Fate/Grand Order【The arms dealer】 (放仮ごdz)
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グッバイ、ストレンジャー

どうも、放仮ごです。最近バイオハザード4にドハマリして、唐突に書きたくなった短編小説です。例にもよって人気が出たら続きます。

武器商人が限定仕様武器や隠し武器を手に人理修復に参戦します。楽しんでいただけると幸いです。


人類の未来を観測し守護する人理継続保証期間フィニス・カルデアにて、観測された未来に置ける人類絶滅の原因を探るためのレイシフト実験を前に、カルデア管制室で起きた謎の大爆発と火災。

その災厄の真っ只中に一人の後輩を救うべく乗り込み、崩壊に巻き込まれたはずの「48人目のマスター」である一人の少女、藤丸立香が目を醒ましたのは、突発的なレイシフトで飛ばされた生きた人間の気配の無い焦土と化した都市、特異点F。

 

デミ・サーヴァントと化した後輩、マシュ・キリエライトを連れ、襲い来る骸骨兵を退けながら同じくレイシフトに巻き込まれた所長、オルガマリー・アニムスフィアと合流した立香は、所長の指示で戦力なり得る英霊を召喚すべく、何もない状態で取り敢えずとばかりに魔術陣を描き、ただただ詠唱していた。

 

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

願うは、マシュと共に自分と所長を守ってくれるそんな英霊。

 

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

願わくば、マシュを支えられるぐらい強くて頼りになる男性。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天」

 

 

さらに願わくば、気さくな話しやすい性格で。

 

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――」

 

 

事故直前で出会ったドクターロマンの様な頼りないヘタレではなく、何事にも動じない鋼の精神を持ったそんな英霊を、ただただ願う。

 

 

「ヴェルカム!」

 

「「「!?」」」

 

 

そして、地面に敷かれたマシュの盾の上に三つの光輪が集束して光の柱となり、光の柱が消えて聞こえて来たのは渋い独特の癖のある歓迎を意味する英語。

盾の前に立っていたのは、蒼い火の玉を傍に浮かばせ、大きな茶色いリュックを背負い、黒衣を着込んでフードを被り青い布で口元を隠したオレンジ色の目をした男だった。

 

 

「サーヴァント・ディーラー。いい武器を求める誰かの声に応えて売り込みに来たぜ。アンタが俺のストレンジャー(マスター)か?」

 

「えっ、はい…多分、そうです…?」

 

「ヒッヒッヒッヒェ…センキュウ!早速で悪いが、最初のオーダー(注文)はそいつらの排除か?」

 

「え?」

 

 

笑みを浮かべたディーラーが懐から大型拳銃を取り出し、立香の背後に向けて発砲。慌てて盾を構えて振り返ったマシュの目の前で、竜牙兵が粉々に砕け散る。顔の横で発砲された事により何が何だか理解が追い付かなかった立香と、ビビッてマシュの背後に隠れるオルガマリーと言った女性陣を庇う様に前に出るディーラーは自身の手に握られたそれを自慢する様に掲げた。

 

 

「コイツはハンドキャノン。反則以外の何物でもない高威力の大型リボルバーだ。もちろん高価な品だ。さらに限定仕様に改造しているから弾は尽きない。どうだ、欲しいか?」

 

「あ、うん…確かに欲しくなったけど、まだ来てるよディーラー・・・!」

 

「ならコイツだ」

 

 

迫り来る竜牙兵、骸骨剣士の集団を前に、隙が大きいハンドキャノンを懐に仕舞ったディーラーは今度は背中のリュックの中から回転式弾倉が付いた散弾銃を引っ張りだし、腰だめで構えてギリギリまで引き付けてから連射。100発もの弾丸が絶え間なく発砲され続け、人ならざる者の一団は瞬く間に全滅した。

 

 

「コイツはセミオートショットガン。限定仕様に改造しているから一度に100発もの散弾を込められ、隙無く連射可能な代物だ。生憎と近距離専用で遠距離には威力が下がるんだが、接近戦だとこうも効力を発揮する。どうだ、欲しくなったかストレンジャー?」

 

「あ、はい」

 

「なんなのよコイツ・・・本当に英霊なの?見た所アメリカかぶれのスペイン人みたいだけどどこの英雄よ…」

 

「おっと、俺は英雄じゃないぜ。…そうだな、魔術師なら知っているかは知らないが「死徒もどき」って知ってるか?」

 

 

セミオートショットガンを仕舞いながらオルガマリーにそう尋ねるディーラー。その目は楽しげに笑んでいた。

 

 

「ああ、2000年代の前後に世界中で見られた死徒の様なナニカ・・・ゾンビの事?ラクーンシティ事件から勃発した・・・」

 

「そいつだ。俺はそのゾンビ・・・の仲間の様な物、ガナード(家畜)の一人だ。それで、アメリカ大統領の娘が誘拐されたロス・イルミナドス教の案件を解決に導いた捜査官、レオン・S・ケネディを俺の商品でサポートした。アンタ達からしてみれば、舞台裏の功労者と言ったところだな。

俺なんかよりもレオンの奴やルイス・セラの方が呼ばれてもいいと思うんだが、俺の商人魂がアンタの願いに釣られちまった」

 

「じゃあ、英雄でもなんでもないの?真名は?」

 

「当の昔に忘れちまった。英霊としての真名は【武器商人】だから俺の事は気楽にエクストラクラス、ディーラーと呼んでくれストレンジャー」

 

「う、うん…何の事やらさっぱりだけど何とか分かった。せっかくだから護身用に何か売ってください」

 

「金はあるか?」

 

「少しなら」

 

「ヴェルカム!」

 

 

そう言ってディーラーがガバッと己の黒衣をはだけさせると、そこには大量の銃器と弾丸のケースがびっしりと装備されていた。

 

 

『軽く戦争ができる装備の数だ…』

 

「あ、ロマン。ディーラーを召喚してから黙っていたけどどうしたの?」

 

『いや、いきなりエクストラクラスだったから真名を探っていて…それより、立香ちゃんが銃を持たなくてもマシュとディーラーがいるんだから必要ないんじゃないかな?』

 

「ロマンの癖に真面な事言うじゃない。私も同意見よ。無謀に挑んで犬死でもしたら私、一人になっちゃうじゃない!」

 

「アンタもいるか?ストレンジャーの上司だ、安くしとくぜ」

 

「いらないわよ!」

 

 

立香の手首に付けられた端末から立体映像で現れた桜色の髪の男、ドクターロマンの言葉にやれやれと溜め息を吐くディーラー。

 

 

「甘いな。どこの温室で育てられたか知らんが、女だって戦わないと死んじまう。俺の知る大統領の娘は護衛がいなくても単身闇の中に立ち向かい、ランプだけで大の男を倒してしまった。中には、商売前から現れて買って行った女スパイもいた。こんな場所だ、護身用にしても、少しは自衛できる方がいいだろう」

 

『うっ、確かに何が起こるかわかったもんじゃないし、立香ちゃんに何かあったら困る・・・一理ある、かな…?』

 

「何言い負けてんのよロマン!」

 

「ほら、ストレンジャー。アンタにはこいつがいいだろう。ハンドガンマチルダ。照準が安定していて、一度に3発の弾を連射するバースト射撃ができるからさっきの様な雑魚ならこれで一掃できる。限定仕様だから100発まで込めているが、念のためにこの50発の弾倉は持っておけ。サービスだ」

 

「ありがとう!」

 

 

手渡した大型のハンドガンを無邪気に受け取ったマスターに満足気に頷いたディーラーは、即座に臨戦態勢を取ると懐から何かの弾倉を取り出し、リュックにもう片方の手を突っ込んで大きめのそれを引っ張り出して変形させながら此度のストレンジャーをさりげなく己の背後に促した。

 

 

「という訳で、所長さんの護衛頼んだストレンジャー。俺と盾の嬢ちゃんは、アンタ等を守る余裕があるか分からないからな」

 

「え?…まさか、サーヴァント…!?」

 

『た、確かにサーヴァント反応だ!気を付けて、所長、立香ちゃん!マシュ、君は警戒を・・・』

 

「その必要はないぜ。コイツはマインスロアー。値段にガッツを入れた特別品だ。何よりも特筆すべき特徴は・・・」

 

 

そう言ってガシャコン、とリュックから取り出したグレネードランチャーの様な大型の銃に弾込めし、前方に構えるディーラー。敵サーヴァントは得体のしれないサーヴァントがいるこちらの様子を窺っているのか出て来ない。しかし、ディーラーは関係ないとばかりに不敵に笑み、トリガーを引いた。

 

 

「限定仕様にすると、弾が自動的に敵目掛けてホーミングする事だ」

 

「っ!?」

 

 

シュポッと言う軽い音と共に小型榴弾が発射され、瓦解した建物の影に身を潜めていたらしい敵サーヴァントに目掛けて地球の法則全てを軽く無視した軌道を描いて方向転換し、着弾。呻き声が上がり、マシュ達が身構えた数秒後、

 

 

「グアアアッ!?」

 

 

爆発が起きてバイザーを付けた女性の姿をした女サーヴァントが投げ出された。それを見て、マインスロアーをリュックに直したディーラーが構えるのは、ドラムマガジンの付いた45口径の短機関銃。

 

 

「見た所、ライダーか?だったらこのシカゴタイプライターの出番だ。反則級の品だが、アンタは中々に素早いらしい。俺は貧弱でな?無様に弾幕を張らせてもらうぜ」

 

「ッ!」

 

「マシュ、お願い!」

 

「はい先輩、させません!」

 

 

でたらめな性能を持つディーラーの銃器群に恐れをなしたのか、先制とばかりに鎖の付いた杭を投擲する敵サーヴァント、ライダー。しかし頭部を狙ったその一撃は、立香の指示で咄嗟に前に出たマシュの構えた大盾に防がれる。持ち前のスピードをフルに生かして高速で退避しながら弾かれた鎖を手繰り寄せるライダーであったが、その隙は明確で。

 

 

「ナイスだストレンジャー。どきな盾の嬢ちゃん」

 

 

盾が下げられた瞬間、既に構えていたシカゴタイプライターの、名の通りタイプライターを打つかのような銃声と共に放たれた弾幕が次々とライダーを撃ち抜き、その動きを鈍らせ。

 

 

GoodBye(地獄で会おうぜ),RIDER」

 

 

シカゴタイプライターをリュックに直すと同時に再び懐から取り出し構えられたハンドキャノンが火を噴き、無様に転がりながらも己の切札を発動しようと手にかけていたバイザーごと頭部を撃ち抜かれ、ライダーのサーヴァントは消滅した。

 

 

「ナイス判断だ。アンタは信頼できる顧客だ、これからよろしく頼むぜストレンジャー」

 

「…ストレンジャーって余所者って意味だよね?なんだか寂しいから自己紹介するね。私は藤丸立香です。こっちは・・・」

 

「マシュ・キリエライトです。こちらの偉そうな人が私達のリーダーであるオルガマリー・アニムスフィア所長。先輩の端末に映し出されている頼りなさそうな人がドクターロマンです」

 

 

安全を確認したからか笑みを浮かべて自己紹介していく立香とマシュに、ディーラーは目を丸くしながらも頷き口を開く。

 

 

「改めて、サーヴァント・ディーラーだ。俺の武器を有効活用してくれ、期待しているぜストレンジャー」

 

「だから、名前で呼んでください・・・」

 

「俺にとってストレンジャーってのはお客さんって意味だ。我慢してくれストレンジャー」

 

「はい…とりあえず、分かりました…」

 

 

頑なに呼び方を変えないディーラーに苦笑いしながらも、藤丸立香は初めて召喚したサーヴァントに、頼もしく思いながらペシペシと肩を叩く。

 

 

「これからよろしく、ディーラー!」

 

「 」

 

「へ?」

 

 

すると次の瞬間、ディーラーは声にならない声を上げて崩れ落ちた。堪らず静かになる一同。恐る恐るとマシュがディーラーに触って確かめ、血の気の引いた顔で一言。

 

 

「死んでます…」

 

「『「!?」』」

 

 

 

耐久値が低すぎて前途多難な人理修復は、ここから始まった。…いや、始まらないのかもしれない?




※武器商人は弾丸一発で死にます。ナイフが掠っても死にます。死んだふりかもしれませんが死にます。何故か卵は喰らっても死にません。サーヴァント化したせいでそれが顕著になっています。

ステータス:筋力D 耐久E- 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具EX

声はディジェネレーションのレオンの日本語版のガラガラ声なイメージ。

実際、限定仕様武器が現実にあったら本気でパワーバランスが崩れると思うんだ。限定仕様マインスロアーはチート、以上。

人気が出たら続き書きます。もう死んでるのにどういうことかって?それはお楽しみと言う事で…よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。


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俺の性能だ確認して置けストレンジャー

一日足らずでお気に入り数10突破どころか高評価まで貰えて割とビビっている放仮ごです。次話はまだ出来ていませんがつなぎとしてディーラーのマテリアル的な物を書きました。よければどうぞ、見て行ってください。


サーヴァント・ディーラー

 

クラス:商人(ディーラー)

真名:武器商人

マスター:藤丸立香

性別:男性

身長:180㎝(猫背気味)

体重:70kg

出典:バイオハザード4(レオン・レポート)

地域:スペイン、アメリカ

属性:中立・中庸・人

イメージカラー:青

特技:武器売買、武器改造

好きなもの:武器の整備、武器自慢、宝物、ブラックバス

苦手なもの:ガナード、臭い宝物

天敵:サドラー、ランスロット、実体のないエネミー

CV:森川智之

 

ステータス:筋力D 耐久E- 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具EX

 

スキル

・商人魂EX:クラススキル。自身に寄生している「プラーガ」の支配種の命令にも耐えうる商魂逞しい在り方。高度の魅了、幻影、混乱などの精神干渉にも耐えうるが物理的な物には滅法弱い。「不屈の意志」とは似ても似つかぬ真逆のスキル。また、どんな時でも商魂逞しく商売する。

 

・商売の鉄則A:クラススキル。相手の行動を先読みできる。顧客の行く先に先回りし、商売するには欠かせないスキル。

 

・武器商人A:銃器、手榴弾、ナイフ、アーマーに救急スプレーとありとあらゆる商品を常備している。緊急時には遠慮なく使いアピールする。

 

・限定仕様EX:銃器をサーヴァントにでも対抗できる程の性能に改造できる。主にホーミングや高威力、高速連射に装弾数など。

 

・反則武器EX:滅多に売らないとっておき商品。ハンドキャノン、無限ロケットランチャー、シカゴタイプライターなどのいわゆる「隠し武器」が該当する。その性能は高位の英霊であっても肉薄できる代物。

 

・単独行動B:マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターを失っても2日は現界可能。

 

・コレクターC:より品質の良いアイテムを取得する才能。価値あるものを蒐集し、また管理する能力。そのほとんどは売買により得た宝物で、より完成度の高い物を高値で買い取って来た。具体的に言えば宝物と引き換えに大量のQPを提供する。硬貨でも可。

 

・殺戮技巧(銃器)A:使用する銃器に「対人外」ダメージ値のプラス補正をかける。これは元が人のサーヴァントは影響されず、逆に人ならざる者だった英霊には効果抜群。例外的に神霊も影響されないが怪物とされた物にも効果は出る。

 

・病弱(プラーガ)A+++:自身に寄生しているプラーガの命令に抗ったために得た後天性の打たれ弱さ。本来、保有者はあらゆる行動時に急激なステータス低下のリスクを伴うようになるデメリットスキルなのだが、ディーラーに限ってはそれが常時「耐久」のみに発動され、非力なマスターに軽く撫でられただけでも即死する。というより、本来プラーガが作用するガナードの打たれ強さと再生力が受け入れない事により逆転してしまっている。売り物のアーマーを自らに装着する事により、30パーセントまでならダメージを軽減し即死にはならなくなるがそれでも雀の涙程度。ちなみに似た様な状態が大統領の娘にも当てはまる。

 

 

宝具

・???

ランクEXの対人宝具

 

 

詳細

スペインに存在するロス・イルミナドス教団の教祖オズムンド・サドラーにより封印から解き放たれた太古の寄生生物「プラーガ」に寄生された人間達の成れの果て「ガナード」の一種。失われた理性の商人魂により支配を受けず、誰彼かまわず商売を始めた存在。行商を主にするが、立派な店や射撃部屋も持つ。

 

2004年にロス・イルミナドス教団に誘拐された大統領の娘を救い出すと言う任務を遂行していた捜査官、レオン・S・ケネディに武器やらを売買し、最期は爆発するロス・イルミナドス教団の本部がある孤島と共に海に消えたと思われる。複数人存在するが目が青かったり赤かったりと相違点がある。

 

気さくな性格で、仲間であるガナードが目の前で殺されても文句の一つも言わないが、レオンから戦いに赴く前に大統領の娘を一時的に預かっても文句の一つも言わない。金にきっちりしているが、お得な商品の値段にガッツを入れたり、汚物の中から取り出された宝物でも文句を何一つ言わず買い取ってくれる親切で律儀な人物。

 

戦いは苦手。サーヴァントとして召喚されると、マスターを顧客として「ストレンジャー」と呼び、率先して戦うなど何よりもマスターを優先して行動する。不運な事故で死んでも文句ひとつ言わず力を貸す律儀なサーヴァントである。

打たれ弱すぎるが高火力なためシールダーとは相性抜群。また、銃や投擲を得意とするアーチャーなどの英霊とも相性がいい。さらに遠距離武器を持たない英霊にも銃器を提供する事が出来る為、本人は強くないが味方を強くするタイプのサーヴァント。しかし本人が前線から下がる事は決して無い。

 

ちなみに常に傍に浮かんでいる青白い火の玉は存在するだけで攻撃に転用する事は出来ない彼のトレードマークである。これが浮かんでないと商売の準備ができていないらしい。

 

 




こんな感じです。身長体重、CVはレオンと一緒です。レオン・レポートと言うのは5で出てきた報告書の事です。
武器商人やアシュリーが異常なまでに脆いのは、プラーガに抗っているからじゃないかと推測。レオンはまあ、元が元だから・・・?

スキル、コレクターはギルガメッシュのスキル。殺戮技巧はアルキメデスのスキルの改変版。病弱は言わずもがな桜セイバーこと沖田さんのスキルの改変版。スキルが超強い系英霊です。ただし脆い。脆すぎる。

次回はVSエミヤを予定しています。ディーラーはどうやって参戦するのか。そもそも生きているのか。その謎を解く鍵は宝具(と、あらすじ)にあり。順調に進めばバイオ4の他キャラやカプコンゲームのキャラがサーヴァントとして参戦します。今のところオリジナルクラスが一名、ライダークラスが二名、バーサーカーが一名候補に挙がっています。書けるか不明なのでそこは期待しないでください。

次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。


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接近戦はナイフの方が速いぜストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも放仮ごです。あまりに人気が出てビビっております。これは期待にお応えせねば…!と頑張って一日で書き上げました。他の小説と違って一話を短くできるので比較的早く書けました。が、前回言っていたアーチャー戦は次回に持ち越しとなりました。その前にどうしても書きたかった戦いがあったためです。

ところで一言評価で「この人だと長編は難しいですよねぇ」と言う言葉がありましたがそうかな?と思います。見方を変えればここまで魅力的なキャラもいません。少なくとも、レオンを主人公にして書くよりはすんなりストーリーを考えられます。

そんな訳でキャスターと合流、VSアサシンとなります。楽しんでいただければ幸いです。


「そ、そんな・・・ディーラー!」

 

 

自分が軽く叩いたせいで死んでしまった初めてのサーヴァントの死体に縋り泣き喚く人類最後のマスター、藤丸立香。その光景を見ながらマシュは自身の無力さ(?)を痛感し、オルガマリーはあまりにも弱い英霊に開いた口が塞がらず、ドクターロマンは画面の向こうで何やら思考していた。

 

 

『いや待て、皆。様子が可笑しい…何故、サーヴァントが死んだのに消滅しないんだい?』

 

「え?どういうこと?」

 

「た、確かに。よく気付いたわロマン。いい藤丸、サーヴァントってのはね、エーテルで実体が構成された幽霊の様な物なの。というより使い魔ね。魔力が切れたり、死んでしまったりすると消滅して座に戻るはずなんだけど…何故か、このサーヴァントの死体は残っている。これは異質だわ」

 

「じゃ、じゃあどうなるん…?」

 

「口調が可笑しくなっているわよ藤丸。私も知らないわよ。まさか死んだふりじゃないでしょうね?」

 

「それはありえません!ドクターから指南していただいた私が確認しました、Mr.ディーラーは確かに死んでいます!」

 

 

オルガマリーの疑問に、マシュが慌てて主張する。変な状況になって来た。誰もがそう感じていると、立香の背後から声が聞こえた。

 

 

「そう泣くなストレンジャー。何時もの事だ、気にするな」

 

「だ、だって!初めて私の召喚に応じてくれて、頼まなくても守ってくれたいい人だったんだよ!気にしないなんてできないよ!」

 

「慣れてもらわないとこっちが困るんだがな」

 

「慣れちゃうなんてそんなこと・・・え?」

 

 

振り返る。一度、目の前の死体と、周りで驚愕している面々を見てからもう一度振り返る。そこには、「よぉストレンジャー」と和やかに挨拶している己のサーヴァントがいた。

 

 

「『「はあぁああああああああああああああ!?」』」

 

「でぃ、ディーラーさん!?な、なんで…死体はまだここにあるんですよ!?」

 

「気にするな。それよりいい武器があるんだ」

 

「それより!?自分の死体がそれ扱いなの!?」

 

「ろ、ロマン!どうなっているの!?」

 

『僕に聞かれても!?でも反応は全く同一個体だ!どうなっているんだ!?』

 

 

騒ぐ面々を見て、こりゃ駄目だなと溜め息を吐いたディーラーはリュックの中からスッと取り出したそれを差し出して事態の収拾を図る。

 

 

「そんなに騒ぐな。ほれ、そこらの火で炙って来たランカーバスの焼き魚でも喰って落ち着け」

 

「「落ち着けるかぁ!?」」

 

「生で喰うよりかは美味いぜストレンジャー」

 

『君は生魚をそのまま喰った事があるのかい!?』

 

「ああ、腹痛じゃ死ねないから辛かったぜ?俺が死んでも代わりはいくらでもいる。気にするだけ損だ。悪いと思っているなら何か買ってくれストレンジャー」

 

「買わないよ!?」

 

「ちゃんと説明しなさいもう一回殺すわよ!?」

 

「とりあえず、お二人共元気が出てよかったですけど落ち着きましょう皆さん」

 

 

現状唯一真面な戦力であるマシュが癒しであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうと、盾の嬢ちゃんに咄嗟に防御を指示するとはな。ナイスな指示だ、俺の耐久が低いとよく分かったなストレンジャー」

 

 

落ち着いたところでそう自らのマスターを褒めるディーラーに、立香は気まずそうに苦笑いする。

 

 

「い、いや仲間に傷付いて欲しくなかっただけで・・・結局私が殺しちゃったし…?」

 

「それでもナイスだ。自らの銃で援護するんじゃなく、盾の嬢ちゃんに指示するのは己の分を弁えたいい判断だったぜ。…アンタもそう思うよな?」

 

「…気付いていたか」

 

 

ディーラーに褒められて赤面していた立香が振り向くと、そこには杖を持った蒼いフードを被った赤目の男が立っていた。ロマンが言うにはサーヴァントらしい。ディーラーが戦うそぶりを見せずのんびりとマインスロアーを取り出して手入れし始めた事から、敵ではない事が窺えた。

 

 

「中々大した采配だったぜ嬢ちゃん。そこのサーヴァントも強力だ、助太刀しようと思ったんだがいらなかったようだな」

 

「あ、貴方ここのサーヴァントなの?」

 

「おうよ。俺のクラスはキャスター。この地獄で唯一正気を保っているサーヴァントだ。アンタ等はよそ者みたいだな、情報交換と行かねえか?」

 

「分かったわ」

 

 

キャスターとオルガマリー、ドクターロマンが話す中。立香はマシュと一緒に、マインスロアーだけでなく先程使った武器の整備をしているディーラーに話しかける。

 

 

「ねえディーラー?…殺しちゃったけど、本当に恨んでないの?」

 

「ああ。故意じゃないからな。…前のストレンジャーは、挨拶とばかりにナイフで切って来たからなぁ…」

 

 

前の顧客である捜査官と女スパイを思いだし、遠い目をするディーラーに少し心配になる少女二人。しかしディーラーは、その事も気にしていない様子だった。

 

 

「…何で逃げないの?」

 

「俺はガナードだ。もう死んでいるも同然だ、むしろ死ぬ機会を与えてくれるんだ。恨むはずがないだろう?それに、お宝もくれたし毎回ちゃんと買っていてくれたからな。文句が言える立場じゃあない。最後の俺だけを生かされても困るだけだったがな。倒壊する島と運命を共にしたから問題は無い」

 

「…何で生きようとしないの?」

 

「言っただろう。もう死んでいるも同然なんだ。ガナードってのはな、理性を失うんだ。例え支配種であっても、人間として大事な何かを失っている。特に首魁は酷かったな。だからまあ、ガナードにされかけていた二人を助ける手助けをして、それをちゃんと見送れた。それだけで満足だ。武器商人として全うできたんだからな」

 

 

しみじみとするディーラーに、どこか怒っている様子のマスターを見ながら、今の話を聞いて自身の恩人を思い出したマシュが静かに口を開いた。

 

 

「…貴方は、どこか私の知っている人を思い出します…」

 

「そうかい。そいつも、信念を持って何かに抗っているんだろうな。救われない。最後まで見ておいてやれ、それがそいつへの手向けになる」

 

「…はい!」

 

「ストレンジャーは、納得いったか?」

 

「…私はディーラーがまた死ぬのは許さないからね」

 

「じゃあ、アンタが気を付けてくれればいいさ。ストレンジャーさえ指示を間違えなければ、俺が死ぬことも無い」

 

「…うん、分かった」

 

「そろそろ所長さん方の話が終わりそうだ。合流しようぜ、ストレンジャー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この特異点の異変の原因をキャスターとの情報交換から知り、目的地である柳洞寺を目指す一行。道中何度も敵と戦いながらも、順調に撃破しながら進んでいた。

 

 

「ところでお前、武器商人なんだってな」

 

「イエスだ、ストレンジャー。金さえ用意すれば上等の品をお渡しするぜ?」

 

「なら槍とかあるのか?」

 

「無いな。ナイフなら持ち合わせはあるが」

 

「…そうか、無いよな」

 

「お求めならば用意するぜ」

 

「期待してないけど頼むわ」

 

「あの不審者二人、随分と仲良くなったわね…」

 

「あはは…」

 

 

そんな会話をしながら前衛を歩く主力サーヴァント二名に呆れ気味の所長に乾いた笑みを浮かべる立香。自分以外にストレンジャーと呼ぶのが気に入らないのもあるが、それ以上に他のサーヴァントであろうとちゃんと満足してもらおうとする様に、商人としての彼の生き様を見て、先程の会話を思い出していた。

どこまでもお人好しで、とある理由から命に関してはシビアな彼女としてはやはり納得が行かないのである。そんな先輩を、殿を務めているマシュがジッと見つめる。まだ出会って数時間ではあるが、既に彼女はマシュにとって大事な人間になっていた。

 

 

「ところで所長さん、アンタは本当にいいのか?手榴弾ぐらいは持っておいた方がいいぜ?」

 

「…じゃあ、取り扱いを間違えても安全な奴をちょうだい」

 

「そんな武器は普通無いんだが…それなら便利な物があるぜストレンジャー」

 

 

先程、不意打ちして来た骸骨剣士を、立香がマチルダを使って守ってくれた事を思いだして頼み込んでくるオルガマリーに満足気に頷き、青い掌サイズの物を取り出すディーラー。それは先程ディーラーが戦闘に用いていた手榴弾によく似ていた。

 

 

「コイツは閃光手榴弾。攻撃力は零だが、眩い閃光で敵の視界を塞いで怯ませる事が出来る。ビビリなストレンジャーにお勧めな品だ」

 

「誰がビビリよ!?」

 

「おっと。アンタの言う通り「危なくないもの」だ。文句を言われる筋合いはないぜ。それに、こいつは光が苦手な奴には効果覿面だ。これから戦うって言う騎士王さんは洞窟の中にいるんだろう?少なくとも効果はある筈だ」

 

「た、確かに・・・」

 

「とりあえず全員に配って置くぜ。コイツならストレンジャー(捜査官や女スパイ)に売却されたものが捨てる程あるからな」

 

 

そう言って歩きながら一個ずつ手渡していくディーラー。立香たちは知らないが、この閃光手榴弾はガナード達にとっては天敵にも当たる物で、一個だけでも持って行くとかなり心強い物である。ポケットにすんなり入るので、持ち運びにも便利だ。それに、間違ってもディーラーも被害は受けないので、そう言う意味でも必須の物であった。

 

 

「ああ、ちなみにだがさっきから戦っている骸骨やらには効果ないと思うぜ」

 

「意味ないじゃない!?」

 

「危ない物でいいんならいくらでもあるんだがな?」

 

「……じゃあ、反動が少ない奴で…」

 

「ならコイツだ。ハンドガン・ブラックテイル。最も安定した性能を持つハンドガンだ。俺の顧客だった女スパイも愛用していた物だ。サイズも小さいからちょうどいいだろう?まあでも、高いぜこいつは」

 

「ありがとうと言って置くわ。金に糸目はつけないわよ。仮にも英霊の銃を扱えるだけで凄く安心できるしね」

 

「ヒッヒッヒッヒェ…センキュウ!」

 

 

本当に嬉しそうに金を受けとり、ほくほく顔のディーラーとやっと余裕を見せて来たオルガマリーに思わず笑みを浮かべる立香。このまま、誰も傷つかないならそれでいい・・・そう思っていた時だった。

 

 

「ッ、ディーラー!」

 

「そこだ」

 

 

突如、立香に向けて投擲された短刀をルーンで出現させた炎で防ぎ、ディーラーに呼びかけるキャスター。立香が理解しない内にマシュが彼女を守るように盾を構え、ディーラーが取り出したハンドキャノンを発砲。しかし手応えが無く、彼等は立香と所長を守る様に円陣を組んで身構える。

 

 

「おいキャスター。アンタ、ランサーのサーヴァントは自力で仕留めたんだったな?」

 

「おうよ。槍兵なんかに負けられないぜ」

 

「俺達はライダーを倒した。なら、スピードに長けた英霊は後、何のクラスだ?」

 

「…ちっ、面倒な事になったな。アサシンだ、確か山の翁の一人だぜ。どうする?」

 

「…山の翁がなんなのかは知らないが、アサシンだな。今の攻撃から接近戦向きじゃないらしい。ストレンジャー、何か考えはあるか?ないなら俺が勝手になんとかするが」

 

 

今も投擲されてくる短刀をセミオートショットガンで弾きながら、そう尋ねるディーラーに不安げな顔を見せる立香。

 

 

「…特にないけど、その方法。ディーラーは大丈夫なの?」

 

「なに。ストレンジャーを怒らせると面倒だからな、自分が死なない様にするさ。少しリスキーだがアンタの武器(サーヴァント)を信じな、ストレンジャー」

 

「…なら、任せた。死んだら殴るからね!」

 

「そいつは勘弁して欲しいな。キャスター、俺は無防備になる。援護を頼めるか?盾の嬢ちゃん、ストレンジャーは任せたぜ」

 

「おうよ!任せな!」

 

「はい、ディーラーさんも気を付けてください!」

 

 

セミオートショットガンを仕舞いながら、一人円陣から外れて歩くディーラー。的だとばかりに多方向から次々と短刀が彼に襲い掛かるが、それらは全てキャスターの炎で防がれ、ついでに立香目掛けて放たれた短刀もマシュが防いでいく。

 

そして立香たちから十分に離れた、ギリギリキャスターの支援が届く範囲で、ディーラーは両手に手榴弾を構えた。

 

 

「なあアサシン。聞いているかは気にしないが、俺の知るストレンジャー(捜査官)がどうやって売却する魚を得ていたか知っているか?大体は銛を使っていたんだが…」

 

 

ポイッ、ポイッと次々と取り出していく手榴弾を、連続して物陰目掛けて投擲して行く。そして、それがほぼ同時に爆発、自身の左側の物陰から黒い影が目の前に飛び出してくるのを満足気に見やるディーラー。

 

 

「心底、対応に困ったのがコイツだ。手榴弾で纏めてやったらしい。まあ合理的だな、ただでさえ水中で何処にいるか分からない魚を消耗品で取ろうとするのは馬鹿のやる事だ。買う側の事も考えて欲しいがな。傷がついたスピネルとか単価で買い取った。感謝して欲しい物だぜ」

 

「オノレェエエ・・・私ヲ魚トスルカ!ナラバ貴様等鈍間(ノロマ)ニ見切レルカ 、柘榴ト散レ、妄想心音(ザバーニーヤ)!」

 

 

発動される、敵サーヴァント・アサシンの宝具。赤黒い異形の右手が伸び、蛇の様に蠢いてディーラーに襲い掛かる。しかし、近距離だからこそその動作はあまりにも隙だらけで。

 

 

「接近戦ではナイフの方が速い、戦いの基本だから覚えて置きな」

 

「グアアアアッ!?」

 

 

胸のホルダーから一瞬で振り抜いたディーラーのナイフが一閃。その胴体を斜めに大きく斬り裂き、アサシンは宝具を当てる事も叶わず、その場に崩れ落ちた。

 

 

「コンナ、ハズデハァ……!」

 

「理性があったなら俺に負ける事もなかったはずだぜ。アンタたち「泥」に飲まれたサーヴァントはガナードと同等だ。Goodbye(死ねてよかったな),Assassin」

 

 

消滅するアサシンにそう自嘲気味に笑ったディーラーは己のマスターに振り返る。満面の笑みを浮かべていた。満足できた事に安心し、ナイフを仕舞いながら歩み寄る。

 

 

「やったね。ディーラー!」

 

「アンタのオーダー(注文)には応えたぜ。先を急ごうかストレンジャー。哀れなサーヴァント共を早く終わらせてやる」

 

 

そう言った彼の目は、首謀者への怒りの感情で満ちていた。




ディーラーが何故生き返ったのか?それはかなり後に明かされます。こんなに早く宝具を晒すと聖杯戦争で生き残れない。少なくともレ/フが退場するローマまでは隠し通したい。

書きたかったシーンその一。「接近戦ではナイフの方が速い」。アーチャーだと接近戦も強いため、アサシンで描いてみました。
バイオ4でのレオンとエイダの対話からですが、実際チェーンソー系にクラウザーやサドラー(人間態)と戦う時もナイフの方が強いと言う真理な台詞だと思います。

手榴弾で魚取り→あるあるですがこれ、真面目に考えると武器商人からしたら溜まった物じゃないかと。これを喰って勝手に死んだ武器商人もいるんじゃないかな。手榴弾で隠れている敵をいぶり出すと言うのは僕がよくやる手です。不意打ちに何度瀕死にされたか…!実際有効な手です。ライダーと違って気配遮断ができるアサシンにはこれしかないと思いました。

シャドウ・サーヴァント→ガナード。どっちかというとクラウザーやヴェルデューゴ。似た様な物じゃないかなと。

所長には閃光手榴弾とブラックテイルを持たせました。これが今後どう影響するか…キャスターとマシュ、立香も一応閃光手榴弾を持っています。

次回はVSアーチャー。遠距離戦で輝く武器と言えば…?次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。


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まるでサンドイッチのハムだなストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも放仮ごです。前回の感想が少ない事にちょっと落ち込みながらも、高評価をくれた方がいらっしゃったのでそれに後押しされて完成させました。本当に感謝です。一瞬だけだったけど赤評価バーとか自分の小説で初めて見た・・・

今回はVSアーチャー、そしてVSバーサーカー。ディーラーが死にます。ネタバレって言うレベルでも無いぐらい死にます。楽しんでいただければ幸いです。


アサシンを倒したディーラーの一言をきっかけに先を急ぐ立香達一行を、遥か遠くに聳え立つ、元"新都”の一角のビル屋上から観察している者がいた。その興味の先は、ただ一つ。

 

 

「一体何なんだ?あのサーヴァントは・・・」

 

 

サーヴァント・アーチャーは異邦人たちもそうだが、マスターと思われる少女が呼び出したサーヴァントに悪寒を感じていた。確かに死んだ、しかし死んでいない。訳の分からなさが恐怖を呼ぶ。ありえない軌道を描く銃器を始めとした強力な武器を持ち合わせ、直前のキャスターとの戦闘で弱っていたライダーばかりか、たった今アサシンまでもを完封して見せた。その敵意が、こちらに向いているのだ。危機感を抱いても仕方が無かった。

 

 

「最初はアーチャーかと思ったがこの異常事態で召喚されたエクストラクラスか…?…得体の知れないサーヴァントならば、奴をぶつからせるのが最善か。セイバー、面倒な事になっても私を恨むなよ?これが一番合理的だ」

 

 

そう言って、その手に投影した弓に、よくある剣を投影して矢にして番え、引き絞る。狙うは、視界の端に見える森の、焼けた城の跡に陣取る鉛色の巨人の形をした"災厄”

 

触れさえしなければ何も問題ないが、ひとたび暴れ始めれば手の付けられない最強の狂戦士。彼は自らの主でさえ放っておいたそれを、ただ一人の商人の為に解禁した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

 

 

そんな咆哮が聞こえたのは、やっと柳洞寺へと続く石段が見えてきたところだった。建物を薙ぎ倒しながら、轟音と共に何かがこちらに突っ込んでくる。それに気付いたキャスターが、警告の声を上げる。

 

 

「ヤバいぞ、奴が来た・・・!」

 

「奴って…」

 

「バーサーカーだ!真名はヘラクレス、この聖杯戦争で最も厄介な奴だ!」

 

 

大英雄ヘラクレス、その名を知らない者はこの場に存在するはずがない。それほどまでに有名、そして強力な英霊。それが、狂った状態でまるで暴走トラックの様にこちらに突っ込んでくる。その恐怖、如何程か。

 

 

「エルヒガンテの様な図体の癖して速いな」

 

「何のことか知らないけど言っている場合か!あんなのに勝てるはずないわ、一旦逃げるわよ!」

 

 

そう言ったオルガマリーに頷いたディーラーが閃光手榴弾を投げ付け、閃光でバーサーカーの目が眩んだ隙に逃げようと踵を返した瞬間。突如飛来した矢が、一行の逃げる先に着弾。爆発を起こして強制的に動きを止めた。

 

 

「今度は何よ!?」

 

「アーチャーか!あの野郎、バーサーカーを誘導して矛先を俺達に宛てやがったな!」

 

「このままじゃサンドイッチのハムだな。質量と爆発でべちゃんこだ」

 

「言っている場合か!?」

 

 

文句を言いながらオルガマリーを担ぎ、立香を担いだマシュと共に全速力で物陰目掛けて走りだすキャスターに、何とかそれに追いすがり冗談を言いながら思考していたディーラーが質問する。

 

 

「…キャスター、アンタ一人でアーチャーのサーヴァントに勝つのに何分かかる?」

 

「…ランサーの俺でもそう簡単に勝てない相手だ、かなり時間を喰う。どうするんだディーラー?」

 

「俺がバーサーカーの動きを一瞬止めた後、ストレンジャーと別れてアーチャーをやる。アンタは盾の嬢ちゃんと一緒にストレンジャー達を守って逃げてくれ。アーチャーは俺が引きつける。俺はこの大英雄相手には足手まといにしかならん。頼めるか?」

 

「ディーラー、危ない真似は・・・」

 

「…ストレンジャー。綺麗ごとは結構だが、生憎とこれが最善だ。何回か死ぬと思うが怒ってくれるなよ?アンタに殺されたらたまらん」

 

「怒るよ!?」

 

 

マシュに担がれて逃げながら怒鳴り散らす己の主人に苦笑したディーラーは、懐から閃光手榴弾と片手で持てるコンパクトな機関銃を取り出し、振り返って構えた。

 

 

「余裕があるなら俺以外のサーヴァントを呼び出した方がいいかもな。時間を稼ぐ、早く逃げなストレンジャー!」

 

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

 

「本当、エルヒガンテを思い出すな。いや、暴れ方はガラドールか。目は開いてるのに何かに盲目になってるな?どうした、守ると誓った主人でも失ったか?」

 

 

立香達が己から離れた事を確認して間髪入れず、威力と命中精度はかなり低いが連射速度が速い短機関銃・・・マシンピストルをその頭部に向けて連射するディーラー。短い間に鉛弾を数十発も撃ち込まれ、堪らず怯んだ巨人は頭部を押さえる。

 

 

「死にはしないが痛いだろ?コイツはシカゴタイプライターほど強力じゃあないが、どんなに堅い奴でもすぐ怯んでしまう代物だからな。…これを受けて微動だにしないサドラーがどれだけ化物だったかよく分かるぜ」

 

「■■■■■■■■!!」

 

Goodbye(トンズラさせてもらうぜ),Berserker」

 

 

咆哮を上げ、目の前の敵に向けて巨大な斧剣を振り下ろす神話の大英雄。それに対し、ディーラーは防ごうともせず、あっけなく両断。された瞬間、その手から地面に叩き付けられていた閃光手榴弾が眩く辺り一帯を照らし、ヘラクレスの視界を完全に塞ぐことに成功した。

 

地面に転がる二等分されたディーラーを見て悲鳴を上げそうになる立香であったが、すぐに視界の端に新たなディーラーを確認した事で安堵する。仕組みは分からない故に心臓に悪すぎた。しかし今自分のするべきことを思いだし、思い付いた事をマシュとキャスターに指示する立香。

 

 

「マシュ、キャスター!とりあえず屋内に!バーサーカーって言うぐらいだから、隠れれば大丈夫のはず!」

 

「了解です!」

 

「飛ばすぜ、ちゃんと掴まっていろよ嬢ちゃん!」

 

「え、ちょっ、待っ・・・イヤアァアアアアアッ!?」

 

 

オルガマリーが悲鳴を上げながらも速度を上げて走り去るマシュとキャスターを、視界を何とか取り戻したバーサーカーは見失い、それを遠く離れた物陰から双眼鏡で確認したディーラーは静かにその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだアイツは・・・!?」

 

 

一方、アーチャーは苛立っていた。逃げる武器商人を鷹の目を駆使して追い詰める彼だったが、時折何やら炎を出す手榴弾・・・焼夷手榴弾を投げてこちらの視界から上手く隠れ、それを何度か繰り返して今やどこに隠れたのか分からず仕舞いなのだ。バーサーカーの方は完全にマスターを見失っている。散策するが、手掛かりは無い。戦場で生き残る手段でも知り得ているのか?とアーチャーは思案する。と、その時。

 

 

カチン。ピッ、ピッ、ピッ・・・

 

 

「何だ?この音は・・・」

 

 

小さな何かが当たる音と、続けざまに電子的な音が響く。嫌な予感を感じたアーチャーがその場を退避しようとした瞬間、彼の立っていた屋上縁が爆発。爆風で吹き飛ばされるアーチャー。それには見覚えがあった。ライダーを撃破に追い込んだあのよく分からない武器だ。

まさかそれが、ウイルス研究している製薬会社が自らの特殊部隊の為に開発した特殊な銃だとは露にも思わず、正体不明の敵を前に慌てて階段傍の物陰に隠れるアーチャー。しかし顔面すれすれを弾丸が通過、冷汗をかく。

 

 

「馬鹿な…アーチャーである私を相手に遠距離戦を挑むだと?それに奴等は深山町の最奥、こちらは新都だぞ?この距離を正確に狙い撃つなどと・・・」

 

 

再びカチンと言う音が響き、たまらず屋上から隣のビル屋上に跳んで逃げるアーチャー。背中から爆発を受け、そのままゴロゴロと屋上を転がりダメージに呻く。かなり離れていたはずなのに、爆発の炎が背中を焼いていた。それだけで威力がどれほどか分かってしまう。直撃していれば木端微塵だろう。

 

 

「こちらの居場所が把握されているのは明白・・・しかしこちらはまるで奴の居場所が分からない。ならば…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スコープ付き誘導マインスロアー。反則以外の何物でもないな」

 

 

そう言いいながら特別性のスコープが付いたマインスロアーに次の弾を装填し、床に置いてその横に置いていた大型サイズのアサルトライフル、彼がセミオートライフルと呼ぶ銃を構えるディーラー。威力はボルトアクション式のもう一つには劣るが、連射性に優れるそれでプレッシャーを与える事が狙いだ。

 

 

「こちらにはサーモスコープがあってな。バレバレだぜ、アンタの居場所はな」

 

 

彼が今いるのは、当初の目的地であった柳洞寺だ。壁に小さな穴を開け、アーチャーに見付からない様にしていた。これは彼の顧客であったレオン・S・ケネディも多用していた手であり、木造の建築物だからこその戦法である。ここに逃げ込んですぐさまサーモスコープで矢の飛んで来た方向を捜してアーチャーを見付け、こちらの居場所を悟られぬようにとマインスロアーで怯ませたところをセミオートライフルで仕留める。これが、ディーラーの考えている作戦だ。

問題はここが本拠地だと言う事だが、首魁のセイバーは洞窟に閉じこもっており、ライダー・アサシン・ランサーを仕留めた今、残るサーヴァントはキャスターとバーサーカー、そしてアーチャーのみ。大方、自分達を仕留めるためにアーチャーは持ち場であるここを離れたのだろうが、それが功を指した。

 

 

「アーチャーにとどめを刺したら念話とやらでストレンジャーを呼んでさっさと乗り込むか。あんな狂戦士、相手するだけ無駄だ」

 

 

バーサーカーを見てすぐさま思い出した巨人、突然変異したガナードであるエルヒガンテの暴れっぷりを思い出して震えるディーラー。彼は、封印から解かれるや否や周りの村人を皆殺しにし、レオンを追い詰めていたその姿を陰から見守っていた事がある。

かつてレオンが助けた犬が助太刀として囮になった事により勝利を納め、さらにその後三体のエルヒガンテと戦いどれも勝利を納めたと、嬉々と話していたかつてのストレンジャーの化け物っぷりと己の渡した銃の性能に思わず笑みを浮かべる。

 

しかし、エルヒガンテはプラーガと言う明確な弱点があったからこそ勝てたのだ。普通は巨人と戦うのは自殺行為だ。

相手が人外ならば己のスキルで多少の効果はあっただろうが、生憎とバーサーカーの真名はヘラクレス。つまり、半神である。彼のスキルと神性持ちサーヴァントは相性が悪い。ヘラクレスを殺すにはヒュドラの毒矢でも持って来ないと無理だろう。そして生憎、ディーラーに毒の持ち合わせは無い。とあるルートから入手した解毒するブルーハーブなら持っているが。そう何度も死ねない上に、どう足掻いても勝てないため、無視が得策である。

 

 

「さてどうやってとどめを刺すか」

 

 

目下の問題である打倒アーチャーについて考える。確実に一撃で殺せる威力を有するマインスロアーでは着弾から時間がかかる上に、遠すぎるとターゲットとの間に存在する障害物に当たってしまうため駄目。ライフルでも木の盾ならばともかくコンクリートを貫通する事は不可能。追い詰める事が出来ても決め手にかける。手詰まりだった。こうなったらマインスロアーを連射してちまちまダメージを与えていくかと考えていると。

 

 

「ッ!?」

 

 

決してありえないはずの赤い軌跡を視界に捉え、慌ててライフルとマインスロアーを直してその場を退避、しようとした次の瞬間、大爆発がディーラーを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やったか」

 

 

物陰にてたった今、弓から解き放った魔弾・・・射手が健在かつ狙い続ける限り、標的を襲い続ける効果を持つ必中の追尾型魔剣、フルンディングの飛んで行った柳洞寺が木端微塵に吹き飛んだ光景を見て勝利を確信するアーチャー。

通常は相手が逃げてもクリーンヒットするまで狙い続けるマインスロアーの上位互換な魔弾なのではあるが、紙耐久のディーラーには掠りさえすれば問題ないため意味は無い。なので、飛んで行く先が円蔵山だと分かって柳洞寺に潜んでいると確信、着弾した瞬間に彼の得意とする戦法、宝具を破壊して内包された神秘を解放する「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」を発動し爆発させたのだ。

 

 

「私が遠距離戦でここまで苦戦するとは、もしやアーチャーなのかと疑うぞ正体不明のサーヴァントよ」

 

 

物陰から出てきて、堂々と屋上の端から炎上する柳洞寺を見やり不敵に笑むアーチャー。彼の推察では、ディーラーが復活するのは彼の死体に近い範囲。ならばとその一帯を爆発させたのだ。いくら不死身であっても復活した瞬間に爆発に巻き込まれればさすがに消滅するだろうと、そう考えていた。…しかし、事実は少し違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…残念だったなアーチャー」

 

「うわっ、びっくりした!ディーラー、何時の間に!?」

 

「つい今だぜストレンジャー」

 

 

ディーラーと別れた後、とにかく走り手頃な武家屋敷の土蔵の中に潜んで隠れていた立香一行は、扉も開かなかったはずなのに突如出現したディーラーに驚いた。彼はそれを愉快そうに眺め、人差指を立てて笑う。

 

 

「一つ報告しておくぜストレンジャー。次の俺が現れるのは、必ずアンタから半径一キロメートル内だ。戦略に使えるかもしれないから覚えておきな」

 

「あ、うん…じゃなくて、また死んだの!?この短期間で二回も!?」

 

「勘弁してくれストレンジャー。俺も死なない様に頑張ってたんだ。こちらの居場所を把握されていないと多寡を括っていたらまさか誘導する矢が飛んで来て、しかもそれが爆発するとか誰が思うか」

 

「それは確かに・・・」

 

「それで、近くにバーサーカーはいないな?」

 

「ああ、多分な。破壊音は大分遠のいたぜ」

 

「なら十分だ」

 

 

そう言って土蔵の扉を開け、ずんずんと武家屋敷の敷地外に出るディーラーを慌てて追う立香。追い付いたディーラーが取り出したのは、彼女を驚かせるには十分な物だった。

 

 

「ろ、ロケットランチャー・・・!?」

 

「まさかこの俺に武器で勝る英霊がいるとはな。完敗だ。だからお礼に俺のとっておきをくれてやる」

 

 

それは、彼の有する武器の中でも最高峰の代物。プラーガに対して無敵のある武器を除けば、これほどまでに「切札」と呼んでも差し支えの無い代物。その名も、無限ロケットランチャー。

 

 

「残心・・・と言う事は日本の英霊か。だが甘いな、どういう勘違いをしたかは知らないが隙だらけだぜ」

 

 

サーモグラフィーで敵を確認したディーラーはこちらに気付いていないアーチャーのいるビルに標準を合わせる。マインスロアー程度の爆発で逃げられるのならば、建物ごと巻き込めばいいだけである。

 

 

Goodbye(終わりだ),Archer」

 

 

一発、また一発、さらに一発。連続してロケット弾頭を発射して行くディーラー。アーチャーが飛来するその存在に気付いてももう遅い。続けざまに大爆発を起こし、倒壊して行くビルの瓦礫と共に落ちて行く中。まだ負けていないとばかりに弓を構えドリルの様な矢を投影したアーチャーが最期に見たのは、自身に迫る無機質なロケット弾頭に鏡の様に映る己の敗北を悟った笑みで。

 

 

「…ああ、私の敗北だ。すまないセイバー」

 

 

直撃。爆発四散したアーチャーは、そのまま冬木の空に消滅して行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッヒッヒッヒェ・・・俺の特注改造品、サーモスコープ+望遠スコープ+無限ロケランだ。絶対に逃げられないぜ」

 

「うわぁ…」

 

 

武器商人の闇を見て軽く引いてしまう立香であった。




悲報:ディーラー、今回だけで二回死ぬ。そのからくりが少しだけ明かされました。単独行動で遠くに居ても死ねばマスターの元に戻る便利な仕様。乱戦でも隠れて復活できるなど多様な戦法が使える宝具です。

バーサーカーを見てエルヒガンテやガラドールを、そして描写されてないけどアーチャーを見てクラウザーの遠距離からちまちま戦法を思い出すディーラー。原作だとどうかは知りませんが、こっそりレオンの戦いを見ていました。前回のナイフも直接見たからこその戦法でした。でも本人が弱いから、レオンなら軽々避けれたはずのフルンディング+ブロークンファンタズムに敗れました。しょうがないね。

遠距離で視界が悪い時には便利な誘導マインスロアー、とサーモスコープ。何も寄生体みるだけが能じゃないです、二週目で湖から教会に戻る際にボートを使わないルートを選んだ時に重宝しました。今作の武器商人は職権乱用の如く魔改造を施して無限ロケランに望遠スコープ共に付けると言う仕様に。ぶっちゃけ、遠距離からのこれは鬼畜です。使いたい。

次回はついにVSセイバー。最も苦手な接近戦でディーラーはどう立ち回るのか。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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運命は自ら切り開けストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも放仮ごです。高評価とお気に入り登録の嵐でもう完全に正気を失っています。ガナード並に失っています。一週間もたたずに赤評価・・・お気に入り200間近・・・日刊26位・・・だと・・・!?

そんな訳で今回はセイバー戦。何時もより長いです。少しシリアスです。最初にディーラーの持つ武器を並べています。ディーラーがマジで頑張る死闘、楽しんでいただければ幸いです。


柳洞寺跡。爆心地にしか見えないそこで、武器をずらーっとその場に並べたディーラーが立香達にそれぞれの性能を説明していた。

 

 

「ストレンジャー。セイバーを倒すために俺の戦力を説明するぜ。

 

ハンドガン。マチルダ、ブラックテイルの他に特筆すべき特徴も無い通常のハンドガン(サプレッサー付き)、純粋に威力が高いレッド9、貫通力があり英霊化したおかげで一枚だけなら防御を貫けるが威力が最低のパニッシャーがある。

 

ショットガン。セミオートショットガンの他に、標準的なポンプアクション式で連射が遅い物と、構え・照準移動速度が最も速く距離で威力の減退も少ないが装弾数が最も少ないポンプアクションのライオットガンがある。

 

ライフル。セミオートライフルの他に、威力が高いがボルトアクション式で隙の大きいライフルがある。

 

マグナム。ハンドキャノンの他に、標準的な中折れ式のリボルバーと装弾数や装填速度に優れたオート拳銃のキラー7がある。キラー7の方は限定仕様ができないから威力はリボルバーの方が上だ。

 

その他に切れ味が落ちる事の無いナイフ、威力は最弱だが堅い敵でも怯ませるマシンピストル、その高威力版のシカゴタイプライター、言わずもがなな性能のマインスロアー、一発限りのロケットランチャーが数本、無限ロケットランチャー、マインスロアーとほぼ同じ威力だが着弾後すぐに爆発する爆薬付きのピストルクロスボウのボウガン、30パーセントまでのダメージを軽減できるボディアーマーが数着、手榴弾、焼夷手榴弾、閃光手榴弾がある。

 

あと俺には使いこなせないが、弾丸よりも着弾が遅いが威力が高く発射音が静かなため敵に気付かれずに攻撃することができる矢と、マインスロアーと同じ時限爆弾付きの矢を発射可能のコンパウンドボウ、攻撃力こそないが移動に使えるフックショットがあるぜ」

 

「まず、何でそんなに武器を持っているの?戦争でもする気?」

 

「戦争なんかしないさ。俺はあくまで商人だからな」

 

 

堪らずツッコむ立香に、武器商人は呆れながら返す。

 

 

「捜査官一人のために何本もロケラン使う宗教団体に比べたらマシだろう。あと各種回復用の卵、魚、ハーブ、ダメージを全回復できる救急スプレーがある」

 

「何故ハーブ」

 

「効くんだぜ?かなり。…ああ、後。これはとっておき過ぎる上に局地的な戦況でしか使い様がない武器があるぜ。一応教えとくか?」

 

「…じゃあ、一応」

 

 

守秘義務だと言う事で立香にだけ耳打ちで教えられたその内容。あまりに微妙な上にサーヴァント戦では絶対役に立ちそうにない武器に、立香は苦笑いを隠しきれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大方の作戦が決まり、キャスターの先導で柳洞寺の裏手の洞窟から最奥に足を踏み入れる立香達。そして、目の前に広がる光景にオルガマリーが喉を鳴らす。魔術師として、その光景は信じられない物だった。

 

 

「これが大聖杯・・・超抜級の魔術炉心じゃない・・・。なんで極東の島国にこんなものがあるのよ……?」

 

『資料によると、制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さない人造人間ホムンクルスだけで構成された一族のようですが』

 

 

呆然と呟くオルガマリーに、立香の端末から映像でドクターロマンが出て答える。その内容に立香はちんぷんかんぷんなので黙る事にした。未だに、ディーラーの言う「ゾンビ」の事なら分かるが死徒とかの内容も理解していない。

 

 

「悪いな、お喋りはそこまでだ。奴さんに気付かれたぜ」

 

「・・・アレがセイバーか。まだガキじゃないか。ストレンジャーや大統領の娘の方が年上だろう」

 

「そうなんだ・・・」

 

 

洞窟最奥の広い空間の中、ちょっとした丘のようになっている場所から見下ろす様にアーサー王と思われる黒い鎧に身を固めバイザーを身に着けた色素の抜けた薄い金髪の年端もいかない少女が、静かに佇んでいた。その手には、黒く染まった聖剣、エクスカリバーが握られている。

 

 

「なんて魔力放出。あれが、本当にあのアーサー王なのですか?」

 

『間違いない。何か変質しているようだけど、彼女はブリテンの王、聖剣の担い手アーサーだ。伝説とは性別が違うけど、何か事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。ほら、男子じゃないと王座にはつけないだろ?お家事情で男のフリをさせられてたんだよ、きっと。宮廷魔術師の悪知恵だろうね。伝承にもあるけど、マーリンはほんと趣味が悪い』

 

「ああ、趣味が悪いな。あんな女子供に一国の王を任せるのか?・・・俺の知る坊ちゃんは地方の城の主だったが、孤独とそのあまりの重荷に潰され、信仰に逃げてしまっていたぞ」

 

 

マシュの呟きに答えたドクターロマンに同意するディーラー。思い浮かぶは、プラーガを封印するサラザール家の当主と言う重荷と、天涯孤独となりその寂しさによる心の隙からサドラーの甘い戯言に乗せられプラーガの封印を解いて信仰した末に、異形となりながら己に仕えてくれた従者と共に巨大な異形の怪物となり果て、レオンに撃退された子供の様な背丈と老人の様な顔を持つアンバランスな男。

しかし、恐らく目の前の少女はその重荷や孤独に押し潰されてなどおらず、まさしく王の如き覇気が自身に突き刺さる。思わずブルリと震えた。

 

 

「見た目は華奢だが甘く見るなよ。アレは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃一撃がバカみてえに重い。気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ」

 

「ロケットの擬人化のようなものですね。……理解しました。全力で応戦します」

 

「元より甘く見れん。あんな覇気を持つ男を俺は知っている。決して侮れないな、誰かレオンの奴を連れて来い」

 

「奴を倒せば、この街の異変は消える。いいか、それは俺も奴も例外じゃない。その後はお前さんたちの仕事だ。何が起こるかわからんが、できる範囲でしっかりやんな」

 

 

背中に担いだ細長い袋の中にある何かを握ったキャスターや盾を構えるマシュと共に、ディーラーもシカゴタイプライターを取り出し臨戦態勢を取る。

今までは、自分でも小細工を使えば勝てる相手ばかりだった。しかし、目の前にあるのは圧倒的な力。バーサーカーを倒したと言う事実にも納得が行く、圧倒的なまでの暴力に立ち向かうべく自身を叱咤する。彼女を倒した先に元凶がいると言うのなら、進むまでである。

 

 

と、こちらを見つめたまま動かなかったセイバーの口がようやく開いた。

 

 

「ほう…面白いサーヴァントがいるな。・・・それも二人も」

 

「なぬ!? テメェ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!?」

 

「ああ、何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。だが……面白い。その宝具は面白い」

 

 

ゆっくりと、しかし威圧するようにセイバーが剣を引き抜き、構える。

 

 

「構えるがいい、名も知れぬ娘。まずはお前からだ。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!そしてその後は……お前だ、商人」

 

 

セイバーと目が合う。恐怖がじんわりと染みこむ。己はレオンの様な英雄ではない、ただの商人だ。命がけで戦った事も無い、ただ売り、買い、そして誰かの役に立つだけのちっぽけな存在だ。彼女の目は、取るに足らないと言っていた。

 

 

「どうしてお前の様な化け物がサーヴァントとしてここに立っているかは知らないが、死滅させてもらうぞ。貴様のそれは、人類の敵だ」

 

「・・・プラーガの事か」

 

「プラーガ・・・害虫と言うのか。言い得て妙だな。分かっているなら死ね、朽ち果てろ。貴様のそれは、在るだけで世界を脅かす」

 

「そうかい。・・・だが残念だ、ストレンジャーからそう何度も死ぬことを赦されてないんだ。だからできない。俺は注文(オーダー)は必ず果たす主義でね。

ストレンジャーから令呪で自害でも命じられない限り生き汚く戦おうと言う訳さ。文句はあるか騎士王様?」

 

 

背後からの立香の視線を感じ、シカゴタイプライターを構え直すディーラー。

どうやらこの娘はセイバーから何を言われても自分を怖がろうともしないらしい。その事に、気分がよくなる。正体を隠してレオンに接触していた自分からすれば、生きろと命じられているのも、自分の事を知っても拒絶しない事も、それらは最高の報酬だった。ならば報酬の分だけ働くだけだ。

 

 

「そうか。ならば死ぬがいい・・・卑王鉄槌。極光は反転する」

 

「来ます……先輩!」

 

「マシュ、宝具を・・・!」

 

 

マシュが一歩前に出て盾を構える。ディーラーが一度別れる前は使えなかったはずの宝具(モノ)。それは、一度バーサーカーに追い詰められた際に発動した、オルガマリーに名付けられた宝具の疑似展開。

そして放たれるは、ロケットランチャー以上の火力とシカゴタイプライター以上の制圧力を持つ、神秘の解放。漆黒に染まった、この世で最も有名な聖剣の放つ極光。

 

 

「光を呑め!・・・約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァアアアアアアアアアアアアアンッ!」

 

「はい、マスター!宝具、展開します・・・!疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!」

 

 

展開された魔法陣が極光を受け止め、マシュは押されながらもそれを耐え切った。耐え切ったならば、矛の出番だ。

 

 

「十分な働きだぜ、嬢ちゃん」

 

「後は俺達に任せな。ストレンジャー!」

 

「なに!?」

 

 

マシュが崩れ落ちると盾がずらされ、そこにいたのはマシュを信じて、ずっとそれぞれの銃を構えていた三人。シカゴタイプライター、ハンドガンマチルダ、標準ブレブレで及び腰のハンドガンブラックテイルが、それぞれ火を噴き、連射。

 

 

「マスターが攻撃だと・・・!?」

 

 

圧倒的な弾幕を、一跳躍して回避するセイバー。しかし、それよりも頭上に誰かが跳んでいて。

 

 

「急造品だが我慢してやらあ!オラア!」

 

「グアッ!?」

 

 

ルーンを足場に踏み込んだキャスターの薙ぎ払いがセイバーの腹にクリーンヒット。地面に叩き付け、今度はディーラーの取り出した使い捨てロケットランチャーが襲い、防御の間に合わなかったセイバーは宙に舞い上がり、再び地面に叩き付けられて呻く。

 

 

「・・・な、何故だキャスター・・・何故貴様が、槍を持っている・・・!」

 

「武器商人サマサマって奴よ!」

 

 

そう言ったキャスターの手に握られているのは、愛用の槍より少し短いが、黄金の柄で豪華な装飾が成された先端が鋭く尖った、まさしく槍。

 

 

「俺がレオンから買い取った物に「至高のロッド」ってお宝があってな・・・強度も十分だったんで、槍を頼まれたから急造だが改造して作った。地下墓地(カタコンベ)の棺から見付けた物だから霊的な力も強いだろうな。注文(オーダー)には応えたぜ、キャスター」

 

「おう、コイツは使い勝手がいいぜ!ありがとなディーラー!」

 

「礼はもういらん。謝礼に石をもらったからな」

 

「無料じゃないんだ・・・」

 

「商売なんだ。取れる時は取るさ。・・・持っておけ、ストレンジャー達はさがっていろ」

 

 

そう言ってキャスターからの報酬だと言う七色に輝く石を立香に手渡し、使い捨てロケットランチャーを取り出して構えるディーラー。もちろん、一筋縄ではいかない。

 

 

「なめるな・・・!」

 

 

立ち上がり、キャスターを斬り飛ばしたセイバー目掛けてロケランを叩き込む。しかしセイバーは魔力放出を利用してロケットの様に跳んで回避、天井に足を付けると蹴り込んで勢いよく急降下。咄嗟にディーラーを庇って前に出たマシュの盾に叩き付け、魔力放出で押し潰そうとする。

 

 

「くうっ・・・!」

 

「マシュ!」

 

「後ろががら空きだ!」

 

 

ハンドキャノンが零距離で火を噴き、セイバーの後頭部を貫こうと迫るがしかし、セイバーの魔力放出がバリアの様に作用して弾かれてしまい、続けて撃とうとするも再びロケットの様な動きで退避。マシュに当たりそうになり慌てて狙いを変えるディーラー目掛けてエクスカリバーを振り下ろすセイバーに、割り込む様にして槍を投擲するキャスター。

 

 

「弱いな」

 

 

しかし筋力Eで投擲された槍は大した効力も見せず、エクスカリバーで縦に真っ二つに叩き斬られ、セイバーは魔力放出でキャスターの眼前まで突っ込み、黒い星光を溜めこんだ聖剣を振り下ろした。

 

 

灼き尽くす(ウィッカー)・・・」

 

「遅い!約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァアアアアアアアアアアアアアンッ!」

 

 

洞窟が揺れると共に、衝撃波が立香達を襲う。ただでさえ強力なのに加えて零距離から放たれる聖剣の一撃がキャスターを飲み込んで行く。切札を切ろうとしたが時既に遅し。

 

 

「くそっ・・・があっ・・・」

 

「ほう。生きていたか。・・・奴の道具か、小賢しい真似を」

 

 

しかし、念のためディーラーから受け取り装備していたアーマーが30パーセントのダメージをカットした事により動けないまでも消滅せずにすんだキャスターを捨て置き、ディーラーを潰すべく歩み寄ってくるセイバー。ゆっくりと甚振る腹積もりらしい。

 

 

『駄目だ、彼女の魔力リソースは聖杯から流れている!彼女の魔力に、上限は存在しない!』

 

「キャスターまでやられて・・・どうするのよ・・・!ああ助けてレフ!」

 

「やるに決まっている・・・!」

 

 

迫るセイバーに向けてマインスロアーを乱射するディーラーであったが、それらは全て直感で斬り飛ばされ、あらぬ場所で無意味に爆発して行く。その内カチンカチン、と弾切れになり、慌てて弾込めした瞬間には魔力放出による移動でセイバーが目前に迫っていて、マシュが防御するまでもなく、ディーラーは一刀の元に切り捨てられた。

 

 

「次はお前だ。さあ、マスターを守って見せろシールダー・・・!」

 

「くっ・・・うわぁああああああっ!」

 

 

振り上げられる聖剣を、盾で弾き返すマシュ。しかしジリ貧。マチルダを手に援護しようと試みる立香であったが、手が震えて上手く狙いが合わない。今まで、ディーラーのおかげで難なく勝てて来た。しかし今回の敵は、ディーラーの武器がまるで通じない強敵。例えディーラーが生き返るとしても、やはり恐怖で竦んでしまう。・・・・・・・・・生き返る?

 

セイバーとぶつかるマシュの様子を横目に、気付かれない様に辺りを見渡す立香。そして見付けた、岩陰に隠れて何故か右手に持った閃光手榴弾と、地べたに置いてあるロケランを左手の人差指で交互に指して何かをアピールしているディーラーの姿を。

 

 

「・・・あ、そうか!マシュ、所長!目を!」

 

「・・・ッァ!?」

 

 

立香が叫ぶと、咄嗟に目を瞑るマシュとオルガマリーに疑問を抱いたセイバーはその一瞬後、立香から投擲された何かを反射的に斬り飛ばし、同時に後悔する。それは、一行が一人一個ずつ所持していた閃光手榴弾。

 

眩い閃光が至近距離から放たれ、視界を奪われ怯んだセイバーを余所に、慌てて目を瞑ったままのマシュとオルガマリーの手を掴んでディーラーの元まで走る立香。それを確認し、閃光手榴弾を懐に直して無限ロケランを構えたディーラーは、セイバーではなく、その頭上に標準を向けた。

 

 

「ナイスだストレンジャー。ここは戦場だ、マスターであろうと運命は自ら切り開け。GoodBye(コイツを喰らえ),Saber!」

 

 

連続で放たれたロケット弾頭が、セイバーの真上の天井に炸裂。地響きと共に岩盤が崩れ落ち、それに押し潰されるセイバー。その場にいた誰もが勝利を確信する。・・・しかし。現実とは無常である。

 

 

「・・・おいおい。アンタの方が俺なんかよりよっぽど化け物じゃないか」

 

「化け物とは心外だ。死んだ死体を残したまま生き返り、ここまで質量兵器を当然のように使うサーヴァントこそ私は知らないぞ」

 

 

魔力放出とエクスカリバーを包み込む風の鞘、風王結界(インビジブル・エア)の合わせ技で竜巻を起こし、瓦礫を巻き上げたセイバーの姿に思わずぼやくディーラーにセイバーは初めて無表情を崩し、嗤って返す。それに強者の余裕を見るディーラーは、傍で盾を手に身構えるマシュを見て覚悟を決め、セミオートショットガンとマシンピストルを両手に構える。

 

 

「だろうな。近代の英霊なんてそうないだろうし、居たとしても大概西部開拓時代だろう。商人(ディーラー)なんて言うエクストラクラスの俺じゃなきゃできない戦法だ。それに、一番銃器使いそうなクラスのアーチャーでも基本は弓を使うんだろ?」

 

「・・・アーチャーとは弓を使うのか?」

 

「は?」

 

「え?」

 

 

至極真面目な問いかけに、思わず固まるディーラーとマシュ。散々アーチャーに苦しめられたのでその質問は心外であった。

 

 

「・・・ふん、どうでもいいか。もうマスターは狙わん、貴様等二人だけを相手してやろう・・・!」

 

「っ!?」

 

 

瞬間、魔力放出で吹っ飛んで来たセイバーの振り上げで大きく吹き飛ばされてしまうマシュ。一人になったディーラーは右手に持ったマシンピストルを乱射してセイバーを牽制、近付いてきたところにセミオートショットガンを叩き込むが、元々ステータスがあまりにも貧弱なディーラーではスキル「商売の鉄則」で喰らい付くのが精一杯であり、弾が尽きた時にリロードする際に終わるのは明白であった。

 

 

(・・・どうする?直線的とはいえ速過ぎる上に、強力な武器を構えるとあの直感で避けられる。マインスロアーも弾かれる。だが、奴に勝つにはマグナムを数発叩き込むか、それこそ爆発をクリーンヒットさせるしかない。

だが、俺が手榴弾を巻いて特攻したところで吹っ飛ばされて一人死ぬのは目に見えているな。死んで移動する手も、さっきので完全にばれている。

盾の嬢ちゃんはまだ動けるが、キャスターは消滅まで秒読み・・・俺がどうにかするしかストレンジャーが生き残る手はないな)

 

 

弾が切れたマシンピストルを投げ捨て、ハンドガンに換えて乱射。とにかくセイバーからの攻撃を受けない事に徹するディーラー。セイバーオルタはその全てを見切って来ており、攻略されるのも時間の問題だろう。

 

 

(考えろ、俺やストレンジャーの考える作戦で駄目なら歴戦の英雄・・・レオンの奴ならどうする?)

 

 

 

以前、改造している間の暇潰しにと色々話したことがある。その中でも、面倒くさかったと話していたのは、彼をして強敵だと言わしめた「右腕」その名もヴェルデューゴ。単純なステータスならば彼に勝る奴はいないだろう。

 

 

―――「地力が強くて、スピードも速く、防御も堅い上に隙間から下水やら天井に入り込み不意打ちしてくる、強敵だった。挑発までする余裕もあったぐらいだ。戦った場所に液体窒素が無かったらあの場で殺されていただろうな」

 

 

自分に会えて本気で安堵していたその姿に、何とも不憫に思ったのを記憶に残っている。

 

 

―――「どうやって勝つかって?簡単だ、相手に当てるんじゃなく、逆にこちらに迫るのを利用して痛いのを浴びせてやればいい。少なくとも怯むから、そこを攻める」

 

 

あのラクーンシティ事件を行き残っただけあって何とも合理的だな、だが騎士王にはそんな手も通じない・・・と考え、そして思いつく。起死回生の一手を。

 

 

『ストレンジャー!』

 

『大丈夫なの?ディーラー!』

 

 

セイバーの突進を、ハンドガンを捨て手ぶらになった右手に握った閃光手榴弾を地面に叩き付け怯ませて避けながら、マシュを労っている己のマスターに念話で呼びかける。時間は無い、だから言うのは一つだけ。

 

 

『盾の嬢ちゃん、マシュを俺目掛けてタックルさせろ!奴に当てようと思わなくていい、俺に当てる様にただ一直線に突っ込ませろ!』

 

『な、なんで!?』

 

『話は後だ、俺にいい考えがある。俺を死なせたくないなら早くしろ!』

 

「う、うん!」

 

 

ついには手榴弾を投げて牽制し始めたディーラーを見て意を決する立香。何をする気かは知らないが、武器のプロである己のサーヴァントを信じる。今はそれしかない。

 

 

「マシュ!ディーラー目掛けて突進して!」

 

「!?・・・はい、了解しましたマスター!うおぉおおおおおおおっ!」

 

 

立香の指示を受け、盾を前にしデミ・サーヴァントによる脚力をフルに活かして前も見ずただただ突進を繰り出すマシュ。それに反応したセイバーがディーラーから離れ、マシュ目掛けて一直線に突き進む。

 

 

「面白い!まずは貴様からだ・・・!」

 

「ヒッヒッヒェ。・・・まあ、そうなるよな」

 

 

ガチャコン、と弾切れのマインスロアーに次弾を装填し、構えるディーラー。一発で十分だ。何故かあの盾に執着する英霊には、ただ突進するだけでもそれが最大の囮となる。真正面から斬り伏せようとする。今更己の思惑に気付こうとも、宝具を発動している彼女ではもう間に合わない。

 

 

「マシュ、宝具・・・!」

 

「ッ!疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!」

 

 

パシュッ、と言う音と共に、セイバーの聖剣と零距離で競り合う様に展開されたマシュの盾の表面に突き刺さる小型榴弾。聖剣が零距離で発動されようとしたその瞬間、セイバーの目の前でそれは起爆した。

 

 

「があっ・・・!?」

 

「二人共、決めて・・・!」

 

 

爆発の直撃を受け、満身創痍でよろめくセイバー。その姿に強者の余裕は感じられず、立香の指示を受けて動き出す両者。

 

 

「これで、倒れて・・・!」

 

「背中ががら空きだぜ、騎士王さん!」

 

 

マシュのシールドバッシュと、ディーラー・・・武器商人である彼のとっておき、レオンが決して使えない戦法・・・その両手に取り出した中折れ式マグナムとキラー7の二丁拳銃が連続して火を噴き、全弾撃ち尽くす。

 

 

「・・・ここまでか」

 

 

前からはシールドバッシュによる強打、背後からは強烈な銃弾の嵐。そんな攻撃に魔力放出も無しに耐え切れず訳もなく・・・セイバーはグラリと傾き、仰向けに崩れ落ちた。

 




題名はマーセナリーズの死神、ハンクの台詞から。処刑は無敵。

マグナム二丁拳銃とかマジチート。弾がもったいない贅沢な一撃によってセイバー撃破です。完全にオーバーキルなのは気にするな。セイバーオルタをヴェルデューゴに見立てるために真面目にチートにして見ました。

サラザール城の地下墓地でレオンが発見した至高のロッドを改造した急造槍で挑むキャスター、あっけなく敗退。筋力Eなんだからしょうがない。消滅しなかったのは武器商人の商品のおかげです。ディーラーはお宝をそのまま残しているので、もしかしたら聖遺物になるかもしれません(フラグ)

立香とオルガマリーも一緒に発砲したのは、少しでもセイバーの意表を突くため。見事に成功しましたが、実質ダメージは入っていなかったり。

ロケランによる崩落で押し潰し→からの復活、そして圧倒は、バイオあるあるの一つ。倒したと思ったら生きていて追いかけてくるパターンです。エイダ編やエイダザスパイでクラウザーとまた戦う羽目になった時は本気で動揺しました。

最後はレオンのヴェルデューゴ戦に置ける秘策を用いた、いわゆる「鎧アシュリー囮作戦」でセイバーに大打撃。スペコス2なら誰もがよくする手じゃないでしょうか?

次回は序章完結、レ/フ登場。ディーラーはどうするのか、所長はどうなるのか。ちなみにですが、オルレアンからは雑魚戦ぐらいしか考えていなかったのでさすがに投稿スピードが遅くなると思いますのでご容赦ください。こんなに人気が出るとは思わなかったんだ・・・
次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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いい武器があるんだストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも放仮ごです。お気に入り数250突破、UA10000突破…ありがとうございます!

今回も長いです。主人公はオルガマリー。彼女は一体どうなるのか。かなり無理矢理な上に、自己解釈大目なディーラーのチートが発揮されますが少しだけ赦してもらえると嬉しいです…楽しんでいただければ幸いです。


「・・・ここまでか」

 

 

崩れ落ちる黒き騎士王。その体は自らを吹き飛ばしたマシュと、彼女に駆け寄ったマスターに向いていたが、その目はジロリと己に敗北を与えた男に向けられていた。当の本人はどこ吹く風である。

 

 

「・・・その面、その外道なる手法、覚えて置くぞディーラー・・・」

 

「ヒッヒッヒッヒェ。何の事か分からんな?アンタはその嬢ちゃんに負けたんだ、俺は単なる武器商人だ」

 

「そうか商人。次会ったらいい武器を見繕え、そうしたら許してやる」

 

「顧客は歓迎するぜストレンジャー。今度会ったらその聖剣や嬢ちゃんの盾について教えてくれ。それが報酬でいい。その武器を見てると商人としての魂が疼くんだ」

 

 

ガチャガチャと使った武器を拾い、弾込めして直していき、未だに消滅していなかったキャスターに肩を貸しこちらに歩み寄るその姿に、溜め息を吐くセイバー。

 

 

「考えて置こう。・・・そうだな、聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に傾いたあげく敗北してしまった。結局、どう運命が変わろうと、私ひとりでは同じ末路を迎えるということか」

 

「あ?どう言う意味だそりゃぁ。テメェ、なにを知ってやがる?」

 

 

ディーラーに連れられて来たキャスターがその言葉が引っ掛かったのか突っかかると、セイバーの姿が金色の粒子へと変わって消滅して行く。ここまでの様らしい。

 

 

「いずれ貴様も知ることになる、アイルランドの光の御子よ。そして、名も知らぬ武器商人とそのマスターよ。―――グランドオーダー。聖杯をめぐる戦いは、まだ始まったばかりだと言うことをな」

 

 

その言葉を最期に完全に消滅するセイバー。それを追う様に、キャスターも黄金の粒子へと変わって行く。

 

 

「おい待てって、ここで強制送還かよ………おい嬢ちゃん、あとの話は任せた!次があるなら、ランサーで呼んでくれよな!それとディーラー!アンタの槍、悪くなかったぜ!」

 

 

そして笑みを浮かべて消滅するキャスター。この場に残されたのは、立香とマシュ、ディーラーと・・・セイバーの言葉を聞いてから何やら考え込むオルガマリー、そしてセイバーのいた場所に残された黄金の水晶体のみ。

 

 

「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。……私達の勝利、なのでしょうか?」

 

「・・・勝ったんだよね?」

 

「俺の知る男に死んだふりする奴もいたが消滅したから問題ないだろう」

 

「だよね!」

 

『ああ、よくやってくれたマシュ、立香ちゃん、そしてディーラー!所長もさぞ喜んでくれて……あれ、所長は?』

 

「冠位指定・・・何でその名を英霊が・・・・・・え? そ、そうね。よくやったわ、藤丸、マシュ、それにディーラー。不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。まず、あの水晶体・・・小聖杯を回収しましょう。セイバーが異常をきたしていた理由……冬木の街が特異点になっていた原因は、どう見てもアレのようだし。キャスターにもう少し詳しく聞ければよかったわ」

 

「既に回収している。帰るんならさっさと・・・うん?」

 

 

水晶体を回収してリュックに入れたディーラーが突然、何かに気付いて上を見上げる。それは、セイバーが始めに立っていた丘と同じ場所。そこには、先程まで存在しなかったはずの人物が立っていた。

 

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適正者。まったく見込みのない子どもだからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」

 

「レフ・・・教授・・・!?」

 

 

ぼさぼさ、というよりはもじゃもじゃの赤みがかった長髪に、にこやかに微笑んでいるが冷たい目つきの顔。モスグリーンのタキシードとシルクハットを着用したその人物は、マシュの呟きの通り、カルデア爆発の際に死亡したと思われていたカルデアの顧問魔術師、レフ・ライノールその人であった。

 

 

『レフ!? レフ教授だって!? 彼がそこにいるのか!?』

 

「うん? その声はロマニ君かな? 君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来て欲しいと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね。まったく…………どいつもこいつも統率のとれていないクズばかりで吐き気が止まらないな。人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」

 

 

笑みが醜悪な物に変わり、『そうだろう?』と言うように立香を見下す視線を向けるレフに、素早く前に出て盾を構えるマシュ。ディーラーも弾込めし終えた中折れ式マグナムを構えて臨戦態勢だ。

 

 

「マスター、下がって・・・下がってください! あの人は危険です……あれは、私達の知っているレフ教授ではありません!」

 

「同感だ。俺は知らんが、奴からはサドラーと同じ気配を感じる。凄まじい極悪外道の香りだ。恐らくだが、信頼する仲間だろうが奴は平気で切り捨てるぞ」

 

 

サーヴァント二名の言葉に頷き、マシュの陰に隠れる立香だったが、全く状況判断ができず、彼に駆け寄って行く者が一人いた。

 

 

「所長!いけません、その男は……!」

 

「レフ……ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ! 良かった、貴方がいなくなったら私、この先どうやってカルデアを守ればいいか分からなかった!」

 

 

所長であるはずなのに彼に頼りきりだった少女、オルガマリーである。彼女が近づいてくるのを見るや否や、再び温厚な笑みを浮かべるレフ。それを見て、立香は今度こそ違和感に気付く。まるで苛立ちを隠す仮面の様な、そんな貼り付けただけの笑みが不気味に見えた。

 

 

「やあ、オルガ。元気そうで何よりだ。君も大変だったようだね」

 

「ええ、ええ、そうなのレフ! 管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアには帰れないし、頼れるのは三流マスターに最弱サーヴァント!予想外の事ばかりで頭がどうにかなりそうだった!

・・・でもいいの、貴方がいれば何とかなるわよね? だって、今までそうだったもの。今回だって私を助けてくれるんでしょう?」

 

「ああ。もちろんだとも。まず、君達が手に入れた聖杯を渡してくれ。・・・本当に予想外のことばかりで頭にくるな。その中でもっとも予想外なのが君だよ、オルガ。爆弾は君の足元に設置したのに、まさか生きているなんて」

 

 

今度こそ、その言葉に駆け寄る足を止めるオルガマリー。その顔は困惑に満ちていて、信じたくない物になお、縋り付く哀れな物で・・・ディーラーはその表情に、頭に稲妻の様にある感情が迸る。

 

 

「──え?……レ、レフ?あの、それ、どういう・・・意味?」

 

「いや、生きている、というのは違うな。君はもう死んでいる。肉体はとっくにね。トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念になった君をこの土地に転移させてしまったんだ。ほら、君は生前、レイシフトの適性がなかっただろう? 肉体があったままでは転移できない。わかるかな。君は死んだ事ではじめて、あれほど切望した適性を手に入れたんだ。だから、カルデアにも戻れない。だって、カルデアに戻った時点で、君のその意識は消滅するんだから」

 

「え……え?消滅って、私が……?ちょっと待ってよ……カルデアに、戻れない?」

 

「そうだとも。だがそれではあまりにも哀れだ」

 

 

立香達を眼中に入れず、オルガマリーだけを見つめてニッコリと親愛を表すように笑うレフ。しかし表情とは裏腹に彼の目付きは冷たく、誰も彼もを蔑んでいる事は明白だった。

 

 

「生涯をカルデアに捧げた君のために、せめて今のカルデアがどうなっているか見せてあげよう。・・・そこの小汚いサーヴァント、聖杯を渡したまえ」

 

「アンタは俺の顧客じゃないからお断りだ。買い取ると言うなら話は別だが?」

 

「・・・あまり私を怒らせるなよ?」

 

 

ディーラーの返しにレフの声が一瞬で冷えた瞬間、強烈な衝撃波がディーラーに直撃し、その全身が肉片と布きれとなって砕け散り、その場に黄金の水晶体だけ残される。あまりにも一瞬の出来事に怯み、じりじりと後退してしまう立香。目尻に涙が溜まっているが、流さない様に耐えているらしく今にも飛び出しそうな体を精一杯抑えていた。

 

 

そして何事も無かったかのように手に聖杯を引き寄せたレフの背後の空間が歪み、真っ赤な巨大地球儀、カルデアスの姿が現れる。

 

 

「な……なによあれ。カルデアスが真っ赤になってる……?嘘・・・よね?あれ、ただの虚像でしょう、レフ?」

 

「本物だよ。君のために時空を繋げてあげたんだ。聖杯があればこんな事もできるからね。さあ、よく見たまえアニムスフィアの末裔。あれがおまえたちの愚行の末路だ。人類の生存を示す青色は一片もない。あるのは燃え盛る赤色だけ。あれが今回のミッションが引き起こした結果だよ。良かったねぇマリー? 今回もまた、君のいたらなさが悲劇を呼び起こしたワケだ!」

 

「ふざ──ふざけないで!私の責任じゃない、私は失敗していない、私は死んでなんかいない……!アンタなんか、レフじゃない!アンタ、どこの誰なのよ!?私のカルデアスに何をしたっていうのよぉ……!」

 

「アレは君の、ではない。私が作った物だ。まったく──最期まで耳障りな小娘だったなぁ、君は」

 

 

するとオルガマリーの体がレフの腕の動きと共に空中に浮き、徐々にカルデアスへと身動きの取れぬまま引き寄せられていく。咄嗟に、ハンドガンマチルダを構え、レフ目掛けて乱射する立香だったが、見えない何かに弾かれてしまう。ただ、見詰める事しかできなかった。

 

 

「なっ……体が、何かに引っ張られて・・・!?」

 

「言っただろう、そこは今、カルデアに繋がっていると。このまま殺すのは簡単だが、それでは芸がない。これで君の面倒を見るのも最期だ。そのくだらない望みを叶えてあげよう」

 

 

弱者を虐げる愉悦を感じさせる三日月の様な笑みを浮かべ、レフは嗤う。

 

 

「君の宝物とやらに触れるといい。なに、私からの慈悲だ。ありがたいと思ってくれたまえ」

 

「ちょっ──なに言ってるの、レフ?私の宝物って……カルデアス?や、止めて。お願い。だってカルデアスよ?高密度の情報体よ? 次元が異なる領域、なのよ?」

 

「ああ。ブラックホールと何も変わらない。それとも太陽かな。まあ、どちらにせよ。人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」

 

「いや──いや、いや、助けて、誰か助けて!わた、わたし、こんなところで死にたくない!だってまだ褒められてない……!誰も、私を認めてくれていないじゃない……!

どうして!?どうしてこんなコトばっかりなの!?誰も私を評価してくれなかった!みんな私を嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……!だってまだ何もしていない!生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに──!」

 

 

その、心の底から響き渡る本音の叫びに、立香とマシュが、カルデアの面々が、苦々しい顔を浮かべ、レフはそれを見て満足気に唸り、オルガマリーがカルデアスに吸い込まれ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――いいや。アンタは、俺のストレンジャーの一人だ。アンタの指示があったから、ストレンジャー(マスター)はここまで来れた、俺を召喚できた。そして何より、頼りないと言っていた俺から商品を買ってくれた客だ。―――だから、俺はアンタを評価する」

 

 

シャーッと言う何かが滑る様な音と共に、オルガマリーの手に何かが巻き付いて引っ掛かり、下へと引っ張られる。それを見て、立香はつい先刻、己のサーヴァントから見せられた商品の一つ、フックショットだと気付いて。

 

 

「死なせるかよ・・・俺の顧客だ!」

 

「貴様・・・があっ!?」

 

 

背後にいたその人物に気付いたレフが再び不可視の衝撃波を放とうとするも、放り投げられていた焼夷手榴弾から放たれた炎で焼かれ、さらにガシャコンというポンプアクションの後に放たれた散弾と衝撃をもろに受け、燃えたままゴロゴロとそれほど急ではない丘を転がり落ちて行く。

 

 

「・・・ディーラー?」

 

「ヒッヒッヒッヒェ。アンタに泣き顔は似合わねえな。気丈に振るまえ、アンタは強いんだから」

 

 

自分を引っ張って抱き寄せ、至近距離でそう言ってきた人物・・・ディーラーに、照れて顔が赤くなるオルガマリー。それを見て安堵の表情を浮かべる立香とマシュ。しかし、それを許さない人物がいた。

 

 

「おのれ・・・何故、生きている貴様!」

 

「何故って言われても困るな。それよりアンタこそ何で生きている。燃えて散弾を喰らったんだ、戦闘員ガナード程度ならこれで絶命するはずなんだがなあ?」

 

「く、は……くはははははははっ!そうだ!残念だったな、使い魔風情が!この程度では私は死なない!そう!私は死なない!そして貴様達はこれから知る地獄と化した世界と残酷な未来に絶望し、苦悩し、自ら死すことになるのだ!」

 

「勝手に決めるなイカレ野郎が」

 

 

ダダダダダダッ!と、シカゴタイプライターの銃撃がレフをハチの巣にしていく。しかしそれでも瞬く間に修復されるレフに、嫌気がさしたのかマインスロアーを取り出しその心臓部を狙う様に発射、同時にハンドガンを撃って着弾して直ぐに爆発させるディーラー。

 

 

「クハハハハハハハッ!無駄だ無駄だ無駄だ!王の寵愛を受けし私に、その程度の攻撃が通じるかあ!」

 

「・・・通じないにしても、奪うぐらいは出来たみたいだぜ」

 

「なに?」

 

 

振り返るレフ。そこには、何時の間にか黄金の水晶体・・・聖杯を回収したマシュが、立香を守る様に立っていた。己の失態に、レフは恥じるよりもまず怒りが頭を支配し憤怒の表情を浮かべる。

 

 

「おのれ!・・・まあいい、私の使命は既に完遂している。これならば我が王もお怒りにはならないだろう。では、さらばだ諸君。私には次の仕事がある。君たちの末路を楽しむのはここまでにしておこう。このまま時空の歪みに飲み込まれるがいい!」

 

「サドラーにも負ける小物だな。ウェスカーを見習えクソが」

 

 

何やら金色の粒子となって消滅し始めるレフに、逃げようとしている事を察したディーラーはすぐさま、オルガマリーの手を握り、語りかける。

 

 

「・・・いい武器があるんだ、ストレンジャー」

 

「・・・渡しなさい」

 

 

ディーラーの言葉に頷いたオルガマリーが受け取ったのは、ピストルクロスボウと専用の矢を数本。ディーラーに導かれるまま矢をセットし、遥か下で立香達に向けて高笑いしている外道へと照準を向ける。

 

 

「ではな、全員仲良く死にたまえ。・・・ああ、良かったじゃないかオルガ。君は最後の時にようやく一人ではなく、皆と死ねるんだ」

 

「ええ、貴方も一緒よレフ!」

 

「なに・・・ギャアアァアアアアアアアアアアアッ!?」

 

 

手始めに放られた閃光手榴弾で目をやられ、彼の意思が必要なのか帰還が一旦停止される。そこ目掛けて、火薬が取り付けられた矢が飛来、視力を一時的に失ったレフの顔面へと直撃。爆発四散するもまた戻る。ならばと、次の矢を番えて構え、トリガーを引くオルガマリー。

 

 

「死ね、死ね、死ね、死ね!私を騙し続けたアンタも、アンタみたいな外道を信じた私も、全部全部吹き飛べぇえええっ!」

 

 

先程の絶望の声とはまた違う、心からの怒りの声が響き渡り、爆発が立て続けに緑の紳士を襲って行く。いくら元に戻るからと言って精神まで無事ではない。もう何度目かという時、何とか元に戻って疲弊しかすれる目で見上げたレフが、「怒らせなければよかった」と後悔しながら見たのは。

 

 

「コイツでとどめだ。しぶとい野郎にはコイツが一番だ」

 

「ええ、そうね・・・!」

 

「・・・おのれ、おのれ、オノレェエエエエエエッ!?」

 

 

無機質な赤いロケット弾頭。彼は知らないだろうが、これはレオンがプラーガの力を解放したサドラーに引導を引き渡した商品、ロケットランチャー(特殊弾)であった。胸に突き刺さり、内側から大爆発を起こして吹き飛ぶレフ。爆炎の後、そこに彼の姿は無かった。

 

 

「やった・・・やったわ、ディーラー・・・」

 

「よくやったぜストレンジャー。後はアンタを助けるだけだな」

 

 

へたれこんだオルガマリーに、リュックを置いて何かを探しながらそう言うディーラー。その言葉に嬉しく感じながらも、オルガマリーは悲しげな笑みを浮かべた。

 

 

「・・・無駄よ。あの聖杯はただの魔力リソース、死人を生き返らせる事は出来ないわ」

 

「俺は顧客を死なせない」

 

「無駄な事はしないで、私は貴方に感謝しているんだから。ロマン、通信を開きなさい。私はこれから死ぬ。だから、カルデア所長としてこれよりスタッフ全員に最後の命令(ラストオーダー)を・・・」

 

「必要ないぜ、ストレンジャー」

 

 

そっと、オルガマリーの髪に何かを取り付けるディーラー。駆け寄ってきた立香がそれを確認すると、水色の宝石が付けられた銀の髪飾りだった。

 

 

「そいつは蛍石の髪飾り。アンタに合いそうなのはそれしかなかったから我慢しろ」

 

「いったい、何を・・・私はもう、死んでいるのよ・・・?」

 

「死にながら生きている連中もいる。大事な物さえ忘れなければ、それはまだ死んでいない。生前の俺の様にな。・・・生きたいか。今からやるのは見よう見まねで成功するかは賭けだ。それでも、アンタが生きたいなら何とかしてやる…俺は武器商人だ、客からの注文(オーダー)には応えるぜストレンジャー」

 

 

そう言う彼に、我慢していた涙を決壊させるオルガマリー。レフとの決着をつけ、自分なりのケジメは付けた。後は責任を果たすだけだったのに、彼の言っている事に・・・心が揺れた。

 

 

「・・・きたい。そりゃあ、生きたいわよ!まだ、私は生きたい!あんな奴に、こんな事で、死にたくない!」

 

「・・・了解だ、オーダーに応えるぜ。――――モリル エス ビビル…モリル エス ビビル…モリル エス ビビル…」

 

 

いきなり、何やら目を瞑り両手を天に掲げて呟き始めるディーラー。しかし、その間にもどんどん特異点が崩れていく。既に、立香とマシュの強制送還は始まっていた。それを見て、覚悟を決めるオルガマリー。

 

 

「ロマニ・アーキマン!貴方に私の後任としてカルデアの全権を任せます。スタッフ全員も聞きなさい。

・・・我々の希望、人類最後のマスターである藤丸立香を全力でサポートしなさい!逃げることも負けることも私の様に死ぬことも許しません。貴方たち一人一人の肩に世界の命運は掛かっている、一人として欠けることなく世界を救いなさい!これが私の、最後の命令(ラスト・オーダー)です!」

 

 

その言葉に、立香の端末映像から何時にも増して真面目な顔を浮かべるドクターロマンは、決意の籠った表情で彼女を見つめ返す。

 

 

『人理継続機関フィニス・カルデア所長、オルガマリー・アニムスフィア。貴女の命令(オーダー)は必ず守ります。…マシュ、立香ちゃん。強制送還する、気を引き締めて…!』

 

 

そのロマンの言葉と共に、光の粒子となって消滅する立香とマシュを見送り、こちらも消えかかっているオルガマリーと共に残されたディーラーは呪文(?)を終え、オルガマリーに向き直る。

 

 

「いいのかい?まだ、助かるかもしれないぜ?」

 

「諦めたわ。私、生きたいけれど…カルデアの所長として最低限の事は成し遂げた。満足よ。…付き合せちゃってごめんね、ディーラー」

 

「なに、俺は死んでもマスターの元に帰れるからな。…それより、何を諦めているんだ?」

 

「え?」

 

 

呆けるオルガマリーの綺麗な髪から、蛍石の髪飾りをそっと引き抜いたディーラーはそれを大事そうにリュックに仕舞い、初めて顔を隠す布を下げて安心させるように笑みを浮かべた。

 

 

「言っただろう。俺の顧客は、死なせないってな」

 

 

そして、オルガマリーは消滅し、共に特異点Fも瓦解。それに巻き込まれ、ディーラーもまた消えて行った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからな?俺は一度、ストレンジャー(レオン)に武器を売買していた所を見つかり邪教徒共に捕まって檻に入れられた事がある」

 

 

何処か安心するガラガラ声を聞きながら目を覚ます。ありえないはずだが、目を覚ます。ここはどこだ?視界に映るは、知っている天井。聞き覚えのある声が隣から聞こえてくる。視線をずらすと、青い炎とオレンジ色の髪と藤色の髪が見えた。

 

 

「その後、何を考えたのか邪悪なる宝玉何て言うお宝と十字架を使って何かの儀式を始めてな。そこを、戻ってきたストレンジャーがロケットランチャーで邪教徒共を吹き飛ばした。爽快だったな。その時聞いた儀式の呪文が、アレだ」

 

「なるほど。何で降霊だって分かったの?」

 

「太古の昔から宝石と儀式を使うんだったら降霊の儀式って相場が決まっているもんだ。あんな不気味な大広間でやるんだ、それなりに重要な儀式だったんだろうよ」

 

「それを、今回蛍石の髪飾りを媒体に所長の霊体を使って再現したと言う訳ですね」

 

「そういうことだ。咄嗟な思いつきで、見よう見まねでもサーヴァントパワーで何とかなる物だな」

 

「世界中のキャスターに怒られるよ…?」

 

「質のいい宝石を売ってご機嫌をとるさ」

 

「それができるのが恐ろしいですねディーラーさんは…」

 

 

と、そこで会話が途切れる。どうやら、自分が目覚めた事に気付いたらしい。顔を上げ、傍にある鏡を見ると、自分の髪に綺麗な宝石の付けられた銀色の髪飾りが付けられている事に気付く。

 

 

「起きたかストレンジャー。ダヴィンチちゃんとやらに仮の肉体を用意してもらい、俺がありったけのグリーン+レッド+イエローハーブを飲ませて命を少しだけ繋げた。悪いな、かっこつけていたところを本当に助けてしまった」

 

「ダ・ヴィンチちゃんさ!彼の規格外っぷりと私の天才っぷりに感謝したまえ!」

 

 

突如自動ドアが開いて入って来た知人の騒がしさに、溜め息が零れる。次に見えたのは、涙を目いっぱいに溜めた少女二人で。

 

 

「…おはよう。藤丸、マシュ」

 

「「…っ、おはようございます、所長!」」

 

 

どうやら自身を救ってくれた彼の様に、生き汚く生き残ったのだとそう実感し、少女二人の抱擁を受け止めるのであった。




「いい武器があるんだ、ストレンジャー(オルガマリー)」

オルガマリー救済ルート。何故か武器商人が捕まっていたノビスタドールからの逃走劇後の出来事を、自己解釈してみました結果です。降霊術にしか見えなかったんだ赦して。今の所長はダ・ヴィンチちゃん製の人形に降霊させただけの状態。髪飾りが媒体です。蛍石の髪飾りなのは単純に似合うかもと思ったため。邪悪なる宝玉よりは、ねえ…?

裏技。イエローハーブで命をちょっと増やす。これは武器商人もできますが元の耐久がアレ過ぎて焼け石に水。原作の描写ってそう言う事だよね…?

オルガマリー、カリスマ発揮。レフ教授フルボッコ。イメージは近付いてくるサドラー人間態にありったけの爆弾矢叩き込むエイダの図。最後の一撃はタイラント。レフの攻撃描写はこれでよかったのか…

オルガ「貴方が後悔するまで爆発させるのをやめない!」
こんな感じでした。なお、爆発四散したレフは魔術王に回収されましたとさ。


次回は閑話です。新たなサーヴァントを召喚してオルレアンに備えます。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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クラス:チェイサーだとよストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも放仮ごです。

次回からオルレアン突入で、今回は閑話的な話になります。半分シリアス半分シリアルです。マシュは出ない上にディーラーも出番少ないですが、代わりに新キャラ登場です。またオリジナルクラスです。楽しんでいただければ幸いです。


何故か暗いカルデア廊下…そこを爆走する二人の少女がいた。

 

 

「な、何よコイツ!何なのよ!」

 

「知りませんよ!?とりあえず、ディーラーが居る場所まで逃げましょう所長!」

 

「落ち着いて令呪使えばいいじゃない!?」

 

「この状況で落ち着けません!」

 

 

立香とオルガマリーである。そんな少女達をのしのしと追いかける巨体があった。巨大な鉈を引き摺り、血塗られた白い袖無しのローブを身に纏い、赤く錆びた歪な多角錐状の大きな兜を被っている二メートル近い異様な姿に、二人は恐怖しさらに走る速度を上げる。意思疎通は不可能、何故なら彼は、召喚した直後に襲い掛かって来たのだから。

 

 

「一体何を呼んだのよ貴方!バーサーカー!?」

 

「え、えっと…」

 

 

走りながら、先程の召喚で手元に現れた金色のセイントグラフを確認する立香。その裏面には巨大な鋏を構えたフードで顔を隠した人物が描かれていた。表記は、chaserとあった。

 

 

「エクストラクラス…チェイサー。真名レッドピラミッドシング、らしいです!」

 

「何でまたエクストラクラスな上に意思疎通も不可能なサーヴァントを呼んでいるのよ貴方は!?」

 

 

ズゥン、と振り下ろされる鉈で揺れる廊下。二人は顔を見合わせ、必死の形相で逃走を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前。無事カルデアに帰還した立香一行。オルガマリーが、「あんなにかっこつけたのにおめおめ帰ってきてしまって恥ずかしい」と唸る事もあったが、全員無事生還した事により歓喜に沸くカルデアの職員たち。七つの特異点が見付かり、それを解決しようと話し合うそんな中、カルデアに召喚されたサーヴァントである絶世の美女、通称ダ・ヴィンチちゃんが提案をしてきた。

 

 

「キャスターと言えどもさすがに私ではマリーの魂を肉体に定着させるのは無理があるからね。キャスターのサーヴァントを召喚してしまえば、ぐっと楽になると思うよ。あ、でもできればクー・フーリン以外が好ましいかな」

 

「それに戦力も必要だ。ここに30個の聖晶石がある。立香ちゃん、召喚して来てくれないかい?」

 

「分かりました」

 

「ああそれと、ディーラー。君の武器について話がある。ちょっといいかな?」

 

「おう。商談かいストレンジャー?稀代の天才レオナルド・ダ・ヴィンチの提案だ。話に乗るぜストレンジャー」

 

「あとで僕のところにも来てもらえるかい?外の世界が焼却された今、君の持つ魚や卵は貴重品だ。これからについて話がしたい」

 

「了解だ、ドクター。また後でな」

 

 

ロマンにそう言ったディーラーがダ・ヴィンチちゃんに付いて行き、少し寂しく思いながらもドクターから渡された大量の石とマシュ、そして見届けると言って付いて来てくれたオルガマリーを引き連れ、召喚部屋へと訪れる立香。

 

 

「じゃあ、さっそく…」

 

「あ」

 

「え」

 

 

ポイッと、手始めに三個放って召喚を行なおうとする立香。それを見て真っ白に固まってしまうオルガマリーに何かミスをしましたか?という目を向ける立香。はっきり言おう、ミスでしかない。

 

 

「ばっかじゃないの!?」

 

「はえ!?」

 

「何のためにロマンが貯蔵されている30個を渡したと思っているのよ!?一度でも大変な召喚を、一度に10回連鎖召喚する事で少しでも強い英霊を呼び出すためなのよ!?単発だなんて、台無しじゃない!」

 

「いやいや。信じていればディーラーみたいにいい人が来てくれますって。10回も召喚できるんでしょう?」

 

「…だといいわね」

 

 

ジトーッと、出現した()()()()がグルグル回ってぺかーっと輝くのを遠い目で眺めるオルガマリー。ああ、ハズレだ。

 

 

「召喚…できました?」

 

「できてないわね」

 

 

光が収まり、魔法陣の中にあったのは人物…ではなかった。生物でも無い。あったのは、麻婆豆腐であった。

 

 

「…何で麻婆?」

 

「これは概念礼装よ。過去の聖杯戦争に関係するアイテムやらが召喚されるの。カルデアの召喚システムはね、そう簡単に英霊を呼べたりできないのよ。だから10連だったのに…」

 

「ゴメンナサイ…麻婆食べます?」

 

「ディーラーにでも食べさせておきなさい。こうなったら仕方ないわ、駄目元で全部召喚するわよ!」

 

 

して、その結果は。

 

 

二回目、何か魔改造されたバイクが。

 

三回目、オルガマリー曰く黒鍵と呼ばれる短剣(赤)が。

 

四回目。キャスター、クー・フーリン召喚。再会の挨拶を終えて、とりあえずマシュの案内でロマンの元に向かってもらう事に。

 

 

「やった!」

 

「そうね。でもお目当ての本場キャスターじゃないし、正直キャスターのクラスじゃ戦力になるか怪しいわ。続けましょう」

 

 

五回目、ライオンの縫いぐるみが。

 

六回目、七回目、黒鍵二つ(青と緑)が。

 

 

「…来ませんね…」

 

「こういうものよ…」

 

 

そして問題の八回目だった。

 

 

「これは、三本線で金色の光…嘘っ、まさか大当たり…!?」

 

「ディーラーみたいな強力な癖のあるサーヴァントが…!?」

 

 

光が消え、期待する二人の前に出現したのは、赤い三角頭の大男であった。

 

 

「…想像していたのと違う」

 

「安心しなさい、私もこんなサーヴァント予想だにもしていなかったわ」

 

「・・・」

 

 

ノシッと歩み寄り、反射的に引いた立香のいた場所へグシャッ、と。叩き付けられる巨大な鉈。それだけで理解する、自分を殺す気だと。

 

 

「え、何で・・・!?」

 

「逃げるわよ、藤丸!?」

 

 

そんなこんなで冒頭へと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「廊下を思いっきり破壊して来ているのに何で誰も来ないんでしょうか!」

 

「知らないわよそんなの!?さっさと落ち着いて令呪でディーラーとかキャスターを呼びなさいよ!」

 

「落ち着けませんしどっちも耐久Eだから死なせたくありません!」

 

「言ってる場合か!?」

 

「まだ二回分あるんで、召喚して見た方がいいのでは!?」

 

「それもそうね、その先に物資倉庫があるからそこで撒くわよ!」

 

 

二挺のハンドガンで鉛弾を脳天に撃ち込み、怯んだところに全速力で走る二人。件の倉庫に逃げ込み、早速召喚をしようとするが召喚部屋でもない事を思いだし、ディーラーを呼んだ時と同じくとにかく自身を助けてくれる英霊をイメージして召喚する事にする立香。

 

 

「誰でもいいから、アーサー王の様に強い英霊来て・・・!」

 

「私を呼んだか、マスター」

 

「へ・・・?」

 

「……召喚に応じ参上した。貴様が私のマスターというヤツか?」

 

 

眩い光が消え、目の前に立っていたのは冬木で相対したばかりである黒い騎士王であった。

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 

突如、目の前の扉を吹き飛ばし、突進してきた少女の一撃を鉈で受け止めるチェイサーのサーヴァント。魔力放出によってその巨体を浮かせたセイバー・・・アルトリア・オルタはそのままエクスカリバーを顔面に叩き付けて転倒させ、その胸に乗ると右掌を三角頭に突き出し、魔力放出を零距離で放射。チェイサーは沈黙し、その動きを停止した。

 

 

「ありがとう、セイバー・・・今はアルトリア・オルタって呼んだ方がいいかな?」

 

「好きに呼べ。ところでコイツだが、貴様たちが共に罪悪感を感じているから呼び出されたのだろう。これは断罪の化身だ」

 

「断罪の化身・・・?」

 

「商人と同じく、通常の聖杯戦争では呼ばれる事の無い英雄でも反英雄でも無い存在。商人は英雄を支えた者なのに対し、コイツは断罪されたかった人間を追い詰めた者、となる」

 

「・・・なんで貴方そんなのばっかり呼んでるの?」

 

「私が知りたいですよ・・・」

 

 

むしろ、物語の「主役」であるアルトリアやクー・フーリンを呼べた方が可笑しいんじゃなかろうかと思い始める。何か、これからもそんなサーヴァントを呼びそうで戦力的に不安になる立香。

 

 

「言って置くが、力づくで止めた所でこいつは絶対に殺せない上に制御不能だ。断罪を求める人間にその鉈を振り下ろすまで止まる事は無いだろう。死にたくなければ令呪で自害でもさせるんだな。さて、最初の命令は果たしたぞ。私は商人の元に向かわせてもらう」

 

「う、うん・・・これからよろしく、セイ・・・アルトリア」

 

「呼びにくいなら他にセイバーが召喚されるまではセイバーでいい。私を失望させてくれるなよ?マスター」

 

 

直感で感じ取ったのか、食堂の方向へと何処か嬉しそうに歩いて去って行くアルトリアオルタを見送り、立香とオルガマリーは顔を見合わせた。

 

 

「・・・取り敢えず助かりましたけど、どうします?」

 

「セイバーが言っていた通り、自害させるべきなんでしょうけど・・・」

 

「貴重な資材で呼び出した戦力ですからね・・・ところで私の罪悪感って・・・多分、ディーラーの事でしょうか・・・」

 

「私は絶対、レフに頼り切ったせいで今回の事故で死なせてしまった人達ね・・・」

 

 

ズーンと、自分達のしでかした「殺人」を後悔している二人の背後で、立ち上がる大男。チェイサーである。それに気付いた立香はすぐさま、迷いながらも手の甲に刻まれた令呪を掲げた。

 

 

「カルデアのマスターが令呪一画を持って命じる!ごめんなさい、お願いだから自害してください!」

 

 

赤い光と共にあまりに身勝手すぎる命令が実行され、チェイサーはその手に血塗られた槍を取り出し、自身の胸を突き刺して沈黙し、消滅した。沈黙が流れ、立香はふと、自身の手に握られたセイントグラフに載っている霊基情報を確認した。

 

 

 

クラス:追跡者(チェイサー)

真名:レッドピラミッドシング

 

ステータス:筋力B 敏捷D+ 耐久C+- 魔力C 幸運E 宝具A

 

・追跡開始A:クラススキル。目標を見定めると敏捷と耐久のステータスが二段階上昇する。

 

・追跡続行A:クラススキル。目標が健在の場合、戦闘不能になっても数分経てば仕切り直しして復活できる。ただし体力は半減。

 

・加虐体質A:戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増していく。性質は狂化スキルに近い。

 

・恐慌の声C:聞くものの精神を弱らせる声を響かせ、対象に精神攻撃を行う。しかし彼は物理攻撃が主体なためランクは低い。

 

・処刑人EX:悪を以て悪を絶つ、究極の裁断行為。属性「悪」に対するダメージが向上するどころが「即死」の域となる。また、そのサーヴァントの行為が悪と見なされた場合でも対象となるが、こちらはダメージ増加のみ。

 

 

宝具:赤い三角頭の処刑執行人(レッドピラミッドシング)

ランク:A

種別:対罪宝具

相手の殺して来た人間の分だけ分身し、現実を直視するまで執拗に追いかけ処刑する。正体が自分の「殺人」の罪だと気付かない限り不死身の存在と化す。逆に、一度も誰も殺していない人間ならば害はないが、ほとんどの英雄にとっては最悪の敵たりえる。特に狂っていて認める事が出来ないバーサーカーには天敵。

 

概要:とある錆びれた湖畔の町にある「霧の日、裁きの後」と言う絵画に描かれた処刑人が断罪の化身として実体化した存在。人間ではなく知性があるかどうかも怪しく、厳密には英霊ですらない。

人理焼却の首謀者の行いに自身の必要性を感じ、召喚に応じた。罪人が目の前にいる場合問答無用で暴れ出すが、潔く罪を自覚し人生を懸けて贖罪しようとする者に対しては忠誠を誓い、手足となって外敵を討つ「精神的な守護者」である。

 

 

 

 

「これ自害させなくてもよかったのでは!?」

 

「あ、本当ね。強過ぎないこれ?」

 

「そんな訳あるか。ストレンジャーには使いこなせないだろうよ」

 

「あ、ディーラー」

 

 

そこにやって来たのは、後ろに何やら焼き魚を頬張っているアルトリアオルタを携えたディーラー。彼女から事情を聞いてやって来たらしく、珍しく呆れた目で二人を見ていた。

 

 

「せっかく助かった命だってのに無駄にするなストレンジャー共」

 

「・・・だって、できるだけディーラーを死なせたくないし・・・」

 

「そんな事言える甘ちゃんだからああいうサーヴァントとは付き合えないんだ。アンタは間違いとはいえ俺を殺した自分を決して許そうとしない。ああいうのには一番合わん。大人しく俺とセイバーとキャスターで満足して置け。普通の聖杯戦争なら過剰戦力って奴だぜストレンジャー」

 

「うん・・・じゃあ、あと一回だけ召喚できるから・・・」

 

 

オルガマリーを引き連れて召喚部屋へ小走りで向かう立香を見送り溜め息を吐くディーラー。

 

 

「懲りないなストレンジャーも。俺達が苦戦した騎士王様と盾の嬢ちゃんがいれば大概の敵に勝てるだろうによ」

 

「それに貴様が入るから百人力だな。だが私達のマスターはとんだ頑固者らしい。ああいう、サーヴァントのために死力を尽くす馬鹿は嫌いじゃないな。ところでお替りだ商人」

 

「ここの職員用にキャスターにありったけの卵と魚をやっといたから食堂で喰いなストレンジャー。案内は助かった。ここはサラザール城より迷いやすい」

 

「礼は受け取って置く。あとで適当に武器を見に行くからよろしく頼んだぞ商人」

 

「へいへい。どうぞご贔屓にお願いするぜストレンジャー」

 

 

そんな会話があったその頃。

 

 

 

 

「あら、ずいぶんと可愛らしいマスターなのね。キャスター、魔女メディア。よろしくお願いするわ」

 

「・・・やった、やりましたよ所長!これで多分、ちゃんと生き返れます!」

 

「そうね、私は屈指の魔術師にして裏切りの魔女にそう無邪気に言える貴女がちょっと恐ろしいわ」

 

 

無事に正統派キャスターが召喚され、イエローハーブで無理矢理生かされていたオルガマリーは延命できたとかなんとか。




題名からネメシスを連想した人、残念。彼はどう考えても味方になってくれなそうなので、限定的に味方になってくれそうな皆のトラウマことレッドピラミッドシング、通称▲様がサイレントヒル2から参戦です。今のところゲストですが、好評だったらオルガマリー関係でまた出します。

チェイサーは他に該当するのはバイオシリーズからネメシスやヴェルデューゴ、クロックタワーシリーズからシザーマンにハンマー男と言った、「一人を執拗に追い回す」と言う別名ストーカーなクラスです。無論、きよひーやブリュンヒルデも該当します。バーサーカーに強く、無駄に堅いのが特徴です。

仲間サーヴァントとしてキャスニキ、セイバーオルタ、メディアが参戦。メディアは基本カルデア待機なので、次回からはディーラー、キャスニキ、セイバーオルタがメインになります。ちなみに某オカンは我がカルデアにいないので、キャスニキとディーラー、あとメディアが食堂を仕切ってます。ディーラーの物資は無限に近いのでカルデアでは本当に貴重な収入源。

次回、バーサークサーヴァントVS武装サーヴァント。オルガマリーと共に行くオルレアンinディーラー。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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第一特異点:邪竜駆逐百年戦争オルレアン
アイアンメイデンは勘弁だストレンジャー


ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも放仮ごです。イベントで心臓を狩りながら徹夜で仕上げました。

今回からオルレアンに突入。序盤なのもあって、原作通りの会話もあり長いです。今の邪ンヌとオルレアンの邪ンヌが違い過ぎて書くのが難しい・・・楽しんでいただければ幸いです。


「・・・え?私に、マスター適正が?」

 

 

第一特異点突入前。今回はカルデアから司令塔として頑張ろうとやる気を出していたオルガマリーは、ロマンから語られた事実に目を丸くした。彼女は元々、マスター適正が無くレイシフトができなかったのであるが、レフが語った通り一度死んだため冬木へと転移ができ、帰れなかったはずがディーラーの手で無理矢理帰還できた。そのため、今回は危険な目に遭わずに済むと思っていた矢先にこれである。いや、昔の自分なら心の底から嬉しいのであろうが。

 

 

「恐らく、彼の降霊儀式の結果なんだと思う。君はもう肉体を持った幽霊みたいな物だから、生前の(しがらみ)に囚われる事は無くなったんじゃないかな。ああ、僕達が全力を持ってサポートさせていただきます!」

 

「・・・貴方にカルデアの全権を渡すって宣言したからそれはいいんだけど、こういう事かしら?私も藤丸とそのサーヴァント達と共にレイシフトして、司令塔として、カルデアの代表として現地の偉い方達と交渉しろと?」

 

「具体的には、皇帝やら王様やら船長やら、立香ちゃんじゃ無礼を働いて関係をこじらせてしまうかもしれない、トップの人間との交渉役だね。なに、もし死に掛けてもディーラーが何とかしてくれるさ」

 

 

にこやかに説明するダ・ヴィンチちゃんにげんなりするオルガマリー。言っている事は分かる、分かるが、もうヘラクレスの様な大英雄と命からがら鬼ごっこするのは沢山なのだ。むしろ何で生きていられたのだろうかと自問するぐらいだ。

 

 

「笑えない冗談ねレオナルド・・・」

 

「実際、彼の装備は凄まじいよ?どんな原理か傷も体力も死んでいなければ必ず全回復してくれる「救急スプレー」に、君の命を繋げたハーブ各種類・・・体力、傷に微々たる回復を齎す緑ハーブ、緑と調合するとその回復力を救急スプレー並みに上げる赤ハーブ、体力を上昇させる黄色ハーブ、どんな猛毒でも解毒してしまう青ハーブ・・・これだけあれば、そう簡単に死なないよ?」

 

「武器だけでも規格外なのになにそれ・・・というか、チェイサーから逃げても息切れしなかった理由ってその黄色ハーブのせいか。ちなみに、マスター適正があるのなら私にもボディーガードのサーヴァントが呼べるのかしら?」

 

「呼べるだろうけど、もう石はすっからかんだよ。立香ちゃんが全部使いきってしまったからね」

 

「藤丸ゥウウウウウウウッ!」

 

 

思わず叫んで件の彼女をぶん殴りに全力疾走したのは言うまでも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一特異点オルレアン。百年戦争が終決した15世紀のフランスにてばったりと出くわした兵士をディーラーがナイフの早抜きで脅したところ、ジャンヌ・ダルクが悪魔と取引して復活し「竜の魔女」としてフランスに復讐を始めたとの事。

それが今回の異変だと断定したオルガマリーの指示で、竜の魔女が操りフランスの砦に襲い来るワイバーンの群れを撃退する事になったカルデア一行。

 

 

「・・・あんなので厄介だとかふざけてんのか?」

 

 

何故か旗を手にワイバーンに殴りかかる女性サーヴァントに加勢し、マシュが盾で殴り、セイバーがエクスカリバーで首を斬り、キャスターが燃やして一体ずつ応戦する中、前回の戦いから愛用品となったピストルクロスボウを手にワイバーンを妨害するオルガマリーの後ろで、ジーッとワイバーン達の挙動を観察していたディーラーの第一声がこれであった。何故かブチ切れていた。

 

 

「お前らみたいな時代遅れのトカゲが人類史脅かすな、ハンターに比べれば圧倒的にポテンシャル不足だ!」

 

 

この場の誰もが理解できない言葉と共に、シカゴタイプライターが瞬く間に駆逐して行く。その光景は、圧巻の一言。空が飛べると言う優位性の為セイバーですら苦戦していた難敵が、悲痛の断末魔を上げて次々とカトンボの様に落ちて行く様に絶句する面々。サーヴァントでもないと勝負にすらならないらしい。

 

 

「とどめだ、Die(死ね)!」

 

 

何時もより荒々しい台詞と共に、無限ロケランが砦ごとワイバーン五体を纏めて粉砕する。堪らず、ワイバーン相手に応戦していた旗のサーヴァント、調停者(ルーラー)のジャンヌ・ダルクと共に魔女・悪魔認定されたカルデア一行はすごすご森の中へと逃げ出した。

 

 

「ディーラー!なに、現地人の砦ごとエネミーを殲滅しているのよ!シカゴタイプライターだけで十分だったじゃない!」

 

「ムカついた。あんな低性能が勝っているとか気に喰わん」

 

「いや、ディーラーのは現代でもそう類を見ない高性能だから・・・ところでハンターって何?」

 

「マインスロアーの設計図を手に入れるため潜り込んだ研究所で俺を追い詰めた生物兵器だ。人間の遺伝子に爬虫類の遺伝子を埋め込み、堅牢な皮膚と身体能力を持ち、単純な命令に従い標的の首を狩って即死させる。未完成だったが透明にもなれる個体もいた、あんな空飛んで火を吐くだけのトカゲとは比べ物にならん」

 

「比べる方が可哀相だよ!?」

 

 

無駄に万能な上に殺傷能力の高い現代の生物兵器と比べられ逆ギレされたワイバーン達に思わず同情する立香。今更ではあるがこの武器(サーヴァント)、取扱い注意であった。

 

 

「あ、あのー・・・よろしいでしょうか?」

 

「あ、はい。事情説明をお願いしますジャンヌさん」

 

 

道すがら、ジャンヌ・ダルクはルーラーとして現界したが何故か弱っており、ルーラーに本来与えられる聖杯戦争の知識が無く、ステータスがランクダウンし真名看破や対サーヴァント用の令呪も使えないと言う事までは聞いていた立香が快く続きを促した。オルガマリーは未だに憤慨していた。

 

 

「分かりました。私も数時間前に現界したばかりで詳細は定かではないのですが、どうやらこちらの世界にはもう一人、ジャンヌ・ダルクがいる様なんです。フランス王シャルル七世を殺し、オルレアンにて大虐殺を行なったと言う竜の魔女と呼ばれるジャンヌ・ダルクが・・・」

 

「なんだ、別個体が勝手に暴走したのか?」

 

「別個体・・・?いえ、同時代に同じサーヴァントが召喚された、と考えるのが妥当かと・・・」

 

「そうか、忘れてくれ」

 

 

意味深な事を言ったディーラーにセイバーオルタ以外が疑問符を浮かべるが、通信でロマンが会話に入り、彼等にフランスと言う国家の崩壊=文明が停滞する可能性が説明された。人間の自由と平等を謳った最初の国は、それだけで多くの国に影響を与えたのだ。

 

 

「だったら話は簡単だな。ロス・イルミナドスの奴等をぶっ潰したストレンジャー(レオン・S・ケネディ)と同じように、完全に壊される前に元凶を倒す。そしてその原因はもう一人のジャンヌ・ダルク。恐らくはそこの騎士王様と同じように反転しているんだろうぜ。この聖女様がそんな残酷な事が出来るとは思えん」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「だろうな。恐らくは私と同じオルタだろう。だが、ワイバーンの群れを召喚すると言う現代の魔術師でも不可能な力・・・恐らく聖杯も持っているルーラーだとしたら、本当に強敵だぞ商人。何か手はあるか?」

 

「見た所この聖女様には機動力が無いと見える。ロケランで一発だ。ワイバーンの群れが居ようが関係ない、首魁を叩けばどんな強敵が居ようと解決できるぜストレンジャー」

 

「相手が女性でも容赦ないんだ・・・」

 

 

そんなこんなで、ジャンヌにカルデアの説明をし、世界が焼却された事をオルガマリーとロマンから説明され、ジャンヌと共にオルレアンに向かい奪回、その障害であるジャンヌ・ダルクを排除する事が決まり、情報収集に訪れた街、命が全て燃え尽きたラ・シャリテで生きる屍(リビングデッド)と遭遇、ディーラーが一人で迎え撃った。

 

 

「・・・ゾンビか。死なせてやるよ、それがアンタ等にできる唯一の商売だ。手を出すなよストレンジャー共」

 

「うん、任せた。私達はワイバーンを!死体を喰うなんてこと、させちゃいけない!」

 

「了解です、マスター!」

 

 

ディーラーがハンドガンだけでリビングデッドを撃ち殺し、その側でマシュが攻撃を防ぎ、クー・フーリンが炎で怯ませたところにジャンヌが打撃で動きを止め、セイバーオルタが一撃でとどめを刺すと言うコンビネーションでワイバーンを駆逐して行くカルデア一行。

それを見て、オルガマリーはディーラーによる「役割分担」の授業が成果を出していると実感した。

 

 

「・・・身の程を知って、できる事をやる、か。この時代で私ができる事は・・・・・・ッ!ロマン、索敵!」

 

『はい?・・・待った!先程、この街を去って行ったサーヴァント反応が反転した!君達の存在を察知したらしい!どうして分かったんですか、所長!?』

 

「・・・レフの時と同じよ。嫌な感じが、いや、殺気を感じたの。それより数は?」

 

『冗談だと思いたいけど数は五騎!速度が迅い・・・これは、ライダーか何かか!?どうします、所長!このままでは、ばったり出くわします!三十六計逃げましょう!誰だって逃げますよ!一人でも災害なサーヴァントが五騎とか冗談じゃない!』

 

「落ち着きなさいロマニ・アーキマン。サーヴァントの数は辛うじて同じか。臨戦態勢よ、藤丸!ディーラー、ジャンヌにも使えそうな武装を渡しなさい!」

 

 

冬木の時とは大違いに的確な状況判断と指示を出すオルガマリーに驚きが隠せない様であるカルデア待機組を無視し、彼女の命令に頷いたディーラーはリュックから、自らが使いこなせないがこの時代の人間にとっては扱いやすいであろうそれを取り出した。

 

 

「ヒッヒッヒッヒェ。聖女さん、アンタ弓は使えるかい?うちの陣営は弓兵不足でなぁ・・・」

 

「い、一応・・・ジル達から護身程度には教わっていますが・・・?」

 

「弱っている今、旗で殴るよりは遠距離の方が適切だと俺は思うぜ、どうだこのコンパウンドボウは・・・?」

 

「あ、はい。確かに今の私は弱いので、ありがたく使わせていただきます」

 

 

折りたためる弓と、矢束の入った矢筒。時限爆弾式のもあるが彼女は運用を間違えて自爆してしまいそうなので通常の、静かだが高威力の矢である。ガナード程度なら頭部に当てれば一撃で殺せる凄まじい代物だ。使いこなすには人並み以上の筋力が必要だが、サーヴァントの筋力Eでも人知を超えた怪力なので問題は無いだろうと判断する。

 

 

「私もオルガマリーさんの案には賛成です。せめて真意を問い質さなければ、私は逃げられません・・・!」

 

「いい根性だ。アンタはストレンジャー二人(マスターと所長)と一緒に後衛を頼む。キャスター、今度は急造品じゃなくみっちり一日かけて作った槍を用意した。至高のロッドを改造し、文献のゲイボルクとやらを参考にしたから前のよりは使いやすいはずだ」

 

「おう!恩に着るぜディーラー!こいつでランサー相手に苦戦しなくて済むぜ!」

 

「冬木で苦戦したんだねキャスター・・・」

 

 

ディーラーがマインスロアーとハンドガン・パニッシャーを構え、立香とオルガマリーもワイバーン襲撃に備えるべくそれぞれのハンドガンをコンパウンドボウを持つジャンヌの傍で構え、マシンピストルを腰に付けたホルダーに下げたマシュは己の盾を構え直し、セイバーはエクスカリバーを風の鞘で隠して気に入ったらしいハンドガン・レッド9を取り出し、キャスターはディーラーから投げ渡された色は金色だが己の槍に限りなく近い(言うなれば金色のプロトクー・フーリンの)槍を握り、それぞれが臨戦態勢で構える。そして現れたのは、

 

 

「ねえ、お願い!誰か私の頭に水をかけてちょうだい。不味いの、ヤバいの、本気で可笑しくなりそうなの!だってそれぐらいしないと、あんまりにも滑稽で笑い死んでしまいそうなのよ!」

 

 

表情が卑しく歪み、白く染まった髪と肌を持った、黒いジャンヌ・ダルクだった。

 

 

「ほら、見なさいよジル!あの哀れな小娘を!ああ、本当・・・こんな小娘(ワタシ)に縋るしかなかった国とか、鼠の国にも劣るちっぽけな物なのね!ねえジル、貴方もそう・・・って、そっか。ジルは連れて来てなかったわね」

 

「貴女は・・・貴女は、誰ですか!?」

 

「それはこちらの質問ですが・・・そうですね、上に立つ者として答えてあげましょう。私はジャンヌ・ダルク。甦った救国の聖女ですよ、もう一人の"私”」

 

 

白ジャンヌの問いに、呆れたと言う表情で返す黒ジャンヌ。

 

 

「・・・馬鹿げたことを。貴女は聖女ではない、私がそうでない様に。いえ、それはもう過ぎた事・・・語る事は無い。それよりも、この街を襲ったのは何故ですか?」

 

「何故かって、同じジャンヌ・ダルクなら理解していると思いましたが見当違いの様ね。属性が変転しているとこんなにも鈍いのでしょうか?馬鹿馬鹿しい問いかけです。そんな物、明白でしょう?この街を襲った理由なんて決まっている、ただ単にフランスを滅ぼすためです。私、サーヴァントですもの?政治的にとか経済的にとか回りくどくて仕方ない。物理的に全部壊し崩し潰す方が確実で簡潔でしょう?」

 

「馬鹿な事を・・・!」

 

「馬鹿な事?愚かなのは私達でしょう、ジャンヌ・ダルク。何故、こんな国を救おうと思ったのか。何故、こんな愚者たちを救おうと思ったのか。裏切り、唾を吐いた人間達と知りながら!・・・私はもう騙されない。もう裏切りを許さない。そもそも、(しゅ)の声なんて聞こえない。主の声が聞こえないと言う事は、主はこの国に愛想をつかしたという事でしょう。

だから滅ぼします。主の嘆きを私が代行します。全ての悪しき種を根本から刈り取ります。人類種が存続する限り、この憎悪は収まらない。このフランスを沈黙する死者の国に作り替える。それが死を迎えて成長し、新たな姿になった私の、ジャンヌ・ダルクの救国方法です。

 

まあ、貴女には理解できないでしょうね。何時までも聖人気取りで、憎しみも喜びも見ないフリをして、人間的成長をまったくしなくなったお綺麗な聖処女様には!」

 

 

「阿呆か黒聖女。正常なのはむしろこの白い聖女だぞ」

 

「・・・なんですって?」

 

 

オルガマリーも立香も、口出しできなかった黒ジャンヌの言葉に、物申したのはディーラーであった。どこか呆れており、馬鹿でも見るような目を黒ジャンヌに向けていた。

 

 

「サーヴァントは成長なんざしないんだよ。霊格アップできて関の山だ。反転したところでそれは変わらない、現にそこの騎士王は人間性は変わらなかったぞ」

 

「お前は私の何を知っているんだ」

 

「知らんが、あの時点でアンタがいい奴なのは知っていた。まあつまりだ、「成長」をしたって言うんならそれじゃあもうジャンヌ・ダルクじゃない。別物って事だ。正確には改造、変革だろうな。何者かにより記憶を改竄されたか、もしくはそう作られたか・・・アンタに聞いても分からんか」

 

「・・・耳障りな蠅ね、殺すわよ」

 

「ディーラー!」

 

「そんなっ・・・」

 

 

 

黒ジャンヌの一睨みで黒衣が燃え上がり、一瞬で炎に包まれて黒焦げで倒れるディーラー。思わず立香が叫び、ジャンヌが声にならない声を上げて安否を確かめるが、やはりと言うか死んでいた。武器商人はよく燃えるのである。それを見て、「プッ」と噴き出した黒ジャンヌはそのまま高らかに笑い出す。

 

 

「アハハハハハハッ!死んだ死んだ、あっけなく死んだ!こんなにも弱いのに口を出すなんて、何て馬鹿な奴!意味不明な事を喚くからよ、愚図め!」

 

「・・・貴女は本当に"私”なのですか・・・?」

 

「呆れた、呆れたわ!ここまで分かりやすく演じてあげたのに、まだそんな疑問を持つなんて!なんて醜い正義!この憤怒を理解できないのではなく、理解する気さえない!ですが私は理解しました、今の貴女の姿で私と言う英霊の全てを思い知った。

貴女はルーラーでも無ければジャンヌ・ダルクでも無い!私が捨てたただの残り滓にすぎない!貴女には何の価値も無い、ただ過ちを犯すために歴史を再現しようとする性質の悪い亡霊に他ならない」

 

 

そう言って手を上げる黒ジャンヌ。それを合図に、霊体化を解いて二体のサーヴァントが彼女の前に現れる。槍を構えた漆黒の貴族服を着た壮年の男性と、赤と黒の露出の激しいドレスと蝙蝠を模した仮面を身に着けた白髪の女性であった。

 

 

「バーサーク・ランサー。バーサーク・アサシン。その田舎娘と、そこのおまけを始末しなさい。雑魚ばかりで飽きてきただろうけど喜びなさい、彼等は強者です。今無残にも消えて・・・・・・・・・死んで行った男よりは間違いなく強い。特にそこの黒い女は気に入らない」

 

 

今だに死体を残しているディーラーに違和感を覚えながらも、セイバーオルタを睨みながら言葉を紡ぐ黒ジャンヌ。

 

 

「私が召喚したサーヴァントの中でも、貴方達は一際血に餓えた怪物です。勇者を平らげる事こそが貴方達の存在意義、存分に貪りなさい」

 

「よろしい。では、私は血を戴こう」

 

「いけませんわ王様。私は彼女達の血と肉、そして腸を戴きたいのだもの。そこの男は好きにしてくれて結構ですわ」

 

「強欲だな、五人も取るか。では魂は?魂はどちらが戴く?」

 

「魂なんて何の益にもなりません。名誉や誇りでこの美貌を保てると思っていて?」

 

「よろしい。では私が魂を戴こう!」

 

「私より美しい者は許さない。いいえ、それよりも・・・私より美しい者の血は、どれほど私を美しくしてくれるのかしら?ああ、新鮮な果実を潰すのが楽しいわ。果肉は捨てて汁だけ嗜む・・・これこそが夜の貴族の特権。私の宝具で一滴残らず絞り出してあげましょう!」

 

「・・・血、夜の貴族、美貌・・・バーサーク・アサシンと呼ばれたこの女サーヴァントの真名は恐らくエリザベート・バートリー・・・吸血鬼カーミラ!

そしてもう一人は、"悪魔(ドラクル)”と謳われ吸血鬼の発祥となった串刺し公、ルーマニア最大の英雄、ヴラド三世だと思われるわ!」

 

 

二人の発言から、真名を見抜いたオルガマリーの言葉に、バーサーク・ランサー・・・ヴラド三世の表情がこわばった。

 

 

「人前で我が真名を露わにするとはな。不愉快だ、実に不愉快だ小娘」

 

「いいではありませんか。悪名であれ人々に忘れられないのであれば、私はそちらを選びます。それに私はアサシンなどと呼ばれるよりも真名で謳われる方が好みです。恐怖と絶望、そのスパイスに仄かな希望。何時だって一番いい声で啼くのは、「これで逃げられる」と思い込んだ子リスたちなのですから。そちらが数で上回っていても勝てるとは思わない事よ!」

 

「来ます、先輩・・・戦闘を開始します!」

 

 

ジャンヌの援護を受けたクー・フーリンがヴラド三世と。セイバーオルタとマシュがバーサーク・アサシン・・・カーミラと。それぞれぶつかる中・・・立香が指示を出す中、オルガマリーは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。出てきた奴は共に吸血鬼か。竜の魔女と言うだけあって竜に関係あるサーヴァントを召喚したのか。だとしたら他にドラゴンスレイヤー・・・ジークフリートとかも喚んでいるかもしれないな」

 

 

燃やされた直後、ラ・シャリテの外壁にて復活したディーラーは、小鍋に火をかけて純銀をゆっくりと溶かしながらオルガマリーと念話を繋げる。例外的に、立香とオルガマリーによって召喚された彼は、マスターは立香であるが二人にパスを繋げることができ、念話をする事が出来るのである。

 

 

『恐らくライダーは聖女マルタね。タラスクって言う悪竜なら五体ものサーヴァントを乗せて高速で移動できても可笑しくないわ。ジャンヌ・ダルク、ヴラド三世、吸血鬼カーミラ。反応にあった五体のうち四名まで真名が分かったのはいいけど、あと一体がアーチャーだとしたら厄介ね・・・弱点を作るのにどれぐらいかかる?』

 

「無茶言うな。早くて半日だ、今回は撃退するしかないぜストレンジャー。それと、双眼鏡で待機しているサーヴァントを確認した。いかにもな聖女と、男か女かも分からない剣士だったぜ」

 

『男か女か分からない・・・?恐らくフランスの竜騎兵連隊長、シュヴァリエ・デオンね。ナイスよディーラー、これで敵の戦力が分かった。あとはどう撃退して逃げるかだけど・・・』

 

「それなら、おあつらえ向きなのが来たようだ。俺は死んでいると思わせた方が後々便利そうだから、ストレンジャー(マスター)にはよろしく言って置いてくれ」

 

 

そう言って念話を一方的に切るディーラー。その目にはガラスの馬車(?)に乗ってこちらに向かってくる二体のサーヴァントが映り、そして脳裏には先程確認した女性サーヴァント、カーミラの逸話が過る。

 

 

「よりにもよって吸血鬼カーミラか・・・アイアンメイデンは勘弁してくれ、本当に」

 

 

身震いするディーラー。その脳裏に甦るのは、拷問器具の名を付けられるぐらい全身に棘を生やした異形の女性クリーチャーであった。

 




燃えたディーラーに純粋に驚くジャンヌと、キレる立香の違いである。

邪ンヌに瞬殺されたディーラー。レフやバーサーカーの時もそうですが、強敵に相対するとあっさり死ぬのが今作の彼です。序盤のワイバーンに対しての理不尽な逆ギレは、彼がマインスロアー(実物もしくは設計図)を手に入れる際に研究所に侵入したのではないかと言う仮説もしくは妄想の産物。何でアンブレラ製の銃を武器商人は持っていたのか永遠に謎。
ハンター系統に比べればワイバーンなんて怖くない。本気でリベレの飛行場籠城戦のファルファレロに何度殺されたか分からない私です。

弓装備ジャンヌと、レッド9装備セイバーオルタ、マシンピストル装備のマシュ、至高のロッド改造プロトゲイボルク装備のクー・フーリン。個性が分かる武装です。

(実際に)死んだふりして戦線離脱し偵察共に物資を整えるディーラー。これはオルガマリーのアイデア。立香の進言で不意打ちで死んだ場合に限ります。わざと死ぬのは許さない。
マスター適正に真名看破、殺気感知に適切な状況判断とオルガマリーは地味に優秀になってます。ディーラーレクチャーのおかげです。戦闘を補助する重要性はしっかり学んでます。

カーミラさんとバイオ4で連想するのはやっぱりアレ。僕は某アイドルよりはまだ好きです。某アイドルはビチビチ跳ねて噛み付いてくるから嫌いだ・・・

次回はもう一人のマリー合流。VS竜を鎮めた聖女になると思います。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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・・・なけるぜ、ストレンジャー

お気に入り数400、UA20000突破!バカな、早過ぎる・・・?それはそうと、初めて低評価をいただきましたが、できればどこが至らなかったかちゃんと書いて欲しいです。意味も分からず低評価をもらうとモチベーションも下がるのでお願いします。

今回はディーラーがひたすら不運な回。楽しんでいただければ幸いです。


ディーラーがいなくなったカルデア一行とバーサーク・サーヴァント二名の対決は一方的なものとなっていた。

 

セイバーオルタの振るうエクスカリバーを杖で弾き返し、マシュの構えた盾を蹴りつけて吹き飛ばすと、杖から鎖に繋がれた巨大な棺の様なモノ・・・アイアンメイデン(拷問器具)を振り回し、セイバーオルタに強烈な一撃を浴びせ、そのままマシュにぶつけて転倒させるカーミラ。

クー・フーリンの槍を易々と受け流し、ジャンヌの放った矢を紙一重で躱し、地面に突き刺した槍から地面に生えた血の槍を多数伸ばして二人を追い詰めるヴラド三世。

 

 

「当たらなければどうという事も無いわ」

 

「この程度、見切る事など造作もない」

 

 

時折セイバーオルタとマシュの放つ弾丸とジャンヌの放つ矢は完全に見切られてしまっており、光弾と血の槍でお返しされる始末だ。

狂化された事による筋力と敏捷、魔力を使いこなす二体に、追い詰められるカルデアのサーヴァント達。連携している訳でもないのに強過ぎる相手・・・元より、バーサーカーとは理性を失う「狂化」と引き換えに上昇したステータスを持つクラス。その特性を別のクラスでも扱えるようにしたのだ、ヘラクレスには劣るものの圧倒的な強さに、立香とオルガマリーは怯んでしまう。

 

 

「こんなものかしら。そろそろ乙女の血を戴くわ・・・せいぜい絶望を謳って頂戴」

 

「そうだな。幾千幾万の血を流し、そして余に捧げよ。その血、その命を」

 

 

溢れる魔力。構えられる武器に、宝具発動を予感しマシュに宝具を指示する立香。そして。

 

 

「血に塗れた我が人生をここに捧げようぞ。血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)!」

 

「宝具、展開します・・・!疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!」

 

 

ヴラド三世の胸から放出した大量の杭の波が襲い掛かり、それを盾と魔法陣で受け止め、弾き飛ばすマシュ。しかしその背後から、鎖に繋がれた乙女を模した鉄の箱が開いて内部の針の山を露出させながら襲い掛かっていて。

 

 

「全ては幻想の内……けれど少女はこの箱に……幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)!」

 

「マシュ!・・・スキル発動!緊急回避!」

 

 

それは、立香が咄嗟に発動させたカルデア礼装のマスタースキルにより空振りに終わった。

 

 

「ちっ・・・正規のマスターがいるサーヴァントは面倒この上ないわね」

 

「つ、強い・・・!」

 

「やっぱりカルデアの召喚システムじゃ騎士王の霊基でもかなり弱体化するのね・・・」

 

「皆さん!私が時間を稼ぎます、逃げてください!」

 

 

敵の強さに戦慄し策を考える立香と、相手との戦力差に半ば絶望しているオルガマリーを隣に見て、ジャンヌは決意の宿った目で旗を握り、コンパウンドボウと矢束を立香に渡してから腰に下げた剣の柄を握り突進する。立香は彼女が宝具を使い、己を犠牲にして自分達を逃がそうとしている事に気付き手を伸ばして止めようとするも届かない。万事休すか、と懐から取り出した閃光手榴弾を投げて撤退しようとしたその時・・・!

 

 

「―――優雅ではありません。この街の有様も、その戦い方も、思想も主義もよろしくないわ。そしてこの助太刀の仕方も。でも嬉しいわ、これが正義の味方として名乗りをあげる、と言うものなのね!」

 

「・・・ガラスの、薔薇?」

 

「危ないマスター!」

 

 

突如、舞い降りてきた透明の花びらに気を取られたジャンヌ・オルタを襲う凶弾を、目の前に出現して斬り飛ばす少女の様に剣士のサーヴァント、バーサーク・セイバー・・・シュヴァリエ・デオンの参戦と共に、それ・・・ガラスの馬に引かれたガラスの馬車はヴラド三世とカーミラを轢き飛ばしながら止まり、立香達の前で扉を開いて中へと誘う声の主。それを見て、驚愕の表情を浮かべたのはバーサーク・セイバーだった。

 

 

「貴女、は・・・!」

 

「まあ。私の真名()をご存じなのかしら?それよりも皆さん、ディーラー・・・さん?の頼みで助太刀に参りました。早くお乗りになって、逃げましょう」

 

「あ、はい!」

 

 

ディーラーの名を聞いた途端、疑いもせず満面の笑みを浮かべた立香を先頭にカルデア一行はガラスの馬車に乗り込み、その場を立ち去ろうとする。それを追おうとするヴラド三世とカーミラであったが・・・

 

 

「黒いジャンヌ・ダルク。貴女は世界の敵でしょう?では、何はともあれ・・・まずは貴女達が殺めた人々への鎮魂が必要不可欠。お待たせしました、アマデウス。落ちない様にしながら機械みたいにウィーンとやっちゃって!」

 

「任せたまえ。宝具、死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!」

 

「それではごきげんよう皆様。時間があれば、もっとお話ししたかったわ!オ・ルヴォワール!」

 

 

馬車の屋根の上に現れた、アマデウスと呼ばれた金髪の男性が放った宝具による壮麗で邪悪な音による重圧が二人を推し止め、その間にガラスの馬車はラ・シャリテから逃げて行った。

 

 

「ちっ。バーサーク・ライダー!追いなさい、貴女の"馬”なら追い付けるでしょう。戦う必要はありません、居場所を報告してくれれば一気に叩き潰しますから。もし戦闘になっても貴女の宝具なら確実に殲滅できましょう」

 

「・・・了解。追い付いてみせるわ」

 

 

現れるや否やそう言って去って行くバーサーク・ライダーを見送り、ジャンヌ・オルタはバーサーク・セイバーに問いかける。

 

 

「バーサーク・セイバー。知っているなら答えなさい、彼女は何者?」

 

「・・・狂化の熱に浮かされていても彼女の美しさは忘れない。ヴェルサイユの華と謳われた少女・・・彼女は、マリー・アントワネット。彼女と共にいたろくでなしはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトかと」

 

「・・・そう。フランスでの知名度は圧倒的、もしかしたら私の知名度さえ超えるだろう難敵ですね。念には念を入れます、私はオルレアンに帰還して新たなサーヴァントの召喚に掛かります。貴方達は好きに暴れなさい。彼らと運良く遭遇したのなら蹴散らしてもいい。まさか、宮殿で愛でられていた妃如きに遅れを取る貴方達ではありませんよね?」

 

 

その言葉に、それぞれでいがみ合いながらも頷くバーサーク・サーヴァント達。それを見てジャンヌ・オルタは満足気に嗤い、ワイバーンに飛び乗り彼らを見下ろしながら言葉を続ける。

 

 

「後は任せました。好きに行動しろ、とは言いましたがあまり羽目を外さない様に。反英霊にも礼節はあります。ただの殺人鬼に落ちないよう、気を付けなさい」

 

 

そして飛び去って行くジャンヌ・オルタを見送り、彼等もまたラ・シャリテから去って行く。その様子を、一人の男が見ていた事に気付かないまま。

 

 

 

「・・・霊基が弱いのもいい物だな。至近距離でも気付かれないとは。元々敵地のど真ん中で構えるのは得意だがね。ヒッヒッヒッヒェ。さて、ストレンジャーに情報も送った事だし、俺も合流するとしますかね」

 

「特異な英霊なのね、貴方。うっかり騙されてしまう所だったわ」

 

「Arr・・・アイアンメイデンは勘弁してくれストレンジャー」

 

 

しかし、気配遮断を持つクラス故か去り際に気付いたバーサーク・アサシンに見つかり、先程マシュを捉え損ねた宝具の餌食となって命を散らすディーラーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラスの馬車が逃げたジュラの森にて。

 

 

「何か言う事は?」

 

「・・・・・・・・・そこのお二方、いい武器があるんだ。ヒッヒッヒッヒェ・・・」

 

「そこで反省してなさい!」

 

「今回逃げれたのは俺の功績だろう、勘弁してくれストレンジャー・・・」

 

 

地面の上に正座をし、罰としてマシュの盾を背負わされたディーラーを尻目に、助けてくれたライダーのサーヴァント、マリーとキャスターのサーヴァント、アマデウスに立香達はお礼をし、聖杯戦争における異常事態によるバグの為、自分達の他にも野良サーヴァントが召喚されている可能性を聞いて、一先ず戦力を増やす方針にしたカルデア一行。今の戦力でも本来ならば十分だろうが、カルデア召喚の影響で半ば弱体化しているクー・フーリンとセイバーオルタだけでは足りない、という判断だ。

 

 

「ここは霊脈なので、サークルを設立して物資を補充するついでに英霊召喚をしてみるのはどうでしょうか、先輩!」

 

『う~ん、残念ながらそれは無理だね。彼女、倉庫にあった石全部どころか、私のショップの石も買い占めて無駄に使って、石がすっからかんなんだよ。オルガが購入していけばよかったんだけどねぇ』

 

「今の戦力で十分だと過信した私のミスです、まさかここまで弱体化しているなんて・・・」

 

「すみません所長、私はただ、ディーラーの負担を減らしたかっただけなんです・・・」

 

『ごめんなさいね。せっかく召喚できた私があまり戦力にならないで。今の霊基だと私の魔術は心許無いし、何より竜種にはあまり魔術は通じないし、こればかりはしょうがないわ』

 

「いえ、メディアさんは所長を生き返らせて(?)くれただけで・・・」

 

「なあストレンジャー。俺は何時までこうしていればいい?」

 

「夜通し」

 

「なん・・・だと・・・?」

 

「私、怒っているんだからね。また二回も死んで!死なない努力をしなさい!」

 

「泣けるぜ・・・」

 

 

ブチ切れた立香の言葉に本気で落ち込むディーラーを放って置き、ジャンヌとマリーが友情を築いたり、オルガマリーがマリーと自分の名が紛らわしいとぼやいたり、一先ずの休息を得て。野営をする事になったその夜。異変が起きた。それに気付いたのは、やはりと言うかオルガマリーであった。

 

 

「ロマン、索敵!」

 

『所長、何時にも増して頼もしくないかい?何はともあれ、敵襲だ皆!複数の生命体・・・ワイバーンの群れに、サーヴァント反応!これは、ラ・シャリテで唯一直接確認できなかった反応だ!』

 

「みんな、戦闘準備!ディーラーも!」

 

「この鬱憤、ワイバーン共で晴らしてやる・・・!」

 

「・・・なんか、ごめんね?」

 

 

駆逐が始まる。所構わずマインスロアーで誘爆して纏めて撃墜し、そこにシカゴタイプライターを死ぬまで撃ち続けると言う鬼畜な戦法でワイバーンが一掃され、マリーでさえも引き気味な面々の前に、彼女は現れた。

 

 

「バーサーク・ライダー・・・聖女マルタね!」

 

「こんばんは、皆様。寂しい夜かと思いましたが、・・・地獄絵図ですね」

 

「それは気にしないでもらえると・・・」

 

「・・・はい。私は貴方達を追ってきました。聖女たらんと己を戒めていたのに、此方の世界では壊れた少女の使いっ走りです。我々は彼女のせいで理性が消し飛んで凶暴化しています。実は監視が役割だったのだけど。最後に残った理性が、貴方達を試すべきだと囁いている」

 

 

バーサーク・ライダー・・・マルタは、十字架を模した杖を握り直し、真剣な表情で立香を、ジャンヌを、オルガマリーを見詰めた。単なる敵ではないと、冬木の時のセイバーオルタと同じ様な敵だと彼女達は察する事が出来た。

 

 

「貴方達の前に立ちはだかるのは"竜の魔女”、究極の竜種に騎乗する、災厄の結晶。私如きを乗り越えられなければ、彼女を打ち倒せるはずはない。例え、不死身のサーヴァントが居ようとも」

 

 

睨みつけるは、やはりというかディーラー。やはり、相容れないものがあるらしい。特に彼は、邪教集団の狂気の末路の形である。聖女からしたら不快感しかないだろう。でも、だからこそ躊躇なく狂気へと身を委ねる事が出来るらしい。彼女は杖を握る手とは別に、拳を握っていた。

 

 

「私を倒しなさい。躊躇なく、この胸に刃を突き立てなさい、凶弾で貫きなさい。其方の女性に看破されましたが、我が真名()はマルタ。ただのマルタ。さあ出番よ、大鉄甲竜タラスク!」

 

「気を付けなさい、藤丸!聖女マルタは、かつて竜種を祈りだけで屈服させた聖女!それはつまり・・・彼女は、ライダーはライダーでもドラゴンライダーよ・・・!」

 

「我が屍を乗り越えられるか、見極めます!」

 

「なっ・・・!?」

 

 

瞬間、ぶん投げられた杖を反射的にマシュが弾き飛ばすも、そのあまりにも突拍子の無い行動に全員が気をとられた隙にマルタは大きく踏み込んでおり、

 

 

「ハレルヤ!」

 

「Chris・・・!?」

 

 

拳の一撃の元、ディーラーの頭部を殴り砕いていた。死ぬ直前、ディーラーは脳裏に固まった溶岩をゴリラの如く殴って落とすマッチョの姿がよぎったらしい。

 

 

「まずは一人。さあ、次は誰にする?」

 

「いやいやいやいや!?」

 

 

背後(バック)で巨大な亀に似た竜が咆哮を轟かせ、こちらにいい笑顔で拳をポキポキ鳴らすその聖女とは呼べない姿に、立香が思わずツッコんだのはしょうがないことだった。

 

 

 

 

 

「・・・泣けるぜ」

 

 

復活した直後、ちょうど振って来た杖で頭を打ってまた死んで本気で涙し、思わず女運の悪いストレンジャーの口癖をぼやくディーラーであった。




題名はレオンの名(?)台詞から。レオンと武器商人の声は同じなので違和感ない…かな?

鎖で振り回すアイアンメイデン(拷問器具)ってかっこいいと思うんだ・・・!間違いなくアラフィフのせいですね、分かります。カーミラさんのモーション変更はよ。

マリーとジャンヌの会話は大幅カット。正直、長いんです。いい話なんだけど・・・武器商人が主人公なので、戦闘メインで行きたいです。

今回だけで三回殺されたディーラー。アイアンメイデンで、ハレルヤな拳で、落ちて来た杖で。ごめん、でも宝具を説明するのに必要なんだ・・・

カルデアの英霊はマシュとディーラー以外、弱体化してます。それでも一応第一再臨を終えた状態で召喚されてます。種火を上げよう。

次回、バーサーク・ライダーとの激闘!勝てるかな・・・というか初期のFGO鯖はモーションがアレなので、戦闘を考えるのが大変です。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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最大28人だ安心しろストレンジャー

お待たせしました。独自解釈大目な第10話です。まさかのお気に入り500件突破。ありがとうございます。・・・執ゾンだと三年かかったのにこんなに早く突破するなんてバイオと武器商人、あと所長は愛されているんですね。

今回はバーサーク・ライダーとの激闘と、ディーラーの宝具に関しての一悶着。ストレンジャーの怒りが爆発します。楽しんでいただければ幸いです。


夢を見た。生きる事を諦めた、死ぬことも諦めた、理性を奪われながらもただ残った商人魂で支配から抗い、ただ誰かの役に立つためだけに、正体を隠して死ぬまで商売を続けた男の夢を。爆破される島から去って行く二人を見送りながらも、逃げなかった男と、それに準ずる彼等の物語を。

 

捕まってプラーガを埋め込まれてしまった捜査官の助けとなるべく渓谷に訪れた事を皮切りに、地下に、湖に、城に、檻の中に、炭鉱に、塔の上に、海の上の孤島に、時には出口のない死人しかいない落とし穴の最下降に。

どこにでも現れ、生きるために戦う者達の助けとなった者。自分は死ぬと分かっていても喜んで商売を続けてそれをただ歓びに、自身を人外に変えた恨んでいた全ての元凶が死んだことを確認し、満足したとでも言う様に、生きると言う意味では報われぬまま海に散ったその末路に。

 

ふざけるなと叫びたかった。人間じゃないからなんだ。自分にはこれしかできないからなんだ。ただ、寄生生物を埋め込まれただけじゃないか。●●の様に人を襲う事は決してないのだろう?だったら、生きる事を望んでもよかったのに。彼らは齎される死に抗わなかった。生を望む者達の助けとなったのに、自分達は生きる事を望んでいなかった。

 

ああ、起きたら一発殴ろう。文句を言われるだろうけど、一回死んでしまうかもしれないけど、そう決めた。殺すのではなく、馬鹿じゃないかと殴る人間が彼等には必要だ。

 

 

そんな夢を見た翌日、やり過ぎて後輩含めるサーヴァント全員に止められ、同じ夢を見たらしい所長にはお説教された。死を望んでも生かされていた人達だっていたんだから文句は言ってやるなと。理解はしたが、納得は行かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュラの森

ディーラーが死ぬという、恒例行事を終えた直後。その場にいたサーヴァント全員が危険度を感じて、動き出す。

 

 

「はああっ!」

 

「甘い!タラスク!」

 

 

不意打ちに飛び出したセイバーオルタの剣が、一瞬消えてバーサーク・ライダー・・・マルタの前に甲羅を前面にして出現したタラスクに防がれ、回転を受けて大きく弾かれ、体勢が崩れた所にまたタラスクが消えて距離を詰めたマルタのボディブローが鎧に叩き込まれて吹き飛ばされるセイバーオルタ。それに続くように、クー・フーリンが心臓に向けて槍を構え突進するも、

 

 

「ハレルヤ!」

 

 

パンッと言う乾いた音と共に胸に掌底を受けて吹き飛び、木にぶつかって崩れ落ちるクー・フーリン。マリーとアマデウスが宝具で妨害しようとすると、タラスクが間に割って入り回転して二人を弾き飛ばしてしまい、止まったその甲羅に片手を乗せ、宙返りしたマルタの鉄拳が、急降下で威力を増して盾を構えていたマシュとぶつかり、こちらに突進しようとしていたジャンヌごと吹き飛ばされてしまう。

 

 

「こんなものなの?人理修復を成し遂げようって連中の実力(ちから)は。言ったでしょう、私程度乗り越えられないと、決してジャンヌ・ダルクには勝てないと!」

 

「…まさか竜を鎮めた聖女が、その拳で鎮めていたなんて・・・」

 

「マシュ、皆・・・!え、えっと・・・応急手当!」

 

 

クー・フーリンとマリー、アマデウスは気を失って再起不能。マシュとジャンヌは息も荒く、立ち上がるので精一杯。比較的無事だったセイバーオルタは立香の回復魔術を受けて一人、剣を構えて相手の出方を窺っているが、相手は邪竜さえその拳で鎮めた聖女と巨大な邪竜。過去に邪竜ヴォーティガーンを倒した彼女であっても、あまりに分が悪かった。

 

 

「・・・宝具を使っても耐えきれられる可能性の方が大か・・・」

 

「あら、撃たないの?ならこちらから行かせてもらうわ!愛を知らない哀しき竜……ここに」

 

 

祈るように手を合わせるマルタに、隙有りと見たセイバーオルタが突進する。

 

 

「星のように!愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)!」

 

 

それを遮る様に、隕石の如く空から迫り来る邪竜。セイバーオルタはそれを見て一瞬止まり、マルタの背後から何かが自分に向けて伸びて来たのを見て、素早く剣を突きの形に構え、もう片方の手を前に伸ばしレッド9を構える。

 

 

「・・・何をするつもり?貴方のマスターが盾の子の宝具で助かったとしても、貴女はもう助からないわよ?」

 

「安心しろ。その前に貴様を倒す。商人!」

 

「ヒッヒッヒェ!しくじるなよ、騎士王様ァ!」

 

「!」

 

 

己の左肩の上を通過してセイバーオルタの鎧の肩に引っ掛かるそれ・・・フックショットに、思わず振り向くマルタ。そして、自身の背後の木々の中からしたり顔でこちらを見やるディーラーが見え、タラスクが宝具を発動したマシュとぶつかり、大爆発を起こした・・・その瞬間。

 

 

「ハアァアアアアアアッ!」

 

 

高速でワイヤーが巻き取られ、宙に浮かびこちらに突き進んでくるセイバーオルタを振り向きざまに確認し、迎撃しようとマルタは拳を構えるも、連射されたレッド9の銃撃を咄嗟に防いでがら空きになった腹部にエクスカリバーが突き刺さり、勢いのまま剣が抜け、大きく後方に吹き飛ばされる。

 

 

「グッ・・・まだよ!」

 

 

自身にはスキル、信仰の加護がある。まだ大丈夫だと、スキル:奇蹟も発動し、不可能を成し遂げるべく拳を握り直す。しかし、見えてしまった。吹き飛ばされた先で待ち構えていた、どうしようもない、避けようもないそのとどめの一撃が。

 

 

「接近戦では拳の方が速いのがアンタの常識だろうが・・・ナイフもそれなりに速いんだぜストレンジャー」

 

 

一閃。ただ、吹っ飛んで来た聖女に致命的な一撃を与えるだけの事。振り抜いたその一撃はマルタの胴体を大きく斬り裂き、倒れ様にもう一閃。背中にも斬撃を受け、マルタはその場に崩れ落ちる。

 

 

GoodBye(お返しだ),Berserk Rider」

 

 

振り返れば、そこには満身創痍のサーヴァント達を支えながら此方をじっと見つめる人類最後のマスターと、人類最後の砦を統べる少女が二人。自身の相棒、宝具をマスターから守るために真正面から受けて見せた半端な少女も耐え切り、自身の足で立っている。己に打ち勝った反転した騎士王は自身の主である聖女と似た存在であるはずなのに壊れた様子は見せず。

 

 

「油断大敵だ。武器があれば雑魚だって強者を倒せるのが世の常だ」

 

 

そして己に引導を引き渡した貧弱なサーヴァントは、満足気にナイフの血を丁寧に布で拭っていた。自身を殺した相手も、倒してしまえば恨みも失せるのだろうか。いや、そもそも彼は怒っていない。自身が殺される事が当り前だと思い諦めながらも、生き汚く生きようとしている矛盾を持つ英霊。何となく感じ取り心底ムカついたが、負けていたら世話がない。むしろ、負けず嫌いな所は共感できた。

つまりはまあ、言い訳のしようもなく、己の敗北したという事実は明確で。

 

 

 

「・・・そう。ここまでね。・・・タラスク、ごめん。貴方も頑張ったのに、私が最後の最後で油断したから敗北してしまった。今度はもうちょっと真面に召喚されたいものね・・・」

 

「・・・聖女マルタ、貴女は・・・」

 

「手を抜いた?んな訳ないでしょう、バカ。バーサーカーにそんな器用な真似できません。これでいい、これでいいのよ。まったく、聖女に虐殺させるんじゃないってえの」

 

 

オルガマリーの問いに笑って答えるマルタ。そう、今の自分の本気を出し切り、彼等はそれに打ち勝って見せたのだ。希望は見えた。人理を救うと言う、途方もない旅の果てに至るための第一歩、一筋の希望が。

 

 

「いい、最後に一つだけ教えてあげる。竜の魔女が操る竜に、貴方達は絶対に勝てない」

 

「俺の武器を舐めているのかストレンジャー。ハンターならいざ知らず、竜如きが俺の武器に勝てる道理もない」

 

「それは無理よ。騎士王、貴方が過去に戦ったヴォーティガーンやこのタラスクさえも超越する、竜と言う幻想種の頂点なのだから。

あの竜種を越える方法はただ一つ。リヨンに行きなさい。かつて、リヨンと呼ばれた都市に。竜を倒すのは聖女ではない、姫でもない、ましてや王でも商人でも無い。竜を倒すのは、古来から竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と相場が決まっているわ」

 

「いいや、竜を殺すのは俺の武器だ。それだけは譲れない。・・・あんなのがハンターより上とかあってたまるか」

 

「その負けず嫌い、何とかしないと自分の首を絞めるわよ。私からの言葉は以上です、貴方達が人理修復を成し遂げる事を祈っています」

 

 

最後に聖女らしく慈愛に満ちた笑みを浮かべ、タラスクと共に消滅するバーサーク・ライダー・・・マルタ。やっと敵のサーヴァントを一騎倒しただけだと言うのに、この満身創痍は如何なものか。

 

 

「取り敢えず回復だな。救急スプレーだ、ストレンジャー。皆に配ってやれ」

 

「うん、分かった」

 

 

ディーラーから渡された袋の中に入ったそれを配って行く立香。この場で真面に動けるのは立香とオルガマリー、そしてディーラーぐらいだった。随一の耐久を誇るマシュでさえも今は片膝を突いている。

 

 

「まずはリオン、だったか?」

 

「リヨンよ。リオンってなに?」

 

「・・・すまん。大統領の娘の声が耳から離れなくてな」

 

 

レオンと呼んでいたはずなのにリオンとしか聞こえなかった思い出を振り返るディーラー。割と充実していた。

 

 

「まあとにかくだ。あの聖女様が言うんなら、間違いなく強い英霊だろう。だがな、俺達が訪れたあの街でその噂が一切出なかったのが気になる。考察するに、既にやられたか、もしくは弱って隠れているかのどちらかのはずだ」

 

「弱っているなら恐らく呪いね。竜殺しの英雄が毒なんかで弱る筈もないし。何とかなる?」

 

「呪いってのは体が弱って行く異常状態の事だろう。だったらブルーハーブだ。コイツは、ウイルスに感染した蜘蛛の毒でも解毒できる。ウイルスってのは現代の呪いの様な物だろう。ならコイツで十分効くはずだ」

 

『それについては検証してある。彼のブルーハーブなら、魔術的な呪いだろうと効果はあるよ』

 

 

ディーラーの言葉に賛同するダ・ヴィンチちゃん。なら大丈夫だと、オルガマリーは頷いた。

 

 

「呪いだったら普通は洗礼詠唱なのでしょうが・・・強力な物ともなると、少なくとも私だけでは無理ですね。あと一人聖人のサーヴァントがいる確証もありませんし、自信があるならそれがいいと思います」

 

「なら決まりだ。急ぐぞ、ストレンジャー。奴は聖杯を持ち、バーサーク・サーヴァントなんてのを配下に置いている。それ即ち、戦力をいくらで増やせるって事だ。無限湧きのゾンビほど厄介な物は無い。召喚される前に、とっとと竜殺しを回収して敵の本拠地、オルレアンに殴り込みだ」

 

「でも私達にアシは・・・」

 

「マリー・アントワネットの宝具を使えば速いだろう。ガラスだから防御力は皆無だろうが、俺が屋根の上でワイバーン共から防衛する。それで何も問題あるまい」

 

「むっ、確かに・・・」

 

 

あちらの戦力、それもサーヴァントがいくらでも増やせるとなると、速めに倒さねばどんどん戦況は悪くなる。今ならまだあちらも戦力を整えられていないはずだ。そう考えたオルガマリーはマリーへと確認を取った。

 

 

「王女様、貴女の宝具なら何日でオルレアンに着くかしら?」

 

「早くて三日ね。ワイバーンに邪魔されず、リヨンでそれほど時間を喰う事も無ければそれぐらいだと思うわ。

でも今の私の魔力じゃ一人用の馬を出すぐらいが精一杯だわ。・・・マスターがいれば、もう少し楽になると思うけど・・・」

 

「だったら私が・・・」

 

「いいえ藤丸。私が彼女と契約します。仮契約で悪いけどいいかしら、王女様?」

 

「貴女がいいなら喜んで!お世話になるわ、マスター!」

 

 

立香に負担をかけさせられないとばかりに進んで苦手だったはずの英霊と仮契約するオルガマリーの姿に、成長したなぁとしみじみ思うロマン。そのままついでとばかりにアマデウスとも仮契約し、準備は整った。

 

 

「あの、所長。私なら大丈夫ですよ?カルデアの援助もありますし・・・」

 

「貴女のセイバーの本領発揮するにはできるだけ魔力を有り余らせておいた方がいいのよ。・・・それに、ディーラーの事もあるし」

 

「え・・・?」

 

「気付かなかった?ディーラーが回復できるのは体力と傷だけ、魔力だけは無理。サーヴァントに出来ない事はマスターが補う物なの。これはつまり、ディーラーは貴方の魔力に依存していることになる」

 

 

オルガマリーの言葉にチンプンカンプンな立香であったが、マシュは合点が行った様で「ああっ!」と声を出した。

 

 

「先輩、宝具です宝具!・・・私の中にいる英霊はカルデアで召喚された物で、セイバーオルタさんやキャスターさんも同様です。ですがディーラーさんだけは、先輩と所長に召喚された。それはつまり、彼の宝具による魔力消費をカルデアでバックアップできないんです!」

 

「・・・ん?」

 

「・・・貴方は魔術師になりたてだものね。自分の魔力がいくら減ろうが気にしなかったんでしょう。そして、魔力の消費も微々たるものだから影響もあまりなかった。でも、今回はセイバー戦の時の様な相手は一人じゃなくて、多数。つまり、ディーラーが何度も死ぬことになるかもしれない。それの影響で、貴女が魔力切れで倒れたりでもしたら私達も全滅なのよ」

 

「つまり、ディーラーは私の魔力を勝手にちまちま使って、復活していたと?」

 

 

じろりと睨むと、ビクッと怯むディーラーに確信を持った目を向ける立香。図星であった。オルガマリーは呆れたように溜め息を吐き、言葉を続けた。全ては、マスター適正以外は優秀だった彼女の在り方故気付いたことだった。

 

 

「ディーラーの霊基は貧弱だから復活による魔力消費も少ないんでしょうね。これが過去に前例があるヘラクレスだと、貴女一回だけで干乾びているわ。・・・そうでなくても、弱いといっても最上級の使い魔であるサーヴァント。満タンの魔力でも復活できるのは10回程度なんじゃないの?」

 

「・・・半分正解だストレンジャー。俺は無限に復活できる不死身なんかじゃない。あの聖女はそれを見抜いていたらしい。ストレンジャー(マスター)の魔力量でもそうでなくても俺が復活できるのは最大28人だ。宝具を真名解放したらその半分にも満たない。それ以上はストレンジャーが魔力切れで倒れてしまう」

 

「それが貴方の宝具の通常効果ね。28回・・・回数的には過去の聖杯戦争で確認できたバーサーカー、大英雄ヘラクレスの宝具「十二の試練(ゴッド・ハンド)」よりも上の効果を持つ宝具か。その分、本体の性能が低すぎるのね」

 

「俺はとにかく数でストレンジャーを援護するからな。だが覚えておいてくれ、俺が死ねるのは28回だ。それ以上死んだら俺は完全に消滅する。そうなったらまた呼んでもらうしかない」

 

「そんな大事な事、もっと早く言ってよ!?もう何回死んだ!?」

 

「まあ待て。安心しろストレンジャー。一日だ。その時間だけ魔力回復に専念すれば、俺の復活回数も戻る。だから今の俺は、あと25回死ねる。いや、魔力切れのデメリットを考えればあと十数回だな」

 

「安心できるか!」

 

「?」

 

 

間違いなく安心できることを言ったはずなのに激怒しているマスターに目を丸くするディーラー。今更明かし、魔力切れの危険があるとはいえ、あと最大25回は殿としてでも特攻役としてでも切り捨てられる捨て駒がいるのだ。戦略的にも役に立つはずなのに、目の前のマスターは怒っている。何故だ?

