強欲のヒーローアカデミア (チーバ君)
しおりを挟む

強欲のヒーローアカデミア

今更ハガレン観たんですが、グリードの生き様が最初から最後までカッコ良すぎて……泣


第1話 強欲のヒーローアカデミア

 

 

雄英高校 入学試験

 

 

「0ポイント(ヴィラン)だー!」

「デケエ!あんなのに勝てるわけねぇ!」

「マジか雄英!?下手したら死人出るぞ!?」

「に、逃げろーーー!!」

 

 

 

受験生の誰もが逃げ出していく中、少女はその場を動かずにいた。

チャンスだと思った。

先ほどまでここに受験生が密集していたせいで、2ポイント敵や3ポイント敵は、まだこの場に残っている。

0ポイント敵がここに到着するまでは、まだ僅かばかりの猶予がある。

ギリギリまでここで仮想敵を倒し、ポイントを稼いだ上でこの場から離脱する。

それが少女の選択だった。

 

少女は優秀だった。他の受験生達が雑魚敵にすら手こずっている中、一騎当千の様相で次々と雑魚敵を撃破していった。ならばこそ、少し欲が出てしまうのも仕方ないのだろう。

 

既に十分ポイントは稼いでいるが、多くポイントを稼ぐに越したことはない。

 

だが、少女は優秀過ぎたのだ。

ここまでの試験で大きな手応えを感じてさえいなければ、他の受験生同様に逃げ出していただろう。

試験の様子を観ているだろう教師達(プロヒーロー)に対して良いところを見せたいという気持ち。

私は他の受験生達とは違うと、見栄を張りたい気持ち。

良い順位、あわよくば主席で合格したいという気持ちが、彼女を増長させてしまった。

 

 

 

(筆記試験の自信もある、必ず雄英に合格してみせるーーー!)

 

 

 

 

 

 

そんな欲を出した罰が当たったのだろうか。

彼女は逃げ遅れてしまった。

最後の雑魚敵を倒す際に足を挫いてしまったのだ。

0ポイント敵はすぐそこまで迫っている!

常識的に考えて雄英側も死傷者などを出すつもりはなく、いざとなった時のために教師達も各試験会場に控えているだろう。

だが、少女の頭は恐怖で埋めつくされており、そんな当たり前の思考をすることすら出来なかった。

 

少女の心は、絶望に染め上げられた。

 

 

 

 

 

 

そこに、ヒーローが現れた。

 

 

 

 

 

「よう嬢ちゃん、助けが必要かい?」

 

「えーーー?」

 

現れたのはとてもヒーローとは言い難い外見をしている男だった。

目つきは悪く、口調は粗暴、顔には欲望に満ちた凶悪な笑みが浮かんでいる。

そんな男を前に、少女は言葉を失っていた。

だが、次に男が発した言葉で、少女はさらに言葉を失うことになる。

 

「そこで待ってな。今すぐあのデカブツをぶっ倒して来てやるよ」

 

 

 

「はーーー?」

 

今、この男はなんと言った?

 

ありえない。

他の受験生は全て敵だ。

倍率が300倍にもなる雄英の受験では、その傾向は一層強い。

 

ありえない。

受験生が他の受験生を助けることもそうだが、この男は私を連れてこの場から離脱しようとしているのでは無い。

あの巨大なロボを倒すことで、結果として私を助けようとしている。

 

ありえない。

そして何よりも、あんなでかいやつに勝てるわけがないーーー!

 

「そんなの不可能だって顔だな」

「だが、『ありえないなんてことはありえない』のさ」

「あの0ポイントヴィランもぶっ倒して、てめえを救い出す!そんでもって合格してみせる!」

 

「だ、だめ!!ウチは自分でなんとかするから、アンタは早く逃げて!仮に0ポイントヴィランを倒せたとしても、ここで時間喰ってたらアンタまで不合格になっちゃうよ!?」

 

「ハッ!俺を誰だと思っていやがる!」

「助けたいと思ったら助ける」

「殺したいと思ったら殺す」

「手に入れたいと思ったら手に入れる」

「金、女、命!この世界の全てを手に入れる!それが俺様ーーー」

 

 

 

「ーーー強欲ヒーロー、グリード様よぉ!」

 

 

 

言っていることはともかく、男は私を本気で助けてくれようとしている。

敵を倒し、弱きを助ける。

こんなところで無様に這い蹲っている自分とは違う。

その男は紛れもなくヒーローだった。

0ポイント敵に向けて走っていく(ヒーロー)の背中を見送りながら、少女は思った。

 

 

 

(それ、どっちかっつーと(ヴィラン)じゃね?)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

個性把握テスト

思った以上に筆が進んだので、連載にしてこっちメインになるかも。


第2話 個性把握テスト

 

 

 

雄英高校 1ーA教室前

 

緑谷出久は教室の前で、なかなか扉を開けることが出来ずにいた。

あまり学校というものに良いイメージを持っていなかったからだ。

思い出されるのは中学時代、無個性だというのが理由で虐められることも多かったため、まともな友達すらいなかった。

 

だが緑谷はもう無個性ではない。OFAという個性を得、無事雄英に入学することが出来た。

雄英高校ヒーロー科は偏差値79の超進学校、そこにいる生徒たちも皆ヒーローに相応しい、いい人ばかりに違いない!

必ず友達をつくってみせる!

 

(あ、でも怖い人たちとは同じクラスになりませんように……!)

 

オールマイトに祈りを捧げつつ、意を決して扉を開けたその先にはーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「おい、てめえどこ中だこら!端役が調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

「はあ?端役はそっちの方だろ?つーかお前ヘドロ臭くねえか?近寄んじゃねえよ、臭いが移る」

 

「ああ!?臭いなんざとっくに消えてるわボケ!」

 

「いやー、まだなんか臭うぜ?具体的に言うと、負け犬の臭いがなぁ!」

 

「殺す!」

 

「上等だぁ!」

 

「君たち、喧嘩はやめないか!雄英生たるもの、ヒーローとしての自覚をもってーーー」

 

 

 

(オールマイト、僕はもうダメかもしれません……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「個性把握テストを始める」

「あと最下位は除籍な」

 

そんなこんなで始まった個性把握テスト。最下位は除籍という理不尽な宣言にも関わらず、それぞれが個性に合った種目で次々と高記録を出していくのは、流石は雄英生と言ったところか。

だが、どの種目でも自らの個性を活かせない者たちも少なからず存在した。

その一人の中に、グリードはいた。

 

 

 

 

 

 

「よっ強欲ヒーロー、調子はどう?」

 

「あ?お前確か……あん時の」

 

「その節はどーも。あの時助けてもらった受験生だよ」

 

「……その話はすんじゃねえよ」

 

「ぷふっ、あんたあれだけ威勢良く突っ込んでいったのに、結局0ポイント敵倒せないまま試験終わっちゃったもんね……ぶふっ!」

 

「うるせえ!笑うな!」

 

 

 

『グリード少年!ライバルである他の受験生を助けるその気概や良し!だがムキになって0ポイント敵に固執し続けたのはいけない。時間制限のある試験だ。すぐには倒せない敵だとわかったなら怪我人を連れて遠くまで離れる、それだけであの子を助けることが出来たし、君も残り時間で他の仮想敵を倒してもっとポイントを稼げたことだろう。冷静な判断が出来なかったところはマイナスだ。それとーーーーーーえ?巻きで頼む?…………まあ、そんなわけで!来いよグリード少年!ここが君のヒーローアカデミアだ!』

 

 

 

「でもあんたがアレを引きつけてくれてたおかげでウチは助かったわけだし、元気、だしな、よ……」

 

