Fate/kaleid liner~指輪の魔術師~ (ほにゃー)
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プロローグ

この作品はFate/kaleid liner~指輪の魔術師少年~のリメイクとなります。

Fate/kaleid liner~指輪の魔術師少年~を読むと、盛大なネタバレがあるのでご了承ください


穂群原学園小等部

 

俺、曽良島零夜はそこの5年1組に通っている。

 

今日もいつも通りの授業を終え、放課後。

 

ランドセル代わりのリュックに教科書やドリルを詰め背負う。

 

「レイ!一緒に帰ろう!」

 

背後から幼馴染のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンもとい、イリヤが声を掛けて来る。

 

「態々言わなくても帰る家は同じだろ」

 

そう言い、リュックを背負ってイリヤと教室を出る。

 

俺は現在、イリヤの家、アインツベルン家にて居候している。

 

何でも両親は俺が小さい頃に亡くなり、友人であるイリヤの父親、衛宮切嗣さんがみなしごになった俺を引き取ってくれた。

 

俺が物心ついたころに養子にならないかっと誘われたが、それは断った。

 

切嗣さんと切嗣さんの奥さんであるアイリさんには感謝している。

 

赤の他人である俺をここまで育ててくれたんだ。

 

感謝しない方がおかしい。

 

だけど、苗字は俺と両親を繫げている数少ない物の一つ。

 

これは失いたくない。

 

そして、もう一つ。

 

両親の形見として切嗣さんから渡された、指輪。

 

リングの部分は錆びていて宝石も黒ずみ、何の色の宝石なのかも分からない。

 

その指輪は俺の机の引き出しに大切に保管している。

 

イリヤと二人で歩いていると、高等部の校門が見え、門から丁度イリヤの義兄、衛宮士郎もとい士郎さんが出て来るのが見えた。

 

ちなみに、どうしてイリヤと士郎さんの苗字が違うのかと言うと、切嗣さんとアイリさんは色々あって籍を入れていないらしい。

 

いわゆる事実婚と言う奴だ。

 

「お兄ちゃ~ん!」

 

士郎さんに気付いたイリヤは小走りで士郎さんに近づく。

 

「お、イリヤに零夜。今帰りか?」

 

「はい」

 

「一緒に帰ろう!」

 

「いいぞ」

 

士郎さんは自転車に乗らず、手で押しながら俺達と歩く。

 

「レイ、お兄ちゃん!家まで競争しよう!」

 

「いいぞ」

 

「俺もいいけど、俺、自転車だぞ」

 

「大丈夫!私、走るのは得意だから!」

 

「同じく。これでもクラストップです」

 

そう言うと俺とイリヤは同時に走り出す。

 

「たっく、待てよ!」

 

士郎さんも自転車に乗り、俺たちに追いつきそうで追いつかないスピードを維持して着いて来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ただいまー」」」

 

「お帰りなさい、イリヤさん、零夜君。あら、士郎も一緒でしたか」

 

家に着くと俺達を迎えたのはセラさんだった。

 

セラさんは、アイリさんが切嗣さんの仕事に着いていき、よく海外に行くので、その間の家事やイリヤの教育を任された人だ。

 

「そうだ、イリヤさん。お昼過ぎに荷物が届いてましたよ。確か中身はDVD」

 

セラさんがそこまで言うと、イリヤは笑顔になりリビングへと走って行く。

 

「ああ、リズお姉ちゃん!自分だけ先に見てるなんて酷い!」

 

イリヤのそんな声が聞こえたので士郎さん、セラさんと一緒になってリビングを覗く。

 

そこにはセラさんの姉妹のリーゼリットもといリズさんがソファーに座ってアニメのDVDを見ていた。

 

「イリヤ、おかえり~」

 

「おかえり~っじゃないよ!先に見るなんて!」

 

「でも、お金出したの私だし」

 

「それはそうだけど………」

 

「何かと思えば」

 

「アニメの……DVD」

 

そうか。

 

どうりで今日一日上機嫌だったわけだ。

 

「イリヤさんもすっかり俗世に染まってしまって。これでは留守を任せて下さってる奥様に申し訳が立ちません……」

 

セラさんは申し訳なさそうに言う。

 

「いや、別に其処まで重く考えなくても」

 

「何を無責任な!義理とは言え、兄である貴方がしっかりしないからこんなことになるんですよ!」

 

「え!?俺!?」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

士郎さんに説教をし始めるセラさん、苦笑しながら説教を受ける士郎さん、DVDを見てはしゃぐイリヤとリズさん。

 

これはもうあれだな。

 

「着替えて宿題しよっと」

 

誰かに言う訳でもなくそう呟き、階段を上がる。

 

上がる途中で足を止め、もう一度その光景を見る。

 

その光景に、俺は誰にも気づかれないように一人で笑い、自室へと向かった。

 



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やってくる魔術師たち

「まさか一年で帰ってくるとは思わなかったわ」

 

遠坂凛は夕焼け色に染まる空港で一人そう呟く。

 

凛は魔術師だ。

 

ロンドン時計塔の魔術師にして、そこで主席候補になるぐらい優秀な魔術師。

 

『久々の帰郷、気分はどうですか、マスター?』

 

凛に声を掛けたのは現在、彼女が持つキャスターの中にある魔術礼装「カレイドステッキ」のマジカルルビー。

 

魔法少女が持っていそうな魔法のステッキの様な見た目で、先端は真ん中をくり抜き、そこに星をはめ込み、その両隣に羽根の装飾品が付いている。

 

話が出来る魔法のステッキの様なものだ。

 

「別に、どうとでも。てか、アンタよく税関通ったわね」

 

「はぁ~、湿っぽくて雑多な国です事」

 

その時、凛の背後から声がし、その声の主に凛は苛立ちと殺意を憶えた。

 

「エレガンスの欠片もない、ホント、どっかの誰かさんみたいですわ」

 

高飛車な性格に、お嬢様口調。

 

その少女の名はルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。

 

凛と同じ魔術師で、ことあるごとに凛に喧嘩を仕掛けている。

 

それに対し、凛もその喧嘩を買っている。

 

「ルビー、さっきの言葉訂正するわ。こんなバカと一緒に帰ってくるなんて反吐が出るわ!」

 

「……それはこちらの方ですわ!元々こうなったのも全て貴方が原因なのですよ!」

 

「自分の事は棚に上げ解いて良く言うわ、この縦ロール」

 

「なんですって!?」

 

公共の場で行き成り喧嘩を始める二人にルビーとそして、ルビーと対になる魔術礼装「カレイドステッキ」で、ルビーの妹であるマジカルサファイアは呆れる。

 

『公共の場での喧嘩は止して下さい、マスター』

 

『ホントに恥ずかしい人達ですね』

 

「はぁ~……先が思いやられる」

 

最後にそう呟いたのは、二人の喧嘩を背後から見ていた一人の少年だった。

 

海斗・F・ディオール。

 

彼女たちと魔術師であり、ディオール家の当主でもある。

 

彼女たちが何故日本に居るかと言うと、それはある任務の為だ。

 

凛は魔導元帥ゼルレッチの弟子に志願しようとした直前にルヴィアと時計塔内で大乱闘を起こしてしまい、そのため弟子入りの条件および時計塔からの懲罰としてゼルレッチにある物の回収を命じられ、ルヴィアとともにここ、冬木にやってきた。

 

海斗はと言うと、海斗はディオール家の当主ではあるが、まだ子供であり、屋敷や財産等はディオール家と付き合いの長い、エーデルフェルト家が後見人として管理している。

 

そして、海斗一人をロンドンに残すのは忍びないとして海斗も連れてこられた。

 

あと、魔術の特訓として、ある物の回収も手伝わせようともルヴィアは考えている。

 

海斗は詳しい事情は聞かされてはいないものの、この任務が成功するのか不安を抱きながら、夕焼け色に染まる空を呆然と見つめた。

 

 



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胡散臭いステッキ

「よし、宿題終了」

 

明日提出の宿題を終え、宿題のノートをリュックに仕舞う。

 

後は風呂に入って寝るだけか。

 

「そうだ。アレやるかな」

 

風呂に入る前に、引き出しから両親の形見である指輪を取り出し、リング部分の錆取りを始める。

 

「もう一年近く錆取りしてるけど全然取れないんだよなー」

 

中々取れない錆と格闘しながら、十分後。

 

「そう言えば、錆取りには重曹が良いって聞いたな」

 

確か重曹ならこの間の理科の実験で余ったのがあったっけ。

 

「丁度いいし、風呂場で磨こう」

 

机の上の道具を片付け、パジャマと重曹、指輪を手に風呂場へと向かう。

 

ちなみに、この家には女性が三人いる。

 

そのため、いらぬハプニングが起きないように風呂場では誰かが使用中の際は扉前の札で使用中かをどうかを判断する必要がある。

 

今は誰も入ってない。

 

大丈夫だな。

 

「お、零夜も風呂か?」

 

入ろうとすると士郎さんもパジャマを持って現れる。

 

「そのつもりでしたけど、士郎さん先でいいですよ」

 

「何言ってるんだよ。折角だし、一緒に入ろうぜ」

 

「でも………」

 

「偶には男同士、裸の付き合いもいいだろ」

 

そう言い、士郎さんに背中を押され一緒に脱衣場へと入る。

 

取り敢えず、指輪は錆防止の塗料でコーティングしたチェーンに通し首から下げ、士郎さんには風呂場の中で錆取りをすることを伝えた。

 

士郎さんは全然問題ないっと言ってタオルを腰に巻いた。

 

俺も腰にタオルを巻き準備を終える。

 

そして、士郎さんが風呂場の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも皆さん。

 

海斗・F・ディオールです。

 

今、俺が何をしているのかと言うと簡単です。

 

凛さんとルヴィアさんの喧嘩を観戦してます。

 

事の発端はいつも通りルヴィアさんが凛さんを挑発し、凛さんがそれに乗り、そして喧嘩。

 

しかも今回はルビーとサファイアまで持ち出し、二人とも魔法少女の姿で戦ってる。

 

はっきり言って、高校生ぐらいの女性が魔法少女の恰好ってかなりキツイ気がする。

 

あれ、止めた方がいいかな?

 

そろそろ止めようかと思ったその時、二人はクラスカードを取り出した。

 

まさか、クラスカードまで持ち出すのか!?

 

流石にそれはまずいと思い、止めようと空を飛ぶ。

 

「「………………あれ?」」

 

しかし、ルビーとサファイアは出されたクラスカードを限定展開(インクルード)せず、無反応だった。

 

「ちょっとルビー!限定展開(インクルード)よ!」

 

「どうしたのよ、サファイア!」

 

『やれやれですねぇ。もうお二人には付き合いきれません。大師父が私達「カレイドステッキ」をお二人に貸し与えたのはお二人が協力して任務を果たすためだったはずですよ?』

 

「うっ……」

 

「ざまぁありませんわね、遠坂凛!自分のステッキに窘められるなど、やはり私とは持ち主の核と言う物が違『いいえ、ルヴィア様もです』なんですって?」

 

『ルヴィア様の任務を無視した傍若無人な態度や立ち振る舞い。恐れながらルヴィア様にはマスター失格であると判断します』

 

これは………礼装に見捨てられたってことかな?

