この素晴らしい狩人に祝福を! (シンセイカツ)
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プロローグ

香山(かやま) (みこと)さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」

 

真っ白な空間で、俺は唐突にそんなことを告げられた。

 

確かに、新作のゲームの出来が思ったものと違ったからって3日ぐらい寝ないでクリアした後に意識が朦朧とした状態で売り捌きに行ったらそりゃ死ぬわな。ただでさえあそこの道路交通量多いし。

 

ちなみに売りに行ったゲームはモンスターハンター。最新作のダブルクロスだ。一つ前のクロスは買っていないが、内容は同じだと思っているので特に問題はない。なんというか……肌に合わなかったんだよな。狩りに爽快感が出るのはいいけど、なんか楽すぎた。もうちょっと苦戦を強いられたいんだよな、俺は。

 

あ、新しく入ってきたモンスターは好きだぞ?初見で何とか攻略しようと奮戦するのは楽しかった。四天王とか、クロロホルム?とかはな。

 

「私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ」

 

そんなことを考えていると、目の前の少女に自己紹介をされる。そういえば全く意識向けてなかったな。

 

「あなたには二つの選択肢があります。一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。もう一つは、天国的な所に行ってお爺ちゃんみたいな暮らしをするか」

 

えっなにその二択。どっちも嫌なんだけど。

 

「…あー、天国的な所ってなんだ?天国じゃないのか?」

 

「私たちの言う天国ってね、あなた達人間が想像しているほど素敵な所ではないの。死んでるから食べものは必要ないし、物は当然生まれない。作ろうにも材料もないんだからどうにもならないし。がっかりしたなら謝るけど、天国には本当に何もないの。テレビも、ゲームも、漫画も。そこにいるのは、すでに死んで天国に行くことを決めた先人たち。もちろん死んでるからえっちなこともできないし、そもそも霊体に身体なんて必要ないから見た目は少し大きいボールにしか見えないわ。もし天国に行くなら彼らと一緒に意味もなくひなたぼっこか世間話をするかしかやることは無いわ」

 

うっわ最悪じゃん。特にゲームが無いってところ。

 

そんな感じの顔をしていたであろう俺に、その女神は満面の笑みを浮かべた。

 

「うんうん、天国なんて退屈なところ行きたくないわよね。かといって、今更記憶を消して赤ちゃんからやり直しって言われても記憶が無いから新しく生まれた子はあなたとは言えないものね。……そこで!ちょっといい話があるの」

 

昔こういう勧誘みたいなの見たなぁ、害のありそうな選択肢を先に言っといて本命の勧誘をするの。お隣さんひっかかりそうだったし、意外と効果的なのかもな。

女神は、満面の笑みで説明を始めた。

 

「あなた……ゲームは好きでしょ?」

 

OK察した。その話詳しく。

 

 

 

○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

女神の話をまとめるとこうだ。

 

・異世界に魔王がいる。

・その魔王のせいでその世界の人間側がピンチ。

・その世界は魔法あり、モンスターありというゲームそのままの世界。

 

なるほど。定番だな。

 

「それで、その世界で死んだ人たちが、まぁほら、魔王軍に殺されたわけじゃない?だから、死んだ人たちのほとんどがあんな死に方はごめんだって怖がっちゃって。ほとんどその世界での生まれ変わりを拒否しちゃうのよね。はっきり言って、ただでさえ魔王軍の襲撃があるのに赤ちゃんが生まれないなんてことになると本気で絶滅の危機なのよ。で、それなら他の世界で死んじゃった人をそこに送り込むのはどうかって話になってね?」

 

要するに移民か。にしても世界をまたぐって、神は随分とスケールがでかいな。

 

「で、どうせ送るなら若くして死んじゃった未練タラタラな人なんかを、肉体と記憶はそのままで送ってあげようって事になったの。それも、送ってすぐ死んじゃうようじゃ意味がないからって、何か一つだけ向こうの世界にもっていける権利をあげてるの。強力な特殊能力だったり、とんでもない才能だったり。神器級の武器を希望した人もいたわね。……どう?異世界とはいえ人生をやり直せるし、向こうの世界の人にとっては魔王軍と戦う即戦力になる人がやってくる。ね?悪くないでしょ?」

 

なるほど。悪くはない。というかいい話だ。俺がやったことがあるゲームなんてモンハンくらいだが、流石にあんなにハードル高いとも思えない。乗るのはアリだ。

 

だがその前に。

 

「一応聞いときたいんだが、向こうの世界では言語はどうなるんだ?異世界語の習得って向こうでするのか?」

 

「いいえ、その点は問題ないわ。私たち神々の親切サポートによって、異世界に行く際にあなたの脳に若干の負荷をかけて一瞬で習得できるようにするわ。もちろん時の読み書きも日本語と同じくらいにはできるようになるわ。副作用として、運が悪いと容量オーバーでパーになっちゃうかもだけど。……だから、あとは凄い能力か装備を選ぶだけね」

 

「おかしいな。パーになるって聞こえたんだけど」

 

「言ってない」

 

「言ったよな」

 

 

…まぁいいか。もしパーになってもジェスチャーがある。地球でも身振り手振りで会話することもできるんだから、向こうの世界でも何とかなるだろう。

 

「さぁ、選びなさい。たった一つだけ。あなたに何物にも負けない力を授けてあげましょう。例えばそれは強力な特殊能力。それは伝説級の武器。さぁ、どんなものでも一つだけ異世界にもっていく権利をあげましょう」

 

女神は俺の目の前にカタログと思われる紙をばらまいた。変なポーズで。

 

一応綺麗好きな俺にとっては少し不快になる行為だったので1枚1枚拾い、向きも揃えて普通に椅子に座って読んでおく。

 

そこには《怪力》《超魔力》《魔剣ムラマサ》など、多くの武器、能力の名前が記されていた。

どれもこれは強力ということは目に見えて分かるが、こうも多いと目移りが激しくなる。ゲーマーとしてはこういったものは十分時間をかけて選定したいものだが、目の前に人、というか神がいる以上あまり待たせるわけにもいかないだろう。

 

……そういえば、モンスターがいると言っていたな。

 

ふと思いついた質問をポテチの袋を開け始めた女神に投げかけてみる。

 

「なぁ女神。願う能力ってのはここにないもの、というかステータスに関わるものでもいいのか?例えば《肉体強化》や《知力上昇》なんかの項目が無いから選べないとかはないのか?」

 

「そう、自由よ。言ったでしょう?なんでも一つって。でも流石に個人が管理できない物、そう、世界なんかは無理ね。もし世界を選ぶとしても、あなたの管理できる最低限の土地に変更されると思うわ」

 

「そうか、ありがとう。…じゃあ、俺の能力は決まったぞ」

 

「えぇ、どんなのになったの?」

 

「俺が欲しいのは《俺のモンスターハンター3Gの俺のキャラクターのデータ》だ。少しややこしいけどな」

 

「うーん。具体的には?」

 

「俺が欲しいのは《アイテムボックスの中身》だよ。どれか一つの武器でももちろん構わないが、できればアイテムボックスごとが理想だ」

 

「うーん。ちょっと待ってね。ちょっと確認してくるから」

 

そういうと女神は顎に手を当てて動かなくなった。

 

 

 

 

 

しばらく待っていると、女神が動きを再開させた。

 

「うん。問題ないみたい。じゃあその条件で送るけどいいかしら?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

そう返事をすると、俺の足元に巨大な魔方陣のようなものが現れ、青い光を放ち始める。

 

「香山 命さん。あなたをこれから、異世界へと送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を討伐した暁には、神々から贈り物を授けましょう」

 

「へぇ…どんな?」

 

「…たとえどんな願いだったとしても、一つだけ叶えましょう。さあ、勇者よ!願わくば数多の勇者候補の中から、あなたが魔王を打ち倒すことを祈っています。さぁ、旅立ちなさい!」

 

高らかにそう言い放った女神の言葉と共に、俺は眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、あの人のキャラクターを選ばないといけないけど……こうなったら全部のデーターからアイテムと装備を引っ張ってきましょう!被ってるのは除いて……アバターは一番プレイ時間が長いこれでいいかしらね」




3Gのプレイ時間600時間弱の初心者ですが頑張って書こうと思います。


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冒険者登録

アクセルの近くって川ありましたよね……?


視界を埋めていた光が晴れると、サラサラと水の流れる音がまず耳に入ってくる。目を開けると、ここ数か月は目にしていなかった小川。それもかなり透明度の高い川だ。うん、異世界転生の最初の光景としては結構いい感じだな。

 

周辺を軽く見渡してみるが、近くにモンスターや人の影は無く、目立った建造物といえば遠くに霞んで見える壁のようなものだろうか。それしか確認できない。近くに馬車のようなものがあるのはおそらく俺の物だろう。動いてないしな。

 

どうやら比較的安全な平原、もしくは河原に転移できたようだ。

 

さて、一応安全は確認できたわけだし、転生特典の確認といきたいが…。

なんとなく身体が重い。かなりの重量で押し付けられているような感覚があったので、自分の服装を見下ろして確認してみた。

 

黒と蒼を基調とした鎧だ。肩からは蒼い突起物が天を指し、胴体には胸部と腹部から装備のつなぎ目を隠すように牙のような欠片が施され、腰から足にかけては黒く頑丈そうな皮が尻尾を連想させるように段々と重ねられている。

 

ここまで観察して、俺は頭にも兜を装備していたことに気が付く。そっと外してみると、中心に緑の宝玉がはめ込まれ、4本の角が特徴的なこれまた黒い兜だった。

 

背中には常にチリチリと帯電している2mはあろうかという剛大剣。こっちも黒と蒼が基調か。

 

…これ、アビス一式か。

ラギアクルス希少種の素材をふんだんに使った雷耐性が高い装備だったか。あとは泳ぐのが早くなったりが特殊効果だったはずだ。

 

そうなると大剣の方は『エンファルクス』だな。特徴的にも一致してるし一度だけ作った……記憶が…。

 

そこまで考えて俺は小川に走り、兜を脱いだ自分の顔を確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに映っているのは美女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽の光を受け銀色に輝く長髪。白く透き通るような肌。エメラルドのように明るい光を放つ瞳。

 

 

 

 

 

俺がモンハンを始めて最初に創ったキャラクター、『ミコト』が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…誰が女性アバターにしろって言った駄女神(クソビッチ)……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し深呼吸をして気を落ち着けた。

 

よくよく考えれば俺が女神に願ったのは《俺のモンスターハンター3Gの俺のキャラクターのデータ》であって、《アイテムボックスの中身》はあとからお願いした特典だ。あの女神が前者のことだと思って話を進めていたのであればこちらに非がある。……腑に落ちないが。

 

転生特典のアイテムボックスについては近くにあった馬車の中に置いていた。アイルーの管理ボードや奇面族の仮面は置いてなかったがな。

それと、ミコトの所持金だったゼニー(Z)だが、全てエリスという単位の硬貨に代わっていた。

 

……この馬車、馬がいないんだが?

モンハンの馬替わり、草食獣のアプトノスもいないとか、これただの屋根付きの荷車じゃねえか。…そうなると……引っ張るしかないか。

 

試しに軽く荷車の取っ手部分?なんていうんだこの棒。まぁいいや。ここを引っ張ってみると、荷車は少しだが動いた。……ハンターの腕力って凄いな。

 

んじゃこのままさっき見えた壁のところまで行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

歩き始めて大体2時間くらい経ったか。日が傾き始めてきた頃になってようやく壁に辿り着いた。休憩を何回か挟んだとはいえ、少し時間がかかりすぎている気がしないでもない。

 

割りとでかい門をくぐり、住民の奇妙な物を見る目を抜けて考える。

 

「冒険者ギルドはどこだ…?」

 

こういったファンタジー物だと詳細な設定はともかく、冒険者と呼ばれる団体がいるはずだ。モンハンではハンターがその役だったはずだ。基本何でも屋で、採取、討伐、捕獲と主にモンスターと戦うものだが一応な。

 

アイテムボックスの中にギルドカードもあったが、あれはモンハンの世界の身分証明書であってこちらの世界での身分証明には不十分だろう。

そんな時に活躍するのが今探している冒険者ギルドだ。自分の今の状態(レベル)から討伐数まで記録できるような便利グッズが手に入るギルドも小説によってはあるのでこれを探したい。

 

 

 

 

 

しばらく街を彷徨いながらある情報を手に入れた。

 

この街の名前はアクセル。『始まりの街』アクセルと言い、冒険者になりたいと思うものはまずここに来て基礎訓練なんかをするようだ。ある程度実力が付いたら王都というまぁ、首都だな。そこに行って金を稼ぐのがほとんどらしい。

 

この辺は意外とモンハンっぽさが…あるのか?

 

下位→上位→G級と難度が上昇し、当然危険度も上がる。

この世界で置き換えるとアクセル→王都→魔王城とかか?

 

魔王城に金稼ぎに行けるような奴はさっさと世界を救える気がするのだが、まぁそこは気にしない。

 

 

そんなことを考えていると、酒場のようなところに着いた。

 

ここに冒険者ギルドが併設されているのは珍しくもないが、もしここに冒険者ギルドが無かったとしても情報収集に使えるだろう。差し出す情報料次第だとは思うが、まぁ大した損害にはならない。

 

 

「いらっしゃいま…」

 

扉を開けて酒場の中に入ると、挨拶をしてきたウェイトレスの女の子が言葉を詰まらせた。

中で酒を飲んでいたであろう屈強な男たちも仲間との談笑をやめこちらを見ている気がする。

 

…あぁ、そういえば装備を付けたままだったな。

ごつい鎧を全身に装備して2m台の剛大剣を背負った奴がいきなり来れば俺だって何事かと思う。

 

とりあえず兜を外してから固まっているウェイトレスに話しかける。

 

「…驚かせたならすまない。冒険者ギルドはここで間違いないか?」

 

「…え、えぇ。ここは冒険者ギルドですが……王都の冒険者さんでしょうか?」

 

「いや、そこらの小さな村から来た流浪人だ。ここで冒険者登録はできるだろうか」

 

「えっ。…………はい。奥のカウンターへどうぞ」

 

やばい。早速印象悪くなっただろうか。こういうギルド側の人間に余り不快感を与えて不利な状況になりたくないんだが……。

まぁ、いいか。過ぎたことは気にしないようにしてるからな。これからの態度で補おう。

 

あとそこらの男性冒険者。「えらい上玉じゃねぇか…」とかいうのやめろ。肉体は女だが心は男なんだからそういうこと言われても気色悪いだけだ。

 

とりあえず言われた通り奥のカウンターに向かうと、カウンターに並んでいた冒険者たちがサーっと道を開けてくれる。なんだ?俺はモーセじゃないんだが。

 

だが譲ってもらえるというなら甘んじて受け入れよう。譲ってくれた冒険者たちに頭を下げながら適当な受付嬢のところに行き冒険者になりたいという旨を伝える。

 

「すまない。冒険者になりたいのだが、田舎から出てきたばかりでな。できれば冒険者について詳細に説明してもらいたいのだが」

 

「そ、そうですか。えっとでは登録手数料として1000エリスかかりますがよろしいですか?」

 

「あぁ」

 

腰につけておいた袋から1000エリスを取り出し受付嬢に渡す。

ちなみにこの中には現在1612319エリスが入っている。四捨五入して約二百万だな。

 

「…はい、確かに。…それではいくつか冒険者として必要なことを説明させていただきます。では最初に――」

 

この受付嬢の話を要約すると、冒険者というのはモンスターを狩ることを生業としているもので、それぞれに職業というものが細分化されている。まぁ、剣士とか魔法使いとかだな。そういうのを纏めて記録しとけるのが冒険者カードだ。

 

冒険者カードってのは自分が狩って吸収した魂。経験値を表示したりレベルアップしたときのポイントを使って新しいスキルを習得したりする機能が付いてる身分証明書だ。

 

基本的なことはこのぐらいか。あとは分からないことがあったら聞けとのことだ。

 

「それではこちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴などをお書きください」

 

受付嬢が差し出してきた書類に自分の特徴を書き込んでいく。

 

身長164cm、体重◆◆kg、年は18で銀髪の碧眼。

 

身長体重については転移してきたときに目線の違和感とかが無かったからな。少しの違いはあれど誤差の範囲だ。年齢に関してはこっちに来る前の俺の年齢を書きこんだ。モンハンの世界のハンターの年齢とか調べたことから分かんないし。

 

「…はい、結構です。では、このカードに触れてください。それであなたのステータスがここに表示されますので、その数値に応じた職業を選んでくださいね。選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できるようになりますので、そのあたりも踏まえて選んでください」

 

……ハンターの身体って……まぁいいや。どうせ標準値だろう。

そう思いつつカードに触れる。

 

「はっ!?はあああ!?なんです数値!?知力と魔力、敏捷が平均くらいなのに対して筋力、生命力、器用度に幸運、どれも平均を大きく超していますよ!?」

 

ですよねー。

 

人間の数倍のモンスターの脳を揺らしたり尻尾を斬り飛ばしたりする筋力。

致命傷を負っても薬を服薬するだけで全快する生命力。

指南書を読んでいるとはいえ複雑そうな調合を瞬時に完成させる器用さ。

多数の大型モンスターの希少部位を楽々手に入れるほどの幸運。(物欲センサー発動時は除く)

 

どれもチート級だ。知力は中の人が俺だから、魔力は元々魔法の概念が無い世界だから、敏捷は……装備によって多少違うかもだが基本は同じ速度でしか走れないしな。というか俺の知力は平均レベルなのか。嬉しいような悲しいような…。

 

「…それで、どんな職業になれそうなのか教えてもらいたいんだが…」

 

「あっ、失礼しました!高い知力を必要とされる魔法使い職は無理ですが、それ以外ならなんだってなれます!最高の防御力を誇る聖騎士、クルセイダーや最高の攻撃力を誇る剣士、ソードマスターなど……あれ?」

 

「どうした?」

 

「いえ、見覚えのない職業が候補に挙がっていまして……」

 

「一応、教えてもらえるか?」

 

「えっと、狩人(ハンター)です。いままでこの職業は出てきたことが無いのですが…」

 

「…そうだな、じゃあ、狩人(ハンター)で頼む」

 

「はい。狩人(ハンター)ですね。申し訳ありませんが記録がない以上アドバイスなどをできないかもしれませんが…」

 

「構わない。この職が聞いていて一番しっくり来た」

 

「分かりました!では、冒険者ギルドへようこそミコト様。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」

 

受付嬢はそう言ってにこやかな笑みを浮かべた。

 

……いや、まぁ、ただ単に最高の防御力も最高の攻撃力も叩き出せる武器を持っているからそれを選んだのだが……。

 

まぁ、なんにせよ。

 

こうして俺の異世界での冒険者生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、手頃なモンスターでも狩りに行くか。

 

…一撃熊…?なんだ、それが強いのか?なに?請けなくていい?薦めたのはお前だろうに。

ただのヤジ?知るか。俺はこれを請けるぞ。



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変化

さて、この街に到着してから早くも1ヵ月が経過した。

 

俺は毎日のように討伐系の依頼を請けて生計を立てている。

最近では強敵と言われるモンスターなんかを狩りすぎて市民やあまり関わりのない冒険者たちから《モンスター絶対殺すウーマン》だの《万能者》だの言われている。

 

前者はまぁ、初日に一撃熊とかいう街ではそれなりに強いとされていた熊を無傷で狩ってきたこととかも命名の理由に関係しているだろう。

 

不思議なことにこのミコトは飛竜種や古龍種を毎日のように相手していた時のことを身体が覚えており、一見こんなもん振り回せないだろってくらいでかい大剣を使ってすばしっこいホワイトウルフ数匹を各個撃破できるよう位には強い。まぁ、ジャギィとかの相手が出来るくらいだから当然だな。

 

ちなみに一撃熊の攻撃を受け止めたときにふと頭に浮かんできたのはアオアシラだった。実際に攻撃を受け止めたことはないからイメージと合っているのかは微妙だが、武器の時と同様、身体が覚えている感触みたいなものだろう。討伐中(精神)はいつ攻撃を食らうかと内心冷や汗をかいていたが、ミコト(肉体)は満足してなかったみたいだし、なんというか、精神と肉体の認識が別々にあるような感じで少しむず痒い。

 

 

後者については偶に臨時でパーティーに入るときにどんな役でも請け負えるからだろう。

 

初心者と思われる少年に依頼されてパーティーに加入したこともあった。その時は前衛の戦い方を教えてほしいと言われたので、後衛役として弓でサポートすると言ったら大層驚かれた。なんでもアーチャーでもないのに弓が使えるということに驚いたらしい。

 

その子からは報酬は貰わなかった。「今はお金が無いので馬小屋で寝泊まりしてます」とか言われたら報酬を受け取る気にはなれなかった。

 

その時からか忘れたが、依頼として俺を誘ってくる冒険者が増えた気がする。俺だって自由な時間は欲しいが、狩りが出来て分け前があるなら何ら問題はない。

 

今もそこらの冒険者とゴブリン狩りに行ってきたところだ。

 

筋骨隆々とした男冒険者が上機嫌で酒を呷るのを見ていると『これぞ冒険者!』という感じでほっこりする。俺の密かな楽しみだったりするが、断じて男性が好きなわけではない。精神は男だからな。

その男は俺の視線をどう捉えたのかセクハラ紛いの発言をして隣にいた女性冒険者にぶん殴られているが、これはこれで面白い。

 

さて、冒険者として変わったことはこれぐらいか。

 

 

最近女性としての立ち回りも気を付けなければならなくなった。

 

これは性転換の影響が強いだろうが、客観的に見ても一人称が「俺」ではいくら美女でも少し印象が悪くなるかもしれない。男勝りな女性が好きな奴ならば「俺」でも別にいいのだろうが、個人的には「私」といった方が印象はいいはずだ。そんな奴らに好意を抱かれても困るし。