「笑い堪えてんじゃねえよ!個性の相性が悪かったんだよ!ただでかいだけの張りぼてかと思ったら、思った以上に堅い装甲してやがるしよ……」

 

「あー、あの時遠目から見てたけど、あんたの個性って『硬化』だっけ?」

 

「ああ、正確には『炭素』だけどな。体内の炭素の結合度を変化させて硬化させてんだ。まあ、このテストじゃ使っても意味ねーけどな」

 

「分かるわー、ウチの個性も体力テストじゃほとんど意味なくってさー、有利な個性持ってる奴が羨ましいわホント」

 

「硬化以外にも使い方はあんだが、そっちも使いようねーし、このテスト全然合理的じゃねーよ」

 

「あはは、それな〜」

 

「っと、次俺の番か。またな、えーっと……」

 

「あ、名前まだ言ってなかったっけ?ウチは耳郎響香」

 

「耳郎か……。じゃあな!退学になんなよ、耳郎!」

 

「バーカ、自分の心配してろっての」

 

 

 

 

 

 

個性把握テスト 最終順位

グリード 7位

耳郎響香 17位

 

「だっはっはっは!お前退学ギリギリじゃねーか!」

 

「う、うっさい!どっちみち除籍嘘だったからいーだろ!?」

 




グリードの順位は障子の一個下、切島の一個上です。
ちなみにヒロアカ二次小説恒例、
不在の煽りを受けたのは尾白くんです。

あと、あの少女の正体は耳郎ちゃんでした。
サバサバしてるように見えて意外と乙女なところもある耳郎ちゃん可愛いよ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

グリードの個性

第3話 グリードの個性

 

 

ヒーロー基礎学。

No. 1ヒーロー、オールマイトが担当を務める実戦訓練を主とする科目だ。

1ーAの第一回の授業は屋内対人戦闘訓練、ヒーローチームと敵チームに分かれて行う模擬戦だった。

その第1戦、緑谷&麗日チームVS爆豪&飯田チームの試合は、手に汗握る展開の連続だった。

そして一戦目から白熱した勝負が繰り広げられたこともあり、その熱に当てられたのか、後の試合でも非常に白熱した勝負が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

第4戦

ヒーローチーム:グリード&葉隠

敵チーム:轟&障子

 

 

 

 

轟焦凍は圧倒的だった。

建物ごと凍らせる大氷結を放ち、一瞬でヒーローチームの二人、葉隠とグリードを氷漬けにしてしまった。

相方の障子は巻き込まないように屋上に避難してもらっており、核兵器を守るのは轟1人だけだ。それでもこの結果、轟の実力は新入生のなかでも頭一つ飛び抜けていた。

だが、誤算がなかった訳ではない。

 

 

 

「この短時間でここまでたどり着いたのは褒めてやるが、相手が悪かったな」

 

そう、目の前で氷漬けになっている男、グリードは訓練開始から僅かな時間で核兵器のある部屋までたどり着いたのだ。

部屋に入った瞬間に氷結を発動させたため事なきを得たが、かなり肝を冷やした。

近接戦闘に秀でた個性を持っているものは得てして高い身体能力を持っているが、コイツは今まで見てきたなかでもかなり上位に位置するだろう。

コイツの相方は葉隠、索敵に秀でた個性ではなかったはずだ。

恐らくは個性を用いずに離れ業をやってのけた目の前の男に対して、轟は得体の知れなさを感じた。

 

 

 

「おいおい、もう勝ったつもりか?」

 

そう言い放ち、氷漬けになった今も不敵に笑ってみせている。

ハッタリだ。奴の個性では氷から脱出することは出来ない筈だ。

 

「訓練終了までそのまま大人しくしてろ。無理に動けば四肢がもげるぞ」

 

「ヘヘッ……俺との会話にかまけてていいのか?ーーー背中が留守だぜ」

 

「ッーーー!」

 

勢いよく後ろを振り返るが、何も無い。

 

騙されたと思い、グリードへと向き直るがーーー

 

 

 

ーーーそのグリードが目の前まで迫ってきていた。

 

「オラァッ!」

 

「なっーーー!」

 

0距離まで接近してきたグリードに対して、轟は個性ではなく近接格闘で対応する。

殴りかかってきたグリードの拳をなんとか受け流し、距離をとった。

 

「へへ……俺の勝ちだな」

 

気づけば轟の右手には確保テープが巻かれていた。

全く気づかなかった。目の前の男が、格闘戦の実力で自分より上回っているのは明らかだった。

だが、轟はそれどころではなかった。

 

「てめえ……何考えてやがる!?」

 

グリードには右腕と右足が無かった。

 

グリードは凍らされていた右半身の四肢、右腕と右脚の膝から下を引きちぎり、拘束から逃れたのだ。

 

「やかましぃ、ヒーローをなめんな。この程度でくたばってたらヒーローだなんて名乗ってらんねえだろ?」

 

「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!早くリカバリーガールをーーー!?」

 

轟は目を見張った。

グリードの四肢が再生していくのだ。

 

「俺の個性は単なる硬化じゃねえのさ、俺は『炭素人間』。身体を構成している炭素、そいつを自由自在に操れる。炭素の結合度を上げて硬化させることも、逆に柔らかくすることも出来る。身体の再生なんかお手の物だぜ」

 

足の再生が終わると、グリードは悠々と歩き、核兵器に触れた。

 

『ヒーローチーム、WIN!』




※修正前
父親から受け継いだ個性『炭素』:体内の炭素の結合度を変化させることが出来、それにより体をダイヤモンド並に硬化させることが可能。

母親から受け継いだ個性『超再生』:即死さえしなければ、臓器や四肢の欠損さえ再生させることが出来る。これといったデメリットのない非常に強力な個性。

ちなみに再生と硬化は同時には扱えない。また、グリードの母親は彼が生まれてすぐに行方不明になっており、男手一つで育ててくれた父親にはかなり感謝している。

と言う訳で、グリードのもう一つの個性はホムンクルス特有の能力『超再生』でした。
ところでヒロアカって、二つ個性を持った人間って『異形型+発動型』が殆どで、爆豪や轟みたいに発動型の個性が二つ個性が混ざった場合も、噛み合った個性ばっかですよね。
今作品のグリードみたいなタイプは珍しいのかな?

※修正後
読者の方のご指摘を受け、グリードの個性を『炭素人間』に変更しました。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺は嘘はつかねえよ

今回はちょい長めです。


第4話 俺は嘘はつかねえよ

 

 

 

「あ?てめえ、緑谷だったか?」

 

「えっ!?グ、グリード君……?なんでここに?」

 

「家がこっち方面なんだよ。お前も今帰りか?」

 

雄英からの帰り道、緑谷はグリードと出くわしてしまった。

緑谷はグリードが苦手だった。

いや、緑谷だけでは無い。他の生徒も大小の差はあれど、グリードに対してよそよそしい態度をとっていた。

 

屋内戦闘訓練の際、グリードは轟の大氷結に対し、自らの四肢を犠牲にすることで勝利を勝ち取った。

個性の反動で傷つく緑谷とは話が違う。『超再生』があるとはいえ自分から四肢を引きちぎるなど、模擬戦でそこまでする理由が他の生徒には理解できなかった。

早い話、グリードはやり過ぎたのだ。

彼の凶行には他の生徒はおろか、オールマイトさえもドン引きしていた。

耳郎などは気を遣って話しかけてくれたが、それでもどこかよそよそしかった。

 

(どうしよう……初日にもかっちゃんと喧嘩してたし、不良みたいな人とは絶対仲良くなれないよ……!)