 

そして、ルビーとサファイアは二人の手から離れ、宙に浮く。

 

『まぁ、そう言う事なので』

 

『まことに勝手ながら』

 

『『暫くお暇を貰います』』

 

見捨てられちゃったか。

 

「まてやゴラァ!ステッキの分際で主人を見捨てる気!」

 

「許しませんわよ!サファイア!」

 

『へっへーん!凛さんはもう、マスターではありませ~ん!』

 

『申し訳ありません、元マスター』

 

『あ、そうそう。御二人とも、もう転身も解いて置きましたので早く何とかしないと大変ですよ』

 

「「え?」」

 

二人はいつのまにか魔法少女の恰好から私服に戻り、そしてそのまま川へと落ちて行った。

 

「凛さーん!ルヴィアさーん!」

 

『では、ご機嫌よーう!』

 

そう言い、ルビーとサファイアは去って行った。

 

「ルビー!サファイア!何やってるんだよ!戻ってこーい!」

 

俺は叫びながら、川の中に入り、二人を引き上げる作業を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂場は真っ暗で士郎さんが電気を点ける。

 

するとそこには何故か全裸で窓を開けて空を見上げているイリヤがいた。

 

あれ!?どうして!?扉にはちゃんと未使用中の看板があったのに!

 

「いや、電気が消えてるから、てっきりもう上がったものだと」

 

「いやああああああ!!」

 

イリヤは顔をみるみると真っ赤にし、腕で体を隠し、しゃがむ。

 

その瞬間、空いていた窓から翅の付いたステッキが飛んできて、そのまま士郎さんに直撃する。

 

変なステッキの直撃を受けた士郎さんは気を失い、そのまま倒れた。

 

「し、士郎さん!?」

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

流石に目の前で行き成り義理とは言え兄が倒れればイリヤも心配で声を掛ける。

 

『避けられてしまいましたか。手っ取り早く済ませたかったんですけどね』

 

宙に浮き、喋り、うねり出すステッキに俺とイリヤは呆然とした。

 

『まぁいいでしょう。初めましてぇ!私、愛と正義のマジカルステッキ!マジカルルビーちゃんでぇす!そこの貴女!魔法少女になりませんかぁ?』

 

行き成り魔法少女とか、愛と正義だとか言い出すステッキに、俺とイリヤは恐らく同じ感情を持った。

 

((う………胡散臭い………))

 



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魔法少女と魔術師の誕生

この状況はなんだろう?

 

全裸のイリヤ、全裸(タオル着用)の俺、気絶してる全裸(タオル着用)の士郎さん、喋る胡散臭いステッキ。

 

明らかにおかし過ぎる。

 

『あれ~?貴女、今胡散臭いと思ってますね?そこの君も?』

 

心を読まれた!?

 

「い、いや……うん」

 

「てか、ステッキが喋る時点で胡散臭過ぎるだろ」

 

『はぁ~、嘆かわしい。現代では魔法少女に憧れる都合のいい女の子はもういないのでしょうか………』

 

何やら落ち込んでるみたいだが、何を言ってるのがさっぱりわからない。

 

「取り敢えず、士郎さんの顔の上から退いてくれないか?流石に、士郎さんが可哀想だ」

 

『おやおや、随分とお優しいですねぇ。ですが、優しいだけじゃ今時の女の子は惚れたりしませんよ?』

 

余計なお世話だ。

 

「む~……レイは優しい以外にも逞しくて頼りになるとか良い所一杯あるもん」

 

イリヤが俺を擁護するかのようにステッキもといルビーに言う。

 

俺はいい幼馴染を持ったな………

 

嬉しくて顔がニヤける。

 

『…………ふむ』

 

ルビーは何やら考え込むと、ステッキの手で持つ部分を動かし、俺の腰のタオルを叩き落とした。

 

つまり――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の男の象徴がイリヤに見られた。

 

俺は慌ててタオルを拾ってもう一度隠すが、時すでに遅し。

 

イリヤに完璧に見られ。

 

「何してるの、この変態!」

 

『これは失礼。ちょっと出来心で。おっと、鼻血が出てますよ』

 

そう言い、ルビーはイリヤの鼻血を拭いた。

 

それから数分後、立ち直った俺は今湯船に浸かってる。

 

イリヤからそのままだと風邪引くからっと言われ、イリヤの許可を得て、湯船に入ってる。

 

『さて、話を戻しますが、やりませんか?魔法少女』

 

「えっと、なんかもう話に着いていけないんで他を当たっていただけますでしょうか?」

 

敬語になってる………

 

だが、ルビーは意地でもイリヤを魔法少女にしたいのかグイグイと詰め寄ってくる。

 

「楽しいですよ、魔法少女!気合で空飛んだり!ビームで敵をやっつけたり!恋の魔法でラブラブになったり!」

 

「え?」

 

え?何その反応?

 

まさか、いるの好きな人?

 

『おっ!今反応しましたね!意中の殿方がいるんですか?』

 

「いないよ!そんなのいないよ!」

 

その反応、まるでいるような反応じゃないか。

 

相手は誰だ?

 

クラスの誰かが?

 

『ムキになるのが怪しいですねぇ。お相手は誰ですか?ベタにクラスの男の子ですか?あ!分かりました!そちらの……!』

 

「うわあああああああああああああ!!いないって言ってるでしょ!このバカああああああああ!!」

 

イリヤはルビーを掴み窓の外へ投げようとする。

 

が、ステッキが離れず、イリヤの動きは止まる。

 

『ふっふっふ!想像以上にちょろかったですねぇ。血液によるマスター認証、接触による使用契約、そして、起動のキーとなる乙女のラブパワー!全て滞りなく頂きました!』

 

こいつ、何処が愛と正義のマジカルステッキだよ1

 

どう見ても悪役じゃないか!

 

『さぁ、最後の仕上げと参りましょうか。貴女の名前を教えて下さいまし?』

 

「い……イリヤス……フィール…フォン……アインツベルン!」

 

まるで抗えない未知の力によって操られるかのように、イリヤは自らの口で名前を言う。

 

『やっふぅぅぅぅぅぅ!これでマスター登録は完了ですよ!』

 

イリヤがルビーとなんらかの契約をした瞬間、急に俺の首からかけられてるチェーンに通された指輪が光りだした。

 

「こ、これは……!」

 

訳の分からない事態に俺は驚きながらも、眩しい光から間を守るように目を覆う。

 

気が付くといつの間にか俺とイリヤは風呂場の外、というか家の外に出ていた。

 

「あれ?いつの間に?」

 

「ななななな何これ!!?」

 

イリヤの絶叫が聞こえ振り返る。

 

するとそこには、ピンクを基調とした露出が多めの服を着たイリヤが居た。

 

「まさか………本当に魔法少女になったのか?」

 

「レイも外に居たんだって、レイ!」

 

俺の方を見たイリヤが驚きの表情になる。

 

「その恰好、何?」

 

イリヤに言われ俺は自分の姿を見る。

 

裸ではない。

 

いつの間にか服を着ていた。

 

だが、俺の服じゃない。

 

それは裏地が赤で裾に銀色のラインの入った黒いコートを羽織り、黒いシャツに黒いスーツの様な長ズボンを履き、ベルトを通す穴にはチェーンが通され、チェーンには数個の指輪が通されていた。

 

そして、両親の形見である指輪はいつの間にか俺の右手の中指に嵌められていた。

 

しかも、錆は取れ、宝石の部分黒色だが、これが本来の輝きなのか綺麗に輝いていた。

 

俺はその姿を見て思わず言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんじゃこりゃああああああああああああ!!?」

 

 



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とんでもない事

「おい詐欺ステッキ!これはどういうことだ!魔法少女になったのはイリヤだろ!どうして俺まで変身してるんだよ!男で魔法少女とか笑えねぇぞ!」

 

俺はルビーを掴み、握りつぶす勢いで力を込める。

 

『こ、これは私の推測ですが、貴方の首からぶら下げていた指輪。あれには元々所有者の魔術師としての力を開花させる力が秘めてあり、その力がイリヤさんと私との契約によって共鳴を起こし、貴方様を魔術師へと昇華させたのではないかと。後、変身ではなく転身です』

 

「じゃあ何か?俺はお前の詐欺の二次被害にあったってことか?」

 

『二次被害とは失礼な。まぁ、そういう見方もできますね』

 

「嘘だろ…………」

 

俺の理解の範疇を超えている出来事に俺はルビーを手放し、膝を尽き項垂れる。

 

「えっと……レイ、ごめん。私の所為でなんか大変なことに………」

 

「いや、イリヤの所為じゃねぇよ。イリヤも被害者だし」

 

『それにしても!お二人ともよくお似合いですよ!特に、イリヤさん!やっぱり魔法少女はロリっ娘に限りますねぇ!どっかの年増ツインテールとは大違い!』

 

「ほぉ?誰が年増だって?」

 

宇治路から聞こえた声に俺とイリヤが振り返ると黒いミニスカートに赤い服を着たツインテールの女性が居た。

 

誰?

 

『あらぁ、誰かと思えば凛さん。生きていたんですね』

 

「ええ。お陰様でね」

 

何やらご立腹の様だ。

 

「おい、ステッキ。あの人は誰だ?」

 

『彼女は凛さんです!私の前のマスターですよ!』

 

「こっちに来なさい、ルビー!誰かマスターかみっちり教えてあげるわ!」

 

『いえいえ!そんなの教わるまでもありませんよ。私のマスターはこちらにおわすイリヤさんこそ私の新しいマスターなのですから』

 

「はぁ?貴女、どういうこと?」

 

「ち、違うんです!詐欺です!騙されたんです!」

 

イリヤは睨んでくる凛さんに慌てながら無実を訴える。

 

「はぁ……まぁいいわ。大体分かったから取り敢えず、そのステッキ返してもらえる?碌でもないものだけど、私には必要なの」

 

そう言われ、イリヤはステッキを凛さんに差し出す。

 

「どうぞ」

 

「ありがと」

 

凛さんはそれを掴み、貰おうとするがステッキはイリヤから離れなかった。

 

「手を離してもらえないかなぁ?」

 

『無駄ですよ』

 

凛さんの言葉に返したのはルビーだった。

 

『既にマスター情報は上書き済みですからね。本人の意思があろうとなかろうと私が許可しない限りマスター変更は不可能と言うこ「ふん!」ホワッチャ!』

 

最後の言葉を言い終える間も無く、ルビーは家の壁に叩き付けられる。

 

叩き付けられた衝撃で壁が凹んだ。

 

「上等じゃないのルビー。それならもう一度マスター変更したくなるように可愛がってあげるわ」

 

『相変わらず情熱的な方ですね。そんなに魔法少女が恋しいのですか?』

 

「誰が!あんなもん人に見られたら自殺もんよ!」

 

「私、今自殺もんの状況なんだ」

 

イリヤがなんかショックを受けてる。

 

『分かりました。じゃあ、イリヤさん。私を凛さんに向かってコノヤローっと思いながら振って下さい』

 

「え?……えっと、このやろー」

 

イリヤが力無くルビーを振る。

 

すると先端から何かが出て凛さんに当たる。

 

「ぎゃああああああ!!?」

 

「「なんか出たー!!」」

 

イリヤとはもった。

 

『イリヤさんの返答はこうです!ステッキは誰にも渡さねぇ。さっさと国に帰りな年増ツインテール!』

 

「言ってない!そんなこと言ってない!」

 

「何すんのよ!」

 

すると凛さんはキレ、イリヤごとルビーを攻撃する。

 

「イリヤ!」

 

俺は咄嗟にイリヤの前に立ち、守るように抱きしめる。

 

攻撃がやみ、目を開けると俺もイリヤも無傷だった。

 

「あれ?無傷?」

 

『凄いですね。どうやらその服には防御魔術が付与されていて大抵の攻撃を防ぎ、守ってくれるみたいです』

 

「そうなのか……あ、イリヤ無事か?」

 

「う、うん。レイが護ってくれたから」

 

『しかし、お忘れですか凛さん。カレイドルビーにはAランクの魔術障壁・物理保護など多くの力が宿っている事を。つまり、今や英雄に等しき力を得たこの私に年増ツインテール如きが敵うと思ってるのか!と、イリヤさんは言ってるのですよ!』

 

「ちょっと!勝手なこと言わないでよ!」

 

『お前に魔法少女は似合わねぇ。諦めて国へ帰りな年増ツインテール!っと言ってるですよ』

 

「おい!それ以上は止めろ!」

 

俺とイリヤでルビーに文句を言ってると凛さんはポッケから何かを出し、俺達に投げる。

 

あれは宝石?