続けて、怒りながらも涙を流す立香に今度こそ驚く。何故だ、何故泣く。怒るのはいつもの事だから分かる、だが何故このストレンジャーは泣いている?そして何故オルガマリーを筆頭に周りは一歩引いている?

 

 

「分かっているの!?私は新米マスターなんだよ!所長みたいに、きちんとした戦略も練れない!感情で動いちゃうから、必要以上に危険に巻き込んでしまう!・・・もし何も知らなかったら、今まで以上の強敵が出て、ディーラーに任せて逃げる時が来たら・・・それで消えちゃったら、私は自分が許せなくなる!

簡単に生きる事を諦めないでよ!死ぬことを前提に考えちゃ駄目!勝手に死のうとするな!バカ!」

 

「・・・相手の戦力を考えれば俺が死ぬ必要も出てくるだろう。人理を救いたいなら、それぐらいの被害を考えるな。ストレンジャーの魔力を考えたら、俺なんかに魔力を持って行かれるのは嫌だろうが」

 

「だから自分を卑下しないでよ。・・・私は頼りにしているんだから、魔力をいくら持って行ってもいいから消えないで。一回死んだだけでも心が痛むのに、消えたりなんかされたら・・・私、戦えない。マシュも、セイバーオルタも、クー・フーリンも、メディアさんも、所長も、ロマンも、ダ・ヴィンチちゃんもそうだけど、絶対いなくならないで。もし聞かないなら令呪を使うよ。何度でも言う。私のために、世界を救うために、消えようとしないで」

 

「・・・分かった、マスター。必ずオーダーには応えるぜ、俺は武器商人だからな。だから泣き止んでくれ、アンタの相棒が怖い」

 

 

振り返ると、ムスッとしている後輩と、それと自分達を生暖かい目で見つめる所長以外の面々が。所長は何故か呆れていた。

 

 

「・・・所長、教えてくれてありがとうございます」

 

「礼はいらないわ。召喚された直後に教えようとしなかったディーラーが悪いんだし。さあ、心配事が一つ消えた所で早速行くわよ藤丸。護衛は任せたわディーラー」

 

「やれやれ、死なずに守れってか。無理の多いオーダーだ、だが任せろ。オーダーは必ず果たす主義だ」

 

 

そんなこんなでリヨンを目指し、出発する一行。相も変わらず出くわしたワイバーンどころか、遠くにちらっと見えたワイバーンさえも見過ごさず全て駆逐し、ディーラーが無駄に張り切っていたのは語るまでも無いだろうか。

 

 

 

 

 

行く先に待つのが究極の竜種どころか、ディーラーとマリーにとって最大のアンチ・サーヴァントである事を彼らはまだ知らない。




前半が本編の筈が後半が本編になってしまった件について。フックショットってこういう使い方できたら強いよねって話。ナイフ万歳。

優秀な所長は今回からサブマスター入り(一応令呪GET)。ブチ切れ立香は心配事が一つ減ってご満悦。マスターが二人いるだけで負担も減るから原作よりは楽。

ディーラーの宝具の詳細がちょっと判明した今回。いくら復活できるといってもサーヴァント、なので有限です。ヘラクレスより復活回数は多い物の、本人の性能が低いので強いのか弱いのかよく分からない宝具です。真名解放すると攻撃にも使える宝具になります。
何故28人かというと、ゲームに登場した武器商人の総数だからです。数えてみましたところ、村:8人、城:11人、島:9人でした。一人一人殺して行ったので多分間違いないです。あ、射的屋の武器商人とエイダ編の武器商人は省いてます。

ところで武器商人に関して疑問があります。最初に出会った武器商人と、二回目に会う武器商人。親しげな様子と会話から同一人物だと思われますが、これはおかしい。何故なら道中、変な鍵やら閂やら村長の家の鍵でしか開かないはずの扉やらを抜けないと行けないからです。物理的に不可能、なのでエイダ・レポートも読み直してこう考えました。
プラーガは寄生生物でありながら真社会性生物。他のプラーガとコミュニケーションを取るのですが、武器商人は複数いる事にはいるが、彼等だけ独自のコミュニケーションで繋がっていて、記憶と思考を共有しているのではないか。つまり、28人もいながら全員同一個体。こういう結論に至りましたがどうなのでしょう?あ、素人の独自解釈なのであまり気にしなくていいです、はい。ただ、この小説の武器商人はこういう解釈の元生まれたと思ってください。だって誰も本編で武器商人に言及しないんだもの、自分で考えるしかない。

次回、究極の竜種+ディーラー、マリーのアンチ・サーヴァントとの対決。すまないさんも出るよ。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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すまない出番はないぜストレンジャー

意外と早く更新できました。今回は題名通りの回。VSファヴニールです。ディーラーの持つランクEXの宝具がついに真名解放されます(明確に描写するとは言っていない)。楽しんでいただければ幸いです。


竜がひしめく城塞都市、オルレアン。その王座で、ジャンヌ・オルタは最も信頼できるカエル顔の男と共に彼の魔術で戦況を整理していた。

 

 

「・・・ライダーが自決しましたか。聖女は狂化しても、理性が残っていたとは困りものです。とはいえ、魔力の消費から見ても彼女は全力で戦ったのでしょう。それを葬り去ったとなると、油断なりませんね。次は私が出ます、今回召喚したサーヴァント達も連れて行きます。バーサーク・アサシンにも連絡を、バーサーク・キャスター・・・ジル」

 

「かしこまりました。かつての私であればお引き留めしたでしょう。しかし、今の貴女は完璧な存在です。ジャンヌ、貴女には武運すら不要!どうぞ、存分に蹂躙してくださいませ」

 

 

その言葉を聞いて、黒い聖女が思い出すのは自身を否定した薄汚い男の死体。ああ、思い出すだけで腹が立つ。あの時は燃やしてスカッとしたが、時間が経てば経つほど、苛立ちは募る。ああ、死んだはずなのに生きていた男。再び相対した時はこの手で何度でも殺し尽くしてやろうか。

 

 

「・・・その完璧な私をジャンヌ・ダルクではないと言った男が居ました。サーヴァントは成長しない、成長したならそれはもう別物だと。ジル、貴方はどちらが本物だと思います?私と、彼女と」

 

「もちろん貴女ですよジャンヌ。よろしいか、そんな男の戯言に耳を貸す必要はありません。貴女は火刑に処された。あまつさえ誰も彼もに裏切られた!あのシャルル七世は賠償金惜しさに、功労者であるはずの貴女を見殺しにした!勇敢にも貴女を救うために立ち上がろうとする者は、誰一人として現れなかった!・・・お恥ずかしながら、生前の私も含めてです。ああ、実に嘆かわしい」

 

 

今もワイバーンと竜の魔女打倒を目指すフランス軍を率いる生前の己を思いだし、やれやれと首を振るジルドレェ。しかしすぐにまた激昂し、言葉を続ける。まるで、誰かを誤魔化す様に、言い聞かせる様に。

 

 

「理不尽なこの所業の原因は何か?即ち、貴女が信じてしまった神だ!これは我等が神の嘲りに他ならない!そしてそれ故に、我等は神を否定する。そうでしょう、ジャンヌ。そんな事も知らない男の戯言など気にしなくてよいのです。貴女は間違いなく、ジャンヌ・ダルクに他ならないのだから」

 

「・・・そう、そうよね、ジル。もう私には何もない。率いる兵士は去り、渇望した民は逃げて行った。王は裏切り司教は神の名を下に私を罰した。つまり―――私は間違えていた。いえ、私が信じた物ではなく私というものを許容したこの国そのものが間違えていた。であれば、その間違いを正さねば。ジャンヌ・ダルクは間違いだった。私が救国するという行為そのものが致命的に間違っていたのだから」

 

 

確認する様に、静かに虚ろな声を上げるジャンヌ・オルタ。そこに、かつて救国のために旗を振るった聖女の姿は無かった。在るのは間違いだと定めた国を滅ぼそうとする竜の魔女だった。

 

 

「…………ジャンヌ。どうか、そこまで思い詰めないでいただきたい。これはただの天罰です。貴女の復讐は正しいものだ。貴女が救った国であれば貴女が滅ぼす権利がある。これはそれだけの話ではないのですか?」

 

「………そうね。ジル、貴方の言葉は何時だって極端だけど今回は頼もしい。行きますよ、バーサーカー、アサシン。…ややこしいですね、真名で呼びましょう」

 

 

そう言ったジャンヌ・オルタの前に控えるは、新たに召喚されたサーヴァント達。濃紺の甲冑を身に纏った騎士と、刃を手にした黒コートの男。

 

 

「敵にいた忌々しい女は私の真名看破によればアーサー王だった。ならば貴方がふさわしい。湖の騎士、ランスロット。そして処刑人、シャルル=アンリ・サンソン。マリー・アントワネットが相手なら貴方以上の適任は居ないでしょう。ワイバーンに乗りなさい、私が先導します」

 

「………Arrrrrrthurrrrrrrrr!!!」

 

「了解しましたマスター。王妃の首ならば僕が再びこの手で。………ああ、マリー……マリー!マリー!マリア!―――やはり君と僕は、宿業で結ばれているようだ……!どうか聞かせてくれマリー。僕の断頭はどうだった? 君は最期に絶頂を迎えてくれたかい…?」

 

 

待ちきれないという様子で咆哮するランスロットと、何故か顔を紅潮させて震えながら叫ぶサンソンに、思わず引いてしまうジャンヌ・オルタ。

 

 

「…ねえジル、本当にあの二人で大丈夫なの?特に処刑人」

 

「…変質者であろうとも、その実績は本物ですよジャンヌ」

 

「貴方にだけは言われたくないでしょうね」

 

 

実績はあるのに、ジャンヌが死んでから狂い果て奇行に走った男にそうぼやくジャンヌ・オルタであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういう時の無限弾薬はいいな、敵が数え切れなくても弾切れの心配をしなくていい」

 

 

ガラスの馬車の屋根にボロ布を置いて胡坐をかいて座り、自身のとっておきの品であるシカゴタイプライターを撃ちまくりながらそうぼやくディーラー。ジュラの森を出発して早二日。ずっとワイバーンを駆逐していたためか何というか、飽きていた。

 

 

「すまない…役に立たない俺より彼の方がドラゴンスレイヤーの名がふさわしいと思うのだが…」

 

「いや、ジークフリートは休んでいて。呪いが消えて、体力も全快とはいえ魔力が足りないんじゃしょうがないよ」

 

 

そう言う立香の前に申し訳なさそうに座る長身の男。その名もジークフリート、名高き竜殺しの勇者である。リヨンで発見された彼は、立香達が来るよりも早くリヨンにて人々を守るべくジャンヌ・オルタの一団と戦い敗北。マルタに匿われるも呪いに侵されて弱っていたところを発見され、ディーラーの「緑+赤+青ハーブ」により体力全回復と共に呪いも解呪され、今現在魔力を回復するために待機中なのである。ちなみにではあるが、仮契約はやはりオルガマリーと行った。ジャンヌ・ダルクとの対決に置いてセイバーオルタの宝具はまさしく切札となり得るからである。

 

 

「そうよジークフリート。雑魚ならディーラーで十分だけど、聖女マルタの言っていた究極の竜種…ファヴニールには貴方の宝具が必要不可欠なの。今は回復に徹していいわ。アマデウス、何か魔力が早めに回復する曲とかないの?」

 

「無茶を言わないでくれないかマスター。音楽ってのはそこまで万能じゃないさ。せいぜい場を盛り上げるぐらいだよ」

 

「あら、いいじゃないアマデウス。ずっとガラスの馬車の中で過ごして皆さんお疲れだわ。貴方の音楽で癒してあげて」

 

「すまないマスター…空気が読めない様で悪いがこの気配、奴とサーヴァントが近づいてくる…」

 

『所長!報告は遅れたがサーヴァントを上回る超巨大の生命反応を察知した!猛烈な速度でそちらにやってくるぞ!』

 

「なんですって!?報告遅いわよロマン!」

 

「…ああ、やっこさん、ついにおいでなすったぜストレンジャー」

 

 

申し訳なさそうに報告して来たジークフリートの言葉と、ディーラーの言葉に慌てて窓から顔を出し、高速で走る馬車の前方にある街の方を見やるオルガマリー。そこには、巨大な影とワイバーンの大群が空を覆い尽くす光景があった。

 

 

「ワイバーン共が何か増えて来たなと思いきや奴のお出ましだ。サーモスコープで見た所上に人影三つ、町の高台に一つ見付けた。十中八九サーヴァントだろうな。まずどいつを仕留める?」

 

「…町にいる人影が恐らくアーチャーよ。邪魔される前に倒せる?」

 

「俺の武器に不可能はないぜストレンジャー」

 

 

そう言ってディーラーが構えるのは、サーモスコープをくっつけた無限ロケットランチャー。狙うは巨大な影、ではなく前方の街で待ち構える女性の人影。まず一発、続けて二発連続で放つ。一発目は気付かれて弾かれてしまうが、続けざまに飛んで行くロケット弾頭二つは撃ち落とされる事無く、着弾。大爆発が街の一角を襲った。

 

 

「…今更だけど、人は居ないよね?」

 

「…もしいたとしても必要な犠牲と割り切りましょう。それより倒せた?」

 

「ああ、奴の矢の射程より俺の武器の方が一枚上手だったらしいぜ。前回のアーチャーとの対決で堪えた俺の腕前もあるだろうがな、ヒッヒッヒッヒェ」

 

 

そう言って、襲い来るワイバーンの群れの撃墜を再開したディーラーを余所に、ゆっくりと迫り来る巨大な影…十中八九、ジークフリートの宿敵である邪竜ファヴニールであった。その頭部に騎乗していたジャンヌ・オルタはディーラーと立香達を確認すると笑みを浮かべた。

 

 

「見付けた!ああ、見付けた!灼き尽くしなさい、ファヴニール!」

 

「おっとそいつはいただけないなストレンジャー」

 

 

街の中へと突入したガラスの馬車に向け、ワイバーンのそれとは比べ物にならないドラゴンブレスが放たれようとしたその瞬間、開いた口に大きく投擲された手榴弾が投げ込まれ、爆発。

さすがに口内への攻撃は応えたのか攻撃が止んで爆発にジャンヌ・オルタが怯み、その背後から二つの影が飛び降りて来て馬車が急停止するのと同時に、マインスロアーが連続発射。ランスロットとサンソン相手に立香達が戦いを始めた直後、顔面で連鎖爆発を起こして悲鳴を上げたファヴニールの巨体はそのまま街中へと墜落して行った。

 

 

「よしっ、こいつで黒聖女と馬鹿みたいにデカいドラゴンは一旦退場だ。さっさとその二人を仕留めるぞストレンジャー…!」

 

「うん!ジークフリートは休んでいて!行くよマシュ、皆!」

 

 

邂逅直後、その手にした黒い剣とエクスカリバーをぶつけ合うランスロットとセイバーオルタに続き、馬車から飛び降りる立香達。

 

 

「藤丸、クー・フーリンを貸しなさい。あの鎧の男は任せたわ。私達はもう一人をやる。…仮契約とはいえ、私のサーヴァントが目的みたいだし」

 

「分かりました!クー・フーリン、所長とマリーを任せた!」

 

「おうよ!」

 

 

セイバーオルタ、ジャンヌ、マシュが立香の指示でランスロットと。クー・フーリンとマリー、アマデウスがオルガマリーの指示でサンソンと。それぞれぶつかる中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒聖女自らが来るとは僥倖だ。聖杯は恐らく本拠地のオルレアンだろう。だったら、首魁の黒聖女を人質にした方が一番効果的だろうな」

 

 

襲い来るワイバーンをライオットガンで撃墜しながら、ファヴニールの落ちた場所へ向かうディーラー。例にもよって独断行動である。ちなみに正当な理由こそぼやいでいるが、彼の目的はドラゴンスレイヤーでないと殺せないとか言われた巨竜、ファヴニール撃破だ。

アーマーも装着して一撃だけは耐えれる様にし、さらにオルガマリーの延命に用いたイエローハーブをグリーンハーブと一緒にバカみたいに使って体力を何時もより上昇させていて、今は耐久Cぐらいある。何時になく本気であった。

 

 

「…見付けた。さてどうするか」

 

 

壁の向こうに頭を揺らしているファヴニールと、怒鳴っているジャンヌ・オルタを見付けて隠れ、考える。いくら体力アップさせていても自分はジークフリートに比べたらポテンシャルは圧倒的に低い。身体能力だってマシュより低いのだ。…ただでさえ強敵なエルヒガンテ二体にレオンはどう戦った?…答えは知っている、翻弄だ。そしておあつらえ向きに、巨竜が落ちたのは広場。周りにはまだ完全に崩れていない建物群がある。

 

 

「…マスター、許可をくれ」

 

《え、何の?というか今どこなの、ディーラー!》

 

「すまないストレンジャー。独断でファヴニールと対峙している。死ぬ気はないから聞いてくれ、宝具の真名解放をする。許可(オーダー)を頼むストレンジャー」

 

《…分かった。ジークフリートには私からお詫びするよ。でも戻ってきたらお説教だから。絶対に死なないで。あと、早く戻って所長達を助けてあげて、苦戦している》

 

「…オーライ、マスター。注文(オーダー)には応えるぜ」

 

 

小声で行っていた念話を切り、ディーラーは自らの勝利を疑わないマスターへ無言の感謝の意を送る。そして恐らく自分の存在に気付いてファヴニールの頭に乗り直したジャンヌ・オルタを見据えた。…まあ、ファヴニールを己の武器で倒せればそれでいいかと楽観的に考える。この際、黒聖女は逃がしても構わない。

 

 

「さあ、商売開始といこうかファヴニール。ジークフリートの旦那には悪いが、お前なんか敵じゃねえ」

 

 

そう宣言した彼の周りには、武器という武器という武器の山が。それこそ彼の在り方故に。

 

 

「ウェルカァムッ、ストレンジャー…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Gala……had…………Aaaa、Arrrrrrrrrrrrrrr!!!」

 

「っ、強い!下がって先輩!このバーサーカー…今までのどのサーヴァントよりまっすぐで、怖いです…!」

 

「何故、私を…!?」

 

 

セイバーオルタを突進で跳ね飛ばし、マシュの盾を拳で押し退け、ジャンヌに向けて猛追するランスロットにマシュは恐怖し、ジャンヌは立香の前で彼女だけでも守れるようにと旗を構える。

 

 

「そうだろうなマシュ・キリエライト。その盾を持つ貴様からしたら末恐ろしいだろう。奴は円卓最強の騎士、ランスロット!…お前まで、あのカエル顔と同じく私とジャンヌ・ダルクを見紛うか!…」

 

 

魔力放出で急接近し、その手に握られたエクスカリバーが黒い剣を弾き飛ばすと、今度は黒く染まった丸太を振り回し、クルリと回転させながら打撃を繰り出し建物を倒壊させるランスロットの猛撃を避けながらセイバーオルタは、座の自分が記憶している過去の聖杯戦争…第四次聖杯戦争で、自身に執着し己を苦悩させたバーサーカー、ランスロットと同じく、自身に執着していたキャスターを思い出しながら舌打ちした。確かに今の自分は黒化しているが、そんなにジャンヌは似ているのかと考え、思い至る。

 

 

「…いや、聖女よ。どうやら私と貴様は顔かたちではなく、魂の形が似ているらしい。それが光栄な事かは知らんが、滅びゆく国を何とかするために自らを捧げ、国を救うべく戦い、裏切られた…それでもなお、祖国のために闘い続けた。ああ、確かにそれは似ている…だが貴様が憎むのは私だ、アーサー王だ」

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」

 

 

魔力放出による圧で、己がここに居る事を醸し出すセイバーオルタに向けて、丸太を捨て黒い靄を消し魔剣と化した聖剣を振り上げて迫るランスロットに、セイバーオルタは少しだけ悲しげな表情を浮かべ、剣を握り直す。

 

 

「すまなかった。私が貴様を罰していれば…貴様がそこまで苦悩する事も無かった。あの私は、甘かった」

 

「Arrrrr…王…よ、私は…どうか…」

 

 

一瞬剣から魔力放出し、加速したエクスカリバーが一閃。斜めに大きく斬り裂き、ランスロットは勢いのまま大きく吹き飛ばされ、兜が外れて黒髪の隙間から狂気溢れる目で己を一撃の元に切り捨てた王を見据え、どこか満足したように消滅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君に二度も彼女を処刑なんかさせないぞ。シャルル=アンリ・サンソン」

 

マリーを執拗に狙うその姿に、生前の因縁からかクー・フーリンと共に立ちはだかるアマデウスに、狂喜の笑みを浮かべていたサンソンは露骨に嫌そうに顔をしかめた。

 

 

「人間を愛せない人間のクズめ、僕と君は相容れない。彼女の尊さを理解しない貴様に、彼女に付き従う資格は無い。…そして驚いた。死んだのに生きている。矛盾な様な存在がマリー、君のマスターなのかい?」

 

「…分かるのかしら。貴方なんかにマリーマリー連呼されるのは気分が悪いわね」

 

 

露骨に嫌悪の目を向けて来るサンソンに、レフの顔を思い出し内心舌打ちするオルガマリー。ああ、コイツにだけは、負けられない。

 

 

「我が処刑の刃は清らかなるもの。お前達の様に死を受け入れないものに使うものではないが…思えば、今やこの国全てが処刑場だ。その首、一撃で切り落としてやろう…!」

 

「…貴方にマリーは殺させない…私の二の舞は、させない!」

 

「無駄だ!」

 

 

アマデウスの音楽魔術を耐えながら突進、マリーの蹴りを刃で受け止めて押し返し、クー・フーリンの槍を切り上げてと、力任せの攻撃を行うサンソンに、オルガマリーは自らの手札の一枚を切る事にした。

 

 

「スキル発動、全体強化!」

 

「さぁて、ここからだ!」

 

「デクレッシェンド!フォルテッシモ!」

 

「サンソン、貴方はどんなダンスがお得意かしら?」

 

 

普段着ている礼装の下に、念のために着て来たカルデア戦闘服のスキルを発動。クー・フーリンの一撃に鋭さが増し、アマデウスの放つ音楽魔術の威力が向上し、マリーの舞うような蹴りの一撃も段違いに強くなる。短時間ではあるが、狂化がなされているサンソンを押し返してきた。

 

 

「くっ…せめてマリーだけは、この手で…!」

 

 

そう言い、マリーの前で手にした刃を振り上げると、顕現する処刑台がマリーを捕らえ、断罪の刃がその首に迫る。それはギロチンを考案した彼を表す宝具、かつてマリー・アントワネットを処刑した断頭台。

 

 

「刑を執行する。死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)!」

 

「させない…!スキル発動、オーダーチェンジ!」

 

 

しかしそれを見過ごすオルガマリーでは無かった。カルデア戦闘服のスキルを発動、マリーの姿が、オルガマリーの視界に捉えていたその人物と入れ替わる。場所を交換するだけのスキルではあるが、身代わりを立てるぐらいならできたのだ。俯せだったマリーと違い仰向けに現れたその人物は、眼前で驚き執行の手を緩めたサンソンに銃口を向け、トリガーを引いた。

 

 

「何っ…!?」

 

「面白い事ができるなストレンジャー。GoodBye(希望は見えたか?).処刑人」

 

 

その手に握られた中折れ式マグナムが火を噴き、その脳天を吹き飛ばして消滅させる。同時に断頭台も消失し、ディーラーはその場に降り立ってマグナムの弾込めをしてからリュックに直した。

 

 

「俺が機を窺っていた事によく気付いたなストレンジャー」

 

「ええ。マリーが近くに居たから迂闊に撃てなかったんでしょ?貴方のせいで死に掛けるかも、と思っていた保険の礼装がまさか役立つなんてね」

 

「備えあって憂いなしだぜストレンジャー」

 

 

そう言って立香の元に向かったディーラーを見送ったオルガマリーに歩み寄るアマデウス。憂いを帯びた顔だった。

 

 

「ん~……すまないマスター。正直、今回のステージは三流だった。…マリーの名を持つ君に助けられるとは、…でもアイツからマリーを守れてよかった。彼女、直ぐに命懸けちゃうからね。君が居なかったらと思うとゾッとするよ。礼を言うよマスター。正式に召喚された暁には君のために力を尽くす事を誓うよ」

 

「ありがとうアマデウス。私としてもすっきりしたからあまり気にしなくていいわ。それより、ファヴニールは…」

 

「その心配は必要ないですよ所長」

 

 

ディーラーが交戦したとも知らないオルガマリーがファヴニールが落ちた付近に視線を向けているとそこに立香達がやって来た。ジークフリートがさらにすまなそうに顔を暗くしていた。

 

 

「ディーラーが倒してしまったらしいです。黒いジャンヌはちょうどやって来たバーサーク・アサシンと一緒にワイバーンに乗って逃げたんだとか」

 

「…え?倒した?あの巨大なドラゴンを?」

 

「おう。一回も死ななかったから怒られる謂れはないんだがなぁ…」

 

「ジークフリートがいたから逃げるだけでもよかったのに何で戦うのか…」

 

「すまない…ファヴニール相手に役に立たなくて、本当にすまない…」

 

「ファヴニールを早めに撃破できた事は僥倖よ。とりあえず、先を急ぎましょう」

 

 

何とも言えない表情を浮かべていたオルガマリーの一声で、再びオルレアンへと出発する一行。今回は敵の戦力を大幅に削れ、ジャンヌ・ダルクも逃走した今がチャンスだ。次の戦いが決戦だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、オルレアンへ向かうワイバーンの上にてジャンヌ・オルタは憤慨していた。

 

 

「なんなのよ!なんなのよ、なんなのよアイツ!」

 

「落ち着きなさいマスター。貴女は傷一つ負ってないでしょう?」

 

「それでも、動けなかった!私を否定したあんな男に、臆してしまった!」

 

 

苛立っているのは自分の事だ。一瞬だった。何かを構えたディーラーの放った閃光で視界が一瞬遮られた直後、地獄を見た。それこそ火刑以上の地獄が自分の視界の中でファヴニールを蹂躙し、抵抗しながらも骨一つ肉片一つ残さず、バルムンクでしか倒せない最強だったはずの巨竜は、圧倒的な暴力によってこの世から消え去った。再度召喚する事は出来るだろう、しかしそのためにどれ程の時間を有する?あとどれくらいの時間で奴等はオルレアンに攻めてくる?

 

得体の知れない恐怖がジャンヌ・オルタを襲う。どうにかしなければ、ああ、どうにかしなければ己はまた否定されてしまう…

 

 

「…オルレアンに急ぎなさいワイバーン。戦力を整えて迎え撃つわよ。あんなふざけた奴等に負けられない…」




ディーラー「すまない出番はないぜストレンジャー」
すまないさん「えっ」
某先生&某アオダイショウ&某メキシコオオトカゲ「えっ」
オペラ座の怪人、バーサーク・アーチャー「えっ」

VSバーサーク・アーチャー(瞬殺)、ランスロットとサンソン。ランスロットはディーラーに対しては最強だったんですが、生憎カルデアにはセイバーオルタがいた為…サンソンはマリー的な意味での因縁でオルガマリーが撃破。所長は普段の服に、カルデア戦闘服の手袋が露出した状態です。あれだけを着て特異点攻略する勇気はチキンな所長にはないです。

アーチャーに対して現在無敵のディーラー。そして人外特攻のスキルも合わせて耐久度も底上げし(なお、一度死ぬと効果もリセットされる)、宝具の真名解放を使ってファヴニールを撃破。真名解放の名称は「ウェルカム、ストレンジャー」どういう宝具かはローマでお披露目の予定。

どんどん不安定になって行くジャンヌ・オルタ。次回はオルレアンでの決戦。二大聖剣並び立ち…!次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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少々飽きたが付き合うかストレンジャー

はいどうも、バイオ4のprofessional水の間の洗礼を受けフルボッコにされながら何とか突破するも回復が全滅で意気消沈気味の放仮ごです。今のところノーコンティニューですがこの先絶望的…アレは鬼畜過ぎないだろうか。

今回は詰め込み回。オルレアンでの決戦です。二大聖剣、バルムンクとエクスカリバーが並び立ち。楽しんでいただければ幸いです。




全速力で走るガラスの馬車の目と鼻の先に聳え立つは、夥しい数の竜に囲まれたフランス屈指の城塞都市。

 

そんなガラスの馬車の上で、のんびりとシカゴタイプライターを整備するディーラーの前で、目を瞑って佇んでいる世界屈指のドラゴンスレイヤーは、空を覆い尽くして迫り来るワイバーンの大群に向けて己が大剣を顔の前に構え、目を見開くと共に青い光を纏って黄昏の剣を振り下ろした。

 

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今、落陽に至る。…撃ち落とせ。

――――幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!」

 

 

放たれた半円状に拡散する黄昏の波が対軍宝具としての役割を果たし、次々とワイバーンの群れを撃ち落としていく。ファヴニールを打ち倒したその魔剣は竜種に対して絶対的な力を持ち、ワイバーン程度なら何匹居ようと一瞬で駆逐できる。懸念であったワイバーンの邪魔はこれで気にしなくてよくなった。

 

伝説の竜殺しと、つい先刻ファヴニールを単騎で打倒した最弱英霊が守りに付き、ガラスの馬車はワイバーンに乗って接近してきたバーサーク・サーヴァント三体に向けて突進し、クー・フーリン、ジークフリート、アマデウス、そしてディーラーがオルガマリーと共に飛び降り、それぞれの相手とぶつかった。

 

 

「ストレンジャー!今回ばかりは死んで駆けつけるが文句を言うなよ?必要事項だ。マシュの嬢ちゃん、セイバー。マスターは頼んだぜ」

 

「マリー、藤丸達を送り付けたらそのまま一緒に戦いなさい!頼んだわよ!」

 

「ええ!マスターをお願いね、アマデウス!」

 

 

そのまま城へと突入するガラスの馬車を見送り、クー・フーリンはヴラド三世と、ジークフリートはシュヴァリエ・デオンと、ディーラーがカーミラとそれぞれ相対、アマデウスを控えたオルガマリーは気を引き締める。ジャンヌ・オルタの最後の戦力であろう彼等をさっさと倒して、合流する。もし全員負けたら一人になってしまうが、そんな事は考えない。カルデアの人々に認められている事を知り、彼女は仲間を信じる事にしたのだから。

 

 

「ランサーには負けられねえ…アンタみたいな反英雄には特になあ!」

 

「すまない、相手取ってもらうぞ白百合の騎士よ…!」

 

「殺された借りは返すぜストレンジャー…!」

 

「さて、どのバッハがお好みかな?」

 

「…行くわよ、皆!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城の最奥にて、水晶玉でその光景を見ていたジャンヌ・オルタとジルドレェは焦りに焦っていた。それもそうである。フランスを滅ぼすには十分な戦力だったワイバーンは簡単に駆逐され、切札だったファヴニールはあっさりと倒され、バーサーク・サーヴァントもジルを除いて全て足止めされて敵の本隊がこちらに向かっているのだ。焦らない方が可笑しい。

 

 

「ファヴニールも滅び、バーサーク・サーヴァント達も圧倒され、ワイバーン達もこのままでは・・・」

 

「分かっています。ええ、分かっていますとも。全部あの男が居たからです。私のせいではありません、アレはきっと神が遣わした悪魔なのですええきっとそうです死んでしまえばいいのに何で死んでも死なないんですかアレ」

 

「あの、ジャンヌ?」

 

 

怒りと恐怖で混乱して意味不明な戯言を呟き始めたジャンヌを心配げにギョロッとした目で見つめるジルドレェ。数分も経たない内に正気に戻ったジャンヌ・オルタは深呼吸し、思い付いた限りで一番真面な策を提示する。

 

 

「こうなったらあんな理解不能でも殺せる新たなサーヴァントを召喚しましょう。ジル、その間は貴方に守りを任せます。頼みますね」

 

「畏まりました。我が宝具【螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)】で時間を稼ぎましょう。…否、倒してしまってもよろしいのですよね?」

 

「ええ、もちろん。では、武運を」

 

「ええ、ジャンヌ。どうかその栄光が、穢される事などありませんように」

 

 

有名な死亡フラグ台詞を自信満々に告げた事に気付かずに、召喚した海魔を引き連れて去って行くジルを見送るジャンヌ・オルタは、先刻この目で見てしまったファヴニールの最期を思いだし身震いする。

 

 

「あんなのにジルの宝具でも時間稼ぎができていい方。でも、触媒も無しにあんなのに勝てる様な英霊を召喚する時間も無い…こうなったら」

 

 

そう言って、懐から取り出したのは自身の炎で燃やされたディーラーの亡骸…の心臓辺りから回収した、何かの生物の干乾びた死骸。それが寄生生物プラーガだとは知らない彼女ではあるが、これがあのサーヴァントに所縁ある物だというのは明白で。

 

 

「…似た様な化け物を召喚するしかないじゃない…!」

 

 

覚悟を決め、詠唱を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、お久しぶりですなジャンヌ。正直申し上げて、こんなにも早くファヴニールを倒しこのオルレアンに乗り込んでくるとは感服いたしました。」

 

「ええ、久しぶりですねジル。私も、こんなにも早く、ここに来れるとは思いませんでした」

 

 

城の廊下にて相対し礼儀を表すかの様に頭を下げるジルドレェから醸し出される狂気に思わずマチルダを握る手に力を込める立香に連なる様にマシュ、セイバーオルタ、ジャンヌ、マリーもそれぞれの武器を構えた。実力は明らかに今までのサーヴァントより下、しかしその狂気はバーサーカーのランスロットでさえ凌駕する。

 

 

「先輩、彼は恐らくジャンヌさんと共にフランスを救った元帥、ジル・ド・レェです!」

 

「…また貴様か。安心しろマスター、コイツは私も一度面識がある。どこかも知らぬ聖杯戦争でのおぼろげな記憶だが…恐るるに足りん」

 

「ええ、感服いたしましたとも。人理修復を成し遂げようとするだけはある。しかし!しかしだ!ああ、聖女よ!そしてその仲間よ!…何故、私の邪魔をする!?私の世界に土足で入り込み、あらゆるものを踏み躙り、あまつさえジャンヌ・ダルクを殺そうとするなど!」

 

 

激昂し、その手に握った人の皮で作られた魔本を構える手に力を込めるジルに、何かを言い返そうとした立香を抑えてジャンヌが一歩歩み寄り、静かに問いかけた。

 

 

「その点に関して、私は一つ質問があるのです。ねえジル、ジル・ド・レェ。彼女は本当に、ジャンヌ・ダルク(わたし)なのですか?ディーラーさんが言っていた事がずっと引っ掛かってました。…例え私の別側面を召喚し、記憶を改竄したとしても、彼女にあるべきはずの記憶がない事はありえません。私にとっては原初の思いです。それがないのはつまり…」

 

「貴女が何と言おうと彼女は貴女の闇の側面!ジャンヌと言えどその暴言、許しませんぞ…!」

 

「…彼女は、私がフランスに復讐する事を望んだ、貴方の願望が生んだ竜の魔女。恐らくは、彼女の持つ力から見て聖杯を基盤とした貴方の理想を体現した人形。それが、英霊の座には決して存在しないサーヴァントである彼女ですね?

聖杯の所持者は竜の魔女ではなく、貴方だった。貴方はジャンヌ・ダルク(わたし)を作ったのですね?」

 

 

確信を突いた言葉に、立香達が動揺すると共に、ジルは動揺するどころかさらに目を飛び出させ怒りのまま声を張り上げる。

 

 

「私は貴女を甦らせようと願ったのですよ?ええ、そうだ。私の願いはただ一つだ。しかしあろうことかその願いは聖杯に拒絶された!万能の願望器でありながらそれだけは叶えられないと!

だが私の願望は貴女以外にはない!…だから、新しく創造しました。私の信じる聖女を!私の焦がれた貴女を!いや、ジャンヌ・ダルク…竜の魔女を造り上げたのです!」

 

 

まさしく狂気。立香とマシュ、マリーでさえも思わず怯んでしまう気迫に、物ともしないセイバーオルタの隣でジャンヌは凛とした佇まいで己の言葉を告げた。

 

 

「…無論、貴方は彼女に最後まで伝える気はないのですね。それはいいでしょう。しかしジル、もし私を甦らせたとしても決して竜の魔女になどなりませんでしたよ。例え貴方からの願いであってもです。

確かに私は裏切られたのでしょう、嘲弄もされたのでしょう。無念の最期と言えるかもしれません。けれど祖国を恨むはずがない、憎むはずもない。何故ならこの国にはジルが、ラ・イルが、サントライユが、私に付いて来てくれた貴方達がいたのですから」

 

「それがどうしたというのか!ああそうだ、貴女はお優しい。実にお優しい言葉だ。しかしジャンヌ、その優しさ故に貴女は一つ忘れておりますぞ。例え、貴女が祖国を憎まずとも――――私は、この国を、憎んだのだ……!全てを裏切ったこの国を滅ぼそうと誓ったのだ!

 心優しい貴女は裏切ったこの国でさえ赦すだろう!しかし、私は決して赦さない!神とて、王とて、国家とて……!!滅ぼしてみせる。殺してみせる。それが聖杯に託した我が願望……!

 

その体現こそが彼女だ!今の私にとって、ジャンヌは彼女。今の貴女は我が世界を踏み荒らす賊、敵に過ぎない!――――我が道を阻むな、彼女の復讐の邪魔立てはさせぬ。救国の聖女、ジャンヌ・ダルクゥゥゥッ!!」

 

「っ皆、防御を!」

 

 

その咆哮と共に、召喚され押し寄せてくるヒトデの様なタコの様な魔物、海魔の大群をマシュが盾を手にどっしりと構えてせき止め、引き金を引く立香と共にセイバーオルタとマリーが応戦する中、ジャンヌは静かに、その手にコンパウンドボウを構え、矢を番えて引き絞る。

 

 

「―――――そう、そうですね。確かにその通りだ。貴方が恨むのは道理で、聖杯で力を得た貴方が国を滅ぼそうとするのも、悲しいくらいに道理だ。

それでも私は、貴方を、竜の魔女を止める。聖杯戦争における裁定者、ルーラーとしても、貴方の友人、ジャンヌ・ダルクとしても。勇敢なるマスターと共に貴方達の道を阻んでみせます。ジル・ド・レェ…!」

 

「この匹夫めがァァァ!!」

 

「決着をつけましょう…貴方は私が止めてみせる!」

 

 

そう言って放った矢が海魔の一体を一撃で屠り、ジャンヌは素早く旗を手に殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数刻前、城前の広場にて三つの激闘が行なわれていた。

 

 

「我が名はシュヴァリエ・デオン。此度は悪に加勢するが―――我が剣に曇りは無い。さあ、悪夢を滅ぼすために全力で立ち向かって見せろ!」

 

「っ…!」

 

 

宝具を撃ったばかりで弱体化している身で、細身に似合わず筋力Aのデオンの一撃を受け止め、弾き飛ばされながらも斬り返して行くジークフリート。

 

 

「来たか。敗北は何よりの恥だ、余は不死身の吸血鬼を謳おうぞ。それが虚構であろうとも、余にはそれしか残されておらぬ…!」

 

「へっ、いいぜ。全力で戦おうか吸血鬼!オラオラア!」

 

 

 

杖を投げ捨て、再び槍を手にヴラド三世と真っ向勝負を行ない、ステータス差と血の槍で圧倒されるクー・フーリン。

 

 

「くっ…当てる事も難しいとはね…!」

 

「ちっ、弾幕張るぞ!ストレンジャーはさがっていろ!」

 

「男の血に興味はないわ。死にもしないのなら猶更ね」

 

「ああもう!ディーラー!何時もの無茶苦茶でどうにかしなさいよ!?」

 

 

アマデウスとディーラーの放つ弾幕を持ち前の敏捷で全て回避し、執拗に手を伸ばしてくるカーミラから必死に逃げるオルガマリー。

ただでさえマルタの様に多数対一でようやく勝てる様な狂化されたサーヴァントを相手に、未だに有効打を与えられない彼等。しかして、マスターの有無でサーヴァントの強さは変わる。

 

 

「ちっ…ストレンジャーが射線に被る、それ以前に当てられん…!」

 

「ディーラー、とっておきは使わずにやられたら意味が無いわ!アマデウス、アサシンを…いや、敵全員の動きを一瞬でいい、止めなさい!」

 

「ああ、任せたまえ!マスター、魔力を借りるよ。聴くがいい!魔の響きを!死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!」

 

 

アマデウスが晩年に作り上げた鎮魂歌(レクイエム)が辺り一帯に響き渡り、壮麗で邪悪な音による重圧がバーサーク・サーヴァントを襲ってその動きを一時的に止める。一瞬さえあれば、局面は変わる。

 

 

「くっ、マリーにくっ付いているろくでなしの宝具か…!?」

 

「願わくば、正気に戻った貴公とまた剣を交わしたいものだ…」

 

「しまっ…!?」

 

 

耳を押さえるという、致命的な隙を晒したデオンは一撃で斬り伏せられ、

 

 

「ぬぅ…耳障りな…!」

 

「…よぉ、呪いの朱槍をご所望かい?残念ながらディーラー特製の品だが、喰らいな!」

 

「なに…があっ!?」

 

 

急造の物ではあるが、まるで杭の様な小さな銀製の槍をクー・フーリンが投擲し、ヴラド三世の心臓は貫かれ、

 

 

「今よ、ディーラー!」

 

「オーダー受け取ったぜストレンジャー。一発限りの特別品だ、Goodbye(受け取ってくれ),Assassin」

 

「そんな……嘘よ……!?」

 

 

オルガマリーの言葉に頷いたディーラーの、ラ・シャリテから逃げ出してから作っていた一発限りの銀の弾丸を装填した中折れ式マグナムによって腹を撃たれ、カーミラは崩れ落ちる。

 

マスターの有無と言う、圧倒的な差と準備万端のディーラーの装備により、バーサーク・サーヴァントは敗北を喫した。

 

 

「…さすがだ、竜殺しの剣士。私の敗北だ。これで我が身の呪いも解ける。貴公とそのマスターに感謝を。そして、愛しの王妃に謝罪を。申し訳ありません王妃よ、我が過ちを許したまえ…」

 

「…ここで終わりか。クランの猛犬など相手が悪いわ。余の夢も、野望も、またも潰えるか…なるほど、余は"悪魔(ドラクル)”。ならば墜ちるのも自明の理よ。良い、許す。

そしてそこのマスターよ、我が真名を見破った聡明なる女よ。次こそは余を召喚するがいい。であれば、その時こそ我が槍の真髄を見せてやろう。護国の槍―――仲間を、そして民を守る武器は、さぞ貴様の手に映えるだろう…」

 

「ああ…暗がりの中に戻るようね、同じ自分や女の子に負けるならともかく、こんな男に負けるとは。最後の瞬間…煉瓦の隙間に見えた、あの光…ああ、そう…やっぱり私は、エリザベート・バートリーは、生きても死んでも、ひとりきりと言う訳ね…」

 

 

それらの言葉を最期に、消滅するバーサーク・サーヴァント達を見送り、オルガマリーは引き締めていた顔を呆れた物に変え、拳を握ってディーラーに向き直った。

 

 

「じゃあやるわよ。私達も直ぐに追いつくから、先に行って藤丸を守りなさい。貴方のその宝具は、貴方の助けを求める客の元に行くためにあるんでしょ?」

 

「ご明察だストレンジャー」

 

 

ポカッと、軽くではあるがディーラーを殴りつけるオルガマリー。それだけで命を落とした商人は主の側へと意識を繋げた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフハハハハハ!!」

 

 

撃ち、殴り、斬り、蹴り、穿ち、しかしそれでも死体を糧とし永遠と復活して襲い来る海魔の波に、防戦一方の立香達。マスターである立香まで参戦しているがあまりに無力。一体一体が弱くとも、圧倒的な質量はそれだけで脅威だ。

 

 

「アーハハハハハハハハハハ!!如何かなァ?これぞ聖杯の魔力を受けしわたくしめのチカラ!この力でジャンヌを守ってみせようぞ!」

 

「これほど、とは…!矢が、もうありません!」

 

「ちっ、タコもどきが…!こっちも弾切れだ!」

 

「先輩…これ以上、持ちません…!」

 

「もう少し堪えて…纏めて倒せるセイバーオルタの宝具をここで使ったらマシュ達まで巻き込まれてしまう…どうすれば…」

 

「立香。私の宝具を使ってもいいかしら?いいわよね!」

 

「え、あ、はい!」

 

 

打開策を練っていた立香は、突如浴びせられた声に条件反射で応え、振り向くとそこにはガラスの馬に乗ったマリーの姿。彼女はこんな状況でも笑顔を忘れず、海魔の群れへと飛び込んで行く。

 

 

「マスターのお願いよ。私は、貴方達を黒いジャンヌの元に送り届ける役目があるの。さんざめく花のように、陽のように…咲き誇るのよ、踊り続けるの!」

 

 

そう言って、煌めく粒子を纏って海魔の群れの中を跳ね回り、次々と蹴り飛ばしていくガラスの馬は、さらに速度を増し、マリーは優雅にジルへ笑顔を向けた。

 

 

「いきますわよ、百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)!」

 

「ヌゥアアアアアアッ!?」

 

 

蹂躙、直後に体当たり。跳ね飛ばされたジルは壁に激突しながらも、執念のままに立ち上がる。しかし、さらに追撃。

 

 

「これで、倒れて!」

 

「いい加減、黙れ!」

 

「ジャンヌ、瞬間強化…!」

 

「ありがとうございます、マスター!さぁ、覚悟なさい!」

 

 

マシュがシールドバッシュで殴り飛ばし、セイバーオルタが斬り上げ、最後に立香のスキルを受けたジャンヌが、先端が鋭く尖った旗を横に構えて跳躍、渾身の突きを魔本を握りしめた手の甲に繰り出す。

しかし、それでもなお執念のまま耐え続けたジルは新たに召喚した海魔の触手で三人を薙ぎ飛ばし、もはや理性すら消えている眼をさらに飛び出させ、咆哮する。

 

 

「まだだ……まだ穢し足りないィィ……最高のCooooooolをお見せしましょうううウウウウウウッ!」

 

「なっ…!?」

 

「すまないストレンジャー、今来た……ぜ……?」

 

 

絶叫したジルを、出現して行く海魔が触手で包み込み、取り込んでいく。ちょうどそこに立香の背後に現れたディーラーはそれを見て一言。

 

 

「…サラザールかよ」

 

「…誰?」

 

「誰得触手の坊ちゃん」

 

「言っている場合ですか!?」

 

「また、こいつか…」

 

「そんな…ジル、貴方はそこまで…?」

 

「皆さん、乗って!」

 

 

そんな事をぼやいている間にも、ジルを飲み込んだ海魔は召喚され続け、大きく肥大化して行く。そしてついには城の天井を突き破り、マリーの馬車で外に脱出した立香達が見上げるとそこには、巨大怪獣張りの海魔、大海魔が存在していた。

 

 

「デカ…過ぎる…!」

 

 

巨大な肉体を波立たせ、立香達の乗る馬車を襲う触手の波を、飛び降りたディーラーがマシンピストルを二丁手にして弾丸を放ち、怯ませて退かせた。それだけで以前、ストレンジャー(レオン)が戦っているのを見たラモン・サラザールの成れの果てと同じだと気付き、にやりと笑うディーラー。

 

 

「また化物か。少々飽きたが付き合うか?ストレンジャー」

 

「いや、無茶だよ!?今は所長と合流して…」

 

「セイバー、手伝え。やるぞ」

 

「…ああ。ついてこれるか商人」

 

「アンタこそ、ついてこれるか?」

 

「…ふっ。愚問だな」

 

 

城の前半部分を飲み込んでさらに巨大化して行く大海魔の眼前に並び立ち、各々の最強の武器を構えるディーラーとセイバーオルタ。そして、

 

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!・・・約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァアアアアアアアアアアアアアンッ!」

 

GoodBye(失せろ).Caster!」

 

 

黒い極光が大海魔の前半部分を消し飛ばして露出させた、中央に居たジルドレェ本体に目掛けて発射されたロケランが直撃。

 

 

「ああ…ジャンヌゥ…」

 

 

大爆発と共に、狂い果てた魔元帥は消滅し、フランスの空へと消えた。残るは聖杯であるジャンヌ・オルタただ一人。元凶が倒され最初の特異点はもう解決した…かに思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「滅びた私を召喚してみせた褒美だ、フランスを滅ぼせばよいのだろう?このロス・イルミナドス教団のカリスマであるオズムンド・サドラーが君の幻想に終止符を打ってあげよう、マスターよ」

 

 

ジャンヌ・オルタの手で召喚されたのはディーラーにとって因縁の相手。事態は収束どころが、混沌となって行く。




ディーラーの死骸から入手されたプラーガの死骸を触媒に教団のカリスマ(笑)が登場。はい、バイオ4のラスボスです。え、速い?んなこたぁない。この先どんどんこんなカリスマ(笑)よりも強敵が出ますから。

バーサーク・サーヴァント、オルガマリーの指示とアマデウスの宝具に気を取られて敗北。ディーラーが作っていた銀を使った武器が役立ちました。時間が無かったので杭みたいな槍と一発の弾丸だけでしたが、吸血鬼の相手には効果抜群。

原作と異なりジャンヌ・オルタよりも先に行われたジル戦。バレンタインじゃないよ。大海魔まで出すも、Zeroで敗北したエクスカリバーでレオンのサラザール戦の如く露出した本体を一撃必殺されて消滅。ディーラーとセイバーオルタ、下手したらマスターよりも分かり合っているかもしれない。

次回はディーラーにとっての天敵、VSオズムンド・サドラー戦。ジャンヌ・オルタはどうなるのか。オルレアン完結です。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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映画の中だけのクリシェだとよストレンジャー

はいどうも、放仮ごです。今回はオリジナル展開なのでちょっとぐだります。長いです。前回の最後よりちょっと前の時系列から始まります。

オルレアン最後の決戦。絶体絶命、立香達行動不能で単騎のディーラーVSサドラーです。ジャンヌ・オルタにはすまないと思っている…最後には新たなオリジナル英霊がさらに登場。楽しんでいただければ幸いです。


ジルドレェを撃破し、ジャンヌ・オルタの元に駆けつけるカルデア一行。相手は一人に対してこちらはマスター二人を除いても8人もいる。未だに英霊召喚中のジャンヌ・オルタに勝ち目など存在しなかった。

 

 

 

「思っていたより早かったですね。ジルは…やられてしまいましたか。まあいいでしょう、私一人でも復讐は成し遂げられる。手始めに貴方達を殺します。…一応挨拶をしておきましょう。こんにちは、私の残り滓。救国の聖女の残骸よ」

 

「いいえ、私は残骸でもないし、そもそも貴女ではありませんよ"竜の魔女”」

 

「…? 貴女は私でしょう。何を言っているのです?」

 

「…では簡単な問いかけです。貴女は自分の家族を覚えていますか?」

 

「……………………え?」

 

「やはり、記憶が無いのですね。貴女は、ただのジルの願望だ…貴方は怒りではなく哀れみを持って倒します」

 

「ほざけ!消えなさい、死ね!そうだ、そこの男の言葉が始まりだ!…私を不安にさせるなァ!」

 

 

己の持つ呪いの旗を掲げるジャンヌ・オルタに、ディーラーがナイフを手に飛び出した。

 

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……特にその男へ向けた憎悪の炎!」

 

「いいぜ、俺をその憎悪で燃やしてみろよストレンジャー」

 

 

放たれるは、復讐者の名の下に自身と周囲の怨念を魔力変換して焚きつけ、相手の不正や汚濁に独善を骨の髄まで燃やし尽くす炎を纏った槍の雨。

 

 

「ッ…全ての邪悪をここに!今こそ、報復の時は来た!

――――吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!」

 

 

己とジルの怨念を魔力変換したそれは、大海魔により崩れた天井から見える空を覆い尽くし、ディーラーに、ジャンヌに、立香達に降り注ぎ、ジャンヌ・オルタは勝利を確信する。だがしかし。

 

 

(しゅ)御業(みわざ)をここに……我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!

――――我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

 

対してジャンヌが掲げた聖なる旗から放たれたのは、天使の祝福によって味方を守護するEXランク(規格外)の結界宝具。

己の持つ対魔力を物理的霊的問わず、宝具を含むあらゆる種別の攻撃に対する守りに変換するそれは、使用中は一切の攻撃が不可能になる代わりに、防いだ攻撃を旗に損傷として蓄積して行く。…そう、攻撃は出来ない。だからこその、ディーラーだ。

 

 

「アンタを苦しませたのは俺みたいだからな。終わりにしてやるぜ、ストレンジャー」

 

「嗚呼ァアアアアアアッ!」

 

 

咄嗟にジャンヌ・オルタが抜いて振り上げた剣はナイフで軌道を逸らされ、擦れ違い様に腹部に一閃。ジャンヌ・オルタが振り返ると、そこにはリュックから抜いたショットガンを片手で握るディーラーの姿が。

 

 

「GoodBye!」

 

「ッ!?」

 

 

至近距離から放たれた散弾を受け、大きく吹き飛ばされたジャンヌ・オルタは沈黙。ガシャコンとポンプアクションを行なったディーラーは勝利を確信し、彼女から目を離してマスターの方へと視線を向ける。しかし、立香の顔は驚愕に満ちていて、同時に変な違和感を感じた。…胸から、何かが生えている?それは、湾曲した鋭い針だった。

 

 

「ディーラー!」

 

「…があっ!?」

 

 

そのままディーラーは持ち上げられ、用済みとばかりに針と繋がった細長い何かが振られ、ディーラーは壁に叩き付けられてそのまま崩れ落ち、立香の背後で復活し何が起きたのかとジャンヌ・オルタの方へ視線を向ければ、同時に思い出す。今のは何時か見たルイス・セラの最期と酷似していた。ならば当て嵌まるのは、やはりというか見たくもない顔がそこにあった。

 

 

「サーヴァント・ランサー。召喚に応じ参上した。邪魔者を排除してみたがよかったかね?」

 

「ええ、ええ、ええ!よくやったわランサー。狂化はされてないみたいだけど十分よ、奴等を殺しなさい!」

 

 

血塗れの姿で立ち上がる事もままならないまま壁に背を預けて息絶え絶えの憎悪に満ちた顔で咆哮するジャンヌ・オルタに、彼女が吹き飛ばされると同時のタイミングで召喚されたランサーのサーヴァントは落ち着かせるように手をかざして立香達に視線を向ける。

 

ギョロリとした複数の目をぱちくり動かし触手が数本うねうね動いている茶色い杖を手にした、豪勢な首飾りを首にかけた紫色のフード付きローブを身に纏って顔を隠している、両手の人差指と中指に金の指輪をはめた男が金色の目を輝かせながら頷き、ローブの下からグロテスクなサソリの尾の様な尻尾を出し、品定めをするように立香達を眺めて静かに嗤う。

 

 

「世界征服を成し遂げられずに滅びた私を召喚してみせた褒美だ、フランスを滅ぼせばよいのだろう?」

 

「ええ、そうよ。サーヴァントなら従いなさい!」

 

「ふむ、いいだろう。このロス・イルミナドス(教え導く者達の)教団のカリスマであるオズムンド・サドラーが君の幻想に終止符を打ってあげよう、マスターよ」

 

 

その言葉を聞き、ドシュッという擬音と共に溢れる鮮血に訳が分からない、と言った顔を浮かべるジャンヌ・オルタ。油断しきっていたジャンヌ・オルタの胸を、そのサーヴァントが彼女の背後まで伸ばしていた尻尾で先刻のディーラーと同じように背中から貫き、その身体を持ち上げて行く。

 

 

「人形如きが夢見た幻想にしては、火炙りにならないだけいい結末だろう?ジャンヌ・ダルクよ」

 

「なん…、で……」

 

 

貫かれたまま勢いよく床に叩き付けられ、耐え切れずに消滅するジャンヌ・オルタの跡に残っていた黄金の杯、聖杯を手にしたサドラーはニヤリと嗤う。その笑みに宿るのは、立香とマシュ、オルガマリーやジャンヌなどは見た事がなかった、純粋な悪意。

 

 

『な、何が起こったんだ!?サーヴァント反応が一騎消滅したぞ!?君達が倒したのかい!?』

 

「…違います、ドクター。ジャンヌ・ダルク・オルタが最後に召喚したサーヴァントが、彼女を殺害しました。聖杯はその男の手に…」

 

『なんだって!?』

 

「…俺は、この男を知っている」

 

 

状況が把握しきれていないロマンに説明するマシュを余所に、サドラーの姿を見てからどこかフラフラとしていたディーラーの呟いた言葉に、その場に居た全員が耳を傾ける。否、彼の夢を見た事がある立香とオルガマリーは思い至っていた。目の前の男の正体に。

 

 

「オズムンド・サドラー…ガナードの元締め。俺や村人共をガナードにした張本人、何か知らんがアメリカにコンプレックス抱いているカリスマ(笑)だ」

 

「言いたいことを言えて満足かね裏切り者の武器商人。私の支配から唯一逃れた君を、この手で殺す事が出来る機会を与えられ感謝してもしたりない。…君がレオンの支援をしなければ、彼は村で死に絶えていたというのに…つまりだ、私が滅びたのは貴様のせいという事だ…軽口叩きまくって死ぬがいい…!」

 

「マシュ!」

 

「はい!」

 

 

再び伸びて襲い掛かって来た尻尾を、立香がマシュに指示してディーラーから守り抜く。そのままセイバーオルタとクー・フーリンが飛び掛かるが、サドラーは滑る様な移動で後退してその一撃を回避。懐から紫色の液体(?)が入った注射器を数本取り出してにんまりと嗤った。

 

 

「邪魔者は御退場願おうか。宝具発動、我が支配し寄生の種よ(プラーガ・パンデミック)

 

「ッ!?」

 

 

投擲されたそれらは迎撃しようと放たれた攻撃を掻い潜ってディーラー以外の全員の首筋に突き刺さり、自動的に注入されて呻き、よろよろとふら付いて倒れる立香達に目を見開き、シカゴタイプライターを取り出してサドラーに向けるディーラー。今のは、見覚えしかなかった。

 

 

「サドラー!貴様…!」

 

「貴様には私の支配は通じないとはいえ、動きを鈍らせる事は出来る。だがそこの愚民には意味が無い、私は英雄などではないから直ぐに殺されるだろう。だから、新たに埋め込んだ。時間がかかるとはいえ、今の我が身はサーヴァント。宝具としてのプラーガは、すぐに成長する。そうなれば我が支配による苦痛には貴様と違い抗えぬ」

 

 

その言葉を表す様に、苦しんで身動きが取れない立香達を見て間髪入れずシカゴタイプライターを撃ちまくるディーラー。しかし100発もの弾丸が撃ち込まれたというのにビクともしないサドラー。

 

 

「どうした?早く私を殺さぬと貴様のマスターとその仲間はガナードになるぞ?…それに貴様は知らないのだな、私にそんな物は通じんよ」

 

 

そう言ったサドラーの腕が奇妙にボコボコと膨れ上がり、両手の指先をディーラーに向けると、指先から今ディーラーが撃ったばかりの弾丸がマシンガンの様に放たれてきた。避ける事も出来ず、あっさりと撃ち抜かれて崩れ落ちるディーラー。立香の傍に現れるも、疲労していた。

 

 

「ぐっ…どうしたの、ディーラー…」

 

「…すまないストレンジャー。宝具の真名解放を使ったせいで10回分を失った。俺はあと三回しか死ねない」

 

「ええっ!?…マシュ、セイバーオルタ、皆…!」

 

「すみません先輩…私も戦いたいのですが、先程のアレが刺さってから激痛で真面に立てません…」

 

「サーヴァントは激痛だけですんでるかもだけど私達魔術師は魔術回路もろくに使えないわ…何なのよアレ、ロマン!」

 

『すまない皆!こちらも精一杯分析しているが全然分からない!今、以前ディーラーに教えられたBSAAという組織のデータベースを探しているが駄目だ、人理焼却の影響か真面に働かない!レオナルド、君は天才だろなんとかならないのか!?』

 

『プラーガのメカニズムが分かれば…ん?待てよ、確か一度カルデアで死んだディーラーの死体がまだ残っていたな…』

 

「フハハハ。ここにはいない者達が何かしている様だが抵抗しても無駄だ。子は親には逆らえないのだよ」

 

 

愉快とばかりに笑うサドラーに、ディーラーはショットガンを手に突進、尻尾の一撃を掻い潜り、その顔面に叩き込む。

 

 

「…じゃあ逆らっている俺はどうなんだサドラー」

 

「不出来な子供だ。仕置きをしなくては」

 

 

しかしそれでも一瞬怯むだけだったサドラーの掌底打を受け、ディーラーは胸がぺしゃんこに潰れて吹き飛ぶ。今度はサドラーの背後に姿を現しハンドキャノンを突きつけるも、そこには既にサドラーの姿は無く…

 

 

「どこだ…?」

 

「ディーラー、後ろ!」

 

「なに!?」

 

 

残像を残した速度で滑走してグルンと広間を大きく一周して来たサドラーの手が触手の様に変形して伸びてディーラーの首を捉え、そのまま床にクレーターができる程強く叩き付け、沈黙させる。

 

 

「結局私に勝てなかった女スパイに比べても貴様は弱い」

 

「ああ、そうかよ…!」

 

 

最後の一回だからと、壊れた屋根の縁に現れロケットランチャーを取り出して即発射するディーラー。しかし滑走で避けていたサドラーはサソリの様な尾を天井に伸ばしてディーラーの居る足場を破壊すると、何とか着地したディーラーに目掛けて高速で突進。

 

 

「蠅を撃ち落とした時を思い出す武器だな。あの時のレオンはいい顔だった。今の貴様の様に、怒りに満ちたな」

 

「クソが…!?」

 

 

ディーラーの手からロケランを奪い取ると、尻尾を脚に巻き付けて吊り上げて放り投げ、そこにロケランを炸裂させてディーラーの体は木端微塵となり、最後の彼は立香の傍に現れ、息絶え絶えでその場に倒れてしまう。

 

 

「…絶対に殺すぞ、サドラー…」

 

「ディーラー……もう、やめて!」

 

「ん?その男を召喚した人類最後のマスターとやらか。何をそんなに怒っている?お前とて目の前に蝿が飛んでいたら叩き落とすだろう?それと同じ事だ。私にとって命令を聞かないガナードなど目障りなだけの蠅に過ぎん」

 

「ディーラーを馬鹿にするな!」

 

 

溜まらず懇願するも自身のサーヴァントを馬鹿にされて俯せのまま怒鳴る立香ではあるが、怒りに反して体はこれ以上動こうとはしない。目の前に立つ男に、逆らおうとしない。ディーラーはこんな激痛に耐えていたのか、と戦慄する。どれだけ苦しんでいたのか。

 

 

「何を言う?その男は他人に縋るだけの小物に過ぎん。味方が居ない時は身の程を弁え決して私に逆らおうとはしなかった。そいつの心は私の支配には抗う事が出来るが、ガナードである肉体は私の命令に多少なりとも影響を受ける。勝ち目など無い。

なに、お前達もガナードになれば存分に部下としてこき使ってやろう。何しろ私にマスターなどいらない。魔力タンクになるだけの駒であればそれでいいのだからな。…だが女、貴様はいらん。レオンの様に歯向かう者は生かして置いても何の得にもならない事を私は生前で学んだ」

 

 

コツコツと歩み寄って来るサドラー。ディーラーが殺されたらもう後が無い。そう感じ取ったオルガマリーは、魔術回路を開いた苦痛に耐えながら指先をサドラーに向ける。

自身は一度、死んでいる。それも爆発に巻き込まれていて。この痛みが何だ、冬木では自分は御荷物だった、今こそその汚名返上の時…!

 

 

「ガンド!」

 

「ぬう!?」

 

 

指先から放たれた呪いの魔弾は油断しきっていたサドラーを撃ち抜き、その動きを止めさせる。俗に言うスタンだ。ちょうどその時、カルデアの方でも動きがあった。

 

 

『ナイスだ所長!こっちもちょうど、レオナルドが打開策を思いついた!』

 

『オルガ、君の令呪でアマデウスに宝具を使わせるんだ!その、プラーガとやらを支配する力の正体は、奴の持つ杖から放たれている音響あるいは音波による特殊意思伝達法だと思われる!寄生体のみが感知できる音域で命令を伝え、意のままに操る力が彼の「支配」の正体だ。分かりやすく言えば犬笛の原理だね。

この仮説はディーラーの死体から採取されたプラーガの死骸から音を感知するらしき器官が確認されたことから推察したものだ。さらに記録によるロス・イルミナドス教団の教祖らは皆、特別な祭祀用の杖を携帯していた。それがあの杖だ、アマデウスの音でかき消している間にあの杖を破壊すれば勝機はあるぞ!』

 

「っ…オルガマリー・アムニスフィアが令呪を持ってアマデウスに命ずる!宝具を使いなさい!」

 

「ああ、喜んで…楽しみたまえ。公演の時間だよ!死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!」

 

 

オルガマリーの令呪により発動されたアマデウスの宝具による音楽が広間全体に広がり、体の自由を取り戻したセイバーオルタ達が飛び掛かる。

 

 

「ぬぅ…させん!」

 

 

しかし、いの一番に飛び出したセイバーオルタは尻尾で薙ぎ払われ、続けてクー・フーリンの放った炎を目暗ましに飛び掛かったジャンヌとマシュは杖を傍に突き刺したサドラーの両手による掌底打を腹に受けて吹き飛ばされ、ジークフリートとクー・フーリンは何かする前に尻尾の連打で近づけず殴り飛ばされ、マリーの舞うような蹴りも杖に当たる前に足首を掴まれ、頭から地面に叩き付けられてダウンしてしまう。

 

 

「強い…!?」

 

「…マシュ、突進して!」

 

「はい先輩、行きます!」

 

「終止符を打ってやろう…」

 

「ああ、私がな」

 

「なっ…!?」

 

 

盾を前方に構えて突進したマシュを掌底で吹き飛ばしたかと思えば、その影から魔力放出で宙に飛び上がったセイバーオルタに気を取られ動きが止まるサドラー。

 

 

「させるか…!?」

 

「後ろががら空きだぜ似非ランサー!」

 

 

間髪入れず正気に戻り迎撃しようとするも、咄嗟にジークフリートの手からクー・フーリンが掴み上げて投擲したバルムンクがその背中に突き刺さり悶絶して尻尾を引っ込めてしまい、その瞬間にセイバーオルタの一撃が杖を一刀両断、粉砕した。

 

 

「おのれ…!」

 

「決着をつけようぜカリスマ(笑)…!」

 

「低俗なガナード風情が!」

 

 

懐に手を突っ込んで突進するディーラー。自身のマスターを信じて自身目掛けて伸びて来た尻尾目掛けて突進し、

 

 

 

「ジャンヌ!マシュ!」

 

「はい!あと一人分だけですが…――――我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

「やああああ!」

 

「吹っ飛べ!」

 

 

ジャンヌの宝具でダメージを無くしたディーラーに気を取られたところに、マシュが背中側からサドラーを殴打、瞬間的にその口に現れた黄色い巨大な目玉に、それ(・・)だけは知っていたディーラーは手榴弾を繋げたナイフを突き刺し、マシュの手を掴んで引っ張ってもらい退避する。

 

 

「グゥウウ…!?」

 

 

そして、弱点部位を突き刺され呻いていたサドラーの頭部が爆発。勝利を確信する立香達であったが、ディーラーだけは違った。

 

 

「…これから何度でも戦うかもしれないから覚えておけストレンジャー共。俺と違ってガナードってのは、特に支配種は…無駄に堅いぞ」

 

「え…?」

 

「フハハハハハハハハハッ!」

 

 

轟く笑い声。爆炎が晴れるとそこには、フードが外れただけでピンピンしているサドラーの姿。ダメージは響いてこそいるが、ガナードとは元より痛みをあまり感じない。ギリギリのところでナイフを引き抜き、守り抜いた目玉以外への攻撃はあまり通じないのだ。

 

 

「まだ…まだ、何か手が…!」

 

「君達も分かっているだろう。今や正義が勝つなどというのは映画の中だけのクリシェなのだよ。だが、私の杖を破壊したのは君等が初めてだ。褒美として君達の幻想に終止符を打ってあげよう…そう、悪党の勝利という現実でね」

 

 

絶望を感じながらも睨みつけ、打開策を考える立香を嘲笑う様にそう言ったサドラーの人としての姿を突き破り、その姿が異形の物へと変わっていく。

首が長大に伸びて頭部の周囲に3本の巨大な牙が生え、首の根元からは巨大な4本の節足と数本の先端に刃のついた触手が生えて、手が触手状に変形した首以外の胴体を吊るして跳躍、広間の出口を塞いで着地するサドラーに怯む立香達。

ワイバーンはまだ、よかった。しかしここまでの異形を見たのは誰もが初めてであり、その異質さに顔を嫌悪に歪めた。しかし誰もが気付いた。節足の付け根に、先程呻いていた目玉が一つずつ付いていると。口からの目だけ閉じているが何の意味があるのか。

 

 

「…ねえ、もしかしてディーラー…?」

 

「…ああ、サドラーは人型の方が強い。レオンの奴は目を潰して怯ませたところにロケランを叩き込んでいた。…だがロケラン一発では死なないぐらいにタフだ。どうするストレンジャー?」

 

 

立香は考える。相手はタフだが、こちらには数がある。だったら…

 

 

「クー・フーリン。宝具でアイツを捕らえて!」

 

「おう、任せな!マスターの命令だ、とっておきをくれてやる・・・ランサーもどきを焼き尽くせ木々の巨人。

――――灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

 

 

立香達を押し潰そうとサドラーが跳躍するのと同時、炎を纏った無数の細木の枝で構成された巨人がクー・フーリンに召喚され、その手でサドラーをむんずと掴むと胸の檻の扉を開けて放り込み、丸焼きにしてしまう。その程度で倒れないサドラーであったが、複数の目でそれを捉え、かつて己を倒した男を思い出した。

 

 

「巨大化は死亡フラグだぜサドラー」

 

 

そう言ったディーラーの構えたハンドキャノンが、立香のマチルダが、マシュのマシンピストルが、オルガマリーのピストルクロスボウが、セイバーオルタのレッド9が、クー・フーリンのライオットガンが、オルガマリーから受け取ったマリーのブラックテイルが、アマデウスのシカゴタイプライターが、ジークフリートのロケットランチャーが、ジャンヌのコンパウンドボウが同時に火を噴く。

 

その中心にいる身動きの取れないサドラーへと、数の暴力が襲う。的がデカくなった分、狙うのは素人でも容易かった。

 

 

「アンタの言う通り俺は一人では弱いからな、ストレンジャーの力を借りて勝たせてもらうぜ。Goodbye!」

 

 

断末魔を上げ、ボロボロと崩れて消滅して行ったサドラーの跡に残ったのは、黄金の杯。それをディーラーが手に取り、第一特異点は修復された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌやマリー、アマデウスにジークフリートとの別れをすませ、カルデアに帰還した立香達。ロマンから初のグランドオーダー成功を称賛され、そのままダ・ヴィンチちゃんがディーラーから教えられた知識通りに作ったという機械で特殊な放射線を浴びてプラーガを駆除し、自室に戻る立香とディーラーはマシュやオルガマリーと別れ、二人で廊下を歩いていた。

 

 

「…大丈夫?」

 

「何がだ、ストレンジャー。傷も治した、魔力もまあまあだ。何も問題は無い。アンタこそ、プラーガ除去の苦痛は効いただろう?」

 

「それはまあ普通に痛かったけど…でも、あんなに感情を露わにしたディーラーは初めてだったから…」

 

「…俺にとって、サドラーは絶対に乗り越えられない壁だった。だがマスター達の力を借りたとはいえ俺の手でそんな奴に勝てたんだ、すっきりしているぜ。一つ心残りがあるとすれば、あの女だな」

 

「…黒いジャンヌの事?」

 

「狂気から生み出されたいたらいけない存在。アイツも俺も同類だ。あの様子じゃあもし座に記録していたとしてもサドラーに苦手意識を持つだろうし…まあ、お仲間だろうな。嫌われていたが、俺も気に入らなかった。同族嫌悪って奴だ。圧倒的な力の差を見せれば勝手に降伏するヘタレかとも思ったんだが、まさかサドラーを呼び出すとはな。あの執念には恐れ入った。今度会う時は一応謝っとこう」

 

「また会えるといいね。…ジャンヌや、マリー達にも」

 

「…そうだな。俺もストレンジャーやらに会いたいぜ」

 

「じゃあ召喚してみる?」

 

「いいのか?」

 

「私は当たる気がしないから少し自重するよ。ディーラーがやってみたら?」

 

「あまり期待しないでくれよストレンジャー」

 

 

そんな会話の後、召喚部屋に向かったディーラーと立香。そして。

 

 

 

 

 

「やっぱりハズレばかりだね…」

 

「可能性を上げるだけだからな。あと二回分だが…コスパもできんとは不出来な召喚システムだ」

 

 

所長に教えられた10回連鎖召喚を行なうディーラーと立香。ディーラーの言葉が癪に障ったのか、金色に輝く環と共に二人の前に現れたのは、二騎の英霊。

 

 

「「サーヴァント、ライダー。召喚に応じ参上した」」

 

「はい…?」

 

「…久しぶりだなストレンジャー」

 

 

全身甲冑を着込んで素顔を隠した小柄な英霊と、ヘルメットで顔を隠した特殊部隊の様な恰好をした男の英霊だった。




本当はバーサーク・サーヴァントの一人にしてワイバーンにプラーガを寄生させて戦力アップをするつもりだったけど大ボスの立ち位置になったサドラー。彼は根っからの「支配者」なので言う事聞くよりこっちの方が簡単にイメージできました。

サドラーが強過ぎると思いますが、殆んどゲームと同じです。ラスボスとしては弱いですが人型だと強いランサーのサーヴァント、サドラーさん。プラーガの力を解放しましたが瞬殺。ステータスは次回紹介します。
オルガマリーのガンドでピンチのディーラーを助けた所にエイダ・レポートで明かされた秘密をダ・ヴィンチちゃんが看破しアマデウスの宝具でピンチをチャンスに。アマデウスの宝具、攪乱に便利ですよね。

宝具を使うもジャンヌのチート宝具でディーラーに敗北してサドラーを召喚して早々、裏切られて殺されるジャンヌ・オルタ。レ/フとほぼ同じですが自分一人で戦っただけマシ。再登場は考えています。

前々回宝具を使ってストックを減らしていた事により、殺されまくり残り一まで追い詰められたディーラー。味方の援護がないと本当に弱いです。殺され方は僕の初見時の殺され方を抜粋。エイダの耐久低すぎてサドラーが異様に強くて死にまくった人はいっぱいいると思う。

別れのシーンは割合。立香達に埋め込まれたプラーガは普通に危険なのでディーラー協力ダヴィンチちゃん製作の例の機械で除去。描写しなかったのはアシュリー云々の理由から。

最後に召喚したのは、どちらも共にバイオ4の出身者のライダー。片方はディーラーと知り合いです。ローマで活躍する予定ですがどうなるかな…特に片方。

次回はサドラーのステータスの公開。その後はローマ!に行く前に一悶着。正直、ローマが一番書きにくいかもしれません。何故って?ローマ語が書けない。
次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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奴の性能だ一応見て置けストレンジャー

何時の間にかお気に入り件数600件を超えていてびっくりしている放仮ごです。ついに過去作最高のお気に入り数まで超えてしまった…まことにありがとうございます。ローマ編からも頑張らせていただきます。

今回は本編ではなくサドラーのマテリアル的な物です。よければどうぞ、見て行ってください。



サドラー

 

クラス:槍使い(ランサー)

真名:オズムンド・サドラー

マスター:ジャンヌ・ダルク・オルタ

性別:男性

出典:バイオハザード4(レオン・レポート)

地域:スペイン、アメリカ

属性:秩序・悪・人

イメージカラー:紫、毒々しい黄色(プラーガ解放時)

特技:対象の弱みに付け込む話術による人心掌握

好きなもの:自分に従う者、プラーガ、映画

苦手なもの:アメリカ人、信頼、仲間、操れない者、光(プラーガ解放時)

天敵:レオン・S・ケネディ

 

ステータス:筋力B 耐久A+ 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具A+

 

スキル

・対魔力E:クラススキル。魔術に対する抵抗力だが魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

 

・教団のカリスマ(自称)A-:邪智のカリスマの派生型。邪教集団の指揮能力、教団の中でのカリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。通常のカリスマはAクラスともなれば人として最高位のカリスマ性だが、彼のカリスマは話術によるもののため、効く人には効くし効かない人には効かない。プラーガを使って信仰させれば100%墜ちる。

 

・寄生細胞A:自己改造の派生型スキル。支配種プラーガを寄生させた肉体は高密度に圧縮された支配種プラーガの細胞が駆け巡っており、人智を超えた身体能力を発揮したり、体の一部分を触手や尻尾に自在に変化させることができる。銃弾を大量に浴びてもプラーガの細胞が瞬時に弾を掌部分に集めて指先から撃ち返す芸当が可能。また打たれ強く、衝撃か爆発を与えないと怯みもしない。まさに反則級の力。ただし斬撃には滅法弱い。

 

・アメリカンクリシェA:アメリカ人に対して憎悪やコンプレックスを抱えていた事から変質したスキル。アメリカ人に対して戦闘能力が上昇する。ちなみにクリシェとは決まり文句の事。

 

 

宝具

我が支配し寄生の種よ(プラーガ・パンデミック)

ランク:A

種別:対人宝具/対ガナード宝具

 プラーガを操る音波を発する杖と、人間やサーヴァントにプラーガを打ち込む注射器。ガナード化させて操る事が可能で通常の聖杯戦争なら下手したら無敵と化す。注射器はある程度自在に操る事が可能で、敵の攻撃を掻い潜り打ち込むことができる。

別の音でかき消されると命令は無効化されるが、その状態で杖を破壊するとサドラーとのリンクが切れてしまい彼が消滅しても、プラーガはそのまま残るため除去しないとそのままガナードになってしまう生物災害(バイオハザード)を引き起こす事が出来る宝具。

 

覚醒せし寄生種の支配者(ロス・イルミナドス)

ランク:B

種別:対人宝具(己)

 スペイン語で教え導く者達、を表す言葉を体現した宝具。

具体的に言うと内に秘めていた巨大な支配種プラーガを解放して全方位を見渡せる異形の巨体と化す。デメリットとして喋れなくなる。

強固な外殻と驚異的な跳躍力、牙やら爪やら触手やらで敵を追い詰めるのだが、弱点の目が丸出しの為それがバレると簡単に倒せてしまう。また、無理矢理詰め込んでいた物を外に出している状態なためこの状態から戻る事は出来なくなる諸刃の剣。

 

 

詳細

スペインに古くから存在する邪教集団「ロス・イルミナドス」の教祖で、眉毛が無いのが特徴のアメリカに何らかの憎悪やコンプレックスを抱くスペイン人。

プラーガを使って全世界を支配しようと企んでおりその為ならば、籠絡しサラザール城に封印されたプラーガを解放させた狂信者である八代目城主ラモン・サラザールの領地としてある寒村の村人達に予防接種と称してプラーガの種を植え付けて半ば強制的にガナードにするなど非人道的な行為も厭わない悪逆非道な人物。

 

ロス・イルミナドスの力を世に示すため、まずはアメリカ合衆国に宣伝と称して大統領の娘を部下の元合衆国エージェントに攫わせてプラーガの種を彼女に植え付け、身代金を要求して金を得た上で、プラーガ入りの娘をアメリカに送り返して混乱させアメリカを掌握する計画、即ちディーラーも巻き込まれた「アメリカ大統領令嬢誘拐事件」における全ての元凶。

大統領の娘を救出に寒村に訪れたレオン・S・ケネディの手によって部下の殆んどを倒されて追い詰められ、プラーガの力を解放して殺そうとするも返り討ちにされて倒され、辛うじて残った死体の残骸は爆発する孤島と共に海に散った。

 

とにかく疑り深く慎重な性格で、例え自らの得になった人間でもすぐに人を信じようとはしない。実際にサドラーに忠実であった寒村の村長であるビトレス・メンデスや前述したラモン・サラザールに対してあまり期待しておらず、彼等がレオンに倒されても動揺せず嘲笑すらしてみせたほど。

しかし研究者であるルイス・セラにはプラーガの研究・実験を一任するなど一応信用できる人間も居たようではあるが、彼が良心の呵責からサドラーを裏切ったためますます人間不信に陥り、とある団体に保護してもらうためにプラーガのサンプルを持ち出したルイスを、レオンの前で容赦なく殺害して見せた。

また、本気で世界を征服するためにアジトの孤島に戦闘員ガナードや戦艦等を有しているなど、用意周到である事が伺える。

 

寄生されても自我を残すことができる支配種プラーガをその身に宿しており、とりわけ他の支配種プラーガよりも格段に進化を遂げたものを寄生させている為、生身での戦闘能力は自我を持った生物兵器の中ではトップクラス。しかし進化を遂げている分弱点も明確になってしまい、「己の力を示す行為」こそが自身の首を絞めてしまった。

 

また、根っからの支配者であるためサーヴァントとして召喚されても、例え自身が消滅するとしても隙あらばマスターを躊躇なく殺す危険人物。聖杯を得て現界したオルレアンでの召喚では、レオンが居ない世界でロス・イルミナドスをフランスから広げ世界征服を成し遂げようと目論んだが、生前で唯一支配に抗い己がレオンに殺された一因でもあるディーラーを痛めつけ絶望させる事に執着してしまい、自身の持つ強大な力への過信から敗北した。

 

ランサーなのは杖を持っているからではなく、ルイス・セラを串刺しにしてみせた尻尾と、槍状に伸びる触手に変形する右腕から。

 




一言で言えば独りよがりな外道爺。なお、再登場の予定はない模様。身長、体重はさすがに分からなかったよ…特に解放後。

チェイサーには劣りますが普通に強サーヴァントですね。対アメリカ特攻という第五特異点で活躍しそうなスキルは今回、あまり意味が無いです。というかアメリカ出身の既存サーヴァントがまず少ないからブーディカさんのローマ特攻並みにあまり役に立たない可能性…

宝具名は教団名と、プラーガによるバイオハザード、から取りました。ちなみに「己の力を示す行為」やディーラーに対する恨みは自己解釈です。武器商人がレオンに手を貸さなければ籠城戦やその後のチェンソー姉妹+エルヒガンテ戦で負けていた可能性が微レ存。今回、村長や坊ちゃんの名前は出したのに何人かの名前を出さなかった理由は察してください。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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第二特異点:永続変異狂気帝国セプテムG
ローマは大波乱だストレンジャー


どうも、最近起きるたびに寝床の枕の上に寝る前にはなかったはずのGの死骸だったり死に掛けだったりが落ちていてろくに眠れない放仮ごです。本当に何なんだ…どこから来るんだ…何で死に掛けなんだ…

寝不足テンションで書いたためクオリティは下がっているかもしれません申し訳ない。

今回は前回の召喚後のいざこざ、オルガマリーの英霊召喚、そしてローマ突入。本格バイオハザード×FGO要素が入ります。楽しんでいただけたら幸いです。


「「サーヴァント、ライダー。召喚に応じ参上した」」

 

 

召喚されたライダーのサーヴァント二名の内、全身甲冑の方に話しかけるディーラーに「騎士とも知り合いだったのか!?」と内心戦慄する立香。ディーラーと甲冑のライダーが何やら話し込み始めた間、手持無沙汰になったもう一人が歩み寄って来た。

 

 

「アンタが俺達のマスターか?」

 

「あ、はいそうです。カルデアのマスターやらせていただいている藤丸立香です」

 

「畏まらなくていいぜマスター。俺はマイク、しがないヘリ操縦士だ。よろしくな」

 

「はあヘリ操縦士…ヘリ!?」

 

 

また近代的な英霊だなぁと思っていたら本当にディーラーと同じ最近の英霊だったヘルメットで顔を隠したライダーのサーヴァント、マイク。

 

 

「知っているかは知らないが、レオン・S・ケネディの援護をした者だ。そのままロス・イルミナドスの連中に撃ち落とされてしまったがな」

 

「…って事はディーラー?もしかしてその人も…」

 

「ああ、ストレンジャー。そっちの男までレオンの奴の知り合いとは知らなかったが、コイツは紛れもなくレオンの関係者だ。アンタ、また英雄でも反英雄でも無い半端な英霊を呼んでしまったらしいぜ?」

 

「またですか。えっと…貴方は?……男ですか?女ですか?」

 

 

今のところ素性不明性別不明の甲冑のサーヴァントにそう尋ねる立香。すると甲冑がエーテルとなって霧散し、ごく普通の服を着た金髪の少女が現れ、何やら憤慨し始めた。

 

 

「失礼ね、私は女よ!…ところで貴女が私のマスターなの?レオンがいると思って来たのに武器商人さんだったし…頼りないわね…」

 

「そちらこそ失礼じゃないかお嬢様。名を聞く時は先ずご自分からだぜストレンジャー」

 

「…私はアシュリー・グラハム。アメリカ大統領の娘よ。私はろくに戦えないし、場違いかもしれないけどよろしくお願いねマスター」

 

「うん、よろしく。マイク。アシュリー」

 

 

ディーラーに促されて礼儀正しく礼をした甲冑のサーヴァント、アシュリーとマイクに笑顔で応える立香。戦力になるかは微妙ではあるが、仲間が増えたのはいいことだ。次の特異点に連れていくことを決めた立香は、彼等を連れて報告のために管制室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また石を使ったの!?オルレアンで手に入れたもの含めた30個全部!?」

 

 

報告を聞くや否や、次の特異点についてロマンと話し合っていたオルガマリーは立香に怒鳴り散らした。しかも引けたのは相変わらず強力なのか弱いのかよく分からない無銘の英霊ばかり。さすがにキレる。

 

 

「はい。でも二人も当たったので大勝利ですよ所長!」

 

「そう言う問題じゃないわよ!?私、せっかくマスターになれたのに貴女と違ってまだサーヴァントが一人もいないじゃない…このまま特異点を攻略していたらまた死んじゃうわよ!?」

 

「あ、一回分ならディーラーがファヴニールやらを倒した時に手に入れたらしい三個がありますけど」

 

「よこしなさい!」

 

 

あとで召喚するつもりだったのか申し訳なさそうに懐に隠し持っていたそれを差し出してくる立香から涙目で分捕り、ついでに確実に当てるためにディーラーを引っ張って召喚部屋に直行するオルガマリーを優しい目で見つめるロマンとマシュに立香は首を傾げた。

 

 

「どうしたの二人共?」

 

「いやね。所長、父親が死んでも気丈に振舞って無理していた子だったから…何か、今彼女があんな風に感情をむき出しにしていて嬉しくてね」

 

「私もあんな人間らしい所長はカルデア生活でも始めて見ました。レフ教授にさえ、あんな顔は見せませんでした。ディーラーさんは恩人でありながら対等の友人みたいなものなんでしょうか」

 

「…何かジェラシー感じる…所長とディーラー二人共に」

 

「分かるわマスター。私も、レオンが私に隠していた女の人を「俺の心の幻影かもな…」なんてほざいた時は海に蹴り落としてやろうかと…」

 

「いや、そいつは違うんじゃないか?」

 

 

頬を膨らませて不貞腐れるマスターに感慨深げに同意するアシュリーにツッコむマイク。それだけで新たな仲間と仲良くなれそうだなとマシュは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディーラーが喚びなさい!」

 

「ストレンジャーの初めての召喚なんだろ?アンタがした方がいい。俺が喚んで弱いのが来て怒られるのも面倒だ」

 

「…分かったわ。ただ側にいるだけでいいから」

 

 

そう言って石を召喚サークルに放り投げ、静かに祈る様に自分を守ってくれる英霊をイメージするオルガマリー。

 

 

「もう誰も死なせない。私みたいな犠牲者は出したくないけど、人理は救いたい。それが実現する私の武器になってくれる強いサーヴァント、来て…!」

 

 

願い続けるオルガマリーに呼応し、光輝いた三つの環から何者かが現れる。十中八九サーヴァントだ。立香はこの方法でディーラーを当てたのだ。もし微妙な性能でもそれなりに強い英霊が…

 

 

「サーヴァント、清姫。こう見えてバーサーカーですのよ?どうかよろしくお願いしますね、安珍様(マスター)?」

 

「………清姫って、日本のお伽噺のアレ?」

 

「はい。その清姫でございます」

 

「…アンチンサマって、私の事かしら?」

 

「もちろん貴女の事です。もしや私を忘れてしまったとは…嘘吐きは燃やしてしまいますよ、と言いたいところですが嘘はついていない様ですね。私には分かります」

 

「え、ええ…」

 

 

命の危機に瀕して脱した事を察しながら、手にしたセイントグラフに記されたステータスを見たオルガマリーは絶望した。敏捷Cと宝具EX以外のステータスがオールE。さらに狂化EX、つまり話が通じない。これは酷い。

 

 

「…最狂の武器を当てたなストレンジャー。俺より酷いとかある意味凄いぞ」

 

「…清姫。令呪を持って命ずる、貴方の性能を確かめたいから宝具でそこの馬鹿をやりなさい」

 

 

哀れみの目を向けて来たディーラーにカチンと来て、立香への怒りやらが頂点に達したオルガマリーは回復したばかりの令呪が刻まれた右手を掲げ、そう言うと清姫は一瞬混乱した後に扇子を構え、こてんと首を傾げて問いかける。

 

 

「よろしいのですか?」

 

「どうせ生き返るし、何よりアンタのせいでハズレが来たのよ!あとアンタのマスターが勝手に10連鎖召喚をしなければー!」

 

「はい、喜んで。転身火生三昧!」

 

「crazyだなストレンジャー…」

 

 

その後召喚部屋が全焼し、黒焦げになったオルガマリーと清姫がロマンに怒られ、立香がオルガマリーに謝り倒したのは言うまでもない事であった。

 

なお、召喚の様子を見に来て巻き添えになった新入り二人のうちアシュリーのみが何故かピンピンしていた事を一応報告しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで数日後。立香が清姫に嫌われたり、清姫がオルガマリーに何度もダイレクトアタックを仕掛けたり、ディーラーとマイクがダ・ヴィンチちゃんと共に装備の相談をしたり、鎧を着たアシュリーにセイバーオルタが興味を持って仲良くなったり、ディーラーとクー・フーリン、メディアに加えて清姫がINしたことによりカルデア食堂が盛り上がったりした、そんな日常の中で。ついに発見された第二特異点についてロマンによるブリーフィングが始まった。

 

 

「さて、今回発見した特異点の事について説明する。レイシフトする先は一世紀のヨーロッパ、イタリア半島から始まり地中海を制した大帝国、古代ローマだ。この時代でどのような異変が起きているのか、それはまだ観測しきれていない」

 

「ローマか。…奴隷制度のあった時代だな」

 

「…ああ、そうかガナードって…」

 

 

家畜。その意味を持つ名称で呼ばれたディーラーにとって奴隷制度は嫌悪する物であり、それを知っている立香は居た堪れない表情を浮かべるが、それを尻目に話を続けるロマン。

 

 

「まず間違いなくその時代のローマ皇帝、ネロ・クラウディウスが今回の鍵だろう。そこは所長の出番だ、交渉役をお願いします」

 

「ええ、任せなさい。…だからこの子を誰か離してくれないかしら」

 

『………………』

 

「無視しないでよ!?」

 

「それで、今回のメンバーだが…」

 

 

ずっとオルガマリーの背中に寄り添うその少女を気にしないことにしたロマンの続けた言葉に異議を申し立てるのは立香だ。

 

 

「今回のって事は全員を連れて行けないんですか?」

 

「現状、レイシフトできるサーヴァントは五名なんだ。マスター適正のあるマシュ以外だけどね。所長、どうします?」

 

「…ディーラーと清姫は連れていくとして、現状カルデアの最高戦力であるセイバーオルタと、ディーラーと本人達による話から有利に事を運べると思われるアシュリー・グラハムとマイクを連れて行きます。異論はないわね?」

 

「俺は今回お留守番か。ディーラー、嬢ちゃんは任せたぜ」

 

「おう、任された。もしもの時はマシュの嬢ちゃんの出番だな」

 

 

オルガマリーの言葉に頷く面々。ベストだろうと誰もが思う。クー・フーリンが居ないのは聊か不安は残るが、それでも十分だと思える面子だった。

 

 

「転移地点は帝国首都ローマを予定している。聖杯の場所は不明で歴史に対してどんな影響があるかも分かっていない。作戦は今までと同じだ。サポートとバックアップは僕ら待機班に任せてくれ。無事に帰って来てくれ」

 

 

その言葉を受け、レイシフトを行なう立香達。そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立香達カルデア一行は、戦場のど真ん中へとやって来た。大部隊と、少数の部隊による激突。ちなみに少数部隊を率いていたのは赤いドレスに身を包んだ小柄な少女だった。彼女が個人で大多数を圧倒し、少数でも拮抗させている様だった。

 

 

「この時代のローマ付近で戦争があったなんて知らないわよ!?清姫、私を守りなさい!」

 

「つまり、これが今回の異変ですね…マシュ、みんな!人間は出来るだけ峰打ちで!」

 

「エクスカリバーで無茶を言う…商人!ライオットガンとやらを渡せ!」

 

「ライオットガンは打撃武器じゃないんだがな…!」

 

 

投げ渡されたライオットガンで襲いかかってきた兵士に兜割を叩き込むセイバーオルタを見ながら、オルガマリーは指示しながら新たな仲間へと目を向ける。

 

 

「とりあえず少ない方に加勢するわよ!…清姫、アシュリー、マイク。初陣だけどやれる?」

 

「マスターのために焼き尽くします…!」

 

「レオンがいないから不安だけど大丈夫!」

 

「援護は任せろ!」

 

 

霊体化していたらしい戦闘ヘリを出現させ、それにディーラーと共に乗り込み機関砲でディーラー特性ゴム弾を大部隊と思われる兵士に撃ち込んで行くマイク。さらに後部座席からディーラーも閃光手榴弾を投げまくり、突如現れた謎の物体と閃光の連鎖に士気は下がってさらに清姫の炎で牽制され、その真っ只中に何も武装していないアシュリーが飛び込む。

 

 

「あわわ…えっと、護衛いらずの無敵甲冑(ノーモア・レオン・アーマー)!」

 

 

周囲を囲まれ、剣が同時に振り下ろされてきたため思わず頭を庇って屈み、思い出したかのように自らの宝具である甲冑を出現させ全てを防いだ上で、剣身を全て砕きながら立ち上がるアシュリー。その背後から突撃して来た兵士が斧を振り下ろすも斧の方があっさり破壊され、アシュリーは振り向きざまに両手を突き出し、思いっきり吹き飛ばす。

 

 

「危ないわね、怪我したらどうするのよ!」

 

 

いや、絶対怪我しないだろと誰もが心の中でツッコんだのを知ってか知らずか腕をブンブン振り回して突撃し、ボーリングのピンの様に兵士をどんどん跳ね飛ばしていくアシュリー。マシュとセイバーオルタと清姫はマスターの周りを護衛するだけであり、新サーヴァント二名により戦局は傾き始める。

 

 

「…ヘリを出せるのも凄いが、あのお嬢様の無敵っぷりも凄まじいな…」

 

「だが俺達の武装じゃただの人間は殺しかねない。さっさと大将を狙って撤退させるべきだが…」

 

「キシャアアアアッ!」

 

「なっ!?」

 

 

上空を旋回し、敵軍のリーダーを捜していたマイクのヘリへと、突如跳躍して来た何者かが操縦席のガラスへとへばりつく。それを見てディーラーは青い顔になってすかさずマグナムを構えた。それは、前回ワイバーン相手に幾度も連想した生物兵器であるハンターだった。

 

 

「何でこいつがここに…!マイク、振り落とせ!」

 

「この、邪魔だ!」

 

 

マグナム一発を浴びても怯まずプロペラを破壊しようと爪を振り上げたハンターは、マイクの操縦で体勢が崩れて機関砲に堪らず掴まり、ハチの巣にされて落ちて行く。そして下を慌てて確認すると、何時の間に投入されたのかハンターの部隊を引き連れた、色黒のローマ皇帝の姿があった。

 

 

「…よりにもよってバイオハザードか。コイツはきついぜストレンジャー」

 

 

その異形と化した右腕の肩に付いている眼に睨まれ、ディーラーは身震いする。前回のサドラーもヤバかったが、此処は本当にヤバい。




G生物inカリギュラの叔父貴+ハンター軍団。ローマ連合、超強化です。

新サーヴァントはバイオ4のヒロイン、アシュリーとレオンの救援に駆け付けたカプコンヘリの使い手、マイクでした。どちらも共に宝具が強いだけの英霊です。マイクはヘリに乗らないとろくに戦えません。容姿はよくあるヘリの操縦士のイメージ。エンディングでエイダを回収したヘリの操縦士がマイクじゃないかと疑っていたりしますがさすがにナイヨネ。
アシュリーの兵士を吹き飛ばす怪力、アレ実はゲームのネタです。ディーラー並の体力で普段はひ弱なアシュリーですが、レオンが押せないコンテナを彼女が手伝う事で押せたりと意外と力持ち。
しかしそれが理由ではなく、ゲーム内でアシュリーと分断されドリルが襲い来るという罠があるんですが、あそこである工夫をすれば、錠前がかかった鉄の扉をこじ開けて来るんです。レオンでさえも蹴りを何発か当てるかナイフや拳銃を使わざるを得ない錠前を、女の子が素手でです。筋力凄い。

清姫を召喚してしまい安珍様認定された不幸なオルガマリー。最初は武器繋がりでエルキドゥを呼んでレフを鎖で縛って圧殺しようと思ったんですが、いざ書いてみると口調が安定せず、やむなく彼女に変更しました。何で立香が安珍様じゃないのかというと、とある理由から清姫に嫌われているからだったり。オルガマリーは基本本音しか言わないから相性抜群。

ローマ突入、しかしていきなりのハンター軍団とG生物inサーヴァントという強敵登場。アシュリーの宝具「護衛いらずの無敵甲冑」は名の通り無敵ですがやはり英霊、制限つきです。立香達は切り抜ける事が出来るのか。

次回はGカリギュラ戦。そしてローマ!がいきなり登場。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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別行動させてもらうぜストレンジャー

筆が載ったので前回から一日も経たずに早めに更新させていただきます放仮ごです。
前回のアシュリーとマイクの登場、G生物とハンター乱入は大盛況だったようで何より。バイオ4をプレイしたみんなマイクが好きなんだね、分かるとも!

今回はG生物カリギュラ&ハンター軍団との激闘。そして最後に偉大なローマと共に「彼」が登場。楽しんでいただけたら幸いです。


 ハンターの群れ、それを確認するや否やディーラーはマイクにハンターに気を付けながら敵の人間兵を頼むと言って飛び降り、間髪入れずマシンピストル二挺を取り出して乱射。次々と己や少数兵達に襲い掛かってくるハンター達の頭に寸分違わず弾丸を十数発撃ち込んで撃破して行く。

 

 

「ああくそ、多すぎるぞチートトカゲ共が!」

 

 

しかし倒せているのは明確に自分に襲い掛かってくる連中だけであり、間に合わなかった少数兵がどんどんハンターの即死攻撃「首狩り」を受けて頭部と体がお別れして行く。それを見て歯軋りしながら弾が切れた片方のマシンピストルを宙に放り投げ、落ちてくる間に懐から次の弾倉を取り出してキャッチすると同時に装填、それを繰り返して応戦するディーラー。敵方をあらかた倒したのか、マイクの援護射撃も加わるも、焼け石に水。そのうち、少数兵の残りが50を切り、司令官なのだろう赤いドレスの少女が声を上げる。

 

 

「皆の者、逃げよ!この異形の集団は余が食い止める!ローマは滅んではならぬ!」

 

「…っ、皇帝陛下に続け!ローマの力を見せろー!」

 

「「「「「オオーーーーッ!」」」」」

 

「ぬぅ、さすがはローマ市民だ。行くぞ!このネロ・クラウディウスに続くがよい!」

 

 

紅い大剣を振り上げてハンターの首を斬り落とす少女…ネロに鼓舞されたのか、少数兵も押し返し始める。

 

 

「彼女がネロ・クラウディウス!?男じゃないの!?」

 

「…セイバーオルタと顔が似ていますしそう言う物なのでは?」

 

「言っている場合かマスター!呑気に笑っている暇があるならその手に持つ銃で自分の身ぐらいは守れ!」

 

 

そう怒鳴りながら立香を庇い、片手で持ったライオットガンをぶっ放してハンターを吹き飛ばすセイバーオルタ。確かに戦況は良くなったものの真面に戦えているのはサーヴァントかネロだけであり、少数兵は数人で一体を仕留めるのがやっとという感じだった。しかしそれでも、数が一向に減らないハンター軍団にディーラーは焦りを隠せなかった。

 

 

「まだ100はいるか…人間兵がほとんど居なくなったことを見ると相手方の切札なんだろうが…こんな序盤で宝具を使う訳には行かない…どうする、ストレンジャー!」

 

「どうするって言われても…」

 

「ディーラー!こいつ等の事を知っているなら何でもいいから教えなさい!」

 

「こいつ等はハンター!オルレアンのワイバーンとは比べ物にならない、簡単な命令を実行する対人特化の生物兵器だ!何でこの時代に居るかは知らないが、明確な弱点は硫酸弾ぐらいだ!」

 

「そんなもの持ってないわよ!武器商人の本領発揮じゃないの!?」

 

「グレネードランチャーは生憎取り扱ってねえ!弾が貴重だからな!」

 

「この商売馬鹿!?」

 

 

オルガマリーと文句を言い合っても埒が明かない。そして何よりもう一つの問題は…

 

 

「ネロ…ネロ、ネロォ…ネロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 

先程まで沈黙していた色黒のサーヴァントが、ネロを見た途端雄叫びと共にサーヴァントとしても凄まじい速度で突進、異形と化した右肩の巨大な眼で、たった今ハンター二体を一掃したネロを補足すると異形の鉤爪と化した右腕を振り上げた。

 

 

「なっ…まさかカリギュラ叔父上か!?何故生きて、それにその姿は一体…」

 

「危ない!」

 

 

そのサーヴァント…カリギュラの一撃を、間一髪でネロを庇い受け止めたのは盾を構えたマシュ。しかしその一撃はデミ・サーヴァントとはいえ少女の肢体では耐え切れず、ネロ共々吹き飛ばされてしまう。バーサーク・サーヴァントとも違う、異常とも言える力に恐怖を抱きながらも己を叱咤し、立ち上がるマシュ。

 

 

「私も先輩と同じです…誰にも死んでほしくない、だから私は戦います!」

 

「ネロ、ネロォ…余は、愛して、いる、ぞ、我が、愛しき妹、の子よ。ネロォオオオオオオッ!」

 

「アシュリー!」

 

「任せて!おりゃー!」

 

 

右手を振り上げて突進してきたカリギュラを、横から割り込んで体当たりをかまして妨害するアシュリー。

 

 

「ネロォォオオオオッ!」

 

「筋力Bじゃないと持ち上げる事もできないのにー!?」

 

 

しかし地面から離れてしまったためか容易く跳ね飛ばされてしまい、そのまま狂喜に満ち溢れた凶器がネロに襲い掛かるも、それは清姫の放った炎を本能的に避けて阻止される。その様子を見て、どこか震えているネロが信じられないとばかりに問いかけた。

 

 

「何故だ!叔父上は死んだはず…何故迷い出た上に連合ローマ帝国の「皇帝」を名乗り、そのような姿になってまで…余のローマを滅ぼそうとする!?もしや、連合帝国は真実に歴代のローマ皇帝が蘇っているのか…!?」

 

「余、の…余の、振る舞い、は、運命、で、ある!」

 

「否、死者が今代の皇帝に運命を語るなど!」

 

「なれば、生者の、お前が、加われ、ば、よい。我等も、ローマと戦争、など、したくは、ないのだ」

 

「ふざけるな!ローマとは唯一であり、同時に皇帝もまた一つの時代にあって唯一である。例え叔父上たち栄光なるローマ皇帝等が甦ったとしてもそれはもはや過去の栄光!余こそその唯一たるローマ、現皇帝である!」

 

 

一瞬迷った様ではあるがそれでも迷いを振り切り、そう宣言するネロの姿に、マシュはオルレアンで出会った聖女の在り方を思い出していた。ああ、似ている。これが英雄の光か。

 

 

「…ならば、捧げよ、その、命。捧げよ、その、体。ネロ、お前の、 す べ て を 捧 げ よ ! 余 を 受 け 止 め よ !」

 

「なんとぉ!?」

 

「あら、告白ですか?嘘偽りの無い狂気に満ち溢れた愛、感銘を受けますね安珍様?」

 

 

片言ながらも何やら言いだし始めたカリギュラに頬を朱くした清姫がハンターを焼き払いながらも背後のオルガマリーに振り向くと、そこには若干青ざめて慌てたマスターの姿があった。

 

 

「言っている場合じゃないわ!とにかく清姫、ネロ皇帝を守って!あの人はこの時代、絶対に居なくてはならない存在よ!殺させちゃいけない!」

 

「あら。殺す気はないと思うのですが。まあいいでしょう、シャアッ!」

 

「ぬぅ、邪 魔 だ !」

 

 

オルガマリー(旦那様)の指示で炎を飛ばし、未だに襲い来るハンター共々カリギュラを焼き尽くす清姫。しかしそれでもカリギュラは止まらない。彼は、月の狂気に支配されながらも妹の子を愛しているからだ。その愛は、彼に埋め込まれた物によって異常なほどまでに増幅、本能から彼女を求める様になっていた。生半可な物では、止まらない。

 

 

「冬木のバーサーカーを思い出すわ…ってそうだ、藤丸!セイバーオルタに宝具を使わせなさい!今回着て来た礼装、魔術協会制服のスキル霊子譲渡を使うのよ!」

 

「っ、皆!退避して!」

 

「皇帝陛下、貴方の兵も一度お下げになってください!」

 

「う、うむ!」

 

 

立香の指示に、セイバーオルタはマスターの前までハンターを切り払いながら後退。マシュもカリギュラの猛攻を復活したアシュリーと共に防ぎながらネロを連れて後退して行く。

 

 

「そうか、騎士王の宝具か!マイク、俺を上げろ!とっておきを叩き込む!」

 

「OK!」

 

 

ヘリから下げられたワイヤーに繋がった足場を掴み、上空に舞い上がりながらディーラーは用意して来たそのとっておき、生物兵器を引き寄せる音を放つ「B.O.W.デコイ」を投擲。ハンターを一か所に集め、カリギュラの気もこちらに引かせるとマイクにエクスカリバーの範囲の外まで飛んでもらいながらもう一つ、パルスグレネードを投擲。高周波を発生させてその動きを阻害して立香に「やれ!」と念話で伝えた。

 

何故似た様な用途である閃光手榴弾を使わなかったのかというと、単に視界が遮られるからである。さっき使って、味方まで目が眩んでいたため変えたのだ。双方共にバイオテロリスト集団「ヴェルトロ」と取引して入手した数が少ない限定品ではあったがハンターの群れだ、仕方ないと割り切る事にする。そして。

 

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!・・・約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァアアアアアアアアアアアアアンッ!」

 

 

肩の目を閉じて混乱していたカリギュラを、数多くのハンターごと黒い極光が飲み込み、そして戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救世主だとカルデアを歓迎してくれたネロの話を聞くに、連合ローマ帝国なるものが現れ、現ローマ帝国との併合を持ちかけて来たのだがネロはそれを当然の如く拒否。それが戦いに発展し、連戦連敗とまではいかずとも、彼女のローマは連合ローマ帝国に敗戦を繰り返していたらしい。

領地は切り取られ、戦線は下がり続け、高官は行方知れずに。己の剣を以てしても敗色濃厚なこの戦争。幾人かの異国の客将が、敵皇帝の首を取ったという吉報があるものの国家としては押され、ついには首都にまで連合の手が伸び、そこへカルデアがやって来て幾たびかぶりの勝利を勝ち取ったようだ。

 

カルデアを客将として歓迎し、始まった祝いの宴から抜け出す影が二つ。ディーラーとマイクであった。

 

 

「…セイバーオルタもお嬢様も清姫の嬢ちゃんもオルガマリーもさすが名家の出だな、普通にあの皇帝サマに付き合っている。アンタはどうだ?」

 

「どうも合わないな。酒も不味い」

 

 

戦いの後、最寄りの店で酒を飲んで疲れを癒すのが日課であったマイクにとって、一世紀の酒は聊か不味かった。ディーラーも、ご馳走があるというのに自前で焼き魚を作るぐらいには合わないらしい。

 

 

「そりゃ過去の時代だからな、ヒッヒッヒッヒェ。…それで提案があるんだが。確かアンタのスキルに「援護射撃EX」があったな」

 

「ああ。単独行動の派生型、マスターの援護をするからとパスを切り離して行動できるアレか。それがどうした?そういやアンタも単独行動を持っていたな。…なるほど、そう言う事か」

 

「ああ。ハンターだけでなくG生物まで居たのが気になる。カルデアのサーヴァントでそれができるのは俺達だけだ」

 

「付き合うぜ。防衛戦よりも俺は攻め込む方が性に合っている」

 

「決まりだな。マスターに話してくる。魔力を溜めて置け」

 

 

そう言ってその場を去るディーラーは、立香とオルガマリーを人気のない場所まで連れ出し話を切り出した。

 

 

「ストレンジャー、提案なんだが俺とマイクは別行動させてくれ」

 

「えっ、何で?いきなりどうしたの?」

 

「…あのハンターのことね」

 

「そうだストレンジャー。俺達の時代の異物であるハンターに加え、あのサーヴァントがG生物化していたのが気になってな」

 

「…G生物って?」

 

「ああ、説明していなかったか。あとでロマンにでも聞いてくれ。とにかく、放って置くのは危険すぎる。だから俺達は空から敵の本拠地をしらみつぶしに捜し、ストレンジャーに報告してから来るまで、色々探ろうと思う。それができるのは単独行動ができる俺とマイクしかいない。どうだ、所長?」

 

「…確かに、ネロ皇帝もあのハンターを投入されてきたのはここ最近の事だって言うし、気になるわね。サドラーみたいな輩が召喚されているのかもしれないし、十中八九今回の聖杯は連合ローマ帝国が持っている。私達はネロ皇帝と共に進軍する事にするから、任せられる?」

 

「待って!…大丈夫なの、ディーラー?」

 

「…空飛べる生物兵器もそういないし、マイクのヘリがあるなら大丈夫だストレンジャー。…そう簡単に俺は死なないさ。前回みたいなギリギリなんてことにはならないぜ。ヒッヒッヒッヒェ」

 

「…分かった。もし何かあったらすぐにパスを繋げてね!令呪で二人を呼び戻すから!」

 

 

そう言ってのけた立香に、笑みを浮かべるディーラー。ああ、やはりこのマスターの力になりたいと。…今回の敵は、マスターの害になる事は間違いない。排除しなければいけない。そう決意したディーラーは大きく頷いた。

 

 

「オーライ。了解したぜストレンジャー。じゃあ俺達は出発する、闇夜の方がヘリも目立たないだろう」

 

「分かった。…いってらっしゃい。お帰りを言わせないと許さないから」

 

「心配するな。行って来るぜ、セイバーオルタ達によろしくな」

 

 

その言葉を残して去って行くディーラーを見送り、立香とオルガマリーは宴の会場へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウウウ、ネロォ…」

 

 

戦場の跡地にて、岩陰に隠れていたカリギュラが目覚め、更なる変異を遂げた事をまだ誰も知らない。

 

 

「いいぞ、サーヴァントというのは実に実験のし甲斐がある。存分にGのデータを取らせろ。俺が神となるために」

 

ローマ(我が子)よ。まあ偉大なローマ皇帝よ。ローマ(本能)のままに()くがよい、ローマ(お前)ローマ()を示すために」

 

 

否、二人のサーヴァントと、そのマスターだけがその光景を回覧していた。一人は己が目的のために、一人はカリギュラの行く末を見届けるために。

 

 

「………私は一体、何を召喚したのだろうか…」

 

 

そんな黒服サングラスの男と、筋骨隆々の肉体美を持つローマの体現者である男が自らの出す映像を見てコメントする姿に、男は思わず嘆いていた。




最後に登場したのは、バイオを知っている人なら連想する事が出来るはずのあの人です。G生物やらハンターがいるのはそのため。
倒しても復活してしまうのがG生物の恐ろしい所。しかしその目的は近親者を利用した種の存続。カリギュラの叔父貴は、それに狙われた赤王様どうなってしまうのか。

参戦しました赤王様ことネロ・クラウディウス。この特異点だと生前ですがハンター程度なら倒せます。カリギュラの告白(?)で清姫に気に入られる事になってしまった不幸な皇帝です。…いや、両刀だから満更でもない…?しかしいわゆるシェリーポジションになってしまったため、かなりピンチだったり。
我がカルデア屈指の殿なので、彼女もカルデアに入れるか考え中。でも呼んだらセイバーオルタ呼びを変えないと行けなくなるしなぁ…

バイオ4と時系列が繋がっているリベレーションズのテロリスト集団「ヴェルトロ」と取引して手に入れた武器商人のとっておき、デコイとパルスグレネードが登場。他のもあります。便利ですよね、特にデコイ。
G生物の事はレオンからちょっとだけ教えてもらっていたディーラー、危険性を感じてマイクと共に立香達とは別行動に。これが凶となるか吉と出るか…

次回はディーラー&マイクVS偉大なローマ。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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強敵ウェスカーの登場だストレンジャー

どうも、現在終局特異点にて初見殺しを攻略できずに止まってしまっている放仮ごです。前のアカだと比較的簡単だったのになぁ…無敵貫通とかふざけるなふざけるなふざけるなァ…!(魔術師殺し感)

負け過ぎて吹っ切れたのでとりあえずと書き上げました。今回は途轍もなく展開が進みます。オルレアンの比じゃないくらいじゃんじゃか進みます。
ディーラー、カプコンヘリにて偉大なローマと黒服サングラスと激突。勝敗や如何に。楽しんでいただけたら幸いです。


あれから数日。立香達が進軍すると共に、ディーラーとマイクは先回りし、連合ローマ帝国を見付けると問答無用で戦闘を仕掛け人間兵はゴム弾で戦闘不能にし、ハンターは駆逐しながら各地を回っていた。

 

途中、ローマに滅ぼされた女王ブーディカと斬り合うセイバーオルタや、ローマ(圧政者)に叛逆した奴隷剣闘士であるスパルタクスと殴り合う鎧アシュリーが双眼鏡で見えたり、

立香達がガリアでローマ皇帝の一人であるカエサルとぶつかり、やはりというかアシュリーが彼の宝具「黄の死(クロケア・モース)」を耐え切り「うるさい!」と言わんばかりにふくよかなお腹をカウンターで殴りつけてとどめをネロが刺すという酷い光景が遠目で見えたが気にしない。バイオ世界の女性は恐ろしいのである。

 

 

そんな中、ネロのローマに客将として協力する荊軻(と呂布奉先のコンビ)と合流して情報を照らし合わせ、それらしい場所を特定した彼らはその地点へと急いでいた。

 

 

「アレから何日たった?」

 

「さあな。一週間ってところか?燃料は魔力だから今のところ気にしなくてもいいが」

 

「気にすべきはG生物だ。まさか、エクスカリバーを耐え切ってまたストレンジャー達を襲うとは…」

 

 

先程荊軻と共にいたローマ兵から報告を聞き、焦燥を隠せないディーラー。プラーガには詳しいがG生物の事についてはレオンから少しだけ聞いただけなのでよく知らないため失念していた。

知っている事については、倒しても倒しても強化して復活するという異常なまでの生存力を持ち合せる事と、近親者を付け狙う事。サーヴァントであるためエクスカリバーを受けた時点で勝利を確信し、生きているとは露にも考えていなかったのだ。

何度も奇襲を受け、女神のいる島にて撃退はしたらしい。それでも倒したという確証がない以上安心はできない。

 

 

「どうする?あの化け物、何度も戦うのはマスター達じゃきついぜ?」

 

「…お嬢様が居るからと過信していたな。しょうがない、さっさと決めるぞ。この座標に行って敵の本拠地かどうか確かめ、あわよくばそのまま仕留める。マイクの高軌道と俺の武器が合わされば行けるはずだ」

 

「よし分かった。急ぐぞ」

 

 

ディーラーの言葉を受け、西へと進路を変えて飛び立つマイク。件の連合ローマの本拠地は割と簡単に見付かった。それは、巨大な都市。一見平和そうに市民が暮らしているが何処か歪な市街の中央にある大きな建物の屋上に、明らかな異物が存在していた。

 

この時代には相応しくない何から何まで黒ずくめの戦闘服に金髪のオールバック、そして目元を隠す漆黒のサングラスを付けたガタイのいい白人男性。明らかにサーヴァント、そしてハンターの群れを背後に控えている事から見て今回のバイオハザードの原因。

 

 

「…これまた見覚えしかない奴か」

 

「知っているのか?」

 

「一度武器を売ったことがあるストレンジャーだ。名前は確か、…アルバート・ウェスカーだったか?プラーガを植え付けてないはずなのに異様に身体能力が高かった。今思えば他のウイルス兵器を投与しているんだろうな」

 

「…ウェスカーなら名前は聞いたことがある。あのラクーンシティの特殊警察部隊S.T.A.R.S.の隊長だ」

 

「…そりゃ大物だな」

 

 

此方を見上げ、ニヤリと笑むその男に恐怖を感じるディーラー。この男、格段に何かが違う。そして構えられた銃…サムライエッジと呼ばれるハンドガンが火を噴き、それは正確にヘリの助手席側の窓を撃ち抜いて見せた。

 

 

「この高度でか!?」

 

「旋回しろ!応戦する、恐らく奴が今回の黒幕だ!何で連合ローマなんて物を率いているかは知らないが…!?」

 

 

慌てて離れるヘリの後部座席に掴まりながら、ディーラーは見た。霊体化していたのかウェスカーの隣に突如現れた、筋骨隆々の男を。その男の放つ、人間のそれとは違う覇気を感じ、勝てないと思い知る。この二人、英霊としての格が違う。

 

 

「我が名は連合ローマ皇帝が一人、ロムルス!ローマに仇なす者よ!ローマに包まれ、ローマへと還るがいい!」

 

「ローマローマ何だって…マイク、前だ!」

 

「オーライ!」

 

 

筋骨隆々の男、ロムルスが己の槍を掲げると同時に突如大地から生えて来た巨木を、発射したミサイルで穴を開けながらその中をくぐって回避するも、次々と生えてくる巨木に追い付かず、溜まらず退避するマイク。

 

 

「なんだこれは!?」

 

「奴の宝具だ!ロムルス、詳しくは知らないが恐らくローマ建国の神祖だ。…この数分で森を作るか、恐ろしい力だ」

 

 

森で都市を取り囲み、弾丸から守る壁を瞬く間に造り上げたその宝具に舌を巻くディーラー。神性高いのは専門外だぞ、と心の中で愚痴っていると、マイクの様子が可笑しい事に気付く。

 

 

「…そうか。援護が得意な俺の操縦じゃ無理だな。…替わってくれ、ハットトリック」

 

「?」

 

 

するとその言葉と共にヘリの形状が変わり、後部座席に固定銃座が現れ、ヘリの動きが回避に専念した動きに変わる。先程までとは別物だ。

 

 

「ディーラー!そいつをぶちかませ!回避なら俺に任せろ」

 

「…お前、誰だ?」

 

「カーク・マシソン。BSAA所属のヘリコプターパイロットだ。ハットトリックと呼んでくれ。アンタが知っているかは知らないがジル・バレンタインとクリス・レッドフィールドの知り合いだ。こういう動きをした化け物とは戦った事がある、俺に任せてアンタは撃退に集中してくれ」

 

「…後で話は聞かせてもらうぜストレンジャー」

 

 

固定銃座を使い、横に旋回するヘリから機関銃を撃ちまくって木々を先端から破壊して行くディーラー。こちらの反撃が意外だったのか、砕けた木々から見えたロムルスの顔は感心したように笑っていたがそれもすぐに見えなくなる。

 

 

「撃ちすぎるなよ、クールダウンを心がけろ!」

 

「ヒッヒッヒッヒェ、助言ありがとうよストレンジャー!」

 

 

一定撃ち続けた固定銃座を休ませている間は自前の無限ロケランで木々を破壊していくディーラー。しかし隙が大きいため、固定銃座ほどの成果は出せなかった。

 

 

「奴等への道ができたらアンタの後ろにとっておきがある、そいつでとどめを刺せ!」

 

「コイツは・・・スティンガーか。いい物持っているな…って待て、様子が可笑しい。デカいのが来るぞ…!」

 

 

唸りを上げ鳴動する木々が一つの巨木を造り上げて行く姿に警告するディーラー。それは、世界を象徴する大樹――ソレに通ずるのはローマ帝国を造りし神祖の槍。

 

 

「すべて、すべて、我が槍にこそ通ず。――――すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)!」

 

「回避だ!」

 

「やっている!」

 

「ちぃ!」

 

 

迫り来る巨樹の槍に、避けきれないと判断したディーラーは単発のロケットランチャーを取り出し発射。爆風を利用して紙一重で回避することに成功するとそのままスティンガーを構えた。

 

 

「今がチャンスだ、特攻しろ!」

 

「やるしかないか!」

 

 

今の伸び続けている巨樹の槍のすれすれを進み、ロムルスとウェスカーが見える位置まで移動するヘリの後部座席で、携帯型地対空ミサイルであるスティンガーを構えたディーラーはマスターの手を煩わせることなく元凶を倒せると確信した。

 

 

Goodbye(くたばれ)!」

 

 

発射されるスティンガー。当たれば木端微塵となるそれに、ロムルスは槍を掲げたまま動く事は無く…

 

 

「無駄だ」

 

「なにぃ!?」

 

「アイツ、化物か!?」

 

 

しかしそれは、ウェスカーが容易く受け止めてしまい、巨樹の槍に投げ付けた事で失敗に終わる。あまりの離れ業に驚くディーラーとカークであったが、背後から迫る巨樹の先端に気付いたのはディーラーだけだった。

 

 

「しまっ…すまないカーク!お詫びはカルデアに戻ったらだ!」

 

 

慌てて飛び降り、ヘリは巨樹の槍に貫かれて爆散。使い捨てロケランを取り出して巨樹の先端に当て、その爆風で巨樹の上に飛び乗るディーラー。するとその根元から超音速で黒い何かが接近し、ディーラーはそれに気付くとシカゴタイプライターを乱射、応戦するがしかし、全て瞬間移動するかの如く回避され、接近を赦してしまう。

 

 

「詰めが甘いな。宝具を使うにはマスターの援助が必要なのだろう?少ない戦力で落とせるなどとは思わない事だ」

 

「…アルバート・ウェスカー…」

 

 

シカゴタイプライターを拳の一撃で破壊し、ずずいっと顔を近づけて目の前でサングラスをずらし、黄色い瞳で睨み付け口元で笑みを作る余裕綽々のウェスカーにディーラーは後手にリュックの中から手榴弾を取り出して構える。

 

 

「如何にも。アサシンのサーヴァント、アルバート・ウェスカーだ。久しくだな、武器商人。さっそくだがマスターの命令だ、無残に無様に死んでくれ」

 

「断る!」

 

 

投げ付けられた手榴弾を、ウェスカーは高速でバックステップして回避。そのままマシンピストルを取り出し乱射するも映画のマトリックスの様な動きで回避され、接近してきたところにナイフ一閃。しかしそれも避けられ、マシンピストルは蹴り上げられ、ナイフは黒手袋を付けられた手で奪われて構えられる。

 

 

「ふむ、いいナイフだ。手入れが行き届いている。なるほど、ではこれで倒したアサシンと俺の差はどうかね武器商人」

 

「あのアサシンも肉体改造していたがアンタの比じゃあないな。どんなウイルスを投与した?」

 

「俺の中にあるウイルスは未完成で今はまだ発展途上でね、我が身で出来る限界を図るために実験をしているところだ。遥か彼方の展望台の者達ではあのG生物は止められんが、武器商人。お前という、あのウイルスの事を少なからず知っている者もいる。

この計画には、些細なイレギュラーも許されん。何せ俺は英雄などではないからな。他のサーヴァントとの性能差は歴然だ。貴様はここで排除しておこう。抑え込んでいるお前と、俺の性能差も歴然だがな」

 

「…俺のストレンジャー達を嘗めて貰っちゃ困る。負けるのはアンタだ」

 

「フム。…確かに俺も過信しクリス達に計画を邪魔され敗北した。仲間などいらんが…念のためだ、犬は何匹いてもいい。せっかくだ、貴様にも『装置』を取り付けてやるとしよう」

 

「っ!」

 

 

懐から何かの機械を取り出したウェスカーに、嫌な予感を感じたディーラーはウェスカーの持つナイフに自ら飛び込んで自害、その場から退避する。いきなりの事に驚いていたウェスカーは、ディーラーの特性に気付き悔し気に歯を鳴らしてその機械を仕舞って飛び降り、ロムルスの傍に着地した。

 

 

「…まあいい。ロムルス、ネロ皇帝とカルデアの連中にここの事が嗅ぎつけられた。数日も持たないだろうがどうする?」

 

ローマ(愛し子)が来るというなら拒む事は無い。来るがいい、ローマよ」

 

「…話が通じんが実力は本物だ。ウェスカー、貴様はハンター共を呼び出し守りを盤石の物にしろ」

 

 

姿を現したマスター、レフ・ライノールがそう命令するとウェスカーは忌々しげに睨みつけた。彼もまたサドラーと同じ支配者の気質、支配されるのは気に喰わない。

 

 

「俺に命令するな。仕事は遂行する。貴様はふんぞり返っているだけでいい、マスター」

 

「……分かった。分かったから私の隣にいるファルファレルロを退かせてくれ」

 

「命拾いしたな」

 

 

ウェスカーが指を鳴らすと共にレフの背後に姿を現し、ウェスカーの元まで戻ってくる青みがかかったハンター、ファルファレルロにレフは溜め息を吐く。ロムルスはいい、狂化をかけているから自身の言う事は大体は聞いてくれる。だがこの男、ディーラーに対抗すべく召喚したウェスカーは違う。

 

 

「…宝具発動、此処に至るは数多の生物兵器(ウロボロス・バイオハザード)

 

 

その右腕が黒いウィルス、ウロボロス・ウイルスの嚢胞によって覆われ、ベチャリと落ちたウロボロス・ウイルスの黒い水溜りから次々とハンターが召喚されていく。

「あらゆる変異ウィルスへの抗体、およびウィルスによる強制進化の適合資質」の持ち主であるウェスカーが、サーヴァントになった事で得た能力。それは、自らに投与されたウイルスから生まれた生物兵器、B.O.W.を呼び出して同調し意のままに操る事が出来る力。

 

それによる生物兵器を加えたローマ連合による蹂躙を受ければローマ帝国は瓦解し、特異点は崩壊する。それが目的のレフはほくそ笑む。強力なサーヴァントと、無尽蔵に生物兵器を出せる規格外のサーヴァント。それを従える自分と王の計画を阻む者なぞどこにも存在しないと。

 

 

何故ウェスカーがカリギュラにGウイルスを投与したかなんて、知る由もないまま過信していた。レフは、過去の英霊はともかく、現代と言える時代の、英霊にまで至った人間が抱く野望の大きさを考慮していなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰って来て早速で悪いがストレンジャー。マイクがやられたが敵の戦力は確認した。作戦を練るぞ」

 

「お帰り。まず、お仕置きしていい?」

 

「…どんなのだ?」

 

「其処に居るスパルタクスと、所長が倒して再契約したレオニダスとの強制ブートキャンプ一日」

 

「勘弁してくれストレンジャー…」

 

 

帰還して早々、放っておかれ過ぎてマスターがいい笑顔で言われて背筋が凍るディーラー。マシュとセイバーオルタと画面越しのロマンを見ると諦めろという顔。アシュリーの方を見ると、何故か「私は圧政者じゃないってば!」とか言いながらスパルタクスと殴り合っていた。所長を見ると、清姫と見覚えの無いアイドルみたいな竜娘とメイド服を着たナニカの三人に抱き着かれ、背後にマッチョを控えて疲れ果てていた。何があったんだ一体。

 

ちなみにネロはローマの客将であるサーヴァント達と真面目に色々話し合っていた。ネロを見てそう言えばと思い出す。

 

 

「…カリギュラに襲われたと聞いたが無事だったのか?」

 

「前回のサドラーとの戦いを考慮して目に集中砲火してたら逃げてったよ?」

 

「想像するだけで恐ろしいなおい。…あの皇帝サマは?」

 

「また化物みたいな姿で海から現れたから少し堪えていたみたいだけど、多分大丈夫。ネロは強い人間だから」

 

「…アンタの見る目は確かだ。詮索はしない事にするぜ。それでストレンジャー、お仕置きは後にして報告だ。…兵隊共には聞かれるな、多分士気が下がってしまう」

 

「それはどういうことだ?」

 

 

ディーラーの言葉が気になったのか歩み寄って来るネロとその客将である荊軻、呂布奉先、スパルタクス、ブーディカ。レオニダスが起こしてオルガマリーも我に返り、役者は揃った事でディーラーは口を開く。

 

 

「敵の大将はまず、ハンター共を呼び出している張本人と思われる黒服サングラスの男、ウェスカー。サドラーと同じで俺の知人だ。そして問題は後一つ。ローマ連合の首魁と思われる人物は、ローマ建国の神祖、ロムルスだ」

 

「…やはりか。レオニダスの情報とカエサル殿やカリギュラ叔父上が従っていた事からもしやと思ったが…否、関係ない。ローマ皇帝は余一人だ。今のローマは最も美しい余のローマだ。穢されてなる物か」

 

 

そのまま主にウェスカーについて報告を進めるディーラーは赤い小さな皇帝の生き様を見てふと思い出す。こういう心が強い人間に力を貸すために居るのが己だ、武器商人だ。自分が敵にビビっていてどうする?でもやっぱり、ストレンジャー(レオン)がいればと心のどこかで思う自分はやはり弱い人間なのだろうと自嘲した。

 

敵の正体を知ってもなお決意を固めるネロ。ローマを蹂躙するローマ連合との決戦は近い。




圧倒的強さを持つウェスカーさん本格的に参戦。ミサイルを素手で受け止めるってやっぱり規格外よね。5のラストでマグマに沈んで行った彼です。
その宝具は全ての元凶とも言える彼の在り方を示す「バイオハザード」。もちろん呼び出せるのはハンターだけじゃありません。現在のマスターはローマ連合の宮廷魔術師として暗躍するレフですが…?

アシュリーがいるため割と普通に進軍できている立香達とは別に、いきなり敵の本拠地に殴り込みローマ!の洗礼を受けたディーラーとマイク。
ここで「顔がヘルメットで隠れている」マイクの人格とヘリがカークという人物に変わってますが、これは宝具による物です。まあ、レオンの援護をしたけどそのまま撃沈してしまっただけの人が簡単に英霊にはなれないという事で…カプコンヘリの呪いでロムルスの宝具を受けて撃破されたマイク()は無事カルデアに帰還しました。

ディーラーの知らないところでダレイオス三世やアレキサンダー(+孔明)やらも倒し、合流した立香達。今回はバーサークサーヴァントじゃないので彼女達だけでも余裕でした。カエサルは不幸だった。
その中でも、ローマ連合のサーヴァントだったレオニダスを(清姫の宝具で)倒して再契約したり、何故か某アイドルや某ネコもどきにも気に入られてしまった、主人公より主人公している所長。ネロにも立香マシュと共に気に入られていたり。偉そうな魔術師をサーヴァントは嫌うけど所長はビビりだからね、しょうがないね。

ウェスカーの圧倒的な強さにサドラー以上の得体の知れない恐怖を感じて自ら自害して逃げ出したディーラー。
何度も復活し襲い来るGカリギュラに精神がすり減っている中ロムルスと戦う事を決意した赤王。
次回、連合ローマ首都での決戦。ロムルス&ウェスカー&Gカリギュラ。そして魔神柱降臨…までは行きたいです。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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暴君相手には名君かストレンジャー

どうも、第一部を終えてアーチャー・インフェルノを手に入れるために亜種特異点三つを同時攻略するという暴挙に出た放仮ごです。もう既に二つは前のアカでやっていたので七番勝負優先ですがリンゴが足りない(切実)。とりあえず金演出で期待させたすまないさんは許さん。

今回は、ロムルス&ウェスカーの最強コンビとの対決。最強のB.O.W、最優の英霊が登場します。楽しんでいただけたら幸いです。


「行くぞ!余に続け!ローマが誇る勇士達よ!」

 

「「「「「ォオオオオオオオッ!」」」」」

 

 

 ディーラーのロケットランチャーで「ダイナミックお邪魔します」を行い、怒涛の勢いでローマ連合首都に攻め込み始まる決戦。

ただでさえハンターの群れもいるというのに、一度姿を見せたロムルスに連合兵は鼓舞されローマ兵は混乱し、ネロもまた戦意喪失しかけるも立香の一喝で戦意を取り戻してローマ兵を奮い立たせた彼女は、荊軻の見出した敵宮殿の侵入経路を進んで敵の首魁を討つ事でこの戦争を終わらせる事を決める。

 

少数精鋭でロムルス、そしてウェスカーとそのマスターであると思われる宮廷魔術師レフ・ライノールを倒す事が勝利条件ではあり、ネロがいない間にローマ兵が全滅してしまっては意味がないが問題は無かった。

 

 

「行くぞ!ローマであろうと、スパルタ魂が此処にあることを見せつけん!炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)ァアアアア!!!!」

 

「ド田舎リス!マスターは任せたわ!それじゃ一曲…え、駄目?しょうがないわね…徹頭徹尾の竜頭蛇尾(ヴェール・シャールカーニ)!」

 

 

オルガマリーの命で300人のスパルタ兵を引き連れたレオニダス一世とエリザベート・バートリー、そしてブーディカ、スパルタクス、呂布奉先と共にローマ兵が連合ローマ兵とハンターの群れを推し止めている間に、ネロを連れたカルデア一行は侵入経路を進み敵の本丸に突入。ちなみに、何でエリザベートが突入メンバーでないのかというと、下手したらディーラーが巻き込まれて死んでしまうからである。理由は察して。

 

 

「雑魚は引っ込んでろ!」

 

 

襲い来るゴーレムとハンターの群れもディーラーが一人でシカゴタイプライターと無限ロケランを駆使する事で不必要な疲労も無く彼等は最奥の間に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

「…来たか、愛し子」

 

「うむ、余は来たぞ!誉れ高くも建国を成し遂げた王、神祖ロムルスよ!…この連合都市の者達を見て余は決意した。連合の下にいる民を見よ。兵を見よ。皆、誰ひとり笑っていない!いかに完璧な統治であろうと、笑い声のない国があってたまるものか!」

 

 

憧れであるロムルスにそう怒鳴り散らすネロ。それは自らのローマに誇りを持っている事の表れで、ロムルスは優しい笑みを浮かべた。

 

 

「もう迷わぬ。過去も、現在も、未来であっても、余こそがローマ帝国第五皇帝に他ならぬ!故にこそ神祖ロムルスよ!余は、余の剣たる強者たちでそなたに相対する!」

 

「許すぞ、ネロ・クラウディウス。ローマ()の愛、ローマ(お前)の愛で見事蹂躙して見せよ。……何か言う事はあるか?」

 

 

そうロムルスが促したのは、ずっと黙ってその側に控えていた、ロムルスの傍だと小さく見える黒服サングラスの男、ウェスカー。

 

 

「ふむ、発言権は俺にもあったか。…遅かったな、カルデアの者達よ。待ちくたびれたぞ。ああ、安心しろ。俺とロムルスは共には戦わない。

そちらにはちょうどマスターが二人いるだろう?ならばちょうどいい、俺は人類最後のマスターには用はない。…そこの、死して生還した女には興味がある。それでいいなロムルス?」

 

「うむ、そうするがいい。ではローマ(愛し子)よ、見るがいい。我が槍、即ちローマ()が此処にある事を!」

 

 

掲げられた槍が輝き、巨木が宮殿の広間を真ん中から貫いて立香とマシュとセイバーオルタとアシュリー、そしてネロと荊軻が、オルガマリーと清姫とタマモキャット、そしてディーラーと分断されてしまう。

 

 

「藤丸!ディーラーを借りるわよ、そっちは任せた!」

 

「はい!ご武運を、所長!」

 

「…やれやれ。俺はあの筋肉達磨の相手がいいんだがな。ストレンジャーを見捨てる訳にもいかないか」

 

 

溜め息を吐きながらもシカゴタイプライターを構えるディーラー。既に、清姫とタマモキャットが飛び出していた。

 

 

「シャア!」

 

「ブッちぎる!」

 

「やはり速いな。…ヨーン」

 

「「っ!」」

 

「大蛇…!?」

 

 

自身に飛び掛かって来る化生二人をゆっくりと眺めたウェスカーは焦る事も無くトン、と右足を軽く鳴らし、その足元にウロボロスウイルスの水溜りを作り、鱗とぬめりを帯びた赤い瘤に体表が覆われている全長10mの大蛇「ヨーン」を召喚。

巨蛇がウェスカーを頭に乗せて持ち上げた事により二人の攻撃は回避され、ウェスカーが飛び降り、自由になったヨーンの牙が清姫に襲い掛かる。

 

 

「清姫、宝具!牙に気を付けなさい!」

 

「了解しましたわ、旦那様(マスター)!転身火生三昧!」

 

 

それに対し、オルガマリーの指示で清姫は自らも白蛇に似た龍に変貌、青い炎をまき散らして対抗し、二体の巨蛇は互いの体を締め付け合いながら、清姫がオルガマリーを巻き込むことを考慮したのかズルズルと隅の方へと移動していく。

 

 

「これで一人。次は誰だ?」

 

「キャットだ!玉藻地獄をお見せしよう!」

 

「見切るのは容易い」

 

 

背後から飛びかかるタマモキャットの爪を避け、ウェスカーは掌打で一蹴。ディーラーとオルガマリーの放った弾丸も次々と避け、ウロボロスウイルスの水溜りから「リッカー」と呼ばれる肥大化して外部へ剥き出しになった脳と筋肉組織が露出した四つん這いの生物兵器を二体召喚。

巨樹の壁や天井に張りつき、長い舌で貫こうとして来るリッカー二体を二人が対処している間に、何時の間にやら宝具を発動していたタマモキャットにウェスカーは向き直りにやりと口元を歪めた。

 

 

「サービスだ、受けてやろう」

 

「いい度胸だ!という訳で何を出そうが皆殺しだワン!――燦々日光午睡宮酒池肉林(さんさんにっこうひるやすみしゅちにくりん)!」

 

 

野生(?)の力を爆発させて巨大な猫っぽい姿に変化したタマモキャットによる滅多切りがウェスカーと、召喚した何かに炸裂。

 

 

「…では性能テストを行う」

 

「なぬっ?」

 

 

倒し切ったと確信したタマモキャットがその背後でゴロリと寝転がっていると、殺気を感じて力を使い果たした体に鞭打ち何とかそれを回避する。それは、右胸に剥き出しになった心臓や異常に発達して長く伸びた左手の爪が特徴の巨人であった。

 

 

「…ふむ。クリス曰く「究極の出来損ない」であるタイラントの耐久力ならばこの程度の英霊の宝具を耐え切る事は可能か。…もう用はない、やれ。リミッターは解除しろ」

 

「この程度のノロマに負けるキャットじゃ…なんとぉ!?」

 

「キャット!?」

 

 

ウェスカーの言葉と共に全身に赤みを帯び、肥大化した爪の薙ぎ払いでタマモキャットを一撃の元に葬ったタイラントに、戦慄し尻もちをついてしまうオルガマリー。

タイラント、暴君の名を持つ怪物に久しく忘れていた恐怖を思い出して震える。…今、ロマンとダ・ヴィンチちゃんは立香の方にかかりっきりなのか通信は繋がらない。つまり何の助言ももらえない。頼れるのは己だけ…仮にも神霊であるタマモキャットを簡単に倒してしまった怪物に何ができる?とネガディブ思考に陥ってしまう。

 

 

「もう駄目…なの…?」

 

「遅くなりましたマスター!」

 

 

蹲っていた彼女を助け起こすのは、ヨーンを倒して傷だらけで戻ってきた清姫と、タイラントにロケットランチャーを発射しそれを容易く弾かれて半ば呆然としつつも負けられないとばかりにシカゴタイプライターを乱射して近づけない様にしているディーラーだった。

 

 

「マスター。貴女には私が付いています、何も心配せずにただ指示をくださいませ」

 

「ストレンジャー。生憎俺一人じゃコイツに勝つ方法は思い浮かばなくてね。さっきの脳味噌野郎もアンタの頭部を狙えって指示で退けたんだ。…指示をくれ、アンタの言う通り戦ってやる」

 

「…分かったわ。清姫は宝具を出せる?」

 

「変化なしならば後数回は撃てます」

 

「…だったらディーラー、アンタのもう一つのとっておき、ある?」

 

「ああ。二個ぐらいしかないが」

 

「十分よ。とっておきを、ウェスカーとタイラントの間に投擲!その間、清姫はタイラントの脚に集中砲火よ!」

 

「かしこまりました!」

 

 

タイラントの足元に向けて清姫の扇から炎の奔流が放たれ、炎の壁を作って進行を妨げると渾身の力を持ってディーラーが投擲したそれがウェスカーの真ん前に落ち、それの正体に気付いて慌てて退避した瞬間に起爆。強烈な電撃がウェスカーとタイラントを襲う。電撃グレネードと呼ばれる、ヴェルトロから入手したとっておきである。

 

 

「今よ!清姫がタイラントを、ディーラーがウェスカーを!」

 

「ディーラーさん!」

 

「おう、今回は特別に貸してやる!」

 

 

ウェスカーとタイラントが溜まらずダウンするや否や、オルガマリーの命を受けてディーラーから手渡された、クー・フーリンも使っている特注の槍を握り、左胸…心臓目掛けて突貫する清姫と、その脇を通ってウェスカーに向けてロケランを放つディーラー。…しかし、このTウイルス系統最強のB.O.W.はまず前提が違う。

 

 

「ァアアアアアアアッ!」

 

「「なっ…!?」」

 

 

左胸に槍が突き刺さっているというのに何ともないかのように清姫を突き飛ばし、一跳躍でウェスカーの前に着地し自らの爪を盾の様にしてロケット弾頭を弾き返すタイラントに驚愕するオルガマリーとディーラー。清姫はオルガマリーの傍まで飛ばされて息も絶え絶えであり、もう戦えない事は目に見えて分かった。

 

 

「なんで…」

 

「残念だったな。…その右胸に露出している心臓がただのオブジェクトだとでも思ったか?まあ常識ならばこれもまたクローンとはいえ人間が変化した生物兵器、心臓とはどんな生き物であれ左側にある物だからな。だがそれは間違いなくタイラントの心臓だ、深読みし過ぎたな」

 

「…本当に現代の生物兵器なの…?魔術師の作ったホムンクルス以上に常軌を逸した身体の作りに、英霊を一撃で屠るなんて出鱈目過ぎる…」

 

「アンブレラ。ロス・イルミナドス以上にとんでもないイカレだな」

 

「タイラントはアンブレラの狂気の体現だと自負している。…取り込んだT-abyssの影響で俺も電撃を諸に喰らったがな。これは改善点だな、記録するか」

 

 

そう言いながら本当にメモを書き始めるウェスカーに苛立ちを隠せないディーラー。ウェスカーにとって自分達は彼の目的に置ける通過点でしかないのだろう。サドラーとは別の意味で反りに合わない相手だ。

 

 

「…もう俺以外に戦えるサーヴァントは居ないか。ならストレンジャー、コイツを預ける。時間稼ぎぐらいならしてやるから何とか打開策を練ってくれ」

 

「ちょっ、ディーラー!?」

 

 

リュックを手渡されて右往左往するオルガマリーを残し、身軽になったディーラーはタイラント…否、暴走形態となったスーパータイラントに突貫。振り下ろしを避け、二丁握ったマグナムを右の心臓に当てて行くが怯まず、薙ぎ払いによる風圧で吹き飛ばされる。

 

 

「なめるなよ、武器商人を!」

 

 

少しでもダメージを受ければ死んで立香の方に戻ってしまうため、叩き付けられる訳にはいかないディーラーはマグナム二丁を懐に戻して代わりに取り出したナイフを巨樹の壁の太い枝に突き刺して急停止、降りると同時に焼夷手榴弾を投擲。

炎に包まれるスーパータイラントだが怯むことなく炎の中を突っ切り、しかして投擲されると同時に顔面の前で爆ぜた手榴弾にさすがに怯み、そのままマシンピストルの掃射を受けて後退する。

 

 

「…手持ちはマグナム二丁にマシンピストル、ナイフと手榴弾系統が数個か…身軽になるためとはいえショットガンが無いのは痛いな。しかしあの村長だって軽くバーベキューにする焼夷も効かないとはな…本当に生物か?」

 

「耐久度ならば並の生物兵器とは一線を画する。コイツも英霊…もどきだ、勝ちたいならば生前に倒した英雄共を連れて来るんだな」

 

「無茶言うなストレンジャー。電撃は効く事は分かっているんだ、コイツで怯ませて口の中に手榴弾放り込めば…」

 

「ゥウウウウウウッ!」

 

 

地響き。ちょうど電撃グレネードを取り出していたディーラーを襲い、足元を取られる。見ると、タイラントが突進を繰り出してきており、今の地響きは最初の一歩による物だと分かった。分かったからと言って、どうしようもないのだが。

 

 

「ちっ…すまん、ストレンジャー…」

 

「諦めるな!バカ!置き土産は残しなさい!」

 

 

諦めかけたディーラーの服の裾に引っ掛かるのは、フックショット。共に聞こえてきた言葉に、慌ててディーラーは取り出したパルスグレネードを投擲、タイラントを怯ませてからフックに引っ張られて受け身を取り、オルガマリーと復活した清姫の元に戻る。タイラントとウェスカーは不意打ちにより共に怯んでおり、何かするなら今だった。

 

 

「アンタに助けられるとはな」

 

「冬木の時のお返しよ。それより言いなさい、この石って、もしかしてセイバーオルタとクー・フーリンからのもらい物?」

 

「ああ、報酬代わりにな。セイバーからはレッド9の一個、キャスターからは槍が二回で二個。ちょうど三個もあったか、召喚できるな」

 

「…縁による召喚。私達はアレを倒すには火力不足、今はその可能性を信じるしかない。…私は優秀な魔術師だから、行けるはず…私を、信じて」

 

「…もちろんです」

 

注文(オーダー)には応えるぜ。どっちにしろ、それが成功しなきゃ俺はストレンジャーの元に戻ってアンタは死ぬ」

 

 

そう言ってリュックの中から取り出した火薬で魔法陣を書き始めるオルガマリーに、ディーラーは何をするのか察して清姫と共に、スーパータイラントと、新たに呼び出されたハンターの群れを迎え撃つ。

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する―――――Anfang(セット)!――――――告げる」

 

 

ハンターを貫いて燃やし、タイラントをロケットランチャーで足止めし、手榴弾もありったけ投擲してとにかく時間を稼ぐ。その様子に、何かに気付いたウェスカーが高速で突進してくる。

 

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

炎により燃える魔法陣が輝き、エーテルの奔流が起こる。ウェスカーを食い止めようとしたディーラーが邪魔だと言わんばかりの拳による一撃で屠られ、ハンターとスーパータイラントを推し止める事に必死な清姫の脇を通ったウェスカーの手刀がオルガマリーに迫る。

 

 

「っ、誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

それに気付き、一瞬焦るオルガマリーだがそれでもやめない。ウェスカーは焦っていた、タイラントであろうと、タマモキャットや清姫の様な凡俗の英霊ならいざ知らず、真の英雄に勝てる確証はない。これは、完全に計画外の出来事だった。当り前だ、まさか貴重な召喚媒体を使わずに常に持っているとか誰が思うか。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

そして。風の奔流が起こり、ウェスカーはその人物が何かを振るったことにより起きた竜巻で大きく吹き飛ばされる。現れたのは、もはや見慣れたものの、髪や肌や鎧の色、否在り方すら違う正規の騎士王。

 

 

「セイバー、召喚に応じ参上した。問おう。貴方が私のマスターか」

 

「…ええ、ええ!セイバー、後ろよ!」

 

「っ、はあ!」

 

 

振り下ろされるスーパータイラントの爪を、不可視の剣で弾き飛ばすセイバー…アルトリア。そのまま不可視の剣を突き出し、突風を弾丸として放つ。

 

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 

それによりスーパータイラントどころかハンターの群れまでウェスカーの傍まで押し戻され、ウェスカーは悔し気にこちらを睨みつけながらも、不気味に笑む。やはり、タイラント程度では真の英雄に勝つことはできないという結論に満足している様だった。

 

 

「清姫、こっちに!セイバー、宝具で丸ごと薙ぎ払って!」

 

「ええ、決着をつけましょう」

 

 

清姫がオルガマリーの傍に戻ると同時、アルトリアは風の鞘から解放した真の輝きを放つ黄金の聖剣を掲げる。それと同時、アシュリーとマシュの突進で体勢が崩れた所にセイバーオルタが一撃を加え、動きを止めた神祖の元へとネロもまた赤の大剣を構えて駆けていて、

 

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるがいい!」

 

「神祖よ、これが余の、ネロ・クラウディウスのローマだ!」

 

 

星の聖剣と、隕鉄の剣が、全く同時のタイミングで振り下ろされた。

 

 

「――――――約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァアアアアアアアッ!」

 

「――――――花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」

 

 

極光がウェスカーごとスーパータイラントとハンターを飲み込み、同時に巨樹の壁も蒸発させる。舞い散る花弁と共に斬られた神祖は、その雄姿を崩して倒れ込む。極光が消えた後に残るは、辛うじて人型を保ちつつも徐々に崩れていくタイラントだったものの亡骸。勝敗は、決した。

 

 

「…暴君相手には名君かストレンジャー。アンタの悪運も凄まじいぜ」

 

 

オルガマリーの無事を確認し、ほっと息を吐くディーラー。同時にウェスカーの所在を確かめるも、在るのはタイラントの亡骸のみ。ロムルスの巨樹の壁さえも消失した極光の直撃を受けて消滅したと判断し、ローマ皇帝の行く末を見守る事にする。

 

 

「…眩い、愛だ。ネロよ。第五代ローマ皇帝よ。永遠なりし真紅と黄金の帝国。そのすべて、お前と、後に続く者達へと託す。忘れるな、ローマは永遠だ。故に、世界は永遠でなくてはならない。心せよ………そうだ、特にローマには決してなりえない異形の者共に気を付けるがいい…」

 

 

そう言って消滅するロムルス。最後にちらっと、上の方を見ていた事に気付いたディーラーもちらっと上を見る。ローマのネロの宮殿と同じ豪華な造りだが特におかしなところは無い。

 

 

「敵性サーヴァント、ランサー・ロムルス共に、アサシン・ウェスカーも撃破。私達の勝利…ですよね、先輩。所長?」

 

「ええ、ええ。タマモキャットには申し訳ない事をしたわ。それに死ぬかと思った…ありがとうね、セイバー」

 

「いえ、気にしないでください。…私のオルタまで居るのですか。大変気難しい所の様ですねカルデアは」

 

「そうか、勝った、のか…これで……うむ。これで連合ローマ帝国は終わりを迎えた。ローマは元あるべき姿に戻るだろう。大義であった。カルデアの勇者達よ。余は嬉しい!」

 

『待ってくれ!概ねその通りなんだけど、まだ宮廷魔術師を発見していない。それに聖杯も探さないと』

 

「あ、そうだった。レフ、レフはどこ…!?」

 

 

疲れを癒す様にドライフルーツをセイバーと清姫と一緒に食べて休んでいたオルガマリーが我に返り、慌てて周囲を捜す。そして。王座の奥に、その男は立っていた。

 

 

「いや、いや。ウェスカーが退けられるのは想定内だったが、まさかオルガ。君が正規のアーサー王を呼び出すとはね。度肝を抜かれたよ。それにまさかロムルスを倒しきるとは…無能共がよくやるものだ」

 

「…レフ。やっぱり生きていたのね…あんだけ叩き込んだのにしつこい奴」

 

「死してなお生に縋り付く君にだけは言われたくないなぁオルガ」

 

 

レフ・ライノール。カルデアにとっての宿敵が、聖杯を手に彼らの前に現れた。

 




タマモキャットは正直すまんかった。タイラントの強さを見せたかっただけなんだ。

今回ウェスカーが召喚したのはいずれも初期のバイオに登場するB.O.W達。ヨーンは血清でしか治せない毒を使う事無くきよひーに敗北。勝てる訳がなかった。リッカーは描写される事無くオルガマリーにまで倒される始末。リーチさえ分かっていれば怖くない。なお、ディーラーはハンターしか知らないので猛毒もリーチも知りません。

今回のタイラントは半ば英霊みたいなもので、耐久筋力がA行ってます。ロケランが効かなかったのはリメイク版からですが、実は爪に弾かれたから効かなかっただけで心臓に直撃していればさすがに死にます。バイオ2裏のスーパータイラントがトラウマになったプレイヤーは僕だけじゃないはず。

ピンチの所長が、ディーラーがセイバーオルタとキャスニキから手に入れた石で召喚したのはまさかの青王。オルタを呼んだ立香と、正規の青王を召喚した所長には明確な違いがあったりなかったり。

そして意味深な言葉と共に現れた死亡フラグの塊レフ・ライノール。次回でどんな末路を送るのか。
次回はVS魔神柱、そして…?次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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魔神柱降臨だとよストレンジャー

どうも、新宿クリアしたはいいもののエルドラドのバーサーカーやら七番勝負の鬼コンビやらにフルボッコにされている放仮ごです。アサシンが足りない我がカルデアには辛い…

今回は魔神柱戦、強敵に次ぐ強敵に次ぐ強敵との最終バトル。ローマ編のラスボスとは一体誰でしょう…?今までになく内容が濃いですが楽しんでいただけたら幸いです。


 海から這い上がる。ただ、ただ彼女を求めてただ歩く。四つん這いになろうとも歩いて行く。ああ、我が身は変わり果てた……月の狂気よりも悍ましい物に余は当てられ、それを受け入れた。全ては、この愛がため。

 

どこだ…どこだ……どこに居る、我が愛しき●●よ。ああ、なんだ、記憶が、思いが薄れていく。だがこの愛は忘れない、忘れない、忘れない…余は誰を愛し求めている?

 

ああ、あああ、ああああ。薄れていく、愛が消えゆく。残るは…抗えぬ本能のみ。

 

 

「――――ネ゛ロ゛ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きていたのか、レフ・ライノール!」

 

「俺も人の事を言えないがよくロケランの直撃を受けて生きていたな」

 

「あやつが宮廷魔術師か。では、ああして携えている黄金の杯が聖杯か」

 

 

現れるレフ・ライノールの手にオルレアンでも見た金の杯が握られている事に気付いたカルデアの者達が臨戦態勢を取ると、同じく気付いて剣を構えたネロの言葉に、満足気に頷き笑みを浮かべるレフ。

 

 

「そうとも。私を殺してくれたそこのグズも、オルガも、所詮はサーヴァントと廃れた魔術師。悲しいかな、我が王より頂いた聖杯の力に勝つことなどありえない」

 

「ふざけるな!聖杯を渡せ、レフ・ライノール!」

 

「ストレンジャー、彼奴を刺激するな。以前の奴とは何かが違う」

 

「まったく、いっぱしの口を聞く様になったねお嬢さん。カルデアで初めて会った時の礼儀正しさからは信じられない愚行だ!聞けばフランスでも大活躍だったそうじゃないか、おかげで私は大目玉だ!

