その愚者は誰がために (夢泉)
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プロローグ~再会~
「アルザーノ帝国魔術学院……」
その学院に訪れた女性は、一人呟いた。
広がる広大な土地と、聳え立つ巨大な建造物。
アルザーノ帝国魔術学院。
およそ400年前に創立された国営魔術師育成専門学校。
「こんなに近くに来たことは無かったわね……」
女性は、乗ってきた馬車から降りつつ、辺りを見回す。
その身に繕ったドレス。学院という場に配慮したのか、色合いは穏やかだ。されど、彼女の雰囲気と相まって、形容しがたいほどに美しい。
その堂々たる佇まいは、気高く、強く、そして美しい。立ち姿だけでも、彼女が只者でないことがわかる。
そして、何より目を引くのは、彼女のその顔。まさしく、美女という言葉が相応しい。とても、とても美しい顔立ちをしている。
「ここが羨ましかった……『力』が羨ましかった……」
彼女は目を閉じて、過ぎ去りし日々を思い出す。
「何より、彼ともっと一緒にいたかった……」
長い月日を経た今でも色褪せぬ、幼き頃の、とある思い出。それは彼女にとって最も楽しかった日々。ある少年と共に過ごしたその日々は、彼女にとってかけがえのない日々。
それは、恋、と言うには余りに無知で幼いものであったけれど、それでもきっと、あれが彼女にとっての初恋。
「グレン……」
彼女は学院の巨大な校舎を見上げ、思い出のなかの、その少年の名前を呟いた。
「まずいッ…!?このままではまずいッッ……!」
アルザーノ帝国魔術学院の魔術講師、グレン=レーダスは、いつになく必死な形相で悩んでいた。
いつもの彼からは想像できないほどに真剣で、彼がいかに追い詰められているかがわかる。
「くそッ…!奴が来るッ…!押さえきれねぇッ!」
彼は万策尽きた、というように、地に膝を突き、拳を突き立て咆哮する。
「くっそがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
ぐうぅぅ。
彼の咆哮と同時に響く妙な音。
その音は、彼の
「・・・さて、どうしたもんかねぇ」
毎度のことながら、減給に減給を重ねられ、セリカ=アルフォネアとの賭けでは敗けを重ねて、現在グレンの財布はすっからかんなのである。
朝昼抜きでなんとかするつもりが、今日は不幸にも、一日中授業が詰まっていて休みが無かった。朝食を抜いた状態では午前の授業だけで限界であり、とても午後の授業をするなど無理な話だったのである。
そんな訳で、彼は生死の境を彷徨う危機に直面していたのである。
そんな彼のもとに・・・
「先生、お弁当一緒に食べませんか?私とシスティで作ったんですけど、三人では食べきれないくらい作ってしまって…」
声をかけてきた、
「え…?」
訳がわからず、茫然とするグレン。
「か、勘違いしないでね!午後の授業で倒れられたら私たちが迷惑するから、ちょっと作りすぎたお弁当を分けてあげるだけなんだからね!」
別にグレンのために作ったわけではないと言い張るシスティーナ。しかしその顔は真っ赤に染まっていた。
「ぁ…ぁ、ぁ…」
グレンには目の前の教え子三人が輝いて見えた。それはどこまでも神々しく、慈愛に満ちていて・・・彼は神に救いを与えられた咎人のように、膝を突いたまま、目に涙を浮かべて、口を震わせる。
「自信作なんだよね!システィ!」
「ちょ、ルミア、余計なこと言わないで!」
「ん、大丈夫。美味しかった」
「あはは…食べちゃったんだね」
「…ごめん。でも、大丈夫。少しだけだから」
そんな少女三人の会話の傍らで、
「天使だ、天使がいる…」
涙を流し、頭を垂れる男、グレン。
「それで!食べるんですか?食べないんですか?」
システィーナが相変わらず顔を真っ赤にして、怒った調子で尋ねる。
「食べます!食べます!是非とも食べさせてください!頼む!この通りだ!」
その問いに、直ぐ様見事な土下座をするグレン。
「ちょ、先生、顔をあげてください!」
そんなやり取りを見て、
「我らがルミアちゃんの作ったお弁当を一緒に食べる、だと・・・?」
「くっそぉぉぉぉッ!」
「しかも、リィエルちゃんとシスティーナまで…?」
「なんなんだアイツは!」
「これはかねてより計画していたグレン=レーダス暗殺計画を実行すべきなのでは!?」
と、男子生徒達が涙を流し、憤激し、物騒な計画を実行しようとしていた。
それは、ある平和な昼下がり。とても和やかで、穏やかな、美しい一日。
・・・その声が響くまでは。
「グレン=レーダス、貴様ぁッ!? 今度は一体何をやらかしたぁーーーーーーーーーーッ!?」
「げっ!ランゲルハンス先生!?」
「貴様、『ハ』をつければいいとでも思ってるんじゃないだろうな!?言いにくく無いのかそれは!?それよりも貴様、あれはどういうことだッ‼」
「今回こそは何も心当たりが無いんですが!?」
「ふざけるな!何も無くて、あんな人物がお前を訪ねて来るわけないだろうがッ!」
「ちょ、ほんとに何のことですか!?…ハー何とか先生!?」
「自分の胸に手を当てて考えろッ!私はもう知らんぞッ!」
そう言い捨てて、足早に、逃げるように去っていくハーレイ。
「えぇ――…?どういうこと―…?」
何が何だかわからず戸惑うグレン。
「先生、今度は一体何をしたんですか…?」
「わからねぇ…さっぱりわからねぇ…リィエルも何もしてねぇよな?」
「ん、してない」
「まぁ先生のことだから、きっとロクでもないことだわ」
そんなやり取りをしつつ、一体どうすればいいのかと考えを巡らすが、原因がわからない以上、対策もなにもあったものでは無い。完全に詰んでいる。訳はわからないままだが、自分にとんでもないことが起こることだけはわかった。
どこに逃げようかと、本気で考えていると・・・
「グレン…?」
グレンの後方から、女性の声が聞こえた。
「えーっと…ど、どちら様でございますか?」
この女性がハー何とか先生の言っていた人物であろう。しかし、グレンは彼女を知らない。
だが、面識がなければこのようなことにはならないはず・・・
グレンは混乱しながらも、恐る恐る尋ねる。
