無職転生 -魔王になりし転生者- (心葉詩)
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『言霊の魔王 キコエル・キカセル』

酔いと勢いで書いたものですが、完結目指します。
初めて小説を書くので至らない所はあると思いますが、暇つぶしにでもなってくれたら幸いです。
設定ガバガバなので気になったらごめんなさい。
設定とかそんな考えてないです・・・。


 不死魔王、或いは言霊の魔王―――キコエル・キカセル

 

 彼に生い立ちについては諸説あるが、ここでは一般的に知られている説を記述する。

 

 言霊の魔王とある通り、彼は声を介する事で世界に直接影響を及ぼすことが可能である。

 王級以上の魔術を無詠唱で放ち続ける様は、正に神話の一幕であると謳われた。

 そのあまりの強大さから最強の神子とも呼ばれる。

 後述の三英雄が残した書物には、身の丈が12歳程度の子供の姿で肌が浅黒く、頭に小さな角が2本生えているとされる。

 性格は魔王の中で最もまともであるとされ、異種族にも特に隔意は持っていないと伝えられている。

 三英雄の書物によると、たびたび彼の名前が出ることから友人関係だったと推察される。

 

 

 

 彼が歴史に名乗りを上げたのは、約400~500年前のラプラス戦役の終盤、私々がよく知る魔神殺しの三英雄が最後の戦いに臨んだ頃である。

 前述の言霊による魔術を駆使し、有象無象の魔族達を退け魔神との決戦の舞台を造ったと言われている。

 使った魔術の中には地形を変えるようなものもあり、神級魔術も扱える可能性が示唆される。

 現に魔大陸の一部を消滅させる程の魔術を使ったと様々な文献に残っている。

 彼は魔王の立場でありながら魔神に歯向かったとして【裏切りの魔王】とも言われるが、そもそも大戦以前の書物に彼の名や姿が無いことから、魔神の軍勢とは完全に無関係だったのではと思われる。

 

 ラプラス戦役にてその名を轟かした彼は後に魔大陸の少数民族【ミグルド族】の守護者となった。

 それからしばらく音沙汰はなかったが、北神カールマン二世が王竜王カジャクトを討ち取った時期に、現ビヘイリル王国にあるとされる地竜の谷から這い出た巨大なる地竜王を単身で討滅したという。

 その亡骸は牙などの武器となったもの以外は全て各地に流れてしまい所在不明であるが、その牙から作られた武器がビヘイリル王国の王城に安置されていると言われている。

 また、その強さから確実に七大列強クラスの力があるとされるが、彼を知る者に聞くと、彼は悪意には悪意を、善意には善意を返す人間らしい魔族のため、危害を加えられない限り無害であるそうだ。

 

 彼には特定の住居が無いようで、頻繁に各地で目撃されている。

 そのため【放浪の魔王】とも呼ばれている彼は現在、ラノア王国近辺にいるようだ。

 私はぜひ彼に一目会い、その英知・歴史を教えてもらいたいと思っている。

 

『ラプラス戦役の影の英雄達 著:マールズ・メニアス』



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魔王降臨

甲龍歴410年

 

 

 

「ふう…、飛ぶのに大分魔力を使ったけどやっとアスラ王国か。疲れたな…」

 

 何事もなかったかのように空から地上へと軽やかに着地した彼は独り言を呟いた。

 彼の肌は浅黒く、ぱっと見て人族のようにしか見えないが何よりも異様なのは頭に生えた二本の短い角。

 

「さて、原作なんてほぼ覚えてないが、ロキシーの足跡から考えればそろそろのハズ…。

 俺が顔を合わせることで流れが変わるかもしれんが、特異点を一目でも見とかないとな。

 んー、『探査:ロキシー・ミグルディア』」

 

 尋ねるように虚空へと呟く彼は、一見危ない人のように思えるが数秒の後に納得したかのように頷いた。

 

「うーん、まだ結構遠いな。

 速度からして歩きだろうが、村に着く前に合流しときたい。

 今日は飛んでばかりだな――『飛翔』」

 

 そして彼はまた、大空へと翔けるのだった。

 

 

 

 

 

 私の名前はロキシー・ミグルディア。

 

 子供のような姿をしているが、これはミグルド族の種族的な特徴である。

 自慢ではないが、私はA級冒険者で水聖級の魔術師でもある。

 そんな私は今、下級貴族の一人息子の家庭教師となるべく歩を進めている。

 ギルドの依頼としては難易度の割りに破格の依頼だったが、こんな辺境となるならば受けなけれよかったかなとちょっと後悔もしている。

 

「………―――ぃ…」

 

 ん?

 今…何か聞こえたような?

