Infinite Days~獅子の姫達とその勇者~ (のんびり日和)
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今年最後の投稿です


※土方一夏(旧姓織斑一夏)

原作主人公で今作の主人公。昔、千冬が剣術を習い始めた時に自身も習おうと思い篠ノ之道場に行くも、自分はこの流派は合わないと言い辞めた。

そして千冬の友人の誘いで土方政宗と会い、自身の合う流派だと分かり道場に入門。それから暫くして、正宗が養子として一夏を引き取りたいと願ってきた。

千冬は躊躇うも、一夏が説得し納得させた。それから土方家の養子となった。時折千冬とは会うも、決まって最初に一夏が聞くのは「彼氏できた?」。その度に殴り掛かられるもひらりひらりと避けている。

 

剣術の腕は強く、千冬でさえ勝つことが出来ない程強くなり続けている。(師である政宗は、いずれ自分を超える弟子だ。と自慢している)

 

※織斑千冬

一夏の姉。今回初Noアンチ。

幼い一夏を守るべく奮闘し育てた人。一夏の事を常に気にかけており、一夏が自分の身が守れるまでは自分が守ると心に決め、日々鍛えていた。剣術を習い始めると一夏もやりたいと言った為やらせたが、自分に合わないと言って辞めた。どうしようと考えていた時に友人の誘いで一夏を土方政宗の所に入門させる。その後一夏を養子として向かい入れたいと願って来て、弟と離れることに抵抗があり躊躇うも、一夏の説得により渋々了承。週3日正宗の道場に訪れ一夏に会うも、来るたびに「彼氏できた?」と聞かれ、涙を流しながら「出来とらんわぁ!!」と怒鳴りながら殴り掛かるも避けられている。一応片思いの男性が居る。

 

 

※篠ノ之束

みんな大好きウサギのお姉ちゃん。

ISを作った博士で、世間では天災と言われているが本人は至って普通の発明大好きな博士。一夏を弟みたく可愛がっており、千冬にジト目で毎回睨まれている。妹がいるが可愛げが無く、すぐに暴力で解決しようとするので妹として見ておらず、只の路肩の石もしくは雑草と思っている。

隠れ家のベッドに一夏人形(ちびキャラ風)が置いてあり、一夏に会いえない日は何時もそれを抱きながら寝ている。(理由:弟みたく可愛いから、安心して寝られるから)

 

 

 

オリキャラ

※土方政宗

現土方道場の師範。道場で天然理心流を教えており、入門してきた一夏に輝く何かを持っていると早々に見つけた人物。一夏が入門して暫くして一夏が、亡くした息子の様に思い始め千冬に養子として一夏を迎え入れたいと願う。交渉後一夏が養子として土方家にやって来て、次期師範にすべく色々技術を教えた。近々自分を超えるだろうと思い、隠居生活をどうするか妻と考え中。

 

※沖田洋二

千冬の友人で天然理心流を習っている。三段突きと言う技を身に付けており、かなり強い。

千冬とは何度も剣術で勝負しており、勝率は沖田の方が高い。一夏の剣術を一度拝見した際に天然理心流を習わせたら面白い変化をするかもと思い、誘った。

誘った結果結構強くなっていく姿に、やっぱり凄い奴だと思っている。




皆さん、来年もどうかよろしくお願いします。


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第一章
1話


懲りずにまた新作です。



「―――姉ちゃん、俺篠ノ之道場辞めるわ」

 

「ん? 何で辞めるんだ? せっかく龍韻さんにお願いして入れてもらったのに」

 

家で夕飯をとっていた二人の姉弟。弟の一夏はご飯を頬張りながら、姉千冬にそう告げた。千冬はなぜ辞めるのか首を傾げながら味噌汁を啜る。

 

「ん~。なんか俺に合わないんだ」

 

「……合わないか。まぁ、私が出来てお前が出来るなんてそんな都合のいい話なんか存在せんからな。……分かった。明日龍韻さんには私から言っておくが、剣術はどうするんだ?」

 

「俺にあった剣術の道場が見つかるまでは基礎的な練習をやっとく」

 

そう言われ千冬はそうか。と言いご飯を口へと運んだ。

 

翌日千冬は学校の教室で、頬に手を添え膝を机に付きながら考えにふけっていた。

 

(一夏に合う剣術か…。篠ノ之流は元々舞を元を考えられた剣術だからな。どうしたものかぁ)

 

そんな考えにふけ込んでいる千冬に一人の男子生徒が近づく。

 

「どうしたんだ、織斑?」

 

「ん? あぁ、沖田か。いや、ちょっとな」

 

そう言い千冬は友人の、沖田洋二にそう言いながらまた考えにふけ込もうとしたが、ふと思い出したような顔を沖田へと向ける。

 

「そう言えば、沖田は確か何処かの道場に通っていたよな?」

 

「あぁ。それがどうしたんだ?」

 

そう聞かれ千冬は一夏の事を話した。それを聞いた沖田はふむふむ。と頷きながら聞きピンと閃いた顔を浮かべた。

 

「だったら、ウチの道場に試しに連れて来いよ。前にお前の弟の剣術見せてもらったけど、見どころがありそうだったしな」

 

「そうか? それじゃあ今日放課後連れて行く」

 

千冬はそう言い、アイツに合う流派だったら良いんだが。と心の中でそう思いながら放課後を待った。

それから時間は経ち、千冬は篠ノ之道場に先に行き一夏が道場を辞める事を伝えた。龍韻は残念そうな表情を浮かべながらも了承し、千冬はその足で小学校まで行った。そして門の前で待っているとランドセルを背負った一夏がやって来た。

 

「あれ、姉ちゃん何で此処に居るの?」

 

「あぁ、実は友人の一人が通っている道場にお試しで、お前を連れて行ってみようと思ってな」

 

千冬がそう言うと、一夏はへぇ。と呟き千冬と共にその道場へと向かった。暫く2人は歩いて行くと、篠ノ之道場とは違い若干古ぼけた感じの道場が2人の前に現れた。

 

「此処が姉ちゃんの友達が通っている道場?」

 

「あぁ。教えてもらった住所が間違いが無ければな」

 

そう言い2人が顔を見上げると、其処に書かれた表札には

 

 

 

 

『土方道場』と書かれていた。




次回予告
道場に入った2人に、沖田と館長の土方政宗が出迎えた。そして一夏の剣術を見た政宗は入門を勧める。


次回
己の剣術


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2話

土方道場と表札が掲げられた門に着いた2人。

 

「なんか、新選組の副局長の子孫がやってそうな道場だね」

 

「そうだな。まぁ取り合えず中に入ろう」

 

そう言い千冬は一夏を連れ中へと入って行く。中へと入って行くと竹刀を叩き合う音が鳴り響いており、2人は道場と思われる建物の入り口を覗き込むと数人程の防具を着た者達が打ち合っていた。

すると端に居た人物が2人に気付き近付く。

 

「おぉ、来たか織斑」

 

「ん? あぁ沖田か。ほら一夏、この前ウチに来た沖田だ」

 

「あ、どうも」

 

そう言い一夏は頭を下げた。沖田はにこやかに笑いながらこんにちは。と言う。すると奥に居た男性が3人の元に来る。

 

「沖田、今日お試しで来ると言っていた2人か?」

 

「えぇ。けど体験するのはこっちの小学生ですが」

 

そう言い沖田は一夏を男性の前に連れて行く。

 

「織斑一夏です」

 

「この道場で師範をしている土方政宗だ。で、そちらは?」

 

「姉の千冬と言います」

 

「うむ。さて、一夏くん。君は何故剣術を習いたいと思ったんだ?」

 

政宗はそう聞くと、一夏は

 

「う~ん、考えた事が無いや。けど……」

 

「ん?」

 

「何時までも守りでいるのが嫌になったと思ったからかな」

 

一夏は最初に頭に思い込んだ事を呟くと、政宗は「ほぉ」と呟く。

 

「なるほどな。では、君の腕を少し拝見しても?」

 

そう言い政宗は自身の道場で使っている小学生用の木刀を手渡す。だがその木刀は普通の木刀よりも分厚く、明らかに重い感じを醸し出していた。

 

「あの、一夏にそんな木刀を握らせるのですか?」

 

「我が道場で教えているのは『天然理心流』なんだ。実際の刀と同じ重さの木刀を振ることで、実戦に直ぐに活かせる様になる。その為昔から剣術を習うなら、実際の刀と同じ重さの木刀を握らせる。まぁ、この木刀は小刀くらいの重さだ。それでも小学生には重いと思うが」

 

政宗にそう言われ千冬は大丈夫だろうか?と不安げに一夏を見守る。一夏は渡された木刀を見てしばし木刀を見つめた後、柄を握りしめる。

そして重そうではあるが、それでも振り出す。その姿を見ていた生徒達や沖田は

 

「「「おぉお~~~!」」」

 

と振った事に拍手を送る。

何回か振った後一夏は振るのを止め、木刀を降ろす。そして一夏はスッと顔を政宗の方へと向ける。

 

「あの土方さん」

 

「何かね?」

 

「俺を此処に入門させてくれませんか?」

 

一夏はそう願い出ると、千冬は驚いた顔を浮かべ沖田はやっぱりかと予期していた様な含み笑いを浮かべる。そして政宗は

 

「何故此処に入門したいと思ったのだ?」

 

「この木刀を振った時に、刀の重みを理解したと同時に守る為に必要な重さでもあると思ったから」

 

そう言うと、政宗はフッ。と笑みを浮かべる。

 

「なるほどな。いや、君から願い出なくとも此方からお願いする予定だった。君のその木刀の振り方を見てぜひうちの道場に入って来て欲しいと思えたのでな」

 

そう言われ一夏は「じゃあ、宜しくお願いします」と一礼し、千冬はアイツに合う流派で良かった。と安堵した表情を浮かべた。




次回予告
土方道場に入門した一夏。日が経つにつれ一夏は強くなっていく頃、千冬は友人の束からあるお願いをされた。……このお願いで世界は大きく変化する。

次回
白騎士事件


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3話

一夏が土方道場に入門し、幾日が過ぎた。道場の館長を務める土方政宗は一夏の成長具合に驚きを隠せなかった。若干小学低学年で天然理心流の柔術、棒術を網羅した。そして現在は剣術を習っているが、それも近いうちに完璧に覚えるかもしれない。と。

 

「いやはや、これ程の逸材が居たとはな…」

 

「全くですね。このままいくと俺もその内抜かされるかもしれませんね」

 

一夏や他の生徒達が素振りをしている様子を眺める政宗と洋二はそう呟く。

 

「ほぉ~? お前の口からそんな言葉が出るとはな。世の中珍しいものがあるもんだ」

 

政宗は笑みを浮かべながら隣に立つ洋二向けると、洋二は「フッ」と笑い目を瞑る。

 

「最初アイツの振り方を見て、合っていないと感じたんだ」

 

「振り方がだと?」

 

「あぁ。何だかアイツのフォームにあっていない、そう感じたんだ。で、もしこいつに天然理心流を教えたらどう化けるのか見て見たかったんだ」

 

洋二の説明に政宗は、なるほどな。と呟き生徒達の素振りをまた眺め出した。

 

 

 

その頃千冬は友人の家に訪れていた。その部屋は薄暗く灯りが付いていなかった。

 

「おい、束! 呼んでおいて留守なのか?」

 

そう叫ぶと奥からドタドタと走ってくる音が聞こえ、千冬ははぁーとため息を吐く。

 

「やっほぉ~~~、ちぃ~~~ちゃぁああああああ!!!?? あ、頭がちゅぶれるぅぅううぅう!!??!!」

 

と叫ぶ千冬の友人、篠ノ之束。束が行き良い良く抱き着こうとしてきたため、千冬は問答無用のアイアンクロウをお見舞いしたのだ。暫くして千冬は束の頭から手を離すと、束はズキズキと痛む頭を抑える。

 

「うぅうう~、ひどいよぉちーちゃん! 束さんの頭を捻り潰そうとするなんてぇ!」

 

「いきなり抱き着こうとして来たからだろうが。それで呼んだ用は何だ?」

 

そう言い千冬は呆れた表情で用件を聞く。束はあ~、それね。と言いながら奥に置かれているパソコンの元に行く。

 

「この前私が学会に発表して、見向きもされなかったISって憶えてる?」

 

「あぁ、あれか。それがどうしたんだ?」

 

束はパソコンのディスプレイに手書きで描かれたある絵を見せた。

 

「…何だこの絵は?」

 

「これ? 束さんの壮大な計画図。題して『ISは本当にすごいんだぞぉ! 分かったか、凡人野郎どもぉ!』だよ!」

 

そう言われ千冬は顔に手を置き壮大なため息を吐く。自分の友人がこんな阿呆な計画図を建てるとは。と。

 

「……ちーちゃん。もしかして呆れてる?」

 

「よく分かったな。今盛大に呆れている」

 

そう言われ束はガクッと膝から崩れ落ち四つん這いになる。

 

「あ、呆れるなんて、ひ、酷いよぉおぉぉ。もういっくんに慰めて貰いに行ってくるぅうぅぅうぅ!」

 

そう叫びながら束は部屋を飛び出していこうとしたが、千冬が逃がさまいと束の肩を掴む。

 

「止めんか、一夏に迷惑だろうが」

 

「だってぇぇ、ちーちゃんが呆れたって言ったんだもぉおぉおん! それにいっくん道場辞めて来なくなったから寂しいぃんだもぉおぉんん!」

 

泣き叫びながら部屋から出て行こうとする束に千冬は盛大なため息を吐く。

 

「一夏が辞めたのは仕方が無いだろ。篠ノ之流があいつに合わなかったんだからな」

 

「うぅぅううぅ。いくぅぅうぅん」

 

ボロボロと泣きながらも扉へと目指す束。ズルズルと引き摺られる千冬は3回目の盛大なため息を吐く。

 

「分かった、分かった。お前の計画と言うのが終わったら家に来い。飯くらいは作ってくれるかもしれんぞ」

 

その言葉に束は先程の泣き顔が嘘のように無くなり、笑顔を浮かべていた。

 

「よっしょぁああ! さっさと終わらせようぜ!」

 

そう言いながら椅子に座りパソコンのキーボードーに何かを打ち込む束。

 

「はぁ~、全く一夏の料理が食べられると分かった途端、泣き止むんだ?」

 

「だっていっくんの料理って美味しいじゃん。この前お邪魔した時にご馳走になったけど、あの味が忘れられないだもん」

 

そう言いながら束は涎を垂らし「今日は何の料理が出るんだろうぉ」と呟く。

 

「……はぁ~。お前にも妹がいるだろ? 普通自分の妹の方を可愛がるだろ?」

 

千冬はそう言うと先ほど笑顔だった束の顔から笑顔が消える。

 

「だってアイツ、可愛げないもん。自分の都合が悪くなるとすぐに暴力で解決しようとするんだよ? 何処に可愛げがあるのさ」

 

そう言いながらキーボードを叩き終えた束は顔を千冬の方へと向ける。

 

「それじゃあちーちゃん。其処に鎮座しているISに乗って」

 

そう言われ千冬は首を傾げる。

 

「おい、まさかこの格好で乗れと言っているのか?」

 

「おっと、いけない。これに着替えてからね」

 

束がそう言いながら千冬に手渡したのは、スクール水着の様な物だった。

 

「なんだこれは?」

 

「それはIS用のスーツで、ISを自在に操るためには必要な物だよ。操縦者の保護も兼ねているから着ておいた方が良いよ」

 

そう言われ千冬はそれを着に向かう。暫くして着替え終えた千冬はISの前に立つ。

 

「それで、これがお前が最初に作った機体か?」

 

「そうだよ。名前は白騎士。白い羽を広げながら舞うイメージで作ったんだぁ」

 

そう言いながら画面を見つめる束。

 

「それじゃあそれに乗ったら、後は任せてね」

 

そう言われ千冬はISに身を委ね、身に纏う。

 

「本当に大丈夫なんだろうな?」

 

「大丈夫大丈夫。束さんを信じなさいな」

 

そう言いながら束はキーボードのエンターキーを押す。

 

「よぉ~し。それじゃあちーちゃん、おさらいするよ。此処から飛び出したら真っ直ぐ宇宙に向かってね。そしたら束さんが衛星をハッキングしてちーちゃんが乗った白騎士を映すから。で、録画等が終わったら帰って来てね」

 

「分かった。ほ・ん・と・うに大丈夫なんだな?」

 

「くどいよぉちーちゃん。大丈夫だって!」

 

念入りに確認した千冬は束に渡されたバイザーを被り、飛び立てる様準備する。

 

「よし、それじゃあ頑張ってねちーちゃん!」

 

その声と共に千冬はカタパルトから射出された。ステルス迷彩が施された白騎士はそのまま大空に上がって行く。

 

「さて、空に上がったのは良いが、後どの位で『た、大変だよぉちーちゃん!』どうした、束?」

 

突然慌てた様子の束の通信に千冬は技術トラブルかと思いその場で留まる。

 

『どっかの馬鹿な連中が作った軍用のネットAIが暴走して数十発ミサイルを日本に向けて撃ちやがったんだよぉ!』

 

「な、なに!? 日本の何処に向かって落ちる?」

 

「おおよその計算だと…。っ!? 不味いよちーちゃん! いっくんがいる道場が予測範囲に入ってるよ!」

 

そう言われ千冬は目を見開く。

 

(一夏の居る道場だと! 何でこんな日に限ってこんなことが起きるんだ!)

 

そう思いながらギリッと歯を噛み締める。

 

「……束、まさかと思うが『ち、違うよぉ! 束さんだってこんな馬鹿なことしないもん!』…そうだよな」

 

そう思いながら千冬はどうすべきだと悩む。

 

『……こうなったら仕方がない。ちーちゃん、その機体でミサイルを迎撃に向かって』

 

「っ!? 待て、この機体はお前の夢の為に作った機体だろ! もし迎撃に向かえばISは兵器として見られるかもしれないんだぞ!」

 

『それしか方法がないんだよ! 自衛隊や在日米軍の戦闘機やイージス艦じゃ間に合わない! 今迎撃に向かえるのはちーちゃんが乗っているISしか無いんだよ!』

 

そう言われ千冬は力強く拳を作る。

 

「……分かった。ミサイルは今どの辺りだ?」

 

『今は海上を飛行してる。陸の上で迎撃すれば地上に被害が起きるから、海上で全部落して。それと――』

 

「分かっている。迎撃に来た戦闘機や船には一切に関わらず、すぐに逃げる」

 

千冬はそう言い、ミサイルが飛来している方向へと向けブースターを吹かした。

 

 

 

 

 

それから数時間後、日本に向け飛来したミサイル群はたった一機のISによって迎撃された。戦闘機やイージス艦はISを追うも、直ぐに離脱された。地上に被害は一切なく、死傷者は居なかった。後にこの事件は白騎士事件と呼ばれ世界中を大きく震撼させた。




次回予告
白騎士事件により日が経つにつれ世界が変わっていく中、千冬は土方政宗と会っていた。その訳が一夏に関する事だった。
次回
養子


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4話

白騎士事件から数ヵ月が経ったある日、一夏はカバンに教科書やノートを仕舞い席から立ち上がる。

 

「お~い、一夏! 今日一緒にサッカーやらねぇ?」

 

「あ~、わりぃ。今日姉ちゃんに早く帰って来いって言われてるんだ」

 

友人の五反田弾の誘いに一夏はそう返すと、弾は首を傾げながらその訳を聞く。

 

「なんで早く帰って来いって言われたんだ?」

 

「さぁ? ただ先週俺が通っている道場の館長から電話が掛って来てそれから暫く考え込んだ表情を浮かべてたな」

 

そう言われ弾はそうか。と返す。

 

「分かった。また明日、遊べたら遊ぼうぜ」

 

「おう。明日だったら大丈夫だと思うしな。じゃあな」

 

そう言い一夏はカバンを背負い教室から出て行こうとすると一人の少女が話しかけてきた。

 

「おい、一夏」

 

「ん? え~と篠ノ之だっけ? なんか用?」

 

一夏は其処まで接点が無かった篠ノ之箒に話しかけられ、曖昧な記憶の中から名前を引っ張り出し口にする。

 

「だっけ?とは何だ! お前自分の幼馴染の名前を憶えていないとはどいうつもりだ!」

 

そう怒鳴るも、一夏は怪訝そうな顔で首を傾げる。

 

「悪いんだけどさ、お前と俺って幼馴染だったのか?」

 

そう一夏が口にすると箒ははぁ?と口を開き茫然とした表情を浮かべる。

 

「あ、悪いけど俺、姉ちゃんと約束があるから」

 

そう言い箒の横を通り過ぎていく。箒は一夏の口から出たお前とは幼馴染だったのか?という言葉に茫然と立ち尽くし、一夏が帰って行ったことに気付いたのはほぼクラスから生徒が帰った後だった。

 

 

 

学校から走りながら家へと帰ってきた一夏。扉を開け中へと入りリビングへと行くと出掛ける準備を終えた千冬がソファーに座りながらテレビを見ていた。

 

「ん? あぁ、帰って来たか。それじゃあ行こうか」

 

「行くって、もしかして道場?」

 

「そうだ。先週土方道場の政宗さんから電話があっただろ?」

 

千冬の問いに一夏は首を縦に振る。

 

「ちょっと、お前の今後の事で話があるそうなんでな」

 

そう言われ一夏は首を傾げながらも千冬と共に家を出て道場へと向かった。

 

 

道場へと到着した2人は道場隣に建てられている一軒家へと向かいインターホーンを押す。

 

『はい、どちら様でしょうか?』

 

「織斑です。先週のお電話の件で伺いました」

 

そう言うと少々お待ちくださいと声がインターホン越しから聞こえ、暫くすると玄関が開かれ一人の女性が現れた。

 

「こんにちは、今日はごめんなさいね」

 

「いえ。政宗さんはおられますか?」

 

「えぇ、奥で待ってるわ」

 

そう言い女性は2人を家へと上げ、奥の部屋へと案内する。

 

「おぉ~、わざわざ来てもらって済まない」

 

奥の部屋では政宗が静かに座っており2人に気付くと、明るく声を掛けた。

一夏と千冬は挨拶を交わした後政宗の向かいに座る。

 

「さて、先週は突然あんな電話をしてしまって申し訳ない」

 

「いえ。あの、実は先週お電話を頂いた後、まだ一夏に先の件の事を話してないんです……」

 

千冬は申し訳なさそうな表情でそう言うと、政宗はそうか。と返す。

 

「話してない? 一体何の話?」

 

一夏は怪訝そうな顔で千冬へと顔を向ける。千冬は一夏に訳を話そうとするが、辛いのか口が開こうとしなかった。

 

「千冬さん、私が言おう」

 

政宗はそう言い一夏に顔を向けた。一夏は真剣そうな表情でこちらを見てきた政宗に対し、同じく真剣な表情で見据えた。

 

「一夏君、君が良ければウチの子にならないかね?」

 

「なんで俺が館長の子に?」

 

一夏は突然政宗からウチの子にならないかと誘ってくることに首を傾げる。

 

「……うむ、実は君がこの道場に入って日に日に強くなっていく姿が、亡くした息子の様に見えて来てしまったんだ。…先日妻の詠美が君の事を悠作と呼んだのは憶えておるか?」

 

そう聞かれ、一夏は首を縦に振った。それは数日前、一夏が何時もと変わらず道場に来て練習を行い、休憩時間の事だった。

政宗の妻、詠美が道場の門下生たちに冷たいジュースなどを運んできて、一夏に手渡す際に

 

「はい、悠作」

 

と言って手渡してきたのだ。直ぐに間違えた事に気付いた詠美は、ごめんなさいと慌てた様子で言い直した。

それが何度か有ったことを一夏はよぉく憶えていた。

 

「確かに何度か俺の事を悠作と呼んだことは憶えています。それほど俺とその悠作君とは似ているんですか?」

 

一夏がそう聞くと政宗は懐から一枚の写真を取り出し机の上に置いた。

 

「これが生きていたころの悠作だ」

 

そう言い一夏と千冬は写真を見ると、少しはねた黒髪にぱっちりとした目つきをした少年が写っていた。

 

「確かに、一夏に似ていると言われれば似ていると思えますが……」

 

千冬は一夏に似ている少年の写真を見せられ、少し心が揺れた。千冬は今の生活は満足とは行かないが何とかやって来れていた。だが、一夏には色々な苦労をさせてきた。日々の生活の為にバイトをしている為、夜遅くに帰って来る自分に文句を言わない一夏に千冬はいつも感謝していた。そう思うと一夏を政宗達の養子にするのは悪くない話だと思っていた。

その一方もう家に帰っても一夏が居ない生活が来る。今までの日々が無くなってしまうと言う恐怖が沸き起こり、手放したくないと言う思いもあった。

 

「なぁ姉ちゃん」

 

突然隣にいた一夏から声を掛けられ、千冬は顔を一夏の方へと向ける。

 

「俺、土方さんの養子になる」

 

「ッ!? ど、どうして養子になると言うんだ?」

 

千冬は突然養子になると宣言した一夏に驚きと困惑の表情で聞く。

 

「だって姉ちゃん、高校卒業したら教員免許を取りに大学に行くんだろ?」

 

そう言われ千冬は先程よりもさらに驚いた表情を浮かべた。

 

「な、なんで知っているんだ?」

 

「束姉ちゃんが言ってたよ。人に勉学を教えるのが得意だから教員になろうかなって呟いていたって」

 

そう言われ千冬は「あのお喋り兎がぁ!」と口から洩らす。

 

「大学に行くとなると、お金が結構かかる。そうなると今の生活がもっと苦しくなる。だったら少しでも軽くするには、俺が養子になればいい」

 

そう言われ千冬はうぅ~ん。と悩んだ表情を浮かべた。

そして一夏は止めと言わんばかりに口を開く。

 

「それに何時までも弟に頼って生活するより、自分一人で生活できるようになりなよ。何時までも俺、姉ちゃんの世話する気なんて無いよ」

 

そう言われ千冬はグゥッ!と胸を抑える。

 

「お、おま、お前、お姉ちゃんに一人で自活しろと言うのか!」

 

「そう言ってるんだよ、姉ちゃん。料理も出来ない、洗濯も出来ない、掃除も出来ない。そんな女性じゃあ何時まで経っても彼氏なんかできないよ」

 

そう言われガハッ!?と言って倒れ込む千冬。

 

「なんか言い返すなら聞くよ。けど俺の意思は変わらないからね」

 

そう言いながら一夏は詠美が出したお茶を飲む。

 

「うぅぅぅうぅぅう! ……はぁ。…政宗さん。…詠美さん」

 

座り直した千冬は若干涙目を浮かべながらも覚悟を決めたような表情を浮かべ政宗達の方に顔を向ける。

 

「ウチの弟を…一夏をどうかよろしくお願いします」

 

そう言い千冬は頭を下げた。

 

「ありがとう……!」

 

政宗と詠美も涙を零し、辛い決断をさせた千冬に謝罪と感謝の意を込め深々と頭を下げた。こうして一夏は、織斑一夏から土方一夏へとなった。




次回予告
一夏が土方家の子になってはや数年。色んな出来事がありながらも、剣術を磨く一夏。ある日、千冬に昨年優勝経験があるモンドグロッソにまた出場することが決まったと知らされる。昨年行けなかった一夏はその大会に行くことにした。

次回
モンドグロッソ


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5話

一夏が土方姓を名乗る様になってからはや数日が経ったある日、一夏は友人と共に帰宅していた。

 

「それでさぁ「おい、一夏!」 ん? なんだ篠ノ之か。なんか用か?」

 

道を塞ぐように剣道着を着た箒が立っており、一夏と友人は怪訝そうな顔を浮かべながら首を傾げていた。

 

「お前、なんで千冬さんと同じ篠ノ之流を習いに来ん! 千冬さんの弟なら篠ノ之流を学ぶべきだろうが!」

 

そう怒鳴り出す箒。それを聞いた一夏と友人は何を言ってるんだコイツと言った、表情を浮かべていると一夏達の後ろから千冬がやって来た。

 

「おぉ、一夏。何をやっているんだこんなところで?」

 

「あ、姉ちゃんおひさ。あれが邪魔して帰れないんだ」

 

そう言い箒に指さす一夏に千冬は鋭い視線を箒へと向ける。

 

「箒、私の弟に一体何の用だ?」

 

「千冬さん! 貴女からも言ってください! こいつには篠ノ之流が「流派を決めるのは本人だ。私でもないし、お前でもない」で、ですが一夏は千冬さんの―――」

 

「箒」

 

箒が一夏は千冬の弟と言おうとした瞬間、千冬は殺気を出し箒を睨む。睨まれた箒は蛇に睨まれたカエルの様に恐怖から体が硬直し、黙り込む。

 

「こいつは確かに私の弟だ。だが私の弟だからと、そんな理由で篠ノ之流に引き込もうとするな!」

 

千冬がそう怒鳴ると箒は項垂れ、拳を震わす。

 

「じゃあ、俺達帰るわ」

 

「千冬さん、失礼します」

 

一夏は流石、姉ちゃんと思いながら帰路へと着こうとする一夏と友人。

 

「ん。だったら私も一緒に帰ろう。どうせ途中まで一緒だからな」

 

そう言い千冬は一夏達に混ざって歩き出す。残された箒は「何故だ…。何故なんだ…一夏」と呟きながら佇んでいた。

 

 

それから暫くして箒は、表向きは家庭の事情で実際は政府の要人保護プログラムによって転校を余儀なくされた。

 

 

箒が引っ越して暫くして一人の転入生がやって来た。

 

「凰鈴音です。お父さんの仕事で、日本来ました。日本語、まだ上手じゃないです。よ、よろしくお願いします」

 

そう言ってツインテールの小柄な少女、鈴はお辞儀をする。

 

「はい、では皆さん。今日から新しく入られた凰さんと仲良くしてあげて下さいね」

 

担任はそう言うと、クラスの生徒達ははぁーいと答えた。

 

新しく転入してきた鈴は慣れない日本語に四苦八苦しながらも女子友達などから慕わられて、困ると言ったことは無かったが、ある日隣クラスの男子3人組がやって来た。その3人は学校の中でもちょっと有名な虐めグループだった。

3人は真っ直ぐ鈴の元へ来た。

 

「おい、お前か最近入って来た転校生って?」

 

「え? う、うん。わ、私です」

 

鈴は少し怯えた表情で言うと3人はニンマリとした表情を浮かべる。

 

「へぇ~、お前か。中国から来たパンダって」

 

「ぱ、パンダじゃない…」

 

「パンダだろ? だってリンリンってパンダの名前じゃん」

 

3人はそう言い鈴を苛めだした。周りにいたクラスメイト達は助けたくても、虐めグループの一人が空手を習っているのだ。その為報復が怖くてなかなか言い出せなかったのだ。

すると、教室の後ろから鞄を背負った一夏が入って来た。

 

「おはよぉ~」

 

そう言いながら教室に入って来た一夏はそのまま自分の席へと座ろうと向かう。だが、運悪く一夏の席は鈴の隣だった。

向かう途中、鈴の周りにいた虐めグループが邪魔で一夏は席に座れず、一人に声を掛けた。

 

「あのさ、其処邪魔なんだけど」

 

「あ? 知らねぇよ。 向こうでチャイムが鳴るまで立ってたら?」

 

と、嘲笑いながら言われ一夏は不機嫌な顔を浮かべる。それを見た空手を習っている虐めグループのリーダーが一夏に詰め寄った。

 

「おい、何だよその顔は?」

 

「別に。さっさと退かねぇから、うぜぇと思っただけだ」

 

そう淡々と一夏が言うと、リーダーの男子が生意気な奴だと拳を振り上げた。

 

「生意気な野郎だなぁ、おい!」

 

そう言い振り上げた拳を振り下ろす男子。だが、その拳は空振り、逆に一夏の拳が男子の腹に一発入れられリーダー格は「ぐうぇ!??」と、蛙の潰れた様な声をあげ膝から崩れ落ちた。

 

「殴り掛かってくるという事は、殴られる覚悟があるからやったんだろ? どうなの?」

 

と、一夏は蹲っている男子に聞くが男子はお腹に入れられたパンチが痛く、まともに声を出せずにいた。

そして一夏は蹲っている男子から目線を外し、残りの2人に目を向ける。

 

「…そっちはどうする? こいつの仇討でもする?」

 

そう聞くと、2人は顔を青くしながら首を激しく横に振る。

 

「じゃあさぁ、さっさと自分達のクラスに帰ってくんない? 俺ワイワイと楽しい喧騒なら好きだけど、お前等みたいな奴らが騒いでいるのだけは嫌いなんだ」

 

そう言うと、2人は「ご、ごめんなさぁい!」と謝りながら、蹲っている男子を引き摺って教室から出て行った。3人が出て行った後、一夏は自分の席に座り鞄から教科書からノートを取り出し机の中へと仕舞う。クラスメイト達は、先ほどの光景に唖然となっていたがすぐに我に返り何人かは談笑に戻り、何人かは「さすが、一夏!」と肩を叩き、褒めていた。

そして教師がやって来て朝礼が行われた。朝礼が終わり、授業が始まるまでのトイレ休憩の時間、一夏は自分の席で本を読んでいると、隣の席の鈴が照れた表情で「あ、あの!」と声を掛けてきた。

 

「なに?」

 

「あの、さっき助けてくれて、ありがとう」

 

「別にお礼を言われるような事はしてないぞ」

 

「で、でもお礼、言いたい。あ、ありがとう」

 

鈴は慣れない日本語で、お礼を述べると一夏は「…どういたしまして」と言って顔を本へと戻した。

 

 

それから月日は経ち、鈴は四苦八苦していた日本語に慣れ始めた。そして友達が多く出来る中、特に親しかったのは、五反田弾と一夏の2人。そして中学に上がった頃同じく仲良くなった御手洗数馬だ。

4人は特に仲がよく、共に遊ぶことが多かった。だが、中学2年の頃突然別れが訪れた。

 

「引っ越し? 何でまた急に?」

 

一夏達は溜まり場の様になっている弾の部屋で、鈴が突如引っ越す話を聞かされた。

 

「……なんかお母さんのお父さん、つまり私のお爺ちゃんがなんか危篤だから帰るって事になったの。で、お母さんだけで良いと思ったんだけど、お爺ちゃんが営んでいる道場やら何やらがあるから、お父さんも一緒に帰る事になって結局家族全員で戻ることになったのよ」

 

「そうか……。出発は何時なんだ?」

 

「早くて2週間後だって」

 

鈴は落ち込んだ表情でそう伝え、一夏達も若干落ち込んだ表情を浮かべた。その後何もすることなくお開きとなった。それから日が経ち2週間後、一夏達は今空港のロビーに来ていた。3人の前にはキャリーケースを持った鈴が居た。

 

「それじゃあ、そろそろ行くね」

 

「おう。向こうでも頑張れよ」

 

「偶にはこっちに来て、遊ぼうな」

 

「元気でやれよ」

 

弾、数馬、一夏の三人からの言葉に鈴は涙をこらえながらうん,うん。と頷く。

そして飛行機の搭乗時間が差し迫った。

一夏達は飛行機がよく見える展望デッキへと行こうとすると、鈴は一夏だけを呼び止めた。

 

「なんだ?」

 

「あの、その、何時か、…私の『お知らせします。JOLカナダ行きの743便は第二ゲートになります。御早めの登場をお願いいたします』……」

 

「ん? わりぃけど、もう一回言ってくれないか?」

 

鈴が何かを言おうとした瞬間にアナウンスが入り、一夏は鈴が何を言っているのかよく聞こえなかった。

 

「……えっと、また私が日本に帰ってきたら遊ぼうねって言ったの」

 

「おう。また日本に来るときは連絡くれよ」

 

そう言って一夏は弾達が向かった展望デッキへと向かった。一人残った鈴は少し悲しそうな顔を浮かべるが、持ち前の明るさを振るい出し搭乗口へと向かった。

 

そして鈴は中国へと帰って行った。

 

 

鈴が中国に帰ってから一年が経った。一夏は中学最後の夏休みに道場で素振りで行っていた。

 

「……248、……249、……250!」

 

目標回数を振り終え、一夏は木刀を降ろしふぅ~、と息を吐き壁にもたれながら水分補給を行う。道場にはイチカ以外に人は居らず、皆夏休みを満喫しに休んでいるのだ。

すると道場の入り口に千冬が汗を拭きながらやって来た。

 

「久しぶりだな、一夏」

 

「ん? あ、姉ちゃん。彼氏が出来たから報告に来たの?」

 

そう言うと、千冬はザクッと胸に何かが刺さった感覚に襲われた。

 

「な、なんでそんなことを聞く?」

 

「だって、最近やっとまともな料理が出来るようになったんだろ? 母さんが褒めてたよ。最初の頃より結構成長しているって」

 

そう言われ千冬はよしっ!と心の中でガッツポーズを作っていた。

 

「そ、そうか。だがまだ出来とらん。って、本題はそれじゃない」

 

「ん、本題?」

 

一夏は千冬の口から出た本題と言う言葉に首を傾げる。

 

「実は今年のモンド・グロッソにまた出場が決まってな。それで、前回お前が来れなかったから今年はどうかと思って来たんだ」

 

「あ、もうそんな年なんだ」

 

一夏はそう言いながらお茶を口にする。前回、つまり第1回のモンド・グロッソでは一夏は小学校6年で、その時は学校の修学旅行の為行けなかったのだ。そして今年は夏休み期間に行われるという事で、一夏も行ける。

 

「で、どうだ? 来るか?」

 

「行くよ。道場に来ても誰も来ないしね」

 

「沖田はどうした?」

 

「沖田さんなら、今熱海でゆっくりしてるってさ」

 

そう言い一夏はスマホを取り出し、通話アプリ『LANE』の画面を見せる。其処には熱海だと思われる海辺の砂浜で寝っ転がりながら撮った写真と『熱海サイコぉー!』と書かれた文面が送られていた。

 

「……あいつ、まさか一人旅か?」

 

「一人? いや、4人くらいと行くって言ってたよ」

 

そう言うと千冬は4人!?と驚き、何故かショックを受けたような顔を浮かべた。

 

「そ、それは女性も入っているのか?」

 

「? いや、男だけの旅って言ってたよ」

 

「そ、そうか」

 

千冬は一夏からの返答に少し安堵した表情を浮かべた。

 

「どうしたん?」

 

「い、いや何でもないぞ! 明後日迎えに来るから2,3日分の服とか退屈しのぎ用の物を用意しておけよ」

 

「分かった」

 

それから2日後一夏はドイツへと飛び立った。




次回予告
モンド・グロッソへと来た一夏。姉を応援していると突如謎の組織に誘拐される。
そして小部屋へと監禁されると、突然足元に魔法陣が現れ一夏は全く知らない世界へと飛ばされた。

次回
異世界へ


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6話

飛行機に乗って数時間後、ドイツへと到着した一夏と千冬。

 

「それで、大会は何時始まるの?」

 

「明日だ。今日は特に何もないから私が取ったホテルに連れて行く。明日私は迎えに行けないから、私の後輩を迎えに行かせる」

 

「あいよぉ」

 

そう言い2人は空港近くに停まっていたタクシーに乗り込みホテルへと向かう。

翌日一夏は部屋で着替えと食事を終え、部屋から出てロビーへと向かうと緑髪の日本人女性が立っていた。

 

「すいません」

 

「え、あっ! えっと、君が織斑先輩が言っていた一夏君ですか?」

 

「えぇそうです」

 

「そ、そうでしたか! あ、私織斑先輩の後輩に当たります山田真耶です! 先輩とは同じ大学を出て教員研修でも同じになって「あ~はいはい。姉ちゃんとの付き合いとか、そんなのはいいので大会会場に連れて行ってもらってもいいですか?」わぁ~す、すいません! それじゃあ此方にどうぞ!」

 

照れ顔を浮かべた真耶の案内で一夏は真耶が用意した車へと乗り込み大会会場へと向かった。

 

大会会場には数十分程で到着し、一夏は建物内へと入り奥へと行くと日本代表のジャケットを着た千冬が現れた。

 

「来たか、一夏」

 

「おう。で、姉ちゃんの試合の時間は何時なの?」

 

「私は第1ブロックだから、すぐだ。ほら、こっちだ」

 

そう言われ一夏は千冬の後に続き中へと入って行く。そして選手家族専用の個室ルームへと連れて来られる。

 

「選手の家族それぞれに個室の観戦ルームが設けられているらしくてな。で、此処は日本代表の私の家族、つまりお前の観戦ルームだ。飲み物とか軽食が其処の棚に入っているから自由に食べていいぞ」

 

「へぇ~、至れり尽くせりなんだな」

 

「そうだな。それじゃあ私は試合の準備があるから行くな」

 

「ん。頑張れよぉ」

 

軽~い感じの応援を受けながら千冬は観戦室から出て行く。

それから時間が経ち、試合が開始された。

どの国も白熱した戦いを見せ、観客達をおおいに賑やかせた。特に賑やかせたのは第1回の大会を優勝した千冬だった。近接戦を得意としている千冬は、一気に間合いを詰め反撃を与えることなく倒していく。多くの国はまた日本の勝ちかと思い、自国の代表を応援する声を強くする。

そして遂に決勝戦となり、残ったのは日本とカナダだった。

 

「流石姉ちゃんだなぁ。……さて、次は決勝だし飯でも食うか」

 

そう言い棚の中に入っている食べ物に手を付けた。1口口にした瞬間一夏はその食べ物の異変に気付いた。

 

「チッ! ……食べ物位、持ってくりゃ、よかっ・・・た」

 

そう言いバタンと倒れ込み、寝息を立てる一夏。すると扉が開き数人の男達が一夏を袋へと詰め込み部屋から出て行った。

 

「……うぅ~ん、ん? 此処何処だ?」

 

目を覚まし開口一番一夏は自身が置かれている状況を確認しようと、辺りを見渡す。周囲には窓等無く、薄暗いコンクリートの部屋で机が一つだけあり、その上には自身のスマホが置いてあった。そして自身の体は椅子に座らせられ、縄で縛られていた。

 

「ふぅ~ん。まぁ、目的は姉貴の優勝妨害かな?」

 

一夏はそんな予想を呟きながら、縛っている縄をどうしようと考えながら使えそうな物を探す。だが手近な所に使えそうなものが無く、大人しくしておくか。そう思いジッとする一夏。

 

「まぁ、いいか。多分姉ちゃんの事だ、束姉辺りに頼んでるだろうな」

 

そう思いジッとしていると、突然部屋が赤く光り出す。

 

「おいおい、何だよ!」

 

そう思い足元を見ると、漫画で見る様な魔法陣が現れていた。咄嗟に一夏はズリズリと音が立つのを気にせず、机の方へと近づき机の上に置いてあったスマホを背中に回っている手で必死に取ろうとする。

 

「あと、少し!」

 

そう言い必死に伸ばし、遂にスマホを取ったと同時に目をくらむような激しい光に包まれる。そして光が止むと其処には一夏の姿は無かった。

 

突然の光に一時的に目が見えなくなった一夏。暫くして目が元に戻り始め状況を確認しようと辺りを見渡すと、自分が居たコンクリートの部屋ではなく石煉瓦でつくられた内装だった。そして床には赤い絨毯が敷き詰められている。

 

「何処だ此処?」

 

そう呟くと目の前に誰かが立っている事に気付く。其処には頭に猫耳?みたいな物が付いており、下にはホットパンツをはいて、お尻には尻尾?が付いたホワイトプラチナの女性が立っていた。

 

「……誰だお前?」

 

「まずは自分から名乗るもんであろう?」

 

そう言われ自身が縄で囚われている為、素直に従った方が良いかと考え名を名乗った。

 

「……一夏だ」

 

「儂はレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワと言う。お主を此処に召還したのはこの儂じゃ」

 

そうドヤ顔で言われ、一夏は心の中で一瞬殴りたい衝動にかられたが一応命の恩人として感謝した。

 

「そうか、それはどうも。それじゃあ俺を日本帰してくれ」

 

「それは無理じゃ」

 

一夏のお願いを即却下したレオに一夏はオデコに青筋を浮かべながら訳を聞いた。

 

「そりゃ何で?」

 

「お主には儂らが今行っている『戦興業』に参加してもらう」

 

そう言われ一夏は戦興業?と頭に疑問符を浮かべていると、レオは笑みを浮かべつつ戦興業、そしてこの世界について説明を始めた。

一夏が召喚された世界、フロニャルドは国同士で戦争と言う名のスポーツ、戦興業が行われている。この戦興業は戦う国同士の国民がお金を払って参加するもので、勝てば報奨金などが貰える。勿論スポーツなのに剣や弓で戦うこともあるが、戦う場所は戦災守護のフロニャ力と言う物が働いている場所で行われるため、ケガや死んだりすることは無いらしい。

そして一夏を召還した国、ガレット獅子団領は現在ビスコッティと言う国と戦興業を行っている。そんな時ビスコッティ共和国領主のミルヒオーレが勇者を召還し、窮状を打開しようと考えたのだ。

その為レオは同じように勇者を召還しようとその候補を探していたところ、以前星詠みと言う遠い世界などが見れる術を余興で見ていた所、政宗と剣術の訓練を行っていた一夏の姿を思い出し、それで召還したのだ。

 

「―――と言う訳じゃ。分かったか?」

 

