とある魔術の絶対値数(スカラオペレート) (Ωウエポン)
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六月中旬  Opening

 この作品は、忙しい筈なのに、無性にこの妄想を小説として書きたくなった作者の妄想力と、読んでくださると思われる皆様の感想やアドバイスを、

 原動力として御送りしています。   

 2010年 9月21日より執筆開始。




 

 学園都市。

 

 その総人口は230万人弱。そしてその約8割(184万人)は学生。

 東京都の未開発だった西部を切り開き、『記憶術』『暗記術』という名目で超能力研究、いわゆる『脳の開発』を行っている都市。開発以外の科学技術も最先端の技術を実験的に実用化・運用しているため、『外』よりも数十年分ぐらい文明が進んでいる。

 学園都市の研究者は学生達に能力の開発の為に人為的に脳に『ある種の障害』を起こさせ、通常の人間と違うズレた世界を想像し、掴みとる、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を発生させて『才能ある人間』に身体をつくりかえる。

 また能力者は学力・能力から以下の六段階の強度――『Level』に分けられる。

 

無能力者(Level0)

 開発できなかった者を示す。学生全体の約60%はこれに当てはまる。ほんの少しの例外を除いて……。

 

低能力者(Level1)

 多くの生徒がこの階級に属し、能力的にもスプーンを曲げる程度の力しかない。

 

異能力者(Level2)

 『Level1』とはほとんど変わりない能力。同じく日常ではあまり役には立たない。

 

強能力者(Level3)

 日常では便利だと感じる程度。能力的にはエリート扱いされ始めるレベル。

 

大能力者(Level4)

 軍隊において戦術的価値を得られる程の力。

 

超能力者(Level5)

 学園都市でも7人しかいない。一人で軍隊と対等に戦える程の力。

 

 

 また、『絶対能力(Level6)』なるモノにも到達可能だという。

 

 そしてその強度(レベル)が重要視されるのも、生徒達の生活費は奨学金や補助金がほとんどでありレベルによって額が変わるからでもある。

 

 仮にレベルが無し(0)だとしても一人暮らしをする上で困らない額は貰うことが出来る。

 基本的に学園都市は表向きには勉強をするための所なので、それに必要のない物品や嗜好品については税をかけても問題なし、という風潮があり、子供の好きそうなモノ(ゲームやマンガなど……)に課税されるのが暗黙の了解になっている。代わりに、寮の家賃や学食などが激安になるので結局プラマイゼロだったりする。

 激安の理由は大学や企業の試作品だからである。だが決して試作品が美味しいとは限らないので注意する必要がある。品物の表示には難しい言葉で誤魔化しているが、暗に『腹を下しても当社は一切の責任を負いません』と書いてあるモノもある。

 

 そして本作品はその学園都市にある、とある小高い丘の上に建っている、校舎の創り方、制服の種類、学力など、何から何までスタンダードで平凡過ぎるというのがぴったりの高校に通う1人の学生の物語である。

 

 の、だが……、

 あと1ヶ月で夏休みでもあり、まだ明けぬ梅雨のじめじめとした暑さの中、その学生である桐生正宗、現在十五歳は、厳つい顔をより厳つくした先生が目の前居るのにも気付かず……

 

 

 

「…………zzz……」

 

 授業中、気持ちよく寝ていたりする。

 

 

 

 ――――ぉぃ……き……り……ぅ……

 

(うーん……何か言ってる……? ……ってか俺は今、何をしてたんだ……っけ?)

 

 

 ――――ぃっま……ね……ぃ……だ……!

 

(ま、いいか、何か今すごく疲れがのいていくような感じがしてぇ……)

 

 

「いいかげん……。よだれたらしやがって……。起きろやボケェ!!」 

 

 

 ドスッと頭上から鈍い音と共に衝撃が駆け巡った。

 

 

「ごっ!!!? イッ……つッうゥゥ~……!!」

 

 やっと……頭をおさえながら涙目で正宗は目を覚ます。こんなにも簡単に男子を涙目になるのも、目前の先生が分厚い古典辞書の角で叩いたからで、そんな彼の頭にタンコブの様なモノがあるのはご愛嬌。

 

 

「んなっ!! 何すんだこの先公モドキーッ!! 生徒に暴力振りやがって! 組合に帰りやがれ!!」

 

「なぁにぃ~……キサマぁ、ワシの授業で寝るに飽きたらず、そんな戯れ言を吐くとは、イイ根性だな……」

 

 厳つい顔の先生は顔を引き釣らせ、額に青筋を出して、

 

 ドカッ! ……と居眠り少年に鉄拳制裁を食らわせた。

 二度目は垂直落下式、脳天目当てのゲンコツ。正直、叩かれた場所もタンコブの上からなのでこっちの方が痛かったりする。 

 ちなみに今は古文の授業であり、この古典先生の新井先生は見た目ヤクザ顔、高校時代はボクシング部所属という噂、頬には何故か切り込みのある怖そうな……ではなくマジ怖い先生だというのが周りの生徒からの感想。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 ……HRの前……

 

 

「はぁぁぁ~、まだ痛いし、マジ最悪だよ……」

「何言ってんだよ。寝てるし、あんなこと言ったんだから当然だろ?」

 

 机に突っ伏して嘆いている正宗にそう言ってくるのは後ろの席の上条当麻(かみじょう-とうま)

 デルタフォース(クラスの三バカ)の一角でツンツンした黒い頭髪で身長は正宗よりちょいと低め。寮では同じ階どうしでもある。

 

「当麻ぁ~、なんで起こしてくれないんだよー。しかもこのお痛い役目って普通ならお前のはずだろ?」

 

 後ろを振り向いて、不満顔でだらしない様な感じで言う。こういうお痛い役目が上条当麻だというのも、そんな彼が『かなりの不幸体質』だからだ。もちろん彼の口癖は『不幸だ……』でもあったりする。

 

「上条サンでもあの新井の授業はマジメに受けるよ。それに何度も起こそうと背中をつついたんだぜ。寧ろ感謝しろよなー」

 

 だがそのつついた手が右手であったことを正宗は知るよしもないし、上条当麻もまさかそんなことになるなど思いもしなかった。

 

「そのつど、体をビクッビクッって寝言言いながら反応してな。観てておもしろかったんやけどな~」

「にゃはは~。マサやんこそ新井の授業で寝ていることこそ悪いんだにゃー」

 

 残りのΔ(デルタ)のメンツである青い髪の毛こと青髪(あおがみ)ピアスと、金髪でサングラスをかけた土御門元春(つちみかど-もとはる)が言ってくる。

 二人は正宗の事を『マサやん』と呼んでいる。

 

 ちなみに土御門元春とも同じ寮の住人であり、彼共々よく行動するときは一緒な場合が多い。私服はどんな時にも下にアロハシャツを必ず着て、語尾に『にゃー』や『ぜよ』、『ぜい』を付けるが、別に高知県出身ではないらしい。ゲームの上手さは神級で崇めるほど。

 もう一人の方、青髪ピアスは身長180センチの長身、そして自称『関西人』。とある理由でパン屋に下宿している。クラスの学級委員(男)を勤めているが、無類の女の子好きで、好みの種類も豊富、下宿している理由とも関係しているらしい。同じ寮住まいではないが、やはり彼ともよく共に行動していたりする。

 

 「古典はどーも思考が停止するみたいでさ、昼過ぎというハンデもあってよ~……。つーか今さらだけど、なんであんな野郎なんだよ。古典の先生とかだったら普通は女の人だろ? まあ、望むならば若くてニーソ履いてたら俺はもうずっと起きていられるな」

 

「出たなニーソフェチ」

「別にそこは否定せん! ニーソこそが女の人をより美しく見せるんだ! そう言わば最強の――」と言いかけた時に机を ドンッ と叩く音が隣から響き、

 

「待つんだにゃぁーっ! 最強と言えばメイド服にロリキャラぜよ! このステータスはニーソよりは絶対に上だにゃー!!」

「んだと土御門! ニーソなめんなよコラ!」

「ロリには何も敵わない! 今宵は言わせてもらうぜいニーソ狂!」

「上等だい! このすっとこどっこいのロリータシスコンめぇー!!」

 

 そんなこんなんで二人はギャアギャア喚き、討論(ディベート)を開始した。

 

「おいおい、何を言ってるんだよお前ら……。あんまりうるさくしてるとまた吹寄さんに怒られるぞ」

 

 高校に入ってからはこの4人が馬鹿をやっていると言った方が早いだろう。その中では唯一ストッパーの役を引き受けているのが上条当麻で、とても頼もしい存在になりつつあった。

 

 

「――だけれども男の威信にかけて言わせてもらう。最強は寮の管理人さん風、気配りのできる年上で大人な女性だーっ!!!!」

 

 頼もしい存在になりつつ……火に油を注いで来た。

 

「はあー? 何を言うかと思えば、ようするに当麻は熟した女性が好きだと言うのかよ」

「ナニぃー!? カミやんは、カミやんは熟女好きだったのかにゃー!?」

 

 正宗の言葉で土御門は勘違いした。だが当麻は見渡すと土御門だけではない。クラス全員がこっちを向いていた。

 

「ちょっと待て、それは絶対ちがう……」

「ええやんカミや~ん、否定せんでもー。僕『も』熟女『も』大好きやでーっ!」

 

 正宗の言った言葉により、皆の勘違いから当麻=熟女好きの方程式がクラス全体に広がり、成り立とうとしていた。

 

「だから違う!! 管理人さんは絶対に二十代希望だからな!!」

「『熟女』の()()()が『妹』。そしてそれが『ニーソ』をはいているとなると……、ハァハァなシチュエーションやんカミやん」

「って聞けよーっ!! 変態にニーソ狂いにロリコン野郎!! クラスの皆さんも何勘違いし……え? KYBK(空気読めバカ)って俺が……あぁぁ不幸だー!!」

 

 こういった感じの会話が彼らの日常だった。今回も上条当麻は不幸というのだろう。弄られて変なレッテルを貼られるハメになるだろう。

 

 そんな好みの討論から上条当麻が熟女好きの話題で、その本人が弁解していて、他の男子も自分の好みをやんや、やんやと言い騒ぐ真っ最中、ガラッと教室の横引きドアが開いた。

 

「はーい、じゃあHR(ホームルーム)はじめるので早く席に着いて下さーい。こらーそこのいつもの4人組み! 静かにしないとー、また放課後“コロンブスの卵”ですよー」

 

 小萌先生が教室に入って来てそう言われると4人は音速の如くサッと席に戻る。いくらなんでも『コロンブスの卵』は嫌だった。

 『コロンブスの卵』とは、念動力(サイコキネシス)専攻の授業(カリキュラム)で、逆さにした生卵を何の支えもなく机の上に立たせるという訓練。念動力専攻の人間であっても相当手こずる難易度だ。それは念動力が逆に強すぎると卵を割ってしまうため。

 

 そして、月詠小萌(つくよみ-こもえ)先生は当麻・正宗・土御門・青ピの担任。

 学園都市の七不思議に指定されるほどの身長135センチ、外見12歳の幼女体型。下手したら園児服にしか見えないピンクの服と、ピンクの髪が特徴の人物。

 

 

 

 そしてHRが終わり4人で『帰り何処行くか~?』『ゲーセン行きて~』『腹へったー』と話ていた時。

 

 

「あ! 上条ちゃん、今日までの宿題が提出できてないのですー」

「え……、いや、あれは今朝方、遅刻しない様に必死で走っていたところ、カバンが何故か開いて、水溜まりに落として……」

「はいはい~。嘘八百の問答無用ですー。提出が出来ないのなら放課後補習ですよーっ」

 

 当麻は今朝本当に宿題を水溜まりに落としたのだが……キッパリと小萌先生に居残り宣告され、

 

「はぁ、不幸だぁ……」

 

 お決まりの文句で肩を落とす。これから完全下校時刻まで残されることだろう。

 

「ええやんええやん、小萌センセーとマンツーマンで補習なんやで。あ、でも羨ましい反面ムカつくかもしれへん」

「にっひひ~。当麻ドンマイ。すぐ終わるって。無事に帰ってこいよ」

「にゃー、カミやんの分も遊んどいてやるぜい」

 

 がっくりしている当麻の肩を各々がポンポンと叩いて慰めた。

 

 

「あ! それと桐生ちゃん」と、小萌先生がまた何か気が付いた様で正宗を呼び止める。

 

 

 

「新井先生がー、愛のお説教があるとか言っていたのでこの後職員室まで来てくださいですー」

 

 笑顔で小萌先生に言われたが、まったくもって嬉しくない通達であった。言われた本人は漠然と突っ立っていて、周りでは土御門元春と青髪ピアスが必死で笑いを堪えている。

 

「もっとドンマイ正宗! いやー上条さんにとってはいつも通りの不幸なんですがねー、どうしたもの」

「うるせーやい!」と、ムカついたので、適当に急所を狙って一発。

 

「ぐほっぁ――――!?!!」

 

 その後、職員室に行くと見せかけて正宗はダッシュで廊下、くつ箱を駆け抜け、校門を抜けようとしたのだが……

 何故か校門の前には新井先生が仁王立ちしていて、首根っこを掴まれ連れ戻されたのだった。そしてたっぷりと説教をくらい、古典の復習プリントをやらされた。

 

 今日の不幸が、当麻が右手でつついた時からはじまったのは言うまでもない。

 

 

 




 これからよろしくおねがいします。

 後書きには、小説内の専門用語の説明をできる限り書いていきます。書かれていないものは後々のストーリーに関係してたりするので、わざと書いていなかったりします。


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設定と説明 その1

 


 一応、主人公の設定と能力の説明は、長いので一話構成で書いておきます。


 

 

 

 

 

 スカラー (scalar) とは、()()()のみを持つ量、方向を持たず一つの数値だけで定義される量のことをいう。大きさと向きを持つベクトルに対比する概念である。

 物体が空間内を運動するときの速度が大きさと方向を含むベクトルであるのに対し、その絶対値(大きさ)である()()は方向を持たないスカラーである。

 

※上記は、説明を補うため旺○社の物理辞典より一部を抜粋。

 

 他にも距離、速さ、質量、エネルギー、温度、電荷、密度、面積、体積、時間、波長、()()()()()()()などはスカラー量であり、他にもスカラー量として扱われるモノは多い。

 

 

 

 主人公

 

 名前・桐生(キリュウ) 正宗(マサムネ)

 身長… 175cm

 体重… 65kg

 容貌

・頭は小さい。顔は目がパッチリとしていて、ある程度可愛らしい具合で整っている。

・パッと見た目では(チャラ)そうな感じに見えることも。

 髪型

・黒色。形は『デュラララ!!』の紀田正臣のような髪型。

 体格

・服を着ていると一般的男子体型。絞られている程度に筋肉質。

 

 性格

・いたって普通の学生。(……時々、少し暴走気味になる)

・基本生活の中では能力には頼らないというのが信条。

 その他

・能力を使わなくても喧嘩は強い。

・『iPod touch 』にカバーを着けていつも持ち歩いている。

 

 能力・『絶対値数(スカラオペレート)

 自身から今は半径10m以内の大きさや量を表す『スカラー』を発現、観測して変更することができる。

 しかし何も無い空間から『温度』を操って発火、『電荷』を物体、あるいは空間に付加させるのは時間がかかるので、いつも熱源となるガスライターや学園都市製の小型スタンガン(ライターと同サイズ)を持ち歩いている。

 『時間』らしきスカラーを操るのは、かなり高度な演算を必要とするため使えても10秒くらいである。

 本来、順当に成長しているのならば超能力者(Level5)クラスの研究対象になると研究者から予想されたが、今現在、彼自身の学力や過去の経験からそこまでには至らず、強能力者(Level3)としてほのぼのと生活している。

 だが小学生の頃、一度だけ大能力者(Level4)を記録し、段階が下がった一例としても有名である。

 

 






 これは一応、初期設定みたいなものです。これからの物語の中で主人公は成長していきます。説明にあるスカラーについて主人公は今はすべて扱える訳ではありません。


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遭遇 An_encounter_with.

 盆休みも今日までという……
 かつて載せていた分も全て投稿出来たらいいな……







 

 最終下校時刻を過ぎ、全ての公共交通機関が止まったので正宗は歩いて帰っていた。西の空にはまだ陽が射していたが道は建物の影などで暗闇が占める部分が多かった。

 

(あの先公マジで、あり得ねぇよ……)

 

 説教時間は軽く1時間を越え、そしてそのあと古典のプリント(×50枚)をやらされ……そうになったのだ。『終バスも電車も済んじまったじゃねぇか!』と抗議したら『居眠りしているお前が悪いんだ、歩いて帰れ!』と言われた始末。

 ケータイの時刻は現在19:00分を回っていた。

 

 がっくりと(うな)垂れながら確か冷蔵庫にはなーんにもなかったよな……と、そんなことを思い、帰り道のT字路にあるコンビニに行くことに決めた。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 入った時のお馴染みのアラームと同時に『いらっしゃいませ~』という女性店員の愛想良い声が聞こえてきた。

 

(お! 『密室×密室探偵』の続きが出てる!)

 

 と思って、それが連載されている週刊少年雑誌を取ろうとしたのだが、

 あとから入店して来たはずの常盤台中学の服を着た女子中学生に先にかっさらわれるようにレジに持っていかれ、その女の子とすれ違う時に勝ち誇ったような顔された。

 なんだよアイツ……と内心、腹がたったのが、取って買われた商品の所有権は女の子に移り、読むことは出来ない。……仕方なく他の雑誌を読むことにした。

 

「ん~……」

(この雑誌はこの前読んだし、他の週間雑誌も古いのばっかだな、ファミ通は~……、売り切れか)

 

 しかし色々と読み漁っていたが、これと言っておもしろいものはなかった。だが、

 

『恐怖! 学園都市の都市伝説 第二弾!』

 そんな本が最上段の隅に目立たない感じで置かれていた。

 

 だから変に目立っていたのだろう。少し気になりだせば止まらない。正宗は気がついたら手にとっていた。

 パラパラとめくって行くなかで、『虚数学区・五行機関の真相』、『脱ぎ女との遭遇体験記』、『幻想御手《レベルアッパー》』、『第三位の複製《クローン》疑惑』『多重能力者《デュアルスキル》』。とか何かしら確認できた。

 そのなかで目を惹いたのが、

 

『全ての能力が効かない逃亡者』

 

(……これって、当麻のことじゃねえか?)

 

 題名からしてそうだった。

上条当麻と共に出かける場合、その帰り道が主にだが彼は老若男女問わず人を助ける。

 それが何の巡り合わせなのか半分以上は女性。その中でも不良に絡まれた女の子を助ける際に相手がちょっとした能力者であって、能力を使って来たときは右手にのみ宿っているとされる幻想殺し(イマジンブレイカー)でそれを打ち消していた。

 ここまでならイイ話かもしれないが、そのあとが問題だった。

上条当麻は不良の人数が多かったりして途中で逃げに変更するのだ。

ではとばっちりを喰らった正宗はどうなるのか、

 

 もちろんイイ迷惑である。

 

 毒づきながらでも、そこは当麻と違って男としてのプライドなのか、一度『吹っ掛けた』からには逃げるよりも不良達を相手どっているのだ。

 だが正宗が不良を8割。当麻が約2割倒しても結局フラグがたつのは何故か当麻だった。

 

 そして先日、入学して1学期もたたないうちにクラスの女子のほとんどから好意を持たれ、一部フラグを建てた上条当麻少年に対して、正宗、青ピ、土御門の三人は、

 

『カタツムリ計画』を実行した。

 内容的にはカタツムリが大量に入った(ツボ)のなかに宙吊りにした当麻の頭をズボッ……と。

 

 あの時『不幸だ不幸だー!!』とツボの中で連呼していて三人で腹を抱えて大爆笑していたのはいい思い出でもある。

 

 変に思い出し笑いをした後、都市伝説の本を戻して自分の腹を満たせるような食べ物を選ぶことにした。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

『いら、……いらっしゃいませ~』

 しばらくして、他の客が入って来た様だった。さっきの愛想良く返事をしていた店員が少し躊躇した返事をしていた。

 少し気になったが、正宗からは見える位置ではなかった。

 

(……、俺には関係無いな。見たからと言っても店員が躊躇するくらいの厳つい人か不良なんだろうな。ちら見して「なにガンとばしてんだよコラ」とか言われて喧嘩になるのは、正直面倒だし……)

 滅多に無いことだが、かつて相手に(ケンカ)した相手ならそれどころでは済まない。もう一度吹き掛けられる。嫌な世の中だよな~と思いながらレジに向かった。

 

 途中、ガシャン……ガシャン……と、その客は何か飲み物を大量に買い物カゴに入れている様な音が聞こえた。

 レジからは遠い筈の飲み物を置く棚から聞こえてくる。音が響くという事は、缶ビールの様な薄い感じのアルミではない。量が少ないが、120円で売っているスチール缶のモノが乱暴に入れられている。

 

 正宗はレジを終えてコンビニを出ようとしたがやっぱり気になった。

 

(何をそんなに買っ、て…………)

 

 正宗は少し見るだけだったが、見た瞬間コンビニのドアの前で立止まってしまった。

 あの時、あの頃、あれから幾つもの年を越してきたが。

 この学園都市で初めての『友達』という存在だった……。

 だが、それは突然に別の学校。『虚数研』に転校してしまった。

 

 

 それは忘れもしない。

 

 あの頃の、髪のままの。

 

 ()()()がいた。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 ……side ? ……

 

「なァーンなンですかねェーこの扱いわァ。変更するなら車ぐらい回せよな」

 

 彼は少し苛立っていた。

 彼がうけている実験場が急遽別の場所に変わったのだった。

 

 別に実験の内容が変わるわけではない、内容は全て世界一の演算能力を持つ

 超高度並列演算処理器(アブソリュートシミュレーター)――樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)によって決められる

 

 彼の実験は2万通りのパターンによって進められている。

 最初の9802通りは研究所でも運用可能であるが、残りの10198通りは屋外で行うしかなかった。

 しかも屋外は()()()()()()()()()1()()()()()()というのが必須条件、そして限界であり、屋内の実験が終わったあと屋外実験を始めると何年もかかってしまう計算になる。だから同時進行で昼は研究所で、夜は屋外で実験をしている。

 しかしながら、その()()()()()()()にあう実験の場所というのも都合よくこの学園都市にあるわけでもなく、決められたシナリオにより近い環境、条件にするために場所の変更も少なからずあった。

 

 この実験と称される殺し合い……いや、彼による一方的な殺戮と言った方がいいだろう。

 

 何人になるだろうか、と、ふと彼は考えた。

 彼は今この『絶対能力進化(level.6 shift)計画』で、クローンではあるが自分より2つ下であろう少女、そして過去に行われた別の研究での実験では学園都市に捨てられた子供達(チャイルドエラー)を。

 

 最初は直ぐに終わる。

 少ない犠牲で済む。

 誰もが敵わないと覚る『絶対的能力者(LEVEL.6)』になれば、誰も傷つかないようになる。

 

そう思っていた。それを望んでいた。

 けど……、気付いた時には、

 

1万人を超えるほど、ヒトを殺していた。

 

 しかし……、自分の意思では、もはや、止めることが出来なかった。

 今、これを止めたら、これまで殺してきた『ヒトの命』は無駄になり、自分は何をしてきたのかを問うようになると思った。

 

 

(いや、よく考えると、そう多く殺したことにならねェな……)

 

 今、『絶対能力進化計画』で扱われているクローンは自分の意志を二の次として任務を最優先にしてくる。

 例えその先に、死が待ち構えていようとも……。

 

 

 そう、それはまるで……

 

 

 ……まるで機械だな

 

 

 

 そう結論づける、いや、結論付けるしかなかった。

 

 (だが……、もしも……)

 

 もしも誤作動で、それよりも自分の意志で彼女たちが

 

 助けを求めてきたら?

 

 痛いと叫んで来たら? 痛みで泣いていたら?

 

 その時、……自分は?

 

 どうするのか? どうすればいいのか、

 

 そして、自分の意志を優先した彼女達を()として認めてしまったら、

 

 

 

 この手を……

 

 

 

「ったく……、俺は何を考えてンだろォな……」

 

(もしそれで計画を止めたら、アイツらだって路頭に迷って……、最悪の場合は廃棄処分ってところじゃァねェか)

 

 そうなるのなら……、一番効率が良いのは今のやり方だと、

 自問自答でこの問題を終わらせることにしたのだった。

 そうだな、と息をゆっくり吸い込んでから

 

 (コーヒーでも買って行くか……)

 

 頭の中で出てきたこの問題、わずかに残る心の中の葛藤を、一度リセットするために、近くのコンビニに入って行った。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

『いら……、いらっしゃいませ~』

 その声は明らかに自分の姿を見て躊躇した声だった。

 

 だが彼は慣れていた。 髪の色素は無くなって真っ白、瞳は燃えるような赤色、体は能力のせいでホルモンバランスが崩れて男か女か分からないような感じになっている。

 

 自分の姿を初めて見て躊躇しない人何て居なかった。

 

 

(いても身の程を知らねェ挑戦者(ザコ)か……。もしくはアイツぐらいだったな)

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 ――――8年前――――

 

 始めて会ったのは、最初の実験。

 たったの10人だが自分と同い年、または少し年上の能力者との実験という名の()()()()

 その第一実験の相手が、

 アイツだった。

 

 あの時、もしかしたら始めての実験という理由もあったのかもしれないが、自分の能力が通用しなかった。

 いくら掴みかかろうが、物を飛ばしぶつけようが、アイツは平然として立っていた。

 

 

 そのまま実験は中止。

 始めの1人からすら倒す事は出来なかった。

 研究者も慌ただしかった……。

 

 

 その次の日、またアイツに会った。

 

 

「おー! ねぇねぇそのかみのけってどうすればなれるの?」

 

 

 そんなことをほざいてきた。自分は日本語の文法事項には自信が無かった。だが、同い年に見えるがしゃべり方はどことなく自分より幼稚的だった。いや、自分が違いすぎるだけか……。

 

 

「はァ? お前は俺のこと怖くねェのかよ。第一に昨日、俺はお前を殺そォとしたのによ」

 

「? ……ほんとに?」

 

「今更、何言ってンだコイツ。……お前さ、研究の内容知らねェのか?」

「うん、まったく。たぶんみんなしらないとおもうよぉ……」

 

「はァ? ったァくよォ……、余計にやりにくくなったわ」

「でもさ、もしホントに、そうだったとしても、キミのかお、なんだか……

 

 

 

 ないていたよね?

 

 

 

 

 

 

 

「……………………、」

 

 ガシャン……、ガシャンと、彼は棚から缶コーヒーを取り出すのをただただ繰り返していた。

 

 その実験の後もアイツとは話をしたし、冗談を言えるような仲になった。

 

 そして夢を話した。

 自分の目的(ユメ)を。

 それが、案にこれ以上人を傷つけたくない、ということを……。

 

 そうすると、相手も、自分の置かれた状況をわかってくれた。相手は自分よりも幼稚そうだったが話しているとそうでもなかった。相手も今ある夢を話してくれた。だから、相手を理解しようともした。

たった一年間だけだったが、自分は充実していたと今になってそう思える。

 

 そんな、そんな楽しかったアイツはもういない。

 

 アイツと共に9歳まで過ごした『特例能力者多重調整技術研究所(特力研)』は、傍から見れば地獄の様なところだった。アイツが受けた実験は、自分より酷いものだったのかもしれない。薬を投与で意識を失くした後、心電図、脳波を測るための電極を張られた状態だけで水槽、氷の中、真空管に押し込められ、生き続けられるか試されていた。

 会話もできない日も多くあった。

 

 別れは突然で、自分は他の研究機関に連れてこられた。お別れを言う時間など与えてくれという時間もなかった。

 

 彼もまた実験の犠牲になったのだろうか? そうでなければ、……。

 

(アイツは……)

 

 

 

 

 昔の、唯一社交できた人物との出会いを思い返しながらカゴの中に大量の缶コーヒーの『BLACK無糖』を入れていた。

 

(なンだかなァ……、これも飽きてきたな……)

 

 それまでスーパーやコンビニで使用されるプラスチックで出来たカゴの中に何本も入れていたのに、ふと、その真っ黒なパッケージに白文字表示の缶コーヒーを見る。

 今買おうとしているのも今年の4月あたりから飲んでいた。

 

 約2ヶ月。

 それが好きな飲み物であるならば普通は飽きるのには早いかもしれない。

 

 しかし彼は1日に何十本と飲むのだ。これは決して短いというよりも彼にとって長かった方である。

 そして棚にある最後の1本を取ろうとした時、

 

 トントン……と背中を叩かれた。

 

 いや、触れられたと言ったほうがいいだろう。人間が感づく程の運動エネルギーで、だからこそだった。

 

 驚愕した。

 自身の能力は常時作動している。デフォルト設定で無意識でもあらゆる運動量・熱量・電気量などのあらゆる『向き(ベクトル)』を『反射』するようにしている。

 それは不意に『核弾頭』を頭上から撃たれても生きて居られるとさえ言われた。

 だから彼に関わろうとするなら『触れる』よりも『話す』しか方法がないはずだった。

 

 だがもっと彼は驚くのだった。自分の『反射』が効かなかったことよりも

 

「よぉ、そんな髪の毛とか染めたりしないのか?」

 

 彼は目を擦った。

 それでも彼の目には、そこには信じられない(モノ)が映っていた。

 

 だからまず彼は他の能力者がイタズラで幻覚でも魅せているのかと考えた。

 そんなことをして自分に向かって来る輩は叩き潰して来た、容赦なく。

 10歳の頃にアノような事が起きてからは……。

 

 だけれども、すぐに否定した。 自分とアイツの接点を知っている者は極僅か。そして、いくら幻覚でも自分の『反射』の壁を抜けて触れる事は不可能。

 

 だとしたら……?