 幻聴かな?

 

「――――い…」

 

 幻聴じゃない。

 人の声だ。

 遭難者か冒険者?

 結構遠くから聞こえるけど、一体どこから?

 

「――――ぉーーーい――」

 

 周りを見渡してみても何も見つからない。

 森の中にいるのだとしたら私には手の打ちようがないかもしれないと考えていると、目の前に何かが降り立った。

 

「よっとっと……どこか見覚えのある奴かと思ったらロキシーじゃないか。

 久しぶり」

 

「き」

 

「ん?」

 

「きゃぁぁぁああああああああああああああああ!!!」

 

 彼の余りにも突然すぎる登場に絶叫して、少し出かけたのはしょうがないと思う。

 

 

 

―――――

 

 

 

「な、ななな、なんでこんなとこにいるんですか!?

 キコエル・キカセル様!」

 

「いかにも!俺が不死魔王キコエル・キカセルであるっ!

 フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 様付けやめろよ、小さいころからの知り合いなんだから」

 

「いや…それはちょっと…って、笑ってないで答えてください!」

 

「いやな?

 暇つぶしに空飛んでたら見覚えのある髪色の奴がいたから見に来たらロキシーじゃん。

 びっくりしたから声かけたんだよ」

 

「こっちがびっくりしましたよ!

 あっちこっち放浪してる貴方がこんなとこにいるなんて普通思いませんから!!!」

 

「それでどこ行くんだ?

 あと漏らしたなら着替えた方がいいぞ」

 

「ちょっ……!

 漏らしてません! 漏らしてませんから!

 …この先にあるブエナ村って所に住んでる貴族の一人息子に魔術を教えに行くんですよ。

 私、仮にも聖級魔術師ですから。

 まぁ貴族の息子自慢が大半でしょうから無駄になりそうだと思いますがね…」

 

「ふーん、じゃあついてくわ。

 ロキシーの仕事してるとこ見てロイン達に安否伝えたいし」

 

「えぇーーー、ついてくるんですか…まぁ言っても無駄でしょうからいいですけど。

 でも食い扶持とかは自分で稼いでくださいよ。

 あと報告は…まぁいいでしょう。

 ほら、村までもうすぐでしょうから行きましょう」

 

「了解。

 なんか適当に魔物狩っておけばいいだろ。

 よろしくな」

 

そうして雑談を交わしながら、やっと私達はブエナ村へ到着するのだった。

 

 

 

―――――

 

 

 

 俺は今、文字通り口をぽっかりと開けて唖然としている。

 

 事が起こったのは数分前の事だ。

 

 俺はいわゆる転生者というやつで、前世の記憶を持ったまま今の身体…ルーデウス・グレイラットという少年になった。

 赤ん坊の頃から意識のはっきりしていた俺は数々の羞恥プレイを潜り抜けながらもこの世界の情報を集めた。

 そんなある日母親のゼニスが、俺の怪我を治すために使った魔術により、俺の怪我を治したのだ。

 この世界が剣と魔法のファンタジー世界だとわかった俺は、ある程度自由が利くようなってからは魔術の特訓にのめり込んだのだが、ある日練習中の水の中級魔術の制御失敗により親に魔術が使える事が露見したのだった。

 

 危うく異常者扱いでもされるのかと思ったが、そんなことはなかった。

 パウロは結構怪しんでいたが、幼児スマイルを駆使して切り抜けた。

 二人とも親馬鹿で助かったぜ。

 

 それでも幼い子供が中級の魔術を使うということに不安を覚えたのか、ゼニスが家庭教師を雇うことにしたのだった。

 

 その家庭教師がただいま家の玄関にいるのだが…

 

「はじめまして。

 家庭教師の依頼を受けてやってきました。

 ロキシーです。よろしくおねがいします。

 それで…あの、こちらが…」

 

 中学生ぐらいの魔術師っぽい茶色のローブに身を包み、水色の髪を三つ編みにして、ちんまりというのが正しい感じの佇まいで、手にしているのは鞄一つと、いかにも魔術師が持っていそうな杖を持つ少女が遠慮がちに隣にいる少年に言葉を促した。

 

「フハハハハハ!!!

 俺の名は不死魔王! 或いは言霊の魔王、キコエル・キカセルである!