偶に言い間違えそうになるがこれからも努力して人前では「私」と言うようにしよう。

 

それと、なぜか風呂に入っても女性の裸体に興奮しない。

 

何だろうか。不能だろうか。精神まで女性よりになっているのであればこれは由々しき事態だが、なんかもうどうでもいいかと半分諦めている。無意識でこうなっているのだし修正の使用が無い。

 

あと、ミコトは巨乳だった。

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

そういえば、狩人(ハンター)のスキルの傾向が何となく分かってきた。

 

『大剣』や『太刀』などの名前で記されているものは武器の扱いやすさの上昇だ。

例えば『大剣』を習得すると大剣の重量が少し軽くなったように感じ、『ボウガン』や『弓』を習得すると狙いが付けやすくなったりする。

 

他は『水流』、『聴覚保護』などの一定の装備を揃えることで発揮されるスキルが沢山あるようだ。これはいちいち防具を一式そろえなくてもスキルさえ持っていれば大丈夫ということだろう。

 

一応今のレベルが19でスキルポイントが溜まっていたのでついさっきスキルにつぎ込んでおいた。

 

現在習得しているスキルは『狩猟笛』以外の全ての武器スキル、『耳栓』、『回避性能+1』だ。このあたりに咆哮を使ってくるモンスターなんてそうそういないから『耳栓』は失敗だったかもな。

 

『狩猟笛』を取っていないのは単純にゲーム時代俺が苦手だったからだな。多分ミコトは十全に使えるだろうけど、気分的に使いたくない。武器は一応揃えてるのにな。

 

「ハッ!」

 

そんなどうでもいいことを考えながらハンマーをモンスターの顎に向けて振りぬく。

 

最近繁殖期に入り凶暴性が増したという一撃熊に、怒れる砕竜の噴気をそのまま

封じたという蒼い爆槌が打ち砕く。

一撃熊の下顎には度重なる攻撃によって緑色の粘菌がこびりついており、その粘菌をハンマーで叩きつけるようにすると、粘菌に秘められた爆発性が牙を剥く。

一撃熊の顎を粘菌によって爆発させると、一撃熊は頭ごと爆散し、その生命活動を停止させた。

 

「流石、《モンスター絶対殺すウーマン》だな…繁殖期の一撃熊さえも歯が立たないとは…」

「バカ。ミコトさんがその異名嫌がってんの知らねぇのかよ」

 

後ろの方では今回のパーティーメンバー……名前忘れた。今回のパーティーメンバーの男2人がこそこそと話をしている。聞こえてるんだが…。なんでこういうのには効果発揮しないのかねぇ、使えん耳栓だ。

 

この2人には他のモンスターの乱入を防いで貰ってた。地味だが重要な仕事を引き受けてくれていたのでありがたい。

 

「見張り役ありがとう。討伐は終わったし、報告に帰ろうか」

 

「「はいよ」」

 

俺はポーチから薬を取り出し服用する。千里眼の薬というもので、効果は周辺のモンスターの位置が分かるというものだ。ゲームの時に全く使ってなかったからかなり在庫がある。

 

「にしても、そのハンマー凄いな。どこで買ったんだ?」

 

一人の男が俺に話しかけてくる。

 

「少し前に私の住んでいた村の鍛冶師の方にオーダーメイドで作った。素材持ち込みが条件だったがな」

 

「へー……ちなみに、いくらぐらいかかったんすか?オーダーメイドって、結構高くなるって聞きますけど」

 

「えっと、238000ゼ…エリスくらいだな」

 

「にじゅうさ……」

 

「最高級の装備を一式そろえれるレベルなんすけど…」

 

そんな会話をしながら冒険者ギルドに帰り、いつも通り飲み食い騒ぎをした。

どうやらミコトは酒に強いらしく、チェイサーなしでもかなりの人数を酔い潰せた。そいつらの介護もしなければならないのが難点だが。

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

そんな日々を送る毎日で、1つ大きな変化があった。

 

 

ある日、いつものように冒険者ギルドに赴き適当な朝食を摂っていると、見覚えのある髪色の女性が冒険者ギルドに入ってきた。

 

青くつややかな髪と、まぁ綺麗なんじゃね?と思わせるプロポーションの女性、俺を異世界転生させたついでに性転換させた女神と瓜二つではないか。

後ろにいる緑色のジャージの男は日本人だろうか。あそこまであからさまな転生者に会うのは初めてだな。今まで何度か会った転生者は少なからずこの世界に溶け込んでいたのだが……。

 

どうやらあの女神一行も冒険者登録に来たようだ。真っすぐカウンターの方に行き、受付嬢に話を聞いて、固まった。

そのまま受付嬢に頭を下げ、テーブルに着いた。

 

……金が無いのか?俺の時は普通にあったが、女神自身が来ていると何か違うのだろうか。まぁいい。俺とは直接関係が無いのだからほっといても問題は「ねぇ、そこの貴女」……問題がこっちに来た。

 

「そう、貴女よ。さぁ、宗派を言いなさい!私はアクア。そう、アクシズ教団の崇めるご神体、女神アクアよ!汝、もし私の信者ならば……!お金を貸してもらえると助かります!」

 

なんという低姿勢な女神であろうか。威厳が欠片もない。

周りでこのやり取りを見ていた他の冒険者がこちらに憐憫の目線を向けてくる。それも仕方が無いことだ。この女神が言い放った《アクシズ教団》。水の女神アクアを信仰し、悪魔死すべしと日夜行動している暴徒だ。他の宗派の教会に物を投げ込む、小便をかける、セクハラ行為など、犯罪行為を繰り返している。

そんな教団の元締めがこんなところにいるのだ。はっきり言って切り捨てたいが、知り合いのよしみで何とか留めておこう。

 

「無神論者ですが。…………いえ、冗談です。登録料が足りないんですね?お連れさんの分も差し上げますので、登録をしてきてください」

 

できる限り丁寧な言葉遣いになるように努力しつつ6000エリスほど握らせる。

 

無神論者だと言ったときの女神と少年の顔はなかなかに面白かったが、その顔で笑い転げるほど性格は悪くないのだ。

 

ちなみに渡すときに「いくら熱心な信者でも、女神を名乗ってはいけませんよ?」と小声で言ってやった。女神って知ってるのにな。……あれ?俺って性格悪い?

 

その後、女神たちの登録で一騒ぎあったようだが、その頃にはパーティー募集の依頼を請けてダンジョン攻略に出向いていたので俺が知るよしも無かった。

 

なんかダンジョン攻略の時に会ったクリスって女性が個性的だったのを覚えている。

ダンジョン探索の結果は上々。それなりに稼げたがモンスターに囲まれかける場面が何度かあったので弓ではなく片手剣を持っていけば良かったと後悔した。

 

 

まぁ、帰りに初心者殺しとか言う猫に遭遇した時には役に立ったからいいか。



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パーティー

女神との再会から1週間ほど経過した。彼らは土木工事のアルバイトをしていたようだ。神がバイトとは、世界が平和な証かな?

 

さて、俺のレベルは23とアクセルの街では比較的上位のレベルになったが、まだ街から出る気はない。というのもこの街にいると何やら面白いことが起きるという俺の勘が働いているのだが…まぁ、いつそんな面白いことが起こるのかは不明だ。

 

パーティーメンバーとして俺に依頼する冒険者が増え始めたが、「自分の時間も欲しい」と一言言ったらある日ぱったりと来なくなった。いいことだ。最近俺任せで一切努力しない奴が増えてきたからな。

 

というかそろそろ1つのパーティーに留まりたくなった。毎回初対面の冒険者と自己紹介から始めて、相手のことだけ聞いて依頼が終わったらはいさようならではなんだか寂しい気もする。

 

というわけで適当なパーティー募集の張り紙を確認しているのだが、どれも平凡すぎて面白くなさそうだ。出来れば俺のことを詳しくは知らないような初心者が集まっているようなパーティーに行きたい。リーダーがやりたいわけではないが、それとなくメンバーをサポートする強キャラってなんだか憧れるしな。

 

さて、目を引くのはまるで呪詛のようにメンバーの条件が長ったらしく綴られているのとクッソ汚い字で書かれている募集の張り紙だ。

 

正直呪詛の方は行く気どころか読む気が失せてしまったのでクッソ汚い字の方を読んでみる。

 

『急募!アットホームで和気あいあいとしたパーティーです。

美しく気高いアークプリースト、アクア様と旅をしたい方はこちらまで!

【このパーティーに入ってから毎日がハッピーですよ。宝くじにも当たりました】

【アクア様のパーティーに入ったおかげで、病気が治ってモテモテになりました!】

※上級職の冒険者に限ります』

 

文面からIQの低さがにじみ出ているが、まぁ面白そうなのでよしとしよう。

このアクアというのは確か女神の名前だったか。あいつらも冒険者として活動を始めたのかもしれない。

 

周囲を軽く見渡すと、テーブル席で落ち込んでいる二人組を確認できた。

 

軽くため息を吐いてその二人の元へ向かう。

 

「パーティーメンバー募集の張り紙を見て来たんですけど、申請してもいいですか?」

 

2人に声をかけると、少年は驚いたように、女神は嬉しそうにこちらを見る。

 

「も、もちろんですよ!どうぞ座ってください」

 

「ありがとうございます。では早速ですが自己紹介から。私はミコト。職業は狩人(ハンター)。レベルは23。基本的に使う武器は決まっていないが、状況に応じて使い分けることができる」

 

「あっ、はい。えっと、俺はカズマって言います。職業は冒険者で、ナイフを使って戦おうと思っています」

 

「私は水の女神、アクアよ!職業はアークプリースト、浄化魔法と回復魔法が得意よ!…ところで狩人(ハンター)ってなに?聞いたことない職業なんだけど」

 

狩人(ハンター)はその名の通り、モンスターを狩ることに特化した職業だ。モンスターを捕まえるための罠や攻撃の手段でもある矢の作成スキルも所有している。欠点としては魔法が一切使えないことと武器に関するスキルも多彩だから戦い方も武器によって変えなければいけないことぐらい」

 

「えっと、ミコトさんが使える武器ってどんなのがありますか?」

 

「ミコトでいい。…大剣、太刀、片手剣、槍、銃槍、ハンマー、双剣、弓やボウガン……他にも使える武器はある…得意なのはこんなものか。他に何か質問は?」

 

そんな感じで2人の質問に答えていった。

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

「まぁ、私の実力は口で説明しても想像しにくいだろうし、実戦で確かめて欲しい」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

10分ほどの会話だったが、2人にいい印象を与えられたのではないかと思う。あとは実戦でしくじらなければいいのだが……。

 

「上級職の冒険者募集を見てきたのですが、ここでいいのでしょうか?」

 

さて狩りに行くかと立ち上がりかけたところで、後方から声がかかった。

 

振り返ると、そこにはなんとなく気だるげで、眠そうな赤い瞳をした全体的に黒いロリだった。

 

目の前のロリは黒いマント、黒いローブ、黒いブーツに杖を携え、トンガリ帽子まで被った典型的な魔女のイメージにぴったりの子だった。顔についてはけっこう整っているのではないだろうか。……うーん。女神の時と言いあまり人と接していなかったから美人とそうじゃない人の境界が曖昧になっているな…。

 

その、見た目の年齢が13歳くらいの、眼帯で片目を隠した少女は突然マントを翻して高らかに自己紹介を始めた。

 

「我が名はめぐみん!アークウィザーを生業とし、最強の攻撃魔法、『爆裂魔法』を操る者……!」

 

「……冷やかしに来たのか?」

 

「ち、ちがわい!」

 

思わずといった感じで素の口調で突っ込んだカズマ。いや、そういいたい気持ちは分からないわけではないが……。

 

「……その赤い瞳。もしかして、あなた紅魔族?」

 

アクアがめぐみんに質問をする。

 

「いかにも!我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く……!……というわけで、優秀な魔法使いはいりませんか?……そして、図々しいお願いなのですが、もう3日もなにも食べてないのです。できれば、面接の前に何か食べさせてはいただけませんか……」

 

アクアの質問に答え終わるのと同時に、めぐみんの腹部からキューと音が鳴る。

 

「……飯を奢るのは構わないけどさ、その眼帯はどうしたんだ?怪我でもしてるなら、こいつに治してもらったらどうだ?」

 

「……フ。これは、我が強大なる魔力を押さえるためのマジックアイテムであり…。もしこれが外されることがあれば…、その時はこの世に大いなる災厄がもたらされるであろう………。あの、冗談なので、私の眼帯をじっと見つめないでください。特に外しても何も起きませんから」

 

おっと、無意識に眼帯を見つめていたようだ。流石戦闘狂と化しつつあるミコトの身体だな。災厄と聞いただけで古龍の進行並みの被害を予想したのだろう。

 

残念ながらジエンモーランやラオシャンロン並みの大きさの生物はこの世界にもいないと思う。というか竜の討伐依頼すら少ないからな。たまにあったらいいくらいだろう。それでも精々ワイバーンくらいなものだけど。

 

「…えっと、カズマに説明すると、彼女たち紅魔族は、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているわ。紅魔族は、名前の由来になっている特徴的な赤い瞳と……。そして、それぞれが変な名前を持っているの」

 

「変な名前とは失礼な。私から言わせてもらえば、街の人たちの方が変な名前をしていると思うのですよ」

 

「……ちなみに、両親の名前は?」

 

「母はゆいゆい、父はひょいざぶろー!」

 

「「「………」」」

 

紅魔族の独特なセーミングセンスに思わず閉口する俺達。

 

いや、紅魔族の独特の感性ではこれが普通なのだろう。俺達が今の感性でこんな名前つけられたら泣くわ。

 

「………とりあえず、この子の種族は質のいい魔法使いが多いんだよな?仲間にしてもいいか?」

 

「おい、私の両親について聞きたいことがあるなら聞こうじゃないか」

 

カズマに詰め寄るめぐみんにアクアが冒険者カードを返す。

 

「いーんじゃない?冒険者カードは偽造できないし、彼女は上級職の、強力な攻撃魔法を操る魔法使い、アークウィザードで間違いないわ。カードにも、高い魔力値が記されてるし、これは期待できると思うわ。もし彼女の言う通り本当に爆裂魔法が使えるのなら、それは凄いことよ?爆裂魔法は極めて習得が難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だもの」

 

「私は爆裂魔法の使い手を見たことがないので何とも言えないが、この子の加入を認めるかどうかはリーダーであるカズマの判断に任せる」

 

「おい、彼女とかこの子ではなく、私のことはちゃんと名前で呼んでほしい」

 

抗議をするめぐみんにカズマはメニューをそっと渡した。

 

「まぁ、何か頼むといいよ。俺はカズマ。こっちの青いのがアクアでそこの人はミコトさ…ミコトだ。よろしく、アークウィザード」

 

めぐみんは何かを言いたげな表情だったが無言でメニューを受け取った。

 

さて、どんな武器で行こうかな……。




前の回から時間が結構経過してるのでアクアはミコトのことを忘れています。


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討伐

「爆裂魔法は最強の魔法。その分、魔法を使うのに準備時間がかかります。準備が整うまで、あのカエルの足止めをお願いします」

 

カズマ一行とパーティーを組んだ俺は街の近くにある平原に来ていた。俺が転生してから最初に見た景色との類似点が多い場所だな。近くに小川がないことぐらいかな?違うのは。

 

現在の俺の装備はナルガZ一式。

ネコミミみたいに見える頭防具と……なんだこれ。メッシュ?なんか網状の布的な物で腹部が若干出てるのが特徴的な緑色の装備だな。この装備、本来は黒なんだがナルガクルガの亜種の素材を使ってるから緑色だ。

 

発動スキルは《集中》《スタミナ急速回復》《回避性能+2》《ランナー》《見切り+2》《体術-1》。つまり向こうの攻撃は俺に当てにくく、俺の攻撃は激しさを増すって感じだな。《体術-1》で回避するときに余計に体力使っちまうけどそこは《スタミナ急速回復》でカバーできる。

 

難点があるとすれば腹の辺りが若干冷えることとカズマの視線が少し気になることぐらいか。女性の立場になって分かることってのが増えたけど、こんな増え方はごめんだった。

 

そうこうしているうちに作戦会議が終わったみたいだ。めぐみんが遠くのカエルを標的に爆裂魔法を放ち、カズマとアクアが近くのカエルの足止め。できれば討伐で俺が周囲の警戒と2人が危なそうだったら助ける役だ。

 

流石日本人だ、弓兵の扱いは慣れてるなカズマは。ゲームとかの知識だろうが、ほぼ正解だよ。

 

「なによ、打撃が効き辛いカエルだけど、今度こそ女神の力をみせてやるわよ!見てなさいよカズマ!今のところは活躍してない私だけど、今日こそはっ!」

 

カズマに馬鹿にされて怒ったアクアは見事カエルの体内へと侵入し自分の身をもって足止めすることに成功している。流石女神。俺らの身を危険にさらさないために自分から食われに行ったのか。

 

――そんなコントみたいなことをしていると、めぐみんの周囲の空気がピリピリと震えだした。

 

めぐみんの杖から発せられる魔力が空気を震わせているのだろう。何度か魔法使いともパーティーを組んだこともあるが、めぐみんはそれ以上だな。格が違うとも言っていい。

 

呪文を詠唱するめぐみんの声が一層大きくなり、めぐみんのこめかみを一筋の汗が伝う。

 

「見ていてください。これが、人類が行える中で最も威力のある攻撃手段。……これこそが、究極の攻撃魔法です」

 

めぐみんの杖に光が宿り、カエルの足元に魔方陣が展開される。

 

「『エクスプロ―ジョン』ッ!」

 

平原に一筋の閃光が走り抜ける。

 

その直後、凶悪な魔法の効果が現出した。

 

目も眩む強烈な光、あたりの空気を震わせる轟音と共に、カエルは爆発四散する。

あまりの爆風にカズマが吹き飛ばされそうになりながらも踏ん張っているのが見える。俺も若干飛ばされそうになるが、ミコトの力を使ってその場に何とか立っている状態だ。

 

光が晴れると、カエルがいたところには20m以上のクレーターが出来ており、爆裂魔法の強大さを示しているように見える。この威力なら飛龍の甲殻を破壊するくらいはできるのではないだろうか。

 

「……すっげー。これが魔法か……」

 

めぐみんの放った爆裂魔法の威力に若干感動していると、地中から大量のカエルが顔を覗かせた。地中に眠っていたカエルがさっきの爆音で起きたんだろう。

 

「めぐみん!一旦離れて、距離を取ってから攻撃を……」

 

カズマの声が段々と尻すぼみに小さくなっていく。当然だ。さっき爆裂魔法を使ったせいで魔力がほとんど空になって倒れているのだから。

 

「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ消費魔力もまた絶大。……要約すると、身動き一つ取れません。あっ、近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……やばいです。食われます。すいません、ちょっ、助けっ……」

 

そこまで聞いて俺は背中の弓を抜き放ち弓を構える。『月穿ち(つきうがち)セレーネ』の金の装飾が太陽の光を反射してキラリと輝く。

素早く弓を引き絞り、放つ。

 

Lv.2の状態で放たれた矢はめぐみんを捕食しようと首をもたげるカエルの頭部ど真ん中に命中し、皮膚を、骨を、脳を貫通しながら焼き払い、体内を業火で蹂躙しながら背中から飛び出てくる。

一撃で致命傷を負い、瀕死の状態で前のめりに倒れ込むカエルに間髪入れずもう一度弓を打ち込む。

今度は皮膚に引っかかるようにして軽く放ったため、カエルの胴体は矢に引っ張られるようにして後方に転げた。

 

「…すっげぇ…」

 

俺の攻撃を見たカズマは感嘆の声を漏らしたが、気を抜きすぎだ。

 

「カズマ、私は這い出てきた他のカエルを討伐しておく。キミはそこで食べられてるアクアを救出してくれ」

 

「お、おう!」

 

俺はめぐみんの傍らに立ち、迫りくる4匹のカエルに狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「うっ……うぐっ……。ぐすっ……。生臭いよぅ……。生臭いよう………」

 

討伐の帰り道、俺の後ろを粘液まみれのアクアが泣きながらついてくる。

何とか無事だってめぐみんはカズマの背中におぶさっている。

 

魔法使いというのは魔力の限界を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を使うことになる。ただしここで言う生命力とは寿命などではなく、身体を動かしたりする体力のことを言う。めぐみんの場合は消費魔力が絶大すぎて、魔力が一瞬で空っぽになった反動で倒れてしまうのだろう。どちらにせよ、使いすぎると命に係わるはずだ。

 

「とにかく、今後爆裂魔法は緊急の時以外は禁止な。これからは、他の魔法で頑張ってくれよめぐみん」

「……使えません」

 

 

 

 

「………は?何が使えないんだ?」

 

「……私は、爆裂魔法しか使えないです。他には、一切の魔法が使えません」

 

「……マジか」

「マジです」

 

「爆裂魔法以外使えないってどういう事?爆裂魔法を習得できる程のスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得してない訳が無いでしょう?」

 

あ、カズマがよくわからないって顔してるな。

 

「スキルポイントとは職業に就いた時やレベルアップ時に貰える、文字通りスキルを習得するためのポイントだ。優秀な者ほど初期スキルポイントは高く、このスキルポイントを割り振って様々なスキルを習得することができる」

 

「そう、例えば超優秀な私なんかは、まず宴会芸スキルを取得し、それからアークプリーストの全魔法を習得したわ」

 

「宴会芸スキルって何に使うものなんだ?」

 

超優秀な粘液まみれの女神様はカズマの至極当然な質問を無視して話を続ける。おいまて、俺も気になるんだが。

 

