デジモンクロスウォーズ 叛逆のラグナロク (ちんみぃ)
しおりを挟む

プロローグ うさぎの穴にまっさかさま

初めまして。こちらのサイトを利用するのは初めてなので、左右もわからない状態ですがよろしくお願いします。
この作品は随分前から温めていて、吐き出し場所がなく勿体無いと思っていたものを今回書かせていただきます。
物語は時かけアニメの一年後を想定しております。
更新頻度はあまり高くないかと思いますが、最後まで書き切るつもりですのでお付き合い願います



 

闇が世界に溢れていく。

 

 

 

すでに一筋の光すら許されていないこの世界で、たった1人残された少年は震える手で地面を弱々しく叩きつける。

 

あの時も今も、自分にもっと力があれば。

 

己の無力さに、血が滲むほどキリキリと歯を唇に食い込ませる。

どれだけ願っても時間は戻らなない。

大切な相棒も、大好きな仲間たちも、もう帰っては来ない。

だんだんと周囲の音が遠ざかっていく。

このまま消えてしまう他ないのだろうか

 

「少年、諦めるのはまだ早いよ」

 

気がつくと少年の目の前に誰かが立っていた。

顔を上げると、1人の少女が微笑みながらこちらを見下ろしている。

色なんてものを知らないのではないかと思うほど、少女は真っ白だった。

唯一大きな瞳だけが血のように赤い色を放つ。頭にはウサギの耳を生やし、背後に猫の尻尾を携えた少女は病的に白い手を彼に差し出してきた。

 

「 世界を救いたいなら、力を貸して上げる。だけどきっとそれは、君にとってとても過酷な戦いになるだろう。それでも、もう一度立ち上がる勇気はあるかい?」

 

少女の背後には、彼女とは対象的な黒い闇が広がっている。

徐々に世界を侵食していくその様は、まるで今にも彼を食べてしまおうとしているように感じられた。

 

このままただ待つだけなら、これ以上苦しい思いはしなくて済むのだろう

 

だが自分は、術があるのなら諦めたくなどない

自分にとって諦めることと死ぬことは同義だ

この絶望的な世界の中で、彼女の白さはあまりに眩く輝いているようだった。

そうだ、まだ希望は失われてなどいない

 

彼は迷うことなくボロボロになった手で、小さな少女の手を握る。

ほんのりと冷たい体温が心地よかった。

 

「 僕の名前は"アリスモン"。君の名前は?」

 

 

 

 

「 俺の、名前は ________ 大輝(たいら)

 

 

時雨 大輝 」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

プロローグ うさぎの穴に真っ逆さま

 

 

 

 

「 遅いなぁ〜タイキさん」

 

 

蒸し暑い路地で1人の少年がそうぼやいた。

ツンツン髪に炎のような赤いメッシュを入れた少年、明石 タギルは茹だるような暑さに完全にバテていた。

とても暑い。本当に暑い。これは溶ける。

クーラーの効いたコンビニもあることにはあるのだが、ここより五分歩いた先にあるため必然的にここから離れなくてはならない。

今は人を待っている最中だ。

予定と違う場所にいることはできない。

故にとにかく耐えるしかないのだ。

 

「 仕方ないだろ?タイキさんは今年受験生なんだから、僕らと違って色々忙しいんだよ」

 

それを諭すように金髪の少年、天野 ユウが同じく少し疲れた顔で告げた。

正直な話、待ち合わせ場所を室内にすべきだったかもしれない、とは思うのだが。

しかし彼らにとってなるべく人目につかない場所の方が色々と都合がいいのだ。

『ったく、だらしないぜタギル!この程度の暑さでへばるなんてよ。しっかりしろ!これからハントだってのに大丈夫かよ?』

 

どこからか三人目の声がした。

しかしあたりに人影はなく、いるのはタギルとユウだけ。

そしてそれはタギルが手にもつ、玩具のような機会から発せられているらしい。

 

「 おー大丈夫だってガムドラモン。今日こそはデジモン見つけてハントしてやるんだからな。それにしてもクロスローダーの中は涼しそうで羨ましいぜ...」

 

ガムドラモンに答えるタギルの声には力が入っていなかった。

体の8割は元気でできてます、というようなタギルであるためこれは相当に参っているらしい。

 

『ユウ、大丈夫ネ?』

 

また別の声がする。

今度はユウが手にもつクロスローダーからだ。

 

「うん、大丈夫。ありがとうダメモン」

 

時折そんな会話をしながら2人が待っていると、パタパタと足音が近づいて来た。

やってきたのは、少し長めのフサフサとした髪をした2人より背の高い少年だ。

 

「 遅れてごめんな。2人とも久しぶり 」

 

『 タイキんとこの先生の話が長くってよ。待たせちまったな』

2人より1つ年上にあたる工藤タイキとその相棒のシャウトモンは、最近は忙しくなかなか予定が合わないことが多い。

故に今日は三人が久々に揃う日なのだ。

 

「 久しぶりっす、タイキさん!」

 

「お疲れ様です。大丈夫ですよ、僕らも来たのは7分前くらいですし、連絡は事前に貰ってましたからね」

 

『待ちくたびれたぜ王様!よし、全員揃ったしさっさとハントに行こうぜ!』

 

「 おう!!てことで早く行きましょうタイキさん!」

 

ワクワクと玩具を手にした子供のようにはしゃぐタギルに、思わずタイキは苦笑いをこぼす。

タギルのこういうところは相変わらずであり、タイキ個人としては非常に好ましい。

 

「 ああ、そうだな。よし、行こうか」

 

タイキの言葉を合図に三人の少年はそれぞれクロスローダーを宙に掲げる。

 

「 タイムシフト!!」

 

クロスローダーからデジタル時計のような時空の歪みが生まれ、彼らは迷うことなくその中へと飛び込んだ。

 

_____________________________________

 

薄暗い空と、どこか寂れた雰囲気の街並み。鬱蒼としげるデータの苔。

久方ぶりに訪れたデジクォーツは、相変わらず不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「 けど、最近はほとんどハグレデジモン達も見なくなって来ましたね」

 

「 ああ、恐らくデジモン達の数がこの空間から減って来ているんだろう

このハグレデジモンハントも終わりが近いのかもしれないな」

 

あの戦いから一年が経過した。

時計屋の言葉通り、あの頃はデジクォーツにも多くのハグレデジモン達が謳歌していたが、それも徐々に数を減らしつつある。

それは世界にとっては良いことであるが、彼らにとっては相棒との別れが近づいているようで正直寂しい気持ちもあった。

 

「 くっそー!今日もみつからねぇ!!」

 

「 ここんとこ毎日だな。7日連続は最高記録だぜ」

 

タギルとクロスローダーから出て来ているガムドラモンは悔しそうに顔を歪める。

こうも捜索が難航していては、さすがに腹も立つものだ。

 

「 この辺りにはいないようだから、少し捜索範囲を広げてみた方がいいかもしれないな」

 

「 隣町まで行ってみますか?今から行けばまだ時間的には余裕があると思います」

 

「 んー見つかんないなら仕方ねぇか.....

んじゃあ早いとこ隣町まで行こう ぜ? 」

 

その時、タギルはふと視界の隅に何かが動いた気がした。

慌てて目線で追いかけると、その先には一台の少し古めかしい車が停車している。

 

その上にそれはいた。

モコモコとした体に、真っ直ぐそそり立つ耳。

滑らかな尻尾をゆらゆらと揺らめかすそれは、真っ赤な瞳でじっとこちらを凝視している。

 

小さいが、あれは間違いなくデジモンだ

 

「 見つけたぜ!!!行くぞ、ガムドラモン!」

 

「 おうよ!久しぶりにうでがなるぜ!!」

 

見つけるやいなや2人は目にも留まらぬスピードでそのデジモンめがけて走り出す。

それをみて慌ててユウとタイキも後に続いた。

 

「 あんなデジモン見たことないな・・・一体どんなやつなんだろう」

 

「 とにかく追いかけるしかない。このままだとタギルもデジモンも見失ってしまう」

 

小さな、それこそキュートモンほどの大きさのそのデジモンは、タギル達がこちらに向かってくるのを見るやいなや、くるりと向きを変えてどこかへと突然走り出す。

随分とすばしっこいらしく、それだけで一気に距離が開いてしまうほどだ。

 

「 まずいぜタギル!あいつ逃げられちまう」

 

「 くっそぉ!ここで諦めてたまるかぁあ!」

 

どうやら久々のデジモンに、止まることを知らないタギルの悪癖が発動してしまったらしい。

中学2年生になってからはこの性格も鳴りを潜めていたのだが、よほど力が有り余っていたのだろう。

獲物を狙う獣のごときギラギラとした瞳で全速力でタギル達はデジモンを追いかけた。

 

________________________

 

「 も、もうダメ.....疲れた」

 

「 ったくだらしねぇな!と、いいてぇとこだが、正直俺っちもこのままじゃ拉致があかねぇと思うぜ。あいつちょっとすばしっこすぎやしねぇか?」

 

もうかれこれ30分近くはあのデジモンを追い回していた。それまでの道のりで、山あり谷ありの障害物は無かったが、それにしても全速力で走り続ければそろそろ限界というものだ。

何度か攻撃を仕掛けたり、先回りをして見たりするのだが、残念なことに全てかわされてしまう始末である。

 

「 だけど、あのデジモンまるで僕たちをどこかへ連れて行こうとしてるように思える」

 

「 ああ、それは間違いないだろうな」

 

2人のいう通り、あのデジモンの動きは明らかに誘導をするもののそれだ。容赦無くこちらの攻撃も届かない範囲まで差は広げるものの、視界から外れないように、こちらが見失えば立ち止まりただじっと待っている、そんな行動をくり返来ていた。

 

「 アイツの行く先に何かあるってことっすかね?」

 

「 わからない、だが何かただ事じゃなさそうだ」

 

「 あ!動き出した!追いかけよう!」

 

再び先頭をデジモンが走り出したことにより、三人と一匹も後に続く。

そうしてまだ鬼ごっこが長引くかに思われたが、その終止符は突然に訪れた。

小さなデジモンが向かう先にあったのは小さな公園であった。

必要最低限の滑り台やブランコなどの遊具がある程度の寂れた公園である。

そのど真ん中の空間を占めている砂場に向かってそのデジモンは真っ直ぐ突き進んでいた。

何故そんな場所に来たのかは、誰が見ても一目でわかる。

 

