真・女神転生ⅣデビルサバイバーNOCTURNE (蝿声)
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1話

序盤の東のミカド国では改変する部分が無かった


 上野地下にある人外ハンター商会。悪魔を狩ることを生業としている人外ハンターの拠点らしく物々しい雰囲気を湛えているこの場所の扉が開かれ、4つの人影が入ってきた。

 

「キャッ……なんてギラギラした空間。それに喧しいわ……」

「どいつも腕に覚えがありそうなケガレビトばかり居やがる」

 

 彼らは物珍しげにきょろきょろと辺りを見回している。そんな彼らを商会に居たハンターたちもまた観察していた。男3人に女1人の4人組で、全員が白の上下に青い上着を羽織っている。さらにそれぞれの首元に白、青、黄、赤色のスカーフを巻いている彼らの装いは、瓦礫から物資を発掘し修繕するのが主なこの閉鎖東京においては、いささか整いすぎていた。

 もちろん、それなりの金を支払えば相応の装備を寄越してくれる店もあるが、上野はそれほど甲斐性のあるハンターともそういった店とも無縁である。人外ハンタートーナメントで毎回初戦敗退の地区は伊達ではないのだ。

 そうして好奇の視線に晒されることになった4人組は、未だ入り口付近でどぎまぎしていた。その様子を見かねたのか商会のマスターが声をかける。

 

「そこの4人さんよ。店の入り口で突っ立ってくれんなよ」

「わッ、すみません……」

 

 黄色のスカーフを巻いた青年が返事をし、促されるまま商会の中へと入って行く。相変わらず好奇の視線は集まっているが、彼らが変わったガントレットを介してクエスト受けたあたりから商会に居たハンターたちの注目も薄れていった。

 もともと変わり者が多く人の移り変わりが激しい人外ハンターは最低限の仲間意識しか持ち合わせておらず、注目されるのは掲示板に乗るようなランカーばかりだ。変わり者だった4人組は、クエストを受けたことで同類であるとみなされハンターの中のその他大勢となった。

 あのガントレットに興味がなくはないが、スマホ代わりの変わり種という意味ではつい最近も目にしたばかりなのでインパクトに欠けている。

 

 注がれる視線が薄まったことに気づいた4人はそっと一息つき、さてどうするかとあたりを見回したところで、4、5人で座れそうなテーブルを一人で陣取る男が目についた。妙な柄のYシャツにスラックスというラフな格好の髭を蓄えたその男は、物騒な雰囲気が漂う商会内において唯一の非武装だった。男も4人組に視線を向けており、目が合うと招くように手を振る。当てのない4人は誘われるままに男の座るテーブルに近づき、軽く挨拶を交わす。

 

「どうも。何か御用ですか」

「いやなに、ちょっと確認したいことがあってな。……お前ら、天蓋の上から来ただろう?」

 

 小さく問うた男の声に4人はひどく驚いた。事実、4人は東京を覆い尽くしている天蓋の上に建つ東のミカド国より、任務を帯びて降りて来ていた。しかしそのことを知るのは少なく、東京においては降りるときに伝って来た塔スカイを出たところで出会ったケガレビトだけのはずだ。彼らから報告を受ける上に立つ人物か、あるいは気づけないまま監視されていたのかと警戒を浮かべたところで、内心を読んだかのように男は笑いながら手を横に振った。

 

「不躾に聞いて悪かったな。俺は聖丈二、しがない記者をやってる。知り合いに予言の真似事をできる奴がいてな。そいつから近いうちに上から人が来ると聞いて、話を聞きたくて待ってたんだ。お前らだと当りをつけたのは、まあ見た目からと勘だな」

 

 ついでに知り合いからの頼まれごともあったしな、という聖の言葉に4人は警戒から戸惑いにかわった表情を浮かべた。

 

「予言、ですか……」

「キシャっつーのは何なんだ」

「知らないか? こういうのだよ」

 

 言うが早いか聖は慣れた手つきでスマホを操作し、4人のガントレットに向けた。4人に聞きなれない着信音がなるとガントレットに宿る妖精バロウズが声を上げる。

 

「あら、マスター。何か受信したわよ。トピックス『月刊・妖』だって。どれどれ……」

 

 それ喋るのか、と驚いている聖を後目に各々が自分のガントレットに追加されたトピックスという項目を開いた。

 

『月刊・妖

 ・東京各地の橋、阿修羅会に破壊される! 目的は人や物資の移動制限か

 ・間もなく人外ハンタートーナメント開催! 注目の戦士、続々参加表明

 ・新宿御苑カゴメ塔の謎に迫る! 背後に阿修羅会とは異なる勢力の影が』

 

 4人が読み終わったころを見計らって聖が補足を入れる。

 

「そうやって各地の出来事を集めては知りたがってる奴に教えてやるのが俺の仕事さ。お前らから面白そうな話が聞けるんじゃないかと期待してんだ。ついでに言っとくと月刊とは銘打ってるが実際は不定期だ。それに内容も、俺としてはもっと面白いものを載せたいんだがな、上手くいかんもんだ」