 よろしく頼むぞ人間共!」

 

 

 なんか家の玄関に魔王が降臨していた。

 



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大魔王

side:ルーデウス

 

「ええっと、魔王って……さすがに冗談ですよね?」

 

 と若干引き気味に尋ねたのはパウロだった。

 

「いえ……この方は本当に魔王なんです。約400年前のラプラス戦役で三英雄に助力した魔王っていえばわかりますか?」

「フハハハハ、魔王だと信じられぬのはわかるが話を進めたらどうだ。

 こちらのロキシーが家庭教師になるという話だったろう」

「うーん…昔読んだ本の内容と特徴は似ていますが…まぁこの件は置いておきましょう。

 ロキシーさん、あちらにいるのが私の息子のルーデウス・グレイラットです。

 私の名前はパウロで、こちらが妻のゼニスとメイドのリーリャです」

「はい、よろしくおねがいします」

 

 パウロ達との挨拶を済ませてこちらに来るロキシーへ一言

 

「小さいんですね」

「あなたに言われたくありません」

 

 ピシャリと言い返された。

 コンプレックスなのだろうか。

 胸の話じゃなくて背の話だったのに。

 

ロキシーはため息を一つ、

 

「失礼ですが、本当にこの子に教えるのですか?

 到底魔術の理論を理解できるとは思えませんが……」

「大丈夫よ、うちのルディちゃんはとっても優秀なんだから!」

 

 ゼニスの親馬鹿発言。

 再度、ロキシーはため息を付いた。

 

「はぁ。わかりました。やれるだけの事はやってみましょう」

 

 これは言っても無駄だろうと判断したらしい。

 こうして、午前はロキシーの授業を、午後はパウロに剣術を習うこととなった。

 

 ちなみに例の魔王は外でパウロと話してたみたいだけど、どうしたんだろう。

 

 

 

―――――

 

 

 

side:キコエル

 

 ふむ、邂逅は何事もなく済んでよかった。

 

 やはり初対面だと魔王だとは信じられなかったが、ルーデウスに強力な印象を抱かせられたと思えば良いだろう。

 

 これからの展開はどうしようか。

 ロキシーの授業が終わるのに合わせて出ていく気だがその後は?

 大人しくラノアで待つのも良いが将来への布石も打っておきたい。

 原作知識なんて主要なこと以外最早あってないようなもんだし…ルーデウスの幼少期なんて完全にうろ覚えだ。

 そもそも俺がいる時点で――いや、俺程度の運命力では世界の流れは大きく変わらないのはわかっているだろう。

 ヒトガミへの忠告も……今しても無駄だと思うが適当なタイミングでしておこう。

 まぁ追々考えるとするか。

 

 俺は今グレイラット家に向かって歩いている。

 これから狩人の方々と共に魔物退治に向かうので一応挨拶でもしておこうかと思ってだ。

 

 のどかな田園風景をどこか懐かしい気持ちになりながら進むとグレイラット家の方向から木の倒れるバキバキという音がした。

 

「――――無し!? ……そう。いつもは無し。なるほどね。疲れは感じていますか?」

 

 近づいてみるとロキシーのびっくりしたような声がした。

 ふむ、詠唱無しで魔術を行使したのだろうか。

 

 俺は力のおかげで詠唱はいらないが、普通の魔術師は詠唱しないと使えないもんな。

 

 あ、様子を見に来たのだろうか。

 手に持っていたであろうお盆を落とし、怒りの表情を浮かべるゼニスがいた。

 巻き込まれないように見ておこう。

 

 

 

「はい……そのとおりです」

「こういう事は二度としないで頂戴ね!」

「はい、申し訳ありません、奥様……」

 

 言いたいことを言って、木をヒーリングで修復したゼニスは家の中へと戻っていった。

 

 さて声をかけよう。

 

「や、災難だったなロキシー」

 

 にやにやしながら話しかける。

 

「あ、キコエル様……見てたなら助けてくれてもよかったのに…」

「いやいや、あれはゼニスさんの言うとおりでしょ。

 どうもルーデウスくん」

「あ、はい。

 どうも、キコエル・キカセル様?」

「堅苦しくなくてもいいよ。

 ロキシーは小さいころからだから仕方ないけど、気軽に話しかけてくれて構わない」

「わかりました。

 キコエルさんよろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」

 

 そういえばルーデウスとはちゃんと挨拶していなかったな。

 

「あの…キコエルさんって本当に魔王なんですか?

 本で読んだんですけど、キコエルさん昔の戦争で大活躍したんですよね?」

「んー俺自身が魔王だって名乗ったわけではないんだけどな。

 では簡単な魔術でも見せてあげよう」

 

『火球弾』

 

 と呟いて手のひらに小さな火の球を作り出し、形状を変えていく。

 数秒の後に手のひらにいるのは炎が形造る不死鳥だった。

 

「どうだ。

 初級魔術だが、これを放てば威力は上級、或いは聖級に届くかもな」

「うーーー、相変わらず出鱈目ですね貴方は…。

 これが初級って…初級って何だろう…」

 

 ロキシーがジト目で睨んでくるが気にはしない。

 年齢お爺ちゃんは子供に尊敬した目で見られたいのだ。

 さてルーデウスの反応は?