「 なんすか!?あれ」

 

「 なるほど、俺たちをここに連れて来たかったわけか」

 

そこには謎の空間の歪みが発生していた。

形はまるで鏡ように見えるが、デジクウォーツへの入り口とどことなく似ている。

そんなものがなぜ、この場所に展開しているのだろうか

 

「 これは、どこかに繋がっているのか?」

 

「 けど、それって一体どこに....?」

 

「 どうするんだ、タギル」

 

謎の入り口を前に彼らは考える。

飛び込むべきか、否か。

 

「 へんっそんなの決まってるぜ!この先に行くぜ!」

 

「 こんなものができてるってことはこの世界にまた何か異変が起こっているってことだよね」

 

「 ああ、このままほっとけない!」

 

彼らに迷いはない。

デジモン達にまた何か被害が及ぶ可能性があり、それを彼らが見逃せるはずがなかった。

 

「 よっしゃぁ!タイムシフト!!」

 

この先にどんなものが待ち受けているのだろうか。

期待と不安を胸に、彼らは光の中へと飛び込んだ。

 

彼らがいなくなったのち、光のゲートは粒子となって弾け飛ぶ。

あとには、ただ寂しげな公園が残るばかりである。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 




あともう1話ほど書き溜めているので近々公開できたらと思います。
この回では主人公が完全にタギルですが、次まで大輝くんはあんまり出てこないかなと思います。
クロスウォーズは一応全て見てはいましたが、大分前なのと他作品は中途半端にしか手をつけられていないのでそれをご了承の上読み進めていただけますと助かります
20話ほどを想定しておりますが、普通に伸びたり縮んだりしますきっと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 うさぎと剣と少年と

思えば長い日々だった

なかなか正解の見えない迷路のような日々を送っていた

だがようやく私の悲願が果たされる

ああ、これからずっと共に居よう


とある男の日記より


 

謎の空間の入り口に飛び込んだタギル達はそのままいけば地面にすぐに着地できると思っていた。

だがどうだろう。実際には何故か足は空を舞い、そのまま真っ逆さまに落ちて行くのだ。

 

「 うっそぉおおお!?!?」

 

そのままなす術もなく三人と一匹は穴の中へ落ちて行く。

途中途中には何故かティーカップやポット、鏡、お菓子に本と随分メルヘンちっくなものが浮いていたりする。

これではまるでおとぎ話のアリスのようだ。

 

「 一体どこまでいくんだ!?」

 

「 この高さで落ちたらまずいですよ!?」

 

「 ぎゃああ!!しぬぅ!!!」

 

思い思い悲鳴を叫び、無情にも彼らはただ落ち続ける他ない。

しばらく急降下をし続けていると、突然強い光が下から発せられた。

見ればどうやら穴の出口らしい。

この先がせめて硬いコンクリートなどではないことをひたすら願いながら、彼らは光の穴に飛び込んだ。

 

 

光から抜けて、最初に見えたのは幸運なことに柔らかな草であった。

その上、思ったほど高くない位置に降ろされたようで、そのままタギル以外の2人と一匹は見事に着地を決める。

タギルはというと、落ち方が悪かったらしくそのまま顔面ダイブをしてしまった。

 

「 ふぎゃっ!?」

 

「 おいタギル!大丈夫か?」

 

「 ぐぬぬ、な、なんとか....」

 

痛そうに鼻を手でこすりながら、タギルは起き上がり辺りを見回した。

同じように周りの景色を見ているタイキやユウは驚愕に目を見開いている。

 

「 ここどこだ?」

 

タギルの目の前には、とてものどかな草原が広がっていた。

ここはどうやら少し小高い丘の上であるらしく、下には小さな村々が広がっている。

おとぎ話にでも出てきそうな美しい景色にタギルはただただ圧倒された。

 

「 ここは、まさか、デジタルワールド!?」

 

「 えぇ!?これがデジタルワールドなんすか!?」

 

話でしか聞いたことのなかったデジタルワールドがまさかこれほど綺麗な場所だとは知らなかったタギルは再び驚く。

だがしかし、確かにどこか非現実的な光景ではある。

これほどのどかな光景はまず人の世界ではなかなか見られないだろう。

「 ああ、間違いない。それもここはシャウトモンの故郷だ!」

 

『 微笑みの里と繋がってたとはな...一体どうなってやがる?』

 

「 ? 何か聞こえませんか?」

 

皆が呆気にとられている中、ユウがあることに気がついて怪訝そうな顔をする。

同じように他のメンバーも異変を察知しようと口を噤んだ。

やがてどこからか確かに奇妙な音が響いてくる。

金属と金属がぶつかり合うような、まず平和な世界では耳にしない物騒な音。

音の出所は森の中のようだ。

 

「 誰かが襲われているのか?だとしたらほってはおけないな。シャウトモン、行こう!」

 

ピンチをすぐさま察知したタイキはシャウトモンをリロードするとその方向に走り出す。

 

「 おうよ!!俺の故郷の奴らのピンチを黙って見過ごす訳にはいかねぇな!!」

 

「 俺たちも行こうぜ!ガムドラモン!」

 

「 あったんめぇだ!!」

 

「 僕らも手伝おう!ダメモン!」

 

「 モチロンネ!」

 

更にそこにタギルとガムドラモン、ユウとダメモンが続いて森の中へと飛び込んでいく。

青々した木々が生い茂る森の中をズンズンと突き進んでいくとやがて見えてきたのは、信じがたい光景だった。

 

複数の悪魔のような球体のデジモンを従えた真っ黒なドラゴンが、1人の人間を囲い攻撃を仕掛けている。

そして驚いたことに、次々と四方からくるこの攻撃を、手に持つ剣で討ち払っている人物は、タギルたちと歳も変わらない少年だった。

真っ黒い癖の強い髪に、ライトグリーンの目をした少年の頭の上には、なかなかごついゴーグルが光に反射している。

「 デジモンの攻撃を剣で防いでいるのか!?」

「 でも、凄い!正確に跳ね返してる!」

 

ユウの指摘通り、少年は確かに攻撃を1つ1つ丁寧に跳ね返していた。

以前、デジモンを素手で殴る英雄というのがいたが、彼は例外中の例外であり、人間がまずデジモンと対等に戦うのは至難の技だ。

ただの人間の少年ではないのだろう。

使っている剣もどうやら何か特殊なものであるらしく、パチリパチリと時折静電気を弾かせながら光り輝いている。

だが、元々人数の戦力差がかなりあるため、徐々に追い込まれつつあった。

 

「 相手はピコデビモンとデビドラモンだな

ここいらじゃ見ない奴らばかりじゃねぇか」

 

「 とにかく加勢しよう!シャウトモン!」

 

「 よっしゃぁ!いっけぇガムドラモン!」

 

「 僕らも行くよ!頼んだよダメモン!」

三人の声を合図に三匹のデジモンが一斉に相手デジモンへと襲いかかる。

手近にいたピコデビモンの後頭部をシャウトモンが殴り飛ばし、更に別のピコデビモンをガムドラモンが自慢の尻尾で叩き落とす。

「 おりゃぁああ!!」

 

「 な、なんだ!?」

「 誰だ貴様らは!?」

 

突然の奇襲に驚きを隠しきれないデジモンたちの視線が一斉に2匹の方へと吸い寄せられた。

同じように少年も彼らに気がついたようで、あっけにとられた顔をしている。

 

「 てめぇら、俺の故郷で随分といい度胸じゃねぇか」

「 ! コイツは、シャウトモン!デジモンキングだ!!」

 

「 おっと、デジタルワールド1の暴れん坊、ガムドラモン様のことも忘れてもらっちゃ困るぜ!」

 

デジタルワールドを救った英雄たちの登場は予想外だったのか、デジモン達に混乱が広まっていく。

一方少年の方は、イマイチピンとこないような顔をしており、例えるならポカーンという音が似合いそうな表情であった。

そう、完全に隙だらけなのである。

 

「 その命もらった!!」

 

それを見逃すほど敵もバカではない。

油断した少年の背後に周り、容赦なく注射器を首筋めがけて投げつけようと振りかぶった。

 

「 !?しまった!」

 

「 今だ!ツワーモン!!」

 

『スモーキンブキ!!』

 

だが更にその背後からヌンチャクが飛び出し、ピコデビモンの頭にクリーンヒットする。

いつの間にやらツワーモンへと超進化していたダメモンの奇襲攻撃だ。

 

「 1人相手に大人数とは随分卑怯な真似しやがる」

 

「 ここからは俺っち達が相手してやるぜ!」

 

周りのピコデビモンとガムドラモン達が交戦を開始する。

人数の不利には変わりはないが、相手はそれほど強くはないらしく戦力的には問題がないようだ。

その隙にタギル達が少年の元へと駆け寄った。

少年とタギル達に近づいてくるピコデビモンはツワーモンが追い払ってくれている。

 

「 大丈夫か君?怪我はしてないか?」

 

タイキがざっと見た感じ、少々のかすり傷程度にしか怪我はしていないようであった。

やはりよほど正確に攻撃を跳ね返していたのだろう。

随分と反射神経がいいようだ。

 

「 ああ大丈夫だ。ほとんど無傷みたいなものだ。」

 

「 そうか、よかった!色々お互い聞きたいことはあるけど、とりあえず俺たちは味方だ。今はともに奴らと戦おう」

 

はじめ少年は警戒したようにじっと三人顔を順に眺めていた。

しかし、敵意がないことを感じとると、少しだけ息を吐いて肩の力を抜く。

 

「 ... そうか、すまない。よろしく頼む。悪いが俺はデビドラモンに少々用がある。周りのピコデビモンの殲滅をお願いしたい」

 

「 それは構わないが、デジモンもなしに1人で挑むのは危険だ。俺たちも 」

 

「 いや、話を聞くだけだ。聞きたいことさえ聞ければあとは用はない。」

 

そういうか早いか、少年は再び剣を構えデビドラモンへと走り出した。

止める暇も無いまま少年に置いてけぼりをくらった3人は完全に拍子抜けである。

「 なんだアイツ!?人の話聞かねえヤツだなぁ」

 

「 ま、タギルに言われたくはないと思うけどね」

 

「 とにかく、このまま1人でデビドラモンの相手をさせるのは危険だ。

幸いここはデジタルワールドだからデジモンにも制限はない。せめて俺たちも後方から援護しよう。ツワーモンは引き続き俺たちの周りのピコデビモンに当たってくれ。彼の援護は、遠距離攻撃のできるデジモンたちで対応しよう」