「・・・・・・」
女性はなにも言わず、グレンの方へ歩いてくる。
(しっかし…綺麗だな……)
グレンは女性のその容姿に、彼女が繕うその空気に見とれていた。先程までの慌てぶりなど全て忘れて。それほどまでに女性は美しかった。
美人などセリカで見慣れていると思っていた。が、彼女はセリカとはまた少し違う美しさで・・・
こんな女性が死神なら満足だな。そんな場違いなことをグレンが考えていると、
「グレンッ!久しぶりッ!」
突然、グレンの目の前に女性の顔が近づき、いい匂いがして、体に軽い衝撃が来て・・・
「な…!?」
グレンは女性に抱きつかれていた。
「グレンッ!…グスッ…会いたかったッ!」
女性はグレンに体を預けたまま、胸に顔を埋めて、泣き出してしまった。
「「「は…!?」」」
それを見て、
「「「はあぁぁぁーーーーーーーーッ!?」」」
生徒達の驚愕の声が響き渡った。
「あんた、誰、だよ…?」
どこかで会ったような気もする。だけど、これ程の美人と関わった記憶ならもっと鮮明に覚えているはず・・・
「忘れ、ちゃったの…?」
グレンの胸から顔を離し、上目使いで悲しげに聞いてくる女性。
「ぐっ………すまん…」
とてつもない美人がそれをするだけに破壊力抜群で、グレンは直視できずに顔を逸らしつつ答える。しかし、思い出せない後ろめたさから言葉に詰まる。
「いいよ。もうずっと昔のことだからね」
女性は一旦グレンから離れて言ったあと、顔をグレンの顔に近づけて、耳もとで、
「今日の勝利を、あの日の小さな『正義の魔法使い』君に捧げます…」
と囁いた。
グレンはその言葉を知っている。つい先日、耳にしたばかりだ。セリカが新聞の記事のその言葉を読み上げてくれた。それを言っていたのは…
「……まさか、お前……ニーナ、か……?」
その言葉を聞いた女性は満面の笑みを浮かべて言った。
「そうよ。ニーナ=ウィーナス。…久しぶり、グレン」
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依頼と愚者
本当は今週は、別の作品を手掛けるつもりだったのですが、熱い応援に励まされて、こちらを進めることとしました!
では、どうぞ!
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「ニーナ…本当にニーナなのか…?」
「だから、そうだって言ってるでしょ!もう!」
グレンはわかっていても尋ねずにはいられなかった。それほどにその会合は信じられないものであり、それほどに、彼女は美しくなっていた。
「…久しぶり、だな…」
「そうだね…久しぶりだねグレン」
グレンとニーナ、片や魔術師として魔術の世界で、片や商会の跡取りとして権謀術数渦巻く経済界で。どちらも裏の世界には違いなかったけれど、その本質はまるで違う。
彼らの世界はどうしようもなく異なっていて、どうしようもなく離れていた。
けれど、
「…あの子達は元気?」
「あぁ、アルドのおっさんもアイツらも、元気にやってるよ」
彼等にしかわからないそのやり取り。彼等が確かに共にいたことを示すその思い出が、彼等の距離を一気に縮める。
「「……………」」
彼等はそれぞれに過去に思いを馳せ、そして微かに笑う。
「…色々あったみてぇだな」
「…グレンもね…」
「そう…だな…」
色々な事があった。現実は子供の頃彼が想像していたものより遥かに無情で恐ろしかった。愛する人は死に、夢は打ち砕かれた。
正義の魔法使い、思えば彼女が、俺の夢をはじめて伝えた人だったな……
(……悪いなニーナ…俺は正義の魔法使いにはなれなかった。お前は成し遂げたっていうのにな……かっこつかねぇなぁ俺……会わせる顔がねぇよ……)
すまねぇ、俺は正義の魔法使いにはなれなかった。そんな言葉を発しようとすると……
パンパンッ‼
「はい!辛気くさい雰囲気はおしまい!」
ニーナが手を叩きながら明るい声を発する。そして…
「ッ⁉ニーナッ⁉」
「大きくなったね~!」
驚くグレン。それもそうだろう。ニーナは急にグレンの首に腕をまわし、彼と頬を合わせてうりうり、即ち頬擦りをし始めたのである。
「昔はあんなにちっちゃかったのにいつのまにかこんなに大きくなって・・・」
「やめろよ!親戚の叔母さんみてぇなこと言ってんじゃねぇ!はーなーれーろーッ!」
ヤバイ、とグレンは思う。
ニーナは飛びっきりの美女に成長しているわけで、その顔が間近に来ているのだから。体の色んなところも密着している。具体的には、その大きすぎず小さすぎず、見事に成長した綺麗な双丘とかである。
故に彼はニーナを剥がそうと必死だ。しかし、帝国式軍隊格闘術の練習を怠っていた訳ではないらしく、細い腕だと言うのになかなか引き離せない。
「うわひっどい!昔はあんなに可愛かったのに!」
「可愛くなくなってすみませんねぇ……」
「昔は『おねぇちゃーん、助けてー』とか泣きながら言ってたのに……」
「言ってねぇ!断じて言ってねぇ!記憶塗り替えんな!」
わちゃわちゃと揉み合う二人。
それは離れた時間を埋め合わせるようで、ニーナも、口では嫌がるグレンも笑っていた。
端から見ればいちゃついているようにしか見えないが・・・
___________________________
「はぁ…はぁ……で?何しに来たんだよ……」
やっとの思いでニーナを振りほどいたグレンは、息も絶え絶え言葉を紡ぐ。
「グレンに会いに来た、じゃ駄目?」
対してニーナは余裕綽々な様子でおどけている。
「駄目に決まってんだろ。今のお前は、会いたいから会う、何て事はできねぇ身分だろ?そろそろ真面目な話をしようぜ」
「…そう…だね……」
お互いにトーンが下がり、いきなり真剣な顔になる。そこに先程までの和気あいあいとした様子は微塵もない。
その、表と裏の切り替えの速さ。それは、二人が裏の世界で多くの修羅場を乗り越えてきたことを示していた。
「グレン、お願いがあるの」
「……お願い?」
やがてニーナが口を開き、
「私のお婿さんになってくれない?」
爆弾を投下した。
ニーナが出てる作品って今のところこれだけなんだよなぁ・・・
何としても書き上げねば!
