所立ち回りと間合いだぜ?勝つためにはまずは負けないことができるようにならねえと)

 

 

褒められたと思ったら一気に落とされてなんとも言えない気持ちになる。しかし思ったよりもソウさんが私との戦いを分析していたようで私は聞きいっていた。

 

(お前生真面目な性格のくせして妙に突っ走る癖あるだろ?格下相手じゃ通じるけど格上じゃカウンター取られてあぼんだぜ。)

 

「っう」

 

 確かにそうかもしれない。京都からこっちに来て長が相手をしてくれなくなってから、久しく格上と言われる人たちと戦っていない。夜、龍宮と組んで侵入者と戦う時も龍宮のフォローあっての戦いだし強者と呼ばれるものは多くはなかった。いや、龍宮のフォローがあったからこそ私はいつも斬り込みに行けたのだ。それに慣れてしまったのか、深く考えずに斬り込む癖が確かについているのかも。

 

 

(格上と戦う時、常に考えろ。思考をとめるな。仮にも剣士なら斬られたら終わりなこと位分かってるだろ?奇策秘策なんでもいいから使って何が何でも勝たなきゃならねえ。逆に格下と戦う時は決して驕るな。死に物狂いの奴は何をしてくるか分からん。それこそ邪道な真似だろうがな。お前は絡め手や駆け引きについて学ぶべきだな)

 

「……」

 

 すごい…。こういう風に私に戦い方を教えてくれる人は多くなかった。これは多大な戦闘経験と実力があるから言える言葉だ。

 

(あとは―)

 

 

「師匠!!!」

 

 

(うお!)

 

 

 突然声を張り上げたことによりソウさんはびっくりするようにのけぞる。

 カエルを師にするのは未だ若干抵抗がある。しかしこの人、いやこのカエルに教わるということは多く得るものがあるはずだ。力を得るために、恥を忍ばずにはいられない。

 

 

「これからよろしくお願いします!!!」

 

 

(お、おう)

 

 

 急に態度を変えた私に少し引き気味になりながら師匠は承諾する。その後毎週この場所で鍛錬することを約束して私たちはそれぞれ帰って行った。

 

ここに奇妙な師弟関係が誕生した。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 「う―…ん」

 

 目が覚めると同時に私は両手を上に向かわせるように体をぐうっと伸ばす。まだ眠気は残っているが、おちおちしていたら学校を遅刻してしまう。二度寝したい誘惑に打ち勝ち私は顔を洗いに行く。

 

 洗面所で顔を洗い、寝癖を直すようにアイロンでブローをかけている間、この土日の事を思い返していた。道で拾った大きな猫が実は他の世界からきたモンスター、ポケモンといわれるもので、この世界には魔法使いなんかが存在していて、教員やクラスメイトがまさしくそれであった。秘密を知ってしまった私は身を守るために自分を守ってくれるポケモンを育てることとなり今に至る。

 

 …改めて考えても冗談のような話であった。できることなら夢であってほしい。そう思うがちらりと視線に入る卵がこれが現実だということを突き付けてくる。ここが一人部屋というのが唯一の救いであった。あんな大きな卵見られたら何を言われるかわかったもんじゃない。一応学園長がこの卵にも認識阻害をかけてくれたが、私のクラスに持って行ってどうなるか考えただけで若干憂鬱になった。

 

 髪を後ろに結んだあと適当に朝食をとり、歯を磨いて制服に着替える。伊達眼鏡もしっかりと装着し重い足取りで学生かばんと卵の入ったナップサックを背負い私は学校に向かった。

 

「おはようございますです、千雨さん」

 

「…おう、おはよう綾瀬」

 

 教室につき席に近づくと隣の席の綾瀬に挨拶されてそれを返してから席に座る。非常識なやつらばかりのクラスだが、数少ない常識的な人間にはあいさつくらい返す仲だ。

 

「…?珍しい荷物ですね?そのナップサックはどうしたんですか?」

 

「っぎく」

 

 いきなり隠しておきたかった事をつかれ焦る。何が認識阻害だ。全然阻害できてねーじゃねーか!

 

「い、いや、これは、あのな」

 

「…?まぁ言いにくいものなら特に言及しませんが。そんな珍しいもの入れてるようじゃありませんから」

 

「…ああ、そうしてもらうと助かる」

 

 卵のシルエット丸出しなんだけどな…。一応魔法きいてんのか…。

 なんとか怪しまれてはいないものだから少しほっとする。

 

「おい」

 

 綾瀬と二人で話していると、いつの間にかエヴァが近寄り声をかけてきた。

 

「屋上にこい。それをもってな。話がある」

 

 それだけ言うと眠そうにあくびをしながら教室から出ていく。茶々丸がその後ろについて行き、こちらに一例してから続いて教室を出た。

 

「…エヴァンジェリンさんが朝からいるなんて珍しいですね。それに話って…」

 

「あー、この土日にたまたま会ってな。ちょっと行ってくるわ」

 そう言って私は卵の入ったナップサックを持って立ち上がり、教室を出て屋上に向かった。

 

 

 

 

 

「急になんだよ、呼び出して」

 

 まだ寒さが目立つこの季節。さすがに朝から屋上を使用する者などおらず私たち以外に人はいなかった。

 

「ふん。まだ授業まで時間がある。それに多少さぼっても全く問題ない」

 

「あんたはな。私は目立ちたくないからちゃんと授業受けておきたいんだよ」

 

 

 私は寒さを少しでも和らげるために両手で腕をこすりながら答える。茶々丸は寒さなどまったく感じない様子で、エヴァは寒さに慣れているのか特に反応を見せずなんとなく眠そうにしている。

 

 

「っは。目立ちたくないだと?こんな卵までもって来てよく言うわ」

 

 

「うるせーよ。要件はなんだよ」

 

 

 痛い所をつかれ、私はムスっとしながらいう。

 

 

 

「では簡潔に済ますか。…貴様のその卵、私に譲らないか?」

 

 

「……は?」

 

 

 予想外の要件に思わず声が漏れる。

 

 

「貴様がその卵を必要とするのはなんのためだ?自らの身を守るためだろう?私にそれを渡したら責任を持って私が貴様を守ってやる。いくら衰えようが貴様一人守るすべくらいいくらでもある。茶々丸もいるしな」

 

 

 

「……」

 

 

 

 エヴァが淡々と語るのに私は黙って答えられずにいる。屋上に吹く風がヒュウウと音を立てるのが耳に入る。

 

 

 

「それを持っているのはさぞめんどくさいだろう?それに貴様は生まれたそいつの面倒まで見なくてはならない。私に身の安全をゆだねれば貴様が何もせずとも守ってやる。私に任せれば今までとかわりなく安泰な学園生活を送れるぞ」

 

 

 

「……」

 

 

 

 エヴァの言うとおりだ。ポケモンといえど生まれた時は赤ん坊。いずれ強くなるとはいえそれまで世話をするのは当然私だ。それは私が望んでいた日常的で平穏な生活とは離れているかもしれない。引き換えエヴァに任せれば私は何もすることはない。危険な目にあってもエヴァの助けを呼ぶだけでいいのだ。

 

 

「…お前はこの卵をどうする気だ」

 

 

「何、別に悪いようにはせん。特別珍しいものだから暇つぶしがてら私が育ててみようと思っただけだ。無理に研究材料にしたりなどするつもりもない」

 

 

「……そうか」

 

 

 私は、考える。たぶんエヴァは嘘などついていないであろう。ポケモンが好きそうな茶々丸までついている。もしかしたらエヴァたちの下にいる方がこのポケモンもいいのかも知れない…。

 

 …その後少し考えた結果、決心はついたが、それは初めから思っていたことと変わらない答えだった。

 

 

 

 

「…エヴァその話……悪いが断らせてもらう」

 

 

 

「…ほう」

 

 

 ニヤリと笑みを浮かべながらエヴァは私に問う。

 

「…それはなぜだ?」

 

 

 

「…大した理由じゃねえんだ。いや、ただの自己中心的な考えなんだけどよ」

 

 

 ―――私は一息ついてからぼそぼそと話し始める。

 

 

 

「この卵な。もらった時は確かに面倒なことになったなと思ったし、これからのこと考えていろいろ悩んだりもしたさ。

―――でもな、これを背負った時に重みと温かさを感じたんだ」

 

 

 茶々丸とエヴァは聞き入るようにじぃっとこちらを見つめてる。

 

 

「…これ、フィーによるとどっかのトレーナーに捨てられた卵らしいんだ。育てるのに億劫になったやつのな。それを聞いて他人事のようにひでえやつだな、なんて思った。その後この卵をよろしくなんて言われて、特に考えることなく持ち帰ったよ。んで昨日一日この卵を見ながらいろいろ考えた。…そしたらな、この卵たまに揺れるんだよ」

 

 

 

 だんだんと自分の言葉に熱が入りいつの間にか寒さを感じなくなっていた。

 

 

「私、それみて思ったんだ。まだ卵なのにこいつこんながんばってるって。それで柄にもなくこいつのためにできることないか考えちまった。毛布まいてあげたり、なでてやったりしてな。」

 

 

 

 まだ生まれてもないのにな、と少し笑いながら続ける。

 

 

「ただの同情かもしれねえ、似合ってもねえ母性本能っぽいのに当てられただけかもにしれねぇ。でもこいつは私が育てたいと思った」

 

 

―――私は顔を上げ二人を見つめ返す。

 

 

「気づいたら守るだが守られるだがの事考えてなかった。私の都合だけで悪いが、こいつは私が育てたい。私に育てさせてくれ」

 

 

 

頭を下げて頼みこむ。少しの間風の音しか聞こえず、エヴァたちは未だ私を見ていた。

 

 

「ふん。上出来な答えではないか」

 

 

 くっくっくと笑いながらエヴァは口を開いた。

 

 

「ちなみに言っておくが、貴様の気持ちを少し試してみただけだ。まぁ卵をくれるといったならしっかりともらっておいたがな。…戻るぞ茶々丸」

 

 

「はい、マスター。千雨さん、その子をよろしくお願いします」

 

 

 

エヴァは身を翻し校舎への入り口に向かっていく。

 

 

呆然と立つ私に背負われている卵が少し動いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はいどーも13話です。
書きたかった話がかけました。レッド?もうちょいまってね。
こっからは原作までちょい早回しでいきたいですね。


更新ペースはまたちょっと遅れるかも。すまぬ…


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14 警備と関西

二ヶ月ぶりです。遅れてしまって申し訳ない。投稿しなきゃしなきゃとは思っていたのですが…


 ピカが鳴らす雷鳴を聞き、ゼニの放出する水しぶきを多少受けながら俺は二人の修業の様子を窺っていた。しばらくバトルをしていないから体を動かしたい、と二匹が言いだしのでエヴァの魔法球の中の別荘を借りて今二匹は模擬バトルをしている。

 

 ピカチュウの頬を電気が流れバチバチと音を鳴らし、離れた位置からゼニに向かい幾つも電撃を放つ。電気タイプと相性の悪いゼニはそれをくらうまいと身軽に体を動かし、時に口から出す水の水圧を利用して攻撃をかわす。意味もなくかけてあろうゼニのグラサンもここでは電撃による雷光を防ぐのに役立っている。しかも、避けるばかりで先ほどからなかなか攻めることができないゼニだがその様子から焦りは見られない。

 ゼニが狙っているのはカウンターであり、ピカの一瞬の隙をついて一気に近づいて戦いを決めるつもりである。タイプの相性が悪いだけに技の打ち合いになったら負けるのが今までのレッドとの経験から分かっているのだ。カメだけにこういう作戦の時のゼニはかなり粘り強い。ピカはゼニの作戦が分かっているからこそ隙を見せず近寄らせないようにしながら電撃を放つ。

 しばらくその様な均衡状態が続いていたが、ピカに疲れが見られたのか瞬間電気が弱まる。ゼニはその隙を逃すまいと即刻顔体全部を甲羅に籠った後、一つの穴から猛烈に水を噴射し一気に加速して甲羅のままピカに向かって突撃していく。だがピカはその行動を読んでいたのか、しっぽに鋼鉄のような光を帯びせ、振りかぶって向かい打つ用意をしていた。

 

水を噴射して推進する甲羅とピカの鋼鉄のしっぽがぶつかりあおうとしたその時

 

(レッドー、ピカー、ゼニー。茶々丸がご飯作ってくれたわよー)

 

(え!え!ごはん!ほんと!?やったぁ!!)

 

 突如現れたフィーの呼びかけにピカはしっぽを振りかぶろうとした構えを急遽解き、耳をピンとさせ一瞬でフィーの下へ向かっていく。

 

 ピカにぶつかり損ねたゼニは甲羅のまま一人で進んでいき奥まで行き、ズザァと地面と摩擦してから手足を甲羅から出した。

 

(おいピカ!!勝負の途中だったろうがごらぁ!)