 

「あれ? もしかして忘れちまった? 俺だよっオレ! 一方通行(アクセラレータ)さん。よっ」

 

 久しぶり、と声変わりはして、いくらか背が自分より高くなってはいたが、

 それでも何処か懐かしさで、

 色々と忘れていって、色々と捨てていった感覚をまた、

 

(オイオィ……、いくらなンでも、化けて出てきたンじゃァねェだろォなァ……コイツ)

 

 思い出していく感じがした。

 

 

 




『特例能力者多重調整技術研究所』
・多重能力者の技術研究施設で、多くの子供を使い、実験を行っていた。のちにこの施設で多重能力の不可能性が示された。現在では解体されている模様。


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夢 One's_aim_in_life.








 

 

 

 ありがとうごさいましたー……と、一応コンビニの店員からの言葉を聞きながら二人は店を出た。

 一方通行が大量に缶コーヒーをレジに持って行ったとき店員は顔を引きつっていて、一方通行は表情を変えることなく、正宗は苦笑い半分、愛想笑い半分で会計を済ませた。

 そして正宗は寮に、一方通行は何処かへ、今は共に同じ歩道を歩いていた。

 

「オイ、まだ信じられねェンだが。俺は変な夢でも見てンのか? 隣に付いてンのは幽霊じゃァねェだろォな?」

 

「人聞き悪いな。何なら触ってみるか?」

 

「……いや触っただけじゃァわかンねェ。血もあンのか確かめてみるわ」

 

 そう言ってニタァと笑って手を伸ばしてくるのは端から見てかなり怖い。一種のホラーだ。

 

「わ、わ、わーっ! やめてくれよ! あの頃のように無意識に防御なんて出来ないから!」

 

 腕を交差しバッテンにするようにして慌てて“彼の前では無意味だが防ごうとする”。もちろんだが相手も冗談だ。

 

 8年前の出会った実験、一方通行が触れても正宗が傷つかなかったのは、特力研で数々の実験という名目の『戦闘』を無意識に正宗は自己防衛反応として全ての攻撃に関係される質量、温度、電荷、速さを無効化していた。彼の血液逆流に対して当事は無意識にだが『スカラー』を用いて、手の動く速さを止めて触れることさえ許さない絶対の守り。しかし、この自己防衛反応は過剰過ぎて、任意以外のモノは触れられなかった。

 だが、その頃の正宗は防御なら一方通行と並ぶ程であったが、肝心のスカラーを使う攻撃はまったく扱えなかった。

 任意だと『温度』の変更は時間が半日掛かって出してもマッチより小さい火が出るくらい。『電荷』も静電気なみ。『質量』もせいぜい2kgの変更が限界範囲。『時間』や『エネルギー』など使えもしなかった。

 だから実験における戦闘では相手も自分も死なない。

 

 それでも付けられたのが、強能力者(Level3)――『絶対値数(スカラオペレート)』だった。

 

「だったらなンで生きてンだ? そこならお前程のヤツを研究して『LEVEL5』に上げるか、実験で狂い死ぬかだろ?」

 

 缶コーヒー片手に一方通行はそれを飲みながら正宗に聞いくる。辺りはすっかり暗くなっていたが大通りで通行人もちらほらいた。その通行人のほとんどが最終下校時刻を過ぎても町を徘徊する不良でもある。

 

「居なくなっていた親が現れたんだよ。お前が居なくなったあと直ぐにな……、親権があるのを示して学費を払って去ってったよ……」

 

 大体の実験では被験者側と実験台がある。

 実験台は主に『置き去り(チャイルドエラー)』であるのは親がいないからだ。

 だが正宗は9歳の時に親が現れたので実験から外すしかなかった。

 またいくら実験における戦闘を正宗が重ねても相手は死ぬこともなく、かと言って正宗も殺られなかった。中々成果は上がらず、研究者も他の研究に目を向けるようになったので手放していった。無論、策を施して。

 

 

「今もまだ……、虚数研だったっけ? そこに居んの?」

 

「……イヤ、今は別の所だ。対して代わり映えもしねェが、昔と比べて、このくらいの歳になると研究者が下手に媚び売って出てくるからなァ、まだマシだ……」

 

 そう言ってカパッと一方通行は缶コーヒーの封を開ける。

 

「つゥーかよォ、お前こそどォなんだ? 制服は着てるみてェだが、普通の学校行って、目的(ユメ)は叶ってンのか?」

 

「まぁ少なくとも、今は叶えられてるよ。はじめは大変だったけどな……」

 

「……そォか」

 

 正宗の夢は普通の学生生活を過ごしたいという素朴な夢だった。

 当事の特力研で過ごし見ていた正宗には()()()学生生活というのが輝かしく見えていた。

 

「さっきの続きだけど、だったら今はどこに在学してんの?」

 正宗は一方通行が言いそびれたのか、話がそれたのか、ちょっと聞いてみることにした。

 

「ア? 今は絶…………いや、名目上は長点上機学園だ」

 

 長点上機学園(ちょうてんじょうきがくえん)

 能力開発において学園都市ナンバー1を誇る高校。第一八学区にある。昨年の『大覇星祭(だいはせいさい)』の優勝校。

 

「はぁ? お前マジで? どんだけ賢いの?」

「……テメェ忘れてねェか? 俺はこの学園都市の第一位なンだぜ?」

 

 ちょっと自慢気に言ってきた一方通行。

 

「ヘーエー ケッ ソレハスゴイデスネー オメデトー」

 正宗はムカついたのでちょっと皮肉を込めて言ってみた。

 

「……………………、」

 一方通行は恐い顔をして、手を伸ばしてくる。

 

「うわ、ごめんなさいごめんなさい。まだ死にたくないです」

 

 急いで、というか半泣き顔みたいにして謝る正宗。

 

「はァ~。……オイ」

「なに?」

 

 さっきの事はまるで無かったかの様に正宗が返事を直ぐに返して来たので、切り替え早いなァと言って呆れる一方通行。

 

「オマエは……、(こっち)に上がろうとは思わねェのか?」

 

「俺の強度(レベル)は3だぜ? ムリムリ」

 

「そりゃァ本気でやっての結果か?」

 

「……違うけど……、いいんだ別に。このままのほうが、さ」

 

 最後は苦笑いしながら言っていた。上がったら上がったで、今の生活――『夢』が崩れてしまうと思った。

 

「つーかお前痩せすぎじゃね? 8年前のほうがまだ可愛げがあったし、体格もあったと思うんだけど」

 

「仕方ねェだろ。能力のせいでホルモンバランスが崩れちまったンだからよ」

 

「そんなの言い訳にしか聞こえない。もっとこうなんか、肉とか食べろよ。あとコーヒーばっか飲んでると身長伸びないって」

 

「ハァ? 余計なオセワだっツゥーの。……それによォ、肉ならファミレスで毎回ステーキ食ってる」

 

「じゃあ運動しろよ、運動!」とか正宗が言うのに一方通行は無視して隣でコーヒーをごくごく飲む。これで買ってから5本目。

 

「ったく……。んで? 彼女とかは~?」

 ちょっと話しを、青いね~という感じに変えて、変な目で一方通行を見る。

 

「ブッ!! ゲホッゴホッ……、ハァ!? いきなり意味わかんねーわ、居るわけねェーだろ」

 

 突然のことに一方通行はちょっとムセ動揺し、この反応にしてやったりと正宗は笑みを浮かべた。

 

「えー、見てくれは良いし、ファッションセンスあるのに」

 

「見てくれは良い……って、お前ぐれェしか言わねェよ」

 

「そんなことねーって。目付きは悪いし、見た目モヤシみたいだけど……。ってションボリすんなよ、ゴメン! ゴメンって、自信持てよ!」

 

「クソッ……。その要らねェ事を言うのも昔っから変わンねェな」

 

「へっへー、生憎だけど変わる気はしないから。……おぉ! そういやそのズボン。ベルト付きの……」

 

「あァ、もちろんブランドもンだ。学園都市のな」

 

「やっぱり、どっかの雑誌で見たことあると思った」

 

 

 

 そうこうして話していると後の方はブランドだとかブレンドだとか、コーヒーはミルクと砂糖たっぷりが美味いだとか、この邪道がァ! ……だとか、話が尽きることは無かった。

 

 そして、とある曲がり角に来て道が交差点となっていた。

 

「俺はァ、こっちだ」

 

「おぅ、じゃあな。また話そうぜ」

 

「あァ……、またな」

 

 そう言って二人は別の道を歩いていった。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 ……side 一方通行……

 

 

 白い少年、一方通行は実験場である場所に向かっていた。

 今日の『シナリオ』の設定は『入り組んだ建物の内部における戦闘』らしい。

 実際に見た感想は、不気味に真っ黒なほど暗く、スキルアウトも居ない。またはそんな輩ですら近寄らないような通路を進み、ある金属製品加工場だったらしい建物の中に入る。

 

 サビれた機械、割れた窓ガラス、ホコリを被ったベルトコンベア、天井から虚しくぶら下がったクレーン。

 もう二度と使われることはないだろう。

 

 

「来ましたか、とミサカは言います」

 

 そう話しかけてきた少女は建物の階段の中腹で立っていた。

 

「……お前が今回の人形(ターゲット)で構わねェンだな?」

 

「はい。ミサカの検体番号(シリアルナンバー)は9479号です、とミサカは返答します」

 

 

 

 

(そう……コイツらは()()だ……)

 

 

 

 そう思ってしまったのもコンビニに行く前に考えていたことである。

 実験が始まる前に考えていた

 

 

 コイツらは自分の意志が無い……

 

 コイツらは人のカラダの中から産まれて来ていない……

 コイツらは人ではない……

 コイツらは死んでも誰も悲しまない……

 

 そう自分のなかで言い聞かせ、確認していた。

 自分は人を殺しているわけじゃない。

 殺っているのは人間の形をした道具(モルモット)だ、と……。

 

 

 

 

 時刻は19:57。

 

 

「実験開始まで丁度残り3分です、とミサカは事務的に告げます」

 

 だが、もう一つ気がかりな事があった。

 一方通行はアイツの本質に昔から気がついていた。

 

 

 

「……オイ」

 

「? はい、何でしょうか、とミサカは珍しく貴方が話し掛けるので応答します」

 

 そう言ってくる少女は人間らしさというのだろうか、感情が込められた顔をしていなかった。口からは珍しくと言っておきながら少しも、驚きもしていない表情だった。

 

「もしも……()()()()いたら、この実験とやらはどうなるンだ?」

 

 飲み終えた缶コーヒーを縦にグシャリと潰してから聞いた。

 だが言った瞬間に、これは言葉の誤りだと思った。最強が二人、言い換えると『最も強い能力者が二人居る』というのは有り得ないのだ。

 

「……、そうなれば矛盾が生じ、再計算に至ると思います、とミサカは自分なりの予測を踏まえて答えます」

 

 

(――そォか……、矛盾か…………)

 

 

「ですが、何故その様な質問をするのですか、とミサカはあと数秒で実験開始ですが、逆に質問してみます」

 

 少女はそう言いながらも、軍用の精密ゴーグルを付け、アサルトライフル――――F2000R『オモチャの兵隊(トイソルジャー)』を脇に挟み、直ぐにでも少年を殺せる姿勢を取る。

 

 

 

「……そうだなァ――――」

 

 だが、そんなことも気にも止めず、薄く笑いながら、白濁した最強は質問に答える。

 

 

「――盾と矛が、――」

 

 語りながら、その意味を考える。果たして自分はどちらなのか、を……。

 そして、それは決して交じり遭うことはないことも。

 

 

「――出会っただけだ……」

 

 少女は、そうですか、と言い、最後の会話が終わる。

 

 

 

「午後20時00分」

 

 相手は無表情で、機械的に、事務的に伝える。

 

 

「これより第9474次実験を開始します」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 ……side 正宗……

 

 

「ヒャ~~~ッックション!! グス……」

 

(誰か俺の噂してるんじゃね?)

 

 鼻を擦りながら少し機嫌良く、正宗はそう思った。

 まだそこまでいう年齢ではないが、古い友人にばったり会えたことは嬉しかった。

 正宗は一方通行と別れたあと、もう遅いが夕食である弁当とカップ麺、ジュースと食後の楽しみのプリンなどが入ったコンビニ袋を下げて人通りの少ない道を歩いていた。

 

 

 

 

(? ……あれって……)

 

 また曲がり角を曲がって歩いて行くと……、

 

 その道の少し先の方を見たら自動販売機の前の明るくなった辺りで1人の女の子が5~6人の不良に囲まれていた。

 

 その女の子は飲んでいただろうヤシの実サイダー銘柄の缶を片手に、コンビニ袋を持って、腕組みして自動販売機にもたれて立っていた。

 

 

(あれ? でも、服を見る限りは……()()()か、あそこの在籍なら最低でも強能力者のはずだよな……)

 

 第7学区には、常盤台中学という中学校がある。

 正宗の学校と比べても、中学校として見ても、生徒数は200人弱であり、人数で言えば小規模だ。

 

 だがこの学校、学園都市の中でも五指に入る名門校であり、同時に世界有数のお嬢様学校。超能力者(Level5)が2名、大能力者(Level4)が47名、それ以外の生徒は強能力者(Level3)。小規模ながらも女性能力者の精鋭(エリート)中の精鋭(バケモノ)が集まる。習う事柄は大学の講義と同じレベルであり、在学条件の一つに強能力者以上である事が含まれているとんでもない学校だ。

 

 そう、すなわち能力の強能力者ともなると、低能力者や異能力者と違ってかなり強力になる。

 だからこそ、こう思った。

 

(きっと透視能力とかだったりして、戦闘系の能力じゃないのかも……)

 

 そんな思想が出てくるのも、当麻と一緒に行動することが多かったため、そんな癖が付いていたと言ったほうが良いのかもしれない。

 

 だがそんな思想によって、ここから正宗の夢が大きく崩れ始めていくのだった。

 

 

 

 



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電撃使い Electro_master.










 正宗は女の子を助けに向かっていた。

 しかし、いきなり殴りかかるのもどうかと思った。

 もしも警備員(アンチスキル)に万が一捕まった時に『向こうから殴りかかって来たので正当防衛です』と言い訳が出来るように先ずは口喧嘩でやろうと考えついた。

 

 

「……おい、あんたら、みっともないぞ!」

 そう言うと不良は、あ? とか言いながら詰め寄ってきた。

 

 

「なんだお前?」

 

 体格のいいリーダー格であろう男がより正宗に近づいてきた。

 

「オゥオゥ一人で来て説教か? ガキはとっとと帰りやがれ!」

 

「はぁ? 恥ずかしくねぇのかよ、だいたい………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 口喧嘩をすること三分後。

 

 プチッン……と背後から

 

(? ……なーんか今キレるような音がしたような……)

 

 そう思った次の瞬間からその女の子から蒼い電光が轟き、まばゆい光と共に目の前の不良の『ギャアアアァァ……』という断末魔が聞こえた。

 

 

 数秒後、女の子からの電撃の放出が終わった……。辺りではプスプスという何かしら焦げた音が聞こえる。

 

「ふぅ…………、で? なんで()()()立ってられんのよ」

 

 目の前の女の子は不機嫌そうに言った。

 

 え? と正宗は横を見るとさっきまで口喧嘩していた男も立っていた。そんな男は気持悪い笑みを浮かべると

 

「そんくらいの電撃じゃ俺はくらわねえよ。長いことスキャンは受けてねぇが、レベル3か4はあるだろーよ」

 

 確かに男は無傷だった。

 正宗は電荷のスカラーを操って難を逃れたが、電撃に気がつくのが少し遅かったので少しばかり痛みを感じた。

 しかし痛みの大きさ(方向を持たないためスカラーである)を操って痛くないようにした。

 

 彼は温度や電荷を上げて何も無い空間から炎や電気を出すのは時間がかかるが、下げるのならば一瞬にして無害の値(温度なら0℃に)にすることができる。

 だが温度や電荷を負の値(マイナス)にするのも、上げる時と同じくらい時間がかかった。

 

 

 「少しは口脅しで何とかなると思ってたんだがな。まぁいい、女はあとだ……、先ずはそこのガキ!」

 

 そう言われて男の方を向いた瞬間に、持っていたコンビニ袋が何かによって吹き飛ばされた。

 

 

「俺は磁界を操ることが出来る……。今見せたのが『電磁投射砲(コイルガン)』さ。弾は乾電池、早さは銃弾並だ。まぁ、まだ本気じゃねえけどよ」

 

 正宗はうつむいてぐしゃぐしゃになったコンビニ袋の中身を見ていた……。

 

「どおした? うつむいてよぉ~、あぁそうか、ビビったのか! ギャハハハハー」

 

 

(買ったプリン……楽しみにしてたのにな……)

 

 男の想いとは裏腹にカップに貫通して変わり果てたプリンを見ていた。

 

「全裸になって土下座したら許してやるよ。それとも乾電池(こっち)で体に穴開けられたいか?」

 

 男は乾電池を見せびらかせながら言った。

 

 

「………………、ざけんな」

 

 正宗は小さく呟き。ポケットからあるモノを取り出す。

 

「何だぁ? そのライターは?」

 

 そう、正宗はいつも学生ズボンのポケット持っているガスライターに火を付け、それを男に少しずらして向けた。

 

「ハァ? んなもんでやり合おうってか? 馬鹿じゃねーの? 笑えない冗だ……、っ!!!?」

 

 刹那ガスライターから出ていた蒼い火(ガスバーナー)は一瞬にして長く大きな業火になり、男の横を通り過ぎ、道のアスファルトを轟音と共に破壊していった。

 

 ガスライター。もとよりそのガスバーナーの外炎は最大、高くて1800℃もある、普通はアスファルトなど溶かしはしないが、正宗は火の『温度』を高くし、『体積』を変更した。

 

「ひっ、わぁ……ぁぁ…………」

 

 アスファルトはまるで抉り削られた様に高温の炎によって溶かされ破壊され、それを見た男はさっきの威勢もなくなり尻込みしていた。

 

 人が本当に怒った時、逆に冷静になる。そして、食べ物の恨みは怖い。

 

「……どーかしたか? 一々ちびった様な顔して?」

 

「ッ……!」

 

「あーそっかそっかぁ……そうだよね。テメェが全裸で土下座したら許してやる。――それともなにかぁ? あのプリンのように()しゃ()()しゃ()になりてぇのか、ア゛ァ?」

 

 ガスライターを手の内でポンポンと投げ、男が言った事をそのまま返して言った。正宗は自分の顔を見ることはできないが、目は刈り取る、刃物を連想させる。

 

「う……うわぁぁぁぁ!!」

 

 男は駆け出し、逃げようとしていた。しかし、ガッ! 「!!!? どふぅへぇ!」……転けた。

 

 あの女の子が男に向かって足を掛けたのだった。

 

「待ちなさいよ!」

 

「うるせぇよクソガキ! あんな化け物に殺されてたまるかよ!」

 

 怒鳴る女の子にそう言って男は彼女に向かってコイルガンを放った。

 

「! あぶ……ね……」

 

 ちゃんと言えなかったのは決して彼女に当たっていたからではない。コイルガンの弾である乾電池が男と彼女の間で止まっていたからである。

 な……!? と男は倒れたまま驚いていた。

 

「一応言っとくけど、磁界を操れるのはアンタだけじゃない。コイルガン程度なら私だって撃てるし、ほかの電撃使い(エレクトロマスター)だって出来るわよ。それに見る限りあんたの能力はせいぜいレベル2、良くて3……レベル4なんてまだまだ先よ」

 

 そう言いながら彼女は男に近づいていく。

 

「それで……、アンタも電撃使いの端くれなら。――『常盤台の超電磁砲(レールガン)』の名前くらい知っているわよね?」

 

 倒れたままの男を見下し、女の子は冷ややかな目線を送りながら言った。

 

「お、お前……まさか……そんな……」

 そう言って男は口をパクパクさせてより驚いていた。

 

「その、まさかよ。それにあの電撃だって、本気の……、半分の半分も出してないっ!!」

 

 中学生の少女が言い終わると同時にドッッ!! と、例えるなら空気が割れる様な音が響き渡り、男に向かって雷の如く、一撃が降された。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「……何だよ、十分な攻撃能力あるじゃんか」

 

 とんでもない電撃が終わった後に正宗が言った。

 

(もっとよく考えたらよかった……)

 

「フンッ、私を誰だと思ってんのよ?」

 

 そう言って彼女は腰に手をやって、ヤレヤレといった感じで正宗に言ってくる。

 

 

(なぜ不良に絡まれても抵抗していなかったのか……要するに抵抗できなかったんじゃない……)

 

「この学園都市に7人しかいない、超能力者《レベル5》なのよ?」

 

(余裕ぶっこいて……、足下にも及ばないってことか)

 

 

 はぁ……、と、めんどくさそうに溜め息を吐いて、

 

「最初っからそれを使えばよかったじゃんかー……」

 

「あーんなザコに初めっから使っちゃ可愛そうでしょ? そこんとこは強引に手を掴んできたり、襲って来たりした時には、ああしたと思うけど?」

 

 実際に先ほどの電撃をくらった男は丸焦げになっていて可愛そうなくらいだった。それでも、たぶん使っていただろうな、と思う正宗だった。

 

「あのな~、『超電磁砲だ』って言ってわかったら連中も逃げて行くだろ?」

 

「そりゃまぁ、そうだけど……」

 

 言ったら言ったで、その瞬間からあいつらが引き下がると思う? と彼女は答えた。結局、あの不良はあの様にされてしまうのが運命だったのかもしれない。

 

「それよりあんた、さっきの青い炎……どうやって出したのよ?」

 

 なぜ女の子は『発火能力者?』と聞かなかったのか? それをいうと、普通の発火能力者が出す炎は赤色であるのに対して蒼色だった。これは空気調節の能力が必要である。だから不思議に思って聞いたのだ。

 

「ただ単に火を大きくしただけだよ」

 

 そう、空気調節とかは必要ない。ただ大きくすること、『体積』を変更するだけだった。

 

「そんなこと……」

 

 女の子は信じられない様子だった。学園都市は広くても蒼炎を出す能力者は居ないはずだと。仮にも鉄を溶かす程の蒼い炎を使うとなると……

 

 

「何はともあれ解決したんだから、俺は帰るよ」

 

そう言って彼女の前を通り過ぎて寮に帰ろうとする。

 

「ちょっと! 待ちなさ……こら!! 勝手に行くな! 私の話はまだ終わってない!!」

 

 叫び声をあげながら正宗が行く方向に彼女は立ち塞がってきた。

 

「あんたさっきは口喧嘩の時に私の事を『子供』だの『餓鬼』だの『中身はまだ小学生で幼稚』だの『まだキスもしたことないのに』だの。あげくのはてには……、『()()()』だと……よくも言ってくれたわねっ!!」

 

目の前で彼女は頭からバチッバチッと一発一発が痛そうな電気が漏れていた。そしてそれを今にも撃ってきそうな感じだった。

 

「え……、お若いのに、けっこう気にしてたりする?」

 

「……いっぺん爆発してみる? 手伝うわよ?」

 

「いや、それはその……まだ未来はあるし、ごめ……? ッ!!!?」

 

正宗は女の子の後ろの何かを見た瞬間に走り始めた。

 

「ちょっ! 何逃げてんのよ!!」

「ば、バカ! 後ろ見ろ!」

「? ……ひゃあぁ!!」

 

 2人が見たのは……、

 

 

『ビ~~! ビ~~! 自動販売機 8816、不具合ヲ確認、器物損害ノ疑イガアリマス。器物損害ノ疑イガアリマス』

 何台もの警備ロボットがこちらへ向かっていたからだ。

 どうやら先ほどの幾度となく女の子から放たれた電撃のせいで自動販売機がこわれたみたいだった。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「ゼェ……、ゼェ……」

 

 とりあえず正宗は寮とは反対方向の道を走って川の土手まで逃げてきた。

 だから今は息を切らして休憩している。

 え? 能力使えば楽に逃げられたのではないか、と? ……それは正宗自身が忘れていただけである。急いでいる時に頭で演算などそうそう出来ない。

 

 そしてもう一つ

 

「あぁ――――――!!!!」

 

 何故か彼女も着いて来ていた。というよりも、今の声を発声させるまで気が付かなかったのだが……。

 

「ど、どした?」

 

「……コンビニ袋が……、雑誌が……ないーっ!!」

 

そう、あの時のコンビニで正宗より先にかの週間雑誌を取っていったのは彼女であった。

 

「どうしてくれんのよっー!! 楽しみにしてたのに!!」

 

「何で俺のせいなんだよ! すぐ追い払わなかったお前がイケないんだろ!」

 

「――っ!! うるさいうるさいうるさい! 私のことをあんな風に呼んでくる時点で、一番あんたがムカつくのよ!!!!」

 

 そう言ってバチンッと電撃の槍を放って来たが、正宗は電荷の値を0に変えて、自分に届く前に消した。

 その後も立て続けに女の子は放って来たが、全部消した。

 

「何で当たんないのよ! っていうか何で消えるのよ!」

 

「消さないと俺が死ぬ、当たったら俺が死ぬってーの!」

 

 ぐぬぬぬぬぬ、と唸って対峙する二人。

 

「……あんた、能力は?」

 

 怒りをぶつけるという目的もあったが、彼女にとって一番知りたいのはそこだった。もし発火能力者だったら自分の電撃を打ち消すのは居ても強度《レベル》は『4』クラスだが、相手は炎も出さずに防いでいるのだから。

 

「……さあ?」

 だが手を左右、上向きに広げて正宗ははぶらかす。

 

「いいから教えなさいよ! 私だけ知られているのは不公平よ!」

 

「……、やーだね。教えなーい」

 

 そうやって、ぶぅぶぅ言ってくる目の前の女の子に正宗は舌を出して『あっかんべ~』をすると、ピキッと女の子の額には青筋が、

 

「へぇー、そういう態度を取るんだ……」

 

 そう言って彼女はポケットの中からコインを取り出し、「言わないのなら……」ピンッと右手の指で上に飛ばしたかと思うと。

 

 正宗の横を爆音と共に物凄い光線の様なものが通り過ぎて行った。

 

「…………………、」

 

 

 正直に言って正宗はびびっていた。気が付くと背中は冷や汗でダラダラになっている。ちょっとだけ後悔も……。

 

「フン、正真正銘、これが“超電磁砲”よ。コイルガンなんて安物じゃないから。次に当てられたくなかったら素直に教えなさい」

 

「う……、それでもやっぱヤダ!」

 

「っ! 何でなのよ!!」

 

「ん~……っと、正直、俺の『勘』……」

 

 何と無くだが、教えたら駄目だと野性的勘が言っていた。昔からだが、正宗の勘は意外とよく当たることが多かった。宝くじとかの幸運とかは当たらないが、それでも便利だった。今回もこの勘のおかげで少しの間だけ何事もなく過ごせるようになるのだった。

 

「そう……。じゃ、仕方ないわね」

 

 女の子は自身のスカートのポケットから、またコインを取り出してきた。

 

「待て待て、ちょっと待て!」

 

「いいじゃないのよ別に、あの時の炎を出せば? ……、まあこの至近距離じゃ私のレールガンの方が速いし、止められないと思うけどっ!」

 

 そして彼女はまたピンッとコインを手から真上に飛ばして、本気で射ってくるみたいだ。

 

(なぁぁ、クソッ。こんなのに関わっていたらますますややこしくなる……。早く帰って飯食いたいのにぃー。…………ここは、アレ使うか……)

 

 コインが重力によって戻ってきて彼女の指がそれを弾こうとしたが、正宗がほんのわずかな差で演算を終了した。直後、彼女はコインに指を。しかし……

 

(おー、久々に使うけどやっぱり凄いな……これ……)

 

 正宗の周りが超スローモーションで映っていた。音速の3倍で放たれるはずのレールガンも見る限りでは、カタツムリより遅いスピードに見える。

 だが決して周りが遅くなったのではない。

 

 正宗の能力使用可能範囲は10メートル、その内部にあ自分自身の時間のスカラーをより大きくして、周りが遅く見えるようになっただけである。

 範囲は10メートルとなっているが、内部にあった物質、運動などに付加または変更した後に、能力使用可能範囲の枠から出ても10秒間は能力は付加されたままである。

 

 ただこの能力を10秒間使った場合、その後、すごい目眩に襲われる。頭脳をフルで活用するので貧血のような症状に見回れるのだった。

 

 能力が故のリスクも当然あった。

 