 

「 え!?そうなんすか!?デジタルワールドだとデジモンに制限ないの!?」

 

「 ったく、前に時計屋が言ってただろ。デジクウォーツはクウォーツモンが生み出した空間だから制限があっただけなんだよ」

 

「 そういやなんか言ってたような.... とにかく、そういうことならわっかりました!」

タイキはクロスローダーの中から獅子のように勇ましいデジモン、ドルルモンをリロードする。

それに習うようにタギルも、カッパを模したデジモン、サゴモンをリロードした。

「 おお!マジで複数リロードできた!!」

「 ドルルモン、サゴモン、彼の周りにいるピコデビモン達を頼む!」

 

タイキの言葉に頷いた二体はすぐさま周辺のピコデビモンに攻撃の嵐を振らせる。

ドルルモンは名前の通りドリルのようなものを発射するドリルバスターを放ち、サゴモンは地面に杖を叩き激流を発生させて攻撃を仕掛ける。

次々とくる攻撃にピコデビモン達は対処しきれないようで、その隙にピコデビモンの間を少年がすり抜けていく。

そしてデビドラモンの爪と少年の剣が激しくぶつかり合う。その衝撃と音の重さがお互いに一歩も譲らず本気で戦っていることを物語っていた。

 

「 答えろ、デビドラモン!お前達の主人は今どこにいる!!」

 

「 さぁな、先ほども告げたが貴様に教える義理はない。俺たちはあくまで残りカスの処理をしに来ただけに過ぎないんだからな!」

 

「... やはりどうしても答えないつもりなのか。ならば、お前達を倒す他ないようだな。」

 

一際強い一撃同士がぶつかり合い、互いに2人は距離を取る。複数の悪魔の異名を持つデビドラモンに対し、少年は全く臆することなくその瞳を真っ直ぐ見据えていた。

澄んだ緑の瞳はただ目の前の相手だけを捉えている。

一方のデビドラモンの方は、少年の言葉に興味深そうに、それでいて小馬鹿にしたように、ほう?と感嘆の声を漏らした。

 

「 貴様が俺たちを倒す?表の勇者様達が現れたことで強気になっているのか?先ほどまで我らにほとんど苦戦状態であったのに。」

 

「 そうだな、先ほどまでの俺の目的はお前達から、話を聞き出すことだった。だがその必要がなくなった今、これ以上手加減をするつもりはない。」

 

「 貴様は手を抜いていた、と申すか。随分と舐められたものだな」

 

黒く硬い翼を大きく広げデビドラモンはひときわ高く上昇する。太陽を背にすると影と相まって黒さが増し、それが闇の塊そのもののようで不気味であった。

見るものを凍らせる赤い目が、より一層不気味にギラギラと輝いている。

何かを仕掛けるつもりなのは一目瞭然だ。

 

「 ならばこちらも全力で貴様を葬ろう!」

 

そう叫ぶや否や、デビドラモンは勢いよく滑空を始めた。

徐々にスピードが増していき、鋭い爪の威力が上がっていく。

あの一撃を喰らえば無事では済まないだろう。

 

「 危ない!!!逃げろ!!!」

 

タイキが少年にそう叫ぶも、少年はピクリとも動かなかった。

ただ真っ直ぐに狙いを定め、向かいくる敵を返り討ちにしようと意識を集中させている。

 

「 さぁ死ね!!叛逆の騎士よ!!我らが主人がこの世界を殺すその時を、亡霊として見届けるがいい!!!」

 

デビドラモンが少年を斬りつけようと大きく腕を振りかぶる。

タギル達は後方からの支援に徹していたため、この距離からでは少年まで届かない。

「 さらばだ!!『クリムゾンネイル!!!!』」

 

 

 

少年が引き裂かれるまであと三秒ほどとなった時、突如として少年とデビドラモンを青白い閃光が包み込んだ。

あまりの眩しさに目を開けていられず、何が起こっているのかはわからない。

ただそこにあるのは凄まじいエネルギーだ。

信じられないほど強い力が少年とデビドラモンに降り注いでいる。

「 ま、まぶしぃ!」

 

「 一体、何が起こってるんだ?」

 

 

 

やがて光が完全に消滅した時、そこには目を疑うような光景があった。

あれ程のエネルギーを直に受けたのにも関わらず、怪我ひとつない少年。

そしてその足元にはデータの瑞まで焼け切ったデビドラモンが転がっていた。

 

「 ....どういうことなんだ?」

 

先ほどまで命を落とす寸前であったのは少年の方だったはずだ。

それなのにこの一瞬で立場は完全に逆転してしまった。

ボスがやられてしまったことにより、ピコデビモン達にも動揺が広がり、ついには悲鳴をあげながらどこかへと消え去っていく。

「 さっきのあいつが、やったってことか?」

 

言葉にしてみてもタギルは信じられなかった。

人間がこんなことをできるはずがない。

ましてや、あのデビドラモンは相当強いデジモンだったはずだ。

人間の子供に敗れるなど、誰が信じられよう。

 

タギル達が完全に呆気にとられている中、クルリと少年はこちらに向き直った。

鮮緑の瞳には先ほどまであった鋭いものはなくなり、むしろどこかあどけなささえ感じられる。

「 助けてくれてありがとう。とても助かった。

 

俺の名前は時雨 大輝。んーと、とりあえず、よろしく」

何事もなかったかのように大輝と名乗った少年は、1番先頭にいたタイキに手を差し出す。

コテリと首をかしげながら、謎の少年はこちらを不思議そうに見つめていた。




大輝はしぐれ たいらと読みます。
初めは足りないものだらけの主人公ですが、少しずつ成長していく予定です。
ところで、この時点でこれだとすでに20話越えるのではって感じです。
道のりは長いですね

おまけですが、プロローグに挿絵を追加いたしました。毎回ではないかと思いますが、ちょこちょこ追加していきます。
この回にも追加予定です。
タイトルは叛逆のラグナロクとなりました。
大輝とタギル達がどのような戦いをするのか、見届けてください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 ワイルドハンター

例えば、大切な人を失うことになるとして

それを救える術があったなら

人というものはそれがどんなに愚かでも、手を伸ばすのだろう


とある男の日記より


「 改めて自己紹介をしよう」

 

デビドラモン達との戦闘を終えた一行は、微笑みの里に来ていた。

疲れた体を休ませるためと、ゆっくりと話をするためには里の中にいる方が最適だと踏んだからだ。

各々が地面に腰を下ろし、最初に口を開いたのはタイキだった。

 

「 俺の名前は工藤タイキ。それからこっちが相棒のシャウトモン」

 

「 おう、俺はデジモンキングでもあるんだ。よろしくな」

 

「 そうか、あなたは王様だったのか」

 

だから先ほどのピコデビモン達が驚いていたのだな、と納得したように大輝は頷く。

王様がいきなり現れたとあっては、普通は驚くだろう。

 

「 俺は明石タギル!タイキさんの後輩で、スーパースターだ!そんでこいつはガムドラモン」

 

 

「 デジタルワールド1の暴れん坊、ガムドラモン様だ!」

 

決まった、とばかりにキリッとした顔をするタギルとガムドラモン。その顔があまりにもそっくりで、思わずタイキは吹き出してしまう。

一方大輝の方は、所々理解ができない内容であったのか、頭にハテナマークが出現しそうなほど首をかしげている。

 

「 えーと、うん、よろしく?すーぱーすたー、ってどういう」

 

 

「 あー、あんまり気にしなくていいから。僕は天野ユウ。こっちにいるのが僕の友達、ダメモン」

 

「 いきなり困らせるなんて、ダメダメネ!」

 

ユウの膝の上に座っているダメモンは、タギルとガムドラモンを指差して得意のダメ出しをする。

それに対して「 なんだとー!」とおきまりの台詞を返すタギルとガムドラモン。

このやり取りはある意味日常茶飯事だ。

 

「 さて、それじゃあ君の素性を聞かせてもらってもいいかな? 」

 

「 その前に1つだけ教えて。君たちが勇者様っていうのは、本当?それってどういうことなの?」

 

「 あぁ、それは」

 

 

 

「 それは彼らが、この世界を救った英雄、ある意味で選ばれし子供達ってことだからだよ!」

 

 

ガサガサとユウの座っていた近くの草が不自然に揺れた。

徐々にこちらに近づくその影はやがて、草の中から飛び出して彼らの前に姿をあらわす。

 

それは真っ白いウサギのような、猫のような可愛らしいフォルムをしたデジモン。

そう、タギル達がここに来ることの原因となったあのデジモンだった。

 

 

 

「 ああ!!さっき俺がハントし損ねたデジモン!!!」

 

 

「 アリスモン!こんなところに居たのか」

 

アリスモン、と呼ばれたデジモンはニコニコと無邪気な笑みを浮かべたままピョンピョンとウサギ特有の歩き方で大輝の方へと近づく。

そして当たり前のようにその膝の上にチョコンと収まった。

 

「 まさか、お前が彼らを呼んだのか?」

 

 

「 そうだよ!だって君がいくら強くても、あの人数相手じゃ不利だっただろ?それに、君はきっと彼らから学ぶべきことがたくさんある。英雄としても、デジモンのことにしても。なにより、僕らはこの世界は初心者も同然だからね。現地の人の手助けがなければ、困ってしまうよ?」

 

得意げな顔で大輝を見上げるアリスモンとは対照的に、大輝は困ったような戸惑ったような表情を浮かべている。

詳しいことはわからないが、この二人はつまり、相棒同士ということなのだろう。

「 たしかに、アリスモンの言うことは最もだよ?だけど、危ないことに関係のない人を巻き込むなんて、ダメじゃないか。」

 

 

そう言いながら、大輝のアリスモンの頭を撫でる手は優しかった。

だが、アリスモンのほうはどうやら不服らしく、先ほどまでの笑顔が消え失せどこか不機嫌そうな顔をしている。

随分とコロコロと表情が変わるものだ。

 

「 君はまたそう言うこと言う....お小言を言いたいのは僕の方だよ!せっかく助けに来てくれたのに、結局一人で突っ走ってしまうなんて!周りの心配をするのはいいけど、君はもっと自分を大事にして欲しいんだけど!」