 

グリードの外見が怖いことも拍車をかけ、緑谷は内心ビビりまくっていた。

 

「おい、緑谷!!!」

 

「ひゃいっ!な、何でしょう!?(まさか心の中を見透かされた!?)」

 

「お前がリュックに付けてんの、オールマイト10周年記念の時の限定ストラップじゃねえか!俺も持ってるぜそれ!」

 

「え!?本当!?」

 

この瞬間、緑谷のなかでグリードはいい人認定された。

『オールマイト好きに悪い奴はいない』というのが緑谷の座右の銘だ。

 

男達はオールマイトについて語り合った。

 

友達のいない緑谷にとって、ヒーローについて友達と語り合うのが長年の夢だった。

しかし雄英に入ってから得た友達、麗日と飯田もそこまでヒーローオタクという訳では無かったため、夢は果たされなかった。

だが今日、グリードというオタク友達を手に入れることが出来た。

緑谷は幼少から蓄えてきた知識をふんだんに用い、思う存分オールマイトについて語った。

他方、グリードは緑谷ほどヒーローに詳しいという訳ではなかったが、オールマイトに関してなら緑谷と遜色ないほどのオタクだった。

 

二人は仲良くなった。

 

「まさかここまでオールマイトで語れる奴がいるとはな、さすが雄英だぜ……!」

 

「僕もいっぱい話出来て楽しかったよ!それで、グリード君は何でヒーローに?やっぱりオールマイトに憧れて?」

 

「まあ、話せば長くなるんだが……でもお前になら話してもいいぜ。正直あんま気分のいい話じゃねえが、聞いてくれるか?」

 

「う、うん」

 

グリードのそれは、今日親しくなったばかりの人間に話すようなものでは無かったが、オールマイトについて思う存分語り合えて気が緩んでいたのだろう。加えて、緑谷は信用出来る、そんな確信めいた予感があった。

 

「俺は生まれた時から何かおかしかったんだ。常に胸の中に渇きがあって、そいつは何をしても満たされることは無かった」

 

「物心ついた時からずっとそうだ。何をするにも、常にそれがついて回った。テストで良い点とっても、ゲームをクリアしても、美味いもん食っても、俺の渇きは満たされなかった」

 

「今となっては、ホント何やってんだって話だが、当時の俺は物凄く思い悩んじまってな。『もうこの世界に俺の居場所は無いのかもしれない。なら、生きている意味なんてあるのかーーー?』」

 

「そう思って自殺を図ったこともある。廃ビルの屋上から飛び降りたんだ」

 

「自殺……!?」

 

緑谷にも無個性というコンプレックスがあった。それが理由でいじめられることもあったし、なにより小さい頃からの夢だったヒーローへの道が閉ざされてしまった。

無個性だと分かってからは辛い毎日だった。しかし、それでも自殺を考えた事は無かった。

なら、幼くして自殺に踏み切ったグリード君の辛さは、一体どれほどのものだったのかーーー?

 

「今思い返しても、本当馬鹿やってんなー、あん時の俺は。まあ、そのおかげで個性を応用した再生能力の可能性に気付けたけどな。ーーーでも、親にも大分迷惑掛けちまった」

 

「服を血だらけにした息子が帰ってきたんだ、親父は慌てたよ。『誰かにいじめられたのか?それともヴィランに襲われたのかっ!?』ってな」

 

「俺は全部話した。俺の中にある渇き、何をしても満たされることは無く、それが原因で自殺を試みたことも。今まで抱えてたもの全部」

 

「初めて親父に殴られたのもそん時だったなー、あれは痛かった。でも、体の痛みなんかよりも心が痛かった。親父が本当に俺のことを思ってくれてるのが伝わってきた」

 

「その後、親父は仕事を辞めて、俺をいろんなところへ連れてってくれた。少しでも俺が人生を楽しめるようにってな、一緒に俺の渇きを満たせるものを探してくれたんだ」

 

「日本だけじゃなく世界中を回って、俺はたくさんのものに触れた。ーーーそれでも、俺の渇きを満たせるものは見つからなかった」

 

「ーーーーーー」

 

緑谷は思い返していた。

自身が無個性だと分かった時、緑谷は失意のどん底に突き落とされた。だがそれ以上に、母親に辛い思いをさせていなかっただろうか?

 

『お母さん……僕、無個性でもヒーローになれるかなあ……?』

 

その問いがどれだけ残酷だったのか、今になってようやく思い至った。

『無個性で産んだのはお前だ。お前のせいで、お前の息子は夢を追いかける権利さえ奪われた』

そう、母親に突きつけているも同然だった。

 

「だがオールマイトとの出会いで全てが変わった」

 

そうだ、オールマイトとの出会いで僕も変わった。

 

「世界を一通り回って日本に帰ってきた時、オールマイトのヒーロー活動中に偶然出くわしてな」

「その時、俺はオールマイトに光を見た」

「初めてオールマイトを見たときは痺れたぜ。世界にはこんな人間がいるんだってな……!」

「ああ、本当に痺れた。誰も彼もを救ってみせる?たった一人で全ての平和を背負う?なんて強欲な男なんだってな……!」

「ヒーローになってNo. 1になれば、生まれてからずっと続いてきた乾きも満たされるかもしれねえ、初めてそう思えるものに出会えた!」

「ーーーオールマイトは、俺にとっての希望なんだよ」

 

「うん、分かるよ……すごく分かる」

 

『君はヒーローになれる』

 

その言葉に救われた。

オールマイトのおかげで僕はここまでこれた。夢を諦めずに済んだ。

まだOFAを満足に使うことさえ出来ない未熟者だけど、僕は雄英(ここ)までこれた。

ーーーオールマイトは、僕にとっても希望なんだ。

 

「だから俺はNo. 1ヒーローになる!必ずオールマイトを超えてやる!」

 

緑谷は理解した。

戦闘訓練の際、なぜグリードがあそこまでして勝利を求めたのかを。

心の裡にある渇きを満たすため、どこまでも貪欲に、どこまでも強欲にヒーローへの道を邁進する。

それが彼のヒーローとしての在り方だった。

 

「……やっぱりすごいね、グリード君」

 

「おうよ!なんたって俺はグリード様だからな!いずれ平和の象徴の座もこの俺が手に入れる!ーーーだがまずは、ヒーローにならなきゃな。そん時は緑谷、俺のところでサイドキックやらねえか?」

 

「ええッ!?僕なんかがサイドキックで良いの?」

 

「ああ、光栄に思えよ?なんたってこの俺、グリード様のサイドキックだ。なりたくてもなれるもんじゃねえ」

 

「でも僕、個性の扱いだってまだ上手く出来てないのに……。それに、僕ヒーローになれるか分からないよ?」

 

このまま個性を使いこなすことが出来なければ、ヒーローになるなど夢のまた夢。当然、OFAの継承者としても失格、OFAをオールマイトに返さなければならないだろう。

考えたくは無いが、最悪の場合そんな未来もあり得る。

 

「個性なんか関係ねえよ、俺が気に入ったのはお前のその在り方だ。そうそう使用に踏み切れるもんじゃねえ自爆覚悟の個性、それをお前は何の躊躇も無く使って見せた」

 

屋内戦闘訓練、緑谷は個性の反動で重傷を負った。

いくらリカバリーガールの個性で治るからとはいえ、自ら激痛に飛び込むのは相応の覚悟が要る。

何が緑谷を突き動かしているのかグリードには分からないが、痛みと引き替えにしてでも求めるものがあるのだろう。 

そして求める心とは『欲』。

グリードはその在り方、緑谷の『欲』に惹かれたのだ。

 

「俺は嘘はつかねえよ。そしてその俺が断言してやるーーー()()()()()()()()()()()