 

 最後は独り言のように言っているが、キシャという職業と話しかけてきた目的が判明したことで4人は納得したようだった。そして話の内容から情報通だということが窺い知れ、目的のためにはこの聖という男から話を聞くのがいいだろうと、4人は目線で確かめ合った。

 

「分かりました。僕たちのことでよければお話しします。代わりと言っては何ですが、こちらからも聞きたいことが幾つか。……その前に自己紹介を。僕はフリン、そしてこちらからワルター、ヨナタン、イザボーです」

 

 白いスカーフにポニーテールの青年フリンが代表して名乗り、青いスカーフの短い髪を逆立てた青年、黄色のスカーフでくせ毛の青年、赤いスカーフの紅一点の女性を順に紹介し、短い挨拶を交わしたところでようやくフリン達は席に座る。そして東のミカド国から東京へ降りてきた理由を語る。

 

 フリンは、自分たちが東のミカド国に仕えるサムライという戦士たちであること、ミカド国のはずれの村が焼かれ村人は悪魔に変えられたこと、その下手人がケガレビトの可能性が高いこと、調査のためにケガレビトの里に下りてきたこと、ついでとばかりに異物の発掘やターミナルの解放も命じられたことなどを話した。

 途中、興味深げに聞いていた聖の顔が難しい表情に変わった時はどうしたのかと思ったが、遮られることもなく語り終えたフリンたちは、商会から「食え」と出された謎の物体Xを持て余しながら聖の反応を待った。

 

「……まあ、順番に行こうか。まずお前らは俺たちをケガレビト、東京をケガレビトの里と呼んでるようだが、止めておいた方がいい。頭に血が上りやすい奴なら今頃喧嘩になってるぞ」

「あー……わりい」

「構わんさ。次は村を襲った『黒きサムライ』について……お前らの聞きたいこともこれだろ? 悪いが心当たりはないな。強いて言うなら悪魔討伐隊の基地だが、どうだろうな」

 

 ワルターの謝罪を軽く流した聖の言葉にフリン達は顔を見合わせる。悪魔討伐隊の基地はミカド国の修道院より目下の目的地と指示されていた場所だったからだ。目的としていた場所が不意に否定気味な言葉が返されたために、驚きはひとしおだった。

 

「それはどうしてかしら」

「特徴を聞いた限り、そいつの装備はブラックデモニカだろう。これは二十年以上前に事実上解体となった悪魔討伐隊の標準装備として支給されたものだ。そいつがこの悪魔討伐隊の関係者という線もあるが、如何せん古い。どんな伝手でそいつの手に渡ったか分からん。おまけに悪魔の疑いが強いんだろう? 悪魔の神出鬼没ぶりを考えれば、な」

 

 聖の説明に、今度はフリン達が難しい顔をする。しばらく考えていたが、結局ほかにあてがあるわけでもないため、基地について教えてもらうことにした。

 

「ですが、行ってみないことには何も分かりません。良ければ基地の場所を教えてもらえませんか」

 

 そう言ったヨナタンに、聖はニヤリとした顔を向ける。

 

「そいつはこっちにとってもありがたい話だ。そう訝しげな顔をするな、ちゃんと説明はする。まずこの上野が有る土地は北と東が東京を囲う壁に、南と西が川に遮られた孤島になっている。悪魔討伐隊は南の川を超えたところの霞が関にあるんだが、そこに行くための橋が壊されたときている」

「げっ……じゃあ泳いで渡るしかないのか? いや舟はどうだ」

「あいにく舟や代わりになるようなものは占有されているし、泳ぐのはお勧めしないな。水の中で水棲の悪魔に勝つ自信があるなら別だが。あと汚いぞ」

 

 その言葉にフリン達は揃って首を横に振る。彼らもサムライとはいえ為りたての新人であり、死線を潜ったことはいくつかあれど、経験豊富とは到底言えない域だ。相手に圧倒的に有利なテリトリーで戦うには足りないものが多いと自覚している。

 

 返事を確認した聖は続きを話し出す。彼も仕事柄ここにいつまでも留まっているわけにはいかないこと、どうにかできないかと歩き回ったところ川でケルピーという水辺に棲む馬の妖精の群れを見つけたこと、様子がおかしかったから話を聞いてみれば、もともとここ上野にある不忍池を縄張りとしていたが、ピアレイという悪魔が棲み着き始めて追い出されたこと、そしてピアレイを退治してくれれば礼として向こう岸まで乗せてもらえるという約束を取り付けたこと。

 

「だが俺は荒事が苦手でな、基本的に逃げてばっかりだ。だから俺の代わりにピアレイを退治してくれる奴を探していたのさ。どうだ、悪い話じゃないだろう」

「そうですね。問題はピアレイという悪魔を倒せるかということですが……」

「それなんだが、俺の知り合いの新米ハンターと協力してやってくれないか? さっき言った知り合いの従弟とそのツレでな、今の話をもうしてあるんだ。協力して報酬が減るもんでもなし。力を合わせればきっと勝てるさ、頼むぜ」