 

(お昼までっていったよ!!つまりおわり!!そしてぼくのかち!!!)

 

(ふざけんなぁてめぇええ!!!)

 

 

 ゼニの叫びは虚しくも無視されてピカはフィーと一緒にエヴァの家へと転送されていった。レッドはぎゃあぎゃあと叫ぶゼニに近寄りポンと頭に手を置いた。

 

「……」

 

(……なぁレッド、ピカが電撃を弱めたのは誘いだったのか?)

 

「……」

 

 そう、ピカが電撃を弱めた時、あれはゼニを突っ込ませるための餌だったのだ。あのままピカが電撃を放ちゼニがかわすという構図が続いても、技を放ち続けてるピカが不利だった。ならばあの攻防が続かせてると思いこませている中でわざと隙を作る。ゼニの一番早い移動方法が甲羅に籠って突進であったのは知っていたため、わざと隙を作った直後すぐ迎え撃つ用意をしたのだ。ピカは戦いの間あまり考えるタイプではないが天性の勘でそこまでの試合展開を作ることができる。

 

(っけ、やっぱそうかよ。まんまと釣られたのか俺は)

 

 レッドの沈黙が肯定だとわかったゼニは若干不貞腐れながら歩いて転送陣へと向かった。

 

 レッドからすればそれでもあの勝負の勝敗は分からないと思った。ピカの誘いまでは見事であったが、本気で噴射して突っ込むゼニにアイアンテールで競り勝つのは少し厳しいと考えていた。ゼニの反撃を予想していたのならばピカはそれを避け、すれ違いざまに電撃を浴びせるべきだったのだ。まぁ実戦でそこまで指示を出すのは俺の役目ではあるが。

 

(…ところでレッド)

 

「……?」

 

(俺のサングラスいつの間にかないよう…)

 

「……」

 

 知るか。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「ふん。ずいぶんとつまらなそうな顔をしてるじゃないか」

 

「……」

 

 レッドがエヴァにそう言われたのはピカとゼニの模擬バトルの後の食事中の時であった。

 

 レッドたちがこの世界に来てからはや一カ月ほど。初めは新しい町の詮索、ここに住むための準備などやることが多くあり、慌ただしく動き回ることで退屈を感じる事は少なかったが今は大体の準備を終え、超に頼んだ家造りの方もあらかた終りが見えてきたころである。

 となると、いかんせんレッドたちにはやることがない。ポケモンたちも初めはエヴァの魔法グッズいじりなどで時間を潰してきたが、今じゃそれも飽きたようだ。しかしそれでもポケモンたちはポケモンたちでこの世界で各々やることを見つけているようにも見える。フィーは暇な時は千雨についていきポケモンのことについて教えたり、楽しくおしゃべりをしている。ソウは週末になると森の方に出かけ、誰かと修業をしているらしい。ピカは適当に町を走りまわりこのかに会いに行ったり茶々丸とお散歩したり、ゼニは麻帆良の川を泳ぎ回り、リザは魔法球の中で快適な場所を探しては寝床にしている。それとどこかのカンフー少女と一度戦ったという話もしていた。

 それぞれが自分のしたいようにしている中、俺は何をしているんだろうな。とレッドは頭の中で考えていた。そんな時、エヴァからこのように声をかけられ、さらに考え込むようにしながら食事を進める。

 

「……」

 

 どちらも話すことなく静かに料理を食べている中、不意にエヴァの後ろで立っていた茶々丸が顔を上げた。

 

「マスター。高畑先生がここに近づいているのを確認しました。いかがなさいましょうか?お食事の後にまた来てもらいますか?」

 

「かまわん。いれてやれ」

 

「了解しました」

 

 おそらく茶々丸はレーダーなどで事前に察知したのだろう。高畑がここに向かうのに気付き迎え入れるため玄関まで歩いていく。茶々丸が玄関を開けると、ちょうどノックをしようとしていたポーズをとったタカミチの姿が見えた。

 

「悪いね茶々丸くん。いまエヴァは大丈夫かい?」

 

「お食事中ですが許可がでました。どうぞお入りください」

 

「ではお邪魔するよ」

 

 そう言って茶々丸について来るように高畑がリビングに現れた。

 

「やぁエヴァ。それとレッドくん。元気にしているかい?」

 

「わざわざこんな所まできて何の用だ」

 

「……」

 

 エヴァがぶっきらぼうの返事をし、レッドは会釈するように頭を下げた。

 

「おや?ポケモンたちはいないのかい?姿が見えないけれども」

 

「おい!私の話を聞いているのか!!」

 

「マスター落ち着いて」

 

「……」

 

 ナチュラルにエヴァを無視してタカミチは何かを探す様に周りを見渡す。そんな様子にエヴァが噛みつくが茶々丸に抑えられる。

 ちなみにポケモンは魔法球の中で食事している。初めはレッドもポケモンたちと一緒に魔法球で食事をしていたが、エヴァに呼び出され用意してもらっている立場からは逆らう事が出来ず、リビングまで連れ出され無理やり同じ食卓につかされている。ついでに言うとポケモンたちの食事は、レッドが持っていたポケモンフードの成分を解析してポケモンが食べれるような物にしてくれてある。科学の力ってすごい。

 

 タカミチはエヴァにごめんごめんと頭を掻きながら謝り、話を始めた。

 

「実はしばらく魔法界にいかなければならなくてね。少しの間夜の警備を代わってほしいんだ」

 

「ふざけるな。なんで私が。いつも通り他の教員にでも頼めばよいだろうが」

 

「みんな新学期の準備で忙しいんだ。生徒に代わってもらうのは申し訳ないし頼むよ」

 

「…私も生徒だが?」

 

「生後600年を超える生徒は君だけなんだ頼む」

 

「貴様なめてるな!何が生後600年だ!赤ん坊じゃあるまいし!」

 

「マスター落ち着いて」

 

「……」

 

 先ほどと同じように茶々丸がエヴァをなだめる構図となる。レッドはそれを片手目に見ながらスプーンで掬ったスープをすする。おいしい。

 

「冗談は置いといてほんとに頼むよ。報酬でもお土産でも買ってくるからさ」

 

「お土産など今さらいるか。…報酬か。ううむ…いや、まてよ」

 

 エヴァはしばらく悩んで首をかしげたあと思い付いたかのようにニヤリと笑った。

 

「タカミチ。その話うけてやろう。しかし警備を代わるの私ではない。こいつだ」

 

「……!」

 

 エヴァはレッドを指さしながら悠々と言い放った。

 

「レッド君が…?しかし…」

 

「こいつに断る権利などない。茶々丸の飯を黙々と食べているこいつにはな。」

 

「……」

 

 いつの間にか飯の恩を押し付けられていた。まぁ大助かりしていたし文字通り黙々と食べていたのは全く間違えていないのだが。

 

「こいつの実力は貴様も知っているだろう。簡単にやられることなどないさ」

 

「他の教員たちにはなんて説明するんだ。レッド君の存在は僕と学園長しか知らないのだぞ」

 

「他の奴らには警備は私と代わったとでも言っておけ。今さらわざわざ私を見に来るような奴などいまい」

 

「…うーん」

 

 タカミチは考える素振りを見せた後レッドの方を振り返り尋ねる。

 

「レッド君は本当にいいのかい?警備を代わってもらっても」

 

「なに、警備と言ってもここに侵入してきた馬鹿どもを狩るだけでいいんだ」

 

「……」

 

 警備と言っても何をするのかという疑問についてエヴァがざっくりと説明してくれて、少しだけど理解できた。要するにここに来た時の様に夜に麻帆良にきたやつらを退治すればいいのか。

 少しの間考えたがどうせすることもないし、エヴァには恩がある。それに…もしかしたら退屈から抜け出せるかもしれない…。

 

 口角を上げたレッドをみてエヴァがふんっと笑う。

 

「OKだそうだ。報酬は適当に金でもやってくれ。詳しいことは私が教えといてやる」

 

「…わかった。一応学園長には報告しておくけど」

 

「よかったな貴様ら。こいつの情報を知る機会が得れて」

 

「…そういうの普通本人がいる前で言うかい?」

 

「なにこいつも馬鹿じゃないさ。そのくらいの思惑を察しするくらいできる」

 

「……」

 

 いきなりこの世界にやってきて住みつき出したレッドたちを責任者が警戒するのは当然。今までは最初以外では特に戦う機会もなく戦力を図る事はなかなかできなかったため、この機会を逃す事はないだろう。むしろ、タカミチは初めからここまで想定してエヴァに夜の警備の交代を頼んだのかもしれない。さまざまな思惑が考えられるが、レッドにとってはそこまで重要なとこではなかった。誰が何を考えていようとレッドはしたいことをする。そのための力があるし、仲間がいる。怖いものなどない。

 

「ふぅ…。それじゃあレッド君。しばらくの間頼んだよ。エヴァも僕がいない間悪さするんじゃないぞ」

 

「約束はできんな。あとお土産は京都のうまい饅頭だ」

 

「…警備はレッド君に頼んだんだけど?」

 

「私がいなきゃ頼む相手すらいなかっただろ」

 

「…お土産はいらないって」

 

「魔法界のはな。京都のはいる」

 

「…京都には行かないんだけど」

 

「いってこい」

 

「…はぁ。わかったよ」

 

 

 敵わないなぁと呟きながらタカミチは玄関に向かって帰って行き、茶々丸がそれを見送る。

 タカミチが玄関を閉める音が聞こえた後、エヴァはレッドの顔を見て満足そうに言った。

 

 

「ずいぶんとましな顔になったじゃないか」

 

 

「……」

 

 

 どんなことにせよ、日常が変わるというのは刺戟的なものである。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 「はぁ!?柳家の妖魔使いがつかまったやと!?」

 

 京都のお屋敷のとある一室で長髪の青年が叫ぶ。襖に区切られたその部屋には円形に座布団が置かれており、それぞれに若い女性から老年の男性まで様々な人柄が座っている。

 

 「おちつけ多湖家の者。あやつはもとからエヴァンジェリンが狙いであった。反関東というよりの」

 

「落ち着いてられることか!それでもあやつは反関東魔法協会の重大な戦力やぞ!ただでさえ大きな戦力差がさらに広がってどうするんや!」

 

 諌める老年の男性の声を無視して長髪の男――多湖 呉満は声を張り上げる。

 

「だからといって騒いだところで何も変わりまへん。それに柳家が捕まったことで長の目は厳しくなっております。今は無茶な動きはできまへん」

 

 チっと舌を鳴らしてから多湖は座りなおす。

 

 こいつらは根性がない。やれ反魔法協会だやれ長だと言ったところでその重い腰をあげることはめったにない。自分の家の名誉を傷つけることを異常に恐れ、保守的に保守的にとしか動かない。麻帆良との勢力差に怖じ気づき、反勢力としての旗を掲げて長に反対することだけで自分は力になっていると思い込んでいる。いや、もしかしたらそれすら形だけなのかもしれない。昔からの家柄上反勢力を謳っているがもはや刃向かう気などさらさらないのだろう。見込みがありそうなのは天草家の長女や柳家の家長であったが、天草の者は独自に動き、柳家の者は目先の利益に焦って捕まってしまった。

 

 「とりあえずこれからしばらくは無茶な行動はよしときましょ。…では今回の定例会議は終りということで」

 

 何が今回のや…!いつも通り様子を見よう、戦況を整えよう、焦らず行こうてなんもするつもりないやんけ!