「スキルは、職業や個人によって習得できる種類が限られてくるわ。たとえば水が苦手な人は氷結や水属性のスキルを習得すつるとき、普通の人よりも多くのスキルポイントが必要だったり、最悪スキルの習得自体ができなかったりするわ。……で、爆裂魔法っていうのは火と風系列の複合属性って言って、火と風属性魔法についての深い知識が必要なの。つまり、爆発系の魔法を習得できるくらいの者なら、他の属性なんて簡単に習得できるはずよ」

 

「爆裂魔法なんて上位の魔法が使えるのに他の魔法が使えないのはおかしいってことか」

 

「……私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃ無いんです。爆裂魔法だけが好きなのです。……もちろん他のスキルを取れば楽に冒険が出来るでしょう。火、水、土、風。この基本属性のスキルを取っておくだけでももう違うでしょう。……でも、駄目なのです。私は爆裂魔法しか愛せない。たとえ私の今の魔力では1日1発が限度でも。たとえ魔法を使った後は倒れるとしても。それでも私は爆裂魔法しか愛せない!だって私は、爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」

 

 

…………えっ?なんだって?宴会芸スキルが気になりすぎてあんまり聞いてなかった。えっと、爆裂魔法がアークウィザードになった話だっけ。

 

「素晴らしい!素晴らしいわ!その、非効率ながらもロマンを追い求める姿に、私は感動したわ!」

 

あぁ、爆裂魔法の1発屋の話か。ロマンは重要だが命には代えられんし、俺は何とも言えんなぁ…。

 

「そっか。多分茨の道だろうけどがんばれよ。お、そろそろ街が見えてきたな。それじゃあ、ギルドに付いたら報酬は山分けってことで。うん、まぁ、また機会があればどこかで会うこともあるだろ」

 

カズマのその言葉にめぐみんの手に力が込められているように俺には見えた。

 

「ふ……、我が望みは、爆裂魔法を撃つこと。報酬などおまけに過ぎず、なんなら山分けでなく、食事とお風呂とその他雑用費を出して貰えるなら、我は無報酬でもいいと考えている。そう、今ならアークウィザードである我が力が食費とちょっとだけで手に入る!これはもう、即契約を交わすしかないのではないだろうか!」

 

食費とお風呂と雑用費って、自分は金払わずに小遣いだけ貰って生活する気満々じゃねぇか。

 

「いやいや、その強力な力は俺達みたいな弱小パーティーには向いてない。そう、めぐみんの力は俺達には宝の持ち腐れだ。俺達みたいな駆け出しは普通の魔法使いで十分だ。ほら、俺なんか最弱の冒険者なんだからさ」

 

「いえいえいえ、弱小でも駆け出しでも大丈夫です。私は上級職ですけどまだまだ駆け出し。レベルも6ですから。もう少しレベルが上がればきっと魔法使っても倒れなくなりますから、で、ですから、ね?私の手を引き剥がそうとしないでほしいです」

 

「いやいやいやいや、1日1発しか使えない魔法使いとか、かなり使い勝手悪いから。くっ、こいつ魔法使いの癖に意外な握力を…!お、おい放せ、お前多分他のパーティーにも捨てられた口だろ、というかダンジョンにでも潜った日にはいよいよ役立たずだろ。お、おい、放せって。ちゃんと今回の報酬はやるから!放せ!」

 

「見捨てないでください!もうどこのパーティーでも拾ってくれないのです!ダンジョン探索の際には、荷物持ちでも何でもします!お願いです、私を捨てないでください!」

 

……そろそろ街中で人の目が気になってくるしやめてもらいたいんだが……。カズマは常識的に考えてバカ高い威力を出せるにしても1発しか打てないとかありえないだろって感じで、めぐみんはもう行く当てがないから必死になってるってとこか。

 

しょうがないな……。

 

カズマの肩に手を置き、会話を中断させる。

 

「カズマ。私はめぐみんをパーティーに入れておいた方がいいと思うぞ?」

 

「えぇ……」

 

「まぁそんな顔をするな。今は1日1発しか打てないロマン型の一発屋だとしても、将来的に体力が付けば撃った後も自分で動くくらいはできるようになるだろう。そうなれば強力な魔法使いが普通に手に入ったことになる。それに、もし倒れたとしても今日のように私が何とかしよう」

 

「でもですね…」

 

「ついでに、1つ面白そうなことを教えてやろう。――周りを見てみろ」

 

カズマは俺の言った通り辺りを見渡し、ある一点をみて固まった。当然だ。視線の先には先程の会話を断片的に聞き取った女性3人がひそひそと話をしているのだから当然かもしれないな。

 

「――やだ……。あの男、あの小さい子を捨てようとしてる……」

「――隣には、なんか粘液まみれの女の子を連れてるわよ」

「――あんな小さい子を弄んで捨てるなんて最低のクズね。見て、近くの子はヌルヌルだし、あの子のマントにも少しヌルヌルが付いてるわよ?一体どんなプレイをしたのよあの変態」

 

カズマの顔が目に見えて青くなり、背中のめぐみんは悪人顔でにやにやと笑っている。めぐみんは悪人顔のまま口を開く。

 

「どんなプレイでもだいじょ――むぐっ」

「よーし分かった!めぐみん、これからよろしくな!ミコトさ…ミコトもよろしく!」

 

こうして俺のパーティーが決まった。

変態(誤解)と超優秀(笑)と最強の爆裂魔法使い(一発屋)の愉快なパーティーに入ったことでこれからの冒険にも身が入るというものだ。




もしこの主人公に使ってほしい武器があったら活動報告にお願いします。
このままだと自分の得意な武器しか書かないかもしれないので…


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スキル

カエルの討伐の次の日の早朝。

 

俺は例の屋根付き荷車で目を覚ます。なんとこの世界では新人冒険者は馬小屋で寝泊まりするのが基本などというふざけた意識が根付いていたので宿が取れなかった。俺の装備を見ても冒険初心者と抜かしたあの宿主はある意味根性と良い観察眼があると思う。そういえば少し前にパーティーを組んだ少年も馬小屋に泊まっていると言っていたな。

 

そんなこんなで俺の荷車は適当な馬小屋の隣に泊めてある。まさかカズマたちが寝泊まりしている馬小屋とは思わなかったがな。

 

最近は冬が近くなり、だんだんと涼しくなってきた。おそらく真冬になるとマイナス気温に入るだろうが、馬小屋の冒険者たちは凍死しないのだろうか?もしくは冬の期間だけ宿をとるとかかな。まぁ俺は荷車を改造して寒さ対策してるけど。

 

具体的に言うと《白兎獣の豪剛毛》……まぁG級ウルクススの体毛だな。それを頑張って加工して絨毯みたいに床に敷き詰めたり布団にしたりしている。この絨毯の上に転がってこの布団をかけると、驚くほどふわっふわするものに包まれて即座に寝ることが出来る。寒冷地に生息する生物ということもあって耐寒性に優れており、冷たい空気なんか即シャットアウトされる。正直手放したくないが、他の冒険者にみっともないと思われたくないからしょうがない。

 

というか、ミコトの健康児っぷりがやばい。最近買った時計を掴んで見てみるが時計が指しているのは5:33。朝の5時。そりゃ小説とかでも狩りの準備を早朝からやってるガンナーもいたけどさ。今まで一回もボウガン系は使ってないんだからそんな早起きじゃなくていいじゃないか。さっきカズマたちの様子を見てきたが、いびきかいてたぞ。アクアが。

 

カズマはアクアに布団盗られてたな。一応アイテムボックスに入ってた毛布を掛けてあげといた。女神の名が泣いているぞ。

 

……さて、適当に狩りでも行くか。どうせカズマたちは昨日の疲れでこのまま寝るだろうし、無理に起こすのも悪いからな。

 

ちなみに今日の装備は白と青が基本色のベリオX一式。一式そろえるとまるでコートみたいな見た目になるから耐寒にはいいと思って装備した。おそらく一番耐寒性に優れているのはウルクX一式だろうが、まだそこまで寒い訳じゃないしこれでいいだろう。あれ防御力低いし。

 

武器は氷属性の太刀、『グラスディーヴァ』だ。氷属性が付いてる武器を使って狩りをするのは初めてなのでどんな効果が出るか楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

とりあえずマンティコアとグリフォンの縄張り争いを両方成敗することで納めてきた。

 

氷属性の武器の効果はなんというか、若干地味なので簡単に説明するだけにするが、刃が触れたところが太刀の冷気で凍るだけだった。激しい戦闘をしていれば氷は剥がれるし、相手の動きに多少制限が付くだけだろうか。あまり好みではないな。

 

浴場で汗を流し、受付で報酬を受け取っているとカズマがようやく起きてきたのでそのまま一緒に昼食を摂ることにした。

 

カズマは意識を覚醒させてから来たようで目がしっかりと開いている。アクアは俺が風呂に入っている間に来ていたようで、ギルドの一角で宴会芸を披露していた。どうやらアクアはおひねりを貰わないようにしているらしいが、あの腕ならばどこかの街の路上でパフォーマンスをするだけでその日を生きるだけの金は手に入りそうなものだが。

 

アクアの宴会芸を見ながら食事を摂り始めてしばらくすると、カズマが口を開く。

 

「なぁ、聞きたいんだがスキルの習得ってどうやるんだ?」

 

そういえばカズマはスキルポイントについての説明も昨日受けたばかりでポイントの振り方を知らないのか。

 

定食を口いっぱいに詰め込んでしばらくは咀嚼するであろう様子のめぐみんの代わりに俺が教えるとしよう。

 

「本来ならカードに職業に応じたスキルが表示されるんだが、職業が冒険者の場合は話が別になる。冒険者は、人にスキルの使い方を教えてもらい、実際に目で見たり体験したりすることでカードの習得可能スキルという項目に教わったスキルが表示される。そのスキルの習得に必要なポイントを支払って選択すれば習得完了だ。冒険者職は基本的に全てのスキルを手に入れることが出来るのが特徴だな」

 

「……なるほど。つまりミコトに教えて貰えば昨日の神業じみた射撃が、めぐみんに教えて貰えば爆裂魔法が俺にも使えるようになるのか」

 

「その通りです!!」

 

 

「うおっ!」

「おっと」

 

カズマの何気ない一言に反応しためぐみんは口の中に遭ったものを一気に飲み込みカズマに詰め寄る。めぐみんとカズマの間に俺が座っていたので俺が太ももでめぐみんを軽く支える形になった。あぁ…胸がない…。

 

「その通りですよカズマ!まぁ、習得に必要なポイントは馬鹿みたいに食いますが、冒険者は、アークウィザード以外で唯一爆裂魔法が使える職業です。爆裂魔法を覚えたいならいくらでも教えてあげましょう。というか、それ以外に覚える価値のあるスキルなんてありますか?いいえ、ありませんとも!さぁ、私と一緒に爆裂道を歩もうじゃないですか!」

 

「ちょ、落ち、落ち着けロリっ子!つーか、スキルポイントってのは今3ポイントしかないんだが、これで習得できるものなのか?」

 

「ロ、ロリっ子……!?」

 

「……爆裂魔法は本来優秀なアークウィザードでも数年かけて習得するものだ。ただでさえ習得に必要なポイントが他よりも高い冒険者では十年以上ポイントを使わなくてようやくといったところだろうか」

 

「待てるかそんなもん」

 

「ちなみに昨日の射撃はスキルの補助は一切なしでやったものだが、カズマが使おうと思うなら私は訓練を手伝うぞ?こちらも数年かかるだろうが」

 

「……遠慮しとく」

 

残念。後衛が増えれば多少は無茶な行動をしてもフォローしてくれると思ったのだが。

 

先程カズマにロリっ子扱いされためぐみんはいじけて再び定食に手を伸ばし始めた。宴会芸を披露していたアクアも満足した様子でこちらにやってくる。

 

「なぁアクア。俺もスキルの習得をしたいんだが、お前なら便利なスキルたくさん持ってるんじゃないか?何か、お手軽なスキルを教えてくれよ。習得に余りポイントを使わないで、それでいてお手軽な感じの」

 

「……しょうがないわねー。言っとくけど、私のスキルは半端ないわよ?本来なら、誰にでもホイホイと教えるようなスキルじゃないんだからね?」

 

やたらと勿体を付けるアクアだが、そこら辺のプリーストかアークプリーストに多少金銭を握らせれば聞けることだろう。そこまで自慢げにならなくても……。

 

だがこちらとしてもアークプリーストのスキルというのはなかなか見れるものじゃないので俺も見ておこう。回復系とバフ系が多いと聞くが、一体どんな……

 

「じゃあ、まずはこのコップを見ててね。この水の入ったコップを自分の頭の上に落ちないように載せる。ほら、やってみて?」

「さあ、この種を指で弾いてコップに1発で入れるのよ。すると、あら不思議!このコップの水を吸い上げた種はにょきにょきと……」

 

(「誰が宴会芸スキル教えろっつったこの駄女神!」)

 

「えぇーーー!?」

 

何を血迷ったか宴会芸とか言う使いどころの分からない無駄スキルを享受させようとしたアクアはカズマのツッコミでなぜか落ち込み、めぐみんと同じようにしょんぼりと肩を落としながら先ほど取り出した種をテーブルの上で転がして遊び始める。

 

落ち込んでいるアクアを見ていると、後ろから誰かの近づく気配を感じ振り返る。

 

「あっはっは!面白いねキミ!ねぇ、キミがダクネスの入りたがってるパーティーの人?有能なスキルが欲しいんだろ?盗賊のスキルなんてどうかな?」

 

後方には2人の女性がいた。1人は皮の鎧を身に纏った身軽な格好をした女の子。その慎ましい胸と口調などから童顔の男と勘違いしそうになるが、女の子だ。

 

右頬の小さな刀傷と銀髪が特徴的な子だな。というかぶっちゃけクリスだ。最近ダンジョン探索の臨時パーティーとして一緒に行動したことがある。確かに盗賊スキルは便利だな。特に『窃盗』と『トラップ解除』は。その他のスキルは俺の装備の発動スキルと狩人スキルで何とかなる。

 

「あ、キミもいたんだね。前は助かったよ」と声をかけてくるクリスに軽く返事を返しておく。

 

もう1人は初対面。フルプレートメイルを着込んだ金髪の女性だ。プレートの詳しい材質まではよく分からないが鉄かそれ以上の鉱石を整形して作ったものだろう。こっちは目立った特徴といえるものが美人であること以外は判断できないな。あえて言うならクールっぽい印象だ。

 

というかこっちの金髪は昨日カズマが話していた女性だな。俺達が風呂に入ってる間に面接に来たとかなんとか。

 

「えっと、盗賊スキル?どんなのがあるんでしょう」

 

「よくぞ聞いてくれました!盗賊スキルは使えるよー。罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗。持っているだけでお得なスキルが盛りだくさんだよ。キミ、初期職業の冒険者なんだろ?盗賊のスキルは習得にかかるポイントも少ないしお得だよ?どうだい?今なら、クリムゾンビア1杯でいいよ?」

 

クリムゾンビアというのはこの酒場のメニューの酒だ。授業料としてはかなり安いな。

 

「よし、お願いします!すんませーん!こっちの人に冷えたクリムゾンビアを1つ!」

 

 

 




話進んでないですね…


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ダクネス

モンハンプレイ中にBボタンとレバーが逝きました。
回避と移動が困難になりましたが何とか……なるでしょう…


「アクア様、もう一度!金なら払うので、どうかもう一度《花鳥風月》を!」

「ばっか野郎、アクアさんは金より食い物だ!ですよね!?アクアさん!奢りますから、ぜひもう一度《花鳥風月》を!」

 

カズマがクリスに授業料(クリムゾンビア)を支払い金髪騎士とギルドの裏路地に言って早10分。

 

ギルド内では奇妙な騒ぎが起きていた。

 

冒険者同士の喧嘩や腕相撲などの賭け事ではなく、彼らの前で芸を披露したアクアにアンコールを求める冒険者の声で大騒ぎになるなどなかなか見れたものではないだろう。

 

俺はアクアの芸は一通り見れていたのでこの騒ぎには参加する気はないが、それにしたって凄かった。

 

布を翻したら数十匹のハトが元気よく飛び出したり、コップに入れた種が成長しすぎて樹になりかけてたし。

 

「芸って物はね?請われたからって何度もやる物ではないの!良いジョークは一度きりに限るって、偉い人が言ってたわ。ウケたからって同じ芸を何度もやるのは三流の芸人よ!そして私は芸人じゃないから、芸でお金を受け取る訳にはいかないの!これは芸を嗜む者の最低限の覚悟よ。それに花鳥風月は元々あなた達に披露するつもりだった芸でもなく――あっ!ちょっとカズマ、やっと戻ってきたわね、あんたのおかげでえらい事に……。ってその人どうしたの?」

 

暇だったので芸を嗜む女神の民衆に向けた話を聞いていると、カズマ達3人組がギルド内に入ってきた。

 

しかしクリスからの教えを受けたカズマはどこか申し訳なさそうな顔をし、金髪女性は顔を赤らめながらもどこか満足そうな顔をしており、カズマにスキルを教えていたはずのクリスは涙目で落ち込んでいる。

 

何かあったのだろうか。

 

「うむ、クリスは、カズマに盗賊スキルを教える際にパンツを剥がれた上に有り金むしられて落ち込んでいるだけだ」

 

「おいあんた何口走ってんだ!待てよ、おい待て。間違ってないけどほんと待て」

 

何かあったようだ。

 

淑女の下着を剥ぎ取とるとは…とカズマに蔑みの目線を向ける。

いくら俺でもそこまでせんわ。理性が消し飛んでなければ。

 

「財布返すだけじゃダメだって、じゃぁいくらでも払うからパンツ返してって頼んだら…『自分のパンツの値段は自分で決めろ』って!」

 

うっわぁ………。

 

「『さもないとこのパンツは、我が家の家宝として奉られることになる』って!」

 

「おい待てよ!なんかすでに周りの女性冒険者の視線まで冷たいものになってるから、ほんと待て!」

 

カズマの言う通り、ギルドのウェイトレスもそこらの女性冒険者もカズマに向けて蔑みの目線を向けている。

一方で男性冒険者たちはほぼ全員がカズマに向けてグッドサインを向けていた。

 

いや、正直俺も元男としては高らかにグッドサインを送りたいが、女性の身体になったからか、ミコトに若干影響されたのかは知らないがカズマには冷たい目線しか向けられない。

 

カズマの慌てぶりを見て小さく舌を出したクリスを見てそれが嘘泣きであったことを悟るが、確実にこの前の時間。具体的にはカズマにパンツを盗られたときにはマジ泣きしてたよな。目の色からして。

 

「そ、それカズマは無事にスキルを覚えられたのですか?」

 

この空気を少しでも変えるためにとめぐみんが口を開く。

 

ナイス、俺でもこの空気の変え方は分からなかったんだ。特技を教えに言ったらその特技を利用してパンツ盗られた奴の慰め方なんか知らんわ。

 

「ふふ、まぁ見てろよ?いくぜ、『スティール』!」

 

めぐみんに手を向けカズマがスキルを発動させるとカズマの手の中が発光する。

 

次にカズマが手を開いて中の物を確認すると、白い生地の布がでてきた。形状は逆三角。中央には小さなリボンが………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンツだこれ!?

 

 

 

 

「…何ですか?レベルが上がってステータスが上がったから、冒険者から変態んジョブチェンジしたんですか?……あの、スースーするのでパンツ返してください…」

 

「あ、あれ?お、おかしーな、こんなはずじゃ……。ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのに……」

 

「……確かカズマの幸運値はかなり高かったらしいな。もしかして狙ったとか?」

 

「ミコトまで!?いや、もし狙ってたとしても窃盗スキルは取れるものが完全ランダムで、本来は取れる確率の方が少ないんだよ」

 

俺の素朴な疑問をカズマは大慌てで否定する。

 

そんな俺達の会話を見ていた金髪女性は突然椅子を蹴って立ち上がった。

 

「やはり。やはり私の目には狂いはなかった!こんな幼げな少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて、なんという鬼畜……!是非とも……!是非とも私を、このパーティーに入れてほしい!」

「いらない」

 

「んんっ……!?く……」

 

カズマの即答に頬を赤くしてもだえる金髪女性。……ん?

 

「ねぇカズマ、この人だれ?昨日言ってた、私達がお風呂に言ってる間に面接に来たって人?」

 

「ちょっと、この人クルセイダーじゃないですか。断る理由なんてないのではないですか?」

 

「いや、クルセイダーって仲間を守る聖騎士のことだろ?俺達にはミコトがいるだろ?」

 

「私は基本的に同じ装備を連続で使いたくないから毎回カズマ達を守るように動けるとは思わないほうがいいと思うぞ?今回なんて太刀だ。防御なんてほとんど捨ててる」

 

俺の反論を聞いたカズマはしばらく何かを思案するような顔になったあと、俺達にこんなことを言いだした。

 

「実はなダクネス。俺とアクアはガチで魔王を倒したいと思っている」

 

 

「丁度いい機会だし2人も聞いてくれ。俺とアクアは、どうあっても魔王を倒したい。そう、俺達はそのために冒険者になったんだ。というわけで、俺達の冒険は過酷な物になる事だろう。特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたらそれはもうとんでもない目に遭わされる役どころだ」

 

「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな!それだけでも行く価値がある!」

 

「えっ!?……あれ!?」

 

「えっ?……なんだ?私は何かおかしなことを言ったか?」

 

おそらく「自分たちと冒険することで大きなデメリットを被ることになる」ということを伝えて金髪女性…ダクネスか、を追い返そうとしていたのだろうが、このダクネスという女性は聞いた感じ特殊な性癖がある。なんとなく被虐系の。

 

多少のデメリットじゃ引かないだろな。

 

「…めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうってんだよ、俺とアクアは。そんなパーティーに無理して残る必要は……」

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置いて最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」

 

カズマは次なる標的としてめぐみんを選んだが、説得の仕方を間違ったようだ。椅子を蹴り飛ばして立ち上がり恥ずかしい宣言を公衆の面前でやらかした。

 

「…ミコトも一応聞いてくれ」

 

あ、俺も?