(っと、こうしちゃ居られねぇ。足の蹴る力の大きさを変更して……)

 

 そして思いっきりダッシュで逃げた。まずは土手を降り、自分の住む寮の方向へ。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 そして10秒たった後……

 

 

(やば……、目眩が……)

 

 能力を使って走っていたのだが、目眩が始まったので頭というより目を抑えて止まっていると……

 

「な……な、何でそんな所にいんのよーっ!!!! 戻ってこいやー!!」

 

 ちょっと遠くから声がして、振り向くとやはりその女の子が追いかけ始めてくるところだった。

 

「うわ……、まだ追っかけて来るつもりなのかよ」

 

 そう言ってフラフラになりながらもかろうじて走る事ができた。

 

 しかし、かなり距離が開いていたので正宗は能力を使わずに楽に逃げることができた。

 そのあとはもう一度コンビニに行って夕食ならぬ、夜食を買って、彼女に出くわす事も無く寮に帰った。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 ……side 御坂美琴……

 

 

 超電磁砲撃(レールガン)の異名を持つ学園都市でも7人しかいないLEVEL.5の第3位――御坂美琴は、とある男子学生に逃げられたあと、時間を確認すると寮の門限を過ぎていることがわかった。

 

 そして寮の近くまで行き、ルームメイトで『空間移動能力者(テレポーター)』の白井黒子に迎えに来てもらってそのままお互いにテレポートして自分の部屋に帰ったのであった。

 

「お姉様、本を立ち読みに行くのにどれだけ時間がかかっているのですの!?」

 

 御坂美琴の趣味は立ち読みであった。

 本来ならば寮の目の前のコンビニに行くのであるが、今日発売だった週間少年雑誌の新刊がなかったのである。

 仕方なく他のコンビニに行くと、(正宗と一応、始めて会ったことになる)コンビニで最後の一冊だったため買うことにしたのだが……読まずして、無くしてしまったのだった。

 だがそんなことよりも……

 

(アイツは『発火能力者(パイロキネシスト)』? いや、それだけじゃ私の電撃をあれほどまで防ぐことなんて……)

 

「まったく、寮管を誤魔化すのも大変ですのに………」

 

(レールガンを射った後、そこにアイツは居なかったし、気付いたらあんなに遠くに移動していた。……黒子と同じテレポーター? でも、だとしたらあの炎は……? まさか、『多重能力者(デュアルスキル)』? ……そんな訳ないっか)

 

 そう、多重能力者など居るわけがないのだ。それは科学的根拠と研究で一個人だと脳への負担が大きすぎるため実現不可能と証明されていたのだった。

 

「って、聞いていますの? お姉様?」

「わ!」

 いきなり美琴の目の前にズイっと黒子が顔を近づけて言ってきた。

 

「寮管を誤魔化すのも大変なのですから、少しは反省して下さいですの」

 

「ごめんごめん、次からは気をつけるからさー」

「まったく、いつもそう言って……」

 まだまだ黒子はブツブツ小言を言ってくるのだった。

 

 

「ねぇ黒子」

 

「何ですのお姉様?」

「自分と同じ系統の能力者って把握してる?」

 

「ええ一応は……、学園都市内でテレポーターの数はあまりいませんの。大体は把握していますわ」

 

 この学園都市の学生はいくら180万人居ると言っても『空間移動能力者』などの類いは50人にも満たない人数しかいなかった。

 

「じゃあ、テレポーターの中に……『発火能力』がある、とかいう人はいたりする?」

 

「――有り得ませんわ、空間移動の演算はかなり高度で大変ですのに……。しかも能力を2つ持った時点で多重能力者。存在することなどありませんわ」

 

「……そうよね、あり得ないよね」

「何かお有りになりましたの?」

「いやー、なんでもないなんでもない」

 

「? そうですの。ではお姉さま、先にお風呂に入って下さいまし」

「え! あんたまだ入ってなかったの!?」

 

 時刻は22:23分だった。

 

「えぇ……(例え何時になりましょうが……黒子はお姉さまの残り汁を……ウヘヘヘ)」

 

 そんな黒子の口からはじゅるりとヨダレが垂れていた。

 

「ん? 何か言った?」

「い、いえ! 何でもありませんの! ただの独り言ですの!」

「? 変なの~。じゃあ先にお風呂入らせて貰うわね」

 

 

 こうして6月のとある長い1日が終わった。

 

 

 

 




『コイルガン』
・電気回路はコイル状(ばね状)の回路の中に筒を通し電磁石の力を利用して打射ち出す。弾丸に電流は流れず、威力と速度はレールガンより格段に劣るが、動作音を小さくすることが可能で、個人の殺害、暗殺系に優れているといえる。


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行間 ‐ 1










 

 

 

 学園都市には窓のないビルという建物がある。

 そして文字どおり、その建物には窓も、ドアも、階段も、エレベーターも、通路もない。

 

 建物としては役に立たない、あるいは機能しない筈のビルは大能力者(レベル4)である空間移動(テレポート)がなければ入ることが出来ない。

 

 だが窓のないビルは核シェルターを優に越す強度を誇る演算型・衝撃拡散複合素材(カリキュレイト=フォートレス)で出来た最高の要塞だった。

 

 その内部の部屋では奇妙な電子音とも言える物が鳴り響く。

 部屋の四方の壁はある種のプラネタリウムの様にモニタやボタンが光り、幻想的なでもありながら不気味さを出している。

 反対に、部屋の床は数万と及ぶ電子機器から這い出したコード、ケーブル、チューブが乱雑に、またあるところでは規則正しく並び、まるで血管の様に中央に集まっていた。

 

「ふむ……」

 

 そしてその部屋の中央で緑色の手術衣を着て、弱アルカリ性培養液に満たされた巨大ビーカーの中に逆さに浮いている、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』。

 

(それぞれが生誕、合流し16年。また、かのモノが堕ちてはや17年の月日か……)

 

 学園都市統括理事長、アレイスターは出るはずがない場所から出てきたオレンジ色の空間が基板の液晶、複数のモニタを使って理科の実験の様に観察をする。

 

(まゆ)に籠るのも、その羽の鱗片はどう動くものか、スリルという不安はあるがな)

 

 だがその思考に対して楽しげに笑う。そして観察対象、モニタに映るそれは『ヒト』に違いはなかった。

 

 

 

『世話しないな。もう一つのプランを設け、そこまでして“陥落した座席に侍る者”が欲しいか、アレイスター』

 

 

 その声には、今、語り掛けられる側以外は違和感を覚える。

 はっきりとだが聞こえるが従来の法則とは違い、最もポピュラーな伝達手段とする空気の振動を必要とはせず、また声の主は能力者ではないことを、今、語り掛けられる側は知っている。

 

「……こうまでして彼を観察するのは何時ものことだ。それにプランの興は未《ま》だだ。この件に突然あなたが出てくるのは早い。いや、そもそも場違いではないかな」

 そんな突然の発言にも慣れたかの様に返答する。

 

『そこに問題は見当たらない。私が現出するのは価値と興味が沸いた時のみだ。知っているだろう? まあ、今回は()()()()()()()()()()()()()()()()()()がな』

 

 これは、簡単に言えば意志疎通。学園都市統括理事長ですら敬意を表す『あなた』というモノの存在はここにはない。

 

『此を考えると、十字教はイエスとモーゼ……いや、五書を混ぜたことからソロモンの時代より可笑しくなりはじめたな。四大属性の歪み以前に深刻か』

 

「例えるなら、『神の火(ウリエル)』が該当するか」

と、アレイスターは火が、水が、風が、土が、四大属性が歪み、世界が危機的状況に陥りつつある……、それをさらりと受け流し、言う。

 

「あれは元々タナハの領域だ。根となる旧教(カトリック)は知らず知らずの内に使っているようだが――」

 正式では、ユダヤ神秘主義の崇拝する大天使だった。

「――、この件に関してもそれが言えたな」

 

 そう言いながらオレンジ色の基板で浮かび上がる液晶の画面が変わり、多くの少年のみが掲載されてあるリストが出てくる。

 それは、一人一人が、学園都市に居る生徒ではなかった。

 

 

「十字教内の一部、完全なる知性主義(グノーシズム)英国非公開団体(フリーメイソンリー)陰謀論の秘密結社(イルミナティ)の一部は漕ぎ着け、後釜となる者を捜している」

 

 だが、それも暗中模索にしか過ぎないと語尾に呟く様に言い、薄く笑う。

 

『ほう、グノーシスも、か』

「あぁ、あなたが不可解に感じるのもわかる。かの存在に否定的で有りながらも創るのは別ということだ。いかにも異端宗派(マーヴェリック)らしい身勝手な考えだ」

 

 人間に理解できないならば、人間を超えた肉体を手に入れれば良いという人々がいた。

 “人間は精製途中の神であり、己を鍛えあげる事で神の肉体を手に入れ神の業を自在に操る事ができる”と謳い、同宗教側からも危険視されても、その人間の欲望を駆り立てる信仰で信者を増やしてきた。

 それが、完全なる知性主義(グノーシズム)

 

『最後に消える前に言っておこうかアレイスター、――』

 意志疎通のみで語り掛ける側はそう言って、

『――君と私の価値観は違う。現出すれば奴は容赦ない』

 

 そう言われ、学園都市統括理事長は面白いと、少し考えるように黙ってから、

 

「その言葉に返そう。すでに四十万と三千七百十二通りの予備プランを準備し、繊細の注意は払って抜かりはない。それに私以上に進んでいる者などは居ない」

 

 

 そうして会話を終えた後に、フッと何かの概念が消えた。その『人間』以外は誰も居ないはずなのに。

 

 

 

「ふふ……」

 誰も居ない窓のないビルでアレイスターは静かに笑う。

 

(安全過ぎても面白くはない)

 まったく、此処へ来てこれ程に直に出てみたいと思ったことはないな、とアレイスターは考え、

 

(『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の存在を意義する者の証明ほど、危険で、甘い蜜を啜るような感覚からは、私ですら脱け出せないみたいだな)

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

……side 正宗……

 

 

 

「はぁ……、はぁ、クソッ! イッ! …………が、ァ……は……げほッ!」

 

(っんだよ、この……痛み、は……)

 

 時のスカラーを操ったその日の夜……。いや、1日を通り越して現在の時刻は、

 

 深夜の02:43分

 

 全身から来る、考えられないような激痛、関節と関節が音をたてながら削られていくような感覚にみまわれた。

 こんな感覚は正宗にとって初めてだった。無論、時のスカラーを操るのは初めてではなかったが、

 10秒間の間に、自分の体がレールガン――音速の3倍でさえもカタツムリより遅いスピードに見えたのに対して、自分は普通に走るような感覚にするくらいの運動エネルギーや運動量を操っていた。

 

 それは能力の限界などではなく、不意に自分の体の限界を越えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 結局、その日は学校に行くことが出来ずに休むこととなった。

 そして、夕方くらいに同じ寮の住人でもある上条当麻と土御門元春がお見舞いという名の……、

 正宗の貯蓄(お菓子やジュースやカップ麺)を食い荒らしに来たので、痛いのをそっちのけで追い払った。 それでも、授業ノートや配られたプリントを持ってお見舞いに来てくれたのは内心嬉しかった。

 

 正宗の部屋は当麻と土御門の階と同じで、エレベーターから一番遠い隅っこの部屋である。ただ他の部屋と違うのは部屋に窓がもう1つあり通気性がよかった。

 

………………

 

…………

 

……

 

……side 御坂美琴……

 

「うがあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 お嬢様らしさのカケラもない雄叫びを出しているのにも理由があった。

 

 正宗と出会った次の日の夕方。

 昨日出会った正宗の事を調べるために美琴は早めに常盤台中学の寮に帰ってきていた。

 だがまだ美琴は正宗の名前も能力も知らない。

 そして机の前に座り、パソコンのキーボードを叩いて、

 

 書庫(バンク)

 学園都市の能力者、科学者、警備員の内容が全て載ってある総合データベース。しかしアクセスできるのは一部の風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)だけに限られる。

 と、そんな所に、自身の能力を行使してハッキングをしようとしているのだが、その手を、『守護神(ゴールキーパー)』という、(ちまた)では伝説の凄腕ハッカーに止められて敗北したのであった。

 

「こんのおぉぉぉ!!!!」

 

 決してパソコンが悪いわけではないが、美琴の負けず嫌いの性格からか、とばっちりを受けて今にもパソコンは放り投げられそうだった時、

 

 ガチャッと部屋の扉が開いた。

 

「ただいまですのお姉様」

「おわぁぁ! おお帰り黒子!」

 

いきなり同居人(ルームメート)で後輩である白井黒子が帰ってきたので慌ててパソコンを下ろした。擬人的に、た、助かった~とパソコンはいうのであった。

 

「はぁ~……、お姉様!」

 

「へ!? ななな何?」

 

 突然の黒子の帰宅、突然の呼び出しに美琴の心は動揺していたのでこんな声になった。

 

「今日はアンチスキルとの合同会議がありましたのよ」

 

「ふ、フゥーン。それで?」

 

「昨日の夜に自動販売機が壊されるのと、その目の前の道路が破壊されたという事件で……『常盤台中学の女の子と、ある少年が破壊した』と言うことが報告されましたの」

 

 ギクッと、美琴は少し肩を震わせて反応してしまった。

 

「やっぱり、昨日のことからお姉様でしたのね……」

 

「あ、あんたまさかバラしたの!?」

「そんなことするはずがありませんわ、黒子はきちんと『お姉様と私は昨日の夜を共にしていました』と伝えておきましたわ」

 

「ご、ごめ~ん、って、何かそれ、変な伝え方なんだけど……」

「お気になさらず」と彼女はとっても裏がありそうな笑顔で言った後「それではお姉様。その殿方のこと何か知りませんの?」

 

「あ……、うん。実はさ、…………」

 

 そうこう話し、大体10分ぐらいたった。

 

 

「……と言うわけなのよ」

 

「それはまさか、お姉様は「負けてない!!!」

 

「いえ、そうではなく、その殿方様に逃げられた……というわけですのね?」

「う、うん……」

 

「名前もわからないんですわよね?」

「し、仕方無いじゃないの! あまりにもデタラメな能力だったから、その……聞くのをそっちのけで勝負しようと……」と言いながら、美琴は段々小さくなっていった。

 

「確かに聞く限りではデタラメな能力ですの。大能力者クラスの炎で道路を溶かし、お姉様の電撃を消し、そして空間移動(テレポート)。まさか『多重能力者』なんて代物が実在、……いえ……でも………」

 

 語る黒子が全てを否定することはなかった。いや、まだできないのだった。御坂美琴以外にも見た人はいた。あの不良たちであった。

 

だが、『殺人事件』や『強盗』の類いではなかったので直ぐに捜査は打ち切られた。詰まる所、この事件は信用性に欠ける不良達が『ウソを言っているのではないか……』ということになり、幕を閉じたのだ。

 警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)が『書庫(バンク)』を捜しても一瞬にして高熱の蒼い炎を出す能力者など居ないのは明らかであったし、溶かした能力者の捜査はしたが、事件の幕が閉じたと同時に捜査を打ち切ってしまい、結局分からなかった。

 もちろん道路が溶けたという証拠だけは残っていた。まるで誰がやったかは分からないが地上に跡形が残る『ミステリーサークル』の様に迷宮入りとなったが、それ程の実力者が『発火能力者(パイロキネシスト)』の中にいる、という噂が広がり

 

 新たな都市伝説

 

 8人目の超能力者――裏のLEVEL5――と言われ始めた。

 

 

 




『大天使:ウリエル』
・その意味は「神の炎」「我が光は神」「神の光」などだが、正典(旧約聖書)には天使として直接含まれておらず、『カトリック教会』では認可されていない。しかしユダヤの神秘主義的文学において重要な天使とされている。
・天使としては、旧約聖書外典『エチオピア語エノク書』『第四エズラ書』、新約聖書外典『ペトロの黙示録』で、その名が言及されている。



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その有志は仇となる Week_of_system_scan.










 あれから2週間が過ぎ7月に入り、じめじめとした暑さから本格的な暑さの夏へと季節は次第に変わっていた。

 

 今日という日は期末テストも終わり、普通から上の人は夏休みを待ち、欠点の確率が高い人は成績表が返ってくるまでの余韻に親しむのだった。そんな中、正宗の成績は中の上かもしれないし、古典が最悪の一途を辿るかもしれない感じだった。

 そして比べるのは悪いが、デルタフォース(三バカトリオ)の一角、土御門は自己申告で全てにおいて皮一枚で繋がるという表現がぴったりなほどギリギリセーフだと言っていたのに、当麻と青ピーは……言葉を濁し、空笑い。もちろんテストは悲惨な状況だったと説明しておく。

 

 そんな初夏、学園都市の学生全体が今週から始まる『身体検査(システムスキャン)』に胸踊らせていた。

 しかし自分の能力のレベルが上がった、上がらなかったの話で盛り上がるのではない。

 スキャン週間の副産物として学園都市内の全ての学校が午前中に授業が終わる。 それが学生達を湧かせるのであった。

 

 そしてこの日、正宗は、「ふぅ~、食った食った~、~♪」と授業が終わってから、ヨシノ屋の新作、餡掛(あんかけ)け牛丼を食べた後、寮に帰ろうとしていた。

 

(この後で当麻の部屋で『スマブラ』やるんだっけ、かな~)

 もちろん皆大好き、パーティー用ゲームの一種の定番――大乱闘スマッシュブラザーズのことだ。

 

 そんなこんなで、これからの予定を考えながら帰り道の近道であり、横道を歩いていく。

 

「金出せっつてんだろが!!」

 

 

 

 正宗が言われたわけではない。路地裏で1人の同い年くらいだろうか…。イヤホンを掛けたひ弱そうなメガネの少年が5人の不良に絡まれているのが見えた。

 

 

「ぼ、僕は本当にお金なんか……」

「ごちゃごちゃうるせぇーな!」

 そう言って不良は少年を殴りとばし、他の不良がバッグを奪い、漁っている。

 

「何だこりゃ~、兄貴、コイツ千円しか持ってませんぜ~」

 

 

(あ……アイツは……!)

 兄貴と呼ばれた人物はあの時の『コイルガン』だった。以前と違って頭がスキンヘッドになっているのは御坂美琴によって紙がチリチリになったからに違いない。

 

「ケッ、ハズレかよ、適当にボコッとけ、喋らせないようにな」

 

 

「……………、おい」

 正宗は何時もより低い声で彼らに声をかけた。

 

「あぁ!? 誰だ…………、げぇっ!」

 

 男は覚えていたみたいで正宗を見ると分が悪い顔をしたが――

 

「チッ! こんなところでもヒーロー気取りかよ」

 何を考えたのか強気だった。

 

「それがどーした? ソイツに金を返して、あの時の分を弁償(780円分)して貰おっか?」

 

 ちょっとばかりケチなのではない。学生にとって780円とは大金である。

 

「バカかテメエは、俺達がそんなことするとでも思ってんのか?」

 

「そんなこと端っから思ってねえよ。大した金額も持ってないんだよね? コソコソと集団でしか行動できないチキンなウジ虫くん?」

 

 正宗がそう言った瞬間、例の男は見境無しにコイルガンを射ってきた。どうやら正宗がガスライターを出す前に仕留めるつもりだったのだろう。

 

「ふ~ん、お腹の方に狙いを定めてるし、当たったら命に関わるよ? ……これ」

 

 しかしその『弾』である乾電池は正宗の数歩前で止まった。

 

 おらぁっ! という大声と共に今度は子分みたいな不良が鉄パイプを振りかざしてくるが、

 振り降ろしたはずの鉄パイプはまるで磁石の同じ極を向けてお互いが拒むかの様に停止した。

 そして、そのまま正宗は鉄パイプを振りかざしてきた男の腹を右手で殴り、左足で顔面を蹴り飛ばして気絶させた。

「なっ何でそんなことができる!? テメーはパイロキネシストじゃねえのかよ!!!?」

 

「あぁ、俺の能力か? そっちの予想とは違ったみたいだけど、これはただ単に『運動エネルギー』を『位置エネルギー』だけに変えただけだからさ~。案外簡単だろ?」

 

 驚いている相手をちょっと笑いながら言う。

 そして浮いてある乾電池を掴み、周りの金属を腕の運動量(質量と速さ)を変え、中から出てきた強酸の液体の酸化エネルギーを0にし、握り潰した。

 

「か、乾電池を握り潰したってまだあるぞ! それに此処にいるのは全員能力者だ!」 とか言いながら周りにあった金属のパイプとかが浮かびあがる。どうやら磁界を操り本気で来るみたいだった。

 周りの子分とかも、手からちょっとした火の玉とか、空気の弾、その他もろもろ出している。

 

 

 しかしそれに臆することなく、一喝するつもりで正宗が横殴りだが拳でコンクリートの壁にドンッ! という音が響き、ひび割れて拳の型をした穴が空いた。

 その力と、正宗の表情を見た不良は少したじろいだ。

 

「へぇ……、俺を殺ろうとする決意があるなら――」と、能力を隠す能力者は言う。

 

「――テメェらは逆の『覚悟』だって、出来ているよ、な?」

 そう言って正宗はポケットからガスライターとスタンガンを出してそれぞれ左手、右手に持つ。

 左手のガスライターの火は日本刀くらいの長さで太さは2倍ある剣の様に。右手のスタンガンは“普通のスタンガンならあり得ない電気量”を出して特有の雑音を出していた。

 

「……………………、」

 不良達は『何ですかこれは、悪夢でも見ているんじゃないですか』と言わんばかりの信じられなさそうな顔をしていた。

 

「――弁償(カクゴ)しろよ」

 

 たじろぐのは多数の不良達。

 こうして正宗の人助けがてらの弁償の請求(復讐)劇が始まった。

 

 

……………

 

………

 

……

 

……side 白井黒子……

 

「まったく、お姉さまといっしょにショッピングに出掛けていましたのに~、どこぞの野蛮人(不良)に……」

 

 黒子は美琴と買い物に出掛けていたのだが、電話で連絡を受けて駆け付けていたのだった。

 いつもながらお姉様と言い、美琴Loveな彼女でも自分の風紀委員(ジャッジメント)としての誇りをもち、仕事とプライベートを分けるのは感心する。

 

「こちら白井黒子。初春、事件発生現場まではあとどのくらいですの?」

 

『――次の角を右に曲がって2つ目と3つ目の建物の路地裏です』

 

「了解ですの!」

 黒子はケータイを片手に通信サポートをしている『初春』という女の子と連絡をとりながら走っていた。

 

(通報の内容から、野蛮人ともいえども能力者と、それに一般の人が助けに入っているらしいですわ。早く向かわないと……)

 

………………

 

…………

 

……

 

 

「「「おわぁぁぁぁ!!」」」

 

(! あそこですのね!)

 

 路地裏の入り口に着きバッと彼女は腕章を見せながら

 

「ジャッジメントですの! 通報を請けて参りましたの! 大人しくお縄に……」

 

 自分の目の前の光景を見た瞬間黒子は言葉を失った。

 駆け付けてみるとそこは路地裏であるにも関わらずコンクリートの壁は所々何かに撃ち抜かれて凹んでおり、散乱したゴミは青く燃えて、地面は言い表せない程黒く、まさに地獄への道のようだった。

 

「いったい、何がおきたのですの……!?」

 

 そう言っていると彼女に2人の不良が泣きついてきた。

 

「助けて! 俺達が悪かったから! 命をたずげでぐれぇぇ……」

 

 不良なのに、情けないくらいに涙を流していた。

 

「ちょっと! あなた方、何があったのですの!? ……それにこんなこと、一体どこの誰が……」

 

「ほらほら! そこのちっちゃいジャッジメント! こっちの不良を2度と悪さ出来ないように『地獄』を見せてるから、ソイツら捕まえておいてくれ!」

 

「「イヤァァァ……!!」」

 

 黒子の近くの不良は『男』なのにも関わらず女性の様な悲鳴をあげて、そして逃げはじめた。

「あ! こら、ボサッとすんなよ!」

 

 黒子は唖然としていて逃げはじめた不良2人を追いかけるのを忘れていた。

 正宗に言われて、はっとするが、逃げた2人は一方は近くで倒れており、もう一方は少し遠くで正宗に一本背負いをされているのが見えた。

 

 路地裏のほうも残りの3人の不良の方は2人は意識がなく泡を口から出して倒れており、1人は顔を真っ青にしてへたりこんでいた。

 

 助けようとしたひ弱そうな少年にちゃんとお金は返したが、この少年も正宗の事を怖がっていた……。

 

………………

 

…………

 

……

 

「――まったく、それでもやり過ぎですの!」

 

「すいませんでした」

 

 アンチスキルが到着して5人の不良は連れていかれた。だが先ずは病院だろう。

 

 白井黒子は事情聴衆を正宗に始めた。はじめこそ、『あのくらいの事をする人なので少し性格に問題が?』と思ったが、話しているうちに、何気に気さくな人だと思った。

 そして『あんな事』をした理由も大体筋がわかり、そのことを話していた。

 

「一応ですが、事件に関わった『報告書』と建物を破壊した『反省文』を書いて貰いますわね」

 

「それって絶対?」

「えぇ、絶対ですわ」

 

はぁ……と正宗は溜め息をつき、

 

(こうなったら足の運動量を大きくして一気に逃げるしか……)と思った時にポンッと肩を触られた。

 

「お待ちなさいな」

 

「……いえ、あの~あいにく今から用事が……」

 

「ではその用事は強制的に中止ですわ」

 

そう言われた後にバシュンッと音が鳴ったと思えばそのまま正宗は黒子と共にテレポートさせられた。

 

………………

 

…………

 

……

 

「……それで? ここ……、まあ街なのはわかりますが、どこですか………?」

 

 何度か所々をテレポートさせられた後に着いたのは小さなビルの前だった。

 

「風紀委員活動第一七七支部のがあるビルの前ですわ」

 

(今ならまだ間に合う。走って逃げよう)

 そう思って少しずつ黒子から遠ざかる正宗。そして走り出そうとした時に

 

 バシュンッとあの音が鳴って……

 

「逃げようとしても無駄ですわ。次は支部内に強制転移させますの」

 

 走り出す方向に向いた瞬間に、目の前に黒子が現れそう言われたのだった。

 

「もうわかった降参、普通に入らせていただきます……」

 

 正宗は逃げられないと覚り、諦めたのだった。

 

 

 

 

 

「只今戻りましたのですの」

 

 支部の厳重なID認証付きのドアを開けて黒子と正宗は『第一七七支部』に入った。

 

「あ! お帰りなさい、白井さん」

「……どうもおじゃましま~す」

 

 奥からセーラー服を着た花飾りを大量に付けた短髪の女の子が出てきたので正宗は一応挨拶をした。

 

「あ、わ! どうも。……え~と………」

 

「あぁ、はじめまして。桐生正宗っていいます」

 何だか女の子は知らない人が入ってきて驚いている様子だったので正宗は先ずは自分から自己紹介をすることになった。

 

「あ、はい! 桐生さんですね。私は『初春飾利』です」

 

 初春も気が付いたようで元気そうに自己紹介をした。だが目線は何故か初春飾利の頭の方へ……

 

(頭に花が咲いてる。……痛い子なのだろうか?)