レオは理解したか?と確認の為一夏の方を見ると、

 

「くぅ~、かぁ~」

 

と、一夏は寝息を立てながら寝ていた。それを見たレオは顔に怒筋を浮かべ拳骨を作り一夏の頭に叩き落した。

 

「起きんかーーーー!!」

 

「ゴヘッ!??!!」

 

一夏は突然の拳骨に目が覚める。

 

「いってぇ~。本気で殴るかよ!?」

 

「お主、人の話を聞いておったのか?」

 

「あぁ。簡単にまとめれば戦興業は国民の娯楽で、今戦っている相手が勇者って言う物を召還したからこっちも召還する際俺を選んだと。そいう訳だろ。おぉ痛てぇ」

 

なんじゃ、ちゃんと聞いておったのかと言わんばかりの呆れた顔を浮かべる。

 

「で、その戦興業と言うのを終わらせたら日本に帰してくれるのか?」

 

「うむ。約束しよう」

 

そう言われ一夏は(まぁ、今日一日くらいなら問題無いだろ。姉ちゃんに適当な言い訳考えねぇとな)と楽観的に考える。

 

「分かった、参加してやる。その前にこのロープ切ってくれね?」

 

そう言われレオは笑みを浮かべ、近くに居た紫髪の女性に少し顔を向け頷くと、紫髪の女性は短剣を取り出しロープを切る。そして自由になった一夏は落とさずずっと持っていたスマホをポケットに仕舞う。するとレオはある物を一夏の前に差し出す。それは西洋風の剣だった。

 

「なんだこれ?」

 

「神剣エクスマキナだ。わがガレット獅子団の宝剣の一つじゃ」

 

そう言われ一夏は鞘から剣を抜くが、少し嫌そうな顔だった。

 

「西洋タイプの剣って使いづらいんだよな」

 

そう言うと、突然エクスマキナは変形し日本刀と同じような形になった。

 

「へぇ変形できるのか」

 

そう言い試しに構えて振ってみる。日本刀の様になったエクスマキナは一夏の手にしっかりとなじむような感じで一夏は良い刀だと褒め、鞘に仕舞った。

 

「さて、それじゃあ先にお主の服装を換えよう。その格好じゃあ動きずらいだろ?」

 

そう言われ一夏は自身の今の格好を見る。動きやすい半袖のミリタリージャケットに下はジーンズで、靴は動きやすいスニーカーだった。

 

「別に問題無いが?」

 

「いや、言い方を変えよう。その格好は勇者として恰好が合わん。ビオレ、例の物を!」

 

レオがそう言うとビオレと呼ばれた女性が服を持って来る。

 

「勇者様、此方をどうぞ」

 

そう言われ一夏は、呼び方如何にかならないのか。と思いつつ服を受け取る。受け取った服装は黒を基調とした制服の様な物だった

一夏はある漫画のマヨラー達が着ていた物と似てるな。と思いつつ服を着替えに仕切りの方へと向かった。着替え終えた一夏を見たレオはうむ。と納得したような表情を浮かべていた。

 

「よしそれじゃあ今から戦地へと向かってもらう」

 

一夏に付いてくるよう言いレオと一緒に一夏は外へと行くと、某ゲームに登場してきそうな鳥の様な生物が居た。

 

「こいつはセルクルと言う生き物じゃ。ほれ、儂の愛騎トーマに乗って行くぞ」

 

そう言いレオは眼帯をした黒いセルクルに跨り、手を差し出す。一夏は歩くより早く行けるかと割り切り手を掴みレオの後ろに跨る。

 

「よし、それじゃあ行くぞ!」

 

そう言いレオはトーマを前線へと走らせた。




次回予告
レオの愛騎に乗せられ、戦地へと向かう一夏。道中でルールをレオから聞き、戦地へ到着して早々に実力を測る為、敵と対峙することに。そしてビスコッティ側の勇者と対峙する。

次回
勇者対勇者


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7話

レオの愛騎、トーマに乗せてもらいながら一夏は戦地へと向かっていた。

 

「さて、一夏! 今のうちに戦興業のルールを教えておくぞ!」

 

「……なんで、城で言わなかったんだよ?」

 

一夏は何故今になってルールを言うのか、じぃーとその背を見つめる。レオはバツが悪そうに口を尖らせる。

 

「そ、その様な事気にするな! さて、ルールだが簡単だ。お主が持っている武器で敵を倒せばいいし、手の甲にこの様に」

 

レオは自身の右手の甲を見せると、淡い緑色の紋章が現れた。

 

「紋章を出して相手の頭か背中を暫し触れれば、その者を倒したことに出来る。因みに触れて倒した場合は報酬が高い。勿論危険だがな。それと触れて倒すことが出来るのは一般の兵だけじゃ。戦士長や騎士などは武器で倒すしかない」

 

「ふぅ~ん。で、紋章って念じたら出るのか?」

 

「そうじゃ。紋章は段階があっての、1段階目は手の甲に。2段階目には背中に。そして3段階目には背中に大きく出る。勿論段階によって隙が大きいからここぞというときに使え」

 

「へぇ~」

 

レオの説明を聞きながら一夏は自身の利き手である右手の甲に念じると白い紋章が現れた。

 

「姫さんのは緑で、俺は白か」

 

「姫と呼ぶな、閣下と呼べ! 輝力の色はそれぞれ違うからのぅ。おっと、そろそろ前線に近付いてきたの」

 

レオはそう言うと一夏は辺りを見渡す。周辺には猫や犬の顔が付いた玉のような物が転がっていた

 

「何あれ?」

 

「ん? あぁ、あれか。あれは猫玉、であっちは犬玉じゃ。あれは打ち倒された一般の兵士達じゃ。倒されたらあぁやって猫玉になるが、騎士や戦士長の場合は鎧が壊れる」

 

「怪我とかしないのか?」

 

「戦興業が行われる場所はフロニャ力と呼ばれる力が働いておるから、一般の者達はあぁなる。だから怪我とかは心配せんでもいいぞ」

 

そう言われ一夏はふぅ~んと返すと突然上空に映像が現れた。

 

『さぁ、皆様! 現在前線へとガレット獅子団領国の王、レオ陛下。そしてガレット獅子団領国に召還された勇者が現在前線へと向け移動しています! ビオレさん、彼の勇者イチカは、どのような人物なんですか?』

 

『そうですね、一目見た瞬間に思ったのは余り隙を見せないお方。でしょうか? そして自らの武に誇りを持っている。そうも感じられました』

 

『なるほど。よほど自身の武に自身があるんですね? ではどのような戦いになるのか楽しみです!』

 

空に突然放送された映像に、一夏は茫然と言った表情を浮かべていた。

 

「なんで、こうも大胆に知らされるんだよ」

 

「観客もおおいに賑やかせるためじゃ。ほれ、此処からはお主一人で行って参れ」

 

そう言いトーマを止め、一夏を降ろすレオ。

 

「別にいいが、あの川を越えればいいのか?」

 

そう言い一夏が見た先には、川を挟んで岸でせめぎ合う兵士達がいた。

 

「うむ、あの前線を突破しゴールにいけば儂らの勝ちじゃ。では、お主の力とくと見せてもらうぞ」

 

そう言われ一夏はまぁ、いっか。と軽い気持ちで考え前線へと向かっていく。

前線まで到着すると幾つかのアスレチックが置かれ、一般兵達は其処を攻めたり守ったりと、一進一退を繰り返していた。

 

「さて、どう行こっかなぁ」

 

そう考えていると、武器を持った犬耳の一般兵達が一夏へと迫った。

 

「取ったぁ、あれ?」

 

「……何処行った?」

 

2人は目の前にいた一夏が突然消えたことに驚き辺りを見渡そうとした瞬間

 

「ふぎゃん!」

 

「あぎゃん!」

 

と獣玉にされた。二人の背後にいたのは両手に紋章を出した一夏だった。

 

「ふむ、ぼぉ~としてるとあぶねぇな。まぁ取り合えず前に行くか」

 

そう言い刀を構えながら前へと進む。向かってくる兵士達の剣を躱したり、受け止めての流し斬りをしたり次々に前へと進んでいくと、突如金髪の少年が目の前に現れた。

 

「ん? もしかして君がビスコッティって呼ばれる国に呼ばれた勇者?」

 

「あ、はい! シンクと言います」

 

「そっか、俺は一夏。君って15歳?」

 

「いえ、13です。え、もしかして一夏さん15歳なんですか?」

 

シンクが驚いた顔を浮かべながら、一夏に問返す。

 

「あ、別にため口とかで良いからな。あまり畏まった口調で話しかけられると気疲れするし」

 

「分かりました! それじゃあ」

 

そう言いシンクは自身の手に持っている棒を構える。一夏も同じく刀を構えた。

 

「ビスコッティ共和国、勇者シンク!」

 

「ガレット獅子団領国、勇者一夏!」

 

「「いきます!/推して参る!」」

 

そう叫び、2人は自身の武器をぶつけ合った。




次回予告
ぶつかり合う一夏とシンク。そこにビスコッティ側の応援がやって来て万事休す。と、思われたがレオの攻撃が邪魔をした。そしてそのままレオはゴールへと目指す。一夏は勝負あったと思い先に帰る。すると帰ってきた一夏の前に困り顔を浮かべたビオレが立っていた。

次回
勇者対勇者! 後編~おいおい、仲間事吹き飛ばす必要があったのかよ?~


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8話

お久しぶりでございます。
投稿が遅れた理由なんですが、台風やら仕事やらに追われ出来ませんでした!

まっことすんません‼

それと久しぶりにDOGDAYSを見たんですが、最初の戦でレオが紋章技使うの大分後だと思い出させられたので、前話の予告を少し変更しました。


では、本編をどうぞ


互いの武器をぶつけ合いながら一夏とシンクは一進一退を繰り返していた。

シンクの動きを躱したり受け止めたりしていた一夏はニッと笑みを浮かべた。

 

「いい動きだ! その棒術、何処で身に付けたッ?」

 

「とッ! 昔知り合いに教えてもらいました!」

 

問いを返すシンクは横からの剣先をバック転で避け地面に着く。周りにいた兵士達は勇者たちの戦いを見ながら剣を振るう。すると緑の短髪の女性が突如一夏の横から斬りかかってくる。一夏は殺気と気配を感じ取り素早く刀を縦にし攻撃を弾く。

 

「へぇ、短剣。しかも二刀流か」

 

「チッ! ごった返しているのに気配を感じ取ったのか」

 

「あ、エクレ! あっちはもういいの?」

 

シンクはそう言いエクレと呼ばれた緑髪の少女はフンッと鼻を鳴らす。

 

「当たり前だ。私を誰だと思っているんだ? それよりこいつがガレット側の勇者なのか?」

 

警戒心を露にするエクレは両手の短剣を構える。

 

「うん、凄く強いよ」

 

「名前がまだだったな。ガレット側に召還された一夏だ」

 

「ビスコッティ共和国、ミルヒオーレ様直属部隊隊長のエクレール・マルティノッジだ」

 

互いに挨拶を終え武器を構えながら警戒する。するとエクレは何かに気付いたのか咄嗟に勇者の前に立ち両手剣をクロスすると同時に光の光弾が命中し爆発した。

 

「…いきなり矢射つかよ、姫さん」

 

そう呟きながら背後に有った崖の上を見上げる一夏。崖の上にはトーマに跨り弓を構えたレオが居た。

 

「姫と呼ぶな、閣下と呼べ!」

 

口を尖らせながらレオはそう注意し、次にシンク達の方に顔を向けた。

 

「我が名はレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ。ガレット獅子団の王で百獣王の騎士じゃ!」

 

そう叫ぶと同時に背後に紋章がでかでかと現れた。

 

「……派手にやるなぁ、姫さん」

 

呆れた目で眺めていると、突如魔法の光弾が一夏の真上に振ってくるがイチカは難なく躱す。

 

「おいおい、俺は味方「姫と呼ぶなと言っておろうが!」はいはい、閣下」

 

注意するのに攻撃するなよ。と思いながら刀を肩に置く。目線はシンク達の方へと向いていた。シンク達はエクレがシンクを覆いかさぶる様に倒れていた。

 

「さて、儂は先に進ませてもらう。一夏来るか?」

 

「いや、もう少し此処に残っているから先に行ってくれ」

 

「そうか、それじゃあ先に進ませて貰うぞ! はいよー‼」

 

トーマの脇腹を少し蹴りゴールへと向け走り出すレオ。

 

「あ、まっ「おい、急に動くな!」そ、それじゃあ退いてよ、エクレ!」

 

2人の言い争いを遠くで見ていた一夏は、面白い奴らだなぁと思いながら刀を鞘へと仕舞う。

 

「さて、お前等。いい加減起き上がったらどうなんだ? その状態を両国の国民達に見せたいって言うなら続けていても良いが」

 

そう言われ二人は自分達の格好が国民達に見られていると気付き、慌てた表情で立ち上がった。

 

「くっ、お前のせいだぞ。ヘボ勇者!」

 

「えっ、僕のせいなの!?」

 

「当たり前だ! お前がぼぉーと突っ立っていなければレオンミシェリ閣下の攻撃を避けられたかもしれなかったんだぞ!」

 

立ち上がった瞬間にまた口論を始める2人に一夏は我慢できずに口から笑みが零れた。

 

「ほれ、口論するのは後にしたらどうだ。アイツを止めに行かないとこの試合うち(ガレット獅子団)の勝ちになっちまうぞ」

 

そう言われエクレとシンクは口論を止め、武器を構える。

 

「確かにそうだ。すぐにお前を倒して閣下を追わないと」

 

「けどそう簡単には通さないんですよね、一夏さん」

 

二人は通せんぼの様に立つ一夏に武器を構え押しとおろうと考えていたが

 

「何ぼぉーとしている。早く追いかけてこい」

 

そう言い一夏はガレット獅子団領の方へと向け歩き出した。

 

「え? 止ないんですか、僕らを?」

 

「止める? もうあの姫さんがゴールしたら試合終了だろ? それに向こうは愛騎に乗って向かった。追い付く頃にはもうゴールされてるだろ」

 

そう言い一夏は勝敗は決してるだろ。と言い戻ろうとすると

 

「いえ、まだ決まってません!」

 

「ん?」

 

一夏はシンクの方に顔を向けると、やる気に満ちた笑みを浮かべていた。

 

「まだ姫様はゴールをされていません。だから追い付いて僕達がそれを阻止します!」

 

その顔をみた一夏はキョトンとした顔を浮かべるも、笑みを浮かべた。

 

(最後の最後まで諦めない。いい心意気だ)「そうか、だったら早く追え。ゴールされちまうぞ」

 

そう言い後ろ手で手を振りながら歩き出す。シンクは、はい!と返事をしエクレと共にレオに追い付くべく走り出した。

 

「面白い奴だったなぁ。また何処かで会ってみたぜ」

 

そう思い今日一日で良い体験が出来たと思いながら歩き出して数時間後、城に到着し中へと入るとビオレが困った表情を浮かべながら黒髪の小さな少女から話を聞いていた。

 

「ほ、本当なの? そ、それじゃあ」

 

「非情に不味い。恐らく閣下も知らない」

 

「何話してんだ?」

 

一夏は困った顔で話し合っている二人に声を掛けると、肩をビクッと跳ね上げ一夏の方に振り向く。二人は一夏をみて居た堪れない顔を浮かべ、首を傾げる一夏。

 

「なんだよ?」

 

「じ、実は」

 

「ノワ、私が話すわ」

 

そう言いビオレが前に出る。

 

「その、この世界から勇者様を返す方法が、実は無い様なんです」

 

ビオレから出た言葉に、一夏は茫然とした表情を浮かべ

 

「はぁ?」

 

と口からこぼれた。




次回予告
よぉ、一夏だ。何故かいきなり(のんのんびより)から次回予告をするよう任された。
さて、次回なんだがどうやら俺は元の世界に帰ることが出来ないらしい。
姫さん、ちょっとO☆HA☆NA☆SIしようぜ。大丈夫、でっかいビームとか極太のビームサーベルとか出さないから。暫く腫れが引かない程度で済ませるから。(黒笑)

次回
帰宅不可?! 始まる異世界生活!


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9話

夕日が照らされる道をレオはトーマに跨ったまま城へと帰路についていた。行きとは違いその姿はラフな格好となっていた。彼女の防具と上着はシンクとエクレの二人によって破壊されたのだ。

 

「しっかし本当に面白い奴だった。久しぶりに熱くなった」

 

そう言い城へと着いたレオはトーマから降りると、ビオレが慌てた表情でレオの元に向かっていた。

 

「レオ様し、至急ご報告しないといけない事が……」

 

「報告? なんじゃ、それは「おい、姫さん」ムッ! 一夏、我の事は閣下と…あれほど…。お、お主何か怒っておらんか?」

 

また姫さんと呼んだ一夏に注意しようと顔を向けたレオ。だがその顔に笑みなどは無く、只冷たい視線だけがレオを見据えていた。

 

「ん~、そう見えるか? まぁその通りだが」

 

そう言いながらゆっくりと一夏はレオの方に近付く。レオは一夏から滲み出る氣に若干の焦りを感じ後ずさる。

 

「ゆ、勇者様! この度の事は我々がしっかりと調べていなかったことが原因なのは重々承知しております! どうか、どうか怒りをお鎮め下さい!」

 

レオを守る様にビオレは一夏の前に立つ。

 

「……そこをどけ」

 

「どけません! お願いです、怒りをお鎮め下さい!」

 

一夏の鋭い視線を受けながらもビオレは震える足で立ちはだかる。

しばしの沈黙が流れた後、一夏ははぁ~。と息を吐き氣をおさめた。

 

「分かったよ」

 

そう言われビオレは安心した表情を浮かべあげていた腕を降ろした。だが次の瞬間

 

「…甘い」

 

その一言が呟かれたと同時に頬を風が受け気付いたら、レオの前には一夏が移動していた。

 

(抜けられた!?)

 

ビオレは不味いと直感しレオを守ろうと動く。

 

「な、何を!?」

 

「覚悟しろ」

 

 

 

 

 

「ひぎゃーーーーー!?」

 

城中にレオの叫び声が響き渡り、城の中にいた者達は慌ててその悲鳴がした場所へ向かった。

 

「ヘ、陛下! 如何なされた!」

 

「姉貴! どうした!」

 

「レオ様!」

 

と続々と門の所に集結すると其処には

 

「てめぇ~、帰る方法が無いってどう言う事だぁ? あぁ?」

 

ふぃたい、ふぃたい! やふぇろぉ!(痛い、痛い! 止めろ!)

 

「止める訳ないだろうが、このあほんだらぁ!」

 

ふぃげれる! ふぃげれるぅ!(千切れる! 千切れるぅ!)

 

「あわわぁ、お、お止め下さい勇者様ぁ!」

 

門に集結した者達が見たのは、レオの両頬を目一杯ひっぱる一夏と、レオを助けようと一夏を引き剥がそうとするビオレの姿が其処に合った。

全員困惑した表情を浮かべている中、レオと同じ髪色をした少年が一夏に近付く。

 

「えっと、何やってるんだ?」

 

「ん? 誰だ?」

 

「ガウル・ガレット・デ・ロワだ。アンタが今頬を引っ張っている奴は俺の姉だ」

 

「そうか、俺は一夏だ。ちょっと待っててくれ、こいつにもう少しお説教したら訳を話すから」

 

「ふぎゃ~~~~~~!!!??」

 

「い、今すぐお放し下さいぃ~!」

 

暫く門前ではレオの悲鳴が鳴り響くのであった。

 

 

 

 

それから暫くして漸く開放されたレオは赤くなった頬に涙目になりながら摩っていた。

 

「うぅぅう~、い、いきなり何をするのじゃ一夏!」

 

「そりゃあ、お前が嘘をついたからに決まってるだろうが」

 

レオの問いに未だに不機嫌な表情で答える一夏。

 

「嘘? 姉貴が嘘つくなんてそんな訳が「いえ、恐らくレオ様も知らなかった事が…」ん? なんだよ、その知らなかった事って」

 

ガウルの問いにビオレは皆に説明できるように傍に居た黒髪の猫耳少女、ノワがその訳を語り出した。

 

「レオ様、勇者を召還した方法は御存じなんですよね?」

 

「無論じゃ。召喚方法が書かれた書物を読んで、それで一夏を呼んだんじゃ」

 

「では、その書物に帰し方は書いてありましたか?」

 

「ん? いや、書いておらんかった。しかし、2冊で一つの書物であったからな。もう片方の書物に帰る方法があるはずじゃ。心配せんでも「無かったんです」な、なんじゃと?」

 

レオは心配せんでも良い。そう言おうとしたのを遮る様にノワは懐から一冊の書物を出す。

 

「レオ様が言われている書物は此方の事ですよね?」

 

「う、うむ。確かにそれじゃ」

 

「この書物、残念ながら保護処理が上手くされていなかったらしく、中身が既に…」

 

そう言いノワは本を開けると穴あきの上にボロボロなっているページが現れ、更にシミもひろく広がっており解読が出来そうでは無かった。捲って行くだけでボロボロと紙がボロボロと零れている事からノワの言う通り保護処理が上手くされてい無い事がうかがえた。

 

「「「……」」」

 

全員唖然となっている中、一夏はジト目でレオの方に目を向けていた。

 

「どうすんだよ?」

 

「……むぅううぅぅ」

 

一夏の問いに何も返せず、只唸る声だけが零れるレオ。一夏ははぁ。とため息を吐いてビオレの方に顔を向けた。

 

「なぁちょっといいか?」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

「俺が帰れないという事は、向こうに居るシンクも帰れないって事だよな?」

 

「えっと、そうですね。恐らく向こうも帰れてないと思います。それが何か?」

 

「いや、こっちも帰れないって言いに行こうかなと思ってな」

 

一夏はそう言うとビオレは少し考える素振りを見せる。

 

「それはいいかもしれませんが、此処から歩いて行かれますと夜になってしまいます。ですから「だったら一夏用のセルクルを用意すればいいんじゃないのか?」ガウル様?」

 

「暫く此処に居るなら足があった方が良いだろ。そうだろ、姉貴」

 

ガウルの言いにレオは暫し目を瞑り考え込む。そして

 

「…分かった。一夏用のセルクルを用意しよう。それと此度の一件は儂の不始末じゃ。一夏、責任をもって必ずお主を元に居た世界に帰す。ガレット獅子団の王として約束する」

 

レオの真剣な表情での宣誓に、一夏も暫しレオの顔を見つめる。

 

「……分かった。その約束、ちゃんと果たしてくれよ」

 

「うむ、儂に二言は無い」

 

一夏が差し出した手をレオも同じく手を差し出して握手を交わした。




次回予告
ビオレです。勇者様こと一夏様のセルクルを用意して、ビスコッティの勇者様に会いに行かれました。
はぁ~、一夏様を本当に帰す方法はあるのでしょうか。
あら、レオ様と一夏様? こんな夜に何処に行かれるんでしょう?
え? アポなし宣戦布告? ミルヒ様誘拐!?

次回
アポなし宣戦布告勃発!~あの、阿呆共がぁ!~


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10話

門前での騒動から暫し経ち、一夏とレオそしてビオレは城の裏手にあるセルクルの厩舎へと来ていた。

 

「此処には色々なセルクルが居る。一夏、この中からお主の相棒になりそうなセルクルを見つけるがいいぞ」

 

レオにそう言われ一夏は厩舎の中を進んでいくと、一体だけ周りから離されているセルクルが居た。

 

「こいつは?」

 

「そやつは止めておけ。気性が荒くてのぉ、幾人の者がこやつに乗ろうとしたが全員振り落とされておる」

 

レオの説明を受けながら一夏はふぅ~ん。と零しながらセルクルを見つめる。離されているセルクルは右目に眼帯をしており開いている左目を鋭くさせ一夏を見つめていた。

 

「……」

 

暫しじっと見つめ合っていると

 

「こいつにするわ」

 

「なっ!? お主、儂の話を聞いておったのか?」

 

「あぁ聞いていたさ。けど、こいつでいい」

 

そう言って一夏はセルクルに手を差し出す。レオとビオレは噛まれると思い身構える。

だが2人の予想は反し、セルクルはそっと額を一夏の手に当てた。

その行動に二人は驚きを隠せなかった。今まで誰も懐かなかったセルクルが一夏に懐いた。すなわち主として認めたという事になるのだ。

 

「お、驚いたのぉ。まさかこやつがお主を認めるとは…」

 

「一体、何をされたんですか?」

 

「ん? いや、ただ何となくこいつの目を見つめていた。それだけだが?」

 

そう言われ2人は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「さて、お前に名前を付けないとな」

 

そう言い一夏は腕を組み目を瞑りながら考え込む。そして暫くして目を開けた。

 

「よし、お前は今日からサーペント()だ」

 

そう言うと、サーペントは首を縦に振った。

 

そしてセルクル用の鞍をサーペントに装着させ一夏は城の出口へと向かう。

 

「では一夏様、かならず夕刻までにはお戻りください。夜になりますと、盗賊が現れる危険がありますので」

 

「了解了解。それじゃあ行ってくる」

 

ビオレの忠告を聞き一夏は城門を抜けビスコッティへと向け出発した。サーペントの背に乗って揺られる事数時間後、ガレットにある城とは違い白いレンガ造りの城が現れた。

 

「此処がビスコッティの城か?」

 

そう呟くと一人の人物が近付いてきた。

 

「おや、ガレット獅子団の勇者様ではありませんか。何か御用でしょうか?」

 

「ん? あぁ、シンクに少し用があってな。ところでアンタは?」

 

「おっと、ご挨拶が遅れて申し訳ない。私はロラン・マルティロッジ、本日あなたと剣を交えたエクレールの兄で、騎士団長を務めております。以後お見知りおきを」

 

「土方一夏だ。それで、シンクは今いるのか?」

 

「いえ、今エクレとリコッタと言う我がビスコッティに所属している研究者と共に召喚台の方に向かいました」

 

召喚台?と一夏は聞いた事が無い単語に首を傾げる。一夏の仕草を見たロランは同じく怪訝そうな顔を浮かべていた。

 

「おや、ご存知ではありませんか? あなたも召喚台から召喚されたのではないのですか?」

 

「俺が目を開けたのは城だった。しかもなんか書物を読みながら儀式的な物を使って召還したみたいだが…」

 

一夏の説明にロランは顎に手を当てながら、そうですか。と難しい表情を浮かべる。

 

「で、シンクはその召喚台って所に行ったんだよな?」

 

「え、えぇ。先ほど来た道の途中にある別れ道を左に曲がって頂き、真っ直ぐ行ったらあります」

 

「そうか、ありがとう」

 

ロランに礼を述べ一夏はサーペントに指示を出して元来た道へと戻って行った。

 

「……シンク殿とは違う方法。ご帰還できる手掛かりになるかもしれませんね」

 

ロランは遠ざかっていく一夏の背を見ながらそう呟くのだった。

 

 

ロランの説明通りに道を進んでいくと台座の様な大きなものが見えて来る。

 

「此処か」

 

台座へと近づきながら辺りを見渡すと、台座の上から声が聞こえ一夏はサーペントから降り台の上へと昇っていく。

 

「お。居た、居た」

 

「あれ、一夏さん。どうして此処に?」

 

「やっぱりお前も帰れなくなった感じか?」

 

「まぁ、そんな感じだ。ところで、そっちに居る子は?」

 

そう言いシンク達の背後にいた背の小さい白衣を着た少女に目を向ける。

 

「初めまして、リコッタ・エルマールと言います! ビスコッティ国立研究学院の主席研究士であります!」

 

「はぁ? 君が主席研究士?」

 

エッヘンと胸を張るリコッタという少女に一夏は怪訝そうな顔を浮かべていた。

 

「えっと、リコは本当に凄い子ですよ。今日やっていた放送もリコが作った装置で放送されていたらしいですよ。それに、僕も元の世界に居る幼馴染に電話することが出来る装置も用意してくれましたし」

 

「ふぅ~ん」

 

一夏は半信半疑ながら自身のスマホを取り出す。

 

「俺も電話を掛けたら繋がるか?」

 

「はい、出来るであります。それにしても、えっと一夏様でよろしかったでありますか?」

 

「そうだが、なんだ?」

 

「勇者様の持っている携帯となんだか形が違うのでありますが、何故でありますか?」

 

「ん? シンク、お前の持ってる携帯ってどんな奴だ?」

 

「えっとこれですけど」

 

そう言ってシンクが一夏に見せたのは折り畳み式の携帯だった。

 

「…マジかよ。未だにガラケー使っている奴が居るなんて珍しいな」

 

「えっ!? 僕の周りは殆んどこの携帯ですよ?」

 

そう言われ一夏はえっ!?と驚いた表情を浮かべる。

 

「……どういう事だ?」

 

「ん~。‼ なるほど、分かったであります!」

 

そう叫びリコがビシッとシンクと一夏に指で指す。

 

「恐らくお二人は、それぞれ別の世界から来た。だからお二人の携帯の形状に違いがあるんだと思うであります!」

 

リコの説明にシンクとイチカは、あぁ~。なるほど。と納得した表情を浮かべた。

 

「それだったら説明が行くか。……一応確認で聞くが、シンクが居た世界では何年だ?」

 

「僕が居た世界は、西暦2011年です」

 

「……俺の所は西暦2065年だ」

 

お互いの世界の西暦を確認し、本当に全然違うんだな。と改めて異世界に驚く2人。

 

 

互いが別々の世界から来たというカルチャーショックを受けつつ、一夏はリコに頼み周波数をスマホに合わせてもらい電話を掛けた。相手は

 

「もしも『いっくん! 今何処にるのぉ!!!!!!』大声で叫ぶな!」

 

相手は束であった。電話の向こうからは荒い鼻息がフンスーフンスーと零れていた。

 

『叫ばずにはいられないよ! ちーちゃんから[クソ政府が一夏を誘拐された事を黙っていやがった。こっちは私が処理しておくから、一夏を頼む]って言われて直ぐにいっくんが監禁されている場所に行ったらいっくんを誘拐した馬鹿共だけで、肝心のいっくんが居なくてもう、束さん気が狂いそうだったんだからねぇ!』

 

「そりゃあ申し訳ないっす。で、姉貴は?」

 

『黙っていた奴ら全員を犬〇家が真っ青になるほどの状態にしたってさぁ』

 

「OK。大体想像できた」

 

コンクリートの床にダイコン畑の様な光景を想像しながら返事を返す一夏。

 

『それでいっくん今何処? 逆探してもエラーが出て見つからないんだけど?』

 

「あぁ~、御免。俺もちょっとよく分かってなくてさぁ。けど無事なのは確か」

 

『ん~? それ本当に大丈夫なのぉ?』

 

「大丈夫、大丈夫。あ、それとちょっと帰りが遅くなるかもしれない」

 

『そう? それと帰りが遅くなるって具体的にどれくらい?』

 

「大体1週間か、2週間くらい?」

 

『分かったぁ。ちーちゃんには暫く私の所で匿っておく。って言っておくよ。けど、ご両親には何て言うの?』

 

「同じ感じかな。姉の友達のところで暫く剣術修行してから帰るって」

 

『分かったぁ。ご両親にはちーちゃんから言っておくよう頼んどくよ』

 

「ありがとう。帰ったら、束姉の好きな人参料理定食作ってやるから」

 

『おっひょぉおおお、そりゃあ楽しみィ! それじゃあまた電話して来てねぇ! ばいびぃ~~!』

 

電話が切れたのを確認した一夏はふぅ~。と息を吐く。

 

「えっと、なんか凄い人と会話されてましたね」

 

「あぁ。あの人ある意味色々凄い人だよ。あぁ~、リコッタだったか? 悪いな、周波数を変更やらなんやらやってくれて」

 

「いえ、私も貴重なデータ収集が出来たので満足であります!」

 

笑顔を浮かべるリコッタに一夏はそうか。と苦笑いを浮かべながら台座の階段を降りて行きサーペントの元に行く。

 

「それじゃあシンク。多分、明日も戦が行われると思うしお前と戦えるの楽しみにしておくぜ」

 

「はい、僕も全力で行きます!」

 

シンクの返答を聞き笑みを浮かべながら一夏はじゃあなと言って召喚台から去って行った。

 

 

 

召喚台から去って暫くすると既に日は傾き始めていた。城へと到着し中へと入るとビオレが一礼して一夏を出迎えた。

 

「お帰りなさいませ、勇者様」

 

「あぁ。……その勇者様、止めてくれないか?」

 

「何故でしょうか?」

 

「勇者って気が俺には無いからな。一夏って普通に呼んでくれ」

 

苦笑い気味にそう告げると、ビオレは首を縦に振った。

 

「分かりました、一夏様」

 

「様も如何にかならないか?」

 

「それは無理な相談です」

 

ビオレに笑顔で拒否された事に、諦めた表情を浮かべそうかい。と返事をしてサーペントを厩舎へと連れて行こうとするとガウル達が何処かへ出掛ける様子だった。

 

「ん? 何処か行くのか?」

 

「おう、ちょっとイベントをな。あ、一夏は休んでていいぜ。俺とこいつらとでやるつもりでいるからよ!」

 

そう言ってガウルはノワ達とガタイの良い鎧の男と共に城を発って行った。

 

「ちぇっ。俺も参加しようかなと思ってたのに」

 

そうブツクサ文句を零しながらサーペントを厩舎へと連れて行った。

 

 

 

厩舎にサーペントを入れた後、城内を歩いているとレオが一人廊下の窓から夜空を眺めていた。

 

「何やってんだ、姫さん」

 

「ムッ、姫と呼ぶなと言っておろうが」

 

「はいはい、すいませんでしたと」

 

そう軽い感じで謝罪を口にする一夏。レオははぁ。と重い息を吐きまた夜空を眺めた。

 

「ただの黄昏ておっただけじゃ。お主に酷いことしたと「ぷっ!」 なっ、お主何が可笑しいんじゃ!」

 

レオの落ち込んだ感じで話そうとしたことが、一夏が元の世界に帰れないと言う事に一夏は思わず吹き出してしまった。

 

「そりゃあ、お前がいきなりそんな話をすれば噴き出すだろ。まぁ、俺くらいだけだと思うけどな」

 

そう言い壁を背にもたれる一夏。

 

「別にお前に怒っちゃいねぇよ。ただ準備をちゃんと出来ていなかった事に対して怒っていただけだ。気にする必要はねぇよ。むしろ感謝してるんだぞ」

 

「感謝じゃと?」

 

レオは突然感謝していると言った一夏に怪訝そうな顔を浮かべながら首を傾げた。

 

「俺が居た世界じゃあ剣術を使った、それも真剣を使った対戦なんて出来なかったから。この世界に来てそれが出来るんだ、俺は嬉しいんだよ」

 

「…そうか」

 

レオは一夏の説明に若干心の中にあった罪悪感が和らいだ感じがした。

 

「そういや、今日の夜イベントがあるんだな」

 

「イベント? いや、もう今日はイベントは無いぞ」

 

一夏が突然思い出したかのように呟いた事にレオは首を傾げながら答えた。

 

「ん? ガウルが今からイベントの準備をしてくるって言って出て行ったんだが。アイツの日にちの間違いか?」

 

そう言うとレオは暫し思案にふけると、何か気付いたのか大きく目を見開き耳をピンと立てた。

 

「ま、まさか、あやつら!」

 

そう言ってレオは一夏を置いてバッと走り出した。一夏は何か面白い事が起きたのか。と思いながらレオの後を追う。

 

「どうしたんだよ? いきなり走り出して」

 

「今日ビスコッティでイベントがあるのを知らんのか!」

 

「お~い。いきなり何の話だぁ?」

 

「兎に角について来い! 説明は行きながら説明する!」

 

「せめていく場所だけ言え!」

 

「ミオン砦じゃ! さっさと行くぞ!」

 

そう言いレオと一夏はセルクルの厩舎へと向かった。その途中突如放送が流れた。

 

『皆様ぁ! 今先程、ガウル様の宣戦布告を勇者シンクが受けましたぁ! 今から行われるイベント、それは<要人誘拐奪還戦!>です! さぁ、勇者シンクは無事にミルヒオーレ様を救出できるのでしょうかぁ!!』

 

その放送を聞いたレオはわなわなと肩を震わせそして

 

「あのぉ、阿呆共がぁ!!!」

 

と大声で叫んだ。




次回予告
一夏だ。何かガウル達が起こした緊急イベントなんだが、どうやら間が悪かったらしい。
まぁ、面白そうだから俺も行くけど。さて、砦に着いたけどなんかすげぇ強そうな剣豪が居るな。姫さん、悪いけどアイツは俺がやらせてもらうぜ!

次回
激戦ミオン砦! 大陸最強の剣豪とくノ一!? ~いざ、参るでござる‼~


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11話

足音を立てながら先を歩きレオの後を追う一夏。

 

「それで、そのミオン砦は此処から遠いのか?」

 

「少しばかりな。兎に角にセルクルで向かうぞ」

 

そう言い厩舎からそれぞれの愛騎を連れ出す。そして城から飛び出し、ミオン砦に向けて走り出した。

 

道中、一夏はレオの方をチラ見すると、レオの表情には怒りの表情を浮かべていた。だがその怒りとは違う感情も若干感じ取っていた。

 

(焦り、か? まぁ、向こうさんの予定も考えずにこんなことしたからかもな。だが、それにしても変な違和感を感じるな)

 

そう思いつつ一夏は試しにとレオに話をかけた。

 

「おい、姫さん。今日、向こうで何かイベントがあったのか?」

 

「ビスコッティは今日は久しぶりの勝利を勝ち取ったのじゃ。だからミルヒの祝勝コンサートが行われるはずだった。だが、阿呆共がそれを知らずに緊急イベントなんぞやりおってからにぃ!」

 

怒りの形相を更にむき出すレオに、一夏はガウル、ご愁傷様。と心の中で静かに合唱するのだった。そして結局その違和感は分からずじまいだった。

 

そうこうしている内に2人はミオン砦に到着し中へと入って行った。そして砦の中央にある広場へと到着した。

 

「さて一夏。儂はあの馬鹿共を探してくる。お主は侵入してくる奴を足止めを頼む」

 

「一緒に探した方が早くないか?」

 

「直ぐに見つかる。だからッ!?」

 

レオは何かを察知し顔をそちらの方に向けると、そこには2人の人物がいた。

 

「……チッ。まさかお主達が出てくるとはな」

 

「えぇ、まぁ。拙者達も客将とはいえ、姫様にお仕えしている為出てくるでござるよ、殿下」

 

月明かりに照らされながら出たのは背の高い、和をイメージした装備をした犬耳の女性と、くノ一の様な恰好をした金髪の狐耳の少女だった。

 

「……姫さん、あの二人は?」

 

「背の高い方はビスコッティに籍を置く自由騎士であり、大陸最強と言われておるブリオッシュ・ダルキアン。そしてもう片方は同じ自由騎士で奴の部下の忍、ユキカゼ・パネトーネじゃ」

 

「へぇ、大陸最強ねぇ」

 

一夏はそう思いながらブリオッシュの方を見る。

 

(確かに、大陸最強って言われるだけはあるな。全然隙が見えねぇや)

 

一夏はブリオッシュを見て父親と同等、いやそれ以上の実力者と思い自然と右手が刀の柄を握っていた。

 

「……よせ、一夏」

 

「なんでだ?」

 

「お主では相手にならん。儂が奴の相手を「いや、俺がやる。俺はこの砦の構造に詳しくない。アンタの方が早く探せる」じゃが!」

 

一夏の実力は今日見た戦闘で少なからず分かったレオでも、相手が悪すぎると思い食い下がる。だがそのレオに向け一夏はニッと笑みを向ける。

 

「それに少しやってみたいんだよ」

 

「何をじゃ?」

 

「自分の今の実力と、大陸最強との間にどれほどの差があるのかをな」

 

そう言い、早く行け。と促す一夏に、レオは呆れたため息を吐く。

 

「…分かった。じゃが、無様は負け方は儂が許さんからな?」

 

「あぁ、本気でいくさ」

 

そう返されレオは後ろ髪を引かれる思い出その場から離れた。

 

「申し訳ないなが、貴女の相手は俺がやらせてもらう。実力不足かもしれないが、お手合わせ願おう」

 

そう言いながら刀を構える一夏。その姿にブリオッシュも笑みを浮かべる。

 

「いやいや、実力不足とは謙遜な。イチカ殿の力は拙者でも肌で感じる程強いでござるよ」

 

そう言いながら自身の大太刀を構えるブリオッシュ。

 

「ユキカゼ、手出し無用でござるよ?」

 

「御意でござる」

 

そう言うと、ユキカゼは後ろに一歩下がる。

 

「では、尋常に」

 

「「勝負!」」

 

その叫びと共に互いの刀がぶつかり合った。火花を散らし合いながらが剣をぶつけあう二人。

 

(すげなぁ、流石大陸最強と謳われるだけの事はある! だが、負けん!)

