ダンジョンに念能力者がいるのは間違っているだろうか? (気まぐれな暇人)
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その1 プロローグの様な何か

時系列は原作開始直前
ベル君が、オラリオに到着したのと同じくらいか、少し前。

また、この作品では、『神の恩恵』と『念能力』は別物であり、ステータスに念能力は表示されない、という仕様になっています。
あらかじめご了承ください。

あと原作と異なる点が出てくると思いますが、作者の知識不足故の場合と、故意にそうしている場合があります。
そのどちらでも、独自設定、独自展開としてお楽しみください。


 迷宮都市『オラリオ』

 都市の真ん中にそびえ立つ、巨大な白亜の塔バベルが象徴的なそこは、世界有数の大都市である。

 そして1000年前、天界で暇を持て余した神々が地上へ降り立った地でもある。

 

 神は娯楽に飢えていた。

 そのためその地にあったダンジョンを封じんと奮起する人間に『神の恩恵(ファルナ)』を与えた。

 やがてそれは神と人との絆となり、ファミリアとして体を成していった。

 

 さて神々が地上に舞い降り約1000年。

 オラリオは発展し、その中で現在は二つのファミリアが名を馳せている。

 

 一つは【フレイヤ・ファミリア】

 

 一つは【ロキ・ファミリア】

 

 この物語はその片割れ、【ロキ・ファミリア】の団員の1人。

二つ名に【秘剣】を持つ者の物語である。

 

 ――――――

 

 諸君は『念能力』というモノを知っているだろうか?

 今更言われるまでもないと、多くの方は思われるだろう。

 そう、有名な漫画『HUNTER×HUNTER』で用いられている特殊能力の事である。

 

 念能力を使う者、念能力者は人の持つエネルギー、オーラと呼ぶそれを使い、超人的な能力や摩訶不思議な現象を起こしている。

 

 何故俺が今こんな説明をしているのかと言えば、これが物語に大きく影響するものだからだ。

 詳しく知らないという人は、是非ググってくれ。

 

 俺こと『葉山誠』は、建設中のビルの足場が倒壊し、その下敷きになり死亡した。

 だが運の悪いことに即死ではなく、下半身が潰されはしたものの落下物が血止めとなり、無駄に長く生き延びてしまったのだ。

 

 あの体験はもうしたくない。痛みもそうだが、じわじわと体温が下がり身体が死んでいくのを感じるのはかなりの恐怖だった。

 まぁその残された時間の中で、俺は現実逃避としてこう願ったんだ。

 来世は念能力を使えるようになりたい、と。

 はは、それがまさかこんな形で叶うとは思っていなかったが、これも神様に感謝した方がいいのかね?

 

 長くなったが、これが俺の前世での出来事だ。

 諸君らも、死ぬ時は何か願い事をしてみてはどうだろうか?

 もしかしたら俺のように叶うかもしれないからな。

 

(この作品は他者の自殺、他殺を推奨するものではありません)

 ――――――

 

「クラム、そっちは終わった?」

 

「あぁ、問題ないよ。アイズ」

 

 私の言葉に答えたのは、クラム・アルベルト。

 綺麗な銀髪をもち、海のように深い蒼をしている瞳は、いつもにこやかに細められている。

 中性的な顔立ちをしている彼は、その柔らかな物腰から他の女性冒険者から人気が高い、らしい。

 私にはよく分からないが。

 

「それにしても、アイズが俺を誘うなんて珍しいね?何かあったの?」

 

「…その剣が見たかった」

 

 クラムには色々と秘密があると言われている。

 

 例えば戦闘中、まるで『神の力(アルカナム)』を発動させた神を前にしているような威圧感を感じたり。

 彼のレベルからは想像も出来ない力を出したり、信じられないくらいの速度で動いたり。

 

 そしてなにより…、

 

「…やっぱり、ダメ?」

 

「ははは、可愛らしい上目遣いをされるとコロッと落ちちゃいそうだけど、ダメだよ。これは俺の奥の手だからね」

 

 いつもこうしてはぐらかされる。

 

 彼の武器は特殊だ。

 今彼の手には一本の刀と、腰には『二本の鞘』が付けられている。

 これが彼の二つ名【秘剣】の由来。

 いつもは普通の刀で戦っているが、もう一つの太刀、それがひとたび抜かれれば、相手はいつ切られたのかもわからず切り捨てられている。

 その刀を誰も見たことは無いらしい。

 

「その刀は魔法では無いんでしょ?」

 

「うん、魔法ではないね。リヴェリアさんからも聞いてるんじゃない?」

 

 彼のその力は魔法でもないらしい。

 オラリオ随一の魔法使いであるリヴェリアがそういったのだから間違いないのだろう。

 

「なら、それは何?」

 

「ふふふ、秘密だよ」

 

 クスクスと笑いながら前を歩く彼の背中を私は追いかける。

 

 彼、Lv.6の【秘剣】クラム・アルベルトには秘密が多い。

 

 ――――――

 

 アイズをからかうのは楽しいね〜。

 まぁあんまりやるとベートや、ロキ・ファミリアのママこと、リヴェリアさんに怒られるから程々にしないとだけど。

 

 それにしてもアイズも随分熱心に聞いてくるよなぁ…。これで何回目だっけ?

 まぁ気になるのも仕方ないか。

 本来この世界にはないだろう力なんだから。

 

 俺が生まれ育ったのは、とある片田舎の辺鄙な村だった。

 両親は、かつては冒険者をしていたらしいのだが、引退して母方の実家に身を寄せたのだとか。

 そんな二人の間に生まれたのが俺、クラムだ。

 

 俺の自我が目覚めたのは3歳の頃。

 最初はかなり混乱した。身体が縮んでしまっていた!なんて何処の名探偵だって話だからな。

 そして俺を混乱させたもう一つの理由。

 それはどういう訳か、念に関する知識をかなり詳細に知っていたからである。

 

 最初俺は「HUNTER×HUNTER」の世界に転生したのかと思い、急いで念の修行を開始した。

 だってあの世界、場所によっては人の命が紙屑より軽いところもあるんだよ?

 こいつぁヤベぇってことで修行しまくるに決まってんじゃん。

 

 そして数年して、ここが想像していた世界とは別物だってことを知った。

 いくら先入観があったからとはいえ、何年も気付かなかったのはかなり恥ずかしく、一人ベットの上で悶えた。

 

 そんなこともあったが、修行は順調に進み、13歳で家を出てオラリオに行く時には、それなりに戦えるようになっていた。

 両親が稽古を付けてくれたお陰でもある。マジ感謝。

 

 そしてオラリオに着いて、入団試験を受けたのがロキ・ファミリア。

 本来は試験の時期ではなかったらしいのだが、俺が行った時たまたまロキの目に入り、気に入られたことで、特別に入団試験を受けさせてもらったのだ。

 この時のことは、あのセクハラ神に感謝している。あとこんな綺麗に産んでくれた両親にも

 

 んで試験官だったのが、団長のフィンさん。あの人マジおっかない。

 念があるとはいえオラリオ最強の一角である彼に敵うわけないと、最初から本気でいったのだがこれが悪かった。

 

 恩恵も貰ってない人間がかなりいい動きをしたもんだから、彼の闘争心に火をつけちゃったらしく、半殺しの目にあった。

 何?『堅』で守ってたのに肋ボッキボキだったんだけど?どんな筋力してんすか?

 リヴェリアさん居なかったら死んでたかもしれないって、どんだけ容赦ないんすか?

 

 ま、まぁそんなこんなで無事試験にも合格し、はれて入団することが出来ました。

 

 ではそろそろ俺の能力を紹介しよう。

 俺の念の系統は変化形だった。

 個人的には結構気に入っている。

 ↓こちらをどうぞ↓

 

 ―――――――――――

【変幻自在】

 

 ・オーラを固形にすることが出来る

 ・強度は込めたオーラの量に比例する

 ・自分のオーラの届く範囲(例えば円の中とか)ではどこでも出せる

 

 制約

 ・体から離れた物は強度が落ちる(円の中でも同様)

 ・能力で創り出したものは物理法則に従う

 ・1度固定した物を解除すると、そのオーラは戻らず消える

 ・1度固定した後、形状を変えることは出来ない(解除してもう1度作り直す必要がある)

 ・体から離れたモノは、最後に体に触れてから三十分で消滅する

 ・今後一切自分は他人の精孔を開くことは出来ない

 

 ――――――

 

 こんな感じ。

 この能力で生み出せる物は、あくまで固形。

 例えば某死神ピエロのように伸縮性、粘着性をもたせたり、盗賊団の色っぽいお姉さんのように柔軟性を持たせたりすることは出来ない。

 

 だが汎用性は高く、俺がオーラで形作れるものはなんでも作れる。剣でも盾でも槍でも。

 あとこの能力で創り出したものはその大きさに関わらず、質量がほぼない。良くも悪くも

 まぁこの点はメリット、デメリット両方あるので後にしよう。

 

 そしてなにより、忘れてはならないのがこの世界には、俺以外の念能力はいない(と思う)のである!

 つまるところ俺の作った剣やら盾やらは不可視。

 これが【秘剣】のカラクリなのだ。

 わざわざ鞘を付けているのは居合抜きのためと、刀しか生み出せないという先入観を与えるための布石だ。

 

 ……【秘剣】の二つ名がカッコいいからそれに合わせたとかではない。断じてない。ホントだよ?

 

 あと一つ能力はあるが、それはおいおい語るとしよう。

 

俺とアイズは、ダンジョンの闇の中へと潜っていく




如何だったでしょうか?
作者は所詮ニワカですので、能力の細かい設定までは管理しきれないかも知れません。
極力矛盾点のないよう努力していきますが、あくまで雰囲気を楽しんでいってもらえればと思います。

ではまた次回お会いしましょう


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その2 受付嬢と念能力者

ぶっちゃけ主人公の一人称視点は、ただの水増し要素
あと解説が入れやすいから便利


「ラム〜、クラムさん来てるよ」

 

「わかった、すぐ行く」

 

 同僚のミィシャの言葉で席を立つ。

 クラムくん。五年前ギルドの受付嬢になって初めて持った担当冒険者。

 

 当時まだ幼さが残る、あどけない顔立ちをした彼に一抹の不安を持った私だったが、彼はそんな不安を払うかのように上位冒険者への階段を駆け上がっていった。

 

「にしても、ラムってクラムさんの初めから担当だったんでしょ?かなりの優良物件だけど、狙わなくていいの?」

 

 この色ボケは何を言っているのか…。

 

 ――ガン!

 

「痛っ〜〜〜!!」

 

「ふざけてないで仕事しなさい」

 

 ミィシャの頭にファイルの角を落としてから、彼の元へ向かう。

 恋かぁ…、顔は受付嬢として選ばれたこともあり多少は自信があるけど…。

 

 見下ろすと、ストーンと凹凸のない自分の胸。いや、ある。触れば確かに柔らかい部分が確認できる!

 これは服に押さえつけられているだけだ!

 

 …やめよう、傷つくだけだ。

 身長もあまり高くないし、胸もない、こんなちんちくりんに、彼がときめいてくれるはずが…。

 

 そんなことを考えていたら、いつの間にかクラムくんの前まで来てしまった。

 

「こんにちは、ラムさん。なにやら落ち込んだ様子でしたが、どうかしましたか?」

 

「ううん、ないでもない。それで今日はどうしたの?」

 

「どうやら換金の受付が混んでいるようなので、近況の報告などを」

 

「あぁ、そう。わざわざありがとう。でもほんの一週間前にもやったんだから急がなくてもいいのに」

 

「ラムさんとお喋りしたかったものですから」

 

 その言葉に思わずフリーズする。

 私と、お喋りしたい?

 

「く、クラムくん、そういう発言は誤解を生むから控えた方がいいよ?」

 

「そうですかね?でもまぁこんな事はラムさんくらいにしか言わないので大丈夫ですよ」

 

 私にしか、言わない…。私にしか…

 

 …はっ!今回は少しインパクトが強すぎた。危うく戻ってこれなくなるところだった。

 

「おっほん。そ、それで近況というのは?」

 

「そうですね。最近は40層当たりをフラフラしてましたね。あ、そこでブルークリスタルを見つけましてね…」

 

 ニコニコと話す彼の口から出てくるのは、どれも非常識なことばかり。

 いや、仮にも第一級冒険者である彼なら40層くらい行くのは珍しいことではない。

 これまでも何度かそういったことはあった。

 だが…

 

「…クラムくん、ソロで深層まで行っちゃダメだって言ったはずだよ?」

 

 その言葉に笑顔のまま固まる彼。

 冷や汗ダラダラ、こうなるのは分かってるんだから止めればいいのに。

 昔からこういう所は変わらないね。

 

「ら、ラムさん?」

 

「なぁに?学習しないおバカさん?」

 

「ありがとうございます!」

 

 なんて巫山戯ていたら換金所がなにやら騒がしくなった。

 

「あれは…、ソーマ・ファミリアの人達じゃないかな?」

 

【ソーマ・ファミリア】。酒造りを趣味とする主神のファミリアであり、団員の多くが神酒に溺れているというのは一部では有名な話だ。

 そのため神酒を得るために無茶をしている、と同僚が言っていた。

 

「はぁ…、やれやれ」

 

 クラムくんは目を細めその様子を見ていたが、ふと立ち上がり騒動の中心へと歩いていった。

 

「すまないんだが、少し静かにしてもらえるかな?」

 

「あぁん!?なんだてめぇ?ぶっ殺されたくなきゃ……ッ!?」

 

 ガラの悪い口調で脅し始めた男の一人が突然動きを止めた。

 

「このまま黙ってあの扉から出ていくか。俺に黙らされてあの扉から叩き出されるか。好きな方を選べ」

 

 動かなくなった男の頭を片手で握り、至近距離から目の奥を覗き込むようにそう問いかける彼に、男は顔を青くしたまま動けない。

 周りで騒いでいた人達も、彼の雰囲気に飲まれたように黙り込んだ。

 

 彼の力は私も詳しくは知らない。

 どうしてか、いつも刀の入っていない鞘を腰にさしている。

 そして何も無いはずのその鞘から、刀を抜き放つ動作をするだけで人が斬られるのを、私は見たことがある。

 

 そして彼の凄味には、なにか尋常ならざるモノの気配すら感じ、まるで人の中からドラゴンが出てくるのではないかと思うくらい、恐ろしく感じる時がある。

 

 彼が何なのかを、私は、知らない。

 

「ん?黙ってちゃ分からないんだがね。さっさと選んでもらえるか?」

 

「お、俺達が悪かった。すぐに出ていく」

 

「そうかそうか。それなら良かった、お互いにな」

 

 慌てて荷物をまとめ去ろうとする彼らに、クラムくんが最後に耳元で何かを囁くと、それまで以上に必死の形相で走り去って行った。

 

「すいません、ラムさん。お騒がせしちゃって」

 

「いいのよ。むしろ騒動を解決してくれて、こっちからお礼を言いたいくらいだわ」

 

 まぁ彼が何者であろうと、少なくとも周囲に害を与える人ではない。

 それだけはこの5年の付き合いで私が感じていることだ。

 

「お礼、ですか。なら一つラムさんにお願いがあるんですが」

 

「ん?なに?私に出来ることなら」

 

 彼がお願いだなんて珍しい。

 でも、クラムくんのお願いなら一つや二つ聞いてもいい。

 

「今度、お茶でもどうでしょう」

 

「お茶ね?構わないわよ」

 

「ありがとうございます。この間美味しいお店を見つけましてね」

 

「そう、楽しみにしとく」

 

 ふふ、一緒にお茶なんて随分可愛らしいお願いね。

 

 少ししてミィシャにその事を話したら、デートのお誘いじゃないかと言われて真っ赤になることを、この時の私はまだ知らない。

 

 ――――――

 

 アイズと二人でダンジョンから帰還して、ギルドへ到着した。

 彼女はシャワーを浴びると、俺に荷物を預けて奥に行ってしまった。

 

 勝手に換金するのも悪いし、ここはラムさんとお喋りして待ってますか〜。

 ラムさんいるかなぁ〜♪

 

 知り合いのミィシャさんに確認をとったところ、どうやらいらっしゃる様子。

 ちなみにラムさんは、俺の担当受付で五年前からお世話になっている人だ。

 そして俺が絶賛片想い中の相手でもある。

 

 最初は一目惚れだった。

 で、色々試してみたところ、どうやら向こうも満更でもないと言った感じ…だと思いたい。

 多分、押せば堕とせるくらいには好感を持たれてると思う。はず。だといいなぁ…。

 

 ただ、冒険者といういつ死ぬか分からない奴に求婚されても、向こうも困るだけだろうということで、まだ付き合ったりなどはしていない。

 なんせ俺まだ10代だからね、これでも。

 

 とはいえ他の男に靡かれると嫌なので、こうしてちょいちょい接触しているのだ。

 なにより、ラムさんのあの初々しい感じが非常に楽しい。

 こう仕事中の凛々しい感じから一転して、しどろもどろのポンコツ感を出す感じがギャップ萌えを感じさせる!

 

 っと、そんなことを考えていたらラムさんが来てしまった。

 だらしない顔を見られるわけには行かないので気を引き締める。

 

 その後ダラダラとお喋りを楽しんでいたら、なにやら後ろが騒々しい。

 見てみたらどっかのファミリアが、買取価格にケチつけてるようだった。

 ラムさん曰くソーマ・ファミリアの団員だとか。

 

 何はともあれ、俺の至福の時間を邪魔する奴は、ソーマだろうが、フレイヤだろうが、ゼウスだろうが容赦はしない。

 

 というわけで粛清。

 

 近づいて、オーラで相手を固めて、ちょっと殺意を込めて『練』を発動してやればたちまち大人しくなる。

 流石に怪我させちゃうと面倒だからねぇ。

 

 その後大人しく帰ったのを確認し、ラムさんの所へ戻ったら、ご褒美が貰えるとのこと。

 明日が休みだと言うのでデートの約束を取り付けた。

 ふふ、明日が楽しみだ!




前回に引き続き、ご拝読いただきありがとうございます。
作者自身、恋愛経験の乏しい人間ですので、正直恋愛要素は不安でいっぱいなのですが、今後勉強していきますので、今回はこれで勘弁して下さい。

ではまた次回。


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その3 ロキ・ファミリアと念能力者

9/17 念能力の設定の一部を改変
出口の設定箇所を3→1に変更


「それで、どうだった?見せてもらえたのかい?」

 

「…ダメだった」

 

 僕の前でシュンと落ち込んだ様子で座っているのは、ロキ・ファミリアのエース、アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 その様子を困った子を見つめるような優しい目で見守る、副団長のリヴェリアと、彼女をチラチラと見ながら、イライラしたように貧乏揺すりを繰り返すベート。

 

「フィンは知ってるの?クラムの力の正体」

 

 そう身を乗り出すように聞いてくる活発なティオナに、僕も苦笑いを返すしかない。

 

「残念ながら、僕も知らないんだよね。ロキは知ってるかい?」

 

 ベートのイライラした様子を肴に酒を飲んでいる、我らが主神に話を振る。

 

「いや、ウチも知らんわ。なんかようわからん力を使ってるいうことは、分かるんやけどな〜」

 

「そうか…」

 

 今回の話題は、たった5年でLv.6まで上り詰めた若き秀才である、うちのクラムだ。

 だが、彼について僕達が知っていることはあまりに少ない。

 しかし、今はっきりしている事は…、

 

「彼は、神の恩恵以外にもなにか力を持っている、という事だね」

 

 これはかなり重要な事だ。

 なんせそれを他の冒険者ができるようになれば、戦力は今までの比ではなくなる。

 

「リヴェリア、一応聞くけどアレは魔法ではないんだね?」

 

「あぁ、魔力は一切感じなかったからな。魔法ではないだろう」

 

 これは以前から確認していることだし、彼自身も魔法では無いとロキの前で言っているから間違いないだろう。

 

「ロキ、これは今まであまり意識しないようにしてきたことだが、彼は人間なのかい?」

 

「…どういう意味や」

 

 その疑問を初めて持ったのは、彼の入団試験の時。

 ロキの気まぐれで連れてきた少年を前に、僕はいつも通り手加減をして相手の力量を見定めようとした。

 

 だがそんな甘い考えが出来たのはそこまでだった。

 彼が臨戦態勢に入った途端、まるで獰猛な肉食獣を前にするようなプレッシャーを感じた。

 ロキが発する神の力に感じるソレよりも弱いが、荒々しいその気配に、正直怯んだ。

 そして気がついた時には彼を吹き飛ばしていた。

 

 後から聞いた話では、僕の攻撃をクラムは、幾らか避けたり捌いたりしていたらしい。

 つまり彼は神の恩恵もなしに、Lv6の僕の攻撃に抗ったということ。

 

 そんな事がありうるのか?