 

 聖がそう言ったところで、商会の扉が再び開いた。そちらの方を見るとフリン達より少し若い2人の少年と1人の少女が入ってくるところだった。聖がいいタイミングだと呟き、彼らを呼び寄せる。そのことからたった今話していた新米ハンターだろうと思われた。

 猫耳のような形のヘッドホンをつけた少年、帽子をかぶった少年、そして桃色のノースリーブの上着にチューブトップを着た少女。3人は呼ばれたことでフリン達を訝しみつつも笑顔を浮かべ気さくな様子で近づいてきた。

 

「うお、でかいっ」

 

 何が、とは言わないまでもワルターの口からこぼれ出た言葉にフリンが真顔で頷き、ヨナタンは小声でいさめながらも顔を赤らめ、聖は笑ってそうだろうという。そんな男性陣をイザボーは冷めた目つきで睨んでいた。ちなみに3人の身長はフリンより低い。少年2人がイザボーより大きい程度か。

 

「こんにちは、聖さん」

「どうもっす」

「お久しぶりです」

 

 猫耳、帽子、おっぱいの順に挨拶をする。フリン達の方にも軽く頭を下げる程度に挨拶をして、隣の空いていたテーブルに着いた。少年たちとフリン達の両方から相手の紹介を視線で求められた聖は、苦笑しながら話を進める。

 少年たちにフリン達の紹介をした後、フリン達に猫耳がイツキ、帽子がアツロウ、おっぱいがユズという名前で、さっきの話に出てきた新米ハンターであると告げる。

 

「さっきの話って?」

「僕たちはカスミガセキというところを目指しているんだが、そこに行くためにピアレイを討伐する必要がある。君たちも聖さんから同じクエストを受けていると聞いて、協力させてほしいんだ」

「うーん、ちょうど俺たちだけじゃ難しいかもって思ってたところだし、聖さんの紹介なら問題ないと思うけど……どうする、イツキ」

「2人が問題ないなら別にいいんじゃないかな。ユズはどう」

「私もいいと思うよ」

「じゃあ……という前にフリンさんたちはいいんすか? 俺らハンター初めて3日程度っすけど……」

 

 フリンは答える前に、ワルターたちに視線を向けて返答を促す。

 

「いーんじゃねーの。新米って意味じゃ俺らもそんな変わらねえし」

「そうだね。それでもきっと僕たちなら問題なくやれると、そう思うよ」

「力を合わせれば、きっと困難を乗り越えられますわ」

「ということだ。不足はお互い様、ともに補い合おう」

 

 そう言って手を差し出すフリンに、イツキも手を差し伸べて応える。二人の間で握手が交わされたのを見た聖が手と一つ叩いた。

 

「おし、じゃあ行ってこい! あ、ケルピーに見せる用の証として、ピアレイの首を忘れんなよ」

 




本編で語られないであろう設定とか
聖丈二
 真・女神転生Ⅲの登場人物。大いなる意思に呪われてアマラ宇宙でおきるあらゆる事象を記録することを義務付けられている。ただし本人にその自覚はなさそう。本作の設定では25年前(天蓋ができる前)のあれこれで一度死亡しており、天蓋ができた後に転生したという設定。歳は20前半か。大いなる意思に呪われているという境遇からナオヤ(デビサバ)に気にかけられており、その縁でデビサバ主人公組ともそこそこの仲

イツキ、アツロウ、ユズ
 デビサバ主人公組。イツキが原作主人公。名前は適当。原作では天使の思惑とベルの因子から色々と振り回されていたが、本作でもベルの因子はしっかり持っているし天使の思惑に振り回されるのも既定路線。ただし生まれた時から絶望的な環境で育ったため、原作よりかは精神的にタフ。特にユズ。それでもすくすくと育った彼らは人の優しさを忘れていない好青年です


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2話

前話のイツキたちのハンター歴を1週間から3日に。よくよく考えたらこいつら1週間で魔王になれるんだった。まあこの作中では普通に1週間以上経ちそうだけど


 商会を出たフリン達はピアレイがいるという不忍池へと向かう。その道中。

 

「それがケガ……あー、お前たちのガントレットか。なんか変わった形してるな」

「変わってるのはお互いさまと思うけど、そうっすね。俺たちのこれも、他のハンターの人たちの悪魔召喚機とはかなり形が違うんすけど。これ、ヒジリさんから渡されたんですけど、イツキの従兄からのプレゼントなんすよ」

 

「地下の人間は襲わないという契約を東京中の悪魔と交わして人の住む場所を確保した阿修羅会、悪魔との共存を掲げ弱肉強食を是とするガイア教団、そして悪魔からの解放を謳う翔門会……この3つが東京の大きな勢力なんだね」

