月に至る2番目の歌 (きりしら)
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第1話 世界最後のステージ、革命への一歩

閲覧ありがとうございます。
拙く短い文章ではありますが何卒よろしくお願いします。


QUEENS of MUSIC会場

 

 

「うろたえるな!」

 

 

世界の歌姫と称されしマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 

彼女が発した世界への宣戦布告は、会場だけでなく世界を混乱に陥れるには十分だった。

 

更に歌姫マリア本人による、オーディエンス達への退去命令が発せられたことに、行動の意図がまるで掴めない。

 

 

会場は、混乱を極めていた。

 

 

 

 

「人質とされた観客たちの退去は順調です」

 

 

『分かった、後は…』

 

 

「翼さんですね、それは僕の方で何とかします。」

 

 

特異災害対策機動部二課所属のエージェント緒川 慎次は、同じく特異災害対策機動部二課の司令官である風鳴 弦十郎との通話を終え廊下を駆ける。

 

 

避難が遅れているオーディエンスを発見、保護することは勿論の事

ステージで今なおマリアと対峙する歌姫、風鳴 翼の手助けを行うために。

 

 

会場は前世界同時配信のさなか。

 

世界中の視線という檻に囚われている翼を開放することが出来れば、状況は打開できる。

 

そう考える緒川の視線には、会場の階段を駆け上がる二人の少女の姿が見えた。

 

 

「あれは…」

 

 

逃げ遅れた観客の子供かもしれない。

 

そう考えると緒川は、二人を追うように階段を駆け上がった。

 

 

 

 

 

「(やっべー!あいつこっちに来るデスよ!)」

 

 

「(大丈夫だよ切ちゃん、いざとなったら…)」

 

 

「(おっはぁ!調ってば、穏やかに考えられないタイプデスかぁ!)」

 

 

そこにいるのは二人、否。

 

三人の少女の姿、立って話す金髪と黒髪の少女と、柱に寄りかかるようにして眠る赤毛の少女だ。

 

切ちゃんと呼ばれた金髪の少女は慌てて調を窘めた。

 

黒髪の少女 調はいたって穏やかであり、その目からは嘘か真か判断が付きにくく、

赤髪の少女は体育座りのまま寝息をたてており、その表情は読めない。

 

 

その三人のもとへ緒川が駆け寄った。

 

 

「怪我をされましたか?ここは危険です、早く非難を!」

 

 

自然と蹲っているように見える赤髪の少女に目が行き、呼びかける。

 

 

 

「じーっ」

 

 

調はそんな緒川を観察、あるいは隙を探るように見続けている。

 

 

「あ、あぁっ!

ええとデスね、この娘が急にトイレー!とかって言いだしちゃってデスね!

アハハ…参ったデスよぉ」

 

 

「じーっ」

 

 

たどたどしく不自然な言い訳ではあるが、背後にいて緒川を見つめる調と赤髪少女を隠すように頭をかく少女。

 

 

「そ、そうですか、じゃあ用事を済ませたら非常口までお連れしましょう」

 

 

「心配無用デスよ!

 ここいらでちゃちゃっと済ませちゃいますから大丈夫デスよ!」

 

 

金髪の少女は必死さ故か、連れ合いの廊下放尿宣言をする。

 

突然の狂言に唖然とする黒髪の少女は、口を開くも、責めるように隣の少女を見つめる。

 

 

「分かりました…。

 でも、気を付けてくださいね。」。

 

 

緒川は少女たちの気迫に疑問を覚えつつ、再び廊下を駆けて行った。

 

 

「ああ、はいデス~!

 えへへ…はぁーっ…なんとかやり過ごしたデスかね…。」

 

 

「じぃぃーっ」

 

 

言葉にするほど見つめ続ける。

今なら視線で穴を開けられそうだ。

 

 

「どうしたデスか、調?」

 

 

「私、こんな所で済ませたりしない」

 

 

「さいデスか…。

 まったく、調とアーニャを守るのは私の役目とはいえ、毎度こんなんじゃ身体が持たないデスよ?

 アーニャは寝てますし…いつから寝てるんデスかこの娘…」

 

金髪の少女、切歌はがっくりとうなだれ、調の言葉に反応する。

 

またすぐそばでうなされ始めた赤髪の少女を視界に入れてそっと呟いた。

 

 

「いつもありがと、切ちゃん」

 

 

「いいってことデスよ調。

 それじゃあ、アーニャを起こしてこっちも行くとしますデスかね!」

 

 

「うん」

 

 

どこかへにゃっとしたガッツポーズを決め、少女たちはうなされる眠り姫を揺らすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「アーニャ、起きるデスよ」

「起きてアーニャ、そろそろ作戦開始」

 

肩を揺さぶられて、目が覚めた。

 

目の前には調(お姉ちゃん)切歌(お姉ちゃん)の顔がある。

いつの間に寝てしまったのか思い出せない、今日は大事な日だというのに。

 

 

「んん…分かった、切歌」

 

 

少し寝てスッキリした身体を反らして大きく伸びをする。

小さく漏れた欠伸で少し、涙がこぼれた。

 

 

「はい、アーニャの分のリンカーデス。

 うなされてたみたいデスけど、大丈夫デスか?」

 

 

切歌が私を気遣いながら、リンカーの入った注射器を渡してくれた。

 

緑色の薬液が入ったそれを受け取ると、指を引っかけてくるくる回し弄ぶ。

 

あなたに優しいをテーマにしたこのリンカー、ウェルが言うには日本の装者の実験データを使用したから精度が向上、昔よりも当社比負担が軽くなっているらしい。

当社比って何だろう。

 

 

「んー、よく分かんない夢だった…と思う。多分大丈夫、ありがとう切歌。」

 

 

「無理はしないようにするデスよ?