 

「…す」

「す?」

「すっげー!本物のカイザーフェニックスだ!」

「フハハ、これはメラゾーマではない、メラだ」

「やはり大魔王は格が違う…!

 ……って、あれ?」

 

 良い反応をしてくれたルーデウスは僅かな逡巡の後に顔を青褪めさせた。

 

「…えっと…えっ嘘、もしかして貴方って…」

「おっと、そろそろ待ち合わせの時間に遅れてしまう。

 その話はまた後でだ、ルーデウス君――――」

 

「あれ、どこか行くんですか?」

「ああ、狩人の方々と魔物退治にな」

「頑張るのはいいですけど、狩りすぎで森の生態系を狂わさないようにしてくださいね?」

「フハハ、そんな事はしないとも。

 では魔術の訓練を頑張るようにな」

「はい、いってらっしゃいませ。

 さて、ルディ、訓練の再開を――って顔を真っ青にしてどうしたんです!?

 大丈夫ですか!? ゼニスさーん! リーリャさん!

 ルディが大変です!」

 

 さて、後々ルーデウスと二人で話す時間を造らねばな。

 後腐れの無いようにロキシーが卒業試験を終える前に話しておこうか。

 そうだ。

 ロキシーにも釘を刺して、パウロにもそれとなく話を振っておかないとな。



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前世

side:ルーデウス

 

 俺の前世は有体に言って、最悪だった。

 

 30を越えて親の脛を齧ってニート生活三昧。

 

 いつだって、腹が空けば壁や床を大きく叩いて催促してた。

 金を一銭も入れずにこれは不味いだのあれを買ってこいだのと好き勝手振舞っていた。

 

 そんな俺には友達なんているはずもないし、兄弟姉妹達にも話しかけられることはなかった。

 親とでさえ、金の催促や食事の催促のためにしか話さなかった。

 そんな毎日が当たり前だったし、そんな毎日がこれからも続くと当たり前のように思っていた。

 

 そんなある日、両親が揃って死んだ。

 

 ここで少しは悲しんで、葬式に出ておけば未来は変わったんじゃないかと思うが、現実はそんな事を微塵も考えもしなかった。

 これからどう生活すればいいんだとか、親の財産があるじゃないかと図々しくもそんな事を考えながら自分の部屋で兄の娘の写真を見ながらのブリッヂオ〇ニーをしていたら、兄弟姉妹達が乗り込んできて絶縁状を突きつけられて、家を追い出された。

 

 これからどうしようかと考えて、何も浮かばくて、俺は人生が詰んだと理解した。

 

 昔の事を考えて、ターニングポイントとなった中学3年の辺りからでも人生をやり直せればなと思った。

 あの時までは人生は順風満帆だった。

 あの時、少しでも勉強していればこんな最悪なニートにならなかったんじゃないかと思ってしまった。

 

 そんな事を考えながら、雨が降る中を歩く。

 雨宿りの場所を探さないと……でも雨が止んだ後は?

 生きていたってこれから先良いことなんてないだろう。

 死んでしまった方が楽なのでは…と思っていた時、前方から言い争う声が聞こえてきた。

 

 見つけたのは、痴話喧嘩の真っ最中っぽい三人の高校生だった。

 男二人に女が一人。

 どうやら修羅場らしく、一際背の高い少年と少女が何かを言い争っていた。

 もう一人の少年が、二人を落ち着かせようと間に入っているが、喧嘩中の二人は聞く耳を持たない。

 

 俺にもあんな頃があって、そこそこ可愛い幼馴染もいたと思い出して、空しくなった。

 もう戻れるはずもないのに。

 

 痴話喧嘩を眺めながら、リア充爆発しろと思っていると、遠くの方からトラックが猛スピードで三人に突っ込んできているのに気づいてしまった。

 慌てて声をかけようとするが、十年以上も誰かとまともに話したことのない俺は、とっさに声が出なかった。

 

 助けなきゃ、と思った。

 俺が、なんで、とも思った。

 

 俺はもうすぐ、きっとどこかそのへんで野垂れ死ぬだろうけど、

 その瞬間ぐらいは、せめてささやかな満足感を得ていたいと思っていた。

 最後の瞬間まで後悔していたくないと思った。

 

 肥満体を揺らして、全力で走った。

 

 トラックが目の前に迫っているのに気づいて、喧嘩していた少年が少女を抱き寄せた。

 もう一人の少年は、後ろを向いていたため、まだトラックに気づいていない。

 唐突にそんな行動にでた事に、きょとんとしている。

 