「イツキ君。君は黒きサムライ……ブラックデモニカを着た者について心当たりはないかな。例えば今言った3つの組織の何者かがそんな格好だ、とか」

「すみません、心当たりはないですね。そういうのはヒジリさんの方が詳しいですよ」

 

「じゃあイザボーさんたちは天蓋の上から来たんですね、すごい! 壁の外ってどうなってるんですか?」

「え、ええ。そうね……なんと言えばいいかしら……」

 

 集団の中でワルターとアツロウが前方で、イザボーとユズが後方で、間の挟まれた位置でフリン、ヨナタン、イツキがそれぞれ話している。

 ワルターはイツキたちの持つ悪魔召喚機……COMPを指して感想を言う。いわゆるDSの形のそれは、東京の人外ハンターたちが一般に持つ召喚機であるスマホとはずいぶん形が違うので、最初のころは少しばかり注目を浴びた。フリン達は自分たちの任務に関わることをイツキに尋ねているが、肝心なことはわからないままだった。

 イザボーは東京の外について勢いよく尋ねてくるユズに押されながらも質問の一つ一つに応えている。その内容にイツキやアツロウも興味があるのか、フリン達と話しながらもしばしば後ろのイザボーの方に視線を向けている。

 

「マスター、お話中失礼するわね。付近に強い悪魔の反応があるわ。警戒して」

 

 フリン達のガントレットからバロウズが注意を喚起する。不忍池は、フリン達の知る湖、ミカド湖と比べ非常に汚れており臭いも酷いものだった。その底の見えない水面が大きく揺らぎ、派手な水音を立てながら一体の悪魔が池にかかる桟橋に体を乗り上げた。

 その悪魔は全身が藻で覆われた人の姿で、上下がひっくり返った仮面のような顔をしている。池から漂う悪臭がさらに酷くなったように感じられ、フリン達は顔をしかめた。イツキたちはいくらか慣れている様子だが、それでも不快なことに変わりはない。

 

「あれがピアレイ……か?」

「ヒョオオオオ……まぁたハンターの清掃かぁ? オレぁこの池から出ていかねぇよ。思う存分食って汚してやるのさ。ハンターのニイちゃん、骨の中までヘドロ詰め込んでやる」

 

 ワルターの呟きが聞こえているのかいないのか、不気味な声で言いたいことを言って臨戦態勢に入ったピアレイを見てフリン達も構える。

 

「知ってるか? 不忍池にはお化けが出るんだぜぇ。そいつらが人間をビビらせてえってんで、たくさん呼んでやったよ」

 

 その言葉に応じてモウリョウの群れがフリン達を囲むように現れた。

 

「まっず……! 囲まれた!?」

「ど、どうしようイツキ!」

 

 アツロウとユズは突然のことに慌てふためき、リーダー格であるイツキを頼る。イツキはいくらか冷静ではあるものの、やはりとっさの判断に遅れてしまっている。

 

「ワルター、ヨナタン。イツキ君たちと協力して周囲の悪魔を相手してくれ。僕はピアレイを狙う。イザボーは僕のフォローを頼む」

「りょーかいっ!」

「任されたよ」

「背中は安心して預けてくれてよろしくてよ」

 

 陣形を形成していくフリン達を見て、イツキたちもまたするべきことに向けて動き出す。

 

「俺もフリンさんのフォローに回る。アツロウとユズは周りの悪魔を」

「わかった! ユズ、お前は下がったところで全体の補助を頼む!」

「う、うん!」

 

 フリン、イザボー、イツキがピアレイと交戦し、ワルター、ヨナタン、アツロウは悪魔を召喚してモウリョウたちに対して戦線を形成する。間に挟まれた位置にユズが立ち、魔法による補助を行う。

 

「恐怖まみれ、ゴミまみれになってあの世へ逝ってきな!」

 

 

「なかなかどうして、あいつらも結構やるじゃねえか」

「うかうかしていたら、簡単に追い抜かれてしまいそうだね」

 

 悪魔を召喚してモウリョウの群れを順調に殲滅しているワルターとヨナタンは、横目で同じように戦うアツロウやユズを見て感心したように言う。アツロウとその仲魔が壁の役割を果たし、後衛に回っているユズのところまでモウリョウが辿りつかないようにブロックしている。そしてユズはアツロウだけでなくワルターやヨナタン達に向けても補助魔法や回復魔法で支援をし、間を抜けてきそうなモウリョウに対しては仲魔を向かわせたり攻撃魔法を使うことで戦線が崩れないようにしている。

始まりこそ拙かったものの、すぐに調子を上げ始めた2人に対してワルターたちも安心して目の前の敵に集中して対処することができた。

 一方でピアレイと戦っているフリン達も優勢を維持している。強力とはいえ一体のピアレイに対してフリン、イザボー、イツキとその仲魔たちという多勢に無勢により、ピアレイの一手の内に無数の攻撃が叩き込まれるという無情な展開が続いている。

 