ぷりぷりと怒りながら、前足で大輝の膝をタンタンと叩いて抗議をしている。

それに対して、大輝は苦笑いを浮かべながらどうにかアリスモンを宥めようとしていた。

 

「 ....なんか、あいつさっきまでと性格違くねぇか?」

「 戦っていた時はなんか野生の狼って感じだったけど、どちらかと言うと犬っぽいよね...」

 

すると、その会話が聞こえていたのかアリスモンの耳がピョコピョコと動きクルリとタギルとユウの方へ振り返った。

その顔は特に怒った風でもなく、どこか得意げに微笑んでいる。

 

「 ふふ、大輝はね、集中してると人が変わってしまうんだよ。その上さっき凄く強い力を使っただろう?あれは強力なだけ大輝の負荷もかなりのものだからね。今は省エネモードなのさ!」

 

そう得意げに話す彼女の顔は、仕方ないと言わんばかりだが、どこか憎めないような愛情に満ちた笑みをたたえていた。

一度決めたら一人で突っ走り、集中している間は全力で挑み、その反動で終わった後は疲弊してしまう。

タギルとタイキさんを掛け合わせたような人だとユウは一人心の中で思った。

それも2人のいいとも悪いともとれる癖を抽出してるあたり、あのアリスモンがあれほど過保護になってしまうのも頷ける。

 

「 そうだ、さっきの力、あれなんだったんだ?」

 

 

「 あーえっと。そうだな。とりあえずそれを説明するためにも1から話すね。少しだけ長くなってしまうけど、構わないかな?」

 

大輝の問いかけにコクリと3人と3体は頷く。

それをみて大輝も少しだけ愛好を崩した。

 

 

「 まず、俺はね、別の世界からやって来たんだ」

 

 

「 別の世界?それは人間の世界ってことなのか?それとも、デジクウォーツ?」

 

タイキの質問に、大輝は首を横に振った。

 

「 いや、違うんだ。君らは〝パラレルワールド″って知っている?」

 

「 ぱられるわーるど??デジタルワールドの仲間かなんか?」

 

「 たしか、パラレルワールドっていうのは時間のある時期から分岐して生まれる平行世界のことだよ。」

 

トンチンカンな発言をしたタギルに対し、ユウが的確な説明をする。

だがその説明自体が難しく、タギルとガムドラモンとダメモンは全く同じ動きで首を傾げた。

 

「 言い換えるなら、この世界にタギルくん達の知っているデジタルワールドや人間界は複数存在しているってことなんだ。だけど、それらはどこかが違っていて、同じ世界はない。そして決して行き来することは出来ないし、干渉することも出来ない場所同士にある。」

 

「 なるほど...?え?でもお前はここにいるじゃん?」

 

 

「 それはアリスモンの力のおかげ。どういう原理かは俺にもわからないけど、アリスモンは空間と空間を行き来することができるみたいなんだ。」

 

大輝の言葉を聞いてアリスモンはとても得意げに胸を張ってみせる。

 

「 うん!どんな場所、どんな時間にも連れて行ってあげられるよ!別の本を手にとって読む行為に等しいからね。でも結構疲れるから、暫くは力を何も使えなくなっちゃうし、体も省エネモードになっちゃうんだけど。」

 

「 そうか、つまりアリスモンはクロックモンとよく似た力を使える、ということか。そしてその姿も本来のものじゃない」

 

「 そうだよ、タイキくん!本当は僕だってもう少し大きいんだから。」

 

「 ...まあ、なんとなーく理屈はわかったけど。どうして別の世界からこの世界に来たんだ?」

 

まだ少し噛み砕けていないのか、少し曖昧な物言いをタギルはする。

一方その質問に大輝はほんの少しだけ、哀しそうな、それでいて悔しそうな顔をした。

あまり表情が変わらないのかとてもわかりにくい変化ではあるが、そう感じたことは恐らく間違いではないと何故かタギルは思う。

 

「 うん、俺らがこの世界に来た理由。それは

 

 

 

 

 

世界の消滅を、止めるためだよ」

 

「 せかいの、しょうめつ?」

 

 

確かめるように口にしてみても全く実感が湧かなかった。

ここ最近デジタルワールドもデジクウォーツも人間界も、そのような恐ろしいことが迫っているとは思えないほど平和でほとんど代わり映えのしない日々を送っているからだ。

 

「 そう、世界の消滅。今この世界に全てを消し去ろうとしている力が迫って来ているんだ。彼ら(・・)はデジタルワールドに限らず、人間界も何もかも滅茶滅茶にしようとしている。」

 

彼ら(・・)?それは、誰なんだ?何故そんなことがわかる?」

 

 

「 ... 彼ら(・・)には名前がないんだ。だからアリスモンがつけた総称で、俺は〝ワイルドハンター″って呼んでいる」

 

 

「 〝ワイルドハンター″?」

 

「 ワイドハントという伝説を知っている?死を司る精霊を従えた伝説上の人物の霊を先頭とした狩猟集団だ。たとえば有名どころだとアーサー王だとか言われている。彼らをみたものには災いが降りかかり、死は免れられない。」

 

「 その伝承になぞって付けられているのか。現れて災いをもたらすから?」

 

「 うん、概ねそんなところ。

何故彼ら(・・)の目的がわかるのかについてはとっても簡単だよ。

 

俺の世界を、彼らが滅ぼしてしまったからだ」

 

大輝の言葉にその場にいる誰もが息を飲んだ。

まさか自体がそこまで深刻であったとは、誰も予想できなかったのだ。

 

「 じゃあ君の世界は...」

 

「 ... もう既に闇に取り込まれ、滅びてしまった」

 

「 一体、どうしてそんなことに...」

 

 

「 ...そうだね、ここからは俺と仲間たちの話をしようか。

 

これは、もう1つの世界の選ばれし子供達、そしてその末路の話だ」




私の力不足で最大4人ほどしか動かせないため、デジモン達が空気になってしまっているのが悔しいです
戦闘になったら凄い動くと思います
きっと


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 もう1つの結末

どうして上手くいかないのだろう?

やはり素材が悪いのだろうか?

時間はあまりないというのに・・・


もっと特別なものを用意しなければ


とある男の日記より


かつて大輝のいた世界のデジタルワールドは、とあるデジモンによって侵食されようとしていた。

 

名前は〝グリムモン″。突如として現れた、悪意の塊。

グリムモンの力は凄まじく、そのままでは間違いなく世界を滅ぼしてしまっていただろう。

そこで、デジタルワールドの神とロイヤルナイツ達の意思決定により、この危機を救うために8人の子供達が選ばれた。

彼らはそれぞれを象徴とした力を持つ騎士達で、この世界の救世主である。

大輝はその8人の中の1人だった。

 

彼らはみずからの相棒デジモン達とこの危機に立ち向かった。

何としても世界を救うために、強大な悪に抗ったのだ。

 

 

だが結果は最悪だった。

彼らはグリムモンに勝つことは叶わなかったのだ。

そして、絶望に打ちひしがれる子供達と、徐々に闇に侵食されるデジモン達を前にグリムモンはとある装置を起動させる。

 

〝エリクサーシステム″

 

かつてグリムモンがそう呼んでいたとても大きな謎の装置。

それは、デジモンと人間を融合させ1つの生き物にしてしまうというものだった。

デジモンのデータとデータに変換した人間を合体させるのだ。

そしてそれは二度と戻ることはない。

その装置はいつからそこにあったのか。

誰が作ったのか、何の目的のためにそこにあるのか。

それは誰も知らない。

だが、この装置による利点はただ1つ。

超人的なデジモンを生み出すことができる、ということだ。

デジモンは人間の心のエネルギーを糧としている。

本来は人間から接種をするものであるが、融合したことにより、そのエネルギーを直に無限に得られるのだ。

備え付けのハードウェアを使っているものより、予め技能が取り込まれた機械のほうが遥かに効率と性能が良い。

その上、戦闘において弱い人間はデジモンの強大な力や身体能力を手に入れられる。

この2つが合わさることで、より強いデジモンが生み出されるのだ。

 

恐らくグリムモンはその場にいる子供達とデジモンを取り込んでしまおうと考えたのだろう。

だが、その目論見は失敗に終わった。

その後グリムモンがどこに行ってしまったかはわからない。

まだ生きているのかも、消えてしまったのかも。

だが、結果としてグリムモンの勝利に世界は滅び、闇が全てを飲み込んだ。

 

世界を滅ぼすほどの闇の力を前に生き残ることはまずほとんど不可能だろう。

だが、グリムモンが簡単に滅びそうにないと思ってしまうのも事実だ。

 

 

「 これが俺の知りうる世界の結末だ。恐らくグリムモンはまだ生きている。だけど、俺は残念ながらあいつがどこにいるのかも、そもそも何が目的で動いていたのかもわからない。」

 

「 デジタルワールドを征服とか、そういうのじゃねぇの?」

 

「 俺たちも初めはそう考えていたんだけどね。それなら世界を滅ぼしてしまうというのは、奴の目的からかけ離れているんじゃないかな。そう思うとどうにも腑に落ちなくて....」

 

少々ハッキリとしない物言いに、タギルも眉根を寄せた。

目的がハッキリとしない行動というのは、どうにも不気味で気持ちが悪い。

 

「 それにしてもデジモンと人間の融合か...