 

「ーーーあ」

 

『君はヒーローになれる』

 

(オールマイトと同じーーー)

 

「ーーーなんて、俺なんかに言われても嬉しくねえだろうが……って、緑谷。お前……泣いてるのか?」

 

「あ、あれ……?」

 

気づけば涙が流れていた。

 

オールマイトはかつて、無個性でもヒーローになれる、そう言ってくれた。でもそれは、OFAを継ぐ者として相応しいという意味でのヒーローだ。

 

でも、グリード君は違う。

個性とは関係なく、緑谷出久という一人の人間を見てくれた。その上でヒーローになれると言ってくれた。

 

『お母さん、僕、無個性でもヒーローになれるかなあ……?』

 

それは、あの時、何よりも言って欲しかった言葉だ。

 

「ーーーーーーーーッ!!!」

 

膝をついて泣き崩れる僕を見て、グリード君は焦った顔でオロオロしていてーーーなんだかそれが印象的だった。

 

 

 

 

 

 

この日、二人はかけがえのない友となった。




というわけで、グリードがなぜヒーローを志したのかが明かされる回です。
ハガレンの原作を知っている人には分かると思いますが、グリードがオールマイトに見た光とはその強欲さでは無く、誰からも愛され、期待され、心の底から声援を送られること、そして〇〇。
原作では、真に欲しているものが何なのかリンに見抜かれていながらも気づかない振りをしていましたが、今作では本当に気づいていません。
それに気づく日が来た時が、グリードの本当のヒーローへの第一歩だと思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

束の間の日常


たくさんのお気に入りと感想と評価、ありがとうございます。
今回は日常回です。


第5話 束の間の日常

 

 

 

雄英高校ヒーロー科といっても、基本となる部分は普通の高校と変わらない。

午後はヒーロー基礎学などのヒーロー科特有の講義を設けているが、午前中はプレゼントマイクによる英語やミッドナイトによる保健体育等、ごく普通の授業が行われている。

そしてこの日、1-Aではホームルームで学級委員長を決めることになった。

だがここは雄英高校ヒーロー科、一部の例外を除いて大多数の生徒が前に立ちたいと、委員長をやりたがった。

ごたごたがあった結果、投票形式で委員長を決めることになったのだがーーー

 

 

 

「まさか僕が委員長になるなんて……」

 

委員長になったのは、飯田と麗日と共に昼食を食べている緑谷だった。

ほぼ全ての生徒が自分に投票するという流れの中、なんと緑谷は4票を獲得したのだ。

 

「緑谷君なら大丈夫さ」

 

「でもデクくん4票だったよね?ここにいる三人以外、あと1票は誰がーーーー」

 

 

 

 

 

 

「その1票は俺んだぜ」

 

 

 

 

 

 

「あっ、グリード君!」

 

「よっ!緑谷、委員長就任おめでとさん。ここの席空いてるか?」

 

「ああ、うん!麗日さんと飯田くんも、グリード君も一緒に食べていいよね?」

 

「別に構わないが……君たち知り合いだったのか」

 

「意外な二人や……」

 

片や雄英生徒の中では珍しいほどに、大人めで普通な緑谷、片や初日から爆豪と喧嘩していた不良ルビグリード。決して交わりそうにない二人だった。

 

「でもなんでみんな、僕なんかに投票してくれたの?」

 

「デクくん、昨日の訓練で作戦たてたり、すごかったもん!絶対私より委員長に向いとるよ!」

 

「そ、そんなことないよ……まだ個性だって上手く扱えてないし」

 

「いや、君は現時点でも十分立派にヒーローをやっている。だから俺も、まだまだ未熟な自身より君の方が相応しいと思った」

 

麗日と飯田の2人から褒められ、なんだかむず痒くなった緑谷は誤魔化すようにグリードに話を振った。

 

「そ、そうだ!グリード君はどうして僕に?」

 

「あ、俺か?……なんつーかお前、人の前に立つことに慣れてねえだろ?だからだよ」

 

「え……嫌がらせってことなん?」

 

「違えよ。お前の中の俺のイメージどうなってんだよ。ほらアレだ……お前、オールマイトに憧れてんだろ?だったらどんな状況でも笑っていられるようにならねえとな。カメラを向けられただけでどもってたら、とてもじゃないがやってけねえぞ?」

「どっちみちプロヒーローになったら、いやでもメディアなんかとは関わっていかなきゃならねえんだ。だからここいらで少しずつ、人の前に立つことを学んどけ」

 

「「「…………」」」

 

「あ?どうしたよお前ら」

 

「いや、そんなことまで考えてくれてたなんて、なんか意外だなって。……てっきり、面白がって僕に投票したんだと思ってた」

 

「面白がってって……お前ら、俺をなんだと思ってんだ?」

 

「一言で言うと、不良?」

 

「うんうん」

 

「おい」

 

「ああ、正直僕もそう思っていた。すまないグリード君、僕は君を誤解していたようだ」

 

「「「僕?」」」

 

「あっ……しまった、忘れてくれ」

 

「はっはーん、飯田。さてはオメェさん……」

 

グリードは不良扱いされた仕返しとでも言うように、ニヤニヤしながら飯田の失言を弄りだした。

 

「……金持ちのボンボンだな?」

 

「ボンボンとはなんだ!?失礼だな君は!」

 

「確かにそんな雰囲気はしてたんだよな〜。今時眼鏡で七三とか、漫画のなかにしかいねえよ」

 

「これはベストジーニストを意識した、規律を重んじる節度ある髪型だ!だいたい君は初日からーーー」

 

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはーーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、結局委員長を飯田に譲っちまってよ。なんのためにお前に投票したか分かってんのか?」

 

「ご、ごめん……」

 

「……まあ、お前のそういうとこも美点だと思うぜ?」

 

放課後、帰る方向が同じということもあり、緑谷と麗日と飯田の三人組に今日はグリードが加わっていた。

昼休みにマスコミが敷地内に侵入してくるなどの事件があり、そのごたごたの結果、緑谷は飯田に委員長を譲ることにしたのだ。

 

「任せてくれ。緑谷君に託された委員長の責務、命に代えてでも果たしてみせる!」

 

「命!?ほ、ほどほどでいいよ、ほどほどで……」

 

などと他愛ない話をしながら家路につく。だがそこはヒーロー科の生徒、会話の内容は昨日の戦闘訓練へとシフトしていった。

 

 

 

「昨日みたいに浮かせられる物がない状況だと、相手に触れないとどうしようもないし。やっぱり私も格闘技とかやった方がいいのかなあ?」

 

「うーん、どうだろう。本格的な格闘技となると、やっぱり実戦で使えるようになるまでに結構かかるだろうし……」

 

「そういえば、かつて兄に聞いたことがある。ヒーロー考案の格闘術があると。今度話を聞いてこよう」

 

「さすが非常口、物知りだな」

 

「非常口は関係ないだろう!?……ところで話は変わるが、俺の兄も実はヒーローをやっていてなーーー」

 

 

 

だが、彼らはまだ知らない。世界には人の想像の範疇を超えた、途轍もない悪意があることを。




マスコミのくだりもそうですが、原作をただなぞるだけになりそうな部分はとばす方向でいきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ひとりはみんなのために

USJ編、いきなりクライマックスです。

※9月26日、修正。


第6話 ひとりはみんなのために

 

 

 

雄英ヒーロー科1ーAクラスは、USJでの災害救助訓練の際、ヴィラン連合の襲撃を受けた。

彼らの目的はNo. 1ヒーロー、オールマイトの抹殺。

だが、彼らの狙いはそれだけでは無い。抹殺対象には生徒たちも含まれていた。いずれ平和を背負うことになるヒーローの卵たち、成長する前にその芽を摘んでしまおうと考えたのだ。