 俺は迷わず、まだ気づいていない少年の襟首を掴んで、渾身の力で後ろに引っ張った。

 少年は体重100キロの俺に引っ張られ、トラックの進路の外へと転がった。

 

 あと二人、と思った瞬間、俺の目の前にトラックがあった。

 

 ――――死。

 

 トラックに接触する瞬間、何かが後ろで光った気がした。

 

 あれが噂の走馬灯だろうか。一瞬すぎてわからなかった。

 早すぎる。

 中身の薄い人生だったという事か。

 

 俺は自分の五十倍以上の重量を持つトラックに跳ね飛ばされ、コンクリートの外壁に体を打ち付けた。

 

 だがまだ生きていた。

 

 全身が死ぬほど痛いが、肥満体のおかげで生き残った。

 と思ったのも束の間…まだ迫ってきていたトラックに潰されて俺は死んだ。

 

 

 

 そんな事を思い出していた。

 繰り返すように、何度も。

 

 あの魔王――キコエル・キカセル明らかに俺が転生者だと知ってあの魔術を見せた。

 もしもあいつが俺と同じ転生者ならば俺の知人?

 俺の兄弟?

 それとも――――。

 

 あれからパウロ達やロキシーには何でもないように振舞ったが、怖い。

 毎晩、眠りにつくたびに酷い悪夢を見て、潰されて跳び起きる。

 

 俺の前世のことがパウロ達に語られたら――?

 

 ルーデウスの中身が30過ぎのおっさんに成り代わっていたのだと知られてしまったら――?

 

 考えるだけで立っていられなくなりそうだった。

 

 

 

 幸い、あいつはあれから家に来ていない。

 狩人の人たちやパウロと一緒に魔物狩りをしているそうだ。

 

 ロキシーからは狩りや割り振られた仕事のためしばらく来れないと聞いた。

 その間に次会う時に話すことも考えておけ、とも伝えられた。

 

 ロキシーは何のことかと顎に手を当て首を傾げていた。

 可愛かった。

 



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忠告

甲龍歴412年

 

 

 

 ルーデウスが先日、5歳の誕生日を迎えた。

 

 誕生日にはささやかなパーティーが開かれた。

 もちろん俺も参加した。

 

 この国では、誕生日を毎年祝うという習慣は無いらしい。

 だが、一定の年齢になると、家族が何かを送るのが通例なのだそうだ。

 一定の年令とは五歳、十歳、十五歳。

 十五歳で成人であるから、非常にわかりやすい。

 

 家族やロキシーがプレゼントを渡し、俺の番になった。

 ルーデウスには転生している事を仄めかしてから露骨に避けられてはいたが、ロキシーに伝言を頼んだことで多少は気持ちに整理がついたのだろうか。

 今日は真っ直ぐに俺を見据えていた。

 

 人にプレゼントなんて何十年振りかと思いながらも渡す物を考えた。

 最後にプレゼントしたのは今ラノア王国にいるあの子にだったかなと思いながら考えた結果、将来を見越して俺が作った紋章を彫った指輪を渡した。

 

「これは?」

「まあ、もっと高価な物を渡してもよかったんだがな。

 ルーデウス君はこれからも更に強くなって世界中を股にかける人物になりそうだから、その時に役に立ちそうな物を、とね。

 この指輪を見せれば、主要な都市や魔大陸では多少の融通を効かせてもらえるようになるかもしれない」

「はあ…ありがたくいただきます」

「おう、ところで今時間いいか?」

「ええ、僕も話したいことがあります」

 

 と言って、ルーデウスはパウロ達に少し外に出る旨を伝えた。

 

 

 

―――――

 

 

 

「さて、単刀直入に言うが、俺は転生者だ」

「やっぱり…、ですか…」

「タメ口でいいぞ」

「…お前、は一体、誰だ…?

 俺を、知っているのか?」

「んー勘違いしてるみたいだから言っておくが、俺の前世はお前とは無関係だ。

 完全に赤の他人だな」

「…っな?!