 

その瞬間、宝石が光り爆発した。

 

その眩い閃光に俺とイリヤは目が眩んだ。

 

「な、なに?」

 

『目眩ましです!イリヤさん、逃げてください!』

 

「そ、そんなこと言ったって………」

 

「ごめん、少し眠っててね」

 

その声が聞こえた瞬間、俺は感覚だけを頼りにイリヤを突き飛ばす。

 

そして、次の瞬間俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると目の前に、心配そうに俺を見るイリヤが居た。

 

「イリヤ?」

 

「レイ!良かった、目が覚めて!」

 

『いや~、障壁の内部から攻撃とは、戦闘経験の差が出てしまいまいたね。これから色々教育していきませんと。しかし、目が見えない状況で感覚のみで凛さんの気配を察知し、イリヤさんを守るレイさんも凄かったです。まるでアニメを見てるような気分でした。では、私はこれで』

 

「待てバカステッキ」

 

逃げ出そうとしたルビーを凛さんが捕まえる。

 

「どさくさに紛れて逃げ出そうとしてんじゃないわよ」

 

『ちっ!暴力には屈しませんよ。私の新しいマスターはイリヤさんと決めたんですから』

 

「あっそ」

 

そう言い凛さんはルビーを放り捨てる。

 

『あれ?』

 

「それならそれでもいいわ。こんな小さな子達を巻き込みたくないけど………ちょっといい?」

 

凛さんに声を掛けられ俺とイリヤは凛さんの方を見る。

 

「これから言う事を良く聞きなさい。拒否権はないわ、恨むならルビーを恨みなさい」

 

風が吹き、雲に隠れていた月が顔を出し、俺達を月明かりで照らす。

 

「これから貴方たちは魔法少女と魔術師になってクラスカードを集めるのよ」

 

今日一日だけで、いや、ほんの僅かな間に色々あり過ぎて、俺もイリヤも色々追いつかない中、一つだけ俺とイリヤは理解出来た。

 

俺達はとんでもなく面倒なことに巻き込まれたんだと

 

「「………はい?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サファイアー!どこだー!」

 

ルビーとサファイアがどこかに去ったあと、海斗はルヴィアさんと手分けしてサファイアを捜索することになった。

 

「どこ行ったんだよ……」

 

そう呟きながら、近くの公園に入ると月明かりに照らされて、誰かの姿が目に入る。

 

それは女の子だった。

 

ただし、格好はレオタードのような格好にマントを着ていた。

 

そして、手には錫状頭部分の星が六芒星になっているステッキがあった。

 

「お前、サファイア!?」

 

『海斗様、先ほどぶりです』

 

「………これは一体どういうことだ?」

 

『私の新しいマスターです』

 

海斗が尋ねると、サファイアはそう答える。

 

「カード回収のことはサファイアから聞きました」

 

すると少女は口を開く。

 

「カード回収なら私がやります。その代り、住む場所を下さい。食べ物を下さい。服を下さい。戸籍を下さい………私に、居場所を下さい」

 

そういう少女の瞳は、どこか寂しそうな目をしていた…………



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脅迫

「起きなさい!」

 

「ふがっ!」

 

「ふぎゅ!」

 

行き成りの衝撃に目を開け頭上を見る。

 

見ると、そこには教科書を丸め、怒っている藤村先生がいた。

 

「授業中に居眠りしないように!」

 

「「はい……」」

 

俺とイリヤは先生に謝り、教科書に目を落とす。

 

あの後、俺とイリヤは凛さんから色んな説明を聞いた。

 

凛さんはクラスカードと言う英霊と呼ばれる者の力が宿った危険なカードの回収を命じられ、そのために、ルビーを貸し与えられたそうだ。

 

だが、ルビーにマスターとしてふさわしくないと判断され、ルビーはイリヤをマスターに選んだ。

 

仕方ないので、凛さんがルビーを説得するまでの間、イリヤと俺は凛さんと一緒にクラスカードの回収任務をすることになった。

 

本来、俺は無関係な人間なのだが、ここまで事情を知った以上知らないフリをするのは難しいし、なによりイリヤが心配なので俺もカードの回収を手伝うことにした。

 

放課後になり、俺とイリヤは早々に学校を後にする。

 

イリヤは何処か嬉しそうにしていた。

 

『やれやれやっと放課後ですか』

 

イリヤのランドセルに入ってるルビーが少しだけ顔を出し、言う。

 

「ごめんね……ねぇルビー、魔法の使い方教えてよ」

 

『いいですよ。でもどうしたんですか?昨夜はあんなに嫌がっていたのに』

 

「折角だから楽しもうと思って」

 

「あ、そうだルビー。俺のあの指輪の使い方って分かるか?」

 

『あれは私は知らない物ですし、使って覚えてくしかないでしょうね』

 

「やっぱそうか」

 

「あれ?これなんだろ?」

 

ルビーと話してるとイリヤが自分の靴箱から何かを取り出す。

 

あれは手紙?

 

『おおっ!これはもしやアレですね!』

 

「アレって………まさか!?」

 

『そのまさかですよぉ!放課後の靴箱に手紙と言えば、これはラブなあれにまちがいありません!』

 

ラブレターだと!?

 

確かにイリヤは可愛いからそれなりに人気もある。

 

幼馴染と言う立場である俺は男子たちから嫉妬の対象となったりもする。

 

しかし、まさかラブレターなんか出す奴がいるとは………………

 

『さぁさぁ、イリヤさん。早く中身を』

 

「おおお、落ち着いてルビー。ここは冷静に……冷静に……」

 

イリヤは顔を真っ赤にして手紙の封を開け中身を見る。

 

俺もイリヤの後ろからドキドキしながら覗き見る。

 

〔今夜0時に高等部の校庭まで二人で来るべし。来なかったら殺………迎えに行きます〕

 

ラブレターではなく脅迫状だった。

 

イリヤは死んだような目をして、手紙をそっとしまった。

 

『………帰りましょうか、イリヤさん』

 

「………そうだね」

 

「………イリヤ、気を落とすこと無いぞ。誰だって勘違いするさ」

 

「………そうだね」

 

力無く返事するイリヤを見て、俺は心のどこかでほっとした。

 

なんでほっとしたんだ?

 



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もう一人の魔法少女と魔術師

夜になり、士郎さんとセラさん、リズさんが寝静まったのを確認し、俺は自室を抜け出し、玄関へと向かう。

 

同じく玄関へ向かおうとしていたイリヤと合流し、そして、高等部の校庭を目指す。

 

校門を通り校庭に進むと凛さんが立っているのが見えた。

 

「おっ、ちゃんと来たわね」

 

そりゃ、あんな脅迫状が届けばね……………

 

「あの、もしかして今からカード回収ですか?」

 

「そうよ。取り敢えず転身してもらえるかしら?」

 

「……はい」

 

イリヤは憂鬱そうにして、校庭にある女子トイレへと向かう。

 

「ちょっと、何処行くのよ?」

 

「転身を見られるのが恥ずかしいそうですよ」

 

そう言い、俺は指輪を中指に嵌め、転身と口にする。

 

すると、俺の周りが光り輝き、俺は、この前と同じ格好を身に纏う。

 

それと同時に、イリヤも転身を終え、トイレから出て来る。

 

「さぁ、始めるわよ。カードの位置は校庭のほぼ中央。そこを中心に歪みが観測されてる」

 

「中央って………」

 

「なにもないですけど………」

 

中央には何も見当たらず、辺りも静かなものだった。

 

「ええ、ここにはないわ。カードがあるのはこっちの世界じゃないもの。ルビー」

 

『はいはーい』

 

ルビーがそう言うと、俺達を光り輝く陣が囲った。

 

「え!?な、何!?」

 

「これは……!」

 

『第五計測変数に虚数軸を追加。反転準備を開始。複素空間の存在を確認。中心座標の固定を完了。半径二メートルで反射路形成。境界回廊を一部反転します』

 

ルビーが訳の分からない言葉をずらずらと並べ何かを言う。

 

「な、何をするの?」

 

「カードがある世界に飛ぶのよ」

 

「カードがある世界って?」

 

そう尋ねた瞬間、いつの間にか変な空間に居た。

 

校庭と何も変わらないが、建造物が地面に映っていた。

 

まるで鏡の様に………

 

「無限に連なる合わせ鏡。この世界を一つの像とした場合、それは鏡面そのものの世界。鏡面界。そう呼ばれる世界にクラスカードは存在するの」

 

「………あの、凛さん」

 

イリヤが凛さんに何かを訪ねようとした時、校庭の中心から黒い煙のようなものが吹き出す。

 

「説明してる暇はないわ!構えて!」

 

「な、なんですかこれ!?」

 

「報告通りね。クラスカードは実体化するのよ」

 

「どうしてそんな大事な事を先に言わないんですか!?」

 

その事実に俺は思わず叫ぶ。

 

「カード回収って見つけるだけじゃないんですか!?」

 

「残念ながら違うわ。カードはアレを倒して回収するのよ」

 

黒い煙は徐々に女の人の形になり、目を隠し、目隠しの中央部分には大きな目が一つぎょろりと着いていた。

 

「戦うなんて聞いてないよぉ!」

 

襲って来た女性の攻撃を横に飛ぶことで躱し、俺は構える。

 

すると凛さんは赤い宝石を三つ取り出し、それを投げつける。

 

宝石は爆発し、女性を巻き込む。

 

だが、爆発が収まるとその煙の中から無傷の女性が現れた。

 

「あの爆発で効いてないのかよ!」

 

「やっぱこんな魔術じゃ効かないか。結構高い宝石だったのに……」

 

「効かないって……じゃあ、どうすれば!?」

 

「あんたらに任せるわ」

 

「「へっ?」」

 

「魔術は効かなくても純粋な魔力の塊なら通用するはずよ。それと零夜君の魔術は見た限り私の知り合いの魔術に似てるわ。その魔術は私達魔術師が使う魔術とは異なるからそれも効くはずよ。頑張って」

 

なんて他人任せだ!