 そうさっきから正宗は初春の頭の大量のお花畑の様な花飾りが気になって仕方がなかった。

 

「頭に着けているその『花』飾り、珍しいし、結構かわいいね」

 

 一応お世辞として言った。本音を打ち殺して。

 

「? 一体何のことですか?」

 

 

 

 ………………え? と正宗は言葉に詰まった。

 

 

 

「いや、その頭の花」

 

「ですから、何のことですか?」

 

「………………、」

 

 冗談抜きで初春は知らないと言わんばかりの惚けた顔をしていた。

 

 

 

「初春、私は自分の報告書がありますので、桐生さんの分の報告書と反省文を出しておいてくださいな」

 

「わかりましたー」と言って初春が出してくるのは……『報告書』と言われる紙3枚と、『表裏』びっしり行のある『反省文』5枚だった。

 

(おいおいおいおい……実質的に13枚じゃねえか……)

 

「じゃあ、ここから名前を……」

「あ、はいはい……」

 初春に指示されて名前を書く欄から書き始めた正宗。

 

(最悪だ……だけど、もうやるしかねえよな……)

 

 

 

……1枚目(報告書)……

 

「お茶いれたので、よかったらどうぞ」

 コト……、という音と共に机に湯飲みが置かれた。初春がお茶を入れてくれたのだ。

 

「あ、すんません、ありがとうございます」

 

 ゴクと一口「! ~~アツッ!」

 

……2枚目……

 

「桐生さんの能力の『絶対値数(スカラオペレート)』って一体なんなんですか?」

 

「そのまんま、『スカラー』を操ることが出来るよ」

 そう言って正宗が簡単に説明した時に黒子が一枚目の報告書を見る。

 

「ふむふむ……結構便利な能力ですのね、本当に強度(レベル)3なんですの?」

「!! ん……まぁ、そうだよ……」

「いえ、あの~。スカラーって……?」

 

 

……3枚目……

 

「やっと報告書が終了した……」

「続けて反省文もお願いしますわ」

「……、はぁ……」

 

 

……4枚目(反省文)……

 

 プルルルルップルルルルッと正宗のケータイが鳴った。

 

「はい? もしもし?」

『マサやん何処にいるんだにゃー? もうみんなとっくにカミやんの部屋で遊んでいるんだぜい』

 

 電話の相手は土御門だった。『そういえば……』っと正宗は当麻の部屋で遊ぶ予定を思い出す。

 

「いや、その……(かくかくしかじか)……というわけだ」

 

『にゃー、それはしかたないにゃー。せっかく今日は舞夏がクッキー作って持ってきてくれたのに、残念だぜい』

 

「うぅ……、すまねえ土御門……」

 

 何だか分からないが、何でこうなったのか、涙が出てきた正宗だった。

 

 

………5枚目………

 

「ここ、漢字が間違えていますの」

「はいはい……」

 

……6枚目……

 

「こんなこと書かせてたら誰も人を助けなくなると思うけど~……」

「仕方がありませんの。桐生さんはやり方がやり過ぎですの。あ、また漢字が間違ってますの、ケアレスミスですわ」

 

「………………、」

 

 

……7枚目……

 

ガチャッ「ただいま~」

「「あ、固法先輩お帰りなさい(ですの)」」

 

「あら? 見かけない顔がいるわね」

「あ、どうも、桐生正宗って言います。見ての通り『反省文』書かされてます」

「何か悪さをしちゃったの?」

「……その逆です」

 

 

……8枚目……

 

「もう書くことないんだけどっ」

 

「つべこべ言わずさっさと書いてくださいまし。こちらも早く帰りたいのですの」

 

「あーぁ……、ってそれはこっちのセリフだ!」

 

 

……終了……

 

 やっと終わった報告書と反省文の8枚(実質的には13枚)を初春に渡して、正宗はぐったりしていた。

 

「はぁ、もうぜぇーったい、二度と人助けなんてしないからな」

 

「そんなこと言わずに……」

 

 初春が苦笑いしながら言ってくる。

 

「ジャッジメントに入れば、書かずに済みますわよ」

「誰が入るかよ」

「結構素質あると思うけど?」

 

「固法先輩、おだてても入りやしませんよ……。しかも先輩、俺の能力見てないでしょ?」

 

「あら、バレた? 結構堅い人なのね? 勧誘は失敗かな」

 

 とか言ってあっさり諦める先輩。勧誘自体、得意ではないことがうかがえる。

 

「――冗談抜きで、本当に入る気はありませんの?」

 

 空気が少し変わる様な感じで黒子が正宗に聞いてきた。

 

「……ない、ね」

 

 ちょっと間を置いて正宗は申し出を断った。

 

「あれだけの能力ですのに……、役に立とうとは思わないのですの?」

 

風紀委員(ジャッジメント)だから助けに行かなきゃじゃ嫌なんだ。風紀委員(ジャッジメント)じゃないけど助けたいという人になりたいんだ」

 

 

「……それはどういう意味ですの?」

 

「さあー、少なくとも所属していなくても多くの人を助けているヤツがいるからかな」

 まあ『アイツ』は助けた見返りにフラグを建てて行くけどな……と頭の中で付け加える。

 

 

「…………、」

 黒子は何とも言えなかったが、少し残念そうな顔をしていた。

 

「――でも、困った時は頼ってくれよな、書類を書くのや掃除は嫌だが、鎮圧なら慣れてるからさ。『有志』ってことで」

 

「……わかりましたわ。では一応、携帯の番号だけでも教えておいて下さいまし」

 

「――ちょっと待って……ほれ」

 そうして学生手帳の中の一枚の紙にケータイの番号を書き黒子に渡した。

 

 時刻は16:37分

 

 正宗はようやく第一七七支部からでることができた。

 

 外に出ると、空は赤みがかっていた。

 

………………

 

…………

 

……

 

 

「しかし、何か引っかかるのですわ」

 自分の荷物をまとめながら黒子は独り言を言った。

 

「どうしたんですか白井さん」

 それを聞いた初春が黒子に聞いてきた。

 

「桐生さんから事情聴衆していた時に、何か色々と引っかかったのですが……それが何だったか思いだせませんの」

 

 黒子は事件の後に正宗から事情聴衆していた時に、何故あれだけの事(人助けだが……)を仕出かしたのか理由を聞いた。

 

 その時に引っ掛かる『キーワード』があったが、思い出せなかった。

 

「う~ん……」

 初春も考えてみた。しかし今は仕事も終わってあまりそんなことを考えたくなかったのですぐやめた。

 

「……いつか思い出しますって、それより白井さん!」

 

 突然初春が目を輝かせながら黒子に言った。

 

「な、何ですの?」

 

「御坂美琴さんに会わせてくれる約束、忘れないでくださいね!」

 

 

 そう、初春は御坂美琴……もといセレブなお嬢様に憧れていたのだった。

 

 だから以前に黒子とそんな約束をしていたのだ。

 

「はぁ……、わかりましたの、なんとかお姉様に掛け合ってみますの」

 

 黒子は溜め息をつき、2人も支部から出て、ようやく『第一七七支部』の1日も終わった。

 

 

………………

 

…………

 

……

 

……side 桐生正宗……

 

(今日も疲れたぁぁ……)

 

 

 風紀委員第一七七支部からの帰り道、電車に乗り寮の最寄り駅から歩いて帰っていた。

 それと同時に『iPod touch』を取り出して、

 

~~♪~~♪!~~♪♪!!

 

 

 『ノイズキャンセリング』付きのイヤホンで音楽を聴き、ケータイを弄りながら歩いていた。まるで現代の学生を象徴している様な姿だった。この『iPod touch』はつい最近新しく買い換えたのだが、巷では学園都市製の3Dで映し出すことのできる『smartphone』が出てきたので、買いたいけど……という葛藤がひそかにあったりする。そんな悩める彼の姿を駅前で見たお嬢様学校の生徒がいた。

 

「あ~! いたいた見つけた!!!!」

 

 お分かりだろうが、御坂美琴である。だが、正宗はそんな美琴から発せられる(ノイズ)は聞こえるはずもなく……。

 

「今度こそ(しょう)……、って、ちょっと!」

 

 そう言って気が付かれない御坂美琴は正宗を追いかけはじめた。だが当の本人はケータイのボタンをピコピコと打ち、ゲームをしていた。

 

「あんたよ! あんた! むぅっ、止まりなさいってば!!」

 

 また、美琴の顔などちゃんと覚えていなかったので、美琴が正宗の横に来てガミガミ言ってもわからない。

 

「ちょっとちょっと! もしもしあんた聞こえてるんでしょっ!! シカトすんなーっ!!!!」

 

 本当に正宗には聞こえてないのである。

 これだけ騒いで言ってたら普通聞こえるが、そこは学園都市の科学力で『完全雑音遮断機能』でも付けているのだろう。

 

 そんな、ぎゃああ!! と呻くお嬢様は何か、吹っ切れた御様子で、

 

「……あっそーですかそうですか! あんたがそう無視すんのなら……」

 

 そう言って美琴は立ち止まって屈伸から始まり、準備体操をちょっとやってから正宗目掛けて走り出し

 

「ちぇいさぁーッ!!」背中にドォーン! 「ぐへぇっ!?!!」と正宗に跳び蹴りをくらわせてきたのだった。

 

「……イッて……っ! クソッ、テメェ!! ざけんじゃね……え……ぞ……、ぇ?」

 

 起き上がって正宗は怒鳴ろうとしたが、振り向いた瞬間にいたのは女の子。しかも常盤台中学のお嬢様がちょっとびっくりした表情で立っていたので『うわあぁぁぁぁ、絶対に人違いしてしまったぁぁぁぁ』と心の中で嘆いていた、というか勘違いしていた。

 

「む、無視するアンタが悪いのよっ!!!!」

 

 怒ってきた正宗にちょっとビビってしまったが、カバンを持ったまま反論する美琴。しかし正宗は……

 

「やっぱり蹴ったのお前か! って……はぁ?」

 

(誰、だっけこのコ……?)

 

 そう忘れていたのだった。そして思い出すためによーく見て考察する。

 目の前の女の子は、髪の毛はサラサラで若干光沢のあるかの様な薄い茶色で肩に掛かるくらいの短髪。顔の形は整っており、客観的に見ると化粧をせずともかわいい分類に入るだろう。脚は細く、スラッとしていて華奢な体。

 

「な……、なにじろじろ見てんのよ……」

 

 だが、ヒジョーに残念なことに……

 

 

(まだ中学生だから胸ないなぁ~……ぁぁぁぁぁあああ!?!?)

 

「あぁ! あの時の!」とようやく、

 

 

 

 

 

「――()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 バチ……ビリッと彼女から不吉な音がした。

 

 

「ま……、()()()ってぇ……」

 

 次の瞬間。

 

「呼ぶなあぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!」

 

 ドッ!! バチンッ!! と痛々しい音と共に電撃の槍が常盤台の御嬢様の腕やら頭やらから正宗に向かって出てくる。

 

「ちょま、おわぁぁぁぁぁぁぁっー!!!?」

 

 そんな怒り心頭の御坂美琴は電撃を何度も何度も飛ばしてきた。それを見た周りの一般人も正宗と同じ様に叫んで逃げている。

 しかし電撃の矛先は正宗のみ。逃げても追いかけて来るので彼は電荷を『0』にして消す。

 

「ちょっと、わかったわかったからその電撃止めろ! 周りに迷惑だー!」

 

 そう言われて美琴は電撃を射つのを止める。

 

「フーッフーッフーッ、まだ成長するわよ! ……はぁ……、それに私には御坂美琴ってちゃんとした名前があんのよ」 

 

 息を荒くしていたのを静めて、目の前で正宗を見上げながら美琴は言ってくる。

 

「そんで? その常盤台の()()()さんが一般男子の俺に何か用?」

 

 そう言った正宗に向かってビリビリッとまた電撃を射って来たがすぐに離れてまた防ぐ。

 

「わざと言ってケンカ売ってるでしょっ!? 私は電撃使いの頂点の『超電磁砲(レールガン)』なのよ!」

 

「えー、だって~。前に消してみたから慣れたし、俺に電撃なんて効かないもん。全然怖くないし~」

 

 そう言って明らかにどうでもよさそうな顔をして正宗が言う。

 

「そんなことわからないでしょっ。……そうよそうよ思い出した。今から私と勝負しなさい!!」

 

 指をビシッと差しながら正宗に言ってくる。が、

 

「はぁ? こんな時間に勝負とか……。帰りたいし、意味不明(イミフ)だし、お断りします。じゃあね……」

 

 そしてまた正宗は歩き始める。歩いている時には顔を向けずに手を降りバイバイってあまりにも素っ気ない感じで、

 

「……って待ちなさいよ!」

 

 呆気にとられていた美琴だったが、はっと気づいて正宗を呼び止めようとし、また彼の隣に急いで付いていく。

 

「……また、……なんなんだよ? あ、さては、お前も帰り道こっちなわけ?」

 

「違うわよ! あんた私との勝負から逃げる気!?」

 

 どうやら女の子が思い描いて言っていることは一昔以上まえの世代のことである。なんでもかんでも男なら勝負挑まれたら逃げたら駄目だと、そんなことは決まってはいない。今現代は思考の自由が認められている。

 

「あー……、もうそれでいいから」

 

 そして正宗はダッシュで逃げはじめた。後ろで取り残された美琴は「へ?」とか言って驚いていた。

 当麻とまでは行かないけど、走力には自信があった。また相手は仮にも女の子。

 

 

 

「本気で逃げてんじゃないわよコラーッ!!」

 

 

 そんな考えが甘かったらしい。全力で正宗は走っているのに、後ろから追いかけてきていたのだった。

 

「ええぇぇぇぇーっ!! ちょ……何でついてこれんだよーっ!! 50メートル走、6秒代前半だぞ俺!」

 

 能力を使わずに、とすれば、正宗の運動神経と運動能力は、黄泉川先生などの体育教師陣でも一目をおくほどだった。

 

「電磁加速すれば普通の男子には勝てるのよ! この逃げ腰ヤロー!」

 

「な、なんてヤツなんだぁー!!」

 

 そう叫んで正宗は、『待ちなさいよっ!!』と連呼して追いかけてくる御坂美琴の魔の手から逃げていった。

 

 

 

 

 その後正宗は、走る『速さ』のスカラーを操って美琴から逃げ様としたのだが、美琴は能力である程度の距離だと電磁波をレーダーの様に扱い、正宗を見つけて追い回していた。

 

 しかし最終的には美琴の方が先に折れて、正宗には逃げられてしまった。

 そして美琴は彼に会ったはいいが追いかけるだけで、名前も能力を聞くのもまた忘れてしまっていたのだった。

 

 寮に帰って後悔したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 



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不幸は周りに伝染する? Are_you_unhappy?







 

 

 

 

 

――記録・72m23cm

――指定位置・誤差54cm

――総合評価・LEVEL『4』

 

 そんなアナウンスが校庭の競技場のある一部で響いた。

 

「はぁ、調子が今一つですの。やっぱり昨日のジャッジメントの仕事が影響していますわ~」

 

 身体検査(システムスキャン)の3日目、今日はここ常盤台中学で行われていた。そして今、白井黒子の身体検査が終了したところだ。

 空間移動能力者(テレポーター)である彼女は毎回の様に大能力者と評価される。だが普通、この『レベル4』の評価を貰うことは青春の全てを費やしても取れるか分からないほど難しかった。

 

「うっふふふ、そんな言い訳なさるようでは先が見えていますわね、白井黒子さん」

 

(うげ、婚后光子(こんごう‐みつこ)

 

「この分だとレベル5に到達するのは(わたくし)の方が先かしら~」

 

 婚后光子は2年生。一応は白井黒子の先輩にあたる。能力はレベル4の『空力使い(エアロハンド)』。一般的な高飛車お嬢様で何かと黒子に突っ掛かってくる。いつも高級な扇を持ち歩いている。

 

「フン、私と貴方の能力といっしょにして欲しくはありませんの。大体3次元と11次元では空間把握法が根本的に違っ

「もともと(わたくし)、一年の分際でこうも――」

 

(相変わらず人の話を最後まで聞きやがりませんの)

 と話しているのを遮られてしまった白井黒子は握り(コブシ)をわなわなと震わせて、怒りを我慢する。

 婚后光子と知り合ったのは彼女が転校して来て間もない頃に迷子……というか、自分の行くべき寮を間違った彼女を風紀委員(ジャッジメント)として案内していた途中の会話で彼女が『派閥を作りますわ!』などと言ったのでそれを真っ向から否定勧告したのが事の始まりで、『常盤台のエースになる』と言ったからには口喧嘩に勃発。その時は居た場所が寮の目の前だった故、すぐに寮監に『うるさい!』+ゲンコツ一撃を二人とも貰って終わったのだが、何故かそれからは黒子にお嬢様なりに突っかかってライバル視しているのだった。

 

 

「――宜しくて~? 私がこの常盤台のエースとなった暁には」

 

 うるさいな~と思いながら立っていると

 

 突如。

 ドゴォンッ!! と轟音が鳴り響き、地面が揺れ、プールから爆弾でも落とされたかの様に何十メートルもある水柱が上がった。

「何!? 爆発!?」「プールの方からよ!」と周りの一年生の生徒達も驚いているが、二年生から上の生徒は、あぁまたか、の様な顔をしている。

 

「な、何事ですの?」と婚后は周りの生徒と比べたらもっと情けない感じで、尻餅をついていた。

 

「フンッ、本年度から2年へ転入してきた貴方はご存知無いかもしれませんが、今あのプールで能力測定をされているのが、『常盤台のエース」ですわ~」

 

 そう白井黒子が言うとまたもやドゴォン!! と五十メートルプールの水が爆発する。

 

「プールの水を緩衝材に使わないとまともに計測もできない程の破壊力」

 

 何度も爆発し、水は雨の様に落ち、校庭を濡らす。水柱の間から見えるオレンジ色の光熱線は正に怪物が咆哮し、目前の存在を薙ぎ倒す必殺の一撃だった。

 

「勝負するなり何なりしてエースになるのはかまいませんが、あの化物じみた一撃を真っ正面からお受けになる覚悟が貴方にあって? 私には到底無理ですわよ」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

……side プール……

 

 時間ギリギリ、最後の一発をプールに向けて、ドゴォン!! と地面が揺れ、空気が裂き、音がつんざく。

 

 

――記録

――砲弾初速・1030m/sec

――連発能力・8発/min

――着弾分布・18.9㎜

――総合評価・LEVEL『5』

 

「ふぅ……」

 

(電撃が効かないなら……)

 

 彼女は手元にあるコインを見ながら考えていた。

 

………………

 

…………

 

……

 

……side 帰様の浴院(シャワールーム)………

 

「え? 校庭まで音が届いていたの?」

「物凄い音でしたもの、皆驚いていましたわ」

 

 スキャンを終えた美琴と黒子はシャワーを浴びていた。

 

「わざわざプールの水を緩衝材にしなきゃまともに測定もできないなんて、私より黒子の能力の方がよっぽど便利よねー」

「ふふ、隣の芝生は青く見えるものですのよ」

「そりゃまあ、そうかもしれないけど……」

 

「気にすることなどございませんわ。お姉様は『常盤台のエース』なんですもの」

 

 そう言って黒子はシャワーを終え、タオルを体に捲る。

 

「エースって………」

「努力してきた方ゆえにもっと堂々と、胸を張っていれば良いのですわ。……まぁ、もっとも~――」

 次の瞬間、黒子はテレポートして、

 

「――張るというには自己主張の足りない慎ましい胸です・け・ど」

 

 御坂美琴の背後に移動して、まだ成長途中である小さな胸をむにむに~と触って、

 

「あーん、でもこの慎ましさこそがお姉様の」

 

 バンッ!! 「ひゃーぁー」と当然、美琴は黒子を蹴り跳ばした。

 

「ただのスキンシップですのにぃ~」

「こんの変態がっ! それに『AA』のあんたに言われたくないわよ!」

「むぅ! 聞き捨てなりませんわ。これから成長するんですの!」

 

 そう言って黒子は胸を張るが、そこには憧れのお姉様以上に乏しい光景が広がっていたのだった。

 

………………

 

…………

 

……

 

……side 柵川中学校……

 

 ここ柵川中学でも身体検査(システムスキャン)が終了して多くの学生が帰り始めていた。

 その中で頭に花束の様に花をつけて小さなノートパソコンをいじっている少女がいた。

 

「え~と……」

 

(今日は白井さんが御坂さんに会わせてくれる日でしたね)とか考えていると、

 

 

 

「う~い~はぁ~~るぅ~!」

 

 

 そう言われて初春のスカートがバサッと捲り上がり、周りの学生。特に男性諸君が顔を真っ赤にしている。

 その空間だけ時が経つのが遅くなった気がしなくもない。

 

 

 

「お! 今日は淡いピンクの水玉か~」

 

「ひ、ヒィ~ッ!! な、な、ななん、いきなり何するんですか佐天さん!」

 

 そして初春は顔真っ赤にして腕を振りながら『佐天』と呼ばれる女の子に必死で抗議し始める。だけれど抗議と言っても初春は、ふにゅ! うにゅ、ふにゅ! と言うだけで言葉になっていない。

 

「相変わらず他人行儀だね~。どれ親睦を深めるためにもう一回!」

 

「ふぬわぁぁぁぁ~!!!?」

 

………………

 

…………

 

……

 

 所変わって、とある町中の道のベンチ。

 そこに座りながら初春が、はぁー……と大きなため息をつき、

 

「……ヒドイですよ……」と、目の前の佐天に不満を漏らす。

 

「ごみんごみん。代わりに私のパンツ、見るぅ~?」

「結構です……」

 

 佐天涙子は初春のクラスメート。髪の長い外形は大人びた中学1年生。しかし毎日初春のスカートを捲るセクハラ中学生でもあった。

 

「そーいや、どうだった?」

「? どうって?」

「決まってるじゃん。『身体検査(システムスキャン)』」

 

「あぁ! ……全然ダメでした。相変わらずのレベル1。小学生の時から変わってません」

 初春の能力は触れた物の温度を一定に保つ事ができる能力だった。

 

「そっか、でもいいじゃん能力がある時点で、私なんかレベル0。無能力者だよ?」

 

「……………」

 あ、という感じの顔で初春は佐天を見る。

 

「でもね。私は毎日が楽しかったらそれでオッケ~! 今のところ能力なんて必要ないっかな~っと」

 佐天は指で0を作り初春を見ながら笑顔で言った。

 

「佐天さん……」

 

「あ、変なこと言っちゃって。心配しなくても。ホラ、悲しそうにすんなって! これでも聴いて元気だしなよ!」

 

 そう言ってイヤホンの片方を初春の耳に付ける。

 

「あ、これって『一一一(ひとついはじめ)』ですか?」

「そう。先行ダウンロードされた新曲だよ~。今からCDも買いに行くんだ~」

「え? ダウンロードしたのにCDも買うのですか?」

 

「ちょ、当たり前でしょっ! ファンたるものはCDも買ってこそ、真のファンというものでしょうが! ……っと言うわけで初春! いっしょに買いに行くよ!」

 

 という感じで佐天涙子は何かを意気込む様にして片手拳を挙げて、勢い良くベンチから立ち上がる。

 

「ああー! すいません今から白井さんとの約束が……」

 

 そんな佐天に向かってちょっと申し訳なさそうに初春は言った。

 

「え、白井さんって、ジャッジメントの白井黒子?」

「はい! 念願叶って、常盤台の御坂美琴さんに会わせてくれるんです! 佐天さんも一緒にどうですか!?」

 

 初春は両手を合わせて目をキラキラさせながら彼女を誘った。

 

………………

 

…………

 

……

 

 

……side 正宗……

 

 

 

――総合評価、LEVEL『3』

 と、アナウンスが鳴り終わり、正宗の身体検査(システムスキャン)が終わった。

 

「まぁ、こんなもんか」

 

 

 

 

 そう、正宗に当麻、土御門、青ピがいる高校でもシステムスキャンは行われていた。

 終わった後、正宗はスキャンする時は体操服だった為にHRの教室で着替えてから、同じ教室で夏の暑さのためノックダウンし、机に突っ伏している通称『不幸な少年』とその近くにいる自称『関西人』に近づき声を掛けた。

 

「よぉ当麻、どうだった? 奇跡が起きたか?」

 

「あ――、そんな奇跡なんぞ、相変わらずのレベル0の貧乏学生のまんま」

 そう言うと当麻は突っ伏している状態から頬杖をつく状態に変えてから、

 

「んで? 『我が校のエース』様はどうだったんだよ?」

 

「へへ、よしてくれよ~。たかがレベル3だぜ?」

 

「まぁまぁ、言われるんはしゃーないって。マサやん以上のレベルを持つ人。しかも『4』に近い人なんて、この高校にはおらへんやろ?」

 

 この丘の上にある高校は学園都市でも平凡が売りの学校だ。平凡ということは学園都市に住む学生の大半が強度(レベル)が『2』以下が多いので高位能力者はまず入ってくる事は歴代でもあまりなかった。

 強能力者(Level3)ともなると実験における商品価値が付く(=エリート)と見なされ、上の高校にも大学でさえ推薦で入れるのだが、

 能力実験で縛られることのない、ある意味一般的な学生生活を送りたい正宗はこの高校に通うが、逆にこの高校の在校生の強度(レベル)が自分より上の能力者がいないので『エース』と呼ばれることもあった。

 

「そうそう、かつては小学生の時に『レベル4』を記録したことあるんだろ?」

 

「まぁな、……まぐれだろうけどな」

 

 正宗の過去の中で辛い過去の1つ。

 9歳の時に小学4年生に転入、小学校といえどもレベルの高い進学校であった。 一般的小学4年生の能力レベルは1~2程度(テレポーターを除く)その中に正宗が入ってきた当時は強能力者で頭も良く、大変珍しがられた。

 

 しかしそれは()()()()での話だ。

 

 同級生はレベルの有りすぎる正宗に快く思ってもいなかった。正宗はそこまで会話力には乏しくなかったが、転校してきた身だったので同級生に話しかけづらかった。

 そして正宗が大能力者(Level4)となった時に、

 

同級生からの無視(シカト)が始まった。

 

 自分の能力が有りすぎるから、勉強が出来てしまうから、会話が苦手だから……、

 そういう理由でレベルを上げようとも、勉強をしようとも思わなくなった。 いや、思わなくなったのではない、怖くなったのだった……。

 

 

 

 

「にゃー」

 

 と、教室に土御門が自分の口癖を言いながら入ってきた。

 

「お、土御門お疲れ~」

 

「んで? どうだった?」

 

「『レベル0』だにゃー。せっかく体を傷め付けてスキャンしたっつうのに全然変わってないにゃー」

 

 そう言いながら土御門は自分の体操服を脱ぎ、着替え始める。

 彼の体は特にスキャンの為に傷を付けたという痕跡はなく、プロボクサーでもここまで絞ることはないと言える程の見事な筋肉があるだけだった。

 

「お前の能力って『肉体再生(オートリバース)』だよな?」

 

「そうだぜい。でも治癒速度とかが早くなったわけじゃないから『レベル0』なんだにゃー」

「レベルが上がったら高速再生とか出来たりしてな」と、笑いながら言った後、笑いが消え、ふとした表情で、

 

「ところで青ピーはどうだったんだ?」

 

 大男で関西系な青髪ピアスをじーっと見る。

 

「僕はね……」

 

 何故だかドキドキと一同の鼓動が今、一つになる。

 

 

 

「ヒ・ミ・ツ・や・ね・ん♪」

 

「「「………………、」」」

 

 とりあえずそんな返事期待してなかったのと、キモチ悪かったのでみんなスルーすることにした。

 

 

「ねぇ何でみんな口聞いてくれへんの? ねぇ? オーイ、マサやーん、カミやーん、ツッチー? ……ウワァァァァーン!! 一人にしないでえぇぇぇ!!」

 

………………

 

…………

 

……

 

 

「はーい、みなさん今日はこれで終了なのですー。気をつけて帰ってくださいねー」

 

 小萌先生にそう言われてクラスのメンツが、疎らに帰り始めた生徒や、駄弁る生徒、購買は開いているのでそこに行こうとする生徒、部活だ急げーなどと言っているどこかの運動部員もいた。

 部活には所属していない桐生正宗も荷物をまとめて帰ろうとすると、

 

「ちょい待つにゃー。今からこのメンツで、駅前にどうにか開店した焼肉バイキングに行かないかにゃー?」

「おぉ! 行く行く!」

「ええやん、ええやん、行きまっせー」

「でもそのどうにかって言葉が気になるけど……」

 

 各々が行く気満々だった。しかしながら聞いておかなければならないことがあった。

 

「つーか貧乏学生の当麻にそんな余裕なんてあるのか?」

 

 そう正宗が言うと当麻は手を合わせて、頭を下げてきて。

 

「すまん正宗! このとーり。お金貸して!」

 

「……やっぱり」

 

 そう言って正宗は財布の中身を確認する。が……

 

(確実に足りない……)

 正宗の財布の中身、ちょうど千円。

 

「……当麻、俺も行けない額しかない……」

 

「え!? うわホントに野口さんが一枚だけ。……土御門と青髪は?」

 

「こちとら持ち合わせは1人分だけだにゃー」

「僕もそんなに持ってないねん」

 と、本気で金はなさそうで財布を出して二人とも嘆く。

 

「土御門すまねえ。今日は銀行行って金降ろしてくるわ」

 

「そりゃ仕方ないにゃー。じゃあ明日にするかにゃー」

 

 結局このあとの予定が、怪しげな焼肉バイキングから『いそべ銀行』にお金を降ろしに行くことになった。

 

………………

 

…………

 

……

 

……しばらく歩いて……

 

「……な、なんで開いてないんだよーっ!」

 

 正宗は第七学区にある『いそべ銀行』の目の前に来たものの、何故か昼間なのに開いていなかったのだ。

 続けて、グルルゥゥゥと腹の虫が虚しく鳴り、気が付くと今は昼過ぎの13時15分。年頃の少年にとって、腹がへってもおかしくはなかった。

 

 そんな時にふと道の向こう側をみると、何かしら屋台の様な車があり、人も結構集まっていた。こういう屋台は、原価は何より、そしてスーパーより値段が高いのだが、

 

(仕方ない、あれで我慢するか……)

 

 そう思って並ぶと、前の方は20人くらいならんでいた。そして店からは甘い匂い……どうやらクレープ屋のようだった。色々な学校の生徒、主に女子高生が多いのだが、そんな人たちが近くのベンチで食べているので甘ったるい香りがそこら中に漂い、正宗のお腹をより苦しめる。

 それに『祝・開店』で何だかいつもよりクレープも安くなっているみたいで、また……

 

(……『ゲコ太マスコット』ストラップが貰えるらしい。要らないけど……あーぁ、甘いもの以外の昼飯になるようなトッピングがあればいいな~)

 

 そんな嘆く様にして考えていると、すぐ近くの道に一台のバスが止まってきた。バスは学生が通学で使う様な低い車体ではなく、観光用の大型バス。

 