 アーニャは病み上がりなんデスから」

 

 

「うん、切歌のためにも私頑張るよ」

 

 

「デデデ…伝わってないデス…」

「アーニャが空回りしないように見ておかないと…」

 

 

心配してくれた切歌に感謝の気持ちを込めてガッツポーズ。

 

二人とも何故そんなに微妙な表情をするのか。

 

そんな目で見られると恥ずかしくなってしまう。

 

 

「んん、それで調、私は何をすればいいんだっけ」

 

 

「私と切ちゃんが前に出てマリアの援護、アーニャはエスクラピウスで私たちの支援の手筈。

 歌は一番負担の大きいマリアに合わせて。

 それとこれはマムからの預かりもの、外しちゃだめだよ?」

 

 

ちょっと照れくさくなって向き直ると、調は少し考えてからそう言った。

そして調からブレスレットを受け取って腕に付ける。

 

どうやら私は切り札のようで、敵の眼前に出てはいけないらしい。

 

 

「うん、分かった。私頑張るね」

 

気合は大事、日本にはコトダマとかいうものがあるらしい。

言葉にすれば一層やる気が出るものですよと、ナスターシャが教えてくれた。

 

調と話が終わると、時間を確認していた切歌が急かす様に声を上げる。

 

 

「二人とも準備はいいデスか?

 それじゃあ…出撃デス!」

 

 

切歌の号令で、私たちは革命の一歩を踏みしめる。

 

マリアの言っていた最後のステージ、終わりの名(フィーネ)を背負った宣戦布告。

 

私はアン。アン・セルゲイヴナ・トルスタヤ。

 

たとえこの道が過ちだとしても、私の往く道に奇跡があると願って。

 

 

Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)

 

 

Various shul shagana tron(純真は突き立つ牙となり)

 

 

Lie feel asclepius zizzl(繰り返す痛みで空を掴む)

 

 

さぁ、世界最後のステージの幕を開けよう。




2017/10/25 1話及び2話を合併。
2018/01/29 100文字程度文章追加。


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第2話 ステージ上の戦姫

「もう始まってるみたいデス…!行くデスよ調!アーニャ!」

 

「うん、行こう」

 

「頑張る…」

 

 

私が寝ていたせいで少し遅れてしまったようだ。

 

ステージではガングニールを纏ったマリアと青いギア、アメノハバキリを纏った風鳴 翼が戦っている。

 

ここに来るまでに中継を見ていたが、どうやらその中継も切られたみたい

 

まだ会場に残ってるスタッフがいるなんて驚いた。

 

 

 

「歌おう、エスクラピウス」

『烈槍・ガングニール』

 

 

 

私を置いてステージ(前線)へ走る二人を見送り、私も私のやるべきことをする。

 

歌うはマリアの烈槍、もう姉さんを傷つけることなど許さない。

 

私のギアは癒杖・エスクラピウス

人の歌に同調することでギアの適合率を上げ、体力の回復や一定以下の攻撃を軽減する不可視のバリアを張ることができるのだ。

 

応用すれば戦闘にも参加できるけど、ナスターシャが私を前線に出すことを嫌がるせいで、私はこうして裏方に回っている。

私もみんなの役に立ちたいのに。

 

杖に巻き付く蛇の口が開き、準備が整う。

ちょうど調と切歌も介入する頃だ、私もマリアの歌に合わせなくては

 

日本の装者よ、不可視の盾にびっくりするがいいさ。

 

 

 

『鏖鋸・シュルシャガナ』

 

 

 

そんな私の出鼻を挫く様に、ステージで調のシュルシャガナの音が鳴り響いた。

 

待って調、話が違う。歌が変わっちゃったよ?

 

せっかく格好良く決めようと思ったのに、鳴る歌声がマリアから調のものに変わってしまった。

 

仕方がない、それなら私も変えなくては。

 

蛇の頭を撫でながら、私は今度こそ歌い始めた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ステージside

 

 

『マリア、お聞きなさい。

 フォニックゲインは現在、22%付近をマークしています。』

 

(まだ78%も足りてない…!)

 

マリアは焦っていた。

 

世界へ向けた宣戦布告、終わりの名を騙る大博打。

 

まずはこのステージでフォニックゲインを高め、基底状態にあるネフィリムを再起動させなければならない。

 

だが現状は、予定していたラインを大きく下回る22%のエネルギー量。

 

一刻も早くフォニックゲインを高めなければならない、リスクを背負う覚悟をしなければ。

 

 

戦闘へ戻ろうとするマリア。

しかし、その隙を逃す防人ではなかった。

 

 

「私を相手に気を取られるとは!」

 

 

脚部のギアより取り出した対の剣、それらを組み合わせ炎を纏わせた1つの武器と成す。

更に回転を加えることによって防御不可の連続切りを可能とした。

 

【風 輪 火 斬】

 

その一撃は、マリアの芯を捉える一撃。

 

 

「しまった…っ!」

 

 

マリアに驚愕の表情が浮かぶ、ここは戦場(いくさば)

計画に気を取られ、重い一撃を貰ってしまった。

 

 

「(手応えが薄い…?だが!)

