紅魔館に拾われた少年はゆっくり暮らしたい (ユキノス)
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紅い悪魔の郷
プロローグ:紅霧異変


初めての人は初めまして、そうでない人はこんにちは、ユキノスです。
前から書きたかった東方小説。実はこれ、カセキホリダーの小説書いてる途中に閃いてこちらに変わりました。
…さておき、俺は原作をやった事が無いので、スペカは調べたり調べたり調べたりして書きます。
Q.つまり?
A.ナメクジになります。

ではどうぞ!


「はぁぁぁぁ……ったく、レミィも無茶言うなぁ……」

「そんな事言わないの霊夜(りょうや)。貴方の案でしょう?」

「でもよぉ咲夜ぁ……」

「……まぁ、分からなくもないけどね」

 

 ここの主は狂喜しそうな真っ赤に染まった空の下、紅い館の中で、俺は今とっっっても憂鬱だった。話は数ヶ月前に遡り――――

 

 

 

「――折角だもの、大きな異変を起こさなきゃでしょ? ついでに、私達の存在を知らしめるのよ!」

「それについては賛成ね。でもレミィ、異変って言っても何をするの?」

「あらパチェったら、決まってるじゃない。普及の為よ」

 

 つまり、スペルカードルールなる制度が出来たので、紅魔館には最初の、解決前提の異変を起こしてほしいとの事らしい。因みに内容はこちらの自由。つまり…

 

「八百長異変、って事か?」

「ええ、普及の為だからね。……で、夜な夜な人間を吸血鬼に――」

「「……ちょっと待った(待って)」」

 

 パチェと被ってしまったので、手振りで「お先にどうぞ」と伝える。「ありがとう」と呟いてにこりと微笑するパチェには、普段の気だるげな印象など微塵も感じられない、正真正銘慈愛の笑みが浮かんでいる。……使い魔であるこあには、あまり向けられる事が無いらしいけど。

 

「レミィ、それを実行したとして…そのルールって殺人禁止でしょ? そもそもそれと似たような事起こして酷くやられたわよねぇ…?」

「あ、それは私も思いました」

 

 パチェと美鈴の発言に、うんうん、とレミィ(と、その時紅魔館に居なかった俺と咲夜)を除く全員が頷き、これは無理だと伝える――が。流石はレミィ、ただでは起きなかった。

 

「えぇー、良いと思ったのに……じゃあ霊夜、何か良い案出しなさい」

「はぁ!? なんで俺が……」

 

 紅魔館で暮らしてもう10季、レミィの無茶ぶりにも馴れてしまったので特に慌てる事は無い。面倒臭いけど。要するに条件は、

 ①紅魔館の仕業と一目で分かる

 ②人里に無害である

 の2つだけ。だがだからと言って、即座には浮かばない。

 

「んーむ……何か良い案、ねぇ……」

 

 ちらり、と紅魔館の前、つまり霧の湖が脳裏に浮かぶ。いつも霧がかっていて、端から端は見通せないので、霧は……悪くないんだけど、レミィは目立ちたがり屋だからなぁ……

 

「……あ」

「浮かんだ?」

「うん、まぁ……でも、ちょっと地味だと思う…」

「とりあえず言ってみなさい」

 

 その一声で、この場に居る全員が俺に向き直った。緊張するんで普通にしてて頼むから。

 

「えー……まず霧の湖、あるよな?」

「ええ、あるわね」

「……あそこって、いつも霧がかかってるよな?」

「ええ、かかってる。でも、それがどうしたって言うのよ」

「だから、それと似たような事を幻想郷全体に…」

「地味ね、却下」

「食い気味ですかそうですか」

「あら、私は良いと思ったけど」

「えぇー…」

 

 不満そうに頬を膨らまし、ジト目で見られていても全く気にせず──と言うか馴れただけみたいだが──、パチェは俺の意見に付け足して、「霧を紅くすれば良いじゃない。霧は日光も遮られるし、真紅(スカーレット)の名も通るわよ」と言った。なるほどその案は無かった。

 

「それ、良いじゃない……最高よパチェ! ついでに霊夜も!」

 

 俺はついでかよ。と思った矢先、隣でドスッという鈍い音がした。うん、レミィとしては抱きついただけみたいだ。……いや、パチェ死にそうなんだけど。

 

「んむ゛っ、けほっけほっこほっ……」

「こあ、薬頼む!」

「はいっ、分かりましたー!」

 

 レミィは友が喘息持ちだと知ってて、思いきり抱きついているのだろうか。だとしたら相当な嗜虐趣味の――

 

「何か失礼な事考えてない? 霊夜」

「アハハマッサカ-ソンナコトカンガエテナイデスヨ-だからそのナイフ納めてください咲夜さんお願いします……」

「全く……」

 

 た、助かった……。とりあえずほっと一息。……うん、今日もお茶が美味い。

 

「……こほん。さぁ、準備が終わったら――紅霧異変の始まりよ!」

「あ、今始めんの?」

「善は急げ、ってね」

 

 ***

 

「──まさか本当にやるとは…」

「思わなかったわね。あら、あれが博麗の巫女?」

「え、どれどれ…あー、チルノの奴無謀にも挑んでる──っとお!?」

「へっへーん、どけどけー!」

「あっ、にゃろ!」

 

 箒に乗った金髪で白黒の魔法使い(かは分からないが)を追い掛ける為に飛び、咲夜を見るとやれやれと言いたげな呆れ顔で手を振ってきた。それに笑顔で返し、白黒を追う。この方向は――ヴワル魔法図書館。

 

(まずい…っ!)

 

 こあは戦闘には向かないし、パチェはこの霧を発生させる為に忙しい。ならば、尚の事急がなくては。




霊夢と戦うと思った?残念!魔理沙でした!
因みに霊夜がタメ語で話しているのは、仕えている訳ではないからです。服装やら能力は考えてありますが、まだ秘密。

ではまた次回。


キャラクターメモ

新月(にいづき) 霊夜(りょうや)

種族:人間
年齢(紅霧異変時):15歳
能力:不明
説明:肉親に捨てられ、慧音に拾われたが飛び出し、その後紅魔館に食糧として拾われたという幼少期を送った、この小説の主人公。
たまに女性と間違えられる程に女顔。
魔力を持っていて、パチュリーに魔法を、美鈴に武術と体術を教わっている。実は人見知り。


十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)

種族:人間
年齢(紅霧異変時):不明(10~20歳?)
能力:時間を操る程度の能力
説明:毎度お馴染み、紅魔館のメイド長。完璧なのかと思いきや、リリーホワイトを瓶詰めしようとしたりレミリアに変な味の紅茶を飲ませたりと、割と天然入っている。
彼女が来るまでのメイドは美鈴だった(その間門番は居なかった)が、短い期間で膨大な量の仕事を覚えていったので、メイド長を引き継いだ。また、妖精メイドに《班》の制度を作ったのは彼女で、それが妖精メイドの動きを格段に良くした。
霊夜より少し後に紅魔館に来たが、馴染むのは仕事上咲夜の方が先だった。霊夜が小悪魔に可愛がられている様に、咲夜は美鈴に可愛がられている――が、霊夜と違って最近は少し嫌がっている。
ナイフ投げは元々得意だった。誰かに恨みでも持っていたんだろうか?


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新月と流星

こんにちは、ユキノスです。
時間掛けまくった割に超短いって何だ…。
弾幕ごっこ…結構書きにくい…(;ω; )
ではどうぞ。


 バァン!と勢い良く図書館の扉が開いた。そこにするりと白黒が中に入っていくのを見た俺は更に加速し――

 

「待てこの…!」

「しつこいなおま…わぁぁ!? っちゃっちゃっ、あっつ!」

 

 白黒の箒を掴んで、床に焦げた痕を残しながら強引に止まった。凄まじいスピードで飛んでいた白黒は、当然ながら前に吹っ飛び、背中から床に着地…もとい激突した。わー、痛そー(棒)。

 

「いって~…何するんだお前!」

「何するんだお前、はこっちの台詞だ馬鹿野郎。お前は、人の家には窓ガラスを割って入れと親に習っ――」

「そのお前ってのやめろ。私には霧雨魔理沙と言う立派な名前が」

「あーあー聞いてない。そんなに名前で呼んでほしければ帰れ。そしたら名前で呼んでやるよ、()()()()()

「な、ん、だ、とぉ……!? ふざけんな! 私は霊夢より早く、異変を解決するんだ!」

「そうか、そいつは良かった。でも俺には関係無いんだ、ほら帰れ」

 

 問答無用と心の中で呟いて、白黒改め魔理沙を引き摺って図書館を出る。 あまり暴れると、またパチェの発作が出てしまうから、が7割程。残りの3割は、目一杯暴れ回りたいから。

 

「お、おいどこまで連れて――うぎゃっ」

「さっさと飛べ、勝てばお前の好きにしろ。負けたら大人しく帰ってもらうがな」

「こん、のぉ……っ、馬鹿にしやがって!」

 

 そう言って、魔理沙は3枚、俺は2枚のスペルカードを取り出す。しかし、今の言葉のどこに馬鹿にする要素があったんだ?と思わずにはいられなかった。後々パチェに呆れられたが。

 

 ―*―*―*―*―*―*―*

 

 ――さて、あっちは霊夜に任せた。 でも、正直こっちの方が面倒なのは確か。……はぁ。

 

「白黒の泥棒猫の次は博麗の巫女、ね……」

「はぁ……魔理沙ったら何やってんのかしら……」

 

 博麗の巫女とは敵同士で、なおかつ初対面の筈なのに、お互いが自分の相方(?)に呆れていた。そして、それに同情もしていた。

 

「大丈夫よ、修理費はあの子に請求するわ」

「……そ、なら目一杯暴れても――」

「あら、窓ガラス以外は貴女に請求しようかしら?」

「ぐっ…流石にそれはごめんだわ! やっぱりアンタは退治する!」

「あらそう? それじゃ遠慮なく」

 

 博麗の巫女は御札を、私はナイフを投げ、それぞれが避ける。 そこから距離を縮めてきたのは、博麗の巫女(向こう)だった。

 

「なっ…!」

「博麗の巫女を…嘗めるな!」

「くっ…」

 

 勢い良く繰り出された回し蹴り。 そこから接近戦―と言うか肉弾戦になり、徐々に後退させられる。 私は筋力型ではないので、霊夜や美鈴の様にはいかないのだ。

 

「…っ!」

 

 巫女の拳が頬を掠めたと同時に、私は時間を止めて大きく後退した。数秒後、それが罠だと悟った。

 

「っ……動、け、ない……!?」

「足元見なさい、足元」

 

 下を向いた私の目に映ったのは、博麗の巫女が先程投げた御札だった。

 

(まさか…結界を…!)

「それじゃ、私は行かせてもらうわ」

 

 そう言ってスタスタと歩いていく博麗の巫女を、私はただ見ている事しか出来なかった。

 

 ―*―*―*―*―*―*―*

 

「くっ……そ…!」

 

 細く小さいが、その分かなり速い。 そんな弾幕に、私は防戦一方だった。 既に残りはあと1枚─マスタースパークだけだが、向こうは1枚も使っていない。 このままだと……霊夢(アイツ)に、負け──

 

「おいおい、そんな腕で異変解決か?」

「ンだとぉ……!?」

 

 挑発の言葉に、頭の芯がかあっと熱くなる。 …この男、一々私の癪に触る。

 

「そろそろ仕掛けさせてもらう。 ──月符『新月の舞踏会』」

 

 針型の弾幕が真ん中を向いて複数の円を作り、中央で交差して外側へ向かう。 そしてまた円を作り……なるほど、確かにこりゃあ踊ってるみたいだ。 だが、通常弾幕よりも避けやすい。

 

「おいおーい、こんなもんかぁ? 通常弾幕の方が手強かったぜー?」

「まあ、だろうな」

「は?」

「……さて、そろそろ()()()()()()()()

 

 そう言うと全ての弾幕が消えた。 曲が、変わる?それってつまり……

 

「おわぁ!?」

 

 先程の動きとは打って変わって、弾幕は激しく速く動き出す。 更に避けづらくなった弾幕が数回掠った所で、漸くスペル終了だ。

 

「くそっ……あっ、ぶな……」

「へえ……避け切ったか」

 

 ―*―*―*―*―*―*―*

 

 正直、内心驚いていた。 そこそこ密度のある弾幕だった筈だが、避けられたからである。

 

「っ、と!まず……」

 

 油断した、と思った時には、魔理沙のレーザーが直撃していた。

 

 ──慢心は失敗を産む、ってか。

 

 その言葉を最後に、俺は意識を手放した。




紅霧異変における霊夜の出番は一応終わりです。あとは美鈴や咲夜やらの手当てぐらいですかね……多分。
ではまた次回。


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こあはやっぱり小悪魔でした

こんにちは、ユキノスです。今回は事後談的な事後談です(意味不明)。
前回、咲夜や美鈴の手当てをすると言ったな?あれは嘘になった。いやほんとすいません。こあが思った以上にぐいぐい来たんです。
それではどうぞ。


瞼を持ち上げると、混濁した視界に、赤と黒、そして少しの白が映る。 ……誰?

 

「ん……う……? わ、っと」

「わあぁ、まだ寝ててください!」

「……そうする、頭がくらくらするし」

「もう……」

 

あれからどれだけ経ったのかは分からないが、目は覚めた。 だが場所が明らかに違っている。 小悪魔ことこあが居る、という事は……

 

「図書館……か」

「そうですよ~。 外に出てすぐそこで倒れてたからびっくりしちゃいました」

「そっか……ありがとな」

「いえいえ、お気になさらず。 ──霊夜君の寝顔も拝めたんですし、ね?」

 

こあには何故か昔から可愛がられていて、それは今でも変わらない。 レミィにはあまり興味が無い様だが、まぁそれはパチェに召還されたから仕方無いか。 と割り切って、素直に寝ている事に──って、ちょっと待った。 美鈴と咲夜とパチェは?

 

「こあ、俺以外は大丈夫なのか?」

「パチュリー様は、霊夜君のお陰で大丈夫です。 咲夜さんはまぁ……結界に動きを封じられてただけでした。 ただ美鈴が……」

「怪我でもしたのか?」

「いえ、怪我はすぐ治ったんですが…その………また寝てるんですよ、門で」

「……まあ、何事も無くて何よりだよ」

 

美鈴はどんだけ寝てんだよ。 刺されたいのかあいつは。 と心の中で呟いたが、話を聞く限り、まだレミィはやられていないか、ただ報告を受けていないだけらしい。

 

「ふわ、ぁ……眠くなってきた……」

「ふふ、お姉ちゃんが久しぶりに膝枕してあげましょうか?」

「そりゃまた懐かしい呼び名だな……じゃあ、久々に頼もうかな。 ()()()()()?」

 

クスッと笑い、一度俺を起こして──ソファに寝かされていたからだ──こあが座り、その膝の上に頭を乗せる。 後頭部に柔らかな感触が伝わり、俺はそっと瞼を閉じた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「むきゅう…こあー、紅茶入れてちょうだ……あら、寝てるの?」

「あ、パチュリー様……そうなんです、さっきまで気絶してて……起きたんですが、まだ頭がクラクラすると」

「……服が一部焦げてるだけだから、熱を発生させるもの……となると、光が原因かもしれないわね。威力も高いみたい」

「ええっ、また一人で無茶してたんですか?駄目だって言ってるのに……」

 

めっ、と霊夜の頬をつつくこあを見て、私は未だに霊夜を可愛がっているのは何故なんだろう……と考えていた。 考察を重ねていく毎に、1つの《可能性》が浮かび上がって――

 

「ねぇこあ、貴女が霊夜を可愛がり始めたのって…」

「やだなぁパチュリー様、そんなの決まってるじゃないですかぁ」

 

クスクスと心底楽しそうに笑いながら、こあは悪魔の様な──と言うか実際悪魔なのだが―事をさらりと言った。

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()ですよ」

「こあ、貴女っ…」

「大丈夫です、食べようだなんて思ってませんよ。 食べたら食べたで後が大変ですし」

 

ぱたぱたと頭に生えている羽を動かしながら言ったこあの台詞には、傍から見ても嘘偽りは感じられなかった。

 

「……そう、なら良かったわ」

「それに──霊夜君は、殺伐としてた紅魔館(ここ)の空気も変えてくれましたから」

「ええ。 まあ、吸血鬼(レミィが起こした)異変でピリピリしてたからね……」

 

その後すっかり和んでしまった2人を、博麗の巫女にボコボコにされたレミリアが糾弾し、霊夜に宥められたのは別の話。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「おーい咲夜ー、この木材で良かったかー?」

「ええそれよー、運んできてー」

「あいよー」

 

異変が解決されてから3日。 こう言ってはなんだが《超》動きが悪い妖精メイド達の仕事──木材を散らかしたり、ふざけ合ったりしているのを仕事と言うのなら、だが──を見ていて、流石にこれじゃあ終わらないと思った俺は、やっぱり眠っていた美鈴を叩き起こして、紅魔館の修復作業に当たっていた。 ……しかし美鈴のパワー凄いな。 あんな持ち方出来ないんだけど。

 

「よっと……あれ、ペンキ乾くの早くね?」

「塗ったペンキの時間を速めてるからね」

「なるほどなぁ……そんな使い方出来んのか」

 

呟きながら、腰からハンマーを取り出して釘を口にくわえ、屋根の木材を打ち付け始める。 こうでもしないと、正直時間が足りないのだ。

 

「そう言えば……どうやって美鈴を起こしたの?私はナイフを刺すけど」

「ああ、それなら簡単さ。美鈴なら、能力で人の『気』を感じ取れるだろ?」

「? ええ……」

「だから『殺意』を出したら物凄い情けない悲鳴と共に起きた」

「……具体的には?」

「裏返った声で『ひにえぇ!?』って」

「それは面白そうね、今度やってみようかしら」

「やるなら稀にやるぐらいにしとけよ? 泣きそうになってたからトラウシかもしれない」

「トラウマね」

「アッハイ、スイマセン」

「──それはそうと、もう少し早く釘打ち出来ない?」

「両手で持つか、小刻みにやれば。 打つだけならその方が早い」

「なら却下ね。 安全性を求めましょう」

 

咲夜も『最近掃除用具よりも大工道具を握ってる時間の方が多い気がするわ』と愚痴っていたし、さっさと終わらせてしまおう。 と考えていた俺も、ペンキ塗りに集中していた咲夜も、下からレミリアが飛んできた事には気付けなかった。

 

「ねぇ、2人とも」

「うぉっ、びっくりした……どうした? レミィ」

「どうされましたか? お嬢様」

「いやね、異変も終わったのだし、宴会でもしましょうよと思って」

「えぇー……それって解決した側がやるだろ普通……」

「普通はね。 でも、(しがらみ)は無くしておきたいじゃない?」

「まあそりゃそうか。 で、勿論話は通して──」

「ないわよ」

「ねえのかよ! 通してから言え馬鹿野郎!」

「では、私が通してきます」

「頼んだわよー」

 

ぺこりと会釈して消える咲夜と、どこまでも身勝手なレミィ。 もう勝手にしてくれと叫びたかった。




こあは霊夜大好きです。何だかんだ言って、霊夜はこあに一番懐いていたり。次点にパッチェさん&美鈴、咲夜、レミリア、って感じに。フランにはまだ会ってません(ほぼネタバレ)。
ではまた次回。


キャラクターメモ

小悪魔(こあくま)

種族:悪魔
年齢(紅霧異変時):不明
能力:不明
説明:昔召喚された、パチュリーの使い魔。戦闘能力はほぼ持っていないが、本の整理は大得意。
紅霧異変以前から、霊夜を弟の様に可愛がっている。
パチュリーには使い魔として、霊夜には姉として接しているが、紅魔館そのものの主であるレミリアにはあまり興味を示していない。だが、フランや咲夜は可愛がっている。美鈴とはあまり接する機会が無い。
普段ニコニコしているが、その裏で何を考えているか分からない性格。


パチュリー・ノーレッジ

種族:魔法使い(魔女)
年齢(紅霧異変時):100歳程
能力:火水木金土日月を操る程度の能力・魔法を使う程度の能力(主に属性魔法)
説明:喘息持ちのもやしっ子。魔法使いとしての実力は高いが、喘息のせいで詠唱が出来ない事が多い。ヴワル魔法図書館に籠ってひたすら研究と読書に明け暮れる日々(因みに、霊夜はこれが喘息を酷くしているんじゃないかと思っている)。
読書をする時、霊夜に魔法を教える時は眼鏡を掛けている。度はそこそこあるらしい。
魔理沙の本泥棒には閉口しているが、きちんと許可さえ取れば(そして了承すれば)、返してくれるのなら数札は借りても良いと思っている。


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宴会:前準備

こんにちは、ユキノスです。今回から暫く、紅魔館修理はお休み。何故かって?宴会ですからね仕方無いね。
ではどうぞ。


さてあれからしばらくして、屋根の補修も少しは進んだ頃。 咲夜が帰ってきて、見てるだけで特に何もしていなかったレミィに対して報告していた。 近くで補修していたので聞こえたが、OKを()()()らしい。 因みに今は、休憩という事で図書館に居る。

 

「……OK出したってお前なぁ」

「ふっ……私の能力に係ればこんなもんよ」

「今代の巫女はあらゆる物事から『浮く』事が出来る筈だけどなぁ……」

「うっ……」

「はいはい、あんまりいじめないの」

「はーい」

「うー、パチェと私で対応の差が酷い…主としての威厳が……」

 

まあ、とりあえずレミィはほっとくとして、恐らく無理に決めたんだろう。 ……用意や片付けは手伝うとするか。 流石に。

 

「で、誰が行くんだ? 全員か?」

「行くのは……私、パチェ、咲夜、中国、小悪魔ね」

「? 全員じゃんか」

「……いえ、居るのよ。あと、1人」

「……?」

 

何やら真剣な顔で「まあ座って」と、それもパチェに言われては事は最低限小さくない。 黙って椅子に座ると、レミィが少しだけ暗い顔をした。 ……レミィ関係か。

 

「実はね、霊夜……私には妹が居るの」

「え、何それ聞いてない」

「言ってないもの。……フランドール・スカーレット、って名前なのだけれど、今は訳あって幽閉しているのよ」

「……は? 幽閉『している』? なんでだよ」

「あの子は、昔……私が殺されそうだった所を助けてくれたの」

 

それのどこに問題があるんだ、と言おうとした。 事実、「それ」までは口に出していた。 だが咄嗟に美鈴が口を抑えたので、それ以上は言えなかった―が、美鈴の顔も暗かった。恐らく、その原因となる事を見たのだろう。

 

「あの子は、力を──『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』を使って、襲ってくる吸血鬼達を根絶やしにした。 でも、全てが終わって、こちらを向いたフランの顔は……愉悦に浸っていた。 だから、精神状態が不安定だと判断して、………地下室に、閉じ込めた」

 

俯き、膝の上で握った拳を震わせるレミィは、見ていてどこか痛々しかった。 ……恐らく、苦渋の決断だったのだろう。

 

「──レミィ、それって……何年前の話だ?」

「そうね……中国が来てからすぐ、だから……495年前になるのかしら」

「……よ、4……!? 嘘だろ、そんなに長く閉じ込めてたら……精神状態不安定でも、どうにか──」

「霊夜」

「っ……ごめん、言い過ぎた」

 

約500年。その年月を体験出来ない人の身としてはどうにも言えないが、それが途方も無く長い事だけは分かった。

 

「……ひとまず、フランドールの件は保留としよう。彼女には悪いが……宴会を楽しもうぜ」

「……そう、ね」

「じゃあ、俺は用意でも手伝ってくる」

 

何となく居づらくなってしまったので、申し訳ないけど離脱。

因みに図書室から地下に繋がる扉─確かめた事は無いけど、多分そこだ─は前に開けようとした所、パチェに「開けたら私が分かるからね?」と笑顔で言われた。そりゃもう、天使の微笑みで。

 

「ええと、博麗神社は……向こうだったな。 ……にしても、フランドールか」

 

扉を閉め、空へ駆ける。 何やらルーミア、チルノ、大妖精の3人が遊んでいるが……まあ、後で呼ぶか。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

暫く飛ぶと、ゴザやら何やら敷いている巫女が居た。十中八九、博麗の巫女だろう。

 

「失礼するぞ、博麗の巫女さん」

「はいはい、なんか呼んだ? ああ因みに、素敵なお賽銭箱はそこよ」

「……第一声が賽銭の要求とはたまげた」

「うっさいわね、そんだけ参拝客が来ないのよ」

「まあ、立地が立地だからなぁ……」

 

ところでこの巫女、腋が開いた不思議な巫女服を着ている。 袖とかどうやって浮いてるんだろう。 気になる。

 

「……で、何か用? 私今忙しいんだけど」

「ああいや、宴会の準備を手伝おうと思って」

「あのメイドから宴会やろうってグイグイ言われてOKしちゃっただけなんだけど、なんで知ってるのよ?」

「え、まあ……一応紅魔館の住人だから。 正確に言うと居候だけど」

「──アンタ、人間よね? 名前は?」

「新月霊夜、ただの人間。 そっちは?」

「博麗霊夢よ」

「霊夢…ああ、白黒が何やら『霊夢より先に異変を解決するんだ!』みたいな事言ってたな。 博麗の巫女の事言ってたのか」

「……あの子らしいわ。 アンタはゴザ敷いといて。 私は料理でも作っとく」

「ああ、頼んだ」

 

んー……風の影響で飛びそうだな。 石でも置いとくか。 えーと、手頃なのは、と……

 

「よっ……と、おお……」

「お?霊夜じゃないか」

「出たな白黒」

「親の敵みたいに言わないでくれ」

「冗談だ、手伝え」

「ちぇー……宴会だって聞いたから来たのに手伝いとはついてないぜ」

「働かざる者食うべからず、ってな。何もしない奴は何も食う権利は無いって訳だ」

「んなっ…!?」

 

いや、そんな事言ったら紅魔館の皆(と呼ぶ予定のちびっこ3人)は何も食えないな。 後で働くんだと説明しとくか……いや、働いた後の飯は美味いとよく聞くからそっちにしとこう。 うん。

 

「ほら、そっち持て」

「へーい……」

「あっ馬鹿、片手でやったら……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

外から霊夜とは違う、聞き慣れた声が聞こえる。 魔理沙である事は疑いようもないけれど、まさか手伝わせるとは露ほども思ってなかった。

 

「……さて、何にしようかしらねぇ……やっぱり大人数なんだし、鍋でいいや。 季節外れだけど」

 

えーと、と呟きながら貯蓄を確認すると……あら、結構あった。 紫の奴、案外気が利くじゃない。

 

「……紅魔館の住人、か」

 

考えてみると、結構恐ろしい。 霊夜は人間だ、と言ったけど―――何故、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか。 その場合半妖である場合が多いんだけど、霊夜は見た目純粋な人間だし、それにあの妖力は()()()()()()()()()()()。 要するに、あの妖力は外部から手に入れた力。

魔力は馴染んでいるから昔から持っていたのだろうけど……歪にも程がある。

 

「はぁっ……全く、ゾッとしないわ」

 

これから起きるであろう面倒事を想像しただけで、溜め息が出た。




霊夢は霊夜の秘密にちょっとだけ触れたみたいなもんです…が、勘の良い方はもう分かっちゃうんじゃないですかね?ネタバレは禁止ですよ皆さん。
ではまた。


キャラクターメモ

レミリア・スカーレット

種族:妖怪(吸血鬼)
年齢(紅霧異変時):500歳
能力:運命を操る程度の能力
説明:背は小さいが強力な妖力と魔力を持った、紅魔館の主。カリスマ性は、気を抜くとすぐにブレイクしてしまう程に低い。
最初に霊夜を見た時、その運命も含めて面白い物を見た、という理由から紅魔館での居住を許可した心の広い主で、霊夜はこれに溢れんばかりの感謝をしている。
吸血鬼異変後、結界に覆われていた紅魔館に必要な物資を紫に持ってきてもらう様に頼んでいたり、その後も様々な書類を整理したり財政管理をしたりと毎日多忙な生活を送っている。出番が少ないのはそのせい。


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宴会前:ちびっことの触れ合い

こんにちは、今話の投稿日が領域診断テストのユキノスです。
今回はちびっこ3人との触れ合い(?)です。ロリコンじゃないですからね?
ではどうぞ。


「よっ、3人とも。 少しだけ久しぶり」

「おー、霊夜なのだー」

「こんにちは、霊夜君」

「よく来たわね! あたいの子分になる覚悟は出来た!? 」

「ならないって何度言わせんだよ。 多分無限に言いそうだけど」

 

ふわふわした雰囲気のルーミア、大人しいけどしっかり者の大妖精、何かと凍らすチルノの3人とは、幼い頃──それこそ紅魔館に拾われる前からよく遊んでいたので、少し説明すれば(チルノ以外は)分かってくれる。 そこ、遊んでたの関係無いって言わない。

 

「──って訳なんだ。 夕方からだぞ」

「分かりました、皆と来ますね」

「宴会なのだー、チルノちゃんも来るのだー」

「ふふん、あたいが行くからには覚悟しなさい!」

「火でも起こしてやろうか?」

「あたい死んじゃう!」

「冗談だ、安心しろ」

 

チルノも、威張っていなければ可愛いものだ。 ひんやりしてるから冬はかなりキツいが。

 

「あ、門番さんまた寝てるのだー」

「……またか」

 

相変わらず幸せそうな寝顔で寝ている美鈴を見ていると、何故か……

 

「……眠くなってきた」

「ふわ…私もです(わらひもれひゅ)…」

 

思えば、最近は朝早くから紅魔館の修理に追われていたので寝不足気味だ。 ここで眠るぐらい良いだろう。

 

「わぁっ……どうしたんですか?」

「いや、どうせなら美鈴の隣で寝ようと思って」

「あ、いえ……そっちじゃなくて……あの……」

 

俺は現在、大妖精をお姫様抱っこしている状態だ。 ……なるほど、それで赤面してるのか。 同じ寝床に居たというのに何を──いや、それとは少し違うかな。

 

「嫌だったか?」

「いえ、そんな事は……ただ」

「ただ?」

「……霊夜君、おっきくなったなぁ、って」

「うん、まあな。 2人も昼寝するか?」

「するのだー」

「するする!」

 

おぉう、元気が良い事で。 まだ日は高いし、昼寝には十分な時間が取れるだろう。 夜眠れなくなる? そんなもん知らん。

 

「……美鈴。 めーえーりーんー」

「んうぁ? あ、お早うございます……」

「ちょっと体育座りしてほしいなー」

「……へ?」

「いーからいーから。 枕にしたい」

「絶対咲夜さんに怒られますって……」

 

じゃあ何故寝てたし。 立ってたら許されるのか? ……んな訳ないよな。 今まで立って寝てナイフ刺されてんだからな。

 

「だーいじょうぶ、俺が責任取る」

「……絶対ですよ?」

 

ちょろいな。責任取るのは本当だが。 まぁとにかく、体育座りしてくれたし寝るとしよう。

 

「お休み」

「お休みなさい…」

「お休みなのだー」

体育座りしている美鈴を中心に、左右に俺とルーミア、前(と言うか足)に寄り掛かって寝ているのがチルノ、そして俺に寄り掛かって大妖精。 中々見ないぞこの構図。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

……美鈴が、また寝てる気がする。 そんなに勘が当たる方ではないけど、この勘だけはよく当たるのだ。

 

という訳で。

 

「美鈴何して…あら?」

 

目に飛び込んできたのは、美鈴を中心として眠っている霊夜&ちびっ子3人組だった。 ……中々見ない構図ではある。

 

「ふふっ、……よく寝てるわ」

 

起こす時を除いて、霊夜が寝ているのはあまり見ない。 昔からツンツンした性格だった、という事もあり、悪戯してみる事にした。

 

「……えいっ」

「んむゅ……んぅ〜」

 

この頬はなんだろうか。 ふにふにしてて、ずっと触っていても飽きない感触。 15歳の男にしては柔らか過ぎるぐらいだった。

 

「あら、案外可愛い声出すのね?」

「……うるさいなぁ、ほっといてくれ」

「〜〜〜!? ……お、起きてたの?」

「お陰様で起こされましたぁ、今とっても眠いですぅ」

「──ねえ、今更なんだけど」

「……ん?」

「貴方の髪と目、()()()()()()?」

「……さぁ、どうだろ。 俺がくたばるまでに当ててみてくれよ」

「はぁ……分かったわよ、出来ればね」

 

カラカラと笑う霊夜に、私は溜め息をついて返すしか無かった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「霊夜、霊夜」

「ん……咲夜?」

「起きなさい、夕方よ」

「もうちょっと……あと5分……」

「宴会があるでしょう?」

「……分かったよ、起きるよ」

 

どうやら、思ったより熟睡していた様だ。 西を見れば、もう太陽が沈みかけている。 今頃神社では、霊夢達がイラついている事だろう。 静かに寝ているちびっこ達の頬をつついて起こし、神社へ向かう。 ……美鈴はもうほっとく。 起きないし。

「おーい大妖精ー」

「ふにゅ……んん、むにゃ……」

「そろそろ行くぞー?」

「んぅ……ふぁい……」

まだ眠そうだが、流石に寝たまま宴会はつまらないだろう。 それを宴会と呼ぶのかは別だが。

 

「ん、おはよう。さて後は……チルノー、ルーミアー」

「うぅ……あたいまだ眠い……」

「おはよーなのだー」

 

ルーミアの目覚めが意外に良かった件について。 寝惚けて噛まれそう、もとい喰われそうだったんだが。 まあ安全に越した事は無い。

 

「起きたか。 夕方だからもう行くぞ」

「「「はーい」」」

「うむ、元気でよろしい」

 

それとほぼ同時に、美鈴がぎゃー!という声と共に目覚めた。思わず肩を跳ね上げたが、どうせ咲夜が美鈴の米神でもグリグリしてるのだろう。咲夜は、身内以外が見ている時は決してナイフを使わない。

 

「さ、行くわよ霊夜」

「おう、悪いな待たせて。 ……んじゃ、行きますか」

「ええ」

 

全員で同時に飛び立ち、一行は博麗神社へと向かった。




大妖精可愛い(断言)。…さて、次回はいよいよ宴会です。皆さん杯の準備はしましたか?←おいこら
ではまた次回。


キャラクターメモ

大妖精(だいようせい)

種族:妖精
年齢(紅霧異変時):不明
能力:不明(テレポート等多彩な事が出来る)
説明:妖精の中では偉い(らしい)が、単純な実力ならチルノの方が上。頭脳は彼女に軍配が上がる。可愛い。
割と臆病だが、妖精らしく陽気で悪戯好き。霊夜を寝た振りで驚かそうとした事もある。可愛い。他にも色々やっている(意味深)
何気に霊夜のお気に入り。頬はぷにぷにと柔らかい(霊夜談)。可愛い。


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宴会:飲めや歌えや

こんにちは、ユキノスです。やっと宴会突入です、やっと。誰だよこんなに長く待たせたの。俺だわ。
…因みにこれ、前回の独足少年話を投稿してからノータイムで書き始めてます。その割には遅いって?プロット無いからね仕方無いね。
ではどうぞ。


「よっ、約束通りもっかい来たぞー」

「あら、約束通りお賽銭は持って来てくれたかしら?」

 

にっこり、と音がしそうな程に素敵な笑み――なのだが、笑みの目的が賽銭な辺りがどうにも残念だ。 あぁその賽銭だが、ちびっこと遊ぶ―と言うか昼寝する前に俺個人の方から持ってきたのでご安心を。

 

「ほい、ちょいと少ないかもしれないけど」

「あら、そこそこあるじゃない」

「迷惑料も含めている、と思ってほしいかな」

「………ああ、なるほどね」

 

因みにこの迷惑料には、異変の分と宴会の分どちらも入っている。 ……ったくあの主従(レミィと咲夜)、この分はしっかりと取り立てるからな……いや、レミィのは頼まれた事だから要らなかったのか? と言うかそもそも俺が勝手にしてる事だから取り立てられねえわ。 駄目じゃん。

 

「さ、あんたも楽しんできなさい。 ……の前に、お酒飲めるの?」

「……あー、まぁ……。 強くはない」

 

1度だけ、ワインセラーのワインを隠れて飲んでみた事はある。 しかしそれは、咲夜が作った中でもかなり初期の失敗作(もの)(と言うのは後に知った)で、アルコールはかなり強かった為、一口煽っただけで目を回してしまったのだ。 勿論酔っていた時の記憶は綺麗さっぱり無く、翌日は二日酔いで気分が悪かったので、あまり良い思い出は無い。

 

「そんな霊夜にはこいつが良いぜ。ほらよ」

「お前なぁ……」

 

カラカラと笑いながら魔理沙が杯と共に渡してきたのは、なんと真水。馬鹿にするにも限度がある。

 

「……ま、今回ばかりは抑えとくか。ところでこれは、残ってる酒を取ってけって感じ?」

「そうね、大体そんなもんよ。 私はお摘みでも運んでくるわ」

「了解。 ありがとな、霊夢。 ……さて、手頃なのは………と」

 

適当に酒瓶を探し、中身を杯に注ぐ。 日本酒らしい吟醸香を漂わせるそれは、一口飲んでみると──

 

「……美味い」

 

辛すぎもせず甘すぎもせず、と言った感じの、絶妙な味わい。ただ、

 

(…この酒が弱めなのか?それともアレが強すぎたのか?)

 

と言う疑問を抱いた。今ので全く酔わないから、であるのだが。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

先程霊夢に聞いた所、あの酒はあまり強くないらしい。だがそれでも――

 

「…はぇ? こあが3人居るー……」

 

普通に酔っ払う。それはもう、歩く事もままならない上に視界がはっきりとしない程度には。どうやら俺は、本当に酒に強くないらしい。

 

「おや、それは大変ですね~…でも大丈夫、霊夜君ならいつまでも甘えていいですよ?」

 

「へへへ~、ありがと~」

 

わーい、こあおねーちゃんが撫でてくれたー…じゃない。思考が幼児退化していやがる。…寝ちゃおっと。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…なんだ、あいつ結構可愛い所あるじゃないか。あいつが挑発以外で笑ってるの初めて見たぜ」

 

私はパチュリーと共に、じゃれ合う2人を見ていた。初対面が初対面だった事もあり、霊夜にはキツい態度しか取られなかった私にとって、続くパチュリーの言葉は中々に衝撃的だった。

 

「…あら、そうかしら?私達と話している時、霊夜(あの子)はよく笑うけど」

 

「嘘だろ!?」

 

「本当よ。出会い方か第一印象が悪くない限りは普通に接してるわ」

 

「うへぇ…私は出会い方が最悪だったぜ…」

 

「じゃああの笑顔は引き出せそうにないわね、諦めなさい」

 

「ぐぬぬ…あれ写真に撮ってブン屋に送りつけてやりたいぜ…」

 

「辞めときなさい。その時は彼女が焼き鳥にされるわ」

 

「…ん?どうやってだ?」

 

一般人―と言うのは失礼かもしれない―だったら至極当然の質問に、パチュリーはあっけらかんと、まるでそれが普通であるかの様に言った。

 

()()よ、魔法」

 

「あいつが?まさか!使える訳」

 

「あるのよ、それが。試しに魔理沙、この魔導書を読んでみて」

 

「うん?…何だこれ、読めないぜ」

 

何も書いていない――と言う訳では勿論なく、魔導書とは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それを知っている私は「まさか」と呟き、その予想が現実である事を悟った。

 

「そう、霊夜は読めるの。……酔いが覚めたら聞いてご覧なさい」

 

「マジ、かよ…」

 

ワインを傾けるパチュリーの横顔に、誇らしそうな表情があったのは気のせいだろう。気のせいであってほしい。そう切実に思ったが、それは苦戦させられた事もあり、過言ではなさそうだとも思った。……あと、霊夜とは師弟関係らしいな。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

その光景をスキマから覗き見ていた幻想郷の賢者―八雲紫は、扇子を口元に当て、薄い笑みを浮かべていた。しかし、その笑みの意味を知るのは、彼女だけ。例え式の九尾だろうと、分かりはしないだろう。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…ったく、霊夜はそのまま酔い潰れちゃうし、他の連中は帰っちゃうし…結局1人で片付けかーっ!」




宴会とは一体(困惑)。なんとこあ以外の絡みがほぼ無いと言う。悲しい。
そして魔力持ちから予想出来たかもしれませんが、霊夜は普通に魔法使えます。
因みに最後の方のは一応伏線(笑)です。
ではまた次回。


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夜風に吹かれ

こんにちは、ユキノスです。書くに当たって原作の時系列を確認したんですが……割と最近辺りまで来てるんですね。見てて「へーっ!」って思いました。
ではどうぞ。今回は宴会事後談的なアレです、アレ。


「ん……ぅ」

「あら、おはよう。 時間的にはこんばんはだけどね」

「そう、かぁ…結構寝てたんだなぁ……ふぁ……」

 

文字通り何でもありの──それに弾幕ごっこではない喧嘩が含まれるのかは謎だが──宴会が終わり、全員揃って──ちびっこは美鈴が運んでいる──紅魔館へと帰る途中、寝ぼけ眼をこじ開けて起床した。

 

「…………」

「そんなに赤くなって……どうしましたー?」

「酔ってた時の記憶普通にあるしやってる事がもう黒歴史でしかない……うぅ〜〜〜〜……」

 

「ふふ、あの時の霊夜君可愛かったですよ〜♪」

「わーっ、わーっ! 止めてくれよこあぁ!」

ぽかぽかとこあを叩くが、勿論こあに痛みは無い。 と言うか、(自分で言うのも何だが)美鈴相手にある程度は互角に闘える俺に本気で叩かれたらそこの骨は間違いなく数本イくのだが。

 

「こあ、その辺にしときなさい」

「はーい」

「──あ!霊夢に『片付け手伝う』って言ってたの忘れてた……」

「……うーん、間に合わないんじゃないですか? もう紅魔館見えてますし」

「うわぁ、今度会う時が怖い……」

「そ、その時は私も行きますよ」

「ありがとう美鈴……ただ昼寝し過ぎ」

 

頬を掻きながらあははと笑う、呑気で人懐っこい美鈴が怒った時には─そう怒らないし、怒ってほしくもない─無表情で紅魔館を誇張無しに半壊させた、という逸話を聞いたのでまぁ大丈夫じゃないか? とは思う。 でも情報源がこあだから、からかっただけって説が俺の中で渦巻いている。

 

「なぁ、こあ」

「はいはい、何ですか?」

「……今のレミィにカリスマのカの字も見当たらないんだが」

「……ふふっ、それはそれで良いんじゃないですか?」

 

だって、咲夜におんぶされて、幼さの残る──いや幼さしか無い顔ですやすやと寝息を立てているのを見て、どつやってカリスマを感じろと。

 

「吸血鬼は夜行性、だよなぁ……」

「人間の昼寝と変わらないんじゃない?」

「それもそうか。 まあ美鈴は昼寝し過ぎなんだが」

「ナンノコトダカサッパリデスネー」

「おいこら」

「……霊夜、おんぶされながら言っても説得力が無いわよ」

「あぅ」

 

パチェには昔から頭が上がらない。幼少期から魔法を教えてくれた恩もあるが、一番は魔物が封印されていたらしかった魔導書を開いてしまい、そこを助けられて滅茶苦茶怒られたからだろう。 あの時は本当に驚いた。 半泣きになってるパチェを見たのは、今のところそれだけ。 いや泣かせてたまるか。

それはそうと……

 

「あと、今更だけどさ……」

「?」

「あの、その……えと」

「……ふふふ」

 

笑われた。柔らかい、天使の様な──ってのはなんか変だな。

 

「昔から甘えてくれたじゃないですか。 勿論今も、甘えてくれて良いんですよ?」

「……言われなくてもそのつもりだよ」

「なら良かったです」

「えへへ……」

 

何だか小っ恥ずかしくなってきた。 頬がかーっと熱くなってるのが分かる。

 

(……まだ酒が残ってるのかな)

「……さて、明日からまた修復作業よ。後少しだからさっさとやっちゃいましょ」

「……ん。 そうだな……今日は、もう…寝る……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

これは、後に聞いた話だ。 俺が魔法を使える事をパチェが魔理沙に話したらしく、そのせいか―とパチェは愚痴っていた──ヴワル魔法図書館の魔導書が度々盗まれ始めた。



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清く正しいって何だろうか

こんにちは、やりたい事をリストに纏め始めたユキノスです。
今回はその内の1つ、文々。新聞の取材。あやややや。
ではどうぞ。


今日も今日とて紅魔館の修理…いや修復作業をしていた私は、正門前…正確には美鈴の居る辺りに、黒い影が降り立った所を見かけた。よく見れば、珍しく起きている美鈴と何か話しているらしい。

――全く、またサボってるのかしら…

と思わず考えてしまうのは、日頃の美鈴の行いだろう。

「霊夜、美鈴を見てきてもらえるかしら?」

「えぇー…そういうの咲夜の仕事だろ…」

「私が居ないとペンキが乾くまで時間が掛かるじゃない」

「…分かったよ行くよ」

それならペンキ塗ってから行けば良いのに…とか言いながら降りていく霊夜だけど、それだと私がかなり疲れる。ペンキを塗って、そこの時間を加速させるという事は、能力を使いっぱなしにしなくてはならない。流石にそれは骨が折れる。

「…本音を言うと、単に面倒だったからなんだけどね」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「おーいめーりーん」

「あれ?ペンキ塗りはもう良いんですか?」

「いや?美鈴見張って来いってさ」

「あ、あはは…」

まぁ実際もう少しで終わるのだが。…と言うか、

「…アンタ誰?」

「こんにちはペンキ塗りさん!鴉天狗の清く正しい射命丸文です!ってあれ、怒ってます…?」

――どうやらこの鴉天狗は、人を怒らせるのがかなり上手い様だ。

いくら俺でも、「誰がペンキ塗りだ!」と言わない程度には大人である。ある、のだが…

「…新月霊夜」

「はい?」

「俺の名前。ペンキ塗りって呼ばれんのは嫌だしな」

「まぁ確かに嫌ですね。…えー、霊夜さん。貴方に幾つか質問をさせてください」

「…良いけど、あまり長くは離れられないぞ?それとさん付けはやめてくれ」

「はいはい、じゃあ手短に。まず、美鈴(この方)との関係は?」

おっといきなりそう来たか。いやでも…関係って言われるとちょっと首傾げるな…友達とも違うし…これが良いか。

「これは美鈴だけじゃなく、紅魔館の皆に言える事なんだが…義理の家族みたいなもんかな」

「おぉー、義理の家族ですか!」

ポケットからメモ帳を取り出し、スラスラとペンでメモを取ってから、「因みに生い立ちは?」と聞いてくる。

「生い立ち…」

実を言うと、言いたくない。隠す事でも無いが、あまり思い出したくないのだ。

「…悪いな、それは言えない」

「あやや…それは残念」

「でもそうだな…人間と魔法使いの混血、とだけ」

「おおっ、ありがとうございます!」

この後幾つか―と言っても30個近くあったのだが―の質問に答えた所でようやく「ありがとうございましたー!」と猛スピードで飛び立った鴉天狗の文に1つだけ思う事がある。すなわち、

「変な事書かないでくれよー!?」

という事である。俺だって、ある事無い事で騒ぎ立てられるのは好きではないのだ。答えは――無かった。

「はぁ…美鈴、寝るんじゃないぞ」

「大丈夫です、起きてますよ」

それより、と美鈴は続ける。

「霊夜君って混血だったんですね」

「まあな。…捨てられたけど」

親の事を口にすると、苦虫を噛み潰した様な顔になるのはこれが理由だ。…って、ヤバいこれ内緒だった。

「…霊夜君……」

目に涙を浮かべ、美鈴がヨロヨロと歩いてきて――俺は、昔を思い出していた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

あの頃、確か俺が4歳の時だ。その頃既に親からは捨てられていて―顔すら覚えていない―、慧音先生の所で育てられていた俺―確か当時の一人称は『僕』だった―は、かなり陰湿なイジメ、嫌がらせを受けていた。チルノや大妖精、ルーミアと遊んでいた所を寺子屋の生徒に見られ、『妖怪とばかり関わりたがる人間みたいなヤツ』と言われた。先生に見付かった場合は即刻頭突き(愛のムチ)がお見舞いされるので、先生どころか誰も気付かない所で、暴力を振るわれた。それは、当時4歳の子供には重すぎる物で――。

 

それから暫くして、口数が減り、笑わなくなった俺に「どうした?何があったんだ?」と聞いてきた先生を、俺は突き飛ばして夜の人里に飛び出し、人里さえ飛び出して、霧の湖まで走った所で緊張の糸が切れ、そのままばったりと倒れて―――

…君?……夜君!

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

美鈴の言葉にハッと気付くと、美鈴が心配そうに見てきて、抱き締めてくる。暖かく優しく、また柔らかいその感触を手放したくなくて、「…なぁ、美鈴…もう少し、このままでいてくれないか」と無意識に言っていた。返事はイエスで、その後暫く、子供の様に泣きじゃくった。




あれぇ…思ったより重くなったぞぉ…?いやまぁ、設定としては考えてましたよ?でもこのタイミングで…まさかこいし…?(笑)
ではまた次回。


キャラクターメモ

(ほん) 美鈴(めいりん)

種族:妖怪
年齢(紅霧異変時):不明(紅魔館メンバーでは最年長)
能力:気を使う程度の能力
説明:紅魔館の門番兼庭師。よく昼寝しているが、咲夜に刺されたり霊夜に脅されたりして(霊夜はたまに一緒に寝ている)起こされる可哀想な人。
霊夜には武術と体術を教えている……が、手合わせでヒートアップし過ぎて壁を壊す事もしばしば。酷いときは橋をも壊した。
普段は朗らかで、ちびっこ達の遊び相手になる事もある(霊夜はこの時美鈴に会っている)が、本気で怒った時は紅魔館が半壊した(小悪魔談)。


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指切りげんまん

こんにちは、ユキノスです。今回は紅魔郷EX。…ただ原作とは違うかな?
ではどうぞ。


「はぁー…修復作業が終わってからで良かった…」

「この時期の夕立は珍しいわね…確かレミィが博麗神社に行ったけど…」

「この雨じゃ無理ですよー…しかも日傘しか持って行かないんですもん…」

「…うわ、そりゃ災難だな」

「…私にとっては貴女の行動(本泥棒)が災難よ」

「失礼だな、私は死ぬまで借りるだけだぜ?死んだら返すさ」

夏が終わり、季節は秋に差し掛かろうとしていた。が、パチェの台詞通り珍しく夕立が降り―もっと言えば、パチェの喘息の調子が良い―、俺、パチェ、こあ、魔理沙の4人はヴワル魔法図書館にて談笑―もとい、魔理沙を監視していた。理由は簡単、度々本が盗まれる様になったからである。霊夢はそんな事しないし、そもそも魔法が使えない。しかし魔理沙は魔法が使えるし、よく紅魔館を訪れている。となれば犯人はもう1人しか居ない。

「―そう言ってる側から逃げようとす―」

 

ドッゴォォォォォン!!!

 

という音が、地下室への扉―の更に奥、地下の方から響いた。

「! …まずいわ霊夜、フランが…!」

「マジかよ……パチェ、水って出せる?」

「出せるけど、…なるほどね。兎に角急ぐわよ!こあ、付いてきて!」

「はっ、はい!」

「丁度いい、手伝え魔理沙」

「分かったぜ。1つ貸しな?」

「戯け、こちとら魔導書が取られまくってるんだ。貸しな、はこっちの台詞だ」

「…あぁもう、兎に角行くぞ!」

そう言って螺旋階段を駆け降り、辿り着いた先で―なんと扉が木っ端微塵、としか表現出来ない程に壊れていた。あれ結構頑丈だったよな!?

その先でパチェがスペル―水符『プリンセスウンディネ』を発動させ、1人の少女を拘束していた。水でぼやけてよく見えないが、あれがフランドールだろう。姉とは違うけど翼も生えてるし。

「…なんだ、私達は必要無いじゃないか。全く、骨折り損だっ――」

「いや待て、構えろ!」

「はぁ?何を言っ――!?」

驚くのも無理は無い。パチェの魔法が()()()()()()()()()()()()。その中から出てきた、やはり小さい吸血鬼―フランドール・スカーレットは狂っている――と言うよりも、情緒不安定、もしくは能力の制御が出来ないのではないだろうか?確かにその能力(チカラ)は恐ろしい程の威力がある。と言うか死ぬ。だが、当の本人は―泣いている。

「なんで…どうして、皆して私を遠ざけるの?私の能力が怖いから?私には分かんない…分かんない、のに……ッ!」

「…………フランドール…」

「なんで?どうして?なんで私を避けるの?咲夜は食事を運んだりぬいぐるみをくれたりはするけど……それも仕事だし、他は全然会ってくれない!495年もの間、私はずっと独りだった!なのに…なのに…っ……」

それを聞いて、誰も何も言えなかった。俺や魔理沙は兎も角、パチェも、こあも、いつの間にか来ていた咲夜、美鈴も。そんな中で、俺の声は重く響いた。

「…………なぁ、フランドール」

「うぐっ…えぐっ…」

「……聞いてると信じて話す。―俺も昔、ここに来る前は避けられていた」

「「「「「―!!」」」」」

ここからは、自分語りの時間。美鈴は前回話したので驚いてはいない―が、やはり心は痛む様だ。

「俺の髪、赤いだろ?…これは生まれつきだ。それが理由で酷いイジメを受けた。『妖怪とばかり遊んでいる』『人間の髪が赤くなる筈がない、こいつは妖怪だ』と吐くまで殴られ、体の一部が痣で染まる程蹴られ、泥水に顔を沈められて飲まされ、濡れ衣を着せられ、虫の死体を食べさせられた」

1歩ずつ、着実に歩を進める度にコツ、コツとやけに大きく聞こえる足音が立つ。

「―でも、俺はそれを誰にも言わなかった。言えなかった。当時4歳の幼子は、復讐が怖かったんだ」

「4、歳……」

と呟いたのは魔理沙。彼女は確か、霧雨商店の一人娘だった気がする。

「結局俺は、誰にも言わず、人里を飛び出し、霧の湖の辺りで倒れた。目が覚めたら檻の中さ、笑うだろ?―俺は元々、人狼の餌として拾われたんだ」

「…………」

フランドールはいつの間にか泣き止み、ぽかんとこちらを見ている。そんな彼女に視線を合わせる為にしゃがみ、語り続ける。

「でも、俺は今こうして生きている。それは何故だと思う?フランドール」

「…分かんない……」

「まぁ…そりゃそうさ。拙い魔法で人狼を焼き殺して逆に喰って、そのまま開いていた檻を出てきた、なんて普通じゃ絶対にしないし出来ない。…俺を見たお前の姉は、薄く笑いながらこう言ってたよ。『面白いわね、貴方。何か望みはあるかしら?』ってね。俺は迷わずこう返した。『なら、ここで暮らさせてほしい』と……俺はその選択を後悔していない。ここで色々な事を知ったし、チルノや大妖精、ルーミアとも気軽に、咎められる事なく遊べる」

「……それが、どうかしたの?自分の幸福を、不幸な私に自慢したかったの?―ふざけないで…」

「ふざけてなんかいない!」

突然張り上げた大声に、俺以外全員の肩が跳ね上がる。

「一部だが同じ事が、お前にだって言える。495年前、お前が吸血鬼を殺して笑っていた理由は守れたという安堵と達成感、そして褒められたかったからだと、破壊衝動は分かってもらえなかったストレスだったと、地下室から出て皆と話したかったと……お前は1度でも言ったのか?どうなんだ、フランドール・スカーレット!言わなかった結果追い詰められるか、言った結果受け入れられるか!逆もまたあるだろう、でも何もしなきゃ何にも得られない…俺はそれだけが言いたいが為に、あんなに長い話をしたんだ。分かってくれたか?」

「……うん、分かった…私、お姉さまと話してくる!」

「あぁ待った待った、今外は酷い雨だしレミィは外出中だ。帰ってきたら引き摺ってでも連れてくる、約束だ」

小指を立てると、華奢な小指が絡められる。「せーの」と声を合わせ――

「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます!指切ったっ!」」

笑顔になったフランドールの頭を帽子の上から撫でてやる。―かなり場違いな事だが、風呂はどうしていたんだろうか。咲夜が濡れタオルか何かで拭いてたのかな?

「お兄ちゃん、名前は?」

「新月霊夜だ。よろしくな、フランドール」

「うんっ!私のことはフランって呼んで!」

「おう、頑張れよフラン」

 

因みにこの後、姉妹で抱き合って和解した。その日から、館をフランがうきうきしながら歩いている所を見る様になったのは、言うまでもないだろう。




わーお、弾幕ごっこすらしなかった。更には半分近く前回と似たような内容っていう滅茶苦茶っぷり。ははは(白目)
ではまた次回。


キャラクターメモ

フランドール・スカーレット

種族:妖怪(吸血鬼)
年齢(紅霧異変時):495歳?
能力:ありとあらゆるものを破壊する程度の能力
説明:作者の考える限り原作と一番違うと思う人。狂っていないし気も触れていない、レミリアの妹。495年も幽閉されていたが、霊夜の活躍により和解。少々ヤンデレ気質ありの霊夜大好きっ子。雪を見た事が無かった程に紅魔館の外を知らなかった。
咲夜が作ってくれた人形がお気に入りで、ベッドで寝る時は必ず抱きしめて寝ている。
霊夜はフランを義妹の様に思っている。レミリアより懐かれているのは複雑そうにしているが。


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吸血鬼だって愛する者は居るさ

こんにちは、豹牙です。
今回は前回すっ飛ばした姉妹面談(?)です。1話に纏めれば良かっただろって?馬鹿ですから←
ではどうぞ。


「はぁ…ただいまぁー…」

「よう、お帰りレミィ」

「あら、霊夜が出迎えてくれるとは珍しいわね…今日は散々だったわ…」

このままだとレミィの愚痴に延々と付き合わされそうだったので、レミィの腕をむんずと掴み、文字通り引き摺って行く。後ろで「え、ちょ、どうしたのよ!?」と聞こえるが無視。折角フランが話す気になったのだ、早めに連れて行かなければ。…それに、『指切りげんまん』は「嘘ついたら針千本飲ます」とか言ってるが、『指切り』の名の通り《指を切る事で忘れない様にする》と聞いた事もあるし。ああいや、勿論指は無事だ。安心してくれ。

「レミィに是非とも会わせたい者が居てな。あまり待たせるのもまずいだろう」

「…分かったわ。貴方が信じるのなら大丈夫でしょ」

一瞬にして、レミィの雰囲気がいつもののほほんとした物から、カリスマ性のある、思わず緊張する様なそれに変わった。まあ相手はフランと言っていないし、その対応は間違っていない。第一印象は大事だ。

「…ソイツはどこに居るの?」

「ヴワル魔法図書館にて、羽根を…いや首を伸ばして待っている。立会人として俺も居てほしい、との要望だ」

「なるほどね。…さて、私に会おうだなんて面白そうな輩「お姉様ー!」の゛おっ!?」

レミィが扉を開けた途端、フランがレミィに突っ込んでくる。抱きつくではない、突っ込むだ。

「うぉっ!?…フラン、俺だったら間違いなく肋骨が吹っ飛んでたぞ」

「あぅ、ごめんなさい…」

「俺への謝罪はいい、それよりレミィと話すんだろ?」

「うんっ!」

そのレミィだが、何が何だか分かっていない様子でただただ驚いている。顔を青ざめさせ(恐らく緊張)、次にきょとんとした顔で俺とフランを交互に見る(これは単に、理解が追い付いていないだけだと思われる)。そして、その口から―――

「ええええええええええええええええええええええ!?」

大音量の驚声が発せられた。

 

 

~少年説明中~

 

 

「…って訳だ」

「…なるほど。それでこうなった、と…」

さて、かなり駆け足に事情を説明した訳だが、俺の過去は一切、綺麗に話していない。第一、そこまで話したい事ではないし。

「…さて、次はフランの番だ」

「うん……お姉様、私ね――」

パチェもこあも、少し離れた所から見守っている。こあは兎も角、やはりパチェも「私は別にいいわよ」とは言っても心配なのだろう。…さぁ、後は平和に――

「―1回だけ、お姉様を思いっきり殴りたいの」

―行かねえのかよおぉい!え!?誰とも話せないから寂しいみたいなアレは何だったんだ!?

と言いたくなるのを、顔を引きつらせただけで我慢出来たのは奇跡だ。その後に1度深呼吸して、「それはどうしてだ?」と聞く。話し合いの場を設けておいて何だが、フランが話す内容は全く聞いていないのだ。

「だって…褒めてほしかったのに怖がられて、地下室に閉じ込められて、誰とも話せないで、一人で遊ぶだけ…私、そんなの嫌だった!皆と一緒に居たかった!」

「っ………」

「…だけど、それも1回だけで無かった事にする。自分で言うのも何だけど…結構譲歩してる方だよ?」

「……3回」

「え?」

「3回殴りなさい。私の愚かさを無くすのならば、1回だけじゃ足りないわ」

「お姉様……じゃあ、行くよ」

……あ、これ色々ヤバい気がする。少なくとも、普通にお茶の間に流せる代物じゃない。いやだってさ、妖力と魔力だけで図書館の結界がピシピシいってるんだぞ?いくら吸血鬼が頑丈って言ってもそれは人間の基準だ。吸血鬼vs吸血鬼なら、あまり意味は無いだろう。つまり何が言いたいかと言うと――

「……いーちっ!」

フランがレミィの腹を拳で殴る。それだけでレミィは図書館の壁を巻き込んで吹っ飛び―丁度扉だったのは不幸中の幸いかもしれない―、紅魔館の壁に罅を入れただけで済んだ―のは建物の話。当の本人はもう腹が無い。いやホントマジで。血は流れてるけど内蔵の一部が消し飛んでる、そんな状態。…まあ、すぐに再生するのは吸血鬼の特権だろう。死なない人間とか居たらもう笑うしかない。

「にーいっ!」

再生した直後のレミィ―の顔面に、容赦なく拳を叩き込むフラン。なんというグロテスクな光景だろうか。掃除するのは咲夜や妖精メイドなのだが。

「そしてぇ…さんっ!」

更に肋を左フック。これがレミィでなく人間だったらオーバーキルなんて話じゃ済まないが、もうその辺は考えるだけ無駄だ。ほっとこう。

 

 

「うぅ…フラン貴女、いつの間にそんな強く…」

「お姉様、これで恨みっこ無しでしょ?」

「…フラン、それやる前に言う台詞じゃなかったか?」

「な、何があったんですか!?なんか物凄い爆音がしたんですが…」

「よう、美鈴。見ての通り、姉妹会議さ」

「良かった…仲直り出来たんですね」

「咲夜か。ああ、出来たみたいだぞ」

抱き合い、無邪気に笑う(悪魔が無邪気に、と言うのも変な話だ)2人を、月の光が優しく照らしていた。




グロテスクなんだかほっこりなんだか。最近こんな風によく分からないの多いなぁ…まあ俺の自己満足ですし?原作崩壊…は気にしますが。
ではまた次回。


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釣糸垂らして草の根釣れた

こんにちは、何故か妖々夢のEXを書いていた豹牙です。妖々夢欠片も書いてないってのに、何やってんだろうね俺は。藍はどうしようかな…紫との会話しか入れてないからなぁ…(冷や汗)
さて今回は、…サブタイトルでほぼネタバレしている…だと…!?(笑)
はい、馬鹿な事やってないで本編行きます。今回もやりたい事リストの内の1つです。


「ふわ……眠い……」

今何をしているのかと言うと、霧の湖で釣りをしている。理由は簡単、暇だからだ。夕食を捕ってこいとは言われていないので、キャッチアンドリリースの精神で。

「ん~…意外に釣れないもんだなぁ…もうちょい居ると思ったんだが…」

釣りを始めて2時間経つが、成果はゼロ。まさかここまで釣れないとは。もう昼寝にしようかな。

「…お?引いてる引いてる…ってでかいな!?」

…だが何か変だ。浮かび上がってくるシルエットからは髪の毛が見えるし、何より手が生えて…って嘘だろ!?

「に、人魚?」

「た、食べないでぇ…」

「いや食べないから大丈夫。…髪に引っ掛かったのか」

「え、はい…取ってもらっても良いですか?」

「ああ、こう見えて器用なんだ」

失礼、と言いながら青髪の人魚の髪を掻き分け、釣り針を見付ける。やけに絶妙な具合で引っ掛かったそれは、取るには骨が折れそうだったが―まあいけるだろう。

「…あ、髪が絡み付いてるだけみたいだな。ちょっとじっとしてろよー」

「はい、分かりましたー」

岸辺にちょこんと座り、魚の下半身を湖に入れた状態でじっと動かなくなり―勿論生きている―、絡んでいる髪をほどく作業に没頭すること5分。

「…よし、外れたぞ」

「ありがとうございます!……えっと…」

「……ああ、まだ名乗ってなかったな…新月霊夜、紅魔館(そこの館)に住んでる人間だ」

「わぁ、あそこにですか!?…目、痛くなりません?」

「慣れたらそうでも…」

「おーい姫ー…あれ、貴方誰?」

振り返ると、茶色の髪に赤い瞳の狼少女がこちらを見詰めていた。…動きづらそうな服だなぁ。

「あ、影狼ちゃん。実はさっきね…」

 

 

~少女説明中~

 

 

「…で、今に至るのね」

「うん、そういう事」

「ふうん…私は今泉影狼。よろしくね、霊夜君」

「ああ、よろしく影狼。…と……」

「…?あっ、私名前言ってなかった…わかさぎ姫です、よろしく~」

2人の話を聞く限り、2人は『草の根ネットワーク』なる力の弱い妖怪の集まりのメンバーなんだとか。しっかり者の影狼と天然なわかさぎ姫のコンビは、見ていて飽きない面白さがある。きっと草の根は、賑やかなグループなのだろう。

「この前なんか影狼ちゃん、間違えて私を食べちゃいそうだったんですよ~」

「あ、あれは酔ってたから…それを言ったら姫だって!」

「ははは…楽しそうだな、草の根」

「ええ、貴方も妖怪になったら入る?」

「おう、どれぐらい後かは分からないけど入らせてもらうよ」

「楽しみに待ってますね~」

「わ、もうこんな時間…またね、霊夜に姫ー」

「「またな(ね)ー」」

いつの間にか夕方になっている。昼食を食べてからすぐここに来たので、3時間近く話していたらしい。早いなー…

「じゃあ、またな姫」

「はい、また今度!」

柔らかに手を振ってくるわかさぎ姫に手を振り返して、相変わらず寝ている美鈴を横切って帰路につく。今日はなんだかんだで魚は釣れなかったが、話のタネと友達は出来た。こんな日が続けばなぁ…と思いながら、咲夜に起こされて泣き叫んでいる美鈴の声を聞くのだった。




という事で、今回は釣り&草の根ネットワークとの談話でした。こんな感じの話を募集してみたいな、と思ったので、詳しくは活動報告まで。
ではまた次回。


キャラクターメモ

今泉(いまいずみ) 影狼(かげろう)

種族:狼女
年齢(紅霧異変時):不明
能力:満月の夜に狼に変身する程度の能力
説明:迷いの竹林に住む狼女。草の根ネットワーク所属。
能力通り、満月の夜は狼の姿になる。本人は嫌がっているが。永夜抄本編時点では、ブローチを着けていない。
酔った拍子に、わかさぎ姫を食べそうになった過去を持つ。


わかさぎ(ひめ)

種族:人魚
年齢(紅霧異変時):不明
能力:水中だと力が増す程度の能力
説明:おっとりしていて、虫も殺せない性格の淡水の人魚。普段は歌を歌ったり石を拾ったりして過ごしている。
霊夜にいきなり釣られた。正確には髪が引っ掛かっただけだが。
冬の間は、湖の表面が凍ってしまうと出られなくなってしまう為、紅魔館の風呂に居着いている。


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秋と言ったら……

こんにちは、豹牙です。
今回は妖々夢までのお茶濁しです、ハイ。いやね、紅魔郷本編が8月12日、EXが9月(日にちは不明)辺りだったんですよ。でも妖々夢本編は5月。飛ばすにしては長過ぎる…じゃあちっとは普通に進めるか。という訳なのです。はい、意味不明。
ではどうぞ。


「…えーと、こっちか…」

妖怪の山も紅葉で綺麗に染まり、季節はすっかり秋。読書でもしてようかと思った矢先、パチェからの依頼で魔理沙から魔導書を()()()()()()()取り返してほしいと言われたので、今現在魔理沙の家に直行している。何故知っているのかと言うと、パチェが魔導書に細工して、位置が分かる様にしたらしい。流石はパチェだ。

因みに今は、魔法の森をてくてく歩いている。こういう時、魔力があって良かったと心底思う。魔力の無い連中が入ったら、充満している障気は害でしかない。魔力があれば別だが。

「…やっぱジメジメしてるからかキノコが多いなー…確かに外敵は居ないが住む気には到底なれねえや…」

「げ、霊夜…!?何でここに居るんだ!?」

家に着く前に会えた。さて、後はチェックメイトまで終わらすだけだ。

「お前から魔導書を返してもらいたいからだ。借りたいなら許可を取ってからにしろ、とも言われてる」

「はっ、あんだけ沢山ある内の数冊ぐらい良いだろ?」

「それは店でも言えるか?」

「…?」

「お前が言ってるのは、『こんなに沢山商品があるんだ、1個ぐらい良いだろ?』っつってるのと同じだ、って事だよ分かったか本泥棒」

「…言えないぜ……あぁもう分かったよ!返せば良いんだろ返せば!」

「きっちり()()な」

「ああ!その代わり運ぶの手伝えよ!?」

「…はぁ…はいはい手伝うよ……」

しっかりと見張りながら暫く歩き、魔理沙の家に着き――思わず眉を潜めた。外見は洋風、見た目も綺麗なのだが、窓から見える内装はあまりにも汚い。

「…おい、掃除はしてるんだろうな?」

「あ、あー…研究に没頭してると色々忘れちまうからなぁ…」

「うわ、マジかよ…不潔にも程があるだろ…」

そう言って魔理沙が開けたドアに入ろう―として入れない。足の踏み場も無い、とはこの事を言うのだろう。

「…どうやら、掃除もしなきゃいけないっぽいな」

「やってくれるのか!?助かるぜ!」

「いや手伝えよ。お前の家だろ」

「アーアーナニモキコエナイゼー」

「はぁ…今回は魔導書が目的だからまた今度な。咲夜と来るわ」

「おぉ…咲夜も来るのか」

「来れたらな。許可取ってないし」

「おいおい…」

「ほら、魔導書取り出して持ってくぞ」

「へいよ」

と言うと、ゴミの山―少なくともそうにしか見えない―に飛び込んでドッタンバッタンと音を立てながら魔導書を探している上、ぽいぽいと地面に放る魔理沙にはもう呆れるしか無い。魔導書は大事な物だし、内容は唯一無二なのだ。後で説教だな。

 

 

「よっ…と。これで最後か?」

「…こう言っちゃ何だが、盗むにしても数ぐらい覚えとけ。ひい、ふう、みい、よお………」

盗まれた魔導書は、計12冊。いや多いって。この野郎、盗られ始めたのが1ヶ月半前なんだぞ。どんだけだよ。

「…12冊全部ある。ったく、お前って奴は…」

「は、ははは…」

「2冊は持てよ?10冊は持てるし」

「え、ほんとか!?」

一応嘘ではない。片手に5冊ずつ持って飛んだ事もある。風の無い環境で、だが。

「…ま、頑張るか」

「そんじゃ行くぜ!」

帽子の中に魔導書をしまい、箒に跨がってかなりの速度で飛び立つ魔理沙に本日何度目かの溜め息を吐いてから、5冊ずつ持ってゆっくりと飛び立つ。急いては事を仕損じる、何事も落ち着けば答えは出る。まず魔法で風を纒い、風(こちらは自然に吹いている物)を寄せ付けない事で、実質風の無い環境を作り出す事が出来るのだ。

「さーて行きますかー、もう魔理沙は着いてるだろうけど」

そのまま本を落とさない様にゆっくりと飛び、紅魔館へ戻る。周りからみたら、天狗の真似事をしていると思われるだろう。だがこれは、文の飛び方を真似しているので強ち間違いではない。文は空気抵抗を無くして速く飛ぶが、俺は風を止ませて飛びやすくする為にこれをしている事が違うのだが。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「よっと」

着地前に魔法を解かないとそこだけ土が抉れる上に飛び散ってしまうので、きちんと解除してから図書館へ(外に繋がる扉もある)入…あ、ドアノブが引けない…。

はてどうしたものかと2秒程考え、素直に美鈴を呼んでくる事にする。確かこの時間は庭の手入れをしていた筈…

「あ、居た居た。美鈴ー、ちょっといいか?」

「はい?…あれ、その手に持ってるのは…」

「魔導書だ。半分持ってくれるか?」

「え、何故また…」

「ドアノブが引けないだろ」

「パチュリー様かこあちゃんを呼べば早かった様な…まあ、手伝いますよ」

「さんきゅ、美鈴」

「お安いご用です」

手入れされた庭園を見ながら、美鈴と談笑して―大抵が手合わせの事だった―、改めて図書館へ入る。

「ただいまー…ってあれ、魔理沙とパチェは?」

「あ、お帰りなさい…お2人ならそこですよ」

と言って本棚の裏を指差すこあ。そこ、って確か…

「…ん?あ、ソファか」

「はい、ソファです」

よく出来ました、と撫でてくるのは今となっては何ともむず痒いが、美鈴に礼を言ってから、こあと手分けして魔導書を戻す作業に取り掛かる。

「えー、と…Eの棚Eの棚…あああったあった。次は…げ、Yまで行くのか…これは後回しっと」

魔理沙の「なあパチェ、ここってこっちの方が燃費が…」

という声と、パチェの「あら、よく気付いたわね魔理沙。そう、この術式は…」という声をBGMに本を片付けていき、あと1冊――と、その時、何者かに抱きつかれ、耳元で囁かれた。

「…霊夜♪」

「~~~~~!?」

「えへへー、びっくりした?」

「び、びっくりした…フランだったのか…どうしたんだ?」

「んーん、暇だっただけ。お姉様は『私はお仕事してるから、霊夜に遊んでもらいなさい』って言ってたし」

「…あんにゃろう……」

何故名指しなんだ、パチェ…は魔理沙と魔法談義してるし、こあ…は本の整理してるし、美鈴…はなんか文の相手してたし、咲夜…は皆のおやつ作りをしている。…あ、確かに俺以外忙しいわ。かと言って何かする事も無いし…

「…あ」

「?」

「鬼ごっこやろうぜ、鬼ごっこ。紅魔館の皆に、魔理沙に、後は…ルーミアとチルノと大妖精(ちびっこ3人衆)も呼ぶか。…まあ、仕事が終わってからだから夜になってからだけど…待てるか?」

「うんっ!楽しみに待ってるね!」

「良い子だ。俺に任せとけ」

屈託無く笑うフランは―俺には(見た目)幼女を愛でる趣味は無いが―、母性(いや父性か?)を擽られる可愛さがある。

…さて、楽しい(かは分からない)交渉タイムの始まりだ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

結果から言うと、喘息持ちであるパチェは不参加(だが審判はやるらしい。主に、反則のある無しや終了の合図をするんだとか)。ちびっこ3人衆は湖周辺に居なかったので、無理に探す事は無いかと今回は断念。と言う訳で、鬼ごっこをやるメンバーは俺、レミィ、フラン、美鈴、咲夜、こあ、魔理沙の7人だ。

「それじゃ、改めてルールの説明ね。範囲は紅魔館の中だけ、庭に出るのは無し。制限時間は夜明けまで、時間が来たらそれぞれに持たせた魔石に伝えるから無くさない様に。鬼が変わっても知らせは無いから、そこも注意して。それと、飛ぶのと能力の使用は禁止。質問は…無いわね。それじゃ、じゃんけんで鬼を決めて」

流石に7人だとあいこが多発するので、4ー3に分かれて負け越した人同士がまたじゃんけんして負けた人が鬼、という行動は分かりやすいのに説明するとなると物凄く長々と言わなければならない行程を終え、鬼は咲夜。…うわ、速そう。

「1、2、3……」

咲夜が数え始めると同時に、一斉に逃げ出す。外にさえ出なければどこに行っても良いので、なるべく広い所に行くのが得策か。ああ因みにだが、今回の鬼ごっこはフランとの親睦会、という名目だ。だからこそレミィも許可した訳だが。

「…さてさて、どこに逃げようかねぇ…」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

鬼ごっこが始まってからおよそ…えー、分からん。パチェに聞いてみるか。

(パチェ、始まってからどれぐらい経った?)

(大体2時間ね。あと2時間よ)

(了解。やっぱ声出さないでもいいのは嬉しいな)

(ふふ、ありがとう)

因みに、相手の場所を聞いたらどうなるのか聞いてみた所、パチェに召還された触手によって何も考えられなくなるまで●されるらしい(俺の場合は女性に変えてからするんだとか)。ルール違反も同様。「冗談よ」とは言っていたが、目が笑っていなかった。

「…ってあれ、美鈴って能力無意識に発動してんのかな…」

まあいいや、と自己完結して、そっと覗き込むと―誰も居ない。内心で安堵しつつ、足音を立てずに歩いて中へ入る―直前で飛び退いた。直後、扉の脇から魔理沙の華奢な手が伸びてくる。

「あー畜生、勘づかれたか…なんで気付けたんだよ…」

「呼吸音さ。よく聞けば分かるもんだぜ?」

「…マジか」

美鈴との手合わせの賜物だろうか、気で察知してくる美鈴のカウンター―をカウンターで返す為に色々考え、色々試した結果、聴覚で察知するという随分な能力が備わった。完璧に、とはいかないが、3割程は返せるまでにはなった。…それがまさか、鬼ごっこで役に立つとは。

「じゃ、あばよ」

「あっ、待てこの!」

「待てと言われて待つか普通」

「待たないな。…ってあれ、見失った…」

赤い髪だと、頭が出ていてもあまり目立たない―ただし後ろ向きで、尚且つ紅魔館限定―ので、観葉植物の鉢植えに隠れていてもバレない。今更だが、服装は前を開けた黒のジャケットに簡素な白のシャツ、グレーのカーペンターだ。昔は濃紺の和服だった。

話を戻そう。魔理沙が横切るので、それと鉢植えを挟んで反対に動けばなんとかいける筈。ちょっとずつ…ちょっとずつ…

「んー…居ないなぁ…くっそー、目立つ筈なんだけどなぁ…」

…やっぱやめよ。よそ見した所で…今だ!

「あっ、そんなとこに居たのか!待てー!」

誰か居ないか、誰か…出来ればレミィがいいんだが…

「っとと、悪い美鈴」

「え?わぁっ!?」

「待てぇぇ!」

「霊夜君嵌めましたね!?」

「悪かったって!それに美鈴が居たのは偶然だ!」

「な、ならいいんですが…」

とりあえずどこに逃げよう…えーとえーと…

「…こっちだ!」

「えっ…確かこっちは…」

「後でいくらでも謝るから!」

行き先は―美鈴の自室。美鈴とクローゼットの中に入り、内側から扉を閉める。

「せ、狭いです…」

「…ごめん、我慢してくれ」

「そんな事言っても…ひゃうっ」

…美鈴の胸が、今はかなり邪魔だと思う。美鈴より若干背の低い俺の顎辺りが断続的に柔らかい感触でだな……いや今は関係無いか。

(…ごめん!)

出ようとしたその時、魔理沙の声が近くから聞こえた。

「部屋の中に居る…まずい」

「ど、どうしむぐっ」

「…暫く静かに」

耳を扉に付けてよく聞いていると、魔理沙の足音が遠くなっていき―部屋を出た。

「…ふぅー…ごめんな美鈴」

「い、いえ…こちらこそ、すいません…」

顔を赤くして目を逸らしている美鈴は中々見ない。俺が文なら撮ってるね。

「…自分からやるのは平気なのにやられるのは恥ずかしいんだな」

「ふぇ!?な、ななな何言って…」

「前に咲夜が話してたんだよ。『この前美鈴が、お風呂で胸を揉んできた』って」

「あ、あれは女性同士だから大丈夫だったんです…霊夜君男の子でしょう…?」

「…あー、ね」

まあそれは分からんでもない。男同士で肩を組むのは気軽に出来ても、男女で肩を組むのは抵抗があるのと同じだ。

「…んんっ。いつまでもここに居る訳にもいかないだろ。これから別行動だ」

「え?あ、はいっ」

「じゃな。お詫びは…また考える」

「はい、楽しみにしてます」

にこっと笑う美鈴に笑みを返してから、部屋を出る。直後にフランが駆け寄ってきたので、多少警戒して―すぐに解いた。何故って?そりゃああんた…魔理沙に追われてるからだよ。ってあ、逃げなきゃだ。

「また逃げるのかよ…!」

「ごめん霊夜ー!」

つか鬼は変わってないんだな。飛ぶのは速かったが…走るのは案外苦手みたいだな。

「くそっ…霊夜は霊夜でちょこまかと!」

「ちょこまか逃げて何が悪いんだよ!?鬼ごっこだぞこれ!」

「知るかそんなもん!」

「よし逃げるぞフラン!」

「うんっ!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

それから数十分が経ち、結局鬼はこあで終了した。制限時間ギリギリで、出会い頭にやられたんだとか。

因みに本来の目的であるフランとの親睦会だが、フランは「皆と仲良くなれたと思う!」と大満足の様子だ。つまりは大成功。良かった良かった。ルールを破った人は居なかった。まぁそりゃそうだ。




珍しく書くのに時間掛かりました。大体3日かな?
今回はやりたい事リスト第3回、『紅魔館メンバー+魔理沙で鬼ごっこ』でした。繋ぎとして書いたにしては過去最長の5000文字オーバーってなんか複雑です(笑)。
ではまた次回。


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訪れない春と死の桜
冬は好き、寒いのは苦手


こんにちは、豹牙です。今回からようやく妖々夢ですよ皆さん(歓喜)。今回は導入編です。くろまく~。
ではどうぞ。


「うーさみ…まだ春は来ないのか?」

季節は冬。まあ雪が降っているのも積もっているのも当然だ。だが、今年の雪解けはまだ来ないのかと言いたくなる程に、春が来ない。もう桜が咲くどころか梅雨入りが近付いててもおかしくないのに、まだ雪が降っている。

「…明らかに異変、だよなぁ…」

なんて呟きつつ、3階にある自室から1階の大図書館まで歩いていく。パチェなら何か知っているかもしれない、と考えたからだ。途中、何人かの妖精メイドが、咲夜に指示を受けているのを見かけた。妖精メイドの動きが前に比べたらかなり良くなったのは、咲夜のお陰だろう。咲夜に感謝。

「パチェ?こあでもいいが…入るぞー」

部屋に入る時はノックする、これ常識。「入っていいわよ」と聞こえたので素直に入ると―クッキーの良い匂いが鼻を刺激した。

「おぉ…美味そう」

「私だけじゃ食べきれないし、霊夜達にもあげるわ」

「本当ですか!?やった~♪」

「じゃあ貰おうかな。…あむっ」

うん、程よく甘くて美味しい。咲夜の料理は何でも美味しいからなぁ…昔は美鈴がやってたらしいけど。

「…そういや、パチェ」

「どうしたの?霊夜」

クッキーを何枚か口に運びながら、春が来ない、もう梅雨が近い云々を説明すると、パチェは結構良い反応を見せた。

「…なるほど…興味深いわね。霊夜」

「うん?」

「―異変の解決、してみたら?」

クッキーが喉に詰まった。

「んぐっ!っ、っ、っ…ふぅ……え、俺が?」

「ええ。サポートはするけどね」

「…了解、やってみる」

「ありが…けほっ、けほっけほっ…」

「っと…こあー、薬頼むー!」

すぐに分かりましたーと返ってきたので、俺は俺でパチェの背中を擦る。暫くして、こあがパタパタと飛びながらトレイに薬と水を乗せて来た。

薬を飲ませ、発作が落ち着いた辺りで、パチェが早口で詠唱を始め―僅か3秒で、星が描かれた球体が出来上がった。…明らかに男性用では無さそうだが。

「安心なさい、こっちは咲夜のよ」

どうやら、咲夜はレミィに異変の解決を命令された様だ。続いて、同じ球体ではあるものの、こちらには狼の横顔が描かれた物が出来た。

「おぉ、かっこいい」

「さてと…咲夜呼んでこないと」

「お呼びしましたか?パチュリー様」

「きゃっ!?…え、ええ。異変解決のサポートぐらいはしようと思ってね。咲夜は霊力、霊夜は魔力を込めると弾幕が撃てるわ。これは任意だから、話から始めたい時は止めて。えーと、後は…以上よ」

「ん、ありがとなパチェ」

「ありがとうございます、パチュリー様」

「行ってらっしゃい、咲夜さんにりょう君♪」

「…また懐かしい呼ばれ方だな。行ってくるよ、お姉ちゃん」

にこにこと笑いながら、手を振って見送りに来てくれたこあに―咲夜は美鈴にマフラーを渡されてから見送られた―手を振り返してから、咲夜とは別の方向へ向かう。こういうのは、別行動の方が効率が良い筈だ。

「じゃ、主犯の所で落ち合おうぜ」

「ええ、それじゃ」

 

 

暫く飛んでいると、かなり吹雪いてきた。それでも少し進むと、嘘の様に吹雪が晴れた―訳ではなく、丁度俺が居る所だけが吹雪いていない。

「…なんだ、こりゃ?」

「うふふ…♪」

「っ、誰だ!」

吹雪の中からゆっくりと現れたのは銀髪の女性。思わず警戒して――

「くろまく~」

「…は?」

呆気に取られた。




ちと短いですがここまでで。さぁてスペル覚えないと…
霊夜の持ってる球体には名前なぞありません。咲夜のは言わずと知れたまじかる☆さくやちゃんスターです。
ではまた次回。


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雪女はやっぱり冷たい(物理)

こんにちは、絶賛期末考査の豹牙です。勉強しろよって?ほ、ほらこれは息抜きですよ息抜き(汗)
ではどうぞ。


「くろまく~」

「…は?」

なんだこの人。ルーミアみたいな感じかな?だとしたら相手はしやすいんだが。

「…黒幕?」

「ええ、私はこの異変の黒幕、レティ・ホワイトロックよ。私に勝てたら、この異変を終わらせてあげる」

認めた。咲夜、居たぞ黒幕。主犯は頑張って探してくれ。

「俺は新月霊夜。冬は好きな方だ」

「あら本当!?わぁ、嬉しい!」

「…でもさ、他の季節が無いと、人里の人間が困る訳だ」

「…?」

「そうなると、少しずつ人間は減ってくだろう」

「う…」

「分かったか?人間が減るという事は、妖怪の力が無くなっていく。そして人間も減る…最悪、共倒れも有り得るって事を忘れないでくれ」

「………流石に相容れない、か…じゃあどちらが正しいか決めましょ?」

「ああ。こっちは…5枚で」

「じゃあ私は…4枚ね」

紅霧異変の時のスペルカードは2枚しか無かったが、あれからパチェやフランと一緒に考え、3枚増えた。後は油断しなければ、勝てなくはない。因みに、美鈴からは体術を教わっている。

「うふ、それじゃあ…凍符『リンガリングコールド』!」

「おわっと!?」

小さくて数の多い弾幕と、大きくて数の少ない弾幕が混ざり合って襲い掛かる。厄介なのは大きい方で、最小限の動きで抜けると目の前に小さい弾幕があった。ってあっぶね!

「よっ…え!?」

後ろから!?そこからは撃ってなかった筈…

「どっから撃ったんだ…?」

「さあ、どこかしらね?」

「…いや教えてもらえるとも思ってないさ。流石にそこは自分で見付けるよ」

「頑張ってね~」

慎重に避けながら弾幕を注視し、観察する。よく見ると、大きい弾幕の陰から迫っているのが分かる。そこさえ分かれば後は簡単―とは行かない。

(やっべ、数が増えてきた…今の時点で結構擦ってるのに…!)

「あらあらぁ、もう終わりかしら?」

「っ…!」

思わず魔力が漏れ、パチェから貰った球体から弾幕が撃ち出された。…え、多くね?普通に俺が撃つより多いぞ。

「え…?ちょ―」

急な反撃(少々不本意ではあるが)にレティが反応する前に、球体が撃ち出した弾幕が当たった。勝った方としては相当に複雑だ―が、落ちていくレティを見て、そんな思いも氷解した。

レティの下に回り込み、お姫様抱っこの様に受け止める。途端、チルノ以上の冷たさに思わず驚愕する。

「よっ…冷たっ!」

「きゃっ…あら、ありがとう♪」

「ど、どういたしまして…」

ずっと触れていると凍傷になってしまいそうだが、幸い自分で浮かんでくれたので一安心。両手をポケットに入れて暖めつつ、冬を終わらせてくれと言ってみる。すると―いきなり頭を下げられた。

「え、いや…あの」

「ごめんなさいね~、私この異変の黒幕でも犯人でもないのよ~」

「…えっ」

なんじゃそりゃああ、と内心で叫びつつ、「ありがとう」と言われてキス―勿論頬にだ―された。心臓が止まるかと思った。

 

「頑張ってね~」と手を振ってくるレティに手を振り返して別れつつ、適当にふらふらと飛び回ってみる。ただ絶対におすすめしない。吹雪の中、方向も適当にあちこち行くと当然迷う。―つまり何が言いたいのかと言うと、迷った。

「…うわぁ、どうしよ……」

「あっ、居た居た!止まりなさい、そこの人間!」

「へ?…あ、俺か」

「人間ってキミしか居ないじゃないのさ…あれ、キミって確か紅魔館の…」

「知ってるのか?」

「うん、藍しゃまがよく「橙、この子は何者にも屈しないからよく見ておく様に」って言ってるからね。新月霊夜でしょ?」

「なんか照れるな…お前は橙、で良いのか?」

「あれっ、私名乗ったっけ?」

「いやさっき「橙、この人は~」って言ってたろ」

「あ、そっか」

あははーと無邪気に笑う橙―見た所化け猫だ―に、実は幾つか聞いてみたい事がある。

「なあ、橙」

「うん?」

「ここどこだ?それと、なんで俺を探していたみたいな言い方だったんだ?」

そう、橙はさっき「居た居た」と言った。となれば、探していたのだろう。だが、ここがどこかというのは「知っててほしい」という願望でしかない。

「あー、ここはマヨヒガって言ってね。その名の通り、迷った人しか入れないんだ。これは特殊な結界が張ってあるからで、キミが入ってきたのを感知したの。それで私は探してたんだ」

「…なるほど。じゃあ最後に1つ…いや2つ良いか?」

「?」

こてん、と首を傾げる橙に、質問と欲望をぶつけてみる。

「出口があったら案内してほしい。で、これは俺の個人的な事なんだが…撫でさせてくれ」

「ふにゃっ!?」

「はは、冗談。さ、案内してくれ」

「~~~~…わ、分かった…」

可愛いなこの猫。藍って人(多分妖怪)も幸せだろうなぁ…




霊夜てめぇそこ代われや(願望)
てな訳で、はい。レティさんごめんなさい。さて皆さん、遅れましたが…ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!…ふぅ、スッキリ。
ではまた次回。


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魔法の森の人形劇

こんにちは、豹牙です。
橙と弾幕ごっこ?さぁて何の事やら。無理に原作に合わせてたら霊夜の意味無くね?ってのが本音です。
さて、今回はアリス回。シャンハーイ!
ではどうぞ。因みにチルノは咲夜に撃ち落とされました。1面勢かなり不憫な気が…


マヨヒガを出た所で橙と別れ、今は魔法の森上空を飛んでいる。だが気のせいだろうか、今までより妖精の動きが活発になっている気がする。まあ雪だからはしゃいでいるだけかもしれないが、だからと言って弾幕を撒き散らしていい訳ではない。可哀想だが撃ち落としていると、球体に桜の花弁の様な物が入っていくのに気付いた。…なんだこれ。

「シャンハーイ!」

「ん?…人形?」

「シャンハイシャンハイシャンハーイ!」

「え、ええと…」

金髪碧眼の、笑顔がよく似合う女の子―の人形が、俺の目の前で身振り手振りで何かを伝えようとしている。見ていてほっこりとしてしまうが、その表情に必死さを―今思えば凄い精巧さだ―感じた俺は、何とか解読してみようかと努力してみる。

「シャンハイ、シャンハーイ」

「ええと…俺が持ってる、物が、欲しい?」

「シャンハイ!」

嬉しそうに頷く人形だが、生憎あげられる物は持っていない。

「あら上海、こんな所に居たのね」

「シャンハーイ!」

短めの金髪に青のワンピース、肩にはショールを羽織っている。一見すると、美麗な顔立ちを含めて人形の様な印象だ。

「…えと、どちら様?」

「そう言う貴方はどちら様?」

「新月霊夜。紅魔館に拾われた普通の人間さ」

「…目は痛くならない?アリス・マーガトロイド。魔法の森に住んでいるわ」

「慣れればそうでも。…魔法の森に?魔法使いか何かか?」

「ええ、魔法使いよ。人形遣いでもあるわ」

「あ、それでその子が…凄いクオリティだな」

「上海は半自動人形なの。完全自動人形を作るのが私の夢なの」

「お、おう…それって人間作るのと同じな気もするけど…」

「ふふ、そうよ?…さて、貴方の春をくれないかしら?」

「…春を?それって…この花弁か?」

「ええ、その花弁よ」

「…あげても良いが、目的を聞いても?」

「研究の為、としか言わないわ。初対面の相手にそう情報を漏らしてたらキリが無いもの」

「それもそうか。んじゃ…流石に全部は多い?」

「え?くれるなら貰うけど…量次第よ」

「ほいよ」

球体の中にある春を解放すると―実は加減が分からなかった―、辺り一帯が春に包まれ、花弁の嵐が吹き荒れている。その光景を見た2人と1体は、何と例えたら良いのか分からなかった。

「…綺麗……」

「だな、すげえ…」

「シャンハーイ…」

どれだけ、そうして眺めていただろうか。少しずつ桜吹雪が収まってきて、視界がはっきりしてきた時、目を閉じて先程の余韻に浸るアリスが映った。やがてゆっくりと目を開け、「良い物が見られたわ、ありがとう」と柔らかく笑った。「春は集められたか?」と笑いながら返すと、はっとした顔で「見とれて忘れてたわ…」と残念そうにしていた。でも、あれを見てしまえばそれも仕方無いだろう。

「あ、じゃあ一緒に来るか?毛玉やら妖精倒してたら大量になってたし」

「ほ、本当!?」

「わっ」

急にぐいぐい来られて少し戸惑うが、魔法使いというのは探究心を持っていないと毎日が退屈―パチェ談―らしいので、この反応は寧ろ正常なのだろう。

「…よし、じゃあ行こうか」

「ええ」

「あ、あの…」

「ん?あれ、キミは確か…春告精、だよな?」

「はい、えっと…私も、行きたいです…春が来ないのは、やっぱり変ですから…」

アリスと顔を見合わせ、同時にクスッと笑みを溢す。

「分かった、一緒に行こうぜ」

「よろしくね、春告精さん?」

「あ…ありがとうございます!あの、私リリーホワイトって言います…お2人は?」

「俺は新月霊夜。この人形が上海で、こっちのお姉さんがアリス・マーガロトイド」

「マーガトロイド、ね」

「すんません」

「シャンハーイ!」

3人と1体のかなり変則的な―しかも全員種族が違う―集団は、異変の解決(ついでに春集め)の為に動き出した。




レティ以外弾幕ごっこしてない(断言)。しかもあの面子、霊夜以外金髪でしたね。書いた後に気付きました。もうリリーが可愛すぎて死んでまう…
ではまた次回。


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真面目過ぎるのも不真面目過ぎるのも駄目だ

こんにちは、豹牙です。
今回は…まあタイトルから分かるかと。プリズムリバー三姉妹?誰かがやったんじゃないでしょうか(適当)。それか音合わせやらなんやらではないかと。宴会ではきちんと出します、ご安心を。
ではどうぞ。


「…むむっ、この辺りから大量の春を感じます」

「となると…犯人は近いな」

「私としてはもう充分の春を手に入れる事が出来たから満足なんだけど…ここまで来たら最後まで付き合うわ」

「おう、ありがとう」

やる事としては、リリーが春を感知して俺達に知らせる、所謂レーダー。迎撃は、俺が前でアリスが後ろだ。上海は癒し要員。ちゃんとポンポンまで持っている。

さておき、リリーが重要な事を口にした。近くに犯人が居る。

「ん、あの銀髪の子かな?…何だあのふよふよ浮いてるの」

「…ですね。あの人とあの人の刀から感じます…と言うかちょっと服とか破れている気も…」

「…今度こそ正解だろうな」

「「「?」」」

脳裏に先程のレティの言動が蘇り、思わず声に出ている。おっと危ない。

 

話を戻す。銀髪の子に()()()()()()()飛んで行き、挑発の態度をとる。

「やあ、こんにちは。突然だけど、春をくれないか?」

「「え?」」

「…何故です?と言うか誰ですか?」

疑問符と共に警戒してくる銀髪の子だが、リリーを引き寄せ、更に畳み掛ける。

「俺は新月霊夜。この妖精―春告精が言うには、お前とその刀から大量に春を感じるらしい。春が奪われているってのにそんなにあるって、おかしくないか?」

「…魂魄妖夢です。それなら、先程大量の春が吹雪の様に吹いていた所に行ってみては?案内しますよ」

残念だが、そこは俺の―正確には球体の―仕業だ。あれは綺麗だった。

と言うか質問と返答が噛み合ってないんだが。

「いや結構だ。何故だか、春が球体(こいつ)に溜まっていくらしくてね」

「! …その春、戴きます!いざ尋常に…」

「待った待った、理不尽にも程がある。一先ず、お前が春を欲しい理由を聞いて、納得出来たら渡そう」

「っ…!」

掛かった。割と分かりやすい反応だな。…さてはこの子、真面目過ぎて弄られるタイプだな?

「………の、為です…」

「ん?」

「主が、咲かない桜を咲かせてみたいと仰っていたので…」

「…それで春を集めてたんですかー?」

「…はい」

今度こそ異変の犯人を見付けた。…けど、さっきリリーが言っていた様に少し服が破れているのは何故だろう。―もしかして…

「―ねえ、貴女の傷に塩を塗る訳じゃないけど…貴女、既に誰かにやられてるわね?誰にやられたの?」

「博麗の巫女と…箒に乗った金髪の子と…ええと、ナイフを持った―」

「あー3人とも分かった。あいつら…3対1でやったのかよ…」

いくら何でも酷くないか。俺の人狼狩りより…あれは俺が勝ったんだっけか。

「―で、その3人は?」

「冥界の…白玉楼に」

「冥界?死人の魂が行く所か?」

「は、はい。あぁでも、まだ死んでませんから…」

「…まだ、だと?」

「え、いや、あの…主…幽々子様が能力を使えばの話です。滅多に使いませんよ」

「…だとしてもだ、冥界はどっちだ?」

「あ、あっち――きゃあ!?」

あの3人は、死んでいい人間じゃない。後ろで4人が何か言っているが、今は聞いていられない。ただ全力で飛んでいた。

 

 

「…居た、咲夜ー!」

「あら、霊夜じゃない。遅かっ―」

「う、ううっ…」

呻き声がしたのでそちらを向くと、霊夢と弾幕ごっこをしていたらしい桃髪に上品な空色の和服を着た女性―恐らく彼女が幽々子―が苦しみ始め――消えてしまった。

「え…?」

途端、蕾すら付いていなかった巨大な桜―これが妖夢の言っていた「咲かない桜」だろう―が、一斉に咲き、妖しく光り始めて―――。

 

そこで、記憶が途切れている。ぼんやりと覚えているのは、金色の九尾らしき女性に、尻尾でぐるぐる巻きにされた事、そして桜の花が一斉に散った事だけ。




弾幕ごっこしない、すげえ(小並感)。妖夢どころか幽々子すらすっ飛ばした妖々夢って味気無い気が…という事で、後日談を挟んでEXに移ります。何かもう、超平和ですね。霊夜。今の所、弾幕ごっこ2回(1勝1敗)、使用スペル1枚。うーん…(笑)
ではまた次回。


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猫の親は狐?

こんにちは、豹牙です。
前回事後談をやると言いましたが、ごめんなさいEX先にやります!さて皆さん、ご唱和ください。せーの…
ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!
ではどうぞ。


終わらなかった冬が終わってから10日が経ち、魔理沙が図書館に転がり込んできた。何だ何だ?鼠でも出たか?泥棒猫は出たか。

「あれ、咲夜はどこだ?咲夜ー」

「…騒がしいからやめなさいっ」

「いてっ」

咲夜が現れ、魔理沙の頭に軽くチョップをする。でもナイスタイミングだ。

「それで、何かしら?」

「おぉ、そうだ。咲夜、あの時…なんか急に意識が持ってかれなかったか?」

「? ええ、そうだけど…」

「あれやった黒幕が分かったんだ、一緒にぶっ飛ばしに行こうぜ」

「え…今から?」

「そう、今からだ。霊夢に先を越される訳にはいかないからな」

「…私はまだ仕事があるんだけど」

「ちぇー…」

「代わりに、」

…なんだか嫌な予感がしてきたぞ。今すぐ狸寝入りしたい。と言うかする。

「そこで狸寝入りしてる霊夜を連れて行ったら?」

「お?ホントだ。よし、寝たフリなんかやめて行くぞ霊夜」

「…えー、俺はゆっくりした――」

魔理沙に腕を掴まれ、俺は風になった。いや違うな、風にされた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「待て待て待て待て止まれ!」

「ん?」

「やっと止まってくれたか…死ぬかと思った…」

「…あー、悪い……」

「あっ、おーい霊夜ー!」

「ん?おお橙か!」

「…霊夜お前、ロリで始まってコンで終わる病気か?チルノ達とも仲良かったし」

「チルノ達は昔から遊んでたからなぁ…橙はマヨヒガの出口に案内してもらったし」

「ねぇねぇ霊夜、弾幕ごっこしようよ!今の私は藍しゃまに力を貰ってるの。レベルで言うならエクストラだよ」

「いや、元が分からないからなぁ…」

橙とは弾幕ごっこをしていない。それで力が上がっていると言われても、微妙な所だ。だが、本人がやる気ならやるのは吝かではない。

「…分かった、やろう。魔理沙はどうする?待ってるか?」

「いーや、私は黒幕をぶっ飛ばしに行くぜ。じゃあなー」

「ああ。…さて、何枚で行く?」

「私は…2枚!」

「じゃあ俺も2枚だ。いくぞ橙!」

「うん!―鬼神『飛翔毘沙門天』!」

「おお、速いな!」

高速移動しながら、その軌跡に青い弾が大量に発射される。スピードは厄介だが―抜ける!