 

そう思った時、女は鎖の付いた杭を手に攻撃をしてくる。

 

隣のイリヤを突き飛ばし、俺も横に移動する。

 

杭は俺とイリヤの間を通り抜け、イリヤの背中を掠る。

 

「掠った!今、掠ったよ!」

 

「イリヤ!避けろ!」

 

掠ったことに涙目で慌てるイリヤに女が再び攻撃を仕掛けて来る。

 

俺が声を上げると、ルビーが動きイリヤを移動させる。

 

『接近戦は危険です。ますは距離を取りましょう』

 

「そうだね。取りましょう、距離」

 

そして、イリヤは遠くを見つめ、一気に走り出した。

 

「きょおおおおおりいいいいいいいい!!」

 

速いな。

 

女も武器を手にイリヤの後を追う。

 

「逃げ足は速いわね」

 

「まぁ、アイツ走るのは得意ですから」

 

「てか、こら!逃げてないで戦いなさい!零夜君も!」

 

「でも、どう戦えばいいのか………」

 

「その指輪を使うの!」

 

「指輪を?」

 

呟きながら自分の中指に嵌められている指輪を見る。

 

「私の知り合いは、複数の指輪をうまく使って戦うの!その腰のチェーンに通されてるのを使いなさい!」

 

「でも、どれがどんな効果なのか俺には」

 

「きゃあああああああ!!」

 

その時、イリヤの叫び声が聞こえる。

 

振り向くと女の攻撃でイリヤが飛ばされていた。

 

「イリヤ!」

 

咄嗟に走り出し、俺はチェーンから指輪を一つ取り出す。

 

殆ど無意識だった。

 

手に取った指輪がどんな効果を持っているのか分からない。

 

だが、頭で考えるより体が先に動いた。

 

指輪を左手の中指に嵌め、イリヤと女の間に立ち、指輪の宝石部分を見せるように構える。

 

その瞬間、宝石を中心に何かが展開され、女の攻撃を防いだ。

 

女は攻撃を防がれた衝撃で後方に飛び、距離を取る。

 

『今ですよ、イリヤさん!強い攻撃のイメージをして、私を振って下さい!』

 

「つ、強い攻撃のイメージ?」

 

イリヤが戸惑てる間にも、女は攻撃態勢を整える。

 

『早く!』

 

「もう!どうにでもなれ!」

 

イリヤは目を閉じ、渾身の力を込めルビーを振る。

 

すると、ルビーから魔力が斬撃の形になった飛び出し、女を襲う。

 

女は持っていた武器で攻撃を受け止めるが、押し負け爆発が起きる。

 

「すごっ!ナニコレ!こんなのが出るの!?」

 

『お見事です!行き成り大斬撃とはやりますねぇ~!』

 

「効いてるわよ!間髪入れずに速攻!」

 

凛さんが遠くの茂みから応援もとい助言をする。

 

「遠いな……」

 

「自分の攻撃が効かないからしょうがないんじゃないか」

 

『運動会を見に来た保護者のようですね』

 

同感だ。

 

「えっと、まだ戦わないといけないんだよね」

 

『はい。相手は人間じゃありません。思いっきりやっちゃって下さい』

 

「ちょっと殺伐し過ぎだけど……ようやく魔法少女らしくなってきたかも!」

 

イリヤはそう言うと再び攻撃を放つ。

 

だが、今度の攻撃は当たらず、躱された。

 

「あれ?」

 

『避けられちゃいましたね』

 

イリヤは再びルビーを振り攻撃をする。

 

だが、それも躱され、それ以降いくら攻撃しても攻撃は当たらなかった。

 

「さっきは当たったのに!」

 

「さっきの攻撃で警戒されたんだろ。もう同じ攻撃は喰らわないはずだ」

 

『零夜さんの言う通りです!ここは作戦を変えましょう。イリヤさん、散弾をイメージできますか?』

 

「散弾?」

 

「小っちゃい弾が沢山散らばるような感じだ」

 

「なるほど」

 

イリヤはそう言うと再びルビーを振り、小さな魔力の弾丸を大量に飛ばす。

 

女は大量に飛んでくる攻撃から体を守るようにに防御姿勢を取り、そして、周りに攻撃が落ちる。

 

「やった?」

 

『いえ、おそらくまだです』

 

土煙が張れ、中から女の姿が現れる。

 

すると、目隠しの目の部分が怪しく輝き、それを中心に黒い魔法陣みたいなのが現れる。

 

「あれは……!早く逃げて!」

 

凛さんはアレがなんなのか知ってるらしく叫ぶ。

 

『イリヤさん逃げてください!』

 

「逃げるって……何処に……」

 

『とにかく敵から離れてください』

 

取り敢えずアレが危険な攻撃だってのは分かる。

 

俺はもう一度指輪を構え、あの攻撃を防ごうとする。

 

だが、指輪は反応せず、うんともすんとも言わない。

 

「そんな!さっきは出たのに!」

 

「零夜君も早くこっちに!ダメもとで防壁を貼るわ!」

 

「……くそ!」

 

俺は悪態を吐きながらイリヤと一緒に凛さんの元まで下がる。

 

凛さんは宝石で防壁を貼り俺達を守る。

 

そして、女が何かしらの攻撃をしようとした瞬間、俺達の横を一人の少女が通り抜ける。

 

その少女の手には一本の槍が握られていた。

 

だが、その少女が攻撃するより向うの方が攻撃をするのが速い。

 

その時

 

「チェイン!」

 

俺達の頭上で声がした。

 

上を見上げると、白いコートを纏い、フードを被った者が空に浮いていた。

 

そして、左手に付けられた指輪から鎖が伸び、女を捕縛する。

 

「今だ!」

 

刺し穿つ(ゲイ)……死棘の槍(ボルク)!!」

 

少女の槍は、女の魔法陣の中央を貫き、そのまま体も貫く。

 

女はその場に膝を尽き、そして体は空間に溶けるように消えた。

 

「ランサー、接続解除(アンインクルート)

 

少女がそう言うと、持っていた槍はステッキへと形状を変えた。

 

そのステッキはルビーと酷似していた。

 

違うのは先端に嵌め込まれた五芒星が向うのは、六芒星なのと羽根の飾りがリボンの様な飾りであるぐらいだ。

 

「対象撃破。クラスカード“ライダー”、回収完了」

 

「手際が良いな、美遊」

 

声からして男と思われる奴が、その少女の隣に並ぶ。

 

その時、フードが外れ男の顔が現れる。

 

見た感じ、俺と同じぐらいだと思う。

 

「だ、誰?」

 

イリヤは少女に、向けそう言った。

 

そして、俺は―――

 

「俺と同じ魔術……?」

 

少年に向かってそう言った。

 



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転校生は魔法少女と魔術師

俺たちの間に沈黙が流れる。

 

誰も言葉を発さず、視線を躱す。

 

その時―――

 

「オーホッホッホッホッホ!」

 

何処からかお嬢様風の高笑いが響いた。

 

「な、何!?」

 

「この癇に障るようなバカみたいな笑い声は……!」

 

「無様ですわね」

 

そして、俺達の背後から一人の女性がやってくる。

 

青いドレスに金髪の縦ロールだ。

 

「敵に対していかに必殺の一撃を入れるか。その一瞬の判断こそが勝負の行方を分けるのですわ。なのに、相手の力に恐れをなして逃げ纏うとは、飛んだ道化ですわね!遠坂凛!」

 

「ルヴィア!」

 

知り合いなのか?

 

「てか、アンタ生きてたのね………」

 

「当然ですわ。美遊、ご苦労様」

 

そう言って女性もといルヴィアさんは、少女、美遊からクラスカードを受け取る。

 

そして、高笑いを上げる。

 

その笑い方に凛さんはキレたのか、ルヴィアさんの延髄に鋭い蹴りを入れる。

 

痛そうだ…………

 

「やっかましい!てか見てたんなら助けなさいよ!この縦ロール!」

 

「レディの延髄に、よくもマジ蹴りを………!これだから知性の足りない野蛮人は!」

 

「なにを偉そうに!不意打ちだったくせにいい気になってんじゃないわよ!」

 

そう言い、二人はなぜか取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 

「えっと………」

 

「お知り合い……なのか?」

 

行き成りの出来事に俺とイリヤは頭が追いつかず呆然とする。

 

『やれやれ、成長しませんね、御二人は』

 

その時、急に地響きが起き、地面が揺れる。

 

「うわっ!今度は何!?」

 

「カードを回収したから鏡面界が閉じようとしてるんだ」

 

フードの少年は、フードを被り直し言う。

 

「とりあえず、脱出しよう。ルヴィアさん、凛さん。行きますよ」

 

そう言って少年が振り返るとまだ二人は取っ組み合ていた。

 

「…………はぁ~………もう知らね」

 

少年は腹部の胃の辺りを抑え、溜息を吐く。

 

「……サファイア」

 

『はい、マスター』

 

美遊は持っていたステッキ、サファイアに呼び掛けるとサファイアは返答をした。

 

『虚数軸を計測変数から排除。中心座標固定。半径六メートルで反射路形成。通常世界に帰還します』

 

地面に六芒星の魔法陣が現れ光り輝き、そして、俺達は元の世界に戻ってきた。

 

「戻ってきたの?」

 

『はい。一先ず今晩はこれで終了ですね』

 

「ふぅ~」

 

ルビーから終わりと聞き、イリヤはその場に座り込む。

 

そして、凛さんとルヴィアさんは未だに喧嘩してた。

 

「で?さっきから気になってたんだけど、そっちの子は何?なんでサファイア持ってんのよ?」

 

「それはこっちの台詞ですわ!」

 

「………アンタ、まさか………」

 

「……ええ、そうですわよ!あの後、サファイアを追い掛けたら「この方が私の新しいマスターです」とかわけのわからないことを!」

 

大体こっちと同じって訳か。

 

「ともかく!勝つのはこの私ですわ!覚悟しておくことですわね、遠坂凛!行きますわよ、美遊!」

 

そう言ってルヴィアさんは美遊を連れて、何処かへと去って行った。

 

「はぁ……俺も帰るかな」

 

そう言って少年は欠伸を一つして転身を解く。

 

「あ、おい!」

 

「ん?」

 

「お前、名前は?」

 

名前を尋ねると、そいつは笑って答えた。

 

「海斗。海斗・F・ディオールだ。じゃあな」

 

そう言い、海斗も去って行った。

 

「凛さん、あの海斗って奴は何者なんですか?」

 

「海斗は貴方と同じ指輪の魔術を使う魔術師で、ディオール家の現当主。一応、ルヴィアが後見人になっていて、修行の一環でついてきてるのよ。それはともかく今日はご苦労様」

 

そう言って凛さんはイリヤに手を差し出す。

 

「あ、いえ」

 

「次もよろしく頼むわね」

 