 そして中から出てくるもの凄い人、人、人……5歳くらいの幼い子供とその親達であるようだった。

 

 あれよあれよの五分も掛からないうちにクレープ屋は長蛇の列になった。

 

 運が向いているのか、地獄に仏なのか知らないが、早めに並んでいて良かったと正宗は思うのであった。

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

……side 佐天涙子……

 

「――とりあえず、ゲーセン行こっか」

 

「え……ゲーセンですか」

 

 

 佐天は初春に付いてきたが何となく気が乗らなかった。

 最初、彼女は『常盤台のお嬢様のレベル5だから何となく自分たちを小バカにするんじゃないか』と思っていたが……

 

(お嬢様って実際そんな感じなのかな? それともゲーセン好きのお嬢様?……それに最初ファミレスで見たときは……)

 

 黒子と抱きあっていた。

 いや、黒子が一方的に美琴に抱き付いていたのだが……。

 

「もうお姉さまったら…ゲームとか立ち読みではなく、もっとお花とかお琴とかご自身に相応しいご趣味をお持ちになれませんの?」

「うっさいわね。お茶やお琴の何処が私らしいって言うのよ」

 そう言いながらチラシを貰い、ゲーセンに向かう。

 

「何かさ、全然お嬢様じゃなくない?」

 佐天は初春に尋ねた。

「上から目線でもありませんね」

 そう言いながら初春はチラシを見ていた。

 

「お、何それ?」

「新しいクレープ屋さんみたいですね。先着100名様に『ゲコ太マスコット』プレゼント……って」

 

 チラシには『クレープハウスrabulun(らぶるん)』と書かれてある。

 そして幼い子供が貰ったら喜びそうなカエルのマスコット――――ゲコ太と呼ばれるキャラクターの絵柄があった。

 

「何この安いキャラ。今時こんなのに食い付く人なんて……」

 その時に佐天は初春の方を向いていたので止まっていた美琴に気がつかなくて、ドンっとぶつかってしまった。

 

「すみませ……ん?」

 

 しかし美琴はチラシをジーっと見たままで佐天がぶつかった事も気にしてないようだった。

 

「御坂さん?」

「どうなさいましたのお姉さま?」

と、そんな美琴を覗き見た後、そのチラシに目を通した黒子はニヤニヤしながら気が付いた。

 

「あら~? クレープ屋さんにご興味が? それとももれなく貰える『プレゼント』のほうですの~?」

 

「「へ?」」

 佐天と初春は同時に声をあげた。

 

「な、何いってんのよ! 私は別に『ゲコ太』なんか……。だってカエルよ両生類よ、何処の世界にこんなもの貰って喜ぶ女の子が……」

 

 そうは言っているが……「「あ!」」

 カバンに付けていた『ゲコ太』は隠せてなかった。それがバレた時に美琴は顔を真っ赤にしていた。

 

(こんなキャラクターが好きなんだ……)

 

 

………………

 

…………

 

……

 

「うわ、人がいっぱい」

 

「何でこんなに小さい子ばかりいるんですかね?」

 

 クレープ屋の前に来たが、年齢層が自分(中一)より若い人が多かった。

 

(こんなに居たらさすがに御坂さんもゲコ太なんか…)と佐天は考えていると。

 

「ああっー!!!!」

 

 とか言いながら美琴は列の前の方にいた人物に凄い早さで向かって行く。

 

「ちょっと! 何であんたがここにいるのよっ!!」

 

「ん? っげぇ! …………え~っと~…………ごめん! まな板としか思い出せない!」

 

 その並んでいた少年は手を会わせ軽く謝りながら失礼な事を言っていた。

 

「ま、まな板じゃない! 私の名前は御坂美琴! 少しは覚えておきなさいよこの馬鹿!」

 

 そう言って何だかその人物と、勝負勝負、嫌だ嫌だの口喧嘩? をし始めた。

 

「お、おおおお姉様がと、殿方のもとへ……。黒子、黒子一生の不覚……」とか言いながら黒子の口から魂が抜け出して、今にも倒れそうだった。

 

「初春、何だかわかんないけど、完全にお嬢様のイメージと違うんだけど……」

 

 ゲーセンとか口調とか、挙げ句の果てには男の人と口喧嘩? をし始める。

 

(あれじゃーまるで私達と変わらない一般人じゃん……。いや、一般の人でもあんな風に叫ばないけど……)と佐天は思ったが、逆に親しみ易いとも思った。

 

「そ、そうですね……」

 初春も苦笑いをしている。ある意味でお嬢様というイメージを崩されたに違いない。

 

「あれ? ……白井さん、御坂さんが言い争っている相手、桐生さんじゃないですか?」

 

 そう初春に言われた黒子は魂が抜けて、燃え尽きたように白くなっていたのが「ハッ……」と言って自分の色を取り戻した。

 

「! あら、あらあらあらまぁまぁまぁ本当ですの。少し殿方の方は場合によってはいたぶって参りますの」

 

 そう言って黒子は2人にものすごい勢いで駆け寄る。

 

(うわ、何だか白井さんも危ない路線だねこりゃ)

 

 

「お姉様! それに桐生さんまで! 一体何をしていらっしゃるのですの!?」

 

 それを聞いた2人は「え? 黒子、コイツのこと知ってるの!?」「え? まな板と白井さんは知り合いなの?」「まな板いうな!」と、ちょうど声が重なり聖徳太子でなければ聞き取れない程だった。

 

「はぁ、同時に質問されても困りますの。とりあえずお姉様……、早く並ばないと『ゲコ太』がなくなってしまいますわよー」

 

「くぅ……あんた! 逃げるんじゃないわよ!」

 そう言って急いで美琴は後ろに並びに行った。

 

「ふぅ~……。すまねえ」

 

「いえいえお気になさらずとも。しかし桐生さんが何故、お・ね・え・さ・まの事をあれほど親しげになるまで知っていらっしゃるのですの?」

 

 黒子はとっても笑顔だが、背後にはドス黒いオーラが見えていた。

 

「言っとくが、ぜーんぜん親しくないからな、もともとはアイツが――」と、続けて説明しようとした正宗から後の列がつっかえていて、ちらほら『なにあれ割り込み?』『早くしろよ~』と声が上がっている。

 

「――まぁ、後で話すわ。今は……後ろが、ね?」

 

「むぅ……、仕方がありませんわ。それでは私もまず後ろに並んでおきますの」

 

 

 黒子は正宗の前に列がなくなったのに気がついていなかった。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 



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エースと呼ばれる者 Level5_and_Level3









 

 

 

「そうでしたの、ではあの時の『道路破壊事件』の真相は桐生さんでしたのね……」

「え! あの都市伝説になった事件がですか!?」

「……やっぱり、アレって、まずかった……?」

 

 とりあえず正宗はクレープを注文し、空いていたベンチに座っていたら、程無くして初春と黒子がやって来た。

 どうやら2人はまずベンチを確保しに来たが、生憎この人々の中、空いてなかったので正宗が食べた後『貸して欲しい』とのことだったので『それなら俺はいいから二人とも座っとけ』と言って席を譲ったのだ。

 そして正宗は黒子に美琴と始めて会った時の事を話したのだ。

 

「白井さん、また反省文書かなきゃいけないの? 最悪の場合……捕まったり、とか……?」

「はぁ……、もういいですの。しょっちゅう物は壊されていますし、桐生さんの場合は『正当防衛』にあたりますわ」

「よ、よかった~」

「……それよりも、なんだかあなたの様な方に『白井さん』と呼ばれるのは何だか変な気がしますの」

「え……、じゃあ、話かけないでくれ……と?」

 

 嫌われてたのかよ俺、と心の中で思ったが、表情ではガーン……と、ちょっとショックを隠しきれてない正宗だった。

 

「そうではありませんわ。先輩なら先輩らしく『さん』などつけないで欲しいのですわ」

「あぁ、そういうことね。『白井』って呼べばいいのか?」

「だったらついでに私のことも『初春』って呼んでくださいね」

「りょーかい」

 

 

 そうこう話している内に佐天涙子と御坂美琴がクレープを合わせて4つ買って来たが、何だかもの凄いどよーん……とした『負のオーラ』と共にやって来た。

 

「仕方がないですよ御坂さん、あんなに人がいたんですから……」

 

 そう言って佐天は美琴を励ましていた。どうやら『負のオーラ』は美琴から出ているようだった。

 

「ぐすっ……うぅ……ゲコ太ぁ……」

 

 御坂美琴は涙目でそうぼやいていたが、そんなゲコ太というマスコットが好きだということを正宗は聞いていないので、パクリと、自分の持っているクレープ……というより味はもはやトルティーヤに近い様なモノをを食べ進めるのだが、

 食べにくい。

 御坂美琴が未だに自分の目の前に突っ立ているのだ。

 その彼女はジー……っと何を思っているのか、美琴は幼い子供が玩具を目の前にして我慢しているかに様な下唇を少し噛むぐらいで涙目で羨ましく思うように正宗をジーッと見るのだった。

 

(……、はぃ?)

 

 その視線の先を追っていくと……、

 

 どうやら正宗がクレープを買った時に貰って、そのまま右手の小指に掛けてある『ゲコ太ストラップ』の様だった。

 

(………これか?)

 

 そう思って正宗は少し右手を美琴の方に見せる様に動かすと、動かした方に『ジー……ッ』と美琴も視線を動かすのであった。

 

 ストラップを右に動かすと……右に、ジー……

 

 次は左に動かしてみると……左に、ジー……

 

 上へ動かすと上、下だともちろん下、くるくる回すと僅かながらくるくる視線も回るので、何コイツおもしろい。と、思いながら遊んでいたが、時たまにチラッと正宗の方に(ゲコ太が欲しいのだろう)目線がくるので、ちょっとかわいそうに思えてきたのだった。

 

「なぁなぁ御坂」

「!? な、なによ、ってそれにやっと真面目に名前で呼んだわね!」

「んなことどーでもいいから。それよりもコレ」

 

 欲しいんだろ? と言い、ゲコタストラップという名のコレをより近くで見せびらかす。

 

「~~!! え、な、何勘違いしてんのよあんた! べ……、別にそんなのなんか欲しく……ない……わよ……」

 

 初めは「良いの!?」と言わんばかりに嬉しそうな顔をしたのに、直ぐにそっぽを向いてツンっとした態度をとるが、言っている言葉の最後の方はだんだん小さくなっていった。

 

「? 欲しいから見てたんじゃねーのか?」

「バ、バカねー。私はたまたま空、……ほら飛行機! 飛行機を見てたのよ!」

「飛行機って、お前さー」

 こどもかよ。と言いたかったが相手がブチギレて電撃が飛んで来るのもイヤなのでやめた。ちなみに空にはきちんと飛行機が飛んでいた。

 

「まぁいいや、じゃあ貰えてないかわいそうな子供にあげてこよーっと」

「なっ!? ちょっと待ってそれって! げ、限定品なのよ!」

「いや、俺はマニアじゃねーし。お互いに要らないみたいだから別に良いだろ? ほら、そこに貰えなかったみたいな子供が……」

 

 そう正宗は言ってゲコ太ストラップを目立つ様に摘まんで持って、何だが美琴と同じく貰えなくてショボくれている子供の方へ歩き始めると、

 

 バッと右手からストラップを美琴にもぎ取られた。

 案の定、と、正宗はわかっていたが、ちょっと強引過ぎたので顔をヒクつかせ呆れた感じになる。

 

「で、でも、限定品で、あ、あんな手がクリームベタベタな子供に渡すくらいなら、その……私が貰ってあげるわよ!」

「お前、すんごくおとなげないな、オイ……」

「うぅ、うるさいっ!!」

 

 そう言う美琴だったがストラップを貰って(奪ってだが)どこかしら機嫌が良くなっていた。あのままどういう形であれ、受け取らないで子供に渡す時にどう話し掛けるか考えてなかったので、結果はオーライ、と彼は思うのだった。

 

………………

 

…………

 

……

 

「ほらお姉さま! 遠慮なさらず」

「要らないって言ってんでしょ。何よ! トッピングに納豆と生クリームって」

「ほらあーん」

「わ、ちょっと!」とそんな事言いながら白井黒子と御坂美琴はクレープ片手に追いかけっこしている。

 

「どんなトッピングだよ、生クリームに納豆とか……」

 

「そう言いながらも桐生さんだって、クレープにしては変なニオイのするのを食べてませんか?」

 そう言ってきたのは佐天涙子、あのあと初春の紹介で正宗は『佐天』っと呼べるくらいに知り合う事が出来た。だが佐天の方も「先輩だから」という理由で『さん』を付けていた。

 

 そして正宗の食べているクレープとは、

 

「あぁ、これ? 『チーズ&ソーセージ、チリソース風味』だよ。でもこれには深~い訳が。俺さ、昼飯がまだだったから昼飯感覚で食べているよ」と佐天と初春に説明した。

 

「まぁ、お昼ご飯の様な感覚だったら」

「まだありですかね?」

 そう言って中学生少女二人は顔を見合わせる。

 

「はぁ……、もしデザートとして食べるならチョコとバナナと生クリームの単純な組み合わせが一番好きだな」

「あ! それ、わかります」

「お! 共感してくれた」

「一番安いし、美味しいですよね」とこんな感じで佐天や初春と話していた。

 

 

「ところで、何で桐生さんはお昼ご飯にクレープを選んだんですか?」と初春が聞いてくる。

 

「それがさー、最初は友達と焼肉屋に行く予定だったんだけど、お金が無くてさ……仕方なしに銀行へ行ったんだけど閉まってて」

 

(開いてくれなきゃ困る……)

 

 只今の正宗の財布の中身420円。

 

「それって何処の銀行ですか?」

「道の向かい側の、ほらあれ『いそべ銀行』だよ」

 

 そう言って正宗は銀行の方を指差す。

 女子中学生2人もそちらを見るが、初春は人差し指を口に当ててうーん……と考えてから、

 

「変ですよね。銀行とか金融関係の設備は今日、普通なら定休日なんかじゃない……はず……」

 

 そう言った次の瞬間、ゴドン!! と目の前で『いそべ銀行』は店内から爆発を起こした。

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 直後から、銀行からの強盗専用の緊急アラームと消火栓のベルが鳴り響き、平穏な午後は一変する。

 

 

「初春! アンチスキルの連絡と怪我人の有無の確認を!」

「はい!」

 

 そう言って黒子はベンチから向かい側の道に飛び出す。

 

「黒子!」

「白井さん!」

「いけませんわ、お姉さまに桐生さん、学園都市の治安維持は私たちジャッジメントのお仕事、今度こそお行儀よくしていてくださいな。それと桐生さん、さっき言ったこともう忘れていますわ」

 

 美琴は仕方ないな……という顔をして、正宗は「そうだったな」と言って苦笑いをして頭をかいた。

 

 

 

 

 

「オイ、グスグスすんなよ!」

 

 銀行から出てきた強盗3人は急いで逃走用の車に向かっていた。

 

「お待ちなさい!」

 

「ああん?」

 

「ジャッジメントですの! 『器物損壊』および『強盗』の現行犯で拘束します!!」

 

 自分の腕に着いた風紀委員(ジャッジメント)の『腕章』を見せながら黒子は強盗達に言った。

 しかし何故か犯人達は驚きもせずお互いに顔を見合せる状況に、うん? と黒子は小首を傾げる。

 そして強盗達は、ギャハハッ!! と突然笑い始めた。

 

「どんなヤツが来たかと思えばー!」

「ジャッジメントも人出不足か~?」

 

 そんな理由で笑っていたのだ。確かに黒子は中1であり、女の子だから。

 

(む、ムカつくですの……!)

 

「そこをどきな、お嬢ちゃん」と、強盗の中で一番大きな体格の太った男が言い始める。

 

「どかないとぉ、ケガしちゃうぜー!!」

 

 そして黒子に向かって突進して行くが、

 

「……そういう『三下』のセリフは――」

 

 そう言いながら大男に足をかけ袖をを引っ張る。

 男は「なっ!?」っと言いながら空中で回転し、背中から地面に叩きつけられ後頭部を打ち、気絶。

 

「――死亡フラグですわよ」

 

………………

 

…………

 

……

 

「すごい!」

「さすが黒子ね」

「やるなー」

そういう風に3人は事件に遭遇したのに黒子に釘を打たれたので『傍観して』いた。

 

 

「ダメですって! 今この場を離れたら」

「でも!」

 

 傍観している時に初春がバスガイドの腕を掴んで必死に止めていた。それを見た3人は初春の近くに寄る。

 

「あの……どうかしたんですか?」

 美琴がバスガイドに尋ねた。

 

「男の子が1人足りないんです! 少し前にバスに忘れ物したって言ったきり……」

「え……」

 危険はあるだろうとは思った。でもそう言われて、ここから離れてなどとも言えないのが、そして、探そう、放っておけないと決めるのが彼女の性格だった。

 

「じゃあ、私と初春さんと、え~っと……」腕を組んで、御坂美琴はその目の前にいる年上の少年に向かって、

 

「確か、……()()()()って名前よね?」

 

 ビクッと動いた。

 ……うん、と正宗は頷くが、言われた時、ものすごーく嫌な予感と背中が冷たいゾクゾク感に見舞われ、それが確心的になったのは美琴がどこかニヤついているように見えたから。

 

「私も手伝います!」  

 そう言って佐天も参加する。

 

「わかった。手分けして探しましょ!」

 

………………

 

…………

 

……

 

 ボォッ! と強盗のリーダーであろう男の手から炎が出た。

 

(パイロキネシスト……まったく……)

 

 

「今更後悔しても遅いぞ! お前には消し炭になってもら……」

 

 しかしそんなことを聞かずにダッ! と黒子は道路に駆け出した。

 

「な……、逃がすかよ!」 

 

 リーダーの男は炎を黒子に投げつけるが黒子はテレポートで避けた。

 

 しかしあろうことか避けた炎の弾は……

 

………………

 

…………

 

……

 

「桐生さん危ない!!」 

 初春に言われて正宗はとっさに後ろを振り向くが、

 

 ……直撃、ではなかったが、炎の弾は正宗の手前の地面にぶつかり爆発した。結構な威力があった様で砂ぼこりがあがっていた。

 

「桐生……さん……」

 

 佐天は目の前で人が死んでもおかしくない爆発にただ目を丸くさせるだけだった。

 

 

 

 

「そ……そんな……」

 

 黒子は悔やんでいた。自分の判断の誤りで一般人に被害が出たことを……。

 

(私のせいですの……炎の弾がどこまで飛んでいくか、ちゃんと予測しておくべきでしたの!)

 

「お、おい、殺しちまったんじゃねえの?」

 

「し、仕方ねえだろ、とっさだったから、威力の調節が……」

 

「俺ら捕まったら、少年院……いや刑務所まで……」

 

 そう言いながら強盗達は慌てていた。砂ぼこりが収まり、見るとそこには仰向けに倒れている正宗の姿があった。

 軽くキレた、様子で。

 

「はぁ? フザケンな、勝手に殺すなよ。……それに何言ってやがる。その前に俺の『私刑』に決まってるだろ」

 

 しかしその倒れているだけだった人物はそう言葉を発しながら起き上がって強盗を見据える。

 

「人を殺そうとしておいて、『わざとじゃないんです』とか言って言い訳してさ……許されるとでも思ったのか、アァ!?」

 

 その表情に慈悲はない程に冷たく、目を細ませ、視線が鋭利な刃物の様に突き刺さる。

 

「お、お前……。俺の炎をくらって……」

 

 リーダーの男は驚いていた。

 自分の炎の威力は大能力者(Level3)クラス程あり、あれだけ反応が遅かったのになんで正宗が立っていられるのかがわからなかった。

 

「そんな炎とか爆発時に生まれる『運動エネルギー』とか『温度』を操れば簡単に防げるから。まぁ気がつくのが遅かったから自分の体の周りだけだったけどさー……」

 

 そう言って正宗はリーダーであろう男をより睨み付ける。

 

「さっきも言ったけど。タダで済むと思ってんじゃねえだろうな?」

 

 正宗はポケットの中からガスライターを取り出して蒼い火を点火したと思ったら、

 揺られているが長さが……いや、刃渡りが3メートルある火柱の様な剣となってガスライターから出ていた。

 

「な……」

 

 強盗は驚く。

 仮にも自分だって発火能力者(パイロキネシスト)だ。

 目の前の高出力の炎(ガスバーナー)をくらったら火傷どころでは済まないだろうということは是が非でもわかる。ある一方で初春は正宗の能力を始めて見たのでこちらも驚いていた。美琴は持続出来るの!? と呟き、別の意味で驚いていた。

 

 

(ま、マズイですわ!)

 

 火柱を見た瞬間、黒子がテレポートでリーダーの男にドロップキックをくらわせて、倒れたところでリーダーの服に釘をテレポートさせて身動きが出来ないようにさせた。

 

「これ以上抵抗するのなら、次は『地獄』をみるより怖いことになりますわよ」

 

「う……ぐっ……」

 

 男は何のことかわからなかったが相手は『どこかの強者』と『空間移動(テレポーター)』だと分かり、しかも身動きが出来ないので諦めた。

 

「おい! 何の真似だ! 人のケンカに――」「勘違いしないで欲しいですの。また道路や建物なんて破壊されたりでもしたら……。それに過剰な反撃行為も罰せられますわ。ここは黒子に免じて怒りを鎮めてくださいな」

 

 それと……、と白井はフゥとため息を吐いて、

 

「無事でいてくれて良かったですわ」

 そんな事を宥めるように言った。

 

「……はぁ……、わかったよ。『反省文』だって書きたくないしな……」

 

 そう言って正宗は炎を消してガスライターをポケットに入れて諦めた。

………………

 

…………

 

……

 

「うーん……」

 

 佐天は正宗が無事だとわかってから男の子を捜すのを再開した。

 

 美琴はバスの中を、初春はバスの後ろ側を、佐天は前側を捜して

 

 

『あ、何だお前!』

 

 

 しゃがんで捜している時に後ろからそんな大声が聞こえた。

 

(え?……)

 

 後ろを振り向くと捜していた男の子が強盗に連れ去られようとしていた。

 

「ちょうどいい!『なにお兄ちゃん、ねえ?』いいからさっさと来い!」

 多分逃走する時に『人質』として扱おうとしているのだろう。

 小さな少年の腕を強引に引っ張っていた。

 

 一瞬、佐天は何が起きているのか判らなかった。困惑したままで美琴や初春を呼ぼうとしたが、彼女なりにもはっきりとわかったことがあった。

 

 このままでは間に合わない、と。

 

(……、私だって!) 

 

 佐天は覚悟を決めた様に奥歯を噛み締めて、助ける為に駆け出した。

 

………………

 

…………

 

……

 

「そっちは?」

 

「ダメです!」

 

 美琴は、灯台もと暗しとも言えるかもしれないとバスの中を捜したが、そんな男の子はいなかった。

 

「ったく、何処へ行ったのよ!」

 

 そう言って焦っていた。(もし強盗にでも人質にされたら……)と美琴の心の中で考えていた。

 そんな時、

 

「おい何だテメェ! 『ダメ――ッ!!』離せよ!」

 

 強盗の怒鳴る声と佐天の叫び声に美琴と初春はとっさにバスの前側を見た。

 

「クソッ!!」

 

 佐天は必死で連れ去られそうな男の子を掴み守ったが、

 男の子を引き離した瞬間に強盗に顔面を蹴り飛ばされ佐天は倒れた。

 

 強盗はそのまま車に乗りこみ一気に走らせドリフトし5人のいる方向に車の向きを変えた。

 

 

「こうなったらテメェらまとめて……」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

(あの野郎ォが!!)

 

 正宗は『もう我慢ならない』と限界だった。

 さっきの事があったのに怒りを鎮めていたが、無理だった。ライターをしまった後にあんな怒りを増長させる出来事などを見れば当然と言えた。

 しかしそれは、

 

「黒子ぉっ!!」

 

 白井黒子はその怒鳴り声を聞いてビクッとする。

同じ時に御坂美琴も、同じ気持だった。

 

「こっからは私の()()()()()()だから。悪いけど、手、出させて貰うわよ」

 

 そして黒子の返答など待たず、道路の真ん中に立ち、車と向き合う。

 

「待てよ御坂!!」

 

 正宗は叫んだ、美琴に向かって。

 それを聞いた彼女は振り向き正宗を睨み付ける。まるで『邪魔すんな』と言わんばかりに。

 しかしそれに臆する正宗ではなかった。逆に美琴の方が正宗の威容な存在感を感じて内心、驚くぐらいだった。

 

「俺も一発、参加させろ……!」

 

 目を見開き言って、さっきの怒った時とは比べものにならない程の怒りがわかる感じがした。

 

「ふん、足、引っ張んじゃないわよ」

 

「お前こそな」

 

 2人は静かに『逃走車』に向き直る。

 

………………

 

…………

 

……

 

「おっ、思い出した!」

 突然釘を打たれて身動き出来ないリーダーの男が口走る。

 

「ジャッジメントには捕まったが最後、心も体も切り刻んで再起不能にする最悪の腹黒テレポーターがいるという噂っ!」

「誰のことですの? それ」

 

 黒子は少しムカついた。『最悪の腹黒』と言われたら誰だってムカつく。

 

「それだけじゃねえ! そのテレポーターを虜にする相方、あの最強の電撃使い。ハ!? 『超電磁砲(レールガン)』!! でも……、だったら『あの男』はいったい!?」

 

………………

 

…………

 

……

 

 正宗と美琴は道路の真ん中に立ち、向かってくるであろう止まっている車を見ていた。

 

「あんた、蒼い炎か何か出してガソリンに引火させて、死なせるんじゃないわよ」

「あぁ、わかってるよ。お前こそ車体に風穴開けて殺すなよ」

 

 それに……と付け加えて、

 

「お前が超電磁砲(レールガン)撃つなら、俺も『電気系』の能力を使う……」

「……まさかあんた、ウソでしょ!? 電気系統も扱えるの!?」

 

 勘違いしていた。正宗の事を『炎』と『空間移動』の二種類扱える能力者だと思っていた。

 

 

(あ、でもそうならあの時に私の電撃を防いだ理屈は通る……)

 

「ホント何者よあんた」

「さぁーて何なんでしょーか?」

 

 そう言って正宗はポケットから『スタンガン』を取り出す。スタンガン? と言いたそうに美琴は小首を傾げた。

 

「まぁ見てろって」と正宗は言葉を紡ぐ「俺は電撃使い(エレクトロマスター)じゃねえけど。本気でやるわ」

 

 本気というのは威力の面ではない。正確性(コントロール)の面でのことだ。

 

「へぇー。それは楽しみね」

 

 この言葉は御坂美琴の本心とは少し違っていた。その『楽しみね』という言葉の裏には少なからず期待とショボい技出すなよ、という意味が込められていた。

 

 

 そして美琴は、まるで試合開始前の合図をする様にコインを右手の指で上へ弾き、『超電磁砲《レールガン)』を撃つ動作を。

 

 正宗は『スタンガン』を右手で持ち、まるで野球の投手(ピッチャー)の様に腕を大きく振りかぶり、ボールを投げる動作を。

 

 

「そう、あの方こそが……」

 

 学園都市230万人の頂点、7人の超能力者《レベル5》の第3位……そう黒子が言いかけていると強盗の乗った車が物凄いスピードで2人に向かって走りはじめた。

 

 2人は背中合わせにだが別々の動作をして、だがその動作は無駄の無い、

 

 ――流れる様に、

 

 ――同時に、カッと目映く輝き、

 

 ――速さは(イカズチ)の如き、それを放つ。

 

 轟音と空気にうねりを上げて放たれた2つの光線は、車を後方数十メートル以上に吹き飛ばす。

 

 御坂美琴は自身の代名詞であり一撃の必殺技である『超電磁砲(レールガン)』を。

 

 桐生正宗は上投げ(ワインドアップ)から直球(ストレート)を投げる様にして、右手で持ったスタンガンの先から電撃の線、

 高速で電荷を帯びた粒子を撃ち出す、科学的識別名

 

 

 

 

 『荷電粒子砲』を。

 

 

 

 

 

超電磁砲(レールガン)、御坂美琴お姉様……。常盤台中学の誇る最強無敵の電撃姫!」

 

 そして……、と呟く様に言葉を繋げる。

 間近で見ていた黒子は凄まじい音と風を受けながら耳を押さえて続けて語る。 それは『あり得ない』と思っていた。

 しかし『あり得ない』と考えていたモノは『実物』として黒子の目の前で、美琴の隣で堂々と立つ。

 

「都市伝説『裏のLEVEL5』の……桐生正宗さん、ですの」

 

 

 

 

「ほへ~……」

「凄い……」

 

 確かに凄い光景だったであろう。

 

 『超電磁砲(レールガン)』と『荷電粒子砲』の2つを同時に見ることなど、今の地球上では実現不可能である。

 佐天と初春は言葉に出来ずに、ただ口を開けているだけだった。

 

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

……TIME 16:55……

 

 

 事件が二人によって終盤を迎えた後、警備員(アンチスキル)が来て事件の処理を今行なっていた。

 

 ちょうど処理に当たっていたのは、正宗の高校の体育教師である黄泉川先生の率いる部隊だった。

 