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騒然と愚者
テスト終わったので投稿します!
「私のお婿さんになってくれない?」
ニーナは世間話をするような調子で、特大の爆弾を投下した。
「……………………………は??ちょっと待っ」
暫く放心していたグレンは意識を取り戻すと直ぐ様、何がおきたか確認しようとするが……
「「「「「はああああああああああ!!!????」」」」」
グレンの声は
魔術を学ぶ学院の最高峰たる、アルザーノ帝国魔術学院に通う生徒であるならば、一年生であろうと、どのような落ちこぼれであろうと、精度の差こそあるが、遠見の魔術と遠耳の魔術程度の初歩魔術は誰もが使える。
そして今はお昼休み。多くの生徒が弁当片手に思い思いのお喋りをしている。故に、噂は一気に広まりやすい。
すなわち、この二人のやり取りは、学院中の人間に見られ、聞かれていたのである。
「ちょっと、どういうことよ!」
システィーナもまた放心していたが、ルミアに揺さぶられて我に帰ると、直ぐ様、グレンの方へずかずかと歩み寄って問い詰める。先程の、このやたらに美人なニーナとかいう女性とグレンの二人によるイチャイチャを目にして、相等鬱憤が溜まっていた彼女は、かなりイライラしていた。
最近やっと自覚したとある気持ち。この女性と勝負にでもなったら自分に勝ち目などないという考えから来る、焦りで彼女はいっぱいいっぱいであった。
システィーナのように放心こそしていなかったルミアも、システィーナと同じような今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。彼女達が受けたショックは相当なものであったようだ。
「いや、俺も何がなんだかわかんねぇよ!」
その言葉に嘘はない。彼も何がなんだか全然わかっていないのだ。むしろ当事者である彼の方が混乱しているだろう。そこに、さらに状況を混沌とさせる悪魔が来襲する。
「グ~レ~ン~?いつの間にこんなに可愛い子を捕まえたのかなぁ~?お母さん妬けちゃうなぁ~?」
そう、セリカである。ニマニマとグレンを弄るときの楽しそうな笑みを浮かべたセリカがやって来る。それを見て、グレンは確かに戦慄した。セリカの目が、全くもって笑っていなかったのだ。
「セ、セリカ!?」
そこにさらに油が注がれる。
「グレンのお母様ですか?お初にお目にかかります。ニーナ=ウィーナスと申します。」
ニーナが恭しく頭をさげつつ自己紹介をする。さすが貴族、その所作は完璧で美しかった。
「こ、これはご丁寧にどうも…。私はグレンの母の……ん?ウィーナス?」
その丁寧な所作にセリカもついつい釣られて丁寧な言葉遣いになってしまう。そしてそのまま自分も名乗ろうとして途中で気づいた。というか思い出した。
「はい。ウィーナス商会の現当主。ニーナ=ウィーナスと申します」
「「「………………ええええええええ!!!!??」」」
ニーナの身分が明かされ、学院中から悲鳴のような声があがる。
「まじかよ」
「今話題のパーフェクトレディ?」
「嘘でしょ?」
「どっかで見たことあると思った!」
「噂通り凄くきれい!」
「なんだよあの美人!やべぇ!」
さっきまでの恐ろしい雰囲気はどこへやら。学院中の興奮とは対照的に、冷静な様子となったセリカは、次の瞬間にはとびきり楽しそうな笑みを浮かべつつ呟いた。
「……ニーナ=ウィーナス…そうか。そういうことか」
「セリカ?」
「君があのときのグレンの女か!」
そしてセリカは急に大声を発してウンウンとうなずいている。
「は…?」
「「「「…?」」」」
その突然の変わりように、グレンも生徒達も呆気にとられ、学院は急に静まり返る。だが、次の瞬間には、セリカの一言により、またもや騒然となることとなった。それもさっきよりも大層激しく、かつ悪い方向に。
「グレンが街の路地裏で関係を持ったあの子か!」
「ちょっと待てセリカ、落ち着け。確かにそうだけど言い方がおかしい」
「「「「……………」」」」
不自然に静まり返る学院。
「先生…?」
「白猫?いやこれは違うんだ。違くないけど違うんだ。その何て言うか」
グレンは必死に弁明をしようとするが、その努力はこの状況において全く意味をなさなかった。
「《変態は・さっさと・消え去れ》ーーーッ!」
「ぎゃあああああぁぁぁぁッッ!!!!!!」
システィーナの黒魔【ゲイル・ブロウ】の巻き起こした激しい突風が、
「とりあえず、立ち話もなんですから、さあ、こちらに。婚約について詳しくお話ししましょう。学院の応接室にご案内します」
相変わらず、普段の話し方とはかけ離れた話し方をするセリカ。我が子がいきなり婚約者を連れてきたりしたときの親の話し方のようだった。まぁ、事実そのような状況だからあながち間違ってもいない。
「え、えぇ……その、グレンは大丈夫なのですか?」
「ハハハ、あんなのは日常茶飯事ですよ。相変わらずでしょうグレンは」
セリカが優しげな顔で笑いながら発した問いに、
「フフッ、そうですね。グレンらしいですね」
ニーナもまた、とても優しげな笑みを浮かべつつ答えた。
評価・コメント待ってます!
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商会と愚者
やる気が出るので、評価・コメントお願いします!