「え?まだあるんですか!?」

 

「……凛さん、クラスカードって何枚あるんですか?」

 

俺は恐る恐る尋ねる。

 

「全部で七枚よ」

 

マジかよ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、眠たい体に鞭を打ちながら俺とイリヤは学校に登校した。

 

流石に夜更かしは体に悪影響だな。

 

席に着くなりイリヤは顔を伏せ眠り、俺も同じように眠る。

 

暫くすると藤原先生がやって来て朝の会になる。

 

俺は眠たい目をこすりながら前を見る。

 

「今日は転校生を紹介します!入って」

 

「「はい」」

 

聞覚えのある声に俺は眉を寄せ、イリヤも起きる。

 

そして、そこには昨日会った二人がそこに居た。

 

「美遊・エーデルフェルトです」

 

「海斗・F・ディオールです。よろしくお願いします」

 

昨日であった謎の魔法少女と魔術師は転校生ってアニメかよ……………

 



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覚悟

やっぱりと言うか、美遊と海斗の二人はクラスメイトから質問攻めに会っていた。

 

転校生の宿命だろう。

 

そんな中、俺とイリヤは廊下に出て一息つく。

 

「まさか、二人が転校してくるとはな」

 

「まるでアニメみたいだよね」

 

『謎の転校生現る、ですね』

 

『魔法少女モノではよくあることです』

 

「「うわっ!?」」

 

行き成り俺達の背後に、昨夜、美遊が持っていたステッキ、サファイアが現れる。

 

『あら、サファイアちゃん』

 

『昨夜ぶりです。姉さん』

 

流石に廊下では人目につくので、屋上に移動し話をすることにした。

 

『初めまして。サファイアと申します』

 

『こちらは、私の新しいマスターのイリヤさんと、指輪の魔術師になられた零夜さんです』

 

「「ど、どうも」」

 

ルビーの自己紹介の元、俺達も挨拶をする。

 

『姉がお世話になってます』

 

ルビーと違って、礼儀正しいな。

 

「てか、ルビーとサファイアは姉妹なのか?」

 

『はい。私とサファイアちゃんは同時に作られた姉妹なんですよ!ところで、サファイアちゃん』

 

『はい。美遊様のことですね。彼女は私の新しいマスターです』

 

『やっぱりそうでしたか!さっすが、サファイアちゃん!可愛い子、見付けましたねぇ。おまけに、行き成りカードの力を使えるなんて、中々の逸材ですよ!』

 

『私も驚きました。あんなに簡単に使いこなすなんて』

 

「ねぇ、ルビー。カードの力ってなんのこと?」

 

『姉さん、まだ説明してないんですか?』

 

『そう言えばまだカード周りの説明はしてませんでしたね。無事、初戦を切り抜けることも出来ましたし、お話しておきますか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から、二週間前、魔術協会はこの冬木市でオド、つまり魔力の歪みを観測し、協会は調査団を派遣し、調べた結果、クラスカードを発見した。

 

歪みは全部て七つ。

 

七枚のクラスカードの内、協会は二枚を回収し、この間美遊が一枚回収。

 

つまり三枚まで回収が終わっている。

 

そして、クラスカードは英霊、つまり神話や昔話などの英雄の力を引き出すことが出来る。

 

クラスカードには一枚に、そのクラスに会った英霊の力を使える。

 

凛さんが持っていたのはアーチャー。

 

美遊が使ったのはランサー。

 

そして、力とはその英雄が使っていた武具などで、それは宝具と呼ばれる。

 

ルビーとサファイアはカードを介すことで、英霊の座にアクセスし、その英霊の力を一瞬だけ具現化できる。

 

以上が、ルビーとサファイアの話だ。

 

『どうですか?凄いですか?凄いですよね!凄いでしょ!』

 

ルビーがドヤ顔で言ってくる。

 

いや、凄いのはカードであってルビーが凄いわけでは………いや、一瞬でもその力を具現化できるんだから凄いんだろう。

 

凄いんだが、それを自分で言っちゃってる所為で台無しだ。

 

色々と。

 

『イリヤさん、零夜さん。もうお分かりと思いますが、昨日戦ったアレもカードから具現化した英霊の一部。つまり、英霊そのものです』

 

『ただ、本来の姿からかなり変質して、理性が吹っ飛んじゃってますね』

 

『つまり具現化した英霊たちを倒さないとカードは回収できないんです』

 

なんともまぁ、面倒なことに巻き込まれたな、俺もイリヤも。

 

イリヤも重々しく溜息を吐く。

 

『大丈夫ですよ!そのために、私とサファイアちゃんがいるんですから!』

 

『全力でサポートさせてもらいます』

 

ルビーは性格は兎も角、その力は本物だし、サファイアも常識を持った礼装だ。

 

多分大丈夫だろう。

 

『どうかこれからも美遊様とカード回収を「サファイア」

 

その時、屋上に人が現れた。

 

現れたのは美遊だった。

 

「何してるの?あまり外に出ないで」

 

『申し訳ありません。イリヤさんと零夜さんにご挨拶をと思いまして』

 

美遊は俺とイリヤを一瞥し、そしてそのまま屋上を去って行った。

 

「なんというか、随分クールな子だな」

 

「だね」

 

この時、俺とイリヤはそう思った。

 

だが、美遊はクールだけの子じゃなかった。

 

それを、俺とイリヤは授業で思い知った。

 

 

 

 

算数の時間。

 

「じゃあ、この問題を美遊ちゃんに解いてもらいましょうか」

 

円錐の体積を求める計算。

 

公式さえ押さえて置けば、答えを出すのは簡単だ。

 

だが、美遊は意味の分からない計算式を書き出し、俺たちは唖然とする。

 

「いや、あの美遊ちゃん……この問題は積分とか方程式とか使わなくていいの!」

 

「?」

 

「そんな不思議そうにされても!」

 

小学生で、そんな高校生クラスじゃないと習わない様な事が出来るって………

 

海斗はお腹を押さえていた

 

 

図工の時間。

 

人物画で自由に描いて良いと言われて、俺はイリヤを描いておいた。

 

「美遊ちゃん………これは?」

 

藤村先生は、震えながら美遊に絵のことについて尋ねる。

 

「自由に描けとのことでしたので、形態を解体して、単一焦点による、遠近法を放棄しました」

 

つまり、芸術的な絵を描いたってことか。

 

「自由過ぎるわ!てか、キュピズムは小学校の範囲外ですから!」

 

「…………ん?」

 

「だから、そんな不思議そうな顔されても!」

 

海斗はまたお腹を押さえていた。

 

 

 

 

家庭科の時間。

 

ハンバーグを作る内容で、俺はイリヤと同じ班でペタペタとハンバーグを作っていると、隣の班で歓声が上がる。

 

美遊はハンバーグ以外にスープやサラダ、デザートとかも作ってた。

 

どっから材料を出したんだ?

 

「小学校の調理実習でこんな手の込んだ料理は作らないから!てか、フライパン一つでどうやったの!」

 

ちなみに藤村先生は絶叫しながらも一口食べてうまいっと言ってた。

 

海斗も胃痛に悩まされながらも、しっかりと料理はしていた

 

体育の時間。

 

短距離走ではクラス一速いイリヤと競争して一秒近くも差を付けて勝っていた。

 

海斗は授業直前で胃に限界が来たらしく、保健室に運ばれた。

 

放課後。

 

イリヤは落ち込んで、公園のベンチに座っていた。

 

俺もその隣に座っている。

 

『も~う、何時までいじけてるんですか、イリヤさん?』

 

「別にいじけてないよ。ただ、才能の壁を見せつけられたって言うか」

 

「他人と自分を比べてどうする?」

 

イリヤの頭を軽く叩き、言う。

 

「イリヤは頑張ってる。そして、その頑張りを俺は知ってる。だから、落ち込むなよ」

 

「……うん、ありがとう、レイ」

 

そう言って笑顔になったイリヤを立たせ、家に帰ろうとする。

 

すると、ちょうど公園を出た所で美遊と海斗の二人と遭遇した。

 

「何してるの?」

 

「こ、これはどうもお恥ずかしい所を、美遊さんは今お帰りで」

 

思わずずっこけそうになった。

 

「イリヤ、同じ魔法少女で仲間なんだからそんな敬語とか使わなくていいだろ」

 

「あ、そっか。仲間だもんね」

 

「貴女達は、何でカード回収をしているの?」

 

美遊が行き成りイリヤと俺に尋ねて来る。

 

「それは……成り行き上というか、しかたなくというか、騙されたというか……」

 

「俺も似たようなもんだが………」

 

「そう、じゃあどうして貴女達は戦うの?巻き込まれただけなんでしょ?貴女達には戦う理由も、その義務もないんでしょ?なのにどうして戦うの?」

 

「……実を言うとね、昔からこういうのにちょっとだけ憧れてたんだ。魔法を使って光線出したり、敵と戦ったりするのってアニメやゲームみたいじゃない?そういうのにちょっとワクワクするというか、せっかくだからこのカード回収のゲームも楽しんじゃおうかな~と思って」

 

「もういいよ、貴女にとってあれはゲームと同じ遊びなのね。私はそんな人を仲間なんて思いたくない」

 

淡々とした口調で言うと、美遊は踵を返す。

 

「あ、あの……美遊さん?」

 

「貴女は戦わなくていい。だから、せめて私の邪魔はしないで」

 

そう言うと、美遊はさっさと何処かへと行ってしまった。

 

「で、お前はどうなんだ?」

 

海斗が俺の方を見て聞いて来る。

 

「俺はイリヤがこんなだからな。心配だし、一度事情を知ったからには見て見ぬふりも出来ない。だからだ。ここまで来たら最後まで戦う。それだけだ」

 

「そっか。お前にはお前なりの覚悟があるんだな。それが分かっただけでも良かったよ」

 

海斗は笑ってそう言った。

 

「美遊の事だが、あまり悪く思わないでくれ。アイツはカード回収に一生懸命なんだよ。文字通り命を懸けてる。イリヤスフィール。俺はお前の理由に口は出さない。でも、油断をすれば死に繋がる。それだけは覚えておいてくれ」

 

そう言い、海斗は美遊の後を追い掛けた。

 

「行こうぜ、イリヤ」

 

「う、うん」

 

「………別に命まで懸けろとは言わねぇ」

 

「え?」

 

「でも、分かっただろ。中にはああやって、一生懸命な奴もいる。それに、クラスカード回収は危険だ。それは、初戦で分かっただろ?」

 

そう聞くと、イリヤは頷いて答えた。

 

「なら、頑張ろうぜ。そんで、見返そう。俺達も一生懸命だってな」

 

「……レイ」

 

「それに、お前は大丈夫だ。俺が守ってやるからさ」

 

「……うん!」

 

笑ってそう言うとイリヤも笑顔になり、家に向かった。

 

すると家の前にセラさんが立っていた。

 

「ただいまー、セラ」

 

「セラさん、ただいま」

 

「あ、おかえりなさい、イリヤさん、零夜君」

 

「どうかしたんですか?」

 

「えっと……あれを」

 

そう言ってセラさんが見ている方を見るとそこには豪邸があった。

 

「「なっ!?………お、大きい」」

 

一字一句間違わず、イリヤとはもった。

 

「何、こんな豪邸!?こんなのうちの前に建ってたっけ!?」

 

「いや、朝の段階では無かったとはずだけど……」

 

「今朝、二人が学校に向かった直後工事が始まったと思ったら、あっと言う間に」

 

するとそこに、美遊と海斗の二人が現れた。

 

「「あっ」」

 

「「あっ」」

 

気まずい空気が流れる。

 

美遊の目には動揺が見られ、海斗はまた胃を押さえだした。

 

そして二人はそのまま豪邸の門を開け、中へ入ろうとする。

 

「「ええー!?」」

 

まさか、ここって二人が住んでるの?