 そんな時に「桐生、何やってんじゃん? こんなに女の子連れて、ハーレムじゃん?」「そんなわけない! 誰がこんなまな板娘と!」「まな板言うな!」ビリビリ~というやり取りをしていた。

 

 そんな最中、強盗3人は今から護送車両に乗せられるところだった。

 

「あなたの能力もなかなかの物でしたわよ。強能力者(Level3)、と、いったところでしょうか……」

 

 唐突に黒子は背をむけてだが最後に乗り込もうとしていたリーダーの男に話しかけていた。

 

「能力に有頂天になるあまり、道を違えたようですわね……。しばらく自分を見つめ直して、もう一度出直してくださいな……」

 

 そう言って黒子はリーダーの男から離れて行った。

 男は何も言えなかったが、その表情に悔しさはあったが、悪意のない悔しさの表情があった。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 佐天は顔に大きな絆創膏を張って地面に座って一息ついていた。

 

(さっきは何だか恥ずかしかったなー……)

 

 そう、さっきまで助けた男の子とその母親、そしてバスガイドさんにお礼を言われたからだった。

 

(『おねーちゃんありがとー』)

 

 そんな助けた男の子の言葉を思い出していると、誰かか近づいてくる気配がした。

 

「お手柄だったね佐天さん」

「ホント、すっげーカッコよかったぜ」

 

 美琴と正宗だった。

 

「いえそんな、私はただ……」

「佐天さんが男の子を助けてくれなかったら、もっと大変なことになってたかも知れなかったのよ? ありがとう」

 

 そう美琴に言われ、佐天はまた顔を赤くして照れていた。

 

「佐天さん! お怪我大丈夫ですか?」

「ああ、へーきへーき。大したことないよー」

 

 初春も心配して言ってきてくれた。彼女はうーとか言いながら彼女の傷を見ていた。

 

 

「……あ! そうよ!」

 突然美琴が何かに気が付いた様に言って隣に居た正宗の方をぐるりと見る。

 

「あんた今から勝負」

「あー! 思い出したー! 今から大切な用事が~……」

 

 そう言って正宗ははぐらかそうと思って、あさっての方向に向いて歩き始める。

 しかしそんなことで美琴が見逃すはずもなく、正宗の服の裾を掴み、

 

「コラ! ちゃんと私の相手をしなさいよ!」

「うわ、放せよまな板娘! 台所にでも行ってろ!」

「なーんですってーっ!!」とまたその場で口喧嘩(電撃を含む)が始まった。

 

 しかしそんな時、美琴に「おねぇーさまー!」っと黒子が飛び付き頬を擦り寄せ始めた。

 

「黒子は頑張りましたのよ~」

「うわ、ちょっと離れなさいよ!」

 

「お姉様ぁー」と頬をスリスリとするが「こんのっ!」ビリビリと、黒子は美琴の電撃を喰らって「あぁん! 愛の鞭ですわ~」と言って倒れる。

 

 見ている方はいつものことだったが、何故だかついつい初春も佐天も笑ってしまった。

 

 

(御坂さんも、桐生さんも、かっこよかったです)

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

……side 常盤台女子寮……

 

 

「見つけた!」

 そんなことを大声で言ってパソコンをいじっているのは常盤平のエースこと御坂美琴。

 結局あの後は正宗にまた逃げられてしまったので、仕方なく寮に帰ったのだった。

 

 しかし運がいいのか、それだけしか獲られず運が悪いのか、名前はあの時覚えたのだ。これを今、利用しない訳がないと、理由は伏せたが黒子に頼んで『書庫(バンク)』に接続して貰った。風紀委員(ジャッジメント)は書庫に接続することができる。それを利用したのだった。

 もちろん『タダで』というわけではない。

 

 今度、黒子と一緒に買い物に行くという取引の上で閲覧しているのだ。そして自分のハッキングの能力を駆使して隅々まで調べていく。

 

 能力の名称から用途、強度(レベル)、在籍校の他にも住所、氏名、年齢、電話番号……etc……。プライバシーの侵害だと正宗が訴えたら正宗が確実に勝つほどに、だが当の本人は裁判沙汰になるまで訴えることは永遠に無いだろう。

 

(なかなか手強そうね……)

 

 見ていてそう思った。大雑把にだが、正宗の能力とは全ての物理現象における『力の値』の変更と解釈した。

 

 そして目を閉じて自分の頭の中で戦いをシミュレートしていく。

 

(……大丈夫よ、私。相手はそれでもたかが強能力者(Level3)、絶対に勝てる。今度こそ『勝負』よ!)

 

 そう思ったのは勝算が見つかったのだろうか。

 はたまたは『自分だけの現実』を信じての事だったのか……。

 

 

 




『荷電粒子砲』
・砲弾として用いられる荷電粒子(電子、陽子、重イオンなど)を、粒子加速器によって加速し発射する。※荷電粒子とは、電荷を帯びた粒子のこと。
・しかし、現代の地球上では必要とされる超絶な量の電力が得られず(大気圏内で荷電粒子が直進するには、質量の大きな荷電粒子であろうと)、最低でも10ギガワットの出力が必要である。
※正宗は、能力によって粒子に荷電させ、その粒子の直進方向の運動力の大きさを変えるだけで放つので、電荷の付加ならびに粒子加速器による膨大な電力の必要性がなくなっている。地球磁場の干渉により直進するか否かの問題も、10mの能力範囲内ならば修正可能。10m以降は物理法則通りに曲がる可能性が出て、遠ければ遠くなるほど高くなる。




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嘘ツキ人にご注意を  Huge_fried_rice.

この話はあんまり自信がないというか、息抜き程度ですので……








 

 

 

 

 

 教室にグゥゥ……っと腹の虫の音が虚しく鳴り響く。

 

「腹へっ……た……」

 

 本当ならば昨日お金を降ろして焼肉バイキングに行く予定だった。

 だが今の所持金は130円。

 これが意味するのは、昨日の夜はカップ麺1個で済まして、朝はパン1枚食べただけであるが……育ち盛りの少年には足りないものである。

 

 実はというと、昨日いそべ銀行が爆破されて工事中となってしまったのだ。

 あの強盗達、結構暴れ回ったようでATMとか中の金庫やら何やら破壊したらしいのだ。そして早くても開くのは明後日らしい。

 あの強盗どもがぁぁぁぁー!!!! そんな言葉を心の中で発言、発狂して、一発殴っておけばよかったと思う正宗だった。

 

「明後日まで……食糧難だ……」

 うわーん……と今日、明日を130円で終わらせる。正宗の『いきなり黄金伝説』が今始まった。

 

「……マサやんにカミやんの不幸体質が移ったんかいな?」

「それはないな、昨日は電子レンジが爆発するし、今日は犬に追いかけられながら登校したからな…」

「じゃー伝染しはじめたのかにゃー?」

 

 いやいや、電子レンジが爆発って……と言いたかった正宗だが、隣の机で語るΔ(デルタ)フォースの話を聞き、悲しみと絶望感に浸って喋る気がすでに失せていた。

 だがそんな時に土御門が手の平を ポンッ と叩いて頭に電球でも出ていてもいいような表情を浮かべて。

 

「マサやん、昼飯をタダで喰わしてあげるにゃー」と言ってきた。

「!! マジですか土御門、いや土御門様!」

「にゃははは~まかせるにゃー。腹もいっぱいになるぜよ! でも焼肉バイキングじゃないし、()()()()()から()()()()()ことになるけどいいかにゃー?」

 

「もうこの際だったらなんでもいい! お願いします!」

「よし! そうとなれば行くにゃー。おおそうだぜい、かみやんも青髪も付いてくるにゃー」

「マジか土御門!」

「よ! 太っ腹やね!」

 

 そう言われて3人は学校から出て土御門に付いていった。むわ、あちぃと夏の暑さが身に染みる。それに加える空腹感はなにより耐え難いものだった。

 

「あ、もう一つ言っときたいことがあるにゃー」

「どんな?」

「注文は俺がとるにゃー。勝手に別もん頼まれても金無く、皿洗いなんてごめんだぜい」

 

「……まぁおごられる身だから」

「仕方ないよな……」

 

 多分おごってくれるのだろうと期待する3人。

 そして着いたのがとある安そうな定食屋だった。

 

「安そうな場所できたか……」

「仕方ねえよ、文句は言えないしな」

「さあ入るにゃー」

 

 だがこの時ちゃんと見るべきだった。

 店の前にあるメニューの模型と種類を……。

 

………………

 

…………

 

…… 

 

 

 店に入ると『いらっしゃーい』と奥から『中年男女2人』の声が聞こえてくる。多分夫婦で経営している店だった。

 

「うわ、むっちゃええ匂いやな」

「たまんねー。腹へった~」

 

 青ピーと正宗がそう言う。店内は『まぁまぁ』の人で賑わっている。学生も多いが、社会人の、特にサラリーマン風の人を大勢見かけた。たぶんファーストフード店やファミレスよりもこっちの店の方が入りやすいらしい。

 そして全部木で出来た、角のすり減った懐かしい感じがするイスに座る、テーブルも古びた感じもまた彼らにとって趣がたったりするのだろう。

 

「すんませ~ん、A定食と店前に展示してあった『例のチャーハン』3人分くださいにゃー」

 

(((例のチャーハン?)))

 

はいよ~という声と『ジャンボ地獄チャーハンが三つ』などという言葉が、店の奥にいるおばちゃん店員さんから聞こえた。

 

 

「……お、おい土御門」

「ジャンボ地獄チャーハンって」

「どういうことやねん?」

 

 何ですかそれは、という意味で三人は土御門を見る。

 

「1時間以内に食べるとタダになるんだにゃー」

 

「何その時間制限……」

「1時間を越えると?」

 正宗と当麻が冷や汗を出しながら聞く。

 

「料金1人分『3000円』支払わなければならないにゃー」

 

「……それは土御門が支払ってくれるんだよな?」

 

「――何言ってるんだにゃー。時間内に『タダで』食べられる所を紹介しただけで、『おごる』なんて一言も言ってないにゃー」

 

 三者が固まっていたら、「はいお客さん、お待ちどう!」と、びっくりするほど、ホントに直ぐに料理が来た。どうやらこの店は科学調理技術における最速を実験、研究している企業が協力連携している店だったらしい。だから時間が惜しいと感じる、中年サラリーマンが多かったのだ。

 

「大した挑戦者だね~あんたたちも」

 店のオバさんがそう言って出してきた『ジャンボ地獄チャーハン』とは、

 炊飯器をひっくり返した様な量のご飯にこれでもかという風に『具材』の『車エビ』まるごと3匹に『角煮』の様な豚肉を入れ野菜も何だかキャベツ一玉あるんじゃないかと思うくらいにたっぷり。そして上から『目玉焼き』を3つ乗せた。超美味しそう(クレイジー)なチャーハンだった。

 

「さぁ、早めに食うぜい」とか言いながら、土御門は割り箸を割ってから自身のA定食を食べ始める。

 

「「「…………………」」」

 

「どうしたんだぜい3人とも? え? 何でマサやんは『ガスライター』を出してるんだにゃ? 何でカミやんと青髪は『のこぎり』に『ペンチ』なんか持ってるんだにゃ? 早くしないと時間が間に……に――」

 

「「「ふざけんな!!!!」」」

 

「――にぎゃあぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 そのあと土御門は、三人の鬱憤をすべて受け止め、消し炭になった。まぁ当の本人の能力のことだからいつかは復活するのだろう。

 

 正宗は腹がへっていたので何とか食べる事ができたが……上条当麻は食っている途中、もう無理と倒れてダメだったので『3000円』を「不幸だ……」とか言いながら払っていた。

 青髪ピアスは気付かない内に完食していた。

 

「思い出したにゃー」

 真っ黒になった土御門が起き上がる。どうやら『肉体再生』したようだ。

 

「なんだよ『備長炭』」

「ヒドイぜい……。そうそう、別に銀行に行かなくても『ATM』ならコンビニにあることを思い出したのにゃー」

「あ、………………」

 

 そんなことを言われて気が付いても、食べた後だった。

 

 

 



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扱うは力  The_decisive_battle_of_K.










 

 

 

 

 今現在、エアコンの設定温度が26度という、人間が動きやすいとされる超快適空間の部屋で、部屋の主である桐生正宗と、同級生の上条当麻、土御門元春、青髪ピアス、の4人で『大乱闘(スマブラ)』をやっていた。

 彼らの近くにあるテーブルにはそれぞれが持ち寄せた甘い系のお菓子にスナック類、冷えたジュースと氷の入ったガラスコップが置いてあり、駄弁り、遊び、お菓子を摘まみながら遊んでいた。

 ここで、カイッーン!! 『ウワッーァァァァ……』と帽子にMマークの赤いオジサンがテレビの中でキラーンとお星様になる。

 

「キタねぇぞ土御門! ホームランバットばっかり使いやがってーっ」

「にゃ~、アイテムのせいにされてもルール上ありだから、負け惜しみにしか聞こえないにゃー」

 

 ここでこう遊ぶ前に正宗はATM からお金を降ろすことが出来たので昼飯は例の焼肉バイキングへ行った。そこで昨日の事があり当麻はお金がなくなっていたので正宗は貸してあげていたりする。

 以前、店は『なんとか開店した』と土御門は言っていたが、看板に書かれていた店の名前が『ナントーカ』と言うものだった。突っ込んだら負け、と土御門が改めて言って来たので、みんなで痛々しいほど突っ込んだ。おもに裏拳で。

 

「トマトはもらったぜい」

「あぁ! また落とされたコンチクショー!」

「土御門が全然死んでねー」

「この波乱。攻撃あるのみやね!」

 

 ちなみに、正宗は昨日のあの後に御坂美琴に出会ったが、何故か、ずぶ濡れになっており「あー、あんた……もう調べはついてるし、今日は疲れたから勝負しないであげる」と意味深げな言葉を残して帰って行ったのだった。

 

 

 次はバッコーンとゲーム画面の床が爆発。『ウォォォォォ!!』とゲームの中で歓声があがる。

 

「誰だよこんなところにセンサー爆弾しかけたのは!」

「ふっふっふ、カミやん? 僕が『トラップ青髪』だということを忘れてへんか?」

 

 

 ちなみに正宗が使っているのが『赤いオジサン』、土御門は『星のキツネ』、当麻は『大食いピンクボール』、青ピーは『緑色の変な恐竜』である。

そんなゲームの強さ的には、土御門≧青ピー>正宗=当麻の順番である。

 

「よっしゃハンマー取った、覚悟しろ土御門」

「あまいにゃー」

「ギャァー! ボム兵ー!」

「うわ、誰だよ伝説のポケ○ンなんて出したの!」

「僕やでカミやん」

「ゲームの中でも不幸ーだー!!」

 

 ちなみに土御門と青髪ピアスの強さは別格だ。『COM(コンピュータ)』のレベルを最大にしても1回も死なずに生き残る程の腕前だ。正宗と当麻も決して弱くはなく、強い分類にされるのだが、次元が違い過ぎた。

 

『5!・4!・3!・2!・1! ~TIME UP~』とアナウンス。バトルが終了。

 

「あー! また俺の負けだー!」と頭をかきながら叫んでいるのは当麻。

「やや? これでカミやんは3連敗だにゃー」

 

 ちなみに笑ってはいるが正宗はずーっと3位である。うん、どことなく空笑いに見えなくもない。

 

「次は『マリテニ』でバトルだ!」

「挑むところや」

「負けないにゃー」

 

 時刻は17:12。高校生にとってまだまだ遊べる時間帯だ。

 だが、

 

ピーンポーン…………と、突如正宗の部屋のチャイムが鳴った。

 

 

「誰か来たかにゃー」

「うわーめんどくせー、誰か代わりに出てよ」

「なんでだよ。そもそも正宗の部屋なんだから正宗が出ろよ」

 

ピーンポーンピーンポーンと続いて二回連続で鳴り響く。

 

「なぁー、何度も鳴らしてるって事は知り合いとちゃうんかいなー?」

「っちぇ~、わかったよ」

 

 押し売りだったらいきなりドアを閉めて、宅配便だったら助かるな~とか思いながら玄関の方に行く。

 

 ピーンポーンピーンポーンピーンポーン……と、また鳴る。

 

「マサやーん、今3人じゃマリテニ無理だから『カート』でええかー?」

 

 青ピーが言って来たので、いいぞーと正宗は答えた。ちなみにカートは『赤いMオジサンのカート』である。

 

 ピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン……!

 

 

「はいはい! 今開けますよ」

 

 ガチャッ(open the door)

 

 玄関のドアを開けると、ムワァ~と夏の過酷さの代名詞、暑さが雪崩れ込んで来る。宅配便なら、ご苦労様です。ハンコをとっとと押すから貴方も涼しい車内にとっとと帰ってくださいね、と言いドアを早く閉めたくなるし、知り合いなら無駄なことはせずに部屋にすぐさま入らせる。

 

 だがそこに居たのは押し売りどころか宅配便でもなく、クラスメートでもなく、自分の親でもなく、理想とするニーソを穿いた足の長い美人でもなく……

 

「ちょっと! 何度も鳴らしてるんだから早く開けな――」

 

 バタァッン!!(close the door)

 

 カチャン……(and lock)

 

「………………、???」

 

(なんで? 何でアイツが俺の住所を……?)

 

「マサやーん、どうかしたのかにゃー?」

 

 土御門が顔を覗かせて言ってくる。正宗は、な、何でもなーいと返す。ここで見つかれば大変なことになる。相手は仮にも女の子、ここは男子寮。そして今部屋にいるあのお三方、確実に勘違いをされる。

 

 ビリビリッ……カチャン(!?!?)

 

「へ?」

 

 バーッン!!(emergency!)

 

「訪問拒否すんのかこらぁぁぁぁーっ!!」

 

 デデーン、『怪物』もとより『まな板』でもある最強の電撃使い、御坂美琴が現れた。という現在進行形のゲーム的な彼の反応……じゃなくて、

 

「のわぁぁぁ!? ちょっ待て待て待て!」と半分叫びながら急いでドアを閉めて玄関前の通路において二人は口論を開始する。

 

「マジでおま、何でこんなとこまで来るんだよ!」

「うっさい! もう逃げらんないわよ! いつぞやの決着……、私と今から勝負しなさいっ!」

「ハァ!? んな理由!? たったそんなことで!? いいかよく聞けよく考えてみろよ。おかしいだろ! んなことで家にまで押し掛けるなぁー!!」

「なによ!! 昼間来ても居ないし、いくら捜しても居ないあんたが悪いのよっ!!」

「む、むちゃくちゃなこじつけかよ! 俺に否なんて一個もねえじゃねーか!」

 

 つーか昼間に来ていたのかよーっ! と、ぎゃあぎゃあとワメいて玄関から出て話していると、

 

 ガチャッ(open the door ……)

 

「なんだなんだマサやん、叫び声なんか出して大丈夫かに……」

 

 ピタッと止まった後、

 

 にゃわあぁぁー!! と心配してくれた土御門が玄関から出てきたことがさらに最悪の展開にさせたのだった。

 

「つ、つ、土御門!? 誤解だ! つまりは数多くの理由があるんだ!」

「この状況でどういう理由があるのかにゃー!! 詳しく話せ! どの程度進展してるのかにゃー!!」

「ちょっとちょっと聞いてんの!? 私と勝負!」

「あわわわわわわ……」

 

 もう何がなんだか分からなくなってきた正宗が取った行動とは、

……もういいや~。と、悟りでも開いたかのような表情で、思考の停止と

 

「うぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 逃走という『現実逃避』だった。

 

「え、ちょっ、待ちなさいよっ!! 今さら逃げんなぁぁ!!」

 

 美琴は走って正宗の跡を追いかけてくる。

 

 残された土御門は頬をピクピク、口をポカーンと開けたまま取り残された。

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 その後、正宗は走りに走ってあの川原の土手まで来ていた。西に沈みゆく夕日は本当に綺麗で、こんな青春チックな風景がまだ残っていたなんて……と、誰かが言いそうなくらいだ。

 だがここにいる少年Kは体育座りで頭を伏せて明らかに『元気がないんです。ほっといて下さい』という雰囲気が出ていて、またそれを夕日がより引き立ててくれている状況だった。

 

「なーにぐずってんのよ。……嫌でも勝負してもらうんだから……」

 

 追いかけて来た御坂美琴が正宗の隣に立って言ってくる。言ってくる言葉は迷惑極まりないが……。

 

「絶対に土御門が当麻と青ピーに言って、怒り狂った奴らは俺の部屋を……あーぁ、こんなことになるんならちゃんとエロ本隠しておけばよかった……」

 

「え……え、え、エロ本って!? まさかあんたそんな物を読ん――!? うっ、……こんな時とか場所とか……相手を考えて言いなさいよ馬鹿!! エッチ!!」 

 

  一応言っておく。正宗だって思春期なのだ、エロ本の1冊や2冊持っていてもいいはずだ。しかしそんな言葉を聞き慣れてない。いや、慣れていても困るのだが……『エロ本』と言うワードに対応出来てない美琴は顔を真っ赤にして抗議する。

 まあ『普通の女の子』の前だったら言う言葉ではない。

 

「エッチで結構。健全な男子はみんなエッチですーぅ!」

 

 とうとう何処かネジでも飛んだか吹っ切れている正宗。言ってはイケない恥ずかしい事を言ったのだが、吹っ切れた相手に向かって悪口を言っても何も効かないので御坂美琴は、はぁ……とため息をつき、そんな年上の座り込んでいる少年を見ているだけだった。

 けど突然、

 

「でもよ、戦闘狂(バトルジャンキー)のお前でも女の子の様に恥ずかしがるんだな?」

 

 そんなことを言い、座ったまま正宗はクスリと小さく笑う。

 

「……それって私が女の子じゃないような言い方じゃない」と、いきなり言ってきた言葉が自分の癪に触る言葉なので、ムッとしたように美琴がそう言い返す。

 

「……、バレたか」

 

 次の瞬間ビリビリッ! と電撃が飛んできた。

 

「ムカついたからって電撃うってくんな!」

 

「もう! うっさいわね! こんなヤツに何で私の電撃がいつも効かないのよ! しかも毎回勝負を挑んだらいつも言い訳して逃げるし……。ふぅ~ん、あんた、それでも健全な男の子なの?」

 

 最初は怒りながら言っていたが、ふと思い付いたかの様に挑発気味に最後は言ってきた。

 そんな彼女に溜め息を吐いて彼は一言、

 

「あのなー……、理由も無しに女の子と勝負なんか出来るかよ」

「じゃあ『理由』があればいいのね?」

 

 美琴は言ってくるが何か思い付いた感じだった。

 

「賭けよ、私とあんたで『勝った方に敗けた方が夕食を奢る』ってのはどう?」

「はぁ? そんなの嫌に決まって

「断ったら、あんたがエロ本を持つ()()だと、うちの後輩とか他校の女子にも言いふらしてやるんだからー」

 

 正宗を指差して、もの凄く意地悪く笑っている鬼畜なお嬢様。当の本人は、な……と口を開け、バカ面を示して美琴の策略にしてやられたことに気が付いたのだった。

 

(もし常盤台の女子に噂が広まって、他校の女子にも……って最悪だぁぁぁぁ)

 

「クソッ……この野郎、やってやろうじゃねえか」

「フンッそれでいいのよ。絶対に勝ってやるんだから」

 

 勝負が始まる前から勝ち誇った様な顔をする美琴であった。

 

 

 

 時刻は19:06分。

 夏の夕日が沈みかけていた川原には二人以外は居らず、通報される心配もなかった。

 

 そしてその川原で対峙する。

 

「さっさと始めて終わらせようぜ~……」

 

 いかにも、やる気ないでーす的な感じで正宗は言う。

 

 実は、ちょっとは頑張って勝負するが、

 その1、美琴が撃ってきた電撃に簡単にぶつかる。

 その2、その際に電荷を落として軽症で終わらせる。

 その3、美琴は勝ってもう正宗に用はなくなる。

 

 それで『全て終了』という風に考えていた。

 こんなこと思い付くなら始めて会った時にそうしていればよかったと思う正宗だった。

 

 だが、方や美琴は正宗がやる気の無いように言った時から勘づき、考えていた。

どうやって本気を出させようか、と……。

 

(…………よし!)

 

「言っておくけど、私にとっての夕食(ディナー)は、第三学区にある高級レストランのフルコースだから!」

 

 第三学区は外部からの客を多く招く学区。プライベートプールや高級ホテル等がある。

 

 そう『これ』が考えた結果だった。しかし、さすが常盤台のお嬢様、規模が違う。ちなみにお値段は諭吉さんが何十枚も、

 

「待てや待てや待てやこらぁぁぁ!! 一般学生にそんな余裕あるわけねーだろ!」

 

「じゃあ学園都市第3位の私と本気で勝負して勝てば良いんじゃないの?」

 

 この瞬間、正宗の考えていた事が全て駄目になった。

 

(敗けたら金が無くなるどころか月末で金もあんま無いから借金だし、逃げても変態呼ばわりだし、勝つしかないのかよ!? しかも相手はレベル『5』……、でも中学生の女の子だぞ。怪我はさせたくないし……って下手したら俺が大ケガ)

 

 無言で『あれよあれよ』と考えていた正宗に向かって突然、

 

「こっちから行くわよ!」

 

 そう言って美琴は電撃を正宗に放ってきた。それを合図に勝負が始まる。

彼女の電撃はジグザグに曲がり、不規則な変化をしながら空気を裂いて向かってくる。捕らえ難い。もし第三者がこの勝負を見ていればそう語るだろう。だが工夫空しく、それは正宗に当たる前に消される。

 

「お、おっかねえなオイ……でも電撃は効かないって何度も耳にタコが出来るくらいに言ったはずですけど? だから開始早々だけどさー。あきらめてくんねーか?」

 

 早く帰りたいんだよ……とまだ文句を言う正宗。

 

「フンッ、何の冗談? まだまだこれからよ! でもやっぱり、効かないか……なら!」

 

 そう言って美琴の周りに砂鉄が集まってくる。フレミングの法則の応用、体中に電流を流し、磁界を辺りに新たに作る。彼女の片手にはその磁界により集まった砂鉄で作った剣の様な物があり、周りでも砂鉄が嵐の様に舞っていた。

 

「うわぁ、そんな物騒なもん作りやがって。マジ引くわー」と、どんより顔の正宗。

 

「んな!? これは勝負なんだから文句言うの禁止!」

 

 そう言って砂鉄の巨大な槍が飛んで来るが、正宗の能力範囲に入ると止まり、砂鉄の粉に戻される。ドバン! ドバン! と音がなるのは止まった砂鉄に行こうとする砂鉄がぶつかるからだ。

 

「こんのっ!」

 

 次は美琴が持った砂鉄の剣で攻撃してきたが、それを正宗は避ける、逃げる。反撃しようにもそんな気持ちが出てこないのだ。

 

「避けてんじゃないわよ!」

「無理いうな!」

 

 だが、避けるのも疲れてきた正宗は、学生ズボンの後ろポケットからガスライターを取り出す。

 

「っ!!」

 

 それを見た美琴は攻撃を止めステップで後ろに下がる。

 

「どうやらあんた……マジで私を殺すつもりの様ね」

「…………はぁ?」

 

 どうやら誤解されたみたいだが、ガスライターを出したのは蒼い炎の剣を作り、砂鉄の剣を溶かそうとしたからである。その前に磁界は熱に弱い。作り出せば彼の独壇場だろう。無効化するのも熱源があるので容易だ。

 だがそれを美琴はかつて見たあの道路を破壊した様な攻撃を自分にしてくるのだろうと思ったのだった。

 

「じゃあ私も容赦無しに本気で行くんだから!」

 

 ゲームセンターにありそうなコインをポケットから取り出す。

即ち、超電磁砲(レールガン)を撃ち出す様だ。

 

「ちょっ! わ! んなもん当たった死ぬってーっ!」

「あんたもライター出して来たじゃないの!!」

 

 そう言って美琴はお構いなしに右手を出して構える。 

 同時に正宗もライターに火を点け蒼い炎を出した。

 そして ドゴォォン!!!! と地面が抉られる音と共に炎と雷の光線がぶつかるが、炎は依然として持続したままだった。

 

 超電磁砲(レールガン)は掻き消されたのだった。詳しく言うと、超電磁砲の弾となるコインが限界射程に到達、完全に融解よりも前に蒼い炎によって融解させられてしまった。

 『射程』では美琴の方が上だが『威力』なら正宗の方が上だったのだ。

 

「ふ……防がれた……」

 

 空気抵抗や温度でコインは溶けるのはわかっていたが、美琴にとって絶対的に信頼を置く超電磁砲をたかが(名目上は)レベル3に防がれたのは少しショックだった。

 

「御坂だから見境(ミサカい)なしってか?」と余裕の表情で、だが少し苦し紛れの様な感じで言う。

 

「でもどうすんだ? 言っとくが力量(スカラー)を扱うからな。俺にはまだ手の内が残っている、ぜ……」

 

 脅すつもりで正宗は言ったが、早く諦めてくれ、と心の中ではそう懇願していた。

 

「くっ!!」

 

 美琴は考える。正直に言うと、これまでの勝負では戦略的なモノをあまり考えた事はなかった。考える必要がなかったのだ。

 自身の扱う能力は雷ですら超える電撃能力、それはまず『災害』の領域だ。これまでの対戦相手は災害を相手にして、いくら考えても“自分だけに降り注ぐ自然災害以上の災害”など勝てる訳がない。防ぎ様がなかった。

 だが、それも“これまでは”だ。

 

 

(考えるのよ……。あいつに有効な攻撃を…………………、そうよ!)