 

 多湖は内心で毒づきながらズカズカと立ち上がり家にさっさと戻って行く。ここらがあいつらとの手の引きどころかもしれない。こんなやつらに縛られて動けないでいるよりも天草のように独自で動いた方がよっぽど意味がある。

 

 多湖が苛立ちながら自分の屋敷の自室に戻ると一枚の式符が置いてあるのに気づいた。多湖は柳と仲が良かった。反勢力のなかで唯一攻撃的な柳とは多湖は気が会い、よく話す仲がらであった。そのためすぐにそれが柳家の者からだとわかると、式符から式神が現れる。猿のような式神の目から光が跳び出し、それが壁に当たると映像が流れだした。

 

 …みるからに柳の麻帆良との戦いの様子なのであろう。うまく戦力を分散しエヴァンジェリン相手に50体もの妖魔で押している。このままだとエヴァンジェリンを倒せるのではないか。そう思った所で赤い竜と帽子をかぶった少年が現れた。そこからは少年たちの独壇場であり、妖魔を次々と消滅していく。そこに高畑まで現れ、なぜか少年たちと戦いになったあと近くにいた少女とともに学園へと消えていったところで映像は終わった。

 

 おそらく柳は捕まった時のために情報収集用の式神を用意しておいたのだろう。そして、

わざわざ多湖個人が最も有用に情報を使えると考えて送ってくれた。確かにこの映像だけでかなりの情報を得れた。関東の新しい戦力になりえる帽子の少年。高畑と一戦交えたことから純粋な魔法協会のものではないのだろう。また近くにいた眼鏡の少女。この子も今までの情報から聞いたことがなかったものだ。こいつらはおそらく魔法協会に染まっているものではないと考えられる。これを反勢力のやつらに見せたところでこいつらの様子を見ようとなど言いだしてお茶を濁されることは目に見えている。それよりも

 

 

 …うまくこいつらを引き込むことができれば…。

 

 

 多湖は映像に映った帽子の少年と眼鏡の少女を見ながら、新しい作戦を立てると共に独自で動く事を決意した。

 

 




お久しぶりです。遅れて申し訳ない。更新頻度は遅れるかもしれないですけどがんばります。

そしてついにネギま側主人公がでないまま、オリキャラ、オリストに入ってしまいました。長々とやるつもりはないのでどうかご勘弁ください。


さて、ここ2ヶ月でいろいろありましたね。ポケモンオリジン、赤松先生の新作、そしてポケモンxy。

まぁネタバレをいっちゃいそうなのであまりどれも触れませんがひとつだけ。


まさか私がガルーラを嫌いになるとは思いもしなかった。


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15 真夜中の勘違い

何ヶ月ぶりでしょうか…。待って下さった皆様には本当に頭が上がりません…。
ここから独自設定、独自解釈が多くなるかもしれませんのであしからず。


 

 雲ひとつなく、削られた月が笑っているかのように見える夜だった。回りに人はおらず音は闇に吸い込まれ、夜空には光る白点が散りばめられていた。

 レッドはとある中学校の屋上に座り込み夜の警備をしていた。警備といっても茶々丸から侵入者発見の連絡があったらその場所に向かい侵入者を蹴散らすだけの簡単な仕事なのだが。

 

 

(ねぇねぇ!今日はどんな敵がでるかな!)

 

 

 頭の上にいるピカが顔を出しレッドの顔を覗き込むようにして尋ねる。

 

「…………」

 

(ぼくね!魔法使いがいいな!すごいんだよ魔法使いって!なんかよくわかんないことべちゃべちゃ唱えてね!炎とか風がね!びゅーって!)

 

「…………」

 

 ピカは喋らないレッドに気にすることなくく、嬉々として話続ける。尻尾を激しく上下しながら話すのでレッドの後頭部にピシピシと尻尾が当たる音が響くのだがそれを気にすることもない。

 

(わしは妖怪のような奴らがいいのう。あやつらをぶっ飛ばしてボンボンと音を立てて消させるのが癖になってきたぞ)

 

 レッド達に寄り添われながらも横で猫の様に丸くなっているリザが嬉しそうにしながら言う。リザの回りは炎タイプだからか尻尾にある火のおかげかは分からないが、温度が高いため皆湯たんぽの様に回りに寄り添う。しかしリザがそれを煩わしく思うことはほとんどなかった。

 

(あいつらあんま強くねーから面白くねーよ。大抵が数多いだけだしよ。やっぱタイマンとかが面白くできねーと。レッドもそう思うだろ?)

 

 少し離れた所でソウがレッドに声をかける。暑いのも苦手、寒いのも苦手という繊細な草タイプのソウはリザとそこそこの距離をとって座っていた。

 

「…………」

 

 レッドはソウに問われ、警備員としてここで戦ってきた敵について思い出していた。まだ何度目かという夜の警備の仕事だが、侵入者として退治する相手は大きく分けて3ついた。

 

 一つ目は魔法使い。基本ペア、もしくは数人のチームで攻めてくる彼らは、闘いの心構えができておりなかなか面白い動きをする。前衛と後衛にわかれ、前衛が近戦を狙ってきてる間に後衛が遠距離の魔法を仕掛けてくるのが大半であった。それぞれ風、雷、氷、炎など様々な魔法を駆使し空を駆ける様に闘う姿に芸術を感じてしまったこともある。

 しかし、相手が二人ならこちらも二匹のポケモンを出しタッグバトルを仕掛ける。相手のコンビネーションを崩す様に攻撃を仕掛け、翻弄しながら考えて闘うのはそれなりに楽しかった。懸念があるとしたら魔法使いだとしても彼らは人間だということだ。流石にポケモン達の技を直に当てるのはレッドもポケモンも抵抗を消せなかったため、足場や体勢を崩してから眠らせたり気絶させたりすることが多かった。まぁ相手は遠慮なくこちらに魔法をぶつけてくるし、こっちも熱くなったら加減を忘れてしまうのだが…………。

 

 

 二つ目は妖魔や術師。 大量の妖魔を呼び出したり、それなりに強い妖魔を単数で召喚してくることもある。基本術師は隠れるか敷地外から召喚するため、術師を見つけるまで妖怪を蹴散らし続ける羽目に会うこともある。ある一定のダメージを与えると消える奴らは、魔法使いなどの人を相手にするよりも抵抗がなく、リザなどは無双するかのように妖怪を吹っ飛ばしていく。無双する様子は見てて爽快を感じる事もあるし、妖魔のもつ武器や形状から瞬時に作戦を立てて次々と湧いてくる敵を蹴散らしていくのはもとの世界では出来ない経験であった。

 

 

 

 最後はよくわからない奴ら。妖魔に近い姿をしているが悪魔と呼ばれるものであったり、害意のない謎の存在や自然発生した妖怪だったりする。それらとは、見かけた事はあるが深く攻め込んでくることは少なく様子を見ているうちに消えているということが多い。

 

 

 それなりに頻繁に攻め込まれる麻帆良だが、それぞれ目的は違っているように見える。世界樹を目掛けて一直線する奴らも入れば、学園長のいる場所に向かう奴らもいる。麻帆良自体を荒らすものは少ないが、偵察や様子見を目的にするものも多い。

 だがレッドにとって敵の目的はあまり重要ではなかった。どんな敵であろうが初めて見た奴らに闘い方を考えて挑むのはそれなりに楽しく、レッドの気持ちを高揚させるには十分であった。

 

 

 そんなことを考えていると、茶々丸から預かった通信機が音を立ててなった。

 

「…………レッドさん。そこから南東に一キロ向かった先に複数の妖魔の出現を確認。退治に向かってください」

 

 事務的な機械音のような声のあと、プツっと音を立てて通信が切れる。

 

(どうやら今日は妖魔のようね。すぐ終わればいいけど)

 

フィーが眠そうな声で呟きながら立ち上がる。

 

 

(よっしゃいくぜお前らぁ!)

 

 

 ゼニが気合いを入れた声で叫び手を突き上げる。その顔を見ると黒光りする眼鏡をつけてどや顔をしている様子が目に入った。

 

 

「…………」

 

 

…………なんでこいつ夜なのにグラサンしての?

 

 

(うわああああああああ!!!!グラサン返してよぉー!!!!)

 

 

 ひょいっとグラサンを取り上げると静かだったはずの夜に騒がしい念話が頭に響いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「愛衣!なにしてますの!早くいきますよ!」

 

 まだ若干の寒さが残る夜の中、高音・D・グッドマンは後輩の佐倉愛衣に声を張り上げながら駆ける。

 

「姉様!ほんとにいくんですか?!」

 

 多少の息切れを起こしながらも愛衣は高音に付いていこうと必死に走りながら問いかけた。

 

「当然ですわ!新学期が始まって私たちももっとマギステルマギを目指さなければなりませんわ!愛衣もいよいよ中等部に入学したんですからここらで私たちの活躍を見せつけてやりますわ!」

 

 意気揚々と語る高音の横で愛衣は不安と緊張が入り交じった表情で息を吐く。

これまでの戦闘はいつも魔法先生が一人は付いてくれていた。だが今日は独断行動ということで高音と愛衣の二人だけである。不安も緊張も仕方のないことなのだ。

 

 移動しながら前方を見ると、激しい光を洩らしながら衝撃音が聞こえる場所を見つける。

 

「……!!愛衣!戦場を発見しましたわ!すでに交戦しているようですけど助太刀に行きますよ!」

 

「…………はい!お姉様!」

 

 愛衣はすでに誰かが戦っていることを知り少し安心する。麻帆良の魔法関係者で警備に当たるものは総じて実力がある。それに皆ペアを組んでいるため、少なくともあそこには二人の実力者がいることになる。安堵した表情で高音に追い付き横につく。そこで高音と一緒に戦場に踏み入ろうとするが、高音はなかなか足をあげない。不思議に思った愛衣はちらりと顔を向けると、高音はなんとも言えない表情をしている。

 

「…………お姉様?」

 

 先程までやる気が溢れでていたのに、急に足を止めた高音をみて愛衣は妙に感じる。愛衣の姉貴分は直前になって怖じ気付くような人だっただろうか。そのまま高音を見つめていると不意に高音が腕をあげ戦闘が起こっている場所を指差した。

 

「……愛衣。どれが敵ですの?」

 

「え?」

 

 高音に言われ、愛衣は初めて戦場に目をやる。

 

「…………ん?」

 

 愛衣の目に入ったのは何度か戦った覚えのある妖魔の大群………を簡単に蹴散らしていく空を飛び火を吹く竜、目に見えぬ速度で戦場を駆ける黄色のネズミ、甲羅のまま宙を舞うように動くカメ、背中に着けた葉で敵を切り裂くカエル、優雅に敵を浮かす猫、そしてそれらに指示を出す赤い帽子を被った青年であった。

 

「あの妖魔は…………」

 

「あれは間違いなく敵ですわ!関西呪術協会の使い魔に決まってますわ!でもそれと戦うあの謎の生き物はなんなんですの?!竜までいるなんて聞いてませんわ!」

 

 珍しく狼狽えるようにして高音が騒ぎたてる。

 

「………仲間割れですかね?それとも第三者が介入しているのか……」

 

「……どちらにしてもこの状況で乱入するのは得策とは思いませんわ。ひとまず距離をおいて様子を見ましょう」

 

二人はひそひそと相談をし、物影に隠れようとこそこそと移動を始めるのだが……

 

 

 

 

 

(ねぇねぇ!なにしてんの??)

 

 

 

 

 

「「!!!」」

 

 

 

 

 突然の念話に驚きながらも、二人は即座に臨戦体制になる。だが振り返った先には人影が見えずキョロキョロと周りを見渡すがそれでも念話の相手は見つからない。

 

(ね!こっちこっち!)

 

 愛衣の足元にちょんちょんと触れられるような感触がする。ゆっくりと視線を下にすると先程あばれ回っていた黄色のネズミが愛衣の足元から見上げている。

 

(や!こんばわ!ね!)

 

右手を精一杯上に伸ばしてピかは二人に挨拶する。

 

「……!お姉様!」

 

「愛衣!とりあえず離れなさい!」

 

「で、でも!」

 

「なんですの!」

 

「すごい可愛いです!」

 

「言ってる場合ですの?!」

 

 ピかの突然の訪問に気が動転しながらわーきゃーと騒ぎたてる愛衣と高音。

 

 レッドはそんな二人をポケモンに戦闘の指示を出しながら横目に見ていた。

 

 

…………あの二人は……妖魔の術者ではなさそうだな。……魔法使いか?しかし攻めてきた者にしては害意が見られないな。………一般人か麻帆良の関係者か?

 

 

 二人の登場に対して色々と思考しても確定的なことは分からなかったが、見てくれとピカとの対応で何となく敵では無いのだろうと当たりをつけた。

 

 シャドーボールを空中で放ち、何匹かの妖魔を還したフィーがスタッと音を立ててレッドの横に着地し、ちらりとみる。

 

(レッド。あの子達が何者かは知らないけどあそこにいたら敵に狙われるわ。どうにかしましょ)

 

「……」

 

 ……確かにそうだ。敵の数はなかなか減らず、戦闘するにつれて敵が散らばって行くので、敵の行動範囲が広がっている。あの二人が強いか弱いかは分からないが、敵でないなら守ったほうがいいのだろう。

 

 そこまで考えると、レッドはちょうど身に付ける葉で妖魔を切り裂いたソウに指示を出す。

 

(あいよー)

 

 ソウ返事ををしながら体からツル二本だし、二人の方へ急速に伸ばす。

 

 

「へ?」

 

 

「……!なんですのこれ?!」

 

 

 急に現れたツルに体を巻き付かれ身動きが取れなくなる愛衣と高音。反抗の声をあげじたばたと動くのをソウは無視し、二人をぐいっと空中にあげ引き寄せる。

 

 

「キャアアアアア!」

 

 

 叫び声をあげながら二人は妖魔達の上をロケットのように移動し、レッドの側方に引っ張りあげられる。

 

 

(わあ!すごい!楽しそう!!)