 

「もしかしてこの豪邸、美遊さんの家?」

 

「……そんな感じ」

 

「海斗、どういうことなんだ?」

 

「えっと、俺はお世話になってる感じだ」

 

そう言い、二人は中へと入って行った。

 

「……イリヤさん、零夜君、お友達ですか?」

 

「「あ、あははっ………」」

 

その問いに俺とイリヤは乾いた笑い声で返した。



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空想することが大事

「油断しないでね、イリヤ、零夜君。敵とルヴィア、両方に警戒するのよ」

 

なんで味方のはずのルヴィアさんまで警戒しないといけないんだろ?

 

「えっと……」

 

『お二人の喧嘩に巻き込まないでほしいものですね』

 

まったく同感だ。

 

「美遊、速攻ですわ。開始と同時に距離を詰め、極力遠坂凛を巻き込む形で仕留めなさい」

 

「後半以外は了解です」

 

『殺人の指示はご遠慮ください』

 

遠慮じゃなく止めてほしい。

 

「頼むから協力してカード回収してくれよ………」

 

海斗は憂鬱そうな表情で胃を押さえる。

 

「じゃあ、行くわよ!3……2……1!」

 

『『限定次元反射路形成!鏡界回廊一部反転!』』

 

「「ジャンプ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五分後、俺達は鏡面界から帰還し、膝をついた。

 

ボロ負けでした。

 

『いや~、ものの見事に完敗でしたね。歴史的大敗です』

 

「なんだったのよ、あの敵は……?」

 

「どういうことですの?カレイドの魔法少女は無敵なのではなくて!」

 

『私に当たるのはおやめください、ルヴィア様』

 

ルヴィアさんがサファイアに八つ当たりをする。

 

『サファイアちゃんを苛める人は許しませんよ!』

 

するとルビーがルヴィアさんの眼球目掛けアタックする。

 

「ぬおおおおおおおお!!?」

 

ルヴィアさんは淑女らしからぬ悲鳴を上げ、地面を転げまわる。

 

『それに魔法少女が無敵だなんて慢心も良い所です!まぁ、大抵の相手なら圧倒できるだけの性能はありますが、それでも相性と言うものがあります!』

 

「つまり、今回の敵は相性が悪かったって訳か」

 

鏡面界に着いた途端、出迎えたのは点を覆い尽くすほどの魔法陣。

 

そして、集中砲火、いや、絨毯爆撃にあった。

 

さらに、魔法陣は魔力指向制御平面とか言う技でイリヤたちの攻撃は弾かれ無効化される。

 

結果、一方的に攻撃され、逃げ帰って来たと言う訳だ。

 

『あれは現在のどの系統に属さない魔法陣に呪文。恐らく失われた神話の時代のものです』

 

「あの魔力反射平面も問題だわ。あれがある限り、こっちの攻撃が効かないわ」

 

『攻撃陣も反射平面も座標固定型の様ですから、魔法陣の上まで飛んで行ければ叩けると思うのですが』

 

「簡単に言ってくれるわね」

 

ん?空を飛ぶってそんな難しいことなのか?

 

魔法少女って言うぐらいだし飛べると思うんだが…………

 

「そっか。飛んじゃえばよかったんだね」

 

そう言ってイリヤはひょいっと空を飛んでいた。

 

「お、やっぱ飛べるんだな」

 

「「「なっ!?」」」

 

イリヤが飛んでることに凛さん、ルヴィアさん、海斗が驚く。

 

「ちょ、ちょっと!なんで行き成り飛んでるのよ!?」

 

『凄いですよ、イリヤさん!高度な飛行をあっさりと!』

 

「え?そんな凄いことなの?」

 

『強固なイメージが無いと浮くことすら出来ないのにどうして…………』

 

サファイアも驚きながら、イリヤに聞く。

 

「どうしてって言われても……魔法少女って飛ぶものでしょ?」

 

「「「な、なんて頼もしい思い込み!」」」

 

つまり、普段からのイリヤのイメージのお陰で、イリヤはこうもあっさりと飛んでるって訳か。

 

「負けられませんわよ!美遊、貴女も今すぐ飛んでみなさい!」

 

「…………人は、飛べません!」

 

「な、なんて夢の無い子!?そんな考えだから飛べないのですわ!」

 

そう言ってルヴィアさんは美遊の襟を掴み引き摺る。

 

「次までに飛べるように特訓ですわ!」

 

その後を、海斗は溜息を吐いて追って行った。

 

「やれやれ、取り敢えず今日はお開きね。私も戦力を練ってみるわ」

 

「う、うん……勝てるのかな?あれに」

 

「勝つのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

俺とイリヤは人気のない山奥にやって来た。

 

「この辺でいいかな?」

 

「大丈夫だろ。この辺りに人はいないし、バレることもないはずだ」

 

そして、俺とイリヤは転身する。

 

今日は特訓の為にここに来た。

 

俺は転身した後、チェーンから空色の指輪を取り出し左手の中指に嵌める。

 

海斗から聞いた話によると俺達の魔術は、凛さんやルヴィアさんが使う宝石魔術と違い、宝石の中に魔力が、そこに使用者の魔力を送り込むことで魔法が使えるらしい。

 

要するに宝石の中の魔力はモーターで、使用者の魔力はモーターを動かす電力。

 

その魔力を起動させることで魔術が使えるとのことだ。

 

で、宝石につき使える魔術も違うらしい。

 

ちなみに調べた所、この指輪は空を飛べることが出来る。

 

「フライ!」

 

そう叫ぶと、俺の体が光り、俺の体はゆっくりと飛び上がる。

 

「ちょっと不安定だが、練習すればいけるな」

 

「あ、レイも飛べるようになったんだね!」

 

「ああ、指輪の使い方も大分分かってきたし、次からは俺も戦いに参戦できる。で、イリヤ。凛さんからクラスカード預かってたんだろ」

 

「ああ、そうだった」

 

イリヤは思い出した様にカードケースからクラスカード“アーチャー”を取り出す。

 

「アーチャーっていうぐらいだから弓だよね。よし!限定展開(インクルード)!」

 

クラスカードをルビーに重ねるように言うと、ルビーの形状が弓へと変わる。

 

「凄い!よし、早速試し打ちを!」

 

弓を構え、弦を引っ張るが肝心の矢が無い。

 

「あれ?矢は?」

 

『無いですよ?凛さんが使った時は近くにあった剣を矢代わりにしてました』

 

「矢が無けりゃ使えねぇじゃん」

 

「はぁー……地道に特訓してくしかないね」

 

『頑張りましょう。美遊さんも海斗さんも、今頃特訓してるはずですよ』

 

「……どんな特訓してるんだろうね?」

 

「空飛ぶ訓練じゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある山の上空

 

「ルヴィアさん、これは流石に無茶があるんじゃないかと………」

 

「………無理です」

 

現在、俺は美遊の空を飛ぶための訓練に付き合ってる。

 

別に特訓に付き合うのはいい。

 

ただ、どうしてヘリからの飛び降り自殺を美遊はすることになってるんだ?

 

「美遊。最初から決めつけていては、何も出来ませんわ」

 

「……ですが」

 

『おやめください、ルヴィア様。パラシュートなしでのスカイダイビングは危険です』

 

「美優は常識に捕らわれ過ぎなのです。魔法少女の力は空想の力。常識を破らなければ道は切り開けません!さぁ、一歩を踏み出しなさい!出来ると信じれば不可能などないのですわ!」

 

その言葉に美遊はヘリから飛び降りようとするが、やっぱ怖いらしく飛び降りるのを止めようとする。

 

「無理で――」

 

その瞬間、ルヴィアさんは美遊を蹴り飛ばした。

 

そして、美遊は真っ逆さまに落ちて行った。

 

「何やってんだ!アンタはああああああああ!!」

 

俺は叫び、慌ててヘリを飛び降りる。

 

なんで俺の周りには自分勝手やとんでもない奴しかいないんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「どうした、イリヤ?」

 

上の方を見ながらイリヤが何かに気付く。

 

俺も見上げると、上空から人が降って来た。

 

「人!?」

 

「イリヤ、危ない!」

 

落下するコースにイリヤが居るのに気付き慌てて引っ張りよせる。

 

幸い落下物はイリヤには当たらずそのまま地面に激突する。

 

「危なかった~。ありがとう、レイ」

 

「別にいいさ。それにしても………一体何が」

 

土煙が晴れ現れたのは美遊と美遊の下敷きになってる海斗だった。

 

『全魔力を物理保護に回しました。お怪我はありませんか、美遊さま?』

 

「な、なんとか」

 

「そうだよな……サファイアいるから大丈夫だったよな。俺は何を焦っていたんだ………アハハ」

 

なんか海斗の奴、自虐みたいな笑みを浮かべてやがる。

 

「美遊さん、海斗君………どうして空から……」

 

「……飛んでる」

 

『はい、ごく自然に飛んでます』

 

「……零夜も飛んでる」

 

『はい、飛んでますね』

 

イリヤが美遊の近くに降りたので俺も降り、海斗に近づく。

 

「海斗、生きてるか?」

 

「なんとか………でも、俺の心はボロボロだ」

 

「重傷だな、心が」

 

「あの、一緒に練習しない?」

 

海斗を心配してるとイリヤが美遊にそう言った。

 

「空が飛べないと戦えないし」

 

「……教えてほしい…飛び方を」

 

「うん!」

 

その様子を見て、俺と海斗は思わず笑みを浮かべた。

 

あの妙な空気はもう無い。

 

これなら次の戦いで勝てるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ってた時期がありました。

 

美遊は人=飛べないと言うイメージというか常識があって、どうやっても空を飛ぶことが出来ない。

 

イリヤは魔法少女=空を飛ぶと思っているので簡単に飛べている。

 

つまり、イリヤは殆ど思い込みと感覚のみで空を飛んでる。

 

常識で考える美遊には難しいんだろう。

 

新たな課題だな。

 

「そう言えばイリヤスフィールは魔法少女は空を飛ぶものだって言ってたよな」

 

「うん」

 

「なら、そのイメージの元になったものがあるはずだ。それはなんだ?」

 

海斗にそう言われイリヤは思い当たる物があるらしく二人を家に招待した。

 

そして、イリヤお気に入りの魔法少女アニメを美遊に見せる。

 

「こ、これが……!」

 

「私の魔法少女イメージの大本……の一つかな」

 

「航空力学はおろか重力も慣性も作用・反作用も無視をしたでたらめな動き……!」

 