 本来ならとっくに神殿に帰還しているというのに子供の使いさえできないのかと追い返された!結果こんな時代で後始末だ。聖杯を相応しい愚者に与え、その顛末を見物する個人的な愉しみも台無しだ」

 

「相変わらず悪趣味ね。…本当に、私が信じたレフはただの演技だったんだ」

 

「…旦那様(マスター)が信じた?」

 

「…信じていたマスターを裏切ったのか?」

 

 

レフとオルガマリーの言葉に青筋を立てる清姫とアルトリアに、その隣でビクッと震えるマシュとディーラー。清姫はマスターが好きでさらに嘘が嫌いだからと分かるが、アルトリアは何が引っ掛かったのだろうか。

 

 

「貴様等もいい加減諦めろカルデア、特にオルガと藤丸立香!たった二人のマスターで、そんな凡百のサーヴァントをかき集めた程度で、このレフ・ライノールばかりか我が王を阻めるとでも?」

 

「貴方程度なら阻めると思うけど、私の記憶違いかしら?冬木で貴方の絶望した顔を覚えているのだけれど」

 

 

ふふん?と馬鹿にするようなしたり顔を浮かべるオルガマリーに、ぷちんと青筋が切れるレフ。見下していたオルガに馬鹿にされた事に、怒りを抑えられない様だった。しかし何を思いついたのかすぐさま嘲笑を浮かべる。

 

 

「ああ、せいぜい後悔させてやるよオルガ。あの場で潔く死ねなかった事をな!…さて、聖杯を回収し、特異点を修復し人理を守る…だったか?バカめ!貴様たちでは既にどうにもならない。結末は確定している、抵抗は無意味だ無能共!」

 

 

そう言って聖杯を取り込みにんまりと笑みを浮かべるレフの姿が変貌して行く。サドラーの時よりも常軌を逸した変貌に思わず後ずさる立香達。

 

 

「哀れにも消えゆく貴様たちに!今!私が!我らが王の寵愛を見せてやろう!」

 

 

そして天井を突き破り、現れたのは黒い体表に赤い目玉とも言えない何かを無数に連ならせた、地に突き立つ巨大な醜い肉の柱。嫌悪感さえ感じるそれに、ネロが溜まらず吐き捨てる。

 

 

「な、なんだこの怪物は…!醜い!この世のどんな怪物よりも醜いぞ、貴様!」

 

『ハハハハハハハハハッ!ソレハその通り!その醜さこそが貴様等を滅ぼすのだ!』

 

「………何だろうな、サドラーのせいもあってか目玉を撃てば勝てる気がする」

 

 

ディーラーの言葉に頷くアルトリアと清姫、アシュリー以外の面々。何というか、人間態の方が強かったサドラーのせいでそこまで危機感を覚えなかった。

 

 

『この反応はサーヴァントでも無い、幻想種でも無い!伝説上の、本当の『悪魔』の反応か…!?』

 

『まったく優秀だなロマニ・アーキマン!それでは改めて、自己紹介しよう!我が名はレフ・ライノール・フラウロス!七十二柱の魔神が一柱!魔神フラウロス―――これが、王の寵愛そのものだ!己を知れ…!』

 

 

変貌したレフ…魔神柱の複数の目がギョロリと同時に動いて怪光線が放たれて、咄嗟に立香をマシュが、オルガマリーと清姫をアルトリアが守り、ディーラーをアシュリーが庇い、それ以外は己が武器で防ぐ面々。その威力と範囲に評価を改める。

 

 

「ぬぅ…弾き返してやろうとしたが防ぐのがやっととは…悍ましい、悪逆そのものではないか、これは!」

 

『無事か皆!…しかし七十二柱の魔神、だとすれば彼の言う王とは…』

 

「…魔術王、ソロモンだというの…!?」

 

『その通りだ博識なオルガよ!だがその名を迂闊に口にしてはいけないなぁ…滅びよ!死にぞこない共が!』

 

 

再び放たれる怪光線。しかしそれはマシュとアシュリーが跳躍して防ぐことで拡散させ、それと入れ替わりに突撃した二人の騎士王による斬撃が肉柱の根元を抉り切り、さらに退避したところにディーラーのロケットランチャーと清姫の炎がその傷に放たれ、爆炎が広がる。

 

 

『目障りだ!』

 

「っ!」

 

 

しかしすぐさま再生した魔神柱による攻撃が騎士王二人を薙ぎ払い、そのまま空から降り注いだ光の槍がアシュリーを貫き、マスター二人とディーラーも逃げに徹して光線と光の雨を掻い潜る。

 

 

『フハハハハハッ!無様ッ!』

 

「身動きもとれない癖に勝ち誇って…」

 

「ディーラー!目には光を!」

 

「なるほど…了解だストレンジャー!」

 

『ヌウゥウウウッ!?』

 

 

立香の言葉に、逃げながら構えた閃光手榴弾が強烈な光を放って魔神柱の全ての目を潰す事に成功。その間に瓦礫やらの物陰に隠れる立香達。

 

 

『無駄な動きをするなッ!』

 

 

殲滅砲撃が放たれるも、それがあっけなく防がれてしまったことに目の潰された魔神柱は気付かない。英霊達による反撃が、彼には無駄であるとしか認識できないのだ。

 

 

「…ほらな、悪魔共。人間の作った武器も中々に役立つだろう?」

 

 

マシュの盾により守られているディーラーの手に握られたハンドキャノンが火を噴き、魔神柱の中心を撃ち抜いた事を皮切りに反撃が始まる。

 

 

「必要なのは突破力、防御は捨てる…風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

「蹂躙してやろう…!」

 

 

まず、風の鞘を解放してロケットの様に突撃したアルトリアのエクスカリバーが大きく叩いて肉柱をへこませ、その目の前に着地したセイバーオルタが黒い魔力を纏った巨大な斬撃を幾たびも叩き込み、すぐには再生できない大きな傷を与えて行く。

 

 

「てやぁあああっ!」

 

「参ります!」

 

「たあっ!」

 

 

そこに飛び込んだ鎧アシュリーの肘鉄と、清姫の火炎弾が直撃。さらにネロの渾身の突きが炸裂。大きく鳴動する魔神柱。

 

 

『こうなればァアアアッ!…情報室、開廷。過去を暴き、未来を墜とす。焼却式 フラウロス』

 

「させるか馬鹿が」

 

 

度重なる攻撃に追い詰められた魔神柱が奥の手を発動しようとするがしかし。ネロ達が稼いでいた時間の間に、立香、オルガマリー、荊軻と共にディーラーが魔人柱を囲む様に設置していた総数28のロケットランチャーが、ディーラーの構えた無限ロケットランチャーと連なる様に同時に発射される。

 

ただでさえ冬木で爆発により木端微塵にされたレフの恐怖意識により動きが止まり、魔神柱を包み込む様に重なる爆発。直撃すればタイラントさえ屠るそれが28発同時+無限乱射。その力を停止させ、ブルブルと震えて咆哮を上げる魔神柱。

 

 

『なぜここまでの力をぉ…ッ!』

 

「これで終わり…荊軻さん、お願い!」

 

「清姫、宝具を!」

 

 

マスター二人の言葉を受け、片や己が刃を、片や己が扇を構える白装束の英霊二人。

 

 

「ここより己の死は恐れず、生も求めず……不還匕首(ただ、あやめるのみ)!」

 

『がっ、アアアアアアッ!?』

 

「これより大嘘吐きを退治します…転身火生三昧!」

 

 

決して届かなかった、皇帝暗殺への一撃を決して存在しないはずの死角から受け、深い傷口からエーテルを血の様に噴出する魔神柱に、追撃するべく青白い憤怒の炎が叩き込まれ声にならない絶叫が上がる。

その怒りは、マスターを裏切り殺したという男へ向けた物。愛は憎悪に変わり、人類の裏切り者だった肉の柱を灼き尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

炎が消えた時、全身を灼き尽くされて魔神柱から元の姿に戻り仰向けに倒れるレフがいた。

 

 

「…馬鹿な、たかが英霊如きに我らの御柱(みはしら)が退けられるというのか?いや、計算違いだ。そうだろうとも。何しろ神殿から離れて久しいのだ。少しばかり壊死が始まっていたのさ。それを突かれたに過ぎない」

 

「見苦しい言い訳ね。敗北を認めたらどうなの、レフ」

 

「しかし、私も未来焼却の一端を任された男だ。万が一の事態を想定しなかった訳でもない。古代ローマそのものを生贄に、私は最強の大英雄の召喚に成功している。喜ぶがいい、皇帝ネロ・クラウディウス。これこそ真のローマの終焉に相応しい存在だ」

 

 

オルガマリーの言葉に耳も貸さず、ただ自身を納得させるようにブツブツ呟いていたレフが聖杯を掲げてにんまりと嗤う。その全身はあまりにも酷い状態で立ち上がれもしないが本人は気にしない。

 

 

「ローマは世界だ。そして、決して世界は終焉などせぬ!」

 

「クハハハハッ!誇りも、方向を見誤れば愚直の極みでしかないか。ならばその目で見るがいい、貴様たちの世界の終焉を!さあ人類(せかい)の底を抜いてやろう!七つの定礎、その一つを完全に破壊してやろう!―――我らが王の、尊き御言葉のままに!…そうだウェスカー、貴様も隠れてないで手伝え!最高の助っ人を貸してやる!」

 

「ウェスカーだと!?」

 

 

突如レフの口から出た、倒したはずの男の名にどよめく面々。そして聖杯から魔力が溢れ、儚げな表情の少女が召喚された。

 

 

「来たれ!破壊の大王アルテラよ!」

 

「…もう用済みだ、貴様は」

 

「あ…?」

 

 

瞬間に、天井から飛び降りて来た黒衣の男が召喚されたばかりの少女の英霊、アルテラの胸に何かを取り付け、そのままレフの頭を踏み砕いて絶命させた。

一瞬の出来事に固まる立香達を見ながら、その男…ウェスカーは吐き捨てる様にレフの亡骸を見下し、その手から聖杯を持ち上げほくそ笑む。

 

 

「…ロムルスと違い、俺が生きている事を匂わせなかった事は褒めてやる。隙を見て奴等を殺させる気だったのだろうが。だが、認められない敗北に壊れてしまって俺の存在を露出した貴様はもう用済みだ。破壊の大王を召喚しローマを滅ぼそうとしたお前の役目は俺が引き継ごう。何分、キャスターでも無い俺では英霊召喚などできないからな」

 

「生きていたの…?」

 

「ああ、アーサー王を召喚した時は肝を冷やしたぞ。タイラントを盾にし、気配遮断で逃げおおせたがな。やはり耐久度だけは素晴しい出来損ないだ。そのまま天井からお前たちの動向を観させてもらおうとしたのだが…ロムルスにはしっかり見られ、レフには俺のいた天井を突き破られ、まったく仲間というのは居ない方がいいな。特にああいう世界を滅ぼす覚悟も無い輩は不必要だ」

 

「…それは、神祖ロムルスの事か?」

 

 

その言葉に反応するのはネロ。自身を認めてくれた偉大な男を馬鹿にされているのだ、怒りに満ちた冷酷な表情で剣を向けると、ウェスカーは何かおかしいか?とでも言う様に首を傾げた。

 

 

「それ以外に誰がいる。俺の意にそぐわぬ者は、新世界には不要な害虫だ。…お前達は、ここで駆除させてもらおう。俺の新しい犬がお相手しよう。さあやれ、アッティラ・ザ・フン」

 

「…了解した、マスター」

 

 

胸部に取り付けられた機械の蜘蛛の様な装置の影響か、ウェスカーの指示に従い、その手に握られた七色の剣ともつかない武器…神の鞭を横に構えるアルテラ。それに、嫌な予感がしてアシュリーが体を張って前に出た。

 

 

「命は壊さない。その文明を粉砕する……!――――軍神の剣(フォトン・レイ)!」

 

「っ、駄目…!?」

 

「アシュリー!」

 

 

そして、神の鞭を真正面から受け止めたアシュリーは、無敵の鎧で何とか軌道をずらす事に成功するも、そのまま吹き飛ばされ、消滅した。その消滅を目の辺りにした立香はアシュリーの頑張りを無駄にしないために令呪を使い、マシュの宝具で何とか相殺する。しかし、続けざまに振るわれた、伸縮した神の鞭が宮殿ごと広間を一刀両断。一矢報いようと宝具を使った瞬間に巻き込まれた荊軻もまた消滅してしまう。

 

 

「ほう。あの装置からTウイルスを注入してみたがやはり天性の肉体。肉体変形は起こらず肉体強化にだけ効果が及ぶか。数値にして…筋力A+++、またサーヴァント・荊軻の宝具を受けてもダメージが見られないところを見ると耐久の数値も上昇しているか。興味深い」

 

 

そう分析するウェスカーを余所に、神の鞭の猛攻を前にただ避ける事しかできないカルデアの面々。そして、ネロだけでも守ろうとディーラーがセミオートショットガンを手に特攻しようとしたその時。

 

 

「ネロォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

一瞬の出来事だった。破壊された壁から飛び込んできた巨獣が、アルテラの肢体に噛みついていた。事態は、ウェスカーですら想像もつかない方向へと向かい、ローマは終焉へと近づいて行く。

 

 

それは即ち、全て、狂気()故に。




完全敗北、魔神柱レフ・ライノール・フラウロス。そしてウェスカー登場、からのアルテラ洗脳、からのカリギュラG乱入。ローマの終焉をかけた戦いは混沌へ。

ロケラン掃射に、オルガマリーへの愛に溢れた清姫の怒りが爆発。レフは死ぬより辛い目に遭ってます。荊軻の宝具で体内を露出させたところになので本当に痛いです。よくアレで死ななかった。何気にアルトリアも、某魔術師殺しの記憶があるのかちょっとキレていた様子。まさしくオルガマリー陣営の仇敵でした。Wエクスカリバーの方がまだマシだったと思う。

天井に逃れ、用済みになったレフを踏み殺したウェスカー。前回ロムルスがちらっと天井を見たのはそれに気付いていたからでした。アルテラの本気も見た事があるみたいですしさすがローマ。レフとウェスカーからは散々な言われ様ですが。
例の装置でアルテラを洗脳し、思う存分野望のための実験をしていたら乱入して来たカリギュラに驚きを隠せないウェスカー。自分のしたことを責任は取れという事で。

今回のアルテラだけでアシュリーと荊軻が脱落。残る戦力で勝てるかどうかわからない事態になってきました。残る敵はウェスカーとGカリギュラ。どちらが残っても強敵ですがローマの運命や如何に。
次回、ローマ編最終回~愛はローマを救う~(仮)。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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控えめに言っても最悪だストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも放仮ごです。お待たせいたしました。あまりにも剣豪サーヴァントが来なくてモチベが低下しておりました。こうして書けたのもひとえに何時の間にかUA50000を軽く超えていたからです。本当にありがとうございます。

今回はローマ編最終決戦です。ラスボスはGカリギュラ、まさしく「永続変異狂気帝国セプテム」の名の通りの怪物です。楽しんでいただけたら幸いです。


ウェスカーに操られたアルテラによる神の鞭で全滅しそうになったカルデアの面々。そんな彼らを救ったのは、何の皮肉かこの特異点で最初に敵対したサーヴァントだった。

 

 

「ネロォオオオオオッ!」

 

「っ…おのれ!」

 

 

Gウイルスの影響で怪物と化したカリギュラ…Gカリギュラに胴体を噛み付かれて装置が破壊され、正気に戻ったアルテラが零距離から宝具を叩き込もうとするも、遅かった。

 

 

「この世界には……私の剣でも破壊されないもの、が……」

 

 

耐久力の増していたはずの天性の肉体があっさりと噛み砕かれ、アルテラはその言葉を残して消滅。ぐるりと巨獣が立香達の方に顔を向け、ネロだけが気付いた。

 

 

「まさか…叔父上…?」

 

「…まだ、前までは人の原型を保っていたのに…」

 

 

巨大に発達した腕を前脚のように使う、4足歩行にさらに二本腕を付けた獣のような姿へと変貌しているがそれはGウイルスを埋め込まれたカリギュラであった。

頭部と一体化した胸部が大きな口になっており、その中に生え揃っている牙でアルテラを噛み砕いたのは目に見えた。脇腹辺りにカリギュラだったと示す青い毛が少しだけあるが、もはや原型を留めていない。

 

 

「ほう、G生物の第四形態か。まったく、第二形態辺りで死んでいるかと思っていたがしぶとく生き残っているとは。俺も予想外だ。まさかアルテラを殺すまでに至るとは」

 

「叔父上がこうなった原因は貴様か…一体何をした!?」

 

「いやなに。俺の身にGウイルスを投与して強化するか少し考えたものでな。ちょうどバーサーカーで召喚されたサーヴァントが二体いたのだが、ロムルスとレフに許可を得てそれらにGウイルスを投与し、サーヴァントでも安全かどうか見定めたのだ。

ダレイオス三世の方はそこまで影響を受けなかったのだが…いや、今考えると肉体強化ぐらいはされていたのか…恐らくではあるがこの世界に血縁関係が残っているカリギュラの方には大きく影響があり、変異した。

その経過観察を行っていたが女神の島で倒された事で打ち切っていたのだが………これは危険だな。排除しないとローマも滅ぶぞ。第五形態になると見境なく辺りの物を食い散らかし肥大化する。まあこれでレフの目論見も果たされるだろう。では俺は失礼させて…む?」

 

「ウガアァアアアッ!」

 

 

瞬間、ウェスカーはとんでもない速度で突進してきたG生物に一撃で噛み砕かれ、今度こそ消滅。聖杯もその体内に取り込まれてしまう。常軌を逸した変異を遂げ、理性も無くして凶暴化したその姿はまさにバーサーカー…否、狂獣であった。

 

 

「…あのウェスカーが自滅するとはな。レオンから聞いてはいたが、ここまで性質の悪い物だとはなGウイルス。しかも、目的だったはずのネロの姿も見えてないぞこれは」

 

「あの勝てる気がしなかったアルテラを倒してくれたのはありがたいけど…」

 

「…目的はネロ、だよね…?」

 

「う、うむ。余も食べられたくはないが、あの男の言葉が真実であれば倒さねばローマが終わるという。力を貸してくれるか、カルデアの勇者たちよ?」

 

「そんなの当り前だよ!ですよね、所長?」

 

「ええ。行くわよ藤丸、カルデアの全力を以てバーサーカー・カリギュラを倒します!」

 

 

オルガマリーの言葉を合図に、取り込んだアルテラの霊基が影響したのかローマへ進軍し始めるGカリギュラに背後から斬りかかるセイバーオルタ。しかし切っ先が触れた瞬間、その巨体からは信じられない反応速度で退避し、壁に張り付いて飛び掛かって来るGカリギュラを何とか盾で受け止めるマシュ。しかしその重量に押し潰されそうになり、ネロとアルトリアが同時に切り払う事でGカリギュラは退避。

 

 

「ネロォオオオオッ!」

 

 

縦横無尽に天井と壁を駆け巡り、時折その牙で破壊し落ちて来た瓦礫までもを足場に、邪魔者を排除しようと「噛み砕き」を連発して来た。立香とネロをマシュが、オルガマリーをアルトリアが守り、残りのディーラーとセイバーオルタと清姫が避けながら迎撃に徹しているが、あまりの猛攻にばらけてしまうのはしょうがない事だった。

 

 

「余の名前を呼んでいる癖して盲目か!見損なったぞ叔父上!余は悲しい!」

 

「言っている場合!?」

 

「すみません先輩、私では防ぐので精一杯で受け止めて動きを止める事は出来ません…」

 

「それは私達も同じだ。なにせクリーンヒットしたらウェスカーの二の舞だからな」

 

「通常の聖杯戦争ならマスターを狙えば済む話ですが…」

 

「奴の魔力源は聖杯だ。放って置いたらウェスカーの言う通り魔力を喰らい尽くして肥大化するだろうな。何せサーヴァントのG生物化、というか外的要因によるクリーチャー化は初めての事象だ。しかもそれが無限の進化を齎すとか言うGウイルスだ、本当にどうなるか分からんぞ」

 

 

軌道を読んで、ネロに襲い掛かってマシュに防がれたタイミングを合わせてロケランを撃ってみた物の、タイラントの様に伸ばした爪を盾の様にして防いでしまったGカリギュラに舌打ちするディーラー。シカゴタイプライターを乱射して当ててみるも瞬く間に再生しているのを見て、そして気付く、ウェスカーが倒されたから消えたと思っていたが、タイラントの死骸があった辺りが妙に血塗れになっている事に。

 

 

「…まさかと思うが、喰ったクリーチャーやサーヴァントの特性を己の物にしているのか?あのスピードはウェスカーの、この宮殿をあっさりと破壊できているのはアルテラのか…?」

 

「嘘でしょ?だとしたら、他の英霊の霊基を取り込んでいるって事でつまり…」

 

「……ああ、控えめに言っても最悪だ」

 

 

Gカリギュラの身から、ズルズルと這い出てくるリビングデッド…ゾンビの群れと、ハンターの群れ、さらにはヨーンにリッカー、タイラント他、腐食した犬「ゾンビ犬」や巨大ワニ「アリゲーター」、さらに歪な同化している左足と尻尾に脇腹の目玉と不完全な姿のG生物に酷似した「G成体」が出て来たのを見て確信に変わるその最悪の考え。

Gカリギュラは取り込んだ英霊の宝具を使える。だが、いくら変貌しようとGカリギュラは英霊カリギュラ…即ち、それだけではない。

 

 

「ウゥ…ウゥウウウウウッ!我等を侵して喰らえ、月の狂光(フルクティクルス・ハザード・ディアーナ)ァアアアアッ!」

 

「「「「!?」」」」

 

 

その咆哮と共に昼夜が逆転する。本来、夜であることが条件で発動する彼の宝具が、聖杯の魔力により固有結界と似た事象を発現させ、アルテラに両断された天井から満月の光がGカリギュラと、彼から生み出されたB.O.W.達に降り注ぐ。

本来それは、空から投射される月の光を通じて自身の狂気を敵軍に拡散する、広範囲型精神汚染攻撃だ。しかし考える事を放棄し、本能のままにただただ完全体になる事を目指すGカリギュラが発動したのは、自軍に対する「狂化」を齎す光だった。それ即ち、バーサーク・サーヴァントの様に狂化された事によりスペックを大幅に上げたB.O.Wの一団だ。

 

 

「ウガアアアアアアッ!」

 

「冗談だろ…!?」

 

 

タイラントの一撃が床に巨大な亀裂を作る程の振動…否、地震を引き起こし、速度を増したゾンビやリッカー、動物系B.O.Wが勇猛果敢にカルデアのサーヴァント達に一斉に襲い掛かる。

 

 

「清姫、宝具!」

 

「転身火生三昧!」

 

 

スキル「焔色の接吻」にて火力を底上げした清姫が飛び出し、宝具による炎が動物系B.O.Wを焼き払うも、怯まず突っ込んできたアリゲーターの牙を掠って負傷、火炎弾を口の中に叩き込んで退避する清姫。

 

 

「清姫!…ウイルスが感染していたら洒落にならないからこの緑と青の合成ハーブで一度回復して」

 

「私は大丈夫です、旦那様(マスター)…私が守ります…!」

 

「無茶しないで!…アルトリア!」

 

「はい、マスター!」

 

 

続けてアルトリアが飛び掛かって来たリッカーを斬り伏せるも、続けざまに突進してきたG成体の殴打を鎧にもらい、その打撃に思わず怯んでしまった所にゾンビ犬が殺到、風王鉄槌で吹き飛ばすも後退するしかなかった。

 

 

「所長、此処は一度逃げてローマ軍と合流しましょう!数が多すぎます!」

 

「ストレンジャーの言う通りだ。ウェスカーの奴め、魔力の問題か手加減していたから何とか勝てたが本気を出したら本当に勝負にならないな…逃走イベントかクソッたれ」

 

「うむ!こればかりは我がローマ軍の助力を願うしかあるまい!」

 

「ッ!来るぞマスター!あの怪物が動く…!」

 

「え?」

 

 

ディーラーにパルスグレネードを投げてもらいながら、撤退を推奨する立香は、セイバーオルタの言葉に振り向き、そして目を見開く。Gカリギュラが口の中から吐き出した、七色に輝いて回転する剣身を持つ近未来的なデザインのそれは、つい先程、逃げるしかなかった軍神アルテラの宝具だった。

 

 

「アルテラの宝具まで…!?マシュ、令呪を以て命ずる!全力の宝具を以て皆を守って!」

 

「っ…はい!マスター!ですが、真名も解放できていないこの宝具では…」

 

 

先輩の令呪に応え、決死の覚悟で大盾を構えるマシュ。しかしその表情は焦燥がにじんでいた。あのアシュリーでさえ防ぎ切れなかった、全ての文明を悉く破壊する神の鞭。真名も知らない自分の宝具で防ぎ切る事が出来るのかという心配からの物だった。それを支えるのは、二人の騎士王だった。

 

 

「…マシュ。貴様ならできる。エクスカリバーにだって耐えて見せたその盾の真価を見せてみろ」

 

「マシュ。…貴方にその霊基を与えて消滅した英霊は、私の知る限り最も堅き男です。その盾の強度は使用者の精神力に比例し、心が折れなければその城壁(・・・・)も決して崩れはせず、一切の敵意・悪意を寄せ付けない。貴女の持つその盾ならば、それができる」

 

「…はい!マシュ・キリエライト!先輩のサーヴァントとして精一杯、やってみせます!」

 

 

己の持つ宝具の真価を知ったマシュは、静かに、Gカリギュラが神の鞭を放つその時まで集中して盾を掲げる。それぞれの魔力が高まり、数秒も経つことなくその時は来た。

 

 

「ウゥウウウッ!狂わされた軍神の剣(ゴッド・フォトン・レイ)ィイイイッ!」

 

疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!」

 

 

ワクチンが「DEVIL」という事からGウイルスの正式名称だと思われる「GOD」の名に関する、味方の筈のB.O.Wもろとも突き進んでくるGカリギュラの対軍宝具がマシュの盾から発生した光の魔法陣と激突。鬩ぎ合い、マシュが押され始め慌てて立香とオルガマリーも加勢して一緒に押しやり、そして…

 

 

「…白亜の、城…?」

 

 

立香が見上げるとそこにさらに発生した白亜の城壁が完全にGカリギュラの宝具を防ぎ切り、弾き飛ばしていた。Gカリギュラに巻き込まれてB.O.Wが全滅した今がチャンスだと、立香とオルガマリーのマスターとしての勘が叫んだ。

 

 

「セイバーオルタ!」

 

「アルトリア!」

 

「「宝具を!」」

 

 

今は消失したものの確かに顕現していた白亜の城に圧倒されていた二人の騎士王は我に返り、黄金と黒の聖剣を構える。

 

 

「未熟な騎士が意地を見せたのです。我々も示さねば」

 

「愚問だな。哭け、化物。地に堕ちる時だ」

 

「ええ、決着をつけましょう」

 

 

セイバーオルタは下段に、アルトリアは上段に。それぞれ金と黒の魔力が集束されて行く。

 

 

「ネロォオオオオオオッ!」

 

 

それに対し、新たに生み出していくB.O.Wを片っ端から吸収、膨張して行くGカリギュラ。変異を止めない狂気の体現へ、後に監獄塔にて「暴食」の罪の具現となる英霊に相応しい成れの果てへと、二振りの神造兵器が振り下ろされた。

 

 

「「約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァアアアアアアッ!」」

 

 

今この時は、反転した黒き聖剣も真の銘を晒し、全く同じタイミングで振り下ろされて合わさった極光がGカリギュラを飲み込んで行く。有象無象のB.O.Wも殲滅し、極光は晴れる。

 

 

「…そんな!?」

 

「…ネロォオオオオオオッ!」

 

 

しかしてGカリギュラは健在。その姿は聖剣により致命的なダメージを受けて瀕死になった事で変異し、巨大な口でB.O.Wを片っ端から捕食した事でより効率的に得物を捕食すべく進化し、広間の半分を覆い尽くす程に肥大化していた。そのうち宮殿を突き破り、外のローマ兵達にもその姿は見える事だろう。

巨大な口と頭部しか面影はなく、肉体は軟体動物のように柔らかく、腕は伸縮自在かつ強靭な触手へと変貌しており、今も自身が生み出したB.O.Wを片っ端から捕食しダメージを修復している。これで完全体とは程遠いというのだから恐ろしい。

 

 

「いい加減にしろ、叔父上」

 

 

しかしそれは、炎を纏った大剣で縦に真っ二つにされた事により停止、炎による斬撃はダメージ修復を遅らせ、Gカリギュラは目の前に立つ標的にして愛する者を凝視する。それ即ち、真紅と黄金のローマにこそ映える第五代皇帝。暴君と評されようとも市民を愛し第一としていた為政者。

ただ、その「愛」がすれ違っていた事に気付かなかっただけで、心からローマを愛し、守ろうとする正真正銘この時代唯一たる皇帝。ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスだった。

 

 

「叔父上の愛は何も見えておらぬ。力に溺れて何が愛か。愛があるというのならば抗ってみせよ。それができぬというのなら…今ここに居る叔父上は、ただの狂人だ。余自らが引導を渡してやろう」

 

「微力ながら助太刀するぜ。こういう生物兵器は俺の専門分野だ」

 

「ふむ。余を苦手とし早々に宴から逃げ出した商人か。余はお主とも話したかったのだぞ?特に我が愛剣について存分に語り合いたかったぞ!立香達から商人の話題が出るたび寂しかったものだ」

 

 

視線を再生を始めるGカリギュラから動かす事無く、プンスコ怒って告げられたネロの言葉に、マインスロアーと中折れ式マグナムを構えて歩み寄りながら肩を竦めるディーラー。

 

 

「そいつは悪かったストレンジャー。俺は奴隷制度というのが嫌いなんだ。…まあなんだ、何か縁があってまた会う事があれば、その時は存分に語り合おう。まあ一言あるとすれば、いい剣だ」

 

「そうだろうそうだろう!余自らが鍛えた真紅の剣、隕鉄の鞴『原初の火(アエストゥス・エストゥス)』であるからな!未来の武器を扱う商人の目からも称えられるとは、余は嬉しい!」

 

「楽しそうで何よりだが、さっさと決めるぞストレンジャー。…哀れなサーヴァントは冬木のシャドウ・サーヴァントで沢山だ」

 

 

その言葉を引き金に、振り下ろされた触手をネロは跳躍して避け、Gカリギュラの肉体から湧き出るゾンビの集団を一刀の元に切り捨てて行く。

ディーラーはバックステップで後退し触手の攻撃を避けながらマインスロアーを乱射。口の周りに円を描く様にリロードした小型榴弾を撃ち込み、さらにセイバーオルタ達が引きつけている間に周囲を走り回って乱射乱射乱射。

持っている小型榴弾の全てをつぎ込むと、すかさずマグナムでGカリギュラの目を撃ち続け、怯ませながらネロへと叫ぶ。

 

 

「お膳立ては済んだぜ、アンタが決めろストレンジャー!脳天にそいつを叩き込めば、誘爆(・・)する!」

 

「任せよ! 一蹴に伏してくれる。――――喝采は万雷の如く(パリテーヌ・ブラウセルン)!」

 

 

急降下、そして一撃。炎を纏った斬撃は小型榴弾に誘爆し、ネロをアルトリアが回収し退避すると同時に、全身を覆い尽くす様に大爆発がGカリギュラを包み込んだ。完全に倒すには、細胞全てを吹き飛ばす大爆発しかなかったのだ。実際、レオン・S・ケネディも変異を繰り返すウィリアム・バーキンを、研究所の自爆に巻き込んで葬ったのだから。

 

 

 

 

「ネ……ロォ……やはり、…お前は美シイ………!」

 

 

 

 

死の間際、賞賛とも聞こえる断末魔と共に聖杯を残して消滅するカリギュラ。彼が最期に見たのは、愛しき姪の晴れ姿であった。

 

 

こうして、第二特異点は終決を迎えた。




長々と説明していたせいであっさり退場した上に厄介な能力をGカリギュラに渡してしまったウェスカー。こちらはサドラーと違って再登場します。「既に縁は繋がれた・・・」

アルテラばかりかウェスカーまであっさりと捕食し、ただでさえ永遠に進化し続けるのに、さらにサーヴァントにGウイルスを投与した結果捕食したサーヴァントの霊基情報まで会得しスペックとスキル、宝具を得る結果になった怪物、Gカリギュラ。もしディーラーが喰われていたら聖杯による無限に等しい魔力で復活し続ける為本当に絶望でした。Gの由来はワクチン名から考えて「GOD」らしいですが、割と納得できる凶悪なウイルスだと思います。…まああまりに未知数過ぎる上に適合する人間も少ないために兵器としては使い物にならないらしい物ですが。

カリギュラをG生物にした最大の理由はネロへの愛や近親関係よりも、監獄塔にて暴食を司っていたからです。第四形態はバイオ2表のラスボス。第五形態はバイオ2裏のラスボス。ちなみに第五形態の方は実はサドラーよりも弱いという説あり。第四形態の噛み砕きが厄介すぎる為と思いますが。

宝具の真価を一瞬だけ発揮したマシュにWエクスカリバーとカルデア側も頑張りましたが、ネロとディーラーの手で終決しました。一番迷ったのはどうやってG生物を倒すかと、ネロに見せ場を作るかでしたがマインスロアーという便利爆発兵器のおかげで解決。やはりマインは万能。ネロとディーラーは武器の事に関してだけは仲がいいです。

次回はローマ編エピローグ、そしてオケアノス突入・・・の前に、アシュリーとマイクのマテリアルに加えてGカリギュラ、洗脳アルテラのステータスを書こうと思います。ウェスカーはもう少し後で、まだまだ明かすには早過ぎます。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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生物兵器にされた奴の性能だストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、どうやってもprofessionalの城の中庭の犬をクリアーできないので感想で話題に上がった「純白紳士」という方の実況を見始めた放仮ごです。え、何この人凄い・・・(最初の村はひたすらグルグル逃げ回って時間を稼いでいた)
とりあえずまだの方にはネタバレ注意。まずは生物兵器化したアルテラとカリギュラの設定です。アシュリーとマイクは次回にて。
また、知らない人のためにB.O.Wの簡単な説明も載せています。よければどうぞ、見て行ってください。


洗脳アルテラ

クラス:剣士(セイバー)

真名:アルテラ

マスター:レフ・ライノール→アルバート・ウェスカー

性別:女性

身長:160cm

体重:48Kg

出典:史実、バイオハザード5

地域:中央アジア~欧州

属性:混沌・善

イメージカラー:ダークプラチナ

特技:文明破壊

好きなもの:潔癖なもの、誇り高いもの

苦手なもの:汚いもの、話の長い男(レフとか)

天敵:ネロ・クラウディウス、???

 

ステータス:筋力A+++ 耐久A+ 敏捷A+ 魔力C 幸運C 宝具A+

 

スキル

・対魔力C:クラススキル。魔術に対する抵抗力。T‐ウイルスという現代の要素が入ったため一段階下がって本来の物より弱体化しており、二節以下の詠唱による魔術は無効化できるが、大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

 

・騎乗A:クラススキル。乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。Aランクなら竜種以外の幻想種までなら乗りこなすことが出来る。

 

・神性B:神霊適性を持つかどうか。アルテラ自身は神霊との血縁関係を有していないが、欧州世界を蹂躙した事実は神威とされ畏怖の対象となって「神の懲罰」「神の鞭」の二つ名を得るに至った。そのため地上で英霊となったアルテラは神霊適性を高ランクで有する。

 

・軍略B:多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。

 

・天性の肉体D:生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。 一時的に筋力のパラメーターをアップさせることが可能となる。 更に、どれだけカロリーを摂取しても基本デザイン(体型)は変化しない。本来はEXランク。

 ウェスカーに狙われた原因であり、T‐ウイルスを接種しても肉体変異は起きずステータス上昇にのみ作用したため、天性の肉体を持つサーヴァントは文字通り天性のウイルス抗体を併せ持つとウェスカーは推測した。実は知能低下だけはちゃんと働いている。

 

・星の紋章EX:体に刻まれた独特の紋様。アルテラという個人が有する不可思議の紋であり、ランクが高いほどに威力は増していく。紋を通じて魔力を消費する事で、瞬間的に任意の身体部位の能力を向上させることが可能。魔力放出スキルほどの爆発的な上昇値はないが、魔力消費が少なく燃費がよく更に直感スキルの効果も兼ね備えた特殊スキルでもある。

 

・文明浸食EX:英霊アルテラ本人が無自覚に発動しているスキル。手にしたものを今の自分にとって最高の属性に変質させてしまう。『最高』とは『優れている』という意味ではなく、アルテラ本人のマイブーム的なものを指している。ちなみにウイルスは悪い文明らしい。

 

 

宝具

軍神の剣(フォトン・レイ)

ランク:A

種別:対軍宝具

 長剣の形状をしてはいるがどことなく未来的な意匠を思わせる、文明を破壊する『神の鞭』。三色の光で構成された「刀身」は地上に於ける「あらゆる存在」を破壊し得るという。伸縮自在であり、広間の真ん中から動かずに宮殿を一刀両断した程。洗脳時に知能低下を起こしていたため、アルテラは本来の武勲を見せる事無くただ単に宝具を振り回すだけの災害と化していた。それでも余波だけで荊軻を消滅させたり、それまで無敵だったアシュリーを簡単に葬り去ってしまうなど、振るわれるだけでも強力な恐ろしい宝具である。

 

 

概要

大帝国を築いた大王アッティラ・ザ・フンその人。直感力に優れ、あらゆる事態に際しても理性を放棄せず立ち向かう。誇り高く、理性的な戦士。自らを“殺戮の機械”と称し、勝利と破壊のために剣を振るい、それへの躊躇は一切ない戦闘王。

召喚直後にウェスカーにより肉体を強化すると同時に精神を支配する薬物「P30」を注入する投薬装置を胸元に埋め込まれ、その被験者の意識を奪うことなく自由意志を支配するという効果により、レフに狂化された意識を保ちながら操られ、同時に投与されたT‐ウイルスも合わさって筋力耐久敏捷が上昇(代わりに魔力と幸運はダウン)したスペックでカルデアを全滅直前まで追い詰めるも、知能低下のため生じた隙を突かれて乱入して来たGカリギュラに噛み付かれ、装置を壊されて自由を取り戻し宝具で対抗しようとした瞬間には捕食されてしまった哀れな元ラスボス。

ちなみに、すぐに洗脳されてしまったのはウェスカーがサーヴァント化していたためであり、本来洗脳するには長期間の投薬が必要だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Gカリギュラ(第四形態)

クラス:狂戦士(バーサーカー)

真名:カリギュラ

マスター:無し

性別:男性

身長:185cm(通常時)

体重:80Kg(通常時)

出典:史実、バイオハザード2(ラクーン・シティ事件)

地域:欧州

属性:混沌・悪

天敵:ネロ・クラウディウス

 

ステータス:筋力A+++ 耐久☆(測定不能) 敏捷A+++ 魔力EX 幸運A 宝具A+++

 

スキル

・狂化EX:バーサーカーのクラススキル。パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。G‐ウイルスの影響で僅かに在った理性も消え失せ、ただ盲目にネロを追いまわすだけで意思疎通は不可能。月に狂わされていたという伝承から通常でも高い狂化を持つ。

 

捕食特権EX:スキル・皇帝特権Aが投与されたG‐ウイルスにより変異したスキル。元より主張すれば大概のスキルを会得できたためか、捕食したサーヴァントやクリーチャーの霊基や遺伝情報を取り込み、ステータスや身体的特性、スキルに宝具まで己の物にできる。

 

自己修復A-:常に細胞変異を起こしている為、どんなにダメージを負っても魔力を消費して半永久的に己の肉体を再生し続ける。しかし生物であるため炎や氷結には弱く、それらによる傷は再生能力が低下するが上記の「捕食特権」で得たサーヴァントの能力などで克服が可能。

 

生物災害EX:ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。バイオハザードの根源そのものたる特性。G‐ウイルスの影響で半ば受肉し、捕食したもので魔力を補うため疑似的に単独顕現できる。今回はさらに捕食した聖杯から魔力を吸収していたため、半永久的に存在できるサーヴァントと化していた。

 

加虐体質A:戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増していく。狂化スキルに性質が近いため、カリギュラはこのスキルを最大限には発揮できない。

 

在りし日の栄光B:名君として生きた四年間の記憶はカリギュラの狂気を和らげず、むしろ加速させる。精神干渉系の抵抗判定にプラス補正がかかり、素手攻撃時の筋力パラメーターが一時的に上昇するが、この効果を使用するたびにカリギュラは自身にダメージを負う。暴走する狂気が霊核を軋ませるのである。G生物と化した影響でそれに拍車がかかるが、上記の「自己修復」でダメージは修復されるため実質プラス要素のみ。

 

 

宝具

我等を侵して喰らえ、月の狂光(フルクティクルス・ハザード・ディアーナ)

ランク:A+++

種別:対軍宝具

 カリギュラが元々有する宝具「我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)」と取り込んだウェスカーの宝具「此処に至るは数多の生物兵器(ウロボロス・バイオハザード)」の合体宝具。

通常発動は自らの肉体を媒介に、元々ウェスカーの召喚できる物に加えて自身に備わるG‐ウイルスに連なるB.O.Wを召喚して操るのみだが、真名解放で真価を発揮する。

本来、月が出ている事が真名解放の条件なのだが、取り込んだ聖杯の魔力を用いた疑似固有結界を発動して昼夜を逆転、呼び出した満月のかつて自らが狂わされた月光で呼び出したB.O.Wを狂化させスペックを大幅に上昇させる悪魔の宝具。

彼単体でバイオハザードを行なえる上に、無尽蔵に召喚できるためローマ程度の規模ならば一日もかからずに制圧できる。しかし本来の効果である敵軍の精神汚染攻撃は行えず、あくまで自軍を狂化させるだけの宝具。

 

狂わされた軍神の剣(ゴッド・フォトン・レイ)

ランク:B

種別:対軍宝具

 取り込んだアルテラの宝具が変質した物。アルテラを取り込んだ直後から体内に入れてあった彼女の剣を吐き出して己の牙で柄に噛みついて構え、発動する宝具。

体内に入れられていた事で剣身がウイルスに汚染されたため本来のランクより低下しているが、その真価は召喚したB.O.Wを巻き込んで突撃する事による、大規模ウイルス感染攻撃。突撃に巻き込まれて一瞬でミキサーの様に濃厚に掻き混ぜられたB.O.Wの細胞を撒き散らし、攻撃と共に相手をウイルスに感染させるという最凶最悪の宝具。そのため防いでも避けても、相手の敗北は免れない。

マシュの宝具が真価を発揮した事によりカルデアの面々は助かったが、マシュが居なかったらそれだけで敗北は決まっていた。

デメリットとして召喚したB.O.Wが例外なく全滅してしまいもしも完全に防がれてしまったならば隙が生じてしまう事があげられる。由来はG‐ウイルスの正式名称と思われる「GOD」から。

 

 

概要

第二特異点のラスボス。聖杯に召喚されローマ連合に属していたローマ帝国第三皇帝。当初は名君として人々に愛されたが、突如として月に愛され狂気へと落ち果てた人物。嗜虐を好む完全なサディストで目に付いた敵すべてが暴虐と悪行の対象となる。しかしてどんな状態であっても姪であるネロが好き。しかしウェスカーに投与されたG‐ウイルスの影響で自制が効かなくなり、ネロをひたすらに追い求める狂獣へと成り果てた。半ばクラスが「追跡者」に移行していた物のバーサーカーの枠に納まった。

 

何度もカルデアとネロに敗れ、そのたびに再生して変異し続けた正真正銘の怪物。アルテラの筋力、ウェスカーの敏捷、さらに双方の耐久を自らの物と合わせて一級以上のサーヴァントのステータスと化しており、さらに耐久A+以上のアルテラを不意打ちとはいえ葬ってしまう「噛み砕き」という技を有するため生半可な英霊では戦う事すらできずに捕食されてしまう。それに加えて宝具による制圧力まで持ち合わせてしまったため手を付けられない。Wエクスカリバーを受けるもタイラントやゾンビなどのクリーチャーを捕食しその代謝能力も使って耐え凌ぎ、第五形態へと変貌しローマもろともネロを得ようとするもカルデアの奮闘により敗北、英霊としての消滅からは逃げられずにその狂気を終えた。

 

第一形態でローマにやって来たばかりのカルデアと交戦しエクスカリバーを受け敗北するもしぶとく生き延び、第二形態で進軍中のローマ軍を襲撃しこれも敗北。「形ある島」にて第三形態で襲いかかるも死闘の末、海に落とされて活動を停止していたが生命活動の危機にG‐ウイルスが活性化し二足歩行の第四形態で復活。しかしネロとの距離が離れていたため、四足歩行形態になって追跡したという経緯がある。形ある島で敗北した時点で自我は消えており、下記の理由からただ本能的にネロに胚を植え付ける為に執拗に彼女を付け狙った。

 

G‐ウイルスとはT‐ウイルスが投与されたある少女を利用した人体実験で偶発的に生まれたT‐ウイルスを上回る脅威であり、数々のウイルスを御するウェスカーでさえも使用を躊躇う程に不安定かつ強力な代物。

元々T‐ウイルスが大脳組織の壊死による知能低下と、新陳代謝の異常促進などに由来する回復能力の発達などの範囲に収まる効果を持つのに対して、G‐ウイルスは遺伝子に変化を起こして宿主に異常な変異・進化をもたらし一度感染すると自然変異を無限に繰り返し、予測不可能な変貌を果てしなく遂げていく怪物へと成り果ててしまう。

しかし完全態となるためにはウイルスの持つ遺伝子情報と適合する遺伝子を持つ宿主でなければならず、更にその適合者となり得る候補は極めて数が少なく限られており、さらに自我が無くなると生物にとって当たり前の繁殖本能から適合者を追い求める。カリギュラの場合は遺伝子的に近く、英霊ではなく生きているネロがそれに当てはまった。

ちなみに変異の仕方は元祖G生物であるウィリアム・バーキンと同じ。これは偶然ではあるが、ウイルスの打ち方がバーキンと全く同じものであったため。また、父親に埋め込まれたG‐ウイルスの胚に適合したバーキンの娘であるシェリーは老化が止まる、致命傷を受けてもすぐ治るなど、超人的な能力も得ているのでネロもそうなる可能性があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆第二特異点で召喚されたB.O.Wの簡単な説明

 

・ハンター、ファルファレルロ

アンブレラにとって成功例とも言える代表的なB.O.W。人間の遺伝子に爬虫類の遺伝子を埋め込み、堅牢な皮膚と身体能力を持ち、知能が高く単純な命令に従い標的の首を狩って即死させる「首狩り」を得意とする対人特化の生物兵器。必ず集団で行動する他、明確な弱点はグレネードランチャーの硫酸弾のみ。ファルファレルロはハンターにt-Abyssを組み込んで透明化できる様になった改良型ではあるが2種類のウィルスが体内で共存している影響から凶暴性が強く、制御性に欠ける。

彼等だけは唯一知っていたディーラー曰く「ワイバーンとは比べ物にならないチートトカゲ」。正規ローマ兵を蹂躙した他タイラントに加勢してオルガマリー等を追い詰めたがいずれもエクスカリバーで纏めて倒された。

 

・ヨーン

鱗とぬめりを帯びた赤い瘤に体表が覆われている全長10mの大蛇。ブルーハーブでも治せない強力な毒を持ち、これに侵されたら数分で死に至る上、専用の血清でしか解毒できない。実験用に飼育されていた毒蛇が事故で逃げ出し、T‐ウィルスに感染したことで偶発的に生まれたため生物兵器とは呼べない存在。変化した清姫と蛇同士での対決に持ち込むも、毒牙で噛み付く前に炎で焼かれて敗北した。

 

・リッカー

肥大化して外部へ剥き出しになった脳と筋肉組織が露出した四足歩行の生物兵器。ゾンビ化した人間が更にT‐ウィルスに汚染されて突然変異を起こした結果誕生した。肥大化した脳により視覚能力は失ったものの、それを補うように聴覚が異常に発達。

跳躍力も異常に発達し、骨格の変形に伴い4足歩行へと変化し天井を逆さまに移動する能力を獲得した他、獲物を見つけると長い舌を槍のように硬く伸ばして相手の急所を貫いて仕留めたり、鋭く尖った爪で喉笛を斬り裂く攻撃を得意とするハンター並の強敵なのだが、オルガマリーにリーチを見破られて脳に集中攻撃されて描写される事無く撃破された。

 

・ゾンビ犬

ウェスカーが召喚するのはアンブレラの生物兵器「ケルベロス」なのだが、G‐ウイルスの影響か偶発的に生まれた警察犬や軍用犬などがT‐ウイルスに感染したものが召喚された。非常に凶暴な性質で、犬の習性が残っているために群れをなして行動することが多い。Gカリギュラに召喚されたものの、ろくな活躍も見せずに退場した。

 

・アリゲーター

ペット用のワニが廃棄先の下水道でT‐ウィルスに感染し、体長10mにも及ぶ巨大なクリーチャーと化したもの。多少の弾丸には全く怯まず襲い掛かる。Gカリギュラに召喚されたものの、ろくな活躍も見せずに退場した。

 

・G成体

GカリギュラのG‐ウイルスを媒体に召喚された個体。宿主との間に拒絶反応を起こした胚が巨大化・成長したもの。いわば不完全なG生物。幼体を吐き出しながら標的に迫り巨大な左腕で攻撃するも強靭な生命力は有さず、倒されれば直ぐに死滅する。Gカリギュラに召喚されたものの、ろくな活躍も見せずに退場した。

 

・タイラント、スーパータイラント

ウェスカー曰く「アンブレラの狂気の体現」、対決したクリス・レッドフィールド曰く「究極の出来損ない」と評される究極のB.O.W.。B.O.W.研究開発の集大成としてT-ウイルスの正式名称の“Tyrant(暴君)”と名付けられた。ウェスカーに召喚された個体は素体となった人物のせいで半英霊の様な存在になっている。

様々な遺伝子改造を施した結果、圧倒的な攻撃力と耐久力を備えた肉体とさまざまな命令を理解、遂行できる知能を獲得した3メートル近い巨体と右胸に露出した心臓、左手にロケランをも受け止め跳ね返す武器となる巨大な爪を持つ巨人。

リミッターが解除される事で体表に赤みが差して身体能力が飛躍的に高まるスーパータイラントとなるのだが、一切の制御を失った暴走状態であり、サーヴァントになったウェスカーはその暴走状態でさえも簡単な命令であれば使役可能。タマモキャットと清姫、ディーラーの猛攻に耐え切りオルガマリーを追い詰めるも召喚されたアルトリアのエクスカリバーの直撃にはウェスカーの盾にされた事もあり耐え切れずに沈黙。その後どさくさに紛れてGカリギュラに捕食され、ロケランにも耐えうる爪を与えてしまった。

また、Gカリギュラに召喚された際は狂化を受け、巨大な亀裂を作る程の地震を引き起こすなど強敵になっていたがゴッド・フォトン・レイに巻き込まれてしまった。

 

 

 

※多種多様ではあるがまだ序の口である。




ウェスカーが現時点で自身に投与していたウイルスはウロボロス・ウイルス、T‐ウイルス、t-Abyssのみです。G‐ウイルスは諦めた模様。
GカリギュラはFGO×バイオの集大成として考えたキャラですが正直やり過ぎた感があります。

今更ではありますが、僕はバイオを4とリベレのみをやり込んだ人間でして、2、3、0、5は友人の物を少々プレイした程度で後は実況動画(主に某調味料の人)から、あと実写映画とディジェネレーションを持っているぐらいで他はろくに知らないプレイヤーです。1はちょっとだけ見ました。今現在の低スペパソコンだと15分ぐらいの動画しか見れないので動画探しも難航している次第です。そのため描写に変な所があったら本当に申し訳ありません。ちなみに2と3はタイラントとネメシスに追いかけられて、当時はまだゲーム初心者だったという事もあって半ばトラウマになっていたりします。正直3は二度とプレイしたくありません。

今更カミングアウトして何が言いたいかというと、T‐ウイルス系統などは不備があるかと思いますが、プラーガとt-Abyssが絡んだ時だけ本領発揮だと思ってくださいお願いします。
武器商人が好きだというだけで不完全な知識で始めた二次創作小説ではありますが、FGO並びにバイオファンにも満足していただけるような小説を目指して頑張りますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします。

次回はアシュリーとマイク(orハットトリック)の設定ですが、楽しみにしていただけると嬉しいです。


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新人共の性能だ確認して置けストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、割とごり押しでprofessionalの城の中盤まで進めてやる気を取り戻した放仮ごです。次はガラドール二体だけども、対プラーガ最強兵器を得る日も近い・・・
あ、カーミラさんのモーションが変更されていいですね!…まあさすがにチェーンは使ってなかったけどやっぱりアイアンメイデンがメイン武器なのね…

今回は第二章から参戦したアシュリーとマイク/カークの設定です。アシュリーは簡単で、マイク/カークは割と凄い考えましたが多分納得の行かない方もいるんじゃないかと冷や冷やしてます。よければどうぞ、見て行ってください。


アシュリー

 

クラス:騎兵(ライダー)

真名:アシュリー・グラハム

マスター:藤丸立香

性別:女性

出典:バイオハザード4(レオン・レポート)

地域:アメリカ

属性:秩序・善・人

イメージカラー:オレンジ

特技:ブルドーザーの運転、他力本願

好きなもの:レオン、武器商人

苦手なもの:生卵、生魚、ガナード

天敵:サドラー

 

ステータス:筋力C 耐久E- 敏捷E 魔力E 幸運A 宝具A

 

スキル

・対魔力E:クラススキル。魔術に対する抵抗力だが魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

 

・騎乗C:乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。生前、ロス・イルミナドス教団のアジトにてブルドーザーを運転した実績から。恐らく父親からハワイで習った。

 

・病弱(プラーガ)C:ディーラーと同じスキル。ナイフが掠るだけでも即死する程に耐久力が低下している。しかし宝具のためデメリットにはならない。ただしサドラーの宝具には武器商人と違ってあっさりと操られてしまう。

 

・怪力(必中)E+:プラーガに寄生された影響か、レオンでもナイフや銃を使わないと直ぐに壊せない南京錠を拳の連打だけで開けてしまう怪力。本人は武術などを全く覚えていないため、単純な突き飛ばしぐらいしかできないがそれでもかなりの威力がある。また、両手で持った物を目標まで正確に遠投できる。宝具を使うとランクがDまで上昇する。

 

・人質効果A:気配遮断とは真逆のスキル。ロス・イルミナドス教団やら村人やらから散々攫われた経験から、敵の注意を自分に惹き付け囮役になれる(いわゆるターゲット集中)。相手が素手ならば何故か積極的に攫おうとしてくるが、宝具を使えば逆に押し潰す事が可能。

 

 

宝具

護衛いらずの無敵甲冑(ノーモア・レオン・アーマー)

ランク:A

種別:対人宝具

 サラザール城の探索中、レオンが見付けて来たぴったりサイズのプレートアーマー。使用すると耐久ランクがEXへと跳ね上がり、大体の攻撃を完全に防ぎ切る事が出来る無敵になる。しかし電撃、熱などには弱く死ぬことはないが動けなくなり自動的に解除されてしまう他、エクスカリバーなどの光線なども防ぐことができない。

その真価は、レオンでも即死する攻撃を防ぐ=物理的な物なら例え宝具でも防ぎきってしまうという点。例え轢かれても微動だにせず、カエサルの宝具程度ならばうるさいだけ。ゲイボルクでも防げてしまう。しかし一定以上の衝撃には耐える事が出来ず、例えばロケランやシカゴタイプライターの連射、溜めた斧の振り下ろしなどには吹き飛ばされてしまう(しかし無傷)。

宝具真名解放の魔力こそ微少ではあるが、展開を持続するために魔力を消費し続ける必要がある。イメージ的には「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」のマジックアーマーが一番近い。ダメージを受けるたびにガクッと減ったりしないのが利点だが、常時展開には馬鹿にならない魔力を消費するため、一瞬だけ展開して繰り返すのが効率的。

 

 

概要

厳密には英雄ではなく、いわゆるヒロイン。本来ならばレオン・S・ケネディの付属として召喚される。しかし人理焼却に伴い、ディーラーと同じく英雄をサポートした実績から一時的に英霊へと押し上げられて単独で召喚された。召喚されたのはディーラーが触媒になったからであるが、本人曰く「レオンの声がした」ぐらいレオンが好き。

グラハム大統領の娘で、それ以外はどこにでもいる20歳の少女。明るくも我が儘で勝気なところがあるが、レオンの指示でゴミ箱に隠れることも辞さない柔軟性や度胸を持ち、率先してマスターの助けになるよう行動するがどこか空回り気味。レオンよりも優れる観察眼を持ち突破口を思いつくなど頭はいいのだが、戦法は割と脳筋気味。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マイク

 

クラス:騎兵(ライダー)

真名:マイク、カーク・マシソン他

マスター:藤丸立香

性別:男性

出典:バイオハザード4(レオン・レポート)他

地域:アメリカ

属性:秩序・善・人

特技:ヘリ操縦

天敵:ネメシス他、ロケットランチャー、小型飛行クリーチャーなど

 

ステータス:筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具A

 

スキル

・騎乗(ヘリ)EX:乗り物、ではなくヘリコプターを乗りこなす能力。ヘリの騎乗に対しては凄まじい程の腕前を見せる。余ほどの事が無い限り撃ち落とされる事は無い。

 

・援護射撃EX:正確無比に的確な援護射撃を行なえる現代に置いて優秀な騎乗スキル。特にマイクの援護射撃は神業的であり、敵が有象無象の類ならば蹂躙ができる。カークの場合は他の人間を乗せての迎撃がメインであり、あまり得意ではない。

また、単独行動の派生型でありマスターの援護をするためにパスを切り離してある程度行動できる。

 

・気配遮断(ヘリ)A:マイクの状態の時に有するスキル。夜限定ではあるが攻撃する寸前まで敵の至近距離に接近しても気付かれないように操縦することが可能。操縦するUH‐ヘリの装備はバルカン砲やミサイル。決め台詞は「やったぜ!」

 

・ハットトリックA:カークの状態の時に有するスキル。生前、巨大なB.O.W.と対決した経験から、攻撃を回避する操縦がずば抜けている。また、あまり活用できないが支援物資を届けるのも得意。操縦するヘリの装備は固定銃座-M134とFIM-92スティンガー。巨大な敵には強いが、小回りの利く小さな敵には滅法弱い。

 

墜落の宿業(カプコンヘリ)EX:これは生前の最期に影響され、操縦するヘリコプターにかけられた呪いの様な物。フラグの様な物を立てたら必ず撃沈してしまうクリシェ。成立してしまったら決して逃れられない。

 

 

宝具

我らが散った空を仰ぐ勝利を(ラスト・バトンタッチ・クリシェ)

ランク:A

種別:対窮地宝具

 真名解放の必要が無い、主人格を切り替えるだけの宝具。また、仲間が窮地に陥った際、死力を尽くして命尽きるまで戦闘する、もしくは特攻して自爆する。それだけのシンプルな宝具。

その本質は「固定された援護概念」であり、仲間が「次」へ進むためだけに尽力できるという点。次さえあれば、必ずそこに繋げる事が出来るという概念操作である。そこに自身が生き残るという思いは既にない。繋げる事こそが彼らの存在意義だったのだから。

ディーラーがウェスカーから逃れる事が出来たのもこれのおかげだったりする。

 

 

概要

過去に発生したバイオハザードに置いて、孤立した英雄達の救援に駆け付け死んでいったヘリパイロットたちの無念の思いが集合し、人理焼却に影響して召喚に応じた名実ともに最弱の英霊。どちらかというと怨霊の類。

主人格として、最も貢献したマイクとカークがメインの人格になっており、主に援護と迎撃の役割で交代する。どちら共に、英雄と共に激戦を潜り抜けた腕前。マイクは集団に対して強く、カークは巨大な敵に対して強いという様に相性が存在する。マイクとカークの他にはダグ、ブラッド・ウィッカーズなども含まれ、こちらは救援が得意なため滅多に顔を出さない。

 

マイクはアシュリーを救出するため孤島に乗り込んだレオン・S・ケネディの応援としてアメリカ合衆国から派遣されたヘリコプターのパイロット。

2004年、完全武装されて紛争地帯とも言える孤島の中心に乗り込むレオンの行く手を阻む砦等を破壊すると言ったサポートをしながら武装したガナード達を全滅させるという活躍を見せ、レオンと「一緒に飲もう」と約束を取り付けたのだがその一瞬の油断が命取りとなり、サドラーの指示で放たれたロケットランチャーによって撃墜され殉職した。サドラーの言う「蠅」とは彼の事。なお、レオンはマイクの死に怒り、サドラーとロス・イルミナドス教団を潰す事を決意しそれを成し遂げた。ディーラーと同じく、レオンという英雄を語るに置いて絶対に外せない人物である。なお、アシュリーや武器商人との面識はないが、アシュリーだけは護衛対象として顔だけは知っていた。

 

カーク・マシソン、コードネーム「ハットトリック」は対バイオテロ特殊部隊B.S.A.A.西部アフリカ支部のヘリコプターパイロット。

ロス・イルミナドス案件と連なって起きていた2005年の「ヴェルトロ案件」にて、バイオハザードが起きた豪華客船クイーン・ゼノビアから脱出を目指すクリス・レッドフィールドとジル・バレンタインの元へ仲間と共に駆け付け、その直後にクジラが変異した巨大寄生虫型B.O.W.マラコーダとの戦いで二人を乗せてその触手による攻撃などを掻い潜り、援護を行ない生還して見せた。ロムルスの宝具を対処して見せたのはその経験から。

しかし、2009年にアフリカで起きたバイオハザードの際に作戦を遂行するクリスとその相棒シェバ・アローマ等地上部隊の上空から本部への中継やバックアップを担当し、最期は小型飛行B.O.W.キペペオの群れにヘリコプターごと襲撃され墜落死した。しかし彼が居なければクリスとジルは助からなかったため、英雄の一人と言えよう。

 

英霊としては最弱ではあるが、その操縦技術は決して歴戦の英雄にも劣らぬものであり、カルデアに召喚されてなおも人理を、彼等が犠牲となって作る筈だったバイオハザードに侵されない平和な世界を取り戻すために尽力する。

なお、マスターは死ぬことを前提とする彼の戦い方に怒りを隠せておらず、令呪で撤退も辞さないほど。しかし通常の聖杯戦争ではない以上、この戦い方しかできない英霊が召喚されるのも必然であり、彼等はバイオハザードに脅かされない平和な世界を願い今日も戦う。

 

 

 

 

 

 

 

バイオハザードが起きたこの世界の人理焼却では、その影響を受けて他にも何人も英霊化している人間がおり、その半分は怨霊に近い。




なお、マイク/カークの宝具名ルビは無い頭を捻っても全然思いつかず、サドラーの「クリシェ」から苦し紛れに付けた物です。何かいいのがあったらぜひご助力をお願いします。

コンセプトは「ディーラーとは対になる無敵のサーヴァント」と「ディーラーよりも死ぬことが大前提なサーヴァント」でした。同じ4が主体なのにこうも違うかね。物理系無敵と概念系無敵ですね。
マイク/カークはどちらかというとジャック・ザ・リッパーが近いです。言うなればカプコンヘリに殺された者達の怨念。無名ですが3でネメシスに撃ち落とされた奴とか、2で流れ弾喰らって落ちた奴とか、4でマイクが来るより以前に撃ち落とされたらしい奴とかも混ざってます。最後のスキルは文字通りの物。

次回はローマのエピローグと、オケアノスプロローグに入れればと思います。早くロンドン書きたい。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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第三特異点:封鎖終局覚醒四海オケアノス・アビス
報酬はきっちり頂くぜストレンジャー


ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、professionalの一番の難点だと思われる城地下~トロッコを抜けて一息吐けたので、FGOのハロウィンイベントでメカエリチャンをGETしながらいざ書き上げて投稿しようと覗いたらUA60000突破、お気に入り数700突破と色々あってテンションが上がっている放仮ごです。本当にありがとうございます。

今回はローマ帰還~オケアノス突入までの一悶着。新たな仲間が召喚されます。楽しんでいただけたら幸いです。


ローマからカルデアに帰還して早々、アシュリーやマイクと再会して特異点修正の喜びを分かち合い笑みを浮かべる立香。申し訳ないと思っているのか若干不安げであった。

 

 

「ごめんねアシュリー!マイク!私が力不足なばかりに…」

 

「気にしないでマスター。身の程を弁えずに防ごうとした私の失態だし?」

 

「俺はディーラーを帰還させるのが役目みたいなものだ、力不足なのは俺達も同じだし気にする事は無いな」

 

 

その言葉を聞いて涙をこらえきれなくなった立香をなだめる二人。マシュはその光景を眺め、色々あったが終わり良ければすべてよしという事でご満悦である。オルガマリーは帰還してすぐさま清姫に抱き着かれて参っているが。

 

 

「…はあ。じゃあ藤丸、今回は私が召喚して来るわね。絶対に今回だけは引かないでよ?」

 

「アーサー王を二人も当てたのにまだ居るんですか!?」

 

「まだまだ足りないぐらいよ。貴方も見たでしょ。魔術が干渉していないって言うのに、現代のウイルス兵器に感染したサーヴァント達の力を。正直、アーサー王が二人いてもまだ足りないわ。戦力が大いに越したことはない。アシュリーとマイクも強力な英霊だけど、やっぱり正面からぶつかれる戦力が他にも必要だわ」

 

「私だけでは満足できないのですか旦那様!」

 

「話聞いて清姫、お願いだから。私の召喚に初めて応じてくれた貴方には感謝してるから」

 

 

清姫を撫でながら溜め息を吐くオルガマリー。清姫のおかげでレフとの因縁に決着を付けれたし、何より戦乱の中でのローマでも生き残る事が出来た。感謝はすれど、それより面倒くさい性格の方が上回って難儀するのだ。オルガマリーの二人目のサーヴァントであるアルトリアも苦笑いである。

 

 

「何で私が召喚したら駄目なんですか?」

 

「高確率で失敗するからよ。英霊に嫌われているのかってレベルで来ないし。するにしても一回だけにしなさい。石だって有限よ」

 

「はい…」

 

「先輩・・・分かりやすく拗ねてます。所長!事実だからと言ってそこまでビシッと言わなくてもいいじゃないですか!」

 

「止めてマシュ、その言葉は私に響く」

 

 

僅かに吐血し体育座りして隅で落ち込む立香と、慌ててフォローに回って狼狽えるマシュ。セイバーオルタとアシュリーは関係ないとばかりに食堂に向かい、マイクはディーラーに自身の宝具について説明していた。

 

 

「なるほど。カルデアでの英霊でもない限りその宝具は本領発揮できないのか。何にしても助かった、礼を言うぜストレンジャー。…ああそうだ所長」

 

「何、ディーラー?」

 

 

ディーラーに呼び止められ、差し出された手に首をかしげるオルガマリー。その反応にプルプルと震えるディーラー。

 

 

「…石だ」

 

「石がどうかした?ダ・ヴィンチちゃんから買うけど」

 

「違う。緊急事態とはいえ俺がローマで渡したあの石は貴重な品だ。報酬はきっちり寄越せ」

 

「ええー…」

 

 

思わず呆れるが、ディーラーの目はマジであった。ミニゲーム的な感覚で村中に青コインを配置し、それを10個以上壊した者に無償でハンドガンパニッシャーをあげるというキャンペーンをしたことはあったがそれはそれ。彼の本質は商人だ。アピールするために戦うのはともかく、無償で物をあげるというのは彼の生き様に反するのである。

 

 

「…ダ・ヴィンチちゃんから買った石の三個でいいかしら?」

 

「価値はかなり下がるから倍にして頼むぜストレンジャー」

 

「うっ…痛いところを・・・」

 

 

偶然か否か、縁召喚でアーサー王を召喚し窮地を切り抜けたのは事実であるため言い返す事も出来ずに買ったばかりの石を渡すオルガマリー。10連鎖召喚するつもりだったので30個購入したのだが今ので8回分になってしまうが、もったいないのでそのまま召喚する事にした。

 

 

 

 

「む、無念…」

 

「マスター・・・申し訳ありませんが浮気防止のためにイケイケ?のサーヴァントはこの清姫がシャットアウトしましたわ!」

 

「アンタの仕業か!?」

 

「それでも掠りもしませんでしたね」

 

「ううっ・・・まさか礼装祭だなんて・・・」

 

 

結果、敗北。しかも清姫のせいで一度来たらしい英霊がシャットアウトされたとか。アルトリアに慰められ、涙するオルガマリー。せっかくロマンとダ・ヴィンチちゃん他スタッフの頑張りで連れて行けるサーヴァントが五名から六名に増えたというのだから、戦力増強をしたかったのである。

 

 

「ところでマスター、まだ七回ですよ。最後の一回が残っています。清姫ならば私が押さえて何もできないようにするのでどうぞ頑張ってください」

 

「恩に着るわアルトリア・・・!」

 

 

ボソッと耳打ちして来たアルトリアに感極まり、もはや勢いのままに石三つを召喚フィールドに叩き付けるオルガマリー。アルトリアに羽交い絞めにされた清姫を尻目に、念願の三本の環が出現したことに感極まり期待する。そして。現れたのは、つい数時間前に別れたばかりの赤いドレス姿。

 

 

「サーヴァント・セイバー。ネロ・クラウディウス、呼び声に応じ推参した!うむ、よくぞ余を選んだぞオルガマリー!ローマを救った恩に報い、余自らが力を貸すぞ!」

 

「あら、ネロさんでしたか。ドラ娘やタマモキャットさんじゃないなら大歓迎ですわ」

 

「…青より赤の時代か…!?」

 

 

赤いアルトリア顔、ネロがカルデアに召喚された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じっくり見ると本当にいい剣だな。これを個人で作ったって言うなら相当だ」

 

「そうだろうそうだろう!やはり商人よ、お前は余の芸術が理解できるよい人間だ!」

 

「そう褒めるな。俺はただの武器を扱う商人だ。しっかしあのハンターの首をスッパリ斬るか…皇帝より鍛冶屋の方が向いているぞ皇帝サマ」

 

「まあ何というか、仲よくなって何よりだわ」

 

「所長の悪運が羨ましい・・・」

 

「先輩!しっかりしてください!」

 

 

清姫の入れたお茶で一息ついたオルガマリーの視線の先では、楽しげに語り合うディーラーとネロと、その傍らで横になって死んでいる立香と、彼女を必死に介抱して居るマシュの姿。まあ言うまでもなく、ローマでの約束を果たしているサーヴァント達と、自分と違って何も召喚できなかった人類最後のマスターである。

 

動機が「ディーラーの助けになる様に」とはいえ、狂ったように金をつぎ込んだ石で召喚されて応じる英霊がいるとも思えない、とはディーラーの談。まさにその通りだなと思いながら、立香の召喚した麻婆豆腐を口にする。

 

 

「あら、美味しいわねこれ」

 

「マスター正気ですか!?それ愉悦味ですよ…?」

 

「ちょっと燃え尽きた感はあるわね。レフとの因縁に決着ついてしまったし」

 

「ではわたくしとの愛の炎で燃え上がらせましょう!」

 

「却下よ」

 

「か、辛い・・・ご無体なぁ…」

 

 

抱き着こうとしたのか後ろから飛び掛かって来た清姫を、お茶の入ったコップを掴んでひらりと躱し、麻婆に顔から突っ込んだ清姫はそのままガクリと力尽きる。それに哀れそうな視線で見やり、自身も手にしていた焼き魚を頬張りご満悦になるアルトリア。オルガマリーとそのサーヴァントは、今日も平和であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後。第三特異点を発見したロマンに召集され、マスター二人とカルデアのサーヴァント全員が管制室に集まりブリーフィングを行なっていた。

 

 

「さて、レフ・ライノール・・・というよりアルバート・ウェスカーと変異サーヴァント、通称Gカリギュラを倒し、第二の聖杯を得たというのは聞こえはいいけど、疑問は増える一方だ。そうですよね、所長?」

 

「ええ。あの肉の柱は何なのか。七十二柱の魔神を名乗るアレは、本当に彼の古代王の使い魔なのか。その辺りを解析するための時間も設備も足りないのがネックね」

 

「古代王とは?」

 

「七十二で魔神と言えば俺でも知っているぜストレンジャー。アレだ、古代イスラエルの王様、魔術王と呼ばれた男。ソロモン・・・だったか?」

 

 

立香の疑問にうろ覚えだが答えるディーラー。オルガマリーが頷きながら補足する。

 

 

「ええ、その通り。魔術世界最大にして最高の召喚術士。恐らく召喚術に置いて彼に勝る魔術師は存在しないわ。そこのところどうかしらコルキスの王女?」

 

「彼の王を相手にされたらそりゃあね。私だってとある聖杯戦争でも不完全な召喚でサーヴァントを召喚するのが関の山だし、召喚術に置いては頂点に位置すると言ってもいいわ。使役する使い魔の性能も、まあ貴方達が戦ったアレと同等かそれ以上と見た方がいい」

 

「でも、現代の魔術世界に置いて七十二柱の魔神というのは空想上の物とされている。ただ七十二の用途に分かれた使い魔にすぎない、というのが最新の見解よ」

 

「ああ。きっちりと役割が決まっていた事から天使の語源ではないかとも言われているな。でも実際に名乗った以上無関係でも無いんじゃないか?人理焼却の首謀者は例の王様を召喚した、もしくは本人かそれに準ずるものと見た方がいい」

 

 

ダ・ヴィンチちゃんも補足を入れる。話に付いて行けているのはメディアとディーラーぐらいであり、立香はチンプンカンプンな様子であった。

 

 

「天使か…あんなグロテスクな天使は勘弁だぜ。ありゃ悪魔の方が正しい」

 

「まったくね。でも悪魔の概念はソロモン王よりもっと後に誕生した物。名前を騙っているだけ、という可能性の方が高いわ。それでも、それほどの相手が敵だと考えた方がいい。…特異点の首謀者だったレフやジャンヌ・オルタよりも召喚したサーヴァントの方が厄介極まるのが問題だけどね。しかもそれは2000年代の英霊なんておかしい物だし」

 

「サドラーは想像が付いた。俺のプラーガが触媒になる可能性が大だったからな。だがウェスカーの召喚は本当に予想外だった。…ウイルステロに脅かされている世界が焼却されたことで、あらゆる特異点にウイルスの影響が出ているとも考えた方がよさそうだ」

 

「Gウイルス・・・だっけ?アレ程デタラメじゃないならもう何だっていいわ。ウェスカーの召喚した輩には十分対抗できるし」

 

「とりあえず今は当面の問題である三つ目の聖杯入手の話をしよう。唐突だが二人共、ローマの形ある島に向かう時に・・・そこの皇帝さんの運転で船酔いはしたかい?」

 

「思いっきりしたわ」

 

「私は平気です」

 

 

本当に唐突な質問に首をかしげる面々と、察したのかオルガマリーに哀れな視線を向けるディーラー。船酔い、そのキーワードから察するに・・・

 

 

「なら立香ちゃんは安心だ。所長には中枢神経にも効く酔い止めを用意しよう」

 

「フォーウ!」

 

「あら、フォウはまた来るのね。マシュの精神も安定するからよろしくね・・・って待ちなさい。何でそんな必要がある訳?まさか…」

 

 

謎生物フォウがマシュの足をツンツン叩くのを見て一瞬現実逃避するもののすぐに我に返り、顔を青くするオルガマリーに、ロマンは苦笑いを浮かべた。

 

 

「そう。…正直、アーサー王を二人も召喚できたのは僥倖だと言っていい。という訳で今回は1573年。場所は見渡す限りの大海原だ!」

 

「海・・・ですか?」

 

「なるほど。湖の精霊の加護で水面に立ちその上を歩くことが出来る我々なら船を使わずとも有利に立ち回れますね」

 

「ふむ。海か…おい皇帝、ちょっと付き合え」

 

「ん?どうしたというのだ黒い騎士王よ」

 

 

セイバーオルタがネロを引き連れてどこかへ去って行くのを尻目に、ロマンは話を続ける。

 

 

「特異点を中心に地形が変化しているらしく、見事に一面が海だ。ぽつぽつと点在している島だけしかないため「ここ」という地域が決まっている訳が無さそうだ。至急、原因を解明して欲しい」

 

「行ったら海の上なんて事は無いでしょうね…?」

 

「その点については問題ない。レイシフト転送の際の条件を設定しておくし、アーサー王二人を先行して送れば、最悪その二人にマスター二人を受け止めてもらえばいい」

 

「最悪って事を考えている時点でフラグよね!?」

 

「でもそれじゃマシュとかディーラー達が…」

 

「そこで私ダ・ヴィンチちゃんが発明したゴム製の浮き輪がある。これをディーラーに預けて置くから、これで窮地を凌ぐといい」

 

「ヒッヒッヒッヒェ。任されたぜストレンジャー」

 

 

ダ・ヴィンチちゃんから浮き輪を数個受け取り、それをリュックに括り付けるという若干シュールな画を作るディーラーを尻目に、オルガマリーは思考の海に入る。

 

 

「今回の編成は・・・そうね、清姫とアシュリーを抜いて、ディーラー、セイバーオルタ、アルトリア、マイク、そしてネロとメディアにしましょう」

 

「あら、私も?」

 

「何故私が抜かれるのですか!?」

 

「清姫は、川を泳いだことはあっても海は初めてでしょ?それに炎の攻撃は正直、木製の船が多い時代では致命的よ。味方の船まで燃やしてしまう可能性を考慮したら、まだ操舵技術()があるネロの方がいいわ。それに、カルデアに残るのも大事なのよ?スタッフ皆に元気が出る食事を作ってくれたら私は嬉しいわ」

 

「…っ、はい!不詳清姫、旦那様のために全力で奮闘しますわ!」

 

「じゃあ私は?」

 

「アシュリーは正直、鎧で海だとあまりに不利。メディアを選んだのは、アルゴノーツの経験があるからだと思ったんだけど…駄目だった?」

 

「いいえ。忌々しい記憶ですが、役立つなら構わないわ。せいぜい尽力しますので、よろしくお願いね可愛いマスター?」

 

「うん!よろしくメディアさん!」

 

「え、ええ…照れもしないとかやるわね…」

 

 

そうこうしているうちにセイバーオルタとネロが戻ってきて、レイシフトが始まる。そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…船に落ちたのはよかったけど」

 

「これは・・・いきなりというかなんというか・・・」

 

「…何で豪華客船?」

 

「クイーン・ディード号だとよ。マイク、いやカーク。聞き覚えは?」

 

「…間違いない、ヴェルトロ事件の最後の舞台だ」

 

 

海のど真ん中に浮いていた、明らかに沈没していたと分かる藤壺やらに覆われた現代の豪華客船、クイーン・ディードにカルデア一行は降り立った。




アルトリア・オルタ、ネロ、アルトリア、清姫、海・・・あとは分かるな?まあ後者二人は持ってないんですけどね。

ちゃんと報酬は支払ってもらうディーラーは商人の鑑。さすがに石は貴重です。

立香が沢山引き当てた麻婆が好物になりかけているオルガマリー。レフとの決着をつけたため、割と呑気に現世を楽しんでます。

オルガマリーがネロ召喚。これはオケアノスを書くにあたって決めていました。海でバイオと言ったら巨大クリーチャーなので、割と必須です。

そしてオケアノス突入と同時に訪れたバイオハザードリベレーションズ最後の舞台、クイーン・ディード。これが意味する事とは…?
次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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メーデーメーデー、ストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、活報でも言いましたがダークサイドクロニクルズを初めてG生物に凄まじい苦戦に強いられた放仮ごです。ガンシューティングは苦手なんや…

今回は題名通りリベレーションズのトラウマクリーチャーが登場、ちょうどいいので初めて特殊ルビを使用します。今章メインとなるサーヴァントも登場。楽しんでいただけたら幸いです。


その上空にレイシフトされ、クイーン・ディードという名の豪華客船だった物の藤壺に覆われた船首に降り立ったカルデア一行。この時代には似つかわしくない客船に特異点に到着して早々身構え警戒するも、敵影は見えない。

 

 

「…見るからに沈没船だけど…誰かの宝具…?」

 

「可能性があるとしたらウイルステログループ「ヴェルトロ」のリーダー、ジャック・ノーマンだな。クイーン・ディード号は奴の最期の場所だ、十分に在り得る」

 

「…でも動いてないみたいだし、ここに立ち往生になるのもアレね。聖杯があるかもしれないから探索はするとしてカーク、ヘリでひとっ飛びして陸地を捜してきてくれない?」

 

「メディアさん、マイク・・・じゃなくてカークだけじゃ心配だから一緒にいって魔術的な物で守ってあげて」

 

「しょうがないわね。撃墜されても困るし透明にでもしてあげるわ」

 

「了解だ所長。すぐ戻って来るから無事に待っていろよマスター」

 

 

オルガマリーの指示に応え、飛び立つカークを見送ったカルデア一行は各々の武器を構え、船内に侵入しようと試みる。

 

 

「ここからサイドデッキに出れるみたいだな。とりあえず俺が一人で外周を回って来るぜ、ストレンジャー達は正面から頼む」

 

「死んで戻ってきたら怒るからね」

 

「お手柔らかに頼む。…ここは嫌な気配がするからな」

 

 

ディーラーは端の扉がサイドデッキに出る事を確認して一人先行して行き、立香達も正面の入り口から入ろうと警戒しながら近付く。すると・・・

 

 

「ううっ、ううっ・・・アルテミスゥ…すまねえ、すまねえ・・・」

 

「今のは?」

 

 

扉近くの割れた窓を確認し、拳銃を構えながらその真下を見やる立香。そこには、何故か白銀のロープ(?)に縛られたクマのゆるキャラのぬいぐるみの様な物が泣き崩れていた。

え、何これ・・・?と一瞬真顔になる立香。その様子に何事かと確認したマシュもそれを見付けて思わず盾の中からフォウを取り出して持ち上げた。

 

 

「ふぉ、フォウさんのお仲間・・・?」

 

「フォウ!フォーウ!」

 

「こんなのと一緒にするなと言っておるぞ」

 

「分かるのか?」

 

「うむ。皇帝特権で動物会話のスキルを会得したのだ。便利だぞ?」

 

「ちょっと外野は黙っていてください。…マスター?」

 

「ええ、お願いアルトリア」

 

 

外野を無視し、警戒しながらオルガマリーに指示を仰ぎ、熊もどきを摘み上げるアルトリア。するとやっと立香達に気付いたのか、クマが声を上げる。

 

 

「あ、アンタ等、サーヴァントか!?頼む!ここは危ないから逃げてくれっていつもなら言いたいところだが…俺の女が中にいるんだ!こんななりじゃ扉も開けれなくて無力に打ちひしがれていたんだ、頼む!」

 

「え、えっと…貴方は?」

 

「…俺はオリオン。アーチャーのサーヴァントだ」

 

「は!?オリオン!?」

 

「それにサーヴァントですか!?た、確かに薄いですが反応があります…これは一体…?」

 

「俺の事はいいから!まずこの髪をほどいてくれ!」

 

「あ、うん」

 

 

その正体に驚く一行であったが剣幕に押され、誰かの髪らしい拘束をほどくとオリオンはピョンッと跳躍して扉のノブに飛びついて体を揺らし、扉を開ける。どうやら縛られていたため掴まる事も出来なかったらしい。

 

 

「よし!今行くからなアルテミスーッ!」

 

「所長、アルテミスって?」

 

「…何というか、オリオンという男の・・・まあアレね、オリオンに一目ぼれした女神さまよ。…形ある島のステンノみたいなだと思うわ」

 

「ああ・・・色物ですか…」

 

「偏見は駄目ですよ先輩」

 

「いや、色物であってる。…俺を真剣に愛してくれた奴だったが」

 

「あ、エレベーター。どうします所長?」

 

「とりあえずこれを使って先に進むわよ」

 

 

そんな事をぼやきながら、肩に乗せたオリオンの指示で歩いて行くネロの後ろに控えるセイバーオルタの傍を立香とオルガマリーも続き、マシュとアルトリアが殿を務めながら奥へ進み、そこにあったエレベーターを待つ。

そして改めて辺りを見渡し、明らかに異常な事が分かった。不自然なほどに、綺麗なのだ。

 

 

「…所長。外はあんなに藤壺に覆われていたのに…これって」

 

「…確かに、何で浸水した痕跡が欠片も無いのかしら…これってまさかと思うけど、サーヴァントの宝具・・・?」

 

「ええ!?でも、上空にレイシフトした時に見た時は全長335.8m程でした!そんな大規模な物ってもはや固有結界と呼んでも差し支えない物です!」

 

「目測でそこまで分かるマシュも凄いけど、その通りよ。…固有結界と呼んでも差し支えないけど決して世界を侵食してはいない。外は青空だったしね。ただ、巨大な客船が宝具として浮かんでいると見ていいわ。どんな宝具なのかによるけど…」

 

「余の宝具である黄金劇場の様なものか?中にいる敵をある程度抑制できる代物だが」

 

「いえ、我々のステータスに変化は見えません。先程一応確認のために閉めた後に扉を開けてみましたが別段問題なく開ける事もできました。閉じ込める類の物でもないかと」

 

「ああ、俺とアルテミスも、呑気にそう思ってこの中に入ったんだ…アルテミスがハネムーンね!って元気よくな。準備されたままのレストランのディナーも美味しかったし、充実していたんだ…でも、アイツが…」

 

 

立香達の考察に応える様にオリオンが呟き、オルガマリーは明らかな疑問に行きついた。オリオンと言えばギリシャ神話でも屈指の大英雄だ。例えアルテミスと一緒に召喚されてこの様な姿としても、仮にも狩猟の女神だ。実力はあるはず。それが、オリオンを逃がす程に追い詰められた・・・それは何故だ?

 

 

「…オリオン。詳しく教えなさい。何があって、どうしてあそこにいたの?」

 

「…俺達はこの特異点に召喚された野良サーヴァントで、ワイバーンを狩り尽くしたアイツが暇だ暇だって言うんで目ぼしい物が無いか飛んで探し回ってここを見付けたんだ。見付けた当初はアイツも新婚旅行みたいだねってはしゃいでいたんだが俺は嫌な予感…戦士の直感みたいなものを感じて、それを伝えてもアイツは大丈夫だって先に進んで・・・年甲斐もなく楽しんだところに奴が現れた」

 

「…奴って?」

 

「…割れた顔面に巨大な一つ目を付けた、海洋生物の様に妙に白い巨体の大男だ。同じサーヴァントだと分かったんだがいきなり襲いかかって来て、やむ得ず交戦したんだがこっちの矢が効かないどころか叩き落として迫り来るそいつに逃げた所が悪かった。袋小路で大量の白いふやけた異形の奴等が集まっていて、そいつらに足止めされた所にアイツの巨大な爪で一撃」

 

 

チン、とエレベーターが到着し、乗り込む面々。ボタンを押したのは、オリオンが最後に居たというプロムナードと呼ばれるエリアがあるこのエレベーターで行ける最下層。静かに降りて行くエレベーターの中で、話は続く。

ネロの肩の上で無力故かギリギリと唇を噛むオリオン。無力故の辛さ、それに立香は自分の事の様に息を呑む。オルガマリーは冷静に、状況を見極めていた。

 

 

「…それで、アルテミスの右腕が斬り飛ばされて、何時の間にか増えていたサメの様な戦士っぽい奴と、鋸の様な大口を開けた巨漢と一緒に襲い掛かって来たアイツに追撃されて、追い詰められたアルテミスを助けようと飛び掛かろうとしたらアルテミスに掴まれて・・・」

 

「…縛られて、逃がされたと」

 

「ああ、弓でポーンとな。サーヴァントの渾身の力だったからか壁も天井も突き破って窓ガラスに激突して外に出て、半ば気絶して・・・アレから何時間経ったか分からないがアイツが生きているのは俺には分かる。だから、急いでアイツを・・・」

 

「…ちょうど着いたようです。私が先行します、皆さん付いて来て下さい」

 

 

オリオンの話が終わる寸前と言う所でプロムナードに到着し、アルトリアが先行して奥の扉を進む。するとオルガマリーに念話で「武装を!」と伝えられると共に何か、水浸しの物を斬る様な音が響き一同も飛び込む。

 

そこには、白くふやけた人型の異形がプロムナード・・・即ちレストランやバーなどが並んでいるそこに大量にうろついている光景と、近付いてくるそれを片っ端から首を斬り飛ばしているアルトリアの姿があった。

 

 

「…バイオハザードです、所長」

 

「藤丸?」

 

「…私、この光景を知っています。もうここは、死しか待ってない。私は、逃げるしかなかった」

 

 

マチルダを構え、率先して迎撃して行く立香に、恐怖を推し堪えている様子を見たオルガマリーもブラックテイルを手に続く。ピストルクロスボウは生憎と荷物になるのでディーラーに預けたままだ。幸運な事に弾倉は「無料サンプルだ」という(てい)でもらっておいたので問題ない。

 

 

「…とにかく確定したわ。この船は、ウェスカーの宝具と同じようにB.O.W.を召喚する宝具の様な物だと見て間違いない。応戦して、宝具の主を見付けないと…」

 

「こいつ等だ!アルテミスを囲ってきた奴等・・・鮫みたいな奴と大口を開けた奴には気を付けろ!アルテミスは、確かこの先に!」

 

「マスター!余はこのクマと一緒に先に進むぞ!騎士王よ、マスターは任せたぞ!」

 

「騎士として、窮地に立たされた女性を見捨てる事は出来ません。急いでください!」

 

 

そう言って炎を纏った剣で周りのそれを斬り飛ばしたネロはオリオンの指示で奥の扉から先に進んでいく。

そして、斬り飛ばしても斬り飛ばしても、柔らかな肉体を利用して隙間やらダクトやらから溢れ出てくる異形のそれ・・・『ウーズ』の集団を、マシュと二人のアルトリアが次々と吹き飛ばしていくのだが、シールドの打撃や単なる吹き飛ばしは通じずさらには普通に斬るだけでは再生してしまい、有効打となるのは首を斬り飛ばすのとヘッドショットのみ。ネロの炎を纏った斬撃が一番有効だが彼女は既に先に進んでおり、彼女達は寄せ付けないだけで精一杯であった。

 

 

「限がありません!先輩、下がってください!」

 

「駄目、ネロが帰って来るまではここで耐える!」

 

「大量に水分を摂取してふやけたみたいな状態ね…触っただけで気持ち悪いわ。炎や・・・多分電気にも弱そうだし、ディーラーがいれば電撃グレネードで一掃できるんでしょうけど…アレ、品切れだったかしら」

 

「確か死ぬ度に武装がリセットされると言っていたので多分大丈夫でしょう!それより組みつかれるのには気を付けてください!口から何やら触手の様な物を出して吸い付いてきます!」

 

 

首を斬り飛ばす、頭部を撃ち抜く、吹き飛ばす。しかし何やら三角錐の様に巨大化した右腕から骨の矢を飛ばしてくるアンバランスなウーズや、巨大な鉤爪に変異した両腕を振り回すウーズと言った特殊な増援も現れ、マシュも埒が明かなくなり腰に下げて置いたマシンピストルを乱射するが減る気配は一向に無い。戦況を確認したオルガマリーは意を決する事にした。

 

 

「…こうなれば正面突破で抜けるしかないわ。ネロの念話だとこの先の上に上がったところの袋小路にいたはずのアルテミスを見付けられなかったみたいだし、そのまま合流して広い所に出ましょう」

 

「…ふん、あの皇帝含めてここに居る者はどうせ分かっているだろう。奴の言う、アルテミスとやらは既に無事ではないと。ここからは早々に脱出すべきだ」

 

「「「「……」」」」

 

 

終始無言だったセイバーオルタの発言に固まる一同。アルトリア以外は、プラーガに寄生された経験があるため本能的に察していた。アレ(ウイルス等)は、助かる手段が無い場合、どう足掻いても諦めるしかないという事を。アレだって、もしもディーラーがダ・ヴィンチちゃんにプラーガを取り除く放射線を放つ機械を作ってもらってないとアウトだったのだ。大量の異形、恐らくはウイルスの感染者に囲まれた彼女が、無事であるはずがない。生きているという事はつまり・・・そう言う事だというのは分かっていた。だが、それでも。

 

 

「…オリオンの意を汲み取るわ。せめて、彼女の最期だけは見せないと納得できないでしょうし、まだ無事で逃げ回っている可能性だってある。…混乱して、ありえない可能性に縋ってしまうのは良く分かるから、彼だけは見捨てたくない」

 

「…私も、見捨てたくない。それはもう、ゾンビにならなくても人間として終わっているから」

 

「はい、私は同意見です。二人の意思を尊重します!」

 

「元より。黒い私はどうします?」

 

「ふん。元より、マスターが屈するまで手を貸す契約だ。地獄まで付き合うさ。…突貫だな、私に任せろ。

―――卑王鉄槌(ヴォーティガーン)!」

 

 

剣に闇のエネルギーを纏い、振り上げて前方のウーズを一掃したセイバーオルタに続き、ネロのくぐった扉から先に進む一行は、そこで妙な声を聴いた。

 

 

メーデー・・・メーデー・・・

 

 

「…今のは?」

 

「助けを求める声…ですかね?」

 

「生存者!?所長、助けに行きましょう!」

 

「あ、気を付けてください先輩!」

 

「え、ええ……」

 

 

生存者と思われる存在の声に顔を輝かせた立香が全速力で階段を駆け上り、その先の閉じられたシャッターをマシュと共に持ち上げ、先に進む彼女にセイバーオルタも続き、何で救難信号を?と疑問に思いながら殿のアルトリアと共に追いかけてくるウーズを撃退しながら着いて行くオルガマリー。

 

 

メーデー・・・メーデ~‥‥

 

「ここ…かな?マシュ、開けてあげて」

 

「はい、先輩」

 

 

その奥の部屋に続く扉をくぐり、倉庫だと思われる扉が鎖で塞がれているのを発見すると声も大きくなり、声の主が奥に居る事を確信した立香の指示でマシュが盾で鎖を破壊して行く。そこで、オルガマリーは気付いた。最悪の可能性に。

 

 

「待って、駄目…!?」

 

 

ウーズだらけのここで、声を上げれる者…即ち、この船の主であるサーヴァントもしくは、変異しているサーヴァントだという可能性。そうじゃなくても閉じ込める様な鎖、何かあるに決まっている。

 

 

「え?……っ!」

 

 

メーデ~・・・メーデー・・・メーデ~~~~!

 

 

しかし時既に遅し、鎖が解かれた扉は凄い勢いで開き、不気味なほどに白い巨漢が姿を現す。飛び退いた立香のいた場所にベアトラップの様な物を吐き出し、咆哮を上げるのは巨大な口。メーデーと小さな声を上げていたのはその左肩に存在する人間だったと思われる小さなものであり、苦悶の表情を浮かべている。

 

 

「…そう言えばオリオンが大口を開けた奴に注意しろって…」

 

「…こんなのが他にもいるのね。G以外なら何でもいいと思ったけど前言撤回、全部お断りだわ」

 

 

ウーズのイレギュラーの様な物である怪物『スキャグデッド』は右腕に集束した骨をチェーンソーの様に回転させてマシュの盾とぶつかり、軽く吹き飛ばしてしまうとそのまま飛び出したアルトリアの一撃を右腕で受け止め、体当たりで無理矢理倉庫の外に出てきてがむしゃらに右腕を振るってくる。立香達は溜まらず部屋の外に飛び出すもそこにはウーズの軍勢が。

 

 

「そ、そんな…」

 

めぇえええええでぇえええええええええええ!!!!!!!!

 

 

必死に応戦するも焼け石に水。完全に囲まれてしまい、絶体絶命の立香達を余所に。

 

 

『あー、ストレンジャー?お取込み中のところで悪いが報告だ。ここはヤバい、そっちに何の発見も無いなら逃げるぞ。大量のハンターとよく分からん白いゾンビの群れと出くわした。死んでいいならそっちに行くが?』

 

「外にもそんなにいるの…!?」

 

『マスター、奥のカジノで金貨を集めていた連中と出くわしたぞ。アルテミスとやらの姿は見えないので今からそちらに急いで戻る!』

 

「…本当に生存者がいて何よりだけど、まずは自分たちの安全を確保してから来た方がよかったわね…」

 

 

それぞれ別行動中のサーヴァントからの念話も来て、いっぱいいっぱいになるマスター二人を庇う様に円を作った三人の騎士に、じりじりと歩み寄った水の滴った亡者達は迫り来る。

 

 

第三特異点の序盤ではあるが、バイオハザードの真の恐ろしさに立香達は戦慄した。




はい、そんな訳でオリオン(単体)がメインサーヴァントです。姐さんは次回登場。本編であったら完全に鬼畜な連中に囲まれ、愛しのダーリンを逃がしたアルテミスの安否や如何に。

その前にウーズに囲まれ大ピンチな立香とオルガマリー。お人好しも過ぎるとこうなるので気を付けましょうという教訓。初見時は誰もが一度は死を覚悟するはず。
何故クイーン・ゼノビアに居るはずの皆のトラウマ、メーデーさんがクイーン・ディードにいるのか。それはまあ、この船の正体である宝具がそう言う物だからです。ちなみにメーデーさんはタイラントと同じく半反英雄扱いなのでサーヴァントもどきです。でもちゃんとこの船の主であるサーヴァントが存在しています。

別行動中のディーラーもウーズだけではなくハンターに囲まれ、こちらも普通にピンチ。今のところ無事なのはカークとメディアさんだけですね。彼等からの念話が無いのは理由があったり。

次回はVSメーデーさん&???&???の連戦。立香達は無事に脱出して特異点を修復する事が出来るのか。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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デルラゴか、銛を持てストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、バイオDCでバイオ屈指の悪女と戦って激怒したり、FGOでピックアップギリギリで段蔵をGETしたりと色々ありました放仮ごです。リニアランチャーとメカ娘はいい文明。

今回は立香の過去やアルテミスの安否やクイーン・ディードの正体が明らかになったりする回です。オケアノス本格突入前の前哨戦なのに長いけど必要だからしょうがない。最初の方はこの小説で初めてになる一人称視点ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

11/12※間違っていたので 警察部隊 を 海兵隊 に変更しました。


ローマから帰還した日、夢を見た。

 

それは、とある空港で突如起きたバイオテロ。日本から旅行に来ていたまだ幼い彼女と両親は、それに巻き込まれ…少女は、天涯孤独の身となった。

 

自身を庇った両親が変わり果てて行く様を見ながらも、逃げるしかなかった。それを両親が望んだから。幸運にも隠れながら逃げていた所に空港に突入して来た海兵隊に助けられた彼女は無事に逃げ出す事が出来た。

でも、そんな自分が嫌になった。だから、例えどんなことがあっても誰かを見捨てないと決めた。預けられた海兵の下で銃の扱いも習った。夏休みのバイトで雪山の天文台に来たのも、人助けのために献血というものに参加したためだった。

 

自己犠牲とは違う、ただ単に「死」という物に臆病になってしまった少女が、カルデアで事故が起きた際にマシュ・キリエライトの死に目に遭ってどんなに狼狽えた事だろう。強くなっていたはずの心は、また弱く、脆弱になっていたのだろうか。思いもよらず俺を殺した時どんな気持ちだったか。あの三角頭に召喚されて早々襲われるなんてどんなに自分を追い詰めていたのか。

 

 

生を諦めた死にたがりのサーヴァントと、他人の死に凄惨なまでに臆病なマスター。それが相棒として共に居れる事は奇跡だといえる。

何で喚ばれたのか、何で惹かれたのか分かった。彼女は根っからのストレンジャーだ。天涯孤独で世界中のどこにも肉親はいない、文字通りのストレンジャー(余所者)

そして他人の命を救う為に必要な武器を求める彼女と、自分達の死を悼んでくれる奴を本能的に求めていた俺。こうやって共に戦い、互いに尊重するこの関係は必然だった訳だ。

 

 

まあそんな訳だ。念話でジョークの如く今の状況を伝えてみたがあちらは切羽詰まっているらしい。俺のストレンジャーがピンチなんだ。こんなところで足止めを喰っている訳には行かない。でも、少しでも減らしとかないと言い訳にもできないよなぁ?

 

 

「Goodbye!」

 

 

ショットガンで接近していたハンター共を吹き飛ばし、パルスグレネードを放って怯ませてから持っているリュックを奴等の中心にぶん投げ、ロケットランチャーを構え間髪入れず発射。

 

 

「シャアッ!」

 

「煙草に火を付けるよりも遅いぞ、ノロマ」

 

 

頭上から飛び掛かって来たハンターの爪が俺の体を大きく斬り裂くのと、リュックの中の手榴弾やら火薬やらにロケット弾頭が直撃して大爆発を起こすのは同時で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッヒッヒェ……Goodbye.Stranger(失せろ、ゾンビ共)!」

 

 

立香の頭上に現れると同時に、その存在に気付いたセイバーオルタの斜めに振り上げた剣先に乗ったディーラーはそのままハンドキャノンを乱射。群がっていたウーズの群れを一掃し、生命活動を終えた奴等の肉体がドロドロに溶けて行くのを確認後、ディーラーの登場に驚愕している立香に右腕のチェーンソーを振り下ろそうとしていたスキャグデッドの大口目掛けて手榴弾を放りこみハンドキャノンをその喉仏に発射して着地。

 

 

メエェエエエエデエエエッ!?

 

「俺のストレンジャーに手を出すな」

 

 

取り出して片手で構えたショットガンをぶっ放して部屋の奥まで吹き飛ばすと、喉仏に弾丸を撃ち込まれて悶えていたスキャグデッドは何が起きたのか、ほとんど溶けている大脳で理解する間もなく、喉仏が急激に膨らんで胸(?)から上が爆発四散。残った肩の人型が小さくメーデー…と呻き、ばたりと崩れて溶けて行った。

 

 

「怪我はないか、ストレンジャー?」

 

「馬鹿!」

 

 

ポコッと、死なない程度に加減された拳に軽く殴られ、無言で佇むディーラー。自分のミスで死ぬかもしれなかったオルガマリー達が助かった安堵と、どうやってディーラーが駆け付けたのか理解しそれを責めれない自分に対して立香は涙を流していた。

 

 

「…言って置くがなストレンジャー。俺はアンタの為に死んだんじゃなくて、不意打ちで殺されてここまで来ただけだ。アンタが殺した訳じゃない」

 

「…でも、でも…」

 

「藤丸。話は後よ、早くネロ達と合流して脱出を…ディーラー、後ろよ!」

 

「なに?」

 

 

廊下の隅に追い詰められていて、立香の肩に手を乗せて宥めようとしていたオルガマリーは、ディーラーの背後…先程自分達が通って来た下層へ通じる吹き抜けになっている通路に下から跳躍して来た、ノコギリザメに酷似した鋭利な槍の様な右腕と盾の様な左腕を備えたB.O.W「スカルミリオーネ」の存在に警告の声を上げ、ディーラーが立香を庇う体勢で振り向き様にハンドキャノンを発射。

 

 

「危なかったな、ストレンジャー…!?」

 

「ディーラー!?」

 

 

槍の様な右腕を振り上げ盾を構える暇も無かった上半身を吹き飛ばし、安堵する立香とディーラーであったが突如強烈な電撃が襲いかかり、一瞬だけそれを浴びた立香をマシュ目掛けて突き飛ばし、ディーラーはそのまま感電死。

 

 

「…下半身だけになっても生きられるの…!?」

 

 

オルガマリーが見れば、下半身になってなおも神経組織が変異した電撃を発する触手を振るうスカルミリオーネが存在していた。立香の背後で復活するディーラーであったが銃を構える暇もなく、後衛にいた騎士王二人も通路が狭いため前に出れず、体勢が崩れた上に電撃で痺れて動けない立香に触手が振るわれ…

 

 

「空気を読みな、死にぞこない!」

 

 

ディーラーの持つ銃とは違う連続した発砲音が響き渡り、飛んで来た弾丸は全くのでたらめであったが数発が神経組織を撃ち抜き、スカルミリオーネは今度こそ倒れ、薄らぐ意識の中で立香が見たのは、反対側の通路に立つ赤い髪の女海賊の姿。ディーラーが自らを呼ぶ声に心地よさを感じて、立香はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…ここは…?」

 

「先輩!よかった、目を覚ましましたか!」

 

 

立香が目を覚ますと、そこは客室のベッドの上であり、涙ながらに抱き着いて来たマシュと、傍で控えていたセイバーオルタの話を聞くと、こういう事であったらしい。

 

立香が気絶した直後、閉じられたシャッターを炎を纏った剣で斬り裂いたネロと合流し、彼女が連れて来たという「生存者」…またもや女だったらしい世界一周を生きたままなし得た人類最初の偉人にしてイギリスの英雄、フランシス・ドレイクが立香を助けてくれたとのこと。

ちなみに残る生存者である二名は彼女の部下との事で、海賊から逃げた先で偶然出くわしたこの船で宝をあらかた盗っていたらしい。レストランでは胡椒を、カジノでは金貨の山を、プールバーでは現代の酒を。部下曰く彼女は幸運らしく、ウーズにも滅多に出くわさなかったんだとか。

 

それで、立香の介抱の為にこの部屋を見付けてマシュとセイバーオルタが看護と護衛に残り、残りのメンバーは周囲のウーズを蹴散らしたり脱出ルートを捜したり、アルテミスの安否を確認しているんだとか。そうこうしているうちに全員が戻ってきて、報告となった。

 

 

「私達がこの所長さんと一緒に見て来たが、一番安全な脱出ルートはこの客室ブロックのエレベーターとやらを使ってアンタ達が通って来た部屋まで戻る必要があるみたいだ。もうプロムナードとやらは駄目だ、あの白いのが群がっているし何より無事な酒が無い」

 

「誰が作ったか知らないけどかなり入り組んでいるルートだけど、従業員用のマップも手に入れたから迷子にはならないはずよ。…本当に誰が設計したのよこの妙な作りの客船…」

 

「俺と騎士王さんで周囲のウーズは一掃した。補充されなければ安全に進めるはずだ」

 

「余とオリオンで最下層まで行ってみたが特に収穫は無しだ。オリオンも一応納得している、共に脱出するぞ!」

 

 

上からドレイク、オルガマリー、ディーラー、ネロの報告だ。方針は決まった、聖杯があるかもしれないが、もしもドレイクに死なれてしまうと間違いなく歴史が変わってしまうのでなんとしても脱出しなくてはならない。

頷いた立香は立ち上がり、未だに少し痺れる体をググッと伸ばして意識を覚醒させる。そして思い出した、ミスをした自分を助けるために、短時間で二回も死んだ己のサーヴァントの事を。

 

 

「あ、あの…ディーラー…」

 

「…気にするな。油断していた俺のミスだ。アンタを殺していたかもしれないんだからむしろ怒ってくれ」

 

「そんなの…できないよ」

 

 

シュンと落ち込む立香に、ディーラーはぽんとその頭に手を乗せて安心させるように笑みを浮かべた。

 

 

「そりゃあな。自分を守って死んで行った両親にも怒れなかった女だ、自分のために居なくなった奴等を怒れないんだろうさ。でもな、俺はまだここに居る。俺はアンタが唯一怒れる存在って訳だ。俺が勝手に助けてアンタに怒られる。それでいいんだ。

…今回の事を反省したならこれから気を付ければいい。オルガマリーから話は聞いたがアンタはやっぱり甘い。生存者がいようが、まずは我が身が大事だって考えろ。仲間がいるなら猶更だ。今回みたいにストレンジャーのせいで全滅だってありえたんだからな」

 

「ディーラーさん!言いすぎです!」

 

「いや、こればかりは商人の言葉に一理ある。マシュ、貴様はデミ・サーヴァント、マスター達と同じで人間だ。プラーガに関しては運がよかったが、純粋なサーヴァントである私達と違って助かる見込みがまるでない。マスター、貴様もマシュのマスターならばちゃんと考えろ」

 

「うん…ごめんねディーラー、マシュ、セイバーオルタ。…所長、ごめんなさい。貴女の指示を仰ぐべきでした」

 

 

自らのサーヴァント達に一言謝り、オルガマリーに頭を下げる立香。元より責めるつもりは無かったが反省している事は分かったオルガマリーは肩を竦める。…彼女としては、長々と話している事は不味いと分かっていたからだ。

 

 

「極限状態だからしょうがないわよ。今は皆でここから脱出する事を考えましょう。…アレに出くわさないうちにね」

 

「アレ…?」

 

「あ、えっと、オリオンとアルテミスが襲われたって言うこの船の主と思われるサーヴァントよ。さあ行くわよ藤丸。アルトリア、先導をお願い」

 

「はい、分かりましたマスター」

 

 

はぐらされた感はあったが、狭い廊下のために一列に並んで黙って付いて行く立香。海賊三人が増えたのでかなりの大所帯だ。その時点で、オルガマリーの様子から何か嫌な予感はあった。

 

 

「ここは303号室だから廊下の突き当たりのエレベーターに乗って、艦橋に出てそこから進んで会議室と船長室があるフロアのエレベーターに乗りついで、私達が入って来たラウンジから船首甲板に出る。これが大まかなルートよ」

 

「なるほど分からん」

 

「だからややこしいのよ…プロムナードに戻るにも入り組んだ道を通る必要があるからこのルートがやっぱり最短距離よ。藤丸を休めそうな部屋を探してウロウロしたからしょうがないけど。あ、道中見付けた、あの白いゾンビが湧いて出て来そうな開いていたダクトはありったけの布を詰め込んで塞いでおいたからよっぽどの物が出て来ない限り安心なはずよ」

 

「さすがはこいつ等を纏めるだけはあるね所長さん。ここから脱出したら約束通り支援してやるよ」

 

「助かるわドレイク船長。最悪サーヴァント皆を霊体化させてカークのヘリで探索する事も視野に入れていたから」

 

「そりゃ襲われたら一溜まりもないな」

 

 

そんな事を言いながら辿り着いたエレベーターから降りて道なりを真っ直ぐ進み、艦橋に出る一行。広々とした空間に思わず誰かの安堵の息が出る。出た、はずだった。

 

 

「みぃつけたぁ…!」

 

「うわぁあああああっ!?」

 

「ッ!」

 

 

甲高い声と共に、薄い赤色の細長い何かが天井の隙間から伸びて来て、海賊の一人が首に巻きつかれて引き上げられてしまう。咄嗟に反応したドレイクとディーラーが天井に向けて銃を乱射するも、手応えは無く海賊の悲鳴が轟いた。

 

 

「な、なに!?」

 

「天井からも伝って来るなんて…急ぐわよ藤丸!ドレイク船長、残念だけど彼の事は…」

 

「ああ。何時死ぬか分からないのが海賊だ。…諦めるしか無いさね」

 

「今の声…まさか…!?」

 

「…ちっ、おいでなすったみたいだストレンジャー」

 

 

何かに焦るオルガマリーに急かされる様に下のフロアに続く階段を目指す一行ではあったが、その背後にベチャッとそれは落ちて来た。

細身ながらも通常のウーズより一回りもデカく、全身赤みが入った白い肌に、何より特徴的なのは右腕が存在せず、代わりに左腕に骨が集束して巨大な弓を形作っていた。触手状になった赤白い髪に目元は隠れているが、そのシルエットにオリオンは見覚えがあった。

 

 

「アルテミスか…!?」

 

「みぃつけたぁ…だあぁあありぃいいん!!」

 

 

構えられた左腕から、高速で発射された触手がオリオンを狙うも、それは咄嗟に前に出たアルトリアに斬り飛ばされ、アルテミスと思われるウーズ…アルテミスウーズは絶叫を上げるも続けてディーラーの放ったライオットガンを受け大きく吹き飛ばされる。

 

 

「いたい、いだい!ゆるざぁなぃ゛ぃ゛ぃ゛…!」

 

「どうなっているんだ、アイツは、アイツは…!」

 

「…もう一つの脱出ルートを探している時に彼女を見たわ。やっぱりアルテミスだったのね」

 

「ありゃプラーガと同じでTウイルスの様な大脳への浸食が遅いんだろうな。喋れるってのは趣味が悪いウイルスだ」

 

「…アレを見て確信した、ここで負傷した英霊はあのゾンビに変貌する。あのプロムナードで襲ってきた奴等はその為の手段で、この船はそう言う宝具だって事。だから、早くここから逃げ出したかったんだけど…アルトリア、気を付けなさい!例え魔術で直ぐに塞がる傷だとしてもここでは致命的よ!」

 

「はい、マスター。…ですが、よろしいのですか?」

 

 

絶叫を上げながら立ち上がり、巨大すぎる弓に振り回されながらも構えるアルテミスウーズをしっかりと見据えながらアルトリアがちらっとネロの肩の上に居るオリオンを見る。オリオンは黙っていたが、直ぐに頷いた。

 

 

「…俺にはどうもしてやれない。頼む、アンタ達の手で…アイツを、倒してやってくれ」

 

「…貴方も消滅するかもしれないわよ」

 

「関係ねえ。俺にできる事はアイツと一緒に死んでやる事だけだ」

 

「…そう、分かった。藤丸、自分のサーヴァントとドレイク船長達を連れて先を急ぎなさい!」

 

「え、所長は?」

 

「私とアルトリア、ネロで彼女に引導を渡してから追い付く。急ぎなさい!」

 

 

ブラックテイルで発砲してアルテミスウーズの頭部に当て、怯ませているオルガマリーの様子に絶対生還するという覚悟を見た立香は頷く。幸運な事にラウンジまでの道はそう遠くない。直ぐに追いつける距離だった。

 

 

「分かりました、絶対に追い付いてくださいね!」

 

 

そんな言葉を残してマシュ達を引き連れて艦橋から去って行く立香を見送り、オルガマリーは風を纏った聖剣を構えるアルトリアと、オリオンを肩に乗せ剣に炎を纏わせたネロを両隣に置き、ブラックテイルを構えてアルテミスウーズをみやる。ろくに考える事も出来ないのか、ただオリオンを求めて弓を構える姿はいっそ痛々しい。

 

 

「オリオンに貴女の最期を見届けさせるって決めたのよ。さっさと全力で倒させてもらうわ。ネロ!」

 

「うむ。門を開け! 独唱の幕を開けよ!」

 

 

魔力が煌めき、展開されるのは薔薇の花飛び交う、ネロ・クラウディウスの造り上げた黄金劇場。

 

 

「我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け!―――しかして讃えよ!黄金の劇場を!

 

―――童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所長達は大丈夫でしょうか!?相手は仮にも神霊ですが…」

 

「大丈夫、所長は私なんかよりもずっと頼りになるから!」

 

「他人より劣っていると認めるのは大事だがそこまで弁えていると召喚に応じた私達の立場も無いのだがな?」

 

「それでも頑張るのがストレンジャーだ。アンタもそんなんだから召喚に応じたんだろう?」

 

「まあ、な!」

 

 

ドレイクを先頭に廊下を駆け抜ける立香達。途中、会議室と船長室に続く廊下からウーズが湧き出してくるが、セイバーオルタの卑王鉄槌とディーラーのシカゴタイプライターが瞬く間に仕留め、無事にエレベーターに乗り込めた。

 

 

「それにしても…未来の船だったかい?移動が簡単にできるのはいいけど全部こんなややこしい作りなのかい?」

 

「いや、この船は特別だな。ゾンビがいるといい、研究所か何かがあると見ていいと思うぜ」

 

「私達の知らないところで、バイオテロは沢山起きているんですね…」

 

 

そんな会話をしながら、ラウンジに出て何も異常がない事を確認するとそのまま船首甲板に出る立香達。いつの間にか雨が降り出していたそこで、船全体に響き渡る声が響いた。

 

 

『足掻いても無駄だ。我等ヴェルトロ…大いなる猟犬が貴様らを裁く』

 

「この声は!?」

 

「ジャック・ノーマンか…!」

 

 

この船から脱出する。ただそれだけが、起動する条件。カークはメディアの魔術で感知されなかったため無事に出れたが、立香達は違う。海は荒れ、それは現れた。

 

 

『汝、一切の望みを棄てよ。覚醒せよ、真実の黙示録(バイオハザード・リベレーションズ)

 

 

現れたのは、鋭利で硬質な表皮に覆われ牙を剥いた巨大なクジラ。至る所に開いた穴から巨大な寄生虫が顔を出し、触手の様に蠢いて立香を襲い、マシュが盾で防ぐも大きく吹き飛ばされてしまう。それは、クジラに寄生するハダムシがウーズ達と同じくt-Abyssに感染し偶然誕生した突然変異種であるB.O.W.『マラコーダ』であった。

 

 

「なるほど。比較的簡単に外に出れたのはこういう事かい。趣味の悪い野郎だね声の主は」

 

 

一人だけ残った部下と共に弾丸をばら撒き、触手を寄せ付けないドレイクに続き、ディーラーもマシンピストルで応戦する。巨大な敵でも怯ませる事が出来るこの武器が有利だ。

 

 

「デルラゴか。銛を持てストレンジャー」

 

「…いや、あの。私、夢で見たけどデルラゴって巨大化したサンショウウオだよね…寄生体なのはあってるけど」

 

「…忘れろ。行くぞストレンジャー。所長が来る前に怪物退治ぐらいしないとな。ロケラン、使えるか?」

 

「うん、やるしかない…!」

 

 

応戦しながらディーラーが床に置いたロケットランチャーを構え、自分を守るマシュとセイバーオルタの間から触手を狙う立香は、助かる命を見捨てないために引き金を引いた。




リベレーションズって色々調べてみたら覚醒、真実、黙示録って意味らしいので全部くっつけて見ました。ちなみに章名の封鎖終局覚醒四海はそこから取ってます。どれが本当なのだろうか。
未だに姿を見せないジャック・ノーマンの宝具『覚醒せよ、真実の黙示録(バイオハザード・リベレーションズ)』一言で言えば、一度招きよせてからゆっくり甚振る宝具です。逃げようとしたらマラコーダが現れて妨害する性質の悪さ。しかし本人も船の中を彷徨っているという少し間抜けな宝具だったりします。

この作品の藤丸立香は、ぶっちゃけると「バイオハザード ディジェネレーション」にて起きた空港バイオテロから逃げ延びた人々の一人です。レオンは名前は知りませんがバイオテロを終息させた恩人でもあったりします。2016年現在17歳で、2005年5歳の時に旅行に訪れた際に巻き込まれてます。

自爆の様な事をして立香の元に駆け付け、スキャグデッドを倒すもスカルミリオーネの生存力の高さに負けて二回も死んだディーラー。とりあえず立香との絆が感じられたらと思ってます。

やっと登場ドレイクの姉御。ちゃっかり胡椒に金貨に酒と言ったお宝をせしめていたり。
そんなドレイクの部下を一人殺害し、姿を現したアルテミス。はい、レイチェルウーズが元です。脚が怪我して走り回るだけでも変質するのに右腕失って無事なはずが無かった。Tアビスに感染した女性はシークリーパーになるはずだって?オリオンの霊基も混ざっているから変質したんだよ(多分)。右腕を失いアーチャーだった影響で遠距離ウーズことトライコーンみたいな腕に変質してますがほとんどレイチェルウーズと変わりません。

次回、マラコーダ戦。タイラント・シューティングスター大暴れで、やっと大海原に出ます。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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皇帝特権の乱用だなストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、何とかバイオハザードDCをクリアしたもののヒロインを助けられなかった放仮ごです。…ラスボス相手に弾を撃ち尽くしてハンドガンでちまちま削っていたら…ごめんマヌエラ……このヒロイン、大好きです。

今回はカーク達も合流した総力戦。水着を解禁した二人が大暴れ。全員に見せ場を作れたと思いますが若干いつもより長いです。楽しんでいただけたら幸いです。


「―――童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)!」

 

 

薔薇の花弁が舞う黄金劇場の中心で、動きを制限された異形と化した女神へと炎を纏った大剣による斬撃が叩き込まれた。叩き込んだ張本人である小さな紅き皇帝は確かな手応えを感じて、黄金劇場の展開を解く。

 

 

「余の独壇場だったな……ど・く・だ・ん・じょ・うだったな!」

 

「ええ、ええ。貴女の独壇場だったわ。敵の能力を制限するってエクスカリバー程の火力は無くてもそれだけで十分に脅威ね…」

 

 

満足気に頷くネロと共に一瞬にして暗い艦橋へと光景が戻り、オルガマリーは一息吐いて肩に乗っていた熊のぬいぐるみを見やった。

 

 

「…倒せたと思うけど、本当によかったの?」

 

「ああ。俺にできるのは看取る事と一緒に死ぬことぐらいだ…」

 

「っ!?」

 

 

瞬間、咄嗟にオルガマリーの前に出たアルトリアの鎧が砕け、オルガマリーの頭上を吹き飛んで行く。そして慌ててネロが構えたのを横目で見て、前を確認すると、そこには倒したはずのアルテミスウーズが起き上っていた。左腕が無い所を見ると分離させてぶん投げてアルトリアをダウンさせたらしい。

 

 

「そんな…弱点である炎を纏った一撃を浴びてまだ…!?」

 

「だが、確かに弱っているぞ。武器も失っている今なら…!?」

 

 

再び、炎を纏った剣を叩き込むネロであったが、アルテミスウーズは凄まじい速度で回避、ネロの体勢が崩れているところにオルガマリー…否、その肩に乗るオリオンに向けて突っ込んできた。しかし足取りはふらふらで、もはや声すら出ていないところから見て疲弊していると気付いたオルガマリーは静かにブラックテイルを構える。

 

 

「アルトリア、霊体化して傷を癒して。ここは私が…!」

 

「…嬢ちゃん。右だ、よく狙えよ…」

 

「オリオン?」

 

 

瞬間、船が大きく揺れ、右へずらしていた照準にアルテミスウーズがよろけ、発砲。眉間を撃ち抜き、崩れ落ちたアルテミスウーズの体が黄金の粒子となって消滅して行った。

 

 

「ありがとうな所長さん、アンタとサーヴァント達のおかげでアイツを楽に出来た。…ここでお別れだ、俺とアルテミスは二人で一人のサーヴァントだからな。コイツが死ねば俺も続くよ」

 

「…いいえ、彼女を解放できたのは貴方の力よ。私、やっぱり何もできなかったから」

 

「そうか?だったらいいんだけどな…ん?」

 

「…あれ?」

 

 

すると消えていくアルテミスの輝きが同じく消滅途中だったオリオンを包み込み、消滅が止まる。スキル:女神の寵愛が働いたためだった。

 

 

「消えて…ない?」

 

「…そりゃあ、せっかく助けたのに一緒に死なれたら困るんじゃないかしら?生前、貴方を殺した負い目があるのかも」

 

「…アイツに限ってそれは無いと思うが…生きて仇を取ってくれって事か?…俺に何ができるか分からないが同行させてくれ。きっと力になる」

 

「ええ。こちらこそよろしくオリオン。それより急ぐわよ、この揺れ…」

 

「うむ。外で何かが暴れているな」

 

 

オリオンを肩に乗せ、急いでエレベーターに向かうオルガマリーとネロ。その後に不可視の巨人がゆっくりと迫っていた事に彼女達は気付いていなかった。

 

 

「…汝、一切の望みを棄てよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、あと一歩のところでゴーストシップを脱出するところだった立香達の前に海中から出現した超巨大B.O.W.マラコーダ。侵入者を決して逃がさない宝具の片鱗が、人類最後の砦に牙を剥く。

 

 

「そこぉ!」

 

 

マシュの盾で触手が弾かれ、セイバーオルタの斬撃で切り払われた瞬間に、クジラの側頭部から生えている触手の付け根目掛けてロケットランチャーを発射する立香。衝撃で半ば吹き飛ばされるが壁を背にしていたため何とか踏みとどまり、放たれたロケランが触手の付け根に直撃し触手がうねって高速で引っ込んで行く。

 

 

「ナイスだストレンジャー!いくら動き回る奴でも付け根は避けようがない。次だ、しっかり狙え」

 

「無限ロケランは?」

 

「アレは反動がストレンジャーには耐えられん。そいつで我慢しろ」

 

「分かった。マシュ、ディーラー。移動するよ。セイバーオルタはドレイク船長たちを守って!」

 

「了解だ。さっさと仕留めろマスター」

 

 

クジラの外装は意外と堅い。銛でさえも浅くしか突き刺さらない程であり、つまりこのマラコーダは天然の鉄壁の外装により守られている。エクスカリバーではダメージが通らないだろうという判断であった。召喚時に得られる現代の知識様様である。

 

 

「やっぱりロケランはハンドガンと違って反動が大きいね…」

 

「先輩、やはりここは私が…」

 

「いいや。俺達サーヴァントでないと奴の攻撃をろくに止められない。下手したらストレンジャーは即死する、働いてもらうしかないな。本人も望んでいる様だ」

 

「うん…マシュ達だけに戦わせない…私も、やる!」

 

「まあ防ぐにしてもギリギリだがな…」

 

 

そう言いながらキラー7を放ち、頭上から襲い掛かって来た触手を退かせるディーラー。クジラの側面部から次々と生えてくる触手群は今も増えており、さらに時折先端から弾の様な物が発射されて意志を持っているように襲い掛かってくるため、完全に囲まれるのも時間の問題であった。

 

 

「せめてカークの固定銃座があればな…」

 

「メディアさんの魔術の援護も欲しい所ですね…」

 

 

ぼやきながらも確実に襲って来る物だけを捌き、破壊された船首のラウンジ側の通路を横へ横へと移動しながらロケランを次々と撃って行く立香達。いつの間にかセイバーオルタはドレイクと部下をラウンジ側に押しやって割れた窓から迎撃させていて、ラウンジ側への攻撃のみを捌いていた。

 

 

「商人!海賊共にお前の武器は貸せないのか?」

 

「駄目だ、使い勝手が違い過ぎる!フレンドリーファイヤしてもいいなら貸すが?」

 

「なら私にセミオートライフルとやらを貸せ、私もマスターと共に迎撃に移ろう」

 

「…やれるのか?」

 

「ふっ、愚問だな」

 

 

半信半疑ながらもリュックから引っ張り出したセミオートライフルをセイバーオルタにぶん投げながら、襲ってきた弾をハンドガンで撃ち落とすディーラー。手荒ながらも右手に持ったエクスカリバーで触手を斬り飛ばして左手にセミオートライフルを握ったセイバーオルタはスコープから狙わず発射。スキル:直感が働いて触手の付け根を撃ち抜き、怯ませていく。

 

 

「この程度造作もない。むしろレッド9より反動が弱くて扱いやすいぞ」

 

「普通はそうは使わないぜ。アンタはやっぱり化物だ」

 

「余所見しながらもマシュの分までカバーして撃ち落としている貴様に言われたくないな」

 

「二人共!集中して!」

 

「海中からも来ました!触手の数…最初の四本からすでに16本にまで増えています!」

 

「ちっ、どうすればいい商人!?」

 

「デルラゴの場合は殺せば死ぬんだ。こんな増え続ける奴を倒す術なんか思いつかん!」

 

「ええ!?」

 

 

まさかの策無しのディーラーに驚きを隠せない立香。それでもやるしかないため撃ち続ける。プラーガに関しては優秀だが、ハンターなどそれ以外に関しては適当にも程があるのがディーラーの短所だと再認識するが今更遅かった。もはや数の利は完全にあちらにあり、例えオルガマリー達が合流しても絶望的である。そんな時だった。空から放たれた銃弾の雨がクジラの頭部に炸裂し、その興味を空に浮かぶそれに向かわせたのは。

 

 

『メディアの姐さん!しっかり狙え、狙いに当たってないぞ!』

 

「ああ五月蠅いわね!これでも必死に狙ってるわよ!ていうか、こんな重い物をキャスターに使わせないでちょうだい!」

 

「カーク!メディアさん!」

 

 

それは、高速でヘリを操縦し触手の攻撃を掻い潜るカークと、その動きに振り回されながらも必死に捕まっている固定銃座を撃ちまくっているメディアがいた。筋力Eには辛いようでぜーぜーと荒い息を吐いていた。

 

 

『ようマスター。遅くなったが、マラコーダが現れたのが見えたから急いで救援に駆け付けたぜ!まず怯ませて俺のヘリに乗り込め!メディアの姐さんじゃ話にならん!』

 

「悪かったわね!?本領発揮してやるわよ!…これはどう?」

 

 

突如放たれた紫の雷撃に怯み、怖気付いて弾をまばらに撃ち出すマラコーダ。しかしそれもヘリの後部座席に出現した魔法陣から放たれた炎が焼いて迎撃し、魔力の光線が触手の一体の先端を撃ち抜いて引っ込ませた。コルキスの王女、本領発揮である。

 

 

「つ、強い……メディアさん、かっこいい…」

 

「チャンスだストレンジャー!マシュと一緒にカークのヘリに乗り込め、あの機動力を保つには三人ぐらいが限度のはずだ」

 

「っ…分かった、ディーラーもセイバーオルタも無茶しないでね!」

 

 

メディアに圧倒された隙をついて立香、ディーラー、セイバーオルタ、ドレイクの一斉射撃を受けて全ての触手を引っ込ませてマラコーダが完全に沈黙している隙を突き、下ろされたタラップを使ってヘリまで登る立香とマシュ。そして、立香が登り終えてマシュが登り終えるかと言う所でマラコーダが一斉に触手を出し、怒涛の猛攻を仕掛けてきた。

 

 

「っ、ヤバいぞ!」

 

「援護するぞ、海賊!」

 

「ああもう、しょうがないねえ!」

 

 

マシュが登り切らない内に回避を始めたヘリを援護する様に銃を放つディーラー達。

 

 

「マシュ、掴んで!」

 

「先輩…すみません、マシュ・キリエライト。先輩を守るためにちょっと無茶します!やああああああっ!」

 

 

するとマシュが何を思ったのか、振り回されたタラップから遠心力を用いて飛び降り、渾身のシールドバッシュをクジラの頭頂部に叩き込んだ。渾身の一撃にクジラの巨体が揺れ、マシュが落ちて来たのをドレイクの部下がキャッチ。暴れるマラコーダに、メディアから替わった立香の固定銃座の銃撃が襲い掛かる。

 

 

「早く倒してマシュ達と一緒に脱出するんだぁああああっ!」

 

『あ、落ち着けマスター!そんなに撃ったらオーバーヒートを起こして…』

 

「『あ』」

 

 

一気に撃ちまくったためにオーバーヒートを起こして沈黙してしまった固定銃座に、固まる面々。ヘリからの援護というアドバンテージ。それを失ったらどうなるか。

 

 

『メディアの姐さん!』

 

「分かってるわよ!」

 

 

たまらず、再びメディアの魔術で不可視になったヘリから興味を失ったマラコーダの触手による薙ぎ払いが船を襲い、ディーラーはそれにロケットランチャーを叩き込んで怯ませ無理矢理回避する。

 

 

「カーク!メディア!ストレンジャーを連れてさがっていろ!」

 

「言っている傍からまたミスをするとはな。マスターは人の話を少しは聞くべきだ」

 

『…ごめんなさい』

 

「皆さん、来ます!心なしかさっきより増えている気がします!」

 

「無限に増殖するタイプか、どうしようもないぞこれは!」

 

『ああそうだ、忘れていた。ドレイクって海賊はいるか?』

 

「私だけど何だい?」

 

 

話に付いて行けず、とりあえず迎撃に徹していたドレイクがカークに呼ばれてどこに居るかも分からないため空を仰ぐ。そして、それに気付いた。

 

 

『近くの島で停泊してアンタの合図を待っていた船を連れて来たがよかったか?』

 

「いいじゃないか!野郎共、アタシの声が聞こえるかい?砲撃よーい!ここが命の張りどころってね!」

 

「「「「おおおおおーっ!」」」」

 

 

ドレイクの呼びかけに応え、現れた海賊船…『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』から雄叫びと共に集中砲火がクジラの側面に炸裂、その巨体を横転させた。

 

 

「よくもアタシの部下をやってくれたねえ、聞くところによると亡霊船って話じゃないか!倍返しと行かせてもらうよ!さあデカブツ、アタシの名前を覚えて逝きな! テメロッソ・エル・ドラゴ!―――太陽を落とした女、ってな!」

 

 

さらに追撃。生えてくる触手を片っ端からつぎ込んだ大砲で打ちのめしていく光景に思わず絶句するディーラー。断っておくがこれは宝具ではない、生前のフランシス・ドレイクという海賊の力である。

 

 

「…英霊でもないのにこれほどか。これだから英雄様は…」

 

「あそこまでの力を生前で出せるのは一級の英雄だろう。英雄を支えるお前が卑下する必要はない」

 

「ですが、これでこちらの優勢です!一気に攻め込めば…」

 

「だが火力が足りない。何発ロケラン、大砲を撃ち込んだところで奴はあのクジラの中で無限に増殖し続ける。クジラごと吹き飛ばせる火力、それこそ英霊の宝具級の物があればなあ?」

 

「エクスカリバーは無理だぞ。あの皮膚、宝具として変質したのか防御力だけは我が城壁にさえ匹敵する。青いのと合わせた物でも倒し切れるか分からん。貴様の宝具はどうだ?」

 

「似た様な物だ。せめて奴がプラーガならとっておきがあるんだが…」

 

「アレは恐らくクジラに寄生するハダムシです。以前見せていただいたプラーガとは明らかに違います!」

 

「だよなあ…」

 

 

しかしそれでもジリ貧。クジラの分厚い皮膚を貫く宝具。そんなもの、範囲攻撃が得意なカルデアのサーヴァント達には存在しなかった。

 

 

「まだ諦めるには早いわ!」

 

「オルガマリーか。早かったな」

 

 

すると、肩にオリオンを乗せたオルガマリーがラウンジから出てくる。ゴールデンハインドの砲撃の嵐と巨体を持つマラコーダに圧倒されている様ではあるが、確かな勝算がその顔に浮かんでいた。

 

 

「ええ。ネロの一撃で倒し切れなかったんだけど、この船が大きく揺れたところに私がオリオンの指示で…今はその話はいいわ。必要なのはあのクジラの巨体をも消し飛ばす火力ね?」

 

「ああ。だがそんなもの…ん?皇帝サマやセイバーオルタは何処だ?」

 

「あそこよ」

 

「「?」」

 

 

オルガマリーに指差された方向…マラコーダの真下の海面を見やるディーラーとマシュが首を傾げた。何やら姿が変わったネロと、高速で水面を移動する彼女の傍に浮かんだ黄金のパイプオルガンの様な何かに掴まって同じく水面を滑走しているセイバーオルタの姿があった。問題は、その容姿である。

 

 

「…水着?」

 

「しかもなんか兵装が追加されているぞ?」

 

「ネロのスキルよ。皇帝特権。主張すれば何でもできる…変質したGカリギュラでもアレだったけど、元々が何というか…クラスチェンジできるぐらいに凄いわ」

 

「凄いってレベルじゃないぞそれ」

 

 

高速で水面を滑走するネロの姿は赤と白のボーダーカラーの水着であり、髪型がツインテールに変わっていた。滑走し、セイバーオルタと分かれたと思えばクジラの懐に潜り込んで炎を纏った斬撃を連撃で叩き込み、さらには一回転して勢いを加えた拳を叩き込んで吹き飛ばす。終始笑顔のネロの圧倒に、触手群もディーラー達を狙うのをやめてネロを狙って一斉砲火するも立ち止まって振り返ったネロのパイプオルガンから放たれた光弾が相殺、寄せ付けない。

 

 

「ふっふっふ!あれは何だ? 美女だ!? ローマだ!? もちろん、余だよ♪此度はキャスターだが、な!」

 

「ふざけている余裕があるとはな。だが水上での強さは明白だ。私にもやらせろ」

 

「うむ!うむ!余は今満足している!共に()こうぞ!」

 

 

ペカーッと輝き、セイバーオルタの姿も黒のビキニを基調としつつパーカーを羽織り、エプロンとホワイトプリムを装着している、いわゆる水着メイドという物にシフト。

何故かモップになったエクスカリバーと、背中にかけてあるセミオートライフルとは別に新たに追加された小銃、セクエンスを握っている。セイバーオルタ改めライダークラスのメイドオルタである。何処からともなくバイクを召喚し、水辺を走って銃撃する姿はもはや理解不能の産物であった。

 

 

「もう訳が分からん」

 

『奇遇だね、私もだよディーラー。あ、オーバーヒートが終わったよ。援護がいるように見えないけど』

 

「まったくその通りだが念のために援護はやっておけストレンジャー。どんなにあいつ等がデタラメでもあの巨体はそれだけで脅威だ」

 

『分かった。やるよカーク、メディアさん!』

 

『え、ええ…アレをキャスターと認めたくない私がいるわ…』

 

 

再びヘリからの援護も再開し、上から下から攻撃を受けて完全にディーラー達へ対する攻撃を止めたマラコーダ。その隙を突き、ディーラーは提案する。

 

 

「今のうちにさっさとこの船を出るぞ、あのデカブツめ完全に狙いが俺達から奴等に移っている」

 

「そうね。船長、とりあえず貴女の船に逃げさせてもらえる?」

 

「しょうがないねぇ。元々そうするつもりだったけどさ」

 

 

何時の間にかクイーン・ディードの近くまで寄せて来ていたゴールデンハインドに乗り込むディーラー達。そして、オルガマリーがクイーン・ディードから離れると端末の音が鳴り、ロマンの姿が映し出された。

 

 

『よかった!やっと繋がった!無事かい立香ちゃん、マシュ、所長!』

 

「あら、ロマン。忘れていたわ。私の心配が最後なのは覚えて置くわ」

 

『え、僕忘れられていた!?えっと…それは忘れて置いて欲しいなって。清姫だって何とか誤魔化して大変だったんだから…』

 

「嘘ついたら後から報復があると思いますが何だか久しぶりですドクター!何故今更通信を!?」

 

『なんだかマシュまで辛辣だなぁ!いや、こちらから反応は掴めていたんだけどレイシフトした直後から映像も繋がらないやら音声も拾えないやらで僕らでも何でかさっぱりで』

 

『やあやあダ・ヴィンチちゃんだよ。恐らくだけど、結界か何かで疎外されていたと考えるのが妥当だ。心当たりはあるかいオルガ?』

 

「レイシフトした直後からたった今までサーヴァントの宝具と思われる船の中に居たわ。それのせいかしら」

 

『ええ!?まさかそんな偶然が重なるなんてなあ…』

 

「それよりこちらの情報を伝えるわ。現在巨大エネミーと戦闘中で、現在フランシス・ドレイク船長の船に乗っているわ。仲間になった現地のサーヴァントは現状戦力にはならないオリオンだけよ」

 

「…そう言えば何でオリオンが生きているんだ?」

 

「…アルテミスの置き土産さ。それより俺の直感だがディーラーさんよ、いっちょ乗る気はないかい?」

 

 

オルガマリーとマシュがカルデアに現状を報告している間に、ヘリから下ろされた梯子を登っていたディーラーの肩に何時の間にか乗っていたオリオンが提案して来て、ディーラーはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「オリンポス神話屈指の弓兵の提案か。乗るしかないだろうストレンジャー」

 

「あのデカブツも間接的だがこの船…宝具の一部なんだろう?アルテミスをあんな目に合わせた宝具だ、ネロの嬢ちゃんたちだけにさせてたまるか」

 

「そういう無力を痛感した叫び、嫌いじゃないぜ」

 

 

そう言ってヘリに乗り終え、何やら叫んでいる立香を無視してヘリの後部座席からスティンガーミサイルを取り出して構えるディーラー。

 

 

「チャンスは一度だ。俺とアンタの手で決めるぞ」

 

「ああ…!」

 

「ストレンジャー、セイバーオルタに念話を頼む。止めは俺達が刺すってな」

 

「…分かったよ。でも揺れるヘリに登って来るなんて危ない真似もう二度としないでよ!」

 

「ああ、分かった分かった」

 

「アンタも女の尻に敷かれるタイプか」

 

「残念な事にな。俺はこのストレンジャーにだけは弱いらしい」

 

 

オリオンの同情のような声に肩を竦めるディーラーに、死なない程度にチョップを浴びせた立香はすっきりした顔であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…だ、そうだがどうする?」

 

「ふむ、我らが引き立て役か。何時もなら主役を張れないと主張するところだがオリオンめの覚悟はしかと見た。応えてやらればな」

 

「奇遇だな。私も、商人のやりたい事ならば異論はない」

 

 

現在、並走しながら触手群を惹き付けていた黒と赤の王は立香から伝えられたディーラーの言葉を聞き、ネロが不敵に笑みながら空中に浮かび、パイプオルガンから放った光線で誘導して来た弾を全て撃墜すると、メイドオルタも笑ってバイクの上に立ち、水流を纏ったモップを振り回して触手を弾き飛ばす。

 

 

「オリオンに対しては何も無しか、冷血よな。…では派手に決めるぞ冷血メイド!」

 

「ふん、注文には応えよう。メイドだからな。派手好きなのは趣味ではないが火力こそ正義だ、援護してやるからさっさと決めろ劇場女!」

 

 

そう言ってセクエンスを撃ちながらネロから離れて行くメイドオルタ。触手の大部分はそちらに向かい、こちらに飛んでくる弾も抜かりなく撃ち落とされる。趣味は合わないが今、誰よりも信頼できる者を信じ、紅き皇帝は魔力を猛らせた。

 

 

「劇場は、海より来たり―――!」

 

 

出現するは、先程使った物と同じく黄金劇場。しかして巨大な管楽器…否、パイプの形をした砲門が追加され、声を砲撃に変えるという現在の彼女の戦法を最大限に生かす大野外ステージになったそれの中心にネロは立っていた。

 

 

「豪奢!荘厳!しかして流麗!見るが良い!これぞ、誉れ歌うイルステリアス!即ち、余の!黄金劇場である!――――誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!」

 

 

全ての砲門から放たれた、無敵の防御を貫く特性のある「音」の砲撃がクジラの巨体に炸裂。星の聖剣では成しえない大ダメージを与え、クジラは激痛のあまり大口を開け、その前方に浮かぶヘリにその中心をさらけ出した。

 

 

「そこだ…外が堅い怪物は中が弱いって俺の経験談が言っている!」

 

「アレが触手を無限に増殖させていた中枢か。そんじゃまあ、手古摺らせてくれたな」

 

 

ディーラーがスティンガーミサイルを構える、と同時に、その反対側でロケットランチャーを構えた立香が、船の展望台から跳び出してきたそれを見た。それはタイラントに似た、海洋生物の特徴を持った巨人で。

 

 

「逃がさん…!我が名はアヴェンジャー、ジャック・ノーマン…ヴェルトロの名の下に貴様等を裁く…!」

 

「……裁かれないと行けないのは、ドレイクさんの部下の人とアルテミスを殺した貴方だ」

 

Goodbye.GhostShip(成仏しな、亡霊共)!」

 

「今だ!」

 

 

侵入者を逃がす、それが船の持ち主であるサーヴァントのどうしても許せない事だと見抜いたオリオンの指示で、めんどくさい関係の主従二人が同時に引き金を引いて。…大海原(オケアノス)での初戦はようやく終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあて野郎共!この所長さん…カルデアってところの船長(キャプテン)との契約だ。まずは宴だ…と言いたいところだけどどうやら急いでいるらしい。アタシ等としてもこんなつまらない海を永遠に航海するのも勘弁だ。所長さん方の足として協力してやろうじゃないか!」

 

 

ジャングルがあったかと思えば地中海の温暖な海に出たり、海流も風もしっちゃかめっちゃかで大陸が見当たらない大海原を、星の開拓者の船と共にカルデアは駆ける。

 

カークから交替したマイクのヘリで偵察し発見した島を片っ端から探るという船旅は、とある島にて一旦中断される。そこは、巨大な迷宮の存在する島だった。




※水着ネロの宝具は「無敵貫通」持ちです。マラコーダのクジラはゲーム的には無敵です。

アルテミスウーズはオルガマリーの力を借りたオリオンの手で撃破。さらにノーマンが迫っていた事にも気付いていたオリオン、非力ながらも戦士の経験は健在です。女神の寵愛で無理矢理現界し続けるというごり押しですがこれしか思いつかなかったんです勘弁してください。

最初はマスターがメイン射撃という劣勢でしたがカークが連れて来た黄金の鹿号の参戦で形勢逆転。何でサーヴァントでも無いドレイクの船の攻撃が通じているのかというと、彼女の所有している聖杯の影響です。大砲が当たれば勝てるという思い込み。地味に難しいドレイク船長の台詞は考えるのが大変です。

そして堂々参戦、水着になった赤王と黒王。水上戦では無類の強さを発揮します。出発前にカルデアで二人だけで話していたのはこれですね。黒王の提案です。青王は諸事情でダウン。持ってないからしょうがないね。

クイーン・ディードにより通信ができなかったロマン達。きよひーを抑えるのに忙しかった模様。オルガマリー達が此処にレイシフトされたのは割と適当に座標を選んだロマンの失態なのでオルガマリーもマシュも地味に怒ってます。

不可視(霊体化じゃない)になってオルガマリー達をストーカーし、最期は脱出を阻もうと飛び出してきたクイーン・ディードの主であるヴェルトロリーダー・ノーマンさん。地味にディーラーの取引先だったりしますが、オリオンの機転で立香の手により撃破。クイーン・ディードは海の藻屑となりましたとさ。ちなみにゲームだと弱点に当てなければロケランの直撃を受けても死ななかったりします。初見時はロケランで仕留められると思っていたので本当にビビりました。

最後は割合ですが、オルガマリーが既に交渉を行ってスムーズに事が運んでいます。大海原で燃料の心配がいらない飛行手段って本当に便利。地図もいりませんね。

次回は迷宮と、黒髭海賊団参上。やっとオケアノス本編に進みます。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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右腕はヤバい、逃げるぞストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、つい先日バイオ7を某ゴリラの実況で見始めて無駄にビビっている放仮ごです。え、本当にバイオなの…?迫り来るタイラントでトラウマになっているビビリなので正直プレイはしたくないです、はい。しかしネタの為にも見ねば…

今回は第二のチェイサーが登場。一度バイオ4に戻ってあのクリーチャーが参戦、ついでにリベレからも彼が参戦と新キャラ祭りになっています。そしてある意味平和な回。楽しんでいただけたら幸いです。


立香達の訪れた島に存在する巨大地下迷宮にて。三メートルもの巨体を持つバーサーカーと、その肩に乗った小さなアーチャーが命からがら正体不明のサーヴァントから逃走していた。

 

 

「迷宮の主が逆に追い込まれてどうするの!急ぎなさい、こっちよ!」

 

「うう…おまえ、だけでも、にげて…」

 

「馬鹿!貴方がいないと私はすぐに死んでしまうのよ!…とにかくこの柱の陰で休みなさい。貴方頑丈なんだから、じっとしていれば死なないわよ。死なないわよね…?」

 

「…ん」

 

「それにしても、まさか結界で閉じる前からあんな化物が侵入していたなんて…あの変態、とんでもないのを送り込んでくれたわ…」

 

 

足に傷を負ったバーサーカーの足取りは重く、追い付かれるのは必至。それでも守られるだけの女神であるアーチャーは、立香達が以前形ある島にて出会ったステンノと瓜二つの容姿を持つ彼女、エウリュアレはバーサーカー…アステリオスを諦めるつもりは無かった。彼を休ませている間に、弓を持ち構えるエウリュアレ。自分に何かできるとは思えないが、それでも一人で逃げるよりはマシだった。

 

 

「来るなら来なさい…きゃあ!?」

 

「・・・」

 

 

すると天井の岩盤が細長い槍の様な物に貫かれて吹き飛び、トンッ、と軽い音と共に着地し姿を現したのは、漆黒の人型の異形。唯一白い頭部の上半分と、オレンジ色の光を放つ目以外は黒い蟲の様な形状の硬質な筋肉質の肉体を持つそれ…「追跡者」のクラス、チェイサーのサーヴァントは、無言で己の有するサソリの如き鋭く細い尻尾を動かし、アステリオスの胸部を狙う。何もできず、ただ手を伸ばすしかできないエウリュアレが思わず目を瞑った…瞬間。

 

 

「!?」

 

 

突如、爆発がチェイサーを襲い、尻尾を引っ込め爆発物…ロケット弾頭が飛んで来た方向に向けてキシャーッと威嚇の咆哮を上げる異形を尻目に、エウリュアレとアステリオスが迷宮の通路に視線を向ける。

 

 

「その二人から離れなさい、化物!」

 

 

そこには大盾を携えた少女と何故か水着でメイドな格好で銃とモップを構えた少女、ピストルを二丁構えた女海賊と青い炎を傍に浮かべてロケランを構えている黒衣の男を傍に控えさせた、オレンジ色の髪をショートヘアに纏めた少女が立っていて。

 

 

「…そいつはヤバい、さっさとあの二人を回収して逃げるぞストレンジャー」

 

「ええ!?」

 

 

男、ディーラーの言葉に本気で驚く少女、藤丸立香に張りつめていた空気が緩んだ気がしたエウリュアレであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この島に訪れたはいいものの、ゴールデンハインドだけでなくヘリまで出れなくなった上にカルデアとの通信も途絶えるという謎事象が発生。

オルガマリー達は船に残り、立香とそのサーヴァント達が原因を突き止めにサーヴァント反応があった迷宮にドレイクと共に訪れ、特性から怪物ミノタウロスの地下迷宮だと看破しその主を捜していた直後、悲鳴と怒号が聞こえて転々と続く血の跡を見付けた立香の一声で救援に駆け付けた立香達。

立香の命令で正体不明のサーヴァントにロケランを叩き込んだディーラーではあったがその正体を知って悟った。勝てる訳がない、と。何故ならば、かつてレオンをして強敵だと言わしめた存在だったのだから。

 

 

「速い…!?」

 

 

此方の様子を警戒するチェイサーに、先制攻撃とばかりにセクエンスによる弾丸を放つメイドオルタであったが、見てから回避し、床を一撃で叩き割って地中に潜ったチェイサーに驚愕、死角である頭上から突き出された鋭い尻尾をモップで弾き飛ばし、二丁のマグナムを構えたディーラーと背中合わせで構えた。その間に立香とマシュ、ドレイクがエウリュアレとアステリオスの回収に向かい、二人で時間稼ぎをするという作戦だったのだが、あまりのスピードに翻弄されていた。

 

 

「おい、奴の事を知っているならさっさと教えろ商人」

 

「奴はヴェルデューゴ。ラモン・サラザールの右腕で、俺と同じプラーガに寄生されているタイプだ。奴は、プラーガを使ったB.O.W.の中でも別格の存在だ。恐らくサドラーよりも強敵だ…奴の弱点も存在していない此処じゃ勝ち目は万に一つも存在しない!」

 

「その弱点とはなんだ?」

 

「液体窒素。とにかく温度の変化に弱い。炎でも効くっちゃ効くが最も効果があるのは冷凍だろうな」

 

「…無理だな」

 

「ああ無理だ。俺の宝具なら間違いなく勝てるがこんなところで残機を減らすのは惜しい。ストレンジャー!まだか!?」

 

 

メイドオルタの前に着地したかと思えば一撃浴びせてから反撃を浴びる事無く天井に戻り、今度はディーラーの頭上から襲ってばらけさせてから二人の真ん中に着地。尻尾による薙ぎ払いで二人を下がらせると、二人の一斉射撃を物ともせずにメイドオルタに直進。強烈な左アッパーで胸部に大きな切り傷を作ると再び地下に潜るというチェイサーの動きに全くついて行けない二人。ディーラーの方は殺さずに無力化できると悟ったのか全く攻撃していないところから知性の高さも窺えた。

 

 

「救急スプレーで処置は終わったよ!」

 

「先に出口に急ぎます!お二人もお早く!」

 

 

エウリュアレを肩に乗せたアステリオスの案内で地上への出口に急ぐ立香達を尻目に、目の前に立ち挑発してくるチェイサー相手にマグナム二丁を手に機を窺うディーラーはメイドオルタに視線で先に行けと促した。ここは正念場だ、自分が殿をするしかない。

 

 

「…ここは任せたが、死んだらマスターが怒るぞ」

 

「何時もの事だがお手柔らかに頼みたいものだな。急げ、ストレンジャーは任せた!」

 

 

メイドオルタも立香達に続き、それを追おうとしたチェイサーの行く手に焼夷手榴弾をありったけ投げ付けて炎で道を断ったディーラーはここぞとばかりにありったけのマグナムを撃ち込み、チェイサーの興味を自らに釘付けにした。

 

 

「行かせないぜ右腕さんよ」

 

 

天井か地下に逃げられたらアウトであったが、まずかつて己を倒した男と似た声を持つディーラーから仕留める事を決めたのか高速で接近してくるチェイサーに、ディーラーは目の前をナイフで切り裂いた。

 

 

「スピードが速い奴は、突っ込む所に攻撃を叩き込め…だったかレオン?」

 

「!」

 

 

それに当たりに行ったチェイサーは怯み、咆哮を上げて左腕の鉤爪を突き出すもディーラーはそれを避けてナイフで頭部を斬り裂き、怯んだところにセミオートショットガンを乱射。吹き飛びはしなかったものの動きが止まり、弾込めした中折れ式マグナムを顔面に突きつけて連射。チェイサーはふらふらと後退し、その間にディーラーは弾込めして再びマグナムを突きつけるも、その瞬間にはディーラーの命は絶たれていた。

 

 

「…地面を伝って背後から尻尾で攻撃、か。サドラーの馬鹿より頭が回るな…だが騙し合いならこっちが上だ」

 

「!?」

 

 

執念でその言葉を述べて崩れ落ちたディーラーの体から転がり落ちた複数の焼夷手榴弾が、力尽きたディーラーの手に触れて発火。立て続けに連鎖した炎が大きく膨れ上がってディーラーの死体ごと飲み込まれ、炎に撒かれて苦しみ悶えるチェイサーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、そんな具合に離脱して来たぜ」

 

「だから自分の死を前提にした戦法を考えないでってば!」

 

「うう…?」

 

 

脱出途中で傍に現れて並走しているディーラーに怒鳴り散らす立香の様子に目を丸くするアステリオス。理解できずに唸りながらも走っている彼にマシュが問いかける。

 

 

「あの、ミノタウロス…いえ、ここは真名でお呼びします。アステリオスさん、我々の船がこの島から出られなくなった理由は貴方の宝具だと思われるこの迷宮の影響ですね?」

 

「ええ、そうよ。でも貴方達を閉じ込めたんじゃ無くて、外から入ってくる連中(てき)を防ぐためのもの。それがあんなのに入られていて逆に私達が追い詰められていたって訳。助けてくれて、礼だけは言って置くわ。…アレと戦った所から見てどうやらアイツの関係者じゃないみたいだし。…貴女、人間?アレやアイツのマスターじゃないわよね?」

 

「あんな怖いの召喚した記憶は………三角頭ならあるけど知りません」

 

「そう。ああ、アステリオス。傷は大丈夫?無理しなくていいわよ、そこの男の言う事が本当なら当分は安心だし少し休みましょう?」

 

「うう、もう、だいじょうぶ」

 

 

心配するエウリュアレににぱっと笑って答えるアステリオスに逸話通りの怪物らしさを感じられない一行であったが害が無いなら問題ないと考え直す。今はあの怪物が追いかけて来ない内にこの島から出る事が先決だ。

 

 

「あの、敵を防ぐための物だという事は分かりましたが解除していただかないとこちらも立ち往生で…」

 

「まあ仕方ないわね」

 

「おや、意外にあっさり納得したね」

 

「単純な足し引きの問題よ。どっちにしても残していた所でアレにアステリオスが殺されて私が連れ去られるだけだし。貴方達が外に出るにはアステリオスが死ぬか結界を解除するしかない。なら解除して一緒に行った方がマシよ。一人になるよりは遥かにね」

 

「なるほど。いいね、うん、気に入った。でもアンタ達結界を張ってまであんなのを遠ざけようとするぐらいだ、かなり切羽詰まっているんだろう?ここから脱出したとしても当てはあるのかい?」

 

「そんなの、あなたに関係ないでしょ」

 

「ある!アタシはね、面白いモノが好きなんだよ。世界一周とか、冒険とか、地下迷宮とか、怪物とか…ああ、あんなヤバすぎる奴等はごめんだけどね。それを差し引いても世の中には面白いモノばかりだ!」

 

「…は?」

 

 

ドレイクの言い分に呆けるエウリュアレ。立香達は改めて悟る、この女性の英雄足りえる由縁を。

 

 

「なんでか面白いモンほど金目の物になるってのが世の常。で、アンタからは金目の物の匂いがする。だからウチの船に回収する。カルデアの方も戦力が増えて、アンタも守りが増えて、一石三鳥だろう?」

 

「ちょ、何勝手に決めてるのよ!船に乗る!?ふざけないで!私は!アステリオス(コイツ)を置いて行かないって決めてるの!」

 

「分かってるよ」

 

「え…?」

 

「自分を守ってくれた誰かを置いて行くのは嫌だもんね。安心して、私も、ドレイク船長もアステリオスを置いて行くつもりはないよ。そうですよね?」

 

 

そう信頼の籠った目を向ける立香に大きく頷くドレイク。思惑は違えど、考える事は一緒であった。

 

 

「そうとも。連れていくのはそっちのアステリオスもさ。あんな怪物相手でもアンタを守り切る根性があって体力あって、よく見りゃいい男だ!こんな人材を逃したらそれこそ笑いものになっちまう!アンタ、アタシの船の用心棒にならないかい?カルデアのサーヴァント?とやらだけでも過剰だけど戦力は多ければ多い程いいからね。嫌だってんなら仕方ないけどね。地下迷宮に籠ってないと死ぬのかい?」

 

「別にそういう訳では、ないけれど。…いいの?」

 

「いいともさ。給金もはずむ。あ、でも福利厚生は期待しないでおくれ」

 

「そういう問題ではなく。ううん、あなたたちが構わないと言うのなら。…アステリオス、あなた、どうする?」

 

「うう…でも、おれ、ここにのこって、あいつを、あしどめする」

 

「…本当にそれでいいの?」

 

 

予想外の返答をしてきたアステリオスにエウリュアレの表情が固まる。怖い顔のエウリュアレにビビりながらもアステリオスは言葉を続けた。

 

 

「ほんとう、は、いく、って、いいたい。おまえ、が、いく、なら、ついていく。ひとりは、さびしい。けど、おまえ、が、しぬ、のは、もっと、いや、だ」

 

「馬鹿な事言わないで、あなたが一人でここに残る理由は無いわ。私が死ぬのが嫌ならずっとついてこればいいのよ。分かった?」

 

「…うん。わかった」

 

「そう。…なら、いいわよ。船に乗ってあげる。あ、ただし私用に個室を用意してちょうだい。下世話な船員たちに顔を晒す気はないのよ、私。当然浴室はあるわよね?ああ、それから―――」

 

「先輩、先輩。私達が口を挟めなかったところに一言入れたのはさすがですが、話がとんとんと進みました」

 

「終わりよければすべてよし。アステリオスの逸話とか気にしない気にしない。あんないい子が悪い奴な訳ないもん」

 

 

マシュの言葉に笑みを浮かべて後ろを走るアステリオスとその肩に載るエウリュアレを見やる立香。しかしその表情が驚愕に変わる。凄まじい速度でこちらに迫り来る黒い異形が見えたのだ。

 

 

「みんな、急いで!アレが来た!」

 

「ちっ、さすがに速いな!だが落盤まではどうしようもないだろう!肩を借りるぞアステリオス!

 

 

立香の声を聴くなりエウリュアレとは反対側のアステリオスの肩に飛び乗り、無限ロケランを立て続けに発射して天井を破壊し、落盤でチェイサーの行く手を阻むディーラーの活躍もあり、彼等は無事に地下迷宮を脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュフ!デュフフッ!デュフフフフッ!まだかなまだかなー、ヴェルデューゴ氏は何時になったらエウリュアレ氏を連れてお戻りになるかなー。デュフフフフッ」

 

 

迷宮の島より少し離れた海域で浮かぶ海賊船にて、一人の男が気持ち悪い笑みを浮かべて仲間の帰還を待っていた。見た目こそ異形なれど文句ひとつ言わず(元より喋らないが)命令を聞いてくれる頼もしいサーヴァント。もう一人召喚した男のサーヴァントも十分に強いが、エクストラクラスで召喚されたあちらの方がよっぽど役に立つので、完全な信頼を以て男は、変な妄想で顔を赤らめながら帰還を心待ちにしていた。

 

 

「…いつも思うのだけどさ。生きていて恥ずかしくないのかな」

 

「もう、メアリー。駄目ですよ、そういうことを言っては。ミミズだってゴキブリだってペスト菌を保有したネズミだって、生きているのよ?このサーヴァントだって、生きていていいのです。私は許します」

 

「うふぉぉうw これはキツキツのポイズントークでおじゃりますなwwwひっふひっふwアン氏は何時もソフトに締めてくるでござるwww拙者ナイーヴだからして、そんなことを言われた日には二人をチョメチョメしちゃうですよ?(なんちて)」

 

「…やっぱり殺そうよ、アン。アイツ、この世に居ちゃいけない奴だよ」

 

「だ・め・よ。遠くから見ている分には有害で不快で臭いだけで済むでしょう?そんなに黒髭の男が嫌いならば、もうお三方のお髭を見て癒さればいいのです」

 

 

そう言った色々大きい女性の言葉に色々小さな少女が視線を向ければ、クルーと混じる明らかに異質な髭の三人が。

 

 

「ウガァアアアアッ!」

 

「オジサンを見てもなにも出ないよ?これホント」

 

「はあ…船長。アンタはもう少し真面目にしていればちょっとは好かれると思うんだがなぁ俺は?」

 

「ダマラッシャイ!イケオジのパーカー氏は黙ってちょ!デュフフフッ、これは黒髭たる拙者の在り方故、そう簡単にはやめられないですぞー!」

 

「…船長がいいならそれでいいんだよ。まったく…」

 

 

血斧王が咆哮を上げ、トロイアの英雄がめんどくさそうに視線を逸らし、そして無名なれど確かな実力を持つ潜水スーツを着た男の言葉に吠える男、改め黒髭ことエドワード・ティーチ。

 

彼等は黒髭海賊団。主に船長の趣味でエウリュアレとおまけで(というか本命の)ドレイクの持つ聖杯を付け狙う愉快な集団である。愉快ではあるが戦力はガチの面子である。

 

 

「失敬失敬。せっかくヴェルデューゴ氏と一緒に何も言わずに仲間になってくれたパーカー氏に免じて真面目モード………インッ、でござる!ふひょぉぉぉぉぉぉぉ!と言う訳で我が同胞(はらから)たちよ。ペロマニア至宝の女神(ミューズ)エウリュアレ氏をいただきに参りましょう!あ、あとついでにBBAが生意気にも持っているアレもね!」

 

「おいおい。そっちがメインだろ船長」

 

「うふふ。まったくパーカーさんの言う通りですわ、バカ船長」

 

「駄目だ、エウリュアレの事しか頭に無いよ。しょうがない、気は進まないけど僕達で気を付けよう」

 

「ドゥフフフフゥ!いいよね、エウリュアレ氏!僕は大好きだなあ!さあメアリー・リード氏!アン・ボニー氏!エイリーク血斧王氏!パーカー・ルチアーニ氏!そして僕達の先生ヘクトール氏!トロイア戦争の大英雄である貴方様がいれば百人力つまり百馬力!早速ヴェルデューゴ氏と合流しますぞ!」

 

「あー…アンタがべた褒めするのはいいけどオジサン、見ての通り負け犬だからね。まだそちらのパーカーさんを頼った方がいいからね。これホント」

 

「まあ背中は俺に任せておきな。きっちり守ってやるからよ」

 

「…じゃあよろしく頼んますよ」

 

 

何故か一触即発の雰囲気を出して睨み合うパーカーとヘクトールに首をかしげるアン&メアリー。それを余所に黒髭は一人不気味に気持ち悪く笑っていた。

 

 

「デュフフフフ。お二人共!喧嘩する程仲がいいのは結構でおじゃるが、おにゃのこ同士じゃないと面白くも何もありませんな!腐女子歓喜ですぞ!」

 

「…なあ。本当にこの船長で大丈夫なのか?」

 

「…オブライエンと同じタイプだと信じたい」

 

「ノーコメントでお願い。アンの青筋が切れる五秒前」

 

「ですわーっ!」

 

「ちょっ、待ってアン氏。それは死ぬ死ぬwマジで殺す気ですなーwデュフフフフッw」

 

「!」

 

「オカエリィイイイイッ!」

 

 

ひょっこり海から飛び出して帰還したところを出迎えたエイリークを余所に飛び交う弾丸をひょこひょこ動きながら避ける黒髭に、無言で視線を向けながら赤いローブ姿になって律儀に待機するチェイサーことヴェルデューゴ。……今日も黒髭海賊団は平和であった。




第三特異点はアビス系がメインだと言ったな。ラスボスの都合上プラーガも出るよ!

そんな訳で黒髭海賊団のクルーとして登場、ヴェルデューゴとパーカーさん。前者は皆のトラウマクリーチャー、後者は頼れる相棒キャラ。どちらも大好きです。いきなりの参戦ですが共に今後の展開上いなければならない存在なのでここで出しました。
ちなみにヴェルデューゴは元々ロンドンで登場予定でしたがプロットが酷い事になったので繰り上げました。

自らの宝具の中で追い詰められる羽目になったアステリオスとエウリュアレも登場。前回までのクイーン・ディードだったらアステリオスは完全に終わりでしたがやられた相手がプラーガ系のヴェルデューゴなので問題ないです。原作と違って主人公たちと戦わずに済んだ上にダメージも救急スプレーで全回復。アステリオスの健気さが少しでも出せてればと思います。

今章きってのギャグ要員として颯爽登場、黒髭。書きやすそうでそうではない彼のキャラは難しい…ちなみにエイリークは立香達と邂逅していません。マイクのおかげで海図いらずのカルデアです。

次回はVS黒髭海賊団の大乱戦。黒髭の魔の手が迫る…?次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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油断大敵だぜストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、バイオ7の黒幕やファミパンおじさんが何故か気に入ってしまった放仮ごです。ああいうの好き。本気で怖いBBAだけはお呼びじゃない。

今回はVS黒髭海賊団。メディアさんがついにディーラーの力を借りて本格参戦。決して侮れない黒髭に立香達はどう挑むのか。楽しんでいただけたら幸いです。


迷宮の島から脱出後、聖杯の手掛かりを探して次の島を目指し海に出たカルデア一行。アステリオスにオルガマリーがビビったりしたが、ドレイクの一括で海賊たちにも受けいられ、順調な航海を続けていた。

 

そんな中エウリュアレから、ヴェルデューゴを差し向けた張本人である海賊のサーヴァントに「自分が可愛いから狙われている」と伝えられ、そのサーヴァントが今回の聖杯の持ち主ではないかという結論に至った。至ったからと言ってもどうしようもないと途方に暮れていた立香達に、先を進んでいたマイクから攻撃されたと報告を受け、襲ってきた海賊船…即ち、黒髭の海賊船と邂逅した。

 

 

どうも、クイーン・ディードに出くわす前にドレイクも襲われたらしくリベンジに燃える彼女が吠え、対する黒髭は「BBAの声など聞こえない」を始めとした変態的罵倒で煽りに煽られ、ついでにエウリュアレにも「ペロペロしたい踏まれるのもいい」などと気持ち悪い笑顔で言いのけ、ついでにマシュまでもを許容範囲だと騒ぐ伝説的な大海賊に頭が痛くなる立香達。

 

 

「…どうします所長?マシュの精神が病み始めてるんで逃げたいんですけど」

 

「全くの同感だけど後ろにいるのは間違いなくサーヴァントだし、聖杯を持っている可能性もあるし…」

 

「おや!これは何とも魅惑のマーメイド…ではなく何ともスーハーしたくなるタイツ!そこの銀髪娘もドストライクですぞ!」

 

「…アルトリア、宝具」

 

「金ピカ王に言い寄られた私としては気持ちは分かりますが落ち着いてくださいマスター。もし聖杯を持っていたら一緒に破壊してしまいます」

 

 

イラついて指示をしたマスターを宥めるアルトリアにねっとりとした視線を向ける黒髭。それに気付いてディーラーが銃口を向けるが、次にその口から出た言葉に驚いて静止する。

 

 

「ふむ?アルトリアとな?どう見てもくっころが似合いそうな騎士様で如何にもな鎧、不可視の風に纏われながらも動作から持っていると思われる得物…床に付かない長さから見て剣でおじゃるか?