「っ…とぉ!」

こういう時、美鈴に体術を教わっていて良かったと思う。身体をどこに動かせば避けられるかが、手に取る様に分かるのだ。

「凄いね霊夜!これを避けるなんて!」

「伊達に体術習ってないからな!―龍翔『昇り龍』!」

今度はこちらが、突進しながら黄色の弾幕を撃ち出す。横移動の橙とは違い、縦移動。スピードがあまり無い分、ある程度小回りが効くのが特徴だ。

「わぁ、凄い凄い!」

「美鈴から思いついたんだ、何となく龍みたいな感じだしな」

なんて軽口を交わしながらも、互いに決定打は無くブレイク。

「―鬼符『赤鬼青鬼』!」

「いきなりか!?」

正面に戻ってきた橙の左右から、赤と青の弾幕が大量に撃ち出される。うお、割と避けづらい!

「くっ……!」

「そりゃそりゃそりゃー!」

「―血符『返り血まみれの殺戮ショー』…!」

「スペカの名前怖っ!」

「おおおおおおお!」

真っ赤な針型弾幕をあちこちに―これはランダムだ―放ち、更にそれは戻ってくる。俺の所まで来たら消えるので返り血、という訳だ。因みにこれは、レミィと共に考えた。

「わ、わわわわわ!」

当たる直前でスペルがブレイクされた橙は、慌ててあちこちに動き回る―が、弾幕のスピードもランダムな為、避ける方向と運によっては詰みになる――あれ?橙のスペルブレイクしてるから俺勝ちだよな?スペカのキャンセルは…ええと、出来た。無理矢理抑え込めば出来るみたいだな、覚えとこう。

「こ、怖かったぁ…」

「悪い悪い、大丈夫か?」

「うん、なんとか…」

よしよし、と帽子の上から橙を撫でていると、遠くで何やら光っているのが見えた。あれは…片方は魔理沙、もう片方は…

「あっ、藍しゃまだ!」

「そうなのか。応援に行こうぜ」

「うん!…ってあれ、人間を応援しないでいいの?」

「俺は連れて来られただけだからなぁ…魔理沙を応援する気にはなれねーや」

「あ、あはは…」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「う、お、お!?」

「…おや、その程度なのか?その腕で紫様に挑もうなど笑わせる」

「ぐぎぎ…恋符『マスタースパーク』!」

「おっと。―式神『十二神将の宴』」

「なっ…わぎゃー!」

「…ふむ、弱くはなかったぞ」

「くっそー…負けちまったぜ…」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「―お?どうやらお前の主が勝ったみたいだな」

「藍しゃまはお強い方だから!」

「…霊夜、来てたのか」

「ああ、たった今来た。いやー、橙も強かったな」

「藍しゃまごめんなさい、負けてしまいました…」

「いやいや、謝らなくていい。橙、強くなったね」

九尾の妖狐―恐らく、いや間違いなく藍―に撫でられて嬉しそうな橙を見て、思わずほっこりしてしまう。

「―さて、新月霊夜」

「へ?俺?」

「以外に誰が居ると言うのだ」

やれやれ、と言いたげに苦笑する藍が、ちょっと―いやかなりの美人なので、少しドキッとしてしまう。そのまま見惚れて固まる俺の意識を、藍の咳払いが戻した。

「紫様がお呼びだ、少し来てもらえないだろうか」

「あ、私も――」

「本人以外の同行者は、私と橙だけだと言われている。申し訳ないがお引き取り願おう」

「うぐぅ…」

流石の魔理沙も、あそこまで丁寧に拒否されると食い下がれないのだろう。不満そうな顔で「分かったぜ」と呟き、踵を返して戻っていく魔理沙に内心で謝ってから、藍に着いていく。

「…紫様、って八雲紫だよな?幻想郷の管理者が、俺に何の用だ?」

「済まないな、私も内容までは知らされていないんだ。ただ『連れてきてくれ』としか…」

「大丈夫か幻想郷。管理者いい加減過ぎるだろ」

「ははは、私も補佐しているから大丈夫だ」

「なら安心だな」

「――さて、着いたぞ。我々は案内だけだ、2人で話したいとご所望だったのでな」

「ありがとう藍。それに橙、また弾幕ごっこしような」

「うん!次は私が勝つよ!」

またねー!と元気いっぱいに手を振る橙と、優しく微笑む藍が瞬き1つの間に消えた―って待て待て、なんかおかしい。え?速すぎないか?いやでも風は起きてないし――

「こんにちは♪」

「うわぁぁ!?」




EXは次回に続きます。ついでに後日談も次回にぶち込みました。それとは別で後日談投稿しますが。
ではまた次回。


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人の道と妖の道

こんにちは、豹牙です。
今回も妖々夢EX。そして、この物語のターニングポイントになります。
俺からは多くは語りません。
ではどうぞ。


「―こんにちは♪」

「うわぁぁ!?」

唐突に後ろから―何も無かった筈の空間から触られて驚くなと言われても無理だ。断言する。振り向くと、ゴスロリといった例えがよく合いそうな服装の女性が、中に目玉が幾つも浮かんでいる裂け目から上半身のみを出してにこやかに微笑んでいる。

――胡散臭い。

それが第一印象。どの仕草を見ても、それが演技であると一瞬で見破れる―が、その真意が全くもって分からない。

「びっくりした…なんか、用か?つか誰だ?」

未だ忙しなくバクバクと音を立てている心臓に手を当てながら出たのは、なんとも情けない声。

「私は八雲紫。ええ、貴方に興味がありまして」

「…興味?俺に?」

「ええ、ええ。他でもない貴方ですわ。貴方は、紅魔館の面々から殺伐とした空気を無くし、狂った妹から狂気を無くし――っと、元より狂ってはおりませんでしたわね」

俺の言葉に首肯した女性は、裂け目から出てきて腰掛け、扇子を口元に当てて話し始めた。

「貴方は今、自分が霊力以上に妖力を―しかも全く馴染んでいない物を持っている事を知っているかしら?」

「急に話変えたな…確かに持ってる。けど、それがどうしたんだ?」

「―貴方は人間かしら?」

「はぁ?何言ってんだ?俺は人――っ、げほっげほっ!」

肺に何かが入った感触があり、咳をしてから、自分の手に何かが付いていると分かり―その正体を見て、ぞっとした。

――血だ。

「…………!」

「やはり……貴方は今、人ではないのですわ。妖怪に近い…しかし、貴方が自分を妖怪と受け入れていない為に矛盾が生じているのですわ」

「矛盾……?げほっ!げほっげほっげほっ…」

「あぁ、無理に喋らないでくださいな。貴方は妖怪。でもそれを認めておらず、人間だと言い張る。…ほら、矛盾しているでしょう?」

解決方法は、と聞こうとして、聞くまでも無いじゃないかと思い直す。それはつまり、俺が()()()()()()()()()()()()()。勿論そうすれば、人間として人里には入れない。だが―ここでくたばるよりも何倍もましだ。

「ぜぇ…ぜぇ…」

息が続かない。意識が薄れてくる。たった数文字を言うだけだというのに、それすらもままならない。

その時、声が聞こえた。

――だからなんだ?お前の意思はそんな物か?

「―――っ!」

「あら?…どうやら、答えは出た様ですわね」

「ああ…出たさ……俺は…人の生を捨て、妖怪として生きる…生きてやる…!」

その言葉を聞いた紫が、薄く笑い―直後、意識が飛んだ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「ん…眩しい……」

瞼を開けると、柔らかな陽光が目に入ってきて、それを手で遮り――違和感を覚えた。声が高いし、手も小さい。更には、銀に少しの赤が混じった髪が腰まで伸びている。前髪は大して変わっていないが、お尻の辺りにふさふさした感触が…って尻尾?

「…俺、何の妖怪になったんだ?」

しかしいつまでも野原で―紫が運んでくれたのだろう―寝転んでいる訳にもいかないので、ひとまず紅魔館を目指す事にする。霧の湖に顔を写せば分かるだろう。

「…おお、妖力が増えてるし馴染んでる。魔力はそのまま、霊力は…消えたみたいだな」

うぅ、見た目的に目立つなぁ…あ、牙が生えてる。尻尾が生えてたから分かったけど獣の妖怪か。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

途中何度か毛玉や妖精と出会ったが、初対面なのもあり無反応。うきうきしながら「春ですよー!」と伝えて回っているリリーホワイトは一瞬きょとんとした物の、すぐに仕事(なのか?)に戻った。

…まあ、仕方無いか。

「あったあったー…っと」

紅魔館はそこそこ大きい上に目立つ為、割と目印にしやすい。(少々不本意ながらも)髪を靡かせて降下していき、湖に顔を映してみると―

「何だこりゃ、ほぼ女性じゃねぇか……何より目立つのはこっちか…」

さて、俺がどんな妖怪か判明した訳だが。答えはなんと、『狼男』。何で分かったかって?銀色の犬耳、ふさふさの尻尾が生えていたからだ。要するに銀狼。牙が生えていたのも頷ける。因みに、目の色は変わらず赤だ。

「…あの時喰ったからかな」

「あれ、霊夜君…が妖怪化してる!?何があったんですか!?」

「のわっ!?美鈴か、驚かすなよ…って、分かるのか?」

「ええ、霊夜君の気を感じるので。…さて、皆に説明してもらいますよ?」

「分かってる、説明するから…って、なんで撫でるんだよ」

「良いじゃないですか~」

「はぁ…3分だけな」

「はいはい、分かってますって~…わぁ、髪柔らかい!」

「うわ、擽ったいって!行くなら早く行くぞ!」

「ふふふ~…可愛いですね~」

美鈴は顔こそにやついている物の、撫でる手は不快にならない柔らかさを孕んでいる。…あ、ヤバい。これ癖になる。

「あ、嬉しいんですね?尻尾思いっきり振ってますし…」

「…正直言うと嬉しい」

美鈴に撫でられながら、尻尾はぶんぶんと振られているがもう仕方無い。そういうもんだ。多分。

「……あ、もれなく全員図書館に居ますね」

「悪いけどそれまでには撫でるのやめてくれな…」

「ふふふ、分かってますよ~」

なんて言ってる間に図書館前に着いたので、美鈴がノックして「失礼します」と続け、こあが扉を開けてくれた後、はしゃぎながら「わぁ可愛い!誰ですかこの子!」と言われる所までは―色々別人なので分からないのが普通だ―予想出来た。美鈴が説明し、俺が改めて自己紹介した辺りで10秒程硬直し、それを聞いていた面々が同時に「えええええええええええええええ!?」と叫んだ声は、幻想郷全土に―とはいかないものの、霧の湖にいた大妖精とチルノ、わかさぎ姫には聞こえたらしかった。

だが何より大変だったのはその後で、急に叫んだせいで発作が起きたパチェに薬を飲ませ、慌てたこあが薬を取るときに本棚をひっくり返したので手分けして戻し、終わった辺りでフランに抱きつかれてそのまま勢いで吹っ飛んだ―と言うのが30分の間に起きた、と言えば大変さが分かるだろう。

兎に角、俺はもう人ではない。これからは狼男―要するに妖怪として生きていくのだ。その事に複雑な感情を抱きながら、もう何度目かの壊れた扉を見詰めていた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

―後日談―

 

―たまには博麗神社にでも行くかな。

と思った俺は、美鈴にその旨を伝えて―前にそれを忘れて騒ぎになった―、博麗神社へと飛んで行く。

「霊夢分かるかなぁ…紫が説明しといてくれれば話は早いんだが…まあ期待しないでおくか」

俺が妖怪化した事を知っているのは、俺が分かっている限りでは紅魔館の皆とちびっこ達、草の根の2人(この時、草の根に入れてもらった)、そして紫だ。リリーは見ていたが、完全に気付いてないのでノーカン。

「…ま、宴会の時に会うから大丈夫だろうけど…」

だったら意味無いとか言わない。霊夢の場合、問答無用で退治しそうだから知らせといた方が良いかなーと思ったからだ。

「お、見えてきた。…お茶でも飲んでるのかな?」

前に聞いた所、境内の掃除とお茶を飲む以外は家事しかやらないらしい。普通なら優良なのだが、妖怪退治が生業の巫女として修行はしないのだろうか。

「よっと…おーい霊夢ー」

「はいはーい素敵なお賽銭箱はそこよー…誰?」

「霊夜だよ」

「…は?」

「だーかーらー、元人間の新月霊夜だよ。今は銀狼だけど」

「嘘…は言ってないみたいね。…とりあえず入んなさい。詳しく聞くわ」

「あいよ…ん、魔理沙も居るのか?」

「え?ええ、居るけど…なんで分かったの?」

「いや…匂いが魔理沙のそれだから、かな」

「…嗅覚が発達したのね」

「みたいだなー」

 

~少年説明中~

 

「…って訳だ」

「…この可愛い狼があの霊夜だなんて信じられないぜ」

「黙れ元本泥棒。あのって何だあのって」

「あ、霊夜だ」

「…何それ」

結論、霊夢も魔理沙も、思っていたより驚かなかった。

「ま、変な事したら容赦はしないけど」

「しないよ…信頼無いなぁ」

「念押しよ。あんた酒弱いでしょ」

「ああ、なるぅあ!?」

「おー、柔らかいぜ…この野郎、男のくせにこんな髪しやがって…」

「俺だって好きでこうなった訳じゃないっての。…それと魔理沙」

「うん?」

「お前撫でるの下手だな」

「何をー?霊夜のくせに生意気だぜ」

「人の神社で馬鹿やんないでくれる?魔理沙」

「…分かったぜ」

「ほっ…」

割と…いやかなりもみくちゃにされたので、髪がボサボサになってしまった。許さん。

「…ところで、私にも撫でさせてくれる?」

「え?…霊夢こういうの好きなのか?」

「嫌いじゃないわね。…何より、アンタその状態で帰るつもり?」

「…まあ、いいけど…耳はあんま弄るなよ?」

「はいはい、分かってる分かってる。ほら、こっち来なさい」

手招きされたのでちょっとずつ近付き、互いの膝が当たりそうな所まで来た辺りで静止を掛けられたので止まる。すると、美鈴とも魔理沙とも違う、どちらかと言うと遠慮がちな動きで撫でられる。…うん、これはこれで心地良い。美鈴程ではないけれど。

「…あら、尻尾振ってる」

「ぐぬぬ…私の時はぴくりともしなかったのに…」

「魔理沙は雑なのよ、なんでも」

「むっ、酷いぜ霊夢…私程繊細な人間はそう居ないぜ?」

「じゃあ紫はなんだと思う?」

「え?えーと…」

繊細(1000歳)だよ」

「ぷっ…確かになー」

「1本取られたわねー」

「…霊夜、ちょっと来てくれるかしら?」

「…あ」

「いっ」

「う…」

紫本人ご登場に、一同揃って絶句するしか無かった。口元は明らかににっこりを通り越しているし、視線は射殺す様に鋭い。美人が台無しだ、とは最早言ってられない。

「…あー、あれだ。年上の言うことはタメになるという…」

「私は17歳よ?」

「え、じゃあ俺と2つしか変わらない…いやいや待て待て、それじゃあ吸血鬼異変の時は産まれてすらいないじゃないか」

「…さ、さぁてねぇ…」

「それに、17歳にしては大人っぽ過ぎるだろ。サバ読むにしても責めて26歳だ」

「…あら?褒められてるのかしら?」

「…そう受け取っといてくれ。大妖怪とはいえ女性だしな、深くは傷付けたくないさ」

「へー良かったわねー紫ー」

「霊夢の棒読みが酷い…」

「ははは…」

とりあえず…セーフ!

この後、4人で夕方まで話していた。…ただ、紫がぐうたら過ぎてちょっと引いた。藍も大変なんだなぁ…




結局弾幕ごっこしない(2回目)。いやーまずい、これ下手したらEXボス全部弾幕ごっこしないかもしれない。
さて、霊夜は妖怪になりました。この結果が正しいかどうか、それは俺にも分かりません(大真面目)。
ではまた次回。


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幽々子に撫でられるだけの話

こんにちは、『朝6時に投稿します』とかツイートしといて即時投稿していた豹牙です。よく見たら、日付変えてませんでした。時間しか変えてなけりゃ、そりゃあ投稿されるわな。
さて今回は、妖々夢後日談です。ゆゆ様は(色々と)凄い。
ではどうぞ。


「…う~ん、ずっとこうしていたいわ~…妖夢~、駄目~?」

「わ、私に言われても分からないですよ…」

俺は今、訳あって白玉楼に来ている。で、撫でられている。何故かって?まあ聞いてくれや。そうさなぁ、今から30分程前………

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

俺は白玉楼へ足を運んで―実際飛ぶしか無いので正確には足ではない―いた。理由としては、まあ宴会の場所選びだ。他の候補として、紅魔館や博麗神社が挙げられているが、異変の首謀者という事で妖夢の働いている屋敷(白玉楼)が候補に挙がったのだ。ん?紅霧異変の時は紅魔館じゃなかっただろって?その時修復作業の真っ最中だろ無理に決まっとるわ。

「しっかし、改めて見ると広いな…敷地だけなら紅魔館に並ぶんじゃないか?」

「…どちら様ですか?」

「おう、妖夢。俺だよ俺、霊夜だよ」

「…はいぃ!?」

ですよねー分からないよねー目の色以外別人だしねー。顔立ちやら背も5年程戻ったみたいに小さい。フランが嬉しそうにしてたからまあ良しとしよう。

「え、ええと…こほん。何のご用で?」

「ああ、実はだな…」

妖夢に宴会を開く旨を伝えると、何故か深く考え込んでしまった。何やらブツブツと呟いているので、少々申し訳無さを感じながらも中へ入らせてもらう。勿論靴は脱いだぞ?

「…なんか畳と襖が懐かしいな」

「ちょっ!勝手に入らないでくださいよ!」

「あ、悪い……」

妖夢にお説教されるとは思わなかった。ううむ、可愛らしい顔立ちのせいか威圧感が無い。なんて思いながらお説教を聞いていると、足音と共に中から柔らかい声が聞こえた。

「妖夢~、お腹すいた~」

「お昼まで我慢してください幽々子様!」

「……白玉楼といい幻想郷といい…どっか抜けてる人が多いな」

「…お見苦しい所をお見せして申し訳ありません、この方が西ぎ「西行寺幽々子よ~、よろしくね~」…です」

「俺は新月霊夜。元人間で、今は狼の妖怪だ」

「………撫でてもいいかしら?」

「へ?まあ…うん。耳とか尻尾をあまり弄らないなら」

「やった~、紫が『狼の妖怪撫でてみたらすっごく気持ちいい』って言ってたから撫でてみたかったの~」

「…なるほど」

恐らく、野原に寝かせた時にしたのだろう。―と言うか、この容姿になっている事すら紫のせいな気がする。

「じゃ、ここに来て」

「え?」

正座してぽんぽんと膝を叩くので、正直普通にびっくりする。ほぼ初対面の奴を、しかも出会って数分で膝に乗せるとは何とも豪胆なお嬢さん―いやお姫様か?―だ。

「え、ええと…わぶっ」

ちょっとずつ進んでいると、いきなり抱き寄せられた。冷たい、と言うかひんやりしている幽々子は、やはりと言うべきでは無いのだろうが柔らかい。…美鈴は鍛えてるからか。

美鈴で思い出したが、断続的に柔らかい感触が顔に訪れていてだな…

「~~!~~~~!」

「あらあら、赤くなっちゃって…可愛い♪」

流石にこのままでは俺が恥ずかしいので、なんとかして反対向きになりたい―が、体勢的に力が入れづらい…あ、直してくれた。

「はいっ、これで大丈夫?」

「あ、ああ…大丈夫」

「ふふ~…髪、柔らかいわね」

「…ありがとう」

幽々子もパッと見だが柔らかい髪をしている。だがまあ、自分と他人では違うだろう。隣の芝は青いのだ。

「…はむっ」

「ひゃう!?」

「はむはむ…」

「み、耳はやめ…てっ…」

「?」

「~~~!」

結構敏感になっている耳は、甘噛みなんてされたら本当にやばい。耳がやられてるのに、背中に電流が走っている様な感覚がする。

「こ…これ以上、はぁ…頭変になるから(にゃりゅかりゃあ)…」

「…あらら、呂律が回ってないわね……大丈夫ー?」

耳が解放され、本当に変になりかけていた思考が元に戻る。軽く頭を振ってから、「なんとか」と返すと笑顔になった。俺には人を笑顔にさせる力なんて無いんだけどなぁ。

「…う~ん、ずっとこうしていたいわ~…妖夢~、駄目~?」

「わ、私に言われても分からないですよ…」

台詞でお察しの通り、ここで冒頭に戻る―いや戻っちゃ駄目だ。進めないと。

「んー…流石にずっとは駄目だけど…と言うか、今日は2人にお願いがあって来たんだ」

「「お願いが?」」

「実はだな…」

 

~少年説明中~

 

「…宴会の開催場所を、ですか?」

「ええ、良いわよ。代わりに、食べ物沢山持ってくる様に伝えておいて?」

「ゆ、幽々子様…宴会用ですからね、全部食べないでくださいね?」

「大丈夫よ~、妖夢は心配性なんだから~」

「…………」

手を額に当て、はぁーっ…と溜め息をつく妖夢。俺は「え?幽々子ってそんなに食べるの?嘘だろ?」と思わずにはいられなかった。




はい、後日談でした。この後は、楽しい楽しい宴会タイムですよやったぜ。
書いてて思ったんですが、レティと幽々子ってなんか似てません?性格的に。
ではまた次回。


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雪が溶けたら宴だ諸君

こんにちは、特別編の位置を完全に間違えてた豹牙です。独足少年話でも同じミス。
ま た こ れ か 。
さて切り替えて、妖々夢宴会編です。前回とは違い、色々なキャラと絡ませるつもりです―が、今回はまだ導入編です
ではどうぞ。


「宴会やるぞ宴会、フランも行こうぜ」

「ほんと!?行く行く!」

俺は今、紅魔館の地下室に居る。理由は勿論、フランを誘う為だ。姉妹で(一部物理的に)話し合って和解した後、―日傘は要るものの―外にも何度か出ているのだ、もう連れて行かないとフランが可哀想だろう。

「よし、じゃあ準備しようか」

「うんっ!」

―今更だけど、俺今フランより少し高いぐらいなんだなぁ…

なんて事を考えつつ、俺はフランがうきうきしながら日傘を取り出す様子をしばし眺めて―俺はあまり準備が要らないのだ。一番長いのは、意外にも(と言うのも失礼だが)美鈴だったりする―、待ちきれない様子のフランをひとまずなだめて図書館へ向かう事にする。移動中は暇な為、気になった事でも聞いてみよう。

「そう言えばフランってさ」

「うん?」

「何と言うか…その、成長しないのか?」

「うーんとね…私やお姉様に限らず、妖怪は落ち着いたらあまり姿が変わらなくなる―つまり成長が止まっちゃうんだよ」

「へぇー…そうなのか」

と言う事は、俺は下手したら一生この見た目なのか。嬉しいようなそうでないような…

「だから私はずーっとこの見た目なの。…でも、もう少しおっきくなりたいなぁ」

「…なれるさ、フランなら」

「あ、霊夜―」

確証なんて無いが、それでも信じればきっと――

ゴンッ!

「わだっ」

「…遅かったみたい」

気付けば扉の前だ。地味に痛い。と言うかフランが呼んでたのはこの為だったんだな、気付けなかった。

「いたた…」

「…霊夜?」

「ボーッとしてたらぶつかった…」

「もう…来てみなさい」

「…この辺か?」

「ん、その辺よ」

微笑しながら小さく首肯した後、軽く頭を小突いてきた。

「考え事も良いけど、ちゃんと前を見なさい?」

「はい…」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

今日も今日とて本を読んでいると、地下室に行っていた霊夜とフランが出てきた、けど…随分鈍い音ね、怪我してなければいいけど。

「…霊夜?」

「ボーッとしてたらぶつかった…」

図書館に繋がる階段でボーッとするとはね…霊夜らしいと言えば霊夜らしいわ。霊夜と言い咲夜と言い、紅魔館には天然が多い気がする。

「もう…来てみなさい」

「…この辺か?」

歩く度に揺れる耳と尻尾にちらちらと目を奪われながらも、霊夜に向き直る。今となっては私の方が背が高いのは何とも複雑だが、しかしそれでも叱らなければいけない。よくある事だから軽くだけれど。

「考え事も良いけど、ちゃんと前を見なさい?」

「はい…」

しゅんとしながら耳と尻尾が垂れ下がるので、どこか申し訳なく感じてしまう。フランもじーっとこちらを見ているので、「あ、え、う…」と変な声しか出ない。

「ほら、そんなにしょんぼりしないの」

「わうっ…耳が擽ったい…」

撫でてみた途端、サラサラともふわふわとも言い切れない柔らかさでびっくりする。耳はどうなんだろうと思ったけど、やっぱり敏感みたい。触れる度にピクピクと動くから分かりやすいし、なんとも可愛らしい。顔も少し赤くなっているのもまた―

「…パチュリー様、何してるんです?」

「むきゅっ!?え、あ、いや、その」

「お、こあも来たのか」

「何やら賑やかだったので来ちゃいました~」

…うぅ、さっきの見られて…るわよね……ちょっと恥ずかしい…

「…パチェ?パーチェー?」

「えっ?」

「話聞いてたか?」

「ご、ごめんなさい…ぼーっとしてたわ」

「珍しいな、熱…は無いか」

か、顔近…!?しかも普通にして…って案外鈍いのね、こういうの…

「…え、ええ…大丈夫よ」

「なら良いんだ…で、冥界で宴会をやる事になったんだよ」

「冥界で?また凄い所でやるのね…行こうかしら」

「やった!ありがとうパチェ!」

「むきゅあ!?」

急に抱きつかれるので変な声が出てしまった。…でも、それぐらい嬉しかったのね。甘えたがりの時期は過ぎたと思ったんだけど…

「…ところで、日時はどうなってるの?」

「明日の昼時だって言ってたな」

「宴会楽しみー!」

「そうですねー!」

フランとこあはすっかり仲良しね、と思ってから、はて今尻尾はどうなってるのかしらと見てみると、千切れんばかりにぶんぶんと振られている。…可愛い。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

パチェとこあと別れてから、俺とフランで咲夜を探しに―行く前に見付かった。図書館を出ると同時にばったり出会ったからだ。咲夜にも宴会を開く云々を伝えた―食材大量持参の条件には流石に渋面を作っていた―後、いよいよレミィの居る最上階だ。

「さて、あとはレミィだな」

「美鈴はいいの?」

「びっくりさせたいからな、直前に伝える」

「あはは、それ良いね!さんせー!」

2人で意地悪に笑いながら、最上階への階段を上っていく。レミィの反応が楽しみだ。




相変わらずの紅魔館メンバー…ではないかな?パッチェさんデレが入ってたし。
次回は宴会…になると良いなーなんt(殴
ではまた次回。


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花より団子、桜より酒

こんにちは、今話を書き始めた時は模試に向かうバスの中に居る豹牙です。どうでも良かったし歳バレそうだからこれ以上は話しませんが。
さて、今回はようやく宴会本編です。長かった(?)
ではどうぞ。


「―えー、それじゃあ…異変解決を祝って、乾杯!」

「かんぱーい!」

とは言うものの、後は秩序無きどんちゃん騒ぎへと移行するだけだ。因みに皆で持ち寄った食材は、妖夢や咲夜が頑張って―いや必死に料理へと変えていった。何故って幽々子が凄まじい量を食べるのだ。あの細身の体のどこに入るんだ、と言いたくなる―普通だったら死んでいる―程に。ああいや、亡霊だから死なないのか?消滅はしかけたが。

「…調理班は今頃地獄だろうなぁ……幽々子、よく噛んでゆっくり食べろよ?」

「む♪」

口の中に炒飯を―先程美鈴が台所に向かったからだろう―入れながら、嬉しそうな顔で頷く幽々子。生前はあまり食べなかった―紫談―らしいので良いと言えば良いのだが、にしても量が凄い。見ているだけで満腹だ。

「料理運ぶのも大変だな…」「ああ、何しろ量が凄「おかわり!」また!?」

担当としては、調理班が咲夜と妖夢、給仕が俺と美鈴、そしてアリス&上海蓬来コンビ―だったのだが、美鈴が調理に回った為かなり厳しくなって――

「…お、助っ人が…いや人じゃないか」

「妖夢の半霊ね…でもありがたいわ」

「おーい霊夜ー!酒の追加頼むー!」

「はいよー!何本だー!?」

「2本だー!」

「…だとよ。頼む上海と蓬来(2人とも)

「シャンハーイ!」

「ホウラーイ…」

それぞれの返事と共に、滑らかな動きで酒瓶を取りに行く人形コンビを見送って、ようやく給仕の仕事が一段落した。

「「…ふぅー…」」

アリスと2人、背中を合わせてずるずると座り込む。ああ、腕が痛い…。

「お疲れ様です、お二人とも」

「ん、ありがとうリリー」

「いやぁ…このぐらいだと筋力とか落ちてるもんなんだなぁ…ってあれ、酔ってる?」

「あ、はい…それと、お二人に言わなきゃならない事があるんです」

「言わなきゃ…」

「ならない?」

揃って首を傾げる。リリーの言いたい事ってなんだろう、春が来たんではしゃぎすぎたのかな?

「えっと、あの…は、春ですよー」

…え、何この可愛い生き物。咲夜はこんなリリーを瓶詰めしようとしていたのか、何やってるんだほんとに。

因みにリリーだが、顔を真っ赤にしながら俯いてしまったので、「ありがとうな」と言いながら頭を撫でた。うわ、嬉しそうな顔するなぁ…

「あぅ…えへへ…」

「ふふっ、幸せそうね」

「撫でるの凄い上手いです…気持ちいい……」

頬を赤く染めたまま、とろんとした目でこちらを見詰めてくるリリーは、なんと言うか…とても扇情的だった。

「なん()か…眠く…」

ぽすっと体を預けてきてきたリリーは眠ってしまったらしく、規則的な息遣いが聞こえてきた。

「…よしよし、お疲れ様」

俺に寄り掛かってきたと同時に落ちてしまった帽子を拾い上げ、土埃を落としてから再度被せる。だがいつまでもこうしてはいられないので、名残惜しく思いつつ布団へ運ぶ。…うわ、持ちづらいし歩きづらい。

「紫が原因なら戻してもらわないとなぁ…流石に色々とやりづらい…」

愚痴りながらもそっと寝かせ、さぁ俺も飲もう―と立ち上がろうとして、服の裾が引っ張られている事に気付く。

「んぅ…春ですよー…」

「…寝言も春なんだな」

ぽつりと呟くと、ぎくっとしたかの様に一瞬体を強張らせ、また先程同様に穏やかに寝息を立て始めた。さっきの反応…起きてるな?

「なあ、リリー」

「すぅ…」

「起きてるだろ」

「むみゃっ!?」

予想外だったのか素っ頓狂な声を出し、布団に顔を埋めて「はうぅ…」と恥ずかしがっているのを見ていると、大妖精を思い出す。彼女も確か似たような事をして―その時は全く気付かなかった為、後でルーミアに聞いた話だ―俺に寄り掛かって眠っていた。ルーミアは大妖精の目の前でバラしたので、大妖精が大慌てしていたのを今でも覚えている。

「全く…何かしてほしい事でもあるのか?」

途端にピタッと動きを止め、やや遠慮がちに頷いた。具体的にはなんだと聞いてみると、照れ笑いの表情(かお)で「内緒です」とだけ答えた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

リリーの「してほしい事」が何か分からないまま、俺は紫―居なければ藍でも構わない―を探してあちこちを見回していた。ついでに酒でも貰おうかなー…っと、居た居た。

「紫ー、ちょっと良いか?」

「あら?誰かと思えば…」

「そうだよ元人間の銀狼だよ」

「まぁまぁ、小さくなって…」

「…小さくしたのは紫なんじゃないのか?と俺は疑ってる訳なんだが」

「あら鋭い、その通りですわ」

くつくつと笑う辺り、ふざけてやったのだろう。こんにゃろう、俺の苦労も知らずに。

「まあまあ、そうかっかせずに。()()()に面白い物を見せてもらいましたし……ねえ?」

「あの時…?」

「―俺も昔、ここに来る前は――」

「わ、わーっ!?やめろーっ!」

「むぐっ!?」

この管理者、中々に酷い性格をしている。声真似はするわ黒歴史はほじくるわ小さくしてくるわと、録な事をされていない気がする。藍の方が優しいぞ?

「…うぅー……」

「ごめんなさい、馬鹿にしたつもりはありませんわ」

「じゃあ戻してくれよ…」

ムスッとしていると、瞬きを1つする間に目線が高く―正確には戻っていた。

「これでよろしくて?」

「ああ、大丈夫だ…それと、これは藍も交えて聞きたい」

紫は薄く笑い、扇子を口元に当てたまま首を傾げているが、恐らく何が聞きたいのか分かっているのだろう。それでも言わねばなるまい。

「――異変解決間際、何があったか聞かせてくれないか?出来る限りで構わな「無理ですわ」…返事のお早いことで」

それじゃ、と席を立ち、アリスと魔法談義中のパチェの元へ歩いていく―途中何か聞こえた様な気がするのは気のせいだろう―。俺だって一応は魔法が使えるのだ、訳あって炎系統が多いが。

「よっ、パチェにアリス」

「あら、霊夜は行くの?」

「…?何の話だ?」

「それは――」

続くアリスの言葉に、俺は卒倒しそうになった。




さて、宴会本編はこれで終わりな訳ですが。絵に描いた様な中途半端ですねぇ…次回は裏方の皆さん(咲夜や妖夢、美鈴等)でやる打ち上げ的な何かをしようかなぁと。ではまた次回。


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裏方達の慰労会

こんにちは、珍しく全作品通して連日投稿が出来ている豹牙です。
今回は慰労会的な打ち上げ的な何か(意味不明)。普段そんなに絡んでる印象の無いメンバーですが、どうなるんでしょうか?
ではどうぞ。


「終わっ……たぁ………」

「つ、疲れました…」

「…貴方達、そんな所でだらけないの」

「「えぇ……」」

咲夜はそう言うが、頼むから休ませてほしい。アリスと話した後は本当に大忙しで、それこそ全員休む間もなく動き回っていたので、寧ろ何事も無かったかの様に立っている咲夜がおかしいのだ。妖夢でさえ少しだが息が上がっているというのに。

「…咲夜さん、今は休ませてあげましょうよ……皆さん慣れない仕事で疲れてるんでしょう…」

「むぅ………」

不服そうだが、アリスを含めた3人が疲れきった状態なのを見て納得はしてくれたらしい。アリスは指先も使っていたので余計に疲れている。

「シャンハーイ!」

「ホウラーイ…」

「わっ…びっくりした」

そうだ、上海と蓬来(人形コンビ)は半自動で動くんだったな。忙し過ぎてすっかり忘れてた。…って、何故俺の耳―勿論狼の―にスリスリしてるんだ。ちょっと擽ったい。

もしかして、と思い気に入ったのかと聞いてみた所、毛触りが気持ちいいんだそう。なんか照れる。

「霊夜君、アリスさん、美鈴さん、それから咲夜さん…お疲れ様でした」

「いいわよ、そこまで改まらなくても」

「いえ、幽々子様がかなり…」

「「「「…あぁ……」」」」

確かに、あれは一種のホラーだった。今度から幽々子は、ピンクの悪魔と呼ぼう。

「と言う訳で」

ぱん、と手を打ち鳴らし―

「―慰労会、しましょう」

反対意見は出なかった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…えー、宴会が無事終了した事を祝って…乾杯っ」

「「「「かんぱーい!」」」」

妖夢の音頭で始まった慰労会は、人数が人数な為どんちゃん騒ぎとはいかなかったが、賑やかな物になった。

「妖夢さん、ここの庭師って誰なんですか?かなり綺麗に整ってますね」

「ありがとうございます美鈴さん、実は庭師は私なんですよ」

へぇ、そうなんですか!と明るく話し始める美鈴と妖夢。同じ庭師として、やはり仲良くなれそうなのだろう。和と洋で違うが、和洋折衷という事で。使い方が違う?気にするな。

「…ねえアリス」

「はいはい、どうしたの?」

「可愛いわね、あの人形達」

「ふふ、ありがとうね」

珍しく敬語を外して話す咲夜を見て、へぇー珍しーと―咲夜は基本的に、他人には敬語しか使わない―思っていると、何やら人形の作り方を教わっている様だ。レミィとフランに贈るつもりだろうか。

さて俺だが、少し気になる節があったので少し席を外させてもらう事にする。上海と蓬来は…いいや、そのままにしとこう。音を立てずに屋根へと飛び、座る。そして、何も無い空間へ声を掛けた。

「……居るんだろ?藍」

勿論、答える声は無い。だがその代わりにスキマが開き、苦笑した藍が出てきた。

「いやはや、驚いた。どうして分かったんだ?」

「あー、うーん…何と言うか、勘かな」

「ははは、勘か。なるほど凄い」

「当たるのは珍しいんだけどな」

「いや、充分さ。―さて、何か話があるんだろう?」

「…ああ、1つどうしても気になる事があってな」

そう、俺は藍に聞きたい事があったのだ。紫に聞いたのはあくまでついで。藍の方が聞きやすいとかもあるのだが。

「―異変の時、俺達を守ってくれたのは藍、お前だな?」

「…どうして分かった?」

この従者、実は結構抜けているのではないだろうか。どうしても隠せない特徴があるだろうに。

「俺が覚えているのは、金髪で、導師の様な服を着た女性の尻尾に巻かれた所までだ。そんな分かりやすい特徴を持つ妖怪、そう居ないだろう?」

「うっ…それもそうか」

「別に責めてる訳じゃないさ。寧ろお礼が言いたい。―ありがとう」

「どういたしまして。…礼を言ってくれたのはお前だけだぞ」

「…あいつら……」

「何、気にしてないさ。主が主だからな」

ふふふ…と笑う藍に少し驚愕してから、俺は持っていた物を見せた。

「飲まないか?」

「…じゃあ戴こうかな。潰れないでくれよ?」

「た、多分…」

と曖昧に返してから、はて人形達がやけに静かだと思い、上を見ると――気持ち良さそうに眠っている。痛くない程度に掴まっている為落ちる心配は無い様だ。

「―じゃあ、」

「乾杯」

和の庭師と洋の庭師。七色の人形遣いと紅魔館のメイド。そして、スキマ妖怪の式と新月の銀狼。世にも奇怪な組み合わせで始まった慰労会は、月の下で静かに賑わっていた。

 

 

因みにこの後、やっぱり酔い潰れてしまい、藍の尻尾で眠ってしまった上、冷えない様に配慮してくれた藍に惚れかけたのは別の話。




お、ぴったり1800文字。はいそこ、短めとか言わない。さて、次は…えー、萃夢想か。原作とはかなり違うかと思われますがその辺りはご容赦ください。ではまた次回。


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人里の歴史紡ぐ者

こんにちは、豹牙です。
「前回、次回は萃夢想をやると言ったな…」
『そ、そうだ!早く見せてくれ』
「あれは嘘(になったん)だ」
『うわぁぁぁぁぁぁ!』
結論:今回はやりたい事リスト消化します。
…で、茶番は置いといて、いつの間にかこの小説のUAが7000を越えました&評価バーに色が付きました!やったぜ!
という深夜テンションで書き始めた第…23話、どうぞ!


「久し振りの人里はやっぱり変わってるの?」

「んー…まぁそうだなー」

俺は今、実に10年振りの人里に来ている。いや実はな?あんまし来たくはなかったんだが…アリスに「お礼がしたいんだけど、今切らしちゃってるし人里にしか無いの」と言われ、どうせならその場で渡したいとのご要望だった、という訳だ。昔みたいに石でも投げてくるかと思えば、―流石に警戒はするだろうが―誰もしてこない。尤も、()()()()()()()()()というのもあるのだろうが。

「うーん…そう言えば霊夜」

「ん、どうした?忘れ物か?」

「いやそうじゃないの。霊夜って…幻想郷縁起、記録されてる?」

「されてないな。…まぁ、待ってる間は暇だし記録されに行ってくるよ」

「分かったわ、じゃあ…えーと、鈴奈庵前で」

「了解、じゃあな」

アリスに手を振り、稗田邸へ向かう。かなり大きいお屋敷なので、迷う事は無い、が…果たして入れてくれるだろうか。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「はい、どうぞ」

「し、失礼します……」

思ったよりすんなり入れた件について。しかも部屋(とその周辺)に居るのは、どう考えても俺と阿求の2人だけ。大丈夫かこの屋敷。俺が本気で暴れたら阿求死んじゃうんだけど。

「ふふ、もっと肩の力を抜いてください。リラックスリラックス」

「いや…ここまで警戒されてないと寧ろ不安になってくるんだが…」

「大丈夫です、もしもの時は――やっぱり言わないでおきます」

「うわぁ、気になる…じゃなかった、今日はまぁ、たまたま人里に来る用事があって」

「はい、それはアリスさんから聞いてますよ」

やっぱりアリスだったのか。ならばこの警備も頷ける。まぁ兎も角、幻想郷縁起の記録を頼んで快く―あるいは興奮気味に承諾され、楽し…くはない質疑応答タイムである。

「はい、まず…お名前と年齢、種族、後は住んでいる場所や危険度、人間友好度ですかね。後は…能力はあったら言ってください」

「急に多いな!?…えー、新月霊夜、15歳、狼男、紅魔館に住んでて、危険度は高くない。人間友好度…は…どうだろ、普通?能力は《月の満ち欠けで力が変わる程度の能力》だ。新月の日が一番強くなるけど…妖怪になったから相殺されたかな」

「ふむ……」

さらさらと筆で紙に―紅魔館ではペンを使う為懐かしく感じる―書いていく阿求を見ていると、小さな子供なのに幻想郷縁起執筆(あんな大役)を任されているって凄いなぁ……としみじみ思う。

この後は幾つかの質問に答え、談笑を交えた辺りで、アリスが部屋にやってきた。それも――

「えっ……先生!?」

「霊夜……霊夜なのか!?」

慧音先生(最高のお礼)引き連れて(持ってきて)

俺と慧音先生は、実に10年振りの再会を果たした。アリスという少女の、サプライズによって。




いやぁ、良かったですねぇ霊夜君…何より最後の再会、あれ先生ともこたんのどっち会わせるか悩んでたんです。でも結局慧音先生に振れました。深夜テンションも切れかかり、何書いてるか分からなくなってきたので、今回はここまで。次回に続きます。
ではまた次回。


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再会×2

こんにちは、豹牙です。
今回は人里編その2。これが終わったら今度こそ萃夢想になります。話は考えてないけど、戦う順番は考えてあります。最初はあの人です…が、今は慧音先生との再会を眺めましょう。と言う訳でどうぞ。


「霊夜…お前と、いう奴は……!」

半分泣きながら、と言うかもう既に泣いている先生が、俺の両肩を掴み、僅かにだが仰け反ったのを見た途端、「あー…まぁそうなるよなー…」と内心で諦めていた。寧ろ10年間も行方を眩ませていたのだ、怒られない方が珍しい。ぎゅっと目を瞑った俺に、頭突きの衝撃は来なかった。代わりに、胸にこつんと額を当て、そのまま声を上げて泣いてしまった慧音先生に暫し唖然としてから、その髪を撫でた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

霊夜が今、稗田邸に居る。

そうアリスから聞いたのは、数分前だった。10年前に出ていってしまい、それから一切の情報が無かった為、誰もがその命を落としたと信じていた、私が拾い、短い間だが育てていた子供が。生きている。

その話を聞いた時、私は驚きのあまりに倒れそうになった。そこからの記憶は断片的で、気付いたら稗田邸に着いていたぐらいだ。そっと襖を開けたアリスに続いて部屋に入ると、長い赤混じりの銀髪を背中に流し、狼の耳と尻尾を生やした少年が居た。私は、それが霊夜であると確信出来た。

「えっ……先生!?」

「霊夜……霊夜なのか!?」

ああ、やはり霊夜だ。赤い瞳に宿した光はあの時のまま、力強く、それでいて暖かい。もう人間ではなくとも、彼は霊夜なのだ。

その事実を受け止めた時、私は嬉しくて涙が出てきた。無意識であそこまで泣いたのは、そう多くはないと断言出来る。

「霊夜…お前と、いう奴は……!」

その存在を確かめる様に肩を掴み、拭えぬ涙を少しでも止める為に少し仰け反った時、霊夜は瞑目した。恐らく頭突きされると思ったのだろうが、怒りより嬉しさが勝っている今回はしない。

そのまま霊夜の胸に体重を預け、恥ずかしながら声を上げて泣いていると、ややぎこちないながらも柔らかな手つきで、頭が撫でられていた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…すまない、取り乱してしまって」

「ううん、俺…いや僕の方こそごめんなさい……」

「《俺》でいい」

「そうですか?…ただいま、先生」

「ああ…お帰り、霊夜」

その言葉と共に抱き締められ、俺の目にも熱い物がこみ上げてきた。それは頬を伝って落ち、先生の肩に落ちた。

 

そのまま、何分経っただろうか。抱擁を解く直前、パシャッ、という音がして、音源に視線を動かした。あの音は確か―――。

「…いやー、良い写真が撮れました!それでは、お邪魔しましたー、っと」

「あっ、文!……行っちゃったか」

「…こほん。お二人とも、ここが私の部屋だって忘れてません?」

「「う゛っ…」」

「《僕》、ねぇ…霊夜にもそんな時があったのね」

「~~~~~!」

阿求とアリスの2人には、多分弄られそうな気がした。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「妹紅、居るか?」

「うん?どうしたんだ急に…って誰だそいつ」

迷いの竹林に程近い私の家には、全くと言ってもいい程―まあ望んだ結果ではあるのだが―人が来ない。来るとしたら、たまに訪ねてくる慧音か、竹炭を買いに来た夜雀ぐらいしか居ない。因みに今回は前者だ。いや、それも少し違うかもしれない。何故なら、慧音は1人の妖怪を連れているからだ。

「久し振り、もこ姉」

「も…もこ姉?」

いつだったか、私の事をそう呼んでいた小生意気な子供が居た様な……いや、しかしあいつは人間だ。妖怪ではない。…まあでも、一応聞いてみよう。確認は大事だ、うん。

「…お前、霊夜?」

「うん、霊夜」

「そうだよなーそんな訳…え?」

「ん?」

「どうした?」

目の前の妖怪が、霊夜?だって霊夜は…

「人間、だよな?」

「まあ、元々は。今は色々あって妖怪だけど」

「……うーん…やっぱり信じられない…」

「あ、じゃあ………これは?」

そう言って取り出したのは…札?あれ、この札……

「思い出してくれたか?昔、もこ姉が俺にくれた札だよ」

「…あー!やっぱりか!いやでも、まだ持ってたんだなー」

「お守りとしてね。人狼に食われそうに……」

がちん、と音がしそうな勢いで口を閉じた霊夜を――

「…その話、詳しく聞かせてもらえないか?」

にっこりと笑う慧音が、しっかりと掴んでいた。月に照らされた2人の銀髪は、きらきらと光っていて幻想的だった。

 

因みにこの後、霊夜が「先生とお揃いの髪になってるのが嬉しいんだ」とうきうきしていたのは別の話。




…やべえ、書き上げちまったぜい(12/15、22:20現在)。まぁ予約投稿ですし…いやでも、今日投稿するべきか…?と思いましたがこちらで。
いよいよ次回は萃夢想。宴じゃおらー!(ドーン)
ではまた次回。


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人妖、社に萃まりて
宴会、多くありません?


こんにちは、豹牙です。
UA8000突破しました!早い!
と言う訳で、今回から萃夢想に入ります。こいつ自機に居ねーじゃん、という突っ込みはまあ…判断に任せます。
さて、普段から敬語で、異変の犯人に気付きそうな人は…?
ではどうぞ。


異変の影響で短かった春も終わり、梅雨も明けた夏のある日。私は、最近多い気がする宴会について考えていた。

「う~ん…」

「どうしたみすず!何かあったならあたいに言ってみろ!」

「私は美鈴ですよ、め、い、り、ん」

「みすずとも読めるから良し!あたいったらさいきょーね!」

チルノは平常運転らしい。でも、やっぱり最近溶けかかっている気もする。…日陰に居る、という選択肢は無いのだろうか。無いんだろうなぁ。

「…今度霊夜君に聞いてみようかな……なんだか違和感を感じてたみたいだったし…」

「…美鈴?珍しく寝てないのね」

「あ、咲夜さん。昨日の前に宴会が開かれた日っていつでしたっけ?」

「えぇ?確か…3日前だったかしら」

「その前と、更にその前って覚えてます?」

「6日前と…9日前だった気がするわ。でもそれがどうかしたの?」

「あー、いえ、何も…」

「…ふぅん?」

幸い深くは問い詰めては来なかったので、チルノを宥めつつ情報を整理してみる事にする。

①宴会は3日おきに開催される

②それは全て博麗神社で、全て魔理沙が企画している

③最近、博麗神社全体に妖霧が掛かっている

以上が、私が今持っている情報。分からなさすぎて苦笑いしか出来ない。

「…今度、妖霧を今度きちんと調べてみようかな……」

「突撃ー!」

「わぐえぇ!?」

チルノと大妖精、そしてルーミアのちびっこ3人衆が一斉に、それも不意に突撃してきたら流石に痛い。正確に鳩尾を狙ってきたチルノは、少し恨みたい…が、悪意は無さそうだ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

3日後。やっぱり開かれた宴会に、留守番をしているパチュリー様とこあちゃんを除いた―行く直前まで、こあちゃんは霊夜君にべったりだった―全員で、やっぱり博麗神社に向かい、やっぱり魔理沙が――流石にしつこいか。

「ねえねえ美鈴!あっちで遊ぼうよ!」

「申し訳ありません妹様、ちょっとやることがありまして……」

「むー…」

「フラン、代わりに俺が遊んでやろっか?」

「ほんと!?」

いつもの和服から表向きの洋服―お嬢様が紫さんに頼んで、外の世界から数着取ってきてもらった物だ。よく似合っているので、服のセンスは悪くないと思う―に着替えた霊夜君には、その《やること》を話してあるので、全面的に協力してくれている。

嬉しそうな妹様に引っ張られ、神社の境内へ消えていく霊夜君を見送って、私は妖霧の調査を始めた。すると――

「…この霧……()()()()()()()()()()()…!?」

これは容易ではない。博麗神社の境内をすっぽり覆える程の霧を、たった1人で作り出しているとなれば、それは間違いなく大妖怪ではないか。その目的は一体――

「…考えるより、聞いた方が早そうですね」

元凶が居る。どこかではない。異変の犯人は、()()()()()()()だ。

「そうでしょう?誰だか存じませんが」

すると、声が響いた。一度も聞いた事のない、こちらを試す様な声が。

「いやぁ、参った参った。誰も見抜けないんじゃないかって、内心ビクビクしてたんだよ」

霧の一部が集まり、やがてそれは人の形を作った。人外である証として、捻れた2本の角が生えた小さな鬼。

「どだい、私と闘わない(やらない)かい?」

「それは、弾幕ごっこですか?それなら少々不得手ですが」

「んー…まあお前さんとは殴り合ってみたいな」

「…分かりました、では真っ向殴り合い(そちら)でやりましょう」

「そう来なくっちゃ!鬼は嘘を嫌う、不意打ちは無し…ってのはまあ分かるかい?」

「ええ、ご心配なく」

鬼は瓢箪の酒を煽り、私は目を閉じる。

そして――互いに名乗らぬまま、私達は激突した。




はい、最初は美鈴でした。次回は…どうしようかな、萃香戦やるか次に入るか…
次回までには決めます。ではまた次回。


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日中戦闘

こんにちは、今日(12/19)だけで全部書き始めた豹牙です。
暇人嘗めんなおらぁー!…はい、本題入りましょう。
前回、美鈴が萃香の存在に気付きました。で、今回は殴り合いです。なんとまぁ怖い。
ではどうぞ。


「はぁぁぁっ!」

「おりゃぁぁぁっ!」

拳と拳、また脚と脚が激突する度、衝撃波が空気を震わす―が、どういう訳か宴会場に響いている様子は無い。だが、そんな事を気にしている余裕は残念ながら無かった。

「はっはぁ、良いね良いねぇ!」

――強い。

一挙一動に一切の無駄が無い。更には防ぎづらい所を的確に攻撃してくる、例えるなら《技》の体現。いつしか私の顔には、荒っぽい笑みが浮かんでいた。

「すぅっ――――はぁっ!」

「おわぁっ!?っとと、まだ力を隠してたのか」

無駄な力を抜き、気を全身から局所――急所と手足だけに集める。

「おぉぉぉっ!」

「ぐっ!?」

拳を受け切れなかった鬼が、木々を巻き込みながら吹っ飛んでいく光景を見ながら、私は追い掛けた。

あの鬼は、これくらいじゃ倒れない。

「っつ~…いやぁ、今のは効いたよ、妖怪」

「ありがとうございます、小鬼さん」

「私は伊吹萃香。小鬼ってのはやめてもらいたいね」

「紅美鈴です。妖怪とは呼ばないでください」

今更ながらに名乗り、私達は何度目かの激突をした。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「霊夜~…」

「ん、どうした?」

「私も、お酒飲んでみたいの…」

胡座を掻いた俺の膝にフランを座らせて撫でていると、不意にフランがこんな事を聞いてきた。しかし…俺に聞かれても…うーん……

「……ダメ?」

くるりと向きを変え、こちらを向いて上目遣いをされるとかなりぐらっと来る。何だこれ、可愛いな。

「…フラン、いつの間にそんな手を覚えたんだ……」

「えへへ、咲夜がこうすると男の人は喜ぶって言ってたの」

「…なるほど。ちょっと待ってな、用意してみる」

「ほんと!?」

フランを一度下ろし、咲夜に何か良い手は無いか聞いてみる事にする。困った時は咲夜に相談した方が良い事が多いのだ。

「えぇ…と、あれ……咲夜ー?咲夜ー?」

「なに叫んでんのよ」

「お、霊夢か。咲夜知らないか?」

「あー、咲夜なら……」

霊夢が顎で指した方向は、確か……そうそう、居住スペースがあった筈だ。あれ、って事は………

「そ。早々に魔理沙に潰されてたわ」

「あらぁ……咲夜にも弱点があったんだな」

魔理沙が一方的に飲ませてたからね、と付け加えた霊夢に軽く笑ってから、酔った咲夜をからかってやろうとフランを呼んでくる事にした。

因みにフランの酒だが、結局水で割る事にした。果実酒も考えたが、加減が分からない上やり方も知らないので今回は無し。

 

「…すぅ……すぅ……」

「…寝てるな」

「寝てるね」

酔っ払った咲夜はどんなものか、とフランと共に見てみた所、整った顔は綻んでいるし、メイド服は少しくしゃっとしている。印象としては、数年程幼くなったみたいだ。

「こんな咲夜初めて見た…咲夜~」

「ふにゃ……」

「可愛い…猫みたい」

枕を胸に抱き、幸せそうに微笑みながら寝返りをうつ咲夜は正しく猫の様だ。いつもはレミィに付き従う犬の様なのだが、これはこれで悪くない。畜生、文は居ないのか。写真に納めてもらいたいのだが。

「あやややや、呼ばれなくても出てきますよっと」

「わぁっ」

「おわっ……文!丁度良い所に来たな、ちょっと耳貸せ」

「何です何です?何やらいいネタの匂いがしますが」

「いいか、ごにょごにょ……」

「ふむ、ふむ……良いですね、その案乗りますよ」

そう呟いた文の口は、意地悪に歪んでいた。フラン曰く、俺も似た様な笑みを浮かべていたらしい。だが、咲夜を弄る数少ない要因が出来たのだ。これは仕方無いだろう。

 

因みにこの後は、現像してもらった写真を秘密裏に渡してもらう約束をした直後、少しボロッとした、しかしどこか清々しい様子の美鈴を見付けた。大方、何か掴めたのだろう。




さて、何やら別のが混ざりましたが、美鈴編はこれにて終了となります。次回は誰でしょう?
ではまた次回。


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特別編 クリスマスの過ごし方

霊夜「メリークリスマース!という事で、今回は特別編。内容は雪合戦や看病等、色々やるぞ」
影狼「私と姫は久々に登場するわよ~」
わかさぎ姫「それではどうぞ!」


「おーいフラン、雪だぞ雪!」

「雪?って何?」

今日は12月24日、クリスマスイブ。今年は雪が降っているので、ホワイトクリスマスという訳だ。

それはそうと、フランは雪を見た事が無いらしい。なんと勿体無い。

「うーん…見てもらった方が早いかな。あ、外は寒いからしっかり防寒しろよー」

「うんっ、分かった!」

トテトテと部屋に―いやまあ地下室なのだが―戻ったフランを見送って暫くすると、いつも被っている帽子を紅白のパイロットキャップ―咲夜が編んでくれたらしい―に、アイボリーホワイトの手袋―同じく咲夜が編んだ―を填めて緑色のマフラーを巻いたフランがうきうきしながらやってきた。

「よし、じゃあ行こうか」

「えへへー、楽しみー!」

……フランがレミィより俺に懐いているのは気のせいだろうか。そうだと信じたい。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

霊夜がフラン(と何故か着いて行ったこあ)を連れて外へ駆け出していった後、こあの代わりに咲夜が淹れてくれた紅茶を飲みながら、窓から外を見ていたレミィがぽつりと呟いた。……やっぱり美味しいわね、咲夜の紅茶。

「雪が積もれば銀世界、とはよく言った物よねぇ」

「あらレミィ、それは霊夜の髪(本物の銀色)をよく見るからじゃないの?」

「……それもそうか。にしても」

霊夜を真っ直ぐに見たレミィの横顔は、感謝が色濃く出ていた。

「あの子が来てから良い事づくめよ、パチェもそう思うでしょ?」

「ええ。美鈴は稽古を楽しみにしてたし、こあは可愛がってるし、咲夜は同じ人間だから安心していた。私は魔法を教える弟子が出来たわ。レミィは?」

「私?いつも面白い運命が覗けるのよ。フランは言うまでもないでしょ?」

「ええ、勿論。…ほんとに、何年経っても楽しそうに笑うわね」

フランと雪合戦をしているらしく、時折「やったなー、それっ!」「あははは、楽しいね!」と聞こえる。その会話をBGMに、私とレミィは紅茶を飲んでいた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

途中魔理沙やちびっこ3人衆も参戦し、思っていた以上にヒートアップした雪合戦で汗をかいたので、咲夜に驚かれてしまった。まあそりゃそうか。

「はう…暑い……」

「大ちゃん大丈夫なのかー?」

「汗びっしょりだから気持ち悪いよー…」

後ろでそんな会話が聞こえたので、風呂に入ってきたらどうだと聞いてみる。チルノは溶けるだろうが、まあ復活するから大丈夫だろう。うん。

咲夜には目線で「良いだろ?」と伝えるが、苦笑して肩を竦めたのでOKだと受け取っておく。

「よーしお前らー、風呂入って来ーい」

はーい、という唱和と共に、フランとこあが先導して風呂場へと向かった。俺?皆が出たら入るよ。尻尾の毛で排水口が詰まっちゃうからな。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「っは~…気持ちいいぜ」

紅魔館の風呂は、住んでる人数に比べて異様に広い。畜生、羨ましいなおい…と言いたいが、私以外に入る奴居ないからいいや。

「気持ちいいね~」

「そうだな~…フラン」

「うん?どうしたの魔理沙?」

「いや、まあフランだけじゃなく全員に聞きたいんだが」

少し大きめの声で言うと、全員がこちらを向いた。単純な質問だが大事な事だ。

「お前らって、霊夜にどう接されてるんだ?」

「お姉ちゃんみたいにです」と小悪魔……ってなんかいきなり衝撃的なの来たぞ。何だお姉ちゃんって。

「ほんとの妹みたいに可愛がってくれてるの!」とフラン。まあ、フランは可愛いからな。同じ立場なら私も可愛がるぜ。

「昔から遊んでました(たのだー)」とルーミア&大妖精。チルノ…は溶けたか。あーでも、大分前にそんな事言ってた気がするなぁ。

「師匠の様に慕われてます」と美鈴…ん、美鈴?

「…うわぁ!?急に居るな!」

「え、いや…さっきから居ましたが……」

「え?…ほんとだな、皆居るぜ」

見れば、霊夜以外の紅魔館メンバーも全員来ている。何でだ?まあいっか。

「で、お前らにも同じ質問。霊夜からどう接されてるんだ?」

「弟子みたいな物ね」とパチェ。

「仕事の手伝いしてくれるわ。霊夜、結構器用なのよ」と咲夜。そういや魔導書も10冊持ってた事もあったな。

「んー……なんか、子守りされてる様な感覚ね……」とレミリア。いやお前子供だろ。

「…皆それぞれなのな。私なんか本泥棒だぜ?」

「いやいや間違ってないでしょ…短い間にかなり盗られたわよ」

「死ぬまで借りるだけだっての。いいだろ1冊ぐらい」

「駄目よ」

パチュリーの奴はケチだぜ……そろそろ出るかな。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「はー、良い湯だったぜ。霊夜ー私は上がったぞー」

「………………」

「…あり?」

返事しないと思ってたらこいつ寝てやがった。風邪引くぞこいつ……

「おい、霊夜。霊夜ー?」

「う~…何だ?」

「風邪引くぞこの野郎」

「あー、悪い……」

頭を振り、しかしまだ眠そうにしている霊夜は、男にしては長い髪も相まって綺麗だった。ぐぬぬ…ストレートヘアが羨ましい……

「…へくしっ!」

「あーあ、マジで風邪引いたな…?」

「うぐ……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

頭がぼーっとする。何となく怠い。分かりやすく風邪だ。恐らく、汗かいて放置していたのが原因だろう。

「…魔理沙、悪い……部屋まで運んでくんね?」

「へいへい、感謝するんだな」

「はいはい、分かってるよ…」

魔理沙におぶさった途端、物凄い眠気が襲ってきた。

 

 

「……う………」

「あ、起きました?」

「まだ怠いけどなー…」

「もう…しっかり汗を拭かないからですよ?」

起きたら美鈴が居た。気の流れを良くして治癒力を促進する事が出来る彼女は、紅魔館の医者―正確には違うのだが―なのだ。美鈴が来ているのも頷ける。…話は変わるが、風邪に限らず病気の時は寂しくなる物で。

「…めーりん……」

「ふふ、何ですか?」

「えっと…その……風邪治るまで、出来れば一緒に居てほしいなー、なんて……」

語尾をごにょごにょ濁した上、布団を口元まで上げたので後半聞こえづらかった筈…だが……

「はい、良いですよ」

「ほんとか?…ありがとな」

「いえいえ、これくらい構いませんよ。それと、しっかり汗をかいて早く治しちゃいましょう?」

勿論汗は拭きますよ、と付け加える美鈴にお礼を言って、早めに治そうと決意した。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「霊夜、風邪大丈夫?」

はいこれ、とアイビーの鉢植えを渡してくれたフランは、ぎゅっと抱きついてきた。そのままスリスリと頬擦りしているので、頭を撫でてやると嬉しそうに笑っていた。だから耳元でぽそっと聞こえた「このまま私だけの物にならないかなぁ……」という声も幻に違いないのだ。

「フラン、風邪感染する(うつる)といけないから離れな?」

「むぅ~……」

不服そうなフランの背中をぽんぽんと叩き、どうにかして離れさせると、「また今度な」と撫でる。それでようやく満足したのか、何度も後ろを向きながら退室していった。美鈴?…寝てるよ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

霊夜が風邪を引いたらしい。珍しいわね……まあ、夕食ぐらいは持って行きましょうかね。

「霊夜、入るわよ?」

シーン………。

(…あら?寝てるのかしら……)

扉を開けて入ると、すやすやと眠っている霊夜(と美鈴)が目に入った。

「……すぅ」

「全く、こんなにはだけてたら風邪が酷くなるじゃないの…」

美鈴の手にタオルが握られていて、机にある洗面器にはお湯が入っている事から――ってちょっと待った。体拭いてる時に寝ちゃったの?どんな神経してるのよ……。

「はぁ……変な所が似たのね」

夕食を机に置き、霊夜の体を軽く―上半身だけだが、美鈴と稽古しているだけあって、細身ながらにがっしりしている―拭いてから、服を整えて布団を被せて出ていこうとしたら…服が掴まれていた。

「…どうかした?」

「いつもありがとう、咲夜」

「それが仕事だから。それじゃ、夕食は置いといたからね」

「ん、分かった」

「…ふんっ」

とは言った物の、内心ではかなり動揺していた。考えてみなさい、普段何もしてこないのにいきなりこれよ?…ああ、顔が熱い。こあも凄いわね……

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

夕食を食べさせてもらった後、電気を消してうとうとしていると、微かに何か聞こえてきた。これは……鈴の音?

「美鈴、美鈴」

「むにゃ……ふぁい?」

「何か聞こえるんだけど…聞き覚え無いか?」

「え?あれって……」

「は?何言っ……て………」

空を飛んでいるのは、トナカイの引くソリ。そしてソリには大きな袋、そして赤い服の――

「サンタ……クロース…?」

「ですね…ってあれ、こっち来てません?」

「だな…あ?」

なんて言っている間に、サンタクロースは窓を開けて愉快に笑い始めた。いやいや鍵閉めてたんだけど。サンタ怖い。

「ほっほっほ、新月霊夜君に紅美鈴ちゃんだね?メリークリスマァース」

そう言ってプレゼントを手渡してくれた後は、恐らく他の部屋や家を回るのだろう、ソリに乗ってどこかへ行ってしまった。

しかし謎なのが、何故かその後の記憶が無いのだ。不思議な事に風邪も治っていたので、謎は深まるばかりである。因みにプレゼントは、俺が櫛で美鈴が指貫のグローブだった。美鈴のカッコいいな。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……っていう実話なんだよ」

「あ、私もプレゼント貰ったわよ。ほら」

「あれ、その櫛俺とお揃いだな」

「ええっ!?」

「あはは、サンタクロースさんも凄いですね」

「そう言う姫は何を?」

「私はこれですっ、じゃーん!」

わかさぎ姫が貰ったのは、なんとワンピースだったらしい。だからずっと顔だけ出してたのか。

「…あ、そうだ。影狼、ちょっと目ぇ閉じてくれ。姫も」

「え?良いけど……」

「はい、こうですか?」

2人が目を閉じたのを―正直姫は閉じなくても良いのだが、恥ずかしいので閉じてもらう―確認し、影狼に体を寄せ―――

「…ふぇっ!?」

正面からぎゅっと抱き締めた。

「…影狼。ほんとは2人きりで言う事なんだろうけど……」

「り、霊夜………」

その時、ガサガサッ!という音がした。

「「!!!」」

顔を真っ赤にしつつパッと離れて素知らぬフリをする。それは影狼も同様で、胸に手を当てて必死に落ち着こうとしていた。

「…姫、もう目ぇ開けて良いぞ」

「はいっ。……ふふ、霊夜君も隅に置けませんね~」

肘でつつかれ、今の台詞がしっかりと姫の耳に入っていた事を悟った俺は、穴があったら入りたい気分だった。




??「因みにアイビーの花言葉は《死んでも離さない》よ。愛されてるのねー」
霊夜「え、マジ?と言うか誰――って居ねえ!…あ、そろそろ時間だ…また次回!」


因みに、フランに風邪うつって顔赤い状態を想像したら死にそうになりました。ロリコン予備軍とか言わない。


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とある小鬼の超岩石砲

こんにちは、豹牙です。さて、萃夢想2人目ですね。次はあの人。原作では6人でしたよね……さてどうするか←
ではどうぞ。


「よっ、美鈴。どうだった?」

主語を入れずとも意味は通じたらしく、美鈴は微かに微笑んだ。

「やっぱり強かったですよ、彼女。背は低いですが、かなりの手練れです」

お陰で負けちゃいましたーと陽気に笑う美鈴だが、美鈴が負けたとなるとそれはもう肉弾戦で勝てる人間(と妖怪)はかなり少ないんじゃなかろうか。俺の知る限り居ないんだが。

「うーん…俺が挑んだとして勝てるか微妙なんだけど……」

「大丈夫です、何事も挑戦ですよ」

「美鈴……よし、んじゃ手合わせ頼むよ」

「ええ、その意気です」

この後滅茶苦茶説教された。誰にだって?当然の如く咲夜だよ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「うぅ…まだ痛い……」

「稽古で壁を壊したりするからよ」

「だからってナイフはやめてくれよ…俺にはそんな趣味無いのに…」

「あら、もっと欲しかった?」

両手と顔を同時にぶんぶんと振って―そうでもしないとされそうだからだ―拒否の反応を示すと、クスクス笑いながら歩き去っていった。

「…ふぅ、助かった――」

「わっ」

「ヴェアア!?」

「ひゃう!?…霊夜さん私です、ミオです!」

「へ?あ、ミオだったのか…」

ミオ。数多の妖精メイドの中でも一番仲が良く、また俺の世話係だったメイドだ。

「そうですよ、ミオです。今回は何しちゃったんです?」

「美鈴との稽古で、ちょっと壁を……ね」

「壁壊しちゃったんですか…ありゃりゃ」

それは怒られちゃいますねーと苦笑いしていたミオだが…俺の記憶が確かなら、今は料理係に就いている筈だ。仕事は大丈夫なんだろうか。

「なぁ、ミオ…仕事、戻らなくて良いのか?そろそろおやつの時間だぜ?」

「えっ!?……うわわほんとだ、教えてくれてありがとうございました~!」

ライトブラウンのセミロングヘアを揺らして出来る限りの速度で飛び去るミオを見送り(洒落では無い)、俺は人里の方で情報収集をしてみようと思う。先生なら知っているかもしれないし、幻想郷縁起にも載っているかもしれない。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「うーん暖かい…日向ぼっこしてたいなぁ…」

正確には夏なのだが、今日は(夏にしては)涼しげだ。しかも晴れなので、日向ぼっこには丁度良い天気である。そこ、狼は日向ぼっこしないだろとか言わない。出来なくはないし、たまに屋根の上で昼寝する程度には好きだ。

「…じゃない、今は人里行かなきゃ駄目だ。先生知ってると良いなー……」

希望的観測だが、情報が欲しいのは確かだ。しかしその前に。

「…甘味処、行こ……」

 

 

「失礼しまーす」

甘味処に着いた。大丈夫、人里だから。さて置き、やたら筋肉質で、口には無精髭が浮いたおっちゃんが出迎えてくれた。あ、店主さんか。てっきり流離(さすら)いの格闘家かと。

「おう、いらっしゃい!席は…ありゃ、空いてねーな」

「あ、相席良いですよ」

「そうかい?悪いなねーちゃん」

「いえいえ、お気になさらず」

「ありがとうございます。おっちゃん、餡蜜1つ」

「へいよ、ちと待ってな」

さて、相席になった女性だがすんごい気になる。髪も目も服もピンク、頭には……えーと、名前忘れたな。なんだっけあれ?あと右腕に包帯がある。

「あ、あの…私の顔に何か…?」

うんうん唸っていると、その女性から声を掛けられた。

「あ、いえ何も……と言いたいけど、ここに餡蜜付いてますよ」

「あ、すみません…」

「あともう1つ、良いですか?」

「はい、何でしょうか…あむっ」

まあこれは気になった事だ。疑問形ではあるが、ほぼ確信している事。それは――

「こう言っちゃ何ですが……貴女、人間じゃないでしょう」

「んむぐっ!?」

「だ、大丈夫ですか!?」

よりによって餅が詰まったらしく、慌ててお茶を渡すとゴクゴクと飲み干してしまった。……そんな驚く事かなぁ?元人間にはよう分からん。人外と接する事が多かったってのもあるか。

「…ふぅ……」

「なんかすいません……」

「いえいえ、ただ…質問させてください」

「大丈夫ですよ」

「――どうして分かったんですか?」

「…は?ええと……まずピンク色の髪はそう見ないですし、右腕に包帯巻いてるのは大抵カッコ付けたがりですけどそんな感じはしませんでしたし…ああ言いづらい、敬語外して良いですか?」

「え?ええ、構いませんが」

「んじゃ外す。あとはアレだな、妖力だよ」

「…なるほど、納得です。ええと、お名前は…」

「……あ、そういや名乗ってなかった……新月霊夜、見ての通り狼男さ」

「茨華仙です。仙人をしています」

妖怪が仙人?アリなのかそれ?と思ったが、そもそも俺は何を以て仙人と言うのかを知らないので、まあいいかと納得。

ここでようやく―と言っても5分も経っていないのだが― 餡蜜が出てきたので、スプーンを取って一口…って美味いな。

「…仙人様?なんか前に聞いた様な聞かなかった様な…」

そうだ思い出した。前に『あの説教大好き仙人なんかもう来てほしくないわー!』って叫んでた人が居たわ。確かその仙人も華仙って名前だと聞いたんだ。因みにその《叫んでた人》は霊夢である。

「そうですか?私は貴方と初対面ですが…」

「…ん、いや待てよ?……12か13年前に、寺子屋に来たか?」

「12か13年前…?はい、来ましたが…」

「ああ、やっぱりか!あの時先生の後ろにくっついてた赤髪の子供、覚えてるか?」

「ああ……そう言えば居ました。珍しい髪だなと思っていたので」

華仙の髪も充分珍しいと思うんだが。まあ兎に角……

「その時の子供だよ!」

「ええっ!?」

その後華仙にそれとなく異変の話をした所、その様な事をする鬼が居るのだと言う。美鈴を疑った訳ではないのだが、その犯人が嘘を吐いている可能性が捨て切れなかったのだ。鬼は力が強く嘘を嫌うそうなので、その線は無いと考えて良いだろう。……多分。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

所変わって先生の自宅。今日は寺子屋お休みだからね。因みに餡蜜のお代はちゃんと払った。

「先生ー、居ますかー?」

ドンドンと戸を叩き、「少し待ってくれー」と聞こえたので5分(少し)待っていると、急いで着替えた感満載の先生が出てきた。

「…あの、これは本題と関係無いんですけど」

「ん?どうした?」

「……下着の紐、見えてますよ」

「~~~!」

慌てて直す先生。髪が濡れてるから風呂にでも入っていたのだろう。…邪魔しちゃったなぁ……。

「…こほん。で、どうしたんだ?」

「実は斯々然々で……」

「ふむ…過去にそんな異変は無かったぞ。ただそうだな、1つ言うなら……ここ数日、人里全体が妖霧で覆われているな」

「妖霧…妖力を持つ霧…ですか…誰が何の為に……」

「阿求の所で聞いてきたらどうだ?そうしたら絞れるだろう」

「あ、やっぱりそれが一番ですか?」

「『やっぱり』と言う事は分かってたのか?ならなんで…」

「いやぁ、結論より過程が大事だーってよく言ってたじゃないですかー」

「…なるほどな。頑張れよ、霊夜」

先生の柔らかな手で撫でられると、どうしても泣きそうになってしまう。懸命に涙を堪え、どうにか「はい」とだけ口にすると、額にキスされて見送られた。

「…よし、頑張るぞ」

微笑みながら稗田邸まで歩いていく途中、文が飛んでいるのを見かけた。やけにアクロバティックだな、飛びづらくないのか?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「幻想郷縁起を見せてもらいたいのだがよろしいか?」

という俺の問いに、門番の男はこう返してきた。

「阿求様は只今、小鈴嬢と遊びに行かれております。ご用件があるのでしたら、またお訪ねください」

ふむ、居ないのか。鈴奈庵に居るかもしれないな。

「分かった、日を改めてまた伺うよ」

鈴奈庵にも居なかったら…まあそう無いだろうけど、人里を出てるかもしれないな。まだ日は高いけど、知能の無い妖怪は襲ってくるから危ないし。

「んー…と、鈴奈庵鈴奈庵……」

10年前の記憶を頑張って掘り起こしながら、鈴奈庵へと向かってみる。居るかな阿求……

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「にゃ~」

「よしよし、良い子良い子」

「…ねえ小鈴ー、こんな外れまで来ちゃって大丈夫ー?」

「だーいじょうぶだって、ここらは妖怪なんて居ないし……」

十数メートル後ろに普通に居るんだが…いくら何でも警戒しなさすぎじゃなかろうか。

因みにだが、―まあ人里の外れに居る時点で予想は出来るだろうが―鈴奈庵には居なかった。代わりに小鈴のお母さんが「どこかへ遊びに行ったよ」と言っていたので阿求の匂いを辿って―最初からこうしろと思っただろうが、実は普通に忘れていた―ここまで来た訳だ。

「う゛みゃ~!う゛みゃ~!」

「わわっ、暴れないで!どうしたの急に…」

「あっ…小鈴逃げて!」

「えっ…?」

「キーッ!」

柵を飛び越え、人里に浸入してきたのは巨大な、それこそ阿求程もある妖怪ネズミだった。ネズミは真っ直ぐに小鈴へ牙を突き立て――る前に間合いを詰めてぶん殴るっ!

「おらぁっ!」

「ギーッ!」

「へ…?」

…弱っ。知能無い妖怪ってこんな弱いの?1発で死んだんだけど。

「り、霊夜さん!?」

「よっ、怪我は無いか?」

「は、はい…お陰様で」

「うぇぇ~~…~怖かったよぉ~阿求~……」

「だからこんな所まで来て大丈夫かって……あーよしよし、泣かない泣かない」

さっきから鳴いていた猫だが、きちんと保護してある。小鈴の元を離れたので俺が抱き上げている状態だが、まあ大丈夫だろう。

「…あ、そうそう。阿求、幻想郷縁起見せてほしいんだが」

「はい、構いませんよ。…ってちょっと小鈴、涙で服が濡れちゃうって!」

「うぇぐ…うぅ…」

「あ、あはは…とりあえず戻ろうか」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「本っ当にありがとうございました!このお礼は……」

「ああいや、お礼はいいですって。たまたまですし」

「いえ、そんな…ほら、小鈴もお礼言いなさい!」

「あ、ありがとうございました…」

「だぁかぁらぁ、お礼が欲しくてやった訳じゃないんですって…」

本居夫妻を説得するのには、なんと1時間以上掛かった。頭痛いし、引きつった笑みのし過ぎで表情筋が死にそう。

 

 

「…あー、頭痛い……」

「あはは…大丈夫ですか?」

「まあ、なんとか。…うん、大丈夫だ」

「良かったです。さて、どなたの縁起をご覧になります?」

「あ、えーと……美鈴に名前聞いとくんだったな…鬼について書かれている物は無いか?霧でも構わない」

「霧…ですか。ここ最近だと紅霧異変の赤い霧ですが」

「うーん、それとは違うかな。ここ最近、人里と博麗神社に妖力を持つ霧が出てるんだ。害は無いんだが…3日毎に宴会が起きてる。場所も幹事も一緒の、な」

「ふぅむ……探してみます」

 

少年少女捜索中…

 

「…ん、鬼?密と疎を操る……背が低い………これだ!」

「あ、ありましたか?」

手に俺の縁起を持ち、横から覗き込んだ阿求だったが、やがて得心した様に頷いた。

「…はい、その鬼ですね。伊吹萃香さんです」

「なるほどな……ってちょっと待った、阿求の求聞持の能力ですぐ分かるんじゃ…」

「あら、バレちゃいました?」

舌を出してクスクスと笑う阿求と一緒に、少しの間笑っていたが――

「あ、そうそう。霊夜さんの縁起、見てみます?」

「ああ、ついでだし見てみるよ」

……阿求め、これを狙ってたのか。言われりゃ見るのに。

「えーと、何々……」

 

《新月に吠える銀狼》

新月 霊夜

 

種族:狼男

年齢:15歳

危険度:低

人間友好度:低

弱点:耳

特徴:銀に赤の混じった髪と赤い瞳

 

「…うん、ほんとにそのままだな。と言うか似顔絵もあるのか」

「はい、ありますよ」

「…普段鏡見ないから顔分かんないんだよなぁ……」

「あ、あはは…」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「――で、後の2日間稽古して今に至る」

「…いやー、長いね。ほんとに1日の話かい?」

「ほんとに1日の話だ。…さて、大変長らくお待たせしましたっと」

「お、やっとか!いやぁ待ちくたびれちまったよ!」

「…そんじゃ、えーと……まあ殴り合いだよな」

「当ったり前だろ?散々待ったんだ、かかってきな子犬!」

「子犬じゃなくて狼だ、遠慮はしないぞ!」

「はっ、その台詞返すよ!利子付で、なっ!」

開幕早々に岩がぶん投げられる。石ではない、岩だ。

「すぅっ―――だぁぁぁぁ!」

岩が割れる。いや違うな、砕ける。因みに今の、ただ叫んだ訳じゃないからな?妖力を音に乗せて撃ち出したんだ。妖力波…って言うのかな?

「っ…へぇ、やるじゃないか」

「乱発はしたくないけどな、喉痛めるし」

「お?自分から弱みを晒すたぁ、お前さん正直者だね」

「…さぁてどうだか」

俺は美鈴程には笑えないが、それでも最大限楽しめそうな―美鈴としか闘った事が無い為、他の誰かと殴り合いをするのは初めてなのだ―気がした。

 

翌日、境内の一部が豪快に抉れていた為、霊夢が悲鳴を上げていた。謝りに行っても殺されるだけだと思ったので、萃香と合意の上で黙っている事にした。すまぬ霊夢。




…あ、1話で収まった。どうしよ、戦闘シーン見たいですか?ぶっちゃけ美鈴で充分ですか?
とりあえずまた次回。


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ブラックなヤブ医者

こんにちは、豹牙です。
この小説のUAが遂に10000を越えました!こんな駄文をちょくちょく見てくださり、ありがとうございます!
結局、霊夜の戦闘シーンは書かない事にしました。戦闘の描写を書くのは得意じゃなかったり。
ではどうぞ。霊夜のその後になりますが、視点がコロコロ切り替わります。ご注意ください。


「もこ姉~、居るか~?」

「…霊夜?待ってろ、今行く」

霊夜が来たのは何度かあったが、今回は何と言うか…泣きそうな声で訪ねてきた。いやいや何があったんだ?

「どうし……うわっどうしたんだそれ!?」

「えー、まあ色々あって…」

「あーもう、後は永遠亭で聞く!」

霊夜の怪我の状態は、パッと見ただけでも分かる程に酷かった。まず左腕が変な方向に曲がっている。肘ではなく二の腕から。骨折が分かるのはそこだけだが、全身にある擦り傷や打撲が痛々しい。

「…慧音が見たら気絶するぞ?ほら、おぶってやるから」

「よっと…先生には内緒だから大丈夫。…それより重くない?」

「何を年頃の娘みたいな事言ってんだお前は。寧ろ軽すぎるわ」

「しっかり食べてるんだけどなぁ……」

思えば、こいつをおんぶするのはかなり久々な気もする。でかくなったなぁ霊夜……と言うか。

「…霊夜、息で擽ったい」

「そうは言っても…俺だってもこ姉の髪で擽ったいよ」

「お互い様、か。そんじゃ行くぞ」

「あいよー」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…もこ姉の背中、やっぱり暖かいな」

「そうか?まあよく炎とかは使うけど」

「……意味が違うよ。ただ懐かしいな」

「私もそう思う」

そこで会話は途切れ、竹が風に揺られる音だけが聞こえる。それは不思議と心地良く、いつしか俺は骨折の痛みも忘れて眠っていた。

「……すぅ」

「霊夜?霊夜?……寝ちゃったか」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「永琳、ちょっと見てほしいんだけど」

「あら?不死人がどうしたの?」

「いや私じゃなくて、こいつだよこいつ」

「…狼、かしら?また凄い怪我ね」

「ん、んん~…ふあぁ…」

「…呑気な狼ね」

赤混じりの長い銀髪と顔立ちからは女性にしか見えないが、服装と声は男性という不思議な狼。……うわ、酷い怪我。

「…打撲、擦り傷、骨折、ね……相当な事やらなきゃこうはならないわよ?何したの?」

「えーと…一言で言うなら《鬼と闘った》としか」

「鬼と?またなんでそんな…」

「今人里と博麗神社で……」

 

少年説明中……

 

「……と言う訳なのです」

「…何と言うかお前、無茶するなぁ……」

「あはは…」

「左腕は薬無し矯正してから直すから、ちょっと我慢して」

「あっ、はーい……」

「…っ」

「い゛っ…!?」

あら、我慢出来た。ここまで折れてたら相当痛い筈だけど。

「っ……終わり?」

「後は薬。苦いわよ」

「苦いのか。まあ良薬は口に苦しとよく言うし……」

「それじゃ、さっさと調合してくるわ」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…あー、痛かった……」

「よしよし、お疲れさん」

もこ姉優しい。こあとはまた違った慰め方なのと久々なのが相まって、何となく恥ずかしい気もする。

それに気を取られていた為か、俺は()()には気付けなかった。

「…はぁー……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…はぁー……」

何故だろうか、彼を―霊夜を見ていると、胸が苦しくて…でも不快じゃない。これって、―――

「…恋の病に効く薬は無いわよ?」

「ひあぁ!?」

我ながら変な声と共に振り返ると、呆れた顔の八意さんと、苦笑して頬を掻く鈴仙が居た。

「こ、こここ恋だなんて!そそそそんなの……」

「何だ何だ?どうした影狼」

「な、何でもない!何でもない、から……」

先程叫んだ事によって霊夜も来てしまい、もう何が何だか分からなくなってきた。

「影狼!?」

「あうぅ……」

「……はい、これは貴方の分の薬よ。傷が完治――とはいかないけど、日常生活に支障が無いぐらいにはなるわ」

「おお…ありがとう!」

「代わりに、副作用で女性になるわ」

「あのそれ嘘ですよね?」

「勿論。…で、影狼(こっちの狼)は…まあ、起きたら渡すわ」

「あはは……それじゃ、ありがとうございましたー」

妹紅さんと一緒に帰っていく霊夜を、私は見送るしか出来なかった。




…あ゛ー、永琳と妹紅と影狼視点めっさ疲れたー…なんでや!なんでこうならなアカンのや!
……はい、キ○オウさんにはお帰り戴いた所で次回は……萃夢想3人目or影狼のその後のどっちかですね。
ではまた次回。…これが今年最後かな?


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特別編 明けましておめでとう!

こんにちは…じゃない、明けましておめでとうございます、豹牙です。
年が明けましたねー。皆さんは何を見て過ごしました?ガキ使?紅白?それとも東方M-1?
さて、今回はなんと、本編も時系列も関係あります。
時系列は永夜抄と花映塚の間の正月ですね。なら何故書くのかって?書きたいからですよ←答えになってない
ではどうぞ。


「皆さん、蕎麦が出来ましたよ」

「わぁ…!美味しそうだね、霊夜!」

「そうだなー、咲夜が作ったなら美味いだろー」

今日は…いや、今は大晦日。やっぱりレミィが咲夜に命じて、年越し蕎麦を作らせていたのだ。美味そう。

「ほら、フランも席に着いて食べようぜ?」

「はーいっ」

「…ふふっ、霊夜も随分と懐かれたわね」

「嫌われるよりマシだろ?と言うかレミィより懐かれてる気がしてちょっと申し訳無いんだが……」

「ゑっ、そうなの?そんな事無いわよねフラ「霊夜の方が良いーっ」……………」

おいフラン、レミィの顔が驚愕から絶望に変わってってるから止めてやれ。泣きそうになってるじゃんか。

「蕎麦が伸びちゃうから食べましょ?」

「「「はーい」」」

パチェの言葉で全員席に着き、「いただきます」の唱和で――ってちょっと待った、美鈴さっきから一言も喋ってないぞ。

「うぎゃー!」

「…やっぱり寝てたのか(やっふぁりふぇふぇふぁおは)

「…霊夜、何言ってるか分からないからやめなさい」

「もぐ、もぐ……んくっ、はーい」

そんなこんなで時は経ち―フランは箸の持ち方で悪戦苦闘していた―、あと5分で年が明ける。咲夜がレミィに懐中時計を見せて時間を確認している間、フランがうたた寝していたので、椅子から落ちない様に支えていると、レミィが大きな声で喋り始めた。妹を寝かせるつもりは無いのかこの姉。

「皆、あと5分で年が明ける。だったら、皆でカウントダウンしようじゃない!」

「ふあぁ……俺この時間寝てるからねみーんだけど………」

「私も~…」

「パチュリー様ー、面白そ「興味無いわよ」あぅ……」

「私も眠いです……」

「「「まだ寝るの(か)!?」」」

美鈴は充分寝たろカウントダウン参加しろよ。と言うか賛成してんのこあと咲夜だけじゃねーか。

等と色々突っ込みたい所はあるものの、変わらず時間は進んでいく。レミィは気丈にも――または頑固にカウントダウンを続け、「ハッピーニューイヤー!」と叫んだ所で遂にフランがキレて、新年一発目の姉妹喧嘩となった。

「暑いし熱いから冬って感じしないなおい…」

「むにゃ……」

「起きろぉめーりーん!なんで寝られんだよ、死ぬぞ!?」

新年早々命を刈り取られそうになった。ああ恐ろしい。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「さてと……皆、忘れ物は無い?」

年も夜も明けて、博麗神社へ初詣。やはりと言うべきか、全員晴れ着姿である。

レミィは赤地に銀粉を散りばめ、蝶の刺繍が入った着物。帯は水色だ。「私は和服も着こなせるのよ」とドヤ顔で言ってたのにはカチンと来たが。

パチェは紫地に月の刺繍、帯の色は…えーっと、アイボリーホワイト、だったかな?確かそんな名前だった気がする。髪は長いからアップして結わえられてるぞ。因みに結わえたのはこあと美鈴も同じ。

「私は無いよ、お姉様」

フランは赤地に金粉を散りばめ、帯は黄色。咲夜がやったのだろうが、薔薇の刺繍が施されている。

美鈴は緑地の赤帯、なんと装飾は龍の刺繍。咲夜すげーなおい。

こあは黒地に白の帯。刺繍は無しだが、不思議と違和感は無い。

そして咲夜だが、銀地に花の刺繍、帯は青。地味とも派手とも言えない、丁度良い具合だ。

最後に俺。1人だけ袴だが、上は赤で下は銀というシンプルなものだ。背中に狼の刺繍が入っていたが、これを咲夜はどれだけの時間で作ったのだろうか。そんな疑問が浮いてきたが、聞いても「1秒よ」と言われるのが関の山だという結論に至った。

「りょーやー、置いてっちゃうよー!」

「おー、今行くー!」

晴れ着はかなり動きづらいが、走る事は出来る。助走をつけて―本当は要らないのだが―跳び上がり、そのまま飛行して、向こうで手を振っているフランに追い付く為に速度を上げた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「よっと。よう、霊夢」

「あら霊夜、意外に似合ってるじゃない。咲夜が作ったの?」

「ああ。凄いもんだよなーほんとに……」

「うちにも欲しいわー……因みに素敵なお賽銭箱はそこよ」

「ああ、分かってるよ」

いつもは(かなり失礼だが)寂れた印象の博麗神社も、今日ばかりは沢山の人で溢れている。あ、妖怪も居るんだな。

「凄い人だな…フラン、はぐれるなよ?」

「うんっ、分かった!」

俺の袖を掴み、懸命に着いてくる様は見ていて和める……が、和んではいられない。何せこの人だかりだ、参拝も早めに済ませないと――と言うか博麗神社の奉り神ってどんなお方なんだろうか。居るのかどうかすら怪しいんだが。

ともあれ賽銭箱には着いたので、フランに礼儀作法を教える。フランがお参りを終えたのを確認してから、俺もお参り。願い事の内容?秘密だ秘密、言わせるな。

「さて、お参りもした事だし……屋台、巡ってみるか?」

ぱぁぁっ、とフランの顔が明るく―と言うか嬉しそうになった。「こっちこっち!」と言ってたこ焼きの屋台へ向かうフランに引っ張られながら、俺は財布の心配をしていた。実は、賽銭の分を除けば少ししか持ってきてないのである。幽々子に奢ったら数分で消し飛ぶ――いややめよう、分かりづらい。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「楽しかったー、お腹いっぱい……」

「そうか、良かったな」

「えへへー……………」

「…ん、フラン?」

「………くぅ…」

帰り道も俺に甘えてきたフランだったが、はしゃぎ過ぎて―昨日の姉妹喧嘩もあるだろうが―眠ってしまった様だ。夕方が曇りで助かった。晴れ着だとおんぶしづらいからな。

「…あそうだ、レミィ」

「何かしら?」

「今日の夜さ、迷いの竹林行って良いか?」

「迷いの竹林?なんでまたそんな所に」

「なーに、ちょっとした散歩だよ」

半分は嘘である。迷いの竹林は正解だが、散歩ではなく影狼に会いに行くのだ。…なんだよ、良いだろ別に。

「…へーえ?まあ良いわ、行って良いわよ」

「ありがとよレミィ」

「撫でるなーっ!」

皆で笑いながら帰路に着いたが、美鈴が速攻で眠って咲夜に怒られていた。普通飛びながら寝ないわ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

何度か行った為完全に覚えた道を歩いて―流石に着替えた。畏まった服装はあまり好きじゃないのだ―いると、影狼の家(目的地)が見えてきた。戸を叩いてみると、やや苦しそうな声の影狼が返事を―他の人だったら怖いのだが―した。しばらく待っていると戸が開き、俺を見た影狼が、瞬時に頬を真紅に染めた。

「り…霊夜!?()()()()はあんまり会えないって………」

「言ってたけどさ…その、会いたかったんだ、影狼に」

「えっ……?」

きょとんとした表情で固まる影狼に、照れながらも微笑みかけていると。

鼻先が触れそうな距離にまで近付いた影狼が目を瞑り、そっと唇を重ねた。

一瞬が永遠にも感じられた時間も終わりを告げ、頬を赤くしたままくいくいと袖を引っ張ってきた。連れられて家の中に入ると――心なしか甘い声で、影狼が呟いた。

「…ね、霊夜……」

「ん、どうした?」

因みに俺だが、声音は落ち着いているものの、頭の中はパニック状態だった。いやだって考えてもみろよ、今のあれファーストキスだぞ。しかもその相手は好意を寄せている異性(影狼)。落ち着けってのが無理な話だ。

そんな俺の胸中に吹き荒れる感情を知ってか知らずか、影狼は話を続けた。

「私がこの時期――10月から3月にあまり会えないって言ったのはね……発情期が、その時期だからなの」

「え?…俺、そんな感じしないんだけど……」

「ふふっ、そりゃそうよ。…だって、狼の発情期はメス、つまり女性にしか無いもの」

「な、なるほど…うわぁっ!?」

急に抱きつかれた為尻餅をつくが、そこから更に仰向けにされて馬乗り状態―俺は乗られる側だ―になった。

息を荒くして見下ろす影狼のとろんとした瞳に、ハートマークが浮かんでいるのは目の錯覚だろうか。

いつも着ている、ドレスの様な服がはだけているのも気にしていない様子で、影狼はそっと呟いた。

「だから、さ……責任、取って?」

はらり、と衣服を取り払い、上半身を露にした後、俺の衣服も(言い方が悪いが)剥ぎ取った影狼は、俺に覆い被さってキスをした。今度は触れるだけではなく、舌を絡めてのディープキス。それだけではなく、口移しで何かを飲まされた。

「ん、んんっ……」

「くちゅ、ん、ぷはぁ…」

先程のキスとは違い、1分近くも続いたそれが終わる頃には、呼吸が出来ない苦しさと、例え様の無い高揚感が合わさって、思考が混濁していた。

「…さっき飲ませたの、何だと思う?」

頭の中が蕩けているかの様な状態で考えられる訳が無く、かぶりを振る。

「だろうね…それは、精力剤。八意さんが作ってくれたの」

「せーりょく……ざい?」

「そう。…ふふっ、もう逃げられないよ?」

――入ってるの絶対それだけじゃないだろあのヤブ医者!

と言いたいぐらいに力が入らないし、先程から体が火照って仕方無い。どうやら本当に、逃げ口は無さそうだった。




色々言いたい事もあるでしょうが、俺からも言わせてください。ど う し て こ う な っ た 。
いやほんとなんでだ。正月から何やってるんだろうか。

……永夜抄さっさと書かないとなぁ………
ではまた次回。


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迷探偵魔理沙

こんにちは、豹牙です。
特別編のくせに本編関係ある話(しかも作中ではまだ未来の話)を投稿した出前、早めに執筆しないとですね。書き溜めも用意してないし。
と言う訳で、どうぞ。


霊夜と美鈴が、弾幕ごっこではない闘いで怪我を負った。しかも、その相手は同一人物らしい。

その話を聞いた私は、「そいつをぶちのめせば、私は霊夜や美鈴よりも強くなる」と考え、早速情報集めに入った。

「――で、窓を割って侵入してまで俺に話を聞きに来た訳か」

「そうだ。どんな奴だったんだ?」

「いや謝れよ。何普通に質問してんだよ」

こいつほんとにケチだなー……ケチな男は嫌われるぜ?

まあ霊夜は兎も角、美鈴までもが負けたとなると相当強い奴だろう。気になるんで平謝り、っと。

「へいへいすいませんでしたー」

「………」

何やら額に青筋が浮かんでいる気がするのは目の錯覚だろう。親父で鍛えられた私の平謝りが、こいつに見破られる訳が―――

「平謝りで済ませて話を聞こうって魂胆なら帰れ。生半可な実力じゃ捻られるぞ」

あっさり見破られた。畜生何故だ!?

と思っている間に、霊夜はベッドから起き上がった姿勢で、瞳に鋭い光を宿して警告してきた。

「弾幕ごっこでなら勝てる、とでも考えてんのか?」

「悪いのか?ここは幻想郷だぜ?」

「……なら諦めろ。殴り合いだけじゃなく、弾幕ごっこの腕も相当だ。下手したら咲夜も負ける」

あの完璧メイドが負ける?私と霊夢以外に?そんな馬鹿な事がある訳無いだろ。

「…お前な、能力を加味しない火力だけなら俺の方が上なんだぞ?」

「だから何だってんだ?」

まだ分からないのかお前……と溜め息をついた霊夜が――()()()()()()()()()

「…………は?」

「お前が今のを数十発受けたとして、どれぐらいの傷になる?」

「いやいやいや、絶対死ぬ。無事な方がおかしいだろ」

「ああ、おかしいな。()()()()()()()、な」

…って事は、そいつは妖怪か。なんだ、結構話してくれるじゃないか――

「…因みにそいつは、数十発以上受けて掠り傷程度のダメージしか受けなかった。お前に、これを越える威力を――いや、それは愚問だったか。ただ、魔力が足りるかどうかだな」

「ふん、私のマスタースパークを嘗めるなよ?速攻で倒してやるぜ!」

「ま、健闘を祈るよ」

「わっ…」

帽子の上からわしゃわしゃと頭を撫でた霊夜の顔に、微かな笑みが浮かんでいたのは、きっと気のせいだろう。

そして、帽子から転がり落ちてきたのは……炒った豆?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「おーい、美鈴ー」

「むにゃ…あれ、魔理沙さん……どうされました?」

「異変について教えてほしいんだが」

良いですよー、とにこやかに答える様子は霊夜とは正反対だ。霊夜も見習え。

「博麗神社にですね、妖力を持った霧がかかってるんです。それが異変の犯人ですよ」

「ふぅむ………うん?霧が?」

「えー、まあ、はい。いやでも、霧は仮の姿と言うか……あ、でも周りに誰も居ない時にしといた方が良いみたいですよ」

「なるほど分からん。恥ずかしがり屋なのか?」

「どちらかと言ったら飲んだくれですね。お酒の臭いしかしませんでした」

「何だそりゃ……」

以上が、私が目撃者―もとい被害者から話を聞いた全てだ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……だーーっ、分かるかこんなもん!大体、なんで炒った豆なんだよ!」

「人の家で暴れないで頂戴。……でも、(にわか)には信じられないわね」

以前に霊夜と春集めをしていたらしいアリスが、(おとがい)に指を当てて考え事を始めた。こうなるとしばらく何を言っても無駄なので、上海でも弄って遊ぶことにしよう……布のくせに柔らかい頬っぺたしてやがるな。

シャンハーイ!シャンハーイ!(ひゃんはーい!ひゃんはーい!)

「ってこらっ、上海で遊ばないの!」

「あ、悪い」

宴会は明日。絶対に犯人をぶちのめしてやる。……で、炒った豆って何だ?