 

 いや有り得たのだ。

 なら彼は一体、ナンダ?

 

「…長!団長!」

 

「あ、あぁ、ティオネか。すまないね、少しぼぉっとしてしまった」

 

「少し顔色が悪いですよ?お休みになりますか?今なら私が献身的な介護を…!」

 

「落ち着きーや、ティオネ。で、クラムが人間か、ゆう話やったな。アイツは人間や、ウチの知る限りはな」

 

「…そうか」

 

 ならあの時感じた威圧感は一体何だったのか?

 

 …わからない

 

「ねぇねぇフィン、分からないんだったら、本人に聞いてみればいいんじゃない?」

 

「…そうだね。そうしようか」

 

 ここで悩んでいても始まらない。

 ティオナの言う通り、彼を呼ぶことにした。

 

 ◇◇◇

 

「で、お話とはなんですか?フィンさん」

 

 クラムは、いつも通りニコニコと笑顔を貼り付けている。

 相変わらず、その目からは何を考えているかは読み取れない。

 

「わざわざ来てもらって済まないね。話というのは、君のその能力について教えてもらえないか、ということなんだが」

 

 今この部屋にいるのは、僕と、リヴェリア、ガレス、そして主神のロキ。

 神は人の嘘を見抜くことが出来る。

 つまりこの場で適当な嘘を言って煙にまくことは出来ない。

 

 さてクラム、君はどうする?

 

「あー、その件ですか…。

 

 すいません、フィンさん。それについてお答えすることはできません」

 

「…何故か、聞いてもいいかな?」

 

 ロキはなんの反応も示さなかった。

 つまり彼の言葉に嘘はない。

 

「そうですね…、あまり細かいことまで言うことは出来ませんが、『言わない』のではなく、『言えない』んです。言えるのはこの辺までですかね?」

 

 つまり言えないだけの理由があるからこれ以上の詮索はするな、という事か…。

 

「わかった。

 

 だがこれだけは確認させてもらうよ。

 君は僕達と敵対するつもりは無いんだね?」

 

「それは勿論です。

 拾ってもらった恩もありますし、なにより俺はこのファミリアが気に入ってますから」

 

「そうか。わかった。話してくれてありがとう。もう下がっていいよ」

 

「はい、では失礼します」

 

 結局、彼から詳しい話を聞くことは出来なかったが、敵対するつもりはないと明言してくれたことは大きい。

 

 その後僕達は、彼について今後も注意深く動向を観察するということで、意見が一致した。

 

 ――――――

 

 突然の呼び出しにドキドキして部屋に入ったら、なんか幹部の人が勢揃いだったんですが?

 これって会社でいえば、社長とか取締役とかがいる部屋に、平社員が一人呼ばれたようなもんだよね?

 

 何その拷問

 

 必死に引き攣りそうになる表情筋を、意志の力で押しとどめる。

 だってフィンさんが、こっちめっちゃ見てくるんだもん。ニコやかだけど、目が笑ってナイ!

 

 目をそらしたら死ぬ、と思って必死に見つめ返しながらも、質問されたのは念能力について。

 

 ですよねー。むしろこれまで、正面切って質問してこなかった方が驚きですわ。

 いやこれまでも、何度も探りは入れられてたんだけどさ。

 しかぁーし、今回はガチみたいでロキたんもバックにスタンバイしとる。

 

 これは絶対逃がさないってことですね、わかります。

 

 とはいえ念能力なんてイレギュラーをこの世界に広めでもしたら、どんなことになるか分かったもんじゃない。

 特に娯楽に飢えた神々(馬鹿共)が。

 

「あー、その件ですか…。

 

 すいません、フィンさん。それについてお答えすることはできません」

 

 というわけで私は逃げさせてもらう!

 

 こういう時のために作っておいてよかった二つ目の能力。

 いやこの場面を直接乗り切るためのものでは無いけど、能力に定めた誓約を理由にすれば、いけるっ!

 

 俺のもう一つの能力、それはノブさんの能力をパク…、ゲフンッゲフンッ、オマージュさせてもらったものだ。

 

 無論、具現化系のエキスパートである彼の能力を、変化系の中途半端な能力者の俺が模倣する、なんてことは出来ないのは百も承知。

 

 ここで簡単に解説しておくと、ノブさんの能力は、四次元空間に創り出したマンションのドアから、予め登録しておいた場所へ好きにで入りすることが出来る、みたいな能力だったはずだ。

 詳しくはググって(ry

 

 俺がこれを完全に模倣するなんてのは無理なので、制約と誓約をガチガチにして、やっと一部具現化することに成功した。

 

 で、その肝心の能力がこちら

 

 ―――――――――

【一方通行の家】

 

 ・別次元に10立方メートルの正立方体を創り、具現化したドアから出入りすることが出来る。

 

 制約

 ・具現化したドアを解除する(消す)と、別の扉からしか出ることは出来ない

 ・入ってきたドアを消さなければ、他のドアから出ることは出来ない

 ・自身の具現化したドアからしか入ることは出来ない(出るのはその限りではない)

 ・出口として登録できる場所は1箇所

 ・登録するには専用の道具を予め配置しておかねばならない

 ・自分以外の生物(10cm以上)は12体までしか入れることは出来ない

 ・自分以外の生物を入れる場合、専用のアイテムを装備させねばならない

 ・他者に念能力の習得方法を喋ってはならない

 

 誓約

 ・具現化した能力の中では、この能力以外の『発』を使うことは出来ない。

 ・この能力に紐付けられたアイテムが破損した場合、一つにつき三ヶ月間、この能力を発動できない

 ・念能力の習得方法を他者に喋った場合、この能力は2度と発動出来ない

 

 ―――――――――

 

 すごくね?こんだけガッチガチに制約と誓約を付けて、やっと開発に成功したんだぜ?

 これの何倍も優良な能力使ってたノブさん、まじパネェっす。

 

 まあお気づきかと思いますが、念能力の習得方法について。

 取ってつけたようだけど、今回のような状況に備えて入れときました。

 その割に地味にシビアな内容になってるけどね。

 でもそのお陰でフィンさんの追求を逃れられたので万事オッケー!

 

 あの答え方はヒソカのを真似てみたけど、嘘は言ってないから勘弁。

 念能力について教えたら、絶対習得方法について教えろ、ってなるだろうから。

 

 この能力で必要なアイテムとか、出口の設置場所とかはまた今度。

 とりあえずフィンさんに帰っていいと言われたことを喜ぼう!

 

 シャバの空気は美味いぜ!




ご拝読いただきありがとうございます。
少しですが勘違い要素を入れてみました。

主人公は、入団試験当時の記憶がフィンに半殺しにされたというイメージが強く、気づいていません。
しかし、念能力者の『練』は、非念能力者を威圧してしまうという性質があるため、フィンは圧倒的なレベル差があるにもかかわらず彼に怯えてしまったのです。
最近はそういうものだと慣れてしまったようですが。

それと、今後主人公以外に念能力者を登場させるつもりはありません。
これ以上イレギュラーを増やしたら私が管理しきれないので…。
あと念能力へのツッコミはなしでお願いします<(_ _)>
多分穴があると思いますが、作中では使うつもりはないので無視してください。
そのへんはご都合主義ということで一つ。

ではまた次回。


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その4 それぞれの想い

早速、誤字の報告をして下さった三の丸様、ありがとうございました┏●
そしてお気に入り登録して下さった皆様にも感謝を

1晩で、UAが1000以上増えていたことに正直ビビっております。
やっぱり、ダンまちとHUNTER×HUNTERのネームバリューは凄いんだなぁと思い知らされました。
今後も出来るだけ続けていきますので、暖かく見守っていただければ幸いです。


 

「結局わかんなかったんだよね?クラムのこと」

 

「そうらしいわ」

 

 あたしの双子の姉、ティオネに昨日の話し合いの結果を確認するが、やはり分からずじまいだったと知らされる。

 

「けっ、秘剣だかなんだか知らねぇが、ワケわかんねぇもん使いやがって」

 

 今回の同行者であるベートは、八つ当たり気味に手頃なモンスターを蹴り飛ばす。

 けどこれは仕方ないと思う。だって…

 

「仲間の私達にも教えられないこと、なのかな?」

 

「そうなんでしょうね、団長達にも教えないってことは」

 

 あたしは目の前に立ちはだかったミノタウロスを、ウルガで斬り捨てる。

 このあたりの階層だと、斬りごたえのある敵がいないのでつまらない。

 

「つまりアイツは俺達も信用してねぇってことかよ」

 

「ベートそれは言い過ぎだよ!」

 

 あたしは、クラムはそんな薄情な奴じゃないと、反論するが、

 

「ならなんで俺達に話さねぇ」

 

 そう返され思わず黙り込む。

 冒険者にとって、手の内が知られることは確かに不味い。

 特に魔法使いは、他人に自分の魔法が知られることを嫌う傾向にある。

 だが仲間にまで教えないというのは…

 

「俺はアイツに背中は預けられねぇな」

 

 その言葉を否定できるだけの理由を、あたしは持っていなかった。

 

「とは言っても、近々遠征をするって団長が言ってたわ。遠征中もそんなこと気にしてたら、死ぬわよ?」

 

「るっせぇなァ、分かってるよ。ンなことは。だがな、自分の手の内も見せられねぇような奴を、俺は仲間だとは認めねぇ」

 

 ベートは強さに拘り、自分より弱い人を見下すようなことを言うが、ファミリアの団員には仲間として接している。

 だけどクラムだけはそう見ないと、そう見られないと。

 

 なんだか家族がバラバラになってしまうようで、辛い。

 

「はぁ…、分かったわ。とりあえず団長には伝えてみるから。ティオナも落ち込んでないで、手を動かして」

 

 あたしが考え事をしている間に、先程とは別のモンスターの一団とエンカウントしたようだ。

 ダンジョンを舐めていると死ぬ。

 それはあたし達、第一級冒険者でも変わらない。

 

 あたしは一度迷いを振り捨て、戦場へ駆ける。

 だが、どうかクラムが私達を信じてくれる日が来るのを、願わずにはいられない。

 

 ――――――

 

 ギルドの入口の前にある広場。

 いつも出勤の際に通っている道ではあるが、今日はなんだか別の場所のように見えた。

 いつもはまだ薄暗い時間に通るからかもしれない。

 

 だが理由がそれだけでないことは、私自身がよく分かっている。

 中央にある噴水の周りには、一人で誰かを待つように黄昏る男性。

 花のように笑顔を満開に咲かせ、想い人を見つめる女性。

 幸せそうに我が子を見つめる夫婦。

 

 ここはよくデートの待ち合わせとして使われる場所なのだ。

 そんな場所で同行者を待っている私の心も、知らず知らずに浮き足立つ。

 

 そして……

 

「すいません、ラムさん。お待たせしてしまいましたね」

 

「うんん、大丈夫。今来たところだから」

 

 こういう場合、普通は男性が待つものらしいのだが、今回は私が悪い。

 だって緊張しすぎて、約束の一時間前に来てしまったのだから。

 彼も約束の時間から三十分も早く来てくれたのだから、そんなに申し訳ない顔をしないで欲しい。

 

「そのセリフは男性が言うべきだと思うんですがね」

 

「ほらほら、そんなに気にしないの。

 今日はお茶しに行くんでしょ?

 私楽しみにしてたんだから」

 

「そうですね。では早速、と言いたいところですが、まだ時間も早いですし、少し寄り道して行きましょうか」

 

 そう言って歩き出す彼に着いて行く。

 さりげなく握られた手の感触に、思わず顔が熱くなる。

 それに私が歩きやすいように、歩幅に気を使ってくれる彼の気遣いに、心も暖かくなった。

 

 そうして連れてきてくれたのは、最近同僚の中でも人気で、よく話の話題に上がる、少しお高めの洋服店だった。

 

「クラムくん?なんでここに?」

 

「ラムさんが、以前仕事は制服だから、私服はあまり持っていないって話していたでしょう?

 ですから丁度いい機会ですし、少し買っていきませんか?

 お金は俺が出しますから」

 

「そ、そんな。悪いからいいよ」

 

「俺がそうしたいので、買わせてください」

 

 そんなことを言われてしまえば、無下にするのは申し訳なくなってしまう。

 結局、女性の店員さんがオススメしてくれた服を、上下3着も買ってしまった。

 会計の時言われた値段に少し顔が青くなった気がする。

 彼は特になんの問題もなさそうに払っていたが…。

 

「く、クラムくん。やっぱり悪いから自分で…」

 

「そんな機会でも無ければ、ラムさんに服を買ってあげることなんてないですから、俺に払わせてください」

 

 笑顔でやんわりと断られてしまった。

 受付嬢のお給料も決して低い訳では無いが、こんな贅沢をして暮らせるほどではない。

 今回みたいな買い物をした日には、今月は、明日から1日1食にしなければならないだろう。

 

「俺はあんまり趣味とかないので、お金は結構溜まってるんです」

 

 そう笑顔で言ってくる彼に、心の悪魔が「彼と結婚すれば一生安泰だぞ?」と囁きかけてくるが、財力だけを理由に結婚しようだなんて彼に申し訳がないと、必死に誘惑を振り払う。

 

「あ、ありがとう」

 

「どういたしまして。さ、約束したお店に行きましょうか。それとも靴とかも見に行ってみます?」

 

「もう大丈夫だから、お茶しに行こ!」

 

 ちょっと悪戯っぽく笑って、そう聞いてくる彼に、慌てて行き先を決定する。

 これ以上何か買われたら、私の胃がおかしくなっちゃう。

 

 ◇◇◇

 

「…何か浮かない顔だね?」

 

 彼の紹介してくれたお店は、小さいながらも小洒落ていて静かな空間に、ほんの僅かに聞こえてくる外の喧騒が、まるで別世界のように感じる。

 出されたお茶も絶品で、注文したクッキーと一緒に食べると、それはもう絶妙な味の調和を私に教えてくれた。

 

 そんな私の様子をニコニコと見ていた彼だったか、何か少しいつもと違うように感じたのは、決して気のせいではなかった。

 

「…わかっちゃいますか?」

 

「そりゃ私は貴方の担当で、五年も付き合いがあるんだよ?そのくらい分かるよ」

 

 その言葉に苦笑いを浮かべた彼は、ひと口お茶を含み、口を湿らせてから言葉を紡いだ。

 

「ラムさんは、俺の能力について何も聞きませんよね」

 

「そりゃ私は担当とは言っても、あくまでギルドの受付でしかないからね。言いたくないことは無理には聞けないよ」

 

「そうしてくれて、正直俺もとても助かってます。

 ですけど昨日、フィンさんに俺の能力について質問されましてね。

 その時は答えられないと言って誤魔化したんですけど、今思えば、それは仲間である彼らへの侮辱なのではないか。

 そう思えたんです」

 

 彼について、私はそれほど多くのことを知っている訳では無い。

 幾つかスキルがあることや、一つだけ魔法が使えるなど、資料では知っていることはあるが、彼がいつも何を考え、何を思っているのか。

 私には知る(すべ)がない。

 

「クラムくんは、それを団長さん達に教えたいのかな?」

 

「えぇ、それなりに有用な能力を持ってますし、なにより仲間に後ろめたいような、そんな感じがするんです」

 

「ならなぜ教えられないか、聞いてもいい?」

 

 彼は少し躊躇うような様子を見せる。

 こんな彼は初めて見るかもしれない。

 こんな時に不謹慎かもしれないが、新鮮な感じだ。

 

「俺の能力が外に漏れた時、他の神が騒ぎ出すんじゃないかと思ってるんです。

 以前もあったでしょ?

 うちの主神が、神の力(アルカナム)を使ってるんじゃないかって疑惑」

 

 あった。

 それは、クラムくんの急成長の具合が明らかにおかしいと、他のファミリアの主神達が騒ぎ出したのだ。

 一大ファミリアのロキ・ファミリアと言えど、この火消しにはかなり苦労したと聞く。

 

「喋るとファミリアの皆に迷惑がかかる。だから喋れない、ってこと?」

 

「えぇ、まぁ

 

 …それに怖いんです」

 

「怖い?」

 

 

「俺の急成長の理由もこの能力に関係があるので、これを知られた時、彼らが俺を卑怯者と呼ばないか」

 

 本当に、こんなに弱々しい彼を見るのは初めてだった。

 いつも笑顔で、無茶ばかりやって来る彼が、こんなにも素直に弱さをぶつけてくれるのは。

 

 私を信頼してくれている気がして、とても嬉しかった。

 

「クラムくん、貴方はファミリアの皆を信頼しているんでしょう?」

 

「はい、勿論です」

 

「ならそんな彼らを信じてあげなさい」

 

 その言葉に、彼は驚いた表情をして、今日一番の笑顔を私に向けた。

 

 

 

「でもその前に、俺が一番に教えるのはラムさんがいいです」

 

 …その言葉は卑怯だと思う。




初めて水増し要素(主人公視点)無しに話が進められた。
大体3000字前後を目安に書いてるんですが、やっぱり安易な方法があると、それに頼っちゃう私の悪い癖。
いい加減治さねばならないとは思ってるんですが…。
いや、別に主人公視点が無駄だと言っている訳では無いのですがね。

今回の話ですが、出来るだけ心理描写を丁寧に書くことを心掛けてみました。
上手い作品は、自然と登場人物に感情移入しちゃうんですよね。そういった作品を目指し、今後も精進して行きます。

まとまった戦闘描写のある話は、もう少し先になります。
あまり期待せずお待ちください。

ではまた次回。


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その5 告白

9/17 『その3 ロキ・ファミリアと念能力者』の内容の一部を変更しました。

内容
【一方通行の家】の能力説明文
・出口の設定箇所の数を3→1へ変更

作者の勝手な都合による突然の変更、申し訳ありません。

お気に入り登録、評価をして下さった皆様ありがとうございます。
突然申し訳ありませんが、この作品は『チラシの裏』に投稿することになりました。ご了承ください。

今回はリヴェリア視点でお贈りします


「クラムの、能力の秘密を教えてくれるって!?」

 

 いつもは騒々しく感じるティオナの大声も、今日は何処か遠くに感じる。

 あれほど情報の開示を拒んでいたクラムが、あっさりと私達に教えると言うのだ。

 これ程驚くこともないだろう。

 

「クラム、どういう風の吹き回しだ?」

 

 私の問いに、いつもと違う少し困ったような顔をこちらに向けるクラム。

 この男がこういう顔をするのは珍しいな。

 

「どういう風の吹き回し、ですかリヴェリアさん。

 まぁ簡単に言えば、昨日皆さんに呼ばれたあと一人で考えまして、今日ギルドの担当受付のラムさんに、「ファミリアの仲間を信じてやれ」、と言われまして」

 

「…それは我々の事を信用出来なかった、ということか?」

 

 だとしたら私の目も随分曇ったものだ。

 少なくとも、私はこの男をファミリアの一員として信頼していたというのに。

 

「あー、言ったら面倒事に発展しそうな予感がありまして…。

 あと、なんというか…」

 

「なんや、ハッキリせぇな」

 

 ロキの言葉に促されるように放たれた言葉は、またも信じ難い言葉だった。

 

「…言ったら失望されるような気がしまして」

 

 なるほど、本当に我々は信用されていなかった、という訳か。

 

 いや仕方がないのかもしれない。

 入団当初こそ、アイズやティオナ達と一緒にダンジョンへ潜り、私やフィンが指導を行っていた。

 だがいつしかクラムは一人でダンジョンへ潜るようになってしまった。

 

 理由としては、クラムのレベルに見合わない力が、他の団員に悪影響を及ぼさないよう、クラムの指導は我々との1対1になっていったのだ。

 そして彼の力を見てきた我々が、一人でも問題ないだろうと単独行動を黙認していたことも原因の一つだろう。

 

 簡単に言ってしまえば、クラムはロキ・ファミリアの中で浮いた存在になってしまっていた。

 

(あぁ、信頼といいながら、実際は私達が恐れていたのではないだろうか)

 

 ――クラムの異質なチカラを

 

 なるほど、これで信頼してもらおうなどと、笑わせるな、と自身の考えを嘲笑う。

 

「失望なんてしないよぉ!

 クラムは私達がそんなに信用出来ないの!?」

 

「あ、いや、そういう訳じゃ…」

 

 ティオナに攻め寄られ、しどろもどろになっているクラムを慌てて救出し、話の続きを促す。

 反省するのは、またあとでもできる。

 

「それではまず、俺の能力の総称から。俺がいつも使っている能力は、念能力と言います」

 

 そしてクラムの口から語られたのは驚くべき内容だった。

 魔法とは別の法則をもつ力の存在。

 そしてその力の優良性。

 私の知らないことが、こんなに近くに転がっているとは…。

 

「それで君の『秘剣』もその能力の一つというわけかい?」

 

「えぇ、俺の能力は自分のオーラ、魔法で言う魔力を固形にする力があります。

 魔力はリヴェリアさんのような特殊な人にしか感知できませんよね?