「それで?本当は何が目的だ?ニーナ=ウィーナス嬢」
応接室に入り、ニーナとセリカが席につくなり、セリカは急に雰囲気を変え、殺気とも言えるような警戒心を露にする。
「フフっ、いやですわ義母様。何度も申し上げた通り、グレンに会いに来たのでございますわ」
「私は貴様の母親になった覚えは無いぞ。いい加減猫を被るのを止めたらどうだ?」
「そうですね……」
やがてニーナも急に取り繕う雰囲気を変える。
そこで、部屋の扉が開いた。
「全くだ、何か困ってんのかよ」
「グレン…?飛ばされたはずじゃ…」
「白猫のヤロー、遠慮なく吹っ飛ばしやがって……てかテメェ、セリカ!念話で、なんてこと言いやがる!」
急に入ってきたグレンは、ここにはいないシスティーナに悪態をつくと、直ぐ様セリカの方へ向き直り、声を荒げる。よく見ると息が上がっているのか肩が上下していた。
「ん~?なんのことかなぁ~?」
「なーにが『学院外まで飛ばされたようだが、そのままだと、職務中に勝手に外に出たことで減給するぞ♪早く応接室に来い』だよ!もう無いも同然の俺の給料をさらに削るつもりかっ!?!?」
「はっはっはっはっは!」
「で?結局どういうことなんだ?俺と結婚したいとかいう冗談いったりしてよ」
グレンは落ち着くと、セリカの隣に座り、話を切り出した。
「……別に冗談じゃ無いのに……」
「……ん?なんだって?」
「なんでもない‼」
「お、おう…?」
ニーナが小声で言った言葉が聞き取れず聞き返しただけなのだが、グレンはニーナに怒られてしまい、解せぬと首をかしげた。
「私がウィーナス商会のトップに立ったことは知っていますね?」
「あぁ……」
「商会の者は私をトップとするべく、様々な教育を行いました。異国の言葉を含め各種教養は勿論、言葉使いから歩き方、商会の取引先の常連の詳細、人間関係に至るまで、ありとあらゆることを叩き込まれました」
「………」
「しかし、商会の者の魂胆、彼等の真意など見え透いていました」
「お前を意のままに操ること、か」
「えぇ。誰も彼もが私を利用しようとしていました。あるものは私を影から操り、実権を握ろうとしていましたし、またあるものは、私を暗殺し、濡れ衣を他者に着せようとしていました。周りを見渡しても何処にも本当の笑顔などありませんでした。どの笑顔も作り物で、その目の奥にはドロドロとした欲望が渦巻いていました」
「まさしく四面楚歌って感じだな」
「そうですね。全くもってその通りでした。彼等からすれば、ポッと出の、しかも無知な貧乏人がいきなり勢力図に割り込んできたのです。憎らしくて仕方なかったのでしょう」
「けれども私は登り詰めると誓ったのです。あの日、あの時、孤児院の皆を救うと決めたときに決意したのです。なにをしてでも登り詰めると。私は時に愚か者の振りをし、傀儡のように振る舞うことさえしました。そのなかで少しずつ、味方、いえ、協力者、とも言えませんし……そうですね、手駒、そう、自らの手駒を増やしていきました」
「手駒って……」
「言い方は悪いですが経済界とはそういうものです。誰も彼もが互いに相手を駒としか見ていない。仲良くしているように見えていても、血の繋がりがあっても、切り捨てるときには情け容赦なく切り捨てる。そういう世界です」
「しかし一体どうやって……」
「そこは話せば長くなる話ですので割愛しますが、損得で動く人間は、損得で操れる、ということです。自分でいうのも何ですが、幸い私はそれ相応に容姿には恵まれていましたしね」
「……それって……」
「止めとけグレン。そこを詮索するのは野暮だ」
「…そうだな………。ニーナ、頑張ったんだな……」
「……うん、ありがとう」
ニーナはとびきりの笑顔で呟くように、お礼を言う。彼女の心境はわからないが、グレンの目には確かに、彼女の目が潤んで見えた。
「でも、グレンだって色々と頑張ったんでしょう?」
「……俺は何もやってない、いや…出来なかった。………だけど、そうだな、こう言う場合は、ありがとうって言うのが正しいんだろうな。ありがとうニーナ。」
グレンもまた、ニーナからの労いに、礼を言う。
その様子を見て、彼を最も身近で見守ってきた女性、セリカ=アルフォネアは優しげな笑みを浮かべる。
彼女にとって、彼は息子のようで、弟のようで、友人のようで……未だ、なんとも形容しがたい存在だが……強いて、一言でグレンとの関係を形容するならば……それは、きっと、以前グレンが言ったように、家族なのだろう。
一時期の彼は未来への歩みを止めてしまっていた。まるで、過去を失い、いつまでも終わること無い怠慢な日々の中で、酒と力に溺れていた頃の彼女のように。一向に立ち直る様子の無い彼をひどく心配して、何日も眠れなかった日もあった。
けれど、
(よかった……どうやらもう心配は要らないようだな。少しずつ、本当に少しずつだけど、コイツは歩き始めている……)
グレンが全てに絶望することとなった魔術師の世界。そこへの後押しをしたのは自分であるのだと、セリカは自分を責め続けていた。
彼が立ち直るきっかけになればと、学院で働かせるように仕向けたが、実際それが良い選択であったのか、彼のためになることだったのか、また私は彼を絶望させてしまうのではないのかと、ずっと悩んでいたが、どうやらそれは杞憂であったようだ。
彼は良い人々に囲まれ、確かに立ち直りつつあったのだ。
そして、彼女はグレンに向けていた視線を、その対面に座る女性へと向ける。
(ニーナ=ウィーナス……もしかしたらコイツが、グレンの最後の後押しになってくれるのかもしれないな……)
「……それで?お前は商会のトップまで登り詰め、商会の膿を一掃したって話だったよな?」
「報道では、そうなっていますね」
ニーナは悲しげな表情を浮かべつつ言葉を発する。
「事実は違う、と?」
「違う、というわけではないのです。確かに私は商会を私物化し、外部から見てもわかる悪質な取引を行っていた者たちは一掃できたのですが……」
彼女の表情には、商会の腐敗を前にして、やるせない気持ちがありありと浮かんでいた。
「そうか、なるほどな」