以前の英雄のなかに自分がデジモンとなって戦う人たちはいたけど、それとは別ってことみたいだね。デジクロスともまた違うものなのかな」

 

「 見てみないことにはなんとも言えない。だけど、俺にはあまり良いものだとは思えないんだ」

 

「 もしかして、君のあの力は...?」

 

そこまで聞いてタイキがあることに気がついた。

先ほどの戦闘で大輝が使ってみせた力は明らかに人が使えるものではない。

だが、デジモンと融合した場合ならば話は別だ。

タイキの言葉を聞いて同じように考えに至った全員に見つめられ、大輝は自嘲気味に少し笑ってみせた。

 

「 うん、その通り。俺のこの体も、既に半分はデジモンで構成されている」

「 それはグリムモンが起動した時に?」

 

「 そうなんだ。だけど、俺とは相性が悪かったみたいでね。実のところデジモンとしては三分の一程度にしか力が使えないんだ。普通はもう少し体なんかにも変化があるはずなんだけど、俺ができるのは空間に漂う電子データを構成して武器を作り出すことくらい」

 

そう言いながら大輝は手のひらを前に出し、力を込め始めた。

するとみるみる電子データが手に集まっていき、最後には先ほど使用していた剣が姿を現したのだ。

 

「 すっげぇ!こんなことできるのか!!」

 

「 ありがとう。でもさっきも言ったけど、できることはこれくらいで、パワーも多少の強化はあっても、もっと本格的な人に比べればかなり劣ってしまうんだ」

 

「 錬金術みたいなものか。君はどんなデジモンと融合したんだ?」

 

大輝が再び力を剣に込めると、ぱちっと音を立てて電子の剣は空気中に砕け散った。

それが花火のようで綺麗だな、と呑気なことをタギルは考えていた。

そしてゆるゆると大輝は首を横に振る。

 

「 ... 実は俺にもどんなデジモンと融合してしまったのか、わからないんだ。」

 

「 わからないの?それじゃあどんな力を使えるのか、詳しくは知らないってこと?」

「 うん、俺の周りにこんな力を使えたデジモンはいなかったから、この力の持ち主は恐らくあの騒動の時に近くに居て巻き込まれてしまったんだと思う」

 

 

だからこれが正しい力の使い方なのかもわからないのだ、と大輝は言う。

 

大体の概要は明らかになってきたが、所々で足りない情報があり一同は頭を抱える。

わからないことは4つ。

 

グリムモンの行方と目的

大輝のデジモンの正体

エリクサーシステムと呼ばれる謎の装置

そして、ワイルドハンターと呼ばれる謎の団体

 

そこではたとタギルはあることに気がついた。

それはずっと呈示されてはいたのに、あえて話題にしなかったと思えるほど不自然なものだった。

 

 

「 お前確か仲間がいたんだろ?そいつらはどうしたんだ?」

 

 

タギルの言葉にピタリと大輝の動きが止まった。

緑の瞳はどこか遠くを見つめ、心ここに在らずといった風である。

その視線の先に映っているのは、はたしてタギル達のだろうか。

それとも、もっと別の何かを見ているのか。

言葉を紡ごうと唇を動かしてはいるが、上手く纏まらないのか言葉にならない音が少し漏れるばかりだ。

 

 

ふと大輝の手に柔らかなものが触れた。

ハッとして視線を移せば、アリスモンが小さく柔らかな前足で手の甲を優しく撫でている。

少し低めの彼女の温度に触れて、徐々に彼は思考を取り戻していった。

「 大丈夫、君には僕がついてる。君は1人じゃないよ」

 

「 .... ありがとう」

 

 

小さくため息を吐いて、無意識のうちに体に入ってしまっていた余分な力を抜いた。

それでも、やはり事実を口にするのが怖かった。

情けない話だが、自分はあの現実を受け止めきれていないのだ。

あんなもの、どうやって自分の中に収めていいのかわからない。

昔からそれだけは誰も教えてはくれなかった。

 

「 ...話しにくいなら、無理はしなくていい。ゆっくり時間をかけて、君の決心がついてからでも俺たちは構わないからさ」

大輝の様子が明らかにおかしくなったことで、タイキがフォローをしてくれた。

それは正直大輝にとって有難い申し出だった。

 

だが、いつまでもそれではいけない。

あの現実を変えたいのなら、ここで立ち止まっていてはいけないのだから。

 

「 ありがとう。大丈夫、話すよ。君たちには助けて貰った恩がある。それにこの世界に迫る危機は、ある意味で俺たちが招いてしまったことだ。君たちには何が起こっているのかを知る権利がある。」

 

そう前置きして、ぐっと拳に力を入れた。

まだ恐怖やトラウマの類を克服できたわけではないためそうしていないと、震えてしまいそうな気がしたのだ。

それを察してくれたのか、アリスモンは大輝の手にそっと自らの手を置いて寄り添ってくれている。

今度は1人ではないということが感じられて、幾ばくか心が落ち着いた気がした。

 

 

 

「 .... グリムモンの選ばれし子供達とその相棒デジモンを吸収しようという企み、それは失敗に終わった。だけど、決して俺たちに影響がなかったわけじゃなかったんだ。実際俺はこうしてデジモンと化している。

他の仲間たちはそれぞれの相棒デジモンと融合してしまったんだ。」

 

 

「 君は自分の相棒と融合しなかったの?」

 

ユウがそう聞くと、大輝は微笑を浮かべた。

その笑顔が全てを物語っていた。

 

 

 

考えてみればアリスモンが相棒デジモンであると彼は公言していない。

2人の雰囲気などからこちらが勝手に推測したに過ぎないのだ。

そしてそれらしきデジモンの話は微塵も出てこない。

恐らく、先の戦いで彼のデジモンは...

 

 

「 君は、本当に沢山のものを失って来たんだな... 」

 

 

「 そうだね。だけど、まだ諦めるわけにはいかなかったんだ。今度は(・・・)取り戻すことができるかも知れないから」

 

( ... 今度は?)

 

何かを含んだような物言いに、タイキは引っかかった。

だが、それを話すつもりは大輝にはないらしい。

ならば、無理に聞くことはないだろう。

人は誰しも、知られたくないことや触れられたくないことの1つや2つはあるのだから。

 

 

「 で、他の仲間達は融合しちまって、そのあとどうしたんだ?今どこにいるんだ?」

特に気にすることなくタギルが先を促した。

大輝は口元に手を当てて何事か考えているようだった。

これまでも彼にとっては話しにくい内容であったと思うが、この先はさらに核心に迫るものであるため、慎重に何を言うべきか選んでいるのだろう。

やがて考えがまとまったのか、真っ直ぐに全員の顔を見返して来た。

 

「 仲間達は確かに相棒デジモンと融合してしまった。

 

だけど、そこに1つだけとんでもないエラーが起きたんだ。

俺たちは多くのものを失い、守りたいものを守れなかった。

その時の俺たちの心は間違いなく絶望一色だったと思う。

だけど、それが良くなかった。

デジモンは人の心の影響を受けやすいのだと思う。

特に俺たちの相棒として選ばれた8体は少し特殊なデジモンで、パートナーの影響にとても左右されやすい体質だったんだ。

 

そんな状態での融合は、誰がどう考えても最悪の結果しか生まない。

 

 

_______ 仲間達は絶望した心と、闇に落ちかけたデジモン達と融合し、そして....」

 

 

 

その時だった。

 

 

ドンっと一際大きな音が里中に響き渡った。

突然のことに全員が驚いて立ち上がる。

 

ここから西の方角、里のはずれから煙が上がっているのが見えた。

そして爆発はとどまらず、徐々に中心部に向けて移動している。

何者かが微笑みの里へ攻めて来たのだ!

 

 

 

 

「 一体何が起こってる!?」

 

「 .... まずいかもしれない」

 

全員が混乱する中、ぽつりと大輝が呟いた。

「 おい、まずいってどう言うことだ?お前はこの自体がなんなのか知っているのか!?」

 

自らの故郷のピンチにシャウトモンが今にもくってかかりそうな勢いで問いただす。

厳しい表情で大輝はシャウトモンを一瞥したあと、意を決したようにその場の全員に告げた。

 

「 おそらく、ワイルドハンターが攻めて来たんだ。俺とここにいる君ら、そして世界を壊すために」

 

「 なんだって!?」

 

「 急がないと間に合わなくなる。あの爆発的なエネルギー... 恐らく彼らのボスクラスがいるに違いない」

 

 

戦闘モードに入ったのか、再び大輝の表情が鋭いものになった。

元からツリ目気味の目は更に鋭さを増している。

しかし、そこに憎しみの色はなかった。

むしろその瞳はどこか悲哀に満ちているようにすら感じられる。

そんな大輝をアリスモンが足元から心配そうに見つめていた。

 

「 わかった、行こう!なんとしても里のみんなを守るんだ!!」

 

 

『 おうっ!!!!』

 

 

タイキの掛け声を合図に全員が走り出す。

 

 

その先に、どのような真実が待つのかも知らずに.....

 

 

 




いよいよ次から大輝達の真の敵が現れます。
バトルシーンを書くのはあまり得意ではないので、次の投稿は少し時間がかかるかと思いますが、一話の挿絵やちょこちょこ内容の継ぎ足しなどをするかなと考えておりますのでよろしくお願いします。
独自設定爆発してますが、あくまで大輝の世界ではということをご了承ください....

全く関係ありませんが、今回のストーリーではタギルに先輩として、ユウに友達として、タイキに英雄としての姿を大輝が学んでいかせられたらなと思って意識しております。
まだ先なんですけどね。
あと私はこんなにタギルを押して書いてますが、実のところタイキさんが好きだったりします。
もちろん、みんな好きなんですけどね

◇ 先ほど気がついたのですが、お気に入り登録ありがとうございます!正直、どなたか1人にだけでもいていただいていたら嬉しいと思っていたので、とても励みになります。
これからも少しずつですが頑張ります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 英雄




また失敗だ。

この組み合わせもダメなのか

一体どれがただしい回答なのだろう?