 

 

 ピカが瞳をキラキラとさせながら空を横切る二人を目で追う。

 

 レッドのすぐ側までくると着地直前に速度を緩め、すとんっと尻から地面に落ちる。

 

「な、な、な、なにするんですの!」

 

「…………こ、こわかったですぅぅぅ」

 

「あなた達!やっぱり敵なんですわね!こんなことして唯ではすみませんのよ!!」

 

 急な空の旅によりツルに縛られながらも愛衣は涙目になり、高音は激昂している。

 

「こんなツル!魔法ですぐに切れますわ!あなた達を同じようにぐるぐるにして即刻学園長のもとに送り…………」

 

 

 

 ぼん!と音を立てソウの背中から粉が吹き出てそれが二人に直撃すると、話途中でスゥスゥと寝息を立てて眠りに入ってしまった。

 

 

「………… 」

 

 そこまでしなくても……と伝えるようにレッドはジロリとソウを睨む。

 

(や、なんかうるさかったしよ。あんま暴れられても邪魔だろ?)

 

(それでももっといいやり方があったでしょ。というかあんなふうに連れてくるように指示したレッドも同罪よ)

 

「…………」

 

 いや、敵を潜り抜けながら近くに引き寄せるにはベストな方法だと思うんだがな………

 

(……はぁ。あなたに女の子の扱いなんて教えるだけ無駄よね)

 

呆れるように頭を振るフィー。それが何故かも分からずレッドを首を傾げる。

 

(お前らはいつまで遊んどるんじゃ。はよ戦闘にもどらんかい)

 

(そうだぞおら!)

 

 しまった。わちゃわちゃとしてる間リザとゼニに戦場を任せきりにしてしまった。

まぁ任せたところで心配はいらないのだろうが。

 

「…………」

 

レッドは腕をあげ、ポケモン達に指示を出す。

 

 

(……りょーかい)

 

 

(……そうね。さっさと蹴りをつけてしまいましょ)

 

 

(うん!うん!んじゃいくよ!!)

 

 

 レッドの指示を受け取ると、ポケモン達はそれぞれにやりと笑いながら戦場へと駆けていった。

 

 

   …………一気に終わらそう。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 そこから先はまさに圧倒的であった。それぞれが妖魔を蹴散らすためだけに技をだし続け次々と還していく。敵の数はみるみる少なくなっていき、気付いたら残り一匹だけであった。その一匹もせめて一撃与えようとレッドに向かって棍棒を振るが、振り切る前に体を水柱が貫き、ぼん!と音を立てて消えていった。

 

「…………」

 

 

 皆お疲れさん。

 

(さて、後はこの二人をどうするかよね)

 

 未だにソウのツルで縛られながら眠っている二人を見ながらフィーが呟く。

 

 

 こんな時間に戦場に入ろうとしていた時点で一般人ということはなさそうだが、この二人の立ち位置がいまいち掴めない。レッド達からしたら急にやってきた女子学生という情報しかないのだ。とりあえず学園長のところへ連れていけばいいのか?そこまで考えると、誰かがこちらへ向かってくる気配がする。

 

 

 新たな敵、もしくは先ほどの妖魔の術者である可能性を検討し迎え撃つ準備をする。

 

 暗い夜の影から出てきたのは、褐色の肌をもち短髪でスーツを着た男性と、スラッとした体でストレートの長い髪の女性。どちらも眼鏡を掛けているようであった。

やってきたこの男女ペアはツルに巻き付かれ眠らされてる女学生二人に目をやり、怒気に溢れた表情をする。

 

 

「君たち…………学園の生徒をどうするつもりだ!!!」

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

……あれ。これ誤解されるパターンじゃね。

 

 

 

 




約半年ぶり…。皆様お待たせして本当にすいません。これからもスローペースながらも書いていきたいと思っています。

ネギ先生の来た年って愛衣はまだ中学に入ったばかりですよね。
ジョンソン魔法学校に留学してたとかいってますがいまいち背景がつかめずこんな感じで出しちゃいました。


さて、新作スマブラにてリザードンとゲッコウガの参入が決定しましたね。

……ポケモントレーナー…。

リザードンはむちゃくちゃ優遇されてますね。いやいいんですけどでね、ただフシギソウを残してくれてもよかったんじゃないかなぁとね。

ほかにポケモン枠はいるんでしょうかねぇ。

…関係ない話してすいませんでした。


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16 会議と強襲

「駅から中等部に向かう途中の川原で、珍しい亀を見かけたという報告が二件。街中を走り回る黄色の大きなネズミを発見したという報告が一件。ついには空を飛び回る赤い竜を見かけたという報告が四件…………。学園長これはどういうことですか?」

 

がっしりとした体型でスーツを着こなしているガンドルフィーニが、目の前で悠々と座る学園長に問いかける。中等部にあるこの会議室には学園都市にいる魔法教師が皆集まっており、それぞれが学園長の返答に耳を傾けていた。

 

 

「…………。それで、その報告をした子達はそれらについてなんと述べていたのかね?」

 

「皆工学部で作った精巧なロボット、もしくは新種を見つけたと少し騒いでいるだけで大した騒ぎにはなっていません。…………しかし!」

 

両手を目の前にある机に叩きつけ、大きな音を立てながらガンドルフィー二は学園長を睨む。

 

「魔法関係者がこの生き物たちを発見したという報告もされています!その子が言うにはこの生き物たちはまるで魔物のようだと!学園長!貴方なら何か知っているのではないですか!」

 

学園長はそっと目を閉じて考え込むような顔をしている。この学園で認識阻害の魔法をかけられる者など学園長以外に存在しない。その事がこの件に学園長が関わっているという確定的な証拠となっているのが、魔法関係者には分かっていた。

 

皆が言葉を発することなく学園長の返事を待っていると彼はおもむろに口を開いた。

 

「……そーじゃの。そろそろ君らにも伝えなければならないと思っておった」

 

「……!やはり何か知っているのですね」

 

葛葉が確かめるように言う。

 

「先々月くらいの時かの。エヴァが侵入者にやられそうになったとき、颯爽と助けた青年がおった。レッドという名のその青年は何匹もののモンスターを手懐け完全に使役しておった」

 

「…………」

 

周りにいる魔法先生たちは静寂に学園長の話を聞き入る。封印により力をほとんど出せないが、それでもあのエヴァンジェリンがやられそうになったと学園長は言った。つまり侵入者はかなりの実力を持っていたというわけだ。そして、その侵入者を倒したという青年の実力も相当なものなのだろう。

 

「その後高畑君と一騒動あったが、なんとか話を聞くことができた。急に現れた彼はどうやら別世界から来たようじゃった」

 

「……?別世界?それは魔法世界ということですか?」

 

「いんや。こことは繋がっていない、本当の別世界じゃ。そこでは多くのものがモンスターをポケモンと呼び共に生活しているらしい」

 

あるものが不意に立ち上がり、がたりと音を立てて椅子が揺れた。

 

「ばかな!そんなでたらめの様な話を信じたと言うのですか!」

 

「…………その青年がまほらに侵入するために嘘をついているという可能性の方が高いのでは?」

 

魔法教師の一人は激昂するかのように声を荒げ、一人は冷静に判断するように述べる。

 

「そうじゃの。だからわしとエヴァでしばらく監視を続け彼らのことを調べた。結果、確かに彼の戸籍はこの世界に存在しないし、ポケモンたちは魔法世界にもいないモンスター達であった」

 

座りなさい、とジャスチャーしながら話す学園長をみて、立ち上がった教師は納得しきれないような顔のまま席につく。

 

「……わかりました。府に落ちませんが百歩譲って彼とそのポケモンが別世界から来たとしましょう。それで、このあと学園長は彼らをどうするつもりなんですか」

 

別世界からの来訪者。未だに心から信じているものは少ないが、その者がどんな事情でまほらに来たとしてもその後の対応に慎重にならなければならないことは明白であった。少なくともそのポケモン達が麻帆良内を自由に動き回れる今の状態はどうにかしなければならないと誰もが考えていた。だが、学園長が出した答えは皆の予想を完全に裏切った。

 

「しばらく彼らをこの学園の警備に当てるつもりじゃ」

 

学園長がそう告げたあと、何人かは信じられないという表情をする。身元が不明なものに学園の警備を任せるなど、危機管理が出来ていないにも程がある。教師たちは次々と反対の意見を挙げていく。

 

「ありえない!そんな身元もはっきりしないものを警備にあてるなんて!」

 

「危険すぎるのではありませんか?その者たちが偶然別世界から来たとしてもこの学園に害を与えないという確証はないのでは?」

 

教師たちはざわざわと騒ぎ初め、各々が意見を述べだす。あるものは麻帆良から遠ざけるべきだと言い、あるものは監禁しておくべきなのではとまで言い出した。収拾がつかなくなるかも知れない、一人がそう思った直後に学園長はカッと音を鳴らし周りの注目を集めた。

 

「……わしは長いことこの学園におる。だが、別世界からなにか現れるなんという現象は初めてじゃ。彼とポケモンたちはこう言った。空間の歪みに吸い込まれここに来てしまったと」

 

多くの視線が学園長に刺さる中、ゆっくりと呼吸をし、低くとも皆の胸に響くような声で言う。

 

 

「……彼ら以外のものが別世界から来ないという保証はどこにあるのかね?」

 

 

何人かはびくりと反応し、今の言葉の意味を察する。別世界から現れる人物がいたということは、他にも何者かが現れる可能性があるということだ。それが今回のように話の通じるものならば良いが、問答無用で暴れるような輩だと間違いなく学園は混乱する。

 

「何が理由でこの世界と他の世界が繋がってしまったかはまだわからんがの。今後の対策のため別世界のことをよく知っている彼らを味方に引き入れておくべきじゃとわしは思う。幸い彼らは実力も高いようじゃしの」

 

もし、万が一にでも、再び別世界からポケモンが現れたとして、それに一番うまく対処できるのはレッド達だと。学園長はそう考えている。

 

「いい関係を築いておくためにもあまり彼らを縛るべきでないと思うのじゃ。彼らが無意味に一般人に被害を与えるようなものたちで無いことはわしが保証しよう」

 

まだ納得しきっていないものもいるが、何人かは承諾したように頷き、会議室の中はしんと静まる。

 

「………これで今回の会議は終わりじゃな。機会かあったら彼らのことを君たちにも紹介するつもりじゃ。では、解散」

 

これは、レッド達とガンドルフィー二達が出会う数時間前の話である。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「君たち!その子達から離れろ!」

 

ガンドルフィー二がレッドたちに向かって叫ぶ。しんとした夜だからかその声はよく響き、彼らの耳を揺らした。静かに吹き抜ける風も、彼らの不信感を煽るようで、速度を増した雲は月を隠すように動く。ガンドルフィー二達の顔からはレッドたちに対する警戒心がはっきりと見え、横にいる葛葉も同じように思い、腰に指した刀に手を置いていた。

 

彼らは考える。だから別世界からきたなどいう人間は信用出来ないのだ、と。

 

「…………」

 

対して、レッド達はめんどくさい事になる前に早く誤解を解こうとしていた。

 

……この状況は確かに勘違いされても可笑しくないのだろう。自分たちは彼らの教え子であろう生徒を蔓で葉巻にして気絶させているのだから。だが解決するのもさして難しい問題ではないはずだ。この生徒たちを解放し事情を説明すればいいだけだ。

 

レッドはソウに指示を出しこの生徒たちをあの大人たちに返そうとする。

 

 

「……………………」

 

 

忽然と、彼らの頬を撫でるように風が吹いた。

 

 

 

(…………レッド?)