 

 

 そして何かを思い付いた美琴の周りに、最初の段階よりも2倍の量はある砂鉄が集まってくる。

 そして磁界を操って正宗を中心とした砂鉄の嵐を作り、ズサァァァァ……という砂と砂が擦れる音で聴覚を、その砂鉄の量で視覚を奪った。

 正宗はその嵐の動きを止めようと演算をするが、気が付いた。

 

(……俺の能力範囲外で操って…………って、まさか!)

 

 そのまさか、砂鉄の壁の向こうから美琴は『超電磁砲(レールガン)』を放ち、それがうねりをあげて迫ってきた。

 しかし予測していたのでとっさに本気で速さのスカラーを操って当たる直前で止める。

 

「こ、殺す気かあー!!」

 砂鉄の嵐と壁をガスライターの炎の剣で壊して掻き分けて、撃って来た方に行くが……

 

 御坂美琴が撃って居たとされる場所に彼女はいなかった。

どこだ!? と探すが、彼の周りはまた砂鉄が舞っていてよく見えない状況になっていた。

 

(あいつは、あの時私の飛び蹴りをくらったのは背後だから、気が付かなかったのよ……なら有効なのは……)

 

 不意打ち。

 正宗は ガシッ と左手をか細い手で力強く掴まれる感覚がした。

 

「勝負あったわね……」

(これなら、多少電荷を操られても電撃は効くはず!)

 

 美琴は本気で電流を流そうとしていた。気絶させるのがベストだ。けど生半可な攻撃では防がれる。『このチャンスを逃すまい』と思っていた。

 

「な……!?」

 

 とっさに正宗は美琴を速さのスカラーを操り右手で突き放そうとしたが……バチバチィッ! という音と共に左手の甲に突き刺す痛みが走った。

 いくら電荷を『0』に持っていくのが早くても、相手は仮にも最強の『電撃使い(エレクトロマスター)』。零距離では火傷で終わらせるのが精一杯だった。

 

 正宗は痛みから逃れたい一心で突き放そうと美琴の握る手の力を奪い、そして彼女の右肩を押し、突き放そうとしたが、その右手に加えた運動エネルギーの量を誤って、過大にしてしまった。

 

「つぅっ!!」

 

 美琴は軽々と突き飛ばされて地面に思いっきり叩きつけられそのまま地面を転がる。

 

 

 

「だい、丈夫、か……ッ……!」

 

 左手の火傷の事よりも、『やってしまった』と思っていた。どんな理由であろうが相手は女の子。さっきの反撃でケガをさせてしまったのは確実だからだ。

 

 

「ぅ……痛ッ! い……ったぁ……ッ! ……こっ、の……」

 

 美琴は起き上がろうとするが、右肩と足を怪我したのか、顔が痛みからか引きつり、立つのがやっとの様だった。

 

「ちょ……やめろ! 勝負なんかよりも……!」

 

「勝手に終わらせないでよ! ……まだ、まだ勝負は終わってないんだからっ!!」

 

 そう言って痛む右肩を左腕で支えながら美琴は超電磁砲(レールガン)を撃って来る、が……

 正宗は蒼炎を出さずとも、自分の10メートルの範囲に来ると容易く打ち消した。

 いや、レールガンの速さを『0』にしたのだ。

 

「……う、そ……」

 

 彼女は目を見開いて信じられないといった表情をした。

 

「もういいつってんだ! 俺が本気出したらレールガンの速さだって扱える。だからもうやめろ! これ以上続けても」

「まだよ! まだ……負けてない!!」

 

 そう言って超電磁砲(レールガン)を、痛みを堪え、力の限り撃って来たが桐生正宗はただ速さを扱うだけでそれを凪ぎ払う様に防ぎながら、御坂美琴に向かって何の躊躇もなく歩いて行く。

 

 最後の悪あがきで電撃も放って来たが、それも彼女の目の前で虚しく消えた。

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 そして二人の間が1mくらいになってから美琴は目の前にいる年上の少年に攻撃をやめて、能力も体も限界だったのだろう……その場にドサッとへたれこんだ。

 

 

「……ぅ……ぅ……」

 

 美琴は今にも泣きそうだったが唇を噛んで堪えていた。ただその泣きそうになる理由は痛みからだけではなかった。

 これまでになかった悔しさが滲んでいた。

 痛む左足首と右肩。痛い部分を手で抑える。そうすると、かつて自分にこんなことがあったのだろうかとより悔しくなった。

 

 正宗はそんな美琴の目の前でしゃがみこんで、

 

 

「……足首、ちょっと見せてみろ」

「……あんたに見せたって……」

「能力を使ったら冷やすぐらいは出来るから、……ほら」

 

 悔しいが、悔しい相手に今は助けて貰うしかなかった。手を出す正宗に美琴はしぶしぶといった感じで見せてきた。ルーズソックスを脱いだ彼女の左足首の関節は少し膨れあがり、捻挫しているように見えた。

 

「ちょっとヒヤッとするぞ」と言って正宗はその腫れた部分に手を当てて温度を操り冷やす。

 

 冷たい……両方の手のひらを足首に巻くように当てられて、気が付いた。

 その左の手の甲が少しだけ血を出し、火傷の様に爛れていることに。

 

 あ……、と声を掛けようとしたが、そんな痛々しい事を気にもせず集中して足首を見ながら冷やす正宗の顔を美琴は知らず知らずのうちに見ていた。

 

「……? どうかした?」

 

 ほんの少し時間がたってからだろうか、自分の方を向いてくる美琴に気が付いて正宗がそう聞く。

 

「な、なんでもないわよ……。それにいつまで触ってんの! もう大丈夫だから!」

 

 そう言って美琴は無理に立てろうとする。無論、正宗は美琴に突飛ばされるので尻もちを着くはめになるが、

 だが肝心の相手は立てることはできたが、歩こうとした時に辛そうな顔をして足を引きずり、少し歩いたが、また立ち止まってしゃがみ込んでしまった。

 

「お、おい! 無茶すんな!」

 

 彼は御坂美琴に駆けよる。

痛さでしゃがむ美琴は情けない気持ちでいっぱいだった。自分から撒いた種だったのに、それに付き合わせた正宗が心配してくる事に対して……。

 

 

「……ほら、おぶってやるから」

 

 

 ……行くぞ、と。もう見るに耐えかねなかった正宗は最後の手段として反対側を向いて背中を出す。

 

 美琴は「え?」と言いながら俯いていた顔をあげると正宗の背中があって、ちょいちょいと手で『乗れ』と示してくる。

 

「なっ! なんであんたなんかの背中に!」

 

 そっぽを向いて少し顔を赤くして言ってくる。こんな反応が返ってくるのは予測できたが、そう大声で言われてちょっと心にグサッと来るのが半分、この状況から早く抜け出したいので、コイツめんどくせ、っと半分、心の中で思うのだった。

 

「乗るくらいなら歩けるようになるまでここに座っておく!」

 

「はぁ~。そう、ここでずーっと座っておくのか? …………あ! でっかい虫が御坂の方に!」

 

 コガネムシだった。だがそれも一回り大きくギチ、ギチと気持ち悪く足を世話しなく動かし美琴の座り込む足下に……

 

「うわあぁぁぁぁーっ!?!? いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そう言って思いっきり正宗の背中に飛び付いてきた。正宗はその衝撃で、ぐふぇ! と言って衝撃になんとか耐えた。

 

 

「こっち来ないでー!! わあぁーっこっち飛んでくんなぁぁ!! ちょっとあんた早くどっか行きなさいよぉー!!」

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 現在の時刻は20:03 

 常盤台の御嬢様――――御坂美琴をおぶって人の通りのない裏道を桐生正宗は選んで歩いて行く。

 背中にいるので正宗は見えないが美琴は少し顔を赤くしていた。

 また正宗の方も顔をちょっと赤くしていた。なぜなら美琴から女の子特有の匂いがしたり、ほんの僅かな胸の膨らみが背中に当たったりして、凄く恥ずかしい思いをしていた。

 

 正宗は始め病院へ向かって歩いたが、美琴が『寮の門限があるのよ』と言って断ってきた。話しによると、どうやら保健室の様なものが寮の中にあるみたいだった。

 

 

 

「あんたも左手、火傷してるじゃない……」

 

 正宗の左手を見た美琴が言ってくる。

 

「あー、大丈夫。こんくらい平気へーき」

 

 あの時くらった火傷は結構ひどく、手の甲は赤く皮膚がただれていた。

 しかし正宗はある程度痛みの大きさですら、どのような力が働いているのか分かっているのならば操ってしまうので痛くなかった。

 そう御坂美琴に説明すると、何でもアリね……と飽きられてしまった。

 

「それで? 今日は無理だけど……、どこがいいの?」

 正宗に向かって不意に背中の美琴が聞いてくる。

 

「なにが?」

 

「……賭けの事よ。……悔しいけど、敗けた方が奢る約束でしょ?」

 

「そんな約束してたな~、どこでもいいよ」

 

 美琴をケガさせてしまったので普通に忘れていた桐生正宗だった。逆に御坂美琴はケガをさせてしまったから……いつ言おうかな、という感じで覚えていた。

 

「まったく……、私の連戦連勝記録もあんたで終わりよ」

「そうですか、そりゃ~残念でしたね~」

「む! 適当に流すなーっ!! 私以外に負けたら承知しないんだから!!」

「こら暴れるなって! ケガ人は大人しくする!」

 

  さっきまで大人しかったのに、正宗の背中でガミガミ言って暴れる美琴に正宗が注意すると彼女は不本意ながらもまた静かになる。

 

「だって………、私だって頑張ってレベル5の能力者になったのよ……。でも、確かにあんたが強いのは調べた時から分かってた……」と背中にうずくまりながら美琴は言葉を繋げる。

 

「……けど、それでも悔しいし、あんたが他のヤツに負けるなんて、……私が惨めになる……から……」

 

 確か『常盤台の超電磁砲(レールガン)』は努力で超能力者(Level5)に上がった一例だということを正宗は思い出した。

 

 そんな『努力の人』がこんな『自分』に負ける事は、悔しいに決まっていた。

 いや、本来なら頑張った人こそ勝たなければならない……。

 

(あーぁ……)

 

 俺、なんてことしたんだろう……と。

 わざとでも敗けていたら良かったのだろうか……、わざと倒れておけば良かったのかな……、勝つなら勝つで本気で戦っていた方が良かったのかな……と、正宗は悔やみ、悩みはじめていた。

 

 

「あの時は本気だったの?」

 

 美琴が突然、肩から顔をだして正宗に聞いてきた。

 

「え、あ……うん」

 

本気でやったよ……と、何処となく、ぎこちなく応えてしまった。本当は本気など出してはいなかった。こんな時、正宗は不器用な言い方しか出来ていなかったのがいけなかった。

 

「そっか……、」

 

 美琴はそれを見逃さなかった。正宗が嘘を言っている事など、手に取る様にわかってしまった。 だが嘘をつかれた事よりも、『手を抜ぬいていた』ということの方がショックだった。

 

 黙り込む、それまでは無かった彼女の落ち込みに正宗もやっぱりバレてしまったと気が付いた。だから

 

「……んじゃ、約束する」

 

え? と背中でちょっと驚いて美琴は顔をあげる。落ち込んでいた美琴の顔を見て正宗は唐突にそう言ったからだ。

 

「何を……?」

 

「だからー、『お前以外の誰にも負けない』って。さっきの事もあるし、十分だろ?」

 

 ……もちろん、お互い分かっていた。常識的に考えたらそんな約束は『無理』なことを。『栄枯盛衰』という言葉があるように、必ず栄える勝者には敗北がいつか来るのだ。

 しかし正宗は美琴を元気付ける為に冗談でも約束しようと思って言った。

 案の定、美琴は「何よ、それ」と言って少し笑ってくれたのだが、

 

「じゃあ負けた時は私の言うことを何でも聞いて貰うわよ!」

 

 それを逆手にとって小悪魔の様にこの御嬢様、御坂美琴は言ってきた。

 

「え? ちょっとちょっと、冗談だよね……?」

 

 正宗は冗談で言ったのに真に受けられたと思って困惑する。

 

「なに? 自分から言ったはずよね? 男に二言ってあるの、ないの?」

 

「……普通は、ありません……」

 

 普通はね。と彼はブツクサ言っているのに

 

「うんうん、よしよし。じゃあ約束ね♪」

 

 最後の言葉は可愛らしい笑顔で言って来たが、正宗にとっては悪夢だとしか取れず、約束したことを後悔するばかりだった。

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 現在の時刻は20:15分。

 

 何とか常盤台中学の寮の20:20分の門限に間に合わせることができた。

 

「本当に病院行かなくても大丈夫か?」

 

 常盤台中学の寮の玄関が見える距離で美琴を降ろして言う。

 

「へーきよ。治療くらいなら寮でできるから。あんたこそ病院行ったら?」

 

 ちょっと足は引きずっているが元気そうに言ってくる美琴。

 

「こんくらい大丈夫だから」

 

 左手を振って、痛くないとアピールをしながら正宗は言った。

 実はお互いに心配をかけたくなかったから元気に返していたのだった。

 

「ホント、今日は最悪の日だったわ……」

 

 手を腰に当てて、小さな溜め息をつきながら美琴は言った。

 

(お前がそうしてきたんだろーが」

「何か言った?」

「!? なんにも言ってません!」

 

 心の中で呟いたつもりが本当に呟いていた正宗だった。

 

 そして常盤台中学女子寮の玄関前まで来た。

 

「おぶってくれてありがと。それじゃあね」

 

 美琴は小さく手を振ってから寮に入っていく。右手でしてきたので、右肩はそこまでひどくはないような仕草に、心の中で少しだけホッとする正宗だった。

 

「おう、じゃあな」

 

 正宗も手をあげて言葉を返す。寮の中に入ったのを確認してから正宗は自分の寮に向き直って歩き始めた。

 

 

 

 

「あ! また()()しなさいよ!」

 

 突然、寮の扉からひょっこり頭を出して正宗に向かって美琴が言ってきた。

 

「は、はぁ~? ……じゃあ()()になったら終わるんだよ?」

 

 振り向いて正宗が呆れた顔をして言う。

 

「私が勝つまでよ! 次は負けないんだからねっ!」

 

 そう言って美琴はべーっと舌を出して寮の中に入る。

 

「……、またぁ?」

 

 正宗は独り虚しく、そう呟いて寮に帰って行った。

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

……side 正宗……

 

 

「どういうこと何だにゃー」

 

 正宗が寮の部屋に入った瞬間、明かりがつき土御門がいた。

 

「うわ! だから土御門! あいつとは何も無いんだよ!」

「じゃあ何でこんなにも夜が遅いんだにゃー、場合によってはカミやんと青ピにバラすにゃー」

「え? まだアイツら知らないの?」

「何だかマサやんにも何かありそうだから、ウソついて帰らせたにゃー。でも理由によっては…………」

 

 にゃー、と口癖を言い、掛けているサングラスをキラーンと光らせて土御門はまじまじと正宗を見てくる。

 

 ここで正宗は必死で考えて、頭の中で説明文を構築していく。

 

 実は、ある日にあいつを不良から助けようとしたのに……とか、それで毎回の様に追いかけられ、電撃で攻撃してきて……とか、あげくのはてには住所まで。はぁ~、口が滑ってエロ本……とか、それで、今日のさっきまで、勝負…………とか、

 

 一応変な事を除いて正宗は説明した。

 御坂美琴が戦闘狂であって、いつも追い掛け回されて大変だったことを。

 

「それはまず災難だったにゃー」

 

 うんうんと土御門は頷きながら言う。彼は青髪ピアスと違い、女の子の属性は何でもかんでも良いという人物ではないので正宗の苦労話にも聞き耳を持ってくれるのだ。

 これが……、御坂美琴がロリっ子娘なら、彼も暴れていたのかもしれない。

 

「何よりもこの左手が証拠だぜ、まったく……」

 

 痛々しい火傷を見せるが、別に能力のおかげで痛くない。見せた後、彼は薬箱の中から消毒液とガーゼ、包帯を取り出して一応処置を開始する。

 

「でもこれから発展する?」

 

 包帯を巻いている途中で土御門がそうニヤニヤしながら聞いてきた。

 

「いやいや、絶対にないから」

「えー、つまんないぜーい。でも」

 

 こういう場合は発展していくんだにゃー、と言って来たので、ねーよバカ、と正宗は一発ぶん殴る。これまでから見ると、土御門元春は他人の恋などは応援するのに積極的な性格らしい。まぁ、上条当麻は所せましとフラグ建てて行くだけなので男子としては……我慢できないものもあるのだろう。

 

「まぁどんなことがあっても黙っておくぜい。だから今度昼飯を奢ってくれにゃー」

 

 とまあ、条件付きで土御門は黙秘してくれると言ってくる。

 

「はぁ~、わかったよ……。頼むから黙っておくか、バレたら弁解してくれよ」

 

 土御門の交渉は成立したのだった。

 その後ちょっと2人でゲームをして夜中まで遊んだ。

 

「じゃあなマサやん」

「おう、またあしたー」

 

 そう言って土御門は同じ階の部屋に帰って行った。

 夜の23:15分。

 ようやく1日が終わったのだった。

 

 



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その雨脚は人を連れて Beginning_of_a_storm.









 

 

 

 

 

 7月上旬、外ではザァァァァ……と雨が降っていた。

 

『――太平洋側にある発達した温帯低気圧の影響により学園都市上空には雨雲が広がり、明日の午前4時37分まで強い雨に見回れると予測されます。――』

 

 よく聞いてみると普通の表現では有り得ない天気予報がテレビから流れる。だがこれが学園都市(ここ)では普通の、一般的な天気予報の表現だ。

 樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)

 この予報を出した、学園都市の天候を観測し予測するコンピューターの名称。

正しいデータさえ入力していれば、完全な未来予測《シミュレーション》が可能なこの世界最高のコンピューターは、弾き出す予報において完成して以来、一度も外れたことがなかった。

 

「ケッ、予測じゃァなくて予言だろォが」

 

 そんな皮肉を言いながら、学園都市最強の能力者と謳われる――――白髪紅眼の一方通行(アクセラレータ)は焼肉の網に乗った丁度良い大きさに切られた牛肉を自身の陣地にあるのを何枚か丁寧に裏返す。

 

「んぐ、あれだけ時間を、(ぱくっ)、ほまきゃくひってひるほにな……(モグモグ)」

 

 方や一方通行の目の前で、多少……下品な食べ方をして何を言っているのか分からないことを喋っているのが旧友、桐生正宗だ。彼は麦入りご飯が入った茶碗を片手に焼き肉を頬張る。そんな彼の頬には米粒が1つ付いているのはご愛嬌。

 

「……オマエは少し落ち着いて食いやがれ」

 

 今日も身体検査(システムスキャン)が実地されている週間であるが、2日前から予言されていた台風から成り下がった温帯低気圧が学園都市を通りる日に、正宗は一方通行と共に『ナントーカ』という食べ放題(バイキング)形式の焼肉屋に来ていた。

 いわゆる再会とか、生きていたこととか御祝いの意味を正宗が一方的に考え、誘ったのだった。

 

 なぜこんな日にするのかと言うと、一方通行の今やっている実験が今日は中止になったからだ。なかなか一方通行の日程が合わなかったのでこんな日になった。とはいうが、計画を思いついたのは約2時間ほど前であるのだが……

 

 

『――低気圧の影響により時折吹く突風にも十分にお気をつけ下さい。――』

 

 

「一枚いただきっ! (パシッ、パクリ、モグモグ)」

「オィコラァ! そいつァ俺が焼いてたハラミだァ!」

 

 正宗が一方通行の焼いていたであろうハラミを箸で掴み取り、タレに付けて食べる。この間約1秒という早業。

 

「え~? 名前なんてどっかに書いてたの~?」

 

 モグモグと食べながら、もの凄く憎たらしく正宗が一方通行に言う。

人の焼いていたものを食べるのはイケないだろうが、そんな相手に、ハラミの一枚ぐらい、ましてや食べ放題なのだから身を乗り出してワナワナと怒らなくとも……という情景で、まるで2人とも子供の様である。

 

「おっいし~♪」

「テメェ……」

「悪かった悪かった、肉ならすぐに焼いてやるよ、そりゃー」

 

 そう言うとジュゥゥッ……と正宗が温度(スカラー)を操って網の上にある肉を直ぐに美味しそうな具合に焼く。

 

「ったァく……、スカラーの値を変更、しかも遠隔で。ンな事できるっつゥのは便利な能力だよな」

 

 椅子に改めて座り、一方通行がそう言ってくる。

 

「へっへー。誉めるのならば喜んで肉を焼いてしんぜよう」

 

 皿に取ってきていた大量の肉を網に入れた後、ジュゥゥゥ……っと全ての肉が、焼き肉なった。

 

「カカッ、イイぞ、どんどん焼けェ!」

 

 焼肉屋も依然として降る雨のせいで来ている客も二人を除いて2組ぐらいだった。

 

 

 

 

「そんで? 今の実験は、…………殺したり、してるのか?」 

 

 大分時間がたってからだった、唐突に正宗は一方通行に聞いてみたのは。食事時なら場違いかもしれないが、あの日に改めて会った時から心配していた。昔から一方通行の実験は人を殺めること(主にチャイルドエラー)が中心だったから。

 

「……少なくとも『ヒトのカラダから産まれたモノ』じゃァねェからな」

 

 一方通行は食べる手を止めて話してくる。

 

「大丈夫なのか? 『ヒトのカラダから生まれたモノじゃない』って……どういう……」

「あァ? 誰も悲しまねェように()()の形をしているが、意思のねェ人の真似した機械みたいなもンだからな……」

 

 だが本当の事は一方通行にもわからなかった。

 実験において、話しの掛け方に問題はあるかもしれないが、本心を聞いたことはなかった。

 

「そうじゃなくて、一番言いたいのは、…………“お前自身が”、だよ。お前だけが傷ついて、悩んでいるんじゃないのか?」

 

 もし、今でもあの昔の様な表情を、涙を流しているなら、今のうちに止めて起きたいと、正宗は思っていた。

 

「…………ハッ、オイオイオイ、何勘違いしてンですかァ~? 機械の様なモルモットなんざァ殺して何が悲しむンだ? 現にテメェだって量産された(クローン)牛を殺して採った肉を楽しそうに焼いて食ってるじゃねェかよ」

 

 この時一方通行の説明を聞いたが、正宗は少し勘違いをしていた。実験用の人工動物(ケダモノ)だと……いや、一方通行にそう思わされたのに近かった。

だが、どこか、この言葉は一方通行が彼自身に言い聞かせているようにも聞こえた。

 

「……そっか……、変な事を聞いて悪かったな。ほれほれ、ステーキ焼けたぞ」

 

 そう言って正宗は焼いていたステーキの様にデカイ肉を一枚、トングを使って一方通行の皿に放り込む。

 

「デカ過ぎだ! 何でステーキなんざァあンだァ!? つーかいつから焼いてた!?」

「いや、棚に置いてあったからついでに持って来た。ホイ、ソース。コチジャンもいるか?」

 

 彼はテーブルの隅に置かれてある薬味の入れ物から、真っ赤な味噌みたいなコチジャンを小さなスプーンで取り出し、自身のタレと混ぜ合わせる。一方通行はよく見ると、まだまだ皿の上には5枚くらい焼いてない生のステーキ肉が残っていた。

 

「どォなってンだよ、この店は……」

 

 

 

 その後2人は時間ギリギリまでバイキングを食べ続けた。

 実はこのステーキ、店の人が、腐っても勿体ないし、切るのも面倒だという理由で棚に置いていたのだった。

 正宗は肉やらラーメン、カレー、デザートを食べていたが、一方通行は途中でコーヒーばかり飲むようになり、結構この店のコーヒーは美味いとのことで、15杯も飲んでいた。

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

「うぇっぷ……食い過ぎて……気持ち悪ぃ……」

 

「まァ、コーヒーはうまかったなァ」

 

 食べ終わり、店から出てきた2人。

 だがこんな温帯低気圧からの大雨だというのに一方通行は反射で雨風を防ぐことができるから傘が必要ない。

 対して正宗は傘をさして帰っている。

 

「そっちはいいよな~、いっつも『反射』が効いてるから」

「お前も能力使えば同じ様なことぐらい出来ンじゃねェかよ」

「そうだけど、ずーっとやってると疲れるんだよ……」

 

 一方通行の言いたい事は、正宗が能力範囲に入った雨風の速さを変更することで雨風を防ぐ事を言いたいのであろう。

 だが疲れるのは意識的に演算するか、しなくてもよいかの違いだ。

 

「何が疲れンだよ。それなりの頭脳(スペック)持ってるクセによォ」

「へへっ、そう言われても()の違いがあるからなー」

「今のオマエがどうなってるか知らねェが、7人のどっかに食い込んで来る実力あるンじゃねェのか?」

 

 能力者にとっての実力……それはつまり演算能力の高さの事だ。

 演算能力が高ければ頭の回転が早い。つまりはどの道、戦闘能力にも比例する。

一方通行は知らないが、確かに正宗は美琴との勝負では勝った。しかもレールガンを止めて、攻撃もたったの『速さ』を操ったモノだけなのだから。

 

 その気になれば一瞬にして全ての温度とエネルギーを奪うことだって可能だった。

 

「無理だって……まぁ言われて悪い気はしないな」

 

 ちょっと苦笑いしながら正宗は言う。当然ながら誉められるのは嬉しいものなのだ。

 

「ケッ、オマエが居たらオモシロイのによォ。あとの連中(Level5)なんざ、ろくな者がいねェ。……暗部に入ってるヤツも居れば『根性コンジョー』とうるせェヤツもいるからな」

 

 一応だが、一方通行は他の超能力者(Level5)を知っていた。会ったことは無い者もいたが。

 

「そうか? 第3位は戦闘狂だけどまだ普通の方だぜ?」

 

 確かに戦闘狂で変な所はあるが、ゲコ太が大好きな普通の女の子である、と。そう言った。

 

 

 

「…………やめとけ」

 

 

「――何が?」

 

 いきなり一方通行の言われた言葉の意味が分からず正宗は聞き返す。

 

「もし関わってンなら、そいつに……。……関わらねェのがいいかもしれねェ」

 

 突然だった。

 一方通行の顔に陰りを感じたのは。

 

「……、それは言い過ぎじゃねえのか? 確かに勝負で左手に火傷を負ったけどさ……」

 

 今、正宗は左手に大きな火傷による赤い傷があった。手の甲が覆い被さる様な傷。もう一生消えることのない様な傷だ。

 

「そンなンじゃねェ……そいつは()()()()()()()()のかもしれねェ」

 

 自分が言えた義理ではないと思いながら、

 

「……あンまし詳しくは、話せないがなァ……」

 

 実験のことは、機密だった。関係者以外には……。

 今、この場で語っても、仕方ないと思った。

 

 

「……どうしてもか?」

 再度、彼は聞いてくる。御坂美琴がそんな人、そこまで言われるほど狂っている人間などではないと心の中では思っていたからだ。

 

「あァ、できねェ……」

 

巻き込むわけにはいかない……。

やっとコイツは、夢を、叶えている途中じゃないか……と、

話すことは決してなかった。

 

「――じゃあ、信じられない」

 

 キッパリと正宗は言った。

 

「……まァ、お前だったら、そう言うだろォな……」

 

 一方通行は予想していた通りだった。確かにこれだけ理由を言わないで、あの時、自分に声を掛けてきたくらいだ、彼は関わらないと言う人ではないことを知っていた。

 

「別にさ、お前の言ってる事を信じない訳じゃない。俺もまだアイツに出会って短い。信用する、してくる以前の関係かもしれない」

 

 けどな、と続けて、

 

「少なくとも、普通の女の子に見える」

 

 正直に、思ったことをありのままに彼は話す。

 

「お前がなんで理由を話してくれないのか知らないけど……」

 だが、半分は友を心配して、

「一度会ってみたら、あいつの良いところもわかるはずだって」

 

 そう真っ直ぐに言ってくる事に、一方通行は何も言わず黙って聞き入れていた。

 雨風を反射させようとも、雑音は反射出来ようとも、彼の話は聞いていた。

 

「まぁその時は、お前に向かって、『勝負勝負ーッ』とか言ってくると思うけどな」

 

 へへっと少し笑って言ったのは、この変な空気を消したかったから。

 

「フン、そォかァ……。まァそん時には俺が勝つだろォな」

 

 一方通行も少し自分なりに笑って空気を合わせ様とした。

 

「手加減ぐらいはしてやれよ。相手は女の子なんだからよ」

 

 

 一方通行も直接、御坂美琴に会ったわけではなかった。

どんな性格かもわからないが……

 

 

 会いたくなかった。

 

 

 この実験のオリジナルであり、実験台の意思のある姿を見ておかしな気持ちになりそうであり、そしてもう一つの理由を聞いてしまいそうだったからである。

 

 何故こんな実験に、自分のサンプルを提供したのか、クローンを作るのには本人の、本人だって……

 だがそれ以前に自分の方が、

 

気が狂っているのかもしれない。

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

 その後、帰り道が違う正宗は今日の晩飯を買うためにコンビニに寄ろうと歩いていた。

 大雨の影響で大通りは人があまり居らず、店という店が台風の劣化版であろうが暴風域に入る予報があったので閉まっていたのだ。何だかいつもとは違って、とても寂しく感じられた。

 

(お米ぐらいなら家にあったから……、おかずになる様な唐揚げと……でもコンビニには、おつまみぐらいしかないよな~)

 

 そう思いながら開いていたコンビニに入る。

 ちなみに、今更ながら正宗は料理をするのが大っ嫌いなのである。

 

 簡単なもの(卵焼きなど)なら作れるが、基本的に無理なのであった。

 

 

 

 

(さて、晩飯の他にマンガも買ったし。雨が強くならない内に早めに帰るか)

 

 コンビニから出ていつもの帰り道を歩く。途中にある公園を抜けるのが一番の近道だ。

 その公園にある自動販売機は金を入れてもジュースは出てこない。

 しかしある方法でやると無料で、しかも自分の好きなジュースが出てくる方法を正宗は知っていた。

 昼を過ぎて今は夕方ぐらいなのだろうが、雨雲のせいでよくわからなかった。そしてザアァザァァァ……と少しずつ雨脚が強くなっていく。だが風はまだ吹いていない。これから吹いてくるのだろう。

 

 

 

「あれ?」

 

 しばらく歩くと、公園に植えられている低木の前でしゃがみ込む人影を見かけた。

 その人は低木の茂みの中を覗いており、じーっとしていて動かない。

 

(こんな時にあんな所で何やってんだ? 傘もささないで……)

 

 ホントにあながち、あいつの言ってた通り気が狂ってるんじゃねえのか? などと、そう思って正宗は近づいていくと、向こうも気がついたらしく、こっちを見てくる。

 

 

「すみませんが、手を貸してくれませんか? とミサカは貴方にずぶ濡れになりながら救助のお願いをします」

 

 

 



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その豪雨は人を留まらせて Twins?