そして少女の身でアルトリアとくれば、ジャンヌ・ダルクではないと言う事は、聖剣を抜き成長が止まって少年王と謳われたアーサー王の可能性が!?男装美少女だったとは萌え萌え~ですな~(テレテレ)

同じ顔の後ろの二人もその関係者か何かですかな?だとすればモルガンかなモードレッドかなそれともアーサー王の別の側面かな?何にしてもどちらもレベルが高い上に水着でメイド、きょぬーツインテとは実にそそるでおじゃるよwデュフフフッww」

 

「なっ…!?」

 

 

そうつらつらと述べた黒髭の言葉に驚愕する面々。最後のが変態過ぎて分かりにくいが、その前半部分は無視できない発言だった。

 

 

「先輩、あのサーヴァント…アルトリアさんの真名を…」

 

「馬鹿な、聖剣を晒してもいないと言うのに看破しただと…!?」

 

「…さっきのマシュへの「名乗らなければ夢で見る」という変態的言動も、真名を晒し出させるため…!?」

 

「ちっ、馬鹿で変態に見えて策士か。厄介な野郎だ…!」

 

「おっと!アン氏の銃に比べたら屁でも無いクソエイムでは拙者には当てれませんなーwデュフフフフッ」

 

 

不意打ちとも言える、一旦戦意喪失して下ろしたと見せかけた直後に発砲したハンドガンの弾丸を、ひょろっと動くだけで避けてしまった黒髭に立香達は確信する。このサーヴァント、油断ならないと。

 

 

「まあまあwおちけつおちけつw拙者たちはエウリュアレたんとBBAの持つ聖杯さえもらえれば干渉するつもりはないでありますからしてー…あーつまりは、君達に勝ち目はないから無理しないで大人しく降参してちょ?そしたら見逃してやるよ~?」

 

「言ってくれるな。ヴェルデューゴがアンタのサーヴァントなら納得だがな」

 

「おや、マスターでもないのに真名を知られちゃってるとはまさかお仲間ですかな?」

 

「言っとくが俺の真名は知ったところで得はしないぞ」

 

「バレてたかーwしかしお主とそこのデカいの、ちとハーレムすぎやしませんかね?こちとら頑張って召喚しても呼べたのはマッスルとイケオジとよく分からない怪物ばかりで、ここにいるお二人しかおにゃのこはいないのでおじゃるのにー。うらやまけしからんですぞ!」

 

「本当、召喚されるんじゃ無かったよ」

 

「まったくですわ」

 

 

パンパンと、無言で立香とオルガマリーとメイドオルタも加勢したハンドガンの雨を避けながら煽りまくる黒髭を眺めながらアンとメアリーがぼやく。船長がヘイトを稼いで囮役に徹しているが、まだ全然距離が離れているので迂闊に攻め込めないため全くの無駄である。大砲が撃たれるよりはマシだが。

 

そんな攻防が続いていると、「BBA」と言われてからずっと精神が死んでいたドレイクが覚醒した。

 

 

「…撃て。大砲。全部。ありったけ」

 

「あ、姉御?」

 

「いいから。撃て。さもないとアンタ達を砲弾代わりに詰めてから撃つ」

 

「ア、アイアイ…マム!」

 

「あれ、BBAちゃん?おこなの?げきおこなの?ぷんすかぷん?ずっと黙っているからボケてしまったと心配したでおじゃるよーwww」

 

「船を回頭しろッ!あんのボケ髭を地獄の底に叩き落としてやれェェッ!」

 

 

ブチ切れるドレイクの指示で船が速度を増し、船体が揺れた事でハンドガンの応酬が止んで一息吐いた黒髭は、ずっと後ろで待機していた狂戦士と追跡者に一声告げた。

 

 

「あらやだ怖い。んー、ヴェルデューゴ氏、ブラッドアクス・キングさーん」

 

「…」

 

「ギギギ…」

 

「ちょいとBBAの船から聖杯取ってきてくれない?なんか邪魔が入りそうですが念には念を入れて二人なら余裕でござるよね?その間に、拙者はエウリュアレたんをペロペロする人類の義務に勤しんでくるから!」

 

「…(コクッ)」

 

「コロス!コロスゾォオオオオッ!」

 

 

黒髭の指示に頷き、咆哮し、跳躍してドレイクの船に乗り込んでくるエイリークとヴェルデューゴ。異形が並び立ち、クルーたちが応戦しながらも逃げて行く中、オリオンを肩に載せたオルガマリーが前に出た。

 

 

「二人共!」

 

「はい!」

 

「暴れるぞ!」

 

 

オルガマリーの指示でアルトリアとネロが同時に飛び出して、それぞれエイリークとヴェルデューゴと衝突。ネロの拳でヴェルデューゴを海に突き落とす事に成功し、海面に飛び降り追撃を行なうネロを余所に、巨大な斧を振るうエイリークと、それを軽やかに避けながら剣戟を叩き込むアルトリアに、加勢しようとした立香を止める手があった。

 

 

「…立香、あの史上最低のフナムシがこっちに来ないようしっかり私を守りなさい、いいわね?援護ぐらいならするから。アステリオスは加勢しなさい」

 

「う、ん…!」

 

「分かったよエウリュアレ。みんな、気を付けて!」

 

「来るぞストレンジャー…構えろ!」

 

 

双方共に突撃した事で接舷し、大砲の撃ち合いを始める黄金の鹿号(ゴールデンハインド)アン女王の復讐号(クイーン・アンズ・リベンジ)

乗り込んでくる海賊たちを、マイクの援護も加えて己のサーヴァント達と共に迎撃しながら、立香は勝ち目の薄さを実感した。英霊とそうじゃない人間の船では圧倒的にポテンシャルが違うのだ。この状況を打破する策を考え、一つ思いついて後方から援護するメディアに近付いた。

 

 

「…メディアさん」

 

「何かしらマスター?ああ、竜牙兵を出したいなら魔力を回しなさい」

 

「そうじゃなくて……あれ?そう言えばディーラーは何処に…」

 

 

例にもよって何時の間にか自分のサーヴァントが消えていた事に気付いたが、状況はどんどん悪化の一途を辿った。

 

 

「早速乗り込みますぞ、皆様方!先んじたお二人に続きましょうぞ!黒髭組、ふぁいと、おー!」

 

「…僕達はやらないからね」

 

「自害せよと令呪で命令された方がマシですわ」

 

「そんなに拙者の部下がイヤなの!?」

 

「「うん」」

 

「あー、船長?俺は、一応イヤじゃないぜ。ほら、真面目に真面目に」

 

「やってくれないパーカー氏に好かれても嬉しくないもん!」

 

 

言いながら、乗り込んでくるドレイクの部下たちを殴り飛ばしていく黒髭に続いて迎撃するパーカーとアンに、ゴールデンハインドに乗り込むメアリーとヘクトール。すると上空から何者かが来襲し、黒髭の顔面にモップを押し付けそのまま頭から床に叩き付けた。

 

 

「ぶへえ!?」

 

「行儀の悪いぞ黒髭!どこが悪い!?そこか! そこか!」

 

「ちょっw、そこは駄目ッw」

 

 

そのままゲシゲシと蹴られて何故か喜ぶ黒髭を足蹴にしているのはメイドオルタ。

即座に反応したパーカーとアンが各々の武器を振るうも、それはドレイクの船から放たれたメディアの紫の雷撃により妨害され、さらに黒髭の髭を掴んで奥の船長室にぶん投げて追撃するメイドオルタから距離を離すように銃撃が襲い掛かる。上空を、ヘクトールでさえも気づかない様にマイクのヘリが旋回して的確に援護をしていた。

 

 

「やるねえあちらさんも。こりゃオジサンもちょろっと本気を出すしか無い様だ」

 

「おいおい。最初から出しておけよ大英雄?欠伸ばっかして寝不足か?」

 

「アンタこそ、ありゃアンタの専門だろうに。接近を許すんじゃあねえよ」

 

「そりゃ悪かったな。こっちは船長たちの背中を守るので精一杯なもんでね」

 

 

ヘリの銃撃を手に持つ槍で防ぎ切ってしまうヘクトールと、襲ってくるドレイクの部下等をラリアットで海に突き落としながらハンドガンを手に応戦するパーカー。そんな二人を他所に、マスケット銃を構えたアンが黒髭の連れ去られた(?)船長室に向かおうとする。

 

 

「メアリー!しばし援護はできませんわ!一応船長だから変態でもアレは助けませんと…!?」

 

「行かせないわ。転移でいつでも乗り込めるのに皆せっかちよねえ?」

 

 

しかしその行く手を、転移して来たメディアが阻む。見ると、メアリーとヘクトールもマシュ、アステリオス、エウリュアレの参戦で押され始めていた。手が空いているのはパーカーぐらいだと思えば、こちらはこちらでドレイクと銃撃戦の真っ最中だった。

 

 

「…数が多いそちらは有利ですわね。この船の真価も全く発揮できない模様で」

 

「そちらの戦力をうちの優秀な魔術師さんのサーヴァントが足止めしてくれているおかげね。マスターの有無って意外と大事なのよ?」

 

「それで、魔術師風情が一人で私に太刀打ちできるとでも?」

 

「生憎、一人じゃないわ」

 

 

そう言ったメディアが手をかざし、召喚したのは竜牙兵。数は、ざっと30。他の黒髭の手下の足止めもできる程の戦力に、息を呑むアン。

 

 

「まさか、卑怯とは言わないわよね?」

 

「…ええ。これでも、多数相手は得意ですの。…メアリーが居れば背中は安全なのですけど」

 

「それ、転移する前に貴方の相方も言ってたわ。仲いいのね?」

 

 

さらにメディアが取り出したのはディーラーから頂戴したマシンピストル。この日、アン・ボニーは初めて目にする銃撃に圧倒される事となった。

 

 

「さあ、文字通り指先一つで仕留めてあげる。苦しんでもらおうかしら?」

 

 

魔術で軌道修正された弾幕の嵐が、竜牙兵と共に襲い来る。逃げ場のない状況に、アンは心の中で黒髭を助けようとするんじゃ無かったと毒づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船の上で、海の上で、船内で。斬り合い、撃ち合い、殴り合う。戦闘、喧嘩、どちらの言葉でも正しい、敵か味方か分からなくなってくる乱戦。

双方互角の攻防戦。この戦いを一言で纏めればそれが正しい。拮抗していると言う事は逆に言えば何か暗躍するチャンスでもある。オルガマリーの指示で、メイドオルタのパーカーに入って来たオリオンは、ひっそりとメイドオルタと黒髭が殴り合っている船長室から抜け出して、火薬庫を目指していた。

 

 

「さあて、さっさと仕事しますかね。アルテミスがいれば搖動は完璧なんだろうけどなぁ…まあしょうがねえか」

 

 

海賊と竜牙兵と海賊が斬り合うどこか異様な光景をすり抜けながら、オリオンは火薬庫を目指す。彼の負ったミッションは、火薬庫を爆発させて混乱に陥らせる事。宝具だと思われる船に勝つにはこれしかないと言うオルガマリーの判断だ。

一番の不安であった敵サーヴァントは、全員誰かサーヴァントかドレイクが足止めしている為、黒髭の部下の海賊たちにさえ気を付ければ無力の自分でもなんとかできる、はずだった。

 

 

「おい、何処へ行くお前?」

 

「!」

 

 

行く手を銃撃で阻まれた上で声をかけられ、振り向く。そこには、ドレイクと撃ち合いしていたはずのパーカー・ルチアーニが斧とハンドガンを手に立っていた。

 

 

「な、なんで…?」

 

「あちらの船にヴェルデューゴが乗り込んで俺の相手をする余裕がなくなったらしい。今日の俺はツイてるな。ええ?」

 

「…で、俺をどうするんだ?」

 

「そりゃあ、あっちに戻すしかないだろう。俺は船長を助けに行かないとな。生かしてやるだけありがたいと思えよ?」

 

 

そう言って逃げようとしたところをむんずと掴まれ、斧でホームランの如く送り返されてしまうオリオン。それによる混乱を好機に、戦況は少しだけ黒髭側に傾く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拙者、殴り合いなら負けませんぞ~!」

 

「くそっ、でたらめな癖に強い…!?」

 

 

モップによるリーチの懐に潜り込まれ、黒髭の連撃に苦戦に強いられていたメイドオルタ。室内であることを利用して近くの物を片っ端から叩き飛ばしているのだが、それすらも軽くジャブで防いで拳と蹴りの連打を繰り出してくる黒髭は、ライダーにクラスチェンジして中距離特化になったメイドオルタでは戦いにくい相手だった。

 

 

「デュフフフッ、実に戦いにくそうですなw…外の戦いならばそれこそ無双でありましたのにな残念ですぞww」

 

「貴様、分かっていて私をここに…!?」

 

「さあ、何の事やら。ここに飛ばしたのはメイドさんでしょうに」

 

「ちっ…なめるな!」

 

 

状況を打破しようと、牽制のために銃を構えるメイドオルタ。しかしその銃が高威力の何かに吹き飛ばされ、ジンジンと痛む手を押さえながら発砲音の鳴った入り口を見る。そこには、異様に長い銃身を持ったマグナム・ペイルライダーを構えたパーカーがいた。

 

 

「悪い、遅れた船長。ここは任せてアンタはさっさと目的を果たして来い」

 

「ちょっ、遅いですぞパーカー氏wあんなに分かりやすいサインをしておいたのにw」

 

「モップで虐められていた時にしていた人差指か?…ありゃサインだったのか、てっきり罵倒かと…アメリカとは違うんだったな、すまん」

 

「貴様…私が行かせるとでも?」

 

「メイドなんかに負けたら男が廃るって物だよな!」

 

 

そう言って手に持ったハンドアックスを投擲したパーカーの攻撃を咄嗟に右に横転して避け、同時に放たれたペイルライダーの銃撃もくるりと一回転して避けながら飛ばされたセクエンスを回収し、立ち上がって振り向いた時には何時の間にか回収した斧を手に振り上げ突進してきたパーカーの姿が。

 

 

「オラッ!」

 

「ちっ…」

 

「では拙者はこれにて。ではまた今度ねメイドさ~ん!」

 

 

振り下ろされた斧を何とかモップで受け止めるも押し潰され、その間に黒髭に逃げられてしまう。敵の首魁をマスター達の元に向かわせてしまった事で焦り、鍔競り合うモップを両手で押し上げて蹴りを叩き込むも易々と回避され、お返しにパーカーの強烈なパンチを受けて後ずさるメイドオルタ。

 

 

「…貴様、クラスは何だ?」

 

「何の因果かバーサーカーだ。別に狂っている自覚は無いんだがね」

 

「いいや。モップを武器にするか弱い女である私に平然と斧で斬りかかってくる。…これのどこが狂ってないと?」

 

「そうだな。最高のパートナーが強い女だったから麻痺してんのかもなあ!」

 

 

強烈なスイングを、飛び上がってモップを手に急降下して突きを繰り出す攻撃で倍返しするメイドオルタはそのままモップで床を掃除する様に突撃。たまらず横に飛び退いたパーカーにセクエンスを乱射するも、避けてから同じく手にしたハンドガンを乱射され、モップを回転させて防ぎ切るメイドオルタ。

 

 

「どうやら銃の腕前は俺に一夕の長があるみたいだな。素人が銃を握るものじゃないぜ、メイドさん?」

 

「それは認めざるを得ないな。さっさと倒させて奴を追いかけさせてもらうぞ、奉仕の途中だったのでな」

 

「そりゃ船長も残念がる、散々だな。…続きのお相手は俺なんかどうだ?」

 

「ほざけ!すぐに片付ける」

 

「ようし!一丁やるか!」

 

 

一進一退互角の攻防を繰り広げた両者は各々の近接武器を構え、再びぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ゴールデンハインドの船尾に飛び乗った黒髭は、ほとんどの者に知られる事無く戦況を観察していた。

 

 

「エウリュアレ氏はどこかな~wしかし拙者w船長なのに誰も相手してくれないってひどくね?w…ねえ、そこの人もそう思うでしょ?w」

 

「変態なんかとわざわざ戦うのは俺の様な物好きぐらいだろうぜ。ああ、セイバーオルタの奴はストレンジャーのお願いだったか。アンタの事だ、ライダーの癖して気配遮断もどきでも使ってここに来ると思っていた」

 

 

そう言って、物陰から現れたのはシカゴタイプライターを手にしたディーラーであった。元々周囲に溶け込む事は慣れていたからの芸当だった。立香にはばれていたが黒髭対策だと念話で伝えて納得させた。それほどに、この黒髭と言うサーヴァントをウェスカーと同じく油断ならないと評価していた。

 

 

「俺はアンタみたいにふざけている癖して優秀だった男を知っている。まあそいつはサドラーに殺されたが、アンタもその類だろう」

 

 

自分と同じくレオンの助けになろうと奮闘し、サドラーによって殺された自称超能力者を思い出して笑む。あれにはレッド9を売ったが、レオン以上の腕前で使いこなしていた。一人でサラザール城の中腹まで来ていたというのだから腕前が窺える。この黒髭からは同じものを感じていた。

 

 

「そう言うのは一番厄介だ、行動が読めない。まだまだ半人前なストレンジャーには相手が悪すぎるし、オルガマリーも手一杯だ。どんなにふざけていてもアンタは極悪非道の海賊のイメージを決定づけた男だ、誰かが対処しないとなあ。そうだろう黒髭?」

 

「おぅふw拙者なんかを過大評価し過ぎですなwではでは黒髭らしく黒髭らしく…これより、強奪略奪の時間。即ち、子供は寝る時間ですなぁ!デュッフッフ、こんな感じー?」

 

「…俺が子供か。なめられたものだ」

 

「だってそうでしょ?パーカー氏と同じタイプだと思っていたけどただの商人みたいですしー?w海賊にとって商人ってカモ同然でおじゃるよ知ってた?wヘイヘーイピッチャービビってるーw」

 

「ウェルカムだストレンジャー。地獄を見せてやる」

 

 

カチンときたディーラーが引き金を引くよりも速く、黒髭の手に握られたピストルが火を噴いた。最期にディーラーが見たのは、相変わらずふざけた悪い笑みを浮かべながらも、信念を持ってぎらついた男の目であった。

 

 

「油断大敵ですなーwデュフフフッw」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、そうだね」

 

「ぐはーっ!?」

 

 

下から飛んで来たロケランが直撃し、海に吹き飛ぶ黒髭。海に落ちる瞬間に見たのは、自分の船とは反対側のゴールデンハインドの死角、船に続く梯子のすぐ傍に浮かぶ流氷に乗ってロケランを手にしたオレンジ髪の少女と、その隣に立つディーラーがこちらに向けて何かを投擲した光景。

 

 

「天下の黒髭に一人で挑む阿呆がいるか」

 

「今のはマシュの分。これはエウリュアレの分だー!」

 

「ホンットーに油断大敵ですなー!?」

 

 

直後に海に投げ込まれた電撃グレネードの電撃が襲い、黒髭の意識は暗転した。




何が難しいって黒髭の口調が普通に難しい。パーカーをイケオジに書くのも難しい。なんでかっこいい髭の人は文章にするのが難しいのか。

それに対してメイドオルタはらしく書けたかな、と。水着メイド何て言う特殊な趣向、黒髭が見逃すはずなかった。メイドオルタは中距離戦や遠距離戦が強くなった代わりに得物の関係上近距離戦が苦手に。しょうがないね。
対してアルトリアは原作を意識してバーサーカーと一対一で対決。圧倒してます。士郎がマスターじゃなければ普通に強い気がする騎士王です。ネロの方は逃がしてしまっていますがヴェルデューゴを一人で足止めできただけでもデカい。

メディア+マシンピストル=弾丸の檻。軌道を操れるって最強じゃね?と。いくら跳弾を得意とするアン・ボニーでも楽には勝てない相手を考えたらこれしかありませんでした。

パーカーはペイルライダーの他にも、特殊兵装をいくつか有していますが宝具は斧です。何でバーサーカーかというとクラスがそれしか思いつかなかった。狂化ランクはEで、好戦的なぐらいです。相手が相手ならば有利に立ち向かえますがバイオ系サーヴァントの例も漏れず、正面きっての戦闘は苦手です。クリーチャー系はそうでもないんですが。

カルデアに男性サーヴァントが少ない分、色んな女性サーヴァントがいる為テンションが最高潮で何時にも増して強い黒髭氏。何気に某アラフィフ並みの変態推理でアルトリアの真名を看破していると言う。さすがにメイドオルタが同一人物とは分からなかった。
ディーラーVS黒髭、これは決めていました。商人って海賊からしたらカモ以外の何物でもありません。しかしそれを見越して立香も協力した騙し討ちで撃退。黒髭らしい負け方かなーと思ってます。流氷が何処から来たのかは勘がいい人は気付いてそうなので黙って置きます。

次回は竜の材料なんていらなかった決着戦(これがアルテミス早々退場の理由だったりする)。VSヴェルデューゴ&エイリーク、そして…?次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ウェルカム、ディーラー(番外編)

ヴェルカム!ストレンジャー…どうも放仮ごです。今回は予定変更して初の番外編となります。
一言評価で「主人公が感情移入できない」という意見をもらい、ディーラーのことか立香のことかオルガマリーのことか分からなかったため、元々書くつもりだった日記形式の藤丸立香の独白を徹夜で書いてみました。

時系列は四章後なのでちょっとしたネタバレがありますが、ネタバレしないネタバレなのでご安心ください。


2016年〇月△日 藤丸立香

 これから特異点を修復する旅が始まるので今日から日記を付ける事にする。快適な雪山での夏休みのバイトだったはずなのに、初日から爆破テロに巻き込まれ、色々あって人類最後のマスターというものになって人類の存亡の鍵を握る羽目になった。

 バイオテロじゃなくてよかった、私一人で人理修復するとなったら、絶対にできないと自殺する自信がある。さっき召喚に応じてくれたのに自害させてしまったチェイサーに処刑してもらうのもありかも知れないとマテリアルを見たら思う。

 

 今はもうどうでもいいが、結局生き残ったオルガマリー所長もマスター適正があったらしいので人類最後のマスターではないと主張するとダ・ヴィンチちゃんに「オルガは厳密にはゾンビみたいなものだから生者としては君が人類最後のマスターで間違いない」と言われた。ゾンビと言われた所長が泣いてたので宥めた。可愛い。

 

 マシュ・キリエライトという自称後輩と、武器商人だと言うディーラーの二人が新米マスターの私を守ってくれるサーヴァントだ。これからは二人を支えて行かないといけない。頑張ろう。最初の特異点はフランスだ。凱旋門とかエッフェル塔とかあるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

2016年〇月✕日

 フランスの特異点を修復したのはいいけど、最後に戦ったディーラーの宿敵オズムンド・サドラーの宝具でT‐ウイルス以外の物に感染…というより寄生されたらしい。もしもの時の為とディーラーとダ・ヴィンチちゃんが作成していた機械で何とかなったが、私もガナード…ゾンビの様になっていたと思うとゾッとする。

 ディーラーもガナードだが、商人魂の様な物で自我を残すような芸当は、そんな信念を持たない私には荷が重たかった。ディーラーによるとマシュならば自分と同じように耐えられる精神を持つのだとか。やっぱりマシュは凄い。

 

 ところで、サドラーの宝具なのに奴が倒された後でも何で私達に残っていたのかとダ・ヴィンチちゃんに聞いて見たら、何でもプラーガ自体が宿主の魔力を媒介に文字通り寄生する宝具の様だ。本人が死んでも残るなんてバイオハザードにも程がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年◇月〇日

 ローマの特異点を修復して来たが、今回は本当に全滅を覚悟した。ウイルスを投与され変異したサーヴァントが現れたのだ。改めてウイルスの危険性を理解できた。正直、レフ教授の変貌した魔神柱?なんか比でもないぐらいに脅威だった。

 ダ・ヴィンチちゃん曰く現代に幾度となくバイオハザードが起きたこのクソッたれな世界だからこそ召喚される現代のサーヴァント達の影響らしいので、あんなのがこれからも出て来るとなると気が滅入る。

 

 ああ、それと。巻き込まれただけのあの時とは違う、バイオハザードの元凶だとも言えるサーヴァントとも遭遇した。アルバート・ウェスカー。ろくに話もできなかった上に所長と違って興味がないとも言われた。多分アレは私の天敵だと思う。もし彼がカルデアに召喚されでもしたら理由を問い質した上で一発殴る。

 

 私のミスで殺されてしまったアシュリーとマイク/カークは許してくれたが、私としては悔やまれる。これからは積極的に戦いに参戦して援護しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年✕月△日

 恐らく史上最悪とも言える魔窟だった第四特異点ロンドンにて、人理焼却の首謀者ソロモン王と邂逅した。新たに仲間になった彼女のおかげで辛うじて撃退は出来た物の、私とカルデアの完全敗北だった。

 

 今は自室でベッドに入っているが、罪悪感と無力感が過去最高に圧し掛かる。私は私が許せない。吐き気がする、悪寒が酷い。精神が病んでしまったのか、心配してきたマシュに皆の前で怒鳴ってしまった。死にたい。後でちゃんと謝らないと。どうにかしないと、このままじゃ人理修復も儘ならない。

 

 …そう言えば最近、ロンドンの途中辺りから感情を露わにする事が多くなってきた傾向がある。様々なウイルスが蔓延していたし何かに感染してしまったのかもしれない。ドクターに再度診断してもらおう。

 

 

PS

 マシュ曰く帰還してから私が話も聞かずに呆け顔をする事が多くなったらしい。確かに時折、監獄とその中で迫り来るクリーチャーの幻覚がフラッシュバックのように見える様になったがその時の状態だろうか?どうやら寝不足の様だ。悪夢しか見れそうにない。

 

 

 

 

 

 

2016年✕月▲日

 ソロモン対策のミーティング中、所長が、次の特異点は休めば?と心配して言ってきたが丁寧にお断りした。一人だけ安全なところにいるなんてできないし、所長とそのサーヴァント達だけに戦わせる訳には行かない。今までもギリギリだったんだ。また所長を見殺しにしてしまうのだけは嫌だ。

 

 そのためにも体を回復させなければ。今もベッドで横になってこれを書いているが、体調は酷くなる一方だ。彼女も心配しているし、これ書き終わったらロマンやダ・ヴィンチちゃんにまた相談しないと。ディーラーから青ハーブをもらうのもいいかもしれない。ハーブは正直苦手だがこの際しょうがないだろう。

 

 そうだ、今の弱った私なら、少し頼めば絶品だと言う金の卵をもらえるかもしれない。

 アレはセイバーオルタ曰く極上の卵らしいが、ディーラーの機嫌がいい時を見計らって頼まないと貰えない希少な物だ。卵ご飯にして食べれば元気がでるかも――~~~

 

【ここで文章が止まっている】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例えどんなことがあっても誰かを見捨てない。私は、もう守られたり助けられたりするだけは嫌だ。逆に助けて、戦って、一緒に生き残るんだ。

 

それが、11年前から私がずっと抱いてきた、我儘とも言える、守られるしかなかった無力な自分が許せない、心の底から渇望している原初の思いだ。

 

そんな我儘に付き合ってくれるサーヴァントがディーラーだ。私が誰かを助けるために、見捨てないために必要な、武器を与えてくれる武器商人。

 

 

 

 

 

私は一般募集でカルデアに来たけど、普通の一般人という訳ではない、だからって魔術の存在も知らなかったからオルガマリー所長の様に魔術師でもない。ロマンみたいに医者の様な特殊な職業でもない高校生だし、ダ・ヴィンチちゃんの様な英霊では断じてないごく普通の一般家庭の生まれで、ちゃんと高校にも通っているごく普通の女の子だ。……正確に言えば、5歳までは普通の女の子だった。

 

 

英霊エミヤを召喚して、彼の過去を夢で見て分かった事だけど、私と彼の過去、いや原点はよく似ている。ただ違うのは、記憶を失わなかった事と、恩人の(呪い)を引き継がなかった事、そして何よりも恩人が魔術師かそうでないか、だ。彼を助けた人物は魔術師だったから彼は魔術を習い、私を助けた人は海兵だったから私は銃の扱い方を学んだ。

また、私が全てを失った年が2005年で、彼の戦いが始まった年が2004年だったりするのも何かの縁か。そう言えば特異点Fも2004年だった。ここまで来ると運命すら感じる。

 

 

 

幼少時、忙しい両親が珍しく一緒に長期休暇がとれたため行われた初の海外旅行。アメリカ中西部の工業都市ハーバードヴィルの空港に訪れ、手続きに少しもたついたために巻き込まれてしまった惨劇。それが今の私の原点だ。両親ともに、ハーバードヴィル近くに存在していたラクーンシティの惨劇を冗談半分だと軽く考えていたのも原因だと思う。

 

それは、一人のデモ民衆がゾンビのマスクを被って上院議員を脅かしていた、という子供でも分かるおふざけの様子から発端した。本当にゾンビが客の中に紛れ込んでいて、止めようとして噛まれた警備員が感染しゾンビ化、さらに直後にゾンビの巣窟となって不時着した旅客機が突っ込んで来て一気にパニックが広がったのだ。

 

当時は本当に訳が分からなかった。逃げる途中で父が「こうなるなんて夢にも思わなかった」と謝罪しながら私達を逃がすために飛び出して行って、母と共に安全な場所を探す途中でゾンビ化した父と遭遇。襲い掛かって来た父に私が竦んでしまい、庇った母が噛まれてしまい、助からないと悟った母に私は無理矢理入れられた部屋の扉で分断されて、しばらく泣き叫んで母の声が聞こえなくなったところで死んだことを悟り、生きるために逃げ出した。

 

 

ダクトにも入ったし、銃声が聞こえて誰かが生き残っていると分かっても迂闊に近付いたりせず、ひたすら隠れる事に徹して逃げ回っていた。いっぱいいっぱいだったのだ。それに、誰かを頼って私を守って犠牲になるのをもう見たくなかったとも言える。途中、母親の声…とも言えない声が聞こえて思わず感極まって出てしまったが、ゾンビ化した両親を目の当たりにして後悔と絶望を感じ、必死に逃げた。母親を諦めきれなかったのは子供の性だろうか。

 

逃げて、逃げて、逃げて。時間も分からなくなった頃に、力尽きてゾンビに襲われそうになっていたところに、ようやく突入して来た海兵隊に発見され無事救助された。感染していたらしいT‐ウイルスもハーバードヴィルに研究所を誘致しデモの原因にもなっていたという巨大製薬企業ウィルファーマ社の支給したワクチンで事なきを得た。

しかし空港や研究所で起きたバイオハザードの首謀者がウィルファーマ社の主席研究員フレデリック・ダウニングだったと言うのだから打たれたワクチンに嫌悪した事もあった。…テレビで穴が開くほど見たその顔も忘れてしまったが、一度ぶん殴ってやりたいとは今でも思う。

 

 

 

そのまま元々親戚がいなかったため天涯孤独となった私は海兵隊の一人のところに預けられて6歳までの一年間を過ごし義務教育のため日本に帰国、施設に入って現在に至る。

だからちょっとだけ英語が喋れたりするのが小さな自慢だったりするが、正直に言うと両親がいない他、死生観が違い過ぎて冗談の「死ね」でも過剰に反応してしまう私は学校では割と浮いていた。

虐めにならなかっただけでもありがたいが逆に言うと干渉が無かったため、友人作りが苦手だ。

 

話せる後輩もマシュが初めてで、先輩と言われた時は何か感動した。その後に事故でマシュが死に掛けて、また絶望と無力感を味わった。所長が死んでいると聞かされた時にまず思ったのがウイルス感染だったのは正直許して欲しい。幽霊よりもゾンビの方が納得いく。

 

……所長の死に、最初そんな事しか考えられなかったのは、トラウマが刻み込まれている事からだと分かるが、カルデアスに吸い込まれそうになり助けを求める所長に手を伸ばす事しかできなかったのはきっと、死んでいるから見捨てるしかないんだと思ってしまったからかもしれない。

そんな偽善で手を伸ばした私と違い、しっかりと自分の意思を持って助けだし、生き返らせてしまったディーラーは本当に凄い。そんな彼の姿に憧れた。

 

 

 

あと、一般の日本人と違うのは、銃の扱いを一通り知っている事もだ。海兵隊の保護者から、ここ数年アメリカどころか世界中でバイオテロが頻繁に起きていると説明を受け、念のための護身用として、と銃の扱い方を習った。ハンドガン、ショットガン、マシンガン、ライフル。その内で握ったのはハンドガンだけだが、5歳の身ではそれでも十分すぎたと思う。

 

そんな私でも久々に握ったハンドガンは相変わらず重かった。今や片時も離さない相棒になっているハンドガン・マチルダはある程度知っていた私でも扱えたし、三点バーストでマシンガンの様に扱えるのも魅力的だ。でもこれは所長やマシュみたいな初心者だと無駄弾が出て直ぐに弾切れになる欠点があるため、ディーラーは最初から私が銃を握った事があると分かっていたのだろう。

後から聞いて見たら、「武器を求めたのに扱えない訳がないだろう?」と返された。私が求めたのは一人で私と所長を守ろうとしていたマシュを支えられるサーヴァントだったのだが…というか魔術の存在を聞いて私自身が戦うなどとは露にも思わなかったのではあるが…結果オーライだと言えばそうだ。銃を手に、後輩や上司を守れるなんて思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 

私にとって、ディーラー/武器商人は本当に頼もしいサーヴァントだ。すぐ自分が死ぬような作戦を立てるのが許せなくて毎度の如く怒っているが、決して私の前からいなくならない、と思っている相棒だ。…フランスでは冷や冷やしたが、結局生き残った。

 

マシュは私や皆を、身を挺して盾を手に守ってくれる。

 

セイバーオルタは私達の矛となってディーラーと共に敵を薙ぎ払ってくれる。

 

クー・フーリン、メディアさん、アシュリー、マイク/カーク、それに皆も私なんかの召喚に応じてくれた頼りになるサーヴァントだ。

 

その中でもディーラーは皆と違って、私を守ろうとしながらも、求めたら武器をくれて一緒に戦ってくれる。死んでしまうかもしれない無茶でも、必要となれば押し付けてくれる。それが私には嬉しいんだ。下がっていろと安全な所に入れられ守られるのは嫌だから。

 

マスターとしては間違っているかもしれないけど、皆だけに戦わせてそれを見守るなんてこと私にはできないんだ。守られるだけなのは嫌だ。戦うために必要な武器をくれるディーラーは、私の人理修復の旅には欠かせない。

 

マシュや彼を失ったら、私はもう何もできなくなるほど落ち込む。それは確信できていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独白をどうも、人類最後のマスター。そうか、先輩(・・)。それが貴様の抱く罪か。

 

傲慢、強欲、色欲、暴食、怠惰、嫉妬、憤怒。そのどれでもないがそれは立派な貴様の罪だな。その自覚はあるか、先輩?

 

 

ヒッヒッヒェ、いい武器があるんだストレンジャー。クハハハッ、俺と言うサーヴァントだ。不服か?

 

 

「…不服じゃないけど、全然似てないよ。巌窟王(アヴェンジャー)

 

 

奴に会いたいか?奴が居なくて心細いか?よろしい。ならば俺はこう言うしかあるまい。

 

待て、しかして希望せよ。

 

 

――――ヴェルカム!藤丸立香。悦べ、お前の願いは、ようやく叶う。




ついでに活動報告でもぼやいていた、書くかどうか迷っている監獄塔もちょろっと書いてみた。バイオキャラをいっぱい出せるので魅力的なイベントなんですよね…

僕の書く小説の主人公系キャラは大概過去に酷い目に遭っている件。これだからドSだと言われるんですね、今更自覚しました。今までのに比べたら立香はまだマシな方です。

そんな訳でディジェネレーションから派生した自称一般人、藤丸立香の独白でした。書いてみて分かりましたがこれ、確かに逸般人過ぎて感情移入できませんね。士郎以上に歪かもしれない。他人優先なのは士郎と変わりませんけど。
ちなみに本文でエミヤを召喚した、と書いてありますがそれはありえたかもしれない可能性の話です。召喚していたらめんどくさい事になると思います。ディーラー以上に運命的なサーヴァントです。こればかりは本気で偶然。ディジェネレーションを調べ直したら近い年だった。第五次聖杯戦争の2004年はバイオ4の時期。運命かな?

日記形式はかゆうま的なのが書けたのでこれで満足。好評だったらまた書こうかなと思います。まあ最後のは寝落ちなんですが。

誠意作成中の次回は予定通り、黒髭海賊団との決着戦です。意外と長くなったのでちょっと難航して書き直してたりします。どうかお待ちください。


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汝一切の望みを棄てよ、か?ストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、放仮ごです。DCで無事ヒロインを救ったらまさかのクラウザーの心情が明かされて4的な意味でワクワクする件について。

今回は色々難産でした。次の展開に移すために書かないと行けないシーンが意外と多い上に切る様な盛り上がりも無いから何時もよりだいぶ長めに、されど要所要所を切る事に。
力不足を感じる今回は黒髭海賊団との決着。今章最大の敵が出現します。楽しんでいただけたら幸いです。


(さて、どうしたものかねぇ)

 

 

男は悩んでいた。自身の本来の主から請け負ったミッションを完遂するためにいくつもの障害があったためだ。ターゲットは、一見ふざけているが切れ者である男。

 

 

(ふざけているくせにずっと銃を握っていて全く隙が無い。血斧王と女海賊二人だけなら混乱に乗じて出し抜けたんだろうけど、追加で召喚された二人があまりに面倒だ)

 

 

思い浮かぶは、何故かあの男を支持して常にその背中を見張っている、あの男からの信頼も得ているサーヴァント二名。片や己の槍が通じない文字通りの化物。

片や化物ではないにしても、あらゆる状況にも冷静に対処できる屈強なタフガイで熱血漢と、こちらもまた侮れない男。

 

特に後者…パーカー・ルチアーニは召喚された当初から己の事を疑い、ずっと見張って来た。あからさまな挑発までしてくるが、こちらもまた隙が無いのだから解せぬ。

 

 

「…まあ、とりあえずは」

 

 

己の槍を防いだアイアスの盾を思い出す忌々しい鉄壁の盾持ちのデミ・サーヴァントと渡り合う最中、幾度となく的確に味方には当てず敵だけに命中させるトンデモ技能の援護射撃を行い邪魔してくるヘリにこれまでの鬱憤を晴らすべく、デミ・サーヴァントを軽く吹き飛ばして復帰する僅かな時間の間に宝具を展開、構える。

 

 

「オジサンを狙うか、正しい判断だが無駄だ。友誼の証明…話し合おうじゃないか」

 

 

ヘリが自分に集中砲火しようと旋回するも、相手の戦意をある程度抑制し、話し合いに持ち込むことが出来るスキルを発動。ニッコリと笑みを浮かべ、こちらも隙を作り出す。本来ならば同盟を結ぶ際に使うスキルなのだが、こういう使い方もできる。

その隙が致命的だ。アーチャーではないと侮るなかれ。投槍ならば己に匹敵する者は一握りしかいないと自負している。

 

 

「標的確認、方位角固定。―――――不毀の極槍(ドゥリンダナ)。吹き飛びなァ!!」

 

 

腕から魔力をジェットエンジンの炎のように噴き出し、それに乗せて投擲。投擲された槍は圧縮された魔力を帯びて猛スピードで飛翔し、ヘリに直撃。着弾と同時に大爆発を起こし、撃沈させた。

 

 

「これで仕切り直しだ。オジサンはしぶといよ~?」

 

 

それが己の敗因だと気付くのにあと五秒であった。爆発で吹き飛んだヘリの破片は大概、ろくなことにならないのだと彼、ヘクトールは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分前

「ぐふぅ…これは強烈ゥ…」

 

 

チーン。という擬音がお似合いでプカーと海に浮かぶ黒髭を回収し、堅く縛り上げて見下ろすディーラー。

 

 

「…何で生きてるんだコイツ?」

 

「…あの上着に直撃したから…?」

 

 

見れば、吹っ飛ぶ直前まで着ていた上着が消えて上半身裸になっている。そう考えるのが妥当であった。

 

 

「……そりゃ運がいいというかなんというか。ああ、ストレンジャーはB.O.W.以外は殺せないんだったか、よかったな」

 

「倒さないといけない、ってのは分かっているんだけどね…」

 

「とりあえずこれで無力化は出来た。オルガマリーにも念話で伝えたから、コイツの宝具を気にする事無く立ち回れる筈だ。さっさと他のサーヴァントをやるぞ」

 

「メディアさんが念話で銃の方の女海賊を無力化したから今からネロの援護をするって。でもセイバーオルタが苦戦しているみたい」

 

「なら俺はそっちの応援に行く。ロケランを一つと、ハンドガンの弾倉50発と閃光手榴弾をいくつか渡して置くが、しくじるなよ?アンタを守るマシュは今かかりきりだ」

 

「分かってる。…今回は作戦だったからしょうがないけど、もう死なないでね?」

 

「自分から死ぬつもりはないぜストレンジャー」

 

 

そう言ってフックショットを使って黒髭の船に乗り込むディーラーを見送り、黒髭を縛った縄を手にずるずると引き摺った立香は少し考えてから、取り敢えず樽三つを纏める様にして縛り上げてロケットランチャーを背中に背負い、マチルダを手にしてちらちらと物陰から戦況を確認する。

 

 

「メディアさんが加勢して、状況はややこちらが優勢だけど海賊の皆さんも巻き込まれているのか…」

 

 

極力巻き込むのは避けたいところだが、船の上と言う特殊な場所での戦いではそう言う訳にもいかない。現在進行形で敵バーサーカーの攻撃でゴールデンハインドの床も破壊されているため、迂闊に回避する事も出来ないサーヴァント達は攻めあぐねている。どうにかしようと観察し、気付いた事があった。

 

 

「…アルトリア、それにネロ達も攻撃と防御力が、低下している…?」

 

 

エイリークにはあまり深く斬撃が通らず、逆にアルトリアの方がダメージが大きく頻繁にオルガマリーが治癒魔術をかけている事からそれが分かった。オルガマリーから魔術やらの知識をある程度得ていたため、それが呪術の物だと直感した立香は腕に付けた端末を起動する。

 

 

「…ドクター、聞こえる?」

 

『うん?何だい立香ちゃん。黒髭を縛り上げてしまったその手際はナイスだったよ』

 

「嬉しくない褒め言葉ありがとうドクター。それより黒髭がブラッドアクスと呼んでいたあのバーサーカー、どういう英霊か分かる?」

 

『恐らくエイリーク・ブラッドアクス。バイキングの王だよ。通称血斧王。奥様は魔女だとか…』

 

「多分、その魔女の支援呪術的なスキルをあのサーヴァントは使えるんだと思う。どうにかできない?」

 

『なんだって!?魔女グンヒルドの呪術なら侮れないぞ…だったら君の今着ている、アトラス院礼装の出番だ。“イシスの雨”のマスタースキルで呪術や魔術による弱体を打ち消せるぞ。でも一回使ったら数分使えなくなるから使い所が肝心だ。どうにかしてくれ』

 

「…本当にディーラーと違ってヘタレだねドクター」

 

『しょ、しょうがないだろ僕は戦闘に対しては素人何だから!』

 

 

モニターの向こう側でそう泣き叫ぶロマンに耳を塞いでいると、その後ろにダ・ヴィンチちゃんが現れた。

 

 

『なら、こちらからオルガと連絡して連携するってのはどうだい?物陰に居る君なら気付かれずに行使できる。そこがチャンスだ、あのバーサーカーはヴェルデューゴとか言うクリーチャーを除いても強敵だ。君の着ている礼装は癖があるが性能は随一だ。上手く使ってくれ』

 

「分かった。やってみる」

 

 

通信を終えて、黒髭が意識を取り戻してない事を確認して一息ついた立香。巨大な斧を振り回し、もはや高軌道で追い詰めるアルトリア以外を寄せ付けないエイリークを見やり、今自分にできる事を考える。

 

“イシスの雨”で対象の弱体を解除できる、“オシリスの塵”で対象への攻撃を一定時間無効化できる、“メジェドの眼”で対象の使用した魔術やスキルを使用できるように補助する。

 

考えて、思わず黙ってしまう。

 

何故着て来たかと言えば、単純に無敵に出来ると言うディーラーを守れるアドバンテージからだが、正直新米マスターの自分には使いこなせないと確信していた。

ならば武器はどうか。もはや使い慣れて来たハンドガンマチルダは狙いには当たるだろうがマシンピストルと違って敵を怯ませる効果はあまり見込められない。閃光手榴弾は下手したら視覚を潰したせいでむやみやたらに暴れ回って被害が増えそうだから却下。

ロケットランチャー、これはヴェルデューゴ用に残さなければならない。現在はメアリー・リードを圧倒的な遠距離砲撃で倒したネロとメディアの弾幕を水中で避けると言う神業を披露している怪物だ、確実に倒すためにも使えない。ではどうするか。

 

 

「せめて明確な隙があればなぁ…」

 

 

敵の黒髭と女海賊二人を倒せたのは僥倖だ。前者は消滅こそしていないものの気絶中で、後者はどちらとも自分の目で消滅を確認した。正直鬼畜な攻撃で攻めたメディアとネロが大人げないとは思う物の、マシュがピンチなので割り切った。

現在マシュは船首で敵の槍兵と渡り合っている。弱点であった自分がそそくさと離れた為に十分に戦えているがどちら共に守りに優れている為か攻めあぐねているらしい。

 

 

「コロスッ!コロスーッ!」

 

「アルトリア!?」

 

 

っと所長の悲鳴が聞こえ、そんな事を考えている間にアルトリアの体勢が崩れ、凶刃が振り下ろされる光景が目に入り、立香は咄嗟にアルトリアに向けて飛び出していた。

 

 

「えっと、えっと…そうだ、“メジェドの眼”!」

 

 

咄嗟にアルトリアに向けて魔術を使用し、かけていた伊達眼鏡のレンズが輝いてその輝きがアルトリアに伝達。オルガマリーと連携する予定だったが致し方なし。

 

 

「アルトリア、魔力放出!」

 

 

そう叫ぶと強制的にアルトリアのスキルを発動させ、魔力放出でエイリークの一撃目を弾き飛ばす事に成功。しかしアルトリアが立ち上がる間に、駆け寄るこちらに気付いたエイリークがこちらに向けて斧を振り上げ、それが振り下ろされる寸前、右掌を胸に当てて魔術を発動する立香。

 

 

「“オシリスの塵”!」

 

 

すると緑色に煌めく光の粒子が全身を纏ってエイリークの斧を弾き飛ばすも、衝撃に耐え切れず吹き飛ばされてしまう立香。

 

 

「がはっ…」

 

《後は任せたぜ、マスター》

 

(マイ…ク…?)

 

 

何とか目を見開くと、ちょうど投擲された槍が直撃してヘリが爆散している光景が見え、吹き飛んだヘリのプロペラがエイリークに向けて飛来、それを弾き飛ばした最後の隙を突き、跳躍してエクスカリバーを振り下ろしたアルトリアに、明らかに威力が落ちていると直感した立香は左手を掲げた。

 

 

「ッ…“イシスの雨”…!」

 

「っ、ありがとうございます立香。ハアァアアアアッ!」

 

 

そして急降下と共に振り下ろされた渾身の斬撃が、受け止めた宝具であろう斧の柄をも叩き斬ってエイリークの胴体を大きく斜めに斬り裂いた。

 

 

「コロス…チクショウ…」

 

 

それが決め手だったのか、消滅して行くエイリークを確認して立ち上がる立香。オシリスの塵のおかげで外傷はない。アルトリアがネロとメディア、それに何時の間にか加わっていたドレイクの加勢に行ったのを見届け、立香は肩を貸してくれたオルガマリーに笑いかけた。

 

 

「何とかなりましたね、所長」

 

「ええ、よくやったわ藤丸。でも無茶し過ぎよ。本来サーヴァントに使う魔術を自分に使うなんて。…マイクは無事かしら?」

 

「…さっき、後は任せたって念話が聞こえたから多分…」

 

『大丈夫。彼はちゃんとカルデアに戻ってきている。それと彼の情報だ、気を付けてくれ。あのランサーの使用した宝具はドゥリンダナ、トロイア戦争の大英雄ヘクトールだと推測される。人類史でもきっての智将だから一瞬の油断が命取りになるぞ!』

 

「すみませんマスター。ランサーを取り逃がしました」

 

 

そこへやって来たのは、傷だらけのマシュ。宝具を使用した後、新たに取り出した槍を振るったところに飛んで来たヘリのプロペラで視界が遮られたところに逃げられたという。それに答えたのは立香達では無く第三者の声であった。

 

 

「ヘクトール氏に撤退させるとはやりますなぁwイカにもタコにも半人前そうなマシュ氏がここまで奮闘するとはw拙者も予想外ですぞ~」

 

「なっ、アンタ黒髭!?」

 

「えっ!?縛り上げたはず…!?」

 

 

何時の間にか縛られたまま立香の背後にやって来ていた黒髭に、縛っていた樽を見れば、破壊された樽の後が。先程のヘリ撃墜のどさくさに紛れて破壊したらしい。

 

 

「まあまあwおちけつw拙者、スキルで何とか耐えただけで瀕死の状態でありますからしてーw直撃する寸前でコートを脱ぎ捨てたはいいけど爆発で吹き飛ばされた時はマスター氏の恐ろしさを垣間見た。しかして海賊の誉れで感電死は阻止ッ!我が新スキル、紳士的な愛が無ければこうして動く事もできず樽に縛られて海に捨てられるところでしたなぁw危ない危ないw」

 

「…女海賊二人と血斧王は倒したけどどうする?降参する?」

 

「MA☆SA☆KA!喜ぶのはまだ早いですぞwwwまだまだこちらの勝利は傾かないですなこれが。こちらにはまだ我が宝具と、我が令呪により強化可能なヴェルデューゴ氏がおりますからして~」

 

 

一応聞いて見るが真顔で返されてムカッと来た立香を無視して黒髭は縛られたまま高らかに吠えた。

 

 

「さあBBAの船を蹂躙しちゃってーw我が宝具!クイーン・アンズ…」

 

「だ!れ!が!BBAだァアアアアアッ!」

 

「ノォッ!?」

 

 

しかし空中から強襲して来たドレイクの持つ銃のグリップで殴打。顔面から床に叩き付けられチーンという擬音が似合う縛られたまま腰だけを上げたポーズで沈黙する黒髭の後頭部に銃口が突きつけられる。

 

 

「で?誰がBBAだって?」

 

「…ぬふぅ!そのとき、黒髭の髭が金色とか銀色とか灼熱色に輝き、不死鳥(フェニックス)の如く甦るのであった!気分的に!」

 

「なにっ!?」

 

 

頭突きでドレイクを押し上げ、その勢いのまま縄を引き千切ってファイティングポーズをとる黒髭。その目は未だに燃えていた。最期に自分に何か言いたそうにしていたのに容赦なく倒されたせいで消えたアン&メアリーへの残念な思いからの炎であった。実はちょっとデレる時を楽しみにしていたのである。

 

 

「まさに絶体絶命色即是空、南無妙法蓮華経。だがしかぁぁぁし!自慢ではないがこの黒髭、負ける事など考えた事もありません!負けると考えてしまった時点で海賊的に敗北であるからして!」

 

「おう、言うじゃないかドサンピン!ようやくお仲間と殺し合っている気になって来たよ!人助けだろうと人殺しだろうと、アタシ等どっちも人でなしの悪党だ!負けた奴がクズ、勝った奴が正義ってね!アンタの正義、悪魔のヒールで踏み躙ってやるよ!」

 

「きゅん♪BBAなのにちょっと格好良すぎるじゃない…拙者が女であればとか想像してしまったけどもそこはさすがに空気を読むでござる。まあともかく!それじゃあ決着をつけるか。BBA!結局そこのマスターに痛い目に遭わされただけで本命と一度も戦えないってただの拷問でござるよ!」

 

「拷問じゃなくて正当なお仕置きです!主にエウリュアレとマシュの分!」

 

「えっ、アタシの分は?」

 

「藤丸、私の分は?」

 

 

黒髭の言葉に思わず叫んだ立香の返しに反応する黒髭の被害者残り二名。立香は硬直し、冷汗を流す。

 

 

「…今からやるつもりでした」

 

「ええー?ホントにござるかー?www」

 

「撃つぞこら」

 

「ごめんちゃいw」

 

 

煽られて一気に表情が冷えた立香にロケランを眼前に突きつけられて平謝りする黒髭。しかし直ぐに真面目な顔になり、ピストルと拳を握る。それを見て構える立香、マシュ、ドレイク、オルガマリー、アルトリア。ヴェルデューゴから倒すべきなのだろうが現在ネロ、メディア、アステリオス、エウリュアレ(とオリオン)の総メンバーで追い詰めているので当分は大丈夫だと判断し、満身創痍なれど最も侮れない男へと構えた。

 

 

「まあマスターと商人なんぞにしてやられましたが拙者まだまだ本気出してないですしおすし?その気になればサーヴァントの一騎やBBAなんかには負けないんですなこれが。さあ、大海賊黒髭様のお通りですな~!」

 

「・・・やっと隙を見せたな船長。憧れの海賊との戦いは心が躍ったか?」

 

「ゴガッ!?」

 

 

意気揚々と構える黒髭だったがそれは、第三者の手により黒髭が背後から不意打ちを受けた事で中断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ちょうどマイクがやられた頃。黒髭の船での戦いも終局を迎えていた。

 

 

「うん?アンタのお仲間がやられたみたいだな?」

 

「そうだな。では貴様を倒してプラマイゼロにしてやろう」

 

「こっちも船長捕まって三人やられてるんだ。プラマイゼロにはならないぜ?」

 

 

船長室で銃撃戦を続けるメイドオルタとパーカー。壁という壁は穴だらけなのに床だけは綺麗に磨かれている奇妙な図が作り上げられていた。パーカーは入り口に陣取り、その手に持つソードオフタイプのトリプルバレル式ショットガン・ハイドラに追い詰められたメイドオルタは奥の物陰に隠れて引きつけるだけで精一杯であり、腹部に傷を負っていた。

ショットガン系統はライオットガン以外は遠距離だと威力が減少する、という先入観にしてやられた。あのショットガンは、威力が可笑しいレベルに達している。十分に距離があったのに防ぎ切れず受けてしまった。近付かれたら終わりだと直感する。牽制するだけでも一苦労だ。しかしそれも、一人で足止めする、という条件での話だが。

 

 

「そうだな。…だが、我等二人で相手しないと勝てない貴様は十分にそれだけの実力があるだろう」

 

「なに?」

 

「接近戦ではナイフの方が早い。アンタなら分かるだろ?ストレンジャー」

 

 

チャキッと、背後から突きつけられたそれにパーカーは素直にハイドラを落とす。零距離でディーラーにナイフを背中に突きつけられていては、背中のハンドアックスにも手が回らないためお手上げであった。実は肘鉄一撃でディーラーはやられるのだがそれに気付かないのはしょうがない。

 

 

「お手上げだ、俺の負けだな。…何時からだ?」

 

「プラマイゼロを言いだした辺りだな。喧騒に紛れて近付くのは難儀だった。…アンタ、あの船の水ゾンビ共と戦った事があるんだろう。物音を立てたら即座に対応する様はアレと戦った証だ。それが分かれば簡単だ、元より俺は戦場を人知れず抜けるのが得意でね?」

 

「…そうか、やっぱりあの船はウーズ共の巣窟だったか。俺が召喚されたのはアレをどうにかするためだったのかもな」

 

「やはりレオンの同類か。そりゃあオルタも苦労するはずだ、多種多様の化物と戦った男に搦め手が通じるはずもない。セイバーの方で火力を叩き込んだ方がよかったな。ほれ、回復しろオルタ」

 

「ふん、大きなお世話だ。だが礼は言う」

 

 

グリーンハーブ(×3)の容器を投げ渡し、それをパシッと受け取ったメイドオルタが回復している間に、ディーラーは気になっていた事を尋ねた。

 

 

「アンタほどの男が何でアレと一緒に居るんだ?」

 

「…オブライエン、俺の上司と似ている気がしたのが一つ。あと、何か裏切りで死にそうだったからそれを阻止するためというか…裏切りは俺にとって、放っておけない物なんだよ」

 

「そうか、貴様も手酷い裏切りを受けたのか。親近感が湧くな」

 

「アーサー王の受けた裏切りよりはマシだと思うがな。生死の境を彷徨ったがお人好しの後輩の手を借りて生き延びたしな」

 

「待て。召喚した奴をサーヴァントが裏切るなんて令呪があるから無理だろ。誰が裏切るって言うんだ」

 

「ああ、それは……!?」

 

 

瞬間、異変を察知して動いたパーカーに、慌ててナイフを下げるディーラーに首を傾げて歩み寄るメイドオルタもまたそれを確認した。船長室の入り口に立っていたディーラーは、この中で唯一異変を正確に察知できた。

 

 

「……裏切る事ができるとすればそれは、先生と呼ばれた「助っ人」のサーヴァントって事か」

 

「ああ、そういうことだ!」

 

「ッ!」

 

 

船長の危機に、同時に反応して周りの者など気にせず飛び掛かるパーカーとヴェルデューゴ。しかしそれを黒髭の背中から槍を引き抜いて、この時代の特異点である黒髭から黄金に輝く聖杯を回収したヘクトールは跳躍して易々と回避し、そのまま船と船の間の海に飛び降りた。

 

 

「ルチアーニさんよ。バーサーカーの癖に理性があり俺を警戒していたアンタや、義理も糞も無いのに黒髭に付き従う化物が邪魔だった。それにこの船長、油断ぶっこいている振りしてどこだろうと用心深く銃を握りしめているしさ。天才を自称するバカより、バカを演じる天才の方が厄介だ。俺にはどうしようもなかったさ」

 

「…なるほど、な。道理で…裏が読めぬ相手だと…しかしこの状況で裏切るとはヘクトール氏は…アホだと思いましたがそれが付いているなら納得のいくもの………ゴフッ、ぬかった…」

 

「船長!あまり喋るな!」

 

 

海から現れたそれ(・・)の肩に乗り、黒髭と彼を介抱しながら銃をこちらに向けるパーカーたちを見下ろしたヘクトールはそのまま立香を見やる。

 

 

「アンタには感謝しているぜカルデアのマスター。アンタが黒髭を弱らせたおかげで、何とか指令を遂行する事が出来たぜ。長引かせすぎてこいつが来てしまったが、この戦力差だと逆にありがたい。さて、後はアンタだけだフランシス・ドレイク」

 

「あ?海賊同士の喧嘩を邪魔して置いてまだ何かあるってのかい?」

 

「大有りだ。まったく、馬鹿に聖杯を預ければ時代が狂うって話だったのにさァ。まさかそれを食い止めるだけの航海者が現れるとは。…なんて、正しい聖杯なんてどうでもいいのさ。こっちの本命は彼女でね」

 

「させない!マシュ!皆!」

 

「はい!」

 

 

ニヤリと笑みを浮かべたヘクトールに嫌な予感を感じて、ヘクトールに向けてロケランを発射する立香と、彼女の言葉に各々攻撃する面々。しかし、それらの攻撃は容易くその存在の右腕に生えた巨大な爪で弾き飛ばされ、ヘクトールを肩に載せたその巨人は一跳躍でゴールデンハインドに飛び乗ると左手でエウリュアレを掴み上げる。

 

 

「キャッ!?」

 

「おっと、大人しくしておいてくれよ?」

 

「はな、せぇえええええッ!」

 

「!」

 

「ハアッ!」

 

「■■■■■■■■!」

 

 

エウリュアレの危機に、思わず飛び掛かったアステリオスとヴェルデューゴとアルトリアを、その巨人は咆哮と共に軽々弾き飛ばして船体を揺らすとそのまま正面から立香達を見据えた。巨大な単眼が立香達を睨みつけ、オルガマリーが竦み上がる。その声には、聞き覚えがあり過ぎた。同じようにディーラーもまたその正体に気付いて舌打ちする。

 

 

「…まさか、まさかと思うけど…」

 

「最悪にも程があるぞクソッたれ…」

 

「所長?ディーラー?」

 

「お?異形となったコイツの正体に黒髭以外に気付けた奴がいるとはね。コイツはヘラクレス。ギリシャ最大の大英雄…が何かに感染した成れの果てよ。うちの魔女様はヘラクレス・アビスって呼んでたな」

 

「…!?」

 

 

変異したジャック・ノーマンに酷似した原型を殆んど留めていない姿となった、冬木で相対し逃げる事しかできなかった大英雄。全身白く一部が血で赤く染まった体表に、背中から生えた鰭の様な突起に、タイラントと同じように右胸に露出していれども硬い体表に覆われた心臓。

そして巨大な爪を持つ右腕を新たな武器として備えた、正真正銘の怪物。

 

その割れた貌の中央でギョロリと動く目が怪しい光を発し立香達の視界を覆う。

 

視界が回復した時には、ヘラクレス・アビスとヘクトール、そしてエウリュアレの姿は何処にもなく、アステリオスの悲痛な叫びが轟いた。

 




満を持して推参、ヘラクレス・アビス。主が待ちきれなくなって向かわせた模様。
冬木でヘラクレスと決着を付けなかったのと、今章初めにあっさりとノーマンが倒されたのはコレを出すための伏線でした。ディーラーマストダイ。

暗躍していたけど何もできずにいたヘクトール、やっとこさ任務達成。実はカークのヘリを打ち落とした際に飛んで来たヘリのプロペラで右腕の筋をやられているので、原作みたいに一人で逃げる事は出来ませんでした。

アンとメアリーには申し訳ないと思っている。テンポが悪くなってしまい短くするために出番を削らせていただきました。一言で纏めるとキャスターコンビの鬼畜遠距離攻撃でやられています。

今回着て来た魔術礼装、アトラス院制服をフル活用してエイリークを撃破した立香。マスターとしての技量がメキメキ上がっています。正直メジェドの眼って描写が難しい。

裏切られた経験から、黒髭の身を案じてずっと一緒に居たパーカー。メイドオルタを負傷させると大健闘。しかし武器の扱いならばディーラーの方が一枚上手だった。

連れ去られたエウリュアレ。黒髭はどうなるのか、ヴェルデューゴとの決着は付くのか。ディーラーの存在によりオケアノス攻略はどう変わるのか。
次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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そう簡単に死なせないぜストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、放仮ごです。前回の投稿後、お気に入り数がごっそり減って少し意気消沈してました。何がいけなかったんだ…

多分分からなくなると思うので今回から前書きにコンティニュー回数を書こうと思います。
今回は閑話的な回。黒髭は一体どうなるのか。楽しんでいただけたら幸いです。


【ディーラーのコンティニュー回数、残り24】


立香達の知らない海域にて。穏やかな海に浮かぶ人類最古の海賊船の上にて、メディアを幼くしたような少女、というより幼いメディアであるサーヴァント、メディア・リリィが己のマスターであり伴侶である金髪の男に報告を上げていた。

 

 

「失礼します。お邪魔しますねマスター。ヘクトール様から連絡がありました。ヘラクレス・アビスの助けを借りてようやくですがエウリュアレを確保したそうですよ」

 

「そうか、やっとか。…あの日、我が友ヘラクレスが奴のせいでああなってしまって狼狽えたりしたが、姿こそ変わり果てても今まで通りオレの言う事を聞いてくれてむしろパワーアップした大英雄を向かわせたんだ、できて当然だが…そうか!そうか、そうか、そうかあ!やった!」

 

「ふむ、不満か?あの御方が言った通り、女神エウリュアレを捧げれば更なる力を得る事が出来る。貴様は誰よりも強く、無敵の存在…つまりは()の様な存在になるんだ、それを成す為に邪魔者を排除するべく奴を変異させた。文句はあるまい。俺は大英雄を感染させてどうなるかを実験しただけだったがな」

 

 

そこに姿を現したのは、S.T.A.R.S.と背中に描かれたジャケットを着た若いサングラスの男。ニヒルな笑みを浮かべたその男に金髪の男は嫌悪で顔を歪ませてそっぽを向いた。

 

 

「ふん、礼は言わないぞアルバート。オレのヘラクレスをあんな姿にした報いは何時か受けさせる…が、今じゃない。それより疲れている様だが大丈夫かい愛しい君よ。君の笑顔はまるで太陽だ、何時でも私の胸を満たしてくれる。だが長時間この船の動力源になっているんだ、辛くなったら言って欲しい。ほら、ほんの少しぐらいなら休憩を考えてあげるからね」

 

「あ、ありがとうございます…!でも大丈夫です、そのお気持ちだけで頑張れます!」

 

「ああ…素直で可愛い私の妻になる(ひと)よ。君はそうでなくちゃ。それではメディア、アルバート。ヘクトールとヘラクレスが戻り次第、“アレ”を探しに行こうか。まったく、どこにあるんだか。メディア、神託はまだ下らないのかい?アルバート、君の手下は手掛かりの一つも見付けられないのか?」

 

「ふん、海上では聊か俺の宝具も使い勝手が悪くてな。期待はしないでもらおう」

 

「恐らくヘクトール様たちが帰還すると共に向かうべき先を示した神託は下るのだと思います」

 

「なんだそりゃあ、回りくどい…オレの足ばかり引っ張りやがって…あ、いやすまないね。彼等を悪く言うつもりあない、ないのだが…私にだって神託を受ける権利はあるはずなのにどうして君だけが…まあいい、急いては事をし損じる。今は君の神託を信じて船長として最善を尽くそう」

 

「ええ、それでこそ。早くお二方を迎えに行きましょう。半日もかかりません。我等アルゴナイタイのメンバーは絶対不敗の英雄達。…剣客であるアルバート様を抜いてですが…寄せ集めの彼等に勝てる道理はありませんもの」

 

「そうだね、その通りだ!我々は最強だ!間違いなく、文句なしに最強だ!何しろ世界最強最大の英雄と魔女がついている!ああ、一人どうしようもない女がいたがそれはアルバート、よくやった。ふん、月女神(アルテミス)なんぞに純潔の誓いを立てて私の誘いを拒むとは。不意打ちという汚い手段だったとはいえ良く仕留めたアルバート。今頃鮫に喰われている頃か?いい様よ」

 

「ああ。既にネプチューンを放った。手負いの奴一人ではどうしようもないだろうな」

 

 

まあ、それが戻って来てないと言う事は逆に返り討ちにあったという証明なのだが話す事も無い、と内心ほくそ笑むサングラスの男。嘘は言ってない、もしサーヴァントの介入が無ければ間違いなく喰われていたはずだ。そんな事も露知らず、金髪の男は高らかに声を上げる。

 

 

「さあ諸君!出立の準備だ!『契約の箱(アーク)』を手に入れよう!それは黄金の羊など歯牙にもかけぬ究極の財宝。私は聖杯と、契約の箱(アーク)を以てこの四海(オケアノス)の王となる!」

 

「はい!マスター…いいえ、イアソン様!」

 

 

盛り上がる二人を余所に、アルバートと呼ばれた若いサングラスの男は、静かに言葉を紡ぎながらメディア・リリィの脇を通って船内に入って行く。

 

 

「…馬鹿め。どんな歴戦の英雄であれ負けたからこそ死に、英霊なんぞになるんだ。アルゴナイタイであれ例外ではない。貴様では神には至れない。…しかし都合のいい神託だな、魔女殿?」

 

「神託とはそういうものですよ、アルバート様?」

 

「…まあいい。あの男には上手く言っておけ。それとこれは例の品だ、使い所は考えろよ?」

 

 

ニッコリと笑みを浮かべたメディア・リリィに何かの瓶を渡したアルバートはそのまま歩いて行き、金髪の男に気付かれる事無く海に飛び込んだ。

…金髪の男、イアソンが率いる人類最古の海賊船に乗る彼等はアルゴナイタイ。ヘクトールの真の主であり、即ち立香達の真の敵であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃。黒髭を裏切り深手を負わせたヘクトールと突如出現したヘラクレス・アビスにエウリュアレが攫われ、圧倒的な力の差を見せつけられた上で一つの敗北を味わった立香達。とりあえずとゴールデンハインドで追う準備を進める中、立香は死に際の黒髭に歩み寄っていた。

 

 

「くぅ…聖杯を奪われ致命傷を負うのはいいとしてもエウリュアレ氏を連れ去られてここで果てるとは…無念なり、ガクッ」

 

「ねえ黒髭」

 

「…死に掛けの拙者に何か御用?ここはドラマチックに消えたいところなんですが?」

 

「貴方の手下、そこのサーヴァント二人以外消えちゃったんだけどどうして?」

 

「拙者の魔力で生み出していた仮初の手下ですしおすし?聖杯が無くなったから維持できなくなったと思うでござる。…そこの御二方」

 

「なんだ、船長。…裏切りから救ってやれなくてすまねえ」

 

「……」

 

 

黒髭が声を上げると肩身狭そうに待機していたパーカーとヴェルデューゴが歩み寄る。無言でジッと続きを促してくるヴェルデューゴと、心底悔いているパーカーの姿に黒髭はにんまりと笑った。

 

 

「ヴェルデューゴ氏は最後まで無言を貫くとはこれまた手厳しい。ホント、喋れたら語り合いたいものなんですがねぇ…気にしなくていいでござるよパーカー氏、完全に拙者の油断が招いた結果でござるからして。

 御二方、まだ拙者の言う事を聞いてくれると言うなら、この皆さんと一緒にエウリュアレ氏を連れ戻してくれない?いやー拙者、エウリュアレたんの一ファンとして意地でも助けに行かないといけないところだけどこんなザマだし、頼まれてくれない?」

 

「…アンタが望むなら」

 

「…(コクッ)」

 

「忠実な部下を持って感無量ですぞ!…さあて、そろそろサヨナラのお時間ですな!BBA、これで勝ったと思うなよでござるよ!?」

 

 

その言葉に、寂しげな笑みを浮かべるドレイク。結局、決着は付けれず仕舞いであった。

 

 

「…海賊としてのアンタと一戦交えたかったんだけどねえ。引き分けって事でいいよ。さっさと消滅しちまいな、黒髭。生き続けるのもキツいんだろ、今のアンタ」

 

「おおおのれ。そんな優しい言葉を掛けられれば…BBAにデレたくなってしまう…結婚します、一生幸せにしますとか言っちゃう…BBA、どうせ彼氏居ない歴=年齢でしょう?」

 

「無茶苦茶間に合ってるわ、このボケェ!生憎伴侶はメアリがいるんだよ!さっさとおっちね!」

 

「なんと!百合夫婦でしたか、それはそれは妄想が捗りますなぁ。一人の男の恋心を無残にも砕くナイスな罵倒ですな、センクス!」

 

 

泣きながら笑うと言う器用な事をしながら徐々に消えていく黒髭を尻目に、ちょいちょいとディーラーを招きよせ何やら話し込む立香を余所に、立ち上がり口上を上げる黒髭。

 

 

「さあて満足したし死ぬとするか!だが、今度こそは首を刎ねられてやらねえですぞ。だって拙者、大海賊ですからな!面白おかしく海賊やって、そして死ぬ!ハーレムできなかった上にエウリュアレたんをにっくき先生に奪われたのは無念だが、心底信じられた部下が二人も出来たし楽しかったからよしとしよう!」

 

「そりゃあよかったね。そら、逝けよ。…アンタの最期はちょっとだけだけどマシュから聞いた。その首はきっちり忘れずに持っていきな!」

 

「くっ、ははははははははっ!大海賊黒髭が誰より尊敬した女が!誰より焦がれた海賊が!黒髭の死を看取ってくれる上にこの首をそのまま残してくれるなんてな!……あ、でもBBA?拙者がライバルとして甦るルートとか必要では?心の中で温めていたぴったりの復活の台詞があるんだけど…」

 

「いらないいらない」

 

「そうか、じゃあしょうがないな。黒髭は死ぬぞ!さらばだ人類!さらばだかいぞkゴアッ!?」

 

 

長ったらしい口上の後、いざ消えようと言う瞬間。誰もが黒髭の消滅を見守ると言う、空気をぶち破ってその口に巨大な焼き魚を打ち込んだ猛者がいた。途中から完全に話を聞いて居なかった立香である。

 

 

「ちょっ、まっ、なにこれマスター殿!?」

 

「…えっと、死んでほしくないなって…………ごめんなさい?」

 

「先輩…」

 

「藤丸…」

 

 

目の前で死んでいくと言うのはやっぱり無視できない藤丸立香という少女の性質に、知っていたとはいえまさかと呆れてしまうマシュとオルガマリーに、涙目になって必死に弁明する立香。

 

 

「良かれと思ったんです!まさか本当にエウリュアレを残すなんて無念を残して死のうとするなんて思わなかったの!」

 

「むふっw縮こまる少女もまたGood………いやいや、拙者どう考えてもアレ致命傷で…あれ?傷が治っていると言うか消滅が止まった?なあにこれぇ?」

 

 

他の面子も非難というか、呆れた視線を向けていて立香は気まずくなり、思わずアタッシュケースを手にしたディーラーの後ろに隠れて縮こまり、消滅せずに済んだ黒髭はそのディーラーに視線を向けた。

 

 

「ん?そう簡単にストレンジャーは他人を死なせないぜ。俺特注のスペシャルカスタムだ、初めて作った物で無償だから感謝しろ?ストレンジャーのオーダーだ、まだ生きているなら治すとも。体力を全回復させるランカーバスにどんな傷をも治療する救急スプレーを吹きかけ、体力を全回復させる金色の卵と白、茶色の卵を掻き混ぜた物に

突っ込んでから焼夷手榴弾の火で炙り、さらに粉にした四色ハーブを振りかけた、死んでなければどんな瀕死の奴でも復活させるトンデモ品だ」

 

 

ぶっちゃけると、全ての回復する商品をありったけつぎ込んだトンデモ復活アイテムである。なに、焼夷手榴弾はテルミット反応を用いているから焼くのに使ったら危険だって?青ハーブが何とかしてくれる(願望)。

 

 

 

「味は保証せんがどうだストレンジャー?」

 

「普通に美味かったでござんした。…あれ?拙者もしかして死ななくてもいいパターン?あ、BBA。さっきの台詞なんだけど「お前を倒すのは、この拙者と決めている…!」とかどうどう?」

 

「そうかい、じゃあ今は私のクルーのエウリュアレが攫われているから取り返した後で決着を付けようか…!」

 

「あ、ヤバい。BBAが何かキレてる。助けてパーカー氏、ヴェルデューゴ氏!」

 

「すまん、女の扱いについては助けになれん。生きててよかったぜ船長」

 

「(Te deseo suerte(幸運を祈る、主))」

 

「そんな殺生な!神は死んだ!でござるぅ…」

 

 

パーカーだけでなくまさかのヴェルデューゴにまで親指を立てられ、泣き崩れる黒髭に歩み寄る影が一人。オルガマリーであった。

 

 

「…ねえ。貴方はもう敵じゃないって考えていいのかしら?」

 

「なんですかなオレンジタイツのお人。君の部下に厳しく言って置いてくれます?男の覚悟を無駄にしないで欲しいとね!ぷんすか怒っているでござるよ拙者。…まあ、命を助けられたわけではありますしもう敵対する気はないでござるよ。というか理由が無くなったので戦う必要もナッシング」

 

「エウリュアレね?…なら提案なんだけど、彼女を救い出すまで休戦協定を結ばない?」

 

『所長!?いったい何を!?さっきまで変態気持ち悪いとか言っていたじゃないですか!』

 

 

いきなり突飛な事を言いだしたオルガマリーに溜まらず突っ込むロマン。ちなみに立香とディーラーはアルトリアにお説教されていた。矜持をぶち壊しにしたのはアウトらしい。主に過去の聖杯戦争がらみで。

 

 

「それはそれ、これはこれよ。よく考えなさいロマン、黒髭の部下のサーヴァント達、そして宝具を考えると味方にした方がどう考えてもお得よ。性格は目を瞑るわ、今は信頼できる戦力が必須事項よ。私達に選り好みする余裕も無い訳だし」

 

「…エウリュアレ氏を奪われたのは拙者の責任。恩もあるしBBAと一緒に戦えるし了承しますぞ。ただし条件が一つ。ところでお名前は?」

 

「オルガマリー・アニムスフィアよ」

 

「ではオルガマリー殿とそのサーヴァントがこちらの船に乗り、さらにオルガマリー殿が拙者やパーカー氏達と仮契約するのが条件ですぞ。

人質的な意味合いではなく、単純に魔力と潤い的な意味で。拙者的に商人はNGだしあのマスターは何か怖いし共闘するならよろしいでしょ?」

 

 

その条件に、なんだそんなことかと溜め息を吐いて頷くオルガマリー。冬木やらフランスやらローマやら幽霊船やらを乗り越えて、彼女は強く逞しくなっていた。

 

 

「ええ、それぐらいならいいわ。じゃあ私とアルトリア、ネロとオリオンが乗り込めばいいのね」

 

「オリオンとな?」

 

「コレよ」

 

「おっす、俺、オリオン。戦力にはならんと思うけどよろしく」

 

「…ちぇっ、なんだ男がいるのかー」

 

「まずオリオンが縫いぐるみな事に驚きなさいよ」

 

「いや、一々騒がられるよりはいいわこの反応」

 

 

そんな感じで、オルガマリーの魔力で回復した黒髭の船にクルーが復活し、ドレイクの船の修繕も済んで、並走してヘラクレスたちの去って行った方角へと舵を切る黄金の鹿号(ゴールデンハインド)アン女王の復讐号(クイーン・アンズ・リベンジ)

 

決して相容れなかった二つの海賊船が共に進むその様は圧巻であった。

 




そんな訳で立香の駄目な部分とディーラーのチートがベストマッチして生まれた黒髭生存ルート。前回、エウリュアレとマイクを失いましたが代わりに黒髭、パーカー、ヴェルデューゴがオルガマリーのサーヴァントとして仲間になりました。
まだ黒髭に見せ場があってもいいじゃない。

姿を現したイアソン率いるアルゴナイタイ。アルバートという謎のサーヴァントが乗っていましたが言って置きます。ローマのあの男とは違うサーヴァントです。メディア・リリィに謎の瓶を渡しましたが…?

そのアルバートにより負傷したと思われるアルテミスを信仰するアルゴナイタイのメンバーと、それを救った謎のサーヴァント。…まあ原作既プレイの人なら分かりますね。

次回、ドレイク黒髭船団VSアルゴナイタイ。VSヘラクレス・アビス&???。次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ぶっ飛んでいるなストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、山の翁が来てテンション上げ上げで書いていたら書きすぎて予定の所まで書けてないのに切る事にした放仮ごです。感想欄で言われた事を色々回収した回でもあります。

ロマニとダ・ヴィンチちゃんの会話、立香単騎VSヴェルデューゴ、そして立香に対するお説教などなどですが、楽しんでいただけると幸いです。
(※コンティニューカウンターは変動した時のみ記載する事にします)


「所長、ヘラクレス・アビスの反応はこのまま南西の方角だ。ただスピードがあまりにも速い!彼に投与されたナニカは海に限りなく適応すると思われる。用心してくれ」

 

『分かったわ、ありがとうロマニ。メディアに使い魔を飛ばして追わせたし、それに今ドレイク船長と黒髭と航路を話し合っているから何とか追いついてみる。また連絡するわ』

 

「…ふぅ」

 

「お疲れ、ロマニ」

 

 

オルガマリーとの通信を終え、モニターから離れて一息吐いたロマンに紅茶を差し出すのはダ・ヴィンチちゃん。先程まで一緒に支援をしていたはずなのに何時の間にか離れて淹れて来たのはさすがというか、とロマンはふと笑みを浮かべてそれを受け取った。

 

 

「やあレオナルド。ありがとう」

 

「今回は最初から行方不明の通信途絶、回復したかと思えば巨大エネミーとの対決、そしてアステリオスの宝具の影響でまた通信途絶、回復したかと思えば黒髭来襲で戦闘のバックアップと大忙しだからね。多分ここらが佳境だ、私達も少し休もう」

 

「…そうだね。でも、まだ調べないと行けない事がある」

 

 

一口飲んだカップを置き、モニターに映すのは、人類最後のマスターこと藤丸立香の持ち得るかぎりのデータ。数日前、オルガマリーとマシュから「立香がバイオハザード関係者」という報告を受けて、しかし彼女の履歴にそんな事は書かれてなかったため調べていたのだ。

 

 

「僕はセラピストも兼ねているからね。それにマスター適正があったというだけでスカウトされた少女だ。何かあったら問題だからちゃんと調べないとね。

…彼女の履歴によると、幼少期にアメリカに旅行に行った際に両親が行方不明になっている。その後、親近者がいなかったため孤児院に引き取られた…とあるね」

 

「ふむ。それに、小学校も含めた学生時代は問題児だったとあるか。喧嘩沙汰は一切無いのは彼女らしいけど、口論がエスカレートして孤立した様だね。その原因は全て、学生によくある冗談である「死ね」か。…なるほど、その両親が行方不明になった時期にバイオハザードがあればビンゴという訳か。当時小学生にも満たない年齢だったのなら履歴から消されていても可笑しくないか」

 

「カルデアで事故が起きた際に切羽詰まった顔で僕の静止も聞かずにマシュを助けに行ったのもそれが関係していると睨んでいる。動揺することなく即座に向かうなんて余程の事を経験したんだろう。…っと、あった。ハーバードヴィル空港のバイオテロが同時期に起きている。生存者のリストに…彼女の名前を見付けたよ」

 

 

そう言って映し出したのは、何百人もの人間の名前が連なるリスト。カークが仲間入りしたおかげでパスワードなどを得て開く事が出来た、人理焼却の影響化でも運よく(・・・)辛うじて残っていたBSAAのファイルデータであった。ロマンと席を換わり、軽く閲覧したダ・ヴィンチちゃんは一声唸る。

 

 

「ふむ。詳しい記録によると、彼女は生存者の中でも特異な存在で最初に逃げ出せた集団の一人ではなく、警察に救出された生存者たちが抜け出した後に突入した海兵部隊に救出された様だ。一人で逃げ回って疲弊していたとある。…これが事実なら、精神への負担が心配だね。特に誰かを失う…なんて事を防ごうとする思いが実直だ」

 

「そうともレオナルド。実はそれが冬木の時からずっと気になっていた。さっきの血斧王に対する特攻もそれが影響したんじゃないかと思ってね。このままじゃまた無茶をするかもしれないからちゃんと把握していざという時は止めないと」

 

 

そう困った笑顔でロマンが言った言葉を聞いて思わず黙るダ・ヴィンチちゃん。藤丸立香のこれまでの行動を思い返したのだ。一言で纏めると、マスターと言うより執行者や代行者の方が近い問題児。

冬木だけでも、ロマン等の反論も聞かずにわざわざ自腹でディーラーから武器を購入、所長が襲撃された際には戦闘中だったとはいえマシュ等には頼らず自ら動いて迎撃、アーチャーやバーサーカーの存在があったのにもかかわらずにディーラーについて外に出て行く、などなど冷静に考えてみると問題行動が目立っていた。最後のセイバー戦やレフ戦ではさすがに大人しくしていたが、アレはアレで隙あらば介入しようとしてできなかった結果だろう。

 

 

「…………言って止まるようなら苦労しないと思うよ。あの子、石だけなんて飽き足らず、私に何か武器があるならくれって言うような子だよ?さすがに持って無かったけど」

 

「……だよね。サーヴァントがいるのに何で武器を求めるんだろう…」

 

「それは天才である私でも分からないね。でも、数いる英霊が来ない理由ぐらいなら分かるさ」

 

「? それは何故だい?」

 

「彼女、表面的には見せないけど仲間を増やそうとは思ってないのさ。守る人間が増えたら戦えなくなるからか、自分の采配で誰かが死ぬのが嫌なのかは知らないけど、そういう甘さが抜けきってない。それと…」

 

「それと?」

 

 

サーヴァントである自分とは異なり分からずに疑問符を浮かべるロマンを見て、ダ・ヴィンチはとある過去を思い出す。

 

 

 

―――「その杖とその籠手、ダビンチちゃんの武器だよね?どうやって使うの?」

 

―――「ダ・ヴィンチちゃんさ!それはそうとこれに興味があるのかい?杖からは標的に誘導するレーザーを発射して、この籠手からは炎や冷気を放射する他ロケットパンチにする事が出来る特別品だよ!残念ながら非売品だけどね」

 

―――「うん、いい武器だね。でも私には使いこなせそうにないなぁ…さっきオルタの剣を貸してもらったけど全然使えなかったよ。やっぱり英霊って凄いね」

 

 

ディーラーを守れるような英霊を召喚すると言って石を買い占めながらそう尋ねてきた立香の視線は、自分よりも己の持つ武器に向けられていた。それで、何で彼女の元に異常なほど英霊が来ないのか彼女…彼?は分かった気がした。

 

 

「…この稀代の天才たる私に一緒に来てくれない?と言わないぐらい、自分を守るサーヴァントよりもその武器を求める彼女に、応える物好きな英霊は少ないって事だね」

 

「…仲間になってくれるサーヴァントより武器か。それは確かに、誰も応えてくれなそうだ」

 

「おや、分かった気でいるのかい?ただの人間のロマニ・アーキマン君?」

 

「はは、ただの想像だよレオナルド。でもそう考えるとセイバーオルタ達はよく来てくれたね」

 

「そりゃあ、縁もあるし個人の趣味や信念もあるし、アシュリーに至っては好きな人がいると思ったから、だからね。それに対してオルガマリーは自分を守ってくれるサーヴァントを求めている。この違いがあの引きの決定的な差だろう」

 

 

セイバーオルタは彼女…というよりディーラーとの縁から。クー・フーリンは縁から。メディアは恐らくオルガマリーを蘇生するために必要だと願っていた結果。マイク/カークはその在り方故。アシュリーはディーラーの声に引き寄せられて。チェイサー…レッドピラミッドシングは、理由が分からないが「断罪」するため。

そしてディーラーは…彼女の願望である「武器を与えてくれる存在」だから。そう考えると納得のいく面子である。

 

 

「本人が自覚してないのが性質が悪いのかな。マシュ辺りが気付いて嗜めてくれることを祈るしかない、か。相談してくれれば乗るぐらいは僕にもできるんだけどね」

 

「私達にできる事はそれぐらいだろう。しかしこの事実が分かっただけでもオルガマリーに報告できるだけ進展だ。…なんにしても、無理して死なない事を祈るばかりだ。あの性格のオルガマリーだけではどうも心配だからね、人理修復ができなくなる最悪の事態は私としても避けたいところさ」

 

「うん、技術チームでも礼装の防御力を少しでも高める様にお願いしてみるよ。…最も、あのディーラーとマシュがいる限りはその最悪の事態は起こらないだろうけどね」

 

「ほう。そこまで言うとは。天才である私でも見当もつかないその根拠は何かな?」

 

「マシュに対しては僕の勘さ。ディーラーは……………彼の抱く鋼の如き信念は信頼に足る、って言う半端な理由さ。こればかりは信じるしかないよ」

 

「へえ、ロマニ。君が信頼、ねえ?」

 

 

再び紅茶を一口含み、笑みを浮かべるロマニの手袋に覆われた手を見やりダ・ヴィンチちゃんは意地の悪い笑みを浮かべる。

 

 

「なんだ、言いたいことがあるなら言えばいいじゃないかレオナルド。…まあとりあえず、暇なうちに今まで出てきたB.O.W.のレポートでも作るとしようかな」

 

「君は少し仮眠を取りなロマニ。それぐらい、この私がちょちょいと仕上げておくし何か起きたらダ・ヴィンチちゃん特性目覚まし時計(ディーラー監修、銃撃ver)で起こしてやるから。それと、今は言わないで置くよ」

 

「そうかい?じゃあ頼んだよレオナルド…」

 

 

なるほど、それは確かに論理的な根拠がなくとも信じるぐらいはできる、と今度は心の底から微笑むダ・ヴィンチちゃんに弱々しく応え、フラフラした足取りで仮眠室に向かうロマン。そんなカルデアを支える頭脳二人の心配を余所に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な地下迷宮を走る少女がいた。ハンドガンマチルダを手にし、ロケットランチャーを背中に担いで目的地へと急ぐのは、藤丸立香。それを追跡するのは、漆黒の異形ヴェルデューゴ。

 

 

「はあ、はあ、もうすぐ…そこ…!」

 

 

追い付かれては応戦し、追い付かれては応戦しを繰り返した立香は疲弊しており、懐から取り出した焼夷手榴弾を投げてヴェルデューゴを牽制しながら、目的地である柱の傍まで走る。対して地中に潜って炎の壁を突破し、立香の目の前に飛び出したヴェルデューゴ。

 

 

「!?」

 

「そりゃあ、私の前に飛び出してくるよね…」

 

 

そんな彼の足元にぼんやりと浮かび上がってきた魔法陣が光り輝き、立香がにやりと笑う。

 

 

「私は弱いけど、ディーラーから貴方の話を聞いて私一人で何とかするにはこれしかなかった。メディアさんの氷の魔術…!」

 

 

足下から凍り付いて行き、氷像と化して動かなくなったヴェルデューゴに、立香は足を振り上げ、その側頭部に蹴りを叩き込………もうとしたが足が上がらず、諦めてパンチを叩き込むも、モーションも力の入れ方も何もかも下手だったへなちょこパンチではビクともせず、逆に痛いと冷たいを同時に感じた拳を涙目でさする立香。

 

それでも諦めず、チョップ、ローキック、掌底打、肘鉄、頭突きと次々と試して逆にダメージを受けて涙を拭ってキッと氷像ヴェルデューゴを睨みつけた立香はやっとマチルダを構えるも、時既に遅し。全身を震わせて氷を振り払ったヴェルデューゴの軽めのジャブが立香の側頭部を捉え、意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・先輩、何か言う事は?」

 

 

目を覚まし、石造りの床に正座をして黙りこくっている立香の前では、怒り心頭で腕組みしたマシュがジトッとした目で見下ろしていた。その背後では迷宮の主であるアステリオスと魔術のトラップを仕掛けたメディア、自分の手当てをしてくれたディーラー。そしてヴェルデューゴを背後に控えさせ肩にオリオンを乗せたオルガマリーがどこか呆れた様子で溜め息を吐いている。

立香は頭の中で取り敢えず考えた言い訳で何とかこの話題から逃げ出そうと試みた。

 

 

「………えっと、…必要最低限だって銃の扱いを教えてくれた私の保護者が、わざわざ戦う必要は無いんだって教えてくれなかった上に、日本に戻ってから空手やらを習おうとしたけど素質以前の問題だと言われて門前払いをされたぐらい、体術はからっきしダメです」

 

「そうじゃないわよ。手加減したヴェルデューゴが相手だったから何度も逃げれたし反撃に出れたけど…もしこれが実戦だったら貴方死んでたわよ?」

 

 

そう、オルガマリーの言う通りこれは模擬戦なのだ。ヘラクレス・アビス達を追ったもののあまりの速さに全然追い付けず、一先ず物資を補給するためにサークルを作るために立ち寄った島にて、ただ魔力を回復するだけではもったいないと、海賊組で航路を探っている間に立香の立てていた作戦が上手く行くかアステリオスに宝具を使用させて検証していたのだ。

マシュが怒っているのは、「マシュ達が居なくても私一人で戦えるから!」などと無謀な事を言いだして証明するべく奮闘していた立香が安の上、失敗したからであった。

 

 

「面目ない。いや、ディーラーからレオン…さん?が液体窒素で凍り付いたヴェルデューゴを蹴り砕いたって聞いたから私にもできるかなって…」

 

「馬鹿かストレンジャー。レオンは人間やめてる英雄様だぞ。銃を扱えるとはいえ元一般人の魔術師見習いのアンタが真似できるはずがある訳がないだろう。まあ策は褒めてやる。確かにこれなら、俺達の中の誰かとメディアが協力する事で此奴がもし敵に回った場合でも勝てる」

 

 

ちなみに、黒髭を一度ダウンさせた際に船から降りて乗っていた流氷もメディアが魔術で作った物であった。元々この作戦を、人手が足りなかったために立香本人がヴェルデューゴ相手にしようとしていた訳だが、オルガマリーに話したところ問題点を指摘され、そんなことないと立香が言いだしたために思い知らせていた訳である。

 

 

「だよね!策は大丈夫だったんだから、油断せず銃で撃っていたら私でも倒せて…」

 

「話は最後まで聞けストレンジャー。それはサーヴァントの場合だ。言っとくがレオンの奴だってそれを何度も繰り返してようやく勝てたんだぞ?どう足掻いても倒し切れずに復活した此奴の一撃で即死だ。アンタでも殺せるハンターみたいな量産型なんかとは違うんだぞストレンジャー。いやむしろハンター一匹だけにも勝っただけで驚きなんだが」

 

「あと、動きもなっちゃいないわ。体力はあるけど素人というかなんというか…魔術師見習いがまだマシってレベルね」

 

「そうですね。これでは先輩を絶対一人に何てできません。意地でも一緒にいます」

 

「何か最近後輩が怖い件について。ディーラーも所長も正論でぐうの音も出ません…」

 

「これからエウリュアレを救出しに行くって言うのに貴方に単独行動取られてヘラクレスに殺されでもしたら困るから勝手な行動は慎む様に。しょうがなかったとはいえバーサーカーに真正面から挑んで無傷で済んだのが奇跡としか言いようがないんだから!というかマスターが必要最低限以上に戦うなバカ!」

 

「はい…」

 

 

オルガマリーに怒鳴られ、シュンと項垂れる立香。これでも、ローマでアシュリーとカークをみすみす殺させてしまったことからの考えと行動だったのだが、こうまで否定されるとさすがに堪えた。

 

 

「まあ度胸と窮地での判断は評価するぞストレンジャー。特に礼装の魔術を咄嗟に自分に使った点だ。あの時、自分の命を最優先したのは正しい判断だ。もしアレでアルトリアを優先させて重傷を負っていたら俺が引導を渡していた」

 

「…冗談だよね?」

 

「それぐらいキレるぞって事だ。いいか、マスターはサーヴァントに守られるだけでいろとは言わない。特にこういう乱戦ではどうしても離れてしまう事もあるからな。だが必要最低限身を守るだけでいい。アンタに銃を教えた奴の言っていたのはそう言う事だ。自分から戦場に乗り込む必要はないんだストレンジャー」

 

「…でも、マシュ達だけになんて…」

 

「あの時、ヘクトールは先輩を狙っていました」

 

「え?」

 

 

ディーラーの言葉に反論しようとした立香の言葉を遮ったのはマシュだった。つい先刻の出来事を、淡々と語る。

 

 

「サーヴァント戦に置いて、マスターを狙うのは当たり前です。もしかしたらエウリュアレさんだけでなく先輩まで連れ去られたかもしれない。いえ、あの時彼は確かに先輩の命を狙っていました。もし早々に先輩があの場を去っていなかったら、先輩を庇う隙を突かれて敗北していたかもしれません」

 

「いい、藤丸。マスターと言うのはただサーヴァントの指揮官というだけじゃない、サーヴァントにとって弱点に等しいのよ。自分から殺されに行くのは、貴方のサーヴァント達にわざわざ弱点を増やす様な物なの。あのクイーン・ディードで貴女が負傷して気絶した際にわざわざ運んだのはそう言う事よ」

 

「先輩。お願いですから、一人で無茶をしないでください。貴女を守るために私の盾は在るのですから」

 

 

マシュとオルガマリーの言う事が正しいとは理解している、理解しているのだが…やはり心のどこかで納得できない物があった。真剣に自分を見つめて来る後輩に、出そうになった反論を飲み込み何とか頷く立香。

 

 

「うん、分かった。もう無茶はしないよ、約束する」

 

「はい、約束ですよ先輩?ディーラーさんも、マスターをわざわざ危険に駆り立てないでくださいね!」

 

「それについては約束できないな。俺は顧客(ストレンジャー)注文(オーダー)には必ず答える主義でね」

 

 

立香から受け取ったハンドガン・マチルダを整備しながらけろっと答えたディーラーに思わず無言になるマシュ。そうだ、このサーヴァントはそう言う人だった…と渋々ではあるが納得し、思い出す。むしろこのサーヴァントは無茶したマスターをカバーする存在であった。

 

 

「…分かりました。先輩が約束してくれたならいいです」

 

「藤丸への説教兼説得も上手く行ったし、そろそろ戻りましょう。黒髭から航路が決まったと念話が来たわ」

 

「うう…めでぃあ。えうりゅあれ、ぶじか…?」

 

「それについては大丈夫よ。私の使い魔によれば、まだ海の上だけど女神さまには何の危害も与えられてないわ。…それに使い魔に気付かないなんて歴戦の英雄のヘクトールも疲弊しているみたいね。ヘラクレスも本来の戦士の直感は随分衰えているみたい。これは勝機ありね」

 

 

オルガマリーの言葉で宝具を解除しながら零れたアステリオスの心配の声に、メディアが水晶玉を手にそう応える。マイク/カークが居ない今、偵察は彼女の仕事であった。

 

 

「それは僥倖ね。あとは高速で水上を移動する手段なんかがあればいいんだけど…こればかりはさすがに無いし、ドレイク船長と黒髭の考えた航路に期待しましょう」

 

「…あの、それなら…」

 

「何か案があるんですか、先輩?」

 

 

オルガマリーの言葉に弱々しく反応した立香が挙手し、マシュが問いかけると自身なさげに頷いた。

 

 

「………素人の考えですけど。高速で水上を行くなら、危険だけど多分これが一番速いんじゃないかって…」

 

「どうするのかしら?」

 

「…えっと、メディアさんとセイバー…じゃなくてメイドオルタの力を借りれば…」

 

「は?」

 

 

次に述べた立香の言葉に、目が点となり思わず無言になるオルガマリーとマシュとメディア。

 

 

「Hehehe…w Stranger…Stranger(ぶっ飛んでいるなストレンジャー)…!」

 

 

何でいきなり皆黙ったのか分からずオロオロするアステリオスと、元より無言を貫くヴェルデューゴの傍で何故か一人だけ爆笑しているディーラーの姿があった。




今回の一言、メディアさん万能すぎ。

カークの協力もあり立香の問題点を徐々に解明して行っているロマニとダ・ヴィンチちゃん。ロマニはディーラーを信頼しています(だからなんだよってのは置いときます)。

立香VSヴェルデューゴ。しかしレオンと違って超人ではない立香ではろくなダメージを負わせる事無く敗北する事に。オルガマリーのサーヴァントじゃなければ即死だった。

体術最弱で身の程知らずな立香についに怒りを爆発させたマシュとオルガマリー。当初、ヴェルデューゴはメディアが凍らせてネロが砕く、的な勝ち方を予定していました。

最後のディーラーの台詞はロケランなどを購入した時に発する台詞。響きが何気にお気に入りで、わざわざ売って買い戻して聞くぐらい好きです。

次回、立香の作戦でアルゴナイタイに殴り込み。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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おいおい、一方的だなストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、前々回から順調にお気に入り数が減り続けてモチベーションが下がっている放仮ごです。理由が分からないからどうしようもないんだ…

今回は海賊船団VS人類最古の海賊船ことアルゴナイタイの対決。立香のぶっ飛んだ奇策が炸裂です。楽しんでいただけると幸いです。


 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の船尾にて、黙々と無限ロケットランチャーの整備をしていたディーラーの元に、肩にオリオンを乗せたオルガマリーが黒髭を伴って訪れた。一声かけるがゴゥゴゥと言う擬音が五月蠅いためか反応せず、近くまでよって大声でオルガマリーは叫ぶ。

 

 

「ディーラー!聞いてるの!?」

 

「…ん?なんだ!ストレンジャーが何かまた問題を起こしたか!?」

 

「違うわ!ただ、念のためにブラックテイルの整備と弾の補充をお願いしに来たの!」

 

 

大声で会話する二人を見て、ふむと何か考えるそぶりを見せた黒髭は、ディーラーの手元の銃器群に目をやり問いかけた。

 

 

「よくもまあこんなところで整備なんてできますな商人殿!」

 

「ああ!商人にとって商品は生命線なんでね!洞窟の中でも落とし穴の底でも敵地のど真ん中でも整備するぜ!海賊のアンタにゃ分からんか?!」

 

「そうですとも!略奪強奪はお手の物、略奪品の質なんて考えないでござる!金になればそれまでですし?!」

 

「やっぱアンタとは気が合わないな!」

 

 

強烈な風に叩き付けられながら、悠々と新たにシカゴタイプライターも取り出し整備するディーラー。飛ばされそうになっている弾薬は逃さず掴み、懐に突っ込んでいるが黒衣もバサバサとはためき、黒髭は面白いモノを見るような目でそれを見詰めてほくそ笑むと、今度はディーラーから問いかけられる。

 

 

「ところで黒髭!ヘクトールの狙いはアンタの持つ聖杯とエウリュアレだって気付いていたのか?!」

 

「いんや!聖杯狙いなのは何となく分かっておりましたがエウリュアレたんまで狙うとは予想外でござった!海賊ならば人身売買が目的でしょうが!あの男に限ってそれは無いはずですぞ!」

 

「聖杯はまあ分からなくもないけどな!エウリュアレちゃんはさっぱりだ、自他ともに認める貧弱だぞ!」

 

「オリオンの言う通り、彼女の妹のメドゥーサでもあるまいし戦力増強とは考えられないわ!そもそもヘラクレスがいる時点で強化する必要性なんてないし!」

 

「俺とアルテミスみたいに純粋な神がサーヴァント化する事象の方が可笑しいからな!特別な目的があるんだろうさ!特に女神ってのは生贄の役割が多いから心配だ!」

 

「そうね、神を生贄に捧げる事こそが人理崩壊の手段って事も考えられるし、アステリオスと「必ず助ける」って約束したし早く追い付かないと!それがどんなにとんでもない手段でもね!」

 

「ムハッ!男、黒髭!マスターのために踏ん張りますぞ~!」

 

 

突風に吹き飛ばされそうになり、思わず掴まって来たオルガマリーに何やら滾る黒髭に呆れた目を向けながら飛びそうになったオリオンをフックショットで引っ掛けて手に取り、飛ばれては困るので懐に仕舞うディーラー。男の胸は嫌だとは文句を言われたが気にしない。

そして何とか手摺りに掴まり、飛んで来た樽に頭をぶつけ滑って壁に張り付けられてしまった黒髭から離れて歩み寄って来たオルガマリーが一言尋ねた。

 

 

「…ところで嵐も突っ切るこの作戦、藤丸にしては割と名案だったのかしらね?」

 

「どこがだ。魔力が持つかどうかも賭けだぞ。自分への負担を全く考えていないのはストレンジャーらしいがな。体力なら無理矢理グリーン+イエローハーブを喰っていたから多少持つだろうが」

 

「………まあ、おかげで倒れてくれたから無茶な事は出来ないだろうし、こちらとしては万々歳だけどね」

 

「無茶はしないって約束した先からこれだ、マシュもお冠だろうな」

 

「ええ。今頃説教しているはずよ」

 

 

そう会話する彼らの眼下には、高速で流れて行く暗雲が立ち込めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、こちらはヘラクレス・アビスに乗ったままアルゴー号に飛び乗ったヘクトールと、彼に縛られ気絶されたエウリュアレ。それを見たイアソンはまずヘラクレス・アビスに労いと言葉を掛け、ヘクトールから状況の報告を受けると高笑いを上げた。

 

 

「ほう、報告にあったよく分からん化物だけではなく獣人…「ミノタウロスですよイアソン様」…そう、人間の出来損ないもあちらにはいるのか!英雄に倒される宿命を背負った、滑稽な生き物!そう、『反英雄』が二人も!それに加えて海賊か!向こうの人材不足も深刻だなあ!あっはっはっはっは!」

 

「一応アーサー王が二人もいたんだがね。黒髭も生きたままですしアレは中々厄介だぜキャプテン」

 

「しかしヘクトール!君ほどの男が手傷を負うとは!どこの英雄にやられたんだい?」

 

「お恥ずかしながら、死んだ無銘の英霊による置き土産でね。あれは偶然じゃない、宝具の産物だ。申し訳ないがキャプテン、利き腕がやられたんでアンタの姫様に治してくれません?」

 

「なるほど、宝具ならば致し方ないな。お前は宿敵と違って無敵ではないのだからね。構わないともヘクトール!女神もいる、聖杯も手に入れている!それぐらいの報酬ならよろこんでくれてやろう!さあメディアよ、傷を癒してやれ」

 

「はい、イアソン様」

 

 

言われるまま、治癒魔術をかけてくるメディアリリィを見やり、イアソンの背後に控えるヘラクレス・アビスを見上げるヘクトールはある事を思いだし問いかけた。

 

 

「ん?あのいけすかねえ野郎は居ないんで?」

 

「ああ、アークを探しに行ったらしい。英雄ではない彼なりに我々に尽くしているんだ。だったよなメディア?」

 

「はい。アルバート様は現在、近くの島を探索中です。彼の成果に期待しましょう」

 

「ふむ。では君の神託もそろそろか。…折角だ、ヘクトール。君が私のヘラクレスに頼るまで追いこむとは中々の強敵だったのだろう?だが、私のヘラクレスは無敵だ。君を追い掛けて来る世界を修正しようとする邪悪な集団と、我々世界を正しくあろうとさせる英雄達による聖杯戦争に相応しい幕引きをあげようじゃないか!」

 

「…俺らが正義ね。あの野郎を仲間にした時点で悪い冗談だな」

 

 

聖杯を受けとり、傍らに縛り上げられたエウリュアレを置いて上機嫌でそう宣言するイアソンに、ボソッと毒づくヘクトール。彼の英雄としての勘が、あの男こそ諸悪の根源だと言っていた。

治療を終えたメディアリリィに視線を向ける。何時も笑顔だが、曲がりなりにも彼女はカルデア一行にもいた裏切りの魔女その人だ。それがなおのこと恐ろしい。

 

 

「…姫様よ。アンタ、何時真実を告げる気だい?あの野郎もどうせ探索なんかじゃないんだろう?」

 

「真実を告げる必要があるの?いずれ世界は消えるのです。アルバート様みたいに世界が消えた後に何か企んでいようがその結果は必ず来ます。この海だけが永遠だなんて、そんなことをあのお方は許さない。なら最後まで幸福な思いに浸る事は、悪い事ではないと思うけれど?」

 

「…アンタがそう言うんなら、オジサンは黙っておきますがね。だがあの野郎だけは信じちゃ駄目だ。これはオジサンからの忠告だぜ」

 

「心配ご無用です。何があろうと私の魔術で治します。それよりヘラクレスはどうでした?厄介な知性は残っていましたか?」

 

「ああ、最初はエウリュアレを殺そうとしていたが、途中からウイルスとやらが頭に回ったのかちゃんと言う事を聞いてくれたぜ。まあ注意した方がよさそうだ」

 

「エウリュアレが鍵であることを知っていたのでしょう。だから殺して崩壊を防ごうとした。念には念を入れて、私からアルバート様に進言して彼にウイルスを投与したのですがやはり抗いますか。さすがはイアソン様が絶大な信を預ける大英雄です」

 

「あの状態で“知性”があるとは思えないがねえ。いいさ、オジサンの視界にいる限りは注意をきっちりしておくよ。やれやれ、真っ当な聖杯戦争に召喚されてアキレウスの野郎とやり合いたかったねえ…」

 

「終焉の針が進みました。世界を救うべき大英雄はウイルスに侵され、カルデアの者達ではヘラクレス・アビスにはまず間違いなく敵いません。あと一押しで世界(ちつじょ)は崩れ落ちるでしょう。…愛しいあなた。それまでどうか、私を夢から覚まさないでくださいね?フフフフフッ…」

 

 

アルバートから受け取った容器を手に不気味に笑むメディアリリィに引いていたヘクトールはそう言えばと思い出したようにを告げた。

 

 

「…ああ、そうだ。敵陣にアンタの未来の姿があったぜ。キャプテンにはどやされると思って言わなかったが大丈夫か?」

 

「…イアソン様が居ない私など、敵ではありません。もしもの時はこれもあります。例え格上の私が相手であろうとイアソン様は守って見せますわ」

 

「…本当、キャプテンに同情するねえこれは……ん?」

 

 

視線を海の彼方に向けるヘクトール。そこには、水上を高速で走るバイクを駆る黒き騎士王の姿があった。それを確認したヘクトールは未だに上機嫌でエウリュアレを眺めていたイアソンへと告げた。

 

 

「キャプテン、やっこさんおいでなすったようだぜ。まずは一人だ、ああ見えて強敵だぜ」

 

「ふむ、やっと来たか。後の奴等は嵐に足止めされているのか?まあいい、さっそく血祭りに上げて見せしめにしてやろう。私のヘラクレスよ、行け!あんなふざけた格好で私の前に姿を晒した愚者を叩き潰してしまえ!」

 

「■■■■■■■■■■■ーーッ!」

 

 

イアソンの言葉に応え、咆哮を上げて跳躍、海に飛び込んでサメの如き速度でメイドオルタに向けて猛進するヘラクレス・アビス。それに対しバイクを走らせながらメイドオルタは立ち上がり、背中に背負っていたそれを取り出し、バランスよく構えて引き金を引き絞った。

 

 

「■■■■!?」

 

「なっ、ヘラクレス…!?」

 

 

構えたそれ…ボルトアクション式のライフルから放たれた、イアソンどころかヘクトールやメディアリリィでさえも捉えきれなかったその弾丸はイアソンの頭部を捉えたが、瞬時に戻ったヘラクレス・アビスに防がれ、しかしその胸部を貫通して確かなダメージを与えた。蹲るヘラクレス・アビスに困惑の声を上げるイアソンだったが、直ぐに立ちあがったヘラクレス・アビスに戸惑いながらも虚飾の笑みを浮かべた。

 

 

「はっ!まさかヘラクレスを一度とはいえ殺すとはお前も英雄か?だが残念だったな、ヘラクレスはね、死なないんだよ!やってしまえヘラクレス!」

 

「ああ、知っている。冬木では埒が明かなかったから一撃で葬ったからな。だが、商人の仮説通り現代の武器が通用するのは確認した。来い、大英雄。我が鉄の馬の速さについてこれるか?」

 

「■■■ー■■■■■ッッ!」

 

 

アルゴー号の上から巨大な鉤爪と化した右腕を振り下ろし、放たれた衝撃波をバイクを駆って易々と回避するメイドオルタは運転しながらセクエンスをアルゴー号に向けて撃ち挑発し、激昂したイアソンの声にならない叫びで再び海中に潜ったヘラクレス・アビスが猛追。

 

 

「やれ!叩き潰せ!サーヴァントの身とはいえさらに強くなったお前の力を見せてやれヘラクレス!ええい、メディア!ヘラクレスに常時治癒魔術をかけろ!余裕があれば魔力砲撃で援護だ!」

 

「援護したくともあのスピードではしがない魔女である私ではどうしようもありません。しかし全力を尽くします」

 

「やれやれ。オジサンでも辛うじて状況が把握できるってどんなスピードだよ…ん?」

 

 

高速で追走劇を行なう両者にイアソン達の注意が引きつけられ、ふと嫌な予感を感じたヘクトールが振り向くと、そこには気絶しているエウリュアレの拘束を解いて左腕で担ぎ、聖杯に手を触れようとしていたディーラーと目が合った。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

思わず無言の間が流れ、ディーラーは思い出したように聖杯から手を引っ込めると代わりに、傍らに置いていたワイヤーが天まで伸びたフックショットを握り、スイッチを入れた。

 

 

「…………ヒッヒッヒェ。いい武器があるんだが閉店だ」

 

「お前、どこから…!」

 

「Goodbye!」

 

 

シュルルルルとワイヤーが巻き上げられ、ディーラーの姿が空へと持ち上がって行き、ヘクトールが見上げると巨大な入道雲の中に消えたディーラーの姿が。そしてそれに気付き、慌てて最初にメイドオルタを視認した海域を常人よりも優秀な視力で見てみると、そこには限りなく透明に近い糸が先端が輪になって浮かんでいた。

 

 

「そういうことか…あのメイドは陽動か!キャプテン!上だ!」

 

「なに?ヘラクレスが苦戦していると言うのに何を騒いで……!?」

 

 

ヘクトールの叫びに、文句を言いながら上を向いて絶句するイアソン。同じくそれに気付いたメディアリリィが間一髪で防護壁をアルゴー号を囲む様に張り、同時に空から砲弾の雨が降り注いだ。

 

 

「いくでござる!いくでござる!―――アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)!んんw一方的ですぞ~!」

 

 

それは、空から降って来てすぐ目の前に着水した黒髭の宝具、海賊船に備え付けられた四十門の大砲であった。砲弾の雨は防護壁が張られた虚空と、近くの海域で辛うじて気付いたヘラクレス・アビスに炸裂し、大爆発がアルゴー号の視界を覆い尽くす。

 

 

「一体何だ!何が…」

 

「…まだだキャプテン。奴等、とんでもない手段できやがった…」

 

「エウリュアレは取り返したし、聖杯は後から回収すればいい話よ!黒髭、ネロ!魔力は回すから全火力、叩き込みなさい!」

 

「うむ!行くぞ新参者の海賊よ!」

 

「BBA!先陣は拙者とオルガマリー殿達で務めさせていただきましたぞ!とっておき、決めちゃって~!」

 

 

さらに黒髭の隣に掴まっていたオルガマリーの号令で再び放たれた砲弾の雨と、搭乗しているネロの砲門による一斉砲火が襲い掛かり、防護壁を解く事が叶わず一方的に攻撃されるしかないアルゴー号へ、影が差す。

上を向けば、アステリオスが船首に掴まって無理矢理落としたと思われる、空中に浮かんでいた黄金の鹿号が船首を前にして落下して来た。既にドレイクの持つ聖杯により周囲に砲門が展開され、濃密な魔力が集まって行くのを肌で感じたイアソンは青い顔を浮かべる。

 

 

「おいおい、人類最古の海賊船だかなんだか知らないけど、アタシの船員を顔も見せずに奪っていくたあ、舐めてくれたねぇ…青二才。こいつは高くつくよ?」

 

「えうりゅあれ、もう、とらせない!」

 

「くっ、そんな馬鹿な…どうしたら空を飛ぶなんて頭の悪い作戦を考えてそれが実行できるんだ…!ヘラクレスは…!?」

 

 

ヘラクレス・アビスの居た場所を見ると、そこではメイドオルタにアルトリアとヴェルデューゴが加勢し、猛攻を押さえられている大英雄の姿が。アレでは直ぐには来れないと直感してしまい、さらなる絶望が彼を襲った。

 

 

「あら。相変わらずヘラクレス任せなのね、イアソン?」

 

「え。あの……。その声は……まさか、君がカルデアに加担しているなどありえな…ギャー!!ホ・ン・モ・ノー!?」

 

「イアソン様?それでは私が偽物みたいですけど?」

 

「い、いや違うんだ…君は素直な私の伴侶で、奴は裏切りの魔女で…そうか、こんなとんでもない事が出来たのも彼女の魔術か…!」

 

 

船首に掴まるアステリオスの陰からひょっこり顔を出したのは、今もなお魔術を行使中なのか少し焦燥しているように見えるメディア(リリィじゃ無い方)であった。思わず絶叫を上げたイアソンに、防護壁を展開しながら不満そうに頬を膨らませ睨んでくるメディアリリィに冷汗タラタラながらも何とか理解するイアソン。いわゆる修羅場であるが、今なお海賊船がゆっくりとはいえ落ちてきている為に緊急事態で焦りに焦りまくっていた。

 

 

「ええ、うちのマスターは魔術師見習いだけど発想がずば抜けていてね。黒髭に自分の船を一度消してもらって、全員乗ったこの船を私が浮かせ、それを繋げたバイクで海上を走るメイドオルタに引っ張ってもらうと言うぶっ飛んだ作戦よ。まさか貴方がいるとは思わなかったけど、貴方みたいな狡賢いけれどお約束を守る輩には効果覿面だった様ね」

 

「裏切りの魔女をサーヴァントにだと…そのマスター、正気か!?」

 

「正気も正気!…です!メディアさんを馬鹿にすると許さない…ガクッ」

 

「先輩!無茶しないでください!?」

 

 

何やら青ざめた顔の立香が顔を出すも直ぐに倒れてしまい、それを慌ててマシュが引き摺って行く。どうやらゴールデンハインドの上の重力は一定であるようだった。立香が倒れるぐらいにメディアが本領発揮している恩恵である。

 

 

「畜生!私が正義なんだ!この船はアルゴー号だぞ!?不死身の大英雄ヘラクレスもいる、負けるはずがないんだ!それがこんな、おまえらのような寄せ集めの雑魚どもに倒されてたまるものかァ!!!!」

 

「落ち着いてくださいイアソン様、私が何とかしますから!」

 

「クソッ、クソッ、クソッ!そうだ、アルバートはどこだ!ヘラクレスがああなって奴等を蹴散らせない原因は奴にあるんだろ!…アイツ、一人で逃げやがったな!こうなったら令呪でヘラクレスを…!」

 

「逃がさん。水面を駆けるは不撓の魔弾。ロック!」

 

 

ろくにメディアリリィの声も聴かず、動揺して令呪を掲げたイアソンを見るや否や、一度離れてから高速でヘラクレス・アビスに向けて突き進むバイクの上で、モップとなったエクスカリバーとセクエンスを合体させ、スナイパーライフルにしたメイドオルタが狙い撃った。

 

 

「――――不撓燃えたつ勝利の剣(セクエンス・モルガーン)!!」

 

「へ、ヘラクレス…!?」

 

 

先程の一発目、心臓を狙ったハートブレイクショットとは違う、極太の水流の様な魔力砲撃がイアソンの指示と迎撃で手一杯だったヘラクレス・アビスを飲み込み、二つ目の命を散らすとさらに衝撃がアルゴー号を襲い、ドレイクの手に持つピストルの引き金がついに引かれた。

 

 

「さあて!ここが命の張りどころってね!…ワイルドハントの始まりだ!」

 

 

聖杯の力で限定的に英霊としての自分の宝具を得たドレイクの、黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)と、黒髭のアン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)が上と横から襲い掛かり、防護壁は耐え切れずに砕け散り、アルゴー号は木端微塵に吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………おいおい、一方的だなストレンジャー。完全勝利だが、その立役者のストレンジャーがこれじゃあ締まらないな」

 

「…面目ない、凄い脱力感が…あ、今揺れたら吐き気がヤバい…」

 

「ハーブでも喰っとけ」

 

「もごっ!?」

 

「く、草のままはさすがに窒息しますディーラーさん!?」

 

 

着水して大きく揺れた黄金の鹿号(ゴールデンハインド)の船室にて、そんな会話があったとかなかったとか。




イアソン、未知なるマスターとちゃんと対話することなく完全敗北。原作から思いっきり離反します。あとは聖杯を回収すればカルデアの完全勝利ですが…?

原作でヘラクレスが猛威を振るったのは、彼を足止めできるようなサーヴァントがアステリオスぐらいしか居なかったからだと思うんだ…ヘラクレス・アビスは余計な要素を埋め込んだせいで高ランクの宝具以外にも弱点を狙った銃器の類に滅法弱くなっていて弱体化しています。…まあ、防御面のみなんですが…(ボソッ)

立香の作戦→まず黒髭に船を宝具として一時的にしまってもらってゴールデンハインドに同乗してもらう→カルデアの魔力だけじゃ足りないため自分の魔力も使わせてメディアにゴールデンハインドを浮かばせ、さらに透明で頑丈な糸(ディーラー製)でメイドオルタのバイクに繋げて凧揚げの様に引っ張ってもらい空の上を行き嵐などを回避(なお、メイドオルタは嵐の海でも爆走した模様)。
敵船が見えたところで切り離し、メイドオルタに糸を切らせて陽動してもらうと勢いに任せてその敵船上空まで突き進んでメディアの魔術で緊急停止→メイドオルタが注意を退きつけているうちにディーラーにフックショットを使わせてエウリュアレ(と、できれば聖杯も)回収して、同時に空から宝具を展開して少しだけ宙に浮かべて軌道修正した黒髭の船で大砲を撃ちながら襲来。ヘラクレスと分断させ、混乱させたところにさらにゴールデンハインドで追い打ち。
という、かなり来る自分へのダメージを省みていないぶっ飛んだ作戦でした。これ、当然ながらヘラクレスが万全ならアウトでした。

冒頭の会話が嵐の上を突っ切っていた時の物。その時既に立香は寝込んでます。ディーラーの事を強く言えないマスターですが効果は覿面でした。

船を失ったイアソンがどう出るのか。何とか二回は倒せたヘラクレス・アビスとの決着は。謎の男アルバートの行方は。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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アイツを否定できるかストレンジャー

久し振りの更新です。ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、最近ちょっとしたスランプに陥っていた放仮ごです。UAが何時の間にか80000突破してましたありがとうございます。オケアノス編、7話で終わらせるつもりがかなり長引いてしまいました。あと二話で終わらせたい。

今回は一万字突破と何時もより長く、立香とオルガマリー絶望回。前回の優勢から一転、神代の生物災害が牙を剥く。黒髭海賊団とアステリオスの勇姿を見よ。楽しんでいただけると幸いです。


 ヘラクレスは、大英雄である前にイアソンの信を預かる友である。また、彼はマスターでもある。とある現界でマスターを守りきれなかった彼にとって、マスターの指示を聞くのは当たり前であり、しかし守るために自主的に動かざるを得ず、さらには世界を滅ぼさせないために狂戦士なりに防ごうとし、混乱の極みに陥った。今回それが祟って二つも命を奪われ、その挙句にこの大敗北である。

 

何が大英雄か。何が彼の友か。…主を守れずして何がサーヴァントか。また、守れなかった。どうも自分は、圧倒的な物量に滅法弱いらしい。そんな失意のまま沈んでいく。しかし、何かに下から持ち上げられて浮上した。見れば、巨大な鮫が自身の巨体をその背に乗せていた。

 

 

「何をしている、大英雄。お前のマスターは無事だ。お前は敵をただ排除すればいい。」

 

 

何時の間にかマストの残骸の上に立っていたサングラスの男が、傍らの船の残骸に乗っているメディアリリィとイアソンを指しながらそう言った。男を無言で睨み付け、そして振り向くとそこには二隻の海賊船と、顔を青くしながらも船室から出てきてこちらの様子を探る敵マスターである少女の姿。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■!」

 

 

オレンジ色の髪を持つ少女の姿が脳裏で一人の少年と被さり、彼女が庇う様にしている女神を見付け、以前の現界をぼんやりと思い出したヘラクレスは水面を震わす咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?エウリュアレ」

 

「ええ……何が起こったのかよく分かってないけど。何であの変態が…」

 

「…色々ありまして。大体私の所為です、はい」

 

「…まったく、連れて来たからにはしっかり私を守りなさいよ?…というか貴女こそ大丈夫?」

 

「ぶっちゃけ死にそう。…エウリュアレはアステリオスのところに行っていて。後は私が…私達が何とかするから」

 

 

ディーラーに無理矢理食べさせられたハーブで体調を回復させた立香は作戦成功と聞いて顔を出し状況を確認すると、エウリュアレを下げさせてからアルゴー号の残骸に横たわり消滅して行くヘクトールの姿を見付けた。

 

 

「……オジサン、守る戦いなら負けなしだったんだけどねぇ…こいつぁ、完敗だ。誰だい?こんなとんでもない策を考えた馬鹿は。トロイアの将に欲しいぐらいだ」

 

「…私、だけど。ヘラクレスみたいな強敵を倒すには、ディーラーがよくやる敵の虚を突くやり方が一番いいと思って」

 

「…アンタか。盾のデミ・サーヴァントと商人なんかに守られているだけの嬢ちゃんだと思っていたら中々どうして……その無鉄砲ささえ直せれば、オジサンが召喚されたら力を貸すぜ…?」

 

 

その言葉を残して消滅したヘクトールを見送り、一息ついた立香だったがしかし。アルゴー号を見ていた周りの様子が可笑しい事に気付き、そして視線を動かし、他の面々とほぼ同時に驚愕する。

 

 

 

それは、イアソンとメディアリリィがアルゴー号の残骸に乗っかっていて生きていたからじゃない。

 

 

マストの残骸の上に、見覚えのある金髪オールバックとサングラスの男を見かけたからではない。

 

 

 

黒髭とドレイクの一斉掃射を受けて水中に沈んでいたはずのヘラクレス・アビスが水面に現れ、一跳躍で黒髭の船へと飛び乗って来たばかりか、閃光と共にその姿が三体へと増えていたからであった。

 

 

「そんな…!?」

 

「三体だと…!?」

 

「怯むな、行くぞ!」

 

 

間髪入れずに飛び出したのは、メイドオルタ、ネロ、アルトリア、アステリオス、ヴェルデューゴ、マシュの六名。示し合わせたように三人ずつで手前に居る二体に攻撃するも、その攻撃はすり抜け、気付いた時には巨大な爪と斧剣により薙ぎ払われていた。

 

訳が分からず吹き飛ばされた面子に変わり、ディーラー、ドレイク、メディア、エウリュアレ、黒髭、パーカーが、ハンドガンマチルダを構えた立香と、オリオンを肩に乗せてピストルクロスボウを手にしたオルガマリーと共に一斉射撃を叩き込む。

しかし三体のヘラクレス・アビス全てをすり抜けてしまい、唐突に立香達の背後に出現したヘラクレス・アビスの攻撃を咄嗟に気付いたパーカーがショットガンハイドラで迎撃するも、今度は六体に増えて立香達を取り囲んでじりじりと迫る。

 

 

「幻影!?それも、スキル:商人魂を持つディーラーまでかかっているって事は精神的な物じゃない幻影…B.O.W.はそんなことまでできるの…!?」

 

「所長、何か手は…!?」

 

「…本体は透明になる事も出来るみたいだし、攻撃は意味が無いわ。カラクリが分からない今、近くの島に逃げるしかない。でも、その為には殿が……とりあえず黒髭、宝具!アルトリアは直感で探れるなら前衛を!後の皆はゴールデンハインドに退避よ!」

 

「任された!いくでござるいくでござる!」

 

「そこだ!」

 

 

持ち前の直感スキルで察知したアルトリアがエクスカリバーを叩き込んで姿を現したところに、甲板に出現した大砲群からの一斉砲撃が襲い掛かり、爆発で身動きが取れなくなるヘラクレス・アビス。その隙に立香達と共に隣接するゴールデンハインドに退避したオルガマリーは、黒髭の宝具では殺し切れない事を悟り、苦渋の決断として奥の手を切る事にした。

 

 

「ドレイク船長!全速力であの島にお願い!…黒髭、本当にいいの?」

 

「何を迷う事があるのか。もしヘラクレス・アビスを倒し切れなかった場合、誰かがこの役目を引き受けなければならない、しかしこの中で真っ先に飛び出すのは間違いなくアステリオス氏だ。…だけどそれじゃあエウリュアレたんが悲しむ。それだけは譲れない矜持でござる。

せっかくエウリュアレ氏を救い出したと言うのに、その命を狙う無粋な輩を倒すためなら喜んで捧げる覚悟ですぞ。オルガマリー殿は、立香殿と違ってこういう時に迷っても切り捨てる事が出来ると信じていましたぞ」

 

「黒髭…?所長、何を…まさか!?」

 

「いいわ、だったら最後ぐらいド派手にやりなさいエドワード・ティーチ!伝説の大海賊が大英雄に勝てない道理はないわ!」

 

 

アルトリアが退避したのを確認し、ビシッと人差指を指し示すオルガマリーの様子に感づいたヘラクレス・アビスが動こうとするも、黒髭の宝具がそれを許さない。苛烈を究める砲弾の嵐に、跳躍しようとしていたヘラクレス・アビスの体勢が崩れ、それが好機と見た黒髭は部下を一斉に呼び出して砲弾の嵐に銃弾の雨を叩き込み、己が宝具に意識を飛ばし、撃ち続ける大砲の前で声を張った。

 

 

「不詳エドワード・ティーチ、大海賊“黒髭”!一世一代の生き様を見せてくれる!見とけよBBA!見逃したら許さねーんだからな!」

 

「…やっぱりそんな腹積もりだったかい。何かそんな気はしていたよ。いいさ、好きにやりな。この嬢ちゃんならアタシが押さえる」

 

「何で、せっかく拾った命なのに!…ディーラー、止めて!嫌な予感がする…所長!」

 

「…生憎だがストレンジャー。既に所長さんからオーダーを受けていてな」

 

「ごめんなさい藤丸。…でもこれを言っていたら、絶対止めていたでしょ?…貴女のせいじゃないわ。倒し切れないのは想定内、だからオリオンに言われて決めていた」

 

「相手は人類史の中でも並ぶ者はそういないトップクラスの大英雄だ。備えあって憂いなし。特にアルテミスを消滅させたあのハゲと酷似した姿だ、…警戒して損はねえ」

 

 

振り返らずに舵を握るドレイクのもう片手に首根っこを掴まれて暴れ、何とか止めようとする立香であったがディーラーは拒否し、オルガマリーは確固とした意志を貫かんとし、その肩でオリオンが続ける。マシュも立香やアステリオスと同様に知らなかったが、これが最善手だと分かっているため止める気にはなれなかった。

 

そして、道中ディーラーから受け取っていた中折れ式リボルバーマグナムを握り、飛び出そうとしていた黒髭に声をかける少女が一人。

 

 

「…黒髭。貴方は紛う事なき変態だった。・・・でも、拐われた私の事を悔やんで同行したのを聞いたわ。…一応言わないとね。ありがとう」

 

 

アステリオスの肩の上から自身を見つめ、そう言って微笑みを浮かべた女神(アイドル)、エウリュアレに。黒髭の中に言いようのない覚悟が満ちて行く。極上のツンデレが見れたため最期までふざけようかと思ったが、惚れた女と女神(アイドル)が見届けてくれるんだ、さすがにやめるとしよう。

 

 

「……………………礼には及ばないぜ女神エウリュアレ。さあて大英雄。海賊の矜持だ、俺の生き様を見せてやる」

 

 

それの準備のために砲台と部下たちが消え去り砲撃と銃撃が止んだところに跳躍、からの組んだ拳による全体重を乗せたアームハンマーをヘラクレス・アビスの頭部に叩き込み、怯んだところにストンプキック。そのまま拳の連撃を与え、鉤爪で大きく開いたヘラクレス・アビスの露出した心臓を引っ掻いて引き寄せ、もう片方の手に握ったマグナムを全弾撃ち尽くす。

 

 

「今のアンタには銃弾が効くって話は本当みたいだなあ!海賊が矜持を破って商人から奪うんじゃなく買い取った特注品の味はどうだい?」

 

「■■■■■■!」

 

「コイツが黒髭様の生き様よ。奪うのは俺ら海賊だ!逆にお宝を奪われるのだけは御法度なんでね!みすみす奪わせやしねえとも!」

 

 

アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)が光り輝き、目を光らせて姿を消そうとするヘラクレス・アビスに黒髭は不敵に笑んだ。今この時、黒髭本人を攻撃しなかったのは明らかに悪手だ。

 

 

 

「…船長ってのは沈む船と運命を共にする物だ。―――――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「■■■■■■!?」

 

「そんな、黒…髭……?」

 

 

 

そして大爆発。火薬の物とは違う、船丸ごとが大爆発を起こし、ヘラクレス・アビスの影が爆炎の中に消え、立香はその光景を見て涙を流し声にならない嗚咽を漏らす。

魔力の詰まった宝具を爆弾として相手にぶつけ破裂させるそれは確かに大英雄の命を一つ潰し、それでもなお響いた咆哮に、十分距離を取っていたはずのゴールデンハインドが鳴動した。

 

 

「そんな、まさか…まだ動けるの!?」

 

「水中か…だったら!」

 

 

メディアの魔術による風を受けて高速進行するゴールデンハインドの後方から、高速で迫り来る水中の巨大な影に思わず叫んだオルガマリーに頷き、限定仕様マインスロアーで誘導する榴弾を撃ち込むディーラー。

水中で爆発するもその猛進が止まらず、あと少しで陸地と言う所で船体が大きく傾き体勢を崩しながら弾込めしたマインスロアーを仕舞って代わりにマグナム二丁を手にしたディーラーは、必死にヴェルデューゴにしがみ付いているオルガマリーに怒鳴る様に問いかけた。

 

 

「ストレンジャー!以前言っていた、俺と酷似するヘラクレスの宝具ってのはなんだ!?」

 

「私も話でしか聞いた事無いけど、十二の試練(ゴッドハンド)…Bランク以上の攻撃でないと通じない上に、一度自分を殺した攻撃は蘇生時に無効化できる、11回蘇生できる宝具よ!」

 

「だったら話は簡単だ!メイドオルタの健闘と黒髭の置き土産で既に三回殺している!残り九回殺せばいい話だ!俺、マシュ、オルタ、ネロ、アルトリア、メディア、ドレイク、パーカー、ヴェルデューゴ、エウリュアレ、アステリオス!これだけサーヴァントと宝具があればどうにかなる!」

 

「それもそうね!問題はマシュとアステリオスが攻撃宝具を持たない事だけど…二人は防御を、特にマシュはそこで戦意喪失している馬鹿を船室にでも入れて守っていなさい!」

 

「はい、所長!」

 

「私も入るわ。アステリオス、外はお願い。…でも無茶だけはしないで」

 

「うん、エウリュアレ、ぼくが、まもる!」

 

 

意気消沈してうんともすんとも言わなくなった立香と、ついて来たエウリュアレを船室に入れて、アステリオスの横で盾を構えるマシュの眼前で、それぞれ臨戦態勢を取っていたサーヴァント達のど真ん中に、飛び出してきた巨大な影。完全に肉体が白く変色し、赤く染まった髪を振り乱して単眼をギョロリと動かしマシュ…の後方を見詰めるヘラクレス・アビスであった。

 

 

「一斉にかかりな!あの男の矜持を無駄にして溜まるかってね!」

 

「よーし、いっちょやるか!」

 

「!」

 

 

ピストルを乱射するドレイクの号令に、一番手に飛び出したのはパーカーとヴェルデューゴ。黒髭の死は無駄にしないとばかりに、宝具を発動する。

 

 

「―――――!」

 

 

声にならない奇声を上げて、新たに姿を現したのは、赤ローブ姿のヴェルデューゴとは対照的な黒ローブを身に纏った全く同じ姿をした異形、もう一人のヴェルデューゴ。

生前、主の右腕としてレオンと戦い敗れた己とは異なり、常に主と共に在り守り続けた片割れを召喚する宝具【邪教の死刑執行人(ヴェルデューゴ)】。

二人のヴェルデューゴがヘラクレス・アビスを翻弄し、前方と後方から鎌の様な尻尾を全く同時に突き立てる。死には至らなかったものの、足止めはできた。

 

 

「――――テラグリジア・パニックの様な悪夢はもう起こさせねえ。二撃で決める…弾が切れたなら斧を使え(テラグリジア・ブレイカー)!」

 

 

テラグリジア・パニックと呼ばれるバイオテロを生き抜いた男、パーカー・ルチアーニが必要と感じたのは、弾が切れた際に使うもハンターには全く歯が立たなかったナイフに変わる強力な武器。BSAAに所属し、愛用し始めたのがこの斧だ。

この斧はクイーン・ゼノビアを脱出する道中、仇敵であるハンターと出くわした際に斧で仕留めたばかりか、ウーズの大半を二撃で仕留めて来た。それに由来する、一撃で例え相手がどんな防御力だろうが体力の大半を削る大振りの手斧が一撃、二撃とBランク相当の斬撃として叩き込まれ、ヘラクレス・アビスの命を削る。

 

 

「■■■■■■!」

 

「まだ終わらないぜ?一発で効かねえなら何発でもぶちかます!」

 

 

ヴェルデューゴ二体の尻尾を引き抜き、再生していくヘラクレス・アビスの背中に回り込み、間髪入れず構えたショットガン・ハイドラを連射するパーカー。

 

 

「コイツでとどめだ…!」

 

「!? 離れろパーカー!」

 

「なにっ!?」

 

 

弾切れすると直ぐに構えたマグナム・ペイルライダーが火を噴き、10秒とかからずもう一つ命を削る事に成功するも、振り向き様の薙ぎ払いにより重傷を受け、海に投げ出されてしまう。ペイルライダーを撃った直後の大きな隙が災いした。

 

 

「散々だな。いや、一矢報いれたから俺にしちゃ上出来か?なあ、キャプテン…」

 

「…後は任せろパーカー。ヴェルデューゴ!拘束しろ!」

 

「「!」」

 

 

パーカーの消滅を確認したディーラーの一声でヘラクレス・アビスの腕を尻尾で両側から拘束し、先端の刃を突き立てて踏ん張り身動きをとれなくするヴェルデューゴ二体に好機と見て銃を乱射し注意を引きつけるドレイク。

その隙にロケットランチャーを放つディーラーと充填していた魔法陣から魔力砲を放つメディア、そして船内からエウリュアレが宝具「女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)」を放って、それぞれ一つずつ命を削った遠距離組に続いて飛び出すオルタ、アルトリア、ネロ。既に命のストックは八つ削った。残りは、四つ。銃に極端に弱くなっている為できた好機に、マシュ達の表情に希望が宿る。

 

 

「いけるわ!ディーラー、次の武器を使えばそれでラストよ!」

 

「それはどうだろうな?」

 

 

また一つアルトリアがヘラクレス・アビスを両断して命のストックを削り、希望を見出して歓喜の表情を浮かべるオルガマリーの言葉を遮る無粋な声があった。ディーラーと一緒に船体の傍を見下ろすと、そこには見覚えしかない顔があった。ついさっきも見たが構っている暇が無かった顔だった。

 

 

「アルバート・ウェスカー…この特異点にも召喚されているなんて…」

 

「ふむ。お前達は未来の俺と会ったことがあるらしい。だが俺はお前達を知らない、どうやら若い頃の姿で召喚された様だ。ところでどうだ、俺が投与した実験体、ヘラクレス・アビスの力は?」

 

 

ウェスカーとは別だというサーヴァント…アルバートが何故か傷だらけの巨大な鮫のB.O.W.ネプチューンに乗ってそこに居た。ローマからの仇敵ではあるが、一応別のサーヴァントだと言う事なので気にしない事にした。

 

 

「おかげさまで冬木で戦った時よりも弱体化しているわ。同じ攻撃が通じないなら数がいればいい、通常の聖杯戦争じゃまず勝ち目がない相手でも、カルデアなら勝てる」

 

「ふむ、そうらしいな。…だが、この程度の数で足りるか?」

 

「…どういうことよ」

 

「ヘラクレス・アビスはな。サーヴァントの宝具を利用したB.O.W.だ。その真価は、英霊ジャック・ノーマンの宝具の様に、海から大量の魔力を得ると言う点だ。この意味が分かるか?聖杯など得なくとも…半永久的に魔力を摂取し、何度でもストックを回復させる事が可能という事だ」

 

「なっ…!?」

 

 

アルバートから投下された言葉に、オルガマリーの脳裏に描かれていた計算が狂う。ヘラクレス・アビスは水中を進んでこの船に乗って来た。それはつまり、その時点で回復していたと言う事であり…現ストックは四つではなく、七つと言う事になる。いや、それだけではなく…

 

 

「っ…ディーラー!」

 

「…もう遅いぜストレンジャー」

 

 

嫌な予感がしてアルバートから視線をずらすと、そこには尻尾が引き千切られて縁に叩き付けられているヴェルデューゴ二体の姿と、海に向けて警戒するサーヴァント達の姿のみ。ヘラクレス・アビスの姿は無く…

 

 

「もちろん、宝具の効果はそのまま反映される。もう同じ攻撃では通じない上に、幻覚を操り分身や瞬間移動紛いの事も行える最強英霊。まさしく最強のB.O.W.と言えよう」

 

「■■■■■■■■■■!」

 

 

絶望が、海から来襲する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう駄目…………おしまいよ…勝てる訳がない…」

 

「諦めるな所長さん!おい、これ以上海に逃がすな、追い詰めろ!」

 

「無理を言うなオリオン!四方八方海の船の上だぞ!?商人の武器も直ぐに品切れだ!」

 

「そう言う事なら急いで船を陸に付けな野郎共!アタシたちはそれまで耐えるよ!」

 

「くっ…ヴェルデューゴが二体ともやられてしまったのが痛い…エクスカリバーを撃とうにも、船の上では巻き込んでしまいます…!」

 

「一度殺した攻撃は無効化される?ならば一気に11回殺せばよかろう!」

 

「無理言わないでちょうだい似非キャスター!本来、ヘラクレスは一度殺すだけでも不可能に近いの!ウイルスの影響で銃や炎、電撃に弱くなっているから殺せていたのよ!せめてクー・フーリンのゲイ・ボルクやさっきのパーカーやエウリュアレみたいな、確実に命を削る事が出来る宝具が11個無いとそんな芸当は無理よ!」

 

「私も、参戦します…!」

 

「ぼくも、やる…!」

 

「くそっ、ロケットランチャーはもう効かないか。無限ロケットランチャーで一度殺せるとしても、他の銃器じゃハンドキャノンとシカゴタイプライター、マグナムとライフルそれぞれ二種類ぐらいしか火力が足りない……万事休すか。いや、手榴弾系統とハンドガン、ショットガンを合わせれば……」

 

 

 

 

 

 

 

「…私が殺されるしかないみたいね」

 

 

外の混沌と化した状況を見て、ぽつりとエウリュアレが呟いた。どういう訳だか奴の狙いはエウリュアレを殺す事だ、自分が生贄になればアステリオスや他のおまけも助かるだろう、という意が感じられる言葉だった。

 

 

「…駄目。それじゃあ、黒髭やパーカーたちの死が無駄になる。エウリュアレは、死んだら行けないよ」

 

「…私達はサーヴァントなのよ?生きていないし、何時かは必ず消滅する。それに私は女神、生贄になるのが役目よ。私が殺されても特異点にはなんら影響はないんだし、所長さんもそう言うに…」

 

「駄目だよ!誰かが犠牲になって助かっても、助けられた本人は嬉しくも何にもない!…黒髭も、パーカーも、それが分かってない…」

 

「…分かっていたはずよ。それでも守りたいものが、貫きたいものがあったってだけの話でしょ。私達も怪物になった妹のためにこの身を捧げたんだからそれぐらい分かるわ。貴方があの時、アルトリアを守ろうとしていた時と同じ。…ああ、でも貴女が破滅していく過程を見て楽しむために生きるのもいいわね?」

 

 

フフフッ、と笑みを浮かべるエウリュアレに黙り込んでしまう立香。分かってはいるのだ、ただ、意味がある死だというものを認めてしまうのが嫌なだけなのだ。意味がある死なんてあったらいけない、守って死んだら残された人間が苦しむだけだ。最初から一緒に戦い抜けばいい話だと、そう訴えたかった。だが、誰かを犠牲にしないと生きれないのも、また自分が体感した事実で、それがまた心苦しかった。そんな悩む立香を楽しむ様にエウリュアレは微笑みを浮かべる。

 

 

「…それで何か手はあるのかしら?」

 

「…さっきから考えているけど、駄目。一撃で全部の命を削る様な物があれば…」

 

「そんな都合のいいもの…………そう言えば、ぼんやりと金髪が“アーク”がどうのこうの言っているのが聞こえたわね………とにかく、無駄よ。

本来なら迷わず逃げるのが当然なの。相手は人類史史上最強の英雄よ、文字通りの生物災害と言っていい。逃げられないなら諦めるしかないわ。…貴女はそれを知っているから、こうして必死になっているんじゃなくて?」

 

「…それは」

 

「おいおい、ストレンジャーに諦める事を勧めないでくれないか女神さま。…ここでストレンジャーに諦めて貰ったら困る」

 

「ディーラー…!?」

 

 

心が折れかけていた立香の目の前に、ディーラーが現れすぐさまハンドキャノンを手にして構えた。ついに殺されてしまったらしく、その顔は焦りに焦っている。そしてタイムリミットだと言う様に船室の上部分があっけなく破壊された。その瓦礫を受けて立香は咄嗟にエウリュアレを庇って抱き締めるも吹き飛ばされ。壁に叩き付けられて呻きながらも状況を確認する。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 

青空が見え、そこには異形の巨人が巨大な爪の生えた右腕を振り上げて立っていた。その向こう側には瀕死の状態で倒れているメイドオルタ達。半分気を失っているオルガマリーとドレイクとオリオンを守ったのか、ヴェルデューゴの姿は既にない。さらに言えば目の前にはエウリュアレが無防備な姿でヘラクレス・アビスを見上げており、今の攻撃でディーラーも殺され、出現までのタイムラグを狙う様に振り下ろされる爪に、溜まらず飛び出そうとする立香。

 

 

「エウリュアレ!」

 

「…あ。ダメ、かな」

 

「ぬ、ぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「アステリオス!?」

 

 

諦めたエウリュアレの危機を救ったのは、腹部を貫かれた傷や頭部から血を絶え間なく流し続けている重傷を負ったアステリオスだった。突進でエウリュアレとの間に入り、両の手に握った斧を振り上げ、ヘラクレス・アビスを押し上げ、その瞬間に復活したディーラーのハンドキャノンがヘラクレス・アビスの眉間を撃ち抜き動きを止めた束の間に、その悲痛な姿を見たエウリュアレが訴える。

 

 

「アステリオス、だめよ、もう。敵わない!私たちは、そいつには絶対に勝てない!災害に挑むのはただの無能よ!アステリオスは違うでしょ?!駄目なのに、駄目なのに、どうして…アステリオス!」

 

「―――――――ぼくは、ころ、した。なにもしらない、こどもを、ころしたころしたころした!ちちうえが、ははうえが、おまえはかいぶつだから、そうしろ、って!でもぜんぶ、じぶんのせい、だ。きっとはじめから、ぼくのこころは、かいぶつだった!」

 

 

そう叫びながら、復活して執拗にエウリュアレを狙うヘラクレス・アビスの攻撃を押し止めるアステリオス。爪を受け止めたために左肩が大きく裂かれ、右腕は斧剣の打撃を受けてへし折れる。それでも、ヘラクレス・アビスを拘束する事はやめなかった。

 

 

「でも、なまえを、よんでくれた。みんながわすれた、ぼくの、なまえ……!なら、もどらなくっ、ちゃ。ゆるされなくても、みにくいままでも。ぼくは、にんげんに、もどらなくちゃ………!」

 

「…そんなの、この船に乗る皆は誰も気にしないのに」

 

「アステリオスはミノタウロスと忌み嫌われ、現代でも畏怖の体現の一つと有名だ。根っこが善人だから、なおさら自分の事が許せない。他人に許されても、それは苦しめる事にしかならないんだぜストレンジャー」

 

 

アステリオスの独白に悲痛の声を上げる立香に淡々と諭しながらマシンピストルで援護射撃を行うディーラー。もう既に高威力の銃器は全部使い切ってしまった。後が無い、ここで何とかしなければ。そう試行錯誤していると、アステリオスが笑いながらディーラーに問いかけた。

 

 

「でぃーらー、こいつ、つなぎとめて!」

 

「できないことはないが…どうする気だストレンジャー?」

 

「こいつ、えうりゅあれだけじゃない、りつかも、ねらってる。――――――りつかは、ぼくを、みすてないで、くれた。なまえ、よんでくれた。みんな、かいぶつだと、きらわなかった!うまれて、はじめて!…たのしかった…!ぼくは、うまれて、うれしかった!りつかも、えうりゅあれも、みんな、ぼくがまもる!」

 

「アステリオス…」

 

 

アステリオスの言葉に、何も言えなくなる立香。それは間違っているとは、言えなかった。あまりにも純粋な在り方が、眩しすぎた。

 

 

「…オーダーには応えるぜストレンジャー。オリオン、手伝え!」

 

「人使いが荒いこった。何もできねえじゃアルテミスに顔向けできないしな!」

 

 

ひょこひょこやってきたオリオンを肩に乗せたディーラーが取り出したのは、彼が本来扱えないコンパウンドボウ。番えるは爆弾付きではなく、ガナード程度なら一撃で頭部を破壊できる通常の矢。オリオンの指示で狙いに引き絞り、放たれたそれは見事、アステリオスとヘラクレス・アビスの胸部を貫通して見せた。

 

 

「■■■■!?」

 

 

弱点である心臓部を貫かれたヘラクレス・アビスの悶絶の声が響き渡り、それに対してむしろ笑顔を輝かせたアステリオスはさらに両手の斧をヘラクレス・アビスの背中の腫瘍に突き刺して固定。予想外の大ダメージを受けたヘラクレス・アビスの足がふらつき、アステリオスはそれを好機と見て船の縁まで押しやって行く。

 

 

「でぃーらー、おりおんも、ありが、とう…!えうりゅあれを、よろし、く……!ぜんぶ、えうりゅあれの、おかげ、で――――ぼくは、えうりゅあれが、だいすき、だ!」

 

「…………………………アステリオス!誰が何と言おうと、あなたは怪物(ミノタウロス)なんかじゃない!雷光(アステリオス)以外の誰でもないわ。貴方は私にとっての英雄よ、だから――――お願いだから。怪物になりきれなかったことを、悔やまないで。それはとても、尊いことなんだから」

 

「…うん。でもやっぱりかいぶつは、ちゃんとばつをうけないと」

 

 

エウリュアレの言葉に満足気に頷き、その言葉を最後に突き落としたヘラクレス・アビスもろとも海に落ちて行くアステリオス。その間に、復活したドレイクの扇動で船は近くの島へと急いで進む。

 

 

「駄目、アステリオス…!?」

 

「うっせえ、この阿呆マスター!アイツの心意気を汲んでやれ!アンタがそれが苦手な事は知っている、だが認めないのはアイツの頑張りを無視するって事だぞ!」

 

「っ!」

 

 

海に落ちたアステリオスに、たまらず悲痛の声をあげる立香だったがオリオンの言葉にショックを受けて立ち竦んでしまった。

 

 

「…アイツを否定できるか?ストレンジャー」

 

「できない、できるわけがない……でも、誰かが死ぬのはもう嫌だ」

 

「誰だってそうだ。俺だってアルテミスに命がけで救われた。そりゃ怒ったさ、泣きもした。それでも、アルテミスが俺を助けて死んだって言う事実は変わらないんだ。だからせめて、アイツに報いてやりたい。それだけだ。……さて、俺は所長さんを起こさないとな」

 

 

ディーラーの肩から降りてオルガマリーの元に向かうオリオンの姿は哀愁に満ちていて。立香は自分の価値観が、少しだけ変化したのを感じた。

 

 

 

 

 

大敗北に喫したカルデアを乗せて、半壊した黄金の鹿号(ゴールデンハインド)は近くの島へと突き進む。それはドレイクが引き当てた幸運か、この状況を打開する手段の眠る島だと言う事を失意に沈む立香達はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「弱点部位を攻撃されながら拘束されると大英雄であってもどうしようもないか。…セルゲイのテイロスの様な鎧を考えるのも手だな」

 

「…何が最強のB.O.W.ですか。逃がしてしまっては元も子も無いでしょう。それとも、何か考えが?」

 

「フランシス・ドレイクは幸運に愛された船乗りだ。奴等がアークを見付けてくれるとは思わないか?」

 

 

暗躍する影。覚醒した大英雄の君臨する四海(オケアノス)を懸けた最終決戦はすぐだった。




ヘラクレス・アビス。ぶっちゃけると、弱点が追加されて脆くなった代わりに海がある限り永遠に復活する上に不可視になったり分身を作れたり幻影も使えるヘラクレス。勝てる訳がない。

アルゴナイタイの剣客、アルバート・ウェスカー・リリィ登場。宝具はほとんど変わりませんが、1~4までの失態を起こし続けエイダのビジネスパートナーだった頃の情けないウェスカーさん。つまりマトリックスな動きをせずロケランを受け止める事も出来ないただの元S.T.A.R.S.隊長ですね。まあクリスやロス・イルミナドスの雑魚を圧倒するぐらいには強いんですが。

今回犠牲となり散って行った黒髭、パーカー、ヴェルデューゴ、アステリオス。黒髭がかっこよく散ってもいいじゃない。大好きなんだ。
本当ならアステリオスは宝具を使ってアークまで誘導する展開を考えていましたが、立香の心境を変える事にぴったりだったので犠牲になってもらいました。本当にすまないと思ってる。

パーカーの宝具はリベレーションズ屈指の近接武器と知られる斧。ゲーム的なメタ宝具でしたが真面目に考えてハンター対策だと思えばこれは熱い。本当にテラグリジアパニックの初期装備は酷いと思います。
ヴェルデューゴの宝具は片割れ召喚。通常のサーヴァントには鬼強ですが相手が悪かった…右腕じゃない方のヴェルデューゴはレオンと同等に渡り合う実力者ですが最期から鑑みるにかなり不憫だと思います。

アステリオス達の犠牲に、少しだけ心境が変化した立香。しかしディーラー以外のサーヴァントは瀕死の重傷だと言う最悪の事態に。次回は決戦メディア・リリィ+魔神柱。ディーラーの宝具、ついに真名解放です。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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全額勝負といこうかストレンジャー

また久し振りの更新です。ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、ラスボスが一番弱かったバイオ4professionalを無事クリアし、念願の隠し武器を手に入れてから執筆したので更新を怠っていた放仮ごです。サドラーはやっぱり弱かった(ぶっちゃけマイクエリアが一番強敵だった)。

今回は長くなりすぎたのでディーラーの宝具お披露目は次回に持ち越しになりましたが、ヘラクレスへの反撃回となります。そしてイアソン終了のお知らせ。楽しんでいただけると幸いです。


アルバート・ウェスカーは「あの御方」に直接オケアノスに召喚されたサーヴァントだ。メディア・リリィとヘクトール、ヘラクレスだけでは力不足だと感じた「あの御方」は、唯一ディーラーを完膚なきまでに倒し、ローマにて事故で消滅したウェスカーを「新世界の神になる」という野望を抱いていなかった頃の状態で召喚し(生前の記憶は引き継がれる)、送り出した。

 

召喚されたアルバートはヘラクレスを使って「宝具を使用し、強化するB.O.W.」を生み出す実験には成功し、さらにカルデアがこのヘラクレス・アビスに敵う道理は無いので役目は終え、あとは自由にしていいと言うのが令呪による命令だ。「あの御方」には黙ってもう一つ仕込んだものを見届けてから消えてやろうと言う腹積もりだった。

 

 

「なに、行先はすぐ傍の島だ、今なら俺のB.O.W.で容易に追いつける。お前はそこで無様に気絶している馬鹿の子守りでもしていればいい。心配ならば配下を付けようか?」

 

「結構です。イアソン様は私が守ります。もしも彼等がまた攻め込んで来たら、貴方から頂いたコレを使いますのでご安心を。それよりも、あの御方からの命令は遂行してください。この海を滅ぼすには、もうイアソン様では役不足です」

 

「元よりそうだろう。コイツには野望があっても、それを成し遂げるだけの覚悟が無い。新世界には不要の産物だ。死に物狂いでやってみればどうにかなるタイプだろうがな」

 

「なるほど。アルバート様と同じ人種ですね!」

 

「…………冗談と受け取って置こう」

 

 

メディアリリィの発言にビクッと反応したアルバートであったがサングラスを押さえ、一度浮上して来てから己が指し示したドレイク達の向かった島へと追い掛けて行ったヘラクレス・アビスの行方に視線をやり不敵に笑む。

 

 

「なにより、俺の予想に反して教団を壊滅させたレオン・S・ケネディの関係者であるあの男がいる。不安の種は潰しておくに限る」

 

 

その視線の先には、新たにアーチャーのサーヴァント二体を入れた自らのサーヴァントを背後に控えさせ、オリオンを肩に載せたオルガマリーが、傍らにドレイクとその部下たちを連れて砂浜に立っていた。

 

 

「部下が命を懸けて頑張ってるのよ。邪魔はさせないわ」

 

「さあて、二度目だけどこここそ命の張りどころってね!」

 

 

その姿を見て正気を取り戻したイアソンが船の残骸の上に立ち上がる。屈辱と敗北に塗れたその表情は憤怒に染まっていて、アルバートとメディアリリィは溜め息を吐いた。

 

 

「不安の種?馬鹿かアルバート、奴等はそんな生易しい物じゃない、必ず潰すべき害虫だ!害悪だ!一匹残らず捻り潰せ!俺の船がこうなったのも守りきれなかったメディアの責任だぞ、お前もやれ!」

 

「後の二人は無視していいわ!イアソンを狙いなさい!」

 

「さて、遠慮なく宝具の大盤振る舞いをさせてもらおうか。太陽神(アポロン)月女神(アルテミス)に捧ぐ―――彼女の無念を私が受け継ぐ。訴状の矢文(ポイポス・カタストロフェ)!」

 

「狙われたからにはお返しをしないとね。宝具―――五つの石(ハメシュ・アヴァニム)!」

 

「そーれ、たんまり喰らいな!」

 

 

イアソンの命令に動き出そうとしていた二人に先手を打つように、新たなアーチャー二人を筆頭に、ディーラーから借りた銃も使い遠距離から一斉攻撃するオルガマリー達。メディアリリィが魔力の防御壁を張り、ウェスカーが手にしたカスタム拳銃…サムライエッジで反撃するも、アルトリアに防がれてしまい意味を成さなかった。

 

 

「な、なんでオレばかり…この卑怯者!絶対に俺を守りぬけよ!アルバート!メディア!…ふん、あのマスターとエウリュアレが居ないのを見受けるとどうやらヘラクレスから逃げているんだろう?だったら時間稼ぎをすればオレ達の勝ちだ!アイツは最強だからすぐにやってくれるさ!」

 

「…はあ。そう上手く行くといいのですが」

 

「こうなるのは奴等の思惑通りか。勝手に死にそうだったから興味は無かったがあのマスター、中々興味深い。タイラントを嗾けるのも視野に入れて置こう」

 

「…あのマスターに同情しますね、ええ」

 

 

湾岸に隠れていた黄金の鹿号も現れて砲撃が襲い掛かり、メディアリリィは溜め息を吐きながら迎撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう誰かに助けられるだけは嫌だ。共に戦い、誰も犠牲にせず生き抜きたい。そんな決意を抱く藤丸立香は今日も今日とて無茶をする。ワイヤーでしっかり縛ったエウリュアレを抱き抱え、高速で森の中を走るバイクの後部座席に乗り大英雄と命がけの追いかけっこをすると言う無茶をする。

それができるのも、彼女が信頼する己のサーヴァント三名がバックアップしてくれるからだ。

 

 

「来るぞ来るぞ、ストレンジャー!」

 

「全く、とんでもないマスターに呼ばれたものね…!」

 

「先輩は、私達が守ります!」

 

「マシュとディーラー、メディアさんは手筈通りに!メイドオルタ、お願い。全速力で逃げて!!」

 

『経路は僕が指し示す!立香ちゃん達はとにかく、逃げてくれればいい!』

 

「フルスロットルで行くぞ!しっかり掴まってろ、マスター!」

 

 

ある程度引き寄せるために一定のスピードを保っていた愛車のエンジンをフルに回して爆走を開始するメイドオルタと、それを追いかけて走る(一名は飛んでる)ディーラー、マシュ、メディア。猛追するヘラクレス・アビスに目掛けて三名は各々の役割でバックアップを開始した。

 

 

「■■■■■■■ッ!!!!」

 

「…アステリオス、貴方多分、私を任せる人を間違えたわ。致命的に」

 

 

何度も不可視になり分身、瞬間移動を繰り返しながら迫り来る大英雄を、立香の背中越しにぼんやりと眺めたエウリュアレは、考える事を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそもどうしてこんなことになったのか。それは、ドレイク達の逃げた島で、アルゴナイタイを裏切った弓兵のサーヴァント・アタランテと、彼女をアルバートの放ったネプチューンから救ったと言う弓兵(なお杖で殴ったり投石したり)のはぐれサーヴァント・ダビデと合流したためであった。

 

アルテミスの最期を聞きオリオンの意思を汲んでヘラクレス・アビス打倒に協力すると申し出たアタランテと、アルゴナイタイの求める「契約の箱(アーク)」を宝具として所持しているためアルバートに追われていると言うダビデと協力し、ヘラクレス・アビスを倒す策を考えたカルデア一行。

 

ダビデ曰く契約の箱(アーク)とは触れさせれば相手は死ぬ、それだけしかできない三流の宝具であり、正確にはダビデの所有物と言う訳でもなく、神が人類に与えた契約書の様なそれの現物と共に召喚されるサーヴァントがダビデらしい。

契約の箱(アーク)とはあらゆる存在に死を与える箱であり、もしも神霊であるエウリュアレが触れて契約の箱(アーク)に捧げられれば暴走し、真っ当な世界ならばともかく本来存在しない特異点では耐え切れずこの時代その物が「死」ぬとの事。イアソンは王になる力のつもりだったのだろうが、これは誰かに言い含められたため滅ぼすつもりなど微塵もないのだとメディアが確信を持って言ったため全員が納得した。

 

そして、契約の箱(アーク)に触れさえすればヘラクレスの命のストックを一発で削る事が出来るらしいが、まず宝具であるために魔力があるためバーサーカーでも触れさせることが難しいらしい。そこで、立香が作戦を思いつき、かなりのギャンブルだがそれしかないと相成った。

 

ヘラクレス・アビスが狙っている立香とエウリュアレが囮になって契約の箱(アーク)のある場所まで誘き寄せ、ディーラーの思い付いたある策で触れさせる。その間、アルバートとメディアリリィに邪魔されない様にオルガマリー達がイアソンを狙って足止めする。実行部隊は立香とそのサーヴァント達。それだけの作戦だ。

 

 

「行くぞメディア、マシュ。俺達は奴を殺す必要はない。適当に足を止めさせればいい」

 

「分かっているわ。マシュ、この中で接近戦ができるの貴方ぐらいなんだから踏ん張りなさい!」

 

「はい!マシュ・キリエライト…先輩を守るために、行きます…!」

 

 

メディアの魔術でメイドオルタの進行方向先に転移、通り過ぎてから手榴弾やら魔法陣によるトラップを放ち、爆発や氷結、炎や電撃で足止めを図るディーラーとメディア。しかしヘラクレス・アビスは少しスピードを緩める程度で意にも介さず突き進み、それをマシュが後方から己の盾を投げ付けて背中の弱点部位にぶつける事で仰け反らせ、括ってあったワイヤーを引っ張って手元に戻すと今度は突進。

 

 

「やあぁああああっ!」

 

「■■■■■■■!」

 

「ッ!」

 

 

させるかと言わんばかりに咆哮と共に振り返って爪を叩きつけて来たヘラクレス・アビスの反撃を受ける直前に立ち止まって踏ん張り防御、その隙にメディアの手から胸元に向けて放たれた魔力光線とディーラーのライオットガンによる顔面ショットガンを浴びて動きを止め、その間にメイドオルタはギリギリ視界に納まる程度の距離まで突き進んでいく。

 

 

「■■■■■■■■■■!」

 

 

それに気付いたヘラクレス・アビスは巧みに右腕の爪と左手の斧剣を乱舞の如く振り回してディーラー達を跳ね飛ばし、閃光と共に姿を消してメイドオルタの追跡を再開する。

 

 

「メディア。次だ」

 

「了解。回復はちゃんとしなさいよ」

 

「分かっている」

 

 

アーマーを着て一撃死を回避しているディーラーの回復系統の商品を使い、メディアの魔術でダメージ軽減している両者共に体力を回復して傷も治し、メディアの魔術で再びメイドオルタ達の進行方向先に転移して再び妨害。しばらくの間、それを繰り返すディーラー達。地味ではあるものの、「殺さない程度の攻撃で足止めできる」というのはヘラクレスとの戦いに置いてかなり有効であった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、しばらく走り続けて契約の箱(アーク)がある地下墓地(カタコンベ)の最奥部まで来た立香達。逃げ場がない一番奥までメイドオルタがバイクで契約の箱(アーク)を飛び越え、それに気付いたヘラクレス・アビスは急停止。

ただ触れさえすればいいのに、マシュとバイクから降りたメイドオルタが押し込もうとするも足りず、メディアの魔術も弾き飛ばされる。どうあっても触れる気はない様だがしかし、それをディーラーは許さない。

 

 

「なあ英雄様。アンタ、ウイルスに感染してクリーチャー化しているんだろう?どうだ、感覚は。何時もより鋭く、反射的に動ける様になっているんじゃないか?」

 

「■■■■■■■■■■■!」

 

「ヒッヒッヒッヒェ。アンタには特異点Fで借りがあったなぁストレンジャー…JACKPOT(大当たり)だ!」

 

「…行っけえ!」

 

 

ディーラーが投擲した閃光手榴弾とパルスグレネードが閃光とパルスを発生させると同時に、立香が懐から取り出したそれを投擲。視力を失い、平衡感覚を失い、しかし契約の箱(アーク)に触れない様にその場に陣取り、両腕の得物を闇雲に振り回すヘラクレス・アビスであったが、一定間隔で流れる音が聞こえて来て彼の意思に反して体は動き出す。契約の箱(アーク)の上に、それはあった。

 

 

「B.O.W.デコイ。本来ならばハンターの様なすばしっこい奴等を一か所に集めて爆発で一網打尽にする、ヴェルトロと取引して手に入れた俺のとっておき商品だ。やっぱり効果はあったな、狂化が成されているバーサーカーの辛い所だ。これがジャック・ノーマンの野郎だったら効かないんだろうがな」

 

「これで、どうだ…!マシュ、押し込めぇええええっ!」

 

「はい、行きます先輩…疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!」

 

「■■■…!?」

 

 

何とか抗い、ギリギリのところで立ち止まったヘラクレス・アビスに、宝具を展開しながら突進したマシュのシールドバッシュが直撃。ぐらりと揺れて、ヘラクレス・アビスは巨大な右腕をついに、契約の箱(アーク)に下ろした。短い声を上げて、ヘラクレスの命のストックが一瞬で失われその姿が消える。ついに、ヘラクレス・アビスを倒す事に成功した立香はその場にへたり込んだ。

 

 

「やった…やったよ、黒髭。パーカー、ヴェルデューゴ。…アステリオス。みんなのおかげで、私達は勝てたよ…」

 

「お疲れだマスター。吐くなよ?」

 

「本当、よく勝てたものね。最後、ギリギリだったわ」

 

「作戦は完璧だったんだ。後は頑張りさえすればどんな難題でも越えられるのが人間だ。よく踏ん張ったなマシュ。いいガッツだったぜ」

 

「…正直、信じられません。先輩とディーラーさんの作戦が大きかったと思います。それよりマスター、大丈夫ですか!?」

 

 

一息吐いたマシュが慌てて立香の安否を確認する。魔術礼装の背中が鋭く裂けていたが、軽傷の様でありディーラーが手当てしていて安堵した。

 

 

「………正直、死ぬかと思った。何度か掠ったし」

 

「アルテミスの様に傷口から感染したらヤバかったが、どうやら振り下ろしの時に生じた風で裂けた様だから安心しろストレンジャー」

 

「死ぬかと思ったは私の台詞よ。気が気でなかったわね。まあでも、野蛮だけの勇者ではなく自分の弱さを知って、出来得るだけの事をした立派な振る舞いだったわよ、マスター」

 

『あとはイアソン、敵の魔女メディアとアルバート・ウェスカーのみだ。所長にも知らせた、急いで戻ってくれ皆!』

 

『嫌な知らせだよ立香ちゃん。イアソンが魔神柱化、敵の魔女メディアがクリーチャー化した。オルガが危ない』

 

「ええ!?」

 

 

安堵からの急転直下、所長のピンチに立香はメイドオルタと共にバイクに飛び乗り、他の面々を置き去りに来た道を急いで戻る。ディーラー達もメディアの魔術による支援を受けて走りだし、オケアノス最後の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアッ!」

 

「ネプチューン。…シークリーパー、グロブスター」

 

 

水面をかける青き騎士王に向け、アルバートはウロボロス・ウイルスの嚢胞を目の前の海に飛ばして巨大なホオジロザメのB.O.W.ネプチューンと、t-Abyssによるウーズの亜種である白いカブトエビの様なシークリーパーの群れと、巨大なナマコの様な肉塊グロブスターの群れを召喚。

アルトリアは跳躍して飛び出して来たネプチューンを一刀両断して着水。風王結界を解放してシークリーパーとグロブスターの群れを巻き上げながら突進。堪らず腰だめに構えるアルバート。

 

 

「その程度か騎士王?」

 

「ぐっ、があっ!?」

 

 

振り下ろされたエクスカリバーを後退して避けて踵落し…ネリチャギをその肩に叩き込み、すかさず怯んだアルトリアを掌打で海面まで吹き飛ばしたアルバートは、続けて滑走して来たネロに手にしたサムライエッジを乱射。

 

 

「斬撃皇帝、出るぞ!…この程度、ぬああっ!?」

 

 

咄嗟にネロが剣で防ぎ隙ができた瞬間に再度ネプチューンを召喚し、水中から襲わせるも拳で迎撃されるも、焦らずにサングラスの位置を直したアルバートは、シークリーパーとグロブスターを再び召喚して構えた。

 

 

「今の俺のクラスはアーチャー。驚異的なスピードこそ出せないが、堅実さではアサシンの俺を優に抜く性能だ」

 

「むう、無事か青いの!」

 

「え、ええ何とか……しかしこの男、決して侮れません。あの召喚能力は厄介です」

 

「奴めの相手は我等が受け持ったのだ。行くぞ青いの!援護は任せよ!」

 

「ええ、同じオルガマリーのサーヴァント。信頼しましょう。……あと青いの言わないでください!」

 

「…いいだろう。アーサー王に皇帝ネロ、別のクラスとはいえローマでは世話になったな。決着をつけるか。完全に葬ってやる!」

 

 

小さな島の様に集束したグロブスターに乗り、海に乗り出してアルトリアとネロの二人とぶつかるアルバートを余所に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何…?おい、メディア。その冗談、この状況じゃなくとも全く笑えないぞ」

 

「いいえ。残念ですが、ヘラクレス・アビスが倒されました。どういう手を使ったのかは不明ですが、海である限り決して負ける事の無い今のヘラクレスがカルデアに敗北した様ですイアソン様」

 

「死ぬはずがないだろう!?不本意とはいえ、アルバートが「海では決して負けない力」を与えたはずだ!そもそもアイツはヘラクレスだぞ!英雄(オレ)たちの誰もが憧れ、挑み、一撃で返り討ちにされ続けた頂点、不死身の大英雄なんだぞ!?それがあんな、ふざけた作戦しか出せない腰抜けのマスターが寄せ集めた様な雑魚サーヴァントどもに倒されてたまるものかァ!!!」

 

 

ヘラクレスが負けた、その凶報をメディアリリィから受けて取り乱すイアソン。今もなお遠距離攻撃を受けており、メディアリリィの張った防壁も罅が入り始めている。撤退しようにも自分の唯一の取り柄とも言えた船は全壊。聖杯はあるものの、今悪足掻きしようとも出るのはシャドウサーヴァントのみだが召喚して飛び出していく傍からアーチャーに倒される。ヘクトールとヘラクレスがやられた今、最後の頼みの綱であるアルバートはこちらの気も知らず二人の英雄とガチンコバトルしている。

もう怒鳴る事しかできないイアソンに、メディアリリィは憐みの目を向けながら笑みを浮かべた。

 

 

「安心してくださいイアソン様。マスターのお守りは私の役目。最期までちゃんと、面倒をみてあげますから」

 

「何を言っているメディア!聖杯の魔力をじゃんじゃん使って特大の砲撃をかましてやれ!」

 

「全盛期でしたら短時間で出来ますが今の私では難しいですね。しかし降伏は不可能、撤退も不可能。私は治癒と防衛しか能の無い魔術師。ああ、その防衛も今や崩壊間近。さあ、いかがいたしましょう?」

 

「うるさい、黙れッ!妻なら妻らしく、夫の身を守る事だけを考えろ!」

 

「ええ。もちろん考えています、マスター。だってそれがサーヴァントですものね」

 

「っ…何だその顔は。なんだってまだ笑っている!お前、この状況が分かってないのか…!?」

 

「最期にいい事を教えて差し上げます。貴方の求めていた契約の箱(アーク)と女神エウリュアレですが」

 

「それがどうしたって言うんだ!今更!」

 

「もしも契約の箱(アーク)にエウリュアレを捧げていたら世界が滅んでいました。残念ですね、そうしたらイアソン様も苦しまずに死ねたのに」

 

 

今度は純粋な笑みを浮かべたメディアリリィに、表情が引き攣るイアソン。彼女は、イアソンに恋をさせられ裏切られた末路を辿った魔女メディアが幼き姿を取ったサーヴァントは、純粋に狂ってしまっていた。

 

 

「う、嘘だよなメディア…?契約の箱(アーク)に女神を捧げれば無敵の力が与えられるんじゃなかったのか…?だって、あの御方がそう言って…」

 

「はい、それは嘘ではありません。だって時代が死ねば世界が滅ぶ。世界が滅ぶ、即ち敵が存在しない…ほら、無敵でしょう?」

 

「それじゃあ何の意味も無いだろう!オレは今度こそ理想の国を作るんだ!誰もがオレを敬い!誰もが満ち足りて、争いの無い、本当の理想郷を…」

 

「それは叶わない夢なのです。召喚されてからこれまで言って来たことは全て真実です、多少の誤解はあった模様ですが。騙してなどいません。例えば、今しがた守ると言ったでしょう?どうやって守るかというと…こうやって、です」

 

「なっ…」

 

 

もう少しで魔力障壁が割られる、と言ったところでえいっ、と軽く声を上げて聖杯をイアソンの胸部に突っ込んで取り込ませたメディアリリィ。イアソンの姿が溶け、歪み、膨張して姿を変えていく。

 

 

「聖杯よ、我が願望を叶える究極の器よ。顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神柱なり。其は序列三十、海魔フォルネウス」

 

「が。ぎ、が、あ、ぎいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

「――――戦う力を与えましょう、抗う力を与えましょう。そして、ともに滅びるために戦いましょう。私も、愛しい貴方のために我が身を捧げましょう…ずっと一緒ですよ、マスター…」

 

 

魔神柱へ変貌していくイアソンを見ながら取り出し、残念とでも言いたげな笑みを浮かべたメディアリリィが自身の首筋に打ったのは、アルバートから手に入れた怪しげな赤い液体の入った注射器。アルバートからGウイルスだと聞かされていたそれは、液体の中にちらりと動く影が見え、メディアリリィに注入される。

 

 

「ぐっ、がっ…」

 

 

苦しみもがき、倒れたメディアリリィの背中が蠢いて数本の触手が飛び出し、魔神柱に巻き付いて取り込みながらメディアリリィの身体を持ち上げていく。しかしその表情には困惑が浮かんでいた。

 

 

「これは…まさかアルバート、様…これ、は…!?」

 

「うん?ああ、やっと使ったか。貴様はもう用済みだ、G生物で魔神柱を取り込むというのはいい提案だったが、それではローマでG生物を倒したカルデアに勝てる見込みが減るだろう。そもそも重石に過ぎないクズ共に付き合う義理は無い。…だが感謝しろ、自我は残る支配種プラーガを貴様にくれてやった。片っ端から辺りの生物を取り込み変異する不完全な…アーヴィングに言わせれば二流の代物だがな。サーヴァントはプラーガにもちゃんと適合する、それが分かっただけで満足だ。礼を言おう」

 

「………ヘクトール。貴方が正しかった、みた、い…」

 

 

メディアリリィの脳裏に思い浮かぶは、ヘクトールの忠告。同じ主を持つため裏切る事は無いと思っていたのが裏目に出た。

 

 

「ッ!?アルトリア、ネロ!退避よ!」

 

「「!」」

 

 

狂笑を浮かべたメディアリリィが、足場が崩れて魔神柱ごと海に落ちる瞬間、アルバートと交戦中のアルトリアとネロに向けて触手が伸び、二人はオルガマリーの声に咄嗟に剣で迎撃。しかし大波によって体勢が崩れ島まで流されてしまい、アルバートはその隙を突き姿を消す。

 

 

「アレは…プラーガ、なの…?」

 

「オルガマリー達がフランスで寄生されたと言う寄生生物ですか。でも、どこに…」

 

「来るぞ所長さん!皆、急いでドレイクの船に乗れ!」

 

 

それに気付いたオリオンの声に、オルガマリーを抱えて黄金の鹿号(ゴールデンハインド)に飛び乗るアタランテと、続くダビデ。そして津波が先程までいた砂浜を襲い、アルゴー号の残骸を突き破ってそれは現れた。

 

 

『序列三十、海魔フォルネウス・アビス。この力を持って、アナタ方の旅を終わらせましょう!』

 

 

メディアリリィが変異したのは、さまざまな魚類や貝類、さらにネプチューンやグロブスターにシークリーパーなどを融合させたような特徴を持つ白いイカに酷似した硬質な殻に覆われ、全身に赤い魔神柱の目がギョロリと動き、大口を開けたクリーチャー。

開いた口の中から舌の様な触手と一体化した半身を現したメディアリリィが叫び、フォルネウス・アビスは口を閉じて水中に沈むと、水面が盛り上がり迫り来るのが分かった。

 

 

「最後に怪物のご登場かい!こないだのクジラよりは幾分か小さいねえ!…野郎ども準備はいいね!黄金の鹿号(ゴールデンハインド)!これが最後の航海、最後の海賊だ!目標はあのデカブツ!連中が持っている財宝はアタシたちの自由の海だ!黒髭の野郎が奪われた分まで全部まとめて取り返すよ!鐘を鳴らしな、兄弟!」

 

「あいよ、姉御!」

 

「取り舵一杯!砲撃と射撃を行いつつ、接近!オルガマリーの所長さん方をデカブツのところまで送り届けろ野郎共!」

 

 

このままでは埒が明かないとばかりに沖に乗り出す黄金の鹿号と、それに並走しながら辺りを警戒するアルトリアとネロ。不自然な静かさに、オルガマリーの脳内が警鐘を鳴らした。まだ立香達が合流していない、このままでは船ごと沈められて終わりだ。だがしかし、船で沖に出ないと攻撃すらできない。そんなジレンマに頭を悩まされる。

 

 

「前回はまだ足場になる船があったからよかったけど…また巨大水棲クリーチャーって、やっぱりマイクが居ないのは痛いわ……アルトリア、ネロ!一度上がって様子見よ…!?」

 

 

そう言ったオルガマリーであったが船体が大きく揺れ、投げ出されそうになり必死にしがみつくと右舷から迫り来る巨大な影が見え、次の瞬間には小さくなった魔神柱の様な触手が海面から飛び出してきて攻撃。

 

 

「させるか!」

 

 

咄嗟に船上に上がったアルトリアの切り上げで迎撃するも、海面に飛び出してきたフォルネウス・アビスの噛み付き攻撃が襲い掛かる。

 

 

「…あ、ヤバい」

 

「マスター!」

 

 

ネロの声が聞こえて強い衝撃がオルガマリーを襲い、そこで意識は暗転した。




今更だけど、ルールブレイカーがあるならマスター権を剥ぎ取ればよかったんじゃね?と思ったのは言っちゃ駄目ですかね。

アルテミスの最期を聞いて奮闘するアタランテとダビデ。前者の方はフランスでディーラーに瞬殺されてましたが気付いてないので掘り返さない方向で。

原作と作戦は同じなれど、エウリュアレと共にメイドオルタのバイクに三人乗りして他のメンバーでサポートすると言う作戦を実行した立香。相変わらず無茶してます。
最後はB.O.W.デコイで誘き寄せると言う作戦。ヘラクレスをアークに触れさせるってこれがいいんじゃね?という考えです。なお、ジャック・ノーマンは引っ掛かりませんがヘラクレスは狂化している上にウイルスで大脳がほとんど溶けてるから…

弱体化しているとはいえアルトリアとネロと言う主人公クラスのサーヴァント二名と互角に渡り合うアルバート・ウェスカー・リリィ(アーチャー)。メディアリリィを騙しましたが、実はこのアルバートは5前のヘタレだから最初からGウイルスなんて持って無かった(自分が危険だから)。

そして登場、今章のラスボス。フォルネウス・アビス。魔神柱を取り込んでクリーチャー化。元ネタは5のアーヴィングモンスターです。イアソンとアーヴィングって何か似てるよね!
海洋生物だけでなく浮遊していたグロブスターやらも取り込んでいる為t-Abyssとプラーガが同居している状態であり、さらに魔神柱も混ざっている為メディアリリィの自我は表層しかありません。これまたウェスカーの想定外。それに気付いたアルバートはさっさと逃げました。

次回、オケアノス編最終回「ヴェルカム!ストレンジャー…!」次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ヴェルカム!ストレンジャー…!