 

 

風をうけたレッドは指示を出そうとした手を止めた。

 

不意に動きをとめるレッドをポケモン達は不穏な思いで見つめる。

 

 

レッドは言葉にできないような不可解な感覚に襲われる。この感覚は、初めて感じるものではない。例えば、誰も立ち入る事の出来ないような洞窟の奥で。例えば、今まで人が踏み入れた事のないような建造物の上で。背筋を妙にそそり、浮き足を立たせるようなこの感覚は何度か味わったものだ。そして、そんな時は決まって……。

 

 

「…………」

 

 

再び風が吹き、服をはためかせた。

 

 

ポケモン達と妖魔達の戦いのため、周辺の草木は少し焼け、風と共に若干の焦げ臭さを運ぶ。

 

 

風が吹く度に足元に見える雑草は踊り、遠目に見える木々は揺れている。

 

 

月明かりがはっきりと照らしていた夜だったはずなのに月かかった雲は厚みを増し、回りの暗さは拍車をかける。

 

 

足元からカサカサと音が聞こえる。どうやら、近くにいた昆虫たちがここから離れて行くようだ。

 

 

周りの空気が徐々に変わりゆく中でレッドは立ち尽くす。目の前の学園関係者とのいざこざは、二人の少女を返せば直ぐに丸く収まると考えていたし、もちろんポケモン達もレッドはそうするつもりだろうと思っていた。だが、今はそんなことをしている場合じゃないと彼の五感が必死に訴えていた。冷え込んだ空気と彼の緊迫感が混じりポケモンたちの頭の中にも警報が響く。

 

…………何か………くる。

 

「ガンドルフィー二先生。もう力付くであの生徒たちを取り返しましょう」

 

動きのないレッド達をみて、スーツをきた女性が腰に指した刀を抜きながら言う。ガンドルフィー二も同様に臨戦態勢に入る。この二人はどうやら辺りの空気が変わったことに、気付いていない。二人が地面を蹴り、進みだそうとした。

 

「…………」

 

レッドはフィーに二人を直ぐに吹き飛ばす様に指示をだす。

 

フィーは若干戸惑いつつもサイコキネシスで弾くように二人を後ろに飛ばす。飛ばされた二人はまるでここから離れていくかのように遠ざかる。

 

二人は大きく後方に飛ばされながらもすぐさま体制を立て直し声を荒げた。

 

「……くっ!!やはり信用出来ない輩だったか!」

 

「…………」

 

レッドはガンドルフィー二の言う事などまったく気にかけず虚空をみているようであった。

 

ガンドルフィー二と葛葉が再びレッド達の元へ向かい斬りかかろうとしたその時であった。

 

 

 

 

 

 

レッド達とガンドルフィー二達の間に大きな楕円刑の穴が空いた。

 

 

 

 

 

 

「…………!!」

 

 

二人はブレーキをかけるように駆け出した足を止めた。

 

穴の中からはバチバチと激しい音と光が漏れる。

 

「な…………なんだあれは…………」

 

呆けている二人のもとに高音たちが投げ込まれる。

 

(おいてめえら!そいつら連れてさっさとここを離れろ!)

 

ソウが蔓を使い高音達をガンドルフィー二達の方に渡しながら叫ぶ。

 

穴から漏れる光と音が更に激しくなる。ピカの頬も呼応するかのように電流の軌跡を見せながらパチパチと音をたてる。

 

 

…………ゾクリ。

 

 

ガンドルフィー二と葛葉は背筋に虫が這うような感覚に襲われた。大気が振動するかのようにバチバチと音を立て続け、穴から漏れる光は強くなり続ける。

 

「…………」

 

ポケモンとレッド達は臨戦体制になりながら楕円形に空いた穴から目を離さない。

 

 

 

辺りを吹く風は強さを増しゴウゴウと音を鳴らす。雲の移動も速さをあげ、上空には厚く暗い雷雲が群がりながら、穴から出る音に呼応するように雷は音を立て雨を降らす。

 

空間を裂いた様に表れた穴からする気配が一層強くなった。

 

 

 

 

 

初めに見えたのは、黄色の翼であった。

 

穴から現れたその翼は、鳥の翼と言うには余りにも鋭さを帯び、紫電が翼の周りを駆け巡っている。

 

次に見えた脚は、地につかず空を漂い、岩すら崩せるかの様な爪がついていた。

 

ゆっくりと姿を現わしていき、全体を楕円形の穴からでたときそれは、二枚の翼で自らの姿を覆うようにしていた。

 

雨音が一層と強まり風と共にレッド達の頬を水滴が走り続ける。

 

ブウンと消え行く音を立てて楕円形の穴が消える。

 

姿を隠すようにしていた二枚の翼をおもむろに広げた。

 

ガンドルフィー二達は迫力と恐れで体を動かす事が出来ない。

 

そのポケモンはすっと口を開き、当たり一帯を揺らすような轟く咆哮で鳴いた。

 

 

咆哮を受けながらも、レッドはゆっくりとポケットにあるポケモン図鑑を取りだし目の前のポケモンにむける。ポケモン図鑑は呼応するようにピピっと電子音を鳴らし語り始めた。

 

 

 

 

『サンダー。電撃ポケモン。雷雲の 中に いると 言われる 伝説の ポケモン。雷を 自在に 操る。』

 

 




どーもお久しぶりです。

なんでサンダー?とか思うかもしれませんがその答えはまた後ほど。

オメガルビーアルファサファイアの情報が多くきてますね。

原始回帰とか良くわかんないですが私のメガニウムを早く進化させてください。


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17 雷鳥と雷鼠

「………えさま!お姉さま!起きてください!」

 

高音が目を開けると、びしょびしょになりながら肩を揺する愛の姿が見えた。どうやら雨が降っているらしい。

 

「……愛衣、起きましたわ…………ってさっきの変な生き物たちは!?」

 

不意にガバッと起き上がり周りを見渡す。ここでやっと自分もびしょびしょになっていることに気付いた。気を失う前と今ではどうやらかなり状況が違うようだ。雨が降るような天気ではなかったのに雷雨が鳴り響き、自分を縛っていた蔓はぼどけ、横には二人の教師がついていた。

 

「高音くん。落ち着きたまえ」

 

「ガンドルフィー二先生!これは一体どういう状況なのですか!?」

 

「聞きたいことがたくさんあるのは分かっている。だが私たちも状況がよくわかっていないのだ」

 

高音と話ながらもガンドルフィー二の視線は常に変わらず一点を見つめている。その視線の先には先ほどの黄色ネズミと大きな怪鳥が戦っていた。

 

「………彼らは何者なんですの?それにあの大きな怪鳥は…………」

 

「…………」

 

ガンドルフィー二は答える事が出来ない。先ほどまであの青年達は敵だと思っていた。だがあの怪鳥が異常に危険な生き物であることも、それから遠ざけるために自分達を吹き飛ばしたことも理解している。

 

 

 

 

教師である二人は学園長が言ったことを思い出していた。

 

『…………彼ら以外のものが別世界から来ないという保証はどこにあるのかね?』

 

学園長の予感が正しいのであれば、あれは別世界からきた者であり、その対処をしっているのも彼らだけなのだろう。あの怪鳥を市街で暴れさせないためにも、ここで食い止めなければならない。だが自分たちだけでは、実力が足りない。そのために彼らの力は不可欠なことは明らかであった。

 

そして、このような事が今回だけで終わるのかどうかも分からない。今後も時空の穴が幾度となく空き、何匹ものポケモンがこちらの世界に流れてくるかもしれない。そうなった時、学園側はどのように対処すべきなのか。

 

私一人が今ここで考えたところで答えがでる問題ではない。そう気付いた所でガンドルフィーニは思考を止めた

 

 

 

雨は勢いを止める事を知らず、ここにいる全員がずぶ濡れになっている。

 

 

 

「……ええい!ここでじっとしていも何もわかりませんわ!とりあえずあの怪鳥退治の助太刀にいきましょう!」

 

「…!まってお姉さま!!」

 

痺れを切らしたかのように高音が急に走りだし、それに釣られるように愛もついていく。

 

「まて君たち!!」

 

ガンドルフィー二達が遅れながらも二人を止めようと追いかけようとした時、雲が光った。

 

音がなったのは閃光が彼らに襲いかかった後であった。

 

ジグザグに軌跡を描きながら地面まで一直線に貫いた雷が高音と愛の下に落ちる。

 

巨大な音を立てた後、雷の跡が地面を焦がすように煙を立てる。風が吹き煙が消えたその場所には高音と愛の姿が見えず、そこから二人の教師の頭には最悪の事態が想像できた。葛葉は顔を真っ青にしながら呆然としている。

 

「高……!」

 

 

 

(無事よ。二人とも)

 

 

 

ガンドルフィー二が雷の落ちた場所に声をかけようとしたその時、頭の中に聞きなれない声で語りかけられた。

 

振り替えると、フィーの口には愛衣がくわえられており、高音はソウの蔓により巻き上げられていた。

 

「こ、怖かったです………」

 

「ちょ!またこの蔓ですの!?」

 

(あー。助けてやったのにうなんだこのお嬢様)

 

フィーはゆっくりと愛を座らせ、ソウはボトっと落とすようにガンドルフィー二の横に高音をおろした。葛葉は胸を撫で下ろしほっと息をつく。

 

「あ、あなた!レディの扱いがなってないんじゃないですの!」

 

(おっけーおっけー。わかったから静かにしてくれ)

 

「あ、あの。ありがとうございます」

 

(あら、どういたしまして)

 

それぞれが助けられたものに声をかけていると、リザとゼニがのしのしと近づき会話を始める。

 

(しかしなー。いきなり伝説のポケモン出てきやがるとはよぉ)

 

(ふむ。天候まで操るとはのう。しかも雨とは最悪だの)

 

(あらリザ。しっぽの炎は大丈夫かしら?)

 

(雨ごときで消えるような柔い鍛え方しとらん)

 

(あいつらも俺らと同じように来たのか?サンダーってカントーのポケモンだろ?)

 

(その辺の詳しいことはまだ分からないわ。せめてサンダーに念話が通じればいいんだけど)

 

(無理だろそりゃ。相当機嫌わるいぜあのやろう)

 

「ちょ、ちょっと、待ってくれ!」

 

ポケモン達が悠々と雑談を交わす中、ガンドルフィーにがそれを遮るように声をかける。

 

(あら、まだここから離れてなかったの。もしかして私たちの事から説明した方がいいかしら)

 

「…………君たちの話は学園長から聞いている」

 

先ほどのまでの行いを悔いているようで、絞り出すように声を出す。

 

(それにしては好戦的じゃったのう。まぁあの状況なら仕方ないのかもしれないが)

 

「…………その件に関しては申し訳ありませんでした。こちらが早とちりしてしまったようです」

 

怪鳥から遠ざけるようにされたこと。目の前で学園の生徒を救ってくれたことから、葛葉はポケモン達をいくらか信用したようだ。

 

(んじゃ、そこはお互い様ってことにしとこうぜ。んでなんでまだここにいるんだ?)

 

ゼニが眉を吊り上げながら質問をする。

 

「…………あの怪鳥をどうするか。それと君たちの行動を見ておきたいんだ」

 

ガンドルフィー二がその質問に嘘偽りなく答えたのは、先ほど敵と間違えた罪悪感からか、もしくは助けられた感謝の気持ちからだろうか。

 

 

 

 

 

「……あの、あなたたちはあれを倒す手伝いをしなくてもいいんですか?」

 

 

今まで成り行きに任せて口を閉じていた愛がおずおずと尋ねる。次いで高音も声をあげる。

 

「そうですわ!あなた方の仲間が戦っているのにここで団欒している場合じゃないでしょう!?しかもあんな小さなものに任せて!」

 

(いいんだよ)

 

ポケモン達全員が、視線を戦っているピカとサンダーに向けながら答える。

 

(あそこでやってるのはポケモンバトルよ)

 

(野生のポケモンだろうがあいつらが今賭けてるのポケモン同士のプライドだ)

 

(それを邪魔するなんて野暮な真似は)

 

(できないのう)

 

4匹のポケモン達が順に答えていく。サンダーが現れた時、ピカは自分がやるといった。それは同じ電気タイプとしての対抗心なのかは分からないが、レッドはピカの意思を承諾しバトルは始まった。こちらに飛ばされたばかりのサンダーは凄ぶる機嫌が悪く、今にも暴れだしそうな雰囲気を放っていたが、小さな体で堂々と喧嘩を売るポケモンを無視することは出来なかったようだ。

 

「…………」

 

ポケモン達の話を聞いて、高音の頭の中では様々な考えがぐるぐると渦巻く。

 

プライドとは何か。彼らは正義のために戦闘っている自分たちと何が違うのか。あの怪鳥は、皆の力を合わせれば今よりずっと簡単に勝てるはずだろう。だがここにいるポケモン達は闘いを見守るだけで、闘っている彼らはそれでよしとしている。皆で闘えばもっと楽ができて、被害を出す可能性が減るはずなのに。まほらに危険を及ぼす可能性が有るものを全力で対処して、市民の危険を減らす様にすることが、何よりも正義であるはずだ。だから、高音には分からなかった。自分の考える正義よりも、プライドを優先する彼らの気持ちが。

 

「…あなたたちは、それでいいんですか?あの子一匹で闘わせて、あの子が負けて、怪我して、辛い目に遭うかもしれない。それでも助けにいかず、ここで見守るので、本当にいいんですか?」