 

「魔王と戦うってことは強大な敵と連戦したりしないといけないってことだ。いくら強いと言っても体力には限界が来る。最悪物量に押しつぶされて終わりだ。そんな危険があるパーティーに「カズマ」……」

 

(ミコト)の故郷は強力な竜の蔓延る絶海の孤島。その中でハンターとして活動をするうちに(ミコト)は『災害』や『神』とされる竜を何度か(制限時間付きで)討伐している。魔王という頭脳があり、知能のある配下が大量に存在するのに、いまだに世界征服を成し遂げられないような奴だ。平和のための障害があるならば打ち壊すまで。むしろ戦ってみたいとすら思うぞ」

 

……ってついペラペラと口の動くままに喋ったが、中身()は戦闘とかは初心者なんだけど。ミコトの鍛えた技でゴリ押してるだけなんだけど…。

 

こうして全員の説得に失敗したカズマの袖をアクアがクイクイを引いているのが見えた。

 

「私、カズマの話を聞いていたらなんだか腰が引けてきたんですけど。何かこう、もっと楽しく魔王討伐できる方法はない?」

 

 

……全く、この駄女神は。お前この話で一番の関係者だろ。何を言ってるんだ。

 

そんな感じで再びパーティーの意思が嫌な方向に固まったところで街中にアナウンスが響いた。

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者各員は至急冒険者ギルドに集まってください。繰り返します。街の中にいる冒険者各員は至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

緊急クエスト…?もしかして強大なモンスターが来たとかか?それなら準備したいんだが……。

 

「おい、緊急クエストってなんだ? モンスターが街に襲撃に来たのか?」

 

カズマも俺と同じことを考えているようだった。やっぱり緊急クエストって聞くとそう考えるよな。俺だけじゃないみたいで安心した。

 

「……ん、多分キャベツの収穫だろう。もうそろそろ収穫の時期だしな」

 

 

…………あぁ、なるほどね、キャベツか。

 

 

 

「は?キャベツ?その、キャベツって名前のモンスターかなんかか?」

 

この世界の常識をまだ理解しきれていないカズマをめぐみんとダクネスがかわいそうなものを見る目で見ている。

 

「キャベツとは緑色の丸いやつです。食べられる物です」

「噛むとシャキシャキする歯応えのあるおいしい野菜の事だ」

 

「そんな事は知っとるわ!じゃあ何か?緊急クエストだの騒いで、冒険者に農家の手伝いさせようってのか、このギルドの連中は」

 

そういえばつい最近まで土木工事のアルバイトで忙しくてこの世界の常識とかを知る機会とかなかったのか、それならしょうがないかもしれない。

 

「あー……カズマは知らないんでしょうけどね?えぇっと、この世界のキャベツは………」

 

アクアが申し訳なさそうにカズマに説明をしようとするのをギルドの諸金が大声で遮って説明を始めた。

 

「皆さん、突然のお呼び出しすいません!もう既に気付いている方もいるとは思いますがキャベツです!今年もキャベツの収穫時期がやってまいりました!キャベツ1玉の収穫につき10000エリスです!既に街中の住民は家に避難して頂いております。では皆さん、出来るだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに収めてください!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしない様お願い致します!なお、人数が人数、額が額なので、報酬の支払いは後日まとめてとなります!」

 

その時、冒険者ギルドの外で歓声が起こった。

 

それを聞いて移動を始める冒険者たちに合わせて全員で正門に向かう。

 

正門の外では大量の空飛ぶキャベツと戦闘を開始する冒険者の姿。

 

アクアは真っ先に走って行ってしまったので代わりに俺がカズマに説明しようと近づくと、ちょうど腹にキャベツがそれなりの勢いで飛び込んできたので片手で捕まえておく。

 

「おっと……。…カズマ。キャベツというのはこんな感じで空を飛ぶ。味が濃縮してきて収穫の時期になるとどういうわけか自我を得て、感情を持ち、食べられたくない一心でな。街や草原を疾走するキャベツは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられずひっそりと息を引き取るとされている。……そんなもったいないことをさせるくらいなら私たちで捕まえて食べてしまおうということだ。味も栄養も濃縮されて旨いし、経験値なんかも大量に手に入る」

 

「……俺、もう馬小屋に帰って寝ててもいいかな?」

 

「別にいいが、軍資金を手に入れるいいチャンスだぞ?ここらで金を稼いで装備を買うのをおススメする」

 

 

まぁ、俺も正直に言うとキャベツの捕獲が他のモンスターの捕獲よりも難しいことは不満なんだが……まぁ、稼ぎ時だ。ちょっと本気出して回収しよう。




ミコトへのスティールを期待した方ごめんなさい!
500字ほど書いたあたりで頭がこんがらがってしまったので書けませんでした!


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問題児

問題児が一人とは言っていない


「何故たかがキャベツの野菜炒めがこんなにうまいんだ。納得いかねぇ、ほんとに納得いかねぇ」

 

緊急クエスト【キャベツの収穫】を終え、ギルド内ではキャベツを使った料理が振る舞われていた。

食卓の半分以上が緑というのもなかなか奇妙な光景だが、この時期のキャベツは本当にうまいので馬鹿にはできない。表現が下手なのが申し訳ないが、キャベツのシャキシャキとした食感と絶妙に含まれた水分は料理人の手によって絶品料理となっている。

 

キャベツの野菜炒め、もといキャベツ炒めを食べたカズマは納得できないような表情をしながらキャベツを口内に詰め込んでいる。

 

「しかし、やるわねダクネス!あなた、流石クルセイダーね!あの鉄壁の守りには流石のキャベツ達も攻めあぐねていたわ」

 

アクアが褒めているダクネスの鉄壁の守りというやつだが、実際はケガを負った冒険者を庇うことで自分の被虐趣味をカモフラージュしていたものだな。

 

確かにダクネスの謎の身体の硬さはキャベツも攻めあぐねるだろう。だって体当たりしたら自分が傷つくんだもん。

 

「いや、私など、ただ硬いだけの女だ。私は不器用で動きも速くは無い。だから剣を振るってもロクに当たらず、誰かの壁になって守ることしか取り柄が無い。……その点、めぐみんは凄まじかった。キャベツを追って街に近づいたモンスターを、爆裂魔法の一撃で吹き飛ばしていたではないか。他の冒険者のあの驚いた顔と言ったら無かったな」

 

あぁ、あのテロな。

 

キャベツの甘い香りというか、フェロモン的なものに惹きつけられたモンスターを爆裂魔法で吹き飛ばし、ついでにモンスターと交戦していた冒険者も余波で吹き飛ばされていたな。多分仲間がいる所で爆裂魔法使うような奴とは思わなかったんだろう。

 

「ふふ、我が必殺の爆裂魔法において、何者も抗う事など叶わず。……それよりも、カズマとミコトの活躍こそ目覚ましかったです。カズマは魔力を使い果たした私を素早く回収して背負って帰ってくれましたし、ミコトは爆裂魔法の後さらにやってきたモンスター達をたった一人で相手取っていましたし」

 

「……ん。私がキャベツに囲まれ、袋叩きにされている時も、カズマは颯爽と現れ、襲い来るキャベツたちを収穫していってくれた。助かった、礼を言う」

 

「確かに、潜伏スキルで気配を消して、敵感知で素早くキャベツの動きを補足し、背後からスティールで強襲するその姿は、まるで鮮やかな暗殺者のごとしです。ミコトは道具を駆使して多くのキャベツを収穫していましたね。その姿は職業名に恥じぬ狩人《ハンター》でした」

 

「……私の名において、カズマには【華麗なるキャベツ泥棒】、ミコトには【キャベツ・ハンター】の称号を授けてあげるわ」

 

「え、いらない」

「やかましいわ!そんな称号で俺を読んだら引っぱたくぞ!……ああもう、どうしてこうなった!」

 

カズマはアクアへの反対意見を一方的に述べると頭を抱え机に突っ伏した。

 

流石に不憫に思ったので軽く頭を撫でてやるが、よく考えたらこのぐらいの年って頭撫でられたりって嫌な感じかな?やばい、酒も大量に入ってるからよく考えれんぞ。

 

「では……。私はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにで、不器用すぎて攻撃がほとんど当たらん。だが、壁になるのは大得意だ。よろしく頼む」

 

会話の内容からすると、このドM騎士が仲間になったようだ。

 

本人も盾としてこき使えと言っているし、片方の手にランスを、もう片方の手にダクネスを担いでモンスターを狩るのも……いかん。何を言っているんだ俺は。

 

「……ふふん、うちのパーティーもなかなか、豪華な顔ぶれになってきたじゃない?アークプリーストの私にアークウィザードのめぐみん、防御特化の上級前衛職であるクルセイダーのダクネスと前衛後衛のどちらも完璧にこなせるオールラウンダーの狩人(ハンター)、ミコト。5人中4人が上級職なんてパーティー、そうそうないわよカズマ?あなた、凄くついてるわよ?感謝しなさいな」

 

半分以上外れじゃねえか駄女神……

 

カズマの小さな呟きを聞きながら軽く水をあおり酔いを醒まし、このパーティーについて軽く考えてみる。

 

 

まず全体のリーダーであるカズマ。

 

冒険者という職を生かし、様々なスキルを入手。オールラウンドな遊撃タイプではあるが、いまいち防具が貧弱なことと幸運値の割には巻き込まれ体質な面がある。

 

このままスキルの練度を伸ばしていけばこのパーティーに欠かせない人物になること間違いなしだろう。

 

 

 

次に女神アクア。

 

幸運値と知力値がかなり低いため適当で後先考えない行動が目立つ。

 

アークプリーストとしては優秀なのだろうが、いかんせん馬鹿だ。

この先のレベルアップで知力値が上昇することを祈っておこう。

 

 

 

めぐみん。

 

紅魔族というアークウィザードの素質を強く持つ種族でありながら他の魔法を取らず、爆裂魔法に執着しているように思える。

 

もうこいつは爆裂魔法以外のスキルを取ったら何の問題もないんじゃないか?

 

 

 

新メンバー、ダクネス。

 

このメンバーでも薄まることのない個性の【不器用】と【ドM】。

 

キャベツ収穫の時に少し見てみたが、あれはスキルがどうこうという話ではなく素質的にやばいと思う。なぜすばしっこく小回りの利くキャベツに大振りの攻撃で挑む。

 

そしてすばしっこく小回りの利くキャベツってなんだよ。舐めてんのか。

 

 

最後に(ミコト)

 

自覚している欠点は強そうなモンスターを見ると狩りたくなることか。俺の意思ではなくミコトの身体が勝手に反応するだけだから自制は効くが、たまに意味が無いこともある。パーティー内ではまだやらかしたことは無いが、今後確実にやらかす。どこかでやらかす。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

朝、気が付いたら例の荷車で寝ていた。

 

どうやら考え事をしている間に酒をチビチビと飲んでいたらいつの間にか酔いが回って寝ていたらしい。

 

起きた時、目の前にカズマの顔があったからびっくりしたが、運んでくれたのだろうか。重かったろうに。

カズマが俺の荷車で寝ているのはおそらくあの絨毯と毛布にやられたな。すごく分かるぞ。うむ。

 

…さて、とりあえず酒を飲んでいても朝起きる時間は変わらない。今日はガンナーとしてつもりなので弾を先に用意しておく。まだ朝とはいえ、こういった準備が大切なのだと昔実感させられたからな。弾薬を作ったり、使う武器を決めたりしておこう。

 

 

 

 

 

 

結果的に、相手にするモンスターが分からなければどうしようもないと悟ったため、『ダイヤモンドクレスト』を使うことにした。

 

赤と青の銃身と氷牙竜の甲殻をイメージした白いカバー?が特徴的なライトボウガンだ。

 

通常弾。つまり当たったらめっちゃ痛い程度の銃弾が速射できるのが強みだな。

 

装備はセイラー一式にでもしようかな。適当に装飾品付けて発動スキルを増やせばいけるだろ。

 

セイラーはタンジアの港で働く受付嬢の衣装だな。まぁ、詳しい容姿は各々確認してもらった方が速いが、何となく全体が白い。……いや、説明少ないのは分かってんだよ。ただ、この帽子の名前とか一切知らないから説明できないんだよ。こちとら元男だぞ、女性のファッションなんかわからんわ!

 

「……ぅ…ここは…」

 

おっとそんなことを言っていたらカズマが起きたな。俺はアイテムボックスの中から元気ドリンコを2本取って片方をカズマに渡す。

 

「おはようカズマ。飲むか?」

 

「あぁもらう……よ」

 

……?俺に手を伸ばしたカズマが急に固まってしまった。俺の鎧を凝視しているようなので何か付いているのかと見下ろすと、そこには装備などない。肌色の山脈とそれをギリギリ隠しているタンクトップが見えるだけだ。

 

そこまで考えた俺は反射的に胸の部分を隠そうと毛布を引き寄せようとするが、別に裸を見られているわけでもないしいいかと思いとどまり自然体に戻る。

まったく、ミコト(無意識)さんは恥ずかしがり屋だな全く。

 

そういえばなんで鎧を着ていると勘違いしたのかというと、起きた時に半分以上寝ている状態で脱いでたからだな。その後カズマの顔が目の前にあったこととか、意識がはっきりし始めてから驚いたから脱いでたことは忘れてたわ。

 

「…どうかしたか?…カズマ?」

 

カズマの前で手を振ってみたりネコだましをしたりするが、かなり反応が薄い。

 

……そういえば昔こんな感じで硬直してた奴がいたな。で、女友達がそいつをからかうためにやってたことがあるな。しばらくたったら復活したしあれをやろう。

 

俺はカズマの後ろに回り、左手で両方の目を隠し顎をカズマの右肩に載せる。そして身体、特に胸が密着するような体勢を取り――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仏説・摩訶般若波羅蜜多心経……」

 

 

――般若心経を唱える。

 

声のが男の時と違ってあまり念仏に似せれないが、まぁいいだろう。

 

 

この行為は、3分後、カズマの意識が復活するまで続いた。




最後の奴は多少盛ってるところもありますが、大体が実際にあった話です。裏山


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準備

再起動したカズマを荷車から出し、俺は再び準備を始めた。

 

今回は装備の確認は済んでいるからスキルの習得だな。レベル20あたりからポイント割り振るのもめんどくさくなってやってなかったからな。

ちなみに今のレベルは26、最後にポイントを割り振ったのが19の時だから今割り振れるのは7レベル分のポイント、14ポイントだな。

 

レベルが1上がるごとに2ポイント習得は少ないのか多いのか分からんが、伸びしろが悪くなってきたらこの世界のスキルにあるレベルドレインをしてもらうのも手なんだろうな。こっちの手に入れた情報ではスキルはドレインされないらしいから、スキル熟練度上げ放題だわ。

 

さて、冗談はさておき。

 

今回習得するのは『寒さ無効』『破壊王』だな。

 

『寒さ無効』は3ポイント。スキル名の通り寒さを感じなくなるスキルだ。

…まぁ、しょうもないと思われるのも仕方ないんだがな?これが意外と効くんだよ。寒くなってくると自分の身体が冷たくなって思ったように動かなくなるんだが、狩場で体が動かなくなるとか死も同然だからな。ただでさえ凍土とかにイビルジョーいるし。あれ狩るの面倒なんだよ……。

 

で、『破壊王』は10ポイント。これも文字通りモンスターの部位を破壊しやすくなるスキルだ。……正直部位破壊の強化とか必要ないんだが、これから強敵と戦うとこになるだろうしな。取っておいて損はない。

 

さて、これで俺のスキルは

『狩猟笛』以外の全ての武器スキル

『耳栓』

『回避性能+1』

『寒さ無効』

『破壊王』

になったわけだ。いやー……何したいのか分かんねぇなこれ。

 

それにしてもレベルが26になったってことはそれだけモンスター狩ってるってことだよな…。少し気になった俺はアイテムボックスに入っていたカード。つまりモンハンの方のギルドカードを見てみる。

 

紫と金色で装飾されたギルドカードの項目の一つに、モンスター狩猟記録なるものがある。これは冒険者カードと同じく、自分が討伐したモンスターを自動で記録するものだ。なぜかこの世界で討伐したモンスターも記録されている。

 

これによると一撃熊を21匹、初心者殺しを13匹討伐してるみたいだな。なんだ、そんなに狩ってなかったわ。すぐ上の項目のドスジャギィ討伐数232匹に比べたら…な。

ちなみに一撃熊となんとなく特徴が似てるアオアシラの討伐数は108匹だ。普通だな。どっちかって言うと平均以下だろう。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

セイラー一式を着込みギルドに向かうと、カズマの服装が大きく変わっていた。

 

今まで日本人感丸出しな緑のジャージを着ていたのが、今はこっちの世界の服の上に革製の胸当てに金属製の籠手、同じく金属製のすねあてを装備している。

 

そういえばミコトの装備を渡してやればよかったんじゃないかと一瞬考えたが、いくら身長が同じほぼとはいえ主に胸回りのサイズが違う。モガの村の鍛冶屋なんかも「防具は体型が変わると調整するのが大変」って言ってたしな。その人に合った装備を特注で作ってくれてるんだろう。どうせ渡してサイズがあってたとしてもカズマには重くて扱えんだろうしな

 

「装備を買ったのか。似合っているぞカズマ」

 

「お、おう」

 

軽く声をかけると目をそらされた。解せぬ。……って、今朝のことまだ引きずってんのか、解せた。

 

反応返してくれるだけマシか。昔本気で驚かせた上に煽りまくった友達は2日くらい口きいてくれなかったからな。

 

「ミコトは…なんだかよく分からない格好になってますね。カズマが冒険者らしくなったと思ったら今度はミコトですか?」

 

「いやいや、これも立派な防具だぞ。私が使った薬の効果を全員に行きわたらせる効果と水中でも呼吸が出来るようになる効果が現れる」

 

「なんですかその不思議な防具…」

 

めぐみんの怪訝な物を見るような目線を無視していると、カズマが口を開く。

 

「まぁ、それは置いといてさ。装備もそろえたことだし、クエストにでもいかないか?」

 

カズマの提案にダクネスがふむと頷く。俺は手ごたえのあるクエストに行きたいな。できれば討伐に2時間くらいかかるのが。

 

「ならばジャイアントトードが繁殖期に入っていて街の近場まで出没しているから、それを……」

「「カエルはやめよう!」」

 

ダクネスの提案をアクアとめぐみんが強い口調で拒絶する。

 

「……なぜだ?カエルは刃物が通りやすく倒しやすいし、攻撃法も舌による捕食しかしてこない。倒したカエルも食用として売れるから稼ぎもいい。薄い装備をしていると食われたりするが、今のカズマの装備なら、金属を嫌がって狙われないと思うぞ。アクアとめぐみんは私がきっちり盾になろう」

 

「あー……。この2人はカエルに食われかけたことがトラウマになってるんだ。アクアは頭からぱっくりいかれて粘液まみれになったからな」

 

「……あ、頭からぱっくり……。粘液まみれ……」

 

「ダクネス、まさか興奮してないだろうな」

 

「してない」

 

ダクネスは目を反らして即答してくるが、顔が赤いから不安になってきた。今度俺がカエルの駆除しておこう。

 

「とりあえずカエルはやめとくとして、他の行くか。緊急クエストのキャベツを除いたらこの面子での初クエストだ。楽に倒せるヤツがいいな」

 

……まぁ、俺以外は皆レベルが低いから簡単なのにするのはしょうがないか。ついでにカズマの剣の腕を鍛えてやろう。新人ハンターを指導する上級ハンターってのも憧れてたしな。

 

カズマの堅実な判断にこっちで勝手に納得しているとアクアがカズマを小馬鹿にし始める。

 

「これだから内向的なヒキニートは……。そりゃあ、カズマは1人だけ最弱職だから慎重になるのも分かるけど、この私を始め、上級職ばかりが集まったのよ?もっと難易度の高いクエストをバシバシこなして、ガンガンお金を稼いで、どんどんレベルを上げて、それで魔王をサクッと討伐するの!というわけで、一番難易度の高いヤツを行きましょう!」

 

「……お前、言いたくないけど……。まだ何の役にも立ってないよな」

「!?」

 

おっと、思わぬ反撃。カズマのことだから怒って怒鳴り散らすとばかり。

 

「本来ならば俺は、お前から強力な能力か装備を貰って、ここでの生活には困らないはずだったわけだ。そりゃあ、俺だって無償で神様から特典を貰える身で、ケチなんてつけたくないよ?それにその場の勢いとはいえ、能力よりお前を希望したのは俺なんだし!でも、俺はその能力や装備の代わりにお前を貰ったわけなんだが、いまのところ、特殊能力や強力な武器並みにお前は役に立ってくれているのかと聞きたい。どうなんだ?最初は随分偉そうで自信たっぷりだったくせに、ちっとも役に立たない自称元なんとかさん」

 

「うう………。も、元じゃなく、その……。い、今も一応女神です……」

 

「女神!!女神ってあれだろ!?勇者を導いてみたり、魔王とかと戦って、勇者が一人前になるまで魔王を封印して時間稼いだりする!今回のキャベツ狩りクエストで、お前がしたことって何だ!?最終的には何とか沢山捕まえてたみたいだが、基本はキャベツに翻弄されて、転んで泣いてただけだろ?お前、野菜に泣かされといて本当にそれでいいのか?そんなんで女神名乗っていいのか!?この、カエルに食われるしか脳がない、宴会芸しか取り柄がない穀潰しがぁ!」

 

「わ、わあああーっ!」

 

こ  れ  は  ひ  ど  い

 

何もフォローできないくらいに事実だし。正論の嵐とはこのことか。

 

「わ、私だって、回復魔法とか回復魔法とか回復魔法とか、一応役に立ってるわ!なにさ、ヒキニート!じゃあ、このままちんたらあやってたら魔王討伐なんでどれだけかかるか分かってんの!?何か考えがあるなら言ってみなさいよ!」

 

涙目でカズマを睨みつけるアクアの反論を鼻で笑う魔王……じゃなった。カズマ。

 

「高校もさぼりまくってプロのゲーマーとして着々と修業を積んでいた俺に、この手のことで何の考えもないと思っていたのか?」

 

「プロのゲーマーだったの?」

 

「……言ってみただけだ。いいかアクア。俺には物語に出てくる主人公みたいな凄い力なんてない。だが、日本で培った知識はある。そこで、俺にも簡単に作れ、かつこの世界にない日本の物とかを、売りにだしてみるってのはどうかと思ってな。ほら、俺は幸運が高い。商売でもやったらどうだって受付のお姉さんにも言われただろ?そこで金を集めて、今回のキャベツみたいに楽に経験値を集めようと思ってる」

 

俺以外に聞いてる人がいなかったからいいものを、この世界の人に日本がどうこうこの世界がどうこうって言ってるのを聞かれたら大変なことになるだろうな。

 

…それはともかく。アクアの考え方が通用するのはこの世界に転生してきたチート持ちと俺達ハンターだけだ。……あれ?ハンターって人外?