 ならなんであんなことを?!」

「そりゃあお前、幼少期から子供らしくもない事言い始めたり、大人顔負けの技能を使い始める子供がいるかっての。

 そういうのは大抵転生者だよ。

 何人か見たことがある。(転生者以外でも割といるけど)

 そういう奴らには同郷ならわかるネタ晒して反応を確かめているんだ」

「…確かに。

 そういう存在を知っているなら確かに俺って普通に怪しいな…。

 ところでこの事は父さん達には――」

「誰にも言ってないよ。

 誰だって知られたくない過去がある。

 俺だって…誰かに気安く言われたら怒髪天を突くような過去がある」

「信じていいのか…?」

「今現在、この世界に転生者は俺とお前しかいないんだ。

 信じられないだろうが信じてくれ」

「――――わかった」

 

 渋々ながらも頷いてくれた。

 これで次の話に進める。

 

「さて、この話は置いといて改めて自己紹介と行こうか。

 確かに俺は転生者なんだが――ああいうネタ以外の知識なんてもうほとんど覚えていない。

 昨日の朝飯の記憶も怪しいのに500年以上前の事なんて覚えていられないわ。

 この世界にはお前も知ってるとは思うが、今で言うラプラス戦役の少し前に生まれた」

「俺は○○ ○○って名前だった。

 死んだのは20XX年で、30くらいだった。

 ――前世はどうしようもないほどくだらない人生だったけど……この世界でやり直せるなら、やり直したい。

 今度は誰にだって胸を張れる人生を送りたいって思ってる」

「そうか…。

 だが人の一生は短い。

 この世界では60…或いは70年も生きられれば上等だろう。

 エルフやドワーフは除くがな」

「おお!魔族がいるならって思ったけど、エルフなんかもいるんだな!

 オラ、ワクワクしてきたぞ!」

 

 鼻の穴を大きく広げて興奮するルーデウス。

 そのセリフは物凄く懐かしい…。

 

「エルフは美人が多いし、ドワーフは髭モジャだぞ。

 前世の世界でイメージされる物に大分似てる。

 ……確か、この村にもハーフだかクォーターだかのエルフがいたはずだぞ」

「本当?!

 あ、でもエルフの髪色ってなんだろう…金ならともかく緑だったら…」

「緑っていうとスペルド族の伝承か。

 あんなのくだらない与太話だがな。

 大戦当時見たのはラプラスが製造した魔道具に意識を乗っ取られた彼らだった。

 スペルド族はむしろ被害者だったといってもいい」

「そうなんだ…偏見ってやっぱり良くないな…」

 

さて、大分長く話し込んでしまったが、最後に忠告しておくか。

 

「そろそろ家の方に戻るが……、この世界で生きるならば忠告しておくことがある」

「忠告?」

「ああ、忠告は3つだ。

 まず1つ目、七大列強と呼ばれる者達がこの世界にはいるが、これに立ち向かってはならない。

 生半な腕だとすべからく死ぬ」

「七大列強って…確か父様が話してたな。

 そんなに強いのか?」

「断言するが、強い。

 5位から上は真正の化け物だと言ってもいいな。

 俺は強さに興味はないが、もし事情があって挑むならば死を覚悟しろ」

 

 ごくり、とルーデウスの喉が鳴る。

 

「2つ目は、もし、もしもの話だが、お前の夢にヒトガミという者が現れたらこれの言葉を信用してはならない」

「人神?

 人の神なら人間の味方じゃないのか?」

「人の神じゃない。

 他にどう呼べばいいかわからんから便宜的にヒトガミと呼んでるだけだ。

 あんな者が、神であってたまるか…!」

 

ギリッと下唇を噛んで怒りのの表情を浮かべるとルーデウスは露骨に怯えだした。

 

「ちょ、落ち着けって!

 何があったのか知らないけど続きを聞かせてくれよ!」

「…あぁ、悪い。

 いや、ある程度は言うことを聞いてもいいんだがな。

 信用しかけたときはやばい。

 ヒトガミという存在には、特殊な力があってな…未来を見通す力を持っている。

 他にも特殊な力があるかもしれんが、奴は常に自分が生き残り続ける未来を観測し続けている」

「未来を観測って…そんなのまさに神の力じゃ…」

「確かにそれだけ聞けばそう思うだろうが…逆に奴は未来を見ることにしか力を割けられないと言ってもいい。

 お前や俺は、本来この世に生まれるはずではなかったかもしれない身体に宿っている。

 その場合、未来は大きく変わり、奴は特異点たる俺たちに目を向けるだろう。

 いや、俺は…既に…。

 

 話を戻すが、信用しかけた時に、やつはささいな願いを口にするかもしれない。

 それに極力乗ってはならない」

「…誰かを人質にされたりした場合は?」

「そこはお前の判断に任せる。

 未来を切り開くのは他の誰かではなく、自分自身だからな。

 或いは、ヒトガミが干渉してこないかもだから話半分に聞いといてくれればいい」

「…わかった」

 

「3つ目はな…この世界ではハーレムを作ることができるんだが…」

「おお?! ハーレム! 男の夢!」

 

 今までの話で一番食いつきがいいな。

 まあ男の性だし仕方ないなと笑って受け流す。

 