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、何とか年末までに書き上げる事が出来てほっとしている放仮ごです。UA90,000越えありがとうございます!

今回はオケアノス完結編。ついにディーラーの宝具の真名解放、当初の方針であったディーラーとバイオ兵装による無双が繰り広げられます。楽しんでいただけると幸いです。
【ディーラーのコンティニュー回数、残り21】


《ストレンジャー。どうだ、見えるか?》

 

「ううん、まだ!どうしたの、ディーラー!」

 

 

森の中を爆走するメイドオルタのバイクの後部座席にて、立香は海の方角から聞こえる爆音に意識を寄せながら念話に応える。立て続けに発されるあの音は大砲だ、クィーン・ディードで遭遇したクジラと同等なのは容易に想像がついた。

 

 

《知りたいのは敵の特徴だ。どの銃が効果的か考えないと行けないからな》

 

「ディーラー達と別れた後のロマンからの情報だと、敵はウェスカーの発言から支配種プラーガを使った敵の魔女メディアなんだって!正気を失っていて、スピードは巡洋艦並、堅さはあのクジラのそれより上!ネロの砲撃も内側に通じないって言ってる。どうしようディーラー!」

 

《よりにもよって支配種か…種類によるな。支配種は、宿主自身を強化するタイプか、母体と融合して強化するタイプの二つがある。前者の場合は弱点が露見しやすいが戦闘能力が高く、後者の場合は防御力と攻撃力が凄まじい代わりに殆んど単調な動きしかできない。恐らくだが後者だ。なら、ついたらすぐ俺を令呪で呼べ。プラーガだったら簡単だ、俺の宝具で一気に仕留める》

 

「…うん、分かった。もう私じゃ何も考えられないから、ディーラーを信じるよ。オルタ、お願い飛ばして!』

 

「令呪を使うか…いいだろう。決して離れるな!」

 

 

覚悟を決めるや否や、所長を救うためだけに自身の事を考えずに令呪を切る立香。道なりに進むのではなく木々を破壊しながら直線コースを突き進み、メイドオルタは先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その目を狙えネロ!」

 

「そこを動くなマスター、てぇーい!」

 

 

フォルネウス・アビスに喰われるかという瞬間、オルガマリーを救ったのは砲身をファンネルの如く飛ばしてフォルネウス・アビスの目を潰して妨害したネロと、オルガマリーの肩から指示したオリオンであった。力を失い海に戻って行くも、道連れにしようとフォルネウス・アビスが伸ばしてきた触手を炎を纏った大剣で切り裂きながらオルガマリーを回収、オリオンを降ろしてからそのまま背負って海に乗り出すネロ。剣では埒が明かないと判断したアルトリアも二人の傍に走って来て、簡易的な作戦会議をする。

 

 

「危なかったなマスター。それでどうする?ドレイクの船を壊させる訳には行かないのだったよな?」

 

「とりあえず砲撃でこちらに搖動。私はアルトリアに掴まるから、遠慮なくぶちかましなさい!」

 

「夏の話題を独り占め!だな!?」

 

「夏かどうかは知らないけどそう言う事よ!」

 

「では、しっかり掴まっていてくださいマスター。私は遠距離攻撃できないので貴女の補佐に徹します」

 

「では準備は良いな?余はもう止まらぬぞ~!」

 

「ッ!」

 

 

水上を滑走しながら砲撃の嵐を叩き込むネロと、その後ろを追走するアルトリアにおんぶしてもらいブラックテイルとガンドを乱射するオルガマリーに、一度水上に出て黄金の鹿号(ゴールデンハインド)に体当たりをぶちかまそうとしていたフォルネウス・アビスはダメージを受けた訳ではないが目障りに思ったのか方向転換。水中に沈み、三人に迫る。

 

 

「ここが正念場よ。あんな急激な変化をしたならきっとどこかに弱い部分があるハズ。私の読みが正しければ、奴はあの大口を開けた時こそが弱点よ!」

 

「なるほど、本体を叩くのか!」

 

「外側の堅さは規格外です。一見弱点に見えるあのナマコの様な部位も近付けば大口を開き、さらに節足が飛び出て来て捕まえようとして来る。側面を叩くのはほぼ無謀ですね」

 

「でも、喰われるかやるかの一本勝負よ。アタランテとダビデ、ドレイク達も援護してくれている。プラーガだからってずっとディーラーの助けを待っている訳には行かないわ。何とか打倒するわよ!」

 

「はい、成し遂げましょうマスター!」

 

「そうと決まれば行くぞ!どどどどっ!どぉーん!!」

 

 

水中に砲撃し、海面へ飛び出し突進してきたフォルネウス・アビスの顔面に、くるりと一回転して遠心力を加えた拳を叩き込むネロと、巨体の上に跳び乗り、オルガマリーを背に担ぎながらエクスカリバーで表面を斬り裂きながら駆け抜くアルトリア。

 

 

「これは・・・プラーガの変形!?」

 

「その程度!」

 

 

するとアルトリアの眼前、フォルネウス・アビスの中心部分の表皮を突き破って魔神柱が姿を現し、その至る所から伸ばした刃を備えた複数の触手を叩き込んできて、オルガマリーを一度下ろしてから応戦し弾き返していくアルトリア。アタランテの矢とダビデの投石の援護も加わり、触手群による猛攻を何とか凌いでいく。

 

 

『熱源、感知。――――標的、発見。観測所、起動。深淵に至れ、清浄であれ。其の痕跡を消しましょう』

 

「出たな!ついに自分の言葉さえ失ったか。哀れな、手向けだ受け取るがよい…!?」

 

『焼却式 フォルネウス・アビス』

 

 

一方、大口を開けて姿を現した舌の様な触手と一体化し目に生気が無いメディアリリィ目掛けて砲撃を放とうとするネロであったが、その手に握られた杖から魔法陣が浮かび上がり、最大まで開いた口を砲口として特大の魔力砲撃が放たれ、咄嗟に横に高速回避。

海面を蒸発させ、黄金の鹿号(ゴールデンハインド)に迫ったそれはドレイクが有する聖杯を使って周囲に出現させた砲口と共に放った黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)が相殺。その余波で津波が起き、ネロは流されてしまう。

 

 

「しまっ…マスター!今、援護を…!?」

 

『動体、発見。消滅を提案します』

 

 

流されながらも援護しようと砲門を動かすネロであったが、再びメディアリリィの杖から浮かび上がった魔法陣が回転、高威力の魔力弾をガトリングの如く連射し、剣を振るって弾き返していくも耐え切れず、爆発。海面を水切りの様にして吹き飛び、砂浜に打ち上げられてしまった。

 

 

「ぬぅ…正面突破は無理か。弱点自身が攻撃するなど反則だぞ…」

 

 

ネロが行動不能になったのを確認したためか、口を閉じてその中に引っ込んで行くメディアリリィを見て哀れみと共に悔しさを感じるネロ。ダメージが大きすぎたため、今は休むしかなかった。

 

 

「風よ、舞い上がれ!」

 

 

一方、纏めて襲い掛かって来た触手群を跳躍し、回転しながら剣を振るう事で放った風の渦で切り刻み着地したアルトリアはそのまま突撃。鎧を消して使っていた魔力を機動力に回し、魔神柱に向けて突貫するも、突如魔神柱が電撃を纏ってアルトリアは弾き飛ばされていた。

 

 

「グッ…今のは?」

 

「今の、クィーン・ディードで藤丸が受けた物と同じ…まさか!避けなさい、アルトリア!受けちゃ駄目!」

 

「なにが…グアアッ!?」

 

 

再び放たれた刃を持つプラーガの触手群に、オルガマリーが警告するも時既に遅し。首に放たれた刃をエクスカリバーで受け止めるも、電撃が直撃し体が痺れてふら付くアルトリア。さらにシークリーパーの節足が背中の体表から飛び出してきてアルトリアの足を拘束、一斉に襲い掛かる触手群に飛び退こうとするもそれは許されず、アルトリアはその場に崩れ落ちる。

 

 

「やっぱり、あの盾のB.O.W.みたいにプラーガが電撃を使える様に……」

 

 

プラーガとは神経組織等に寄生する生物である。そして盾のB.O.W.ことスカルミリオーネは、上半身が過剰にダメージを受けると姿を現す下半身から伸びた神経組織が電撃を帯びている。t-Abyssを取り込んだプラーガが変異したらしい。厄介な事だと思いながら令呪の宿った右手を掲げるオルガマリー。

 

 

「令呪を以てオルガマリー・アニムスフィアが命じます!アルトリア、私を連れて撤退しなさい!」

 

「…!」

 

 

触手群がオルガマリーに殺到するや否やの刹那に、令呪を受けて余力を取り戻したアルトリアがシークリーパーの拘束を引き千切りオルガマリーを抱えて海面に飛び込み、そのまま全力疾走。ネロの居る浜辺まで逃げ延び、追撃しようとするフォルネウス・アビスをアタランテの宝具が全身にある目を潰す事で海中へと撤退させた。

 

 

「はあ、はあ…あのナマコと白いカブトガニはヘラクレスに投与されたもの、クィーン・ディードのゾンビ達の感染したウイルスだとして、それとプラーガ、しかも強力な支配種プラーガの組み合わせ……聖杯の魔力だけでなく海から魔力を常時吸収してさらに変異して、手が付けられなくなっている…」

 

「弱点らしき口内も、ローマでの魔神柱の火力を有した魔女メディアが迎撃して来て攻撃するどころじゃないぞ」

 

「魔神柱の物らしき複数の目も潰せば怯みますが直ぐに回復する…魔神柱本体が出て来ると電撃を帯びた触手群と、拘束が襲い来る…遠距離に徹するしかないですが、あの表皮には生半可な攻撃は通じずあの口を開かせても意味が無い…」

 

「令呪も一画切った。全員の宝具を叩き込めば、あるいは…?」

 

 

息絶え絶えに今の戦況を見返して焦燥を隠せないオルガマリー達。それを船上のアタランテの肩から見守るオリオンがボソッと口を開いたのをダビデは見逃さなかった。

 

 

「あー…ここまで来ると俺の役立たず感がすごいな本当…アルテミスに顔向けできないなこれ」

 

「いやいや。君も頑張っている方だと思うよ?聞いたよ、所長さんが君の彼女に襲われて生きているのは君の功績だと言うじゃないか。まだまだできる事はあるさ、今は僕達に任せてくれと言うだけさ。海中に引っ込まれたらどうしようもないけどね」

 

「その通りだ。汝は…認めたくないがあのアルテミス様に愛された男なのだろう?役立たずと言う事は絶対にない。何かできる事がある筈だ」

 

「そう言われてもなあ…ん?来たぞ、だがありゃあ何事だ…!?」

 

 

顔を出したフォルネウス・アビスだったがその動きは完全に止まっており、背中に戻していた魔神柱を再び外に出し、そのまま動かない。しかし魔力が凝縮されているのが目に見えて、アタランテとダビデ、ドレイクが妨害するために遠距離攻撃を叩き込むも意にも介さない。明らかに異常だった。

 

 

『大変だオルガ!早く彼女を止めろ!』

 

「な、何事よダ・ヴィンチちゃん。アレは何をしようとしているの…!?」

 

『宝具を使おうとしているんだ!あの魔女メディアの本来の宝具は恐らくあらゆる呪い、魔術による損傷を零に戻す回復宝具だ。だがその効果が、ウイルスによって変容している。あのままでは、彼女の中のウイルスがこの特異点の海を汚染するぞ!』

 

「なっ…!?」

 

 

どう足掻いてもこの特異点を崩壊に導くつもりらしい。体内で濃縮したt-Abyssを海に放出し、海を感染源として爆発感染(パンデミック)させる事が目的。単純な破壊力と影響力ならばローマのGカリギュラさえ凌駕する。

 

 

「藤丸達は!」

 

『まだだ、少なくともあと五分はかかる!その前にあの大口から放射されるぞ!』

 

「対抗手段は!?」

 

『私とロマンの考えだとあの大口を完璧に塞ぐ巨大な物で栓すれば物理的に防げる。だが、そんなものどこにも…』

 

「…いえ、ネロの黄金劇場があるわ。でも、宝具は令呪で使えるとしてもあの口に飛び込む事は出来ない…」

 

「とにかく、船に上がりましょう。まだ何か手はある筈です」

 

『時間が無い、急いでくれ立香ちゃん!』

 

『あと一分!』

 

 

焦るカルデア管制室の通信を尻目に、アルトリアに背負ってもらいネロと共にドレイクの船に搭乗するオルガマリー。見れば、フォルネウス・アビスはその大口を開けていてその中心にいるメディアリリィが膨大な魔力を溜めているのが見えた。アタランテとドレイクが矢と砲撃を叩き込んでいるが、魔神柱から伸びた触手の刃が全て防いでいて、どうしようもなかった。

 

 

「あの防御を掻い潜り、何とかネロをあそこまで持って行く…でもどうすれば…?!」

 

「………所長さん、後は任せたぜ。ダビデ、頼む」

 

「オリオン?何を…」

 

 

思考の海に陥り頭を抱えるオルガマリーを見やったオリオンは一言かけてからピョンッとアタランテの肩からダビデの肩に飛び乗り、その手に委ねられる。

 

 

「任された。何時もは四つ外すんだけど、今回ばかりは一撃目を当ててあげよう。

―――五つの石(ハメシュ・アヴァニム)!」

 

 

かつて巨人を倒した、渾身の投擲により音速で空気の壁を突き破り一直線に空を飛ぶオリオン。脳裏に浮かぶは、何だかんだで愛していた恋人の笑顔。

 

 

「行くぜ、アルテミス…お前の仇討ちだァ!」

 

「どうか誰も傷つけぬ、傷つけられぬ世界でありますように……!?」

 

 

そして、いざ放とうとしていたメディア・リリィの顔に激突。完全な不意打ちを受けたメディアリリィは戸惑うも、すぐさまフォルネウス・アビスの口内から飛び出してきた触手を伸ばし、オリオンを引き剥がすと四方八方から串刺しにし、さらに簡単な魔力砲を放つべく魔法陣を形成する。しかし、オリオンは笑っていて。

 

 

「ああ、俺はもう無理だ。だがな、アンタも道連れだぜお嬢さん」

 

『消滅を提案し「マスタースキル!オーダーチェンジ!」ます…!?』

 

 

瞬間、魔力砲を当てるべく触手から解放されたオリオンの姿が消え、代わりに出現したネロが笑みを浮かべてメディアリリィの胸元に大剣を突き刺した。

 

 

「令呪を以て命じる!ネロ・クラウディウス!宝具を使用しなさい!」

 

「劇場は、海より来たり──豪奢!荘厳!しかして流麗!」

 

 

オルガマリーの令呪により魔力が迸り、口外に飛び出しながら砲口からビームの嵐を放って牽制したネロはそのまま宝具を展開、纏めて汚染しようとしたのか今にも放とうとしていたフォルネウス・アビスの口を塞ぐように自らの宝具を展開する。

 

 

「味わうがよい!これぞ、誉れ歌うイルステリアス!すなわち、余の!黄金劇場である!!」

 

『!?!?!?』

 

 

蓋をされ、放とうとしていた流動体の行き場を失い窒息しかけて痙攣するフォルネウス・アビス。その鼻先(?)にてネロは降り立ち様子を窺うも、フルフルと頭部を揺らしたフォルネウス・アビスの口から黄金劇場がすっぽ抜け宙にてエーテルに還元され、ネロは吹き飛びながらも、上手く受け身を取って着水。やっと砂浜に飛び出してきたそれを見て満足気に唸った。

 

 

「やっときたか冷血メイドよ。聊か遅いぞ、まったく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっとついた…ありがとうオルタ。――――令呪を以て藤丸立香が命ずる!」

 

 

メイドオルタのバイクからふら付きながら降りて、眼前の巨大クリーチャーを見据えながら令呪を掲げる立香。黄金の鹿号(ゴールデンハインド)を相手に、触手と砲弾で近接戦を行っているそれは、今直ぐにでも止めないといけないのは明白で。

 

 

「来て、ディーラー!」

 

「―――ヒッヒッヒッヒェ。ヴェルカム!」

 

 

姿を現し、青い炎に照らされた黒衣のサーヴァントが同時に取り出したるは、辛うじて銃に見える薄い青のカラーリングの機械仕掛けの銃。彼の、とっておき中のとっておき。立香が思い出すのは、冬木でのセイバーとの決戦前。

 

 

―――――「これはとっておき過ぎる上に局地的な戦況でしか使い様がない武器があるぜ。一応教えとくか?」

 

―――――「…じゃあ、一応」

 

 

その時は守秘義務だと言う事で己にだけ耳打ちで教えられたその内容があまりに微妙な上に、サーヴァント戦では絶対役に立ちそうにない武器で。苦笑いを隠しきれなかったのを覚えている。それが、今更何になるのだろうかと不安になった。

 

 

「ストレンジャーには教えているが、コイツはPlagaRemovalLaser412。通称【P.R.L.412】光に弱いというプラーガの性質を突き、対ガナード兵器としてルイス・セラが極秘に開発していた未完成のものを俺が完成させた武器だ。だがまあチャージしなければただの閃光弾としての効果しか出せず、フルチャージすればどんなガナードも一撃で倒せる貫通する強烈な光線を正面に発射する」

 

 

聞けば、理論上あのサドラーでさえ一撃で倒せるんだとか。確かに最初聞いた時は強力だと思った。しかしデメリットがあまりにも大きすぎた。

 

 

「…問題点はガナードのみに対する兵器だから他の物体を破壊できない。さらに言えばプラーガとはいえあんな肉の装甲を着ているデカブツには通用しないと言う事だな」

 

「やっぱり駄目じゃん!?」

 

「話は最後まで聞けストレンジャー。その効果は、通常の状態での話だ」

 

「はい?」

 

 

ピピピピッ…と電子音を響かせ、砲口に光をチャージするディーラー。眩く輝き、それが解き放たれると光線がフォルネウス・アビス目掛けて放たれ、着弾と同時に視界を奪う閃光を放ち混乱させる。これが、ディーラーが宝具展開するためのキーだった。

 

 

此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム!ストレンジャー)…!」

 

 

瞬間、立香は信じられない物を見た。P.R.L.412を構えたディーラーの他にさらに一人、その傍らにディーラーが現れ、さらにポツポツとアルゴー号の残骸、黄金の鹿号(ゴールデンハインド)の上、今いる島の高台、さらには海に浮かんでいるネロのパイプオルガンの上まで。一度、計28人のディーラーが現れ、その中で残った20人がそれぞれ別の武器を手にしてフォルネウス・アビスを包囲する様に出現していた。

 

 

「こ、これは…!?」

 

「答え合わせだストレンジャー。これが俺の「コンティニュー」の正体だ。まあつまり、俺達は28人で一人のサーヴァントだ。一人だけ常に姿を現し、残りは常にストレンジャーの周囲に霊体化して潜み、一人が死ねば代わりに別の俺が姿を現す。そういう仕掛けだ。

魔力の問題で全員一度に姿を現すのは宝具を発動している数分の間のみ、さらに武器の種類の問題で20人しか同時に出せないが、それでもメリットが存在する。例え残機数が数人減っていても、10人以上いればその現界するための魔力を使って全員を一度に出せる。…まあ、宝具を使用する度に10人減るから二回しか使えないがな」

 

 

そう言えば、ディーラーは今まで霊体化した事がなかった。そう言えば、ジャンヌ・オルタの事をジャンヌに聞く際に「別個体が暴走したのか?」と言っていた。そう言えば、遠く離れていた柳洞寺に居たはずなのに瞬時に密室の、それも立香の背後に現れていた。

 

 

「さらにもう一つ。宝具を発動すれば俺達の持つ武器の中で唯一、このP.R.L.412のリミッターが解除される。最初か最後しか撃てないが、それでもお釣りがくる性能だ」

 

 

再びチャージを始める立香の前に居るディーラーを余所に、他20人全てのディーラー達が動き出す。

 

 

「「「「「全弾、受け取れ!」」」」」

 

 

近距離、アルゴー号の残骸に立つショットガン三種類を持つ三人とマシンピストル、シカゴタイプライターを持つ二人の計五人が撃ち尽くすまで連射。複数の目とグロブスター部分に集中放火を浴びたフォルネウス・アビスは咆哮を上げて魔神柱を出して触手群を放つが、それはドレイクの船に乗っているハンドガン組五名の乱射で弾かれ、さらには高台に居るライフル組二名からの遠距離狙撃により根元から撃ち抜かれて触手を失っていく。

 

 

『集束、放射』

 

 

辛うじて残った一本から電撃を放ち牽制しながら大口を開き、魔法陣に魔力を溜めるメディアリリィ。するとフックショットを手にしたディーラーがネロのパイプオルガンからワイヤーを伝ってフォルネウス・アビスの上に乗るとそのまま電撃を掻い潜りながら走り、一閃。ナイフで最後の触手を一刀両断し、勢いのままに旋回したネロの元に戻った。

 

 

『動体、発見。消滅を提案します』

 

 

魔法陣にディーラーの数だけ式を組み、全て同時に葬ろうとするメディアリリィ。しかしそれは砂浜から放たれたロケットランチャーのニ連撃とピストルクロスボウの爆弾矢の爆発に口内に直撃した事で阻止された。

 

 

「ここから仕上げだ」

 

「ここから先はR指定だ」

 

「お子様にはちょっときつい」

 

 

さらに無防備になったメディアリリィに砂浜に立つ残り三人のディーラーによるマグナム二丁とハンドキャノンが連射され炸裂。全身を蜂の巣にされ、血塗れになりながらも杖を構えるメディアリリィの姿はいっそ痛々しい。

 

 

『無意味なり…無意味なり……』

 

 

本体とも言えるメディアリリィが立て続けに大ダメージを浴びた事により攻撃を止めて再生に全力を費やすフォルネウス・アビスだったが、爆発により顎が歪んで閉まらず、魔力障壁を一応張ってはいるもののその口内は明らかに無防備で。

 

 

JACKPOT(大当たり)!」

 

 

最後のディーラーが、性能が大幅に向上して対象物をすべて破壊可能になったそれの引き金を引いてフルチャージ。引き金から指が離れると同時に幾重にも分散した光線が口内からフォルネウス・アビスの内側に殺到。

 

 

「GoodBye.Stranger…!!」

 

 

内側から細胞を破壊し尽くし蹂躙。光線が外側に突き抜けてまるで流星群の様に空に散り、フォルネウス・アビスはフランスでのファヴニールと同じように粉々に粉砕され、残されたのは海に漂うメディアリリィと、その傍らに浮かぶ聖杯だけだった。

 

 

「…魔女メディア。貴方も、レフの仲間だったの?」

 

「…それを口にする自由を私は剥奪されています。魔術師として私は彼に敗北した。…魔術師では、あの方には絶対に及ばない。今の貴女方では彼には敵わない。いくつもの輝く星を集めなさい。私を倒した貴方の様な、どんな人間の欲望にもどんな人々の獣性にも負けない、嵐の中でさえ消えない(そら)を照らす輝く星を…今の、貴女方には少し難しいでしょうが」

 

 

立香の問いかけにそう答えたメディアリリィだったが、息も絶え絶えで。恨みがましくディーラーを睨みつける。

 

 

「くっ…かはっ。イアソン……残念、でした。本当なら、あなたと共に世界が沈んでいたのに…私は、初恋だった貴方に、これ以上、裏切られないよう、に、したかった…それで得た手段が、一緒に滅ぶことなんて…ああ、ああ。憎らしい人、私が「彼」以外に完膚なきまでに破られるなんて…」

 

「Come back any time。アンタの未来の姿ならカルデアに居る。いくらでも相手をしてやるぜ、ストレンジャー」

 

「私がお断りよ」

 

 

何時の間にか合流したメディアがボソッと付け加え、それを見て何を思ったのか笑みを浮かべたメディアリリィはそのまま消滅。ディーラーも一人に戻りながら聖杯を回収し、オケアノスを懸けた戦いは終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えているかしら?いえ、目が潰れてるから無理ね。……藤丸が何とか、間に合ったわ。全部、貴方のおかげよオリオン」

 

「あー、気にするな所長さん。俺にできる事はこれしか無かったって話だ。立香の嬢ちゃんにもよろしく言って置いてくれよ、マスター」

 

「…もし貴方達を呼べたら、今度こそ一緒に戦いましょう」

 

「ああ、もちろんだ。…その時はアルテミス共々よろしくな。それはそうと所長さんよ。せっかくだから、一発別れのチューとかどうよ?」

 

「貴方の恋人は怖いから謹んでお断りさせていただくわ」

 

「ダメ?あ、そう。じゃ、後腐れなしだ。あばよ」

 

 

その片隅で、オケアノスの始めからずっと共にいてくれたサーヴァントに別れを告げるオルガマリー。自分の力不足を痛感し、彼女はまた前を向いた。




満を持して登場、professionalをクリアする事で手に入るバイオ4最強と名高いP.R.L.412。元々はガナード専用だったのが、機種が変わって何でもかんでもぶっ壊す光線を放つ様にパワーアップしたという経歴がある兵器です。これを手に入れる為だけに約三ヶ月をバイオ4につぎ込みました。水の間とかで精神的に死んだりしました。

ファヴニール戦以来となる真名解放したディーラーの宝具【此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム・ストレンジャー)】。文字通り、武器商人が無敵となる場である射撃場の如く標的目掛けて撃ちまくる宝具です。真名解放しなくても28人のディーラーとして展開しています。つまり、立香の傍にはずっとディーラーがいたのです(ストーカーではない)。

電撃、刃付きの触手、魔力砲と充実した装備を持つフォルネウス・アビス。圧倒的な破壊力の前に敗北。移動要塞と言ってもいい強さなのですが相手が悪かった。

ディーラーが到着するまでの時間稼ぎとして奮闘し、黄金劇場で蓋をすると言うトンデモ作戦を実行に移すなど度胸面でも成長してきたオルガマリー。オリオンとの別れは彼女に成長を促します。

次回、恐らくキャラ設定の後にロンドン編序章。本編から先に書くかも?次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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アイツらと俺の宝具の性能だストレンジャー

※2018/01/30に挿入投稿。01/12に投稿したものに約二名ほど書き忘れていたので追加して再度投稿した物です。

ヴェルカム!ストレンジャー・・・お待たせしましたオケアノス編に登場したオリジナルサーヴァントの設定と、ディーラーの宝具の詳細です。そろそろ題名の「●●ストレンジャー」のネタがなくなってきました。

よければどうぞ、見て行ってください。



ヴェルデューゴ

 

クラス:追跡者(チェイサー)

真名:ヴェルデューゴ

マスター:エドワード・ティーチ

性別:男性

出典:バイオハザード4(レオン・レポート)

地域:スペイン

属性:中立・中庸・人

イメージカラー:ブラック

特技:主を立てる振る舞い、執事的行動

天敵:レオン・S・ケネディ、オズムンド・サドラー

 

ステータス:筋力C+ 耐久B+ 敏捷A+ 魔力E 幸運B 宝具C

 

スキル

・追跡開始B:クラススキル。目標を見定めると敏捷と耐久のステータスが一段階上昇する。

 

・追跡続行B:クラススキル。目標が健在の場合、戦闘不能になっても数分経てば仕切り直しして復活できる。ただし体力は減少する。

 

・処刑人C:悪を以て悪を絶つ、究極の裁断行為。属性「悪」に対するダメージが向上する。

 

・怪力(プラーガ)C:魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性。使用することで一時的に筋力を増幅させ、一定時間筋力のランクが一つ上がる。武器商人やアシュリーと違い完全にプラーガに適合し自由にその力を操れるが変形は出来ない。

 

・覚悟の忠誠A:単独行動の派生型。自らの力及ばず主の道を踏み外させてしまった事を悔い、忠誠を続けて「最後まで運命を共にする」という覚悟の元、自らプラーガを受け入れヴェルデューゴとなった覚悟の生き様。

何があっても動じず、主の命令を確実に実行し、何が在ろうと主を裏切らず仕え続ける執念とも言える忠誠。マスターの命令を常に全力で実行し、マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる。

 

 

宝具

邪教の死刑執行人(ヴェルデューゴ)

ランク:C

種別:対人宝具

 昆虫人間と言える姿をした、自らの名に冠した彼らの在り方。生前、主の右腕としてレオンと戦い敗れた己とは異なり、常に主と共に在り守り続けた片割れを召喚する。性能は全く同じであり実質二倍の戦力となるが、この宝具を使用している間のみ追跡続行が使用不可能となるデメリットがある。

本体・・・通称「右腕」は黒いローブを、片割れ・・・言うなれば「左腕」は赤いローブを着用している為判別可能だが外すと区別がつかない程の瓜二つで、相手を錯乱、翻弄する事が可能。「左腕」が死んでも「右腕」が無事なら魔力を再度使い何度でも呼び出せる。

立香と模擬戦を行ったヴェルデューゴはこの宝具による「左腕」だったりするので、氷結+ロケランも視野に入れていた。

 

 

概要

ロス・イルミナドス教団の幹部、ラモン・サラザールの側近兼、警護を務める、黒い外殻の昆虫人間。プラーガと昆虫の遺伝子を用いた応用実験の完成形。サラザールからは「右腕」と呼ばれ、かつてはサラザール家の執事をしていた。

ガナードや他のプラーガを用いたクリーチャーとは一線を画す能力と高い知性を持ち、レオンを窮地に追い詰める程の実力者。

知性が高いと言っても人間並で、レオンとの戦闘に於いては中指を突き立てて挑発したり、攻撃を受けても効いていないとばかりに肩をすくめるなど人間的であり、オケアノスでのマスターであった黒髭に対しては目を細めながら三本しかない指でサムズアップしたりなど愛嬌がある。筆記による会話も可能(なお英語かスペイン語のみ)。

 

サソリの如き伸縮自在の尾部には湾曲した鋭い刃がついており、これを伸ばすことで鞭の様に攻撃したり、柔軟な身体を活かして潜り込んだ天井裏や床下の水路など死角からの奇襲を得意とする。その動きは極めて俊敏で鋭く、硬質な筋肉質の体はマグナムなどの高威力の銃撃でもないと物ともしない硬さを誇り、ロケランでさえ二発は耐えてしまうタフネスを持つ。

しかし昆虫の遺伝子を用いられているため冷気には非常に弱く、液体窒素を受けた際には装甲が脆くなり、身体能力と耐久力が非常に低下した。また熱気にも弱いが、こちらは炎で怯むぐらいである程度は耐えられる。

 

第三特異点において黒髭の召喚に応じ、彼の側近として仕える。黒髭の命令でエウリュアレを執拗に狙い、アステリオスの宝具さえ発動される前に潜り込み逆に追い詰め、カルデア一行と遭遇するも彼の存在を知っていたディーラーの言葉もあり撤退に追い込んだ。終始無言で黒髭以外とはコミュニケーションを取らないため黒髭海賊団では少し浮いていた。

黒髭の決戦に置いては、その脅威からネロを始めとしたカルデアのサーヴァントに足止めされて黒髭の窮地に間に合わずパーカーと共に己を悔いた。その後生き延びた彼と共にオルガマリーのサーヴァントとなり、ヘラクレス・アビスとの対決に置いてアルトリア達を守って消滅した。お嬢様であるオルガマリーとの相性は性格的にも性能的にも中々なもので、召喚されたら即応じる模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーカー

 

クラス:狂戦士(バーサーカー)

真名:パーカー・ルチアーニ

マスター:エドワード・ティーチ

性別:男性

出典:バイオハザードリベレーションズ

地域:地中海

属性:秩序・善・人

CV:宮本充

 

ステータス:筋力C 耐久C 敏捷D 魔力E 幸運A 宝具B

 

スキル

・狂化E:理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキルなのだが、Eランクの為殆んど意味が無い。筋力と耐久が一応上昇している。

 

・戦闘続行E:決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」ともされる。

銃弾を腹部に受けながらもウイルスの蔓延した船の中を彷徨い、炎の中に落下し消息不明になっても生還した実績から。Eランクのため瀕死になるとハンドガンを構えるのがせいぜいでろくに戦えない。

 

・仕切り直しE:戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。体力を全快近く回復させるハーブを多数持ち合わせている。

 

・射撃(近接)C:銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術。ハンドガンとショットガンのリロードを素早く行える。特に接近戦で真価を発揮する。

 

・悪夢からの生還者B-:心眼(真)と酷似したスキル。ラクーンシティ事件以降発生した大規模バイオテロ、テラグリジア・パニックの生還者。窮地に追い詰められた時に真価を発揮し、襲い来る外敵の動きを読み、卓越した判断力から最適解を得て実行する事が出来る。ただしあまりにも多い物量には意味を成さず、逃げ出せば高確率で逃走に成功する。

 

 

宝具

弾が切れたなら斧を使え(テラグリジア・ブレイカー)

ランク:B

種別:対B.O.W.宝具

 テラグリジア・パニックと呼ばれるバイオテロを生き抜いた経験から必要と感じた、弾が切れた際に使う強力な武器。FBCを辞めてBSAAに所属してから愛用し始めた、彼の接近戦の強さを象徴するハンドアックス。

クイーン・ゼノビアを脱出する道中、仇敵であるハンターを仕留め、ウーズの大半を二撃で仕留めて来た実績から、例え相手がどんな防御力だろうがB.O.W.ならば一撃で体力の大半を削る一撃を放てる他、魔力使用が少ないため連発も可能。二撃浴びせれば大概の敵を殺せる。

 

 

概要

対バイオテロ組織B.S.A.A.の男性エージェントでイタリア系イギリス人。以前は同じ対バイオテロ組織のFBCに所属していたが、2004年のテラグリジア・パニックを生き抜いた事を機に、バイオテロと戦うべくBSAAに所属した過去を持つ。

2005年、同じBSAAのジル・バレンタインと共に囚われたと思われる仲間を救援すべくクイーン・ゼノビアに乗り込むもテロ組織ヴェルトロ復活事件に巻き込まれ、終盤の局面でジルと別行動中に同行した仲間に裏切られて負傷、ジルとの合流後に消息不明となるも、過去の後輩の手を借りて生還した。

 

あらゆる物事に対処出来る冷静な判断力を持ち、何かと冷笑ぶろうとし皮肉屋を気取りがちだが、本質的には生真面目な熱血漢であり、クイーン・ゼノビアでの経験から「裏切り」に対して勘が鋭い。ヴェルデューゴに対してはB.O.W.でありながら気が合う奴、という認識で危険視していなかった。

 

クイーン・ゼノビアに乗り込む際のダイバースーツを着用していて、宝具であるハンドアックスの他、FBC時代より独自に改良を重ねた長年の相棒であるハンドガン・ガバメント“パーカーモデル”、ショットガン・ハイドラ、マグナム・ペイルライダーを装備している。

狂化が低ランクのバーサーカーなため、地力が低く自らに有利な戦況に運ばないとろくに戦えないが、条件さえ整えばメイドオルタをして認めざるを得ない実力。ヘラクレス・アビスとの対決ではヴェルデューゴとの連携でその命のストックを二つも奪う活躍をしたが、力及ばず敗れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビス完全体

クラス:復讐者(アヴェンジャー)

真名:ジャック・ノーマン

性別:男性

出典:バイオハザードリベレーションズ

地域:地中海、アメリカ

属性:秩序・悪・人

イメージカラー:血の付いた白

特技:頭突き

天敵:モルガン・ランズディール

 

ステータス:筋力C 耐久B 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具EX

 

スキル

・復讐者C:復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。彼の場合、生前の部下たちの怨念を常に集めている。

 

・忘却補正E:人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。しかし彼の場合、他人を全て標的と誤認するためランクが低い。

 

・生物災害B:ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。アヴェンジャーのクラススキル:自己回復(魔力)の代わりでもある。バイオハザードの根源そのものたる特性。t-Abyssにより海から魔力を取り込み半ば受肉し、半永久的に存在できるサーヴァントと化していた。そのため聖杯の魔力を受けているGカリギュラよりはランクが低い。

 

・自己改造t-Abyss EX:一年もの間、自らにt-Abyssウイルスを注入し続けて戦闘に特化した形態に自己の肉体を改造した。無茶な急激変化により常に激痛も伴うため、戦闘も真面に出来ず暴れるのみ。

 

・カリスマC:軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。Cランクともなれば志を共にする仲間とは死を厭わない強固な繋がりを持つ。

 

・幻覚作用A:割れた頭部の中心にある単眼から発する閃光と口から吐く特殊な紫のガスによる幻覚を相手に見せ、分身を生み出したり自らの姿を消す事が出来る。分身を出している際は本体の口から紫のガスが出ている為判別可能。魔術では無いため対魔力は通用しない。

 

・ヴェルトロの軍略A:軍略が変質したスキル。己の指揮下にあるB.O.W.を自在に操り、精神と同調して指示を出す事で連携し、対象を追い詰める。生前の部下たちと培われた信頼とチームワークから為せる妙技だが、信頼も糞も無い怪物たちで発揮されるため何とも皮肉なスキル。

 

 

宝具

覚醒せよ、真実の黙示録(バイオハザード・リベレーションズ)

ランク:EX

種別:感染宝具

由来:リベレーションズの意味らしい覚醒、真実、黙示録から。

 海に沈んだ豪華客船クイーン・ディードを召喚して漂い、一度標的を中に入れてから閉じ込め、t-Abyss関連のB.O.W.を召喚して執拗に追い詰める、彼による復讐の舞台。とある設計士のせいで内装は入り組んでおり、鍵こそかかってないがそう簡単には出れなくなる。外に出ようとすれば巨大なB.O.W.マラコーダが出現する(しかし船首も半壊する)。

姉妹船であるクイーン・ゼノビア、クイーン・セミラミスと内装が同じ事から、クイーン・ゼノビアにしか居ないはずの「メーデーさん」なスキャグデッドも半英霊として出せる。またt-Abyss関連だけでなくヴェルトロの所有していたB.O.W.であるハンターも出せるため殲滅力ならピカイチ。

その特性から海が無いと展開できない使い勝手の悪い宝具ではあるが、規格外なのは維持・B.O.W.召喚に用いる魔力。海に在るマナを半永久的に取り込むため、魔力切れの心配どころか無限にB.O.W.を生み出せる悪夢の宝具(ただしノーマン本人とマラコーダしか船の外には出せない)。

ノーマン本人を倒すしか打ち勝つ術は無いのではあるが、その当の本人も船の中を彷徨っている上に何時でも配下を出せるためそう簡単に倒す事も出来ない。また、船内はt-Abyssが充満しているため傷を負う物なら感染してしまう危険性もある(特にウーズなどによる直接攻撃はアウト)。その感染度は高度な対魔力を押し退け女神でさえ感染させてしまう程。感染すれば最期、サーヴァントや神霊であろうと宝具の一部となり、変異する事で能力は下がるがノーマンに従い、本人が消滅するまで永久に囚われ続ける。

 

 

概要

オケアノスに出現し、宝具を発動してそのまま漂っていた野良サーヴァント。少数精鋭の過激派テロ組織、都市ゲリラグループ「ヴェルトロ」の指導者。用心深く、取引の際にも証拠の記録を残しておくなど抜け目ない性格。

マシンガンと手榴弾系統の扱いに長けており、格闘戦では頭突きも用いる。言葉の端々に「ダンテ」の引用を用いる。

目的のためなら大勢の犠牲を出すことも厭わない方針を取り、テラグリジア開発に反対し、2004年にt-Abyssと大量のB.O.Wをテラグリジアに放ち、テラグリジア・パニックと呼ばれるバイオテロを巻き起こしたが、レギア・ソリスと呼ばれるテラグリジアの太陽光集積システムにより、ウイルスやB.O.W.はテラグリジアごと焼き尽され、FBCによる掃討作戦によりヴェルトロの主立った幹部は全員死亡したと発表された。

 

しかし、真の黒幕により捨て駒にされた彼らは口封じとしてレギア・ソリスによって沈められた彼らの拠点である豪華客船クイーン・ディードの中で生き延びており、復讐するためだけに生ける怨念となって一年もの間に自分へt-Abyssを投与し続け、事件解決のために証拠を手に入れるべく乗り込んだBSAAのジル・バレンタインとクリス・レッドフィールドの両名を証拠を取りに来た黒幕の一味だと思い込み、最後の一個を直接飲み込んで「アビス完全体」へと変貌して襲い掛かり、激闘の末に致命傷を負わされ、最後は自らの死に安堵しながらヴェルトロの証である旗を燃やし、全てに終わりを告げて静かに息絶えた。

 

オケアノスに召喚されたはいいが大脳浸食のため自我はほとんど保っておらず、ただただ黒幕に復讐するために宝具を展開し、訪れた者を片っ端から襲い掛かりアルテミスも手にかけた。なお、本人も間取りを覚えて無いため騒ぎが無い限りはフラフラと彷徨っており、そのため船内では一度も立香達と遭遇しなかった。

 

アビス完全体の姿では屈強な肉体と左腕の巨大な鉤爪を利用した格闘戦を得意とし、タックルの動きも素早い他、割れた頭部からの光と口から出す特殊なガスを利用して幻影を見せる事もできる、FBCの精鋭を一蹴しジルやクリスといった歴戦の戦士さえも苦戦させた強敵。しかし本体は口からガスが漏れている為、それを見極めれば撃退は容易。

それに加えてサーヴァントになった事で船の中なら自在にウーズなどを招集し、持ち前の扇動で標的を執拗に追い詰める集団的な強さも得た。船内では彼に遭遇すれば勝ち目は薄い。

 

実は初アヴェンジャーなのに瞬殺されたせいで全然立香達の記憶に残ってない影の薄いサーヴァント。アビス完全体としての姿がアヴェンジャーのノーマンなため、本来の姿で別クラスとして召喚される事もある。志は高いため、確固たる目的さえあれば従う良サーヴァントである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバート・ウェスカー(リリィ)

クラス:弓兵(アーチャー)

真名:アルバート・ウェスカー

性別:男性

出典:バイオハザードシリーズ

地域:アメリカ

属性:秩序・悪・人

イメージカラー:黒

特技:ピアノ、フットボール、戦史研究

天敵:クリス・レッドフィールド、ギルガメッシュ

CV:中田譲治

 

ステータス:筋力C 耐久C 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具EX

 

スキル

・生物災害D:ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。バイオハザードの根源そのものたる特性。しかし真価を発揮できず、半受肉もしていない。アーチャークラスが本来有する対魔力と単独行動の代わり。

 

・自己改造(ウイルス)A:「あらゆる変異ウィルスへの抗体、およびウィルスによる強制進化の適合資質」の持ち主であることを利用し、T-ウイルス、t-Abyss、ウロボロス・ウイルスなど数々のウイルスを用いて自己の肉体を改造した。識別は「自己変革」に近く、サーヴァントになってなおそれは続き、新たに取り込んだウイルスに適合さえすれば己の力にできる。例外としてG-ウイルスは取り込むつもりはない。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。また、このスキルを用いて宝具を発動する。

 

・外道のカリスマC:軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。味方の安否を厭わない手段を択ばない手法を取る。本来のカリスマはCランクともなれば志を共にする仲間とは死を厭わない強固な繋がりを持つが、ウェスカーの場合は歪な関係でしか作用しない。特に女性に(良くも悪くも)影響を与える。目的のためなら平気で仲間を犠牲にする外道。

 

・鑑識眼C:人間観察を更に狭くした技術。対象となる人間が将来的にどのような形で有用性を獲得するかの目利きに極めて優れている。ただし、その為にはある程度会話や様子を見ることで、その人間の得手不得手などを理解する必要がある。高みの見物から対象の有用性を図る際に用いる。

 

・縮地(偽)A-:沖田総司が有したとされる、瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する・・・ものを、ウイルスの力を用いて疑似的に再現したスキル。一言で言えばワープできる。最上級であるAランクともなると、もはや次元跳躍でありスピードでは正規の英霊とも引けをとらない。しかしアサシンクラスの際に真価を発揮できるスキルであり、アーチャークラスの際は使う度に制度が落ちて行くため多用しない。

 

・中国武術C:中華の合理。接近戦の際に織り交ぜて使用し、ウイルスの強化も合わさりガナード程度ならば一撃で倒せる。マスターしたとは言えないがそれでも圧倒的な実力。

 

・生存の閨E:往生際の悪さ。戦闘続行とほぼ同等ながら、少し違うスキル。追い詰められた際にどんな手を使ってでも自らの死を偽装し、相手に思い込ませられる。しかし、よくてばれないお粗末な偽装。劇中ではディーラーの宝具の巻き添えを喰らってあっさり消滅した。

 

 

宝具

此処に至るは数多の生物兵器(ウロボロス・バイオハザード)

ランク:EX

種別:召喚宝具

由来:彼が最後に己の力としていたウイルスと、バイオハザードの首謀者であることから

 四肢の一部を覆わせたウロボロス・ウイルスの嚢胞から、自らに投与されたウイルスに関連するB.O.W.を呼び出して同調し意のままに操る事が出来る力。魔力が続く限り無尽蔵に召喚できる。

「あらゆる変異ウィルスへの抗体、およびウィルスによる強制進化の適合資質」の持ち主であるウェスカーが、サーヴァントになった事で得た。全ての元凶とも言える彼の在り方を示す「バイオハザード」。

 

 

概要

黒幕により召喚され、オケアノスで暗躍した現代の英霊。アサシン時の彼より聊か若い「洋館事件」当時の姿であり、高速移動を利用する慢心たっぷりのアサシン時とは異なり、体術と愛銃サムライエッジを使った堅実的な戦い方を得意とする。

 

世間に知られるバイオハザード最初の事件と言われる洋館事件を引き起こした張本人。ラクーンシティ警察署特殊部門S.T.A.R.S.総隊長をしていたが、部下を裏切りB.O.W.相手にS.T.A.R.S.を戦わせた実戦データを回収するべく画策した。しかし裏切りが発覚して生き残りの隊員たちに追い詰められた挙句に自らが解放したタイラントの攻撃により一度死亡するも、事前に投与していた試作段階のウイルスよって得た超人的能力で死の淵から復活。後に世界中に渡る数々のバイオハザード事件の裏にて暗躍した、バイオハザード全体に置ける黒幕。

 

生物工学に精通する知識を陸軍に買われて技術将校となり、製薬会社アンブレラの要職を経てS.T.A.R.S.総隊長に抜擢されたという異様な経歴の持ち主。「ウェスカー計画」と呼ばれる非人道的な実験の生き残りであり、アンブレラの幹部養成所に幹部候補社員として所属し、総帥の指示を受けてT-ウイルスの研究を重ねていくうち「アンブレラをも超え、世界の頂点に立つ」という野望を得て、後にライバル企業へと離反。

しかし洋館事件に置ける失態から「無能」の烙印を押されてさらに離反を繰り返し、最終的に世界的規模を誇る複合企業体トライセルを利用して自ら生み出したウロボロス・ウイルスを使って世界のバランスを変えるという「ウロボロス計画」を2009年に始動させるも、因縁の宿敵の妨害を受けて失敗。計画を妨害されたことへの憤怒と憎悪からウロボロス・ウィルスを自身に取り込み襲い掛かるも、返り討ちに遭い溶岩流に飲まれて死亡した。ちなみに息子がおり、のちのバイオハザードにおいて解決する側に回った。

 

平常時は冷静沈着で鋭い観察力と洞察力から感情よりも論理的な考え方を優先し、自らの野望の邪魔になる者でも優秀さは認めて自らの目的や利益になるよう利用する抜け目ない性格で、目的のためなら手段は択ばず自分以外の人間を利用するだけ利用し、用済みとなれば平然と切り捨てる冷酷非情な人物。しかし宿敵が相手の場合は好戦的になってしまい、自らのウイルスの力故に傲慢さと油断が目立つ。

 

自らが頂点であるという考えから目上の者に対する忠誠心など欠片も存在せず、裏切りが常な男である。ローマで共闘したレフ・ライノールに対してはむしろ哀れみすら感じており、用済みとなった瞬間に殺害した。しかしその行動から黒幕に目を付けられてしまう結果に。

もちろん人理焼却の黒幕に対する忠誠心も皆無。自らの力が上だと慢心しており、焼却した世界を「新世界」と称して自らが支配するべく勝手に暗躍している。

 

アサシン時は圧倒的な力と支配者気質から慢心が大きいが、アーチャーのこちらは割と控えめ。しかしミスが目立ち、メディアリリィには最適解だと思って与えた物が悪手となり、巻き添えを喰らって人知れず消滅した。

 

生前から例外を除いた全てのB.O.W.と同調し意のままに操る能力を持ち、超人的な身体能力を持ち合わせていたため、正規の英霊との正面対決は苦手ながらもサーヴァントしてのスペックは高い。

スキルを見れば分かる通り多才な能力を誇り、能力面だけなら他の英霊とも引けを取らない。アサシン時にはこれに加えて「気配遮断」も追加する。ただし圧倒的なまでに英霊としての地力が欠如しており、それを補うべく宝具を用いて召喚した配下を手駒に暗躍する手法を取る。

 

バイオハザードな特異点攻略に置けるカルデアの宿敵とも言えるサーヴァントであり、唯一ディーラーに完勝している実績の持ち主。サーヴァントに対してはただ実験対象としてしか興味を持ち合わせていない。オルガマリーには共通点から特別な興味を、立香には観察対象としての興味を抱いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼ディーラーの宝具

此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム・ストレンジャー)

ランク:EX

最大補足:20人

種別:対人宝具(己)

由来:バイオハザード4における武器商人が唯一無敵のミニゲームエリア「射的場」

 

 ディーラーを象徴する宝具。28人まで、死んでもコンティニューできる。マスターが一日魔力回復に専念すればストック数も最大値まで回復する。

その正体は、一人だけ常に姿を現し実体化し続け残りは常にマスターの周囲に霊体化して潜んで待機、一人が死ねば代わりに別のディーラーが姿を現すというだけの「28人で1人のサーヴァント・ディーラー」。28人すべてが思考を統一していて、ほとんどラグなく「復活」を演出して実体化する。時間差で実体化することで騙し討ちも可。コンティニューできる範囲はマスターから半径1㎞圏内。

 

真名解放する事で、魔力を消費して一度28人のディーラーが姿を現してから最大20人実体化し、それぞれハンドガン、レッド9、パニッシャー、ブラックテイル、マチルダ、ショットガン、ライオットガン、セミオートショットガン、ライフル、セミオートライフル、中折れ式マグナム、キラー7、ナイフ+フックショット、マシンピストル、マインスロアー、ロケットランチャー、無限ロケットランチャー、シカゴタイプライター、ハンドキャノン、P.R.L.412を手に標的の周囲に出現し、逃げ場のない集中砲火を浴びせる。

 

「射的場」であるため攻撃中は無敵だが、魔力の問題で全員を実体化し維持できるのは宝具を発動していられる5分間のみ。

さらに武器の種類の問題で20人しか同時に出せないが、メリットとして例え残機数が数人減っていても、10人以上いれば、その分の実体化するための魔力を使って全員を一度に出せる。宝具を使用する度に10人減るため、実質二回しか使えないが、魔力が回復さえすればそれ以上の連発も可能。

また、真名解放中は下記の武器のリミッターが解除される。

 

 

 

・P.R.L.412

ランク:A

最大捕捉:1000人

種別:対プラーガ宝具/対物宝具

 上記の宝具の真名解放の際の起動キーになる閃光を放つために用いるディーラーの商品の一つ。

 

正式名称PlagaRemovalLaser412。ルイス・セラが極秘に開発し武器商人が完成させた対ガナード兵器。光に弱いというプラーガの性質を突き、光を集束させて放射する兵器。チャージせずに放つと露出したプラーガを一撃で倒す閃光を、フルチャージすれば全てのガナードを一撃で倒せる貫通する強烈な光線を正面に発射する。理論上ではチャージ無しでもプラーガを解放したサドラーをも一撃で倒せるが、プラーガ以外には通用しない。

 

しかしこれは上述の【此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム・ストレンジャー)】真名解放をしていない通常時の効果であり、真名解放する事で「対プラーガ宝具」から「対物宝具」へと種別が変わる。

 

真名解放する事でリミッターが解除され、最初か最後しか撃てない代わりに性能が大幅に向上して対象物をすべて破壊可能になった。

フルチャージし、引き金から指が離れると同時に幾重にも分散した防御不可能な光線が視界に映る標的全てに殺到する。具体的に言えば、一人狙ったつもりが樽やら窓やら木製の扉やら視界に映る全てごと破壊する。農場で使えば視界に映る全ての生き物が死ぬ、そんな効果。

生物に対しては、直撃すれば内側から細胞を破壊し尽くし粉砕する。外面は無事でも内側がずたずたになり、宝具の最後に放てばファヴニールさえ肉片一つ残さず消滅させる、オーバーキルとも言える一撃と化す。

 




ディーラーの宝具のイメージは頼光さんの宝具。また、使用時の台詞は全てダンテとかの声優ネタです。

ウェスカーはアサシンウェスカーの設定が何時載せられるのか分からないので纏めて載せました。少しだけ差異があるのでそちらも一応何時か載せます。

パーカーの弾が切れたなら斧を使え(テラグリジア・ブレイカー)はゲーム中最強のハンドアックスと言うメタ的な宝具ではありますが、名称は文字通り「テラグリジアの悲劇を破壊する」という意味を込めてます。テラグリジア脱出の際にナイフじゃ無くてこの斧があればもう少し何とかなったと思う。

上のオリジナル鯖二名のコンセプトは「ディーラーと違いプラーガを受け入れたが故の強さ」と「純粋な人間としての強さ」となってます。ヴェルデューゴはあの手記を見た際に味方で登場させると決めていました。

ノーマンさんがチョイ役だったのはひとえにアルテミス退場への布石とヘラクレス・アビスの力を見せつける為だったのが大きいです。さすがにぞんざいに扱い過ぎたので、アヴェンジャーじゃないノーマンさんを特異点のどこかで出す予定です。ところでバイオ世界ってジャックが多くなかろうか。

次回の設定はサーヴァント×B.O.W.組三名です。ロンドン編の合間に投稿すると思います。


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アビス関連の変異サーヴァントだストレンジャー

※2018/06/07に挿入投稿。

ヴェルカム!ストレンジャー・・・ロンドン編の真っ只中ではありますが、ようやく完成した今更のオケアノス変異サーヴァントの詳細です。

よければどうぞ、見て行ってください。


アルテミスウーズ

 

クラス:弓兵(アーチャー)

真名:アルテミス

性別:女性

出典:ギリシャ神話

地域:ギリシャ

属性:混沌・中庸

天敵:炎を使うサーヴァント

 

ステータス:筋力C 耐久B 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具―

 

スキル&宝具:無し

 

概要

t-Abyssに感染したサーヴァント・オリオンの片割れである女神アルテミスの成れの果て。サーヴァントではあるもののスキルも宝具も失っており、失った右腕を補う様に左腕に骨が集束して巨大な弓を形作っている。辛うじて自我は残っているものの大脳が溶けて判断能力や言語能力が低下しており、最期の心残りであったオリオンを求めてクイーン・ディードを彷徨い、結果間違えて海賊の一人を捉えて水分を絞り尽くした後に立香達の前に現れた。

 

さながらレイチェルウーズやトライコーン・ウーズが合わさったような物で、弓と化した左腕を振り回したり、魔力で作った骨の矢を百発百中で撃ち出して攻撃する他、触手を矢の代わりに番えて発射し標的を捕らえることができる。最後の手段として左腕を切り離してぶん投げる事も可能。他のウーズと同じくダクトなどの狭い所に忍び込んで移動する事もできる。他のウーズと同じく炎と電撃が弱点となっており、対魔力スキルも失ってしまったため実はメディアが天敵だった。

 

ネロの宝具を受けて弱り果て、オルガマリーのヘッドショットにより敗れるも、本来有する女神の寵愛のスキルにより片割れであるオリオンの現界を留め、そのまま消滅した。彼女の心残りは信者であるアタランテが受け継ぎ、気に入らないオリオンと共に立ち向かう事になる。・・・・・・なお、スイーツ系女神とはアタランテには知られなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘラクレス・アビス

 

クラス:狂戦士(バーサーカー)

真名:ヘラクレス

性別:男性

出典:ギリシャ神話

地域:ギリシャ

属性:混沌・狂

天敵:ギルガメッシュ

 

ステータス:筋力A 耐久A 敏捷A+ 魔力A 幸運B 宝具A-

 

スキル

・狂化A:理性を失う代わりに能力値が上昇する。その割には冷静であり、理性よりも本能でイアソンに付き従い、彼の野望を自分なりに止めようとしていた。t-Abyssを打ち込まれた影響で本来のランクより上昇している。

 

・戦闘続行A-:瀕死の重傷を負っても戦闘を可能にする生還能力。しかしt-Abyssを打ち込まれた影響で劣化し、銃弾・炎・電撃という複数の弱点が増えた。

 

・心眼(偽)B:数々の冒険で磨かれた直感・第六感による危機回避能力。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。狂化によって理性を奪われても、本能に近いこのスキルは有効に働く。

 

・勇猛A:威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、敵に与える格闘ダメージを向上させる。ただし狂化によって効果が発揮されない。

 

・神性B:高位の神霊の息子であるため最大級のランクを持つのだが、t-Abyssが混ざった事によりランクが落ちている。

 

・生物災害B:ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。ジャック・ノーマンの持つスキルと同質の物。バイオハザードの根源そのものたる特性。t-Abyssにより海から魔力を取り込み続ける上に下記の宝具の効果により、半受肉することなく半永久的に存在できるサーヴァントと化していた。

 

・幻覚作用A:割れた頭部の中心にある単眼から発する閃光と口から吐く特殊な紫のガスによる幻覚を相手に見せ、分身を生み出したり自らの姿を消す事が出来る。分身を出している際は本体の口から紫のガスが出ている為判別可能。

 

 

宝具

深淵に沈みし十二の試練(ゴッド・ハンド・アビス)

ランク:A-

種別:対人宝具

 ヘラクレスが生前成した十二の偉業の具現化。ランクB以下の攻撃をシャットアウトし、11の代替生命のストックがある。さらに一度受けた殺害方法にある程度の耐性を身につけて二度と殺せなくする上に、例えBランク以上の宝具を持っていようと簡単には倒せないという、ただでさえ鬼畜仕様なのに加えてt-Abyssを打たれた事で発現した上記のスキル「生物災害B」の効果で、海に片足でも浸かる事で大量の魔力を摂取して短期間でストックの完全回復も可能となり、もちろんそれまでに受けた攻撃は受け付けなくなる鬼畜仕様である。

ただし、Bランク以上の宝具の他に、弱点を狙った銃撃や、炎・電撃による攻撃も通じる様になっている上に通常より判断能力も低下している為、殺す事だけならやや容易になった。しかし海に入りさえすれば直ぐにストックは回復するため、オケアノスではほぼ完全に無敵の無理ゲー。浜辺で海に浸かりながら戦えば天敵であるギルガメッシュにさえ完封できる正真正銘の怪物である。

 

 

概要

ギリシャ神話の二大英雄の一人である、主神ゼウスと人間の娘との間に生まれた半神半人の英雄ヘラクレスその人。数多の冒険を繰り広げ、その全てを乗り越えた。その世界規模の知名度と隙らしい隙も無い難攻不落振りから通常の聖杯戦争では「最強」のサーヴァントと称される。

アルゴノーツのメンバーであり、メディアとも知り合いである。生前の思いからイアソンの信を預かる友として従いながら、エウリュアレをアークに捧げられる前に殺そうとするなど自分なりに世界を救おうと試みていたものの、アルバート・ウェスカーがイアソンを懐柔し、実験と称してt-Abyssを打ち込み生み出した「サーヴァントの宝具を利用したB.O.W.」に成り果ててしまった。

 

アビス完全体とヘラクレスが合体した様な容姿をしており、幻覚を使用する際に顔が半分に割れる。武器は変異する前から装備していた斧剣と、右腕に出現したアビス完全体の物と同じ巨大な爪。泳ぎも得意で水中の方が陸上より敏捷性が高い。

上記の宝具の効果の他、アビス完全体とほぼ同じ性能であるため、半永久的に不死身な上に一度殺した攻撃を受け付けず、幻覚を操り分身や瞬間移動紛いの事も行える最強英霊と化し、黒髭海賊団やカルデアの抵抗を物ともせずオルガマリーを絶望に追い込んだ。

 

弱点は右胸に移動し露出した心臓・・・もではあるが、もっとも効果があるのは背中の巨大な腫瘍。ここを攻撃する事でまず確実に殺せる。また、ただでさえバーサーカーで理性がないというのに、大脳がゆっくり溶けて行くt-Abyssを使用したためさらに知性が低下してしまい、ヘラクレスの強さを失わせてしまったためにウェスカーの実験としては失敗例であった。

本家大本であるジャック・ノーマンでさえ一年もの歳月をかけてゆっくり馴染ませ変異させたアビス完全体とほぼ同じ力を持てたのは、単純に肉体のスペック故。アビス完全体に比べると体格は優に二倍を超えている。

 

ローマでのGカリギュラなど比ではなくカルデアを苦戦させ絶望にまで追い詰めた最大最強の強敵であったがしかし、t-Abyssが浸透したことで大脳が溶けて辛うじて残っていた判断能力を失い、立香とエウリュアレを殺す事に執着し、それを突かれて罠にはまりアークに触れてストックを全て失った事で消滅、敗北した。特異点Fで苦汁を舐めさせたディーラーの作戦が決め手となったのは皮肉とも言える。

 

実は以前の現界の記憶が残っており、同じ聖杯戦争に参加した剣士と魔術師がいたからか、記憶の中の雪の少女をエウリュアレと、赤毛の少年を立香と、それぞれ重ねていたため執着の要因になっていた。特に立香の方には殺意マシマシである。自らに立ちはだかったアステリオスの姿には、過去の自分を幻視していた。ちなみにオルガマリーに対しては赤い少女が、マシュに対しては紫髪の少女が重なっていたとかいないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォルネウス・アビス

 

クラス:魔術師(キャスター)

真名:メディアリリィ/イアソン

性別:女性/男性

天敵:ディーラー

 

ステータス:筋力A 耐久EX 敏捷B+ 魔力A 幸運B 宝具EX

 

宝具

爆発感染すべき全ての疵(パンデミック・ワールドブレイカー)

ランク:EX

種別:感染宝具

 本来あるべき姿を算定することにより自動修復するあらゆる呪い、魔術による損傷を零に戻す回復宝具が、支配種プラーガとt-Abyssの影響により変容した最凶宝具。

体内で濃縮したt-Abyssを口から海に放出し、海を感染源として爆発感染(パンデミック)させる。単純な破壊力と影響力ならば群を抜いて規格外とも言え、発動するだけで特異点が崩壊する。巨大な宝具で栓をする事により物理的に押さえ込む事こそ可能だが、容易には実行できない。

 

 

概要

イアソンが変貌した魔神柱「海魔フォルネウス」を、アルバートに憚られ自らに支配種プラーガを打ち込んでしまったメディアリリィが、海中で海洋生物やグロブスター、シークリーパーにネプチューンなどと一緒に取り込んでクリーチャー化したもの。サーヴァント・魔神柱・支配種プラーガ・t-Abyss系統B.O.W.のハイブリッドと言える怪物。

メディアリリィの上半身が本体として、開いた口の中から舌の様な触手と一体化しており、喋る事こそできるもののメディアリリィの自我は表層だけで、魔神柱の意思によりシステム的に動く。

 

魔神柱がそのまま横になって大口を開けた様な姿で、海中を高速移動するため全身を見る事は出来ないがイカに酷似している。魔神柱の目と、本体であるメディアリリィが弱点であり、これを攻撃すると一度回復するために海中に沈む。

 

表皮がマラコーダのクジラよりも堅く頑丈で、クジラの様な巨体で海中を巡洋艦並の速度で高速移動して噛み付き攻撃を行う他、小さい魔神柱の様な触手を伸ばしたり、触手から電撃を放って攻撃する。また、背中の中心部分から黒い体色に丸い目をした魔神柱フォルネウスを出現させ、刃を備えた複数の触手の群れで応戦する他、表皮に存在するネプチューンとグロブスターの大口やシークリーパーの節足などで隙あらば拘束したり取り込まんとする豊富な攻撃手段が持ち味。巨体であるために常時大波を引き起こすため、迂闊に近付く事も出来ない。

 

開いた大口の中にいるメディアリリィも高速で魔力弾を連射するなど独自に応戦できる他、『熱源、感知。――――標的、発見。観測所、起動。深淵に至れ、清浄であれ。其の痕跡を消しましょう』という詠唱の後に放たれる特大の魔力砲撃「焼却式 フォルネウス・アビス」は宝具級であり、黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)でようやく相殺できる程。この怪物を相手にディーラーが来るまで耐え凌いでいたオルガマリーの手腕が窺える。

 

元ネタは5のアーヴィングモンスター。イアソンとアーヴィングって何か似てるよね!という考えから誕生したモンスターだが作ってみたら予想以上に頭可笑しい怪物になったため、ちょうどいい時期であるためディーラーの宝具お披露目のためのいいカモとして扱われた。倒すとアーヴィングと同じくメディアリリィの半身だけ残り、瀕死の状態で会話が可能。

 

 




並べてみたらわかるアルテミス・ウーズの場違い感。一応フォルネウス・アビスもメディアリリィの変異なのでサーヴァント扱いです。オケアノス登場のB.O.W.の簡単な詳細も入れた方がよかったですかね?

コンセプトはそれぞれの元ネタクリーチャー×サーヴァント。特にアルテミス・ウーズは見た目と悲壮感的に割と自信作。フォルネウス・アビスも急造にしてはよくできたと思います。最初はただのアーヴィングならぬイアソン・モンスターがオケアノスのラスボスだったんやで・・・?あまりに弱そうなので即没になりましたが。

ロンドンを超えた辺りで立香とオルガマリーのオリ設定も纏めたいところ。このカルデアのサーヴァントも、簡単に紹介していきたい。ちなみに全員、放仮ごのカルデアが所有している中で、他の特異点に出ないから扱いやすく、強過ぎない設定の鯖、という理由で選出しています。ネロは完全に水着鯖を用意するためでしたが。ついこの間、水着きよひーをGETできたため、オルガマリーのメインサーヴァントである事だしどうにか出したい。水着アルトリアは諦めた(悟り)


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第四特異点:死界魔霧感染都市ロンドンシティ
やっと折り返し地点だとよストレンジャー


ウェルカム!ストレンジャー…年末までに今回含めてあと二話ぐらい更新したいと思っている放仮ごです。前回以降のお気に入り数があまり上がって無かったりしたのは関係ありませんよ、ええ。

今回は二日で書けてしまった題名通りのオケアノス編とロンドン編のつなぎの話。オケアノス後日談と、ロンドン編の予習、悪夢の競演。正直ロンドンヤバすぎて人理修復後を考えたくない件について。楽しんでいただけると幸いです。


 第四特異点。1888年、産業革命時代の霧煙るロンドン・シティ。沢山の人で溢れていた霧の立ち込める街並みは、今や死体と異形が跋扈する地獄へと化していた。

 

その原因の一つたるは、現在市街に立ち込めている、人を死へと誘う魔の霧。しかしこれだけで出来るのはただの死体だ。では何故その死体が動くのか?それは、110年の時と海を越えてとある街で起きた現象と酷似していた事から容易に推察できる。

 

その街の名は、アメリカ中西部にある小さな都市「ラクーンシティ」。1998年、9月末。Gウイルス争奪事件の陰でT-ウイルスが流出し、瞬く間に町中がゾンビで溢れかえり、化け物たちが跋扈する地獄と化し核ミサイルによって消滅した街である。

問題は、この事件より過去であるはずのロンドン・シティにてT-ウイルスを撒き散らせる存在が、人体に有害な程の濃度の魔力を含んだ魔の霧によって召喚された事である。

 

 

 エクストラクラス:追跡者(チェイサー)。また、その異形の反英雄(B.O.W.)が冠する真名は追跡者(ネメシス)

 

 

標的が存在せず暴れる彼の存在によって死体の群れはゾンビと化し、屋内に隠れて怯える者達は精神的にも追い詰められていく。

 

 

 

だが、それだけではなかった。ネメシスの魔の手から逃れた死体も何者かにより霧を通じて散布されたt-Abyssに感染し、霧から大量の水分を得て滴る者(ウーズ)と化し、そして徘徊するウーズの存在により湿度が上がった街の片隅で蔓延ったカビからサメの様な歯と鋭い爪を持つ人型の漆黒の異形(モールデッド)が姿を現し、カビは近くの死体をも侵食し同じく異形へと変えていく。

 

 

 

ゾンビ、ウーズ、モールデッド。その三種に加えて暗躍する魔術師がゾンビや生き残りの人間達を駆逐すべく放った機械兵 不明の怪機械(ヘルタースケルター)不格好な人造人間(ホムンクルス)の一団、そして自律機械人形(オートマタ)が蔓延るロンドンで、赤雷を纏い一人果敢に立ち向かうロンディニウムの騎士。

 

 

…とは余所に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女が二人、石畳の道を歩いていた。

 

 

「―――――おかあさん、どこなの…?」

 

 

一人は短い銀髪、顔に傷のついたボロ布のマントを着込んだ少女で、異形に出くわすたびに目にも止まらぬ速度で斬首、女性ゾンビに出くわせば「おかあさん?」と尋ねて、物言わぬと分かると即斬首。それを繰り返し血塗れになりながらも何かを探す様にトボトボと彷徨い歩く。

 

 

「イーサン、イーサン、イーサン!…………絶対殺す!殺す。許さない許さない許さない…」

 

 

もう一人は長い黒髪、黒のワンピースを着た少女で、黒の長靴を鳴らして何かに憤慨しながら歩いている。その周囲にはカビから湧きだしたモールデッドが連れ添う様に歩き、襲ってくるゾンビ達を次々と葬って行く。異形のボディーガードを付けた少女は一通り憤慨し終えると気がすんだのか、「どうしてみんな私を嫌うの…?」と決して答えの帰ってこない疑問を呟きながら虚空を眺め、トボトボとモールデッドを連れ添い歩く。

 

 

 

まったく別の離れた場所に現れた、どこまでも対照的ながらも共通した目的を持つ彼女達が、ばったり出くわすのは必然で。

 

 

 

「あなたは、わたしたちのおかあさん?」

 

「…お前はママじゃない!」

 

 

かみ合っていない会話の後に、苛立つかのように衝撃波を放つ黒髪の少女と、それを的確に避けてから持ち前の敏捷で駆け抜け、モールデッド一体を瞬く間に斬首した銀髪の少女の視線が重なり、一瞬の間が流れてから銀髪の少女の手に握られた特徴的な形状・色のサバイバルナイフと、黒髪の少女の黒く変色して変形した右腕の巨大な刃が鍔迫り合いとなり、双方共に力を強めた事で弾かれ、体勢を立て直す。

 

 

「死んじゃえ!」

 

 

先に動いたのは黒髪の少女。黒く染まった両腕が伸びて銀髪の少女の両肩を掴み、引き寄せると傍のモールデッドたちが一斉に襲い掛かる。しかし銀髪の少女は両手に握ったナイフを自身を拘束する腕に突き刺して逃れ、新たに取り出したナイフを振り回して一瞬でモールデッドたちを細切れにすると、自ら肉薄して一閃。

 

その首を切り捨てようとしたが、黒髪の少女の顔を見て何を思ったのか寸止めし、一言尋ねた。

 

 

「わたしたちは、じゃっくざりっぱー。あなたは?」

 

「…■■■■。私は、家族が欲しいの」

 

「わたしたちは、おかあさんにかえりたいの。いっしょに捜そう?」

 

 

ナイフを仕舞った銀髪の少女、ジャックの提案に黒髪の少女は少し考え、頷いた。自分はママになってくれる人を。ジャックはおかあさんにかえりたい。理由は違えど、目的は一緒だ。

 

 

「…うん、一緒に行こうジャック。………………でもジャック、か」

 

「どうしたの?来ないの?」

 

 

脳裏に浮かんだ、自分の父親であろうとした初老の男を思い出して複雑な気持ちになる■■■■を心配げに見つめるジャック。見ようによってはほっこりする状況だが、彼女達がつい今まで殺し合いをしていて、その周囲にはモールデッドたちがうじゃうじゃ湧いている。その光景は狂気に塗れていた。

 

 

「ううん。…前の家族を、思い出しただけ。ジャックとは全然似てない。行こう、ママを捜しに」

 

「うん、おかあさんを捜しに」

 

 

そうして、共に歩き出す。怨霊の集合体と、人理焼却された世界ではありえないはずの反英雄である彼女達から、遠く離れた区域で…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かに呼ばれたかの様に霧の中から出現した三角頭の大男が、無言で異形の集団を次々と両断しながら歩いていて、もう一人の追跡者と遭遇していた。

 

 

「スタァアアアアズ!!!」

 

「………!」

 

 

放たれるロケットランチャーと、振るわれる大鉈。周囲の建物は倒壊して爆音を轟かせ、その騒ぎの元に異形達が、それを追うロンディニウムの騎士が向かって行った。

 

 

 

 

 

 

その間でも、各所で動きがあった。

 

 

ロンドンの、とある屋敷にて、一人の男が霧の謎を解明すべく頭を捻らせながら同居人の帰りを待つ。

 

ロンドンの、とある本の散らばる書庫にて、一人の男がゾンビから隠れながら本を開き内容を紐解く。

 

ロンドンの、とある地下道にて三人の魔術師がどうしてこうなったと溜め息を吐き、状況を打開するべく案を募る。

 

ロンドンの、とある墓地に出現した一組の男女が、斧と御札を手に異形の群れを薙ぎ払いながら文句を吐いた。

 

そして、どこでもない場所に存在する玉座で、人理焼却の黒幕である“王”が一人、こればかりは予想外だと嘆息し立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

飛び起きる。嫌な、夢を見た。殆んど覚えてないけど、それは分かった。見覚えしかない三角頭が脳裏をよぎる。他には何が…?

辺りを見渡し、見慣れたマイルームだと気付くと安堵の息を吐いた。すると扉が開いて相棒と後輩が顔を出した。その手にお盆と洗面器があるところから私の額に置かれていたタオルを替えに来たのだと分かる。

 

 

「ん?起きたかストレンジャー」

 

「先輩!よかった!丸一日寝込んでいたんですよ!」

 

「…ディーラー。それにマシュ。私は…」

 

 

そうだ、エウリュアレや船長たちと別れの挨拶をして、第三特異点が崩壊するかと言う所で私、倒れたんだ。無事にレイシフトは出来たらしい。けど、二人が言うには意識がほとんどなかったんだとか。何でだろうか。私、バイクにしがみ付いていただけで殆んど何もしていなかったはずなのだが。

 

 

「もう忘れているのかストレンジャー。さすが、自分を楽観視している頭だな」

 

「先輩はお忘れかも知れませんが、仮にも英霊の、オルタさんのバイクの全速力にしがみ付いていたんですよ?魔術礼装の防護機能が優秀だったため難を逃れましたが普通はミンチになっています。もし手を放していたら真っ赤な染みになっていました」

 

「え゛」

 

 

もう必死になってしがみ付いていたけどそんなにヤバかったのか。

 

 

「無茶が過ぎたがヘラクレス相手にスピードを遅める訳にもいかんし、緊急事態だったから何も言わんかったが何だ、やっぱり分かっていなかったのか?」

 

「ドクターが言うには先輩の筋繊維がいくつか千切れていたらしく、内臓もいくつか傷付いていたそうです。さらに所長共々高山病の兆候が見られたので先輩は一週間は、所長は数日だけ養生しないと行けないそうです。所長は精神的にも参っていたらしく、現在ドクターのカウンセリングを受けています」

 

「肉体的な傷は俺が治しておいた。それにストレンジャーが大人しく寝ていたからコンティニュー回数も戻った。あとはストレンジャーの回復待ちだな。無茶な作戦のツケがこれだ、覚悟はできていたんだろう?」

 

「…まあ、ね」

 

 

色々混乱し過ぎて、ちょっと自棄になっていたような気がする。特にバイオハザードを目の当たりにしたことだ。宝具による再現とはいえ、あの船の中は私が見たことある地獄の様な光景だった。助けに行ったと思えば出てきた巨漢とかのショックが凄まじくて、さらに電撃も浴びてあの時から少し錯乱していたのかも。

 

今回は無茶をしたと自分でも断言できる。死ななかったのは、黒髭達を犠牲にしてしまって、死ねなかったからだ。

 

 

「次の特異点は?見つかった?」

 

 

夢が正しければ、次の特異点は恐らくロンドンだが……

 

 

「いえ。まだ見つかっていません。ドクターの見立てだと先輩たちが全快する頃には見つかってるだろうとの事です」

 

「そっか。……よかった」

 

「先輩…?」

 

 

思わず口に出てしまった。もし正夢だとして、今の精神状態であの地獄に行くのは無理だ。トラウマの塊過ぎて発狂する自信がある。何だかんだほっとしてしまったのはしょうがないと思う。

 

 

「まあ何にしても養生だな。クー・フーリンにハーブを使った焼き魚を作ってもらったが、喰うか?」

 

「今の先輩に固形物は大丈夫なんでしょうか!?」

 

「卵もあるぞ」

 

「あ、じゃあ卵はもらうよ」

 

 

ディーラーから受け取った茶色い卵を割って、中身を一気に飲み込む。…………気付いてしまったことがある。これ、ヘビの卵だ。5歳ぐらいの時に飲んだ事がある。そして多分、ディーラーはこれに気付いてない。卵なら全部同じだろって感覚だろう。私には分かる。

 

 

「起きてる藤丸!?」

 

「あ、所長」

 

 

すると扉が開いて息絶え絶えの所長が現れた。顔も真っ青だし、どうしたんだろう?

 

 

「き、清姫が!ロマンのカウンセリングが終わって外に出たら清姫が…」

 

「あ、はい」

 

 

納得した。そう言えばクィーン・ディードから脱出する際にロマンが清姫を止めるのに苦労しているとかそんなことを言ってたっけ。多分だけど、空元気で大丈夫だとか言ったらウソ認定されて追われていると見た。蛇の卵を回想している時に清姫の話題を出して欲しくなかったなあ。

 

 

「えっと、そこのロッカーにどうぞ?」

 

「恩に着るわ!」

 

 

よし、もし変に匿ったりしたら嘘吐き認定されて焼き殺されるから私は寝よう。とか思っていたら扉を飛び蹴りで破壊して清姫が着地を決めていて。

 

 

「立香さん、マシュさんディーラーさん。旦那様を知りませんか?」

 

「「……」」

 

「そのロッカーに隠れてるぞストレンジャー」

 

「「ディーラー(さん)!?」」

 

 

マシュと二人でダンマリして切り抜けようとしたが、ディーラーがあっさりと自供した。ズルズルとロッカーから引き摺りだされ、涙目の所長。ああ、何だかこの感じ久し振りだな。

 

 

「そこでしたか。ま・す・た・ぁ?嘘はいけませんよ、私にはお見通しです」

 

「この裏切り者!?き、清姫?私は大丈夫だから、ね?」

 

「いいえ。大丈夫なんかじゃないので、私が誠心誠意お世話させていただきます。不安などにはさせませんよ?フフフ…」

 

「別の意味で不安よ!?アルトリア!ネロ!藤丸でもマシュでもいいから、助けて!?」

 

「すみません所長。あの二人は今メディカルチェック中で、私と先輩ではどう足掻いても無理です」

 

「そんな殺生なー!?」

 

「フフフ、さあ行きますよ旦那様?」

 

 

ああ、何だ。焼いたりとかはしないんだ。清姫なりに所長を心配していたのかな。それが分かっていてディーラーはあっさり自供したのか。何というか、自分が恨まれてもどうでもいいって感じだよね。

 

 

「ああ、それと立香さん?」

 

「あ、はい。何か?」

 

「……………………自分の心に嘘を吐いたら駄目ですよ。自覚の無い嘘ほど性質の悪いものはありません。私はそんな貴方が嫌いです」

 

 

そう言って清姫は所長を連れて去って行った。自覚の無い嘘とかよく分からないけど。真っ向から嫌いと言われると、堪えるなぁ。

 

 

 

 

・・・・・・・・どうしてみんな私を嫌うの、か。何があったのかは分からないけど、もしそう尋ねられたら私は、どう返せばいいのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年◇月▽日

 オケアノスの特異点を修復したが、今回はあまりにも犠牲が多かった。目を離した隙にやられていたマイク/カークだけではない。黒髭、パーカー、ヴェルデューゴ。一度は敵対しても共に戦ってくれた人達と、私とエウリュアレのために単身立ち向かったアステリオス。

 みんな、私達を守るために戦って、散って行った。私はそうならない様に頑張っていたはずなのに、何もできなかった。マスターとして力不足だ。

 

 帰って来た後にカーク経由で名前を知ったあのクジラのB.O.W.マラコーダとの戦いでネロの「皇帝特権」でクラスチェンジして水着姿となったオルタとネロだが、どうやらカルデアに帰還するや否や元のクラスに戻ってしまったらしい。でもネロの気分次第でまたなれるそうだ。

 機動力が足りない私達に、ライダークラスのオルタは頼もしかった。マイク/カークは空の機動力だしアシュリーはライダーなのに乗り物を持ってないし…(ここから何ページか自身の運の偏り具合についての文句がつらつらと記載されている)

 

 また、メディアリリィ(メディアさんとややこしいのでこう呼ぶ事にする)に支配種プラーガを与えてそのまま消えたアルバート・ウェスカー(アーチャー)のその後だが、ディーラーの宝具の余波で吹き飛んだのをアルトリアが確認したらしい。知らないところで消えるとか哀れ・・・・・・と笑いたいが、「あの御方」の差し金としてまた出てくる可能性もあるので要注意。ディーラーからも危険度ならばヘラクレスより上とか評価がされた。私もそう思う。

 

吐き気がするのでこのまま休む事にする。

 

 

 

 

 

 

 

2016年◇月〇日

 オケアノス攻略から数日、体調が快復したのでロマンのカウンセリングを受けた。幼少時代の事が知られたのは意外だったけど、あとは当たり障りのない会話だけだった。

 終わった後に訪れた食堂で見かけたのだが、何か所長と清姫の距離が縮まったように見えた。恨めしそうに見つめるアルトリアとネロと言う珍しい光景も見えた。何があったし。

 

 昼食後、所長とマシュ、セイバーオルタと一緒にディーラーがカルデア内の空き部屋を改装して作ったと言う、木製のからくり的を使った射撃場で訓練を行った。

骸骨、ゾンビなどが通常ポイント、いくつか弱点を撃たないと行けないGカリギュラなどのボスが大量ポイント。それらを連続で取った際に一番後ろの方でちらちらと現れた小さいボーナスポイントの的がサドラーの顔だったのは絶対私怨だと思う。

 結果、通常のハンドガンを使った私が一位でマシンピストルを使ったマシュがほとんどポイントを取れずストックというアタッチメントをディーラーから購入して少しマシに。セイバーオルタは百発百中だったが途中でマイナスポイントのアシュリーを撃ってしまったことで私が勝利した。

 一番意外だったのが所長で、冷静にブラックテイルを使って私のポイント数に肉薄していた。もう冬木の頃の所長の見る影もなくなった気がするうぐらいに成長していると思う。すぐヘタレるけど。

 

 

 

 

 

2016年◇月★日

ついに第四特異点が判明した。予想通りロンドンだった。嫌な予感しかしない。腕の一本は覚悟しないと行けないかもしれない。ディーラーのハーブでもさすがに切られた腕とかはくっついたりしないだろう。

 ところでロンドンの惨状を夢で見た、と報告した時皆驚いていたのは何でだろう。予知夢でも見れるの?と所長には聞かれたけどそんなことはないし、ロマンの言う様に誰か知っているサーヴァントがそこにいた訳でもない。…何で私は夢を見たのか?あれは正夢なのか?分からないが、覚悟した方がいいのは明白だった。ここまで順調に難易度というか面倒くささが上がって来ている。…誰も死なせない様に、頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っと。さすがに今度の特異点は心の準備をしないと耐えられないだろうと思って夢に介入してみたけど、余計だったかな?…キャスパリーグも君の在り方に興味を持っている。マシュ・キリエライトにしか興味を示さなかった彼がだ。これは私も興味を持たざるを得ないとも、人類最後のマスター。そのうち私もファンになってしまいそうだ。だって実に見ていて面白い」

 

 

遥か遠い理想郷の高き塔の上で、空中に浮かんだ映像を見て男はほくそ笑む。ツッコんでくれる相棒がいないのは寂しいが、独り言はいつもの事だ。大抵、生粋のキングメーカーと呼ばれる自分の育てた王の話だが。

 

 

「でも彼女を理解する人が少ないからネットに記録を残したりとか回りくどくサポートしてみたけど意味があったのかどうか。トラウマが多く過去の事を話したがらない女の子の扱いは難しい。…それは彼女も一緒かな?」

 

 

そう言って映像を切り替え、ジャックと共に歩く黒髪の少女を眺める男はどうしたものかと眉をひそめた。

 

 

「人理焼却し存在しないはずの未来から召喚された反英雄。彼女がいる事は人理は続くという証明か。それとも誰も知らない凶悪な力で人理を完全に滅ぼさんとする悪意か。…こればかりは計り知れないね。彼女の生涯を知って、キャスパリーグが決断しないといいけど」

 

 

少なくとも、第七特異点を越えるまでは待ってほしい。男は切実にそう願う。だって、その先にはきっとハッピーエンドが待っているはずなのだから。




いつぞやのロマンが立香の過去の資料を見付けられたのは「彼」の介入によるものでした。うちのスタメンでもありますがそろそろ出張ってもらいます。

追加されたのは追跡者と三角頭のホラーゲームを代表する追跡者コンビ。
ゾンビ、滴るゾンビ、不細工な友達と感染度が可笑しいゾンビ連中。
バトルをした後は友達みたいなノリで共に行動する連続殺人鬼と黒髪の女の子という最凶タッグ。
そしてよりにもよって怪獣大戦争の真っ只中に突っ込んで行ったロンディニウムの騎士。
つまりどういう事かというとラクーンシティ以上の生物災害です。あまりにヤバいので一足早く日本鯖コンビが既に参戦してます。隙あればあるバイオ主人公も出したいところ。

オケアノスにてかっこよく去っていたと思ったら描写される事無くやられていた事が判明したアルバートさん。ヘタレウェスカーはかっこよく終われないのです。
そして何故か清姫とオルガマリーの仲が深まった、何をしたんでしょうかねえ。清姫が立香を嫌う理由も判明。

ロンドン編は原作をちゃんと読み直してから書くので少し遅くなります(正直時系列表的な物が欲しい)。なので年末年始は未定ですが一足先に監獄塔編を書くかもしれません。
とりあえず次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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チェイサーをご所望かいストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、放仮ごです。今回が2017年最後の投稿。ロンドンに入ったってのに連続して番外編みたいな話なのは本当に申し訳ない。でも今回のはこれからの展開に必要な繋ぎ、つまりはフラグ建て回です。

前回ちゃっかり暴れていた▲様と、これまで死闘を生き抜いてきた少女の心の中の話。サイレントヒル2終盤のネタバレが入ってるのと、自己解釈多目なので注意。モーさんがちょこっと登場で少しロンドン編の展開が進んでます。楽しんでいただけると幸いです。


 それは、誰も知らない、一人の男が訪れた、霧に覆われた不思議な湖畔の街での話。

 

 

 裏世界と呼ばれる世界の病院の地下通路にて行われた追走劇を逃げ切り、しかし同行していた妻に似た女性をみすみす目の前で失ってしまった男は、悲観する様に項垂れた。

 

 

「私は、また、救えなかった・・・」

 

 

そうじゃないだろう。救えなかった、ではない。お前が考えるべきは、思い出すべきは。私がいる意味だろう。自罰意識だ。お前が自覚するまで、現実を直視するまで、何度弾丸を撃ち込まれ、鉄パイプで殴られようとも私は何度でもその女を殺そう。罪の意識を裁く、それが私の存在する理由だ。

 

 

「やめろ!もうやめてくれ!何度も私を苦しめないでくれ!」

 

 

時と場所は流れ、新たに殺人を犯した事で、二体に増えて再び女性を目の前で惨殺した私達に叫ぶ男。誰かに裁いて欲しいと、お前が心の中で叫んでいたから私達がいる。

 

 

「私は弱かった。だからお前の存在を望んでいた。私の罪を罰してくれる誰か………でも、もういらないんだ」

 

 

槍を手にした私達を相手に、男は覚悟を決めた目でこちらを睨みつけ、私達はたじろぎ怯んでしまう。彼は弱い男だ。その手に持つ大鉈は私達の様に片腕では扱い切れていない。なのに何故、私達は臆している?

 

 

「分かったんだ。自分で決着はつける」

 

 

振るわれる、鋏だった大鉈に私達は追い詰められていく。ここまでか。

 

 

―――――――ああ、そうか。もう、私達はいらないのか。

 

 

「もう私には必要ない。これはただの死体だ」

 

 

ジェイムス、お前は自らの罪を直視したんだな。ならば私は、潔く死のう。

 

 

 

 

 

 

しかし気付けば、焼却された。無かったことにされた。一人の男の贖罪だ、人理からしたら小さな事だろう。それでも、私にはそれだけの事だったのだ。

 

断罪してやろう。人理を焼却し、人類を滅ぼしたお前はジェイムスの代わりだ。そうする事で私の存在意義を取り戻す。これは、私の存在意義を取り戻すための戦いだ。

 

 

 

 

 

 

――――あの資料館の絵を見たジェイムスの深層心理から生まれた私は彼自身で、断罪の化身だ。召喚されるや否や、殺人の罪に苦しんでいたマスター達を襲ったのは、その為に呼ばれたのではないかと思ったのだから不可抗力だ。それに物も言わないからって、また自害させられるとは。サーヴァントとはそう言う物なのか、理解した。

 

・・・私を呼び出した少女(マスター)と、もう一人。共にいた少女は、ジェイムスと似た物を感じた。何だったのかは分からない。だが、彼と違い自ら考え、乗り越えられる気概も感じた。あの少女に召喚されていたならば、私は・・・・・・・・・いや、よそう。今は次の召喚に期待しよう。その時こそはあのモノに断罪を。

 

 

 

 

――――霧の街、か。因果な物だ。そして罪に溢れた有象無象が蔓延っている。ジェイムスのサイレントヒルとは違う、異形の巣窟。今回マスターはいない様だが、私が召喚されたのはこいつ等を処刑するためか。ならば屠ろう。駆逐しよう。処刑あるのみ。貴様等が罪を自覚する瞬間(とき)はもう無いのだから。

 

 

「スタァアアアズ!」

 

 

物言う異形が出て来たか。お前もまた、罪に塗れているな。ジェイムスの手に渡ったはずの大鉈を構える。かつて鋏だったそれは、奴の放った砲弾を斬り飛ばし、共に突進して組み合い、殴り合う。各々の武器を構える隙が共に無い、ならば作るしかなかった。

 

 

デカブツと殴り合い、一度離れて私が斬り、奴が触手を出して貫き、その余波で機械人形共は壊れ、鮮血が飛び散る。口惜しい事に、互角だ。

 

 

――――ああ、この感覚だ。罪人を追い詰めていくこの・・・・・・期待とも言い得ぬ高揚感。私はこれを感じている時だけ、在り方を忘れられる。

 

 

「この土地で、好き勝手暴れてるんじゃねえ!オラア!」

 

 

高揚していた全ての感覚が、赤雷と共に訪れた闖入者によって一気に冷める。なんだ、また罪人か。どうもサーヴァントという物は罪人しか居ないらしい。ちょうどデカブツを吹き飛ばしてくれたんだ、お前から処刑してやろう。大鉈はデカブツに突き刺さったままだから、この槍で貫いてやろう。

 

 

「ちっ!何だコイツ、魔力放出が効いてない…?それに、全然吹き飛ばねえ…!?」

 

 

無駄だ。お前を目標と定めた事で追跡開始EX・・・というらしいスキルが発動し、生半可な攻撃では意味を成さない。セイバーらしいサーヴァントを壁際まで追い詰め、槍を掲げる。赤雷をいくら撃とうが、いくら斬ろうがもう止まらん。

さあ罪人よ、貴様の罪を悔い改めろ。私が赤い三角頭の処刑執行人(レッドピラミッドシング)であるが故に、お前はもう逃れらr

 

 

「ガンド!」

 

「!?」

 

 

何処からともなく放たれた魔力の弾を背中に浴び、私の動きが強制的に止まる。何だ、何をされた?ギリギリと首を動かし、それを見た。

 

 

二人のサーヴァントを引き連れた、あの少女の姿が、そこに在った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父が死んで、私は虚勢を張る様になった。アニムスフィア家当主に恥じぬような働きをしないと行けなかったから。泣いている暇なんて、なかった。

 

子供の頃から共にいて、信頼していたレフに裏切られて殺されて、私は彼に出会った。

 

 

 本当に変な奴だった。三流マスターがろくな準備もせずに召喚したから当り前だがサーヴァントなのに弱くて、でも三騎の英霊を撃破する様は圧倒的で、すぐに商売を初めて、あろうことか自分のマスターに戦う武器を与え、私の注文にも応えてくれた。

 

 初めて握った銃は重くて、ガンドと違って思い通りの場所に当たらなくて。力を得たと思えたけど、拍子抜けだった。

 

 

―――そんなに凄い奴じゃない?

 

 

 むしろ藤丸の方を見直した、そう思えてきた時に、私はレフに裏切られた。何時も褒めて支えて、私に無くてはならない存在になっていたあの男は私を蔑んでいて。意気揚々と、私は彼の手引きで既に死んでいると聞かされた。もうカルデアに帰る事は出来ないとも。あまりに哀れだからとカルデアスに入れられそうになって。

 

 

 

 

「―――だから、俺はアンタを評価する」

 

 

 

 

 そして彼に救われた。あんな面に向かって評価されたのは何時ぶりだったか。父親以来と言ってもいい。救ってくれたこともだけど、私にとっては認めてくれたことの方が本当に嬉しかったんだ。

 

 彼から譲り受けた武器は、それはもう私に合っていてレフを圧倒した。あの時、私が安全な物なんて頼まなければちゃんと選んでくれるんだと再認識して。

 

 ロマニ達にも認められて、所長としての役目を終えて。そして藤丸達が退去した中でも彼は残っていて、私を生かそうとしてくれて。もう無理だと分かっていたけど、それが本当に嬉しかった。

 

 

 

 そして本当に生き返らせて、さらには生前渇望していたマスター適正までくれた彼には、外面じゃ尊大に振る舞っても心の中じゃ絶対に頭が上がらないと思う。

 

 

 

 特異点攻略で必ず一緒に居るのは今のところ私、藤丸、マシュ、セイバーオルタ、そしてディーラーだ。オケアノスを越えた今ではこのメンバーがしっくりくる。

 

 フランスではディーラーが意味不明な理由でワイバーンを駆逐して、ジークフリートしか太刀打ちできないはずのファヴニールを屠って、彼のトラウマを一緒に乗り越えた。

 プラーガに寄生された時の、魔術回路を焼かれるような痛みを無視して放ったガンドは、彼への恩返しになっただろうか。

 ……その前に一回、彼の頼みで私が殺したので、プラマイゼロかもしれないが。藤丸、冬木でうっかり殺してしまった貴方の気持ちが凄い理解できた。罪悪感がおかしい。知らないところで犠牲になったマスター達と比べて自分で殺すという感触はダイレクトに伝わって嫌な気分になった。

 

 

 ローマでは最初と最後以外一緒に居れなかったけど、最終決戦では共にウェスカーと戦い、そして彼の窮地を救ってアルトリアを呼び、勝利できた。彼を死なせない、というのは藤丸と私の共通理念だ。何度もディーラーが犠牲になっているが、この感覚に慣れちゃ駄目だと毎回思う。

 

 また、フランスの時のマリー、アマデウス、ジークフリートの様に一時的な私のサーヴァントになってくれる英霊は数多くいた。女神ステンノの試練を乗り越えて出会ったエリザベートとタマモキャット。そして二人を指揮して私が戦い、(ほぼエリザベートの宝具で)打ち勝ったレオニダス一世だ。

 彼の宝具はローマを救う戦いに置いては必要だと思ったので無理矢理仮契約して従わせたが、すんなり受け入れてくれていい人だったと思う。マシュが慕うのも分かる気持ちがする。守護力も高いし、また一緒に戦いたい。

 エリザベートとレオニダスに軍隊の相手を任せて、連れて行ったタマモキャットはウェスカーの召喚したタイラントにやられてしまったが、もし召喚できたらまず謝りたい。みすみす死なせてしまった事への罪悪感だ。ここは藤丸と一緒だと思う。

 

 

 

 そして、オケアノス。ネロが仲間になって初の特異点だったが、彼女のスキルには大変助けられた。彼女がいなければ、最初のクイーン・ディードから脱出できずに終わっていた。海だと分かっていたのに、ろくな対策も取って無かったのを彼女に助けられたとも言える。判断ミスだったとしか言えない、彼女にはローマから本当に頭が上がらない。

 オリオンを助けて、藤丸の過去を知って、ドレイク船長に助けてもらって、アルテミスを私の手で引導を渡して、敵の猛攻を凌いで船から脱出して、アステリオスと出会って、黒髭と出会って戦って、本気で藤丸に怒って、圧倒的な敵を前に本当に絶望して。

 

 それもこれも乗り越えられたのは、何があろうと諦めず悪い意味でもいい意味でも全力を尽くした藤丸と、どんな状況にも対応していい仕事をしてくれたディーラー。そして何より、アステリオスに黒髭、パーカーにヴェルデューゴ、そしてオリオン達の犠牲があったからだろう。人理を救うためには犠牲は付き物だと割り切りたいけど、無理だ。そんなことをしたら、レフの爆破テロで被害を受けた皆に顔向けができない。

 

 やっぱり私は、誰かを死なせてしまった事に後悔せざるを得ない。忘れる事は出来ない。どうあっても償いたい。そのためにも前に進まなくては。私が生かされているのは人理を救うためだと思え。……どうせ人理が修復されても、未来有望なマスター達を危険に陥れた私の居場所はどうせないのだから。

 

 

 

 

 正直、藤丸があんな性格じゃなきゃ私はここまで頑張れてない。まだまだ頼りないから、私がしっかりするしかないのだ。…オケアノスではあまりにも無様な姿を見せてしまったが。無理もないと思う、半不死身の大英雄相手に絶望しない方がどうかしている。…そう、彼女はどうかしているのだ。あの時は、アステリオスの死を受け止めて、決して諦めなかった藤丸がどれだけ心強かったことか。

 

 

 それでもまだまだ未熟だ。魔術師としても、人としても。あの在り方は変えないと行けない。最初は、彼女の資料を見ても、どうせ一般上がりの補欠だと思ってちゃんと見ようと、向き合おうとしなかった。

 

 だって、私の演説を最初は聞いていたけど途中から寝てしまったのだあの馬鹿は。理由を問い質してみると、専門用語ばかりで眠くなると来たもんだ。ムカついて、目の敵にしてもしょうがないと思う。

 

 まあそんな彼女と二人三脚で助け、助けられてきた訳だが。やっぱりまだまだ危うい。オケアノスで、改めて彼女の異常性を知ってそう思った。レフとの決着もつけ、後は人理修復を成し遂げるだけだがまだまだ、死ねない。

 

 

 でも、もしも藤丸が何も心配のいらない、私よりも優秀な立派なマスターになったら?…恐らく、私は清姫やアルトリア達のマスター権を彼女に渡すだろう。そして完全に援護に徹する、それが私の結論だ。アルトリア曰く「少しリツカの影響を受けて来ましたがまだまだマスターの策は堅い一面が見受けられます」らしい私の立てる作戦では何時かボロが出る。というかオケアノスの最後の戦いはそれでオリオンを犠牲にしてしまったような物だ。

 

 

 それに、藤丸と違って私は何時か罰されないと行けない。例え何人生き残っていようが、私はレフの企みに気付かなかった事で危険に陥れたのは事実だし、何人もの犠牲を出した。これは決定事項だ。私がいなくてもカルデアはロマンとダ・ヴィンチちゃんがいれば安泰だろう。

 

 

 

 

 

 そんな事を考えながらレイシフトした、第四特異点ロンドン。今回は清姫と、イギリスという事でアルトリアを連れて来た。…のだが、いきなりトラブルが起きたらしい。ロンドンに来るなり、初期位置から藤丸達と分断された様だった。高濃度の魔力が含まれたこの霧が何か関係しているのだろうか。

 

 

 藤丸の見た夢の通り、そこら中に蔓延っているゾンビや、カークから教えられたウーズ、そしてよく分からない黒い人型を退けながら、霧に含まれている高濃度の魔力のせいかカルデアとあまり通信ができないため、通信で知った最後の地点へと藤丸達と合流すべく生存者を捜しながら先を急いだが、人っ子一人、見当たらない。いや、正確にはゾンビが蔓延っているが。ゾンビとウーズが黒い巨漢のナニカと交戦しているのを見かけたが、それだけで、静かな物だ。

 

 屋内に隠れている人が多いのはアルトリアが何となく感知してくれたが、屋外は生きている気配はほとんど無いらしい。考える必要も無くこれが今回の異変だろう。ついに本格的なバイオハザードが起きてしまったらしい。

 

 本当なら、この時代から100年ぐらい後にバイオハザードが発生するため、これは人理崩壊の危機だ。早く合流し、出来れば現地人かサーヴァントとも合流して事態の収拾に努めなくては。もう既に何十、何百人もの犠牲者が出ているのは明白だ。

 

 

 

 

 そうして急いでいると、静かな街並みに轟音が響き渡った。嫌という程聞いて来たそれは、ディーラーも持つロケットランチャーの爆破音で。

藤丸達が交戦していると考えた私達が向かった先では、見覚えのある三角頭とタイラントに似たコートを着たクリーチャー、そして全身甲冑の騎士が交戦している光景があった。

 

 

「…モードレッド。何故ここに・・・」

 

「モードレッド!?………まあアーサー王やネロ帝がアレだし、もう驚きはしないけど」

 

 

 アルトリア曰くモードレッドと思われるサーヴァントは現在、魔力放出なのか赤雷を纏って突進、三角頭と交戦していた。

・・・いや、正確には交戦とは言えないだろう。コートのクリーチャーはモードレッドの攻撃でダウンしたが、三角頭は全く怯まず、むしろ追い詰めている。あの槍で仕留めるつもりか。

 

だけど、もう、誰も犠牲にしないと決めた。やる事は、決まっていた。

 

 

「ガンド!」

 

 

 特異点に行くたびに、何時もの礼装の下に着込んでいるカルデア戦闘服のマスタースキル。使わずとも私なら使えるが、咄嗟に使えるというのは実にいいアドバンテージだ。あと、私が単独で撃つよりも効果がデカいのも魅力だろう。上手く当てればウェスカーだって止めれるかもしれない。

 

 

魔弾を受けて尚、ギギギギッと三角頭を動かしたチェイサーのサーヴァントと、目があった気がした。

 

 

 

 

 

――――後から分かった事だが。どうやらその日、私は再び運命に出会ったらしい。切っても切れない縁は知らないうちに紡がれていた。




僕が▲様の好きな理由は、デザインもあるけどその在り方が尊いからです。まあ自己解釈なんですが。なお、心中の口調は彼の元であるジェイムスをイメージしてます。
▲様が召喚された理由は自分の成し遂げた存在意義が無かったことにされたのと、人理焼却の首謀者の断罪。成し遂げる事は出来るのか。

オルガマリー、生き返ってもほとんど詰んでいた件。現在第二部の序章でも話題に上がっている事ですがやっぱり被害が大きすぎた。藤丸立香が彼女であったから今も生きれている、とありますが立香も立香でオルガマリーが居たから生きられてます、まさに二人三脚です。

そして再び出会ってしまった二人の邂逅。自分の存在意義を取り戻したい▲様と、贖罪したいオルガマリー。ロンドンに着くや否や分断された立香たち共々、その運命や如何に。

次回はちょっと時系列を戻して立香sideの話。VS悪夢の競演お子様コンビ。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
 ではでは、よいお年を。………しかし狗年かあ(今年(2017年)の妹の高校合格祈願に行った初詣の帰りに神社からの帰り道、何もしてないのに下り坂で二匹の犬に追い回されてトラウマになった。おかげでバイオ4でも犬がリヘナラドールと並ぶトラウマエネミー)。………犬に縁のない年だといいなぁ(切実)


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アンタも家族だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、年が明けてから七日も経ちましたが今年初投稿になります放仮ごです。初課金となる福袋で嫁王を引きました。エクストラクラスを狙った初課金でこれはちょっと悲しかったりします。
長くなったので切るところが見付からなかったので無理矢理まとめました。ロンドン編の序盤は説明が長い。

本格始動ロンドン編。題名で分かる人は分かる彼女達といきなり対決。まずは相変わらずちょっぴりデンジャラスなカルデアからお送りいたします。楽しんでいただけると幸いです。


「次の特異点はロンドン。そして、藤丸が見たロンドンの夢を無関係と断ずることは出来ないので、それを想定して対策を練ります」

 

「とりあえず技術班から前回得た情報の解析報告だ。七十二柱の魔神・・・そう呼ばれる術式を操るソロモン王の時代の観測だね」

 

 

ロマンの報告によると、ソロモン王の時代に異変は存在せず、七十二柱の魔神を名乗るモノ達とソロモン王は無関係だという結論に至ったらしい。もっともソロモン王がサーヴァントとして誰かに使役されていた場合は別なのだが、ロマン曰くソロモン王がそんな悪事に加担するとは思えず、悪人には呼ぶ事もできないとの事。

 

 

「…つまりは、他の時代に異変が無い訳だから残り四つの特異点のいずれかの時代に黒幕が潜んでいる可能性が高い訳ね」

 

「そう言う事だ所長。では今回のオーダーの詳細を説明しよう。第四の特異点は19世紀、七つの特異点の中で最も現代に近い特異点と言えるだろう。けれど文明の発展と隆盛、この時代に人類史は大きな飛躍を遂げた訳だから道理ではある」

 

「つまり産業革命か。人類史のターニングポイントと言っても過言じゃないな」

 

 

19世紀と言えばバイオハザードの元凶である製薬会社アンブレラの原型、トラヴィス商会が誕生した年代だ。ある意味バイオハザード由来でもターニングポイントと言える時代にぽつりと漏らしたディーラーの言葉に頷いたロマンはそのまま続けた。

 

 

「ああ、ディーラーの言う通りだ。そして具体的な転移先は、どういう訳か先日立香ちゃんが夢に見たという、絢爛にして華やかなる大英帝国。騎士王たちには所縁深い場所、イギリスの首都ロンドンだ。今まで広範に渡っていてこんな狭い範囲に特定されている」

 

「藤丸の夢が本当ならば、ロンドンは焼却される前にバイオハザードで滅びる。異変はそれだけじゃないかもしれないけど、まずはそれを食い止める事を目的とするわ。…ダ・ヴィンチちゃん、例の物は?」

 

「もちろん完成しているとも。まあ未知のモノには効果は薄いかもしれないが勘弁してくれ」

 

 

そう言ってダ・ヴィンチちゃんがマスター二人に手渡したのはカルデアの紋章が描かれたチョーカーだった。立香は青、オルガマリーは赤だ。

 

 

「…この魔術礼装、ちゃんと機能するんでしょうね?」

 

「私を誰だと思っているんだいオルガ。ごく薄い魔力の結界を表面に張ってウイルスやら悪意ある魔力やらの影響を受け難くする。アトラス院礼装を参考にしたから効果は御墨付さ。直接打ち込まれでもしない限りはシャットできる」

 

「それは凄い」

 

 

素直に感心しながら身に着ける立香。自分はバイオハザードを解決して来た人間達と違い天性の抗体持ちではないから空気感染しないだけでもありがたいのだ。

 

 

「あ、あとそれぞれの礼装の強度も上げといたよ。オルガの着ているカルデア戦闘服の強度はサーヴァント以外の攻撃なら物ともしないだろう。少なくともゾンビの噛み付きやウーズの引っ掻き程度なら防げる。ハンターの首狩りとかいうのはさすがに無理だから注意してくれ」

 

「俺の売品であるアーマーを参考にしたらしいからまあ信頼は出来るぜストレンジャー」

 

「その上でディーラーのアーマーを着込めばサーヴァントの打撃程度なら死にはしないさ!多分!」

 

「そこは断言しなさいよ!?…ったく。それで藤丸?今回貴方が召喚したサーヴァントだけど…」

 

「あ、はい」

 

 

恒例の問題に背筋が固まる立香を睨みつけるオルガマリー。オケアノスで多少精神にも余裕ができたと判断され今回召喚を任された立香であったが、毎度の如くあるだけ注ぎ込んで案の定オルガマリーの分が無くなり、お冠の上司に目を泳がせた。

 

召喚は出来た、出来たのだが…問題があった。そのためまだマシュとディーラーにしか知らせていなかった。

 

 

「…貴方がどんな英霊を呼んだのか吐いてもらうわよ」

 

「…来て、アヴェンジャー」

 

「あいよー!最弱英霊アヴェンジャー、お呼びと聞いて即参上!」

 

「「「………」」」

 

 

しぶしぶ立香が呼び出したそれに、オルガマリーとロマンとダ・ヴィンチちゃんは固まった。

 

復讐者(アヴェンジャー)商人(ディーラー)追跡者(チェイサー)裁定者(ルーラー)と同じ本来召喚されないエクストラクラス。それはいい、いいのだが…霊体化を解いて現れたのは、黒い人型の影だった。目だけがはっきり見えてきょろきょろ辺りの反応を見て楽しんでいるのがどこか不気味だ。

 

 

「…召喚に応じてくれた、アンリ・マユ、です」

 

「……は?」

 

「………アヴェンジャーってだけでも問題なのに君って奴は・・・」

 

「一つ疑問だけどゾロアスター教の邪神が何で最弱なんだい?」

 

「名前はゾロアスター教の神様だけど殆んど生贄だから人間相手にしか戦えない最弱だそうです」

 

「ただの戦力外の雑魚じゃない」

 

「ぐはっ!心にもない言葉、響くねえ~なあ、アンタも弱い弱い言われてたんだよなディーラー?!」

 

「アンタの商品価値言ってやろうか?マイナス振り切ってるぜストレンジャー」

 

「おうっ、コイツは手厳しい」

 

 

ディーラーにも辛辣な言葉を受けたアンリマユはケラケラ笑うが、それとは対照的に顔を暗くする立香と、怒りとか失望とかが入り混じって真顔になったオルガマリーと、その間で右往左往するマシュ。冬木から変わらず唯一の癒しであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特異点ロンドンは近代のイギリスだという事で編成は私がアルトリアと清姫、藤丸はディーラー、セイバーオルタ、アシュリー、マイクで行くわ」

 

「おっ、今回も俺の出番はなしか」

 

「残念だったなキャスニキさんよ。…あれ、新参者の俺は?初登場補正とかあるかもだぜ?」

 

「やかましい。今回は単純にイギリス所縁の英霊と近代の英霊で構成したのよ。ウーズ相手なら清姫で十分だし…いやほんと、イギリスでも近代でもないのに何でいるのかだけど。できれば炎が使えるネロが好ましいんだけど」

 

「ネロさんが倒れていたのですからしょうがありませんわ旦那様」

 

「……………大火傷でな(ボソッ)」

 

 

ディーラーの言葉で思い出した、今朝オルガマリーの自室の前で発生した不可思議な事件の犠牲となったネロへ同情を送る立香達。笑顔で清姫に言われたオルガマリーは、一応知っているらしいが目を逸らしているアルトリアに何も聞かないで目を瞑る事に決めた。

 

 

「……ま、それもそうね。ディーラーの救急スプレーで治しても意識が戻らないって相当だし。清姫も頼りになるし問題ないわ」

 

「ええ。旦那様に近付く不埒な輩は一人残らず焼き払って見せましょうとも」

 

「…では私はマスターの背中を守ります」

 

「ま、任せたわ」

 

 

震え声でアルトリアに頼んでいるオルガマリーに「なんかさらに感情豊かになったなぁ」と感傷に浸っていたロマンは、全員がコフィンに乗った事を確認するとレイシフトを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、藤丸立香は地獄の中で意識が覚醒した。

 

 

「レイシフト、成功しました。…これは。視界が……阻害される程の濃度の煙です。いえ、霧でしょうか?」

 

「ここが、ロンドン」

 

 

目の前に広がるのはところどころ血に塗れた街並みと、放置され炎上する車体の群れ。カビに覆われた裏路地と、その中で跋扈する異形の群れ。そして周囲は視界を塞ぐ濃厚な霧に包まれた、華やかなる大帝国とは無縁とも言える、人がまるでいない、廃墟の様な静かな光景だった。街路沿いに確認できる限りは戸や窓が閉められているので誰もいないという訳ではないと思い至ったが…

 

 

「…ッ」

 

 

周囲から唸り声が聞こえ、トラウマから気を反らすべく思わず上を見る立香。霧に隠れて全体は見えないが、これまでの特異点でもあった『光の環』を見付け、此処は特異点なんだと気を取り直して辺りを確認する。マシュ、ディーラー、セイバーオルタ、アシュリー、マイク。自らのサーヴァント全員がちゃんといた。

 

 

「・・・この独特の腐敗臭、そして異常なまでの湿気。ゾンビとウーズの野郎がうようよ湧いてるな。霧に隠れて見えないが直ぐそこに居るかもしれない、警戒しろストレンジャー。迂闊に突っ込むなよ?」

 

「う、うん。さすがにしないよ。…この街の人達は無事なのかな…」

 

「無事を祈りましょう先輩。大丈夫です、人間はそう簡単には死なない。それを証明してみせたのは先輩じゃないですか!」

 

「…まあ、あの大英雄の攻撃の余波を受けて寝込んだだけで済んだぐらいだしね…私だと一発で死にそう」

 

「俺達凡人とは比べ物にならないぞマスター」

 

「そんなことないよ…運がいいだけの向う見ずだし」

 

「…ん?警戒するのはいいが、オルガマリーは何処だ?」

 

「え?」

 

 

散々な言われようのサーヴァント達にげんなりしていた立香だったが、セイバーオルタに言われて辺りを見渡す。オルガマリーとそのサーヴァント二人の姿は何処にもなかった。

 

 

『大変だ立香ちゃん!レイシフトの際、何者かの干渉を受けて所長と別々の場所にレイシフトされてしまったらしい、至急合流してくれ!』

 

「わ、分かりました!マイク、お願い!」

 

「了解だマスター」

 

 

ロマンからの通信が入るや否やマイクに頼んで飛んでもらう立香。音を殆んど消して移動できるマイクはこの状況に好ましい。ディーラーも一緒に周囲を散策してもらっている間、ダ・ヴィンチちゃんからも通信が入った。

 

 

『とりあえずオルガの方は無事だよ。それと、その霧から異常な魔力反応を確認したよ。産業革命の頃は珍しくも無い霧と煙だけど、これは濃すぎる。大気に魔力が充満している様だ。生体に対して有害なレベルだ。深く吸い込めば命にも関わる。ロンドンはもはや魔力の霧に包まれた危険な死の都市と化している。そのチョーカーの防護機能でも通じるかどうか・・・』

 

「私も先輩も割と大丈夫です。私と融合している英霊の加護か影響はありません。それよりも腐敗臭が酷くて・・・霧の影響で亡くなった人たちの物でしょうか…」

 

『その割に死体が一つもない所を見ると、やはりほとんどがゾンビ化しているらしいね』

 

『だけど周辺の建物に相当数の生体反応を確認している。恐らく無事なロンドン市民の物だろう。君達が聖杯を入手、もしくは破壊すれば異常なロンドンの存在自体が修正される。そうなれば命を落とした人間達も元に戻る、はずだ』

 

『確定事象じゃないけど希望は持った方がいいね。こちらでワクチンを何とか作成して物資として送ってはみるが…これは最悪の事態と言っていい。まずは安全なベースキャンプを見付けよう。そっちはどうだいディーラー?』

 

「駄目だな。オルガマリーの姿どころか安全な場所も見当たらない。辺りかしこにゾンビの山、あとそれを駆逐しているよく分からん機械人形や出来損ないの人型みたいなのがうじゃうじゃいる。アレは一度に相手するのはヤバい。さすがのシカゴタイプライターも物量には勝てん。現地のサーヴァントを見付けて合流するのが早いだろう」

 

『なるほど。恐らくオートマタとホムンクルスだろう、いや恐らくそれだけじゃない。こちらでは魔力系の反応感知は完全に混乱状態だ。せいぜいが動体感知のみ、これは困った』

 

「無理矢理なら突破もできるが騒げば確実に集まるぜ。そうなればストレンジャーを守れるか不安だ。何せこの霧だからな、奇襲なんか受けたらひとたまりもない。マシュとお嬢様はしっかり守って置けよ?」

 

『すまないマスター。霧でまるで何も見えない。もう少し散策して何も見当たらなかったら帰還する』

 

「分かった、気を付けてねマイク」

 

 

ディーラーの報告と、マイクの念話を聞いて顔を険しくさせる立香。正直、何もできないのが現状だ。管制室との通信で何とかオルガマリーと合流するしかないか、と結論したところで立香はマシュの背後に立つそれを見た。

 

 

「マシュ、危ない!」

 

「ッ!?」

 

 

立香の言葉を受け、背後から振るわれたナイフをギリギリで防ぐことに成功したマシュはアシュリーと共に立香を守る様に構え、そして驚愕した。

 

 

「奇襲!?何も、感じなかった・・・!」

 

「この距離で、私が気付かなかっただと…!?」

 

「冬木のとは違う、ローマでのウェスカーと同じアサシンの気配遮断だ!…いや待て、こいつらに囲まれても気付かなかったってのかストレンジャー…?」

 

「…これ、ゾンビ?間違いなくガナードじゃないけど…ウーズでもないわよね?」

 

 

己の直感が通じなかった事に驚くセイバーオルタ、何時の間にか囲まれていた黒い異形の群れを相手にマグナム二丁を手に構えるディーラー、とりあえず構えながらも敵の正体を訝しむアシュリー。立香達を取り囲んだのは、鋭い牙と爪を持つ漆黒の人型の異形と、マシュに奇襲したであろう銀髪の少女であった。

 

 

「…あなたは、ねえ、なんだろう?人間?それとも魔術師?魔力の霧だけじゃない、わたしたちの霧の中でぜんぜん平気でうごいて」

 

「これは・・・ガハッ」

 

「ディーラー!?」

 

 

突如として胸を押さえ、倒れるディーラーに駆け寄る立香。マシュは気付いた、自分達を囲むこの霧は魔力だけではなく、硫酸も混じっているという事に。まだ死んではいないが、それも時間の問題だろう。

 

 

「…まさか、まさかと思いますがジャック・ザ・リッパー・・・?十九世紀末のロンドン市街で数多くの女性を解体した連続殺人鬼・・・」

 

「……つまり、この時代に置いては最も力を持つ英霊という事か。商人がやられたのは?」

 

「恐らく硫酸の霧、ロンドンを襲った膨大な煤煙によって引き起こされた硫酸の霧による大災害、恐らく宝具です。私達は対魔力で影響は少ないですがそれが無いディーラーさんでは耐えられません」

 

 

マシュの言葉に顔を綻ばせるジャックに、立香は言いようのない感情を抱く。

 

 

「わたしたちのこと、知ってるの?ふうん、うれしいな…じゃあわたしたちが何をするのかも知ってるよね?うれしいな。うれしい…な!」

 

「させるか…!」

 

 

マシュの腹を掻っ捌こうとナイフを構えて突進するジャックに、何とか立ち上がってマグナムを構えたディーラーが乱射。しかしナイフでマグナムの弾を防いだジャックはモールデッドの群れの中に飛び退き、モールデッドたち共々倒そうと飛び出したセイバーオルタとマシュに続く様にマグナムを構えたディーラー。

 

 

「ディーラー!?」

 

「なんだ、ストレンジャー・・・!?」

 

 

しかし唐突に、黒い腕に肩を掴まれて振り向くと、そこには真顔で黒い異形の拳を握りしめたジャックと同じくらいの少女がいた。

 

 

「…お前も家族だ(ファミリーパンチ)

 

「なあっ…!?」

 

 

綺麗にクリーンヒットをもらい、意識が飛ばされたディーラーが最後に見たのは、小柄な身体から伸びた黒い腕を自由に伸縮させこちらを見下ろす少女の姿だった。

 

 

「あれ、死んじゃった。…まあいいや。こいつ、私達に銃を向けた。ママになってくれないなら殺そう、ジャック」

 

「うん、殺しちゃおう」

 

「っ…」

 

 

ナイフを構え、モールデッドの影から襲い掛かってくるジャックと、黒く染まった腕を変形させて迫らせる黒い少女。

 悪夢で見た少女達を前に、たじろぐ立香を守る様に円陣を組むサーヴァント達。そして、考え得る限り最も最悪な組み合わせが容赦なく襲い掛かった。




ちゃっかり登場した癖に参戦しなかったアンリマユの出た理由はそのうち分かります。

怪奇オルガマリー所長の自室前焼身英霊事件の被害者となったネロの代わりに清姫が参戦。一体誰が犯人なんだ……

そしてやっとロンドン本格突入して前回と並行する藤丸side。立香の前情報のおかげでショックが少なかったりします。
所長と離ればなれとハプニングがおきながら遭遇してしまった悪夢の幼女コンビ。モールデッドという無駄に耐久力のある雑魚を引き連れた彼女達はいきなり強敵です。

「お前も家族だ」とよく分からない事をほざいた幼女に殴り殺されたディーラーはもはや様式美。彼女の正体(棒読み)とその能力や如何に。ちなみにこの通称ファミパン、一応宝具ではありますが彼女の宝具ではないです。

次回はオルガマリー、そしてロンディニウムの騎士との合流まで描きます。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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接近戦はナイフが強いなストレンジャー

低スペノーパソはすぐ電源切れるから嫌いだ!10連は掠りもしないからもっと嫌いだ!…いきなり失礼しました。
ウェルカム!ストレンジャー…どうも、色々あって書き直す事になって思いのほか更新に時間がかかってしまった放仮ごです。…半分嘘です、時間がかかったのは暇潰し用に購入したwiiのゲーム、ゼノブレイドにドハマリしていたためです。これからはもっと自重します、はい。

それはさておき、いつの間にかUA100000突破、ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

今回は激闘、VSお子様コンビ。黒い少女の名前が明らかに(ほとんどの人が知っているだろうけど)。そして後輩のピンチに出る立香の本気。楽しんでいただけると幸いです。


――――ママ

 

――――おかあさん

 

――――父上

 

 

母親とは。父親とは。子供にとって親という存在は必要不可欠であり、認められたい、愛されたいと願い慕う存在である。愛し求める故に、いなければ癇癪を起こすし、自分を捨てたともなれば狂気的に捜す。認められたいがために国を滅ぼすことだって、愛されないと逆上し殺そうとすることだってある。

 

即ち、愛と殺意は同居するものだ。

 

それは英雄だって反英雄だって、生まれながらの怪物だって変わらない世界の真理であり、それを望むのは子供故の純粋な願いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ・・・!一人でアルマデューラから逃げ延びた私を舐めないでよね!」

 

 

立香に向けて放たれた伸縮する黒い腕を受け止め、弾き返して反撃とばかりに拳を振るうアシュリー。

しかし大振りで隙だらけな一撃は黒い少女が足下に文字通り消失した事で避けられ、モールデッドが殺到しそれを何とか押し飛ばすと、背後に現れた少女の振るった刃と化した右腕を難なく防ぎ、反撃とばかりに拳を振るった。

 

 

「つ、通じない…!?」

 

 

その傍らで、アシュリーを信頼してモールデッドを撃破すべくハンドガン・マチルダを撃ちまくる立香であったが、全身に当たっても怯まず手を伸ばし、噛み付こうとして来るモールデッドに戦慄しつつ後退、と同時に地面にディーラーが先程やられる際に落とした中折れ式マグナムを見付け、必死にそれを手に取るとすかさず発砲。

 

 

「ディーラーの置き土産だ、喰らえ・・・!」

 

 

飛び掛かってきた四足歩行のモールデッドの頭部を間一髪で破壊し、一先ず難を逃れた立香はそのままマグナムを手に的確に頭部を狙い、セイバーオルタと共にモールデッドの群れを次々に倒していくが減る気配が一方にあらず、すぐに弾切れになってしまい慌ててハンドガンマチルダを構えた。

 

 

「マスター、この異形共、他のゾンビと違って手足の結合が異常に脆い!そこを突くぞ!」

 

「わ、分かった!」

 

 

エクスカリバーだけでなく、レッド9を握った拳も振るって的確に手足をそぎ落とし、防御もできず無防備となり噛み付いて来たモールデッドの口に銃身を突っ込んで一体一体を的確に倒していくセイバーオルタに続き、手足を狙って崩れ落ちたモールデッドの頭部を踏み砕いて応戦する立香。しかしそんな必死な彼女の背後から何者かが襲い掛かり・・・

 

 

「虐殺、始めるよ」

 

「!?」

 

「させない!」

 

「…むぅ」

 

 

強烈な一撃で吹っ飛ばされていた物のギリギリで戻ってきたマシュがその間に割り込み、間一髪で防御。防がれたジャックはつまんなさそうに頬を膨らませたあと飛び退き、小型のナイフを仕舞って代わりに大型のナイフを抜き、途轍もない速度で突進を仕掛けてきた。

 

 

「しゃあっ!」

 

「なんの・・・!」

 

お前も家族だ(ファミリーパンチ)

 

「ッ、ぐっ!?」

 

 

盾を地面に突き立てて何とか受け止め弾き返した物の、アシュリーと殴り合っていたはずの黒い少女に唐突に肩を掴まれ、マシュは振り返った瞬間を殴られ無防備に倒れてしまう。

見れば、アシュリーを異形の右手で押さえながら、左手をこちらに伸ばした黒い少女が笑みを浮かべていた。

 

 

「…死んではいないけどまた駄目、なの・・・?家族にならないなら、死んじゃえ・・・!」

 

「くう…っ?!」

 

「マシュ!?」

 

 

首を傾げて唐突に憎悪の表情を浮かべた少女に両腕で首を絞められ、苦しむマシュに立香が悲鳴を上げる。

少女の手から解放されたと思われたアシュリーは、突如傍らに出現した黒い巨漢に地面にのされて拘束され、口から放射された泥の様な物を受けてダウンしていた。セイバーオルタもジャックの奇襲戦法に直感で対応していていっぱいいっぱいであり、こちらには来れそうにない。

 

 

「マシュを、・・・放せ!」

 

 

意を決した立香は、弾切れしたマチルダを投げ捨ててあらかじめディーラーから購入していたナイフを左胸に付けたホルダーから抜き、自らに魔術を行使し飛び出した。

 

 

「マスタースキル、魔力放出!」

 

 

アニバーサリー・ブロンド。それが今回、立香の着て来た魔術礼装。何でも、偶然であろうがアルトリアが以前の召喚で着ていた私服と瓜二つのそれの持つマスタースキルの一つである、対象に一定時間、魔力放出を付与するスキルを自らに発動。

ナイフを持った右手から魔力放出し、人間では決して得る事の出来ないスピードとパワーを得て斬撃。黒い少女の伸縮する両腕を叩き斬る事に成功した。

 

 

「ッッ…痛い、痛い!」

 

「ッ…ハアァアアアアッ!」

 

「ヒッ・・・こっちに来ないで!」

 

 

右腕に黒いカビの様な物を纏い、巨大な鞭の様にして癇癪の如く振るってくる少女の攻撃を、持続している魔力放出で無理矢理軌道を変えて掻い潜り、魔力放出による急加速で一気に少女の懐に潜り込みナイフを振るう立香。

 

 

「かはっ・・・駄目です、先輩!」

 

 

その表情は冷酷で、解放され息を整えていたマシュは見た事も無い先輩の表情に危機感を感じ、静止の声をかけるも立香は止まらず、瞬く間に伸ばした右腕を分断され、抵抗とばかりに少女が再び黒いカビの様な物を纏って伸ばしてきた両腕を生み出した傍からナイフで潰し、立香はそのまま掲げたナイフを振り下ろそうとする。

 

 

「どうして…?ミアも、イーサンも!どうしてみんな、みんな・・・!」

 

「がはっ!?」

 

 

すると蹲った少女から放たれた衝撃波を真面に受けて、立香は宙を舞って住宅の壁に叩き付けられて地面に転がり、マシュが駆け寄っだ。

 

 

「えいっ!」

 

「ハアアッ!」

 

 

一方、セイバーオルタの剣を防いで一度後退したジャックは、ふと過呼吸で蹲っている相方の少女を見て一旦思考し、次の瞬間モールデッドの壁がその頭を撃ち抜かれて一瞬で瓦解しディーラーが姿を晒したことにより、自分達の不利を悟ったのか宝具によりさらに濃い霧を放出して目暗まし、セイバーオルタを一瞬だけ足止めしながら少女に問いかけた。

 

 

「ひどいなぁ、もう……エヴリン、大丈夫?一旦退こう?」

 

「うん、でも駄目だ駄目だ駄目だ……私を嫌いになる奴はみんな殺さなきゃ………」

 

 

黒い少女、エヴリンがふら付きながらも立ち上がり、キッと立香を睨みつける。

こちらも意識は朦朧としながらも立ち上がっていて、エヴリンはその姿に自分を殺した男を映し、足元から黒いカビの様な物を湧かせて嗤うとブツブツと呟き始めた。

 

 

「――――私は暗い穴の中で育てられた。仮釈放もない囚人のように。やつらは私を閉じ込めて魂を奪った。やつらが作り上げたものを恥じるがいい。

 私は彼を呼んだ、そして彼はくるだろう。彼は手を伸ばすだろう。愛する彼女を取り戻すために。そして彼女は私を愛してくれない彼を殺すのだ」

 

「な、何を・・・?」

 

「先輩、下がって!ヘラクレスと同質量の拳です…!?」

 

 

ナイフを手にしているにも関わらずに怯える姿に、複雑な感情を抱いたエヴリンはそのまま足元のカビを膨張、集束させて先程よりも太く強靭と化した両腕を振るい、立香とマシュを薙ぎ払う。

マシュは盾ごと吹き飛ばされてモールデッドの群れに突っ込み、咄嗟に応戦するも浅くしか刺さらなかったナイフを弾き飛ばされた立香は力なく転がった。

 

 

「私を愛してくれない人なんか、死んじゃえ!死んじゃえ!死んじゃえッ・・・!?」

 

「そこまでだストレンジャー」

 

 

さらに湧き出して来たカビが、エヴリンを覆い尽くそうという瞬間、目の前に放り投げられたパルスグレネードを真面に受けて平衡感覚を失いふら付くエヴリン。

続けてシカゴタイプライターの銃撃が次々とその全身を撃ち抜いて行き、巨大な両腕と背後に出現したモールデッドの群れを破壊することに成功するも、エヴリンの受けた傷は直ぐに回復して行く。

それを確認し、エヴリンが混乱している隙に近付き手を差し伸べる男が一人。モールデッドの壁を突破したディーラーだった。

 

 

「おい、生きてるかストレンジャー」

 

「な、なんとか。全身痛いけど生きてるよ…遅かったね、ディーラー・・・」

 

「すまん。コンティニューした瞬間を襲ってきやがったデブに手古摺ってた」

 

 

差し伸べられた手に掴まり立ち上がった立香がよく見てみれば、ディーラーは泥(?)に塗れて傷だらけであり、アーマーを着込んで何度もハーブやらで回復して戦っていたのが目に見えた。

 

 

「銃弾が切れた時のためにナイフを売ったのはいいが、特攻用の武器じゃないんだぜストレンジャー」

 

「ごめん。でもマシュを助けるにはあれしか・・・そうだ、マシュは?」

 

「ここに来る途中で焼夷手榴弾を投げといてやったからあのカビ人間・・・さしずめモールデッドも弱っているだろうからあの嬢ちゃんなら無事だろう。それよりも、だ」

 

 

立香に通常のハンドガンを渡しながらハンドキャノンを構えるディーラーの前には、何時の間にかやって来てエヴリンを気遣い肩を貸したジャックが、ジッとこちらを睨んで構えていた。ディーラーはモールデッドを斬り伏せながら後ろからやって来たセイバーオルタに嘆息する。

 

 

「おいオルタ、ダウンしたお嬢様やマシュはともかくアンタはほぼ無傷なんだから仕事しろ」

 

「これでも貴様よりは仕事をしていたぞ。だが奴の、変なスキルで視界もろとも認識できなくなった。何時の間にやら速く動くあの黒い怪物と入れ替わられた訳だ」

 

「情報末梢能力でもあるのか。そりゃ厄介だ。…どうする?アンタ等が手を出さないならこっちも怪我人がいるから深追いしないが?」

 

「ディーラー!?」

 

 

いきなりジャックに提案したディーラーに驚愕の表情を浮かべる立香。しかしディーラーは至って真面目だ。ジャックも静かに考えている。

 

 

「よく考えろストレンジャー。俺達の攻撃じゃ一時的に傷つけられてもあのエヴリンとかいうサーヴァントは直ぐに回復してしまう。ストレンジャーでも圧倒できる体格差とはいえ、あの無限に黒いのを生み出す力といい、このままじゃジリ貧だ。

ヘラクレスと違い倒す方法が分からない相手だ、撤退するなら逃がした方がいい。あのアサシンが本気を出したら守り切れるか自信は無い」

 

「…口惜しいが確かにそうだ。マスターを守る盾が二人とも不在な今、守りながら勝つのは厳しい」

 

「……そう、なんだ」

 

 

マシュに次ぐ付き合いである二人に諭されて、すっかり落ち着いて戦意を失った立香がぼんやりと眺めるのは、両耳を押さえながら「痛い痛い!」と泣き喚くエヴリンの姿。

落ち着いて、ようやく自分が何をしたのか思い出し、理解した。痛いと泣き叫びながら抵抗する少女を、マシュを傷つけられた怒りからとはいえ一方的に切り刻んだのだ。恨まれて当然だと、とてつもない罪悪感が彼女を襲い、しかめ面になり下唇を噛んで血がにじんだ。

 

 

「………分かった、わたしたちはもう戦わない。でもおかあさん?つぎに会ったらその人たちと一緒に解体するから、待っててね?」

 

「ダメだダメだダメだダメだ…………ジャックッッ!あいつ等は殺さないと!ジャックのお母さんでも無い、あんな奴!死んじゃえばいい!

どうせ私達を嫌うんだ、傷つけるんだ!愛してなんかくれないんだ!だったら死ね!死んじゃえ!」

 

「落ち着こうエヴリン。わたしたちもお腹が空いちゃった。ねえ、いったん休もう?」

 

「…………私はもう、待ちたくない。でも、分かった」

 

 

ディーラーの提案に頷いたジャックの説得に応じ、頷いてジャックが差し出した手を掴み、足元に黒いカビの様な物を出現させて潜って行くエヴリン。警戒しながらそれを見送るディーラーとセイバーオルタの間から、何を思ったのか立香が手を伸ばして飛び出した。

 

 

「ねえ、待って・・・エヴリン!」

 

「……こっちに来ないで!お前はママじゃない!」

 

「!?」

 

 

しかし頭まで沈む瞬間だったエヴリンに拒絶され、軽い衝撃波を真面に受けて転がった立香は、そのまま後悔に沈んで項垂れた。

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだストレンジャー。ウイルスでももらったか?」

 

「・・・多分、大丈夫だよ。でも、私を殺そうとしていたけど、ただ母親が欲しかったんだと思ったら…」

 

 

自らの問に弱々しく答えたマスターに、ディーラーはオケアノスの時の動揺がまだ残っているのかと思い至った。ああ、そう言えばただ名前を呼んでほしかったサーヴァントがいたな、と。どうやらその姿が彼女達に重なってしまってどうすればいいのか迷っていると結論したディーラーは溜め息を吐き、言葉を続けた。

 

 

「…血塗れではあったがアレはゾンビのものだと仮定すれば、奴等はまだ誰も「人間」を殺してないことになる。ちょうど現地のサーヴァントだ、仲間にできるかもしれん。今度は話し合いするのもありだろうな」

 

「…できるかな?」

 

「保証はしない。だが、それはオルガマリーじゃできないだろう。アンタにしかできない事だストレンジャー。…オルタ、マシュとお嬢様は無事か?」

 

「マシュは無事だ、今は休ませている。アシュリーは気を失っているぞ、どうする?」

 

「そうか。気付け代わりに青ハーブでも喰わせるか…うん?」

 

 

立香から受け取ったハンドガンを懐に戻し、拾ったマチルダに弾込めして手渡しながらセイバーオルタから二人の安否を聞き、外敵の警戒はセイバーオルタに任せてリュックを下ろして漁り始めたディーラーであったが、聞こえてきた声に眉を潜ませ奥の曲がり角を見ると、二つの人影が共に何かを引き摺りながら現れた。

 

 

「あーもう!いい加減放しなさいモードレッド!?」

 

「嫌だ!絶対離さないからな父上ぇええっ!」

 

「どうしたんですか本当に!?助けてくださいオルガマリー!」

 

「むしろ私を助けて欲しいわよ。清姫、私は大丈夫だから離れて、歩きにくい」

 

「本当ですか?本当ですね?ああますたぁ、私は心配です…」

 

「だから大丈夫だってば。シカゴタイプライターらしき銃声が聞こえたから来たけど、藤丸達は何処に・・・」

 

 

それは、フルアーマーの鎧を纏った騎士(?)にしがみ付かれて引き摺っているアルトリアと、泣きじゃくっている清姫が背中にしがみ付いているオルガマリーであった。

 

 

「所長!」

 

「・・・おい青。何故モードレッドなんかをくっ付けてる?」

 

「こっちだって嫌なんですよ!?」

 

「よお、無事だったか」

 

「ああ、ディーラー!藤丸!やっと合流できた・・・そうだ、青ハーブ頂戴!二人の様子が可笑しいの!」

 

「あ?…了解だ、注文には応えるぜストレンジャー」

 

 

言われるままに青ハーブの入ったケースをリュックから取り出し首をかしげるディーラーと、それ以上に何でオルガマリーに清姫がしがみ付いているのか気になって頭を悩ませる立香であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、立香達を見逃し、再び無人の街をさ迷い歩くジャックとエヴリン。もう何匹か数えたくもないホムンクルスとヘルタースケルターを一蹴し、肩を落としていた。

 

 

「やっぱり、おかあさん、いないね」

 

「うん」

 

「おうちの中かなあ?」

 

「ダメ。みんな、家族がいるから愛してくれない」

 

「おなか、空いたね」

 

「…魂喰いしようにも外に人間はいないしね」

 

 

平然とゾンビやウーズ、ホムンクルスにオートマタなどを蹴散らしながらロンドンの街並みを歩く二人。サーヴァントでもない限り、二人の行き先は阻めなかった。ジャックは考え込み、何か思いついたのかポンと手を打った。

 

 

「むぅ、ハンバーグが食べたい。やっぱり、あのひとがおかあさんだったのかな?」

 

「でも、やだ。アイツはママじゃない」

 

「好き嫌いはだめだよ」

 

「痛くするもん。痛いのは愛じゃない。アイツ、私が命令した時のミアみたいな顔してた」

 

「ミアって前のおかあさん?」

 

 

尋ねてくるジャックに微妙な顔を浮かべるエヴリン。ミアは確かにママなのだが、ママではない上に命令で夫を襲わせた時の事を言っているので、言葉に困った。

 

 

「うん、ママになってくれなかったママ。私を騙そうとしていたママ。本当に愛してくれるならそれでよかったのに。ルーカスみたいに、上辺だけでもそうしてくれたらよかったのに」

 

「??……まあいいや。それよりどうする?また、おかあさんたちを捜す?」

 

「…………そうする?もしまた嫌われていても、直接転化しちゃえばいいし。ジャックのおかあさんだったらお腹の中に還ればいいんでしょ。私はもう二度と嫌だけど」

 

「うん!思う存分解体させてね!」

 

 

おかあさんが恋しいなら誰でもいいからママにすればいいのに、と胸中に疑問を浮かべるエヴリン。求める物は同じでも目的に決定的に違う事には気付いていなかった。

 

そして彼女達は、密かに聞こえてくる呻き声ではない、轟音を頼りに歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして歩く二人の、はるか後方、時計塔の頂上で。深手を負った怪物は咆哮する。

 

 

「スタァアアアアアアズッッッ!」

 

 

見据えるのは、霧に紛れて飛行するヘリコプターのパイロットであった。




せっかく合流したのにカオスなことになっているオルガマリー達の全貌は次回にて。ラストの追跡者さんの目的については「彼」の設定を読もう。

黒い少女のサーヴァントことバイオ7のラスボス「エヴリン」、ベイカー家やモールデッド等の特異菌感染者の能力を引き下げて推参。腕を伸ばしたりしたのはスワンプマンこと●●●の能力です。つまりゲロインでもある(あまり使わせたくない)。メイン武器は衝撃波とブレード・モールデッドの刃です。途中喋ってたのはエンディング曲の自己解釈台詞です。エヴリン、実はルーカスの真相に気付いていたんじゃないかと思ってます。

マシュが危機に陥った際に発動したマジモードのリツカサン(アニバーサリー・ブロンド着用)、エヴリンの新たなトラウマ化。マグナムが通じないと知るや否やナイフを手にサーヴァントを圧倒しましたが、これちゃんと理由があります。少女とはいえサーヴァントを圧倒する力なんて早々ありませんが。
精神面にも変化があって、エヴリン達に何か思うところがある模様。ディーラーはそれを見守ります。彼はあくまで注文に応えるのが仕事です。

クールなジャックと、すぐにヒステリックになる支離滅裂なエヴリンと言うバランスのとれたコンビ。母親を求めるのは一緒だけどその真意は全く正反対だという。轟音を頼りに母親を捜すこのコンビの行く末は如何に。

次回はオルガマリー視点と「彼」との合流、説明回。できれば一気に展開を飛ばしたい。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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お安くしとくぜストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、愛用しているノーパソが使いにくくなって執筆に難儀している放仮ごです。遅くなって申し訳ありません。

今回はオルガマリーVS追跡者たち。立香がエヴリン達と戦っていた際の彼女視点です。また、キーパーソンである新キャラが続々登場。ついにバイオ主人公の一人が参戦です。

楽しんでいただけると幸いです。


絶体絶命のところにオルガマリーの放ったガンドにより動きを停止した三角頭のチェイサーを押し退け、攻撃は無駄だと悟っているのか全身甲冑に身を包んだ騎士はそのまま横を走り抜けた。

 

 

「くっ…オラア!」

 

その奥で全身から電気を放出し痺れているタイラントに似た巨人のB.O.W.に向けて両手に握った剣を振り被ったモードレッドと思われるサーヴァントはそのまま一閃。しかしそのコートを斬り裂く事は叶わず、金属同士がぶつかった音と共に吹き飛ばされる巨体。

 

 

「スタァズ・・・」

 

「ちっ…まだ動けるのかよ。クソッたれが!」

 

 

立ち上がり、触手を伸ばしたネメシスの薙ぎ払いを魔力放出(雷)で垂直に飛び上がって回避し、雷撃で辺りの建物を半壊させ瓦礫の雨と共に剣を振り下ろし急襲するモードレッド。しかしネメシスは冷静に直撃するであろう瓦礫のみを拳で破壊し、触手の槍を伸ばして迎撃。

 

 

「っ!?この・・・があっ!?」

 

 

フルフェイスの兜が弾き飛ばされ、一瞬視界がブラックアウトしたモードレッドは強烈な衝撃を腹部に受けて建物の外壁に叩き付けられ半壊させ崩れ落ちた。宝具でもある不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)が飛ばされた事で露わになったアルトリアと瓜二つな顔を苦悶に歪ませ、呻くモードレッド。

市街地の奥から見覚えのある青い騎士と少女達が駆け寄って来るのが見えたが、意識が朦朧としている彼女は手を伸ばし、「逃げろ…」と小さな声を漏らす。しかし、彼女にとって好機が訪れた。

 

 

「スタァズ・・・!?」

 

「・・・!」

 

 

襲い掛かろうとするネメシスに、ガンドのスタンから回復した三角頭のチェイサーが急襲。槍がその背中に突き刺さり、苦悶の声を上げたネメシスの首根っこを掴み、顔から地面に叩き付けた三角頭のチェイサーはそのまま、こちらに駆け寄ってくる少女達に向けて新たに槍を取り出して振り返り、その槍を慌ててこちらに指先を向けていた少女、オルガマリーに突き出した。

 

 

「危ない、旦那様(マスター)!」

 

「清姫!?」

 

 

しかし間一髪で前に飛び出した清姫が右肩で槍を受け止め、崩れ落ちる前に炎を放って牽制した。そのまま力なく倒れた清姫に駆け寄るオルガマリー。炎を突き破り、槍を手に振り被った三角頭のチェイサーに、不可視の刃がその三角頭に叩き込まれ大きく吹き飛ばし、それを行なった張本人であるアルトリアはモードレッドに躊躇しながら手を貸しながら不可視の剣を掲げ、警戒を続ける。

その視線の先には、難なく立ち上がる三角頭のチェイサーと、槍を引き抜いた傷を急速に再生させながら自分達と三角頭のチェイサーを見比べて迷っている様子のネメシスがいた。

 

 

「マスター!モードレッドを連れてここは退きましょう!この二体のサーヴァント、どちらも共にタフです…私一人では」

 

「ええ、此処は退きましょう。…アルトリアは風王結界(ストライク・エア)で目暗ましをしてからモードレッドをお願い!私は清姫を・・・」

 

「マスター、後ろです!」

 

「っ、また・・・清姫!?」

 

 

アルトリアの声に、慌てて飛び退こうとするも足が滑り、清姫に庇われて街道を転がるオルガマリー。清姫を気遣いながら振り返るとそこには素早く動く黒い人型の異形・・・クイック・モールデッドが四つん這いで外壁に引っ付いてこちらを値踏みしていた。その様は獲物を見定める猛獣のそれだ。

十分に危険度を痛感している三角頭のチェイサーと、正体不明の二体のB.O.W. しかも片方はアルトリア曰くサーヴァントとのこと。かつてないピンチに、腕の中の清姫を見てオルガマリーは考える。モードレッドと清姫を救い、この場から逃れる術はある。だがそれは・・・

 

 

「スタァズ!」

 

「・・・!」

 

「キシャッ!」

 

 

迷っている間にも、何故か自分を狙う三角頭のチェイサーと、それに対してリベンジでもしようというのか鉄の拳を振るうネメシス、弱っている清姫を抱えている己を獲物と定めたクイック・モールデッドが同時に動き出し、オルガマリーは意を決してピストルクロスボウを手に飛び出した。

 

 

「こっちよ、化物!アルトリアは二人を!」

 

「マスター!?何を・・・」

 

「そう何度も死ぬ気はないわ!とにかく、二人を早く!」

 

 

まずクイック・モールデッドの顔面に炸裂させて頭部を破壊し、一撃で倒す事に成功したオルガマリーはその爆発に気をとられた三角頭のチェイサーとネメシスを搖動するべく素早く番えた追撃をその真ん中に発射。同時に全速力で走り、かつて自らを存命するべくディーラーに過剰に使われたイエローハーブにより増えた体力をフルに活かし、さらに自らに礼装のマスタースキル「全体強化」を使用し、二人の事をアルトリアに任せて全力疾走。心の中で立香の事は言えないわね・・・と反省するが、二体が追いかけてきているので今は良しとした。

 

 

「邪魔よ!」

 

 

路地裏に飛び込み、そこにいたウーズを跳び蹴りで蹴り飛ばしてピストルクロスボウを背中に背負って代わりに取り出したハンドルガンブラックテイルでヘッドショットを決めて着地。訓練の成果が出たと喜ぶ暇も無く、路地裏に面する壁を破壊しながら襲い掛かって来たネメシスの伸ばした触手をオルガマリーはぎりぎりで回避、再び走り出して路地裏から抜ける事に成功する。

 

 

「えっと、えっと・・・何か奴を倒す、もしくは行動不能にする術は・・・」

 

 

ああでもないこうでもない、と自らの装備品を確かめながら大通りを駆け抜けるオルガマリー。現在装備しているのは、ネメシスの外部装甲を成している鋼鉄製のコートには通じないピストルクロスボウ残り20本と、ハンドガンブラックテイル残弾数67発。さらに服装の関係上そんなに持てなかった手榴弾と閃光手榴弾それぞれ一つずつ。

これでもゾンビやハンターなどのB.O.W.程度なら気を付けさえすれば楽に撃破できる装備ではあるが、仮にもサーヴァントにまでなったB.O.W.だ。ヴェルデューゴと同じで現代の英雄でないと倒せない怪物なのだとは理解していた。

 

 

「一個しかない閃光手榴弾で奴の目を失明できるかは賭けだから使えないとして、爆発も怯む程度。あとはハンドガンブラックテイルだけど使いやすい安定した性能が売りだから火力はそこそこだってディーラーは言っていたわね・・・ディーラーだったらナイフにくっつけた手榴弾を直接突き刺して零距離爆発で頭部を破壊するぐらいしそうだけど私にできる訳ないしそもそもナイフもないし・・・」

 

 

あーでもないこうでもないと打開案を考えながら走るオルガマリー。三角頭のチェイサーの突きを横に飛び避き、ネメシスのロケットランチャーを転がって避け、爆発から顔を庇いながら立ち上がり、突き進む。

 一度死んだためか、「死」に対して予知に近い直感の様な物を感じる様になったオルガマリーはこれまでもそれを活用し、サーヴァント共に乗り越えてきた。確信めいたものであるためにヘラクレス・アビスの真価を知った時は諦めてしまったまでもあるが、それでも撤退を選んだことから結果、生き延びた。

その直感が言っている、これらの攻撃を一つでも直撃したらそれで終わりだと。自分の持ちうる全てを駆使し、彼女は生きるためにひたすら走る。そんなオルガマリーの耳に、不快な駆動音が聞こえてきた。まるでチェーンソーの様なその、骨と骨が削り合う音は既に知っていた。露骨に顔をしかめ、一瞬立ち止まる。

 

 

「ッ・・・こんな時に・・・!」

 

 

民家の扉を突き破り現れたのは、見覚えのある白い巨漢。右腕のチェーンソーを唸らせるそれは以前見たそれより大きく、「メーデー」という特徴的な声は出さないもののそれでも危機感を感じる。外の騒ぎを聞きつけて出て来たであろうそれ・・・スギャグデッドを前に、オルガマリーは一瞬だけ振り返る。争いながら迫り来る大男二体。目の前にはでたらめに暴れながら迫り来る肥満体の怪物。

 

 

「・・・使える?」

 

 

手榴弾と閃光手榴弾を両手に取り出し、迷う。今までディーラーと立香を見て来たからこそ思い付いた策だが、できるかどうか。しくじれば確実にまた死ぬ、そんな策よりも安全な策があるんじゃないのか。数秒にも満たない間、オルガマリーは決意を固めて手榴弾のピンを抜いて振り被った。

 

 

「もう私は、死なない!あんなに死なせて、私が死んでいいはずがない!」

 

 

上向きに放り投げられた手榴弾は綺麗な放物線を描き、こちらに迫っていたスギャグデッドの口に見事ホールインワン。それを確認するや否やすかさず後方に閃光手榴弾を投げ付け、背中を向いて眩い閃光が瞬いたのを合図に「全体強化」をフルに活かして駆けだしたオルガマリーは、スギャグデッドが横にスイングしたチェーンソーの様な右腕を飛び越え、そのまま無防備な背中に蹴りを入れて着地した。

 

 

「っ・・・!」

 

 

足首を少し捻ったが気にしていられない。視界を失っている追跡者二体に、蹴りが入れられた事でバランスが崩れてスギャグデッドが圧し掛かり、一瞬遅れて手榴弾が起爆。スギャグデッドは内側から木端微塵に吹き飛び、三角頭のチェイサーを傍らのロケットランチャーで生じた二次災害の瓦礫の中に埋もれさせ、ネメシスの顔の前面が大きく焼け爛れる。そんなチャンスを逃すはずも無く、すかさず銃ではなく右手の人差指を構え、一言唱える。

 

 

「フィンの一撃、昇華・・・!」

 

「!?」

 

 

瞬間、紅い閃光と共にネメシスの胸部が焼け爛れた鋼鉄のコートごと大きく吹き飛び、その巨体が力なく崩れ落ちる。サーヴァントを構成する霊核である心臓部を狙ったその一撃は、易々と追跡者を行動不能に追いやった。

 

放たれたそれは先刻、三角頭のチェイサーからモードレッドを守るために放ったカルデア戦闘服の物ではなく、今の一瞬で組み上げた己の魔術。彼女は、マスター適正以外では優秀な実績を納める魔術師だ。そして、彼女の使用した初等呪術「ガンド(指差しの呪い)撃ち」は高い魔力密度で放てば本来ありえない拳銃弾並みの物理的破壊力を持っており「フィンの一撃」と呼ばれ、優秀な魔術師としての腕前を垣間見せた。

 

しかも、それはただのガンドではない。自らの右手に宿った令呪一画を魔力源にした、膨大な魔力を一発に詰め込んだガンドである。カルデアの影響化なら一日で一画回復するという言うなれば反則を用いたここぞという時にしか使えない裏技だ。それを咄嗟の判断で行ったオルガマリーの手際は確かな物であり、その破壊力は対魔力スキルを持たないとはいえサーヴァントの霊核を、鋼鉄のコートごと打ち砕いて見せた。

それを確認し、安堵したオルガマリーはへなへなとその場にへたり込んだ。集中が途切れて、何時ものヘタレへと戻ってしまっていた。

 

 

「や、やった・・・一体は、なんとか・・・令呪の魔力を使ったとはいえあっけなさすぎる気もするけど・・・」

 

 

小さなクレーターと化している胸部が剥き出しで倒れているネメシスに、くじいた足を庇いながらブラックテイルを手にして歩み寄るオルガマリー。何か、デジャヴを感じたのだ。嫌な予感が脳内を占め、鼻や耳などの凹凸が全くなく、右目を大きな縫合跡で潰されている異形の頭部に銃口を突きつけながら睨む。すると何かが崩れる物音が聞こえ、危険を感じて振り向けば、瓦礫の山から白い腕が飛び出してきたところだった。

 

 

「そうだ、まだ一体・・・今のうちに、逃げないと・・・」

 

 

三角頭のチェイサーの存在を思い出したオルガマリーは、ポケットからグリーンハーブ×2の入った容器を取り出し、中身の粉末をくじいた足首に擦り付け包帯で縛るとよたよたと走り出す。服の上からでも効果があるこの草は人理修復した後にじっくり調べたい、とかぼんやり思い浮かべながらどうするか決める。

 

逃げなければ、今の自分では成す術もない。アルトリアと清姫と合流し、藤丸達を捜さなければ。

 

そう考えながら、来た道を戻って行く。道中見かける黒い異形の頭部に銃弾を叩き込む事も忘れない。ウイルスの犠牲となったロンドン市民の成れの果てかも知れないが、今は一刻を争う。・・・今の戦闘で誰かが巻き込まれてなければいいが、と必死に祈ってしまうのは、罪から目を逸らせない彼女の責任感故か。

 

 

 

何とか無事に合流し、清姫とモードレッドが無事だったことに安堵するも、アルトリアのお小言に顔をしかめるオルガマリー。

自分が負傷している事に気付いた清姫が自分の怪我も気にせず心配だと駆け寄って来た時は、何時も通りだなと安堵していた。しかし、しがみ付いてまで己の無事を確認する彼女の様子が、何時もより明らかに可笑しい事に気付く。同時にモードレッドも何が感極まったのか泣き出して、必要最低限の手当てだけすると無視を決め込んでいたアルトリアに縋りついて来て、それに顔を青ざめたアルトリアに本気で助けを求められ、困惑するオルガマリー。

 

そんな彼女がウイルスの満たした市街+負傷=感染、という方程式に辿り着き慌ててディーラーを捜し出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立香達との合流後、テンションが可笑しいモードレッドの案内で訪れた、彼女曰く安全な場所・・・大通りに面するアパートメントの一室で。事の顛末を聞かされたディーラーは、縄でグルグル巻きに椅子に縛られて目の前でウンウン唸って暴れる両者から摂取した血液を鑑定用のスコープで眺めていたディーラーは結論を出した。

 

 

「よく分からない新種のウイルスに感染していたな。どうやら感染者の感情を昂らせるらしい。ダ・ヴィンチ、分析は頼んだぞ。俺はこの二人をどうにかしよう」

 

「微力ながら僕も助太刀しようか?」

 

「いいや。俺の商品で事足りる」

 

「本当なの、ディーラー」

 

「生前ならウイルス治療なんか無理だが今の俺はサーヴァントだからな、できないことを捜す方が難しいぜストレンジャー」

 

 

協力を申し出たモードレッドの協力者にしてこのアパートメントの持ち主、ヘンリー・ジキルの助けを断り、ディーラーが取り出したるは、グリーンハーブと混ぜる事で解毒や解呪を齎すブルーハーブ。それを六枚だ。

 

 

「それでどうするのよ?」

 

「まあ聞け所長。レッドハーブやイエローハーブは単体じゃ意味が無い、グリーンハーブと混ぜ合わせる代物だがな?コイツは違う。単品でもお気軽に使える便利な代物だ。レオンはラクーンシティでは常備はせずに間に合わせで凌いだらしい」

 

 

それが何だというのか。手慣れた動作でブルーハーブ三枚を調合するディーラーは首をかしげる面々にそれを突きつけた。

 

 

「それで、同じく単品で使えるグリーンハーブは三つ合わせる事が出来る。ブルーハーブでも同じ事が出来るって寸法だ。ウイルスってのは体を蝕む毒だ。三つも合わせればどんなウイルスだって手遅れじゃなければなんとかなるだろうよ。傷口から擦り込めばまあ大丈夫だろうぜ」

 

「・・・服の上からでも効果があるのはなんで?」

 

「そりゃ俺がサーヴァント化したからだろう。ところでストレンジャー、くじいた足首以外も擦り傷だらけだな。今なら救急スプレーが売ってる。安くしとくぜ」

 

「・・・・・・買った」

 

「Come back any time.」

 

 

重傷な時は無料で提供してくれるのに、割と平気そうならすぐに商売を始める武器商人に溜め息を吐きながら受け取るオルガマリーは、もしや自分はカモなのではないかと疑ったがまあいいかと笑みを浮かべた。そのまま、正気に戻ったと思われる清姫の拘束を解くも愛のタックルを受けて呻く羽目になったのは御愛嬌だ。

 

 

「ハッ!・・・・・・・・・・・・父上?」

 

「正気に戻ったなら放してくださいモードレッド卿。ディーラーの焼いた魚が食べれません」

 

「問答無用で殴ればいいだろう青いの。構うだけ無駄だ」

 

「父上・・・、じゃなくてアーサー王が二人・・・・・・・・・・・・・・・ああ、コイツは夢か。だったらもう少し抱き着いてていいよな俺の夢だし・・・」

 

「セイバー、幸せそうなところ悪いけど現実だよ」

 

 

ジキルに言われて顔を赤らめ、慌ててアルトリアから離れて威嚇するモードレッドを尻目に、真剣な顔でマイクと念話で情報交換していた立香が声を上げた。その視線の先にはマシュに協力してもらって泣き叫ぶ清姫を羽交い絞めにするオルガマリーの姿。

 

 

「所長、今ここに向かっているマイクからの報告なんですけど・・・・・・いいですか?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。清姫、気にしなくていいから!貴女さっきまでとあまり変わってないわよ!?」

 

「ですが不甲斐無い私を守ったせいで旦那様が傷付いた事に変わりはありません!こんな駄目な清姫は旦那様に迷惑をかけないためにここで死にます!」

 

「清姫さん落ち着いてください!それでは本末転倒です!」

 

「放してくださいマシュさん!ネロさんを燃やしたのは私です!私の代わりにネロさんがくればこうならずにすんだんです!」

 

「それは知ってるから!知っていて連れて来たから!ディーラー!本当にこの子、治ってるの!?」

 

「うん?モードレッドには効いてるだろう。ああ、まさか黒いのから直接攻撃を受けたか?だったらもう一丁作るから押さえて置けストレンジャー」

 

「・・・・・・・・・後にした方がいいみたい?」

 

 

どったんばったん大騒ぎを前にした立香は苦笑いを浮かべながら首を傾げた。その側では鎧を解除しているアシュリーが優雅に座って読書をしていた本を閉じて立ち上がった。

 

 

「そうみたいねマスター。ちょっと座って待ってて。ジキル、紅茶はあるかしら?淹れたいんだけど」

 

「ああ、それなら奥の棚にあるよ。ちょっと待ってて」

 

「・・・急いでエヴリンとジャックを捜したいんだけどなあ。それに、街のウイルスも早くどうにかしないと」

 

「日本の言葉で強いては事を仕損じるって言うし、マスターには小休止が必要よ。大人しく私の持て成しを受けなさい」

 

「恐れ多いよ。でも、確かに休んだ方がいいかな・・・」

 

 

そうぼやいた立香は促されるままに座り、アシュリーの淹れた紅茶を一口飲んで一息つく。まだロンドンにやってきて半日も経ってないのに色々あった。心身ともに疲れた立香は休息を取る事にした。アシュリーの淹れた紅茶は、さすがは大統領令嬢というか、上品な味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、ロンドンの街並みのとある古本屋で1人の少年が渋い声で、ぴったりとした水色のシャツのウエストに無地の白いスウェットシャツを巻いた、短いタイトスカートとブーツを着用した女性に憤っていた。

 

 

「いい加減にしろ、ヴァカめ!魔本など相手にするな、弾の無駄だ!お前は機械共やホムンクルス、ゾンビ共を倒して俺を守るだけでいい!」

 

「でも、隣の書斎のアレを放って置いたら市民に害があるんでしょう?だったら・・・!」

 

「まったく、これだからお人好しは!今は調べもの中だ、面倒な物は後回しにしろ!今ようやく「正体」が掴めて来た・・・いいか、ジル・バレンタイン!救援が来るまで死んでも俺を守り抜けよ!それがお前と俺の契約だ」

 

「ええ、分かっている。でもその代り、この大規模パンデミックの真相・・・そして首謀者、ちゃんと教えてもらうわよ、アンデルセン」

 

「ふん、上等だ。そら、来たぞ!」

 

 

本の壁を突き破って来たウーズに、ナイフを頭部に突き刺し床に押し付け銃声を立てる事無く一気に仕留める女性、ジル・バレンタイン。その横で高速で本をめくって次の本を開く少年、アンデルセン。

事件を紐解く探偵、解決に導く英雄。その両者がサーヴァントして此処に揃う。片方に限ってはとある悪縁からの召喚なのではあるが、皮肉にも彼女の存在そのものが、とある悪縁あるサーヴァントが暴れて犠牲者を増やす理由となっているのをジル・バレンタインは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、オルガマリーが去った数分後のこと。

 

ガラガラと、音を立てながら瓦礫を押し退け立ち上がる三角頭のチェイサー。よりにもよって頭部に集中して瓦礫がのっかかっていた為に時間がかかってしまった様だ。辺りを見渡し、己の獲物である罪人がいない事を確認するや否や、鉈を片手に引き摺りながらロンドンの街中を歩きだす。

 

 

そう、彼一人が残されたその場に、倒れていたはずのネメシスの姿は無かった。重傷を負った体で時計塔へと登ったネメシスは、ようやく標的の一人を見付けて歓喜し、ロケットランチャーを構えていた。

 

 

「スタァアアアアズ!!!」

 

 

放たれる機関砲を物ともせずに、発射した異形の追跡者は咆哮を上げる。ロンドンの空で大爆発が起き、複数の唸り声が聞こえる街並みに轟音が咆哮と共に響き渡った。

 

最も有名な名探偵に所縁ある街を舞台に、最も危険な推理ゲームに見せかけた最悪の追跡劇が幕を開けた。




どんな時でも商売をかかさないディーラーはまさしく武器商人。

ついに登場バイオ主人公、ジル・バレンタイン。元帥じゃないよ。クリスやレオンは今後出番があるのですが、ジルだけどうにも出しにくいなと思ってネメシスもいるので無理矢理出番を作りました。野良サーヴァントであるため事情が分かっておらず、アンデルセンを守る代わりに情報提供してもらう形でコンビで活動してます。どうやらすぐ側にいる「魔本」が気になる模様。

所長覚醒。とっておきである令呪の魔力を使ったガンドは第四次聖杯戦争の某神父が元ネタ。カルデアのマスターって一日で一画回復するからこれ強いよねって。イメージは某魔術師殺しのコンテンダーです。魔術と銃を織り交ぜたハイブリッドな今のオルガマリーは十分バイオ主人公できます。立香の無茶が移ってしまったため清姫も気が気でない模様。

決して、バイオハザードダムネーションを見てリッカーが好きになって何でTウイルスにしなかったんだと後悔して今回の美味しい役をクイック・モールデッドが持っていった訳じゃありません。本当ですよ?当初の構想では清姫が吐瀉物を受けていたからマシになったとかそんな事はありませんよ?