霊夜ツンデレ説。因みにこの後、咲夜に怒られました。
ところで皆さん、炒った豆を何に使うかは分かりますよね?…割とヒント出したな霊夜。
ではまた次回。


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魔法(物理)使いの弾幕(投擲物)

こんにちは、タイトルからしてちゃんちゃらおかしい豹牙です。
元日、チュウニズムを5回やりました。汗だくになりましたがレートは変わりませんでした。お年玉で何買おうかなぁ…千年の黄昏(今更)買ってモデルガン買おうかなぁ…PS4?買えてもソフトが買えないんでパス。

はい、こっから本編についての話です。耳の穴掃除して…いやネット小説だから目ヤニ取って見ましょう。
前回、霊夜と美鈴に色々聞いて色々手助け(?)された魔理沙。萃香には勝てるんでしょうか?
ではどうぞ。


「よう、魔理沙。ヒントは分かったか?」

「生憎まだだぜ」

「はい?アリスも分からなかったのか?」

「アリスは興味無いって。手助けぐらいはしてくれても良いのによ……」

ぶー、と頬を膨らます魔理沙だが、《炒り豆》という超絶分かりやすいヒントを出されたのにこれかよ。炒り豆と言ったらアレだろ。多分萃香にも効くと思う。

「……大体、炒った豆がどうだってんだよ」

「そこからかよ。お前親父さんにどんな生活させられてたんだ」

「親父は関係無いだろ」

ぐいっと酒を煽り――はせずに、ちびちびと飲みながら魔理沙にヒントを出していく。答えまで言ってしまったら、流石につまらないだろう。

「はぁ……2月の3日は何をする?」

「えーっと…恵方巻き食って……豆撒いて……」

「その豆は何を退ける為だ?って、もう答えまで言った様なもんだな。俺からは以上だ、精々頑張んな」

「なっ、おいそりゃ無いぜ!教えてくれよー、なあなあー」

「教えん。たまには自分で―と言うか今のでまだ分からないのか?流石に馬鹿と呼びたいぞ」

「なにぃ…!?」

もういい!と女性らしからぬ足音と共に去っていく魔理沙を見ず、俺は珍しく来たパチェの所へ――行こうとして止めた。絶対魔理沙が聞きに来るだろうと予想したからだ。代わりに……うん、妖夢でも弄って来よう。半分幽霊なのに怖い話が苦手ってどーゆーこっちゃねん。

関係無い話だが、恵方巻きって考えたの海苔屋らしいな。2月の売り上げが落ちる時期にも売りたかったんだとか。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

霊夜のヒントはよく分からん。と言う事で、私以外の魔法使い2人に聞いてみる事にした。

「アリス、パチュリー、ちょっと良いか?」

「……何?」

「どうしたの?」

「実は今、異変が起きててな……」

 

少女説明中……

 

 

「―――と言う訳だ」

「ああ、そう言えば霊夜が『魔理沙は普通に教えたらぶーぶー文句言いそうだからヒントしか出さない』って言ってたわね」

「それであいつあんな事を……」

「で?霊夜はどんなヒント出したの?答えが出たのは答え言って」

「あー、確か……『殴り合いだけじゃなく、弾幕ごっこの腕も相当』だから実力者、『人間の基準だと霊夜や美鈴の殴打に耐えられない』から妖怪、あとは……そうだな、あいつ炒り豆なんかくれたな」

「「炒り豆?」」

2人揃って首を傾げ、全く同じ仕草で考え始めた――ってお前ら仲良いな。

「ああ、あと今日聞いたのが……2月の3日がどうのこうのって」

「…ああ、なるほどね。霊夜ったら、ほぼ答えじゃない」

「ほんと、器用なんだか不器用なんだか」

突如クスクス笑い始める2人に答えを聞いてみる。すると―――

「ふふっ、内緒。折角だから、挑んだ方が早いんじゃないかしら?」

と、アリスが笑い掛けてきた。となれば当然、分からない方はイラッと来る訳で。

「そんなに言うなら2人も一緒に来いよ!その《答え》が間違ってたら私の研究手伝え!」

「ええ?…じゃあ、合ってたら?」

「私が手伝ってやるぜ」

「なんで上からなのかしら…まあいいわ、今日は喘息も調子良いし」

「私も賛成。情報は欲しいもの」

理由が理由だが、参戦してくれるなら良しとしよう。何より、この2人はとても心強い。

「よし、んじゃ行くぜ!えーと…多分こっちだ」

後ろで溜め息が聞こえた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……あんだけヒント出したのにまだ分からないって寧ろすげーよな」

「あ、あはは……魔理沙さんらしいですね」

「行動主義だからなあ……」

美鈴と2人、どうなるんだろうかと考察タイム。と言っても、魔理沙に呆れてばかりなのだが気にしない。パチェやアリスの様に、あれだけ出したら普通はすぐに分かる筈なのだ。

「ふふ~、霊夜君は優しいですね~」

「わっ、ちょっ、こあ!恥ずかしいからやめてくれって――にぁーっ!」

いつの間にか酔ったこあが来ていたらしく、後ろからむぎゅーっと抱きしめられた。…あと、耳は敏感だからほんっとにやめてほしい。やられているのは耳なのに、背中に電流が流れている様な気分になるのだ。

「ひぁう……っ」

「こ、こあちゃんその辺に…」

「はむ…ん…ふぁい?」

「喋ら…ない、で……!」

美鈴も手荒に引き剥がす訳にはいかないので、どうしたら良いのか分からない様子だが、多少強引でも構わないから剥がしてほしいのが本音だ。

「ん……ふふ、可愛い」

耳から離してくれたが、そのままこてんと頭を(もた)れさせ、以後は規則的な息づかいが聞こえるだけだ。

「……寝ちゃったか」

「…みたいですね。運んでおきます?」

「そうだな、布団で寝かせておこうか」

なんだかんだ言って、こあも構ってほしかったのだろう。紅霧異変前に比べれば、一緒に居る時間は格段に減った。

「…今度時間作ろうかな」

「それも良いかもしれませんね」

美鈴も賛成みたいで良かった。まあ反対する様な人間…じゃなくて妖怪ではないと思ってはいたのだが。どちらにせよ、今は寝かせておく。

…さて、妖夢でも驚かせて来るか。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…この辺か?おい、居るんだろ妖怪」

「当ったりー…と言いたいとこだけど、あの霊夜と美鈴(赤髪2人)から聞いたんだろ?」

「私は魔理沙から……」

「因みに私もね。もっと言えば、沢山のヒントを貰っても分からなかった人から聞いたわ」

「ああ、ヒント貰った所は見てた。いやぁ、あれで分かんないってのも相当だね」

「うぐっ……」

確かにそうだ。力が強く頑丈な妖怪。霊夜が渡したであろう炒った豆。相手が鬼だと分かった今、パズルのピースが勝手に填まっていくのが分かる。……ああ、穴があったら入りたい。

「さて、私達の予想は正解してた訳だし……と言っても、特には無いわ」

「アーアーナニモキコエナ……え?」

「……私も、無……いわね、うん」

「良かった~……」

安堵のあまりにへなへなと座り込んでいると、呆れ7割期待3割の声が聞こえた。

「…あー、んで、闘うのは1人ずつかい?それとも――――」

――3人纏めてかい?

小鬼が、嬉しそうな…しかし恐怖を覚える笑みを作って、自信あり気に口を開いた。

その言葉で、私の―そして(恐らく)アリスとパチュリーの闘争心に、山火事レベルの火が点いた。具体的に言うと、物凄くカチンと来た。

暗に、「虚弱な魔法使いなど、3人纏めて掛かってきても勝てる」と言っているのだ。ならば、遠慮も何も要らないだろう。

パチュリーが七色の石を周囲に漂わせ、アリスが上海と蓬来を呼び出し、そして私は―――

「マスター……スパァァァクッ!」

私が持つ最大火力をぶち込んだ。




やっぱり戦闘開始直後に切るっていう。ついでに言うと、地味に永夜抄が書きた過ぎて悶えてます。……先書いちゃおうかなあ……。
ではまた次回。


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斬れぬものなど

こんにちは、豹牙です。
タイトルで次やる人分かりますよね?(挑発)
やっぱり戦闘はカット。何人かに「書けやこの野郎」と言われている気が。…美鈴しか書いてないしなあ……今度は書こうかなあ…
ではどうぞ。


「ぐぬぬ…あいつ強すぎるぜ……」

「流石は鬼ね…頑丈だわ」

「けほっけほっ…けほっけほっけほっ」

魔法使い組で挑んだ結果、実はあと一歩の所まで追い詰めたのだ。だがパチュリーが土埃を吸い込んでしまった為詠唱が出来ず、そのまま負けてしまったのである。

「大丈夫?パチュリー」

「な…なんとか……」

「……屋根に居た方が良さそうだな」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

妖夢に足音を立てずに近付き、後ろからぽんっと肩を叩いてみる。すると――

「ふきゃあぁぁ!?ゆ、ゆゆゆ幽々子様ぁぁぁぁ!」

と、この様に面白いぐらいに驚いてくれるのだ。目には涙まで浮かべている。

「あらあら、どうしたの妖夢?」

「お、おばっ…お化け…」

「お化けじゃないわよ~、霊夜よ~……あら?居なくなってる」

「~~~~~!」

幽々子の服をぎゅっと掴み、プルプルと震えている妖夢を木の枝に乗って見ていると、なんだか申し訳ない気持ちになってきた。やれやれと思いつつ枝から飛び降り、妖夢に「ごめんな、驚かせて」と言って頭を撫でる。

「うう……悪霊退散悪霊退散……」

「おい、俺は生きてるっての。と言うか半分幽霊なのにお化けが怖いってなんだ。あと幽霊が悪霊退散出来るのか?」

「そ、それは……ええと……」

幽々子に撫でられた状態で顔を赤くし、幽々子に顔を埋めて恥ずかしがる妖夢だが、俺からしたら盛大に溜め息をつきたい。

「……ま、人間嫌いの人間と似た様なもんだと解釈しとくよ」

「あ、ありがとうございます……ってあれ、その腕……」

振り返った妖夢の視線が、折れたので(一応)矯正の為にギプスを巻いている左腕で止まった。八意印の薬のお陰でほぼ完治しているが、念のため巻いているのだ。

「え?あーこれか?ちょっとヘマしたんだ」

「…本当ですか?」

純真で、人の言う事を何でも信じる―紫談―妖夢にも疑われるとなるとかなり下手な嘘だな。…いや一応嘘では無いか。折れかけた左腕をムチみたいに使って萃香の鼻にぶち当てたのは俺だし。因みに萃香は鼻を痛めただけだった。俺は腕が砕けたが。

「…まあ、無茶はしたかな、うん」

「どんな無茶したんですか…妖怪の骨折ってそう聞かないですけど」

「そりゃもう、勢い良くガツンとぶつけ―――」

「あら、()()()()?」

ぎくっ、と来た。幽々子には一切話していないのに、何故―――いや。違う。話していないのは俺()()だ。他の誰かが話していない保証は無い。

そしてそれは――結果的に、はぐらかして逃げる手が潰された訳だ。

「…霊夜君?本当は何したんです?」

「あーーーー………幽々子~…責めて言わないでほしかった…」

「ふふ、ごめんなさいね~」

クスクスと柔らかく笑う幽々子。いつもは一緒に笑うのだが、今回ばかりは笑えない。何せ逃げ道が消されたのだ、笑える訳が無い。

そうしている間にも、妖夢はずいっと詰め寄って来ている。あ、オワタ。

「どうなんですか?答えてください」

「………はぁ、分かったよ。教えるから詰め寄るな」

「むぅ…で、誰なんです?」

「神社に漂ってる霧」

「へ?」

「だからあ、霧だよ霧。正確には妖霧だ」

「わ、私ですか?」

「違う妖夢じゃない。妖力を持った霧で妖霧」

「妖霧……ですか?でも、霧で骨は…」

「そう、折れない。霧ならな」

なら?と小首を傾げる妖霧…じゃない妖夢に、萃香の事と美鈴や俺、そして恐らく魔理沙が負けた事を話した所、大いに興味を示した。やはり幻想郷には、酒豪と戦闘狂が多い。妖夢も涼しい顔で日本酒飲んでたし。しかも結構飲んでるっぽい。酒の匂いがする。

「…刀振った事無いから分からないけど、大丈夫か?」

「大丈夫です!妖怪の鍛えた楼観剣に、斬れぬものなどあんまり無いですから!」

「あんまりなのか……と言うかその長刀楼観剣って銘なんだな。…因みに短刀は?」

「白楼剣、と言います。白い狼の剣じゃないですよ」

「え、違ったの?」

…白狼剣かと思った。文から「白狼天狗の部下が居るんです」と聞いたからかな?

「木へんに米と女と書いて楼です。…じゃなくて、貴重な経験ですから是非とも挑戦したいです!」

「そ、そうか。まあ、戦った事無いから実力の程は分からないが…頑張れ」

「はいっ」

因みに幽々子だが、また調理側の人間を潰していた。誰か幽々子を止めてくれ。




はい、4人目(巻き込まれたパッチェさんとアリスはノーカン)は妖夢でした。ええ、「知ってた」と言われる前提でタイトル書いてます。前々回に至っては名前すら出してますしね。と言う訳で、また次回。


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あんまりない

こんにちは、豹牙です。
萃夢想4人目、妖夢はどう挑むんでしょうか。
あとここに書く事が無くなってきたので、下手したらここのフリートーク的なのが無くなるかもしれません。
ではどうぞ。


「……はぁー…ああ言った手前どうしよう…」

皆が宴会で楽しんでいる中、私は途方に暮れていた。話は数分前に遡り―――

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「あ、そうそう。異変の主犯だけど――」

「大丈夫です!どんな妖怪だろうと(ほふ)ってみせます!」

「いや屠っちゃ駄目だろ。妖夢の実力を疑ってる訳じゃないけど、俺が言いたいのは強さじゃなく―――」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

その先は聞けなかった……いや、聞こうとしていなかった。唯一聞こえたのは、「場所」という単語だけ、しかも思い出したのは今なのだ。……うう、我ながら恥ずかしい…

「…ほんとにどうしよう……きゃっ」

どん、と誰かにぶつかった。謝ろうと相手の顔を見上げ――

「…美鈴さん!」

「ああ、妖夢さんでしたか。大丈夫ですか?」

「は、はい。私は大丈夫ですが…」

そこで、私に電流が走った。

春雪異変の宴会で、美鈴さんは霊夜君に武術体術を教えていると言っていた。能力は《気を使う》との事だったので、霊夜君に知らせたのも美鈴さんに違いない。

そこまで考えた私は、美鈴さんをじっと見詰めていた。

「……? 何か付いてます?」

「…あの、美鈴さん」

「は、はい…何でしょう」

「今起きている異変の犯人と、戦いましたか?」

すると美鈴さんは首を傾げたけど、こくりと頷いた。

「ど、どこでですか!?」

「え!?あの…境内の端っこ辺りで声を掛けてみてください。多分出てくると思いますが…大きな声だと流石にまずいみたいです」

途端、顔が果てしなく嬉しそうにしていると自分でも分かるぐらいに嬉しく思った。

美鈴さんにお礼を言って、ダッシュで境内の端へ向かい、そして―――

「…妖怪、姿を現しなさい!」

大きくはないが小さくもない声で呼び掛けた。するとみるみる内に霧が凝集し、人の形を作った。捻れた角、手足と髪に着けた鎖と分銅、腰の瓢箪、そして小柄だが圧倒的な妖力。――間違いなく、こいつだ。

「いやぁ、赤髪も人気者だねえ。お前さんみたいなのがゴロゴロ居るよ」

「魂魄妖夢です。貴女は?」

「ぷっくっ、ははははは!良いねその目!私は伊吹萃香ってんだ。……始めるかい?」

「ええ、始めましょう」

既に意識からは、雑音や景色が消え去っている。私はゆっくりとニ刀を抜き、構えた。

「妖怪が鍛えた楼観剣に、斬れぬものなどあんまりない!」

「その《あんまり》にゃあ鬼が入るってもんよ!」

鋭く踏み込み、拳を突き出してきた萃香に対し、私がした事はただ1つ。それは――()()()()()()()()()()事だ。一見ただの臆病者に見えるかもしれないが、『敵を知り己を知れば百戦危うからず』とある様に、情報収集は大切なのだ。

―――……そこっ!

「っく……!」

ガキィン!という硬質な音と共に、楼観剣と鎖が衝突した。拮抗状態に移った為硬直した萃香の脇腹辺りに、白楼剣を突き込むと。

「なっ…!」

「ふっ……!」

白楼剣が掴まれ、ぴくりとも動かなくなった。正確には動くのだが、無理に動かすと折れてしまいそうな程に力強い。

―――どうする?…いや、決まっている。

「っ、はぁぁぁぁぁっ!」

「うぉっと!?」

楼観剣に体重を乗せ、ギリギリと刃が軋むと同時に、萃香の左腕の鎖に罅が入った。白楼剣は逆に引っ張り、萃香の右手から血が滴り落ちる。

「っ…!加減してる、とは言え…鬼と渡り合える奴なんざそう居ないよ、魂魄妖夢」

「くっ、あぁぁぁっ!」

白楼剣を引き抜くと、同時に大きく後退。接地してすぐに踏み込んで―――刀を振るった。

「シッ!」

「おっと!?いやー今のは危なかった…あ!?弾幕!?」

「………っ」

―――外した!

作戦としては、後退させた萃香を、半霊の弾幕で撃ち落とす、という代物だった。今まで半霊を使わなかったのはこのためだが、外した今となっては言い訳に過ぎない。

「――人符『現世斬』!」

「無駄だぁっ!」

萃香はなんと、()()()()()()()()()()()()()

「なっ…!?」

向かってくる弾幕を正確に叩き落とす様は、正に理不尽と言わざるを得ない。

「そらそらそらそらぁぁ!」

「っ………!」

弾幕を叩き落としながらじりじりと近付いてくる萃香に、私は一瞬だけ呆然としてしまい――それが、私の敗因となった。

「ふんっ!」

「う゛えほっ!?」

鳩尾に尋常でない衝撃が走り、思わず刀を取り落としてしまった。更にそのまま吹っ飛び、何本もの木々を巻き込んで、博麗神社から落ち――る直前で受け止められた。

「よっ、と。いやー、やり過ぎちまったみたいだね。大丈夫かい?」

「げほっ、げほっ……うう、胃が振られたみたいで気持ち悪いです…」

「ごめんごめん。美鈴やら霊夜みたいに頑丈かと思ってたけど…お前さん、よく見りゃ半人半霊だね。それに、()()()()()()()()

うっ、と呻き声が漏れた。実際、祖父と実戦、もしくは試合形式の稽古をした事は無い。更に、冥界は魂が居ても人が居ないので、相手も居ない。祖父に教えてもらったのは型だけで、後は我流でしか無いのだ。

「まあ、戦い慣れしてなかったとしても、良い太刀筋だと思うよ。少なくとも、私が見てきた奴の中では相当に良かったね。…ただまっすぐ過ぎるかな?」

「はい…ご指導ありがとうございます………」

私はまだまだ未熟者だ。だからこそ、更なる修練を重ねていかなくてはならないと、改めて実感した。




実はこれ、途中まで《萃香のパーフェクト(?)戦闘指導室》ってタイトルで書いてました。でも前回あんなタイトルにしてた為こっちに。
てな訳で、4人目終了……で、5人目になります。最後の6人目は勿論あの人ですが、5人目は誰でしょう?
ではまた次回。


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時を駆けずに止める少女

こんにちは、年賀状なぞ来なかった豹牙です。
萃夢想5人目、誰かはもうタイトルで分かる。そして6人分書く事は想像以上にキツかったです。
ではどうぞ。


「あのー…なんで俺縛られて吊るされてるんです?」

「あら、決まってるじゃない。壁を壊したのと、あと私の悪口言ってくれたでしょ?『下手したら咲夜も負ける』って」

「え、あーうぅ…はい、言いましたっつぁー!」

嘘言えば絶対に何かされる、と感じたから正直に答えたらつねられた。どないせいっちゅーねん。

「私が負けるとでも?」

「いやでも霊夢に負け―あっごめんなさいやっぱ何でもないだだだだだだ!」

「……本気で思ってる?」

涙目になりつつも、謝罪の意味も含めて頷く。だが実質、咲夜は強い。体術は俺や美鈴に劣るものの、それを補って余りある器用さがあるし、ナイフの扱いも目を見張る物がある。それに適応力や反応速度だって――

「…ま、そういう事にしとくわ」

「ふぐっ!」

次の瞬間、ぱらりと縄がほどけて落っこちる。床から1メートルの所から落ちてんだからそりゃもう痛い。

「いったたた……いくらなんでも酷いぜ咲夜…」

「どこがよ。私だって手加減はしているわ」

「むぐぐ…」

ほんとかよ、と聞きかけたが、手加減無しならナイフが最低5本は飛んで来ているので、手加減自体はされているのだろう。…言い返せない……

「それじゃ、罰の代わりに――」

笑顔のまますうっと細められた瞳に、恐怖に似た何かを感じたが、先程の鈍い痛みがまだ残っている為か―あるいは、咲夜の笑顔を滅多に見ないからか―動けない。力も入らない。

そのままふわりと抱き起こされ、頭を撫でられ……って何だこれ、すっげえ気持ち良い!次に撫でてほしい所が的確に、丁度良い力加減で撫でられて―――

「…?なんで止めるんだよ?」

「あら、罰を受ける側が口答え出来る立場かしら?」

「なっ……!?」

何だこのサディスト、酷過ぎるにも程がある。あんなに気持ち良いのは初めてだってのに、畜生この人でなし!鬼!悪魔!

「あら、反抗的な瞳ね。じゃあやめちゃいましょうか」

「………さい」

「え?よく聞こえないわねぇ」

こんにゃろう、楽しそうにしやがって……こっちの苦労も知らずして何言ってやがる。

……でも。

「撫でて………くださいっ…………」

「はい、よく出来ました」

咲夜はそう言って、柔らかな手で頭を()()()()()()

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「んぅっ……ひぁ、く……」

耳は先から根元まで、指先で擽りながら撫でると、霊夜が喘ぎ声を出し始めた。…たまには美鈴だけじゃなく、霊夜も弄るのも良いかもしれないわね。このふわふわした毛触り、癖になりそうだわ……あら、尻尾が震えてる。撫でてみよ―――

「ふみゃああ!?」

わっ、びっくりした。とまでは行かないものの、霊夜の息遣いが荒くなってきた為少し聞いてみる。

「…ふふっ、変な声ね。今どんな気分?っと、ちょっとやり過ぎたかな?」

すると霊夜は私のメイド服を掴み、もっと撫でろと言わんばかりに上目遣いで見詰めてきた。

――かっ……可愛い…!これはこあや妹様が好きな理由が分かる!

と、動揺の嵐が胸中で吹き荒れていたが、勿論顔には出さない。…良いじゃない、鉄仮面でも。

「しゃくやぁ…もっと撫でてぇ…」

「…全く、3分だけよ?」

「やったぁ…♪」

尻尾が揺れているのを我慢しようともせず、蕩け切った声で喜ぶ様子は見ていて…何と言うか、そそられる。

――でも、ちょっと堕とし過ぎたかな……?

「…霊夜、3分経ったわよ?」

「むぅ……分かった…」

あの柔らかな感触を名残惜しく思いつつ、霊夜が離れてくれるのを待っていると、まだ不満そうにじっと見詰めてきた。ああもう、霊夜は自分の可愛さに気付いてないのかしら。

「…あ、そうそう。霊夜、さっき言ってた私も負けそうな奴って誰?」

霊夜は「んー…」と言って首をぷるぷると振ると、いつもの調子に戻って話し始めた。

「鬼の伊吹萃香って奴だ。美鈴、俺、魔理沙とパチェとアリス、そして妖夢が挑んで……」

「負けたの?全員が?」

その問いに、霊夜は真剣な顔―さっきのアレを見た後だと真剣味が無くなってくるが―でこくり、と頷いた。

「…確かにそれは、私も負けるかもしれないわね……」

「だろ?だからまあ、分かってるだろうけど……」

「油断はするな、でしょ?当たり前の事よ。…それと」

「それと?」

また撫でさせて、と言おうとして危うく止める。確かにあれは依存症になりかけたが、言ったら言ったで弄られるのは目に見えているし。

「……何でもないわ」

「変な咲夜…」

次の宴会は、今まで通りのペースならば2日後。その時は、私の全力を以て相手しよう。




注:霊夜は男です。女顔ですが男です。
そして咲夜さんのキャラ崩壊。Sっ気漂う(と、俺は思っている)彼女ですが、ツンデレみたいですねこれ。
それと霊夜、咲夜に撫でられるとか羨ましいな、ちょっとそこ変われよ…おっと本音が。さて、例の如く次回は萃香戦です。…ちょっと(この作品における)キャラ紹介的なの書いて良いですか?
ではまた次回。


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ぺったんぺったんつるぺったん

こんにちは、豹牙です。
タイトルに深い意味はありません(白目)。ようやく萃夢想5人目、PADちょ(骨が砕ける音)。
あと、昨年末(12月10日ぐらい)に眼鏡を買いました。報告超遅いですが、友達には「似合わない」と不評でした。
ではどうぞ。


宴会が始まってから早4週間、意外にも気付いた人は少ないらしい。気付いたのは私、霊夜君、魔理沙さん、パチュリー様、アリス、そして咲夜さん。と言っても、咲夜さんは霊夜君から聞き出した(因みにその後、霊夜君がやけに嬉しそうにしていたけど、それが何を示すのかはまるで不明だ)らしいけれど。

「…皆さん、無意識に来ているんでしょうか……」

「? 美鈴さん、どうしたんですか?」

「ああいえ、独り言ですよ」

彼女―大妖精は、妖精の中ではかなり頭が良く、そこそこに勘が鋭い。普段大雑把なチルノや、ふわふわとしたルーミアとよく一緒に居る所を見掛けるが、寺子屋(妖精や妖怪も子供なら行かせてくれるらしい)ではさぞかし良い成績なのだろう。

「大ちゃーん!一緒に遊ぼー!」

「あっ、今行くー!また遊んでください、美鈴さん!」

「はい、是非とも」

妖怪蛍の少女(少年?)に呼ばれた大妖精が、背中の羽根を慌ただしく動かして飛んでいくのを見送った時、今日開かれる宴会の準備で博麗神社に行っている咲夜さんと霊夜君の事が浮かんでいた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

今日も開かれる宴会の準備として、今日も準備に出向いた俺と咲夜だが、近くで作業している時にぽそっと聞こえた

「…さて、萃香とやらはどこ?」

という台詞に、

「ん?霧の一粒一粒がそうだが」

と返した所、僅かに目を見開いて口をぽかんと開けるという間抜けな顔をした。ああもう、文はこういうのを撮れば良いのに。団扇で起こした風でスカート捲りなんざしないで。変態かあの鴉。変態だったわ。

「…どう戦えば良いのよ」

「そうだなぁ…境内の端、人が居ない所で呼び掛けると姿を現すから、話はそっからだな」

「…面倒な鬼ね」

咲夜はそう言うが、ぶっちゃけ言うと萃香は戦いたいだけなのだ。霧の状態になっている自分に気付ける程の実力者と、命を懸けたとは言わずとも全力で。

「まあまあ、そう言いなさんな。あのちっさな大酒飲みはシャイなんだ」

「なんだか力が抜けそうな印象ね……でも、強いのには変わり無いんでしょう?」

「ああ、そりゃもうとんでもなく。肉弾戦なら俺と美鈴のお墨付き」

それを聞いても作業の手を止めず、このゴザボロボロじゃない、なんて愚痴り始める始末。聞いてるのか聞いてないのか分からないな…。

「ま、実力なんて宴会が始まれば直に分かるわ。串刺しにしてやればしばらくは動けないでしょう?」

「…うぅ、思い浮かべたら鳥肌が……」

「なんで思い浮かべたのよ」

全くである。

「あんたら仲良しねー。で、準備も進めずイチャついてる訳?」

「そんな事無「いいえ、絶対にあり得ないわ」……」

早い。俺の台詞に被ってたぞ。

「うん、まあ絶対じゃなくとも準備は進めてるさ。霊夢はゆっくり休んどけ」

「あー、そんじゃ後頼むわー」

「いや昼寝しろって意味じゃない!」

……兎も角、萃香はあと何回宴会をさせるつもりだろうか。全員が気付くまでとか言ったら泣く。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「あと何回宴会をやるか?んー…博麗の巫女が気付くか、私が負けたらだね」

「やっぱそうなんのか…頼む咲夜勝ってくれ……」

「いやいや、お前さんも不意を突くってのは良かったんだよ?実際驚いた」

「腕を鞭みたいに振るやつなら金輪際やりたくないけどな」

そりゃそーだ、と萃香が酒を煽る。因みに今は神社の屋根(裏側)に座って話しているが、そうじゃなくて萃香の持ってる瓢箪。ぐびぐび飲み続けるからどんだけ入ってんだよと聞いた所、なんと無くならないらしい。伊吹瓢と言って、鬼の秘宝の1つなんだとか。

「無限って事は、味はそこまででもないのか?」

「うんにゃ、結構美味いよ。飲んでみるかい?」

「え、ああ……うー…イタダキマス」

「なんで片言なのさ。安心しな、ちょっと強いだけさ」

「その《ちょっと》が怖いんだよ。元々酒には弱いんだ」

萃香が喜んで飲む程度だ、俺にはどれだけ強いのか想像もつかない。

「あーもー、ほれっ!」

「んぐふっ、げほっげほっげほっ!」

あのさ、これ美味いよ。美味いんだよ。美味いんだけど強過ぎんの。胃の中に直接アルコールをぶちまけられたみたいにえげつない。

「…うぅ~……」

「おいおい、大丈――」

そこからは記憶に無い。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「伊吹萃香とやら、居るんでしょう?出てきなさい」

シーン……

「……………」

「…あー、悪いんだけどちょいと待っておくれよ。こいつ酔い潰しちゃってさ」

屋根の上からひらりと飛び降りてきた小鬼――の背中には、見慣れた人物が乗っていた。

「あら、霊夜じゃない。また潰れたの?」

「ん~……」

霊夜は軽いけど、それでも片手で持ち上げられる程ではない筈。それを軽々と持ち上げるとは、それだけでも充分な実力者である事が窺える。

「霊夜はこちらで引き取るわ。元よりこちらの妖怪だしね」

「ああ、そういや一昨日調教してたねえ」

「罰を与えていたと言って頂戴。……可愛かったけど」

語尾をごにょごにょ濁しておいて、さっさと倒―――す前に。

「貴女、覗いてたの?」

「いやぁ、霊夜がその後どうしてるかなーと思ってちょっとくっついてたんだよ。そしたらソレが見えた」

…どうやらこの覗き魔、いい趣味を持っている。これはどちらにせよ叩きのめさなければならなさそうだ。主に、紅魔館のプライバシー保護の為に。

「貴女は私が成敗させてもらうわ。これ以上お嬢様達の生活を覗かれる訳にはいかないもの」

「なーに、もう離れてるよ。それに、いい肴も見付かった事だしね」

「それをやけ酒の肴に変えてあげるわ」

それと同時に時間を止め、大量のナイフを投げる。避けられるギリギリのスペースだけを残した物だが、さてどう避けるのかと考えながら時間を動かし――

「うおっとお!?」

萃香が、()()()()()()()()()

「――っ!」

ナイフが通り過ぎた所を、霧が集まってきて萃香となった。…いやいや、反則じゃないかしら。あれで避けてたら絶対に当たらないわよね?

「……ちょっと、流石にそれは駄目なんじゃないかしら?」

「いやぁ、急に来られちゃ驚くさ。ただ安心しな、もう使わないよ。それに、5分間避けるだけにしよう。それで当てられたらお前さんの勝ちだ」

「本当でしょうね?」

呟きながらもナイフを投げ続け、たまに加速させたり時間を止めて投げたりと変則的に投げてみるも、綺麗に全て避け切ってみせ――はさせない。

「はっ!」

「おわったったっ!?」

萃香の避けた所、その足元にナイフを投げる事でバランスを崩させる。そこに大量のナイフを投げて投げて、時間を止めて落ちたナイフを拾って投げて――2本、当たった。

「うげっ……」

「私の勝ちね。さあ、異変を終わらせて頂戴」

「ちぇー、負けちまったかぁ…」

「……咲夜?誰よそいつ」

「あら霊夢。今起こってる異変の犯人よ」

「……は?異変?」

「やっ。私が宴会を起こしてたんだよ」

「は?はぁ?はあぁぁぁ!?確かに『やけに宴会があるなー』とは思ったけど…」

「いつつ……それ、裏を返せば気付いてないって事じゃないか?」

鈍く痛むのだろう頭を振り、むっくりと起き上がった霊夜に事実を指摘され、むぐっと奇妙な声を出す霊夢だが、何かを思い付いたのかニタリと笑った。

絶対に変な事思い付いたわね……という私の予想に反せず、霊夢は分かりやすく猫撫で声を出した。

「ねぇ咲夜、その手柄私に譲ってくれたりは……」

「しないわよ。情報をくれた霊夜や美鈴は兎も角、気付きもしなかった貴女には何がなんでも譲らないわ」

「なんですってえ!?あーもうあったまきた、アンタら纏めて退治してやるわ!霊夜、アンタもよ!」

「俺もー?風評被害だろ…あと頭痛いから大声出さないでくれ」

「問答無用!さっさとやられなさい!」

「だぁっ、だから頭……うぉあっ!」

いきなり霊夜に札を投げるが、霊夜は流石の反射神経――あるいは生存本能で避け、木を足場にして屋根に飛び乗った。私?私はとっくに登ってるわ。時間を止めてね。多分萃香も――

「いやぁ、危ない危ない。こりゃまた、今代の博麗の巫女は恐ろしいもんだねぇ」

「ほんとだよ…まあ、先代はちょっと真面目過ぎた感はあるけど」

「ぶつくさ言うならとっとと退治されなさーい!」

「ちょっ、怖い怖い!」

下――つまり境内では、何やらざわざわと聞こえる―萃香に驚く者も居れば、霊夢を怖がる者も居た―が、今は本物の鬼も逃げる鬼ごっこを逃げ切らなければ。

「待ちなさいって、のっ!」

「おっと危ない!」

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ…ってね」

「呼んだかい?」

萃香(貴女)じゃなくて霊夢よ」




5人目終了、6人目スタートって所で次回に続きます。命を懸けた(多分)鬼ごっこ、果たして誰が制するんでしょう?
ではまた次回。


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どこへ行こうと言うのかね?

こんにちは、アメリカの映画は良い思う豹牙です。マチルダとかホーム・アローンとか、最高に面白いですよね。
さて、鬼巫女相手の鬼ごっこ、皆さん勝てます?俺は勝てません(白目)。
ではどうぞ。


「こんな恐ろしい鬼ごっこ初めてだ……おわっ!」

「ははは、いやぁ危ないねぇ」

「り、霊夜君!?これは一体――」

「悪い後で詳しく説明するしいくらでも謝る!だから今は逃げてくれー!」

「へ?何言ってぎゃー!」

あれから2分。博麗神社は騒然と――いや、混沌としていた。何故って、霊夢がバラバラに逃げる俺、咲夜、萃香に札や弾幕を放っている為、犠牲者が大量に出ているのだ。避けたら避けたで犠牲者増えて、当たったら当たったで退治される。

「どないせーっちゅーんじゃこらぁー!」

「アンタがやられれば良いのよこんの犬っころー!」

「俺は狼だー!」

なんて不毛なやりとりの間にも、沢山の犠牲者が出ている。魔法使い3人組と美鈴、ルーミアチルノにレミィ……数えていったらキリが無い。多分、俺達が当たらない限り増える。

「う、お、わっ!」

「ちょっと霊夜!こっちに来ないでくれるかしら!?」

「わ、悪い……って言ってる場合じゃない!」

「たはは、頑張れー」

「萃香てめぇ逃げやがってー!」

「後で覚えてなさーい!」

「やーだyぐふあぁっ!?」

あ、やられた。ざまあ見やがれ。でもこれ、俺と咲夜もやられないと終わらないんだよなぁ……

「わ、分かったわよ!手柄は私と貴女で6:4に……」

「私が9でアンタが1よ!それ以外認めないわ!」

「そんなの無いで……きゃっ!」

「咲夜ー今行くぞー!」

「逃げてるじゃないの!」

「行けたらだよ!流石にキツいって!」

俺は妖怪だから、霊夢の札や針に当たったら大怪我レベルのダメージを受けるのだ。咲夜が被弾した時の比ではない。

と言うか、俺が事を穏便に済ませる方法なんて無くないか?

あれ?じゃあ俺どっちにしろ痛い思いするの?やだよそんなの。

「霊夜くーん頑張れー!」

不意にこあの声が聞こえ、手を振ったと同時に―――霊夢の踵落としが、俺の首に突き刺さった。

「がっ……!」

意識が途切れなんてしない。首に激痛が走った上、石畳に叩き付けられたのだ。気絶なんてしてられるか。

「ふん、これが博麗の巫女の力よ!」

「お、ま、え、なぁ……鬼より理不尽だぞ……」

「あら、私程に公正な博麗の巫女はそうs」

「先代の巫女のが公正だったぞこんにゃろー!」

結局犠牲にならなかったのは、何故か屋根に座っていたこあと、咄嗟に井戸に隠れていた幽々子&妖夢だけ。後は……酔い潰れてた連中か。

「ああ、痛い……」

「咲夜ーごめんなー……」

「…ま、貴方よりはマシなやられ方よね」

萃香は後頭部に針が直撃、咲夜は腕に札が当たり、俺は前述の通り。やられ方としては、確かに俺が一番酷い。妖怪化してなきゃ死んでたな。

「う……ん、ってぇ!」

ゴキッという鈍い音がして、首の向きが直った。ギリギリ折れてなかったみたいだが、痛いのには変わり無いんだよ畜生。

「おっ、直った直った。折れてないみたいで良かったよ」

「折られないで良かったよ……で、霊夢」

「何?取り分なら変えないわよ」

「は?何言ってんだてめえ」

「……へ?」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「あーあ…霊夢さん、霊夜君怒らせちゃった……」

私は屋根に座り、足をぷらぷらさせて―因みにこの時、パチュリー様を置いて行ってしまった―境内を見ていた。霊夜君が落とされたのはまだ分かったけど、霊夢さんの言動は理不尽以外の何物でもない。異変に後から気付いたのに、その手柄を9割も横取りしたり、大量の何もしていない人妖を理由無く(流れ弾とは言え)ボコボコにしておきながら「公正な博麗の巫女」だと宣う。これは誰だって理不尽に思うだろう。それが例え、普段は牙を剥かない狼だとしても。

「ふふ、どうなっちゃうのかなぁ……♪」

私は、甘美な蜜を舐めた気分だった。




こあはやっぱり小悪魔でした(2回目)。
そして霊夜ガチギレ。多少の理不尽は渋々受け入れても、あそこまでの理不尽は流石にアウトだったみたいですね。
ではまた次回。萃夢想はもうちょいだけ続きます。これが終わったら、日常挟んで永夜抄です。


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普段怒らないってのは怒ったら怖いってこった

こんにちは、豹牙です。
なんと、この小説のUAが14000を越えました!皆さんありがとうございます!
ではどうぞ。


霊夜の突然の豹変に呆然としていると、霊夜の手が伸びて私の胸ぐらを掴み、引き寄せた。鼻と鼻が擦れそうなぐらいに。

そこで我に返った私は、私を睨む赤い瞳を見て――今までに無い感情が湧いた。これは一体――?

「おい。聞いてんのか?後から、それも主犯が倒された後に気付いた奴が、手柄の9割横取りして、何もしてない妖怪を片っ端からボコボコにしておいて、『自分は公正だ』と宣う……なるほど、愉快な秩序の守護者だ」

「っ……!違……」

「どこがだ?寸分の狂いも無く、お前が言った事を返しただけだろう?何が違うんだよ」

「っ…………」

言い返せない。いや、()()()()()()()()()()()()()()。そこでようやく分かった。私は彼を――新月霊夜を恐れている。何故かは分からない。だが、元人間だからなのかは分からなくとも、霊夜は異質――言うなればイレギュラーだ。それこそ()()()()()()()()()()()()

そこまで至った私の思考を、霊夜の低めだが綺麗な声が遮った。

「おい、霊夢」

「!!」

「お前は、先代の博麗の巫女を覚えているか?」

「そ、そりゃあまあ……大体は」

「ならその頭に叩き込んどけ、先代のやっていた事が公正、平等と言うんだ。お前がやっていた事は、ただの暴力だ」

「……ごめん、なさい」

「謝る相手なら俺以外にも居るだろ。それと、取り分なら最初に気付いた美鈴が2割、他の気付いた奴が1割。俺から求める事は以上だ」

「……あーもー、1度に沢山言わないでよ!分かんなくなってきた!」

がーっと喚いてからしまった、と思う。今の霊夜は怒っている、となれば機嫌を損ねてしまっては――

「ははは、悪い悪い」

「……え?」

いつもと何ら変わらない霊夜が、そこに居た。

「さて、と……また大量に怪我人出たなぁ……」

瞳も剣呑じゃない。あれだけ漂っていた威圧感も無い。

今度紫に、霊夜の産まれについて聞いてみよう。何か掴めるかは分からないが、無駄にはならない筈だ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「んぅ……」

「おはようございます、霊夜君。あの時の霊夜君、結構カッコ良かったですよ~」

「……それぇ、あんまし嬉しくないぃ……」

ええー!?と声を上げるこあだが、怒っている姿を褒められて嬉しい奴ってそう居ないと思う。

因みに今は、こあに抱かれて飛んでいる。理由は簡単、やっぱり酔い潰されたからだ。しかも魔理沙に。魔理沙より酒に弱いとは思わなかった。我ながら失笑である。

あ、そう言えば。

「なぁ、こあ」

「はいはい、何でしょう?」

「……今度、1日中こあだけの物になるよ。最近何も出来なかっただろ?」

「……!」

途端、こあの頭に付いている方の羽根が、ぴんと上を向いた。尻尾も揺れている事から、相当に嬉しいのだろう。

ふふっと1度笑って、俺はその日にされるであろう事を予想した。




やっと終わった萃夢想!さーて日常書いたら永夜抄だぁー!(謎テンション)
ではまた次回。


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こあと過ごす時間

こんにちは、早く自分のスマホが欲しい豹牙です。まあ手に入った所で、この垢のパスワード思い出さないと駄目なんですけどね(大馬鹿者)。
さて、今回は日常回。こあにひたすら愛でられるとはなんと羨まし(ゲフンゲフン)けしからん……。
ではどうぞ。


「ふふ~、きょーおっはわったしっのりょっうやっ君~♪」

「何だその歌……」

久々に俺を好きに出来る(と言っても1日だけだが)とあって、こあがよく分からない歌と共に抱きしめてきた。ちょっと苦しいんだが、まあそれは良しとしよう。「恋人同士がやる事以外なら何でもしていい」と言ったのは俺なのだ。ハグはノーカン、良いね?

「はうぅ~……ほんとに綺麗な髪ですねぇ……」

「え、そうか?こあのが綺麗だと思うんだけど……」

「むぅ、褒めてるんですから素直に喜んでください」

「はぁーい」

因みに今は俺の部屋に居る。別に図書館でも良いと思――いや駄目だ、パチェが集中出来なくなる。あと魔理沙が来たら面倒な事になりそう。なるほど、こあはこれを見越してここにしてたのか。

「霊夜君」

「うん?……わっ」

体を反転させられ、ぽすっと見事に収まった。――こあの胸に。

「~~~~!」

「ふふ、赤くなって……可愛い♪」

「ぷはっ!なるほどわざとかわざとなのかだからってそれするかこあ!?俺だって健全な男なんだぞ!?」

「さぁ?私にはさっぱり分かりませんよ~?」

クスクスと楽しそうに笑っているが、こっちとしてはもう何度目の感触なんだか分からん。事ある毎に抱きしめられて、その度に顔を胸に埋めさせられているが、やはり慣れない。

「むぐぐ……」

「そんな怖い顔しないでくださいよ、美男子が台無しですよ?」

「ひゃう!……そんっ、な、事言って……もっ、耳触る理由には……っ、ならにぁ―――っ!」

「あはは、面白い声出すんですね。それそれ~」

こあの耳の触り方は、撫でたり擽ったりしてきた奴とは訳が違う。摘まんで、指先でこねくり回すのだ。撫でられるのも擽られるのも気持ち良かったが、これは最早快楽の域に達している。しかもたまに耳元で息を吹き掛けてくるとかもう頭真っ白になりかねないから止めて―――

「はむっ」

「ひぁうっ!?」

「はむはむ……ふふっ」

「喋ら、ない…でっ……」

「……それは、擽ったいからですか?それとも――気持ち良いからですか?」

わざとらしく色っぽい声を出し、問い掛けてくるこあの顔は笑っている。これは狙ってたのが目に見えて分かる。

「気持ち良い……けど、頭真っ白になるから……これ以上はやめて……」

弱々しい、それでいて蕩けた声と共に首を横に振る俺を見て、こあはにっこりと笑った。

「ダメです♪」

…………え。

「だってぇ、霊夜君は『恋人同士がやる事以外なら何でもしていい』って言ってたじゃないですかぁ」

「あ……」

そうだ。確かに、間違いなくそう言った。と言う事は、つまり―――

「私がどれだけ耳や尻尾を弄っても、霊夜君は耐えてくださいね?」

「あぅ……ですよね……」

がっくりと肩を落とした俺の頭を、華奢な手がそっと撫でた。

「でも、やっぱりやめにします」

「え……?」

「――だって、霊夜君が堕ちちゃったら責任取れませんし♪」

「むぅ……そこは『堕としたくない』とか言ってくれれば嬉しかったのに」

「あれ、そうですか?」

久々に過ごしたこあとの時間は、いつも通りで――あるいはだからこそ尊いものになった。

「あ、霊夜君霊夜君」

「うん?」

「わしゃわしゃーってして良いですか?」

「……耳と尻尾を弄らないならな」




こあの様な姉が欲しい(渇望)。甘やかしてくれる姉って良いと思うんですよね。
さて、何かやってほしい日常回ってありません?(2回目)このキャラと絡ませてほしい、とかでも大丈夫ですよー。
ではまた次回。


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スペルカードの作り方:製作編

こんにちは、豹牙です。
今回は募集した日常回、霊夜のスペカ製作です。いやまぁ、少ないですし……ね?
ではどうぞ。


「うぅ――――ん…………」

「? 何か悩み事?魔導書の内容がよく分からない……という訳では無さそうね。それ、白紙のスペルカード?」

「そうなんだよ、大量に貰ってさ……どうせならスペカ作っちゃおうと思ったんだ。少ないし」

「まあ……確かにそうね。5枚だけでしょ?」

事実である。自分で作った物2枚、美鈴と作った物1枚、パチェ&フランと作った物1枚、レミィと(以下略)1枚の計5枚しか無い。これでは戦闘のバリエーションが無さすぎる。

と言う訳で。

「……いや、だからって多い気がする。大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ、丁度暇でしたから」

「は、はぁ……何かほんとすいません……」

「気にするな、霊夜が負けてしまっては元も子も無いしな」

「いや死にませんよ!?何不吉な事言ってんですか!」

あれから少しして図書館に来たのは、もこ姉に慧音先生、魔理沙、妖夢、影狼、こあ、パチェ、アリスの8人。ここに住んでいるこあとパチェを引けば、俺の知る限り一番多い来客数だ。よくもまあこんなに集まったな。

何人かは魔法が使える為、魔力の応用に向けられるのもありがたい。他はほとんど妖怪だしな。

「ほら、ささっと作っちゃいましょ?」

「いやアイデアが無くて……」

「それならまずパワーだな!弾幕は派手なのに限るぜ!」

「悪いけどパワー重視なら却下で頼む。真っ正面からってのはどうも苦手でな」

「それじゃあ……こういうのはどう?満月を模した球型弾幕を中央に……」

「ふむふむ……こんな感じか?」

「うん、そんなの」

「だったらこうした方が……」

「いやいやこっちのが……」

……さて、結構ヒートアップしてきたぞー?妖夢は一言も喋ってないし……

「ちょ、ちょい待てちょい待て。妖夢にも何か言わせてやってくれ、困ってるだろ」

「え、え!?いや、あの、私は……その、刀と半霊も一緒に使う前提なので、あまり参考にはならないかと……」

ごにょごにょ、と語尾を濁す妖夢に、盛大な溜め息を吐いた魔理沙がばしーんと背中を叩いた。うわ、痛そう。

「いっ……!?」

「お前は、ちゃんと、喋れ!自信も持てないのか!?」

「……も、持てます」

「なら――」

魔理沙の説教を聞きながら、俺は妖夢の刀と半霊について考えていた。聞く限り、妖夢の刀は斬った所にしばらく威力が残り、半霊は独立して弾幕を放つ。そっくりやれと言われれば、どだい無理な話だ。でも、()()()()()()()()()()()()出来る――かもしれない。

「出来るかも」

「「え?」」

「似た様な事は出来るかもしれない……ちょっとやってみる」

言ってしまえば、半霊の弾幕は魔方陣を置いてそこから出せば良い。刀は爪に妖力を纏わせて引っ掻けば――そして軌跡に妖力を維持出来れば可能だ。

「ふーっ……っ!」

半霊から弾幕を放つが如く、1ヶ所に魔方陣を複数個展開。互いを邪魔しない程度に……調整を……

「……出来た!」

「おぉ……なんかお前、何でも出来そうな気がするな」

「いやそんな事は無いと思うけどなぁ……」

元々少なめに出す様にしていた為、あっさり避けた魔理沙がなんかとんでもない事を言い始めたので否定しておく。俺は咲夜の下位互換だっての。

「まあいいや、次は刀だろ?」

「ああ、だけど……スピードの調整が難しいなぁ……」

「え、ええ……?」

「冗談だ。――はっ!」

「わぁっ!?」

爪に妖力を集中させて―――一気に加速っ!

「……お、残ってる!やった、出来た!」

「おっと。……成長したな、霊夜」

くるくると回りながら降りてきた所を、先生が受け止めてくれた。そのまま優しく撫でてくれるが、ちょっと恥ずかし――――って、今結構人居るよな……?

恐る恐る見てみると、にやにや笑っている魔理沙と、ぽかんと口を開けているアリスと影狼と妖夢が目に入った。元々を知っているもこ姉とパチェは呆れ半分で笑っているが、こあが羨ましそうにじーっと見ているのがびっくりした。……ああ駄目だこれ、魔理沙には絶対弄られる奴だ。

「り、霊夜……君?」

「えぅ……あー……そのー……」

「えーと、妖夢……だっけ?霊夜は昔、慧音の所で育てられてたんだよ。そん時もこうだったなぁ……」

「へぇ~?良い事聞いたなぁ~」

「こら魔理沙、意地悪しないの」

今鏡を見たら、絶対に耳まで真っ赤に染まっているだろう顔をそっと逸らす。アリスの親切心が嬉しい筈なのに、今はただただ恥ずかしい。

「……あうぅ…………」

「ははは、今も昔も霊夜は霊夜だな」

「そーそー、いくら口調を変えようと根っこが変わってないんだよ」

「わっちょっ……」

わしゃわしゃと撫でてくるもこ姉も、やっぱり昔と変わらない。我武者羅だけど根は優しい――だからこそもこ姉、って感じの撫で方。

……あ、ヤバい。眠くなっ……

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……尻尾振ってますね」

「嬉しいんじゃない?目も細めてるし」

「私もやってみようかなぁ……霊夜君があんな風にしてるの、何だか新鮮です」

「あら、そうなの?美鈴やこあによくああされてるけど」

「あの撫で心地は最高ですよ~、一度はやってみた方が良いです」

パチェの話は嘘ではないらしい―そもそも嘘を吐かない―し、私もちょっと撫でてみよう。影狼と言うらしい茶髪の狼女さんもうずうずしているし。

「なぁアリス、私撫でるの下手だって言われたんだが……」

「……ふふっ」

「笑うな!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……すぅ」

「あれ、寝ちゃってる……」

寝顔も可愛いなあ、と思いながら頬をつついてみると、指をぷにんと柔らかい感触が押し返した。長い髪と中性的な顔も相まって、眠っていると女の子にしか見えないが、その奥に人を惹き付ける不思議な力を持っている霊夜の、一挙一動が大好きで、それを思うと夜も眠れない。胸が切なくて、でも不快じゃなくて。これってやっぱり――――

「んぅ」

「!」

気付けば唇を奪いそうになっていた。霊夜が寝返りを打たなければそのまま奪っていただろう距離まで、顔が近付いていたぐらいに無意識で、キ、キスを……

「は、はわわわわわ……」

「……これはまた何とも……」

「よくもまあ気付かないものね……」

「本当にな……」

ほぼ全員が、はぁーっと盛大な溜め息を吐いた。しかし、妹紅さんだけは「なるほどね……」と納得していた。




霊夜『で』遊ぶとは一体(この野郎)。次回、弾幕ごっこ回……のつもりだけど果たして尺が届くのやら……(笑)。
ではまた次回。


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スペルカードの作り方:実戦編

ぶぇっくしょい!……こんにちは、咳鼻水頭痛の3コンボになっている豹牙です。いやマジでこの時期はアカンて……(学生)。インフルもワンチャンあるし……
でも書く(ここ重要)。
ではどうぞ。


「……よしっ、こんなもんかな」

「お、どれどれ?」

「おっと、見るより体験してみた方が早いんじゃないか?」

「ほーう?お前、1回私に負けたよなぁ?」

「あの時はな。だが、2度負ける気は毛頭無い」

紅霧異変の時は、ぶっちゃければ侮っていた。霊夢は兎も角、魔女の格好をした自信家に何が出来る、と。だが今は違う。魔理沙はれっきとした強者だと認識している今、油断はしない。

図書館を出て、廊下で対峙する俺と魔理沙を除く全員が、真剣な面持ちで見ている。……いや、これ異変じゃないって。スペカのお披露目だって。

「……ま、やるからには全力だろ?」

「あったりまえだろ、私を誰だと思ってる」

「そりゃ失礼。そんじゃいくぜ!」

同時に7枚のスペカを取り出し、距離を取って飛び立つ。魔理沙の方は分からないが、俺は前からあった内の2枚に新しく作った5枚を足したものだ。

「先生ー、審判頼みまーす」

「分かった、引き受けよう。――始め!」

合図と同時に、通常弾の撃ち合い――にしちゃ駄目だ。スペカ使わないと作った意味が無い。

「記憶『過去の鎖はいつまでも』」

「なんだその名前?暗いな」

鎖を模した楕円形の弾幕を張り巡らし、それはブレイクまで残り続ける上に増える。一番最初に作ったスペルで思い入れもあるが、製作過程は言わせるな。頼むから。

「おっと、あぶな……あ!?」

「流石に避けるか……改良の必要があるな」

「今さっき作ったのとは違……うよな?」

「ああ。あの時使えなかったもう1枚だ」

「なるほどな、お返しだ!――恋符『マスタースパーク』!」

「いよっ……と、おおおお!?」

「はっはっはぁ、私のパワーを嘗めるな!」

「いやパワー関係ねーだろ!追ってるだけだろ!」

壁を豪快に壊しながら――また咲夜がイライラしそうだ――ミニ八卦炉を向けてくる魔理沙はもう紅魔館ブレイカーと呼びたい。どんだけぶっ壊すんだよ畜生め。あとこっちのスペカブレイクされてるわ。

「あーあ……咲夜に怒られるぞこりゃ。咆哮『月夜の狼』」

影狼の案から派生して出来たこれは、月と星を模した球形弾幕を前に敷き詰め、その後ろで―画面で例えると、上に月と星、下に俺が居る―衝撃波の様に弾幕を放ち続ける。月に例えた弾幕は少しずつ欠けていき、その度に激しくなる訳だ。

「よっ……と、避ける範囲が狭まってる気がするぜ」

「楽に逃げられる物ばっか作ってたまるかっての」

「そりゃそーか」

散々愚痴りながらも、確実に避けていく辺りは流石と言うべきだろう。さっきも似た様な事を言ったが、弾幕ごっこにおける魔理沙の腕は認めている。そう遠くない内に、霊夢も越えられるんじゃないだろうか?

「いよっし、ブレイク!」

「あらマジか……少し自信あったんだがなぁ……さて次いくぜ!」

「おう、来い!」

「七曜『虹薔薇の棘』」

名前から察する人も居るだろうが、パチェ&フランと作った物だ。

茎をイメージしたレーザーに、七色の針型弾幕を縦に展開していく物だが、実はこれスピードが早い上に耐久スペルである。時間は3分。設定しといて言うのもアレだが、超長い。

「ちょ、待てこれ耐久!?くっそ私これ苦手なんだぞ!?」

「いや知るか!」

ぐぎぎ……と歯軋りをする魔理沙を、ブレイクまで観察。耐久スペルは、改良点をじっくりと見直せるのが強みだと俺は考えている。普通のスペルだと動いたりもするからな、じっくり見直す機会はそう無いんだ。

(んー……あっ、あそこちょっと濃くしようかな。ここは薄めにして誘えば……いけるんじゃないか?)

「うおっ……くっそー!彗星『ブレイジングスター』」

「へ?おわっ!」

それこそ彗星の様に飛び回る魔理沙を必死に目で追い、紅魔館の被害が出ていない事を確認。流石にこれ以上出たら咲夜に拷問までされかねないので、ほっと胸を撫で下ろす。

「おらおらおらおらぁぁ!」

「うう……眩しい……」

「はっはー、どうだ!耐え切ってやったぜ!」

「最後のはどう考えてもやけっぱちだろ……激狼『風切一閃』」

これはさっきやった妖夢の真似。やってる事はほとんど変わらないが、俺のは両手を使って出来る為下手したらオリジナルより強――いや、止めとこう。妖夢にだってプライドはある。

「ふっ!」

「おおっと、これ妖夢のより強いんじゃないか!?」

あ、言いやがった。こいつ言いやがった。妖夢落ち込んでるじゃないか。思っても口に出すなよこの野郎。

「んな訳あるか。スピードも残る時間も妖夢のが上だ」

事実である。当たり前だろ、ただ真似してるだけなんだから。

まあどっちにしろ、オリジナルを知っているらしい(春雪異変で妖夢を倒したのは魔理沙だと聞いた)魔理沙は、特に迷う事無く避けていく。あ、半霊の奴もちゃんとあるからな?

「いよっ、ほっ、と。似た様なの見たからか避けやすかったぜ」

「だろうな。火の鳥『鳳凰の羽ばたき』」

これは分かるな、一応言っとくともこ姉の案だ。こっちは最初から最後まで大量の弾幕を撒き散らす。たまにある大きめのは羽根だと思ってくれ。

「おわっととと!結構濃いな!?」

「これを入れたらあと3枚だ、避けられるもんなら避けてみろ!」

「むかっ!こうなったら……魔符『スターダストレヴァリエ』」

「うおっと!やられてたまるかっての!」

「こっちの台詞だそりゃ!」

互いに熱狂してきた所で同時にブレイク。分かっていた為、ノータイムで次のスペルへ。

「巻物『幻想の歴史』」

「うげ、勉強は嫌だぜ……」

誰の案ってのは分かり切ってるだろうから言わない。

これは大量のお札をばら撒き、やがて下の方から収束して並び、1枚の巻物の様に見せる代物だ。避ける所が下から狭まり、更に上から札をばら撒く為行動はかなり制限される。

「うっ、くそっ、……だーっ!しゃらくせえ!恋符『ノンディレクショナルレー――のわーっ!」

「あ、馬鹿……」

「そこまで!霊夜の勝ち!」

「ったく……おーい?大丈夫かー?」

「いちち……なんとかな。あー畜生、負けちまったぜ……」

やれやれ、と思いながら一歩踏み出した瞬間――

「良かったぞ霊夜!」

ばしーんと背中を叩かれた。痛みを堪えて振り向くと、もこ姉が笑いながらぐしゃぐしゃと髪を掻き乱してきた。

「わっちょっ」

「やったぁー!」

「ごふっ!?フラン来てたのか!?」

「魔理沙が落ちるちょっと前にね。『霊夜頑張れー!』って応援してたわよ」

「そっか、ありがとなフラン」

「えへへー……」

そこから数十分間も色んな奴に揉みくちゃにされたのは別の話。先生に至っては泣いてたし。




霊夜『で』遊ぶとは一体(何度目だ)。
そして皆さん、結構前の活動報告(評価バー云々)にも書きましたが、キャラの募集もしてます。霊夜のイラストもお待ちしてます(ミオでも可)。

次回、『深夜の早朝』デュエルスタンb(殴)
ではまた次回。タイトルは本当にこれですよ?


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終わらぬ夜と欠けた月
深夜の早朝


こんにちは、何だかんだで永夜抄先に書き始める事にした豹牙です。だからこの前書き書いてるのは1月3日になります。
いやぁ、なんかね……永夜抄大好き。キャラだけなら影狼、椛、藍、橙、わかさぎ姫と獣っ子が多いんです(他には大妖精やこあ、パッチェさん等)けど、作品的には永夜抄っすね。
ではどうぞ。


「むにゃ……」

「霊夜、起きなさい」

「んぐっ!?」

どすっ、と脇腹に衝撃が走る。あまりの痛さに起き上がると、レミィが傍らに立っていた。

「いつつ……なんだよレミィ」

「月を見てみなさい」

「は?」

「月を見てみなさい」

「……分かったよ見るよ…」

寝間着のまま窓の方を向き、月を見上げる。なんだ、月がちょっと欠けてるだけ……

「……は!?なんで月が…」

「分からないわ。ただはっきりしてるのは……」

レミィの持つ膨大な魔力と妖力が漏れ、俺の背中が泡立つ。俺は妖獣ではないが、それでも生存本能はきちんと持っている。そしてその本能が、全力で警鐘を鳴らしている。

――逃げねば殺られる、と。

「…月を盗んだ不届き者が居る、という事よ」

「……!!」

そう言うと、レミィは魔力妖力を納めた。

「私は不届き者を成敗してくるわ。貴方はどうするつもり?」

「俺か?…うーん……」

現在、月が欠けている……もといすり替えられている為、妖力の供給は止まっている。だが俺にはそこそこの魔力があるので、一応大丈夫とは言えなくもない。だが、妖力も魔力も有限だ。しかも、妖力が俺と同じか下――草の根の皆はどうなる?減る量が同じなら、妖力上限が下―ミスティアや響子なんかはそこに入る―の彼女らは、生きていけなくなるのではないか?

「……レミィ、俺も行く―――って居ねえ!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「はぁ…ったく、質問しといて先に行かないでほしいな……あれ、美鈴?」

「ん?霊夜君も異変の解決に?」

珍しく起きていた美鈴―誇張ではなく本当だ―に首を傾げつつも、こくりと頷く。思っていた事が通じたのだろうか、美鈴はにこやかに笑いながら頬を掻いた。

「月が偽物になっていたから、私が自主的にやってるだけですよ。お嬢様なら、咲夜さんを連れて先程出て行かれました」

「そうか、分かった。…皆の事を頼んだ」

「はい、頼まれました。行ってらっしゃい、霊夜君」

手を振ってくれている美鈴に手を振り返して、偽りの夜空を駆け出した。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

最近は魔力のコントロールがパチェに褒められるぐらいになったので、服を燃やさない様にして炎の翼なんか生やしてみる。いやなんかかっこいいじゃん。機能は無いけど。

「さーてどこ行くかねぇ……霊夢と魔理沙はやんなさそうだからパス、紫……は怪しいんだけどなあ……どこ居んのか分かんねーんだよなぁ……」

そんな風にブツブツ考えていると、冥界の方に飛んでいた事に気付いた。

「…よし、冥界だな」

とりあえず、行き先は決まった。適当とか言うな。




永夜抄開始、だけどかなり原作と違います。
皆さん、風邪には気を付けてくださいね。いやほんとに。
ではまた次回。


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魂の終着点からも月は見えるんだ

こんにちは、豹牙です。
今回は冥界へレッツらゴー(死なないで)。…粗筋の説明が……終わった、だと……(笑)
あーどうしよう。えー、と……皆さん、洗濯機ことmaimaiやってますか?俺はやらされてます(←ここ大事)が、そこまで上手くないしあんましやる気が無いです。上手な人が羨ましい……
ではどうぞ(急)。


「はーっ…うう、寒……」

まだ秋とはいえ、夜は冷える。流石に夏と同じ服装は寒いかもしれない。と言うか寒い。しかも空なので、寒さは倍増だ。紫に冬服も頼んでみよう。

で、今はレティと初めて出会った辺りを飛んでいる。彼女の出番はもう少し先だが、月の出番は今だ。偽物の方の月は要らない。

「別に妖夢や幽々子がやるとは思えないけど……お?」

キーボードの音と共に、茶髪赤服の女の子が現れた。どうやって弾いているのか、手を使っていない。

「妖怪のお兄さん、私達の演奏聞いてかない?」

「え、いや……悪いんだが、月の異変を解決してからにしてもらえないか?偽物だから妖力の供給が無くて落ち着かないんだ……」

「まあまあ、私達がそんな気持ちも落ち着かせてあげるよ!」

「あの……」

「ルナ姉!メル姉!」

「いや演奏聞かないとは言わないからさ、どうせなら最初から落ち着いた状態で、大人数で聞きた…………って聞けや」

「? どうしました?」

「…増えてる……」

水色の髪に白服のトランペッターと、金髪黒服のヴァイオリニスト――恐らくこの2人がさっき言ってたルナ姉とメル姉だろう――がいつの間にか来ていた。…あの、行かせてくれないとか無いよな?

「あー、ちょっと良いか?」

「はいはーい、何ですかー?」

俺は彼女らに名乗り、異変の話をした。彼女らの話によると、3人とも姉妹の騒霊で、長女から金髪黒服のヴァイオリニストのルナサ・プリズムリバー、水色髪白服のトランペッターのメルラン・プリズムリバー、茶髪赤服のキーボーディストのリリカ・プリズムリバー。ルナサとメルランの能力が相反しているらしいのだが、リリカが上手く中和してバランスを取っているとか。いい姉妹だな。

「お兄さんは何て言うの?」

「俺は新月霊夜。狼男だ」

「へえ…霊夜さんは何をしているんですか?急いでいるみたいですが」

「実はだな」

3人に、軽くだが異変の内容を話し、演奏を聞くなら終わってから――つまり解決してからにしてもらえないか聞いてみた所、

「大丈夫ですよ」

とルナサ。

「今でも今度でも聞かせますよ~」

とメルラン。

「え~、今聞いて行きなよ」

とリリカ。

メルランが中途半端な答え方の為、どっちなんだか分からない。1.5対1.5と言う訳――ってあれ、聞いた意味無くね?…よし、こうなったら……

「えーと、後日で構わないという意見が2人だからまた今度、という事で。それじゃ、またなー!」

全力で逃げれば良い。足元と言うか足の先から風を起こし、また前に使った様に風のバリア的なのを張って空気抵抗を減らす。滅茶苦茶スピードが出るのでオススメ……えっ、飛べないし魔法も使えないって?………………おっ、冥界が見えてきた。

「よっ……とと!」

頭打ちかけた。あっぶねえ……

「……ん?妖夢が門に居ない?いやまあ、やる事とか色々あるんだろうけど…失礼しまわぶっ!?」

「……………」

何か…白くてちょっと冷たくて柔らかい物がみょんっと顔を塞いできた。ってこれ、妖夢の半霊じゃないか。居ない代わりか?

「えーと…妖夢か幽々子に会わせてくれないか?」

「…………」

「良いのか!?ありがとな!」

頷いた半霊に礼を言って――いや着いてきた。監視してるのか、凄い半霊だな。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「――男は、そんな筈は無いと思いつつ、もう一度布団に入りました。すると、やっぱりギシ、ギシ、と誰かが歩いている音が聞こえてきたのです」

「う、うう……」

「男は跳ね起き、『誰だ!』と叫んで襖を開けると――あら?」

「ひぇっ……!?な、何ですか?」

「妖夢、何か聞こえない?床板が軋むみたいな……」

「ま、まさかそんな……聞こえる訳」

ギシ、ギシ、ギシ……

「きゃあああああ!?」

 

……えーとどうしよう、すっごい入りづらい。と言うか幽々子、中々良い性格してるな。

いやほんとにさあ……入ったら入ったで斬られそうじゃん?なんかやだなぁ……

「だ、誰ですか!?」

「…よ、よう。あの…怖がらせたなら謝るから斬るなって!」

冗談抜きで、本気の居合い斬りを放ってきた妖夢。待って怖い怖い!目がマジになってる!

「新月霊夜ぁぁぁっ!待てぇぇぇっ!」

「殺される未来しか見えないから嫌だぁぁ!」

命懸けの追走劇は、実に30分に及んだ。その間、髪や尻尾の毛が何本か斬られただけで済んだのは奇跡と言う他無いだろう。




因みに:リリカが実際にメル姉と呼ぶのかは分かりません。
それと霊夜、来るタイミングな。妖夢ガチギレしちゃってんじゃん。

ではまた次回。


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不死の火の鳥と新月の銀狼

こんにちは、ハンドボールで動きすぎて酸欠(?)に陥った豹牙です。視界はぐわんぐわん揺れるわ2~3時間吐き気が止まんないわで早退を考えました。しなかったけど。
さて、前回は冥界で妖夢を怒らせた訳ですが、今回は人里へ行きます(ネタバレ)。
ではどうぞ。


「いやー酷い目に遭った……」

あれから謝りに謝って、なんとか―妖夢は涙目で頬を膨らましていた―お許しを戴いた俺は、幽々子の「冥界は関係無いわよ~」という台詞を信じ、次は人里へ向かっていた。例の如く、慧音先生に聞きに行く為である。良いだろ別に、頼りにしてるんだから。

「ってあれ!?()()()()()!なんで!?」

そう、無い。人里があった場所には、更地が広がっているのだ。いやほんとなんでだ?人里を壊さず消すだなんて、そう出来る筈が―――

いや。慧音先生の能力なら可能だ。でも何故?

むむむ……と必死に考える俺の後ろで、微かに足音がした。振り向くと、ランタンの光に照らされた先生の姿が目に入った。髪に光が反射して、幻想的な雰囲気を醸し出している。

「…霊夜か?」

「あ、先生。なんで人里隠してるんですか?」

「ああ、月がすり替えられただろう?人里に何かあってからでは遅いからな」

「なるほど…それと、やっぱり今日はハクタクじゃないんですね」

「当たり前だろう?偽物の月で力が得られる訳が無い」

「ですよね…俺も妖力が回復しないです」

因みに、俺はハクタク状態の先生もカッコいいと思う。歴史の編集を手伝っていた為、はっきり見た事も1度や2度ではない。尻尾に抱きついた事もある。あれはもふもふとしていて心地良かった。頭突きで沈められたが。

「……ん?って事は、先生も何も知らないですか?」

「ああ、残念ながらな。話は違うかもしれないが、私は人里の守護に当たっているから安心して異変の解決に行ってこい」

「はい、了解ですっ……なんだか11年前に戻ったみたいですね」

「ああ、本当に懐かしいよ………」

過去の情景を見ているのか、そっと睫毛を伏せる先生と何故か目を合わせづらかった俺は、少し上を向いた。するとなんと、不死鳥(もこ姉)が飛んできた。

「おーい慧音ー、人里は完全に隠れてたからとりあえずは大丈夫だぞー」

「へっ?あ、ああ、分かった。ありがとうな妹紅」

「どういたしまして。それと…霊夜か。どうしてここに?」

「そりゃ勿論、異変を解決しに。今は情報集めの真っ最中だ」

そこで先生がぱんと手を打ち鳴らし、俺と妹紅を驚かせた。いやまあ、先生にそんな意図は無かったのだろうが。

「なあ妹紅、私は異変を解決したい訳だ」

「は、はぁ…そりゃまあ、分かるよ」

「だが、私は人里を護らなくてはならないんだ。となれば、異変の解決には出向けないだろう?」

「まあ、そうだろうなぁ」

……なんだか先生が言いたい事が分かってきたぞ。これってもしかして……

「そこでだ妹紅。霊夜と一緒に、異変の解決に向かってくれないだろうか」

「…………へ!?」

「…やっぱりこうなるかぁ……いや、俺は全然構わない、と言うか来てほしいんだが……それでももこ姉の意見次第だよ」

「うーん…う―――――ん…………よし分かった、一緒に行こう霊夜」

「ほんとか!?助かるよもこ姉!」

「わっちょっ、抱きつく力強っ!お前ほんとに変わったな!」

「へへへ……」

悪戯っぽく笑い、抱擁を解くと、「どこに行く?」と聞いてみた。すると――

「あー、それなんだが……ここかも、って所はあるんだ」

「へー、どこどこ?」

「永遠亭だよ。前に、輝夜の話したろ?そいつが住んでる場所だよ」

「ああ、わがまま姫~ってもこ姉が言っむぐっ」

口を塞がれ、もこ姉をじーっと見ていると、人指し指を口に当てて「しーっ!」と口に出さずに言っている。ここでもこ姉の手舐めたら怒られるだろうなぁと思いつつ、それ以上喋るのは中止。

「……?」

「ははは……大丈夫、なんでもない。霊夜、行くぞ!」

「ぷはっ…あいよ、それじゃ行って来まーす!」

「ああ、気を付けるんだぞー!」

ふわりと体が浮き、横を見るともこ姉が飛び始めていた。なんか飛べるのに浮いてるって変な感じだ。

「いよっと」

「うわっ、びっくりし―――」

「やっほ―――う!」

「ちょっ、待て待て速い速い!」

「あ、ごめん」

「おいおい……」

もこ姉と一緒に何かをするのは何だかんだで久し振りなので、思わずはしゃぎ過ぎてしまった様だ。今は魔力を使って飛んでいるので、節約しなければならない。バランス考えないとなぁ……。

「で、どこ行く?」

「永遠亭だよ。さっき言っただろ」

「そうだっけーあははー」

「もう忘れたのかお前はー!」

「いだいいだい!強く引っ張らないでくれ!」

「あ、でも柔らかい……」

……まあ、大丈夫だろ。多分。




妹紅×霊夜だと会話が繋げやすい件について。このペアの名前付けるなら何だろうなぁ………ちょっと思い浮かばないです←
ではまた次回。


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永夜の歌姫

こんにちは、豹牙です。やー、いよいよ受験が迫って来ましたね(1月25日に書いてます)。
まああの、何やってんだボケナスって感じなんですが、やっぱり書いてます。
あ、2500円で咲夜のフィギュア獲れました。やったぜ(推薦受験前日に書いてます。俺は受験生なんです)。
さて今回は(進むんか)、タイトル通りの人です。
ではどうぞ。


「――ん?あれは……」

「うん?どうした?」

「ごめん、知った顔が居たからちょっと降りる!」

「あっおい!?」

あの顔は……間違いない。でも何故に服が焦げて――ってのは考えなくても分かる。

「魔理沙だ……あいつ容赦無いなぁ……」

「魔理沙?ああ、あの金髪の魔女っ子か」

「そう、そいつ。……おい、リグル、大丈夫か?」

「う……うーん……」

リグル・ナイトバグ。その名の通り蛍の妖怪だ。

草の根ネットワークの集まり(実は不定期で決まる)で会い、第一印象は男の娘かと思った――言ったら間違いなく蹴り飛ばされるから言わないが――。でもそれぐらいにボーイッシュな見た目で、印象に残っている。まあ、それを言ったら草の根の全員が理由は違えど印象に残りやすいのだが。

「……あれ、霊夜……どうしたの?」

「どうしたもこうしたもあるか。妖力ほとんど残ってないじゃないか」

「えへへ……月がおかしくなってるせいで、妖力が供給されなくて……」

「……そっか……そうだよな。よし、今日は寝床で寝てろ」

「え、霊夜は?」

「俺はもこ姉と一緒に異変の解決に行ってくる。目が覚めた時には多分朝だろ」

「ふふ、分かった。よろしくね、霊夜」

おう、と返事した俺の耳―狼の方だ―が、綺麗な歌声を察知した。この声は――ミスティア?

「ミスティアも近くに居るのか?」

「え、ミスティア?……何も聞こえないけど?」

「いや、確かに聞こえる……!」

しまった、確かミスティアの能力は―――歌声を聞いた者を鳥目にする。早急に耳を塞ぐが、視界が端から光を失い始めた。全く関係無い話だが、狼の耳と人間の耳は任意で使い分け出来る為、塞ぐのはどっちかので良い。……なーんて言ってる場合じゃないんだよなぁ……

「っ……遅かった……!」

「「霊夜!」」

もこ姉とリグルが、耳を塞ぎながら駆け寄って来るのを最後に、視界が闇に覆われた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「――――……――、―――――――。―――――?」

「…………?」

耳を塞いでいる為聞こえないけど、何かを言ってるのは分かった。でも、まだ歌ってたら――と思った所で、ミスティアの手が―爪が結構凶悪な形をしているので、引っ掻かれたらかなり痛い―私の手を取り、耳元で話し始めた。

「大丈夫よー、歌ってないよー」

「わっ……ミスティア、どうしてここに?」

「同じ質問。リグルは?結構ボロボロだけど」

「いや、弾幕ごっこで負けちゃって……」

「ふうん……霊夜は?」

「えーっと……悪い、どこ?」

既に鳥目にされてしまっている霊夜は、手探りでミスティアを探したけれど……まあ、普通は見付からない。

「ほら、こっちだよ」

見かねた妹紅さんが手を引いて、ミスティアの前まで連れて行った。結構面倒見良いんだよね、妹紅さん。子供好きなのかな?

「あ、居た居た。ミスティアも妖力の供給が無くて困ってる、よな?」

「なんで疑問形なの……そりゃ困ってるよー?」

「あ、ハイ……ま、まあ兎も角、異変解決してくるよって言いたかったんだけど……鳥目になっちゃって……」

「うーん……ドンマイ!」

「ですよねー……」

「まあ、悪意は無いしな。治るまで歩こうか」

「はいはーい。またな、2人とも」

「ん、またねー」

「また今度遊ぼ、霊夜。常連さんも、また来てね」

「ああ、慧音とまた来るよ。それじゃあな」

互いに手を繋ぎ、空いている手を振って歩き去っていく2人を見送った私達は、ボソッと呟いた。

「……霊夜、影狼ちゃんが好きだって言ってたよね」

「影狼ちゃんは霊夜が好きだって言ってたね」

「……なんでどっちも気付かないのかなぁ……霊夜はあんまり顔に出さないけど、影狼ちゃんはすっごい顔に出てるのにねぇ……」

「この前なんかさ、『寝てた霊夜にキスしそうになっちゃった』って顔真っ赤にして超嬉しそうに話してたよ」

「寝てたとは言え鈍いねー……」

「ねー……」




さて皆さん、ここですんごいお知らせです。なんと、1面ボスから3面ボスまで会話だけで終わってます。4面ボス……魔理沙か霊夢でしたっけ?(うろ覚え)違ったにせよ妖夢入れるのはちと無理がありそうですしおすし……咲夜だったら仲間割れになりますし……
霊夜「下手したらまた会話で終わりそうだな。まあ俺としてはそれが良いんだけどさ……どうせただでは進ませないんだろ?え?」
(ギクッ)……で、ではまた次回(震え声)。


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鳥目って結構怖い

こんにちは、名星会のエルが来て発狂した豹牙です。エルほんと好き……イベントでもっと出てぇ……(布団の上で足をバタバタさせる豹牙の図とか誰得なのか分からないんでやめときます)。
さて本編の話をば。
前回、男の娘ことリグルと、焼き鳥ことみすちーに出会った霊夜。今回は何しあっちょっとお二人ともやめ(ピチューン)ミP

ではどうぞ。


「まだ治らないか?」

「……うん、まだ……」

嘘ではない。もこ姉と手を繋いでる事は健全な思春期男子としては結構嬉しいが、鳥目が治っていないのは天命に誓って本当だ。ここで嘘をついてずっと手を繋ぐなど言語道断だ。……いや訂正、影狼だったら考える。

「わっ」

「おっと、大丈夫か?……足場がちょっと悪いなぁ……おぶってこうか?」

「うん、頼もうかな」

これも下心など断じて無い。足場が悪いとコケやすい為、戦闘になった時はかなり不利なのである。じゃあ飛べよって話だが、まだ鳥目な上に竹林なのでガンゴンぶつかるだろうと思われるからだ。

「よっ。……相変わらず軽いな」

「だからしっかり食べてるって……」

「分かってる、とりあえず行くぞ」

もこ姉が落ち葉を踏む音を聞きながら、俺が軽い理由を考えてみたりする。一番分かりやすいのは、美鈴との手合わせだろうか。あれ結構動くからなぁ、その後風呂にダイブしたくなるぐらいには汗かくし。ええとあとは……あれ、考えてみたら去年の夏辺りから(つまり紅霧異変の時から)かなり動いてないか?筋トレもそこそこの量やってるし……

という俺の長考を、もこ姉の声が遮った。

「……ん?霊夜、誰か居るぞ」

「え、誰?と言うかどんな感じの見た目?」

「えぇー……っと……あ、妖夢だ。あと一人、は……水色の服にピンク髪の女性だ」

「あ、幽々子だ。結局冥界組も動いたんだな」

そこまで呟いた所で、ザザッという音(恐らく妖夢が向き直って構えた)が聞こえた。

「わぁぁぁ白い髪の女の人がぁぁ!」

「あらあら、妖夢ったら怖がりねぇ」

違った、驚いて幽々子に抱きついただけだった。どんだけ怖がりなんだほんとに。半分は幽霊だろうに。

「妖夢。妖夢?」

「うう、悪霊退散悪霊退散……」

「……それ半分幽霊の妖夢が言うか?ってのは前も言った気がするが」

「……あれ?霊夜君?なんでおんぶされてるんです?」

「話すと長いけど……斯々然々」

「なるほど……それじゃあ今は目が見えていないんですか?」

「うん、まあ。でも幽々子、だからって悪戯はしないでくれ」

「あ~ん、見えないって言ってたのにぃ~」

「いやこれは勘だよ」

なんて実の無い(と言ったらそこまでの)話をしている内に、段々と目が見える様になってきた。……妖夢は何故、俺の頭を見て目を輝かせているんだろうか。さっき斬られそうになった身としてはかなり複雑なんだが。近付いてったら両断されました、とか笑えない。

とは言え見える様にはなったので、もこ姉に降ろしてもらう様に指示、いやお願い。親切にしてもらってんのに指示はしたくないし……。

「もこ姉、もう見えるから大丈夫だ」

「そうかい?それじゃ……よいしょっ、と」

「さんきゅ。……やー、視界があるってほんと素晴らしい……」

「何と言うか……少々大袈裟な気がしないでもないんですが……」

「いやいや、至って大真面目に言ってる。目が見えない人の苦労が少し分かった気がするよ」

「そうなんですか?」

そうそう、と俺が返事している間に、幽々子がもこ姉に蝶を飛ばしていた。何だろあの蝶。もこ姉に当たったらさらさら崩れて消えたんだが。

「……?」

「い、いやいやいや幽々子様!なんて事してるんですか!」

すいませんすいませんとぺこぺこ謝る妖夢に、2人揃って首を傾げる。すると、顔を青くした妖夢が説明してくれた。

「今の蝶は幽々子様の能力―『死を操る程度の能力』そのものなんです……」

「へっ……?て、こ、と、は……」

油の切れたブリキ人形の様にぎこちなくもこ姉の方を向き、先程幽々子が何をしたのかを悟った俺は、一瞬音を忘れてもこ姉に駆け寄った。

「だ、だだだ大丈夫かもこ姉!?どっか変な所とか気持ち悪いとか無いか!?」

「あ、あー……そっか、霊夜()()()()()()()()()

「え?……何を?」

当然の様に固まる俺に、もこ姉は1つ咳払いをして教えてくれた。

()()()()()()()()()()()()()

「……へっ!?」




結局妖夢、しかも華麗に戦闘回避。やばいなこれ、下手したらほんとに会話だけだ。
ではまた次回。


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悪戯兎詐欺は何見てビビる

こんにちは、豹牙です。
いやーはっはっはっ、推薦落ちました。はい。まあ3.5倍ですし、受かりゃ良いなーぐらいにしか思ってませんでしたしね。そこまで落ち込みませんでした。……一般頑張るかぁ……(遠い目)
それと、この小説のUAが18000を越えました。信じられなくて、思わず笑いました。皆さん、ありがとうございます。

さて、本編の話に移りませう。
前回、冥界組に遭遇した霊夜。相変わらず戦闘にはならず、のほほんとした空気で少しずつ進んでいってます。
ではどうぞ。

……予約投稿忘れてたんで即時投稿になってます。


俺は、前に「死なない人間とか居たら笑うしか無い」と言った事があるぐらいには《不老不死》なぞ居ないと思っていた。だから、先程もこ姉が自白した事も、すぐには受け入れられなかった。

「え?え?え?……どゆこと?」

「そのまんまの意味。輝夜とかぐや姫が同じ奴だって話はしたろ?」

「ああ、してたなそういや……お爺さんとお婆さんに蓬莱の薬渡したけど帰らなかったっていう……」

「そうそれ。蓬莱の薬の効能は知ってる……よ、な?」

「いえ、知らないです……」と妖夢。

「大丈夫、知ってる」と俺。

ただぶっちゃけ言うと、実在しているとは思えない――とは言えなくなってきている。何故なら、蓬莱の薬の効能は――――

「そう、不老不死。んでちょっとだけ話戻すけど、帝は蓬莱の薬を富士山頂で焼いたんだ」

「ふうん……あれ?」

「? どうしました?」

「なあ妖夢、今の話聞いて何か思わないか?」

「何か……と言うと?」

前提部分が噛み合っていない様なので、うほんと咳払いして説明する。

「お爺さんとお婆さんが死んだ後、帝に渡った蓬莱の薬は、富士山頂で焼かれた……なあ、これだけだと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「あ……」

そう、これだけだと何も変わらない。細部に至るまで、何もかも。だから、もこ姉が不老不死である理由――恐らく蓬莱の薬を飲んだのだろう――が輝夜さん(それ以外の人である可能性もあるが)に関係あるとすれば、知れ渡っていない《裏》の話だ。

もこ姉に視線で話の続きを促すと、もこ姉は照れた様に笑って頭を掻いた。

「簡単な事さ。帝の手から強奪して飲んだんだ、蓬莱の薬を」

「……わぉ」

「そ、それは凄い……」

「ふふふ、だからなのね~……貴女には《生》も《死》も感じられない……」

にこやかに笑う幽々子の口から発せられた言葉が、ひやりとした実体を持って俺にも絡み付いたかに思えた。今ので寿命が2年ぐらい縮んだんじゃないのか?と錯覚出来るぐらいに。

「……あっ!あんな所に、女の子が……!」

「え?あっおい、待て妖夢!そいつは――」

もこ姉の声は、最後まで届かなかった。何故なら、妖夢の姿が掻き消えたから――って嘘ぉ!?

「妖夢!妖夢!?」

「いっ……たぁ~~……」

「……ああ、やっぱりな……おいこら悪戯兎詐欺」

「……!」

「あっ、逃げやがったな!」

「妖夢~大丈夫~?」

「は、はい……なんとか……」

どうやら妖夢は、消えずに―寧ろ消えられたら困る―落とし穴に落ちただけの様だ。それに周りをよく見てみれば、罠に罠を重ねて重ねて更に重ねられた量の―誇張ではなく本当だ―罠が張り巡らされている。

「……丸太にトラバサミ、仕掛け網に落とし穴……矢まで飛んでくるのか?生かして帰す気無さ過ぎんだろ」

「てゐの奴……ん?霊夜、何し―――いっつ!」

「わあ、ごめんごめん!」

「いよいよ怪しいわね~……妖夢~お腹空いた~」

この期に及んで緊張感の無い幽々子はこの際もう放っておこう。兎に角妖夢はなんで出てこないんだ?

「今ですか!?と言うか出してください!」

「いや、飛べよ」

「え、あっ……」

はぁーっ、と盛大に溜め息をつく俺と、ははは……と苦笑したもこ姉の前で、妖夢が顔を真っ赤にして穴から出てきた。流石に土が付いているが、怪我は無い様だ。

「何やってんだか……」

「うう、お恥ずかしい所をお見せしてしm」

「長い!失態を長々と謝り過ぎだ!」

「……はい、すいません……」

「さてもこ姉、永遠亭行こうか」

「へっ?あ、ああ……」

妖夢が幽々子を姫抱きしたのを確認して、再び竹林を歩き始め――俺は吹っ飛んだ。

「霊夜っ!?」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

カランカラン、と木札が鳴り、罠に誰かが引っ掛かった事を知らせた。

「くっくっくっ、また誰か引っ掛かった!さ~て、引っ掛かったマヌケはどんな奴かな~っと」

全速力で竹林を駆け抜け、私が見たのは――

 

血だらけで倒れる、いつか見た狼だった。

 

「――嘘……」

丸太なんて大掛かりな仕掛けをしたが、実際は絶対に死なない様に工夫に工夫を重ねている。ちょっと動けば――いや、動かなくても直前で止まる様にしてあるのだ。

それが、失敗していた?あの狼は、死んでしまった?だって、妹紅も銀髪の剣士も酷く悲しんでいる。剣士に至っては、膝から崩れ落ちて泣いた程に。

私の顔から、サッと血の気が引いた。そして、ぼやけた視界で走り出した。

「嘘……嘘、嘘嘘嘘嘘うそうそうそうそうそうそうそウソウソウソウソウソォォォォォッ!」

そんな、まさか、あのパッと見小生意気な狼が――そう考えただけで、どんどん涙が滲んだ。

「てゐ……お前、なんて事を……!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……私、そんな事……」

「にはなってないんだけどな」

「そう、良かっ――――え?」

「ん?」

「ウサアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

その後の記憶が無い。




何この謎過ぎるチームワーク。息ぴったり過ぎて怖いんだけど。
って感じた方、大丈夫です。俺も同じ事考えました。
最後の方のアレは、次回種明かししますんでご安心を。
ではまた次回。


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過ぎた悪戯人をも殺す

こんにちは、最近ハンドルネームをダンからユキノスに変え始めた豹牙です。語源はユキノシタ、12月6日の誕生花だったので使ってみました。友達が既に誕生花ネタは使ってたんで誕生石調べたらパイライトだったんで……ね?

さて本編の話。
前回、悪戯兎詐欺ことてゐを嵌めた霊夜。今回はその種明かしみたいなもんです。
ではどうぞ。


「……霊夜、君?」

「うーん血が落としづらいな……うん?どうした妖夢」

「どうしたじゃあ……ありませんよ……こんのぉっ、バカ――――――――――ッ!」

「み、耳が……」

「うぅ~、妖夢~……」

流石にやり過ぎたらしく、妖夢に怒られた。なんか妖夢には怒られる事が多い気がする。最初に会った時と春雪異変の宴会後、あとは萃香の起こした異変の時以外全部怒られてるな、ちょっと自重しとこう。

「まあまあ~、あんまり怒ると可愛い顔が台無しよ~?」

「えうっ……」

「いやいや、今回のは霊夜が悪いよ。後で慧音に言っとくからな」

「…………はい、すんません」

先程のあれのタネを説明すると、まず俺がもこ姉の血を口に含み、丸太の罠にわざと掛かり、吹っ飛んでじたばたするフリをしながらもこ姉の血を顔や服に着け、口の端からも流してみたりして落っこちる。この時、受け身を取るのを忘れずに。

「ったく……驚かせてやりたいなら言えば良いのに……って、会った事無かったのか」

「うん、あれが初対面。……さて、と。てゐだっけ?起きてるのは分かってるぞ」

言いながらてゐの脇下に手を入れ、胡座を掻いてその上に座らせる。すぐに上を向いたてゐの顔に、「どうして分かったの?」みたいな表情が浮かんでいるので、俺は率直に思った事を口にした。

「ただの勘……って言って信じてもらえた事は少ないんだけどな」

「ま、そりゃそうさね。で、ほんとは?」

「倒れた後、一瞬だけ表情が歪んだろ?って事は気絶はしてないってのが分かる」

「むむむ……えーと、霊夜?あんた悪戯の素質があるね」

「そうか?あんがとさん」

……まあ、何度か悪戯受けてる事もあるしな。

という言葉を危うく飲み込み、微笑みに変える。だが完全には飲み込めなかったらしく、片頬がぴくぴく動いたが。

「あーそうそう、この先多分もこた……妹紅にも行きづらいと思うよー」

「おい今なんつったクソ兎。兎鍋にして食ってやろうか」

後ろで幽々子が、妖夢ですらちょっと引く量の涎を垂らした。

「ぎゃー!助けて霊夜ー!」

……まあ、当然こうなるわな。涙目になるのも頷ける。

「もこ姉、それから幽々子も、食うにしても食わないにしてもちょっと待った。てゐ、今の竹林の道って分かるか?」

「……分からないって、言ったら?」

「その時は……まあ、頑張って逃げてくれ」

「大丈夫です分かりますだから食べないでぇぇぇぇ!」

何故にここまで!?と思ったが、その理由はすぐに分かった。後ろから幽々子が来ている。目を爛々と光らせ、ダラダラ涎を垂らして寄って来たとなれば、食われないと分かっている俺だってビビる。

「お、落ち着けてゐ!妖夢、幽々子抑えてくれ!」

「は、はいっ!」

しゅぱっと飛び立ち、幽々子から遠ざかる。その後てゐに、道を分かっているのかどうか聞いてみた所、やっぱり知っているらしい。と言うかてゐの能力で、一緒に居ればそれで行けるらしい。それも任意らしいが。

「そうか。なら――――」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……何をやってるんだ霊夜の奴……一向に降りてこないけど」

「兎鍋~……!」

「幽々子様ーっ、落ち着いてー……っ!」

冥界の姫さんは従者がどうにかしてくれるとして、問題は霊夜とてゐだ。いくらなんでも遅い。……いや、降りてきた。霊夜は不敵に、てゐは心なしか嬉しそうに笑っている。

「やっ。ちょっと話して来たぞ」

「いや、それは分かってる。んで、どうだった?」

「食べないのを条件に案内する、って事になった」

ピキッ、と額に青筋が浮かんだ。

「ま、まあその辺のいざこざは一旦忘れて……ね?」

「……分かった、霊夜に免じて今回だけは見逃す」

「おおー、霊夜ってもしかして大物?」

「いや、ただの狼だ」

狩る側()狩られる側()が仲良くしているのを見るのは、かなりの違和感があった。と言うかいつの間に肩車される程仲良くなったんだ?

「幽々子様、兎鍋は食べませんよ」

「む~……残念……」

「おーい、置いてくぞー?」

「あー今行くー。妖夢、はぐれたら下手すりゃ出らんないから注意しろよ」

「ひぇぇ……わ、分かりました」




上空では「お主もワルよのぉ」的な事はしてません。大丈夫です。
……実は俺、小さい頃兎に噛まれてから兎が触れないんですよね。首に蛇巻いてもケラケラ笑ってたのに……(事実です)。
ではまた次回。


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月の兎も眼は赤い

こんにちは、豹牙です。
ではどうぞ(おい茶番はどこ行った)。


「いやー、良かったよほんとに……おっ、見えた見えた」

「あっ、てゐ。お帰り……って、なんで侵入者を連れて来てるのよ!」

ほとんど膝の辺りまで伸びた薄紫の髪、それから、ええと……ブレザー、だったかな?兎に角それを着ている……兎の着け耳をした真っ赤な瞳の人が出てきた。いやだって根元にボタンみたいなのあるんだもん。偽物だろ。

「た、助けて鈴仙(れいせん)……コイツに脅されてるの……」

「貴方は……あの時の狼ね。異変の解決に来たのなら生きては返さない」

「は?やだよ」

「~~~っ……ま、まあ良いわ。私の目を見て狂った者は居な――」

「あ、そう?わざわざどーも、目ぇ閉じてりゃ良いんじゃん。妖夢ー、てゐ頼んだー」

「え、あっ、はいっ、分かりました」

てゐを妖夢に渡す際、()()()を囁く。指示通り動いてくれたのを確認し、目を閉じて向き直った俺は、鈴仙というらしい兎(笑)に軽く挑発した。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……大丈夫なんでしょうか、霊夜君……」

「さあ、どうだろ」

「あ、結構軽い……心配じゃないんですか?」

「まあ見てなって。霊夜に付き合うには度胸が居るって事を知るさ」

そこまで言った私は、誰かが向かって来る事を察知した。何故か短刀をてゐの首に当てている妖夢も、何やら感じた様だった。

「……あーもう、やっと着いた!ったく、なんでスキマ使わずに行くのよ」

「あら霊夢、異変解決は楽しまなきゃ損じゃない?」

「睡眠時間を削られて楽しんでられるかーっ!」

……どうやら、スキマの賢者と博麗の巫女だったらしい。仲良いなあの2人。

「……あら、妖夢に幽々子じゃない。2人も異変の解決に?」

「は、はい。今は霊夜君が戦っ……きゃあっ!?」

「あら危ない。物騒ねえ……」

扇子を口元に当て、おかしそうに笑うスキマの賢者。こいつ絶対楽しんでるな。

「霊夜の奴何やってんの?なんか目ぇ閉じてるけど」

「ああ、あれは……」

妖夢が説明している傍ら、霊夜の行動を見てみる。関係無いが、てゐはガン無視らしい。

指先から撃ち出される鈴仙の弾を、霊夜は危なげなく避けていく。これは……

「……なるほどな。霊夜の奴も成長したもんだ」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「くっ……!」

何故、当たらない!?目を閉じているというのに!笑みまで浮かべて……!

「嘗めるな、獣風情がぁぁっ!」

サバイバルナイフを取り出し、鞘を投げ捨てて斬り掛かる。波長は全く乱れていない。これなら、当たる!

「あ、多分そこ危ないぞ」

「戯言を……っ!?」

何か、硬い物が後頭部を直撃した。そのまま無様に倒れた私を、狼がひょいと持ち上げた。目は既に開かれている。

「やー、大丈夫か?ぶっちゃけ賭けだったんだが……」

「何を……した……」

「え?まず音を頼りに避けて、適当な所で竹をしならせて……ぶち当てた」

「そんな……事で……っ」

「いやいや、それだけじゃないぞ?軽く挑発して平静を失わせたりとかな」

「くっ……」

全てにおいて、狼の方が1枚上手だった。そういう事だろう。結局、私が月で学んだ事は――

「まあでも、ナイフは気付かなかったなー。竹が外れてたらやられてたな」

「嘘を吐くな!」

「へえ……嘘に思えるか?」

狼は私の瞳をしっかりと見据えた。その口元が歪み、牙が覗き――――

私の『波長を操る程度の能力』が、解除された。

「ひっ、ひいぃぃぃぃぃ!」

「……って、なんで自分の能力で怯えてんだよ。あーもう、泣くな泣くな」

「ぐすっ、だってぇ……えぐっ、私元々臆病なんですぅ……だから月でも馬鹿にされてて、逃げて来ちゃって……それで、波長を操って……その、戦闘時は理想の自分をやりたかった、と言うか……」

「……なるほど。で、物は相談なんだが」

狼は「ちょっと失礼」と言って、私に耳打ちしてきた。その内容はなんと、

「どっちが良い?これ以上立ちはだかって月に送り返されるか、邪魔しない代わりにここで受け入れられるか」

というとんでもないものだった。

「……嫌、です……帰りたくない」

「そうか。そんじゃ、手は出さないでくれな」

ぽんぽん、と安心させる様に撫でられた時、私は心底驚いた。何故なら、今まで出会った人に――しかもほぼ初対面でここまで優しくされたのは、生まれて初めてかもしれない。

私の目から、堪えようもなく涙が溢れた。狼は、その涙を服の袖で拭い続けてくれた。




ではまた次回(だから茶番はどこ行った)。


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狂乱の咆哮

こんにちは、Twitterで仲の良い(と信じたい)フォロワーさんが、パズドラでリア友にフレンド申請をしていたと知って驚愕した豹牙改めユキノスです。

はいこっから本編の話します。
前回、鈴仙を半分以上運に助けられて退けた霊夜。いざ、永遠亭内部……へ、行ったら良いなぁ……
ではどうぞ。


「……落ち着いたか?」

「はい……大丈夫です」

「そうか」

鈴仙は涙を拭うと――俺の顔を両手で挟み、じっと見詰めてきた。その瞳は爛々と輝いていて、それが能力を使っている事を示していた。

「あ……」

「霊―――」

視界が、赤く染まり始めた。ごうごうと耳鳴りがする。思考が纏まらない。ただ、体の奥底で、何かが、延々と同じ事を叫び続けている。

『人間が憎い、人間を殺せ』と。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「霊夜っ!」

鈴仙が能力を使った時、私は反射的に叫んでいた。

霊夜は昔から、人里の人間達―ただし、一部の、という前置きが付く―には何度も理不尽な事をされている。慧音や阿求、小鈴の耳には入らない様にされていた上、霊夜も慧音に心配を掛けたくないからと一切話さなかったが、やはり心の傷は深い筈だ。

しかもよく見れば、その憎悪を理性で押し殺しているのが分かる。

――その理性が、狂気に染まったら?まず間違いなく、人間を殺しに掛からないか?

「しっかりしろ!気を強く持て!」

「も、こ、姉……皆……逃げ、ろ……っ!」

「鈴仙……お前っ!」

「……私の役目は、貴女達の撃退です……だか、いっ!?」

霊夜の蹴り上げにより、鈴仙が思いっきり吹っ飛んだ。……うわぁ、痛そう。丁度股に入ったし。

なんて考えてる場合じゃない。あそこまでやったという事は、霊夜の理性を越える程に波長を操ったのだろう。振り向いた霊夜の瞳には、ギラギラとした狂気が宿っている。

「――っ、ハハハハハハ!」

「ひっ……」

「――っ!」

歪んだ笑みを浮かべながら、妖夢の方へと襲い掛かっていく霊夜は無視し、妖夢と博麗の巫女を抱えて飛び上がる。

「きゃっ!?」

「ちょっと、何すんのよ!」

「霊夜は私が引き付けるから、2人は中に入っててくれ!どうにかしたら追い掛ける!」

まだ迷っている様子の妖夢に対し、博麗の巫女は即決だった様だ。スキマ妖怪に指示を飛ばし、私の腕から離れる。その時に妖夢も引っ張って行ったらしく、戸惑いながらも亡霊の姫さんを連れて永遠亭内部に入る。そちらを追おうとする霊夜を弾幕で制し、前に立ちはだかる。

「……霊夜、私はお前の心の傷を治してやる事は出来ない。――でもな、お前の鬱憤を晴らす手伝いをする事は出来る。なんたって、私は不老不死だからな」

「ならッ……好きなだけやって良いって事だよな?」

瞳に浮かんでいるのは、狂気だけではない。鬱憤を晴らせる喜び、私への申し訳無さ、そして――――人間への、憎悪。

「お前との弾幕ごっこは、初めてだったな……けど、遠慮はしないぞ。だからお前も、全力で来い!」

「ああ……全部、ゼンブぶっ壊すつもりでやってやらぁぁ!」

そうして、私達は弾幕ごっこを(遊び)始めた。




今宵のもこたんは一味違うぞ……(待て)
最近茶番で話す事が少なくなってきました。やべぇ。
あ、パズドラのリクウ杯やったら-20万でした。適正居ないわヴァルカンで手間取るわで散々でしたわ……(笑)
ではまた次回。

《広告》
『小説家になろう』にて、「聖剣姫と二重人格者」なる作品を見付けました。面白いので、一度見てみては?


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特別編:バレンタインとは

こんにちは、ユキノスです。
いやー、今日何かありましたっけ?確かバレンタ何とかいう日でしたよねバレンタ何とか(真顔で『もうみんなしねばいいのに』を流す)。
因みに今回は時系列も本編も関係ありません。ただ漢方薬でも何でもぶち込んでやっ(ゴキッ)

関係無いですが、霊夜のイラストまた描いてみました。
で、その結果………
そ こ は か と な い け も フ レ 感 。
どうしてこうなった?
ではどうぞ。

霊夜「……おい、終わってんぞ」
さ、さあ……何の事やら分かりmあっちょっとやめ(ピチューン)


「う~……寒い~……」

最近朝から寒い為、ベッドの中から出づらい。そんな経験無いか?俺は今それだ。いやだって、雪積もってるし。廊下から入る風冷たいし。

だからそう、俺はぬくぬくと暖かい微睡みの中で――扉がノックされた。

って誰だ、俺の二度寝を許さぬ輩は。

「霊夜ー、朝御飯出来たから起きてって言ってたよー」

なんだフランだったのか。なら許せる。いや訂正、ぶっちゃけ腹減ってるからどっちにしろ行く。

「ねえねえ霊夜、今日は『バレンタインデー』って言って、女の人が男の人にお菓子をあげる日なんだって!」

「そうなのか?聞いた事無かったな……と言うかフラン、着替えるから後ろ向いてな」

はーいと返事して、くるりと後ろを向くフラン。元気があって大変よろしい。

「よし、いいぞ」

「それじゃ行こ!」

「おわっ、ちょっ!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……今日のは何か味付け違う気がしたのは気のせいか?」

咲夜はふふっと笑い、指を1本立てて種明かしをした。

「今日の料理は妹様も一緒に作ったのよ」

「なるほど……偉いぞフラン」

「えへへー……」

頭を撫でられ、にぱーっと笑うフラン。普通に可愛い。

「あら、霊夜も作ってみる?」

「えぇ!?遠慮しとくよ、そこまで得意じゃないし……」

「そう、残念」

咲夜のクスクス笑いは消えず、むしろ楽しんでいる様にも見える。何か狙っているんだろうか?