話はベッドで聞かせてもらう!」

 

 

たしかに芯を斬ったはず、それにしてはあまりにも薄い手応えに疑問を抱きながらも

翼は炎を纏うツインブレード持って反転、マリアを捕えんと追撃を仕掛ける。

しかし

 

 

『鏖鋸・シュルシャガナ』

【百輪廻 α式】

 

 

「何っ!?」

 

 

突如飛来する丸鋸群。

翼は剣を回転させ防御を強いられることとなった。

 

「行くデス!」

 

【切.呪リeッTぉ】

 

 

DNAを教育してく(DNAを教育してく)エラー交じりのリアリズム

 人形のように(人形のように)お辞儀するだけモノクロの牢獄(牢獄)

 

 

そこへ左右から追撃をかけるイガリマを纏った切歌。

不意の一撃に倒れ伏した翼の前には、黒を基調とした3人の装者たちの姿が。

 

 

「くっ…装者が3人…!?」

 

 

 

 

 

一方音響管理を行う管理棟では、緒川もその状況に驚愕していた。

 

 

「あの子たちはさっきの…!」

 

 

だが緒川にはその光景に些細な疑問を覚える。

 

彼女たちがギアを使ってこの場にいるのであれば、あの時蹲っていた少女は一体何処へ行ったのかと。

 

そんな緒川の疑問をよそに、ステージでは再び変化が起きていた。

 

 

 

 

 

「土砂降りな!十億連発だ!」

 

【BILLION MAIDEN】

 

 

「うりゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

「それでも…!」

 

 

少し余裕を見せるマリア、切歌、調の頭上から襲来する弾丸の雨、そして拳。

マリアはガングニールのマントで銃弾をはじき、響の拳に自身の拳でもって応戦する。

ぶつかり合う拳に痛む様子も見せず、追撃の対応をとった。

 

そうしてステージ上の主役達、観客席のオーディエンスと分かれ、この場に装者が集結する。

 

ステージ裏で歌う装者の存在を知らぬことがどれほど危険な状況であるか、

響たちはまだ、気づくこともなく。

 




2018/01/29 前書き削除。文章を追加。


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第3話 夜明けの光

ご存知かと思いますが、本作は表現が稚拙です。
感覚で書いているので矛盾も出てくるかと思います。
矛盾点等ありましたら、お手数ですがご指摘願います。


「やめようよこんな戦い!

 今日出会った私たちが争う理由なんてないよ!」

 

 

ステージを見上げる形で響は叫ぶ。

 

 

「…っ!そんな綺麗事を…!」

 

 

戦う理由は無い、話し合えば分かり合える。

立花響の言うその言葉は、大抵の場合その場を治めることができるだろう。

 

だが最早話し合いでは解決しない問題であることは、調と切歌は十分わかっていた。

 

綺麗事を言う奴はいつだって己の利益を優先する。

月が落ちることを隠匿した国もそうだ。

混乱を招くことは出来ないと宣いつつ、自らは地球外へ逃亡するロケットを組み立てる。

この世界に信用に足る者は少ない.

己と家族を守らなければ、生きてはいくことさえできはしないのだ。

 

 

「この世界には…あなたのような偽善者が多すぎる…!」

 

 

激昂する調は、睨み合いの状況を崩す様に歌い上げる。

この計画で、多くの人を救うのだ

その為に邪魔をする者を排除しなくてはならないと。

 

 

だからそんな世界は(だからそんな世界は) 切り刻んであげましょう(切り刻んであげましょう)

 

 

調の百輪廻 α式により再び開かれた戦端。

アンのサポートもあって身体が軽い、多少の無茶も問題ないだろう。

 

 

「何をしている立花!」

 

 

翼の剣で丸鋸群を切り伏せ、クリスが前へ出てステージへ射撃を行う。

ターゲットとなった切歌は、鎌で弾丸をはじきながらも斬りかかる。

 

 

「赤いのの相手は、この私デェス!」

 

 

「くそっ!近すぎんだよ!」

 

 

ガトリングでは分が悪くボウガンに切り替えたクリスは、距離を取るため後方へ跳びながらも射撃を繰り返す。

切歌は着地を刈るために矢を浴びながらも接近し、クリスに一撃を与えることに成功した。

 

 

「日本の正規装者はルナアタックの英雄という風にマムから聞いてましたが、てんで大したことないデスね!」

 

 

ふふんと挑発するようにクリスを見る切歌。

 

 

「なんで攻撃が通らない…!あたしの矢は府抜けてねぇってのに!」

 

 

いくら撃てども切歌にダメージが通る様子は無く、防戦を強いられるクリス。

 

 

一方

 

「はぁぁぁっ!」

 

 

「どうしたの?

 防人の剣はこの程度なのかしら、これでは守るべきものも守れない!」

 

翼は二本の剣で果敢に斬撃を加えるも、全てマリアのマントで防がれ、叩き返される。

 

翼は思う。

まるで霞を斬っているかのようだと

 

「だからとて、私にも守るべき使命があるのだ!」

 

だが防人が挫けることは無い、自らを一振りの剣とした時から、諦めることを止めたのだ。

 

 

 

そして響と調の戦いは、未だ進展することなく問答を繰り広げていた。

 

 

「私はっ、困っている皆を助けたいっ、だけで

 あなたにも理由があるんでしょ…だから…!」

 

襲い来る調の大鋸を鍛え上げた身体能力で避けるものの、響はこの戦いにおいて、その拳を振るうことは無かった。

話し合いこそが解決の糸口であり、拳は争いのために振るわれるものではないのだと愚直に信じているがために。

 

 

「それこそが偽善…!

 痛みを知らないあなたに、誰かのためになんて言って欲しくない!」

 

 

「…っ!?」

 

 

【卍火車 γ式】

 

 

自分の言っていることが偽善であると指摘され、体が硬直する響。

飛翔する2つの大鋸を前にして響は動くことが出来なかった。

 

そこへ駆けつけるクリスと翼、互いに傷つきながらも大鋸を防ぎ、彼方へと弾き飛ばした。

 

「鈍くさいことしてんじゃねぇ!」

 

「気持ちを乱すな!」

 

「はっ、はいっ!」

 

叱咤されることで、改めて戦意を奮い立たせる響。

戦闘が始まって10分が経過しようという頃、変化は突然に起こった。

 

 

『4人とも引きなさい』

 

 

マリア、調、切歌、アンのギアにナスターシャから通信が入る。

フォニックゲインの目標値100%に対して、現状の数値は25%にも満たない

最早手段を選ばず、増殖分裂型ノイズをドームの中心に発生させ、ルナアタックの英雄による絶唱を引き出すことで計画の遂行を狙ったのだ。

 

 