そして彼らの狙い通り、ワープの個性を持ったヴィラン、黒霧の手によって生徒たちはヴィランが待ち構える各エリアに跳ばされてしまった。

しかし、学生とはいえ天下の雄英ヒーロー科の生徒。チンピラ擬きのヴィランでは、束になっても相手にならなかった。それぞれが難なくヴィランへ対応することが出来ていた。

 

その中でも最も早くヴィランの迎撃に成功した緑谷、蛙吹、峰田の三人は、先ほどの広場へ戻ることにした。逃げるにしろ、生徒たちを守るために一人戦っている相澤先生の様子を見てからにしようということになったのだ。

 

彼らは広場へ向かった。その先に何が待っているのかも知らずに。

 

 

 

 

 

 

「えーーー?」

 

そこには地獄が広がっていた。

脳無と呼ばれているヴィランにより、瀕死の状態の相澤先生が組み伏せられていたのだ。その他大勢のヴィランたちは倒したようだが、死柄木と呼ばれるリーダー格の男も健在、状況は絶望的だった。

 

緑谷は思考を巡らせた。

 

(どうする、助けに入るか!?でも僕が割って入っても返って足手纏いになるだけ?それより助けを呼んできた方が?いや、そんなことをしている間に相澤先生はーーー)

 

「ーーーッ!?」

 

今、死柄木と呼ばれる男と、目が合った。

 

「おい緑谷、相澤先生がやられちまってるんだぜ!?勝てっこねえよ!こっちに気づかれる前にこっそり逃げちまおうぜ!」

 

「ーーーダメだ」

 

「はあ!?なんでそんなこと言うんだよ!諦めちまったのか!?」

 

「ダメだーーーもう気づかれてる!!」

 

 

 

 

 

 

「へえ……さすがヒーローの卵、今のを躱すんだ……?」

 

(今のはたまたま避けられただけだ。次は絶対無理ーーー!)

 

信じられないが、脳無と呼ばれていた男は個性を使わず、素の身体能力でイレイザーヘッドを瀕死に追い込んだのだろう。

オールマイトを殺すというのもあながち冗談ではないように思えた。

ヒーロー資格も持たない学生が戦って勝てる相手では無い。

 

(なら、僕がすべきことはーーー)

 

「ーーー僕が時間を稼ぐ、二人は逃げて」

 

「な、何言ってるんだよ緑谷!お前も一緒に逃げるんだよ!」

 

「無謀だわ緑谷ちゃん」

 

「無謀なのは百も承知だよ。たとえ三人で戦ったって勝てるわけが無い。でも、逃げるにしても向こうにはワープの個性がいる。三人同時に逃げ切るのは無理だ。だけど僕が囮になれば、敵の戦力を分散させられる。少なくとも時間は稼げる。ここで時間を稼いで助けを待つ、それが最善策だ!」

 

「ーーーーーー」

 

蛙吹は冷静だった。

ヴィランに攻め込まれ命の危険にさらされている今も、ぶれない思考と的確な判断が出来た。

だからこそ理解してしまった、それ以外に生き残る方法が無いことを。

そしてその方法をとれば、緑谷は確実に助からないこともーーー。

 

 

 

「さあ、行って!」

 

緑谷は二人を庇うように前に立ち、ヴィランたちと相対した。

 

「自己犠牲の精神とは、美しいねえ……流石はヒーローの卵。でも、だからこそ……それを踏みにじるのはたまらない……!」

 

ーーー悪意、そして狂気。

緑谷が目の前の男から感じたのはそれだった。

初めて相対する本物のヴィランを前にして、緑谷は恐怖で足が竦みそうになる。

 

「でもお前のそれは勇気じゃない、蛮勇だ……その無謀のツケ……たっぷり払ってもらうぞ……?」

 

(来るーーー!)

 

 

 

「無謀かどうかは、私たち全員を倒してから判断してもらえるかしら?」

 

 

 

「蛙吹さん!?なんでーーー!」

 

「私だけじゃないわ」

 

「ちくしょおおおおおおお!緑谷、お前にばっかかっこいい真似はさせねーぞ!?」

 

「峰田君まで!?」

 

「分かってるわ。緑谷ちゃんの言う通りにした方が、生き残る確率はよっぽど高い。私たちが残ったところで意味は無いって。そしてそれが緑谷ちゃんの覚悟を裏切ることになることも」

 

「なら、どうしてーーー?」

 

 

 

()()()()()()()()()()ーーー!」

 

そう、緑谷の覚悟が二人を動かした。

 

ワンフォーオール(ひとりはみんなのために)

その在り方が二人の心を、体を動かした。

人を動かす才能。

その力は、OFAを継承する前から、緑谷が持っていたものだった。

 

『情け無い……本当に、情け無い……!』

 

ヘドロ事件の時は、オールマイトさえも動かした。

 

『俺は君に挑戦するーーー!』

『絶対にお前らより、立派にヒーローやってやる……!』

『決勝で会おうぜ……!』

『俺だって……ヒーローに……!』

 

そしてこれからも、多くの人を動かしていくことになる。

 

 

 

「それにーーーここで逃げたらヒーローじゃないもの」

 

「蛙吹さん……!」

 

「ちくしょおおお!絶対生きて帰るぞお前ら!童貞のまま死ぬなんてごめんだーーー!!!」

 

「うん!絶対に生きて帰ろう、みんなで!」

 

その場にいる誰かを動かす力。

ヒーローにとって、何よりも得難く、何よりも必要な才能だ。

そうだ、一人で全ての平和を背負う必要は無い。

 

ワンフォーオール(ひとりはみんなのために)

これからは、みんなで平和を背負っていくのだ。

 

 

 

「ハア……くだらねえ……全くもってくだらねえ……!」

 

だが、足りない。

 

「脳無……黒霧……皆殺しだ!来いよガキども、現実を教えてやる……!」

 

死柄木弔にとっては、殺す相手が一人から三人に増えただけだ。

彼の言う通りだ。人はそれを、蛮勇と呼ぶのだ。

 

 

 

 

 

 

「その通り!激情に任せて吠えたところで、得なことなんてありゃしねえ!」

 

 

 

 

 

 

「…………あ?」

 

「この、声はーーー!」

 

 

「だけどなんでかねぇ……見捨てる気持ちにはなれねえんだよな、そういうの!」

 

「グリード君!!!」

 

 

 

「クソヴィランどもがあああああ!!!」

 

「グリード!お前もなかなか熱いじゃねえか!見直したぜ!」

 

「かっちゃん!切島君も!」

 

 

 

「悪りぃ、遅くなった」

 

「轟君まで……!」

 

 

 

「クソが、次から次へと……!」

 

ヒーローはいつだって、奇跡を起こす。

 

ひとりでは勝てない相手でも、二人なら、三人ならばどうか?

ひとりで抱え込む必要などない。

時には助けを求めたっていい、誰しもがひとりではないのだから。たとえ挫けても、迷っても、みんなで手を取り合って、また前に進んでいけばいい。

 

ワンフォーオール(ひとりはみんなのために)

その思いは伝播し、大きな輪をつくる。

たとえ最初は小さな波紋でも、人を超え、そして時を超えて、いずれ時代を動かす大きな波になる。

 

ヒーローの役目は、平和を守り、それを次の世代へと繋いでいくこと。

だが、まだ世代交代の時ではない。

次世代を担う子供たちが頑張っているというのに、大人が何もしないでいてどうする?

そうだ、大人の役目は、子供たちを守り次代へ繋いでいくことーーー!