「って、あれ?咲夜ー?フラーン?」

瞬きをした途端、2人が消えた。咲夜は分かる。だがフランは何故に、いやどこに……

「わっ」

「のわぁ!?……フラン!?」

「はいっ、これ!私と咲夜から!」

「え……良いのか?」

「うん!」

咲夜にも聞いてみたが、咲夜はそっぽを向いてしまった。……耳まで赤いですよー。

「……まあ、くれるならありがたく貰っとくよ。ありがとな、2人とも」

「どういたしましてっ」

「……どういたしまして」

咲夜のは小声で聞こえた。ツンデレってやつかな?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…美味っ。流石だな……」

フランのは少しだけ崩れているが、それも合わせてフランらしいチョコ。詳しく言うとひし形――つまりフランの羽根と同じ形だ。咲夜のは……どうやったらこんなの作れんのってぐらいに精巧な薔薇の形。咲夜凄過ぎだろ……何者だよ……。

「りょーうっや君っ」

「むぐっ……!」

「え、あ、大丈夫ですか!?」

「もう……何してるのよ……」

因みに今はヴワル魔法図書館。こあによる不意打ちが、チョコを喉に詰まらせた。慌てて出された水をがぶ飲みし、なんとか事なきを得たが。

「………ぷはっ、あー死ぬかと思った……」

「だ、大丈夫でしたか?」

「なんとか、ね……そんで、今日は……と言うか今回はどうし」

「じゃーん、こちらです」

と言って渡された袋には、見覚えのある白黒の柄が入ったお菓子が入っていた。

「これは……クッキー?」

「はい、美味しいんですよ~」

食べたんかい。

と言いそうになったが危うく呑み込み、お礼を言って受け取る。これは後で食べるとしよう。チョコもまだ食べ終わってないし。……咲夜のは食べるのが勿体無い気がするんだけど。

「はいこれ、私から」

「ありがとうな、パチェ」

「いいのよ、貴方が居ると退屈しないもの」

「そうなのか?魔理沙とかアリスとかこあとか居るだろ?」

「それでも、よ」

人差し指を口に当て、ウインクをしてUターンしたパチェは、何だかんだ言ってノリが良いのではなかろうか。……後ろでこあがガッツポーズしてるし。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

夜。昼型の俺は船を漕ぎ始める頃だが、紅魔館の皆は割と生活習慣が酷い。パチェとこあはそもそも環境が悪いし、咲夜に至ってはいつ寝ているのかすら分からない。吸血鬼の2人は寝たい時に寝て起きたい時に起きるというもの。美鈴?ありゃ寝過ぎだ。

で、何が言いたいかと言うとだな。

「眠れないから付き合え、ってか……ふわぁ……」

「あ、あはは……ゴメンナサイ」

「う、うるさいわね……たまたま夕方に起きちゃっただけよ」

「レミィは分かる。時間配分ガッタガタだし。でも美鈴、お前は単に寝過ぎただけだろ」

「あぅ……あの、これでお許しください……」

「……マカロン?小籠包でも作るかと思った」

「むむっ、私も中華料理だけじゃありませんよ?咲夜さんが来る前は私がメイド長だったんですから」

「ほえ、そうなの?」

「事実よ。中国のメイド長時代は大変だったけど」

ここにきて、新事実が発覚。マジかよ、全っ然知らなかった。美鈴のメイド服……なんか普通に似合いそう。

「どうせなら食べちゃおうぜ。パチェは起きてたら……」

「魔理沙が来てるから起きてる筈よ。呼んで来ましょうか?」

「いや、どうせならヴワル魔法図書館(向こう)に行こうぜ。皆で食べよう」

手早く寝間着から着替え―ぶっちゃけ慣れたが、逆は慣れない―、マカロンが乗った皿を両手で持ち、欠伸を噛み殺しながら図書館へ。魔理沙に半分ぐらい食われそう……

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「パチェー入るぞー……ふわぁ」

「…眠いなら寝たら良いのに」

「美鈴とレミィに言ってくれ。眠くないからって付き合わされてんだよ……」

「……それは災難ね」

共感してもらえて嬉しいよ。でも出来るなら寝たい……あ、ソファで寝そう……

「おーっす霊夜ー!」

「どふあぁ!?」

「なんだその声……」

「とっ、ととととと!」

魔理沙ぁ……何故後ろから叩いたぁ……マカロン落としかけたじゃんか……まあ落とさなかったからセーフかな。

「……ふぅ、危ねぇ……」

「おっ何だこれ、美味そう」

「あっ、こら!立ち食いすんなよ!」

皿をテーブルに置き、全員――いやフランと咲夜を除いた全員と魔理沙が座る。フランはもう寝たのかな?

「いただきまーす…ん、美味い」

ふわふわと柔らかく、それでいてしつこくない甘み。あーこれクセになるわー……いくらでもいけそう。

「あむっ……あらほんとね。美鈴の料理は久し振りな気がするわ」

「えっ、これ美鈴が作ったのか?嘘だろ?」

「あはは……残念ながらほんとです」

「何が残念よ、美味しいじゃない」

こあがいれてくれた紅茶を飲み、今日はなんだか甘い物食べてる割合が高いなーと思いつつ、ほうっ、と息をつく。

「美味しかったですか?」

「うん、とっても………美味しかっ………zzz…」

「……あら、寝ちゃったわね」

「ぐぬぬ……こいつ、寝てると女にしか見えないぜ……」

「最初は私もそう思ったわ。処女の血は美味しいから吸おうと思ってたのに……」

「えっ、それ吸血鬼になるんじゃ……」

「逆よ、吸血鬼の血を飲んだら吸血鬼になるのよ」

「そうなのか……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「んー…………っ、よく寝た……」

「おはよう、霊夜。と言っても、もう昼近いけどね」

「えっ、マジか……早いな」

「あ、そうそう……霊夜、ホワイトデーって知ってる?」

「……何じゃそりゃ。白い日?」

「違うわよ、昨日から1ヶ月後に男性が女性にチョコのお返しをするのよ」

「へー、お返しねぇ…………ん、お返し!?」

「期待してるわよ?」

「デスヨネー……」

この後滅茶苦茶頑張った。




先に言っときます。ホワイトデー編は書きません。
……いやー遅れた遅れた……すんませんほんとに……1日で書き終わると考えた13日の俺をぶん殴ってやりたいですわ……
ではまた次回。


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竹林の狂想曲

こんにちは、書き溜めてた分が前回(特別編除く)で切れたユキノスです。さて、前回唐突に出したバレンタイン特別編、いかがでしたか?漢方薬や珈琲豆放り込んでくれる程に平和だったなら何よりです。
で、ここからが本題です。よく聞いてださい。今から叫びます。……なんと!この作品のUAが!遂に20000を越えましたぁッ!皆さん、ありがとうございます!
ではどうぞ。これからも、この作品をよろしくお願いします。

あ、今回の序盤は台詞ほとんど無いです。


あれから十数分、周囲の地形が折れたり焼けたり抉れたりした頃。私は、苦戦を強いられていた。

「っ、ハハハハハ!人間なんざ死んじまえぇッ!」

「くっ……そ……!」

――強い!

正直、嘗めていた。霊夜ではなく、鈴仙の方を。何故なら、私には彼女の能力が効かないからだ。蓬莱の薬は、飲んだ者の変化を拒絶する。それは、波長の操作とて例外じゃない。だから、鈴仙の能力がどれ程かなど、私には考えもつかなかったのだ。

「くそっ……が!」

「当たらないなァ?どこ狙ってルんだヨ、もこ姉」

「ちぃっ……」

今の霊夜は、苦痛を苦痛と感じない。それはつまり、冗談抜きに頭のネジが飛んでいるのだ。言い換えれば、やり過ぎると本当に死んでしまう。だから牽制目的でしか弾幕を放っていない訳だが、これもぶっちゃけ意味が無い。

無駄なのは分かってる。だけど私には、霊夜を傷付ける事なんて出来ない。理由は明白だ。霊夜が、()()()()()()()()()()

 

私は、藤原不比等の隠し子として産まれた。お父様には、私に物心が付いたと分かったその日に、家から出るな、人前に姿を見せるなと言われ、そして部屋に閉じ込められた。……それでも、私はお父様が好きだった。会えないと分かっていても。

そのお父様が、恋をした。お相手は、かぐや姫――つまり輝夜。お父様は輝夜にご執心で、家に帰る度に嬉々とした声で話していた。その日から、優しかったお父様は豹変した。若いとは言えない年齢にも関わらず着飾り、毎日借金してまで何かを手土産に輝夜の元を訪ねた。代わりに、使用人や私達にはきつく当たる事が多くなった。

深夜になっても鳴り響く戸の音と、借金取りの怒声は、今でも鮮明に覚えている。

それからしばらくして、月からの使者が輝夜を迎えに来るとの知らせを聞いた。これでお父様も目を覚ますだろう、と思ったのだが……輝夜を渡さんとばかりに屋敷の守護に飛び出し、そして殺された。

その後、私を除いた藤原家の人間は、莫大な借金を返せずに自害した。その際私の事を喋ったらしいが、存在を隠されていたのが幸いして信じられる事はなかった。

蓬莱の薬を飲んだ後、私は竹林に移り住み、輝夜と――いや、この先は関係無いか。

兎に角、忌み嫌われていた点で似ていた霊夜を、攻撃する事なんて私には――――

「ごほっ……」

「あはは、血だ……綺麗だネもこ姉……」

「霊、夜……」

ぼーっとしていたからか、いつの間にか肉薄していた霊夜に腹を貫かれていた。苦悶の表情を浮かべる私に対し、霊夜の顔は笑っている。

――ここまで、ネジが飛んだか……

貫かれたままの為、傷は再生せず血は流れ続けている。だが、体は動く。蓬莱の薬(呪い)に縛られた肉体は、死ぬ事を許されないのだ。

……ならば、責めて。

私は、霊夜を力一杯抱き締めた。

「……!!」

「なあ……霊夜」

「何、しテ……」

ぐいっと腕を引き抜かれそうになるが、それごと抑え込むつもりで抱き締め続ける。

それを、何分続けていただろうか。少しずつ、霊夜の腕から力が抜けていった。顔の押し付けられた肩口からは、微かに嗚咽も聞こえてくる。……やっと、解除されたみたいだ。

「うぐっ……うえぐっ……ごめん、もこ姉……」

「……よしよし、謝るなよ霊夜。お前は悪くない」

「でも……」

「お前は狂気に侵されていた、私はぼーっとしてた。だから悪くないんだよ、と言うかちょっとは甘えろ。……気丈に振る舞い過ぎなんだよ、お前は」

「そんな、っぐ、事、無い……」

「嘘を吐け嘘を。分かる奴から見たらバレバレだ」

「………………」

そのまま黙り込んでしまうが、隠し事がここまで下手な奴もそう居ない。小さく笑ってから、頭を撫でて安心させる。……いや、その前に腕を抜こうか。そろそろ視界が光を失い始めた。

「っ……ふう」

「……うわ、ほんとに再生してる……凄い……」

「当事者としては変なもんだぞ。何せ神経が生えてくんだから」

「~~~~っ……鳥肌立ってきた」

「あー悪い悪い、お前が嫌いな話だったな」

霊夜を抱き寄せ、そっと頭を撫でる。

「……もこ姉の手、暖かい……」

「……そうか?そんなでもないと思うんだけど」

「んーん、暖かい」

……耳が首に当たって、ちょっと擽ったいな。

「でもまあ、いいかな」

「……?」

「何でもない。よし、さっさと輝夜ぶっ飛ばして帰ろうか」

「ふふっ……うん、行こう!」

涙を拭い、笑った霊夜の顔は、月の光を受けて輝いて見えた。




うちのもこたんは(可愛い枠じゃ)ないです。良いじゃないですか、格好良くても。
……それより、中盤の回想が話を混乱させたと思うのは俺だけでしょうか。もしアレだったら変えます。
さて、次回は……えー何しよ(殴)、ニート姫(ピチューン)……輝夜戦まで来るかすら怪しいっていう……ま、その辺どうにかします。
ではまた次回。


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挑め難題、探せ答え

こんにちは、ユキノスです。
前回、輝夜戦入るか微妙だと言ったな……あれは嘘だ。
でも実際、こんな感じの展開にしようとは思ってました。許してくだせぇ。

Twitterで見付けたキャラの身長から霊夜の背を計算してみた所、なんと140~150㎝。……ちっさ!ほんとに16歳(永夜抄現在)か!?

ではどうぞ。


大量の襖が見える廊下―紅魔館の空間拡張と似た様なものだろうか―を駆け抜け、輝夜―さんを付けるべきかは分からない―が居るという部屋へ急ぐ。もこ姉によるともう少しで着くらしいが……

「……霊夜、やっぱり永遠亭もいつもと違う。下手したら、ここを一生――――」

「いやぁ、それは無いんじゃないか?ほら」

「ん?」

「いつの間に……」

先程から逃げも隠れもしていなかったてゐもしっかり連れている為、迷う事は無い筈だ。何故なら、あの時の《報酬》は人参20本だからだ。しかも働き様によっては増量もすると言ったので、まあ大体は大丈夫なのだ。

「……しっかし、にしても長――っと、!?」

床板に躓いてよろけた、その目と鼻の先に。レミィと咲夜が、屋根を突き破って降りてきた。

「あら、霊夜」

「よ、っと……さっきぶり、レミィに咲夜」

「ッチ、違ったか……」

……レミィがめっさ怒ってる。何だろう、ストレス溜まってるのかな?溜まってるか、月がすり替えられてるんだし。

「レミィ」

「っ!――――なんだ、霊夜だったのね」

振り向くと同時に槍――《スピア・ザ・グングニル》を突きつけてきたが、それは充分に間合いを取って躱す。

「ああ、黒幕じゃなくて俺だ。この先に居るらし――」

「行くわよ咲夜」

「はっ」

言い終わらない内に、2人とも消えて――正確には移動してしまった。

「……行っちゃった。ま、追い掛けようか」

「ああ、そうだな」

彼女らならば、きっと輝夜も大丈夫だろう。 ……足止めを喰らえばまた違うのだろうが。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……貴女が月を盗んだのかしら?」

タンッ、と歯切れの良い音を響かせ、襖が開かれた先には、上半身の右側が赤で左側が青、下半身はその逆というセンスを疑う配色の服を着た銀髪の女が居た。女はやれやれ、と言いたげな顔になると、

「ウドンゲは何をやってるのかしら……蝙蝠が入り込んじゃってるじゃない」

と呟いた。続けて弓に矢をつがえ、

「侵入者ども、輝夜の所へは行かせない。ここで死ぬか、実験台となるか、尻尾を巻いて逃げるか選びなさい」

と言った。私の象徴である月を盗まれて、逃げる?

「……ハッ、逃げる訳無いじゃない。かと言って、残りの2つも願い下げ。――私は、月を取り返す為に来たのよ」

「そう。――なら、死になさい」

女が矢を放ち、私の髪を数本掠め、ドッ!と音を立て――ない。何故だ?あの後曲がってすぐにこの部屋に来たから、絶対に鳴る筈――――

「……なるほどね」

「私はお嬢様の右腕ですので、これくらいは当然かと」

「くくくっ、それもそうね。行くわよ咲夜!」

「お任せを!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……光が漏れてるな、あれか」

「そうそう、あそこに師匠が居るの」

「永琳が、か……となると黒幕は輝夜で確定だな」

「そんじゃ行こうか、飛ばすからしっかり掴まっててくれよ!」

「「……へ?」」

早口で詠唱し、終わった時には、足に雷を纏っている。飛行状態から着地し、床を蹴り飛ばす勢いで残る距離―およそ1㎞―を一息に駆け抜ける。……750m辺りからはブレーキにしたけど。

「よっ、と……わっ!」

それでも止まり切れなかったので、扉と反対側の壁を蹴って中に入る。それと同時に矢が飛んできたので、反射的に後ろ回し蹴りで叩き――いや折ってしまう。……怒られないよな?

「悪いてゐ、手ぇ離すぞ」

「へ?ウサ――――ッ!」

なんとか着地に成功したらしく、色々怒鳴ってくるが無視。許せてゐ。

「行かせない!」

「うえぇ!?」

もう少し、という所で永琳が立ちはだかり、仕方無く停止――はしない。

走り続ける俺を見て、レミィも咲夜も意図を察したらしかった。

「ハアァッ!」

「――ッ!」

投げられた神槍とナイフを掻い潜り、永琳に突っ込――む前に極太のレーザーが永琳を直撃した。

「おっ、当たったぜ」

「……魔理沙、当てずっぽうでやるものじゃないわよ?」

「まあまあ、当たったから良いじゃないか」

「……はぁー……」

どうやら――あるいはやはり、魔法使い2人組だった様だ。先に行くぜー!の声と共に飛び去っていく魔理沙とアリスを追う前に、永琳に一言。

「えっと……なんかごめん、永琳……」

「けほっ、けほっけほっ……いいわよ別に、貴方が謝る事じゃないわ」

「じゃーな永琳、また今度ー」

「……輝夜とはくれぐれも《仲良く》ね」

永琳の指摘に、口笛を吹いて答えるもこ姉。……自信、無いんだ……。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

レミィは「月は戻ると分かったけど、どうせなら最後までやるわ」と言って、咲夜と共に並んで歩き始めた。

「ストップ。ここだ」

「了解」

すう……と襖が開かれ、部屋の奥にあるけどここにあってはいけないもの――月があった。そしてその下で、1人の女性が微笑んでいた。

――綺麗だ。

そう思わずにはいられない程に、その光景は幻想的で美しかった。

「霊夜。おい、霊夜」

「……あ、ごめん」

「へえ……霊夜っていうのね、貴方」

「「「っ!?」」」

気付けば、頬を撫でられていた。瞬きはしていない。咲夜と同じ、時間操作の能力だろうか?

「おい輝夜、お前焼かれたいらしいな」

「あら、もう()かれてるわよ?も、こ、た、ん?」

「んだとゴラァ!」

え、怖っ!?もこ姉がここまで怒ったの初めて見たんだけど!?

「きゃー怖ーい、護って霊夜ー」

「え、ええー……」

「……何やってんのよ、貴女達……」

「こっちが聞きたいよ……」

「あら、霊夜じゃない」

「あ、ほんとだ……良かった、戻ったんですね」

どうやら妖夢と幽々子、霊夢と紫も来た――って珍しいコンビだな。霊夢って紫の事ウザがってなかったっけ?

なんて現実逃避していると、魔理沙とアリスも来た。これで異変解決に来たメンツは全員となる。……計10人か、多いな。

「……あら、永琳はやられちゃったのかしら?」

「あー、まあ……かなり不本意なやられ方だったけど」

「そう、残念。――ふふっ、あははははっ」

「……へ?」

「うわ、笑ってるぞこいつ……マゾヒストなのか?」

「……魔理沙、失礼でしょ」

魔理沙の無礼はいつもの事だが、突然笑い始めてどうしたと思わざるを得ないのは俺も――ひょっとしたら全員だ。

「あー、笑った笑った……ごめんなさいね、この部屋にここまで沢山の客人が来たのは久し振りなものだから」

久し振り、という事は、何度か来た事はあるのだろう。……求婚者の皆さんの事かな?

「私は蓬莱山輝夜。貴女達の言うかぐや姫。――貴女達に出すのは、かつて誰も成し得なかった五つの難題」

そう妖しく笑った輝夜は、霊夢と紫に、魔理沙とアリスに、妖夢と幽々子に、咲夜とレミィに、そして俺ともこ姉に1枚ずつ――計5枚の難題(スペルカード)()()()()()()()

「――さあ、貴女達だけの答えを、私に見せて頂戴?」




一応紅魔組帰らせる選択肢もあったんですが、それだと難題が四つになるんで帰らせませんでした。そして輝夜のラスボス感……まあラスボスなんですけど。
ではまた次回。


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悩める者達、それぞれの答え

こんにちは、ユキノスです。
受験終わったぁぁと思ったけど月曜からテストだぁぁ畜生がぁぁ!
……こほん。
前回、ニート姫こt(殴)輝夜がラスボスとして立ちはだかった訳ですが。難題は霊夜×妹紅のしか書きません。いや、だって……原作も、Wi-Fiも無いんですもん……あ、でも余裕があれば書くかも?
ではどうぞ。


――難題『蓬莱の玉の枝 -虹色の弾幕-』

その名の通り虹色の弾幕がばら撒かれ、俺ともこ姉はしばらく避けに徹した。

先程の事もあって吹っ切れた俺に対し、もこ姉は緊張――と言うか何と言うか、よく分からない表情を浮かべていた。はて何があったっけと思いつつ記憶の巻物を開いてみると、案外すぐに見付かった。蓬莱の玉の枝。それは、かぐや姫が()()()()()に出した難題だ。確か金と月日を掛けに掛けて作らせ、報酬を求めに来た職人によってバレたという……(恐らく)もこ姉の父親。そりゃあ複雑な心境だわな。

「……もこ姉、ちょっと耳貸して!」

「へ?……出来るか?」

「違う違う、やるんだよ」

「……はぁーっ、お前って奴は……っと、行くぞ!」

「おうっ!」

「ふふっ……楽しませて頂戴?」

「楽しませる気は更々無いね!――蓬莱『凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-』ッ!」

文字通り火の鳥と化したもこ姉に飛び乗――あっち!……あ、温度下げてくれた。こんなんも出来るのかー……こほん。飛び乗り、肩の高さまで上げた右手の五指を揃える。舌を噛まない様に詠唱し、丁度手首から雷の剣が生えてるみたいな風になった所で、さあ準備は整った。

「狙えるか!?」

「多分!」

「んな事自信満々に言うな!どうなんだ!?」

「行ける!……ゴー!」

あ、思ったよりスピード速い!いやでも、軸さえブレなければ……

「っ、危ない……」

「くそっ!」

前後は論外、上下は(能力を使われなければ)ギリギリと、左右に寄せようとはした。しかし、予想とは外れて下に自由落下する事で避けた。だが所詮は自由落下、高さは変わっても前後左右は変わらない。なら、狙い目は――()()()()()輝夜だ。

「旋回するぞ!」

「いやいい!ギリギリまで進んでくれ、タイミングは指示する!」

「……了解!」

「――――――ハァッ!」

横目で距離と角度を測り、雷剣を撃ち出す。光の速度で進んだそれは、狙い違わず輝夜の背中に命中した。

「……よし、もこ姉旋回!」

「っと、時間切れだよ。ま、勝ったから良いか」

「あーあ、負けちゃった……貴方達は2番目よ」

「えっ、そうなの?」

輝夜にそう言われ、辺りを見回してみると――危うく、顎を外しかけた。

止まっているのだ。

人も、弾幕も、何もかも。全てがピクリとも動かない。魔理沙の放ったマスタースパークですら、途中で止まっている。動いているのは、俺と輝夜だけ。

「最初は霊夢と紫(そこの2人)。他の人はまだね」

「……もしかして、全員が輝夜に勝つまで終わらせないつもりか?」

「まさか、全員と勝負がついたら終わり。そうじゃないと永いもの」

自信満々、余裕綽々。傍若無人とまでは行かないが、それだけの実力である事は自ずと分かった。だが、ここは幻想郷。何が起こってもおかしくはないのだ。

「なあ、輝夜」

「なぁに?」

「――宣言してやるよ。お前は負ける」

「あら、随分自信のあること。根拠を聞いても?」

「無い。でも、彼女らは強い。それは紛れも無い事実だ。――分からないかもしれないし、説得力も無いが……人間の持つ可能性は無限大だ。やり方によっては、地球すら滅ぼせる。また、救う事も出来る」

「それが?」

「今に分かるさ。時間を動かせば、だけど」

輝夜が、指を鳴らした。その瞬間、時間が動き始めた事に驚愕する。……にしても、時間が止まった世界ってあんな感じだったんだな。全体的に色がグレーになるのかと思ってた。




勝者、霊夜×妹紅ペア!
はいそこ、知ってたとか言わない。
さて、次回で永夜抄本編は終わりです。……EXどうしよ。
ではまた次回。


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永き夜の終わり

こんにちは、年度末という事で予定が詰まりに詰まっているユキノスです。
でも書く、ここは重要です。外しません。
さて本編の話に移りますが、今回で永夜抄本編は終わりです。それより何よりEXですよ。未だに何やろうか決まってないんです。今の案が、
・慧音の手伝い
・妹紅と手合わせ
の2つなんですが……他に何かやってほしい事とかありますか?
ではどうぞ。


「……さて、傍観といきますか」

「なあ、輝夜と何話してたんだ?」

「んー?内緒」

まさか、妖怪の分際で(元々人間だったが)人間の可能性の話をしていた、なんて言えない。

でも、妖夢なら、魔理沙なら、咲夜なら。必ず、輝夜に勝てる。

証拠は無い。でも、確信はある。不変すら打ち破れる、可能性の力。

「あ、ほら。魔理沙達色々やってるぞ」

「露骨に話逸らしやがって……って、何だありゃ。瓶?」

「……だな。何に……って、ありゃ火炎瓶だ!」

思った通り空中では割れず、床に落ちてくるそれを慌てて掴み、どうにか火事は避ける。……にしても、どこに火炎瓶なんか入れてたんだろ?

「あっぶないなあ……」

「物作りは得意そうだけど……ありゃ使う場所を弁えないタイプだな」

全くもってその通り……だと思う。魔理沙があのゴチャゴチャした家―未だに掃除には行けていない―で何をしているのかは不明なので、作るのが得意かどうかは分からない。

ただ、アリスも居るのでどうにかなりはしそう、なのだが……その真偽やいかに。

「彗星『ブレイジングスター』!」

「あら危ない。怖いわねぇ」

クスクス笑っている間にも、咲夜のナイフやレミィのグングニル、妖夢の刀に幽々子の弾幕、更にはアリスの人形達が続々と攻撃を仕掛けている。しかし、輝夜の余裕は消えない。

――まあ、能力で瞬間移動すれば余裕で躱せるんだろうけど。

「でも使わないんだろうな、輝夜の事だし」

「お前もそう思うか?」

「うん、楽しんではいるけど……ある意味、面白がってるみたいな……」

「上から目線で人を見下し、いつでも我儘なのが蓬莱山輝夜だ。ありゃあ一生変わんないよ」

うーん、もこ姉が言うと説得力がある……にしても暇だなぁ……ついでに眠いなぁ……。

「ふぁ……ん~、眠い……」

「終わったら起こすから寝てな。動きっぱなしで疲れたろ」

チョイチョイと手招きし、胡座を掻いた膝の上を指差すもこ姉に、ふらふらと歩み寄って――

「っとと。……もう寝たのか、早いな……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「人符『現世斬』!」

「っ!……あーらら、負けちゃった。貴女達の答え、確かに届いたわ」

「さあ、月を戻しなさい!」

「そうね、じゃあ――」

桜色の唇が、薄く笑みを作った。座っている私に対し輝夜は浮いているが、それでもはっきりと見えた。

「――このスペルカードを耐え切ったら、ね」

――『永夜返し』

「……ったく、終わったんだか終わってないんだか分かんないじゃないか……なあ霊夜」

赤の混じった銀髪を撫で、眠っている筈の霊夜(弟分)に向けて呟く。……うん?前より赤が減ったか?

「でもま、あいつらなら終わらせられるか……夜明けは近いな」

その言葉が小さく響いてから、およそ5分弱。腹を抱えて大笑いする輝夜に呆れつつも、日の光が窓から射し込んで、吸血鬼を除いて解決した者達を照らしている光景は、とても綺麗だった。




永夜異変、完ッ!
この後は、宴会やって、EXやって、日常挟んで花映塚ですね。
えーきっきは背が高いんですよ!小町が(色々)異様にデカイだけですよ!
ではまた次回(笑)。


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コラボ企画:青薔薇の少女と新月の銀狼

こんにちは、ユキノスです。今回は、『東方蒼夢録』という作品からキャラをお借りしての特別編となります。
ではどうぞ。

東方蒼夢録はこちらから↓
https://syosetu.org/novel/139245/


俺は、気まぐれに散歩をする時がある。勿論、場所も気まぐれ。適当に進んで、そこで何かを見付けるってのは割と印象に残るものだ。最近ので言うと、無縁塚で見付けた巨大な骸骨の怨霊とか。ぶっ飛ばしたけど。

因みに今回は太陽の畑に来た。ここは花の異変で訪れた時に気に入ったので、3回に1回ぐらいの割合で来る事がある。……なんだよ、花が好きな男だって居るだろ。

で、まあそれは置いといて。今回見付けたのは、青薔薇と茨の模様が入った袖付きドレスを着た、青く綺麗な髪に白い肌の、可愛いらしい少女だった。ドレスの胸の辺りが膨らんでいる事から、俺みたいななんちゃって少女ではなく本当の少女。あれで鳩胸とか言ったら笑う。

「珍しいな、こんなとこで……」

「……ん?」

あ、気付かれた。……あの、顔が段々恐怖に染まっていっているのは気のせいだろうか。気のせいだと信じよう。うん。

「ゆっ、幽香さーん!」

さくさくと音を立て、太陽の畑に唯一ある小屋――つまり幽香の家へと走って行った。

……あの子、幽香の知り合いなのか?

「んーどうしよう……あらぬ誤解受けても……いや、幽香なら分かるかな」

「あれー、どうしたの霊夜」

「あ、メディスン。今な……」

 

~少年説明中~

 

「あー、藍里(あいり)ちゃんの事かー」

「藍里っていうのか、あの子……あ、戻って来――どおわぁ!?待って待って死ぬ死ぬ!ストッ―――――プ!」

「……ああ、霊夜だったのね。この子に何かしたの?」

「いや何も。ほんとに、絶対、アブソリュートリィ」

出会い頭にレーザーぶっ放された件について。藍里って子も驚いてるよ。

「……本当みたいね。藍里、言ってた事と違うじゃないの」

「いやぁ、あはは……太陽の畑(ここ)に来る人って大抵勝手に花摘んでく人だから……痛っ!?」

「霊夜は私の知り合いよ。勝手に摘んでくなんて事はしないわ」

「うん、まあ……何つーか、誤解受けたなら謝るよ、ごめん」

「えっ、ああ、いや……って、男……?」

「あ、うん。こんなだけど男性」

「へぇー……」

興味ありげに近寄ってくる……まあこれは予想内。頭を撫でてくる……これも予想内。幽香がメディスンと共に去っていく……待て、これは予想外。初対面の人と2人だけって結構キツイんだけど!?

「わぁ~サラサラだ~……」

「なんかそれよく言われるんだけどさ、そんな珍しいのか?」

「珍しいですよ、男性は特に」

むぅ、敬語は慣れない……まあ初対面でタメ語使ってる俺のが珍しいか。

「敬語はいいよ、どうせそんなに年変わらないだろうし」

「え?霊夜君が良いならそれで良いけど……霊夜君幾つ?」

「大体16歳。藍里は?」

「女の子に年齢と体重は聞いちゃいけないんだよ……?」

「あっ、はーい」

「……って、ほんとに16歳!?ちっちゃ!」

ぐぬぬ、痛い所を突きおって……でも言い返せる事が無い……。

ぶー、と頬を膨らます俺に対し、藍里は無邪気に笑っている。……あ、良い事思いついた。

「藍里、ちょっといいか?」

「んー?どしたの?」

「……はむっ」

「きゃあう!?」

俺が狙ったのは、首でも心臓でも鳩尾でもなく―そんな事をしたら俺は間違い無く消される―、耳。レミィやこあ等、翼がある者は翼もそうだが、耳は大体の奴が弱い。俺も弱いし。後は首筋なんか擽ったりしても大丈夫。

「はむ、んむ……」

「きゃ、ん、うっ……あっ、謝る、謝る……からぁっ……」

「……ほんとに?」

「~~~~~!」

顔を赤くして悶えるが、ぶっちゃけ鍛えてるし妖怪だしでそうそう振りほどけそうにも無い。……段々藍里の息が荒くなってきた。そろそろ止めとこう。

「はーっ、はーっ、はーっ……あ、頭がどうにかなりそうだった……」

「ごめんごめん、大丈夫か?」

「うん……なんとかねぇ……」

謝罪の意味も含めて頭を撫でていると、更に顔が赤くなった。……なんでだ?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「むー……」

「だぁかぁらぁ、悪かったってぇ……」

あれからずっと不機嫌な藍里だが、原因は全くもって分からない。聞いてみても答えてくれないし……パチェ辺りに聞けば分かるだろうか?

「むうぅぅぅ……」

「機嫌直してくれよ……」

「……それじゃあ、――――」

藍里が、耳元でそっと囁いた。その内容は……

「……マジ?」

「うん、マジ。出来ないなら、どうしよっかなー……」

にっこり。と笑う藍里だが、俺の顔色は真っ青を通り越し、真っ白になっていても不思議ではない程に悪かった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……下手したら、いや下手しなくても2人とも消されそうなんだけど……」

「その時は頑張って♪」

「藍里のオニー……」

「原因はキミでしょ?」

「ぐぬぬ……」

畜生、藍里の笑顔が今は嫌味にしか見えない……何をどうしたら『幽香にイタズラ』なんて恐ろしい事思いつくんだよ……

「……あーもう、どうなっても知らないからな!」

「逝ってらっしゃーい♪」

「漢字が違ーう!」

この後発行された文々。新聞には、こう書かれていたそうな。

 

 

『太陽の畑からレーザー昇る!花の妖怪ご乱心か!?』




悲報:ゆうかりん激おこ状態。
イタズラとして何やったんでしょうね、霊夜……。
さて置き、是非とも『東方蒼夢録』もご覧くださいね。あちらは毎週土曜、午前0時に更新されます。
ではまた次回。


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月夜の宴

こんにちは、ユキノスです。
EXが決まらないけど宴会やります、宴会。
……さぁて、また裏方が死にかけそうだぞぉ……?
って感じ(にはならないかもしれない)の永夜異変宴会、どうぞ。


「ふぁ……もう寝よ……」

夜の明けない異変が終わってしばらく経ち、上弦の月が浮かぶ夜。昼型の俺は夜眠るので、寝間着に着替えようとしたその時――

パリーン!

「はあっ!?」

窓を割り、矢文が飛んできた。それは鼻先を掠め、壁に突き立った。……こえー!

「待てよ、矢文って事は……!」

矢文。つまり、弓矢で撃たなければ意味が無い。となると、それを放つ者が居なければ―一応居なくても放てなくはないが、それでも大抵は居る―ならない。でも、そんな奴どこに――

「っ!待て!」

夜な上に木陰からだったらしく、特徴は分からなかったが、銀髪を三つ編みにしていた事だけは分かった。……つい最近見た様な?

「んな事言ってる場合じゃねえ、急がないと……!」

窓から身を躍らせ、謎の弓使いを追う。……前に、矢文の内容も忘れずに。

「えーと……」

――異変解決を祝って、永遠亭にて宴会を開きます。是非とも来てください 蓬莱山輝夜――

「……じゃああれ永琳じゃねーか畜生!」

「何を騒ぎ立て……て……」

「あ、咲夜か」

割れた窓硝子と俺を交互に見て、にっこりと笑っ――あ、これ説明しないと駄目な奴だ。

 

少年説明中……

 

俺の説明をかなり疑わしく聞いていた咲夜だったが、矢を見た所で信じてもらえた。

異変解決を祝っての宴会だから、咲夜とレミィも行くんだろうなぁ……よし、もこ姉と先生呼んでこよ。

「2人とも起きてりゃ良いんだけどな……ちょっと人里行ってくるー」

「ええ、行ってらっしゃい。私はお嬢様に報せて来るわ」

どうせ割られた事だし、窓から飛び出す。秋の夜風は気持ち良いので、たまに夜間飛行もする、のだが……

「窓は早めに直さないとな……これから夜は冷えるだろうし」

未だに冬服も用意出来ていない―紫もアレはアレで忙しいのだ―が、それでも風邪を引いてはいけないと早めに飛んだ。

 

 

「よっ、と……ちょっと先生に会わせてくれないか?」

「ひっ!?――ちょ、ちょっと待ってろ!」

「あ、ああ……構わないけど」

……やけに驚いてたな。何かあったのかな?

やる事が無くなってしまったので、ぽけーっと月を眺めて数分後に、門番が先生を伴って戻ってきた。

「ほ、ほら、用は済んだろ?じゃあな」

「? ……そ、それじゃ……」

何だか……恐れてる?気のせいか?まあ、今はいいか。

「どうした、霊夜?」

「ああいや、ちょっとだけ気になって……じゃなくて、異変解決を祝って、永遠亭で宴会があるんですよ。先生もどうですか?」

「そうだな……仕事も一段落した事だし、行こうかな」

「ほんとですか!?良かったー!」

後はもこ姉だ、と飛ぼうとしたその時、先生に手を握られた。

「……?」

「妹紅には悪いが、折角だし歩いて行こう。良いだろう?」

「はいっ!……なんか久し振りですね、先生」

「ああ、そうだな――まるで、11年前の様だ……」

「先生、異変の時にも似た様な事言ってませんでしたっけ?」

そうだったか?と笑い掛けてくる先生に、そうですよ、と答えていると、向こうでリグルとミスティアが話しながら竹林に入っていくのが見えた。もこ姉、は……

「ありゃ、もう行ったのかな?」

「……その様だな。仕方無い、妹紅とは永遠亭で落ち合うとしよう」

「そうですねー、にしても誰が来るんだろ……」

他愛もない話をしていると、てゐが大量に罠を仕掛けていた所に着いた。今は……うん、仕掛けられてない。まあ、あっても双方が困るんだけど。……誰も見てない、よな?よしっ……

「せーんせっ」

「……おっと、どうした?」

「えへへ……なんとなくです」

「ふふ、そうか。大きくなっても、霊夜は霊夜だな」

どうせ誰も見てないんだ、ちょっとぐらい甘えても……

ナアアリス、ツキノサケッテドンナアジナンダロウナ

ワカラナイワヨ、ノンデミタラ?

「!」

この声は……魔法使い組!見られたら絶対弄られ――待てよ?前にこんな感じの所見られてなかったか?

――じゃあ、まあいいや。

「……あら?霊夜じゃない」

「おや、アリス。この前ぶりだな」

「ええ、そうね」

アリスが苦笑している理由は、多分(と言うかほぼ確実に)俺だろう。いつも虎やってる奴が猫やってるんだ、当たり前と言えば当たり前だろう。

……それはそうと、歩きにくいだろうしおんぶの体勢にしよう。

「先生ー、あとどれぐらいでしたっけ?」

「えー……そうだな、あと5分かな」

「よし、そんじゃ行きましょう。魔理アリも宴会に来たんだろ?」

「省略すんな。宴会ではあるけどな」

「そっか……そんじゃ一緒に……」

「霊夜、着くまで寝てるか?眠そうだぞ?」

「そうします……」

ぽすっと体重を預け、5分弱のささやかな眠りについた――――と思っていたら、輝夜が迎えに来ていたらしく眠れなかった。畜生、昼型には辛い。




導入だけで2000字近くって地味に初めてな気が。毎回短めですからねぇ……と思ってたら、紅霧異変の宴会は全部2000字近くでした。
因みに霊夜が夜以外で寝ている時は、大体書いてる時に俺が眠いからそうなってます。考えがトレースされてるんでしょうか?
そして最後に、活動報告にも書きましたが、ちと更新が遅れます。申し訳ございません(´・ω・`)
ではまた次回。


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深夜にやるなよ、危ないだろ

こんにちは、作文書き終わったのでとりあえず更新ペースを戻していきたいユキノスです。
……え?タイトルが意味深だって?はっはっはっ、この小説に限ってそんな事ありません(正月の特別編を除く)。ええ大丈夫です、健全です。
そんな訳で、珈琲豆を投げ込んでみたくなる(かもしれない)永夜抄宴会編、どうぞ。


「さて、今日集まってもらったのは……」

「宴会だろ?そう言ってたろバ輝夜」

「あーら失礼な、ただの宴会じゃないわよ?も・こ・た・ん?」

「よしバ輝夜表出ろ」

「あーもう2人とも落ち着きなって……それともこ姉、ここ既に表だろ」

深夜に呼び出された結果がこれである。俺は喧嘩を見る為に起きている訳じゃないんだが。

「……そんで?私的にはその『ただの宴会じゃない』宴会が何かを知りたいんだが」

こういう時、空気を変えるのが得意なのが魔理沙だ。しかも今回は、珍しく重要な部分をしっかりと捉えている。

「ああ、重要な事を言うの忘れてたわ……ごめんなさいね、アホウドリがうるさかったから」

「なろっ……」

「もこ姉、もこ姉の事とは言ってないから……」

「……それもそうか」

「……こほん。まず、今回の宴会では、月の酒を出すの。でもこれ、実はあまり量が無いのよね。と言う訳で……今から、2人1組になって鬼ごっこをしてもらうわ」

「「鬼ごっこぉ!?」」

リグル、ミスティア、先生、もこ姉、俺、影狼、その他全員の声が完全に被った。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……えーと、ペアは自由に決めて良いのか?」

「ええ、大丈夫よ。ただ、強さは偏り過ぎない程度にね?」

「……だとよ紫」

「あら残念。幽々子と組みたかったのに」

「幻想郷の強者コンビに追っかけられるとか恐ろしいにも程があるわ。あと霊夢とも駄目だろ」

「私が願い下げよ」

「あ〜ん、霊夢が冷たい〜」

やけに甘い声を出す紫は全員で無視した。影狼は頬をぴくぴくさせていたが。

 

〜少女談話中〜

 

5分後、どうにかペアが出来上がった。

まず、霊夢とアリス。霊夢をアリスが援護したらほぼ無敵になりそうだと思うのは俺だけだろうか?

次に、魔理沙とレミィ。……派手好き2人が一緒になっちまったよ。

そして、咲夜と妖夢。銀髪の刃物使いで従者と、共通点が多いな。

こっから列挙していくと、もこ姉と先生、リグルと紫、ミスティアと幽々子……いや待て、ミスティアと幽々子は駄目だろ。ミスティア食べられちまうよ。――訂正して、紫と幽々子をチェンジ。……リグルとミスティアが凄い顔をしているが、そこは謝るしか無い。ごめんよ。

因みに俺は影狼と。永遠亭メンバーは不参加だそう。

「解説疲れる……」

「……?」

「いや、何でもない。それよりルール聞こうぜ」

「変な霊夜……」

「――を決めて、鬼はこの襷を掛けるの。で、必ずペア同士は一緒に行動して。終了時には永琳が合図するから、その時に襷を掛けてる人は普通のお酒で我慢する事。範囲は竹林の中ならどこでも良し、だけど弾幕や飛行、能力の使用は禁止。ルール説明としては以上よ、それじゃ鬼を決めて」

かなり早足だったが、まあ理解は出来た。さて鬼決めだが……

「ジャンケンで良いでしょ?代表1人出てきて」

まあ、こうなるよな。

「「「ジャーンケーン――――」」」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……あの、1つ言って良い?」

「どうしたの?」

「……えっと、そのー……手繋ぐのは、恥ずかしいと言うか……なんと言うか……」

語尾をごにょごにょと濁らせてから言うのも何だが、ぶっちゃけ物凄い嬉しい。でも同じぐらい恥ずかしい。……えーえー、どうせヘタレですよ。

「……?何か聞こえる……」

「え?……あ、ほんとだ。……どっからだ?」

「分かんない……うーんと……」

鬼ごっこが始まって十数分。まだ1度も鬼になっていないが、この前のこあの件もあり、最後の最後で鬼になるという事も考えられるのだ。これが鬼ごっこの恐ろしさ……であり楽しさだろう。

「……しかし竹林全土はやり過ぎじゃないかなぁ」

「確かに……きゃあっ!?」

「あ、ごめんつい……」

「あーもーっ!イチャイチャしてんじゃないわよ!」

「って霊夢鬼かよ!?」

「に、逃げるよ!」

「おう!」

と言って走り出したまでは良かった。だが、俺は忘れていた。満月になると狼の姿になる影狼は、かなり動きづらいドレスを着ている事を。

「あっ……」

「えっ」

つまり何が言いたかったのかと言うとだな。……影狼、ずっこけました。俺が咄嗟に間に入って、地面との衝突は免れたけど。

「い、た、た……」

「……霊、夢~……速い~……」

「アンタが遅いのよ。もっと運動しなさい。……はい、タッ――」

霊夢の手が、影狼の背中に触れる寸前。視界の端で、花火が上がった。




結論:リア充爆発しろ。
まあ、そんなん言うならこんなん書くなって話なんですけど。でもね、書きたくなるのが俺なんですよ……。
関係は無いですが、最近面白そうなゲームが本体無いのばっかなんですよねぇ……モンハンワールドとか、星のカービィスターアライズとか。金が足りないぃ( ;ω;)
ではまた次回。


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月下に踊れ

こんにちは……と言うかお久し振りです、ユキノスです。登山編書くのに1週間掛かってしまったので、こちらも更新が空いてしまいましたね……他のはもっと空いてるんですが。
さてさてそんな訳で、永夜抄宴会編その3、どうぞ。


「……えーと、なんかごめん霊夢………」

「いいわよ別に……月の酒とか楽しみじゃなかったし」

(絶対嘘だ……)

「霊夢〜、このお酒美味しいわね〜……あらいけない、霊夢飲めないんだったわぁ」

「紫ぶっ飛ばしに行ってこい」

「当たり前よっ!」

ふんす、と鼻息を荒くして(女子には失礼だろうが、実際荒かった)紫の方へ歩いていく霊夢を見送り、冗談抜きで美味い月の酒を味わっていると、唐突に輝夜が後ろから抱きついてきた。

「わっ、っと、っと!……ふぅ、危ない」

「あ〜、気持ちいいわ〜……えーりーん、永遠亭(ウチ)で引き取るわー」

「「「はぁっ!?」」」

な……なんつー暴論だ……レミィ達どころか本人の許可すら取ってないのに……

「輝夜、俺は永遠亭に住むつもりは無いぞ」

「えー、残念……兎達を毎日モフれるのに……」

「中々に魅力的だな、でもたまにで大丈夫だ」

「むー……」

「おら離れろバ輝夜」

「おぐわーもこ姉俺も振ってるからストップ!」

「……悪い」

輝夜がいい盾を手に入れたと言わんばかりにケラケラ笑っているが、飲みにくいのでやめてもらえないだろうか。あと口喧嘩始めないで、耳に響くから。

「あーもう、とりあえず離してくれよ!」

「嫌よ、貴方離したらもこたんが殺しに来ちゃうもの」

「……あのな、俺は――――」

「……!!」

何かは言わないが、俺の言葉により一瞬力が抜けた輝夜からするりと抜け出し、徳利とお猪口を持って離れる。こういうのは抜け出したもん勝ちなのだ。

「……よ、影狼」

「わぁっ!な、なんだ霊夜かぁー」

「ははは、ごめんごめん。一緒に飲むか?」

「……うんっ」

……あの、既に頭の中がパニック起こしてるんですが。あー駄目だもう影狼が可愛い。

「霊夜?霊夜ー?」

「……へっ!?あ、なんだ?」

「お猪口の中空っぽだよ?注いであげるね」

「ああ、ごめん……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……なんであそこ付き合わない(くっつかない)のかしらねぇ……」

「知らないぜ。あいつこーゆーのヘタレだよなー」

「聞こえたらまた怒られるわよ」

「そん時ゃブン屋に写真貰って盾にするぜ」

魔理沙が指差した先には、確かに文が居た。……ちゃっかりしてるわね。

「それはそうと咲夜、アンタ結構酒に弱いのね」

「うう〜……あらたに言われらくてもわーってるわよ〜」

「うわっ、ベロベロ……魔理沙、布団に運ぶわよ」

「あいよ。……布団敷いてあるのか?」

「勝手に使うわ」

「……お前らしいぜ」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……なあ影狼」

「うん?どうしたの?」

「あー、うー……えーと、あの……はい、これっ」

珍しくしどろもどろな霊夜が、顔を真っ赤にしながら渡してきたのは、1つの箱。……何だろう?悪いものではないみたい―と言うかそもそも入れない―だけど。

「……これ、ブローチ?しかも2つ?」

「……前々から思ってたんだけど、そのドレスに何もアクセサリーとか着けてないだろ?……だから、それスカーフの真ん中とかに着けてみろよ。きっと似合うから……」

語尾がごにょごにょとして聞こえづらかったが、それでも私の為にこれをくれたのは分かった。……でも、2つも着ける意味あるかなぁ……?

「……もう1つは俺の。気を悪くしたら謝るけど……お揃いって事だよ」

「……ぷっ、あはははははっ」

「やっぱり、嫌だよな……ふぐっ!?」

「何言ってるの、そんな訳無いでしょ?……嬉しいよ、ずっと大切にする」

「……良かった」

その後ブローチを着けて―霊夜は後日、紅魔館の魔女さんに少し加工してもらって、ペンダントとして着けた―、わかさぎ姫を始め草の根メンバーにあれこれ言われたのは別の話。

あ、因みにこの話には続きがあって……

 

「……影狼」

「なーに?」

「……だよ」

「……?」

「あの……言いづらいんで1回抱きしめるのストップしてもらっていいですか」

「あ、ごめんね……それで?」

「……ふー………あのさ、その……俺、影狼の事が……好きなんだ」

「えっ……あぅ……もー!夢かホントか分かんないよー!」

「ええ!?ちょっ、落ち着け影狼!夢じゃないから起きてるから!」

「そーゆー時に限って夢なんだもーん!」

「た、確かに……えーとそうじゃなくて、えーと……」

「……ふふっ、冗談。私も霊夜が好きだよ?」

「……きゅう」

「わぁぁぁっ!?霊夜ー!しっかりしてー!」

……この後よく聞いたら、ただ酔い潰れただけだって。大丈夫、霊夜はしっかり覚えてたよ。




リア充爆発しろ(何回目)。

……さて、永夜抄はあとEXだけですね。早いんだか遅いんだか……と思ったんですが永夜抄本編だけで12話近く使ってたんですね。早い遅いじゃなく長いでした。
ではまた次回。
もし良かったら、「妹紅と手合わせ」か「慧音の手伝い」のどちらか、それ以外が良ければその内容を感想でお知らせください。


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永夜のその後

こんにちは、卒業校の離任式を全く知らなかったユキノスです。いやほんとに、いくらLINE持ってないからって連絡も何も無かったんで聞いた途端に「はぁ!?」って声出しました。だからゲーセンにあんな人数が居たのかなぁ……と思うとコミュニティ所属数が少なかった事に苦笑いします。皆さんはちゃんと友達作りましょうね!
てな訳でどうぞ。


この暖かな感触から離れたくない。

この手に全てを委ねて、どこまでも沈んでいきたい。

でもどうだろう、瞼越しに届く光が、徐々に目を覚ましていく。だが、暖かな感触は消えていない。……となると、この感触は現実?

「う………」

「おや、起きたか?おはよう、霊夜。と言っても、昼過ぎだがな」

「あ……せんせー、おあよごじゃいます……くぁぁ……」

「昨日は……いや今日か?とにかくお疲れ様。煮物しか無いが、食べていってくれ」

「え、そんな悪いですよ……」

「いやいや、ここまでの量を進められたのは霊夜のお陰だからな。その礼も含めているという訳さ」

「はぁ……なら、ありがたく頂戴します。顔と手、洗ってきますね」

そういやなんでこうなったんだっけと思いつつ、昨日の回想をしてみる。えーと、確か……

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「やっほーもこ姉ー」

「うん?霊夜か。どした?」

「遊びに来たー」

「子供かっ」

「子供だろうに」

「そーいやそうか」

忘れてた忘れてた、と笑いながらも、もこ姉は竹炭を作っている。……そういやミスティアに売ってるんだっけか。屋台も行ってないなー、魔理沙の家の掃除にも行ってない。……結構前だけど未だに行けてないんだよ。だって咲夜会えないんだもんよ。

「まあそれは建前として、本音は?」

「この前先生に「妹紅は体術なんかも得意なんだぞ」って教えてもらったからどんなのかなーと思って来た」

「得意……得意なのか私……」

「えっ、違った?」

「いや出来なくはないんだが……自己流だから何とも言えん」

「んー、まあ実戦で使えれば充分じゃないかな?」

「実戦てお前……殺す為に武術習ってるのか?」

「自衛手段だよ自衛手段。やられたら殺さない程度で追い返すって訳」

「だろうね、本気でやったら慧音が激怒するから」

「そゆこと。……じゃあ、相手を頼めるかな?もこ姉」

もこ姉は言葉で返さずニッと笑い、体の力を抜いた。つまりは「いつでもかかってこい」と言いたい……のだろう。ちょっと自信無い。

「―――――――、ふ―――……セイッ!」

「よっと!へえ、中々どうして良いじゃないか!」

「そりゃ、まあ!毎日稽古は、してるから、ねっ!」

話している間も手は止めていないが、全てが腕の動きでいなされてしまっている。全て真正面から受け止める美鈴とは違う、剛ではなく柔の体術。

実の所、申し訳無いが技を習うだけなら萃香の方が100倍は早い。だがそれに比例して危ない。まともに喰らえば腕が()げる様な稽古とかやりとうないわ。

「っ……!」

「……なるほど、お前の弱点見付けたぞ。要するに()()()()()()()

「ぐぬぬ……」

喉元に指を突き付けられ、的確に弱点を指摘されてしまった。……言われてみれば、確かにフェイントとかしてないなぁ……美鈴も得意じゃなさそうだし。ううむ、課題が増えた。

「でもまあ、筋は悪くない。でも、ただ殴る蹴るが体術じゃない……ってのは知ってるよな」

「うん、それは分かる。頭突き、体当たり、足払い、引き落としからの膝蹴り……」

「そこまでやってんのか!?あーでも、寝技とか拘束手段とかも身に付けておいた方が良いぞ」

「あー、なるほど……んー、萃香だと拘束と書いて粉砕しそうだからなぁ……もこ姉、その辺レクチャーしてくれない?」

「ん?良いぞ。暇が出来たらウチに来い。居なかったら……まあ、永遠亭か、夜は夜雀の屋台に居るから」

「うん、了解。……早速だけど、フェイントのやり方教えてー」

「元気な奴だなお前は……よし分かった、まずはだな……」

この日から度々、もこ姉の家を訪れる様になった。永遠亭に行った時、輝夜と殺し合いをしていた時には本気で怒鳴ったが、うるさくし過ぎたらしく3人とも永琳に叱られてしまった。因みにこの後、俺が居る時には2人とも仲良くする様になった……というのは鈴仙の話。あ、鈴仙も体術得意なんだっけか。ナイフ使う前提だったらどうしよ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「こんばんは、先生」

「お、おぉ、霊夜か。ブローチは喜んでくれたか?」

「はい、お陰様で。選ぶの手伝ってくれてありがとうございました」

そう、影狼に送ったブローチは、先生と一緒に選んだのだ。俺がうんうん唸っている所に先生が通りかかり、事情を小声で説明したら快く引き受けてくれたが、「赤飯でも炊こうか?」と言われてしまった。恥ずかしいから言いふらさないでほしい、と釘は刺したが……杞憂だったらしい。

「それで、お礼がしたいんですけど……」

「ふむ、お礼か?」

「えと、内容は考えてるんですが……その、嫌じゃないかなと……」

「ははは、礼をされて嫌な顔をするぐらいならそもそも遠慮しているさ。それで、何をするんだ?」

「歴史の編纂(へんさん)の手伝いをしようかなと」

「それなら今から始める所だ。帰るついでに話しながら歩こうか」

「そうですね。……いてて」

「ん?どうした、筋肉痛か?」

「はい……昼間にもこ姉と色々やってて……」

「なるほど……無茶はしない様にな」

「はいっ、大丈夫です。あ、そう言えば大妖精が『チルノちゃんが宿題やらなくて……』って言ってましたよ」

「ああ、彼女は本当に優秀なんだが……チルノは本当に頭を抱えるよ……」

「未だに『子分になれー!』って言ってますからねぇ……」

「ふふっ、まだ言われてるのか?お前も子供に好かれるなぁ」

「えーと……あ、確かにそうですね。寺子屋に来てる面子は仲良いのが多いです」

「……と言うか人間以外はほぼ全員じゃないか?」

「……ですね」

2人して微妙な顔で笑っている内に、もう日の入りが訪れていた。よく見てみると、先生の髪も次第に緑がかってきているのが分かる。角も少しずつ生えてるし。……って、なんか違うと思ったら服の色か。

「思ったんですけど……先生って、満月になったらそれ用の服とかに着替えてるんですか?」

「ああ、流石に服の色が勝手に変わりはしないよ。そんな服があるとも思えないしな」

「確かにそうですね」

――気のせいだろうか?先生の顔に、悲壮感に似た感情が見え隠れしているのは。

「――今は気にする事でもないかな」

「どうした?」

「ああいえ、なんでもないです。ささっと始めちゃいましょう」

「ああ、そうだな」

すっかり仕事(?)モードになった先生は、下手に刺激すると頭突きによって物理的に沈められるので、ここからは俺も仕事に集中する事にする。……ん?何するんだって?巻物の用意や墨の補充、あとは休憩時のお茶とか。先生だけでなく皆そうだが、流石にぶっ通しで出来る訳じゃないのだ。むしろ出来たら凄い。

「「………………………」」

特に何を話すでも無く、黙々と作業を進めていく。昔はあの尻尾をぎゅっとした結果沈められたが(本当に床に沈んだ。更に、その数日前の記憶が綺麗さっぱり無い)、今回は自分の尻尾で我慢する。むぅ、やっぱり自分のだとなんかあんまり気持ち良くない……いや、もふもふはしてるんだけどさ。なんか違和感がある。

「……霊夜、巻物を頼む」

「はーい分かりましたー。……えーと確かこの辺に置いてた筈……あったあった」

「ありがとう。それとお茶も頼めるか?」

「大丈夫ですよ、今持ってきますね」

こういう時、魔法を効率良く使う事で時短になるのだ。ヤカンが焦げたりしない程度に炎で熱する事で、普通に沸かすより早く沸かせる。……実は温度も変えられる様になったのは割と最近で、前は超高温かぬるま湯ぐらいの熱さしか出せなかったから、かなり進歩した方だろう。

「はい、どうぞ。……どの辺まで進みました?」

「ありがとう。そうだな、今は永夜異変まで書き終えた」

「おおー、じゃああと半分ですね」

「ああ……と言っても、実は半分まではもう少し掛かるんだがな」

「そうなんですか……ふぁぁ……」

「おいおい、流石にもう寝た方がいいんじゃないのか?いつもならとっくに寝ている時間だろう?」

「ふぁい……でも、もうちょっと起きてます……先生、いつも朝まで作業じゃないですか……だから、すこ、しは……………んんん」

気を緩めたら閉じてしまう瞼を必死に開き、閉じたらまた開き、というのを繰り返し、ぷるぷると首を振ったりしてみるが、(大体)夜中の3時まで起きた事は1度たりとも無い為、襲いかかる睡魔に勝てる訳も無く……

「……すぅ」

「やっぱりな……まったく、いくつになっても可愛い奴め」

深い眠りに入る直前、柔らかな手が持ち上げ、もふもふとした柔らかな所に寝かされた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……?」

「どうした霊夜、布団など触って……寝心地が良くなかったか?」

「いえ、やっぱり違うなぁと……と言うかあのもふもふした感触、やっぱり先生の尻尾ですよね!」

「分かってたのか?こいつめ」

「だってあんなに柔らかくて安心するのは先生のだけですからね」

「褒めても煮物しか出ないぞ?」

「それで大丈夫です」

その後も色々な事を話したが、紅魔館に帰った時にこっ酷く叱られてしまった。何も連絡を寄越さずに帰らなかったんだし、それはまあそうか。




結局EXは意見が無かった為どっちも書きました。いぇい。
さて!次回は何しよう!(おい)
ではまた次回。


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秋になっても草の根は元気

こんにちは、ユキノスです。
まずはご報告、この小説のUAが25000を越えてました!嬉し過ぎて俺の中でバジリスクタイムが始まりました……というのはちと言い過ぎですが。
さてさて、今回は毎度お馴染み事後談です。内容は分かりやすいかと思われますが……w
ではどうぞ。


「すぅ……すぅ……」

むゅ……

「……何、あの2人……」

「幸せそうですね〜」

霊夜君と影狼ちゃんの2人は、最近付き合い始めたらしい――というのは新聞屋さんから聞いた話だけど、誰がどう見ても事実にしか思えない。本人達は何も明言していないけど、お揃いのアクセサリーに恋人繋ぎをしていたら確定と見てもおかしくはない……よね?

「あー大丈夫、姫が思ってるので合ってる筈だから」

「あ、やっぱり?良かった〜」

「ほんとに……これでよく隠そうと思えたね」

「あはは、ほんとに。……ところで蛮奇ちゃん」

「うん?どうしたの?」

「……体の方は、大丈夫?」

「あー、まあね。ほら、来たよ」

見ると、今ここにふよふよ浮いている頭と全く同じ顔の、赤いマントを着けたいつもの蛮奇ちゃんが現れた。……あのマント、凄く目立つからすぐ分かるんだよね。

「う、んん〜……」

「あ、起きた。おはよ、霊夜」

「おあよ……まだ寝足りないけど……」

「……そりゃあね。その節はお疲れ様」

霊夜君は一昨日の日没から昨日の早朝に掛けて、人里で歴史の編纂の手伝いをしていたんだとか何とか。私はした事が無いから分からないけど、それは大変な作業だったんだろう――と、霊夜君から聞いた話で私は思った。

「……ん――――っ」

身体を伸ばした霊夜君からポキポキという音が聞こえた。……何をどうしたらあんなに鳴るんだろう?

「すごい鳴るね」

「ん、まあな……いつも寝相悪いし」

「どんな感じで寝てるんですか?」

「酷い時は廊下に居た」

「「は?(はい?)」」

「だから、廊下に居た」

「……それ夢遊病なんじゃないの」

「かーもなー……よっと」

えいっと足を上げ、反動を付けて立ち上がった所で――

ゴンッ!

「んがっ!?」

「わぁぁ、大丈夫ですか!?」

「ちょっ、霊夜ー!?」

……太い木の枝に勢いよくぶつかった。痛そう……

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「いてて……」

「周りをよく見ないからだよ、反省してる?」

「反省してます……」

……あージンジンする、と言うかなんで俺は蛮奇に「反省してる?」と言われてるんだろうか。蛮奇に何かした訳でもないんだが。

「……あれ?そういや響子とミスティアは?」

「あー、あの2人?なんか古道具屋さんで「これだー!」とか叫びながら飛び跳ねてたらしいよ」

「へー、何だろうな」

「さあ?私には分からないよ」

そう言えばなんか曲がどうのとか声がどうのとか云々言ってたなぁ。何か関係あるんだろうか?

「んー……」

おーい!皆ー!

わかさぎ姫と蛮奇と影狼と俺(4人)の鼓膜が、盛大な音を立てて破れた。




流石山彦(響子)、一言でインパクト(物理)大ですね。もう1人だけで人里の全員の耳を使い物にならなくしそうな気がします。
さて相も変わらず平和な事後談ですが、花映塚、は……どうなるんでしょうねぇ(おいこら)……。
ではまた次回。


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特別編:ラジオ局紅魔館、ON AIR!

レミリア「霊夜、なんか色々と質問が届いてるからちょっと答えてやってよ。よく来るもんだから流石にイラついてきたわ」
霊夜「ええーそんなに?んな訳……あったわ。え、どうすんの?」
レミリア「八雲紫(あのババア)に頼んで外の世界の情報発信機関とそっくりの物を用意してもらったわ。『らじお』っていうみたいよ」
霊夜「紫が便利屋みたいに使われてるな……」

という訳でこんにちは、ユキノスです。今回は、「こんな表現があったけど、これどうなってんの?」という意見が無かった(重要)ので、説明も兼ねてラジオ的な話を書いてみる事にしました。うぇい。
ではどうぞ……じゃない、本番行きまーす!


霊夜「……あー、ども。新月霊夜です。なんか今回、大量に質問が届いてたらしかったんで、こういう形(ラジオ)で答えていきます……で、なんで魔理沙が居るんだよ」

魔理沙「いーだろ別に、減るもんじゃなし。さて、そんじゃ……(ゴソゴソ)えーと、これだ!ラジオネーム(RN)、『楽園の素敵な巫女』さん……絶対あいつだな」

霊夜「いやはよ読めよ」

魔理沙「うるさいなー分かったよ読めば良いんだろ?『霊夜は何度か店で買い物をしていますが、その時使っている金はどこから出ているんですか?それと、出来ればうちの神社の素敵な賽銭箱に入れてくれませんか?』だとよ。言われてみればそうだな、どっから出てんだ?」

霊夜「あー、これはそもそも吸血鬼異変が解決して、紅魔館が隔離された時、八雲紫が食糧だの何だのを送ってたんだが……結界が無くなって、食糧を送る必要が無くなった。代わりに、生活費が送られる様になったんだな。俺が使ってるのは、その生活費の中の『余った金』の一部だ」

魔理沙「へー、そうだったのか。紅魔館のシステムなんて興味無いから知らなかったぜ」

霊夜「誰だこいつをここに来させたの……まあいいや、次行くぞ次」

魔理沙「待ってろ。(ゴソゴソ)ほいっ、ラジオネーム(RN)『竹林のルーガルー』さんから。『紅魔館の中では、いつもどんな事をしているんですか?』綺麗な字だなぁ」

霊夜「……そうだな、流石に全部言うと時間が足りないんで一部割愛すると……図書館の本を読み漁ってたり、フランの遊び相手になったり、美鈴と稽古してたり、白黒の泥棒猫を見張ってたりするかなぁ。あとは……おやつをちょっとつまみ食い?」

魔理沙「してんのかよ。これは咲夜に報告だな」

霊夜「本泥棒が言うなよ。昨日も1冊盗ってったろ」

魔理沙「……さて、次の質問だ」

霊夜「おいこら」

魔理沙「(ゴソゴソ)ほっ。えー何々……ラジオネーム(RN)『人里の守護者』さんから。『人狼を食べ、八雲紫がその妖力を馴染ませた事により妖怪化したのは分かるんですが、何故人狼ではなく狼男で、しかも銀狼だったんですか?読み返してみても、人狼の毛並みが銀色だったという描写は見当たらなかったのですが……』」

霊夜「うわ答えづらっ!えー……求めてた答えとは違うかもだけど、俺を妖怪にしたのは紫だから、その辺は紫が知っているかもしれない。少なくとも俺には分からない。……おい魔理沙、その期待外れそうな顔をやめろ。期待に添えないのは分かってるから。っと話題が逸れたな、因みに銀狼だったのも分からない。少なくともアレの毛並みは茶色だったから余計に謎だ。……と言うか、読み返すって何だ?」

魔理沙「知らん。えーと次は……(ゴソゴソ)これだぁっ!ラジオネーム(RN)……えー、『さいきょーのよーせー』さんから。……ん、なんだこれ、読めないぜ」

霊夜「ちょっと見せてみ」

魔理沙「あいよ。私には100年掛けても無理だぜ」

霊夜「………え―――――……『おい霊夜、いつになったらあたいの子分になるんだ!あたいはいつ来るのか楽しみに待ってるぞ!』…………うん、知ってた。俺は子分になるつもりは無いぞ、分かったか自称『さいきょーのよーせー』」

魔理沙「よく読めたな!?……ん?『最後は霊夜に選ばせて』ってさ。ほい、好きなの選んで良いぜ」

霊夜「なんで上から目線なんだよ。つかこれで最後だったのか……(ゴソゴソ)……よっ。ラジオネーム(RN)『狂気の月の兎』さんから。『永夜異変の際、竹をしならせて勘で当てていましたが、地上戦でそこまで曲げたら折れてしまうのではないでしょうか?』……あー、これは長い竹の先を折って短めの竹を作って、それをしならせて弓矢みたいにしたんだよ。それ以前に、『狂気の月の兎』さんそこに居たよな?」

魔理沙「それ私も思ったぜ。普通に居たな」

霊夜「……なんか最後の質問が微妙だったけど、これにて終了とさせてもらうよ。……えっ、質問次第で次回あるのか!?マジかよ……」

魔理沙「そんじゃ、次回をお楽しみにー。質問はいつでもお待ちしているぜ」

霊夜「おまっ、勝手な事言うなよ!」




レミリア「はいお疲れ様ー」
霊夜「ホントに次回あるのかよレミィ……」
レミリア「ええ、あるわよ。魔理沙もよく来てくれたわね」
魔理沙「暇だったから来ただけだぜ。霊夜に関するものって以外と質問多いんだな」
レミリア「みたいね」

さて、今回は俺が「これは読者さん謎に思ってるんじゃないかな?」というのを書いたものですが、他にも質問はお待ちしてますよ。質問する場合、ラジオネームも書いていただければ幸いです。
ではまた次回。


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1年越しの大掃除

こんにちは、東方EXTRA2のイベが来て発狂したユキノスです。
例大祭にお邪魔した時に存在は知ってましたが、まさか今来るとは……!(金欠)
因みにニコ生にもお邪魔してました。立ってる人の中に白Tシャツに肩掛けカバンのメガネが居たら俺です。
今回はなんと!やっと魔理沙の家の掃除します!長かった!
いやなんかもう、ズルズル引き摺ってたらこうなっちまいました(´・ω・`)
皆さんは気を付けましょう!
ではどうぞ。


「まさか……1年経ってからとは思わなかった」

「私もよ。……と言うか魔理沙、貴女これ片付けなさ過ぎじゃない?」

「いやぁ、あはは……研究に没頭してるとつい、な」

「ついじゃないわよ!それで倒れたらどうするつもりだったの!?」

咲夜が本気で心配して説教してるだと!?え、もしかして咲夜ってソッチの人?嘘だろ?

と馬鹿な妄想を広げ始める俺を完全に放置し、咲夜と魔理沙の面談(?)が続いた結果、どうやらたまにアリスが掃除しに来てくれているそうだ。ありがとうアリス、お前ほんと凄いよ。

「……こんな足の踏み場が見当たらない所、人形が操れても普通入りたがらないからなぁ」

「その意見には賛成。霊夜、さっさと終わらせるわよ。魔理沙は……どこか散歩でもしてて頂戴」

「アイアイサー」

「分かったぜ」

咲夜がドアを開け――た所で、大量の物が雪崩となって押し寄せた。

「咲夜!大丈夫か!?」

空の小瓶や魔導書ならまだしも(本当は駄目なのだが)、何故あるのか分からない様な物――例えば埃だらけのカメラ(の部品)やカビたパンなど、正直あまり触りたくない物ばかりではあるが、この際仕方無いかと無理矢理自分を納得させ、ゴミ(にしか見えない)の山を魔理沙と共に掻き分け、すぐに咲夜は見付かった。……物凄い汚れているが。

「……霊夜、先に掃除してて。私はちょっと魔理沙と話があるから」

「え、でも……」

「してて」

「あっはい分かりました!」

汚れを払って立ち上がった咲夜の、珍しくにっこりと笑った顔は、完全に目が笑っていない為恐怖でしかなかった。お陰で慣れない敬語が出たよ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……えー、これは必要……んでこっちは……うわ、半分腐ってる……捨てよ」

咲夜が珍しくブチ切れて説教中の為、魔理沙に何に使うかを聞けない訳だが、明らかに使えない物、及びほっとくと大変な事になる物は出来るだけ処分する事にした。因みにもう30分経つが、未だに説教は終わっていない。まさか咲夜がこんな大声出すとは思わなかった。

「……ん?何だこりゃ」

よく見ると、小さいヘビみたいな生き物らしい。腹がずんぐりとしているそいつは、何やら俺の腕を登ってきた。おい、噛まないよな?こう言うの大抵毒あるだろ?

「……あ、もしかしてお前、潰されるかもしれないと思ったのか?」

結局肩を伝って頭頂部まで来たヘビモドキは「キュー」と鳴き、そのまま俺の頭上に居座った。どうやら、俺の頭(ここ)が気に入ったか安全と判断したからしい。

「……ま、仕方無いよな。よっ……こい、せっ」

掃除もまだ半分の半分しか終わっていない。これは大変だ、下手したら日が暮れるぞ。――――と思っていたのだが。

ガラクタの山が、消えた。

「おお!?咲夜、まさかお前……」

「……はぁ、疲れた……魔理沙、貴女少しは家事もしなさいよ……」

「いやぁ、研究に没頭しちまうとつい……。ありがとな咲夜、お陰でピッカピカだぜ」

「どこがよ、まだ埃も残っているでしょう。さあ、掃除の続きやるわよ」

俺と魔理沙の体感では、労働時間は俺の方が長いんだが……というのは、突っ込むべきではないのだろう。

やれやれ大変だな、と思いながらその辺にあった雑巾を濡らし、ようやく本腰の掃除に入ってから十数分後。

 

「終わったー……」

「お疲れ様。魔理沙、これで分かったでしょう?貴女が如何に女性として駄目か。霊夜()()()掃除は出来るのよ」

「……よーく分かったぜ」

「俺ですらって何だよ……」

今は春だが、冬から移り変わったばかりなので日が傾いている。と言うか暮れている。俺と咲夜の2人は、魔理沙に掃除はこまめにする様注意した後、ヘビモドキを降ろして―結局コイツはツチノコだったらしい―帰路についた。




終わったぜうぇい(白目)。
薄いんだか濃いんだか微妙な感じですねぇこれ……(笑)
でもようやく掃除は終わった訳ですし。これで心置き無く花映塚に入れますよ!次回から花映塚!
ウオオオオアアアア\( 'ω')/アアアアアッッッッ!!!!!

ではまた次回。


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花が映した死者の無念
百花繚乱、絶景かな絶景かな


こんにちは、何故か喉が痛いユキノスです。
いやー、眠い!兎に角眠い!
まあそんな訳で、やっと来ました花映塚。ええ、やりますよ花映塚。
ではどうぞ(おい)。


――――幻想郷(この場所)で、常識に囚われてはいけない。

と言ったのは某スキマのぐうたら賢者だが、確かに常識に囚われていたら絶句するだろう。ああ因みにだが、今この場所に置ける「絶句」と言うのは美しいから――すなわち、辺り一面、あらゆる花が咲き乱れているのだ。

今は春だが、向日葵、彼岸花、鳳仙花等々、どう考えても春に咲かない花も咲いている。ここまで言えば分かるだろうが、これは異変だろう。と言う訳で、多少なりとも調べてみる事にする。

「えーと、文はどこだー?」

「はいはい、皆大好き文さんですよー」

「わぁっ!?驚かすなよ!」

「いやぁすみません、驚かせるつもりは無かったんです。それで、何かご用で?」

「ああ、この大量の花についてなんだが……何か知らないか?」

「あ、はい。この大量の花はですね、何故だか60年周期で外の世界では大量に死者が出ているんですよ。その数があまりにも多いので、死神や閻魔様も捌ききる事が難しく、溢れ出てしまった霊が花に取り憑いている……という訳です」

「ははぁ……つまりは異変ではないと」

「そういう事になりますねぇー。まあこの花は暫くすれば自然に枯れるので、実質あまり害はありません」

「あまり、ってのが気になるんだが……」

「それは太陽の畑――まああそこの向日葵畑ですね、あそこに足を踏み入れて花を勝手に摘んで行こうとした命知らずが殺される事がたまに」

「……なら自業自得だな。ありがとよ文、無駄骨折らずに済んだ」

「なら良かったです。私は三途の川へ取材に行ってきますねー」

そう言って飛び去って行く文を見送りながら、頭ではこんな事を考えていた。

――三途の川、あるんだな。

まあだからと言って、何も今すぐに三途の川へ行く訳ではない。今は忙しいだろうし、そもそも俺が行った所で手伝える事は無いからだ。

とまあそんな理由で、まずは人里で暮らしていた頃に何度も「幻想郷で一番美しく、一番危険な場所」と評されていた太陽の畑へ行ってみる。文の話を信じると、どうやら花を摘む、踏む等といった事をしなければ特に何もされない――と思う。何故疑問形なのかというと、あの大妖怪は気まぐれなのだ。

「……何もありません様に」

俺はそっと、無駄になるかもしれない祈りを捧げた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「………う、わあ〜〜〜〜〜……綺麗〜……」

太陽の畑、そう呼ばれる所以である向日葵畑は、それこそ雲の上から見ても分かる程に広い。俺は近くに来るのは始めて(歩いて行くのは先生に禁止されていた)だが、それでも見るだけはしたかったのだ。

「こんなに沢山の花……どうやって世話してるんだろう……」

花を傷付けない様に飛びながら、もう兎に角感嘆の台詞しか出ない。妖夢も美鈴も庭師だが、2人がここに来たら卒倒すると思う。それぐらいに、一面花、花、花なのだ。

そしてその中央に、誰もが美しいと評し、また誰もが死の象徴と恐れている存在が居た。

――風見幽香。

その名を聞いただけで、人里の人間は腰を抜かして逃げ出すぐらいの悪名が立っているとは思えない程――またそれが大変失礼に思える程、彼女は「美人」だった。翡翠色のウェーブが掛かった髪、真っ赤な瞳、そして紅白のチェック柄のワンピース、レースの入った日傘は、向日葵畑と不思議にマッチしていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。……幻想郷で幻想的、というのも変な話だが。

「ねえ」

ひやりしたと殺気が肌を撫でた。

「―――!?」

「最近誰も来なくて暇だったの。話相手になってくれない?」

少しだが遠くに居る筈なのに、はっきりと聞こえる声に抗ったら、恐らくレーザーで消滅ルートだと判断した俺は、緊張で強ばった精一杯の笑顔と共に肯定した。

 

後々、この時の俺をぶん殴ってやりたいぐらいに後悔したが。




結論:ゆうかりんを不機嫌にさせる=死。
なんと恐ろしい方程式でしょうか、でもそれを否定出来る材料が無いという。
次回どうなるんでしょうねぇ……
ではまた次回。

地味にあややが久々の登場でした()


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立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は死を告げる

こんにちは、最近ようつべに生声(顔出しはしてません)動画を上げ始めたユキノスです。
4人プレイの直撮りで、今更感溢れるマリオWiiをやってくだけのものですが、ここで告知させていただきます。

https://www.youtube.com/channel/UCybP1LFIdyHOUyhvSnCMZUA

さてさて、本編はこりゃまた大変な事になってますねぇ……(白目)
ゆうかりんとのお茶会ですよ。ええ。他になんてこたぁありません。
ではどうぞ。


「へぇ〜、1人で世話を!?凄いなぁ」

「あら、何て事は無いわ。()()()()()()()()()()()()

「……花の、声?」

「ええ。それが私の能力(チカラ)であり、私がここに居る所以よ。お茶のお代わりは要るかしら?」

「じゃあ貰おうかな。ところでこれ、リンゴの紅茶か?」

「ええ。いくつか貰って行く?」

「う、うーん……俺はあまりお茶に詳しくないし、咲夜辺りに聞いてみるよ」

あれから数分、普通に話している様に聞こえるかもしれないが、実を言うと冷や汗と震えが止まらない。だって、1歩間違えたら即死だぜ!?怖くない奴絶対異常あんだろ!

「ねえ」

「ひゃいっ!?」

目の前に迫っていた幽香は、面白いものを見つけた様な顔をしていた。事実、それは間違っていないのだろう。幽香にとっては、それこそ吹けば飛ぶぐらいの奴なのだから。

「……貴方、普段どこに住んでるの?血の臭いがするんだけど」

「え?そんなのしてな……」

い、と言いかけて口を閉じた。他人が家に来ると「この家〇〇の臭いするぞ」と言われても、自分は何も感じないのと同じで、同じ臭いを嗅ぎ続けていたら、その臭いに対して嗅覚が麻痺しているのだろう。狼だろうと何だろうと、それは変わらないのだ。

そして血の臭いとは、レミィとフランの分で間違い無いだろう。

「……あー、俺は紅魔館に住んでるんだ。だから血の臭いが……」

「……へえ?どうして?」

「ど、どうしてって?」

オウム返しになってしまった。でも主語が無いから答えられないので仕方無い。

「どうして貴方が、紅魔館(そこ)に住んでいるのか。何故貴方は無事なのか。それが知りたいの」

――まずい。まずいまずいまずいまずいマズイマズイマズイマズイ。

客としてではなく、相手として興味を持たれてしまった。でも今更嘘は言えないので、全て打ち明ける事にする。

「ふうん、なるほど……」

そう言った幽香の口が、三日月型に裂けた。あ、オワタ。

「あっ、あの、俺――」

「ねえ、狼くん」

しなやかな五指が、俺の腕を取った。振りほどこうとして、()()()()()()()

「私の、玩具(お相手)になってくれない?」

柔らかい笑み、そう例えるべきである筈なのに、何故か笑みはとてつもなく冷たく、瞳は全てを射殺さんばかりの輝きを持っていた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……で、敵う訳も無く、ボコボコにされて逃げ帰って来たと」

「うーん……逃げ帰って、と言うより飽きられて、かな。そうでなきゃ死んでた」

「……まあ、分からなくもないけど。事実、あの妖怪は強かったわ」

「えっ、戦った事あるのか?」

「前に1度だけ、吸血鬼異変でね。おかげで図書館を修復するまでにどれだけ掛かったか……」

今は永遠亭――ではなく、紅魔館にあるヴワル魔法図書館に居る。前述の通り、風見幽香に為す術も無くやられてきた後、自分で大体の傷を塞ぎ、帰ってきたのである。

「いてて……うー、なぁんであんなに強いんだろ……」

「分からないわ。でも、私は霊夜を『強い』と思ってるわよ?」

「えぇ?俺が?まさか」

「私からすれば、それこそまさかよ。いい?霊夜、『強さ』というのは単純な力、火力の事じゃないのよ。その対象の硬さや鋭さ等の物理的な強さ、メンタルや魔法、あとは勉学といった精神的、頭脳的な強さ。名前は違えど、皆『強さ』である事に変わりは無いの。りょ……けほっ、けほっ」

「わわ、大丈夫か?薬、薬は……」

パタパタと小走りで薬棚に向かい、喘息の薬を取ってコップに水を汲む―因みに、水道だけ用意されている―。その後、零さない様に飛びながら、頭の片隅で考えてみた。俺の『強さ』と、幽香の『強さ』。内容は違えど、対等に渡り合える程のものであるとも言えるし、そうでないとも言える。パチェはそう言いたかったのだろうか?それとも、俺の考え過ぎなのだろうか?

「パチェー、戻っ――――」

今、目の前で起こっている事が理解出来ず、床に落ちたコップが硬質な音を立てて割れ、薬の袋が乾いた音を響かせた。




最後何があった(お前が言うな)。
いやー、我ながらひでー所で切りやがる。アニメの気になる所で次回へ!みたいなもんですわ……多分。
さてさて、まだお時間のある方は是非動画をご覧ください。「こんな声だったの!?」ってなるかと思われます。兎に角カオスなので、そこも楽しんでいただければと。
ではまた次回。


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絶叫、そして――

こんにちは、ユキノスです。
前回、今までに無いぐらい不穏な終わり方しましたが、今回はどうなるんでしょうか。
関係は無いですが、前書き→本文→後書きの順に書いていて、またプロットを書いていないので、疑問形はほんとに疑問に思ってます。
ではどうぞ。


「パチェ……?」

「霊……夜……」

確かに、喘息で吐血した事は何度かあった。だが吐血なんてレベルじゃない。だって、そもそも――腕が無い。

「そ、その腕……どうしたんだよ……?」

それまで、少しだけ上下していたパチェの胸が、止まった。

「嘘だろ……?おい、パチェ!?パチェ!生きてるんだろ?返事をしてくれよ!」

手を握った時、あまりに冷たかったので、「ひっ……」という裏返った声が出た。首に手を当てても、脈は感じない。呼吸もしていない。

「う……あ……っ、うわあああああああああああああああああ!」

「魔法は万能ではない」というのはパチェの言葉だが、確かに失われた命を蘇らせる魔法などありはしない。やがて1つの事を思い出すまで、俺は声を枯らすまで絶叫した。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……どうするのよ、あれ……拘り過ぎたんじゃないの?」

「うん……私も、今そう思ったわ……霊夜が泣き叫んでるの、初めて見たもの」

別室で、魔水晶越しに自分の死体(人形)を眺めているだけでもかなり複雑なのに、更にはこれが霊夜への()()()()()なのだから余計に気分が悪い。確かに、「霊夜の度肝を抜くぐらいのものにしろ」と言ったのは私だ。しかしこの際の「度肝を抜く」は喜ばせる、驚かせるといった意味合いで、決して悲しませる意味ではない。断じてない。――それなのに、この新米魔法使い(アリス)ったら……

「趣味が悪いにも程があるわよ?誰が()()()()()()()()()人形(私の死体)を送りつけろって言ったのよ」

「……うう、ごめんなさい……」

「全く……って待った、霊夜ったらどこへ行くのかしら……えっ!?」

「ど、どうしたの?」

「なんで……一体どうして、ここに……いや、ここには……」

「パチェ?パーチェー?」

「っ、急ぐわよ!じゃないと……」

「じゃないと……?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「ええ!?」

大声を出したりするのは柄ではないし、滅多にしない。だが、それも致し方ないのだ。何故なら、霊夜が今行こうとしている場所は――呪術、呪法、その他呪いに関するものばかり。その中には、1冊だけあった筈だ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()術が。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……ああ、あった……」

見るからに禍々しい雰囲気の本。前に1度だけ見て、パチェに怒られた事もある1冊。没収される直前、確かに見た。前の方は読めなかったが、()()()()()()術を。

「パチェ……今、生き返らせる……」

傍から見たら、ヤバい本を持った生気の無い奴だと思われるのだろう。だが、血の繋がった家族が居ない俺は、親しい誰かが殺される事が途轍も無く嫌なのだ。

パチェの遺体の前に立ち、本を開く。その術のページを見つけ、そこに書かれている魔法文字を読み上げる。

「ヴェルツィ……フャゥエル……マェザュル……」

「霊夜!」

ああ、パチェの声まで聞こえる。黄泉の国から帰ってきているのだろうか?

「……やめなさい!今すぐに!」

普段のパチェからは想像出来ない程の声で、俺の体に水が巻き付いた。無詠唱でここまで出来る魔法使いなどそう居ない。口も封じられているのでそのまま振り向くと、パチェが居た。

「なんで……いや、幻覚でも見て……」

「ぜえっ……いいえ、本物よ!ぜえっ……ぜえっ……あの人形(偽物)じゃなくて、私、が……私が、パチュリー・ノーレッジよ!」

がっしと肩を掴まれ、最近の幻覚は触れる事も出来るのか……とはたらかない頭で考えた所で、はっと気付く。

「……パチェ?」

「ぜえっ、ぜえっ……ええ!」

見れば、大きく肩で息をしているのが分かる。喘息の発作がギリギリ出ない程度の速度で飛んできたのだろうその体は温かく、俺の中の何かが弾けた――気がした。目尻に涙が浮かんでいるのが分かる。感情の奔流が、行き場の無かった喪失感を押し流してくれている。

俺は、パチェの胸に額を押し当て、声を殺さず泣いた。恐らく《偽物》を作った張本人であろうアリスも優しく微笑んでいる。

「うわぁぁぁぁ〜〜〜……パチェ〜〜〜……」

「よしよし、泣かないの。……誕生日おめでとう、霊夜」

「霊夜ー!誕生日おめで……と……?」

「あら、フランちゃん……ええと、あれはね……」

苦笑しつつ頬を掻きながら説明するアリスには目もくれず、俺はただただ泣き続けた。

 

 

……因みにこの後、どうしても生きているかどうかが不安になってしまい、パチェの所で寝たのは内緒。




Q.霊夜に誕生日は無いだろ!
A.無いと言うより不明なので、大妖精が『霊夜を見付けた日』を誕生日にしていました。本人がそう説明していた為、割と色んな人が知っています。

という訳で、なんと誕生日のサプライズでした。なんつー恐ろしく縁起の悪いサプライズだ……(戦慄)
ではまた次回。


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耳掃除は艶めかしいものじゃなかった筈だが

こんにちは、授業中にスマホいじってたら反省文書く事になったユキノスです。
今回はタイトル通り耳掃除回。まあ……多少はね?
実は最近ヤンデレ系小説にハマっております。ヤンデレとは何かを知らなかった為、かなり勉強になっております。
ではどうぞ。


「んー……耳ん中がガサガサする」

「耳掃除しよっか?」

「……頼む」

まあいずれ来るだろうとは思っていた耳掃除の時期。小さくても、耳の奥なら妙に存在感のある耳垢が溜まるという事は、それを取り除かなければならない訳だ。……と言う訳で。

「はい、おいでー」

いつの間にか耳掻きを持ち、正座して膝をぽんと叩く影狼に、膝枕の体勢で寝転がる。狼男(正確にはそれに似た生物)の耳掃除は、人間の耳と狼の耳の両方しなければいけないので、時間は掛かる。が、それもまた良いと俺は思う。

「それじゃよろしく」

「うん、痛かったら言ってね」

「んっ……」

人間の耳の方に耳掻きが入れられ、擽ったくも気持ちいい感触がする。下手な人だと一気に奥まで突っ込んでしまうが(レミィやもこ姉なんかはこのタイプだ)、上手な人だとそっと奥まで入れる(咲夜やこあ、先生などがこれになる)。影狼は後者だった様で、耳の奥でカリカリと音がするが全く痛くない。

「あ、そこっ……」

「うん、分かった」

奥に落とさない様に、また耳の中を傷つけない様にそっと掻き出されているのが何となく分かる。背中に電流が流れている気がして、ピクピクと体が震えて、変な声が出そうになってしまうのを必死に抑えていると、影狼から息を吹きかけられた。

「ひゃあぅ!?」

「あ、ごめんね。擽ったかった?」

「うん……」

……今、物凄く『穴があったら入りたい』状態になっている。やれ女顔だの、やれ男女だの言われている俺だが、それでもこれは恥ずかしい。

「……ふふふ、可愛い♪」

「なぁーもー、言わないでくれよー!」

「ちょっ、霊夜落ち着いて……耳垢奥に入っちゃうから」

「ぶー……あっ、もうちょっと右……」

「クスクス……」

「うう~~……笑わないでくれ〜……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「はい、おしまい。結構取れたよー」

「う、うん……」

「まだ恥ずかしい?」

「うぅ〜、思い出すだけで恥ずかしい…………」

あれからずっと弄られっぱなしで、正直『殺すなら殺せ!』と言っているのに放置されてるみたいな……ああもう、訳分からん!

「……影狼」

「?」

小首を傾げる影狼に正面から飛びつき、そのまま彼女の唇を奪う。因みにこの時、頭の中がぐるぐるとして全く思考が纏まっていない状態だったので、影狼は勿論俺もパニックに陥っていたのだ。

思考が段々と纏まってくると同時に、ここまで密着してるんだし、どうせなら……と思い、耳を擽ったりしてみる事にする。これでイーブン……か?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……はぁ〜、ほーんとにアツいねぇ〜……見てるこっちが恥ずかしい」

「盗み見してる私達が言える事じゃないけど……あ、ヤバっ、気付かれた!」

「嘘ッ!?逃げるよ鈴仙!」

「当たり前よ!」

この日の文々。新聞の見出しは、《2匹の兎、撃沈》だったそうな。毎度思うんだがそのまんま過ぎる。




もう爆発しろお前ら(血涙)。
えーえーどうせこちとら春なぞ来ませんよ!
リリー「春ですよー!」
(執筆時点で)夏ですよー!(謎の張り合い)
ではまた次回。


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忌み嫌われた少女

こんにちは、ユキノスです。 なんて言ってる場合じゃねえんです!この小説のUAが、3万を越えたんです!
という報告と共に、キャラ紹介には出てるのに本編に出ていない『宵呼 颯忌』というキャラについてのお話をします。
彼女は本当は、霊夜が太陽の畑に来た時点で登場する予定だったんですが、あんな感じになってしまいました。
申し訳ありません(´・ω・`)
ではどうぞ。


無縁塚。

その名の通り、縁の無い物が弔われる場所であり、外の世界で使われなくなったガラクタが流れ着く、言わば『忘れられた者の終着点』。そこに、少女は座っていた。彼岸花が咲く真ん中に。悪霊も、彼女に興味を示さない。少女が特異体質なのか、それとも死んでいると思われているのか。

そんな事は、少女にとってはどうでも良かった。何故なら、《災禍の獣》と呼ばれる妖怪の出現により、その手下だと言われ、挙句里を追放された。『瞳が蒼かったから』という、理不尽にしか思えない理由で。

「っく……えっ、く……」

だから、少女は朝も夜も泣いていた。里の人々を、愛していたから。たまに来る鴉天狗も、稀に来る人形遣いも、半獣の先生も、一瞬だけ姿を見た赤い髪の子も。皆、少女()愛していた。

愛していた人に捨てられた事は、まだ幼い少女にとってどれほどショックだっただろうか。少なくとも、何日もの間動かず、長く艶やかだった髪がボサボサになり、衣服も肌も汚れ、飲まず食わず、曇ってしまった瞳から延々と涙を流し続けている程度にはショックを受けている、という事しか分からない。

「皆……違うよね……?私を、守ろうとしてくれてたんだよね?」

蚊の鳴くような声で呟いた言葉は、悪霊と怨霊にしか聞こえなかった。

「早く……早く、《災禍の獣》を……」

そう必死に祈るが、5分前にも同じ事をしている。だからこそ悪霊は、興味を示さない。しかし、怨霊は別である。

『なあ、嬢ちゃんよぉ。いい加減諦めたらどーだい?もう3日だぜ、とっとと壊れてくんねーとこっちも』

「う る さ い ……!うるさいうるさいうるさいウルサイウルサイウルサイ五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅いうるさいウルサイウルサイうるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁぁいッ!私がっ!何を思おうとっ!どんなふざけた希望を持とうとっ!私の勝手でしょおっ!?怨み残して死んだアンタに!ゴチャゴチャ言われる筋合いは無いの!」

乾ききった喉で叫んだ少女に対し、怨霊はケタケタと、他人事の様に笑っただけだった。

『ああそうかい、分かったよ。じゃあ死ネ』

人魂に覆われた巨大な髑髏の顔を震わせ、怨霊はその姿を変えていった。どういう原理か背骨が生え、針の様に尖った肋骨が生え、鎌の様な骨が生え、骨盤が生え、百足を思わせる大量の足(の様な骨)が生え、更には――

「あ……ああっ……」

『グ、ギ、ガガガガアアアアア!』

みるみる内に巨大化し、少女の背どころか周りの木すら越える大きさになった。赤い人魂の様な物が蠢いている瞳で少女を見下ろし、ケタケタと愉快そうに笑った。少女はあまりの恐怖に失禁、意識も朦朧としてきた――

「……おいおい、なんだこりゃ。またでっけー怨霊さんだなぁ……どんだけ怨みあるんだ」

『ア゛?』

「よっ、こんちは。ちょいとそこの女の子に用事があってね、悪いけど引き取らせてもらうよ」

高く綺麗だけど、ちゃんと男の子の声。聞いていると不思議と安心出来る、優しい声――

『ブザゲル゙ナ゙ァァァァァァ!ゴイヅハァァァ、オレノモンダァァァ!』

「アルノュフデルカョマェフゥテンセルゾエネーフルダプサーベル」

長く複雑な言葉を一息で言い切り、化け物と化した怨霊(元々化け物に近いが)に右手をかざし――――

 

ドッ、ゴォォォォォォォォン!

 

「うあちっ、あちちちちち!威力出し過ぎた!悪い、舌噛むなよ!」

「え……ちょっ!?」

唐突に少女を抱き上げ、真上に飛び上がる赤毛の少年を、少女は見た事があった。

「……アンタ、あの時の……慧音先生のとこにいた……」

「すまない、その話後にしてくれ!それと下見るな!」

「え?あっ……」

下を見た少女は、そのまま霊夜にしがみついた。――高いのだ。幻想郷で一番高いのは妖怪の山だが、それよりも高い。だが何より、

「きっ、来てる!逃げて!」

「そりゃ勿論!つーかあれでピンピンしてるとかどんだけ怨み強い怨霊だよ!」

「あの、怨霊は除霊とか御札とか無いと駄目じゃ……」

「うん、出来ないな俺。でも、出来る知り合いは居る。……やってくれるかは微妙、でも賭ける価値は十二分にある!」

「も、もしかして……博麗の……わぷっ」

「しっかり掴まってろ、落ちたら死ぬぞ!」

男性の割にはとても長い、良い匂いのする髪と、ふわふわした尻尾に気を取られていたが、この少年、かなりゴツい。

「………っ」

途端に意識しだした少女は、ぎゅっと目を閉じた。だからこそ、少女は分からなかった。

 

怨霊が、一瞬にして消えた事に。

 

「いやー、()()()()サボってみるもんだ!危ないとこだった、大丈夫かいお二人さん?死ぬかい?」

「死にとうないし、二人とも大丈夫。ところでどちらさんで?」

「あたいかい?あたいはねぇ……死神さ」

一瞬で近づいてきて囁かれた言葉に、少女は死を覚悟した。




キャラクターメモ

宵呼《よいよび》 颯忌(さつき)

種族:人間
年齢(紅霧異変時):12歳
能力:無し
説明:瞳が蒼かったからという理由だけで捨てられた過去を持つ、こちらは本当の少女。
妖怪に何度も襲われ、犯された事もあり、元人間の霊夜にも敵対的な反応を示した。
颯忌というのは首から提げていた札に書いてあったが、名字はレミリアが命名。名前の由来は聞きたくないんだとか。
クールな性格と言動とは裏腹に、容姿は可愛いげのある美少女。瞳は前述の通り蒼く、艶やかで短めな黒髪、背は低め。胸はそこまでは無い。声はハスキーだが、これがコンプレックスらしい。霊夜の綺麗な声が羨ましい(本人談)。


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真面目に不真面目な死神さん

こんにちは、この小説のお気に入りが200件になって大喜びのユキノスです。
前回、こまっちゃんが出てきて終わりました。つか終わらせました。さてそっからどうなる……?
ではどうぞ。


「あたいはねぇ……死神さ」

「……!」

「なるほど、死神……だからって、生身の人間を怖がらせるのはどうかなぁ」

「んー、最もな意見どうも。悪いね嬢ちゃん、怖がらせるつもりは無かったんだ」

赤いツインテールの髪を揺らしてカラカラと笑う様は確かに警戒心が解かれるが、女の子の視線はさっきから死神のやや上――鎌にしか向いていない。そりゃまあ、あんな物騒な刃物隠しもせずに担いでりゃ視線も向くか。むしろ驚かない俺の方が変なのだ。――いや、それも少し違うか?

「なあ、その鎌本物か?なんか、反射の仕方とか違う気がするんだが」

「へぇ……よく気付いたね。こいつは偽物さ」

「だってよ。あれは斬れないってさ」

「……それもあるけど」

いつの間にか距離を取っていた女の子は、恐らく護身用と思われる脇差しを抜いていた。その蒼い瞳には、明らかな警戒の色が浮かんでいる。

「アンタ、妖怪でしょ?」

「逆に人間だと思う?」

「思わない。だからアンタも、私を殴って、蹴って、犯すんでしょう!?」

「……はい?」

なんだそのよく分からん前情報。そっかー俺人里でそんな風に思われてたの……いや、これよくよく考えたら俺限定じゃないわ。男の妖怪全体への奴だ。

「……あー、だからそんなボロボロなのか。ずっとそこに居たからだけだと思ってた」

「それもある。……でも、きっと皆迎えに来てくれる……」

「それでどれだけ経った?」

「……1週間。」

1週間もの間、飲まず食わず(そして目の隈から恐らく寝ず)の状態で、ずっとこの無縁塚(危険地帯)に居たというのだろうか。これには隣の死神も、開いた口が塞がっていない様子である。死を司る(?)者ですら呆れるとは、相当ヤバい事やってるぞこの子。いや、首から提げてる札に何か書いてある。……えーと、『颯忌』?