「増殖分裂タイプ…」

 

「こんなの使うなんて聞いてないデスよ!」

 

「マム、分かったわ。行くわよ、二人とも」

 

マリアはガングニールのアームドギアを形成

ノイズへ向けてビーム、HORIZON✛SPEARを放つ。

 

増殖分裂型のノイズはコアを破壊されない限り分裂しても増え続ける、マリアの一撃は響達の目をくらますこととなり、同時に選択肢をも削った。

 

 

「(行くわよ、アーニャ)」

 

 

「(うん、マリア(お姉ちゃん)。もう終わったの?)」

 

 

ステージの裏、マリアに呼ばれたアンは追従するように離脱する。

 

 

離脱先はライブ会場となったドームが見えるビルの上。

マリア、調、切歌、アンの4人は、虹色に輝く絶唱の渦を目にすることとなる。

 

「何デスかあのトンデモは!」

 

「綺麗…」

 

「こんな化け物もまた、私たちの戦う相手…」

 

「大丈夫、どんなに傷ついても、私が全部治すから」

 

 

力の奔流。

絶唱という限界を超えたエネルギーを撃ち出す戦姫最後の手段。

 

 

その絶唱を重ねて調律するというイレギュラー、立花響が存在したからこそ、ネフィリムの覚醒は成し得た。

 

だがそれは同時に、フロンティア計画の大きな障害となることを指している。

イレギュラーにはイレギュラーを。

用意された切り札の存在は、未来に何を望むのか。

 

 

「…フ、夜明けの光ね」

 

 

ナスターシャは独り言ちる。

これが世界を救う唯一の手段だと信じて。

 




2018/01/29 一部言葉の表現を変更。


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第4話 私にとっての陽だまり

UA1000、お気に入り30件突破ありがとうございます。頑張ります。


都市から離れた廃病院、そこにFISの隠れ家はあった。

 

誰もがその存在に目を当てることもなく、ぽつりと存在するそれは、潜伏には格好の場所である。

 

 

ライフラインを整え病院の設備を活用したことで、不便はあれど生きていくには申し分ない。

 

 

あの宣戦布告から24時間が経過した。

 

私たちはこの場所で次の作戦までの待機を命じられている。

 

今は私やマリアたちのメディカルチェックをしているところだ。

 

 

「アン、ギアの調子は如何ですか。

 先程も言いましたが、身体の不調があるのならすぐに報告するように。」

 

「大丈夫だよナスターシャ、リンカーも問題なく作用してるみたい。

 でも貴重なリンカーを使って良かったの?

 私のエスクラピウスならリンカー無しでも運用できるのに。」

 

 

胸にかかるペンダントに触れる。

 

私のギア、エスクラピウスは回復に特化した干渉系のものだ。

 

歌によって自分や特定の誰かの傷を癒し、また不可視の防御膜を形成する。

 

ギアの応用、技を多用することによる身体へのバックファイア以上に回復を続ければ、リンカーを使用しないでもある程度の行動だって可能だ。

 

資材も少ない中、ウェルが作れるリンカーの数も限りがある。

減らすところは減らしてマリア達に譲渡したい旨を申し出たけど、ナスターシャは私に徹底してリンカーを使わせようとするのだ。

 

 

「いいですかアン。

何度も言いますが適合係数が低い状態での装着は、最悪貴女の命に関わるのです。

ここで貴女を失うわけにはいきません。

物の数など気にせず、十分お気を付けなさい。」

 

「でも…」

 

「二度は言いませんよ、アン。」

 

「……分かった、ごめんなさいナスターシャ。」

 

「よろしい。では貴女もシャワーを浴びてきなさい、そろそろ夕食の時間です。」

 

 

優しすぎて困ってしまう。

 

はあい、と気の抜けた返事をして、私はシャワー室へ歩き始めた。

 

 

 

 

電気がぽつぽつとついた薄汚れた廊下を数分歩いて、シャワールームに入る。

 

さっと服を脱いで簡素なバルブを回すと、すぐに熱いお湯が出てきた。

 

 

「はぁ…。」

 

 

洗っていると嫌でも目に入る自分の身体。

 

何処を見ても傷やシミ一つない綺麗な身体は私の自慢であり、同時にコンプレックスである。

 

切歌やマリアのように、こう、出るところが出ていないのだ。

 

調とは日々成長について議論を重ねているが、体質というものは恐ろしい。

 

 

「うん、今日も調と話し合わなきゃ。」

 

 

髪を洗い、凹凸の少ない身体を流してから、手早く髪をまとめてタオルで水気を取っていく。

 

 

(そういえば、私が拾われてそろそろ1年が経つんだ。)

 

 

壁に掛けられた電子時計を見てふと思い出した。

 

一年前、身寄りのない私を拾ってくれたFIS

 

私はロシアの研究所での爆発事故に巻き込まれたらしく、目が覚めたときにはアメリカの聖遺物研究機関であるFISに救助されていた。

 

体調が戻ってからFISの研究員の人たちに色々質問されたけど、私が覚えていたのはエスクラピウスのことと名前も分からないお姉ちゃんがいた、というぼんやりした事だけ。

 

私が助けられた時に持っていた、復元不可能なまでに破損したギアはきっとお姉ちゃんが使っていたものなのだろう。

 

そんな私に名前と居場所をくれたナスターシャやマリア達には、感謝してもしきれない。

 

この計画に協力したのも、そんなナスターシャ達が世界を救うと奮起したからであり、私の力が必要だと言われた時には役に立てる時が来たと、本当にうれしかった。

 

 

「あ、アーニャ。ここにいたのね、もうすぐ夕食の時間よ、一緒に行きましょう?」

 

 

シャワールームを出ると、マリアと鉢合わせた。

 

私を探してくれたみたいだ。

 

 

「うん!ありがとうマリア、すぐ着替えるね。」

 

 

 

 

この道は険しく、きっと沢山傷つくのだろう。

 