 

よく考えたら災害級のモンスターを制限時間付きで討伐するとか……転生者以上のチートなんじゃないか?ただの回避行動でも無敵になれる時間ってのがあるし…。

 

「ってわけで、お前もなにか考えろ!何か、手軽にできてもうかる商売でも考えろ!あと、お前の最後の取り柄の回復魔法をとっとと教えろよ!スキルポイントが溜まったら俺も回復魔法の1つくらい覚えたいんだ!」

 

「嫌ーっ!回復魔法だけは嫌!嫌よぉ!私の存在意義を奪わないでよ!私がいるんだからいいじゃない!嫌!嫌よおおお!」

 

……これ俺が全体回復魔法と似たようなのを使えるって言わないほうがいいよな。アクアの存在意義がマジでなくなるぞ。

 

「……何をやってるんですか?……結構えげつない口撃力がありますから、遠慮なく本音をぶちまけていると大概の女性は泣きますよ?」

 

「うむ。ストレスが溜まっているなら……。アクアの代わりに私を口汚く罵ってくれても構わないぞ。……クルセイダーたるもの、誰かの犠牲になるのは本望だ」

 

めぐみんとダクネスが帰ってきた。二人の視線はテーブルの上で泣き続けるアクアに注がれている。心配してほしいのか何なのか、何ながらチラチラとこちらの様子をうかがってくるのがイラッとする。

 

「こいつのことは気にしなくていい。しかし………ダクネスさんも着やせするタイプなんですね……」

 

今日のダクネスは結構薄着だからな。そういう感想が出るのも仕方がないだろう……まて、今『も』って言ったかこいつ。さっさと忘れてほしいんだが……。

 

「……む。今、私のことをエロい身体しやがってこのメス豚が!』といったか?」

「言ってねぇ」

 

こいつの耳、特殊なフィルターが入ってんじゃねぇのか?見た目は美人なのにもったいない…。……ん?何だカズマ、突然こっちを一瞥して。

 

「おい、今私をチラ見した意味を聞こうじゃないか」

 

「意味はないさ。ただ俺にロリコン属性が無くて良かったと思っただけだ」

 

「紅魔族は売られた喧嘩は買う種族です。よろしい、表に出ようじゃないですか」

 

ヤンキーかなんかか紅魔族ってのは。

 

「話を戻すが、クエストを受けるなら、アクアのレベル上げが出来るものにしないか?」

 

「どういう事だ?そんな都合のいいクエストがあるのか?」

 

「プリーストは一般的にレベル上げが難しい。なにせプリーストには攻撃魔法なんてものが無いからな。戦士のように前に出て敵を倒すわけでもなく、魔法使いのように極力な魔法で殲滅するわけでもない。そこで、プリーストたちが好んで狩るのがアンデット族だ。アンデットは不死という神の理に反したモンスター。彼らには、神の力がすべて逆に働く。回復魔法を請けると身体が崩れるのだ」

 

アンデットは不死……か。じゃあ腕のいい剣士を調教して俺の組手の相手をさせれば……嫌、駄目だ。上半身と下半身がおさらばするかもしれない。

 

「うん、悪くないな。問題はダクネスの鎧がまだ戻ってきてないことなんだが……」

 

「うむ、問題ない。だてに防御スキルに特化してるわけではない。鎧なしでもアダマンマイマイより硬い自信がある。それに、殴られた時、鎧なしの方が気持ちいいしな」

 

「……お前今殴られるのが気持ちいいって言ったか」

 

「言ってない」

 

「言ったろ」

 

「言ってない。問題はアクアにその気があるかだが………」

 

「…おい、いつまでもめそめそしてないで会話に参加しろよ。今、お前のレベルのこと……」

 

カズマがいまだにテーブルに伏せているアクアに声をかける。

 

「……すかー……」

 

アクアは泣き疲れて眠っているんだが。子供だろこいつ、精神面が特に。

 

あ、そうだ。

 

「カズマ、アンデッドの討伐なら装備を変えたい。少し遅れることになるがいいか?」

 

「別にいいけど……その装備じゃいけないのか?」

 

「ゾンビとかの腐っても歩行してくる敵に銃弾なんて打ち込んでも穴が開くだけだろう」

 

「お、おう」

 

というわけで俺は荷車に戻ろう。剣に持ち替えだ。最近使ってない双剣とかいいかもな。



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リッチー/欲求不満

今回受けたクエストは共同墓地に湧くアンデッドモンスターの討伐。

街から外れたところにある丘の上に金のない人や身寄りのない人がまとめて埋葬される共同墓地にゾンビメーカーというモンスターが出るらしい。

 

ゾンビメーカー自体は弱いが、そいつの操るアンデッドモンスターに苦労するらしい。包囲されないようにしないといけないらしい。

というわけで荷車から『コウリュウノツガイ』を持ってきた。これで包囲されようが何されようが何とかなる。

 

『コウリュウノツガイ』はリオレイアとリオレウスの希少種の素材を使った金と銀の双剣だ。

斬りつけたら白い炎が出る。原理は知らん。

 

それと防具は着てきてない。カズマに変なヤツを見る目をされたが気にしない。流石に下着じゃなくこの世界の一般的な服を着ている。最近は仕方がないとはいえスリルの無い依頼を請け続けてるから欲求不満なんだよな。普段着でモンスターに囲まれたらスリルを感じれるだろう。……思考がダクネスみたいになってる気がするが、俺は正常だ。ただちょっとミコトが頭のおかしい戦闘狂なだけだ。

 

「ちょっとカズマ、その肉は私が目を付けていたヤツよ!ほら、こっちの野菜が焼けてるんだからこっちを食べなさいよこっち!」

 

「俺、キャベツ狩り以降どうも野菜が苦手なんだよ、焼いてる途中に飛んだり跳ねたりしないか心配になるから」

 

「カズマ、好き嫌いはよくないぞ?子供じゃあるまいし」

 

「ミコトは俺の保護者かなんかか!」

 

「お前が望んで、それが面白そうならそれもやってやろうじゃないか。最近強敵に会ってないからストレスの発散が上手くいかないんだ」

 

今はゾンビメーカーが出没するという時間になるまで少し離れたところでバーベキューをしながら待っているところだ。この鉄板の上に俺の集めてきた希少交易品の食材たちを載せたらどうなるか試してみたかったが、おそらく質問攻めになるからやめておいた。いつか役に立つ時が来ることを祈っておこう。

 

そういえばカズマはレベルアップしたときに『初級魔法』を習得したらしい。

『初級魔法』は火、水、土、風の魔法が使えるようになるスキルだな。どれも威力が低すぎて攻撃には転用できないが、日常で役立つような便利スキルらしい。

 

今も『クリエイト・ウォーター』で出した水を『ティンダー』で温めてコーヒーを作っているしな。

 

「あ、カズマ、私にも水をくれ」

 

「私にもお願いします。…っていうかカズマは、何気に私より魔法を使いこなしてますね。初級魔法なんてほとんどだれも使わない物なんですが、カズマを見ていると便利そうです」

 

めぐみん爆裂魔法しか使えないだろ。とカズマに水を貰いながら考える。

 

「いや、元々こういう使い方じゃないのか?初級魔法って。あ、そうそう。『クリエイト・アース』!……なぁ、これって何に使う魔法なんだ?」

 

カズマは俺達に見せてきたのは土属性魔法の『クリエイト・アース』。掌にサラサラの土を作り出す魔法だな。使い方は俺もよく分からん。

 

「……えっと、その魔法で作った土は、畑などに使用するといい作物が採れるそうです」

 

「……えっ、それだけ?」

 

「それだけです」

 

「何々、カズマさん畑作るんですか!農家に転向ですか!土も作れるしクリエイト・ウォーターで水も撒ける!カズマさん、天職じゃないですかやだー!プークスクス!」

 

「『ウィンドブレス』!」

 

「ぶあああっ!ぎゃー!目、目があああ!」

 

カズマを煽り始めたアクアに突風と共に舞う土が襲い掛かる。見てるだけでも痛いわあんなん。そういえば風属性の初級魔法だけ突風とかバランスおかしくね?と思ったが、上級魔法になると鎌鼬を起こして切り裂いてくることを思い出した。あ、妥当だわ。と一瞬で納得できた。

 

「「……なるほど、こうやって使う魔法か」」

 

「違います!違いますよ、普通はそんな使い方しませんよ!というか、なんでカズマは初級魔法を魔法使い以上に器用に使いこなしてるんですか!」

 

あ、もし本気で農家やるなら手伝うぞ?なんかゲームではアイルー任せだったのにミコトの記憶では農作業はハンターも一緒にやってたみたいだから。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

「……冷えてきたわね」

 

時刻は進み、深夜を回ろうかというころ。『寒さ無効』の俺からして見れば意識しないとよく分からないくらいの変化ではあるが、若干気温が下がった。ホットドリンクを渡そうかと迷ったが、まだ息が白くなってないから問題ないな。

 

「ねぇカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど……」

 

「……おい、そういった事いうなよ、それがフラグになったらどうすんだ。今日はゾンビメーカーを1体討伐。そして取り巻きのゾンビもちゃんと土に還してやる。そしてとっとと帰って馬小屋で寝る。計画以外のイレギュラーなことが起こったらどうせミコトがどうにかするから即刻帰る。いいな?」

 

「OK!」

 

グッジョブアクア。できれば最低のクズの名が相応しい敵にしてくれ。出てきたのがいいヤツだと切り殺せない。

 

『敵感知』スキルを持っているカズマを先頭に、俺とダクネスがいつでも出れるようにカズマのすぐ後ろに、めぐみんがアクアと俺達に挟まれるように中衛に配置し、アクアは最後尾で後方の確認。どっかで見たフォーメーションだが気にしないでおこう。

 

「……何だろう、ビリビリ感じる。敵感知に引っかかったな。いるぞ、1、2……3体、4体……?」

 

おっと、数が多いな。ゾンビメーカーというのはせいぜい2、3体しか取り巻きがいないと聞いていたが。

 

そんなことを考えていると墓地の中央で青白い光が走る。

 

それは妖しくも幻想的な青い光。

 

遠くから見ればそれが大きな魔法陣だと分かる。

 

その魔法陣の中心に黒いローブの人影が見えた。

 

「……あれ?ゾンビメーカー……ではない……気が……するのですが……」

 

めぐみんが自信なさげに呟くが、関係ない。死者の冒涜をするというならそれは敵だろう?強敵の気配にテンションが上がり至る所が疼くミコトの身体を無理矢理抑え込んで隊列を崩さぬように心がける。

 

「突っ込むか?ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓場にいる異常、アンデッドには違いないだろう。なら、アクアがいれば問題ない」

 

横を見てみるとダクネスが大剣を胸にかかえソワソワしている。……これはミコトの疼きとはまた違うタイプの疼きなんだろうなぁ…。

 

「あーーーーーっ!?」

 

突然大声をあげたアクアは何を思ったのか立ち上がり、墓場に向けて全力疾走し始めた。

 

あの駄女神…!

 

「私が我慢していたのになんということを……!カズマ、私はアクアの援護に向かう!こうなったら向こうにもばれているはずだ!」

 

「ちょっ!おい待てお前ら!」

 

前傾姿勢のまま走りながらコウリュウノツガイを背中から引き抜き、墓場に到着すると、

 

 

「や、やめやめ、やめてぇぇぇ!誰なの!?いきなり現れて、なぜ私の魔法陣を壊そうとするの!?やめて!やめてください!」

「うっさい!黙りなさいアンデッド!どうせこの妖しげな魔法陣でロクでもないこと企んでるんでしょ、なによ、こんな物!こんな物!!」

 

チンピラがそこにいた。()()()()の女性に泣きながらしがみつかれてもなお足元の魔法陣を踏みにじるチンピラが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

萎えた。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

とりあえずチンピラ(女神)を縛り上げ、涙目になっているアンデット――ウィズに話を聞く。

 

実はこのアンデット、普通に街の中にあるとある魔道具店の店主だったりする。特徴もほとんど一致するし、チンピラを捕縛したときに「ミコトさん」を言われたからな。確実に知り合いだ。

 

彼女の仕入れてくる商品はいわゆる外れ。イロモノが多いのだが、爆発系のポーションは普通に使えるから買ってるが。

 

さて、俺は先ほどまで狩人としてのテンションが上がりすぎて好戦的になっていたが、冷静になった今、狩人モードから尋問モードに切り替えていた。

 

「まさかウィズがアンデットとは思わなかったが……、まぁそこはどうでもいい。ギルドの依頼にあったゾンビメーカーってのはウィズのことか?」

 

「は、はい…。多分そうです…」

 

「で?何しようとしてたんだ?アクアが言ってた通りよからぬことを考えてるようなら私たちはウィズを討伐しないといけないんだが」

 

身体から錬気を滾らせてたら質問を始めた時点でウィズは怯えたような涙目で、カズマ達は恐ろしいものを見る目で俺を見てくる。ハハハ、こわくなーいこわくなーい。

 

「……先程言った通り私はリッチー。ノーライフキング、アンデット達の王なんて呼ばれてるくらいですから、私には迷える魂たちの声が聞こえるんです。この共同墓地の魂の多くはお金が無いためにロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なく毎晩墓地をさまよっていました。それで、一応アンデットの王の私としては、定期的にここを訪れ、天に還りたがってる子たちを送ってあげていたんです」

 

なんだ、根っからの善人じゃないか。これじゃ討伐なんてできないな。罪悪感が凄いことになりそうだ。

 

身に纏わせていた錬気を発散させ、アクアを押さえつけた時に眼前に突き刺したままにしていた『コウリュウノツガイ』の金の方を引き抜く。引き抜くときも白い炎が発生して綺麗だな。ちなみにアクアは恐怖かなにかを強く感じたのか気絶してしまった。

 

「……えっと、それは立派なことだし善い行いだとは思うんだが…。アクアじゃないけどさ、そういうことは街のプリーストに任せたらどうだ?」

 

「そ、その……。この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえその、お金が無い人たちは後回し……といいますか、その……」

 

「つまり、この街のプリーストは金もうけ優先の奴がほとんどで、こんな金のない連中が埋葬されている共同墓地なんて、供養どころか寄り付きもしないってことか?」

 

「え…………。えと、そ、そうです」

 

その場にいる全員の目線がアクアに向くが、白目をむいて気絶しているアクアは何もできない。正直やりすぎたと思ってる。

 

「それならまぁ、しょうがない。でも、ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか?俺達がここにいるのって、ゾンビメーカーが出たから討伐してくれって依頼を請けたからなんだが」

 

「あ……そうでしたか……。その、呼び起こしている訳ではなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬される人たちが、迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由もなくなるんですが……。………えっと、どうすればいいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

墓地からの帰り道。

 

未だに気絶したままのアクアをカズマが背負い、道を横に並んで帰る。

 

「――しかし、リッチーが街で普通に生活してるとか、この街の警備はどうなってるんだ」

 

カズマはウィズに貰った紙を見ながらぼやく。紙にはウィズの魔法具店の住所が書かれている。

 

「でも、穏便に済んでよかったです。いくらアクアとミコトがいると言っても相手はリッチー。もし戦闘になっていたら私とカズマは確実に死んでましたよ」

 

「げ、リッチーってそんなに危険なモンスターなのか?ひょっとしてやばかった?」

 

「やばいなんてものじゃないです。リッチーは強力な魔法防御、そして魔法のかかった武器以外の攻撃の無力化。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収するアンデットモンスター。ミコトの武器ならひょっとしたら攻撃が当たるかもしれませんが、それでもきつかったと思いますよ」

 

「マジか……。そういえばミコトの身体から出てた赤いオーラって何だったんだ?」

 

「……あれは太刀と双剣で使える高等技術、『錬気』だ。体内エネルギーを一点に集中することで何倍もの力を生み出すことができる。例えば小枝とかの脆く、細い物でも棍棒程度なら切り落とすことができる」

 

「すげー……。……あれ、ギルドカードに表示されない…」

 

「あれを1日やそこらで手に入れられたら私が困る。私でも1ヵ月かかったのだからな、あれの習得は」

 

「なんかトンデモな技術ってことは分かった」

 

「……そういえば、ゾンビメーカー討伐はどうなるのだ?」

「「「あっ」」」

 

ダクネスの一言で思い出したが、依頼失敗だなこれ。

 

………。

 

「カズマ、私は今からでも討伐依頼に行く。今日の昼からの行動は悪いが不参加になると思う」

 

「え、なんでだ?しっかり休んだ方がいいんじゃないか?」

 

「強敵と戦える機会を逃したことでかなりストレスが溜まっていてな。ちょっと全力で『狩り』をしてくる……!」

 

「……お気をつけて」

 

その時の俺を見るカズマの目は、何かを裏切られたような絶望した目だった。



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解消

ウィズとの話し合いの後、俺は本気の装備でギルドの掲示板で一番難易度の高いクエストをこなした。ミコトの顔は、多分これ以上ないくらいに快感に溺れていると思う。なんか紅潮とかしてたら人に見られたときに大変そうだな。

 

……それにしても、身体の疼きを収めるためとはいえ、ミコトの身体能力と闘争本能に身を任せたらこうなるのかと周りの状態を再確認する。

 

今俺が腰かけているのは今回のターゲット、『隻眼』とかいう通り名のついた特別個体の一撃熊で、その周りを取り巻きだった一撃熊と血の匂いに寄せられたモンスターの死体が埋め尽くしている。

この取り巻きの一撃熊も通常の一撃熊に比べたら攻撃力とかも遥かに違い、振り下ろした腕が地面を深くえぐるくらいは当然のようだった。

今回ミコトを大いに満足させた隻眼はどういう原理かは知らんが振り下ろした腕が爆発してびっくりした。なんかブラキディオスの怒り時みたいな攻撃を毎回してくるから避けるの大変だった。まぁ、全部よければ問題ないんだがな。

 

……剥ぎとり、するか。

 

腰を掛けていた隻眼の腕から身体を離し、腰に携帯しているナイフを抜く。

 

このナイフはハンターが最初から持っている最強の武器。剥ぎ取りナイフだ。どんなモンスターの甲殻でも抵抗なく剥ぎ取れるからな。古龍の強靭な甲殻を易々と切り取るんだから間違いなく最強の武器だ。

 

とりあえずナイフを使って隻眼の使えそうな部位、と言っても爪と牙くらいしかないがまぁ無いよりマシだ。換金すれば多少の値段は付くだろう。

 

さて、ここの血の匂いは戦闘中にふざけてぶつけたマタタビ爆弾の匂いが消えるくらいには濃いし、新しいモンスターが来る前に帰るかな。もし新しいモンスターが来たとしても狩るだけだが、さすがに疲れたから少しは苦戦しそうだ。

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

それから特に何もなく、昼過ぎには冒険者ギルドに帰ってくることができた。受付嬢にありえない物を見る目で見られたが気にしない。軽く風呂に入ってから防具に付いた血をテーブルで拭き取っていると、カズマが別のパーティーと話しているのが見えた。少し離れたところに不安げな表情のめぐみん達がいるが、どうしたのだろうか。

 

とりあえずまだ血の残る防具を担ぎ、めぐみん達のいるテーブルに向かう。

 

「おはよう。何をしてるんだ?」

 

「あ、ミコト。今日は何を狩りに行っていたのですか?狩りに行くとは言っていましたが、大丈夫でしたか?」

 

「あぁ、北の山に生息する特別個体(ネームド)だ。それなりに楽しめたぞ」

 

「北の山の特別個体って……『隻眼』ですか!?」

 

「そうだな。爪と牙を剥ぎ取ってきたがいるか?」

 

「いえ…いいです。それにしてもよく倒せましたね。隻眼といえば王都のパーティーが全滅させられたことで有名ですよ?攻撃を避けても爆風で酷い目にあうとかで」

 

「なに、似たようなモンスターを狩ったことがあるだけだ。…もっとデカいのをな」

 

「何ですか?ミコトの故郷は魔境ですか?ミコトがおかしいだけなんですか?」

 

「それが普通の島だったから魔境は否定しないが……。私は故郷では下の上くらいの実力だぞ?」

 

「!?」

 

そんなことを話していると、カズマが他の冒険者たちとの会話を切り上げて戻ってきた。

 

「おぉ、ミコト戻ってたのか。……どうした?お前ら。俺を、そんな変な目で見て」

 

俺以外の3人はテーブルの中心に置かれた野菜スティックを食べながらカズマをじっと見ていた。先ほどまで俺と話していためぐみんも同様に。

 

「別にー?カズマが、他のパーティーに入ったりしないか心配なんてしてないしー」

 