「この世界最大の宗教組織、ミリス教団では一夫一妻しか認めていないからな。

 もし複数娶るつもりならば教団には近付くな。

 ただ、ゼニスさんがミリス教みたいだから気をつけてな」

「お、おう。

 忠告ありがとう」

「あとミリス教では魔族は排斥対象だから、もし魔族を連れて入国することがあればその指輪を見せれば多少融通してもらえるだろうな」

「…スペルド族の事でも思ったけどやっぱり差別意識はあるんだな…」

「ああ、特にこの世界では姿形がモロに違うなんてザラだから、その意識もかなり強い」

「…わかった。気を付ける。

 そろそろ戻ろう。

 父様がロキシー師匠に変な事してないか心配だし」

「おう」

 

 そう言って二人揃って家へと戻る。

 忠告はできたし、蟠りもなくなったと見ていいだろう。

 だが、運命というものがあるならば、世界はその決められた未来へと収束する。

 願わくば、俺のしてきた事が無駄にはなりませんように――。

 

 

 

 ちなみにロキシーは酔い潰されていて、リーリャとルーデウスに介抱されていた。



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別れ

 俺は月に何度か狩人の方々と山狩りをしている。

 

 今日もハーフエルフのロールズと組んで山へ入った。

 俺の力を使えば索敵も楽だし魔術で遠距離から狙撃で仕留められる。

 本日は二足歩行で腕が四本あるイノシシ型の魔物、ターミネートボアを2匹、ドーベルマンのように獰猛なアサルトドッグを1匹、丸々と肥えたイノシシを1匹仕留めて村へと帰ってきた。

 

「いやぁ、今日も大量ですね。

 このまま村の猟師になりませんか?」

「フハハ、魔大陸でも良く狩りをしていたからな。

 申し出はありがたいが、俺が村専属の猟師になってしまっては近辺の魔物を全滅させてしまうだろうから遠慮させてもらおう」

「魔大陸ですか…、行ったことはないですがやっぱり魔物って強いんですか?」

「うむ、この近辺の魔物が数十匹がかりでないと倒せないような魔物がそこら中にいる。

 ただの人間が生き残るには辛い場所だろうな」

 

 感心したように頷くロールズ。

 

「はぁ、それはまた想像もできないような魔境ですねぇ」

「確かに生きにくいところではあるが、住んでみれば中々良いところだぞ。

 行きは良いが、帰りは怖い場所だ」

「ははは、私みたいなのは行く機会がなさそうですね。

 そうだ、今晩は家内がシチューを作っているんですが食べに来ませんか?

 シルフィも貴方の冒険譚の続きを聞きたがっていましたし」

「フハハ、では御相伴にあずかろうか……むっ?」

 

 ふと空を見上げると先ほどまで晴れていたはずの空が雲に覆われて暗くなっていた。

 

「おや、いきなり天気が変わりましたね……どうかしましたか?」

「あぁ、いや、突然なのだがな、俺もそろそろ旅立たなければいけなくなったようだ。

 今晩はお別れ会も兼ねて特性のベーコンと酒を持っていこう」

「突然ですね…いや、確かロキシーさんのお伴として来たのですからいつかはいなくなると思っていましたがね。

 シルフィは泣くでしょうが、今晩は飲み明かしましょう」

「うむ、楽しみにしているが良い」

 

 おっと、降り出してきたか。

 雲の中に魔力の残滓を感じる。

 これは間違いなく、水聖級攻撃魔術『豪雷積層雲(キュムロニンバス)』だろう。

 水王級攻撃魔術『雷光(ライトニング)』へと派生する前段階の魔術だ。

 これが使えるだけでも魔術師としては一人前だろうな。

 

 原作知識の通りならばこれは卒業試験。

 ロールズにも話した通りすぐにでも旅立たないといけないだろう。

 この村は自然が豊かで腹に一物持たない者ばかりだったから過ごしやすかったために、多少愛着を持ってしまった。

 これが数年後には無くなると思うと少し腹立たしくなる。

 だがあの災害こそが、オルステッドがヒトガミへと行きつくための唯一のルートだ。

 私心を殺してでも、成し遂げなければならない。

 犠牲になった者達のために。

 

 

 

―――――

 

 

 

side:ルーデウス

 

 翌日。

 

 ロキシーは旅装を整え、二年前に来た時と寸分変わらない格好で玄関にいた。

 隣には二年前と変わらない姿をしたキコエルもいた。

 父も母もロキシーが来た時と、あまり変わらない。

 俺の背だけが伸びていた。

 

「ロキシーちゃん、まだウチにいてもいいのよ?