 

(凄いで御座るな。拙者よりも歳は下にも拘らず、攻めの視線を全く落とさないでござるな。気を抜くととられるでござるな)

 

二人の激しいせめぎ合いにユキカゼは息を呑む表情で見ていた。

 

「す、凄いでござる。初めての相手に、御屋形様が少しばかり本気を出されている!」

 

ユキカゼは長年共に一緒に居るブリオッシュが本気を出して相手にしたのは魔物や禍太刀などがほとんどだ。相手が名のある剣豪であれば本気を出すことはあるが、まだ初めて会った、それも今日この世界に召喚された勇者相手に少しばかりの本気を見せるとは思いもしなかったからだ。

 

暫し互いの剣技をぶつけ合い間を開ける二人。ブリオッシュは息は上がっていないが、一夏は若干息は上がっているが、深呼吸を混ぜながら息を整える。

 

「流石大陸最強と言われるだけの事はありますね。全然決め手となる一手が討てませんでしたよ」

 

「いやはや、それは此方も同じでござる。少しばかり本気でやっていたのに決め手が定められなかったでござるよ」

 

そう言いブリオッシュは若干身に纏っている気を、更に鋭くさせた。

 

「次は更に本気を交えながら行くでござるよ?」

 

「……はっはっは、マジですか。なら、俺ももう少し本気を上げますか」

 

そう言いブリオッシュ程とは行かないが、通常の人が出せるとは思えない気を纏う一夏。

 

(ついでだ。沖田さんがやっていた技、やってみるか)

 

一夏は沖田が2,3度だけ見せてもらった技。それを思い出しながら、頭の中でシュミュレ―ションし、そして構えた。その構え方にブリオッシュは若干目を鋭くさせる。

 

そして一気に間合いを詰めかかる。

 

「ッ!」

 

「一歩音を越え」

「二歩無間」

「三歩絶刀!」

 

「無明3段突き!」

 

そう言い刀を突くが、ブリオッシュは咄嗟に体を逸らすし、服が若干斬れるだけですんだ。だが一夏はスピードを殺しきれずそのまま地面に思いっきり転んでしまう。

 

「……」

 

突然の技にブリオッシュは呆けた顔を浮かべ、一夏はごろんと仰向けになる。

 

「はぁ~~、メッチャ足痛てぇ~‼ 沖田さん良くこの技使えるな。俺はちょっと無理かも」

 

そう一人呟く一夏。その姿にブリオッシュはクスリと笑みを浮かべた。初めて会った者に自分が驚かせることになるとは思いもしなかったからだ。

 

「一夏殿。起き上がれるでござるか?」

 

「ん? おぉ、大丈夫。ありがとさん」

 

ユキカゼが傍に行き仰向けになっている一夏を起き上がらせた。一夏は顔をブリオッシュの方に向け頭を下げた。

 

「ブリオッシュさん、ありがとうございます。お陰でいい経験になりました」

 

「いやいや、拙者も色々驚かせてもらったからありがたいでござるよ」

 

「そうっすか」

 

笑みを浮かべる一夏。すると傍に居たユキカゼが若干興奮した様子で話しかける。

 

「一夏殿! 素晴らしい剣技だったでござだった! さ、最後にやったあの技は一体何なんでござるか? あのような剣技初めて見たでござるよ!」

 

「ん? あぁ、あの技? あれは俺の知り合いが身に付けている技で、俺も2,3回くらいしか見た事が無いんだ。で、若干本気で来るブリオッシュさんに対抗しようと思って試しにやってみたんだ。が、見ての通り失敗だ」

 

そう言いながら笑う一夏に、ブリオッシュとユキカゼは驚いた表情を浮かべていた。たった2,3回しかその技を見ていないのにも関わらず、あそこまで凄い技を繰り出した。それが事実であれば、彼は何れ自身を超える様な剣豪になるのでは。ブリオッシュはそう感じてしまい、ユキカゼも同じような考えを浮かべていた。

 

「はぁ~、そう言えば姫さん。あの二人見つけたのか?」

 

一夏はそう零すと、2人は我に返る。

 

「え? あぁ、そう言えばどうで御座ろうか? そろそろ、むっ?」

 

ブリオッシュはふと何か音が聞こえ見上げると、何かが通り過ぎて行くのが見えイチカもそれに気付いたのか顔を向ける。その何かはシンクと、シンクに背負われたミルヒだった。

 

「あ、ミルヒ様」

 

「あ、ダルキアン卿。私先に戻ってますねぇ!」

 

「あ、一夏さん! すいませんが今日は急ぎなんで、勝負はまた次の日でお願いします! それじゃあ!」

 

そう言いながら遠ざかっていく2人。その姿に一夏は思わず笑い声を零す。

 

「クックック。やっぱり面白い奴だな、アイツ」

 

そう言いながら立ち上がる一夏。

 

「全くでござる。ユキカゼ、2人の護衛に」

 

「御意! では一夏殿、またでござる!」

 

「おう、またな。ユキカゼ」

 

そう言いユキカゼ足早に二人の後を追った。

 

「さて、ブリオッシュさんはどうする? ビスコッティに帰ります?」

 

「そうでござるな。実はと言うともうしばし一夏殿とお話が「何をしておる、一夏。帰るぞ」…おや、閣下」

 

しばし談笑しようと誘うとした瞬間レオが不機嫌顔で現れた。

 

「ん? あぁ、俺は後で帰るから先に「いいから、さっさと帰るぞ!」お、おい何で引っ張るんだ?」

 

不機嫌顔でこの場から去ろうとするレオに一夏は、引き摺られそうになりる。

 

「閣下、一つ質問よろしいか?」

 

「……何じゃ?」

 

「何故、ビスコッティに対し戦を仕掛けるのでざるか?」

 

「……何が言いたい?」

 

「いえ、ただ何か焦っている様な、そんな雰囲気を感じ取っただけでござるよ」

 

そう言われ、レオは何か思い当たる節があるのか顔僅かばかり歪める。

 

「……貴様には関係無い事じゃ。行くぞ、一夏」

 

「だ、だから自分で歩くって言ってるだろうが! それじゃあなブリオッシュさん!」

 

一夏を引っ張りながら立ち去るレオ。

ブリオッシュは遠ざかっていく一夏に手を振りながらその姿を見送った。そして僅かばかり物寂しい感じを浮かべるも、直ぐに踵を返してその場から去って行った。

 

「また、でござるよ。一夏殿」

 

 

その後城へと帰って来た一夏達。終始無言だったガウル達の頭にはデカデカと積み重なったタンコブが出来ていたとさ。




次回予告
ガウルだ。あぁ~、酷い目にあったぜ。まぁ、こっちの不手際だから仕方ないが拳骨は無いだろ、マジで。でも、最近の姉貴は本当に変わった。一体何があったんだ。まぁ考えても仕方がねぇ、訓練でもするか。
次回
訓練~儂が相手になろう、一夏!~


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12話

そろそろヒロインと絡ませていきます。



ミオン砦での事件から数日が経ったある日。

ガレット獅子団の拠点となっている城の庭では、ガウルと一夏が模擬戦を行っていた。

 

「行くぜぇ、一夏ぁ!」

 

「来い、ガウルぅ!」

 

そう叫びながら互いの武器をぶつけ合う。激しいせめぎ合いを遠巻きで見守る、ガウル直属の親衛隊『ジュノワーズ』とガウルの直属の配下、ゴドウィンと呼ばれる巨漢の男と城に属している兵士達だった。

 

「凄いですねぇ。ガウル様とあそこまでやり合うとは」

 

「ほんまやなぁ。てか、ガウル様もなんか生き生きしてやり合ってるやん」

 

「マジの戦いになってる気がする」

 

上から金髪のうさ耳の少女、ベール。金と茶髪の混じった虎耳の少女ジョーヌ。そしてセンター的ポジションを担っている黒髪の猫耳の少女、ノワール。

激しい戦闘を行っている2人に冷静、と言うよりも緩い感じで観戦していた。

 

「ふむ、あそこまでやるとは。流石勇者殿であるな!」

 

大きな声で感心した様子を見せたのはゴドウィンであった。彼もガウル同様好戦的で豪快な男性ではあるが、目上の者などに対しては例えプライベートの時であっても畏まるなど堅物の一面を持っている。

 

暫し2人のぶつかり合いが行われていると、青髪猫耳のメイド女性がパタパタと急ぎ足でやって来た。

 

「あ、此方の居られましたかガウル様」

 

「ん? ルージュか。何か用か?」

 

ルージュが足早にやって来た事に気付いたガウルは一時中断を一夏に伝え、ルージュの元に向かうガウル。

 

「はい。次の戦の事で少しお話があると、先ほどバナード様がお探しになられておりました」

 

「そうか、分かった。汗を流したら直ぐに部屋に向かうって言っておいてくれ」

 

「畏まりました」

 

綺麗な一礼をした後ルージュは城の中へと戻って行く。

 

「わりぃ、一夏。模擬戦の続きはまた今度でいいか?」

 

「おう、別に良いぜ」

 

一夏の返答を聞いたガウルはじゃあな。と言いながら城の中へと戻って行き、入れ違う様にレオが一夏の元へとやって来た。

 

「随分と激しい模擬戦をしておったの」

 

「激しいか? あれでもまだ普通だぞ」

 

「いや、あれは普通とは言わんじゃろうが。……まぁいい。一夏よ」

 

そう言いレオは自身の武器、グランヴェールを構える。

 

「ガウルの代わりに儂が相手をしてやろう」

 

「…へぇ、良いねぇ。一度もやった事が無いから受けるぜ」

 

そう言い刀状態のエクスマキナを構える一夏。

 

「ゴドウィン、合図を」

 

「はっ! では、両者構え! ……始め!」

 

ゴドウィンの合図と共に二人は間合いを詰め互いの得物を激しくぶつけあう。

金属同士がぶつかり合って甲高く鳴り響く音と飛び散る火花。

模擬戦とは言えない光景に周囲は茫然と言った表情で見守っていた。

 

「おいおい、姫さん。これは模擬戦だぜ」

 

「姫と呼ぶなと言っておろうがぁ!」

 

怒り顔で振り下ろしてくるグランヴェールをひょいと避け、刀を振る。

暫し一夏とレオとの模擬戦?は続き互いに息が荒くなる。互いの攻撃の所為か、地面や城壁には傷が出来ていた。

 

「全く。模擬戦だって言ってるのに本気で来るって聞いてないぞ」

 

「お主が姫なんかと言うからじゃ。それと、まだ終わっておらッ!?」

 

再度攻撃を仕掛けようとしたレオは地面に斬撃で出来た穴に足をとられ、バタンと倒れ込む。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

一夏はレオの元に向かい立たせようと手を差し出す。

 

「す、すまぬ。……痛っ!」

 

レオは突然足をとられた方を手で押さえ痛みから顔を歪める。一夏は直ぐにレオの抑えている脚に着いている防具などを外す。

 

「お、おい。自分で「いいからジッとしていろ」……」

 

飄々とし表情ではなく、真剣な表情でレオの脚の状態を見る一夏にレオは若干赤くなる。

防具等を外し終えた一夏はレオの足の状態を見ると、若干赤く腫れている程度だった。

 

「軽い捻挫だな。一応冷やした方がいいから、模擬戦はここまでだな」

 

そう言い立ち上がる一夏。表情は一安心と言った表情だった。

 

「す、すまぬな。それじゃあ、いっつぅ」

 

立ち上がるもレオは捻挫した足が痛く歩けそうな状態ではなかった。

 

「無理か。……仕方ないか」

 

そう言い一夏はレオに近付く。そして一夏は何の躊躇いもなくレオをお姫様抱っこする。

 

「お、おい! い、いきなり何を!?」

 

「あ? お前歩ける状態じゃないだろ。だったら大人しく運ばれろ」

 

そう言い一夏はレオを抱えたまま城の中へと入って行く。模擬戦を見ていた者達は皆、余りに驚愕な光景に驚き固まったままだった。

 

城の中へと運び込んだ一夏は、以前ビオレに場内を案内してもらった際に教えてもらった医務室へと向け足を運ぶ。

その間レオはずっと真っ赤に染まったまま俯いていた。

 

(な、何たる羞恥なのじゃァ!? ま、まさかこの儂が、お、お姫様抱っこで運ばれるなど……。王としての品格が損なわれるじゃろぉが!)

(というか、何故こやつは平然と儂を運べるんじゃ! わ、儂とてその、女子なんだぞ)

 

そう思いながらチラッと見上げると真剣な表情で前を見る一夏があった。すると視線に気付いたのか、ふと顔をレオの方に向ける一夏。

 

「どうかしたか?」

 

「い、いや。何でも、無いぞ」

 

そう言い黙るレオ。一夏は深くは聞かず、そうか。とだけ返し顔をまた前に向ける。

そして医務室へと到着し中へと入ると、数人程の看護医が居て一夏にお姫様抱っこされて運ばれたレオに驚いた表情を浮かべていた。

 

「ど、どうされたのですか!?」

 

「足に軽い捻挫だ。悪いが後頼んでいいか?」

 

「は、はい。此方にどうぞ、閣下」

 

降ろされたレオは看護医に肩を貸されながら治療用のベッドに座らされる。そして一夏は医務室から出て行った。

 

「大丈夫ですか、閣下?」

 

「あ、あぁ、平気だ」

 

そう言いながら看護医の治療を見ながら先ほどまで光景を思い返す。

 

(……な、何故だろうな。他の者と戦った事には感じた事が無い程の幸福感とかがあった。それに、運ばれた際も、その嬉しく思えたのは何故じゃ?)

 

そう思っていると、ズキッと胸が痛くなるような感じを憶えるレオ。

だがその痛みが何なのかは結局分からなかった。




次回予告
ガウル様直属の配下であるゴドウィンだ。閣下がお怪我をされて心配であるが、軽いケガで良かった。
そう言えば調理室でビオレ殿が何かやっていたようだが、何をやっていたんだ?

次回
お料理教室~腕には自信があるんで~


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13話

今回は


医務室にレオを運んだ一夏は用意してもらった部屋へと一度戻りシャワーで汗を流し替えの服に着替えていた。

 

「はぁ~、さっぱりした。それにしても〈グゥ~〉腹減ったな」

 

そう言いながら時計を見るが、まだ夕飯には時間があった。

 

「仕方ない。軽くつまめるものでも探すか」

 

そう言い食堂へと向け歩き出す一夏。

 

暫く城内を歩くと食堂へと到着し、中へと入ろうとドアノブに手を掛けた瞬間何やら焦げた様な匂いが中から漂い出ている事に気付く。

 

「なんだ?」

 

そう言いながら一夏は扉を開け中へと入り、奥の厨房へと向かう。其処には

 

「ビオレ様、それはお酢です!?」

 

「あ、あれぇ? そ、それじゃあ「そ、そっちはみりんです!?」ふえぇ~~!?」

 

と、ビオレとルージュがアタフタしながら料理をしていた。

 

「何してんの?」

 

一夏は怪訝そうな顔で問うと、2人は驚いた顔で一斉に一夏の方に顔を向ける。

 

「い、一夏様!? ど、どうされたのですか?」

 

「いや、小腹が空いたから何か軽く食べられるものが無いかなと思って来たんだが…」

 

そう言いながら2人に近付く一夏。そして調理台の上に置かれている書物に目を向けるが

 

「えっと~。なんて書いてるの?」

 

「そ、それはハンバーグです」

 

一夏はルージュの説明を受け、ふぅ~ん。と零す。書物の言語は現地の言語、フロニャ文字が使われている為、一夏には読み解くことが出来ないのだ。

 

「で、なんでビオレはハンバーグを作ろうとしているんだ?」

 

「そ、それはぁ…」

 

言いづらそうな表情で顔を逸らすビオレ。すると隣にいたルージュが訳を話す。

 

「実はビオレ様は、料理が苦手でして仕事などは完璧にこなせるのですが、料理だけはどうしても…」

 

「ふぅ~ん、なるほどねぇ」

 

ルージュの説明にビオレは真っ赤になりながら俯く。

 

「まぁ、料理が苦手という奴は俺にも心当たりがあるが、練習すれば次第に上手くなる」

 

そう言い一夏はシンクの蛇口で手を洗う。

 

「ほれ、ちょっと退いて」

 

そう言いビオレを退いてもらい包丁を手に取る一夏。

 

「えっ? も、もしかして一夏様はお料理が?」

 

「あぁ、得意だぜ」

 

そう言いながら包丁で野菜を切ろうとした瞬間その手が止まる。

 

「そうだ。2人も見てるだけじゃなくて実際にやるのは?」

 

「「えっ?」」

 

「いや、見てるだけじゃ上手くなるわけないからな。俺のやり方を見つつ真似をすればいい。そうすれば上手くなる」

 

そう言われ2人はしばし考えた後

 

「分かりました。それじゃあ宜しくお願いします」

 

「私も今後の参考の為に、ご一緒させていただきます」

 

そう言い二人もまな板と包丁を用意する。

 

「よし、それじゃあまずは人参とキノコを細かく刻む。こうすれば噛んだ際の触感があっていい」

 

一夏の指示に2人は人参とキノコを切り始める。ルージュは問題なく切っていくが、ビオレの方は危なっかしくプルプルと震えていた。

 

「ビオレ、震えてるぞ」

 

「だ、大丈夫です。やれます」

 

そう言いながら切っていくが、何時自分の指を切ってもおかしくない状況だった。その光景に流石の一夏も見てられず

 

「その切り方じゃあ指を切るぞ。左の手を猫の様にして抑えるんだ」

 

「こ、こうですか?」

 

ビオレが猫の様に指を曲げ野菜を抑える。だが、包丁の方が握り方が可笑しかった。

 

「野菜の方はそうだが、包丁はそうじゃないぞ」

 

そう言い握り方を見せる一夏。ビオレは真似て包丁を握り、切り始めるがまだ震えている様子だった。

 

「はぁ、ちょっと失礼するぞ」

 

「へっ、一夏様何を?」

 

ビオレは一夏が言った言葉に首を傾げていると、ビオレの背後に周り野菜と包丁を握っている手を重ねるようにおく。

 

「ふぇ!? い、一夏様何をぉ!」

 

「こっちじゃなくてまな板の方に顔向けろ」

 

ジト目でまな板に顔を向ける様に告げる一夏。ビオレは顔を真っ赤にしながら顔をまな板の方へと戻す。

 

「脇を締める。それで左手は猫の手、右手の包丁はしっかりと握る。切り方は、まず人参を輪切りにしろ。切って行ったら少しずつ後ろに下げていく。全部切れたら輪切りにした物を数枚重ねて拍子切りの様に細く切る。切ったら今度は横にして切る。そしたらみじん切りになる」

 

後ろからビオレの手を握りながら教える一夏。ビオレは終始真っ赤に染まっていたが何とかやり遂げた。

 

「よし、それじゃあ次はこの肉の塊をミンチにする。包丁で小さく切っていく。切り終えたら、今度は叩くように叩いて行く。無論まな板を叩き切るような力で切るなよ」

 

そう注意をしつつ調理をすすめる。

 

「出来ました」

 

「わ、私も出来ました」

 

「それじゃあ肉と切った野菜をボウルに入れろ。入れたらよく混ぜる」

 

一夏の説明とその作っている姿を見つつ二人も同じように材料をこねる。そしてこね終えた3人はタネをつくり、熱したフライパンで焼き始めた。

 

「えっと、どの位まで焼くんですか?」

 

「軽く焦げ目がつくくらいだ。ほら、そろそろひっくり返すぞ」

 

そう言いながら一夏はフライ返しでハンバーグをひっくり返す。香ばしい肉の焼ける匂いが漂う。ビオレとルージュも同じようにひっくり返そうとする。ルージュは旨く出来たが、ビオレは若干形が崩れてしまった。

 

「あぁぁ、崩れてしまいました」

 

「まぁ、初心者だから仕方がないな」

 

一夏はそう言って励ます。そして3人は焼けたハンバーグを皿へと盛り付ける。

無論添え付けの野菜などは無い為、ハンバーグ一個がポツンと盛り付けられているだけだ。

 

「ほい、完成」

 

「はぁ、大変でしたぁ」

 

「ビオレ様、お疲れ様です」

 

疲れ切った表情を見せるビオレに、一夏はフッと笑みを零す。

 

「さてとお腹空いたし、この形が崩れたハンバーグ貰うぞ」

 

そう言いビオレが作ったハンバーグを口にする一夏。

 

「えっ!? ど、どうして私のを食べるんですか?」

 

「ん? だって、丁度いいサイズのハンバーグがこれだったからな。どれも大きめに作ってしまったからな。食ったら夕飯が食えん」

 

そう言われビオレは自分のハンバーグとルージュや一夏の作ったハンバーグを見ると確かに自分のは大きさが他より小さかった。

 

「あっと、その、お味は?」

 

「味? まぁ、良いじゃない?」

 

そう言いながらモグモグと食い続ける一夏。すると一夏は残りのハンバーグを箸で掴みビオレの口元に運ぶ。

 

「気になるなら、自分で食ってみ」

 

「えっと、その、自分で食べられますから「あ、俺が使った箸だからな。そりゃ嫌だよな」い、いえ、別にそうではありません! その、あの、だ、大丈夫です!」

 

そう言いビオレは恥ずかしがりながら差し出されたハンバーグを口にする。モグモグと口を動かし、自然と頬が緩む。

 

「こ、これ。私が、作ったんですか?」

 

「お前が作ったに決まってるだろ。なぁ?」

 

「はい、確かにビオレ様が作られましたよ」

 

一緒に居たルージュにも言われビオレは笑顔を浮かべた。

 

「さて、小腹も満たされたし俺は行くわ。あ、俺が作ったハンバーグは好きに食べていいからな」

 

そう言い一夏は洗い物を手早く済ませ、キッチンから出て行った。残ったルージュとビオレは一夏が作ったハンバーグに目を向ける。

 

「どうしましょう?」

 

「う~ん。あ、それじゃあビオレ様が食べるのはどうでしょうか?」

 

「わ、私が?」

 

「はい。ビオレ様のは一夏様が食べてしまわれていますし、一夏様も好きにしていいとおっしゃっていましたし」

 

そう言われビオレ少し躊躇いの表情を見せるが、そっと皿を持ち上げる。

 

「分かりました。それじゃあこのハンバーグは、私が貰いますね」

 

「はい。私はまだ他の仕事がありますので、私のハンバーグは置いておいてください」

 

「えぇ、分かりました」

 

ルージュはそう言い部屋から出て行く。残ったビオレは一夏が作ったハンバーグを口にする。食べた瞬間自分が作ったものよりも歯応え等が違う事に驚きつつも心が満たされるような気持ちを浮かべる。

 

(美味しいです。これが、一夏様が作ったハンバーグですか。何だか、心が温まるような味です)

(それにしても、一夏様に後ろから抱きしめられながら料理を教えてもらった時はドキドキしてしまいました。けど、何でしょう? 離れた瞬間、悲しいというかそんな気持ちになってしまいました。どうしてでしょう?)

 

そんな思いを抱きつつビオレは一夏が作ったハンバーグを食べ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

因みに

 

「……のう、ビオレよ」

 

「は、はい、何でしょう閣下?」

 

夕飯を取っていたレオはふとある事が気になりビオレを呼ぶ。

 

「お主、何やら香ばしい匂いがするが何故じゃ?」

 

「は、はい? お料理の匂いでは?」

 

「いや、この料理の匂いではない。もっと旨そうな匂いじゃ。お主、何処かで飯処で食事してきたのか?」

 

そう問われ、ビオレは一夏(あとルージュ)と料理していた際の匂いが服に付いて、そのままだった。と思い出す。

 

「は、はい。最近出来たお店があるとのことで、お昼時間に行って参りました」

 

「ふぅ~ん」

 

レオは疑いの眼差しを向けながら皿に盛られている肉料理を口にする。

 

(い、言えるわけないじゃないですかぁ。まさか一夏様に料理を教えてもらった上に、作られたハンバーグを食べたなんてぇ)

 

と心の中で叫ぶビオレであった。




次回予告
ユキカゼでござる! このところ我がビスコッティ側の勝利が続いているでござる。今日の戦興業も、勝ったでござるがもう既に日が暮れ始めているでござる。おや、一夏殿が城に帰れずじまいでいるでござる。
御屋形様ぁ! 今日は一夏殿を我が風月庵にご招待でござる!

次回
のんびりお泊り~のんびりする事はいい事でござる~


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14話

一夏がフロニャルドに召喚されて早数日が経過した。

ビスコッティとガレット獅子団の戦興業は日に日に熱を増していく。そして今日もビスコッティとガレット獅子団は戦いが行われていた。

 

「はぁっ!」

 

一夏は向かってくる雑兵達を次々に斬り伏せていき、前へと進んでいく。

 

「う~ん、骨のあるやつが全然いないな。結構前まで来たが、シンクの奴何処に居るんだ?」

 

そんな事を零しながら向かってくる歩兵を斬り捨てていく。すると

 

『決まりましたぁ! ビスコッティ側の勝利です! 勇者シンクが怒涛のスピードで勝利を捥ぎ取りましたぁ!』

 

「あぁ? なんだ、アイツ別ルートで前線に行ってたのか。残念」

 

そう零しながらエクスマキナを鞘へと仕舞う一夏。すると背後に気配を感じ首を後ろに向けると

 

「おぉ、一夏殿。よく拙者の気配を感じ取れましたの?」

 

そう言い笑顔を浮かべるユキカゼが其処に居た。そして

 

「やぁ、一夏殿。お久しぶりでござる」

 

「ブリオッシュさん、ユキカゼ。久しぶり。またウチの負けみたいですね」

 

「シンク殿は一夏殿に負けず劣らずの努力家でござるからな。さて、そろそろ戻らないと「御屋形様、一つご相談が」ん? 何でござるか、ユキカゼ?」

 

今日の戦興業もそれぞれ自分達の領土へと戻ろうとした時、ダルキアンの隣にいたユキカゼが手を挙げる。

 

「もう、夕方で日も暮れ始めているでござる」

 

そう言われ一夏とダルキアンは空を見上げると太陽が西へと沈み始め、暗くなり始めていた。

 

「あれ、本当だ。まぁ此処からサーペントに乗って…。あぁ、しまった。今日は其処まで距離がある訳じゃなかったから徒歩で来たんだった」

 

そう零し、どうすっかなぁ。と黄昏る一夏。

 

「まぁ、此処から歩いて城に「駄目でござるよ! 夜は魔物や野盗が出てくるでござる。危ないでござるよ!」 腕には自信が「危険だから、駄目でござる!」……じゃあどうしろと?」

 

そう言うとユキカゼは考え込むが、すぐに何か思いついたのか耳をピンと立てる。

 

「そうでござる。御屋形様、今日だけ一夏殿を風月庵で泊めると言うのはどうでござろうか?」

 

「ウチでござるか? ふむ、それがいいでござるな」

 

「風月庵?」

 

一夏は二人の会話に出てきた風月庵と言う言葉に首を傾げる。

 

「風月庵は拙者やユキカゼが暮らしている庵でござる」

 

「へぇ~。……だったら不味くないか?」

 

「ん? どうしてでござるか?」

 

「俺、男だぞ。二人共女性だし」

 

そう言うと2人は一旦顔を見合わせ、笑顔を零す。

 

「大丈夫でござるよ。拙者達以外にも同居人は居るでござるよ」

 

「同居人? いや、女性「大丈夫でござるよ。何も問題は無いでござるよ」は、はぁ」

 

ダルキアンの言葉に一夏は何処か納得のいかない様な表情で返事を返すも、折角の御誘いをを無下にするわけにはいかず一晩泊めてもらうかと、ダルキアン達に付いて行った。

 

 

一方レオはと言うと

 

「何処に行き寄ったぁ、アイツはぁ!!」

 

とガレットの本陣で大声で怒っていた。周りに居たガウル達は呆れ顔を浮かべながら辺りを見渡す。

 

「本当、一夏の奴何処行ったんだぁ?」

 

「最初は陣の近くで敵を倒しておられたのですが、気付いたらどんどん先陣を切って行かれて、最後は全く見えなくなってしまいました」

 

ビオレの報告にガウルは苦笑いを浮かべながら辺りを見渡す。

 

(一夏、早く帰ってこぉい。姉貴が滅茶苦茶怖ぇんだからよぉ)

 

そう思いながら見渡していると、白い犬が勢いよく走ってくるのを見つける。

 

「ありゃ。あれって、ビスコッティの隠密隊の奴じゃないのか?」

 

そう零すと全員そちらの方に顔を向けると。暫くして白い犬がガウル達の元にやってきて銜えていた手紙を渡す。

 

「ホムラだったか? ありがとうよ」

 

そう言うとホムラは頭を下げサッと、来た道を戻って行った。

 

「さて、ビスコッティの隠密隊の奴が持ってきた手紙だが、内容は何だ?」

 

そう零しながらガウルは手紙を見る。其処にはダルキアンの印紋が付けられていた。

 

「ダルキアンの印紋? なんでまたあそこから?」

 

ダルキアンと聞き鋭い目を浮かべるレオ。そして手紙の封を開け中の手紙を読むガウル。

 

「えっと、『ガレット獅子団の皆様、そしてレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ様へ そちらの勇者である、一夏殿が前線まで来られていたでござる。ですが日も暮れ、夜になろうとしておりました故、今晩は風月庵にて泊めさせ、明日そちらに御送りさせていただく所存でござる。ビスコッティ隠密隊 頭領 ブリオッシュ・ダルキアンより』だとよ、姉貴」

 

ガウル達はひとまず一先ず無事だと分かり一安心しているが、レオはと言うとプルプルと震え、そして

 

「あのぉ、阿呆がぁぁあぁあぁああぁ!!!!!」

 

と大声で怒鳴った。

 

 

レオが大声で怒鳴っていることなど知らない一夏はと言うと、斧を持って薪を割っていた。

 

「ホッ!」

 

「すいません、一夏殿。薪割を手伝っていただき助かります」

 

そう言いながら野菜の入った籠を持つ茶色いウサミミの女性。

 

「いや、泊めてもらうのに何もしないのは気が引けるんでね。薪はまだ割っておいた方がいいか、エイカ」

 

「いえ、それだけあれば十分です。お風呂の方が湧いておりますのでどうぞ」

 

「あぁ、すいません。それじゃあお先に入らせてもらうわ」

 

そう言い風呂場へと向かう一夏。汗などを流し終え、用意してもらった浴衣を着て広間に行くと夕飯が囲炉裏を囲う様に準備されていた。

 

「ささ、一夏殿。そちらにお座りくだされ」

 

ユキカゼに案内されながら一夏は夕飯が乗ったお膳の前に座る。

 

「すいません、色々用意してもらって」

 

「なに、構わんでござるよ。浴衣の方は着丈は大丈夫でござったか?」

 

「えぇ、ちょうどいいサイズでした」

 

「それは良かったでござる。何分この風月庵に男性と言えば拙者の兄しかおられぬ故、その浴衣しかなかったのでござる。後は拙者達と、使用人のエイカとカナタ。そして隠密隊の者達しかおらぬのでござる」

 

「なるほど」

 

そう言いながら一夏は横目で庭の方へ目を向けると、隠密隊の犬や狐たちが食事をしていた。

 

(ブリオッシュさんが、大丈夫って言ってたのは隠密隊の者?達と一緒に暮らしている為か)

 

そう思いながらご飯を口に頬張る一夏。

 

 

美味しいご飯を頂き、一夏は縁側でダルキアンと共にお茶をすする。ユキカゼはエイカとカナタと共に風呂へと入っている。

 

「ふぅ~、それにしても此処はのんびりできる家ですね」

 

「そうでござろう? のんびりする事は悪い事ではないでござる。多忙な毎日に明け暮れば、余裕がなくなるでござる。だからこのようにのんびりとする時間を設ければ、見えなかった新たな道を探すことが出来るでござる」

 

「フッ。確かに、それは言えてますね」

 

そう言い一夏は冷たい緑茶を口へと運ぶ。

 

「時に一夏殿」

 

「ん? 何ですか?」

 

「閣下の事で少しお聞きたいのでござるが、宜しいか?」

 

先程までのんびりとした表情だったダルキアンが少しばかり真剣な表情を浮かべながら一夏の方に顔を向け、一夏は持っていたコップを茶托の上へと置く。

 

「どう言った事ですか?」

 

「一夏殿がこのフロニャルドに来てからの閣下のご様子についてでござる」

 

「姫さんの?」

 

「うむ。一夏殿達が来られるまでの間はユキカゼと拙者は国を離れておりました故、人伝で事のあらましを聞いた限りで、はっきりはしておらんが閣下は何か、焦っていると言った感じだと感じたのでござる」

 

ダルキアンの言葉に一夏は先日のミオン砦の事を思い出す。シンクとミルヒがビスコッティへと帰っていく姿を見送った後、レオに強引に連れて帰られそうになったあの時、ダルキアンはレオに何故戦を仕掛けたのか聞いた。

 

『ただ、焦っている様な、そんな雰囲気を感じ取っただけでござる』

 

そう言われレオは僅かばかり顔をしかめ足早にその場を去って行った。

 

「確かに姫さんは何か焦っている、そんな風に俺も感じました。それはミオン砦に向かう途中でも感じられました。けど、一体何がそんなに彼女を焦らせているのかは分かりませんでした」

 

「そうでござるか」

 

「俺からもいいですか、ブリオッシュさん?」

 

「構わないでござるよ」

 

「ではビスコッティのお姫様、そしてウチの姫さんは昔は仲が良かったのですか?」

 

「……うむ。昔からビスコッティとガレットとは互いに仲が良く、ミルヒオーレ様と閣下も幼少の頃から仲が良かった。だが、ある日を境に突然ガレットはビスコッティに対し戦を仕掛ける様になった」

 

目を伏せながら語るダルキアン。

 

「一体何故戦を開いたのか、それは誰にも分からないでござる。恐らく弟であるガウル殿にもその訳を話してないと思うでござる」

 

「……でしょうね。ガウル自身もここ最近の姫さんの行動に疑問を持っている様でしたからね」

 

「そうでござったか」

 

其処から暫く沈黙が流れ、虫の出す音色や川のせせらぎの音をBGMに2人は喋らなくなった。

 

「さて、そろそろ床に就く時間でござるな」

 

「そうですね。……ふと思ったんですが」

 

ダルキアンが立ち上がると同時に一夏も立ち上がり口を開く。

 

「ブリオッシュさんって、面倒見がいいですよね?」

 

「? どう言う事でござるか?」

 

「いや、突然戦を仕掛けてた姫さんに対し遠回しに相談するよう言ったり、俺にも最近の姫さんの状況を聞いたりしたから、そう思って」

 

「あぁ。まぁ、二人が幼少の頃から知っているので、突然仲が悪くなったのは可笑しいと思っただけでござるよ。それに年長者は何かと世話を焼きたがる性分でござるよ」

 

自虐的に笑みを零しながら言うダルキアンに、一夏はフッと笑みを浮かべる。

 

「いいんじゃないですか? 俺、世話好きの年上は好きですよ」

 

そう言うとダルキアンは面と向かって好きと言われ頬を若干赤く染める。

 

「一夏殿は口が上手いでござるな。こんな年配を口説くなど、結構な罪作りでござるよ?」

 

「そうですか? ブリオッシュさんくらいなら俺はまだOKですけどね」

 

そう言い部屋の中へと入って行く一夏。縁側に残ったブリオッシュは先程以上に頬を染め上げ思わず夜空を見上げる。夜空には綺麗な満月が昇っており、そして煌めく星々がそれを一掃に引き立たせていた。

 

「むぅ、胸の鼓動が速くなったでござる。……やっぱり結構な罪作りをしているでござるよ、一夏殿」

 

そう零し久しく感じなかった胸のときめきを感じながらダルキアンは頬を冷ますために、暫く縁側に座り続けた。

 

次の日。日が昇り切っていない時間にユキカゼは目を覚まし、妙な気配を感じ取る。

 

(ん? 誰でござろう、こんなに朝早くに? カナタやエイカはまだ寝ているし御屋形様でもないとすると一体?)

 

まさか賊?と思いながらユキカゼは短刀を隠し持ちながら廊下へと出て進む。進んだ先は台所で、ユキカゼはそっと覗き込むと其処には

 

「あれ、一夏殿。何をしているのでござるか?」

 

「ん? おぉ、ユキカゼ。おはよう」

 

台所に立っていたのは勇者服を着た一夏であった。

 

「お、おはようでござる。して、一体何を?」

 

「見ての通り朝食の準備」

 

そう言いながら包丁でネギを切る一夏。台所は香ばしい味噌汁や川魚の焼ける匂いが漂っていた。

 

「そうでござったか。しかしカナタやエイカが用意してくださるぞ?」

 

「いや、これは俺が昨日泊めてくれたお礼だ。あ、手伝うとかは大丈夫だぞ」

 

そう言われはぁ。と頷くユキカゼ。すると突然一夏は包丁の動きを止める。

 

「ところでユキカゼ」

 

「何でござるか、一夏殿?」

 

「その着物、寝巻きなら着替えて来いよ」

 

そう言うとユキカゼは自身の今状態を見る。寝巻き用の浴衣を着ているが、涼みやすくする為に丈などが短めになっている物であった。変な気配を感じ短刀を持って出てきたのは良いが着物は少し着崩れを起こしており、若干着物の下の肌が見えている状態であった。

 

「……す、直ぐ着替えてくるでござる」

 

「そうしてくれ」

 

一夏も恥ずかしかったのか、声が若干上がっており耳も赤くなっているのをユキカゼは見逃さなかった。

部屋へと戻って来たユキカゼは普段着用の着物へと着替え、顔などを洗いに行く。洗顔などを終え広間へと行くと、ダルキアンやカナタやエイカが座っていた。

 

「おはようございます、ユキカゼ様」

 

「おはようございます」

 

「おはようござる」

 

そう言い何時もの定位置へと座るユキカゼ。

それと同時に一夏が膳を持ってダルキアンから順番に膳を置いて行く。

 

「待たせて済まない。全員の分を作るのに少し手間取ってしまってな」

 

そう言いながら庭に居る隠密隊の犬や狐たちにもご飯を置く一夏。

 

「はぁ、これ一夏殿お一人で作られたのですか?」

 

「おう。料理には自信があるから、不味くは無いはずだ」

 

そう言い一夏も席に着く。そしてそれぞれ手を合わせいただきます。と挨拶をし朝食に手を付けた。

 

「お、美味しいです! この様な味は初めてです!」

 

「えぐみも無く、美味しいです!」

 

エイカやカナタは一夏の出した料理に驚き興奮し、ダルキアンも穏やかな笑みを浮かべながら味噌汁を啜る。

ユキカゼも出された焼いた川魚の身を解し取り、口へと運ぶ。

 

「っ!? お、美味しいでござる!」

 

「好評価みたいで良かった」

 

そう言いながら一夏もご飯を口にする。

その後朝食を終え、一夏は洗い物をしようとしたがエイカとカナタに自分達がやります!と言われ温かいお茶を渡され縁側へと行かされた。

縁側に座りながら、もう少しだけ休憩したら帰るか。と思っているとユキカゼが縁側の元へとやって来た。

 

「おぉ、一夏殿。どうしたでござるか?」

 

「いや、もう少し休憩したら帰ろうかなと思っててな」

 

そう言うとユキカゼは、そうでござるか。と少し寂しそうな顔を浮かべる。

ユキカゼが寂しそうな表情を浮かべるのに、首を傾げながら一夏はある物に気付く。

 

「ユキカゼ、その手に持っているのは何だ?」

 

「え? あぁ、これは櫛でござる」

 

そう言い一夏の隣に座り自身の尻尾を揺らすユキカゼ。

 

「あぁ、なるほど。……だったら、手伝おうか?」

 

「え、手伝うとは?」

 

「いや、尻尾に櫛を通すんだろ? 誰かに手を貸してもらわないとやり辛いだろ?」

 

「まぁ、確かにそうでござる。では、お願いするでござる」

 

そう言い一夏に櫛を手渡すユキカゼ。一夏はユキカゼの背後に周り、そっと尻尾の付け根近くから入れスゥーと梳かす。

 

「ほぉ~、一夏殿は上手でござるなぁ」

 

「そうか? 昔近所で飼われてた猫にしていたようにしただけなんだが」

 

そう言いながら一夏はユキカゼの尻尾を優しく櫛を通していく。その間ユキカゼは気持ちが良すぎ、頬が真っ赤に染まった。

 

「――はい、終わったぞ」

 

そう言い一夏は渡された櫛をユキカゼへと返す。

 

「あ、ありがとうでござる一夏殿」

 

「お、おう。…大丈夫か、ユキカゼ? 顔が赤いぞ?」

 

「だ、大丈夫でござるよ! 拙者元気いっぱいでござるよ!」

 

そう言い元気ありますとポーズするユキカゼ。一夏は心配そうな表情を浮かべ、そっと手をユキカゼの額に当てる。

 

「ふぇ!?」

 

「うぅ~ん、熱とかはなさそうだな。あんまり無茶はするなよ。お前の事したっている奴等が心配するからよ」

 

「は、はいで、ござる」

 

顔を真っ赤に染めながらコクリと頷くユキカゼ。

 

「さて、そろそろ帰るわ。ありがとうな、今日は」

 

「い、いえ。此方こそた、楽しかったでござるよ」

 

頬を染めながらも笑顔で応対するユキカゼ。一夏は笑みを浮かべ、それじゃあ。と言い風月庵から去って行った。

一人縁側に残ったユキカゼはドクンドクンと高鳴る胸に手を当てながら考えに更け込む。

 

(こ、これはもしや、こ、恋という物でござるのだろうか? うぅ~、凄く胸が痛いでござるぅ)

 

そう思いながら持っていた櫛を見て、そしてそっと自身の尻尾を見る。

尻尾は普段よりもフサフサと触り心地が良さそうに出来上がっていた。

ユキカゼはそっと櫛を胸の元に持って行きギュッと握りしめる。

 

「また、一夏殿にやって貰いたいでござる」

 

そう言い見えなくなった一夏を見つめる様にガレットの方を見つめた。

 

 

そして暫くして

 

「ただいまぁ」

 

と言いながらガレットの城へと帰って来た一夏。するとビオレが大慌てで出迎えてくる。

 

「お、お帰りなさいませ、一夏様。道中大丈夫でしたか?」

 

「おう、隠密隊の一人?に近くまで送って貰ったからな」

 

「そうでしたか。……良かったぁ

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「い、いえ。何でもありません!」

 

真っ赤になりながら否定するビオレに一夏は首を傾げながら見ていると

 

い~ち~かぁ~

 

と、呪怨の様な声が背後から聞こえ、そっと振り向く一夏。其処には般若の面を被ったようなレオが立っていた。

 

「お、おう。今、帰って来たぞ。 な、何だよ?」

 

「ふ、ふっふ、ふっふふふふふ」

 

そう笑いながらゆっくりと近づくレオ。そして

 

「心配をかけさせるでないわぁ、この馬鹿者ぉ!」

 

そう叫びながら一夏の頭をヘッドロックするレオ。

 

「いたたぁ!! お、おい姫さん入ってる! 入ってるからぁ! いてててぇ!?」

 

「姫さんとよぶなぁあぁぁあぁあぁ!!」

 

レオはそう叫びながら更にヘッドロックを強くするのであった。

 

暫くレオのヘッドロックは続いたそうだ。




次回予告
一夏だ。戦いもいよいよ最終らしい。姫さんはグラナ砦で指揮を執ると言っていたが、なんか朝から胸騒ぎがする。こういう時の胸騒ぎって大抵当たるから嫌なんだよなぁ。
仕方ない、グラナ砦に行くぞサーペント!

次回
決戦、グラナ砦~一人で抱え込むな! お前には俺や信頼できる仲間が居るだろうが!~


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15話

3ヵ月近く更新を止めててすいません(;´Д`)

久しぶり過ぎて内容がほぼスカスカかもしれません。



一夏が風月庵で泊ってから4日経ったある日、今一夏は愛騎であるサーペントに跨ってガウルとジュノワーズ達と共にビスコッティ側の砦、スリーズ砦に向け進軍していた。

何故彼等がスリーズ砦に向け進軍しているかと言うと、それは一夏が風月庵から帰って来た翌日の日の事だった。

レオが突然ビスコッティに対し、自国の宝剣を掛けた大戦を開催すると宣戦布告したのだ。

突然の事だった為、何も相談を受けていないガウルは宣戦後のレオに何故宝剣を掛けた戦いなんかするんだ?と問いただすも、レオは何も言わず早々に自室に戻って行った。一夏はそんなレオの背を見つめながら言い知れぬ不安を覚え始めていた。

それは、何か良からぬことが起きそうな予感であった。

そして翌日、ビスコッティ側の姫、ミルヒオーレから受けて立つという返答が届いた。

 

そして開戦当日、レオは一夏をガウルと共にスリーズ砦に向かい敵大将を討ち取れと言い伝え、自身はミオン砦から指揮すると言い一夏を送り出した。

一夏は送りだすレオが一瞬悲痛そうな表情を浮かべたのを一夏は見逃さず、スリーズ砦に向かう中、ずっとその顔が頭の中に引っ掛かっていた。

 

(あの時、何故姫さんはあんな表情を浮かべたんだ? 今までそんな表情を浮かべた事が無かったって言うのに)

 

そう考えながら進軍していると、隣にいたガウルが一夏に話しかけてきた。

 

「なぁ、一夏」

 

「ん? なんだ、ガウル」

 

「今日の姉貴、何か様子が変だったよな?」

 

「あぁ、そうだな。そう言えば、朝からビオレの姿が無かったよな?」

 

「そう言えば、居なかったな。何でだ?」

 

一夏の指摘にガウルは首を傾げていると後ろに居たジュノワーズの一人、ノワールが手を挙げた。

 

「そう言えば、ビオレ様が戦闘衣装を着て今朝早く何処かに行きましたよ」

 

「何? アイツが戦闘衣装を着るなんて珍しいな」

 

「へぇ、ビオレも戦えるのか。それでビオレって何が得意なんだ?」

 

「ビオレ様は隠密強襲が得意なんやで。やから陛下の懐剣なんて呼ばれているんや」

 

ジョーヌの説明にふぅ~ん。と返す一夏。そしてふとある仮説が一夏の頭に過った。

 

(まさか。……いや、でもそうする理由はなんだ?)