「なぁ、海斗。美遊って真面目すぎるのか?」

 

「真面目っていうよりバカ真面目で天然なんだよ。お陰で俺の胃が………」

 

ご愁傷様です。

 

『このアニメを全部見れば、美遊さまも飛べるようになるのでしょうか?』

 

「……多分無理。これを見ても飛んでる原理が分からない。具体的なイメージは繋がらない。桔梗の様な浮力を利用してるようには見えないから、これは飛行機と同じ揚力を中心とした飛行法則にあると思える。でもそれだと揚力の方程式である――――――」

 

何やら専門的なこととか言い始めた。

 

イリヤは頭を抱え出し、海斗は胃を押さえだした。

 

『ルビーデコピン!』

 

そんな状況を見かねたルビーが、美遊の額に強烈なデコピンをお見舞いする。

 

「な、何を…!」

 

『まったくもぉ!美遊さんは基本性能は素晴らしいですが、そんなコチコチの頭じゃ魔法少女は務まりませんよ!見てください、イリヤさんを。理屈や工程をすっ飛ばして結果だけをイメージする。それぐらい能天気な頭の方が魔法少女に向いているんです!』

 

「なんか酷い言われよう!」

 

『そうですね。美遊さんにはこの言葉を送りましょう“人が空想できる起こりうる全てのことは魔法事象”私たちの想像主たる魔法使いの言葉です』

 

「…物理事象じゃなくて」

 

『そうです!』

 

なるほど、面白いことを言う人もいるんだな。

 

「つまりこう言う事だね。“考えるな!空想しろ!”」

 

イリヤのその言葉に美遊は納得できないっと言った表情をする。

 

「……少しは考え方が分かった気がする」

 

「う、うん!美遊さんならきっと大丈夫だよ!」

 

そう言って美遊と海斗は立ち上がり、その場を後にする。

 

「……じゃあ、また」

 

「またな」

 

見送った後、イリヤは息を吐く。

 

「貴女は戦うなって言われた昨日よりは前進かな?」

 

「だな」

 

『後はお二人できちんと連携が取れれば言う事なしなんですが』

 

「そうだね」

 

こうして今日も一日が過ぎようとする。

 

そして、深夜。

 

二度目のカード回収戦が始まる。



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リベンジ

深夜

 

俺達は昨日のリベンジの為、また橋の下を訪れた。

 

「いい?複雑な作戦を立てても混乱するだけだから役割を単純にするわ。小回りの利くイリヤは陽動と撹乱担当。突破力のある美遊は本命への攻撃担当よ。そして、零夜君と海斗は二人のサポート。二人を守りなさい………って、イリヤ聞いてるの?」

 

上の空だったイリヤに凛さんが注意をする。

 

「は、はい」

 

「よし!じゃあ、リターンマッチよ。負けは許されないわ。行くわよ」

 

そして、俺達は境界面に飛ぶ。

 

境界面では昨日の魔女が昨日と同じように上空に魔法陣を展開し待ち伏せていた。

 

「一気に片を付けるわよ!」

 

「二度目の負けは許しませんわよ!」

 

凛さんとルヴィアさんの声を合図に、走り出し、空を飛ぶ。

 

俺にとってはこれが初めての本格的な戦闘。

 

気を引き締めて行かないと!

 

「「フライ!」」

 

海斗と同時に呪文を言い、空を飛ぶ。

 

イリヤも空を飛び、美遊はと言うと空を飛んでるというより宙を踏んで跳んでいる感じだ。

 

「海斗、アレは?」

 

「魔力を空中で固めて、それを足場に跳んでるんだ。普通に飛ぶよりは効率的だ」

 

「なるほど」

 

俺は頷き、イリヤの前に立つ。

 

「イリヤ!直撃する攻撃は俺が防ぐ!お前は自分の役割を果たせ!」

 

「うん!」

 

俺はフライリング(空を飛ぶためのリング)とは別の指、左手の中指にディフェンスリング(防御用リング)を填める。

 

「ディフェンス!」

 

直撃弾を全て弾き、イリヤを守りつつ魔女へと近づく。

 

「イリヤ!」

 

「中ぐらいの………散弾!」

 

そう言い、ルビーから中ぐらいの大きさの魔力弾を大量にばら撒く。

 

魔女がイリヤの攻撃を防いでる間、美遊が背後から攻撃を仕掛ける。

 

「ランサー、限定展(インクルー)……!」

 

だが、ランサーの宝具を展開する前に魔女の姿が消えた。

 

「え?」

 

「後ろだ!」

 

魔女はいつの間にか美遊の後ろに回ってた。

 

叫んだが間に合わない。

 

美遊は魔女の電撃を食らい、橋まで吹き飛ばされた。

 

魔女は美遊にトドメを刺すつもりなのか、攻撃をする。

 

その時、海斗が素早く動いた。

 

「チェイン!」

 

海斗の指輪から飛び出した鎖は魔女目掛け飛ぶ。

 

魔女はそれに気付き、攻撃を止め、避けれないと悟り、防御態勢に入る。

 

だが、鎖は魔女に当たらずそのまま橋で倒れている美遊へと伸び、美遊を救出する。

 

「大丈夫か?美遊」

 

「う、うん。大丈夫。下ろして」

 

海斗は美遊を下ろし、鎖を仕舞う。

 

「美遊さん、海斗君大丈夫?」

 

「ああ、俺も美遊も大丈夫だ」

 

「しかし、どうする?」

 

俺達四人は集まり、作戦会議をする。

 

『転移魔術も使えるとは、流石は英霊の魔女ですね』

 

「勝てないの?」

 

「……いや方法はある」

 

その言葉に三人が振り返る。

 

「今から言う作戦をうまく遂行できればな。三人共、できるか?」

 

魔女の方を見ながら三人に尋ねる。

 

「「「当然!」」」

 

三人からの了承を得て俺は三人に作戦を教える。

 

「よし、やるぞ!」

 

 

「スピード!」

 

海斗がスピードリングを嵌め、飛ぶスピードを上げる。

 

「チェイン!」

 

そして、魔女に急接近すると、鎖を出し攻撃を仕掛ける。

 

だが、魔女はその攻撃を防御する。

 

「まだまだ!」

 

海斗は縦横無尽に鎖を振り回し魔女に攻撃する。

 

だが、魔女はそのすべてを防護する。

 

その背後に回り――

 

「おらぁ!」

 

回し蹴りを叩き込む。

 

ステルスリング。

 

一定時間の間、装備者の姿を消すことのできるリング。

 

だが、接触されたり接触したりすると効果が消えてしまい、更に、匂いや音、気配も消せない。

 

いくら理性が無いとは言え、相手は英霊。

 

姿を消した所で気配で見つかる。

 

だから、海斗に気を引いてもらい俺は背後から攻撃。

 

俺の蹴りが入った瞬間、海斗は鎖を仕舞い、俺同様に接近戦をする。

 

いくら相手が英霊とは言え、ここまで接近されたら魔法を使う暇もない

 

不利と判断したのか魔女は先歩との転移魔法を使い消える。

 

「零夜、マーキングは出来たか?」

 

「ああ」

 

「出現場所は?」

 

「………イリヤ!俺の後ろだ!」

 

「せいやぁ!」

 

俺の後ろに現れた魔女は俺に向け攻撃を仕掛けようとする。

 

だが、現れた直後魔女に向かってイリヤが特大の魔力弾を撃つ。

 

あの接近戦の目的は倒すことではなく、魔女に魔力でマーキングするため。

 

そして、俺がそのマーキングを追って転移魔術での出現先を割り出し、そこにイリヤが全魔力を込めて特大の一撃を入れる。

 

すると魔女はイリヤの攻撃を防ぐために力を使うそうなれば防御せざるを得ない。

 

正面からの攻撃を受け止めれば後ろががら空きになる。

 

そこをランサーの宝具を持った美遊が襲い掛かる。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)!」

 

槍は魔女の胸の中央を貫く。

 

「くっ!」

 

魔女は苦しそうにもがき、そして息絶えた。

 

体が消え、クラスカードだけが残る。

 

「クラスカード“キャスター”、回収完了」

 

「や、やったー!」

 

イリヤが声を上げ、歓声を上げる。

 

「やったな、零夜」

 

「ああ。作戦通りだ」

 

「もっともギリギリだったがな。キャスターが、連続転移できたら詰んでたぞ」

 

「ま、結果オーライってことで」

 

全員で地上に降り、凛さんとルヴィアさんの所に戻ろうとした時、爆発が起きた。

 

それも凛さん達が居た場所だ。

 

「なんだ?何が起きた!」

 

「凛さん!ルヴィアさん!」

 

「ルビー、サファイア!何が起きた!」

 

『………最悪の事態です』

 

「こんなこと……!」

 

『完全に想定外です』

 

爆炎から人影が見えた。

 

その姿に俺は目を見開いた。

 

それは海斗も、イリヤも美遊も同じだった。

 

現れたのは黒い鎧を身に纏い、黒い剣を持った剣士。

 

新たなクラスカード、敵の登場だ。

 



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三番目の選択肢

「凛さん!ルヴィアさん!」

 

剣士の後ろで血を流してる二人に気付き、イリヤが走り出そうとする。

 

「待て!イリヤ!」

 

イリヤの手を掴み、止める。

 

「落ち着け!闇雲に近づいてもやられるだけだ!」

 

「で、でも凛さんとルヴィアさんが……!」

 

「サファイア。二人の生体反応は?」

 

海斗がサファイアに尋ねると、サファイアはすぐに確認をし出す。

 

『生体反応あり。お二人は生きています』

 

「だったらなおさら……!」

 

「だからこそだ!二人が生きてるから、冷静に、確実に行動しないといけないんだ」

 

「零夜の意見に賛成。ここは確実に動くべき」

 

「今俺達に出来ることは二つ。一つは奴を即座に倒す。もう一つは隙を突き、二人を確保して脱出だ」

 

「そうだ!あの槍は?あの槍なら一撃必殺で」

 

「だめ、今は使えない」

 

『一度カードを限定展開(インクルード)すると数時間はそのカードが使えなくなります』

 

『どうもアク禁くらうっぽいですねー』

 

アク禁って、ネトゲかよ………

 

「ライダーは試してみたけど、単体では意味をなさなかった」

 

「キャスターは不明。本番で行き成り使うのはリスクが大きすぎる」

 

「加えてアーチャーは役立たず……か」

 

『これは選択肢二番でいくしかないですね』

 

ルビーの言葉に俺達は頷く。

 

「私が敵を引き付ける。その間に右側から木に隠れて接近して二人を確保。即座にこの空間から脱出して」

 

「美遊、一人じゃ危険だ。俺も一緒に囮になる。零夜、イリヤスフィールと一緒に凛さんとルヴィアさんを頼むぞ」

 

「あ、ああ」

 

「わ、分かった」

 

そして、頷き合うと俺達は左右に分かれる。

 

美遊と海斗は空に飛ぶ。

 

速射(シュート)!」

 

「チェイン!」

 

美遊の魔力弾と海斗の鎖が剣士に襲い掛かる。

 

だが、二人の攻撃は剣士の辺りに漂う黒い霧のようなもので阻まれ、弾かれる。

 