 それと同じで、オーラは俺にしか感知できない存在なんです。

 ただこの場合、感知出来ずとも俺の力で固めたオーラはそこにあるので…」

 

「剣の形をしたオーラは不可視の剣になりうる、か。凄まじいね」

 

 確かに凄まじい。

 そして何より凡庸性も高いと見える。

 恐らくオーラとは、魔力のように熟練になれば操作可能なのだろう。

 つまり形を作れればどのようなものでも創り出せるはず。

 

「強度はどの程度なんじゃ」

 

 それまで黙っていたガレスが声を上げる。

 

「そうですね、これは込めたオーラの量に比例します。

 魔法でも、込めた魔力量で威力が増減するでしょ?

 それと同じで、これもガラス位の強度から、全力で込めれば原石の状態の

 最硬精製金属(オリハルコン)も傷つけられます」

 

 オリハルコンだと!?

 あれはその名の通り、最高硬度を誇る金属だぞ!?

 

「とはいえ、それだけオーラを込めたら、ほぼすっからかんになってしまいますけどね」

 

 流石にそれだけの力を使えば代償は大きいということか。

 

「ねぇねぇ、他にはないの!?」

 

「落ち着いて、ティオナ。もう一つあるので、これから説明しますから」

 

「ホント!?」

 

 やれやれ、まだ残っているのか。

 本当にびっくり箱のような奴だな。

 

「では俺の家に案内します」

 

「「「家?」」」

 

 思わず声を上げた私達に、悪戯っぽく笑いながら…

 

『なっ!』

 

 今度こそ本当に驚いた。

 クラムの背後に、黒塗りの重量感のある大きな扉が突然現れたのだ。

 

「では皆さん、これを付けてください」

 

 そう言って渡されたのは、銀色のチェーンが付けられたネックレス。

 

「…これは何?」

 

「いい質問です、アイズ。この扉に入るには、俺以外はこのネックレスを付けないと入れないんです。

 試しにこの扉を開けようとして見てください」

 

「わかった」

 

 そう言って、鈍い金属光沢を放つドアノブを捻るアイズ。

 だが、

 

「…あれ?」

 

 ガチャガチャ音を立てるだけで開く気配がしない。

 Lv.5の彼女が開かないとなれば相当の強度なのだろう。

 

「だけど、扉が開いていた場合は別なんじゃないかい?」

 

「そうですね、その場合も…、ってアイズ!そんなにムキにならないで!壊れちゃうから!」

 

 …あの扉は壊れるのか。

 その場合もどうなるのか後で聞かねばな。

 ムキに開けようとするアイズを下がらせ、今度はクラムが扉を開いた状態で試す。

 今回はベートだ。

 

「こん中に入ればいいのか?」

 

「うん、入ってみて」

 

 面白そうにベートを見ながら場所を開けるクラムに、ベートは憮然とした表情で扉へ突き進む。

 だが案の定…

 

「あ?なんか此処に壁があんぞ。クラム、てめぇなんかしてねぇだろうな?」

 

「してないよ。これがこの能力の誓約だからね。これは俺でも破ることは出来ないよ」

 

 誓約、か。

 たしか能力の使用条件を厳しくすればするほど強力な能力を発動できる、だったか。

 つまり入れる人数を制限することでそれを達成しているのか。

 

「ならこのネックレスに付けられている虎?は何か意味があるの?」

 

「あぁ、それは極東に伝わる神話の十二支の動物を模してるんだよ。数もちょうど良かったしね」

 

「これはミスリル製か?」

 

「お、流石ガレスさん。そうです。この扉の能力と結び付けてるんですけど、誓約の一つでそれが一つ壊れる度に三ヶ月間この能力が発動出来なくなっちゃうんです。ですから出来るだけ硬い金属で作りたかったんです」

 

 なるほど、それなら納得だ。

 だが、それ以上の硬度を誇るアダマンタイトなんかを使おうとすると、高くつく。

 それにあの金属は細工には向かない。

 だからミスリル、という訳か。

 手元にある小さな龍の細工を、しげしげと眺める。

 

「なるほどのぉ。それで、そろそろその中を見せてくれるのかの?」

 

「えぇ、ではそろそろ中を案内し…、って!ベート!蹴っちゃダメ!それシャレにならないからー!」

 

 なんだかな…。

 こういうのはデジャブ、と言うんだったか。

 

「ハァ…ハァ…。で、では、中を案内させてもらいます。どうぞこちらに」

 

 はぁ…、やっとか。

 全員ネックレスを付けたことを確認した後、扉の内、黒く塗りつぶされたようになった空間に、私たちは進んでいった。

 

 ◇◇◇

 

「わぁー!何これぇー!!」

 

 黒い幕をくぐった先は、本が詰まった本棚がそびえ立っていたり、重量感のある机が置かれていたりといった、古風な一室が広がっていた。

 天井までは3メートルと言ったところだろうか。

 材質はよく分からないが、周囲の白い壁が自ら発光しているようで、特に照明などなくとも充分明るい。

 

「クラムー、これなぁーにぃー!?」

 

「ちょっ!ティオナ!それ触っちゃダメ!どれがどれだか分からなくなっちゃうから!」

 

「…興味深い」

 

「へぇ、面白そうなモノがいっぱいあるじゃない」

 

「お、階段があるやん。下には何が……、おぉ!酒があるやん!しかも高いヤツ!ちょいと拝借…」

 

「ロキーッ!それ俺が苦労して集めたヤツ!触んなぁーッ!」

 

 …だんだん収取がつかなくなってきたな。

 というかクラム、いつもと大分感じが違うが、これが素か?

 

「リヴェリア」

 

「ん?なんだ、フィン?」

 

「僕はやっと、彼と家族になれた気がするよ」

 

「…私もだ」

 

 家族にだって、隠し事の一つや二つはあるだろう。

 だがこうして、偽りのない顔で向き合えるのが、私は家族だと、そう思う。




変更した点ですが、あのままだとやり方次第では遠征の時、大きく近道出来てしまうという点が引っかかりました。
勿論、書いた当初から分かっていたことであり、その時は遠征の時に何かしらの理由で使わなければいい、と考えていました。
が、考えていくうちに別段複数の箇所に転移できるようにする意味ってそんなに無いのかな、と思い直し書き直しに踏み切った訳です。

それと今回、主人公が念能力についての説明をしていますが、誓約に引っかかるのは、あくまで習得方法だけなので今回の話はセーフです。
そして今後も主人公以外にその情報が漏れることはありません。私が管理しきれないので…。



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その6 解説と約束

お気に入り件数が100件を超えました!

読んでくださっている皆様に心より感謝を

今回は解説会となります

9/22 一部加筆しました


 

 

め、めっちゃ疲れた。

 

 何がって、まずティオナさん。

 彼女、好き放題触りまくるもんだから、部屋がしっちゃかめっちゃかになっちゃって…。

 しかも隠しておいた、ちょっと危ないアイテムとか見つけてくるし…。

 

 次にロキ。

 あの主神様(呑兵衛)、酒の匂いを嗅ぎつけて、俺のコレクションに手を出しやがった。

 あれ、世界各地から流れ着いた名品を見つけるたびに、密かに確保してきたモノなのだ。

 無論お値段も相応にした。

 

 あと、油断ならないのがアイズさん。

 俺が目を離したスキにチョロチョロ動き回り、隠しておいた丸秘書物を見つけそうになったのだ。

 まったくもって油断ならない。

 

「えー、とりあえず説明させてもらいます。

 まずこの扉が四方にある部屋を1階とし、2階と地下室があります。

 主に俺が普段使いしているのがこの部屋で、2階が研究室、地下が倉庫になってます」

 

「研究室、というのはポーション等か?」

 

「えぇ、そういったものです」

 

「なるほど、お前の発展アビリティにある薬師は、どうして付いたのかと思ったが、こういう理由だったか」

 

 そう、俺には発動アビリティの一つに、薬師がある。

 これは、オラリオへ行けば、魔法が使えるようになるかも!と思って来たが、結局魔法は発現せず。

(当時の話であって、現在は一つ使えるようになった)

 

 なら魔法薬と呼ばれるポーションならどうだ!と、独学で勉強するうちにのめり込み、たまたま知り合った薬師の神様に教えて貰っていたら、できるようになっちゃったのである。

 

 勿論その神様には、お礼として定期的に深層でとれる薬の材料をお裾分けしたり、街の外で材料調達する時のお手伝いなどをしている。

 なんでも今は眷属が女の子一人しかいないらしく、しかもとても貧乏。

 そのためその少女からは、割と本気で改宗を持ちかけられている。

 ナァーザちゃん、それやると多分ウチと戦争になるよ?

 

 それと、他にも神字の研究も少しやっている。

 初めに持っていた知識に、その事も少しだけ入っていたのだ。

 なので自分なりに研究を進めている。

 あまり進んでいないが…。

 

「先程入ってきた扉ですが、あそこは俺が具現化した扉がある内しか、出入りすることはできません。

 残る扉は、俺があらかじめ設定した場所に出られますが、一度出るとその扉から入り直すことはできません。

 完全に一方通行です」

 

「出口の設定している場所を聞いてもいいかな?」

 

「一つは18層、セーフティエリアの端の方の見つかりづらい場所に。

 いつもは一人で深層に行った時の行き帰りに使用してます」

 

「なるほど、了解した」

 

「フィンさんは言わなくてもわかると思いますが、ここを使って遠征の近道にする、みたいな事は出来なくはないですが正直難しいですし、出来ればやめてください」

 

 最大でも、俺入れて13人までしか運べないからね。

 

「まぁそうだね。

でも難しいというのは?やはり、あの扉を出すのは大変なのかい?」

 

「えぇまぁ、それなりに。

それにこの扉は、俺が具現化したドアは消さなければ出入り自由ですが、あっちの指定した方は、このドアを一度消さないと開かないようになってるんです」

 

「また面倒な仕様にしたのぉ」

 

「ははは、すいません。幾つも制約を定めないと、俺はこの能力を発動出来なかったので」

 

 これは事実ではあるが、この理由の他にも、俺の生活スペースを、団員とはいえ不特定多数の人に晒したくないのもある。

 

 え?ならこんな能力にしなければ良かったって?

 うるさいな!秘密基地感が欲しかったんだよ!

 というか、そっちにこだわり過ぎて出入口の制約が難しくなっちゃったんだよ!

 本末転倒だよ!悪い!?(逆切れ)

 

「それに設定するアイテムも破損したりすると、三ヶ月間使えなくなっちゃうんですよね」

 

「…なるほど、中層程度のモンスターなら破壊できないそれも、深層に行くと破壊されてしまうかもしれないからね」

 

 そう、アイテムを起点にするというのは、地味にキツい縛りなのだ。

 でも、あんまり簡単すぎるのもつまらないと思うけどね。

 仮にノブさんと同じ能力が使えたら…、多分80層くらいまで行けるんじゃない?(適当)

 あ、ちなみにドアが破壊された場合は、再度具現化できるようになるまで1日かかる。

 以前実際に壊れたので間違いない。

 

「ふむ、ならクラム。遠征の際は、ここを物資の備蓄所として使わせてもらえないかな?」

 

「えぇ、俺もそのつもりで能力を教えたので、構いませんよ」

 

 物置にするくらいなら問題ない。

 終わったあとの掃除が大変そうだが、それくらいは甘んじて受け入れよう。

 

「クラム!私ここに住んじゃダメかな!?」

 

「あー、残念ながらティオナ。それは不可能なんだ」

 

「え?何で?それも制約?」

 

 制約ではない。

 だが、ここで暮らそうと思う場合、制約として機能するのではないかと思うほど、厳しい縛りが一つ。

 

「ここ、トイレが無いんだ」

 

 そう、それが理由である。

 

 ちなみに、俺が研究室としてここに籠る場合は、トイレに18層を利用している。(ダンジョン内ではごく普通のことだ)

 自室にドアを具現化したままだと、万一、人が入ってきた場合不自然に思われるので解除して、出る時は出口専用の方から出たりと、地味に苦労している。

 ドアは具現化したモノなので、『隠』で隠すことも出来るが、研究に集中してしまうとそれが解けてしまうのだ。

 

 その言葉に、思わず顔を青くするティオナ。

 

「…欠陥住宅ね」

 

 ティオネさん!それは言わないで欲しかった!

 いやこれは完全に俺のミスだけども!

 

「ま、まぁとにかく、これで遠征の懸念材料である、物資の問題が解決したんだ。喜ばしい話だよ」

 

 フィンさんの無理に明るくしたような声が、撃沈した俺の耳に響く。

 

 皆さんも、建物の設計をされる時は、トイレなどの水周りと、聖火台の設置をお忘れなく。

 

 ――――――

 

「クラム、教えてくれてありがとう」

 

「ん?あぁ、どういたしまして。アイズ」

 

「それでね…」

 

「ん?」

 

 何処か、いつもより物腰が柔らかくなったように感じる彼に、いきなりこんな事を頼むのはどうかとは思うが、どうしても頼んでみたいことが、私にはあった。

 

「私と、闘ってくれない?」

 

 やっとこの事で絞り出したその言葉に、彼は少し唖然とした表情をした。

 

「アイズ?それは俺の能力を知った上で言ってるんだよね?」

 

「うん、勿論」

 

「…正直、自分で言うのもなんだけど、この能力はかなりズルいもの(チート)だ。だからこそ、俺は団員同士での模擬戦では、この力は一切使ってこなかった」

 

 その通りだ。

 これまでクラムは、団員同士での訓練や、模擬戦では『秘剣』は一切使用してこなかった。

 例え、フィンにお願いされても、ベートに挑発されても。

 

 彼がそれを抜く時は、いつも誰かを庇った時だけ。

 

「知ってる。だからお願い。

 

 ――私と本気で闘って」

 

 私は最近、自分の力に行き詰まりを感じている。

 だから、今度の遠征では何かを掴めないかと期待していた。

 

 だがしかし、こんなにも近くに、その壁を壊し、導いてくれそうな人がいるならば、わざわざ待っている理由は、ない。

 

 私の目に本気の色を感じ取ったのだろうか、彼はついに、

 

「あぁ、わかった」

 

 承諾の返事をくれた。

 

 模擬戦の日は明日。

 手は抜かないし、抜けない。

 

 ――本気でやる

 

 ――――――

 

 ……どうしてこうなった

 




ご拝読ありがとうございます。

次回、初戦闘シーンです。頑張ってみました。


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その7 初めての戦闘

ご拝読して下さっている皆様、いつもありがとうございます。暇人です。

UAが5000突破致しました。
これも皆様のおかげです。ありがとうございます。

今回、初めて戦闘描写を書いてみましたが、想像以上に難しかったです。
なのでクオリティには期待しないでください。

最初は三人称視点、途中からアイズ視点でお贈りします。

9/25 一部編集


 その日、ロキ・ファミリアでは激震が走った。

 

 あの【剣姫】と【秘剣】が本気で戦うというのだ。

 しかも、模擬戦では一度も見せてこなかった【秘剣】の代名詞の力も使うという。

 

 そのため彼らは、ホームの室内訓練場に集まっていた。

 

「それにしても、本当に彼が承諾してくれるなんてね」

 

「あぁ、しかも他の団員達にも公開するとは、あやつも随分気前が良くなったではないか」

 

「そういってやるな、ガレス。クラムもクラムで、我々に配慮しての行動だったんだ。責めるのは筋違いだぞ」

 

 場内の浮き足立ったような雰囲気の中。

 中心に一人、そんな空気に流されず、戦意の刃を研いでいる少女がいる。

 

 相手となる男は、まだ現れない。

 

「…アイズも一段と張り切ってるね」

 

「これまで何度頼んでも、断られ続けてたからのぉ。昂るのも仕方なかろうて」

 

「ねぇねぇ、フィンはどっちが勝つと思う?」

 

「うーん、ティオナ。今回はそういうのは辞めておこう。純粋に勝負を楽しみたいからね」

 

「はーい」

 

 やがて、アイズの待ち焦がれた相手が姿を現す。

 だが彼女の顔に浮かぶのは、喜色ではく、戦意。

 

「来てくれてありがとう。クラム」

 

「礼を言われるほどのことでもないよ。

 いずれは、やらなきゃいけない事だったろうしね。

 

 だけど、アイズ。手加減は出来ないよ?」

 

「大丈夫、私も手加減しない」

 

 そう言って抜き放たれる彼女の愛剣«デスぺレート»からは、恐れや遠慮の文字は見受けられない。

 

「そう。なら俺も本気でいこうか」

 

 ――その瞬間吹き上がったのは、圧倒的な威圧感。

 まるで上位存在であるかのような気配を、周囲の全てに叩きつける。

 

「――さぁ、始めようか」

 

 その言葉に、一瞬飲まれそうになっていたアイズは、すぐに戦意を持ち直し、魔法を発動させる。

 

「『風よ』」

 

 荒れ狂う風が、彼女を守護するように取り囲む。

 これが彼女の魔法、『エアリアル』

 

 

 

 ――まずは小手調べ

 

 

 そんな言葉と共に、クラムは腰を落とし、何も入っていないはずの鞘を手にかけ、構える。

 この動作を虚仮威(こけおど)しだと判断する者は、この空間には誰もいない。

 

 それこそが彼の代名詞なのだから。

 

 

 

 

 言葉もなく、先に仕掛けたのは――アイズだった。

 

 地面を踏みしめ、風の後押しを受け一気に距離を詰める彼女に、クラムはなんの迷いもなく右腕を振り抜く!

 

 不可視の剣は、一直線に彼女の首筋に伸びて―――

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

(――ッ!今っ!!)

 

 ――弾かれた。

 それは一瞬の風を斬る音。

 たったそれだけあれば充分。

 風は私の味方であり、領域だから。

 不可視の剣は、見る事は出来なくても、感知することは出来る。

 

 必殺の一撃を防がれ、大きなスキを見せるクラム。

 それを見逃してあげるほど、私もお人好しではない。

 

 一息に懐に潜り込み、渾身の突きを放った。

 

 だが、この程度でやられるようであれば、第一級冒険者の名前を背負うことは出来ない。

 クラムの目の前まで迫った剣先は、まるで壁にぶつかったかのように止まり、その勢いのまま、彼は後方へ吹き飛んだ。

 否、威力を利用して距離をとった、という方が正しいか。

 

 怪我もなく着地した彼の表情からは、余裕の色が透けて見える。

 

(今のは一体?)

 

 まるで金属の盾を叩いたような感覚。

 彼の能力は…、

 

(オーラを固める事!)

 

 それは魔力を固めて盾にするようなものだろう。

 つまり、完全に不意をつくか、オーラが枯渇するまで、

 

(一切攻撃は通らないかも)

 

 だが同時に思い出すのは、固めたオーラの強度は、込めたオーラの量に比例する、という彼の言葉。

 ならつまり、それ以上の攻撃を仕掛ければ、防御を抜くことが出来る?

 

 何事もやって見なければわからない。

 まずは試してみてから考える。

 

「流石だね、アイズ。

 まさか初撃から受け流されるとは思ってなかった。

 最初は避けてくると思ったんだけど」

 

「…昨日教えてもらったから、対処法も考えてきた」

 

「はは、確かにそうだ。

 ちょっと見くびっていたよ。反省反省」

 

 そう言って、腰に差していた刀を抜く。

 今度は見えるから、と言っても油断は出来ない。

 なぜならあれも、私の剣と同じく一級品。

 彼が愛刀にするに相応しいだけの代物なのだから。

 

「巷では、まるで秘剣の前座のように言われてるコイツだけど、舐めてると痛い目みるよ?」

 

 当然よく理解している。

 だがそれは言葉ではなく、行動で示そう。

 

 今度はクラムの方から仕掛けてきた。

 今回は何の小細工もなしに、正面から切合う。

 

 最初下段に構えられた刀からは、鋭い突きが放たれた。

 お互いの武器のリーチは、彼のソレが幾らか長い分、私は距離をとるのは不利だ。

 

 そのままアウトレイジから細かな攻撃を仕掛けてくるのかと思いきや、彼は唐突に、そして大胆に前へ出る。

 

 秘剣が注目されているクラムだが、彼の剣術は、決してレベルの低いものではない。

 むしろその練度はかなり高く、実際こうして戦えば、そのスキのない攻防に驚かされる。

 流れるような太刀筋は、こんな状況出なければ見惚れていたかもしれないほど美しい。

 

 しかし、そう易易と負けてしまう訳にも行かない。

 私は、まだまだ戦い足りていない。

 

「『目覚めよ(テンペスト)!』」

 

 纏っていた風を更に強化し、クラムに無理やりスキをつくらせる。

 

 ――攻防が逆転した

 

 そのまま一気に流れを持ち込み、畳み掛ける。

 それまでとは全く違う風の流れに、クラムは苦戦している様子。

 このまま大技で、盾ごと貫く!