「……将来を願って付ける名前に、忌むの字を使ってる時点でちゃんちゃらおかしい両親だな」

「同感。望まない子供だったのかねぇ」

「……つか、アンタ名前何」

「ん、あたい?小野塚小町ってんだ。こまっちゃんとも小町とも、何とでも呼んでよ。そっちは?」

「新月霊夜。霊夜と呼んでくれ。……さて小町、1つ質問」

「はいはい」

先程からずっと、物凄い険悪な雰囲気の女性がイライラしながらこっちを見ているのだ。そら気になる。という訳で小町に知り合いかどうか聞いてみた所、小町は顔を真っ青にして振り向いた。釣られて振り向くと、死神も真っ青で逃げ出す程に(比喩である。小町は逃げていない)怒らせると怖そうな緑髪の、帽子を被った女性が、何か……(しゃく)の様な物を持っていた。

「小町……私は何度も言いましたよね?この時期、真面目に働けと」

「い、いやぁ……あたいが休めば、その後に仕事する面々も仕事が無くなる訳で……そ、そう!これはあたいからの休暇プレゼント……」

「問答無用ォーッ!」

「ぎゃー!ごめんなさい四季様ー!」

何だこの茶番、と思いながらも、俺は1つの重要な事を忘れていた。それは――颯忌が、脇差しを持っているという事。

「ッ……!」

気を抜いていた。鈍痛がして横腹を見ると、服に血が滲んでいる。その中央に突き立っているのは、短めの刀身を半分ほど埋めた脇差し。

「……颯忌。お前、本当は分かってたんだろう?自分は、人里から捨てられたんだと」

「ふざけないでっ!私は、捨てられてなんか……」

「はぁ……じゃあ、なんで今泣いてるんだ?」

「ッ……!それ、は……寂しいから……」

叱られている小町と、ズキズキと断続的に訪れる痛みは一旦無視し、颯忌に歩み寄る。その涙を拭い、頭を撫でていると、安心してくれたのか、膝から崩れ落ちて涙を流し始めた。今度は隠さず、喚き声も上げて。

「だとしてもさ……娘を悲しませていると分かっててほっとくなんて、親がする事じゃない。クズがする事だ。……あのな、『そこから動くな』みたいな事言われたのかもしれないけど、無縁塚(こんな所)でずっと待ってても野垂れ死ぬだけだろ。大丈夫、死ぬよか生きてる方がマシさ」

「うぐっ……うぇぐっ……」

颯忌は、泣きながらも小さく頷いた。

その傍で、小町を叱っていた緑髪の女性が説教を止め、きょとんとした顔でこちらを見ていた。……小町の襟をしっかりと掴みながら。




今回は割と早めに書けた気がします。と言うか皆さん忘れてるかもしれませんが、今時系列的には花映塚なんです。それっぽい事はゆうかりんと(命懸けの)お茶会しただけだったので、一応。
ですが、EXはもう書いてます。妖々夢のデジャヴ……。
ではまた次回。


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特別編:笹の葉さらさら

こんにちは、七夕とかいうイベントをすっかり忘れていたユキノスです。
今回はなんと、1週間以上過ぎている七夕特別編になります。はいそこ、特別編にしかレミィ出てないとか言わない。
ではどうぞ。


「ここで、七夕を?別に構わないけど、そもそも七夕って何?」

「分からないのに了承したのか……そもそも七夕というのはだな」

レミィに七夕とは何かを説明し、途中でフランが来た為また1から説明した。仕方無いだろ、フランも興味ありげに聞いてきたんだし。

「……という言い伝えがある訳なんだ。七夕ってのは、それをお祝いするイベントみたいなもんだよ」

「へえ……面白そうね。取り入れてみましょう」

「私も賛成!なんだかロマンチックだもん!」

勢いでOKを出してるけど大丈夫かレミィ、別の奴に騙されたりしないだろうか。普通に心配である。

「……あ」

「どうしたの?霊夜」

「笹って……今まだあるかな……」

「「笹……?」」

はて、と言いたげな顔で、鏡の様に首を傾げる2人。ほんとに何も知らずに了承したんだな、ある意味凄いが無茶な賭けにもなり得るから注意してもらいたい。

「ちょっと行ってくるー!」

「あっちょ、どこへ行くのよ!」

「笹持ってそうな美鈴の所ー!」

完っ全に勘である。いやだって、全体的に中国だもん。なんか持ってそうじゃん。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「あっ霊夜ー、ちょっとこの……う、わぁっ!?」

「っととととと!颯忌か、どした?」

「あー、射命丸(新聞屋)さんがこんなの持ってきたからさ。そろそろ七夕だなーって」

「そうだなー、もう今日だぜ今日。早いもんだよ」

「ほんとに。……ところで、何をそんなに急いでるの?急がなくても、目標は逃げたりしないわよ?」

「いや、分からないんだなこれが……笹ってまだ人里に売ってたっけ?」

「うわっ、それは分かんないなぁ……美鈴さんとか持ってそうだけど持ってなさそう」

「……そもそも割ってる説あるぞ」

「ありそう」

クスクスと笑う颯忌だが、こうやって普通の女の子やってれば可愛いのに。どうして外ではツンツンしてるんだか。人見知りか。俺と同じか。

颯忌も一緒に来ることになり、走るのを止めて歩いて行くことに。……しかし、2人してまともに七夕を祝った事が無い事に気付き、揃って苦笑い。俺は先生の陰に隠れていたし、颯忌はそもそもしていなかったんだそう。話せば話すほど、颯忌が中々に貧しい家庭だった事が分かる。のだが、何故あそこまで上等な服(ボロボロだったが)を着ていたのだろうか。……分からない。普通に分からない。

「なあ、颯忌」

「何?」

「……自分が産まれてから、最初の記憶ってどこに居た?」

「えっ、と……人里近くの草むら辺り。でも何でそんな事を?」

「いやな?まともに祝った事が無い程に、颯忌が過ごしていた家が貧しかったのは何となく分かるんだ。でもな、俺は物凄い不思議に思うんだ。()()()()()()()()()()?」

「言われてみれば……()()()()()()()()()()()()。……ねえ、何が聞きたいの?」

「……似てるな……そもそも普通の服なら俺が小さくされた時にだぼだぼだった筈……」

「霊夜?りょーうーやー?」

「となると紫が用意したのは嘘なのか?だとしたら颯忌も同じって事に辻褄が合う……でも誰が?俺と颯忌を知っていて、必ずサイズの合う服(こんなもの)を作れる程の人物……」

「むうぅ……そりゃっ!」

「わぎゃ!」

どうやら、深く考え事をしていたらしい。颯忌は、ここに来てからよく笑い、滅多に不機嫌な顔をしなかったのだが、物凄い不機嫌な顔で俺の尻尾を引っ張るぐらいには不機嫌にしてしまったらしい。失敗失敗。

「いつつ……えーと、今言ってたのが聞こえてたならあまり言う事は無いんだけど、要するに俺も似たような状況だったんだ。この服も何だかんだ言ってずっと着てるし」

「……そうなの?じゃあ同じ所で産まれたのかもね」

「そうだな、同じかどうかは別として近くかもな」

「生き別れの兄妹だったりして」

「えぇー?」

でも気のせいか、俺と居る時はかなり楽しそうだったりする。でも1番懐いているのはミオである。俺は咲夜に続いて3番目。

さてさて、そんな事考えてたら玄関に着いた。今は昼なので門番か庭師として居る筈なので、まあここしか行く場所が無い。と言うか美鈴と聞いたら自然と庭か正門へ向かう程だ。

「……寝てるな」

「寝てるね」

「ぐー……」

なんとまあ、最近暑いのに凄いものである。そんなんだからナイフ刺された所だけ日焼けしなくて、変なぶち模様が出来るんだ。因みに言うと、再生した時、皮膚の状態が元に戻るからである。

と、その足元に見慣れたサイドテールが揺れていた。

「あれ?大妖精も一緒なのか」

「……となると、この水溜まりはチルノちゃん?」

「正確には、チルノだったものだけど……まあチルノだろ。いいや、俺達も寝ちゃおうぜ」

「またぁ?咲夜さんに怒られるよ?」

「……ま、そん時ゃそん時さ」

もう……とか何とか言いながらも、結局一緒に寝ている颯忌は、ひょっとしたら押しに弱いのかもしれない。……なんだ今日の俺、やけに推理してんな。もしかしたら昨日読んだ『シャーロック・ホームズの冒険』が原因だろうか。多分そうだ。となるとワトソン君は誰だ。分からん。

「ぅぅ……ん、むにゃむにゃ」

おっと、寝入る前に大妖精が目を覚ました。面白そうなので起きとこう。

「ん……ふあぁ……あ、霊夜君……おはよ……」

「おはよう、大妖精。……あーもう、大妖精って言いづらい……」

「ふふふっ。……でも一応、ホントの名前は言わないでくださいね?」

「分かってるよ。登場してる本読んだけど、結構な大役だったしな」

「え、そんなのあったんですか!?あうぅ、知らなかった……」

顔どころか耳まで赤くして俯いた大妖精だが、俺は(少しの間とは言え)ホントに凄い妖精に育てられていたんだなぁとしみじみ思う。……しかし、あの本に書いてあったのはもうちょい大人だった筈だが……まあ、そんな事はいいか。

しかし冗談抜きに眠くなってきたので、とりあえず昼寝する事に。1つ欠伸をして、一言断ってから寝る。ま、一応ね?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「ふあぁ……うげ、もう夕方?」

「おそよう、結構焼けてるよー」

「え、マジか……いたたたたたっ、痛いからペちペちするな!本気で痛い!」

「あははっ、面白ーい」

……目的を完全に忘れていたが、美鈴に笹持ってないか聞くんだった。丁度美鈴も起きた事だし、早速聞いてみた所――

「え?私は持ってませんが……笹なら迷いの竹林にありませんか?」

「……あのな美鈴、実は笹と竹って似てるけど別物なんだよ」

「え、そうだったんですか!?」

「はえー、知らなかった……」

意外と知られていないが、本当に別物である。嘘は言ってない。というか同じだったら美鈴に聞かずとも迷いの竹林にひとっ飛びしてる。

「……確かに。うーん……となると……」

「笹ならさっき買ってきたわよ?」

さてさて、ここで出たのは咲夜さん、ほんとにハイスペックメイド過ぎて。絶対レミィが可決した途端に買いに行ってただろ。

「本当!?咲夜さん!」

「ええ、本当よ。ほら」

「わぁ……ありがとう!」

ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ颯忌を見て、咲夜が普通に笑っている。……あれ?今俺かなり珍しいものを見たのでは?

「さて、そんじゃレミィに行ってくるか。なんか要らない白紙で短冊作る」

「もう作ってあるわ。やるなら完璧にしたいもの」

たまに抜けてるけどな

「何か言った?」

「い、いえ何も。美鈴も颯忌も、短冊に願い事書こうぜ」

「うんっ!」

「そうですね」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

という訳で、大図書館。

「むぅ……願い事、と言われてもねぇ……そんな非科学的なの……」

「まーまー、ゲン担ぎみたいなものだって。『病も気から』って言うだろ?」

「……ま、そうね。なら私は……」

紅魔館メンバー全員が集まり、そして最早恒例となった魔理沙が乱入しての短冊書きとなった。こいつどんだけ紅魔館(ウチ)に来るんだ。

「こあは何にした?」

「うふふー、内緒です。霊夜君は?」

「うんにゃ、見せる前に決まってない。何にしようかねぇ……」

思ったが、こうした日常ってのは良いものだ。異変やら異変やら異変やらで大変で、だからこそ日常がありがたいのだろう。異変に感謝。しかし規模は考えろ。

「……あれにするか」

「でーきた!早速飾ってくるね!」

「あら、フランは書けたのね」

「って言ってるレミィは全く書いてないけど……」

「あらパチェ、私は願いを『叶えてもらう』じゃなくて『叶える』方だからいいのよ」

ふふん、とドヤ顔するレミィだが、それが無ければカッコ良かったのに。いっその事『カリスマが欲しい』とでも書いとけ。

 

 

「……ん、しょっと」

妖精メイド全員の分も飾ったら流石に笹が折れる上に見えないので、それぞれの班長だけにさせてもらった。許せ、多過ぎて未だに覚え切れてない妖精メイド達よ。

「ミオで最後?皆飾った?」

「はーい!」と妖精メイド達&颯忌とフラン。「はい」とその他のメンバー。さて、こいつはどこに飾るか……

「これ屋上に飾るか?それとも中庭?」

「屋上にしましょう。その方が広いし」

「よし、皆続けー」

「「おーっ!」」

……しくじった。運ぶんなら運んだ後で飾れば良かった。でもまあ、美鈴がどうにかバランス取りながら飛んでるので大丈夫だと信じよう。

 

少女行進中……

 

「はー、けっこう擽ったい……」

「まあ、あんだけわしゃわしゃしてりゃあな。それよりほら、空見てみ」

「え?……わあ!」

俺の言葉を聞いて全員が一斉に上を向くと、そこには――

 

空いっぱいに、星の列が広がっていた。それはまさしく川の様で、説明しなくともあれが天の川であると分かるだろう。他にも、夏の大三角、射手座、ヘルクレス座等々……

「あ、あれ龍座じゃないか?」

「みたいね。美鈴、貴女の星座あったわよ」

「私は龍じゃないんですが……あ、流れ星!」

「えっ、どこどこ!?」

……いや、違う。これは……

「……流星群だ……!」

「綺麗……」

晴天の夜空に星が降る様子は、とても幻想的で美しかった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

因みにそれぞれの願い事は、

美鈴:昼寝しても怒られませんように

こあ:不明(かなり難しい魔法文字だった)

パチェ:喘息が少しはマシになってほしい

咲夜&レミィ:書いてない

フラン:また皆で遊べますように

颯忌:皆が仲良く過ごせますように

俺:平穏に暮らせますように

だった。妖精メイドの班は結構あるので残念ながら割愛。




はい、1週間遅れて七夕特別編が出された訳ですけども。昨日から書き始めたにしてはかなり多い文字数じゃないでしょうか。因みに4186文字でした。
そして、今回の「忘れてた事案」は10対0で俺に非があります。心待ちにしていた皆さん、大変申し訳ありませんでした。

ではまた次回。


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春眠暁を覚えず

こんにちは、夏休みの宿題にやる気を見いだせないユキノスです。
何故に夏「休み」なのに勉強せにゃならんのか。何故に1番出来ている奴だけに合わせるのか。日本の永遠の謎ですね。

さてそんな訳で、やっとそれらしくなってきた花映塚、どうぞ。


「いいですか小町、貴女には、仕事への責任感が足りなさ過ぎる」

……え、お恐ろしい事あった直後で泣いてる女の子居るってのにお説教始めちゃったよ四季様。いやまあ、聞く限り正しい事言ってるんだけどね?でもまあ、怖がらせても悪い訳だ。

「あのー……四季様?」

「何ですか?すいませんが、今は小町に話があるので……大体貴女は、仕事への責任感が……」

「話題ループしてますよー。……で、小町が仕事をサボって……もとい投げ出して、無縁塚(ここ)に湧いて出た怨霊を追い払ってくれたので、この子……颯忌は今、生きてるんです。だから、どれだけ前科があろうと、ここに来た理由が何だろうと、今回だけは見逃してやってください。……お願いします」

ここまでやっといてなんだが、誰かに頭下げるのは久々な気がする。頼み事もほとんど言ったら即時了承という事がかなりあったので、下げる機会が中々無かったのだ……というのは言い訳に過ぎないか。

ただ敬語は華扇に使って以来使っていないのは確定。むしろよく使い方覚えてたなってレベル。

 

さてそこはどうでも良い。四季様とやらが、小町を叱っていた時と同じしかめっ面で颯忌の方に歩いて来た時には流石にビビった。……あの、流石に「小町とグルだったのか」って聞かないよね?大丈夫だよね!?

という心配も杞憂に終わり、四季様は颯忌の頭に手を置いた。そのまま撫で始めたのを見て、俺もほっと一安心。……というか颯忌、人見知りにも程があるだろ。腕から離れないんだけど。

「……そんな事があったんですね。申し訳ありませんでした」

颯忌を抱き寄せ、静かに撫でているその顔は、数分前まで死神()を叱っていたとは思えない程に柔らかい笑みを浮かべていた。……小町が驚いているのは、恐らく小町本人の素行が悪いせいだと思う。いや、それ以外ありえない。

「……小町、この2人に免じて今回は見逃してあげます。今後の働き次第で、減俸は無しにしましょう」

「分かりまし……ってもう減俸決まってるんですね……」

「当然です。そもそも……」

「ストップストップ、またループするの聞きとうない……」

……ま、春は暖かいから多少はね?――つまり何が言いたいかと言うとだな。眠い。

「……ふわ、ぁ……おぁひゅみ……」

「えっ、あたい無縁塚(こんなトコ)で寝る人初めて見ました……」

「河原で寝ている貴女が何を言いますか。……おや、どうやら颯忌さんも寝てしまったみたいですね……小町、お二人を安全な所へ」

「はいはい、合点承知しましたー」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「霊夜」

「んぅ……むにゃ」

「霊夜!」

「んぇ?……なんだ咲夜か……ふぁ……」

「もう夜よ?何寝ぼけてるのよ」

「マジかよ」

「マジよ。それと、そこの女の子はどなた?」

「え、ああこいつは……」

と、颯忌(そこの女の子)が目を覚ましてくれた。ずっと抱きしめられていた左腕はもう感覚が無いんだが。

「……颯忌。よ、よろしく……咲夜さん」

「ふふ、昔の誰かさんにそっくりね」

「むぅ……あながち否定出来ないのが尚更悔しい」

「……さて。よろしく、と言いたいのだけれど、私の判断だけで貴女を迎え入れる事は出来ないの。だから、お嬢様に相談してみるわ」

「……?」

「えーと、つまり着いてこいって事だよ」

「……分かった」

相変わらず俺の左腕を抱きしめて(もとい締めつけて)、トコトコと咲夜の後を着いていく颯忌だが、流石に風呂や食事くらいはさせた方が良いんじゃなかろうか。足取りも覚束ないし、何より顔色があまりよろしくない。《女の命》とまで呼ばれた髪もボサボサだし……

「その前に」

「ふぎゅっ」

急に止まらないでほしい。ぶつかってる。俺はコケそうになっただけで済んだが、だからってそれで良いかと言われたら分からない。

「お風呂入って、ご飯でも食べましょうか。流石にその状態だと、お嬢様も驚くだろうし」

「あ、やっぱ?……というか、なんか颯忌に会った事すらレミィの能力のせいかと思えるんだが」

「いつもの事じゃない、気にしない気にしない」

「……まあな。ほら颯忌、歩きにくいからせめて手を繋ぐぐらいで我慢してくれ」

「……ん」

おお、聞き分けが良いな。フランも聞き分けが良いが、颯忌も同じくらい良い。ただ、やっぱり離してはくれない。腕だったのが手になった分マシだが。

「……ねえ、霊夜」

「うん?」

「……私ね、あの時……ホントに死んじゃうって思った。オバケに殺されて、二度とお母さんに会えないんじゃないかって思った」

「颯忌……」

「だから……私が今生きてるのは、霊夜のおかげ。……ありがと」

「……何言うのかと思えば……あのな、俺は目の前で人が死ぬ事が大嫌いなんだ」

「……なんで?」

「分からない。その場に立ち会った訳でも、そもそも今の所見た奴が死んだってのも聞いてないのに、おかしな話だよな」

「そうだね、おかしい」

クスクス、と笑っている颯忌だが、下手したら自分が死んでいた事を理解しているのだろうか。どっちにしろ、喰えない奴だとは思った。




幻想郷全図だと、無縁塚と三途の川真反対だぜこまっちゃん!
サボるにしても移動し過ぎ……いや、能力でどこでも一瞬か。

さて置き、花映塚編はもうちょっとだけ続きます。是非とも最後までお付き合いください。……いや、花映塚で終わりじゃないですけどね!?


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颯忌とレミリア、霊夜とパチェ

こんにちは、御岳山歩いて登山するより後の出費計算で疲れたユキノスです。
親よ……計算ほぼ終わった時に限って、説明もせず全く別の計算式出さんでくれや……混乱してまうやろ……

という前書きは置いといて、本編の話します。
前回、無縁塚でずっと座っていた颯忌を預かる事にした霊夜。レミィに頼もう……と、その前に……

ではどうぞ。


……まあ、風呂に入れと言ったのは咲夜だし、ご飯食べておけと言ったのは俺だ。だけどさ、流石に(風呂は流石に別で入ったが)「一緒に入って(食べて)」と言われるとは思ってなかった。因みに咲夜も。

「……ミオ達、前より腕上がってないか?」

「そうね……これは、ね?」

かなり事務的な話(?)をしている横で、颯忌がまあ美味そうに食べること。緩みきった顔、とはこの事を言うんだろうな。

「美味しい……」

「ふふ、あの子達も喜ぶわ」

まさかの感涙。相も変わらず慌てるしかない俺に対し、咲夜はハンカチで涙を拭っていた。もうこの辺俺には無理かもしれない。

「……んんっ。食べ終わったら、レミィの所に行こうか」

「うん……うぅ、少し怖い……」

「うーん、まあ……多少なりとも手を抜いてくれてるなら、俺でも勝てるだろうけど……」

「どうして戦う前提なのよ」

「うっ、それを言われると……」

反対だろうと住まわせる気だ、とは死んでも言えない。何より恥ずかしい。

「……まあいいや、行こう」

「うん」

「痛い痛い、だから手にしてくれって……」

「あ、ごめん」

……しかし、1週間飲まず食わずで生きてる方も不思議だが……普通ここまでの力出るか?人間だぞ?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

相変わらず無駄にデカい扉をノックする。怒らせる事は今の所していない為、特に緊張はしない。

「レミィ、霊夜だ」

「入りなさい」

珍しく(不釣り合いな大きさの)玉座にふんぞり返っている様子を見ると、絶対にこいつが仕組んだ事だと分かる。いくら魔力の感知が出来るとは言え、分からず急に訪ねたなら少しは慌てる筈だから。それが一切無いということは、もう一度言おう。こいつが犯人だ。

「こいつが颯忌だ。お前が引き合わせた哀れな子が、今ここに居るぞ。喜べ」

「ふ、ふ。そうね、喜んでおきましょうか。私の能力(あれ)は絶対ではないもの」

「……それで?その《絶対ではない》確率に勝利した感想は?」

「とても嬉しいわ。ええ、とても。――霊夜、少し席を外してもらえるかしら?彼女と2人で話がしたいの。……大丈夫よ、酷い様にはしない」

「絶対だろうな」

自分でも予想外なレベルで魔力が漏れ、レミィの唇が少し吊り上がった。

漏れ出る魔力と反比例して何故か減っていっている妖力に眉を潜めたが、レミィを信じる事にした。彼女はプライドは高いが、自分がした約束は絶対に守る。

「……分かった。颯忌、頼むから離してくれ痛い」

「……怖い」

「俺もそんな感じだったから大丈夫、お前なら認めてくれるよ。な?」

「……う」

些か不満そうに頷いたが、ちゃんと離してくれた。

部屋を後にすると、ミオがふよふよと飛んできた。……あれ?何故に大妖精もメイド服着てるんだ?

「よ、ミオに大妖精。どうしたんだ?」

「あ、こんにちは~」

「ひゃっ、霊夜君!?」

「しー……ここじゃ何だし、移動しようぜ」

顔を真っ赤にして着いてくる大妖精と、嬉しそうに着いてくるミオ。……大方、遊びに来た大妖精をミオが唆したんだろう。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

場所は移って大図書館。遊びに来ていたフランも交えて、本を読んだり話したりしている。

俺?俺はロッキングチェアに座って、小説読んでる。

「それでね、お姉様ったら酷いんだよ!」

「そうなんだ……なんか私のレミリアさんへのイメージが崩れてく……」

「あはは、お嬢様のイメージなんてそんなもんだよー」

メイドにすら言われてるじゃねえか。悲しいなレミィ。

「……ふぅ」

「おや、読み終わりました?片付けときますね」

「うん、頼む……」

「眠そうですねー、寝ちゃっても良いですよー?」

「……そう、しようかな……」

色々あって忘れていたが、今は普通に夜なのだ。吸血鬼であるレミィやフランは兎も角として、こあも少しは寝ても良いだろうに。美鈴?ありゃ寝過ぎだ。というのは前に言った気がする。

「……すぅ」

眠りに落ちる直前、毛布を掛けられたのが分かった。こあかミオ辺りが、気を利かせてくれたんだろうか。

 

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「すぅ……すぅ……」

船を漕いでいる霊夜だけど、そろそろ起こした方が良さそうだと思う。もう朝どころか昼だから。

「……霊夜、起きなさい。霊夜?」

「んんぅ~……」

「全く……」

どうしても起きないので、後ろに回って耳元で声を掛けてみる事にする。

「霊夜……起きなさい……もうお昼よ……」

「くぅっ、ふ……」

ピクピクと動く獣耳と、ぶんぶんと振っている尻尾がかなり擽ったくて、無意識に色っぽい声が出てしまうのは我慢したくても出来ない。何せ毛並みがふわふわだから。

「うっ、んっ、あっ……」

「……ぅみゅ……おはよ……」

寝起き直後の、とろんとした目でこちらを見る霊夜。どうやら、まだ寝惚けているらしい。

「――『水符』プリンセスウンディネ」

「がぼごぼぼぼぼぼ……」

何となくむっときたので、加減したスペカで起こす事にした。流石に起きただろう。

「……ぶはっ、良かった生きてる!」

「おそよう、霊夜。もうお昼よ」

ぷるぷるとかぶりを振り、髪に付着した水を落としているが、魔力で作り出した水なので乾かす必要は無い。冷たいけど。

「うー、冷たい……」

「早く起きないからよ。――それと、貴方が連れてきた女の子……颯忌だっけ?あの子、ここに住む事になったみたいよ。ミオが言ってたわ」

「ん、あー……分かった、教えてくれてありがと」

「……どういたしまして。それより、ご飯食べないで良いの?」

「あ、そうだった……パチェは?」

「私はそんなにお腹減ってな」

そう言いかけた途端、きゅるるという音が私のお腹から鳴った。

「………」

「……えと、一緒に行く?」

「……行くわ」

何故か霊夜のペースには毎回乗せられるので、いつか絶対にこの謎を解き明かすと心に決めた。

 

それはそうと、その颯忌は名字を貰ったらしい。また『新月』かと思ったけど、今度は『宵呼(よいよび)』だとか。……相変わらずセンスが無い。




眠い。(テンプレ)
山登った翌日朝9時から部活はキツいですぜ旦那……寝かせてくれ……宿題?焼き捨てたい……

そんな訳で、それっぽいのが一瞬で終わった花映塚。もちっと続きます。ハイ。
ではまた次回。


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拝啓、ドッペルゲンガーさん

こんにちは、前書きのネタが尽きそうで尽きないユキノスです。
最近、UNDERTALEのプレイ動画にハマっております。NOXYさんという方の動画ですが、GルートのUndyneがカッコ良すぎてやりたくなってきました。……でもなあ、怖いの苦手だからなぁ……(Gルート2週目のCharaで暗所恐怖症になりかけた人)まあ、頑張ります(何を)。

ではどうぞ。もう前書きに本編の話一切無いのは気にせんでやってください。


「ふん、ふんふーん♪」

「妙に嬉しそうだね、何かあったの?」

何故かひょっこりと俺の部屋に来て、椅子を占拠しているのは颯忌。部屋はある筈なんだが。

それはそうと、こいつ中々に冷めている。前回のは恐らく、精神的に余裕が無かったのでああなっていたのだろう。しかし今は、ハスキーボイスも含めてクールに振舞っている。勿論良い事なのだが、少しは可愛げのある所作が出来ないのかこいつは。

「もしもーし?おーかみくーん?」

「あのな颯忌、俺は狼君でもわんこでもないからな。俺には新月霊夜という立派な名前が――」

「で、何かあったの?それともあるの?骨なら今日のお昼分あるよ~」

「……言おうと思ったけど言うのやめた」

「ちぇっ、ケチ」

「骨は要らん骨は。そもそもそんな暴食はしない」

どっちもどっちな口論だが、俺は本当に暴飲暴食は好きではない。幸せそうに食べているのを見るのは嫌いではないが、幽々子のアレはアウト。いずれ食われそうで怖い。

「宴会だよ。今回は花見も兼ねての、な」

「ふーん……」

無表情を保っているが、口の端がピクっと震え、うずうずしているのは見逃さなかった。素直に行きたいと言えば良いのに。

「そんじゃ、俺らは行ってくるよ。颯忌、まあ適当に何か食っててくれ」

「えっ……」

「そんじゃなー」

後ろ手に手を振り、退室した後扉を閉め、足音を立てて遠ざかった後、飛んでドアの上に待機。すると――

「ちょっ……待ちなさいよ!……あれ?霊夜?霊夜!?……もう行っちゃったの?」

「な訳あるか」

「いにゃあっ!」

変な声を出し、物凄い勢いで後退って行く。……いじりがいがあって面白い。

「で?行くの行かないの、どっち?」

「……く」

「んー?」

「行ーく!だから置いてかないで!」

「はいはい、素直にそう言えば良いのに」

ぐぬぬ……と必死に睨み付けてくるが、正直全然怖くない。何せちっこいから。

「そんじゃ、玄関の辺りに集合だ。俺はちょいと図書館行ってくる」

「はいはい、調べ物?」

「ん?ああ、まあそんな感じ」

実はあの後、華扇に会ったのだが……その時、俺は今日会ったのはそれが最初の筈だ。なのに……

 

 

華扇は、「さっき振りですね。忘れ物ですか?」と口にした。これはつまり、()()()()()()()()()()と考えても良いだろう。……確か、そんな事をする妖怪が居た――と書いてあった本がある筈。具体的に言うと、Cの5段目に。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「よっと。えー……と……」

《西洋怪物図鑑》という、幻想郷でも需要は無いに等しい本をペラペラと捲る。アルファベット順に並んでいるので、Dの項目に……

「……あった。《ドッペルゲンガー》」

ドッペルゲンガー。別名、鏡の中の自分。影の自分、とも。

他者の願いを吸い取り、勝手に叶えてしまう。他者から見れば本人と全く同じ外見なので、見分けはつかない。

「……これ以上は無理か。ページが擦り切れてる」

「何読んでるんですか?霊夜君」

「わぁっだっ!?げほっげほげほ……」

「けほっけほっ……大丈夫ですか?」

「な、なんどが……」

毎度毎度、構ってあげられないからって背後から驚かさないでほしい。あと足の上に本落とした、痛い。

「……《西洋怪物図鑑》?そんなに興味ありましたっけ?」

「う、んー……ちょっと、気になった()があって……」

「どれですか?」

図書館の司書として、譲れないものはあったのだろう。しかし、それにしてはニヤニヤしながら目を光らせているので、少しだけ警戒。ひと月前、この顔で近付いてきたこあが、息が出来なくなる程に擽ってきたのを忘れなんだ。

「んーん大丈夫、もう見付かったから。それより、今回も留守番?」

「はい、私の分も楽しんできてくださいね~」

……少し残念。こあが宴会に参加したのは、紅霧異変のただ一度だけなのだ。それ以外は全て留守番。それで良いのか聞いてみた所、「霊夜君のお陰で大丈夫ですよ~」と言われた。俺をいじって等価値になるのだろうか?なるんだろうなぁ……

「それじゃ、行ってくるよ。……土産話には、期待出来ないと思うけど」

「ふふ、行ってらっしゃい。霊夜君」

……全く、いつまで経っても敵う気がしない。




なんか伏線(それ)っぽい事言ってます。ええ、言ってます。
しかしですね、それが回収されるのがいつになるかは分からない訳あってで(殴)

ではまた次回。お察しの通り宴会です。


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紅き花弁は飛沫となりて

こんにちは、お察しの通り(何を)ユキノスです。
予告した通り、今回は……宴じゃおらー!(懐かしのネタ)
誰と話すか?そんなの俺にだって分からな(殴)
という訳で(どういう訳だ)、花映塚宴会編どうぞ。


「乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

何だかんだ小町と四季様が来ている辺り、魂の輸送も終わったんだろうか。それとも特別に休みを貰ったのだろうか。謎である。

「……人がいっぱい……」

「だから言ったのに……ああそれと、酒飲みすぎるなよ?」

「むー、もう子供じゃないもーんだ」

「はいはい、分かってますよっと」

颯忌は普通に、「聞いた上で流す」事を覚えれば案外楽だったりする。まあそれも、普通に話せる間柄であればだが。

「それじゃ、俺は行ってくるかねぇ」

「どこへ?まさかもう懐郷病(かいきょうびょう)?」

「ちーがーう。友達……はちょっと違うか。とにかく知り合いの所」

「ふーん……居たんだ」

また傷付く事をズバズバと言ってくれるぜこんにゃろう。あ、因みに懐郷病ってのはホームシックの事。覚えなくても大丈夫だと思うよ。

さて置き、実は屋根の上に集合すると約束した人物が居るのだ。許せ颯忌。

「よっと。……よう、影狼」

「ふふ、こんにちは霊夜。いいの?颯忌ちゃん連れて来なくて」

「……落ちた場合の責任が取れないから、な。それが無けりゃ連れてきた」

「そっか……」

永夜異変の宴会から半年経つ事に対して、もう感覚が無いレベルの頻度で会っている草の根メンバーだが、影狼だけというのは久しぶりだったりする。いわゆる「発情期」もあったが、それでも久々なので、少しは態度を崩しても良さげだろう。うん。

「……そりゃー」

「わっ……ふっふっふ、捕まえた。しばらくの間逃げられないよ~?」

「へっ?あ……」

緩いノリでぺしぺしやってたら捕まった件について。

「えへへ~、らいしゅき~……」

……あっ待てこれ影狼少し酔ってるな!?たまたま強い酒飲んだな!?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「影狼~離してくれよ~……」

「やーだ、最近あんまり構ってくれないんだもん」

ぶー、と頬を膨らませて見下ろすな可愛い死ぬ。これで強い酒の匂いがしなければ最高なんだが、そこはもう仕方無い。宴会だし。

「いよっと……あり?先客か、ごゆるりとー」

「あっ……魔理沙ー、おーいちょっと待てーい」

「イチャついてる側で酒飲んでいられる程の度胸は無いぜ」

「うん知ってた。俺もそれはしにゃあああ……」

「よーしよーし……」

「うぅ~……」

なんでこんな撫でるの上手いの影狼(この人)。気持ちいい所と痒い所を的確に、かつ不快じゃない強さ。あーダメになる……

「……んんっ」

「……?」

擽ったさに何度か体を震わせながらも、咳払いの方向に目をやると四季様が居た。小町も一緒。

「あーこんちは……」

「やっ、霊夜。お楽しみみたいだねぇ」

「あれ~どちら様~?」

「幻想郷の閻魔をしております、四季映姫・ヤマザナドゥです」

「閻魔様でしたか~……ええっ、閻魔様!?」

「ぐぇっ!首、首……!」

「あ、ごめんね……」

閻魔様に出会っただけで酔いが覚めたようで、慌てながらも小町と会話を楽しんでいる様子だった。

――で、俺はというと……

「……なんで俺境内の端(こんな所)に連れてこられたんでしょうかねぇ……」

()()には少し話があります。ですので、こちらに移動していただきました」

「は、はあ……」

さりげなく女扱いされたみたいだが、俺が男か女かは分かっている……筈。となると、本当に分かっていないか、それとも別の理由が――

「――しもし?もしもし!」

「へっ、あっ、はい!」

「全く……返事をしてください」

「はい、すいません……」

溜め息を吐き、目付きも空気も変えた閻魔様は、やや低い声で話し始めた。

「……貴方そっくりな別人に、会いましたか?」

「……え?いや、会ってないです……でも、華扇と会話した時に存在は知りました」

「それについてですが……()()は、『新月霊夜』と名乗った上、人殺しをしています」

「何……!?」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

人里近く、妖怪の樹海

「ハハッ、散々馬鹿にされてた奴に殺される気分はどお?ねえ教えてくれよ!」

「ガ、ハッ……やめろ、ヤメロヤメロヤメロォッ!」

「やだね、辞めないよ。だって、お前は――僕の逆鱗に触れたから」

銀髪の女狼は高らかに笑いながら、男の胸を穿った。その身に、大量の返り血を浴びながら。

「アハッ……次は誰を殺そっかなぁ……♪」

狂った笑い声が樹海に響き、人里にも届いていた。勿論、御阿礼の子にも。貸本屋の娘にも。人里の守護者にも。そして――不死の火の鳥にも。




タグ追加した方が良さそうですね(諦観)。
さてこうなった以上、EXは書き直さなアカンくなりました。なので暫く時間くださいお願いします!
ではまた次回。宴会は続くと思います。


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血の海に沈む狼

こんにちは、書き溜めていたEXをマジで書き直しているユキノスです。4話全部だわーい(白目)
さて置き、話す事が無いので本編どうぞ。
あ、話す事が無かっただけですよ?


嫌な予感はしていたが、先生に聞きたい事があったので、人里に行く事にした。そしたら、まあ……うん、人里の人間がほぼ総動員で出てきた。しかも武器持って、すんごい険しい顔で。……だよねぇ……そりゃそんな残忍な事件起きてんだもんねぇ……

「――信じてもr」

「黙れっ!貴様のせいで、何人もの人間が死んでいるのじゃぞ!」

「……弁明はダメか」

そうだそうだー!ふざけるなー!という声が爺さん―確か、元退治屋の頭領だった―の後ろから聞こえるが、天命に誓って俺じゃない。そもそも、幻想郷縁起に能力とか載ってなかったか?見てない?ならしゃーな……くない。と言うか人間を殺すだけなら妖怪全員が出来る。

「ふん、しらばっくれても無駄じゃぞ!証拠はあるんじゃ!」

「いや、そう言われても……」

「これが証拠じゃ!」

(あ、見せてはくれるんだ……)

爺さんが何やら紙を突きつけて来た。近過ぎて見えない。

「……えーっ、と……?」

少し離れて見てみると、どうやら人里の人間の死亡記録みたいだ。しかもよく見てみると、俺が人里に来ている日曜日()()()かなり多い。理由はバラバラ。実はこれ、数を考えなければそこまで珍しくない。知能を持たない獣妖怪―かなり前に小鈴に襲い掛かったネズミもそれに入る―が人を襲う事はよくあり、その為に退治屋が居る――と先生に聞いた。他には、太陽の畑の花を踏みにじったとかの自殺行為で変死するとか。……まあ、太陽の畑は極稀なんだけどさ。

「――そう言えば、あの宴会も日曜だったな……」

「何を言うか!貴様が何かしているに決まっておろう!」

「いや残念ながら俺は何もしてな」

()()()の逆ギレであんな事をしていたのか!この悪魔が!」

あの時?逆ギレ?何の――待て。俺は昔―正確には10年以上前―、この声を聞いている。思い出すだけで怒りが込み上げてくる、虫の死体を俺に喰わせて笑っていた声。

「……ああ、お前か」

「10年以上前、お前が人里に来てから、人里で亡くなる人が増えているんだ!なのにお前は、先生の元で猫を被って悠々と生き続けた!」

「……そうか。だから俺に虫の死体を喰わせて、ドブ水に突っ込んで、殴って蹴ったんだな。そして、だから誰も止めず、先生の耳にも入れようとしなかったんだな」

「ああそうさ!お前が人里から出てった時、皆大いに喜んだよ!勝手に死ぬだろうってなあ!なのに生きてた!妖怪という本性を現して!お前は、先生を脅してああさせていたんだろう!」

「それなら……それなら、聞いてみるといい。先生は――」

瞬間、激怒の奔流が押し寄せた。

「ふざけるな!」「責任転嫁もいい加減にしろ!」「お前のせいで父さんが亡くなったんだ!」「息子を返せ!」「小鈴嬢も阿求様も脅したんだろう!」「死んで償え!」「そうだ!」「死ね!」「殺せ!」「悪魔を殺せ!」「処刑しろ!」

口々に叫びながら武器を振るい、走り出す。

人々の雪崩の向こうで、1人の女性が駆け寄ってくるのが見えた。先生だ。

「何をしているんだ!」

「先生も悪魔を殺すのに協力してください!あいつのせいで、沢山の人が亡くなっているんです!」

そんな声が聞こえる。だが俺は、大量の人間が押し寄せ、それをミスディレクションにして脇腹に包丁を突き刺してきた子供を凝視していた。

「お前の、せいで……っ、僕は、母さんを亡くしたんだ!」

「よくやった!お前は英雄だ!」

「これで、亡くなった方々にも良い報告が出来るぞ!」

トドメとばかりに刀や槍を振り下ろし、その刃は俺の体と服を―辛くも心臓と首は避けた―大量の血で染めた。

「かはっ……」

「お前の赤い目は、今まで死んだ人間の怨念が溜まっているからなんだろう!だから……その怨みを、解放する!」

「ガッ、アアアアア!?」

ぐしゃっと響いた音が、俺の右目が潰された事を知らせた。頭がチカチカする。視界が紅く染まり始める。だが、嗜虐的な笑みを浮かべたままの顔には、後悔のこの字も無い。誇らしさ、とも違う。恐らくこいつは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

――だが、俺がそこまで考えてももう遅い。俺は今、ここで殺されるのだから。濡れ衣のお陰で、何も出来ずに。

 

 

でも変だな。死ぬ前の思考加速にしては長過ぎる。周りから音は聞こえないし、ゆっくり動くと言うよりも()()()()()()()()()()()()()……いや、止まっている。残念ながら突っ込む気力はもう残っていない。妖怪は精神攻撃に弱い分肉体攻撃に強いが、量は違えど失血死なんて普通にする。そうでなくても、俺は元々人間。しかもいわゆる『なり損ない』だ。

「何やら騒ぎになっているから何事かと思ったら……貴方だったのね、霊夜」

「げほっ、げほっ……原因は俺じゃねーのにこのザマだよ……」

愚痴っぽくなってしまったが、むしろこの状況下で愚痴以外が言えたら凄いと思う。尊敬するね。

「ま、今はどうでも良いわ。永遠亭、だっけ?そこに運ぶから」

「悪い……先生にだけはその事言っといてくれ。……あと、先生が考える安全な人に伝えといてほしいって言っ……とい、て……」

それを聞いた咲夜は、「何を今更」と言いたげな顔で瞬きした。やがて小さな溜め息を吐き、俺の血塗れの首元に手を当てた。

「……脈が弱い。急ぎましょうか」

「……頼む」

俺を姫抱きした咲夜―この時服に付いていた血が咲夜にも付いたが、構う事も無く飛び始めた―が、止まった世界を竹林まで駆け抜ける(正確には飛ぶ)間に、俺の意識がうっすらと遠退いていった。

「起きなさい。死なれちゃ困るのよ」

「……悪い、な……そうだ、もこ姉と行ってくれ……じゃないと……迷、う……」

「分かってる」

そう笑いかけてくれた咲夜の顔は、右半分が欠け落ち、失血によってぼやけた視界では見えなかった。




前書きに書けよって話なんですが、そろそろ2度目のターニングポイントです。次は霊夜の何が変わるでしょう?
ではまた次回。


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血濡れのトラウマ

こんにちは、相変わらず宿題をほっぽってるユキノスです。
今回は、タイトルの割には……まあ、ほのぼのかな?って話ではありません。普通にタイトル通り。あ、基本的には霊夜×鈴仙です。
ではどうぞ。


今日も1人、薬の調合をする。確か今は風邪、切り傷、擦り傷、頭痛の薬が少ない筈……うん、少ない。えーと、薬草は……

「永琳!開けるぞ!」

「何?そんなに急いで……って、何よその傷!?」

「だから急いでんだよ!」

妹紅とメイド―確か咲夜と言ったか―が、大慌てで駆け込んで来た。その腕に、血だらけで片目の潰れた霊夜を抱いて。

「……ああもう、何だってこんな時に……ウドンゲ!今すぐ来て!」

「こんな時?」

「今切り傷用の薬が少ないのよ!急いで調合しないと……!」

「何ですかししょ……うわっ、酷い傷!」

「私は薬の調合をするわ!貴女は応急措置をして!」

「はっ、はい!」

バタバタと忙しなく動くウドンゲの声を聞きながら、私は切り傷用の薬を大量に――それこそ当初の予定を大きく上回る量を作らなくてはならなくなった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

――気付けば、自分がやや透けている。声を出すことも、動く事も出来ないけれど。

 

――ああ、俺は死んだのか。間に合わなかったか。……そうか。悲しませてしまったか。

 

――ふと、妖怪の樹海―人里の裏辺りにある―に目をやると、銀髪の女狼がいた。

 

――彼女は狂喜しながら人を嬲り殺し、死肉を食い千切り、返り血を舐めて快楽を得ていた。

 

――そんな彼女の、紅い硝子の様な瞳が、こちらを向いた。

 

――一瞬にして眼前に迫っていた彼女は、綺麗な顔だった。しかし、そのあぎとを開いた瞬間、俺は彼女への評価が間違っている事を悟った。

 

――鋭い牙、不定形なものが蠢いている口内、喉から奥は虚無にも等しいレベルの暗さだった。彼女はそのまま、臼の様な歯で俺を噛み―――――――――――――

 

 

「―――うわあああああっ!……はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

「わわわ、大丈夫ですか?随分(うな)されてましたけど……汗もかなりかいてますし」

「え?……あっ……ああ……」

――悪夢だ。そうとしか言えない。自分そっくりの化け物に食われる夢なんて、誰が良い夢だと言えようか。

「……君、霊夜君!」

「っ!?……な、なんだ?」

「やっと返事した……汗拭きますから、服脱いでください」

「わ、悪い……」

消毒液の匂いがする、真っ白な甚平の上を脱ぎ、傷の状態を確認。右目は……潰れたままだ。微かに霊力を感じるから、破魔の札と似た様な物で治癒が邪魔されているのかもしれない。だが、体中にあった切り傷はほぼ治っていた。

「……しかし、凄い筋肉ですよねー……羨ましいです」

「えっ、そうか?俺の中の鈴仙は華奢な兎(笑)だったんだが……」

「(笑)ってなんですか(笑)って……これでも月の軍人なんですよ?」

「へー……軍人ねぇ……」

「あっ、今失礼な事考えましたね!?」

「いやいや違うよ。鈴仙みたいな女性も、月じゃ戦わされてたんだなぁって思っただけさ」

ほんとですかー?と疑ってくる鈴仙の顔は、少しだけ膨れている。ちょっと可愛い。

「あの、霊夜君」

「ん、なんだ?」

「……弾幕ごっこの時どうするんですか?」

「あー……霊力とか頑張って感知しようかな」

「ゑっ、そんな事まで出来るんですか?」

「んー……まあ、完全ではないけど。あと、どれくらい寝てた?」

「えー、と……4日ですね」

「4日ぁ!?」

「わ、びっくりした」

……通りで色々細い訳だ。あー、また肉付けなきゃなぁ……

そう頭の中で呟いた瞬間、あの妙に生々しい喰われる感触が蘇った。

「……うぶっ……鈴仙、洗面器か何か無い?」

「え、今ですか!?ち、ちょっと待っててくださーい!」

気持ち悪い、と言うか……何だろう、いつか感じた『矛盾』みたいな……そうじゃない様な……

――ねえ、聞こえる?霊夜。

誰だ!と声に出したら絶対吐くので口にはしない。だが伝わりはしたらしく、声の持ち主―紫と会った時に聞こえたものと同じ女声だが、あの時より優しい雰囲気がある―は自分は何者かを語り始め――

「はいっ、こちらに!」

――る前に、洗面器を持った鈴仙が戻ってきた。

そこに吐いたのは、胃酸だった。思えば、4日間昏睡という事は何も食べていない。

――なのに、吐き気は止まらない。涙も出てきた。

「かはっ、うぉえ……っ」

何も出なくなったが、まだ止まらない。――トラウマ、だろうか。それとも、あの悪夢の反動か。

色々な事があって、頭の中はぐちゃぐちゃになっている。様々な処理が頭の中で行われているが、これ以上考えていたら狂ってしまいそう。そう感じた俺は、意識を手放した。




因みに俺(作者)の中の鈴仙は、真面目な苦労人って感じです。涙目がよく似合(殴)
最後の方の声、何者でしょうかね?
ではまた次回。


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紅魔の激昴

こんにちは、ユキノスです。
今回はグロい、というより重いです、ハイ。
ではどうぞ。


「……あ」

あれからしばらくして、瞼を開いた。ぼんやりとした視界の端に、見慣れた蝙蝠の翼がパタパタと動いていた。

「やっと起きた?つくづく、貴方は私を心配させるわね」

「レミィ……ごめん、本当に」

「……いいのよ。貴方が、私達を気遣ってくれていたのは分かっている。それに――貴方には恩もある」

「俺、に……恩?」

「ええ、大きな大きな恩。……でもだからこそ言わせてもらうわ。――歯を食い縛りなさい」

レミィは椅子から立ち上がり、俺に歩み寄り――パチンッ!という大きな乾いた音が響いた。何が起きたか分からぬまま、俺はベッドから落ちた。

「っ……!」

「――ふざけるな!お前は……お前は、まだ愚行を繰り返すつもりか!8年前に、1人で人里へ行こうとして野良妖怪に殺されかけた事を忘れたか!新月霊夜!」

相手が怪我人であることなどお構い無しに、レミィは怒りを顕にしている。

胸ぐらを掴んで引き寄せられ、尚も叱責された。

「自分が人間より勝っているとでも思ったか!お前は子供以下だ!聞き分けも無い、危険に自ら突っ込んでいく、それなのにいつでもヘラヘラと笑いながら……!私達が、どれだけお前を心配したか!殺されかけたと聞いて、どれだけ焦ったか!……お前は、愛を与えられるのが当たり前だと思っていたのか?大間違いだ!」

「っ…………」

その全てが心に刺さり、全てが正論だった。思えば、俺は大抵の事に首を突っ込み、大抵の事で助けられて生きている。西行妖の件が最たる例だ。

「愛を与えられない奴などそこらに居る、大勢居る!お前の様な例が珍しいだけだ、()()()運命に選ばれたからと自惚れたか!」

「レミィ、今……」

「お前は、紅魔館の皆に愛されてきた。だが……それは私達が妖怪だから。人間とは違う基準で、人間とは違う世界で生きてきた私達は、人間の世界で捨てられたお前を受け入れた。運命に選ばれたから、というのもある。だがそれ以上に、お前が不憫だと思ったからだ、あまりにも憐れだと思ったからだ!……なあ、これ以上私達を……悲しませないでくれ……!お前が望むなら美鈴だって、咲夜だって、小悪魔だって、パチュリーだって、フランだって、私だって共に行こう!だから……誰も知らない所で、死にかける様な真似は2度とするな!」

途中から泣きながらの説教だったが、それだけ大事に思われていたのだろう。……そう考えると、かりちゅまとか言って馬鹿にしていた自分を叩きのめしたくなってきた。

「……ありがとうレミィ、目が覚めた。誘拐でもされない限り、今度からは誰か連れてくよ」

「フン、是非ともそうしろ。私とて、お前を失いたくはない」

そう言い残して、レミィは去っていった。どうやら1人で来たようで、誰も伴わず飛んで行った。……良い事言ったのに、最後の最後で自分が出来てないのがとても残念だが。

「でも……そっかぁ……」

小さなモミジが頬に残ったまま窓を見上げ、改めてレミィの優しさを感じた次の瞬間。

ドタドタと廊下を走る音が聞こえて、雰囲気がぶち壊された。

「だっ、だだだ大丈夫でしたか!?なんか物凄い声で説教されてましたけど」

「え、あー……うん、大丈夫」

頬はまだ熱を帯びているが、首の骨は無事なので加減してくれたのだろう。その辺やっぱり優しい。

「良かったぁ……何かあったら私、師匠の実験台にされる所でしたよ……」

「怖っ……レミィが加減してくれて良かった……」

「ホントですよ……あ、汗拭きますねー」

「はいはい」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

さて、汗を拭いてくれている間に俺の出自でも考えてみよう。生まれたばっかの記憶は無いにしても、最初の記憶が霧の湖の辺りに転がされてたぐらいだから我ながら謎だ。

「紫に聞いてみるかぁ……どうせ知ってそうだし」

「あー……あの胡散臭い人ですね。何を聞くんですか?」

「俺の出自。ずっと分からないんだ」

「そうなんですか……」

暇なので、なんでなんですかねーと言いつつテキパキと仕事をこなしていく鈴仙をしばらく眺めている事にした。全部きっちりと揃っているので、こんな所にも癖が出ているのが笑えてしまう。

「はい、終わりましたよ。あとは永遠亭の中を散歩でもしててください」

「了解。それじゃあ、輝夜の所に行ってくるよ」

「分かりました、それでは」

ぺこりと頭を下げ、多少ふらつく足で輝夜の部屋に向かった。……飛ぶのはもう少し後で。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「輝夜ー、霊夜だけど」

襖越しの為小さい声で「どうぞー」と返ってきたので入ると、寝間着から着物に着替えている輝夜が――待て、おかしいだろ。何が「どうぞー」だよ。駄目じゃないかよ。

襖を閉めると、大声で笑っている輝夜の声が聞こえたので「やられた!」と思いつつしばらく待っていると、着物に着替えた輝夜が笑いながら出てきた。

「あーおっかし、驚いた?」

「そりゃ驚くよ。仮にも健全な男性だぞ」

「ふふ、その割にはあんまり赤くないみたいだけど?」

「そりゃ詳しく見てないからな……って見せないでいいから!何がしたいんだお前は!?」

「冗談よ。……で、何か用かし……ら……」

余裕ありげに笑っていた輝夜だが、俺の右目を見た途端に笑みが掻き消えた。

「どっ、どうしたのよそれ!?治る!?治らない!?分かった治――」

「わっわわっ、分かったから落ち着け!正直に言うと分かる限りもう治せない、だからとりあえず俺に覆い被さるの止めてくれ!変な誤解生むから!」

「……そう。ダメなのね」

間近に迫った輝夜の瞳が半分閉じられ、右の瞼に華奢な指先が当てられた。

「……ねえ霊夜、約束してくれる?もうこんな怪我しない事。これからは永遠亭(ここ)には遊びに、またはお客さんとしてだけ来る事。……今度病人か怪我人として来たら、お仕置きするからね?」

「……ああ、約束する。指切り、やるか?」

「いえ、破ったら罰ゲームだけにしておきましょう。た、と、え、ばぁ……」

「……?」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……なあ、ほんとにこれで良いのか?」

「私が良いって言ってるんだから良いのよ。あー、柔らかい……クセになりそう……」

「そんなかなぁ……」

今何してるかと言うと、永琳に薬を作ってもらって、霊夜を一時的に小さくして私の膝の上に乗せてる、としか言えない。

霊夜の女性にしか見えない上に美人な容姿、そして狼の耳と尻尾は、何とも言えない魅力を放っている。

「は~……もこたんはこんな柔らかい感触をしょっちゅう味わえるのね~……ねえ霊夜、こっち向いてくれない?」

「え?良いけど……わっ、んっ、くぅっ……」

耳を擽っていると、何と言うか……エッチな声で喘ぐのは、狙っているのかしら?霊夜の声、女性って言ってもあんまり違和感無いぐらいの高さだから生々しい感じがして、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるんだけど……

「耳、はっ……あんっ、まりっ……んっ、やら、ないで……っ」

「その割には、尻尾振ってるけど?」

「いや、嬉しい、んっ、だけど……その、敏感だから……」

語尾がボソボソとしていたが、要するに性感帯だからあまり弄らないで、という事らしい。

「……ふふっ、分かったわ。代わりに、頭を撫でているのは良い?」

「……うん」

私の服をぎゅっと掴み、ほんのり赤い顔で頷く霊夜は、もしかしたら女性より女性だった。

……惚れそう。




レミィのカリスマは無限大(ブレイクも無限大)、いいね?
さてそんな訳で、重い話(前半だけ)でした。
しかし……霊夜みたいなのを男の娘と言うんでしょうか?それとも性格言動込みで男の娘?うーむ謎だ……
ではまた次回。


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与えられたもの、与えたもの

こんにちは、ユキノスです。
花映塚も終盤……どころかもう終わってるんですが、今回は今までで言うEXです。
ではどうぞ。


「よーっす美鈴ー起きてるかー?」

「起きてますよー、と言うか起きてるから庭の手入れしてるんですよね!?」

「いや寝ながらやってんのかなーと」

「夢遊病じゃないですから!」

今日は(あるいは今日も)美鈴と色々話していた。花言葉、誕生花、育て方、手合わせにおける体の運び方、弱点等々……話題は尽きない。

まあここまではぶっちゃけ言わなくても大丈夫な所。問題は、どこから嗅ぎ付けたのか紅魔館の門辺りに沢山居る人間達だ。しかもご丁寧に全員男、年齢はアンタもうそろ死ぬんじゃないのと思いたいぐらいの爺さんから、寺子屋に通っているであろう子供まで、全員包丁やら刀やら斧やらと武器を持っている。

「遂に来ちまったたかぁ……にしてもよくルーミアに喰われなかったよな」

「……あれが、霊夜君を攻撃した人達ですか?」

美鈴が、かつて感じた事の無い程に激怒しているであろう事は明確だった。

「……答えを聞く前に、これだけは言っておきます。手は出さないでください」

「なんで……なんでだよ!美鈴!」

「尚更です!霊夜君は……」

「これは俺が引き起こした事だ!……俺にだって、解決する責任ぐらいはあってもいいじゃないか……」

大切だ、とか言いたかったのだろうが、これは俺が引き起こした事。美鈴だけで行かせる訳にはいかない。

「……でも」

「無茶なのも分かってる、我儘なのも!勝手に1人で行って、勝手に死にかけて、心配掛けたのも!迷惑掛けたのも!知ってるよ!だけど……だけど……!」

「……分かりました」

微笑んだ美鈴から手刀が繰り出され、正確に延髄へと入ったそれは、俺の意識を一撃で奪った。気絶する直前、「ごめんなさい」と聞こえたのは、幻覚ではないだろう。

「……ごめんなさい、霊夜君。これは……私の我儘です」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……!」

勢いよく起き上がると、ガシャアン!という大きな音がした。同時に首も引っ張られ、どうやら繋がれている事が分かる。そして、檻と鎖がある場所と言ったら、俺は1箇所しか知らない。

「……牢屋?なんで……」

「そこはもう牢屋じゃないわ。お仕置き部屋よ」

靴の音を響かせ、暗闇から見慣れたメイド服が見えた。

「咲夜……」

「貴方はしばらく、ここに居てもらうわ。安全上の理由と、お嬢様の判断で」

「っ……」

一度、頭を冷やせという事だろうか。この薄暗い檻の中で、首を鎖に繋がれて。

「……分かった。どれくらい居たら良い?」

「私は分からないわ。時が来れば、お嬢様が鍵を開けてくれる。それを待つことね。ああ、食事はちゃんとあげるわよ」

この際、食事をくれるだけでありがたいと思うべきなのだろうか。それとも、こんな所に閉じ込めやがってと恨むべきなのだろうか。――ほぼ間違いなく、前者だろう。

少し下を向いた間に、咲夜はもう居ない。ここは地下だが、地上の音はほぼ聞こえないので、美鈴があの後どうなったかも分からない。パチェはきっと心配するが、鍵を開ける事は出来ない。言わずもがなこあも。

 

 

思い返せば、本当に1人というのは初めてかもしれない。いつでも、誰かが側に居たから。

大妖精が、チルノが、ルーミアが、響子が、ミスティアが、リグルが、先生が、もこ姉が、ミオが、こあが、パチェが、美鈴が、咲夜が、レミィが、フランが、わかさぎ姫が、影狼が、蛮奇が、霊夢が、魔理沙が、アリスが、颯忌が……必ず、隣に誰かが居た。必ず、何かあったら助けてくれた。狼男でも、人狼でも、それどころか妖怪かすら怪しい俺の為に。少し離れただけなのに、会いたい。

「……皆……」

涙が込み上げてきた。拭ってくれる手は、当然ながら無い。ただ、重力に従って流れるのみ。

そう思うと、ずっと柔らかいぬるま湯に浸かっていた俺には、冷たく硬い檻の中が丁度良いのかもしれない。

 

 

 

 

それからというもの、色々な人が来た。

霊夢は、少し心配しつつも鼻を鳴らして去っていった。

魔理沙は、いつもの人を小馬鹿にする様な冗談が出てこないようだった。

美鈴は、数えきれない程の傷を彼女なりに隠して笑っていた。

パチェは、「早く出てきて、いつも通り本でも読みなさい」とだけ言っていた。

咲夜は、食事と風呂代わりの濡れタオルを持ってくるだけだった。

フランは、鎖を壊そうとしていたので止めた。

こあは、鉄格子越しに一度だけ頭を撫でてきた。

アリスは、上海と蓬莱を連れて悲しそうに見つめていた。

大妖精とチルノは、「また遊ぼう」と言ってきた。

ルーミアは、鎖を噛んで「固くてまずい」と感想を述べた。

ミスティアは、ヤツメウナギの屋台を始めた事の報告と、短めの歌を歌った。

蛮奇は、影狼には「風邪だけど伝染るといけない」と伝えている事と、わかさぎ姫からのメッセージを読んでくれた。

 

 

檻に繋がれ、何も喋らない状態でも、咲夜を除いて3日に1度は誰かが来た。よくよく考えれば凄いことだ。喋らず、動かない奴を相手に、ただ喋り続けるのだから。

そんなこんなで、1ヶ月も経った頃。パチェが、()()()()()()()()




前回「重い」って言ったのより断然重かった(予想外)。
花映塚でこれとか待てや……そんな暗い話ちゃうやろ……
という訳で、花映塚EXもそろそろ終盤です。
ではまた次回。


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我儘

こんにちは、ユキノスです。
そして申し訳ない!前回の最後、『レミィが(以下略)』の所、『パチェが、()()()()()()()()』でした!何故間違えたのか?寝惚けてたのかと!(てめぇ)

……はい、書き手としては最悪クラスの大間違いをした所で改めて、なんかもう色々ごめんなさい。


ではどうぞ。上記以外の変更点はありません。


「起きなさい、霊夜」

「う…………パチェ?」

「あら、ご不満かしら?折角鍵を開けてあげようと思ってたのに」

鍵を指に引っ掛けてクスクスと笑うパチェに、どこか違和感を覚えた。どこだろうか?それとも気のせいだろうか?

「そう、だな……不満な訳じゃないさ。ただ、牢屋の鍵(それ)首輪(これ)の鍵は違ってる筈だろ?」

「……え、ええ。だから首輪の鍵(それ)も持ってきてるわ」

「それともう1つ」

「……何?」

露骨にイラついている様子だ。……おかしい。普段のパチェなら微笑程度しかしないし、何より話はちゃんと聞く。ストレス、とも違いそう。決定的なのは──

()()()()()()()()()()()()?」

そう、今俺に装着されている首輪の鍵。そんなものは()()()()()()()()()()()()()。何故なら、首輪の鍵は《呪文》だからだ。因みに俺は知らない。

「っ……何を言うかと思ったら、そんな事ね。いい、それを作ったのは私であって──」

「違うよな?……パチェが来た時には既にあっただろ?前に話していたじゃないか」

「~~~~~~~!」

「なぁ……()()()()?」

笑顔。隈が無い。魔力をそこまで感じない。発言がバラバラ。血色も良い。そして何より、俺の安全を考えているなら間違いなく出そうとしない筈。

「……ふ、ふふ。あはは、あははははははははははは!」

「…………」

「あーあ、流石にバレたみたいだね」

ぐにゃり、とパチェの見た目をした何かの形が歪み、戻った時には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()狼女が居た。

「こんにちは霊夜君、死んで?」

「がっ……!」

狼女が妖力を放出した。ただそれだけで檻ごと吹き飛んだ俺は、しかし首輪の鎖によって少し止まった。だがそれも所詮は少し、すぐに根元が砕けた。加減されたのか馬鹿にされているのか天井に背中を強く打つだけで済んだが、パチェに化けていた時はしなかった強い血の匂いがする。

──こいつだ!

しかし、人里で問題になっている人殺しの犯人が分かったとは言え、俺に似ている以上は《そっくりな代わりを探してきただけ》と一蹴されるのがオチだろう。となると、俺はもう人里に入る事は不可能に近いという事が決定した。

「……いや、今はそこじゃないか」

頬を叩き、頭の中を切り替える。今後の不安より今の修羅場だ。

「あははっ、君に化けてした人殺しは楽しかったなぁ……ねえねえ、もっとさせてくれなぁい?」

「却下。俺は殺しが大嫌いなんだ」

「ちぇー、つまーんなーいのー。あーあ、折角60年に1度の良い機会だったのに」

──こいつ、殺しを楽しんでやがる……!

待て、()()()()()()?こいつ、死者が増える事を知ってたのか?

「……お前の目的は、何だ」

颯忌が聞いたら大爆笑しそうなレベルで(しわが)れた声が出たが……自分も殺されるかもしれないと思えば、こんな声が出てもおかしくはない筈。今はひたすらに、時間稼ぎに徹するしか無い。

(……頼む、誰か来てくれ……!)

いやまあ来るんだろうけど。地下とはいえ一応音は通るので、檻を壊した音やぶつかった衝撃、また妖力は感じられる筈だ。

「っ、あ、が……っ!?」

「あれれ~、どったの?わっ、この鎖重ーい!」

恐らく逃亡された時の足止め用だろうが、首輪と鎖が冗談では済まないレベルで重くなったのがキツ過ぎる。

(動け、な……)

「あはっ、まあいいやぁ。ねえねえ、その右目見せてよ~」

「やめろ……!」

「君の意見は聞いてないの。私が見たいから見るんだよ、分かる?」

そう言って俺の上に跨り、眼帯(右目が潰れているので、前から着けている)を取り払い、右瞼を強引に開いた狼女は──その中に爪を入れ、撫でるように引っ掻いた。

「い゙っ……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!」

眼球の周りの肉を引っ掻かれて叫ばない奴が居たら、そいつはもう人間も妖怪も超越してそうだ。

「あ゙っ、あ゙あ゙……!」

「きゃはははっ、面白い声~。……ねえねえ、もっと聞かせて?」

恍惚とした、甘い蜜を舐めているかの様な顔で、狼女は呟いた。これで発情でもしているのか、乗っかっている所が少し濡れているのが気に食わないが、1ヶ月もの間動いていない体は鈍りに鈍っている。恐らく、今狼女(こいつ)をぶん殴ろうと、大したダメージは与えられない。今は、耐えるしか無いのか……?

「はぁ……可愛い♪ねぇねぇ、私のモノ(オモチャ)になってよー♪良いでしょー、可愛がってあげ──」

言葉は最後まで続かなかった。……いや、続けさせなかった、と言った方が正しいか。

「ハッ、霊夜(そいつ)はお前如きに扱える代物ではない。──失せろ、ハイエナ。貴様には、荒野で死肉を貪る方がお似合いだ」

レミィの槍─それこそ致死の威力を持つ魔槍─が2度投げられ、流石に狼女も舌打ちした。俺で遊ぶ快楽より、致死の槍を掲げるレミィに天秤が傾いたのだろう。俺に跨るのを辞め、寒気がする程の殺気を放っている。

「……ハイエナ?蝙蝠の幼女は狼とハイエナの違いも分からないのかな?」

「分かっているさ。分かった上で、貴様はハイエナだと言っている」

「ふーん。じゃあよっぽど馬鹿なんだね。霊夜()()()()()()()、区別がつかないなんて」

「霊夜は、正確には狼どころか妖怪ですらない。言わば《なり損ない》だ。……だがな、私は霊夜を《飼っている》のではない。1人の《家族》として接している」

「レミィ……」

「だからこそ」

右目は涙腺も取ったので涙は流れないが、左目から涙が溢れた。先程流れた苦痛ではなく、《家族》として認めてくれている事の嬉しさに。

「地の底で悔やむがいい。私の《家族》に手を出した事を。2度と、私から《家族》は失わせん」

高慢で背伸びしたがりな吸血鬼は今、普段の姿を全て捨て、怒りの炎を燃やしていた。




レミィはかっこいい、いいね?

さて狼女ですが、今はなんと名前すら決まっていません。相変わらずの無計画。今だから言えますが、実はこの花映塚EX、当初の設定では人殺しは狼女ではなく、《霊夜を苦しめていた男》でした。それがここまで変わってます。永遠亭では、輝夜に右目を治して貰ってました(これは輝夜の能力としては無理だからという理由があった)。そして、美鈴に気絶させられる事も無く、1人で人間を相手にしようとしていました。
ここまでで何が言いたいのかと言うと、《プロットを書いていてもいなくても、投稿する前だったらいくらでも話を捻じ曲げて良い》という事です。勿論設定はちゃんと通さないとダメですが、書いていて「これで大丈夫かな」「こっちの方が面白いんじゃないかな」という考えがあれば、いくらでも書き直すor別の話を書いても構わないのです。
投稿された後で話が大きく変わったら、勿論困惑するでしょう。ですが、投稿する前、つまり誰にも見せていない状況で大きく変わっていても気付かない訳です。


そろそろ長くなってきたので要約すると、《面白いと思ったものを書く。ただ、それ以上に面白いと思ったもの、または別のものが浮かんだ場合は、遠慮なく書き直し、手直し、別の話を書く等して構わない》という事です。最後に、《我々はプロではなく、趣味として楽しんで書く》という事を忘れなければ、書き手としては十分だと思います。文章力だのストーリー性だの何だの、気にしてどうするんだと。自分が『良い!』と思ったものを書けば良いだけです。書き手を目指す人、もしくは書き手をしている人、ガンバレ!

ではまた次回。後書きに約700字もの長文失礼しました。


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燃やせ燃やせ、どんどん燃やせ

こんにちは、(許可が出れば)やっとバイトを始める事にしたユキノスです。
理由に『何せ金が無いので』なんて書いたら怒られそうなので、何か適当に考えとこ……と思っていたら、なんと期間まで書けやという横暴っぷり。駅近くなので、バレた時怒られない様にと許可を取る事にはしましたが、これは皆許可取らないのも納得でした。因みに、許可取ってから応募するつもりです。

さて、真面目な話に入った本編の話をば。
何やら霊夜にご執心の女狼と、激昂するレミィ。「もうやめて!私の為に争わないで──っ!」と言うのは霊夜の立場ですが、ここは何がなんでも言わせません。ご了承ください。
ではどうぞ。


致死の槍と狂った爪牙(そうが)が激突する度、館に振動が起こる。恐らく、いや間違いなく皆来るだろうが、正直この部屋の中では少人数、下手したら1人の方が戦いやすい。

かと言って、鎖と動いていない体は重く、動く事も出来ない。それと、さっき引っ掻かれた目が滅茶苦茶痛い。だが、その痛みは耐える事にした。俺以上にズタズタにされ、幼い身体のあちこちに傷が出来ても尚退かないレミィが居ると言うのに、俺だけ泣き叫ぶ訳にも行かない。

「っ……!」

痛みを意識から外し、力の入らない体に鞭を打って立ち上がる。鎖はバカみたいに重いが──動ける。

手を前に突き出す。呪文の詠唱を始める。やがて、掌に炎が収束してくる。

「カルラ……パラスピア……ポルツァーナ……」

「あはっ、起きたぁ♪」

女狼の首がぐるんと後ろを向き、普通なら有り得ない格好になった。改めて正面から向き合うと、この女の狂気が目に見えて分かった。

まず瞳孔が開いている。何もしなければ可愛らしい顔だが、ギョロリとした瞳と裂いたような口が全てを台無しにしている。背格好は普通。髪もよく見れば蠢いているようだ。

「食 べ さ せ て ェ ッ ♪」

「ぐあっ……!」

レミィの拘束を瞬時に解き、体の向きを戻しながら駆け寄ってくる女狼の光景は正直ホラーだが、そんな事に構っていたら死ぬ。深呼吸し、意識を集中させ、掌に集めていた炎を指先──人差し指の先にのみ集め、圧縮。鈴仙が前にやっていた、《銃》というらしい武器の模倣。それを今、ここに再現させてやる。

「アハッ、アハハハハハハハハハハハ──」

「うるせえ」

ピュウッ!と空気を鳴らして唸った炎の弾丸は、女の口を貫き、喉を焼き、恐らく胃か腸に着弾し──爆ぜた。

「ぐおっ……!あちっ、あちちちちち!」

「っはぁ、はぁ……、あぁもう、何よアレ……」

「知らん、そんなもん俺が聞きた……い……」

そろそろ鎖の重さを堪えるのもキツくなってきた為、ドサッと座り込んだ。そこまでは良かった。問題は、女狼(だった肉片)が、ピクピクと蠢き、1箇所に集まっていく事だ。常識的に考えて、これは──

「肉片1つ1つ焼き尽くせ!再生する!」

「っ、あ────ッ!いい加減にしろ────ッ!」

先程とは別の意味でブチ切れたレミィが、グングニルでグサグサやっているのを横目に、俺は俺でほぼ空っぽの魔力をフル活動させて焼いていく。

「カルラ、カルラ、カルラ……あっ、魔力切れた……」

「何ぃい!?」

結局レミィが一掃し、その後首輪を外された。が、彷徨いて良いのは館の中だけだそう。丁度、前のフランみたいな扱いだ。まあしゃーないか。『災禍の獣』だとか呼ばれてたし。あの女狼だけど。

「……首が、めっちゃ軽い」

「でしょうね、重くなったら60キロあるのよこれ」

「重っ!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

その頃、紅魔館外壁近くでは、うねうねとした肉片が蠢いていた。レミリアが焼き払い切れなかった、たった1つの肉片である。それは、魔法の森を目指して這い進んでいった。




結論:女狼にはまだ名前が無い

ほんっとに浮かばねえ、どうしよ()
最近パズドラのランダンに忙しくて(おい)あまり更新出来ていない状況ですが、どうか暖かい目で見守ってください(おい)。
ではまた次回。


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特別編:1周年記念

こんにちは、めちゃめちゃ遅れて1周年を祝う事になったユキノスです。
9月19日にこれを投稿し始めてから早1年。未だにカセキホリダーの小説は案すら出ないですが、この小説は末永く愛していただければ幸いです。

さてさてご挨拶はそれぐらいにして、今回は中盤をラジオ形式でお送りしていきます(もはや隠さない)。
内容は前回と似たような……と言うかまあほとんど同じなんですけど、今回は霊夜×影狼コンビで進めていきます。あと割とメタ話あるかと思います。てかあります。

という訳で、本番行きまーす!……あ、まだ早い?
ではどうぞ。


朝、いつも通りの時間に目が覚めた。欠伸と共に起き上がり、大きく伸びをする。

「おはよっ、霊夜!」

隣にはフランが居た。吸血鬼にとっては昼が夜で夜が昼な為、頑張って起きたのだろう。帽子越しによしよしと頭を撫で、寝間着から普段着に着替える。ある意味いつも通りの朝だ。フランもたまに起こしてくれる事がある為、そこまで不思議ではない。

「ふぁ……今日は何しようか……」

「あっ、そうだ!お姉様が霊夜の事呼んでたよ?」

「……えぇ?俺だけ名指しで呼ぶとか嫌な予感しかしないんだが」

事実である。この前はそれでラジオに出演させられた。今回もきっと、それに似た類のものだろう。

「分かった、朝食食べたら行くよ。ありがとなフラン」

「えへへ~♪」

何故かは分からないが、フランは俺に対してかなり甘えたがる。何故かはほんとに分からない。ネタ抜きで分からない。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

霊「……で、ほんとにラジオやるのな。あれってそんなに好評だったのか?」

 

影「う、うーん……私にはちょっと分からないかな……」

 

霊「……まあいっか。そんじゃ、始めるとしますかねぇ……こんちわ、最近名字が忘れられそうになってる新月霊夜です」

 

影「え、そうなの?……い、今泉影狼です、よろしくお願いします」

 

霊「はいお願いしますよっと。今回は……今回も質問のお便りが来てるんで、それに答えて行きたいなと思ってる訳なんだ」

 

影「なんか……私達の日常が他人に見られてると思うと照れるね」

 

霊「ン゙ン゙ッ……まず最初のお便り、……えーと、鴉羅雲さんから。『気のせいでなければ、紅霧異変の時より丸くなりました?』……俺そんなにツンツンしてた?」

 

影「してた……って言うより、霊夜人見知りさんだからギクシャクしてたよね。あの後『やり過ぎたかな』って言ってたって大ちゃんから聞い──」

 

霊「わ、わーっ!わーっ!……あー、やっぱ大妖精には敵わないな……そんじゃ次、影狼選んで」

 

影「はいはい、えーと……これっ。えー、東京都……?にお住まいのアザミンさんから。『能力って何なんですか?』」

 

霊「あぇぇ?幻想郷縁起に載ってなかったっけ……?まぁいいや、俺の能力は『月の満ち欠けで力が変わる程度の能力』だよ。新月に近付けば魔力やら妖力が上がり、満月に近付けば下がってくんだ」

 

影「不思議だよねー、でも妖怪の特性上満月に近付けば妖力が増すから……今は変動無し?」

 

霊「そそ。だからメリットが無くなった代わりにデメリットも無くなったんだ」

 

影「だ、そうです。という訳で次の質問、霊夜ー」

 

霊「はいよ。……えー、……なんて読むんだこれ、大……あ、大阪府?にお住まいの……こ、黒隴さん?すげぇ名前だな……『ゆっくりしないんですか?めちゃめちゃアクティブに動いてますが、これじゃタイトル詐欺じゃないですか?』……そう言われても、俺が異変起こしてる訳じゃないしなぁ……」

 

影「かと言って、巻き込まれ体質でもないよね?となると……えーと、紅霧異変が起こした側、春雪異変が頼まれて解決に向かって、宴会……は単に興味持って挑んで、永夜異変は他の妖怪の為に行って……。ほとんどに介入してるね」

 

霊「うぐっ……で、でも花の異変での一件は完全に巻き込まれてたから……散歩が元だし」

 

影「ほんとかなー、その割には文さんに異変の事聞いてたみたいだけど」

 

霊「すいません嘘吐きました。申し訳ありません今度(出来る限り)何でもします」

 

影「ふふ、楽しみだなぁ……さてさて、次の質問はー?」

 

霊「……俺弄って楽しんでないか?」

 

影「気のせい気のせい。……神奈川(かみなかわ)県にお住まいの──あ、神奈川!?ご、ごめんなさい……コホン、神奈川県にお住まいの角砂糖さんから。『なんで服のサイズピッタリなんですか?』……確かに気になる!基本的にそこまで着てる服変わらないもん!」

 

霊「いや、あのー……絶対に満足してもらえる答えはまず出せない。だってそもそも俺が聞きたいし。……信じられるか?これ12年前から着てるんだぜ。洗ってるけど」

 

影「じゅっ……ええ!?色落ちも解れも無いし……謎が増えちゃった」

 

霊「まあいずれ分かると信じよう。んで次、は……えー、太陽の畑在住、藍里さんから。『今度、尻尾を触らせてもらえませんか?』……なんかこれ系の質問多いんだけど、なんで?」

 

影「私的には『今度』っていうのが気になるんだけど……太陽の畑って時点で嫌な予感しかしないよ」

 

霊「んーとだな……藍里はこの前、俺が太陽の畑行った時に会ったんだ。全体的に青い女の子だったから印象に残ってるよ」

 

影「へぇ~……会えたら会ってみたいなぁ」

 

霊「でもたまに居ないからなぁ……まあアレだ、会えたらその時は呼ぶよ」

 

影「うんっ、楽しみに待ってるから。……で、次の質問は……」

 

霊「(答えてなかったんだけど……進んじゃったしとりあえずいいか)」

 

影「はいっ!……あれ、どこに住んでるのか書いてない。えと……QUEST=SIRIUSさん?本名、かな……?」

 

霊「んな訳あるかい。流石にペンネームだろ」

 

影「だよね。えー、『フラワーマスターや小さな百鬼夜行と遊ぶ(意味深)するのはいつ頃になりますか?』……え?」

 

霊「………は?マジで?弾幕ごっこ?正気か?やらないぞ!?いや萃香は前に殴り合い(半強制)したけど、風見幽香はマジでヤバい!怒らせたらもう……死ぬ」

 

影「ひぇっ……ってその口ぶり、怒らせた事あるみたいな言い方なんだけど……」

 

霊「さ、さあ次に行こうか!この話割と物騒なの多かったし!」

 

影「あっ、後で説明してよね!」

 

霊「……あ、そろそろ時間?これで最後?うん、うん、……はいはい、分かってますよ。……だそうだ。この質問に答えるのが最後だってさ」

 

影「そっかー……これ思ったより短いんだね」

 

霊「まあ、質問が無かったか書く気が無いかのどっちかって人が多いんだろ。……あれ、最後も名無し?えー…………って、これ呪文じゃねーか!誰だこんなの混ぜたの!」

 

影「え、えぇ……最後までイマイチ締まらなかったね」

 

霊「前回もこんな感じだよ……」

 

影「あはは……でもまあ、こんな感じが1番なのかな?」

 

霊「だなー。のんびりやって、たまに笑える。そんな生活がしたいもんだ」

 

影「あちこち動くのも良いけど、休むのも大事だよ?」

 

霊「はーい、分かってまーす。という訳で、新月霊夜でした」

 

影「今泉影狼でしたー」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……あー、終わった終わったぁ……」

今俺が居るのはヴワル魔法図書館……の、ソファ。いつも使っているロッキングチェアより、ふかふかなソファにぼふんと……行ったらパチェの喘息が悪化するので、座って脱力するだけにしておく。

「お疲れ様、今日はあの狼女が相手だったのね」

「あーうん、前回の魔理沙より断然やりやすかったよ……でもめっちゃ疲れた、なんかパンドラの箱開けたみたいな感じした」

「……貴方、たまに訳分からない事言うわよね」

「え、そう?」




因みに今回のラジオ形式内で出たいくつかの名前は、実際にフォロワーさんだったり絡みがあったりという人です。書く上でもお世話になってたりします。
そんな訳で、この小説も早1周年となりまして。80話も越えまして。UAも37000を突破しました。
これからも、この小説をよろしくお願いします!
ではまた次回。


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新月の夜

こんにちは、4日連続で4時半に寝た(最後はオールした)ユキノスです。

さてさて、ようやっとEXが終わって事後談。
という訳でどうぞ。今回、さりげなく初めての新月の日の話です。


月が夜空から消える。そんな日が、ひと月に1度だけある。そう、新月だ。妖怪は力を失い、出来損ない()は力を得る。そんな日。

でも、今の俺は妖狼の肉体を持った為、俺の能力(チカラ)と月の影響が相殺されて何も変わらない。

で、だ。新月である今日は《信頼のおける者を連れていく》という条件でのみ、外出が許されている。

「という訳で、もこ姉に来てもらったんだ」

「なるほどね。それで、何するつもり?」

「実は何も決まってない。何せ、庭に出る事すら禁止されてるから身体が鈍っちゃっててさ」

そう、「いつ監視されているか分からないから」とほんとに館の中しか行動出来ないのだ。なので手合わせも、花の手入れも出来ない。お陰でインドア派になる所だった。

「なら手合わせでも……いや、辞めとこうか。折角の外出許可だ、手合わせは無粋だろうし」

「そうだね。……となると………あっ、そうだ!ミスティアが『屋台始めたからぜひ来てねー』って言ってた」

なんでも、鳥を食べさせない為にヤツメウナギの屋台をやるんだとか。同胞が喰われている所を見るのは、やっぱりキツいものがあるんだろう。俺だってキツい。

「じゃあそこに行くか。場所は聞いてるの?」

「……聞いてません」

「ダメじゃん」

「い、いやでも見えてきたから……」

「嘘吐け絶対……あったわ。何だこの示し合わせたみたいな偶然」

「まあまあ、あったんだし良いじゃない」

「……それはそうなんだけど」

やっほ、という挨拶と共に顔を出し、ミスティアが「いらっしゃーい」と返した。お品書きを見ると、人里の居酒屋や魚屋でも売られている魚の刺し身や、『ヤツメウナギの蒲焼き』『雀酒』といった珍しいものもあった。と、ここで気付いた。焼き鳥──というか、鶏肉を使った料理が1つも無いのだ。

いやまあ、ミスティアは夜雀だから出せないのは分かる。しかし、それを言ってしまったらキリが無いのだ。

「──まあ今はいいや、ヤツメウナギを……」

「2つ。それと酒も頼むよ」

「……もこ姉、もしかしなくても常連さん?」

「ん?ああ、割と最初の方から通ってるよ。赤髪の死神なんか、呑み仲間になれた」

「呑み仲間て……今度から、赤髪の死神が屋台に居たら仕事終わったか聞いてから呑ませてやって。ミスティアももこ姉も」

「はいはーい、忘れず言っとくよー。はいこれ、お酒」

「ん、ありがと」

そう言うと同時にお猪口を渡され、酒を注がれたので困惑していると、もこ姉が「いいよいいよ、呑みな」と言いたげな表情(かお)をしていたので、お言葉に甘えて1口。

「……!」

「美味しいでしょ。気に入ってるんだ」

「うん……すっごく美味い。弱い訳じゃないんだけど強過ぎない、それでいてさっぱりしてる」

「ははは、霊夜にも好評だよ。だから自信持ちなって、ミスティア」

「お、お客さん……からかわないでちょうだいな」

ふいっ、と赤面してそっぽを向いたミスティアが何となくおかしくて、もこ姉と2人で吹き出してしまう。もー!と慌てているが、ヤツメウナギが焼けた為一時的に収まった。顔は赤いままだが。

「……はい、ヤツメウナギ2人分!」

「怒ること無いだろうに……ねえ?」

「そうだそうだー」

「霊夜は酒に弱過ぎ、もう軽く酔ってるじゃない……お猪口2杯分で酔える人も今時珍しいわ」

「昔っからそうだよ、こいつは鋭いと思ったら抜けてて抜けてると思ったら鋭いんだから」

「へぇ、妹紅さんにそこまで言わせるとは……霊夜、案外凄いんだねぇ」

「んぇ~?」

「……ダメだこりゃ、完全に酔ってやがる。ほら、ヤツメウナギ食べな」

「んー、いただきまーす……あむっ、む、ん……美味し」

「だろ?結構気に入ってるんだ」

名前の通り鰻ではあるのだが、普通の鰻よりも身は柔らかくほわほわした食感。

「幸せそうな顔してるねぇ……あっ、口の端にタレ付いてる」

「んむぅ……ぱくっ」

「ひゃあ!?」

「えへへぇ……おねーちゃーん」

「わっちょっ、擽ったい!ああもう、ミスティアも手伝って!」

「え、あっうん!って、私に出来る事そんな無いんだけど……」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「むにゃ……」

「起・き・な・さ・い!」

「っんぅ、耳痛くなるからやめてぇ……」

「もう昼よ。珍しいわね、貴方が昼まで寝てるなんて」

「……ほえ?」

瞼を擦り、外を見る。太陽の位置を見るに、なんと本当に昼だ。

「……あれま」

「あれま、じゃないの。貴方の分の朝食は時間を止めてあるけど、ブランチにするからね」

「はぁーい分かってまぁす。……今日は何やろうか」

「ふふ、貴方本当にインドアの方が向いてるんじゃない?」

クスリと笑う咲夜も珍しい──いやちょくちょく見るのだが。でもそうか、インドアの方が向いている、か……

「悪かないかもなー。それじゃ、今日は宝物庫の探検でもしますか」

「そこは危険物があるからやめろと言われてるじゃないの」

「いででででで耳引っ張らな……あっちょっと擽りもしな、あはっ、あははははは!」

暫くの間、ほんっとにのんびり出来そうだ。




霊夜そこ変われ(何度目だ)。
妹紅と一緒にミスティアの屋台に行きたい人生でした。

さてさて、あと事後談(0~2回あるかも?)と宴会挟んで、いよいよ風神録です。バグマリ使えよ、捗るぞ(未プレイ)。
ではまた次回。


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ちびっ子達、集まれー!

こんにちは、好意を抱いている女子と俺の友達がひと月前に付き合い始めた事を知ったユキノスです。
はっきり言います、複雑。
いや友達の方はですね、更にその友達から苦労してたって話を聞いてたんで「あーお幸せに」って思えたんですよ。でもですね、女子の方は……なんとツンデレ属性持ちだった事を知りました。眼鏡っ娘でツンデレで可愛いという圧倒的ヒロイン力ですが、なんかラノベの主人公の友人みたいな関係になるってホントにあるんだなぁ……と思ってしまう次第です。

はいそんな訳で(いいのかおい)、今回はちびっ子達の集合。ルーミアも出ます。さらっと紅霧異変直後以来、実に1年振りの登場ですね。マジかよ。ルーミア推しの方、申し訳ありません。
ではどうぞ。


「「「お邪魔しまーーす!」」」

「あら、いらっしゃい。今日は……5人ね。前も言ったけど、本は大切にしてちょ──」

「だーいじょーぶだってムラサキ!アタイはちゃんと大切にしてるぞ!」

「……チルノちゃん、凍らせるのは大切にしてるって言えないよ……」

「──んんっ、大切にしてちょうだい。私はここに居るから、何かあったら言うのよ」

「「「はーい」」」

凍らせたと聞いて笑った人、なんとこれ事実なんだ。しかもそれが、外の世界(向こう)から流れ着いたただの小説や漫画ならまだ良いんだけどさ……チルノが前に凍らせたのは、(推定)327年前の魔導書。推定、というのは簡単で、凍らせた後に見た為に表紙がギリギリ見えたぐらいだったから。……というのはパチェの見解で、俺は前に見たからこそ分かる。アレは、前に俺が引っ張り出して滅茶苦茶怒られた《呪術》関連の本で、書いてある文字こそ読めなかったが開いただけで寒気がした──というのは記憶に新しい。蛇足だが、こあにそれがバレてお仕置きされた。

話が逸れたな。今日は、チルノ・大妖精・ルーミア・ミスティア・リグルのちびっ子5人衆が図書館に遊びに来た。てけてん。

まあ俺は俺で、最近読み始めた外からの小説にハマってたりする。ここには8巻あり、今は5巻。……図書館は暖かいから、ロッキングチェアに座ったまま寝落ちする事も少なくないのだが。その場合、決まってフランが膝に居る。閑話休題。

「霊夜君、何読んでるんですか?」

「うん?えーと……《デ〇〇ラ・〇エスト》っていう小説だな。面白いぞ」

「ひぇっ……お、おっきなカエル……」

「あー、確かに……表紙あんま見てなかったなぁ」

「私は見ますよ」と苦笑いされた。苦笑いする立場なのは俺の筈なんだが。

「大ちゃーん、こっちに何か面白そうなのあったよー」

「お。呼んでるぞ、行ってきたらどうだ?」

「あっ、はい。行ってきますね」

スイーッとミスティアの方─方角からして、Uの棚の上の方だろう─へ行った大妖精を見送り、本に目を落とした次の瞬間。本棚近くの影が、不自然に動いているのが見えた。言うまでもなくルーミアだ。

「ルーミア、そこに居て楽しいのか?」

「楽しいわよ。本食べても美味しくないんだし」

「いや食うなよ……貴重なのだってあるんだから」

「って言われてもねえ」そう言いながら、どういう原理か服からドロっとした闇を出し、それに座ったルーミアが話し始めた。

「霊夜やパチュリーには分かっても、私には価値が分からないもの。霊夜だって、……そうね、私がその辺の小石を大切にしてたとして、その価値が分かる?」

「……いや、分からないな。理解しやすい例えを出してくれてありがとう」

「いいえ。……口調には突っ込まないのね」

「え?……あっ」

今初めて気付いた。いつもの語尾を引き延ばした感じが無い。

「ごめん、意識半分小説(こっち)に持ってってたから気付かなかった」

「まあいいけど、私この口調の方が話しやすいから」

「え?じゃあ今までのは……」

「演技よ演技。このリボンが御札だっていうのは知ってるでしょ?」

「ああ、うん」

前にひっぺがそうとして吹っ飛んだアレか、というのは口に出さない。そう思うと、昔からやんちゃで済めば御の字レベルの行動ばっかしてないか俺。しかもたまに死にかけるし。

「貴方が前に剥がそうとして吹っ飛んだアレよ。……今剥がしても、多分吹っ飛ぶわ」

「や、やらないよ。……でもなぁ、大人の姿のルーミアなぁ……うん、何度考えても想像出来ない」

「しなくていいわ、利益も無いもの」

「興味はあるけどな。思ったより美人だったら……それはそれで笑い話にするさ」

「……へえ?どうでしょうね」

クスクスと笑っているが、本当に大人の姿は想像出来ない。何だかんだ付き合いの長いルーミアだが、未だに分からない事だらけなのだ。

「……ま、それはいずれ見られる時に見るよ」

「今見せられるって言っても?」

「え、ちょっと待て封印されてたんじゃなかったのか」

「ええ、されてるわよ。でもね、これ全力でやれば外せるの。指が焼けてるみたいな感じはするけど」

「ひー想像したくもない……鳥肌立ってきた」

「冗談よ。……貴方も、右目を失った時に似たような痛みを受けたでしょ?」

と言うと……目が潰された時レベルだから、皮膚を剥かれた肉を触られてる様な感触?うわ怖っ!やだわー……

「……凄い痛みを伴うんだな、それ」

「そりゃそうよ、先代博麗の巫女が施したものよ?」

「それもそっか。あの人には世話になったなぁ……人里に居た時。あれ、でもそうなると……その封印、かなり最近されたのか?」

「そうなるわね。さて、私から出せるヒントはここまでー」

ヒラヒラと手を振って、また影の中に潜っていったルーミアを呆然と見送り、そう言えばと時間を見る。今は……えー、午後の2時半か。あ、そろそろおやつの時間だ。

「よっ……と。今日は何かなー」

実は毎日の楽しみだったりする、今日のおやつ。紅魔館のおやつは基本的に咲夜が作るが、たまに料理班が作る。だが、その味は(最近では)大差無く、めちゃめちゃ美味いのだ。関係無いけど、昨日は霊夢から貰った─と、咲夜は言っていた─饅頭だった。

 

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

因みにだが、ちびっ子達の内チルノと大妖精が泊まることになり、2人の分のベッドは俺のを使っている為、俺は図書館のロッキングチェアで寝ることになった。案外寝心地は悪くなかったぞ。




描き始めてからまた1週間以上経ってるよ畜生め()。
それはそうと、文化祭がキツ過ぎてあちこち筋肉痛です。楽器持って駆けずり回って、トロンボーンで左肩凝ってる状態なので、ウニもそこまで出来ませんでした。まあその分書けるかは不明なんですが。

ではまた次回。


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特別編:Death or Treat ?

はいどうもこんにちは、イベント特別編を遅れて書き始めることに定評が出来てしまったユキノスです。
いやまあ、最近部活で忙しかったのもあるんですけど。けど!にしたって11月1日の午前3時から書き始めるってどういうこっちゃねんって話なんすよね。……七夕は1週間遅れで書いてたんだった。
さて(おい)今回は、もうタイトル通り。うん。以上。
ではどうぞ。


「Trick or Treat?」

この言葉を聞いて、まず思い浮かぶのがハロウィーンのお祭りだろう。紅魔館でやるにはおかしくないか、だってあれキリスト教のお祭りだろ、と思ったそこの貴方。実は当初、キリスト教は全く関係無かったんだ。元々はどっかの国の豊穣を願う祭りで、それにキリスト教が混じってしまったんだな。因みに、ジャック・オ・ランタンは最初はカボチャじゃなくてカブをくり抜いたものだったらしいぜ。知ってた?

 

……まあ、それは置いといて。こんな話をしてるんだから、そりゃあ紅魔館でもやってると思っただろう。だが意外にもやらなかった。レミィもフランも乗り気だったからぶーぶー言っていたが、パチェの「紅魔館(ウチ)の豊穣を願っても仕方無いでしょ」という意見によって一蹴された。

かと言って、スカーレット姉妹がそれで諦めるかと言われたらそうでも無い訳で。それでいて、パチェもそれを当然のように理解している訳で。

 

つまり何が言いたいかと言われたら、

レミィとフランが自分たちだけで行くと言う→パチェもそれを理解しているが、咲夜は手が離せない為行けない→かと言って俺も行ったら面倒になる→パチェが幻想郷を曇りにしようとするが、勝手にやったら異変じゃないかと疑われる→パチェが準備をしている間、俺が紫に事の顛末を話しに行く……ということ。

「以上、説明終わり、疲れた!」

「……まあ、そちらの事情は理解しました。むしろこれから雨が降るみたいだったし、曇り固定なら人里も嬉しいというもの。あの鴉天狗がハロウィンについて色々と吹き込んだお陰で、人里でも仮装している人間が多く居ますわ」

「そーかい。……俺が行ったら大変な騒ぎになるだろうけど」

そりゃあそうだ。《災禍の獣》なんて言われてる奴が、ハロウィンの仮装に紛れて─むしろ仮装だとしたら余計にタチが悪い─居たら、それこそ蜂の巣をつついたような騒ぎになるだろう。そして血糊が要らないレベルの血が流れるだろう。それだけはなんとしてでも避けたい。

「しかし、だからと言ってハイOKですとは言えないのですわ。なぜなら彼女らは、一度人里に──我々に害を為した者。彼女らだけでは、拭いきれない嫌悪の目がありますわ」

「……まあ、な。そんなムシの良い話は無いやな」

「ですが、たった1つの条件で許可しましょう」

「……は?」

いや待て、こいつがここまで気前を良くするという事は、何か企んでいるという事。恐らく、俺を弄って楽しむんだろう。春節異変の時みたいに。

「ええ、そうですわ。貴方にも1つ《仮装》をしてもらい、人里へ同行する事。ただし、それがバレたら……」

「ハイおしまい、って訳か。ただその場合、俺は『八雲紫に指示された』と言う。人間にはどう説明するんだ?え?」

「……姑息ですわね」

「誰よりもまず自分に言え。……まあ、そんだけ言うからには衣装もくれんだろうな?咲夜に作ってもらえって言ったって、あいつも人間だ。いつ寝てるのかすら分からない様な奴にホイホイ任せる気も起きない」

「え、ええ。用意しましょう。らーんー?」

「はいここに」

呼べば来るとかマジかよ。藍お前、宴会の時あんだけ愚痴ってたのに……オンオフはっきりしてるなぁ。

「用意してた()()、出してきてちょうだい」

「はっ」

「あ、ども。……魔女の格好? やけにピッタリだな、もしやこれ予想してたな?それでいてあえて泳がせたな?」

「さて、何の事やら。私にはさっぱり分かりませんわぁ」

後ろで藍が申し訳なさそうな顔で苦笑しているのを見て、無下にするのも悪い気がした。……目の下のクマからして、夜なべさせられたんだろう。式遣いの荒い管理者だなおい。労え。

「まあいいや、とりあえずはお前に(藍の苦労を無下にしたくないから)泳がされる事にするよ。とりあえず着てみる」

着替えの為岩陰に──と思ったが、普通に風が冷たい。何せもう11月も近いのだ、そりゃ寒いわ。

「うーさぶ……冬物出す時期かな。……しょっ、あれ?あ、これローブか」

袖から首出そうとしたら、そりゃあ引っ掛かるわな。あはは(棒)。

「よし、とりあえずこれで良いか?」

我ながら長い髪を全てローブから出し、途中で曲がった三角帽子を被ったらもう良い筈だ。杖?そんなもん要らん。箒……は邪魔になりそうだからパスで。

「ああ、おかしな所は無い。……済まないな、紫様がまた無茶を言って」

「んーにゃ、それに従える藍もすげーよ。俺なら逃げてるね。……結果がどうであれ、終わったら労いも込めて尻尾の手入れでもさせてくれ。流石に休まないとだろ?」

「ああ、休ませてもらう事にするよ。お前に言われるとは思っていなかったがな」

それはそれでどうなんだろうか。俺程休んでる奴なんて美鈴と小町ぐらいしか浮かばないんだが。いや美鈴は起きろ。小町は働け。てかそう思うと俺結構怠惰だな。

「それじゃ、行ってくる」

欠伸を噛み殺し、眠そうにしつつも笑顔で手振ってくる藍マジ健気。お前ほんと従者の鑑だよ。……さて、俺は俺でバレない様にしないとね。




はい、という訳でハロウィン編はこれにて終了となります。

な訳あるかー!全っ然始まってすらいないし!ただ八雲家と話しただけだし!これで終われるかぁぁぁ!


あー疲れた()。
ですが、実際ハロウィン編は次回に続きます。
魔女の仮装をして、人里に行く事になった霊夜。バレずに仮装祭は終わるんでしょうか?
ではまた次回。


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特別編:HAPPY HALLOWEEN!!

こんにちは、ネッ友のパズドラーオフに行けなかったユキノスです。ボーリングやってたらしいです、楽しそう()。
まあそれは単に金欠だったからなので置いとくとして、今回はハロウィン特別編その2。本編もさっさと進めないとですね。他の小説もなんですが。他の小説もなんですが!(重要)
ではどうぞ。


「いよっ、と。よっ、お2人さん」

「あっ、霊夜!やっほー!」

「あら、妙に凝った仮装なんかしちゃって。……目の色違うけど、何?」

「紫に貰った。『カラーコンタクト』っていうんだとさ」

「ふぅん……」

先程紫に貰った──と言うか着用させられたのは、何も服だけではない。と言っても、カラーコンタクト─目の色が変えられるんだとか─だけだったので、他に何か……と思ったが、髪を結ぶ以外何も浮かばなかった。お洒落とか普段しないからなぁ……。あ、尻尾はローブに隠してるぞ。

「で、なんでまた?貴方、傍観者の立場じゃなかったの?」

「いや俺もそうするつもりだったんだけどさ……」

事の顛末を、今度は紫に言われた分をプラスして説明する。紅魔館での事については「なぁんだやっぱり協力的なんじゃない」と笑っていた2人だったが、紫(と、(影の苦労人))との事については苦笑していた。フランは申し訳なさそうにしていたが。

「……まあ、俺は俺で楽しむ事にするよ。名目上は監視だけど」

「ええ。それじゃあ行くわよフラン、レイ」

「れ、レイ?」

「霊夜は霊夜だよ?お姉様、頭のネジでも取れた?」

「ねぇ、どうして庇おうとしてるだけでここまで馬鹿にされるの私?」

「……あ、レイって俺の事か。すまん、普通に気付かなかった」

「そうよ。霊夜じゃバレるかもしれないじゃない。それと、少し高めの声って維持して出せる?」

「へ?ああ、出せるけど……ああ察した、女性のフリしろって訳だな」

うん、と頷いたレミィにおいおいマジかよとは思ったが、むしろ男性でここまで伸ばしてるのは俺ぐらいなのですぐバレそうだ。となると、妥当な判断と言える。……あれ?レミィ有能過ぎない?頭の回転早くない?俺が遅いの?え?

「りょ──じゃない、レイ?レーイー?」

「ん、えっ?って、おーい待……んんっ、待ってー!」

ひょんな事から奇妙な女装が始まった件。どうしてこうなったし。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……通してもらえて良かった」

「正直、肝を冷やしたわ……」

「あっ、ねぇねぇお姉様!色んな人が仮装してるよ!」

「あら、ほんと。狼男だけ妙に居ないのはわざとかしらね?」

「多分な……じゃない、多分。まあ、魔女っぽい格好した人と言ったら……」

「ようお前ら!お前らも来てたんだな!……と……あっ霊──」

「し、しーっ!」

「……?」

首を傾げる魔理沙を物陰に連れていき、こうなった経緯を話す。そして、俺が本来なら人里に行ってはいけない理由も話した所で、ようやく納得してくれた。

「……なるほどな。にしても、お前も災難だなーレイ」

「ほんとにね。それじゃ、また」

「はいはい、またな」

魔理沙と手を振って別れ、本物の吸血鬼姉妹を追い掛けた、が……

「……早速はぐれた。どーしよ……レミィー、フラーン」

と言っても、この人混みでは声も届きそうに無い。……文が新聞でハロウィンについて書いてたが、絶対に書いてた内容と違ってるぞ。アレには、「仮装した子供が家々を訪ねて甘味を貰う」と書かれていた。なんで大人もしてんだ、仮装。

「うーん……あっ、すいません」

「いや、そちらこそ大丈夫か?……って、」

霊夜!と叫ぼうとした先生の口を必死に塞ぎ、また説明。今日だけで何回説明したのやら。そしてこれ知り合いに会う度にしそうだ。

「……なるほど、とりあえずウチに入れ。そこで落ち着いて話そう」

「は、はぁ……」

俺としては、レミィとフランが心配なんだが……と思ったが、どうやらそっちはもこ姉が行ってくれるそう。なら安心。

「……さてと。とりあえず、奥に来てくれ」

「は、はいっ」

「……ぷっ、あはは……駄目だな、そんな感じで居るのを見ると……どうしても、女性に見えてしまうよ」

「うぐっ……ま、まあ女顔ですから。それで、どういった要件で──」

そこまで言った途端、小さな包みを渡された。その中から、微かに甘い匂いがする。

「……お菓子?」

「ああ。《はろうぃん》はそのようなものだと聞いたので、な。……本来は、豊穣を祈る祭りらしいが」

「みたいですね。ブン屋の解釈がちょっと違ってたんでしょうか?」

「かもしれん。……ん、なんだ?やけに騒がしいが……」

言われてみれば、確かに騒がしい。「せーの!」とか何とか言ってるが──

ズドォン!