「おい、ルビー。あれも反射平面とかいう奴か?」

 

『いえ、魔術を使っている様子はありません。あの黒い霧は……まさか!』

 

ルビーが何かに気付いた瞬間、剣士は持っている黒い剣に斬りを纏わせ、斬撃を放った。

 

「ディフェンス!」

 

海斗がその斬撃を防ごうとしたが、斬撃は海斗の障壁を破り、海斗の肩を切り裂く。

 

「海斗君!」

 

その時、イリヤが声を上げた。

 

そして、剣士はこちらを向き、斬撃を放つ。

 

「くっ!ディフェンス!」

 

俺も障壁を張りイリヤを守ろうとするが、やはり斬撃は障壁を破り、俺を切り裂く。

 

肩から鮮血が流れる。

 

「くっ………防御魔術が付与されてるんじゃなかったのかよ、この服」

 

肩を押さえながら吐き捨てるように言う。

 

「レイ!」

 

「大丈夫。かすり傷だ」

 

『この程度なら回復魔術で治せます。それに、今ので分かりました。あの黒い霧の正体……………アレは信じ難いほどに高密度な魔力の霧です!』

 

「てことは、さっきの攻撃は、魔術じゃなくて魔力を飛ばした攻撃か」

 

『はい。あの異常な高魔力の領域に魔力砲も、海斗さんの攻撃も弾かれているようです。あれでは、魔術障壁じゃ無効化できません』

 

剣士は俺たちが話しているのにも構わず、近寄り剣を構える。

 

「追撃来るぞ!走るぞ、イリヤ!」

 

イリヤにそう呼び掛ける。

 

だが、イリヤは恐怖から動けず蹲ってしまった。

 

「う……あぅ……」

 

「イリヤ!」

 

剣士が走り出す。

 

その瞬間、数個の宝石が剣士の方に跳び、勢いよく爆発した。

 

『あ、あれは!』

 

ルビーが驚きの声を上げる。

 

宝石を投げたのは凛さんとルヴィアさんだった。

 

二人ともクビを切りつけられていながら、立ち上がり剣士に攻撃をした。

 

「くっ……やってくれるわね、この黒鎧……!」

 

「一度距離を取って立て直しを………!」

 

その時、煙の中から剣士が現れ俺達の方に向かってくる。

 

俺はイリヤだけでもと思い、イリヤを体で隠し腕で顔を守るようにする。

 

「サファイア!」

 

『物理保護全開!』

 

美遊が俺と剣士の間に入り、剣を受け止める。

 

「せいっ!」

 

海斗が横から剣士の脇を殴りつけ、吹き飛ばし距離を稼ぐ。

 

「美遊さん!」

 

「海斗!」

 

「俺達は大丈夫だ」

 

「それより、あの敵……」

 

『まずいですね……とんでもない強敵です。魔力砲も魔術も、レイさんと海斗さんの魔術も無効。遠距離・近距離も対応可能。こちらの戦術的優位性(アドバンテージ)が真正面から覆されてます。直球ど真ん中で最強の敵ですよ、アレ』

 

まずい、本格的にヤバイ。

 

イリヤは戦意を失い欠けてる。

 

それに、凛さんとルヴィアさんも重傷だ。

 

この状態で戦えば、間違いなく誰かが死ぬ。

 

下手すれば全滅もあり得る。

 

その時、凛さんとルヴィアさんも体力が尽きたのかその場に倒れる。

 

「ど、どうしようルビー!どうすればいいいの!?」

 

「落ち着いて!パニックを起こさないで!」

 

慌てるイリヤを美遊が止める。

 

「………俺がアイツを足止めする!その隙に二人の救出を!」

 

海斗がそう言い出す。

 

その瞬間、俺は海斗の肩を掴む。

 

「何言ってるんだよ!死ぬ気か!?」

 

「どの道、誰かが囮にならなければいけないんだ!なら、この中で戦い慣れしてる俺が囮になるべきだ!」

 

「だからって危険過ぎる!第一あの斬撃はどうするんだよ!」

 

「攻撃は一直線にしか飛ばない!タイミングを合わせれば避けれる!」

 

俺と海斗の言い合いにイリヤと美遊は慌てて止めようとする。

 

その時―――

 

『ルビーデュアルチョップ!』

 

ルビーが俺と海斗の頭にチョップを叩き込む。

 

「イッツ!………ルビー!こんな時に何してるんだよ!」

 

『喧嘩してる場合ですか!そんな言い合いしてる暇があれば、もっとまともな作戦を考えてください!』

 

「だが、現状ではこの作戦が一番助けられる可能性が……!」

 

『いいえ。まだもう一つ手はあります。最後の手段です。いいですね、サファイアちゃん』

 

『はい、姉さん』

 

ルビーの作戦を聞き、俺達は驚くと同時に、確かに囮作戦よりも可能性はあるし、勝つことも可能かもしれないと思った。

 

 

剣士は、重傷で動けない凛さんとルヴィアさんに向かっていた。

 

「凛さん!ルヴィアさん!」

 

イリヤと美遊の二人が走り出す。

 

「バカ!退きなさい!あんたたちじゃ、こいつは倒せない!」

 

確かに二人どころか、四人でぶつかって行っても勝つことも、救出も出来ない。

 

だから――――――

 

「選択肢……三番!」

 

イリヤと美遊はルビーとサファイアを投げ飛ばす。

 

その時、剣士の後ろで光が輝く。

 

『まったく、世話の焼ける人達です。見捨てるのも忍びないので今回だけは特別ですよ』

 

「良く言うわ。最初からこうしておけば良かったのよ」

 

『ゲスト登録による一時承認です。…不本意ですが』

 

「何を偉そうに……これが本来の形でしょうに」

 

ルビーとサファイアは凛さんとルヴィアさんの手の中にあり、二人は魔法少女の恰好となって立っていた。

 

「それじゃ……本番を始めましょうか」

 



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その宝具の名は――

『いやー、しかし相変わらず、いい年こいて恥ずかしい恰好ですねー』

 

「お前が着させてるんだろーがー!!」

 

凛さんがルビーを地面に叩き付けて怒鳴る。

 

「ハタから見ると魔法少女ってやっぱり恥ずかしいなぁ……」

 

イリヤが横でぼそっと呟く。

 

確かにそうかもしれないし、今の凛さんとルヴィアさんの恰好はかなり痛い………

 

言わないけど。

 

「この服を着こなすにも品格と言う物が必要なのですわ。この私のように!」

 

「うわっ、バカだ。バカがいる!」

 

『流石セレブはファッションセンスもナナメ上ですか』

 

その時剣士が斬撃を二度放つ。

 

二人はそれをいとも簡単に避ける。

 

『ボケーっとしてる暇はありませんよー!今は戦いの真っ最中です!』

 

「年中ボケ倒しのあんたには言われたくないわ!」

 

「気を付けてください!」

 

海斗が二人に叫ぶ。

 

「その斬撃は魔力と剣圧による複合斬撃!魔術障壁だけでは無効化できません!」

 

「やっかいね…防御に魔力を割き過ぎると攻撃が貧弱になるわ」

 

「けれどそんな貧弱な攻撃では、あの霧の壁を突破できない…!行きますわよ!速射(シュート)!」

 

ルヴィアさんが剣士の周りに魔力弾を撃つ。

 

その威力は、イリヤや美遊の者とは比べ物にならなかった。

 

「なんて威力…!基本性能がまるで違う!」

 

「で、でも全然当たってないよ!?」

 

「それでいいのよ」

 

先程の攻撃は、剣士の足を止めるためのもの。

 

その間に凛さんが剣士の背後から殴りかかる。

 

だが、よく見るとステッキの先端に刃が付けられていた。

 

(ブレード)!?」

 

「かったいわね、コイツ……!筋力が足りてないわ!ルビー、身体強化7!物理保護3!」

 

『こき使ってくれますねー』

 

凛さんはルビーを手にあの剣士相手に互角で斬り合う。

 

「高密度の魔力で編み込まれた刃……!あれなら魔力の霧も突破できる上、残りの魔力を防御や強化にまわせる………こんな戦い方があったなんて…………」

 

「砲撃だけが能じゃ………ないのよ!」

 

凛さんが渾身の力を込め、剣士を斬り飛ばす。

 

剣士は脚でブレーキを掛けながら止まる。

 

『私としては泥臭い肉弾戦は主義に反するんですけどー。魔法少女はもって派手でキラキラした攻撃をすべきです。絵的にもイマイチですしコレ』

 

「うっさい!刃を交えて見える者もあるのよ」

 

そう言い、再び剣で斬り合う。

 

すると剣士は先程より動きを速め、凛さんを翻弄させる

 

「え!?だっ………ちょ……!」

 

凛さんが焦り、腕を大きく振り上げる。

 

剣士は剣を右手のみで持ち、左手で凛さんの振り下ろそうとしていた腕の肘を押さえる。

 

そして、勢いよく剣を振る。

 

「物理保護全開!!」

 

間一髪、防御が間に合い凛さんは斬られずに済んだ。

 

凛さんは、右手で剣士の剣を持ってる手を掴み、左手にルビーを持つ。

 

「ようやく捕まえたわ」

 

ルビーを剣士の脇腹に押し当てる。

 

砲射(フォイア)!!」

 

「零距離砲撃…!」

 

「うわっ、なんかすごいデジャブ!」

 

零距離で砲撃を食らった剣士は一気に距離を取る。

 

「剣士相手に接近戦なんてやるもんじゃないわね」

 

『両手持ちだったらやばかったですね』

 

「ひとまず時間稼ぎご苦労様と言ったところですわね」

 

「準備出来てるんでしょうね、ルヴィア」

 

「当然ですわ」

 

そう言うルヴィアさんと凛さんの後ろには六つの魔法陣が展開されていた。

 

「シュート六回分のチャージ完了。ちょうどさっきの敵と立場が逆ですわね」

 

「魔力の霧だろうがなんだろうが」

 

「「まとめてぶっ飛ばしてあげるわ!!!!」」

 

「「斉射(シュート・フォイア)」」

 

六つの砲撃と、凛さんとルヴィアさんが放つ二つの砲撃。

 

合計八つの魔力砲が剣士にぶつかる。

 

攻撃は地面を抉り、川にちょっとした滝を作ってしまった。

 

「ホ――ホッホッホ!楽勝!快勝!常勝ですわ!」

 

「よーやくスカッとしたわ」

 

……………凄い。

 

そうとしか言えなかった。

 

これがカレイドステッキの本当の力。

 

そして、凛さんとルヴィアさんの力。

 

それらは想像を絶していた。

 

「しかしちょっとやり過ぎたかもしれないわね。カードごと蒸発してないといいんだけど」

 

その時、川から水柱が上がった。

 

「嘘っ……!?」

 

「あれを受けてまだ………!?」

 

あの剣士が立ち上がった。

 

あの攻撃を喰らってもまだ立っていた。

 

そして、持っていた剣が黒い光を纏い、それが力を現していた。

 

全てをひっくり返す、絶対的な力を………………

 

俺達が戦っていた敵。

 

その敵の正体を、俺達は宝具の名前と共に知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバ―)



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