 

 

 

「――『(きた)れ』」

 

 

 ――ッ!?しまっ―――!

 

 

「『鳴雷(なるかみ)!』」

 

 

 

 それは白い閃光。

 私を狙った彼の左腕から、眩い光線が放たれ、焼けるような電撃となって私の体の中を暴れ回る。

 

 

 一瞬の硬直。

 そのスキを見逃さず、見事なまでの一撃が、私の首を狙って襲いかかる。

 が、何とかデスペレートを滑り込ませることに成功した。

 今のは完全に運が良かっただけだ。

 

 そしてそのまま吹き飛ばされた私は、追撃してくるクラムを、何とか風の力で押し返した。

 

 これでまた振り出し。

 だが状況は、まだ体に痺れが残るこちらが圧倒的に不利。

 

 

「俺の魔法、忘れてた?」

 

「…うん、正直」

 

魔導書(グリモア)を買ってまで発現させた、俺のお気に入りなんだから忘れないでよ」

 

「ごめん」

 

 確かあの魔法は、彼がLv.4の頃、自分の貯蓄で買ってきた魔導書を使い、発現させたものだった。

 それまで魔法の無かった彼のはしゃぎ様は珍しく、よく記憶に残っている。

 

 だがこれまで見る機会も少なく、昨日の説明で明かされた彼の能力の方が印象が大き過ぎて、忘れてしまっていたのだ。

 その代償はあまりに大きかったが。

 

「さてと、そろそろ終わらせようと思うんだが、どうだろう?」

 

「…私はまだまだやれる」

 

「へぇ〜?ならやってみようか!」

 

 武器を1度鞘へと戻し、20mほどあった互いの距離を、一瞬で詰め寄ってくる。

 片腕がそのまま鞘を握りしめていることから、恐らく居合で勝負を決めるつもりに違いない。

 そんなクラムを向かい打とうと足を踏み出し、前へと駆ける。

 

 

 その時、私は不思議な体験をした。

 

 まるで世界の流れが緩やかになったかのようになり、自分を含めた周りのすべてが遅く感じる。

 僅かな距離しかないクラムとの間など、あっという間に詰まってしまうと思っていたのに…。

 

 だがそんなことには構わず前へと進む。

 攻撃の間合いは彼の方が長い。

 つまり先に攻撃してくる彼のソレを受け流せれば、私の勝ち。

 ならばこの状況は好都合!

 

 

 

 クラムの刀の間合いまで、あと3歩。

 彼が鍔と鞘を離すのが見える。

 彼の居合の軌道は先程も見た、ならば迎撃も難しい話ではない。

 そう思っていた。

 

 ―――ッ!?

 

 次の一歩は、延びた。

 後から考えてみても、何が起きたのかよく分からない。

 だがこれで私の目論見がズレたのは確かだった。

 

 彼が移動したのは、私が予想していた場所よりも左、そして間合いも圧倒的に詰まっている。

 

 必殺の剣閃が放たれたのを確認するよりも早く、私の身体は思考より先に動く。

 死をなんとか逸らそうと愛剣を奮う!

 

 しかし不完全な体勢で振るった剣が、万全な状態で振るったそれを防ぎきれるはずもなく、

 

僅かに弾き、軌道を逸らすことに成功したものの、デスぺレートは視界の彼方に吹き飛ばされた。

 

 クラムの返す太刀が私の首元に振り下ろされ、止まる。

 

「…参りました」

 

 こうして、私、アイズ・ヴァレンシュタインとクラム・アルベルトの模擬試合は、クラムの勝利で幕を閉じた。




如何だったでしょうか?
正直、あまり場の緊張感というか、臨場感を表現できたとは思えません、がこれが限界なのでご勘弁を。

最初は、勝負の終盤に、アイズの足を能力で拘束して勝負を決めるって手も考え、書いては見たんですが、あまりに呆気なく味気ない話になってしまったので、書き直しました。

クラムの能力としてはそれが本来の使い方なんですがねー。
本日は二話投稿。
主人公視点での解説があります。
裏話みたいになってますけどね、そちらもどうぞ。


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その8 彼の気持ち

…サブタイ、もう少しなんとかならなかったのか。

今回は主人公視点とティオネ視点でお送りします。
ほぼ同時に『その7』も投稿いたしましたので、まだの方はそちらからどうぞ。


 あ”あ”〜〜〜、ヂがれた〜〜〜。

 

 最近こんなことばっかのような気がする。

 運気が落ちてんのかな?

 

 アイズとの模擬試合だが、あのお嬢ちゃん、本気できたよ!?

 殺す気だったよね!絶対!!

 目がマジだったもん!

 

 あの試合を振り返るが、俺の能力はアイズの魔法と相性が悪い。

 以前も言った通り、俺の能力で創り出すモノは良くも悪くも、ほぼ重量がない。

 で、今回はそのデメリットが大きく出た。

 

 通常、俺が能力で創った剣を振るう場合、その比類なき軽さによって、圧倒的に速さを活かせることがアドバンテージだった。

 他にも投げナイフを創ったり、撒菱(まきびし)を巻いたりといった使い方もするが、今は置いておく。

 

 しかぁーし、軽いということは他の物質などの影響を、大きく受けることを意味する。

 例えば風などだ。

 

 まぁここまで言えば猿でもわかると思うが、俺の創った剣だと、軽すぎてアイズの風の防御壁を抜けないのだ。

 

 だから初撃で、まだ風が荒ぶってないウチに流れを掴もうと思ったのに、アイズの奴、いきなり受け流しやがった!

 

 普通最初は避けない!?

 

 仮にも不可視の攻撃だ

 よ!?

 

 慎重になって避けるだろうから、そこを追撃、って考えてたら、初っ端から目論み外されたよ!

 

 しかも!目の前に迫った時、アイツ俺の喉を狙ってきやがった!

 殺す気だったんですね、分かりたくありません。

 

 いやー、余裕そうに振舞ってたけど、あん時冷や汗ダラダラでしたわ。

 あと一瞬、防御壁の展開が遅れてたら、今頃天に召されてただろうなぁ(遠い目)

 

 その後、出番がやってきたのは俺の頼れる相棒«氷刃»!

 その見た目が、非常に鋭く、氷のように見えたことからこの名前を付けた。

 まぁ、どっかのモンスターをハンターしちゃう系のゲームの影響を、多分に受けていることは否定しないが。

 

 能力の相性が悪い以上、氷刃に『周』を施して接近戦に持ち込むことに。

 アイズの魔法って遠距離にも対応出来るからね。あれほんと便利だと思う。

 

 んで斬り合ってたら、案の定風の強化してきよるし。

 もう氷刃が風で流れちゃって振りずらいのなんの!

 

 そしてあの瞬間、絶対あの子『リル・ラファーガ』打とうとしたよね?

 俺、死ぬよ?死んじゃうよ?

 あんな至近距離でぶち込まれたら、最悪下半身しか残らんよ?

 それくらい凶悪なんですよ、あなたの魔法は。自覚してください(切実)

 

 そうしたら運のいい事に、アイズちゃん、俺の魔法のこと忘れてたみたいで、物の見事に引っかかってくれた。

 

 …うん、良かったんだよ?

 でもね、お気に入りの魔法が忘れられてるっていう事実に、ちょっと切ない気分になったのは内緒。

 

 

 

 

 ――ちなみにあの魔法、キルアさんの影響を大いに受けております、ハイ。

 

 最初、俺の系統が変化系だとわかった時は、本気でキルアと同じにしようか悩んだくらいだもん。

 勿論、周囲に発電施設もない場所、でそんな能力があっても充電できないし。

 それ以前に能力開発すら出来ないし。

 という訳ですっぱり諦めました。

 拷問まがいの訓練とかしたくなかったしね、流石に。

 

 次に俺が希望を見出したのは魔法の存在。

 だがLv.4になっても一向に発現する気配すら見せず。

 なら強制的に発現させてやろうジャマイカ!と、くっそ高い金払って魔導書を買ったのだ。

 

 その結果、念願叶って俺は運良く『鳴雷』を習得することが出来たのである!

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 魔法でなんとか体制を立て直した俺は、もういい加減決着を付けることにした。

 こんだけ付き合ってあげたんだからもういいでしょ、アイズさん!?

 

 とはいえ、天才剣士であるあの子と純粋に剣で勝負するのは部が悪い。

 という訳で一計を案じることにした。

 

 やることは別にそれほど凝ったものでは無い。

 オーラを背中から放出して距離を詰める、ただそれだけである。

 だが、一瞬の出来事が勝負を決める世界において、その意味は測りしれない。

 

 なにより彼女は、透明だったとはいえ俺の居合をみている。

 なら距離感や攻撃の軌道は幾らか目星が着くだろう。

 そこを逆手に取って、意表を突く。

 

 若干小ずるい手に見えるかもしれないが、本気の殺し合いならもっとえげつない手を使えるのだから、この程度は勘弁して欲しい。

 

 

 

 結局目論見は成功。

 やっぱりあの子、俺の間合い見切ってたね、ほんと恐ろしい。

 勝てたから結果オーライだけど。

 …次戦うってなったらどうしよっかな。

 

 

 

 そして最後に。

 この戦い、俺は戦闘中はほぼ刀の刃を潰して戦っていたのだ!\_(・ω・`)ココ重要。

 

 だってね?ファミリアのアイドルとも言えるアイズを、万が一傷物にしようものなら、ファミリアの半分が本気で俺を殺しに来かねないんだよ?

 そんな人相手に刃物なんか向けられるわけないじゃん!

 

 

 なので俺が創ったオーラの刀も、氷刃も、刃が出ないように刃を潰したり、オーラでカバーをかけたりしてたんです。

 ほんとあれはしんどかった。

 バレると手加減したんじゃないかってうるさく言われるだろうから、無駄に神経使うし。

 

 とはいえ!俺は無事、生きてこの修羅場から抜け出せたのだ!

 だからティオナ、そんなキラキラした眼差しでこっちを見ても、相手はしないからな!?

 これ以上やったら俺マジで死んじゃうからな!

 という訳で、逃げるんだよォォォォ!

 

 

 

 ――――――

 

 

 

「チッ、あの野郎。さっさと出て行っちまいやがって。次は俺が相手してやろうと思ったのによ」

 

「えーっ!ベート、次は私だからねっ!!」

 

「うるせぇ、お前はミノと戯れてろ。このまな板が」

 

「なんだと、このヘタレ駄犬がァァァ!!?」

 

 はぁー…。

 この二人、またやってるのね。

 我が妹ながら頭が痛いわ。

 

 それにしてもクラムの奴、あれだけの激戦だったのにまるでまだ余裕みたいな顔してたわよね。

 やっぱり念能力っていうのはそんなに凄いものなのかしら。

 後で団長からも意見を聞いてみようかな。

 

「ティオネは、先程の戦いをどう見る?」

 

「なかなか見応えのある試合だと思いましたけど、どういう意味です?団長」

 

「なんというか、彼が僕達に黙っていた理由がわかったような気がしてね」

 

 アイツが私達に黙っていた理由。

 

 たしか、騒動を巻き起こす火種になるからと、私達に失望されたくないから、だったか。

 

 

「彼の能力が他の神々に伝われば、以前の騒動が比じゃないくらい大きな事が起こりかねない」

 

 それは…、確かに不味いかもしれない。

 オラリオでも最大規模の勢力を誇るロキ・ファミリアだが、他のファミリアが結託して敵に回った場合は、決して楽観視できない。

 

「そして何より…、ボクは彼の力に少し嫉妬してしまった」

 

「嫉妬?団長がですか?」

 

「あぁ。神の恩恵以外に、アレだけの力があればボクの夢が叶うかもしれないのに、ってね」

 

 団長の夢。

 それは信仰の対象を失い、衰退していってしまった小人族(パルゥム)の復興。

 団長はその旗頭になろうと、奮闘している。

 

 

 確かに、アレだけの力があれば尚いっそう、その名声は高まり、この人の夢に近づくかもしれない。

 

 だけど私は、今の彼が好きなのだ。

 その小さな勇者を、私はそっと抱きしめる。

 

「団長は団長のままでいいじゃないですか。貴方が努力し闘ってきたことを、私はちゃんと知っています」

 

「…ティオネ」

 

「団長はあんな力に頼らなくとも十分に強いです。だから自信を持ってください」

 

「…ありがとう」

 

 …嗚呼、私の『全て遠き理想郷(アヴァロン)』はここにあった。

 団長、団長、団長団長団長団長ダンチョウだんちょうダンチョ…

 

「…おい、自分の姉だろ?

 アレ何とかしてこい。

 つうかゲシュタルト崩壊起こしてねぇか?」

 

「…私じゃアレは無理そうかなぁー。

 あと私もそう見えるよ」

 

 駄犬と愚妹が何か言っているが、今の私はそんなことより、この至宝を愛でる方が重要だ。

 

 

 …フィンはその後、ティオネにお持ち帰りされることだけは何とか回避したという。




結構蛇足が多かった気もしますが、それもご愛敬ということで。

さて、この作品はこの後、原作の流れに入っていくわけですが、作者はソード・オラトリアの原作を知りません。(アニメ撮り忘れて見られなかった…)
他の方の創作品を読んで勉強していますが、恐らく別物になってしまうかと。
大筋は同じようにしようと思ってますが、それもどうなるか、今のところ分かりません。
四苦八苦した努力の痕跡を、今後ともお楽しみください。

ではまた次回


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その9 遠征の準備と訓練風景

どうもどうも、まだ生きております、暇人です。
最近、話のストックが少なくなってまいりました。
せっせと蓄えているところです。
終わらせる時は、必ず後書きにでも何か入れますので、それが無ければ作者が突然死でもしない限り続きます。

今回、アナキティというキャラを登場させたのですが、このキャラは他の作品にもほぼ登場していないので、ほぼオリキャラ化しています。ご注意ください。
(原作知らないから情報がないんじゃ)

今回は三人称視点です。
ではどうぞ


 アイズとクラムの試合から数日後、団長のフィンからファミリア全体での遠征の計画が発表された。

 

 そしてクラムの能力も

 

「クラムさん、なんで教えてくれなかったんすかー」

 

「ははは、ごめんねラウルさん。言うと周りがうるさそうだったからさぁ」

 

「それにしたってこんなに便利な力を一人で独占していたのは、如何なものかと思いますがね」

 

「そう言わないでよ、レフィーヤちゃん」

 

「ちゃん付けして呼ばないでください!」

 

 現在彼ら3人は、クラムの『家』に物資を貯蔵しているメンバーの一部だ。

 当初、その部屋の光景に口も塞がらないような有様だったが、仕事をしていくうちに慣れてきたようである。

 

「例の秘剣もこの力の産物なんでしたっけ?」

 

イグザクトリー(その通りです)。結構便利な能力だよ」

 

「そりゃそうっすよ。

 何も無い所から武器が作れて、しかも相手からは見えないなんて。

 かなり卑怯じゃないっすか?」

 

「デスヨネー。俺も自分で使ってて、初見殺しだと思ってますよ」

 

「でも、そのお陰で私とラウルは助かったんだから、感謝しないとね」

 

 ふと声の主を見れば、大きな荷物を持って部屋に入ってきた猫人の女性の姿が。

 彼女はアナキティ・オータム。

 ラウルと同期で、クラムたち一軍を支える、二軍の中核メンバーである。

 

「そうっすね。あの時はもうダメだと思いましたもん」

 

「あぁー、32層での闇派閥の残党とおぼしき連中との戦闘、でしたっけ」

 

 懐かしそうに目を細めるクラムの横で、当時を思い出したのか身震いするラウル。

 彼にとってあまり思い出したい記憶ではないらしい。

 

「そうです。怪物進呈を受けて、こっちがボロボロになった所に攻撃を仕掛けてくるような卑怯な輩です」

 

 その時を思い出したのか、鬱憤とした様子のアナキティ。

 その時助けられたからか、彼女は年下のクラムにも敬語で話すようになった。

 クラムは、年上には基本敬語である。

 

「あの時武器が折れたラウルに、クラムさんが刀を持たせてくれなかったら、絶対あの場で誰か死んでましたから」

 

「困った時はお互い様ですしね。

 それに使い慣れていない刀で、十分戦えていたラウルさんが、あの日の一番の貢献者でしょう」

 

「お、俺っすか!?」

 

「まぁそのお陰で、俺の武器ボロボロになっちゃいましたけど」

 

「うわー、ラウル、サイテー(棒」

 

「その事は、あの後メチャクチャ謝って許してくれたじゃないっすか!

 今頃蒸し返すのは酷いっす!」

 

 そんな、その場にいた人にしか分からない昔話をされていて、面白くないのは除け者にされる人物であり、今回の場合レフィーヤが該当した。

 

「…皆さん、昔話に花を咲かせるのはたいへん結構ですが、お仕事を忘れてもらっては困りますよ」

 

 ジト目で睨まれ、慌てて荷物を運び始める3人組。

 見事に息ぴったり。

 

「そういえばクラムさん、先日のアイズさんとの試合、どうだったんですか?」

 

 質問するラウルにクラムは答える

 

「アイズねー。ヤバいですねあの子。

 こっちがレベルも総合的な能力も上なのに、かなり追い詰められましたよ。

 次戦ったら、ちょっと結果は分からないですね」

 

「ふふん!そうでしょう、そうでしょう!

 流石はアイズさんです!」

 

 と、レフィーヤ。

 いや何でお前が偉ぶるんだよ。と周りの全員が思ったが、ツッコミは入れない。絶対面倒なことになるから

 これが、安心と信頼のレフィーヤクオリティーである。

 

「やっぱりアイズ、強かったんですか?」

 

 アナキティは、荷物の整理する手を止めず質問を重ねる。

 

「強かったですね。

 アイツは剣においては天才ですから。

 魔法もエゲつない程バランスいいし。

 嗚呼…、次はなんか対策考えとかないとなぁ」

 

 若干遠い目になるクラム。

 アイズに若干戦闘狂の毛があることは周知の事実であるし、そんな彼女に目をつけられたということは、恐らく今後も勝負を申し込まれるだろう。

 

(早めに対策取らないと死ぬかも)

 

 クラムは、内心ヒヤヒヤしながら生活している。

 最近では基礎修行がサボりがちになっていたことを思い出し、一度基礎から鍛え直そうと決心する。

 

「クラムさん、俺にも稽古つけてくれって言ったら、やってくれるんっすか?」

 

「いいですよー?」

 

「やっぱりダメで…、イイんスか!?」

 

 ダメ元で頼んだことが、さらっとOKされビビってしまう。

 これまで、のらりくらりと訓練や模擬戦をすることを避けてきたクラムが、あっさりと申し出を受けたのが余程驚きだったのだろう。

 

「なんですか。言い出したのはラウルさんでしょう」

 

「いや、そうっすけど」

 

「な、なら!私もお願いします!」

 

 その話に便乗するアナキティ。

 こういう所は流石女性と言うべきか、しっかりしている。

 

「じゃあ、これ運び終わったら模擬戦しましょうか」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「フッ!」

 

「ハァッ!」

 

 左右から頭部を挟み込むように迫る刃。

 クラムはそれを見ることもなく、背を反らし避ける。

 目の前を通り過ぎていく金属の塊は、模擬戦用として刃が潰された物ではあるが、第二級冒険者の彼、彼女の振るうソレに当たればタダでは済むまい。

 

 更に攻撃を続けようとする二人だが、クラムの方が一歩早く、ブリッジの様な体勢から、素早く宙に浮かせた両足を振り回す様に蹴りを放ち、強制的に相手に距離を取らせる。

 

 慌てて跳び下がったアナキティとラウルだったが、ラウルの方が避けきれず体勢を崩してしまう。

 その一瞬を見逃すクラムではなく、両足が地に着いた途端、滑るような動きでラウルに肉薄する。

 

「なっ!?」

 

 その不可解な挙動に驚き、剣を振るったがそんな適当な攻撃が当たるはずもなく、あっさり受け流された。

 体が流れてしまったラウルに、クラムの木刀が突き刺さる。

 

「ガフッ」

 

「ラウル!」

 

 吹き飛ばされた相方を咄嗟に目で追ってしまったアナキティだったが、その一瞬が命取りとなるは実戦でも模擬戦でも変わらない。

 

「余所見ですか?」

 

「ッ!?」

 

 その声にバッとそちらを見れば、体勢を低くしつつ、自身の懐に潜り込んでいる男と目が合った。

 

(いつの間に!?)