……あぁ、なるほど。このパーティーの常識人でまとめ役のカズマがいなくなったら何が起こるか分からないから心配してたのか。カズマが抜けたら阿呆と馬鹿と変態と戦闘狂しかいなくなるしな。

 

「……?いや、情報収集は冒険者の基本だろうが」

 

軽くめぐみんの方によって席を開けてやるとカズマはそこに座り、野菜スティックに手を伸ばし、逃げられる。

 

「何やってんのよカズマ」

 

アクアはテーブルをバンと叩き、野菜を驚かせてから1本抜き取る。

 

……いや、野菜が驚くってのもシュールだが、こうしないとこの世界の新鮮な野菜スティックは逃げるんだよ。

 

「……むぅ。楽しそうですね。楽しそうでしたねカズマ。他のパーティーのメンバーと随分親しげでしたね?」

 

めぐみんは拳を作って乱暴に机を叩き、怯ませた野菜を摘まんだ。

 

「……なんだこの新感覚は?カズマが他所のパーティーで仲良くやっている姿を見ると胸がもやもやする反面、何か、新たな快感が……。もしや、これが噂の寝取られ……?」

 

何かもう処置の施しようのないレベルの変態が何かを言いながらコップのフチを指で弾き、そのままスティックを口に運ぶ。

 

「冒険者同士のコミュニケーションなのだからそれほど気にしなくてもいいだろう?私だって情報収集は偶にするしな」

 

特に驚かせるような事は何もせずにスティックに手を伸ばす。親指と人差し指で挟みこむようにして取る素振りをし、逃げようと身をよじったところを中指で絡めとる。

 

うん。うまい。

 

「そうそう。こういう場所での情報収集は基本だろ。思わぬ話が聞けて楽しいぞ」

 

カズマは机を叩いて野菜スティックを取ろうと再び手を伸ばす。

 

ヒョイッ。

 

「……………………だあああらっしゃあああああ!」

 

「や、やめてぇ!私の野菜スティックになにすんの!た、食べ物を粗末にするのはいくない!」

 

スティックを掴み損ねた手でそのままスティックが入ったコップを掴み、振り上げたカズマをアクアが制止する。

 

「野菜スティックごときに舐められてたまるか!てゆーか今更突っ込むのもなんだけが、なんで野菜が逃げるんだよ。ちゃんと仕留めたやつを出せよ」

 

「何言ってんの。お魚も野菜も、なんだって新鮮なほうが美味しいでしょ?活き作りって知らないの?」

 

こんな活き作りがあってたまるか。

 

「はぁ……。まぁ、野菜はどうでもいい。それよりお前らに聞きたいことがあるんだよ。レベルが上がったら、次はどんなスキルを覚えようかと思ってな。ハッキリ言ってバランスが悪すぎるからな、このパーティーは。自由の利く俺と戦闘に関しては万能なミコトが穴を埋める感じで行きたいんだが……。そういえばお前らのスキルってどんな感じなんだ?」

 

なるほど。ゲームでも重要なお互いの役割分担だな。俺もモンハンのフレンドとやるときはそんな感じで役割決めてやってるぞ。……まぁ、大抵役割から逸脱したことやるんだが。

 

ということで一番にダクネスが口を開く。

 

「私は『物理耐性』と『魔法耐性』、各種『状態異常耐性』で占めてるな。あとはデコイという、囮になるスキルくらいだ」

 

「……『両手剣』とか覚えて、武器の命中率を上げる気はないのか?」

 

「ない。私は言っては何だが、体力と筋力はある。攻撃が簡単に当たるようになってしまっては、無傷でモンスターを倒せるようになってしまう。かといって、手加減してわざと攻撃を受けるのは違うのだ。こう……、必死に剣を振るうが当たらず、力及ばず圧倒されてしまうのが気持ちいい」

「もういい、お前は黙ってろ」

 

「……ん……っ!自分から聞いておいてこの仕打ち……」

 

この変態は平常運転だな。だが俺の攻撃でもダメージ少なそうだから怖いんだよな。俺ドM苦手だし。

 

ダクネスとカズマの会話が終わると、めぐみんが小首をかしげながら続ける。

 

「私はもちろん爆裂系スキルです。『爆裂魔法』に『爆裂魔法威力上昇』、『高速詠唱』など。最高の『爆裂魔法』を放つためのスキル振りです。これまでも。もちろん、これからも」

 

「……どう間違っても、『中級魔法』スキルとかは取る気はないのか?」

「無いです」

 

一切迷いのない即答だったな。こいつをここまでにしたのって一体何なんだよ……。

 

おっと、俺も言っとかないとな。

 

「私は『大剣』、『太刀』、『片手剣』、『双剣』、『ハンマー』、『ランス』、『ガンランス』、『スラッシュアックス』の近接武器の扱いやすさを上げるスキルと『ボウガン』、『弓』の遠距離攻撃の精度を高めるスキル。爆音とかから鼓膜を保護する『耳栓』、回避時の一瞬だけ無敵になれる『回避性能+1』、気温の違いによる無駄な体力消費を抑える『寒さ無効』、モンスターの部位が壊しやすくなる『破壊王』。さっき狩ってきたモンスターの分でレベルが2上がったから『攻撃UP【小】』でも取ろうかと思っている」

 

「この中で一番モンスターの相手上手いんだよな…一番まともなスキル構成だろうし」

 

(精神)はまぁ、まともだと自覚してるが、ミコト(身体)は欲求不満で獣みたいになるからまともじゃないなぁ。ある程度までなら精神力で抑え込めるだけいいけど。

 

「えっと、私は……」

 

「お前はいい」

 

「ええっ!?」

 

自分のスキルを話そうとしたアクアをカズマが制止する。まぁ、どうせ《宴会芸》とアークプリーストのスキル全部だろうから、聞くまでもないよな。

 

アクアの行いというか、今までの生活を見てきてもアークプリーストとして働いてるのってあんまり見ないよな。せいぜい大道芸人みたいなことしてるくらいだ。

 

「なんでこう、まとまりが無いんだよこのパーティーは……本当に移籍を……」

「「「「!?」」」」

 

カズマの小さな呟きを聞いた俺は少し固まる。

おいおいカズマ、お前には居てもらいたいぞ。じゃないとこの問題児たちの制御はどうすんだ。

 

アクアは自分の実力を上手く掴んでないから速攻でやられるだろうし、めぐみんは1発撃ったら倒れるし、ダクネスは変態だし。俺は欲求不満になったら強敵を狩りに行くぐらいには暴走するぞ?

 

いや、別に止めはしないさ。ただちょっと《この街で一番頭のおかしいヤツが集まるパーティーのリーダー》をやってたって噂が出るだけだしな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局その日は適当なモンスターの討伐にしかいかなかった。事前にミコトのストレスを解消させていたからか、とても落ち着いた行動ができるようになっていた。

 

……そういえば、防具とかもう付けなくてもいいような気がしてきた。当たらなかったらどうにでもなるし、今回の隻眼も頬を少し切る程度のケガで済んだしな。

嫌な予感がした日だけ着用するようにしよう。

毎回防具を掃除するのも大変だしな。



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報酬

例のキャベツ収穫クエストから数日が経過した。

 

キャベツの収穫分の報酬が冒険者たちに支払われ、少しだけ俺の財布の重量が増した。具体的にはこの世界に来てからの報酬、食費、その他をいろいろトータルして大体+420万。合計で約600万。……あのな?俺だってこの数値は可笑しいと思うよ?でもしょうがないだろ。この前狩った『隻眼』にかけられていた賞金と成功報酬、キャベツの捕獲、モンスターの素材の売却、約2ヵ月も続けてたらそんな値段にもなるわ。

 

……もうこれそれなりにデカい家買えるんじゃねぇのかな?でもデカくても人がいないと寂しいよな。…とりあえず保留だ。今の荷車でも快適と言えば快適なんだし、俺はデカい買い物に踏み込めないヘタレだからな。あ、そうそう、財布の容量が最近本気で足りないからギルドに預かってもらってる。なんかここ銀行の役割も担ってるらしい。ありがたや。

 

「カズマ、ミコト、見てくれ。報酬が良かったから、修理を頼んでいた鎧を少し強化してみた。……どう思う?」

 

そんなことを考えていると、新しく鎧を強化したというダクネスが装備披露をしてきた。正直どこが変わったとか分かんねぇよ。首元に羽みたいなのが付いたのか?いや、あれは元々あったような気も…。そうだな、とりあえず、

 

「なんか、成金主義の貴族のボンボンが着けてる鎧みたい」

「以下同文」

 

「……2人はどんな時でも容赦ないな。私だって素直に褒めてもらいたい時もあるのだが」

 

「今はお前より酷いのがいるから、構ってやれる余裕はないぞ。お前を越えそうなそこの変態を何とかしろよ」

 

「ハァ……ハァ……。た、たまらない、たまらないです!魔力溢れるマタナイト製の杖のこの色艶……。ハァ……ハァ……」

 

カズマが指さした先には新調した杖を股で挟み発情するめぐみん(変態)がいた。

 

爆裂魔法を愛してやまないめぐみんが聞いてもいないのにしてくれた解説によると、魔力の強化が行える魔法具的な希少金属を杖の先端に付けたことで魔法攻撃の威力をさらに何割か上昇するらしい。

 

まだ強化された爆裂魔法を見ていないから威力の解説はできないが、G級のモンスターでも中型までなら取り巻きごと即死させれる威力があるのかもしれない。……もしそれだけの威力があったとしてもモンハン世界では絶対に放たせれないな。そもそも生態系を保ったりするのがハンターの本来の仕事らしいし。

 

というか、砂原と水没林以外で撃たせてたまるか。渓流は景観が台無しに、凍土は雪崩の危険性、火山はただでさえ噴火し続けてるのにこれ以上刺激したくない。

…いや待て、それだと砂原も水没林も景観が…「なんですってええええ!?ちょっとあんたどういう事よっ!」…いかんいかん。また思考の海に潜るところだった。最近多くなったよな、考え込むの。なんでだろ。

 

それはそれとして、ギルド内に響き渡った怒号は案の定アクアが発したものだった。もはや顔見知りになった受付嬢のルナさんの胸倉を掴んでいちゃもんをつけている。

 

「何で5万ぽっちなのよ!どれだけキャベツ捕まえたと思ってんの!?10や20じゃないはずよ!」

 

「そ、それが大変申し上げにくいのですが……」

 

「何よ!」

 

「……アクアさんの捕まえてきたもののほとんどがレタスでして…」

 

「………なんでレタスが混じってるのよー!」

 

「わ、私に言われましてもっ!」

 

どうやらアクアがいちゃもんを付けていたのは報酬が思ったよりなかったからか。それにしてもキャベツとレタスって簡単に見分け付くだろ……。というかなんでキャベツは高くてレタスは安いんだよ。農家に謝れ。

 

その後、何分間かアクアをルナさんの口論(ルナさんは終始困った顔)を続けていたが、どうやらどれほど言っても無駄と思ったらしく、後ろに手を組み、あざとく笑顔を向けながらこちらに近づいてきた。

 

「カーズマさん!今回のクエストの、報酬はおいくら万円?」

 

「100万ちょい」

 

「「「ひゃっ!?」」」

「……」

 

そういえばカズマは『潜伏』と『窃盗』で華麗なるキャベツ泥棒(効率よく収穫)してたんだもんな。その分金も入るだろう。…俺の報酬が90万ちょい。クッソ、負けた。特に何も賭けてない勝手な勝負だったけど僅差で負けたな。

 

というかアクアの目が獣みたいに光ってるんだけど。金の亡者の目か。

 

「カズマ様ー!前から思ってたけれど、あなたってその、そこはかとなく良い感じよね!」

 

「特に褒める所が思い浮かばないなら無理すんな。言っとくが、この金の使い道はもう決めてるからな、分けんぞ」

 

「カズマさああああああああん!私、クエスト報酬が相当な額になるって踏んで、この数日で、持ってたお金、全部使っちゃったんですけど!ていうか大金入ってくるって見込んで、ここの酒場に10万近いツケまであるんですけど!!今回の報酬じゃ、足りないんですけど!」

 

半泣きでカズマに縋りつくアクアを横目に酒場の中を見渡すと、柄の悪い男たちがこちらを見ていた。…これはあれか、「金が無いんなら身体で払ってもらわないとなぁ?(アルバイト的な意味で)」とか、そういうものか。いくら美人と言ってもこの女は誰も抱きたくないっていうだろ、外見で判断する奴は引っかかると思うが。

 

「知るか、そもそも今回の報酬は『それぞれが手に入れた報酬をそのままに』って言いだしたのはお前だろ。というか、いい加減拠点を手に入れたいんだよ。いつまでも馬小屋暮らしじゃ落ち着かないだろ?」

 

泣きつくアクアを突き放すカズマ。何も事情を知らないヤツから見ると冷たい印象を持つかもしれないが、今回は全面的にアクアが悪いな。計画性の無さ…というか知力値の低さが仇となったな。絶対サバイブできないわアクアは。

 

ところで、カズマも俺と同じく拠点を手に入れようとしてたのか。向こうが良ければだが、デカい屋敷を買って同居でもするかな。どうせ襲うだけの度胸ないだろうし。

 

「そんなあああああ!カズマ、お願いよ、お金貸して!ツケ払う分だけでいいからぁ!そりゃカズマも男の子だし、馬小屋で偶に夜中にゴソゴソしてるの知ってるから、早くプライベートな空間が欲しいのはわかるけど!5万!5万でいいの!お願いよおおおお!」

「よし分かった、5万でも10万でも安いもんだ!分かったから黙ろうか!」

 

「……あー、まぁ、カズマも男だしな。そう言ったことも必要だろう。それはそうと、拠点を手に入れたいなら私も手伝うぞ。私も欲しかったんだ」

 

「やめろ!申し出は嬉しいけど、その生暖かい視線をやめてくれ!マジで!」

 

アクアの公開処刑じみた発言は多分カズマじゃなくても、というか全ての男がこういう反応すると思う。流石の俺もカズマに同情するわ。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

「カズマ、討伐に行きましょう!それも、たくさんの雑魚モンスターがいるヤツです!新調した杖の威力を試すのです!」

「いいえ、お金になるクエストをやりましょう!ツケを払ったから今日のご飯代も無いの!」

「いや、ここは強敵を狙うべきだ!一撃が重くて気持ちいい、すごく強いモンスターを……!」

「個人的にはダクネスに賛成だが、カズマ達のレベルを考えると難しいな。…また今度個人的に行かせてもらおう」

 

「…とりあえず掲示板の依頼を見てから決めようぜ」

 

と依頼掲示板に目を向けるが、いつもは所狭しと大量に張られている依頼の紙が、今はドクロマークの高難度依頼が数枚あるだけだ。

 

「……あれ?なんだこれ、依頼がほとんどないじゃないか」

 

「カズマ!これにしようではないか!山に出没するブラックファングと呼ばれる巨大熊を……」

 

「却下だ却下!お前とミコトはいいかもしれんが俺らは即死するわそんなの!なんか他の…――おいなんだこれ!高難度のクエストしか残ってないぞ!」

 

確かに、今日は異様に少ないな。昨日もすこし数が減っていたし……なんかあったっけ……。

 

「ええと、申し訳ありません。最近、魔王の幹部らしき者が、街の近くの古城に住み着きまして……。その魔王の幹部の影響か、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しております。来月には国の首都から幹部討伐のために騎士団が派遣されるので、それまでは、そこに残っている高難度のお仕事しか……」

 

「な、何でよおおおおっ!?」

 

これがアクアの不幸体質の賜物なら凄いな。同情しかできない。

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

「全く……!なんでこのタイミングで引っ越してくるのよ!幹部だか何だか知らないけど、もしアンデッドなら見てなさいよ!」

 

アクアが涙目で愚痴りながらバイト案内雑誌をめくっていた。

 

他の冒険者の様子を見ると、皆同じような表情で酒を昼間から飲んだくれる人の数が多い気もする。確かこの街は冒険初心者の街。名前の通り初心者が技術を少しでも高めようと修業しに来るような場所だ。

 

……何にせよ、カズマ達が動けないなら俺がパーティーとして狩りに行くわけにもいかないし、難度の高い依頼をするとしたら遠くまで出かけることになる。あれ早朝に起きて移動しないといけないから面倒なんだよな。

 

とにかくいろいろと邪魔だからさっさと帰ってくれないかな。討伐しようにも、もし人型だったら俺は倒せないし。ウィズの時みたいに欲求不満で暴走しかけてる時とか、街に攻めてきて応戦しないといけない時ならともかく、今のストレスがあんまり溜まってない状態で来られても困る。今のところこっちに攻め込む気もないようだからこっちから討伐に行く気にもならないしな。

 

 

あー、めんどくせぇ。

 

 

 

「カズマ。ちょっと行ってくる」

 

「え?どこ行くんだ?」

 

「え、さっきの巨大熊討伐だけど」

「私も行くぞ!」

 

「…まぁ、いいか。全力で盾にするけど問題ないな?」

 

「むしろ望むところだ!存分にこき使ってくれ!」

 

「……気をつけてなー」



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デュラハン

最近FGOにハマってしまいました


ギルドから(カズマ達が無事に終わりそうな)依頼が消えてから1週間が経過した。

 

あれから俺とダクネスは極力休憩をとることを意識しながら狩りに行き続けた。ダクネスは終盤武器を持ち込むことすらしなくなったが、ネクロマンサーの討伐の時はしっかり防具を着込んできていた。アンデッドには厳しいんだな。

 

カズマに「危ないとか考えないのか?」と聞かれたことがあったが、他の冒険者が請ける気が無いクエストを消化してしまえば報酬もいいだろうし、何より愉しいと答えるとありえない物を見る目を向けられた。――アクアたちを見る目だったなアレは…。解せる。

 

そういえば問題のアクアだが、毎日きちんとアルバイトに励んでいた。この前冷やかしで店に行ってやったが、意外と客引きの才能があるようで気が付いたらコロッケを買わされた。話術が凄いってわけじゃないんだが……なんでだろうな。

 

最後に、『進化した爆裂魔法の威力を試したい』と言っていためぐみん(爆裂狂)は最近いい的を見つけたから毎日そこに爆裂魔法を撃ちこんでいると言っていた。めぐみんが倒れた後は一緒についてきていたカズマが運ぶというのが日課になっているようだった。

 

そんなこんなで日常を満喫していると、キャベツ収穫の時のように街中に緊急アナウンスが響き渡った。しかしキャベツの時のように喜びの声ではなく、どこか危機感のあるアナウンスだったのは杞憂ではないだろう。

 

なぜなら、正門前に到着した俺達を待ち構えるように漆黒の鎧を着た騎士が、左脇に自身の首を抱え、同じく首のない黒い馬に乗っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

所謂デュラハンというものだろう。

 

首を切り落とされた騎士が怨念を抱きつつ死に、悪霊化した結果だったか?確か生前を凌駕する肉体と特殊能力を持っているとか。馬の方はよく分からんが、デュラハンが乗っているということそれなりには強いんだろう。

 

 

――あ、待て。動くなミコト。意識すんな。別にアンデッドだから何してもいい訳じゃないから。

 

俺がバーサーカーと化しつつあるミコトの身体を精神力で丸め込んでいると、デュラハンは口を開く。

 

「……俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが…………ま、まままま毎日毎日毎日毎日っっ!!おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ちこんでく頭のおかしい大馬鹿は、誰だああああああー!!」

 

Hey, hey, calm down.(おいおい、落ち着けよ)

 

この魔王軍幹部のデュラハンは相当お怒りのようだが、落ち着いてほしい。いくら先ほどまで立っているだけでも威圧感が滲み出る実力者でも、そんな理性を無くしたように叫ばなくてもいいではないか。ギャップが酷いぞギャップが。というか雷がいいところで落ちたな、こいつもしかして天候操作してんじゃね?ってくらいタイミングがよかったぞ。

 

いや、それはどうでもいいか。とにかく今の言葉で犯人が確定した。というか自分で言ってたしな。「城に撃ち込んでる」って言ってたもんな。ナイスゥ!これで襲い掛かってきたら正当防衛成り立つよな?