 

突然一夏が難しい顔を浮かべる光景にガウル達は首を傾げる。

 

「どうしたんだよ、一夏? 難しい顔なんか浮かべてよ」

 

「……今朝からビオレの姿が無い事。そして戦闘衣装に身に着けていた。そう考えるとビオレの奴、俺達が知らない作戦を実行しているんじゃないかと思ってよ」

 

「……確かに、今考えたら可笑しいな。自分の懐剣を近くに置いておくのが普通だよな」

 

「あぁ。それに、ビオレの戦い方は隠密強襲だろ? つまり隠密に特化しているという事だ。そして今回の懸賞は…」

 

「っ!? まさか、姉貴の奴!」

 

一夏の説明にガウルが何かを察し驚愕の表情を浮かべる。若干お頭が弱いジュノワーズ達はチンプンカンプンなのか首を傾げたままだった。

 

「どう言う事ですか、ガウル様?」

 

「姉貴は、ビオレにスリーズ砦に居るミルヒオーレ様のエクセリードを直接奪取するよう指示したかもしれねぇ」

 

「「「っ!?」」」

 

「ま、待って下さい! それは戦興業の道義に反している行為です! 何でそんな事を!?」

 

「分からねぇ。クソッ、直接問いただしたいが今から砦に戻ってる時間もねぇってのによ」

 

苛立ちの表情を浮かべるガウルに一夏は暫し思案に耽った後口を開く。

 

「ガウル、俺が砦に戻っても今いる戦力で砦攻略は可能か?」

 

「? そりゃあ戦術次第だが可能だが…まさか」

 

「俺が戻る」

 

真剣な表情でガウルを見つめながら砦に戻ると言う一夏にガウルは一瞬険しい表情を浮かべるも、直ぐにフッと笑みを零す。

 

「分かった。一夏だったらすぐに姉貴から問いただせるな」

 

「わりぃな」

 

「いや、構わねぇよ。…姉貴を頼むぜ」

 

「おう」

 

ガウルと会話を終えた一夏は、すぐさまに来た道をサーペントに急かすように戻って行った。

 

「頼むぜ、一夏」

 

遠くなっていく一夏の背に、ガウルはそう小さく声を掛け砦に向かって進軍を再開した。それと同時にスリーズ砦の方角の空に信号弾が打ち上がった。

 

 

ガウル達と分かれた一夏はサーペントに急かすように砦に向かわせていた。

 

「急げ、サーペント。どうも嫌な予感しかしねぇ!」

 

「クェー!」

 

一夏の思いに答えるようにサーペントは急ぎ足でミオン砦に向かう。暫し走り続けると、ミオン砦が遠目ながら見え始める。

 

「よし、あと少し…ん? 曇り始めてきた?」

 

突如晴れていた空が、突如として漆黒の雲に覆われ始めた事に訝しんでいると、突如ミオン砦の上空に雷鳴と共に丸い球体が現れた。

 

「な、何だ、あれは?」

 

そう零している内に砦へと到着し、一夏は中に入るとビスコッティ側の兵士達がそれぞれ困惑の表情を浮かべながら立っていた。

 

「おい、上で何が起きている?」

 

「そ、それが分からないんだ。ミルヒ様がエレベーターに乗って上にいかれ、その後勇者様とエクレール隊長が城壁をよじ登って上にいかれました」

 

「そ、それと何か、フロニャ力が弱まった気がするんですが…この状態で戦は流石に危険なんで、一時休戦しているんです」

 

兵士達も何が起きているのか分かっておらず困惑した状態であった。一夏は急ぎエレベーターに向かいボタンを押し最上階へと向かう。

 

「早く、早く!」

 

昇っていくエレベーターに苛立ちの声を漏らしつつ待っていると、到着を知らせる音が鳴り響き、一夏は急ぎ外に出ると其処には傷を負ったレオとシンクとエクレールと

 

「な、何だよあのバケモンは?」

 

上空に漂う巨大な化け物が居た。化け物は突如現れた一夏に目もくれず何処かへと飛び立っていく。

その化け物にレオは手を挙げながら止めようと声を上げる。

 

「み、ミルヒィ―!」

 

「はぁ!? ミルヒって、まさか!?」

 

「アイツに姫様が囚われたんです! 僕達は奴を追います!」

 

シンクの説明に一夏は驚愕の表所を浮かべながらも口を開く。

 

「分かった。無茶はするなよ! フロニャ力が弱まっているらしいから怪我のリスクが高まっているからな!」

 

そう伝えると、シンクは頷きながらもエクレールと共に化け物を追いかけるべくトルネイダーに乗って追いかけて行った。一夏は倒れているレオに急いで駆け寄ると医療箱を持ったルージュも現れた。

 

「み、ミルヒが、ミルヒがぁ!」

 

「分かったから、落ち着け! ルージュ、急いでその包帯とガーゼを寄越せ!」

 

「は、はい!」

 

一夏はルージュから包帯とガーゼを受け取ると、出血している患部にガーゼで抑えながら包帯を巻いて行く。

レオの処置をしながら一夏はルージュに事のあらましを問いただし始めた。

 

「なんで、向こうの姫様が此処に居るんだよ? スリーズ砦に居たんじゃないのか?」

 

「そ、それがどうやら向こうは影武者らしく、閣下に直接今まで事を聞きたく此処まで来られたらしいのです」

 

「行動力ありすぎだろ。よし、出血は大体抑えた。それとあのバケモンは一体なんだ?」

 

「わ、分かりません。恐らく魔物かと思われます」

 

「デカすぎるだろが」

 

そう言いながらも今度はレオの方に顔を向ける一夏。レオの表情は悲痛に満ちており涙が流れていた。

 

「やはり、運命は変えられぬのか」

 

「はぁ? 運命だと?」

 

レオの口から出た運命と言う言葉に一夏は怪訝そうな顔つきになる。

 

「まさか、星詠みですか?」

 

ルージュがそう零すと、レオがぽつりぽつり零し始めた。

 

「そうじゃ。星詠みで、勇者とミルヒが死ぬ運命が出たんじゃ。そんな運命、儂は到底受け入れられなかった。じゃからミルヒから宝剣を奪取し、運命を変えようとしたんじゃ。じゃが、それは失敗した。もう、何もかも終わり《バチン‼》――ッ!?」

 

悲観にくれるレオに、一夏は躊躇いも一切ないビンタをレオにぶつけた。ビンタを受けたレオは突然の事に茫然とした表情を浮かべ、一夏を見つめる。一夏の顔は憤怒に染まっており、殺気も若干零れていた。

 

「悲観にくれるのは自由だ。だがな、まだ終わってもいないのに悲観に暮れてんじゃねぇよ!」

「それに、なんでそんな大事な事を黙っていやがった!」

 

今まで見せた事ない怒りの表情にレオ達は驚きと戸惑いを隠せない中、レオは涙を流しながら答える。

 

「い、言える訳なかろうが。儂は王じゃ。そんな気弱な事、家臣たちに「それこそ愚者の考えだ! 少しでも周りに相談するなりすれば、未来は変わっていたかもしれなかっただろうが!」そうかもしれん。じゃがもう!」

 

諦めかけているレオに一夏はそれ以上は何も言わずスッと立ち上がりエレベーターの方に向かう。

 

「い、一夏様、何方に?」

 

「あの化け物を追いかける。姫さんは任せるぞ」

 

そう言い歩き続ける一夏。レオは目を見引きらきつつ痛む体を無理矢理起こしながら手を伸ばす。

 

「よ、よせ一夏! お主まで死ぬ気か!」

 

「はぁ? 何言ってんだよ」

 

レオの言葉を蹴る様に言う一夏。その顔は真剣そのものであった。

 

「俺は死ぬ気はない、生きて帰る。それとあいつ等を無事に連れて帰る」

「それと、未来なんざ一人で変えようとするなんて不可能なんだよ。誰かの協力無くして未来なんざそう簡単に変わるか」

 

そう言い一夏はエレベーターに乗り込んで下へと下りて行った。レオはルージュに支えられながら下りて行った一夏に心配そうな表情を浮かべていた。

 

下に降りた一夏は急ぎサーペントに跨ると魔物が飛んで行った方向に向け駆け出し始めた。

サーペントに跨って走り続けていると前方に魔物の姿を捕らえ、一夏はエクスマキナを抜き、刀身に輝力を纏わせようとするも上手く纏えなかった。

 

「チッ。周辺のフロニャ力が低いのが原因か」

 

そう零しながらも一夏は飛んでいる魔物に対して有効打を与える方法を考えていると、突如魔物が苦しみ始めた。そして一夏は目を凝らすとシンクの腕にうねうねと動く何かが見えた。

 

「あれが化け物の本体か? ……やれるか?」

 

そう零しながら一夏は再度輝力をエクスマキナの刀身に纏わせる。だが今度は全体ではなく、一部分に集中する形でだ。

 

「上手く行けよ!」

 

そう言いながら一夏は揺れるサーペントの背に立ち上がるとエクスマキナを構え、そして

 

「はぁあぁぁ、厄港鳥(やっこうどり)!」

 

そう叫びながらエクスマキナを振るうと小さな三日月状の斬撃が飛び、そのままシンクの腕に絡まっている化け物を貫いた。

 

「えっ!? い、一夏さん!」

 

「シンク! 早くそこから逃げろ!」

 

一夏が居る事に気付いたシンクは一夏に声を掛けるもすぐに逃げる様言われ、シンクは急ぎミルヒを抱え魔物から脱出を図る。すると、

 

「姫さまぁぁ!!」

 

そう叫び声が聞こえシンク達は声の方に顔を向けると、ミルヒの愛騎、ハーランに乗ったリコッタとエクレールだった。シンク達はそれに急ぎ飛び乗り崩れる魔物の残骸から難を逃れた。一夏もそれを確認したと同時にその場から離れた。

 

こうして魔物騒動は無事に終わりを迎えた。

 

 




次回予告
一夏だ。戦も中止となってビスコッティの姫さんの特別ライブコンサートが開かれることになった。はぁ、色々あり過ぎて疲れた。ん? よぉ、姫さん何か用か? ってビオレにダルキアンさんにユキカゼも、一体何の用だ?

次回 第1章最終回
夜空に輝く花びらと、恋する乙女たち
~な、なんでおぬしらが居るのじゃ!~


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第1章 最終話

魔物騒動によって結局戦興業は中止となった。

突然の魔物出現に多くの国民は不安と恐怖に陥っていたが、ミルヒが臨時の特別ライブを開く事を宣言したことで暗く落ち込んでいた国民は明るさを取り戻しつつあった。

 

~ライブ会場裏~

ライブ会場裏の控室でレオはミルヒと会っていた。

 

「――本当に済まなかった」

 

「いえ、レオ様も大変に悩まれた事は今の説明だけで十分伝わりました。もし私も同じような状況になったら言い出せないと思いますから」

 

そう言いレオの思いを聞いたミルヒはレオの謝罪を受け入れていた。そして互いに心の距離が離れて話せなかった間の事を話し合う二人。するとレオと話していてある事に気付いたミルヒは思わず笑みを零す。

 

「フフッ」

 

「どうしたのじゃミルヒ?」

 

「すいません。レオ様のお話を聞いている限り一夏様の事よく見ておられるんだなぁと思ってしまって」

 

そう言いクスクスと笑うミルヒ。レオは思わず顔を真っ赤に染めながらアタフタとなる。

 

「そ、そんな訳…うぅ」

 

「クスクス、すいません。でも一夏様がレオ様のお傍に居て下さったのは本当に良かったと思います」

 

「な、何故じゃ?」

 

「もし一夏様が居なければ、レオ様の心はもっと早く壊れていたのではと考えが過てしまって恐怖してしまったのです。一夏様がレオ様の心を繋ぎ止めて下さったことでまた私たちの仲を取り戻してくれたと思えたのです」

 

ミルヒの説明にレオは改めて一夏がこの世界に来てからの事を思い返した。

幾ら言っても自分の事を姫さんと呼び、自分の方が立場が上なのに言葉遣いは荒い。

思い返しても本来なら酷いと言う言葉で片付く様なものだが、一夏だと自身の素の心を出せる。そう思えることもあった。

そして今日の事もそうだ。

 

スリーズ砦に行くように指示した時、胸に鋭利な刃物で斬られたような痛みが走った。隠し事をして申し訳ないと言う重圧もあった。だが何かを隠している事を気にして砦に戻って来た事に、レオは心の隅に嬉しさもあった。

そして自分の間違いも怒鳴ってくれたことに救われる感覚もあった。

 

「そう、じゃな。アイツのお陰で色々と助かっていたのかもしれん」

 

そう零すレオの表情にミルヒは笑顔を浮かべる。レオの表情は女性らしく可愛らしい笑みを浮かべながら頬を染めていたのだ。

―――そう、恋する乙女の様な表情を。

 

「なんじゃ、その笑みは?」

 

「レオ様。もしかして一夏様の事す――」

 

ミルヒが続けて言おうとした所、控室と廊下を繋ぐ扉が開かれた。

 

「ミルヒ様、そろそろスタンバイを」

 

「あ、はい。今行きます」

 

スタッフからの言葉に応えミルヒは立ち上がる。

 

「ミルヒ、今何を言おうとしたのじゃ?」

 

「えっと、また今度言いますね」

 

そう笑顔で言いミルヒはステージへと向かって行った。一人残ったレオはミルヒが言おうとした事に大体察しがついていた。自身も此処最近になってようやく気付いた思いに。

 

「そうじゃな。儂は彼奴の事を…」

 

そう零してレオは控室から出て行った。

 

 

それから暫く時間が経った頃、一夏はステージが見える小高い丘の上に来ていた。

 

「ふぅ~、アイツらと一緒に見るのはいいけどやっぱりあぁもごちゃごちゃしているところは苦手だな」

 

そう言いながら地面に腰を下ろそうとしたところで背後に気配を感じ振り向く。

 

「なんだ、姫さんか。こんな所にいてもいいのか?」

 

「それを言うなら貴様もそうであろうが。ビスコッティの勇者を救ったガレットの勇者が一人此処で見ようなどと」

 

そう言いながら一夏の傍に寄るレオ。

 

「フッ。俺は称賛を受ける様な事はしてねぇよ」

 

そう言いながら腰を下ろす一夏。それに続く様にレオも一夏の傍に座る。

 

「おいおい、服が汚れるぞ」

 

「構わん。……そ、それより」

 

そう言いレオはチラチラと一夏の方を見る。レオの行動に一夏は首を傾げながらも見守る。

 

「今日は、ありがとう」

 

「ん? 別に姫さんに感謝されるようなことはしてないと思うが?」

 

「お主はそう思うかもしれんが、儂はお主のお陰で色々と目が覚めたのじゃ」

 

「あのビンタでか?」

 

「そうじゃな、あれは物凄く痛かった」

 

そう言いレオはビンタされた頬を手で当てながら答える。

俯きながら頬に手を当てるレオに一夏はやり過ぎたか。と思いながら明後日の方向に顔を向けながら口を開く。

 

「あぁ~。その、すまん」

 

「構わん。あれのお陰で目が覚めたのじゃ」

 

そう言いながら頬に当てた手を降ろし一夏に優しい笑みを浮かべ見せるレオ。

 

「お主のお陰で、儂はいろいろ助かったっておった。ミルヒの事で心にゆとりが無かった儂に、お主の存在が儂の心を救ってくれておった」

 

「別に助ける様な事はしてねぇだろ」

 

「いや、お主の儂に対する接し方が良かったのじゃ。周りに壁をつくって接していた儂に、躊躇いも無く壁を壊してくるお主に感謝しかなかったのじゃ」

 

「そうか。まぁ、感謝の言葉は素直に受け取っておくよ。それよりそろそろ「それと」まだなんかあるのか?」

 

ライブがそろそろ始まるから会話を切ろうとした一夏に遮るように言葉を重ねるレオ。その顔は先程までとは違い頬を染めていた。

 

「お主が儂の心を救ってくれたと同時に、お主に対する気持ちに儂はある気持ちに気付けたのじゃ」

 

潤んだ瞳で一夏を見つめるレオに一夏はえっ!?と胸を高鳴らせる。

 

「わ、儂はお主の事が「おぉ~、一夏殿此処でござったか」はぁっ?」

 

突然の第3者の声にレオは思いっきり声を上げその方に顔を向ける。一夏もそっちに顔を向けると其処には

 

「あれ、ブリオッシュさんにユキカゼ? 何で此処に?」

 

一夏達の背後に居たのはブリオッシュとユキカゼの二人であった。

 

「いやぁ~、一夏殿姿が見えなかったのでお館様と一緒に探していたんでござるよ」

 

「そしたら丘の方に行ったと聞いたので来てみたのでござるよ」

 

ユキカゼとブリオッシュの説明に一夏はへぇ~と答えている中、レオだけは怒り顔であった。

 

「お、お主ら! 今出てくるタイミングではないと分かるであろうが!」

 

「いやぁ、あのまま告白されては拙者達も面白くないと思いましてな」

 

「お館様と同意見でござる!」

 

ブリオッシュとユキカゼの言葉に一夏達ははぁ?と疑問符を浮かべる。

 

「それと、拙者達だけではないでござるよ。其処にいるんでござろう、()()()殿()

 

ブリオッシュの言葉に一夏達は驚きの表情を浮かべながら言葉を投げられた方に顔を向けると申し訳なさそうな表情で現れるビオレが林から現れた。

 

「び、ビオレ!? な、何故此処におるんじゃ!」

 

「も、申し訳ありません。で、ですが…」

 

そう言い謝罪するビオレ。言い淀むビオレにブリオッシュが背を押す。

 

「ビオレ殿。今この場にいる皆、同じ気持ちを抱いているんでござる。正直に言うべきでござるよ」

 

ブリオッシュの言葉に一夏は首を傾げ、レオは驚愕の表情を浮かべる。

 

「ま、まさか!?」

 

「うむ。拙者、ブリオッシュ・ダルキアンと」

 

「ユキカゼ・パネトーネは一夏殿、貴方様のことを」

 

「「お慕い申し上げております」」

 

「はいぃい!??!」

 

頬を染めながらブリオッシュとユキカゼは一夏に対し古風な言い方で告白する。そして

 

「い、一夏様!」

 

「え、あ、はい」

 

「わ、私も、あ、貴方様のことを愛しております!」

 

「えぇっ!?」

 

顔を茹蛸の様に真っ赤に染めながら告白するビオレ。

 

「な、何なんじゃお主らぁ! わ、儂が先にしようと思った事をするでは無いわぁ!」

 

「え? 儂が…先に?」

 

隣のレオが怒鳴りながら言った言葉に一夏はレオの方に顔を向ける。一夏の視線に気付いたレオは真っ赤な顔を浮かべながら一夏の方に顔を向ける。

 

「うぅううぅ。そ、そうじゃ! 儂も! 儂もお主の事を好いておる! 彼奴等以上にお主の事を愛しておる!」

 

怒った表情であるが真っ赤な顔で告白するレオに一夏は何とも言えない表情を浮かべる。

彼の中で今一番最初に思い浮かんだ言葉は

 

(俺、よく気を失わずに4人の告白聞けたな…)

 

「えっと、なんで俺なんだ? 俺みたいな剣術しか能が無い男なんかよりいい男が居ると思うが…」

 

一夏は4人が何故自分なんかにと思い聞く。

 

「一夏殿と1日だけとは言え、暮らした時とても楽しかったでござる。それに櫛で拙者の尻尾を梳いて下さったときとても幸せに感じられたからでござる」

 

「拙者は初めて剣を交えた時からでござる。何者にも負けない気迫とその剣技に惹かれたのでござる」

 

「私は、初めて一夏様に料理を教えてもらった時から胸の高鳴りを感じ、時が経つにつれてその高鳴りは高まっていきました。そしてその高鳴りが恋によるものだと気付きました」

 

「わ、儂は、さっき言った通りじゃ。あとは、お主は儂に初めての敗北を与えた」

 

「えっと、3人は何と言うか分かるが、最後の意味が分からんぞ姫さん」

 

「その、儂は1対1のタイマンで勝利した者を伴侶として迎えると、決めておったのじゃ」

 

「ちょっと待て。俺、姫さんと1対1の対決なんかしてないぞ」

 

一夏は思い返した限りレオと1対1の真剣勝負などした覚えがなくそう言うと

 

「あるじゃろうが。ガウルと模擬戦をした時に」

 

「……あぁ、あれか。てか、あれは模擬戦だろ」

 

「模擬戦とはいえ1対1の勝負じゃ。それに、あの時からお主に意識をするようになったのじゃからな」

 

ジト目で言われ一夏は何とも言えない表情を浮かべながらどうしたものか。と思い悩む。

 

「因みに、諦めると言う選択肢は「「「「「無い/無いでござる/無いです」」」」……マジですか」

 

真剣な表情で諦める気は無いと宣言する4人に本気で悩む一夏。

すると突然一夏達は周囲の空気が若干変化したことに気付き周囲を見渡す。

 

「感じたか?」

 

「うむ、空気が若干変化しおったな」

 

「魔物、ではござらんな」

 

「はい、周囲にその様な気配など感じられませんでした」

 

「では、一体?」

 

それぞれが周囲の空気の変化に警戒していると突如足元が宙に浮いた様な感覚に襲われ下を見た瞬間何時出来ていたのか黒い穴がぽっかりと開いていた。

 

「な、何ッ!?」

 

「こ、これは!?」

 

「お、落ちるでござるぅ!?」

 

「何時の間に!?」

 

「きゃぁああ!?」

 

5人が黒い穴へと落ちていくと黒い穴はスッと何も無かったように塞がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~とある島にある秘密研究所~

 

「ふ~んふんふふ~ん♪」

 

鼻歌を歌いながら機械のうさ耳をした女性、篠ノ之束は目の前にある機械をいじっていた。

其処へ銀髪の少女がオレンジ色の液体の入ったコップをお盆に載せながらやって来た。

 

「束様、人参ジュースをお持ちしました」

 

「おぉ、クーちゃんありがとうぉ!」

 

そう言いながら束は道具を手早く仕舞いコップを受け取るとゴクゴクと飲み始める。

 

「ぷはぁーー! やっぱり一仕事終えた後の人参ジュースは旨い!」

 

「それは良かったです。ところで束様。此方の機械は一体何なんですか?」

 

そう言いクーちゃんと呼ばれた少女は束がいじっていた機械を見つめる。束がいじっていた機械は部屋の天井に届きそうなほどの大きさの機械で中央には階段と踊り場があり、その奥には円形のゲートがあった。

 

「これ? これはね物体を移動させる転送装置の試験機だよ! ISの拡張領域に物を入れておけるのと同じ様に、物を量子変換して他の場所にあるこれと同じゲートに送れるようになるって物だよ!」

 

「それは凄い装置ですね。ですが、上手く行くのですか?」

 

「理論的には上手く行くと思う! まぁ、物は試しだ!」

 

そう言い束はクーちゃんと共に機械から少し離れ、機械に電源を入れる。

 

「そう言えばこれと同じ装置は何処に?」

 

「もう一つ? 日本のとある山奥にある研究所だよ。因みに向こうには既に荷物を置いて準備してあるから後は此処から遠距離始動スイッチを押せば送られてくるはず!」

 

「そうですか。上手く行くといいですね」

 

クーちゃんからの声援を受けながら束は始動!と叫びながら遠距離始動のスイッチを押す。機械はゴウィンゴウィンと唸りながらゲートには真っ白なウェーブ上の白い何かが広がっていた。

今か今かとワクワクしながら待つ束。すると真っ白だったゲートは突如黒く染まりる。

 

「あれ? どうしたんだろう?」

 

束は突如変化したことに首を傾げていると

 

「束様、何か聞こえませんか?」

 

「え?『―――!!』 あ、確かになんか聞こえるね」

 

何処からともなく聞こえる声らしきものに束達が首を傾げていると、突如真っ黒だったゲートから何かが飛び出してきて来る。それと同時にバスン!と大きな音と共に照明が落ちる。

 

「ほわぁっ!? 何か出たぁ!」

 

「た、束様! それより電気がぁ!?」

 

「おぉッと‼ そっちの方が先かぁ!」

 

そう叫びながら束は真っ暗な部屋にも関わらず軽い足取りで部屋の照明用の配電盤を開けてブレーカーを戻す。

そして部屋の電気が付き辺りが明るくなる。

 

「さぁて、ちゃんと送られたかなって、あれ?」

 

束は配電盤から機械の方に目を向けると、其処には5人の人物がおりその内の一人に見覚えがあった。

 

「い、いっくん!?」

 

「え? あれ、束さん?」

 

勇者服を着た一夏と

 

「ど、何処じゃ此処は?」

 

「閣下ご無事ですか?」

 

「お、お館様、此処は一体?」

 

「うむ、さっぱりでござるな」

 

「あと誰っ!?」

 

レオ達に束は驚きの声を上げるのであった。




次回予告
やっほぉ~、天才の篠ノ之束さんだよぉ!
いやぁ~、まさかこの束さんが造った転送装置からいっくんが飛び出てくるとは驚きだよ。あとあの4人の子達も驚きだね。特になにあのリアル耳! マジの動物耳とか羨ましいんだけど!
と、話がそれたや。取り合えずいっくんの帰国したようにデータ改ざんやらあの子達の偽造身分データとか作成で大変だったよぉ。…あとちーちゃんの対応も。

次回
久々の帰還とようこそ異世界へ~いぢがぁ~~。無事でよがっだぞぉ~~!~


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第2章
第2章1話


今回はちょっと短いです。


――とある島の極秘研究所

 

「――よし、これでいいかな?」

 

ウサギの絵柄の書かれたエプロンを着た一夏。彼の前にある机の上にはご飯、味噌汁、焼き鮭、卵焼きと和の料理と、ウィンナー、ベーコン、スクランブルエッグ、トーストと言った洋の料理が並べられていた。

朝食の準備を終えた一夏は廊下から顔だけを出すと

 

「おぉ~~い、朝食の準備終わったぞぉ!」

 

大声でそう叫ぶと暫くしてゾロゾロと部屋へとやってくる人達。

 

「ほぉ、相変わらず一夏の料理は旨そうじゃな」

 

「うむ、一汁三菜がしっかりと揃えられているでござる」

 

「和食に洋食、本当にいろいろ出来るのでござるな一夏殿は」

 

「本当にすごいと言う言葉しか出ませんね」

 

レオ達はそう言いながら席へと座る。因みにレオとビオレは洋食、ダルキアンとユキカゼは和食の置かれた席へと着いた。

4人が席に着いた同時に大きな欠伸を零す束とクロエが入ってくる。

 

「ふわぁ~~、おはよう皆ぁ。あぁ~、いい匂いぃ」

 

「本当に良い匂いです」

 

そう言いながら2人も席に着く。一夏も席についてそれぞれ頂きますと言った後朝食を食べ始めた。

 

 

一夏達がこの世界に帰って来て(迷い込んで)既に2日が経っていた。

あの日、束の転送実験が理由かは分からないが元の世界に戻ってきた一夏と巻き込まれたレオ達。

束は突然の事で頭の中がこんがらがっていたが、すぐに装置の電源を切り一夏達の怪我の有無を確認し、何故転送装置から出てきたのか問う。

レオ達フロニャルド組は、当初束を警戒していたが一夏がこの世で一番信用できる人だから正直に話してもいいと思うぞ。と言われ、自分達が異世界の住人で一夏と共に訓練したり戦った事を話した。

当初束もにわかに信じがたい話に怪訝そうな顔を浮かべていたが、一夏が自分に嘘を言う理由が無いと考え信じることに。

そして彼女達を元居た世界に返そうと転送装置を起動しようとしたが、肝心の転送装置のあちこちから白煙が上がっており束がパネルの一つを開けると、中にあったケーブルやら回路基板が焦げており、そのほとんどが修復が出来る様な状態ではなかった。

一般人ならさじを投げだすような状態だが、束は

 

『結構時間はかかるけど、直せるよぉ! それまでの間こっちにいることになるし、君達の偽造身分とか作っといてあげるよ』

 

そう言いレオ達の偽造身分の作成をして、転送装置の修理を行っているのだ。無論徹夜作業になる事は明白の為、無理をして欲しくない一夏は束に夜の12時までなら作業しても良いと言い、破ったら朝食抜きと伝えたのだ。

 

 

 

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」

 

「ほいほい、お粗末様」

 

朝食を終え各々自分達の時間を過ごし始めた。

レオとダルキアンは研究所内にある訓練施設で鍛錬をしに行く。ユキカゼはテレビを見始め、ビオレとクロエは一夏の洗い物の手伝いをするべく机の上にある食器を集めた。

一夏が洗い物をしていると、机でお茶を啜っていた束から着信音が鳴り響く。

 

「おりょ、誰かなって、ちーちゃんだ」

 

そう言いながらスマホの画面をタップして電話に出る。

 

「もしもし終日ぅ? 束さんだよぉ! どうしたのちーちゃん? ほぉほぉ。……なるほどなるほど。あ、ちーちょん。ちょっと待ってねぇ」

 

何か会話をしていると突然束はスマホを耳から離し、一夏の方に顔を向ける。

 

「いっくん。はい」

 

そう言いスマホを手渡そうとする束。一夏は濡れた手をタオルで拭き、スマホを受け取り耳に当てる。

 

「もしも~『いじがぁ‼ 無事だったのか! あの馬鹿に何かされたりしていないか!』いきなり耳元で喚くなぁ、この馬鹿姉貴!」

 

涙を流していたのか電話越しに涙声の上に大声で叫ぶ千冬に、一夏はそう怒鳴り落ち着かせる。

 

『大声で叫ばずにいられんだろうが! 2週間だぞ、2週間! どれ程心配したか! 土方ご夫妻も心配されているんだぞ!』

 

「あぁ、まぁ、それはすんませんした」

 

『まぁ、無事ならそれでいい。今束の隠れ家に居るのか?』

 

「あぁ。明日辺りには日本に戻れる予定だ。それと…」

 

『ん? なんだ一夏? 相談があるなら乗るぞ』

 

言い淀む一夏に千冬は姉として相談に乗ってやらんとと思いそう声を掛ける。

 

「あぁ~、じゃあ明日実家に寄っていいか?」

 

一夏の言う実家とは、千冬と二人で暮らしていた家の事を指している。千冬はそれほど重要な事かと思い快く承諾した。

 

そして翌日、一夏達は束の運転する人参ロケットに乗って日本へと帰って来た。

ロケットは束の隠れ家の一つの中に着陸し、5人はそれぞれ荷物を持って降りる。

一夏はフロニャルドに来る時に着ていた服装で、4人は現代女性の服装に着替えていた。無論尻尾は服の中に入れ、頭の耳はバレない様に帽子で隠している。

 

「それじゃあ束さんは戻って作業の続きをするね」

 

「はい。それと、分かってると思いますが」

 

「クーちゃんと一緒にご飯を食べて、12時には仕事を切り上げる。ちゃ~んと約束は守るっていっくん。それじゃあバイビー」

 

そう笑顔で言いながら手を振ってロケットを飛び発たせていった。

残った5人はそれぞれ外へと出てうっそうとする山道を下り、舗装された道路まで出てきた。

 

「さて、此処まで出て来れたが迎えは【ぷっぷー】お、来た来た」

 

クラクションの音がした方に顔を向けると、一台のミニバンが走ってきて一夏達の前で停車する。そして助手席の窓が開くと、運転席に座る千冬がいた。

 

「待たせたな。ほら、乗れお前達」

 

そう言われ一夏は開け方を知らないレオ達の為に後部座席の扉を開け4人を乗せた後、扉を閉め自身は助手席へと座った。

 

「ありがとさん」

 

「なに、構わん。しかし、ミニバンで迎えに来てくれと言われた理由が後ろに座っている者達が理由か?」

 

「あぁ。訳は実家で話すから」

 

そう言われ千冬は分かったと返し、家へと向け車を走らせた。暫く山と寂れた家しかなかった光景から家が立ち並ぶ所までやってきた。そしてミニバンは一軒の家の前で停まる。

 

「よし、着いたぞ。これがカギだ。私はコイツを近くの駐車場に止めてくる」

 

「分かった。コーヒーは何時もの棚か?」

 

「あぁ」

 

そう会話した後、一夏は助手席から降り後ろに座っている4人を降ろすと千冬は車を止めに駐車場へと向かう。

 

「此処が一夏様のご自宅ですか?」

 

「俺が養子に出る前までのな。今住んでるのはまた此処とは別の場所にある。ほら、上がるぞ」

 

そう言い一夏は4人を家の中へと案内する。




次回予告
千冬だ。2週間ぶりに一夏と会話することが出来る。まぁ、アイツから相談があると言われたからそれが先だがな。しかし、あの4人相当な実力者だな。それもかなりのな。一体何処から連れてきたんだ?

次回
相談
~安心しろ、私はお前の姉だぞ~


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2話

5年ぶりの実家に、一夏は懐かしい思いを抱きながらリビングへと入る。

リビングには洗濯物の山と不格好ながら折り畳められた服が置かれていた。

 

「形は悪いが、ちゃんとやってるんだな」

 

「これは一夏殿の姉上がやっていたものでござるか?」

 

「あぁ。姉貴、家事が苦手だったんだ。最近はマシになって来てるらしいけど、まだまだな」

 

そう言いながら一夏は折り畳められた服を端の方に避け、洗濯物の山も籠の中に戻し同じく端の方に置く。

そしてキッチンに向かいキッチンラックからコーヒーと緑茶のパックを取り出し、手早くコップに準備する。そしてポットのお湯を注ぎ、コーヒー3つと緑茶3つをつくると、リビングへと持ってくる。

持ってきたと同時に千冬も家に上がってきてリビングへと入って来た。

 

「ほい、姉貴はコーヒーで良いよな?」

 

「あぁ、すまんな」

 

「レオとビオレもコーヒーでいいか? ダルキアンさんとユキカゼは緑茶にしたが」

 

「はい、それで構いません」

 

「拙者もそれで構わんでござる」

 

それぞれコップを受け取りながらリビングに置かれたソファーに座る。

 

「さて一夏。相談事の前にこの者達の紹介をしてくれるか?」

 

「先に自分の自己紹介をしてからだろ」

 

「む? そうだな。 私が一夏の姉、織斑千冬だ」

 

「レオンミシェリ・ガレット・デ・ロアじゃ」

 

「ビオレ・アマレットです」

 

「ブリオッシュ・ダルキアンでござる」

 

「ユキカゼ・パネトーネでござる」

 

「そうか。それで、一夏。相談事はその者達の事か」

 

「…姉貴、今から言う事は絶対に他人には言わないって約束できるか?」

 

普段とは違う真剣な表情を浮かべ問うてくる一夏に、千冬もスッと真剣な表情を浮かべる。

 

「ほぉ、其処までの事か?」

 

「あぁ。もし漏れた場合は、俺は彼女達を連れて束姉と一緒に逃亡生活をする。そうなった場合姉貴とは縁も切る覚悟もある」

 

一夏から湧き出る気迫から千冬は其処まで覚悟をする事か。と内心大人びて行く一夏に感心と一抹の寂しさを感じる。

だがその思いを直ぐに引っ込めフッと笑みを浮かべる。

 

「弟からの真剣な相談事だ。おいそれと他人に喋るような口をした姉ではないぞ」

 

「そうか。わかった、それじゃあ話す前に4人共帽子とか脱いでくれ」

 

一夏がそう言うとレオやビオレ達はスッとかぶっていた帽子を脱ぐ。4人の帽子の下から現れた耳に千冬は怪訝そうな顔付となる。

 

「それは、つけ物か?」

 

「いや、本物だ。尻尾もあるぞ」

 

そう言うと4人は服の下に隠していた尻尾が現れ、千冬は更に困惑した表情を浮かべる。

 

「えっ? あっと、ど、どいう事だ? ほ、本物か、それは?」

 

「うむ、この耳と尻尾は本物じゃ」

 

そう言いレオ達は耳をピコピコと動かしたり、尻尾をゆらゆらと動かす。その光景に千冬は口をあんぐりと開け、呆然と言った表情を浮かべた。

それから一夏は4人の事を説明し始めた。フロニャルドの事やら、自身がドイツで何があったのかなど。

 

「―――という訳だ、分かったか?」

 

「あ、あぁ。何とかな。しかし、本当に異世界が存在するとはな」

 

一夏からの説明に困惑する頭を何とか整理しながらも、千冬は渋い顔を浮かべる。

 

「それにしても、済まなかった一夏」

 

「なにが?」

 

「ドイツにお前を連れて行ったせいで、誘拐などという事態に巻き込まれて」

 

「別に。つうか、気にしてねぇよ」

 

「…そうか」

 

気にしていないと言う一夏に、千冬は少しばかり安堵したような表情を浮かべコーヒーを口にする。するとあっ。と何かを思い出したかのような声を上げる一夏。

 

「そう言えば誘拐した連中、全員束姉にボコボコされたんだろ? しかもその後も政府の連中をボコした後の姉貴もやってきて、誘拐犯たちをまたボコボコにしたって聞いてるだが」

 

「当たり前だ。大事な弟を誘拐した奴など、万死に値する」

 

「さいっでか」

 

相変わらずだな。と呆れた思いを浮かべながら一夏は持っていたコップに残ったお茶を飲み干す。

 

「そう言えば4人は今後どうするんだ? 土方夫妻には流石にこの4人が異世界人だと説明するわけにはいかんだろ?」

 

「あぁ、取り合えず今日は此処で泊まって貰って明日束姉の所に戻るって計画してる。俺は父さん達の所に帰るけど……」

 

突然言い淀む一夏に、千冬は何となく嫌な予感を浮かべつつも一夏に問う。

 

「どうした?」

 

「実は、束姉が4人の為に耳と尻尾を隠すものを開発してるらしく、明後日には渡すんだと」

 

「……それは良いことだが、まさか」

 

「そのまさか。ISだと」

 

一夏からの返答に千冬ははぁ~~~。と重いため息を吐く。

 

「なんでISを使うんだぁ」

 

「エネルギー関連だとか、拡張性だとか、そんな事言ってたぜ」

 

「はぁ~。民間人がISを所持しているなどバレたら面倒ごとが増えるだけじゃないか。主にわたしの!」

 

「どゆこと?」

 

いきなり自分の仕事が増えると言う千冬に一夏は怪訝そうな顔を浮かべると、千冬は再度重いため息を吐く。

 

「実は日本代表を辞めたんだ」

 

「はぁ。それは、まぁ、束姉から聞いてるが」

 

「その後、元々就職予定だったIS学園に就職したんだ」

 

「あぁ、あのISを学ぶための学校にか。てか、よく中途で採用されたな」

 

「元々其処に就職予定だったんだ。だが、今年のモンドグロッソに再度選ばれてな。内定を取り消してもらおうと思ってたんだが、向こうの学園長からモンドグロッソが終わるまで保留にしておきますって伝えてくれたんだ」

 

「はぁ、それはお優しい事で」

 

「全くだ。お陰で就職先を再度探す手間が省けた」

 

苦笑いを浮かべながら言う千冬に、一夏はそれで先程千冬が言った仕事が増えると言う意味を理解した。

そしてふと一夏は壁に掛かっている時計に目をやると、時刻が夕方の5時を指そうとしていた。

 

「さて、もういい時間だし夕飯作るよ」

 

「一夏が作ってくれるのか?」

 

「久々に帰って来たんだ、別に良いだろ」

 

「フッ。あぁ、構わん。冷蔵庫の中身は好きに使え」

 

そう言われ一夏はキッチンへと入って行った。その日千冬は久々に食べた一夏の手料理に至福のひと時だったと零していた。




次回予告
やっほ~~~!束さんだよぉ! 今日はレーちゃん達のISをお披露目する日なのだぁ! と言って耳と尻尾を隠すくらいにしか使わないから武装とか載せてないけどね。
おりょ、なんか騒がしいって、な、何じゃありゃぁぁ!!?

次回
動き始めた物語


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3話

8ヵ月近く放置してすいませんでした!

そして今回も短い話になっております。
誠にすいません!


一夏が千冬にレオ達の事を伝えて2日が経った。

その間にあった事を説明すると、一夏が久々に土方家に帰ったところ父に良く帰って来た。と安堵の表情で告げられ、母には涙目で無事で本当に良かったと言い抱きしめられた。

そして道場に偶々来ていた沖田と一夏は竹刀を使って模擬戦をしたが、以前までは沖田が常に押していたが、現在は五分とまではいかないがそれでも沖田を押すような場面が幾つも見られるほど強くなっていた。

結果は沖田の勝ちではあったが、沖田曰く

 

「以前よりも強くなってる。こりゃあ近いうちに俺を超えるな」

 

と笑みを浮かべながら褒めていた。

 

 

そして現在、一夏は束の隠れ家に来ていた。いや、正確には拉致されたと言った方が正しい。

何故拉致されたか、それは一夏が土方の家で寛いでいた事の事だった。

部屋で夏休みの宿題を片付け終え、座布団を枕代わりにして寝っ転がっていると突如窓から束が転がり込んできたのだ。

そして

 

『レーちゃん達のISが開発したからいっくんに見せてあげるぜぇ!』

 

と叫び一夏の襟首をつかんで有無を言わせずそのままロケットに乗り込み束の隠れ家であるとある小島の研究所へと来ていたのだ。

 

研究所へと着きロケットから下りたと同時に一夏がまず最初に行った事、それは

 

「ふみょおぉおぉぉぉぉ~~~!?」

 

「せめて俺の意思確認をしてからロケットに乗せろやぁ!」

 

束のこめかみを拳でグリグリと回しながら押し付けられ、束は痛みで悶絶しており帰って来た束を出迎えに来たクロエと、一夏を出迎えに来たレオ達に唖然とした表情を向けられるのであった。

 

暫くして一夏の制裁を受け終えた束は何事も無かったように5人を研究所の奥にある部屋へと案内し中へと入れる。

 

「さてさてぇ、此方が4人の為に用意したISだよぉ!」

 

そう言いじゃーん!と両手でポーズを決める束。部屋の奥には4機のISが鎮座していた。

それぞれ青と白の装甲をした物、黒と紫色の装甲があしらわれた物、日本鎧の様な装甲で白を基調し所々に薄紫色のラインが入った物、機動性重視の為か装甲が他よりも少なく、黒を基調にした物が置かれていた。

 

「左からレーちゃん、オーちゃん、ルーちゃん、ユーちゃんの機体になってるよ」

 

「ほぉ、これがISと言う物か」

 

「何だか全身鎧ですね」

 

「ふむ、動きづらそうに見えるが大丈夫でござろうか?」

 

「忍者である拙者でも扱えるのでござろうか?」

 

4人は不安そうな表情を浮かべながらも束の指示通りにISに乗り込み、フィッティング作業をしていく。

その作業の様子を一夏は部屋の隅で見守っていると、部屋の隅に一機のISが鎮座していた。

 

「クロエちゃん、あのISは?」

 

「あれですか? あちらのISは以前女性権利団体の過激派が何処からか盗んできたISです。束様が過激派達を潰して、そのついでに持ち帰って来たとのことです」

 

クロエの説明に一夏はふぅ~ん。と返しつつISの近くに寄る。

鎮座していたISは日本が開発した機体、打鉄であった。しかし所々に改造を受けたのか外部パーツなどが取り付けられていた。

 

「あぁ~あ、違法改造を受けた感じなのか」

 

そう言いながらISに触れた瞬間、様々なデータが一夏の頭へと入って来た。

クロエは突然目の前で起きた事に信じられず、すぐさま束に向かって叫ぶ。

 

「た、束様ぁ‼」

 

「ん~? クーちゃんどうしたのぉ?」

 

「い、一夏様がぁ‼」

 

「え? いっくん?」

 

一夏の名前が出て束は首を傾げつつクロエが震える手で指す方に顔を向けると其処には

 

「あれ? ISに乗れてる。なんで?」

 

改造された打鉄を身に纏った一夏が其処に居た。

 

 

「はぁぁあぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!????!!! なんでぇ、いっくんISにのれてるのぉおおぉお!??!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

―――ぷるるる、ぷるるる

 

IS学園の職員室で仕事をしていた千冬。突然スマホのアラームが鳴りポケットから取り出し画面を見る。

 

「束? 一体なんだ?」

 

怪訝そうな顔を浮かべながらも、応答ボタンを押し耳に当てる。

 

「束、一体何の用だ? こっちは忙しいんだぞ。…………はぁああぁああぁっ!? い、一夏がISにのっただとぉおおぉ!!!??」

 

急に立ち上がり椅子が吹き飛んだり周りの教師達から驚愕の視線を向けられるも、千冬は束から告げられた事に茫然と言った表情を浮かべるのであった。




次回予告
一夏の姉、千冬だ。はぁ~~。なんで一夏の奴、ISに乗れるんだ。
はぁ~、仕方ない。一夏の為にISの教材を今のうちに送っておこう。どうせ一夏に惚れてるあの4人も来るから一緒に送っておいてやるか。
そう言えば実技試験があったな。……よし、やってやるか。

次回
一夏、入学試験を受ける!


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4話

一夏side

俺がISに乗れることが分かって数日が経った。

その間にあった事とと言えば、姉貴から電話がかかってきて俺をIS学園に入学させる内容だった。

どうやら男なのにISを動かした為、安全面とその訳を調べる為だそうだ。

勿論レオ達も一緒に入学できるらしいが、こっちの知識等がほぼ無いに等しかった。

まぁ、その辺は束さんが

 

『まっかせなさい! この束さんの手に掛かれば、2,3日でこっちの世界の常識や知識を学べるぜぇ!』

 

そう言ってレオ達を連れて勉強会みたいのを開いたらしい。

で、本当に3日後彼女達こっちの世界の知識や文字の読み書き等を憶えたらしい。

因みに方法は聞いたが、挙って首を激しく横に振り言いたくない。と答えた。一体何をしたんだ?

 

それと、学園から分厚い電話帳みたいな本が届いた。表紙にはISに関する参考資料と書かれており、必読とも書かれていた。

おいおい、こんな分厚い本読めとか鬼か。レオ達もちょっとげんなりとした表情を浮かべてた。

で、またまた束さんが登場してきて

 

『この束さんにお任せあれぇ! こんな分厚い資料必要じゃないって位分かり易い本をすでに用意してあるのだぁ!』

 

そう言って本を天につきあげる様に掲げる束。持っている本には『束作 誰でも分かるIS資料!』と書かれていた。

で、さっそく読んでみたがすごく分かり易い物だった。学園からのは文字ばっかりだったが、束さんのは絵などが挿し入れられており分かり易い。お陰で勉強がやり易かった。

 

それとIS学園に入学することは父さん達にも伝えた。母さんは心配した表情を浮かべていたが、父さんが

 

「詠美、別に今生の別れと言う訳では無い。一人で生活していく為にも、今のうちに炊事や洗濯など慣れる必要がある。それに何かあっても一夏の知り合いと言う者達も一緒に行くんだ。そう心配するな」

 

そう言って母さんを安心させようとしていた。母さんも父さんの言葉で若干気が和らいだ様な感じになった。

 

そして現在、何処に居るかと言うと

 

「ほぉ~、此処がIS学園と言う学び舎か」

 

「大きいですねぇ」

 

「いやぁ~、立派な建物でござるなぁ」

 

「本当でござるな、お館様」

 

レオ達と一緒にIS学園に来ていた。と言ってもまだ中には入っていないが。

 

「さてと、そろそろ姉貴が迎えに来る時間のはずだが…」

 

そう零しながら腕に付けている時計を確認していたら

 

「おぉいお前達!」

 

「お、姉貴。お迎えご苦労さん」

 

スーツ姿の姉貴が手を振りながらやって来た。

 

「それで姉貴、今日は実技試験だけか?」

 

「あぁ。実際にISに乗ってどれ程動かせるのか、担当試験官を相手に実際に戦ってもらう。4人はそれぞれ専用機を使ってくれ。それじゃないとこの世界の者ではないとバレてしまうからな。で、一夏だが訓練機を使ってもらう。専用機、まだ無いんだろ?」

 

「あぁ。束さんが俺用にって今作成してくれてる」

 

「そうか。それじゃあそろそろ向かうぞ」

 

そう言い姉貴が歩き始めたから、俺達も姉貴の後に続く様に歩き始めた。

 

 

 

 

~IS学園 アリーナ・ピット~

姉貴の案内の元、学園内にあるアリーナに到着してとりあえず束さん作のISスーツを身に付けた。全身タイプの物で、着易くて伸縮性、通気性が良いモノだった。おまけにライフル弾を間近で撃たれても貫通しないと言う強度もあるらしい。

 

「さて、コイツに乗れば良いんだよな?」

 

今俺の前には日本の量産機、打鉄が置かれていた。

 

「えっと、確かISを背にゆっくりと纏う感じで良いだっけか?」

 

乗り方を思い出しつつそうやったら、無事に打鉄を纏えた。

 

「それじゃあえぇとどうするんだ?」

 

纏えたのは良いが、どうやってアリーナに出るんだ? 外に出る為の扉と言うか、隔壁みたいなのはあるが分からん。

 

『こちら管制室です。織斑君、聞こえますか?』

 

放送から聞こえたの声は確か、姉貴の後輩の山田さんだっけか? あの人も此処の教師になってたのか?