「き、汚えぞお前ら! よってたかって、恥ずかしくねえのか!」

「初めに数に頼ったのはそっちだろう。恨むならその程度の手勢しか集められない自分を恨むんだな」

 

 ピアレイの抗議もフリンが一太刀とともに両断する。それにあわせてイツキの斬撃とイザボーの魔法も飛んでくる。このような状態が長く続くわけもなく、傷だらけになり体勢を崩したピアレイの隙をついたフリンの刀がその首をはねた。

 

「死にたくねえ……死んだら、浄化されてキレイになっちまうじゃ……」

 

 最後まで言い切ることもなくピアレイの首が地面に落ちると、周りを囲んでいたモウリョウたちは蜘蛛の子を散らすように慌てて姿を消していった。

 

「ッッだー終わったー!」

「お疲れ、アツロウ。……はあ、私も疲れちゃった。イツキも、イザボーさんたちもお疲れ様!」

 

 緊張が解け大きく息を吐くアツロウとユズの言葉に、銘々が手を上げたり微笑み返したり、お互いに労いの言葉を掛け合ったりと戦闘の緊張を解していく。

 落ちたピアレイの首を一番近くにいたイザボーが拾う。しかし、それから漂う余りの悪臭に顔をしかめ、直ぐに近づいてきたヨナタンに渡した。

 

「うぅ……何これ、生理的に受け付けないわ……。はい、ヨナタン」

「な、何にも例えがたい臭いだ。すまない、ワルター。僕には手に負えない」

「……ラグジュアリーズさん方は、こういうとき頼りにならないから困る。この首は俺らの勝利の勲章よ。遠慮せず……うッ。……アツロウ、頼むわ」

「この流れで俺ぇ!?」

 

 サムライたちの間をたらい回しにされてきたピアレイの首が流れを逸れてアツロウの手に納まる。同時に漂ってくる悪臭に、思わず頼りになるイツキを探すと、既にユズを連れて離れた位置に陣取っていた。

 

「任せた、アツロウ」

「頑張って!」

「ひっでえ!」

 

 大袈裟に肩を落とすアツロウを見かねたのか、伺うようにフリンが声をかける。

 

「アツロウ君、僕が持つよ」

「え、あぁ……いや、俺が持ってますよ。我慢できないほどじゃないし、主戦力のフリンさんの手は空いてる方がいいでしょうし」

 

 申し出を断って諦めた様に一つ溜め息を吐いたところで、ガントレットからバロウズの声が聞こえてきた。

 

「マスター、気を付けて。まだ強力な悪魔の気配が消えてないわ」

 

 その言葉に全員がアツロウの手に持つピアレイの首を凝視する。しかし、全員の視線に晒されてもピクリともしないそれから生気は微塵も感じられない。警戒を新たに周囲を見回す一行の中で、少し離れた位置にいたイツキとユズをアツロウが気にしたのはある種当然だった。そして、それが幸運であったことを知る。

 

「イツキ、ユズ! そこから逃げろ!」

「え? キャッ!」

 

 アツロウの声を聞いてすぐ、イツキはユズの手を引いてその場を駆けだす。同時に、先ほどまでいた場所に巨大な鎖が振り下ろされ、地面を粉々に砕いた。

 その音にフリン達は振り返り、イツキたちもある程度の距離を置いて後ろを向き何が起こったのかを確かめる。イツキたちがいたところからいくらも離れていない地面から何本もの鎖が天に向かって生え伸びており、一瞬だけ眩い光を発したかと思うと、その場に全身から鎖を垂らした白体の悪魔が現れた。

 

「感じるぞ、ベルの血を! ククククッ……このベル・デルの糧となれ!」

「何だありゃあ……!」

「あれが強力な悪魔か。ベル・デルつったか」

「確かに、今まで出会ってきた悪魔とは何か違う感じがする。何が、とは言えないけど……」

 

 ベル・デルと名乗る悪魔に対してフリン達は武器を構える。だが、その表情は硬い。地面を砕いた一撃を見て、先ほどまで相手にしていたピアレイとは比べ物にならない悪魔だと気づいたからだ。

 

「グォオオオッ! 忌々しきこの鎖が、我を冥府へとつなぎとめる。人よ、泣け、喚け、叫べ! 我が魂を解き放つために、この世を慟哭で埋め尽くせ!」

 

 ベル・デルが叫ぶとともに魔力を解放する。地を走る白い魔力がフリン達に足元からまとわりつくように体を駆け上がり、白い魔力が赤色に染まると宙を飛んでベル・デルの体へと帰っていく。その一撃で、傷こそついていないものの体力が急激に失われたのを感じた。

 

「ぐッ……! この場の全員に届くほど広範囲でこの威力とは……!」

「それに今の魔力の動き……まさか吸収攻撃なの!?」

 

 その攻撃の威力に驚きながらも、回復魔法が使えるものは回復魔法を使い、体勢を立て直す。前衛の仲魔やフリン達サムライ、イツキ、アツロウは武器を持ってベル・デルへ攻撃をしかけ、ユズやイザボー、後衛の仲魔たちは各種属性魔法による援護を行う。