 

 そんな当然の疑問が浮かぶが、その答え合わせをしている暇はない。

 相手の攻撃の軌道を予測し、胸の前に双剣を構えなんとか防御の姿勢をとる。

 

 ――ガキンッ

 

 木刀と鉄剣をぶつけたとは思えないような鈍い音を響かせ、女性の身体が中へ舞う。

 急いで体勢を立て直すが…、

 

「はい、チェックメイト」

 

 顔をあげた先には、目の前に木刀の剣先を突きつけるクラムの姿が。

 これは誰が見ても結果は明白だ。

 

「参りました」

 

 そう言って、クラムから差し出された手を取り、立ち上がるアナキティ。

 

「お疲れ様でした。なかなか良かったですよ」

 

「…二人がかりで、かすらせる事すら出来ないかったのに、それは嫌味っぽいですよ」

 

「そんなことありません。結構ヒヤヒヤした場面もありましたよ?」

 

「…お二人共、俺を無視して話を進めるのは酷いっす」

 

 仲良さげに話していた二人に近づく、ボロボロの影。

 先ほど吹き飛ばされたラウルである。

 

「あー、ラウルさん、大丈夫でした?」

 

「大丈夫じゃないっす。お昼ご飯リバースするところだったっす」

 

「その程度なら問題ないわね」

 

「ラウルさん、意外と丈夫ですからね」

 

「二人ともどうして俺にだけそんなに冷たいんすか!?

 なんか嫌われるようなことしましたっけ!?」

 

「あ、先程の模擬戦なんですが、『無視!?』クラムさんの存在感?が薄かったような気がするんですけど、あれはなんだったんですか?」

 

 扱いに一言物申したいラウルであるが、アナキティが聞いたことは自分も気になっていたので黙って話を聞くことにする。

 

「それはですね、念能力の技術の一つ、気配を消す『絶』というものを使っていたからです」

 

「ゼツ?」

 

「えぇ、この技術は気配を感じ取りにくくする技術なんですが、この状態では念能力の燃料であるオーラがほぼ外に出ない状態になるんです」

 

 模擬戦でわざわざそんなことをしていたのは、オーラの扱いについてもう一度見直してみようと、クラムは考えたからであった。

 なにより『絶』の状態だと全体的な能力値が下がる。

 その状態でどこまで戦えるかという訓練も兼ねていた。

 

「ならあの横滑りみたいな動きは?」

 

「あれは足から、進行方向とは逆向きにオーラを放出することで、滑るように動く技術です」

 

 絶で戦った理由の一つはここにもあり、必要な場面で、必要な場所に、必要な量のオーラを一瞬で集められるかの訓練も兼ねていた。

 例えば、打ち合う瞬間だけ木刀に『周』を施したり、際ほど言った移動法の時だけ足にオーラを集中させたり。

 

「とはいえ、俺はこの技術があまり得意ではなくてですね。せいぜい4,5m移動するのが精一杯。しかもオーラの燃費も良くないんですよね。

 

 とはいえ苦手なことから逃げていたらいつまで経っても成長はないので、少し使ってみたんですが…。

 まぁ俺の今後の課題ですね」

 

 その言葉に、もっと努力せねばと感化されるラウルとアナキティ。

 その後も3人は、暗くなるまで訓練と反省会を繰り返していた。




訓練風景を入れてみました。
こうやって少しずつ戦闘描写を練習していきます。

次回、クラムのステータスが明らかに!
あと恩恵と念の関係性にも触れていきます。

つまり解説会です。
退屈でしょうが、お付き合い下さい。

ではまた次回


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その10 ステータス

お久しぶりです。

まずは誤字の報告をくださいました、±0様、ありがとうございました!
そしてUAは8000、お気に入りは140を超えました。皆様ありがとうございます。

話は変わりますが、以前感想の方で、原作すら読んでないのに二次創作を書くのは如何なものか、というご指摘がありました。

はい、それは私も思っているところです。
近々買おうとは思ってるんですが、他にも色々目移りしてしまいまして…。さーせん。
原作買いましたら、作品内でご報告します。

無駄話失礼しました。
ではどうぞ


 さてやって参りました。

 ステータスの更新のお時間です!!

 \ドンドンパフパフ/

 

「んじゃ早速、よろしく頼むよ、ロキ」

 

「任せときーや」

 

 ロキがポンポンと叩くベットにうつ伏せに寝転がり、背中を見せる。

 今週は色々大変だったからなぁ…。

 アイズとか、アイズとか、アイズとか。

 いやー、今からドキがムネムネですネ!

 …なんのネタだったか思い出せんな。

 

「あ、ありがとね、ロキ」

 

「ん? 何がや?」

 

「皆に嘘ついてくれて」

 

 俺が念について公開した時、当然教えて欲しいという声がファミリア内にも上がった。

 しかし、これは俺専用の能力で、俺以外は使えないと言い、ロキもそれを肯定してくれたのだ。

 

 ――人間(こども)(おや)の前で嘘をつけない。

 

 それは最早、常識と化した話だ。

 そのためその事を誰も疑わないで受け入れてくれた。

 ロキは当然俺の嘘を分かっているだろう。

 

「お前さんが、そこまで頑なに言わないんには何かしら理由があるんやろ。ならそれを根掘り葉掘り聞くのは野暮ってもんや」

 

「……ありがとう」

 

「さて、なんか辛気臭い空気になってしもうたが、早速更新しようか」

 

「あぁ、頼む」

 

 ここで、念と神の恩恵(ファルナ)の関係性について説明しよう。

 ご存知の通り、念能力と神の恩恵(ファルナ)には直接の関係性はない、が相互性は存在している。

 

 例えば、俺が『堅』を使用した場合、俺の強度、耐久性はステータスの表示以上となる。

 それと同様に、力や素早さも比較にならないほど上昇する。

 

 極論、俺が念能力を含めて全力を出せば、1レベル分ブーストできるということになる。

(あくまで極論であり、実際はそこまで上昇はしない)

 そこで問題となるのは、ステータスの成長速度だ。

 これにはメリットとデメリットが存在する。

 

 まずはメリット。

 恩恵(ファルナ)のレベルアップ、つまりランクアップの条件として、偉業を達成するというものがある。

 これについては先程も説明した通り、俺にはブースト機能が付いているため、Lv.1でミノタウロスを倒すなどはそれほど難しい話ではないし、なかった。

 だから常人にとっての偉業が、俺にとっての日常となってしまうのだ。

 俺の異様なまでのレベルアップの秘密はここにあった。

 

 しかし当然デメリットもある訳で、ステータスは使った項目が強化される仕組みになっている。

 これは筋力トレーニングと同じで、使った部分しか鍛えられない。

 だが俺には念というブースト機能、つまりパワードスーツの様なものが付いてしまっている。

 素の状態で鍛える者と、パワードスーツを着たまま鍛える者、どちらがより成長するかなど言うまでもない。

 

 勿論、念を使わないで鍛えるという方法もある。というか日頃はそうしている。

 しかしダンジョンという、イレギュラーが日常茶飯事の場所で、出し惜しみしていられなくなる場面に遭遇することは少なくない。

 で、やっちゃうわけである。偉業を

 

 ロキにお願いすれば、レベルアップを待機したまま修行することも出来るのだが、何分俺には堪え性というものがない。

 つい目の前にあるとやってしまうのである。

 赤いボタンとかあると押しちゃうタイプだ。

 ……以前の騒動は俺のせいですね、すいません。マジ反省してます。

 

 と、このような説明を長々としたわけだが、何が言いたいのかといえば俺のステータスは、実は他の人より低かったりする、という話である。

 すぐ上げちゃうせいで、ステータスの貯金が少ないんですね。

 わかってる、所詮自業自得だってことは。だからそこはこれ以上傷を抉らないで欲しい。

 

「……なんか一人で落ち込んどるとこ悪いんやけど、終わったで?」

 

「あ、あんがと」

 

 ではここに、俺のステータス(赤っ恥)を公開しよう!

 

 ――――――――

 クラム・アルベルト

 Lv.6

 力 :B 734 → B 741

 耐久:D 572 → D 578

 器用:A 861 → A 886

 俊敏:A 837 → A 859

 魔力:C 643 → C 651

 耐異常:C

 剣士:D

 薬師:H

 耐魔:I

 

 魔法

  【鳴雷】

 ・雷での一直線上への攻撃

 ・攻撃が当たった相手は高確率で麻痺(スタン)する

 ・直撃した相手を貫通する場合もある

 詠唱

(きた)れ』

 

 スキル

  【感覚欠落】

 ・激しい痛みを感じなくする

 ・感情の起伏が激しい場合、沈静化する

 ・精神への干渉を受けにくくなる

 

 以下二つは任意での発動

 ・一定以上の痛みを感じなくさせる

 ・感情の起伏が無くなる

 

  【単独戦闘】

 ・周囲に仲間がいない状態で全能力上昇

 

 ―――――――

 

 合計上昇値68、か。

 1週間でこれならまぁまぁだろ。

 耐久が上がったのは…、あぁ、『流』の訓練中にちょっとミスってモンスターに殴られたのが原因だな、多分。

 

「……相変わらずクラムのスキルは歪やな」

 

「ん? そうかな? 結構便利だけど?」

 

「それは、……いやウチが言えることやないな。忘れてや」

 

 いや言いたいことは分かっている。

【感覚欠落】や【単独戦闘】の事だろう。

 

 つまり、精神的に逝っちゃってる上にボッチなんですね、プギャーm9(^Д^)って言いたいんでしょ!?

 分かってるよ、そんなことは!

 

 まぁ冗談はさておき、この【感覚欠落】であるが、これが発現したのは俺がLv.2の頃に経験したことに由来するのだろうが、ここでは割愛する。

 俺としてもあまり思い出したい記憶ではない。

 

 とはいえ、俺としてはこのスキルのお陰で、イレギュラーに遭遇してもパニックにならなくなり万々歳だと思っているのだが、ロキとしてはそうは思わないらしい。

 

「このスキルについては、完全に俺の自業自得なんだから、ロキが気にすることないだろ?」

 

「子を守るのがウチら親の仕事や。

 それなんに、あんなことになってもうて、ほんますまんかったな」

 

 やっぱり。

 俺たち冒険者は、自分の身は自分で守るがルールであり、最低条件だ。

 ロキの言いたいこともわかるのだが少々過保護になっている気もする。

【単独戦闘】なんてスキルまで付いてくれば分からなくもないのだが…。

 

「ロキ、俺はこのファミリアに入れて。ロキに拾ってもらえて本当に感謝してるよ?

 これまでも大分迷惑掛けてきちゃったし、色々黙ったままだったけど、これはロキ達が信用出来ない訳じゃなくて……、ええっと……」

 

 言葉が、出てこない。

 嗚呼、なんで俺ってこういう場面で口下手になっちゃうのかな。

 とりあえずこれだけは言いたい。

 

「今まで色々、ごめん。そしてありがとう。これからもよろしくお願いします、俺の主神様」

 

 あぁ、やっと全部言えた気がする。

 親っていうのはやっぱり偉大なんだなと、改めてそう思う。

 

  ―――――――――――――――――――――

 

  備考

 

 その他の相互性

 神の恩恵でのレベルアップは、その人物の存在を神に近づけるという意味を持つ。

 その為レベルアップをすれば、潜在オーラ量の上昇が見込める上、僅かだが能力の容量(メモリー)も増加する。

(勿論レベルアップしたから新しい能力が創れる、という程の増加では無い)




なーんか、最後シリアス風になってしまったのが気に食わない。気がついたらこうなってた。
だからといって書き直したりはしないんですけどね。

筆記活動が思うように進まないでござる。
今後更新ペースは落ちます。(断言)
何卒ご容赦を。

そろそろ秋アニメが始まる時期ですね。
今期は何が人気なんでしょう?
私はそういう話には疎いので、友人に言われて初めて知るってことは珍しくありません。
けど、血界線戦は見る。絶対に

以上です、ありがとうございました。
ではまた次回


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その11 遠征と新種

皆様、お久しぶりです。

三の丸様、前回の誤字の報告ありがとうございました。

やっとこさ原作開始部分に差し掛かりました。
結構あっさり風味。
私も出来にはあまり納得していませんが、書いては消し書いては消しを繰り返してもこの出来なので、ここらが私の才能の限界なのでしょう。
期待せずお読みください。(予防線)

ではどうぞ


まだか。

 

「ティオナ!前に出すぎ!」

 

「そおー?」

 

まだか!

 

「レフィーヤ、大丈夫?」

 

「は、はい!ありがとうございます、アイズさん!」

 

まだなのかっ!?

 

「フィンさん、いい加減俺も前に出たいんですけど!?」

 

「ダメだ。君に万一のことがあった場合、その損失は計り知れない。

君は前衛が抜かれた場合に出てもらう」

 

「アイツらが全力で暴れてんのに、後ろに流れてくるとは思えないんですけどね!

さっき流れてきたのも、出る前にアイズにやられちゃったし!」

 

現在俺達がいるのはダンジョンの49層。未踏破階層に向けて遠征中だ。

今の相手は、無限に湧いてでるのではないかと思うほど現れる、人と山羊を合わせた様な見た目の悪魔の化身たち。

下層への道へ向けて、群がってくる有象無象共を蹴散らしながら進んでいるのだが、問題が発生していた。

 

俺の出番がない!

 

いや、フィンさんの言い分はわかるよ?

もし俺が死んだりしたら、『家』に貯蔵してある備蓄品が全部パァーになってしまうんだから。

分かっている。分かってはいるんだが…!

どうしても前に出たくなってしまう!

 

「そろそろリヴェリアの魔法が完成するから、突入の準備をして」

 

「結局出番なしなんですね!」

 

そんな俺の言葉が虚しく宙に消えていった時、前方が紅く染め上げられる。

…相変わらず、ちまちま狩ってる俺たち前衛が馬鹿馬鹿しく思えるほどの威力。

 

「今だ!突き進め!」

 

フィンさんのそんな掛け声とともに、下層への道へ突き進む前衛たち。

 

そのまま俺たちは50層のセーフティエリアに到着した。

 

――出番なかったよ。グズン

 

――――――

 

「ガハハハ!何をそんなに落ち込んでおるか。若いもんが情けない!」

 

儂はなにやら落ち込んでおるクラムに声をかけたのじゃが、どうにも反応が悪い。

 

「俺見てるだけだったんですもん」

 

ムスっとした表情のままそう言うクラムは、まるで子供の様じゃ。

今までこんな表情を見せることは無かったということは、やはり何処か遠慮があったのじゃろ。

 

「しかもまた本陣で留守番だし」

 

「仕方あるまい。お前の能力が無ければ、ベースキャンプを構築するのにも差し障るのだ。

だが次の階層からは前に出せないかフィンにも話してやるから、元気をだせ」

 

「…了解」

 

リヴェリアのフォローもあまり効果が無い様じゃのぉ。

やれやれ、こうして本音が出るようになったのも善し悪しという訳か。

 

儂らは依頼された51層にあるカドモスの泉から湧き出す水を、指定量採取しなければならない。

しかし、その泉というのが中々の曲者で、湧き出す水の量がそれほど多くない上に、その泉をカドモスという大変強いモンスターが縄張りにしている。

 

その為、フィンは遠征部隊を、儂ら50層に建築中のベースキャンプと、泉から水を回収する2組の、合計3班に分けた。

 

アイズやベート、ティオナ等は水の回収班として、迷宮の奥へと向かったのじゃが、置いてけぼりを食らったクラムはこうしてご立腹という訳じゃ。

 

「しかもここから動くことも出来ないし!」

 

「それはお主の能力の性質故じゃろ。まさか5m離れた程度で扉が消えるとは思いもよらなかったぞ」

 

「俺だって扉出しっぱなしで彷徨(うろつ)くことなんて無かったんで、すっかり忘れてましたよ!

まさかこんな所に伏兵が紛れ込んでいるとは…」

 

そう言って忌々しげに黒塗りの扉を睨むクラム。

いや、お主の能力じゃろうに。

 

「仕方ないので、念の訓練でもしときます」

 

「ほう?どういうものか聞いてもよいかの?」

 

「今やろうとしてるのは『円』と呼ばれる応用技術で、自分の周囲にオーラを薄く球体のように伸ばし、それに触れた存在を感知するというものです。

ただこれ、かなり難しくって未だに10m程度しか広げられないんですよね」

 

「ほう、そりゃ凄いのぉ」

 

詳しく聞けば、目をつぶっていても周囲の状況が手に取るようにわかるという。

使い所次第では、とてつもなく有用な能力じゃろう。

その分扱いも難しいようじゃが。

 

「まぁ一通り物資も運び出したからの。一応コレ(ドア)を出しておいてくれると助かる」

 

「了解でーす。なんかあったら連絡下さい」

 

そのまま瞑想するような体勢に入ったクラムをその場に残し、休憩していたリヴェリアの方へ向かうことにする。

 

「クラムはまだ不貞腐れているのか?」

 

「みたいじゃの。今は『エン』とかいう能力を訓練しとるんじゃと」

 

話を聞きたそうにするリヴェリアに、先程聞いた説明をしてやる。

 

「それはまた何とも有用な技術だな。

つまりその中では不意打ちが出来ないということだろう?」

 

「他にも暗闇などの視界の悪い場所でも有用らしいぞ」

 

「本当に、我々が覚えられないのが残念な技術だ。

是非とも私も使ってみたいものだ」

 

「それは無理だということで話が纏まったじゃろう。

今更蒸し返すのはアヤツもいい顔をせんぞ」

 

「分かっている。だがどうしても考えてしまうのは仕方あるまい?」

 

まあリヴェリアの言い分もわかる。

儂とて使えるものなら使ってみたいと思うほど、魅力的な力じゃ。

 

「だからこそ、このことは他の方ファミリアに漏らすわけにはいかんな」

 

「あぁ、クラムが我々を面倒ごとに巻き込まないよう、気を使ってくれていたのだ。今度は我々がアイツを守らねばな」

 

やっと儂らを対等な仲間として、家族として頼ってくれるようになったあの子の信頼を裏切るわけにはいかん。

クラムを守るためならば、フレイヤの所にも喧嘩売ってやるつもりじゃわい。

 

「珍しく好戦的な表情をしているな、ガレス?」

 

「なぁーに、今一度覚悟を固めただけじゃよ」

 

「ふっ、そうか」

 

そんな話をしておると、なにやらベースキャンプの一角が騒がしくなるのがわかった。

 

「…何か問題か?」

 

「一応ここは数少ないセーフティエリアなんじゃがのぉ。

ここでモンスターが産まれるとかは無しにしてもらいたいわい」

 

騒動のあった方からかけてくる人影。

伝令役じゃな。

 

「リヴェリアさん、ガレスさん!奥からモンスターが押し寄せてきます!恐らく新種かと思われます!」

 

「わかった、すぐに向かう。彼処でクラムが待機しているので、アイツにも事情を説明してすぐに向かわせろ」

 

「りょ、了解しました!」

 

「やれやれ、厄介事の匂いしかせんの」

 

「あぁ、間違いない」

 

急いで向かった先には、なにやら巨大な芋虫のような形をしたモンスターが蠢いておった。

大きさはおおよそ4m前後といったところか。

上半身と思われる部分には、なにやら指のような器官が付いている。

 

「また随分面妖な姿じゃのぉ」

 

「呑気に言ってる場合か。

すぐに守りを固めろ!

キャンプ地には1匹たりとも通すな!」

 

リヴェリアの指示でキビキビ動きだす団員達。

 

「まずは様子を見るとするかの。

お、クラム、来たか」

 

「ただ今到着しました。

んで、問題の敵というのはアイツらですか」

 

そう言って芋虫を指さすクラムだが、その姿をみて気持ち悪がっている様子。

あの外見では無理もないがの。

 

「そうじゃ。とりあえずクラム、お主ちょっと行って、つついてきてくれんかの」

 

「あ、俺が試金石替わりなんですね、わかります」

 

「さっきまであれほど前に出たがっておったじゃろ。

ほれ、望み通り行ってこい」

 

「あんな気持ち悪いの切りたくないのにぃー!!」

 

等と文句は言うが素直に行ってくれるのは、あ奴の良いところじゃな。

文字通り様子見なのか、刀は抜かず、念で切るつもりの様子。

まぁ儂にはただモンスターの近くで、腕を振るっているようにしか見えんのじゃが。

 

クラムの腕が振り下ろされると、その前方にいた芋虫が豆腐のように切り裂かれ…、体液を撒き散らしながら破裂した。

 

「うわっ!キモッ!!」

 

そんなクラムの意外と余裕そうな声とは裏腹に、あ奴の周囲に落ちた液体は地面に触れると白い煙を吐き出した。

 

「あれは…、酸か!?」

 

その液体がかかった場所が溶けていく様子からも、恐らくあれは消化液や、腐食液の類だと推察できる。

 

「リヴェリアさん!この液体、金属も溶かすみたいなので、普通の武器だとやばいかも知れません!」

 

腰に下げていた金属の短い棒を敵に投げつけたクラムの言葉に、思わず唸る。

通常の武器が使えないとなると、撃退は難しいかもしれんな。

 

「クラム!お前は大丈夫なのか!?」

 

「俺の能力で創ったモノは溶けないみたいなので大丈夫です。

さっき飛んできたのも防ぎました!」

 

「ならばもう暫く持ちこたえてくれ!すぐに防御を固める!」

 

「了解!」

 

とはいえクラムもたった一人ではそう長くは持たないじゃろう。

現在フィン達を呼び戻しに、ラウル達に走ってもらっているが、間に合うかどうかは不明。

まったく、こんな時に団長であるフィンが不在とは、少し迷宮を舐めておったかもしれんの。

 

「ガレス、お前が防御の要だ。頼むぞ」

 

「誰にモノを言っておる。わかっておるわ」

 

周囲の者に指示を出し、陣を組む。

そう易易と突破される訳にはいかんからの。

 

「クラム!もういいぞ、戻ってこい!」

 

「了解しました!…っ!ちょっと待ってって!」

 

そう言って、なんとあの小僧、今切った芋虫の中に手を突っ込みおった!