 

「えぇ、聞こえます。お久しぶりです、山田さん」

 

『あ、はいお久しぶりです。えっとそれじゃあアリーナに出てもらう為隔壁を開けますね』

 

「あ、分かりました」

 

ほっ。どうやら隔壁は開けてくれるのか。

さてとそれじゃあ行きますか。

 

一夏side end

 

 

打鉄を身に纏った一夏は真耶に開けてもらった隔壁を抜け外へと出ると、アリーナの中心には一夏同様に打鉄を纏った試験官が居た。だが乗っている人物に一夏は怪訝そうな顔付を浮かべていた。

 

「はぁ? 何で姉貴が此処に?」

 

そう、打鉄に乗っていたのは一夏の姉、千冬であった。

 

「来たか、一夏」

 

「いや、来たかじゃねぇよ。なんで姉貴が試験官なんだよ」

 

「なぁに、お前の実力を直に見たくてな」

 

「で、試験官を変わってもらったと」

 

「そう言う事だ。さて、時間も押しているから早速始める。武器の出し方は分かるのか?」

 

「その辺は束さんとこで練習したから、大丈夫」

 

そう言いながら一夏は頭の中でイメージし、拡張領域から近接用武器、【葵】を取り出す。

 

「ふむ、声に出さずに武器を出せるくらい上達しているか」

 

「この辺はな。空中での動きだとか、その辺はまだまだだがな」

 

「武器を声を出さずに出せるだけでも、そうとうなもんだ」

 

そう言いながら千冬も一夏同様に武器を取り出す。

 

『では、試験開始!』

 

放送が流れたと同時に千冬は刀を構え一気に一夏との距離を詰める。一夏も構え、同様に間合いを詰める。互いの攻撃範囲に入ったと同時に刀を振るう。

互いの刃がぶつかり合うと、激しく火花が飛び散った。二人は飛び散る火花を気にすることなく次々に刃を打ち込んでいく。

2人の激しい打ち合いに管制室に居た教師達は茫然と言った表情を浮かべていた。

暫く二人の激しい打ち合いがつづいた後、一旦距離をとる二人。すると突如千冬の乗っている打鉄の関節部等から黒煙が上がる。

 

「む? ギアが逝かれたか。試験は此処までだな」

 

「ギアが逝かれたって、いいのかよそれ。学園の備品だろ?」

 

「問題ない。予定より早くパーツの交換時期が来たと言っておけば何とでもなる」

 

「ふぅ~ん。てか、良い感じで肩が温まって来たところで終わっちまったなぁ」

 

「確かに。今度からもう少し耐久性のあるパーツに取り換えて貰わんとな」

 

(((え? あれでもまだ本気じゃないの?)))

 

2人の会話に管制室に居た教師達は改めて千冬の実力の高さ、そして入学してくる弟の一夏も千冬と同等か、それ以上の実力を有している事に驚きの表情を出す。

 

 

 

 

 

 

「あ、所で試験の合否は?」

 

「問題無く合格だ。ちゃんと入学式には遅れずに来いよ」

 

「へぇ~い」

 

「それじゃあ私はまだ仕事があるから行く。そろそろ彼女達の試験も終わっているはずだから、待っておいてやれよ」

 

「分かってるって」

 

千冬の言葉に一夏はジト目を向けつつ、早く行け。と言わんばかりに手を振る。千冬が行った後一夏は学園の門前で待っていると4人がやって来た。

 

「おぉ、お疲れ。試験どうだった?」

 

「むぅ、もう少し難しい物だと思っていたのだが、簡単に合格できてしまったぞ」

 

「私も、閣下同様に簡単に合格出来ました」

 

「拙者も簡単に試験官殿を倒せたでござる」

 

「ユキカゼも然りでござる」

 

「そうか。まぁ、試験だから甘めにされてるんだろ。さぁて帰ろうぜ」

 

そう言い5人は帰路に就く。

 

 

 

 

 

因みに、4人の相手は元代表候補生や元軍人の教師だったのだが、開始して10分も立たず完封勝利されかなり落ち込んだとか。




次回予告
どうもビオレでございます。試験には無事合格し一夏様やレオ様達と共に学園へと入学いたしました。本日から学園生活が始まると思うと、一夏様と、その、学園青春と言う物を味わえて嬉しいです。

次回
ようこそIS学園へ!


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5話

試験から数日が経ち、入学式当日となった。

入学式を終え、多くの生徒達が自分達のクラスへと入って行く。勿論一夏達も自分達のクラスへと入って行く。

 

教室に入り黒板に貼られた名前の書かれた席表を見ながらそれぞれ席に着く生徒達。

一夏達も席表を確認し席に着く。

席に着いた一夏は何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「……」

 

「どうしたのじゃ、一夏よ。眉間にシワなど寄せよって」

 

「何か悩み事でござるか?」

 

「悩み事ででござったらユキカゼ達に相談してほしいでござる」

 

「一夏様、一人で抱え込まないでくださいね」

 

そう言い一夏の事を心配そうにする4人。それに対して一夏は

 

「いや、悩みと言うか、違和感憶えねぇか?」

 

「違和感? 全くないぞ」

 

「拙者も無いでござるぞ」

 

「ユキカゼも無いでござる」

 

「申し訳ありません、私もありません」

 

一夏の言う違和感に心当たりがないと4人が言うと、一夏は盛大な溜息を吐く。

 

「じゃあ、言うわ」

「なんで、前後左右お前等に固められてるんだよ!」

 

そう、一夏の言う違和感とは前にレオ、右にダルキアン、左にユキカゼ、後ろにはビオレが座っているのだ。

 

「そんなことか。気にするような事ではないであろう」

 

「うむ。閣下の言う通りでござる」

 

「一夏殿の隣に座れて拙者は嬉しいでござるぞ!」

 

「私は、一歩後ろからお仕えするのに慣れておりますので、此処は丁度いいです」

 

「……あっそ」

 

そう言いはぁ。とため息を吐く一夏。

 

そして教室前の扉が突如開き、廊下から真耶が入って来た。

 

「はぁ~い、皆さん。ご入学おめでとうございます! 私が皆さんの副担任を務めます、山田真耶と言います。どうか3年間宜しくお願いしますねぇ!」

 

そう元気よく挨拶する真耶。が

 

『……』

 

と返事は無く、真耶は出ばなを挫いてしまった。と感じるも

 

「「「「よろしくお願いします」」」」

 

と一夏とレオ達がそう返事を返したのだ。それに対し真耶は

 

「は、はい! よろしくお願いします!」ウルウル

 

涙目で喜ぶのであった。

 

(泣くほどのことか?)

 

(あやつ、不埒な人生でも送って来たのか?)

 

(ふむ、返事をしただけで泣くとは、余程涙もろいのか?)

 

(教師…で、あっているのでござろうか?)

 

(だ、大丈夫なのでしょうか?)

 

と5人に心配されていた。

 

「では、端の人から自己紹介をお願いします」

 

真耶にそう言われ、端にいた生徒から次々に自己紹介を行っていく。そして

遂にレオ達の番となった。

 

「レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワじゃ。好きな事は鍛錬じゃ」

 

「ビオレ・アマレットです。趣味は裁縫です」

 

「ブリオッシュ・ダルキアンでござる。座右の銘は泰然自若でござる」

 

「ユキカゼ・パネットーネでござる! 元気いっぱいが取り柄でござるので、よろしく頼むでござる!」

 

4人の挨拶が終わると同時に教室前の扉が開き黒のレディーススーツを着た女性、千冬が入って来た。

 

「山田先生、すまん。職員会議が思っていた以上に長引いてしまってな」

 

「あ、織斑先生。いえ、大丈夫ですよ」

 

「そうか。さて、私の自己紹介をする」

 

そう言い教壇の横に立つ千冬。

 

「私が君達の担任となる織斑千冬だ。主にISの座学と体育を担当する。授業内容やそれ以外の相談事がある場合、可能な限り相談には乗る。但し、女尊男卑や私の事を崇める様な物は一切受け付けん。以上だ」

 

そう締めくくる千冬。それに対して生徒達は

 

『きゃぁーーーーー!!!』

 

と大声で黄色い声を上げた。

それに対して5人はそのあまりの五月蠅さに顔をしかめつつ耳を手でふさぐ。

その叫びに対し千冬は何処からともなく取り出した出席簿を勢いよく机に叩きつける。

 

「他のクラスがまだSHR中だ。それと、さっきも言った通り私の事を崇拝するような物は受け付けん! 私は教師だ。神様でも無ければ、教皇でもない」

 

そう威圧しながら告げると、生徒達は先程までの歓声が一気に静まり大人しくなる。

 

「よろしい。それで山田先生、自己紹介は何処まで行きましたか?」

 

「えっと、半分ほど終えました」

 

「そうですか。えぇと時間が無いから、土方やれ」

 

千冬にそう言われ一夏はへぇ~いと返しながら重い腰を上げる。

 

「えぇと、土方一夏です。特技は家事全般と剣術で、趣味は釣り。まぁ、よろしく」

 

そう言い席に着く一夏。周りの生徒達は黄色い声を上げようとしたが

 

「……」

 

千冬の無言の威圧が放たれ、静かにパチパチと拍手を送るだけで終えた。

拍手が終えたと同時にチャイムが鳴り響く。

 

「ではSHRを終える。この後は授業になるからしっかりと受ける様に」

 

そう言い千冬と真耶は教室から出て行った。2人が出て行った後生徒達はそれぞれ談笑などを始めたり、チラチラと一夏に目線を向けたりする。

 

「ふむ、一夏よ。ここはどうするんじゃ?」

 

「あ? 此処はこうすればいい」

 

「うぅん? 一夏殿、此処がよくわからんでござる」

 

「そこはその公式を当てはめればいい」

 

周りから向けられる視線に対し一夏達は勉強をしており、レオとユキカゼは束からもらった参考書で勉強しており、一夏に意味や公式などを聞いていた。

ビオレとダルキアンは教科書を静かに読み進めていた。

 

その光景に誰もが話しかけ様にも話しかけられずにいる中、一人の生徒が5人の元に近寄る。

 

「ちょっといいか?」

 

「ん? だれ?」

 

声を掛けてきた生徒に一夏がそう声を返す。その言葉に生徒は目を見開き驚いた表情を浮かべる。

 

「なっ!? 篠ノ之箒だ! お前、幼馴染を忘れるとはどういう事だ!」

 

「篠ノ之箒? あぁ、束さんの妹の」

 

怒鳴る箒に一夏は思い出すようにそう口にすると、一夏の言い方に茫然と言った表情を浮かべる箒。

茫然とする箒を尻目に一夏はユキカゼとレオに勉強を教え、ダルキアンとビオレは本を読み進める。

そしてチャイムが鳴りそれぞれ席に着く中、箒は未だ茫然と言った表情を浮かべていた。すると

 

「篠ノ之、さっさと席に着かんか」

 

教室に入って来た千冬にそう怒鳴られ、トボトボと自身の席へと向かう。

 

次の休み時間、レオは一夏の方に体を向け口を開く。

 

「のう一夏よ。さっきの篠ノ之箒と言う奴は、束の妹なのか」

 

「あぁ、束さんの妹。まぁ、俺もあまりよく知らないんだけどな」

 

「そうなのでござるか? 先程幼馴染と言っておられたが?」

 

「いやぁ、全然あいつと話した事ないんだよ。アイツが通っている道場には一度言った事はあるが、俺に合わなかったからやめたから殆んどかかわりは無いんだよな」

 

「そうなのでござるか。しかし、先ほどの物言いと言い何だか少し引っ掛かりを憶えるでござる」

 

「引っ掛かりって?」

 

「何でござろう。まるで一夏殿に対して、変な思いを抱いている感じでござった」

 

「ふぅ~ん。まぁいいけど」

 

そう言いながら談笑をする5人。すると

 

「ちょっとよろしくて?」




次回予告
一夏だ。
4人と談笑していたら、金髪の英国女性に声を掛けられた。
話をしたが、雰囲気と言い物腰柔らかい女性だな。
が、外見とは裏腹に心には闘争心を持ち合わせてるな。

ぜひ一本勝負したいな。

次回
内なる闘争心を秘めた英国女性


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6話

「ちょっとよろしくて?」

 

突如一夏達にそう声を掛けてきた女性に5人はそれぞれ顔を向ける。

 

「あぁ、構わない。えっと、確かオルコットさんだったか?」

 

一夏がそう女性に対し問うと、女性はえぇ。と肯定し綺麗にお辞儀をする。

 

「改めて自己紹介を。私、イギリス王室貴族の末席に置かせていただいております、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットと申します。以後お見知りおきを」

 

「土方一夏だ」

 

「レオンミシェリ・ガレット・デ・ロアだ」

 

「ビオレ・アマレットです」

 

「ブリオッシュ・ダルキアンでござる」

 

「ユキカゼ・パネットーネでござる!」

 

それぞれ挨拶を交わしつつ、一夏は突如話しかけてきたオルコットに口を開く。

 

「それでオルコットさん。急に声を掛けてきた理由を聞いてもいいか? といって俺が珍しいからと理由だと思うが」

 

「それもありますが、もう一つございます」

 

「もう一つ?」

 

挨拶ともう一つ理由があると言うオルコットに5人は首を傾げる。

 

「皆さん、何かしら武術を習われておられませんか?」

 

オルコットの問いに5人は一瞬キョトンとした顔を浮かべつつ内心警戒心を浮かべる。

 

「へぇ、どうしてそう思ったんだ?」

 

「皆さんの動きです。一見普通の動きに見えておりましたが、無駄が無く、その上隙を一切見せようとしない身のこなしでした。それが出来るのは普段から武術など高度な訓練を受けた者しかおりませんわ」

 

そう言われ5人はなるほど。と納得のいった表情を浮かべ、5人の中で特に戦い好きの一夏とレオは若干口角を上げる。

 

「ただのイギリス代表候補生と言う訳では無いか。お前も武術、特にナイフか何かを習っているだろ?」

 

「ほぉ、その理由をお聞かせいただいても?」

 

「簡単だ。俺達の動きを瞬時に見破る目。それと右腕に何かしらの装備を付けてるだろ? 拳銃にしては小さいしな」

 

一夏の言葉に、今度はオルコットが驚いた顔を浮かべ次に笑みを浮かべる。

 

「フッ。ご推察お見事でございます」

 

そう言い自身の右腕の袖を捲る。その下からは筆箱よりも少し小さめの長方形状の物が仕込まれていた。オルコットは右手首を外側に仰け反らせると、長方形状の物からナイフが出てくる。

 

「手首のスナップを使って飛び出る仕込みナイフか。暗殺家系か?」

 

「いえ、只の護身用ですわ」

 

そう言いながらオルコットはナイフを仕舞う。

 

「護身用にしては結構物騒そうだがな」

 

「ISよりもまだ可愛い物ですわ」

 

そう言われ苦笑いを浮かべる一夏。

するとチャイムが鳴り響き、オルコットはではこれで。と言い自分の席へと戻って行く。

全員が席に着いたと同時に教室の前方の扉から千冬と真耶が入って来て教卓へと立つ。

 

「えぇ~、授業を始める前に実はクラス代表を決めなきゃならない。誰かやる者は居らんか?」

 

千冬の問いに生徒達はどうしようかと隣の生徒と談議する。暫し談議をする生徒達を見かね、千冬は妥協案を出す。

 

「それじゃ推薦したい者はいるか?」

 

そう言うと生徒達はその言葉を待っていましたと言わんばかりに手を挙げ始める。

 

「土方君が良いと思います! 世界初の男性操縦者だし!」

 

「私も土方君が良いと思います!」

 

「私も同意見でぇす!」

 

次々に一夏の名前を上げる生徒達。皆世界初の男性操縦者と言う珍しさだけで一夏の推薦している。当の本人はというと

 

「……」イライラ

 

珍しいと言う理由だけで推薦する生徒達に若干イラついた表情を浮かべていた。

その姿に隣の席に居るユキカゼとダルキアンがなだめる。

 

「一夏殿、イラつくのは分かるでござるがどうか気を静められよ」

 

「そうでござる。後で甘味で食べに参りましょう」

 

そう言い宥める二人だが、一夏のイラつきは収まりそうになかった。すると

 

「先生、自推致します」

 

そう声を上げたのはオルコットだった。彼女の突然の自推に生徒達は皆驚いた表情を浮かべていた。

そんな中千冬は口を開く。

 

「何故先程手を挙げて自推しなかった?」

 

「いえ、クラス代表になった場合のメリットなどを考えておりましたら話が進んでしまっておりましたので」

 

「そうか。ではクラス代表はオルコットか土方のどちらかになるが、どう決める?」

 

千冬はそう問うと、生徒達はどう決める?とまた談議を始める。だが、一夏とオルコットは既に答えは決まっていた。

 

「んなもん決まってるだろ」

 

「えぇ、シンプルな物が」

 

「…一応聞くが、なんだ?」

 

「「クラス代表を賭けた決闘」」

 

2人して決闘すると言うと千冬は、この2人バトルジャンキーだったか?と内心疑問を浮かべるもまぁ、手っ取り早いしいいか。と思い

 

「よし、では一週間後アリーナにてクラス代表を賭けた決闘を行う」

 

千冬の宣誓に生徒達はおぉー!と声を上げる。

 

「では、授業を始め【キーンコーンカーンコーン】……終了とする」

 

そう言い教材等をもって千冬と真耶は教室から出て行った。




次回予告
ダルキアンでござる。一夏殿とオルコット殿の決闘が決まり、一夏殿は何処となく楽しみにされている様でござるな。
フフッ、一夏殿が笑顔を浮かべていると拙者も嬉しくなるでござるな。
それにしても決闘でござるか。オルコット殿と決闘をする前に拙者と手合わせてして欲しいでござるな

次回
ダルキアンとの模擬戦


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7話

金曜日にクラス代表を賭けた決闘をする事が決まり、授業を行おうとしたものの終了のチャイムが鳴り響いた為生徒達は昼食をとるべく食堂へと向かう。

一夏達も食堂で昼食をとるべく教室を出る。

出て行った5人をその後ろからぞろぞろと付いて行く生徒達。

 

「なんか付いて来ておるぞ」

 

「その様ですね」

 

「まるでパレードの行進の様でござるな」

 

「賑やかさは無いでござるがな」

 

と4人は苦笑いを浮かべ、一夏はめんどくせぇと言いたげな表情を浮かべていた。付いて行く集団から外れた位置には箒も居り、何故か気に喰わないと言った表情を浮かべていた。

そして食堂に到着するとそれぞれ料理を注文し受け取ると席へと着く。

席に着きご飯を食べる一夏はやっと一息つけると言いたげな表情で口へとご飯を運ぶ。

 

「一夏殿、相当気疲れされている様でござるな」

 

「まぁそりゃあそうでしょ。さっきからずっと水族館に新しく来た魚みたく見られているんですよ。イライラしぱなっしですよ」

 

ダルキアンの言葉に一夏がそう答えると4人は苦笑いを浮かべる。すると

 

「あのすいません」

 

「ん? あ、オルコットさん。どうかされましたか?」

 

席の近くに自身の昼食であろうサラダとサンドイッチの載ったトレイを持ったセシリアが居た。

 

「他に空いている席が無くて、もしお邪魔でなければご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、構わんぞ」

 

「私も大丈夫です」

 

「拙者も構わんでござる」

 

「みなと食べたほうが美味しいでござる!」

 

「俺もいいぞ」

 

「ありがとうございます。では失礼します」

 

そう言いセシリアは一夏達の座る席の端へと腰を下ろす。

そして6人は談笑をしつつ箸を進める。

 

「ふふふ、それにしても皆さんは本当に仲が良いのですね」

 

そうセシリアが言うと5人は若干苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ確かに仲は良いな。ほんの少し前までは喧嘩みたいな感じだったが」

 

「え? そうなのですか?」

 

「まぁ、儂が原因じゃがな」

 

「あの、差支えが無ければ教えて頂いても?」

 

そう言われレオは異世界の事ははぶらかしつつも説明した。

 

「―――なるほど。大切な幼馴染とちょっとした擦れ違いで大喧嘩に」

 

「うむ。大切が故に儂の思いを伝えられなくてな。それが原因で喧嘩になってしまったのだ」

 

「そうでしたか。その後はどうなったのですか?」

 

「此方におられる一夏様のお陰でレオ様とその幼馴染との擦れ違いは解けました」

 

「へぇ土方さんのお陰でですか」

 

「……俺はただ間違っている事をしているこいつに叱ったついで平手打ちをしただけだ」

 

「え? 平手打ちをしたのですか!?」

 

「うむ、こやつから平手打ちを貰ったぞ。結構痛かったが、それのお陰で儂の間違いを気付かせてくれたのじゃ」

 

感慨深そうに言うレオにセシリアはそうですか。と落ち着いた表情を浮かべる。

するとセシリアは突如顔をズイッと一夏達の方へと近づける。

 

「所で先程から気になっているのですが」

 

「ん? どうした?」

 

「先程から視界の端におられる篠ノ之さんが、恨めしそうにこっちを見られておられるのですが何故でしょうか?」

 

そう言われ一夏達はコッソリと顔を後ろに向けると、セシリアの言葉通り恨めしそうな表情で一夏達の方を睨む箒が居た。

 

「さぁ?」

 

「さぁって、お知り合いではないのですか? 教室でも幼馴染と言っておられましたが?」

 

「アイツが言っているだけで、俺はそうとは思っていないんだ。てか、そもそも篠ノ之の事あまり知らねぇんだよ。姉の方はよく知ってるけど」

 

「姉と言いますと、篠ノ之博士の事ですか?」

 

「そうそう」

 

「つかぬことを聞きますが、何故篠ノ之博士とお知り合いで? 噂では身内と親しい者以外はあまり興味を示さないとお聞きしますが」

 

「あぁ、その事なんだが。今から言う事は内緒にしておいてくれないか? あんまり騒がれると織斑先生に迷惑が掛かるからよ」

 

「? 何故織斑先生に迷惑が…。まぁ分かりました」

 

疑問を浮かべつつもセシリアは誰にもしゃべらない事を同意する。

 

「実は俺、土方っていうのは養子に出てからの名前なんだ。その前の名前は織斑、つまり織斑千冬の弟なんだわ」

 

「えっ? で、では土方さんは織斑先生の実の弟さんなのですか?」

 

「そっ。訳あって土方家の養子になって名前が変わってるんだ」

 

「そ、そうでしたの。確かにおいそれと漏らしてはいけない事ですわね」

 

一夏の説明にセシリアはそう言い喋らない事を再度約束する。

そして昼食を終え、一夏達は教室へと帰って行く。

 

 

そして時刻は飛び放課後、一夏達はカバンの中に教科書などを入れていく。すると

 

「あ、土方君達まだ教室に居てくれたんですね。よかったぁ」

 

そう安堵した表情で声を掛けてきたのは真耶であった。

 

「どうしたんですか、山田先生?」

 

「はい、皆さんのお部屋の鍵をお持ちしましたので無くさない様お願いしますね」

 

はい、どうぞ。と言い真耶は5人にタグ付きの鍵を手渡していく。タグには『2254』と書かれておりそれぞれが持っている鍵を見ても全員同じ数字で合った。

 

(なるほど、姉貴が手を回したな。まぁその方がいいか)

 

一夏は全員同じ数字になっている理由を直ぐに見当がついたのか、納得のいった表情を浮かべる。4人も同様にそう言う事か。と何処か納得のいった表情を浮かべる。

 

「それじゃあ部屋行くか」

 

「そうじゃな」

 

「はい」

 

「うむ」

 

「いざ部屋へ、でござる!」

 

そう言い5人は部屋へと向かう。

道中多くの生徒達が一夏達の部屋が気になるのかぞろぞろとその背後を付けてきた。

ついてくる生徒達に一夏は目元をピクピクと痙攣させる。

 

「またか」

 

「毎日付けてくる気か?」

 

「それは流石に困りますね」

 

「うむぅ、こればっかりは流石にのぉ?」

 

「これは流石に拙者も困ったでござるな」

 

そう言っていると突如廊下の角から千冬が現れた。

 

「お前達、土方の部屋が気になるのは分かるが、初日からそんな事をしていていいのか? 後で後悔する目に遭うのはお前達だから私は気にしないがな」

 

そう脅すような口調に付いて来ていた生徒達は蜘蛛の子を散らすように足早に自分達の部屋へと向かう。

 

「はぁ。助かりました織斑先生」

 

「なぁに気にするな。それと暫くの間はあぁ言う風に付いてきたりするがまぁ放っておけ。もし何かしてきたら状況次第では反撃をして構わん。但し半殺しで止めておけよ」

 

「教師が半殺しまでなら容認するってどうよ?」

 

「お前にとって不本意だろうが、世界初の男性操縦者だ。お前の事が気に喰わ無い奴らは消そうと色々な方法を取ってくるかもしれないからな。そう言った奴から身を護るなら半殺し程度問題ない」

 

「あっそ。じゃあ部屋帰りまぁす」

 

「あぁ。…あぁそうだ。お前達訓練はどうする?」

 

千冬の問いに一夏達はあぁ。と考える素振りを見せる。

 

「確かにどうすっかな」

 

「道場のような場所は無いのでござるか?」

 

「あるにはある。だが剣道部とかが使っていているから難しい」

 

「となるとほぼ無いな」

 

一夏の呟きに4人はうぅむ。と困った表情を浮かべる。そんな一夏達に千冬は笑みを浮かべる。

 

「安心しろ、それは無い」

 

「どう言う事ですか?」

 

「実は学校の敷地の隅に一昔前まで使われていた室内訓練場がある。今は大型訓練場が建てられたから使われることがほとんど無くてな。私がよく使わせてもらっている。其処で鍛錬をすればいい」

 

「へぇ、そんな物があったのか。分かった、今日早速見に行ってみるわ」

 

「あぁ、構わん。但し遅くなりすぎるなよ」

 

「へいへい」

 

そう言い今度こそ一夏達は千冬と別れ部屋へと向かう。

5人の部屋に着いた一夏達は鍵を開け中へと入ると、其処には荷物が置かれており置手紙もあった。

 

「一体誰からなんでしょうか」

 

「うぅ~ん、束姉だろ多分」

 

そう言いながら置手紙を拾い上げ読み始める一夏。

 

『いっくん達へ

ちーちゃんからいっくん達の着替えなどを詰めたカバンを持って来てくれと頼まれたので持って来ておいたよぉ。(*^▽^*)

それと机の上にいっくんの専用機を置いておいたから腕に付けてね。展開したら自動的にフィッティング出来る様してあるから安心してね。(^O^)/

 

束お姉ちゃんより(*‘ω‘ *)』

 

「…えっとこれか?」

 

一夏は机の方に顔を向けると手紙の通りISの待機形態と思われる腕に付けるブレスレットが置かれていた。それを手に取り腕に付けると、初めて付けたにも関わらず何となくしっくりと来る感じを憶える一夏。

その感じに疑問を抱きつつも一夏はレオ達の方に顔を向ける。

 

「さてと、それじゃあ訓練所を見に行ってみるか?」

 

「うむ、参るか」

 

「はい、お供します」

 

「広さがどれ程あるのか気になるでござるな」

 

「はい、お館様」

 

そう言い5人は部屋を出て千冬の行っていた訓練所へと足を向ける。談笑しつつ向かっていると向かいからセシリアが歩いてくるのを発見する。

 

「うぃすオルコットさん」

 

「あら皆さん、こんばんわ。食堂は反対ですが何処かに向かわれるのですか?」

 

そう聞かれ一夏達は別に言っても大丈夫か。と思いセシリアに向かう先を伝える。するとセシリアはそうですの。と返し暫し考えたそぶりを見せた後申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「あの、お邪魔でなければ私もご一緒してもいいでしょうか?」

 

「ん? ……あぁ、そうか。オルコットさんも訓練できる場所が…」

 

「えぇ。流石に学園の道場で実物のナイフを振ったりするのは危ないので、止めておこうと思っておりましたので」

 

そう言われ5人は良いぞ。と快諾しオルコットと共にその訓練所へと向かう。

そして6人は千冬の言っていた室内訓練所へと到着する。中には型は古いがまだまだ使えそうな訓練器具だったり、模擬戦をするにはちょうどいいくらいの広さのある広場もあった。

 

「へぇ、随分と綺麗だな」

 

「確かに。これなら問題なく訓練が出来るの」

 

「はい」

 

「うむ、良い訓練所でござるな」

 

「本当でございますなお館様」

 

「そうでございますね」

 

そう言い各々設備の整った訓練所に感心していた。

それぞれが訓練所内の設備を見て回っている時、ダルキアンはふと模造刀を発見し持ち上げる。

 

「ふむ、妙な亀裂などは無いな」

 

そう呟きそっと一夏の方に顔を向ける。その視線に気付いた一夏は苦笑いを浮かべる。

 

「ダルキアンさん。流石に今日やるのはきついですよ」

 

「むぅ、駄目でござるか?」

 

「…ちょっとかわいくお願いされても駄目です」

 

頬を膨らませ口を尖らせジト目で見てくるダルキアンに、一夏は困ったような笑みを浮かべる。すると

 

「でしたらわたくしがお相手致しましょうか?」

 

そう申し出たのはオルコットだった。

 

「よろしいのか、オルコット殿?」

 

「えぇ、ぜひ」

 

その言葉にダルキアンは笑みを浮かべる。そしてダルキアンは刀サイズの模造刀を構え、セシリアは短刀サイズの模造刀を構える。

2人が構える真ん中ではビオレが審判役として立つ。

 

「では一本勝負の模擬戦を行います。但し時間の事などがありますので、時間が来ましたらその場で模擬戦を止めさせていただきますが、宜しいですか?」

 

「「うむ/はい」」

 

「では……始め!」

 

その言葉に双方構えたまま動かない。動きが無いまま暫し経つと、セシリアが動く。早い動きでダルキアンの懐に潜り込もうとしたが、その前にダルキアンの方が早くセシリアの持っていた模造刀を弾き飛ばす。

 

「っ!?……参りましたわ」

 

その言葉で試合は終わり双方握手を交わす。

一夏達も試合終了後二人の元に近付く。

 

「素晴らしい剣術でした。何時振られたのか、全く見えませんでしたわ」

 

「はっはっは。ありがとうでござる。さて、戻るでござるか」

 

そう言われ一夏達も頷き訓練所を後にした。

 

 

 

 

 

(オルコット殿の短刀術、なかなかいい動きをしていたでござるな。だが、何か他にも武術を身に付けておられるな)




次回予告
一夏だ。あれから訓練所で訓練したり俺のISで軽く動かすなどした。
さぁいよいよオルコットさんと模擬戦をする日だ。
お互い悔いの無いようやってやりますか

次回
クラス代表決定戦!


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8話

一夏side

クラス代表決定戦を行う事が決まってはや一週間。

その間の事を説明するぜ。

 

まずは一週間の間、姉貴の使っている訓練所で何時もやっていた通りに刀の素振りや、ストレッチマシーンを使って体を鍛えていた。

向こうの世界(フロニャルド)でもこっちの世界でも習慣みたいにしてたから、やらないと落ち着かん。

てか、あの4人。俺がストレッチをした後ガン見してくるの止めて欲しんだが。何で見てくるんだよ。何か頬染めてるしよ。

 

※一夏の体は原作以上に筋肉がついており、Tシャツの上からでもはっきりと分かるほど筋肉出ている。

更に汗をかいて若干筋肉が透けて見えている為4人はそれが気になって見ているのだ!

 

まぁ、そんな事は置いておいて。他にやった事はISの訓練とかだ。こればっかりは生身の訓練以上に出来なかったな。

アリーナの予約を取ろうにも上級生達が使っている事が多いからやれる日が少なかった。まぁ新しい機体を動かせる程度の訓練は出来たから何とかなるだろ。

 

あと、篠ノ之がやたら絡んできたのがうざかったな。腕を見てやる!ってやたら五月蠅かったから一本勝負で勝負したが、訓練で出している程度の力しか出してないのにアイツそれよりも弱いと感じたんだが。

勿論勝負にならず面一発打ち込んだら、のた打ち回っていた。

で、それ以降も何度も絡んできたから姉貴に言ったら、放課後篠ノ之の首根っこを掴んで教室で居残り授業を受けていた。

まぁ授業に真面目に受けている様子も無かったし、いい薬になったろ。

 

という感じで一週間を終えて今日はオルコットさんと決闘だ。

気合い入れて行きますかねぇ。

 

一夏side end

 

アリーナのピットで自身のISを整備する一夏。その近くでは

 

「ふむ、IS同士の戦いとはこのようなものなのか」

 

「戦興業とはまた違った物なのですね」

 

「ふむ、基本は一対一の物でござるか。地面で戦うだけでなく空中でも戦うとは」

 

「中々難しそうな物でござるな」

 

4人がISを使った勝負事のルールなどが書かれた書物を読んでいた。

 

「確かにそうかもな。まぁ地面で戦う事に慣れてるから難しいと感じるが、慣れたら結構面白いと思うけどな」

 

「それはそうでござるが…。その、一夏殿。もしよろしければお時間が良い時でも構わないので、教えて欲しいでござるが?」

 

「んぁ? 別にそれは「あぁ! ユキカゼ、貴様! 抜け駆けなど許さんぞ! 一夏、儂も混ぜよ!」「その、私もお邪魔でなければお願いします」「一夏殿、拙者も頼むでござる」……へいへい」

 

4人の頼みに一夏は苦笑いを浮かべながらコンソールを閉じる。

そして自身のISを見上げた。

 

「さて行くぞ、『大和』」

 

そういって一夏は自身のIS、大和を身に纏う。

一夏が出撃しようとカタパルトに乗ると、4人が声を掛けてきた。

 

「一夏よ、無様な負けは許さんぞ!」

 

「ご武運をお祈りいたします」

 

「気張らず、何時も通りの動きで行くでござるよ」

 

「一夏殿、ファイトでござる!」

 

そう声援を受け、一夏はサムズアップした後カタパルトから射出された。

アリーナへと出ると其処にはオルコットが自身のIS『ブルーティアーズ』を身に纏って地面で佇んでいた。

 

「待たせたか?」

 

「いえ、私が早く出てきただけですのでお気になさらず」

 

そうか。と言いながら一夏はオルコットの向かいに立つ。

 

『では、これより試合を開始します。3…2…1…試合開始!』

 

試合開始の合図が出されるが、お互いに武器を出したが動かなかった。

 

「どうした、来ないのか?」

 

「勿論行かせていただきますが、その前に下準備を」

 

そう言いオルコットはブルーティアーズに積んであるBITを全て展開した後地面に落す。

 

「何の真似だ?」

 

「土方さん、貴方は己の武に誇りをお持ちですよね?」

 

「勿論だ」

 

「それと同じ様に、私も自らの武術に誇りを持っております。ですので貴方には武術をもってお相手したいのです。ですのでこの様な遠隔操作するような物は使う気はありませんわ」

 

「なるほどな。だがいいのか? それが原因で負けたとかお国の連中が五月蠅いんじゃないのか?」

 

「問題ありませんわ。貴重な男性操縦者との戦闘データ採取とでも言っておけば黙りますわ」

 

「おぉ、おかっねぇ。で、下準備は終わったのか?」

 

「いえ、最後にもう一つございますわ」

 

そう言い自身が持っていたスターライトを片付けると、今度はボルトアクション式のライフルを取り出してきた。

その光景に一夏は更に怪訝そうな顔付を浮かべる。

一夏の顔にオルコットはしてやったりと笑みを浮かべていた。

 

「土方さん。私が得意としているのは確かにナイフです。ですが、それはあくまでも護身にすぎません。私が得意としているのは」

 

そう言い取り出したボルトアクションライフルの銃口に銃剣(バヨネット)を取り付ける。

それを見て一夏はなるほどな。と笑みを浮かべる。

 

「ほぉ、銃剣術か」

 

「えぇ、私が最も得意としている武術です」

 

「しかしボルトアクションライフルって、使いづらくないか?」

 

「確かにそうですわね。ですが、この形状だからこそ出来る技があると言う訳ですわ」

 

そう言いながらボルトアクションライフルをまるで体の一部の様に振り回し構える。

 

「さて、下準備は終わりました。では、参りますわ!」

 

その掛け声と共にオルコットは一気に一夏との間合いを詰めて来てライフルを突く。

一夏はそれを避けながら後ろに下がりオルコットの動きを観察する。だがその動きに隙は見当たらなかった。

常人だったらこの状況に焦った表情を浮かべるが、一夏はまるで楽しんでいるかのような表情を浮かべていた。

 

「随分と余裕といった表情ですね」

 

「そうか? 実際は全然ないけどな」

 

「ですが笑みを浮かべておられますよ?」

 

「そりゃあ、今まで戦ってきた事が無い武術と相対しているんだ。笑いたくもなるよ」

 

「なるほど。相対したことが無い武術と戦う事で己の技量を磨く、という事でございますね?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「なるほど。ですが、未だに攻めの姿勢に入られておられませんわよ」

 

そう言いながらオルコットは更にスピードを上げ突いてくる。

 

「安心しろ。もう目が慣れた!」

 

そう叫び、一夏は持っていた刀『兼定』で銃剣の突き攻撃を弾く。

 

「っ!? 驚異の動体視力ですわね」

 

「褒め言葉として受け取っておく。それじゃあ行くぜ!」

 

そう言うと今度は一夏の方から攻め込む。

懐に飛び込んできた一夏に、オルコットは焦る事なく突きの攻撃から振り払い攻撃に切り替え絶妙な距離感を開けて戦う2人。

暫くして互いに距離をとり合い息を整える2人。

 

(流石としか言えませんわ。私の銃剣術をモノの数分で動きをとらえるとは…)

 

(うっはぁ~。捌くのきつかったぁ。それにしても間合いの詰め方から距離をとるタイミング。どれも流石としか言いようが無いな)

 

互いに次の一手をどうするか、暫しの静寂が流れた後またオルコットが先に動く。先程とは違い払いの動作を取るオルコット。一夏は兼定を縦にして攻撃を防ごうとするが、オルコットはそれを読んでいたのか素早く体を捻り、振るう行動から突きへと変える。一夏は突然の事だった為一夏はそれを避ける動作を取る。

攻撃は当たらないと思っていた一夏。だがオルコットはフッと笑みを浮かべるのを見逃さなかった。

次の瞬間

 

ダァーン!!