 しかし、それらの猛攻を前にしてもベル・デルは避けたり防ぐような素振りを見せず、全ての攻撃を受けても平然とした様子で立っていた。

 

「そんな……効いてないの!?」

「今ので傷の一つもつかないのか!」

「クククッ。世界と契りし我が肉体を貫けるものなど、在りはせぬわ」

 

 驚愕するアツロウやユズをベル・デルがあざ笑う。その言葉が真実なら、この悪魔に勝てる道理はない。

 

「フリンさん、逃げましょう!」

「くっ……全員逃げろ!」

「ヌッ……!」

 

 イツキの言葉を受けてフリンが撤退の指示を出すと共に、二人は揃ってベル・デルの目に向けて火炎属性魔法をぶつける。体にぶつかれば無力化され消失する炎も、ぶつかるまではその視界を目眩ましとして覆う。その一瞬の隙をついて全員が地下の入口へと向けて走り出した。

 その背中に向けて意趣返しと言わんばかりに、先に放たれたものとは比べ物にならないほど巨大な炎が放たれる。だが、火炎に耐性がある仲魔が盾となって炎を遮る。

 

「フンッ、まあいい。逃げ、恐れ、怯え、竦め! 東京に不死の絶望が降り立ったと声高に喧伝してこい!」

 

 その言葉を聞きながら、フリン達は上野の地下へと潜り込んでいった。

 



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3話

「くそッ! なんなんだ、あの悪魔は!」

 

 不忍池から地下街へと逃げ延び、悪魔が追って来ていないことを確認した一同は、人の影が見えたあたりで足を止めた。そこでワルターが先ほどの悪魔に対する悪態をつく。

 

「こちらの攻撃が一切通じなかった。まさか本当に不死身……」

「そんなッ! そんな悪魔が暴れたら、東京はどうなるの!?」

 

 ヨナタンの推測に、ユズが悲痛な叫びをあげる。フリンたちサムライからしてもベル・デルの存在は脅威だが、現地住民であるイツキたちにとっては文字通りの死活問題だ。アツロウも明るくない未来を想像し、表情が暗くなる。

 

「……おそらくだが、今すぐに危険な事態になるということはないと思う」

「フリン? それは何故?」

 

 イザボーがフリンに問う。フリンは自分たちが逃げてきた方向、そして他の区画の地上へ出る階段へと続く道と視線を動かしながら、確認するようにゆっくりと話し始めた。

 

「あれほどの悪魔が暴れたとなれば、もっと大騒ぎになってもいいはずだ。不忍池には他のサムライ……人外ハンターたちはいなかったが、他の区画にはいるだろう。だというのに地上で戦闘している気配も誰かが逃げている様子もない。流石に逃げる間もなくやられてしまったとは考えにくい。そうでないとしたら、そもそも襲われていない、か」

 

 フリンの言葉に、全員が地上へと続く道を凝視する。あるいは天井へと顔を向けた。しばらく経っても何の変化も感じ取れなかった彼らは、フリンの推論に同意しながらも疑問が浮かぶ。その疑問を、アツロウが代表するかのように口にした。

 

「何で、暴れてないンすか?」

「……分からないが、あの悪魔は鎖につなぎとめられていると言っていた。それによって行動が制限されているのかもしれない」

「でも、あの場に現れることはできた。何か条件を満たせば違う場所にも現れるかも……」

 

 フリンとイツキの推察を聞いて、一同は微妙な表情になる。現状について判断しようにも、そもそもの判断材料が少ないとして、少しでも情報を得ようと体の小さい悪魔を不忍池に偵察に向かわせた。だが、しばらくして悪魔たちは何も見つけられずに帰ってきた。少なくともあれ以上暴れていたという痕跡もなかったらしい。

 ベル・デルという悪魔に対して燻ぶる不安を抱きながらも、このままでは埒が明かないということで、とりあえずは目下のクエストを終わらせようと人外ハンター商会に向かい歩き始めた一行をイザボーが止めた。

 

「その臭いのキツイものを持っていきますの……?」

「あ……」

 

 全員がアツロウの手に持つピアレイの首を思い出す。皆とアツロウとの距離が開いた。結局、代表してイツキが商会へ聖を呼びに行き、それまで他の者は通路で待つことにした。

 ピアレイの首が放つ悪臭に、傍を通る通行人が露骨に顔をしかめ距離を空けていく。近くに商店を構えるアイテムショップの店員からは笑顔が消えた。居た堪れなさに場所を変えようかと思い始めたとき、イツキと聖が戻ってくるのが見えた。

 

「ごめん、少し遅くなった」

「良くやってくれたな。そのクセぇ首、ピアレイで間違いないぜ。それとは別に、どうやら大変だったようだな」

 

 聖は顔をしかめながら労りの言葉をかける。

 