 

「ーーー私が来た!」




『その通り!激情に任せてーーー』
連載に踏み切った一番の理由は、グリードにこのセリフを言わせたかったことです。言わせたいセリフはまだあるんですが、ちゃんと全部言わせられるか不安です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

体育祭までの二週間


つなぎの回です。


第7話 体育祭までの二週間

 

 

 

ヴィランによる襲撃から三日後、二週間後に迫る雄英体育祭に向けて、緑谷とグリードはトレーニングルームで筋トレしていた。

 

「それにしても、凄かったな、オールマイト!」

 

「うん、そうだ、ね!」

 

脳裏に浮かぶのは先日のUSJでの光景。

オールマイトは圧倒的だった。

並み居るヴィランをなぎ倒し、脳無と呼ばれた男も、さらに上からねじ伏せてみせた。

全てのヒーローの頂点にして、緑谷とグリードの目標。壁は高く、遠い。

 

だが、グリードにとっては悪いことばかりではなかった。

オールマイトと渡り合えるだけの実力者の存在を確認できたのだ。

オールマイトも決して届かない存在ではない。

今後の努力次第では、自分も同じ高みへ昇れるかもしれないーーー!

 

当面の目標とするのは、『脳無』だ。

ヴィランだろうが関係ない、参考にできるものは全て参考にする。

貪欲に強欲に力を追求するのがグリードのやり方だ。

 

また、グリードの目標はオールマイトだが、個性の詳細が不明なオールマイトより、自分と似通った戦闘スタイルを持つ脳無の方が参考にし易いというのもあった。

 

グリードの個性は『炭素人間』。主な使用法は硬化と再生、戦闘方法は接近戦のみ。

対して脳無は、どういうわけか『ショック吸収』と『超再生』の二つの個性を持っていた。脳無は『ショック吸収』でオールマイトの攻撃を防ぎ、轟等の攻撃からは『超再生』で逃れてみせた。そして素の身体能力でイレイザーヘッドを圧倒出来る実力。しかも戦闘方法は接近戦のみでだ。

グリードにとって、脳無はどこをとっても理想的だった。

 

(だが具体的にはどうする?)

 

脳無に近づくにはどうすればいい?

体育祭までの二週間で自分が出来ることは何か?

 

炭素は結合度を上げれば上げるほど硬度が増していく。

その結合度や個性の持続時間は、鍛錬によって向上させることが出来る。

だが、その鍛錬は幼少期からずっと続けてきたことだ。

あと二週間では、大きな成長は見込めないだろう。

 

(なら再生の方をどうにかするかーーー?)

 

体育祭はプロのスカウトに対してアピールする場でもある。

再生の有用性を示すには、なるべく大きな怪我を瞬時に治すことが出来れば良い。

再生能力には自信がある。四肢や臓器の再生も瞬時に行える性能は、脳無にだって負けはしない。

だが、体育祭はテレビで全国放送される。

大怪我をすれば一般の人々からのイメージダウンに繋がるだろうし、プロからも敬遠されるだろう。

だが細かい傷を再生したところでアピールになるとは思えないし、そもそも気づいてくれるか?

どっちにしろ再生は使いどきに注意が必要だろう。

 

なら、素の身体能力でイレイザーヘッドを圧倒してのけた近接戦闘能力は?

 

「いや、どれも二週間じゃ無理か………。やっぱ他の生徒の情報収集が最優先か……」

 

体育祭で目立つには、好成績を収めるのがもっとも手っ取り早い。

戦いは情報に左右される。それが実力が似通っている者同士なら、なおさらだ。

普段の戦闘訓練だけでは他の生徒の個性を詳しく知ることは難しく、この二週間で積極的に情報を集めていかなければならないだろう。

轟や爆豪など、特にマークしている相手の弱点だけでも把握しておきたい。

 

今隣にいる緑谷も、最もマークしている生徒の一人だ。

緑谷は自爆必至な個性だけあって、その超パワーは途轍もない威力だ。

まともに喰らえば命が危うい。だからこそ、緑谷も人に向けては使わないだろうがーーー

 

(だが再生能力のことは緑谷も知っている。俺に対しては手加減なしでぶちかましてくるか……)

 

思考実験として、緑谷との戦いをシュミレートしてみる。

取り敢えず真正面からの戦いならどうなるか。

個性を使わない緑谷など相手にもならないだろう。個性の反動を気にして出し惜しみするようなら、勝負はこっちのものだ。

 

個性を使ってきた場合は?

緑谷の超パワーは硬化を貫いてくるだろうが、そこは再生でカバー出来る。

俺が再生で何度も回復出来るのに対し、緑谷に回復手段は無い。

そのまま持久戦にもつれ込めば、俺に負ける要素は無い。

 

だが、体育祭の本戦では何かしらの勝利条件が決められるはずだ。去年はスポーツチャンバラだったか?

必ずしも正面から戦う必要はない。ルールを利用することで格上を下すことも出来る。

 

(それに、緑谷は個性が発現したのはつい最近だっつってたし、油断は禁物かーーー)

 

幼少の頃から個性と付き合ってきた自分とは違い、緑谷は短期間でも急成長する可能性がある。

もしかしたらこの二週間の間に個性のコントロールに成功し、反動を克服するなんてこともあり得る。

反動なしであの超パワーを使用できるなど、恐ろしいにも程がある。

いや、そこまではいかなくても、威力を抑えて反動も小さくするなんてこともある。

 

(緑谷だけじゃなく爆豪や轟のことも調べなきゃいけねえ。だが当然、情報収集は警戒してるだろう。そもそもあいつらが弱点を晒す真似なんてするはずもねーか)

 

「結局、やることはいつもと変わんねえな……」

 

二週間では劇的な変化は見込めない。ならばいつも通りのトレーニングを続けるだけだ。

特別なことなど要らない。自分にはこれまで積み上げてきたものがある。それを信じて突き進むだけだ。

 

 

 

 

そして雄英体育祭、当日。




そういえば青山に憑依する作品、いつのまにか消えちゃってたんですね。pdfに保存しとけば良かった……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

開幕 雄英体育祭

第8話 開幕 雄英体育祭

 

 

 

雄英高校体育祭。

形骸化したオリンピックに代わり、日本の一大イベントと化した一年に一度の祭典。

プロヒーローにとっては将来のサイドキックを発掘する場であると同時に、雄英生徒にとっては自らをプロに売り込むための場でもある。

また、例年は3年ステージがメインだが、今年はヴィランの襲撃を撃退した1ーAに注目が集まり、一年ステージは例年以上の盛り上がりを見せていた。

 

『実況はこの俺、プレゼントマイク!そして解説はイレイザーヘッドでお送りするぜ!』

 

『…………』

 

『お願いだから何か喋って!……それはともかく!雄英体育祭一年ステージ第一種目、障害物競走!間も無く開幕だーーー!』

 

第一種目は障害物競走、主なルールはコースを守ることのみ。

つまり、他の生徒に対する妨害が認められているのだ。

さらに個性の使用が許可されているため、こんなことも起こりうる。

 

『開始早々、ほとんどの生徒が氷漬けにーーー!?』

 

『ありゃ轟の仕業だな。ノーモーションからの氷結、初見でそう避けられるもんじゃねえ』

 

『解説サンキュー、イレイザー!なんだー?以外とお前さんもノリノリじゃなーい!』

 

『…………』

 

『無視ィ!?』

 

ここで8割の生徒が脱落した。だが残りの2割は氷結から逃れ、轟の後を追っていた。

そしてその先頭はーーー

 

「轟ィ……お前は何しでかすか分かんねえからな、目え離すわけ無ぇーだろ!」

 

「グリード……!」

 