前回の様子が可笑しかった二名、謎のウイルスに感染していたと判明。モードレッドは兜の効果でほとんど影響は「素直になる」ぐらいしか出てませんでしたが、清姫は変な方向に爆発してました。ブルーハーブ×3って強力だと思うんや。感染したのがサーヴァントなら治せますが普通の人間は初期にしか治せず、感染が進んでいるとアウトです。あくまで「毒」にしか効果は無く、プラーガには効きません。

「STARS」を求めてロンドンを彷徨うネメシス。オルガマリーのガンドを受けて戦闘不能になったにも関わらずにチェイサーのクラススキル「追跡続行」を使用して追跡を続けます。追跡者の一番怖い所は完全に倒さない限り何度でも復活してくるところ。特にこのネメシスは、作者のトラウマになっているぐらい復帰が早いです。ラストシーンは一体何が起きたのかは、とりあえず詳細不明にしておきます。

次回は調査開始。今度こそ一気に飛ばします。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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なんとも複雑だなストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、原付の免許を取りに行ったりと忙しくて執筆を疎かにしていた放仮ごです。前回に引き続き遅くなって申し訳ありません。あと、前回のジルの服装をリベレのダイバースーツから3のものに変更しました。

今回は説明編と「彼女」との合流。いきなり残酷描写ですがご容赦ください。少しぐだりますがご了承ください。

楽しんでいただけると幸いです。


霧煙るロンドンの片隅で。とある親子の前で、血と臓物と火の匂いを漂わせた道化師が嗤っていた。

 

 

「フゥム~?ヴィクター・フランケンシュタイン博士、どうしても協力はしないと、そうおっしゃる訳ですね?」

 

「・・・・・・」

 

「ではでは~しょうがありませんねェ。クヒヒヒヒッ!」

 

「ゥゥ・・・ァァァアアアッ!」

 

 

鋏を振るい、白衣の男に何かを仕掛けようとする道化師に、ウェンディングドレス姿の角が生えた少女が止めようと突進する。しかし、道化師は笑みを深めて嘲笑い、軽快に跳ねてそれをいなすと地面に転ばせ、自らは男からかなり離れた位置まで降り立ち「チッチッチ」と人差指を振った。

 

 

「はい残念、貴女の父親はここでお亡くなりでェ~す。つまりはァ~?微睡む爆弾(チクタク・ボム)!ヒャハハハハハハ~ッ!」

 

 

カチン、と。その手に持った鋏を鳴らし、少女の声にならない絶叫と共に爆発。少女の父親は、跡形もなく吹き飛んだ。涙を目に溜めた少女が吠える。しかし道化師は笑みを浮かべる事を止めない。面白可笑しく楽しむ、それが彼の存在意義だからだ。

 

 

「クヒヒヒヒッ!残念な事です。貴女の父親が「計画」に参加する事を最後まで拒んだ結果がこれだ。ええ、ええ、有体に言えば絶命しました。しかしまあ、貴女の絶望というイイ顔と、彼の最後の瞬間見せたあの表情。生から死への切り替わりを理解してしまった人間の顔を見せてもらったのでこれで手打ちにしましょう。ああ、なんてワタクシ優しいのでしょう!吐き気がします!ハアァ~!」

 

「ウゥ!」

 

 

怒りとも悲しみともつかぬ声を上げて掴みかかる少女を一蹴し、道化師はにたりと笑みを深める。

 

 

「おお怖い怖い。フムゥ・・・そんなに望むなら貴女もこのワタクシ、メフィストフェレスの手で父親の元へ逝かせてあげましょう!絶望!嘆き!面白おかしく絶望してくださいませ!せめて退屈しのぎにはなってくださいね?」

 

 

突き飛ばされ、睨むしかない少女は再び鋏を振るう道化師、メフィストフェレスを前に悔しさから歯噛みし、ボロボロと涙を流す。何もできない自分がもどかしくて、しかし。天は罪人を赦さなかった。

 

 

「ヒャハ・・・ハハァ~?」

 

 

鋏を鳴らし、既に設置済みのそれ(・・)を爆発させる直前、それを持つ右手ごと感覚が無くなったのを感じて、思わず呆けるメフィストフェレス。見れば、右腕が肘の先から消えていた。何が起きた?目の前にいる少女は驚愕からか目を見開いている。後ろに何かが?そう振り向く事無く、

 

 

「コフっ・・・これはこれは・・・・・・残念無念、ですねェ・・・ガハッ!?」

 

 

胸を錆びた槍で串刺しにされ、吐血するとそれが一度抜かれてから一気に背中から喉まで貫かれ持ち上がる道化師の肉体。メフィストフェレスは不気味な笑みを浮かべたまま絶命した。

 

 

「ゥゥ・・・?」

 

「・・・・・・」

 

 

金色の光となって消滅したメフィストフェレスの背後に立っていたその異様な大男を見上げる白無垢の少女。道化師の返り血を浴びて赤い頭をさらに赤く塗らした三角頭の断罪者は、見定める様に少女を緘黙に見下ろしていた。

 

 

「何している、テメエ!」

 

 

その光景を見て、激昂したモードレッドが飛び込んできて。三角頭のチェイサーは冷静に剣を槍で受け止めながら、三角錐の兜に隠された視線は別の方を睨んでいた。

 

 

「アルトリアはモードレッドと一緒に!清姫は騒ぎを聞きつけて来たゾンビ達を寄せ付けないで!」

 

 

モードレッドの連れてきた、こちらにアルトリアを嗾け、清姫を使い周りのゾンビを燃やしているオルガマリーを見て、レッドピラミッドシングは歓喜に震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数刻前。ジキルのアパルメントにて、ようやく正気に戻ったモードレッドが咳払いして仕切り直しし、情報交換と相成った。

 

 

「ゴホン。・・・えーっと、とりあえず落ち着いたから自己紹介だ。オレはモードレッド、アーサー王円卓の騎士が一人。アーサー王、父上が愛したブリテンの都市ロンディニウムの危機に馳せ参じた。で、錯乱していたオレが案内したここは、協力関係を築いているコイツ、ヘンリー・ジキルの自宅でオレたちの当座の拠点だ。主に実働がオレで調査と解析がコイツの仕事だ。・・・・・・あの、父上?ちゃんと話したからさっきの事は許して欲しいなー・・・なんて」

 

「・・・・・・・・・叛逆の騎士なんて私は知りませんが、本当の事を言いなさいモードレッド」

 

「・・・はい。ああ、そうだ。オレはオレ以外の奴にブリテンの地を穢されるのが許せねえ。父上の愛したブリテンの大地を穢していいのはオレだけだ。それだけは・・・ってどうしたんだ父上?なんで拳を握って・・・ぎゃあ!?」

 

「円卓の騎士として守ろうとしていたならば少しは認めてやろうと思いましたが、やはり。未だに歪んでいる騎士に話す事など何もありません」

 

「なにすんだ父上!?」

 

 

アルトリアの拳骨を浴びたモードレッドは涙目になりながら猛講義するが見向きもせず、逆上して飛び掛かろうとするもオルガマリーと立香、マシュに羽交い絞めにされる。

 

 

「えっと、アルトリアは今ご機嫌斜めだから・・・えっと…モードレッド卿?」

 

「マスター。その者に卿など付けなくていいです。呼び捨てで十分でしょう」

 

「・・・もう一人の父上~」

 

「知らん。触るな。食事の邪魔だ」

 

「・・・・・・」

 

 

不義とはいえ尊敬する父親二人に冷たくあしらわれ、涙目になり体育座りで隅っこに蹲るモードレッドを慰めるマシュと立香を余所に、ジキルがオルガマリーと向き合った。

 

 

「こちらも、君達が戯れている間にそちらの事情はおおむね理解したよ。では、僕らの知る限りの情報を伝えよう。まず、この街がこんな事態になったのは三日前のことだ。気が付けばあっという間にロンドンを霧が覆い尽された。ロンドン警視庁(スコットランドヤード)も政府も当然ながら事態を把握できてない様で、実質的に政府機能は麻痺している。外からの救援もあの霧に阻まれ、ロンドンは孤立状態だ。霧は室内には入らないが、水も食糧も無いロンドン市民は引き籠っていたら全滅だ。事態は急を要する」

 

 

現在のロンドンの状況を手早く説明するジキル。オルガマリーはバイオハザードだけだと思っていた事態が思った以上に深刻だったことに頭を抱えた。

 

 

「霧には夜毎に生物の命を奪う程の魔力が満ちている。正確な数は分からないが僕の試算では数十万単位で死亡者が出ているはずだ。イーストエンドはほぼ全滅、ほとんどの区域が廃墟と化している。全ての原因であるあの濃霧を、僕らは仮に「魔霧」と呼んでいる」

 

「・・・魔霧・・・?」

 

 

はて、そんな響きをどこかで聞いたような。首をかしげるオルガマリーだったが思い出さないので取り敢えず放置し、続きを促した。

 

 

「魔霧は濃ければ吸い込んだだけで通常の生物は魔力に侵され、死に至る。酷ければ一時間でお陀仏だ。薄い所ならマスクなどをすれば死ぬことは無い、・・・それも二日前までの一日だけの事だ」

 

「・・・・・・何があったの?」

 

「この三日間、特に初日から魔霧に加えて、ロンドンには他の脅威の類が跋扈している。魔霧に紛れて凶行を繰り返す者たち。魔術で形作られた「自動人形(オートマタ)」、殺人ホムンクルス・・・そして「不明の怪機械(ヘルタースケルター)」だ。それだけでも問題だったんだが・・・この二日間、さらに異様な異形が跋扈し始めた。俗に言う、ゾンビだ。同時期に霧の中から現れ、徘徊し出したという異形の黒衣の大男が大元らしいが・・・これはまだセイバーからしか確認できていない情報だ。他にも原因があると僕は考えている」

 

「・・・私が出会った、あの大男のサーヴァントがゾンビ達の大元・・・」

 

 

遭遇し、レッドピラミッドシングと共に襲い掛かられ何とか逃げ切ったネメシスを思い出して震えるオルガマリー。確かに令呪一画を使った己の最大の一撃によって倒した。しかし、レッドピラミッドシングから逃げるために消滅を確認していなかった。その事を思い出して、言い得ぬ恐怖を感じたのだ。

 

 

「所長の話だとロケットランチャーを自在に操るB.O.W.だったな。知性が高い上にサーヴァントってのは厄介だ。名前は分かるか?」

 

「いいえ。でも多分クラスはチェイサーよ。あのモードレッドの攻撃でも立ち上がったタフさはそれしか考えられない」

 

「あの、それならマイクから報告で多分、分かりました・・・」

 

「なんですって!?」

 

 

ボソッと声に出された言葉に睨みつけるオルガマリーに、委縮する立香。報告しようにも、モードレッドやら清姫やらの騒動でできず、さらに話が進んで言いだすタイミングを逃していたのだ。

 

 

「えっと、マイクたちを形成する人格の一つがこのロンドンと殆んど同じ状況だったというラクーン・シティの体験者で、そのサーヴァント・・・の生前であろうB.O.W.に殺害されたそうなんです」

 

『なるほど、数多のバイオハザードの体験者の霊の集まりである彼はおのずと情報量も多くなるのか。しかし助かる、偶然にも程があるけどね。レオナルド!』

 

『分かっているとも。ラクーン・シティ事件という事は1998年。ちょうどこの特異点ロンドンから110年後の時代だ。これは偶然か?・・・えっと、これに関与したというB.O.W.の一覧が生還者であるジル・バレンタイン等によって作られている。BSAAの記録から見付けた。この中で黒コートの追跡者は一つしか該当しない』

 

 

ごくりと生唾を飲み込むカルデア組と、ほとんど理解できず置いてけぼりで疑問符を浮かべている現地組。そんな彼らの沈黙を前に、映像に映るダ・ヴィンチちゃんは一息に言い放つ。このロンドンを襲う災厄の一つの名を。

 

 

『洋館事件から生き延びたS.T.A.R.S.を抹殺するべくアンブレラが送り込んだ、補助用B.O.W.寄生虫「NE-α」を埋め込むことで作り出された、タイラントの強靭な肉体に加えてNE-αによる知能向上から銃火器を扱え、複雑な任務を理解・遂行できるようになった上に、簡単な言葉を話すこともできる新型タイラント。

掴んだ対象に直接t-ウイルスを注入して感染させる恐るべき追跡者。

 ――――その名も追跡者(ネメシスT‐型)だ』

 

「ネメシス・・・物騒な名前ね。でもその話が正しければ、奴の狙いはゾンビを増やす事じゃ無くて、S.T.A.R.S.の捜索なのかしら?」

 

「ッ!だとしたらマイクが・・・ディーラー、お願い!」

 

「了解だ、ストレンジャー」

 

 

己のサーヴァントが危険だと知るや否や、念話で呼びかけながら叫んだ立香の言葉に、頷いたディーラーがすかさずライフル二挺を取り出して外に出て行った。高所を飛んでいるマイクを襲うであろうネメシスを捜す為だろうか。それがすかさず読み取れるのは信頼度が高いんだな、とオルガマリーはぼんやり考えていた。

 

 

「とりあえず、マイクはまだ無事みたいなので警戒してもらって帰還させました」

 

「了解。ジキル氏、続きをお願いできますか?」

 

「分かった、続けるよ。その大男・・・ネメシスを皮切りに増えだしたゾンビたちを、何故か駆逐して回っている三角頭の大男も確認できている。恐らくサーヴァントだろう」

 

「レッドピラミッドシングの事ね。恐らくゾンビを「罪人」として狩っているのか・・・だとしたらモードレッドは戦わない方がいいわ」

 

「なんでだよ!」

 

「アイツの宝具には、貴女じゃ多分勝てないからよ。逃げた方がいいわ」

 

 

人を殺した罪の数だけ倍増し、対象を追い詰める悪夢の様な宝具。もしそれが、特に自分に発動したらと思うと・・・オルガマリーは顔を青ざめる。運よく生き埋めになったから逃げれたものの、改めて危なかったと胸を撫で下ろした。

 

 

「また、同じく徘徊していて君達が出会ったという連続殺人鬼ジャック・ザ・リッパーも確認できているがこちらはまだ誰も殺していないらしい。ゾンビを殺戮して回っているが、その目的はよく分からない。セイバーも一度戦ったけど逃げられたらしい。でも彼女の言葉によるとサーヴァントらしいから、先日連続殺人を犯したジャック・ザ・リッパーとは恐らく別の存在、だと考えられる」

 

「そうなんだ・・・よかった、まだ誰も殺していないんだ・・・」

 

 

サーヴァントとして出現してからジャックが一度も人間を殺していない、と知って安堵する立香。続けてエヴリンの話題がジキルの口から出た時、その身を固くする。

 

 

「共に行動する黒い少女を起点に黒い異形が出現したらしいけどこれはよく分かってない。ただ、ゾンビと同じで死体が変異した者と、黒いカビから湧き出た者で分かれているらしい。腕が巨大な刃の様になっているタイプと、四つん這いで身動きが素早い小柄なタイプ、巨漢を誇り吐瀉物で攻撃してくる上に倒したら自爆するタイプもいる。僕とセイバーはこいつ等を纏めてモールデッドと呼称している」

 

「モールデッド、ね。ロマン、何か情報は?」

 

『それが・・・BSAAのファイルにはそのカビに関して記録が一切無い。元々無かったのか、それとも・・・とにかく、得体の知れないB.O.W.だ。十分に気を付けてくれ』

 

 

頷く立香とオルガマリー。恐らく清姫とモードレッドに感染していたのはこの黒いカビだとオルガマリーは考えていたし、立香はエヴリンの恐ろしさをその身で味わっている。

カルデアがすべきは魔霧の原因解明と、ネメシス及びレッドピラミッドシングの打倒。そして立香個人として、一番の最優先事項はエヴリンとジャックとの和解だ。ロンドンに来て約一時間、ようやく方針が定まった。

 

 

「僕達からの情報はこれぐらいだ。もう一人、僕の友人であるヴィクター・フランケンシュタインが捜査していたから何かを掴んでいるかもしれない。でも、今朝から連絡が取れないからもしかしたら・・・できれば、迎えに行ってやって欲しい」

 

「それは一大事ね。私達とモードレッドで行って来るから、藤丸はマイクとの合流及びネメシスの捜索を頼むわ」

 

「分かりました。ウイルスをまき散らしているなんて放置できません。所長も気を付けて」

 

「ええ。ロマニ達は私達のサポートを続けながら、記録からあのネメシスを倒す方法を探って。サーヴァントである以上、必ず死因からなる弱点がある筈よ。運がいい事に真名を得ているからアドバンテージはこちらにあるわ」

 

 

対バイオハザード組織BSAAの記録という、人理焼却された世界でも辛うじて残っていたアドバンテージ。対サーヴァント戦に置いて最も重要な情報が手に在るというのは、士気にも繋がる。そう言葉を残して、オルガマリーは己のサーヴァントとモードレッドを引き連れて外に出ていく。

 

立香もマシュ達を連れて出て行き、アパルメントの屋上でセミオートライフルを構えていたディーラーと合流した。

 

 

「ディーラー。どうだった?」

 

「駄目だ。霧のせいでよく見えないからサーモスコープを使ったが熱源反応じゃ無理だな。寄生体がいるんならガナードと同じだと思ったんだが、それ以前にゾンビ共が多すぎて判別できん。せめて大まかな場所が分かればな?」

 

 

やれやれと首をすくめながらライフルを仕舞ったディーラー。ガナードならば寄生体が異常な熱を持っているので熱源感知ですぐに分かるため、リヘナラドール(不死者)の対処にもサーモスコープは有効だ。しかし視界が狭まる・・・というより殆んど動体以外の様子は分からないため探索には向いていなかった。

 

 

「とりあえずマイクと合流するよ。それからでも遅くないはず」

 

「先輩、マイクさんとはどこで合流を?」

 

「とりあえず、時計塔が見える橋の上ならヘリで降りれるって・・・」

 

「ウェストミンスター橋ね。ここからならちょっと遠いけど、どうするの?」

 

「なにか移動手段は無いのかライダーのアシュリー?」

 

 

他の面々より比較的ロンドンに詳しいアシュリーが目的地を指定するも、セイバーオルタに返され口ごもる。彼女のクラスはライダーである。しかし元々正規の英霊でなく、適正理由もロス・イルミナドスのアジトで拝借したブルドーザーを問題なく操ったという実績からというものだ。マイクと違って自由に乗り物を出せないのは彼女にとってウィークポイントだった。

 

 

「私、ライダーだけど乗り物は現地調達だから・・・」

 

「使えんな。赤いのにクラスチェンジしてもらった私の方がまだ使えるとは」

 

「うぐっ」

 

「・・・道中に車があったら拝借して、徒歩で行こうか。マイクに合流すればヘリで移動できるだろうし」

 

「そうですね。規模が小さいといってもロンドンは広いです」

 

「この異変が無ければ路面電車が通っていただろうからロマン達もそれを当てにしていたらしいな。ストレンジャーの国の言葉で言えば狸の皮算用って奴か。これは移動手段も考えないとこの先きついな」

 

「ごめんなさい、ライダーなのに乗り物なくてごめんなさい・・・」

 

「アシュリーがいて助かってるよ。気にしないで、ね?」

 

 

落ち込んだアシュリーを慌てて慰める立香。実際、アシュリーの宝具は弱点さえ突かれなければ無敵だ。ローマではそれに本当に助けられた。立香は召喚に応じてくれた自分のサーヴァントたちに不満は抱いてない、むしろ呼べない自分を責めている。清姫に言われた言葉の意味が分かれば何か改善されるのだろうかとちょっと期待していた。

 

 

「歩くのはいいがマスター。道中のゾンビ共も駆逐するのか?」

 

「うん、無理が無い程度にね。帰路の安全の確保もだけど、・・・あのままじゃ浮かばれないだろうから」

 

 

悲しげに顔を伏せる立香に、サーヴァント達は顔を見合わせ、頷いた。

 

 

「注文には応えるぜストレンジャー。それからマシュ、アンタはストレンジャーの傍にいろ。道中の敵は俺達に任せればいいが、今度ジャックたちに奇襲されたら守れるか不安だからな」

 

「了解しました。マシュ・キリエライト、全力を以てマスターを守ります」

 

 

ディーラーの言葉にジャックの奇襲を立香に言われるまで気付かなかった後悔を思い出すマシュは、先輩にもうあんな表情をして欲しくないという一心で頷いた。

 

 

「じゃあ行こう。マイクが言うには、時計塔(ビッグベン)方面だって」

 

 

立香達の向かう先は時計塔。何の因果か、彼女達の捜すネメシスにとっても因縁ある建物へ向かっている事をまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・逃げた?」

 

 

かつて叛逆し叛逆された者同士とはいえ、それでもアーサー王と円卓の騎士。洗練されたモードレッドとアルトリアの連携の合間に、角の生えた少女を守る様に立つオルガマリーがガンドを撃ち込んで動きを阻害しレッドピラミッドシングを追い詰めていたのだが、斬られ貫かれ傷だらけになっていた三角頭の追跡者は、何かを確認したかの様に首を竦めたかと思うと抵抗を止めた。

 

モードレッドとアルトリアが訝しんで攻撃の手を止めると、三角頭のチェイサーは得物を槍から大鉈へと換装すると片手で振り下ろし、その衝撃でモードレッドとアルトリアの体勢が崩れたところに、追撃するのかと思えば二人には目にもくれずその場を徒歩で去って行った。あっけなさすぎる決着に呆然と立ち尽くすオルガマリー。

 

 

「クソッ、あそこまで追い詰めたってのに・・・」

 

「まるでこちらを相手にしていませんでしたね。私達は元より、モードレッド卿は彼の標的に定められていたと思ったのですが・・・」

 

「・・・それに私も標的っぽかったんだけどなんで・・・そもそも何であのチェイサーがここに・・・?」

 

 

見下ろすと、そこには目元に涙を流した痕を残した、血塗れのウェンディングドレス姿の少女。角が生えているが、サーヴァントではないらしい。周りには夥しい程の量の血と爆発の跡。オルガマリーが熟考していると、そこに清姫が駆けてきた。

 

 

「マスター、周りの有象無象共は焼き払いましたわ。そちらは・・・?」

 

「ああ。確かここの主、ヴィクターじいさんの作った人造人間・・・だったか?サーヴァントじゃないから、生前って奴だろうな」

 

「モードレッド。他の聖杯戦争の記憶でも?」

 

「まあな。だがそのヴィクターじいさんは何処に…?」

 

「・・・多分、私達が着く前に何者かに殺されたんだと思う。あのチェイサーは、その何者かを殺しに・・・この子をゾンビ達から守るためにここにいた・・・?」

 

 

屋内に入り、少女に断りながら物色する。見付けたのは人造人間の物らしい棺と、書記。どうやら少女はモードレッドの言う人造人間・・・俗に言うフランケンシュタインの怪物らしい。危険ではなさそうなので連れて行くことに決め、オルガマリーは書記を手に取り外に出た。書かれていたのは、フランケンシュタイン博士が今朝書いたものと思われる字面。

 

 

 

 

 

 

1888年7月25日。

 私は一つの計画の存在を突き止めた。名は「魔霧計画」。実態は、未だ不明なままだが。計画主導者は「P」「B」「M」の、――――おそらく三名。いずれも人智を超えた魔術を操る、確証はないが英霊だ。

 そして先日、突如現れたゾンビを代表とした異形達は彼等の想定外らしく、彼等の使い魔と思われる機械兵が一気に増えたように思われる。昨日、ここを訪れた後に古書店に向かうと言っていたあの女性のサーヴァントに伝えるべき情報だろうか。それに先刻起こした我が娘は彼女に預ける方が賢明か。

 昨日からどうも体が痒い。恐らく私は奴等に消されるか、もしくは彼女の言う様に手遅れか・・・・・・その前に彼女に接触しなければ。この書記を見た、恐らくはセイバーに頼む。その時は私を――~~

【ここで文章が止まっている】

 

 

 

 

 

ここで止まっているところを見るに、これを書いた直後何者かに急襲され爆死したのだと考えたオルガマリーは溜め息を吐いた。黒幕だと思われる三人の魔術師にも想定外だと思われるバイオハザード。そして、古書店に向かったらしい謎の女性サーヴァント。オルガマリーの推測に寄れば恐らく彼女は・・・

 

 

「思ったよりも複雑ねこれは。今日中になんとかできるといいのだけど。・・・それで、私達と一緒に来る?フランケンシュタインの怪物・・・じゃあさすがに可哀そうね。フラン、でいいかしら?」

 

「ゥゥ!」

 

「そう。ならこれからよろしくね、フラン」

 

 

安心したような笑みを浮かべて応えた少女、フランを連れてその場を後にしたオルガマリー一行は、そのままジキルのアパルメントへと帰還した。




・悲報:メフィストフェレス、ディーラーと爆弾勝負する前に▲様の手により消滅。
思いの他説明で長くなったため、展開をテンポ良く進めるために登場して早々退場したメフィストフェレス。存在すら知られていませんので「M」のミスリードにはなりませんでした残念。・・・本作は「M」の容疑者が二人どころでは無いためそうなってます。

・モーさん、アルトリアと一応和解。
というか共闘するために青王とはまあまあ話せる程度にまでに改善。黒王は完全無視を決め込む様子。

・ライダーなのに乗り物が出せないアシュリー。
こればかりはしょうがない。それでも一応騎乗Cなので乗り物さえあれば使用できます。

・フラン合流。ヴィクター氏の手紙。
バイオ風となったこの手紙だけで今回の特異点の真実が詰まってます。ネメシスではないかもしれないバイオハザードの発生源とは・・・?


次回はマイクVSネメシス、そしてVS子供達。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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AD.2017 転化特異点:狂菌逸愛邸マッドハウス・ベイカー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、息抜きに書いたゼノブレ×東方が全然人気でないためにモチベを上げるべくこれを急きょ徹夜で書き上げた放仮ごです。ヒロインXが何故かイベントが終わる日の朝に来てさらにモチベが下がったのはしょうがないと思います。

久々の投稿ですがまだロンドン編続きができて無いためにエイプリールフールな番外編です。原作はバイオ7となります。主人公は原作主人公のイーサン。楽しんでいただけると幸いです。


 アメリカ、ルイジアナ州の片田舎に聳え立つ、かつて農家だったと分かる不気味な「ベイカー家」の屋敷の地下にて、男は一人、ハンドガン・・・グロッグ17を手に慎重に歩を進めていた。

 

もうここに訪れるのは何度目か。脱出する手立てを捜して彷徨い歩く男は、もう何度目かも分からない“襲撃”を退け、警戒しつつそろりそろりと進んでいる。もう何度もここを通っているが決して油断はできない。

 

背中にベルトを通して身に着けている、謎の仕掛けを突破して手に入れたショットガン・・・イサカM37にも、今手にしているハンドガンと同じく死亡した保安官補佐からいただいたポケットナイフも、ズボンのポケットから直ぐに取り出せるように身構えている。

 

電話で助言する声しか聞かせない謎の女性「ゾイ」の言葉を頼りに、玄関の鍵を開けるのに必要なケルベロスのレリーフを探していた。先刻仕掛けを解いて見付けた鍵で、ようやく地下の奥深く、地図には「解体場」と「死体保管庫」と書かれたエリアに行ける。この本館には他にもまだ行っていない部屋はあるものの、心当たりはそこしかない。

 

かつてはバスルームだったと思われる、黒いカビに覆われた部屋に入る。以前やって来た時と同じく、黒い異形の人型・・・モールデッドが現れ、襲い掛かってくるも男は動じずにハンドガンを頭部に標準を向けた。

 

 

「お前等に構っている暇はないんだよ、クソッたれ!」

 

 

引き金を引き、目と思われる部分を吹き飛ばして怯ませるとすかさず両肩に連射。両腕がもげて転倒しじたばたともがく異形の頭部にナイフを突き立てて粉砕、仮初の勝利を納めた。

 

しかし騒ぎを聞きつけてあたりかしこから新手のモールデッドが湧き出してくるのを感じて、男は全力疾走。奥のボイラー室に入るや否や扉を閉めて息を整えた。

 

モールデッドは「彼等」と違って知能があまりないのか、ドアノブを握って扉を開けてきたりはしない。だからこそ男は安心していたのだが・・・その一時の安堵は簡単に打ち砕かれた。

 

 

「マジかよ!?」

 

 

異変を感じ、扉の傍から飛び退いた直後。モールデッドの力ではビクともしない扉があっさりと粉砕され、高笑いを上げながら現れた。

 

 

「フハハハハハッ!」

 

「コイツ、喋るのか!?」

 

 

黒いカビに覆われた、全身真っ黒のそれはモールデッドに似てはいるが間違いなく違う。その存在感は、彼を追跡する「彼等」に近いもののそれとも違う。存在感が、圧倒的に違うそれは・・・その男は、マッスルだった。

 

 

「我等をこんな場所に閉じ込める圧政者よ!傲慢が潰え、強者の驕りが蹴散らされる刻が来たぞ!さあ、彼女のためにも、潔く観念したまえ!」

 

「彼女?ミアのことか!」

 

 

男はショットガンを手に構える。目的地は目と鼻の先、だが目の前の怪物は聞き捨てならない言葉を口にした。最後にビデオでその動向を確認した愛する妻の安否のためにも、無視して先には進めない。

 

 

「フハハハハハッ!!ゆくぞ、彼女へ向けた我が愛は爆発するぅッ!!」

 

 

その手に握られた棍棒が振り被られる。男は咄嗟に飛び退いて回避し、ボイラーの影に隠れてハンドガンを乱射。しかし頭部、足に当たってもビクともしないその巨体がずんずん迫るも、両肩が入り口に引っ掛かったところに男は溜まらず次の部屋への扉に飛びついた。

 

 

「急げ、急いで逃げ出さないと・・・」

 

 

この先に他の通路がある確証はないが、それでもこんな化物を相手にするよりマシだ。そう考えながら解体室の鍵を取り出し、ガチャガチャと慌てて入れようとするも、上手く入らず落としてしまう。

 

慌てて振り向くも、マッスルはその巨体のせいで引っ掛かり、「おのれ圧政者~!」とじたばたとしているだけだ。安心して拾い上げようとする、しかしそれは別の手が覆いかぶさる事で止められた。鋭い鉤爪の様な物で覆われた手に、顔を上げる。

 

 

「唄え、唄え、我が天使……クリスティーヌ、貴女のために・・・」

 

「ッ!?」

 

 

そこには、大して見えないその顔の半分を髑髏仮面で隠した鉤爪の男がにんまりと笑って立っていた。完全にホラーである。咄嗟に構えたショットガンをその顔面にブチかます。

 

 

「うぐおおおああああっ!?」

 

 

何かに恍惚としていたその男はひょろい外見のイメージのままに軽く吹き飛び、隅まで追いやられた。それを好機と見て今度こそ鍵を手に取り、鍵穴に差し込む。今度はすんなりと入り、慌てて扉を開くと、不意に熱気が首元を襲った。

 

 

「貴方はあの子の父親になるのでしょう?嘘吐きは許しません許しません許しません・・・」

 

「……マジかよ」

 

 

恐る恐る振り向くと、そこには口元から火をちらつかせた、角の生えた少女がいた。男には見覚えのない衣服を纏っているがその本来綺麗なのだろう髪共々白く黒くところどころ染まっている。

 

 

「クソッ!」

 

「ッ・・・、逃がしません・・・シャア!」

 

 

冷汗をかいた男は渾身の力を以て少女を突き飛ばすが、少女はゆらりと幽鬼の如く立ち上がるとその手に取り出した扇から火球を放ち、男は咄嗟に扉の中に飛び込み、慌ててそれを閉める事で防ぎ、轟音に耳を塞いで納まった事を確認すると一息吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく・・・なんなんだよここは」

 

 

異形(モールデッド)や「彼等」ばかりか、よく分からないナニカまで溢れ出している。このままここに居たら死ぬ。そう確信し、男は妻を早く見つけ出して早々にここを脱出する事を心に誓った。

 

その時だった。男は、目の前の棚にケルベロスのレリーフが置かれている事に気付くも、すぐに声を潜める。殺された保安官補佐の死体が何故か壁に吊るされてある部屋を、二つに分けるその棚の向こう側の扉から見覚えのある初老の男が現れたからだ。

 

 

「・・・俺が父親のはずだった。だがあの子はアイツを父親にすると言いだした。それは駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ・・・」

 

「(あの子?)」

 

 

独り言の様に、言い聞かせる様に呟き始めたその言葉に、男は再び聞いた「あの子」という言葉に反応し、口を手で押さえて思考する。先程、少女の様なナニカが紡いでいた言葉でもあり、この男・・・ジャック・ベイカーを含む「彼等」ベイカー一家がたびたび口にする言葉でもあったからだ。仮面の男が口にした「クリスティーヌ」とやらなのだろうか。違う気もする。彼の脳裏に、一階のダイニングの傍の部屋で見かけた「Evelyn」と名前が書かれた長靴がよぎった。

 

 

「奴を見つけ出して・・・存分に思い知らせてやる・・・」

 

 

そう言ってジャック・ベイカーはケルベロスレリーフを手に取り、男に気付かず奥の死体保管庫に通ずる扉から出て行った。男は一息吐いて、気を引き締める。

 

 

「この先にあのレリーフがある事は間違いない様だな」

 

 

そう言ってハンドガンとショットガンの弾を補充し、ハンドガンをポケットに入れて代わりにショットガンを構える。奥に通ずるドアから死体保管庫に抜け、犠牲者たちの死体が入っているであろう肉袋を避けて、吊るされたレリーフを発見して手に取る男。油断があったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、男は顔を掴まれて無理矢理振り向かされ、そこにいたジャック・ベイカーの蹴りによって下に広がる檻の中へと落ちてしまっていた。

 

 

「・・・マジかよ。やっぱり罠かクソッたれのジャックめ」

 

「お前はもう逃げられないんだ、イーサン」

 

 

男・・・イーサンに向けて、斧を手にそう言ってのけたジャック・ベイカーが歩み寄って来る。イーサンはショットガンを至近距離から放つも、前回のガレージの戦いからの経験か横に避けたジャック・ベイカーの一撃がイーサンの顔・・・を庇った右腕に炸裂。血飛沫が飛び散り、ジャック・ベイカーが高笑いを上げた。

 

 

「怪我をしたようだが大丈夫か?」

 

「ああ、おかげさまでな!ジャック!」

 

 

イーサンは慣れた動きでハーブと薬液をあらかじめ混ぜて作った「回復薬」を取り出してジャバジャバと腕に振りかけて回復。自分の体が普通じゃなくなっていると自覚しながら、傍に吊るされている肉袋を渾身の蹴りでジャック・ベイカーに叩き込み、怯んだところに顔面にショットガンを叩き込んだ。

 

 

「いい加減死ねよ、ジャック!」

 

「お前よくもやってくれたな!お前の中身を俺は見たいんだよ。分かるだろ?」

 

「おい正気かよ?」

 

「フフフフッ・・・そう言うな。どうだイーサン、イカすだろ?」

 

 

そう言って奥の金網を破り、そこに在った鋏の様に改造されたチェーンソーを手に取りエンジンをかけて振り回すジャック・ベイカー。

 

 

「どうしたビビってんのか?ギブアップした方がいいんじゃないのか?」

 

「余計なお世話だジャック!」

 

 

顔面血塗れだが大して気にしてないのはガレージの戦いの時と同じ。戦慄しながらも、破られた金網の奥にもう一つ、普通のチェーンソーを見付けてジャック・ベイカーの横薙ぎを潜り抜け、それに飛びついたイーサンは構えてエンジンをかける。

 

 

「そうだ坊や。それでいいんだ。いいことを教えてやる。対等になったつもりだろうがな、お前はもう死ぬんだよ!ヒッヒッフッヒヒッ」

 

「そうかい。外のあのマッスル達もジャックの仲間か?そりゃ逃げられないな」

 

「何のことだ?俺がここで殺すのさ!」

 

「ちいっ!」

 

 

振るわれた鋏チェーンソーを、咄嗟に受け止めて鍔競り合うイーサン。ここまで来たらやけくそだ。少なくとも銃よりは効果がありそうだ。

 

 

「どうだ?楽しいだろ?」

 

「できれば勘弁願いたいなジャック」

 

「お前はここで死ぬんだ!」

 

「だろうな!」

 

 

なんとか吹き飛ばし、意気揚々と立ち上がるジャック・ベイカーの追撃に備える。そんな時だ、異変が起きたのは。

 

 

「解体するよ」

 

「なに?グアァアアアアアアッ!?」

 

 

幼い声が聞こえると共にジャック・ベイカーの上半身が、一瞬のうちに細切れにされた。呆然と佇むイーサン。ハサミ型のチェーンソーが残された下半身が倒れると共にゴトンと重い音を上げて床に落ち、ドルルルッとエンジン音を響かせる。しかし、そこに不死身の大男を細切れにした犯人の姿は見えない。ジャック・ベイカーが先程「知らない」といっていたあのナニカの仕業か?と身構える。すると再び信じられない事が起きる。

 

 

「よくもやってくれたな!イーサン!」

 

「俺じゃないぞジャック!逆恨みはよせ!」

 

 

ボコボコと残されたジャック・ベイカーの下半身の断面が泡立ち、肉体を再生し始めたのだ。泡立つそれが顔の形になり叫んでいるのはあまりにも不気味だ。

イーサンに何かされたと思い込んでいるらしいその言葉にたまらず言い返すイーサン。しかし、その言葉にそれは反応した。

 

 

「呼んだ?」

 

「なん・・・だとォ?」

 

 

グシャッと、先程まで誰も居なかったそこに姿を現し、ジャック・ベイカーの下半身の芯に大型のナイフを突き立て復活を阻止したのは、幼い銀髪の少女だった。いや、やはりその髪はカビで黒ずんでいるし、身に着けているマントもカビだらけとあの「ナニカ」たちと共通している。何より、顔やら手やらに見える傷が只者ではない事を表していた。

 

 

「お、お前は一体・・・?」

 

「誰って・・・呼んだよね?わたしたちの名前を。さっきから何度も何度も何度も!」

 

「何度もって・・・」

 

 

ゆらりゆらりと、自らの持つポケットナイフなんかより圧倒的に存在感を持つナイフを手に近付いてくる少女の真っ直ぐな眼光にたじろぎ、イーサンは後退しながら気付いた。さっきから自分が誰の名前を呼んでいたのかを。

 

 

「・・・お前も、ジャック、なのか?」

 

「うん。わたしたちの真名は、ジャック・ザ・リッパー。じゃあ、解体するよ。手と足を斬っちゃうからちょっと痛いけどすぐ治るよね?早くおねえちゃんのところに行こう、おとうさん?」

 

「なに、を・・・」

 

 

言い切る前に、少女・・・切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が地を駆けた。両手にナイフを握り、イーサンの足を斬るつもりなのか体勢を低くし、一瞬のうちに接近する。堪らずチェーンソーを投げ付けるも一瞬で細切れにされ、イーサンは壁に背を付けて倒れ込んでしまい、来るであろう痛みに備えて両手で顔を庇った。

 

 

 

 

 

 

 

しかしその時は訪れず、代わりに声が響いた。

 

 

「マシュ、あの人を守って!」

 

「はい、先輩!」

 

 

切り裂きジャックとは違う、二人の少女の声が響き、イーサンの視界を黒と肌色が覆った。それが、黒い鎧と少女の太腿だとは露とも知らず、イーサンは目の前に降り立った少女の構えた大盾により窮地を切り抜けていた。

 

 

「ディーラー、ジャックを倒して!」

 

注文(オーダー)には応えるぜストレンジャー」

 

「そん、な・・・・・・おねえ、ちゃん・・・」

 

 

首を出し、盾の向こう側を見やると、切り裂きジャックは頭上からばら撒かれた弾丸の雨に撃ち抜かれて捨て台詞を残し、金色の粒子と霧散化したカビの様な物をまき散らしながら消滅。その場に黒衣の男が飛び降り、再度立ち上がり、復活を図ろうとしていたジャック・ベイカーの下半身に向けて取り出したリボルバーマグナムを叩き込むと、今度こそ静まった。

 

 

「安全は確保した。降りていいぜストレンジャー」

 

「ありがとう、ディーラー。よかった、なんとか助けられた」

 

 

黒衣の男が上を向いてそう言ったので視線を向けると、そこにはケルベロスレリーフを回収して一息吐いているオレンジ髪の少女がいた。こちらの無事を確認して喜んでいる様だ。

 

 

「あ、先輩は私が」

 

 

飛び降りて来たオレンジ髪の少女を、何故か黒衣の男ではなく自分を守った盾の少女がお姫様抱っこで受け止めるのを見ながら、イーサンは差し出された黒衣の男の手を取って立ち上がった。

 

 

「サービスだ。掴まれストレンジャー」

 

「助かるよ。・・・まさかこの屋敷に生き残りがいたなんてな」

 

 

イーサンは驚きのままに口にする。今まで、死体となった犠牲者たちを道中何度も見て来た。中には水死体となって廃屋地下に放置された者もいた。自分以外に無事に逃げ出した者がいるなどゾイが言ってなかった事もある。しかし少女達は困っている様であった。

 

 

「あー、ストレンジャー?残念ながら俺達はここに閉じ込められた人間じゃない」

 

「えっと、この場所に異変があって、それを調査しに来ただけというか・・・」

 

「つい数分前に私達も訪れました。恐らく異変について知っている物かと」

 

「異変なんて十分・・・いや待て、ついさっきも直ぐの部屋で今の切り裂きジャックみたいのに遭遇した。そいつか?」

 

「やっぱりサーヴァントがここに湧いてたようだなストレンジャー」

 

 

イーサンの言葉にそうぼやいた黒衣の男に言葉に頷き、右手に付けた端末を起動するオレンジ髪の少女。

 

 

「・・・ということだそうです。今回は小規模なので最低限のメンバーで来ましたが、サーヴァントは複数いるみたいです。どうしましょう所長?」

 

『とりあえず広い場所に向かいなさい。そこで追加を送るわ。それまではその男と行動を共にすること。ここに詳しいみたいだし、見返りに守ってあげなさい』

 

「分かりました。えっと・・・私は藤丸立香。カルデアってところでマスターをやってます。この子がマシュで、この人はディーラーって言います。貴方の名前は?」

 

 

正直、怪しいにも程がある。だが、善意で自分を助けてくれたというのは何となく分かった。少なくとも、自分を疑ってポケットナイフしか寄越さない挙句にジャック・ベイカーに殺された保安官補佐よりは好意的に捉えていた。

 

 

「イーサン。イーサン・ウィンターズ。ここには妻のミア・ウィンターズを捜しに来た。手伝ってくれるか?リツカ。情報ならいくらでも渡す。この狂った館から生きて脱出するためにな」

 

「はい。よろしくお願いします、イーサンさん」

 

 

 

 

 

 

ディーラーの取り出したマシンピストルで無理矢理檻の鍵を壊しつつ、立香から受け取ったケルベロスリリーフを玄関に持って行くためにここを後にしようとするイーサンは、意味も無く振り向く。そこには、もはや動かなくなったジャック・ベイカーの亡骸が残っていて。

 

 

「なあ頼むから。もう二度と起き上がるな」

 

 

手向けとばかりにハンドガンの弾をぶち込んだ。それが、過剰代謝を起こしているジャック・ベイカーの体に更なる急激な変化を齎してしまったことをイーサンは知らない。




エイプリルフール特別ゲスト:嘘吐き絶対焼き殺すガール清姫サン

時系列はよく分からないイベント時空。「存在しないはずの2017年」に突如出現した特異点という感じで、ロンドンよりも極狭い区域なために少人数で来た感じ。何故二番目のジャック戦が乱入ポイントなのかは、僕のトラウマであるあの蟲BBAを間違っても出さないためです。あとジャックVSジャックがしたかった。

野良サーヴァントは皆感染して、黒幕の家族になってます。鉤爪の男ことファントムが言うクリスティーヌももちろん彼女。マッスルことスパルタクスの脳内も圧政=彼女を拒絶する、となっている次第。本編と違ってジャックにとって彼女は姉で、ミアはおかあさん。ミアがピンチなのは言うまでもない。対象を生かしたたまま感染し手駒にする事に特化した特異菌怖い。

何故か実現してしまったバイオのジャック VS Fateのジャック。余計にダメージを与えまくっているのでこの後のジャック決着戦が酷い事になりそうだけどディーラーがいるから大丈夫だ問題ない。

次回こそ本編。いい加減書き終えます。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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魔本と童話作家だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、FGO第二部一章を殆んど徹夜で二日で終わらせてモチベを上げたのにピックアップが礼装すら掠りもしないのでちょっと泣きそうな放仮ごです。アヴィケブロンが欲しいんじゃ・・・

前回は番外編でしたが今回は半月ぶりに本編更新です。お待たせいたしました。執筆が捗らないので実況動画などで原作ゲームを拝見してました。初めてゆっくり動画なるものに手を出しましたがアレはアレでいいものですね。

今回は童話作家と魔本との遭遇です。マイクVSネメシスまでは書けなかった・・・楽しんでいただけると幸いです。


フランを連れてジキルのアパルメントに戻ったオルガマリー達に伝えられたのは、ジキルの情報網・・・の電話から新たに得た別件。

 

ソーホーエリアにて、締め切られた屋内にまで現れて市民を襲う正体不明の何か。その正体は人間ぐらいの大きさの本だという。醒めない眠りに落とすそれは単体では被害は少ないが、そこにゾンビやウーズのことを考えれば寝ている無防備な隙に襲われてしまうのは容易に想像できた。

一先ず、「魔本」と呼称する事にしたそれを追い、情報提供者がいるらしいソーホーエリアの古書店に向かう事になった、のだが。たった今帰って来たばかりのオルガマリー達では遅くなるので、ちょうど近くを進んでいた立香一行に頼むことにした。

 

 

「貴女の性格だとすぐにでもマイクと合流したいんでしょうけど市民の危機とあれば死活問題よ。お願い藤丸」

 

『了解。ソーホーエリアならすぐ近くなので、マイクとの合流ついでに向かってみます。情報提供者さんも放ってはおけませんし』

 

「任せたわ。私達は・・・ロンドン全域への・・・多分全滅しているであろう警察署への救援の電信をジキル氏が受信したため、何者か・・・恐らくは切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)に襲撃されたらしい籠城状態のスコットランドヤードへ向かいます」

 

 

息を呑みそのまま黙ってしまった立香の声に一息を吐くオルガマリー。切り裂きジャックはいいとして、彼女が懸念しているのはもう一人だろうというのはマシュや武器商人からの報告で分かっていた。そんな状態の立香では危険すぎる為自分が出るしかない。すると、黙って聞いていたモードレッドが名乗りを上げた。

 

 

「オレも行くぜ。父上が何と言おうと、アイツには借りがあるんだ。襲撃してくるのはいいが何時も霧の中に逃げられる。おまけに姿かたちも具体的能力も何も思い出せねえ。切り裂きジャックと聞けばあのアサシンかと考えるだけで精一杯だ。もう一人連れ添っていたクラス不明のサーヴァントならいくらでも思い出せるってのに。ああ、くそ、もやもやしやがる・・・苛つくぜ。何でリツカたちは覚えているんだ?」

 

 

モードレッドの疑問に恐らくは武器商人のスキルである商人魂の影響だろうな、とオルガマリーは当たりを付ける。あのスキルはオケアノスのヘラクレスがガスと光を用いて使った幻影の様な物理的な物には滅法弱いが、魔術的な情報末梢などは効果が及ばないらしい。

 

 

「モードレッド、落ち着きなさい。我らは救援に向かうのです。決して独断行動はとらない様に」

 

「父上が・・・口を利いてくれた・・・!」

 

「・・・今のは必要事項です。マスター、とりあえず戦力は確保しました」

 

 

アルトリアの言葉に頷き、通信機に改めて言葉を述べるオルガマリー。あちらではマシュと武器商人に気遣われた立香が大きく深呼吸していたところだった。どうやら落ち着いたらしい。元一般人だからこうなるのも仕方ないか、とオルガマリーは魔術師としての思考で考える。やはり自分の役目だと。

 

 

「・・・とまあそう言う事でこちらの戦力は気にしないでいいわ。マスター二人のアドバンテージを活用しないと。それに、貴女も彼女達にはまだ会いたくないでしょう?」

 

『・・・お気遣い、ありがとうございます。でも危ない時は私の事は気にしないでください』

 

「そのつもりよ。そういう事は生粋の魔術師である私にやらせなさい。貴女は一応、一般人なのだから」

 

『・・・・・・・・・はい。こちらは任せてください。それぐらいは、やってみせます』

 

「くれぐれも無理しないように。いいわね?」

 

 

そう言って通信を切ると、オルガマリーはフランに一言ことわってからジキルに預けて外に出る。傍に控えるはアルトリアと清姫、そしてモードレッドだ。

 

 

「アルトリア、私を抱えなさい。全速力で行く、時間との勝負よ。人間の足に合わせる暇が惜しい。サーヴァントの全速力でスコットランドヤードを目指しましょう。清姫も敏捷をフルに利かせばセイバー二人にも付いてこれる筈よ。こういう時ライダーがいると便利なのだけれど・・・」

 

「居ない者を言ってもしょうがありませんね。では、失礼して」

 

「ちょっ、アルトリア!?」

 

「「!」」

 

 

言われるなりオルガマリーの背中に右手を回し、左手で太腿を担ぎ上げて正面に・・・いわゆるお姫様だっこで抱えたアルトリアに、モードレッドと清姫に衝撃が走る。

 

 

「申し訳ありません。普通に担ぐよりはこちらの方が大切に運べると思ったもので」

 

「・・・さらっとこんなことができるのはさすが騎士王ね。いいわ、このまま行きましょう」

 

「・・・どうしてでしょうか、ここに来てから何度も惨めな気分を味わってます・・・」

「父上のお姫様だっことか何だそれ、すげえ羨ましい・・・・・・」

 

「何をしているのです二人共。急ぎますよ!私は風王鉄槌(ストライク・エア)でマスターを守りながら突破するので二人は迎撃を!」

 

 

人間の気配を察知したのかぞろぞろと集まって来たゾンビ、ウーズ、モールデッド、ホムンクルスの群れを前にしてアルトリアは風を纏って突進。前方で待ち構えていた大柄なホムンクルスを蹴り飛ばして突破し、モードレッドと清姫もそれぞれ剣と扇を手にそれに続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、こちらはマイクと合流する前に古書店へと訪れた立香達。一応、合流後に向かうつもりだったのだが、ちょうど近くに着いた辺りで何者かが古書店から飛び出して行ったのを発見。しかしすぐに見失ってしまい、急を要するという事でマイクとはまた後で合流する事にしたのだ。

 

 

「ようやくか。お前達がヘンリー・ジキル氏の寄越した救援だな?待ちくたびれたぞ。おかげでボディガードは先に出張ってしまい、俺は読みたくもない小説を一シリーズまるまる読み切ってしまった」

 

 

そして、古書店の二階に上った奥、本で作られていたであろう壁が崩れたそこ、本に塗れた空間にいたのは、青い髪で眼鏡をかけた正装の、何ともいい声で開口一番罵倒して来た少年であった。前回のスギャグデッドの例もあるため警戒していた立香は拍子抜けしたが、すぐにそれ(・・)に気付き確認する事にした。

 

 

「貴方が情報提供者?・・・子供、にしてはおかしい言動。サーヴァント・・・?」

 

「だろうなストレンジャー。このタイミングで悠々と稀覯本なんて読んでいる子供が真面な訳がない。真名は教えてもらえるか?」

 

「めざといマスターだな、無能ではないらしい。そこは評価してやろう。アンデルセン。俺の名はハンス・クリスチャン・アンデルセン。クラスはキャスターだ。詳しくは俺の本を読め・・・と言いたいところだがそれは不要の様だな」

 

「作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセン・・・すごい、世界三大童話作家の一角ですよ、先輩!」

 

 

名乗りを上げた少年サーヴァント、アンデルセンを前にして興奮するマシュ。アシュリーも少し顔が輝いているのでファンらしいというのが分かる。

 

 

「落ち着いてマシュ。私も子供の頃に裸の王様とかみにくいアヒルの子とか好きだったけど・・・童話好きなの?」

 

「あっ、いえ、その・・・好きというか相当数の読み直しをした程度で。人魚姫は個人的に続編が読みたいです」

 

「結構な事だな。俺は暇潰しに村から盗んだ本を読んだ程度だ。セイバーオルタは例外として、お嬢様はどうだ?」

 

「私も子供の頃に読んだ程度かな。まさかこんな毒舌作家だとは思わなかったけど」

 

「ほう。その様子、隠さなくてもハッキリ分かるぞ!さては愛読者だな!サーヴァントにも愛読者か!21世紀は実に平和ボケした時代の様だな!」

 

 

立香とマシュ、アシュリーの反応にやりと笑みを浮かべて露骨に喜ぶアンデルセン。セイバーオルタはそれに溜め息を吐き、アンデルセンを警戒しながら言葉を紡いだ。

 

 

「ところで貴様、キャスターと言ったな。ならばここはお前の工房か?その工房から逃げ出す程の物なのかその魔本とやらは」

 

「はあ?何を言っている黒女。俺は作家だ、クソ弱いに決まっているだろう」

 

「宝具を使ってもか?」

 

「ふん、できてサポートがせいぜいだ。通常の聖杯戦争なんかに呼ばれて見ろ、敗北確定の雑魚だ。

魔本と遭遇したはいいものの俺一人では倒す事など不可能もいいところ。さらにはフィクションから飛び出してきた様なゾンビ共だ。あの女が乱入してこなければ俺は今ここにはいないだろう。そこで、肉体労働に適した者たちをここで大人しく待っていた訳だ」

 

「そんなサーヴァントもいるんだ・・・」

 

 

己の仲間であるキャスター二人のイメージが定着していたため、納得する立香を余所に、とある言葉にビクッと反応するディーラー。「あの女」とは先程古書店から飛び出してきたあの人影の事だと察しがついた。ではどうしてここを去ったのか?

 

 

「さて、今はこの古書店の話をしよう。古書店の老主人は既に魔本に襲われ、眠りに落ちたところを乱入して来たゾンビ共に襲われて同類と化し、俺のボディーガードの女がゾンビ共々仕留めた。実は俺も盗人の様な物で裏口から忍び込んだのだが残念な事だ」

 

「そのボディーガードってのは今言っていた女の事か。サーヴァントか?」

 

「ああ。お前と同じ、21世紀出身のサーヴァントだろう。何でも、こういう事の専門家らしい。特にふやけたゾンビとの戦い方は洗練された物だったな。黒いゾンビ相手には翻弄されていた様だが」

 

「バイオハザード関係者か。オケアノスのパーカーといい頼もしい事だなストレンジャー」

 

「そうだね、バイオハザード関係者で女の人、か。パーカーさんから詳しく話を聞いていた方がよかったね」

 

「あの時はエウリュアレを追っていて時間がなかった。時は金なりってストレンジャーの国で言うがその通りだな」

 

 

少なくともアステリオスの迷宮の中で意味も無い訓練もどきをしていたのだからそんなことせずに情報収集をすればよかった、と後悔する立香。ロマン達が色々聞いていたらしいが、それとこれとは別問題だ。

 

 

「だがしかし、その女のメインウェポンである銃などという物理攻撃ではあの魔本には通じない。攻撃は通っているのにダメージが入らない。それもそうだ、アレは一種の固有結界だからな。多くは空間に対して働くらしいが、魔本に限っては存在そのものが固有結界だ。愛読者に免じてさっさと結論を言うが、恐らくマスターの精神を映し出すサーヴァントなのだろう」

 

「なるほど、その魔本とやらははぐれサーヴァントなのか」

 

「つまりマスターがいないから実体がない、概念英霊。そう言う訳か。俺以外にも変なサーヴァントがいるもんだなストレンジャー」

 

 

納得したらしいセイバーオルタとディーラーであったが、チンプンカンプンの立香とアシュリーにマシュが固有結界について説明する。世界を塗り替える、魔法に限りなく近い大魔術。キャスターのサーヴァントと言えど使える者は希少であるらしい。

 

 

「今の奴はサーヴァントですらない、サーヴァントになりたがっている魔力の塊だ。眠らせていたのは単なるマスター捜しだろうな、放っておけばいずれソーホー市民全てが眠りに落ちる代わりに実体化するだろう。そうなれば眠ったまま衰弱死する輩がいるかもしれない上に、確実にバイオハザード被害はさらに広がる。あの女はそれを懸念したんだろう」

 

「バイオハザードを何度も経験したならそうなるのもしょうがない、のかな…?」

 

「だが実は簡単な事だ。名前が無い本を探すくらいなら名前を付けてやればいい。例えばそうだ、あの女にも一応言って置いたが誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)とかな」

 

 

そう言ってのけたアンデルセンに目を丸くする立香達。それもそうだ、名を名付けて実体化するなら先程までいたのであろうサーヴァントに倒してもらえばいい話のはずだ。当然の疑問を抱いたディーラーが尋ねる。

 

 

「何で今までしなかった?女のサーヴァントがいたんだろう?」

 

「ヴァカめ。今の奴はそう簡単な話じゃない」

 

「どういうこと?」

 

「あの女がここでゾンビを倒したせいでな、ちょうど迷い込んできた魔本にその血が降り注いだんだ。そして染み込んだ。あの女が言うにはそれは不味いらしい」

 

「「「「「!」」」」」

 

 

サーヴァントもどきの魔本に、ゾンビの血が染みついた。それはつまり、そういうことなのだろう。

 

 

「感染の恐れがあるという訳か。t-ウイルスの」

 

「そう言う訳らしいな。それで、魔本はこの古書店の二階、つまりここの隣にある書斎につい先刻まで潜み続け、実体化してもし変異でもしたらと手をこまねいていたのだが、ジキル氏に連絡を入れた後に魔本は何故か逃げ出してな。それを俺のボディーガードをほっぽり出したあの女が慌てて追って行ったという訳だ。だからお前達が俺をきっちり守れ」

 

「分かった、アシュリーお願い。・・・その魔本とボディーガードさんは今どこに?」

 

「ふむ。恐らく南方、ウェストミンスター方面だろうな。何かの唸り声が聞こえたからそれに引き寄せられたと考えるのが妥当か」

 

「・・・マイクとの合流地点・・・!」

 

 

何の偶然か。当初の目的地だった場所に向かったと聞き、急いで飛び出す立香。それにマシュとディーラー、セイバーオルタも続いた。

 

 

「アンデルセン!ジキルさんのアパルメントに避難をお願いできる?」

 

「ここにいても暇なだけだ。守ってもらえるのならばそうしよう」

 

「アシュリーはアンデルセンをジキルさんのアパルメントまでお願い。私達はその女サーヴァントと合流を・・・えっと、名前、分かります?」

 

 

去り際に尋ねた立香の言葉に、アンデルセンは「そうだ忘れていたな」と不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「もちろん聞いている。ジル・バレンタイン。それがあの女の名前だ」

 

「・・・そいつはありがたい。最初のバイオハザード事件「洋館事件」を機にバイオハザードをいくつも解決して来た、BSAA創始者メンバー「オリジナル・イレブン」の一人とレオンから聞いている。合流を急ぐぞストレンジャー」

 

「うん、急ごう!」

 

 

立香はマシュに、ディーラーはセイバーオルタに抱き上げてもらい、ウェストミンスターへの道を急いだ。セイバーオルタの肩に担がれたディーラーが仏頂面だったのは本人の名誉のために語らないで置こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、こちらはふよふよとそれなりのスピードで宙を飛ぶ魔本を追い掛けるジル。道中襲い掛かってくるゾンビやウーズを退け、彼女にとっては未知であるモールデッドも得意の体術で退けながらなため、本来なら直ぐに追いつくであろう追跡も長引いてしまった。

そう言えば、ラクーンシティで逃げる同僚を追い掛ける時もこんなだったな、と思い返していたジルは、思わず口が滑りその名を呼んでしまった。

 

 

「待って、待ちなさいナーサリー・ライム!」

 

「ナーサリー・ライム・・・いいえ、ちがうわ。それは名前じゃない」

 

 

ウェストミンスター橋の上で止まり、クルクルと回転してその姿が黒い服を着た少女の姿に変わる魔本、否キャスターのサーヴァントとして実体を得たナーサリーライムの目には妖しい光が宿っていた。ジルは思わず止まり、愛銃である拳銃、サムライエッジを手に身構える。

 

 

「私の名前は、アリス(あたし)。ありす、どこ?ここには・・・ありすがいない・・・ねえ、お姉ちゃん。ひとりぼっちのありす(あたし)はどこにいるの?」

 

「それは・・・分からないわ」

 

「ふうん。だったら、さがさなきゃ。ジャバウォック・・・はありすがいないから呼べないわ?だったら新しいお友達を呼びましょう」

 

 

ナーサリーライムの目が、紫色を塗り潰す様に紅く染まる。それは、ジルの仇敵である男の目と同じ。t-ウイルスによる影響だった。

 

 

「やるしか、ない・・・!」

 

「うふふふ、ありすをさがす邪魔をするの?いいわ、いいわ、遊びましょう。――――バンダースナッチ」

 

「なっ・・・!?」

 

 

そう言ったナーサリー・ライムの背後に現れたのは、退化した左手と下半身を補うように発達した巨大な右腕が特徴のタイラントの様なB.O.W. その名もバンダースナッチ。ルイスキャロルの小説「鏡の国のアリス」に登場する怪物の名を得た、量産型タイラントである。

 

「"あわれで可愛いトミーサム、いろいろここまでご苦労さま、でも、ぼうけんはおしまいよ"

 "だってもうじき夢の中。夜のとばりは落ちきった。アナタの首も、ポトンと落ちる"

 "さあ―― 嘘みたいに殺してあげる。ページを閉じて、さよならね!"」

 

 

そうナーサリー・ライムが詠唱するたびにジルを取り囲む様に増えて行くバンダースナッチの光景はまさに悪夢。十体のバンダースナッチに完全に包囲されたジルは、その中心に立つ少女に銃口を向けた。

 

 

「どうか燻り狂えるバンダースナッチに近寄らないで。ああ、ああ……楽しいわ楽しいわ楽しいわ!」

 

「・・・どうしたものかしらね」

 

 

狂喜の笑みを浮かべて広げた小さな掌をジルに向けるナーサリーライム。突如発生した火柱を咄嗟に側転で避けて、ジルは腕を伸ばして攻撃してきた近場のバンダースナッチの頭部に向けて引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子も誰かをさがしているのかな?」

 

「・・・・・・」

 

 

建物の上からその光景を見守る小さな影が二つ。そのさらに上、時計塔の上から見下ろす大柄な影が一つ。そして上空からは、ヘリが煙を上げて落ちて来ていた。

 




・バンダースナッチ:珍しいナンバリングでもリベレでもクロニクルズでもない、バイオハザード_CODE:Veronicaに登場するタイラントの量産型。どこぞのゴム人間みたいに腕を伸ばして移動と攻撃を行う。耐久力はタイラントの数倍劣るが機動力とリーチで勝っている。

・立香を気遣う所長
なんか士郎と凛みたいな関係になっている二人のマスター。今章の二話目で語った独白の通り、今まで助けられてきたことに負い目を感じている所長さん。二人だからこそできる事もあるというのは、原作にはない要素として重要です。

・所長をお姫様だっこする青王に反応する二人
モーさんはオルガマリーに、きよひーはアルトリアにそれぞれ反応。青王が少しデレてきたモーさんはともかく、きよひーは挽回のチャンスはあるのか。何気にメーデーさん以来の特殊タグを使用してみました。

・アンデルセンとバイオハザード系サーヴァント
殆んどが現代の英霊なため一度は読んだことがある設定。武器商人は勝手に寒村の(恐らく殺されたであろう)子供達の物を拝借。地味にアンデルセンの「平和ボケ」という言葉にちょっと反応している立香だったりします。

・前々回ぐらいのアンデルセンとジル
実はあれ、ゾンビの血を浴びた魔本を何とか書斎に閉じ込めた直後のシーンでした。止めないといけないのに自分のせいで面倒な事になったためジルさんは憤慨してました。

・アンデルセンとアシュリー
護衛される側だったアシュリーがアンデルセンの護衛役に。彼女としては感慨深い物がある模様。

・t-ウイルスに感染したナーサリーライム
僕は見ていませんが、アニメEXTRAでは異形化しているらしい彼女。ですがこの小説ではそんなことはなく、CODE:Veronicaの超人化したウェスカーの様に目が赤くなった他、キャスターであるため自らに関係のあるBOWを召喚する事ができる様に。バンダースナッチしかいないのはしょうがない。彼女曰く「新しいお友達」とのこと。橋の上での対決は、CODE:Veronicaのとある場所から。

・ナーサリーVSジルを見守る影達
小さな影が二つ。大柄な影が一つ。そしてヘリはたった今落ちてきた。現在オルガマリー達は全速力でスコットランドヤードに向かっています。原作既プレイヤーでなくとも一体これはどういうことなのか?となるでしょう。ヘリは・・・うん、運命と宝具には逆らえなかったよ。


次回は立香達とジルの合流、そしてオルガマリーside。よかれと思ってなあの人が登場。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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託されたんだ応えないとなストレンジャー

※諸事情により題名を変更しました。(4/20 7:34修正)
ウェルカム!ストレンジャー…どうも、最近ネタ集めのために見始めた実況動画でバイオ6が普通に好きになってしまった放仮ごです。レオン編のラスボスしつこすぎるけどすごく好み。Cウイルス入ること決定です。

そろそろ題名ネタが尽きて来ました。リベレーションズの題名風にもしたいですがアレはアレで僕自身のセンスが足りない・・・とりあえず四章が終わるまでは頑張って見ます。

今回は場面の移り変わりが激しいです。ネメシスVSマイク、ジルVSアリス(字面だけ見ればゲーム版VS実写女性主人公対決?)、そして最後には今回の黒幕が・・・?楽しんでいただけると幸いです。・・・あ、ナーサリー好きの方はプラウザバックをお勧めしておきます。


偵察を終えたライダーのサーヴァント・マイクは、自らのヘリのローター音に集まってくるゾンビやウーズを機関砲で駆逐しながら、ライトで濃霧を照らしロンドンの空を舞っていた。

 

 

「マスターとの合流地点までもう少しか。余裕だな」

 

 

銃火器を扱えるガナードなどならまだしも、群がるのは有象無象の衆。空を飛ぶというアドバンテージには遠く及ばない。そう確信しているからこその余裕であったが、時計塔を横切ったその時。彼を形成する人格の一人が警鐘を鳴らした。

 

 

「ちいっ!?」

 

 

飛来した飛行物体を、自らの人格をカークに替えてハットトリックのスキルを駆使、急旋回して回避する。見れば、そのまま放物線を描いて建物に直撃したのは、巨大な時計の短針であった。マイクに戻った彼は嫌な悪寒を察知し時計塔、ビッグ・ベンの文字盤をライトで照らすとそこにいたのは、異形の大男。

 

 

「スタァアアアアアアズッッッ!」

 

「クソッたれ!」

 

 

自らの人格の一つの持つ生前の知識から追跡者(ネメシス)と確信し、機関砲の銃口を向ける。重傷の様で腕だけでなく背中からも触手を伸ばしたネメシスは、文字盤に残る長針を両手に取ると二つにねじ切り、ヘリに目掛けて二連続で投擲。マイクは咄嗟に横に回避しながらミサイルを発射、投げられた二発目とぶつかり大爆発がロンドンの空に轟き爆炎が視界を埋め尽くした。

 

 

「スタァアアアアズ!!!」

 

「・・・そいつは反則だ」

 

 

爆炎が晴れた時、ネメシスが取り出しこちらに向けていたのはロケットランチャー。己の天敵であるそれを前に、マイクは、否。彼を形成する人格の一つは。逃げるだけでしかなかった生前と異なり、覚悟を決めた。

 

 

 

「・・・マスター。俺は、あの時。一人だけ逃げ出したんだ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マイク?こんな時に何の話?!」

 

 

古書店から離れ、急ぎウェストミンスター橋に向かう立香に突如送られてきた念話。それは初めて聞く声だったが、何となく分かった。マイクの、ヘリパイロットたちの一人の懺悔の声だと。

 

 

『俺は、ラクーンシティ警察の精鋭ともいえるS.T.A.R.S.αチームのリアセキュリティとして配属されて、調子に乗っていた。

 でも、他の奴等とは根本的に何かが違うって気付いてたんだ。プレッシャーに弱いし長いものに巻かれるしかない小心者。それが俺、ブラッド・ヴィッカーズという人間だ』

 

「ブラッド・ヴィッカーズ・・・」

 

 

マイクからは「救援が主だから滅多に出て来ない人格」と聞いていた人物の名に立香は嫌な予感を感じ、走りながら大人しく聞きに徹した。

 

 

『洋館事件の際、俺はゾンビ犬にビビって皆を置き去りに一人だけ逃げ出して、それで何人も仲間が死んで。怖くなって。

 しばらくして戻って、でも無線で連絡がつかなかったからただ偉そうに早く脱出してくれ、って。ただそれだけを何度も何度も流して。俺はお前達を見捨ててないんだ、って大義名分を作って。一晩中ただグルグルと上空を飛んで待機していた』

 

 

それは・・・しょうがないだろう。普通の人間なら、そんな怪物がうようよいる場所に戻ろうなどと思わない。自分だって逃げるだろう。むしろ、離れなかったのは十分凄いと思う。

 

 

『夜明けがもうすぐって所のガス欠寸前で合図が来て、でもクリス達を追い掛けて屋上に現れたバケモノが怖くて、バリーが持ち込んでいたロケットランチャーを落として。バケモノが死んでから迎えに降りて、飛び立って。ただ、それだけしかできなかった。いや、しなかったんだ』

 

 

そこで立香は気付く。彼は、無力な自分を卑下する己と一緒なのだと。いや、むしろ周りに英雄とも呼べる人間達がいたからその卑屈感は想像もつかない。

 

 

『せっかく生き延びたのにアンブレラと敵対するなんて言いだしたクリス達を拒絶して、非難して。そのうちラクーンシティが地獄になってS.T.A.R.S.を付け狙う刺客に襲われて逃げ惑って、ゾンビに襲われた俺を助けてくれたジルにS.T.A.R.S.に入らなきゃよかったと八つ当たりして。最後はジルの前で奴に殺された』

 

「なんで、今、そんな話を・・・?」

 

『・・・そいつが今、俺達を撃墜した追跡者(ネメシス)なんだ』

 

「なっ・・・!?」

 

 

慌てて進路方向、ウェストミンスター橋方面を見上げる立香。濃霧に隠れて見えないが、オレンジ色の火を上げたナニカが落ちているのを見付けた。遅かった。だがしかし、だとすればあそこには・・・

 

 

「皆、あそこ!」

 

「なんだ、ストレンジャー?・・・ちっ、野郎か!オルタ!」

 

 

言われるままに立ち止まり、マシュが盾を構えて自分を守るのを確認するとディーラーがロケットランチャーを構え、セイバーオルタがディーラーから受け取ったセミオートライフルを遥か遠くに霧の中に影だけ見える時計塔に照準を向ける。そこには、落ちて行くヘリには目もくれずこちらを見据えてロケットランチャーを構えるネメシスの姿があった。

 

 

「私が先輩を守ります!お二人は・・・」

 

「奴が(くだん)のチェイサーか。ここで仕留めるぞ!」

 

 

マシュの盾が直撃を防ぎ、爆発の余波に耐え抜いたセイバーオルタとマシュの影に隠れたディーラーが反撃。しかし器用に文字盤の縁を移動して回避したり、背中から伸ばした触手を鞭の様にしてロケット弾頭を叩き落として隙あらばロケットランチャーを撃ってくるとネメシスも負けてはいなかった。

オルガマリーから話は聞いていたものの初めて相対した追跡者の脅威に、立香は戦慄する。アレで何世代も前の生物兵器なのだというから恐ろしい。サーヴァント(反英霊)にまで至ったのは伊達ではない。

 

 

『なあ、マスター。今、下で苦戦しているジルが見えた。やっぱりアイツは俺達と違って一人前で英霊なんだな。それでももう、見て見ぬふりしていい訳が無いよな?』

 

「待って!今、令呪で助けるからちょっと持ち堪えて!」

 

 

絶え間なく襲い来る爆発に怖気付きながら盾から顔を出し、霧の中でもはっきり分かるほど火を噴き今にも地面に激突寸前のヘリを見る立香。最初の念話の時点でどうにかしなければいけなかった。今更間に合わないと分かっていても何とかしたい、そう思ったのに。返って来たのは否定の言葉。

 

 

『それは駄目だ。俺達の宝具はこうしないと活用できない。もう俺達は今回はこのまま落ちるしかないけど。後は頼んだ。ジルを、俺の仲間を、』

 

「駄目、ブラッド!」

 

『必ず助けてくれ、マスター』

 

 

そして爆発。ウェストミンスター橋からそう遠くない路地に墜落したヘリの残骸が周囲にばら撒かれ、その一つ。ヘリのローターがヒュンヒュンと唸りを上げて時計塔の文字盤に激突。ネメシスの体勢を崩し、それを好機と見たディーラーがハンドキャノンを取り出して構える。

 

 

「お願い。オルタ、ディーラー!」

 

「オーダーには応えるぜ。・・・よくやった、ストレンジャー」

 

 

ネメシスの放ったロケットランチャーを、オルタのセミオートライフルから放たれた弾丸が弾道を僅かに逸らし、発射後の硬直を狙いディーラーが両手で構えたハンドキャノンの引き金を引いた。決して遠距離用の武器ではないそれではあったが、的確な狙撃がネメシスの顔面に直撃。

 

 

「スタァ・・・ズ・・・」

 

 

ディーラーの持つ武器の中でも圧倒的な威力を以て頭部上半分を失ったその巨体は、足を踏み外して真っ逆さまに落下した。武器の扱いに精通したディーラーだからできた芸当に、立香は一息吐いて通信機器を操作した。

 

 

「・・・ドクター、ブラッd・・・マイクはちゃんと帰って来た?」

 

『ああ、でもダメージは大きいらしく今は回復に専念しているよ。今から彼が抜けた分の増援を送る準備を行なう。でも・・・これは不味いね』

 

『アシュリーも抜けてるし、今の三人じゃ君を守りきれないかもしれないね。さっきまで耐えていた爆発の音で誘き寄せられたのか、君達の居る場所に多数のエネミー反応が集まっている事が確認できた。マイクの援護があるならまだしもこいつは不味い』

 

「量はどれぐらいだダ・ヴィンチ?」

 

『それが・・・百を超えている』

 

「なんだと?」

 

 

ダ・ヴィンチちゃんの報告に、オルタと共に返り討ちする気満々で尋ねるディーラーであったが、続けて返されたロマンの言葉に思わず固まってしまった。そんな数が纏めてくれば一溜まりあるまい。応戦はできても立香を守り切れるかと言われると微妙だ。

 

 

『どうやらロンドン全体のエネミーが二か所に集い始めている様だ。そこ・・・正確にはウェストミンスター橋付近と所長達の向かったスコットランドヤード付近だ、サーヴァントが扇動して操っているとしか思えない動きだ。これは一体・・・?』

 

「もしかして、エヴリン?」

 

「ロンドン全体って事はゾンビやウーズ、ホムンクルスや機械人形もだろう。恐らく奴は関係ないぞストレンジャー」

 

 

B.O.W.を操ると聞いて先刻対峙した少女のサーヴァントを思い出す立香であったが即座にディーラーに否定される。思わず安堵の息を吐いたがすぐに背筋が凍り付く事になった。

 

 

「そんなに私が嫌い?」

 

「え・・・?」

 

「酷い人だね、おかあさん」

 

「先輩、下がってください!」

 

 

背後から聞こえた声に固まり、恐る恐ると振り返ると微笑を浮かべて立っている黒衣の少女と、その隣で不服とばかりに頬を膨らませている無表情の銀髪の少女。マシュとセイバーオルタが間に立ちはだかるも、余裕で佇む二人に立香はたじろぐ。その表情に浮かぶのは、焦燥と罪悪感。それを目にした黒髪の少女は不満げに鼻を鳴らした。

 

 

「エヴリン、ジャック・・・」

 

「覚えてくれたんだ。・・・ママでもないのに」

 

「じゃあ、約束どおり。おかあさんたちを解体するね」

 

 

苛立ちを形にするように両腕を黒く異形のものにするエヴリンと、無表情のまま楽しげに二本のナイフをマントの下から取り出し体勢を低くするジャック。ディーラー達も警戒態勢を取り、動揺する立香に指示を仰いだ。

 

 

「・・・どうする、ストレンジャー?」

 

「マシュ・キリエライト。何時でもいけます、先輩・・・!」

 

「やるとしても短期決戦だぞマスター」

 

「わ、私は・・・」

 

 

迷う立香を余所に、徐々に確実に異形の群れは近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふっ、逃がさないわ!」

 

 

一方、濃霧に包まれたウェストミンスター橋の上。行く手を遮るのは炎。氷。突風。メルヘンな見た目なのに爆発するお菓子に人形。そして巨腕の怪物(バンダースナッチ)

 

 

「武器が、足りない・・・!」

 

 

ジル・バレンタインはそれらを紙一重で掻い潜りながら、ハンドガン・サムライエッジの引き金を引いて確実にバンダースナッチを仕留めていく。

しかしどこから魔力を得ているのかナーサリーライムを中心に無尽蔵に放たれ続け、ついに弾切れしたハンドガンに弾込めしながら、橋の下から欄干に腕を伸ばして飛び出してきたバンダースナッチの顔をナイフで斬り付け怯ませると蹴り飛ばすジル。

 

どうやら足腰が弱く一本しかない腕で移動するバンダースナッチは直線的にしか動けない事を悟り、しかし増え続ける現実を直視し、武器がいる・・・そう確信したジルは手元の地図・・・己の宝具の一端に目を移した。

 

 

飛び掛かって来たバンダースナッチの頭部をナイフで一撫でし蹴り飛ばしながら見れば、すぐ真下にその表示がある。なんたる幸運か。手元にある、完全に弾が尽きた強化版ベネリM3S・・・ショットガンに目を移してから、欄干に手を付け・・・躊躇なく、飛び降りた。

 

 

「ええ!?」

 

 

その光景に驚愕したナーサリーライムは攻撃の手を一瞬止めて呆然と立ち尽くした。すぐに気を取り直し恐る恐る欄干に手をかけ見下ろしてみると、その顔に容赦なく炸裂弾・・・と呼ばれるグレネードが叩き込まれ、ナーサリーライムは咄嗟に突風で防ぎながら飛び退き、ジルは再びその場に返り咲いた。その手には、小型のグレネードランチャー・・・Hk-p グレネードランチャーが握られていた。

 

 

「・・・うふふふっ、まだやるのね!安心したわ、逃げられたらつまらないもの。楽しいわ楽しいわ楽しいわ!」

 

「貴女が完全にB.O.W.になったというのなら、容赦はしないわ。火炎弾!」

 

 

装填していた弾を入れ替え、構え直して引き金を引き、炸裂と同時に炎を発する火炎弾を発射。ナーサリーライムはそれを風で吹き飛ばしながらジルの傍らにバンダースナッチを向かわせると、瞬時に弾を入れ替えたグレネードランチャーから硫酸弾が放たれバンダースナッチは苦しみ悶えて消滅。

次々とバンダースナッチを向かわせるも、再度入れ替えれたグレネードランチャーから放たれた、極低温の液化窒素を噴出させる冷凍弾により凍り付き、蹴りで全て破壊されてしまい、たじろぐナーサリーライム。

 

 

「おかしいわおかしいわ!そんなに強いならさっきはなんで・・・」

 

「私は持てる物が限られているの。サーヴァントになったおかげでさらに極端にね。私の宝具はそれを補う物。これまたランダムだから使いにくいのだけどね」

 

 

詰め込まれた道具箱(アイテムボックス)。それがジル・バレンタインの持つ宝具の一つだ。ダビデの契約の箱(アーク)と同じく彼女の召喚と同時に複数個が半径五キロにランダムに設置される代わりに武器・弾丸などを最大六個までしか持てなくなる。設置されるのは人気の少ないところか、休憩所のような場所が多い。事実、先刻までいた古書店にもアイテムボックスは存在していた。

その内部は全て謎空間で繋がっており、さらに内部では時間が止まっており爆発物などでも安全に保持される他、一度入れて別の場所から取り出すという事も可能でさらに無尽蔵に収納できる空間拡張接続宝具である。彼女の所持しているマップには自動的に現在居るエリアが描かれ、それを元に探さないと行けないという一見面倒な宝具でもある。

 

彼女は橋の下のちょっとした足場にアイテムボックスがある事に気付き、飛び降りると同時に現在所持していた弾が切れたショットガンとハンドガンを仕舞う代わりに、生前対峙したネメシスに対して有効的だったグレネードランチャーの炸裂弾、火炎弾、硫酸弾、冷凍弾の五つを持ち出して来たのだ。ちなみに最後の一つはナイフである。

 

 

「まだ、やるのかしら?」

 

「まだ、まだよ。貴女と遊んでも楽しくないわ!ありすを捜す邪魔をしないで!」

 

「!?」

 

 

炎と氷が同時に放たれる。温度に落差があるそれらが合わさればどうなるか分からないジルではなく、咄嗟に飛び降りて回避。水蒸気爆発を背中に受けて水面に打ち付けられるも、水がクッションになったためそこまでダメージは受けなかった。

何とか岸に上半身を出してグレネードランチャーの弾を炸裂弾に交換し、見上げるジルだったがその時、予想だにしないことが発生した。

 

 

「逃がさないわ!“くるくるくるくる廻るドア。行き着く先は、鍋の中!”」

 

「なっ!?」

 

 

風で水ごと空に舞い上げられたかと思えば、ゴキッゴキッという嫌な音と共に、まるで人形の様な球体関節の右腕が伸びて来てジルの首を掴み持ち上げる。

ナーサリーライムの「ありす」への執着心が彼女の持つスキル「自己改造A」が発動し変異の進行を早めていた。今、マスターが彼女のステータスを確認すればキャスターには似合わぬ「筋力A」が見えるだろう。意地の悪い表情を浮かべたナーサリーライムは苦悶に歪むジルの顔を見て笑みを浮かべた。

 

 

「あはっ、楽しいわ楽しいわ楽しいわ!どうかしら!なくなっちゃうの?!脆いのね!」

 

「グッ・・・!?」

 

 

グレネードランチャーを手放してしまい、自らの首を締め上げる人形の腕に必死にナイフを突き立てるジル。血が噴き出るもナーサリーライムは意にも介さず締め上げ続けた。

 

 

「“あわれで可愛いトミーサム、いろいろここまでご苦労さま、でも、ぼうけんはおしまいよ。だってもうじき夢の中。夜のとばりは落ちきった。アナタの首も、ポトンと落ちる!”」

 

「キツいわね、これは・・・」

 

 

歴戦の戦士であるジルといえど、ここまで追い込まれた事は無い。ネメシスによってtウイルスに感染し行動不能になった事はあるが、それとは違い確実に殺す気で来ている締め付けだ。握力だけならネメシスにも勝っていると確信できた。

確かにグレネードランチャーの策は上手く行った。が、こうなるまでは予想だにしなかった。tウイルスに感染したからゾンビに変異するならまだしも、B.O.W.の形を取って来るとは思わなかったのだ。リッカーの様に他のゾンビを捕食し遺伝子情報を取り込んだからでもない。訳が分からない。

自己改造なんていうスキルがあるとは考えもつかなかった。また、短期決戦を想定しすぐそばにアイテムボックスがあるからと回復手段を持って来なかった。それが敗因だ。

 

 

「・・・アンデルセンは合流できたかしら。彼との約束は守れなかったわね・・・」

 

 

ふと、置いて来た少年サーヴァントを思い出す。彼の忠告も聞かずに誤って呼んでしまい実体化させてしまったらこれだ。侮っていた。サーヴァントにとって容姿なんてものはろくな判断基準でもないのに。

 

 

「中々死なないわ?うふふふ!見飽きてしまったけど貴女はもうバッドエンドよ」

 

 

業を煮やしたのか、引き寄せられる先には何時の間にか復活していた、腕を伸ばすバンダースナッチの群れ。応戦しようにもナイフでは無理がある。万事休すか、と諦めかけたその時。ナーサリーライムの肩に、異形の手が乗せられた。

 

 

「な、に・・・ヒッ!」

 

 

不機嫌な顔でナーサリーライムが振り向くと、そこにいたのはサメの様な不揃いの牙をカチカチと鳴らしたモールデッドが拳を振り被る光景があって。

思わず怯んでジルを締め上げる力を弱めたナーサリーライムを守るようにバンダースナッチの一体が迎撃。それにより生まれた明確な隙を突き、霧が立ち込める空から黒い影が飛来した。

 

 

「邪魔するぞ」

 

「なっ・・・!?」

 

 

ナーサリーライムの背後に舞い降りた黒い影、セイバーオルタは声をかけてナーサリーライムの標的を無理矢理変えさせると、モールデッドを迎撃したバンダースナッチを一閃。そのまま手にした剣を振り上げる。

 

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

「解体するよ」

 

 

暴風がモールデッドごとバンダースナッチの群れを薙ぎ払い、ナーサリーライムがその光景に茫然としていると高速で何者かが橋の上を駆け抜けたかと思えば、自らを掴んでいた腕の力が抜けるのを感じて抜け出し、着地したジルが見上げるとナーサリーライムの右腕が肘口から切断されていた。

 

 

「痛いわ痛いわ、すごく痛いわ!」

 

「終わりだ、魔本・・・!」

 

 

グレネードランチャーを回収してから橋の上に登り欄干にしがみ付いて確認すると、切断された腕を庇いながら叫ぶナーサリーライムを、右斜めに斬り捨てるセイバーオルタの光景が。よく見れば、古書店の方角からマスターだと直感的に分かる少女とそのサーヴァントだと思われるフードの男と三人の少女がやって来ていた。

 

 

「・・・ありがとう、ジャック。・・・それにエヴリンも、ジルさんを助けてくれて」

 

「礼はいらないよ、おかあさん(マスター)

 

「・・・ジャックが言うから。お前のためじゃない」

 

 

立香をマスターと呼ぶジャック・ザ・リッパーと、そっぽを向くエヴリン。先刻までありえないはずだった光景がここにあるのは、ちょっとした理由(ワケ)があるがしかし、それを語るのは後にしよう。

 

 

「もういいでしょ、あっちいけ!私に近づくな!ジャックはお前に心を許したかもしれないけど、私に構わないでよ!・・・お前に私の気持ちがわかるもんか!」

 

「うっ・・・」

 

「エヴリンさん、言いすぎです。先輩は・・・」

 

「まあマシュ。こいつはストレンジャーの自業自得だ。明らかにやり過ぎだったからな。今は殺さないでくれるだけありがたい。それよりも・・・無事か、ジル・バレンタイン」

 

「え、ええ。助かったわ」

 

 

そう言ってフードの男、ディーラーの差し伸べて来た手を受けとり橋の上に登り終えたジルは困惑気味に頷き、橋の反対側の入り口で斬られた腕を押さえながらセイバーオルタに向けてバンダースナッチを嗾けているナーサリーライムを確認、警戒しながら尋ねる。

 

 

「貴方達、もしかしてアンデルセンの救援かしら?」

 

「はい。カルデアという機関からこの特異点を修復に来ました、マシュ・キリエライトといいます。こちらの・・・ちょっと落ち込んでいる人が私達のマスターである藤丸立香です」

 

「つまり、この事態を解決するために来たのね。助かるわ。ところで彼女、一般人みたいだけど大丈夫?」

 

 

落ち込んで欄干に手を付き溜め息を吐いている立香と、「大丈夫?」と心配しているジャックとそっぽを向くエヴリンを見ながらそう尋ねるジルにマシュはちらっとディーラーに促し、集まって来たゾンビ達をマシンピストルを手に迎撃し始めていたディーラーは続けた。

 

 

「アンタ等BSAAには遠く及ばないが銃の扱いは様になってきたところだ、自衛ぐらいはできる。危なっかしいから保護者同伴だがな?

それよりも、だ。アレが変異した魔本、ナーサリー・ライムか。ジャックとエヴリンの協力からうちのセイバーオルタの不意打ちが決まったが・・・ストレンジャー。どうやら一筋縄じゃ行かない様だ」

 

「え・・・?」

 

「マスター、避けろ!」

 

 

ディーラーの言葉とセイバーオルタの叫びに、視線を向けてそれを見るや否や咄嗟にエヴリンを抱えて飛び退く立香。咄嗟に盾を橋に突き立てたマシュが弾いたのは、バンダースナッチの様な腕であった。

 

 

「“変身するわ、変身するの。私は貴方、貴方は私。変身するぞ、変身したぞ。俺はおまえで、おまえは俺だ”」

 

 

それは、呼び出すたびにバンダースナッチを容易く葬るセイバーオルタに苛立ち、スキル:自己改造Aにより身体に馴染んだt-ウイルスを用いたスキル:変化A+を使用したナーサリーライムの成れの果て。帽子がぱさりと地に落ちて、巨大な腕に潰された。

 

斬られた右腕の残った肘から上を突き破って現れた鎌の様な爪を持った腕とバンダースナッチに酷似した伸縮する剛腕、左腕の人形の様な腕はそのままいくつも球体関節を増やしながら伸びて、斬り裂かれた胸部と背部の傷口からそれぞれ人形の様な腕とバンダースナッチの剛腕を生やして、二つの剛腕で自らの小さな体を支えて持ち上げ、こちらに人形の様な腕を伸ばしながら鎌の様な腕を振り回す異形の姿ははっきり言って痛々しい。

 

 

「これはあたしが、私がありすに出会うための道程・・・ジャバウォックが居ないから負けるなら、私がジャバウォックになればいいの。そうよ、そうよねあたし(ありす)!楽しいわ楽しいわ楽しいわ!」

 

 

ジャバウォック、正確にはジャバウォックS3というB.O.W.が存在する。バンダースナッチを基盤に別のウイルスを用いたことで、足腰が強くなる代わりに伸縮自在の右腕は失われたが、代わりに身体の各部から5本の腕が生えて鋼鉄並みの硬度を持つ大鎌のような爪で攻撃や防御を行う、南米でレオンが遭遇した量産型B.O.W.である。

自らが感染したものとは異なるウイルスから生まれたそれに、偶然にも酷似した変異。彼女(アリス)あの子(ありす)を守るジャバウォックとは似ても似つかないとは、本人は決して気付かない。

 

 

「寂しい。アナタがいなくて悲しいワタシ。今、逢いに行くわ―――――何時か私たちが逢う為の寓話劇(ナーサリー・ライム・グラン・ギニョル)!」

 

 

誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)なのか。血生臭い大衆芝居(グラン・ギニョール)なのか。自らが何なのかさえも見失った魔本を前に、立香達は身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、スコットランドヤードでも局面は動いていた。ホムンクルスとゾンビ・ウーズの群れを蹴散らしたオルガマリー達の前に現れたのは、黒髪で片目を隠した白衣の優男と、裸の上からローブの様な衣服を着込んだ謎の美青年であった。

 

 

「貴方が、フランケンシュタイン氏の手記に書かれていた「魔霧計画」の三人の首謀者の一人かしら」

 

「はい。私は、キャスターのサーヴァント。貴方達の知る「計画」を主導する者の一人です。ああ、私の事は「P」とでもお呼びください」

 

「・・・P、それにホムンクルスを従えるキャスター。貴方の真名は・・・」

 

 

察したオルガマリーを制する様に炎が放たれ、清姫が振り払う。Pと名乗ったキャスターのサーヴァントはやれやれと首を竦めた。

 

 

「私たちにもいくらかの都合と事情がある。彼もその一人です。ゾンビが溢れだしてきたため、ある程度抑制し扇動するために我らの一人が召喚したサーヴァント。彼の事はそうですね、「M」とでもお呼びください」

 

「何をしてもムダさ…この街は既に私のものなのだ。君たちも邪魔なんだよ…」

 

「くっ・・・」

 

 

そう言った「M」の掌から湧き出してくるのは、一見アワビの様にも見える大量のナニカ。オルガマリーは生理的な恐怖に怯むも、直ぐに立ち直りピストルクロスボウを構えた。




謎の美青年「M」一体誰なんだー(棒読み)

・マイクVSネメシス
ネメシス+ロケランと言う天敵との対決。時計塔の針は映画スパイダーマン2が元。時計塔と触手で何か思いつきました。最後のアシストであるローターの攻撃は宝具の本領発揮。ここで脱落は、とある展開をするために必須でした。四章最初だけしか出番が無いなんてあんまりですよね。

・ブラッド・ヴィッカーズ
初代の脱出に置ける功労者にしてバイオ随一のヘタレ。ジルの目の前でネメシスの恐ろしさをその身で知らしめた人物。あと何故かコスプレロッカーのキーを持っている人。「救援」という局面にて顔を出す珍しい人格。最も立香と感性が似ている人間でもあります。

・ネメシス撃破
ハンドキャノンで顔面の上部を破壊し、時計塔から真っ逆さまに落下。これで生きているB.O.W.なんて・・・・・・6とかに普通にいたなあ(汗)忘れちゃいけない彼のクラスは追跡者(チェイサー)

・扇動されたエネミー軍団
無差別に徘徊していたはずが二か所に集中攻撃を開始。さらに立香達を襲撃するエヴリンとジャックコンビ。彼女達が仲間入りした理由は次回にて!

・英霊ジル・バレンタイン
クラスはアーチャー。宝具詰め込まれた道具箱(アイテムボックス)を用いて複数の銃火器を使用して戦う。3基準なのでメインウェポンはグレネードランチャー。なお宝具はあと三種類存在する。ジル・バレンタインの宝具といえば・・・?と考えたら、リベレにて(確か)ジルしか使えなかったアイテムボックスに決定しました。

・宝具詰め込まれた道具箱(アイテムボックス)
割とチートなバイオシリーズお馴染みの品。456とご無沙汰でしたが7で復活しました。また、アイテムボックスが置いてある部屋はネメシスやゾンビから逃げる避難所としても起用します。リベレではボス戦だけでなくラスボス戦真っ只中でも使用できる様に。今回ナーサリー戦の真っ只中に使用したのはこれが理由。

・変異ナーサリー(バンダースナッチ)
第一段階。バンダースナッチを無制限に召喚する他、自己改造Aスキルを用いる事で右腕を伸ばせるように。ジルを締め上げる程の筋力Aを持ち、ナイフ程度じゃダメージが通らないほど痛覚が失われている。元ネタはバイオハザード マルハワデザイアに登場する実験体C16こと変異ナナン。

何時か私たちが逢う為の寓話劇(ナーサリー・ライム・グラン・ギニョル)
第二段階。ダークサイドクロニクルズに登場したB.O.W.ジャバウォックS3を模した事で生まれたトンデモクリーチャー。簡単に言えば、上半身が異様に変異してクモみたいになったナーサリー。ジャバウォックS3と言うよりはダークサイドクロニクルズのラスボスの方が似ているかもしれない。元ネタはマルハワデザイアに登場する変異ビンディとCODE:Veronica及びダークサイドクロニクルズに登場するノスフェラトゥ。

・PとM
Pは原作と同じくよかれと思ってな人。原作ジャックのポジションで登場した謎の美青年こと「M」。原作FGOで「M」と言えば彼の事ですが・・・?そういえばどっちも若い頃は美青年で正体はアレだよねって話。共通点が在り過ぎたんだ入れるしかない。


次回はエヴリンとジャックが加わった立香達VSナーサリーライム決着戦。ジルの第二宝具が登場です。そして・・・?次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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クリティカルって奴だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、風邪を引いて症状が納まるや否や連日徹夜で書いているため頭痛に悩まされている放仮ごです。赤王の頭痛持ちの辛さを実感してます。なので今回はほぼ徹夜テンションでぐだぐだしているのはご了承ください。

今回はジル、エヴリン、ジャックが宝具解放。変異ナーサリーとの決着戦です。楽しんでいただけると幸いです。・・・あ、前回に引き続きナーサリー好きの方はプラウザバックをお勧めしておきます。


ロンドン各所。濃霧に紛れてそのナニカはテラテラと輝いて人知れず壁や天井、物陰などに張り付いていた。

 

 

ロンドンの家屋の一つの窓に張り付いたソレが鎧のサーヴァントと子供のサーヴァントが入っていく光景を見る。――――そこが奴等の本拠地か、捨て置こう。

 

 

ロンドンの墓地近くにて、水浸しのゾンビを雷電を纏った斧で薙ぎ払う金髪グラサンの大男と、呪符で黒い異形を燃やし尽くす狐耳と尻尾を持つ露出の激しい女性が見える。――――ここにも邪魔者か、どうしたものか。

 

 

ロンドンの路地裏のゴミ山から、槍を手にした三角頭の大男が頭を握り潰したゾンビを引き摺る光景が見える。――――アレが件のメフィストフェレスを殺した野良サーヴァントか。手駒にしたいが触らぬ神に祟りなしか。

 

 

ロンドンの時計塔付近にて、頭部がえぐれて沈黙する破損したコートの大男が横たわる姿が見える。――――こいつはまだ使えそうだ。

 

 

ロンドンのウェストミンスターの家屋の屋根下に張り付いたソレが、幼い少女二人と対峙している奇妙な一団を見付ける。――――そこにいたか、纏めて始末してやろう。

 

 

ロンドンのスコットランドヤード付近の花壇にて、高速で走るサーヴァントと人間の少女が横切るのを見る。――――ここに来るか、返り討ちにしてくれる。

 

 

ロンドンのウェストミンスター橋の欄干にて、我が子のウイルスの影響か異形と化した少女のサーヴァントが暴れているのが見え、巻き添えで潰された。――――まあいい、替えはある。あの様子なら放っておいても終わるだろう。

 

 

「どうやら邪魔者がここに来る様だ。どうする、P?」

 

「ではそうですね、戦力を整えて返り討ちにしましょうか」

 

 

それぞれの視点から情報を得た謎の美青年、Mは閉じていた目を開け、目の前で死体の後始末をしていた白衣の男に語り掛け策を練る。

 

 

数多くの視点を得るサーヴァント。その者は、全てのバイオハザードの原点(Zero)そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――それは、ジルがナーサリーライムと交戦し始めた頃。一触即発、とも言える立香達の戦いが始まる前に乱入して来たゾンビ・ウーズ・ホムンクルス・オートマタ・ヘルタースケルターの集団を前に、やむなく共闘する図があった。

 

 

「私は、エヴリン達とは戦いたくない」

 

「今更怖気付いたの?私をあんなに虐めたのに!」

 

 

蟹の様な両腕の鋏を振りかざして襲い来るウーズ・ピンサーを相手にハンドガンマチルダを零距離でぶっ放して撃退した立香の背後で、生み出したブレード・モールデッドでヘルタースケルターの剣と鍔迫り合いして押し返したエヴリンが苛立ちのままに叫ぶ。

立香は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて俯くとその隙を突いて襲い掛かって来た、一度倒されたものが復活し赤く染まったゾンビ・クリムゾンヘッドの突撃をマシュが受け止めた事で我に返り、ナイフをその顔面に突き立てて沈黙させるとエヴリンに答えた。

 

 

「それは本当に申し訳ないと思ってる。でも、ジキルさんから貴方達がまだ誰も殺してないって聞いて・・・戦う必要はないんじゃないかって」

 

「・・・・・・ママかジャックのおかあさんかなと思ったら全部ゾンビだっただけ」

 

「それでも、人を殺してないなら戦う理由も嫌う理由も無いよ。私が貴方にしたことの報いは必ず受ける。でもさっき、私のサーヴァントと約束したの。この先に居る人を必ず助けるって。先にその約束を守らせて」

 

 

言いながらディーラーから受け取ったライオットガンでエヴリンを狙っていたオートマタを粉砕する立香を、エヴリンはブレード・モールデッドの物にした腕でホムンクルスを真っ二つにしながら睨みつけ、怒りのままにゾンビ二体を串刺しにして吹き飛ばす。

 

 

「私にしたことを許してくださいって?絶対に許さない。お前に私の気持ちが分かるもんか!」

 

「許さなくていい。でも、必ず贖罪するから。・・・だからお願い、今だけでいい。力を貸して」

 

「先輩・・・エヴリンさん、私からもお願いします。今はマスターを守れる戦力があまりにも足りません。お二人に力を貸していただければ頼もしいです」

 

 

真剣な面持ちで見つめて来る立香とマシュに、エヴリンは少し考えてから溜め息を吐く。その間にも襲い掛かってくる輩を呼び出したモールデッドで撃退するのも忘れない。

 

 

「・・・じゃあ、ジャックのおかあさん(マスター)になるなら。私はいい、お前だけは絶対家族にしたくない」

 

「う、うん・・・それでいいなら。ありがとうエヴリン」

 

「ヒッヒッヒェ。随分と嫌われた様だなストレンジャー!下手これている場合じゃないぞ、早速新入りに働かせろ。そら、これだ」

 

「よろしくね、おかあさん(マスター)!ひとり、ふたり、さんにん。いっぱい。いっぱい。殺してあげるね!」

 

 

ディーラーから投げ渡された通常のハンドガンと共にナイフを振り回すジャック。すると的確に頭部・鳩尾・頸椎・肩口と急所を一撃で粉砕し、ヘルタースケルターとオートマタ以外の周囲に群がっていたエネミーが撃破され、立香は一度茫然としてから「え?」とディーラーに振り向いた。

 

 

「ストレンジャーにはまだ説明してなかったな。お勧めはしないハンドガンの限定仕様だ。持ってるだけで急所に的確に決まりやすくなる、って言う少しギャンブル性の高い物だが「殺人鬼」っていう人体を知り尽くしたジャック・ザ・リッパーが使う事で真価を発揮したという訳だ。機械共には通用しない様だが」

 

「じゅ、十分すぎる・・・」

 

「先輩、今の攻撃で包囲に穴が開きました!」

 

「急ぐぞ、マスター!」

 

 

そうやってジルの元へと駆け付けた立香たちであったが、対面したのはさらなる地獄であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グシャリ。ゾンビに気を取られていた所をその巨大な腕で踏みつぶされ、ディーラーはまた一つその命を散らす。だが気にしてなどいられない。すぐさまその場に姿を現したディーラーは反撃の如く自らを潰した腕をナイフで斬りつけるも意にも介さなかった。

 

 

「ウフフッ!嬉しいわ楽しいわ悲しいわ楽しいわ寂しいわ楽しいわ愉しいわ!」

 

「ちっ、ふざけたB.O.W.だ!」

 

 

そう言いながら取り出したキラー7を頭上に向けてぶっ放すディーラー。しかしそこに胴体があったはずの少女だったものは二本の巨大な腕を伸ばして器用に視界の端から端を這いまわり、しかもどこぞのサドラーと違って地面に接している腕も二つしか無いため狙っても直ぐに動かされ、非人型であるため型に嵌らない動きに翻弄され、交戦し初めて二度目の死がディーラーを襲う。

 

 

「ディーラー!」

 

「こっちの心配をしている暇があったら頭を働かせろストレンジャー!」

 

 

その頭部が転がり落ちて立香が絶叫、しかしすぐに死体の傍に現れた次のディーラーはバンダースナッチの伸ばしてきた腕に死体を掴ませて隙ができたところにキラー7を発砲。弾を装填しながらディーラーは現状を見定める。

 

 

「繰り返すページのさざ波、押し返す草の栞──すべての童話は、怪物たちは、お友達よ!」

 

「クソッ、またか!奴の魔力はどうなっている!?」

 

『恐らく魔力源はこの魔霧だ!つまり、オケアノスのヘラクレス・アビスと同じく無尽蔵と考えた方がいい。くそっ、どうすれば・・・?』

 

「せめて、ゾンビやウーズとかの邪魔が無ければ彼女に集中できるのにね」

 

 

もう何匹目か分からないバンダースナッチを斬り捨てたセイバーオルタの怒号に通信のロマンが応え、困ったようにジルが視界の端にちらほらする蜘蛛の様な動きのそれに注視しながら、襲い掛かって来たゾンビの頭部にナイフを突き立て奥の連中に突き飛ばす。

 

 

「ああ・・・・・・楽しいわ楽しいわ楽しいわ楽しいわ楽しいわ楽しいわ!」

 

 

巨大な二本の腕を動かしてウェストミンスター橋の周りを蜘蛛の様に這いまわるナーサリーライムは、狂ったように同じ言葉を繰り返しながら人形の腕の指を振るいながら詩を謡って飽きることなくバンダースナッチを呼び出し続け、さらに無駄に五月蠅いその声に引き寄せられてきたゾンビなどのエネミーも合流。圧倒的な物量がウェストミンスター橋に集まって来ていた。

 

立香達は互いに背中を預けて対抗、エヴリンの召喚するモールデッドやディーラーの渡す武器を使いこなすジルの活躍もあり拮抗する。しかしナーサリーライムはバンダースナッチを召喚しながら動き回るに飽き足らず、欄干の下に入ったかと思えば死角から鎌による攻撃で執拗に首を狙い、さらに隙あらば人形の腕で拘束し締め上げる。

 

 

「あはっ、もっともっと楽しみましょう!」

 

 

さらには人形の腕の指を振るい、炎、氷、風で妨害して来た。炎でモールデッドが弱るは、氷で銃が無効化されるは、風で体勢を崩したり吹き飛ばしたりとやりたい放題である。

 

 

「鬱陶しい!どうにかならないのママもどき!」

 

「ママもどきとは先輩の事でしょうか!?」

 

「多分そうだと思うから答えるけど、あの小さい方の腕さえ何とかなれば多分・・・」

 

 

生み出したモールデッドがあっさりと焼かれて苛立ったエヴリンの怒号に、ヘルタースケルターを殴り飛ばして他のエネミーに叩きつけるマシュの傍で立香は自分の考えを述べた。バンダースナッチの召喚こそ(詠唱)を謳っているものの、彼女の攻撃は鎌攻撃以外が全てあの人形の腕の動きに直結している。アレさえ破壊できれば、と考えたのだがそれは土台無理な話であった。

 

 

「なら聞くがジル・バレンタイン。あの敏捷Cの動きにマグナムを当てられるか?」

 

「無理ね。あのでかい足でも当てられないのに小さい方の腕なんて、多分クリスでも無理よ」

 

『銃の名手と謳われるクリス・レッドフィールドでも無理だとするとビリー・ザ・キッドレベルの歴史に名を遺すガンマンじゃないと無謀ってことさ立香ちゃん。まずは動きを止めないとだね』

 

『あんな無理な変異、何か弱点があるはずだ。炎、氷、風・・・それ以外ならあるいは・・・?』

 

 

デカい図体の割に本体が小柄な所為か推定:敏捷Cの素早さでノンストップで動き続けるナーサリーライムに攻撃を当てる事は不可能。動きを止める手段を考えるのはカルデアに任せ、立香は有象無象の足止めに専念する事にしてマチルダの引き金を引く。しかし三連バーストの弊害か、弾切れしまっていた。

 

 

「くっ・・・!」

 

「先輩!?ハアアッ!」

 

 

襲ってきたウーズの掴みかかりを、慌ててマチルダを両手で構えて押し付けて食い止め、マシュのシールドバッシュでウーズが殴り飛ばされた事により一息つく立香。予備の弾倉を、と懐を漁るが見当たらない。完全に弾が尽きた。外してないのに無くなったのは、一度に三発撃つ特性故かそれとも単に敵が多すぎるのか。

 

 

「しまっ・・・ディーラー、弾を!」

 

「こんな時にか・・・待ってろストレンジャー、コイツを倒したらすぐに行く!」

 

 

ヘルタースケルターの剣をライオットガンで受け止め鍔迫り合いしているディーラーを見て、時間がかかると判断した立香はナイフを抜いて構えた。エヴリンを圧倒こそした物の、体格差と勢いに任せただけであって立香は接近戦は得意ではない。こんなことなら他にも購入しておけばよかった、とは後の祭りだ。

そう考えながら飛び掛かって来たオートマタに身構え、すぐにその堅い体に通用しないんじゃないかと思い至り身構えた瞬間、横からマシュがシールドバッシュを叩き込んで退けた。

 

 

「先輩は私が守ります・・・!」

 

「ありがとう、でも無茶はしないでねマシュ」

 

「先輩にだけは言われたくないです。あ、そうだ。これをどうぞ。私では使いこなせませんが先輩なら」

 

 

そう言って手渡されたのは、マシュがディーラーから購入し愛用していたマシンピストル。残弾250発。これだけあれば、と立香は中腰で構えた。

 

 

「私の打撃では機械人形はともかくゾンビやウーズには通じません・・・先輩、お願いできますか?」

 

「任せて。マシュ、フォローをお願い!」

 

「・・・マシンピストル。そうだ、それなら・・・ねえ、そこの貴女!セイバーオルタ、だったかしら?」

 

 

応戦する立香とマシュを見て何を思いついたのか、傍で弾が切れたのかセミオートライフルの銃身を投げ付けてゾンビの脳天をかち割っていたセイバーオルタに声をかけるジル。

 

 

「なんだ、何か策でもあるのか歴戦の英雄殿?生憎と私はピクト人の殲滅なら慣れているのだがな、ゾンビは何時も商人頼りだ」

 

「そんな大層な物じゃないわよ?・・・それで、頼みたいのは援護なのだけど・・・できる?」

 

「何か逆転の手でもあるのか?」

 

「一応ね。でも無防備になってしまうから援護を頼みたいの。今は頼れるパートナーがいないから、任せられるかしら?」

 

「・・・愚問だな」

 

 

言いながらジルを背後から襲おうとしていたナーサリーライムの鎌を、ジルの顔横に突き出した剣先で弾き返すセイバーオルタ。その早業に満足気に笑いながらジルは欄干に手を付け身を乗り出した。

 

 

「頼もしい事ね。任せた!」

 

「任された!」

 

 

飛び降りるジルに襲い掛かる人形の腕やウーズ・トライコーンの矢をセイバーオルタが剣戟で弾き返し、その背中から襲い掛かろうとしていたウーズ・ピンサーに気付いた立香がマシンピストルで妨害すると、ジャックがピンサーの首を斬り飛ばした。

 

 

「ありがとうジャック。無事、セイバー?」

 

「助かったぞマスター。だが無茶はするなよ?」

 

「もう誰も犠牲にはしない、させない。ブラッドのためにもこの場を切り抜ける!ディーラー、マシュ、エヴリン、ジャック!セイバーオルタと一緒にジルさんの援護をお願い!」

 

注文(オーダー)には応えるぜストレンジャー。ほら、予備の弾倉だ」

 

「先輩は私が守りますので、皆さんは援護に専念してください!」

 

「元から守る気はないんだけど。・・・気が向いたら守ってあげる」

 

「解体するよ!」

 

「ウフフッ!楽しそうね私も混ぜて?!嬉しいわ楽しいわ悲しいわ楽しいわ寂しいわ楽しいわ愉しいわ!」

 

 

一塊になり四方八方から襲い来る外敵に備える立香達の頭上に胴体を浮かばせ、狂喜の笑みを浮かべながら人形の腕を伸縮させる凄まじい勢いのまま振り下ろしてくるナーサリーライム。

 

 

「っ!」

 

「遊んでくれないの?つまんないつまんない!」

 

「ハンターの首狩りより凄まじい威力・・・長くは持ちません、先輩!」

 

「ディーラー、一緒に!」

 

 

ブレードを出したエヴリンとマシュが受け止め、立香の弾を装填したハンドガンマチルダとディーラーのキラー7がナーサリーライムの頭部を捉えるも血が出たのみでビクともせず、振り下ろされた鎌の斬撃をジャックがナイフ二本の振り上げにより何とか弾き飛ばすと、今度は炎・氷・風による連続攻撃が放たれセイバーオルタの卑王鉄槌が吹き飛ばす。ジリ貧。そんな言葉が立香の頭をよぎる。

 

 

「セイバーオルタのエクスカリバー・モルガンなら・・・」

 

『待つんだ立香ちゃん!倒せるかもしれないが、こんなところで撃てば街にまで被害が及ぶ。それよりディーラー、手を思いついた。電撃グレネードだ。彼女の攻撃に存在しないその属性ならば可能性があるぞ』

 

「ウーズがうじゃうじゃいるここでは切札だが使わない手は無いか。だがこうも近いと俺達までもろに電撃を喰らうがどうするストレンジャー?」

 

「え!?えっと・・・ジルさんの秘策が何かも分からないし、どうすれば・・・?」

 

 

上からはナーサリーライムの猛攻。横からは路地裏から次々と現れるゾンビとホムンクルスの群れ。下からは湧き出してくるウーズ。数分前から機械兵は何故か現れず、モールデッドもエヴリンがすぐに支配下に置いているのでまだマシになった方だがジリ貧なのに変わりない。万事休すか、と思われたその時。

 

 

「――――私は暗い穴の中で育てられた。仮釈放もない囚人のように。やつらは私を閉じ込めて魂を奪った。やつらが作り上げたものを恥じるがいい」

 

 

聞き覚えのある詠唱がすぐ傍から聞こえた。見れば、ブツブツと呟くエヴリンの足元から湧き出した黒いカビが下の川に流れ、そこから何か巨大な物が複数のオレンジ色の眼をぎょろぎょろさせながら出て来るのが見えた。

 

 

「私は彼を呼んだ、そして彼はくるだろう。彼は手を伸ばすだろう。愛する彼女を取り戻すために。そして彼女は私を愛してくれない彼を殺すのだ。

――――必要なのは(特異菌)水辺(所縁ある場)。来て、私のパパだった嫉妬深い男、私の知ってるもう一人のジャック。イーサンに何度殺されても家族のために戦う優しいパパ。

ようこそ、私の家族(ウェルカム・トゥ・ザ・ファミリー)

 

 

それはエヴリンの宝具の真名解放。現れたのは、もはや人型でもない黒く巨大な目が異様に多い異形の化け物。全身が黒い泥の様な物で出来ていて、膨れ上がった胴体から生えた複数の手と全身がアンバランスであり、伸びた首の先にある逆さ顔面にある大きな右目と小さな左目がエヴリンを襲うナーサリーライムを睨みつけた。

 

 

「お願いパパ、ジャック・ベイカー。そいつを殺して」

 

「これは、大質量を伴った魔力の塊・・・エヴリンさんが喚び出したのはサーヴァントに限りなく近いナニカです、先輩!」

 

『出せるのはモールデッドだけじゃないのか・・・!?彼女は一体、何者だ?』

 

「ウェスカーの宝具と同種か・・・ストレンジャーも厄介なサーヴァントに嫌われたものだ」

 

「・・・これ以上嫌われない様に努力はするよ」

 

 

無言で自らの体を引き摺って橋の上に上がり、その巨体と両腕を以てナーサリーライムに組みつくジャック・ベイカー。それを見ながら立香は顔が引きつるのを感じた。

 

 

「あはっ、私と同じなの?ならいっぱいたくさん遊べるのね!愉しいわ愉しいわ愉しいわ!」

 

 

するとナーサリーライムはすっかり立香たちから興味の対象がジャック・ベイカーへと移り、取っ組み合いを始める。それはまるで、すぐに次の玩具へ興味を移す子供の様。しかしそれが、立香達にはちょうどよかった。

 

 

「エヴリンありがとう。みんな、ここを離れよう!」

 

「巻き込まれたら俺でなくても死にそうだ」

 

「いや、待て。今奴は知能を殆んど失ってる・・・商人、奴を川に落とせば行けるぞ」

 

「なるほどな。ストレンジャー!」

 

「うん、エヴリン!ナーサリーライムを川に突き落とせる?」

 

「・・・殺して、パパ!」

 

 

立香のお願いに嫌々と言ったエヴリンの言葉に、ナーサリーライムの細い胴体を黒い拳が捉え、橋から引き剥がして川に叩き落とすと追撃とばかりに自らも落ちて大質量の圧し掛かりがナーサリーライムに飛来。しかし仕返しとばかりに巨大な両腕で受け止めたナーサリーライムの鎌がジャック・ベイカーの顔面の目に突き刺さり、反撃として伸ばした複数の腕がナーサリーライムを殴り飛ばして川の中でキャットファイトが始まる。

水飛沫が飛び散り、水柱が立て続けに起こるその乱闘はさながら怪獣大決戦。(キャット)なんて可愛らしい物ではないが、戦いと呼べるものでも無かった。

 

 

「水遊び!濡れるのは嫌だけど愉しいわ愉しいわ愉しいわ!」

 

「・・・・・・B.O.W.同士が戦う光景なんてそう見れないわね・・・」

 

 

未だ原型を保っている可愛らしい衣装をびしょ濡れにしながら歓喜の声を上げ、巨大な腕を鎌と共に攻撃に回して自らの足で立ってピョンピョン跳ねるナーサリーライムと、無言のまま取っ組み合うジャック・ベイカー。霧がなければ綺麗な虹が見れた事だろう。

アイテムボックスを整理していてソレ(・・)を取り出した瞬間に水飛沫を受けてびしょ濡れのジルがその光景を見ながらぼやくも、すぐに気を取り直して上へと声をかける。

 

 

「準備は出来たわ、カルデアのマスターさん!」

 

「分かりました!今だ、ディーラー!」

 

「そろそろ悪夢から醒めようか。なあ、ストレンジャー(お嬢ちゃん)・・・!」

 

「ッ、キャアアァアアアアアアッ!?」

 

 

その瞬間、立香の指示で正確に狙いを定めたディーラーの投擲が取っ組み合う両者の真ん中に飛来。電撃グレネードが炸裂し、蒼い電光と共に両者に電撃が襲い掛かる。濡れている為威力も増して逃げる事も出来ず、予想だにしない衝撃にナーサリーライムの悲鳴が響き渡る。

中途半端に自我がある分こういうところが心苦しいが立香は心を鬼にして目を背け、襲い掛かって来たゾンビをマシンピストルで怯ませ後頭部を掴んで川に突き落とした。

 

 

「みんな、ゾンビやウーズをできるだけ川に突き落として!ジルさん、お願いします!」

 

「了解よ」

 

 

それは、ジル・バレンタインがラクーンシティから脱出する際に見付けた、軍が使用したと思われるガトリング銃。ゾンビの大群を前に使ってみたはいいものの、あまりにも強い反動と重量から殲滅した後にその場に残してきたものがどういう訳か宝具になったもの。

宝具となったそれは、詰め込まれた道具箱(アイテムボックス)から取り出す際に所持枠を全て圧迫するが、代わりに魔力が続く限り文字通り無限の弾丸を連射し続ける事が可能という破格の性能だ。ディーラーが持つ反則武器と同じである。・・・・・・・・・あちらがスキルなのはクラスの差異からだ。

 

ディーラーが「いい武器だ」と唸る。立香が感嘆の声を漏らす。ロマン達がモニターの向こうでおよそター●ネーターが持つであろうそれを軽々と腰の位置に抱えて顔を出したジルに絶句した。

 

 

「一気に制圧するわ!無限の弾丸(アンリミテッド・ガン・バレル)!」

 

 

未だに痺れているナーサリーライムに、ジャック・ベイカーやどんどん突き落とされて来るゾンビやウーズごと狙いを定める。大まかで結構、例えゾンビの大群であろうと殲滅できる代物だ。腰の位置に抱えたそれの複数の銃身が高速回転、多数の弾丸の嵐が放たれた。

 

 

「痛いわ苦しいわ悲しいわ!どこなの!?貴女はどこにいるの?ありす!」

 

 

ジャック・ベイカーの巨体の陰に隠れて盾にするも直ぐに粉砕され、圧倒的暴力を真面に受けたナーサリーライム。頭部を何度も撃ち抜かれ、両足は砕かれ、腕を何度も千切られるも、執念からか再生し続けながら狂乱したかのように当たりかしこに人形の腕を伸ばす。

 

 

「ひとりぼっちはさみしいわ。わたしよりも小さな人たちでお人形遊びをしてみたけれどつまらない!いいえ、やっぱりさみしいわ!みんな笑顔のハッピーエンドがいいわ、バッドエンドはもうたくさん!」

 

「これでも倒し切れないの・・・!?」

 

 

這い上がろうとしているのか、欄干に伸ばした巨腕も気付いたジルの掃射で砕かれて落ちるナーサリーライム。足が砕けて立てなくなったためか跪きながら五つの腕を周囲に伸ばして暴れ、銃身がオーバーヒートを起こして排熱するために一度下ろしたジルを鎌が襲う。そのピンチを救ったのは、飛び降りて来たセイバーオルタの剣だった。

 

 

「・・・助かったわ」

 

「任されたと、言っただろう?・・・冷えるまでどれぐらいだ商人?」

 

「恐らくは十数秒だな。それでも規格外だが、その前に奴の再生が終わるぞ」

 

「ちっ・・・埒が明かないな」

 

「恋しいアナタ(ありす)と寂しいワタシ(アリス)、一つの夢を繋ぎましょう――物語は永遠に続く。か細い指を一頁目に戻すように。あるいは二巻目を手に取るように。貴方達に終わりはないわ。みんな一緒に終わりましょう?」

 

 

再生し続ける祈る様に跪いたその小柄な体躯から、およそ質量を無視したバンダースナッチの腕二本と人形の腕二本、鎌を備えた球体関節の腕が一本縦横無尽に駆け巡り、さらに呼び出されたバンダースナッチ数体が腕を伸ばす様はまるでタコの様。その顔には、痛みからか引き攣り始めたものの笑顔を張り付けたままであり、必死に抵抗する己の獲物を凝視していた。

倒すには一撃で、もしくは再生できない程の強力な連撃で倒す必要がある。しかし銃弾による攻撃は時間を少しでもかければすぐに再生し、先程の絶え間ない不意打ちから変わったとはいえ攻撃の雨。とても近づけない。ナーサリーライムを観察していた立香はそれに気付いた。

 

 

「ジャック、宝具でとどめを!」

 

「うん、殺しちゃおう」

 

「右側から狙って!」

 

 

立香の指示を受け、橋上のゾンビ狩りを止めて飛び降り、五つの腕の乱舞の中に飛び込むジャック。飛んで火に居る夏の虫と言わんばかりに攻撃が殺到するもジャックはアサシンとしての高速軌道でそれらを回避して行く。

 

 

()よりは地獄。“わたしたち”は炎、雨、力――――」

 

「ジルさん、もう一回お願いします!ディーラーも!」

 

 

現在のナーサリーライムは、元々の人形の腕である左腕を伸ばして背中からもう一本生やして、球体関節の強みを生かして角度を無視して伸ばしており、セイバーオルタに斬られた右腕から巨腕と鎌を、胸部の傷口から巨腕を伸ばしている。先程までは巨腕を足代わりにする必要上、右腕側を下に前にして左腕側を後ろに回していた。

これが何を意味するのか。巨腕二本とその間に生えた鎌を前にしている為、どうしても顔が左側を向きやすく、右側に視線をやるには首をぐるっと回す必要があるのである。つまり元が人型で自我をある程度残しているが故のどうしても生じる死角だということだ。

 

 

「ええ!活路を拓くわ!」

 

「いい注文(オーダー)だ。終わらせるぞストレンジャー」

 

 

それを理解したのであろう、銃身を冷却し終えたジルの、ディーラーのシカゴタイプライターも加えた援護射撃。前面からの銃撃に気を取られ、ジャックの迎撃から意識を移してしまうナーサリーライム。否、その瞬間ナーサリーライムはジャックの「情報末梢」のスキルにより完全にその存在を忘れてしまっていた。

 

 

「殺戮を此処に……解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

 

 

疎かになった右側から猛スピードでナニカが自らの体を大きく斬り裂いたのを感じたのを最後に、ナーサリーライムは文字通り崩れ落ちた。我に返って見てみれば、そこにあるのはバラバラに切断され水没した自らの肉体だった物。

 

スキル「情報抹消」によって事前に対策を立てない「対処不能」、守りを固めて耐えようと物理攻撃ではなく極大の呪いであるため「防御不能」、どんなに逃げようと霧の中ならば必中の「回避不能」、使えば相手を確実に絶命させる「一撃必殺」のこの宝具。

 

成立させるのに必要な条件は「時間帯が夜」「対象が女性」「霧が出ている」の三つ。満たされば、狙われた女性に命は無く、問答無用で解体する。それが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の宝具だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

水面から顔が半分上がり、傍に浮かぶ自らの人形の腕の残骸をぼんやりと見詰めると視線を上に向ける。橋の上から自らを見下ろし悲壮感に満ちた表情を浮かべる少女を見て、金色の粒子に包まれながらナーサリーライムは納得し小さな笑みを向けた。

 

 

「・・・やっと気付いた。お人形遊びをしていたけれど、本当のお人形は(アリス)だったのね。私は用の済んだパーティーの飾り。血まみれの大衆芝居(グランギニョル)じゃなくてみんな忘れた物語なのだわ。今更そんなことに気付くなんて。

バッドエンドは悲しいわ。みんなが笑顔のハッピーエンドが、一番だけど・・・でもここには、ここには・・・やっぱりあの子(ありす)はいないもの。わたし(アリス)にハッピーエンドは来ないのだわ・・・だからせめて、血塗れた絵本(わたし)を最後まで読んで(戦って)くれた心優しい貴女には、ハッピーエンドが来るように祈っているわ」

 

 

そう言葉を紡いでから誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)は水没し、跡形もなく消えた。最期の笑みを見てしまった立香は欄干に手をかけたまま顔を伏せて蹲り、マシュは何も言えず、戻ってきたディーラーが声をかける。

 

 

「気にするだけ無駄だストレンジャー。ウイルスやプラーガは一種の麻薬の様な物だ。ありもしない幻想を見せる。だから手を出す奴は後を絶たない。あの物語も、居もしない読者を夢想し続けたからああなったんだ。いや、確かに居たんだろうな。ここではないどこかに。サーヴァントもどきの奴があの姿を取る理由になった少女が。いたからこそあそこまで必死になってたわけか」

 

『あの異様な変異も、不安定な魔本だったからこそだろう。何にしてもよく彼女のウィークポイントに気付いた。お手柄だよ立香ちゃん』

 

「・・・そんなことない。今回力を貸してくれたジャック、エヴリン、ジルさんがいなければ私は何もできなかった・・・このロンドンで、私は何もできてない・・・」

 

 

つまるところはそこだ。このロンドンにて、立香がした事といえばマイクを犠牲にジャックとエヴリンを仲間にして、ウイルスに感染したサーヴァントを止めただけ。

対してオルガマリーは着々と異変の中核に迫ろうとしている。先刻ジルに、一般人じゃないのか?と心配された事を思い出す。自分は居なくてもいいんじゃないか、そんな考えが脳裏を埋め尽くしていた。それを見かねたマシュが意を決して口を開いた。

 

 

「いいえ。先輩がいなければジルさんはここで死んでいました。先輩がジャックさんとエヴリンさんを説得したからジルさんを助ける事ができた。・・・ブラッドさんとの約束を守れた。それは確かな事実です」

 

「さっきはあんな事を言ったけど、訂正する。貴女は立派に戦っている。何もできてないなんてことは無いわ、絶対に。サーヴァントにマスター。少し変わっているけどパートナーの形の一つ、いいものね。特に貴方とそこのマシュって子。・・・それと商人さんとセイバーオルタと呼ばれていた彼女。あと、ジャック?とエヴリン。いい信頼関係だと思うわ」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

 

同じ女性で数多のバイオハザードから生還したと尊敬していた人物から褒められ、顔を赤らめたじたじの立香。そんな余韻を崩す様に通信機が電子音を鳴らした。

 

 

『立香ちゃん、緊急事態だ。できれば君のカウンセリングをしたいところだがそうもいかなくなった』

 

「どうしたんだドクター。またゾンビの群れか?そいつは勘弁して欲しいな、ストレンジャーの体力が持たないだろう」

 

「待って、もしかして所長に何か?」

 

『君も知っての通り所長はスコットランドヤードに救援に向かったんだが警官隊は全滅。現在所長が清姫・アルトリア・モードレッドを率いて謎のサーヴァント二名と交戦中だ。恐らくはこの魔霧を発生させた三人の魔術師と思われる。それよりも問題はこちらの拠点だ。急いで戻ってくれ!』

 

『単刀直入に言おう。君達と戦っていたゾンビの群れの一部が、ジキル氏のアパルメントを襲撃している。どうやらあちらの一人が、ウェスカーと同じゾンビを操る術を持つ様だ。急いでくれ!』

 

「ええ!?」

 

 

一難去ってまた一難。どうやらバイオハザードに墜ちたロンドンで休息の時間はそう簡単に訪れないらしい。




・何故今回一万字越えしたのか?
変異ナーサリーをバイオハザードのボスっぽくしたら当初の予定より強くなりすぎてぐだぐだなっただけです。こんなバイオのボスがいたら詰める気がする。

・ロンドン各所で見張るナニカ
前回登場した「M」の持つ数多の視点。宝具の片鱗です。これで正体はほぼ確定ですね。

・エヴリンとの和解
止むを得ない共闘からの、ガチ謝罪+懇願。嫌う理由も無い、と言ったのが一番大きかったり。未だに許されてないので割と危険ですが、少しでれてきた模様。なお、作者はバイオ7本編のエヴリンは許せますがEndOfZoeのエヴリンの所業は許せなかったりします。

・限定仕様ハンドガン+ジャック・ザ・リッパー
何時だか感想で教えてもらったネタ。限定仕様ハンドガンは、ハンドガン&体術&ナイフによる攻撃のクリティカル率アップという、ジャックだけでなくビリーにアサエミ、式さんやマルタさんにもお得な品。ただしディーラー本人もよく分かってないからあまり使われない不遇さんです。ギャンブル性より堅実さ。しかしこれの効果もあった宝具は変異ナーサリーには完全にクリティカル決まってました。

・二回死んだディーラー
変異ナーサリーは、右腕と胸部から生えたバンダースナッチの腕による踏み潰し、鎌による首狩りと即死攻撃持ち。ディーラーだったからよかったですが立香やジルとかでも即死してます。バイオシリーズの即死攻撃はハンターを始め初見殺し過ぎると思う。

・変異ナーサリー(第二形態)
バンダースナッチの腕でクモの様にワシャワシャ橋の周りを動きながら鎌による不意打ちを繰り出す戦法の他、上記の即死攻撃や複数の厄介な能力を所持している、ラスボス手前のボスをイメージした強さ。子供の癇癪の様に暴れ回ったり興味が直ぐに移ったり、変異前よりもその行動は幼児に近くなっており、途中から「愉しいわ」しか連呼しなかった事から分かる通り、あの子(・・・)を捜す事よりも玩具で遊ぶことの方を優先させる様になっている。
結構身軽で腕を使って軽々跳躍したりするが、着地直後に一瞬硬直する。弱点武器は電撃グレネード。弱点部位は変異していない頭と足と、壊せば再生しない人形の腕。

 ・バンダースナッチ召喚
第一形態から使っていた能力。「繰り返すページのさざ波、押し返す草の栞──すべての童話は、怪物たちは、お友達よ!」と詠唱して呼び出すお友達。腕の伸びる範囲内が彼女の「工房」と化しており、言い終えればポンッと出せる。なお呼び出している途中でハンドガンでもいいから頭を撃ったりで喋らせなければ止めれるが、動き回っているので困難。

 ・狂ったように同じ言葉を繰り返す
これがある意味一番厄介。何故か周囲に集まっていたゾンビなどに五月蠅い大声で居場所を知らせて呼び寄せる、いわゆる無限ゾンビ湧き。

 ・人形の腕による締め付け
左腕と背中から生えて自在に伸ばせる人形の腕による防御不可能の締め上げ。すぐに振りほどかないと軽く首をぽきっと折ってしまう怪力。また、伸縮させる勢いを利用した叩き付けはマシュとエヴリン二人がかりでやっと止めれる程。

 ・三つの属性攻撃
元々使える炎、氷、風の三つ。これによりそれぞれ冷凍弾、火炎弾、炸裂弾とジルの持つグレネードを無効化できる上に、氷で銃器を凍らせて来るディーラーの天敵。人形の腕の動き(ゲームでの攻撃モーションと同じ)に直結しているため、人形の腕さえ壊せば・・・なのだが動き回っているので困難。

・ハンドガン・マチルダの弾が切れた立香
これまでこまめに弾を補充して来たものの、今回のあまりの物量についに切れてしまった。元々弾が減る頻度が他の銃の三倍なので、連戦だとこうなりやすい。持て余していたマシュのマシンピストルを拝借、マシュよりも使いこなしていたりする。立香の得意武器は連射系であり、エイムはかなりいい方。

・エヴリンの宝具「ようこそ、私の家族(ウェルカム・トゥ・ザ・ファミリー)
文字通り、自らの有する「特異菌」の副産物である「家族」の力を借りる宝具。ウェスカーの宝具の特異菌版とも言える宝具。特異菌で構成されている物なら再現・形成して召喚する事が出来る。
なお、「お願い、パパ!」などと言っているがジャックをやる気にさせる為でありエヴリン本人は新しい親を求めていたりするナチュラル外道である。
何気にディーラーと同じく「ウェルカム」で始まる宝具だったりする。

・呼び出されたジャック・ベイカー
番外編にて登場した彼の成れの果て。イーサンとのチェーンソーデスマッチで大ダメージを負った肉体が過剰代謝により膨れ上がり復活した姿。全身に在る目が弱点だがその攻撃は大振りで、割と避けやすい。ちなみに今回はエヴリンが呼び出した物であるため喋らなかったが意思はあり、本来は戦っている最中ずっと喋っている。

・ジルの宝具「無限の弾丸(アンリミテッド・ガン・バレル)
ぶっちゃけバイオ3の隠し武器。ネメシスさえ直ぐに鎮圧できる凄い武器。ディーラーはこれとほぼ同じ性能の武器をスキルで使えたりする。
詰め込まれた道具箱(アイテムボックス)に全部のアイテムを預けるというデメリットの上で使用可能となる。名前は似てるが某無限の剣製とは無関係。台詞はPXZ2から。

・変異ナーサリー最終形態
足が砕かれて跪き、生への渇望から尋常じゃない再生能力を得て今まで移動に使っていたバンダースナッチの腕も攻撃に転用して来た形態。ジルの宝具とディーラーの電撃グレネードにより少し正気に戻ったものの、ありすを探し求める「手」を伸ばして竜巻の如く振り回し周囲を蹂躙する。元ネタは「深夜廻」のとあるボスとバイオ5のウロボロス・ウェスカーの竜巻攻撃、FGOのアビゲイル・ウィリアムズの攻撃モーション。
通常のバイオハザードならロケットランチャーでとどめを刺すべき相手。その攻撃は防御も兼ねていて攻撃を跳ね除けるが、右側の防御が疎かであり立香の指示でそこをついたジャックの宝具によって討たれた。最期に正気を完全に取り戻すも、自らの惨状に気付いてそのまま消滅を受け入れ、立香の心情にまた変化を促した。

・ジャック・ザ・リッパーの宝具「解体聖母(マリア・ザ・リッパー)
個人的にバイオ史上最悪の悪女であるあの蜻蛉女にも勝てるのだろうかと思っている、女性限定最強宝具。ウイルスの再生力に勝てるのか否か。今回の敵鯖は男が多いためここで使ったという裏事情があるが、ナーサリーライムの凶行を彼女の宝具で止めれてよかったと思ってる。

・自らの力不足を悔いる立香
今回一番難産だった部分。なまじ今回のオルガマリーが優秀すぎて自信を喪失していた立香さん。マシュとジルに肯定され元気を取り戻すも・・・?

・ジルとエヴリン
片や駆逐する側、片や駆逐される側という関係。ジルは生前の面識こそないが薄々彼女の正体に気付いているものの様子見の段階。味方である限り害する気はない。なおエヴリンからはママ候補と思われていたりする。

・襲撃されるジキル邸
バイオで言うならセーブ部屋にゾンビが押し寄せる事態。時系列はちょうどアンデルセンとアシュリーが到着した頃。立香達は間に合うのか。


この形式にしても長いあとがきで本当にすみません。次回はオルガマリー視点を描いてから一気に展開を進めます。いい加減ロンドンを終わらせたい。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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助かる道は必ずあるんだストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…前回から一ヶ月経つ前に投稿できて少し満足な放仮ごです。お待たせしました。山場を越えたらあっという間でした。そうこう手間取っているうちにUAが126,000突破、ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。もっと投稿頻度をあげたい所存。
あ、活報にて五章、六章の構想を公開したのでぜひそちらもどうぞ。

今回はオルガマリーVS「M」&「P」、ジキル邸襲撃の顛末、そして脚本家が一足早く登場。楽しんでいただけると幸いです。


「やあ、おかえりアシュリー。彼が情報提供者かい?」

 

「ええ、Mr.アンデルセンよ」

 

「ほう。なかなかいい隠れ家じゃないか。ゾンビ共の侵入も心配しなくてよさそうだ。気に入った、俺は隣の書斎をいただこう。荷物を解いているから、何かあったら声をかけてくれ。ああ、入るときはノックを忘れずにな」

 

 

1人での護衛と言うどこぞのエージェントを思い出す命令だと張り切ったアシュリーによる体を張ったボディーガードにより、無事にジキルのアパルメントに辿り着いたアンデルセン。ジキルの承諾も得ずに書斎を陣取り絶好調であった。

 

 

「ボディーガードはいる?今なら絶賛もれなく無敵のライダーが一緒に居れるけど」

 

 

そんなアンデルセンに、わざわざ書斎にノックしてから入り問いかけるアシュリー。初の護衛でテンションが可笑しくなっていてふんぞり返っており、アンデルセンは馬鹿みたいな目で一蹴する。

 

 

「ヴァカなのか?そんなものいらん、俺についていて何になる?」

 

「マスターも納得の美味しい紅茶も出るわよ?」

 

「むっ・・・ではいただこう」

 

 

マスターお墨付きの紅茶に釣られあっさり懐柔してしまうアンデルセン。ろくなものを飲んでいなかったためしょうがない。そんな微笑ましい様子を扉越しに見たジキルが笑いながら情報を集めていると、自発的に掃除を行なっていたはずのフランがとてとてと駆けて来た。

 

 

「ウゥー、アァー」

 

「うん?どうしたんだいフラン。外がどうかしたのかい?」

 

 

袖を引っ張られ、笑いながら窓の傍に連れて行かれるジキルは、フランの指差す先を見て、何を言いたいのかを理解し、表情を引き締め懐のナイフの所在を確かめる。

 

 

「アシュリー、来てくれ!」

 

「どうしたのジキルさん?」

 

「なんだ騒々しい・・・さっきの言葉は取り消すぞ。何だこのゾンビ共の数は」

 

 

呼ばれて出てきたアシュリーはそれを見るなり顔を青ざめてどたばたと裏口に駆けて行き、ついてきたアンデルセンは溜め息を吐く。窓の外に目に見えてこちらに向かってくるゾンビの集団がいた。

 

 

「フラン、アシュリー、手伝ってくれ!ドアと窓を塞ぐ!立香やオルガマリーが戻って来るまで何とか持ち堪える!」

 

「では俺は休んで置こう。重労働など何の役にも立たんからな!」

 

「せめて怪しい所を確認しなさいよ・・・」

 

「ふん。古書店主の二の舞はごめんだ。それぐらいならきっちり仕事しよう」

 

 

棚を担いで窓へと急ぐアシュリーの擦れ違い様の文句に、溜め息を吐きながら動き出すアンデルセンは、ガタガタと何かが窓を叩く音を聞くや否や急いで向かった。

 

 

「・・・アシュリー。君、戦闘は?」

 

「人一人守るならともかく防衛戦は苦手ね・・・ああ、私を守ってくれた時のレオンとルイスはこんなピンチを切り抜けてたのね・・・」

 

「・・・危なくなったら、飲むしか・・・無いのか・・・!」

 

「ジキル?・・・任せなさい!マスターに頼まれたもの、守って見せるから!」

 

 

懐から取り出した霊薬を握りしめて青ざめた顔で呟くジキルに、自信満々に甲冑を身に纏い胸を叩くアシュリー。籠城戦など過去に「守られる側」としてしか体験した事が無いが、それでも以前の旅で最後までマスターと一緒に居れなかったという苦渋からの意地がある。

 

 

「心配しないで。助かる道は必ずあるから」

 

 

そうよね、レオン。そう彼方を仰ぐ。よく分からない物を植え付けられて不安だった自分を安心させるように彼の言った言葉。それが、今のアシュリーを強くする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この!」

 

 

謎の美青年「M」から湧き出したアワビの様な何かが集束し、人型になったそれ・・・リーチマンを、咄嗟に構えたピストルクロスボウをぶちかますオルガマリー。しかし飛び散ったアワビが集束して再びリーチマンを形作り、両腕を伸ばして来たため飛び退いた。

 

 

「その程度の爆発では私の可愛い子供達はビクともしないよ。規律・忠誠・服従。忌々しいアンブレラの三大原則だが、それすらろくに出来ない人間では敵わない」

 

「これが可愛い?・・・それはさぞ特殊な性癖ね・・・」

 

「理解されようとは思わんさ。人間なんかよりよほどいい。あの二人にはファイルからか正体共に弱点を看破され苦渋を味わったが、それがない君達には未来永劫分からない。そうだろう?」

 

「私も分かりませんが、ふむ。・・・そうですね、私も加勢しましょう。土よ。水よ。風よ」

 

「っ!モードレッド、任せた!」

 

「おう!」

 

 

襲い来るリーチマンの触腕による波状攻撃の合間に「P」の放ってきた魔術を、対魔力を持つモードレッドに打ち消してもらいそのまま任せて、自分は己のサーヴァントと共にリーチマンの攻撃を掻い潜りながら反撃を試みるオルガマリー。

しかしアルトリアの斬撃はすぐに再生され、清姫の炎はリーチマンが身代わりとなって受けてしまい真面に攻撃が通らない。さらに雪崩れ込んでくるゾンビの群れと、Pの生み出すホムンクルスの軍団。数の暴力を体現している光景に、オルガマリーは応戦しながら思考する。

 

 

「まだ生き残りがいるかもしれないしエクスカリバーは使えない・・・アルトリア、突破口を!Mだけを狙いなさい!」

 

「はい、マスター!行くぞ・・・風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 

不可視の剣を構え、風の鞘を解放して高速で突進。立ちはだかるゾンビとホムンクルスの群れを吹き飛ばしながらMの眼前まで迫り、盾として生み出されたリーチマンを黄金に煌めく刃で一刀両断。飛び散るアワビ、吹き荒れる暴風。その中で、オルガマリーはその手にハンドガン・ブラックテイルを構え、その光景を垣間見たMはにやりと狂笑を浮かべ両手を広げた。

 

 

「撃て、撃つがいい。だが我がアンブレラへの怨念は、誓った復讐は止まらない・・・!」

 

「・・・ッ!」

 

 

銃声が鳴り響き、的確に眉間を撃ち抜かれてふら付く白衣の男。その光景に、アルトリアが、清姫が、モードレッドが、そしてオルガマリーが驚愕する。眉間を撃ち抜かれて尚、Mと名乗った男は倒れない。それどころか血さえ流さず、白目を剥いた顔を向けてニヤリと嗤い、その腕の先から複数のアワビとなって崩れ落ちた。

 

 

「・・・偽物。奴も、あのアワビで形成されていたのね。本物は、別の場所に・・・?」

 

 

崩れ落ちた傍から当たりかしこに散って行くアワビの群れを余所に、襲い掛かって来たゾンビを撃ち殺しながら、残ったPに向き直るオルガマリー。モードレッドを魔術の水流で吹き飛ばしたPは、散っていくアワビの光景を目にして溜め息を吐いた。

 

 

「はあ。今あなたに離脱されたら私の敗北が確定するのですが。しかし大義のためならば致し方ありませんか」

 

「大義、ですって?」

 

「はい。スコットランドヤード内部には私たちの必要とするものが保管されていました。流石は魔術協会、時計塔が座す大英帝国ではある。魔術的にも厳重な封印が施されていました。大義の障害となった彼らが死んだのには、私もどうしようもない程に哀しみを禁じ得ない。」

 

「・・・矛盾しか感じない言い振りね、P。いいえ、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルススさん?」

 

 

反応するP、否・・・四大精霊を操る者、真のエーテルを求む者。稀代の錬金術師として知られる伝説的な医師、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。限りない情報から真名を看破したオルガマリーはしたり顔だ。

 

 

「ほう、我が真名を見抜くとは、聡明な魔術師殿だ」

 

「簡単よ。ゴーレムと言えばアヴィケブロン、ホムンクルスと言えばパラケルスス、魔術師の常識よ。それに五大元素を扱えば、藤丸の様な一般人ならまだしも魔術師なら誰だって分かるわ」

 

「さて、彼を仕留めた銃の腕、お見事。私も、ここで貴方達の刃に掛かるべきなのでしょうね。悪逆の魔術師は英雄に倒される。それは、私の望む回答の一つでもある。ですが。まずは私も役を果たす。M。後は任せました」

 

 

ボソッと呟き、姿を消し始めるパラケルススに、本来魔法にも及ぶ空間転移を聖杯か何かの力で行なっていると気付いたオルガマリーは逃がすかと言わんばかりにブラックテイルを構えるも、再び姿を現したリーチマンの触腕に足を掬われて誤射。見当違いの方向に飛んで行った銃弾が遥か横を通過するのを見ると、パラケルススはにっこりと笑みながらその姿を完全に消した。

 

 

「くっ、やはり刃が通じない・・・!?」

 

「清姫、炎を!」

 

「はい、お任せを!」

 

 

オルガマリーの足に巻き付いた触腕を外そうとリーチマンの頭部にエクスカリバーを突き刺すアルトリアだったが手応えは無くそのままオルガマリーを捕えようと腕をさらに伸ばし、先程の事を思い出したオルガマリーの一声で清姫の放った火炎弾を受けアワビの群れに分裂し苦しみ悶えながら焼失するリーチマン。

 

 

「ご無事ですか、マスター?」

 

「はあ、はあ・・・なんとか、ね。ゾンビみたいに噛み付いてこられたらアウトだったかも。やっぱり、このアワビは炎に弱いみたいね。アルトリアの攻撃は防がなかったのに、清姫の攻撃は身代わりで受けていたから気になってね」

 

「ウーズと同じですか。しかし群体とは厄介な・・・」

 

「関係ねえ。全部薙ぎ払ってやるまでだ、そうだろアーサー王?」

 

「・・・ええ、貴方に言われるまでも無い、モードレッド」

 

 

飛び掛かろうとしていたアワビを赤雷迸った宝剣で突き刺し、笑うモードレッドに襲い掛かろうとしていたゾンビを斬り捨てながら無表情で返すアルトリア。この親子はもう少し仲良くできないのか・・・とオルガマリーは溜め息を吐くが、そんな余裕もそんなにもたなかった。

 

 

『所長!悪い報告だ!現在、立香ちゃんの元と分断されたゾンビやエネミーの群れがスコットランドヤードに押し寄せている!このままでは囲まれて・・・』

 

「・・・もう手遅れよ、ロマニ・アーキマン。あのよく分からないアワビとホムンクルスを生み出し続けていたパラケルススを退けたとはいえ、完全に囲まれたわね・・・」

 

『もう一つ悪い知らせだオルガ。ジキルのアパルメントが襲撃されている。パラケルススが回収した、スコットランドヤードに保管されていた物も気になるが、至急帰還してくれ。立香ちゃん達も向っている』

 

「いや、少し待って。・・・霧の中から、何かが・・・!?」

 

 

取り囲むエネミーの群れに、オルガマリー達が突破しようと身構えた時。ゾンビの群れから逃げる様にして、スコットランドヤード近くの路地から飛び出してきた男の姿があった。スピードはゾンビとどっこいどっこいで、身体能力の低さが見て取れる。オルガマリーの姿を見付けた男の顔は、満面の笑みであった。

 

 

「吾輩を召喚せしめたのはもしや貴方か!キャスター・シェイクスピア、霧の都へ馳せ参じましたが絶賛ピンチですぞ!どうやらこれは聖杯戦争ではなく、吾輩の苦手とする生死を懸けたサバイバルの様子!神よ、吾輩が傍観すべき、血沸き肉躍り心震い魂揺らす物語は何処にありや?と困り果てていたところです。どうか御助力を願いたい!」

 

「シェイクスピア・・・?また、新しいサーヴァントの様ですねマスター」

 

「どうするんだ?オレの大嫌いな搦め手野郎でどう見てもハズレだし、斬るか?」

 

「少なくとも敵じゃないと思うわ。それに、目の前で助けを求められて見捨てていいはずがない。救出しましょう、清姫!」

 

「シャアアアア!!」

 

 

男、シェイクスピアの助けを求める声に、トラウマを刺激されて何時もは見せない顔をしたオルガマリーにときめいた清姫の炎がシェイクスピアを襲おうとしていたゾンビごと周りの有象無象を焼き払う。さらに、炎を物ともせずに飛び出してきたオートマタとヘルタースケルターの一団もアルトリアとモードレッドが瞬く間に斬り伏せ、救出されたシェイクスピアは未だに燃え続ける炎に視線をやりながら拍手喝采した。

 

 

「おお、なんと熱く赤い炎か!まさに『恋は目ではなく心でみやるもの(Love looks not with the eyes but with the mind)』!その焦がれる様な想いが感じられますな」

 

「何だか知りませんが何やら感銘を受けましたわマスター!」

 

「落ち着いて清姫。炎が溢れてるから」

 

「マスターが存在しないことは不幸ではありますが、こうして貴女にお会いできました。これも運命でしょう。今は貴女方の物語を紡ぐとしましょう。素晴しい恋物語を期待しておりますよ」

 

「・・・・・・・・・とりあえずよろしく、シェイクスピア」

 

 

シェイクスピアの言葉を気にしないことにしたオルガマリーは清姫をなだめながら、視線を周りに動かす。エネミーの数は減った、今なら炎の中を突っ切れば突破できるだろう。しかし気になるのは、ロンドンの街中でいつも感じていた違和感。いや、オルガマリーが過去に受けて来た物と同じ、観察するような視線だ。

 

 

「・・・さあ、急いで戻るわよ。それとアルトリア、モードレッド。戻る道中に何か感じたら教えなさい」

 

「というと?」

 

「あのMと名乗ったサーヴァント、私達の居場所を把握した上で待ち構えていた。監視されていると考えるのが妥当よ。特にこの、アワビの様なものにね」

 

 

リーチマンやMが消えた後もいくつか散らばったままのアワビの様なそれを指差しながら言うオルガマリー。確証はないが、そう考えれば納得行くものだ。

 

 

「分かりました。では、モードレッドが先行を。私がシェイクスピアを運びますので、マスターは清姫に」

 

「え」

 

「承知しましたわ!」

 

 

帰り道、筋力Eのはずの清姫にお姫様抱っこされて赤面したオルガマリーに、周囲を確認する余裕もなく、直感のスキルでアワビを見付けたセイバー二人が片っ端から駆除する光景を見て、シェイクスピアは一言。

 

 

「ふむふむ、なるほど……。マスター殿はご存知ありませんかな?『望んで得た恋は素晴らしい、(Love sought is good,)だが望まずして堕ちた恋はさらに良い(but given unsought is better.)』古来、その焦がれるような想いをして"恋"というのです!」

 

 

その言葉に、清姫の腕の中でさらに赤面したオルガマリーが身を縮み込ませたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ゾンビが押し寄せドアが粉砕される間近のジキルのアパルメント。

 

 

「せめて外に出られれば・・・!」

 

 

窓を割りバリケードを突破しようとするゾンビを、怪力だったらしいフランと共に片っ端から殴り飛ばし、しかしそれ以上は何もできず歯噛みするアシュリー。彼女の宝具は自己防衛特化型だ。いくら怪力のスキルを有していてもろくな攻撃もできないし、そもそもスキルからして攫われて本領発揮するという、守られる事で真価を発揮するものだ。レオンやルイス・セラの様に閉じこもりながら銃で撃って撃退なんてことはできない。無力に拳を握りしめる。

 

 

「くっ、ここまでか・・・!」

 

 

その背後で、アンデルセンを庇う様に自前のナイフを手にして警戒するジキルが、観念したとばかりに薬瓶を取り出す。これさえ使えば、撃退はできるだろう。しかし、それは彼の終わりを意味する。迷っているうちにドアが破壊されて突破され、アシュリーが拳を振りかざし、ジキルが服用しようとしたその時。

 

 

「よく耐えた。上出来だぜお嬢様(ストレンジャー)

 

「ディーラー!?」

 

 

ジキルの前に姿を現したディーラーの手にした、限定仕様セミオートショットガンが火を噴いた。100発もの弾丸が立て続けに乱射され、ゾンビ・ウーズ・オートマタ・ホムンクルス・ヘルタースケルターを粉砕して行く。見れば、先程まで襲おうとしていた黒い異形・・・モールデッドが全て、ヘルタースケルターの腕をもぎ取ったりホムンクルスの首を噛み千切ったりなどの妨害をし始め、崩れた陣形は瞬く間に崩壊し、全弾撃ち尽くされたセミオートショットガンにより殲滅された。

 

 

「よかった、間に合った!」

 

 

そこへ駆けつけたのは、何故かエヴリンを担いでいる立香と、マシュ、セイバーオルタ、ジャック、ジルといった面々。立香の背中から降りたエヴリンは前にかざしていた手を下ろし、ジャックの労いの言葉を受ける。すると困惑しているジキルとアシュリーに、マシュが進み出て説明を始めた。

 

 

「私達はドクターからここが襲撃されたという旨を聞き、急いで戻ったのですが視界に捉えたところでちょうど扉が破られているところが見えて、エヴリンさんの力を借りてモールデッドに足止めしてもらい、それでも間に合わないと先輩の苦渋の決断で・・・」

 

「・・・マスター、ディーラー。ごめんなさい、私が不甲斐無いせいで・・・」

 

「ううん。私たちが駆け付けるまで、耐えてくれてありがとうアシュリー。貴女のおかげで、ジキルさんやフラン、アンデルセンたちを助けられた」

 

「ああ、だから気にするなお嬢様。俺の命一つでどうにかなるなら安いものだ」

 

「無力な民を守る。そういう意味ならお前も立派な騎士だ、アシュリー。少なくとも私欲のために暴れるモードレッドのそれより遥かにな。それとディーラー、そんな事を言っているとまた怒鳴られるぞ」

 

「・・・安い物だろう?ストレンジャー」

 

「安い命なんてない、って何度言えば分かるのディーラー」

 

 

何時もの様に立香に怒られるディーラーと、それを呆れた目で見守るマシュやセイバーオルタ達を尻目に、アシュリーは鎧を解除した姿で微笑んだ。自分を守り、救ってくれたあの人の様に、誰かを守れた、救えた。ただそれが嬉しかった。

 

 

「無事、ジキル!?」

 

「あ、所長。お疲れ様です。何とか間に合いました」

 

 

そこへやってきたのはオルガマリー一行。破壊されたドアを見て焦ったのか、息も絶え絶えだ。それから、ジキル邸のドアや窓を、店を自分で作ったというディーラーが直したり、ジャックやエヴリンの存在にオルガマリーが驚愕し、モードレッドと戦闘になりかけたり、ジルやシェイクスピア共々紹介したり、ジルがフランと再会できた事を喜び、フランケンシュタイン博士がゾンビ化ではなく爆死したと聞いて顔を暗くしたり。そして立香がアンデルセンをオルガマリーに紹介したところで、ようやく絵本作家は口を開いた。

 

 

「さて、よく帰って来たと言って置こうカルデアのマスター達よ。そしてお前がもう一人のマスター、オルガマリー・アニムスフィアか。ヤードの警官たちは残念だったな」

 

 

そう言われたオルガマリーの表情が歪む。そうだ、自分は助けられなかったのだと思い出したが、それを見て溜め息を吐いたアンデルセンは続ける。

 

 

「いい加減、少しは休んでおけマスター共。聞けば、こちらへ来てから休みなしなのだろう?根を詰めて良いモノが仕上がれば作家も苦労はしない。執筆であれ聖杯探索であれ休息が必要だ。

特にお前だ、藤丸立香。人間観察のスキルを持つ俺でなくても目に見える程、精神的に参っているな。どうした、哀れなナーサリー・ライムに同情でもしたか?するだけ無駄だ、一度読み終えた本の内容を何時までも引き摺るな。次の本をろくに読めなくなるぞ」

 

「・・・うん。大丈夫、引き摺ってばかりじゃいられないから」

 

「休みついでに一つ教えて置こう。俺やジル・バレンタイン、ナーサリー・ライムは魔霧から現界した。マスターの存在も無く、召喚の手順も踏まれずに、だ。モードレッドやシェイクスピア、エヴリンにジャック・ザ・リッパー、ネメシスにレッドピラミッドシングとやらもそうだろう」

 

 

今回の事件の根本的な部分を話し始めたアンデルセンに振られたモードレッド、シェイクスピア、ジル、エヴリン、ジャックが頷く。いつの間にか召喚されていた、というのは共通らしい。

 

 

「気付けば霧の中に居た。ゾンビを見かけて、バイオハザードだとは分かったけど、フランケンシュタイン博士の家を訪れるまで全部把握とまでは行かなかったわ」

 

「そんなに考えなかったが何だ、サーヴァントってのは自然に湧くのか?」

 

「いえ、モードレッド。それは本来ありえないわ。英霊が自然発生的に現界するという意味では僅かに記録はあったけれど、その際には人格を持った存在にはならないはず。いわゆる抑止力、ね。でも、今回の事象は全然当てはまらない。そうよねロマン?」

 

『その通り。サーヴァントとして英霊を呼び出すには必ず召喚の手順を踏まなければいけない。これまで廻った特異点でも、サーヴァントの召喚は聖杯の影響によるものだ。サーヴァントが自然に迷い出るなんてそんなことは絶対に起こり得ないからね!』

 

「だとすれば帰結は一つよ。魔霧は聖杯が生み出している。もしくは、霧を生み出す何かが聖杯の影響下にある。だとすればこの魔力の濃さも納得のいくものよ」

 

 

そう纏めたオルガマリーに、満足気に頷くアンデルセン。

 

 

「現実の多くには必ず理屈が付くものだ。理屈が通用しないのは恋ぐらいだろうよ。想像力を働かせろ。それで大抵の物事は予想できるし、時には予測へ至る。特にオルガマリー、お前はそれに長けている。そんなお前はこの事件の概要をどう見る?」

 

「・・・今はまだ目的も何も分かった物じゃない。でもそうだ、収穫があったわ。まず、敵だと思われる魔術師三人のうち二人と接触したわ。うち「P」と名乗ったのはヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。もう一人は「M」と名乗ったけど真名は分からず仕舞い。クラスは発言から考えて「復讐者(アヴェンジャー)」。アワビの様な物を操る、恐らくバイオハザード関係の英霊。ゾンビをここに扇動したのも恐らく奴の仕業よ。・・・容姿は、黒髪の美青年だということぐらいだけど・・・ジル・バレンタイン。何か心当たりは?」

 

 

話を振られたジルに全員の視線が向く。この中で一番バイオハザード関連の事件に精通しているのは彼女だ。そんな期待に応え、ジルは告げた。

 

 

「・・・・・・恐らく、アワビの様な物はヒルで、その人物の名前はジェームス・マーカス。私の同僚のレベッカ・チェンバースが洋館事件の前日に対峙したらしい、アンブレラ創設者の一人で元アンブレラ幹部養成所の所長よ。アンブレラの暗殺者に殺害され、死に際の彼の記憶を得た女王ヒルが擬態した姿として、アンブレラへ復讐を企てていたらしいわ。洋館事件のバイオハザードも彼の仕業と考えられている。その、女王ヒルとして復活し若返った姿が、美青年だったと聞いているわ」

 

「ジェームス・マーカス・・・」

 

 

判明した敵の名を繰り返す立香。全てのバイオハザードの始まりらしい男に、何かを思い黙り込む立香をディーラーはじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ロンドンのどこかにある空洞。巨大な蒸気機関が存在するそこに、パラケルススは転移していた。目の前にいるのは、一人の男と、鉄塊としか言いようがないヘルタースケルターに酷似したサーヴァント。

 

 

「・・・ただいま、帰還しました」

 

「シュー・・・・・・。コォー・・・・・・」

 

「ご苦労、パラケルスス。先に帰還してすまない、よくやった。だが、いつの間にか倒されたメフィストフェレス以外の手駒になるサーヴァントは未だに回収ならず、か。ゾンビ共も増える一方とはな」

 

「はい。エクストラクラス:チェイサーを二体確認しましたが意思疎通は不可能でした。アレは諦めざるを得ない。それに接触しようとしていた少女二人も、既にあちらについてしまいました。如何しましょうか、「M」?」

 

 

そう尋ねるパラケルススの言葉に、黒衣の男は青髪を掻き上げて笑う。その視線の先には、アワビ・・・ではなく、ヒルに包まれた黒衣の異形が倒れていた。それを見て顔を顰めるパラケルスス。

 

 

「私の方でちょうどいいものを回収した。よって大勢に影響はない。私達は「計画」を進めるだけだ」

 

「ええ。そうですね。その通り。私たちは、サーヴァント。ただ貴方(マスター)に従うまでの事。例え、本来の計画からずれ始めていたとしてもです」

 

 

その言葉に、黒衣の男はほくそ笑む。鉄塊のサーヴァント「B」は、ただ沈黙してその場に居続け、パラケルススは溜め息を吐いた。




シェイクスピア語録難しい。多分意味が違う。

・無敵のボディーガード アシュリー
レオンと同じ事が出来ると張り切った無敵のライダー。何とか籠城戦を制する事に成功。「心配するな。助かる道は必ずある」という台詞は、バイオ4で救出後サドラーとの初邂逅から逃れた際にアシュリーの洩らした「レオン この先どうなるの?」という不安の声に応えたレオンの台詞。なおプレイヤーはそこからアシュリーを守るために四苦八苦しなければならなくなるのですが・・・立香、ディーラー、セイバーオルタに褒められてご満悦。

・ジキルとフラン
片や「飲むしかないのか・・・」と覚悟を決めれずただナイフを構えていただけの人と、アシュリーに加勢して必死に抵抗した少女。正直ジキルじゃ荷が重い。

・アワビ(ヒル)を操るマーカス
某実況者はカブトガニと呼んでいたアワビにしか見えないヒル。t-ウイルスをその身に宿しており、これを利用して列車内で瞬く間にバイオハザードを起こす程の数の暴力を見せる。全ての視界がマーカスと繋がっており、それを利用して監視できる。普通に踏み潰せるため、対処は容易。弱点は炎と日光。

・規律・忠誠・服従
アンブレラ幹部養成所の三大原則。アンブレラと言う企業がどれだけブラックかよく分かる。

・リーチマン&擬態マーカス
どっちもヒル男だが厳密には別物でありどっちも擬態マーカス。リーチマンという名前は、バイオハザード アウトブレイクに登場するみんなのトラウマだが、今回は擬態を解いた姿として呼称する。擬態マーカスもトイレでトラウマ。主に腕を伸ばして攻撃する。大量のヒルで形成している為、いくらでも再生する。弱点武器は火炎瓶とグレネードランチャーの火炎弾。老人姿にしか擬態できなかったが、サーヴァントになった事で青年姿でも擬態可能に。今回はこれを利用して別の場所から遠隔操作していた。

・ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス
よかれと思ってな人。実は今章のモーさんと同じぐらいのキーパーソン。シェイクスピアとは出会いもせず、エヴリンとジャックには邂逅して勧誘していた物のエヴリンに殺されかけて命からがら逃げ延び、諦めずにネメシスやレッドピラミッドシングにも接触したはいい物のやっぱり逃げ出したという、本編では語られない苦労を持つ。

・ウィリアム・シェイクスピア
一足早く召喚された、アンデルセンと同じぐらい使い物にならないキャスター。現在はオルガマリーと清姫の関係をむやみに盛り上げる事を目的としている。宝具は凶悪。

・清姫にお姫様抱っこされるオルガマリー
アルトリアにされた際羨ましがっていた清姫の念願叶った状態。無駄に速い。

・安定のディーラー
オケアノスでのスキャグデッド戦と同じく、死んで駆けつけ怒られる人。ちなみに迷った立香に苛立ったエヴリンが殺した。そのままモールデッドを抑圧するなど縁の下の力持ち。

・ジルとフラン
面識あり。フランケンシュタイン博士が感染したのに気付きながらどうしようもないと放置し、メフィストフェレスに爆死されたと聞いて後悔先に立たず状態のジルを必死に慰めるフランの図。その横でエヴリンジャックとモードレッドが戦闘しそうになっていたのがちょっとカオス。

・アンデルセンとオルガマリー
アンデルセンに気に入られたオルガマリー。オルガマリーも低ランクの人間観察スキルを会得してそう。もはや真名看破なレベルだが。

・ジェームス・マーカス
「M」の正体と思われる人物。復活したと思われていたが実は記憶を引きついでいた女王ヒルが擬態した姿で自分を本物だと誤認していた。アンブレラに復讐を誓い洋館事件を引き起こしたものの最終的に追い詰められ、生存本能に従い擬態を解いた事でその意識は完全に消失したのだが・・・?オルガマリーの推測したクラスは「復讐者(アヴェンジャー)


やっと今回シェイクスピアを出せたため、次回は一気に進みます。前回も書きましたがいい加減ロンドンを終わらせたい。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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時計塔探索だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…前回から一ヶ月経つ前になんとか投稿できたものの危機感を抱いている放仮ごです。三章までの更新スピードは何処に行ったのか。元々ロンドンは長いのに、色々付けまくった弊害ですね。せっかく混ぜれる要素があるのにつかわないのはもったいない精神です。

早い物でUAも130,000突破。ありがとうございます。やっと山場が終わったのでここから早いと思いますのでこれからもどうぞよろしくお願いします。

今回は探索回。時計塔に向かうオルガマリー達と、ヘルタースケルターの謎を追う立香達に別れます。三角頭と脚本家も宝具を発揮。楽しんでいただけると幸いです。


束の間の休息に浸るジキルのアパルメント。一通りの情報交換を終えると、アンデルセンとシェイクスピアが書斎に籠ってアシュリーは二人について行き、ジキルはそのまま二人のマスターから情報をメモに纏めていた。

 

 

「・・・なるほど。ウイルスに感染した魔本が変異したクリーチャーに、スコットランドヤード全滅。そんなことになっていたのか。ともかくお疲れさま。まずはアンデルセン氏の言う通り休息を取って欲しい。先程アシュリーが淹れてくれた紅茶だ。よければ」

 

「ありがたくいただきます・・・」

 

「ああ、生き返るわ。外はむせ返る様な血とカビの匂いと蒸気と湿気に塗れていたし」

 

「はい、もうぐったりで・・・オケアノスでも船酔いが酷かったけどここは単純に何か嫌です・・・」

 

 

ジキルの言葉に、とりあえず休息を取る事にした二人のマスターは差し出されたコップを一飲み、一息吐いた。戦闘中はさほど気にしなかったが、今のロンドンは魔霧を差し引いても酷い環境下にある。ゾンビや被害者の物と思われる血痕から香る鉄の匂い、モールデッドが生み出されるカビの匂い、そのカビが蔓延る原因ともなっている湿気に、ヘルタースケルターの動力と思われる蒸気。

窓が割れてしまった事で少し入り、ゾンビの返り血が飛び散ったりもしたが、それでも室内と言うだけでまだマシである。二人は客用ソファにそれぞれ倒れ込み、立香はソファの背もたれに俯せでもたれかかり、オルガマリーは仰向けにソファの上に横になった。

ジルも休息のために壁の隅に蹲り、エヴリンとジャックはとりあえず開いた広い床にくつろぐ。この地獄を生き抜いただけあって疲労が溜まっていた様だ。

 

 

「先輩、所長、無理せず休んでください。今後はお二方のバイタル管理にも気を付けますね」

 

『あれ、それ僕の仕事なんだけど・・・?』

 

「むしろお前が休めドクター。誰よりも一番働いている奴がそこまで頭が回る訳ないだろう?」

 

「ああ、旦那様大丈夫ですか?気が利かない私で申し訳ありません!おかゆでも作りましょうか?」

 

「おい、うるせーぞ!休めるものも休まらねーだろ!」

 

 

マシュの言葉にぼやいたロマンにディーラーがツッコむのを余所に、どたばたと清姫が混乱して目を回しながら走り回るのを、ジキルの個人用ソファにふんぞり返ったモードレッドが一蹴。その声に落ち着いた清姫はいそいそとマシュを連れて厨房に引っ込んだ。それを見て困った笑みを浮かべたジキルは、顔を引き締めて確認のため口を開いた。

 

 

「しかし、そうか。ヘルタースケルターはそんなに量産が効かないかと思っていたけど、ゾンビに反比例する様にむしろ増えているのか・・・」

 

「ゾンビやオートマタと違って銃が効かないから、サーヴァントの皆に任せるしかない強敵でした」

 

「あちらとしてもゾンビの存在は好ましくないみたいね。シェイクスピアみたいな弱小サーヴァントが襲われるのを懼れているのかしら。フランケンシュタイン博士を殺害して、三角頭のチェイサーに倒されたサーヴァントは、恐らく彼らの手駒だったのでしょうね」

 

「私たちの様な、魔霧から自然に現界した英霊を手駒にしていたと考えるのが自然ね。私に接触が無かったのは、恐らくすぐに隠れながら移動していたからかしら。まさかバイオハザードの経験が役立つなんてね、もう操られて利用されるのはこりごりだし助かったわ。アンデルセンが無事なのはほとんど古書店に籠っていたから?ナーサリー・ライムは接触があったかどうかも不明だけど・・・貴女達は彷徨っていたみたいだけど何か覚えはある?エヴリン、ジャック?」

 

「変な優男がジャックを唆そうとしていたからファット・モールデッドを嗾けたら逃げてったけど」

 

「それぐらいかな?おかあさんに会わせてくれるって言ってた」

 

 

起き上がったオルガマリーの考察に続いたジルの質問に、何でもない様に言うエヴリンとジャック。そんな様子に胸を撫で下ろす立香。もしかしたら今頃、ジャックたちを倒してないと行けなかったのかもしれないのだから当然であった。

 

 

「あー・・・接触はしたけどエヴリンに邪魔されたのか。もしエヴリンがいなかったらジャックが敵に回っていたのかも。そんなの嫌だ、ありがとうエヴリン」

 

「・・・私を褒めても何も出ないよ?」

 

「何も求めてない。あんなことしたのに、仲間になってくれて・・・いい子だね、エヴリンは」

 

「・・・私はいい子?だったら、家族になれるね」

 

「へ・・・?」

 

 

立香の言葉に、笑みを浮かべたエヴリンは、すぐに笑みを消した。今の発言を理解していないであろう立香に、再び怒りがぶり返したのだ。

 

 

「・・・やっぱり嫌。お前はママにしたくない。もう話しかけないで」

 

「え、うん・・・」

 

 

笑ってくれたのにまた嫌われ、しょぼんと落ち込む立香。ぼんやりと受け答えし、自業自得だと気付かない辺り疲弊しているのが目に見える。そんな立香を見かねたのか、モードレッドが口を開いた。

 

 

「まあいい。考えるのはジキル、お前の仕事だ。オレ達実働隊は連戦続きで疲れた、ここで十分休ませてもらうぜ。・・・そうだ、考えるって言えばそれしか能の無いゴクツブシがいるじゃねえか。それも二人も。ジキル、書斎に籠ったあいつ等は何をやってるんだ?」

 

「呼んだか?」

 

「お呼びですかな!?」

 

「モードレッド卿、貴方は黙ってなさい。もっと的確に言うのであれば失言しない様に寝てなさい。マスター達には休息の時が必要です。五月蠅い輩はお呼びじゃない」

 

「超一級のフラグ建築士だな貴様は。寝れないというなら眠らせてやろう。優しくは保証しないが」

 

「・・・すまない父上。だからそんな怖い顔はしないでくれ、オレだってうんざりしてるんだ!」

 

「「問答無用!」」

 

「ギャー!?」

 

 

言われるなり顔を出してきた五月蠅い作家二名に、げんなりした騎士王二人による愛(?)の鉄拳制裁を受けて気絶するモードレッド。ブリテン親子はこれでも平和である。少なくとも無視されず怒ってもらえてモードレッドは満足したのかスヤーと安らかに眠っていた。そのまま床に座る騎士王コンビにどうとも言えない表情を浮かべるマスター二人。そんな光景をニヤニヤ見ていた作家コンビに、気になった事があったディーラーが歩み寄った。

 

 

「どうだアンデルセン。お嬢様はアンタ達の世話をできているか?」

 

「紅茶の味は上の上だがそれ以外は最悪だな。今は必死になって散らばった本を直しているところだ。あれは偉い所のお嬢様か何かか?本の整理ぐらいはできてほしいものだ。しかしお前達はネタに事欠かんな。これで父子なのだというから面白い」

 

「余計なお世話です。少なくとも私は息子とは認めていません」

 

「奇遇だな青、私もだ」

 

「そこは娘ではないのか?そうだ、言い忘れていた。俺達が何をしているか、だったな。この演劇作家はひたすら例のものを書き上げているが、俺は違う。仕事なんざ極力したくないからな。だが気になる事があってな。お前たちが言うこれまでの経緯・・・七つの特異点と言う奴だ。いや、正しくは「聖杯戦争」という魔術儀式に引っ掛かるものがあるというか・・・判断するには材料が足りない。正直に言って、行き詰まりかけている。首魁だというソロモン王とやらが出てくれば話は別だが・・・」

 

「物語で言うならば四つ目はいわゆる中間、何かアクションが合ってもいいものですからな!このロンドンの惨状が彼の王さえも予想だにしない事ならば、介入してくる可能性大ですぞ!」

 

「不吉な事を言わないで欲しいわ・・・」

 

 

アンデルセンとシェイクスピアの言葉にげんなりするオルガマリー。当り前だ。例え首謀者だろうが、これほどの事ができる怪物にわざわざ会おうとは思えない。遭うにしてももう少し戦力が整って万全の体勢でが好ましい、むしろ遭いたくないというのがヘタレな彼女の本音である。立香は夢で見たヴィジョンが一瞬脳裏に浮かんだが、疲れているので言わない事にした。

 

 

『あー、すまない。そろそろ話を戻していいかな?現状の確認と、今後の方針について』

 

「ええ、お願い。今はそんなに頭が働かないから簡潔にね」

 

「ドクター、これからどうすれば?もうジキルさんも情報は得てないみたいだけど・・・」

 

『まず、幸運なのは恐らく敵の認識がゾンビ・ウーズの対処と魔霧に注がれている点だね。こちらを殲滅するつもりなら、既に本拠地が割れているここに再び襲撃して来ても可笑しくないんだ』

 

「このアパルメントの付近にいたヒルは私とモードレッドが退治しました。あちらもこちらの場所が割れていないのでは?」

 

『いいや、手当たり次第家屋を破壊する事も出来るはずなんだ。そうしないということは、魔霧の及ぶ街路しか敵は認識していない。そこを突ければいいのだけど・・・さすがに、今までみたいに外での長時間活動は今の二人やサーヴァント達の状態から見ても無理がある。あまりにも負担が大きい』

 

「私が思うに、ヘルタースケルターさえ何とかなれば、他は私達も銃で何とか対応できる。でも・・・」

 

「その手段が無いのか。まず一体一体がセイバーのサーヴァントと戦える戦闘力が持っている。どうやって造られているのかも分からない、何体いるのかさえもだ。困ったな、手詰まりになりそうだ」

 

 

立香の意見に続けて見解を述べるジキル。ゾンビ・ウーズ・モールデッド・ホムンクルス・オートマタはどうとでもなる。しかし問題はロンドンのエネミーの中でも強い部類に入るヘルタースケルターの存在だった。

 

 

「ヘルタースケルターって剣を持ったロボットよね?一応、私のグレネードランチャーの硫酸弾が効く事が分かっているわ。アイテムボックスもこの家にあったし、ガンパウダーを調合してある程度は増やせるけど・・・」

 

「それでは根本的な解決には繋がらないだろう、ジル・バレンタイン。ふむ、方針が決まらないのか。よし、では俺の考察を裏付けるための資料を集めるというのはどうだ。ようはお使いだな。体力が残っていればの話だが」

 

「体力なら、それなりに・・・気分もアシュリーの紅茶のおかげか直りました」

 

「ほとんど長距離移動はサーヴァント任せだったしね・・・でも、このロンドンで資料を集めるなんて、まさか・・・」

 

「おいおい。ここはロンドンだぞ?であれば自ずと行先は決まっている」

 

「決まっている?」

 

「ええ、決まっているのよ藤丸。西暦以降、魔術師達にとって中心とも言える、かく言う私も現代で通っていた巨大学院――――魔術協会、時計塔よ」

 

 

魔術関係が分からない立香に懇切丁寧説明するオルガマリー。彼女にとってはカルデアに来る前から馴染みのある場所、その過去だ。場所は大英博物館を入り口に、リージェントパークからウェストミンスターにかけての地下と遠出だが、探索域を広げるのは悪い話ではない。現状、何もできないのだから。

 

 

「そうだ。世界に於ける神秘を解き明かす巨大学府がこのロンドンには存在している、活用しない手があるか?」

 

「でも、この現状で時計塔が健在するなら当然、ジキル氏が連絡を取り合っていると思うのだけれど。スコットランドヤードの話はあっても、魔術協会関連の話は聞かなかったわ」

 

「・・・話す必要がなかったからね。モードレッドと出会ってすぐに確認したが、入り口の大英博物館は瓦礫の廃墟となっていた。珍しい事に、完膚なきまでに建物が破壊されていたんだ。今思えば「魔霧計画」の首謀者たちによって反抗の可能性を叩き潰されたのかもしれない」

 

「そんな、時計塔が・・・!?」

 

「破壊されていても構わん。魔術師達が生きているならそれに超したことはないが、このゾンビの群れだ。例え魔霧に耐えられたとしてもアレは一溜まりないだろう」

 

 

そのアンデルセンの言葉を聞いてラクーンシティ脱出の際に立ち寄った警察署の惨状を思い出したのか、ジルが頷く。いくら籠ろうと殆んど意味が無い。そう知っているが故の確信だった。特に地下とか信用ならないのだ。

 

 

「だが影響はない、必要なのは記録だ。資料だ。重要な資料庫の類なら相当に頑丈な封印なりで守られているのは確実だろう。オルガマリーの顔を見れば当たっているのは分かる。そこまで俺を連れて行け」

 

「でしたら吾輩も同行いたしましょう。神秘の学府の跡地となれば、閃きの源泉にもなるはず!」

 

「だったら私も行くわ。アンデルセンのボディーガードを最後までできなかったし、仕掛けの類なら得意分野よ。ゾンビの相手も任せて頂戴」

 

 

アンデルセン、シェイクスピア、ジル。その三人が行くことになった時計塔、ならばと立香がマスターとして同行しようと手を上げようとするが、それはオルガマリーの手で止められた。

 

 

「所長・・・?私なら大丈夫です、全然行けますよ」

 

「いいえ、藤丸はここの守りをお願い。モードレッドもこのままここに置いて行くわ。またゾンビの群れが襲撃してこないとも限らないし、司令官が必要でしょ?それに時計塔なら私の方が適任よ。・・・この非常時、時計塔に保管されていたであろう触媒を持ち出すのも手ね。戦力増強は未だに必要事項だから」

 

「・・・分かりました」

 

 

オルガマリーの言葉に納得した立香は大人しく引き下がった。すると碩学者として興味が出たジキルが名乗り出た。

 

 

「よし、それなら僕も付いて行こう。魔術についてはこの場でも詳しい部類だと思うよ。それにいざという時は役に立つ。奥の手があるからね」

 

「では、出発だ。かつての華やかなりし神秘の学府を尋ねるとしよう」

 

 

ジキルも加わり、オルガマリーとそのサーヴァントを筆頭に彼らは外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数刻後、ロマンから今度はゾンビではなくヘルタースケルターがアパルメントの周囲に現れたと聞き、気絶しているモードレッドを残して迎撃に出た立香たち。エヴリンの呼び出したモールデッドで拘束しそこを仕留めるという戦法で危なげなく勝利を得た彼女達は、アパルメントへと戻り傷の手当てをしていた。

 

 

「おかあさん、片付けたよ」

 

「お疲れ、みんな。特にエヴリン、ありがとう!」

 

「私に近付くな」

 

「うぐっ・・・」

 

「せ、先輩、落ち込まないでください。何はともあれヘルタースケルターの撃退、完了です!」

 

「この程度なら銃が効かないというハンデがあっても何とかなるな。愚息め、何時まで寝ている、まったく・・・」

 

「数の暴力さえなければこんなものか、と言いたいところだがロケットランチャーしか通じないのは俺個人としては誠に遺憾だぜストレンジャー」

 

「ははは・・・」

 

 

エヴリンを撫でようとしたらキレられて落ち込む立香を宥めるマシュ、自分達で鎮めたモードレッドが起きて来ない事に文句を垂らすセイバーオルタと、自らの武器が通じない事にぶつぶつと抗議するディーラーに苦笑いを浮かべるアシュリー。

 

 

『そうだ、立香ちゃん、マシュ。後で所長にも教えるつもりだけど実は、ヘルタースケルターの解析が進んだんだ!』

 

「ロマン、何時の間に?」

 

「俺が残骸を回収しておいた。魔本騒動の前に休憩した時があっただろ?あの時に、マシュに頼んで送ってもらったんだストレンジャー。俺としても理由も分からず銃が効かないのは納得がいかん」

 

『それを、ダ・ヴィンチちゃんと一緒に・・・アレは僕らには不明な技術で作られた機械だ。恐らくは魔力で作られた機械、のはずだ』

 

「カルデアみたいに魔術と科学の融合だったり?」

 

『少し違うな。魔力で作られているが機械。要は、あれは宝具なんだ。魔力によって編み上げられた力あるかたち。エクスカリバーとかの剣の宝具は「鋭い刃」の宝具である代わりにヘルタースケルターは「戦う機械」の宝具。つまりは作り出しているサーヴァントがいる、自立稼働ではなくリモコンで動くロボット軍団さ。リモコンである何かを壊せば全機が停止するはずさ』

 

「つまり、サドラーの様な余程の例外を除けば宝具の所有者であるサーヴァントを倒せば・・・」

 

「連中は消え失せる。なんだ、一気に話が見えてきたな」

 

 

そう言ったのはモードレッド。戦闘音で目を覚まして来たようだ。立香からオルガマリー達が時計塔に向かったと説明を受け、ジキルが行ったのに置いて行かれたのは納得いかんとばかりに苛立っていたが、ヘルタースケルターをどうにかできると聞いてご満悦だ。

 

 

「遅いお目覚めだな騎士様?騎士王様の鉄拳は余程寝つきがいいらしい」

 

「うるせえ。夢に見た父上の愛の鉄拳とか嬉しくねーし、勘違いすんな!このところ起きっぱなしでゾンビ共を狩っていて疲れが溜まってんだよ!」

 

「そりゃお疲れ様だ、むしろもっと休んでもらいたいところだがサーヴァントらしく働いてもらうぞ騎士様。それで、ロマン。肝心な事を忘れちゃいないか?」

 

『はい?』

 

「そうですドクター。宝具の所有サーヴァントの所在はどこでしょうか?」

 

『あ。えー、はい・・・その・・・分かりません。そこまではさすがにダ・ヴィンチちゃんもお手上げで・・・』

 

「分かりませんで済んだらナビゲーターはいらん」

 

『ウッ。面目ない』

 

 

己に続いたマシュの問いかけに対するロマンの返答をバッサリ切るディーラー。割とリアリストである彼の辛辣な言葉に苦笑しながら立香は嗜める。

 

 

「そ、そこまで言わなくても・・・ディーラー、ドクターたちも頑張って分かった事もあるんだし・・・」

 

「忘れたのかストレンジャー。今、ここはバイオハザードの真っ只中にあるんだぞ。時間がものを言う。犠牲者は刻一刻と増える一方だ。有体に言えば、事件は会議室ではなく現場で起きてるんです、って奴だ。これで合ってるよなドクターロマン」

 

『ぐうの音もありません。でも医療セクションのスタッフなんです僕、それにしては頑張っている方だと思うんです・・・』

 

「言っている暇があったら何か考えろ。やるべきことは決まっているのにどこに行けばいいか分からんとは本末転倒にも程がある」

 

『リモコンであるならば魔力を辿るのが正攻法なんだろうけど、この魔霧の中じゃカルデアの技術では無理がある。セイバーオルタの直感のスキルはどうだろう?』

 

「少なくとも今は何も感じない。私もお手上げだ。・・・いや待て、どうやら私よりも適任の者がいるらしい」

 

 

そう言ってセイバーオルタが視線を向けたのは、先程から「・・・ァ・・・ァ・・・」とちらちらと己の存在を知らせていたフラン。しかし手振り身振りで彼女の言葉が分かるのはこの場では二人だけだ。

 

 

「マシュ、お願いできる?」

 

「はい、先輩。えっと・・・え、本当ですか!?・・・先輩、フランさんなら「リモコン」の場所が分かるそうなんです」

 

「ええ!?」

 

「確認だ、お前は奴等を操る魔力の痕跡を知覚できるのか?」

 

「そうと分かれば話は早い。さっそく行動開始と行こうぜ立香!オルガマリーだけに任せてられるか!」

 

 

ディーラーの問に頷くフランに、モードレッドの一声で探索に出かける事にした立香達。その行動は反撃となるのか否や。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、倒壊した大英博物館・・・時計塔の地下通路から出現した血塗れの魔本の様なエネミー・・・スペルブックの群れを撃破しながら進んだ先で見付けた書庫にて、持ちだし不可能の魔術がかけられた資料をアンデルセンが読み終えるまでスペルブックに加えてヘルタースケルター、そしてゾンビとウーズの襲撃を防ぎ続ける事を強いられるオルガマリー。

 

地下道なため宝具を使う訳には行かず、アルトリアが斬り、オルガマリーが撃ち、シェイクスピアが囮になり、清姫が燃やし、ジルが燃やし溶かし、斬って撃って蹴り飛ばす。明らかに一人だけ過剰に働いているのは歴戦の勇士かさすがと言うべきか。

 

 

「来た、来た来た来た来たァッ!」

 

 

しかしジキルが「奥の手」である特製の霊薬を自らに打ち込み、後世に伝わる小説「ジキルとハイド」通りの変貌を遂げてエドワード・ハイドになったことで形成は逆転。したのだが・・・

 

 

「完了だ。目当ての資料はおおむね解読終了できた。それにいくつか興味深い本もあったから個人的好奇心も充足したぞ。お前達、お手柄だ」

 

「個人的好奇心・・・ですって・・・?ま、まあいいわ。とにかく脱出しましょう・・・!?」

 

 

少し文句を言いたかったが、そんなことしている場合じゃないとアンデルセンを連れて退却しようと試みたオルガマリーの眼前に飛び出し、襲い掛かろうとしていたヘルタースケルターを串刺しにして持ち上げ、投げ捨てたのは見覚えのある赤い三角頭の巨人。確認するなり、アルトリアが飛び出して剣を振り下ろすも叩き落とされてしまう。

 

 

「三角頭の追跡者(チェイサー)・・・、レッドピラミッドシング・・・!こんなところまで・・・アルトリア、地下じゃこちらが不利よ!地上まで誘導する!」

 

「ヒャハハッ、関係ねえ!ここでぶっ潰せばいいんだよ!」

 

「なっ!?駄目よ、貴方だけは絶対に!」

 

 

間髪入れずに飛び出した彼に向けたオルガマリーの静止も聞かずに襲撃者、レッドピラミッドシングに先手必勝とばかりに怪力を利用したナイフによる斬撃を叩き込むハイド。その一撃は確かに大男の胴体を大きく斬り裂いた。霊核とまでは行かないが、重傷を負わせた、はずだった。

 

 

「んあ゛ぁ!?何の冗談だこりゃ?」

 

 

がくり、とその巨体が倒れ込んだかと思えば、何時の間にか六人に増えて大鉈を振り上げたレッドピラミッドシングの振り下ろしを、咄嗟に跳躍したオルガマリーが庇い、それをカバーする様にアルトリアの風王結界が弾き返す事で何とか回避。暴れるハイドを清姫に抑え込んでもらったオルガマリーは、以前見た三角頭のチェイサーのマテリアルの内容を思い出していた。

それは、あまりにもエドワード・ハイドにとって相性最悪の宝具。相手の「殺人」の罪を具現化し、その罪を直視するまで不死身と化して追い続ける悪夢の様な宝具。恐らくは、オルガマリー自らにとっても最悪な、彼の名に冠したランクAの対罪宝具【赤い三角頭の処刑執行人(レッドピラミッドシング)】。ハイドやジャックの様なサイコな連続殺人鬼(シリアルキラー)がいる場合、対処は不可能と断じるしかなかった。

 

 

「・・・五人と、ジキル。小説通りなら、エドワード・ハイドの犠牲者の数・・・つまり、ハイド本人が殺人の罪を認めないと、勝てない・・・?」

 

「あぁん?それがなんだっていうんだ!俺は、悪逆をこそ愛する!これが俺の「殺人」だって?ハハハハハッ!……残念でしたぁ。そんなのは「罪」とか関係ないんだよ。どいつもこいつも皆殺しだぁ!」

 

「あーもう、アルトリア!このバカを黙らせなさい!清姫、足止めを!」

 

 

アンデルセンを担いで逃げる気満々のオルガマリーの命令でそれぞれ動く彼女のサーヴァント達。まだ暴れようとするハイドをアルトリアが拳で気絶させ、狭い通路を阻む様に清姫が炎の壁を作り上げる。だがしかし、それを易々と乗り越えてくる三角頭六体。不死身の体は伊達ではない。

 

 

「物理で駄目なら・・・シェイクスピア!例の奴!宝具で奴を閉じ込めて!」

 

「ええい、致し方なし!なにせ逃げ切れる気が全くしませんし!急造で悪いが我が物語、貴方のマテリアルを見た吾輩の描くとっておきの短編脚本を堪能せよ!