「お前たちが会ったベル・デルという悪魔については俺も知らん。『ベルの血』が何なのかもな。こいつの従兄……ナオヤなら何か知ってるかもしれんが、3日前に送ったメッセージの返事がまだないからな。もともとそういう奴だ。俺も調べてみるが、まあ期待するな」

 

 先に商会でイツキから話を聞いていたのだろう、聖の方から聞きたかった疑問の答を返してくる。その内容は喜ばしいものではなかったが。

 

「商会の人にも少しだけ話してきたけど、やっぱり知らないって。……あんまり信じられている様子もなかったけど」

 

 イツキが補足するように話す。少し帰りが遅くなったのはそれが理由なのだろう。元々超常の存在である悪魔があたりまえとなった閉鎖東京においても、不死という存在は認めがたいものらしい。対処が思いつかないものを信じたくないだけかもしれない。

 結局、一同の不安は晴れず、もやもやしたものを残したまま、それを振り切るようにかぶりを振って思考を切り替える。

 

「では、クエストはこれで達成ということでよろしいですか」

「ああ、あとはそれを川辺にいるケルピーに見せるだけでいい。そしたら向こう側に渡してくれる。とはいえ、場所が変われば悪魔も変わる。相応の準備はしていけよ」

「……? 聖さんは行かないの?」

「ああ、ちょっとばかし用事が出来てな。錦糸町のほうに行く。ケルピーには俺のことも伝えといてくれよ? こっちに取り残されたじゃ、たまったもんじゃないからな」

 

 聖の言葉内の微妙なニュアンスを感じたユズの疑問に、聖は苦笑を浮かべながら答える。荒事は苦手だと言っていたのを心配し、ヨナタンが同道を申し出るが聖は手を振って断った。伊達に10年以上歩き回って生きていないということらしい。また、黒きサムライについて何か分かれば連絡してもらうよう約束を取り付けた。

 

「そうですか。それでは僕たちは悪魔の準備を整えて討伐隊の基地を目指そうと思います。イツキ君たちはどうする?」

「あの悪魔のこともあるし、俺たちもナオヤを探したいので、良ければ着いて行かせてもらっていいですか」

「それは心強いわ。よろしくね、ユズちゃん」

「はい!」

 

 今後の方針を決め、フリンたちは合体材料とする悪魔を仲魔とするため地上へと向かう。これから悪魔相手に交渉を行うと考えると気が重いが、しないわけにはいかない。一方で、その場でCOMPを弄り始めたイツキたちを見て不思議に思い声をかけた。

 

「君たちは仲魔集めに行かないのか?」

「俺たちはこのCOMPのデビオクって機能で、マッカを払うことで仲魔を集められるので」

 

 イツキがそう言って見せた画面には、利用者に見合ったレベルの悪魔が値札をつけて並べられていた。これに入札して他の利用者より高いマッカを提示すれば、その悪魔が手に入る仕組みらしい。

 

「……つまり、悪魔と交渉する必要はないってことですの?」

「そうなんです!」

「正体不明のものを食べさせられるとかもないのか……?」

「そうスね。え、何それ」

「物やマッカ散々を渡した挙句、仲魔にならないどころか、襲い掛かってくるようなこともないのかい……?」

「提示したマッカより多く請求されることはありますが、襲われたりとかはまあ、ないですね」

 

『うらやましいッ!』

 

 サムライたちが同時に吠える。その魂の叫びにイツキたちは瞠目するが、そんな様子に気づかないように各々の口からは愚痴が零れ落ちていた。感情的そうなワルターはともかく、他の3人まで晒す醜態に、それはよっぽどつらいことなのだとイツキたちは恐れおののく。そしてCOMPを用意してくれたナオヤに心から感謝した。それはそれとして、サムライたちを宥めるのに少なくない時間を要した。

 

 

 

 

 悪魔を勧誘し、悪魔合体も行って戦力の増強を済ませた一同は、聖に教えられたケルピーのいる川辺に辿り着いた。ケルピーが群れでいることに驚いたが、そこでピアレイの首を渡して、聖を含めたメンバーの渡河を約束した。

悪魔とはいえ馬の背中にまたがれるのかと一部わくわくした面持ちだったが、ケルピーの示した手段は一列に並んだケルピーの背中を橋にして渡れということらしい。恩人相手でも乗馬させることは断固として嫌なようだ。ぴょんぴょんとウサギになった気分を味わいながら、上野の地を後にする。

そうして辿り着いた新天地の、新しい悪魔への対処に戸惑いながらも実力で蹴散らしつつ、大した障害もなく悪魔討伐隊の基地があるという霞ヶ関へと足を踏み入れるのだった。

 

「ここが悪魔討伐隊の基地か……正直、もっと派手な門構えだと思ってたぜ」

「そうだね……人が居なくて寂れているということを考慮しても地味という印象だな」

「まあ、この地にミカド城のような建物があっても違和感が凄まじいでしょうけどね」

 