グリードだけではない。

轟きを追う集団、その先頭はほぼ全員がA組だった。

 

「甘いぜ轟!」

 

「ワンパターンなんだよ、半分野郎ォ!」

 

A組の面々は、普段の戦闘訓練で轟の脅威を直に体感している。

特に第一回目の戦闘訓練では、ビルごと凍らせる大氷結を一瞬で放ってみせた。

警戒するのは当たり前だった。

 

 

 

 

 

 

『さあ、最初の関門はロボ・インフェルノ!』

 

轟の妨害を突破した生徒たちの前に現れたのは、視界を埋め尽くすほどの仮想ヴィランの群れ。

一体一体はたいしたことは無いが、こうも数が多くては足止めは免れないだろう。

 

「げっ……」

 

そしてその後方に控えるのはのはグリードのトラウマ、入試時に倒し切れなかった0ポイントヴィラン。

その巨体が十数体並び立つ姿は壮観であり、雑魚ヴィランを突破してきた生徒でさえ、誰もが足を止めざるを得なかった。

だが、多くの生徒が及び腰になる中、グリードは真っ先に巨大ロボの群れに突っ込んでいった。

 

(入試の時の経験が役に立つ時が来るとはな……!)

 

そう、グリードだけは0ポイントヴィランとの無駄に豊富な戦闘経験を持っている。

0ポイントヴィランの攻撃パターン、どこの装甲が脆いのか、次にどんな動きをするのかが手に取るように分かる。

 

(トップはもらったぜ!)

 

 

 

ーーーその時、グリードの足元が凍りついた。

 

「うおっ!?」

 

轟だ。

轟が個性で0ポイントヴィランごとグリードを凍らせたのだ。

別にグリードを狙ったわけではなく、凍らせようと思った0ポイントヴィランの近くに、たまたまグリードがいただけなのだが。

そして、グリードの不運はここで終わらない。

 

ピキ

 

「あ?」

 

氷漬けになった0ポイントヴィランが、グリードに向けて倒れてきていた。

 

 

 

 

『ぎゃあああ!グリードが下敷きにーーー!?救急車、いや霊柩車ーーー!!』

 

『勝手に殺すな』

 

しかも、下敷きになったのはグリードだけでは無い。グリードに負けじとその後を追ってきた切島と鉄哲、この二人も巻き込まれていた。

あわや大惨事、観客も悲鳴をあげている。

 

だが奇跡的に、彼らは潰されても死なない個性の持ち主だった。

 

「クソッタレ!轟は警戒してたってのに!」

 

「俺じゃなきゃ死んでたぜ!?」

 

「だーーー!グリードに着いて行くんじゃなかったぜ!」

 

炭素、スチール、硬化、3人ともロボットの下敷きになった程度では傷一つつかない個性の持ち主だ。

 

「クソ!爆豪といい、A組はムカつく奴ばっかだな!」

 

「こいつもだだ被りかよ……!」

 

また、硬化だけではなく再生もこなすグリードの個性に対して、普段から嫉妬とは言わないまでも複雑な感情を抱いていた切島。

さらに鉄哲という、見るからに自分と個性が被っている生徒の登場だ。切島の心境や如何に。

 

 

 

 

 

 

『第二関門はザ・フォール!普通に綱渡りをするも良し、個性で空を飛ぶも良し、死力を尽くせーーー!』

 

その名の通り、断崖絶壁。底が見えないほど深い谷が行く手を阻んでいた。

だが所々に足場となる岩場が点在し、それをロープが繋いでいる。滞空に強い個性を持っていない生徒は、ロープを渡って向こう岸へ進めということだろう。

 

「くそ……個性把握テストの時といい、雄英は俺に恨みでもあんのか!?」

 

個性を使って次々に第二関門を突破していく瀬呂や青山を横目に、普通にロープを渡りながら愚痴るグリード。

この体育祭、グリードの個性を活かせる場が少ない。

さっきから普通に走ったり普通に綱渡りをしたりと、やってることが地味過ぎる。

唯一目立ったのはロボの下敷きになった時だが、それも切島と鉄哲と一緒だった。

プロへのアピールも、完全に轟一人に持っていかれている。

 

(ーーーそもそも俺は第一種目を突破出来るのか?)

 

今は割と上位グループの中でも上の方だが、今後の関門如何では一気に順位を落とすこともありうる。

例年の傾向からして数十人分の枠は用意されているだろうが、今年はオールマイトが赴任して来たり、ヴィランから襲撃を受けたりと波乱の年だ。例年より第二種目の枠が少なくともおかしくはない。

 

だが自分以上に心配なのは緑谷だ。

 

緑谷の個性は自爆必至の超パワー、自分以上に個性を活かせる場が無い。

つまり、緑谷は個性を使わず、自分の身一つでレースを戦わなければならないのだ。

緑谷の素の身体能力はヒーロー科の中では下の方であり、普通科の生徒にもレースに有利な個性持ちは大勢いる。

不利どころの話では無かった。

 

それだけでは無い。

プログラムによれば、第一種目の後は休憩無しですぐ第二種目が行われる。リカバリーガールのところへ行き治療してもらう時間は無い。

例え第一種目を突破出来たとしても、個性の反動で傷付いた状態のままでは先は無い。

 

緑谷は詰んでいた。

だが、今は他人に構っていられる状況ではない。

グリードにはただ、緑谷のことを信じることしか出来ない。

 

(第一種目で脱落なんてこと、俺は許さねえぞ緑谷……!)

 

 

 

 

 

 

『いったい誰が予想出来た!?真っ先にゴールへ帰ってきた男、緑谷出久の存在をーーー!!!』

 

「ハッ……やりやがったぜあいつ!」

 

緑谷は、爆豪や轟を出し抜き見事一位を獲ってみせた。

そうだ、緑谷はこの程度の壁に阻まれるような男では無かった……!

 

対する自分はトップ争いにすら参加出来なかった。さっきまで緑谷の心配をしていた自分が恥ずかしい。

だが同時に元気を貰った。自分より遥かに不利な筈の緑谷が頑張ったのだ。自分も負けていられない。

最後の関門を抜け、あとはただゴールに向かって走るだけだ。

 

「次は勝つぞ、緑谷!」

 

雪辱を果たすことを誓い、グリードはゴールゲートをくぐった。

 

 

 

第一種目最終順位:グリード 11位




グリードの個性じゃただ走るしか出来ないので障害物競走はとばそうと思ってたんですが、なんとかなりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

爆豪とグリード

第二種目の騎馬戦、その前段階としてチーム決めの時間が与えられた。

 

これも雄英の与えた試練のひとつ。

他者との協調性や交渉能力を試しているのだ。

 

ヒーローとは、自分のことだけを考えていては務まらない。

同じ地域に事務所を構える他のヒーローとの付き合いも求められるし、事件現場に居合わせたヒーローと即興で協力しなければならないことも多々ある。

このチーム決めの時間は、そんなヒーロー社会を反映した縮図なのだ。

 

そんなことはつゆ知らず、第二種目出場者たちは、仲が良い人、同じクラスの人、相性の良い個性を持つ人と、各々がそれぞれの理由でチームを決めていく。

 

そんな中、グリードはと言えばーーー

 

 

 

「さて、俺は緑谷とでも組むか」

 

「そこのお前、俺と騎馬組まないか?」

 

「あ?誰だお前ーーー」

 

グリードの意識は、そこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

普通科で唯一第一種目を突破した生徒、心操人使。

 

彼の個性は『洗脳』

彼の言葉に応えた者を意のままに操ることが出来る。

外部からの衝撃を加えれば洗脳は解けるが、自分から洗脳を脱け出すことは不可能だ。

障害物競走でも複数人を洗脳したが、誰一人彼の命令に背くことは出来なかった。

 