とある男の日記より


大輝達が駆けつけた頃には、既に現場は混乱の最中だった。

攻撃を仕掛けているのは、メラモンなど火を扱うもの達が多い

草木は燃え、焦げ臭い嫌な臭いが辺りに漂っている。

多くのデジモン達がけがを負っていた。

だが、この里の者達はヤワではない。

たとえ対抗することが困難でも、仲間を見捨てることだけはしない。

力を合わせて動けない者達を支え彼らは必死に生きようとしていた。

 

 

「 かなり被害が出ているな... よし、先ずは俺たちも里のみんなの避難を優先させよう」

 

状況を冷静に判断し、タイキが的確な指示を下す。すぐさまシャウトモンとユウが怪我をして動けないでいる者や、親と離れてしまい1人でうずくまっている小さな子を安全な場所まで避難させるために動き出した。

このような事態を幾度も経験してきたぶん、随分と手際がよくことが進んでいく。

それに続こうとタギルと大輝も動こうとするが、それをタイキが制した。

 

「 タギル、タイラ、2人は敵を食い止めて来てくれ!これ以上被害を拡大させるわけにはいかない。避難が済んだら俺たちもすぐに向かう!敵についてはタイラが詳しいようだから、タギルとガムドラモンの手助けをして欲しい」

 

タイキの指示にコクリと大輝は頷いた。

タギルの方も一息だけ鼻息を吹き出すと、気合十分に答える。

 

「 わっかりました!任せてください!頼むぜ、タイラ!!」

 

「 了解した。アリスモンもタイキ達の手伝いを頼む」

 

 

「 わかったよ!でもあんまり無茶しないでね!タギルくん!ガムドラモン!大輝をよろしく!」

 

「 おうっ!俺っち達に任せとけ!」

 

 

迫りつつある敵を止めるべく、タギルと大輝達は真っ直ぐに森の中を突き抜けた。

 

 

 

第4話 英雄

 

 

 

 

敵の親元へ向かう道中でも、手下と思しきデジモン達が次々と攻撃を仕掛けてくる。

ガムドラモンと大輝がどうにか打ちはらいながら進んではいるが、これではなかなか追いつけそうもなかった。

 

「 くそっ!キリがないぜ!!タギル!俺っち以外の奴らもリロードしないとまずいぜ!」

 

 

「 ...だな!このままじゃ里が壊滅しちまう!よっしゃ!じゃあ早速、リロードを」

 

 

その時、ピタリと大輝とガムドラモンの動きが止まった。

突然様子の変わった2人に感化されてか、タギルも思わず停止してしまう。

2人は同じ方向を睨みつけていた。

 

「 ...どうやら向こうから出向いてきたらしいな。探す手間が省けた」

 

 

森の奥のさらに奥。

そこから徐々に何かが近づいて来る気配をその場にいる全員が感じ取った。

それはあまりに禍々しいもので、ガムドラモンは毛が逆立ち、タギルも背筋がぞわぞわとしてくる。

まだ姿を見せてもいないのにこれほど邪悪な雰囲気を感じるとれるとは、ただものではないことは明らかだ。

 

やがて現れたのはおぞましいデジモンだった。

大きな翼と鋭い角、無骨な腕は左だけ少し長い。

まるで悪魔といっても差し支えない姿をしたそのデジモンは、どこか恨みがましい目でギロリと大輝たちを凝視してきた。

 

「 こいつは、デーモン!?なんだってこんなやつが出てくるんだ!?」

 

予想の範疇を超えた存在の登場に、ガムドラモンは大きな目をさらに見開いた。

デーモンはいわゆる七大魔王の一種だ。

まずそこいらでお目にかかることなど滅多にない。

 

「 こいつ、そんなつぇーのか!?」

 

「 前の最終決戦の時に来てたベルゼブモンと同格のデジモンだ。厄介な相手であることは確かだぜ」

 

 

「 ....なるほど、何かと思えば間抜けな英雄様方と見える」

 

 

デーモンはタギルとガムドラモンを視界に入れるとそう小さく呟いた。

内容はともかく、その声色は小馬鹿にしたようなものではなかった。

むしろ、心の底から憎らしくて仕方がないとでもいうようである。

あまりの冷たさにタギルの頬から汗が一筋流れた。

 

 

「 大輝、お前そいつらと手を組んだくらいで我々に勝てるとでも思ったのか?」

 

 

次にデーモンは大輝へと対象を移す。

その目はタギル達に向けるものとは違い、どこか憐れむようなものであった。

 

「 手を組んだ訳じゃない。ただ彼らにとっても俺にとってもお前達にここを襲われるのは本意じゃなかった。それだけだ。」

 

 

「 ....まあお前の言い分など、どうでもいい。俺はこの里を消し去る。そのためだけに来たのだから。」

 

 

デーモンの言葉に大輝達は一層警戒を強くする。

 

 

「 お前達は何が目的だ?こんなことして何がしたいんだよ!?」

 

 

 

「 我らの目的、だと?そんなものは決まっているよ。

 

 

 

世界の終末だ」

 

 

「 せかいの、しゅうまつ!?」

 

 

「 そう、全ての世界を無に還すのだ。それこそが我らの目的であり、我らにできる神への復讐なのだ」

 

 

あまりにも突飛な内容にタギルとガムドラモンは動揺を隠せなかった。

デーモンの瞳は憎しみの炎に燃え上がり、より一層恐ろしいものとなっている。

大輝だけが冷静にその様を眺めていた。

 

 

「 お前ら、なんのためにそんなことする必要があるんだよ!世界がなくなっちまったら、俺っち達もお前らもみんな消えちまうんだぞ!」

 

 

「 そうだ、それでいい。こんな世界など、この世界に存在する全て消えてしまえ。

この世界が存在するということが我らには不快で仕方がないのだよ」

 

そう語るデーモンの声色は、それが愉快でたまらないとでもいうようである。

まるで話にならなかった。

相手はどうにも会話が通じていないように思える。

ただ憎しみに突き動かされている、それだけのために生きているとでもいうように。

 

 

ところがそれまで上機嫌に語っていたデーモンだったが、突如大輝の目の前へと飛び移った。

その顔は先ほどと同様、ただ憎しみだけを讃えている。

 

「 それなのに、大輝、お前なぜ世界を守ろうとする?わかっただろ?この世界には救う価値など一片たりともないのだと!」

 

「 ...... 」

 

 

興奮気味なのか、デーモンは声を荒げ、肩を上下に動かしていた。

大輝は何も答えない。

ただ真っ直ぐにデーモンを見返している。

 

「 ...タイラ?」

 

タギルは何かこの状況に違和感を感じていた。

正確には繰り広げられる会話に。

それは、なんだか気がついてはいけないような気がしたが、目を背けることは叶わないだろうと薄々感じてもいた。

 

暫く視線での交戦が続いた。

だがやがておもむろに大輝は口を開く。

 

「 ...確かに、この世界に絶望しなかったといえば嘘になる。だが、俺はこの世界が無くなるべきだとは思わない。そんなことをしても、後で虚しくなるだけだ。」

 

「 ...おい、タイラ、お前こいつらと知り合いなのか?」

 

 

デーモンと大輝の会話にどこか近い距離を感じたガムドラモンがそう問うた。

一瞬辺りが静寂に包まれる。

サワサワと森の木々の揺れと、パチパチと炎が燃える音が嫌に煩く感じられた。

 

 

「 なんだ、お前言っていないのか?」

 

 

「 ...話すつもりではいた。途中でお前達が来てしまったから中途半端になってしまっただけだ。」

 

 

そういうと大輝はデーモンに背を向け、タギルとガムドラモンの方を振り返る。

ぐっと手にする剣に力が入ったのをタギルは見逃さなかった。

 

 

 

 

「 さっき、英雄たちは自らの相棒デジモンと融合した、と言ったな。

その時にエラーが生じ、融合したデジモンたちの力の源は悪意となった。

そして7つの罪を背負った、魔王デジモンたちへと彼らは変化してしまった。

 

 

 

 

 

つまり、ここにいるデーモン、そしてワイルドハンター達。

彼らは、元々は別の世界を救うはずだった英雄、その成れの果てなんだ....」

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイルドハント。

死を司る精霊を従えた伝説上の英雄(・・)などの霊を先頭とした狩猟集団。

 

 

彼らは災いを呼び起こす

 

 

 

 




戦闘なんてものはなかったんですよ、ええ。
次からは戦います


さて、本編の通りここからは七大魔王が出て来ますが、彼らはある意味では正当な魔王ではないのです。
なのでみなさまが知る彼らとは行動や口調が違う点もあるかと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 開戦



今日は物珍しい化け物を見つけた


もしかすれば何か正解への糸口を見つけられるかと期待したが


残念ながら今回も失敗だ


ああ、酷い失敗作だ

腕と足がダメになってる。××なんて目も当てられん。


今宵もまた、実験は続く

【とある男の日記より】



 

「 こいつが、仲間だった!?」

 

 

突如としてもたらされた驚くべき事実に、文字通りタギルとガムドラモンは呆気に取られた。

誇り高い英雄が闇に落ちてしまうなど信じられなかったのだ。

何故なら彼らにとって英雄とはシャウトモンとタイキであり、最終決戦で共に死力を尽くした歴代の少年たちだからである。

つまり大輝やこのデーモンは言わばタイキたちと同格の存在。

自分たちが憧れた存在がこのような姿に成り果てるなど、想像だにしなかった。

 

 

「 そんなら尚更わかんないぜ!なんで世界を滅ぼすんだ!?お前選ばれたんじゃないのかよ!」

 

ガムドラモンが悲鳴のような声をあげた。

だがそんなものはどこ吹く風、デーモンは特に表情を変える事なくガムドラモンへ視線を下ろす。

 

「 そうだ、選ばれたからこそ世界を殺すんだ。何故ならこの世界を愛しているであろう神々へ復讐するにはそれが最も効率がいい。」

 

あいも変わらず、その理論はめちゃくちゃだった。会話でわかり合うのはもはや不可能なのだろう。無意識にタギルは拳を握りしめた。

 

「 お前達だって何れは俺たちと同じ場所へたどり着く。所詮お前たちは運が良かっただけなのだからな!」

 

そう叫ぶと突如デーモンはその大きな腕を真下に振り下ろす。その下には背中を向けた大輝がいる。

 

「 !?タイラ!危ない!」

 

慌ててタギルが警告をした。しかし予め予想できていたのか、その腕が大輝の脳天に落ちることはなかった。軽いステップで、必要最低限の動きで大輝は横に重心をズラす。ドンっと土埃をあげながら重たい腕が地面に落ちた。

あれをまともに喰らえばひとたまりも無いだろう。

 

「ほう、やはり避けるか」

 

「 攻撃を仕掛けて来ることくらいわかりきっていた。行動さえわかって入れば背中を向けようと不利ではない。」

 

一定の距離を保ちながら2人は互いに睨み合う。

どうやらお喋りはここまで、ということらしい。

 

「 ではそろそろ始めるとしよう。世界への復讐を」

 

その言葉を合図にデーモンは空高く飛び上がる。

 

「 そうはさせねぇぜ!タギル超進化だ!」

 

「おう!『ガムドラモン!超進化!』」

 

タギルがクロスローダーに力を込めると、ガムドラモンの周りを電子の光が覆い、彼のデータを進化させていく。

そして姿を現したのは、群青色の立派な羽を持ち、鋭く長い尻尾を携えた一体のドラゴン。

 

 

『超進化 アレスタードラモン!』

 

 

高速で空を飛ぶことのできる翼を手に入れたアレスタードラモンは、デーモンを追って力強く羽ばたいた。

どうやらこのまま空中戦に持ち込む腹づもりらしい。

 

「 超進化か!やれるものならやってみろ!」

 