「えぇ、そもそも商会自体が腐っている以上どうしようもありません。昨日の味方が明日も味方、とは限らないのです。そして敵は商会だけではありません。その他のグループにも、ウィーナス商会をよく思わず、商会を潰して市場の独占を図ろうとする者は数多くいます。私が商会から追放した人達も私をひどく恨んでいます。そして困ったことには、商会内外、目的は違うにせよ、彼等の手段は同じなのです」
「暗殺か……」
それまで静観していたセリカが呟くように言う。
「えぇ。勿論、そういったことに上手く対処していくのも商会当主たる私の務めです。信頼できる人達もいます。そういった人達を要職に就け、体制を整えてはいます」
そう語る彼女の顔は、内容に反してとても暗い。
「なら……」
「しかしその人達も、他の人達と比べて僅かに信頼できる、という程度でしかありませんが……」
そうなのだ。100パーセント信頼できる人物など、彼女の周囲にはいるべくもなかった。最もそれも、一人を除いて、ではあるが。
「……少し見ねぇ間に、随分とひねくれちまったな」
「……グレン、ブーメランって知ってる?」
「うっ………」
「そして、商会の上部にいる、或いは、いた者達というのはそれなりの貴族。彼等は当然のように魔術を身に付けています。さらには、どこかの者達は、私を抹殺するために、殺し屋やフリーの魔術師、果てはテロリストと手を組んだという情報さえあります。………ところでお二人とも、天の知恵研究会を知っていますよね?」
「「……!?」」
急に出てきた、忌まわしいその名に、グレンもセリカも驚き、その身を引き締める。
「天の知恵研究会もまた、この件に絡んでいるようなのです」
「……そうか。考えてみればそれもそうだ。とびきり大きな商会を一つ意のままにできれば、資金はいくらでも手に入る………」
「私がある程度信頼を寄せている者の多くは、私が貴族平民問わず、能力を見て採用した者達です。大多数の者は魔術なんて使えません」
そうなのだ。彼女に近い人達は、魔術も戦闘もからっきしであり、プロが魔術を用いて暗殺を本格的にしようとしたら身を守ることなど無理な話なのだ。
「そりゃあ、ひどい状況だな」
「だからこそグレンに手を貸して頂きたいのです」
「天の知恵研究会が絡んでいる以上、俺も動く必要があるし、何より昔馴染みの頼みだ。断る理由はない。だが、これは俺に出来る範疇を明らかに越えている。俺の過去を調べて、俺が帝国宮廷魔導士だったからか?だとしたら買い被りすぎだ。俺は結局何も出来な……」
「勿論それもあるわ。貴方が天の知恵研究会にも精通した、元帝国宮廷魔導士であるというのは一つの理由」
「だったら……」
「でも!それ以前に、グレンは私の正義の魔法使いなのよ?グレンは私が今まで会った人の中で、最もステキで格好いい、最高の男の子だもの!」
「…っ」
「あれ~?グレン~?頬赤くしちゃって~なに~?照れてるの~?」
「なっ!?…て、照れてなんか…い、いねぇし!適当な事言うなよセリカ!」
頬を赤くして慌てるグレン。グレンは紅潮したまま、顔を見られるのが恥ずかしいのか、明後日の方を向きつつ、
「まぁなんだ。やれるだけやってみるわ」
と、ぶっきらぼうに答えた。
「ありがとう!グレン!」
対してニーナは花が咲いたような綺麗な笑顔で礼を言うと、セリカの方へ体を向ける。
「出来れば義母様の…」
「義母様はやめてくれ。セリカでいい」
「わかりました。では、セリカさん、と。私のことは気軽にニーナとでもお呼びください。……それで、セリカさんにもご助力を願いたいのです。いきなり来て図々しいとは思っているのですが……お願いします!」
「俺からも頼む。これは俺やニーナだけではどうにもならねぇ」
頭を下げる二人。それに対しセリカは、剣呑な空気を崩さない。
「私がロクに言葉も交わしたこともない、貸し借りもない人間のために動くとでも?」
「そこをなんとか!」
随分と冷酷な態度をとるセリカに、グレンが土下座へ移行しようとするが……
「話を最後まで聞け。そういう場合は動かないが……ニーナ。私は一つ、お前に貸しがある。あの時、お前は落ち込んでいたグレンを立ち直らせてくれた。なら、私が動く理由としては充分すぎる。グレンが学校にいない間の授業は私がフォローするし、時には私自ら動いてやることもあるかもな」
「…ありがとうございます!セリカさん!」
「では、私は一度商会に戻ります。今回は、ここの近くで事業を無理矢理立ち上げ、近隣の人々に了承を得る、という口実でここに来たのです。今現在の私の周囲の人間関係等はこの冊子にまとめておきました。すぐにまた来ますので、綿密な打ち合わせはまた今度、ということでいいでしょうか?」
冊子を置きつつ、捲し立てるように一気に言葉を発して、帰る準備を始めるニーナ。
「あ、あぁ……」
「では、長々と失礼しました。では、また次回の時に」
恭しく、完璧で美しい所作で頭を下げ、ニーナは部屋を出ていった。
「なんか、嵐みたいなやつだったなぁグレン?」
「だな……」
「どうするつもりだ?」
「……まぁ取り敢えず、天の知恵研究会が関わる以上、アルベルト達に力貸してくれるように頼んでみることにする」
「それが妥当だな。取り敢えず、アイツを疑っている訳ではないが、この資料やさっきの話に嘘偽りがないか確認するのは大事だろうな」
「あー‼また忙しくなりそうだ‼」
伸びをしつつ、めんどくさげに言葉を発するグレンだが……
「そういう割には、嬉しそうじゃないか」
その顔はやたらと嬉しそうににやけていた。
「うるせーっ!」
セリカドラゴン格好いいっすねぇ!
コメントお願いします!
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愚者の午後
評価・コメント待ってます!
「はぁ…はぁ…くそッ……」
額に汗を浮かべ、息は上がり、とても焦った様子で走る一人の男。
彼はグレン=レーダス。アルザーノ帝国魔術学院の講師であるが、いい加減でやる気ゼロ。魔術師としても三流であるが、実は元帝国宮廷魔導士団特務分室の一員であったりもするという、かなり謎の多い男である。
彼は普段、やる気は常にゼロであり、脱力省エネスタイルで生きている。
しかし、今の彼の顔には、一切の余裕がなく、酷く追い詰められていることがわかる。
一体何が彼をここまで追い詰めているのか?