それでも無辜の命を救うためにと立ち上がったのなら。

 

ならば私は、この暖かくて優しい家族に恩返しを。

 

この大切な陽だまりを、もう二度と失わない為に死力を振り絞らなくては。

 




2018/01/29 文章を訂正および追加。


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第5話 潜伏5日目

前の投稿から時間を空けてしまいました。
AXZも最終回を迎え、予想だにしなかった展開で今後の小説展開をどうするべきか思案しておりました。

UA2000突破ありがとうございます。
初評価も頂いたようで、読んでいただける上に評価もしてもらえるとは思ってもいませんでした。
本当に嬉しいです、頑張ります。


潜伏生活5日目、浜崎病院地下モニタールーム

 

 

『行きます!S2CAトライバースト!』

 

 

薄暗い部屋の中で私は、ライブ会場で放たれた絶唱の三重唱を見ていた。

 

モニターの中で彼女たちが歌う。

命を燃やす歌、奇跡の欠片が生み出す力の奔流。

 

立花響 風鳴翼 雪音クリス

 

ルナアタックの英雄と呼ばれた三人の放つ歌は強大で、また輝かしい。

 

しかし彼女たちは知らないのだ。月の落下と、それがもたらす未曾有の被害を。

マリア達の目的が悟られる前にこの人類救済計画を遂行するためにも、この3人は特別警戒しなくてはならない。

 

 

既にあの宣戦布告の日から5日が経過している。

 

忙しそうなマムにできる事はないか考えていた時に、ウェルは教えてくれた。

この三重奏だけではなく、もっとデータを遡り彼女たちの歌を聴くことが今の私にできる仕事だと。

 

他人の歌の理解と同調、自分の歌を持たない私にはそれが一番の訓練になるのだろう。

 

 

「アーニャ、まだ見てるんデスか?

 もうお昼デスし、そろそろ休まないと身体を壊すデスよ」

 

 

扉を開けて切歌が入ってくる。

朝からモニターを見ていたが、気づけばもう12時を回っていたようだ。

 

 

「切歌。ありがとう、でも大丈夫。

私はもっと相手のことをよく知らないと、いざという時に対応できないし、それに…」

 

「それに?」

 

 

そうじゃないと、私は役に立てないから。

そんな言葉を飲み込んで笑顔を向ける。

 

 

「ううん、何でもない。

 お昼はもう少ししたら食べるから、切歌は先に…」

 

 

せっかく見つけた私の仕事、今はご飯を食べる時間も惜しいのだ。

しかしそんな私の決意とは裏腹に

くぅ、と没頭しすぎた代償(お腹の音)が小さく警鐘を鳴らした。

 

 

「っ!?」

 

 

恥ずかしさで顔を朱に染める、間違いなく切歌にも聞こえていただろう。

なんという失態。

おのれ私の身体、大丈夫じゃないではないか。

 

 

「可愛い音が聞こえたデスよアーニャ。ほらほら、一緒にご飯にするのデス!」

 

「はい…」

 

 

やはり聞かれていた、私の音は。

切歌はニコニコと笑いながら私に手を伸ばす。

 

主だった活躍が無いせいか、私は少し焦りすぎていたのかもしれない。

 

ここは観念して切歌と手をつなぎ、引かれる手を眺めながら食事場まで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「醤油を取ってください、アーニャ」

 

「ん。はい、ナスターシャ」

 

「マム、アーニャも駄目じゃない。塩分の摂りすぎよ。」

 

 

今日のお昼は野菜炒め。

調がおさんどんしてくれたもので、味は折り紙つき。

ナスターシャが私を気遣って分けてくれた野菜を食みながら、近くにある醤油を取って渡す。

 

 

この1年で分かったことではあるが、ナスターシャは相当塩辛いのが好きなようだ。

特に日本に来てからはこの醤油という真っ黒い調味料にご執心のようで、毎食大抵のものにかけては食べている。

塩分過多で身体に悪いと言うマリアもどこ吹く風なナスターシャは、ある意味怖いもの知らずなのかもしれない。

 

 

「今日も美味しい、ありがとう調。次の買い出しは私も行くね」

 

「今日は良い野菜が入ったって商店街のおじさんが言ってたのを買ったんだけど、美味しいなら良かった。」

 

「調の料理は最高なのデス!出来立てを食べるのが一番なんデスから、次は渋らずに来るデスよ?アーニャ」

 

「うん、ごめんなさい切歌」

 

 

皆で食べる昼食、少し環境は悪いけれど、ここは暖かくてやっぱり好きだ。

 

しかし、ここにはウェルがいない。

菓子類しか食べない彼は、何故かいつも食事に対して文句をつけるのだけど

 

 

「そういえばウェルはどこへ行ったの?

 

「うぇ、いいじゃないデスかあんな奴、いてもご飯に文句をつけるだけデスし」

 

「こ、こら切歌、そんなこと言わないの。」

 

 

ふとウェルの居場所を聞くと、切歌があからさまに嫌な顔をする。

あまり彼が得意じゃないみたい、彼は彼なりに優しい所もあると思うのだけど。

 

 

「博士は部屋で次の作戦の準備を進めています。食事もそちらで摂られるそうですよ。」

 

「そうなんだ」

 

 

それなら邪魔をしないほうが良いだろう、ちょうど聞きたいこともあったのだけど。

 

 

「ごちそうさまでした。食器、片付けておくね」

 

「うん、ありがとうアーニャ」

 

 

作ってくれた人に感謝を。

これも大切なことだとナスターシャは教えてくれた。

 

食べ終わった食器を流しに置いて、手早く洗う。

時間もまだあるし、これが終わったらまたモニタールームで画面とにらめっこでもしていようか。

 

 

「アン、ドクターから連絡です。次の作戦に必要な話があると」

 

「ウェルから?分かったよナスターシャ、すぐに行くね。」

 