この騎馬戦、心操が狙うのは終盤からの逆転劇だ。

競技が終盤に差し掛かるまでは、自らのポイントを守りながら極力目立たないように立ち回る。

それと同時に他の騎馬とポイントの動きを観察し、獲物とすべき騎馬を見定める。

そして制限時間ギリギリ、獲物となる騎馬の全員を洗脳しポイントを根こそぎ奪う。

 

だが、本戦まではなるべく個性を隠しておきたい。

騎馬戦で目立たないように立ち回ることも考慮に入れて、騎馬のメンバーを選ぶ必要があるだろう。

轟や爆豪など第一種目で目立ち過ぎた生徒はダメだ。一位の緑谷も論外。初期の持ち点を下げるためにも、順位が一桁の生徒は避けた方がいいだろう。

 

そして騎馬の機動力を最大限高めるために、なるべく身体能力が高い生徒がいい。個性を多用せずに障害物競走を突破した生徒ーーーいた、あいつだ。

 

「そこのお前、俺と騎馬組まないか?」

 

緑谷や轟ほどは目立っておらず、尚且つほぼ素の身体能力のみで上位に食い込んだグリードは理想的だった。

 

 

 

 

 

 

第9話 爆豪とグリード

 

 

 

グリードはすこぶる機嫌が悪かった。

本戦出場者を決める騎馬戦、グリードは最後まで全く見せ場がなかった。

普通科の生徒の個性で洗脳され、まんまと利用されてしまったのだ。

気づいた時には騎馬戦は終了、結果として労せずして本戦出場を決めることが出来たが、そう割り切りれるものでもなかった。

 

「クソッタレ……己の不甲斐なさに泣けてくるぜ」

 

とても他の生徒たちとワイワイ一緒に昼食をとれる気分ではなく、行く当てもなく人気のない場所を彷徨っていた。するとーーー

 

「あ、爆豪?」

 

「ッ!グリード!?」

 

「お前、こんなとこで何してーーー」

 

(静かにしろボケ!気づかれたらどうすんだ!)

 

(気づかれるって、誰にーーーあん?ありゃ、緑谷と轟か?)

 

 

 

 

 

 

「なんつーか、これ、俺たちが聞いてよかったのか?ちょっと罪悪感が湧くんだが……」

 

「うるせえ!盗み聞きされる方が悪いんだよ!」

 

そう言う爆豪も、脂汗を垂らしていた。

少しは罪悪感を感じていたらしい。

 

「それにしてもエンデヴァーねえ……確かにあんま良い噂は聞かねえが」

 

轟とその父親であるNo. 2ヒーローエンデヴァーの因縁、母親との確執。

決して部外者が軽い気持ちで聞いて良い話では無かった。

 

「……ところで、お前はなんでヒーロー目指してんの?言動とか完璧にヴィランじゃねえか?」

 

「テメえが言うんじゃねえよ……!」

 

どっちもどっちだ。

将来『ヴィランっぽいヒーローランキング』でギャングオルカらと共に不動の五強として君臨することを、彼らはまだ知らない。

 

「冗談抜きにして、本当のところはどうなんだ?お前が俺を捕まえたりしなきゃ、俺が轟の話を聞くこともなかったんだし、埋め合わせぐらいしろよ」

 

「チッ」

 

 

 

 

 

爆豪の語った内容を要約すると、『オールマイトを超えてNo. 1になり、高額納税者ランキングに名を刻む』ということらしい。

爆発的なみみっちさだった。

 

「ククク……ダーッハッハッハ!爆豪ォ、思った以上に欲にまみれてんなぁお前!」

 

「ああ!喧嘩売ってんのか!

 

「いや、ワリイワリイ。そんなつもりはねーよ。むしろ見直したね」

 

「……はあ?」

 

 

 

「誰かを救いたいも、カッコいいヒーローになりたいも、金が欲しいも、名誉が欲しいも、全部欲っする心。すなわち、願いだ。俺に言わせりゃ、欲にいいも悪いもねえ。偉そうに格付けしたりなんかしねえよ」

 

「オールマイトを超えてNo. 1になる?俺も同じだ、No. 1の座が欲しい!地位が欲しい、名誉が欲しい、金が欲しい、何もかもが欲しい!」

 

「俺の中にある渇きを満たすために、俺は求め続ける!欲を満たし続ける!これまでもそうだったし、これからもそれだけは変わらねえ……!」

 

「この体育祭も俺が貰う。だが、ただ優勝するだけじゃ足りねえ」

 

「生憎底無しの強欲なんでねえ……お前からの勝利も欲しいんだよ、爆豪ォ」

 

爆豪はグリードが何を言わんとしているかを察し、凶悪な笑みを浮かべた。

 

「爆豪、お前は俺がぶっ潰す!それまで負けんじゃねえぞ!」

 

「ハッ、上等ォ……!」

 

緑谷出久、轟焦凍、爆豪勝己、そしてグリード。

いずれ確実に一つの時代を背負うことになるであろう四人が激突する。

勝者となるのはただ1人。

勝利の栄冠を手にするのは、果たして誰か。

 

 

 

 

 

 

 

「これから本戦出場者のトーナメント、その抽選を行うわ!」

 

本戦の内容は、トーナメント形式の一対一のガチバトル。

年度によって差はあるが、本戦はこれに近い形式が選ばれる可能性が高い。

 

そしてその組み合わせはーーー

 

 

 

第1試合

緑谷VS心操

 

「1回戦、普通科の人だ……。ッ!?轟君とは2回戦……!」

 

「…………(人が良さそうな面しやがって。こいつもチョロそうだな)」

 

 

第2試合

瀬呂VS轟

 

「マジかよ!1回戦から轟とか、ついてねぇー!」

 

「…………(緑谷とは準決勝か)」

 

 

第3試合

飯田VS庄田

 

「よろしく頼む!」

 

「あ、ああ!(いいのかな、俺が本戦出場なんて……)」

 

 

第4試合

発目VS上鳴

 

「あなたが私の対戦相手ですね!少しお願いがあるんですけどーーー」

 

「おう、いいぜ!何でも言ってくれ!それより体育祭終わったら一緒にメシ行かね?」

 

 

第5試合

八百万VS常闇

 

「負けませんわ!」

 

「世は儚く、諸行無常……」

 

 

第6試合

青山VS芦戸

 

「メルシィーーー!運がなかったね、芦戸ちゃん!」

 

「へっへーん!運がないのはそっちじゃないのー?」

 

 

第7試合

爆豪VS麗日

 

「あぁ?麗日、誰だソイツ?」

 

「ヒィーーー!?(殺されるー!)」

 

 

第8試合

切島VSグリード

 

「まただだ被りかよ!?」

 

「あ?どうしたよお前」

 

「いや、なんでもねえ……まあ、1回戦はよろしくな!」

 

「おう!(爆豪とは二回戦、轟か緑谷とは決勝か……いいね、燃えてきたぜ!)」

 

轟のレベルは雄英の中でも頭一人抜けている。

緑谷の超パワーも、対抗できる生徒はそういないだろう。

才能とセンスの塊である爆豪が、麗日に負けるとも思えない。

 

 

 

(そして当然、俺も負けるつもりは無え……!)

 

 

 

雄英体育祭一年ステージ、本戦開幕ーーー!




尾白君の代わりにグリードが入ったので尾白君の棄権イベントは起こらず、庄田も棄権を申し出ることはなくなりました。結果、塩崎と鉄哲も予選敗退となり、B組の命運は庄田に託されました。頑張れ庄田。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。