それは、それこそは……
「授業に間に合わねぇッッーーーーー!」
そう。時間である。
彼は、旧知の女性、ニーナの来訪により昼休みを使い果たし、午後の講義に間に合うように、学院の廊下を走っているのである。
「セリカのバカヤロー!何が、『授業遅刻は給料に響くぞ♪』だよッッ!?」
先程別れ際に、ニマニマと楽しそうな笑みを浮かべつつ、自分に死の宣告を叩きつけた女性、セリカ=アルフォネアに悪態を吐きつつ、彼は走る。走る。ひたすらに走る。
「結局昼飯も食えてねぇしッ!あーッッ‼くっそがあぁぁぁぁぁぁーーーーッッ!!」
「遅いね…グレン先生」
「そうね……」
小さく漏らされたルミアの呟きに応えるシスティーナ。応えるシスティーナもそうだが、ルミアもまた、悲しげな顔をして元気がない。
そんな二人とは対照的に、クラスは酷く騒がしく、完全に無法地帯だ。クラス中が騒いでいるが、話している内容は全て同じだった。
「グレン先生の育て親はあのアルフォネア教授なのでしょう?なら、商会の有力貴族と懇意になっていても不思議はありませんわ」
「いや、それだとニーナさんとアルフォネア教授のやり取りが説明できない」
「そうだ!路地裏がどうこうとか言ってたぜ!」
「じゃあ!じゃあ!ニーナさんが商会が嫌になって、家出をしたときに、街の路地裏で会って、先生が傷心のニーナさんの心につけ込んだってのは!?」
「なるほど!それなら説明がつくな!」
「けど……」
授業なのに先生が来ない。そういう状況であれば、生徒は次第に騒がしくなるのものだ。ただこの教室が騒がしくなれば、黙っていない少女がいる。
「ん…。システィーナもルミアも…元気ない。…どうしたの…?」
「何でもないよリィエル。心配してくれてありがとう」
そう言ってリィエルの頭を撫でるルミア。
しかし、やはり彼女の笑顔はどこかぎこちなかった。
そう。いつもであれば、システィーナ=フィーベルが怒って場を無理矢理抑えるのだが、今の彼女には、そんな気力は残っていなかった。
先程の一件は、少女たちの心にあまりにも大きな動揺を与えていた。
「今までこんなことなかった、よね……?」
「そうね。先生は、いつも不真面目でやる気の無い人だけど、無断で授業遅刻することだけはしなかったわ……」
そう。システィーナの指摘通り、彼は基本不真面目であるが、リスクリターンの判断は適切であり、セリカ=アルフォネアに、
『授業遅刻なんてしたら……わかってるよな?』
と言われてる以上、そんな愚かなことはしないはずだった。
それが、今日に限って、授業が始まって五分たつのに未だ顔を見せない。これは何かあったと思うのが普通というものである。
「ん…皆を黙らせればいいの…?」
そう言うリィエルの手のひらに光の粒子が現れ、収束し、ある形にまとまっていく。
そして……
「「わーーーー!ダメーーーッッ!」」
間一髪、システィーナとルミアが気づいて彼女を羽交い締めにする。
そこに、
「ハァハァ…わりぃわりぃ。遅くなった。さ、授業始めるぞー!」
肩で息をしているグレンがやって来て、
「「「「……………」」」」
教室中が一斉に静まり返り、
そして次の瞬間には、
「おい先生!さっきのどういうことなんだよ!」
「結婚ってなんだよ!」
「説明してください!」
皆が口々にグレンに質問を浴びせたために、教室は今世紀最大に騒がしくなった。
しかし、
「だぁーーーッッ!!うっせぇぇぇぇッッ!?まずは授業だって言ってんだろうがぁぁぁぁぁーーーッッ!!」
クラスの騒ぎを上回る大声でグレンが制し、強引に授業を再開した。
グレンを問い詰めたかった、システィーナやルミアといった恋する乙女たちは、納得等到底できないが、授業だと言われては仕方なく、モヤモヤとしたまま授業に臨むのだった。
ちなみに、この時の騒ぎがうるさすぎて、ハーレイがぶちギレるのは余談である。
「いーかー?ここの術式が…こう…変化すると…」
(どうしよう。全然集中できない!)
システィーナは、あまりにも昼のことが頭に残って、授業内容が全く頭に入ってこなかった。ただ板書をノートに写すのが精一杯である。
先程少し目を向けると、ルミアも同じような状況であるのがわかった。
(もう!もうっ!こうなったらなにがなんでも、洗いざらい吐いてもらうんだから!)
そう心に誓うシスティーナ。
恋する乙女は色々と大変なのである。
そんなこんなで午後の授業は進んでいき、遂にその日の終了を告げる鐘が鳴った。
いざ、グレンを問い詰めようとするシスティーナにルミアとその他生徒たち。
しかし……
「グレン、ちょっといいか?」
そう言いつつ顔を出したのはセリカ=アルフォネアだった。
「…セリカ?助かった!じゃあお前ら今日は終了だ!さっさと帰れよー!」
生徒たちの鬼気迫る表情にただならぬことになると感じていたグレンは、そこに飛び込んできた救いの蜘蛛の糸に飛び付いた。
「「「「え…………」」」」
生徒たちも、流石に第七階梯セリカ=アルフォネアの用とあれば押し黙るより他はない。
焦らされた分、彼ら彼女らは余計にモヤモヤとするのであった。
「助かったぜセリカ」
廊下を歩きつつ、グレンはセリカに礼を言う。
「別に助けたつもりはないぞ」
「え……?」
「私は留学の話があると伝えに来た」
「……また、リィエルが!?それはおかしい!退学は回避したはずだ!」
前回、リィエルは、その生い立ちと政治的な対立に、本人の成績不振が重なって、退学処分を言い渡されていた。しかし、聖リリィ魔術女学院への短期留学を経て、それは撤回されたはずだった。
「落ち着け、そうじゃない。こっちに来るんだ」
「……はい?」
「聖リリィ魔術女学院の生徒がこっちに来るんだよ」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?!?何でそんなトラブル案件引き受けたんだよッッ!?」
聖リリィ魔術女学院の生徒たちは、優雅可憐な御嬢様達……なんてことはなく、手のつけられない猛獣だということを知っているグレンは、声を荒げて必死で抗議するが……
「こっちの留学は良くて、向こうは駄目なんてこと出来るわけもないだろう?」
セリカに正論で一蹴される。
「おいおいマジかよ……ストレスで死にそう……」