溶けても知らんぞ!あのバカタレ!

 

「…これは」

 

「クラム!いいから戻ってこい!」

 

なにやら取り出した掌の物を眺めている様子だったが、今はそれどころではない。

見たところ治療は必要ないようじゃが、あのまま囲まれればどうなるか分からんからな。

 

クラムが盾を構えた儂らを飛び越え、陣の後ろに着いたとき、異形の虫と不動の盾とが衝突した。

 

――――――――――――

備考

クラムの円は、せいぜい10m程度だが、それは自身の周囲に満遍なく拡げた場合で、1箇所だけに伸ばせば、最大30mほどまでは伸ばせる。

しかし結構神経を使う技術で、歩きながらなど、他の動作と併用することは出来ない。

 

クラムが持っていた金属の棒

クラムの能力はご存知の通り、質量が無い。その為、投げナイフなどを創っても、重さがない故に弾かれてしまう時がある。

そんな時に、その棒を重しとして埋め込んだモノを創ることで、不可視ではなくなってしまうが、より重い一撃を与えることができるようになる。




ここで皆様にお知らせです!
作者は、ようやくソード・オラトリアの原作を手に入れました!
大人買いはできないので、まだ2巻だけですがとりあえず読んで作品に反映させていきます。
既に書いてしまった分は、すいませんがこのままで。
ヘタにいじると、ゴチャゴチャになりそうな気がしますから。

ただ最近筆記活動の時間が少なくなってまして、ネタが浮かんでも書き続けられるかなぁー、と微妙な感じになってます。
できるだけ頑張りますが。
ではまた次回。


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その12 更なる絶望

どうも皆さん、暇人です。
まずは、誤字報告を下さった三の丸様、ありがとうございます。いつも助かります。
最近は買ってきた原作を読んで、細かい所の訂正を行ってるところです。
地味に多くてしんどいです…。
いや自業自得なんですけどね、はい。

今回はフィン視点。
まだ原作を持っていない時点で書いたものなので、色々と違いますが、勘弁してください。


「状況を報告!」

 

「はい!ここ本陣にて、15分ほど前に新種と思しきモンスターが下層より現れ突撃してきました。

敵はどうやら腐敗液を吐き出し、死亡時にも周囲に同様の液体をばら撒くことが確認されています。

これにより通常の武器での対応が難しく、既に多数の負傷者が出ています」

 

予想通り、カドモスの泉に現れた芋虫のモンスターが、こちらにも襲撃を仕掛けたようだ。

状況は芳しくない。

僕がここを離れたのは下策だったかっ!

 

「リヴェリア達は?」

 

「副団長は、ガレスさんやクラムさんと共に防衛に当たっています。

ガレスさんを防御の軸とし、腐敗液の影響を受けにくいクラムさんが攻撃を担当しているようです。

副団長はその後方にて魔法の準備中とのこと」

 

「了解した。ティオナ、ラウルは負傷者の救護。ティオネとアイズ、ベートは僕と一緒に防衛陣へ向かうよ!」

 

『了解』

 

大双刃(ウルガ)が溶かされてしまったティオナは救護に回す。

まったく、いくら迷宮は未知が多いとはいえ、こんな時に新種なんて現れなくてもいいじゃないか。

本当にボヤかずにはいられない。

 

そして到着した最前線は、モンスターの腐敗液の影響だろう、かなり混乱しているのが見て取れた。

 

まずはアイズ達に行動してもらわねば。

 

「君達は前線を押し上げてもらう。

だが敵の攻撃は非常に厄介だ。

特にベート、君は注意してくれ」

 

「わかってる」

 

そう言って走り去っていく3人の背中を見送りながら、戦況を回復するため指揮を執りはじめる。

 

「リヴェリア、魔力は?」

 

「もう少し待て。

あの大軍を一掃するにはまだ足らない」

 

「わかった。

だができるだけ急いでくれ。

前線がどこまで持つかわからない」

 

「わかっている」

 

これは本気で撤退を考えるべきかと考えていると、悲鳴のような声が飛び込んでくる。

 

「ティオネさん!武器が!」

 

「わたしの事はいいから、目の前の敵に集中しなさい!」

 

どうやらティオネの武器まで溶かされてしまったようだ。

 

――このままでは前線が崩壊してしまう!

 

だが運命の女神もそれほど意地悪ではないらしい。

 

「ティオネ!コレを使え!刀身が見えなくても間合いくらいはわかるだろ!」

 

そう言って、クラムが彼女に投げ渡したのは、金属の棒…?

いや、違う!

 

「っ!そういう事ね、感謝するわ!」

 

ティオネがその金属をひとたび振るえば、触れていないはずのモンスターが切り裂かれる。

あれはクラムの能力で創り出された剣という事だ。

恐らく彼女の愛剣のいずれかを模したものだろう。

 

「でもこれ、重さがなくて振りづらいんだけど!」

 

「文句言うな!

得物があるだけましだろ!」

 

「クラム!それは他のメンバーには回せないのか!?」

 

「すいませんフィンさん!今の俺が、同時に創って維持できるのは8本が限界なんです!

今ので全部回しちゃいました!」

 

そこまで上手くはいかないか。

だが確実に戦況は回復しつつある。

このままリヴェリアの魔法が発動出来れば!

 

「魔法の詠唱を開始します!」

 

今はレフィーヤのその言葉が福音に聞こえる。

恐らく詠唱を始めたリヴェリアの代わりの言葉だろう。

なんとか間に合ったか!

 

「聞こえたかっ!?

あとひと踏ん張りだ!何としても戦線を持ちこたえさせろ!」

 

各団員たちのさらなる奮闘により、迷宮の闇から現れたモンスター達の勢いも無くなり、溜まり場のような有り様になっている。

 

「『……焼きつくせ、スルトの剣

 

――我が名はアールヴ』!」

 

魔法円(マジックサークル)が翡翠色の輝きを増し、魔法発動の前兆を教えてくれる。

 

「総員、撤退!!」

 

 

「『レア・ラーヴァテイン』!」

 

避難したメンバーの背後で、彼女の魔法により、世界が紅蓮に染まる。

 

…何とかなった、か。

 

光が収まった後には、黒く炭になり崩れ落ちていく新種のモンスターの姿が。

だが油断はできない。

次の波が来ようものなら、今度はどうなるか分かったもんじゃないからだ。

 

「まずは状況を確認!怪我人の治療を急がせろ!」

 

慌てて動きだす団員達。

怪我人の数もかなり増えてしまったようだ。

ここは一度撤退するべきだろう。

 

「リヴェリア、今回は撤収する。クラムに頼んで荷物を片付けてくれ。大至急だ」

 

「わかった。深手を負った者を『家』に入れておくのはどうだ?アソコならば安全だろう」

 

エリクサー等の魔法薬(ポーション)を使っても、体力までは回復しない。

重傷者の負担は、肉体的にも精神的にも大きいだろう。

 

「確かに。クラムにそのことを伝えてくれ。中に入れる人数は怪我人10名に、介護者1名だ。選別を頼む」

 

「了解した」

 

その背中を見送って、ボクは焼け残った魔物を確認する。

 

「…やはり見たこともない魔物だ。

未到達階層から上がってきたものか?」

 

「おい、フィン。面白いものがあるぞ」

 

そう言うガレスの言葉に近寄ってみれば、彼の手から掌サイズの魔石が出てきた。

しかし普通のものと違い、中央部分だけが極彩色となっている。

なにやら不気味な印象を受ける物だった。

 

「これは?」

 

「クラムの奴が、例の魔物の中から取り出した物らしいぞ。あやつ儂に押し付けていきおったわ」

 

ガハハと笑う彼から渡されるソレは、今回の事態に大きな影響を持つものであると考えて間違いないだろう。

 

「わかった、預かっておこう。今、他の面々には撤収を指示したから、もう暫くここを見張っていてくれ」

 

「わかってるわい。それにしてもこやつら一体何だったんじゃろうな?」

 

「わからない。だがコイツらが今後、僕達の遠征での障害になることは間違いないだろう」

 

「うむ。どうやらデュランダルを付与した武器は壊れることがないようじゃから、どこまでそれらの武器を集められるかが課題じゃな」

 

そうだな、と返事をしようとしたところで、なにやら巨大なモノが這いずるような気配が現れた。

 

 

 

「…もうお出まし、か」

 

「想像以上に早かったのぅ。これは物資の回収は諦めた方が良さそうじゃぞ」

 

「あぁ、スグに撤退だ。

 

総員!最低限の荷物だけ回収!

すぐさまこの場を撤収する!」

 

やれやれ、本当に運命の女神様というやつは、僕達を退屈させてくれないらしい。

 




考察
クラムの能力は、その性質上30分経過しなければ、手から離れたモノは消失しない。
しかし相性の関係で、放出系統の能力が不得意であることから分かる通り、離れた場所にあるモノを維持するにはそれなりの気を使う。
形がより複雑で、オーラの込められた量が多く、大きく、能力者本人からより遠いものほど維持が難しくなる。
剣程度は、最大でも同時に8本を維持するのが現在の限界である。

―――――――――――――
3000字前後を目指してたんですが、今回短くなっちゃいました。
原作との矛盾点を出来るだけ消していったら、いつの間にかこんなに短く。
とりあえず、相違点はあっても矛盾点はなくなってると思います。多分、恐らく…。

次は早めに出せるよう努力します。
それではまた次回。



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その13 最善の一手

皆さん、こんばんわ。
まずはいつも誤字報告をくださる三の丸様、ありがとうございます。

三人称視点でお送りします。


 本当に、ダンジョンという場所は摩訶不思議で、私たち人類にはあまりに過酷な場所である。

 

 そんなことを考えながら、アイズはこちらに向かってくる巨大な影に目を向ける。

 それは先程の襲撃してきた魔物ではなく、更に異形な姿をしていた。

 大きさは先ほどのものより大きく、6mにも達し、下半身は芋虫のような形をしているが、上半身には扇のような二対四枚の腕、醜い人型のようなその形状。それが見える範囲で二体。

 そして何より、膨らむその体からは腐敗液が大量に溜め込まれていることは明白であった。

 

「総員、撤退だ。急げ」

 

 フィンのその言葉に、ベートが食いつく。

 

「おい、フィン!あんなもんを放ったまま逃げろって言うのかよ!」

 

「そうだよフィン!あんなのが地上に現れたら!」

 

 ティオナもその言葉に賛同するが、フィンの命令は変わらない。

 

「僕も大いに不本意だが、最小限の被害であのモンスターを倒すにはこれしかない」

 

 こんなことを言うのは本当に不本意だと彼は不機嫌そうに言う。

 それほど多くはないが、物資の一部は回収できた。

 後は破棄するしかないだろう。

 

「クラム、アイズ、アレを始末しろ」

 

 フィンが命令したのは以上の二人。

 つまりアレを始末しつつ殿を務めろということだ。

 当然他のものからは反論が出る。

 

「待ってください、団長!

 あんなのを二人だけに任せるんですか!?」

 

「そうだよフィン!いくらアイズ達でも!」

 

 だが彼の決定は覆らない。

 

「命令を聞け、撤退だ」

 

 そう冷たい眼差しで言い放った彼の心情は如何ばかりか。

 

「フィンさん、その場合俺一人の方が都合がいいんじゃないですか?スキル的に」

 

 クラムのスキルには【単独戦闘】があるのだから、一人で戦う方が効率がいいだろうということだ。

 

「ダメだ。君に万が一の事があれば、君の力で匿っている11名の安全も危うくなる。

 それと君は一人だと無茶をしがちだ。アイズはお目付け役でもある」

 

「……わかった」

 

 クラムは若干不本意そうであったが、結局二人が殿を務めることとなった。

 クラムと同じく無茶しがちなアイズにお目付け役が務まるのかという疑問は残るが。

 

「最悪倒せなくてもいい。

ボク達が退避する時間を稼いでくれ。

万一の場合、クラムの能力で先に18層に戻っても構わない」

 

「了解です」

 

 その返事を聞いて、フィン達は退避する団員たちの最後尾へ走っていった。

 ベートは最後まで騒いでいたが、双子に取り押さえられそのまま引きずられて行った。

 

 残された二人。

 アイズは既に魔法を付与済み。

 相方のクラムも、自身のスキルを発動させた。

 

【感覚欠落】

 そのスキルは、使用者の痛覚と精神的動揺を消すという効果を、任意で発動できる力がある。

 

 だがこれは諸刃の剣。

 知っての通り、痛みとは肉体の限界を教える大切な信号だ。

 それを無視するということは、限界が分からず自滅の可能性が非常に高くなることを意味する。

 

 だが今回のような場合、多少の無茶はしなければ生き残れないだろうと、クラムは判断した。

 

「さて、やるかね。

 あ、アイズ。ペンダントはちゃんとしてるよな?」

 

「うん、勿論」

 

「壊すなよ? 万一の場合はドアで逃げるんだからな」

 

 アイズの胸元にかけられたペンダント。

 これは言わずもがな、クラムの能力に必要なアイテムの一つである。

 

「ついでにこれも飲んどけ」

 

「……これは?」

 

「保険だ」

 

 そんな意味深な言葉と共に、一本のポーションをアイズに飲ませ、自分も同様に口に含む。

 

「さて、向こうさんは2体いるみたいだし、アイズは右、俺は左な」

 

「わかった」

 

 そう言うが早いか、二人は自分の攻撃対象へと猛然と駆け出す。

 あっという間にトップスピードに彼等は達した。

 

「―――ッ!!」

 

 異形の魔物は、立ち向かう小さな障害にむかって、魔力が篭った咆哮を轟かせ、同時に翼のような器官を羽ばたかせた。

 それによって舞い散った黄色味を帯びた粉が、クラムを包む。

 

(……やはり毒か?)

 

 そう思い、口や鼻を含め顔をオーラの膜で覆い、身体に纏わる無色の鎧をいつもより厚くした。

 皮膚に触れることを避けるためだ。

 だがそれが結果的に彼を助けることになった。

 

 ――スドンっ!!

 

 そんな爆音を響かせて、なんとその粉は爆発したのだ。

 流石のクラムもこれには後退せざる負えない。

 纏っていた鎧の隙間や念で創った装甲が薄かった部分の皮膚は守りきれず、焼け爛れている。

 

(チッ、油断したな)

 

 しかし今の彼は痛みなど感じはしない。

 痛みもなく、死への恐怖すらない彼は、正しく戦闘マシン。

 この程度の傷は、負傷にすら数えられない。

 

「だがネタが割れればなんてことは無いな」

 

 そう言い、再び開いた距離を詰めるべく走り出す。

 その様子を見ていたモンスターは、さらに大きく翼を動かす。

 先程より、より多くの粉がクラムへと押し寄せた。

 

今度こそ仕留めた。

 

言葉が喋れるならば、魔物はそう言ったであろう場面。

 だが現実はそうはならない。

 

 走っていた彼は、敵が翼を動かした時点でさらに加速。

 相手の攻撃範囲の半分を過ぎた時点で、背中から一気にオーラを噴射させ、さらなる加速を付ける。

 

 そして爆発!

 モンスターの攻撃圏内から脱出していたクラムは、更にオーラで守った背中に爆風を受けて加速し、宙へと舞い上がる。

 その姿を確認した魔物は自爆覚悟で、更に自身の周囲へと鱗粉を振りまこうとするが、その翼は動くことは無い。

 

「そこは既に俺の射程内だ」

 

『円』を広げたクラムは、その範囲に入った瞬間から、敵の翼の根元などの関節部分を拘束するように、オーラを固めたのだ。

 それほど多くのオーラを込める時間はなかったので、強度には不安が残る。

 しかしそれに拘束される一瞬があれば充分。

 一瞬の接触と、風を斬る澄んだ音。

 

 オーラを固めた刀で頭部を切り落とし、勢いのままモンスターの後方へと飛び抜ける。

 そして首から溢れ出した腐敗液の中に沈む姿を確認した。

 

 ひと段落付いたと思ったところで、次に目に入った光景に思わず息を呑む。

 

「…ふざけんなよ、クソッタレ」

 

 そう彼が罵倒するするだけの敵が、通路の奥から雪崩を打ってやって来るのが見えたのだ。

 流石にこの数は無茶がすぎる。

 

「…クラム、あれは」

 

「あぁ、アイズ。そっちも終わったか。

 どうやら団体様がお着きのようだぞ」

 

 まったく笑えない冗談だが、むしろこの現実を冗談で済ませて欲しかった。

 アイズは絶望が足元から忍び寄るのを感じ、同時にこの場を守りきる覚悟を決めた。

 

「出来ればこんな代物は使いたくなかったんだがな」

 

 だがアイズの覚悟とは裏腹に、クラムはそんな軽い口調で、腰に付けたポーチから半透明の液体が入った瓶を3本、手に運び出した。

 見たところ、ポーチはどうやらアイテムバックと同じく見かけ以上の収納力を持った代物らしい。

 その特性上、瓶などの割れやすいものを入れておいても壊れにくい。

 

「クラム、それは?」

 

「お前も知ってるだろ?

 俺は”薬師”のアビリティを持っている。

 だが俺の専門は回復の為の魔法薬(ポーション)じゃない。

 

 ――猛毒の魔法薬(ポーション)だ」

 

 ――毒

 それは薬と対極にあるような存在ではあるが、その実密接な関係を持つ。

 

 毒を変じて薬と成す、変毒為薬という考え方は地球の仏法の教えだが、それと同様に薬も転じれば毒となるのである。

 

 そもそもLv.4の時に”薬師”が発現したクラムには、魔法薬を造る勉強の時間などほとんど無かった。

 一応作る手順などは知ってはいたが、知識だけで実践できるほど甘い世界ではない。

 そのため努力した所でせいぜいが市販の魔法薬が作れればいい所。

 エリクサーが作れるというならまだしも、通常の魔法薬程度なら買った方が早い。

 

 だからそこ彼が手を出したのは毒薬。

 数年前、まだ”薬師”が発現する前から研究をしていた彼は、毒に限るならばその知識はオラリオでもかなり上位に入るだろう。

 

 そしてクラムが目をつけ、研究を重ねたのがモンスターの毒だ。

 モンスターは魔石が抜かれれば灰になるが、一度くらった毒はモンスターを倒しても回復しない。

 つまり魔物の体外に排出された毒は、ソレが灰になっても消えることがないのでは、と気づき、様々な毒を持つモンスターから採取し、研究を重ね、魔法薬へと()()させたのだ。

 その効力は魔物が生み出す原液の比では無い。

 

 今回彼が取り出したのは、最近完成した虎の子の一品。

 元々は深層に生える魔樹から取れた樹液を濃縮させ、揮発性を高めたものである。

 

 その効果は、混乱。

 

 元となった魔樹は周囲に気化させた樹液を撒き、それを吸い込んだ生き物を争わせ、朽ちたところを吸収するという狡猾な魔物だった。

 そんな魔物の樹液を更に濃縮し、揮発性を高めたものなど吸い込んだらどうなるか、言うまでもないだろう。

 たとえ相手が、魔樹と同じ魔物だったとしても。

 

 

 

「おーおー、見事に殺し合ってんな」

 

 結果は良好。

 向かってきた群れの真ん中に瓶を投げ込んでやれば、あっという間に気化した毒が周囲へと広がる。

 あとはモンスター共が吸い込めばイチコロである。

 異形とはいえ上半身が人の姿を模しているのならば、当然呼吸はするのだろう。

 そもそも、モンスターとはいえ、呼吸をしないものの方が少ない。

 魔物の毒への耐性も、耐性特化型のモンスターならばともかく、神の恩恵(ファルナ)の力も使った猛毒が耐性を抜けないことなどほぼ無い。

 実際、一部特殊なモンスターを除けば、これまでの実験でも殆どの敵が毒の効果を受けていたのだ。

 それほど部の悪い賭けでもなかった。

 

「さっき飲ませたのはこれの為?」

 

「あー、一応あの姿形から、毒の鱗粉でも撒き散らすのかと推察してたんだ。

 見事に外れたが…。

 

 だがまぁ結果オーライだな。

 俺たちは毒が切れる前に撤退しよう」

 

 さらに別種と思われる毒物を乱闘の中心へ投げ込みながら、そういい笑顔で言い切ったクラム。

 そんな彼に向かってアイズは一言。

 

「クラムって、えげつないんだね」

 

「( ゚∀゚):∵グハッ!!」

 

 ……意外と余裕そうな二人であった。




最近は原作を読み進めながら、前の話での細かい部分を修正したりしてました。
結構多くて大変でした。
自業自得ですが。

今回「薬師」のアビリティで毒薬を作るという独自設定を使いました。
が、どうなんでしょうね?
自分は原作(ベル君が主人公の方)は以前8巻まで読んだんですが、こういう事が出来るのかどうか出てなかったと思うんです。確か。
原作の方で、このようなことは出来ない、と言われてしまった場合は…、ウチはウチ、よそはよそ、の精神でやっていくつもりです、はい。独自設定ですからね、大目に見てください。

ではまた次回


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その14 未だ訪れぬ君よ

お久しぶりです、皆さん。
最近全然筆が進みません、すいません。
代わりに全く違う話を書き始めてしまう体たらく。
そっちは流石に出したりしませんけどね。

あ、私はどちらかと言えばハーレムものよりも一途な話が好きです。前者も嫌いではないですが。
今回は多少フラグ臭い感じになってしまったので、先にへし折っておこうかと。
今回は、三人称視点とティオナ視点でお送りします。
ではどうぞ。


 無事合流できたクラムとアイズを含めたロキ・ファミリアは、帰還への道について暫く。

 現在彼らは、中層に位置づけられる17階層を歩いていた。

 

「それにしても、クラムはそんな危ないものを彼処(あそこ)で作ってたのかい?」

 

「えぇまぁ、隔離空間じゃないとヤバいモノも幾つかありましてね…」

 

 フィンの言葉に頭を掻きながらクラムは言い訳するが、危ないことをやっていることには変わらない。

 後で間違いなくママこと、リヴェリアにシバかれるだろう。

 だが彼女もそれはとりあえず帰ってからということにしたらしく、質問を重ねた。

 

「あんな密閉空間で作業して大丈夫なのか?