 

銃声が鳴り響く。

撃たれた弾丸は真っ直ぐに一夏の元へ向かい命中するかと思われたが、一夏の持っていた兼定が運よく弾丸を切り、真っ二つにして軌道を変え防いだ。

 

「アッぶねぇ」

 

「惜しかったですわ。あれが当たっていれば此方が有利になっておりましたのに」

 

「だろうな。あぁ、今のはマジで胆が冷えた」

 

そう言いながら息を吐く一夏。オルコットはボルトを引き排夾をして次弾を薬室へと送り込む。

 

(さて、どうするかなぁ。下手に距離をとると撃たれるからな。かといって接近戦に持ち込んでもあの槍捌きを躱さなきゃならんしな)

 

そう思いつつ策を練る一夏。が、そんな考える時間を与える程オルコットは優しくは無かった。

 

「考えている時間などありませんわよ!」

 

そう言い間合いを詰めついてくるオルコット。迫りくるバヨネットに一夏は兼定で弾き返しつつ次の一手を考える。

そして

 

(…槍と刀じゃ、向こうの方が有利だからな。だがそれは槍の先端、刃の部分の届く範囲だ。だったら打つ手は一つしかないか)

 

そう思いながら兼定を斜め下に構えながら一気に間合いを詰める。オルコットはそれを迎え打とうと、槍を突く。迫りくる槍に一夏は焦ることなく寸での所でスライディングし懐に潜り込む。

これにはオルコットは驚き直ぐに間合いを取らねばとするも

 

「貰ったぁ!」

 

そう叫び一太刀浴びせる一夏。その攻撃でオルコットのSEは削られた。

 

「っ。流石ですわ。ですがまだ終わりではありませんわ!」

 

そう叫びオルコットは一夏との距離をとろうとライフルを振るう。

 

(この攻撃を受けるとSE負けする)

 

そう思い攻撃を防ぐべくもう一本装備されている短刀『康継』を構え攻撃を防ぐ。振られたバヨネットを防ぐも衝撃までは防げず、ズザザザ!と押される。

 

「あっぶねぇ。あれを受けたら逆転負けするところだったぜ」

 

「でしょうね。ですが、次は当て『ビィーー!』……はぁ、此処までですか」

 

続きをやろうとする2人に時間切れのアラームが鳴り響いた。

そして結果がアナウンスされた。

 

『時間切れにより、勝敗はSEの残量で決定します。結果は土方君が多かったため勝者は土方一夏君です。おめでとうございます』

 

そうアナウンスされると、盛大な拍手が沸き起こった。

一夏はアナウンスにあっぶねぇ。とふぅと一息吐く。

 

「おめでとうございます土方さん」

 

「ありがとう、オルコットさん。今日はいい経験になったよ」

 

「此方も同様ですわ。私もまだまだ未熟と言う事が分かりましたし、次は勝たせていただきますので、その首とられない様にしっかりとお守りくださいね?」

 

「ふっ。なら次はギリギリの勝利ではなくしっかりとした勝利を取れるよう俺も技量を上げますかね」

 

そう言いながら二人は手を差し出し合い握手を交わす。

こうしてクラス代表決定戦は終わった。




次回予告
レオじゃ。
一夏め、ますます力を付けて強くなっておるの。クッククク、やはり儂が見込み、その、惚れた男だな。
それにしてもあの篠ノ之とか言う奴。一夏によく突っかかりおるのぉ。
ん? 勝負じゃと? はぁ、どう考えても勝負にならんじゃろ。 

次回
意味の無い決闘


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9話

一夏side

アリーナから戻ってくるとピットには笑みを浮かべ腕を組むレオ、パチパチと拍手をするダルキアンさんとビオレ。そして

 

「流石一夏殿でござる!」

 

と手を胸の高さまで上げて喜ぶユキカゼ。

 

「全くだ。クックック、また腕を上げたのか?」

 

「そんなに上がってないだろ? 何時もと変わらないぞ」

 

そう言って俺はベンチに置いておいたスポーツドリンクを手に取り口に含む。オルコットさんとの決闘は中々激しかったし、緊張も相まってか喉がカラカラだったから喉を通るスポーツドリンクが上手かったし、熱った体を冷やしてくれる。

スポーツドリンクを飲んでいると、ピットと廊下を繋ぐ扉が開きその先から姉貴と山田先生が現れた。

 

「ご苦労だった土方」

 

「お疲れ様です、土方君」

 

「どうもっす」

 

「管制室で見ていたが、入学試験時よりも腕が上がっていないか?」

 

「はぁ? 織斑先生までそんな事を言うのか? 変わってないだろ?」

 

「フッ。お前は気付いていないが、腕は確かに上がっているぞ」

 

「そんな物か?」

 

「一夏殿、拙者から見ても腕は確かに上がっているでござるよ。こう言うのは本人の自覚よりも、周りの方が気付きやすいのでござるよ」

 

「ほぉ~、なるほどねぇ」

 

ダルキアンさんの言葉に俺はなるほどと思った。だって、大陸最強と謳われているダルキアンさんから言われたんだぞ。納得する理由になる。……タブン

 

「さて結果はお前がクラス代表に選ばれた。明日からしっかりと頼むぞ」

 

「うへぇ~、めんどくせぇ」

 

「そう言うな。すまんが、お前達も土方が困っていたら手伝いを頼む」

 

「うむ、任せよ」

 

「畏まりました」

 

「あい分かった」

 

「承ったでござる」

 

そう言って4人が了承したのを満足そうに頷く姉貴。そういうえば…。

 

「所で山田先生」

 

「はい?」

 

「何か用があって織斑先生と来たんじゃないんですか? わざわざ労いの言葉を送りに来たとは思えなんですけど」

 

「…。あっ、そうでした。これを土方君に渡しに来たんです」

 

そういって持っていた分厚い本を俺に渡してきた。

 

「なんすかこれ?」

 

「ISに関する制約事項などが書かれているものです。しっかりと読んでおいてくださいね」

 

いや、読んでおいてくださいねって、こんな分厚いやつ読めるか。……今度昼寝の時に枕代わりにでもするか。

 

「それじゃあ俺達部屋に『ガンガンガンガン!』はぁ~、今度は誰だ?」

 

 

一夏side end

 

一夏はめんどくさそうな顔を浮かべる中、扉近くに居た千冬は扉横についているモニターに近づき扉を叩いた人物を確認する。モニターには箒が映っていた。

 

「なんでアイツ此処に来たんだ?」

 

会いたくない人物の襲来に一夏は構うのがめんどくさそうな顔を浮かべていた。

 

「はぁ、土方。面倒だがアリーナに出て反対のピットから帰れ」

 

「へぇい」

 

そう言い一夏とレオ達は千冬達に一礼してからピットからアリーナへと出てそのまま反対のピットへと向かい中へと入りそのまま廊下へと出てアリーナを後にした。

 

その日の夕方。夕飯を食べ終え談笑をしながら部屋へと戻っていく一夏達。

すると前方を邪魔するように箒が現れた。

 

「なんだ、篠ノ之か。なんか用か?」

 

「貴様、なんで呼んだのに出てこなかった!」

 

「は? 済まんが何時俺の事呼んだんだ?」

 

「アリーナでの決闘の後だ! 扉を叩いて呼んだだろうが!」

 

「あぁ、知ってた」

 

「なっ……知っていたのにも関わらず出てこなかったのか! しかもどうやってあそこから出たんだ! ずっと扉の前で叩いて待っていたんだぞ!」

 

「はぁ? お前、この時間までずっと扉叩いてたのか?」

 

そう一夏が言い時間を確認する。アリーナでの決闘が終わったのは約16時頃、そして現在は19時前。つまり約3時間程ずっと扉を叩き呼んでいたのだ。

 

「お前、1時間も叩いて返事が無かったらすでに帰った後だと分かるだろ」

 

「試合が終わって直ぐに向かったんだ‼ 知る訳ないだろ!」

 

「うわぁ逆ギレかよ。てかなんか用があったのか?」

 

「っ…貴様、今日の決闘なんであんな手こずったんだ」

 

「は?」

 

「篠ノ之流を学んでおけばあそこまで苦戦しなかったはずだ! 今すぐにでも篠ノ之流を「うるせぇな、それは前にも話しただろうが。篠ノ之流は俺には合わなかったんだよ」だが!」

 

「はぁ。だったらもうお前と一回決闘してやろうか? お前が勝ったら篠ノ之流を学んでやるからよ」

 

「いいだろう、来い!」

 

そう言って一夏の腕を掴もうとするもひらりと避けられる篠ノ之。避けた一夏は一緒にいたレオ達に顔を向ける。

 

「て言う訳だから、ちょっと行ってくるわ」

 

「なぁにお主一人で行こうと思っておるのだ。儂も行くぞ」

 

「私もご一緒させていただきます」

 

「拙者も同伴するでござる」

 

「ユキカゼもでござる」

 

「あっそ。じゃあ行こうぜ」

 

そう言い一夏は4人と共に道場へと向かう。置いてけぼりを喰らった箒は顔を大きく歪ませつつも足早に道場へと向かった。

道場に着くと一夏は壁に掛かっていた竹刀を手に取り軽く振るう。すると道場の入り口に生徒達がぞろぞろと顔を覗かせる。

そして遅れる様に篠ノ之が到着する。

 

「ちゃっちゃっと終わらせたいから、早く竹刀を構えろ」

 

「なっ!? 防具無しでやれと言うのか!」

 

「はぁ、じゃあ早く防具つけて来いよ。早く風呂行きたいのによ」

 

「お前もつけろ!」

 

「動きづらいんだよ。あと、防具無しで練習したりするから多少の痛み位問題ねぇよ」

 

そう言われ顔を顰めながら防具を付けに行く箒。そして暫くしてつけ終えた箒と相対する一夏。

審判に立ったのは偶々ついてきた生徒達の中にいた剣道部の上級生だった。

 

「では一本勝負よろしい?」

 

「うっす」

 

「はい」

 

「では……始め!」

 

スパッーン‼

 

そう審判の上級生の合図が出て直ぐに大きな音が道場内に響いいた。その訳は

 

「面あり」

 

一夏が合図と共に一気に箒との間を詰め、箒が攻撃する前に彼女の顔に面を叩き込んだのだ。突然の事に上級生も見学していた生徒達も唖然としていた。

そして我に返った上級生が一夏が居た方の手を大きく上げる。

 

「一本、…面あり。勝者…土方君」

そう言い未だに目の前で起きた事に受け止め切れていない上級生。

そんな中レオ達はクスクスと笑みを浮かべていた。

 

「一夏よ。流石にそれではあやつのメンツが丸つぶれではないのか?」

 

「知らん。長引かせるのは俺の風呂時間を大きく削ることになるからな。さっさと終わらせるのに限るんだよ」

 

そう言い一夏は竹刀を壁にかけ直しそのまま道場を後にしようとすると

 

「ま、待て!」

 

と箒が静止をかける。

 

「あ? 勝負は決まっただろ」

 

「い、一体何をした!」

 

「一気に間合いを詰めて面を叩き込んだ、以上」

 

そう言い一夏達は今度こそ道場を後にした。残った生徒達も我に返った者からぞろぞろと道場を後にし帰って行った。そんな中審判をした上級生が口を開く。

 

「本当彼強いわね。前回の決闘も見ていたけど、あの時よりも腕上がってるわね」

 

そう言いながら箒へと顔を向ける。

 

「前回も負けて、今回も負け。圧倒的に彼の方が貴女より強いわ。そんな力量の差が段違いなのによく喧嘩を吹っ掛けられるわね。ある意味尊敬するわ」

 

「そ、そんな訳!?」

 

「まぁ、どうでもいいけど。これに懲りたらもう喧嘩なんか吹っ掛けるんじゃないわよ。それと、今回も前回同様道場の無断使用について目を瞑るけど、仏の顔も三度までだからね」

 

そう言い上級生は道場を後にした。残った箒は悔しそうにクソッ!と叫び、竹刀を叩きつけた。




次回予告
一夏だ。前回の篠ノ之との決闘。本当に面倒くさかった。まぁどうでもいいか。
さて次回だが、なんか俺がクラス代表に選ばれたって事でパーティーするらしい。
まぁいいけど。
それと、何か転入生が来るらしい。さてさてどんな奴が来るのやら

次回
パーティーとあわてんぼうの転入生


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10話

オルコットと一夏の決闘から翌日、一夏達1組では昨日のISの戦いの話題で持ちきりだった。

 

「いやぁ、昨日の決闘本当に凄かったね」

 

「うんうん。あんな激しい戦いを間近見たのは初めてだよ」

 

「だね。てかオルコットさんはどうして近接で戦ったんだろ? BITがあるなら遠距離に持ち込めば勝てそうだと思ったけど」

 

そう一人が零すと

 

「それは私が土方さんの武術と戦いたかったからですわ」

 

談笑していた生徒達に説明するかのようにオルコットが輪に入って来た。

 

「あ、オルコットさん」

 

「どう言う事?」

 

「土方さんは御父上から学んだ剣術に対し誇りを持っておられます。そして私も代々受け継がれてきた槍術と射撃を合わせた銃剣術に誇りを持っております。互いに誇りを持って学んできた武術、どちらが強いのか試したくなったからですわ」

 

「なるほど。それでBITとか外してたんだ」

 

「えぇ。互いに誇りを持った武術で戦うのです。それ以外の武器など邪魔でしかありませんわ」

 

そう告げるオルコットに生徒達はおぉー。と感嘆の声を漏らす。

すると教室の扉が開き、廊下から一夏達が中へと入って来た。一夏達が来たのを見た生徒達は口を開く。

 

「あ、土方君。昨日はお疲れ様!」

 

「凄い戦いだったよ!」

 

「そんな凄い戦いだったか? IS同士だから派手に見えただけだと思うが」

 

「いやいや、代表候補生相手にあそこまで接戦した戦いはなかなかできないよ」

 

生徒の一人がそう言うと他の生徒達もそれぞれうんうんと首を縦に振る。当の本人はふぅ~ん。とあんまり実感が無いと言った感じを出す。

 

キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン

 

と、チャイムの音が鳴り響き1組の生徒達は急げ急げと自分達の席へと座りに行く。

そして生徒達が全員座ったと同時にチャイムが鳴り止み、前方の扉から千冬と真耶が教室内へと入って来た。

 

「皆さんおはようございます」

 

「「「おはようございます!」」」

 

「それでは朝のSHRを始めたいと思います。まずクラス代表ですが昨日のアリーナでの決闘の結果、土方君に決まりました」

 

真耶がそう報告すると生徒達はわぁー!と拍手していく。

 

「では土方、就任のあいさつを」

 

「え? マジっすか…」

 

千冬からの言葉に一夏は嫌そうな顔を浮かべつつ席を立ち教壇前に立つ。

 

「えぇ~、クラス代表になる事になった土方です。まぁ可もなく不可もない程度に頑張るんで、よろしく」

 

そう言うと千冬ははぁ~。とため息を吐き、真耶やレオ達は苦笑いを浮かべていた。

生徒達も気怠そうな一夏の態度にアハハと苦笑いを浮かべ、セシリアも苦笑いを浮かべながら本当に嫌そうですわね。と零す。

 

それから時刻は進み昼休み時。

一夏達は何時も通り食堂で適当に席を取って昼食をとっていた。するとその傍に1組の生徒達がやって来た。

 

「あ、土方君達ちょっといい?」

 

「ん? あぁ、清水さん達か。なんか用か?」

 

「うん。実は今日の放課後此処で土方君のクラス代表決定のお祝いパーティーを開こうと思っててさ」

 

「それで是非出席してほしいんだけど…どうかな?」

 

「パーティーとな? おい一夏よ、パーティーをやるのであるなら出席せねばならぬぞ」

 

「なんでだよ?」

 

「当たり前だ。折角お前を祝うために催そうとしておるのだ。当人が居らねばただの食事会だぞ」

 

「一夏殿、これには拙者も同意でござる」

 

「ダルキアンさんもですか?」

 

「うむ。初陣でしかも勝利を収めたのだ。誰しも祝い事を催したと思うのは当然でござる。それに拙者も一夏殿の初陣による勝利を祝いたいと思ったござるからな」

 

「…は、はぁ」

 

「そ、その一夏様。私も一夏様の初勝利、お祝いしたいです」

 

「ユキカゼもでござる!」

 

「……はぁ~分かったよ、参加する。あと準備とかして貰ったお礼になんかこっちも料理持って行くわ」

 

一夏がそう言うと生徒達は驚いた表情を浮かべる。

 

「えっ!? 土方君、料理できるの?」

 

そう言うと何故かレオ達がそれに対して口を開く。

 

「うむ。一夏の作る手料理は最高だぞ」

 

「確かに一夏様の料理を食べると、お店で同じものを食べようとは思えなくなってしまいますね」

 

「うむ、一夏殿の作る料理はどれも絶品であるからな」

 

「確かにでござりますな。一夏殿、またあのどら焼きを作って欲しいでござる」

 

「へいへい、また今度な。てか、何でお前等が説明するんだ?」

 

「「「「気にしない、気にしない(でござる)」」」」

 

「なんじゃそりゃ」

 

と4人と会話する一夏。その光景に生徒達は本当にこの5人仲いいなぁ。と羨ましそうな顔を浮かべるのであった。

 

 

 

そして放課後一組生徒達は食堂にて勢ぞろいしそれぞれ食堂が作ってくれたオードブルを並べる手伝いをしていた。

そんな中一夏達5人が食堂へとやって来た。

 

「すまんな少し時間がかかった」

 

「ううん、別に大丈夫だよ。て、土方君が持ってるそれって…」

 

「あぁ、スコーンだ。しかもおからで作ったから低カロリーだぞ」

 

「「「えぇ~!?」」」

 

一夏が持ってきたバスケットに入った大量のおからスコーンに一組の生徒達は驚いた表情を浮かべながらスコーンを見つめる。そんな中、一人の少女がひょっこり現れる。

 

「ねぇねぇひじちゃん」

 

「ひじちゃん?」

 

「うん。土方だから、ひじちゃん」

 

小柄の少女にそう呼ばれ、一夏は困った表情を浮かべる。

 

「もしかしてだめぇ?」

 

「いや、駄目って言う訳じゃねぇがそんな呼ばれ方されたのは初めてだったからな少し困惑しただけだから気にしないでくれ。で、何だ?」

 

「うん。一個食べてもいいぃ?」

 

そう言い少女は口の端から涎を垂らす。物欲しいそうに指を口の所まで持って。

 

「もう、本音ったらぁ。ごめんねぇ土方君。この子お菓子好きでさぁ」

 

「あぁ、なるほど。大量に作ってあるから、一個くらい問題ないぞ」

 

そう言い一夏はバスケットからスコーンを一つ取り本音と呼ばれた少女の口元まで運ぶ。本音は嬉しそうな顔でそれにかぶりつく。

かぶりついた本音は暫く咀嚼した後、顔をほにゃんとした笑顔を浮かべる。

 

「美味しぃ~。外はサク、中はふんわりしててさいこうぅ」

 

と食レポする本音。その光景に生徒達も私も食べたいと言った表情を浮かべる。

 

「それでこれ、何処に置けばいいんだ? 料理とか並んでいるあたりで良いのか?」

 

一夏がそう言うと全員今日はパーティーだったと思い出し慌てて一夏に空いている箇所を伝える。

 

そして

 

「それでは土方君のクラス代表就任パーティーを開きます!ではかんぱ~い!」

 

 

「「「「かんぱ~~い!!」」」」

 

進行役の合図と共にグラスが掲げあげられると他の生徒達も一斉にグラスを上げる。そしてそれぞれオードブルの料理を食べる中、一夏達も端の方でジュースやらオードブルの料理を食べていた。

 

「元気な奴らだなぁ」

 

「ふふふ。まぁいいではありませんか。こういった催しをするのは良い息抜きになりますし」

 

「うむ、適度な息抜きは必要だ」

 

「息抜きせずに幼馴染を救おうとした奴が言っても説得力無いぞ」

 

「うぐっ。も、もう終わった事であろうが、一夏! あ、あれについては儂が完全に悪かったし…」

 

そう言いレオはシュンとしおらしくなる。すると一夏がレオの頭をポンポンと叩く。

 

「まぁ…ちゃんと反省したからいいけど」

 

その動作にレオは若干嬉しそうな顔を浮かべる。

 

「お館様、レオ様が顔を赤くさせているでござる」

 

「全くでござる。羨ましいでござるな」

 

「はい、全くです」

 

とダルキアンとユキカゼはにやにやと笑い、ビオレは少し口を尖らせる。

3人の反応にレオはなっ!と顔を真っ赤にさせる。

 

「う、うるさぁい! えぇい一夏も何時までも頭に手を置くなぁ!」

 

「へいへい、難しいお姫様」

 

「姫様言うなぁ!」

 

と賑やかになる一夏達。

 

 

 

その頃

IS学園入口。

 

「此処がIS学園。待ってなさいよ、一夏ぁ!」

 

小柄のツインテールの少女がそう叫びながら肩に掛けたボストンバッグを掛け直すと、勢いよく走り出そうとした。が

 

「ちょっとちょっと、貴女待ちなさい」

 

と走り出そうとした少女を呼び止める女性。

 

「な、なによ、私急いでいるのに!」

 

「急いでいるのは分かるけど、入学書類の記載を終えてからよ」

 

少女を止めた学園職員の女性はそう言い机の引き出しから書類関連を出していく。

 

「えぇ! そんなのそっちで書いても「駄目に決まってるでしょ、大事な書類なんだから。ほら、身分証明書類だして」…はい。……あれ?」

 

少女は職員に言われた入学時に必要な身分証明書類を出そうとボストンバックに手を突っ込むが、違和感を感じる。

暫く手をボストンバッグの中で動かすも、出て来ず最後にはボストンバッグをひっくり返して中身を全部出して漁る。が、

 

「……ない」

 

「え?」

 

「身分証明書類がない!」

 

「えぇ!? 忘れたの?」

 

「も、もしかたら、中国の、家。うそぉーーー!?」

 

大事な書類を家に忘れた事に膝から崩れ落ち天に向かって顔を上げながら頭を抱える少女。すると

 

「こぉのぉ、馬鹿娘ぇ!」

 

職員たちや少女は声がした方に顔を向けると、目を思いっきり吊り上げ凄い土煙を上げながら走ってくる一人の女性がやって来た。

その女性を見た瞬間、少女が顔を真っ青に変わる。

 

「お母さん!? 何で此処にぃ!?」

 

「アンタが家に大事な書類を忘れている事に気付いて、急いで政府に電話したのよ!

!そうしたらすぐに日本に向かって飛んで下さいって言われたから追いかけてきたのよ!」

 

少女にそう説明した後、女性は少女に向かって問答無用にアイアンクローをかました。

 

「ふぎゃーーー!!??!!!」

 

「あれほど大事な書類なんだからカバンに入れておきなさいって言ったのに、忘れるってどう言う事よぉ!」

 

「ず、ずいまじぇ~~ん!???!!!」

 

「二度と忘れ物しないって誓うかぁ!」

 

「は、はいぃ~、ちかいましゅ~!」

 

少女がそう言うと女性はパッと少女を放す。少女は掴まれていたこめかみを押さえながら暫し悶えていた。目の前で起きた突然の光景に茫然と言った表情を浮かべる女性職員に、女性が頭をぺこぺこと平謝りを始めた。

 

「本当にこの馬鹿娘がすいません! 忘れ物は今届けたので入学取り消しとかだけは勘弁してあげて下さい! お願いします」

 

「あ、いえ、あの、書類は届きましたし、後は書類に不備等が無ければ問題無く入学できますのでご安心ください」

 

「ありがとうございます! では私はこれで失礼します。娘の事宜しくお願いします」

 

そう言い女性は、頑張りなさいよ!と少女に向かって言いそのまま歩いて帰って行った。

 

悶えていた少女は何とか復活し女性職員の前に立つ。

 

「そ、それで書類の方は問題ありませんでした。ようこそ、IS学園へ、鳳鈴音さん」

 

「は、はい」

 

こうしてあわてんぼう?の少女こと、鳳鈴音は無事に入学することが出来たのであった。




次回予告
千冬だ。何だか騒々しいやつが来たな。まぁいいが。
さて、次回だが無事に入学した鈴が一夏に一組に来たらしい。まぁ、当然一夏の周りにいるレオ達も知るだろう。まぁ、色々大変になると思うが一夏なら何とかするだろう。

次回
中華娘、参上!


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11話

パーティーの翌日、一夏達は教室で談笑をしていた。

すると談笑していた話に相川達が声を掛けてきた。

 

「土方君、皆おはよう」

 

「おう」

 

「おはよう、清香」

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

「おはようでござる!」

 

「ねぇねぇ今日2組に転入生が来ることって知ってる?」

 

「転入生? いや、聞いて無いな」

 

「そうなんだ。なんでも中国からの転入生で、代表候補生でもあるんだって」

 

「へぇ。そうなんだ」

 

一夏はそう零しながらふと懐かしそうな顔を浮かべる。

 

「どうしたのだ一夏よ?」

 

「あ? あぁ、中国と言えば俺の幼馴染が帰った国だなぁと思ってな」

 

「一夏様の幼馴染ですか?」

 

「あぁ。小学校から中学の途中まで一緒につるんでいた奴でな。たしか、爺ちゃんが危篤になったから国に帰ったんだ。それからは連絡がなかなか取れなくてな。何してるんだろな、アイツ」

 

そう零していると

 

 

「その、つるんでいた奴ってこんな顔じゃなかったかしら?」

 

そう廊下の方から聞こえ、それぞれ廊下の方に顔を向ける。

そこには茶髪のツインテールをした小柄な少女が腰に手を当てながらニヒッと笑みを浮かべ立っていた。

その立ち姿を見た一夏は

 

「おぉ、やっぱり鈴か。てか、身長替わってねぇな」

 

「うっさいわねぇ! 久しぶりの再会の一言目がそれ!?」

 

「まぁ気にするな。カッカッすると保育園児と間違わられるぞ」

 

「喧しいわ! これでもあの時から3㎝は身長伸びたわよ!」

 

「アァ、ソウデスカ」

 

「棒読みすんじゃないわよ!」

 

暫しの口論?をした後、肩で息をする鈴。そしてはぁと息を吐いた後一夏の近くに来る。

 

「久しぶりだな、鈴」

 

「えぇ、そうね」

 

そう言いながらハイタッチする一夏と鈴。

2人の口論を見ていたレオ達が口を開く。

 

「おい一夏よ。二人で会話しておらんと、こやつが何者か説明せんか」

 

「おぉわりぃ。こいつがさっき言っていた幼馴染の」

 

「鳳鈴音よ。ところでアンタ達は?」

 

「儂はレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワだ」

 

「ビオレ・アマレットと言います」

 

「ブリオッシュ・ダルキアンでござる」

 

「ユキカゼ・パネットーネでござる!」

 

「よろしく。あぁ、そうだ。アタシ――」

 

鈴が何か言おうとする前に鈴の首根っこを誰かが掴み持ち上げた。

 

「ちょ、ちょっと誰よ! 人を持ち上げるのは…」

 

「わ・た・し・だが?」

 

そう睨んだ表情で鈴を見る千冬。鈴は顔を青くさせながら汗をだらだらと流す。

 

「ち、千冬さん」

 

「織斑先生だ。鳳、もうじきチャイムが鳴る。さっさと教室に戻れ!」

 

「はい!」

 

そう返事を返すと、千冬はパッと手を放し鈴を解放した。鈴は地面に着地すると千冬に一礼した後廊下に出て行く。すると鈴が顔だけ教室に覗かせる。

 

「一夏、昼休み久しぶりに話したいから空けといてよ!」

 

「さっさと戻らんか!」

 

「はひぃ!」

 

用件を伝え終えた後、千冬の怒号に慌てながら自身の教室に戻っていく鈴。

その姿に一夏はハッハハハハと笑いながら見送ていた。

 

そして昼休み、一夏達は食堂へと向かおうと立ち上がる。

 

「そうだ。オルコットさんも誘うか」

 

「うむ、儂は構わんぞ」

 

「私もです」

 

「拙者も構わんでござるよ」

 

「ユキカゼもでござる!」

 

それぞれ了承の言葉を貰い一夏はオルコットの方に顔を向ける。

 

「オルコットさん、食堂で飯食いに行くか?」

 

「えぇ。行くところですが、何か?」

 

「もし良かったら俺達と一緒にどうかなと思ってな。後今朝来た鈴っていう奴もいるけど、どう?」

 

そう聞かれセシリアは暫し考え込んだ後口を開く。

 

「ではお邪魔させていただきます」

 

そう言いオルコット共に一夏達は食堂へと向かう。

 

 

暫くして食堂に着くと入り口前で鈴が仁王立ちして待っていた。

 

「遅いじゃない一夏!」

 

「…おい、鈴。お前、そんなところで仁王立ちすんなよ。他の人達の迷惑だろ」

 

「だってあんたが来る前にご飯受け取ったら冷めちゃうじゃない」

 

「だったら入口の端っこにでも立っておけよ。ど真ん中で突っ立ってたら邪魔だろうが」

 

そう言いわれ、うぐ。と言い返せなくなる鈴。その後反省した雰囲気を出しながら一夏達と共に食堂へと入っていく。

そしてご飯を受け取った後大人数が座れる席へと着く。

 

「さて、昼食の前に自己紹介をしても?」

 

「えぇ、良いわよ。私は鳳鈴音、中国の代表候補生よ。で、コイツとは小学4年から中学2年まで一緒につるんでたわ」

 

「ありゃ、なんだお前代表候補生になったのかよ」

 

「お母さんの実家の道場に入って暫くしてから大会に出たの。そしたら最優秀賞を取っちゃってね。しかも大会を見ていた政府の役員がISに乗ってみないか?って誘われたのよ。最初はあまり興味が無かったんだけど、代表候補生とかになればお給料が出るって聞いてね。道場の備品補充だったり壁とか床の補修とかで結構お金がかかるからちょっとでも手助けになればと思って話に乗ったのよ」

 

「なるほど。そう言う事か」

 

「素晴らしい親孝行ですわね」

 

「ありがとう。それでアンタは?」

 

「私はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ」

 

「へぇ、イギリスの代表候補生なのね。宜しく!」

 

「こちこそよろしくですわ」

 

そう言い互いに握手を交わす2人。

そして自己紹介を終えた7人は談笑を交えながら昼食をとるのであった。




次回予告
一夏だ。
まさか鈴の奴が転入してくるとは思わなかったぜ。
まぁ、理由はどうであれ久しぶりに会ったら強くなって帰って来たんだ。
後で試合でもするか。

次回
中国武術対日本剣術!


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12話

鈴が転入してきた翌日の放課後、一夏と鈴は訓練所でそれぞれ模造刀を持って相対していた。

その訳は昼休みの時間まで遡る。

 

~昼休み・食堂~

 

その時間、一夏は何時もと変わらずレオやダルキアン達と共に食堂で昼食をとっていた。その場所に昼食を載せたお盆を持った鈴がやって来た。

 

「やっほー。端っこの方いいかしら?」

 

「あぁ、いいぞ」

 

「構わんぞ」

 

「どうぞ」

 

「構わんでござるよ」

 

「どうぞ、どうぞでござる!」

 

鈴はお盆を机の上に置き、席に着く。そして5人と談笑をしながら昼食をとる鈴。

すると鈴はある事を思いついたのか、口を開く。

 

「そうだ一夏。アンタ、まだ剣術習い続けてるの?」

 

「あぁ。続けてるぞ」

 

「それじゃあ放課後、久しぶりに勝負してみない?」

 

「お、いいぞ」

 

「よっしゃ。それじゃあ放課後でね」

 

鈴の言葉に一夏はおう。と返し昼食を食べ終えそれぞれ教室へと戻って行った。

そして放課後、一夏達は教室から出て鈴が居る隣の教室へと向かう。

 

「おぉい鈴。武術勝負しに行くぞぉ」

 

「はいはい、ちょっと待ちなさいよ」

 

そう言いながら鞄に教科書などを詰め込んだ後一夏達の元に駆け寄る鈴。

 

「それじゃあ道場に行きましょ」

 

「道場? あそこは剣道部が使ってる場所だろ?」

 

「えぇ。でもうちのクラスにいる剣道部の子にお願いしてちょっとだけ使わせてもらえるよう頼んだのよ。そしたら上級生の人達に確認を取ってくれてね、見学させてくれるなら使っても良いって許可が下りたのよ」

 

「ほぉお~、気前のいい人達だなぁ」

 

「そうだな。以前の時だって突然の事であったのに、快く貸してくれたしの」

 

「そう言えばそうだったな」

 

「なにアンタ、他の奴とも勝負したことあるの?」

 

「勝負というか、ただの茶番だろあれ?」

 

「まぁ、端から見ればただの茶番でござったな」

 

「?」

 

疑問符を浮かべる鈴に、道すがらビオレとユキカゼが説明するのであった。

訳を聞いた鈴は

 

「…そいつは【私ツエェエエー!】って勘違いしてる馬鹿?」

 

と箒に対してそう感想を述べるのであった。

 

そして道場に着くと、前回審判をしてくれた上級生と他剣道部の部員と思われる生徒達が居た。

 

「お、来た来た。待ってたわよ」

 

「どうもっす。すいませんが、また場所お借りします」

 

「別に大丈夫よ。こっちとしては君の剣術を見て勉強できるからね」

 

「そうっすか。それじゃあ鈴、お邪魔になるといけないからサッサッとやるぞ」

 

「えぇ、良いわよ」

 

そう言いながら鈴は拡張領域から木で出来た柳葉刀を取り出し構える。一夏も模造刀を取り出し構える。

 

「それじゃあ両者見合って。……始め!」

 

そう合図と共に二人は一気に間合いを詰め、武器を振るう。

道場内は激しくぶつかり合う音と、激しく動く音が鳴り響く。

 

鈴は片手で扱える柳葉刀と呼ばれる中国刀の一種で、刃が広く、そして湾曲している。

刃が広い為重量は日本刀よりも重いが、その分振るった際の遠心力とそれに加わる重量によって威力は絶大である。

 

(一回一回の攻撃は中々重いな。まともにガードするとこっちが先に体力切れを起こすな)

 

鈴との戦いの最中、鈴の攻撃を分析した一夏はまともにガードせずに受け流す様に刀で防いでいく。

 

(流石一夏ね。中学の時に軽く相手にして貰った時も強かったけど、更に強くなってる。けど、あれからアタシだって強くなってるのよ!)

 

鈴は再び柳葉刀を構え間合いを詰める。そして上段から斬りかかる。一夏はそれを受け流す。すると鈴は斬った際の遠心力を利用して一夏に向かって蹴りを繰り出した。

一夏はその蹴りを咄嗟に模造刀の頭で防ぐ。

ガンッ!と鋭い音が鳴り響き、一夏はズズッ!と少しばかり後退させられた。

 

「あら、良く気が付いたわね。結構いいタイミングでお見舞いできたと思ったんだけど」

 

「流石に今のは胆が冷えたぜ」

 

笑みを浮かべながら返す一夏。すると審判役を務めていた上級生が狼狽えた様子で口を開く。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫なの足?」

 

「あぁ、大丈夫ですよ。結構鍛えているんでこれ位問題ありませんよ」

 

「そ、そう。てか、蹴りは流石にやり過ぎじゃ…」

 

「先輩、これは勝負なんです。命のやり取りをしないとはいえ、相手は小学生の時に自身が習っている流派の武術を網羅した奴なんです。これ位本気で行かないと勝負の意味がありませんから」

 

「えぇ、鈴の言う通りです。勝負するなら互いのベストを出し尽くす勢いでやらないといけませんから」

 

そう言い合う二人に、上級生はそ、そう。と試合を再開させた。

しばらく膠着状態が続いたが

 

「はぁ…はぁ…はぁ。この勝負、アタシの負けだわ」

 

「はぁ…はぁ…はぁ‥、おう」

 

そう言い疲れ切った二人は互いに握手を交わして試合をし終えた。

鈴が降参を言った訳、それは体力切れであった。先に書いた通り一夏が持っている刀よりも、柳葉刀は模造刀とはいえ重量がある為振るうには相当な筋肉を使う。その上拳法と言った格闘技も使ったりする為体力消費は激しい。

その為体力切れを起こした鈴は棄権したのだ。

 

2人の戦いっぷりを見た見学者たちは拍手をして二人の頑張りを称えた。

 

「いやぁ、凄いわねあなた達。どう、剣道部に興味はない?」

 

「あぁ、すんません。俺はあんまり興味ないっすね」

 

「アタシも剣道はあんまり…」

 

「そう…、そりゃあ残念」

 

がっくりと肩を落とす上級生に再度すいません。と言葉を送り、一夏達は道具を片付けお邪魔しましたぁと言って道場を後にした。

 

因みに道場に居れば、何時もの如く絡んでくる箒はと言うと、

 

「ほら、早く解かんか」

 

「は、はい……」

 

授業中に当てられているにも拘らず、よそ見に人の話を聞かないという事を何度もしたため千冬に居残り授業を受けさせられていた。




次回予告
ダルキアンでござる。
先日の鈴殿と一夏殿の試合は良い物であったな。
さてさて、次の話でござるが間もなく学年別トーナメント戦とやらが始まるでござる。
一夏殿、慢心せずしっかりと勝利してほしいでござるな。
そう言えば、鈴殿の顔が何やら以前よりスッキリとした顔であったが何かあったのでござろうか?


次回
気持ちの整理


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13話

鈴と一夏の生身での模擬試合から数日が経ったある日、いよいよクラス代表戦まで残り1週間と迫ったある日の事。

一夏達はアリーナにて模擬戦をしていた。

一夏対ダルキアン、レオ対ユキカゼで戦っていた。ビオレは束から扱い方を教えてもらったタブレット端末を使い2組の戦闘データを収集していた。

 

一夏は自身のIS『大和』に乗りながらダルキアンが乗ったIS『太刀風』と戦っていた。

両者とも刀を主体とした機体の為、必然的に接近戦となる。

刀同士の激しいぶつかり合い、一見すれば本気で戦っているようだが、実際は訓練の一環である打ち合いであった。

本人たちは打ち合いと言っているが、はたから見れば真剣勝負の様に見える。

 

それに対してユキカゼとレオの方はと言うと、同じく一夏達と同様に打ち合いをしていた。

ユキカゼの専用機『影正』、レオの専用機『エンペラー』。

ユキカゼはクナイや短刀と言った忍者装備で、レオの方は戦斧や両手剣と言った武器が備わっていた。

 

それから暫くしてアリーナの利用可能時間が過ぎた為、一夏達はそれぞれ服を着替えアリーナ前に集合する。すると

 

「やっほー、一夏」

 

そう声を掛ける鈴。

 

「よぉ鈴。なんか用か?」

 

「ちょっと、ね」

 

言い淀む鈴に一夏は首を傾げる。するとレオ達もアリーナから出てきた。

 

「む、鈴ではないか。どうかしたか?」

 

「あぁ、ちょっと一夏に用があってね。少し借りていいかしら?」

 

「まぁ、構わんぞ」

 

「うむ、あまり無理をさせる事でなければ構わんでござるよ」

 

「ありがとね。それじゃあちょっと借りてくわね」

 

そう言い鈴は一夏に一緒に来て。と言われ首を傾げつつ鈴の後に付いて行く。

残った4人は去っていく2人に後ろ髪を引かれつつも、食堂に行き席を取っておくかと思い足を向ける。

その頃一夏はと言うと鈴に連れられ、学校の屋上に連れて来られていた。

 

「で、わざわざこんなところに連れてきた理由って何だ?」

 

「・・・私が中国に帰る日の空港で言った事、憶えてる?」

 

「確か、『日本に帰ってきたら、また一緒に遊ぼう』だったか?」

 

「えぇ。けど、本当はそんな事言うつもりなかったんだけどね」

 

「どういう事だ?」

 

一夏の問いに鈴は暫しもじもじしたりチラチラと一夏の方を見るを繰り返す。そして暫くして意を決したのか、大きく深呼吸をした後一夏のを見つめる。

 

「あの日、アンタに言ったのは『日本に帰ってきたら、私の酢豚を食べて欲しい』って言ったのよ」

 

そう言われ一夏は( ゚д゚)ポカーンと言った表情を浮かべていた。

 

「はぁ? お前は本気で言ってるのか?」

 

「本気も、本気よ。……それで、その、答えは?」

 

鈴の問いに一夏は暫し思案に耽る。

小学生の時からの付き合いで色々と遊んでいた記憶など、様々思い浮かべる。だが恋愛如何こうという思いは浮かばなかった。

それどころか、鈴を恋人とした場合と想像する度にレオやビオレ、ユキカゼにダルキアン達の顔が浮かんできた。

暫しの沈黙が流れた後、一夏は己の思いを口にする。

 

「鈴、お前の気持ちは分かった。だが、お前の気持ちに答える事は出来ない」

 

「……理由を、聞いてもいい?」

 

「お前とは親友っていう感覚が強いんだ。だから恋人とかそういう風には思いつかないんだ」

 

「……そっか。まぁ、アンタの傍に居る子達の事を考えたら無理よね」

 

そう言うと鈴は感慨深そうな顔を浮かべながら顔を伏せる。そして何時もの笑顔を浮かべる。

 

「だったら、アンタが後悔するような綺麗な女性になってやるわ! あの時付き合っておけばよかったって後悔するんじゃないわよ!」

 

「……いきなりだなぁ。まぁ、今の体型だと無理だと思うがな」

 

「きぃーー!! それを言うんじゃないわよ! 絶対にグラマスな女性になってやるんだから!」

 

怒りの形相でそう怒鳴る鈴。その後笑みを浮かべた後一夏に背を向け策に凭れる。

 

「はぁ、アタシはちょっと風に当たってから下りるから、先に行っておいて」

 

「あぁ、分かった」

 

そう言い一夏も背を向け歩き出す。

一夏が屋上から出て行った後、鈴は我慢していた涙をボロボロと流し出す。

 

「やっぱり、振られるのって辛いわね。グスッ」

 

暫し涙を流した後、鈴は両頬を叩いて気持ちを切り替える。

明日からまた何時もと変わらない雰囲気で接して行こうと考えるのであった。




次回予告
一夏だ。
今日はクラス代表戦だ。腕が鳴るぜ。

次回
クラス代表戦!


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14話

鈴の告白から数日が経ったある日、遂に大勢の生徒達が待ち望んでいたクラス代表戦が始まった。

アリーナの観客席には大勢の生徒達が集まっており、試合が始まるのを今か今かと待っていた。

観客席の熱気が徐々に上がっている中、アリーナのピットルームでは一夏が自身のIS、大和の調整を行っていた。

その傍ではレオやダルキアン、ユキカゼとビオレがいた。

 

「さてと、特に問題はなさそうだな」

 

「む? 終わったのか一夏よ?」

 

「あぁ」

 

そう言いながら調整用に使っていたタブレットを仕舞う。

 

「一夏様、どうぞ」

 

そう言いビオレが飲み物を差しだす。

 

「お、サンキュー」

 

差し出された飲み物を受け取ると、一夏は乾いていた喉を潤そうと飲み物をごくごくと飲み始める。

 

「ふぅ。さて、そろそろ対戦相手が発表されているかな?」

 

そう言い一夏はモニターを確認する。そして対戦相手が表示された。

 

「ふむ、初戦から中々面白い奴と当たったな一夏よ」

 

「そうですね。一夏様ご武運を」

 

「いつも通りの気持ちで行くでござるよ一夏殿」

 

「ファイト―でござるよ、一夏殿!」

 

4人からの声援に一夏は

 

「おう」

 

と短く返しつつ笑みを浮かべる。対戦相手は

 

《1組土方一夏対2組鳳鈴音》

 

と書かれていた。

 

反対のピットに居た鈴もモニターに表示された対戦相手に挑戦的な笑みを浮かべていた。

 

「まさか初っ端からあいつとやり合うなんてね。腕が鳴るわね」

 

そう呟きつつ、ピットに置かれている自身のISに手を置く。

 

「全力で行くわよ、甲龍」

 

 

そして開始時刻となり一夏と鈴はそれぞれのISに乗ってアリーナへと現れた。

 

「まさかこんなにも早くアンタとIS勝負が出来るとは思わなかったわ」

 

「俺もさ。さて」

 

「えぇ」

 

そう互いに呟きながらそれぞれの得物を構える。一夏は刀を。鈴は大きな柳葉刀を両手に持って。

 

『試合開始!』

 

そう合図が出たと同時に、2人はイグニッションブーストで間合いを詰めて互いの武器を振るう。激しい火花を散らせながら激しい斬撃を続ける2人。

 

「流石一夏ね。結構本気の斬撃だったんだけどね」

 

「確かに早かった。だが、あれくらいの斬撃なら見切れるぜ」

 

「やっぱりアンタのその力厄介ね。けど、まだ終わってないわよ!」

 

そう叫びながら鈴は両肩付近に浮いているユニットを変形させ自身の肩に装備させた。

その光景に怪訝そうな顔を浮かべる一夏。すると鈴はニヤリと笑みを浮かべながら構える。

その姿に一夏は何か嫌な感じを感じ取り直ぐに防御の構えを取ろうとする。

 

「行くわよ!」

 

その叫びと同時に突如ものすごい勢いで一夏へと突貫してくる鈴。だがそのスピードはイグニッションブーストをも超える程のスピードだった。

 

「此処ぉ!」

 

そう叫ぶと同時に双天牙月を振り下ろす鈴。

 

「「「「一夏!」様!」殿!!」」

 

4人の叫びと同時にガキ―ン!金属音が鳴り響く。

 

「……」

 

「……やっぱり、強いわね一夏!」

 

そうニヤリと笑みを浮かべる鈴。その視線の先に居たのは振り下ろされてきた双天牙月を刀と短刀で防ぐ一夏の姿だった。

 

「流石に今のは生身の時以上にヤバいと感じたぜ」

 

「でしょうね。けど、一夏。まだ終わりじゃないからね」

 

そう言い鈴は距離をとり斬撃を繰り出す。そのスピードは先程まで以上の物で一夏を追い詰めていく。

観客席にいたレオ達は一夏が押され始めている事に驚いていた。

 

「一夏の奴が押され始めよったぞ!」

 

「そ、そんな一体何が?」

 

「ふむ、動きは先程まで以上に上がっておる。先ほど鈴殿の肩に装着されたものが何かからくりがあるかもしれん」

 

「はい、そう思います」

 

そう言っているとレオ達と一緒に見ていたセシリアがまさか。と零しながらある事を話し始めた。

 

「恐らくあれは中国が開発した龍咆と呼ばれるものかもしれません」

 

「龍砲? なんだそれは?」

 

「私も詳しくは聞いた事がありませんが、SEを消費せずに大気中の空気で砲弾と大砲を形成し、圧縮した空気で攻撃する物とか。しかし、あのように肩に装着できるとは聞いた事がありませんわ」

 

「なるほど。つまり、あの龍砲とやらが空気の圧縮を放ち、勢いをつけている。その為先程以上の斬撃を繰り出せると言う訳でござるな」

 

「そ、それでは一夏様がジリ貧では?」

 

「そうでござる! これでは一夏殿が…」

 

そう呟く中、レオとダルキアンは笑みを浮かべていた。

 

「確かにぱっと見ではジリ貧かもしれ」

 

「確かに。しかし、一夏殿は恐らく楽しんでいるでござるよ」

 

「「え?」」

 

「楽しんでいるですか?」

 

セシリアの問いにダルキアンは笑みを浮かべ頷く。

 

「壁となる困難が目の前に現れると、一夏殿は笑みを浮かべるのでござるよ。そしてその壁を越えようと己の力を振るう。その壁がどれ程高かろうと、どれほど厚かろうと一夏殿はそれを今まで突破してきたのでござるよ」

 

「奴は一度たりとも諦めようとはせん。足掻きに足搔きまくる、それが奴じゃよ」

 

そう言いながらダルキアンとレオは一夏の試合を見つめた。

 

アリーナに居る一夏はダルキアンとレオの言う通り、笑みを浮かべながら考えを巡らせる。

 

(さっき鈴の肩に乗っかったユニットがスピードアップした理由だろうな。おまけにスピードが上がったと同時に攻撃にも力が乗ってやがる。スピードに乗せて武器を振っているから遠心力が通常の倍以上なっているから重いんだろうな)

 

冷静に鈴の攻撃力が上がった訳を考える一夏。

 

「色々とアタシの攻撃について分析してるんでしょ?」

 

「あぁ。お前のISに取り付いたユニットがスピードアップの理由だろ?」

 

「えぇ。龍砲、これがこのユニットの正式名よ。本来は圧縮した空気を飛ばして相手を吹き飛ばしたり、怯ませて一気に攻撃するっていう物よ。でも、アンタと戦う場合そんなもの飛ばした所で直ぐに見極められてやられると思ったから、機体に装着して放出した空気の力で速力を上げる様出来ないか開発部の人達にお願いして改良してもらったのよ」

 

「なるほど。それでIS学園に来るのが遅れたって言う訳か?」

 

「そう言う事よッ!」

 

一夏の問いに返しながら鈴は溜めていた空気を放出し、一夏に襲い掛かる。

スピードの乗った攻撃に一夏は受け流しながらどうするか考える。

そして妙案を思いついたのかバックステップで鈴と距離を開ける一夏。そして居合の構えをして更には目を閉じたのだ。

 

一夏の行動に観客席の生徒達は一夏が試合を放棄したのかと驚き騒ぐが、レオ達は一夏の構えにほう。と声を漏らし笑みを浮かべる。

 

「一夏の奴め、静の型を出しおったか」

 

「その様でござるな。これで鈴殿は迂闊に一夏殿近付きにくくなったでござるな」

 

「あのダルキアンさん、レオさん。その静の型とは?」

 

レオとダルキアンの口から出た静の型と言う物が気になったセシリアは2人に問う。

 

「静の型とは一夏が身に付けている構えの一種だ」

 

「あの型は居合の構えをして一切物音を立てず、ジッとし意識を周囲に集中する型なのでござるよ」

 

「なるほど。しかし一夏さんは目を閉じておりますわよ? あれでは相手の動きが読めないのでは?」

 

「いや、あの構えは目を閉じるのが正しいのでござるよ」

 

「どう言う事ですの?」

 

「周囲が見えない程の暗闇の状態だった場合頼りになるのは何でござるか?」

 

「え? 目が見えないのでしたら耳しか…。ッ! そう言う事ですのね」

 

「フッ。分かったようだな?」

 

「はい。鈴さんが攻撃しようとする際の僅かな音を聴き取り、その前に攻撃しようとされているのですね?」

 

「その通りでござる」

 

「しかし、一夏さんと鈴さんの間には距離がありますわ。あの間では一夏さんが斬る動作を取る前に鈴さんが一夏さんの元に到着して斬られますわよ?」

 

「確かに。だが、それだったら何故鈴はあそこから動かん?」

 

そう言われセシリアはアリーナの方へと顔を向ける。其処には居合の構えを取る一夏に対し、鈴も双天牙月を構えながら動いていなかった。

 

「どうしてですの? 何故鈴さんは一夏さんに攻撃をしませんの?」

 

「あの構えだからだ」

 

「居合の構えが出すか?」

 

「居合は初撃で相手を倒す、もしくは突発的な戦闘であっても相手を制する構えでござる。その為一夏殿の間合いに一歩でも踏み込めば…」

 

「手痛いしっぺ返しを喰らう恐れがある。と言う訳ですのね」

 

レオとダルキアンの説明に、セシリアは日本の剣術の奥深さに感心を示し、何時か一夏と再び対峙した場合に備え、その構えの分析を始めた。

 

その頃アリーナでは一夏の居合の構えに動けずにどう動くべきか頭を働かせる鈴。

 

(厄介な構えを取ったわね。不用意に近付けばアタシが斬る前に一夏が私を斬り捨てる。そうなると今のSEだと一発で逆転されてしまう。皆の期待を背負っている以上は勝ちに行きたいもの。考えなさいアタシ!)