「うぅわあ!? な、何が……」

「……あいつら、何をやっているんだ……」

手招きされたので見てみると、ひっくり返った荷車が見えた。近くには、それに載っていたらしい石─大きさからして、恐らく漬物石─があちこちに落ちている。

そして、ひっくり返したであろう大人達は……何故か、大喜びしている。因みに子供はドン引きしている。

「……先生、ここはいつから地獄郷(ディストピア)に成り果てたんです? ……先生?」

返事が無いので気絶しているのか……と思ったがそうではないらしい。勢い良く扉を開ける音がした。

この先は見ても地獄絵図だろうとは思った。先生が1人1人に頭突きをかます音がしているし。……だが、暴徒と化した集団を、先生ともこ姉の2人─レミィとフランが加わっているなら別だが、恐らくそれは望めない─だけで止めるのは難しいだろう。

「ったく……なぁんで行く先々で騒ぎが起きるんだろうなぁ」

そんな愚痴を零しながら、次々と沈んでいく人の波を掻き分け掻き分け──る必要は無い為、飛んで中央へ。

この魔法は覚えたてなのでどこまで範囲があるかは分からないが、個人にしか無いと言ったら泣きたい。

「ハルフ・グリンプス・プリースス・マーヒュン……」

何だ何だ、誰だあいつ、との声が聞こえる。何人かは呂律が回っていないらしく、どうやら酒を飲んだ結果ああなったらしいが……まあ、分かった所で遅い。

「……?なんらか……眠……ひゅ……」

パタパタと倒れていく……もとい、眠りに落ちる人達。と言っても、人外である先生やレミフラ姉妹、あと人外枠に入ったらしいもこ姉は起きているが。

「助かったよ、レイ。……いや、霊夜で良いか?」

「えっ、うーん……一応、まだレイで。効果がどこまであるか、……私も分からないんだ」

「そっか。そんじゃレイ」

「……もこ姉?」

「ほい、そこで買ってきた団子だ。持って帰って、皆で食べな」

「……うんっ!」

「って、尻尾そこにあったんだな。見えないからどこにあるのかと思ってた」

「えへへ……まあね。……しっかし荒れたねぇ」

「ああ……あいつら、ここまでやるとは思わなかったよ」

「ふふっ……ほんとにね」

今の笑い方が無意識に出たので、しばらく女言葉が無意識に出そうになると思うとゾッとしないが……範囲の外だったのだろう、小走りに阿求が来るのが見えた。

「はっ、はっ……ふぅ、疲れた……あれ?何やら大騒ぎだった筈ですが……」

「ああ、それならこいつが……レイが止めてくれたぞ」

「レイ……?気のせいでしょうか、霊夜さんに似ているんですが……」

「似てるも何も、本人だよ。訳あって女装する羽目になったけど」

「あ、そうなんですね……心中お察しします。それと、今回の件について幻想郷縁起に載せたいのですが……止めてくださった霊夜さん、じゃなくてレイさん。何か、一言お願いしても?」

「えっと、そうだなぁ……『ハロウィンの日は、豊穣を願おう。ハロウィンの精より』って書いといて」

「何よその、『ハロウィンの精』って。ダサいにも程があるわ」

「そう?『不夜城レッド』よりは良いと思うけど……」

「へーえ? レイ、後で私の部屋に来なさい」

「やーだ。……あ、そうだ。文には、こう言ってたって言っといてほしいな。『「Trick or Treat?」と聞いても聞く耳を持たず、お菓子をくれなかったので、イタズラしました。慧音さんと妹紅さんは、お菓子をくれたのでイタズラしていません』って。勿論、レイの名前でね」

「はい、言っておきます。……今回は暴動になってしまいましたが、皆さんありがとうございました。お礼に、お菓子をお渡ししますね。吸血鬼のお2人にも」

「ほんと!? やったねお姉様!」

「ええ、私からも礼を言うわ。こんなに賑やかなハロウィンを過ごしたのは初めてだもの」

これで『賑やか』と呼べるとは、レミィはどれだけの暴動が起きたハロウィンを過ごしていたんだろうか。それとも、過ごした事が無かったからなのか。……それを聞くのは、野暮というものだろう。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

こうして、ハロウィンの暴動は終わりを告げた。スカーレット姉妹は紅魔館に、もこ姉は竹林に帰ったが、俺は衣装の返却と藍の労いの為にマヨヒガへ向かった。無意識に飛んでいれば案外入れるもので、今回もすんなりと入れた。

「よっと。お邪魔しまーす」

「おや、ようこそ。無傷で来たという事は、平和に終わったらしいな」

「お陰様で。……藍、お前結局休まなかったな? 幻術で俺の顔を分からない様にしたの、気付いてるぞ」

「何、それからはちゃんと休んださ。……それと、その衣装とカラーコンタクトは譲渡するそうだ」

「な、なにっ……となると、俺ハロウィンの度にこれ着て行かないと駄目って事か……」

「そうなるな。術を掛ける時に見ていたぞ、お前が女言葉で喋っているのを。案外、違和感の無いものだな」

「ふーんだ、毛繕いしてやーらない」

「……子供か、お前は」

子供だ、悪いか。こちとらまだ17だぞ。……大人と言っても差し支えない歳だった。

「……中間ぐらい。上がるぞ」

「む、毛繕いはしないんじゃなかったのか?」

「違うよ、お前に渡すものだよ。……はい、これ」

やけにぶっきらぼうな渡し方になったが、阿求に貰った金鍔──を、丸ごとではないにせよ持ってきた。これは、藍に対するお礼として受け取ってもらいたい。浮気とかじゃないし、そもそも恋愛感情は無い。

「……ふ、そこまで言わずとも分かっているさ」

「思考を読むな。わた……俺そんなに分かりやすいか」

「ああ、観察していればな。それと、毛繕いする気でいるのも分かっているぞ」

「……バレたか。ほら、寝っ転がんな。膝枕は流石にしてやれないが」

「分かっているさ。どうせ『影狼にしかしないから』だろう?」

「……そうだよ。あーもー、調子狂うなぁ……」

クスクス笑っていた藍だったが、珍しく帽子も取っていて、ついでにそのサラサラした髪も梳かしておいた。梳かしている途中、気持ちよさそうに目を細めていたのにはドキッとしたが。

9本全て毛繕いした感想としては、冬毛になってもふもふした尻尾が本当に魅力的だった。毛繕い前に存分にもふもふしたが、これが本当に癖になりそうなレベルで気持ちいい。いつかこれで枕でも作ってみたいなぁ……と思いつつ、ちゃんと眠っていたのは嬉しく思った。

お菓子をくれなくても、こいつだけはイタズラしたくないとも思った。元々苦労人だし。

 

 

そう言えば、颯忌はどうしているのか知りたい人も多いだろう。実は今日、颯忌は散歩に出掛けていたんだ。何せあいつはハロウィンを知らないから。帰ってきた時、「なんで連れてってくれなかったの!もー!」とポカポカやってきたが痛くはなかった。まあ、来年は参加させようか。




最後関係無い?ンなこたぁ良いんですよ!藍しゃま労おうぜ!

さて、そんなこんなでハロウィン特別編はようやく完結いたしました。……え?「最近見覚えのあるものが混じってた?」いやいやまさか、ハロウィンで軽トラひっくり返したなんてある訳無いじゃないですかやだー(棒)。
余談ですが、件の動画が撮られた近くでダンスバトルが行われていたそうで、そこに友達が居たそうです。世界大会優勝者が居たとか何とか。

ではまた次回。


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窓は割られるものだって信じないぞ

こんにちは、ソシャゲが多くて書く時間が無くなってきた(おい)ユキノスです。
それでも頑張って書いてはいます。進んでないんですが()
まあそんな訳で、今回は久々に華扇登場です。霊夜が会うの自体は本編で分かっている限り3回目ですが、何度か会っていたりもします。主に(と言うかほぼ確実に)甘味処でですが。(慧音達が居る所から)遠くの人里には、まだ霊夜の事が知られていないのです。
ではどうぞ。

……花映塚が2005年春で、風神録が2007年秋って知ったんですが……これ日常回が相当な量になるかもしれませんぜ。と言っても、外に出るのは新月固定なんですが。


あれから特に何も無く──それこそ退屈過ぎるくらいに時は過ぎ、満月の夜。今回はなんと、萃香から手紙が送られてきたのだ。内容は、

『おいーっす霊夜、元気してるかい?実はね、妖怪の山で宴会を開く事にしたのさ。天魔の奴は苦虫噛んでたけどね。……まあそれはともかくとして、私はお前を招待する事にした。紹介するつもりでいるから、お前の都合がいい時で構わないよ。返事は窓際に置いてもらえれば、後で取りに来る』

との事だ。

 

「……まあ、確かに取りやすいだろうよ、え? 窓ガラスぶち割ってまで手紙投げ入れた萃香さんよぉ」

 

「なんだ、気付いてたのか。お前さん、今度は察知能力まで伸びてたのかい?」

 

「……どうだろ。ただ、それっぽい妖霧が入ってきたのは分かった」

 

「なら十分だ。いやー、勇儀の奴にも見せてやりたいねぇ、『中々に根性のある天──おわぁちょっと待て悪かった! な!? だからそのナイフしまっておくれよ!」

 

「ダメに決まっているでしょう。あのねぇ萃香、貴女は手紙を届ける時窓を割って届けるように言われたのかしら?」

 

「え、知らん。だって私さぁ、手紙出したのも今回で3回目だもんよー」

 

相も変わらずカラカラ笑って酒を呷る萃香だが、これでいて酔っていない時は人見知りの暗い奴だというんだから恐ろしい。どんな酒乱だ。

 

「……まあ、この手紙に対する答えとしては『是非とも行かせてもらう』の一言に尽きる」

 

「おいおーい、内容が違ってんだろぉ? 私はぁ、『招待するからいつ行けるか』ってぇのを聞いてんのさぁ」

 

「じゃあ、俺がそもそも行けなかったら?」

 

「そん時ぁまあ……あー拉致?」

 

「おい待てコラ、人間に見られただけでも大騒ぎなんだぞ俺」

 

「あん?どして?……なんてな、私も事情はある程度聞いてる。霊夢んとこに居候してるからねー」

 

今思うと、よく居候出来たものだ。悪霊を祓ったり妖怪を退治する巫女の本拠地である神社に、妖怪の、しかも鬼が居候ともなれば、いくら霊夢が強かろうとたまったもんじゃないだろう。……苦労してんだなぁ、霊夢。

 

「まあそれは置いとくとして、行ける日……新月の夜、俺以外の信用出来る誰か同伴──っていう条件でのみ、外出可だぜ。それ以外は、正直言って危ない」

 

「……でもさ、それ普通逆じゃないかい?」

 

「え?」

 

「まあまあまあまあ、よく考えてみなよ。だってさ、満月の日ってぇのはつまり……私ら普通の妖怪が活発で、人間があまり外に出ないってことだろ? 新月はその逆で、妖怪が大人しくて人間が活発。……まあ、お前さんはどっちつかずだけどさ。それはいいとして、問題は──」

 

「……そうか、外出だけなら……満月の方が、人間に見られにくい」

 

酒を呷る手を止め、萃香が話した内容は、なるほど確かに納得がいく。

という事は、同時に別の理由がある筈だ。かと言って、それが分かるかと言われたらまた別の話なんだが。

 

「ま、理由はいつか分かるだろーさ。そんじゃ、私は《同伴者》の手配に行ってくるよ、またねぇ」

 

こちらの返答を待たずに霧散していった萃香を見送り、割れた窓はとりあえず……とり、あえず……………どうしよ。

縋るように咲夜を見たが、「私はどうにも出来ない」と言いたげに肩を竦め、出て行ってしまった。……しゃーない、図書館の世話になるか。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「ずずっ…………はふぅ、あったかい……」

 

「貴方も災難ねえ……。これで何度目?」

 

「えーと……4回目、かな?」

 

永夜異変の宴会に呼ばれた時、永琳が放った矢により1回。チルノとリグルの弾幕ごっこ(の流れ弾)により割れたのが1回。 文が高速飛行で起こした風により割れたのが2回。 そして、萃香が割った今回の件。 うん、5回だわ。 あと、そろそろ文は俺に何か謝罪の言葉をくれても良いと思う。 初見で「ペンキ塗りさん」と呼ばれた事、まだ忘れてないからな。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「っ、くしゅっ!」

 

「おや、風邪ですか?文さん」

 

「いえ、私はこの通り健康体です。……となると、これは私を噂している人が居るという事! くぅー、遂に文々。新聞も噂されるまでに!」

 

「……それはそれで、少し違う気もしますけどね。 それと、先程からそこにいらっしゃる萃香様。 どうされました?」

 

「いやなに、お前に任務を課そうと思ってね。 いいかい、新月の夜──」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「うーん……妖怪の山ねぇ……。 思えば、今まで行ったこと無かったなぁ」

 

思わず呟いた独り言に反応したのは、パチェでも、魔導書を読みに来た魔理沙でもアリスでもなかった。

 

「妖怪の……山……? 霊夜君、妖怪の山へ行くんですか!?」

 

「うわっちょっ、とっとっととわぁ! ……いっ、ててて……どうしたんだよ、こあ?」

 

何故か顔面蒼白で、尚かつ息の荒い、必死な顔をしたこあが急に反応してきた。 魔界暮らしで、パチェによって紅魔館に来た彼女が、何故《妖怪の山》という単語に過剰反応するのか? それは、俺には分からない。ただ少なくとも言えるのは、彼女は──何かに、怯えている。

吸血鬼異変で、天狗か河童に攻撃された? それとも、昔因縁があった? ……どれも違う。なら何が──

 

「霊夜君!いいですか、行くつもりなら!」

 

「つ、つもりなら……?」

 

 

 

 

「『()() ()()』という男に遭遇したら、何が何でも逃げてください!」

 

「……えっと、誰?」

 

魔法使い3人組が、派手によろけた。




風萩日向って誰(お前もかい)。
因みに、読み方は『かざばき ひゅうが』です。読みを本文に入れなかったのは、傍点と読みをどちらも付けると、片方が正常に機能しなかった──という事が前にあったからです。

さてさて、風神録前なのになんかそれっぽい空気出してますが、皆さん。一応言っときます。これ、2005年の秋辺りの時系列です。花映塚から、まだ半年近くしか経ってないんです。ヤバない?(語彙力喪失)

ではまた次回。


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鬼と、天狗と、銀狼と

こんにちは、最近前書きと後書きが滅茶苦茶なユキノスです。という訳で、今回はちろっとだけまともな事(?)言います。

前回、名前だけ出てきた『風萩 日向』という男について少しだけ。
彼は本来、この作品に出てこない(=居ない)男でした。となると普通はそのままお蔵入りなんですが、それはプロットをガチガチに書いていたらの話。皆さんもご存知の通り、俺はプロットを書いていません。となると話は早くて、まだ未登場だけど少し無理がある設定をちょいと弄って彼が組み込まれた、という訳です。

ではどうぞ。


宴会当日──の、夜。新月ではあるが曇りの今日は、宴会日和とは言いづらかった。と言うか宴会日和って何だ。

 

「貴方が、新月霊夜君ですか?」

 

「は……はい。えっと、どちらさんで?」

 

美鈴が「霊夜君にお客さんですよー」と言っていたので会ってみたが、なるほど分からん。そもそも初対面。

ただ、白髪の狼で盾を持ち、腰には刀まで持っている事から、恐らく白狼天狗だろう。

 

「申し遅れました、白狼天狗の犬走椛と申します。伊吹様より命を受け、貴方の監視役として──」

 

「ああ分かった分かった、ただその堅っ苦しい口調を止めてくれ。敬語がどうにも慣れない」

 

「いえ、仕事ですので。それより、準備は良いですか?」

 

「へ? 準備って……あっごめんそーゆーこと!?」

 

「はい、そういうことです。では、舌を噛まないようにご注意ください」

 

肉体面での準備じゃないとは思った。でも、いきなり姫抱きして全速力で飛び立つってのは聞いてない。……つまり、心の準備って訳だった。

 

「〜〜〜〜〜!」

 

おんぶされて飛ぶことは数あれど、姫抱きの状態でここまでの速度を出されると怖い。自分以外の存在によって飛んでいる事と、何より椛が手の力を緩めている事が怖さを増幅させて──情けない話、めちゃめちゃしがみついた。

 

「到着しましたよ。……もしもし? 起きているのなら返事を……」

 

「あの、頼むから……せめて、並行して飛ぶとかにしてくれ……怖い……」

 

「──伊吹様が認めた、とは言っても……やはり、まだ子供みたいですね。見た目はそんなに変わらないのに」

 

「なっ……」

 

ずっと真顔だった彼女が少し微笑んだが、椛にはサディストの気があるのだろうか。……いや、恐らくは文の差し金だろう。椛の事は気にかけている反面、真面目な彼女を弄ぶ事も多そうだ。

 

「何をぼーっとしてるんです? 宴会は、山の頂上で行われています。ここからは普通に飛んでいただきますが、はぐれて殺されかけても責任は負いかねます」

 

「怖いなぁ……。あそうだ、『風萩日向』って男──うぉっ!?」

 

「……その名は、我々の中では禁句です。口に出す時は、それ相応の覚悟をしてください」

 

「っ……」

 

冗談だろ、と言いたいが、抜刀から横薙ぎにするまでの速さ、そして一瞬だけ変わった表情から、それが本気である事が伺える。……マジで何したんだよ、風萩って人(?)。

 

「……んんっ。とりあえず、そいつに会ったら逃げるように言われてるんだ。……でも、俺顔知らなくてさ」

 

「それについてはご安心を、私が見張っていますので。……しかし、君が顔を知らないというのはおかしな話ですね」

 

呼び方が貴方から君に進化した。わーい。

じゃなくて。

 

「……どういう事だ?俺は会った事が無いし、何より名前も初めて聞いたけど……」

 

「いえ、会った事が無い筈がありません。君からは、()()()()()()()()()

 

「……へ?」

 

何だそりゃ、訳分からん!と思考を放棄した所で、妙に間延びして酒気を帯びた声が届いてきた。十中八九、萃香だろう。

 

「よ〜霊夜ぁ〜、元気してたかぁ〜い?」

 

「うん、お陰様で。……相変わらず酒臭いなぁ、また飲んでんのか?」

 

「うるひゃあい、わらしはぁ、飲んねらいと落ちひゅからいんらよ〜〜」

 

「うわっ、呂律回ってねぇじゃねえか……。 あと引っ付くな、地味に角が痛い」

 

「……ところでさ。 ずっと気になってたんだけど」

 

急にいつもの(?)調子に戻った萃香は、俺の右目に着けてある眼帯を取り払った。傷は大体塞がっているが、右目と涙腺は無くなった、空っぽの右目。瞼を開いても、ただ肉が見えるだけだ。

 

「これ、誰にやられたんだい?」

 

「───っ……聞いて、どうするつもりだ」

 

「いや、少し気になってね。 お前さんの右目を潰せるような奴だ、どれほどのものか「人間」……あ?」

 

「……ただの、人里に居る普通の人間さ。 巫女でも、退治屋でもない、至って普通の人間。 性格が歪み切ってるのは確かだけど、人間の枠には収まってる奴さ」

 

「……過程を聞いても?」

 

「と、言われても……そうだな、最近俺にそっくりな奴が人間を殺して回ってるそうなんだ。 俺はただ、それの濡れ衣を被っただけだよ。……反撃する事も出来た。何なら、全員殺す事も簡単だった。 でも……先生を悲しませる事になるのだけは、嫌だったんだ」

 

「……お前はもう、その先生とやらを悲しませてるよ。本当に悲しませたくないのなら、お前はさっさと逃げるべきだった」

 

「……分かってる。 だから、これは俺のエゴだ。 見栄っ張りだ。 ………でもさ」

 

左目から、涙が溢れてきた。手で拭い、しかしまだ流れてくる。

 

「……俺は、怖かったんだ。 逃げたとしたら、次に襲われるのは紅魔館。 美鈴達が負けるとは思わないけど、結局は犠牲が出る。 何なら、途中の道で襲われる事も考えられる。 ……だから、逃げなかった。それが、最善じゃなかっ………と……」

 

「あーよしよし、存分に泣きな。誰にも言えなかったんだな、辛かったな」

 

いつもカラカラ笑っている萃香にも心配されたが、でも不思議と悪い心地はしなかった。 むしろ、妖怪として最高峰の実力者ということもあり、安心感すらあった。

 

 

涙が乾き、少し腫れた目を擦りながら、ずっと静かに待っていてくれた椛と、「ついでに行くよ」と言って着いてきた萃香を伴って、いよいよ宴会場──の前に、天魔とやらの家に行くらしい。お偉いさんどころか、八雲紫とほぼ対等に話が出来る存在と聞いて、少し鳥肌が立ったのは内緒。




親しいからこそ、言えない。そんな事、皆さんはありますか?
霊夜が萃香を親しくないと思っている訳ではありませんが、それでも言えたのは大きな進歩です。
さて、次回は天魔宅訪問……と、宴会に入れば良いなぁと。
ではまた次回。


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コラボ企画:《青薔薇の人》

こんにちは、ユキノスです。

という事で、タイトル通りコラボです!2回目となります、音無雨芸さんの《東方蒼夢録》とのコラボ小説!

今回は続きものとなります。こちらは()()となりますので、まだ読んでない方はぜっっっっったいにあちらを読んでからこちらを読んでください!いやホントマジで!

という訳で、下記リンクです↓

https://syosetu.org/novel/139245/

ではどうぞ。


朝、目を覚ます。重たい瞼をこじ開け、窓を見ると。

 

「……? なんで、泣いて……」

 

思い出せない。何か……大切なものを失くした。でもそれが分からない。思い出そうとすると、頭の中が虚ろになる。……何故だ?何故俺は、────

 

 

 

青い薔薇の花弁なんか見て、泣いている?

 

 

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

昼過ぎになって、紅魔館の皆に聞いても、青薔薇の花弁について知っている人は誰も居なかった。美鈴は庭師らしく大興奮していたが、そこまで興奮するということは、紅魔館のどこを探しても青薔薇なんて咲いていない。どこに咲いていようと、必ず美鈴は知っているからだ。

それはつまり、《手掛かりは紅魔館に無い》と示された訳だ。となると、他は……幻想郷全土になる。三途の川や無縁塚は流石に無いだろうが、人里は華扇かもこ姉を通して聞くしか無さそうだ。……いい加減、里の中ぐらい入れてほしいものだが。

 

「妖怪の山……も無さそうだよな。いや、でも……椛が知ってるか?」

 

「何ぶつぶつ言ってんの霊夜、頭打った?」

 

「知らないかもしれないな……あーでも見た事はありそう、行ってみる!」

 

「ってあっ、ちょっとー! 夕飯までには帰ってきてって、咲夜に言われてるでしょー!?……聞こえてないのかなぁ、もう……」

 

「出来るだけ早めに帰るー!」

 

「……聞こえてたんだ」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

妖怪の山中腹 白狼天狗の詰所

 

ズダンッ!

「な、なんだなんだ!」「敵襲か!?」

 

土煙でもうもうとした詰所入口付近の、その真ん中。衝撃でヒビが入った石畳に、膝を曲げて立っている人影──いや、狼影が見えた。

 

「……ちょっとごめんなさい、通りまーす」

 

人集り──もう人でいいや──を掻き分け、土煙を起こした張本人であり、最近は訳あってこちらに出入りしている狼を見つけた。人差し指で肩をつつき、こちらを向かせる。

 

「何を急いでいるんですか、霊夜君」

 

「はっ……はっ……もみ、頼み、が……」

 

「とりあえず水飲んでください。何が言いたいか分かりません」

 

丁度その辺にあった空の水筒に湧き水を注ぎ、急ぎ過ぎて過呼吸になっている彼に飲ませる。ぐびぐびと一気に飲み干し、呼吸も落ち着いてきた頃、また鬼気迫る顔で肩を掴まれた。……思ったより筋力あるな、って痛たたた!

 

「ちょっ、痛い痛い、痛いです。……落ち着いて、ゆっくり話してください」

 

「ご、ごめん……実は、」

 

少年説明中……

 

「……青薔薇に、関係のある人? 男か女かも分からないのに、探せっていうんですか?」

 

「無理難題なのも、支離滅裂なのも理解してる。でも、探さなきゃ……見つけなきゃ、ならないんだ」

 

「またどうしてそんな……ああもう、分かりましたよ。やります、やってみます!」

 

どこぞのブン屋──上司だとかは関係無い──は冗談交じりに言ってくるが、彼は言ってしまえば《嘘が下手な人》なので、嘘か本当かぐらいは理解出来る。……今回は本当のようだ。

 

全く、何故私はここまで苦労せにゃならないのか。数百年前から考えているが、未だに分からない。

 

 

 

「んー………」

 

「見えたら教えてくれ。……俺も、出来るだけ見てみる」

 

「キミの場合は見ても分からないでしょうに。……それと、着替えてきたらどうです? 気づいてないかもですけど、キミまだ寝間着ですよ?」

 

「え、あっ……着替えてきます」

 

「見つけたら知らせますから、それじゃ」

 

……紅魔館でも寝間着でうろつく事は無い──というのは門番の話だが、それでも寝間着で来たということは余程急いでいたのだろう。……その、《青薔薇の人》とやらの為に。

 

「男か女かも分からないのに、何故探さないといけないのやら……あれっ?」

 

今、何かがちくりと刺激された。物理的にだったら間違いなく文さんだけど、今回は概念的に。場所的には、太陽の畑。風見幽香の家辺りに、何かが居た。

 

「アレは……?髪は蒼いけど、でもだからって決めつけるのもなぁ……」

 

「あや、何やってるんです?椛」

 

「あぁ、文さんでしたか」

 

「その嫌そうな顔をやめてください、結構傷つきます。……で、何をやってるんです?」

 

「はぁ……めんどくさ。霊夜君が、《青薔薇の人》を探しているらしくて……それも急いだ様子で」

 

「あっ今めんどくさって言いましたね!? それ部下としてどうなんです!? ……あや? でもその人、彼は会ったことがある筈ですが……」

 

「ええ?なら何故『分からない』と……」

 

「……相変わらず履き慣れないな、下駄ってのは」

 

「あっ、良い所に」

 

「……?」

 

文さんから大体の話を聞いた霊夜君だが、彼はその事を《覚えていない》と言うより《知らない》に近い反応を示した。何故か、と聞いた所、「考えると頭の中が真っ暗になるみたいな感じがする」と返された。余計にこんがらがってしまった。

だがまあ、太陽の畑には行ってみるらしい。と言っても、写真から見るに蒼髪の女性が《青薔薇の人》で間違いは無さそうだが。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

霊夜が青薔薇の花弁を見つける前夜

 

「……違う。《アレ》は、藍里()じゃない。(藍里)は、そんな事……、言わ、ひぐっ、ない……!」

 

「……何回繰り返すつもり? 夕飯、冷めるわよ」

 

「………はい、いただきます」

 

虚ろな目。引っ掻き回しすぎて、ぼさぼさになった髪。目は真っ赤に晴れていて、頬には涙が伝った痕。誰が見ても元気が無い。空元気を出す気力すら残っていないのか。

実際残っていないのだろう。帰ってきて早々に泣きつき、アレは私じゃない、アレは私じゃないとうわ言のように呟いていたぐらいには。

 

「……はぁ。 いいわ、持ってくるから。 貴女はそこで座ってなさい」

 

「……いえ、大丈夫です。……今、行きますね」

 

「座ってなさい。聞こえなかった?私は、座ってなさいと言ったの」

 

「……分かり、ました」

 

大人しくベッドに座ったのを確認し、戸を閉める。

今更してきた頭痛を意識から振り払い、夕飯を取りに行った。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「──どうだって良いじゃん。 認めなよ、貴女は私だって。 どれだけ善人でいようが、笑顔を振り撒いていようが、結局藍里(貴女)と私は同じなんだって」

 

……違う、違う違う違う。私は、藍里。貴女とは──■■■■とは違う。

 

「──変なの。 違わないよ。いくら枝分かれしても、いくら片方だけを育てても、結局根っこは同じでしょ? 私と貴女は、そんな関係。 青薔薇っていう《器》に入ったからって、それは変わらない」

 

辞めて

 

「──ましてや、会ったばかりの妖怪だよ? 夢見るのも大概にしなよ」

 

…辞めてっ……

 

「──信じるから、裏切られる」

 

辞めて───!

 

「……下まで響いてるわよ。 何を()()()()()()()()?」

 

……幽香さんは、分かるのだろうか。会ったばかりの、でも何故か友達になれそうな人に、会ったことを無かった事にされた場合が。

 

「……それで、貴女はどうしたいの?」

 

「──私は」

 

そこで息が詰まる。外に居た頃の《私》ではなく、ここに居る《藍里》として言いたいこと。それを、ゆっくり、確実に述べていく。

 

「…………私は、あの妖怪(ひと)に……霊夜君に、謝りたい。謝って、説明したい。あの言葉は、藍里のものじゃないって。私であって、私じゃないんだって」

 

「……そう。好きになさい。夕飯はもう冷めてるけど」

 

「……はい」

 

相変わらず厳しい幽香さんだけど、それでも優しさや気遣いがあちこちに見て取れる。

その優しさに顔が綻んでしまうが、それも仕方の無い事かな……と考えた。考えたのだが、幽香さんに睨まれてしまった。

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

《青薔薇の人》に会うため、太陽の畑に向けてフルスロットル。 顔写真も見せてもらったが、何故か──理由は不明なれど──顔が見えないのだ。 いや、椛や文、その他他の人妖は問題なく見える。 ただ、《青薔薇の人》に関するものだけが不鮮明、もしくは見えないのだ。 何故か? そんなの分かってたら苦労しない。

 

「っ……」

 

まだ、多少ふらつく。無理もない、妖怪の山に飛んだ時点で既に無茶をしているのだ。主に肉体的に。

日と共に自分も傾いているような気がした。──いや、実際傾いている。斜め下を向いているのに、真下に向けて加速している。……まずい、このままだと……

 

落下中、意識が途切れた。

 

***

 

「う、うぅ……」

 

ふと、意識が覚醒した。頬に当たっているのは、草のようなチクチクする感触でも、岩のような硬い感触でもない。ふわふわした、枕みたいな……いや待て。枕だこれ。オマケにベッドで寝ている。となると、落ちた後誰かがここへ持ってきた?何故?

 

「い、つつつ……。 やっぱ筋肉痛かぁ、くぁぁ……」

 

昨日は飛び立つ時、全身に強化魔法を掛けていたせいか──実はその都度掛け直す方が効率が良いのだが、その時は焦って考えもしなかった──身体中が痛い。具体的に言うと、起き上がるのも億劫だ。

 

「そういや……ここは、どこだ?」

 

重たい瞼を擦って周りを見ると、窓から沢山の向日葵が見えた。……なるほど、太陽の畑か。

 

「あっ、起きた! 良かった……」

 

戸を開け、1人の女性が入ってきた。パッと見た年齢は、俺と同じくらいか。1つだけ、確かに違うのは──顔に(もや)がかかっている事。見ようとすると、吸い込まれるような気分に襲われ、逆に見たくなくなってくる。

 

「このまま起きなかったらどうしようって……」

 

「……!」

 

「っ、…………やっぱり、そう、だよね。あんな事言って……傷つけて。それで即座に許してくれる、なんて虫のいい話……ある訳、無いよね」

 

「あ、あう、あ……」

 

突然、言葉が出なくなった。出そうとすると詰まっているので、どうにももどかしい。

 

今すぐにでも、聞きたいのに。

 

 

どうして、自分をそんなに責めるんだ。

 

 

俺は君の何なんだ。

 

 

──君は、誰なんだ。

 

せめてそこまで声に出そうと、少ない空気を振り絞ったが──突如、大穴が空いた。飛べない。落ちる。落ちる、落ちる、落ちる────────。

 

暗い、暗い底に到達する直前。靄が晴れ、《青薔薇の人》の顔が見えた、気がした。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「ぐ、う、うぅ……っあ!はっ、はっ、はっ………あれ?」

 

目が覚めた。見慣れた暗い紅の天井が視界に入る。趣味の悪い色だ、とは毎回思う。

ふと気になって、頬を触る。涙の跡は無い。窓に映った目を見る。普通だ。そして窓際には──何も、無かった。

 

「……夢、だったのか?あれ、全部が?」

 

でも、変だな。だとしたら、何故俺は───

 

 

あの時詰まった喉の感触と、靄が晴れた時の感動をしっかりと覚えているのか?

となると、既に1度会っているのは本当の筈。なのに、何故──()()()()()()()()()んだ?

 

「……え? 今、藍里って……あ、あ、ああ、全部、全部──思い、出した!」

 

 

あの日。 俺と藍里で、妖怪の山の麓まで行った。 玄武の沢から流れる水にはしゃぎ、豊穣の神に秋の味覚の素晴らしさを教えられ、日も傾いた頃。 1人の、白狼天狗と出会った。名は、()() ()()()。 訳あってこいつから逃げている俺は、藍里を連れて逃げ回った。やがて紅魔館に到達した直後、俺は確か──ブスっとやられたんじゃなかったか。 ……まあそこは定かではないけど、少なくとも傷は負った。

俺はもう血にも痛みにも慣れて(しまって)いるのでどうもいう事はないが、問題は藍里。 彼女は、自分が悪いと呟き続けるだけの木偶人形になってしまったレベルで精神的ダメージを負っていた。 これではまずいと考えたパチェが、藍里──と、ついでに俺の記憶を封じ、鎖を掛けた。

……まあ、その鎖を今ほどいちゃった訳なんだけど。

 

 

ともかく、これが事のあらましだ。と思う。まだ封じられているのはあるかもしれないからだ。

 

 

「って、そんな事してる場合じゃねえやな……っと。さて、飯食って行きますか、太陽の畑。いやー、すっきりしたぁ」

 

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

 

「……霊夜はもういいの?」

 

「はい……きっと彼も、私なんかと居るよりはむぐっ!?」

 

「静かに。……聞こえる、感じる。霊夜よ」

 

「んっ………んん、ん……? (えっ………なん、で……?)」

 

「私が知るもんですか。ほら、行ってきなさい」

 

「えっちょっ、わわ、わ!」

 

ぶつかる──というか転ぶ──!

と思ったら、ふわりと身体が浮いた。どうやら、着地するより先に私を抱えてくれたらしい。

 

「あ、あのえっと、その……あり、がと……」

 

「なーに固くなってんのさ、()()だろ?」

 

「え……?」

 

友達。ともだち。トモダチ。 今、そう言った? あんなに、酷いことを言われて? 《無かった事にされた》事を、《縁がなかっただけだ》と一蹴したのに?

 

「──分からないなぁ。何度か会っただけの妖怪にトモダチって言われても、こっちは実感が湧かない。それに、さ。私とキミの間には、縁ってものが無かった。それは紛れもない事実だよね?」

 

「……ああ。 事実だ。 でも、残念ながら今は……名前も知らない貴女じゃなく、藍里に言ってるんだよ。 俺にとって、藍里は十分に大切な友達だ。 例えそれが、違う種族で、何度かあっただけだとしても。 ……それに、縁が無いって? ()()()()()()()()()()()、違うか?」

 

「──」

 

パクパクと口が動き、頭の中で《意味わかんない》の声が響いたのを最後に、身体の主導権が藍里()に戻った。それと同時に、……ホントはいけない事だろうけど、霊夜君に抱きついた。

 

「ごめんね……ごめんね……っ!」

 

「ああ泣くな泣くな、後で幽香に殺られそうだから……それと、いきなり消えてごめん」

 

「ほんとに……ほんとのほんとのほんとに、心配したんだよ?」

 

「あはは……ごめん」

 

……やられるのは、多分無いだろうと思う。うん。多分きっと。恐らく。……ね?

 

 

 

そう思っていた時期が私にもありましたとさ。ちゃんちゃん。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「ごめんなさい、霊夜君……キミが、《あの人》に会うのは、出来るだけ避けたいんです」




本来はほのぼので行くつもりでしたが、音無さんの小説を読んで「えええここで終わるの!?」という感想を抱いて着手した為、どこか変な所がありましたら教えていただけると幸いです。

ではまた次回。それと、東方蒼夢録共々よろしくです!


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山を統べる者

こんにちは、ユキノスです。

ところで皆さん、コラボ小説は面白かったでしょうか。違和感は出来るだけ無いように作ったつもりですが、それでも多少は出てしまうのは人が違うからという事で()。

さてさて、小説本編の話をば。 前回、えーと……(見直し中)妖怪の山の宴会場へ向かう途中で終わったんでしたね。今回はもう着いてて、宴会始まるぐらいの所からスタートします。
ではどうぞ。


さて、まあ色々あって俺は宴会場に到着した訳だが、早速天魔─名前ではなく、称号らしい─の邸宅に招かれたのであった。 てけてん。

じゃねーんだよなんでいきなり山の頂点に立つ人物なんだよ。百歩譲って秋の神様二柱とかにしてほしかった。

 

「天魔様、新月霊夜をお連れしました」

 

「入れ」

 

「はっ」

 

低く、威厳のありそうな声が部屋から届き、椛が襖を開けた。 さて一体どんな爺様が出てくるんだと思ったら。

 

「おう、よく来た! お前さんが霊夜か? 俺は……そうさな、天魔って呼ばれてんだ。よろしく頼む」

 

「え、え、あの……よろしく」

 

めっちゃフレンドリーな青年が出てきて、少し笑いそうになった。 つか笑った。 ただ、衣服からして他の天狗──それこそ大天狗とも掛け離れており、綺麗な(すみれ)色の着物を羽織っている。 他は大差無いが、胸に黒い刺繍が為されている。 ……これは、何だ?

 

「ん、ああこれか? 山のトップの証みてーなもんさ。夏は暑ぃんだぜ、こいつ」

 

「そ、そうなんだ……で、本題は何か聞いても?」

 

「まあまあ待て待て、そう焦んなっての。伊吹様も、頼むから俺の部屋から酒ちょろまかしてかないでください」

 

「まーまー、減るもんじゃないんだしさぁ」

 

「それは伊吹瓢(お前の瓢箪)だけだろ」

 

額に音を立てて手刀を浴びせた─ビシッという音は、俺の骨にヒビが入った音だ─ら、天魔が引き気味に苦笑い、椛は顔を真っ青にしてドン引きしていた。 ……そうか、天狗より鬼の方が立場が上なのか。天魔も「伊吹様」って言ってたし。てか普通にクッソ痛いんだけど。笑えない。

 

「……ん、んっ。で、だ。ま、とりあえずこいつを見てくれや」

 

「い゛っ………つつ、えーと誰これ。白狼天狗の……《風萩 零》?風萩って……」

 

「そ。ここじゃあ、ガキが産まれたのと同時に名簿を作ってんだ。んで、こいつなんだが……見て分かる通り、男、赤髪、耳も尻尾も無し、妖力がそんな無い代わりに魔力が多いっつー特徴があった。まあ純血なら魔力はねえのは当たり前なんだが、こいつは西()()()()()使()()()()()()()の間に産まれたんだな」

 

「……ふ──んむ、どっかで聞いたような話だな……」

 

「んで、トドメにだな。こいつ、1()6()()()()()()()()()()()()()()()

 

「16年前……16?えっと……」

 

今俺が18歳。16年前ってことは、当時2歳。先生に拾われたのが3歳。その前、大妖精の所に住まわせて貰ってたのが2歳。それ以前の記憶は無い。

 

「……いやいやいやいや、まっさかぁ〜」

 

「そんじゃ、こいつを見せてやろうか。ほれ」

 

「あ……!」

 

恐らく文が撮ったのであろう写真。赤髪の男の子と女の子─恐らく双子─が、同じく赤い長髪の女性に抱かれて笑っている。その奥に居るのは、銀髪で目つきの鋭い男性。

 

「これ……誰?」

 

だぁぁっ、と2人がよろけた。萃香は腹を抱えて大笑いして、天魔が頭襟の位置を直しながら、呆れた顔で解説してくれた。

 

「あのなぁ霊夜、この子のうなじ(ここんとこ)に小さーいホクロあんの分かるか?」

 

「あ、うん。確かにある」

 

「お前さんにも、同じ場所にある筈だぜ。つまり………」

 

「……ゑっ」

 

いつの間にか椛が消えていた事に気付いたのは、それから少ししてからの事だった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

玄武の沢。夏でも涼しく、水も綺麗なここは、幻想郷に存在する河童の中でも特にお気に入りの場所として有名だ。

 

──さて、そんな玄武の沢で、今日は河童にとって大変な事が起きちゃった訳なのだ!うわーん!

 

「あっ、文さーん!文さーん!?」

 

「うぅ……およっ? どーしたんだい椛、そんなに大慌ての様子で」

 

「ああにとり、文さん見なかった!?」

 

「えっ? うーん、私は見てないなぁ……それより聞いてよ、私達が必死になって作った──あっ、居なーい!」

 

何だったんだろ? と呟きつつ、河童が総出で造り上げた、しかし最近どこかへ忽然と消えてしまった機械──《生物複製機》を探しに行くことにした。

 

「まだそんなに遠くには行ってない筈……おーい! どこだーい!?」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「あっ、文さ、文さん!」

 

ここ数日寝ていない頭に、椛のやや高い声と戸を開ける音がガンガン響いた。勝手に入るなとあれ程言ったのに、あの駄犬は何を考えてるのか。しかも今、女性として最悪の見た目なのに。

 

「……なんです椛、私は今忙しいんですが……」

 

「そんな事言ってる場合ですか!着替えて一緒に来てください!特ダネです特ダネ!」

 

「あーハイハイ、どうせ他愛もない派閥争いに動きがあったんでしょう? ほら、任務にお戻りなさい」

 

ヒラヒラと手を振り、椛を家から追い出す。人が新聞作りに忙しいというのに、全く……

 

()() ()()()()()()()()()()()!」

 

「分かりました今行きます10秒……いや、3分待ってください!」

 

過去のほとんどが謎だった彼の父親。母親が分からないのは残念だが、それでも大きな事には変わりない。

いつもの倍の速度で髪を梳かし、顔を洗い、服を着替えて、天魔様のお宅へと向かった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……マジで?」

 

「マジもマジ、大マジよ。信じられねえならもっかい話てやろうか?」

 

「……ああ、頼む。正直、頭が追いついてない。つか椛居ない」

 

「よしきた。ってマジ? ……ん、んっ。新月霊夜。お前は妖怪の山で産まれ、紅魔館で育った、()()()()であり──」

 

ごくり、と唾を飲み込む。萃香は知っていたかのようにニヤついているが、知ってたなら話してくれても良かったんじゃないか。だってさ……

 

「──妖怪の山一番の問題児、()() ()()()()()()

 

逃げろって言われた奴の息子だぜ?




おい宴会始まんねーじゃん()。
なんて言ってる場合じゃなくて、なんと唐突に父親判明。ついでに真名(?)も判明。あと……双子?
さてさて、色々判明した今回ですが、まだ宴会も残してます。そもそもまだ2005年の秋です(2回目)。

ではまた次回。宴会は始まるんでしょうか。


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呼ばれて来てみて巻き込まれ

こんにちは、ユキノスです。

今回、ようやく宴会に入ります。遅せぇ!遅せぇよじっちゃん(誰だ)!

まあじっちゃんの事は置いといて。最近、文章力やら書き方やらを見て盗む為に色んな作品を見てるんですが……《UA〇〇以上で次話投稿します》とか《感想〇〇以上で(同上)》というのを見て、なんか違うんじゃないかと思いました。
ほんっとに何度でも言いますが、《読まれてるなら書く》《意見貰ったから書く》じゃなく、遅くても《書きたいから書く》が1番なんじゃないかなぁと。別にプロでも仕事でもないので、書こうと思ったら書く。書きたくねえと思ったら書かない。それで良いと思います。ハイ。

本編の事書こうと思ったけど想像以上に長くなったので、本編どうぞ。


「ほれ、お前さんの為に開いた宴会なんだからさ」

 

「おわっとっ……押すなよ萃香、危ないだろ」

 

所変わって、妖怪の山宴会場。まだ痛む右手を庇いながら、周りから見て少し高い所にある岩に跳び乗る。そこでお猪口と酒(勿論萃香のものではない)を貰い、咳払いをして注目させる。パッと見偉そうな烏天狗達はもう飲んでいるが─たかだか白狼天狗の音頭に付き合ってらんない、と言いたげの目だ─、萃香も放っといている辺り別にいつもの事なのだろう。天魔曰く『指示を出すだけの漬物石』だそうだが、なるほど確かに動かない。代わりに白狼天狗が右往左往しているが。

 

「……えー、今回は俺の為に宴会なぞ開いてくれて、本当に感謝してる。 と言うか半分くらい萃香の無茶ぶりだろうけど、まあ……それはほんとに申し訳ない。 でも楽しんでもらえたらなぁ、と。 俺が言うことじゃないんだけどさ。 ……あーもーやめだやめ、乾杯!」

 

半分くらい苦笑しながら、「乾杯!」と声が響いた。

 

 

因みにだが、何故か華扇も居た。いや、妖怪の山に住んでるんだったな。何故も何もねえわ。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

宴会が始まって1時間。事ある毎に酒を勧めてくる萃香をどうにか退けながら、仲良くなった(?)白狼天狗の男と2人で呑んでいた。

 

「お前、しばらく行方不明になってたらしいけどどこ行ってたんだあ?」

 

「あー、と……」

 

 

紅魔館の面々と天狗達は吸血鬼異変の折に争ったそうなので、面倒にならないかと嘘でも吐こうと思ったが、どうせすぐバレると思ったので辞めた。

 

「……紅魔館に拾われたんだ。その時は、まだ人間の見た目だったけど」

 

「紅魔館に!?よく生きてたなぁ、お前……俺の同僚なんか、討伐隊に加わってそのまま……」

 

これだ、と言って首を掻っ切る動作をした。 それだとクビになったみたいに聞こえるが、(物理的に)首を斬られたのは間違いなさそうだ。

本人は笑っているが、その悲しみは推し量れないだろう。 話を聞くに、その同僚とは仲良し──と言うより、恋仲だったらしい。 尚更申し訳ない……と俺が謝っても仕方ないか。

 

「……恨んだり、してないか?」

 

「そりゃ、恨んでないと言ったら嘘になる。 何せ、まだちっこい狼だった頃からの知り合いだしな。 でもまあ、なんだ……お前を恨むのは、お門違いだ! って怒られそうだし、な」

 

「……そうか。なんか、ごめんな」

 

「いいっつの、それよりこれからは俺の後輩だぜ? 敬語は使わねーでも良いが、存分にこき使ってやるさ」

 

「うへぇ、そういう事か。 分かったよ、こき使われるさ。……代わりと言っちゃなんだが、よろしく頼む」

 

「おう。 ………さて、早速だが……お呼びだぜ、新月」

 

「おぉ〜い、霊夜ぁ〜。 伊吹萃香様がお呼びだぞぉ〜」

 

「な?」

 

「……華扇が頭抱えてる時点で色々察した。面倒事だろうなぁ……」

 

「はっはっは、最初の仕事だな。 ほら、行ってこい」

 

「へーい。 そんじゃ、行ってくらぁ」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

妖怪の山の実力者、と問われて浮かぶ者は多い。 伊吹萃香、天魔を始め、射命丸文、近接なら犬走椛もそれに入る。他には大天狗が居るが、滅多に動かない為に除外。

そんな実力者であり、鬼の四天王の一角である伊吹萃香は、私の腐れ縁。 もう千年以上前から知っているが、彼女程に酒が好きで、かつ戦いに飢えた鬼を私は()()しか知らない。

それはともかくとして、肉弾戦で彼女が太鼓判を押す程の妖怪とはまた珍しい。 格下と言われる白狼天狗なら尚更だ。……それが、甘味処で度々会う銀狼とは思いもしなかったけれど。

 

「いやぁ、あいつは強かったよ〜。 武術と喧嘩を織り交ぜたみたいな闘い方でさぁ、何してくんだか面白くてたまんない。 しかもさ、しまいにゃ折れかけた腕でぶっ叩いてきたんだよ? あそこまで変な闘い方した奴は初めてだぁね」

 

「ふぅん……で、私にそれを話してどうしろと?」

 

「うんにゃ、信じてなさそうだからさ。どーせ、『甘味を美味しそうに食ってるからまさか』とでも思ってんだろぉ〜?」

 

「うっ……正解」

 

自分が言うのも何だけど、尻尾を振りながら幸せそうな顔で甘味を食べている彼を見ていると………とても強そうには思えない。疑う訳ではない。萃香の目が濁ったと言う訳でもない。ただ、俄には信じ難かった。

 

「ま、見てみりゃ分かるよ。 おぉ〜い、霊夜ぁ〜。伊吹萃香様がお呼びだぞぉ〜」

 

「あ、ちょっ……はぁ。誰かと闘わせるつもり?」

 

「んー? そのつもりだよ。 むしろ、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……まさか」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

お、なんだなんだ。 やけに周りが騒がしいぞ。 手荒い歓迎会でも始まるのか? いやもう始まってるわ。 じゃなくて。

 

「……ごめんなさい、萃香が勝手に……」

 

「あー、いいよいいよ。 どうせ萃香と闘えってんだろ? 死なない程度に頑張……」

 

「いえ、()()()()()()()()()()()()()

 

……ん? 今、なんてった? 華扇なんてった? え? 華扇と闘うの? 仙人だろ? マジ?

思考停止した俺の頭上に《?》マークが浮かんでいる様が見えそうだが、ぶっちゃけ言わせてほしい。

 

華扇(この人)、萃香と同等かそれ以上に強いでしょ。 だって匂いが同じだもんよ。 少し呑んでいるのだろう酒と、鬼特有の……ええとなんて言ったら良いのかな、なんか……そう、動物から獣臭がするみたいな……えーと、うん。 俺の語彙じゃ説明出来ねえ。

 

「……俺、今日が命日とか嫌だぞ」

 

「そんなに身構えなくても、殺すつもりはありません。 と言うか、なんでそんなに凶暴だと思われているのですか……」

 

完全なる俺の偏見、なんて言ったら凹んでしまいそうなので、それについては何も言わないでおく。

違う違う、それについては後でいくらでも考えよう。 問題は、この《手合わせ》は天魔が考えたという事。実力を知っておきたいんだそう。ついでに聞いたが、実力次第で大天狗がこぞって俺を欲しがるそう。普通に嫌なんだけど。

 

「うし、そろそろ始めんぞ。双方、準備はよろしいかね?」

 

同時に溜め息を吐いて、頷いた。 心底嫌そうな顔で。 それを見てゲラゲラ笑ってる萃香、お前マジで許さねえからな。 知ってんだぞ、天魔に俺の強さ云々垂れ流したの。

 

「そんじゃ……これより、新月霊夜対茨木華扇の手合いを始める。 決着は気絶のみ、では……」

 

始まってすぐに「降参!」と言いたかったが、ダメなようだ。 畜生、俺がめんどくさがりなのも言いやがったなあの小鬼。 後で煎り豆ぶつけてやる。

 

「始めぇ!」

 

双方やる気無し、かつ双方が直前に知らされたという異例の手合わせが始まった。 ……今更だけど、何これ?




何これ(2回目)。
天魔の思惑は、萃香が太鼓判を押す程の実力を見てみたいと思ったから。萃香の思惑は、単に闘わせてみたかったから。完っ全に巻き込まれてます。実際にやられたらいい迷惑ですね(あるかは分からないけど)。

さて、次回は華扇と手合わせ(やる気無し)です。いつになるねん()

ではまた次回。


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力の片鱗

こんにちは、最近他の小説の更新ペースが死んでいるユキノスです。
早速関係無いですが、マジでパソが欲しい。つべの実況動画(あれも最近更新してないけど)を見てる方は分かるかもですが、あのアホ×4で何かしたいなぁと思うとります。マイクラもやるかも?

さて置き、何故か天魔と萃香の都合により華扇と闘わされる事になった霊夜。双方やる気無しの手合わせって新しいですよね()

ではどうぞ。前書き後書きに書いてる事が滅茶苦茶な時は、その日寝た時間が遅い日だと思ってください。


手合わせが始まって、2分が経過した。 未だ、どちらも攻撃していない。 しかし萃香も、何故闘う相手を自分にしなかったのか。 手を抜いていると思われたくなかったからだろうか。 多分そうだ。

目の前に、包帯に包まれた拳が飛んできた。 言われなくても華扇の────

 

「おぉあ危ねぇ! 急にやる気出したな!? どういう風の吹き回し!?」

 

「あ、いえ……流石に、何もしないのもどうかと思ったので」

 

マジかよこの人。 確かに観衆からしたら何も無いのはブーイングものだが、今のは当たったら物理的に首が飛びかねない威力、速度だった。当てる気は無かったようだが、それでも怖さとしては十分である。

 

「……ならいいや、俺も普通にやるとすっかね」

 

微笑んだ華扇が、手を伸ばさずとも当てられるぐらいの至近距離まで近付いてきた。 右腕が蠢く。 包帯がほどけ、俺に巻き付こうとしてくる。

 

「なんのっ!」

 

「くっ……」

 

包帯を掴み、こちらの左手に巻き取る。振り回される危険性は考えられるが、それでも一定距離以上は離れられないようには出来た。 これだけでも大きいだろう。

 

「っらあ!──、だよな」

 

「ええ。……本当に、貴方は奇妙な闘い方をする人ですね」

 

「褒め言葉と受け取る……よ、おぉ!?」

 

華扇の()()が、俺の目の前に迫っていた。 右手の包帯は、俺が掴んでいる。 足は一切動いていない。なら、どこで……

 

「はっ……なるほど、実体が無いのを包帯でカバーしてた訳だ。でも、無いって事は……」

 

「妖力が密集していると考えてください、ね」

 

ぱ、と手が離され。 腹に、凄まじく重い衝撃が走って。 このままでは引き千切れると、包帯を放した瞬間。

俺は、小石のように叩き落とされた。

 

「あが、はっ……げほげほ、げっほげほげほ……」

 

周りからは、「すげぇ、あれでピンピンしてんのかよ」「華扇様が手加減なさったんでしょ」と観客の声が聞こえるが、加減無しなら俺は数秒で肉片と化し、喰われていただろう。 知らんけど。

とにかく、受け身を取った事もあり、土埃による咳と軽い脳震盪だけ(?)で済んだ。 上を見る──なんて悠長な事をしていると重過ぎる一撃を貰うので、すぐに観客達の居る方へ。 巻き込むつもりは無い。 ただ、広々と自由に闘わせてほしいだけだ。

 

「げほげほ、げほげほっ、げほっ……手加減してくれるのは大変ありがたいが、も゙……ずごっ、げほっげほっ、本気で構わないぞ!」

 

「……そう、ですか」

 

あの、『もう少し』の部分だけ咳したせいで聞こえてなさそうなんだけど。 なんか頭のアレ──ああそうだ、シニョンを取ったと思ったら、角生えてんだけど。 いや綺麗ですよ? 綺麗だけど、何より全身の産毛が逆立つぐらいには怖い。

 

「(双角隻腕の、鬼……萃香と同等、もしくはそれ以上の実力……となると、華扇の正体は……)」

 

頭の中で、ただ1つの答えが出た。大江山の話でも有名で、《それ》以外は全てが当てはまらない鬼。 鬼の四天王と呼ばれ、その中でも酒呑童子に次ぐ力を持つと言われた鬼。

 

「──()()()()

 

「……はい。 私は、仙人なんかじゃない。 鬼です。 今まで隠していましたが……気付いた貴方の前なら、隠す必要は無い」

 

実力もですよ、と微笑んだ。その笑みは、先程のような余裕ではない。 いや、余裕も混じっているが、他もある。 全力を出せる事の悦び、隠し続けてきた事に対するストレスの発散等々。いつも見ている『甘味好きの優しい仙人』はそこに居ない。 居るのはただ、1人の鬼。

 

瞬きをした、確かに一瞬だった。

その一瞬で、俺の内臓から吐瀉物が溢れてきた。

瞬きの間に近付かれ、殴られたと気付く頃には、俺は地面に叩き付けられていた。受け身など取れる筈もなく、がくんと脳みそが揺さぶられる感覚と共に、背骨が悲鳴を上げた。

 

「お゙ぇっ……ぅぶ、ぉあ゙あ゙……」

 

たった一瞬で、恐怖が刻み込まれた。 胃が締め付けられるような感覚と、涙が止まらない。 立ち上がった直後、全身から力が抜け、自分で吐いたものの上に座り込んだ。

 

──本気を出されたら、殺られる。

 

だが。 本気を出す、という事は無いと言ってもいい筈だ。何故なら、華扇は俺が半人半妖だと知っているから。人間の肉体は脆いと、知っているから。

 

「っ……ふー……ふー……」

 

「……続ける気ですか?」

 

「あ゙ー……気絶、してねえからなあ」

 

本当は、少しでも気を抜いたら絶対に気を失う自信がある。だからこそ、一瞬たりとも華扇から意識を逸らせない。

 

「ほいほい、一旦中断。 いやー悪いね霊夜、お前の母親から《預かり物》があったの忘れててさ。って、おーい?聞こえてるー?」

 

「フーッ、フーッ……」

 

「あーダメだ聞こえてねえや、しゃーないからこのまま()()()()()

 

「入れる……? 貴女、何言って──」

 

霊夜(こいつ)の、()()()()()さ。 まあ順を追って話すから、よく聞くんだよ? おいこら霊夜、暴れんなって。……コホン」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

零──まあ霊夜だね、霊夜が()()()()失踪する前日くらいかな? 母親がなんか「この子の《力》を預かっていてほしい、その《力》が私の一族の血を引く者の証だから」だとかどうたらこうたら言ってたのさ。 そりゃあ私も驚いたよ。 他人の密と疎を操るだけで難しいってのに「《力》を預かれ」だなんてさ。 最初は私も反対した。 確証が無いし、そもそも理由も知らなかったからね。

で、理由を聞いてひとまず納得はした。 双方共に、リスクも含めてね。 ん、理由は何だって? そいつは後で話してやるさ。だからとりあえず、この手合わせを終わらせる事だね。

 

──と、集中していたせいか物凄く長く感じた萃香の話が終わり、飴玉の様なものを取り出した。それはすぐさま砕け、その欠片──いや、粉が俺の周りに漂い、やがて俺の中に入っていった。……特に変わった所は無い。

 

「……萃香、何も変わってないんだけど」

 

緊張を解いた為崩れ落ちそうになる身体に鞭打って、なんとか問答を続ける。 ……いや。 何も変わっていない訳ではない。強いて言うなら、《違和感》だろうか。

 

「ん、そうかい? そんなら、ほれ。 私から血ぃ吸って飲んでみなよ」

 

「えーやだ……絶対血糖値高い……」

 

「輸血と違うんだから、あとほっといてくれよ。 ほれ、能力試したいだろ?」

 

「……はいはい、分かったよ」

 

萃香の小さい手に牙を立て、そこから流れてきた血を飲む。口いっぱいに含み、2度、3度、4度喉を鳴らした頃だろうか。白狼の耳と尻尾から、急速に感覚が無くなった。代わりに、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ──!」

 

「……うん、成功成功。霊夜、お前の本当の力ってのは……新月になれば力が増す、なんてチンケなもんじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()能力さ」

 

そんな能力を持った一族は、間違いなく呪われてるだろう。 そんな事が一瞬だけ脳内をよぎったが、鬼化というのは中々どうして奇妙な気分だった。




本文で書けなかったのでここで補足。

霊夜の《月の満ち欠けによって力が増す程度の能力》は、霊夜の母親が魔法で《満月に近付けば力が増す》性質を反転させただけでした。だけって言うにしては壮大ですが、霊夜的には「強力な力持ってる奴が多過ぎて、どれだけ凄いのかが分からなくなってきた」そうです。



さてさて、真の力(?)を取り戻した霊夜ですが、一族揃ってそんな能力授かるってのも凄いですよね()。
でもこれで鬼化した訳ですから、どんな手合わせになるかはまだ分かりません。
ではまた次回。……決着、つくかな?


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酒と喧嘩は鬼の華

こんにちは、そして明けましておめでとうございます(遅い)。遂にゲーミングPCを購入したユキノスです。

今は書く事が無いので、本編どうぞ。ワンチャン、ここと後書きに書いてあるの消えます()


俺が(一時的に)互角の実力となった為、どちらかと言うと喧嘩になった手合わせをしていて分かった事は、

①魔法が使えない

②肉体が頑強になった

③肉体の状態は引き継ぐ(?)

の2つと、仮定として出た1つだ。 探せばもっとあるんだろうが、今は探していられない。 だって華扇本気出してきてるし。 言われてないし聞いてないけど、薄々感じられてはいる。 最初の時に比べて明らかに重いし、何より笑みに凄みがある。 具体的に言うと、戦闘狂の笑み。 怖い。

 

「ラァッ!」

「デリャア!」

 

それともう1つ。 肉体が頑強になった、とは確かに言った──鬼の特性として、《頑強な肉体》が挙げられるからだろうか──。 だが、それでも前述の通り互角なので、正直言うと痛い。 それは華扇(向こう)も同様だろうけど。

 

「……中々、強力になりましたね」

「俺の実力じゃないってのが、悲しいとこだ……がっ!」

 

何度目かの衝突。 骨を砕く感触と、砕かれる感触が同時に来た。 ──楽しい。

 

笑みが浮かんだ。 闘いに対する快楽が生まれた。 鬼の特性だろうか。 色が消えていく。 視界が引き伸ばされていく。 1歩踏み出す。 跳ぶ。 そして──殴る。

 

「うお……」

「……マジか」

 

「…………………」

 

内臓が振り上げられたような感覚。 貫かれてはいないが、ふっ……と力が抜けて、誰かの手に抱えられた。

 

「……ごめんなさい、少しやり過ぎてしまったようです。久々に高揚してしまって……」

「あー、いいよいいよ。 ある意味仕方ない事だし。 ……で、天魔に萃香、これで満足? 動いたらまた吐きそうだ(あんま動きたくない)から、こんな姿勢だけど」

 

いや待って、普通に吐きそう。 内臓シェイクされたらそれはまあ当然なんだが、力が互角とはいえ華扇が強過ぎる。

 

「ん、満足満足。 ちゃんと使えてんじゃないか、適応性高いねぇ」

「俺も、異論はねぇ。 とは言え、勝負は華扇殿の勝ち。 つっても鬼の四天王と渡り合ったんだ、賞賛に値するぜ」

「なぁんでお前が上からなんだよっ」

「いぃってぇ!? 俺霊夜(こいつ)に対して言った筈なんですけど!?」

「え、気付かなかったすまん」

 

よくもまあケラケラと笑ってるなこの野郎。 あと叩くな。マジで吐く。 ……いやまあ、既に服汚しちゃってんだけどさ。 咲夜になんて言おう……吐いたのが掛かった、うーんアウト。

 

「──おーい、起きてますか? おーい」

「……ペちペちしないでくれ、吐きそう」

「何が『吐きそう』ですか全く……相当な無茶して、挙句吐いても続行って。 ただのバカじゃないですか」

「はは……ぐうの音も出ねぇや」

「……ほら」

 

すっ、と椛の華奢な手が差し出された。 あんな重そうな刀振ってるのに綺麗な手だなー、凄いなーと思ってたら、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。 えーと、すぐ近くまで来てそっぽ向くって事は『撫でてほしい』って事でいいのかな? ……多分違うな。立てって事だろう。

 

「……さんきゅ。 しばらく動いてなかったから、鈍ってるのかもなぁ」

「はぁ……私が言いたいのはそこじゃなくて、ああもう……とにかく! こっちに来てください!」

「………??????」

 

頭に大量の疑問符を浮かべたまま着いていくと、白狼天狗の詰所に戻ってきた。 奥の方で何やらゴソゴソ探しているようなので、外で待つことにしよう。

 

「やぁ、あの時取材した男の子がこんなになってるというのは……いやはや、感慨深いものですねぇ」

「なぁに浸ってんだ。 初見で『こんにちはペンキ塗りさん!』って言われたの覚えてるからな」

「あやや、薮蛇でしたねぇ。 ……その目、やっぱり治らないんですか?」

「治らない、っつーか何つーか……潰されてグチャグチャのまま取り出した、って言われたな。 どんな事も包み隠さず話す永琳の性格からして、嘘じゃないだろうよ」

「ほほう……見させていただいても?」

「よろしい訳あるかバカタレ」

 

肉なんか見て何が面白いんだろうか。 仮にも鴉だから、肉でもついばむつもりだろうか。 嫌だ。

 

「あったあった……っと、文さん来てたんですね」

「そんな嫌そうな顔しないでくださいよぉー、私と貴女の仲じゃないですかぁー」

「…………」

「……すっげぇ嫌そうだぞ、その態度辞めとけ」

「あやや、残念。 で、その服は?」

「彼の服ですよ、吐瀉物で汚れてるじゃないですか。 それに、この山で働くならこれ着ろって言われてるんです」

「へぇ……まあ、ありがたく着させてもらうよ」

 

木の陰で着替える事にしたが、この服意外と軽い。 袴のような見た目だが、ちゃんと機能性が重視されている。 ……これ、誰が考えたんだ? 河童?

 

「……おっ、ぴったり。 まあ尻尾はどうすっかねぇ……」

「ちゃんとそれも出来てます、心配は無用です」

「お、おお……流石」

「……まあ、貴方の場合は普段着でも良さそうですが」

「……? どゆこと?」

 

まだ分からないのか、と言いたげに溜め息を吐き、椛は宴会に戻った。 残されたのは、全く分からなくて頭に「?」を浮かべる俺と、含みのある笑みを浮かべる文だけだった。

 

「……まあ、あの子は不器用なので。大目に見てやってください」

「ああ、そりゃ良いんだけどさ。 とりあえず、戻ろうぜ」

「おや、もうそろそろ夜明けですよ?帰らなくていいんですか?」

「人間にバレなきゃいいよ。 多分」

「あやや、随分とイケない子ですねぇ」

「その言い方腹立つな。 縛り上げて紫外線で焼いてやろうか?」

「それはそれで嫌ですよ、私の白いお肌が……」

「鴉は黒いだろ」

 

因みにその後は容赦無く背中を叩いて水をぶっかけるつもりだ。 ……まあ、文には色々と恩があるんだけど。

 

「とりあえずアレだ、鬼でいる間にちょいと『程よく酔った』状態ってのを味わってみたいんだよ」

「おっ、弱い人特有のアレですね?」

「弱い人皆が特異体質(こんなん)じゃねぇだろ。 そんな『弱い人ならこうなれます!』みたいな言い方されても」

「いえいえ、そこではなくて。 程よく酔っ払う方です」

「あ、そっちね」

「むしろその発想が驚きです」

 

前々から不思議なんだが、文と話しているとネタが尽きない。 あちこちで取材した時の話をしてくれるので、実は結構好かれてるんじゃないかと勝手に思ってたり……あ、それは無い? 知ってた。

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

「……で、飲む直前に能力が切れて、普通に酔っ払ったと」

「む〜……だぁってぇ、そこまで時間経ってると思わなかったんだもぉん……」

「あぁはいはい、分かったから顔を埋めるのをやめてください。 夜明けだからって、ここで寝るのもやめてくださいね……ほらっ」

 

両頬を叩いて挟み込むが、蕩けた目付きは変わらない。 酒に強い妖怪は数あれど、ここまで弱いのも珍しいぐらいだろう。 他に酒に弱い妖怪と言ったら、私に浮かぶのは……いや、居なかった。全員が全員、最低でも酒瓶3本分は飲める者ばかりだった。

 

「なんで影狼も、こんなのを好きになったんだか。 ……いや、こんなのだからこそかな。 幸せ者ですね、貴方も」

「うぇへへぇ……い〜でしょ〜」

「はいはい良かったですね、どうせ私には春なんて来ませんよーだ」

「……ふふっ、だぁいじょぉぶ………きっろ………もみじ、にも……」

「……口ではいくらだって言えます。 でも、……まあ、来るとは思っておきますよ」

 

(他人)の膝の上で完全に寝入ってしまったようで、規則的な息遣いを立てている。 やけに可愛げのある顔なのがまた癪に障るが、《あの人》の息子ならまあ……と納得。 事実、()()()である彼女も美人だ。

 

「………そう言えば、最近顔見てないなぁ。 どこに居るのかな、あの子」

 

昇る朝日と他人の子供を肴に、酒を呷る。 我ながら変な取り合わせだな、と思いながらも、悪い心地はしなかった。




椛可愛いよ椛。ケモ耳って完全なる萌え要素ですよね(唐突)。

さて、夜通し続いた宴会編も終わり、次回は……流石に異変行きましょうか。1年半ぐらいすっ飛ばす事になりますけど……流石に日常回だけってのもアレですし、ね?

ではまた次回。


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どこにでもある奇跡
ミッションスタート / お守り


こんにちは、PUBGとマイクラが思ったより高かったユキノスです。
今回から風神録突入!ということで、外の世界に行った方が良いかのアンケ取りました。小説垢作ったばっかなのもあり、1票だけでしたが……小説関連は今後そちらで報告するので、お気をつけください。という事でリンク↓
https://twitter.com/Yukinosu_Novel?s=09

ではどうぞ。 今回めちゃくそ長いです。


「……あ?」

 

臭いに、違和感がある。 自然の爽やかな臭いではなく、もっと硬い………鉄? 鉄が錆びたような臭いだ。 普通に嫌いなんだが。 空気汚な過ぎだろ、ここ。

 

「ここ……どこだ?」

 

どこか、建物の間だろうか。 辺りを見回しても、景色は灰色の壁しか無い。

 

「……幻想郷じゃないのは確かだ、とりあえず出るか」

 

1人でぶつくさ言いながら立ち上がると、胸の辺りにかさりとした紙の感触があった。 出してみると手紙のようで、内容はこうである。

 

 

前略、霊夜へ

先日萃香が外の世界の神を見付けましたが、大体の場所しか覚えていないそうです。 私と藍は受け入れの準備がある為探しに行けず、適任者は誰かと探してみた所、貴方に白羽の矢が当たりました。 どうかその神と接触し、神社の場所をお教えください。 左手首のリボンに話し掛けてもらえれば、私に繋がります。 では、よろしくお願い致します。

 

 

「って事は、ここは外の世界か。 ………まぁ、あの紫が珍しく真面目な文章送って寄越したって事は大事なんだろうけど……つったってなぁ、どう接触しろと……ん?」

 

 

追伸 貴方の姿は一般人には普通の人間に見えますが、力を持った者にはいつもの姿で見えます。探す時は、それを頼りになさってください。

 

 

……なるほど、随分とまぁ便利なこって。 否応無しに飛ばされたとは言え、帰る方法も分からないので従うしか無さそうだ。 ……にしたって、白狼天狗の制服のままってのはどうかと思う。

 

「こればっかりはしゃーないか……うわっ、眩し」

 

変わらずぶつくさ呟きながら歩いていたら外に出た。 ──そこで、大いに驚いた。

まず、地面が土じゃない。もっと硬い、石? のようなものが詰まっている。 木々も少ない、ビカビカ光る板もある、わんさか人が居る、etc……。 とにかく、幻想郷とは違う事があり過ぎるのだ。

 

「……なぁんじゃこりゃ」

 

ぽつりと呟いた言葉が人の波に消えるまで、そう時間は掛からなかった。

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

あれからしばらく歩いてみたが、それらしき人物はどこにも見当たらない。 と言うか人が多過ぎて、居ても分からないのだ。

いやまあ、弾幕ごっこのおかげで誰にも当たってないけど。 でもそれとこれは違うと思うんだ。

 

「と言うかよくよく考えたらアレだな、これ俺から分かる手段ねえな。 ……あれ? これ詰んでね?」

 

スキマのBBA()は、俺が人見知りなのを分かってこうしているのだろうか。 分かってるとしたら、余程余裕が無かったか、人選を間違えたとしか言いようが無い。

 

「あっ、あの子可愛いー!」

「何あのカッコ、映画の撮影? 写真撮っとこー!」

 

『えいが』とは何ぞや。 と言うかやっぱこの格好目立つよな。 うん、知ってた。

ところで試してなかったが、《外》では飛べるんだろうか。 やってみよう。

 

「……お、っと。 マジか、出来んのかぁ……」

 

結論、飛べる。 でも騒ぎは起こしたくないので、出来るだけ飛ばないようにしよう。

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

「ねえねえ東風谷ぁ、アタシら金無くなっちゃってさぁ。 こんだけでいいから貸してよぉ、お願ーい☆」

 

立てられた指は、3本。 3000円ならどれだけ良かっただろうか。 だが、現実はとことん非情な要求──3万円。 つい先週2万せびったばかりだというのに、この人達は何にお金を使ってるんだろう。

 

「……今は持ち合わせが無いので。 じゃ、私───」

「何言ってんの?」

 

早足で帰ろうとしたが腕を掴まれ、内心で舌打ち。 彼女らは、寄って集って金をせびる事に快楽でも覚えたのだろうか。

 

「アタシら()()じゃーん、ねぇ良いでしょー?」

「そーそー、通帳にあんでしょー? ……知ってんだよ、バイト禁止なのにバイトしてんの」

「っ……」

「せーんせー、東風谷がー」

「や……やめて……っ!わた、渡すから……!」

 

──迂闊だった。 彼女らは皆、私の弱みを──いや、他にも色々なものを握っている。 住所、電話番号、通帳、合鍵。 全てが狂ったのは、どこからだっただろうか……?

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

「霊夜、霊夜」

「んん……紫? こんな夜更けにどうした?」

「貴方に吉報ですわ。 ──萃香が、もう1つ情報を教えてくれた」

「おっ、マジか。 助かる」

 

夜になったが見つからない……と言うか宿を考えてなかったので、今は木の上に居る。 ……仕方ないだろ、金持ってないんだし……いや、あっても馬鹿みたいに物価高かったから買えないけど。 120円とかどこの金持ちだ。

 

「原文そのままに伝えますわ。 『んー確かぁ、神社だったかなぁ?名前は覚えてないや、ゴメンゴメン。 あーでも、そこに居た人間の女が緑色の髪してた。それしか思い出せない』」

「……そうか、緑色の髪……結構大きいんじゃないか、それ?」

「ええ。 ……ただ、神社の名前が分からないのは少し面倒ではあります」

「だよなぁ」

 

萃香の声真似(しかもちょっと似てる)をしている紫も面白かったが、有益な情報を貰った。神社探しもそうだが、緑色の髪の女性も探してみよう。

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

「早苗。 ……早苗?」

「あ、うん……何?」

「ほんとにどうしたのよ、最近、帰ってきてからずっとそんなじゃない。 何かあったの?」

「ううん、何でもないから大丈夫。 ありがと、心配してくれて」

 

お母さんは優しい。 だけど、傷を逆撫でこそしないものの癒してはくれないのもまた事実。 彼女らからのイジメについては前に話したものの、「貴女にも原因があるだろうから」と言われ、それ以降は耳を傾けてくれなかった。

 

「今日()、洩矢様の所に行ってたの?」

「……うん。 もう、消えるまで時間の問題だ、って」

「そう……。 でも、きっと何とかなる。 だから、私達には見えなくて、貴女に見えるんだと思う。 私達に無くて、貴女にあるものが、洩矢様を繋ぎ止める楔になってくれる。 多分、そんな気がする」

 

……私の、唯一──いや、ただ二柱の《話を聞いてくれる》味方。 洩矢諏訪子様と、八坂神奈子様。 お二人は守矢神社の神様で、信仰不足から消滅の危機に瀕しているとか。

 

「……うん、ありがと。 じゃ、私もう寝るね」

「うん、お休み」

 

足音が遠ざかったのを確認し、戸に寄り掛かり、ズルズルとへたり込む。 どうしようもなく涙が溢れ、それは制服に2つの染みを作っていく。

────悔しい。

 

悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。

 

「ひっく……うくっ……」

 

前に、聞いてみた事がある。

何故私が責められるのか。 何故私から金をせびるのか。 何故、私は……殴られ、蹴られなければならなかったのか。

返ってきた答えは簡潔だった。

 

 

『──え? そんなの決まってんじゃーん』

『ねー、1つしか無いのにねー』

『え……?』

『『楽しいから?』』

『………』

『『キャハハハハハハ──────』』

 

 

 

「ッ────!」

あの時の彼女らの、あっけらかんとした笑顔。 悪行を悪行と思わない、罪を遊びと嗤う者の顔。 不意にそれがフラッシュバックし、私に激しい吐き気を催させた。

 

慌てて廊下を走り、洗面所の流しに着いた所で限界が来たそれは、びちゃびちゃと音を立てて雪崩を起こし、やがてそれが治まり、鏡に写った顔は、お世辞にも高校生とは思えなかった。

涙と汗でびっしょりと濡れた、青白く、血の気の無い顔。 瞳から生気はほぼ消えていて、薄く濁ってすら見える。 加えて泣き腫らしている為、余計に滑稽だ。

 

「……私、なんで生きてるんだろう」

 

他の人には黒に見えるこの緑の髪も、何故か周りで起こる不思議な事も、神奈子様と諏訪子様の事も。 全て無かったら、どれだけ幸せな人生が送れただろうか。 どれだけの涙を流さなかっただろうか。

 

不意に、ことり、と音がした。 拾い上げてみると、小さい頃に「お揃いだよ!」と作ったお守りだった。今にしてみると粗末な字で「おまもり」と書かれたそれは、長い年月を経た証として、所々が解れ、破れていた。

中を開けてみると、「きせきがおきる」と書いた紙が入っていた。

今はもう懐かしい、「ずっと一緒」という約束。 それは、まだ効果があるようだ。 私は、彼女から離れられないのだから……。

 

「……はは……この頃の私……何も知らなかったんだなぁ……」

乾いた笑いが、洗面所に虚しく消えた。




東方二次創作は数あれど、多分ほとんど無いのが「病み早苗」。なんか……そんな気しないですしね。勝手な妄想ですが。

そう言えば、早苗が高校生なのって公式じゃないんですね。だから下手したら霊夢よりずっと年上だった可能性も……?まあこの小説では高校生なんですけど。


さてさて、あちこち視点と世界が切り替わる(かもしれない)風神録、どうなるでしょうか。

ではまた次回。


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目的地、到着!

こんにちは、ユキノスです。

さて前回から始まった風神録ですが、何よりこれ文章がクソ長ぇ。 なので、休み休み読みましょう(震え声)。
でも実際、いつもの2話分を1話にまとめたぐらいの量なので、読んでて飽きる人絶対居るでしょ絶対。

という訳で、ちょくちょく番外編挟みながら進めていきたいと思います。 ではどうぞ。


あれから、何も情報が無いまま2日が過ぎた。 今日も朝日と共に、清々しい目覚めである。

 

「ん………ゔ〜〜〜っ、はぁぁ」

「キミぃ、こんな所で何してるの? 親は居ないの?」

 

なんか辺りがめっちゃ暗くて、光が下から来てる気がするけど気にしない。 さっきから黙ってたら……うるさいなぁ。

 

「あー、なんでしょ。 すいません、目覚め悪いんで」

「こんな夜更けに、公園の木の上(こんな所)で何してるのか聞きに来たんだ。 見たとこ、かなり若そうだからね」

「あー、えーっと……」

 

しまった。 誤解されない説明方法が浮かばない。 正直に言うと「は?」という返答が来そうだし、かと言って答えなくても怪しい。 つか今何時。

 

「今? 今は……夜の11時半だよ」

「うへぇ、まだそんなもんなのか……。 親は行方不明……なのかな、とりあえず連絡無し。 で、家……家かぁ……」

 

言われてみると、こっちで暮らす所については何も考えていない。 だって、神様と会ったら即帰るつもりだったし。 ここまでヒントが無かったとか考えてなかったし。

あれ? そう思うとかなりふざけてね?

 

「無いの? ならとりあえず警察の方で引き取るよ?」

「ああいえ、ありますあります。 ただ、引っ越して来たばっかで、迷っちゃって……」

 

我ながらひでぇ嘘だと思ったが、『けいさつ』のお兄さんは信じてくれた。 場所を聞かれた時はどうしようと思ったが、どうせなら目的地の神社を言ってみるとしよう。 当たりかは知らない、完全なる運勝負だけど。

 

「……人気の無い、寂れた神社なんですけど……名前が思い出せなくって」

「ほんとかい? そうだなぁ……ちょっと待ってて」

 

そう言って、何か小さな箱に話し掛けた。 別の、生気の感じられない声が返ってきた時は思わず警戒したが、どうやら道案内をしてくれるらしい。 すっげえありがたい話だ。

 

「えーと……この辺りで寂れた神社って言うと、1箇所しか無いんだ。 《守矢神社》っていうんだけど、一応確認に来てくれるかい?」

「はい、ありがとうございます。 それでえっと、どの辺なんです?」

「ああ、こっちだよ」

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

「──という訳があったんです、何も悪意はありません」

「ほっほーう、それに嘘は無いんだねぇ? あったら──」

「無い無い無い無い、何も無い! 何なら八雲紫から書状も預かってる!」

 

チロチロと長い舌を出し、幼い見た目とは思えない程凶悪な笑みを浮かべているとってもキュートな祟り神こと洩矢諏訪子は、俺が到着してお兄さんが帰った直後に輪っかで拘束してきた。 ……なんか変な解説混じった気がするぞ。 蛇みたいな舌で舌舐めずりしてるのをキュートとか言ってたら末期だわ。

 

「いやぁ、懐かしい服着てんなぁとは思ったさ。ついでに、その耳と尻尾もね」

「……それはまたありがたい、と言った方が良いのかなこれは。 とりあえず攻撃の意思は無い、と分かってもらえれば」

「なら、早くその書状とやらを見せておくれよ」

「じゃあ拘束解いてくれよ……」

 

しょーがないなぁ、とぶつくさ言いながら外してくれたが、代わりにヒヤリとした悪寒が走った。

 

「ま、嘘なら即刻祟り殺すだけさね」

「は、ははは……」

 

可愛らしくウインクしているが、言ってることが笑えない上に実際出来るだろうから余計笑えない。

と言うか……もう1柱はどこに?

 

「おーい神奈子ぉー、幻想郷からお客さんだぞぉー」

「あー、今行くー。 んんっ、あー、あー、……よし」

「………調子狂うなぁ」

 

初っ端からだらけた声出しちゃいかんだろ。 神様の威厳大丈夫か。

と思ったが、諏訪子の肌を撫でる寒気とはまた違う、包み込むような力強い……オーラ? 的なものを感じる。多分、これが神力なのだろう。 諏訪子のそれもそうだが。

あと、あの注連縄(しめなわ)重くないんだろうか。

 

「よく来たな、幻想の。 大したもてなしも出来ないが、何用だ」

「新月霊夜と申す。 洩矢諏訪子殿、並びに八坂神奈子殿で間違い無いだろうか」

「ああ、間違い無い。 その様子からすると、伊吹童子の知り合いだろうか?」

「いかにも。 本日は、貴殿らに話があって来た」

「中で聞こう。 ただし、寝ている者が居る。 我々も注意するが、あまり白熱し過ぎないようにしてもらいたい」

「承知した。 ……失礼ながら、その者について教えていただいても?」

「それも含めて、中で話す」

「だとさ。こっちだ、着いて来な」

 

今更ながら、諏訪子の被っている帽子と諏訪子の目がリンクしている事に気付いたが、それを差っ引いても1つ言わせてほしい。

堅苦しいのは大っ嫌いだ!

 

「やぁ、前に伊吹童子から聞いた事があってさ。 片眼の潰れた、面白い白狼天狗が居るって」

「ほー、何て言ってた?」

「……言って良いものなのかねぇ…………まあいいや、言っちゃお。 『めんどくさがりで、闘うのが嫌いで、酒も飲めないような奴だけど、悪い奴では決してない。だから、あいつが人間に目ん玉潰されたって聞いた時は驚いたよ』って」

「……ぶっちゃけ俺が驚いてんだけどな。 俺のそっくりさんが暗躍してたらしいけど、今頃どーしてんのかねぇ……」

 

紫には俺が外の世界に居る事を先生に公表するよう言ってあるので、もしこれで襲われたなら俺じゃない証拠になってくれるだろう。 ……証拠としては少し弱いけど。

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

守矢神社 居住スペース

 

「さて、まずそちらの言い分を聞こうか」

「ああ。 大体はこの書状に書いてある通りだ、目を通してほしい」

「えーっと、何々……うわ、胡散臭い文章だなぁ。 ……あー、うん。まあ確かにそうだなぁ……」

 

書状に書かれていたのは、要約すると「へいへいお二人さん、消滅しそうなんだって? それなら、ウチに来てくれれば消滅しないで済むよぉ? どお? 来ない?」的なもの。 実際こんな感じの文章だ、俺なら破いて捨てる。

 

「……どうだ?」

「うーん……話としちゃあ、悪くない。 と言うかむしろ願ったりだ。 だが1つだけ心残りなのが……」

「分かってる。 早苗の事だろう」

 

早苗……? と首を傾げてから、そうだ寝てる人が居るって言ってたな、きっとその人だと納得。 結局何者なのかは分からないけど、まあそういうもんだろ。

 

「ああ、今奥で寝てる奴さ。 東風谷早苗っていってねぇ、私の遠い子孫にあたる人間さ」

 

諏訪子はケロケロ笑うが、神の子孫に人間が居るって初めて聞いたんだが。 いやそうでもなかった。

 

「何かある、ってのは分かる。 ただ、その《何か》を教えちゃくれないんだよね」

「そ。 来るべき時が来れば、ちゃんと話してくれるとは思ってるけど……ダメだね、何も言ってくんない」

「あのなぁ、いくら聞き出しづらいからって……」

「聞いてるさ。 ただ、直接的じゃないがね」

「と言うと?」

「おいおい、何があったか分からないからに決まってるじゃないの。 何も分かってないってのに、どうやって策を練れってんだい?」

「……あー、理解した。 うん。 つまりアレだな、お前らは、アレだ、えーと……」

「アレアレ言ってても分かんないぞー? ちゃんと整理してからじゃないと……」

「……助けたいんだな、その……早苗、さんを」

 

話の展開に着いていけず、答えを出すのに手間取ったが、首肯された為、今後の方針を決める。 俺が幻想郷に帰る為、やるべき事は1つ。

 

「俺も、それの解決に手伝わせてほしい。 ……ダメ、かな」

「いや、私らとしては大歓迎さ。 ただ、1つ言うならそうさねぇ……お前は、早苗を知らなさ過ぎる」

「……と言うと、どっから話すおつもりで……?」

「そうさなぁ、じゃあまず生い立ちから……」

「いやいやいやいや、それじゃ長過ぎる。 もうちょい縮めろ、な?」

「あーはいはい、分かったよ。 それじゃ、割と手短に努力して話すよ」

(良かった……)

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

東風谷早苗、さっきも言った通り私の子孫さ。 目に入れても痛くないとはこの事、なんだよそれも削れって?

かぁー、お前って奴は薄情だなぁ。 いいだろ、子孫の自慢くらい。

んで、早苗には幼馴染みが居るんだ。 お前も居るだろ? 同年代の。 あ、ずっと年上? まあいいや、とにかくそいつとだな、お揃いのお守りを持ってたんだ。

なんで知ってるかって?そりゃあお前、私がその場に居たからに決まってんだろ。

……ただ、そいつはずっと昔、捨てられちまった。 早苗はまだ持ってるけど、その幼馴染みはもう持ってない。 加護もへったくれも無い、ぐちゃっとしたモノだけど、早苗が指を怪我しながら縫ったお手製のお守りを、だ。 酷いだろ?

早苗は、そいつに《ずっと一緒》という()()が起こるように願った。 ……それがいけなかったんだ。 あー落ち着きなって、説明するから。

あの子は人間であり神だ。 俗に言う現人神って奴さ。 だから、《奇跡を起こす》なんて大層な力を授かってた……不完全だけどね。 ただそれは、今や鎖となって早苗を縛り上げてる。

 

 

諏訪子は、そこで1度話を止め、忌まわしそうに白い歯を軋ませた。 神奈子はと言うと、腕を組んだまま拳を震わせていた。

 

 

……イジメを受けてんだ。 金を毟り取られて、靴を舐めさせられて、悪行を自分のせいにされて、パシられて、それを拒めば暴力を振るわれた。 私達は、そう聞いたよ。 ただ、信仰の無い今……私達には、何も出来ない。 懲らしめる事も、言い聞かせる事も、祟り殺す事も。

 

 

物騒な単語がちらりと出たが、されている事を聞いた上でなら別に出てもおかしくないと思う。

 

「──ええと、俺なりに噛み砕いてまとめると……早苗さんは、幼馴染みとの友情の証として、お守りをお互いに作ってもらった。 幼馴染みの方はもう捨てちゃったけど、早苗は今でも大事に持ってる。 それには早苗の『ずっと一緒』という《奇跡》が願われているから、捨てない限り離れられない。 でも、その事を忘れた幼馴染みは、離れられない早苗を良い様に使ってる……で、合ってる?」

「……ああ、大体ね……………」

「諏訪子………、済まないが、そういう訳だ。 ……会ったばかりのお前に頼むのは、気が引けるが……頼む」

「お、おいおい! 顔を上げてくれよ、申し訳なくなるだろ!」

 

半端な妖怪風情に、2柱の神が頭を垂れていると聞くだけでもゾッとしないが、自分がそれをされているというのは本当に笑えない。 ……でも、それ程に大切なんだろう。藁にも縋らなければならない程に。

 

「……俺が出来る最大限の手助けはする。 それだけは、保証出来る」

「……ああ。 ありがとう」

「そんじゃ、まずは……───とかどうだ?」

「「………はい?」」




霊夜の案とは(質問)。
流石にこれはもう案出てますが、実行に移す前に別の案に変わる事が多いのでヤバいのです()。

ではまた次回。


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特別編:お返し

文「こんにちは、最近やたら長いのばかりで飽き飽きしてるそこの貴方! 今回は本編の重〜〜〜い話から離れて、ホワイトデーの特別編となっておりますよ! 時系列的には、バレンタイン特別編の1ヶ月後だそうです。 1年前のものですが、皆さん覚えてますか?」

椛「因みに、私達はこの話には出てきません。 文さん、紅霧異変の後にちょろっと出てからほとんど出てないですよね?」

文「わ、私だって色々と忙しいんです! ……んんっ。 では、特別編の始まりですよ〜」

椛「……最初書かないって明言してた割に、張り切って書いてましたね」

文「それは言わないお約束です。あと、度々書き方が安定してないのもね」


「霊夜君、ホワイトデーのお返しはもう決めたんですか? あと1週間ですが」

「んーん、決めてない。そもそも人が多……そこ、カリカリ聞こえる」

「あら残念、奥に入っちゃったみたいです。トントンしますので、こちらを向いてください」

「……あのなぁこあ、俺だってもうそんな──あ、カタっていった」

 

 初っ端から謎の光景だろうが、そこはもう気にしないでほしい。キリが無いから。

 ん?なんでこうしてるのか、って? ……こあ、耳掃除上手いんだもん。

 

 話を戻そうか。 こあの言葉通り、あと1週間でホワイトデーである。日本独自の風習──とどこかで聞いたが、まあお礼をするというのは別に良いだろう。ただここで問題なのが、俺が貰った人数が割と多いのだ。まあほとんどは義理もへったくれも無いものだろうが、それでも礼ぐらいしたっていいだろう。てかしたい。

 しかし、俺は料理が出来ないのだ。つまり、チョコ等によるお返しは無理ということ。

 

「なんか無いー? 俺なら出来そうなの」

「うーん、霊夜君自由人ですからねぇ……。そういうの、あんまりやらないじゃないですか。だから、慣れない事に挑戦するより……こう、いつも通りの事で良いんじゃないですか?」

「……ごめん、その《いつも通り》が自堕落過ぎて」

「自分で言っちゃおしまいですよ、それ。……ふっ」

「んっ……」

「……私は、霊夜君が元気ならそれでいいんです。異変を起こしても、巻き込まれても、無事に帰ってきてくれれば。だから「こあ」ひゃあい!?な、ななななんれすかパチュリー様ぁ!?」

「慌て過ぎよ。アリスが来たから、紅茶をお願い。2杯ね」

 

 分かりましたー! と大慌てで走っていった割には、顔が赤くない。あそこまで動揺するなら、普通は顔を真っ赤にしていてもおかしくないんじゃなかろうか。

 

「それはともかく……無事に、かぁ」

「何が無事になの?」

「お、アリス。実はさ」

 

 少年説明中……

 

「ああ、ホワイトデーのお返しの話だったのね。てっきり何か起きたのかと思ったわ」

「ははは、そいつはしょっちゅう起きてっから。報告するだけ無駄だ」

「そうかも。……それで、何か良い案は浮かんだ?」

「……実は何も。全員から貰って、誰の分も決まってないんだ」

「あら、いつもはもっと適t……自分に正直に生きてるじゃない。悩むなんて、霊夜らしくもない」

「適当て。いやまあ合ってるんだけど」

 

 待てよ?そう言えばパチェが『魔法使いは、退屈をどう紛らわすかが重要なのよ』って言ってた。つまり、こあはともかくとしてパチェはある程度絞れるという事だ。一歩前進。

 

「むむむむむ………」

「そんなに悩まなくても……。じゃあ逆に、霊夜がパチュリーにしてあげられる事って何?」

「え、ええっと……基本的な雑用、薬草の調達、あとは……それだけ」

 

  指折り数えても思ったより少ない件について。いや、パチェがしてくれてる事の方が多過ぎるのか?

 

「それだけ出来れば、パチュリーには十分じゃない? 身体弱いんだし、外にはあまり出ないでしょ?」

「確かに。……って、それじゃいつもと変わらないような……」

「誰も『いつもと違う事以外は期待しない』なんて言ってないじゃない。だから、貴方が出来る事をしてみるのが一番良いと思うわ」

「……うん、そうだな。ありがとうアリス」

「どういたしまして。それに、上海達も遊びたがってるし……ね?」

「シャンハーイ!」「ホウラーイ……」

「おわっ、……転移!? いつの間に……」

「前から出来たわよ、してなかっただけ。奥の手は出さない主義なの」

「出してんじゃん」

「………………」

「出してんじゃん」

「……まだ、あるから。うん」

 

 ***

 

 普段何でもそつ無くこなすアリスの思わぬ失態を弄るのは面白かったが、他の面々へのお礼に頭を悩ませていた。

 あ、今永遠亭ね。

 

「ふわ〜ぁ……何にすっかねぇ……」

「眠いの? なら私の腕の中でお休みなさい?」

「そうす……」

 

 る、と言いかけて跳ね起きた。そうだった輝夜瞬間移動可能なんだった。それとは関係無いけど、何故か妙に俺をペットにしたがる。もこ姉への盾にでも使うんだろうか。いい迷惑である。

 

「あら、残念。膝枕してあげようかと思ってたのに」

「そう言ってこないだ抱き枕にされたの忘れてないからな!? あと寝てる間に服剥ぎ取られたのも!」

「あら、細身でもしっかりしてて良いじゃない。好きよ、そういうの」

「俺の心臓には悪いんだよ……」

 

 ほんっっっっとに冗談でもやめてほしい。難題に挑まされた五人のお偉いさんは、さぞかし苦労しただろう。……って、それは既に周知の事実か。

 

「いいからほら、眠いなら無理しない」

「いーや、この眠気は薬のせいだね。変な臭いがぷんぷんしてる」

「ちぇっ、バレちゃった」

 

 しとやかに笑ってはいるが、悪意ゼロでやるにしても相当だろ。薬を使うな。

 と言うか、したいなら言ってもらえれば《ある程度は》許容出来るんだが。

 

「じゃあ強行突破ーっ♪」

「むぐっ、う……」

 

 瞬間移動で薬を吸わされた、までは分かった。でもその後が、一切分からなかった。……って言って、薬の効力伝わる?

 

 ***

 

「う……」

「ふふふ、残念。ちょっとだけ警戒が足りなかったかな? なんて、もう寝ちゃってるか」

 

 薬を吸わせてまで、私が霊夜にしたい事。それは、《あの可愛い顔と逞しい身体のギャップが見たい》。あ、今「それだけ?」って思ったでしょ。私にとっては大きいのよ。

 という訳で、いつもの通り服を剥ぎ取り……もとい、脱がさせてもらおうかしら。はぁ、胸が高鳴る……。

 

 3回目ともなれば慣れてきて、割と簡単に下着のみとなった。……しかし凄いのが、逞しいのに軽い。普通、脂肪より筋肉の方が重いから、同じ身長でもマッチョとおデブさんでは前者の方が重いのよ。

 

「はぁ……ほんとに、良い身体つきしてるわー……」

「……ん」

 

 少しだけ耐性がついてきたのか、いつもより眠りが浅い。でもその背徳感と罪悪感が──襖の開けられた音で掻き消された。

 

「あらもこたん、今日はどういったご用事? 私、今とおっても忙しいんだけど」

「そうかそうか、遺言は以上だなぁっ!」

「きゃー怖ーい、霊夜も燃えちゃうー」

「……今、お前が相当にクソ野郎ってのが確定した」

「あっ、あら? もっと『くっ……ずるいぞ!』みたいに言ってくるかと……」

「お前と違って、私は霊夜にそんな変態的な感情は抱いちゃいない。第一、他人を盾にする事自体が間違ってんだよ」

 

 あら意外と冷静。でもやっぱりもこたんツンデrあづぅ!?

 

「あっ、熱々、熱っ……」

「ったく……永琳に言われたんだよ、お前が薬で霊夜眠らせてるって」

「あー、やっぱ気付いてたんだー。でも霊夜、中々脱いでくれないじゃない」

「当たり前だろ、霊夜を他人の前で脱ぎたがる変態にすんな」

 

 いやー、もこたんって霊夜絡むと性格変わるのよねー。やっぱりこれはツンデレの証拠じゃないかなー?

 と思ったけど、やっぱり違うか。霊夜と慧音にだけ激甘なんだ。

 

「……やっぱり身内贔屓か」

「あん?」

「なんでもー? それよりほら、服着せたげないと風邪引いちゃうわよー?」

「そのうるさい口を溶接してやろうか?」

「あーら、溶接技術なんてあるの? も・こ・た・ん?♪」

「よーし殺す、今殺す」

「おぉ、怖い怖い」

 

 ***

 

 あの俺いつ動いたら良いんでしょうか。なんかすぐ近くで喧嘩してるんだけど。あと寒い。

 

「っ……くしゅっ」

「あ、起きた。おはよう、寒くないか?」

「……いや寒いに決まってるでしょ。春とは言えこんな格好……くしゅっ。してたらさ」

「あーあー風邪でも引いたかー?とりあえずこれ着てろ、ほら」

「わっちょっ……もこ姉、そんなカッコ……」

「え? いいよいいよ、どうせまた燃えて終わりだろうし。今更サラシ程度で興奮しないだろ?」

「………えと、あの」

 

 実はサラシの方が好きだなんて死んでも言えない。……なんか安心するんだよ。

 

「なんだよ、顔真っ赤にして」

「……は、はいっ、これ返すっ」

「……?」

 

 輝夜がニヤニヤしながら眺めているが、恥ずかしいから見ないでほしい……。

 あと、もこ姉は俺を異性と見なさ過ぎだと思う。こちら思春期真っ只中だぞ。

 

「……と、そうだ。もこ姉に輝夜、ちょっと相談に乗ってほしい事が……」

「あら嬉しい、私・を・頼ってくれるだなんて。なんでも聞いて?」

「待てコラ、私もだろうが。箱入り娘のお前1人に頼れる訳無いだろ」

「あーら、箱入り隠し子のもこたんには言われたくないわぁ。家事なんて出来るのかしら?」

「え、あの、ちょ……」

「出来るわどアホ、お前より美味い飯を作る自信がある」

「へぇ〜、ホントかしらねぇ」

「2人共喧嘩はy」

「あ゛ぁ? やんのかバ輝夜」

 

 ──なんで喧嘩やめてくれないの?

 

 まだ薬が残っているのか、停止した思考で牽制を試みても、止まってくれる訳が無く。

 

「きゃーこわーい、助けてりょう……」

「お前また霊夜を盾……に……」

「喧嘩……やめてよぉ……っ」

「なんで泣いてるのよ!?」

「と、とりあえず涙拭いて……」

「うぅ……ぐすっ」

 

 このしばらく後、薬が抜け切ってから改めて聞いてみた所、2人共「そういうのにお返しした事が無いから分からない」そうだ。……俺は何しにここ来たんだっけ?

 

 ***

 

 帰ってきた。ただいま。

 さて黒歴史を製造した訳だが、とりあえずベッドにダイビングするぐらいは許してほしい。あと叫ぶのも許してほしい。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉぉ、なんであんな事したんだよぉぉぉぉぉふぎゅっ」

「うるさいわよ、何時だと思ってるの?」

「ふぁい……」

 

(明らかに俺のせいで)不機嫌そうな咲夜に怒られてしまった。てか今何時?