さあ、我が宝具の幕開けだ!席に座れ!煙草は止めろ!写真撮影お断り!野卑な罵声は真っ平御免!世界は我が手、我が舞台!開演を此処に―――万雷の喝采を!」

 

 

オルガマリーの言葉に、不服だとばかりにシェイクスピアが取り出したるは何の変哲もないメモ帳。書くものが無かったのでオルガマリーに借りたそれに記された題名は、『霧の丘の処刑人(サイレントヒル)』。

 

 

「我が宝具の題名は、開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)!開演!」

 

 

これぞ、オルガマリーの考えた対抗策。世界を閉塞させ、脚本を産み出し、物語を強制させる。対象者を自作劇の登場人物に仕立て上げ、その上で対象者に難題を突きつける。シェイクスピアの有する世界改変型宝具だ。今回のそれは「二次創作」であり、オルガマリーの渡したマテリアルから喜劇悲劇が大好きなシェイクスピアの考えたもの。

過去を繰り返して彼の在り方に働きかけ・・・確実に、その動きを阻害(スタン)した。完全に停止した六体のレッドピラミッドシングに踵を返して立ち去ろうとするオルガマリー達の前方。出口方面から先程倒して燃やし損ねたゾンビが変異したのかクリムゾンヘッドが数体駆けてきて、即座に構えて迎撃。アンデルセンは自身を抱えるオルガマリーと、その側に立つジルの、すぐ近くで鳴り響く銃声に顔を顰めた。

 

 

「おい、オルガマリー」

 

「何かしら、今忙しいのだけど!」

 

「どうせここの真上は崩壊した博物館だ。一発でかいのをぶちかましてそこから脱出するぞ。何時あの三角頭が動き出すか分からん」

 

「・・・それしかないわね。アルトリア、上に向けて宝具を!できれば敵を巻き込む様に!清姫、ジル、離脱するわよ!」

 

 

オルガマリーの指示を受け、渾身のエクスカリバーが大地を穿つ。融解し崩れていく天井を伝って脱出したオルガマリー達の去った場にて。

 

 

 

 

復活した三角頭の追跡者は何時の間にか一体に戻り、次の標的を捜す様に立ち去った。それは、ヘンリー・ジキルがエドワード・ハイドの分まで罪を背負おうと改めて覚悟した故だからこそ。もしもそうそう変われない英霊であるならば・・・これは、レッドピラミッドシングを撃退するのは、人間の強さと弱さだということである。

 

血塗れの処刑人は、己が召喚された理由である罪人を捜すために、何の因果がかつてのジェームズと同じく地下深くへと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、これかなおかあさん?」

 

「何かすぐに壊れたけど・・・」

 

「あ、うん。多分そうみたい?」

 

 

同時刻。フランの案内でウェストミンスターまで訪れてやっと見つけた宝具の本体、リモコンと思われる大型のヘルタースケルターを、エヴリンとジャックのコンビがあっさりと破壊してしまい、全てのヘルタースケルターが停止した事で拍子抜けしてしまい、空笑いを浮かべる立香の姿があった。

 

 

しかし、程なくして再起動したヘルタースケルターの脅威は収まらない。彼らの秀でている事は、文字通りの機械の体だ。ゾンビに噛まれ様が、ウーズに吸い付かれ様が、モールデッドに引っ掛かれようが、銃で撃たれようとビクともしないのだ。バイオハザードに対する究極の対抗勢力(アンチ)。その親玉が、わざわざ安全なところで指示を出す訳がないのだ。

 

 

アパルメントへの帰り道、ロンドンの中央にて立香達は、クリムゾンヘッドの群れを挽き潰していた彼に直面した。

 

 

「―――――聞け。聞け。聞け。我が名は蒸気王。有り得た未来を掴むこと叶わず、仮初として消え果てた、儚き空想世界の王である」

 

 

ディーラーのシカゴタイプライターも物ともしない鉄の巨人、蒸気王チャールズ・バベッジが、立香達の前に立ちはだかった。




今回はぶっちゃけ、色んなフラグを準備するための回。

・今章が亀更新な理由。
元々が、無駄に戦闘だけのパートが多かったり、行ったりきたりを繰り返すのでルートを把握するのが大変なんです。なので今回、二つに分ける事で一気に省略しました。

・実は酷い環境に参っていたマスターコンビ
ダ・ヴィンチちゃん製チョーカーによりウィルスの影響を受けないとはいえ、元々の最悪の環境下で気分が滅入っていた二人。特に立香の方が酷くてメンタル面にダイレクト。

・エヴリン介入によりジャックが敵になるルート廃止
実は当初は立香側に着いたエヴリンとパラケルススの連れたジャックが激突する構成だったのですが、どうしてもジャックを味方に入れなくてはいけなくなったため、せっかくだしコンビにしてしまおうとこうなりました。

・相変わらず情緒不安定なエヴリン
立香に対してデレたかと思えばすぐに敵視する忙しいエヴリン。ちなみに未だにクラス名が分かっていません。エヴリンもジャックと同じで今回必須です。

・父上コンビに制裁されるモードレッド
言わずもがな天国。アルトリア二人も嫌ではない模様。そのうちかっこいいモーさんが出るから許して。

・時計塔
魔術師に置ける重要拠点の一つ。今やゾンビとスペルブック等の巣窟で狭いため現在のロンドンで最も危険地帯である。時計塔に所属していたオルガマリー担当。

・ヘルタースケルター
リモコンで動く戦う機械の宝具。元々は人を殺す事に特化した殺人機械兵だが、ゾンビ等の出現によりそれらを駆逐する最も効率のいい手段と化した。スキャグデッド相手でも数体で囲めば鎮圧できるが、ネメシスやレッドピラミッドシング相手ではどうしようもない。
銃弾が通じず、ジルの硫酸弾やディーラーのロケットランチャーでしか真面にダメージが入らない強敵。しかしリモコンである大型ヘルタースケルターはエヴリンの胃酸攻撃で脆くなったところにジャックが細切れした事で瞬殺された。相性で強くも弱くもなる分かりやすい例。

・エドワード・ハイド
ヘンリー・ジキルの「悪」の側面であり、薬を使う事で現れる奥の手。過去に、五人もの人間を殺害したシリアルキラーでもある。凶暴で手が付けられず、もし前回の籠城戦で使っていたらどうなっていたかは想像に難しくない。レッドピラミッドシングとの相性は最悪だが、生前であったことが功を奏した。

・レッドピラミッドシングの動向
あっちへふらふら、こっちへふらふらとロンドンを彷徨っていた目的は己の召喚された理由探し。目に着いた「悪」を片っ端から惨殺していた。かつてのジェームズが精神世界だったが、現実の地下深くへと落ちて行く彼の行く先は・・・?弱点が精神攻撃だと判明した。

・シェイクスピアの宝具
レッドピラミッドシングに対する対抗手段の一つ。作者はアポクリファアニメ未視聴の為、使い方や表現がよく分からず、1.5部の使い方を元にした。使い方が間違っていて、もし指摘されたら書き直しも辞さない覚悟。

・チャールズ・バベッジ
サドラーやランスロットと同じく、ディーラーにとって天敵とも言えるサーヴァント。対抗手段は・・・?


次回、立香一行VSチャールズ・バベッジ。そして敵の本拠地へ・・・?次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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お嬢様の意地だとよストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…割と早く更新できて自分でも驚いている放仮ごです。最近は名探偵コナンの「ベイカー街の亡霊」と「ホームズ黙示録」を見返しながらロンドンマップを頭にインプットしながら執筆してます。ロンドン知識がそれしかないんだ許してください。

今回はVSバベッジ。珍しく何の魔改造もされていないサーヴァントとの対決です。恐らくアシュリー、今作最大の見せ場。日本英霊コンビも一足早く登場です。楽しんでいただけると幸いです。


「に、逃げれたかしら?」

 

「その様だな。まったく、作家に走らせるとは」

 

 

シェイクスピアの宝具による搦め手で足止めし、アルトリアの宝具による力技で開けた大穴から地上に脱出したオルガマリーは振り返り、あの恐ろしい三角頭が見えないことを確認すると一息吐いた。今まで自分を標的に宝具を使われた事がなかったが、ハイドに使われた事でその恐ろしさを再確認したのだ。するとアルトリアに担がれていたハイドが目を覚ました。その目は真紅から翡翠に戻っていた。

 

 

「面目ない・・・僕では、完全にハイドを抑えることはできなかった・・・」

 

「よかった、戻ったのね。気にしないで、ハイドが居た事で助かったのは事実だから」

 

「ジルの言う通りよジキル。それよりも、これからどうするかを考えなくちゃ・・・」

 

 

一度ジキルと作家コンビを戻すためにアパルメントに帰還するべき、しかしそれでは何も進まない。どうしたものか。オルガマリーが思考していると、ジルが自らの宝具の欠片であるマップを見てから声を懸けた。

 

 

「それなんだけどねオルガマリー。これを見て」

 

「うん?エクスカリバーでできた道まで描かれてる?」

 

「時折更新してくれるのよ。それで、ここ。エクスカリバーで開けた縦穴の途中に横道があるでしょ?」

 

「・・・登ってた時には気付かなかったけど、これってもしかして・・・」

 

 

今まで、敵の三人の魔術師の居場所が分からず難航していた。しかし、考えれば簡単だったのだ。ゾンビに襲われる危険性が少なく、人知れず魔霧を生成して広げ、地表に召喚された三角頭が三日経っても辿り着けなかった「敵」の居場所。

 

 

「三人の魔術師がいるのは、地下か・・・ロマン!ロマン・・・?」

 

 

カルデアに連絡を入れようとするも、うんともすんとも言わなくなった事に気付いたオルガマリー。どうやらここはロンドンの中心地、魔霧が濃くて通信が安定してないらしい。しかし、これはチャンスだ。穴を塞がれない内に侵入する必要がある。他の入り口が何処かも分からないのだから。

 

 

「・・・突入するにしてもジキルを安全な場所に運ばないと・・・アパルメントに戻れば通信もできるのでしょうけど、そんな時間は・・・」

 

 

ふと、ジルに送ってもらう手も考えたが、ジェームズ・マーカス相手に太刀打ちできなかったことを考えると戦力は少しでも欲しい。アンデルセンとシェイクスピアは戦闘力は皆無に等しいので連れて行った方がまだマシだ。かといって、ジキルを一人で戻す訳にもいかない。どうしようかと迷っていると、道の向こうから何かが吹っ飛んで来たのが見えた。堪らず身構えると、それはゾンビ数体で、燃えていたり電気を帯びたりしていた。

 

 

「これは・・・?」

 

「ッ!まだ動いているわ!みんな、気を付けて・・・」

 

 

ジルが注意した間髪入れず、まだ動いていたそれを、容赦ない金的を狙った飛び蹴りと、電撃を纏った黄金の斧が蹂躙。呆けたオルガマリー達の前に、ロンドンには似つかわしくない奇抜な格好の男女二人組が現れた。

 

 

「はいはいすみませんね。そこ暫く。ちょっ〜と待って下さいます?やっと会えた話が通じそうな御方。ここ、ロンドンで合ってますよね?霧の都ロンドン。ですよね?」

 

「え、ええ。それであってるけど?」

 

「では夢の二階建てバスはいずこ? 大英博物館、時計塔、セント・ホール大聖堂はいずこ?この不気味な霧は何です? どうして、昼日中なのに誰もいないんです?人影見えたかと思えば有象無象のゾンビの山ですし、必死に掃除しながら街に来てみればこの有様。

楽しみにしていたフィッシュアンドチップスは? 密かに憧れていたアフタヌーンティーは?スコーンは? クロテッドクリームは? フォートナム&メイソーンの本店は?これ、もう半分以上は廃墟っぽいふんいきですけれど?

みこっ?もしかしてロンドン、サクッと滅びかけてません?ご主人様とのハネムーンへの予行練習にと、ロンドン旅行に付いて来てみれば何ですこれ?もしやゴールデンさん、(わたくし)を謀りました?神様舐めてます?」

 

「タダ乗りされて何で攻められてるんだオレ?って近い、顔が近いぞフォックス!」

 

 

怒涛の勢いで男に責め立てる改造した青い巫女服の様なものを着た少女に目を丸くするオルガマリー。桃色の髪で狐耳と尻尾を生やしている、いわゆる色物である。どうやら清姫は正体に気付いたようだが黙ってオルガマリーを見詰めていた。関わりたくないのでどうにかしてくれ、という意だろうか。

 

 

「えっと・・・もしかして、貴方達もサーヴァントかしら?」

 

「ああ、(わり)い。名乗り遅れた。オレのことはゴールデンと呼んでくれ。コイツはフォックス。オレっち達はいつの間にか召喚されて、ゾンビに囲まれたから暴れていたんだがな?やっと話が通じそうな奴に会えて助かったぜ。手伝える事なら何でも言ってくれ!力になってみせるからよ!」

 

 

そう言ってゴールデンと名乗った金髪グラサンの大男はにかっと笑う。まったく真名が予想できないが、とりあえず敵ではない事は確信したオルガマリーは提案した。

 

 

「ちょうどよかった。この、ジキルの護衛をお願いしたかったの。私たちちょっと急いでて・・・貴方達なら信用できる。無事に送り届けてくれないかしら?」

 

「おう!オレとフォックスに任せときな!大将たちは何も心配せずやるべきことをやってくれ!」

 

「もう、ゴールデンさんたら勝手に・・・いえ、倫敦に召喚されるからと無理矢理着いて来たのは私ですしね。みこーんとお任せを!良妻ですから!」

 

「大将?良妻?…えっと、とりあえず任せたわ。ジキル、ごめんなさい。藤丸達に、ここから乗り込むって伝えて」

 

「ああ、問題ないよ。力になれなくてすまない。無事に帰ってくることを祈っているよ」

 

 

ジキルがそう言った時だった。突如地鳴りが発生し、鳴動と共に何かが近付いて来たのを感じた。たまらず身構えるオルガマリー一行とゴールデン&フォックス。作家組がアルトリアの後ろに隠れたのは御愛嬌だ。

 

 

「な、なに!?まさかもう敵にばれたの!?」

 

「これって、まさか・・・オルガマリー、気を付けて!私の記憶が正しければ、ここ・・・陥没(・・)するわ!」

 

「はい?」

 

 

ジルが警告した瞬間、オルガマリーの足元を起点に道路のど真ん中が陥没し、エクスカリバーで開けた穴と隣接した巨大な陥没穴を作り上げた。全員避ける間も無く飲み込まれ、雪崩れ込んでくる砂と石で視界を遮られながら、オルガマリーは鎌首を上げたそれの、全長10mはある巨大な影を見た。

 

 

「嘘・・・でしょ?」

 

 

その正体は、巨大なミミズ。汚泥の如き茶色の硬質な肉体と、四本の牙を兼ね備えた口を開いて威嚇するそれの名は墓堀人(グレイブディガー)。ラクーンシティ事件にてジルを二度に渡り苦しめた、T-ウィルスが土壌に流れて来たことで突然変異を起こしたクリーチャーだ。その下からは散らされた卵が即孵化して出てきた幼体、スライディングワームが蔓延り、オルガマリー達を捕食すべく牙を剥いた。

 

 

「シャア!」

 

 

清姫が咄嗟に炎を撒くが通用せず、オルガマリーとジルは後退しながらジキルと作家組を守るべく銃を乱射、アルトリアが斬りかかるもビクともせず跳ね飛ばされる。そんなグレイブディガーの進撃を止めたのは、雷撃を纏った一撃と下からスライディングワームを巻き上げる突風だった。

 

 

「――――こいつぁ、ゴールデンだな。なあフォックス!久方ぶりに大物だ!この間の巨漢とサメ野郎よりはタフそうだぜ」

 

「はてさて、何がゴールデンなんでしょうか。私的には最悪です、こんな泥まみれになってしまって。せっかくの一張羅だというのに、このうらみはらさでおくべきか……落とし前はきちんと付けさせてもらいます!我が呪相・密天、つまりはまあ・・・バリバリ呪うぞっ♪」

 

 

オルガマリーの前に広がるは、金の斧を担いだ広い背中と、なにやらポーズを決めて御札をばら撒く小柄な背中。だがそれは、ローマでウェスカーにやられる瀬戸際に見た騎士王の背中と重なり、とても頼りになると直感する背中で。

 

 

「おう大将。ここはオレ達に任せてさっさといきな。心配はいらねーぜ?怪物退治はオレっちの分野だ」

 

「お話を聞かせてもらえないことは残念ですが、これも縁と言う物。ささっとお行きなさいな。このジキルさんとやらは責任もってゴールデンさんが守ってくれますので?」

 

「おいおい、丸投げかよ?まあいい、派手に行くぜぇ」

 

「・・・ありがとう、礼を言うわ!急ぐわよ、皆!」

 

 

その言葉に何も問題は無い、と断じたオルガマリーはそのまま背後に広がる、エクスカリバーで開けた穴へと急いだ。降りて行く途中でちらっと振り返って見えたのは、黄金の雷撃と巻き上がる緑の風、グレイブディガーの悲鳴と共に噴き上がる砂埃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランの案内で見付け、瞬殺した「リモコン」の大型ヘルタースケルターには、他のヘルタースケルターとはまた違う特徴があった。

それは、製造者氏名が英語表記で記されていた事だ。『Charles Babbage AD.1888』それを見た途端フランの様子がおかしくなったが、それは当然だった。

 

チャールズ・バベッジとは19世紀英国の人物で、優れた科学者にして数学者。そう、この時代の人間でありヴィクター・フランケンシュタイン博士とは知己の仲。フランは面識があるのだ。会って話した事さえある。しかし戸惑いながらも居場所を指したのは、ひとえにバベッジを止めたいからだと立香は思った。

 

 

 

 

そして、出くわしたのだ。サーヴァントになったことでその渇望と夢想が昇華された固有結界であり、彼の心であり、身に纏う機関鎧そのものとなった宝具を身に纏ったチャールズ・バベッジに。

 

 

「―――――聞け。聞け。聞け。我が名は蒸気王。有り得た未来を掴むこと叶わず、仮初として消え果てた、儚き空想世界の王である。貴様たちには魔術師「B」として知られる者である。そして帝国都市の魔霧より現れ出でた英霊が一騎であり、この都市を覆う「魔霧計画」の首魁の一人である」

 

「魔術師「B」。やっぱりか、チャールズ・バベッジ。イニシャルからそうだと思ってたがこりゃなんだ?ヘルタースケルターとほぼ同じ姿とはな。キャスター要素は何処に行った鋼鉄王?」

 

 

そう尋ねるディーラーに、バベッジは全身から蒸気を噴出させ単眼を赤く光らせた。

 

 

「鋼鉄王ではない。我が名は蒸気王。ひとたび死して、空想世界と共にある者である。我が空想は固有結界へと昇華されたが、足りぬ。足りぬ。これでは、まだ、足りぬ。見よ。我は欲す者である。見よ。我は抗う者である。鋼鉄にて、蒸気満ちる文明を導かんとする者である。想念にて、有り得ざる文明を導かんとする者である。そして・・・人類と文明、世界と未来の焼却を嘆く一人である」

 

「つまり・・・その姿は、ナーサリーと同じ固有結界・・・!?」

 

『その通りだ立香ちゃん、彼自身が固有結界だ。ナーサリー・ライムは眠りを撒いたが、彼は自分の分身をどこまでも際限なく撒き続ける。恐らくは、そういう・・・』

 

「御託はいい。いいか、屑鉄。よく聞け。お前の知り合いの娘が、お前を止めに来た。話を聞いてやれ。大層な御託も何もかも、それからだ」

 

「・・・ア、ァ、ゥ、ァ・・・!」

 

「―――おお、おお。忘れるはずもなきヴィクターの娘。そこにいるのか。お前は。可憐なる人造人間よ。造物主より愛されず、故に愛を欲す哀れなる者よ」

 

 

その言葉にピクリと反応し臨戦態勢を取って立香に手で制されるエヴリンと、それを心配そうに覗き込むジャック。対話ができそうなのだ、立香とて戦いたくないため必死に抑える。しかし、その心配も杞憂だった。

 

 

「嗚呼、嗚呼、お前の言葉が、想いが聞こえる。そうだ、碩学者の務めを果たさねば。だが、私は、我等は・・・」

 

 

モードレッドに続いたフランの叫びに応え、立香とマシュが対話を試みようとしたその時、バベッジの様子がおかしくなった。小刻みに震え、その手に掘削ドリルと一体化した杖を構え、目をさらに赤く輝かせる。

 

 

「グッ・・・これは、なんだ・・・?アングル、ボダの、介入か・・・、組み込んだ聖杯を・・・Mが・・・この私さえも・・・?グ・・・ゥ・・・グガ、ガガガガ・・・ヴィクターの娘・・・逃げろ・・・!」

 

「この様子・・・恐らく令呪だ、ストレンジャー・・・!」

 

「・・・コイツも、利用されていたにすぎないという訳か。サーヴァントの定めだなこれは・・・」

 

「オオ、ォ・・・!」

 

 

掘削ドリルを振り上げるバベッジに、ディーラーが立香を後退させ、セイバーオルタがいの一番に突撃する。しかし、振り下ろされた強大な一撃に耐え切れず、建物の外壁に叩き付けられ呻くセイバーオルタ。それだけで、力量差が分かった。聖杯からの援助もあるのか、元々の鎧の性能なのか、このサーヴァントのスペックは桁違いだ。

 

 

「もはや対話不能です先輩、来ます・・・!」

 

『令呪の効果が聖杯による物だとしたらもう倒すしかないぞ、立香ちゃん!』

 

「彼を止める!お願い、みんな!」

 

「はい、マスター!」

 

「・・・俺とは相性最悪のサーヴァント、苦戦必至だ。死んでも文句を言うなよストレンジャー」

 

 

立香の声に応えたマシュとディーラーを先頭に、滑走し突進してくるバベッジを応戦するサーヴァント達。しかし、ディーラーの言う通り、苦戦必至であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャリギャリギャリ、と聞くに堪えない金属音が、声にならない少女の絶叫と共に鳴り響く。それは、正気を失いながらも冷静に立ち回る蒸気王バベッジの手にした杖と一体化した掘削ドリルと、宝具を展開したアシュリーによる鬩ぎ合いの音だった。

 

 

片や、少女の身には余る無敵の鎧。片や、蒸気機関で駆動する鋼鉄の巨躯の鎧。共に数多の攻撃を物ともしない、無敵の鎧。

 

 

似た宝具を有する、本来非力な者同士の戦いは、寂れた街並みをも飲み込んで行く。建物が崩れ、石畳の道路が捲れ、瓦礫が舞い、ゾンビやウーズが巻き込まれてミンチと化して血飛沫と共に飛び散って行く。

バベッジが掘削ドリルを突き出せば、アシュリーが両腕を振り上げて弾き返す。薙ぎ払えば吹き飛ばされながらも果敢に立ち向かい、突進すれば真正面から受け止めて、それでも吹き飛ばされる。

 

 

そんな光景を、マシュにフランと共に守られながら見守る立香の表情に陰が宿る。既にジャックとエヴリンは力尽き、セイバーオルタとモードレッドは次々と現れる大型ヘルタースケルターの相手に手一杯。ディーラーは一撃で跡形もなく吹き飛ばされた後、姿を見せない。

オルガマリーと合流しないで強敵を対面した事を、立香は後悔していた。大人しくアパルメントで待機すべきだったのだ。自分は結局、無力なのだから。

 

 

 

結論を言うと、首魁である三人の魔術師の一人「B」は伊達ではなく、蒸気王チャールズ・バベッジは、強過ぎた。

 

まず、ヘルタースケルターと同じくメインウェポンである銃器と剣やナイフがまるで通じない。機関の鎧のパワーはセイバークラスの二人やマシュであろうと薙ぎ倒し、ジャックの「暗黒霧都(ザ・ミスト)」の硫酸の霧を恐れたのか一瞬で肉薄すると叩き潰し、それに激昂して殴りかかったエヴリンでさえも、再生による桁違いの耐久を危惧し壁に叩き付けて気を失わせ無力化する始末。ついでにその余波の回転でディーラーを挽き潰した。

 

これでクラスはキャスターなのだという。カルデアにいるメディアとクー・フーリンが「ふざけるな」と激怒する三騎士クラスにも迫るスペックは、そう簡単に覆せるものでは無い。

 

何より厄介なのは数学者として知られ、サーヴァントと化した事で階差機関と半ば一体化した状態のために規格外の計算能力を備えたチャールズ・バベッジの頭脳だ。ジャック、エヴリンの危険性からすぐさま鎮圧し、「マスターの有無」に危険性があるからと他のサーヴァントは一蹴して真っ直ぐ立香を狙い、咄嗟に鎧を展開したアシュリーが割り込み、今に至る。

 

 

「マスター、魔力を!このままじゃもたない!」

 

「う、うん・・・!」

 

 

拙いながらも、アシュリーの鎧を維持するために魔力を送る立香。アシュリーはそれに応える様に、フルパワーで両手を突き出し、掘削ドリルを押し返した。しかし、押し返された勢いのままバベッジは掘削ドリルを掲げ、全身から蒸気を噴出しながら勢いよく振り下ろす。

 

 

「―――蒸気圧 最大」

 

「ッ!?」

 

「鉄槌、一撃」

 

「先輩、フランさん、伏せて!」

 

 

その一撃は今までの比ではなく、アシュリーは耐え切れずに吹き飛ばされ、立香はマシュに言われるままにエヴリンとジャックを抱えてフランと共にマシュの盾の内側で身を縮めた。衝撃波がマシュの盾に直撃し、振動が伝わる。ガンッと重い何かがぶつかったかと思えば、ようやく衝撃波が止んで遥か後ろでゴシャーン!と重い何かが地面に激突した音がした。

 

ふと我に帰れば、様変わりした周囲の光景が目に入る。爆撃でもあったかのような破壊され、爆心地の様だ。振り返れば、鎧が消失し満身創痍のアシュリーの姿。先程盾にぶつかったのはアシュリーなのだと立香はすぐに思い至り、マシュとセイバー二人にバベッジの相手を任せ、フランにエヴリンとジャックを任せると慌てて駆け寄った。アシュリーは無傷であったが、度重なる慣れない魔力行使によって疲弊しきっていた。

 

 

「アシュリー!大丈夫?しっかりして!」

 

「・・・ごめん、マスター。わたし、やっぱり・・・レオンがいないと何もできない。見ていてもらわないとクランクを回す事も出来ない、無力よ・・・」

 

「そんなことない!私を助けてくれたのはアシュリーだよ!お願い、私を置いて行かないで・・・」

 

 

意識が朦朧とするアシュリーは、涙を浮かべる立香ごしに、バベッジに立ち向かう仲間たちを見た。バベッジの振り回す掘削ドリルを掻い潜りながら幾度も剣を叩きつけるモードレッド、大振りを黒い魔力を纏った剣を振るい相殺するセイバーオルタ、その二人の隙を突いた攻撃を防いでカバーするマシュ。その立ち回りは、彼女が間近で見続けて来た男と同じく、紛う事無き英雄の姿だった。

 

 

「・・・ねえ、マスター。お願いがあるの」

 

「なに?私にできる事なら何でもするよ」

 

 

気を引き締め、立ち上がる。負けられない。恐らくは自分よりもか弱いマスターに弱い姿は見せられない。もう、守られるだけではないのだから。

 

 

 

 

 

 

階差機関(ディファレンス・エンジン)、起動」

 

スキル、オーバーロードを発動し、鎧の蒸気機関を意図的に暴走させて出力を増幅。赤熱したボディでセイバーオルタとモードレッドを薙ぎ払い、体当たりでマシュを吹き飛ばすとその標的を立香と、その前で構えるアシュリーに見定めると単眼を赤く発光させるバベッジ。

 

 

「見果てぬ夢を、ここに。我が空想、我が理想、我が夢想・・・!」

 

 

暴走した蒸気機関が損傷してダメージを負うも、関係ないとばかりに背中から蒸気を噴出させて飛び上がり、高速回転する掘削ドリルを構えて立香に向け蒸気を上空に噴出して急降下。鎧を展開し両手を突き出したアシュリーが迎え撃つ。

 

 

「――――絢爛なりし灰燼世界(ディメンジョン・オブ・スチーム)!!」

 

「クッ、ゥ・・・ァアアアアアアアッ!」

 

 

咄嗟に投げ飛ばした立香がマシュにキャッチされたのを確認し、改めて真正面から衝突するアシュリー。吹き飛ばされそうになりながらも必死に耐える。

受けてみて分かった、これは以前少ししか耐える事が出来なかったアルテラの物と同じ、対軍宝具だ。長くはもたない。それどころか、このまま直撃すれば周囲を巻き込んで破壊の奔流を起こすには間違いない。現にゾンビやらが血をまき散らしながら回転に巻き込まれミンチと化していた。もしも、魔力が途切れて鎧の維持が止まればその瞬間同じ運命を辿るだろう。

 

 

これでもこの鎧は城の壁を突き破るドリルを難なく受け止めた実績がある。あとは、自分が慣れない尋常ではない魔力消費に耐えるだけ。しかし、鎧を着て無敵の自分でも悲鳴をあげてしまうシカゴタイプライター以上の衝撃だ、長くは耐えられそうにない。

 

アシュリーは英雄などではない、一般人だ。ロス・イルミナドスに攫われた経験から胆力はあるものの、度胸はほとんどない。目の前でレオンが銃を構えるだけでも怯えたぐらいだ。死にたくない。アルテラの時は一瞬だった。しかし、じわじわと追い詰められてそう思わざるを得ない程、彼女の心は強くない。もう折れそうだ。

 

 

しかし、だ。自分は知っているのだ。レオンと同じく、嫌々ながらも、死地に向かうレオンから私を預かってくれた、彼がこんな状況を見過ごせないお人好しなのだと。・・・それを信じて恐怖に耐えることができるのが、自分なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――そういえば、この武器の性能をストレンジャーに見せる事が無かったからなあ」

 

 

バベッジに挽き潰された直後、少し遠方の建物の屋上に出現していたディーラーは、マグナムやらシカゴタイプライターやら己の武器の中でも高火力のそれがまるで効かなかった時点で認識を改めた。

原理は、プラーガが甲冑に入り込んだ事で生まれたガナードの派生体、アルマデューラと同じだ。甲冑に銃弾は通じない。正確には効きはするが殆んどダメージは無い。アルマデューラを倒すには一番脆い兜に大ダメージを与えて外させた頭部から出てきた本体を叩く必要がある。先に進むため「王の聖杯」を取るためにその罠にかかったレオンは大苦戦したのだという。

 

兜に一撃で大ダメージを与えられるのは、マグナムと・・・そして、ライフルだ。レオンはセミオートライフルで数に対抗していたが、ここではその必要はない。相手は一人。アルマデューラと同じく、急所を狙うだけなら一発でいい。必要なのは堅牢な装甲を撃ち抜く貫通力だ。

 

 

「ボルトアクション式ライフル。連射性は悪いが、威力は随一。・・・お嬢様、アンタの頑張りは俺やレオンが知る通りだ。何時も通り助けを求めろ、レオンは居ないから俺が注文(オーダー)に応えるぜ」

 

「ディーラー!マスター!」

 

「オーライ。決めろ、お嬢様」

 

「マスタースキル!」

 

 

アシュリーの声と共に、トリガーを引くディーラーと、手をかざす立香。放たれた弾丸は蒸気の鎧の継ぎ目部分の一つであろう鳩尾部分を撃ち抜き、それで一瞬攻撃が止んだ瞬間に引き絞られた拳が、煌めく光を纏って弾丸が撃ち込まれ凹んだ鳩尾部分に叩き込まれた。

 

 

「―――勝利への確信!」

 

 

マスタースキル「勝利への確信」。自軍のサーヴァントに、信頼と言う名の「星」を与え、致命的な一撃(クリティカル)を叩き込める可能性をグンと上げるギャンブル染みたアニバーサリー・ブロンドが使えるマスタースキルだ。ちなみにクラスで偏りがあり、ライダークラスとアーチャークラスは特に恩恵を受けやすく、バーサーカーとキャスターにはほとんど効果が無かったりする。

それを受けたアシュリーの全身全霊を込めた一撃はクリティカル・・・致命的な一撃となり、バベッジの堅牢なボディに、ディーラーの撃った弾痕を起点に風穴を開ける事に成功した。

 

 

「・・・はあ、はあ・・・やった・・・の・・・?」

 

「アシュリー!・・・お疲れ様」

 

「ゥゥ!」

 

 

力尽き、魔力が解けて甲冑姿から元の私服姿に戻って倒れ込むアシュリーの体を、慌てて駆け寄り優しく受け止める立香とフラン。そんな光景を、風穴を開けられたバベッジは光の粒子へと変わりながら微笑む様に単眼を輝かせた。

 

 

「見事であった、か弱き娘よ。そして臆病なマスターよ。シティの地下へ、行くがいい。地下鉄(アンダーグラウンド)の更に、深い、深い、深い、奥底・・・其処に・・・「魔霧計画」の主体が、在る・・・・・・だろう・・・都市に充ちる・・・霧の、発生源・・・すなわち、我が発明・・・巨大蒸気機関アングルボダ・・・・・・聖杯は、アングルボダの動力源として・・・設置・・・」

 

「ゥゥ・・・」

 

「・・・すまぬ。ヴィクターの娘。どうか気にしないくれ。お前の声は聞こえたが…私は、既に、正しき命を有した、人間・・・・・・ではなく・・・妄念の・・・有り得ざるサーヴァント、と、化したのだ・・・」

 

「関係ない!」

 

「なに・・・?」

 

 

言う事を伝えて、いざ消えようとしていた所に一喝の言葉が向けられ、疑問だとでも言う様に蒸気を噴出させるバベッジ。涙ぐみながら叫んだのは、立香であった。

 

 

「意思を通じあえて、話ができて、そんな優しい人が人間ではないなんて、絶対にない!サーヴァントだろうと、ロボットだろうと、ガナードだろうと、根っから人間じゃなくても!関係ない!友達、仲間、家族!ううん、言葉では表せない対等な関係、同じ人間だよ!

フランとバベッジさんだって、そうでしょ?フランの悲しみは、貴方と別れることからなんだから、気にするなとか言うな!残される方は何時だって気にするの!どれだけ悲しいか、苦しいのか分かってるの!?サーヴァントだからってそれに甘えるな、馬鹿!」

 

「ストレンジャー・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

仕事を終えて戻って来てみれば、涙を流しながらせき止めていたものを決壊させる様に言葉を漏らす立香に、何とも言えなくなるディーラー。その後ろには、感銘を受ける様な表情を浮かべるエヴリンの姿もあった。

 

 

「・・・解析、不能。だが、言いたいことは、理解した・・・残された者の感情を省みなかった事は詫びよう。だが、残すことしかできない私の意も汲んでくれ。臆病すぎるマスターよ…。私は・・・私は、嗚呼、私の世界を夢見てしまったが・・・しかし・・・それ、とて・・・私の夢を叶えなかった世界であっても・・・隣人(あなた)たちの世界を、終わらせよう、とは、思わない・・・嗚呼、奴を止めれなかった」

 

「奴?」

 

「奴は・・・「M」は、復讐の権化だ・・・何に復讐しようとしているのかは知らないが、例え世界がどうなろうと復讐を果たそうとしている・・・この世に災いをもたらし…全てを地獄の炎で焼き尽くすと言っていた・・・あの日に、喚ばれた事はそれ果たせという運命(Fate)なのだと豪語していた・・・奴こそ、魔術王がロンドンに敷いた鬼札だ」

 

 

奴とは「M」、マーカスのことだろう。では「あの日」とは。「止めれなかった」とはどういうことか。思考するディーラーを余所に、バベッジはもはや首から上を残すのみの姿で続けた。

 

 

「この惨状を生み出したのは奴の仕業だと気付くのに遅れた、必要以上の地獄を生み出してしまった・・・我が発明、アングルボダは、それに加担してしまった・・・悔やんでも悔やみきれぬ・・・カルデアのマスターよ、勝手だとは思うが奴を止めてくれ。時間が無い、急げ。ヴィクターの娘が生きるこの時代を、人理を救ってくれ・・・」

 

 

その言葉を最期に、キャスターのサーヴァント、チャールズ・バベッジは消滅した。項垂れるフランをモードレッドが励まし、立香はアシュリーをディーラーから渡された救急スプレーで治療しながら問いかけた。

 

 

「まだ行ける、アシュリー?」

 

「うん、少し休めば行けるけど・・・」

 

「これからどうするんだストレンジャー。まずは所長達と合流するか?」

 

「それなんだけど・・・ドクター、所長達に通信は?」

 

『すまない、報告が遅れた。それが、時計塔から脱出した後から通信が繋がらない。どうやら魔霧が濃いエリアに入ってしまったらしい。これからどうするんだい?』

 

「まずはフランをアパルメントに帰してから、出発する。ドクターは通信が繋がり次第所長にも伝えてください。目的地は……チャリング・クロス駅、その奥……アシュリー、力を貸して」

 

「え、あ、うん・・・?」

 

 

満面の笑みを浮かべる立香の言う事がいまいち分からないまま頷くアシュリー。そう、彼女のクラスはライダー。その本領発揮である。

 

 

「ディーラーも、力を貸してね?」

 

「・・・どんな無茶でも、できるかぎりは注文(オーダー)には応えるぜ?だが、程々になストレンジャー?」

 

 

オケアノスの時から気付いたマスターの事実に、嫌な予感を感じざるを得ないディーラー。このマスター、メディアが一周回って褒めるぐらいにぶっ飛んでいる(・・・・・・・)のである。

 

 

 

 

 

『あ、マイクに替わる増援に送る準備が整ったけど・・・聞いてないみたいだから後にしようか。ちょっと悲しい。マギマリに相談しようかな・・・』




実はこのまま謎解きの答え合わせまで行ってから終わりたかったけど一万字超えた為断念した今回。アシュリーをかっこよく書くために全力を費やしたのは言うまでもない。

・エクスカリバーの縦穴
前回最後のアレ。ほぼ垂直だが、微妙に斜めに撃ったためやや急な傾斜になっている。何の偶然か、「大空洞」へと通じる横穴と繋がった。ちなみに大英博物館跡地にぽっかり開いているため人的被害は無し。

・ジルのマップ
常時更新される優れもの。腐っても宝具の一部。行けないところまできちんと描かれるためとても便利。

・早めに登場したゴルフォ
実はロンドン編始めから登場していた御二方。召喚されたはいいものの墓場で、リアルゾンビに襲われてずっとスペクタルしてた。モードレッド等他のサーヴァントと出会わなかったのは偶然。スキャグデッドとスカルミリオーネは瞬殺したとの事。この二人、特にフォックスの口調は本当に書きにくい。唐突だけどゴルフォ好きです。

・グレイブディガー
バイオハザード3に登場する割と苦戦するタイプのボスキャラ。ラクーンシティの地下を掘り進んで地震を起こし、最終的にラクーンシティ公園の一角を陥没させた。電気が弱点。つまりゴールデンは天敵。

・チャールズ・バベッジ
強化しようにも感染しようが無い上に、そのままでもディーラーの天敵で立香パーティーに対するアンチであるために魔改造されなかった人。ぶっちゃけ強過ぎると思うんです。「M」の暴走に気付きながらもサーヴァントである事を理由に静観していたことを悔やんでいた。大事に思っているヴィクターの娘であるフランに向けた言葉は、立香の逆鱗に触れた。

・無敵の鎧対決
偶然にも成立してしまったバイオ最強の鎧VSFateのまあまあ最強の鎧の対決。火力はバベッジ、防御力はアシュリーに軍配が上がった。

・アシュリー・グラハムという存在
根っからの「助けられる側」。守る事ではなく、助けられる側でこそ真価を発揮する。守ってくれる誰かを信じて耐え忍べる事こそが彼女の強さであると心底思う。若干五月蠅いけど。

・ライフル>甲冑の方程式
バイオ4の強敵の一つ、アルマデューラ。道中手に入るマグナムを逃した場合、もっぱら対抗手段になるのはライフルであることから。マシンピストルでも数十発いる甲冑の兜を一撃で吹き飛ばす威力を誇る。実際甲冑やら盾やらで防御を固めた敵に強い武器である。

・勝利への確信
限定仕様ハンドガンと同じく少しメタ的な仕様になったマスタースキル。実際は大量のスターを配布させるだけ。ロイヤルブランドと同じくレアプリ以外で手に入る機会とかないものか。

・色々決壊した立香
サーヴァントであるからとかを言い訳にされてキレた立香さん。殆んどディーラーへの文句なのは御愛嬌。支離滅裂過ぎた気もするけどこれがこの作品の藤丸立香。
ちなみに言っていることの元ネタは「ほうかご百物語」の経島先輩の言。曰く妖怪だろうが意志疎通ができれば関係ない。


そんな訳でロンドン編も終盤に入りました。本当に長いですね。冬木編とフランス編とローマ編を合わせて同じぐらいにならない事が目標です。
次回、VS「M」その正体が明らかに。バイオの人類史が生んでしまった怪物を前にカルデアはどう立ち向かうのか。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。―――今回は本当に励みになりました、ありがとうございます!


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敵は女王様だとよストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…本日、7月23日を以てハーメルンでの初投稿から五周年となった放仮ごです。よくもまあ続いてるなあと自分でも思います。

今回はついに「M」の正体、そして第四特異点の異変の真実が明らかに。VS「M」となります。楽しんでいただけると幸いです。


 それは、何時も通りの、ヒルの研究を行っていた日常の最中。終わりは突如訪れた。銃で幾度も撃たれ、解剖しようとしていたヒル共々倒れた私の前に現れたのは、最も信頼を寄せていた二人の若僧。

 

 

「所長。あんたには死んでもらう」

 

「t-ウィルスは私が引き受けますよ」

 

「ウェスカー・・・・・・。バーキン・・・・・・」

 

 

それだけ言い残して去りゆく二人に、私は処理場に沈められ薄れゆく意識の中で確信した。スペンサー・・・アンブレラが、私を裏切ったのか。復讐・・・奴に、奴等に、いや、この世全てに復讐を・・・最期に口の中に入って来た異物を感じて、そのまま私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横穴から入った道を奥深く進んだオルガマリー達。最奥と思われる空洞の真上に出た彼女達が飛び降りると、そこには冬木の大空洞と同じような光景が広がっていた。広い地下空間に、丘にそびえる巨大な蒸気機関。しかし一定距離を置かれたその周囲には大量のヒルが蔓延っている。正直近付きたくない異様な光景。ヒルは無視してそれを見たオルガマリーが疑問の声を上げ、アンデルセンが唸る。

 

 

「・・・魔霧の中でも強く感じられる魔力量・・・これは、巨大な魔術炉心・・・?」

 

「ふむ。見るからに魔霧を生み出していた本体だな。聖杯が組み込まれているのを見るに、魔霧からサーヴァントが召喚されたのはアレが原因のようだ」

 

「その通りだ。巨大蒸気機関アングルボダ。これは我等の悪逆の形そのものだが、私の希望でもある。――――奇しくも、死にぞこないのパラケルススの言葉通りとなったか。悪逆は、善を成す者によって阻まれなければならぬ、と」

 

「・・・誰?」

 

 

そして、その前で待っていたのはジェームス・マーカスではなく、青髪の青年だった。見覚えのない男の登場と、その血塗れの姿に警戒する一行。するとジルが何かに気付いたのか、アングルボダの下を指差した。

 

 

「オルガマリー!あそこ!」

 

「あれは、パラケルスス・・・!?」

 

「愚かにも、今更になって私を止めようとしてきたから少し仕置きをさせてもらった。バベッジに令呪を使用した隙を狙われたから加減はできなかったが・・・なに、生きている。手駒を失う訳にはいかんのでな」

 

「・・・あなたは、誰?」

 

 

血塗れで倒れているパラケルススを見たオルガマリーは、何時の間にか男の背後に立つ複数のジェームス・マーカス・・・否、リーチマンに警戒しながらハンドガン・ブラックテイルを突きつけて問いかけた。すると、アルトリアの背後にシェイクスピアと共に隠れていたアンデルセンが声を上げる。

 

 

「・・・読めたぞ。お前が「M」だな」

 

「え!?でも、それはマーカスのはず・・・」

 

「奴は恐らく、偶然同じ頭文字だっただけの、後から召喚されたサーヴァントだろう。「B」は知らんが、三人の魔術師の首魁である「M」は間違いなくコイツだ。魔術協会の資料でこの顔を見たぞ、コイツの名は・・・マキリ・ゾォルケンだ」

 

「魔霧・・・じゃない、マキリですって!?」

 

 

その名を知らないオルガマリーではない。マキリと言えば、遠坂、アインツベルンと共に聖杯戦争を立ち上げた御三家の魔術師の一つで、令呪などの多くのシステムを立ち上げた「間桐」の事だ。マキリ・ゾォルケンともなれば、間桐臓硯・・・500年以上生きている妖怪染みた魔術師の名前だ。考えれば100年以上前の時代だ、それも魔術協会の本場。居ても可笑しくはない人物だ。驚くオルガマリーが可笑しいのか、マキリはクツクツと笑う。

 

 

「如何にも。ようこそ、この地獄の果てへ。私はマキリ・ゾォルケン。この「魔霧計画」における最初の主導者である。この時代・・・第四特異点を完全破壊するため、魔霧による英国全土の浸食で人理焼却を確実の物とする事を目指す、ひとりの魔術師だ」

 

「英国全土!?・・・ロンドンだけじゃないの・・・?」

 

「ロンドンだけでは足りぬ。この時代全てを破壊する事で人理定礎を焼却する。魔術王など関係ない、父の復讐を果たすのだ」

 

「・・・なんですって?」

 

 

ローマのレフ・ライノール、オケアノスのメディアリリィと同じ魔術王の手下。そう確信していたオルガマリーに語られた信じられない言葉。しかしそんなこと知ったことではないとばかりにマキリはコツコツとアングルボダに歩み寄りながら嗤った。

 

 

「もはや語るに及ばず。この男の「王」の目的は果たそうと言うのだから邪魔するのはお前達だけだ。アングルボダは既に暴走状態へと移行した。私の加えたT-ウィルスと共に都市に充満した魔霧を真に活性化させるに足る強力な英霊の現界を待たねばならないのは億劫だが・・・ジェームス・マーカスはそれによりT-ウィルスがどのように変容するのか興味を抱いている様だ。さすがは我が父、研究心は過去の偉人にも勝る」

 

「・・・ジェームス・マーカスが父、ですって・・・?」

 

「かの英霊の一撃により魔霧は真に勢いを得て世界を覆い尽くす。そしてすべてが終焉に充ちる。そう、世界は完全に焼却される!それに導くは、我が野望を成すのは、人類神話の終幕に相応しき、星の開拓者がひとり。フハハハ、実に楽しみだ。私の!父の!野望を成す瞬間が!」

 

 

狂喜に満ちた笑みを浮かべて手を広げてオルガマリーに顔を向けるマキリ。その言動に、オルガマリーはある可能性に思い至った。

 

 

「・・・貴方は、マキリ・ゾォルケン?」

 

「如何にも。私の人格は、身体は、マキリ・ゾォルケンだ」

 

「・・・本物はそうは言わないわよ。アルトリア、アイツは人間?それとも・・・サーヴァント?」

 

「・・・そう言われてみれば妙な気配です。確かに人間、だが、何かが違う・・・」

 

「貴方・・・嘘吐きですね。それも、自分にも嘘を吐いてしまう、藤丸様と同じ性質の悪い大嘘吐きです!」

 

 

オルガマリーの言葉に訝しげにマキリを睨みつけるアルトリアと、確信して言い放ち殺気を向ける清姫。そんな様子に、合点が言ったのかふてぶてしく笑うアンデルセン。

 

 

「・・・そう言う事か。奴は、話に聞いたヒルの擬態、か」

 

「なるほど。育ての親であるジェームス・マーカスに擬態した食人ヒルの集合体。それなら、あの物言いも納得が付く」

 

「そうだとするならば下手な演劇ですな。まったく演じ切れていない、三流の役者ですぞ」

 

 

アンデルセンを始めに、次々と意見を述べるジルとシェイクスピアの二人。その二人の言葉に頷いたオルガマリーは手を掲げて一言、述べた。

 

 

「―――アルトリア!」

 

「ハアッ!」

 

 

オルガマリーの言葉と共に地面を蹴り、肉薄。急接近されてなおも余裕の笑みを浮かべたマキリに一閃。その肉体が二つに分かれ・・・次の瞬間、崩れる事無く、瞬く間に再生。周りのリーチマンが攻撃し、アルトリアはギリギリ退避。オルガマリーの前に立つとエクスカリバーを前方に構えて警戒を深めた。

 

 

「なっ!?」

 

「・・・私の擬態がお粗末だったことを抜いても、見事だカルデアの魔術師。だがな、前提が違う」

 

 

再生した傷痕から粘液をこぼしたマキリが愉しげに笑う。それに浮かぶは余裕。その顔が、ぬるりと若りし頃のジェームス・マーカスの顔と服装へと変わり、それに驚愕したオルガマリー達をさらに混乱に貶めるが如く老年のマーカスの顔・肉体に、そして再びマキリへと戻った「それ」は不敵に笑んで若いジェームス・マーカスの形を取る。声まで全く別人のものになっていた。

 

 

「私がジェームス・マーカス?馬鹿な、彼は確かに私を生み出し、育てた。だが実際にバイオハザードを起こした訳ではない。起こしたのは、この私だ。彼が英霊になる事は、絶対にありえない。では私は誰だろう?」

 

 

そう言ったマーカスの姿がマキリの物となる。一瞬、ぬめった人型のナニカになったのをオルガマリーは見逃さなかった。身の毛もよだつその姿を見て、その正体に、行きついてしまった。震えから、銃を落としそうになり必死に握りしめるその姿にマキリは笑う。

 

 

「確かに「M」はマキリ・ゾォルケンの事だ。ジェームス・マーカスとなりパラケルススと共に偽った事は謝ろう。私は、この男に召喚されたサーヴァントだ。ゾンビに対する抑止力、としてな。そこである偶然が重なった」

 

「・・・偶然?」

 

「マキリ・ゾォルケンの特性とジェームス・マーカスの特性が偶然にも一致した、異形の群れを使って延命する、というものだが。それでも確かに、縁は在った。さらに、魔霧から召喚されたネメシスによる感染で現れたゾンビ、正確にはT-ウイルス。それは私から生まれた物。そしてあの日だ」

 

「あの日・・・」

 

 

その言葉を聞いたオルガマリーの脳裏に、ヴィクター・フランケンシュタインの残した手記が過る。1888年7月25日、その数日前にゾンビは現れたのだと言うものだ。

 

 

「1888年7月23日。ちょうど100年後、1988年にジェームス・マーカスは殺害され、その10年後に彼の遺伝子と記憶を取り込み、自分がジェームス・マーカスだと思い込んだ私がバイオハザードを引き起こした日だ。

これらは偶然の産物だろうがしかし、何の因果か触媒となって私は召喚された。だが私の願いはただ一つ。故に、この者を殺し、成り代わり。擬態してマスターとなった。分身を作り、それが召喚されたサーヴァントだと偽ってな」

 

 

サーヴァントがマスターを殺し、擬態する事で他のサーヴァントのマスターとなる。そんな事が出来るのだろうか。いや、令呪システムに精通したマキリに擬態したからこそできた芸当だろう。ここまでくれば、オルガマリーも、ジルも、いやこの場にいる、あの話を聞いた誰もが目の前の人物の正体に思い至った。

 

 

「まさか、貴方は・・・!」

 

「・・・女王ヒル。そう座に記録された、ジェームス・マーカスの愛した子だ」

 

 

殺害されたジェームス・マーカスに擬態し、本人だと思い込んで復讐としてアンブレラもろとも世界を破滅させようと目論んだ、B.O.W.第一号。人間ではない、文字通りの怪物だ。

 

 

「私は、父の復讐を果たす事のみを願う。即ち、この世に災いをもたらし…全てを地獄の炎で焼き尽くす。そんな野望を志すと言うのに復讐者(アヴェンジャー)ではなく、狂戦士(バーサーカー)なのは納得が行かんが・・・さて、遊びは終わりだ。もっと楽しませてもらいたかったが…君達には消えてもらう。私の復讐に邪魔なのでね…」

 

 

そう言ったマキリの姿が途中からマーカスの姿に変わり、その手にヒルを這わせながら狂笑を浮かべた。即座に構えるオルガマリー達。シェイクスピアとアンデルセンを背後に置き、何時の間にか囲まれていたリーチマンの群れを前に円陣を組んだ。

 

 

「楽しい宴を始めようじゃないか。君達の弔いの宴を。フフフハハハハハハッ!」

 

「炎に弱いのは分かってる・・・清姫!ジル!」

 

「シャア!」

 

「火炎弾!」

 

 

清姫とジルの炎でリーチマンを焼き払い、その炎を風の鞘で纏って突撃するアルトリア。それに対し、炎が弱点の筈のマーカスは余裕綽々で嗤い、そして。

 

 

「無駄だ・・・スキル発動!」

 

「なっ・・・!?」

 

「叩き斬る!」

 

 

アルトリアは、突進の勢いを利用したアルトリア(・・・・・)の一閃で地に叩き伏せられていた。信じられないと目を見開くオルガマリーの様子に、アルトリアから姿を戻したマーカスは心底楽しそうに嗤った。

 

 

「何のために長々と我が正体を話したと思う?我々は、長年父を観察し続ける事でその姿に擬態する事を覚えた。それが昇華された我がスキル「擬態」は、数分でいい。観察する時間さえあれば、その者に完全に擬態する事が出来る。・・・もちろん、宝具もだ」

 

「ッ!全員、全力で退避!」

 

 

オルガマリーの言葉を受けたジルが咄嗟にアンデルセンとシェイクスピアを掴んでアングルボダの方に向けて飛び退き、反対側に清姫が抱えたオルガマリーがアルトリアと共に飛び退いた瞬間。今の今まで居た空間を星の聖剣による極光が横切った。

 

 

「・・・出力は本来の物には及ばない。さすがに避けるか。ならば!」

 

「負けるものか!」

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)を展開したアルトリアはつまらなげに唸ると、そのまま剣を手に突進。同時に飛び出したアルトリアと、同時に魔力放出を使い凄い勢いで激突、剣を切り結ぶ。場所を入れ替え、全く互角に立ち回る二人のアルトリア。どちらがどちらか分からなくなり、清姫とジルも援護ができず、背後から襲い来るリーチマンを迎撃するしかない。

 

 

「ウオォオオオッ!」

 

「ッ・・・シャア!」

 

 

何とかアルトリアが押し勝ち、吹き飛ばしたかと思えば今度は清姫に擬態し炎でオルガマリーを狙い、それを防いだ瞬間には今度はジルに擬態、銃による攻撃でアルトリアと清姫を寄せ付けない。ならばとジルが銃で応戦すると、今度は地面に銃を撃って砂埃に紛れてアンデルセンに擬態、一瞬攻撃を手間取らせるとオルガマリーに擬態しガンドでその動きを封じ、動けなくなったジルを袋叩きするリーチマンを清姫とアルトリアが迎撃。まるで息を吐けない攻防が続く。

 

経験した事の無い苦しい戦いに、思考の海に溺れてしまうオルガマリーは混乱し、ろくな指示ができていない。アンデルセンとシェイクスピアは見守るだけで、時折付け焼刃にも程がある魔力弾を放ってリーチマンを迎撃するぐらいだ。

 

 

「シャア!やはり、擬態しようとも弱点の炎を克服はできない様ですわね!」

 

「・・・さすがに我が子供達ではサーヴァントの数の差は埋められないか」

 

「私の姿で子供などと言わないでいただきたい!」

 

「ならば、こちらもカードを切ろう。君達用に取って置いた。堪能してくれ」

 

「なにを・・・オルガマリー、後ろよ!逃げて!」

 

「え?」

 

 

何かに気付いたジルの言葉に、振り向くオルガマリー。そこには触手を振り上げた異形の大男・・・ネメシスが立っていて、それに気付くや否やオルガマリーは全力で横に飛び退くも、叩き付けられた勢いのまま薙ぎ払ってきて真面に受け、吹き飛ばされてヒルのど真ん中に落ちてしまった。

 

 

「くっ・・・気色悪い!」

 

 

ブラックテイルとガンドが火を噴き、次々とヒルを倒していくが間に合わない。次々と押し寄せる、全長20センチはあるヒルの群れに噛み付かれ、オルガマリーは嫌悪感を隠さず全力で振り払う。そんな最中、確かに立香達が倒したはずのネメシスの、その頭部。前に見た時よりも歪んだその頭部が、何かぬめっている事に気付いた。恐らくは、消えそうなところをヒルで頭部を修復し、そのまま脳を支配したのだろう。つくづく恐ろしいヒルである。

 

 

旦那様(マスター)!」

 

「ジル、ここは私が押さえます。清姫と共にオルガマリーを!」

 

「ええ!」

 

 

それを見たアルトリアはエクスカリバーを突きの形で構えて突進、偽物のオルガマリーの腹部に突き刺すとそのまま魔力放出でアングルボダまで吹っ飛ばし、清姫とジルをオルガマリーの元に行かせた。

 

 

「・・・ごぼっ、がはっ・・・おのれ・・・」

 

 

口から数匹のヒルを吐き出したマキリが忌々しげにアルトリアを睨んだ。清姫に幾度も巻かれた炎で弱り切ったところに痛恨の一撃。再生はできると言っても、効く物は効くのだ。それを見たアルトリアは、彼の発言を思い出して問いかけた。

 

 

「・・・その様で全てを地獄の炎で焼き尽すというのか。貴公の思いは口だけか、怪物」

 

「炎。確かに私の弱点だ。だがそれがどうした。私は父を殺したアンブレラへの復讐を果たす。この世に災いをもたらし…全てを地獄の炎で焼き尽くす。そのために貴様は邪魔だ・・・!」

 

「ッ!?」

 

 

再び若りし日のマーカスの姿に擬態し、アングルボダの周囲に控えたヒルが集束。形作られたそれの予想以上のスピードで殴られ、宙を舞うアルトリア。地面に叩き付けられながら、迫り来るそれを何とか捉えたアルトリアは痛む体に鞭打ち立ち上がった。

 

 

「まったく、またこの系統ですか・・・」

 

 

ローマのタイラント。オケアノスのヘラクレス・アビス。いわゆるタイラント系統のそれ・・・皮膚の腐敗が目立ち、頸髄まで露出している、右腕の一本だけ伸びた巨大な爪が特徴的なタイラントの試作型、プロトタイラントに、アルトリアは果敢に立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。ドォン。ドォン。ロンドンの地下数百メートルにて、次々と壁を突き破る轟音が響き渡る。その正体は、古めかしい・・・と言ってもこの時代では最新の・・・列車、蒸気機関車であった。

 

 

「ロンディニウムの地下か。地面の下に地下鉄ってのが広がっているのは知ってたが、まさかさらに下があるとはな。深く潜る程に魔霧の濃度が濃くなっているのは当たりだ、このまま突き進め。しかしまあ、相変わらずぶっとんでんなアンタ達のマスター!だが悪くねえ。特にオレと黒い騎士王にアシュリーを加えた三人の騎士が要ってのがいい!」

 

「ふん。同意したくないが全くだ。ここまでの思いきりのよさと奇策はマスターでないと難しいだろうな」

 

「おい騎士共。俺の仕事も忘れるな。お前等が撃ってもいいんだぞ?」

 

「ルーカスの玩具(おもちゃ)みたい!ママもどき、これ楽しい!」

 

「ぶっこーわせーとーつーげきー!げーきーとーつーロケーラーン!」

 

「外野うるさい!」

 

 

運転席の後ろではしゃぐモードレッドと幼少コンビに怒鳴るのは、念のため鎧を維持して運転しているアシュリー。客席の窓から上半身を出して無限ロケットランチャーを構えたディーラーは文句を二人の騎士にぶつけた。

 

 

 

フランをアパルメントに置いてくる道中でゴールデンとフォックスに連れられたジキルと合流した立香達はオルガマリー達が一足先に向かったことを聞き、急行を決意。フランをジキルたちに預けて、無人のチャリング・クロス駅の地下で目論見通り昔ながらの汽車を見付け、立香の思いつきを実行する事にした。

 

立香の思いつきはこうだ。まずディーラーが無限ロケットランチャーで壁に穴を開けて無理矢理道を作り、次にアシュリーの怪力で列車を持ち上げて脱線。そのままアシュリーと、魔力放出を使ったセイバー二人が列車を押して加速させてから乗り込み、運転席である先頭車両をアシュリーが怪力をフルに活かして持ち上げ、軌道修正。つまり吹っ飛んでいる列車を無理矢理力づくで運転し、あとはセイバー二人がかりの「直感」スキルで進む方向を決めて石炭をボイラーに放りこみ、時折出てくるゾンビやウーズ、スケルトンと言ったエネミーの妨害を轢き潰しながらひたすら走る。何時にも増してぶっ飛んでいるのは御愛嬌だ。

 

こんな荒業が実行できるのも、地味にランクの高い騎乗スキルと怪力を併せ持つアシュリーと、地形(道を塞ぐ岩とか)をも粉砕する武器を有するディーラー、そして共に直感スキルを持つブリテン親子という、この立香一行の組み合わせ故。しかしその当の本人はというと。

 

 

「うっぷ、吐きそう・・・」

 

「先輩!気を確かに!」

 

『マシュ!ここは落ち着いて、教えた通りに対処をするんだ!』

 

『文字通りぶっ飛んだ名案を立てるのはいいけど、何時も自分の事を度外視するのは君の悪い癖だねえ・・・』

 

 

英霊でやっと耐えられる酷い揺れで、オケアノスの時と同じく策士策に溺れるを体現するがごとく盛大に酔って客席に横たわってマシュの看病を受けていた。通信越しのロマンとダ・ヴィンチちゃんも呆れ顔である。

 

 

「・・・ルーカス?・・・それにジャック・・・偶然、だよね・・・」

 

「先輩?どうかしましたか?」

 

「ううん、なんでもない。それより・・・セイバーオルタ、あとどれぐらいか分かる?」

 

「私の直感スキルは青いのよりも落ちているから断言はできんが・・・もうすぐだ、そろそろ準備をした方がいいぞマスター」

 

 

薄れ始めていた意識を何とか保ちつつ、立香はマシュに支えてもらいながら前を見据えた。まるで迷宮の様な作りだが、つい数分前からディーラーのロケランの音は響かず、ずっと真っ直ぐ突き進んでいる。元々存在した通路に辿り着いたのだと思い至り、深呼吸。手持ちの装備を確かめる。

 

 

愛用しているハンドガン・マチルダ。弾も補充した。予備の弾倉も数個。問題ない。

 

マシュから譲り受けたマシンピストル。替えの弾倉は50発入りの一つしか手持ちに無いが、合わせて300発。牽制ぐらいには使えるだろう。

 

ナイフ。切れ味はさほど落ちてない、咄嗟に振り抜いても問題は無さそうだ。

 

 

「・・・よし」

 

『準備は万端の様だね立香ちゃん。できれば戦って欲しくないけど、敵は間違いなくあの殺人ヒルを使って来るだろうから自衛は必須だ。でも無茶はしないでくれ』

 

『言って置くけど、いくら私特製のチョーカーを付けていても、直接ウイルスの類を打ち込まれたらどうしようもないからそこは気を付けて欲しい。オルガもだけど、君の生存は必須事項だからね』

 

「言うまでもないよ、ダ・ヴィンチちゃん、ドクター。まず、魔霧の発生源であるアングルボダ(北欧の女巨人)とか言う大層な名前の機械を止めて組み込まれているらしい聖杯を確保。その次、もしくは同時に、残る「M」と「P」の撃破。今度こそ。誰も、死なせない!」

 

 

ひたすら走る列車の上で。立香はそう、決意を固めた、その数秒後。列車の前方に、ぬめりと凸凹が目立つ壁が見えてきた。セイバーオルタのモードレッドの直感の行き先は、その向こうだ。

 

 

「あの向こうの筈だが・・・」

 

「なんだありゃ?土やレンガのそれじゃねーぞ!」

 

「アレは・・・ヒルの壁!?」

 

「おいジャック、エヴリン!俺もお嬢様も手を離せん!ありったけ石炭をくべろ!俺が破壊すると同時に全速力で突っ込む、衝撃に備えろストレンジャー!」

 

「りょーかい!やるよ、エヴリン!」

 

「・・・モールデッド。お願い」

 

 

ディーラーの言葉に、ジャックが意気揚々とシャベルを手に石炭をボイラーに突っ込み、あまり乗り気じゃないエヴリンはモールデッドを数体出してそれを手伝う。

 

 

「オルタとモードレッドは襲ってくるだろうヒルの迎撃を頼んだ!いくぜ・・・お嬢様、準備はいいか!」

 

「あんまりよろしくないけど何とかする!」

 

「このままアングルボダとやらに突っ込めば万々歳だ!期待してるぜお嬢様!」

 

 

速度が上がり、アシュリーが無理矢理軌道を調整、全速力で真っ直ぐ突っ走る蒸気機関車。その客車の窓から顔を出したディーラーは、背後からの立香の声に応え、前方のヒルの壁に向けて引き金に指をかけた。

 

 

「お願い、頑張ってアシュリー!やっちゃって、ディーラー!」

 

注文(オーダー)には応えるぜ、ストレンジャー!」

 

 

そして、二連射。一撃目で穴を開け、続けざまに再生しようとしていたヒルの壁に大穴を開けた大空洞の入り口に突っ込む機関車。それを目撃するのは、今にもヒルの波に飲まれそうになっていた所を清姫の炎で救出されたオルガマリーを始めとした面々。ジルなんかはネメシスと追いかけっこをしながらその光景に見惚れていた。

 

 

「な、なに!?まさか・・・藤丸!?」

 

「と、とりあえず旦那様!今はそこから抜け出しましょう!」

 

「まるで喜劇の様な登場の仕方!トラブルメーカー、またはトリックスターとも言うようですぞ、吾輩のような男と、彼女の様な者は」

 

「あんなふざけた真似ができる馬鹿は一人しかいない。あれか、モードレッドと同じで頭にマッシュポテトでも詰まっているんだな、きっと!」

 

「・・・・・・ネメシスがいて、列車が吹っ飛んでいるとどうしてもラクーンを思い出してしまうわね・・・」

 

 

崩れ終えて無かったヒルの壁がちょっとした段差になり、文字通り吹っ飛ぶ汽車。それを目撃して驚愕するのは、ジェームス・マーカス・・・に擬態した女王ヒル。何の因果か、ジルと同じく彼もまた吹っ飛ぶ列車と言う物に由縁があった。

 

 

「レベッカ・チェンバース!ビリー・コーエン!また、貴様等かあ!」

 

「誰かは知らんが残念ながら不正解だ、ストレンジャー!」

 

 

恩讐の声を上げるマーカスに向け、数十トンの鉄塊が宙を舞い・・・真正面から直撃。ぐしゃりと、その身を轢き潰した。同時に横転した客席から何とか外に出た立香は、吹っ飛んだ衝撃で死んで新たに出てきたディーラーに手を借りながら、マシュと共に地面に降り立つとオルガマリーの無事(?)を確認してほっと、安心した。

 

 

「・・・うっぷ・・・。えっと、ヒーローは遅れてやってくる・・・と言う奴です、遅れました。所長」

 

「先輩・・・それどころではないと思いますが、とりあえず休みましょう」

 

『しまらないヒーローだねえ。しかも本人にその気はないときた!』

 

『見るからに絶体絶命、だったから間違いなくヒーローなんだけどねえ』

 

「まったくだなダ・ヴィンチ。・・・生きてるかお嬢様?それと子供と騎士共」

 

「勝手に殺すんじゃねえ。クソッたれ、頭打ったじゃねーか・・・」

 

「忌々しいが愚息と同感だ。・・・アシュリー、無事か?」

 

「・・・・・・・・・頭がグワングワンする」

 

「あーー楽しかったね、エヴリン!」

 

「うん、まあ・・・?」

 

 

吐き気を催し、マシュに介抱される立香を尻目に、通信のカルデアの面々とディーラーは溜め息を吐いた。他の面々も無事であり、さらにネメシスは停止。プロトタイラントはヒルの大群に戻り崩れ落ちた。

その空間は、敵の首魁を倒したという確信から空気が緩んでいた。しかし、そう簡単に行かないのがバイオハザードというもの。

 

 

『高貴なる四つの魂を以て、バルバトス現界せよ』

 

「「「「!?」」」」

 

 

アングルボダの傍、パラケルススの気絶している地面の下。埋められた本物のマキリ・ゾォルケンの死骸を糧に、魔神柱バルバトスが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

そして、鉄の塊の下で、復讐鬼は真の姿を現し、その命が鳴動する。




5周年だと言うのに相変わらずぶっとんだものしか書けないのは如何なものか。

・最初の独白
バイオハザード0における、ジェームス・マーカスの最期。ちなみにHD版の日本語だとウェスカーは言峰orキングハサン、バーキンはサリエリだったりします。

・マキリとマーカス
共に名前が「M」で始まり、ヒルor蟲を愛し、それで自らの肉体を形成し、魂(記憶)を移して延命、老人と青年の姿が登場する、大体こいつのせいと言う繋がりを持った変態爺。ここまで似てるって最早偶然じゃなくね?

・気絶したパラケルスス
バベッジが立香たちと戦っている頃、反旗を翻すもあっさり撃退されてしまったよかれな人。未だに生き残っている彼のいる意味とは。

・女王ヒル
バーサーカーのサーヴァント。日にち、召喚者、環境など様々な偶然が重なり召喚されてしまった「最初のB.O.W.」完全な反英霊である。英霊化した事で擬態能力が超強化され、数分観察する事でそのサーヴァントに擬態、スキルや宝具を用いる事が可能、さらにはマスターにまで擬態し令呪を得る事が可能という破格級の怪物。
強靭な再生能力を有しており、とある方法を用いなければ致命的なダメージを与える事が出来ない。苦手な物は炎だが、弱点ではない。
全世界を巻き込んだ復讐を目的としているのに復讐者(アヴェンジャー)じゃないのは、マーカス本人ではないのと、文字通り狂っている為。

・ネメシス
一度倒された物のクラススキルで消滅まで長引いて女王ヒルに拉致され、ヒルで頭部を再生、女王ヒルの言いなりになってしまった追跡者。元々他人の命令を実行する事に長けている為、さらに厄介になった。第二形態。

・ヒルの波に溺れるオルガマリー
描写してないけどぶっちゃけR指定でも可笑しくない状況。R指定だけどGの方。齧られたけどカルデア戦闘服のおかげで殆んど無事。

・プロトタイラント
バイオハザード0に登場する、廃棄されたタイラントの試作品。女王ヒルがヒルの子供達に擬態させた偽物。性能はほとんど変わらない上に分裂して避けるため厄介。

・ぶっこーわせーとーつーげきー
かけ声はエグゼイドのアレ。作戦的には「脱線した機関車を加速させながら無理矢理怪力で軌道修正して突き進む」という馬鹿みたいなもの。モードレッドとセイバーオルタがいないとろくに向きも分からない。相変わらず立香は気持ち悪くなってる。

・立香とエヴリン
ルーカス、ジャックという共通の知り合いがいる模様。一体どういうことなのか。エヴリン曰くルーカスの玩具はぶっとんでいるらしい。

・吹っ飛ぶ列車
バイオハザード3・0・6ではお馴染みのアレ。主人公が乗った列車は必ず吹っ飛ぶ。そして何故か無事までが形容詞。

・バルバトス降臨
死体を糧にすると言うちょっとネタバレ臭い方法で登場。ついでにパラケルススも取り込んでたりする。


そんな訳でやっと色んなフラグを回収できた回でした。女王ヒルだと気付いた人は何人いるかな・・・日にちとか、ジキルとの会話やヴィクターの置手紙やらですごく計算しながら書いた苦労が報われる事を祈ります。

次回はVSバルバトス戦。人類神話降臨。・・・からの?次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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雷電降臨だとよストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…2018夏イベ鯖が一人も来なくて代わりにアキレウスが来て普通に落ち込んでいる放仮ごです。夏イベにバイオネタが割といっぱいあって嬉しかったです。ファミパン聖女すごく欲しい。

今回は長くなりすぎたのを分割したため何時もより短いです。これぐらいの長さなら定期的に更新できそう。VS魔神柱バルバトス、そして雷電降臨。楽しんでいただけると幸いです。


――――――私は、あまねく人々の救済を望んだ。正義の味方を志していた。最初は、そうだったはずだ。だが、魔術王に見せられた未来の私は何だ。生に縋り付き、多を貪るその姿は悪鬼その物ではないか。私の正義など、そこには無かった。我が王は、我が悪を見出した。人々を救わんとする私の中に潜む悪逆の醜さを。

 

それでもと、魔術王に抗おうと試みた。だが、すべては無為と知った。既に人々の生きるはずの世界は焼却された。過去も、現在も、未来も、我らが王は存在を許さないと決めてしまった。すべては未到達のまま滅びる。それでいいと、諦念し「魔霧計画」を主導し、イレギュラーが発生した際もその解決に尽力したと言うのに・・・!

 

 

「安心しろ。私が、彼の王の、そして貴様の望みを果たしてやろう。我が復讐の炎と共に」

 

 

殺された。あっけなく、私の生は、召喚してしまった怪物に貪り食われた。ヒルの餌とするためにアングルボダの傍に放置された。奴は、王の意思とは関係なく暴走を始めた。PとBを謀り「魔霧計画」を進めながらも、その失敗を恐れて自らの子を使ってゾンビを増量し、この時代を根本から破壊しようと目論んだ。無い頭なり(・・・・・)に考えたそれで、魔霧計画は逆に滞る事になったのだが、奴はそれに気付かない。盲目に、何かを目指して暴走していた。

 

そしてそれを、我が王は気に入らなかったらしい。我が骸に再び命を与え、邪魔者の排除と共に一気に魔霧計画を完遂せよと賜った。奴は突如舞い込んだ汽車に潰された。今しかあるまい。―――顕現せよ。

 

 

 

 

 

 

 

『これ以上の無様を、これ以上の生存を見るのは飽きたと、王は賜れた!ならばこそ、滅びた我が身を糧に破滅の空より来たれ。我等が魔神――――七十二柱の魔神が一柱(ひとはしら)。魔神バルバトス。これが、我が悪逆のかたちである!我が醜悪の極みを以てして―――――消え去れ、善を敷かんとするかつての私の似姿たち!』

 

 

アングルボダを傾かせつつ、パラケルススを飲み込んで現れた魔神柱。来たばかりで状況が飲み込めない立香一行であったが、オルガマリーはすぐにその正体に思い至り、声を投げかけた。

 

 

「藤丸!そいつが、多分、本物の「M」!魔術王の手先、マキリ・ゾォルケンよ!」

 

「魔神柱・・・ローマのレフ・ライノール・フラウロスと、オケアノスのフォルネウス・アビスと同等の魔力です、先輩!」

 

「・・・・・・今回は何か混ざってないのか・・・よかった。本物ってのはよく分からないけどやるよ、みんな!」

 

「先輩、言いたいことは分かりますが集中しましょう!」

 

『お前には無理だ!』

 

 

レフ・・・フラウロスと同じ、制圧攻撃が迫るも、立香は慣れた態度でマシュとアシュリーに命じて防いでもらい、攻撃が止んだ瞬間に構えていたディーラーとセイバーオルタ、そしてモードレッドが飛び出した。

 

 

「フォルネウス・アビスだったか・・・オケアノスのアレに比べれば、造作もない」

 

「商売は新鮮味が大事だ。新商品って響きは実にそそるだろう?それに比べちゃ面白味も無い量産物は粗悪品だ、売れ残り必至だぜストレンジャー」

 

 

ハンドガン・レッド9とマシンピストルを手に、触手を連射で迎撃しながら目玉を次々と撃ち抜いて行くディーラー。パターン化すれば、対処など簡単だった。生じた隙に黒い魔力を纏った巨大な斬撃を叩き込み、ディーラーの撃ち漏らした触手も斬って防ぐセイバーオルタ。洗練されたコンビネーションは、ジルにいいコンビだと称賛されるだけはあった。

 

 

「オラア!ブッ込み行くぞ!どこだか分からんが、ヘッドショットだ!」

 

 

そんな父の姿が気に入らないのか、魔神柱の上方に魔力放出(雷)でロケットの如く吹っ飛んで行き突貫。突き刺したクラレントをそのまま振り下ろし、電撃を帯びた巨大な切り傷を生み出してから降り立つモードレッド。ここまでくれば、もはや詰みである。

 

 

「お前を倒してアングルボダを叩き壊す!ただの人間が!死にぞこないの骸が!オレでない癖にブリテンを蹂躙するお前を俺はぜってえ許さねえ!」

 

「お前だろうと私が許さんがな。だが、そこまで言うなら見せてみろ。ブリテンの敵に対する貴様の剣を」

 

「ふん!上等だ、アーサー王。それじゃあ、蹂躙するか!」

 

 

弱り切った魔神柱の前で、背後にセイバーオルタとディーラーを控えたモードレッドは兜を展開、顔を出すと燦然と輝く王剣(クラレント)を両手に握りしめるとその鍔が変形し、剣身を展開。赤雷が迸るそれを高々と振り上げた。

 

 

「我は王に非ず、その後ろを歩む者。彼の王の安らぎの為に、あらゆる敵を駆逐する!」

 

「・・・ほう。愚息にしては、言う様になったな」

 

「いい剣だ。武器商人としての魂が疼く。魔神共と違い、英霊ってのは俺を飽きさせないなストレンジャー」

 

 

静かな凛とした表情で言ってのけたその言葉に、セイバーオルタは感心した声を上げる。青いのは気付いてないだろうが、この愚息は英霊となった事で、確かに何かが変わったのだと。

ディーラーも、これまで見て来た英霊達の武具の中でもとびっきりのそれに歓喜の声を上げた。彼は武器商人だ、いい武器に対しては正直に評価する。騎士王には悪いが、モードレッドが盗んだと言うこの宝剣は、彼女にこそ握られるべきだと、そう思ったのだ。

 

そんな、形は違えど内心認めてくれた二人に見守られ、モードレッドは邪剣に姿を変えた己が剣を力の限り、振り下ろす。

 

 

「此れこそは、我が父を滅ぼせし邪剣!」

 

『全てを知るが故に全てを嘆くのだ……焼却式 バルバトス』

 

「――――我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!」

 

 

真紅の雷撃が、一直線に魔神柱に向けて放たれる。バルバトスも強力な怪光線を放つも、モードレッドの一撃には遠く及ばず。拮抗するどころか防ぎ切れず、跡形もなく消し飛び、その場にはマキリの姿は既になく、巻き込まれ気絶したパラケルススが倒れていた。

 

 

「魔神バルバトス、完全な沈黙を確認しました。私たちの勝利です」

 

「お疲れ様マシュ。あとはアングルボダを破壊するだけ、かな?」

 

「訳の分からん化物だったが・・・そんなに大したことは無かったな。おう、大丈夫かオルガマリー。それに青い方のアーサー王。どうした、ボロボロだぞ?」

 

「ええ、貴方達が来てくれたおかげで助かったわ・・・」

 

「ふん、大きなお世話です。・・・ですが、助かりました。礼を言います」

 

 

確認し合うマシュと立香に続いたモードレッドの言葉に、疲れた顔で応えるオルガマリーとアルトリア。直接相手しただけあって、ジルや清姫以上に疲労している。ディーラーはそれを確認するとハーブを用意しながら歩み寄る。

 

 

「お疲れ様だストレンジャー。単独行動とは、所長様にしては無茶をしたもんだな?」

 

「余計なお世話よ。通信が繋がらない上に、直ぐにでも塞がれる可能性があったから強行するしかなかった。その結果がこれじゃ笑えないけど。・・・今度は列車を吹っ飛ばしたの?藤丸、頭大丈夫?魔術師でもここまでぶっ飛んだ事はしないわよ?」

 

「酷い。これでも今いるメンバーで最適解を選べたと思ったんだけど・・・」

 

「最適解でしたが最良ではないと思います先輩・・・」

 

 

オルガマリーには頭を心配され頼れる後輩からも駄目押しされてあからさまに落ち込み、その場で体育座りしていじける立香。ちょっと涙を浮かべているところから割とショックだったらしい。

 

 

「ちょっと反省していなさい。それよりディーラー、一緒に来てくれる?」

 

「注文には応えるが、どうした?」

 

 

偶にはいいクスリになるとばかりに言いのけたオルガマリーは歩き出し、それに気付いたディーラーと共にパラケルススへと歩み寄った。

 

 

「・・・コイツは?」

 

「P、つまりパラケルススよ。女王ヒルの正体に気付いて反乱を起こしたみたいなんだけど・・・Bは貴方達が倒したんでしょう?聖杯を手に入れるためとはいえあの機械を壊したらどうなるか分からないから、起こして話を聞かしてもらおうと思って」

 

「俺の商品を使おうと。・・・また無料でか?緊急事態でも無い場合は商売したいんだがな・・・」

 

「分かってるわ。帰ったら私が払うから、救急スプレーをお願い。・・・・・・安いわよね?」

 

「今回は耐久戦ばかりで消費したからぼったくりたいところだが信用第一だ。お安くしとくぜストレンジャー」

 

 

言いながら、何時の間に作っていたのか包帯とハーブを組み合わせた「止血帯」を取り出しててきぱきとパラケルススの処置を始めるディーラーに、ジト目を向けるオルガマリー。準備万端じゃない、と目で訴えており、ディーラーは素知らぬ顔でニッコリ目だけで微笑む。

 

 

「・・・それは?」

 

「間に合わせで探索がてら入手しておいた包帯とハーブを組み合わせた止血帯だ。出血ならこっちの方が効果がある。ハーブ単体分だから救急スプレーより安価だ」

 

「あら、それはお得ね。・・・じゃなくて。意識は戻るかしら」

 

「さあな。清姫の炎でも近くで出したら誰でも起きるだろうよ」

 

「・・・貴方も藤丸に負けず劣らず酷い発想よね」

 

 

似た者同士の主従に溜め息を吐くオルガマリー。願わくば、マシュはずっと純粋なままでいて欲しい物だ。じゃないと自分の身が危ない、と。とある理由からマシュに苦手意識を持っているオルガマリーは身震いした。

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

「・・・アングルボダをすぐにでも壊さなかった、それが貴様等の敗因だ・・・」

 

「この声は!?」

 

 

 

 

 

マーカスを、否。女王ヒルを潰した列車が持ち上がり、次の瞬間入り口を塞ぐように投げ飛ばされる。凄まじい重量のそれを両手で持ち上げていたその姿は、まさに異形。人型の巨大なヒル。真の姿からマキリへと姿を変えた女王ヒルはさすがに体力を疲労したのかブルブルと震えながら言葉を紡いだ。

 

 

「もう、遅い。ロンドンに充ちた魔霧の量は既に充分に・・・さあ来たれ、我が野望を成し遂げる星の開拓者、最後の英霊よ。マキリ・ゾォルケン・・・貴様の魔術、使わせてもらうぞ」

 

「星の開拓者・・・さっきも言ってたけどそれってまさか・・・」

 

『なんだって!?それは不味いぞオルガマリー。オケアノスのドレイク船長、そしてこの私レオナルド・ダ・ヴィンチと同じだ!つまり、人類史においてターニングポイントになった英雄・・・それが星の開拓者だ。その時代で該当する人物はただ一人・・・!』

 

「汝、狂乱の檻に囚われし者・・・我はその鎖を手繰る者――――」

 

『不味い、今直ぐ止めるんだ!』

 

「「みんな!」」

 

 

マキリの続ける、英霊召喚の呪文に狂化をもたらす一文を入れた詠唱に反応したロマンの声に、立香とオルガマリーと、それぞれのサーヴァント達が反応。

アルトリア、セイバーオルタが一瞬で距離を詰めて斬り伏せ、二刀両断。上半身を三つに分けられたマキリに、飛び込んだマシュのシールドバッシュが炸裂して吹き飛ばし、清姫の炎とディーラーのシカゴタイプライター、立香とオルガマリーの銃撃+ガンドが追撃。容赦ない攻撃を受けて無残な姿になったマキリは壁に叩き付けられ、爆炎に包まれた。

 

同行組は誰一人加勢することなく、瞬く間に制圧したカルデアの面々だったがしかし、アングルボダの周囲に待機していたヒルが蠢いて複数のプロトタイラントを形作り、ネメシスが再び動き出したことにより失敗した事を悟り、それに気付いたジルとモードレッドを筆頭に同行組も身構えた。

 

 

「ふはは、無駄だぁ・・・例え日中と言えど、濃霧で覆われしこのロンドンで、貴様等に私を殺す術は、ない!―――汝三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 

ネメシスを先頭に編隊を組んで歩み寄るプロトタイラント五体が守る様にして、その後ろに彼は蒼い雷光と共に召喚された。身構えるカルデアの面々に蒼く輝く雷撃が襲い掛かり、咄嗟に前に出たマシュとモードレッドが防御。しかしその衝撃に耐え切れず、簡単に吹き飛ばされてしまう。

 

 

「アングルボダで増幅した聖杯の魔力、魔霧の力を集中させた。いわば神代の領域だ、まさに雷電神話。その程度の英霊共で勝てる道理は、ない!」

 

「私を、呼んだな。雷電たるこの身を呼び寄せたものは、何か。天才たるこの身を呼び寄せたものは、何だ?叫びか。願いか。愛か。善か。悪か。なるほど、人ならざる者にして「人」の英霊が私を呼びつけたと言う訳か。人類に新たな神話をもたらした者!インドラを超え、ゼウスさえも超えるこの私を!」

 

 

マーカスの姿で狂笑を浮かべた女王ヒルと並び立つのは、比類無き天才である絶世の美男子。現代のプロメテウスにして発明王エジソンの好敵手、ゼウスの雷霆を地上に顕した、壮絶にして華麗なる叡智の魔人。

 

 

「そのとおりだ。護衛は用意した。奴等に邪魔等させぬ。さあ、我が父の復讐を完遂させろ!ニコラ・テスラ!」

 

「ハハハハハハハハハハハハ!面白い!私は天才であると同時に奇矯を愛する超人である!ならば、よかろう!お前のそのふざけた他人本願な故に尊い願いのままに!天才にして雷電たる我が身は地上へ赴こう!」

 

 

自身の周囲に雷電迸らせるアーチャーのサーヴァント。真名、ニコラ・テスラは高笑いを上げ、掌から蒼い雷撃を次々と飛ばし、反応できなかったディーラーは避けることもできずに直撃。慌てて近寄ろうとしていた立香も余波で吹き飛ばされ、マシュに受け止められた立香の傍に新たなディーラーが出現。その場にいた全員がその力に戦慄した。

 

 

「雷を投げる・・・?Stranger.…Stranger(そいつは反則だ、ストレンジャー)・・・」




魔神柱なんてもはや雑魚である。一柱なら。

・マキリ・ゾォルケンの独白
絶望しながらも女王ヒルの真実を暴いていた有能。「王」の助力と執念でバルバトスになるも、相手が悪かった。今回の元凶にして被害者でもある。

・魔神柱バルバトス
採集決戦最大の被害者。ディーラー曰く新鮮味が無い量産物の粗悪品。レフはともかく、オケアノスのフォルネウス・アビスと戦った立香達の敵ではなかった。

・アーサー王二人に見守られた邪剣の一撃
新台詞が付いてからどうしても書きたかった一幕。今まで活躍できなかった分、ここからモーさん大活躍。

・パラケルスス
しぶとく生き残っているよかれな人。オルガマリーの考えでは「味方側」らしいが・・・?

・止血帯
リベレーションズ2のアレ。包帯は特異点で回収しないといけないためあまり使えない。

・不死身の女王ヒル
生前の末路から、とある方法を使わないと再生し続けるスキルを有している為、そう簡単に殺せない。自分で言っている辺りやはり頭は悪い。

・ニコラ・テスラ
原作の大ボスにして、今章の大ボスの「一人」。バイオ的な強化こそない物の、ボディーガードが付いているため難攻不落の雷電要塞。女王ヒルの事は好ましいらしい。


次回は地下での対テスラ防衛戦。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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神話を作ってやろうぜストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…いい加減ロンドンを終わらせたい放仮ごです。・・・去年は二ヶ月で三章まで終わらせたと言うのに、今年はずっとロンドン書いていると言うこの体たらく。本当に申し訳ないです。
UAが139,000超えました、ありがとうございます。来月にはロンドン終わらせられるはずですのでもう少しおつきあいください。五章に行ったらさくさく行くはずなんや・・・

前回から切ったけど最後が難関で手古摺った今回。ジル、ディーラー、モードレッドが活躍するニコラ・テスラ及びリーチネメシスとプロトタイラント軍団(とりあえずの命名)との決戦です。楽しんでいただけると幸いです。


――――アンブレラと、それを生み出した世界へ復讐を。

 

 

――――悪逆に満ちた己が未来を失くすため、王のため、人理焼却の完遂を。

 

 

――――この世界に災いを。全てを焼き尽くす地獄の炎を、此処に。

 

 

ロンドンに充満させた魔霧を活性化させてサーヴァントでさえ真面に行動できない領域へと変化させ、爆発感染(パンデミック)の如くロンドンのみならずブリテン島を飲み込んで、人理焼却を完全な物にした上で世界を炎で覆い尽くす。それが実行できるニコラ・テスラならば、我らが共通の願いを叶える事が出来る。

 

しかし、失敗は許されない。己は生前、生存本能だけであっさりジェームス・マーカスの記憶を投げ捨て、自分を恐怖させた者達から逃げ、無様に生き抜こうとした挙句に弱点を看破されて倒されてしまった。それだけは、駄目なのだ。

 

だから、無い頭なりに考えた。ありえないことではあるが、ニコラ・テスラが敗れた場合。己は間違いなく同じ事を繰り返すだろう。それでは駄目だ。だから、ニコラ・テスラを召喚してからは攻めずに防御に徹する。猿知恵だと言われたらそれまでだが、ロンドン中を見張っていたおかげで思わぬ掘り出し物を得た。

 

己が能力、子供たちの擬態能力を考えれば盤石の布陣。・・・だがしかし、その考えには辿り着かなかった。女王ヒル自身は突然変異だと考えていたが、エヴリン及びモールデッドはともかく、ウーズが何故ロンドンに現れたのか、その理由を。

 

 

 

だから、その男を一目、見たとき。歯止め・・・自制心が効かなくなったのだ。

 

 

 

「――――――ウェスカァアアアアアアアアッ!」

 

 

サーヴァント、女王ヒル。そのクラスは、バーサーカー。ただし常は人の皮を被り理性を保った獣であり、その狂気が発揮されるのは一定条件下に限定されている。それ即ち・・・・・・生前、生存本能を感じさせられた、恐怖の象徴との邂逅である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷電魔人、そうとしか形容できないアーチャーのサーヴァントの出現に、最大限警戒する立香たち。地下にも関わらず次々と雷撃が放たれ、マスター二人を守る様にしながら敵の情報を得る事に集中。マシュが、女王ヒルから語られたその真名について語った。

 

 

「ニコラ・テスラ・・・科学者や発明家として知られ、現代の電気を中心にした機械文明の礎を築いた、ドレイクさんやダ・ヴィンチちゃんと同じく星の開拓者の一人です。本来はこの時代に生きる人物の筈ですが・・・過去に確か似た様な状況が記録されてましたが・・・」

 

「電気の礎か。なるほど、モードレッドの様な魔力放出でも無い・・・雷を、投げるなんて馬鹿げた力を持っているはずだ。・・・また弓を使わないアーチャーかストレンジャー」

 

「キャスターという可能性もあるけど・・・アーチャー?」

 

「疑問は尤もだけど藤丸!大至急あのサーヴァントを倒すわよ!奴の呪文は狂化を齎す物・・・つまり、オルレアンのバーサーク・サーヴァントと同等のモノと考えなさい!マキリの、奴の言う事が真実であれば奴を地上に出したらいけないわ!」

 

『その通りだ所長!ニコラ・テスラが自動的に周囲へ齎す強力な雷電は魔霧を活性化させる性質があると見える。彼が魔霧の集積する地帯へと至れば・・・ロンドンの異常事態、バイオハザードは爆発的に拡大する』

 

 

オルガマリーの言葉に、カルデアで計算したのかロマンの声が通信機から伝えられ、ダ・ヴィンチちゃんが続く。

 

 

『被害が広がるのは恐らくブリテン島全域だ。そうなってしまえばこの特異点の修復は不可能だと考えた方がいい。人類の歴史はここで途絶える。バイオハザードでもっと酷いことになるかもだけどね!』

 

「・・・あの穴を気付かれたらアウトね。アレは地上へ直行よ、止められない。ここで倒さないと」

 

 

マシュ、ロマンとダ・ヴィンチの説明に構えながらも押し黙る一行。奴を外に出さない、言うだけなら簡単だが、それは本当に難しい。何故ならば、ジルの指摘した通りオルガマリー達が通って来た縦穴が存在するからだ。

 

 

「作戦会議は終わったかね?」

 

「来ます、先輩!」

 

「何でもいい、あの雷野郎をぶっ倒せば不死身のバケモノの鼻を明かせるって話だろ?分かり易くていいぜ!」

 

「同感だ!」

 

「当たらなければどうということはない!」

 

 

すると、引き絞られていたテスラの掌から放たれた極大の雷撃に気付いたマシュが咄嗟に防御するも弾き飛ばされ、間髪入れず次々と放たれる雷撃の弾幕に対して飛び出したのは、モードレッド、セイバーオルタ、アルトリアと、かつてこのロンディニウムの地を守護していた円卓の騎士たち。ブリテンの危機とあれば黙ってられないのか、魔力放出でロケットの様に飛び上がり、雷撃を直線的な動きで避けながら突き進む。

 

 

「我が歩みを阻むか。いいだろう、受けて立とう!」

 

「馬鹿を言わないでくれ、天才。バケモノの私でも分かるぞ。セイバー、それも三人と接近戦など自殺行為だ。護衛は用意したと言っただろう」

 

 

しかし、マーカスの指示できっちり狙いをつけ偏差射撃されたロケットランチャーがモードレッドに直撃して吹き飛び、騎士王二人もネメシスの触手で足を絡め捕られて地面に激突したところにプロトタイラント軍団が一斉に襲い掛かり、鋭い爪の一撃が連携で振るわれ、モードレッドが懐に突っ込んで弾き返す事で体勢を整え、三人揃って突撃。

すると何を思いついたのか、テスラの雷撃がプロトタイラントを撃ち抜きながら放たれ、スピードの上がったプロトタイラントの振るった一撃の力強さに圧倒され、アルトリア達は斬り弾きながらもディーラーとジルの援護射撃を受けながら後退せざるを得なかった。

 

 

「・・・タイラントの動きが速くなった?」

 

「テスラの雷がヒルを活性化させているとでも言うの・・・?」

 

「ゾンビだったら電撃はアウトの筈なんだがな?これは迂闊に電撃グレネードも投げれないか」

 

「先輩、所長!敵サーヴァント、進撃を始めました!」

 

「アルトリア達はそのままニコラ・テスラを!残りは女王ヒルとネメシス、タイラントの群れを止めるわよ、藤丸!」

 

「はい、所長!マシュ!アシュリー、エヴリン、ジャック!お願い!」

 

「清姫、ジル、お願い!シェイクスピアとアンデルセンは援護よ!」

 

「我が復讐の邪魔はさせん!「究極の出来損ない」の出来損ないであるプロトタイラントの紛い物であっても、ゾンビの如き数の暴力に勝てる物か!」

 

 

マスターたちの命令が飛び交い、マーカスの叫びと共にプロトタイラントが増量し、大乱戦が始まった。雷撃と魔力弾が飛び交い、魔力放出、弾丸の雨、肉弾戦、剣戟に炎。

 

エヴリンの召喚したジャック・ベイカーと、対抗する様にヒルたちが合わさり姿を変えた巨大なサソリ型B.O.W.スティンガーと、二次感染で誕生した巨大なムカデのB.O.W.センチュリオンの怪獣決戦といった派手な攻撃が飛び交う、そんな中。こそこそとディーラーは中心から離れていた。

 

 

 

 

 

「プロトタイラントとかいうデカブツなら何とかなるだろうが、ネメシスとかいうのはレオンの奴からは何も聞いていないがタフさもスピードも桁違い、さらにロケランも扱えると来た。そう簡単には勝てないだろう。ジル・バレンタインなら気付いてくれると信じるしかないが・・・弱い俺は俺なりに仕事させてもらうか。サービスだから手数料は取れないがな」

 

 

そう言いながら、転倒した列車内に入ったディーラーがリュックから取り出したのは、手榴弾三種類が数個ずつとワイヤー。そして探索がてら集めた、ピアノを壊して集めたピアノ線と、スクラップで作ったベアトラップ。今までは商品の宣伝の如く正面戦闘ばかりしてきたが、彼としても何度でも死ねる自分の特性があるからできる事だ。死んだら立香に怒られるのだからそんなに多用する訳には行かない。それに、裏工作の方がよっぽど得意なのである。

 

 

 

 

 

 

 

「スタァアアアアズ!!!」

 

「ッ!」

 

 

女王の指示など知ったことかと言わんばかりに、女王ヒルにグレネードランチャーを向けていたジルを見るなり目標を変えて襲い来る追跡者に、ジルは崩壊した瓦礫の隙間を掻い潜り、応戦しつつ逃走していた。過去の経験上、見晴らしがいい広い所で逃げるなど自殺行為もいいところだ。瞬く間に距離を詰められブラッドを殺した触手の一突きか、偏差射撃もしてくるロケットランチャーにより殺されてしまう。そう判断して、路地裏はないため限りなく狭いエリアへと逃げ込んだのだ。

 

生憎、ネメシスが頭部を破壊されて倒されたと聞いてその弱点である冷凍弾は置いて来てしまった。この地下にアイテムボックスが無い事は無いが、一番近いのは横転した列車の中、その最後尾である。瓦礫に隠れながら近付くにしても、瓦礫を押し退けて迫るネメシスから逃げて辿り着く前に捕まるのがオチだ。どうしたものか、と考えていると。

 

 

「オラアッ!」

 

「スタァズ!?」

 

 

突如、飛来した邪剣がネメシスの右肩と首の間に突き刺さり、その動きを止めた。見てみると、こちらに何かを投げた体制のモードレッドがしたり顔で笑みを浮かべていた。

 

 

「おい、触手野郎。貸しを残したまま立香達にやられたってんでガッカリしてたが、あの時の貸しは返したぜ」

 

「モードレッド・・・」

 

「ああん?気にすんな!こんななんちゃってアーチャーなんかトリスタンの野郎に比べりゃ雑魚だ、雑魚!ステゴロで十分だ!」

 

 

ジルにそう叫びながら宣言通り拳でテスラに殴りかかるモードレッド。雷撃の直撃を受けて吹き飛ばされるもまだまだ元気の様で文句を吐きながら父親二人と共に再び挑みかかり、ジルは首に突き刺さったクラレントを抜こうとして完全に動きが止まったネメシスの姿に、チャンスだと横転した上の窓から列車の中に飛び込んだ。入れ違いにディーラーが出ていき、ジルは仕掛けられたそれに気付くと不敵に笑む。

 

 

「・・・貸し一にしとくわ、ディーラー」

 

「スタァアアアアズ!!」

 

 

やっとのことで引き抜いたクラレントを投げ捨て、列車の壁を引き裂きながら顔を見せるネメシスはそのまま足を踏み入れ、そこに仕掛けられていた手作りベアトラップが足に食い込み、動きを止め、待っていたジルの手にしたショットガンの直撃を顔に受けて顔を押さえてうめき声をあげる。

 

その間に妙に慎重な動きで列車の後部車両に向かうジルを追いかけるべくベアトラップから無理矢理足を抜くと前進、したところにちょうどネメシスの顔の高さに仕掛けられていたワイヤートラップが発動し二つ同時にピンが抜かれた手榴弾が起爆。

 

 

「!? スタァズ・・・!」

 

 

顔に集中攻撃を受けたネメシスはふらふらとした足取りでそれでも進むと、ピンッと貼られていたワイヤーに気付く事無く引っ掛かりそのまま転倒。右手がビターンと叩き付けられると、ちょうどそこに張られていたワイヤーが起動し、天井(横転した窓)が開いて落ちて来た焼夷手榴弾が炎上、頭部を形成していたヒルの大半が声にならない奇声を上げて焼かれていく。しかしネメシスは炎に包まれながらも立ち上がり、重い足取りで奥を目指して歩くと、そこは最後尾だったのかアイテムボックスを漁るジルの姿が。車内でロケランを使えば自分もただではすまない為か、突進。

 

 

「スタァアアアズ!!!」

 

 

かつて警察署の壁をいともたやすく破壊した時の様に邪魔な座席やらを破壊しながら突き進みそのまま顔を掴んで触手をお見舞いしようと試みるが、最後尾車両の入り口の足元に仕掛けられていたベアトラップにまんまと引っ掛かり、急に止まって空を切った右手が何かを千切り、現在彼の頭部を形成しているヒルたちが警鐘を鳴らす中、ピンが抜かれた閃光手榴弾が眩い閃光を放って片目しかない視界を埋め尽くし、目を開けるとそこにはグレネードランチャーを構え腰にマグナムを下げた標的が立っていた。

 

 

「ラクーンでの追いかけっこの時には無かった、充実した装備。・・・これがなかったらまた私は貴方に勝てなかったのかもね。あと、もう私はS.T.A.R.S.じゃない。B.S.A.A.のジル・バレンタインよ」

 

「……………BSAAーーー!!」

 

 

油断して捕まり、高濃度のウィルスを打ち込まれてしまったラクーンシティの時計塔での死闘を思い出したのか自嘲気味の笑みを浮かべ、装填された冷凍弾を発射。弱り切っていたネメシスは咆哮する事でしか抵抗できずに凍りつき、ジルはマグナムを握りしめて構える。

 

 

「あの時は無かった頼れる仲間、充実した装備。そして経験。それがなければこうも簡単には行かなかった。でも、これだけはやっぱり思ってしまう。―――――あんたみたいなバケモノは消えてなくなればいい!」

 

 

慟哭の叫びと共に、全弾撃ち尽くされるマグナム。胸元に六発の44マグナム弾を撃ち込まれたネメシスは膝を付いて崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 

 

「っ、とどめを・・・」

 

 

まだ消滅しない事を確認したジルはマグナムの薬莢を排出し替えの弾丸を装填、銃口をネメシスに向け・・・られることはなく、急激な揺れによってジルの体勢が崩れてしまった。

 

 

「ッ!?な、なにが・・・?」

 

 

体勢が、というよりは列車ごと傾き、ジルは座席に掴まるが耐え切れず、窓から外に投げ出されてしまう。見上げれば、先頭車両を起点に宙に浮かぶ機関車があった。よく見れば、テスラの掌から放たれ続けている雷が纏っている。

 

 

「・・・電磁石?っ、そうか!不味い、オルガマリー!立香!逃げなさい!」

 

「我が雷電に不可能は無し!見るがいい。私が地上へ導いたこの輝きこそ、大いなる力そのものだ!新たなる電気文明、消費文明を導きしエネルギー! 旧き時代と神話に決定的な別れを告げる、我が雷電!」

 

 

プロトタイラントに守られながらも、立香達の奮闘によって歩みを抑えられて退屈していたテスラは、雷を鉄塊である蒸気機関車の先頭車両に放出し、自由に操り持ち上げていた。ジルがいるとは知りもしなかったが、そのまま立香達のいる方角とは反対方向に電気を集め、音速を伴って撃ち出した。吹っ飛んで来た機関車に驚愕し、動きが止まる立香達。動けたのは、たった二人だった。

 

 

「「なっ!?」」

 

「させるかぁああああっ!」

 

「ッ・・・疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!」

 

 

気付くなりアシュリーが自分の怪力をフルに使って跳躍、力任せに体当たりして勢いを弱め、最後の最後で鎧の維持が溶けてしまった我が身を犠牲にしたアシュリーにより弾かれても機関車は横に回転して前進を止めず、押し潰されそうになっていた立香達を庇う様に宝具を展開したマシュが受け止め、押し負ける前にその一瞬で正気を取り戻したアルトリアとセイバーオルタが合間に入って一閃。叩き斬ることでようやく事なきを得た。

 

 

「あ、危なかった・・・アシュリー!」

 

「ごめん、ディーラー、マシュ・・・・・・マスターを頼んだ」

 

 

バベッジ戦での消費もあり消滅するアシュリーとそれに駆け寄る立香を守るべく、ディーラーはライオットガンでプロトタイラントを牽制しながら転がる蒸気機関車を睨みつけ、その正体に気付く。

 

 

「今のは、レールガン、だと・・・」

 

「真名解放せずとも我が宝具は雷電を用いた極めて強力な電磁気操作能力を持つ!未来ではこれを用いた強力な兵器もあると言う。天才たる我が身の発想で再現してみたこれは如何かな?」

 

「速度はともかく、質量と放電量はアンタの方が上だよストレンジャー・・・」

 

「ほう、武器商人にそう言わしめるとは。だがお遊びは終わりだ、ボディーガードのおかげでゆっくり観察してどの道程で地上へ向かえばいいかは分かった。さあ来たれ!私は是より天へと進まん!地上へ至るがための足場を此処へ!」

 

「させない!」

 

 

オルガマリー達が落ちて来た穴を見上げ、そう言ってのけるテスラに向け、ジルがマグナムを発砲するのを皮切りにディーラーを始めとした立香、オルガマリー達も銃撃。しかしテスラの周囲に発生した電磁場が寄せ付けず、その横でマキリの姿をした女王ヒルは嗤い、彼等の傍に雷電を纏った紫苑の大階段が出現した。

 

 

「その反応は、ここが正解であると言っているようなものであるぞレディ?」

 

「そう言えば最初の連中は上から落ちて来たのか。どこから来たのか疑問だったが納得行った」

 

「情報は正確に頼むぞマスター。さて、呼び声に応じて此処に参じた大雷電階段(ペルクナス・ラダー)!今許そう、私を地上へ運ぶがいい!ははははははははははははは!ははは!!

 目指す先はバッキンガム宮殿の上空!そこに我が雷電の一撃を加えしとき!私は私の纏うこの雷電にて!魔霧を活性化させ!森羅万象総て、人理を覆い尽くす!人類史は終焉を迎えるだろう!もはや、私を止める者は何処にも現れはしないか!」

 

「ッ・・・貴方が星の開拓者の一人と言うのなら、本心から人類と世界の終焉を望むことはないはずよ!あなたの意思じゃ、もうどうにもならないの!?」

 

「そうだ!たくましきレディ!我が身には狂化の影響があり、自らの意思は抑圧されている!その道理は覆せぬのだ!」

 

 

オルガマリーの問いかけに、笑いながらそう応えるテスラ。マキリの魔術を用いた特殊召喚により、言うなればバーサーク・アーチャーの様な状態なのだろうと察したオルガマリーは覚悟を決めた。

 

 

「そう言う事なら容赦はしない。正直すっごく逃げたいけど、ここで引いたらまた、見殺しする事になる!それだけはもう、勘弁なのよ!」

 

「所長の言う通りだ、全力で行くぞストレンジャー!あの雷電男を外に出したら地上のゾンビ共はそこのヒルと同じように活性化する、生きている人間は間違いなく助からん!一気に決めろ!」

 

「うん、ディーラー!ここで倒すよ!アシュリーの犠牲を無駄にしてたまるか!」

 

「はい、先輩。マシュ・キリエライト、行きます!」

 

「よぅし、話は簡単だ。ぶっ殺す!逃げても構わねえぞ。相手はこのモードレッドだからな!」

 

 

立ちはだかるオルガマリー、ディーラー、立香、マシュ、無手のモードレッドを前にしてなお、天才は笑う。狂ったような、喜んでいるような、嘆いているような。その全てを伴わせた自信に満ち溢れた笑みで両手を引き絞る様に構える。

 

 

「ほう。私に勝つと、私をここで倒すと。即ち、君たちは新たな神話を築かんとするか!だが、哀しいかな不可能だ。活性魔霧・・・我が雷電を魔霧に及ぼし生まれるサーヴァントさえまともに行動できない領域などなくとも、私の操る雷電はあまりに強力だ」

 

「待て、ニコラ・テスラ!奴等は私が足止めする。貴様はさっさと地上に・・・」

 

「それは聞けぬ相談だマスター!何故なら、私は天才だ。何故なら、私は雷電だ。神とは――神とは何だ。そう、雷電だ。遥か古代より多くの人々がそう信じ、実際のところ、主神ゼウスや帝釈天インドラの名を挙げずとも、確かに神ではあるのだろう。雷。空より来たる神なる力。それを受けてたらんとするのだ!全力で応えてやらねばならんだろう!」

 

「・・・我が父といい、貴様といい、天才の考えは理解できん。好きなだけやれ。だが・・・“負ける事は許さん”」

 

 

自身の言う事を聞こうとしないニコラ・テスラに、マキリの姿になった女王ヒルはその手に姿を現した令呪を輝かせて嗤う。反抗的だったバベッジであっても令呪を受けて立香達を追い詰めた姿を、子供たちの目を通して見たからこその信頼。ましてやテスラは自分に従順的なのだ、効果も増すだろうという、馬鹿の一つ覚えとも言うべき過信から来る笑みだった。

 

 

「令呪か!いいだろう、先程の児戯とは違う、最大出力で薙ぎ払ってやろう。ここに、我が天才の一端をお見せしよう。痺れるぞ、耐えてみろ!ハハハッ!ハハハハハハハハハッ!」

 

 

黒マントを靡かせ、自身に蒼雷を纏わせて発光、浮遊して高笑いを上げるテスラに集束して行く電磁エネルギー。雷が轟き、電磁の渦が巻き上がって洞穴という密閉空間に閉じ込められたアルトリア達サーヴァントを吹き飛ばしてしまう。

 

 

「くっ・・・これほど、とは・・・!」

 

「令呪だけじゃない、魔霧の魔力でさらに増幅されている・・・」

 

「近づけもしないなんて・・・!」

 

 

そうごちるアルトリア二人とジルだが、比較的頑丈な彼女達だからこそで他の面子は喋る余裕も無い。オルガマリーと立香はそれぞれ咄嗟に前に出た清姫とジャック、エヴリンが庇った事で無事ではあるが、痺れて口も回らない状態だ。余波で殆んど壊滅状態、そんな中でも、ほとんど根性で立ち上がる少女が一人。

 

 

「・・・負け、ません。受け止めてみせます・・・アシュリーさんに託されたんです。この身が蒸発してでも、先輩と所長を守り抜きます!もう、あんな思いは沢山なんです!」

 

 

思い出すのは冬木の最終局面、手も足も出ずにレフ・ライノールの手でオルガマリーが消えゆこうとする瞬間。ディーラーがいたから大事には至らなかったが、もしいなかったらと思うとぞっとする。何もできないまま大切な人が消えていくのを見るのは嫌だ、そんな思いで、マシュ・キリエライトは立つ。

 

 

「その思いは分かるが、そいつは聊か無謀というやつだマシュ」

 

「撃たれる前にぶっ殺せばいい話だろうが。単純に守るだけじゃ守れないものもあるぜ」

 

 

マシュが盾を構えて立香達の前に立つ中、二人のサーヴァントがその前に出た。余波が直撃し死んで即復活したディーラーと、自身の魔力放出で余波を相殺したモードレッドだ。ディーラーの手には何故かフックショットが握られているが、モードレッドは相変わらず無手であった。

 

 

「さて、ご丁寧に教えてくれてどうもだストレンジャー。狂化されてもアンタが止めて欲しいと思っているのはよく分かった。注文(オーダー)には応えるのがモットーだ。それに今のアンタはここでは余所者だ、さっさと出て行ってもらおうか」

 

「仮にも騎士王を地に伏せさせたテメエなんぞに臆して堪るか!未熟な騎士に守られるぐらいなら受けて立ってやるぜ!」

 

「そいつはいいが、剣を取りに行かなくても大丈夫か叛逆の騎士?」

 

「馬鹿かディーラー。要は勝てばいいんだ、勝てば。剣の技など戦闘における一つの選択肢に過ぎん。勝つためなら、殴るし蹴るし噛みついてもやるさ」

 

 

ネメシスに捨てられ彼方に突き刺さっているクラレントを指摘されながらも不敵に笑い、拳を打ち鳴らして今にも宝具を放とうとしているテスラを睨みつけるモードレッド。それに対して、フックショットを握った手とは反対の手にリュックから取り出したP.R.L.412を構えてチャージを始めるディーラー。それを見て、立香とオルガマリーは「何故プラーガでもないのに?」と疑問符を心の中で浮かべて、まったく意に介さないのかテスラもまた不敵に笑って雷電が集束した右手を掲げた。

 

 

「受けて立つか!それもいい、括目せよ!其は人類に齎された我が光…!さあ! 君たちにも御覧に入れよう!神の雷霆は此処に在る!

 

――人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)!!!」

 

 

 

放たれるは、数多の神話で語られる雷電神たちの再臨を思わせる猛威を地上へともたらす限定的・擬似的な時空断層。それが放たれる寸前、ディーラーは引き絞っていたP.R.L.412のトリガーを放して次の瞬間、テスラの攻撃が放たれると共にモードレッドが飛び出していた。

 

 

「現代の「光」をなめるな、ストレンジャー」

 

「ぐぅ、直接我が目に・・・だとぉ・・・!?」

 

「よっしゃ!任せな!」

 

 

マシュは身構えていたが、テスラの目に目掛けて放たれたP.R.L.412の光が視界を塞いで照準がずれて真横に逸れ、同時にディーラーが引っ張ったフックショットから伸びたワイヤーの先端に括りつけられていたクラレントが引き寄せられてモードレッドの手に渡り、そのまま魔力放出で加速して突撃。

姿を現す直前に、二人で話し合った付け焼刃もいい所の作戦だ。先程の会話はモードレッドは剣を使わない、と思わせるためのブラフであった。ちょうど雷光でワイヤーが見えないのも味方していたのも大きい。

 

 

「Take That, You Fiend!」

 

「グアァアアアッ!?」

 

 

猛加速したモードレッドの一撃がテスラの胸部を貫き、赤雷を放出しながら勢いのままにクラレントを引き抜いて蹴り飛ばし、そのまま鍔が展開し赤い雷電を迸らせたクラレントを振り下ろす。

 

 

 

「――――我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)ァアアアアアアアッ!!」

 

 

 

令呪の力か消滅はせず、黒こげになりながら凄まじい勢いで吹き飛ばされたテスラに、フックショットとP.R.L.412を放り捨てたディーラーの手にした通常のハンドガンが火を噴いた。

 

 

「コイツが本当のヘッドショットだ、サービスで見せてやるよ叛逆の騎士」

 

 

その言葉と共にテスラは額を撃ち抜かれ、完全に雷電が消え失せてそのままゴロゴロと岩肌に転がった。・・・・・・だけならよかったの、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

立香達は、テスラよりも先に、そのマスターである女王ヒルから倒すべきだった。例え倒すことが難攻不落でも。不安要素は早急に消しておくべきだったのだ。

 

 

 

 

「馬鹿な・・・・・・いや、まだだ。まだ、策はある」

 

 

女王ヒルはテスラが敗れた事に驚愕しつつも、マーカスの姿に擬態して冷静に対処しようと、生き残った子供達に指令を下してそれ(・・)を再起動させた。そして、邪魔者達を確認しようと前方に視線をやって。

 

 

 

「――――その程度か。貴様には失望したぞ女王ヒル」

 

 

 

邪魔者達の遥か背後、崩れ落ちた入口の前でウーズを傍に置いて無表情でこちらを見詰める黒ずくめサングラスの男の姿を、見てしまった。

 

何故だ、何故、此奴がここに居る。ロンドン中に配備した自身の包囲網からどうして逃れられた。どうしてここにいる。奴等の仲間なのか。

 

 

 

何故、何故、何故、何故―――――――――

 

 

 

―――――何故、したのだ?

 

 

 

 

「――――――ウェスカァアアアアアアアアッ!」

 

 

 

 

空っぽの獣は狂乱し、復讐を成し遂げんと咆哮を上げる。その姿はもはや人ではなく――――人型ですらなかった。




やっぱり今回も暗躍していたアイツ。特殊タグ入れるのが大変だったけど雰囲気演出できたかなと思います。もっと使うべき?

・冒頭の独白(?)
女王ヒルsideの内情。生前の最期を恥ずべきことだと思っている女王ヒル。擬態して理性を保っても単純にしか考えられないのがなんとも。

・ニコラ・テスラ
電気でヒルを活性化、簡易的なレールガン、大雷電階段をさくっと出して、余波だけで戦闘不能にさせるなどやりたい放題の雷電博士。バーサーカーの女王ヒルより好戦的なのが玉にきず。持ってないけど推し鯖だから優遇されてる。

・スティンガーとセンチュリオン
テスラの電撃で活性化し、何時もより擬態能力を活性化させたヒルたちによる人型以外への擬態。共にバイオ0のボス。エヴリンの出したジャック・ベイカーとの壮絶な戦いの末、共に相討ちした。

・小細工するディーラー
バイオハザード4で村人たちが仕掛けたトラップを自作して設置。乱戦ではすぐ死んでしまうためサポートに徹した。4の手榴弾系+トラップはえげつないと思う。

・ネメシスに借りを返すモードレッド
▲様と共に苦汁を舐めさせられた相手にリベンジ成功してご満悦。だけどさっさと回収しなかったため苦戦に強いられることに。

・ジルVSネメシス
サーヴァントになっても因縁の対決。列車内での対決はバイオ3の一幕の再現。ネメシスの方はヒルが頭部を形作って動きが単純になっていたため簡単に数々のトラップに引っ掛かってしまった。最後の会話はプロジェクトクロスゾーン2の一幕から。律儀にBSAAと呼び方を変えるネメシスに印象が変わったのは言うまでもない。とどめの一撃はバイオ3ラストシーンから。実は歴代初めてロケラン以外で決着を付けたシーンである。

・列車レールガンとアシュリー
書いている当時にテレビでレールガンが活躍する映画を見た為、テスラの能力が電磁気操作だからせっかくだし書いてみた。アシュリーが身を挺して割り込んだ事で事なきを得たが、そうしなければ立香とオルガマリーが肉塊になっていた。また最後まで立香と共にいられなかったのを悔やんでいた。

人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)
マシュでさえ防ぎ切れない超威力を誇るニコラ・テスラの宝具。余波だけで一級のサーヴァントであるアルトリアを行動不能にしたが相性の問題もあった。

・マシュの戦う理由
立香と似ているが少し異なる理由で戦うできる後輩。今回は喋れなかったが立香は泣き叫んで止めようとしていたが、それでも彼女は立ち続ける。

・ディーラーとモードレッド
アルトリアみたいな正規の騎士とは相性最悪のディーラーだが、セイバーオルタやモードレッドみたいなタイプはむしろ相性がよかったりする。とある聖杯戦争のモードレッドのマスターは銃を扱っていたのもあり、難なく連携がとれた。ディーラー的には前回のモードレッドの「ヘッドショット」はお気に召さなかったようだ。

・暗躍していた黒い人
ジルと同じく、魔霧から召喚された直後に単独行動し続けてたアサシンのサーヴァント。女王ヒルにとっては怨敵。とある理由から、t-Abyssをロンドンにばら撒いた張本人。ずっと隠れていたのはとある人物を観察するためで、地下洞穴にもその人物を追って来た。

・女王ヒル
バーサーカーの本領発揮。擬態を維持する事ができずに、バイオ0最終局面の姿に変貌。一応今章の大ボス。



次回、暴走した女王ヒルとの決戦。あのサーヴァントが味方に?次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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お前の自業自得だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、ガチャで何も当たらずモチベも上がらず、ちょっとスランプに入っていた放仮ごです。前回から約二ヶ月・・・本当にお待たせしました!

 あるところまで書き上げたらやっとロンドンの終わりが見えて来てテンションが上がる上がる。UAも144000を超えてありがとうございます!

VS暴走女王ヒル。あのサーヴァントが参戦、今章の大ボスも登場。楽しんでいただけると幸いです。


 数刻前。列車に乗り大空洞に向かう道中、客車に座った立香はロマンから知らされた「ある事」について考えていた。

 

 

「うーん・・・ヒルは炎が弱点らしいからクー・フーリンかメディアさんでもいいと思うけど・・・」

 

 

ジルが走り書きした、知る限りのジェームス・マーカス及び女王ヒルの情報と睨めっこしながら考える立香。ヒルを操る時点でマーカスの正体は女王ヒルでほぼ確定している。その弱点は炎・・・なのではあるが。問題があった。

 

 

「日光が無いと直ぐに再生するってレベッカ・チェンバースさんのレポートにはあった、って書いてあるんだよね・・・」

 

 

炎によるダメージすら数秒で回復してしまう超再生力。もう一人と連携し、時間を稼いでいる間に天窓を開いて真の弱点である日光を浴びせて再生能力を阻害したことで勝利を納めたとある。そのもう一人は明らかに傭兵か何かで、時間稼ぎしかできなかったのはどれだけ女王ヒルが強かったのか窺えた。

 

しかし、向かう先は魔術師達の拠点と思われる洞穴。さらにロンドンは霧で覆われ昼であっても日光は届かない。セイバーオルタから聞いた話なのだが、サーヴァントは死因から弱点も固定されてしまうらしい。例えばアキレウスは踵、ジークフリートだと背中、ヘラクレスはヒュドラの毒、クー・フーリンだとゲッシュだ。

 

そして、無敵の肉体などの逸話も反映されてしまい、弱点以外には看破する方法が無くなる事もあるようだ。つまり、超再生能力がサーヴァントになった今でも女王ヒルにはあることになる。エクスカリバーで再生する暇もなく消滅させることはできるだろうが、もしもの時のためにそうでない手段も考えておかないといけない。

 

 

「ドクター、マテリアルを端末に出せる?」

 

『ちょっと待ってくれ。・・・よし、カルデアに居るサーヴァントのマテリアルを所長のサーヴァントも合わせてそっちに移したよ。これでいいかい?』

 

「ありがとうドクター。・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

 

『どうしたんだい?』

 

「・・・えっと、ディーラーの宝具もそうだけど。これもかなり特殊な宝具だなって・・・」

 

『なるほど。それは扱いにくいし味方が戦えないとただの自滅になる普通の聖杯戦争じゃ完全に負け組な宝具だね。でも強力なのは間違いない。これは対象がどんなに高い耐久と再生能力を持とうが、意味を成さないからね』

 

「・・・タイミングを見て召喚するとか、できます?」

 

『それは難しいな。でも、場所を指定してなら誤差あるけど何とか』

 

「じゃあそれで、彼をお願いします。えっと、座標は・・・」

 

 

そんな会話があった数刻後、立香達は女王ヒルと邂逅し。その、驚異的な再生能力に手古摺ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ウェスカァアアアアアアアアッ!」

 

 

テスラを倒した直後にその咆哮が轟き、驚いた立香達が視線を向けると、完全に擬態を解いた人型のヒル姿の女王ヒルが周囲のヒルを大量に吸収、細胞増殖とともに肉体構造を完全に組み替えて膨れ上がり、より異形と化し巨大化した醜悪な姿に変異。

 

 

「■■■■■ーーーーー!」

 

 

その自らの重さに耐え切れず四つん這いとなり、もはや人の言葉など発さず入り口を塞ぐ瓦礫に突撃して粉砕、その粉塵の中から黒衣の男が現れて空中を舞ってから降り立ち、立香たちはさらに驚愕する事になった。

 

 

「ふむ。なるほど、奴のクラスはバーサーカーか。姿を見せるのは悪手だったな」

 

「貴方、ウェスカー!?それもローマの時の・・・!」

 

「オケアノスの記録もあるから久し振りと言う訳ではないが久しくだ、カルデアの諸君。早速で悪いが、奴を止めなくていいのか?」

 

 

その男、アルバート・ウェスカーに何か言いたい事はあるものの、女王ヒルを無視できるはずもなく。サーヴァントを率いてウェスカーを無視し飛び出して行く立香たち。だが、唯一動かなかったサーヴァントに、ウェスカーはニヒルに笑う。

 

 

「ウェスカー・・・まさかブラッドだけじゃなく貴方までサーヴァントになっていたなんてね」

 

「それはお互い様だろうジル。お前も何人も殺してきた癖にどの口が言う?」

 

「ッ・・・それは貴方が!」

 

 

激昂しマグナムを突きつけるジルに、ウェスカーはやれやれと言わんばかりに肩を竦めて舐める様にその姿を眺めると何が可笑しいのか馬鹿にするような笑みを浮かべた。

 

 

「しかしその姿か・・・クラスにより容姿が変動するのは知っている。さしずめ、今のクラスはアーチャーか。あの姿(・・・)は・・・やはりバーサーカーか?」

 

「何でここにいて、何をしていたかは知らないけど、もう私は貴方の言いなりにはならない。立香達の邪魔はさせないわ」

 

「いいだろう。俺もアレには極力関わりたくはない。クリスはいないが、あの時の再現と行こうじゃないか」

 

 

瞬間、発砲されるマグナム。しかしウェスカーは素早い動きでそれを涼しい顔で回避。連射されたマグナムも、次々と高速移動で避けてジルの目前に立つと首を竦めた。

 

 

「この程度か?」

 

「・・・いいえ、ここからよ」

 

 

クリス、カルロス、パーカー、ジョッシュといった頼れる相棒は今はいない。今の仲間たちも、人理を救うために奮戦している。己一人で、かつて自分を“殺した”相手を倒すしかないのだ、と思っていたのだけれど。ウェスカーの、反応できない速度で放たれた掌底を受け止めた黒い剣の腹があった。

 

 

「そいつはお前の因縁の相手か、ジル・バレンタイン」

 

「貴方は・・・セイバーオルタ、でよかったかしら?あっちはいいの?」

 

「安心しろ。マスター曰く「頼もしい助っ人」が来たからな。それに、今の私は貴様の頼れるパートナー、なんだろう?」

 

 

そう言って楽しげに笑んだセイバーオルタが参戦、ジルもまた笑みを浮かべてマグナムを構えた。

 

 

「・・・パートナーがいるなら、ウェスカー!貴方には負けない!」

 

「蹂躙してやろう。行くぞ!」

 

「いいだろう。決着を付けるか。俺が手を下さずとも既にこの特異点は破滅へと進んでいる。くだらん足掻きはお終いだ。新世界の礎となれ・・・!」

 

 

弾丸を掻い潜り、突進してくるウェスカーの拳とぶつかるセイバーオルタ。と、そんな時だった。

 

 

 

 

「スタァアアアアアアアアズ!!!」

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

突如、放電(・・)しながら飛び込んできた四つん這いの怪物に、それぞれ飛び退くジル達。その異形の怪物は咆哮しつつウェスカー、そしてジルに向けて放電している触手を放ち、ウェスカーは呼び出したゾンビ犬を盾に使って凌ぎ、ジルはセイバーオルタが斬り払う事で難を逃れた。

 

 

「スタァアアアズ・・・!!」

 

「ほう、これはこれは……?人理め、ずいぶんと懐かしい物を引っぱり出してきたものだ。俺の宝具でも呼び出せない中古品とはな」

 

「何だとウェスカー。その言い分は・・・まさか、追跡者か!?」

 

「そんな!さっき、確かに倒したはずよ。マグナムを叩き込んで・・・」

 

 

その異形の怪物を一目見て正体に行きついたらしいウェスカーの発言に驚くジルと警戒するセイバーオルタ。そして放電が放たれ、視界が光で埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、こちらはウェスカーをジルに任せ、ロマンからある通信を受けてセイバーオルタを向かわせた立香達。闇雲に突進してくる女王ヒルを相手に、マスター二人はそれぞれのサーヴァントに体を預けて回避してもらいながら銃を手に反撃。しかし、銃撃を受け粘液を噴出した肉体がすぐに再生、ヘッドショットも意味を成さない。さらには背中に開けたヒルの大口から地面を溶かす程の毒液を放出しながら高速で突進してくる相手に、全員逃げ惑うしかなかった。

 

 

「ッ!傷が直ぐ再生する!?それにまさか毒まで出すなんて・・・!清姫、炎は押さえて!毒が気化したら洒落にならない!」

 

「マシュ、エヴリン!真正面からじゃなくて、受け流す様に防いで!」

 

 

清姫に掴まったオルガマリーと、ディーラーのリュックにしがみ付いている立香が指示を出す。アンデルセンとシェイクスピアは安全圏からちまちま魔力弾を撃ってもらっているが女王ヒルは意にも介してないためデコイにもならず、アルトリア、モードレッド、ジャックが翻弄し、マシュとエヴリンが危ない攻撃を防ぎ、マスター達とディーラーの銃撃で遠方から攻撃することで耐え凌いでいるものの、このままではジリ貧である。

 

 

「・・・まさか作家様方が銃も持てず戦力にもならないとは恐れ入ったぞ。なあストレンジャー?」

 

「ヴァカか!俺達に何を期待している!誇る事でもないが、我々は他者から守られてここにいる根本的弱者、そして傍観者だ!援護しているだけでもありがたく思え!」

 

「ええ、我が友アンデルセン。まったくその通り!まさしく『倍増しになれ、苦労と災難。(Double, double, toil and trouble;)炎よ燃えろ、釜よたぎれ(Fire burn and cauldron bubble.)』ただでさえ危険だと言うのにこれでは近付かれるだけで我々は即死だ!先の魔神柱とやらが大したことが無かった分、これはなんとも口惜しい!『今に見ていろ、弱みをにぎりさえすれば、(If I can catch him once upon the hip,)つもりにつもった恨みをはらしてやる(I will feed fat the ancient grudge I bear him.)』!」

 

 

ディーラーの皮肉に暴言を吐き捨てたアンデルセンに続いたシェイクスピアの言い放った言葉が癪に障ったのか、シェイクスピア目掛けて突進を繰り出す女王ヒル。作家二人は必至の形相で逃げ惑い、女王ヒルは地面を毒で溶かしながら追いかける。

 

 

「ヴァカか貴様!煽るならもう少し危険そうじゃない奴にでも言って置け!俺達にタゲを取らせるとかこの阿呆め!?」

 

「いやはや、これは参った!普通、雑魚は後に取っておく物だと言うのにあのバーサーカーに常識は無いらしいですな!ああ、刺激的な体験をしたかったとはいえ、アパルメントに籠らない事を選んだ過去のわたくしを呪いたいですぞ!まさしく『生きるか死ぬか、(To be, or not to)それが問題だ(be: that is the question.)』!」

 

「貧弱キャスターは下がってろ!いくらでっかくなろうが関係ねえ!」

 

 

アンデルセンとシェイクスピアを庇う様に女王ヒルとの間に立ったモードレッドは、放射された毒液を雷迸ったクラレントで蒸発させながら斬り弾き、一度地面に切っ先を突き刺して魔力放出。

 

 

「叩き斬る!」

 

 

地面を鞘にした居合切りの如く女王ヒルの巨体を真っ二つに叩き斬った。傷の断面部から電流迸りながら二つに分かれて崩れ落ちた女王ヒルに、立香とオルガマリーが歓喜の声を上げる。だがしかし。

 

 

「効いた!?」

 

「やったの!?」

 

「いや、まだです!モードレッド、離れなさい!」

 

「な・・・に!?」

 

 

得意げに笑っていたモードレッドの背後でまるで傷など無かったかの様に合わさって元通りになった女王ヒルの太い前腕部で殴り飛ばされ、アルトリアの警告に咄嗟に不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)を展開しながらも岩壁に叩き付けられ、さらに毒液を放射されてダウンするモードレッド。毒液は甲冑でも完全に防ぎ切れるものではないらしく、激痛で呻いていた。

 

 

「この威力・・・奴の宝具と見るべきが妥当だぞストレンジャー。ブルーハーブで治るだろうが、人間のストレンジャーたちが浴びたらただじゃすまない。恐らくは即死だ。耐久低い奴等も下がってろ」

 

「でも、それじゃあどうすれば・・・!?」

 

「奴だってサーヴァントだ。尋常じゃない再生速度もかなりの魔力を使っているはずだぜストレンジャー」

 

「では、魔力が切れるまで倒し続けるしかないのでしょうか。第三特異点のヘラクレスに比べるとまだ戦える相手ですが・・・」

 

「駄目でしょうね。魔霧で常時魔力を吸収されたら下手したらヘラクレスよりも性質が悪いわ。・・・電撃帯びた剣が効いたってことは炎も間違いなく効くはずだけど、清姫の炎じゃ逆に気化して危険なのが痛いわね。アルトリアの宝具も、こんな場所で使ったら私たちがお陀仏だわ」

 

「何か手はあるかストレンジャー共。銃弾もろくに効かない相手じゃ俺の武装もあまり役に立たないぞ」

 

 

眼前で、アルトリアとジャック、エヴリンの出したクイック・モールデッド数体が時間稼ぎしている間にどうするか考える立香達。状態で言えば、同じバーサーカーでもオケアノスのヘラクレス・アビスよりは弱いにしても数倍性質が悪い相手だ。ディーラーが弱音を吐いていると、立香が思い出したかのように通信機に問いかけた。

 

 

「ドクター!“彼”は今どこに!?」

 

『今、倒壊した岩盤の前で立ち往生している!彼の武装ではこれを超えられないらしい!』

 

「それが分かれば十分!ディーラー、みんな!女王ヒルに、あの入口に向かわせて!」

 

 

そう言って笑い、念話を試みながら指示を飛ばす立香の余裕の姿に、オルガマリーは不満を隠さず怒鳴り散らした。

 

 

「藤丸!?さっきから、彼って誰よ!?セイバーオルタをジルの援護に向かわせる程には強力な助っ人なんでしょうね!?」

 

「・・・多分言ったら怒られると思って黙ってたんですけど、マイクの代わりに送ってもらったサーヴァントです。ジルさんから聞いた女王ヒルの情報から、彼しかないと思って・・・」

 

「私が怒る?・・・まさか、そのサーヴァントって・・・」

 

「入り口を開ければいいんだなストレンジャー!?」

 

「先輩に何か策があると言うのなら・・・マシュ・キリエライト、やってみせます!エヴリンさん!」

 

「・・・見ていて気分が悪いからいいよ、やってやる」

 

 

暴走を始めた女王ヒルを見てからずっと顔を顰めていたエヴリンの足元から湧き出た黒カビが壁となって通り道を制限、跳躍したマシュの全体重を乗せた急降下で盾が突進の軌道を逸らす。と、同時に近付いていたディーラーが手榴弾を取り付けたナイフを顔面に突き刺していた。

 

 

「助っ人とやらへのお土産だ、渡してくれよストレンジャー」

 

 

瞬間、瓦礫の山に激突と同時に爆発。汽車が通って来た道の入り口が開き、爆発でダメージを負った物の突き進む女王ヒルの前に、彼はいた。

 

 

「おっ?ナイスタイミングって奴かこれ。いっちょ殺されますかぁ。手加減してくれよ~?」

 

「はあ!?助っ人って・・・本気なの藤丸!?」

 

「本気も本気です!」

 

 

姿を見せた真っ黒な人影・・・助っ人に、目をひん剥いて信じられないとばかりに立香を睨みつけるオルガマリーとは反対に、少し申し訳なさそうに縮こまっているものの自信満々の立香。マシュやアルトリアたちカルデアで彼と会った者達ばかりか、初見のエヴリンたちでさえ「頼りない」という助っ人とは思えない第一印象に心配げな表情を見せる。

何故なら、彼の目と鼻の先に女王ヒルは迫っているのだから。しかも爆発で生じた瓦礫の雨というおまけつきだ。

 

 

「お待たせだマスター。さぁて、派手にやられますかねぇ!」

 

「初陣早々で悪いけど、ぶちかましてやって・・・アンリマユ!」

 

「ほいきた。行くぜ!てめぇの自業自得だ!」

 

 

そのサーヴァント、悪魔王の名を背負わされた村人、アンリマユの姿が紅い瞳だけが妖しく光る全身黒い影の様な「獣」へと変わる。天を仰いで咆哮するアンリマユへと女王ヒルが突進し、何か起きる事も無く瓦礫の雨がアンリマユに降り注ぎ、さらに全質量を乗せた体当たりが直撃。さらには零距離で毒液が放射され蹂躙される。誰もが助からないと確信し息を呑む中で、分かり切っていたとでも言う様にただ一人、凛と佇んでいた立香は手を掲げて叫んだ。

 

 

「マスタースキル!騎士の誓い!」

 

 

女王ヒルが再びアルトリア達に突進した事でその上を通り過ぎていき、無残に潰された姿になっていたアンリマユが、立ち上がる。死ぬ直前だったその瞬間に行使された、立香の着ている礼装アニバーサリー・ブロンドの最後のスキルが発動されていたのだ。一度は倒れても主君を守るために立ち上がる、いわゆる「ガッツ」である。

 

 

「ガァァーッ!?死ぬっつーの……!てか俺、騎士でもなんでもないんですけどねぇ・・・でも俺の耐久力をまるっきり信じてないなんてさすが、ディーラーのマスターだ」

 

 

悲鳴を上げ、文句を垂れるアンリマユに驚いたのか興味を持ったのか、立ち止まって振り返る女王ヒル。そこには、胸部がひしゃげ、右腕が千切れ、左肩が脱臼し、右膝が砕け、左足が爛れ、右が潰れた頭から血を垂れ流した満身創痍の姿でなお、ガクガクとなりながらも立ち続け、ニヤリと笑む獣の姿があった。

 

 

「言ったよな?てめぇの自業自得だって。うちのマスターに謀られた感はあるが、悪く思うな?生前の俺と同じく理不尽に、逆しまに死ね! 偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)!」

 

「――――――!?」

 

 

瞬間、全身に激痛が走り、絶叫を上げて悶える女王ヒル。その巨体からはよく分からないが、満身創痍のアンリマユの傷と同じ箇所が、同じように傷付いていた。

 

 

「な、何が起こったの?」

 

「・・・アンリマユの宝具は、自分の負ったダメージを決して癒えない傷として相手にそのまま返すものです。死に掛けないと相手にろくな傷を与える事も出来ない、だから使いたくなかったんですけど・・・ディーラー用と考えてきてきたこの礼装のマスタースキルを思い出して」

 

「宝具と礼装、そして女王ヒルの超再生能力がかみ合って、相性抜群だったわけね。よく決断してくれたわ」

 

「じゃあ俺はこのままくたばってますんで、あとはよろしく頼んますぜマスター」

 

 

元の姿に戻ったアンリマユがばったりと仰向けに倒れ、そのダメージから四肢がろくに動かない女王ヒルを取り囲む立香たち。再生できなければ、動き回らなければ何の脅威でも無かった。

 

 

「近付くなよストレンジャー。アンリマユの宝具で致命傷を負ったとはいえ、毒液を真面に喰らったらブルーハーブでも足りるか分からんからな」

 

「うん、分かってる。早く倒そう。・・・モードレッド、まだ宝具撃てる?」

 

「当り前だ・・・って言いたいところだが毒を受けたオレにやらせるか?ちょっと休ませろ」

 

「・・・じゃあ、清姫。お願い」

 

「分かりましたわ」

 

 

侮る事無く、女王ヒルの弱点である炎で仕留めようと清姫に指示するオルガマリー。と、その時。ディーラーがそれに気付いた。

 

 

「待て、ストレンジャー。何かが可笑しい」

 

「どうしたの、ディーラー?」

 

「・・・そうか!あの似非アーチャーがどこにもいねえぞ!」

 

「なっ!?」

 

「消滅したか?いや、違うな。忌々しい雷電が残っている。これはどういうことだか分かるか、商人」

 

「絵本作家先生に分からん謎が俺に分かる訳がないだろう。・・・いや待て、不確定要素がもう一つ・・・あの追跡者は、ちゃんとジル・バレンタインに倒されていたか?」

 

 

ディーラーの問いかける疑問に答えることが誰にもできない。当り前だ。ニコラ・テスラとの対決の最中倒されたと言うネメシスの姿はジル・バレンタインしか確認しておらず、ニコラ・テスラが倒されたと思えば本性を表して暴れ始めた女王ヒルの対処に手一杯。誰にそんな余裕があると言うのか。慌てて周囲を見回す一同だがしかし、黒焦げとなって転がっていたはずの場所からニコラ・テスラが消えていたという事実に気付くのが、遅すぎた。

 

 

「逃げろ、マスター!」

 

「オルタ?」

 

 

セイバーオルタの叫びに、振り向く立香。そこには倒れ伏したセイバーオルタとジル、そしてウェスカーの姿があり・・・よろよろと立ち上がりながらも警告の声を上げるセイバーオルタに、駆け寄ろうとしたその背後。女王ヒルに覆いかぶさるようにそれは現れた。

 

 

 

「カルデアァアアアアアアアアッ!!!」

 

 

「なっ・・・こいつは!?」

 

 

立香達のど真ん中に降り立った怪物。まるでブリッジしたまま歩き回っているような異様な骨格に、全身から伸ばした触手には、両肩と思われる部分から伸びた一対の電極が蒼雷を迸らせる。放電し続ける怪物は大口を開けて咆哮を上げて雷撃を立香へと飛ばし、咄嗟に立香を庇う体勢となったマシュが受け止めるも大きく弾かれ、そこに飛び込んできた触手で立香もろとも薙ぎ払われてしまう。

 

 

「ストレンジャー!」

 

「世話がやける・・・」

 

「・・・っ、マシュとエヴリンのおかげで無事!でもマシュが・・・」

 

「気絶したか。だが上出来だ、アレは見たところプラーガを解放したサドラー級の怪物だ。・・・ヘラクレス・アビス程じゃないだろうが、それでも危険度ならダントツだろうな」

 

 

立香とマシュが吹き飛ばされた先にカビを茂らせてエヴリンが受け止め事なきを得たが、立香の前でマグナムを構えたディーラーの目利きに驚愕する立香とオルガマリー。あるかどうかも分からない弱点を突かなければ勝てない相手ということである。

 

 

「だがこいつはなんだ。ニコラ・テスラには何のウィルスも使われていなかったはずだが・・・女王ヒルを潰しているが奴の隠し玉か何かか?」

 

『それの正体はサーヴァントだ!この霊基反応は・・・ネメシス、いやニコラ・テスラ・・・?』

 

『なんだ、この反応は・・・一体化している・・・?』

 

「ネメシスですって!?それにニコラ・テスラも含めた二体の英霊の霊基を併せ持つサーヴァント!?ってそれよりも・・・女王ヒルと同じようにおおよそ人にも見えない姿をしているのは何で・・・」

 

「危ない、ますたぁ!」

 

 

咄嗟に清姫がオルガマリーの手を引き、放電しながら振るわれた触手を回避。地面が砕け、そのまま空を巻き付いたそれに冷汗をかくオルガマリー。捕まっていたらどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい。

 

 

「・・・まさか、私たちを取り込もうとしている?ジャック、エヴリン。近付いちゃ駄目。アンデルセンたちと離れてて」

 

「逃げてみんな!それはネメシスよ!生前、重傷を負って廃棄場のタイラントを喰らって遺伝子を取り込み再生強化した時の姿に似ている!」

 

「タイラントの代わりにニコラ・テスラの霊核を取り込んだらしい!恐らく他のサーヴァントも取り込もうとするぞ、気を付けろマスター!」

 

 

危険性を即察知し、サーヴァントであるにも関わらずジャックたち子供組を下がらせる立香に、感電して動けないジルと、何とか立ち上がったセイバーオルタの声がかけられる。

 

 

「サーヴァントを・・・取り込む!?それって・・・Gカリギュラと同じ・・・!?」

 

「まさか・・・アルトリア!取り込まれる前に女王ヒルを宝具で・・・」

 

「・・・どうやら、遅かったらしいですオルガマリー」

 

 

意に介さず取り囲んで警戒する立香達の目の前で、足元の女王ヒルの巨体を貪り始めるネメシス。ピクピクと動いて反抗しようとした女王ヒルは直ぐに動かなくなり、光の粒子となって消滅。ネメシスの体に変化が現れた。

 

 

女王ヒルとネメシス、二つの首の間にテスラコイルが突き刺さり、様々な生物を無理やり融合したような姿の多数の手で地を踏みしめる肉塊の如き怪物。両肩どころか体中に電極が突き刺さった実験体の様な風貌で多数の手を伸ばして歩み寄るその姿は不恰好で醜悪であり、二首の間の背にはボロボロの服を纏った上半身だけとなったニコラ・テスラが存在していた。名付けるとすれば・・・リーチネメシス、だろうか。

 

 

「・・・最悪だ、マスター。俺の宝具で負った傷が無かったことにされている。他の霊基(テクスチャ)を重なられたらどうしようもねーわ」

 

「そんな・・・!?」

 

「って事は再生能力も元通りって事か・・・そいつは面倒そうだなストレンジャー」

 

 

アンリマユの言葉に絶望の表情を見せる立香と、飄々としながらも冷汗を垂らすディーラー。アンリマユの宝具は初見殺しだ。同じ手が通用するかと言われれば、限りなくノーだろう。

 

 

「「「アンブレラに復讐を・・・地獄の炎をこの世全てに・・・!」」」

 

 

幾重にも重なった多数の声でテスラの口からそう喋ったリーチネメシスは、赤い目を光らせてテスラの両手をテスラコイルにかざして放電。全ての電極に伝達した放電は宝具発動直前にも匹敵する電撃波を放射してオルガマリー達を薙ぎ払い、リーチネメシスは用は無いとばかりに踵を返して壁に向かって走りだし、一気に壁を登り始めた。全ての腕の掌に毒液をにじませ、融解させて登って行く様を見るに、一時間もしないうちに地上に出る事は明白だった。

 

 

「まさか・・・地上に!?どうしよう、ディーラー!」

 

「お生憎だがストレンジャー、お手上げだ。俺達は奴みたいに登る手段がセイバーたちの魔力放出しかないと来たもんだ。追い付いたところで撃墜されたらそれまでだ。あのスピードじゃロケランも当たらん」

 

「・・・エクスカリバーなら届きそうではあるけど私たちが瓦礫に巻き込まれて生き埋めになるわね」

 

 

焦りに焦った様子でディーラーに問いかけバッサリ現実を突きつけられて項垂れる立香と対照的に、一周回って冷静になってとりあえず考えてみるもやっぱり駄目で同じく項垂れるオルガマリー。

 

 

「もうオレ達に用は無いって事かよ・・・気に入らねえ!」

 

 

そんな役に立たないマスター達の傍で、毒で融解した鎧を消してディーラーから受け取ったブルーハーブで治癒したモードレッドは登って行くリーチネメシスを見上げ、気に入らないとばかりに地団太を踏んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ブリテンを脅かす者は何処だ」




そんな感じで誕生リーチネメシス。ネメシス+女王ヒル+テスラという、一番困った名前はシンプルにしました。正真正銘四章のラスボス()です。


・レベッカ・チェンバースのレポート
インクリボンでコツコツ書いていたアレを纏めたものの写し。作中のタイプライターなどは実際そんな感じに纏められてると勝手に妄想してます。ビリーの存在はあやふやになってるのは御愛嬌。

・援軍アンリマユ
真打登場。実は最初から女王ヒルとネメシスと言う超再生能力に対するアンチとして今章最初に召喚された黒い人。うちのアンリが宝具レベル5絆10になった影響でちょっと豪華な登場となってます。覚えていた人が何人いるのか。マイクが倒された事でカルデアから召喚された。アシュリーが倒された今、もう一人援軍を召喚可能だが・・・?