 

暫し膠着状態が続いた後、先に動いたのは鈴だった。自身の頭の中で手早くシミュレーションし、一夏が取るであろう手を考え、その裏を取ると言った作戦を考えたからだ。

鈴は龍砲の圧縮空気を放ち、高速で一夏との間合いを詰める。そして一夏が斬る動作を取ろうとする。

 

(此処だぁ!)

 

そう思った瞬間、鈴は地面を思いっ切り蹴り上げバク転のような体制を取る。そして地面に向かって溜めていた小規模の空気の圧縮弾を撃ち込む。

地面に当った圧縮弾によって地面が抉られ土煙と小石や土がパラパラと舞い上がり落ちる。

 

(フェイントをかけて一夏の集中を切らせた。その上周囲に土煙で目くらましも出来た。仕掛けるなら此処しかない!)

 

鈴はイグニッションブーストでジグザグ移動しながら一夏に何処からくるのかわかなくなるようフェイントしつつ接近し、そして土煙間近まで迫ったところで飛び上がり一夏の斜め上から高速で斬り捨てようと圧縮空気を放ち、トップスピードの状態で構える。

だが此処で予想外の事が起きた。

 

 

それは、

 

突如一夏が土煙から鈴に向かって飛び出てきたのだ。

しかもその構えは居合の構えであった。

 

(なっ!? 居合のまま突っ込んできた!?)

 

突然の事に鈴は驚くも、既に構えの状態で更に圧縮空気を放ってスピードに乗っている状態の為回避が出来ない。

 

(もうこのまま斬るしかない!)

 

そう思いながら鈴は一夏を斬ろうとする。

すると一夏はなんとイグニッションブーストを使って鈴との間を一気に詰めてきたのだ。

これには流石に不味いと感じ双天牙月を振るう鈴。だがその前に

 

 

「しゃあぁあぁぁああ!!!」

 

一夏がそう叫びながら鈴を斬った。

 

『ビィーーー! 甲龍、SEエンプティ―! 勝者1組!』

 

そのアナウンスが流れたと同時に観客席がわぁああ!と歓声が湧き上がった。

 

「はぁーー、やれたわ。まさか突っ込んでくるとは思わなかったわ」

 

「俺の居合の構えは相手が近付いてくるのを待ってから斬るのじゃなくて、俺の間合いに入った瞬間に距離を詰めて斬る奴なんだよ」

 

「なるほど、そう言う構えだったのね」

 

そう言いはぁーと息を吐き、一夏に向かって挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「今回は良い勉強になったわ。次はその構えを攻略するために色々勉強しましょうかね」

 

「はっ。そう簡単に攻略されて堪るかよ」

 

「言ってなさい。近日中にアンタを倒してやるんだからね!」

 

そう宣誓する鈴。

 

「だったら首を長くして待っててやるよ」

 

「えぇ。首をしっかりと洗っときなさい!」

 

そう言いながら2人は観客からの拍手を背に受けながらピットへと引っ込んでいった。

 

そしてその後、一夏は他のクラス代表達を難なく倒していき、優勝となった。




次回予告
一夏だ。クラス代表戦は無事に1組の優勝で終わったぜ。
さてゴールデンウィークだが、何かレオ達がそれぞれ1日デートしろと言われたんだが…。

で、最初の一日目が姫様だと。何処行くんだ?

次回
ゴールデンウイークはデート週間~レオ編~
「一夏よ、早う行くぞ!」






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15話

クラス代表戦が終わり世間がGWに突入すると同時に、IS学園も連休という事で生徒達の多くが里帰りしたりちょっとした小旅行へと出掛けたりしたもので溢れた。

 

そんな中、一夏はと言うとIS学園の門前で私服で立っていた。

なんで門前で立っているかと言うと、それは数日前に遡る。

その日一夏達は部屋でのんびりと寛いでいた。するとユキカゼがある事を口にする。

 

「そう言えば一夏殿、もうすぐごーるでん・うぃーくなるものがあるそうでござるが、一体なんでござるか?」

 

「ゴールデンウイーク? あぁ、そうか。フロニャルドにはそんなものないもんな。ゴールデンウイークっていうのは、祝日が何日か続いていて長期の休みが入るからそう呼ばれるようなったんだ」

 

「ほぉ、長期の休みでござるか。因みにそのごーるでんうぃーく中は一夏殿は何かご予定は?」

 

ダルキアンの質問に一夏は自身の予定を確認すべくスマホのカレンダーを確認する。

 

「特に予定はないっすね」

 

そう言うと4人は顔を互いの顔を見合わせる。そして

 

「「「「最初は、グー!」」」」

 

「「「「じゃんけん!」」」」

 

「「「「ポン!!」」」」

 

レオ:チョキ

ビオレ:パー

ダルキアン:チョキ

ユキカゼ:パー

 

「「ヨシッ(うむ)!」」

 

「「がぁ~ん」」

 

突如じゃんけんを始め、レオとダルキアンが勝ち、ビオレとユキカゼが負けた。その光景に一夏は呆れ顔を浮かべながら、何をしているのか問う。

 

「おい、いきなりじゃんけんを始めてどうした?」

 

「決まっておろう。一番の勝者が一夏と最初の一日目に逢瀬に行く権利をかけてだ!」

 

「こればっかりは殿下に譲る訳にはいかないでござるよ?」

 

2人は真剣な表情でバチバチと火花を散らしながら睨み合っていた。

そして

 

「「最初は、グー!」」

 

「「じゃんけん」」

 

「「ぽん!」」

 

レオ:パー

ダルキアン:パー

 

「「あいこで、しょー!」」

 

レオ:グー

ダルキアン:グー

   :

   :

   :

~それから10分後~

 

「「あいこで、しょー!」」

 

レオ:グー

ダルキアン:チョキ

 

「しゃーー! 儂の勝ちじゃ!」

 

「むぅ、深読みし過ぎたでござるな」

 

漸く決着がつき、レオが一日目を勝ち取った。因みにこうなった

 

レオ:1日目

ダルキアン:2日目

ユキカゼ:3日目

ビオレ:4日目

 

となった。

 

と言う訳で、冒頭に戻り一夏はレオとデートの為門前でレオを待っていたのだ。

部屋で一緒に出た方が良くないかと一夏は最初に言ったが

ビオレやユキカゼ達から

 

「一夏様、女性と言うのは化粧や着替えに時間がかかる物なのです」

 

「そうでござる。意中の男性となると、その人に喜んでもらえる様な服に着替えたいと思うでござる。だから、楽しみに待っているでござるよ!」

 

と言われ部屋から追い出されたのだ。

そして門前で待つことにした一夏。暫く門前で待機していると

 

「す、すまぬ、待たせたな」

 

そう後ろから声を掛けられ振り向くと、其処には

 

「あ、あまりジロジロと見るな。馬鹿者」

 

照れた表情を浮かべるレオ。彼女の格好はノースリーブのシャツに黒いネクタイ、下は黒いスクールスカートの様な物だった。(参考例:アズレンのエンタープライズのジャケット無し)

 

「わりぃ。それじゃあ行くか」

 

「うむ」

 

そう言いレオは一夏の隣に行くと一緒に歩き出す。

2人が向かったのは若者たちが集う都心部分だった。

 

「ほぉ、随分と賑やかな場所じゃな」

 

「そりゃあ最近はやりの若者ファッションやら何やらが集まる場所だからな」

 

そう言いながら歩く2人。しかし結構人が密集しており上手く歩ける状況ではなかった。

 

(むぅ、人が多い。これでは一夏と…。あ、あれ?)

 

一夏とはぐれると思っていた矢先に一夏とはぐれてしまったレオ。アタフタと一夏を探すレオ。すると彼女の手を突然握られ、レオは咄嗟に握った人物を投げ飛ばそうとするが

 

「おいおい、何投げようとしてたんだ?」

 

「い、一夏? 何処に行っておったのじゃ!」

 

はぐれた一夏であった。

 

「前の方だよ。隣にお前が居ない事に気付いて戻って来たんだ」

 

そう言いながらスッと手を差し出す一夏。

 

「なんじゃ?」

 

「またはぐれると面倒だろ。手を握っていくぞ」

 

「そ、そうじゃな。そうするか」

 

そう言いレオは頬を赤めながら差し出された一夏の手を握りしめる。

 

(儂よりも大きい。それにすこしごつごつとしておる)

 

一夏の手にそう思いながら歩くレオ。するとレオがとある店の前で歩みを止める。

そこはアクセサリーショップだった。

 

「此処が気になるのか?」

 

「いや、少しな」

 

「まぁ、昼飯食うまで時間あるし少し覗いて行くか」

 

「うむ」

 

そして2人はその店の中へと入って行った。中は色々なアクセサリーが並んでおり、イヤリングからネックレス、チョーカーや指輪や腕輪など色々な物が置かれていた。

 

「へぇ、結構色々あるな」

 

「うむ、そうじゃな」

 

そう言いながら店の中を歩く2人。すると一夏はある物に目がつく。それはペンダントで、それには綺麗な石が付いていた。

 

「へぇ、綺麗だな」

 

そう呟くと近くに居た女性店員が声を掛けてきた。

 

「ありがとうございます。此方の商品はいまカップルの間で人気なんです」

 

「へぇ。この埋め込まれている石は天然石ですか?」

 

「はい。全て本物の天然石を使っています」

 

「てことは値段結構高いですよね?」

 

「いえいえ、此方に並んでいる商品の多くは加工中に出た商品にならない部分の天然石をこういった商品に加工して販売しておりますので、お値段は通常よりも少しお安めになっています」

 

「へぇ」

 

そう呟きながらチラッとレオの方に顔を向ける一夏。レオは見た事ない加工がされたアクセサリーに興味津々に見ていた。

 

「彼女さんのプレゼントにいかかです?」

 

「彼女では無いんですけどね。…あ。すいません、たしか石ってそれぞれ意味があるんですよね?」

 

「はい、ございますよ」

 

「では、――――」

 

一夏は店員にある事を告げ、告げた内容に合いそうな商品があるか聞くと

 

「はい、ございますよ。此方の商品になります」

 

そう言い店員は一つのペンダントを見せる。

 

「此方の天然石の意味は――」

 

店員が告げた天然石の意味に一夏は笑みを浮かべ、そのペンダントを買った。そして

 

「欲しい物はあったか?」

 

「ふむぅ、どれも興味を惹かれる物であるが儂には合いそうにもないな」

 

「そうか。それじゃあそろそろ飯に行くか」

 

「うむ」

 

そう言い一夏とレオは店を後にした。

そして近くにあったバーガーショップで昼食を済ませ再びブラブラと街歩きをする2人。そしてとある大型広場へと到着すると二人はベンチに腰掛けた。

 

「はぁ~、結構歩いたな。てか、結局買ったのはそれだけか?」

 

そう言い一夏はレオが抱いている犬の人形を見る。それは街をぶらついていた際に偶々通った雑貨店のショーケースに並んでいた物だった。

 

「良いではないか。なんだかこの犬の顔がミルヒに見えてしまっての」

 

「ふぅ~ん。と、そうだお前に渡すもんがあったんだった」

 

そう言いながら一夏は拡張領域からラッピングされた箱を取り出しレオに渡す。

 

「わ、儂にか?」

 

「おう」

 

一夏から手渡された物に一瞬驚きながらも緊張した面持ちでラッピングを外し中の物を取り出す。ラッピングの中から出てきたのは箱で、その蓋を開くと中には

 

「これは、ペンダントか?」

 

「あぁ、天然石付きのな」

 

そう、箱に入っていたのは一夏が最初に入った店で買ったペンダントであった。

 

「ほぉ、綺麗な石じゃの」

 

「そいつの石の名は『ラベンダーアメジスト』。宝石言葉は誠実、心の平和だ」

 

「なんじゃ、心の平和とは?」

 

「姫さんは色んな問題を直ぐ溜め込むだろ? だからそう言った問題の不安とか恐れから解放されるお守りだ」

 

一夏の説明を聞きながらレオは差し出されたペンダントを見る。

 

「そうか、ありがとう。その、早速つけてくれぬか」

 

そう言われ一夏はレオの首にペンダントを着ける。

 

「ほらこんな感じだ」

 

そう言いながら一夏はスマホを取り出し、内カメラにしてレオに見せる。

 

「中々いいものじゃな。感謝するぞ、一夏」

 

「どういたしまして」

 

頬を染めながら首元のペンダントに笑みを浮かべるレオであった。




次回予告
ダルキアンでござる。
2日目は拙者とで逢瀬でござる。行き先は人々が多い街から少し離れた場所でござる。
フフフ、久しぶりにこれを着るのも悪くないでござるな

次回
ゴールデンウィークデート2日目~ダルキアン編~

「二人っきりの時は、本名で呼んで欲しいでござる…」


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16話

レオとのデートから翌日、一夏は再び正門前にて立っていた。

そう、今日はダルキアンとのデートの為である。

本人にはデートと言うよりもレオ達の異世界探索の付き添いと言った思いだが。

正門で待っている事数十分後

 

「一夏殿、お待たせして申し訳ないでござる」

 

そう声を掛けられた為、一夏は声を掛けてきたダルキアンの方へと振り向くと其処には

淡い藍色に花の模様が描かれた着物の姿のダルキアンが居た。

 

「どう、だろうか? あまりこういった着物は着慣れてござらのんだ」

 

「あ~、その、凄く、綺麗です」

 

一瞬見染められていた一夏は、うまく言葉が出ず、ありきたりな言葉だなと思いながらもそう返す。

 

「そ、そうでござるか? なら、嬉しいでござるな」

 

そう言い頬を赤く染めながらにこりと微笑むダルキアン。

その姿に普段と違うダルキアンにドギマギし、一夏は視線を外す。

 

「そ、それじゃあダルキアンさん、いきま「ちょっと待って欲しいのでござる」どうしましたか?」

 

「実は、その、一つ頼みがあるのでござる」

 

照れた表情を浮かべながらもダルキアンは口を開く。

 

「その、今日は拙者の事を『ヒナ』と呼んで欲しいのでござる」

 

「ヒナ、ですか? でもダルキアンさんって名前が…」

 

「ブリオッシュ・ダルキアンという名は拙者が騎士になっときに、当時の領主から頂いた名前なのでござる。本名はヒナ・マキシマなのでござる」

 

「そうだったんですか。でもどうしても本名を名乗らないのですか?」

 

「その…その名で呼ばれると恥ずかしくてな。だから普段はダルキアンの名を名乗っているのでござる」

 

「そう言う事ですか。…分かりました、それじゃあ今日はヒナさんって呼びます」

 

「うむ、よろしく頼む」

 

一夏からヒナと呼ばれ頬を赤く染めながらも笑顔を浮かべるダルキアン事ヒナ。

そして二人は正門から出てモノレールに乗り込んだ。

モノレールから電車に乗り換えて行き、二人がついたのは都心から離れた少し和のイメージが強い街だった。

 

「ほぉ、この様な街があるとは、凄いでござるな」

 

「都心の方は開発が進んでいますが、少し離れた場所ならまだ其処まで開発も進んでいませんし、こういった昔ながらも街並みが残っているところもあるんですよ」

 

「そうでござるか」

 

そう言いながら歩く2人。すると通り過ぎていく観光客が

 

「ねぇねぇあの二人みた?」

 

「見たぁ! すっごいお似合いだったよ!」

 

「そうそう! 男の人はイケメンだし、隣の着物を着た女性は凄いお淑やかそうだったよね!」

 

そう語り合いながら歩いて行く観光客。

 

「フフフ、お似合いらしいでござるよ一夏殿」

 

「そ、そうですか。あ~、其処の喫茶店に行きましょうか」

 

すれ違って行った観光客の言葉にヒナは笑みを浮かべ、一夏は照れた表情を必死に隠しながら、気持ちを落ち着かせるために喫茶店に行くことを提案し中へと入る。

中は和をイメージした喫茶店であった。

 

「いらっしゃいませ」

 

「二人です」

 

「では此方にどうぞ」

 

店員に案内され奥にある席に着く2人。

そしてメニュー表を開き、注文する物を決める。

 

「ヒナさんは何にしますか?」

 

「ふむ、ではこの餡蜜と抹茶を」

 

「じゃあ俺はわらび餅と抹茶のセットで」

 

「畏まりました」

 

そう言い店員は厨房へと向かって行った。暫くして店員が餡蜜とわらび餅、そして抹茶をもってやって来た。

それぞれの前に置き、一礼した後店員は離れ二人はそれぞれ注文した物を食べ始めた。

 

「ふむ、冷たくて美味しいでござるな」

 

「そうですね。確かに冷たくて美味しいです」

 

そう言い食べ進める一夏達。そして注文した餡蜜とわらび餅を食べ終え二人は残った抹茶を飲みながらゆったりと寛ぐ。

気持ちが落ち着いた二人は喫茶店を後にし、ゆっくりと歩き始める。

暫く歩き始めた時、ヒナはある事を思い出し口を開く。

 

「そう言えば一夏殿」

 

「なんですか?」

 

「昨日閣下と逢瀬に行かれた際に手をつないだとお聞きしたのでござるが、真実でござるか?」

 

「まぁ、確かに手は握りましたね。人混みも多かったし離れる恐れがありましたからね」

 

そう言い返すと、ヒナは暫し思案に更け込んだ後、うむ。と何かを決めたのか声を出した後、一夏の腕に手を通す。

その行動に一夏は驚き目を見開く。

 

「えっと、ヒナさん?」

 

「何でござるか?」

 

「何故腕に抱き着くんですか?」

 

「閣下と手をつないだのであれば、拙者は腕に抱き着くでござる」

 

「どういう事です?」

 

「細かい事は気にしないのでござるよ、一夏殿」

 

そう言い笑みを浮かべるヒナ。

一夏はなんすかそれ。と思いながらも普段と違うヒナにドキドキしながら歩いて行く。

しばし歩いた後、竹林に到着した二人。

 

「なんだかよい雰囲気がある道でござるな」

 

「ですね」

 

竹林の中を石畳で舗装された道を歩く二人。風で揺れる笹の音と二人の足音しかしない空間に二人は心地よく感じながら歩を進める。

しばらく歩いた後竹林を抜けた先にいくつかの露店が並んでいた。

 

「ほぉ、これは賑やかでござるな」

 

「そうですね。少し見ていきますか」

 

そう言って一夏とヒナは露店が並ぶ道へと進んでいった。

色々なものが売られている露店を見ながら二人は進んでいくと一夏一つの露店の前で足を止めた。

そこは藍染めなど染物の商品を販売する露店であった。

 

「へぇ、藍染めってこんなにキレイなものなのか」

 

「ふむ、確かに美しいでござるな」

 

二人が感心しながら見ていると、店主と思われる年配の女性が声をかける。

 

「よかったらおひとつどうですか?」

 

「そうだなぁ。ヒナさんはどれがいいですか?」

 

「拙者でござるか?」

 

一夏に問われヒナはしばし考え込んだ後、苦笑いを浮かべる。

 

「拙者は遠慮しておくでござる。お洒落とは無縁の生活を送ってきたから、どういったものがいいかわからないのでござるゆえ」

 

そう言い断るヒナに一夏はそうですか。と零す。すると、ヒナの後ろで結んでいるリボンに目が行く。

ヒナは長い髪を後ろで編み込み、それをリボンで結んでいるのだ。

そして目線を再度露店の商品へと目を向け見ていく。そして一つの染物商品に目が行き

 

「すいません、この藍染め商品をください」

 

「はい、髪留め用ですね。少々お待ちください」

 

そういい女性は商品を丁寧に畳み直し、それを崩れないよう入れ物に仕舞い一夏たちの前に差し出す。

商品を受け取り、一夏はお金を支払いヒナとともに店を後にした。

二人が店を去っていく姿に女性は、朗らかな笑みを浮かべながら見送る。

 

「若いころの私と主人みたいだねぇ」

 

そう零しながら若かりし頃の自分たちの後ろ姿と重ねながら見送った。

 

 

そして露店が並ぶ道にあったベンチに腰掛け一息つく二人。

するとヒナが先ほど一夏が買った髪留めについて口を開く。

 

「それで一夏殿、先ほど買った髪留め、いったい誰に送るのでござるか?」

 

「ん? そりゃあヒナさんにですよ」

 

「せ、拙者にでござるか?」

 

「えぇ。ヒナさん、髪留めにそのリボンを使われているでしょ?」

 

「まぁ、確かに拙者はこれ以外使っていないでござるな」

 

「だからどうかな?と思ってかったんです」

 

「そうでござったか」

 

頬を赤く染めながら笑顔を浮かべるヒナ。一夏はその表情に照れながら視線を外し、買った染物の髪留めをそっと差し出す。

ヒナはそれを受け取り、箱から髪留めを取り出すとそれを自身につけていた髪留めと変えて一夏に見せた。

一夏がヒナに送った髪留めは青紫色の矢羽の模様のものだった。

 

「どうでござろうか?」

 

「きれいですよ。着物ともマッチしているみたいでよかったです」

 

「そうでござるか? なら、うれしいでござる」

 

笑顔を浮かべながらそっと髪留めをなでるヒナ。

そして二人は学園へと帰っていった。




次回予告
次デート相手はユキカゼ。
ユキカゼとともに一夏はどこに行くのか?

次回
ユキカゼとの逢瀬


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17話

一夏side

はいどうも皆さん毎度おなじみ、一夏だぞぉ。

 

「……誰に話してるんだ、俺は」

 

そんな突っ込みを一人でやりながら俺は昨日と同じく校門前で待っていた。

今日はユキカゼの買い物に付き合う日だ。

 

「一夏殿ぉ~! お待たせでござるぅ!」

 

そう叫ぶ声が聞こえて首を向けたら、薄いピンクと白のボーダー柄のコートに濃いピンクのインナー、そして半ズボンといったちょっと露出が多めの服を着たユキカゼが来た。(FATEの玉藻の私服だと思ってください)

 

 

「いや、そんなに待ってないぞ」

 

「そうでござるか? それじゃあ今日はどこに行くのでござるか?」

 

「いや、無難に遊園地に行こうかなと思っていたんだが…」

 

「ユウエンチとは、何でござるか?」

 

「まぁ、アミューズメント施設みたいな場所だ。いろんな遊具があったりとかまぁ楽しい場所だ」

 

「おぉ、それは楽しみでござるなぁ!」

 

ユキカゼはそういいながら喜ぶ。いや、喜ぶのは良いんだがぁ…。

 

「なぁユキカゼ」

 

「何でござるか、一夏殿?」

 

「その格好であまり飛び跳ねるのはよした方がいいぞ」

 

「? なんででござるか?」

 

「跳ねるから」

 

「跳ねる? 何がでござるか?」

 

「何って…、胸が」

 

「……一夏殿のエッチ」

 

「……」プイッ

 

仕方ねぇだろ、俺だって男なんだぞ。

 

「それじゃあ、行くぞ」

 

「そうでござるな、うむ!」

 

赤くなりながらも、俺はユキカゼと一緒に遊園地に向かうべくモノレールへと向かった。

 

一夏side End

 

一夏とユキカゼが乗ったモノレールが都心につくと、モノレールから降りて電車に乗り換える。

そして電車が遊園地前に到着した。

 

「おぉ~、すごいでござるなぁ! 此処がユウエンチという場所でござるかぁ!」

 

多くの人達が行きかう中、ユキカゼは目の前に広がる様々なアトラクション施設などに目を輝かせていた。

 

「それじゃあ中はいるか」

 

「うむ、参ろう!」

 

そういいながら一夏の腕に抱きつくユキカゼ。

 

「お、おい」

 

「駄目でござるか? レオ閣下とは手をつないで、お館様とは腕を組んだと聞いているでござるよ?」

 

「……はぁ。わかった、好きにしてくれ」

 

「ふふふ、はいでござる!」

 

そういい笑みを浮かべながらユキカゼは一夏の腕に抱きつきながら歩き始め、一夏も内心溜息を吐きながらもまぁ、いいか。と思いつつ同じく歩き始めた。

遊園地の中に入った2人はまずどこに行こうかとパンフレットを開く。

 

「それでユキカゼはどこか気になるところはあるか?」

 

「うぅ~ん、あっ! この『ドキハラ!? トロレール!』に行ってみたいでござる!」

 

「わかった。じゃあ行くか」

 

そういい二人はお目当てのアトラクションへと向かった。

ユキカゼが行きたいと言ったアトラクションに到着すると

 

『きゃーー!』

 

『ひゃーーー!』

 

といった悲鳴が鳴り響く。

その悲鳴にユキカゼは一体何がとあたりを見渡し悲鳴の元を探す。そしてその声が上からしたことに気づき見上げると

 

「い、一夏殿、あ、あれは?」

 

「ジェットコースターっていうやつだぞ」

 

そう。急斜面を下って行ったりひねられたりと体を360度いろんな方向に引っ張られるジェットコースターが一夏達の前にあった。

 

「あ、あれに乗るのでござるか!? 落っこちてしまうでござるよ!?」

 

「大丈夫だよ。ほれいくぞ」

 

そういい一夏はアタフタするユキカゼをしり目に手を引きながら中へと入っていた。

そしてしばし列を並んだあと一夏達の番が到着しコースターの席へと着く。

一夏の隣に座ったユキカゼは不安そうな表情を浮かべながらきょろきょろとあたりを見渡す。

 

「い、一夏殿、この乗り物は落ちたりしないでござるよね?」

 

「しねえよ。『それじゃあ皆さん、いってらっしゃ~い!』ほら、動くぞ」

 

そういうとコースターが動き始め、ユキカゼは緊張した面持ちになる。そしてゆっくりとコースターは上方向へと延びるレールを昇り始めた。

どんどん高くなっていくコースターにユキカゼはおぉ!と声を漏らす。そしてコースターの前に顔を向けた瞬間驚いた顔を浮かべる。

 

「い、一夏殿!? み、道がないでござるよ!?」

 

「ないな」

 

「やっぱり落ちるでござるのか!?」

 

「落ちるな」

 

「そんな呑気に言っている場合でござるか!?」

 

「まぁ、安心しろって。死にはしないから」

 

「全然安心できないでござるよ!」

 

そう叫んでいる間にもコースターはレールの先に到着、そして

コースターはその先に見えなかった下りのレールに沿って急加速で下って行った。

 

「ひゃっはぁーーーー!!!」

 

「ひやぁああああ!!!」

 

強風に、あっちこっちに引っ張られる感覚。ユキカゼはその感覚に一瞬驚きながらも次第に楽しさを覚え始めた。そしてしばらくしてコースターはスタート地点へと戻ってきた。

 

「いやぁ~、面白かったな」

 

「はいでござるよぉ。最初は怖かったでござるが、楽しかったでござる!」

 

そういい笑顔を浮かべるユキカゼ。そしてコースターから降りて建物の出口付近に近づくとモニターで何かをしている人々を発見する。

 

「一夏殿、あの人たちは一体何をしているのでござるか?」

 

「あぁ、あれか。あれはこのコースターの途中で写真を撮られる個所があるんだ。そこで撮られた写真を買ったりすることができるんだ」

 

 

「そうなのでござるか。それじゃあさっき拙者たちが乗っていた時のも」

 

「あぁ、撮られているだろうな」

 

「それじゃあさっそく見に行くでござるよ!」

 

そういい一夏を引っ張ってそのモニター前につくユキカゼ。そして自分たちが撮られている奴を探すと二人で楽しんでいる様子の写真が撮られているのを発見した。

 

「一夏殿!この写真ほしいでござる!」

 

「はいはい。ちょっと待てよ」

 

そういい一夏は写真番号を記憶し、隣の店舗で番号を伝え写真のデータとその場で現像してもらった写真を受け取り、ユキカゼに手渡す。

 

「ほらよ」

 

「ありがとうでござる一夏殿!」

 

ユキカゼは受け取った写真を大事そうに持つ。

そして二人はその後も色々なアトラクションに乗ったり時には遊園地内のレストランで昼食をとったりと楽しんだ。

そして夕日が差し始め、一夏達は遊園地を後にしようとしていた。

 

「で、どうだった遊園地?」

 

「ものすごく楽しかったでござるよ!」

 

そういいながらユキカゼは一夏がお土産屋で買ってあげた遊園地のマスコットキャラのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

 

「そいつはよかった」

 

そういいながら歩く一夏。するとユキカゼが口を開く。

 

「あ、そうだ一夏殿」

 

「ん、どうした?」

 

「今日こんな楽しいところに連れて行ってくれたお礼、まだしていなかったでござる」

 

「いや、別にいいぞ」

 

「駄目でござる。お礼はちゃんとしないと拙者の気が済まないでござる!」

 

そういうユキカゼに一夏はどうしたものかと頭を掻く。すると

 

「あ、一夏殿あれ」

 

「え?」

 

ユキカゼが突如指で何かを指す。一夏は釣られてその方に顔を向けたと同時に

 

チュッ

 

ユキカゼが一夏の頬にキスをしたのだ。

 

「え? ゆ、ユキカゼ?」

 

「…まだ頬でござるが、何時かは口で受け取ってほしいでござるよ一夏殿?」

 

頬を赤く染めたユキカゼがそういいながら笑顔を浮かべる。

その後一夏はしどろもどろになりながらも、「か、帰るぞ!」と無理やり空気を換えるようにして叫びぎこちない動きで歩き始め、ユキカゼはその姿にくすくすと笑いながらもその後についていき学園へと帰っていった。




次回予告
ビオレでございます。
やっとついに私と、その、一夏様との逢瀬の日がやってきました。
色々と緊張することはありますが、ほかの皆様がそれぞれアピールや楽しんでいたとお聞きしますし、私も一夏様と楽しいひと時を楽しみたいです。

次回
ビオレとの逢瀬


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18話

一夏side

どうもぉ、毎度おなじみ一夏さんだぞぉ。

 

「ここ最近同じようなことを言ってる気がするなぁ」

 

でだ、今日も学園前で待機してる。

まぁここまで読んでいる人ならすでに察してると思うが、今日はビオレとの買い物だ。

一人一人とあっちこっち一緒に回ったが結局俺一人で買い物とか行ってないな。

まぁ、あの4人と買い物とか遊びに行ったりしたのは面白かったからいいけどな。

それが今日で最後。

 

「一夏様ぁ、お待たせして申し訳ありませぇん!」

 

俺の名前を叫びながらかけてくるビオレに首を向けた。

ビオレの格好はノースリーブのシャツに黒のスカートだった。(艦これの龍田改二と想像してください)

 

「ふぅ、すいません。皆さん色々とお洒落をされて出かけられておりましたので、私もその、色々とお洒落をしてみたのですが。……ど、どうでしょうか?」

 

「まぁ、そりゃあ似合ってるし、奇麗だと思うぞ」

 

俺がそういうとビオレはそ、そうですか!と頬を赤く染めながら照れ笑いを浮かべる。

 

「そ、それで本日はどちらに向かうのですか?」

 

「今日か? まぁ、ビオレの今後の為が売ってる場所かな」

 

「? どこですかそれは?」

 

「まぁついてくれば分かるよ」

 

そういい俺はビオレとともに目的地へと向かって移動を始めた。

 

一夏sideEnd

 

モノレール、そしてバスなどを乗り継いで目的の場所へと到着した2人。

 

「一夏様、この市場は一体何なのですか?」

 

目の前に広がる店舗にビオレが一夏に問う。

 

「此処は多くの金物を取り扱っている店舗が軒を連ねている商店街だ」

 

「金物…。つまり包丁などのことですか?」

 

「そうだ。此処の商店街には多種多様な包丁に、調理器具とかユニフォームなんか扱ってる。ここでならビオレの手にあった包丁とかが見つかるんじゃないかと思ってな」

 

「そうだったんですか。ありがとうございます」

 

そうお礼を言いビオレは一夏とともに商店街へと入っていった。

商店街へと入ると、どのお店も調理器具関連のお店が数多くあり、ビオレは向こうの世界では見たことが無い調理器具などがあったりと物珍しそうに見て回っていた。

ある程度店舗を回っていた所、ビオレは一店の店の前で足を止める。

 

「こちらのお店、少し気になりますね」

 

「此処か? 包丁専門の店みたいだな。中入るか?」

 

「はい!」

 

ビオレの返事と共に一夏達は中へと入っていった。

店舗内は棚のショーケースに数多くの包丁が並べられており、洋包丁から和包丁など多種多様だった。

 

「包丁とは種類がたくさんあるんですね」

 

「まぁ、色々あるな」(うぉ、マグロ解体用の刺身包丁もあるじゃん)

 

多種多様な包丁に圧巻となっている2人に一人の年配男性が話しかけてきた。

 

「いらっしゃい。何かお探しで?」

 

「あぁ、すいません。彼女の手にあった包丁を探しに来たんです」

 

店員の男性に一夏がそういうとビオレがぺこりとお辞儀をする。

 

「なるほど。それでしたらこちらの包丁などいかかでしょう?」

 

そういい店員はショーケースから一本の包丁を取り出す。

 

「こちらは柄と刃の部分一体型になっているものになります。一体型になっていることで錆などで柄が折れたりすることはありません。それにこちらは柄が握りやすいよう流線型になっております。材質もオールステンレスなので軽量で、手入れもしやすいです」

 

店員が出した包丁に感心した表情を浮かべる一夏とビオレ。

 

「試し持ちをしてもよろしいでしょうか?」

 

「えぇ、かまいませんよ」

 

店員に断りを入れてビオレは包丁を手に取る。

 

「確かに本当に軽いです」

 

「女性にも扱いやすいよう設計、製造されておりますからね。無論国産でございます」

 

店員の説明にビオレはしばし考えた後一夏の方に顔を向ける。

その顔に一夏はすぐに理解し店員に話しかける。

 

「すいません、この包丁一つお願いします」

 

「かしこまりました。ちなみにですけども、名入れは如何いたしましょう? 今でしたら無料で入れさせていただきますが?」

 

「じゃあお願いします」

 

「畏まりました。ではお名前をうかがってもよろしいでしょうか」

 

「ビオレと申します」

 

「ビオレ様ですね。では名入れに少々お時間をいただきます」

 

そういい店員はお渡し可能時間を書いた紙を一夏達に手渡し、一夏達は包丁の料金を支払い店から一度出た。

店を出た後一夏達は他の店にも行きエプロンだったりまな板を購入したりと必要になりそうな買い集めた。

そして時刻が引き渡し可能時刻になったため一夏達は先ほど行った店舗へと向う。

店舗に入ると、初老の店員が入ってきた一夏達に笑みを浮かべる。

 

「お待ちしておりました。どうぞ、ご用意は済んでおります」

 

そういわれ2人は店員のもとに向かうとテーブルの上にビオレと彫られた包丁が奇麗な箱に収められていた。

 

「うわぁ、素晴らしい出来です。ありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

謙虚そうにする店員。すると一夏は包丁の隣に置かれているもう一つの包丁に気づく。

 

「あの、この包丁は?」

 

「あぁ、こちらは皮むきなど細かな作業がしやすいペティナイフです。こちらは私からのプレゼントでございます」

 

「えっ。それはなんか悪いですよ」

 

「いえいえ。仲のいいご夫婦にとささやかな贈り物ですので」

 

店員の言葉に一夏達は頬を染める。

 

「いや、俺らは…」

 

「その、まだ夫婦では無く…」

 

「おや、まだご結婚されておられなかったのですか。ではご祝儀ということで」

 

そういいながら店員は奇麗に包丁とペティナイフを箱に仕舞い一夏達に手渡す。

二人は頬を赤く染めながらお辞儀をして外へと出る。

しばし無言で歩きとある喫茶店へと入る。適当な席に着きそれぞれ飲み物を頼む。

 

「いいものが買えてよかったな」

 

「はい。一夏様のおかげでいいものが買えました。本当にありがとうございます」

 

「いや、別に気にするな」

 

そういいながら持ってこられたオレンジジュースを口にする一夏。

 

「いえ、これを使って頑張っておいしい料理が出来るようなります。ですので、その、初めてのおいしい料理が出来ましたら一夏様、ぜひ食べてくれませんか?」

 

照れた表情を浮かべながら尋ねてくるビオレに一夏はおう。と返す。

そして2人は喫茶店で休憩後、学園へと戻っていった。




次回予告
一夏だ。
ゴールデンウイークも終わり、再び学園が始まった。
教室に行ったら姉貴が2人の生徒を連れてきた。新入生らしいが、面白い気迫を持った奴がいるな。
本当、俺を楽しませてくれる学園だな。

次回
2人の転入生。


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19話

GWが終わり、小旅行やら実家に帰省していた生徒たちは皆楽しんだといった表情を浮かべながら教室へとやってきた。

そんな中一夏達も教室内へと入っていく。

 

「皆それぞれ楽しんできた様子でござるな」

 

「そのようじゃの。まぁわしらも一夏にそれぞれ連れて行ってもらったからの。たのしかったぞ」

 

「そりゃどうも。そういえばビオレ、今朝の卵焼き若干焦げていたけどいい感じにできていたぞ」

 

「そ、そうですか? それは良かったです」

 

「いっぱい練習していたでござるからな。ビオレ殿、今度はユキカゼも一緒に料理をしてもよいでござるか?」

 

「もちろんです!」

 

そう会話をしながら席へと着く5人。

 

「皆さんおはようございます」

 

席に着くと同時に教室内に入ってきたオルコットが一夏達に気づき声をかける。

 

「おぉオルコット殿。貴殿もこのごーるでんうぃーくで何処かに出かけられたのでござるか?」

 

「長い休みでは無い為、英国にいた時から気になっていた日本の歴史博物館などを見て回ってきましたわ」

 

「ほぉ、それはまた珍しいでござるな」

 

「意外と思われても致し方ありませんわ。ですが、他国の武術を学ぶことは自分の武術を磨き上げる道の一つだと思っておりますの」

 

「なるほど。確かに『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』って故事にもあるからな」

 

「こじ? 一夏様、故事とは何ですか?」

 

「昔あった出来事とかを伝承したものの事だ。例えば『井の中の蛙大海を知らず』っていう言葉は井戸に住んでいるカエルは自分がいる此処が一番大きいと思い込んでいるが、井戸なんかよりも大きい海が存在するっていうことは知らない。これは自分で見たり体験したこともないのに知っているふりをしたやつの事を指すんだ」

 

「なるほど。他にもあるのか?」

 

「色々とあるぞ。俺の記憶が間違ってなければ100個以上あるはずだ」

 

「そんなにもあるのでござるか。いやはや驚きしかないでござる」

 

そんな談笑を続ける6人。

そしてオルコットが自分の席へと戻ったと同時にチャイムが鳴り響き、立っていた生徒は慌てて自分の席へと戻っていく。

チャイムが鳴り終えると同時に千冬と真耶、そして2人の生徒が中へと入ってきた。

 

「諸君、おはよう」

 

『おはようございます!』

 

「うむ、全員来ているようだな。ではGW明け最初のSHRを始める。まず最初に転入生がこの1組に入る。ではまずボーデヴィッヒ自己紹介を」

 

「はい」

 

千冬に呼ばれボーデヴィッヒと呼ばれた白髪の眼帯を付けた少女が前に出る。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ空軍特別IS実験隊に所属しており、階級は中尉だ。幼少の頃から軍人としての心構えなどを教わってきたためしゃべり方に威圧的と感じられると思うがどうか許してほしい。こちらには日本の文化や知識、そして一般常識などを学びにやってきた。よろしく頼む」

 

そういい一礼するボーデヴィッヒ。それに対して生徒たちは拍手で答えた。

自己紹介を終えたボーデヴィッヒはまた先ほどの位置に戻るそして今度は金髪のショートが前に出てくる。しかしその格好が明らかに可笑しかった。それは

 

「え? 男物のズボン?」

 

一人の生徒がそうつぶやく。

 

「えっと、シャルル・デュノアと言います。世界で2番目にISを動かした男性操縦者です。デュノア社の企業代表としてやってきました。よろしくお願いします」

 

そういい一礼するデュノアと名乗った人物。それに対して生徒たちは

 

『きゃあああぁぁぁあっぁああ!!!!!』

 

と黄色い声を上げた。

 

「二人目よ、二人目!」

 

「まさか2人目の男性操縦者が1組にやってくるなんてもういいこと尽くしじゃん!」

 

「やったぁあ! 本が書けるぞぉ!」

 

などと言った声を上げる生徒達。そんな生徒たちに千冬は

 

「静かにしろ!」

 

と一喝する。千冬の言葉に生徒たちはすぐに静かになる。

 

「えぇGW中にフランスのデュノア社が検査したところ見つかったという事でIS学園にやってきた。当クラスにはすでに土方がいるため大丈夫と思うが、色々と配慮してやるように」

 

『はい!』

 

「よろしい。では次の授業は2組との合同授業の為移動するように。土方、デュノアに男性更衣室まで案内してやれ」

 

千冬がそう告げる。だが一夏は

 

「はぁ? いや無理なんですが」

 

と拒否したのだ。

 

「土方君、そんな拒否するのは…」

 

真耶は拒否した一夏に困惑しながらも咎める。

 

「いやだって、

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、()()()()()()()()を男性更衣室に連れて行かないといけないんですか?」

 

と言ったのだ。

一夏の言葉に同意するようにレオやビオレ、さらにダルキアンやユキカゼが頷く。

 

「先生、流石に女性が男性更衣室に行くのはまずいでござるよ」

 

「その通りだ。というかなぜ男装なんてしておるのだおぬしは?」

 

ダルキアンやレオの言葉に意味が分からないといった表情を浮かべる生徒たちと真耶。

すると

 

「私も同意見です織斑先生。なぜ男装した女性を男性更衣室に行かせるのですか?」

 

ボーデヴィッヒがそう告げたのだ。

当の本人であるデュノアは訳が分からないというか酷く焦った表情を浮かべていた。

 

「な、何のことを言ってるの? 僕は男「いや、無理があるぞ」ど、どういうこと?」

 

デュノアの言葉を遮るように重ねる一夏。

 

「まず体格、男性にしては細すぎる。それに胸を何かで圧迫してるだろ? 呼吸が明らかに細いし呼吸数が多い」

 

そういい違和感を伝える。

それに対してデュノアは「あの、それは…」と言葉がうまく出てこずしどろもどろになっていた。

そんな中千冬ははぁ。と溜息を吐く。

 

「まったくこちらの配慮も気にもかけずにずけずけと言いおって」

 

「いや、配慮って…」

 

「この学園は生徒の自主性を重んじるところがあるんだ。そのため女性にもかかわらず男装しているのは何か理由があるからということで黙っておいてやったんだぞ」

 

千冬の言葉にデュノアはもうバレてた!?とショックを受けた顔を浮かべていた。

 

「けど、流石に女にもかかわらず男と紹介するのはまずいんじゃないでござるか?」

 

「そうかもしれんが、こいつは心から男だと思い込んでいるかもしれんだろ? なぁ?」

 

千冬の問いに呆然となっていたデュノアは

 

「……いえ、僕女です」

 

と正直に答えたのだ。

 

「えっと、どうして女にも関わらず男として入学してきたんですか?」

 

真耶の質問にデュノアは「そ、それは…」と言い淀む。

すると千冬が喉をならす。

 

「んん。山田先生、それは後で生徒指導室聞きましょう。ではデュノア私たちと共に生徒指導室に行くぞ。訳はそこで聞く」

 

「わ、わかりました」

 

「では、諸君はこの後1組と2組との合同授業の為皆アリーナに向かうように」

 

『は、はい』

 

生徒たちの返事を聞いた後、千冬は真耶とデュノアと共に教室から出ていった。その後一夏も着替えに更衣室へと向かって行った。




次回予告
ユキカゼでござる!
いやはや今朝の者は何故男の格好をしていたのでござろうか?
謎でござるな。

では次の話でござるが、1組と2組のとの合同授業故アリーナに集まったユキカゼ達。
さてさてどういった授業になるでござろうな。

次回合同授業!