 あ、22時か。じゃあ怒るわ。これは許されない。

 

「全く……夜遅くに泣き腫らした目で帰ってきたと思ったら、夕飯も食べずにふらふら部屋に戻って、挙句の果てに大声で叫ぶなんて、何があったのよ。逆に気になるわ」

「……笑わない?」

「なんで笑う必要があるのよ。貴方が変な行動してると、お嬢様が本気で戸惑うじゃないの」

「うう……案外嘘に聞こえないのが申し訳無い……」

「ほら、早く言いなさい。撫でてあげないわよ」

「永遠亭に行ってたんだけどさ」

「(チョロい……)」

 

 現金な奴と思うなかれ、美鈴のお陰で咲夜は動物を撫でるのが上手いのだ。それこそ、たまに庭で野良の小動物に囲まれるぐらいには。

 

 少年説明中……

 

「……ぷふっ、ちょっ、ごめんなさ……」

「笑わないって……言ったのに……」

「ああもう、悪かったわよ。それにしても貴方、案外可愛い悩み事あるのね。新しい発見だわ」

 

 今気付いたけど、咲夜が破顔したのって初めて見た。今まで笑う事はあったけど、大体微笑む程度だったし。

 ……なんだよ、笑うと結構可愛いじゃんか。

 

「まあ、貴方の可愛い悩み事はともかく。約束通り、撫でてあげるわ」

「ありがと……救済が無いと限界、ふぁぁ……」

 

 あー、待って。ヤバい。なんでここまでふわっふわなのさ。人間の手だぞ。すべすべなら分かるよ、ふわっふわだぞ? 語彙力どこ行った、戻ってこい。……無理だ、死んでやがる。

 

「全く、そういうのは本人に聞くのが一番早いのよ。例えば私なら、貴方にはお返しとして仕事の手伝いを要求するわね」

「……なんかもう、一周回ってそれが一番かも。皆に聞いて来る事にするよ」

「期待してるわよ。そうねぇ……2週間は執事の服を着てもらおうかしら」

「え……まずカッコから入らせるの? 動きづらそうなんだけど、あれ」

「じゃあメイド服にする? きっと似合うわよ」

「頼むから俺で遊ばないで……?」

 

「冗談よ」と笑って返されたのでホッとしたが、その後「半分くらいはね」と付け加えられた時はゾッとした。……でも、そうだな……普段色々してもらってるから、願いに応えるのは良いかもしれない。とりあえず、今は……お休みなさい……。

 

 ***

 

 時は流れて、ホワイトデー前日。紅魔館の全員に聞き、それぞれのお願いをメモした紙を前に、はてどうしたもんかと唸っていた。

 

「ええ……と、こあのお願い(いつも通り)咲夜のお願い(手伝い)はまあ、今出来るとして……レミィはもうお願いで良いのかが分かんねえな。言われないでもやるわ」

 

こあと咲夜を除く全員のお願いは、

 

レミィ:これからもフランと遊んでやってほしい

フラン:1日ずっと一緒に居てほしい

パチェ:その時になったら言う

美鈴:特に無し

 

 だった。美鈴、お前はとりあえず睡眠欲の一部を物欲に分けてやれ。まあ、皆それらしいと言えばそれらしいお願いだな。

 

「ま、1個ずつでも終わらせますかぁ……さて、何から始めようかな?」




書き方安定しないのほんとに申し訳無い。出来る限り迅速に統一します。

あと、ホワイトデーって何でしたっけ?(すっとぼけ)

とまあ、1年越しに、しかも最初書くつもり無かった話ですが、風神録が最初からああなるというのは去年全く考えもしませんでしたほんとに。
あと、割とこの話が長くなったのも予想外。時系列も何も無いのは、特別編の特権ですが……因みに、今回の霊夜は人間です。

という訳で、ホワイトデー特別編でした。風神録は何話使うんだろうか……。


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転校生

こんにちは、前書きに本編以外の話を書くことで定評のあるユキノスです。
早速ですが、深秘録を購入しました。一輪の弾幕(物理)感大好き! ってのが率直な感想で、多分書く時にもやり込むと思われますので、今の所深秘録だけ原作に近いストーリーになるかなーと思ったり思わなかったり。

ではどうぞ。


朝。今日は火曜日なので、普通に学校もバイトもある。学校の方が憂鬱なのは、言うまでもないだろうけど、最近はバイトも憂鬱になってきた。バイト先を特定した《友達》が来て、度々割引をせがんでくるから。

勿論、そんな事は出来ないのだけど。

 

手早く制服に着替え、身だしなみを整えて、パンにベーコンエッグを載せて焼いた物を食べる。……うん、今日のは半熟みたい。

 

「……行ってきます」

「行ってらっしゃい。お弁当持った?」

「うん。それじゃ」

 

***

 

「それでさー、そのオッサンが……あれ、早苗ちゃん? おーい、聞こえてますかー?」

「あっ、え……? き、聞こえてます……」

「もー、ぼーっとするなんてらしくないじゃん。どったの、言ってみなさい」

 

えへん、と威張られても、信じてくれなさそうだから言うに言えない。何故って、私以外には()()認識されていないのだから。

 

頭に大きな耳を生やした、銀髪の男性。うちの制服を着ていたが、あんな生徒が居ただろうか? それ以前に、女ではないのか?

 

「……少し、見慣れない男の人が居たんですよ。うちの制服だったので、転校生かもしれません」

「ほんと!? うわー、楽しみー! カッコよかった!?」

「えっ? い、いえ、残念ながら顔までは……」

 

しっかり見ている、何なら迷っていたので案内もした。……とは言えなかったので、はぐらかす事にした。どちらにせよ、机が増えているから転校生でほぼ確定だろう。事実が明かされるのは、その時でも良いのだ。

 

「おっはよー早苗ぇ、元気ぃ?」

「っ……お、おはよう……ございます」

「もー、そんなに怖がられちゃったら私が悪者みたいじゃん! このこのー」

 

……どの口が言っているのだろうか。「みたい」ではなくそのものだろうに。

と思うのは簡単だが、口に出すのはとても難しいのだ。言おうとすると、喉の辺りで詰まったように声が出なくなってしまうから。

 

「あ、あはは……。1時間目って、何でしたっけ?」

「えー、それよか転校生っしょ! 男の子って聞いたんだー、イケメンだと良いなー」

「えっ、ほんと!? うわ、楽しみー」

 

 

「ちぇっ、男か……」「帰ろ帰ろ」「杉野ー、課題見せろよー」「やだよてめぇでやれ」

 

やっぱり、どっちが来るかで反応の差は大きいようだ。まあ、私と深く話す事は無さそうだし、特に気にする事でもないだろう。

 

キーンコーンカーンコーン……

 

「はーい号令お願い、今来てない人遅刻ねー」

「きりーつ」

「ねぇ転校生はー?」「そうだそうだー!」「早く出せー!」

「うるっさい、今は気をつけ! 高校生にもなってそんなん言われてどうすんの!」

「そうやって怒るから独身なんだよ、センセ」

 

クラス中で笑いが起きたが、正直全く面白くない。前に先生が、「今は生徒の方が大切だから」と言っていたのを聞いたからだろうか。

 

「(……先生、凄いなぁ……。こんな人達を愛せるんだから)」

「気をつけー、れー」

「お願いしまーす」「オネッシャース」

「誰よ略したの……。まあ今日はいいや、入って」

 

先生の言葉に、(だる)そうな声で「やーっとか、なっがかったなぁ」とぶつくさ言いながら、1人の男性が入ってきた。

やはりと言うべきか、さっきの《見慣れない男性》だった。が、顔を見て本当に女じゃないかと錯覚した。

 

「にい……じゃない、風萩零です。こんなナリしてるけど男、あとは……特に言う事無いかな、以上終わり」

 

声も高いが、しっかり男だ。……だが、やはり大きな耳と尻尾は認識されていないようだ。

 

(……人じゃないのは確かだなぁ、でも何しにここへ?)

 

「えーと、風萩君は……そこ、東風谷の隣の席ね。教科書とかは、あの子に見せてもらって」

「──あの()()()()()()()()()()()()()()?」

「……え?」

「えっ……?」

 

この髪が、緑に見える? 黒じゃなく?

なら、いよいよもってただ者じゃない。──彼は、何者なのか?

そんな疑問符が浮かんだが、席に着いて早々にうつ伏せで眠ってしまった。

 

「……聞けない、か」

 

ぽつりと呟いた言葉が、大きな耳をぴくりと動かした。




風萩、学校行くってよ(白目)
いやー来ちゃいました、転入生として。
え? 手続きとかどうしたのか? そりゃ勿論ゆかりんパワーでどうにk(殴)。

さて、風神録序章からドタバタモノですが、どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。

ではまた次回。


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大結界の決壊

こんにちは、ユキノスです。

書く事無いので、本編どうぞ。


「この何行・何活用ってのは《必ず》テストに出すから、しっかり覚えておくこと〜。ほら、ノートに書いて書いて〜」

「むにゃ……」

 

 1時間目、古典の時間。ほわほわした性格の先生は皆に人気だが、それよりも《来たばかりの》《最初の授業で》夢の中を旅している風萩君()が豪胆にも程がある。

 普通はしないような……と苦笑いしつつ、ノートはきちんととる。実践方式で諏訪子様が教えてくれはするが、それだと理解とは違うのだ。

 

 ……ところで、先生が出席簿とこちらをチラチラ見ているのは気のせいだろうか。まあ、理由は察しがつくけれど……

 

「あ、東風谷さん。そこの、え〜……風萩(かぜはぎ)君?」

 

 ……やっぱり。大方、起こしてくれと言いたいのだろう。頬杖をついた男子の、「風萩(かざばき)ですよセンセ」という訂正を聞き、慌てて訂正された。

 

「あっ風萩……彼、起こして〜」

「はっ、はい。……風萩君、風萩君(ユサユサ)」

「う……んん……ああ、おはよ……」

「おはようございます。授業中ですよ」

「あー、分かった……んん───っ」

 早苗「(自由な人だなぁ……)」

 

 大きく伸びをして、真新しいノートにペンで書いている所を見ると、普通の学生なのだが……にしても、その耳と尻尾は何なのだろうか。ぴこぴこ動いて、目を奪われるのだが。

 

 ***

 

 古典の時間含め、鐘の音を8回程聞いた。まだ自堕落──と言うかフランに合わせた生活が抜け切っていないようで、昼間はめちゃくちゃ眠い。運動してたら別だが、退屈過ぎやしないか。あの頃の俺、よくこんなん耐えてたなぁ。

 

「あ゙ー、疲れた……」

「零君、一緒に昼食べよー!」

「え、あ、あの」

 

 おお何だ何だ。これが噂のモテ期って奴か。要らんわ。

 さてふざけてる場合じゃない。ささっと出てった早苗を追っ掛けないと。ここには、学生生活を楽しみに来た訳じゃないし。……今更楽しんだ所でアレだが。

 

 それと、前に─紫が入学手続きを捏造する少し前だ─早苗に対して嫌がらせをしていた女子も居た。恐らくこいつが大元なので、これさえ取り除けば早い……筈だ。

 何故って俺が進める訳じゃないので、その辺は何とも言えない。

 

「……えと、ちょっと早苗さんに聞きたい事があってさ。申し訳無いんだけど、それからにしてもらっても……いいかな。ゴメン」

 

「えーっ」と残念そうな女子達を後目に、早苗を追い掛ける。足音立てたら絶対バレるので、一応立てないでおこう……。いや走るんだけどね。

 

 ***

 

 屋上

 

 結論、バレてました。いやぁ凄いね、風の流れで分かったって。俺には出来ない。

 ムスッとした訳でもなく、かと言って怯えてもいない表情で、弁当を食べかけで固まる早苗と、作り笑いで顔の筋肉が引き攣ってきた俺。魔理沙辺りが見たら大笑いしそうだ。

 そんな微妙な空気の中、沈黙を破ったのは早苗だった。

 

「……何か用ですか? 風萩君」

「いやぁ、ちょいと他人に聞かれちゃマズい話を……

「……っ!」

「やっぱそうなるか……まあいいけど、()()()()()はある程度承知だし」

 

 ここで言う《そういうの》とは、勿論拒否反応の事だ。他に何があるってんだ。……マゾヒスト? ちゃうわい。

 

 って、そんな事はどうでも良くて。流石に警戒されるし、じりじりと離れられる。柵が邪魔で離れられないけど、目が段々恐怖に彩られていくのが分かる。

 

「…………何の、話ですか」

「大丈夫だ、悪いようにはしない」

「そういう人が、一番、信用、ならなっ……! かひゅー、ひゅー、ひゅー──」

「……おい、早苗? おい、おいっ!」

 

 突如息が荒くなってきて、胸を掴んで喘ぎだした。ゆらり、と体が傾き、食べかけの弁当と一緒に床に崩れ落ちる。宥めるだけでは効果が無いと分かっていながら、宥める事しか出来ない。真正面から顔を見たが、少女としてはかなり酷い形相だった。

 

 ──考えろ、まず何するべきだ?

 あれこれ浮かんだが、全て違うと切り捨てていき、最後に残ったものは、結局「その筋の人に聞く」だった。

 

「保健室ってのがあったよな、場所は……1階! 早苗、ちょっと揺れるから舌噛むなよ!」

 

 返事は無かったが、それどころではないのだろう。急いで抱え上げ、柵を飛び越え、下に落ちる。保健室の場所は反対側なので、中を通るよりこちらの方が早いのだ。

 着地の寸前に一瞬だけ飛行して速度を殺し、全速力で保健室へ向かう。流石に蹴破る訳にはいかないので、頭でゴンと音を立てた。

 

「はい、ってあれ? キミ、新しく──東風谷さん!?どうしたの、大丈夫!?」

「さっき、呼吸が荒くなったんです……何か分かりませんか」

「うーん、分かるよ? 分かるんだけど、これをキミに言って良いものなのか……」

「ですよね、なら言わなくて大丈夫です。……ただ、彼女を知る人物から、色々聞かされて……心配で」

 

 神を人物、と言って良いのかは分からないが、まあ神様と言っても通じないだろうし良いだろう。それは兎も角、やはり早苗は恐怖を抱いているのだろうか。それ以外の、俺には分からない感情か。

 

「とりあえずキミは、先生に報告して。この子、()()なるとしばらく寝込んじゃうから」

「分かりました、ありがとうございます」

 

とりあえず報告に行こうと、保健室を出て数歩。空間の正面に、滑らかな亀裂が入った。

 

「報告に参りましたわ」

「……なんの?」

 

あの紫が、主語の無い会話をするというのはかなり衝撃的だったが、続く言葉で笑いが消え失せた。

 

「急がないと、結界の維持が難しくなる。この言葉が何を意味するか……分かりますわよね?」

「……博麗大結界が、壊れて…………」

「──()()()()()()()()()わ」

「え……?」




モチベが……モチベが……。
もう霊夜よりこっちがゆっくりしてますが、流石に雲隠れとかは勘弁です(戒め)。

ではまた次回。


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特別編:泥棒の始まり

エイプリルフールに大きく遅れました、嘘を吐く相手が居なかったユキノスです。

という訳で特別編ですが、また書き方変わってます。多重人格か(こいつ)
あと、嘘吐きはほとんど出ません。エイプリルフールとは何だったのか。


 紅魔館内部にある、ヴワル魔法図書館。高い天井までみっちりと本が詰まったそこで、霊夜と私とこあの3人で、新聞とクッキーを囲んで談笑していた。

 

「そっか、もう4月か。また皆で花見したいなぁ」

「そうですねぇ、ここにも桜があれば良いんですけど」

「……流石にそれは無理よ、こあ。桜の木は、折れたら2度と生えてこないんだから」

 

 今日は4月1日。俗に言う、エイプリルフールという日だ。嘘を吐いても良い日、ではあるのだが……幻想郷では、あまり流行らない。何故かと言うと、最高裁判長殿が笑顔で迫って来るからである。by霊夜。

 

「そういや桜と言えばさ、いや桜関係無いんだけど」

「それ、日本語破綻してるんじゃない?」

「お、思い出したんだよ……。今日、エイプリルフールだろ?」

「そう言えば……そうね。嘘吐きが増える日だわ」

「うん。で、前に人里でそれやってたらさ、閻魔様に長〜いお説教(とっても有難いお話)をされて……」

「……何が言いたいのかしら?」

 

 ここまで何が伝えたいか分からない話もそうそう無い為か、少々訝しむ。対して霊夜は、「あー」だの「うー」だのと言葉が見つからないようだ。じゃあ小悪魔はと言うと、ニコニコしながら見守っている。

 因みにこの混沌(光景)を見た魔理沙は、後に「あの中に入っていくのは無理そうだ。分からないからな」と言っていた。

 

「……そうだ、思い出した! その時、『嘘吐きは泥棒の始まり』って言われたんだ!」

「は、はぁ……? 日本ではよく聞くじゃない、それがどうしたって……むきゅっ、ケホッケホッ……!」

「薬取って来ますねー!」

 

 咳き込んでからノータイムで飛んで行ったこあを見送り、霊夜はパチュリーの背中をさする事にした。

 美鈴にも永琳にも「外に出て運動した方が良い」と言われる程の引き籠もりではあるが、実は(?)運動能力も低い。数メートル走っただけで息切れを起こすのは、最早手遅れに等しいだろうが。閑話休題。

 

 薬を飲み、症状も落ち着いてきた頃、霊夜は頭に湧き上がってきたアイデアを話し始めた。

 

「えっと……どこまで話したっけ?」

「嘘吐きは泥棒の始まり、の辺りまでですね」

「おぉ、そうだったそうだった。んで、そっから子供達の間で流行りだしたのがあるんだよ」

「ふぅん……それって?」

「《泥棒捕縛戦》……って名前だったかな。泥棒役が、捕縛者役から逃げ回るやつ」

「……今の子供の語彙ってどうなってるのかしら」

「あはは……」

 

 寺子屋に通う普通の子が、《捕縛》という単語を知るだろうか。あの半獣教師なら教えかねないが、それにしたって何故だろうか。

 

 そんな疑問がはたと浮かんだが、もう気にしない事にした。人里は人里、紅魔館は紅魔館だと。

 

「んで、こっちでそれやろうと思ってさ。まあレミィ辺りの許可は居るだろうけど、ちょうど厚い雲で覆われてるし」

「私は出来ないけど、別に良いんじゃないかしら。現に、そこの白黒猫はうずうずしてるしね」

「ぷふっ」

「な、何だよ。笑うなよ!」

「いやぁ、悪い悪い。お前、こういうの好きそうだと思ってさ」

「はぁ? それってつまり、私が子供っぽいって事か?」

「いやいや違う違う、こういう対戦系の遊びと言うか何と言うか……」

「まあ、それは好きだぜ。それより、他のメンツはどうすんだよ? まさか私達だけとか言わないよな?」

 

 それはただの追い駆けっこじゃない、とは口に出さず、パッと思いついたちびっ子達と草の根……だっけ? のメンバーを呼んではどうかと聞いてみた。霊夜はすぐに指を鳴らし、「それだ! ありがとうパチェ、早速行ってくる!」と言って、本当に飛び出してしまった。

 どんな育ち方をすればこうなるのだろうか。親の顔が見てみたいものだ──と考えて、そう言えば育ての親は自分とレミリア、美鈴と小悪魔だった事を思い出した。

 

「……全く、誰に似たんでしょうね」

「知らないぜ。お前じゃないのは確かだ」

「当たり前よ。私に似てる所なんて、魔法が使えるぐらいだわ」

「それはそれで悲しいな……あ、これ借りてくぜ」

「1週間ね」

「あいよ」

 

 ***

 

「集めてきたぞー」

「ほんとに皆連れてきたのな」

 

 チルノや大妖精、その他諸々のちびっ子達と、影狼や響子、ミスティアといった草の根メンバーが集まり、各々で談笑している光景を見て、霊夜の交友関係の広さを痛感する。……ところで人魚が来ていないが、走れないからだろうか。個人的には、あのヒレで走れるのかが気になる所である。閑話休題。

 

 しかも全員に説明が済んでいるようで、とても半刻で集めたとは思えない。こいつ前から計画してたな……と薄々感じつつ、その計画性に舌を巻いていた所、どこにあったのか拡声器を持ったパチュリーが喋り始めた。

 

「……あーテステス、聞こえるわね? ルールの説明よ。1度しか言わないからよく聞くこと、いい?」

 

 そう言うと、上からルールの書かれたフリップが降りてきた。紐で吊ってあるので、小悪魔が操作しているのだろうか。

 

 ①捕縛者は泥棒を捕まえた時、1箇所に集めておく

 ②泥棒が捕まった泥棒に触れた時、その泥棒は逃げ出せる

 ③時間内(今回は30分)に泥棒が全員捕まれば捕縛者の勝ち、そうでなければ泥棒の勝ち

 ④実力的に均等になるように組み分けする

 ⑤範囲は紅魔館の庭のみ

 ⑥能力、飛行は禁止

 ⑦敗者に罰は無いが、勝者には賞品が出る

 

「ざっくり言うとこんな感じよ。それじゃあ、組み分けを始めるわ」

 

 集まった面子の中で特に身体能力に優れた者と言えば、やはり吸血鬼(スカーレット)姉妹、美鈴、霊夜辺りだろう。ここは当然2対2で分けるとして、次は子供達を───

 

 少女選別中……

 

「……多い………」

「あはは………ゴメンナサイ」

「まあ、友人が増えるのは喜ばしい限りだけどね。昔は考えられなかったわ」

 

 つっけんどんな言い方だが、喜びが隠し切れていないのだろうか。顔が緩んでいる。

 普段から少し強い言い方をしてはいるが、パチュリーもある意味保護者なのだ。

 

「……さて、これで全員かしら?」

「「はーい!」」

 

 やれやれ、と言いたげな表情でテラスの椅子に座り、開始の合図を出したパチュリーだが、1つある事に気付いた。

 

 

 ──第三の目を持った人物など、知り合いに居ただろうか?

 

 ***

 

「にゃろっ!」

「おっと(ヒョイッ)」

「っあー! ほんっとすばしっこいなお前!」

「何も鍛えてない人間がここまで持ちこたえるのも十分凄いんだけど、よっ、どわぁっと危ねぇ!」

「くっそ……っは、は……」

 

 結局、身体能力高い組は、俺がレミリアと泥棒を、美鈴がフランと捕縛者をする事になった。開始から5分経つが、既にちらほらと捕まっている者も居るようだ。

 魔理沙に追い掛けられている事にはデジャヴを感じるが、あれは単に遮蔽物があるから楽に逃げられたのだろう。現に、魔理沙は5分間ずっと俺を追い掛け続けている。ただの人間としては、このスタミナは無尽蔵と言っても過言ではない。

 

「ふぅ……いやー普通にお前凄いわ……」

「はいターッチ♪」

「ん?」

「え?」

 

 この声の主は誰だろうか。フランじゃない。ミスティアでも、ルーミアでもない。かと言って、他の誰でもない。つまり、俺が呼んだ妖怪ではない。せめて一目見てやろうと振り向くが、誰も居ない。魔理沙も知らなかったようで、口をぱくぱくさせている。

 

「今の……」

「誰だ……?」

 

 目を凝らして見ると、風景にぼんやりとした輪郭が現れた。頭に帽子を被り、黄色と緑のワンピースを着ていて、紫色の管が生えている(?)、小さな女の子。どれだけ見ても、記憶に無い。

 

「いやー、そんなに見られると照れるなー」

「あ、ああ……悪い(?)」

「わっ、さらふわ! 凄ーい」

「って、あれ? お前もしかして……」

「私?私ねぇ、捕縛者側に入ったんだ〜」

「へぇーそうなん……あああああぁぁ!?」

 

 思わず声が裏返る。瞬間移動のように、瞬きした時には既におぶさっていたのもそうだが、こんな捕縛者相手にどう逃げろと言うのだろうか。

 

 

 

「ごめーん捕まった……」

「えぇ!? なんで!?」

「俺が聞きてぇよ……なんか見知らぬ女の子に捕まったって言って信じる?」

「「「全く」」」

「ですよねぇ」

 

 ということで牢獄エリア。まあ当然ながら捕まった人が来てるんだが、面子が凄い。

 ミスティアやアリスなんかは走るのが苦手そうなので理解出来るが、幽香に至ってはまず何故参加したのかが不明だし、何故捕まったのかも不明だ。一緒に居るだけで緊張感凄いし。

 

「ねえ霊夜」

「え、あ、はいっ」

「……私ってそんなに怖そうに見えるのかしら、ねえアリス」

「さあね。私は前から知ってるから、そうは思わないけど」

「……えっ、お2人さん前から知り合いだったの?」

「ええ。幻想郷(ここ)に来る前にちょっとね」

「へぇー、そっちの話も聞かせてくれよ」

 

 普段絶対に関わりの無さそうである2人が知り合いで、しかもそこそこ仲が良いとなれば、俺だけでなくミスティア達も興味を示すだろう。

 

「今はまだ話さないわ、もっと落ち着いた時に話しましょう?」

「そういう事。それじゃ、行きましょうか」

 

 どこへ、と聞く前に幽香が立ち上がり、捕まっている全員に手を触れた。全員訳が分からずぽかんとしていると、幽香はふわりと振り向きながら人差し指を立てた。

 

「決まっているでしょう? 私、これでも捕まってないの」

「それ先に言おうね!? ありがたく逃げるけどさ!」

 

 開始15分の事だった。風見幽香の活躍により、8人の泥棒は残らず脱走し、捕縛者は慌てふためいた。

 

「どっ、どどどどうしよう美鈴!? 皆逃げちゃった!」

「んごっ……はっ!?」

 

 いやなんで見張りが寝てんだよ! と、またか、またなのか美鈴……が入り混じった微妙な顔をしていたが、獣の本能だろうか。再び誰かが来るような()()()()

 

「ターッ……うぅわぁ、避けられたー」

「楽しそうだな」

「うん、楽しーよー」

「そいつは良かった。で、名前は?」

「こいし、古明地こいしだよー」

 

 小石?と一瞬だけ思ったが、いやそんな訳無いと取り消す。彼女は石などではない。ただ、存在感……いや、意識の内に留まる事がほとんど無いだけの、恐らく妖怪だ。

 だが、何故急に来たのだろうか。

 

「ってあれ、居ないし……」

 

 ***

 

 それからは特に何があった訳でもなく、ただ淡々と終わってしまった。こいしもあれから姿を見せなかったし、何度か捕まった者は居てもどうにかなった。と言うのも、幽香がニコニコしながら歩くだけで皆怖がるので、助けるのは幽香1人で事足りた。足りてしまった。

 

「という訳で、泥棒陣営の勝ち。……ただ風見幽香、貴女は今後の出場を自粛してもらった方が良いかもね」

「あら残念、楽しかったのに」

 

 幽香本人はクスクス笑っているが、ちびっ子達の一部、特にリグルが顔を真っ青にしているので割と本気で考えてほしい。敵に回ってほしくないし、何より威圧感が凄いから。

 

「……ま、まあ、楽しめたなら何よりだよ、うん。……で、なんでこれやる事になったんだっけ?」

 

 何気なく発した台詞に、参加していた全員がよろけた。……何故?

 

「あのねぇ霊夜、皆霊夜に言われて集まったんだよ? 理由も聞いたし、やる事も聞いた。でもさ、なんで本人が忘れてるのさ?」

「あ、いや……ハイ、スンマセン」

 

 そう言えばそうだったと思い出し、飛びついてきたちびっ子達とわちゃわちゃしていると、魔理沙がパチュリーの方へ歩いて行った。何をしに行くんだろうか。

 

「で、パチュリー。お前、ルール説明した時の言葉覚えてるよな?」

「さて、何だったかしら。ルール以外何も言ってない筈だけど」

「はあ? お前、『勝者には賞品がある』って……「ああ、あれなら嘘よ」……何ぃぃ!?」

 

 何じゃそりゃあああ、という魔理沙の絶叫が響き、続いてエイプリルフールだと言われて膝から崩れ落ちる様は見ていて面白かったが、他にも何人か嘘だと気付かなかった者もちらほら居たようで──

 

 

 後日、紅魔館の一部が削り取られていた。某鴉天狗S氏によると、風見幽香が紅魔館に傘を向けていたそうだ。




ゆうかりん怒らせると怖い(周知の事実)。

因みに余談なんですが、泥棒捕縛戦(要するにドロケイ)に参加していたメンバーは、
・紅魔館の図書館組を除く全員
・ちびっ子達(橙含む)
・マリアリ、うどみょん、てるもこ、こいし、幽香
でした。
パチュリーが「多い」と言うのも納得ですね。
あと、俺の中で紅魔館の敷地はめちゃくちゃ広い事になってます。俺の中で。

ではまた次回。


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霊夜の居ない日

こんにちは、ユキノスです。
今回は番外編……と言うか、まあ霊夜が外で色々やってる間に紅魔館の面子は何をしてるのか、的なのです。
お茶濁しと言えばそれまでですけどね。

ではどうぞ。


「もーっ! つまんないつまんないつまんなーーいっ!」

「ちょっ、急にどうしたって言うのよ。確かにいつも遊んでた霊夜が居なくて寂しいのは分かるけど、代わりに私が遊んであげ」

「お姉様は弱過ぎるのっ! 37回やって、全部私の勝ち! 霊夜なら半々ぐらいで出来るもんっ!颯忌は……まあ、慣れてないからアレだけど」

 

霊夜が幻想郷を発って1週間。紅魔館にある遊戯部屋(と言ってはいるが、実際はただの物置)にて、私とお姉様の2人でずーーーーっとチェスをしていた。でも全然ダメ、全く面白くない。

 

「あーあー、霊夜が居たらなぁ……」

「パチェか小悪魔辺りを捕まえてやれば良いじゃない。……と言うかお願い、最近寝不足なのよ……」

 

小さめに欠伸と共に、少し寝るわね、と言い残して消えたお姉様から目を離し、レディとしては失格である「床に寝転ぶ」事をして、ぼんやりと天井でも見上げている事にした。

 

「(何か、面白い事でも無いかなぁ……。ある訳無いか、異変も起きてないんだし。あーあ、魔理沙でも遊びに来ないかなぁ……)」

 

カツンッ

 

「!!! だっ、誰!?」

 

地下にあるこの部屋に風が入ってくる訳が無いし、そもそもポーンが1つだけ転がるような風は無い。

そう思ってよくよく見ると、見慣れない誰かの足跡があった。

 

「足跡……? でも、ドアなんて開いてな……っ、嘘……」

 

お姉様とチェスをしている時、確かに誰も居なかった。私とお姉様以外、誰も出入りしなかった。ドアも閉めた。なのに、何故。ドアは開いているのか。

 

「な、何……お化け……? やだ、やだ、霊夜ぁ……」

「あわわわごめんね、よーしよーし怖くない怖くない」

「えぅっ……誰…?」

「私? 古明地こいし。よろしくね〜フランちゃん」

「……ふぇっ、なんで私の名前……」

「あはは、だってお姉ちゃんにそう呼ばれてたからそうなのかなーって」

「そ、そうなんだ……」

 

となるとどれくらい前から居たのだろうか。私が寝転んだ辺りから? それとも、最初から?

 

「ね、私もチェスやりたいんだけどいいかな」

「う……うん、やろっ! じゃあ私が白ね……あっ、ちょっと待ってて。……咲夜ー! 紅茶とお茶菓子、2人分お願ーい!」

「お持ちしました」

「わぁ、早ーい」

 

ふふん、咲夜はこんな事が出来るのだ。こいしちゃんの方にはこういう人居ない(そもそも普通どこにも居ない)だろうし、これは自慢出来る。

 

って、あれ……?咲夜、こいしちゃん見えてない……?

 

「お客様がお戻りになられたら、ご一緒に召し上がってください。……失礼します」

「えっ、ここに居るのに……あー行っちゃった」

「あははー、やっぱり見えてないんだー」

「やっぱり、って……?」

 

こいしちゃんは、自分がいわゆる「(さと)り」である事を話してくれた。でも、それが見えない事と関係あるかと言われれば、無い。

 

「今回はここまでー、続きはまた明日!」

「ええっ、気になるよぅ……」

「あはは、ぷくってして可愛い〜(ムニムニ)」

「ふみぇ、何するの(ふぁひふふお)ー……」

「大丈夫大丈夫、明日も来るから。ね?」

 

そう言って微笑んだ顔は、見た目ではほとんど同い年の筈なのに、どこか大人びた、何か知ってはいけないものを知ったような……なんと言うか、悲しい顔をしていた。

笑っている筈なのに。その心は、泣いている。

そんな事をして、彼女は──こいしは、辛くないのか。苦しくないのか。

 

「待っ──」

 

て、と口に出る前に、古明地こいしは部屋の中から消えていた。()()()()お茶菓子と共に。

 

「……ん? あ───っ! やーらーれーたー! ……うぅ……」

 

 

 

7月○日

今日、不思議なお客様が訪れた。名前はこめいじこいし。漢字とかは分からない。

でも、悲しそうに笑ってたのが、ちょっとチクッときた……気がする。私も経験したのかもしれないけど、もう随分と前の事だから、どんな感じかは忘れちゃった。

そうだ、こいしちゃんとチェスするんだった! 明日来るって言ってたし、その時はやりたいな。

(ルーマニア語で書かれていたもの、霊夜の特別意訳)




という訳で、ちょっと短めな気もしたりしなかったりですが、風神録本編前の幻想郷サイドはフランが主役となります。紅魔郷EXであんだけやっといた割には目立った事そんなしてないのと、個人的にもっと動かしたいキャラだったので、こうなりました。

ではまた次回。


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神様は全てお見通し

こんにちは、例大祭に出現する事が決定しているユキノスです。

いやー変わりましたね、元号。友達がUC流してました。
という訳で、令和最初の投稿です。どうぞ。


 早苗が目覚めたという報告を聞かないまま、とうとう放課後になってしまった。どうやら、しばらく起きないというのは本当らしい。

 

「心配だなぁ……」

「ねーねー零くーん、カラオケ行こーよ!」

 

 何やそら。行かん。あとしつこいな、そろそろイラついてきた。等々、思う所も言いたい事も沢山あるが、とりあえず1日過ごして思った事がある。

 俺にべったりとくっついてしつこいこの女──意地でも名前は覚えてやらない──、果てしなく面倒臭い。よくもまあ、早苗もこの女と長い付き合いが出来たものである。

 

「ごめん、今日は用事があって。それじゃ」

「あっ、待っ……!」

 

 一刻も早くこいつから離れたい一心で、廊下をダッシュで駆け抜ける。本当なら窓から飛び立ちたい所だが、そんな事したら大問題必至なので断念。

 

「えーと早苗は……起きてない、ですよね」

「え?東風谷さんならもう帰ったけど……」

「ゑっ」

「今時そんな字使って驚き表現する人居ないよ?」

「……字?」

「ごめんなんでもない」

 

 そっかぁ、もう帰っちゃったかぁ……ってそうじゃねえよ。大丈夫なのか彼女。……と、思ったが。

 

「あっ、ちょっとキミ!?」

「(シャーッ)おーす早苗、気分はどうだい?」

「な、あ、え?」

 

 まさかバレるとは思っていなかったらしく、ぽかんとした顔で口をぱくぱくさせている。それがなんとなくおかしくて、ちょっと笑ってしまった。

 

「……その分だと、調子は戻ったみたいだな」

「……どうして、気に掛けるんですか?」

「えーと、話せば長いんだけど……ここで話すのも何だし、守矢神社で……ってダメ?」

「べ、別に良いですけど……って言うか、貴方守矢神社に居候してますよね?」

「あ、知ってたのね。じゃあ話は早いや、ありがとうございましたー」

「えっちょ………」

 

 早苗をひょいと抱え上げ、靴を履かせて走る。誰も見ていないのを確認し、ふわっと体を浮かせる。腕の中で「うわっ、わっ、わっ!?」と慌てる様子は初々しく、あー俺も昔こんなんだったなーと思わせるものがあった。

 

「あんまり暴れると落っこちるぞ? いやまぁその度拾うけどさ」

「ひえぇ……私……空飛んでる……」

 

 ……あれ?この人喜んでない? 空飛ぶ願望でもあった?

 

「す、凄いです!ガン○ムみたい!」

「な、何じゃそりゃ?ガ○ダム?」

「ええっ!? 知らないんですか!? ガンダ○というのはですね……」

 

 着くまでの間、○ンダムとやらについて尋常でない長さの話を聞かされた。耳が痛い。

 

 ***

 

「ただ今帰りましたー、っと」

「おうお帰り、早苗も一緒だったか」

「はい! 神奈子様諏訪子様、私今日空飛んだんですよ!」

「お、おう……? まあ、入んなよ」

「ご飯出来てるぞー」

 

 少女説明中……

 

「ははぁ、なるほど。この天狗がお前を持ってきた訳か」

「そうですけど! でも、すっっっごく貴重な体験でした!」

「多分霊夜んとこじゃ普通だと思うよ、こんなちんちくりんでも出来るんだからさ」

「ちんちくりんて。間違っちゃいないけどさ」

「うわぁ……見てみたいですねぇ、人が空を飛び交ってるの」

 

 飛び交ってるのは人より弾幕の方が多い、とか飛べない人も居る、とかは言っちゃいけない気がした。神奈子がにこやかに目配せしてくる事の怖さが分かるか?

 

「うーん……でもなぁ、早苗も連れてって良いのかなぁ……」

「その辺聞いてないのか? 管理者と通じてるクセに」

「うちの重要機関に居る人大体がどっか抜けてるから聞いてな──」

 

 前に展開されたスキマから甲高い金属音が聞こえ、咄嗟に首を傾ける。直後、刀──いや、仕込み杖がスキマから飛び出てきて、俺の髪の毛を数本持っていった。こいつほんとに殺す気だったのかよ。

 紫はそのまま出てきて、口をぱくぱくさせている早苗に《幻想郷》という場所について説明し、行くなら早めに伝えてくれ、と言い残して帰った。

 ああ見えて、結界の維持は大変なのだろう。

 

「……とまあ、そういう訳さ。来るかい?」

「…………正直、夢のような話ではあります。でも、私は……」

()()()()()()、と。違うか?」

 

 ……おい神奈子、ストレートに聞くな、とか言っててめちゃめちゃストレートに聞いてんじゃねえか。

 と目で訴えるも、神奈子は止める気は無いようだった。

 もうこうなると、俺から口出し出来る事は無い。元々部外者な訳だし。

 

「なぁ早苗、私はずっと思ってたんだ。お前は、暗い話は、誰にも言わない。……もう、遥か昔の事だがね。お前の先祖が、似たような事で死んだんだ。ずっと1人で抱えたストレスが爆発して───」

「そこのビルで身投げした」

「「っ……」」

「……ま、待ってくれ。2人とも言ってたよな? 自分から言うまで待とうって……」

「まだ分からないかい? 今日の早苗を見て、考えが変わった。……アンタ、明日ぐらいに死のうと思ってたね?」

 

 言葉に詰まって俯くのを見て、それが嘘ではない事に気付く。でも、さっき飛んでた時の早苗は心から嬉しそうだった。どっちが本心なんだ? ……いや、どっちもか。

 

「……なあ、それならさ。俺達に、早苗をバックアップさせてくれないか? 具体的な方法は……決まってないけど」

「い、いえ、そんな。お手を(わずら)わせる訳には……」

「なーに言ってんだい、それで壊れられる方がよっぽど嫌さ。さあ、全部吐いてもらおうか?」

 

 手をわきわきしながらにじり寄り、早苗を押し倒して擽り始めた諏訪子と、それを見てやれやれと言いたげな顔をする神奈子を交互に見やり、先が思いやられてきた。




考えコロコロ変えるニキ落ち着いて()

ではまた次回。


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特別編:お母さん

こんにちは、母の日入ってから書こうと思った手遅れマンことユキノスです。

という訳でどうぞ。


母の日。普段は感謝の気持ちが伝えられない人も、(こく)潰しも、飲兵衛(のんべえ)も、皆が母に感謝を伝える日だ。

いやまあ、この日しか伝えちゃいけないなんて規則は無いけど。

 

「……パチェ、ちょっといい?」

「ん、どうしたの? 分からない所でもあった?」

「残念ながら今は無い。実は今日、母の日なんだよ」

「……へえ?」

 

最近聞かれる事が少なくてつまらない、と言っていたパチェだったが、『母の日』という単語を聞いた途端目を光らせた。確かにパチェと接している時間は紅魔館の中でも長いし、魔法の勉強、更には魔法文字も一部教わってたりする。分かると楽しいもんだよ、魔法文字。

 

「んで俺の場合さ、血の繋がった母親がどこへやら……って感じじゃん」

「そうね、最近気にしてなかったけど……それで?」

「という訳で、それっぽい人をピックアップしてみたんだけどさ……その、かなり多かったんだ」

「ふ、ふうん……具体的に言うとどのくらい?」

 

あ、ちょっとむくれてる。自分で確定だと思ってたのか。……目を光らせたのはそれが理由だろう。

 

「ええと、3歳まで育ててくれた大妖精。5歳まで育ててくれて、文字や幻想郷の歴史を教えてくれた先生。それから、《家族》として迎え入れてくれたレミィ。西洋の知識と魔法を教えてくれたパチェ。武術体術の基礎を叩き込んでくれた美鈴。以上5名、かな」

「……半分くらいは教えた人な気がするのだけれど。私と美鈴はそれだから、残りの3人の………って、こあとあの蓬莱人は?」

「あの2人は、母親と言うより姉の方が近いかな。どっちかって言うと」

「そう……」

 

自分の可能性が消えて、かなり落ち込んでいる様子。こんなパチェを見るのは久々な気がする。いや、初めてかもしれない。

とまあ、噂をすればなんとやら。当の(こあ)が鼻歌交じりに戻ってきた。胸のカーネーションを見るに、咲夜辺りから貰ったのだろう。

 

「パチュリー様ぁ、見てくださいよこれ! 咲夜さんがくれたんですよ! 顔赤くしてぇ、照れくさそうに俯いてぇ……はぁぁう、可愛いぃぃ!」

「こあ、貴女今度有機王水のお風呂に入ってみる気は無い?」

「ギャーそれって○ねって言ってるようなものじゃなちですかやだー! 今日のパチュリー様怖いです!」

「ど、どうどう……2人とも落ち着いて……それと、有機王水の風呂なんて作れるの?」

 

注:有機王水とは、簡単に言うと超強い酸性の液体。普通の酸では溶かせない、金や白金も溶かしてしまう。

腐食性が高く人体にも有害な為、使用には細心の注意を払う事。

……なんで知ってるのかって? 魔法研究の素材として、研究室に置いてあるんだ、これ……。本で知ってなかったら、俺の手は腐り落ちてたかもね。多分。

 

「霊夜君助けてください、パチュリー様が怖いですぅ」

「えっとごめん、これ俺から言える事無い……」

「そんなぁ!? 助けてくださーい!」

「わっぐっあっどっちょ、揺らさな(ゴンッ!)〜〜〜〜〜〜〜〜………っ」

「……見事に自爆して昏倒したわね。霊夜、一応ティッシュ持ってきて」

「う、うん……」

 

今さっきぶつけた頭を擦り、こあの鼻折れたりしてないよなとヒヤヒヤしながら研究室へ向かう。後ろでパチェが不気味に笑っていたが、気のせいだと信じよう……。

 

***

 

研究室

 

「……うぅ、相変わらずこの匂いか……嫌いなんだよなぁ……」

 

蝋燭に火を灯し、暗い階段を降りていくと、フランが居る地下室……ではなく、魔法研究室がある。何故って、入口が別なんだなこれが。

それはいいんだよ、要らない情報だし。でも色んな薬品、薬草、鉱物等々が保管されてたり使ってたりするから、匂いがキツくて嫌いなんだよ……。なんでこんなとこにしかティッシュ置いてないんだよ、この図書館……。

 

「またヒ素使ってるのか……。だから身体弱くなるんだってのに、もう……」

「あら? その声、霊夜?」

「ん? ……アリス? アリスだよな?」

「ええ、アリスよ。上海と蓬莱も居るわ」

「シャンハーイ!」

「ホウラーイ……」

「おお、ほんとだ。と言っても、ティッシュ取ったらすぐ戻るけどな」

「あ、それじゃあ……ちょっとこれ、飲んでみてくれる? パチュリーと作ってたんだけど、効能が知りたくて」

「えぇー……なんでそんな怪しさMAXな薬飲まなきゃいけないのさ……毒々しい色してるし」

 

フラスコに入っていて、紫色で、コポコポと音を立てている薬を喜んで飲もうとする奴がどこに居るのだろうか。俺の知る限り居ない。幽々子だって、拾い食いはしても毒々しいのは食べないのだ。

……いや、拾い食いも勿論駄目だけどさ。

なんてぶつぶつ言い訳をしていると、焦れったくなった(?)アリスが上海と蓬莱を使って縛り上げてきた。

 

「うわっちょっ、んむぶ……」

「ゴメンね霊夜、これも大義の為……!」

 

何言ってんだこの人形遣い。言葉の使い所よ。

比較的マトモだと思ってた俺が馬鹿だったのか。ああいや、そもそも魔法使いにマトモな者は居ない(パチュリー談)からマトモ寄りのマトモじゃない人だった。

 

「……ぷぁっ」

「……………ど………どう………?」

「……………」

 

あれ、おかしいな、意識が………

 

朧気に残っていた意識がふっ、と途切れた時、身体が溶けているような感じがした。

 

***

 

「ハッ、ハッ、ハッ……!」

 

先程から溢れ出る情報量が処理出来ず、飛ぶことすら忘れて、図書館の廊下を駆け回る。何度か転びそうになるも、どうにか立て直して、部屋の扉を開け放つ。

そこには本を読んでいるパチュリーと、何故か鼻血を出して鼻を抑えているこあの姿があった。霊夜が先程一瞬だけ言っていたティッシュはこの為だろうか。

なんて、そんな事どうでもいい!

 

「パッ、パッパッパパパパパパチュリー!?」

「よく噛まずに言えたわね。それで、何をそんなに慌てているの? ……もしかして」

「違うの! 実験の失敗(そういうの)じゃないの! いや、正確にはまだ分からないけど……とっとにかく来て! こあも!」

「ふぇ? わひゃしもれすか?」

「いいから!」

「わあぁちょっと飛び散っちゃいますからぁ! まだ止まってないんですぅ!」

「後でいくらでも謝るから! あと説明とか、私もまだ理解しきってないから出来ない!」

「………………はぁ、一体何があったって言う……の………………っ!?」

 

ゆったりと、気だるげに立ち上がったパチュリーの手から、何よりも大切にしていた筈の本が落ちた。しかしそれをも気に留めない様子で、目を見開いてぽかんとしている。

 

「……?」

「ちっ……」

「ちゃく……」

「なってるのよ! どういう事!?」

 

確かに霊夜だが、子供サイズになっている。それも、春雪異変で見た人間ではなく、狼の。

記憶も逆行しているらしく、パチェとこあは分かっても、私の事は分からないらしい。拙い動きで、パチュリーの長衣の裏に隠れた。

 

「……ごめんなさい、私もちょっと情報整理が追いつかないわ……。私達は、一時的に性別を逆転する薬を作っていた。そうよね?」

「え、ええ。それもそれで倫理的にグレーだけど……でも若返りの薬は作ってなかった筈よ」

「あ゙」

 

ビシッと音を立てて固まったのはこあ。……このおっちょこちょい娘(?)、まさか……

 

「貴女まさか、薬の中身入れ替えたわね!?」

「わぁぁん申し訳ありませんパチュリー様ぁぁぁ!」

「………ああもう、どうするのよ……」

 

頭を抱えたパチュリーの長衣がくいっと引っ張られ、それっぽくはあるもののやはり高い声が発せられた。

 

「……パチェ、魔法教えてくれるんじゃなかったの?」

「ごめんなさい、私とこのアリスは大急ぎで作らなきゃならないものが出来て……こあ、後お願い」

「わっかりましたー! はーい、こっちですよー」

「……慣れてるのね?」

「仮にも、同じ《人間》を育てたのよ?」

「そうだったわ、ごめんなさいね」

 

謝るくらいなら早く薬を作るわよ、とスタスタ行ってしまったパチュリーだが、顔が嬉しそうだったのは目の錯覚だろうか?

それはそれとして、こあは霊夜の扱いに慣れていること。

 

***

 

いやぁ、私とした事がすっかり忘れてたぜ。本の返却日が今日だったなんて。おかげで今日の予定がズレた。

 

「おーすパチュリー、遊びに来たぜー……誰だお前」

「あ、魔理沙さんこんにちはー。パチュリー様なら、アリスさんと研究室に居ますよ」

「ん、お、おう。借りてたのを返しに来たんだ」

 

そこに置いといてください、と言われたので置いておくと、すぐ後ろに先程「誰だお前」と素で言ってしまった()()()が居た。目線を合わせ、ぽんぽんと頭を撫でてやると、小さな顔をふにゃっと緩ませた。なんだこいつ、めちゃくちゃ可愛いぞ。

 

「ったく、霊夜のやつもこれぐらい可愛げあればなぁ……」

「? 呼んだ?」

「ああ霊夜か、わりぃわ─────」

 

待て、今この子何てった。『霊夜』と口に出したら、「呼んだ?」と帰ってきたぞ。つまりこの女にしか見えない子供は霊夜で、でもあの霊夜じゃなくて………

 

「ど、どういうこった?」

「あはは……実は斯々然々あってですね」

「……なるほど。そんで、この可愛いのが霊夜、って訳かぁ……到底そうは思えないぜ」

「そうですか? 紅霧異変より前から知ってる私からすれば、むしろ最近の方が違和感あるんですが……」

「へえ、意外だなぁ」

 

手持ち無沙汰になったので頬をつついて遊んでいると、うむぃ〜という謎の言語を発して悶え始めた。それが可愛いやら楽しいやらで続けていると、怒らせてしまったのか牙を立てられた。

 

「いっっっって!?」

「ゔう〜〜〜……」

「いだだだだだだ、分かった悪かったやめるやめる! ……いちち、どーなってんだこいつは……」

「重度の人見知りさんなんですよ、これは今も直ってないですけど……」

「……ウッソだろ、あれで? あの良く言えば堂々とした、悪く言えばふてぶてしい態度で!?」

「え、は、はい……。そんな感じだったんですね、魔理沙さんから見た霊夜君」

 

まさか本当の母親でもあるまいに……と思っていたが、大きく肩を落とす小悪魔を見て申し訳なくなってきた。謝ろうと口を開きかけた瞬間、霊夜が駆け寄って、その小さな手で小悪魔の頭を撫で始めた。

 

「────。……ありがとう、()

「……?」

「っ、あっあああありがとうございます、霊夜君!」

 

何がぼそぼそと言った後、いきなり立ち上がって、逃げるように去って行った小悪魔と霊夜を交互に見ても、何も引っ掛かるものは無かった………筈だ。

 

「な、なんだったんだ? あいつ……」

 

***

 

最近見たことが無いレベルの速度で目の前を走っていったこあから目線を外し、後ろの本棚が少し揺れたのを確認。またか、と思う反面、もう見慣れてきた光景だ。

と、こあのスタート地点に居た魔理沙が呆然と呟いていたのが聞こえた。

 

「さあね。体重が増えたのを指摘でもされたんじゃない?」

「絶賛不健康のお前が言えた事じゃないだろうに」

「……まあ、とりあえず薬は出来たわ。戻すやつね」

「お、良かったじゃないか。……ところで、これ外してくれないか?」

「これ……?」

 

アリスが肩に乗った霊夜を見た途端、抑えきれなかったのか吹き出した。腹を抱えて笑うアリスに、何が面白かったのか聞いてみるも聞こえていないようなので、私も後ろに回って──。

 

「……ふふっ。良かったじゃない魔理沙、懐かれたわよ」

「ええー、大事な一張羅が伸びちまうぜ……ほら、降りろ。パチュリー大先生だぞ」

「あ、降りた」

 

驚くほど素直に降りてきて、屈むように言われたのでその通りにしてみる。頭に疑問符が浮かんだままだが、それはどうしたものかと考えていると、左耳に息が当たった。思わず変な声が出てしまい、魔理沙とアリスに笑われているのが妙に悔しかったが、何か話すのだろうか。

 

「昔っから面倒見てくれてありがとな、()()()。これからもよろしく」

 

「………………へぇっ?」

「………………え?」

 

パチェ。確かにそう言った。でもそれは、紅霧異変の2年前に初めて呼ばれた筈なので、こんな小さな時ではない。という事は、つまりこの悪戯な弟子(霊夜)は────。

 

「私達を騙してたわね……?」

「いやぁ、感謝伝えようとしたらなんか落ち込んじゃったみたいで……で、薬がちょうどよく若返り(こんなん)だったからそれに便乗しちゃおうかなーとぶぇっ、うみーーむみゅーー」

「お仕置きが必要かしらねぇ……? こあー、ちょっとお仕置き部屋に閉じ込めておいてくれるかしらー?」

「わーやめてー! 悪かったから! ごめんなさーーい!!」

 

呆然とするアリスはともかく、ケラケラ笑う魔理沙が妙に腹立たしいけど……もしや、気付いていたのかしら?

 

因みに、この後霊夜は元に戻り、疲れた様子で部屋から出てきた。……具体的には、足腰が砕けてガクガクで。

 

***

 

「……いやー嵐のような1日だったなぁ、ははは」

「思ったよりずっと演技派だったわね、霊夜……。私達はともかく、パチェやこあまで騙しちゃって……」

「ああ、それには驚いたけどな。なんか変な気がしたんだよ。私の勘、ほとんど当たらないんだけどな」

「確かに、言われてみるとそうね」

 

永夜異変での、魔理沙の勘を頼りにして1時間迷った記憶が蘇ったので奥に押しやっておく。でも、逆にあそこまでして感謝を伝えたいという事は──

 

「愛されてるのね、パチェ」

「ああ、そりゃそうだろ。じゃなきゃ、紅霧異変で私と闘う場所は図書館内だったかもな」

「そうかも。……私もお母さんに何かしようかしら?」

「お前お母さんどこにいるんだよ。会った事無いけど」

「あら?魔理沙もう会ってるじゃない。と言うか、私に初めて会ったのも幻想郷じゃないでしょ?」

「……は? …………………あああああああああぁぁぁ!? おっ、おま……あの時のォ!?」

「っ…………。むしろ、今まで気付いてなかったのね……」

 

***

 

「──ねえエルちゃん、あの子には言わなくて良いの?」

 

不意にそんな事を聞かれ、私は言葉が詰まってしまった。あの子に隠し事をしている、その後ろめたさから来るものだろうか。

 

「ふふっ、良いのよ。別に怒ってる訳でも、急かしてる訳でもないの。貴女の言いたい時に明かしなさいな。『()()()()()()()()()()()()』。って」

「……はい。私も、努力してみますが……少し、この関係が壊れるのが怖くて」

「怖がらなくて良いのよ。大丈夫、あの子はきっと受け入れてくれる。そう育ててきたんでしょう?」

 

優しい言葉と共に、そっと頭を撫でられる。それだけで、不安と緊張が取り除かれているような気がして、「ああ、これが母親なんだなぁ」と思わせてくれる。

……勇気を貰った。今度、霊夜に打ち明けよう。真実を、全て。

 

「……私、頑張ります。()()()




と、いう訳で。
安定のカオスでしたが、母の日特別編でした。うーん約1週間経ってるのか、デジャヴを感じる。

因みにですが、この話は本編に関係があります。最後のアレが特に。
さてさて、ようやく判明した霊夜の母親(渾名だけ)ですが、いつ出てくるのでしょうか。

ではまた次回。


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霊夜一夜物語(前編)

お久しぶりです、ウニの天空璋イベでテンション爆上がりなユキノスです。
いやー、秘神マターラ来ちゃいましたね! 来たら嬉しいなとずっと思ってたので家で飛び跳ねてました! というのは置いといて。

さてさて、霊夜の居ない紅魔館では何が起きているのでしょうか?

……あと、幻想郷縁起がご都合主義な形になってますがご了承ください。


「だーかーらー! 友達が居たって言ってるでしょ!? お姉様のばかバカ馬鹿、アホーッ!」

「ああもう、分かったから。今度永遠亭にでも遊びに行きましょうか」

「頭おかしくなんかないもん! 私覚えてるもん!」

「なら、その子がどんな顔してたかは分かるでしょ?」

「…うぐ……」

 

 こいしが姿を消して数日経ったけど、情報は何一つ無い。そもそも、探せる範囲と元から持つ情報が少な過ぎるのもあるかもしれないが……にしたって限度があるだろう。

 あーあ、どこかに幻想郷中の妖怪を記した本でも無いかなぁ……

 

「ああ、確かそれならあるわよ」

「だよねぇ……えっ?」

「あるわよ。幻想郷中の妖怪を記したもの」

「ほ、ほんとっ!? 見せて、今見せて、すぐ見せて!」

「ちょっ、落ち着きなさい! 嬉しいのは分かるけど!」

 

 咲夜、と呼ばれただけで咲夜が現れて、毎回毎回どうやって聞きつけてるんだろう? と首を傾げる。

 お姉様の話を聞くに、咲夜を連れて行かせるようだ。……紅魔館(ここ)には無いのかな?

 

「咲夜を連れて行かせるわ。もしもの事が無いとは思うけど、念の為に」

「うん、分かった。……ところで、どこにあるの?」

「人里で1番大きなお屋敷よ。……行ってらっしゃい。友達、見つかると良いわね」

「………うんっ!」

「では、行きましょう妹様。あまり遅くなっては、美鈴が腹を空かせてしまいますので」

「ふふっ、そうだね。……じゃあ、エスコートお願いね?」

「はい、お任せを」

 

 どこからか取り出された日傘に入ると、手を差し伸べられた。なんだか新鮮な気がして、ちょっと擽ったい。

 

「では、行って参ります、お嬢様。おやつは冷蔵庫に入っておりますので、1つのみお食べください」

「……あのね咲夜、主が折角カッコ良く締めたんだから水を差すような真似はしないでちょうだい?」

 

 ***

 

 という訳で人里に着いて、稗田邸に向かう途中。少しだけ疑問に思ったのが、何故か皆私達を見てヒソヒソと話している事。吸血鬼って珍しいのかな?

 

「ねえねえ咲夜、あれは何?」

「あれは風鈴のようですね。風が吹くと音が鳴るものです」

「あっ、じゃああれは?」

「あれは……おや、寺子屋ですね。子供達がお勉強をする所です」

「ん? おお、紅魔館のメイドじゃないか。今日はどうしたんだ?」

「あのね、私の友達を探してるの! こめいじこいしっていうんだけど……」

「こめいじこいし、か……うーん……」

 

 青髪のお姉さんは、それから数分うんうん唸っていたけれど、結局分からなかったらしい。

 キチンとお礼を言って行こうとしたら、「今度寺子屋に遊びに来ると良い」と頭を撫でられた。霊夜の撫で方とちょっと似てて、なんだか落ち着いた気分になれた。

 

「咲夜、あの人と知り合いなの?」

「はい。買い物に来た時と、永夜異変で関わりがあります」

「そうなんだ……。私も異変解決してみたいなぁ……」

「妹様も、いずれ出来るようになるかと。お嬢様が出来て、妹様に出来ない道理はありませんわ」

「……咲夜って、ちょくちょくお姉様ディスるよね」

「飴と鞭というものですわ、妹様」

「それはちょっと違うんじゃないかな……」

 

 

 稗田邸

 

「幻想郷縁起を見せていただきたいのですが」

「……了解した。暫し待て」

 

 主に報告に言ったのであろう門番を見送り、咲夜と「美鈴もあんな感じになったらいいねー」なんて冗談を交えて話していると、今度はヒソヒソ声がしっかりと聞こえてきた。

 

「災禍の獣の仲間だ」「あいつら、代わりにこの里を襲いに来たんじゃねえか? 早い内にとっ捕まえた方が良さそうだぞ」「馬鹿野郎、相手は妖怪だぞ。元人間のアイツとは違う」「そ、そうか……あぁクソ、捕まえられたら犯してぇなぁ」「聞こえるぞ、朝お前の首が飛んでても俺は知らねえからな」「怖いこと言うなよ、寝らんなくなるじゃねえか」

 

「……ねえ、咲夜」

「はい」

「霊夜の右目が無かったのと、外に出なくなったのって……」

「……はい」

「《これ》が原因?」

「っ………」

「ねえ、答えて。……ねえ!」

 

 声を荒らげてしまい、周囲が肩を震わせる。しまったと思っても、感情は一度溢れると止まらない。人前なのも忘れてぼろぼろと涙を零し、視界がぐちゃぐちゃになってくる。それでも、この思いだけは叫ばないと気が済まない。

 

「霊夜が何をしたって言うのよ! 虐げられて紅魔館まで来て、それでも人里の人に優しくしてた霊夜が……なんで、人里の人にここまでされなきゃいけないのっ! ……ねぇ、なんで……皆、霊夜にだけ、辛辣にするの……?」

「……妹様」

 

 咲夜が何かを言う前に、幼いような大人びたような声が横から響いた。

 

「申し訳ありません、お待たせしてしまいました。稗田家九代目当主、稗田阿求と申します」

「個人でお会いするのは初めてですね。こちらは、フランドール・スカーレット様です」

「どうぞお入りください。《その事》についても、お話し致します」

「………」

「行きましょう、妹様」

 

 そっと押された背中に、咲夜の暖かさが伝わって、少しだけ落ち着いた。深呼吸して、頬を叩く。

 ……落ち着け。落ち着くんだ私。

 

「……うん、行こう。行って、確かめよう」

 

 ***

 

「改めまして、ご挨拶をさせていただきます。稗田家九代目当主、稗田阿求です。本日は、どういったご要件で?」

「……友達を探してるの」

 

 阿求と名乗った女の人の顔が、驚きの表情をつくった。思っていた事と違ったのだろうか。

 

「かしこまりました。咲夜さんもそれで構いませんか?」

 

 途端、モヤっとした違和感が立ち込めてきた。なんだろう、断言は出来ないけど……何か、おかしいような……

 そこまで考えた所で、咲夜が答え合わせのように口を開いた。

 

「はい。ですが、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……図星です。新月霊夜さんについての事を、一応知らせておきたいと」

「………うん、お願い」

「かしこまりました。ですが、まずお友達の方を先に探しましょう」

 

 無言で頷くと、阿求さんは沢山の本を持ってきた。それぞれ表紙に、幻想郷の地名が書かれている。『紅魔館・霧の湖』の中身が少し気になったけど、今は我慢して───

 

「ね、ねえ……咲夜」

「はい、どうされましたか?」

「よくよく考えたら、私……こいしちゃんの住んでる場所、知らない……」

「こいし………? 申し訳ありません、その人物は恐らく幻想郷縁起に()()()()()()()

 

 申し訳なさそうに、しかし確信を持って発せられた言葉の意味が一瞬分からなくて、掴みかかりそうになってしまった。咲夜に制されなければ、本当に掴みかかっていたかもしれない。

 

「……なんで? なんでよ!? なんでそんなの分かるのよっ!」

「妹様。……この方は、先祖代々記憶を引き継いでいます。そして、《1度見聞きしたものを忘れない》のです。ですので……」

 

 彼女が分からないなら、先代も分からない。そういう事だろう。……いや。違う。ここには、幻想郷のほとんどの場所が書かれている。

『魔法の森』、『妖怪の山』、『太陽の畑』、『紅魔館・霧の湖』、『迷いの竹林』、『妖怪の樹海』、『玄武の沢』………。

 その中から、『紅魔館・霧の湖』を捲ってみる。美鈴から始まったそれは、咲夜、こあ、パチュリー、お姉様、霊夜……最後に、私。

 霧の湖の方は、たまに霊夜と一緒にいる人魚さん、ミスティア、リグル、ルーミア、大ちゃん、チルノちゃん……何か、順番に理由があるのだろうか?

 

「……ねぇ、阿求さん。この他に、()()()()()()()()()は無い?」

「行った事の無い場所……ですか?」

「勿論、存在感が薄いこいしが見つからなかっただけかもしれないよ。でも、阿求さんがやってるのは……最初に会った人の知り合いに、ずっと聞いていってる。違う?」

「いえ、そのやり方です。ですが、何故……?」

「それだったらさ。こいしは、()()()()()()()()()()()()()って事でしょ?」

「……なるほど。誰とも知り合いでないなら、必然的に行った事の無い場所が浮かびやすい……」

「うん。だから、無い?」

 

 慣れない事を長く深く考えたせいか頭がズキズキするが、阿求さんの答えは私に比べてあまりにも簡潔なものだった。

 

「……1箇所だけなら。私は空を飛べないのと、不可侵条約が結ばれているので、どうしても行けなかった場所があります」

「……! 教えて、どこっ!?」

「《地底》です。旧地獄とも言います。妖怪の山の麓辺りに、大きな穴があって……そこから行けると、文さんが」

「じゃあ……!」

「はい、恐らくそこに。お嬢様に交渉(物理)し、許可を貰いましょう」

「うん! ありがとう、阿求さん! それじゃ──っ、つぅ〜〜〜〜……」

「ど、どうされましたか!? 何かお身体に障るような……」

「あ、足が、痺れ、た」

「足は崩していて構いませんよ。それと、もう1つ聞きたい事があったのでは?」

「あっ、そうだった!」

 

 そうだ。霊夜が何故右目を潰されたのか、その詳細を聞いていなかった。

 いけないいけない、と座り直し、深呼吸。

 

「これから話す事は、貴女にとっては辛い事かもしれません。ですが、どうか。どうか、最後まで落ち着いて聞いてください」

「……うん」

 

 私は、貴女が霊夜さんの過去についてどこまで知っているかまでは分かりません。ですので、聞いた事のあるお話でも、どうか聞き流さないでいただけると助かります。

 ……人里で嫌がらせを受け、出てきた辺りから聞いた? 分かりました、ではそれより少し前の話から始めましょう。

 

 霊夜さんは元々、霧の湖の近くにぽつんと居たと聞いています。赤ん坊の頃から居ましたが、捨て子という訳でもなかったそうです。

 そこを見つけ、保護したのが大妖精さんでした。彼女の話によると、とても可愛らしかったと……失礼、それについてはまた今度お話しましょう。

 

 そうして保護された霊夜さんは、2年程すくすくと育っていきました。そしてある日、たまたま訪れた妹紅さんがそれを見て、慧音さんに報告した事から、霊夜さんの人里での暮らしが始まります。

 

 慧音さんの家で養われる事になった霊夜さんは、まず言葉の読み書きを習ったそうです。今でこそお昼寝好きの霊夜さんですが、昔はとても勤勉だった、と慧音さんが話していました。

 

 ……と、肉親が分からない事以外はここまで順調に進んでいました。ですが、寺子屋に通い始めた辺りで、それは狂い始めます───

 

「……と、お茶をお淹れしますね」

「あ、ありがとうございます」

 

 阿求さんが小さく微笑んで、席を外した。その間に、私は情報を整理しておく事にする。

 

 霊夜は霧の湖近くに居た。大妖精がそれを拾い、2年間養った。その後人里で育てられる事になり、あの教師の家に住む。

 

 確かに、ここまで順調だ。だが、嫌がらせを受け、里を飛び出した霊夜は──人里の人間には、どう映ったのだろうか?

 それが知りたい。知る事が出来れば、多分、真実に近付けるから。




いやかなり更新が空いてしまいましたね。大変申し訳ない!

授業に課題、アルバイトに執筆と多忙に過ごしていると、どうしてもどれか疎かになってしまうのは人間の性でしょうか。どちらにせよ、自然消滅まで行かないように頑張りたいと思っております。

ではまた。


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霊夜一夜物語(後編)

1ヶ月空いてしまったぁぁぁぁぁぁぁ!

あ、今回特に書くこと無いんでそのまま入ります。


阿求が再び目の前に座り、口を開く時には、私も情報整理を終えていた。「話しても良い?」と言いたげな顔の彼女を見据え、手をきゅっと握る事で、それに応えた。

 

「──そうですか。では、お話しますね。最後まで」

「……うん。お願い」

「では」

 

んん、と咳払いを1つ。目の前に鎮座する年長者(幼子)は、瞳を閉じ、またぽつりと話し始めた。

 

***

 

寺子屋に通い始めた霊夜さんは、その髪色から嫌がらせを受けます。……これは、人間の性なのでしょうか。少数に属する霊夜さんに対して、彼らは排他的でした。

この時は()()、物理的にのみでした。と言っても、よく痣を作って半泣きで帰る様子は、見ていて痛々しかったですが……慧音さんに悟られないように、必死に隠していた様子でした。きっと、心配を掛けたくなかったんだと思います。

 

この頃は、庇ってくれる人も居たそうです。……ですが、それは数ヶ月後………1人も居なくなっていました。

彼らは幼いながら、周りを気にする子がほとんどでした。それに霊夜さんという例が居た以上、「こっちにつかないと自分も」と思う子は少なくなかったでしょう。事実、何人かはそれが理由だったと聞いています。

 

 

少しだけ話の時系列を戻して、《まだ》の後の話をしましょう。

 

霊夜さんの痣や傷が隠しきれなくなってきた頃、でしょうか。嫌がらせは、精神的にも行われるようになりました。

 

……慧音さんには聞こえない、という点では、ここの裏が1番適しているんです。建物も多い為見えづらく、彼を毛嫌いしている人も多く居ましたから。

でも……私は、とてももどかしかった。すぐにでも戸を開けて、彼を庇いに行きたかった。「怪我でもなされたら」と、毎回止められてしまったのが現実ですが。

…………すいません、少し失礼します。

 

***

 

「……なんで、門番さん達も止めなかったんだろう」

「そこまでは分かりかねます。ですが、彼女は味方についてくれる事でしょう。寺子屋の教師も含め、人里の2大勢力が味方というのは大きいでしょう。……大きく動けないのが、惜しい所ではありますが」

「……ううん、皆が敵じゃないって分かったからいい。それに、阿求さんと慧音さんなら信頼出来そうだし」

「妹様……」

「……ただいま戻りました。では、続きをお話しします」

 

落ち着いているように見えたその目は赤く腫れ、手は涙で濡れていた。

 

***

 

精神的にも肉体的にも追い詰められた彼は、次第に笑わなくなりました。そこまで来て、ようやく慧音さんの耳に入った程、周囲は上手く隠していたのです。……彼女も、私が知っているとは思わなかったのでしょう。そこについては悔やんでいました。言わなかった私にも、責任はあるのですが……彼女はただひたすらに、自分が悪いと言っていたのを今でも覚えています。

 

──その夕方、夜に程近い時刻でした。慧音さんがここに駆け込んできて、霊夜さんが家を飛び出した旨を告げられた時、私は最悪の事態を想像しました。……してしまいました。人里の人間はほとんどが慧音さんの元生徒な為、捜索の呼び掛けに応じない人は居ませんでしたが……やはり、見つかりませんでした。

 

この時、慧音さんが霊夜さんを見失わず、どこかで捕まえていたら。見失ったにせよ、駆け込んだのがここではなく、人里の門であったなら。飛び出した時刻が、朝もしくは昼だったなら。

きっと、霊夜さんの人生は今と大きく変わっていたかもしれません。……でも、きっと今の方が幸せだったと、私は思います。……なのに、あんな……っ、何故、皆霊夜さんを嫌悪するのでしょうか? 彼が何かしたんでしょうか? ……私には分からない。何もしていない、危害を加えた事も無いような妖怪(ひと)を、何故恨めるのでしょうか? 《災禍の獣》……アレは、絶対に霊夜さんじゃない。霊夜さんに姿が似た、別の誰かです。だって、《災禍の獣》が本当に霊夜さんなら……慧音さんが悲しむような事は、絶対にしません!

 

***

 

感情の昂りからか、肩で息をする様子に呆然としている私と咲夜を押し倒さんがばかりの勢いで寄ってきた阿求は、私の肩をがしっと掴み、深々と頭を下げた。

 

「……どうか、彼の無実を。彼は、《災禍の獣》なんかじゃないと。彼らに、証明してください。私でも、慧音さんでもない。より近くで霊夜さんに接していた、貴女達が。……お願いします。永夜異変の時、妹紅さんと共に異変を解決してくれた彼への礼が憎悪(こんなもの)では、あまりに酷すぎる」

「……うん。分かった。私達が、必ず証明する。だから、泣かないで。霊夜がアワアワしちゃうよ?」

「───。……ふふ、そうですね。涙は、拭いておきます。それと、お友達探し、頑張ってくださいね」

「………あっ、すっかり忘れてた! えーとどこに「地底ですわ」そうそこ! ……に、どうやって行くの?」

「地底は、妖怪の山の麓にある大穴から行けます。途中で蜘蛛の巣が張ってあるそうですので、道中お気をつけて。」

「うん! どうもありがとう、阿求」

「どういたしまして。ああそれと、その……こいしさんに会った時は、幻想郷縁起の事も伝えていただけると助かります」

「ええ、お引き受けしましたわ。それでは、失礼致します」

「また会いに来るね!」

 

手を振って別れ、咲夜と共に稗田亭を出た。日は少し傾いているけど、妖怪の山へは行ける筈。こいしも見付けて、霊夜の濡れ衣も引っペがす!

そう決心した今、人間の陰口は何も気にならなかった。




バイトに課題にetc.と、執筆に使える時間がかなり少なくなってしまっている現状ですが、出来るだけ早く投稿出来るように頑張ります。

ではまた。


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夏の暑さにご用心

こんにちは、最近の口癖が「ガッデムホット」になってきてるユキノスです。
実は少し前からPCが起動しない状態だったんですが、時間が無くてまだ修理に出してすらいないのどうにかせな()

という訳でどうぞ。今回は霊夜サイドです。


「あっっっつい……」

「エアコンまだダメなのぉー?」

「ダメだ、日本人なんだからこれくらい我慢しなさい」

「……なぁ、早苗(コソッ)」

「なんです?」

「根性論程破滅に近付くものってそう無いよな」

「どうしたんですか急に……」

 

日本人でもルーマニア人でも同じ人間だろうに、どうしてそうなるのか。いや、「人間なんだから」と言われても(特に俺が)困るのだけど。

 

「いや? 熱中症だの日射病だの、夏場で恐ろしいのは多々あるからさ。その際はキチンと責任取ってくれんだろうなぁと」

「……分かりません。ただ、こっちでは事が起こってから謝罪する事が多いですね」

「そりゃあ、また……ゾッとしない話だ」

 

いや、妖怪が事を起こして暴れ回った挙句、強力な人間に謝罪させられる幻想郷がおかしいだけであって、むしろ起こした側が自分から謝るのは当たり前か。

……それも違うな、異変はどっちかと言うとお祭り感覚って聞いt……お祭り……? ………いや、やめとこう。考えてはいけない。

 

まあどっちにしろ、夏場の死人は幻想郷でも多い。脱水症状での死亡も、決して少なくはない。

その辺は同じなんだな……と思いつつ、『エアコン』や『扇風機』があるのに日射病や熱中症で毎年そこそこの死人が出るって中々におかしくないか。脱水は間違いなくそいつが悪いから別で。

 

「おい風萩! 聞こえてるのか!?」

「ん、あーはい聞こえてます」

「なら音読出来るな? 続きから読め」

「いみじうしろく肥えたるちごの二つばかりなるが、……」

(聞いてたんだ……)

 

***

 

昼休み。何故か知らんが紫に外へ飛ばされた「もう1人」が作ってくれた弁当を食べていると、初日に絡んできた女子が来たので、「うわぁ」となりつつも平静を装って食べる。うん、美味い。

 

「ねーねー風萩君、お昼一緒に食べよ!」

「やめとく。飯くらい静かに食いたい」

「えー、そんな事言わずにさぁー」

 

話聞いてたのかコイツは、やめとくって言葉が辞書に無いのか。早苗に助けを求めようとしても、彼女はとっくにどこかへ消えている。 いやそれは仕方ないか。

 

……さて、本当にどうしよう。魔理沙やチルノのウザ絡みの様な反応をしたら、彼女には間違いなく怪我か死が待っている。それだけは避けたい。

かと言って、言葉だけではそうそう引いてくれないだろう。何か無いか、何か……

 

「あー、俺こいつと食べる約束してんだ」

「えー、ざんねーん……」

 

先程からニヤニヤ見ていた女子グループに駆け戻り、ダメだった〜と言っている所を見ると、言ってしまえば遊び感覚だったんだろう。ざけんな。

 

と、即興の嘘に巻き込んでしまった彼──えーと、名前が……麻見、だっけ?

 

「……えっと……なんかごめん、巻き込んで……」

「いーよいーよー、俺も風萩と話せる機会出来て嬉しいし」

「つーと?」

「いやぁ、理由って程でもないよ」

 

彼の正面に座り、しかし目は離さず、弁当をパクつく。梅干しがちゃっかり入っていたが、あんな洋風の家で漬けてるの想像したら笑えてくる。

 

「酸っぱ。……んじゃ何でさ?」

「……お前、妖怪だろ?」

「っ、〜〜!」

「あっ、お、おい、大丈夫か!?」

「うぐ、えっ…大丈夫。……見えてるのか?」

「うん、髪も赤に見えるぞ」

 

おい紫、術の掛け方甘かったんじゃないのか。一般人に正体バレたんだけど。

普段寝てばっかだからだ、と恨み言を零して、でも何故バレたのかが気になる。

 

「いやぁ、実はうち古いお寺でさぁ。昔は妖怪退治とかしてたんだー、ってジイさんが言ってた。俺にはその霊感が出てるとか何とか」

「それで見えたのか……納得」

「最初は俺も信じてなかったんだけどね。現に退治とかは出来ないし」

「見えはするけどそれだけってか。……いや、こっちじゃ見えるだけですげぇか」

「そ。って、《こっち》って言ってたけどどっから来たんだ?」

「えーとそれは……」

「何々、何の話ー?」

「……またの機会に。流石に全員に知られたくはない」

「あー、それは分かる。頭おかしい奴って思われるのが早いぞ」

「経験済みかよ……お互い気をつけよう」

「そだな。じゃ、また」

「おう、あんがと」

「どいたまー」

 

なんだそりゃ、と思ったが、どういたしましての略だと気づいて余計に「なんだそりゃ」だった。

って言うか普通に妖怪退治の家系まだ残ってたんだな。失礼ながら潰えてたかと。

 

***

 

「た、ただいまー……」

「お帰りなさい。……って言うのも、変なものですね」

「お互いにとって他人の家だからね。なぁ、そこでケラケラ笑ってるミジャグジ様?」

「ケラケラとは失礼な、ゲラゲラさ。そこの赤髪の嬢ちゃんが今朝来た時には驚いたがね、あの胡散臭い奴が刺客でも送り込んできたんじゃないかって」

「いやぁ、いくら私でもスキマ妖怪の為だけには動きたくないですねぇ」

「………で、ホントになんでここに?」

 

少女説明中……

 

「……えーとつまり、信頼出来る保護者枠が欲しい。で、1番慣れ親しんでる紅魔館から1人行かせようと思った」

「で、よく接していてそんなに忙しくない私が来た訳です」

「おい門番」

「本当はこあちゃんが来たがってたんですけど、パチュリー様のお世話もあるので。お嬢様と妹様、颯忌ちゃんも料理はまだ苦手な方ですし、かと言ってメイド長の咲夜さんを行かせたら大混乱ですからねぇ」

「……消去法だったのね。確かに前メイド長だったな」

「はい、これでも料理は出来ますよ!」

「いやぁ頼もしいね、神奈子の料理は粥ばっかでさぁ」

「作ってすらいない奴が偉そうに言うな、まったく……」

 

心做しか中華多めの食卓を囲い、風呂に入ることにした。外の世界って便利だね、ボタン1つで風呂が湧く。

あ、紅魔館の風呂は温泉から引いてます。

 

「うぃ〜〜〜………」

「おっ、湯加減は大丈夫そうだね。……なんだい、顔に似合わず筋肉質じゃん」

「なんだよ、悪いか? それとなんで普通に入ってんだよ」

「まーまー気にしなさんな、私は男のイチモツなんざ飽きる程見てきたから」

「……それ、出来れば聞きたくなかったんだけど」

 

神様である以上、海千山千であるのはほぼ間違いないだろう。でも、流石に男が男の生殖器云々と聞いても喜ばないだろうに。……女性のだったら少し考えたかも。

 

「と言うかタオルくらい巻けよ」

「湯浴みくらい裸でいーだろ」

「肉体的には仮にも異性だぞ」

「私どっちの姿にもなれるぞ」

「ウッソだろお前……」

 

話を聞く限り、どうやら神様というのは姿形を好きなように変えられるらしい。諏訪子の様に性別すら変えられる神は稀だが、見た目も大事だからだそうだ。

 

「ま、嘘なんだけど」

「嘘かよ! 軽く信じちまったじゃねえか!」

「騙されやすいねぇ、気ぃつけなー?」

 

……この神様、幻想郷に連れてくんの? ほんとに? 藍か天魔の胃が爆発しそうなんだけど大丈夫??

 

***

 

「……くしゅっ」

「藍しゃま、夏風邪ですか?」

「ん、いや大丈夫だ。橙は優しいね」

「えへへー、ありがとうございますっ!」

 

***

 

「……なんだァ? 何か知らんが胃痛が……昨日食った鮎かねェ?」

「天魔様、如何なさいました?」

「いやまだ呼んでねえんだが……厠だ厠」

「今壊れてますよ?」

「何ィ!?」




美鈴、参戦!(スマブラ風に)
誰も説明してなかったので補足しておおくと、美鈴も周りには黒髪に見えてます。

さて、数少ない男性キャラの麻見君。妖怪を妖怪と認識出来るという稀有な性質を持つ彼ですが、どう絡んでくるんでしょうか?

ではまた。


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鴉とメイドと吸血鬼

今回はフランサイドのお話です。
いざ、地底へ行かん!


手掛かりが掴めたので帰りが遅くなる旨を伝える為の蝙蝠(使い魔)を放ち、張り切って妖怪の山へと向かう。紅魔館どころか、幻想郷のどこからでも見えるぐらい大きな山だ、と霊夜は言ってたけど、なるほど確かに大きい。

 

「妹様、空と地上のどちらからお探しになりますか? 空は楽な代わりに、天狗の目を掻い潜るのは難しいかと」

「そうだね、でも地上からだと……動きづらそう」

「ここまで大きな山となると、スカートで来るのは悪手でしたわね……。霊夜か美鈴(うちの体力自慢)でも居れば、ある程度楽だったのでしょうが」

「ううん、2人に頼る訳にはいかないよ。私個人の問題だし……わっ」

 

突然咲夜に抱きしめられて、思わず体が強ばる。咲夜が自分からアクションを起こす事はかなり珍しいので、それに驚いたのが一番だろう。

 

「咲夜はそうは思えません。妹様のご友人探しと聞けば、2人とも勇んで手を貸すと、信じております」

「────……うん、そうだね。でも今回は急だったから、私達だけで行こっか」

「はい、どこへでも」

 

咲夜の胸の中で、その柔らかな笑顔を堪能していると、不意に横で何かが光った。咲夜の顔が一瞬にして強張り、敵意を剥き出しにしている。

私も恐る恐る見てみると、いつかの天狗記者が居た。

 

「文さん、こんにちは!」

「はい、こんにちは。清く正しい射命丸文です。……えっと、咲夜さん? 勝手に写真撮った事については謝りますから、その剣呑なお顔をやめていただけないでしょうか……?」

「あのね、魂でも抜かれたらどうするつもり?」

「へ?」

 

ぽかんと口を開ける文に対し、咲夜は続ける。

 

「写真撮られるとカメラに魂を抜かれるって……」

「ああ! あんなのただの迷信ですから、大丈夫ですよ。それよりフランさん、今撮った写真お送りしましょうか?」

「えっ、くれるの?」

「妹様?」

「はい、現像しましたらすぐにでもお持ちしましょう!」

「うん、待ってるね!」

「妹様!?」

「で、お二人は何故ここに? 空のお散歩、という訳でもなさそうに見えますが」

「えっとね、友達が地底に居て……あいや、居るかもしれなくて……」

「ふむふむ」

「それで、行かせてもらえたらなぁ、って……

「うーーーーーむ……そうお願いされると「どうぞどうぞ!」と言いたくなってしまうのが私なのですが……流石に、それについては私の一存ではどうしようも無いんです。不可侵条約を結んだのは、私ではなく天魔様なので……申し訳ありません」

「う、ううん! 文は悪くないよ! 私達が急に来ただけだもん」

「あやや、慰められてしまいました。では、そのお礼として天魔様の御屋敷までご案内しましょう」

「え……い、いいの!?」

「はい、霊夜さんの……えっと、ご家族……って言えば良いんですか? その辺りイマイチ不明瞭なんですが……」

 

言われてみると、確かに霊夜との関係はどう言えば良いんだろう。居候先……は変だし、友人……ではあるけどちょっと違う。やっぱり家族?

うんうん唸っている私の横で、咲夜が口を開いた。

 

「彼は我々の友人であり、家族です。お嬢様がそう定義し、接しているので、私はそれに従うまでの事」

「おぉ! なんだかカッコイイですねぇ、そういうの。いやぁ、うちの上司もそんなだったらなぁ……」

「じゃあ紅魔館に来る? メイドはいつでも大歓迎よ」

「メイド服、ですか……あの、中々に恥ずかしそうなので遠慮しておきます」

「あら残念。さて、日が落ちる前には到着したいのだけれど」

「では行きましょうか。……あ、そうだ。咲夜さん、私を追い掛けて、ナイフを喉元に宛てがった状態で来てくれませんか?」

「どうしてよ。貴女そんなにマゾヒストだったの?」

「いえいえ、白狼天狗は耳が良いですが、目程ではないので。見た目だけでも『案内させられている』感を出さないとですし?」

「ふうん、一理あるわね」

 

そう呟くと、あっという間に文を拘束して、喉元にナイフを当てた。いつも優しくて暖かい目が、今は氷の様に冷たく、鋭い。十六夜咲夜という人間は、それ程までにオンとオフの差が大きいのだ。

 

「さぁ、案内してもらえるかしら?」

「えっ、あっ、はっ、はいぃぃ!」

 

美鈴や霊夜が、咲夜を怖がる理由が分かった気がする。

()()()だ。吸い込まれる様な、暗く強い光を、あの2人は見たのだ。

 

***

 

(あ、あやや……ここまで本気で来られるとは思っていなかったのですがっ! というか、ちょくちょくこの人ほんとに人間かどうか疑わしい事しますよね!?)

 

刃を当てられた時、私は彼女の顔を見た。無表情だった。瞳を見た。──何も映していなかった。

その光景に、思わず声が漏れる。唾を飲み込むと、喉が刃を掠める。

 

これは演技。そう、演技だ。その筈なのだ。なのに、冷や汗と手汗が止まらないのは、何故?

彼女の殺気が本物だから?

一切の抵抗無く、一瞬で拘束したから?

何気無い話をしていた者に対して、容赦無く刃を突き立てるから?

 

……間違いなくその全てだろう。しかしよく考えれば、彼女はあの紅魔館で、メイドとして働いているのだ。主に従順な、文字通り『悪魔の犬』として。恐らくだが、主が殺せと言えば友さえ殺し、死ねと言えば喜んでその身にナイフを突き立てるだろう。

 

「……何年貴女方を観察し()ていても、貴女だけは一向に分かる気がしないですね」

「ふふ、そうかしら? 少なくとも、お嬢様より分かりやすいとは思うけれど」

「えぇ……そんな訳無いでしょうに」

 

今こうして喋っていても、彼女の殺気は消えない。フランさんも少し距離を取っているのが分かる。

これ以上このままでいたら、乙女として踏み込んではいけない領域に足を踏み入れてしまいそうになるので、一刻も早く地底の穴へ行かねば……。

 

「こ、こちらです。フランさん、無いとは思いますがはぐれないように」

「う……うん。分かった。怖かったら言ってね、文」

 

そう言って頭を撫でてくれるフランさんが優し過ぎて辛い。今すぐぎゅーってしてあげた──

 

「今、何を考えていたの?」

「いぃぃぃえ、何も……」

 

……やっぱり怖い!




書く事ナッシング。という訳でまた次回!
……いつになるの?


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特別編:ルーミアの日

毎月なのかはルーミアの日だーーーーーー!

という事でルーミアの日特別編です。実は先月間に合わなかったのは内緒。……それと、予約投稿忘れてたのも内緒で。


今日は『そう7日(なのか)ー』の語呂合わせでルーミアの日らしい。誰が考えたんだろ。稗田家の誰かかな?

まあそこはいいや。また今度考えよう。今日はルーミアがちやほやされている。でも、皆意外とルーミアの事知らないんじゃない?

 

「という事でルーミアについて色々と聞きたいんだけど」

 

「あー、それでわざわざ私の家まで……そういう時の行動力だけはあんのなんかムカつく」

 

「う、うるさいなぁ……。俺だって、動きたい時くらいはあるんだよ」

 

半分くらい文からの依頼も含まれてはいるが、俺もルーミアについては結構知らない事が多い。……早速だけど、ルーミアの家って意外と可愛いもの多いのね。

 

「あーはいはい……それじゃ、何から聞くの」

 

「アッハイ。えーとまず1つ目、『人間捕食する時ってどう食べてんの?』」

 

「……それは? どういう意味よ?」

 

「え? いや、人間捕食するじゃん? その時、肉ちぎってちょっとずつ食べるのか、それとも──」

 

「あら、やってみせようかしら? あなたで

 

「え? ちょっ、何し──お゛お゛ぉ゛ぉ゛あ゛あ゛!?」

 

突然服を捲り、すべすべの腹を見せてきた時は「そういう性癖持ちだっけ?」と本気で考えたが、そこからぐぱぁ、と音を立てて口が出現してここ数年無いレベルでビビった。夢に出てきそうなんだけど……。

 

「(クスクス)あら、何も怖がらなくたって良いのに。大丈夫、痛いのは一瞬だけだから……」

 

「いや、まだ死にたくないんで遠慮しときます。てか幼女の姿(その見た目)でそんなグロテスクな話すんの中々に怖い」

 

「グロテスクな話に見た目って関係あるの?」

 

「無い。……えーと、気を取り直して次行っていい? あとその腹をしまってくれ」

 

「はいはい。それで?」

 

「ちょっと待ってなさいな。……これはフランからだな、『ルーミアって処女?』」

 

「は?」

 

「待て待て待て待てどこへ行く、最後まで話を聞いてくれ。あのな? 吸血鬼にとって一番美味いっていうのが『処女の血』らしくてだな?」

 

「そんな事は赤ん坊でも知ってるのよ、問題は何故そんな事を私に聞くかよ」

 

「そりゃあ……味が知りたいからじゃない? 俺も吸われた事あるぞ」

 

「女ですらないのに?」

 

「いや、一番美味いってだけでまずい訳ではないらしい。その辺よく分からないんだよな、今度聞いてみるよ」

 

「そうしてちょうだい。あと質問の答えは直接言うから。男性に自分が処女か言う程馬鹿じゃないの」

 

「まあそりゃそうか」

 

よくよく考えてみれば、自分の性交経験なんて他人に知らせるものじゃないしね。まあ、フランは失礼かどうかなんて知らなかっただろうし、今回は大目に見よう。……ただし、次回からは出来るだけ無くしていく方向で。

 

「ちなみに霊夜は童貞?」

 

「はは、ノーコメントで。次、大妖精から」

 

「あの子から? 珍しいようなそうでないような……」

 

「えー、『闇の中で動く時、ふらふらしてるけど周囲は見えてるの?』」

 

「見えてないわよ」

 

「いや駄目じゃん。致命的じゃん。なんでだよ」

 

「むしろ見えないからあんな不規則に飛んでるのよ。じゃなかったら真っ直ぐ飛んでるわ」

 

「いや誇らしげに言われてもなぁ……あ、そうだ。美鈴に心眼でも教わってみたら? 纏ってても見えるぞ」

 

「面倒だからいい」

 

「さいですか……」

 

ちなみに俺はまだ出来ない。気配だけで相手の動きを読み取るって割と難しいからね……。

でも、狼の本能かは分からないけど咄嗟に避ける事は少しずつ出来るようになってきてはいる。反撃は無理。

 

「え、えー次。『両手を横に伸ばしたポーズはなんの意味があるの?』」

 

「あーあれ、十字架にかけられた愚者みたいでしょ?」

 

「へー、そんな意味が……」

 

「霊夜もやってみる? 意外と肩疲れるから」

 

「その辺は分かってるから大丈夫。手に鉄球乗せてそれやった事もある」

 

「……いつも思うんだけど、貴方どんな鍛え方してるの? たまにちゃらんぽらんに見える事してるけど」

 

「んー、ぶっちゃけ言うとほんとにちゃらんぽらんな事してる時はあるよ。手に鉄球乗せて腕ピンと張ったりとか」

 

「何がしたいのよ……無駄でしょ無駄」

 

「いやぁ、遊び感覚だから普通にやるよりやる気出るかなって。まあいいや、次」

 

「うぇ、まだあるの……?」

 

「あと2つだから頑張って。『巫女に力を封じられたって聞いたけど、何したの?』」

 

それを聞いた途端、ルーミアが顔を曇らせた。良くない思い出なんだろう。……逆に封じられて良い思い出ってのもおかしな話だな。至って普通の反応だわ。

 

「あー、そういうの……。あんま話したくないんだけどねぇ……誰から?」

 

「紫だな。……待て、紫だったら普通──」

 

「分かってる。ついでに、そこで聞いてやがるなババア。口に闇突っ込んで貫通させてやろうか? そこから膨張させて破裂も良さげだなぁ、ククク……」

 

物凄く悪い顔であれこれ画策しているが、多分こういうのが原因で力封じられたんだろうなぁ……。と思って戸棚を見たら、スキマが開いていた。それについて何かを言う前に閉じたので、恐らくこれが聞きたかっただけなのだろう。ホントに何がしたいのあいつ。

 

「……えと、あの、最後の質問良い?」

 

「ん? ああ、どうぞ? 何をそんなビクビクしてんのさ」

 

「いやそんな怖い事聞いたらビクビクするわ……」

 

現に今、手の汗と震えが凄い事になっている。冷や汗もかいてるし、頭の中で警鐘が鳴っている。

下手なことしたら死ぬ。至ってシンプルで、だからこそ怖い。刃は既に、喉元に突き立てられているのだ。

 

「……いやこれ質問って言うのかなぁ、そう考えるとしても俺が言っていいものか……」

 

「何をぶつくさ言ってんのよ? 外にいる男の子の事?」

 

「なんだ気付いてたのか、なら話は早い。おいでー」

 

きぃ……と遠慮気味に戸を開けて入ってきたのは、文にルーミアについての取材を頼んだ張本人である少年。

ま、言いたい事はなんとなく分かるけどね。中々言いづらいか。

 

「えっ、えと、あの、お、おは、なしがっ……」

 

「…………」

 

やれやれ、と言いたげな顔で見つめるのは別に良いだろうが、目を細めてニヤニヤするのは割と怖がられそうなので今はやめてもらえないだろうか。……いや、緊張でガチガチだからそこまで気になってない?

 

「まっ、前に、大人の(その)姿を人里で見てっ……その、えっとっ」

 

「あー、その、なんだ。一度落ち着いたらどうだ? ほら、深呼吸して。……吸って、吐く」

 

「は、はいっ。……すー…………はー…………。……貴女に、一目惚れしました。結婚を前提に、お付き合いしてください!」

 

「……は?」

 

すげぇ、1回深呼吸しただけで言い切ったよ。……そう、実を言うと文に来た依頼は取材ではなく()()()()()()だ。なので、取材はぶっちゃけ建前。まあ、だからこそ皆に意見を募った訳なんだけど。

 

それはそうと、ニヤニヤしてたルーミアが一瞬にして呆けた顔になるの中々に面白い。カメラ持ってたら撮ってた。……殺されそうだな、やめとこ。

 

「……つまりキミは、大人の(この)私を見て、一目惚れしたと?」

 

「は、はい」

 

(つまりも何もそのまんまじゃん……)

 

「で、結婚を前提に付き合ってくれと?」

 

「……はい」

 

フラれるかどうか以前に、この少年本気だ。目が真っ直ぐ過ぎる。

ここまで来るとカッコ良さすら芽生えてくるが、ルーミアの方は少々呆れた様子だ。……そんなに気に障った? 目の前で食われるなんて事無いよね? ……ね?

 

そんな淡い期待と裏腹に、ルーミアの背中辺りからずるりと闇が溢れ出た。少年は「ひっ」と声を漏らし、俺は全身の毛が逆立った。もしもの時は、この少年を連れて逃げよう。そう考えた束の間、目の前で少年は──闇に縛られた。

 

「っあ、ひっ……」

 

「寝惚けた事言ってんじゃないよ。あんまり私を怒らせるようなら……」

 

「おい、ルーミ──」

 

ア、の音が出てくる前に、闇が蠢き、鋭い牙の並んだ何かに変貌した。

──ホントに喰うつもりか!?

 

「───!」

 

「……と、ようやく気絶したか。後で言っといてちょうだい、「私に告白なんざ100年早い」って」

 

「………………は、はぁ。いやまぁ、ほんとに喰うつもりじゃなくて良かったよ」

 

「当たり前でしょ、こんな子供食べたって美味しくないもの。 ……それともなぁに、性的に────」

 

「ああいやそれだけは間違いなく思ってない。俺はね」

 

「あっそ。じゃ、さっさと人里に戻してきてもらえる? (シッシッ)」

 

「へいへい、分かりましたよっと。ちゃんと「100年早いって言われた」つっときゃ良い?」

 

「ええ。100年後生きてたら結婚でも●●●でもなんでもしてやるわ」

 

くつくつと笑ってはいるが、本当に100年生きていた上で覚えていたらどうするつもりなんだろ。……知ーらないっ。

 

***

 

その夜、ルーミアの家

 

窓から三日月を見つめ、溜め息を1つ。言うまでもなく、今日私に告白してきたあの人間の事だ。……一体何を血迷ったのか。

 

「……私は妖怪よ。人間とは生きる時間が違う。だから、キミとお付き合いは出来ない。………ゴメンね」

 

あれ。なんで。目頭が熱いの。恋なんて。とっくの昔に、捨てた筈。人を喰う妖怪を、好きになってくれる者など居ないと。なのに。あの子は。好き、と言ってくれた。

 

「……ほんとに、馬鹿だ。あの子は。100年生きて、かつ覚えているだなんて、無理に決まってる。……仮にそこまで生きてたとして、ろくに動けないだろうに」

 

でも、心の底で期待している自分がいる。私の知る限り、幻想郷で80歳を越えた人間は居ない。……知らないだけかもしれないけど。

 

「……うっ、くっ、ひくっ……」

 

その日は1人で静かに泣いた。自分を好いてくれている人を、自分で突き放したから、だろうか。

 

***

 

100年後。その子──いや、その男が生きていたかどうか。それは、誰にも言うつもりは無い。

ただ、答えは左手の薬指を見れば分かるだろう。勿論見せる気は無いけれど。



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番外編:頭の体操してみよう!

タイトル通り、紅魔館の面々が頭の体操するお話。
是非皆さんもやってみてください。解答、解説付きでお送りします。

ではどうぞ。

あ、解説分かりづらかったら申し訳ないです……。


パチュリーが魔理沙に「たまには頭の体操もしてみたら? 頭が柔らかくなるわよ」という言葉をきっかけに、頭の体操とやらをやってみる事にした。

のは良いが、何故かワラワラと集まってきた何人かも参加する事になった。まあ、こういうのは競う方がやり甲斐あるから良いか。

 

と思ったら、流石に多過ぎたのかチーム分けされた。2人1組で、まず魔理沙とアリス。次にチルノと大妖精。霊夢とフラン。……俺? 不正防止用の審判。

 

「さて、準備は良いかしら。それじゃ第1問」

「でれん♪」

「まさかのセルフ効果音……」

 

《A君、Bさん、Cちゃんの3人が、粒餡の大福をそれぞれ1個、2個、3個。こし餡の大福を、それぞれ1個、2個、3個買いました。A君は『粒餡を3個買った』、Bさんは『合計で5個買った』、Cちゃんは『皆買った数が違う』と言っています。さて、Cちゃんが買ったのは粒餡幾つでこし餡幾つ?》

 

「準備は良いかい? それじゃ、よーいスタート!」

 

少女思考中……

 

「……全員出来たみたいね。それじゃ、フリップを見せてもらえる?」

「ババン♪」

「いやだからそこセルフなんかい。さて、正解は……最後に発表します」

「えぇー、今知りたい……」

「まあ、後でゆっくり聞きましょ。ほら、早く次の問題出しなさい」

「はっ、はいただいま。……コホン、問題!」

「でれん♪」

 

《華扇さんは、甘味処で餡蜜を出来るだけ多く買って、余ったお金で団子を買いました。団子と餡蜜の値段は、どちらが高いですか?》

 

「……よーい、スタート!」

 

少女思考中……

 

「……はい、そこまで! 答えを見せてくれー」

「ババン♪」

「うん、うん、うん……………良し。それじゃ、次の問題よ」

「でれん♪」

「ちょっと早い。最終問題!」

「でr…」

「え、早くね?」

「ちょっと問題数のストックが無くてね。……ああごめんこあ、どうぞ」

「でれん♪」

 

《レミィが「お客さんが来る」と言っていたので、皆で予想しています。お客さんは、『妖夢、永琳、先……慧音、紫、幽香』の内()()が来るそうです。美鈴、咲夜、パチュリー、小悪魔の4人は2人ずつ予想して、皆1人だけ当たっていました。さて、誰が来た?》

 

「なんで3つ予想しねーんだよ」

「そんな事言うな。──これだけだと解きようが無いんで、それぞれの予想も言うぞ。よく聞いておくように。……えー、」

 

美鈴「永琳さんか慧音さんですかね?」

咲夜「妖夢か紫かと」

パチュリー「永琳か幽香よ、きっと」

小悪魔「慧音さんか紫さんだと思います」

 

「以上。それじゃ、よーいスタート!」

 

少女思考中……

 

「はいそこまで! それでは解答どうぞ!」

「ババン♪」

「ほぉーうほうほうほう……うん、終わりでーす! それでは結果発表ー」

「どぅるるるるるる……」

「もうなんでもセルフだな」

「急拵えなんだぞ大目に見ろ。──1位、マリアリコンビ! 全問正解!」

「おぉっしゃあ! やったなアリス!」

「はいはい、良かったわね魔理沙」

「シャンハーイ!」

「ホウラーイ……」

 

アリスの周りでふよふよしている人形コンビも嬉しそうだ。……いや、あれ半分アリスが動かしてるんだよな? ……素直じゃないなぁ。

 

「第2位、霊夢&フラン!2問正解!」

「あうぅ、ごめんね霊夢……」

「良いのよ、面白そうだからってんで来たんだし。あんたはよくやったわ(ナデナデ)」

「続いて第3位、妖精コンビ。チルノが自信満々に答えた2問目は間違いだったぞ」

「なにぃー!?(ガビーン)」

「ごめんねチルノちゃん、私が3問目合ってれば……」

 

大妖精の自己評価の低さはどうにかならんのか。フランは頑張った上でああだし、本人も満足してるので良し。

 

「さて。魔理沙、今回どうだったかしら?」

「いやぁ、何だかんだ楽しかったぜ。それに、霊夢にも勝てたしな!」

「霊夢は1回も答えてないわよ。フランにヒントを出してただけ。でもまあ……良しとしましょうか」

「へへっ、やりぃ! あ、そうだ。またこれやるのか?」

「さて、どうかしら。今のところやるつもりではいるわ」

「じゃあ次回も参加させてもらうぜ。チャンピオンベルトは渡さん!」

「用意してないからな? 今回も次回も」

「だぁぁっ、水を差すな水をー!」




1問目

解答
A:粒餡3つ、こし餡1つ
B:粒餡2つ、こし餡3つ
C:粒餡1つ、こし餡2つ

解説
Bさんは5個買っている=3つと2つの組み合わせしか無い。しかしAが粒餡を3つ買っている為、Bさんが3つ買っているのはこし餡。となると、必然的に残りの2つは粒餡になる。
Aさんはこし餡を1つか2つ買っているが、2つだとCさんの「買っている数が違う」を満たさない為、Aさんのこし餡は1つ。
後は粒餡1つとこし餡2つが残る為、これを買ったのはCさんとなる。


2問目

解答
餡蜜の方が高い

解説
団子の方が高かった場合、その分の金で餡蜜が買える為。
例えば、団子が100円なら、『餡蜜を出来るだけ買って、余った金で団子を1つ買う』時、餡蜜は99円以下となる。因みに逆だと、『1つ買う』が成り立たなくなってしまう。


3問目

解答
妖夢、慧音、幽香

解説
4人の予想は『皆1つだけ』当たっていた。という事はつまり、『永琳&慧音』『妖夢&紫』『永琳&幽香』『慧音&紫』の組み合わせは()()入らない。あとは、例えば『永琳が来る』と仮定した場合、
「慧音が来ない、幽香も来ない、慧音が来ないなら紫が来る、でもそうすると来るのが2人になる」
といった風に削っていく。これを繰り返していくと、3人で来るのは《妖夢、慧音、幽香》となる。


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お願い天魔様

明けましておめでとうございます!!!!(大遅刻)

前回更新から長〜〜〜〜〜くお待たせしました大変申し訳ありません!!! どうぞ!!