上空より彼方からアレスタードラモンめがけて滑空してくるデーモンと、負けじと速度を上げながら空を駆け上がっていくアレスタードラモン。

2つの拳が激しい音を立ててぶつかり合った。そのあとは一糸乱れぬ撃ち合いの嵐だ。拳、足、頭、尻尾。体の至る箇所を駆使しながら相手の体に互いに叩き込んでいく。どちらも受けたり避けたりしつつ隙を見て相手に攻撃を仕掛けているが、どうやら力比べでは互角らしい。

 

「 けっ!やるじゃねぇか!だがまだまだこんなもんじゃねぇだろ?」

 

「 そちらも少しはできるようだな。これは潰し甲斐がありそうだ。」

不敵な笑みで互いに顔を見合せる。だが次の瞬間、ほぼ同時に再び相手の懐に攻撃を畳み掛けた。

しかし一向にどちらも引く気配はなく、このまま打ち合うのは効率的ではないことは重々承知している。

先に先手を打ち相手の不意をつけた方の勝ち。

 

動いたのはデーモンの方だった。

突如凶悪なツノがついた頭をアレスタードラモンめがけて突進させてくる。当然それを避けるアレスタードラモンだが、その隙に今度はその腹に蹴りを1つ入れると一気に距離をとられてしまった。

流石にその連続攻撃を避けることは叶わなかったため、一瞬ひるんだことが仇となったのだ。

再び空高く飛び上がったデーモンは手のひらから何かを生み出した。

それはまるでマグマの塊のようなドロリとした色をしており、凄まじまい熱気が湧き上がってきている。

 

「 あいつ、何するつもりだ!?」

 

突然現れた高濃度のエネルギーにアレスタードラモンが戸惑っていると、その間にもさらに力は高まっていく。

そこではっと、何かに気がついた大輝は慌てて呆然と空を仰ぐタギルの腕を力一杯引っ張り走りだした。

「 まずい!タギル逃げるぞ!」

 

「 うぇ!?うぉああああ!?」

タギルを引っ張る大輝のその力の強さにも驚いたが、何よりその力強い走りに呆気にとられてしまった。タギルはどうにか振り落とされないように気を張って見るが、どうもそんなことを気にしていられる余裕はない。

とにかく早いのだ。

まるで背中に羽でもついて飛んでいるんじゃないかと思うほどに早かった。

 

これも大輝のデジモンとしての力なのだとしたら、このデジモンはきっと風のように早いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タギルと大輝が全力で遠ざかる中、アレスタードラモンは徐々に大きくなる力をひしひしと感じ取っていた。

これが解き放たれてしまったら、自分どころか里全てが燃やし尽くされてしまう。そんな確信があった。

 

「 かつての英雄よ、俺たちには別にお前1人を倒すことだけに固執する必要はない。なんならお前を葬るのは今でなくてもいいんだよ。この意味がわかるか?」

 

 

「 つまり何がいいてぇんだお前!」

 

どこか遠回しな物言いにアレスタードラモンが痺れを切らす。

その様を愉快そうに、楽しそうにデーモンは笑いながら見ていた。

 

「 わからないか?今までお前たちが相対して来たであろう敵は世界というものが必要であった。それを手に入れるために力を振るって居たのだ。だが俺たちは手に入れたいものなんて何1つない。むしろこの手に、この世界に何も残らなければいいとすら願っているんだよ。」

 

漸くデーモンが言わんとしていることに気がついたアレスタードラモンはゾッとした。

 

つまり彼らの破壊衝動には限界がない。何故なら彼らが満足した頃には、何も残っていないのだから。

奴は今まさに世界丸ごと自分を葬り去るつもりなのだ。

 

「 最大の力を持ってしてこの世界に復讐を。そのことに関して、俺たちは手を抜かない!」

 

 

「 ヤメロォオオオオ!!!!」

 

マグマの塊に、デーモンに向かってアレスタードラモンは超高速で突っ込んで行く。

 

「 バカ!そのまま行ったら!!」

 

そのやりとりを遠目から見ていた大輝はアレスタードラモンにそう叫ぶ。しかし距離ともはや冷静を保てていないアレスタードラモンには届かない。

 

 

「 『フレイム インフェルノ』」

 

 

ボソリと低い囁きを合図に力は放たれた。

やがて大きな爆発とともに空から炎の流星群が辺りに散り散りになって落ちる。

 

その中に一体の青い竜が混じって落ちていくのがタギルの目にハッキリと写っていた。

 

「 アレスタードラモン!!!!」

 

 




お久しぶりです。私生活が忙しくなってまいりましたので、更新スピードは遅くなってしまいますが月一で1話最低更新はしたいと思っております。
戦闘は難しいですね。表現が難しいです本当に


コメントとお気に入り登録ありがとうございます
暫く顔を出していない間にたくさんの方に見ていただけてとても光栄です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 第1戦 デーモン戦


今日は多くの竜を捕まえた


竜はこの世界でもかなり強力な体と生命力を持つ


いくつか可能性のあるモノを試してみることにした


しかし、また失敗だ

最終的にゼリーのように、アイスのように溶けてしまった


今宵も実験は続く

とある男の日記より


 

 

デーモンが放ったフレイムインフェルノにより、微笑みの里に炎が広がっていく。

 

そのエネルギーをじかに受けたアレスタードラモンのおかげで、降り注いだ力は半減されたが当の本人は大きなダメージを負っていた。

地に落ちていくアレスタードラモンを見かけて慌てて追いかけたタギルと大輝がたどり着くと、超進化の解けたガムドラモンが力なく倒れ込んでいる。

身体中は火傷の跡がありなんとも痛々しい。

 

「 ガムドラモン!しっかりしろガムドラモン!」

 

タギルが呼びかけると、辛うじて息があるらしくガムドラモンは小さく呻き声をあげた。

一先ず命があることに安心するものの、かなりの大怪我を負っていることに変わりはない。

早く手を打たなければ手遅れとなるだろう。

 

「 タギル、クロスローダーの中に入れれば回復するはずだよ。すぐにガムドラモンを中に入れたほうがいいと思う」

 

気が動転しているタギルに大輝が的確にアドバイスをする。

だが流石に大怪我を負ったガムドラモンの姿は堪えるものがあるらしく、口調や雰囲気が素に近くなっていた。

 

「 あ、あぁ、そう、だな。」

 

慌ててクロスローダーを取り出そうとした時だった。

遠くから足音が近づいてくるのが聞こえてくる。

まさかデーモンが来たのだろうかと緊張した面持ちで2人はガムドラモンを取り囲む。

 

しかし、やってきたのはデーモンではなく里の者たちを避難させてきたタイキたちであった。

 

「 タイキさん!!ユウ!!」

 

タギルの顔に安堵の笑顔が拡がった。

やってきたタイキ達はこの状況を飲み込めていないらしく混乱していたが、一先ずタギル達の姿を確認してほっとしたように微笑む。

 

「 タギル、タイラ、ガムドラモン無事か!?」

 

「 一体何が起こったの?」

 

やがて駆け寄ってきた5人はハッとした。

タギルや大輝に目立った怪我は見当たらないが、ガムドラモンはひどい状態だ。

 

「 おい!ガムドラモン大丈夫なのか!?」

 

「 ... こいつ、さっきデーモンのものすごい力を受けちまって...俺、何もできなくて!」

 

 

「 すまない、俺も力不足だった...恐らく、ガムドラモンはあの力を自分が避ければ里に被害が及ぶからと、自ら飛び込んだんだろう...」

 

 

悔しそうにタギルと大輝は俯く。

落ち込んだ2人の肩にポンとタイキが手を置いた。

 

「 ひとまず理由はわかった。まずは今できることをしよう。反省するのはその後でもいいさ」

 

 

人懐っこく愛好を崩したタイキの笑顔で、2人は顔を上げた。

まだ全ての手を尽くし切ったわけでは無い。

頑張ってくれたガムドラモンの為にも、デーモンをどうにかしなくては。

 

 

「 よし、まずは奴をこのままここで喰い止めよう。シャウトモン、ダメモン、お願いしてもいいか?」

 

「 モチロンネ!me達に任せるネ!」

 

「 おうっ!彼奴には色々と世話になったみたいだからな、一発ぶちかましてやらないと気が済まないと思ってたところだ。」

 

自分の故郷と大切な弟分をボロボロにされたことで、シャウトモンの怒りのボルテージは現界に達しようとしていた。

そして何より、デジタルワールドの王様である彼には世界を守る義務がある。

 

「 ああ、気をつけてくれ。その間に俺たちもやつを倒す方法を考える。よし、まずは超進化だ!」

 

「わかりました!頼んだよダメモン!」

 

 

タイキとユウが同時にクロスローダーを構え超進化を発動させる。

オメガシャウトモンとツワーモンへと進化を遂げた2体は一気にデーモンがいるであろう空まで駆け上がっていった。

 

 

「 次はガムドラモンだ。ひとまずクロスローダーに入れて体を休ませないと」

次々と繰り広げられる鮮やかな指示に驚いていたタギルは、ようやく意識を取り戻し慌ててクロスローダーを取り出す。

するとその手を止めた者がいた。

ぎょっとしてその主へ視線を下ろすと、それはボロボロになったガムドラモンである。

 

「 ガムドラモン!?大丈夫か!?今クロスローダーに...!」

 

「 へ、へへ....おれっち、が...この程度で、くたば、るはず、ねぇ、だろ...」

 

ニヤリと笑ってみせるも、その顔には苦痛の色が伺える。

強がりを言っていることは明らかだ。

 

「 ああ、お前はこんなとこでくたばる奴じゃない!そうだろ、相棒!だから今はゆっくり休んで」

 

「 まだ、決着は、ついてねぇ...ここ、でにげる、バカいるか...」

 

タギルの支えを借りながらもガムドラモンは立ち上がる。しかし足元が覚束無いのか、フラフラとして今にもまた倒れそうだ。

この強がりの頑固者をどう説得したものかと全員が思案していると、アリスモンがトコトコと近寄ってくる。

その顔は微笑みを称えながらも、この中で最も冷静を保っていた。

「 ガムドラモン、君の気持ちは分かっているつもりさ。でもやはりこれ以上の無茶は誰にとっても良くないものだ。」

 

「 けど、あいつ、はつえぇ...王様達だけに、まかせるわけにはいかねぇ...それ、に、おれっちは、このままあいつを、みとめるわけ、には、いかねぇんだよ...」

 

 