 

愛衣も高音と同じ様に思うところがあったらしく、真剣な顔をしてポケモン達に尋ねた。

 

ポケモン達はその質問を聞いて、それぞれ顔を合わせて目配せする。

 

(ピカが負けるとか辛い目にあうかどうかは私たちには分からないわ。私たちはピカとレッドが勝つと信じているけどね)

 

(あいつは言ったからのう。「任せろ」と)

 

(そこまで言って俺達が助けに言ったらあいつは一人で負けるよりきっと怒る)

 

(だからよぉ。俺達はあいつらが勝って戻ってくるのをまってりゃいーんだよ)

余りにも堂々と答えるポケモン達を前にして、高音と愛衣は後に続ける言葉が思いつかなかった。

 

彼らは正義なんて、ひとつも考えていなかった。あるのは仲間への信頼と誇りを守ることだけだった。その答えが正しいのかなんて結局分からない。少し前までの高音なら、そんなことよりもっと大事な物があると声を挙げたかもしれない。だが、真剣に仲間を信じて待つ彼らを見て、高音は少し羨ましいと思ってしまった。

 

 

 

再び大きな雷音が響き、辺りを一瞬明るくする。

 

雨の中、小さな体で大きな怪鳥に立ち向かう姿を見守りながら、4匹のポケモンと4人の学園関係者は、彼らの戦いの結末を待った。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

雨は降り続け、流れる水滴はレッドにまとわりつくようだった。耳には雨と落雷の音が入り交じって聞こえ、空と大地を繋ぐ水の線により視界は最悪であった。それでも、レッドはピカとサンダーの戦いから目を離すことなどなかった。

 

帽子を柄が前に来るように被り直し、戦いに集中する。

 

ピカは激しく移動を続けながら、サンダーに向かって頬から電撃を放ち続ける。サンダーは上下左右に飛びながらも正確にその攻撃を避け、雷や翼を羽ばたかせて生じるエアカッターで反撃をし、それをまたピカが避ける。

 

どちらも素早さが高く、凄まじい速度で回避を繰り返しながら攻撃を仕掛けている。

 

ピカが一か八か地面を強く蹴り電光石火で空中にいるサンダーへの接触を試みる。それを見たサンダーは翼を大きく広げ体の周りに紫電を走らせた。

 

ピカはすでに飛び上がり回避は不可能。そう判断したレッドは、サンダーの反撃を予測してピカに身を守るように指示を出す。

 

指示を察したピカは跳び跳ねた空中で防御を固めるように身を丸めた。

 

サンダーが猛烈に咆哮するのと同時に周囲一体を「ほうでん」が襲った。

 

ピカは「ほうでん」の電気を体で受けながら、後方に勢いよく飛ばされる。レッドの前まで吹き飛ばされたピカは空中で身を回転させ上手に着地した。

 

 

 

 

(いやー。強いね!うん!)

 

……ああ。強い。強いな。

 

電撃を浴びて若干体に焦げをつくったピカは、言葉とは裏腹ににっこりと笑いながら呟く。久々に強敵とポケモンバトルをする事ができて、笑みを抑えることが出来ない様子だ。そして、それはレッドも同様である。

 

これまでのやりとりを総括すると、素早さは僅かにピカの方が上、しかしサンダーには飛行能力があり捉えるのは難しそうだ。また、近付こうと飛び上がると、こちらは空中で回避がとれないため、反撃を避けるのが難しい。いつもなら飛行タイプには雷(かみなり)で対処するのだが、雷雲は確実にサンダーの支配下にあるためそれも難航した。

 

攻撃手段が見つからない現状で、レッドがピカに伝えた作戦はスピードで撹乱することであった。

 

 

ピカは承諾するようにサンダーの元に駆け出すと、先ほどより更に速い速度でサンダーの回りを駆ける。サンダーはその動きに辛うじてしか着いてこれず、ピカは放たれたエアカッターを完全に置き去りにしていた。ぐるぐると周囲を動き回るピカにサンダーはストレスを感じ、再び翼を大きく広げた。先程同じ様に周囲に紫電が走る。動き回るピカを鬱陶しく感じたサンダーは当たり一面を放電で埋め尽くそうとした。その溜めを読んでいたピカは更に速度を上げながらサンダーに向かい跳び跳ねる。サンダーが技を放つよりも僅かに速くピカのアイアンテールがサンダーの顔に直撃する。ぐらりと怯む様に体を揺らしたサンダーであったが、ピカが地面に着地する前に溜めていた放電を放った。ピカは再び吹き飛ばされるように放電を身に受ける。

 

(……っ!いったいなぁ!もう!)

 

先程と異なり守りを固めていない状態であったため、こちらのダメージは大きい。だが、顔面に技をくらったサンダーもそれなりにダメージを受けたようだ。

 

このまま同じ様に技を出し会う状況が続くと、おそらく先にバテるのはピカだ。サンダーもそれが分かっているのか戦法を変えるつもりはないようだ。近づくまでは雷とエアカッターで牽制、迫ってくるならば放電で対応する。放電を出す為の溜めは、実際にはほとんどないようなものだ。だがピカの速度なら、放電を放つ予兆を感じてからも対応ができる。しかし、空中に飛び上がらなければならないとなると話は別だ。サンダーはピカが地面を蹴るのを確認してから放電を準備しても十分間に合う。放電がピカの攻撃前に当たればサンダーに圧倒的なリターンが得られ、攻撃されたとしても耐えてから放電を放てばピカのダメージ量の方が大きい。サンダーは勝利を確信したかのように唸り声を上げた。

 

 

 

 

だがピカは圧倒的不利と分かってなお、顔に綻びを見せる。

 

サンダーは知らない。ピカの後ろについているトレーナーが誰なのかを。

 

「…………」

 

サンダーは気付かない。そのトレーナーがどんな状況でも勝利を勝ち取る男だということを。

 

最後の攻防だ。そんな思いを込めながらレッドはピカに作戦を指示する。

 

 

(…………おっけ!!んじゃ!いきますか!! )

 

ピカは姿勢を低くしながら自身の周囲に黄色の電撃を走らせる。パリッパリッと電気が弾ける音が響く。

 

サンダーもピカの攻撃体制を察し、迎え撃つ準備をする。

 

バリッとつんざくような音を鳴らしピカは駆け出す。ピカの移動した軌跡には黄色の閃光が弾けた跡が残る。

 

サンダーは辛うじて目で追えるピカの先を予測しながらエアカッターを打ち出す。ジグザグと線を残しながらピカはそれを避ける。徐々にスピードを上げてくように移動したピカはついにサンダーの後ろをとった。再び地面を蹴り飛び上がるために筋肉に力を溜める。このタイミングなら、振り返った後に放電を溜めてもこちらのスピードに間に合わない。そう思いながら、ピカは跳ねる。

 

 

 

だが、サンダーはこちらに体を向き直しながら電気を溜めていた。

 

 

 

サンダーは気付いていた。ピカが高速で動きながらサンダーの裏をとることを狙っていたことを。そのため、放電を溜めている時には動けない用に見せかけ、わざと隙をつかせた。

 

ピカはサンダーの思惑通りに動き、飛び上がった。空中で移動手段のないピカはこの放電を避けれる筈がない。勝利を確信しながらサンダーはピカを見る。

 

レッドはその様子を見て、不敵に笑みを浮かべていた。

 

サンダーが見たのは、空中で地面に銀色に光る尻尾を突き刺し、静止しているピカであった。

 

 

サンダーとピカの顔が会うと、ニヤリとピカが笑う。

 

レッドはこの状況を完全に予知していた。遠距離からのこちらの攻撃は避けられ当たっても効果が薄い。つまり近距離で物理で殴るのが正解なのだが、サンダーそれを警戒し、放電を張る。ならば放電を攻略するのが勝利への道だ。そこまでを即座に気付いたレッドは放電の解析に入った。放電の溜めの速度から、ピカの飛び上がりを見てから技の準備に入ってもピカが確実に不利である。ならば放電の後の硬直を狙えばよい。だが不用意にカウンターを撃たれるような技の出し方はしないはずだ。だから、誤解させる。ピカの狙いは放電の溜めの前に攻撃することと認識させ、立ち回る。溜め前の攻撃を意識したサンダーは、後ろに周り飛び上がったピカを見れば即座に対応できるように溜めを始めるはずだ。そして、想定通りになった。

 

サンダーは思惑に乗せられたことに気付いたのか、苛立ちを表した表情をする。ポケモンのトレーナーなど、まったく警戒していなかった。小さな体で闘いを挑む姿勢に多少の敬意を示し、トレーナーへの攻撃は行わず闘っていた。野生で生きるサンダーにとっては、トレーナーなど不要な者という認識しかなく、トレーナーに従うポケモンを打ち負かすためにも、トレーナーへの攻撃は選択肢になかった。苛立ちと、焦りと、畏敬を感じながらも、放電の溜めは止められない。

 

ピカは下に突き刺さった尻尾を抜きながらその場から少し後ろに下がり、四足で地面に着地し、そのまま技の準備に入る。

 

 

ピカの毛並みがバチバチと音を立てながら逆立つ。体の周りには青色の電気が泳ぎだし、雨すらを弾いている。辺りは夜とは思えないほどの明るさに覆われ、電気は密度を増していく。接触する地面は焦げるような匂いを漂わせる。

 

 

サンダーが溜めに限界を感じ、不本意ながらも放電を放つ。当然、ピカはそれがギリギリ届かない位置にいる。

 

 

サンダーが放電をしている間も、ピカの周りの青い電気は体の周囲を走り続ける。音は鋭さをまし、つんざくような音に変わる。

 

(………よし。っいくよ!)

 

ピカが呟くと同時に、青い電気はピカは包み込み球状を成す。

 

 

サンダーが吠えながらも放電を終える。それと同時にピカは駆け出した。

 

 

青い電気に包まれたピカが物凄い速度で突撃する瞬間、サンダーは確かに聞こえた。ピカのトレーナーが小さく呟くその声を。

 

 

 

 

「……ボルテッカー」

 

 

 

 

雨を弾き青白い閃光を煌めかしながら、ピカはサンダーに直撃した。

 




ポケモン図鑑(ピカチュウ版)

№145 サンダー

そらが くらくなり いなづまが れんぞくして おちていく はてに でんせつの ポケモンは あらわれる。

はい、どーもです。17話です。
お気に入り1500件突破しました!うれしい限りです。
これからもがんばっていきます!


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18 決着と心配

 

(…………っ!はぁ!はぁ!)

 

サンダーにボルテッカーを直撃させたピカが俺の元に着地し、激しく呼吸をした。ピカが電気を纏って進んだ道は、地面は削れ、焼けるような臭いを漂わせた。

 

ピカは信じられないほど発汗し、顔には疲労がまざまざと見えた。

 

ピカがこれほど疲れを見せるのは、当然の事である。サンダーに追い付けないほどのスピードを出すために絶えず電光石火をし、とどめには自身にも大きな反動をくらうボルテッカーまで使った。

 

伝説のポケモンを相手するためには、ここまでしないといけなかったとは言え、余りに無理をさせすぎてしまった。

 

レッドがピカの健闘を称え、激励を送ろうとした後、僅かな違和感に気付く。威圧感が辺りを締め付け、背筋に電気が走ったような気がした。

 

「…………」

 

 

 

 

 

…………そうだな。これで終わったら、伝説になぞならねーか。

 

サンダーがいた場所を覆っている煙が少しずつ晴れ始める。煙が晴れ相手の視界が開ける前に追い討ちを掛けようと、ピカに攻撃を命じた。

 

しかし、ピカは首を横に降った。

 

先ほど迄、明らかに限界を迎えていたピカの表情に、綻びが見えた。

 

「…………」

 

 

レッドはピカの思惑を察して、命じた攻撃を取り消す。徐々にサンダーを囲っていた煙が散在し始め、姿を現す。そこには、大きくダメージを負いながらも、凛々しく羽を広げ宙を浮く、伝説のポケモンの姿があった。

 

 

 

「…………ガャァァアッッッ!!!!!!」

 

サンダーが、喉を潰すような声で盛大に吠える。咆哮の勢いでサンダーを中心に風が流れ込むみ、地面の雑草が大きく傾く。サンダーは上空を睨み付けた後、翼を畳み夜空に向かい急上昇し、ずぼっという音を立てて雷雲の中に突入した。

 

サンダーが侵入した雷雲の周りに渦巻くように電気が廻る。弾ける音を大きくしながら、電気の勢いは増していく。

 

ピカとレッドは、地面に足をつけながらその様子を見ていた。

 

突然、雷雲の中でサンダーが翼を激烈に開いたのだろう。翼の開く勢いでサンダーを囲っていた雷雲は一斉に拡散し、空を覆っていた雲が全て無くなった。

 

 

 

 

 

雲が一つもない暗黒の空で月と対称的に位置し、月と同様に金色に光るサンダーの姿は、美しかった。

 

 

サンダーがもう一度吼えると、サンダーの両翼に激しい光が集まっていく。真っ暗な空の上で光を収束し続け、煌めきは膨張を止めない。

 

 

…………ゴッドバードか。

 

 

力を溜め続けるサンダーを前に、レッドは若干の冷や汗をかく。神の鳥という名の攻撃に相応しいほどの圧力を肌に感じる。

 

 

 

(…………逃げないよ)

 

退避や回避を命じると思ったのか、ピカが釘を刺すように告げる。

ピカは煌めきを増し続けるサンダーを真剣な表情でしっかりと見つめていた。

 

「…………」

 

レッドはゆっくりとピカに近づき、口元を緩めながらピカの側で片膝をつける。そのまま手をピカの頭にのせてわしゃわしゃとを撫でた。

 

 

 

 

…………当たり前だ。全力でぶつかってこい。

 

 

レッドは鞄から金色に光る玉を取り出す。その玉の中心には電流が廻り続け、傍目からでも分かるようなエネルギーを放っていた。取り出した「電気玉」をピカの口にくわえさせ、もう一度頭をなぞる。

 

レッドは、ピカがサンダーのゴッドバードに打ち勝てるかどうかは、もはや分からなかった。ただ、ピカの思いに応えて、全力でサポートする。

 

(……にひひっ!)