 

なにはともあれ俺達が朝早くに正門に呼び出されたのはこのデュラハン、というかめぐみんのせいか。

 

周りの冒険者たちもそれに気づいたようで、「……爆裂魔法?」「爆裂魔法って言ったら……」「爆裂魔法を使えるヤツって言ったら……」と自然とめぐみんの方へ視線が集まった。

 

「……」

 

周りの視線に耐えれなかったのか、めぐみんはフイッと自分の隣にいた魔法使いっぽい子を見る。それに釣られて他の冒険者がその子を見る。

 

「えぇっ!?あ、あたし!?なんであたしが見られてんのっ!?爆裂魔法なんて使えないよっ!」

 

あらぬ誤解をかけられ慌てる魔法使いの子。かわいそうに。

 

なにやってんだお前とめぐみんに視線を戻すと、その額には汗が浮かんでいた。

やがてめぐみんはため息を吐き、嫌そうな顔をして前に出る。

 

俺を含めたパーティー全員も前に出る。以前は依頼の数を減らした相手がアンデッドなら見てろと息巻いていたアクアは、この怒り狂うアンデッドに興味津々のようで事の成り行きを見守っていた。

 

「お前が……!お前が、毎日毎日俺の城に爆裂魔法ぶち込んでいく大馬鹿者か!俺が魔王幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら、堂々と城を攻めてくるがいい!その気がないのなら、街で震えているがいい!何故こんな陰湿な嫌がらせをする!?この街には低レベルの冒険者しかいないことは知っている!どうせ雑魚しかいない街だと放置しておれば、調子に乗って毎日毎日ポンポンポンポン撃ち込みにきおって……っ!頭おかしいんじゃないのか、貴様っ!」

 

……うん。怒るわそりゃ。俺だって苦情言いに来るわ。

 

デュラハンの怒りを正面から受け止めためぐみんは、若干怯んだようだが、肩のマントをひるがえし…

 

「我が名はめぐみん。アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者……!」

 

「……めぐみんってなんだ。馬鹿にしてんのか?」

 

「ちっ、違わい!」

 

なんか、緊張感が無いよな。魔王軍幹部との会話ってよりは漫才見てるみたいだわ。

 

「我は紅魔族の者にして、この街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、魔王軍幹部のあなたをおびき出すための作戦……!こうしてまんまとこの街に、1人で出てきたのが運の尽きです!」

 

「――おい、あいつあんな事言ってるぞ。毎日爆裂魔法撃たなきゃ死ぬとか駄々こねるから、仕方なくあの城の近くまで連れて行ってやったのに、いつの間に作戦になったんだ」

 

「――うむ。しかもさらっと、この街随一の魔法使いとか言い張ってるな」

 

「しー!そこは黙ってあげなさいよ!今日はまだ爆裂魔法撃ってないし、後ろにたくさんの冒険者が控えてるから強気なのよ。今いいところあんだから、このまま見守るのよ!」

 

「……どうでもいいけど、斬りかかっていいのか悪いのか教えてくれよ」

 

「行くなよ?」

「チッ」

 

俺達の、というかカズマ達のささやきを聞いてめぐみんは片手で杖を突きつけたポーズのまま顔が赤くなる。

 

肝心のデュラハンは勝手に納得したような雰囲気を出している。

 

「……ほう、紅魔の者か。なるほど、。そのいかれた名前は、別に俺を馬鹿にしていたわけではなかったのだな」

 

「おい、両親からもらった私の名に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

あだ名にしか聞こえないめぐみんの名前に納得して頷いているデュラハンは、今も正門前で警戒心を最大にしている冒険者たちを一切気にしていないように見える。

まぁ、仮にも魔王軍の幹部だし、見た目からしても全線で戦うような奴だろうからな。この街の冒険者なんて警戒の対象のもならないんだろう。

 

……なんかこっちチラチラ見てきてるような気もするが、あれは何だ?警戒の印か?

 

「………ふん、まあいい。俺はお前らザコにちょっかいかけにこの地に来たわけではない。この地には、ある調査に来たのだ。しばらくはあの城に滞在することになるだろうが、これからは爆裂魔法を使うな。いいな?」

 

「それは、私に死ねと言っているも同然なのですが。紅魔族は日に1度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

 

「お、おい、聞いたことないぞそんな事!適当な嘘をつくな!」

 

おいおい、今の「ハイ分かりましたすいませーん」で済んでただろ。なんで火に油注ぐようなこと言うかねこの子は。(歓喜)

 

「どうあっても、爆裂魔法を撃つのを止める気は無いと?俺は魔に身を落としたものではあるが、元は騎士だ。弱者を刈り取る趣味は無い。だが、これ以上城の周辺であの迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ?」

 

「迷惑なのは私たちの方です!あなたがあの城に居座ってるせいで、私たちは仕事もろくにできないんですよ!……フッ、余裕ぶっていられるのも今の内です。こちらには、対アンデッドのスペシャリストとモンスター絶対殺すウーマンがいるのですから!先生方、お願いします!」

 

「そのあだ名苦手だからやめてくれない?」

 

こいつ、煽るだけ煽ってこっちに丸投げしやがった。まぁ、今の武器は片手剣だから、こいつがどんだけ強くてもどうにかなるかもしれないけど…。

 

「しょうがないわね!魔王の幹部だか知らないけど、この街に私がいるときに来るとは運が悪かったわね。アンデッドのくせに、力が弱まるこんな明るい内に外に出てきちゃうなんて、浄化してくださいって言ってるようなものだわ!あんたのせいでまともなクエストが請けられないのよ!さぁ、覚悟はいいかしらっ!?」

 

「どうでもいいけどこっちに来るってことは敵だな?その首置いてけよ、なぁ首置いてけよ」

 

腰に装備していた『デストルクジオ』を抜き放ちながらアクアと一緒にデュラハンの前に出る。アクアは浄化魔法を放つためか片手を前に突き出す。

 

「ほう、これはこれは、プリースト……いや、アークプリーストと……職業はわからんが相当の実力者とお見受けする。この俺は仮にも魔王軍の幹部の一人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないが……お前たちと戦っているほど暇でもないのだ。……そうだな、ここは1つ、紅魔族の娘を苦しませてやろうかっ!」

 

デュラハンはアクアが魔法を唱えるよりも早く、左手の人差し指をめぐみんへと突き出した。

 

「汝に死の宣告を!お前は1週間後に死ぬだろう!!」

 

デュラハンが呪いを掛けるのと、俺がめぐみんの襟首を掴んで前に出たのは同時だった。

 

「なっ!?ミコト!?」

 

後ろでめぐみんが叫んでいるが、俺の身体に特に不調は無い。……まさか、ハンターの身体がこういう悪影響を受け付けなくなっているのか…?何そのチート。

 

「その呪いは今は何ともない。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が固い貴様ら冒険者には、むしろこちらの方が応えそうだな。……よいか、紅魔族の娘よ。このままではその小娘は1週間後に死ぬ。ククッ、お前の大切な仲間は、それまで死の恐怖に怯え、苦しむことになるのだ…。そう、貴様の行いのせいでな!これより1週間、仲間の苦しむ様を見て、自らの行いを悔いるがいい。クハハハッ、素直に俺の言うことを聞いておけばよかったのだ!」

 

デュラハンは高笑いをしながら馬に乗り城に帰って行った。

 

さて、このデュラハンのかけてきた死の宣告というのは1週間後に対象を殺す呪いだそうだが……。『所有者は人としての生を絶ち、龍としての生を選ばねばならない』とかテキストに書いてあるアルバ武器を持ってる(ハンター)に意味があるんだろうか。

 

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

唐突に俺の身体をアクアの魔法が覆う。

 

「この私にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんて楽勝よ!どう、どう?私だって偶にはプリーストっぽいでしょう?」

 

……?

 

要するに俺にかけられた呪いを解いたってことでいいのか?何だこのダイジェスト。作者のやる気のなさが丸わかr―――ん?なんか思考が飛んだな。何を考えてたんだったか。

 

そうそう、呪いが解けたんだったな。こっちも秘薬系を飲めば何とかなるかもとは思っていたが、魔力消費だけで呪いが解けるならありがたいな。

 

……そういえばこの世界で倒れたらどうなるんだろうな。この世界にはアイルーがいないし、ネコタクは期待しないほうがいいかもな。

 

あのデュラハン、今回は不意打ちで動揺したが、今度会うことがあったら問答無用で斬りかかろう。火属性武器とか効きそうな見た目してるしな。塵も残してやらねぇぞ…




最後適当ですいません


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浄化依頼

例の魔王軍幹部の襲撃からさらに1週間経ったある日のこと。

 

「クエストよ!クエストを請けましょう!」

 

「「えー……」」

 

現在一番懐が寂しいことになっているアクアがクエストを請けようと提案をしてきた。残念ながらカズマとめぐみんはそれなりに所持金があるので乗り気ではなさそうだが、俺的には無問題だ。むしろばっちこい。

 

「私は構わないが。…アクアと私では火力不足だし、ミコト連れて行ったらレベルを上げることができないだろう…」

 

一理ある。俺は巷で流行ってる『モンスター絶対殺すウーマン』とかいうあだ名の通り、モンスターを見たら全力で狩りに行くからな。アクアとかの前線に出て戦わない奴のレベルを上げるには俺が相当手加減して瀕死の状態で転がしとくしかない。昨日日本人転生者っぽい女の子にそれやったらドン引きされたがな。

 

「お、お願いよおおおおお!もうバイトばかりするのは嫌なのよぉ!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は、私、全力で頑張るからぁっ!」

 

「…しょうがねぇなぁ……。じゃあちょっと良さそうだと思うクエスト見つけて来いよ。悪くないのがあったら付いてってやるから。最悪ミコトがいるし」

 

カズマの言葉に嬉々として掲示板に駆け出すアクア。

 

最悪俺がいるってどういう意味なんでしょうかねぇ…と思いつつ監視の意味合いでカズマと一緒に掲示板に向かった。…俺が行っても意味無いってのは自分でもわかってるがな!

 

「…ねぇカズマ。この掲示板ってこんなに張り紙少なかったかしら?」

 

「ん?あー、言われてみれば前見た時はびっしり貼ってあったのに、今はところどころ隙間があるしな」

 

「まったく、早く補充してほしいよな」

 

「「え?」」

 

「え?」

 

カズマとアクアが信じられない者を見るような目で俺を見る。

 

…いや、確かにこの掲示板の強力なモンスターを駆逐したのは俺とそこら辺にいる転生者だが…。8:2くらいの割合で。

でもそんなに驚くことじゃないだろ?

 

「いやいやいや、驚くことだわ。なにサラッと冬の高難度クエスト消化して行ってんの?馬鹿なの?バーサーカーなの?」

 

「私がバイトとかできるわけないじゃん。脳筋だよ?知力最低レベルだよ?」

 

「嘘つけ、お前知力平均より少し上だろうが」

 

「あ、ばれた」

 

カズマとそんな会話をしていると、俺の言葉を聞き流したらしいアクアがカズマの服の袖を興奮気味に引っ張った。

 

「ちょっと、これこれ!これ、見てみなさいよ!」

 

「なになに?…『湖の浄化。街の水源の1つの、湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住みつき始めたので水の浄化を依頼したい。湖の浄化が出来ればモンスターは生息地を他に移すため、モンスター討伐はしなくてもいい。※要浄化魔法習得済みのプリースト。報酬は30万エリス』……お前、水の浄化なんてできるのか?」

 

「バカね、私を誰だと思ってるの?というか、名前や外見のイメージで、私が何を司る女神かくらい分かるでしょう?」

 

「宴会芸の神様だろ?」

 

「違うわよヒキニート!水よ!この美しい水色の瞳とこの髪が見えないの!?」

 

アクアとカズマの漫才は見ていて楽しいな。昔似たようなことを学校でやってたな。文化祭の見世物だったか。

 

「じゃあそれを請ければいいだろ。ていうか、浄化だけならお前1人でもいいんじゃないか?そうすれば報酬は独り占めできるだろ?」

 

「え、ええー……。多分、湖を浄化してるとモンスターが邪魔しに寄って来るわよ?私が浄化を終えるまで、モンスターから守ってほしいんですけど」

 

「えっ」

 

俺はてっきりアクアが1人でできるものと考えていたから出番はないなと別の依頼を手に取っていたんだが……。

 

「…ちなみに浄化ってどのくらいで終わるんだ?1時間くらい?」

 

「…………半日くらい?」

 

「長えよ!」

 

「ああっ!お願い、お願いよぉぉっ!他にはろくなクエストが無いの!協力してよカズマさーん!」

 

掲示板に張り紙を戻そうとするカズマの腕にアクアが縋りつく。

 

「……なぁ。浄化ってどうやってやるんだ?」

 

「……へ?水の浄化は、私が水に手を触れて浄化魔法でもかけ続けてやればいいんだけど……」

 

「…………おいアクア。多分、安全に浄化できる手があるんだが、お前、やってみるか?」

 

 

 

 

 

 

○○○○○○

 

 

 

街から少し離れたところにある大きな湖。その湖は依頼の通り水没林の水レベルで濁っており、確かにこれは浄化が必要だなと思わせる。

 

さて、そんな湖での今日の俺の装備だが、自分でも趣味が悪いと思う程の銀色の鱗で覆われた装備だ。

 

この装備はリオレウス希少種。通称『空の王者』の希少個体の素材をふんだんに使ったものだ。

発動スキルは《弱点特攻》《業物》《火属性攻撃強化+2》《体力回復量DOWN》。要するに薬草とかの効き目が薄くなる代わりに火属性の武器の威力が上がって武器が鋭くなるってことだな。攻撃特化な感じだ。

 

武器は双剣、『コウリュウノツガイ』。これもリオレウス希少種の素材と、その妻的な立ち位置のリオレイア希少種の素材を使った武器だ。手数は稼げるから大型モンスターでも一気に消耗させれるな。

 

あぁ、こんな水辺になんで火属性の武器を持ち込んだのかっていうと、水生モンスターは火に弱いからだな(モンハン知識)

なんでかは俺も知らん。でも大体火に弱い。これ常識。

 

俺は後ろで巨大な檻の中に入ってティーバックがどうこうと言っている女神に声をかけて湖に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

今回の俺の仕事は浄化中に邪魔をしにやってくるモンスターをできる限り討伐し、アクアへの被害を減らすことだ。…と言ってもモンスターが浄化されていることに気付くまで時間があるだろうから、暫くは水面に浮かんで水に慣れないとな。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

アクアが湖に設置されて2時間が経過した。モンスターが襲い掛かってくる気配はまだないので、水の中で素振りをしたりして少し遊んでいたころ。カズマから声がかかった。

 

「おーい、2人とも!浄化の方はどんなもんだ?湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ行きたくなったら言えよ?アクアは檻から出してやるからー!」

 

「浄化の方は順調よ!後、トイレはいいわよ!アークプリーストはトイレなんて行かないし!!」

 

「私も大丈夫だ!少なくとも狩りの最中はな!」

 

カズマのデリカシーというものを一切感じない質問に答えていると、湖の一部が揺らいだのが見えた。

 

 

汚れた水に顔を浸けるのは不快だが、水没林でもう慣れっこだ。汚れた水の中でも目を開けられるハンターって何気に凄いと思う。

 

そうして水中で警戒をしていると、視界の端から矢のような速さで紫色のワニが大口を開いて襲い掛かってきた。

 

(甘いわ!)

 

ワニの上あごと下あごに同時に双剣を突き刺し、口内から焼き殺す。

 

さぁ、狩りの始まりだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めんどくせぇ!

 

 

戦闘開始から約1時間と少し、俺はちょっと予想外の事態に襲われていた。

 

こいつらの牙、防具のおかげで俺自身には全くダメージはないが、鎧の凹凸に牙を引っかけて俺を水底に引きずり込んできやがる。幸いこいつらの攻撃は大口開けて、噛みつくのワンパターンだから対処はできるが、数が多すぎて……!

 

鬼人化を使っても処理しきれないとは思わなかった。ちょっとこれはきついな。一旦上がるか。追いすがってくるワニを切り払いながら水面まで泳いで上がる。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

この作戦を考えた張本人のカズマが心配しているのか何なのか、こっちに走ってきた。

 

「予想以上に数が多いな。水底に引きずり込まれるから息が続かん」

 

「無理そうなら休んでもいいんだぞ?なんか水も結構綺麗になってきたし」

 

カズマに言われて湖の水質を確認すると、最初のとんでもない濁りからよりはいくらかマシで、透明感が出てきたように思う。

 

……いや、それよりも。

 

俺は冒険者カードの討伐履歴の欄を確認してみる。

 

 

 

 

『ブルータルアリゲーター:46匹』

 

 

 

 

 

キリが悪いな。

 

さぁ、狩りの再開だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか正気を失っていた気がする。冒険者カードのブルータルアリゲーターの欄が100を超過していた事には少し驚いた。

 

この湖、100匹以上ワニが生息してたみたいだな。こっわ。

 

あ、俺疲れたから陸上で待っとくわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――浄化を始めてから7時間が経過――

 

 

湖にはボロボロになった檻と大量のワニの死体があった。

ワニの死体は言うまでもなく俺の所為だが、ボロボロになった檻には俺が取り逃がしたワニの歯形が残されていた。

 

「……おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーターたちは、もう全部、どこかに行ったぞ」

 

俺達は檻に近づき、檻の中のアクアを窺った。ちなみに俺はヘルムを脱いだ。べちゃべちゃだよもう。

 

「……ぐす……ひっく……えっく……」

 

浄化役のアクアは檻の中で膝を抱えて泣いていた。まぁ、無理もないな。

 

「ほら、浄化が終わったなら帰るぞ。……俺達で話し合ったんだが、俺達は今回、報酬はいらないから。報酬の30万、お前が全部持っていけ」

 

体育座り状態のアクアがぴくりと反応する。

 

……別に相談とかしてないけど、まぁ、いいか。俺はレベル上げ出来たし。最後の方とか結局さぼってるしな。

 

「……おい、いい加減檻から出ろよ。もうアリゲーターはいないから」

 

「……まま連れてって……」

 

「……何だって?」

 

「……檻の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

 

あー、今回のクエスト、アクアにトラウマを植え付けたみたいだな。ちょっと同情するわ。

 

それはそうと、ブルータルアリゲーターを剥ぎ取った結果、牙と爪と皮が有効活用できそうなことが分かった。鰐革の財布とか日本では割と人気だったよな?牙と爪はボウガンの弾として活用できそうだ。それなりの数狩ってるからしばらくたまには困らないくらいは手に入ったかな?




ミ「うわ、鎧の中までびちゃびちゃだ、気持ちわる」(キャストオフ

カ『<●> <●>』


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ミツルギキョウヤ

今回若干いつもより長いです


「ドナドナドーナードーナー……」

 

「……お、おいアクア、もう街中なんだからその歌は止めてくれ。ボロボロの檻に入って膝抱えたお前と全身水浸しなミコトを運んでる時点で、街の住人の注目を集めてるんだからな?というか、もう安全な街の中だからなんだから、いい加減出て来いよ」

 

「嫌。この中こそが私の聖域よ。外の世界は怖いからしばらくでないわ」

 

少し前までかなり頑丈だろうと思われたボロボロの檻の中でイディッシュ民謡を歌う女神。これ以上シュールな光景はなかなか無いだろうな。

 

約1名を除き特に何事もなく街に帰ってきた俺達はまず、ギルドへの報告を優先するため歩いていたのだが、この女神が外界にトラウマを植え付けられたようで檻の中から出ようとしない。全く、檻の中だからケガは無かったんだが……。あ、俺もケガ無かった。鎧も軽いひっかき傷だけだったし、無事だな。うん。強いて言うなら服がびちゃびちゃになったことだ。引っ付いて気持ちが悪いんだが。

 

『コウリュウノツガイ』をどっかに突き刺して火を起こすかカズマの風魔法を使えば水気自体はすぐに飛ばせそうなんだが、流石に公衆の面前で服を脱ぐわけにも放火するわけにもいかないからな。我慢だ。

 

……人がパーティーの評判を下げまいと全力で我慢してるのにカズマは欲にまみれた目でこっちを見てくる。正直目に力が入りすぎてて怖い。

 

「め、女神様っ!?女神様じゃないですかっ!何をしているのですかそんなところで!」

 

カズマの視姦に耐えるという一種の拷問に気を引かれていたからか、アクアに駆け寄り鉄格子を掴むこの男に反応できなかった。

 

青と黄色を基調としたマント付きの鎧を装備したいけ好かない男。略してイケメン。

 

そいつは俺達が反応するよりも早く檻の鉄格子を捻じ曲げ、中にいるアクアに手を伸ばした。その手が唖然としているアクアに触れる直前、

 

「……おい、私の仲間になれ慣れ慣れしく触るな。貴様、何者だ?知り合いにしてはアクアがお前に反応していないのだが」

 

我らがクルセイダー、ダクネスが詰め寄った。キャーダクネスサーン!(誰だお前)

 

問題の男はダクネスを一瞥すると、ため息を吐きながら首を振る。自分は厄介ごとはごめんなのだが……みたいな雰囲気で首を振るこの男に若干殺意が湧くが、それはダクネスも同じようで、普段愉悦と快楽にまみれた表情しか出てこないダクネスが明らかにイラっとした。

 

「……おい、あれお前の知り合いなんだろ?女神様とか言ってたし。お前があの男を何とかしろよ」

 

「……あぁっ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神の私にこの状況をどうにかして欲しいわけね?しょうがないわね!」

 

カズマの耳打ちによって再起動したアクアはもぞもぞと檻から出て男の前に仁王立ちする。パンツ見えるぞ。

 

「……あんた誰?」

 

しかも知り合いじゃないのかよ。なんか男の方が驚いてるんだが。

 

「何言ってるんですか女神様!僕です、御剣(ミツルギ) 響夜(キョウヤ)ですよ!あなたに、魔剣グラムを頂いた!!」

 

「……………?」

 

駄目だこいつ。完璧に記憶に無いって顔してる。

 

……とりあえず名前と『頂いた』ってとこから日本人の、俺らよりも早くこの世界に来た奴だろうなってことは分かった。

 

おかしいな。俺も日本人の転生者には何回か会った事があるが、ここまでイライラさせられる奴は初めて見る。基本的に腰が低くてちょっと臆病な奴が多かったんだがな……男女ともに。

 

「…あぁっ!いたわね、そんな人も!ごめんね、すっかり忘れてたわ。だって結構な数の人を送ったし、忘れてたってしょうがないわよね!」

 

流石知力値平均以下。そういえば俺のことも忘れてるみたいだしな。しょうがないと言えばしょうがないのか…?