ただの負けず嫌いからではなく、ガムドラモンなりの何か信念に従っての行動らしい。

恐らくは先ほどの話が関係しているのだろう。ガムドラモンの話を聞いているタギルと大輝もよく似た顔つきになっている。

あれは芯の通った頑固者の顔だ。

 

ガムドラモンの話をしっかりと聴き終えたアリスモンは、暫し思案して再び微笑む。

 

「 そうだな、じゃあこうしようか。僕らはあのデーモンを追い払う策を考える。その間だけ、君はクロスローダーの中で休んでいること。作戦が決まったら君にも力を貸してもらいたいんだ。どうだい?」

 

相手の主張を交えつつも自らの意思は曲げない。

ふわりと柔らかく微笑んだその顔は、優しく包むようなものであるのにどこか否とは言わせぬものがあった。

どうやらアリスモンもそれなりに頑固者なのかもしれない。

 

 

「 ...わかったぜ....」

 

 

「 そうかい?よかった!タギルくん、彼をクロスローダーの中へ」

 

アリスモンの言葉にコクリと頷くと、今度こそタギルはクロスローダーをガムドラモンにかざした。そしてその中へとガムドラモンが吸い込まれていく。

「 これからどうします?デーモンを倒すのはかなり骨が折れそうですけど...」

 

ユウが心配そうに口を開いた。

先ほどの戦闘で痛いほどわかったが、やはりあのデジモンを倒すことは難しいだろう。

以前同じく7大魔王であるリリスモンを倒したときも、ベルゼブモンの犠牲を余儀なくされてしまった。

今回も彼らにまだ奥の手が残っていないとは限らないだろう。

それを考慮すれば少なくともかなりの被害を覚悟しなくてはならない。

こうしている間にも再びあの炎を放たれるかもしれなかった。時間はあまりない。

 

 

 

「 ...いや、倒すのはやめよう」

 

 

全員が頭を悩ませていた時、ポツリと大輝が呟いた。

 

 

「 倒すのは辞めようって、じゃあどうすんだよ?」

 

 

「 倒すことができればベストではあるが、今こちらは里そのものが弱点と言ってもいい状態だ。大っぴらに弱点を晒した状態で戦うのはあまりに無謀だ。だが、倒さなくともこの里からどこか遠くへ追い出せばいい。」

 

「 何か作はあるのか?」

 

タイキが問うと、大輝はコクリと頷いた。

翡翠の瞳にはしっかりとした確信があり、自信に満ち溢れている。

 

「 だがそのためには全員の力が必要だ。都合のいいことを言っている自覚はある。だけど、どうか協力してもらえないだろうか?」

 

少しだけ不安そうに大輝は全員の顔色を伺う。

しかしその杞憂を吹き飛ばすような笑顔だけがそこに並んでいた。

 

「 あったんめぇだ!」

 

「 俺たちもこの里を守りたいからな」

 

「 任せてよ!」

 

『俺っちもまだやれるぜ!』

 

 

 

 

「 なんだ、言えるじゃないか。」

嬉しそうにアリスモンは微笑んだ。

大輝の1人で突っ走ってしまう性格を密かに心配していたのだが、その杞憂は必要なかったらしい。

 

「 すまない、感謝する」

 

「 それで、俺たちはどうすればいい?」

 

 

「 ああ、そうだな、まずは...」

 

 

 

 

 

 

 

空の上では激しい攻防戦が繰り広げられていた。

主にオメガシャウトモンがデーモンの相手を務め、ツワーモンが隙を見て援護に回る。

しかし2人がかりでも相手は手強かった。

流石に2体の相手が手一杯で里には攻撃を仕掛ける雰囲気はないが、それでも疲弊している様子はない。

 

 

「 どうした?英雄や王がこの程度のはずがないだろう?」

 

「 クソッ!舐めやがって!」

 

 

何か打開策を考えなくてはと2体が思考を巡らせていた時だった。

 

 

「 うおりゃあああ!!!」

 

 

突如大声がしたかと思うと、デーモンに何者かが激突する。

流石に吹っ飛ばされたデーモンがその相手を見れば、それは先ほどボロボロになったはずのアレスタードラモンだった。

 

「 貴様、その体でまだ動けるのか。大したものだな」

 

 

「 おうよ!ここで止まるわけにはいかねぇからな!!勝負だ、この悪魔野郎!!!」

 

 

そういうや否や、再びガムドラモンとデーモンがぶつかり合う。

その光景を呆然とオメガシャウトモンとツワーモンが眺めていると、ふいに下から2体を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「 おーい!王様〜!!」

 

「 ツワーモン!話があるから少し降りてきて!」

 

 

2体を呼んでいたのは、タギルとユウであった。

タイキと大輝、アリスモンの姿は見当たらない。

疑問に思いつつも2体は2人の元へ舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

「 どうした英雄?先ほどから逃げてばかりではないか!それでは俺は倒せないぞ!」

 

 

デーモンとアレスタードラモンの戦いは平行線を辿っていた。

互いに一歩も譲らぬ猛攻ではあるが、徐々にアレスタードラモンが押されつつある。

しかし、決定だとなるような攻撃は互いに決められていなかった。

デーモンも流石の連戦に多少疲れの色が出ているらしい。

 

「 テメェこそ、さっきまでのキレがないぜ!」

 

肩で息をしながらアレスタードラモンがニヤリと笑う。

 

状況は自分に有利であるはずなのにどこか余裕すら感じられるその笑みにデーモンは薄気味悪さを感じた。

何か罠でも仕掛けているのだろうか?

 

( だがしかし、何を企もうともこのままでは先ほどの二の舞だな。やはりこの程度か...)

 

いい加減この攻防戦にも飽き飽きとしていたデーモンは、再びフレイムインフェルノを放つため腕に力を込め始めた。

 

しかし、今度はそうはいかなかった。

背後から何かが来る気配をとっさに感じとったデーモンは慌てて後退する。

 

「『 スモーキンブギ』。今度は拙者が相手でござる。」

 

そう宣言するとツワーモンは次から次へと、攻撃と不意打ちの乱れ打ちを放つ。

それを避けたり打ち払ったりしながらアレスタードラモンの行方を目で探せば、目を離した合間に影も見えなくなってしまっていた。

 

「 アレスタードラモン!貴様逃げるのか!!ふざけるなよ!!!」

 

あまりに舐めきっていると言わんばかりの行動に、流石のデーモンも徐々に怒りを募らせる。

しかしそんなことは御構い無しにツワーモンは忍者の如き予測不能な動きで、鮮やかに攻撃を仕掛けていく。

流石に素早い相手であるツワーモンに追いつくのは難しいのか、徐々に後ろへ後ろへ押しやられていった。

 

 

( おかしい、何かおかしいぞ?)

 

先ほどからツワーモンもアレスタードラモンも、攻撃を仕掛けては来るが決定的なところを狙っては来ない。

そう簡単に受けてやるつもりもないが、相手からはこちらを倒すという気迫が感じられないのだ。

徐々に違和感が浮き彫りになり、罠、という言葉が頭の中を占めて行く。

 

 

( だがしかし、一体何をどう仕掛けたというのだ?奴らの心情からして、里に大規模な爆発物などはつけられないはず。そもそもこの短時間で一体何ができたというのだ?)

 

混乱する頭で思考を巡らせていたせいか、デーモンは気がつかなかった。

上空から、彼を狙うものがいたことに!

 

 

 

「 『ヘヴィメタルバルカン!!!』」

 

 

気がついた時には目の前まで迫っていた。

オメガシャウトモンより放たれた光線はデーモンに直撃し、その威力に押し負けてグングンと高度は下がる。

かなり地上近くまで落とされたデーモンは、憎らしげに空を仰いだ。

 

 

「 おのれぇ!!小賢しい!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 今だ!アレスタードラモン!!タイラ!!」

 

「 行くぞ!アレスタードラモン」

 

「 おうよ!!!『 プリズムギャレット』!」

 

突如死角より一筋の光が放たれた。

真っ直ぐに、視界に捉えることも叶わぬほどのスピードで光の矢はデーモンに突き刺さる。

光の速さというものに抗うことが叶わなかったデーモンはそのまま進行方向に流されて行った。

それでもどうにか其処に止まろうと足掻けば、今度はアレスタードラモンの攻撃が無数の光の回転となり更に拍車をかける。

 

「 大輝!!お前の弓か!!だが残念ながら決定打にはならなかったらしいな!!!この程度で俺がやられたりは」

 

 

はっと何かに気がつく。

 

 

吸い込まれる。

そう彼が考えた時には、すでに手遅れだ。

 

 

「 飛んでいけ黒い鳥の如く!ジャックのように、ジルのように!遠くの世界へ飛んで行くがいい!」

 

 

デーモンの飛ばされた先に迫っていたのは、別の世界への入り口であった。

デーモンの2倍ほどはゆうにあるであろう大きな鏡の中には、薄暗い闇が映り込んでいる。

チクタクチクタクと、鏡についた複数の時計がバラバラな時間を刻んでいた。

 

 

「 その先は、古き世界...おのれ!!!よりにもよって、あの醜い世界(・・・・・・)に俺を追い出すのか!!」

 

 

鏡にデーモンが触れた瞬間、まるで水に沈むように彼の体は向こう側の世界へ引き込まれて行く。

ギリギリと歯ぎしりをしながら、デーモンは最後に大きな声で吠えた。

 

「 この程度で俺を負かしたと思うな!!再びお前達と再戦の暁には、データのかけらも残らぬほど燃やし尽くしてやる!!!」

 

ガチン。

 

一際重い音が響き、時計の針が全て真上を指して停止した。

 

「 ふぅ、どうにか追い返せたね...」

 

力を使い疲れを感じながらも、アリスモンの顔には幸せそうな笑顔が浮かぶ。

彼女の赤い瞳の中に、子供のように無邪気に笑う少年たちの姿が映り込んでいた。





デーモンはひとまず終了です。
戦闘に力をかけたせいか、大輝の人間性みたいな心理描写が雑なのがかなり悔しいので、この辺の話はいつか書き直したいですね...

一応流れを記載します

三体がデーモンを狙撃ポイントで誘導

西側の森からアレスタードラモンと大輝が狙撃?

そのパワーで東側に展開したアリスモンの、大輝達の世界だった場所に繋げた扉に押し込む


という超次元理論です。ひどい。
とことん戦闘という分野においては弱いですね
バトルモノの小説でも読むことにします


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。