 万一の毒が溢れたら一大事だろう?」

 

「それは大丈夫です。毒があふれた場合、扉を閉めておけばどんな毒でも数日で換気されますから」

 

「あそこってそんな高性能だったの!?」

 

 ティオナが驚くのも無理はない。

 なぜならあの『家』は、出入りするためのドア以外に外気と繋がる場所がないのだ。

 

「空気はずっと入れ替えるように作ったからね。

 でないと普通に利用してても換気口がないから窒息しちゃうし。

 結果的にそれが研究所として好条件となった訳だけど」

 

 これは本人にも予期せぬ好都合であった。

 換気口をつけられない以上、空気の入れ替えを考えるのは必須事項。

 その結果、どんな毒物も気体であれば浄化してくれる部屋となったのだ。

 

 等と、そんな話をしていれば、周囲の壁からパキパキと何かが割れるような軽い音が響き始める。

 

「『|怪物の宴<<モンスター・パーティー>>』か」

 

 その言葉通り、生じた岩と岩の隙間から生み出された幾多の|ミノタウロス<<怪物>>たちが彼らの前を塞いだ。

 だが第一級冒険者を前にするには、あまりにも弱いと言わざる負えない。

 

 目で追うことすら難しいような、アイズの剣閃。

 一瞬で幾多に切り刻まれた怪物は重力に従い崩れ落ち、塵となって消えていく。

 

 目の前に立ち塞がり、これから喰らおうと思っていたちっぽけな存在からの思わぬ反撃は、彼ら(怪物達)を思わぬ行動へと導いた。

 

「「「ヴォオオッ!?」」」

 

「…逃げた!?」

 

 そう、逃亡である。

 冒険者がモンスターから逃げるということはあっても、モンスターが冒険者から逃げるということはあまりに異例。

 その為アイズ達の初動も遅れてしまった。

 

「まずいぞ!あの先には上層への通路がある!

 ほかの冒険者に被害を出す前に止めるぞ!」

 

「クッソ!面倒臭せェことしやがって!」

 

「よし、お前ら言ってこい!」

 

「何言ってんの、クラム!

 クラムも行くんだよ!」

 

「(´・ω・`)そんなー」

 

 ふざけてはいるが、クラムもちゃんと働いている。

 早速、最後尾の一体に追いつき、一瞬で細切れにした。

 

「アイツら、分かれ始めたぞ!」

 

「アイズとベートは上層へ向かったのを!

 私とティオナは右に曲がったやつを。

 クラムは左に行って!」

 

「ちゃっかり俺に一番多いとこ振り分けたよね、ティオネさん!?」

 

 その発言を無視し、妹ともに宣言した通路へと走っていくティオネ。

 その様子にショボーンとなりながらも役割を全うするために、振り分けられた通路へ走り込む。

 

 それから少しして、彼らは無事役割を果たした。

 哀れな一匹の白兎の犠牲を出しながら

 

(ベル君は死んでません)

 ――――――

 

 無事、ホームに帰還できた私達は、ロキのいつもの歓迎を受けた。

 ちなみに今回の被害者はレフィーヤ。

 あの子は何かと損な役回りが多い気がする。

 

 その後、遠征報告や、片付け、獲得した魔石の換金などに追われて忙しい日々が続いたが、なんとかそれも落ち着き、今回壊してしまった私の|大双刃<<ウルガ>>も無事作ってもらえることになった。

 …ローン組んだ上に、親方にえらく怒られたけど。

 

 武器もないので手持ち無沙汰となった私が来たのは、クラムの部屋。

 ノックをしても返事がないので覗いて見たら、部屋の真ん中に不自然な扉が鎮座していた。

 遠征中、これのせいで身動きが取れないと愚痴をこぼしていたものだ。

 だが中に入ってしまえばその制限も無くなるようで、最近はよく出したままであるのを見かける。

 これがあるということは、恐らく彼は中に篭っているのだろう。

 

 以前教えられた場所から、通行証代わりのネックレスを取り出し、扉を(くぐ)る。

 黒い幕を通り抜けた先には、以前とは少し配置の変わった家具が並ぶ。

 私はこの部屋が結構気に入っていた。

 

 だがそこには目当ての人物の姿はなく、ならば上の研究室かなと思い、そちらへ足を向ける。

 

(いたっ!)

 

 案の定、怪しげな機材や液体に囲まれて、彼はなにやら瓶に入れられた液体を振っている。

 とても集中しているようで、私が入ってきたことにも気づいていない様だ。

 

「クーラム、何してんの?」

 

「…ティオナ、この部屋には不用意に入らないでくれって、前にも言っただろ?」

 

「あははは、ごめんごめん。

 それで今何してるの?あと、その変な格好はなに?」

 

 小言を言われるが、鍵を掛けていなかったクラムも悪い。

 そう言い訳して、話を逸らす。

 彼の現在の格好は、全身真っ白のエプロンの一種のような服を着て、手には白い手袋、マスクにメガネまで付けていた。

 

「これは白衣だよ。研究のときはこれを着ている。

 万一毒がかかっても問題ないようにね」

 

「へぇー、なら今振っていた小瓶の中身は何?」

 

「これ?これは麻痺毒。

 とある蛇の魔物から採取した麻痺毒をベースに、薬草なんかを混ぜてより効果を上げられないか実験してるんだよ」

 

「なにそれ!面白そう!」

 

 是非やってみたいが、クラムの表情は優れない。

 

「効果が麻痺とはいえ、毒だからね。

 素人が手を出さない方がいいよ。

 もしこれの効果を受けたら、ティオナでも暫く身動き出来なくなるかもしれないし」

 

「私でも!?」

 

 それは凄い。

 私の”耐異常”のアビリティは筆頭するほど高くはないが、高レベルになればなるほど、毒への耐性も自然と上がる。

 そんな私を暫く麻痺に出来る薬なんて、かなりヤバいものではないだろうか?

 

「ベースとなっている毒の元は『パラリシスサーペント』。知ってる?」

 

「深層で、壁に擬態して近くを通る冒険者に噛み付いてくる、アレ?」

 

「そう、それ。深層でも更に奥に進まないとあまり出てこない種だから、採取には結構苦労するんだよね。

 

 あの蛇は知っての通り、強力な麻痺毒を持っていて、噛んで毒にやられた相手を捕食する。

 しかも深層に出てくる程のモンスターだからか、その毒性もとても強いんだ。

 それを更に強化しているっていうんだから、その程も分かるだろ?」

 

 なるほど。確かに危なそうな感じだ。

 だがそれくらいしないと、私達クラスの実用には足らないのだろう。

 

「この間使った毒は?」

 

「あー、あれね。残念ながらもう備蓄が無いんだよ。

 近いうちにまた取りに行かないとなぁ」

 

 どうやらかなり貴重な品だったらしい。

 聞いてみれば彼の虎の子で、その筋に売れば1本100万ヴァリスは下らないだろうと言われた。

 エリクサーですら1本50万ヴァリスであることを考えれば、その金額の大きさもわかろうもの。

 あれだけの効果なら納得だが。

 

「売ったりしてるの?」

 

「しないよ。時々知り合いに簡単な麻痺毒なんかは売ってるけど、あれクラスの毒は完全に自分で使用する分だけ。

 悪用されたらどうなるか分かったもんじゃないからね」

 

 その通りだ。

 もし街中で、深層のモンスターを狂わせたあの劇薬が使われるようなことになれば、悲惨の一言では済まされない被害が出ることだろう。

 その様子を思い浮かべ、思わず身震いする。

 

「クラム、絶対あの薬は外に出しちゃダメだからね?」

 

「わかってるよ。誰が造ったと思ってるんだ」

 

 その言葉で一先ず安心した。

 

「ティオナは毒は使うつもりは無いのか?

 他にも各種毒物は勿論、眠り薬や、腐食毒、変わり種で狂化薬とかもあるけど」

 

 …何か怪しげな名前が聞こえた気がした。

 

「毒は使うつもりは無いけど、狂化薬って、何?」

 

「狂化薬は、その名の通り対処を狂わせるんだよ。

 この間使った混乱させる薬と似てるけど、大きく違うところは狂わせた相手を強化すること。

 使い道は、敵の混乱を誘うことだけど、強化もされちゃうから使いどころが難しい薬でもある。

 初心者にはオススメできないかな」

 

「ならそんな薬を出さないでよ!」

 

 なんでも、この間の混乱薬が出来る前は、それが使われていたそうだ。

 ただ今のものと比べて使い勝手は良くないらしい。

 本当に素人にそんな物を進めないでほしいと心から思う。

 

「ちなみにティオネは、この間惚れ薬がないかって聞いてきたけど」

 

「ティオネなにやってんの!?」

 

 姉の行動力は目を見張るものがあるけど、あのフィンへの恋心は最早執着の域に達してるのではないだろうか?

 いい加減にしないと、フィンの胃が心配になってくる。

 

「勿論断ったけどね」

 

「それを聞いて安心したよ…」

 

 ホッとする私を見て、クスクスと含み笑いをするクラムをジト目で睨む。

 

「ふふっ、ごめんごめん。

 そう言えばティオナにはいないのか?そういう相手」

 

「そういう?」

 

「ティオネみたいに熱を上げる相手が、さ」

 

 …あまり考えたことはなかった。

 確かに、身も焦がすような恋に興味が無いと言えば嘘になる。

 様々な小説、童話を読んできた私だけど、やはりラブロマンスには心打たれるものがあった。

 

「私はそういうのは良いかな。

 興味が無いわけじゃないけど、相手もいない状態だからね」

 

 だが私にはまだ恋という感情は分からない。

 フィンやガレスなどは、家族であり異性として見ることは出来ない。

 あのバカ狼は論外だし、ラウルも違う。

 クラムも友人や仲間としての面が強く、そういう対象としては見られない。

 

「そうか。まあいずれ分かるんじゃないか?」

 

 そう言って私から視線を外し、薬品へと興味を戻した彼を眺めながら、私は自問自答を始めた。

 

 ―私に幸せになる権利などあるのだろうか?

 

 ―生きる為に友人を手をかけた私なんかに?

 

 その過去は今でも私を蝕んでいる。

 

 いつか私にも、この鎖を断ち切ってくれる誰かが現れるのだろうか?

 

先のこと(未来)は神にすらも分からない。




ティオナの過去は少し捏造が入ってます。
w〇kiで調べた範囲ではそれほど的外れなことでもないと思うんですけど、どうなんですかね?
今後自分でも原作を読んで、明らかに違っていたら修正します。

話は変わりますが、一度も小説を書こうと思われた方で、書き進めいくうちに予定と全く違うところに行き着いたり、考えていたキャラクターの性格が変わってしまう、なんてことになったことは無いでしょうか?
私は結構あるんですよね、この話を書いていて。

今回の話でも、どんどん横道に逸れていってしまうのを軌道修正しながら少しづつ書いていたら、こんなに遅くなってしまいました。
あ、言い忘れてましたが、ストックは切れましたです、はい。
今後は書き終わったものから投稿という形になるでしょう。
特に期待せずお待ちください。
ではまた次回。


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その15 専属鍛冶師

どうも皆さんこんにちは、暇人です。
その名に反し、最近は何かと忙しい今日この頃。

寒くなってきましたのでお身体にはご注意ください。
この間久しぶりに風邪を引きまして、すぐ治るだろうとタカをくくっていたらかなり苦しめられました。
今年もあと二ヶ月、健康に気を使って頑張って行きましょう。

今回は三人称視点でお送りします。


 カンッ…カンッ…という金属がぶつかり合う音が、轟々と焔が焚かれた個室に響き渡る。

 灼熱の炎の前で黙々と槌を振り下ろすのは、ゴブニュ・ファミリアの団員の一人、アグナ・モルコルトである。

 ドワーフ特有の両腕の筋肉は、他のドワーフのソレと比べても遜色ない代物である。

 

「…まあいいだろう」

 

 打ち終わった剣の刃の出来栄えを確認し、お眼鏡にかなったのだろう、何処と無く満足した様子で一段落着いたアグナ。

 彼はこの、一仕事終わったあとの時間が好きだった。

 炉の火を落とし、少しづつ消えていく火を眺めながらその日の仕事を振り返る。

 この場所がもつ、独特な雰囲気を感じながら物思いにふけるのが好きであった。

 

 だからこそ不粋な侵入者には容赦はしない。

 

 ――ゴンゴンゴン

 

「親方ぁー!いる?いるんでしょ!?」

 

「喧しい!何の用だ、クラム!!」

 

 壊れるのではないかと思うほど乱暴に開けられた入口の先には、案の定、彼の専属の契約を結んだ男が立っていた。

 

「あ、親方、お久ー…、って危なっ!

 いきなり槌振り下ろす奴があるかよ!」

 

「うるせぇ、用がないなら帰れ」

 

 気分のいい時間を誰かにぶち壊しにされれば、誰でもそうはなるだろう。

 いきなり槌を振り下ろすのは、ドワーフくらいのものであろうが。

 

「そう言うなって。今日は酒持って来てんだからさ」

 

「…銘柄は?」

 

「『フレア』だよ」

 

 ニヤリと笑うクラムの様子に、不本意ではあるが酒があるなら仕方ないと、中へ招き入れるアグナ。

『フレア』は炎を意味し、その名の通り火を噴くほど強い酒として有名な一品だ。

 だがその生産数は少なく、市場にもあまり出回らないため、入手困難な物でもある。

 ドワーフである彼も大変気に入っている代物であった。

 

「で、何の用だ?」

 

 酒だけ貰えれば用はないとばかりに、早速本題を聞き出そうとするアグナに、思わず苦笑いを浮かべるクラム。

 もう少し会話を楽しもうという気はないのか、この朴念仁には。と思ってしまっても仕方ない。

 

「相変わらずだなぁ。

 まあいいや、今回来たのは、『氷刃』をもう少し重くできないかってのと、コレの注文」

 

 そう言って机の上に置かれた二つのブツを見て、思わず眉を顰める。

 片方は自身の最高傑作といえる一品であり、もう一つはとてつもなく面倒な代物であったからだ。

 

「…おめェ、この刀じゃ不満だと?」

 

 思わずドスの効いた声が出てしまっても仕方ない。

 それは自慢の一品であり、彼が我が子のように思う作品なのだから。

 

「いや、不満はないんだけどね?

 ほら、俺もレベルが上がって筋力値も増えたでしょ?

 だからちょっと今の俺には軽いかなぁ…って」

 

 慌てて言い募るクラムだが、彼の言い分も一理ある。

 本来レベルアップなど早々あるものでもない。

 そのため主武器を弄る事などほとんどないのだ。

 しかし彼の場合、異例の高速レベルアップにより武器の調整が間に合わず、後回しになっていたと言うことがあった。

 軽く感じる程度で、長さ、切れ味共に問題無かったので手を入れる必要性を感じなかったというのが主な理由だが。

 

「チッ、仕方ねぇ。だが重くするとは言っても、出来ることは限られるぞ?」

 

「その辺は親方にお任せします」

 

 その言葉には、絶対的な信頼がある、という訳ではなく、ただ専門外のことを言われても分からないので、丸投げしようという魂胆が透けて見えた。

 いや、勿論信頼があるからこその丸投げだが。

 

「ったく、どうなっても知らねぇぞ。

 で、こっちはどうすんだ」

 

 指差すのは厄介な方、黒い無骨な金属の塊であった。

 それはクラムが念能力の補助道具として使っている物で、魔法金属を使った物である。

 この金属を核にオーラを固定すれば、オーラの消費量を抑えられ、手から離れても強度もほぼ落ちず、状態を固定するのも楽になる優れものである。

 で、それの何が面倒なのかと言えば、その金属には『神字』が掘られているのである。

 

『神字』とは念能力者が、念能力を補助するために使われる特殊な字のことである。

 

 今回問題となっているのは、その神字を書くためには念を込めて字を掘らねば効果がないという点だ。

 型をつくって金属を流し込めば作れるものではない。

 ならどうするのかと言えば、

 

「うん、また親方と共同作業だねっ!」

 

「気色悪いこと言ってんじゃねぇ」

 

 クラムがアグナと一緒に金属を加工しながら字を掘るのだ。

 クソ暑い中で、汗だくの男が額を突合せて作業する。

 いったい誰得の光景だろうか?

 少なくとも二人にはそういう趣味嗜好はないと断言しておく。

 

「これは以前充分な数作っただろうが。

 何で突然そんな話を持ってきたんだ?」

 

「それはこの間の遠征で見かけた新種が原因だよ」

 

 アグナが詳しく話を聞けば、武器を溶かすという鍛冶師泣かせのモンスターが生まれているのだという。

 これには流石のアグナも少し目眩がした。

 

「つまりなんだ?これからコイツは消耗品になるってことか?」

 

「可能性は無きにしもあらず、だねぇー。

 あとはこれに『不壊属性(デュランダル)』を付けるって手もあるけど」

 

「ふざけんじゃねぇ。あれ一つ付けんのがどんだけ大変だと思ってんだ」

 

『不壊属性』とは、その名の通り武器や防具が破壊されなくなるものだ。

 勿論デメリットもあるが、それを補って余りある魅力がそこにはある。

 それが付いた武器、防具が他の物より0の数が違うことを考えればその価値も分かるだろう。

 そして一流の鍛冶師であり、第二級冒険者(Lv.4)のアグナが渋る程度にはその付与は難しいのだ。

 

「ダヨネー。ならやっぱり数揃えるしかないじゃん?」

 

「ったく、めんどくせぇ」

 

「ごめんごめん。お詫びに深層で取れた『星光石』あげるからさ」

 

『星光石』とは、ダンジョンの中には一部燐光が存在しない、本当に真っ暗な区画が存在し、その中で唯一光を放っている鉱石の事だ。

 その光が闇夜に煌めく星の明かりに見えたことから、その名がつけられたと言われる。

 これはその区画でしか採れず、しかもその周りには厄介なモンスターが集まってくることから、市場にはほぼ流通しない希少な魔法金属の一種である。

 

「…20キロ出せ」

 

「はぁー!?アホか、これ買おうと思ったら、キロいくらすると思ってんだ!10キロだ」

 

「19」「11!」

 

 そんな値切り交渉の末、結局15.2キロの鉱石で手を打つことになった。

 

「くっそ、マジかよ。これ採ってくるのホント苦労したのに…」

 

「ふんっ、こんな面倒な依頼をするんだ。このくらい貰わねばやってられんよ」

 

 勝ち誇った顔でコップの酒を煽るアグナ。

 実際にこの鉱石をこれだけ買おうと思ったら、相応の金銭を払う必要があるだろう。

 無論、これにはクラムの能力の口止め料も入っているので通常よりもお高めだ。

 そんなことをしなくても、仕事に誇りを持つ彼なら喋るとは思えないが、秘密とは何かと面倒を引っ張ってくるものである。

 

「…で、いつから造れる?」

 

「そうさな。今入ってる仕事が今週中には終わる。それからになるから来週の頭に始めるぞ。

 本数はどうする?」

 

「20本」

 

「チッ、吹っかけやがって。

 まあいいだろう。面白い土産の礼だ

『氷刃』はその後に仕上げてやる」

 

 そう言って立ち上がって、周囲の片付けを始めたアグナ。

 その後ろ姿に、一言だけ礼を言い、自分の分の酒を飲み干し立ち上がるクラム。

 お互い、迷惑をかけ、かけられた間柄だ。

 今更無用な言葉など不粋なのだろう。

 黙って仕事場を立ち去る彼には、相方とも言える男への確かな信頼があった。

 




備考
『星光石』は、以前書き忘れた『ブルークリスタル』と同様、オリジナルの鉱石です。

―――――――
今期は血界戦線が個人的に一番の注目作品だったんですが、やっぱり面白いですね。

それで観ていて思ったのが、ダンまちの世界よりあの世界の虚の方がよほどダンジョンなのではないか、と。
血界戦線の二次創作増えないかなァ…。
そんなことを考えていました。
ではまた次回。


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その16 邂逅

評価バーに色がついてた。
正直結構驚きました。

今後もぼちぼち続けていきますんで、暇でしたらお読みください。

今回は三人称視点でお送りします。


 日も沈み、オラリオに夜の帳が下りた頃、この街の一角でとあるファミリアの宴が始まろうとしていた。

 

「遠征みんなご苦労さん!