 

 

 

 

「ずっとここでどうするべきか悩んでいました。でも貴方が来たので安心しました、とミサカはほっと胸を撫で下ろします」

 

 そう言って雨の中、助けを求めてきたその人物は、正宗のよく知っている常盤台の制服を着ている人物? だった。

 何かいつもと違うと思いながらも……

 

「それよりもお前、ずぶ濡れじゃねえか」

 

 そういうことを考える前に、まず、彼女に向かってやるべき行動があった。

 彼女はサマーセーターを着ているので恥ずかしいところが透けるのは隠せてあるが……、ちょっと見るに見かねる服装だったので、正宗はさしている傘の中に入れてやる。

 

「そんなことをする前にあの子を助けて欲しい。とミサカは街路樹の根本を指差して教えます」

 

 最初は、何なのかよくわからなかった。

 だが、よく見ると街路樹の低木の下に茶色い子猫がうずくまり、丸まって凍えていた。

 

「…………、ちょっと傘と袋、持ってて」

 

 そう言って正宗は傘とコンビニ袋を渡して、服を濡らしながらも枝を掻き分けて子猫を抱きかかえる。

 その子猫の体は冷えきっており、力なく弱っていた。なので正宗は温度を操って腕の中で暖める。

 

「……何で早く自分で助けなかったんだよ。……コイツもう少しで死ぬかもしれなかったんだぞ」

 

 少しキツイ口調で正宗が言う。

 見ているくらいなら、抱えて、どこかで雨宿りしていた方が良いことは誰もがわかることだろう。

 

「ミサカには助けることは不可能です。と、ミサカは貴方に怒られるのにも十分な訳があるのでこう答えます」

 

……どうして? と彼は少し険しい顔をして言い返す。

 

「実はミサカの体は常に微弱な磁場を形成します。人体には感知できませんが――他の動物には影響があり避けられるようです。と、ミサカは出来なかった理由を説明します」

 

「そんなのって、あんまりじゃないのか? 言い訳にしても……」

 

 理不尽。

 納得がいかない。

 彼は知らないうちに彼女を睨んでいた。

 

「いえ、事実です。と、ミサカは――」

「じゃあ俺が来なかったら見ているだけで助けなかったのか? 見捨てたのか?」

 

「それは……」

 

 正宗が問い詰めると彼女は口ごもって何も言えなくなった。

 だが、彼女が抱えたところでその微弱な磁場により子猫が弱まるのが早まったのかもしれない、彼女なりにも考えていたのかもしれないと思った。

 それも一つの考えと頭に置いておき、

 

「まぁ、こんなところで言っていても……仕方ないか……。とりあえずこの子猫は看病するために持って帰るけど……お前はどうする?」

 

 猫を右手だけに抱き治して、左手は荷物を持つために一応空けて、彼女をもう一度見る。

 

「服がびしょびしょだし。一旦、常盤台の寮に帰ったら?」

「……この子をこの様な状態にした責任もありますし、ミサカも貴方だけに任せるのは心配なのでついて行きます。とミサカはいきなりでドキドキしながら始めて異性の部屋に行く決意をして言います」

 

 

(この前押し掛けて来たクセに……)

 

 正宗は片手だけだった抱えるのを両手に持ち直す。

 そうして2人は正宗の住む学生寮に向かう。

 男の子が子猫を抱き、傘とコンビニ袋は女の子が持って貰うという、立場上が逆な、変な相合傘だった。

 

 

 

 

「つか、そのデカいゴーグルとか何なの? しかも、いつもと口調が違うし……」

 

 彼女の頭には、某アメコミ映画で出てくるレーザービームを出す人物が着けている様なゴーグルがあった。

正式には軍用ゴーグルになるのだが、こういった例にするとわかりやすいだろう。

 

「貴方は何か勘違いをされているみたいですが、貴方の言っているのはお姉様の方です。と、ミサカは案に別人なのだということを教えます」

 

 

 ……え?

 

 

「えぇー!! あいつ……いや、お前ら双子だったの!?」

 

 物凄く少年は驚く。よーく彼女を観察するが、違いが……目の色が少し違う? と思っただけであり、そしてこの時にようやく御坂美琴とは別の人物なのだと理解した。

 

「双子、ですか。言葉の意味とは少し違いますが……、一応ミサカは妹であり血は繋がっています……。と、ミサカは本当の事を隠して言います」

 

 言った後に、あっ……とミサカは、と呟く彼女。もちろん正宗は聞いていた訳であり、

 

「……隠せてないよ……本当の事ってなに?」と聞き返す。

 

「はぁ……、この口癖はホントに迷惑ですと、ミサカは心の底から疲れを表す様にため息を吐き……それに、これはとても重要なことですので……。とミサカはこれ以上言いたくないという顔をして言います」

 

 ミサカの顔の表情はあまり変化しなかったが、俯いて言いたくないという態度をとる。

 

(――まぁ、あんまり関係ないヤツが首を突っ込んでも迷惑なだけだし、知られたくない事だってあるよな……。実際に俺だって……)

 

 正宗はそれ以上聞こうとは思わなくなった。

 もちろん御坂美琴の方にも聞かないでおこうと心の中でそう決めた。

 

 

「それで? お前のことなんて呼べばいいの? ……姉貴の呼び方を『まな板』にして、お前を『御坂(ミサカ)』って呼ぼうか?」

 

 正宗はちょっと笑って言った。

 

「む、お姉様の事を『まな板』と呼ぶのはミサカにも言っているのと同じです。まだまだ成長するはずです。とミサカは最大のコンプレックスにおける怒りを露にしながら貴方に言います」

 

 怒っているのか分からないが、正宗でもミサカは自分を睨み付けているというのはわかった。

 

「怒っているのか分かんないけど……、じゃあ『妹さん』でいいか?』

「単純……ですが、もうそれでいいです。と、ミサカは頷きながらそれ以上案は浮かばない様な気がするので了承します」

「……、遠回しに何か馬鹿にされてるような、されてないような……」

 

 うーん、といって悩んでいる間に正宗の寮に着く。

 一応ここは男子寮なのだが、別に女子が遊びに来てもいいという緩い規制の寮。

 いや、前言撤回。規制が緩いのではなくて、管理人が見回るとかそんなものはなく。何だか一般的なマンションの様である。

 

 実際にだが、土御門の義理の妹の土御門舞夏(つちみかど-まいか)をよく見かけていた。

 

「一応言っておくけど、うちの寮はペット禁止だぞ。看病するのはいいと思うけど……」

 

 通路を歩きながら正宗はこれから起こりうるであろう未来に関して言い訳じみた感じで言う。

大概の寮はペット禁止なのは普通だ。

 

「つまり飼えない。と、ミサカは薄情な貴方を非難します」

 横を歩くミサカは目をちょっと細めて正宗に向かって言ってきた。

 

「……じゃあどうしろと?」

「ずっと看病するという名目で飼えばいい。と、ミサカは思い付いた名案を言います」

「ははは……、はぁ~」

 

 正宗は溜め息を大きく吐き、ちょうど自身の部屋の前に着いたので入ることにした。

 

 

 

 

 

「お邪魔します。と、ミサカは一応頭を下げて、他人の家なので礼儀正しく言います」

 

 彼の後に言葉通り律義にお辞儀をしながら入ってくる。

 この時正宗は、姉貴と違って不思議系? 電波だったか? けど……、と彼女の方が何かお嬢様っぽいと思った。

 

「おう。……んで? お前はどうする? 制服はびしょびしょに濡れてるし……風呂場に乾燥機とかはあるから、乾かしてる間に着るTシャツやジャージとか貸そうか?」

 

 正宗はそう言いながらタオルを出して子猫に捲き、ベッドの上に置く。

 

「ありがとうございます。と、ミサカはさっきの薄情さを取り消してお礼を言います」

「それは何よりで」

 

 そうして正宗はタンスの中から黒いTシャツを、クローゼットからジャージの上下を出してミサカに渡した。

 その時にミサカはまた、ありがとうございますと律儀に言って風呂場の脱衣場に向かった。

 

 

 

 

 

 にぃ、と拾ってきた子猫が小さく鳴く。

 

「ちょっとは元気になったか?」

 

 今正宗は牛乳を少し温めてから小皿に入れて子猫にやっていた。

 頭や背中を撫でながら世話している間でも子猫はお腹が空いていたのか、コップ一杯の牛乳を美味しそうに飲む。

 

 

(しっかしあいつ、何やってんだろ?)

 

 脱衣場からは一向にミサカが出てこないのである。

 最初は服が乾き終わるまで乾燥機の前にいるつもりかなっと思っていたが、

 その乾燥機が動いている音ですら聞こえなかった。

 

 飲んでいるのを止めて子猫が正宗を見上げてきた。見られているのが気になるのか、それともこの小動物も彼女を心配しているかのようにも見える。

 

「……うーん、たぶん大丈夫だろ」

 

 そう言って正宗は子猫の頭を撫でる。するとまた牛乳を飲み始める。

 

「…………」

 

 数分たってから、ちょっと行くのを始めはためらったが、やっぱり心配なので脱衣場のドアの前に向かう。

 

 もちろん扉をコン、コン、と2回ノックする。

 

「妹さん? 乾燥機の付け方わかりますかー?」

 

 だが返事もなければ、物音ですらしなかった。

 

「? ……入りますよー……構いませんかー? 入って殴るなんてナシですよー?」

 

 ちょっと返事を正宗は待つ。だが何も彼女は言わないので、そろーっと脱衣場のドアを開ける。

 

「妹さ……、っ! おい!!」

 

 脱衣場の中を見ると壁に寄りかかって、座り込んでいるミサカの姿があった。

 正宗は驚いてミサカの肩を掴み、大丈夫かどうかを確認する。

 

「は、早めに乾かして、帰るつもりでしたが……ミサカも構造上は人間なので、風邪をひくことはあります。と、ミサカは……、何だか頭がぼーっとして……」

 

 息を切らしてミサカは言ってくる。一応着替えだけは終えていた様であり、ジャージを着てその後へたり込んだと思われる。

 

「お前、いつから公園に居たんだよ!」

「……雨が強く降り始めてからずっと居ました。かれこれ4時間ぐらい。と、ミサカは答えます」

「なんてバカなヤツなんだよ……」

「バカなんかじゃ……ありません。と、ミサカは……ッ」

 

 ゴホッゴホと彼女は反論しようとしている途中に喉に痰を詰まらせたのか、苦しそうに咳をしてしまった。彼は二度ほど彼女の背中をさすってから

 

「もう喋らなくていいから持ち上げるぞ」

 

 

 

 その後正宗はミサカを抱えてベッドに運び寝かせ、頭に着けてあるゴーグルをのけ、ジャージの上は肩が凝るから本人の許可を得て脱がした。黒いTシャツを着ているから大丈夫だろう。

 その後、何枚か、薄い掛け布団を出して彼女に掛けた。

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

「はぁ~……。ほら、体温計、脇に挟んで計りな」

 溜め息をつき、そう言って正宗は体温計をミサカに渡そうとするが、

 

「ミサカの現在の体温は……38.1℃です。と、ミサカは……、自分の能力の応用で計ったことを、貴方に教えます」

 

 風邪をひいた人特有である、目が潤った感じのミサカが言ってくる。鼻水や咳き込む症状は出てないが、これからかもしれない。

 口癖はそのままに、少し喋るのも辛そうだった。

 

「そんなの信用ならねえよ。ほら、黙って挟んどけ」

 正宗は少々強引だが体温計を渡す。能力だからと言っても風邪をひいているのだから宛にならなかった。ミサカの方もしぶしぶ体温計で計る事にしたのだった。

 

 この雨で学園都市の交通機関は、今は全面的にストップしていた。

だから正宗はタクシーでも呼ぼうとしたらミサカの方が断ってきた。彼女はお金を持っていなかったらしい。それなら自分がと正宗は思ったが、タクシーの運賃を払えるほどの金額は財布になかった。

 なので一晩だけだが泊めることとなった。

 

「何から何まで申し訳ありません。と、ミサカは貴方に迷惑を掛ける事を謝ります」

「悪いと思うのなら黙って寝て早く治してくれよ。今日は大雨だし、お前も上手く歩けそうにないから……。1日くらい仕方ないか……」

 

 寝ているミサカの額に冷やしたタオルを置きながら正宗は言った。

 その時ちょうど、ピピピピッと体温計がなる。

 

「体温……計れました。と、ミサカは体温計を渡しながら言います」

 

 彼女は脇から体温計を取り出して正宗に渡す。汗で胸元は濡れているが黒いTシャツなので透けることはない。

 

「どれどれ、……38.5℃、言ってたのと違うじゃん」

「それは少し前だから違います。と、ミサカは抗議をします」

 

 寝てはいるが、『そこは』と言いたいみたいに、ちょっと怒り気味でミサカは正宗に言ってくる。能力の自信さも姉譲りなのだろうか……

 

「わかったわかった、怒った顔しないで寝とけ、余計に熱が上がる」

 そう言って正宗は台所に行く。近くにいると彼女が寝られないだろうと思ったからだ。

 

 台所で、みぃ~……、と呼ぶ様に、床の真ん中で子猫がちょこんと座って鳴いていた。だが皿にはまだ牛乳は残っており、どうやらお腹はいっぱいになった様だ。

 

「ヨシヨシ、お前は、あいつに見つけてもらって運が良かったな……。黙って飼ってやるから安心しろよ……」

 

 正宗は片手の人差し指で『内緒』のポーズをし、もう片方で子猫を撫でる。

 子猫は気持ち良さそうに目を摘むって撫でてもらっていた。

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 現在の時刻は19:26分。

 夜になり、それまで静かにマンガを読んでいた正宗はベッドで寝ている病人の為にお(カユ)を作ってやることにした。

 

 ミサカが寝ている間に正宗は乾燥機で服を乾かしたり、靴を乾かしたり、子猫とちょっと遊んだりした。

 

 余談だが乾燥機を使う時に淡い水色シマシマ模様のブラジャーがあり、正宗は顔を真っ赤にして乾燥機に放り込んだ。

 

 それと同時に、だったら黒いTシャツの下って…………と、よからぬ妄想を展開する正宗だった。

 

………………

 

…………

 

……

 

 

「ホレ妹さん。お粥出来たから」

 

 そう言って正宗は寝ているミサカを起こす。起こし方は額に敷いてある濡れタオルをどかすだけ。揺する事などはしてはいけないと考えていた。このくらいの行動で彼女がまだ寝ているのならば放っておこうと思っていたが、

 彼女はムク……と静かに起きた。

 

「…………(ぽけー……)」

 

 ベッドの上で上半身だけ起きたはいいがちょっと、ぽけーっとしているミサカ。

 

「もっしも~し?」

「ふにぁ? ……ぁ!」

「大丈夫か? それに……夢の中で猫にでもなってたか?」

 

 ぷふっと正宗は軽く笑っていた。本人は面白いというより和んだのが。

 

「平気ですし気にしないで欲しいです。でもまだ37.7℃あります。とミサカはやっぱり寝起きなので目を擦りながら答えます」

 

 寝ぼけて変な声を出したミサカは隠す様に言ってくる。だがまだ熱はある感じだ。

 

「お、ちょっとは下がったか。食べられそうか?」

 作って持ってきたお粥を彼は見せながら言う。

 

「はい、せっかくなので頂きます。とミサカは貴方の行為に感謝しながら言います」

 

 そこまでヒドイ風邪ではなかったのでミサカは自分で食べる事ができた。(レンゲ)を使って少しずつ食べ進めている。正宗も、当麻じゃあるまいし、食べさせるという……、イベントなんてないか……いやいや何考えてんだ俺、と心の中で僅かな残念感と格闘していた。

 数秒の心の中の格闘が終わった後、彼もコンビニで買った晩飯を食べはじめ、ミサカが寝ているから我慢していたテレビ番組を見る。

 

「そういえば貴方はお姉様とお知り合いでしたよね。とミサカは以前聞いた事を思い出して聞きます」

 

 ベッドの上でお粥を食べながらミサカは正宗に言ってきた。

 

「あ~まぁ、そうだね。ただ単に知ってるだけなんだけどさ」

「良かったらお姉様について教えて頂けませんか? とミサカは良い機会だと思い、貴方に尋ねてみます」

「あれ? お前ら姉妹なんじゃないのかよ?」

 

 不思議そうな顔をして正宗が聞き返す。

 

「……数時間前に話した様に事情があります。とミサカは言えない事を申し訳なく思いながら応えます」

 

 それを聞いた正宗は聞いてはいけない事を思い出して少し悔いた。

そして美琴のイメージ像を考えてみる。

 

「……言うなれば、元気過ぎる、かな~……」

「元気過ぎる。ですか……具体的にどんな感じですか? とミサカは付け加えて質問します」

「うーん、お嬢様なのに超迷惑なくらいの戦闘狂(バトルジャンキー)であって、すごい負けず嫌い。そんで少年漫画が好きとか、御嬢様なのに走りまくっている変な所もあれば……ゲコ太が好きな子供っぽく女の子な所もあるかな……」

 

 一応知っていることを全部話した。これまであった出来事など。何かと美琴はうるさく、目立つヤツなのでちょっとは印象深い人だった。

 

「……そうですか、教えて頂きありがとうございます。それとお粥ごちそう様でした。とミサカはお礼を言いながらお粥の入っていたお皿を貴方に渡します」

「お粗末様でした。まだ熱はあるんだから、もう寝ておけよ」

 

 現在の時刻は21:03分。

 病人だが作って貰ったのに残すのは悪いと思ったミサカはゆっくりとだが全部食べた。

 

「あ、それと……」

 台所に行こうとした正宗をミサカが呼び止めた。

 

「? どした?」

「あの子の名前を考えたので言っても良いですか? と、ミサカは貴方が世話してもらうのに図々しく名前をつけようとします」

「あぁ……まぁ別に構わねーよ。妹さんが見つけたんだし」

 

 確かにあの時、彼女があの場所に居なかったら子猫は死んでいただろうから、と正宗は思いながら言ったのだった。それに彼は何かと選ぶ時、例えばビデオショップで借りるビデオを選ぶ、本屋で買う本を選ぶ、そんな時はかなり迷う性質(タチ)であり、猫の名前など言うまでもないので、彼女につけて貰う方がよっぽど効率が良いと考えたからでもあった。

 

「では、ミサカはその子猫を『クロ』と名付けます」

 

 彼はえ? とか、は? とか言いそうな顔をしてから、

 

「……ちょっ、待てや待てや待てや。全っ然黒くないから」

 

 正宗は手をナイナイといった感じで手を振る。

 彼女は彼に気が付くくらいに視線を動かして、子猫が床をゴロゴロと転がって遊んでいるのを見てから、

 

「では、『ブラック』と」

「うん、英語発音にしても、猫の色は違うからね」

 つーか何見て思ったんだよ! と彼の突込みが返ってきた。

 

「……イチイチうるさいな~。とミサカは愚痴を言いながら」

「そう言わず、もうちょい真面目に考えてやれよ。凄い名前をよ~」

 

 正宗は両手をあわせて懇願するポーズをとる。

 そんな姿を見てミサカは顎に手をやって、ふむ……と、ちょっと考える。その時ちょうどテレビの映像ではスポーツ用品店のCMを流していたのを見てしまった。じーっと見た彼女は突然。

 

 

 

「……ではミサカはあの子猫を『サモトラケのニケ』と名付けます。」

 

 

 サモトラケのニケ。

 ギリシア神話に登場する勝利の女神。英語では 『Nike』、ナイキと発音する。世界的スポーツ用品メーカー「ナ○キ」社の社名はこの女神に由来する。

 彼は、いきなりクオリティ変わりすぎだろ……と呟いた後

 

「……でも、長いから『ニケ』でいい? 初めのサトモラケを上の名前くらいにしてさー」

「別に構いません、飼うのは貴方なのですから。とミサカは許可をし……、それと、おやすみなさい、とミサカは布団に潜りながら言います」

「おう、じゃあおやすみ。……ってその前にカゼ薬飲んどけよ! こらこら寝たフリすんなって」

 

 正宗は薬箱から苦いことで有名なパブ○ンの粉薬をだした。

 

「に、苦いのはイヤです。と、ミサカは首を横に振りながら拒絶を……」

「はいはい、わがまま言わずに飲んどけって。これ、看病してる人からの心遣い(メーレー)ね」

「あうぅ…………」

 

 嫌がっていたが、彼女はちゃんと薬を飲んだ。

 

 

 

 ちょっと学生の時間的には寝るのが早いが、病人なら大事をとって寝ても良いぐらいでミサカは眠りについた。

 

 正宗も、リビングの電気は消して、台所でマンガを読みながら、子猫のゴハンを作ったり、遊んであげたり、ミサカの額のタオルを変えたりと働いた。

 

 まだ外は雨が降り続いていた。

 

 

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

…… 04:37 ……

 

 

 

 強く降っていた雨が止み静かな夜明け前となる。

 

 そんな時間にベッドで寝ていたミサカはゆっくりと起きて、自分とテーブルを挟んだ所で布団を敷いて静かに寝る正宗を見る。

 

「もう、行かなくてはなりません、とミサカは呟きます」

 

 だが正宗はその呟きを聞いて起きる事はなかった。

 

「今のミサカは貴方に何もお礼は出来ませんが、()()()()()がやってくれると思います、とミサカは貴方が聞いていなくても言います」

 

 寝ていたベッドを綺麗にして、ミサカは風呂場の脱衣場に向かい、そして正宗が昨日のうちの乾かしておいた常盤台中学の制服を着る。

 

 そんな制服も律儀に畳まれていて、どことなくいつもと違って微かに良い香りがした。

 

 それが、部屋干しなので、というちょっとした気遣いだということもミサカは気が付かなかった。

 

(まだ少し熱があるようです……)

 手を額と首筋に当てた後にそう思って、借りていたジャージや黒いTシャツを洗濯機の中に入れて玄関に向かう。

 

 頭にはあのゴーグルを着けて、いつもと変わらない感じで。

 ミサカは静かに出ていく準備をする。

 

 みぃー、と玄関で靴を履いている時 リビングからちょっと顔を出して子猫がミサカに向かって鳴いた。

 

「……あなたともお別れですね。とミサカは名残惜しく言います」

 

 ミサカが靴を履き終えて立ち上がり、玄関のドアノブに手を掛けた。

 

 だが、背後で、トテトテと本当に微かに足音が聞こえた。

 

 振り向き見ると、ミサカには近づいてくるはずのない子猫が、さっきまで靴を履くために座っていた場所に居たのだった。

 

「あなたはミサカを避けたりしないのですか? とミサカは少し驚きながら言います」

 

 

 みぃ、と弱くだが子猫は鳴いた。

 ミサカは自分でも不思議に思いながら、それに応えるようにしゃがんで子猫に手を伸ばす。

 

 段々と手を近づけるにつれて、子猫は震え始めたが……

 

 触れることができた。

 

 

「……我慢強い猫なのですね。とミサカは動物を始めて撫でながら感想を述べます」

 

 

 撫でられている間も小さく震えていたが、子猫はミサカの手の温もりを感じている様に見えた。

 まるで飼い主になついている猫の様に。

 

 そしてゆっくり手を離す。

 

 

「今度こそ本当にお別れです、と、ミサカは、…………

 

 

 

 

 

 

 

 

…… 05:25 ……

 

 空は夕方の反対だった。陽は東から昇る。それは紅いのではなく、黄色く輝き、眩しかった。

 

 

「あなたの方が早く来ていたのですね。とミサカは少々驚きながら言います」

「ケッ、昨日研究所に行って実験の内容を聞かされてェ、こっちはイラついてるっつーの」

 

 一方通行は工場の階段に座り、コーヒーを飲んでいた。昨日正宗と別れた後に研究所に行ったのも、実験の内容を知るためだ。

 

「明朝における戦闘の実験がですか? と、ミサカはわかりきった事を聞きます」

 

「ハ! どんな時間帯にしよォが俺の能力にはかンけェーねェンだよ! このまま朝方が弱いってされて、こンな朝早くからの実験を増やされても困るからな……」

 

「困るからどうするんです? と、ミサカは質問します」

「そんなコトも分かンねェのか?」

 

 ……まァそれもそうか。と一方通行は続ける。

 

「オマエにとって、たった一回の実験。調律(チューニング)や体調を万全にして来る使()()()()に分かるはずもねェか」

 

 と言った後、白く濁った様に真っ白な髪が生えた頭をボリボリとかき、

 

「わりィがこっちは休みナシで毎日永遠と殺《や》って、挙げ句の果てには明朝だァ? ふざけてンのか? 人間様ってのはよォ、睡眠とか食事とかそういう生理的欲求っつゥのが満たせれねェと不健康になるしイラつくように出来てんだ。悪りィが、実験が始まったら即効で消させて貰うからな」

 

 イライラしているというよりも、めんどくさそうに一方通行は言う。

そんな彼に向かって、彼女はコホンと咳をしてから、

 

 

「……実験開始まで、あと1分35秒です、とミサカは告げます」

 

「あァ~? よォく聞いてみるとオマエ、鼻声じゃァねェのか?」

「はい、昨日まで高熱が出ていました。今も少しですが熱があります。とミサカは風邪をひいているということを教えます」

 

「ハァ? オイオイオイ、こりゃァなンの嫌がらせですかァ? 調律(チューニング)はどォしたよ? モルモットのクセに病原菌を持って俺に感染したらどォすンだァ? こりゃァ今日は触れずに実験しねェとなァ」

「……そろそろ一方通行は所定の位置に着いて下さい」

 

「チッ、学校みてェに休めばいいのによォ……」

 

 

 その呟きはミサカには聞こえなかった。

 

 

 

「午前5時30分」

 

 少女はいつもの様に、さっきまでの出来事が偽りの様に、機械的に、表情無く、事務的に伝える

 

 

 

「これより第9812次、実験を開始します」

 

 

 

 

 

 

 

 午前5時56分。

 

 

 第9812次実験は終了。

 

 

 一方通行は相手に触れずに殺害。

 

 

 ターゲットが放った銃弾を足に反射されて動けなくなっている所を胸の心臓部目掛けて鉄パイプを突き刺した。

 

 

 

 だが最後にミサカのある言葉を、聞いた様な気がした。

簡単ながらも彼にとって理解が出来なかった。こんな場所でこんな状況で血に塗れた姿で……

そう、それは彼に言ったのではない。

 

 それはミサカがこの世から消える時、走馬灯の様に想い返している時だった。

 充実なんてしていなかった。いつか、街の歩く人々よりも早く死ぬのはわかっていた。自分の意思など二の次、そもそもそんなことを考えたことも無かった。

 でも……

少しだけ暖かく、少しだけ幸せな気持ちになれたのは事実だった。

 

 

 

 

 たった一言、彼女は呟いた。

 

 

 ありがとう…… と。

 

 

 




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