食事場を離れようとした私に、ナスターシャがウェルからの連絡を伝える。

振り返ると、どこか心配したようなマリア達の姿が目に入った。

 

 

「マム、その連絡はアーニャだけなの?」

 

「ええ、詳しくは聞けませんでしたが。後ほど報告を受ける予定です」

 

「何をされるか分からない…気を付けてねアーニャ」

 

「あいつに何かされたらすぐお姉ちゃんたちに言うんデスよアーニャ!」

 

私は彼に何をされると思っているのだろうか。

 

「ありがとう、ちょっと行ってくるね」

 

心配が過ぎるマリア達に笑顔を向けてその場を去る。

 

機嫌を損ねやすいウェルを待たせてしまってはいけないと、私は少し急ぎ足で彼の所へ向かった。

 



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第6話 優しい人たち

様々な喜びの力をお酒で助長して、勢いで書いてしまいました。
読んでいただきましてありがとうございます。新しい評価、また初感想、励みになります。
ありがとうございます。

文章に乱れがある場合がございますので、後ほど修正する箇所があると思います。
よろしくお願いします。


潜伏生活7日目、浜崎病院地下シャワールーム

 

 

潜伏生活を始めて1週間が経過した。

今日が作戦の決行日。

計画の要、先史文明紀の遺産であるフロンティアを起動する前にその視察を行うことが作戦目標のようだ。

 

そしてもう1つ、2日前にウェルがナスターシャ達に提案した第2の作戦

開発コードALi_model_K0068_G

ガス状のアンチリンカー(Anti_LiNKER)の試験的投入だ。

 

この作戦が提案されたのは、あの時

私は、2日前ウェルに呼び出された時のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

病院地下、ウェルの研究室

 

『ウェル、私に用があるの?』

 

『遅いぞアン、次の作戦に関わる重要な話だ。お前が要になるから呼んでやったんだ感謝しろ』

 

机の上に食べかけのお菓子やラムネ味の栄養剤を置いたウェルは、椅子にふんぞり返って私に振り返った。

 

 

『本当?じゃあ例のアンチリンカーを使うの?』

 

『ふんっ、察しが良いのは褒めてやる。近々日本のお客さん(邪魔者)が来るだろうから、シンフォギア装者と相性最悪のアンチリンカーを試すいい機会だと思ってな。

リンカーもアンチリンカーも効きにくいお前の体質を利用する。適合係数が下がった装者なら、誰よりもぶっちぎりで適合係数のひっくいお前でも倒せるようになるだろ。』

 

 

うん………怒ってはいけない、これはウェルの罠だ。

ウェルの言葉を自分の中で整理して、解釈する

 

 

『優しいね、ウェルは』

 

『あぁん?』

 

 

彼は私が役に立てていないと感じている引け目を察して、活躍の機会を与えてくれるのだと。

今朝もそうだ。やることを探していた私に日本の装者のデータが入ったメモリを渡してくれたのも彼なりの気づかいだった。

 

 

『ありがとう、ウェルキンゲトリクス博士。私の英雄さん。』

 

『う、うるさい!何を勘違いしてるか知らないが、僕には僕の英雄像がある!ガキにされる安い英雄呼ばわりはごめんだ!』

 

 

ここは本当に、本当に優しい人ばかりだ。

 

 

 

 

 

話を戻そう。

マリアの中にいるというフィーネが主導で隠密に計画を進めているとはいえ、素人集団では物資や資材の搬入や日常的な買い物など、足が付くことは避けられない。

当然このアジトも遠くない内に嗅ぎつけられ襲撃されるだろう。

 

ならばその襲撃を逆手に取った奇襲によって二課の装者を撃退、あわよくば撃破する。

 

襲撃に備えて病院内の各地に噴霧器設置の改造は済んでいる。

あとは今日の作戦を遂行し、来るべき襲撃を待つだけだ。

 

襲撃を待ち焦がれるというのも変な話だけど。

 

 

「でね!信じられないのは、それをざばーっとかけちゃったわけデスよ!絶対におかしいじゃないデスか!」

 

 

隣で楽しそうに話す切歌。

昨日ナスターシャが行った、黒豆醤油事件のことを話しているのだろう。

調はその時飲み物を取りに行ってたんだっけ。

 

 

「そしたらデスよ!」

 

 

切歌がその時の様子を説明してくれているけど、いつも相槌を打つ調の声が聞こえない。

私はぐしぐし洗っていたシャンプーを止め、一度流して調に目を向けた。

 

 

「まだあいつの事を…デスか?」

 

「立花…響」

 

 

調はあのステージで立花響に言われた言葉が残っているようだ。

 

 

『話せば分かり合えるよ!戦う必要なんて!』

 

 

そんな綺麗事を言えるのは、何も背負うものがないから言える言葉。

マリアや調そして切歌のように理不尽な運命を背負わされ、文字通り血を吐くほどの苦労を抱えてなお世界を救うための戦いに身を投じている。

 

この行いが悪だとしても、失われるべきでないものを救う。

計画のためにその身を削ることの尊さを、私はこの1年でずっと見てきた。

この計画は絶対に失敗することはできない。

 

私も、私にできる事をしたい。

 

 

 

調が壁に叩きつけた拳を、切歌が優しく包む。

その様子を、私はただ黙って見つめる事しかできなかった。

 

 

「それでも私たちは、私たちの正義とよろしくやっていくしかない。

 迷って振り返ったりする時間なんて、残されていないのだから。」

 

「マリア…」

 

 

全てを聞いていたマリアの言葉が、私の胸に深く突き刺さった。

 

 

 

そしてしばらく重い雰囲気の中シャワーを浴びていると

突然けたたましい警報の音が鳴り響いた。

 

 

「っ!警報!?」

 

「なんてタイミングデスか…!」

 

「行くよ、アーニャ」

 

「うん、調」

 

 