グレンはか細い声でそう言いつつ、廊下に膝をついた。
「ハハハッ!まぁ精々頑張るんだな!!」
「笑い事じゃねぇよッッ!?」
グレンが再び声を荒げ、セリカの方へ顔を向ける。
すると、急にセリカがグレンに近づき、グレンの耳元へ顔を寄せ、小声で、
「…あそこの生徒は皆、物凄い御嬢様達だ。もしかしたら、ニーナを取り巻く状況についても知れるかもしれんし、協力をこじつけられるかもしれんぞ?」
「!」
耳打ちをしたセリカは踵を返して去っていく。去り際に、
「じゃあ、まぁ、色々と頑張るんだぞ」
と言っていったのに対しグレンは、
「出来る範囲でな!後で後悔しても知らねぇぞ!」
と、いつも通り、卑屈な返事をするのであった。
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閑話~思惑~
評価・コメント待ってます‼
―――――まぁ、ざっとこんな感じかな?」
「状況は解った」
「引き受けてくれるか?」
「無論だ。奴等が関わっているかもしれない以上、俺は動く。だが、どうしてお前はこうも厄介事に巻き込まれるのだ?」
「こっちが聞きてぇよ」
とあるバーにて、酒を飲みつつ、ある書面を睨み話す二人の男がいて、
――――――――――――――
――――――以上がグレンの話をもとに俺が調べた結果の報告だ」
「ふーむ。なかなかに厄介なことになっておるのう………。しっかし、相変わらずグレ坊は隅に置けないやつじゃのう!幼馴染みの財閥令嬢とかなにその設定!しかもめちゃ美人!そう思うじゃろうアルベルト?」
「調べた結果、これは特務分室全員で対応すべき案件だと結論付けた」
「華麗なスルー!ばんざーい!」
「室長への報告はどうしますかアルベルト?」
「それは――――――――
とある部屋で、ただならぬ雰囲気の男達が三人、真剣な様子で話し、
――――――――――――――――
「聞きましたか?アルザーノ学院への留学のお話!」
「えぇ。あのグレン先生のおわします学院で御座いますわよね!」
「定員は三名で御座いましたわよね?」
「ぷっ、恋する乙女(笑)とかまじウケる」
「なんだよなんだよその話、聞いてねぇぞ‼待ってろよグレン先生!」
「リィエル……覚えててくれてるかな……」
とある学院にて少女達が恋に燃え、
――――――――――――――――
「どうしようシスティ。聖リリィ女学院の子達も来るんだって」
「ルミア、こうなったらあの作戦をーーーーー」
とある学院にて、恋する少女が二人、とある決意をし、
「ニーナさんをグレンから守り隊の結成を提案する!」
「「「おおおおおおお!!」」」
同学院にて謎の結社が結成され、
「グレン・レーダス、貴様ァァァァァ!!」
「だああああああ!!!リィエル!またお前はーーーーーーーッ!オーライ先生、違うんですこれはッ!」
「私はハーレイだァァァァァ!!」
同学院にて、大の大人二人が走り回り、
――――――――――――
「遂にグレンも結婚かなぁ……」
とある屋敷にて、魔女が酒を飲みつつ、いろいろな感情のこもった表情で呟き、
―――――――――――――
「………元気そうでなりよりだ」
とある孤児院にて、老人が新聞を読みながら優しい笑みを浮かべ、
――――――――――――――
「お嬢様。首尾は?」
「最高よ。計画通り彼の協力は取り付けられたわ」
とある豪邸で、女がニヤリと笑い、
―――――――――――――
「あの女…!俺達を見捨てて、こんな所に…!」
ある新聞記事を、忌々しげに見る青年がいて、
――――――――――――――
「ダニー様。あなたはニーナ・ウィーナスと、あの少年が憎いでしょう?」
「貴様は……?」
とある囚人のもとに面会に訪れた人物がいて、
――――――――――――――
「またあのゴミ虫ども……!僕の正義を見せてあげるよ!あっははははははーーーーーっ!!ひゃははははははははははーーーーーっ!!」
とある男が嗤っていた。
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愚者の争奪
評価コメント待ってます!
「もう嫌だぁあああああああああーーーーーーッ!誰か助けてぇええええええええええっ!」
アルザーノ帝国魔術学院。そこの広い敷地内を全速力で駆け抜けるのは、魔術講師、グレン=レーダス。そしてその後ろを二人の女生徒が追いかける。
「ああん、お待ちになってぇえええええーーーーッ!グレン先生ぇえええーーーッ!」
「くおらっ!フランシーヌぅうううううッ!てめぇ、アタシのグレン先生に何してんじゃ、こらぁああああああああーーーッ!?」
「なぁああああんかコレ、デジャブーーーーーーッ!!………ん?」
ひたすらに必死な形相で駆け抜けるグレン。するとその走っていく先に四つの人影が現れる。
「先生!援護します!いくわよルミア!リィエル!」
少女、システィーナ=フィーベルが声を張り上げ、颯爽と登場し、
「うん!システィ!」
「ん……フランシーヌとコレット、止める」
「私もやります!これ以上学院の汚点を晒し続ける訳にはいきません‼いい加減になさい、フランシーヌにコレット!!」
順にルミア=ティンジェル、リィエル=レイフォード、そして、茶色の髪に眼鏡、手には刀を持った少女、エルザ=レイフォードが答えていく。
「くっ…貴女達。…私とグレン先生の恋路の邪魔をしないでくださいまし!」
「へっ…システィーナ、ルミア、前と同じようにいくと思うなよ?邪魔するってんなら、容赦しねぇぜ!」
「「「「「「………………………………………………………」」」」」」
静寂。一瞬の静寂が六人の少女を包み、そして、
「《大いなる風よ》ーーーーーーッ!!」
「《雷精の紫電よ》ーーーーーーッ!!」
激しい戦いが幕を開けた。
⬛
話は数時間前に遡る。
その日、アルザーノ帝国魔術学院に聖リリィ女学院から三人の生徒がやって来ていた。
「ふむ。君達がリリィ女学院からの留学生で間違いないな?」
セリカ=アルフォネアが校門にて、三人のお嬢様と相対する。
「はい、アルフォネア教授。相違ございません。私はフランシーヌ=エカティーナと申します。そして…」
金髪の少女がまず名乗り、