 

「ええっと、お久しぶりですアクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張っていますよ。職業はソードマスター。レベルは32まで上がりました。……ところで、アクア様はなぜここに?というか、どうして檻の中に閉じ込められていたんですか?」

 

チラッとカズマを見るミツルギ。日本でもこういうタイプの奴には何回か会ったことがあるが、大抵話を聞かないんだよな…。めんど臭くなる予感……。

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

「……バカな。ありえないそんな事!君は一体何を考えているんですか!?女神様をこの世界に引き込んで!?しかも、今回のクエストでは檻に閉じ込めて湖に浸けた!?」

 

カズマの説明を聞いていきり立ったミツルギがカズマの胸倉を掴む。…やっぱり面倒なことになりそう。

 

「ちょちょ、ちょっと!いや別に、私としては結構楽しい毎日を送ってるし、ここに一緒に連れてこられた事は、もう気にしてないんだけどね?それに、魔王を倒せば帰れるんだし!今日のクエストだって、怖かったけど結果的には怪我せず無事完了した訳だし。しかも、クエスト報酬30万よ30万!それを全部くれるって言うの!」

 

アクアが咄嗟にフォローを飛ばすが、その言葉を聞いたミツルギは憐憫の眼差しをアクアに向ける。

 

「……アクア様、こんな男にどうやって丸め込まれたのかは知りませんが、今のあなたの扱いは不当ですよ。そんな目に遭って、たった30万……?あなたは女神ですよ?それがこんな……。ちなみに、今はどこに寝泊まりしているんです?」

 

「え、えっと、皆と一緒に、馬小屋で寝泊まりしてるけど……」

「は!?」

 

アクアの言葉に即座に反応したミツルギはカズマの胸倉を一層強く握った。もうあれは首を絞めているも同然だ。

 

流石に見過ごせないのでミツルギの腕をそれなりに力を込めて横から掴む。

 

「…おい、いい加減その手を放せ。カズマと知り合いなわけでもなく、アクアと親しい間柄でもないお前に私たちの私生活まで口出しされる覚えはない」

 

カズマが何やら驚いた顔で俺を、というか俺達を見ているのは、おそらく後方から聞こえる爆裂魔法の詠唱の言葉のせいでないと思いたい。あれを食らったら流石に死ぬ。

 

ミツルギの腕を掴む手に込める力を少し上げ、指を食い込ませると苦悶の声と共にカズマの胸倉を放した。脅威が無いのであれば絞める意味が無いので俺も手を放す。

 

手を放したミツルギは俺達を改めて観察し始める。…余裕だなこいつ。1回抜いて脅してやろうかな。

 

「……クルセイダーとアークウィザードと……《万能者》か?……それに随分と綺麗な人達だな。キミはパーティーメンバーには恵まれているんだな。それなら尚更だよ。キミは、アクア様やこんな優秀そうな人達を馬小屋で寝泊まりさせて、恥ずかしいとは思わないのか?さっきの話じゃ、就いてる職業も、最弱職の冒険者らしいじゃないか」

 

ぶっふぉぉ!やばい、吹き出しかけた!

 

職業で判断する奴かこいつ!この中で一番優秀なのカズマだって分からずに煽ってる!笑いこらえるだけできついんだが!

 

「なあなあ、この世界の冒険者って馬小屋で寝泊まりなんて基本だろ?こいつ、なんでこんなに怒ってるんだ?」

 

「あれよ、彼には異世界の転生特典で魔剣あげたから、そのおかげで、最初から高難度のクエストをバンバンこなしたりして、今までお金に困らなかったんだと思うわ。……まぁ、能力か装備を与えられた人間なんて、大体がそんな感じよ」

 

ギクッ。

 

「君達、今まで苦労したみたいだね。これからは、ボクと一緒に来るといい。もちろん馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備品も買いそろえてあげよう。というか、パーティーの構成的にもバランスが取れていいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士と、クルセイダーのあなた。僕の仲間の盗賊と、アークウィザードのその子、ミコトさんとアクア様。まるでおあつらえみたいにピッタリなパーティー構成じゃないか」

 

……………。

 

「ちょっと、ヤバいんですけど。あの本気で、引くくらいヤバいんですけど。ていうか勝手に話進めるしナルシストも入ってる系で、怖いんですけど」

「どうしよう、あの男はなんだか生理的に受け付けない。攻めるより受ける方が好きな私だが、あいつだけはなんだか無性に殴りたいのだが」

「撃っていいですか?あの苦労知らずの、スカしたエリート顔に、爆裂魔法を撃ってもいいですか?」

「そろそろ本気で殴りたくなってきた。武器を抜いて斬りかからず我慢している時点で拍手喝采されてもいいぐらいにはイライラしてるぞ」

 

結構辛辣な言葉をこそこそひそひそと言い合っている俺達だが、代表してアクアがカズマのところに歩いて行った。

 

「ねぇカズマ、もうギルドに行こう?私が魔剣をあげておいてなんだけども、あの人には関わらないほうがいい気がするわ」

 

「そうだな。えーと、俺の仲間は満場一致であなたのパーティーには行きなくないみたいです。俺達はクエストの完了報告があるから、これで……」

 

雑にミツルギとの会話を切り上げ、その場から立ち去ろうとする俺達の前にミツルギが立ちふさがる。

 

「……どいてくれます?」

 

「悪いが、ボクに魔剣という力をくれたアクア様を、こんな境遇の中に放ってはおけない。魔王を倒すのはこの僕だ。アクア様は、僕と一緒に来た方が絶対にいい。……君は、この世界に連れてこられるモノとして、アクア様を選んだというわけだよね?」

 

「……そうだよ」

 

「なら、僕と勝負をしないか?アクア様を、持ってこられる『者』としてして指定したんだろう?僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。キミが勝ったら、なんでも一つ、言うことを聞こうじゃないか」「よし乗った!!じゃあ行くぞ!!」

 

空気の読めないミツルギが仕掛けてきた決闘を即諾し、返事と同時に斬りかかるカズマは若干鬼畜だと思うが、低レベルの冒険者に高レベルのソードマスターが勝負を挑む方がおかしい。

 

その後、なんとかミツルギは反応しようとして剣を抜くが、剣を窃盗されあっけなく気絶させえられた。もはや描写する価値もないくらいには完敗だった。

 

誰がどう見てもカズマの勝ちと答えるであろう決着に、いままで一切目を向けていなかった「お前ら、いたの?」と言いたくなるくらいには影が薄かった少女たちが突っかかってきた。

 

「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!」

「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」

 

「あぁ、うん。俺の勝ちってことで、こいつ、負けたらなんでも一つ言うこと聞くって言ってたな?それじゃあ、この魔剣を貰っていきますね」

 

「なっ!?バ、バカ言ってんじゃないわよ!それに、その魔剣はキョウヤにしか使いこなせないわ。魔剣は持ち主を選ぶのよ。すでにその剣は、キョウヤを持ち主として認めたのよ?あんたには、魔剣の加護は効果が無いわ!」

 

自信満々に言ってくる少女だが、さっきの見事な敗北を期したミツルギの醜態でストレス発散してなかったら全力で口を塞ぎに行っていただろうな。喧しいですわ。

 

「……マジで?この戦利品、俺には使えないのか?せっかく強力な装備を巻き上げたと思ったんだけど」

 

「マジです。残念だけど、魔剣グラムはあの痛い人専用よ。装備すると人の限界を超えた膂力が手に入り、石だろうが鉄だろうがサックリ切れる魔剣だけど。カズマが使ったって普通の剣よ」

 

「マジかーー。あ、ミコトこれ使うか?魔剣の効果でないらしいけど、剣としては使えるらしいぞ?」

 

「え、いらないよそんなナマクラ。普通に私の武器と膂力で岩だろうが鉄だろうが切れるし」

 

「それはお前がおかしい。…でもまぁ、せっかくだし貰っとくか。じゃあ、そいつが起きたら、これはお前が持ち掛けた勝負なんだから恨みっこ無しだって言っといてくれ。……それじゃ、ギルドに報告に行こうぜ」

 

「ちょちょちょ、ちょっとあんた待ちなさいよっ!」

「キョウヤの魔剣、返してもらうわよ。こんな勝ち方、私たちは認めない!」

 

そう言って再び踵を返す俺達に、少女が武器を構える。

 

武器を構えられた以上交戦の意志ありとみなし、コウリュウノツガイを構えるが、カズマによって静止された。

 

(待て待て。ミコトの武器で攻撃したらあの子らただじゃ済まないだろ)

 

(攻撃してきたら反撃はするが、一応手加減はするつもりだ)

 

「(まぁ見とけって)…別にいいけど、真の男女平等主義者な俺は、女の子相手でもドロップキックを食らわせれる公平な男。手加減してもらえると思うなよ?というか女相手なら、この公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ」

 

さすが淑女のパンツを剥ぎ取ることに定評がある鬼畜カズマ。手をワキワキさせてるだけで犯罪臭がするぜ。同じことを考えていたのかパーティーメンバー全員に引かれているカズマ。普段の行動のせいかな。

 

それにしても、俺はこういった脅しとかは武器を突き付けてやる以外に知らないし、交戦していたらカズマの言う通りあの子たちも無事じゃすまなかったかもな。もう少し平和的に解決できるように頑張らないと…。

 

あと、転がってるミツルギは通るときに踏みつけた気がするが気のせいだろう。




もう少しだけミツラギさんは出てきますがここまでで。


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緊急

「あぁ、カズマ。悪いが先に行っておいてくれ」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「いや、服が体に張り付いて気持ち悪いのでな。着替えてくる」

 

ギルドに向かう道で俺達が寝泊まりしている馬小屋の近くを通りかかったので、カズマに言って馬車に戻る。流石に濡れたままっていうのは周りの目とかも気になるし、なにより着ていて気持ち悪いからな。どのくらい気持ち悪いのかって言うと、カズマが「最後に目に焼き付けておこう」みたいな目線で見てくることくらいには気持ち悪い。

 

馬車に敷いてある絨毯とかを濡らすとあとでめんどくさいので、外で乾かすことにする。偶然にも持ってる武器が『コウリュウノツガイ』だからな。火を起こすのはかなり楽だ。適当な場所に突き刺せば炎が上がる謎仕様だからな。とはいえ、防具を着たまま乾かすのは意味がないのでちゃっちゃと脱いでいく。胸部外すときに毎回緊張するのはしょうがないと思うんだが、下を見ないようにすれば何とか耐えれる。最初の方は鼻血とか出してたなぁ。

 

他に人もいないみたいなのでさっさとインナーになって地面に『コウリュウノツガイ』を突き刺す。めっちゃ熱いけど水気は何回かやれば飛んだ。もし『コウリュウノツガイ』を持ってなかったとしたらアイテムボックスから火に関係する素材か水を吸収する素材を出せばよかったしな。つくづくモンハン世界って便利。

 

3回くらい突き刺して水気がほとんど飛んだので、さっさと着替えることにする。もう依頼もないだろうし、適当な服に着替えて、武器を『天雷斬破刀・真打』にしてギルドに向かう。

…え?武器は持つ必要無いだろって?俺もそう思うけど、ミコト(身体)が武器を一つは携行してないと落ち着かないんだよ。剥ぎ取りナイフだけで充分だと俺も思うけどな。

 

そういえば、最近分かったことなんだけどこの世界ではモンハンの武器とか素材ってとんでもない物らしいな。そりゃまぁ、ファンタジーでは最強とか言われる竜の素材を使ってるんだから当たり前なんだけど、原因はモンハンの武器とか素材に付けられたフレーバーテキストがある程度までは現実に現れるからだ。どこの記録の地平線かって見つけた時は笑ったけど、これが意外とシャレにならない。例えば、グラン・ミリオスの素材である《不死の心臓》を見てみたけど普通に鼓動してたし、《火竜の延髄》とかはアイテムボックスから出した瞬間に自然発火をし始めやがった。いわゆる中二要素がふんだんに盛り込まれたモンハンのテキストが現実になるとしたらやばいのが何種類かアイテムボックスの中に入っている。アルバトリオンの素材とかな。助けてSCP財団。俺以外の手に渡ったら大変だから。

 

そんなことを考えつつ歩きギルドに到着すると、先ほどカズマに惨敗したミツルギが泣きながら飛び出すのとすれ違った。何があったのかは知らんが、なんか可哀そうに思えた。

 

「今の、さっき会ったミツルギとかいう子だろ?何かあったのか?」

 

「あ、ミコト。おかえりなさい。今のは魔剣の代わりに欲しいものをなんでも出すから魔剣を返してくれって言ってきたんですけど、カズマが既に魔剣を売ってしまっていることを言ったら走り去っていきました」

 

「なるほど」

 

カズマは魔剣を売ったのか。まぁ、魔剣は特典だったらしいからな。カズマが使っても意味がないなら売るしかないだろう。あっても邪魔になるし。

 

それにしても、ミツルギの状態は俺にも当てはまるのかもな。特典の強さに振り回されて実力が伴わないのは典型的な踏み台だ。少しは剣の練習でもしようかな?…でもモンハンのキャラクターっていう特典の内容だし、練習とかが意味を成すか分からないんだよな。

 

少しは武器を使う練習をしよう、そう決意したときだった。

 

『緊急!緊急!冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で目値の正門にあつまってくださいっ!』

 

おいおいまたかよ。この世界に来て3回は聞いた気がするぞ。

 

『緊急!緊急!冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で目値の正門にあつまってください!……特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』

 

「「…………えっ」」

 

カズマと俺の声が重なる。まさかの名指しかよ。

 

はぁ、さっき着替えたばっかりだっていうのに…カズマ、不本意だが私はもう一度馬車に戻る。武装して集まれとのことなのでな」

 

「お、おう、分かった」

 

アナウンスの声の感じからして、キャベツのような平和な呼び出しではなくもっと危機感に溢れた物だろう。最近だとデュラハンか。……デュラハンか!!思えば呼び出される理由としては普通だな。デュラハンと直接関係があるの俺達くらいだし。あー、すっきり。

 

相手があのデュラハンなら武器とかも変えた方がいいな。何のために出てきたんだ天雷斬破刀・真打。まぁそれは置いておこう。もし戦闘をするとして、あいつにふさわしい武器ってのを考えないといかん。

 

デュラハン。つまり死体だし焼却するか。んで、確かあいつが持ってたのはハンターが持つ物よりは数段小さい大剣だったな。双剣とかの速さ重視の武器で攻撃か、ガンランスで火力と防御を固めるってのもありだし、弓とかで遠距離攻撃もできるしな。

 

まぁいいや。片手剣で嫌がらせをしまくろう。ということで、アイテムボックスから片手剣の『ゴールドラディウス』を取り出す。同じ火属性片手剣だと『其ノ刃ハ曙光ノ如シ』のほうが属性値は高いけど、見た目がこっちの方が好きだからな。んで、装備はさっきまで付けてた銀レウス一式。俺、基本的に金銀夫妻の装備が好きなんだよな。見た目的に。

 

おっと、早くいかないといけないんだった。アイテムボックスから強走薬グレートをいくつか取り出し、1つを一息に呑み切る。すると身体の奥から活力が湧いてくる。

 

良し、全力疾走だ!

 

 

 

○○○○○○○○○○○○

 

 

途中でダクネスと合流し、正門に到着した。と言うか先に行ってた筈のダクネスが俺と合流できること自体がおかしいと思う。

 

さて、正門の先には1週間前と同じようにデュラハンが馬に乗った状態で立っている。あの時と違う点は周囲に大量にゾンビのようなモンスターがいることだな。デュラハンがこちらと戦闘する気でここに来ていると理解した瞬間から攻撃を加えたくてたまらない衝動に駆られるが、ここは我慢だ。デュラハンが何事か騒ぎ立ててるからな。

 

「――のは何も爆裂魔法の件だけではない!貴様らには仲間を助けようという気はないのか?不当な理由で処刑され、怨念によりこうしてモンスター化する前は、これでも真っ当な騎士のつもりだった。その俺から言わせれば、仲間を庇って呪いを受けた、あの銀髪の少女など騎士の鑑として称賛されるべき逸材だ、それを易々と見捨てるなど……!」

 

あっれこいつもしかしていい奴なのか?話の途中から聞き始めたからよく分からんが、あの呪いを受けた俺の治療条件として自分のもとに来いって言ってたのを無視したから怒ってるんだよな?ま、まぁ、このまま勘違いさせたままっていうのも悪いし、さっさと種明かしするか。

 

というわけで、頭部の装備を脱いで列の一番前、カズマ達の横に並ぶ。今自分がどんな顔をしているのかは分からないが、とりあえず……

 

「あー……生きてるんだ。その、すまない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………あ、あれぇーーーーーーっ!?」

 

 

 

デュラハンの素っ頓狂な声が正門前に響いた。

 

 

 

そういえば、デュラハンにかけられた死の宣告ってハンターに通用すんのかね?武器防具素材と曰く付きのものを大量所持、全身に装備とかしてるハンターに1週間後に死ぬとか、耐性ついてて意味ないと思うんだけど。

 

「なになに?ミコトに呪いを掛けて1週間が経ったのにピンピンしてるから驚いてるの?このデュラハン、私たちが呪いを解くために城に来るはずだと思って、ずっと私たちを待ち続けてたの?呪いをほとんど無力化する体質なミコトに呪いを掛けて、帰った後に追撃気味に解呪されちゃってるとも知らずに?プークスクス!うけるんですけど!ちょーうけるんですけど!」

 

おい待て。なんか今サラッと物凄いこと言ったよな。呪いをほとんど無力化?え?アルバトリオンの装備とかの呪いを無効化してる時点で大概は無力化できるよな?ほとんど?待てよ、あれ以外の呪いを掛けてきそうな奴とか禁忌とされてるあのモンスターしかいないだろ。あいつらが呪いを掛けてくるのかはともかくとして。うわー、あいつらこの世界にいなくてよかったー。ゲームみたいに1か所に留まってなかったら終末レベルの被害だろうしなー。

 

今の状況とまったく関係のないところで1人安心していると、肩を怒りかなにかで震わせたデュラハンが話し始める。

 

「……おい貴様。俺がその気になれば、この街の冒険者を1人残らず斬り捨てて、街の住人を皆殺しにする事だって出来るのだ。いつまでも見逃して貰えると思うなよ?疲れを知らぬこの俺の不死の身体。お前たちひよっ子冒険者どのでは傷もつけられぬわ!」

 

随分と沸点の低い魔王軍幹部様は不穏な空気を滲ませ始めるが、その空気に当てられてミコトの身体が疼き始める。あ゛ーー!ミコトが戦闘狂なの忘れてた!!ステイ!ステイ!ステイっつってんだろ!!……よし。

 

「見逃してあげる理由が無いのはこっちの方よ!今回は逃がさないわよ。アンデッドの癖にこんなに注目集めて生意気よ!消えてなくなりなさいっ!『ターンアンデッド』!」

 

アクアが魔法でデュラハンに対して攻撃を仕掛けるが、対するデュラハンはそれがどうしたと言わんばかりに仁王立ちで攻撃を受け止める。

 

「魔王の幹部が、プリースト対策もなしに戦場に立つとでも思っているのか?残念だったな。この俺を筆頭に、俺様率いる、このアンデッドナイトの軍団は魔王様の加護により神聖魔法に対して強い抵抗力をぎゃああああああああー!!」

 

魔王様の加護を受けて神聖魔法に対して強い抵抗力を誇る魔王軍の幹部はアクアの魔法によって身体から黒い煙を噴き上げさせ、自信たっぷりだったデュラハンはふらふらになりながらも持ちこたえた。

 

「ね、ねぇカズマ!変よ!効いてないわ!」

 

「いや、効いてるんじゃないか?ぎゃーって叫んでたし」

 

「むしろアレに耐えてるだけ凄いんじゃないか?加護とやらの効果かも」

 

ふらふらになっているデュラハンは、よろめきながら何とか口を開く。

 

「ク、ククク……。話は最後まで聞くものだ。この俺はベルディア。魔王軍幹部が1人。デュラハンのベルディアだ!魔王様からの特別な加護を受けたこの鎧と、そして俺の力により、そこら辺のプリーストのターンアンデッドなど全く効かぬわ!……全く効かぬのだが………。な、なぁお前。お前は今何レベルなのだ?本当に駆け出しか?駆け出し冒険者が集まる街だろう、この街は?」

 

あ、すいませんそいつ女神です。宴会芸とあとなんか不思議な力を司るお笑いの神です。すいません。

 

「……まぁいい。本来は、この街周辺に強い光と禍々しい物体が落ちてきたのだのと、うちの占い師が騒ぐから調査に来たのだが……。面倒だ、いっそこの街ごと無くしてしまえばいいか」

 

おっと、どこぞのガキ大将みたいな理不尽を見た。そんなんだから人類の敵認定されるんだよ。同じアンデッドのウィズとは大違いだな。

 

「フン、わざわざこの俺が相手をしてやるまでもない。……さぁ、お前たち!この俺をコケにしたこの連中に、地獄というものを見せてやるがいい!」

 

「あっ!あいつ、アクアの魔法が意外に聞いてビビったんだぜきっと!自分だけ安全な所に逃げて、部下を使って襲うつもりだ!」

 

「ちちち違うわ!最初からそのつもりだったのだ!魔王の幹部がそんなヘタレなわけが無かろう!いきなりボスが戦ってどうする、まずは雑魚を片付けてからボスの前に立つ。これが昔からの伝統と「『セイクリッド・ターンアンデッド』ー!」ひああああああ!」

 

デュラハン……ベルディアは話している途中にアクアの魔法攻撃を受けまたも気の抜けた悲鳴を上げる。

おいおい、せっかくこっちが戦えるってことでヘルムをかぶりなおして突撃準備整えたのに、これじゃまるでギャグじゃないか。シリアスはどこに行った。宇宙の彼方か。

 

「ど、どうしようカズマ!やっぱりおかしいわ!あいつ、私の魔法がちっとも効かないの!」

 

「ひあーって言ってたし効いてる気がするんだけどな」

 

まぁ確実に効いてはいるんだろうな。魔王の加護とベルディアの抵抗力で何とか消えずに済んでる感じか?

 

「こ、この……っ!台詞はちゃんと言わせるものだ!ええい、もういい!おい、お前ら……!」

 

ベルディアは身体のあちこちから黒い煙を上げながら立ち上がり、ゆっくりと右手を掲げ……。

 

「街の連中を。……皆殺しにせよ!」

 

振り下ろした。

 

それと同時に俺はベルディアに向けて走り出した。

 

今まで溜め込んだ分まで暴れるぞ……!




お久しぶりです。
気が向いたので書いてみましたが、いつも通りグダグダでよく分からないシンセイカツクオリティとなっております。

これが今の精一杯ですほんとすいませんorz


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