大きな揺れと共に鳴り響く警報、もしかすると襲撃があったのかもしれない。

シャワーを切り上げて、急ぎナスターシャ達を守らなくては。

 

 

 

 

 

「ナスターシャ!ウェル!」

 

「マム!さっきの警報は!?」

 

 

シャワールームと管制室はそれなりに距離がある。

1番に着いた私は、ナスターシャとウェルの無事を確認した。

それから少し遅れてマリア達もやってくる。

 

 

「次の花は未だつぼみ故、大切に扱いたいものです」

 

「心配してくれたのね、でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ、隔壁を下して食事を与えているから、じきに収まるはず…」

 

「ネフィリムが暴れたの?分かりにくいよ、ウェル」

 

「君が言えた事じゃないな」

 

 

入って早々ウェルが分かりにくい言い回しをする。

彼はたまによくわからないことを言う癖があるのだ。

 

ナスターシャ達の後ろにあるモニターでは、ネフィリムが聖遺物に近い素材を食べている。

対応措置も済んだと言うし、この振動もきっとすぐ収まるのだろう。

 

 

「今回はウェルが分か」

「んんっ。それよりも、そろそろ視察の時間では?」

 

 

分かりにくかった、そう言おうとしたところに言葉を被せてくる。

 

 

「ああ、こちらの心配は無用。留守番がてらにネフィリムの食料調達の算段でもしておきますよ。」

 

 

ウェルは飄々とした顔で心配は無いと言う。

 

 

「では、調と切歌を護衛に付けましょう」

 

 

しかし襲撃を危惧して二人を護衛に付けるとナスターシャが提案した。

たしかに二人のコンビネーションなら十分に対応可能だろう。

 

 

「アンチリンカーの兼ね合いもありますし…。

 護衛にはアンが適しているかもしれませんね。まぁ最も、戦力として数えるのではなく、あくまで時間稼ぎという意味ですが。

アメリカの追手の件もあります、戦力はそちらに集中させるべきでは?」

 

「一言余計だよウェル、あなたはそういう所が嫌われる。」

 

「……頼めますか、アン」

 

 

ナスターシャが真剣な目で、それでいて不安を抱えた目で私を見る。

そんなナスターシャの不安を払えるように、完璧に任務を遂行して信用されなくては。

 

 

「うん、ウェルは必ず守るよ」

 

「アーニャ!」

 

切歌と調が泣きそうな顔で私を掴み、マリアは不安を隠せないように見ている。

さらに不安を煽ってしまったようだ。それもこれも、私が不甲斐ないせいだ。

 

 

「私、一人でも役に立てるよ」

 

 

たった数時間離れるだけなのに、調と切歌は今生の別れのようにきつく抱きしめてくる。

だから私はウェルに何をされると思われているのか。

 

心配性の二人を抱きしめ返し、マリアには笑顔を向ける。

ナスターシャは不承不承納得したようにウェルに話しかけた。

 

 

「分かりました。予定時刻には帰投します。あとはよろしくお願いします。」

 

「ぐすっ…行って来るデスよアーニャ」

 

「すん…行ってきます」

 

 

なんで泣いてるの二人とも。

 

 

「くれぐれも気を付けてね、アーニャ」

 

「うん、分かったよマリア。行ってらっしゃい、私頑張るね」

 

今の私にできる事を、全力で頑張るのだ。

 




10/08 ルビの振り忘れ、前話までの会話における表記ミスを修正しました。
10/25 タイトルを変更しました。


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第7話 邂逅

ご覧いただきありがとうございます。
感想を頂くと嬉しくなってつい展開を言ってしまいそうになりますね。
ニコニコしながら全力で自重させていただきます。
形式的な返信になってしまうかもしれませんが感想や評価、お気に入り登録はとても嬉しく、励みになります。

描写が苦手で急ぎ足になってしまう場面もありますが、どうかお許しください。
他の方々が書く素晴らしい作品を見て勉強していく所存です。


時刻は12時を回り、夜の帳が下りる。

都会の明かりも落ちていき、私も普段なら床に入る頃合いだ。

 

私はウェルがくれたリンカーを弄びつつ、モニターを見つめる彼を見ていた。

モニターに映るのは病院の外。

入り口の門に設置してある監視カメラの映像だ。

 

 

「ねぇウェル。ナスターシャ達を作戦に送ったのって、今日襲撃があるって分かってたからでしょう?」

 

「分かったような口を利く…。」

 

 

彼の目的はアンチリンカーのテストだけではない。

おそらくはネフィリムの餌、シンフォギアとして起動している聖遺物の欠片を欲しているのだろう。

 

ウェルの考える事は単純だ。

彼はフロンティア計画を早急に進めたいらしい。

 

 

「日本の調査能力は本国のエージェントを上回る、向こうにはニンジャとかいう情報戦のプロがいるらしいしな。餌は撒いた、あとは獲物が引っかかるのを待つだけというわけだ。」

 

「なるほど…。ウェルはひねた方向に頭が良い、嫌がらせのプロだね。」

 

「二言余計だ。黙ってろガキンチョ。」

 

 

マリア達が出発して、早くも4時間が経過した。

帰投予定まで残り2時間ほど、それなのにウェルがモニターを見ているという事は、襲撃は間もなくなのではないだろうか。

性根は腐っているが、彼の予想は大体当たる。

 

 

「(本当にできるのかな)」

 

「あん?何か言ったか?」

 

「ううん、なんでも。ちょっと水を取りに行ってくるね」

 

 

いけない、緊張しているようだ。

失敗してはいけない。今夜の作戦で私が役に立てるという証明をしなければいけない。

そんな気持ちが過度に出てしまったのだろう。

 

ふぅ、と一息ついてウェルの冷蔵庫から彼お気に入りのジュースを拝借する。

ドクペとかいう炭酸だ。

彼がいつも嬉々として飲んでいるのだからきっと美味しいのだろう

 