「コレット=フリーダと申します。よろしくお願いします」
「エ、エルザ=レイフォードです!お、お世話になります!」
順に、黒髪の少女、茶髪の少女と続く。そして再びフランシーヌと名乗った金髪の少女が口を開き、
「以上三名、今日から一週間お世話になります。短い間ではありますが、多くの事を学んでいきたいと思っております」
三人揃って完璧な所作で礼をした。
「ほう…?」
それを見たセリカ=アルフォネアは眉を少し動かし、自らの斜め後方にいる弟子に話しかける。
「グレン、何だかお前の言っていた印象とは随分と違うな?見事に礼儀のあるお嬢様達じゃないか?」
対して、
「あっれーーーーーーっ?お前らそんなキャラだっけ!?」
グレン=レーダスは頓狂な声を上げる。それもそうだろう。なぜなら彼の記憶にある彼女達(エルザ以外の二人)は、おしとやかなお嬢様等というイメージは欠片もなく、猛獣というのがぴったりな少女達だったからだ。
「嫌ですわ。グレン先生ったら。一体どんな風に私たちの事を話したのかしら」
「全くですわね」
対して、件の金髪と黒髪はオホホと慎ましげに微笑むのみだ。
「あれ?俺が悪いやつになってる!?」
そんなグレンの言葉は無視して、フランシーヌはセリカのほうに向き直り、再び口を開き、語ったのは、
「アルフォネア教授。以前はグレン先生を私たちの学院に赴任させてくださり、ありがとうございました。グレン先生の魔術に対する見識の深さ、どんな生徒にもわかりやすく教えるその技量、生徒思いの優しさ。何もかもが私達には新鮮で、憧れました。先生の仰っていた言葉の一つ一つが今も胸の中で輝いています。きっと師匠であるアルフォネア教授の教えの賜物なのでしょう。そんなグレン先生の元で再び学べる機会まで頂き、感無量です。本当にありがとうございます」
グレンのべた褒めである。
「……………っ」
それを聞いたセリカは暫く何も言わずに肩を小刻みに震わせていたかと思うと、次の瞬間にはとびきりの笑顔で、今にも踊り出しそうなほどに楽しげに、
「そうかそうか!グレンが最高の先生か!そうだよな!グレンは私の最高の弟子だからな!いやぁ~嬉しいなぁ!何だよグレン、めちゃくちゃ良い子達じゃないか!よっし、じゃあグレン、この子達の案内任せたぞ!」
「ちょろっ!?いや絶対今の社交辞令!おいセリカ騙されるな!」
グレンの忠告も虚しく、愛弟子であるグレンのことを誉められたのが嬉しくて堪らないのだろう、彼女は目に見えてご機嫌になり、もはや彼女達の本性を疑うなどという思考は持ち合わせていなかった。
「じゃあな~、後で私も授業見に行くぞ~!」
そして彼女はそのまま上機嫌で手を降りながら去っていき、
「待ってセリカ、俺とこいつらだけにしたらマズイってばぁああああーーーーーーッ!」
少女三人とグレンのみが残された。
しかし、
その後、学院の案内、クラスでの彼女達の紹介等あったが、彼女達は最初の様子、即ち“完璧なお嬢様”を崩さなかったのである。
最も、リィエルと再開したエルザはかなり素が出ていたが。
そこに違和感を感じたのは何もグレンだけではない。
「システィ、なんか変だよね」
「ルミア。たぶんだけど、三人とも、家とか学院からキツく言われてるのよ」
「でもそれじゃあ……」
「えぇ、私たちの計画が上手くいかな、ゴホン、いや、私達もコレット達も楽しめないわ」
「じゃあどうするの?」
「こうなったら無理にでも計画を実行するわ」
そう、彼女達と面識のあったシスティーナとルミアもまた、違和感を感じていた。
彼女達が言う計画、それは、
「コレットとフランシーヌを挑発して、グレン先生を追いかけさせて、そこに颯爽と現れてグレン先生を守る!名付けて、白馬の王子様計画よ!」
この二人はかなりの乙女回路の持ち主だ。システィーナに至っては、以前目も当てられないような小説を書いたこともある。そんな二人が、ニーナという強大にすぎるライバルの出現の中で、グレンの気を引くために、自分達だったらどうか、と考えた結果、この計画が立てられたのである。
その後、システィーナとルミアは計画を実行に移し、コレットとフランシーヌも無理をしていたのだろう、ニーナという強大なライバルの存在をほのめかせば、直ぐに本性を現した。
⬛
ここで冒頭に至るのである。
コレット&フランシーヌvsシスティーナ&ルミア&リィエル&エルザ。
因みに、エルザが何故加わっているのかというと、学院の評判を下げないため……と本人は語っているが、実際は、どれだけ強くなったかをリィエルに見てもらいたいだけだ。彼女もまた恋する(?)乙女。どうせ見てもらうなら、敵としてではなく、肩を並べる相棒として実力を見てもらいたいものなのだ。
というわけで、私利私欲にまみれた、大義なき戦争がここに始まったのである。
それがどのようなものであったか、それはいずれまた語ることにしよう。だが、一言取り上げるならば、それを見ていた某男性魔術教師はこう言った。
「女って怖い」
⬛
その日の夜。アルザーノ学院のとある部屋にて。
「ニーナ=ウィーナスさんを取り巻く状況について、ですか?」
「あぁ、答えられる範囲でいいんだが、何か知っていることはないか?」
「そうですか、先生は何も意味もなくそういうことを聞く人ではないと思いますので、答えたいとは思うのですが、その……」
「なんか言いづらそうだな?」
「フランシーヌ、あれのことだろ?いやさ、先生。俺は実際のニーナ=ウィーナスを知らないし、お父様とかが言っているのを小耳に挟んだ程度なんだけどな?」
「あぁ」
「ニーナ=ウィーナスは矢鱈と黒い噂が多いんだよ。人道的にヤバそうな噂が。勿論、妬みとかから誰かが言ったデマがほとんどだろうし、商会のトップともなればある程度の後ろ暗いことはやってるだろうさ。けれど、それを考えても、ニーナ=ウィーナスのヤバい噂は多すぎるんだよ。それで、一部の人間はニーナ=ウィーナスを、こう呼んでる。
“
いつも誤字報告してくれるかた、本当にありがとうございます。助かってます。これからもお願いします。
スノードロップの花言葉
「あなたの死を望みます」
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