 教えてないお料理も一杯あるし……」

「そうだぞ。

 家庭教師が終わったとはいえ、君には去年の干ばつの時にも世話になったしな。

 キコエルさんも魔物狩りには助けられたし、久しぶりに聞いた冒険譚は面白かったしな。

 特に迷宮の話は興味深かった……。

 二人とも、村の奴らなら歓迎するだろう」

 

両親はそう言ってロキシーとキコエルを引きとめようとする。

 

「いいえ。

 ありがたい申し出ですが、今回の事で自分の無力さを思い知りました。

 しばらくは世界を旅しながら、魔術の腕を磨くつもりです」

「フハハハハ、長きを生きる魔王である俺でも、この二年という時間はかけがえのないものだったがそろそろ行かなければならないところもある。

 残念だが断らせてもらおう」

 

 ロキシーはどうやら、俺にランクで追いつかれてしまったのがショックらしい。

 前に、弟子に追いつかれるのは嫌だと言ってたしな。

 

「そうか。まぁ、なんだ。悪かったな。うちの息子が自信を失わせてしまったようで」

「いえ、思い上がりを正して頂いたことを感謝すべきはこちらです」

「水聖級の魔術が使えて思い上がりってことはないだろう」

「そんなものが使えなくとも、工夫しだいでそれ以上の魔術が使える事を知りました」

「フハハ、そうだぞロキシー。

 まだ百年も生きていないのに思い上がりをするとはな。

 只人ならともかく魔族ならば長い時間をかけて研鑽を積むべきだ」

「うぐぐ……貴方に言われると何も言い返せません…」

 

 ロキシーはコホンと咳払いして、俺に向き直った。

 

「ルディ。

 精一杯頑張ったつもりですが、わたしではあなたを教えるのに力不足でした」

「そんな事はありません。先生は色んなことを教えてくれました」

「そう言ってもらえると助かります……ああそうだ」

 

 ロキシーは、ローブの内側に手を入れると、ゴソゴソと中を探り、

 革紐についたペンダントを取り出した。

 緑の光沢を持つ金属でできていて、三つの槍が組み合わさったような形をしている。

 

「卒業祝いです。

 用意する時間が無かったので、これで我慢してください」

「これは……?」

「ミグルド族のお守りです。

 気難しい魔族と出会った時にこれを見せてわたしの名前を出せば、

 少しぐらいは融通してくれる……かもしれません」

「大切にしますね」

「かもですからね。あんまり過信してはいけませんよ。

 それに5歳の誕生日にキコエル様にもらった指輪を見せた方が効果的かもしれませんが…」

「フハハ、ルーデウスよ、もう会う機会も無いかもしれない師匠からの贈り物だ。

 俺が贈ったものよりも大事にするが良い」

「はは、どちらのも大切に持ち続けますよ」

 

 それから一言二言交わして、二人は旅立った。

 俺はいつしか泣いていた。

 

 二人から教えてもらった事を決して無駄にはしないと、そう心に誓い、俺は二人の背中が見えなくなるまで見送った。

 

 手元には、ロキシーにもらった杖とペンダント、首にはキコエルからもらった指輪。

 そして数々の知識だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 と、思ったら、

 数ヶ月前に盗んだロキシーの染み付きパンツが自室にありました。

 ご、ごめんなさい。

 

 

 

―――――

 

 

 

「ふむ、そろそろ村から充分に離れたし別れるとするか」

「貴方ともお別れですか。

 幼少期以来でしたね、こんなに長く一緒にいたのは」

「ああ、そうだな。

 ロキシーはこれからどうするんだ?」

「……私は、貴方がパウロさんに語っていた迷宮の話に興味を持ったので迷宮探索にでも行こうかと思います。

 落ち着いたらまた家庭教師の仕事を受けてもいいかもしれませんね。

 貴方はどうするのですか?」

「俺は…一度魔大陸に戻るか、ラノア王国の住処に戻るか…飛びながら考えるさ。

 …そうだ、一つ忠告しといてやろう」

「忠告…ですか?」

「ああ。

 今回教えたルーデウスはな、生徒としては異常な存在だと思っておけ。

 一を知って十を理解するようなのはかなり特殊な部類だとな。

 他の生徒になる人間にルーデウスと同じような才能を求めてはいけない」

「…そ、れは、わかってます。

 私だってルディの才能には驚きましたし」

「ならいい。

 俺はそろそろ行く。

 元気でなロキシー。

 『飛翔』」

「ええ、また会いましょう。

 あ、姉さんによろしくお願いします」

 

 そうして俺達は別れた。

 

 次に会うのは…いつになるだろうな。

 まあなるようになるだろう。

 どこへ向かうか思案しながら、俺は空を駆けた。



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