 

「アン!」

 

「!?」

 

 

なにこの不思議な味(ばれたのかな)

 

恐る恐る振り向くと、ウェルは薄笑いを浮かべてモニターを見ていた。

 

 

「おもてなしの時間だ」

 

「そう。来たんだね、二課達が。」

 

 

緩みすぎた気持ちをリセットし、モニターを見据える。

 

邂逅の時はもう、目の前に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『装者達!適合係数低下!』

 

『このままでは戦闘を継続できません!』

 

 

病院内廊下。

先鋒のノイズは全滅したが、傍受した向こうの通信を聞く限り、アンチリンカーの効果は発揮できているようだ。

ギアの出力が落ち、正規の装者でもまともに動かせていない。

 

 

『アン、そちらの出力は下がってはいるものの規定値で安定。アンチリンカーの下でも動けるとは、どうなっているのかギアを分解してみたいものです。』

 

「いくらウェルでもエスクラピウスは触らせないよ。これだけなんだから、私を私たらしめる物は。」

 

『ふん、まぁいいでしょう。想定通りあちらのギアは機能不全一歩手前状態、活躍を期待していますよ』

 

 

気取ったウェルの喋り方は気持ち悪いが、今はそんなことを考えている場合じゃない。

私と私のエスクラピウスの晴れ舞台、期待通り活躍して見せる。

 

 

「行くよ、エスクラピウス」

 

 

バチリとギアから火花を散らして一直線に突撃する。

不意打ちでもいい、私の存在を認識される前に、杖の先端を立花響に抉りこむことだけを考えた先制だ。

 

全力で踏み込んだおかげか彼我の距離が一瞬で詰まる。

しかし

 

 

「!?伏せろ立花ッ!」

 

「えっ!?はいっ!」

 

 

風鳴翼に察知され、私の不意打ちは剣戟によって防がれた上、切り返してくる。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

不意打ちに反応された上に反撃されるとは思ってもいなかった。

一刀を受け、弾き返されるようにして廊下を滑る。

お互いに受けた傷は浅い。私はエスクラピウスの特性で傷を治しつつ3人の装者と向かい合った。

 

 

「あの娘!緒川さんが見たっていう…!」

 

「赤毛のシンフォギア装者…!」

 

 

バレている…。

会場内の監視カメラのせい?

だけど、私のギアの特性は露見してないはず!

 

 

「マリア達の悲願達成のため、ここで死んでもらいます」

 

 

杖を槍のように構え、再度駆ける。

不意打ちが通用しない今、マリア達が帰投するまで時間を稼ぐしかない。

時間を掛けるほどこちらに有利になるのは分かってる、だとしてもここで頭を潰せば!

 

 

「お姉ちゃん達…?待って!私たちは戦いたいわけじゃ!っぐぅ!」

 

「邪魔なの、計画の遂行にはあなたが!」

 

 

こちらの攻撃を防ぐだけで反撃をしてこない立花響。

 

 

「あのバカ!なんで反撃しねぇんだ!っ!?あぁぁぁ!!」

 

【BILLION MAIDEN】

 

 

雪音クリスのアームドギア、4つの砲門から放たれる弾丸の嵐、アンチリンカーが舞う中での大技はバックファイアで身が引き裂かれるような痛みを伴うだろう。

撃った後の悲鳴が痛々しい。

 

 

「うぅっ…!くっ…!おおおぉぉ!!」

 

 

私は避けない、避けてしまえばまた距離が空き隙を与えてしまう。

過去の実験から、どの程度の損傷までならギアで回復できるか分かっている。

ここで誰か一人でも潰してマリアの障害が減ることと、私が折れて障害を残すこと

どちらが最善かなど自明の理だ

 

 

「戦う気がないなら大人しく退場してギアを寄越しなさい!」

 

「それは…できないッ!この力は誰かを守る力なんだ!」

 

「戯れ言を!いっ!?」

 

【青の一閃】

 

 

立花響が応戦を開始すると同時に放たれた風鳴翼の斬撃、直撃した身体が宙に浮く。

 

 

「しまっ…!」

 

「ごめんっ!」

 

 

そこへ叩きつけられた重い衝撃、アームドギアを持たない立花響が唯一使うパイルバンカーだろう。

 

衝撃を逃がすこともできず、無様に廊下の端まで吹き飛ぶ。

ウェルがノイズの壁を作り衝撃を和らげてくれたようだけど、あまり効果はなさそうだ。

 

杖は砕け、ギアも機能不全、もう一度装備し直さなければ最低限の回復もできない状況まで追い詰められた。

 

 

「ごぼっ…ま…だ、まだ終わって…ない…!」

 

 

げほげほとせき込んだ私の喉からは、ごぼごぼと嫌な音が響き、せり上がる血反吐を地面に吐く。

視界が霞む、ギアが悲鳴を上げている。

 

 

「なんで…どうしてそこまで…!」

 

 

「立花…ひびき…風鳴翼…雪音…クリス、あなた達を倒せばマリア達が…喜んでくれる…げほっ…私は…私は役に立てるんだ…」

 

 

嫌だ、いやだ、ここで膝をつけばウェルが連れていかれる。

ナスターシャ、マリア、切歌、調、ウェル、皆の期待に応えるんだ。

私は失敗作じゃない、役に立たないガラクタじゃあない。

 

割れずに残っていたもう一本のリンカーを首に打ち込み、ふらつく足から徐々に回復を始める。

 

 

「もう少し付き合って…融合症例第一号…!」

 

「その必要はありませんよ」

 

 

ウェルの声がインカム越しではなく後ろから聞こえ

瞬間、私の横を黒い物体が駆けた。

 




1話の描写が完全にアニメを垂れ流しているだけなので、加筆及び修正を考えております。
1話で見限られてしまっては、アドバイス等いただく機会も減ってしまうと思うので頑張ります。


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