 

電気玉をくわえたピカが笑い声を溢す。

 

ピカは前方に移動し、レッドから少し離れる。

 

爪を地面に食い込ませるようにして体を支え、再び体に青白い電気を駆け巡らせ、ボルテッカーの準備を始めた。

サンダーが光を集めるのと呼応するように、ピカも急速に電撃を溜める。先ほどのボルテッカーとは比べ物にならないほどの青い稲妻が激しく散りばめられ、辺りに拡散し続ける。

ピカが上空に顔を向けると、サンダーも此方に顔を向ける。顔を合わせた二匹が、同時に笑ったように見えた。

 

どちらも技を放つ準備が整ったのか、笑みを浮かべたまま静かに見つめ合う。

 

ついさっきまで雨と雷の音で騒がしかった夜が嘘のように静寂に包まれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………勝負は一瞬だった。

 

 

 

どちらが先、ということはなかった。対面する二匹だけに伝わる合図が、あったのだろう。

両者が急に姿を消したかと思うと、その中央で激しい火花が散った。一度だけ、雷が怒号するような音を立て、両者は行き違う。

 

サンダーは地面に降り立ち、両の足で体を支える。ピカも同様にサンダーに背を向けるようにして、四つ足で自らの体制を維持していた。

 

レッドは、サンダーの横を通りすぎて、ゆっくり歩いてピカの元まで向かう。ピカの側まで着くと、屈んでまたピカの頭を撫でた。

 

 

 

 

…………よく頑張った。

 

 

ピカは一瞬悔しそうな顔をして、横に倒れた。

 

目を瞑り、疲労感を漂わせるピカを丁寧に抱き上げると、後ろにはサンダーの姿があった。

あちこちにダメージを受けボロボロのサンダーだったが、優しい目をしていた。サンダーはピカにそっと嘴を当て、パチっと電気を一線走らす。

 

きっとそれは、サンダーがピカに敬意と健闘を称えた印なのだろう。レッドは、サンダーにもお疲れと告げるように撫でると、高い声で気持ち良さそうに鳴いた。

 

 

 

(…………終わったようね)

 

フィー達がぞろぞろと向かってくる。俺が頷くと、ゼニはピカに目をやり、辛そうに顔を歪ませた。

 

 

(…………負けちまったのかよ)

 

「…………」

 

ゼニは、他の誰よりも悔しそうな顔をした。仲間思いでピカと仲が良いゼニは、ピカの勝利を一番信じていたのだろう。

 

最後のゴッドバード、あれをうまく対処すればピカにも勝ちの目はあった。しかし、正面から全力で技をぶつけようとしたサンダーの想いを、ピカは無視することなどできなかった。ピカにとってあの技をいなして得る勝利は勝利ではなかったのだ。

俺にとっての勝ちと、ポケモンにとっての勝ちが違うことは少なくない。戦術的に勝つことが俺のやり方ならば、相手の全力を突破することがピカのやり方であり、どちらも同価値である。ポケモンは、トレーナーの道具などではないのだ。ポケモンの想いを蔑ろにしてまで勝利して何がポケモントレーナーだ。そこまで考えて俺がピカの正面衝突を許した事は、ピカをよく知るゼニなれば分かっているのだろう。

 

しかし、だからこそゼニは悔しいのだ。仲間が正面から闘って負けたことが。

 

 

 

サンダーはもう一度俺に目配せした後、ゆっくりと翼を広げ、飛び立つ準備をした。翼を上下させ風をお越し自らの体を浮かそうとする。

 

ひゅっと何かが風を切る音がした。レッドは後方から一本のナイフが飛んでくるのを視線の端にわずかに捉え、ソウに指示してナイフを弾かせる。

 

「…………!…………なんのつもりだ」

 

ガンドルフィーニと呼ばれていた男性が俺に敵意を向ける。だが…………

 

 

なんのつもりだ、はこちらのセリフだ。

 

 

レッドはサンダーを守るようにガンドルフィーニとサンダーの間に入り、じっとガンドルフィーニを見つめる。

 

「まさかこのまま逃がすつもりですか」

 

もう一人の女性教師、葛葉が腰に差した刀に手を乗せながら言う。

 

「…………」

 

「ここでこの怪鳥を逃がして、また暴れらたらどうするんだ!弱っている今!倒してしまうのがベストだろう!」

 

「…………」

 

叫ぶガンドルフィーニを前にしても、俺は退くことなく立つ。

 

ピカとサンダーは、真剣にポケモンバトルをした。放っておいたらサンダーが被害を出すからではない。単純に、自分の力でサンダーを倒したいと思ったからだ。その戦いが終った後、弱った所を他のものに倒させるのは、お互いのプライドを傷つける行為以外の何者でもない。

 

サンダーはしばらくその様子を見つめた後、再び飛び立とうとした。二人がまたそれを止めようと追撃準備に入るが、そこに制止の声をかけたのはレッドたちではなかった。

 

「…………先生方。ここは行かせてあげましょう」

 

「高音くん。本気で言っているのかい?」

 

「…………おそらくこれだけ弱っていても、私たちではこの鳥さんを止められないと思います。その上この子たちまで敵に回るとなると…………」

 

愛依も高音に助け船を出し応援する。

 

「だが、ここで逃がしてまた暴れられたら…………」

 

「…………それは、大丈夫なのでしょう?」

 

高音がレッド達に顔を向けて問いかける。フィーがそれに堂々と応える。

 

(ええ。伝説のポケモンが人や街を襲う例は少ないわ。こちらから手出ししなければね。……そうでしょう?)

 

フィーがサンダーに念話で語りかける。サンダーは了承の意を示すように小さく喉を鳴らす。全てのポケモンが念話に応じて返してくれるわけではないし、伝説のポケモンとなると尚更だ。返事をしてくれただけ良しとした。

 

(…………気付いてるかも知れないけれど、ここは別世界よ。何かあったら私たちの所にきなさいね)

 

サンダーが再びこくりと頷く。

 

ガンドルフィーニと葛葉がレッド達をじっと見つめる。

この二人の言いたいこともわかる。別世界の産物であるポケモンを自分たちの手の届かない場所にやっていいのか。レッド達がいつか元の世界に帰ったとき、サンダーはどうするのか。どうせなら仕留めるか捕獲するべきなのではないかと。

しかし、レッドはそう考えない。ポケモンがいる世界で過ごしたレッドといない世界で過ごしたものたちの認識には差がある。

 

彼らにとってポケモンとは力をもつモンスターと変わりがないのだろう。だがレッドからしたらポケモンと人間に大きな違いはない。ポケモンも人間と同じように思考し、自分の問題は自分で解決できる。

 

空間の歪みからこちらに移動させられた認識があれば、サンダーがここを別世界と察するのは難しくないだろう。上空に飛び上がったときに、元の世界とは程遠いこの世界を見ているはずだ。サンダーが元の世界に帰りたがっているかどうかは分からないが、そこからはわざわざ此方が干渉することではない。ただの獣とは違うのだ 。レッドたちの手持ちになる気もないのなら当然一匹でも生きていけるだろうし、サンダーも帰りたければレッドたちと同じように帰り方を自分で探すだろう。必要だと思った時に、レッドたちに頼りに来れば良い。役に立てるかはまた別の話だが。

 

サンダーが地面を蹴り、翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。今度は誰もそれを止めることなく見守る。サンダーが此方を一瞥し、ゆっくりと飛び去っていった。

 

「…………君達には、話がある。学園長の所まできてもらいたい」

 

 

またか…………。と思いつつもレッドはこくりと頷く。フィーを残して他のポケモン達をボールに戻し、レッドは二人の教師についていった。

 

 

 

 

 

レッドは、この時はまだ知らない。

どんな理由があろうと、ガンドルフィーニ達が正解だったということを。

無理矢理でも、サンダーを捕まえておくべきだったということを。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

雷の音が、窓を揺らす。

 

パソコンを使い、自身のブログを更新させている千雨は、停電が起きてパソコンが落ちるのではとハラハラしていた。

 

なんで急にこんな雷が鳴るんだよ…………!

 

カタカタとキーボードを叩きながら千雨は苛立つ。万が一にでもデータが飛ぶ恐れがあると思うと気が気ではいられなかった。

 

そこに、女子寮の廊下でガヤガヤと生徒達が集まり騒ぐ気配がした。

度々騒ぎを起こす同級生達だが、深夜にまで煩くすることは稀であった。いつもなら気にせずひっそりと睡眠に入るのだが、この雷の中廊下でも騒がれたら眠れる自信がなかった。

 

さっさとブログを更新させ、おもむろに椅子から立ち上がり部屋の外に向かう。あいつらを静かにすることなどできないが、騒ぐ理由ぐらい知っておこうと部屋のドアを開けると、案の定、2-Aの生徒達が群がっていた。

 

「あ!千雨ちゃん!千雨ちゃんもこの雷で眠れなかったの?」

 

佐々木 まき絵が下から覗き込むようにしながら千雨を見る。千雨の背には、もはや背負うのが習慣になった卵があるのだが、桜子はそれを気にせず言う。

寧ろお前らのせいで眠れなくなるかが心配だった、などとは言える筈もなく、適当に返事をした。

 

「でもねー。なんか変な天気なんだよ。さっきまで晴れてたのに急に曇ってるし。あの辺の場所ばっかすっごい雨と雷落ちてるんだよ?」

 

対して親しくもないのだが、桜子は仲良さげに話しかけてくる。こんな性格ならば、自分も小学校時代に苦労しなかっただろうな、と関係ないことを考えながら千雨は話を聞いていた。

 

この天気について、千雨は自分のなかで答えを出していた。恐らく、魔法使いやフィー達ポケモンが暴れているのだろう、と。前まではこのような異常気象も、また麻帆良の非日常の一つかと呆れていたかもしれないが、魔法使いが存在することを知ってから大体のことは納得がいくようになった。

 

あれほどの雷雨が集中しているのだ。さぞかし激しく戦っているのだろうと他人事のように考える。

こんな中、外に出る気もないし、闘いならそのうち天気も戻るだろう。そしたらこいつらも部屋に戻ってまた寝てくれる。

 

そんな風に推測して、千雨は桜子に投げやりに返答をして部屋に戻ろうとした。

 

「えええ?ゆえ吉今外に出てるの?」

 

「う、うん。なんか急によくわかんないジュース飲みたくなったって…………」

 

早乙女ハルナと宮崎のどかの会話が、千雨に耳に入り、千雨は足を止める。

 

「あちゃー。こんな天気なのにゆえ吉大丈夫かなー」

 

「局所的に降ってるみたいだから大丈夫だとは思うけど…………」

 

そこまで聞くと、千雨は開きかけたドアを閉めた。

 

「…千雨ちゃん?」

 

千雨の行動を不思議に思ったまき絵が首をかしげる。千雨は答えることなく、一度深呼吸をしてから突然走り出した。

 

「ちょ、ちょっと千雨ちゃん!どこいくの!」

 

まき絵が駆け出した千雨に再び声をかけるが返事もせず、階段を下り玄関に向かっていった。

 

 

あそこで戦闘が起こってるってことは、よく分からんけど敵がいるってことじゃねーか!