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20話

合同授業の為更衣室で着替え終えた一夏はアリーナに行くと既に何人かの生徒達も到着しており、それぞれ談笑しあっていた。

一夏が到着したことに気付いたレオ達は足早に一夏の傍へと向かう。

 

「一夏殿、デュノア殿はどうなるのでしょうか?」

 

「うぅ~ん、多分女性にもかかわらず男装していた理由を聞いて、許容できることなら明日にでも解放されるんじゃないのか」

 

「許容できないことならどうなるのでしょうか?」

 

「恐らく強制送還かな?」

 

「つまり、お国に帰されるという事でござるか?」

 

「恐らくな。まぁその辺は姉貴たちの仕事だから俺達には関係ねぇだろ」

 

「そうでござるな」

 

そう談笑しているとジャージ姿の千冬がやってきたため生徒達は整列していき、一夏達もその列に入る。

 

「ではこれより1組と2組との合同授業を行う。まずはオルコットと鳳、前に出ろ」

 

「「はい」」

 

千冬に呼ばれた二人は列から出て千冬の前へと出てくる。

 

「今から2人にはある人物と模擬戦をしてもらう」

 

「ある人物?」

 

「それは一体どなたでしょうか?」

 

「もうすぐ来るぞ」

 

そう千冬が行ったと同時に

 

「ど、どいてくださぁ~~~~~い!!!」

 

と上から悲鳴が聞こえ全員顔を上げると、操縦ミスしたのかラファールを身に纏った真耶が落下してきていた。

 

「全員退避!」

 

千冬の大声に生徒たちは急ぎその場から退避していく。生徒たちがほとんど避難したと同時に真耶は地面へと落下し大きなクレーターを形成した。全員恐る恐る穴に近づくと、目を回した真耶が寝っ転がっており、生徒たちと様子を見ていた千冬は目元をピクピクと痙攣させながら穴へと降りていき

 

「いつまで寝ているんだぁ!!!」

 

そう叫ぶと同時に出席簿を振り下ろし、真耶の頭部を叩く。

 

「いったぁあぁあぁぁああ!!???!!」

 

「目が覚めたか?」

 

「ふぁい…」涙目

 

「では上に上がって準備してください」

 

おでこに青筋を浮かべながら伝える千冬に真耶は涙目になりつつも穴から這い上がり装備を確認する。

 

「鳳とオルコット。お前たちの相手は山田先生だ。彼女は元日本代表候補者で、他の代表候補者の中で一番の成績を有していた奴だ」

 

「そ、そんな、昔の事ですよ」

 

「そうだな。変に格好つけようとした結果かっこ悪いところを見せているからな」

 

千冬の辛辣な言葉に真耶はガックシと肩を落とす。その光景に生徒たちは苦笑いを浮かべながら見つめる。

 

「では全員アリーナの端に移動。その後模擬戦を数分ほど行う」

 

そう言い千冬は生徒達ともにアリーナの端へと移動する。そして全員が端に移動後セシリアと鈴、そして真耶との模擬戦がはじめられた。

鈴とセシリアはお互いの得意とする武装を展開し真耶へと迫る。

セシリアと鈴、二人は何の打ち合わせもせず鈴が前、セシリアが後ろと位置につき真耶に向かって攻撃を仕掛ける。

真耶は接近させまいと弾幕を張りつつ距離をとる。

しばし膠着状態が続いた後、千冬が時計を見た後拡声器を取り出す。

 

『其処までだ! 3人とも降りてこい』

 

そう言われ3人はスッと下へと降りてきた。

 

「見ていた通り、元代表候補生である山田先生相手に現役代表候補生2人が相手にしても倒せなかった。このように普段おっちょこちょいな山田先生でもこのような実力を有している。見た目だけで人は判断しないように」

 

『はい!』

 

「よろしい。ではこれより専用機持ちを講師としてそれぞれISに乗ってもらう。専用機持ちは受け持った生徒にしっかりと教えるように」

 

では、それぞれ分かれて整列しろ。と号令を出すと、生徒たちの多くは一夏の下に集まり、他はダルキアンとかに集まっていた。

その光景に千冬は目元を引きつかせる。

 

「お前等、誰が好きなところに並べと言った!」

 

そう怒鳴ると生徒たちは慌てて名前順に並んでいった。

 

「よろしい。ではそれぞれ指導をはじめろ」

 

そう言われ一夏達は受け持った生徒たちの指導を始めた。

 

・一夏の班

 

「それじゃあ教えていくから一番前の人まず乗ってくれ」

 

そう言いわれ先頭にいた生徒が持ってこられた打鉄に乗り込む。

ゆっくりと歩こうとする生徒。その時

 

「あっ!?」

 

とバランスを崩し危うく転びそうになる。が

 

「おっと、大丈夫か?」

 

一夏が寸でで受け止め立ち直させる。

 

「う、うん。あ、ありがとうね」

 

「気にするな。それとアドバイスだが、若干体が前のめりになってるぞ。姿勢を正さないとまた転ぶぞ」

 

そう言われ生徒は姿勢に意識しつつ歩き始め、一夏はその近くで見守る。

 

・オルコット班

 

「そうです。動きを大降りにせずにゆっくりと一つ一つの動作を意識させて」

 

そう言い生徒の手をつなぎながら歩くオルコット。

オルコットの班では、オルコットが一つ一つ丁寧に説明し、動きを覚えさせていた。

 

 

・鈴班

 

「そうそう。うまいじゃない」

 

「そ、そうかな?」

 

「えぇ」

 

鈴の班ではまずISに乗ってもらいまずは試しに動かしてもらい、直すべきところを教えるといった教育法であった。

 

因みにレオやダルキアン達も鈴と同じように試しに動かしてもらい、直すべきところを指摘するといった教育を行っていた。

何故レオ達がこの教育法で行ったかというと、4人はフロニャルドから来た異世界人。

剣や武術と言ったものなら教えることはできるが、ISとなるとこの世界に来て束に教えて貰い、自分で動かしコツを掴んだものの為、教えようにも難しいと思ったためである。

 

 

さて、原作では力こそ全てであったボーデヴィッヒの班はというと。

 

「そうだ、普段の歩きを意識しながらだ」

 

「う、うん」

 

「変に力まなくていい。余計な力はバランスを崩す要因になるぞ」

 

細かく指摘などを入れるボーデヴィッヒ。

生徒は緊張しながらも一歩一歩歩を進める。そんな生徒にボーデヴィッヒはイラつく様子もなくゆっくりでいいぞと言いながら補助を続ける。

 

そんなボーデヴィッヒの姿に千冬は

 

「見ない間に成長していたようだな」

 

と感心したような顔つきで見ていた。




次回予告

ボーデヴィッヒだ。
じかいよこくと言うものをやってくれと、主に言われたのだがどう説明すればいいのかわからんから私なりにやらせてもらう。
合同授業後、1200時から土方や他の専用機持ちと談話を行った。
その後、私が習得している武術と土方たちと模擬戦を行う予定となった。

以上だ。

ん? 主よ、何か文句あるのか?

次回
ラウラの武術


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21話

アリーナにて合同訓練を終えた後、一夏達は服を着替え、アリーナ前にて集合していた。

 

「さて、昼飯食いに行くか」

 

「そうじゃな」

 

「はい」

 

「うむ」

 

「はいでござる!」

 

そう話していると、アリーナからセシリア達もやってきた。

 

「土方さん、今から食堂ですか?」

 

「あぁ、オルコットたちもか?」

 

「えぇ。あぁ、それと彼女も一緒にいいかしら?」

 

鈴がそう言い自身の横にいたラウラに顔を向ける。

 

「あぁ、別にいいぜ」

 

「かたじけない。如何せん、どうお昼を一緒に摂ろうと誘えばいいのかわからなかったのから助かる」

 

「気にすんな。それじゃあ行こうぜ」

 

そう言い一夏達は食堂に向け歩き出した。

食堂に到着し、それぞれ注文し受け取ると、大人数でも座れる席に着く。

それぞれご飯を食べ終え、お茶を飲んでくつろいでいた。

するとふとラウラが口を開く。

 

「そういえば皆は何か武術を習っているのか?」

 

「ん? あぁ、俺とダルキアンさんは剣術」

 

「儂は戦斧と双剣じゃ」

 

「拙者は忍術でござる」

 

「私は短刀術です」

 

「私は銃剣術ですわ」

 

「あたしは中国拳法と双剣ね」

 

「ふむ、やはりか」

 

「アンタも何か習ってるの?」

 

「私か? うむ、己の心と体を鍛えるために習っているぞ」

 

「へぇ~、何を習っているの?」

 

「土方たちと同じ()()だ」

 

ラウラの口から出た言葉に一夏達は驚きのあまり目が点となってラウラを見つめていた。

その様子にラウラは首をかしげる。

 

「なんだ? 何か変なことを言ったか?」

 

「いや、今ラウラさんの口から剣術と聞こえたのですが…」

 

「あぁ、言ったぞ」

 

「マジか。それじゃあって、やば。昼休み終わりそうだな。ボーデヴィッヒさん、放課後時間あるか?」

 

「ん? あぁ、あるがどうした?」

 

「ちょっとついてきてほしいところがあるんだ」

 

そう言われラウラは疑問を抱きながらもわかった。と了承の言葉を口にする。

そして時刻は放課後となり、一夏達はラウラを連れて何時もの訓練所へと訪れた。

 

「此処でいつも稽古しているのか?」

 

「あぁ。姉貴から自由に使っていいって言われているからな」

 

「姉貴?」

 

「あ。そうか、ボーデヴィッヒさんには言ってなかったな」

 

そう言い一夏は自身が千冬の弟であること、そして何故名字が違うのかその訳を説明する。

 

「なるほど。そういう事情があったのか」

 

「そういう事。あと、悪いが…」

 

「みなまで言うな。誰にも言うな、だろ。安心しろ、おいそれと言いふらしたりはせん。それより、一本試合をしてくれないか?」

 

ラウラの言葉に一夏はニッと笑みを浮かべる。

 

「いいぜ」

 

そう言い一夏は模擬戦用の模造刀を取りに向かう。

そして立て掛けられている模造刀を2本持ち、ラウラのもとに向かう。

 

「たしか剣術を使うんだったろ」

 

そう言い一夏は模造刀をラウラに差し出すも

 

「済まぬ。私が習っている剣術はこの長さの物ではないのだ。自前のを使ってもいいか?」

 

「あぁ、良いぜ」

 

そう言い一夏は模造刀を傍にやってきたビオレに手渡す。そしてラウラは自身の拡張領域から自身の剣術用の模造刀を取り出す。

その出てきた模造刀に一夏やレオ、ダルキアンと言った面々は驚いた表情を浮かべる。

ラウラが取り出した模造刀、それはラウラの身長よりも長いものだったからだ。

 

「おいおい、やたら長いものを出してきたな」

 

「これが私の習っている剣術の物だからな」

 

「なるほどな」

 

そう言い構えあう一夏とラウラ。

端で見ていたレオ達は楽しみだと言わんばかりに笑顔で見ていた。そんな中セシリアがラウラの模造刀の長さに首をかしげていた。

 

「ボーデヴィッヒさんはどうしてあのような長い刀を?」

 

「うむ、わからぬ。しかし、中々変わっておるの、大太刀を使うなどとは」

 

「大太刀? 太刀とは何か違うのですか」

 

「そこまで大きな違いはない。あるとすれば刃の長さが90㎝以上あるものは大太刀と呼びます。更に刃の厚さも普通の太刀よりも厚く作れているくらいよ」

 

「そのような刀をボーデヴィッヒさんは使いこなせる問う事でしょうか?」

 

「恐らくね」

 

鈴の説明にセシリアはなるほど。と自分の知らない新たな剣術が見れると、しっかりと観察せねばと真剣な表情を浮かべる。

 

互いに睨みあう一夏とラウラ。

最初に動き出したのは一夏だった。

一夏は間合いを一気に詰め寄りラウラに斬りかかる。それに対してラウラは焦ることなく刀を構える。

そして

 

「ふっ!」

 

「ちぃ!」

 

体格に似合わないほどの長い模造刀をラウラは軽々と振るい、一夏が振った刃を弾く。そしてすかさずラウラは蹴りを一夏に入れる。

突然の蹴りをバックステップでよけつつ、一夏は再度刀を構え直す。

 

(大振りになりやすい長刀、それを補うべく体術を組み込んでいるのか。鈴と同じだな。違いがあるとすれば、鈴と違いボーデヴィッヒさんは軍属だ。体力は鈴以上にあるから長期戦になるな)

 

(素早く蹴りを入れこんだが、やはり見切られていたか。それに先ほどの一撃は様子見だろ。私がどういった技術を有しているか探るためにやったのだろう。やはりあの人の弟だけはあるな)

 

間合いを開けた両者は再び、刀を構える。だが、今度は一夏は居合の構えを取り、ラウラは腰を落とし、肩に刀を置きながら構えをとる。

そしてしばしの沈黙後、今度はラウラが先に攻撃を仕掛けた。

間合いを詰めてくるラウラ。一夏は焦ることなく同じく間合いを詰める。

そして刃先の長いラウラが先に刃をふるう。

 

(このままいけば取られるな。だったら!)

 

振り下ろされてきた刃をよけるべく、一夏は一気に足に力を入れ急制動で止まる。

ラウラの刃はそのまま床へとぶつかり、大きな隙が生まれてしまった。

 

「そこっ!」

 

一夏はその隙を逃さず横払いする。レオ達はこれはもう決まったと思った。だが

ラウラは諦めた様子はなく、素早く身を屈め横払いを避けたのだ。

 

身を屈めたラウラはその状態で足に力を入れ、大太刀を振るう。

迫る刃に一夏は咄嗟に前に前のめりで飛び避ける。

互いに再び距離をとると、模造刀を構えあう。

 

「やるなぁ」

 

「貴様もな」

 

そう言い合い笑みを浮かべる二人。

 

バチン!

 

と突如手を叩く音が鳴り響き、全員音が鳴った方に顔を向けると呆れ顔の千冬が立っていた。

 

「あれ、姉貴。どうしたんだ?」

 

「どうしたじゃない。お前たち夕飯も食わずにずっとやり合うつもりか?」

 

そう言われ全員時計を確認すると、夕飯を食べるには丁度いい時間となっていた。

 

「ありゃ確かにそんな時間みたいだな。てか全然気づかなかったな」

 

「確かにな。ふむ、いい訓練が出来た。また来てもいいか?」

 

「あぁ、いつ来てもいいぜ。俺以外にもレオやダルキアンさんたちもいい訓練になると思うぜ」

 

「そうか、なら来させてもらおう」

 

そう言い笑顔を浮かべながら持っていた模造刀を片付け夕飯を食べに食堂へと向かった。




次回予告

鈴よ!
まったく好戦的なのがまた一人増えたわね。まぁ、私は嫌いじゃないから良いけどね。
そういえばラウラはどうして剣術を学ぼうとしたのかしら?
一度聞いてみましょうかね。


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22話

訓練所から食堂へときた一夏達はそれぞれ夕食を食堂のスタッフから受け取った後、全員が座れる席へと着き、夕食をとり始めた。

食べている最中、鈴は疑問に思っていたことを口にする。

 

「ところで、ラウラ」

 

「なんだ?」

 

「どうして剣術を習おうと思ったのか聞いて良いかしら?」

 

「あぁ、別に構わんぞ」

 

そう言いボーデヴィッヒは喉を潤すためにコップに入った水を口に含んだ後語りだした。

 

「私は生まれた頃から両親が居なくてな。孤独だった私を引き取ってくれたのが、私の所属する隊の上官だった。引き取ってくれた父に少しでも恩返しができればと、私は父と同じ軍に入隊した。周りよりも身長は低かったが、しっかりと結果を出していて常に好成績を収めていた。だが、ある日そこから転落したんだ」

 

そう言いながらラウラは自身の左目の眼帯を触る。その様子にダルキアンが口を開く。

 

「その左眼と関係しているのでござるか?」

 

「うむ。詳しいことは言えないが、とある手術を受けることになってな。その手術でミスがあって私の左目はオッドアイとなったのだ」

 

「そうだったの。それで眼帯をしてるわけね」

 

「あぁ。オマケに左目と右目とで見え方が違ったりするから上手く動けなかったりしたんだ。その結果私の今までの成績から転落し、常に最後尾だった」

 

鈴の言葉にラウラは懐かしそうな感じで語り、そして続きを口にする。

 

「成績が著しくなったことを聞いた父がどうしたものかと悩んだ末に、ある人を私に会わせてくれたんだ」

 

「ある人って?」

 

「織斑先生だ」

 

「はぁ? 姉貴に? 何時?」

 

「ドイツのモンドグロッソが始まる数日前だ。織斑先生がホテル滞在時に数時間程な」

「当時警備主任だった父が休憩していたら、織斑先生と会ってな。其処で私の悩みを零したらしい。そしたら一度本人と話させてほしいと言われたらしくて、それで是非という事で父が私を呼んで織斑先生と話させてくれたんだ」

 

そう言いラウラは懐かしむように口を開く。

 

 

時は遡り数年前のモンドグロッソ

 

選手村として使われているホテルの会議室の一角に千冬と養父と共に来たラウラが居た。

 

「織斑さん、申し訳ない。練習やら色々あるにもかかわらず」

 

「いえ、お気になさらず。1,2時間程度休憩をとったところで誰にも怒られませんよ。それで、彼女が例の」

 

「えぇ、私の娘です」

 

「初めまして、ラウラ・ボーデヴィッヒと言います」

 

敬礼しながら挨拶するラウラに千冬は内心でラウラの第一印象をとらえる。

 

(これは、彼が言っていた以上に深刻だな)

 

そう思いながら千冬はあることを質問する。

 

「それでボーデヴィッヒ、お前は将来どんな人間になりたいのだ?」

 

「自分はだれにも負けない強い人間、織斑さんのような人間になりたいです」

 

自信たっぷりでいうボーデヴィッヒに千冬は

 

「馬鹿者か貴様は」

 

「っ!?」

 

千冬の静かな怒り声にボーデヴィッヒは驚き肩を跳ね上げる。

 

「ボーデヴィッヒ、貴様は他人と同じようになってそれで満足か?」

 

「ですが「そんな考えを持っているから、お前は強くなれないんだぞ」っ!?」

 

「ボーデヴィッヒ、誰かの様になりたいと思うのは誰しも最初に抱くことだ。だがな、その目標となる奴と同じようにしたところで上手くいかず、結局中途半端な奴にしかなれない。それどころか、現状よりも酷い結果になるかもしれない」

 

千冬の説明にがっくりと肩を落とし落ち込んだ表情を浮かべる。

その姿に対して千冬はふぅ。息を吐きながら口を開く。

 

「誰かの様になりたいのではなく、誰かを超えたいという気持ち」

 

「え?」

 

「その昔、私が剣術で悩んでいた時に友人にそう言われた。当時の私もお前の様に誰かの様になりたいと思っていた。だがな、その友人から誰かのようになるのではなく、その誰かを超える人物になりたいと思えばいいとな。無論超えるとなればもちろん大変だ。だから小さな目標を幾つも立てた」

 

「小さな目標ですか?」

 

「そうだ。日本のことわざに塵も積もれば山となると言うのがある。これは小さなことをコツコツこなせば大きな山となるという意味だ」

 

「塵も積もれば、山となる」

 

小さく零したラウラは自分の手を見つめる。

 

「ボーデヴィッヒ、昨日の自分は今日の壁だ。その壁を越えいけ。そしていずれは私を超えるような兵士になれ」

 

「はい!」

 

千冬のアドバイスにラウラは元気に返事を返し父親と共に礼をした後、ホテルを後にした。

基地に戻った後、ラウラは千冬のアドバイス通り、昨日の自分の記録を超える事を目標にしながら訓練を始めた。

そのおかげかいつも訓練ではドンケツだったラウラが、上位に入るようになった。

だがラウラは一つある悩みを抱えていた。

それは平常心だった。

そう感じたのは訓練中にトラブルが起きた時の事だ。

隊員同士でいざこざを起こして喧嘩が起きたのだ。ラウラはその喧嘩を仲裁するべく入ったものの、冷静に対処できず力技で押さえてしまったのだ。

その所為か、隊員の一人が怪我をしてしまい、ラウラはそれに責任を感じていたのだ。自分が冷静に対処できていれば怪我をさせずに沈静化できたのではないか。と。

 

そこでラウラは常に冷静に、そして平常心を保つ訓練はないかと方法を探し始めた。だが、どれもしっくりとくるものが無く半ば諦め掛けていた時の事だ。

何時もの訓練を終え兵舎に戻ろうとしていた時の事。

 

「ラウラ」

 

「お疲れ様です、中佐」

 

「いや、今はプライベートだ。堅苦しくしなくていい」

 

「わかりました、父上。それで、どうしたのですか?」

 

「いや、お前が平常心を鍛える方法を探していると聞いてな。これならどうかなと思ってな」

 

そう言い父親が差し出したのは一冊の本だった。

 

「これは?」

 

ラウラは首をかしげながらもそれを受け取ると、其処には『剣術の極意』と書かれていた。

 

「俺なりに平常心を鍛える方法を探していたところ、日本の剣術が良いと思ってな。タグが付いているページに詳細が書かれている」

 

そう言われラウラはタグが貼られているページを開く。其処には一本の丸めた茣蓙を斬る絵が描かれていた。

 

「これならだれでも出来そうですね」

 

そう言っていると父親が刀を差し出す。

 

「え? どうしたのですか、それ?」

 

「特別に用意してもらった。こっちにこい」

 

そう言いラウラに刀を渡した後ラウラを連れて外へと出る。

人気が少ない場所に連れていくとそこには茣蓙を丸められたものが立てられていた。

 

「絵のようにやってみろ」

 

父親にそう言われラウラはまぁ、これで平常心が鍛えられるなら簡単かと思いながら刀を構え、振るう。だが

 

「っ!?」

 

振るった刀は途中で止まってしまい斬り落とせなかった。

 

「難しいだろ?」

 

「はい。簡単にできると思ったのですが、こうも難しいとは思いませんでした」

 

「いい訓練になるはずだ。しっかりとやれよ」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

そう言いラウラは剣術について学び始めた。

そして知れば知るほど奥深い事に感銘を受け、ラウラは自身に合う刀は何だろうと思い色々と試し始めた。そして出会ったのが大太刀であった。

 

 

「―――と言った感じだ」

 

「なるほどねぇ」

 

ラウラの話にそれぞれ感心した表情を浮かべながら茶を飲む一夏。

 

「でしたらぜひ手合わせしていただきたいですわ」

 

「うむ、構わんぞ」

 

「だったらアタシも混ざろうかしら」

 

と言った感じで話はワイワイと盛り上がり、その後一夏達は部屋へと戻っていた。




次回予告
ビオレでございます。
ラウラ様が剣術を学ばれたのはそういう訳だったのですね。

あら、あちらはデュノア様? どうしてここにおられるのでしょう?

次回
帰ってこれたデュノア


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23話

ラウラとの模擬戦を終えてから数日が経った。

あれからラウラは一夏達が利用している訓練所に足を運ぶようになり、レオやダルキアン、そしてセシリアや鈴達と共に訓練にいそしむようになった。

 

そんなある日の朝の事。

 

「うぃ~す」

 

「一夏よ、しっかりと挨拶せんか」

 

「へいへい」

 

レオの叱責に適当に返しつつ、一夏達はそれぞれ自分たちの席に着く。

それと同時に

 

「おはようございます一夏さん、皆さん」

 

「おはよう」

 

セシリアとラウラがそう挨拶しながら一夏の席へと集まる。

 

「おう、おはようさん」

 

「うむ、おはよう」

 

「おはようございます」

 

「おはようでござる」

 

「2人ともおはようでござる!」

 

2人に挨拶を返し、それぞれ談笑を始める6人。そして朝礼のチャイムが鳴り響き、それぞれ席へと着く。

全員が席に着いたと同時に教室の前の扉が開き、千冬と真耶が中へと入ってくる。そしてその後に続くように入ってきた人物に皆驚いた表情を浮かべる。

なぜなら――

 

「えぇ、諸君おはよう。見ての通り、本日からシャルル・デュノア改め、シャルロット・デュノアがこのクラスに通うことになった」

 

そう千冬が紹介すると、シャルル改め、シャルロットが申し訳なさそうによろしくお願いします。とお辞儀をする。

すると一人の生徒がおずおずと手を上げる。

 

「あの、織斑先生。デュノアさんは結局どういう理由で性別を偽って入ってきたんですか?」

 

「……済まんが理由は言えん。こいつにもその辺は深堀してやらないでほしい。色々と込み入った事情があるからな」

 

「そ、そうですか」

 

そう言い生徒はそれで納得した。無論他の生徒も深堀してはいけない理由は知りたいが、千冬の知ったら後悔するぞと言いたげな圧に屈し、誰もがそれで納得するのであった。

そして千冬に促されデュノアは申し訳なさそうな表情を浮かべながら自身の席へと着く。

その後朝礼が終わると生徒達はそれぞれ友人たちと談笑をはじめる中、デュノアは初日の出来事で親しい友人なんか居るはずもなく、静かに席で座っていた。

すると

 

「デュノアさん」

 

「え? 何か用オルコットさん」

 

セシリアが突如デュノアに話しかけてきたのだ。

 

「セシリアで構いませんわ。それで用なんですが、あちらで一緒にお話ししません?」

 

そう言いセシリアが差した方。それは一夏達が居るところだった。

 

「……良いの? 性別偽って入ってきたんだよ僕」

 

「まぁ、何か事情があったのでしょ? 私や一夏さん達はあまりそう言うことに気にしたりしませんわよ」

 

そう言うと、セシリアの言葉が聞こえていたのか一夏達も頷く。

 

「その通り。てか、好きでやってたと思ってたからな」

 

「うむ。趣味は人それぞれと言うからな」

 

「男装する場合でしたら、胸の抑えはほどほどにしないと呼吸がしづらくなって、逆に危険ですよ」

 

「しかし、デュノア殿も拙者と同じ胸が大きいでござるから難しいでござるよ」

 

「少しふくよかな体格と思わせるようにすればそこは大丈夫でござろう」

 

「確かに、それなら大丈夫だな。ふむ、デュノア。今度その男装教えてくれないか? 軍の特殊任務などで使えるかもしれんからな」

 

それぞれの言葉にデュノアはまさか。と思いながら口を開く。

 

「も、もしかして、皆僕の趣味が男装だと思ってる?」

 

「「「「「「え? 違うの?」」」」」」

 

「違うよ‼ 男装はただそうするしかなかっただけで、趣味じゃないよ!」

 

ツッコむように叫ぶデュノア。一夏達は笑顔を浮かべながら冗談だって。と言いながら談笑を始めた。




次回予告
一夏だ。デュノアの奴少しずつだが、クラスの連中と談笑しあえてるみたいだな。
そう言えば姉貴と山田先生が、なんかタッグマッチがどうとか言ってたな。

パートナー、か。どうすっかなぁ。


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24話

デュノアが戻ってきてはや数日が経った。

戻ってきた頃は他の生徒達はデュノアに対し少し距離を置いて様子を見ていたが、暫くして一人の生徒が話しかけ、それからまた一人、また一人と少しずつとクラスメイトが話しかけていき、気づけばクラスメイトの多くと親交を持つようになった。

当初のデュノアも最初はぎこちない笑みを浮かべているばかりだったが、今は本当に楽しいといった笑顔を浮かべていた。

 

ある日の事、朝礼の為全員が席に着いたと同時に千冬と真耶が中へと入ってきて、千冬が教壇に立つ。

 

「諸君おはよう。早速だが、本題に入らせてもらう」

 

そう言い千冬は真耶に目線で合図を送ると、真耶はこくりと頷き空間ディスプレイを投影した。

其処にはトーナメント戦ルール変更と書かれていた。

 

「再来週に行われる学年別トーナメント戦にてルール変更があった。今までは個人戦のみだったが、今年は専用機を所持している生徒が多くいるため、タッグマッチ戦を行うことになった。タッグを組む者はそれぞれポータルサイトにてタッグ申請を行う様に。それと参加はするが相方が居ない場合は当日シャッフルでタッグを組まれるから注意するように」

 

千冬の説明にざわめきが生まれ、ざわざわと騒々しくなる。

それを止めるように千冬は手をパンパンと叩き鎮める。

 

「静かに。なお、注意事項としてもう一つある。タッグを組んだ者同士は両者ともポータルサイトで相方の名前を書いて申請するように。片方だけ書いてもう片方が別の奴の名前を書いて申請していた場合は、タッグ不成立として当日シャッフルに組み込まれるから気を付けるように。以上だ」

 

そう言いSHRを終えると告げ、千冬と真耶は教室から出ていった。

生徒達は誰とタッグを組もうかと話し始める。

無論一夏達もどうするか話し合いを始める。

 

「タッグマッチねぇ。どうするよ?」

 

「ふむ、この場合一夏と組むのも良いが…なぁ?」

 

「ふむ、確かに一夏殿と組めば互いの背を預けられるが、一夏殿と戦いたいという気持ちがある故難しいでござるな」

 

一夏の質問にレオとダルキアンはそう返した。その返答に一夏も確かになぁと零す。

 

「じゃあレオはビオレと組んで、ダルキアンさんはユキカゼと組めばいいんじゃないか? どうせトーナメント戦だったら何処かでぶつかるだろうし」

 

一夏がそう言うと、レオ達はなるほどと納得と言った表情を浮かべる。

 

「それで、一夏は誰と組むのだ?」

 

「ん? うぅ~~ん」

 

レオの質問に一夏は暫し思案の表情を浮かべる。そして何か思いついたのか、笑みを浮かべる。そして顔をとある人物の方へと向ける。

 

「おぉ~い、デュノア」

 

「ん? 何か用、土方君」

 

「もうタッグの相方決まってるか?」

 

「うぅん。まだ決まってないよ」

 

「だったら組まないか?」

 

と一夏がデュノアにタッグを組まないかと誘ったのだ。

突然の誘いにデュノアは困惑の表情を浮かべる。

 

「ぼ、僕でいいの? 他にオルコットさんやボーデヴィッヒさんもいるよ?」

 

「いや、2人とはタッグマッチ戦で戦いたいからタッグを組む気はないんだ」

 

そう言うとセシリアとラウラは同意するように頷く。その光景にデュノアは苦笑いを浮かべる。

 

「な、なるほどねぇ。うん、わかった。良いよ、タッグを組むよ」

 

「サンキューな」

 

そう言い互いにポータルサイトを開き、タッグ申請を出し正式に一夏とデュノアはタッグとして登録された。

 

 




次回予告
ダルキアンでござる。
たっぐまっち戦で一夏殿はデュノア殿と組んだようでござるな。
一夏殿との対戦、楽しみでござるな。

次回
タッグマッチ戦


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25話

一夏とデュノアがタッグを組んで早数日が経ち、遂にタッグマッチ戦当日となった。

アリーナのモニター前にて一夏とデュノアは対戦相手の確認をしていた。

 

「さてさてお相手は誰だろうなっと」

 

「Aブロックにはダルキアンさん達で、Cブロックにレオさん達と鈴達だね」

 

「だな。と、あったぞって、ありゃりゃ……」

 

一夏はモニターにあった名前の欄にマジかと言った顔を浮かべる。

するとその背後から

 

「二人も見に来ていたのか」

 

とラウラが声をかけてきた。

その声に一夏とデュノアも気付き、ラウラの方に顔を向ける。

 

「おう、一戦目よろしくな」

 

「そう言ってくるという事は、土方達と私か。ところで私のタッグは誰なんだ?」

 

そう言いながらモニターを見に行くラウラ。

さて、何故ラウラがタッグは誰なのかと聞いたのかと言うと、ラウラは当日のシャッフルで参戦しようと決めていたのだ。

その訳は

 

「その日組まれた者同士で戦う事で、自身の良い糧になるはずだ」

 

とのこと。

そしてラウラのパートナーだが、モニターに書かれていたのは

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒

 

と書かれていた。

 

「この篠ノ之という奴は、確か授業を真面目に受けていない奴だったはずだが、何故このタッグマッチ戦に参加したんだ?」

 

ラウラの疑問に一夏もさぁ?と両手を肩まで持ち上げ、首をすくめる。

一夏達が何故箒も参加したんだと疑問を持つのは無理はない。普段誰ともかかわらない箒が突然タッグマッチ戦に参加してきたのだ。誰でも疑問に持っても仕方がない。

さて、箒が何故タッグマッチ戦に参加したのか。答えは簡単、タッグする相手の名前をポータルで送ったが、不成立でシャッフルにまわされたからである。

箒が送ったパートナーの名前、それは「織斑一夏」と入力して送ったのだ。無論一夏は土方の名字で登録されているため、織斑では成立しない。そもそも一夏はデュノアとタッグを組んで登録しているため、既にタッグが成立している。そのため箒はタッグ不成立と判断され、即シャッフルにまわされた結果、ラウラと組むことになったのだ。

 

「まぁシャッフルで決まったことなら仕方がない。なんとか共同で戦っていくか」

 

ラウラは直ぐに気持ちを切り替えそうつぶやくも

 

「あぁ、その事なんだが…」

 

一夏が言いにくそうな微妙な顔を浮かべながら口を開く。

 

「なんだ?」

 

「アイツ、多分突っ込んで斬るっていう突撃戦法しかしてこないと思うぞ」

 

「「は?」」

 

一夏の説明にラウラとデュノアが声をそろえながら口をあんぐりとさせる。

 

「ど、どういうことだ?」

 

「アイツ、一応姉貴と同じ篠ノ之流っていう流派を習っているんだ。で、姉貴は剣術なんだけど、あいつは剣道の方を習っているんだが、まぁぶっちゃけいうと弱いんだよな。勢いはあるんだが、それなりの武術を習っている奴から見たら、それだけだし。それにワンパターンすぎるからすぐに次の行動が読めるんだよな」

 

「……」

 

一夏の説明にラウラは終わったわと言いたげな目が死んだような表情を浮かべていた。

 

「……まぁ、その、デュノア。あいつの相手、頼んだわ」

 

「えっ!? 僕が彼女の相手をするの?」

 

一夏はデュノアの肩に手を置きながら、頼んだ。と告げ、告げられたデュノアは驚愕の顔を浮かべる。

 

「お前で簡単に倒せるって。どうせ突撃しかしてこないから、距離とってバンバン撃ってれば、勝てるから。俺はボーデヴィッヒと一騎打ちしてるから」

 

「っ! 本当か? 私と一騎打ちをしてくれるのか?」

 

一夏の言葉にラウラの目に光が戻り、顔に元気が戻った。

 

「おう」

 

「それなら頑張れるぞ。ではフィールドでな」

 

そう言いピットへと向かうラウラ。

 

「ほんじゃ俺らも行くか」

 

「うん」

 

2人は共にラウラが行ったピットとは反対の方へと向かって行く。ピットに入りそれぞれのISを身に纏う。

一夏はいつも通り大和で、デュノアはラファールのカスタム機、『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』を身に纏った。

 

「あれ? お前専用機持ってたのか?」

 

「うん。企業代表ってことで渡されたんだけど、女性ってバラした後に色々と胸に溜まっていたものを全部フランス政府から派遣された人にぶちまけたんだ。そしたらその人が、僕が所属していた企業の社長達が逮捕されたから会社は倒産したことを教えて貰ったんだ。それで、僕のISの操縦技術は目を見張るものがあるってことで、そのまま国の代表候補生として受け入れてくれたんだ。だからそのまま持ってるんだ」

 

「ふぅ~ん。そうなのか」

 

そう言いながら準備を進める一夏。

そして互いの準備を終ると同時にアナウンスが入る。

 

『これよりDブロック一回戦を始めます。選手はアリーナに出てください』

 

「よし行くか」

 

「わかったよ」

 

そう言い2人はピットからアリーナへと出る。一夏達が出たと同時にラウラたちも出てきた。ラウラは自身の機体、シュヴァルツェア・レーゲンを身に纏い、箒は打鉄だった。

 

『では3…2…1…試合開始!』

 

アナウンスが流れると一夏が口を開く。

 

「よし、デュノア。篠ノ之の事頼んだぞ」

 

「うん、わかった。その後は?」

 

「うぅ~ん、一騎打ちするって約束しちまったからな。篠ノ之倒したら、手出ししないでくれ」

 

「分かった。でも、先生に怒られない?」

 

「理由話したら大丈夫だろ」

 

「適当だなぁ」

 

一夏の言葉にデュノアはそう零しながら頼まれた以上は頑張るかと気持ちを切り替え篠ノ之へと攻撃を仕掛ける。

篠ノ之は攻撃を仕掛けてきたデュノアに対し刀だけを取り出して対処しようとする。

その光景にラウラは呆れたような表情を浮かべる。

 

「土方の言う通りだな。突撃とは、銃相手には愚策だぞ」

 

そう零しながらも心の中では

 

(まぁ織斑先生なら弾丸を叩き切ったり、無駄な動き無く避けながら接近して叩き斬るだろうな)

 

と思うラウラ。

 

「お~い、ボーデヴィッヒ。ぼぉ~としてないでやるぞぉ」

 

一夏がそう声をかけてきて、意識が現実に戻るラウラ。そしてニッと笑みを浮かべ、自身の部下である技術士官にお願いして載せてもらった大太刀を拡張領域から取り出す。

 

「それじゃあ」

 

「うむ!」

 

「「ゆくぞ!/参る!」」

 

そう声を出したと同時に互いに一気に間合いを詰め刃をぶつけ合う。

一方その頃篠ノ之とデュノアの方はと言うと、ほぼ一方的な戦いと言った方が良いだろう。

突撃することしか出来ない篠ノ之に対してデュノアは一夏のアドバイス通り距離をとりながら銃で応戦していた。

 

「くそぉ!」

 

そう吐きながらスラスターを吹かしながらデュノアに斬りかかる篠ノ之。しかしスラスターを使い続ければSEは減っていく。更にデュノアの攻撃を受ければSEは減っていく。そのため篠ノ之の打鉄のSEはものの数分で

 

『篠ノ之選手、SE切れの為敗北です』

 

とアナウンスされた。

 

「なっ!?」

 

告げられた事に驚く篠ノ之。戦いを終えたデュノアは地面へと降りていきアリーナの隅の方へと向かう。

敗北を告げられた篠ノ之はこぶしを握り締めながらピットに引っ込む。そして

 

(私にも。私にも、私だけの力さえあれば…)

 

そんな黒い思いを抱く篠ノ之だった。

 

「どうやらあっちは終わったみたいだな」

 

「そのようだな。…2対1でやるのか?」

 

「やるわけないだろ。約束通り一騎打ちだ。デュノアにも一騎打ち中は手を出すなって言ってある」

 

「そうか。なら存分とやろう!」

 

そう叫びながらラウラは大太刀を大きく振る。一夏もその攻撃を避けながら兼定で反撃する。

互いに一歩も引かない状況、ラウラは心を躍らせていた。

 

(ここまでやり合える奴はドイツにいなかった。だからだろうな。ずっとワクワクしている。そして自分が徐々に強くなっていることも分かる)

 

そう思いながら柄をギュッと再度握りしめる。すると突如自身の目の前に空間デュスプレイが現れる。

 

『外部からハッキングを受けています。ファイヤーウォールを展開。・・・・・ファイヤーウォール突破されました。……VTシステム、起動します』

 

「なに!?」

 

現れた文字にラウラは驚きの表情を浮かべる。そして

 

「土方! 逃げっ!? うわぁぁああぁあぁ!???!!」

 

「ボーデヴィッヒ!?」

 

ラウラの様子が突如変わったことに一夏は驚きが隠せない中、ラウラの機体からドロドロとスライムのようなものが出てきて、徐々にラウラのシュヴァルツェア・レーゲンを呑み込んでいく。

そして次第に形として現れたモノに一夏は鋭い目つきを浮かべる。

 

「なるほどな。だが、不愉快だな」

 

そう零す一夏。彼の前に現れたのは暮桜、千冬が乗っていた機体だった。




次回予告
千冬だ。
全くふざけた物が現れおって。一体どこのどいつだ。あんなシステムを組み込んだのは!
兎に角、一夏。無理するんじゃないぞ

次回
偽りのブリュンヒルデ


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26話

ラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンを呑み込んだスライムが暮桜になった事に管制室では驚きと騒乱が起きていた。

 

「い、一体何が起きてるの?」

 

「あれって、暮桜よね? どうしてあれが…」

 

教師たちがざわざわと騒いでいる中、突如

 

「静まれ!」

 

と大声をあげる。

千冬の声に教師たちは肩を跳ね上げ、すぐに千冬の方へと顔を向ける。

 

「あれが一体何なのかは後で調べればいい! 今はあれに取り込まれた生徒を救出するのが優先だ! すぐに教師部隊に連絡を入れろ! それと観客席の生徒達にも避難指示を出すんだ!」

 

「「「は、はい‼」」」

 

千冬の指示に教師たちは直ぐに行動へと移す。慌ただしく動く教師たちの中、千冬は鋭い視線をモニターに向ける。

 

(恐らくあのシステムか? だが、あれは違法システムとして所持したりするのは厳禁なはずだ。ボーデヴィッヒが持っていたとは考えられん。とすると外部か?…いや、今は犯人について考えるのは後だ。まずはこの状況をどうにかするのが先決だな)

 

そう思う千冬。

すると教師の一人が突如口を開く。

 

「お、織斑先生!」

 

「どうした?」

 

「ピットとアリーナを繋ぐハッチが開きません!」

 

「っ! システムエラーか?」

 

「いえ、エラーなどは見受けられず! 恐らくハッキングかもしれません!」

 

「ならすぐにクラッキングを行え! 一秒でも早くアリーナの生徒を救助するんだ!」

 

「「はい!」」

 

千冬の指示に教師たちはキーボードを叩き始める。

 

その頃アリーナでは偽暮桜と相対する一夏。互いに動かない中、デュノアが一夏に近づく。

 

「ひ、土方君!」

 

「デュノア。避難してなかったのか?」

 

「避難しようとしたけど、ピットの入口が開かなくて」

 

「チッ。ならアイツの相手をしないとまずいな」

 

そう零したと同時に偽暮桜が右手に持った刀を携えて、一夏に向かって斬りかかってきた。それに対して一夏は慌てることなく右手の刀で応戦する。

 

「デュノア! お前は距離をとりながら銃で応戦しろ! 接近戦になったら確実に負けるぞ!」

 

「わ、分かった!」

 

一夏の指示にデュノアはライフルを取り出し距離をとって応戦を始める。デュノアの攻撃に偽暮桜は慌てた様子を見せず素早くバックステップで避けた。

それに対して今度は一夏が間合いを詰め偽暮桜に斬りかかる。

斬りかかってきた一夏に偽暮桜は直ぐに反撃を行う。互いに激しい斬り合いを行い始めた為か、刀のせめぎあいによって火花が激しく散っていく。

デュノアは一夏を間違えて撃たないようにと位置を変えつつ連射力のあるアサルトライフルから命中率の高いセミオートライフルに持ち替え、スコープを覗く。

そして引き金を引き、攻撃をする。

一夏に集中していた為か偽暮桜は1,2発攻撃を受けた後再び一夏から距離をとる。その際デュノアのライフル攻撃を受けないようにとジグザグに高速移動する。

 

「早すぎて、狙いが定まらない!」

 

高速移動する偽暮桜を何とかとらえようとするデュノア。だが捉えたと思って引き金を引くも、寸で避けられるといった状態だった。

 

「デュノア、当たると直感で感じた時だけで撃て! 焦れば死ぬぞ!」

 

「っ!? う、うん!」

 

一夏の叱責にデュノアは焦っていた心を何とか落ち着かせようと深呼吸を繰り返しつつ空になったマガジンを抜き捨て、フル装弾のマガジンを差し込む。

そして一夏の方はと言うと次の一手を考える。

 

(動きは現役の時の姉貴をもとにしているからある程度予想は出来る。問題は乗っているボーデヴィッヒをどうやって救助するかだ。下手に斬り続けてボーデヴィッヒを斬っちまったら不味い。どうすっかなぁ)

 

思案を続ける一夏。しかしその時間を与えまいとジグザグに避けていた偽暮桜が攻撃を仕掛けてきた。

 

「チッ。兎に角このドロドロした奴を削ぎ落すか」

 

そう呟きながら一夏は偽暮桜の攻撃を受け流しつつ攻撃をしていく。

その際、一夏は刀を振るう速さと手数を増やし、偽暮桜を押し始める。

どんどん押し始めた為か、一夏の振るう刃が偽暮桜の表面を削っていく。

そしてデュノアも援護すべく偽暮桜の動きが止まっている部分や、体制が崩せそうな箇所を的確に撃って一夏が攻撃しやすくなるよう攻撃を続けた。

 

そして遂にラウラの顔が少し見える所まで削れた。

 

「よし、このまま削り切ってやる!」

 

そうつぶやく一夏。

しかし突如一夏を突き放す偽暮桜。すると徐々に見えていたラウラの顔がまたゲルで埋まっていく。

 

「おいおい、噓だろ。また埋まるのかよ」

 

そう零す一夏。もう一回連撃するか。と思い一夏は再び刀を構えた所、突如偽暮桜の様子が変わる。

 

「ギガ・・・ガガガ」

 

とおかしな機械音を上げながら苦しみだす。そして

 

「ギャアアアアアア!!!!?!??!」ドパァーーーーン!

 

と甲高い声と共にゲル状のものが飛び散り、そしてその中からラウラが倒れるように現れた。

 

「ボーデヴィッヒ!」

 

そう呼びながら一夏、そしてデュノアが近寄る。

傍に寄った一夏は脈を確認しようと首に指を添える。

 

「彼女、大丈夫なの?」

 

「あぁ。見た所目立った怪我は見当たらない」

 

そう言い安堵していると、ピットとアリーナを繋ぐゲートからISを纏った教師部隊が飛んでやって来た。

 

「貴方達大丈夫?」

 

「えぇ、なんとか。彼女の事お願いします」

 

「分かったわ」

 

そう言い教師の一人がISから降りてラウラの容態を確認しつつ、管制室と無線で交信する。

その様子を近くで確認していた一夏とデュノア。すると突如空間ディスプレイが現れ千冬が映る。

 

『二人ともご苦労だった。疲れているところ済まないが、話し合いがあるから急ぎ戻ってきてくれ』

 

そう言われ二人は了承し、アリーナから出ていった。




次回予告
レオだ。
まさか儂らがいるアリーナとは違うところでそんなことがあったとは驚きだ。
しかし、あの偽物は何故突如苦しみだしたのだ?

次回
あの頃の自分に決別を


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