「ほー、となるとお前さんらは地底に行きたいってえのか?」

「う、うん……じゃなくて、はい。ダメ……ですか?」

「うーむ、俺個人としちゃあ止める意味も無いんだけどなぁ……何せ『立場』ってもんがあるもんでなぁ…」

 

出来るだけ大急ぎで飛ぶこと数分。変な扉を開く前に到着出来たのは良かったものの、まだナイフは当てられたまま。……いつ解いてくれるんでしょう?

 

「あ、あのー咲夜さん? もう御屋敷には……」

「あら、私たちは『地底に行きたい』と言った筈だけれど。ここは地底ではないから、まだ解く訳にはいかないわ」

「あやぁそれって私強制的に条約違反じゃないですかねぇ……」

「そうなるなぁ、ドンマイ射命丸」

「天魔様? なんでそんな軽いんです? あなたの部下、条約破らされそうになってますよ?」

「まぁどっちにしろ俺の責任だからな。んなら何人入ろうが大目玉にゃ変わらんさ」

 

そうやってカラカラと笑っていられるその胆力は私にはないんですよねええええ! て言うか何なら今喉元にナイフ突き立てられてますからね私! 部下死にそうなのになーに笑ってんですかこの──

 

「文」

「ひゃいっ!? え、あ──スイマセンデシタ……」

「………」

 

もうやだあの人超怖い! 烏天狗辞めたい!

……1回、美鈴さんみたく昼寝に徹するのはどうだろう。いい休息が取れそうです、うん。

 

***

 

「──で、悪ぃな嬢ちゃん。話の続きだが…」

「…やっぱりダメ?」

「ダメ……ではあるな。うん」

「うー……」

 

何年天狗を纏めても、何度戦に勝とうとも、『子供の相手』だけはどうにも自分には不得手らしい。何を考えているか分からないのもそうだが、何をするにも加減を知らないのが一番怖い。特に、吸血鬼なら尚更だ。

だからこそ、条件を付ける。

 

「ただし。そこの文と弾幕ごっこで勝負して、勝ったら行くことを許そう」

「ホント!?」

「がっ!?」

 

興奮し過ぎだ飛び出してくるな顎直撃したぞコラ。もうちょいで舌噛み切らされるとこだった。殺す気か。

 

「あっ、ごめんなさい……」

「…あ、ああ、気にすんな……」

 

……こういうのがあるから子供は嫌いなんだ。謝られるだけマシか。

 

***

 

「……と言うか、これ私が即降参か被弾すれば手っ取り早く…済む……んですけど……やっぱりダメですよねー分かってましたー」

「当たり前だドアホ、何年俺の部下やってんだ。一切の手加減無し、スペルカードは……どーすっかな、じゃあ3枚! 異論は?」

「無いよ」

「ありません」

「なら良し。んじゃ、始め!」

 

3枚と少なめなだけあって、お互いに通常弾幕での牽制から始まった弾幕ごっこを見上げ──ていると首が痛くなってくるので、ちょくちょく見る程度にしておく。

 

とはいっても、所詮八雲紫が作った規則だ。こちらが律儀に守る必要は無いし、俺が手を下そうと思えば出来ないこともない。でもやらない。

アレで正々堂々とした戦いを好む文の機嫌を損ねたくないのもそうだが、何よりすぐ隣で臨戦態勢のお前さんが面倒だからな。

 

「声に出さなくてもよろしかったのでは?」

「そんなら顔に信頼してねえってデカデカと書いてあるのを消すんだな。腐っても組織の元締めだ、その辺ぐれぇは分かる。ついでに、文と組んで脅してるように見せてたのも含めてちゃーんと把握してる」

「……左様でございますか。ところで、『書いてある』というのはどの辺りでしょうか?」

「はぁ? そりゃお前……言葉の()()ってやつだよ」

 

妙に天然入った給仕は、何度か瞬きしてようやく意味を悟ったらしい。……最初の人形みたいな印象とは大違いだ。

 

「まあなんだ、零の奴もお前さんみたいのがいるなら退屈はしねえだろうよ。……ん、零? いや霊夜だっけか」

「後者ですわ。同一人物ではありますが」

「なんだ、既に聞いてたのか。いや、同じとこ住んでんだから有り得るか。信頼もされてるっぽいしな」

「ええ、そこに関しては自信があります。紅魔館の面々と彼の間には、どんな武器にも絶てぬ信頼関係がある──と、我が主が申しておりました」

「そこはお前の言葉じゃねえのかよ」

 

事実ではあるんだろうが、ちょくちょく天然なんだかわざとなんだか分かんねえなこの従者。……いや、あの吸血鬼(チビ)んとこの──

 

「……おっと。怖いねえ」

「次はありません」

「へいへい。これでも紅魔館との仲は悪い方なんだぜ?」

 

ああ、そういえば吸血鬼異変の時には居なかったな、コイツ。零……霊夜もか。

 

***

 

十数年前 幻想郷

 

「はぁ? 霧の湖に西洋の吸血鬼が攻めてきたぁ? おいおい、そういうの防ぐのがお前の仕事じゃなかったのかよ」

「……少々、油断していたのは認めましょう。ですが、このままでは妖怪の山にも影響が及ぶのは時間の問題ですわ」

「はぁー………ったく、お前は面倒事ばっか持ってきやがってクソババァ……」

「まあ酷い、私は永遠に17歳ですわよ」

「言ってろ。……何人要る」

「あら、お受けくださるのですね」

「っ…テメェ」

 

こうして口車に載せられるのも何度目だろうか。まったく、部下にあれほど言っておいて自分が載せられていては話にならない。首を鳴らして意識を切り替え、外敵を対処する為の人脈を辿る。──そうだな、ざっと30人くらいは────

 

「では、20人ほど」

「ほう? 押し返す分には余裕ってか。──それとも、ただの慢心か?」

「まさか。どんな手を使うか分かりませんもの、最大より少なめにした方がよろしいのではなくて?」

「……捨て駒にする気か、天狗を」

「さて。どうでしょう?」

 

……まだだ、抑えろ。ここでカッとなったら、混乱の中で誰が指揮を執る。

深呼吸。酸素を巡らす。落ち着かせる。

 

「分かった。ただし、必要以上に犠牲者を出したと発覚したら……」

「『お前の命は無い』、と。ええ、理解していますとも。長年の付き合いでしょう?」

「死なすぞクソババァ。はよ逝け」

「あら酷い。よよよ……」

 

一々癪に障る女だ。はよ死ねや……おっと本音が。

まあいい、俺もさっさとあいつら纏めるか……

 

***

 

「……あの、天魔様? 天魔様ー?」

「ん、ああ。終わったか」

「はい、きっちりやられました。……あと、懐かれたみたいですね」

「おー、良かった良かった。これで少しは紅魔館から襲われる危険が減ったな」

「それは目の前で堂々と言えることなんですか……」

「俺は言う」

「え、えと……これで、私たちは地底に行っても…」

 

遠慮がちに言われて、ああそうだったと思い出す。地底に行くことを許すか否かで弾幕ごっこさせたんだったな、すっかり忘れてたわ。ははは(棒)。

 

「あー、ああ。許す。なんなら文、お前一緒に行ってやれや」

「えっ、私ですか!? どうしてそんな……」

「速いから。以上。強いて言うなら案内出来る上で信頼されてっから」

「あー、なるほど…。了解しました」

「じゃあ文も一緒に来るのね!? やったー!」

 

喜んでるのは微笑ましくて大変結構なんだが、後生だから跳ねるな。床抜けそう。

 

「ほれ、日が暮れる前にさっさと行った行った。なあに、有給って事にしといてやるよ」

「わあほんとですか、ありがとうございます! じゃあ行きましょう、お二人とも!」

「えっちょっと待……っ!?」

「給料が出るのと出ないのとでだいぶ変わるのね…それでは、失礼します」

「……お? おー。縁がありゃあまた来い。それと(あのバカ)に言っといてくれ、屋敷の近くで風操るなって」

「承知しました。では」

 

一礼して消える従者に軽く仰け反り、紅魔館も奇抜なのが増えたもんだ……と考えている暇は無い。雑務はまだたっぷり残っていやがる。ざけんな。




俺の中の天魔様は、少しダルそうな苦労人……的なイメージになってます。胃薬常備してそう。

という訳でやっと地底行きます。やっぱりナメクジになりそうな2020年ですが、何卒宜しくお願い致します。


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動き出せ

とうとう年度が変わってしまいました。ナメクジ更新どころじゃねえ。
今回は霊夜サイドです。


あれから1週間経ったが、特に変わった所は無し。…というか、理由と動機…いや同じだ、理由と人物が分かってるんだからぶん殴ってやれば早いんじゃね?

 

 

というのまでは思いついたが、そんな事したら特別指導だと止められた。慧音先生はそんな事言っていなかったが、『特別』な『指導』なのだからめんどくさいことこの上ないだろう。それなら嫌だ。

 

「となると、尻尾出すまで待つしかねーかぁ…」

「どうにかして、話が出来ると良いんですけどね…」

「じゃあ、霊夜くんが聞いてみるのはどうですか? ほら、話聞く限り好印象みたいですし」

「えぇー!? 向こうが良くても俺がやだ……あんなん、話してるだけで頭痛くなるよ」

「でも、そうも言ってられないのが現状だよ。諦めるんだね、犬っころ」

「だーかーら、犬っころってのやめろって……。まあでも実際そうだよなー」

「犬っころが?」

「ちげーよその前。背中押した手前、俺も動かないといけないしさ」

 

幻想郷に来るのなら、そういったものは全て晴らしてから来てもらいたい。その一心で、深い考えも無しにあんな事を言ってしまった……のは、もうしゃーない。言葉は戻せないのだ。

それより問題なのは、やはりあの女だろう。未だに名前を覚えてないあの女。アレをどうにかしなければ、早苗の気は晴れ……なくてもまあ連れてく事は可能だけどどうせならって……ああもう女性の人間関係ってめんどくさいな! いやめんどくさくしてんの変に介入した俺か!

 

「いえ、でも霊夜さんに気を使う訳には…」

「こんだけ掻き回しといてハイおしまいは俺が嫌だしやるよ」

「おっ言い切ったねぇ、なら私の怨念も持ってきな?」

「あ、いやそれは渡す前に俺が死にそうなんで辞めときます。はい」

「敬語とはまた珍しい、それだけ嫌だって事か。──頑張んな、早苗」

「──はいっ!」

「霊夜くんも頑張ってくださいね」

「……うん」

 

かくして、『早苗のいざこざ解決作戦(名前は今決めた)』が決行される事になったのである。

 

……何言ってんだ俺?

 

***

 

夏の陽射しを遮るものが無い屋上は、ずっと居ると暑さでどうにかなりそうだ。まあ夏だからと言えばそうなんだが、今日は待ち合わせがある故帰る訳にもいかない。何なら呼んだのは俺だし。

 

「よ、風萩。今日はどうしたんだ?」

「来たか。麻見、お前()()()は出来るって言ってたよな?」

「ん? ああ、妖怪とか霊の類か。うん、出来るぞ」

「そこでお願いがあるんだけど……────」

 

***

 

「あ、あの……鷺宮、さん」

「んー? どったの東風谷。あそーだ、弁当買ってきてよ。今日忘れちゃってさぁ」

 

全く悪びれる様子も無く、さも当然のように私が金を払うようにされている事、またそんな状況にしてしまった自分にはもううんざりだ。

もう言おう、と息を吸い込む。手汗でじっとり濡れた手が気持ち悪い。でも、言うんだ。言わなくちゃ。

 

「……私は、貴女の奴隷じゃありません。お弁当は、自分で買ってください!」

「……あ?」

 

***

 

「──って思ったんだ」

 

考えを説明し終わり、弁当をパクつく。美鈴は中華しか作らない(作れない訳ではないのに)ので、ずっと食べてると飽きそうなんだが果たして。閑話休題。

麻見も暫くもぐもぐしていたが、リスのように膨らんだ頬が元に戻ってきた辺りで「なるほどなぁ」と呟いた。

 

「……でも、お前の方が見えるんじゃないのか?」

「や、その辺は分かんねえよ。大体、外の世界(こっち)で《それ》がどんな感じで存在するのか知らんし」

「あー……それもそうかぁ。元いた場所(そっち)ではどうだったん?」

「普通に居た。『冥界』があって、『三途の川』もあって、どっちも地続き……と空続きで行ける」

「空続きって何、浮遊大陸って事? それもうラ○ュタじゃん」

「ラピ○タってなんだよ」

 

話を聞くに、○ピュタとは天空に浮かぶ城らしい。蒼く光る石が浮遊している秘密なんだとか。パチェにそんな事言ったら「作るわ」と言い出しそうだから内緒にしておこう。

 

「浮遊城かぁ……今は無いけど、いつか現れそうなのが怖いんだよなぁ……」

「ははは、そん時は教えてくれよ。俺も1回見てみたいんだよ、重力を無視して浮かんでるモノ」

「あー、じゃあ幻想郷(こっち)来ない方が良いかも。見飽きる」

「うっわマジで、そんなに沢山浮かんでんの?」

「マジマジ、何なら人も飛べる」

「はぁーすげぇ、俺も飛んでみてーなぁ」

「麻見なら多分飛べるようになるぞ、きっと」

「マジ!? 楽しみだな」

 

他愛無いけど、現実離れしまくった頭のおかしな会話をして楽しめる人間は、外の世界ではこいつか早苗ぐらいだろうな……と考えつつ、いつか別れなければいけない事を思い出して、少しだけ胸が痛んだ。




もうそれらしいタイトルすら浮かばないくらい頭回ってませんが、出来るだけ早めに投稿したいと思っております……いや次いつだ…?


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特別編:母の日の贈り物

今回は、霊夜がずっと人里で暮らしていた…というifルートでの話です。それではどうぞ。


あと数日もすれば、母の日。日頃からお世話になっているお母さんに、感謝の言葉と共に贈り物をする…という文化だ。

俺は母親が居ないけど、育ての親である慧音先生に贈り物をすることにした。血は繋がっていなくとも、15年近くも育てられたら、それはもう『母』だろう。

 

(でも、何を渡そう? 去年は髪留めだったから、同じのは流石に避けたいし……)

 

うーんうーん、と悩みながらゴロゴロしていると、見慣れた顔が逆さ向きになってこちらを向いていた。

 

「…何してんの?」

「あーもこ姉。丁度いいや、なんか無い?」

「何が。『なんか』だけじゃわかんないよ?」

 

おっしゃる通り。確かに、言葉が足りなさ過ぎた。

 

「ほら、もうすぐ母の日でしょ? だから、先生に何か贈り物したいなって思って」

「そっか、もうそんな時期か。前季も同じこと言われたっけね」

 

隣座るよ。と言って胡座をかいたもこ姉は、暫くうんうん唸っていたが、「よし!」と手を叩いて立ち上がった。

 

「じゃあ、今年は霊夜が考えてみなよ」

「俺!? でも、俺が思いついて出来ることは全部やり尽くしちゃったし…かと言って同じことするのもなぁ…って思うし……」

「あー、そう言えばそうだね。毎回違うことしてた。……平たく言うとネタ切れか」

「正解。だから、何か無いかなぁって」

「んーーー慧音がされて喜ぶこと、ねぇ……お前の伴侶、とかだったら間違いなく喜ぶだろうけど」

「それは思った。でもね、今から見繕って『伴侶です!』って言うのは流石に酷くない?」

「酷いな、却下。他には…」

 

…実を言うと、気になっている女性がいない訳ではない。単に勇気が無いだけだ。

 

「花でも贈ってみたらどう?」

「それ良いかも。…というか俺は何故今まで『贈り物』と聞いて物が出てこなかったんだろ?」

「それは……分からん。まあそれはいいとして、貸本屋にでも行こうか」

「貸本屋? そりゃまたどうして」

「実はね、花には『花言葉』ってのがあるんだよ。例えば、よく母の日に贈られるカーネーションは《愛情》とかね。沢山ある中で、霊夜が慧音に伝えたい花言葉の花を贈る…って、中々お洒落だろ」

「もこ姉……今日熱あるの?」

「………無い」

「ぷふっ」

 

もこ姉がそういう事を言うとは思わず、咄嗟に皮肉しか出てこなかったが、柄にもないことを言った、と言わんばかりに赤面してそっぽを向くもこ姉がおかしくて笑ってしまった。

 

「あっ、お前今笑ったろ!」

「わ、ワラッテナイデス……」

「笑ってるじゃんよ! こいつめ、こうしてやる!」

「いだっ、いだだだだだごめんごめんって悪かったって!!」

「こら妹紅。あんまり霊夜をいじめるんじゃないぞ」

「うぇっ、慧音!? 随分と早いじゃん、どしたん」

「思っていたより早く事が済んだんだ。少し早いが、夕餉はここで食べていくといい」

「はいはい、じゃあ何か手伝おうか」

「よしきた」

 

花言葉……確かに良いかもしれない。これで秋とか冬にしか咲かない花でした、ってオチもありそうなのが不安だけど。

 

***

 

訂正、あった。全然あった。カーネーション以外にもすっごいあった。図鑑を捲る度、身近な花が意外な花言葉だった──というのがほぼ無限に出てきて、当初の目的が半分近く揺らいだぐらい興味を惹かれた。いやほんと、すっごい……

 

「おーい? りょーやー?」

「へっ? あっ、えっ、な、何?」

「動揺し過ぎでしょ。ぼーっとしながら指挟んでたけど、そこにあった花がいいの?」

「えっどれ、………………」

「……? 何を…………あ〜〜〜〜〜〜私帰るわ〜〜〜」

「もう待って殺して……コロシテ……」

「殺しとうないわい。……あれだ、花入手までは手伝ってやるから。な?」

「うん……入手したら殺して……」

「殺さないから。慧音に何されるかわかんないし」

 

指を挟んでいたページに載っていた花は、ユキノシタ。花言葉は────。

 

***

 

母の日当日

 

「……ん、朝か……」

 

母の日、となると毎年霊夜が何かしてくれるのが定番になっているが……今年は枕元に何かある訳でも、かと言っていつの間にかアクセサリーが着いていた訳でもない。はて、今年はもう無いのだろうか?

 

「まあ、仕方ないか…何だかんだ18だしな」

 

これで「お嫁さんです!」なんて言ってきたら卒倒するが、流石にそんな事はしてこないだろう。………こない、よな?

 

「…………、ん? この花……」

 

この前萎れてしまい、暫く空っぽだった花瓶に、真新しい花が挿さっていた。あまり見たことはないので、花屋から買ってきたのだろうか。

 

「…今年はこれ、ということか。しかしこの花、何と言うんだ?」

 

確か小鈴が、「妹紅さんが花言葉の本を借りてったんですよ、滅多に借りないのでびっくりしました」と言っていたので、恐らくこの家にあるだろう。霊夜と読んで、帰る時も霊夜が熟読していたから置いてきた──という所だろうか。

 

「……ええ、と。……あった、開きグセがついてるな」

 

《ユキノシタ》

ユキノシタ科ユキノシタ属

学名:Saxifraga stolonifera

和名:雪の下(ユキノシタ)

英名:Strawberry saxifrage、Strawberry geranium

原産地:日本、中国

旬の季節:初夏

開花時期:5月〜7月

花言葉:()()()()

 

「……ふふっ。ませた奴め」

「ふぁ…おはようございます……」

「ああ、おはよう。それと、ありがとうな」

「…いえ、こちらこそ。これからも、よろしくお願いしますね」

「ああ。ところでこのユキノシタなんだが、萎れた時には押し花にして栞にしようかと思ってな」

「えっ、いや、あのっ、やめてください……」

 

本心か、そうでないかはともかくとして、男性にここまでストレートに愛を贈られたことは中々ない。…素直じゃない素直さ、とでも言うのだろうか。誰に似たんだろうか?

 

***

 

「はっ、くしゅっ」

「あらもこたん、風邪? 感染ってほしくないから、しっしっ」

「蓬莱人は風邪なんか引かないでしょ。誰かが噂してんじゃないの?」




この『ユキノシタ』という花ですが、実は12月6日の誕生花であり、この『ユキノス』の名前の元になった花です。
当時は花言葉一切見ずに決めていたので、今改めて検索して「そうなの!?」と驚いた、という裏話があります。実物見たこと無いのに。


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特別編:あなたに捧ぐ

母の日特別編の、霊夜が花を手に入れるまでの経緯です。…幻想郷で花って言ったら、大方予想つくだろうなー…てか普通に来てたしなー。でも書きます。「やべぇ間に合わん!」って慌て過ぎて後で書こうとしてた内容入れ忘れただけなんですけどね…←


『ユキノシタを贈る』とは決めたものの、花屋に並んでいるのか、そもそも幻想郷に存在しているのかすら現状分からない。幻想郷にある本は、幻想郷の先人が書いたものと、外の世界から流れ着いたものの2種類あるのだ。

 

「小鈴に聞いても分からないだろうし……かと言ってご両親に聞くのもなぁ……」

「じゃあ普通に花屋でも行けばいいじゃん。時間そんな無いんでしょ? じゃあまず動くことから始めなよ」

「そだね、行ってみようか」

 

少年少女移動中…

 

「こんにちはー」

「はいこんにちは。今日はどうしたの?」

「実は……」

 

お姉さんに今日来た理由を伝えると、奥で花束用の花を切っていたお兄さんが「よう坊主!」と朗らかに笑いながら出てきた。……確か年の差10あるか無いかなんだけどな。

 

「《ユキノシタ》か……んーすまねぇな、そいつは13日に納品される予定なんだ。だからその時まで──」

「待ってちゃダメなんだ! ………あ、えっと、その」

「ふふっ、良いじゃない。幽香さんも、1日くらいなら大丈夫って言ってたわ」

「そうだっけか? その辺お前に任せてたからなぁ……」

「だってあなた、昔から草花をいじるのが好きじゃない。だから、そういうのは私に任せておいて」

「お、おぉ。すまねぇ……」

 

うーんこのおしどり夫婦。近々お子さんも産まれるそうだし、2人共頑張ってもらいたい。

 

「……あー、コホン。とりあえず、太陽の畑行って交渉してくるから、2人仲良くいちゃついてて」

「あっ妹紅さん! この前は竹炭ありがとうございました」

「いーのいーの、竹なんてあの辺にポコポコ生えてくんだから。ほら霊夜、行こう」

「あ、うん。ありがとうございましたー!」

 

 

「…ねぇ、霊夜くんがどうしてユキノシタが欲しいって言ってたと思う?」

「どうして、って……そりゃあ、花を贈りたい人でも出来たんだろ。あっ、もしかして花言葉か」

「当たり。ユキノシタはね……ゴニョゴニョ」

「……ぷっ、くくく……あーそうか、アイツももうそんな歳かぁ」

「この前までずーっと慧音先生と手繋いでたと思ったら、ねぇ」

「ああ、そうだな。…俺らも頑張るか」

「ええ、勿論。この子の分まで、ね」

 

***

 

太陽の畑、と来たら浮かぶものは2つしかない。一面の花か、風見幽香だ。花を踏み潰すような真似をする馬鹿には、もれなく炭のオブジェにされる権利(強制)が贈られるので、実は人里からでもたまにレーザーが空を裂くのを見られる。それでも絶対に人里に向かないのは、花屋夫婦の人徳なのか、それとも花を潰したくないからか。……どっちか考えるのはやめとこう。主に花屋夫婦の名誉のために。

まあそれはともかく、幻想郷の中でも最も美しく最も危険な場所には変わりないので、僕も来るのは初めてなのだ。

 

「あー、緊張してきた…」

「うん、心音聞こえる。ってか落ちないでよ?」

「も、勿論気をつけてはいるよ。うん……」

 

普段は歩き派の俺も、流石に今回はもこ姉の背中におぶさって行くことにした。だって間違えて花踏んだら即死なんだもん、ビビるよ……。

 

「……しかし、いつ見ても綺麗だよねぇ」

「ほんとに。私は綺麗なものとは縁遠いけど、こればっかりはね」

「……もこ姉、そんなに縁遠くないと思うんだけどな」

「そう? お世辞でも嬉しいよ」

「お世辞じゃないよ、髪とか綺麗で…」

「はいはい、口説くのは私じゃなく慧音にしとけな」

「くど…!? 〜〜〜〜!」

「わっ、ちょやめろ悪かったって、ポコポコするな地味に痛いから」

 

***

 

「……で、私の所に来たと。まあ確かに、ユキノシタは今咲いてるわ。でも、花達がどう言うかしらね?」

「一応質問ですけど、駄目って言ってた場合は……」

「今すぐ消えて頂戴。場合によっては殺すわ」

「っ……」

 

眉ひとつ動かさず、淡々と命を消す。風見幽香は、それが出来る。腕のひと振りで。傘のひと突きで。力を込めることなく、優雅に。

そう、先代博麗の巫女が言っていたのを思い出し、全身が強ばる。彼女の機嫌次第で、俺は消え───

 

「………良かったわね、良いらしいわよ」

「ほっ………」

「ただし、乱暴に扱わないこと。どんな目的でユキノシタが欲しいの?」

「お世話に、なっている人に、その、贈り物がしたくて………

「贈り物、ね。なら、その後は花瓶に入れるの?それとも、庭にでも植えるの?」

「に、庭は無いので、花瓶に…」

「そう。いつ、贈るの?」

「母の日…今季は5月11日に」

「そう。なら、着いて来なさい」

「は、はいっ」

 

まだ緊張で上手く動かない身体で着いて行くと、そこには一面にユキノシタだけが咲いている花畑があった。

風見幽香……幽香さんはそこで、一輪のユキノシタを摘み取り、我が子を愛でるように佇んでいた。……いや、実際我が子のようなものなんだろう。

 

「…綺麗、ですね。とても」

「そうでしょうとも。花は自然に咲く姿こそ美しいのだから。それと、すぐに花瓶に入れること。でないと萎れる時間が早まるから」

 

それから数秒、超早口で保存方法を説明された後、俺ともこ姉はお礼を言って『太陽の畑』を去った。このタイミングで烏天狗でも来たら、皮でも剥いでやろうかと言わんばかりの眼差しを背中に受けながら。




という感じでした。
大変な時期ですが、皆さんも頑張りましょう。
閲覧ありがとうございました。


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貴方を選んだその理由は

そろそろ進路を考える時期なので、今更感ありますが投稿ペースがガタ落ちします。申し訳ありませぬ。


今回は時間を巻き戻して、霊夜が外の世界に行く少しだけ前の話です。


「はぁーい♪こんにちは。お元気かしら?」

「……こんな夜中に人を叩き起しといて、最初に言うセリフがそれか? 一応、小声で喋ってくれるのはありがたいけどさ」

 

外を見ても、夜はまだまだといったぐらいの、でも人間は眠っている時間。胡散臭い笑顔と言葉を振りまきながら、妖怪の賢者(八雲紫)は現れた。

 

「あらごめんなさい、妖怪は夜行性なもので」

「御託はいい。わざわざ本人が出張ってきた、ってことは()()()()()()でいいんだな? あと、ベッドごとスキマ送りは勘弁な」

「話が早くて何よりですわ」

 

相変わらずよく分からない奴だ……と溜め息をつき、寝間着から天狗装束に着替える。特に理由は無いが、強いて言うならたまには良いだろう、と思ったから。

 

しかしこの女、面倒事を押し付けるのはまだ良いとして、藍でも霊夢でもなく俺に持ってくるとはどういう風の吹き回しだろうか。

まあ、どうせいつの間にかこいつの利益にされるのがオチだから、あまり気にする必要は無いだろう。

 

「それでは、1名様ごあんなーい♪」

 

***

 

「……さて。久々のスキマはどうかしら?」

「どう、ってなぁ。『趣味が悪い』ぐらいしか言えないが」

「あら、趣味の悪さでは勝るとも劣らない場所に住んでいるのはどこの誰だったかしらね?」

「……なるほど、『見慣れればそうでも』ってやつ?」

「そういうことにしておきましょうか」

 

でも実際どうなんだろうか。真っ赤な屋敷(紅魔館)と、目だらけの空間(スキマの中)、どっちが趣味悪いかと聞かれたら。……五十歩百歩だな。うん。

いやそんなことはどうでもいいんだ。問題は()()八雲紫が、スキマの中に呼んでまで頼みたいこと。どんな無理難題を押し付けてくることか、分かったもんじゃない。

 

「で、要件を聞こうか。どうせ面倒事なんだろ?」

「あら、酷いですわうふふ。私がいつ、そんなことを頼みました?」

 

──色々あっただろ! とツッコミたいが、実はほんとに何も頼まれたことは無い。だからこそ疑う訳なんだけどさ。

 

「自分の式神である藍でも、調停者である霊夢でもなく、俺に持ってくるような要件だ。よっぽど面倒か、俺にしか出来ないことぐらいなことは容易に想像出来るさ。──それで、何をしてほしい? 人里の前に首でも置けってか?」

「まさか、そんな残酷なことはいたしません。第一、レミリア・スカーレットに貴方の外出禁止を言い渡したのは、他でもないこの私です。貴方の潔白を証明するために、ね」

「それだ。まずそれが怪しいんだ。確かに俺は、出自が特殊な妖怪かもしれない。でもさ、『妖怪の賢者』であり『幻想郷の管理者』であるお前がそんなに肩入れする程の奴じゃない。違うか?」

 

すると紫は、扇子で口を隠して笑った。そして、即座に表情を変え、「違いますわ。ええ、違いますとも」と返してきた。

自分で言うのも悲しいが、『なり損ない』である俺に対してそこまでする理由とは何なんだ?

 

「貴方に肩入れする理由。それは単に、貴方の父親に関係があります」

「風萩、えっと……日向、の?」

「ええ。貴方、魔女の使い魔にこう言われましたわね?『風萩日向という男に気をつけろ』と」

「あ……ああ、言われた。あそこまで動揺してるこあは見たことないから、余計に覚えてる」

「それは事実であり、また間違いでもあります。何故なら……と、これは貴方自信で見つけてくださいまし」

「おいおい、そりゃ無いだろ。そこまで言っといてハイおしまい、って……」

 

管理者は首を横に振った。……どうしてか、言えないのだろう。いや、言わないだけか。

だが考えてみよう。『風萩日向という男に気をつけろ』が正解なのは、……あのスライムのような『俺』が襲ってきた事と関係がありそうだ。

なら間違いは? これも何となく予想がつく。日向『以外』にも気をつけろ、ということか。敵は文かもしれないし、椛かもしれない。可能性としては低いが、通じている可能性はゼロじゃない。

 

「……いや、やっぱいい。案外早めに答えまで行きそうだ」

「まあ、それは結構。前置きが長くなってごめんなさいね、いよいよ本題に移りましょう」

「………」

 

そうだ、これはあくまで俺の質問に対する回答が来ただけだ。紫に「任せたい」とまで言わしめるものは──

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「………は?」

 

外の世界。一応、先生からもレミィからも聞いた事はある。幻想郷を覆う『博麗大結界』の外にはまた別の、妖怪や神が否定された世界が広がっていて、レミィ達はその世界から来た、と。

妖怪は『恐れられること』が重要な為、妖怪がの存在が否定されている外の世界では生きられないと判断したから──というのはレミィの話。確かに、存在が否定されているものを恐れることは無い。

 

でも、あるいはだからこそ、だろう。

 

「その『ある人物』ってのは……やっぱり、妖怪とか神様?」

「ええ、今回は後者です。『守矢神社』という場所の、二柱の──消滅する運命にある神。貴方にはその二柱と接触・説得し、幻想郷へ招いていただきたいのです」

「……そっか。でも、それほんとに俺で良いの? 下手したら、その神様が…下手したら俺も消えるんだろ?」

「はい。ですが、『貴方なら大丈夫』との声を貰ったもので」

「へ、へえ……。ちなみに聞くと誰から?」

「藍と幽々子の2人から」

「うわぁ思ってたより紫側のヒトだった。紅魔館の皆は、なんて?」

「『行かせたくない』が総意です。愛されている故でしょう」

「……なんか、嬉しいけど恥ずかしいな、それ………。ま、まあとにかく。その件に関しては受けよう。ただし、1つだけ《報酬》を貰いたい」

「あら、1つでよろしいのですか? 『報酬の数を増やしたい!』なんて言わせませんわよ?」

「言わないよ。そこまで子供じゃない。……でも、今浮かんでる訳じゃないから……完遂後に言うことにするよ」

「かしこまりました。そして今回の件、引き受けてくださったことに感謝致しますわ」

「そいつはどーも。ところで、発つのはいつだ?」

「二柱は既に消滅まで近づいているので、できるだけ早くがよろしいかと。可能なら明朝ですが」

「……よし、それで。つっても、説得出来るかどうかは分からんぞ」

「ええ、それぐらいは理解しています。ですが、私と藍は結界の点検。幽々子は冥界の管理。霊夢も妖怪退治と、主要な人物は大抵手が塞がっております。私は、可能な限りの支援はするつもりですが」

「なるほど、そいつはありがたいや……あ、萃香は? 主要かと言われたら首傾げるけど……あっいやダメだわ、多分酒飲んで終わりだ」

「……ご名答ですわ」

 

やったんかい。まあでも、あの酔っ払いならやりかねないか。……うん。

 

「ん、んっ。まあ、何と言うか……頑張る」

「ふふっ……ええ、健闘を祈っております。では、ゆっくりとお休みなさいませ」

 

またスキマが開き、俺の部屋に戻ってきた。

壁に掛かっている時計を見るに、時間にして20分ほどだったが……やはりあの胡散臭い笑顔と向かい合って話していると、疲れが凄い。

 

「……寝るか。いや、でもその前に書き置きぐらいしよう。止められてるのに、独断で行くわけだし……」

 

蝋燭に火を灯し、少し迷ってから、ルーマニア語で書き置きを残す。

……これが《家出》と言うのなら、今回で2回目だ。親不孝だな、一体誰に似たんだか。

 

***

 

「ん……眩しい」

 

翌朝。俺はベッドではなく、冷たくて固いものの上に寝ていた。

どうやら頭を打ったらしく、後頭部が少し腫れている。昨日の記憶も曖昧だ。

 

「……あ? ここ……どこだ? ……幻想郷じゃないのは確かだ、とりあえずここ出るか」

 

胸がかさりと音を立てた。記憶が曖昧な時の為──もしくは忘れない為の、紫からの手紙だ。そして、連絡用のリボン。

 

やる事は決まった。ならば、やるしかないだろう。




書く時はちょくちょく見返したりしてるんですが、フランが紅魔館出てから1年経ってもまだ地底着かなくて、リアルで「ヒェッ…」って声が出ました。


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目標地の底いざ行かん

今回はフランサイドです。ずっと霊夜サイドだったので、こっちの更新は実に1年以上ぶりですね。


 ようやく着いた地底の穴。思ってたよりおっきくて、中はとっても暗い。吸血鬼の視力を以てしても、底が見えない程深いのだ……と理解した途端、少しだけ怖くなった。……少しったら少しなの。

 

「ねえ咲夜」

「はい、なんでしょう妹様」

「……その、えっと……手、握って?」

「勿論です。お手をこちらに」

「じゃあ私とも繋ぎましょうか。これで怖くないでしょう?」

「……貴女、そういうこと言うヒトだったかしら?」

「い、良いじゃないですか。そりゃあ元々は殺し合いしていた関係ですけど、私個人としては割とお気に入りなんですよ? 紅魔館の皆さん」

「まあ、そういうことにしておいてあげるわ。……妹様、行きましょう」

「うん。それと文、怖くなんてないよっ」

「あやや、失礼しました。しかし、日が暮れるまでには地底に着きたいですね。それじゃ、レッツゴー!」

 

 こういう笑顔のやりとりが、霊夜がまた、人里のみんなとできるようになってくれたら良いのにな。

 

 ***

 

「文。この穴、どれくらいまでの深さなの?」

「あやや、私にそれを聞いちゃいますか。でも、そうですねぇ……今自由落下なので、ええと……土蜘蛛や釣瓶落としに会わなければ、あと7〜8分くらいでしょうか?」

「つちぐも……?」

 

 つちぐも、つちぐも……つち、は土だろう。ぐも、って何だろ? 雲かなぁ……。

 

 土色の雲の妖怪をほわほわ浮かべていると、「あ」という声と共に、文と手を繋いでいた右腕がぐんっ!と引っ張られた。

 

「文!? 何が……」

「……っ、妹様、私の後ろに!」

「あやぁ……ごめんなさい、引っかかっちゃいました」

 

 上を見ると、そこには──網? いや、違う。これは、この形は……

 

「──く、蜘蛛っ!?」

「あ、ごめんなさい。蜘蛛苦手でした? でも大丈夫ですよ、一応人型にはなれますから」

「そういう問題ではないの。……妹様、もう少しだけ腕を緩めてくださいませ。咲夜の身体が、上下に分かれてしまいます」

「えっ、あ、ごめん……」

 

「おや、天狗が掛かったのは久々ね。 何十年ぶりかねぇ、どっちにしろ余さず食べてあげるから安心しな」

 

 明るく元気そうな声が、更に上から聞こえ──いや、()()()()()

 

「残念ながら、食われるつもりはありませんよ、ヤマメさん。それでも食べるおつもりなら、そうですねぇ……8本ほど、脚を飛ばされるぐらいは覚悟してもらわないと」

「全部じゃないの。……で、そこの人間と妖怪は?」

「十六夜咲夜と申します。こちらは、我が主の妹君であるフランドール・スカーレット様です」

「ふうん。なんでここに?」

「私たち、友達を探しに来たの。《こめいじこいし》って言うんだけど……」

 

 すると、ヤマメというらしい土蜘蛛は「へぇ」と少し驚いたような顔をした。どうやら心当たりがあるらしい。

 

「こめいじ、ってあの古明地? そっかぁ、妹さん見ないと思ってたら地上にいたのね。まああちこちふらついてる娘だから、ありえない話じゃないけど」

「知ってるの!?」

「勿論。なんてったって、地底のトップの妹だからね。見たことは少なくても、名前くらいは知ってるよ」

 

 その答えを聞いて、嬉しさが込み上げてくる。そっか、また会えるんだ──

 と、その時。耳が、確かな風切り音を聞いた。真上から、何かが高速で降ってくる!

 

「っ……!」

「妹様!」

「フランさん!?」

「……ちぇっ。外れちゃったか」

「キスメー、あんたもうちょいなんか無いの? 降ってくる以外に」

「そんな事言ったって……私釣瓶落としだから、降ってくるしか無いもん……」

 

 とは言っているものの、吊り下げられているのはどこなのだろうか。辺りを見回してもそれらしき物は無いが……。いや、やめよう。気にしたらいけなさそうだ。

 それよりも、相手が2人に増えたことについて考えよう。

 上から攻撃してくるキスメと、横から攻撃してくるヤマメ。どっちに気を取られてもダメ、それでいて文が捕まってるから数の有利も無い。……正直、厳しい。でも、霊夜なら。美鈴なら。……お姉様なら。

 

「きっと、華麗に突破してみせるんでしょうね」

「ええ。そしてそれは、妹様も同じですわ」

「……ありがと、咲夜。じゃあ……やってみよっか!」

 

 気を引き締めなおす為にレーヴァテインを持ち、一薙ぎすると、その気持ちに応えるかのように炎があがった。

 

 ***

 

「ハッ!」

「おおっと、蜘蛛糸は火気厳禁だよ?」

「甘いっ!」

「え、嘘っ……キャー!」

「あーヤマメー! うう、惜しい奴を亡くした……」

「死んでないから! 勝手に殺すな!」

「……いや、その状況で茶番するんですか貴女たち」

 

 私が引き付けて、その隙を咲夜が突く。私が提案した訳ではなく、咲夜が自分から合わせてくれたものだ。伝えていた訳でもないので、彼女は私の動きを見ただけで判断したのだろうか。

 

(やっぱり咲夜は凄いなぁ……私もいつかできるかなぁ)

「……さて、残りは貴女だけですが」

「よっと。どうされます?3対1ですが」

「んー、やめた。こーさーん」

 

 そう言うと桶の中からぴょこんと白旗が飛び出し、蜘蛛の巣にぶら下がっているヤマメの隣に降りてきた。どうやら通してくれるらしい。

 礼を言って降りようとしたけど、それまで力なくぶら下がっていたヤマメがふと思い出したかのように喋り始めた。

 

「地底に建ってる洋館が、お嬢ちゃんたちの目的地だよ。みつかるといいねぇ」

「……うん。ありがとう、教えてくれて」

「あー、まあね。先に襲ったのはこっちだし、気にしないでいいよ」

「そういう時はお礼を言いなさい、ってお姉様が言ってたもん。だから、ありがとう」

「……ふふっ、じゃあ受け取っとくよ。どういたしまして」

 

 ばいばーい、と手を振って別れる。ちゃんと解放してくれた文とまた手を繋いで、今度こそ地底を目指して落ちていく。

 文の話では7〜8分らしいけど、どれくらいなんだろう……。

 

 ***

 

 地面が見えた所で少し飛んで勢いを殺し、どうにか着地。少し歩いたが、程なくして橋が見えてきた。そこには1人の女性が、パルパル呟きながらこちらを見つめている。

 その女性は《橋姫》らしいが、今の役目は妖怪が地上に逃げ出さないように見張ることらしい。交渉してきます、と文が勇んで話しかけて、早10分が経とうとしていた……。

 

「だーかーらー、地底の主に会わせてほしいんですって」

「そうやって自分の意見を曲げない所、本当に妬ましいわね。鴉天狗なんて鬼の下だったんでしょう? それなのにわざわざ行こうと思えるその度胸も妬ましい」

「そ、それは私も仕事ですし……というか、普通に通してくださいよー」

「その身体、その瞳、その髪、顔、手、翼、脚……ああ、全てが妬ましい。妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい──」

「ちょっ、……ああもう! いいから、通せーーーッ!」

「あっ」

 

 堂々巡りの議論に痺れを切らした文が、団扇をぶぁさーっと仰いで橋姫さんを吹き飛ばした。咲夜が受け止め、ゆっくり降ろすと、小さな声で「ありがとう」と伝えてから立ち上がって……

 

「妬ましいわ」

「……埒が明きませんねぇ……うーん、こちらとしては通してもらえるだけで良いんですが……」

「あの、えっと橋姫さ「パルスィ」……パルスィさん。お願いします、ここを通してください」

「……妬ましいわね。どうしてそんなに強情なのかしら」

「目的があるから。大切な友達に……こいしに会いに来たの」

「……ふうん。会ってどうするつもりなのかしら。まさか考えていなかったなんて言うつもりじゃないでしょうね?」

「それは、無い。会って、聞きたいの。どうして、『もう会えない』のかって」

「それがあの子に迷惑だったとしても? ……ああ、その身勝手さが本当に妬ましいわ。少なくとも私は会いに行かない。会えないなら、会えないなりに理由があるのでしょう? なら、会いに行かないのが普通よ」

「っ、でも!」

「でも?」

 

 咄嗟に反応してしまったが、それ以上の反論が出る訳でもない。……否定のしようも無い正論だ。

 何も言い返せない無力感が押し寄せてきて、涙が零れそうになる──が、ぐいっと拭う。

 ダメだ。ここで泣いてたって、何も解決しないんだから。

 

「……私ね。昔、お姉様に似たような事を言われたの。『しばらく会えない』って」

「で?」

「その時の私はまだ幼かったから、それに従ってた。でも、次に会えたのはいつだと思う? 495年後よ。私たち妖怪には、短い時間かもしれないけど……でも、その間ずっと大切な人に会えないのはもう嫌。だから、迷惑だろうと会いに行く」

「そう。でも、私から見たら貴女がどう思ってるかは関係無いの。貴女のような妖怪が、地底の連中に潰されてるのは何度も見てる。だから、私は貴女を通さない。それでも通ると言うのなら──」

 

「「弾幕ごっこで勝負よ」」




進路関係もいよいよ佳境に入ってきました。終わった暁には存分に執筆したいと思ってますので、もう少々このナメクジ更新でお待ちください。


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風萩日向

進路が!!!!決まりました!!!!

という訳でお久しぶりの投稿です。今回は霊夜サイドのお話になってます。


流石にそろそろ授業にも慣れてきた。と言っても、今使っている教科書より前のものについては知らない事も多いのが問題である。

 

それはともかく、それだけの時間が経っているのだ。それなのに、早苗からは何も情報が来ない。

勿論早苗を疑う訳ではないが、それにしたって不自然じゃないか?

 

「──と思ったんで、紫。お前に助けを乞うた訳だよ。……いや、助けと言うより相談か」

「なるほど。では、私からは1つだけお教えしましょう」

「…………」

()()()()()()()()()()1()()()()()()()()

「……何? 博麗大結界は簡単に抜けられない筈だろ? それに、外じゃ妖怪は否定されてるから──」

「では、後は貴方自身でお考えになってくださいまし。私から言えるのはここまでですわ」

「あっおい、待てよ! ……行っちゃった」

 

というか、妖怪が否定されてるってことは俺も結構まずい筈なんだよな。……いや、俺の場合は紫が境界をいじってるのかな?

 

いや、この際俺のことはいい。問題は、1枚噛んでいるという妖怪だ。なんだかとっても嫌な予感はするが、やるしかない。

 

 

なんてことを思っていた矢先、例の《あの女》から呼び出された。早苗ではなく、俺が。

 

***

 

幻想郷でもこんなにどんよりすることは無いぐらいの気分で、呼び出された屋上へ向かう。ドアを開けたら袋叩き、とかは勘弁してほしいが、果たして。

 

「こんにちは。来てくれたんだね」

「……まあ。それで、呼び出した理由ってのは?」

「もー、早いよ風萩くん。せっかちな男は嫌われちゃうよ?」

 

──お前のせいじゃい!

と叫びたかったが我慢。話だけでも聞くのは別に良いだろう。

 

「……あのね。私、実は……」

 

顔を赤くして、こちらから顔を逸らす。……おいおい、お前まさか……

どうやら嫌な予感というのは当たるものらしい。すたすたと近寄ってきて、顔を近づけ──

 

ぞぶり。という音がして、時が止まった。

 

いや、本当は止まってなどいない。ただ俺が、何が起きているのか理解できていないだけだ。

じわじわと熱を帯びていく腹に目を向ける。妖怪の頑丈さと、(力を抜いていたとはいえ)鍛えていた腹筋で相当な硬さになっているはずのそれは、この女の手に貫かれていた。貫通こそしていないものの、五指が全て入っているぐらい深く。

 

「っあ、つ───ッ」

「……ふふ。びっくりした? 風萩くんたら、いつまで経っても気づかないんだもん。だからこうして……ほーら、ぐちゃぐちゃいってるよ。グロテスクだね〜」

「て……めぇ……!」

 

──こいつだ!

 

相手が妖怪だと分かった以上、手加減してやる理由は無い。腹の激痛に構わず、上体を逸らして──一気に振り下ろす!

 

「ぎゃっ!? いっ、た……こんの石頭……!」

「うるせぇバーカ、何とでも言え!」

 

慧音先生直伝の頭突きは効果覿面で、臓器を引っ掻き回していた手が抜けた。深追いは危険だと判断して距離を取り、腹の傷を塞ぐ。完全に戻すことは無理でも、出血を止められれば暫くはもつだろう。

 

「……あーあ、ほんっとにくだらない」

「逃がすと思ってんのか?」

「逃げるんだよ。少なくとも今はね」

「!! お前……」

 

恐らく変装だったのだろう、声質が違う。この声は、間違いなく男だ。

 

「じゃあな、零。またどこかで会おう」

「待て!」

 

瞬間、視界が白で覆い尽くされ──回復した時には、もう誰もいなかった。

 

「……クソッ」

 

***

 

守矢神社 居住スペース

 

「……ただいまぁ」

「お帰りなさい。ごはんできて、ます……よ……」

「……ん? あ、そっか血が……」

「そうです、制服です!1日じゃ落ちないですよ、この量」

「いや、あー、その……気にするの、量なんだな」

 

本来なら、気にされるのは量ではなく血が付いていることそのものなのではないだろうか。……慣れてるとか? まさかね。

 

「もーこんな大きな穴まで空けちゃって……何があったんです?」

「そう! それだよ! あいつ、あの、えっと、名前忘れた……とにかく、あいつが──いや、あいつの姿をした妖怪に襲われたんだ!」

「……妖怪? 彼女が……?」

「あーっ、と……まだ『早苗が昔から知ってた』あいつと『俺が襲われた』あいつが同一人物かについては、まだ確証が無い。だから、とりあえずは別存在として見よう」

「となると、彼女以外にも化けられると考えるのが妥当ですかね……」

「だろうなぁ…………例えば美鈴とか、諏訪子とか、神奈子とか……ああ、あとお前だ。早苗、どこやった?」

 

途端、冷ややかに笑っていた早苗の顔が、いかにも嫌そうに引きつった。……カマかけただけだったが、本当に当たるとは思わなかった。

 

「まさか、即時見破られるとはね。──ああいや、臭いか。我ながら迂闊な事をした」

「いやね、1度ちゃんと話したいと思ってたんだ。出会い頭に腹穿たれた直後じゃ、しっかり話も出来なかっただろ?」

「まあ、それはそうだ。で、話ってなんだい?」

「とぼけるな。それと、変化の類だったら元の姿に戻ってから話す」

「……逃げようも無い、か。八雲紫も良い仕事をする」

「だろ? 一家に一台置いとくと便利だよ。……まあ座ってくれや。()()()()

 

風萩日向。それは自分の父にして、無二の恩人(小悪魔)をして「逃げろ」と言わしめた人物だった。



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三者面談

明けまして!!!おめでとうございます!!!

立春だからワンチャン新春と勘違いはされ……ませんよね、ハイ。


「……まあ座ってくれや。風萩日向」

「では、失礼するよ」

 

正座すると共に変化を解いた日向は、なんと言うか……痩せた?

 

「何かおかしな所でもあるかね?」

「いや、特に。それよりも、個人的に気になる事があるんだ」

「ほう? 言ってみると良い。父親として、答えられる範囲で答えよう」

 

『父親として』。……まぁ、間違ってはいないんだけど。記憶の限り1度もそう振る舞われた事以前に会った事が無いので、複雑な気持ち。

 

「……言いづらいかもしれないけど、さ。母さんって、どんな人だった?」

「理由は聞かないのかい? てっきりそっちかと思ったが、ふむ……そうだな、簡潔に言えば──良妻賢母、だった。私には勿体ない程に」

「そっか。じゃあもう1つ。──俺の片割れ、今どうしてる」

「どこで知ったんだ……いや、写真を見たのか。そうだな、確かに君には双子の姉がいる。彼女は今も幻想郷に居るはずだよ」

「……そうなると、椛が知らない筈無い。それなのに、彼女は何も言わなかったんだけど?」

「なら……私の()()が原因だろうね」

「半身? 善悪で分裂でもしたってのか?」

「そうだ。幻想郷の『風萩日向』は、悪の半身と言っても良い」

「……自分で言うことでは……」

「ないですわね。と言うより、それが分かっているのならどうにかしようという意思は無いのですか?」

 

おわ、紫がピリついてる。あーでもそっか、紫からしたら問題の元凶放置されてるから……。そうじゃなくても、出来る限り口出し無用にしてたのに突っ込んでくる時点で結構来てるらしい。

 

「……出来るのなら、したい所だが」

「「が?」」

「生憎、戦闘能力の大半はあちらが持っているのでな。私が単身で挑んだ所で、物理的に一蹴されて終わりさ」

「戦闘能力ぅ? 妖力とかそう言うの?」

「まあ、そう言うのだ。筋力は丁度半分らしいが、妖力に至っては3分の2以上持っていかれた」

「信じる?」

「幻想郷の風萩日向を見ていないので、何とも。ですが、生きた年数から見れば少な過ぎるとは思います」

「……ナルホド。俺はその辺分かんないんで、そこは紫の判断に委ねる」

 

幻想郷の風萩日向を見れば恐らく違いが分かると思うけど、そっちを見てないので本当に分からない。かと言って、妖怪としては赤ん坊同然の年齢なので、歳による妖力の量も分からないのだ。……というか紫、日向の年齢知ってたの?

 

「でも、そうなるとなぁ……姉さ……お姉ちゃ……ごめん、名前なんて言うの?」

「一華だ。一つの華と書いて一華。華は難しい方だぞ」

「……一華に会って、話してみたい」

 

双子の姉、となると、紅魔館を襲った妖怪は一華である可能性が高い。しかも俺にそっくりなので、人里に向けて俺だと思われてもおかしくない。

 

「悪の側面の元に居たとして、それが本人の意思なのかどうか……それが気になるんだ」

「私の知る限り、彼女は母親に似た優しい子だ。脅されでもしない限り従わないだろうさ」

「そっか。でもそうだとしたら、こっちに回収する事も考えないといけないかも」

 

脅されているなら、庇ってあげたい。レミィも、先生も、こあもそう言うだろう。

 

「……お前は、考えが甘い。そういう所は、母親──エルザに似たんだろうさ」

「そりゃまたどうも。でもさ、世界にたった1人の血の繋がった姉なんだ。助けたいと思っても良いだろ?」

「否定はしていないだろう。だから、そうだな……まず、エルザに会うと良い。私に言われた、と言ったら嫌がるだろうが」

「そりゃ言わなきゃ良いだろ。……って、俺母さんの居場所知らないんだけど」

「……ぷっ」

 

なんだ紫、居場所知らないくらいで吹き出しおって。なんか無性に腹立つな。

 

「……ごめんなさいね。だって貴方、()()()()()()()()()()()

「……嘘ぉ!?」



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急転

約10ヶ月半振り……ってコト!?

実習辛いッス(本音)


前回のあらすじ。日向と紫と俺の三者面談中、母親にもう会ってると言われた。

 

「……って言っても、大方予想はついてたけどね」

「なんだ、ついていたのか。なら話は早い、帰ったら会ってみると良い」

「ああ。……ありがとう、()()()

「……………」

「………何だよ?」

「いや、キミの口からその言葉が聞ける日が来るとは思わなくてね。思わず感涙してしまった次第だ」

「一滴たりとも流してないのによく言えたもんだ。──じゃ、行ってくる」

「どこへだい? まさか幻想郷へ?」

「違う違う。今はまず、早苗の方を片付けたいだけだ」

「なるほど。なら、キミの友人……麻見と言ったか、彼と行くと良い」

「……? まぁ、元からそのつもりだけど……」

 

妖怪退治の一族の末裔である麻見は、ただの人間よりは見える。だが修行なんかはしておらず、「先祖がそんな事してました」程度のものだったので、俺はその目を頼るつもりだったのだが。

 

「ならいい。私からは今度、長柄の武器の扱い方を伝授しよう。何、殺しはしないさ」

「いや殺されても困るわ。じゃ、また」

「ああ、行ってらっしゃい」

「……行ってくる」

 

***

 

「よ、麻見。その後どうだい?」

「風萩か。しばらく見てたけど、少なくとも悪霊の類は憑いてなかった」

「それだけでも十分な収穫だよ」

「……でもまあ、よく考えればそんな事させる悪霊居るはず無いか」

「居てほしくもないけどな。妖怪なら有り得るかもしれないけど」

 

幻想の否定された外の世界で、紫による補助無しでしっかりと存在し、影響を及ぼす事が出来る、という事は……大妖怪、と称されるべき者だろう。となると勝ち目は薄い。

 

「……妖怪のがめんどくさいな?」

「それは……昔からそうじゃないかなぁ」

「や、まぁ、1番怖いのは人間だとも言うし……って、そうじゃないそうじゃない、話ズレた。実は、───」

 

***

 

鷺宮さんが、こちらに来た。いつもなら警戒するけれど、今日は昨日と打って変わってとぼとぼとした足取りだった。いつも連れている女子も居ない、完全に彼女1人で。

 

「……早苗」

「昨日、私言いませんでしたっけ? ご飯は自分で買ってください、って」

「だ、だから謝りに来たんだ。その……今まで、ゴメン」

「……はい?」

 

一体どんな心変わりだろう。イマイチ状況に着いていけず、目をぱちくりさせていると、半分泣きそうな顔になってしまった。

 

「え、ええと……その、今までと違い過ぎて、理解が追い付いてないと言うか……」

「……あっ、ゴメンね。急に言われたら、困るよね……」

 

と言って、ぽつぽつと話し始めた。最近の事が無ければ到底信じていなかったであろう、荒唐無稽な話。

 

「実は、ね。髪の毛真っ白のお兄さんが来たんだ」

「……話、聞いたの?」

「うん。信じるには急だったけど……なんか、信じられたんだ」

 

いつの間にか敬語も外れ、ただ聞き入っていた。

 

***

 

「──に挑戦したいんだけど」

「お前ほんっとに滅茶苦茶言うよなぁ……特訓くらいならするけど、出来る保証は無いぞ」

「十分だよ。それにこれ、お前の先祖が使ってた方法なんだろ?」

「いやそうだけどぉ〜……もう何代も前の事だし……」

「やってみるだけ! な? 1回、1回で良いから!」

「……お前さ、その見た目でその言い方誤解生むから辞めといた方がいいぞ」

「……はい?」

「なんでもねーよ。……分かった、やるだけやってみようぜ」

「さっすが! で、どうしてたんだ?」

「えっと……」

 

***

 

「……話は大体分かりました。私も最近色々とあったので、その話は信じることにします」

 

色々と、というのは……まあ、本当に色々。赤髪の男女(しかも人間ではないという)が神社にやって来て、神や妖怪の最後の楽園《幻想郷》なる場所に洩矢神社を引越しする。しかし子孫である私が心配で、迷い事を晴らしてから行く事にしたので、風萩くんと美鈴さんが神社に居候する事になった。

そんな荒唐無稽な体験をした後なのだから、白髪の青年が訪ねてきた所で特に驚くことは無い。

 

しかし、「まだ彼女はお守りを持っている」という話はする意味があったのだろうか?

 

「……ほんとに? 話しておいてなんだけど、疑ったりしないの?」

「ええ、まあ。……ほら、こんなにボロボロになってしまって……」

「うわぁホントだ! 実はね、私も出てきたの! ほら!」

 

──綻びを縫った跡がある、のは良いのだけれど……。元の布がほぼ残っていないのは、何故なんだろうか。せいぜい10年ちょっとしか経っていない筈だけど……。

 

「あはは、みゃーこに爪研ぎに使われちゃってて……。だからこんなにカラフルになっちゃったんだー」

「……なるほど。そういえば、飼ってましたね。キャットフード、美味しかったですか?」

「う゛ぇっ、思い出させないでよ!?」

 

いつからだろう。彼女の顔を直視しなくなったのは。

いつぶりだろう。2人で一緒に、くだらない話で盛り上がったのは。

 

「ふ、ふふ……あははっ」

「あははははっ」

 

複雑に見えた糸は、両端を引っ張るだけで一切の結び目無くピンと張れた。

私たちの諍いは結局、長い長い徒労に終わったのだ。

 

***

 

一方その頃、霊夜と麻見

 

「……なんか、方法聞くだけ聞いて使わないっていうパターンになりそうだな」

「だな。やー、でも俺としてもロクに修行してない状態で成功するとも思えねえから良かった良かった、うん」

 

安堵する麻見だったが、内心結構焦っていた。昔古い文献を漁り、失敗した時の代償を知っていた以上、そんな術は使いたくなかったからだ。

そもそも霊夜を見るまで人間に友好的な妖怪が本当に居ると信じていなかった麻見だが、それだけに手順こそ知っていたものの、その術の修行──実際はそれ以外もだが──を全くしてこなかった。

 

だが、それが今必要になる(かもしれない)と、先祖も麻見も予想だにしなかった。

 

「…… え?」

 

ソレは、何の脈絡もなく現れた。

 

「お、おいおい……」

「いつから、いや、どこから……!」

 

ソレは、薄ら笑いを浮かべながら、屋上に降り立った。どことなく零の面影を持った顔。見慣れない装束。腰に穿いた太刀。そして──狼の耳と尻尾。

 

「──やぁ、零。()()()()()()。迎えが遅れて申し訳なかったね」

 

自らを零の父と名乗る謎の男の登場に、零は警戒態勢をとっていた。

 

「父さん? 迎え? 生憎間に合ってるよ」

「ほう?」

 

謎の人の耳がピンと立ち、同時にその場の空気が張り詰めてきた。先生は……呼んでも無駄だろう。そもそも本来、屋上は出入り禁止だ。

そんな事を考えている間に、親子(?)の舌戦は続いている。

 

「俺を殺そうとしといて『迎えに来た』ってなぁ……流石に虫が良すぎるんじゃないのかい、アンタ」

「はは、それもそうだ。──では改めよう。キミを殺しに来た」

 

さらっと言ってのけた衝撃的な台詞と同時に、謎の男は刀の柄に手をかけた、次の瞬間。

 

「伏せろ!」

「おわっと!?」

 

半分叩きつけられるように伏せた後ろで、サンッ、という小気味の良い音が聞こえた。確か後ろには、鉄柵が……

 

「いいっ……!?」

 

豆腐のように切断され、下へ落ちていった。ゲームや何やらで『斬撃が飛ぶ』という表現を聞いたことがあるが、今まさに目の前で起きた。起きてしまった。

 

「おいおいマジか……」

「クソッ!」

 

零が一気に妖力と……それよりも強い別の力を放出して、両手に炎をつくり出した。

 

「ここはとりあえず食い止める! だから早く逃げろ!」

「お、おう……つったって、どうすんだよ!?」

「分からん! あとそんなに長くは持たない、早く!」

「……わ、分かった! 死ぬなよ!」

 

叫んでから、死亡フラグみたいだな……と思ってしまうが、もうそこは祈るしか無い。ドアを蹴破るように開け、階段を半ば落ちるように降りて、走り出す。

 

「(クソッ、逃げろっつったってどこ行きゃ良いんだよ!? あのおっさん絶対空飛べんだろ! 長くは持たないって事は、俺に追いつくのだって訳無い筈だ! だからその間に対抗策を)……浮かぶ訳ねえだろ! どーしろってんだよ零の奴!?」

 

人で溢れる校内を、我武者羅に走り抜けていく。校舎を抜け、駐車場から出て、防犯カメラの死角にある柵を乗り越え──

 

「 捕 ま え た 」

 

先程の声が耳元で響いた。




昼休みとかに学校の外抜け出す人、皆さんの学校にはいました?うちにはいました。


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橋の上のジェラシー

弾幕の描写、あまりにも難しい。一応動画見ながら書いてますが、伝わるのか微妙な所。


「くっ……! うう!」

「あああ………妬ましい妬ましい妬ましい───!」

 

橋姫の放つ強烈な弾幕を、ギリギリでフランさんが避ける。が、直後にそれ以上の密度で弾幕が放たれた。

 

「……珍しい。妹様が防戦一方だなんて」

「むむ、確かにですね。吸血鬼異変の際も、強力無比な攻撃性で白狼天狗隊第二班を蹴散らしたとされていたぐらいなのに……」

「……貴女、吸血鬼異変の時にも館に来ていたの?」

「あ、はい。一応生き残りなんですよー、まぁそこまで最前線に居た訳ではないのですが」

「ふぅん……」

 

ああ、そういえば彼女は当時居なかったんでしたね。もっとも、居た所で発見次第殺されていたでしょうし……これも『運命』という奴なんでしょうか。

 

「まあ、その件については後日お話ししましょう。私から語れることはそう多くないですが、それでもよろしければ」

「ええ、ありがとう。……ねぇ、カメラを向けないでくれない? 魂が抜かれたらどうするのよ」

「え? ……ぷっ、ふふ……や、すいませ、くくっ……あだっ!?」

「忘れなさい。次はその翼を捥ぎ取るからね」

「いたた……分かりましたよぅ」

 

意外な発見です。これはいつかネタにしたいですねぇ⋯⋯いや、止めておきましょうか。たまには、私だけが知っている秘密、というのも良いかもしれません。

 

「⋯⋯これでも、貴女や霊夜さんには感謝してるんですよ? 信じられないかもしれませんが」

「どうしたのよ、藪から棒に」

「いえ。それより今は、フランさんの勇姿を見届けることにしましょう」

 

悪魔の館にいつの間にか住んでいた、2人の人間―内1人は妖怪となったが―。彼らのおかげで、あの館の住人も相当に丸くなった。

門番は居眠りするようになり、それを咎められても笑うようになった。

魔法使いは極稀に外出するようになり、図書館への他社の立ち入りを許した。

吸血鬼の妹は破壊衝動を律することが出来るようになり、最近は館をうろつくようになった。

そして主は、人間に対し慈しむような笑みを浮かべ、友好的に接するまでになった。

 

(⋯⋯本当に、人間というのは底がしれませんね)

 

嘆息したところで、おや、と疑問が浮かぶ。

 

あの使い魔――小悪魔とやらは何故、霊夜に対してあそこまで庇護の感情を抱いているのか?

 

***

 

舌切雀「大きな葛籠と小さな葛籠」――

 

舌切り雀、というのは知らないけれど、パルスィが2人に増え、右は少量の大玉を、左は大量の小粒な弾幕を放ってきた。右に避けてやり過ごそうとして、まんまと策にはまってしまったことに気付く。――入れ替わったのだ。場所ではなく、放つ弾幕が。

 

「――!」

 

何発かが肌を掠め、このままでは直撃する――という所で、蝙蝠の姿になることでどうにかやり過ごした。途端、また入れ替わる弾幕。小粒弾を抜けた勢いのままぶつかりそうになり、慌てて急静止。激しい弾幕を潜り抜け続けた為か、集中力が落ちてきているのかもしれない。

 

「「ああ、妬ましい! 明らかな隙に突っ込める無鉄砲さが! 咄嗟に気付ける勘が! 蝙蝠に変じて避けられるその反射神経が! 貴女の全てが!妬ましいっ!」」

 

全く同じ動きで叫び、遂にはその端正な顔に爪を立てたパルスィが、引っ搔き傷を作りながら1人に戻り――最後のスペルカードを宣言した。

 

恨符「丑の刻参り七日目」――

 

瞬間。今までがお遊びだったと感じる程の、濃密で、美しく、無慈悲な弾幕が四方八方に放たれた。しかもそれらは広範囲に反射し、形を変えて戻ってくるという凶悪なオマケ付きで。

 

「くぅ⋯⋯っ! でも⋯⋯私は、絶対に――!」

 

禁忌「レーヴァテイン」――

 

ぐにゃりと曲がった、お姉様の次に付き合いの長い剣を握ると、炎を纏ってどんどん大きくなっていく。たちまち私の背よりも大きくなったそれを振るい、目の前の弾幕を消し飛ばしながら、弾幕の中心――パルスィに突っ込む。

 

「やぁぁぁぁぁぁ――――っ!」

 

一閃。いつかにちょっとだけ見た庭師程綺麗ではなかったけど、確かな手応えはあった。だって、ほら、その証拠に。

 

「⋯⋯弾幕、撃ってこないもんね?」

「ああ⋯⋯勝ったという確信を得た上で、わざわざ聞いてくる図太さ⋯⋯本当に妬ましい⋯⋯」

 

緩やかに着地し、服の焦げを払いながら、パルスィは呆れたように吐き捨てた。

 

「行くなら早く行きなさい。それとも私の裸が見たいの?」

「えっ、そんな違っ⋯」

「ならさっさと行って。私は身体を洗いたいから」

 

踵を返して歩き去っていく背中に声を掛ける。まだ、言いたかったことが言えていないから。

 

「あのっ!」

 

まだ何か? と言いたげにムッとした顔で振り向いた彼女に、深々と頭を下げる。

 

「ありがとう!⋯⋯ございましたっ!」

「⋯⋯ふん。お礼を言われる筋合いは無いわ」

 

ぶっきらぼうにそれだけ返すと、ひらひらと手を振りながら橋の向こうへと消えていった。

金髪が暗闇に紛れて消えたと同時に、どっと疲れが押し寄せてきて、仰向けに落下する直前、咲夜に抱き留められた。

 

「お疲れ様でした、妹様。ここから地霊殿までは少し距離があるようですので、暫しの間お休みを」

「咲夜⋯⋯ありがと。でも、大丈夫だから」

「まあまあそう言わずに。折角お友達に会いに行くのに、疲労困憊では満足にお話出来ないでしょう? だから、今はゆっくり休んでください」

「うぅ⋯⋯でもぉ⋯⋯」

 

言葉とは裏腹に、どんどん瞼が重くなっていく。ダメ⋯⋯起き、なきゃ⋯⋯。

 

***

 

「ねぇねぇパルスィ、なんで能力使わなかったの? 嫉妬心煽って潰し合いさせる奴」

「⋯⋯」

「ちょっと手加減もしてたよねー、ほんとは追い返す気なんて無かったんじゃないのー?」

「⋯⋯」

「もー何か言いなよー、顔真っ赤だよー?」

「⋯⋯」

「あははっ、怒った怒った! きゃー怖ーい、手元狂っちゃーう」

「くっ⋯⋯!」

 

服を修繕してもらっている都合上強くは出られず、苦虫を嚙み潰したような顔で引き下がっていくパルスィを、ヤマメはケラケラと笑っていた。




執筆するんで改めてパルスィについて調べたんですが、原作だとこういう「妬ましい」連発キャラではないみたいですね。ですが、原作に寄せようとし過ぎると見なければならない資料が膨大では済まなくなってしまうのでこうさせてください⋯⋯


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闖入者

就活してました。終わりました。⟵え


「 捕 ま え た 」

 

耳元で、先程まで恐怖の象徴だった声が聞こえた。

 

「──────ッ!」

 

飛び退こうとしたが、肩をガッチリと掴まれている為に動けない。まさか、そんな、いくらなんでも早過ぎる。

 

「悲しいじゃあないか。折角()()と仲良くしてくれているんだ、礼の1つでも言わせてほしいものだというのに」

「……さっきの反応見るに、あいつアンタのこと嫌ってそうっすけど?」

「ははは、まあね。しばらく父親らしい事が出来ていなかったもので」

「へぇ……」

 

手が汗でじっとりとして気持ち悪い。鼓動はうるさいし、呼吸も荒くなってきた。……でも、何だろう。この違和感。俺は零の父親に会ったことは無いし、話を聞いたことも無いが、それにしてもおかしい。より正確に言うと──

 

「──しばらく、って言うけどアンタ、そもそも父親ですらないんじゃねーの? 申し訳ないけど、アンタみたいな奴と零が血縁関係ってのが信じらんねぇ」

「……そうか。では、死ね」

「ぎっ!? あ……っ!」

 

ミシッという嫌な音を立てて、肩を掴む手に力が込められ始めた。視界がスパークする、という表現を小説で読んだことはあるが、こんな所で本当に体験する羽目になるとは思わなかった。

 

「私は零の()()だよ。 例え血縁が無くとも。例え私を嫌っていようとも。例え成長に関与しなかったとしてもだ」

「がっ……ああっ……! う、ぐ、あぁ……!」

 

ゴシャッ。

 

「(あ……折れた。つーか、砕けた……?)」

 

……いや、折れたにしては痛みが少ない。と言うより、掴まれてない……?

バランスを失って転んだ矢先、突然後ろで「ドゴォッ!」と何かが爆発する音が響いた。

 

「は、え……?」

 

ふわり、と良い匂いが漂い、顔を上げ──すぐに下ろした。……なんか、履いてなさそうな予感がした。

 

「大丈夫ですか? 急にりょ……零くんの気が小さくなったので、来てみたんですが……まさか、こんな畜生が居たとは思いませんでしたよ」

 

確か、(くれない)美鈴(みすず)さん。苗字は違ったが、零とは親戚なんだとか(ほぼ確実に嘘だろうが)で、保護者として来ていたのを覚えている。……が、今は当時のお淑やかそうな雰囲気を微塵も感じさせない迫力を感じる。指ゴキゴキ鳴らしてるし。指ってそんな鳴るんだ。知らなかったよ俺。

 

「……あー、痛みはするけど大丈夫っす。ヒビは入ったかもしんないっすけど」

「なら、今日はもう回復に専念してください。私は、ちょっと()()()()が残っているので」

「は、はい……。 あの、その……気ぃ、つけてください」

 

流石に片腕でぶん殴って十数メートル飛ばせるような人に言うことではないと思うが、この場から離脱させてもらえるならありがたい。……というか、零の気とやらを感知して来る人が居るんだから、助けを呼ばせる必要は無かったのでは……。

 

***

 

「カフッ……ククク、中々手荒い歓迎じゃないか……」

「手荒い、ですか。彼に傷を負わせ、その学友にまで手を出しておいて、拳一発で何を今更」

 

彼……霊夜くんは、恐らく屋上に居る。だが、この下郎をどうにかしなければ助けることすらままならない。

 

「……貴方を許す訳にはいかない。例え本当に親だったとしても、だ」

「ハッ、親すら居ない『家族ごっこ』で遊んでいる連中の言えることか? 笑わせる」

「ッ……貴様ッ!」

「何かおかしな事を言ったか? 親も居ない、身寄りも無い、そんな集団が集まって『家族』を騙る。滑稽極まりないじゃあないか、ハハハハハ! 傑作だったよ! どうせ口だけの関わりだというのになぁ!」

 

今まで抑えていたものが、音を立てて切れ──

 

「──すまんが、待ってもらおう。 紅美鈴殿、この場は私が引き受ける」

 

──なかった。いや正確には止められた。どことなく霊夜に似た、しかし明らかに違う白狼天狗(闖入者)によって。

 

「……その言葉を信じろと? 初対面である貴方の?」

「無理は承知だ。だが疾く願いたい。傷が深い訳ではないが、出血量が多いのだ。私は戦うことしか出来ないが、貴女は違うだろう。──さあ、行け!」

 

きゅっ、と唇を噛み締める。……私はあの瞬間、家族の心配よりも敵への攻撃を優先してしまった。それを初対面の妖怪に教えられてしまった。……私は最低だ。

 

「……分かりました。ご武運を」

「すまない。ああそれと、零にはこう伝えてくれ。──『必ず戻る』と」

「は?……まぁ、良いですが……お名前をお伺いしても?」

「風萩日向。零の父だ」

 

それだけ言うと、日向は担いでいた槍を下郎に突き付けた。

 

***

 

「……(クソ、もうかよ……どんどん、早くなってる……)」

 

最近、魔力切れを起こすことが多い。恐らく、幻想郷に比べて回復するスピードが遅いからかと思われるが、キツいことには変わりない。

 

「(まだ止血出来てないのに……こうなったら、少しでも回復力を上げる呼吸をするしか……)」

「……く…! …こ………か!? ……うや……!」

「……?」

 

血が足りずに朦朧とする意識の中、視界が紅に染まった。次いで、誰かに持ち上げられているような感覚。

 

ああ──死ぬってこういう感じなのかなぁ……

 

薄く開いていた目を閉じ、同時に意識も手放した。

 

***

 

「……う」

「霊夜くん!」

「ッ……めー、りん……?」

「おー、起きた。凄いねぇ、血塗れだったってのにあらかた塞がってるよ」

 

どうやら、視界の紅は美鈴の髪で、浮遊感は姫抱きされているからだったようだ。……よく考えれば、小町は船頭だったか。とにかく、三途の川を渡るのはもう少し先……なんだろうか。

 

「ここは……」

「守矢神社だよ。アンタ、学校の屋上で死にかけたそうじゃないか」

 

ケラケラと笑う諏訪子だが、こっちは笑い所じゃない。魔力がスッカスカで録な魔法が使えなかったこともあるが、一撃も与えられずに負けたのだ。死ななかっただけマシである。

 

「ああ、そうだよ……それはそうと諏訪子。早苗が……」

「うん?」

「……いや、多分本人の口から聞いた方が良いかも。そろそろ帰ってくる頃だろうし……っづ!」

 

美鈴のお陰で止血は出来て、傷も塞がったものの、まだ完全ではないようだ。主に内蔵がヤバそうな気がする。

 

「なんだよ、呼びつけといて。まいっか、良い報告であることを祈ってるよ」

「神が誰に祈るんだよ……」

「祟り神が祈っちゃ悪いか?」

「や、そうじゃないけど……そこじゃないっていうか……」

「ああもううるさいなぁ、怪我人なんだから寝てろ! 治るものも治らないぞ!」

 

ごもっともである。ここは大人しく寝て……

 

「あ、霊夜くん。最後に1つ」

「ん、どした? 珍しいじゃん」

「えっと……槍を持った白狼天狗、っぽい人から伝言を預かってまして。『必ず戻る』だそうです」

「え……」

 

「いや、それ死ぬやつだろ!」とは思ったが、何となく父さんなら死なない気がした。妖力ごっそり持ってかれてトントンぐらいになってしまいそうで怖いというかなんと言うか……。

 

「……分かった。ありがとう」

 

父さんも、戦ってくれている。ありがたいことだ。……なのに、この胸騒ぎと違和感はなんだろう?




日向(善)と日向(悪)が入り交じってややこしいかと思われますが、日向(善)は槍使い、日向(悪)は刀使いです。
また、霊夜の内蔵掻き回したのは日向(善)の方です。

……ややこしいな!


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旧地獄街道

(っ’ヮ’c)ワア…ア……筆が進まずにあれよあれよと時間が過ぎて、気付けば就活…どころか就職して1ヶ月経つ程になってしまいました。いや本当にお待たせして申し訳ありません…


パルスィに勝利し、無事地底に入ることを許された(?)私たちは、文の案内で《旧地獄街道》という場所に来た。その名の通り元々地獄だったんだけど、死者が増え過ぎてここじゃ狭くなっちゃったんだって。

 

「……いやぁしかし、もう一度ここに来るとは思いませんでしたよ。正直、鬼相手には頭下げるしか無いので……」

「? どうして?」

「それはですね、えーっと……そうだ、紅魔館には妖精メイドが居ますよね? 彼女たちと咲夜さんみたいな関係です」

 

それってつまり……と思ったけど、文が鬼を困らせている所は想像出来ないからちょっと違うかな。でも、鬼が上なんだってことは分かった。

 

「ふーん……文も大変なんだね」

「はい……宴会でも鬼の酒は注がなきゃいけないし飲まなきゃいけないし……うう、やっぱり止めましょうこの話……」

「おいおい、止めちまうのかい? そりゃあ残念だ」

「!!!!」

 

わぁ、文が錆びたブリキみたいな動きしてるー。……ってことは、鬼の中でも偉いヒト?

 

「なんだいなんだい、鬼でも見たような顔をして」

「姐さん、俺たちゃ鬼ですぜ!?」

「なっはっは、それもそうだ!」

 

どっ、と周りの鬼からも笑いが起こる。全員酔っているのか顔が赤く、笑い方も品が無い。お姉様が見たら顔をしかめそう。

 

「ほ、ほ、星熊様、ご無沙汰シテオリマス……」

「そんな固くなるなって。それより、そこのお嬢ちゃんたちはどうしたんだい? まさかとは思うけど……」

「え、あっ、あの恋仲ではないデス、ハイ! どうやら地霊殿の主の妹さん……らしき人に用があるとかで」

「へぇ……名は?」

「……フランドール・スカーレット。吸血鬼、レミリア・スカーレットの妹よ」

「何故地底に?」

「友達に会って、何故急にいなくなってしまったのか聞きたいから」

「……なるほどね。じゃあ最後に1つだけ。これは皮肉とかじゃなく、地底で暮らしている奴からの──言わばアドバイスだと思ってくれ」

 

わざわざしゃがんで目線を合わせてくれたホシグマさんは、額の角を突き刺さんばかりに顔を近付けてきた。

 

「──今すぐ帰った方が良い」

「なんで?」

「なんででも、だ。というか、天狗の連中やパルスィから説明されなかったのか?」

 

正直なことを言うと、されたようなされなかったような……? なんか怖いお化けが沢山居る、みたいなことは言われた気がする。……多分。

 

「なんだよ、聞いているんじゃないか。なら分かるだろう? ここは外から来た妖怪にとっても有害だ。怨霊ってのは……あー、 何がいけないんだったっけ?」

「確か、精神に直接影響を与えるので妖怪の天敵だとか……」

「そーうそうそう、それだそれ。だからお嬢ちゃん、お嬢ちゃんが元気にお友達と会う為にも帰った方が良い。折角会ったのに満身創痍でしたー、じゃ意味無いだろ? お友達と会ったら伝えるように言っとくよ」

 

そう言って頭をぽんぽんと撫でてきたホシグマさんは、確かに嘘を言っていないようだった。でも、でも……!

 

「っ私は……!」

「2度は言わないよ。それに、そんな消耗した状態で辿り着けるとは思えないね」

 

──バレていた。先程に比べて身体が重いこと。頭もぼんやりとしていること。……いや、咲夜も恐らく気付いてはいたと思う。私の意思を尊重してくれただけで。

 

「……分かった。でも、絶対伝えてね」

「当然さ。鬼は嘘を吐かないんだ、安心していいよ」

 

帽子越しにわしゃわしゃと頭を撫でられる。……咲夜や霊夜と比べると、どうしても荒っぽさが目立つけど、でも優しい手だ。

 

「妹様」

「ごめんね、咲夜。止めないでくれてたのに」

「いえ、私は妹様に従うのみですので。本当に危険な時は、その限りではございませんが……もうお帰りになりますか?」

「うん。……でも、お姉様なんて言うかなぁ」

 

あのお姉様のことだから、「外はどうだった?」とか辺り替わりのない話くらいならしそうだけど。……皮肉の1つはあるかも。

 

「おお……っとと?」

「それは後で考えましょう。怒られる時は一緒に怒られますので」

「ありがと……」

 

限界ギリギリだったみたいで、ふらついた身体を咲夜が支えてくれた。それからのことは……よく覚えていない。目が覚めた時には、部屋のベッドだった。

 

***

 

「……ん」

「あら、起きた? このおバカ」

「あたっ」

 

皮肉るだろうな、とは正直思っていた。だけど、直球の悪口とデコピンがくるとは思っていなかった。

 

「あのねぇ、貴女3日も眠りこけていたのよ? 警告された上で突っ込んで、弱って帰ってきた上で、ね。誰に似たのかしらねぇ」

「むぅ……」

「そんな顔をしないで頂戴。戻ってくるだけマシよ? 霊夜なんて、美鈴と一緒にスキマ妖怪に連れられてどこかへ行ってしまったんですもの。しかも事後報告で」

 

苦虫を噛み潰したような顔で言ってはいるけど、心配しているのがありありと見て取れる。……でも、怒ってるのはきっと本当なんだろうなぁ……。米神に青筋が浮かんでる。

 

「こほん。まあとにかく、お帰りフラン」

「……ただいま、お姉様」

「何よ今の間は」

「べっつにー? それより聞いて聞いて、地底でねー……」

 

どうしようもなく不器用で、だけどとっても優しい、世界でたった一人のお姉様。今度、私の大切なお友達を紹介させてね。話したいことがいっぱいあるんだから。




一応、フラン側のお話はこれまでとさせていただきます。何となく察する方もいらっしゃるでしょうが、地霊殿に入るまで進展しません…悪しからず。

いや時系列的にはまだ風神録入ってないんですよね、内部時間にして半年近く空くことになります。……え、マジ?


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次の壁

風萩日向を名乗る謎の人物の突然の襲撃から、早1週間が過ぎた。美鈴の看病の甲斐あって、本調子とまでは行かずとも基本的な運動は出来るくらいに回復した。……で、あの時死亡フラグと共に足止めしてくれた日向、もとい父さんだが……

 

「ふむ、順調に治ってきているようだな。傷跡は多少残るだろうが、動けないこともないだろう」

「……そりゃどうも。つかアンタが怪我の一切無く勝ってるのがすっげー疑問なんだけど、力の大半スられたんじゃなかったっけ?」

 

そう、ピンピンしている。どころか、返り血まみれで神社に押し入って「勝ってきた」と抜かしてきた。それだけでも十分怖いが、問題は力の大半を持っていかれているのに勝ったことだ。おかしくないか?

 

「ああ、あれは嘘だ。善悪で分裂なんてする訳が無いだろう」

「は? …………はぁぁ!? え、だってアンタ……」

「小粋なジョークというものだ。だが、ふむ……思っていたよりウケなかったか」

「ウケるわきゃねーだろほぼ初対面だぞ!? どんな奴なのかすら知らないんだから気付かないに決まってんだろ……」

 

……なんか、変な奴というか馬鹿というか……とにかく、あの襲撃者と父さんはそっくりな別人であることが確定した。いや、確定してなくても敵なんだが。

 

「まあ……それはいいや、うん。勝ったってどゆこと?」

「そのままの意味だ。戦闘して勝利し、消滅まで見届けた」

「返り血塗れで来た時はびっくりしましたよ……よく警察に捕まりませんでしたね」

 

空白の時間を埋める勢いで話しているが故に、すぐ脱線してしまう。早苗がお茶を持って部屋に入って来なければ、そのままダラダラ話し続けてしまっただろう。

 

「ははは、これでも15年近くこっちに居るんだ。多少なりとも考えはあったさ……今はそれよりも、幻想郷に戻る話をした方が良い。早苗さんの一件、もう片付いたのだろう?」

「……なんで言うのかなぁこのノンデリクソ親父……てか片付いたんだ、良かったじゃん」

「え、あ、ありがとうございます…?」

 

3人でお茶を啜り、紫から聞いていた守矢神社の『お引越し』とその手順、個人的に気になっていた早苗と友達の件が解決してから戻ろうとしていたことを話した。

だが、紫曰く連れてくるのは神奈子と諏訪子の2柱──つまり、早苗は含まれていない。それについてはどう説明しようか決めあぐねていたので、今は言わないことにした。……説明と判断は紫に任せよう。

 

「しかし、日程はいつ頃になる予定だ? 早苗さんも来るにせよ来ないにせよ、それが決まらない限りは受け入れる準備も出来なかろう」

 

──なんッッッッで人が遠慮して言わなかったこと全部言いやがるんだこの野郎!!!!!!

 

と言いかけたがどうにか抑え込み、話題になってしまったからには仕方ないと切り替えた。しかしこの戦闘バカ、気遣いというものを知らないんだろうか。

 

「あー、えっと……それに関しては、俺は専門外だから……紫ー?」

「はぁい、何かしら?」

「早苗も行く場合って何か、その……気を付けた方がいいことってある?」

 

つぅ、と空間に走った亀裂から上半身だけ覗かせ、口元を扇子で隠しながら出てきた紫は、少し思案するように目を伏せてから、扇子を閉じて口を開いた。

 

「……もし、本当に幻想郷へ来る場合ですが。こちらの世界での、貴女という存在を証明するあらゆる記憶、記録その他諸々を消去せねばなりません」

「つまり……」

「一方通行に等しい、と考えてくださって結構ですわ」

「っ…………」

「幻想郷へ来るか否かは、貴女の意志を尊重致します。3週後に意志を伺います故、どうか後悔しない選択を」

 

そう言って紫はスキマに戻った。そのスキマがあったという痕跡が消えても、早苗はそこをじっと見続けていた。

 

***

 

あれから夜が明け、学校。進入禁止の筈である屋上がズタボロになっていたことについてお咎めの全校集会があった以外は、特にいつもと変わらない日常を送っている。

がこん、と音を立てて缶が排出されたものの、欲しかったものとは違うものが出てきて顔をしかめる。自販機を見ると隣だったので……まあ、ぼーっとしている時にありがちなことをしたのだろう。

 

「それにしても、この暑いのにお汁粉ですか……しかもあったかいし……」

「やっほ、早苗。どしたの、お汁粉なんか持って」

「えっ? ううん、ぼーっとしてて……」

「あー、間違えちゃった訳だ! そんなマンガみたいなことあるんだね!?」

 

私もそれ思ったー、なんて笑いながらも、頭の中では紫さんに言われていたことがぐるぐると回っていた。

 

──貴女という存在を証明するあらゆる記憶、記録その他諸々を消去せねばなりません。

──一方通行に等しい、と考えてくださって結構ですわ。

 

つまり、こうして仲直り出来たのに、彼女から私に関する記憶が無くなるということ。ならばこの仲直りは無駄だったんだろうか? ……いや、流石にそれは無いと信じたい。

 

でも諏訪湖様も神奈子様も、どちらも大切な(ひと)だ。幼い頃からお世話になっているし、この能力(ちから)の制御方法についても教わった。

 

「……一体、どうしたら」

「んー?」

「いえ、何でも。それより、もうすぐ予鈴鳴りますよ?」

「あっヤバ、急げ急げ!」

 

もう時間が無い。だが、これは誰にも相談出来ない。一難去ってまた一難とは、こういうことを言うんだろうか。

 

……でも。「気にしなくて良い」と言われたらそれまでだ。だからこれは私のエゴ。私だけが苦しむから、()()()()()()()()()()()()()()()()を考える。それだけなのだ。

 

***

 

「……やっぱ性格悪いよな、お前」

 

戦いの跡が残る屋上で、何も無い空間に独りごちる。リボンのお陰か、なんとなく紫の視線が分かるようになってきた。案の定スキマが現れ、中から最早見慣れた顔が出てきた。

 

「あら、どうしてです?」

「早苗に『選ばなかった方についての記憶も消せる』って教えなかったろ。出来るだろうに」

「ええ。ですが、何でもかんでも手を差し伸べれば良いものではありませんわ。 成長に繋がりませんもの」

「お前成長とか気にすんだ……意外」

「お忘れかもしれませんが」

 

そう言った紫は、心底楽しそうに口角を上げた。…ロクでもないことを考えついた顔に似ているのは気のせいだろうか。

 

「歴代の博麗の巫女を育てたのはこの私ですわよ?」

「ぐうの音も出ねぇや……そうだったな、ごめん」

「ああ、私は幻想郷の為に沢山のことをしているというのに……やはり理解は得られないのですね、よよよ……」

「いやだからごめんって!」

 

……やっぱり性格悪いかもしれない。少なくとも面倒臭い奴ではある。



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休息

体育の授業──の前の移動時間。体操着だと傷跡が見えるが、ジャージだと暑いという板挟みに辟易しながら、俺と麻見は体育館に向かっていた。

 

「ったく紫の奴、いい性格してるよなホント」

「ははは、俺から見たらお前もいい性格してんぞ?」

「えっ俺ぇ? いやいやそんな馬鹿な……」

「なーに言ってんだコノヤロウ!」

 

麻見は確か文化部の筈だが、それにしては妙に強い力で肩を掴まれ、体がぐいっと引き寄せられる。廊下は人通りもあるが、ギリギリ俺にだけ聞こえる音量で囁いた。

 

「まだ俺『達』に隠してることあんだろ? 事情あんだろうから聞かねーどくけど、多分2人も薄々勘づいてるぞ」

「……マジで?」

「マジ。つーかお前が分かりやすいって言う方が正しいかも」

「…………何も言えねぇ」

 

実際あるかどうかと聞かれたら、ある。麻見には記憶云々の話はしていないが、まあある意味当然とはいえ俺と美鈴についての記憶も消す──ということ。

だが同時に、嘘を吐くのが苦手というのも本当。「それはキミの良い所です」……とこあは言っていたが、こういう腹芸が出来ないのはやはり不便だ。……そういうとこ遺伝したのかなぁ。

 

「まーとにかく。折角脅威の……えー、誰だったんだアレ? 結局名前聞けなかったな……まいいや。アイツも消えたことだし、残りの時間を楽しもうぜ」

「へーい。……でもそうだよな、父さんも名前呼んでなかった気がするし……」

 

──キーンコーンカーンコーン…………

 

「あっやべ予鈴! あの体育教師(ゴリラ)怒るとダルいぞ、急げ!」

「げっ、あのなっっっっっっがい説教か……嫌だな」

 

生活指導の「廊下走るなー」というやる気のない声を後目に、体育館の扉を開けた。良かった、幸いまだ──

 

「お前ら」

「あっ」

「いっ……」

 

ポンと肩に手を置かれ、ぎこちなく振り向くと、体育教師──その強面フェイスと体格、濃い体毛から《ゴリラ》《ゴリ先》《森の賢者》の渾名で親しまれている(?)──が立っていた。

 

「……や、まだチャイム鳴ってる途中じゃなかったスか?」

「そ、そうそう! それに先生まだ居なかったってことは、まだ始まってもいなかった訳で──」

「……? ボールのカゴ取ってきて欲しかったんだが……」

「あっ、ハイッス。取ってきまッス」

「この鍵だ。頼むぞ」

「「ハーイ」」

 

……あの見た目で全国模試2桁らしい(麻見談)。「要するにめっちゃ頭良い」と説明されたが、もっと言うと愛妻家らしい。……見た目じゃ分からないもんだ。

 

「あ、そうそう。鷺宮なんだけどさ」

「あん? 鷺宮⋯⋯?」

「あいつだよ、早苗の幼馴染の⋯⋯お前ほんとに名前覚えてなかったのな?」

「んー⋯⋯あっ、あいつかぁ! そっか鷺宮だっけか。下の名前が⋯⋯」

「香織な。⋯⋯お前俺の苗字覚えてる?」

 

ぎくっ、と肩が跳ねる。「あれ麻見って苗字じゃなかったっけ?」「先生も麻見って呼んでたよな?」と思考を巡らせるが、見抜かれていたのか溜息と共に教えてくれた。

 

「萩原だよ。萩原麻見。萩原って俺以外に2人いっからさ、分かりやすくする為に名前で呼ばれてんの」

「あー、そうなの⋯⋯や、分かってたよ?」

「うっそだぁ~ぜってぇ分かって⋯⋯」

「おーいまだかぁー!?」

「げっ、忘れてた! この話後でな!」

 

⋯⋯いずれ帰るし、記憶消されるならと覚えなかったのは失敗だったな。

 

***

 

「さっき時間掛かってましたが、何してたんですか?」

「いやーごめんごめん、風萩の親父さんについて話しててさ」

「日向さんに?」

 

昼休み。屋上は閉まっているので直前の踊り場で昼食を食べていたら、仲直りしたにしても仲良過ぎなくらいに引っ付いた鷹宮⋯⋯違う鷺宮が、何故か父さんの名前を知っていた。聞くところによると、仲直りを勧めていたらしい。やたらと気にしていた理由はそれか。

 

「そ。襲ってきたアイツが何者なのか、聞くの忘れたなーってさ」

「私たちは見ていませんが…素性が分からないのは怖いですね」

「うん…不安になるよねぇ、あむ…」

 

そうは言いつつも、口いっぱいにパンを頬張ってもきゅもきゅしている様子は微塵も緊張感が無い。……もしかしてこいつ結構肝据わってる?

 

「ってもさ、もう倒したんだろ? じゃ気にしなくても良いんじゃね?」

「うん? ああ、まあそうだな。とりあえず……あー、帰るまで楽しむかぁ」

「おー! じゃあさじゃあさ、プリクラ行こうよ! 写真に残しておきたいし!」

「プリ……なんて?」

 

鷺宮によると、写真を撮って色々書き込める機械……らしい。文みたいなのは興味持ちそうな気がする。

 

「へぇ…凄いもんだなぁ」

「風萩クンとこには無いんだっけ? なんだか想像出来ないかも」

「無いよ。俺からしたら写真を気軽に撮れるって時点で凄いことだし…」

 

パンを食べ終え、ペットボトルのお茶をぐびぐびと飲むのを眺めつつ、「これもギャップってやつかなぁ…」としみじみ思う。この数ヶ月…いや、2ヶ月も無いのか、一応……。一連のゴタゴタのせいで完全に忘れていた。

 

「って言うか、俺みたいなのよくスルッと受け入れたよなお前ら。いくら『視えて』るからって、信用するまではいかないのがほとんどだろ」

「まそーだよなぁ、何でだろーなホント」

「え、私は諏訪子様と神奈子様の為でしたけど……」

「鷺宮は?」

「サナちゃんが信じるなら信じる。だって私だけ風萩クンの……耳?もスワコサマもカナコサマも見えないもん」

「あ…あっれぇー……?」

「……麻見?」

「や……その、俺だけ何となくだったんだなって……」

「お前良い奴なんだかヤバい奴なんだか分かんねぇよ! ありがとうな!」

 

何となく。本当にそんな理由で、あんな危ない橋を渡ったのかコイツは。……もしそうなら狂気の沙汰だ。

 

「なはは、あざあざ。それはそれとして、そうだよなぁ…鷺宮は見えねんだよな、耳と尻尾(コレ)

「やーめーろ、弄んな。…まあ、普通に見えたら色々と面倒だし…しゃーないと言えばしゃーないだろ」

「そうなんだけどぉ…触ってみたいなぁ〜……」

 

じりじりと寄られるも、すぐ後ろが壁なせいで逃げ場が無い。皆の後ろまで跳ぶのも考えたが、ここが踊り場である関係上どうしても危ない。…昔、身体強化魔法を覚えたてで階段をひとっ跳びした時に妖精メイドにぶつかり、咲夜にアイアンクローを仕掛けられた記憶が蘇る。あの細腕のどこにそんな力があったのだろうか。……閑話休題。

 

「……コホン。そうは言われても、見えないようにしてるのは俺じゃないし……紫としても面倒だろうし…」

「あら、私を心配してくださるとはお優しいですわね」

「やっぱ大丈夫そうかも」

「やぁん、そんな事仰らずに。──ですが、貴女1人に見せるだけならお易い御用ですわ。貴女の《目》を少し弄る…言わば実体の無いレンズを付けるだけですから」

「え〜〜〜っと……?」

「あんま気にしないで良いと思うぞ。コンタクトみたいなもんだろ」

「分かった!」

 

…本当に分かってるんだろうか。そんな顔はしてないんだが。

 

***

 

「では、目を閉じて」

「は、はいっ」

 

言われるがままに目を閉じると、細くしなやかな指が瞼に触れる感触がして、すぐに離れた。…え、もう?

 

「…良いですわよ」

「……!わぁ〜〜〜可愛い〜〜〜〜!」

「……照れ臭いなこれ」

「だろうな。あと鷺宮、頼むからバシバシせんでくれん? 痛い」

 

頭の上でピコピコと動く耳。感情の赴くまま、パタパタと揺れる尻尾。風萩クンが女性的なビジュアルなのもあるけど、とっっっっても可愛い!サラサラの赤髪も綺麗な目も、陽の光を反射してすっごいキラキラしてる!

 

「ふぁ〜〜顔が良いよぉ……美人とケモ耳ってこんなに映えるんだぁ……えっ、てことは日向さんも?」

「おー痛ぇ……そういや、あの人って何隠してんの?」

「耳と尻尾だけだっつってた。他はそのままだって──」

「そーなの!? あの髪色って地毛!? ってことは…お母さんが赤髪?」

「あー、たぶ…」

「そこに誰か居るのか? ここは立ち入り禁止だぞー?」

やっべゴリ先! どーする、隠れらんねーぞ!?

どーするったって逃げ道もねーよ! やり過ごすしか…あっ紫! ゆか……居ねぇ!

ごめーん私がおっきな声出したせいで…

それは…まあ、そうですけど。でももう…

 

もう足音からして数秒しかない、どうしよめっちゃ怒られる……と思ったその時! 私の頭にナイスなアイデアが浮かんできた! 持ってて良かったメイク道具!

 

「ん、んんっ…ほら、やったげるから動かない。……ゴメン、ちょっと我慢して

は、はぁ…? おい何しっ…!?

 

風萩クンの顔にチョンチョンと下地を置き、優しく塗り広げる。整った顔をむにもにといじくるのは楽しくなってくるが、森野先生──通称ゴリ先が階段の方から顔を出した。

 

「……何してるんだ?」

「あ、先生。今風萩クンにメイクしたげてるとこでーす」

「いや、それは見れば分かるんだが……あー、教室で良くないか?」

「もー、先生だって皆の前でメイクされるの恥ずかしくないです?」

「ム……それもそうか。トイレという訳にもいかんしな…ウーム……」

「とゆーわけなので、仕方な〜〜〜く! ダメなのは分かってるけど! ここに来たんです!」

「……まあ、分かった。ただし、5限までには落としてやれよ」

「は〜い分かってま〜す。……ゴメンね、もう大丈夫だよ

 

一応声を落として、限界まで奥に寄っていたサナちゃんと麻見クンを呼びつける。2人の緊張が解け、ほうと溜め息を漏らした。

 

あ、焦った…お前そんな演技力あったのかよ?

無茶ぶりはこの子の専売特許ですから……と、メイクどんな感じです?

「声も戻しちゃっていーよ。もうあとは…うーん、時間的にアイシャドウまでかなぁ」

 

手は止めなかったからかある程度は済んでいたものの、落とす時間を逆算すると残り5分程しか残っていなかった。……また今度、休みの日にでもやらせてもらおっと。

 

「──はいっ。うーん、急拵えだからちょっと不格好かなー……って思ったけど元の顔が良いからトントンかな」

「んー、ま確かに中性的な顔立ちだよな。顔から下筋肉ムキムキだけど」

「そう……ですよね。うぅ、メイク無しでこの状態とは…」

「あのー……そんなに見られると、恥ずかしいんだけど……」

 

耳まで赤くしてそっぽを向いて……うーん可愛い……でもこんな魅力の塊みたいな見た目で彼女さん居ないことも無いだろうしなぁ……まあ、今はいっか!

 

「あーゴメンゴメン! じゃメイク落としに行こっ」

「んー……ん? これ落とすまでの間皆の前を……? 鷺宮?」

「……てへっ☆」




キャラの濃そうな体育教師ですが、多分今後出てこなさそうなので…


森野 賢(もりの さとし)
25歳

筋骨隆々、頭脳明晰。最近の悩みは背が高いせいでよく頭をぶつけること。
背が高い・顔と体毛が濃い・日焼けで肌が浅黒いことから、生徒からは『ゴリ先』『森の賢者』等と呼ばれ、親しまれているが、これらは「生徒たちが怖がらないように」と自分から広めている。
愛妻家で、元マネージャーの奥さんとは中学時代からの付き合い。待受画面はお揃いで、初デートの時の写真。
香織の嘘は見抜いていたし、早苗と麻見の存在にも気付いていたが、流石に「男に化粧を?」と聞くのは傷付けてしまいかねないと思いスルーした。


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