 

千雨は勢いよく外に飛び出しながら、思考する。闘いの場所は雷雨が集中している場所だとしても、敵が来ているというだけで外は危険度が高いはずだ。そんな中うろちょろしていたら、最悪の可能性もある。

 

会話から聞こえた、変なジュースがあるという噂の自販機に向かい、千雨は走る。

 

 

前までは、こんなに活動的ではなかった。誰かのピンチを助けるなんてキャラではないし、誰かのために走ることすら面倒だった筈だ。

 

だが、背中の卵の存在が、千雨を変えた。この卵を背負っている内は、格好悪いところを見せたくないと思わせた。

 

 

 

…………大丈夫だ。綾瀬にあって、早く戻れと言うだけだ。大丈夫。なんも危険なんてない。

そう思いながらも、千雨は胸に何か詰まるような悪い予感がしていた。

 

 

背中に卵を背負ったまま、千雨はゆえのもとへ向かった。

 

 




どーも。18話です。



いまさらですけど文で伝えたいことを伝えるのは難しいですね。


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19 ジュースと火

カランカラン。

 

自動販売機が、音を立てて缶ジュースを吐き出す。空は雲に覆われ月を見ることもできず、辺りを照らすのは切れかけた街灯だけであった。時折風が強く吹き、寝間着を着ている綾瀬 夕映の肌は寒さ故に逆立つ。手で腕を擦りつつも、自販機から先程購入した缶ジュースを取り出す。冷えた缶ジュースを手に取り、夕映は「あたたかい」を押さなかったことを若干後悔した。

 

突然、雷が落ちる音が響く。この辺りは曇ってはいるが雨など降っていないのに、どこかでは頻繁に雷が落ちているようで、何度も大気を揺らす音が聞こえる。

 

早めに寮に戻ったほうがよさそうです……。

 

不思議な天気になんだか不安を感じつつ、夕映は寮へと足を向けた。その時、寮の方向からこちらに向かってくる影が見えた。段々と近付いてくるその影は、街灯に照らされると見たことのある顔に変わった。

 

「…………千雨さん。一体どうしたんです?」

 

全力で走ってきたようで、吐息を激しくもらし、両手を膝に置いて汗を流す千雨を見る。夕映は、教室では普段冷めた表情をしている彼女のこんな姿を見れるのを珍しく感じた。

 

「はぁ、はぁ。どうしたんです?じゃねーよ。綾瀬こそ何してんだよ」

 

千雨は未だに呼吸が落ち着かないようで、あまり上手く喋れていない。街灯に照らされた千雨の額は汗で濡れているのが分かる。この人は何しに来たのだろう、と夕映は疑問に思いながらも答える。

 

「無性にここのジュースが飲みたくなりまして…………飲みます?」

 

缶のタブを開け、千雨に渡す。相当喉が渇いていたのだろうか、ああ悪い、と返事をした後受け取った缶ジュースに口をつける。

 

「…………ぶぅーーー!ゲホッゲホ!」

 

千雨の口からせっかくあげたジュースが霧状になって飛び出し、盛大にむせる。それを見た夕映が、もったいないです…………と小さく呟いた。

 

 

ひとしきり咳をした後、涙目で夕映を見上げて千雨は聞く。

 

「え?嫌がらせ?」

 

「失礼ですね。まごう事なく善意です」

 

「…………ちなみに何のジュースだこれ」

 

「『抹茶コーラ』です」

 

「嫌がらせだった」

 

「美味しいのに」

 

千雨は受け取った缶ジュースの表記を見て険しい顔をしてから、夕映に返す。夕映は一口缶ジュースに口をつけ、満足そうな顔をし、それを見た千雨の顔はひきつる。

 

「それで?千雨さんは何か用があったんですか?」

 

夕映が缶ジュース片手に尋ねる。千雨はあー、そのー、と前置きしてから若干恥ずかしそうに頬を掻きながら答えた。

 

「い、いや、ほら。天気がちょっと変だろ?そんな中綾瀬が外に出たっていうから、し、心配になってだな…………」

 

外には危ない化け物がいるかもしれないから、とは言えなかった。しかし、普段周りと関わらないくせにいきなり走ってやってきて、心配になった、などと言う自分に羞恥心が芽生え、千雨の言葉の尻すぼみに小さくなっていく。

 

夕映は当然それで話が終わるとは思っていなかった。いつもの千雨の様子から、わざわざここまで走ってくる時点で相当な出来事があったと予想し、夕映は少し身構えていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 

しかし、千雨はなかなか口を開かない。夕映は話の続きを待つが、千雨はそのまま黙ってしまっているため、沈黙だけが二人の間を流れる。それでもしばらく応答のない千雨をみて、夕映は、ん?と頭に疑問符を浮かべて聞いた。

 

 

「…………え?それだけですか?」

 

「……………………それだけ」

 

「……………………ほんとにですか?」

 

「………………………………ほんとに」

 

目をぱちくりしながら聞き返す夕映に対して、未だに照れながら千雨はコクりと頷く。

 

「―――っぷ!くくく!あはは!」

 

周りに誰もいないせいか、笑い声が響いて聞こえる。それが千雨を更に恥ずかしくさせた。

 

「な、なんだよ」

 

千雨は頬を赤くしながら睨むようにして夕映を見る。

 

「いえ、あの、すいません。ちょっと千雨さんらしくなさすぎて可笑しくて」

 

まだ笑いが冷めないのか、片手でお腹を抑え、笑い声を出すのを堪えながら言う。それを見てますます千雨は赤くなり、来なきゃよかった、と小声でぼやく。

 

 

 

「千雨さん、変わったです」

 

「そーかよ」

 

千雨は照れ隠しにぶっきらぼう返事をする。

 

 

 

「前までは、誰にも関わらない。みたいな雰囲気だしてたです」

 

 

「…………」

 

 

「私は今の千雨さんの方が好きかもです」

 

 

「……そーかよ」

 

 

「…………それじゃあ。せっかく千雨さんが迎えに来てくれたことですし、一緒に戻りますか」

 

また一口、缶ジュースに口をつけ、後ろを向きながら夕映が言って、そのまま寮の方向に歩き出す。

 

行きますよ、と声をかけられた千雨は、自分でもらしくない事をしたと頭を掻きながら夕映の後ろについて行こうとする。

 

 

 

 

 

そのとき、後ろから、言い表せぬ恐怖が、千雨を襲った。

 

 

 

 

 

 

千雨は、訳もわからないまま、ただがむしゃらに駆け出した。声も出さず、振り替えることなく夕映を勢いよく後ろから押す。

 

夕映は、振り向く間もなく前のめりに体が傾き自販機に頭をぶつけ、千雨は自らの勢いそのままにうつ伏せに倒れこんだ。

 

手に持っていたはずの缶ジュースが中身をぶちまけながら宙を舞う。

 

後ろから、千雨と夕映が倒れ混む前に頭があったはずの位置を、棍棒が回転しながら通過して、自販機におもいっきりぶつかった。

 

夕映は頭を打った衝撃で、目を回しながら気を失っており、その横で飛来した棍棒により壊れた自販機からジュースが漏れる。

 

 

…………くそっ!ほんとに………っ!ほんとにきやがった………っ!何でこのタイミングなんだよ!どんだけ運が悪いんだ!

 

千雨の頭の中でぐるぐると考えが廻る。見たくない、逃げ出したい。そんな想いを頭で抱え混乱しながらも、千雨はゆっくりと後ろを向いた。

 

 

 

視線の先には、片手に棍棒を持つ鬼がいた。

 

二本の角は禍々しさを放ち、腰に巻いているぼろぼろの布と薄暗い肌が、気味悪さを際立ていた。

 

鬼は無表情のまま、ゆっくりと千雨と夕映の元へと近付いてくる。

 

 

………どうすりゃいい!どうすりゃいい!!逃げるか!?無理だ!綾瀬を背負って逃げても絶対追い付かれる!助けを呼ぶ?!そんな都合よくいくか!フィー達は今あそこで闘ってるじゃねーか!大体危ないから夜は寮の中にいろって言われたのに何してんだよ私は!

 

急な襲撃に混乱したが、自分達が襲われそうになっているということは理解できていた。先程とは違う意味で、大量の汗が流れる。歩みを止めない鬼を前にして、体が震える。非現実が、目の前に迫りつつあり、どうしようもない現実となっている。近寄る鬼に威圧されて、体が後ろに下がる。

 

 

 

コンっと、背負った卵が音を鳴らした。

 

 

 

その音を聴いて、千雨の表情は変わる。

 

…………何してんだ私は。かっこ悪いとこ見せないって、いったじゃねーか。

 

そこからの千雨の行動は、早かった。卵を入れたリュックを手に持つようにして、すぐに気絶している夕映を背負う。勿論千雨が簡単に持てるような重さではない。しかし、それでも、力を振り絞り無理矢理背負う。

 

「―――んぐぐ…………っ!」

 

足を震わせながらも、千雨は立ち上がる。汗は止まらずとも、鬼をしっかりと見る。恐怖はある。だが、立ち止まる訳にはいかない。

 

夕映を背負ったまま、千雨は寮に向かって駆け出す。当然1人で走るよりずっと遅い。千雨の体力では、歩くのと大差ない速さだ。それを見て走るまでもないと思ったのか、鬼は歩きながらついてくる。

 

…………とりあえず!寮まで!寮まで行けば関係者の誰かが気付くだろ!

 

千雨は激しく呼吸をもらし、必死に足を動かしながら考える。街灯の光が僅かに届く程度の道を、ふらふらになりながらも走る。

 

鬼は相も変わらず、大股でゆっくりとついてくる。必死になって逃げる千雨と、余裕をもって歩く鬼が対称的に映った。

 

そのうち追いかけるのが面倒になったのか、鬼は地面に落ちる石を拾った。そのまま、軽く勢いつけて千雨に向かって投げつける。

 

「―――つっ!」

 

石は千雨の足に当たり、千雨は倒れるように転ぶ。すぐに立ち上がろうとするのだが、足が痛み起き上がれない。

 

――せめて、せめて綾瀬だけは!

 

思いっきり足に力を入れる。しかし、夕映を背負ったまま立ち上がることなど出来なかった。

 

気がつくと、鬼がすぐそばまで近寄っていた。自分より大きかった鬼が、千雨が倒れていることでより大きく感じた。鬼がゆっくりと棍棒を振り上げるのが千雨には分かった。

 

 

―――くそっ!くそっ!くそっ!何も出来ない!私は!私は!!

 

目に、涙が溜まる。ここで終わるのか、と言うことよりも、何も出来ない自分が嫌だった。

 

フィーが守ってくれるといった言葉に甘えて、何の力もないくせにでしゃばって、誰も守れずに終わる。ならば、私がここに来たことは無駄だったのか。

 

鬼が振り上げた腕が、千雨を襲おうと迫る。

 

千雨は、最後まで夕映だけはどうにか守ろうと、夕映に覆い被さるようにして、目を積むった。

 

 

 

 

―――――――――。

 

 

 

 

 

 

振り下ろした棍棒は、千雨に届かなかった。鬼がいたはずの場所から、凄まじい熱気と光を感じる。

 

――――――火…………?でも…………暑くない………。

 

千雨はゆっくりと目を開ける。目の前にいたのは、鬼などではなかった。

 

真っ赤な体と、6本の尻尾。四足を地につけて、狐のような愛らしい顔の上にも更に赤い毛が生えている。

 

その生き物が口から放射した炎が壁のようになり、鬼は後ろに下がっているようだ。

 

 

炎が成す明かりが、千雨を照らす。炎を吐いていた生き物が、ゆっくりとこちらを振り向き、トコトコと千雨に近付いて、千雨の顔をしっかりと見つめた。

 

 

千雨は、手に持っていたはずのリュックが軽くなったのを感じて、中身を覗く。中には、卵の殻だけが残っていた。

 

 

「…………コン!」

 

 

―――――ロコンが、短く吠えたのが耳に届いた。

 

卵が生まれた嬉しさからか、助かった安心感からかは分からないが、胸の中で様々な感情が芽生え、千雨は涙を流しながら少し笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 




ポケモン図鑑(クリスタル版)

№37 ロコン

あたたかい 6ぽんの しっぽは からだが そだつごとに けなみが よくなり うつくしく なっていく。


どーも、19話です。少し短いですが…。
ついに千雨のポケモンが誕生しました。
ポケモン図鑑の設定では、ロコンは生まれた時は尻尾が一本で体は白いらしいのですが、皆がいつもみる赤いロコンが生まれています。…ゲームだとそうだしね…。いいよね…?


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