 バロウズの案内の下、桜田通りを歩いて見えてきた入り口は駅へと入るためのエレベーターだった。サムライ達が感想を述べつつ、一同はエレベーターを起動して地下へと入り込む。防犯のためか入り口のエレベーターでは基地の中枢までは直通でいかず、B1Fにて一度降りる必要があった。面倒くささを感じつつ地下通路を歩き、もう一基のエレベーターで今度こそ悪魔討伐隊の基地へと到着した。

 

 そこは外観よりもいっそう飾り気のない殺風景な部屋だった。エレベーターを降りて左右に二部屋ずつ、正面に一つの部屋に続く扉が見えた。その正面の扉に、やや崩された英字が書かれている。そして、それは思い返せば先ほどのエレベーターの中でも見た文字だ。

 

「ん……あの扉に何か書かれてるな。……読めねえ」

「後ろのエレベーターにも書いてましたね。んー……JP‘sッスかね」

 

 ワルターとアツロウの言葉に、全員がその文字に意識を向けた。

 

「JP’s……それがここの組織、悪魔討伐隊を示す略字なのかしら?」

「えっ……でも、悪魔討伐隊って、分かんないけどJとかPとか使わなくない?」

「何か別の意味があるのか……イツキ君は分かるかい」

「いえ、分からないです」

 

 各々が頭をひねっていたが、ひとまずは探索を優先することとした。手分けしてまずは左右の四つの扉を調べていく。ターミナルを開放したり、ブラックデモニカをはじめとした使えそうな装備品を回収したりしたが、目ぼしい情報は得られない。各部屋の探索を終えると自ずと正面の扉の前に集まり、拾っていたIDカードを使ってその扉を開けて中に入る。

 そこは今までの部屋と違っていくつものモニターが並んでおり、それに向かう机と椅子や、全体を見渡せる位置に他と比較して立派な椅子が鎮座していたりと、この施設の中枢であった場所と推測できるところであった。机の上に並んでいるPCにバロウズがアクセスして、情報を漁っている。その中に、先ほど見かけたJP'sに関する情報も見つけた。

 

「JP’sはJapan Meteorological Agency, prescribed Geomagnetism research Department、気象庁・指定地磁気調査部の略称で、かつて悪魔が東京中にあふれる以前から秘密裏に悪魔を退治していた国防機関ね。悪魔討伐隊は悪魔があふれて隠し切れなくなったために、JP’s指導の下組織された半官半民組織らしいわ」

「なるほどね……それでここにJP’sのマークが……いや、気象庁なんちゃらが悪魔退治屋って何!?」

「表向きは、ということだろう。僕たちサムライ衆も民衆には治安維持部隊として認識されているはずだ。実際、ラグジュアリーズだった僕もサムライになるまで、悪魔というのは神話の存在だと思っていた」

「それにしても、このブリーフィングルーム、なんだか懐かしいような……そんなはずないわね」

「バロウズちゃん?」

 

 バロウズが自身の中に生まれた感情に蓋をし、悪魔討伐隊に関するデータを修道院にアップロードしている間、アツロウが対抗意識を燃やして独自にPCを操作し始めるが、バロウズが集めた以上の情報を見つけることはできなかった。肩を落とすアツロウをイツキやユズが慰めている間、フリン達のガントレットに修道院のギャビーからメッセージが届いた。その内容は、黒きサムライの捜索と並行して、ウーゴから遺物の回収を改めてクエストとして依頼するため、一度東のミカド国に戻るようにというものだった。

 

「黒きサムライを追うんじゃなかったのか? ウーゴの野郎……」

「そう腐るな、ワルター。ウーゴ殿も遺物を使って民の暮らしを豊かにするために、このようなご命令を下すのだろうさ」

「あの国を信用しすぎていると、そのうち足をすくわれるぞ?」

「そのへんにしましょう。黒きサムライは東京に縁のある者……でも、もっと情報が欲しいところね。ケガ……東京の民が集っていそうな大きな街でもあるといいのだけれど……」

「あのー、何かありました?」

 

 サムライたちが話しているところに、気を取り直したアツロウが声をかけてくる。フリンが一度、東のミカド国に戻らなければならなくなったと言うと、ユズ達は期待を込めた目でフリン達を見つめるが、反対にフリン達は申し訳なさがにじみ出ている苦い顔をした。

 

「すまない、僕たちの一存で東京の民を連れて行くのは立場上難しい。だが、いつか必ず、君たちを天蓋の上に案内させてほしい」

「そうですよね……いえ、分かりました! 約束ですからね、楽しみしてますね!」

 

 ユズが努めて明るい声で返事をする。イツキたちはこのまま新宿という都市に向かうというので、そこでの再会を約束しながら、後ろ髪を引かれる思いで先ほど解放したターミナルで東のミカド国へと向かう。そして、遺物の回収とは別に、ウーゴから呼び出され、彼の口から直接の依頼をされた。

 

「かのケガレビトどもが所持していたCOMPなるものを、回収してきてください」

 



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