 今夜は宴や!存分に飲み明かせぇ!」

 

 ――カンパーイ!!

 

 そんな掛け声と共に始まったロキ・ファミリアの大宴会。

 場所は、美女揃いのウエイトレスと、肝っ玉母さんとも呼ばれる女主人が名物の『豊穣の女主人』。

 

 次々とテーブルに運ばれてくる酒や料理を消費しつつ、会話に花を咲かせる各々。

 だが酒が入れば騒ぎが大きくなるのは必然でもある。

 

「団長、もう一杯どうぞ」

 

「ありがとう、ティオネ。だけどさっきから尋常じゃないペースで飲まされてるんだけど、僕を酔い潰してどうするつもりだい?」

 

「ふふ、他意はありませんよ。さっ、もう一杯」

 

 と、恋の駆け引き(?)を行っているところもあれば、

 

「ガレス!飲み比べや!付き合え!」

 

「いいじゃろう、また返り討ちじゃろうがな」

 

「ちなみに勝った方はリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやぁ!」

 

「なにっ!?俺も受けるぞ!」「俺もだ!」「私もっ!」

 

「リヴェリア様…?」

 

「言わせておけ」

 

 等と勝手に人の身体を景品に掲げる(アホ)がいたりする。

 そんな中、幹部の一人であるクラムはと言えば…

 

「お、アーニャちゃん、お久しぶり〜。元気してた?」

 

「クラムじゃニャいか。まだ生きてたのかニャ?」

 

「はっはっは、相変わらず酷い言い草だね。

 ところでお土産にマタタビ持ってきたけど、ほしい?」

 

「猫扱いするなニャ!」

 

 顔見知りのウエイトレスをイジって遊んでいた。

 彼はこの店に足げく通っている。

 その際、よく彼女をからかうのだが、大抵の場合ヒートアップしたアーニャがこの店のお母さんこと、ミアに怒鳴られて慌てて仕事に戻ることになる。

 

「アルベルトさん、お久しぶりです。最近顔を見せないので何かあったのかと思いましたよ」

 

「あ、リュー、久しぶり。ごめんね、最近忙しくて。

 ところでシルちゃんは?」

 

「シルならあそこですよ」

 

 そう言って示されたのはカウンターの一角。

 縮こまっている少年に話しかけるシルがいた。

 

「あの子は?」

 

「シルが連れてきたお客さんです」

 

 ――あぁ、お客さん(生贄)

 

 強く生きろよ、少年。と心の中でエールを贈り、食事へと戻る。

 彼ら彼女らが酒を飲んでいると、どうやら狼が一匹、出来上がってしまったらしい。

 

「おいアイズ!あの話聞かせてやれよ!」

 

 アイズの斜め向かいに座っていたベートが何やら催促しだした。

 そんな様子の彼に、小首をかしげるアイズ。

 

「ほら、変える途中で逃がしたミノタウロス!

 最後の一匹を5階層で始末しただろ!?

 あん時いたトマト野郎のことだよ!」

 

 その言葉で分かったしたのだろう。

 アイズの顔に理解の色が浮かんだ。

 

「ミノタウロスって、17階層で逃げ出したアレ?」

 

「それそれ!俺達が追っかけてた奴がどんどん上層に上がって行ってよっ、結局追いついたのが5階層だった訳だ。こっちは遠征帰りで疲れてるってのによ」

 

 そこで一旦口を閉じたベートに、アイズは少し嫌な予感を覚える。

 

「そしたらいたんだよ、いかにも駆け出しって感じのひょろい|冒険者<<ガキ>>が!」

 

 ゲラゲラと笑いながら話すベートと、それを興味深げに聞く周りの団員。

 そしてカウンターの隅で小さくなっていく白髪の少年。

 

「その子がミノタウロスに追いかけられたって話?

 無事だったの、その子?」

 

「あぁ、アイズが間一髪の所で細切れにしてなっ、そうだろアイズ!」

 

「それでそいつ、頭から全身血塗れになって、真っ赤なトマトになっちまったんだよ!」

 

「うわぁ…、ご愁傷様」

 

 笑いが最高潮に達したベートと、その様子を想像したのか顔をしかめるティオナ。

 

「しかもそいつ、叫びながらどっか行っちまってよ!

 ウチのお姫様、助けたやつに逃げられてやんの!」

 

 その言葉に周囲がどっと笑いに包まれる。

 その様子を輪の外から眺めながら、クラムは先程の白髪の少年を『観た』。

 

(かなりオーラが荒ぶってんなー。

 つまりあの子が当事者ってことか?)

 

 通常垂れ流しであるオーラだが、感情の昂りによってその流れは大きく変わる。

 凝を使ったクラムにはその様子がしっかりと見て取れた。

 

「いい加減にしろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。にもかかわず、巻き込んでしまった少年を酒の肴にするなど、恥を知れ」

 

 未だ騒いでいるベートに、リヴェリアが口を出した。

 しかし酔ったベートも止まらない。

 

「けっ、流石は誇り高いエルフ様。

 だか救えねぇヤツを擁護して何になんだよ」

 

 リヴェリアの言葉で完全に火がついてしまったベートは、止まることを知らない。

 

「アイズ、お前はどう思うよ。あんな奴が俺たちと同じ冒険者を名乗ってんだぜ」

 

「…あの状況じゃ、仕方ないと思います」

 

「なんだよ、いい子ちゃんぶっちまって。

 …なら、質問を変えるぜ。

 俺とあのガキ、ツガイにするならどっちがいい?」

 

「ベート、君、酔ってる?」

 

「うるせぇ、ほら、選べよアイズ。

 俺とあのガキ、どっちかを」

 

「…私はそんなことを言うベートさんだけは、ごめんです」

 

 フィンの言葉すら無視したベートに対し、嫌悪感を滲ませながらハッキリと拒絶する。

 

「無様だな」

 

「黙れババアッ。

 じゃあ何か?お前はあのガキに好きだの愛だのと言われたら、受け入れるのか?」

 

「ありえねぇよな?自分より弱いやつが、お前の隣に立つ資格はねぇ。

 他ならぬお前がそれを認めねぇ」

 

「雑魚じゃ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

 直後、白い影が彼らの横を通り過ぎて行った。

 

「ベルさん!?」

 

 店員の少女の言葉にも耳を貸さず、その少年は店を飛び出して行く。

 

「あ?なんだアイツ?」

 

「この店で食い逃げとはやるなぁー」

 

 そんな呑気な言葉を放つものがいる一方で、アイズは先の少年の後ろ姿が目から離れなかった。

 その様子を見ていた一人の店員、リューがクラムに近づく。

 

「アルベルトさん、すいませんが、先程の少年を追ってもらえませんか?」

 

「…了解。どうやらウチの不始末みたいだしね」

 

「すいません。本当はこんなことをお願いするのは筋違いなのですが」

 

 手元にあった酒を一杯飲み干し、立ち上がる。

 

「まあリューの頼みだしね。

 気になる様なら今度一杯奢ってくれればそれでいいよ。

 あ、ついでに俺の分とさっきの少年のお会計はこれでお願い」

 

「…ありがとうございます」

 

 そう言って金貨が入った小袋を一つ、リューに押し付けた。

 

「それにしてもリュー、君ってさ」

 

「はい?」

 

「ホント、シルちゃん大好きだよね」

 

 その言葉に耳まで真っ赤になった彼女を少しだけ笑って、椅子の背に掛けていた外装を纏いドアへと向かう。

 

「あん?クラム、どこ行くんや?」

 

「お仕事だよ、ロキ。

 友人に少し頼まれちゃってね」

 

 隣で破天荒娘(ティオナ)によって吊し上げられたベートを一瞥して少し笑う。

 そんな彼にアイズは聞いた。

 

「クラム、さっきの…」

 

「ん、アイズも気づいてたんだ。多分そうだよ」

 

「なら謝らないと…」

 

 アイズには先程飛び出していった少年が、話題となった人物であるとわかったようだ。

 戦闘中の彼女からはまるで想像出来ないような、友人と喧嘩別れをしてしまって困っているような年相応の少女がそのにはいた。

 

「なら今度会ったら謝ってやりなよ。今日は俺が行くからさ」

 

「…うん、分かった。お願い」

 

「あいよー」

 

 店の隅で行われていたその会話を、何を勘違いしたのか、吊るされた狼がそちらを睨みながら唸っている。

 猿轡を噛まされているので何を言っているのかさっぱり分からないが。

 

「おやおや、ベートももう少し丸くなれば可能性があるのにね。どう思う、アイズ?」

 

「?」

 

「ハハハ、これはかなり厳しいみたいだな」

 

 何を言っているのか分からずきょとんとした表情をみせる少女に、思わず笑ってしまった。

 今のところベートの恋は成就しそうにないらしい。

 彼はその様子をひとしきり笑いながら、夜の闇に消えていった。




最近部屋にコタツを入れました。
あの吸引力ヤバいっすね。
抜け出せません。



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その17 クラムの珍客道中

どうも、お久しぶりです。暇人です。
その名に反し、最近は忙しい日々をおくっています。
唐突ですが、拙作はこの回をもって終わらせていただきます。
ろくに設定も考えず始めるからこういうことになるんですね、はい。

では主人公視点でどうぞ。


早速件の少年、たしかベル君を追って店を出た俺氏。

光といえば月明かりと周りの家々から漏れる灯りしかないの中、どうやって彼を探すのかといえば、念能力の出番です。

 

円は10m程度しか出来ないのにそんなこと出来んのか、との疑問もあるでしょう。

しかし、今回私が使うのは円ではなく『変幻自在』の方。

この能力で創られた物は、俺が意識して形を維持しなければ消滅してしまいます。

その関係上、俺の創った物がどの方向のどのくらい遠くにあるのかが分かるのです!

あの少年が店から飛び出していった時、裁縫針程度の針を服に刺しておいたので、彼の居場所が分かるというわけですな。

 

とは言っても、円の性質がある訳でもないので、おおよそこの方向にいるなって程度で、細かい距離感とかは全く掴めないんですけどね。

 

「って、俺はいったい誰に説明してんだ」

 

ホントお酒って怖い。ほどほどにしないとなぁ…。

早足で彼がいるであろう方向へ向かっていれば、出来ればもう二度と会いたくない気配が前に立ち塞がっているのを感じた。

 

「…最悪だな」

 

「あら、それは女性に対して出会い頭で言うセリフではないでしょう?」

 

冷たい月明かりの元、現れたのはオラリオの二大派閥の片割れであり、美の女神、フレイヤであった。

当然その傍らには、彼女の従順な眷属である【猛者】オッタルもセットで付いている。

全く嬉しくないセットメニューだ。

 

「またお誘いか?もう散々断っただろ」

 

「えぇ、その通りよ。貴方が首を縦に振るまで何度でも言うわ。

私のモノにならない?」

 

「断る。さっさと帰れ」

 

シッシと手を振るが、フレイヤはむしろ笑みを深めた。

 

「ふふ、私は貴方のそういう強情なところ、好きよ」

 

「全く嬉しくないお言葉ありがとう。

つうかお前が欲しいのは、俺じゃなくて俺の力の方だろうが」

 

大方レアだからコレクションにしたいとかそういう事なんだろう。

全くもって迷惑な話だ。

 

「あら、そんなことは無いわ。

確かに貴方のその力には興味があるのは本当だけれど、意外と貴方の魂も気に入っているのよ?私」

 

「悪いが俺は一ミリもあんたに興味無いからさっさと帰れ」

 

見かけだけは絶世の美女だからタチが悪い。

コイツを見ていると、見かけと中身が比例する女って居ないんだなとつくづく思い知らされる。

あ、ラムさんは別ね。

 

「相変わらずつれない反応ね。

まあだからこそ燃えるのだけれど」

 

…ホントタチ悪いわぁー。

断れば断るほど燃えるとか、マジでどうしろっつーの、コイツ。

でも物理的に黙らせようにも隣の牛くんが睨み効かせてるからなぁ…。

勝てない、とは言わないけど、ぶっちゃけかなり厳しい。

周辺被害一切無視して、刺し違え覚悟でなんとかなるかも、ってレベル。

念能力があっても、やっぱりレベルの差は大きいからね。

しかも向こうの方が冒険者歴長いし。

 

「前々から思ってたんだけどさ、あんたって本当に眷属愛してんの?」

 

「えぇ、勿論よ?」

 

「俺にはどうにも、あんたは眷属を通して、自分自身を愛してるようにしか見えないんだけど」

 

フレイヤの目が少しだけ細く笑みがより深くなり、横のオッタルからは少しだけ殺気が飛んできた。

だが俺は構わず続ける。

 

「あんたは眷属を愛してると言うが、本当のところ、お気に入りの宝物に愛される自分が好きなんじゃないか?

俺はそんな風に思うのだが、どうなんだ?」

 

「面白い意見ね。

でも私は確かに彼らを愛している。それは確かなことよ」

 

「左様か。まあどっちにしろ俺はあんたのモノにはならない」

 

今度こそきっぱりと言いきれば、残念ね。と一言を残し、意外とあっさり彼らは夜の闇に紛れた。

 

「二度と来んな、馬鹿野郎」

 

「君がそんな罵声を言うなんて珍しいね。クラムくん」

 

そんなことを言っていれば、いつの間にか後ろに気配が現れていた。

 

「あぁ、フェルズ。久し振りだね」

 

「そうだね。それにしても君、フレイヤと知り合いだったのかい?」

 

「腐れ縁、ってやつだよ。

それで、フェルズが出てきたってことは、また新しい依頼かな?」

 

フレイヤ相手だと、どうしても口調が素に戻ってしまうのは今後の反省点だろう。

俺もある意味、あの女に心を開いているのかもしれないな。

…自分で言ってて恐ろしくなってきた。この話は止めよう。

 

とまれ、そんな事より目の前の客に意識を向けなければ、どんな約束を取り付けられるか分かったもんじゃない。

平然と無茶な要求してくるからな、この骸骨は。

 

「なにか失礼なことを考えなかったかな?

…まぁいい。そう、仕事の話だ。

『怪物祭』の当日、ある犯罪組織がこの街で動くという情報を掴んだ」

 

「今度は暗殺かな?」

 

前にも、探し物だったり、届け物だったり、場合によっては人を始末する仕事もあったが、今回もその類か?

あんまり後暗い仕事はしたくないんだけどなぁー。

 

「いや、君にはその集団が持っている物の回収をお願いしたい。

現在それの在り処は不明。

だがその日、とある場所へ運び込む予定があることが分かっている。

そこを襲撃し、強奪してくれ」

 

「また犯罪じみた行為をさせるね。

報酬はそれ相応払ってもらうよ?」

 

「無論だ。時間と場所、対象の特徴などは後日連絡する。よろしく頼む」

 

「りょーかい」

 

暗闇に消えて行く影を見送る。

相変わらず突然出てきて仕事吹っ掛けていくやつだよ。

怪物祭、ラムさん誘おうかとも思ってたのに、これじゃあ無理そうだな。

 

っと、そんな事より少年だ!

この方向と距離感からしてダンジョンに潜ってんのか?

あの軽装で?

死にたいのかな?

 

自殺志願者を救うほど物好きではないけど、リューの頼みだし、今回は完全にこちらが悪いのでさっさと行ってさっさと回収しよ。

今日はもう疲れました。

 

◇◆◇

 

結局、ベル君は6階層にいました。

ウォーシャドウの大軍相手に大立ち回りしております。

こうして見ると、結構筋がいいんじゃないだろうか?

まだまだ荒削りだが、こう光るもの?がある気がする。

 

ともあれ、このまま放置すればいずれ力尽きて死んでしまうのは明白。

俺ももう疲れたし、さっさと回収して帰りましょ。

 

「ッ!?誰ですか!?」

 

彼の前に移動して指先から伸ばした刃を一振りしてやれば、敵さんはあっという間に輪切りになってくれる。

最後の一匹を刻んでやってから、兎くんに向き直った。

本当に兎そっくりだな、この子。

 

「初めまして、ベル君…でいいのかな?知り合いの頼みで、君をお迎えに上がったんだけど」

 

「は、はい。僕がベル、ベル・クラネルです」

 

「そう、なら良かった。シルちゃんやリューが心配しててね」

 

そこで冷静になったのか、ハッとしたり赤くなったり青くなったりと百面相の様子の彼を眺めていたが、どうやら落ち着いたらしく、お礼を言われた。

 

「いやいや、こっちこそウチの駄犬がすまなかったね」

 

「あ、いえ…、本当の事ですから」

 

本当のこと、ね。

大分追い込んじゃってるみたいだけど、大丈夫かね?

この焦って強くなろうとする感じ、どこかアイズに似てる。

とはいえ、これ以上雑魚に襲われても面倒なのでさっさと地上へ上がろう。

 

「今日はもう遅いし、一度帰ろうか。君の主神(親)も心配しているだろうから」

 

「…わざわざ来てもらったのに申し訳ないですが、僕はまだ残ります」

 

「何故だい?」

 

「僕は強くなりたいんです!もっと強くならないと…」

 

どうしてこうも俺の周りには戦闘狂が多いのだろうか?

いや誰しも冒険者になるような奴は、こういう面がないと成れないものなのかもしれないが。

 

「ハァ…、そんなに強くなりたい?」

 

「はい!」

 

気絶させてから連れていこうかとも思ったが、ふと付いて口から出たのはそんな言葉。

その言葉の答えは、返事以上に真っ直ぐ俺を見上げる彼の瞳が物語っている。

それは俺に真紅の瞳の中に燃え上がるような決意を幻視させた。

 

だからだろうか?

こんなお節介なことを言ってしまったのは。

 

「なら俺が鍛えてあげようか?」

 

「え、いいんですか!?」

 

焼きが回る、というのだったか。

俺はどうやらこの子を随分気に入ってしまったらしい。

 

「俺はクラム・アルベルト。

クラムでいい。君は?」

 

「僕はベル・クラネルです!

よろしくお願いします、クラムさん!」

 

その少年の笑顔に俺の汚れた心が洗われるようだ。

念は無理だが、我流っぽいし戦闘の基礎くらいは教えてやろうか。

 

その後、突然気絶した彼にメチャクチャ焦らされた。




今回で終わりとなるこの話で、なんでこんなに続く風なのかと言われれば、実際のところ続きは幾らか書き溜めてあるんです。
ならそれ出しゃいいじゃん、という話なんですがそれでも結局未完になるのは変わらないのですよ。
最初の適当な設定が今後の展開を大きく妨げましてね、書いても書いても矛盾点が出てきて、ついに折れました。
まあ作者が飽き性な性格なことも要因の一つですが。

という訳で最終回でした。更新はほぼ有り得ません。
楽しみにされていた方(たぶん居ないだろうが)申し訳ありません。
誤字報告して下さった方や感想くださった方ありがとうございましたー


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