・ウェスカー
満を持して登場したはいいけどジルとの因縁を見せただけであっさりネメシスに負けて動けなくなってる黒い人。この人は調子に乗ったところで何かしくじる傾向が見れます。無印とかベロニカとか。

・女王ヒル暴走形態
自身の天敵と対峙するとぷっつんする系バーサーカー。バイオハザード0のラスボス。攻撃が通じず、時間を稼いで天窓を開いて弱点の日光を当てる事でようやくとどめを刺せるというめんどくさい系ボス。全身から毒液を放出するため近寄れず、さらに突進してくるため普通に危険。

・ウェスカーVSジル
因縁の対決。会話していた内容からジルのサーヴァントとしての特徴が垣間見える。クラスによって大きく在り方が変わる系サーヴァントである。

・ジルとセイバーオルタ
ナーサリーライム戦の約束を律儀に守る黒王様。真面に戦っていたら間違いなくウェスカーに勝利できていたが・・・

・ネメシス+テスラ
仮称はテスラコイルネメシス。前回の最後で女王ヒルが「保険」として発動していた、子供ヒルで再び頭部を形成したネメシスの再起動。テスラが倒された際に、その死体が消えるまでに取り込んで自分の言う事を聞く従順な最後の鍵を得るためのものだったが、最悪の形として保険が成立してしまった。
タイラントの代わりにテスラを取り込んだものの、同様に寄生生物ネメシスが巨大化しており、追跡者第三形態と酷似している。いわばテスラの能力を使える第三形態。

・毒液を受けたモードレッド
言うまでも無く元ネタはアポクリファのVS赤のアサシン戦。ヒュドラの毒とまでは行かないが、それでもブルーハーブを受け取るまで戦闘不能だったぐらいには強力。人間が喰らったら即死する。

偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)+騎士の誓い
FGOでも再現できる変則的使用。一度死ぬぐらいのオーバーキルなダメージを受けてから蘇生し、返す。アニバーサリー・ブロンドは元々このためだけに着せて来た(名目上はディーラーへの保険として)。立香としては苦渋の決断だったが最終的に死ななきゃいいや思考になっている。

・リーチネメシス
Gカリギュラ、ヘラクレス・アビス&フォルネウス・アビスに並ぶ今章のサーヴァント×B.O.W.枠。他者の霊基or遺伝子を取り込み進化できるネメシスだからこそできた大ボス。テスラコイルを使った大放電で敵を圧倒する他、毒液を放出したり触手で攻撃する。ネメシス一番の武器であるロケットランチャーが使えなくなったのが唯一の救い。
 女王ヒルとテスラ自身は既に消滅したものの、執念からか女王ヒルの意識が中心になっている。己がテスラであるため、後は地上に出て魔霧が集まっている場所に雷電を放てばそれで全てが終わる上に、女王ヒルの絶壁踏破能力と追跡者の執念深さが合わさってめんどくさいことに。
 ネメシスと女王ヒルの最終形態が似てるなあという考えから生まれた。モデルは「サイコブレイク」のアマルガムα。電極が突き刺さっている実験体ぽい姿はそれをイメージしてる。

・最後
文字数が一万字を超えた為、ちゃんと書けなかったものの一足早く参戦したあの人。敵か味方か。



次回、一年ぐらいかけたロンドン編の集大成にして総力戦のVSリーチネメシス。そして・・・次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ついて来れるかストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、割と速く更新できて拍子抜けしている放仮ごです。流れに乗れば速いのなんの。

VSリーチネメシス決着戦。カルデア&ロンドン組の総力戦です。一気に展開が進みます。楽しんでいただけると幸いです。


 ・・・・・・あれから、どれほどの時が経っただろうか。がらにもなく善を成すために、叛逆し返り討ちにあったあの時から。無謀であるとは分かっていた。弱点であったはずの炎もあの時戦ったアーサー王の姿を取られて対魔力で無効化され、さらには奴の言いなりになったあの追跡者までいたのだ。それでも、以前の現界でマスターを裏切った私には、奴のしでかした事は許せなかったのだ。

 

 魔神柱というものに取り込まれて倒された後も私の体が保たれていると言う事は、マスターであった男を殺して擬態していたあの怪物はまだ健在なのだろう。忌々しい事だ。

 

 ああ、誰か奴を止めてくれ。あの怪物を野放しになどできぬものか。

 

 

「手伝ってもらうわよ。嫌とは言わせないから」

 

 

その聞き覚えのある声と共に視界を覆う闇が取り払われる。そこにいたのは、善を敷く者達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうオレ達に用は無いって事かよ・・・気に入らねえ!」

 

 

毒で融解した鎧を消してディーラーから受け取ったブルーハーブで治癒したモードレッドは地団太を踏む。登って行くリーチネメシスを見上げ、弱った体で何もできないならせめてもの、と手を伸ばすも虚しく空を切った。

 

騎士王に代わり、ブリテンの地を守ろうと足掻いた揚句にこれだ。何が円卓の騎士だ、騎士王の息子だ、と唇を噛み締める。ネメシス、レッドピラミッドシング、パラケルスス、ナーサリーライム、バベッジ、マーカス、魔神柱、ニコラ・テスラ、女王ヒル。連戦に次ぐ連戦で休息の時など少ししかなく、限界だ。もう、モードレッドに余力など残ってはいなかった。

 

 

「モードレッドはもう休んでいて!・・・でも、どうしましょう所長・・・」

 

「ウェスカーに吠えたと思えば置き捨てて、私たちですら無視して地上に向かうだなんて・・・目的が支離滅裂していてもう訳が分からないわ」

 

「B.O.W.は元々自我なんてない奴が多い。奴もそれだと考えると妥当が行く。あの「自我」は単なる模倣だ。奴に自我なんて、本能がちょっと賢くなったそれしかないんだろうよ。何故かは知らんが本能的にウェスカーを恐れてあの怪物化したところや、くどいぐらいに「地獄の炎を」と連呼してたことから考えるに、奴は、女王ヒルは殺されたという父親への愛情と復讐心だけが原動力だったんだ」

 

 

そのディーラーの言葉に、オルガマリーとアルトリアは女王ヒルとの会話を思い出す。確かに、中身の無い支離滅裂な言葉ばかりだった。

 

 

「いわば復讐心、に見せかけただけの空っぽの自我だ。擬態する事で得た仮初のそれしかないから、マーカスが最期に抱いた世界への復讐に盲目的に追いすがるしかなかった空虚な怪物。哀れな物だ。だが分かるか?奴にとってはそれしかない、と道理だ。生きている限り諦めないだろうし、目的を成し遂げたところで満足はしないだろう。世界さえ焼き尽くすまで奴は止まらないって訳だ。・・・エヴリンも、その気持ちは分かるんじゃないか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

ディーラーの問いかけに、黙って睨みつけるエヴリン。答えは言わずもがなの様だ。少なくとも、親に対する執着心はエヴリン程理解できるB.O.Wもいないだろう。すると埒が明かなくなったためか、通信のダ・ヴィンチちゃんが声を上げた。

 

 

《実際、ニコラ・テスラの雷さえ地上に出てしまえば奴は君達なんて興味も無いんだろう。どうやら結局の目的が「復讐の成就」に落ち着いたらしい。さてどうしたものか。まずこの穴はどう考えても登れない。今から逆走したところで間違いなく間に合わないだろうし、追い付いたところでアレをどう倒す?》

 

《ディーラーにも言うべきだったけど、悠長に分析している場合かレオナルド!ああでも本当にどうすれば・・・そうだ、エヴリン!君のクリーチャーなら壁を伝って地上に・・・》

 

「無理。壁に引っ付けて一番速いクイック・モールデッドでもあんなのには追いつけないし、普通に勝てない。私は毒が苦手だから。ゆっくりならパパを使えば登れるけど」

 

《じゃあ本当に打つ手なしだ!くそっ、ここまで来たのに・・・人理修復はもう絶望的だ!》

 

 

頼みの綱のエヴリンにも不機嫌だったためか吐き捨てられ、通信の向こう側で絶望の悲鳴を上げるロマンに一同の雰囲気も暗くなる。マイクさえいれば、と自分のミスを悶々と思い詰めていた立香は、ハッとそれを思い出した。

 

 

「・・・そうだ、地上のゴールデンさんに念話を・・・」

 

「ゴールデン?彼等に会ったの!?」

 

「はい、所長の話を聞いてここに急ぐ際にフランを預けて送ってもらったんだけど・・・その時、もしもの時に助けになる様にって仮契約を申し出されて。二人と契約を交わしました」

 

「そうか、それなら・・・時間稼ぎぐらいはできるかも。藤丸、早急に二人に念話!倒さなくてもいいから、魔霧の集束する場所・・・そう、ビッグ・ベンやバッキンガム宮殿の上空に行かせない様にして!」

 

「わ、分かりました!」

 

「あとは追い付く手段だけど・・・」

 

 

慌てて念話を始める立香から目を離し、希望を見出したと言わんばかりに辺りを見渡して打開案を考えるオルガマリー。レールガンにされた後にそのまま転倒している機関車を使うか?とも考えたがかなりの回り道になる。かといって他に早く戻れる方法など早々ない。どうしたものか・・・と考えていると、それは来た。

 

 

『なんだ?その場の、魔霧の中に高密度の魔力反応があるぞ・・・?膨大な・・・何だ・・・!?』

 

『この状況だと言うのにこの場の魔霧の殆んどが集束して、新たなサーヴァントを召喚しようとしている!?集束した魔力を全て吸収して現界する、何か途轍もないものが来る。警戒してくれ皆!』

 

 

ロマンとダ・ヴィンチちゃんの警告に構える立香達。こんな時だと言うのにまた新手かと若干怒りを顔ににじませる。敵だと決まった訳ではないが、新しい問題など糞喰らえだ。

 

 

「くっ、こんな時に・・・さっさと聖杯を回収しておくべきだったかしら。でも、よく分からない機械から聖杯を取り外すのも何か心配だし・・・」

 

「・・・魔術師って機械苦手だったりします?」

 

「そんなこと訪ねている場合かストレンジャー。来るぞ、俺でも分かるヤバい魔力量だ」

 

『もう既に現界して霧の中にいる!姿は見えないかい!?』

 

『だが待て、これは・・・知らない霊基じゃないぞ・・・?』

 

「何が来ようと関係あるかよ!オレが、まとめて叩き斬ってやる!」

 

 

そう言ってモードレッドが体に鞭打って立ち上がり、クラレントを構えた時だった。膨大な魔力の圧が竜巻の様に魔霧を吹き飛ばし、その英霊が姿を現す。竜を模した漆黒の騎士甲冑を身に纏い、白い鬣と赤い目を持つ黒馬「ラムレイ」に騎乗し、馬上槍を手にしたその姿。クラスはライダーかランサーか。

 

 

「―――――ブリテンを脅かす者は何処だ」

 

 

しかして体格が大人に近くなっていても、黒い角があり白に近い髪色になっていても、その顔と声には覚えがあった。というかすぐ傍にいた。

 

 

「アレは・・・年齢、容姿、クラスも違うけどオルタ・・・じゃない、アーサー王!?」

 

「・・・ロンゴミニアド。それをよりにもよってオルタ化した状態で握る私ですか」

 

 

そうアルトリアの口から出た言葉にゾッと顔を青ざめさせるオルガマリー。アーサー王伝説に置いて、アーサー王とモードレッドのカムランの丘での戦いを終結させた武具、ロンゴミニアド。その名を知らない訳が無かった。

 

 

「ロンゴミニアドですって!?アーサー王伝説に置けるエクスカリバーと並ぶ、世界の表裏を繋ぎとめるとまで言われる聖槍・・・!?」

 

「敵としてなら厄介極まりないな。我らがこうして地に伏している所に出るとは当て付けか何かか」

 

 

ランサーオルタの一部分を睨みながらそう吐き捨てるセイバーオルタ。聖剣を手放した事で肉体的に成長した己自身ではあるが、アルトリアも睨んでいるところを見るに気に入らないところがあるようだ。そんな二人の自分の視線と、どこか怯えながらもキッと睨みつけるオルガマリーと、様子を見ながら焦る様にちらちらと上に視線を向けるそれぞれの視線が気に入らなかったのか、馬上から槍を突きつけるランサーオルタ。

 

 

「黙れ。私は、ブリテンの敵は何処だと聞いている」

 

「・・・アンタは、敵対者を・・・カムランの丘のオレを屠らんとするアーサー王だ。ロンディニウムを救いに来たのか・・・?」

 

「貴様はモードレッド卿。それに、聖剣を手にした私が二人もいるのか。お前たちがブリテンを危機に陥れんとする者か?」

 

「いいや、違うよ。アルトリア」

 

 

その言葉を発した者に槍の切っ先を突きつけるランサーオルタ。目の前に切っ先があると言うのに酷く落ち着いた様子の立香は、臨戦態勢を取ろうとしていたディーラーとセイバーオルタを手で制して、ランサーオルタに向き直る。

 

 

「貴女が何のために此処に召喚されたのかは知らない。でも、私たちはブリテン島を滅ぼそうとしている奴の敵だ。槍を納めてくれませんか。モードレッドも、私たちも奴を止めたいんだ」

 

「ならば言え、敵は何処だ」

 

「ここの遥か上。地上の更に上、空に奴は向かっている。止めないと、もうすぐブリテンは滅んでしまう」

 

「・・・嘘は言っていない様だな。敵の敵は味方、か。いいだろう」

 

 

切っ先を突きつけられながらもつらつらと述べられた言葉に納得したのか、槍を風の鞘で消し去り地上に続く縦穴を見上げるランサーオルタ。その間に近付いたオルガマリーとディーラーが立香にまくしたてる。

 

 

「藤丸!どういうつもりなの貴女は!?」

 

「何でむざむざ殺されに行った!?マキリの狂化の呪文の影響が出ていても可笑しくなかったんだぞストレンジャー!」

 

「・・・殺気はあったけど、あの時のオルタと同じだった」

 

「あの時?・・・特異点Fか」

 

 

立香の言い分は、あの時のセイバーオルタと同じで本気で殺しにかかりながらも見定めるようだった、だからだと言う。

 

 

「何より、オルタならちゃんと話せばわかってくれる。そう思ったから」

 

「・・・そうか。アンタがそうしたいなら俺はとやかく言えないな。注文に応えるだけだ。で、どうする?」

 

「そうよ。彼女を味方にしてもどう考えても追いつかない・・・」

 

「何をしている」

 

 

オルガマリーが頭を抱えていると、立香に向けて再び槍が突きつけられた。咄嗟に構える一同に冷やかな視線を送ったランサーオルタは眉を寄せた。

 

 

「さっさと仮契約を済ませろ。追うぞ」

 

「え?」

 

「言って置くがそこの銀髪とは仮契約する気はない。契約しないのなら一人で行かせてもらうぞ」

 

「あ、よろしく?」

 

 

ちょっとした混乱の中で契約が済まされ、切っ先で襟元を引っ掛けた立香を自身の背後に座らせたランサーオルタは、縦穴を見上げて一言。

 

 

「飛ぶぞ。掴まっていろ」

 

「はい?・・・ッ!?」

 

 

その言葉と共に、反射的にランサーオルタの腰に掴まった立香を乗せて、跳んだ(・・・)

 

 

「ストレンジャー!?」

 

「連れてかれた!?せめてマシュを・・・って今は気絶してるんだった。アルトリア、セイバーオルタ、モードレッド!魔力放出で追える?」

 

「・・・何とか回復した。行けるぜ」

 

「問題ない。追うぞ」

 

「立香の事は我々にお任せを!」

 

 

そのまま岩壁を駆け昇って行くラムレイを駆るランサーオルタを追いかけて、魔力放出を用いてロケットの様に飛び出し、アルトリアはそのまま壁を駆け昇り、モードレッドとセイバーオルタは痛む体に鞭打ち壁を蹴って追いかけて行く。凄まじい速さで駆け昇って行ったセイバートリオを見送ったオルガマリーは一息吐くと、気絶したマシュを揺り起こしながら再び思案を始めた。

 

 

「どうした、所長?ランサーオルタに何か問題があったか?メイドオルタのバイクにも耐えたストレンジャーなら心配はいらないと思うぞ」

 

「そうじゃないわ。藤丸ならもし落ちてもセイバーオルタ達が助けてくれるでしょう。それよりも、奴の能力をどうにかする方法を考えないと。追い付いて止める事が出来ても、あの再生能力を封じないと倒す事は出来ない。仮にロンゴミニアドでどうにかなるにしても、また霊基を捕食されて回復されないとも限らないし、確実に仕留める方法を考えないと」

 

「・・・そうだったな。アンリマユは見事に役立たずだ。回復させてもストレンジャーのマスタースキルが無いと即死コースで何もできずに退場だろう」

 

「ハハッ、ひでえ言い草だが言い返せないのが笑えるねえ」

 

「何か手は・・・・・・女王ヒルとネメシス、それにテスラも合わさっている怪物に弱点なんてあるのかしら・・・」

 

 

ぶっ倒れたままジャックとエヴリンにツンツンと弄られるアンリマユは完全に無視して、オルガマリーは思考を巡らせる。言うなれば制度の高い擬態能力+超再生能力+再生能力+追跡対象に対する執念+放電能力+天才的な頭脳+無限に等しい魔力である。弱点の一つだった電気も効かなくなっただろうし、炎だけで弱るかどうかも怪しい所だ。てんこ盛りにも程がある。すると、リーチネメシスが生まれてからずっと黙って観察していたアンデルセンがようやく口を開いた。

 

 

「・・・いや待て。合わさっているなら可能性は増えたぞ」

 

「どういうこと?」

 

「・・・そうか、そう言えばここにはネメシスを倒した英雄様がいたんだったな」

 

 

そう笑うディーラーの視線の先には、未だに痺れて地に伏しているウェスカーの後頭部に銃を突きつけながら後ろに回した両の手首を縛り上げ拘束しているジルの姿があった。

 

 

「ふむ!なるほどなるほど、クライマックスの脚本は仕上がりましたな。言うなれば『もう一度、あの突破口から(Once more unto the breach,)突き進め、もう一度!(dear friends, once more;)』あの怪物に引導を渡してやりましょうぞ!」

 

「貴様が仕切るな。俺達はせいぜい邪魔にならない様に下がっておくぞ。死にたいなら勝手にしろ」

 

「そんなご無体な!」

 

 

ギャーギャー騒ぐ作家陣を尻目に、ディーラーと共にとある事をジルに聞きに行こうとしたオルガマリーを引き留める手があった。

 

 

「・・・旦那様(ますたぁ)

 

「清姫?どうしたの?」

 

「マイクさんが倒され、アンリマユさんが代わりに召喚されました。先程アシュリーさんが倒されたと言う事は、また一人呼べるのですよね?」

 

「え、ええ。そうだけど・・・?」

 

「・・・一つ、提案が。ネロさんを召喚していただきませんか。あんなことした上でこのようなこと虫がいいとは分かっていますが・・・どうしても、力を借りたい。旦那様(ますたぁ)の役に立ちたいのです」

 

「・・・清姫」

 

 

そうして、準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、右に避けて!」

 

 

一方、こちらは空を駆るラムレイに乗るランサーオルタにしがみ付く立香。オケアノスでのメイドオルタで慣れていた為か、すぐに対応して即座に指示。落ちてくる毒液や雷撃、ヒルの塊を避けながらリーチネメシスを追いかける。しかし、テスラの頭脳を得たリーチネメシスも黙ってはいなかった。

 

 

「そんなのあり・・・!?」

 

 

恐らくは大量のヒルで形成された大型の猿型B.O.W.「エリミネーター(排除する者)」と、巨大なコウモリ型B.O.W.「インフェクティッドバット」がそれぞれ複数で降って来て、エリミネーターが組みついて来たのをランサーオルタが蹴散らした隙を突いて一体のインフェクティッドバットが飛来。

 

 

「しまっ・・・!?」

 

「クソッ、マスター!」

 

 

立香を足で掴んで連れ去り、高速で落下しながら他数匹のインフェクティッドバットが超音波攻撃で襲い、立香は咄嗟に取り出したマシンピストルを落としてしまい両耳を押さえて耐える。ランサーオルタはその場に留まってエリミネーターを薙ぎ払っていた所を、壁の土の中に隠れていた複数の虫を混ぜ合わせた様な2m大の姿が特徴の、二本の鋭利な鎌状の捕食肢と巨大な下顎を持つB.O.W.「プレイグクローラー」に奇襲され、身動きが取れない。

 

 

「不味い、令呪を・・・」

 

 

このまま高速を保ったまま解放され、地面に叩き付けられて即死を免れないのは明白で。令呪を使うにしてもどうするか迷っていた立香を拘束しているインフェクティッドバットの頭部に突き刺さる邪剣があった。

 

 

「立香を放しやがれ!」

 

「「風王鉄槌(ストライク・エア)!」」

 

 

クラレントを突き刺し、失速したところを魔力放出の勢いのまま立香を抱き抱えてそのまま上を目指すモードレッドを、援護するかの様に騎士王二人による破壊力を伴った暴風が周囲のインフェクティッドバットと、ランサーオルタに群がるエリミネーターとプレイグクローラーを薙ぎ払った。モードレッドは立香にマシンピストルを渡してから落ちて来たクラレントを手に取り、そのまま壁に足を付けると駆け上る。

 

 

「モードレッド、それにオルタにアルトリア・・・!」

 

「こいつ、お前んだろ?オレの兜に落ちて来たからよかったが、父上たちに当たっていたらどうすんだ」

 

「ご、ごめん・・・」

 

「有象無象の邪魔者は私たちに任せろ。お前はモードレッドと槍の私と共に奴を追え」

 

「我々では岩壁を崩す恐れがあるので援護します。必ず奴を止めてください」

 

 

モードレッドに抱えられ壁を駆け上がる中、再び落ちて来たエリミネーターを薙ぎ払うオルタとアルトリアに頷く立香。乱暴にモードレッドに投げられ、再び上昇を始めたラムレイの後部に飛び乗ると左手でランサーオルタの鎧の凹凸部分を掴んで右手にマシンピストルを手にする。

 

 

「そう言う訳だ、このまま行くぞ!槍の騎士王!」

 

「・・・いいだろう。マスター、今度は決して放してくれるな?」

 

「ごめん、私も援護してあいつ等を寄せ付けないから、全速力でお願い!」

 

 

ぷるぷる震えながらそう言ってのける立香に若干呆れながら溜め息を吐いた騎士王は、ついて来る気で満々のモードレッドを見て、底意地悪げに笑みを浮かべた。

 

 

「・・・マスターが耐えられるならそれでいいが、・・・モードレッド卿。貴様は私について来れるのか?」

 

「愚問だな騎士王。オレはアンタにだけは置いて行かれる訳にはいかない。――――ついて来れるか、じゃねえ。てめえの方こそ、ついてきやがれ!」

 

「・・・面白い!」

 

 

落ちて来た巨大サソリ・・・スティンガーを真っ二つに切り捨て、魔力放出でロケットの如く飛び上がるモードレッド。ランサーオルタは不敵に笑い、それを追い抜く勢いでスピードを上げた。吹き飛ばされそうになりながらも意地で片腕でランサーオルタに掴まる立香。歯を食い縛り、落ちてくるエリミネーターを撃ち落としながら上を見る。そして、捉えた。

 

 

「ッッッッッ・・・!見えた!」

 

「ちっ!奴はもうすぐ地上に出るぞ!間に合わねえ!」

 

「どうする、マスター。奴を倒す手段は考えてあるのか?」

 

「ない!とにかく落としてから考える!それに、私はどうなってもいいから・・・間に合わせる!・・・ゴールデン!お願い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうよ。派手に行くぜえ」

 

 

ぽっかりと空いた大穴に歩きながら、黄金の刃を持つ斧を担いだ大男が不敵に笑う。

 

 

「雷電を、受けて輝く黄金(ゴールデン)――」

 

 

雷電を迸り、不敵な笑みを浮かべる彼の背後には、野獣の勘から着いて来た傾国の美女の姿。

 

 

「誰かオレを呼びやがる。魔性を屠り、鬼を討てと言いやがる。うるせぇなァ・・・うるせぇうるせぇ、耳元であれこれ言うんじゃねぇ!いつだってオレァ、オレの斧を振るうまで!」

 

 

その言葉と共に穴の中へと飛び込むゴールデンと名乗ったその男。

 

 

「悪鬼を制し羅刹を殴り!―――輝くマサカリ、ゴールデン!」

 

 

幼名ではあるが、その名を知らない日本人はほとんどいないと明言できる程の知名度を誇る、ゴールデンと名乗ったその英雄の名を。

 

 

「名乗りたくはねえが名乗らせてもらうぜ。英霊・坂田金時―――只今ここに見参だ」

 

 

名乗りを上げると共に投擲。雷電纏った斧がクルクル回転してリーチネメシスのテスラコイルとかち合って弾き落とし、急降下と共に斧を手に取って宝具解放。それと同時刻に、地上では鳥居が何本も立ち並ぶ異様な結界が形成されていた。

 

 

 

「ちょお~~~っと待った金時さん!暫く、暫くぅ!私の攻撃じゃあの気持ちわるーい怪物を落とせないと知るや否や金時さんに任せた此度のマスター、少々気に入りませんがその慟哭、その頑張り。他の神さまが聞き逃しても、私の耳にピンときました!自分の命まで削って金時さんの馬鹿みたいに魔力を喰う宝具に全力を費やさなくてもいいのですよ。その為に私がいます」

 

 

フォックスと金時から呼ばれた狐耳の少女・・・否、以前オルガマリーが助けられたタマモキャットのオリジナルでもある玉藻の前の周りを宝具である鏡、黒天洞がグルングルンと旋回。玉藻の前はさらに複数枚取り出した御札を宙に並べ、落ちて行く金時と、こちらに向かってくる馬鹿なマスターの事を考えながら詠唱を始めた。

 

 

軒轅陵墓(けんえんりょうぼ)――冥府より尽きることなく。出雲に神在り。審美確かに、(たま)に息吹を、山河水天(さんがすいてん)天照(あまてらす)。これ自在にして禊ぎの証、名を玉藻鎮石(たまものしずいし)神宝宇迦之鏡(しんぽううかのかがみ)なり―――水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずいし)……なんちゃって♪」

 

 

あらゆる宝具による攻撃や魔術をも軽減する障壁を、常世の理を遮断する結界を展開し、無限の魔力供給を齎すその宝具の力を受けた坂田金時は、マスターからの魔力供給を自ら断って、玉藻の援護だけで宝具を発動した。

 

 

「おう!礼を言うぜフォックス!大将、アンタの魔力はとどめに取って置きな!吹き飛べ、必殺!

黄金衝撃(ゴォォオルデン・スパァァァァクッ)!!」

 

 

手に取った斧を、急降下の勢いと共に振るい、雷を纏った規格外の一撃がリーチネメシスの放った電撃を打ち払いながら叩き込まれる。せめてもの抵抗として毒液が放射されていたがテスラのそれと張り合える規格外の雷電ですぐさま蒸発してしまい、リーチネメシスは一矢報いる事も出来ずに落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落下しながらこちらを見るなり毒液と電撃を放射してくるリーチネメシスの巨体に、立香は地上の二人に礼を伝えてから気を引き締める。こちらにはかつてこのロンドンの地を守っていた騎士王が三人もいて、さらにはアーサー王伝説に終止符を打った叛逆の騎士までいるのだ。負ける気がしない。

 

 

「ありがとう、二人共!いくよモードレッド、ランサーオルタ、お願い!」

 

「聖槍、抜錨。先行は任せたぞ、モードレッド卿」

 

「おう、槍の騎士王!」

 

 

下からのアルトリアとセイバーオルタの援護で毒液が掃われ、電撃をクラレントで受け止めながら突撃するモードレッド。同時にランサーオルタの持つロンゴミニアドに風王結界が集束して行く。

 

 

「Take That, You Fiend!テメエの顔はもう見飽きたんだよ!」

 

 

ネメシスの頭部にクラレントが突き立てられ、そのままモードレッドは魔力放出でリーチネメシスの落下速度を緩めると赤雷を纏って大きく上に斬り裂いた。血が噴き出し、再生し始めるネメシスの頭部を蹴りつけてそのまま女王ヒル、テスラと連続で斬撃を叩き込み、テスラの顔面を一発殴って怯ませると跳躍してわざと落ちて急速に離れた。巻き込まれるのはごめんだからだ。

 

 

「突き立て!喰らえ!―――――十三の牙!」

 

 

槍を覆った風が渦を巻き、それは竜巻となって巨大な馬上槍としてリーチネメシスに切っ先が向けられラムレイが突撃。接触する寸前かと言う所で、一気に解き放たれた。

 

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!!!」

 

 

リーチネメシスの肉体を、毒液も、電撃も、ヒルで形成された偽B.O.W.達も、悲鳴をも魔力の竜巻が喰らい尽くす。再生力が追い付かない勢いでバラバラに引き千切られ、リーチネメシスの肉体は散り散りとなって落ちて行った。

 

 

「やったか!?」

 

「モードレッド卿。貴様の目は節穴か」

 

「まだ、消滅していない。あの様になっても生きているとは恐るべし」

 

「つまりまだ、死んではいないと言う事だ。さあどうするマスター」

 

「とりあえず、戻るよみんな!所長を信じる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだだ、まだ終わってはいない。バラバラに散って地面に叩き付けられたリーチネメシスは大ダメージに体を震わせつつも欠片を集結させて再び肉体を形成して行く。事実上の不死身なのだ。厄介な敵といえど、奴等とてサーヴァント。じきに限界が来る。それまで何度でも復活すればいい話だと、テスラの頭脳で結論を得たリーチネメシスは負けるはずがないとばかりに肉体を再形成し終えようとして、

 

 

「いい加減、生き汚いぞ怪物よ。美しくないであろう!」

 

「!?」

 

 

周囲の光景が大洞穴から、薔薇の花飛び交う黄金の劇場へと様変わりしたと同時に己の再生能力が弱まったのを感じて混乱する。見渡せばオルガマリーを始めとした面々、そして見慣れぬ新たな英霊の姿があった。

 

 

「ふっふっふ!怪物よ、美しさが分かると言うのならば我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け!―――しかして讃えよ!黄金の劇場を!不意打ちで大火傷を負ってダウンしてうっかり忘れていたが、スキル・三度、落陽を迎えても(インウィクトゥス・スピリートゥス)で余、完全復活!既に二回倒れたが!余は待機に飽きた!戦いに出るぞオルガマリー!」

 

 

そこにいたのは、全身に包帯を巻いたどう見ても満身創痍姿のネロ・クラウディウス。フラフラではあったが、宝具の展開を維持はできそうだった。

 

 

「・・・清姫に言われて気付いたけど、敵の能力を制限するネロの宝具も女王ヒルにとっては天敵よね。ここで決める!みんな、時間稼ぎをお願い!」

 

 

オルガマリーは皆の背後に隠れた何者かの下にしゃがみ、ネロの背後に構えたサーヴァント達が一気に宝具を展開して行く。

 

 

「ジル殿に聞いた話から女王ヒル、ネメシス共に書き殴った短編ですぞ!開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)!」

 

「出てこいファット・モールデッド!ようこそ、私の家族(ウェルカム・トゥ・ザ・ファミリー)

 

「一気に制圧するわ!無限の弾丸(アンリミテッド・ガン・バレル)!」

 

「殺戮を此処に……解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

 

 

シェイクスピアの精神攻撃を受けて自我が一瞬飛んだ所に、エヴリンの呼び出した巨漢のファット・モールデッドの胃液放射とジルの構えたガトリング銃の一斉掃射と、「女」王ヒルに効果抜群だと思われるジャックの斬撃が炸裂。再びバラバラにされた体を、それでも懸命に再生しようとするリーチネメシス。放電する余裕もない。命の危機が、判断力を鈍らせていた。

 

 

「逃がしません!さあさあ……煩悩を焼き尽くす時間でございますよ?」

 

「!?」

 

 

そこに、リーチネメシスを閉じ込める様に巨大な釣鐘が落ちて来た。すっぽりと覆ったそれの上に座るのは、リーチネメシスには見えないが何時の間にか水着と着物を合わせた様な服を着て髪型を変えて薙刀を手にした、ランサーにクラスチェンジした清姫であった。ネロのスキル「皇帝特権」だ。

 

 

「ああ、ますたぁ、見ててくださいましね?」

 

 

清姫が恍惚とした表情を浮かべると同時に釣鐘は蒼い炎に包まれ、さらに周囲に刃に蒼炎を纏った複数の薙刀が出現。取り囲んだ。

 

 

「そーれ!道成寺鐘(どうじょうじかね)百八式火竜薙(ひゃくはちしきかりゅうなぎ)! 一発!!」

 

「ァアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

 

そのまま、某髭危機一髪な勢いで四方八方から串刺し。的確にリーチネメシスの肉体に突き刺さり、さらに焼くことで完全に動きを封じた。

そして。

 

 

「女王ヒル。確かに貴方は、日光が無い限り無敵なのかもしれない。太陽の化身のサーヴァントを呼び出さない限り絶対勝てない相手。でも、ネメシスになら勝てる。ここに、死因が二つとも揃っているのだから」

 

 

そう言ってオルガマリーが構えるのは、ディーラーから受け取ったリボルバー式のマグナム。その隣には、アンデルセンに支えられ、止血帯による応急処置だけでその場に立っているパラケルススが一振りの剣を構えて立っていた。

 

 

「ジル・バレンタインのマグナム。それが貴方の死因。だけどそれだけじゃ殺せない。直接の敗因は、ラクーンシティの廃棄場にあったとされるレールガン」

 

「その名も『パラケルススの魔剣』という。こんなフラグ回収、三文小説ですら無いぞ?二次創作並のご都合主義だ。貴様の運も尽きたな、不死身の怪物。」

 

「・・・ホムンクルスの如き悪魔の所業で生まれた怪物よ。お見せしましょう。我が、光を。私はこれを撃てば消えるでしょう。だが、これで……良いのです。これでこそ」

 

 

全てを悟った顔で自らの宝具、刀身の全てを超々高密度の賢者の石で構成された魔術礼装を掲げるパラケルスス。剣先に「土」「水」「火」「風」「空」の五大元素のエレメントが現れ回転していく。

 

 

「真なるエーテルを導かん。我が妄念、我が想いのかたち。元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)

 

 

五大元素を触媒に、瞬時に儀式魔術を行使して神代の真エーテルが擬似構成されて、星の聖剣の斬撃すら取り込む極光が放たれた。

 

 

「終わりよ、女王ヒル」

 

 

オルガマリーのその言葉と共に、釣鐘を消失させた清姫がその場を離れ、黄金劇場も消失。立ち上がりかけたリーチネメシスを飲み込み、直撃。さらに両手でマグナムを構えたオルガマリーによるとどめの一撃が、原型をギリギリ保っていたテスラの頭部、脳幹を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

「お、お、オォオオオォオオォォ・・・・・・私、ハ・・・何者、ダッタノカ・・・・・・―――――――Father(父よ)・・・」

 

 

「貴方は、悪です。・・・私と同じ。悪逆は……滅び去るべき……これで、いい・・・」

 

 

 

文字通り、崩れ落ちたリーチネメシスが黄金の粒子となって消滅するのと同時に、限界を迎えたパラケルススもまた消滅した。そこに戻ってきた立香達。ラムレイから降りた立香は状況を理解して安堵の溜め息を吐く。ああ、終わったのだと。

 

 

「なんだ、もう終わったのか?まあいい、とどめは譲るぜ。うだうだ言ってもしょうがねえからな」

 

「戻って来るときに少しだけ見えましたが、見事な連携でした。これがカルデアか・・・縁があれば、喚ばれてみたいものです」

 

「むっ、赤いのも居ますね。それに清姫まで水着を・・・?」

 

「アシュリーが抜けた分か。ふん、しかしあんな満身創痍を連れてきてよく勝てたものだ」

 

「・・・なにはともあれ、よかったよ。さすが所長。私じゃあんなこと、できないなあ・・・」

 

 

自嘲気味の笑みを浮かべた立香の下に、エヴリンとジャックを引き連れたディーラーがやってきて三色ハーブの入ったケースを手渡した。心なしか浮かれている様だ。

 

 

「お疲れだストレンジャー。今回の功労者はアンタと所長だ。もう少し誇れ、それぐらいの権利はある」

 

「・・・・・・・・・」

 

「おかあさん、おつかれさま!ゆっくり休んでね?」

 

「うん、私も疲れたし、聖杯を回収したらゆっくり休もうk・・・・・・・・・!?」

 

「どうした、ストレンジャー?」

 

 

何気なくアングルボダに視線をやったその時、立香は信じられない物を見た。そして、同時に身体が動いていた。それだけは許さない、と言わんばかりに。

 

 

「駄目ーーー!」

 

「えっ?・・・!?」

 

 

渾身の力でエヴリンを突き飛ばした立香。同時に、ズブリ、と何かを突き抜けた音と共に立香は崩れ落ちた。腹部から血を垂れ流し、激痛のあまり呻き声を上げる。

 

 

「ストレンジャー!?」

「おかあさん!?」

「藤丸!?」

 

「先輩!」

 

 

慌てて気付いた面々が駆け寄るも、立香を突き刺した何かがアングルボダの方へ戻って行った瞬間で。立香の悲鳴に目を覚ましたマシュが、怒りの声を上げて振り向いた先。

 

 

「ふん、無駄な事をしたものだ」

 

 

酷く滑稽だと言わんばかりに悪意に満ちた笑みを浮かべた1人の男が、そこにいた。




(急展開に)ついて来れるかストレンジャー(読者)。

そんな訳で急展開で一気にクライマックスに入ったロンドン編です。残り一話です。本当に、長かった。最初に描いたプロットの流れは簡単なのに、いざ文にすると本当に長くなりました。


・リーチネメシス
しぶとさなら最強のB.O.W.をイメージして誕生した悪魔の怪物。電撃、毒液の他ヒルを使った雑魚召喚だけしかできない、と実は攻撃手段が滅法少ない。モデルは「サイコブレイク」のアマルガムαではあるが、ゲーム的なモデルはバイオハザード6レオン編のラスボスであるヒュージフライ・シモンズ。弱い(確信)

・生存していたパラケルスス
地味に消滅を描写していなかった理由がこれ。パラケルススの存在自体がネメシス攻略の鍵だったのです。ネメシスを倒したレールガンの名前が「パラケルススの魔剣」だった時点で、四章の流れは確定してました。当初はこれで弱らせてアンリマユで止め、という流れだった。魔剣でリーチネメシスを仕留め、今度こそ消滅。

・女王ヒルの正体
これは個人的解釈ですが、ずばり「空っぽの怪物」。身勝手な科学者の父の狂った愛情を受けて育ったのですが、最期の描写を見る限り生存本能だけで「心」は無くて擬態していたマーカスの歪んだ復讐心が女王ヒルの行動原理だったと考えています。パラケルススとか一部はその正体に感づいてました。ちょっとエヴリンに似てる?

・ゴルフォと仮契約していた立香
念のため、と舞台裏で契約。坂田金時、玉藻の前という強力な一級の英霊達ばかりなので立香はもしもの時は自分の命を削る事も念頭に入れてましたが玉藻によりそうならずにすみました。何気に立香、オルガマリー共にタマモに命を救われています。

・ランサーオルタ
前回の最後で登場。ブリテンの脅威を倒すために即共闘を選ぶ合理的な王。原作では狂化を受けたテスラを倒した後のボスラッシュの一人。冷酷に振る舞おうとしているけど性根のよさがところどころに出てるのはオガワハイムの彼女のせいです。アルトリアの中で一番優しいと思うのは僕だけだろうか。

・騎士王三人+モードレッド
絶対に共闘させようと心に決めていた。カルデア側の中で自力で飛べる面子。剣アルトリア二人が脇役で終わったのが力不足を感じます。モードレッドがかなり張り切ってました。

・エリミネーター&インフェクティッドバット&プレイグクローラー
個人的バイオハザード0三大トラウマ敵。全部ヒルで形成されているため脆いが鬱陶しい事この上ない。

・英霊ロデオに慣れてきた立香
何気に片腕で高速で移動する英霊にしがみ付くと言う超人ぷりを披露。ちゃんと理由はあり、次回判明。

・エミヤなブリテン親子
モードレッドに言わせたかった台詞。似合う。騎士王に挑戦する叛逆の騎士は強い。

・大活躍ゴルフォ
坂田金時と玉藻の前。一応原作の二人VSテスラをイメージしている対決。壁を踏破する事にかけては随一のリーチネメシスを文字通り叩き落とした。この後飛び降りで合流を図る模様。

・ロンゴミニアド
落ちて来た所に叩き込まれる容赦ない追撃。「散らす」攻撃はリーチネメシスに有効。真名解放ではなく、単なる風王結界を用いた一撃。

・大復活のネロ
四章初めに、オルガマリーについていきたかった清姫に燃やされた可哀相な人。第三スキルによって復活、即召喚に応じた赤王様。宝具でリーチネメシスの再生能力を阻害し次に繋げた。三章に続き皇帝特権で水着英霊を爆誕させた。清姫の事は「愛故だな!」と許しているが、地味に火傷で二回ダウンしているためもう復活できない(フラグ)

・宝具ラッシュ
精神攻撃、一斉射撃、女性特効宝具(女王ヒルが女性かは不明)、嘘吐き絶対焼き殺す宝具、魔剣。ここまでの宝具を受けた英霊はリーチネメシスぐらいだろう。

・爆誕、ランサー清姫
ロンドンではヒルの駆除でしか役立ってないばかりか、自分のせいでオルガマリーを傷つけてしまったため溜めこんでいた物が爆発。自分で燃やしたネロに心から謝罪して頼りクラスチェンジ。何故オケアノスに出なかったのかというと、オケアノスを書いていた当時我がカルデアには居なかったため。つまりアルトリアは絶望的。

・今回のマシュ
連戦も続き、デミ・サーヴァントであることが祟って完全にダウンして出番なし。先輩の悲鳴に目を覚ましたものの手遅れだった。当初の予定としては立香と共にラムレイに乗り込むのを考えていた物を、三人も乗れないと思い直してこうなった。

・狙われたエヴリン、致命傷を負った立香、最後の男
ウェスカーが召喚された理由とその目的から察する事が出来た最悪の事態。男にとってエヴリンは好ましくない存在の模様。腹部をごっそり抉られた人類最後のマスター、立香の安否や如何に。


最近主人公であるはずの武器商人の活躍所が減ってますが、四章がピークです。この後どんどん、エクストラクラス:ディーラーとして活躍して行きます故。

次回、ロンドン編最終回。VS人理焼却の首謀者。立香は一体どうなるのか。このラストを書くためだけにぐだぐだと四章を続けて来ました。最後までお付き合いしてくれたらと。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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こいつがアンタの過去かストレンジャー?

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、今年中にロンドンを終わらせたい放仮ごです。一年かかるなんて思わなかったんや・・・本当なら六章まで行っているはずだったんです、はい。

今回は、こちらが早く書き終わってしまったので予定変わって割と重要な伏線回収回。本編で絶賛瀕死の立香がぼんやりと思い出している過去話、番外編となります。時系列はロンドンに赴く数日前です。楽しんでいただけると幸いです。


第三特異点を越え、第四特異点を見付けるまでの日常の中で。その話題は、他愛ない会話から上がった。

 

 

「ナイフのご購入、毎度ありだストレンジャー。接近戦では銃よりナイフの方が速い、この言葉を心に刻み込んでおけば完璧だ。アンタはどうも銃に頼り過ぎていたからいい傾向だ。まあドクター辺りに知られたらまた説教だろうがな」

 

「ははは、そうだね。マシュや所長にも怒られそう。でも、サーヴァントの皆を信じてない訳じゃないけど、いざという時に大事なものを守れなかったら私が後悔する。だから私は誰に何と言われようとこれを使うよ」

 

「俺達もアンタがそれを使わない様に尽力させてもらうがな?そういえば今更だが、ストレンジャー。アンタは誰から銃を習ったんだ?拙いにしろ、ハンドガンマチルダを使いこなせるなんて賞賛に値するんだが?」

 

「あー・・・えっと、何処まで知ってる?」

 

「空港のバイオテロに巻き込まれた幼少時のアンタを海軍の一人が保護したってところまでだな。あとはコミュ症こじらせたストレンジャーの、孤児院で小遣い溜めて買ったモデルガンで毎日練習している寂しい灰色の青春を送った日常ぐらいしか知らないぜ?」

 

「・・・・・・もしかしてみんな知ってたりする?マシュも?」

 

「知らん。だが、直接パスを繋いでいる俺だから知ってることかもしれないなあ?所長殿の夢も見るしな」

 

「マシュにも知られている可能性があるのか・・・ま、まあいいや。じゃあ、私に銃を教えてくれた人達だね。・・・私は結局そう思えなかったけど、第二の・・・そう、家族になってくれた人達との一年間の話」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、飛行場のロビーで。上院議員にゆらゆらと近付く、マスクを被ってうーあー言ってただけの偽物のゾンビ。そんな笑えもした、ちょっとした事件の直後に、突如出現した本物のゾンビにパニックに陥った。

 

墜落し飛び込んできた旅客機から溢れ出してきたゾンビの群れに、逃げ惑う人々。突き飛ばされ、倒れ込んだ私に向かってゆっくりと、それでも恐怖を抱かせる速度で近付いてきたゾンビを、赤い髪をポニーテールに纏めた、さっき偽物のゾンビを対処していたお姉さんが蹴り飛ばして私たち家族に逃げる様に言って(たらしい。英語が分からなかったけど両親の反応から多分そう)、私たちは家族揃って逃げ出した。

 

 

それから何時間も、暗い、暗い、鉄の匂いに満ちた狭い空間で半ばパニックになりながら、両親と別れた私は1人になっても必死に逃げ回った。

 静寂に満ちていたかと思えば耳を劈く悲鳴に轟く怒号、息を潜めて逃げていた己を委縮させる唸り声に絶叫。血塗れの人、人、人。中には、倒れ伏した人が被さって身動きが取れない子供や赤子もいた。私はそれを見付けながらも、見なかったふりをして逃げ続けた。そうしないと、命がけで両親が逃がしてくれた私まで死んでしまうから。そう、言い訳をしながら。当時憧れていた正義の味方なんて、自分には無理なんだと思い知った。

 

 逃げ続けた先で隠れていたダクトで息を潜めている中、突然突び込んできた腐敗した右手、白目を剥いた灰色の顔。待ち望んでいた声を聞いて扉を開けた先にいた、異形と化した両親の姿。中には、全身の皮膚が剥がれた筋肉の塊みたいな四つん這いの怪物が息を潜めた私の前を横切った事もあった。目が見えない様だったのが幸いだったが、声を出していたらと思うと・・・あの長い長い舌で貫かれていただろう。考えたくもない。

 

 途中でお姉さんが上院議員や警察の人と一緒に居たのが見えたけど、私と同じぐらいの子供が既にいて、足手まといになるのが嫌で私は一人でそのまま隠れていた。怖かったのだ、私が加わる事で助かるかもしれない命が奪われる事が。これ以上、他人に迷惑をかけたくなかった。私がいなければ、両親だって助かっていたかもしれない。銃声が怒声が響き渡り、ゾンビ達がその方向に向かっていく中、私は隠れながら反対方向に駆け出した。図らずも囮にしてしまった。そう思ってしまえば、恐怖と共に後悔が私を支配した。

 

 そのうち、銃声が怒声が聞こえなくなってからはもう、限界だった。目の前を通ったゾンビに声が漏れ出て、囲まれて逃げれなくなって。そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時もの悪夢に、悲鳴を上げながら目が覚める。・・・嫌な汗を掻いてぐっしょりだった。見渡すと、未だに見慣れない屋根裏部屋に備えられた子供用ベッドの上で。鼻に付く嫌な腐臭に顔を顰めるも、住まわせてもらっている身なのだから文句など出てくるはずもない。布団から出て、手鏡で軽く身だしなみを整えた私は、机の上に載せて置いたワイヤレスイヤホンと小型マイクを手に取って身に着けると下に続く梯子に向かった。

 

 

「いい加減起きろ、ルーカス!アンタ、学校でしょ?父さんが怒るよ!」

 

「ああん?うるせえなあ、こっちは上の餓鬼の寝言が五月蠅くてろくに眠れねてねえんだよ!」

 

 

 この家の長男が改造したらしい、可動式梯子のスイッチを押して下に降りると、その件の長男が妹に叩き起こされているところだった。・・・どうやらまた魘された寝言で彼の眠りを妨げてしまったらしい。悪いと思って、二人がこちらに気付く前に頭を下げていた。

 

 

「あ、起きたんだリツカ。おはよう」

 

「おはようございます。・・・いつもいつもうるさくして、ごめんなさい」

 

 

 毎朝している様に謝罪すると、件の長男は楽しそうに笑った。

 

 

「いや、なんだ。わりぃ、気分を害しちまったか?リツカが上に寝る事を提案したのは俺なんだ、今更文句言えるはずないよな。おはようさんリツカ、俺の事、嫌いにならないでくれよな?」

 

「・・・やっぱりリツカが住み始めてから、気持ち悪いぐらいに優しいねルーカス」

 

「ああん?何かわりぃか?!俺だって気を遣えるんだよ!」

 

「うん、ルーカスは優しいよ。これ、本当にありがとう」

 

 

 そう言って、耳に付けたイヤホンを叩き、襟に付けた小型マイクを指差すとルーカスは笑った。

 

 

「礼はいらねえよ!親父曰く、リツカも家族だからな。英語を日本語に訳して聴かせる翻訳機内蔵イヤホンと日本語を英語に訳して流すスピーカー内蔵小型マイクなんて、工作大会二位の俺様には朝飯前よォ」

 

「そうだよ、リツカ。ルーカスはこういうのだけは得意なんだから。欲しい物があったら何でも言ってね?ルーカスだけでなく、私や父さんたちも頑張るから」

 

「う、うん。ありがとうゾイ」

 

 

 イヤホンから日本語で伝えられる二人の言葉に、心が苦しくなる。・・・家族は嫌だ、と思うのはこの家族の善意を無下にしてしまう行為だ。私を守って死んで行くぐらいなら守られたくない、そんな考えに脳裏が埋め尽くされる。――――ああ、私は子供だから、助けられるしかないのか。早く大人になりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら。ようやく起きたかい、寝坊助さんたち」

 

「おはよう、ルーカス、ゾイ。それにリツカ。今日はぐっすり眠れたかい?」

 

 

 あの後、洗面所(トイレとお風呂が一緒になっていて落ち着かない)に向かって私とルーカスだけ顔を洗ってから、傍にある階段でゾイと三人で降りて行くと、キッチンでスープを作っている二人の母親・・・マーガレットさんと、食堂で席について新聞を読んでいた父親・・・私を助けてくれた海兵であるジャックさんが温かく出迎えてくれた。もうここに住んで数日になるが、未だに慣れない。毎日悪夢に魘されている私が首を横に振ると、ジャックさんは顔を顰めた。

 

 

「そうか・・・環境が悪いのかもしれないな。屋根裏部屋はやはり悪環境か・・・明日辺りに応接室傍の部屋が片付くから、もう少し辛抱してくれ。すまないな」

 

「なんだよ、親父ぃ。俺の管理している屋根裏部屋が汚いってのか?」

 

「事実そうだろうルーカス。お前よりだいぶ年下で繊細な子なんだ、もう少し気遣ってやれ。まだ心の傷が癒えてないんだ。この家で暮らすのは一年足らずだが、その前にどうか、心の傷を癒してほしいんだ」

 

「あ、あの・・・私は大丈夫だから、気にしなくていいです。今の部屋も気に入ってるので・・・」

 

「そうもいかないさ。それに、民宿をやるのが夢だった。リツカのおかげでその夢が少し叶ったんだ、これぐらいさせてくれ」

 

「夢が叶ってよかったわねジャック。さあ、みんな。座りなさい。ちょうどスープができたところなのよ」

 

 

 そう言って笑うジャックさんとマーガレットさん。この家の人は皆優しい。やっぱり少し申し訳なくなってしまう。私にできる事は何かないのかな。そう思いながら席に着く。スープとパン、アメリカではそう珍しくない朝食だが日本人である私にはやはり少し違和感がある。

 

 

 ああ、美味しい。安心する味だ。でもお母さんを思い出して少し潤んできた。我慢しないと、迷惑をかけたらいけない。少しでも、足手まといになんかなりたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ここ数年アメリカどころか世界中でバイオテロが頻繁に起きていてまたいつ巻き込まれるか分からないと言うジャックさんの計らいで、念のための護身用として銃の扱い方を習うことになった。もし持つ事になっても暴発しないように、との事らしい。もしまた巻き込まれたら私が無茶すると気付いたのだろう。迷惑をかけたらいけない、と思っている傍からこれだ。自分が不甲斐無い。でも、渡りに船だ。全力で習う事にした。

 

 

「ようジャック!そいつが噂の子供か!」

 

「・・・ジョー。何の用だ?この子が恐がっているじゃないか」

 

「なに。家族に会いに来ただけじゃないか。それと、日本の餓鬼にワニを食べさせてやろうと思ってな」

 

 

 そんな時、近くに住んでいるらしいジャックさんの兄、ジョーさんと私は出会った。庭先で銃の練習をしていた時に、ワニを片手に持ってやって来たのでビビってハンドガンの銃口を向けてしまったのは許して欲しい。ジョーさんは熊みたいな人で、優しいジャックさんとは正反対にちょっと乱暴だった。わしゃわしゃと頭を撫でられ、ふら付く。

 

 

「なんだジャック。お前、こんな餓鬼に銃を持たせているのか?」

 

「俺のところにいるのは一年間だからな。リツカは優しい子だ、無茶をしかねない」

 

「だったら素手での戦い方も教えろよ。俺達直伝のアレとかどうだ?お前の鼻っ柱を折る事はもちろん、ゾンビぐらいなら殴り飛ばせるだろう?」

 

「素手でもゾンビを倒せるの?やってみたい!」

 

 

 銃の取り扱い方で少し疲れていた私は、その話題に飛びついた。素手と言えば日本では空手や柔道だが、ジョーさんはその素手でゾンビを倒せるのだと言う。銃なんてできれば握りたくない私からしたら願っても無い話だ。

 

 でも私がこう言った事でジョーさんに気に入られ、私の処遇を決めるためにジャックさんとジョーさんの殴り合いに発展してしまい、私は泣いた。ジョーさんが勝って、彼の家で数日過ごす事になった。直ぐ近くなので毎日ルーカスとゾイに会えるため何も問題は無かった。

 

 しかし、ジョーさんには悪いが私に格闘戦はからっきし駄目だった。

 

 ひたすら吊るされたワニの死体をパンチ、パンチ、パンチ。私から見てもへなちょこで、手が痛んだだけだ。ならばとキック、キック、キック。バランスが崩れてこけた。ならばと頭突き。ジョーさんは慌てて、私は一時間気絶した。それでもワニの死体はビクともしなかった。

 

 

「リツカ。一日、ずっと試してみて分かった事がある」

 

「はい、ししょー!」

 

「まず、お前は体が細くて脆い。体力も無い。体幹も悪い。腰が入ってない。殴るとき目を瞑っちまうのも駄目だ。お前にこのやり方は無理だ、下手したら自分が壊れちまう。とりあえず猟をする時にショットガンの扱い方を教えるからそいつで勘弁してくれ。望むんならガラクタ使ったステイクボムや投げ槍やらの作り方は教えてやるが、それだけだ。お前はジャックの方がいい」

 

「・・・?」

 

 

 よくわかないけど、私は格闘技に致命的に向いてないらしい。大人の言う事は正しいだろうので、深く考えずに言う事を聞く事にした。でも、私にも一つ言わせてくださいジョーさん。木をへし折るパンチは私にはできないです。怖いです。まるで大砲みたいです。その日から、パンチと言うのがちょっとトラウマになった。あんなの喰らったら死んじゃう。そう言ったらジョーさんに「冗談が上手いな」とワシャワシャと撫でられた。解せぬ。

 

 

 

 ジャックさんの元に帰ってからは素直に銃を習った。ハンドガンなら狙いに当てる事ができるようになった。やったぜ。その日から毎日ずっと訓練してたらハンドガンが壊れた。この家にある唯一のハンドガンだったから泣いて謝ったら気にしなくていいと言ってくれた。それどころか私との思い出の品として保管するらしい。何か、気恥ずかしくてこそばゆかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日。ルーカスに呼ばれた私が、かつて農家だったベイカー家の敷地の牛舎跡が使われているという彼の実験場に、着いて来たゾイと共に訪れると扉の前でルーカスが待っていた。

 

 

「よく来たなリツカ!俺の作るゲームは楽しいだろ?で、コイツは新作だ。お前はマジでよ、ラッキーな奴だぜ?いやマジ、お前が羨ましいよ。絶対面白いからよ、楽しんでってくれや」

 

「うん、それは疑ってないけど・・・」

 

「ちょっとルーカス。変なカードを入れて面白いけどルーカスが独り勝ちした卑怯な「21(ブラックジャック)」の次は何なの?」

 

 

 ゾイの言うアレは酷かった。ゲームとしては面白かったけど、出来レースにも程があると思う。心からギャーギャー騒いだのは久しぶりだったから楽しかったけど。

 

 

「おいおいゾイ。な?こいつは一人用なんだ。すまねえ、リツカの為に作ったんだ。あとで遊ばせてやるからちょっと待っててくれよ」

 

「リツカの?ああ、なるほど。それか」

 

「私の為?」

 

「おうよ。このゲームはな?簡単な脱出ゲームだ。名前はまだ決めてないんだけどよ?ルールは簡単。部屋中の仕掛けを突破して、とあるキーワードを探り当て、奥の部屋の鍵を開けるだけ。どうだ、簡単だろう?」

 

 

 そう言って、懐中電灯を握らされ真っ暗な部屋の中に入れられ扉がロックされた。普通に恐いのだが。私の為と言うが、もしかしたらナニカしてしまってその仕返しではないのだろうかと思ってしまう。結局屋根裏部屋から離れてないからなあ・・・いい加減五月蠅いのかもしれない。

 

 

「楽しんでくれよな?お前の為に何週間かけて作ったんだからよ!レッツプレイ!」

 

 

 目の前にあった不気味なピエロ人形にヒエッと声が出てしまったがルーカスの思うつぼだ。・・・とりあえず、頑張ろう。

 

 

 

 

 人形の指が一本と、多分起動させるためのナニカ・・・ぜんまい?が無い事に気付いた私は、これを揃えればいいと判断してキッチンやらトイレやら色々揃っていた部屋をあちこち散策。机の上にはしなびた風船が落ちていて、足元は一面大量の風船で覆われている。上を見れば風船やらパーティーグッズがいくつか飾られている。パーティー会場なのかな?

 

 

 扉を一つ隔てた奥まで進むと八文字の英語を入れるダイヤル錠の付いた扉を見付けた。恐らくこれがゴールだろうか。周りにも風船が散乱していて動きにくい。ここは後だな。

 

 

 入り口から直ぐの部屋にクリームだけの何の飾りつけもされてないケーキがあって、ルーカスの性格から察した私は手を突っ込むと中からぜんまいを発見。早速ピエロ人形につけて回してみると、紙が置かれた机の上で何やらぎこちなく動き始めた。やっぱり指と、何か書く物が必要なのだろう。ケーキの部屋に五文字の英語を入れるダイヤル錠が付けられた金庫があったから、多分その中にどちらかが入っていると見た。

 

 

 ダイヤル錠の扉がある奥の部屋に進む途中で絵があって、試しにライトでずっと照らしてみると「HAPPY!」という文字が浮かび上がり、これはゴールの文字じゃないなと思い至り、金庫のダイヤル錠に入れると正解。金庫を開けてみると中から羽ペンを発見。でもこのままじゃ持たせられないから持っておく。

 

 

 人形の指を探してグルグルしてると、ゴール手前の部屋で変な風船を見付けた。他の物は結ばれてるのに、これだけコルクの様な物で栓がされているのだ。もしやと思い、抜いてみるとビンゴ。見付けた木製の人形の指をピエロ人形に填め、羽ペンを握らせてぜんまいを回す。

 

 

 ピエロ人形が動き始め、羽ペンでさらさらと紙に「BIRTHDAY」と記される。奥の部屋のダイヤル錠と同じ数だ、これが正解だろう。バースデイ?誰かの誕生日だろうか?不思議に思いながら扉を開ける。

 

 

 懐中電灯が必要ないぐらい明るく、きらびやかに飾られたそこには机が一つだけあって、正面の壁には「GAME CLEAR!」と字が大きく記されており、机の上には「これをもって外に出てくれ」と拙い日本語で書かれたカードが置いてあった。ルーカスかな?

 

 その側に置かれていたのは、ルーカスのお気に入りのフード付きパーカー・・・の色違い、白いパーカーが綺麗に畳まれたもの。サイズは小さめ、私と同じサイズだ。プレゼントかな?何で?

 

 

 

 

 

 

 不思議に思いながらパーカーを小脇に抱えて入り口に戻ると何時の間にか開いていて、部屋の外に出てみるとルーカスとゾイの姿は無い。カードの「外」とは実験場の外、つまりは本館と旧館、グリーンハウスと実験場を繋ぐ中庭の事だろうか。急いだ方がいいかな、と小走りになって外に出ると、何時の間にか大机が置かれていて豪華な料理が並び、ジョーさんも含めた五人が揃っていた。実験場から出てきた私に気付いたゾイを筆頭に慌てるみんな。

 

 

「え、もう!?リツカ、いくら何でも早くない?」

 

「ルーカス!アンタが時間を稼いでくれると言うから任せたんだよ!三十分ももたないじゃないか」

 

「しょうがねえだろおふくろ?!リツカの頭は俺と同じぐらい優秀なんだからよォ!」

 

「ルーカスなんぞの小細工じゃリツカには物足りなかったか。まあいい、ギリギリ間に合ったからな!」

 

「ジョーの言う通りだ。席に着こう、皆。リツカ、俺の隣の席に着いてくれ」

 

「え、あ、うん・・・?」

 

 

 ジャックさんに言われるなり、皆の中心である席に座る。目の前には大きなケーキ、フライドチキンと見るからに豪華だ。誰かの誕生日かな?

 

 

「その顔。やっぱり気付いてないんだな。忘れているのか、気にする余裕が無かったのか」

 

「なんのこと、ですか?ジャックさん・・・?」

 

「なあリツカ。俺の用意したキーワード、何だったか教えてくれよ」

 

「ルーカス?えっと・・・HAPPYと、BIRTHDAY・・・?」

 

 

 そう言われて、思い出しながら口に出すと、ルーカスが手にしたクラッカーを鳴らした。それに合わせる様に、他の四人もクラッカーを鳴らした。呆ける私に笑顔を向け、ルーカスは両手を広げた。

 

 

「そうさ、HappyBirthday!リツカ!」

 

「え・・・?」

 

 

 言われるなり、気付いた。カレンダーなんて気にしてなかったけど、もしかして・・・

 

 

「リツカ。今日は君の誕生日だ。すまない、銃の訓練で何時も庭にいるので準備をする時間が無くてな。ルーカスに頼んでこうしてサプライズをしてみた。お前も家族だ、一度きりだし折角だからこうしてみた。お気に召したかな?」

 

「ごめんねリツカ。私、ちゃんと話を聞いてなくてさ。あやうくぶち壊しにしてしまうところだったよ」

 

「うっかりしていたなゾイ。俺も危うく寝坊しちまうところだったがよ。夜までワニを狩るもんじゃねえなあ」

 

「ジョー。アンタも似た様な物じゃないか。さあさリツカ、お食べ。自信作なんだ」

 

「そいつは俺からのプレゼントだ!気に入ってくれると嬉しいぜ?」

 

「うわっ、自分と同じパーカーとかちょっと気持ち悪い・・・」

 

「何だゾイ、文句あるのか?!そういうお前はなにを用意したってんだよ!」

 

「女心が分かってない馬鹿兄貴とは比べ物にならないいい物だよ!」

 

 

 

 笑顔に満ちた、優しい私の恩人と、その家族。白のパーカーをギュッと握りしめる。なんとなく、温かかった。

――――ああ、もう。

 

 

 両親がいなくなって、誰も祝ってくれないだろうと私の誕生日なんて忘れていたのに。こんなの、ずるい。ジャックさんはいつだって、心荒んだ私を救ってくれる。

 

 

 

 

 

 

―――――お姉さんたちを見かけた時から数時間、いや数十分だろうか?聞こえていた銃声や怒声が聞こえなくなって、お姉さんたちがどうなったか分からず不安に陥った私は恐怖と後悔に支配され、涙さえ枯れ果てて掠り声すらろくに出せなくなり隠れ続けた挙句、ゾンビに見つかって囲まれ、死を覚悟した。

 

 そんな時、私を見付けてくれたジャックさんは私に襲い掛かろうとしていたゾンビをパンチで吹き飛ばして、周りのゾンビを蹴散らした後に安心させるように手を差し伸べてくれたんだ。

 

 

 

 

 

 

――――――あの光景を、私はきっと忘れない。そしてこの光景も、私は忘れる事は無いだろう。例え、私自身が家族だと心の底から思えなくても。彼等は家族として、私を受け入れてくれたんだ。

 

 

 

 

 ベイカー家にお世話になって一年、義務教育を受けないと行けない年齢になった私は、日本籍であるために日本に帰国して、親戚もいなかったため施設に入り、家族のいない日常を送って来た。価値観の違いから普通の子供に馴染めず、問題ばかり起こす私をジャックさん達はどう思うだろうか。帰国して間もない小学生の頃まではメールでやりとりしてたけど、中学生になってからは自分一人でなんとかしなくちゃという考えから連絡を断っていた。

 

 もう忘れられているんじゃないかと思い始めていた高校二年の夏。人理が焼却された、その年にそれは来たんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね、夏休みの始めにジャックさんから手紙が来たんだ」

 

 

そう言って立香が差し出した手紙を受け取るディーラー。どうやら大事に保管されていたらしいそれは、スマホが流通している今のご時世には珍しい便箋であった。

 

 

『前略。元気にしてるか?実は新しい家族ができたんだ。立香ならいいお姉さんになれると思ってな。久し振りに会いたいし、よければ会いに来てくれないか?』

 

 

読んでみるとそんな内容であった。久し振りの手紙にしては淡泊ではあるが、立香を家族だと思っている事がよく分かる文面である。最後の一文を読んでちらりと視線を送るディーラーに、立香は表情に影を落とした。

 

 

「えっと、もちろんすぐにでも行こうとしたんだけど、人助けだと思ってフラフラ寄った献血でカルデアに来て、バイトが終わったらそのまま行こうかと思っていたらこんなことに巻き込まれて・・・ジャックさん達も、人理焼却に巻き込まれたんだと思う」

 

「そうだろうな。しかしゾンビを素手で吹っ飛ばす御仁か。レオンやエイダは蹴りで蹴散らしていたが、拳ともなると俺でさえウェスカーぐらいしか知らないな」

 

「そうなんだ。やっぱりジャックさんとジョーさんの兄弟って凄いんだね」

 

「大の人間を吹き飛ばすってだけで大概化物だがな。しかし新しい家族でアンタがお姉さんってことは幼い子供だろうが・・・バイオハザードの被害者かなんかか?」

 

「それが・・・確か、最近起きた大きなバイオハザード事件は2013年の中国で、ジャックさんは当の昔に軍をやめたって聞いてたから・・・多分、ジョーさんが結婚して子供が生まれたんじゃないかなと思ってる」

 

「それならストレンジャーにも報告が来ないか?何にしても不自然な手紙だな。案外、巻き込まれたのは幸運だったかもしれないぞ?」

 

「そんなまさか。何にしても、早くジャックさん達に会いたいよ。でもまだ特異点は見つかってないから・・・今は、できることをやるんだ」

 

 

そのジャック・ベイカーとは次の特異点ロンドンで思わぬ形で再会するのだが・・・それはまた別の話。




という訳でバイオハザード7のキーパーソン、ベイカー家でお世話になった立香の話でした。オケアノスで判明した体術の貧弱っぷりはジョーに指摘された物です。ゲーム本編に置ける「壊れたハンドガン」はこの時のもの、ということにしています。

ジャック・ベイカーが何時頃海兵隊を辞めたのかよく分からない事から、もしかしたらディジェネレーションにも関わっているんじゃないかという妄想から生まれた立香の過去。現役ならゾンビを素手で殴って撃退してそう。

なお、ロンドンで再会したジャック・ベイカーは変わり過ぎていて同姓同名の別人だと思っている立香さん。エヴリンからルーカスの名が出た事で疑念が懸念に変わりつつあったり。

本編でも時系列が繋がってない転化特異点の話でも、ジャックザリッパーに切り刻まれていたのがジャック・ベイカーだとも、自分の知っている屋敷だとも気付いていません。続きを書くなら外道神父が好みそうな愉悦な話になるでしょう。

ルーカスはまだ大人しい頃。サイコパスなのを隠していますが、既に友人を餓死させた後の彼です。つまり立香の寝泊まりしていた屋根裏部屋は・・・。ちなみにルーカスのミニゲームは例の脱出ゲームを優しくしたプロトタイプ。21も同じですが、拷問のない普通に面白そうなゲームになってます。

エヴリンの件に関しては何も知らない立香さん。本契約すれば過去を夢で見て知る事ができるかもしれませんが、エヴリンがジャックたちにしたことを何も知らずに命がけで助けたという皮肉な結果になってます。ちなみにエヴリンの方は立香を幼い頃の写真でしか知らないので気付いていません。

今度こそ、次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。上手く書ければクリスマスまでには・・・


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黒幕登場だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、次回で終わりとか言ったのに、長くなりすぎて分割してしまった放仮ごです。
結局去年中に終わらないどころか正月にも間に合いませんでした。正月に書き終えなかったのはちゃんと理由があって、某店員の実況者の新春生放送祭りのベロニカ実況とバイオ4実況を三日連続で徹夜で観ていたせいです。まことに申し訳ない。

今回はついにソロモン戦。真の敵は原作の台詞量だった…これでも減らして要所だけ入れたんですが、それでも5000字を優に超えるとか思わんかった。意識が朦朧としている立香視点ですが、楽しんでいただけると幸いです。

【ディーラーのコンティニュー回数、計7回。残り21】


 それは、勝負とすら呼べるものでもなかった。一言で言えば、蹂躙だろう。この魔窟を共に生き延びてきたみんなが、四柱の魔神達を従える魔術王の規格外の強さになすすべもなく倒されていく。

 

 

「良いぞ良いぞ! ……そうでなくてはなァ?」

 

 

女王ヒルとの戦いでの攻勢から考えられないぐらい一転、這いつくばる私たちの無様な抵抗を見て楽しんでいる人理焼却の黒幕である男。所長が、マシュが、みんなが戦っているのに。私はただ這いつくばって見ることしかできない。でもきっとこれは自業自得なんだ。結局エヴリンを救えなかった私への罰なんだ。もっと私は苦しむしかないんだ。ねえ、だから。

 

 

「…生憎だがなストレンジャー(よそ者野郎)。俺はマスターに似て諦めが悪いんだ。調子に乗って姿を見せた王様よ、一矢報いられるぐらいは考えて置いた方がよかったんじゃないか?此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム!ストレンジャー)…!」

 

 

私のことなんか放って、所長とマシュを連れて逃げてよ、ディーラー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩!」

 

「ストレンジャー!」

 

 

腹部を突き抜けた感覚と共に力を失った体が崩れ落ち、一瞬意識が暗転した私に駆け寄ろうとするディーラー達に、有無を言わさず襲い掛かる魔神柱の光景が朦朧とする視界に映り目が覚める。気を失っている場合じゃ、ない。

 

 

「くっ…!?」

 

「魔神柱だと!?」

 

 

マシュ達が咄嗟に弾き飛ばし、ディーラーが反撃。エヴリンに放たれた攻撃は偶然防がれたけど、間違いなく敵対している何者かはエヴリンを狙っていた。私よりも、エヴリンを・・・そう、言いたいのに。それさえ口に出す余力もなかった。

 

 

『クソッ、なんでこの反応に気付かなかった・・・!?女王ヒルの強大過ぎる魔力反応のせいで索敵が遅れた!地下空間の一部が歪んで出現した、サーヴァントの召喚とも異なる不明な現象だ!いや、不明じゃない・・・これはむしろレイシフトに似ている・・・』

 

「そんなはずはないわ!カルデア以外にレイシフトの技術なんて・・・!」

 

『ああクソ、シバが安定しない、音声しか拾えない!どうした、何が起きたんだ!?』

 

「先輩が、先輩がエヴリンさんを庇って…魔神柱に襲われました!敵は…」

 

「ふん、無駄な事をしたものだ」

 

 

そう言いながらゆっくりと歩み寄り姿を現した男に、向き直る所長とマシュに、安堵を覚える。ああ、やっぱり。私なんかじゃ、駄目だったんだ。

 

 

「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国真祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。多少は使えるかと思ったが―――小間使いすらできぬとは興醒めだ。下らない。実に下らない。やはり人間は時代(トキ)を重ねるごとに劣化する。人類史最後の悪意、バイオハザードもまた然り。完全に消し去る事もできぬとは、何と生き汚い事か」

 

 

つまらなげに吐き捨てられた言葉に、私を守る様に立ち魔神柱を弾き飛ばしたマシュがキッと睨みつけた。駄目だ、これじゃあの時の繰り返しだ。

 

 

「おかあさんをよくも!」

 

「仮初とはいえ我がマスターを襲うとはな。生きて帰られると思うな!」

 

「散れ!」

 

「ふん、力の差も分からんか」

 

 

私がやられ、エヴリンも殺されかけたためか冷静さを失って飛びかかるジャック、ランサーオルタ、セイバーオルタだったがしかし。魔神柱の光線が放たれていとも容易く薙ぎ払われ、今度は連撃で迫った魔神柱によってマシュの盾が弾かれ、防御を掻い潜ったそれは、空から来襲した雷撃で蹴散らされた。

 

 

「あん?更なるピンチかと駆けつけてみれば、蛭の怪物じゃなくて悪の親玉っぽい奴がいるじゃねえか。・・・それも、かなりヤクい。まっとうな娘っ子が直視していいモンじゃねえ」

 

「はあ、はあ・・・もうっ、お待ちください金時さん。壁を伝って降りるだけとはいえ、少々速いんじゃ・・・ってマスターさん!?それになんですアレ?一尾の身では見るだけで穢されそうです」

 

 

やってきたのは金時さんと玉藻さん。二人は私の状況を見るなり、男を警戒しながら駆け寄って来て、玉藻さんは慌てて御札を手にこちらの手当てをしようと試みているが、多分駄目だと思う。この傷は物理的なものでありながら呪いの様な何かだ。それも、あのメディアさん…のリリィが魔術師では勝てないと評したあの男の…おそらくは、人理焼却の黒幕の呪いだ。本能的に、もう駄目だと分かってしまう。玉藻さんはそれを察したのか、心配げに見つめるマシュに対して首を横に振った。

一方で、男は退屈げにこちらの様子を眺め、先程オルタたちと一緒に飛び出さないで、所長たちと共に冷静に観察していたモードレッドが剣を突き付けた。

 

 

「立香を襲ったのはテメエだな。オイなんだこのふざけた魔力は。父上たちの…竜種の心臓どころの話じゃねえ。何者だ!」

 

「悪魔か天使の領域ですな。キャスターの端くれとしてわかってしまう、無尽蔵ともいえるこの魔力量。存在するだけで領域を押し潰す支配力…そろそろ我々はお暇した方がよさそうかと、我が友アンデルセン!」

 

「貴様はどうしてそう大袈裟なんだ。…まあ、逃げの一手には賛成だが。まさか本命がこの段階でやってくるとはな」

 

『なんだって?まさか!?』

 

「…あなたが、レフの言っていた人理焼却の黒幕。ソロモン王ね」

 

「その通りだ。恐れ知らずにも我が名を口にする愚かな女よ。聞きたいなら教えてやろう。我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの。――――名をソロモン。数多無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

 

所長に名を呼ばれ、肯定した男。紀元前十世紀に存在した古代イスラエルの魔術王、ソロモン。人理焼却の実行者と思われる、レフやジルドレェ、メディアリリィにウェスカーを裏から操っていた魔術師の頂点。ドクターは絶対にありえないと言っていたけど、本当だった。

 

 

「ハッ。そいつはまたビッグネームじゃねえか。だがどうせサーヴァントだろう?オレ達の敵じゃねえ!」

 

「それは違うなロンディニウムの騎士よ。私は死後、自らの力で蘇り英霊に昇華した。英霊でありながら生者である。故に、私の上に立つマスターなど存在しない。私は私の意思でこの事業を開始した。自業自得の生物災害(バイオハザード)を始めとした愚かな歴史を続ける塵芥…この宇宙で唯一にして最大の無駄であるお前たち人類を一掃する為に。」

 

「自業自得…偉大な過去の王に言われると否定もし辛いわ。元はといえば私たちの元上司が原因だもの」

 

「…ジルの言う通り、バイオハザードに関しては否定しないわ。藤丸の様な被害者だっている。でも、そんなことができるとでも…一個人で、世界を滅ぼせるものですか!」

 

「できるとも。私にはその手段があり、その意思があり、その事実がある。既にお前たちの時代は、時間を超える我が七十二柱の魔神によって滅び去った。魔神どもはこの星の自転を止める楔である。天に渦巻く光帯こそ、我が宝具の姿である。」

 

「…今までの特異点にもあった、アレが宝具…!?」

 

「そうだ。あれこそは我が第三宝具『誕生の時きたれり、某は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)』。そこに三人もいる騎士王…貴様らの持つ聖剣を幾億も重ねた規模の光。即ち…対人理宝具である」

 

「ち、父上の聖剣の何億倍————」

 

「そんな代物で時代を焼き払うというのですか!」

 

「断じてさせん…!」

 

「今ここに顔を出したこと、後悔させてやろう!」

 

 

モードレッドとアルトリア三人が激高し、飛びかかるがしかし。ソロモンに触れることは誰一人敵わず、ソロモンの背後に四体も姿を現した魔神柱の光線で一掃されてしまった。所長や私にもついでとばかりに放たれるが、清姫の槍とネロの剣、マシュの盾がしのぎ切る。防御に専念しないと、やられる…!

 

 

「――――さて。その光景を見ることのない貴様らに答える気はないな。そうだ、我が魔神柱を粗悪品だとのたまった愚かな男がいたな。この光景を見て同じことを言えるなら褒めてやろう。今回は特別だ…私の気を留めるその盾を持つ娘。貴様の健気さに免じて、使うのは四本程度に留めてやるよ」

 

 

その言葉に応える様に、シカゴタイプライターの特徴的な射撃音とともに弾幕が炸裂。しかし瞬時に再生し、魔神柱とソロモンには傷一つ無い。私の側から姿を現したディーラーは舌打ちし溜め息を吐いた。

 

 

「…ちっ。きちんと扱える野郎がいれば商品価値も跳ね上がる。レフやマキリどころかメディアリリィのB.O・W.な魔神柱さえマシだったと思えるさ。その武器(魔神柱)はヤバい」

 

「そうだろうとも。貴様らがここに立つことさえ間違いだったのだ」

 

「それでも、ここで負ける訳にはいかない…!」

 

「助けを乞え!怯声を上げろ!苦悶の海で溺れるときだ!ハッハァッハハハハハ!」

 

 

圧倒的な力の差故か。それともマスターの私が不甲斐なく倒れているからか。いつもの余裕はどこに行ったのか、弱音をこぼすディーラーと、魔術でサーヴァントたちを治癒して、挑みかかる所長。

 

マシュ、セイバーオルタ、アンリマユ、アルトリア、ランサー清姫、ネロ。モードレッド、ランサーオルタ、ジル・バレンタイン、ジャック・ザ・リッパー、坂田金時、玉藻の前。そしてエヴリンの召喚したモールデッド軍団。

 

私の側にいるディーラー、エヴリン、アンデルセンとシェイクスピアを除いたこの面子。連戦とはいえこの面子なら大抵のサーヴァントになら圧勝できるだろう。だが、素人目でも分かる。勝てない、この程度の数では奴には勝てない。

 

 

 

 

 

 

 

「フフハハハ!小手調べだ。楽には死ぬなよ?」

 

 

明らかに見下し、手を抜いているとしか思えないのに、爆撃とも思える光線に皆が薙ぎ払われる。マシュの盾や玉藻さんの結界も物ともせず、ネロとアンリマユ、金時と玉藻が消えていく。

 

 

「エヴリン、おかあさん!…させない!」

 

「ジャック!?」

 

 

ジャックも持ち前の敏捷で避けていたが、みんなを掻い潜って私とエヴリンを狙う光線に気付いて前に飛び出し、庇って受けて消滅してしまった。モールデッドを操っていたエヴリンは動揺して止まってしまい、その隙を付いてモールデッドをまとめて薙ぎ払う魔神柱。…あいつ、何時からかは知らないけど私たちの事を見ていたんだ。なにが弱点なのかまで、知り尽くしている。駄目だ、所長やマシュもこのままじゃ…。

 

 

「…っ、みんな…!」

 

「クソッ、動くなストレンジャー!傷が広がるぞ!」

 

「ディーラー…私の手当てはいいから、すぐにでも退却して…」

 

「ふざけるなストレンジャー!俺は外科医じゃないがな、こいつはどう見ても重症だ。応急処置しないと五分も持たないぞ!」

 

「…ッ」

 

 

這ってでも向かおうとするが、止血帯を手に私の治療をしようとするディーラーに止められてしまう。エヴリンも動こうとしない。するとずっと側で黙っていたアンデルセンが口を開いた。

 

 

「…おい、藤丸立香。俺もその内あっさり消滅するだろうから先にお前に俺が見つけた答えを渡して置くぞ」

 

 

ジキルの家ででも拝借していたのか、取り出した手帳につらつらと綺麗な字で書き殴って破り、手渡してくるアンデルセン。その言葉に私が文句を言おうとすると、シェイクスピアも満面の笑みで口を開いた。

 

 

「立香殿。我輩からも一言言わせてもらいたい。『どんなに長い夜も、必ず明ける(The night is long that never finds the day.)』この言葉を胸に、後は頼みますぞ」

 

「それって、どういう…」

 

 

その意味を問いただす前に、私たちをあざ笑うかのごとくそれは発動した。

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハハハハハァ!祭壇を照らす篝火だ!盛大に燃えるがいい!焼却式 ベレト!」

 

 

猛攻に耐えしのいだ所長たちへと、ポンと出されたのは小さな種火。次の瞬間には種火が膨れ上がり、焼き尽くさんとする業火が放たれる。

 

 

「ますたぁ……ああ……どうかご無事で……」

 

「こんな……ところで……すまない、マスター……!」

 

「うっ……ぐっ!…ここまでか」

 

「くっ…私を……倒すか……」

 

「タンマ! せめて結末を書かせて…おくれ…」

 

 

所長と私たちを庇って直撃を受けたランサー清姫とアルトリアとセイバーオルタとランサーオルタが、巻き添えでシェイクスピアが吹き飛ばされ、消滅していく。

 

 

「ふざけているな、一度防いだだけでこれか。やはりキャスターでは貴様に歯向かえないか。そう気にするな、ただの気まぐれだ。なに、見学に徹しようと思っていたがどうせやられるならと、な」

 

 

そして私を守ろうとしたアンデルセンもまた消えていき、残ったのは耐えしのいだマシュとその側に絶望の表情で立ち尽くす所長、そして持ち前の直感からか離れて退避していたモードレッドとジルだけだった。ディーラーとエヴリンも残っているが、勝ち目なんて見えなかった。

 

 

「そら見た事か。ただの英霊が私と同じ地平に立てば、必然、このような結果になる」

 

「ロマニ、レイシフトを。このままじゃ全滅よ。早く、お願い…」

 

『それが無理なんだ!そいつの力場でレイシフトのアンカーが届かない!ソロモンがいる限り、君達を引き戻すのは不可能だ…!』

 

「くっ…こうなったら、所長と先輩だけでも…!」

 

「野郎、でかい口を…だが、ただのハッタリじゃねえ。父上たちが太刀打ちもできなかった」

 

「私の様な新参者じゃ当り前だけど、英霊としての格というより出力そのものが違う…BOWでもない、ただの魔術師のはずなのにどうなってるの…?」

 

「貴様らの言った通りだ。英霊としてのではなく、霊基(クラス)の格が違うのだ。アレを生き延びた褒美だ、教えてやろう。英霊召喚とは人類存続を守る者、抑止力の召喚だ。ある害悪を滅ぼすために遣わされる七騎の英霊。人理を護る、その時代最高の七騎。英霊の頂点に立つ始まりの七つ。もともと降霊儀式・英霊召喚とは、霊長の世を救う為の決戦魔術だった。それを人間の都合で格落ちさせたものがお前たちの使う召喚システム、聖杯戦争である」

 

「オレ達が…格落ちだと!?」

 

「そう言っている。貴様ら凡百の英霊とは器、権限が違うのだ。即ち、冠位(グランド)の器を持つサーヴァント」

 

冠位(グランド)…!?根源に選ばれた英霊だとでも言うの…!?」

 

「そうだ、そして我こそは王の中の王、キャスターの中のキャスター! 故にこう讃えるがよい!―――グランドキャスター、魔術王ソロモンと!」

 

 

グランドキャスター…キャスターの中でも上位だと思われるメディアさんでも勝てないはずだ。この男の言うことが真実なら、キャスターというクラスの頂点の一人だという事なのだから。止血帯を巻かれる前に血がだいぶ抜けたからか、冷静に状況判断できるようになってきた。もう駄目かもしれない。所長とマシュだけでも、カルデアに戻さないと。でも、どうすれば…

 

 

 

「さて、王殺しの英霊モードレッド。バイオハザード解決の立役者ジル・バレンタイン。そして名も無い商人よ。我が焼却式から逃れた貴様達は特に、念入りに燃やすとしようか。凡百のサーヴァントよ。所詮、貴様等は生者に喚ばれなければ何もできぬ道具。私のように真の自由性は持ち得ていない。どう足掻こうと及ばない壁を理解したか?」

 

「どう足掻こうと及ばないなんて、どうして分かるのかしら」

 

「はっ、そうだなジル。ここまで四つも聖杯を奪われた奴が、何を偉そうに。もう半分もオルガマリーと立香にやられたから慌てて出て来たんだろうが。負け惜しみにしちゃあみっともないぜ?」

 

「―――人類最高峰の馬鹿か、貴様?四つもだと? 違うな。すべてを踏破してようやく、なのだ。一つも六つも私には取るに足りぬ些事である。死にぞこないのオルガマリー・アニムスフィア、そしてそこに倒れている今にも死にそうな藤丸立香なる者が脅威などと、程遠い話だよ」

 

「言ってくれる…!」

 

 

立ち尽くし震えていても必死に取り繕う所長と、うつ伏せで倒れている私に退屈気な視線を送るソロモン。なんだ、このプレッシャーは。殺気?…私に?………・・・…いや、違う。奴が狙っているのは私の側にいる…

 

 

「だがその前に、だ。……エヴリンといったか」

 

「っ!?」

 

「目障りだ。貴様はここで、消えろ」

 

「マシュ!守って!」

 

「はい、先輩…!」

 

 

無防備だったエヴリンに向けて放たれた光線を、私の声で反応したマシュが防いだ。…それだけは、させるものか!

 

 

「…またか。藤丸立香。貴様は何故、そうまでしてその小娘を守る?」

 

「B.O.W.だからって、見捨てていい理由にはならない。私は、助けたいからエヴリンを助けたんだ!」

 

「そんな死にかけの身体になってもか。…理解も出来んな。だが、どうせ最後には消えるだろうがそいつは見逃せない」

 

『…やはりそうか。それを聞いて確信したぞ、エヴリン…彼女は、2015年現在。いるはずもないサーヴァント、B.O.W.なのか!データが無いのも当たり前だ、もし存在していたとしても表には出ていないから。表に出てきてないB.O.W.でも反英雄とされているなら召喚されてもおかしくない。だが彼女は、焼却された2015年以降(・・)の記憶を有して召喚されたサーヴァント。居られたら困るんだろ、魔術王!』

 

 

声だけのドクターにそう言われたソロモンが、初めて苦虫を噛み潰した様な表情を作った。どうやら図星らしい。つまりそうか、エヴリンの存在が、私たちが未来を取り戻す可能性を提示しているんだ。それは是が非でも、消したいはずだ。

 

 

「…この殺意はそれか。どうやらB.O.W.は奴にとっては嫌悪の対象らしいな。ジル・バレンタインに対してだけは言い方が優しいのはそれが理由か。バイオハザード解決の立役者…その事実はよほど好感だと見て取れる。そんなに怖いか?こんな小娘一人が起こすバイオハザードが」

 

「ハンっ、やっぱり大口叩いてんじゃねえか!そんな小さな可能性すら潰したいのか!どれだけ動揺したんだ?この餓鬼がこのロンドンに現れた時はよお!」

 

「黙れ。貴様らカルデアと違って影響の大きすぎる不確定要素の芽はさっさと潰すに限るという事だ。…その小娘は、目障りだ」

 

 

エヴリン一人を殺す為だけに殺気を溢れさせるソロモンの姿に、変な矛盾を感じる。なんだろうか、これは。…人類を滅ぼしながら、なんでバイオハザードなんて嫌悪しているんだ?

 

 

「させません…もう、これ以上誰一人やらせません!」

 

「いくらB.O.W.でも、無垢な子供を目の前で殺させはしないわ!」

 

「行くぞ、ハッタリ野郎!」

 

 

私と所長、エヴリンを置き去りにしてソロモンに飛びかかって行くマシュ、ジルさん、モードレッド。しかしソロモンは戯れてやるとばかりに光線をデタラメに連射し、その余波だけで三人は近づくこともできない。モードレッドの魔力放出による雷撃やジルさんのマグナムが火を噴くけど、魔力障壁に弾かれる。時々エヴリンを狙ってくる光線はマシュが防いでくれるが、このままじゃジリ貧だ。

 

 

「どうすれば…倒された分の英霊を補完してまたカルデアから召喚する?いや、残るはどちらもキャスター、勝ち目なんてない。サーヴァントもいない私に何が出来るってのよ…」

 

 

所長を見れば、青ざめた頭を抱えて完全にトリップしてしまっている。エヴリンを見れば、ジャックを失った喪失感からか私の傷を見ながら呆けてしまっている。ディーラーは私の治療が無駄だと悟ったのか、無言でシカゴタイプライターを手に取り三人の援護を始めた。…駄目だ、私が何かを考えないと。このままじゃ全滅だ、人理を救うことなく、こんな場所で終わってしまう。なにか、なにか…!

 

 

「…そうだ、私にできるのは立ち続ける事だけだ」

 

「ストレンジャー?」

 

 

力を振り絞って、立ち上がる。今、ソロモンは私を無力な雑魚としか思っていないはずだ。それが勝機だ。この死に体で特攻するしか、もう私にできることはない。やるしか、ないんだ…!

 

 

「…ママ」

 

「え?」

 

 

ぼそっと声をかけられ、肩に手をかけられる。ありえない言葉を言わないであろう子の声で言われ、振り向いたそこには。

 

 

「————お前も家族だ」

 

 

泣きはらした顔で笑みを浮かべ、右拳を握って構えたエヴリンがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、断罪の化身もまた、新鮮な赤い血に塗れた鉈を引きずりその場に訪れようとしていた。




人理焼却の黒幕ソロモン。やっと邂逅できました。既にオケアノスで名前まで呼ばれていて脅威度をそんなに見せてませんでしたが、原作以上に味方サーヴァントを増やして絶望を増させました。オルガマリーは完全に心が折れてます。


・腹に穴が開いているのに馬鹿みたいに冷静に状況を判断している立香
この時点で異常です。脳内麻薬がドバドバ出ているだけではないです。止血帯を巻かれて懸命に治療されているとはいえしぶとすぎるその理由とは————

・最初の独白
相変わらずの後悔しまくり立香。時系列は次回に当たりますが、状況を分かりやすくするために抜粋して切り取ってきたものです。ディーラーの宝具発動、この時点でストックは残り21。あまり死んで無かったという事実。

・バイオハザードを嫌悪するソロモン
バイオハザードを人類史最後の悪意とまで称して毛嫌いしているソロモン。終局まで行ってるマスターら理由はお察しなんじゃなかろうか。なお、魔神柱を粗悪品と評したディーラーへの嫌悪もMAX。ジルたちバイオハザードを解決した者には少しだけ敬意を払う。

・原作より早く倒されたアンデルセン
原作だとソロモンの手で酷い殺され方をしているアンデルセン。推理は立香に託し、焼却式ベレトから立香を守って消滅。推理タイムを削るために退場していただきました。オルガマリーではなく立香に託した時点で何かを確信していた模様。

・次々と倒されていくサーヴァントたち
ネロとアンリマユは既に限界が来ていたので即刻リタイア。金時玉藻も即死。ジャックは立香とエヴリンを庇って、ランサー清姫・アルトリア・セイバーオルタ・ランサーオルタ・シェイクスピア・アンデルセンも焼却式ベレトを前に敗北。残るはマシュ、ディーラー、モードレッド、ジル、エヴリン、そして…?

・どんなに長い夜も、必ず明ける
シェイクスピアの残した言葉。バイオシリーズではおなじみの言葉ではなかろうか。

・エヴリンというサーヴァント
ソロモンが危惧したその正体は、2015年以降の記憶を有して召喚されたありえないサーヴァント。終わった歴史の先から来た存在がロンドンに召喚された時、わざわざ立ち上がっていたのはこのためです。それでもまだついで扱いで、目障りなハエを叩き潰すのと同じ。

・立ち上がった立香、そして…
特攻という最後の手段のために力を振り絞った立香と、ファミパンを発動しているエヴリン、最後の最後でゾンビを倒しながらでやっと追いついた、多分もう忘れられているであろう断罪の化身。これで役者は揃いました。


今度こそ、ロンドン編最終回となる次回は一週間の間に必ずや仕上げます。この先の展開を書くためだけにロンドンをぐだぐだ書いてたと言っても過言じゃない。結末しか考えてないとこんな弊害があるので皆さんも気を付けてください。行き当たりばったり駄目、絶対。
次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ようやく夜明けだストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…一週間とはなんだったのか。どうも、一月中にロンドンを終えて達成感を感じている放仮ごです。バイオハザードRE:2発売おめでとうございます!先日の活動報告でも語りましたが、パワーアップしたバイオハザードにこれからのバイオに期待しかありません。8にはジェイクを…今度こそジェイクを…!

ロンドン編最終決戦。原作とは大きく離反するソロモンとの決着。15000字でお送りする大ボリュームの対決、楽しんでいただけると幸いです。

【ディーラーのコンティニュー回数、計7回。残り21】


 奴等を逃がした後、立ちはだかるゾンビの群れを殺戮しながら歩き続け、半日かけてやっと辿り着いた大空洞。

ようやく標的(ソロモン)を見つけ、手始めにと一番近くにいた罪人に手を掛けようとしたその時。憮然とこちらを睨み返す少女に、以前の召喚された記録が蘇る。この街で何度も己を退けた彼女には、ジェイムスとは違う何かを感じていた。

 

 

「私は、ここで死ぬわけにはいかない。藤丸とマシュも殺させるわけにもいかない。恩人のディーラーをみすみす犠牲にするつもりもない。こんなところで、立ち止まっている場合じゃないの。あの男を退けて、必ず人理修復を成し遂げてみせる、なしとげなければならないの。これは贖罪だから」

 

 

その決意に満ちた目は、私の得物を握る手を緩ませる。ジェイムス・サンダーランドという男の贖罪がための自罰意識として、霧の街(サイレントヒル)で生まれた私に、訴える何かがあった。

 

 

「…レフの裏切りに気付かず、カルデアのみんなを、将来有望なマスター候補者たちをみすみす殺させることになった私の罪は重いことには気付いている。この、殺してしまった罪悪感からは逃れられない、だから貴方からも逃れられない。でもだからってこんなところで、あんな奴に殺されようなんて思わない!

 所長の責務を果たそうとしていただけの私は死んだ、だけど私は生き延びてしまった。誰も私を責めなかった、ディーラーも私を認めてくれたけど、私が犯してしまった罪は、うやむやにされた!誰かに裁いてほしかった…一度、カルデアに召喚された貴方を知って、またいつか会いたいと思っていた」

 

「オマエノシワザダタノカ」

 

 

そうだ、人理焼却の黒幕を裁くことができるのは単なる偶然に過ぎない。この街に数多の悪が集い、奴も現れたに過ぎない。私がこの場に召喚されたのは、誰かの思いがあったから。それは、お前だったのか。

 

 

「でも、後を託そうと思っていた藤丸が、私と同じ不安定などころか、魔術師としても未熟なただの人間に過ぎないと知って、彼女に託すのも大きな罪なんじゃないかと思った。…死は単なる逃避でしかない。私が死んでも、死んでしまった人たちに詫びることなんてできない。せめてもの贖罪として、私はこのグランドオーダーを成し遂げる。

 それまでは死んでも死にきれない!人理修復を成し遂げることができたのなら、その時には貴方が私を殺してもいい。だから!」

 

 

ああ、理解した。私は。今の私は、ジェイムスを裁くもう一人のジェイムスではない。マスターとしての役割を得たのをいいことに、現実逃避をして罪から目を背けようとしていたオルガマリー・アニムスフィアを裁く、その心の中にいるもう一人のオルガマリーとして、この場に召喚されたのか。

 

 

「力を貸して、チェイサー!」

 

 

ならば、そう。彼女が贖罪をなし遂げるまで、力を貸そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然のことだった。その場にいた当事者以外の人間は全てが全て、思考が停止した。

 

 

 

「————お前も家族だ」

 

 

立ち上がった藤丸立香を、エヴリンがモールデッドの様に異形化した右手で殴りつけ、失神させたのだ。驚愕のあまりソロモンまで固まってしまった中で、エヴリンが動いた。

 

 

「――――私は暗い穴の中で育てられた。仮釈放もない囚人のように。やつらは私を閉じ込めて魂を奪った。やつらが作り上げたものを恥じるがいい」

 

 

つらつらと歌うように詠唱しながら走るエヴリン。ディーラーとオルガマリーを置き去りにし、モードレッドとジルの間を抜け、我に帰るなり怒りの表情を己に向けながら立香に駆け寄るマシュを飛び越えて、着地と同時に足元に黒いカビ溜まりを作り出してソロモンを睨みつけた。決して、立香の方を振り向かずに詠唱を続ける。

 

 

「私は彼を呼んだ、そして彼はくるだろう。彼は手を伸ばすだろう。愛する彼女を取り戻すために。そして彼女は私を愛してくれない彼を殺すのだ。――――ようこそ、私の家族(ウェルカム・トゥ・ザ・ファミリー)

 

「なんだ?最後の悪足掻きにしては面白い趣向だったぞ、B.O.W.」

 

「殺して、ジャック!」

 

 

嘲笑を浮かべるソロモンに、カビ溜まりから出現したジャック・ベイカーが複数の拳を叩き込む。だがしかし、ソロモンの背後に控える四柱の魔神柱から放たれた光線の集中砲火を受けて、ソロモンに触れることも出来ずに灰燼と化してしまい、エヴリンはそれでも、怒りの表情を浮かべてソロモンへと足掻いた。

 

 

「ッ…なら!私のママになろうとしてくれた、マーガレット!私を糞餓鬼と呼んでちっとも愛してくれなかったアラン!私の家族になろうともしなかったトラヴィス、ハロルド、アーサー、タマラ、ヘイディ、リンゼー、スティーブン、レイド、スーザン、ジム、ドルー、ジョヴァンニ!・・・・・・・・・・・・私を欺きながら家族として接してくれた、ルーカス!…私じゃなくてゾイのために立ち上がった、ジャック!まだ、まだ、まだ!」

 

 

モールデッド、ブレード・モールデッド、ダブルブレード・モールデッド、クイック・モールデッド、ファット・モールデッドの群れを次々と呼び出していくエヴリン。

中には人に近い手足の長い壮年の女性の様なクリーチャーや、大柄なピエロの様な顔をしたクリーチャー、さらにはヘドロに塗れた沼男(スワンプマン)としか形容できない大男の様なクリーチャーを召喚し、さらにモールデッドを無限に湧き続けさせながらソロモンに対抗するが呼び出されるたびに散って行く。

 

 

「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!」

 

「…まるで稚拙な遊戯だな。つまらん。…これが、私が少しでも危惧した反英霊の末路か?」

 

 

叫び続けるエヴリンに、飽きて来たのか退屈気な表情を浮かべるソロモン。それに対してエヴリンはキッと睨み付け、ちらりと背後の立香に視線をやりながら誰に言うでもなく、まるで自分に言い聞かせるように語り始めた。

 

 

「私は、みんなを家族にした(アヴェンジャーの)エヴリンとは違う、みんなに家族になってほしかった(アルターエゴの)エヴリンだ。

 みんな、みんな。私の事を人間と見てくれない、生物としても見ちゃくれない。兵器を見る目で、兵器を扱うように、私を恐れる!そんな私なんか、誰も家族になってくれない。だから、私は、この兵器の力で家族を作って行ったんだ」

 

 

そう、自らの在り方を話しながらモールデッドの群れを嗾けるアルターエゴのエヴリン。聞き覚えのないクラスにオルガマリーを初めとした面々は疑問を表情に浮かべるも、ソロモンはどこか納得がいったとでも言うべく嗤った。

 

 

「でも、心から私を家族だとは誰も言ってくれなかった。言わせてるんだから当たり前だけど、悲しくて、悔しくて、妬ましくて、虚しくて…だから、家族を増やし続けて、ミアに母親になることを強要して、イーサンも呼んで…私は死んだんだ」

 

 

その言葉を聞いてピクリと眉を動かす少女が一人いた。モールデッドは光線で蹴散らされ、己も狙って放たれたそれを異形化させて右腕で防ぐも肘から先が吹き飛ばされてなお、エヴリンは退かない。明確な怒りと決意を表情に浮かべて、恐いだろうにソロモンへと毅然と立ち向かう。

 

 

「こんな子供の私なのに、誰一人守ろうともしなかった!寂しかった…ずっと暗闇だった。でも、サーヴァントになってやっと光が差した、夜明けが来たんだ。ジャックは私を怖がらずに友達として一緒にいてくれた。私を止めようとしてくれた、初めてだった…そんなジャックをお前は殺したんだ、許さない。

 そしてあの女は…ママは、私を命がけで守ってくれた!嬉しかった、家族だと言ってくれなくても、命をかけて守ってくれただけで嬉しかったんだ。そんな、私のママになってくれるかもしれない人を、殺させない!もう傷つけさせない、絶対に!」

 

「そうか、独白ごくろう。いい台詞だ。感動的だな、だが無意味だ。貴様のそれは、その感情はこの場においてあまりにも無意味だ。その女が生き残る可能性は万が一にもない。現実を知るがいい!」

 

 

淡々と無感情にそう述べたソロモンは焼却式 ベレトを発動すべく手をかかげて、そして。違和感を感じた。

 

 

「…馬鹿な。貴様は、まさか」

 

 

立香に視線を寄せて気付いた違和感。焼け石に水だと言わんばかりにディーラーの手で止血帯が巻かれている胴体の風穴。不意打ちでエヴリンを襲った際に触手として伸ばした魔神柱で、庇った奴の腹部をえぐって空けた穴。それが、塞がっている…?

 

 

「…何をした?」

 

「ママは殺させない。私を恨んだっていい、嫌われてもいい。でも、ママが死ぬのだけは嫌だ。だから、死なせない」

 

「訳のわからないことを…まあいい、共に死ねば関係ない。祭壇を照らす篝火だ!盛大に燃えるがいい!」

 

 

再び形成される劫火球。エヴリンは複数のファット・モールデッドを呼び出し壁にすることで防ごうとするも、間髪入れず放たれ爆ぜた火球に軽い子供の身体は吹き飛ばされ、ディーラーに受け止められた。周りにはようやく事態を飲み込めたジルとモードレッド、マシュもいる。

 

 

「ナイスガッツだストレンジャー。だが、マスターを守りたいのはアンタだけじゃないぞ。ほら、ほら、緑+赤+青の三色ハーブだ。体力全回復、毒の治癒と共に防御力ってやつを底上げできる。正念場だ、負けられないよなあ!」

 

 

そう言ってエヴリン、ジル、モードレッド、マシュに調合したハーブを渡してセミオートショットガンを携えてエヴリンの前に立ち、自らも三色ハーブを摂取するディーラー。ジル、モードレッド、マシュは各々の得物を携えてエヴリンの前に立っていく。今の独白に、誰もが感化されやる気を増していた。

 

 

「何か策があったのね。少しでも疑ってごめんなさい。……B.O.W.だからって人として扱わないのも駄目よね。クリスに怒られてしまうわ」

 

「何だか知らねえが、もうあいつを傷つけさせないってのは大賛成だからな!」

 

「…貴女が先輩に何をしたのかは分かりません。ですが、彼を退けないと話をつけることもできません…もうこれ以上、やらせません!」

 

 

並び立つサーヴァントたちに、ソロモンは眉をひそめる。まだやるのか?とでも言いたげなその顔は、侮蔑するような狂笑へと変わった。焼却式ベレトを今度は複数出現させ、高笑いを上げるソロモン。

 

 

「ギャハハハハハハハハ…!これはおかしいことを言う。これ以上やらせない、だと?私の気が一つでも変われば、お前たちが守ろうとしているその女ごと灰燼になる未来しか来ない。どう足掻こうと及ばない壁だとまだ理解しないとは、貴様らは真性の馬鹿なのか?」

 

「ええ、そうよ!馬鹿でもないと貴方に挑もうなんて思わないわよ!令呪を持って命ずる!貴方の仇敵を討ちなさい、チェイサー!」

 

「■■■■!」

 

「無駄だ。…なにっ?」

 

 

今の今まで戦意喪失し意気消沈していたと思われていたオルガマリーが叫び、ベレトを放とうとしていたその隙を突いて背後から振るわれた凶刃を、魔神柱を背後に回して受け止めたソロモンは驚きに小さく顔を歪めた。

 そこには鉈を手にした、赤い三角頭の……少女(・・)がいた。少女はバーサーカーの様な聞き取れない言葉を漏らすと後退。側にもう一人同じ姿をした三角頭の少女を顕現させるとすかさず踏み込み、同時に繰り出してきた斬撃を魔神柱で弾きながら、三角頭の大男を想像していたのか理解できないとでも言いたげな顔でソロモンはオルガマリーに問いかける。

 

 

「…なんだ、それは?」

 

「私と契約したレッドピラミッドシングよ。どうして契約するなりその姿に変わったかは知らない。…でも、貴方を倒すために力を貸してくれるとそう言ってくれた。だから私は頼るわ!他力本願だけどそれしか生き延びる方法が無いんだから!」

 

 

そう答えるオルガマリーと、同程度の身長にまで縮んで酷似している容姿に変わった赤い三角頭。違いは赤く錆びた歪な多角錐状の大きな兜の隙間から伸びた髪の色と肌が灰色なのと、オルガマリーがいつも着ている礼装が爆発でも浴びたようなボロボロの袖が無い物を着た裸足の、一見オルガマリーのゾンビの様な風貌という事である。引きずる鉈は身体に見合っておらず大降りに振り回しているが、体重やら怪力やらは変わらないようで再生し続ける魔神柱に幾度も切り傷を作っていた。

 

 

「…何だか知らんが、レッドピラミッドシングとはな。小癪な」

 

 

凄まじい勢いで増えていく三角頭の少女の群れに、魔神柱から光線と爆撃を放って蹴散らし対抗するソロモン。

 

 

「見苦しい人間(ヒト)の業が生み出した醜い怪物が、この魔術王を倒せると思うとはなあ!」

 

「ッ!」

 

 

ソロモンは何が可笑しいのが笑いながら三角頭の少女の群れを薙ぎ払っていく。その隙を突いてエヴリン率いるモールデッド軍団と共にモードレッド、ジル、マシュも攻撃するが関係ないとばかりに己を中心に四体の魔神柱で囲み、周囲を吹き飛ばすソロモン。

レッドピラミッドシングはソロモンの「殺人」からその数を既に100以上にまで増やし、大空洞を埋め尽くす勢いという、モールデッドも合わせた数の暴力で押し込もうとするが、ソロモンには触れる事さえ叶わない。

 その光景を目の当たりにしたディーラーは、未だに倒れ伏す立香と、無理をしているのか顔を歪めているオルガマリーとエヴリンに視線をやって、決意を目に浮かべてP.R.L.412を手にして引き金を引いた。

 

 

「ちっ…あんな化け物でも通じないとはな。やるしかないか。所長、魔力を少しでもいいから回せ。ストレンジャーの負担を軽減してくれ。此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム!ストレンジャー)…!」

 

「ちょっ、今でもかなり魔力を持って行かれてるのに…ああもう、好きにやりなさい!」

 

「私も加勢するわ、一気に制圧する!無限の弾丸(アンリミテッド・ガン・バレル)!」

 

「駄目押しだ、食らいやがれ!我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!」

 

「やああああああ!」

 

 

オルガマリーの魔力を搾り取り、ディーラーを筆頭に宝具を発動していく面々。マシュも盾を手に跳躍、無謀にも体当たりを繰り出す。弾かれてもすぐさま挑みかかることをやり続けてそのまま五分以上も攻防を繰り広げるマシュ達。ダメージを減らせるレッド+ブルーハーブの効果は絶大だった。

 しかし、ソロモンを中心に魔神柱四体が捩れる様に回転して引き絞り、ギュルルルル!と竜巻の如く逆回転した勢いのまま光線を乱射。光線の嵐で周囲を薙ぎ払い、レッドピラミッドシングは一体残らず吹き飛ばされ、ディーラー20人とモールデッド軍団は消滅。エヴリンも姿が見えなくなりマシュ、ジル、モードレッドと余波で吹き飛ばされたオルガマリーは地面に叩きつけられてダメージで呻き、オルガマリーの魔力に限界が来たのか三角頭のチェイサーも一人を残して全て消失、その中心でソロモンは嗤う。モールデッドが消え、エヴリンをようやく殺せたと確信し満足したらしい。

 

 

「どうしたどうした!バイオハザードを解決した者共の力はその程度だというのか?ならば興醒めだな。あまり時間を取らせてくれるな」

 

「ちっ…これだけ戦力があって傷一つ付かないとかデタラメすぎるだろうストレンジャー…」

 

「ディーラー…?」

 

 

そこで目を覚ました立香。エヴリンに攻撃されたことから混乱していたようだが、辺りの惨状を見渡してどうなったのか知ったのか、悲痛に顔を歪めて唇を噛み嗚咽を漏らす。

 

 

「エヴリン…ごめん、ごめんね………ッ。よくも、よくも!」

 

 

そしてすぐに近くに転がったディーラーのマグナムを手に取り、蹲ったまま銃口をソロモンに向けて乱射する立香。憤怒の雄叫びを上げるが、ソロモンは興味ないのかつまらなげに見下した。

 

 

「まだ抵抗するか」

 

「ッ…ウアアアアアアアアアアッ!」

 

 

弾丸が魔力障壁に阻まれ、弾が切れたマグナムを捨てて痛む体に鞭打ち立ち上がると、ディーラーの静止の声も聞かずに突進。抜き放ったナイフを逆手に持ち切っ先を突きつけた立香はソロモンに向けて跳躍するが、再びギュルルルルと回転した四体の魔神柱に弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。ナイフは奇跡的に魔神柱に突き刺さったままであり武器も失い、それでもと、拳を握って殴りかかる立香。怒りで我を失っていた。

 

 

「…なぜ貴様が生きているのか、もはやそれはどうでもいい。だがな、少しは分を弁えろ。不快だ」

 

 

それに対しソロモンは魔神柱に突き刺さったナイフを抜き取ると、そのまま投擲。回転したナイフは立香の胸部に突き刺さり、そのまま無様に頭から地面に叩きつけられ転がった。

 

 

「先輩!」

 

「ストレンジャー!」

 

「藤丸…ッ、チェイサー!」

 

 

慌てて駆け寄り手当てするディーラーと、蹲っているオルガマリーの声で奮起し鉈を手に斬りかかったチェイサーと共にソロモンに殴りかかるマシュ。やはり一蹴されてしまうも諦めず、立香を守るためにマシュは何度でも挑みかかる。意地なのか手にした槍を魔神柱に突き刺し、回転できなくさせたチェイサーも、魔神柱から放たれた光線をまともに浴びて吹き飛ばされるも、それと入れ替わるように飛び出したモードレッドのクラレントとジルのナイフが魔神柱を大きく斬り裂いた。

 

 

「良いぞ良いぞ! ……そうでなくてはなァ?」

 

 

ようやくこちらにダメージを与えたカルデアに、嗤って魔神柱から光線を放つソロモン。なす術もなくサーヴァントたちは吹き飛ばされ、唯一立香の側にいたディーラーがP.R.L.412を手にしてその前に立ちはだかった。

 

 

「どうした?降参でもするか、我が魔神柱を粗悪品だとのたまった愚かな男よ?」

 

「…生憎だがなストレンジャー(よそ者野郎)。俺はマスターに似て諦めが悪いんだ。調子に乗って姿を見せた王様よ、一矢報いられるぐらいは考えて置いた方がよかったんじゃないか?此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム!ストレンジャー)…!」

 

 

閃光が放たれ、ソロモンの目を晦ませた次の瞬間には、マシンピストルとシカゴタイプライターとライオットガン、ハンドガンとレッド9とパニッシャーとブラックテイルとマチルダを手にした8人のディーラーの援護射撃と共に、ナイフとショットガンとセミオートショットガンをそれぞれ手にした三人のディーラーが接近戦を仕掛け、11人まとめて薙ぎ払われる。発動中は五分間無敵という真名解放の効果で無事だったが、先ほどと同じく五分以上かければ敗北は必至だった。

 薙ぎ払っても無事な光景に眉を顰めたその隙を突いてライフルとセミオートライフル、ロケットランチャーと無限ロケットランチャーとマインスロアーで五人のディーラーが遠距離から高威力の攻撃を叩き込むも魔力障壁で弾かれ、焼却式ベレトでまとめて爆撃で散らされてしまう。

 

 

「ギャハハハッ!無様無様!誰がどう、一矢報いるだって?」

 

「ちっ…死なばもろともだ!」

 

 

立香の側のディーラーが放ったP.R.L.412の光線と共にマグナムとキラー7、ハンドキャノンを手にした最後のディーラー三人が特攻を仕掛けるも、即座に転倒。爆撃の様な光線の雨が20人のディーラーに襲いかかり、どんどん吹き飛ばされていく。例え「無敵」の射撃場でダメージを消せても、攻撃が届かなければ意味がない。ならばと、P.R.L.412を手にしたディーラーが爆撃を掻い潜って突進した。

 

 

「まだだ!」

 

「むっ?」

 

 

閃光を放つ。チャージなしのフラッシュバンでソロモンと魔神柱の目くらましをすると同時に、その手に焼夷手榴弾を握りながら体勢を低くして駆け抜ける。

 

 

「小賢しい!」

 

「アンタのそれ、狙いが甘いぞストレンジャー!」

 

 

ソロモン本人の目安で狙い、放たれる光線の雨を、魔神柱の目から軌道を見ぬきわずかな隙間を縫ってソロモンに接近するディーラーはそのまま体当たり。まさか普通に体当たりしてくるだけとは思わなかったのか虚を突かれたソロモンの襟を掴み、親指で焼夷手榴弾のピンを抜いて握りしめ、炎に包まれるディーラー。

 

 

「…貴様、何のつもりだ?」

 

「オケアノスでも使った奥の手さ。アンタの防御壁は、攻撃に対してだけしか発動しないのは分かった。俺のリュックには弾丸、手榴弾、火薬が大量に積み込まれている…後は分かるよなあ?」

 

「!?」

 

 

そして、リュックの中の手榴弾に引火して大爆発。ソロモンを中心に魔神柱四体の根元を大きくえぐり、20人のディーラーの姿は掻き消えた。声も出せずに、涙を流してその光景を眺める立香は無力に打ちひしがれる。しかし、爆発が晴れたその信じられない光景に目を見開いた。

 

 

「そ、そんな…」

 

「少々驚いたが…あの距離でバリアが張れないとでも思ったか?この程度の通常火薬ならば、ゾンビ程度ならいざ知らず、サーヴァント…それもその頂点に立つ私に挑むのは聊か無謀という物だ。無知とは悲しい物だな」

 

 

ソロモンは無傷の姿で健在だった。すぐに魔神柱も再生し、元に戻ってしまう。残機がないのかディーラーは姿を現さず、エヴリンも守れず、さらにはソロモンが無傷だという現実に打ちひしがれる立香。諦めたくはないが、どこかリアリストな面がある己の心が、終わったと言っていた。

 

 

「エヴリン、それにディーラーまで…」

 

「……………」

 

「先輩、所長…」

 

「こっちは魔力切れだってのに、ふざけてやがる…!」

 

「サーヴァントじゃ勝てないってのは戯言じゃなかったようね…」

 

 

絶望に打ちひしがれろくに動けない立香と、魔力切れで呼吸困難で倒れるオルガマリー、立つことも出来ないマシュ、モードレッド、ジルと、こちらも魔力切れのマスターを顧みて動きを止めた三角頭のチェイサーを見て、「それで終わりか」とつまらなげに鼻を鳴らすソロモンは踵を返した。

 

 

「では帰るか。思いの外時間をとったな」

 

「え…」

 

「今、なんと…?」

 

「はあ!? 帰るって、テメエ一体なにしにきやがった!?」

 

 

いきなり吐かれた信じられない言葉に、モードレッドが怒鳴る。これだけのことをして、とどめもささずに帰還すると言うのだ。信じられるはずもないが、ソロモンは何て事でもないように語る。

 

 

「いや、単なる気まぐれだが?ひとつの読書を終え、次の本にとりかかる前に用を足しに立つことがあるだろう? そしてついでに目障りにもこびりついたカビを消しに来た。これはそれだけの話だ」

 

「なっ……小便ぶっかけにきたっつうのか!?」

 

「――――、は。ハハ、ハ、ギャハハハハハハハハ……!その通り! 実にその通り! 実際、貴様らは小便以下だがなァ!教えてやろう、お前たち取るに足らない雑魚の相手をしたのは、小便のついでにしつこいカビ汚れを消す、そのついでの戯れだ。優先度で言えばあの小娘一人にも劣るぞ!ギャハハハハハハッ!」

 

「…みんなは、エヴリンはついでに殺されたって言うの!?ふざけるな!」

 

 

モードレッドの問いに答えたソロモンの、全ては戯れだったと聞いて激怒し、立ち上がる立香。出血は止まり、傷も塞がってはいるが血が足りないのかフラフラであり、それでも立たずにはいられなかった。なにも出来ない己が悔しかったのだ。

 

 

「私はお前たちなどどうでもいい。ここで殺すか生かすもどうでもいい。わかるか? 私はお前たちを見逃すのではない。お前たちなど、はじめから見るに値しないのだ。だが―――ふむ。だが、もしも七つの特異点を全て消去したのなら。その時こそ、お前たちを、“私が解決すべき案件”として考えてやろう」

 

《助かった…のか?見逃されるのは癪だけど、ここは黙って…「ふざけるな!アンタは世界を燃やして楽しいのか!?なんでこんなことをするの!?」ちょっと、立香ちゃん!?》

 

「先輩…!」

 

 

圧倒的な実力を持つが故の傲慢から出た台詞に、通信で聞くことしかできないロマニが安堵の声を上げるも、せめてものと声を張り上げた立香の問いかけに、ソロモンは嗤う。

 

 

「―――――ほう。意外な反応をしたな、人間。楽しいか、問うのか? この私に、人類を滅ぼす事が楽しいかと?

 ああ――――無論、無論、無論、無論、最ッッ高に楽しいとも!楽しくなければ貴様らをひとりひとり丁寧に殺すものか!私は楽しい。貴様たちの死に様が嬉しい。貴様たちの終止符が好ましい。その断末魔がなによりも爽快だ!そして、それがおまえたちにとって至上の救いである。なぜなら、私だけが、ただの一人も残さず、人類を有効利用してやれるのだから―――――!」

 

「…お前えッ!」

 

 

嗤いながら返された答えに、キレて後先考えずに飛びかかろうとする立香を、クラレントを杖代わりに何とか立ち上がったモードレッドが左腕で受け止め、抑え込む。ジルとマシュも明確な敵意を持ってソロモンと立香の間に対峙した。

 

 

「ちっ、こうなりゃヤケだ。下がってろ立香!コイツと話すのは無駄だ、心底から腐ってやがる!」

 

「ええ、同感よ!私たちが戦ってきたバイオハザードの首謀者のそれとも違う、ここまで話が通じないと思ったのは初めて。まだネメシスの方が話が通じるわ!意味もなく何もできずに死んでいく人達だっているのに、その断末魔が爽快だなんて…!」

 

「…魔術王ソロモン。貴方はレフ・ライノールと同じです。あらゆる生命への感謝が無い。人間の、星の命を弄んで楽しんでいる…!」

 

「人の分際で生を語るな。死を前提にする時点で、その視点に価値はない。生命の感謝だと?それはこちらが貴様らに抱く疑問だ。人間(おまえ)たちはこの二千年で何をしていた?ひたすらに死に続け、ひたすらに他人を死に貶め、ひたすらに自ら人であることを捨てていき、ひたすらその生命とやらを無駄に散らせていき、ひたすらに無為だった」

 

 

その台詞に、言葉を詰まらせたのはジル。心当たりが多すぎたのだ。

 

 

「知っているぞ!バイオハザード…その根源たる全ての元凶は、オズウェル・E・スペンサーという男がT-ウイルスの性質を利用して人類を強制的に進化させて20万年続いた人類の歴史に終焉をもたらし、新人類とやらを誕生させ新たな人類による理想郷を創造という浅はかにも程があることの実現、挙句の果てには自身がその世界を作り上げた神として君臨するという狂気の思想を実現させようとした事が始まりだ!

 進化を求め続けたその末に老いには勝てず瀬戸際になって不老不死を求め、自らの野望の欠片である男に殺されるという無様!無様ッ!無様ァ!

 お前たちは死を克服できなかった知性体だ。にも関わらず、死への恐怖心を持ち続けた。スペンサーが求めたという新人類もどうであろうな?元が人である以上、死の恐怖には勝てぬことは明白だ。死を克服できないのであれば、死への恐怖は捨てるべきだったというのに。死を恐ろしいと、無残なものだと認識するのなら、その知性を捨てるべきだったのに!」

 

 

暴論とも言うべき言葉の羅列に、何も言えない面々。立香でさえ、黙ってしまった。理解できない筈がない。親しい誰かが死ぬことを傍観する恐怖に耐えかね、共に生き抜こうと考えている事に費やした人生だ。何も思わない筈がない。

 

 

「何度でも言おう。――――無様だ。あまりにも無様だ。それはお前たちも同様だ、カルデアのマスターよ。何故戦う。いずれ終わる命、もう終わった命と知って。何故まだ生き続けようと縋る。お前たちの未来には、何一つ救いがないと気付きながら。バイオハザードが永遠に続く絶望の未来に気付きながら、何故戦う?」

 

「…っ」

 

「あまりにも幼い人間よ。人類最期のマスター共、藤丸立香とオルガマリー・アニムスフィアよ。これは私からの唯一の忠告だ。お前たちはここで全てを放棄することが最も楽な生き方だと知るがいい。それともここで潔く死ぬか?手伝いならばしてやろう」

 

「ッ……」

 

 

帰り際に、右手をかざして再び焼却式ベレトを発動。マシュ達三人が守る、言葉を失い項垂れている立香に向けて突きつけるソロモン。嗤っていて「守ってみろ」とでも言っているようだった。マシュが盾を構えて前に立つ。この身燃え尽きようとも先輩だけは、という決意だった。モードレッドと弾切れのジルもクラレントとナイフを手に抵抗を試みた。と、そこに。

 

 

「…………死の恐怖を克服だ?それができないから、俺はまだ人間なんだよ」

 

「むっ…!?」

 

 

聞こえない筈の声と共に、ソロモンの右手首にワイヤーフックが巻き付いて無理矢理に軌道を変えてベレトはソロモンの頭上に直撃、崩れ落ちてきた岩盤を魔神柱が押しのけた。ソロモンの右側にある瓦礫の山から出て来たのは、フックショットを手にしたディーラーだった。

 

 

「最後の一回だ。大事に使いたかったが、俺の顧客に手を出させる訳にはいかなくてな?帰る直前だからって気を緩めすぎたなストレンジャー」

 

「ふん、無駄な抵抗だ。それにその女はここで潔く死んだ方がよかろう。いずれ生きていることを後悔することになる」

 

「お優しいことだな。だが余計なお世話ってもんだ。ジル・バレンタイン!弾切れか?こいつを使え!」

 

「させると思うか?」

 

 

フックショットでソロモンの右手を引っ張ったまま、リュックを下ろして投げ渡そうとするディーラー。しかしソロモンは魔神柱四体に狙わせて光線で攻撃、爆発させて妨害する。…しかし、リュックに意識を向かせることがディーラーの狙いだった。

 

 

「…今がチャンスだ。来いよ(ウェルカム)、ストレンジャー!」

 

「なん…だと…!?」

 

 

ディーラーの掛け声と共に、左肩に手がかけられ無理矢理振り返させられるソロモン。そこにいたのは、倒したはずの少女だった。

 

 

「…お前も家族だ(ファミリーパンチ)!」

 

「ッ、ぬおおおおおおおっ!?」

 

 

振るわれた、異形化した右手の拳を、何がそんなに怖いのか必死の形相で飛び退いて避けようとするソロモン。しかしディーラーのフックショットで動きが阻害され、少女の拳はその頬を掠め、完全に体勢が崩れた、そこに。

 

 

「レッドピラミッドシング、令呪を持って命ずる。その霊基の全力を持って、奴に当てなさい!」

 

「…ウオォオオオオオオオッ!」

 

 

気絶間近のオルガマリーの最後の令呪が発動し、三角頭のチェイサーが咆哮を上げて手にした槍を全力投擲、同時に三角頭のチェイサーは魔力切れで消滅。その槍は、ぎりぎりで気付いたソロモンが移動させた魔神柱の一体の目の一つから大穴を開けてぶち抜いた。

 

 

「生きていたのか、カビ如きがァ!」

 

「ッ!?」

 

「エヴリン!」

 

 

瞬時に焼却式ベレトを発動し、憎悪のままにすぐさまエヴリンに直撃させて燃やし尽くすソロモン。立香は力なく悲鳴を上げて、今までにない感情的な姿のソロモンは怒りを抑えると、忌々しいとばかりに立香を睨みつけながら姿を消していく。

 

 

「…すぐにでも神殿に戻らねばいけない理由が出来た。藤丸立香、貴様の救済はもうしようとも思わん。灰すら残らぬまで燃え尽きよ。それが、貴様らの未来である」

 

 

その言葉を最後に、ソロモンは第四特異点ロンドンから完全に姿を消した。残されたのは、二度も救えなかったことに絶望した少女とその側に付き添う盾の少女、力尽きて気を失った少女とそれを抱き上げたフードの男、向き場の無い怒りを抱えて立ち尽くす反逆の騎士、そして無力感に苛まれる銃を手にした女性だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここまでだな。聖杯を回収したってのに、締まらない気分だぜ」

 

「…ごめん」

 

「馬鹿、お前が謝るなよ。情けないのはオレだけだ。…結局、似たもん同士だったエヴリンも救えなかった、お前と違って力もあるってのに、情けない話だ。でもまあ、ロンドンは救えたんだ。オレにしちゃあ上出来だ。…騎士王が三人もいたのに、オレが生き残っちまった。それは違うだろ、なあ?」

 

「そんなことない。モードレッドが一緒に戦ってくれて、頼もしかったよ」

 

 

聖杯を回収し、何とか地上に戻った一行。霧が晴れていくそこで、今にも消滅しそうなモードレッドが涙が枯れ果て、早くも立てるようになった立香と話す。その隣にはこちらも消えそうなジルと、オルガマリーを抱えたディーラーとマシュがいた。

 

 

「嬉しいことを言ってくれるぜ。無念なのはここで終わりってことだな。本音を言えばお前たちについて行きたいが…この通り限界だ。特異点がなくなってオレの寄る辺もなくなったんだろう。もともと聖杯の霧で喚ばれたんだ。今回は消えるしかない」

 

「ついて行きたいのは私も同じよ。バイオハザードに因縁づけられた旅路だなんて、放っておけないもの。だから私からは、同じバイオハザードを生き延びた人間としてこれだけ。…『死にたくないから生きる』でもなく『生きたいから生きる』でもなく『誰かの犠牲を無駄にしたくないから生きる』でもない、『絶望の中でも絶対に生きてやる!』その気概で、私は洋館事件を乗り越えたわ。貴方には、それが足りないんだと思う。誰かを生かすのも大事だけど、まずは自分が生き残らなければ何もできないわ」

 

「自分が、生き残る…?」

 

「だから、もう二度と後先考えずに誰かを庇って飛び出したりしたら駄目よ。そんな死にたがりじゃマシュの心臓が持たないわ」

 

「わ、わかりました…」

 

 

モードレッドに続いたジルの言葉に、慌てて頷く立香。彼女個人としては死ぬ気は無いのだが、そんなに死にたがりに見えただろうか?と首をかしげた。

 

 

「……・悔しいが奴の言う通りだよ。オレたちは喚ばれなければ闘えない。最後なんてオルガマリーの魔力を搾り取らなきゃ宝具を撃つことも出来なかった。…悪いことをしたな、目を覚ましたらよろしく言っといてくれ」

 

「これが英霊の、サーヴァントの限界ね。生前じゃまずロクに戦えもしなかったのだからそれは感謝すべきなんだろうけど」

 

「時代を築くのは何時だってその時代に、最先端の未来に生きている人間だ。オレたち英霊の影法師なんかじゃないってことだ」

 

「生きている、人間…私は、生きている。みんなを死なせて、こんな血塗れの死にかけだけど、それでもまだ、生きている。…そういうこと?」

 

 

自分の胸に手を当てて、そう問いかけるボロボロの立香に、モードレッドとジルは笑った。

 

 

「ああ、そうだ。オルガマリーだって、精一杯生き延びた。立派に生きている。だから。お前たちが辿り着くんだ立香。オレ達では辿り着けない場所へ、七つの聖杯を乗り越えて、時代の果てに乗り込んで」

 

魔術王(グランドキャスター)を名乗るあの男を追い詰めるのは、口惜しいけど貴方たちにしかできない仕事よ」

 

「…モードレッドさん。ジルさん」

 

「そんな顔しないで、マシュ。何時かまた会えるから」

 

「盾ヤロウは気に食わないが、お前は別だ。そうだ、ジルの言う通りまた会えるさ。そん時はまた手を貸すぜ。敵だったら遠慮なくやってくれ、そいつはオレじゃない馬鹿なオレだろうからな」

 

 

マシュにもそう声をかけるジルとモードレッド。消滅までもう秒読みだ。

 

 

「じゃあな、立香。オルガマリー。マシュ、そしてディーラー。こんなオレにだってロンドンぐらい救えたんだ。ならお前たちはちょいとばかり張り切って、せいぜい世界を救ってみせろ」

 

「多分だけど、世界を救って人理を取り戻せば、きっと彼女に…エヴリンにまた会えるわ。それは絶望になるかもしれない。でも、希望を持つのはいいことだと思う。私たちの代わりに、このバイオハザードを終わらせて。…ごめんね?」

 

「……・全サーヴァントの反応、消失しました。先輩。これでこの時代の作戦(オーダー)は完了です」

 

 

その言葉を最後に消滅、姿を消した二人を見届け、マシュは報告する。立香は涙のあとを拭い、リュックの代わりに背負ったオルガマリーを担ぎ直しているディーラーに向き直った。

 

 

「…生きていて、よかった」

 

「マスターならコンティニュー回数ぐらい覚えておいてほしいな、なんてのはきつく言いすぎか。アンタこそ、生きててよかったよストレンジャー」

 

「でも、エヴリンが…」

 

「…アンタは聞いてなかったかもしれないけどな。アイツも確かにアンタに救われていたはずだ。エヴリンが繋げてくれたその命を無駄にするな。そいつは金じゃ買えない財産って奴だからな」

 

「…うん、分かった。マシュも…心配かけて、ごめんね?」

 

「いいえ、色々ありましたから。私は気にしていません。さあ、帰還しましょう」

 

 

マシュがそう言った瞬間、立香の端末から映像が飛び出しそこにダ・ヴィンチちゃんが顔を見せた。ようやく通信と映像が繋がったようだ。

 

 

《アー、テステス。よし、やっと映像が繋がった。立香ちゃん、オルガ、マシュ。三人とも無事ー?よかった、無事だね。ディーラーも生き残ったか。観測数値にも異常はなし。魔霧もただの霧に戻っているし、もうその時代に用はない。早速レイシフトを行うよ》

 

「ちょっと待てダ・ヴィンチ。所長がまだ目を覚まさない、少し待って…」

 

「…今、起きたわ」

 

 

レイシフトを行おうとするダ・ヴィンチちゃんを制止したディーラーの背中で目を覚ましたオルガマリー。魔力枯渇でまだ立つことも出来ないが、レイシフトぐらいなら耐えられそうだった。

 

 

《よしこれで問題ないね。四人とも、やり残したことはない?ないね?》

 

「…ジキルさんに一言言いたかったけど、そんな元気も、ないかな…」

 

《よし。ではレイシフト、開始!任務達成!お疲れ様ー!》

 

 

そして。立香たちもカルデアへ帰還するのだった。

 

 

 

 

しかし、彼女たちは知らない。この戦いで立香になにが起きたのか。それが何を意味するのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ママーーー?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こっちだよ

 

 

夜明けが来ても、悪夢は終わらない。




ソロモンに撤退させるという原作でもできない大快挙を成し遂げた決戦でした。ただその犠牲も相当のもので…また、今回だけでロンドン編でちりばめた数多くの謎を回収させていただきました。


・オマエノシワザダタノカ
ジェームスボイスで思わず▲様が漏らした言葉。元ネタはサイレントヒル2犬エンドの、おそらく一番有名なネタ。片言日本語のこのセリフはある意味必見?

・▲様とオルガマリーの関係
▲様の姿はジェイムス・サンダーランドの心の中のジェイムスだということから、「贖罪する決意」を持ったマスターの心の中のもう一人のマスターとしての姿を取った▲様。
 そもそもロンドンに▲様が召喚されたのはオルガマリーがレイシフトしてきた時間と同時であり、立香と逸れたのもそれが理由。ソロモンは完全に偶然であり、彼が召喚された本当の理由はオルガマリーの自罰意識。
 元々、人命の責任を背負えるほど心が強くないのに責任感は強くて、冬木であのまま消滅することで贖罪しようとしていたのに生き延びてしまい、生前の望みである「認めて欲しい」は叶えてもらったけど、カルデア職員たちを死なせてしまった彼女を誰ひとり咎めなかったため膨れ上がってしまった自罰意識を、マスターになったことをいいことに現実逃避していた彼女。
 オケアノスでは自分はマスターにふさわしくないから理由を付けて、いつか自分は指揮官としての立場に戻って立香に後を託そうとしていたものの、自分の不甲斐無さからカルデア職員だけでなくオリオンたちサーヴァントまで犠牲にしてしまい、さらにオケアノスの道中で知ってしまった自分と同じように不安定な立香を残して逃げる訳にはいかなくなってしまった。さらにはオケアノスから帰還後、清姫によるネロの炎上事件でまた自分のせいだと責めてしまい、そんな精神状態でロンドンに召喚されたために無自覚にオルガマリーを標的として▲様は召喚された次第。

・アルターエゴのエヴリン
今まで明かされなかったクラスの正体。憎悪に満たされているオリジナルのエヴリンとは違う、いわば「純粋」な側面のエヴリン。自分を命がけで守ってくれた立香を「母親」と定め、全力で守るために「家族」を呼び出してソロモンに立ち向かった。立香に何かした模様。
 正確には「エヴリン・オルタ」であり、魔神沖田総司オルタと似たような存在。「愛してもらうことにした」方が本来のアヴェンジャーで召喚されるエヴリンで「愛してほしい」のがアルターエゴ。こちらは2014年時の幼女が全盛期で本来の姿。
 同類が誰一人いない、究極的に孤独な少女のIFともいえる存在。過去のミアやらの扱いから、一度も人間として接してもらえず兵器としてしか扱われなかったため、逃げ出した時に愛してもらうことを諦めたのだと自己解釈した結果生まれたサーヴァント。
 能力や有している家族はオリジナルのアヴェンジャー準拠だが、決して「殺人」はしないエヴリンである。なお、記憶もオリジナル準拠なのでイーサンへの憎悪はあるが、それが発現する場合は二重人格みたいな状態になっていてオリジナルの人格が垣間見える。
 ちなみに、2014年準拠でありながら2017年に没した英霊の別側面なために2017年の記憶を有して召喚された真実。

・エヴリンの呼び出したモールデッドたち
死体を媒介にしたモールデッド、自らのカビで形成したモールデッドなど複数いるが、ブレードなどの特殊なモールデッドは全部「バイオハザード7」にて判明している犠牲者たち。自分が死んだ後に生まれたルーカス変異体やスワンプマンも召喚できる。

・いい台詞だ。感動的だな、だが無意味だ。
ニーサン

・緑+赤+青ハーブ
バイオハザードRE2にて初登場した初の組み合わせ効果。あらかじめ煎じておくことで体力全回復の他、一定時間耐毒作用と防御力をアップすることができる。おそらく歴代でも最強の三色ハーブ。

・マスターを持った▲様
「贖罪する決意」を持っているとマスターの姿を取り、それを持たないマスターの場合ではいつもの姿を取る特殊なサーヴァント(カルデアの召喚では立香がマスターだったためあの姿だった)。
 また、野良サーヴァント状態では「ジェイムス・サンダーランド」をマスターとしており、どこからか魔力供給を行い標的の殺人の罪の数だけ分身することが出来るが、マスターがいる場合その分身出来る数はマスターの魔力量に依存する。
 元々28人で召喚されるディーラーと違い、一体ずつサーヴァントと同等の物が増えていくため燃費が悪い。魔術師としては優秀なオルガマリーでも、連戦のあとだと100体を超えた辺りが限度。さらにモードレッドとジルにまで魔力を回したためあっという間に枯渇してしまった。さらに、「贖罪させる」が目的になるためマスターの安否が一番大事であり顧みて行動不能になってしまうピーキーなサーヴァント。ちなみに最後のは消滅ではなく、霊体化しただけだったりするが特異点消失と共に消滅している。

・オルガマリー▲様
唸り声が米澤円ボイスに変わり、少女の肉体を得た▲様。爆発を浴びた様な袖が取れたボロボロの服装なのはオルガマリーの罪の形の具象。肌が白く裸足なのは「死人」であることを表している。怪力と体重はそのままではあるが体格が小さくなっており、鉈を振り回すも少し持って行かれているため槍の方が使いやすい模様。再びオルガマリーに召喚されるとこの姿で喚ばれる。

・魔力を全部請け持つオルガマリー
立香がダウンし、▲様・モードレッド・ジルの真名解放と、ディーラーの真名解放の一部の魔力を供給するという無茶をした人。一度死んだから上限が変わったのかわりと持ったが、▲様の100体以上の召喚はさすがに堪えた模様で、最後には気絶していた。

・四体の魔神柱を捩って回転させるソロモン
オリジナル攻撃。一見異様な光景だが攻防共に行い威力は絶大。

・マグナムとナイフで立ち向かう立香
姿が見えなくなったエヴリンが死んだとソロモン共に誤認し、怒りのままに猪突猛進した立香。魔神柱にナイフを突き刺すまではできたが、胸部に投げ返されてさらに重症に。それでもラストには全快近く回復しており……?

・決死の宝具発動するディーラー
オケアノスでの自爆攻撃でソロモンを撤退させることを目論んだものの通常火薬だったことが災いし失敗。そのまま消滅したと思われた。この時点でストックは11であり、真名解放に10人分を使用した。敵を騙すならまずは味方からと言わんばかりに、一人分残っていたため霊体化したままチャンスを待っていた。彼曰く、「死の恐怖を克服できないからまだ人間」だとのこと。
ちなみにソロモンの台詞は某ボドボドの人の名台詞から。

・バイオハザードの元凶
オズウェル・E・スペンサー。ジェームス・マーカスを裏切った張本人でもあるアンブレラ総帥にして老害爺。死に間際に二人の「ウェスカー」に希望を託したものの片方に裏切られて死亡という皮肉な末路をたどった。その行いと末路は、さらに皮肉にもソロモンの言い分と一致していた。

・不意打ちエヴリン
一度吹き飛ばされた際に、ソロモンの標的が自分である以上正攻法ではきついと考え爆発に紛れて霊体化して気を窺っていた。ディーラーはそれに気づき、囮役を買って出て「お前も家族だ」をソロモンに当てることに成功するも…

・モードレッドとジル
立香に必要な言葉をそれぞれ述べた、今回の生き残りにしてガイド役。『絶望の中でも絶対に生きてやる!』云々は以前もらった感想から。立香にその言葉は響くのか。


これにて第四章「第四特異点:死界魔霧感染都市ロンドンシティ」は終了となります。ここまで一年以上もお付き合いいただきありがとうございました。今章は立香とオルガマリーにとっての転換点として濃く細かく描かせていただきました。そしたら構成していた当初からは思いがけずとんでもない時間をかけることに。一応、全部予定通りですがぐだぐだ感が否めません。これからは心機一転、もう少し早く更新できるように頑張ります。
次回、物語はオケアノスの「日記」の場面へ。第五章「第五特異点:北米神話宿命大戦イ・プルーリバス・ウナム・ウロボロス」が始まります。マジニ、つまりプラーガの脅威再来。そしてアメリカを舞台にウロボロス計画再起動、三大英雄が揃い踏み。…と、その前に少しだけ小休止。色々まとめます。

次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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バレンタインって奴かストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、前回を投稿して数日後の節分に祖父が他界し、通夜の最中にバイオハザード8がエヴリンに関する物語だと知って焦り、通夜やら終わってイベントに勤しんでたら紫式部を召喚したり、新規のバイオハザード小説にお気に入り数をあっさり抜かれて落ち込んだりと、色々あって憔悴している放仮ごです。

そんなわけでギリギリ間に合いました。現在行われているフルボイスバレンタインイベントに感化されて書いてみた、うちのオリ鯖たちのバレンタイン。召喚されてない組は「もしも召喚されたら~」のIFです。急きょ書いたせいでほとんどが拙いものですがご了承ください。一応、本編の布石があります。

楽しんでいただけると幸いです。


【ディーラーの場合。非売品のとっておき】

 

 

「ディーラー…ちょっと、いいかな?」

 

 

その日、立香がやってきたのは、ロケットランチャーやら銃器やら弾薬やらが飾られた、ちょっとした店になっているディーラーの部屋。暇してたのか解体したハンドガンを整備していたディーラーは立香の声に顔を上げた。後ろに右手を回して左手で頬を掻きちょっと照れている様子の立香に何を思ったのかディーラーは笑みを浮かべて店先に並べたラインナップを指差した。

 

 

「どうしたストレンジャー?アンタも騎士王様達みたいに材料を買いに来たのかい?」

 

「材料?あ、もしかして出所不明のチョコの材料って…」

 

「もちろんこの俺だ。季節に合わせたラインナップは勝手に自動更新されるらしくてな、今月はこれだった訳だ。卵黄を混ぜる奴用に新鮮(?)な卵もある。金の卵は高いがな、ヒィッヒッヒ」

 

「へえ、そうなんだ…」

 

 

聞くところによるとそれも「商人(ディーラー)」というクラスの特性の一つらしい。カルデアの貴重な食糧元になっているだけあって便利だな、と思った。

 

 

「それで誰に出すんだい?マシュか、それとも所長か?いや、身近な男ならクー・フーリンかマイクかい?」

 

「え、えっと…」

 

 

心底困った表情をしている立香。いつもと違うその様子にディーラーは疑問符を浮かべ、立香は意を決して口を開いた。

 

 

「えっと、さっきセイバーオルタたちからチョコをもらったんだけど…私、バレンタインなんてものとは縁がなかったから知らなくて…。大事な人にチョコを贈る日だって聞いて、それでね?セイバーオルタから余った材料をもらって…作ったんだ」

 

「…もしかして、俺にかストレンジャー?」

 

「うん、そうなんだ。いつもお世話になっている筆頭はディーラーだからね。どうぞ」

 

 

そう言って立香が手渡したのは、シンプルに包装されている赤い小箱。ディーラーは両手で丁寧に受け取り、なにが珍しいのかじっくりと眺めた。

 

 

「えっと…変だった、かな?」

 

「いいや、嬉しいぞストレンジャー。ちょっと待て、何かお返ししないと商人として面目が立たん」

 

 

そう言って店の奥に引っ込んでいくディーラー。いつの間に改造したのか床下収納を開け、ひんやりとした冷気が漏れるそこから一本の酒瓶を取り出して立香の元まで戻ってきた。

 

 

「そら、このもらい物ならこいつがいいだろう。完全にプライベート用の非売品で俺のとっておきの葡萄酒だ」

 

「え。私、未成年だよ?」

 

「だがすぐに大人になるだろう?コイツは保存しておけばそれぐらい問題ない。アンタが大人になった時に親しい人間と飲んでくれたら嬉しいんだ、ストレンジャー」

 

「ディーラー…」

 

「絶対に人理を取り戻す、それはアンタにとって当たり前のことだろう?だからコイツはそのご褒美さ。俺だっていつまでもアンタと一緒にいれる訳じゃないからな。それに、銃と違ってそいつなら日本に持ち帰れるだろう?餞別さ」

 

「悲しいこと言わないでよ…」

 

「まあ、まだその時じゃないのは確かだ。もしあんたが酒を飲める年になってものうのうと俺が残っていたら、一緒に飲もうぜストレンジャー」

 

「うん…!」

 

 

酒瓶を受け取り、嬉しそうに笑みを向けてくる立香に、ディーラーもまた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アシュリーの場合。護衛係の大好物(?)】

 

「マスター。ちょっといいかしら」

 

「どうしたの、アシュリー?」

 

 

ドアをノックし立香の自室に入ってきたのはアシュリー・グラハム。読書中だった立香は顔を上げると、珍しくエプロン姿の彼女に疑問符を浮かべた。

 

 

「実はね、レオンに作ってたんだけど…」

 

「…レオン・S・ケネディさんはうちにはいませんよ?」

 

「うん、作ってからそれに気付いて…だから、武器商人さんと貴方用に分けて作ったの。受け取ってくれる?」

 

 

そう言ってアシュリーが手渡してきたのは、卵の様な物がいくつか入ったビニールの小袋。手渡された立香は疑問符を浮かべて首をかしげ、アシュリーは得意げに説明を始めた。

 

 

「あ、ありがとう…?」

 

「レオンってね。村だと余裕があれば鶏が卵を産むまで平気で待つし、城でも蛇を見かけるたびに斬りかかったり、卵が大好きなのよ?だからホワイトチョコで殻を作って、中にチョコクリームを入れてみたの!ど、どうかしら…?」

 

「うん、美味しいよアシュリー。ありがとう!」

 

 

なお、立香はディーラーからレオンは村に入った直後に村人に追い回されて手持ちのハーブを全部使い果たして時間さえあれば卵や魚を掻き集めて回復に使っていたから好物ではないと聞いていたのだが、優しさなのか単に忘れていたのか、満面の笑みのアシュリーにそれを伝えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【マイクの場合。俺達が遺そうとしたもの】

 

「マイク、ちょっといいかな?」

 

 

廊下で見かけた、ヘルメットを被って顔を隠した男に、動作からマイクだと気付いた立香は笑顔を浮かべて駆け寄った。

 

 

「どうした、マスター?俺か、それともカークか、ブラッドに用事か?」

 

「うーん…どちらかというとマイクたちみんなにかな?はい、ハッピーバレンタイン!」

 

 

そう言って手渡されたチョコに、まさかもらえるとは思わなかったのか、分かりやすくたじろぐマイク。

 

 

「何人いるか分からないから一人分だけど…ごめんね?」

 

「い、いや…。くれるだけ嬉しいさ。…だがどうするか…お返しなんて考えてなかったからなあ」

 

「気にしなくていいよ。感謝の気持ちだから」

 

「そうはいかない。武器商人やジルに怒られてしまう。…後で部屋に持っていくから、期待しないで待っていてくれ」

 

「うん、分かった」

 

 

数時間後、立香の部屋に贈られたのは何の変哲もない絵画。そこに描かれた澄み渡った青い空に、感慨深い思いと懐かしさを感じる立香であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【▲様の場合。鋏の片割れ】

 

オルガマリーが自室でデスクワークしていると、スーッと自動扉が開いて不思議に思って視線を寄せると鉈を引きずりながら▲頭の少女が無言で入って来た。

 

 

「うわっ、びっくりした。どうしたの、レッドピラミッドシング。何かあった?あと、傷がつくから引き摺らないでね」

 

「………」

 

 

無言で佇んでいたレッドピラミッドシングは、壁にかけられたカレンダーを指差した。

 

 

「カレンダーがどうしたの?…そういえば、今日はバレンタインか。どうかした?」

 

「……」

 

 

すると今度はオルガマリーと同じ細い指で長方形を形作ると思ったら✕の形にし、しょんぼりと落ち込む様子を見せたかと思えば、もう片方の手にもう一本鉈を取り出すと差し出してきた。

 

 

「えっと…チョコを作ろうと思ったけどできなかったから、代わりにこれをやる、って?」

 

「…」

 

「あ、ありがとう…?」

 

 

重そうにしながらもちゃんと両手で受け取ってくれたことに満足したのか、そのまま去って行くレッドピラミッドシングの姿に、オルガマリーは首をかしげた。

 

 

「……レッドピラミッドシングって今はあの姿だけど元は男じゃなかったかしら。むしろ私が渡さないといけないんじゃ…?」

 

 

考え始めて混乱し、深く考えないことにしたオルガマリー。その手に渡された鉈が、とある鋏の片割れで、レッドピラミッドシングを殺せる武器であることをオルガマリーはまだ、知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【サドラーの場合。支配種プラーガ】

 

「えっと…サドラー様、いいですか?」

 

 

そう言いながらおずおずと玉座の様なソファが置かれている仰々しい部屋に入った立香を出迎えたのは、映画鑑賞をしていたオズムンド・サドラー。まったく言う事を聞かないめんどくさい系サーヴァントだが、召喚に応じてくれたのだからしょうがないとばかりに立香は赤い小箱を差し出した。

 

 

「なんだ、別に私には必要のないマスターよ」

 

「だったらこれもいらないかな…一応、どうぞ」

 

 

渡されたサドラーはきょとんとし、目を見開いて立香を睨みつける。立香は物怖じせず睨み返し、サドラーは何が面白いのか笑いながら小箱を開封、中から出て来たチョコに一瞬変な表情になると「フフフフフッ…!」と笑い声をあげた。

 

 

「私のマスターとなった愚か者よ。これは何事か?」

 

「バレンタインデーです。日本だと、親しい人間やお世話になった人間にチョコを上げる日です。私には関係ない話だったけど…一応、お世話になってるので」

 

「いいぞ。実にいい。つまりアレだ。これは、貴様の忠誠の証と言う訳だな」

 

「え、そういう訳じゃ…」

 

 

勝手に自己解釈して上機嫌にのたまうサドラー。立香が狼狽えていると、サドラーは嗤いながら懐から紫色の液体が入った注射器…彼の宝具を取り出した。

 

 

「そうだ。いいことを思いついたぞ。弱きマスターよ…特別だ、私に忠誠を見せた貴様に我らの力を授けてやろう。やがてお前もコレの力の魅力に逆らえなくなる…」

 

「つまりガナードになれと」

 

「いいや。貴様は支配する側の人間ということだ。コレは支配種のプラーガだ。覚悟が決まれば使うといい」

 

「いや、あの…アレとかコレとかボケが始まってるんですか?」

 

「馬鹿を言うな、私は本気だぞ?それに、それさえあれば私の支配から商人を解放することも出来るかもしれないぞ?どちらの支配力が高いかは明白ではあるがな。商人達は忌避するが、力を手にすれば貴様も理解できるようになる。我がロス・イルミナドスは貴様を歓迎しよう」

 

「ええ…」

 

 

どうやら、かなりお気に召したらしい様子のサドラーに、立香は支配種プラーガを手にしながらため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アルバート・ウェスカーの場合。お揃いのサングラス】

 

「ウェスカー?…入るわよ?!」

 

 

自らチョコになって追いかけてきた清姫から逃げるオルガマリーは、一つ思い出して近くの部屋に訪れた。中には金髪オールバックにサングラスのアルバート・ウェスカーがいた。

 

 

 

「何事だ?俺に必要なことなんだろうな?」

 

「清姫から逃げてきたの。少し匿ってくれないかしら?」

 

「ふむ。何か報酬をもらえれば考えよう」

 

「貴方はそればっかりね。…一応よ、一応。貴方、誰からももらえそうにないし。義理の義理なんだから、勘違いしないでよね?」

 

 

そう言って手渡された綺麗に包装された小箱に、ウェスカーはにやりと笑んだ。

 

 

「わるくないな。礼を言っておこう。ところで俺は、洋館事件が起きた時には既に妻子持ちだぞ?」

 

「んなっ!?…案外モテるのね貴方」

 

 

その直後、清姫に乱入されてひと悶着が起きたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヴェルデューゴの場合。淹れたてのコーヒー】

 

オルガマリーの自室にて。慣れない銃の手入れをしていたオルガマリーは、解体したハンドガン・ブラックテイルをやっとのことで組み立て直して一息吐き、伸びをする。するとガタゴトと天井裏から音がしたかと思うと、扉を開けてポットを片手に持った異形のサーヴァント、ヴェルデューゴが入ってきた。

 

 

「この匂いは…私に?」

 

「……」

 

「ありがとう。ありがたくいただくわ」

 

 

普段はカルデア職員に怖がられるため廊下を歩けず、霊体化しながらも律儀に天井裏に潜んでいた彼の差し出してきたコーヒーカップを受け取り、一口飲んだオルガマリーはその味に舌鼓を打つと、思い出したかのように懐から赤い小箱を取り出して差し出した。

 

 

「お礼ってわけじゃないけど…バレンタインのチョコよ。えっと…食べれる?」

 

「……(noproblem)」

 

「なんでみんな、貴方を怖がるのかしらね」

 

 

どこからともなくスケッチブックを取り出しすらすらと英語でそう綴りながら三本指で器用にサムズアップするヴェルデューゴにぼやいたオルガマリーはそのまま手渡すと、異形の怪人はそのままガコッと天井蓋を開けるとするりと入って行って姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アビス完全体の場合。ダンテの本】

 

「Morgan…!」

 

「いたいた、ノーマンさん!」

 

 

カルデア職員たちに避けられながらも、何時も通り標的を探してカルデアの廊下を彷徨っていたアヴェンジャー、アビス完全体と化したジャック・ノーマンに駆け寄る立香。

 

 

「…?」

 

「あ、待って!」

 

 

ノーマンは不思議そうに立香の方に顔を向けるが、特に気にすることなく歩き続け、立香は慌てて前に割り込むと赤い小箱を差し出した。

 

 

「えっと、食べられるかは分からないけど今日ぐらいは復讐は忘れて欲しいと思って…」

 

「……」

 

 

するとノーマンは顔を開いて単眼を露出させると、まばゆい閃光を放って廊下を覆いつくし、立香の視界を遮った。幻覚を見せるガスと閃光だ。

 

 

「わっ!?」

 

「感謝しよう、マスター。私はモルガン・ランズディールを裁く復讐者ではあるが、大いなる猟犬として君に仇を為す敵も裁こう。これは私の愛読書だ。よければ、もらってくれ」

 

 

光の中で、人間の姿をしたノーマンに手渡される赤い表紙の著書『ダンテの神曲』。光が消え、去って行くノーマンを見送る立香の手に開かれたページには、『地獄篇』の第三十三歌が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【パーカーの場合。頼れる相棒】

 

「はい、チョコレート。片手間で悪いけど」

 

 

大量に積み重ねた本を手に歩いていたオルガマリーは、廊下ですれ違ったパーカー・ルチアーニに持ってもらい自室に向かう道中、赤い小箱を差し出した。パーカーは片手に本の山を持ったままそれを受け取り、物珍しげに眺めると懐に収めた。

 

 

「アンタが俺にチョコだなんてどんな風の吹き回しだマスター?」

 

「今回のお礼…ってだけじゃなくて、貴方は覚えてないかもしれないけどオケアノスでもお世話になったし、感謝の気持ちよ。そういうのじゃないから」

 

「ハハッ、だろうよ。女性陣に聞いたがこういうのはお返しが必要なんだっけな。なにがいいかねえ…おっ、こいつなんかどうだ?」

 

「!?」

 

 

気軽に渡されたそれは、パーカーが使う宝具であるハンドアックスだった。驚愕するオルガマリー。

 

 

「聞いた話じゃあ、立香と違ってアンタは近接武器は持たねえんだろ?だったらそいつを受けとりな」

 

「だって、これ…宝具じゃ…」

 

「安心しな。そいつは武器商人に作ってもらったオーダーメイド品だ。クー・フーリンと酒を交わした時にな?以前の聖杯戦争で参加した際に、宝具は奥の手として封印して代わりの得物で戦ったって話を聞いたんで特注したんだ。だが、やっぱり相棒を使っちまってよ。持て余してたところだったんだ」

 

「じゃ、じゃあありがたく…?」

 

 

テラグリジア・パニックで苦汁を飲まされたハンターに対抗すべく手にしたハンドアックス…その、代用品の重さからひしひしと伝わるプレッシャーにオルガマリーは冷や汗を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ネメシスの場合。お揃いのコート】

 

「スタァアアアアアアズッッッ!」

 

「うわっ、びっくりした!」

 

 

チョコの入った赤い小箱を差し出した途端、いつもの咆哮を上げたネメシスにビビる立香。ジルを探してカルデアの壁を突き破る問題児ではあるが、召喚に応じてくれたサーヴァントであるため感謝の気持ちとしてチョコをプレゼントした途端これである。何か悪いことをしたのかとか、何時も令呪でジルに襲いかかるのを止めているのに我慢の限界が来たのかとか様々な思想が脳裏を埋め尽くし、完全にフリーズした立香をひょいっと右手で摘み上げたネメシスはノッシノッシと歩き始めた。

 

ネメシスに揺られながら立香が辿り付いたのは、一応与えられている彼の自室。中に入ると簡易的なベッドに寝かせられ、ネメシスは部屋の奥に向かうとゴソゴソと何かを物色し始めた。

 

 

「あ、あのー…」

 

「スタァアアアアズ!!!」

 

「ひぃいいいっ!?」

 

 

声を掛けようとするもまた吠えられ、両手を上げて涙目で固まる立香。カルデアで召喚されたレッドピラミッドシングに追いかけられたことはトラウマになっており、どうも追跡者(チェイサー)は苦手なのだ。すると、固まっていた立香にズイっと無造作に差し出され視界を埋め尽くす黒。何なのだろうかと、おずおずと立香がそれを受け取ると、彼女には幾分か大きく重いコートだった。

 

 

「これって…防弾防爆っていう…?」

 

「スタァズ」

 

 

それは、ネメシス愛用のコートのスペアであった。大きすぎて着れないが、被れば並大抵の攻撃ならば完全に防いでしまう代物だ。自分を心配してこれを渡してくれたのだと気付くと、立香は顔を綻ばせた。

 

 

「ありがとう!」

 

「スタァズ…!」

 

 

なお、ぶかぶかである前に重すぎて持ち運ぶことができずに立香はネメシスに謝り倒したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジルの場合。救急ボックス】

 

「日本ではバレンタインデーという行事があるそうね?」

 

 

部屋に入ってくるなり、そう尋ねてきたジル・バレンタインにバレンタインデーを聞かれて頷くオルガマリー。

 

 

「え、ええ。私は日本人じゃないけどそうみたいね」

 

「と言う訳で、はいこれ。マスターに私からプレゼントよ」

 

 

そう言って手渡されたのは、何故か救急ボックスだった。開けてみると、救急スプレーとグリーンハーブ×2を調合したものの横に、ちょこんと非常食のチョコレートが入っている物だ。清姫にアルトリア、ネロからもらっていたオルガマリーは予想とは違うそれに狼狽えた。

 

 

「…えっと…?」

 

「え、チョコを渡す日なのよね?だから、アイテムボックスにちょうどあったこれを…ね?安心して、どんな致命傷を負っても回復できる代物よ。いわゆる贅沢セットね」

 

「あ、ありがとう?」

 

「どういたしまして」

 

 

どうやらただチョコをあげる日だと勘違いしているジルに何も言う事はなく、オルガマリーは見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【女王ヒルの場合。ヒルのオブジェチョコ】

 

「マシュ…じゃないや、女王ヒル。どうしたの?」

 

「さすがだマスター、我が父(father)よ。この娘のマスターの母国では面白い風習があるという。私からの贈り物を受け取ってくれ」

 

 

自室でのんびりしていたところに、壁から湧き出るように現れたマシュ…の姿をした女王ヒルの分身から手渡された、ねちょねちょした粘液に覆われた透明のケースに入れられたそれに、思わず顔を引きつらせる立香。茶色いためチョコのようではあるが、その形は食人ヒルを模していた。立香は知らないが、かつてアンブレラ幹部養成所に在った『ヒルのオブジェ』に酷似していた。

 

 

「えっと…これは?」

 

「恥ずかしながら…私の幼少時の姿を模した物だ。私は一応「女王」だから用意してみた。喜んでくれると嬉しい」

 

「う、うん…ありがとう…」

 

 

満足したように笑顔で複数のヒルに分裂して去って行く女王ヒルを見送り、立香はハンカチで粘液を拭い取って中のヒルのオブジェチョコを取り出し、少し戸惑いながらも意を決してぱくりとかぶりつく。

 

 

「あ、美味しい…」

 

 

食人ヒルにチョコを塗りたくった物だと思っていた立香は思わぬ優しい味に安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【■■■■の場合。ビターチョコ(?)】

 

2月14日になったばかりの深夜二時。半分寝ている立香は、ふらふらと暗い廊下を歩いていた。呼ばれるがままに、立香は歩いていた。

 

 

 

ママーーー?……………こっちだよ、きて、きて?

 

 

 

脳裏に響く声に従い辿り付いたそこは、古い物置。通称「ロストルーム」と呼ばれる、カルデア所員の間で「午前0時に入ると失われたものを見る。あるいは失うものを見る」という怪談が伝わっており、基本的に誰も近づこうとはしない部屋だ。0時ではないが薄気味悪いそこはいつの間にやらカルデアの誰にも気づかれることなく黒いカビに浸食されており、戸惑いなく中に入った立香を出迎える少女がいた。

 

 

「ハッピーバレンタイン、ママ!」

 

「うん、■■■■」

 

 

走って飛び込んできた黒いワンピースに茶色いブーツの黒髪ロングヘアーの少女を優しく受け止める立香。痛いくらいに力いっぱい抱きしめられ、それでも拒絶することなく立香は安心したように笑みを浮かべた。

 

 

――――――ああ、ちゃんとここにいる。

 

 

「それでママ?チョコなんだけど…ちょっと、失敗しちゃった」

 

「大丈夫、■■■■が頑張って作ってくれたんだから、美味しくないはずがないよ」

 

「うん、ありがとう!」

 

 

満面の笑みで少女が取り出したカビ塗れのチョコを受け取り、戸惑うことなく口にする立香。

 

 

苦く、甘く、……そして、苦い味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、朝。マイルームに向かって廊下を歩いていた立香に出会ったマシュが話しかけた。

 

 

「先輩?今朝は姿が見えませんでしたがどこにいたんですか?」

 

「ん~?なんか寝付けなくて、散歩してたんだ。心配させたなら、ごめんね?」

 

「いえ!でも、セイバーオルタさん達が捜していましたよ?」

 

「そうだった。ディーラーたちの分も作らないと!」

 

 

そう会話して、食堂に向かう立香達のいた場所に。

 

 

「ねえ、ママ。怒ってる?」

 

 

その問いかけに、少しだけ振り向いた立香は首を横に振って否定し、それに気づいて振り返ったマシュに怪訝な表情で見つめられた少女は笑う。

 

 

 

 

 

「これからはずっと一緒だよ」




相変わらず不穏な最後。ホワイトチョコとビターチョコが好きな私です。


・立香とオルガマリー
異形で手が付けられないB.O.W.ばかり喚んでいる立香と、意思疎通できる人間かある程度大人しい異形を喚んでいるオルガマリー。その違いとは?

・ディーラーのお返し
バイオ4のとある所で見れる武器商人のとっておき。何気に、季節の商品が勝手に入荷されるなどの設定も判明。ついでにあることにも言及してたり。

・アシュリーのチョコ
バイオ4プレイヤーならアシュリーにたくさん食べさせたであろう卵を模したチョコ。序盤では頼もしい鶏と蛇の卵。

・マイクのお返し
彼らが手に入れたかったもの。即興で交代しまくりながら描いたらしく、複雑な筆跡。

・▲様のチョコ(?)
一応女性扱い。原作「サイレントヒル2」における一周目最強クラスの武器。元々▲様の持つ物と合わせて鋏だったらしい。

・サドラーのお返し
IFその一。マスターとは認めないが、カルデアに利用価値があると見なして協力する外道爺。カルデア職員を勧誘して支配下に置こうとする問題児その一。チョコをもらって年甲斐もなく上機嫌である。趣味は映画鑑賞。立香をロス・イルミナドスに迎え入れたいらしいが、渡されたのが本当に支配種か、それとも隷属種か。それを見極めるのは貴方次第。ちなみに、ロス・イルミナドス自体は滅んではおらず残党たちが新たに「Aウイルス」を作り出したことが判明して何か企んでいる模様。

・ウェスカーのお返し
IFその二。オルガマリーをどうやら気に入ったらしい新世界の神。世界を救わないと新世界も作れないことを察したらしく大人しく協力しているが合理的でないと判断すると容赦なく切り捨てる。愛用のサングラスのスペアで、閃光弾を防ぐことが出来る。

・ヴェルデューゴのお返し
IFその三。オケアノスの頃から相性が良かったサーヴァントで、IF組の中では一番オルガマリーと意思疎通できている。元執事だけあって珈琲を淹れるのが上手い。

・アビス完全体のお返し
IFその四。カルデアに召喚されるはずもないモルガンを捜して徘徊する問題児その二。マスターの元に職員からの苦情が相次いでいる。意思疎通が出来ないわけではなく幻覚で会話する。愛読書を渡すなど立香を気に入っている様子。

・パーカーのお返し
IFその五。オケアノスでの縁から召喚された。プロトタイプクー・フーリンの話から思いついたお返し。ハンターを二撃で葬れる恐ろしい武器。オルガマリーには扱えない模様。

・ネメシスのお返し
IFその六。ジルを追って召喚された問題児その三。意思疎通は出来ないものの立香の言う事はよく聞き、恐がられることを気にしている。立香を心配して己のコートのスペアを渡すものの、重すぎて使えないことは盲点だった模様。なお、頭部以外に攻撃を通さないぐらいには最強の防御力を誇る。

・ジルのチョコ
IFその七。バイオハザードを解決すべく召喚された。バレンタインの名を持つもどんな日なのか知らない天然…というより、仕事以外を考えられない真面目さん。意味を知ったら特別な物をクリスにあげるんじゃなかろうか。

・女王ヒルのチョコ
IFその八にして問題児その四。一応女性扱い。人型のヒルの姿が本来の姿なため出歩けず、普段は本体だけ自室に閉じこもって分身にマシュやら色んな人間に化けさせてコミュニケーションをとっている脳筋。倫理観がないため、気持ち悪いなどの感情が分からない模様。

・■■■■のチョコ
IF…だといいなあ(希望的観測)


次回は多分四章の鯖もしくはオリジナルB.O.W.の設定、もしくは空の境界イベントの話。活動報告にこれからのFGO/TADについて書いているのでそちらもよろしくお願いします。
次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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ロンドンの奴等の性能だストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、最近就活していてろくに執筆できてない放仮ごです。
お待たせしました第四特異点:死界魔霧感染都市ロンドンシティに登場したオリジナルサーヴァントの設定です。彼女の設定を見ればこれまでの不穏なシーンの真相が分かるかも…?

よければどうぞ、見て行ってください。


エヴリン・オルタ

 

クラス:自我の分身(アルターエゴ)

真名:エヴリン

性別:女性

出典:バイオハザード7

地域:アメリカ

属性:中立・善

イメージカラー:ブラック

特技:騙し討ち

好きなもの:ママになってくれる人、愛してくれる人

苦手なもの:ママになってくれない人、自分を嫌う人

天敵:イーサン・ウィンターズ、エヴリン(アヴェンジャー)

CV:諸星すみれ

 

ステータス:筋力E 耐久E 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具EX

 

スキル

・生物災害A:ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。バイオハザードの根源そのものたる特性。マスターがいなくとも顕現し続けることが出来る。不完全なB.O.W.であり、一定期間ごとに「保全用化学物質」の注入を受ける必要があり、もしも6ヶ月以上も注入を受けないと細胞劣化を起こして通常よりも25倍速く急激に加齢し、最終的には精神異常となって周囲全てに対し脅威となる欠陥品であったが、サーヴァント化したため細胞劣化は起きないようになり全盛期の少女の姿のままである。

 

・気配遮断D:本来はアサシンのクラススキル。自身の気配、または殺気を消す能力。攻撃態勢に移るとランクが下がる。

 

・陣地作成(特異菌)A:本来はキャスターのクラススキル。カビの発生しやすい場所限定ではあるが自らに有利な陣地を作り上げることができる。広がったカビの範囲なら中に潜って瞬間移動したり、カビに飲まれた死体をモールデッドに「転化」して使役したり、宝具と合わせることで人を媒体にしないモールデッドの永続召喚が可能。

 

・自己改造(特異菌)A:生まれつきの人造人間であり、真菌の集合体。自らの特異菌から生まれたクリーチャーの特性を自らに付与することが出来る。モールデッドの腕、ブレード・モールデッドの刃、クイック・モールデッドの四肢、ファット・モールデッドの吐瀉能力、変異マーガレットの蟲生成器官、変異ルーカスの左腕の盾化と右腕の巨大化と高濃度の特異菌噴出、スワンプマンの伸びる腕など。いずれも鋼構造物をも破壊する硬度と威力を有しており、外に出した黒カビで強固な壁を作ることも可能。

 

・E型被験体D:特異菌に感染させた対象の意識・肉体を実質的に支配する能力。人間を感染させて殺害し「家族」と称した化け物に「転化」させて操る。「家族」とは名ばかりで、洗脳でしかない。ただし本来Aランクなのだがアルターエゴの彼女は「もしこの能力を使用しなかったら」のIFであり、本人もその気がないためランクが低い。

 

・幻覚作用EX:エヴリンの「支配」の第一段階。そこにいないエヴリンの姿を幻視させ、他者には聞こえない彼女の声を耳にするようになる。 幻影のエヴリンは初めは少女らしく甘えるような態度で現れるが、次第に過激な要求や命令を行う。感染させた人間にしか効果は及ばないが、幻影に掴まれると実際に掴まれた痕が体に浮かび上がるなど効果は高く、感染している人間は例外なく逃れられない規格外の力。

 

 

宝具

お前も家族だ(ファミリーパンチ)

ランク:EX

最大捕捉:1人

種別:対人宝具

 通称ファミパン。本来はジャック・ベイカー及びジョー・ベイカーの宝具(技)。相手の背後を取り肩に手を掛けることで発動。モールデッド化した右拳を握り、「お前も家族だ」と言いながらストレートパンチを繰り出す。クリーンヒットすれば対象を強制的に気絶させることが可能。

体格や筋力もあってダメージこそ少ないが、その真価は本来、真菌を植え付けて感染させるなどを経たさせる必要がある過程を一瞬で終えることであり、喰らえば最期、即感染。耐性の無い者は体がボロボロになって死に至り、少しでもこの菌に対する耐性を持っている者は「転化」させる。「転化」自体は魔術やスキルなどで防ぐことは可能だが、正規の方法で治すことはほぼ不可能でサドラーの我が支配し寄生の種よ(プラーガ・パンデミック)と同じく、除去できない限り感染者の魔力を吸って残り続け生物災害(バイオハザード)を引き起こす。

特異菌は「超再生」「死者蘇生」「超人化」「モールデッドの生成」「洗脳」「幻覚」と多種多様に発揮される力を持ち、感染者は「転化」することで「超再生」「超人化」「洗脳」「幻覚」が付与される。

 

 

ようこそ、私の家族(ウェルカム・トゥ・ザ・ファミリー)

ランク:A

種別:対軍宝具

「――――私は暗い穴の中で育てられた。仮釈放もない囚人のように。やつらは私を閉じ込めて魂を奪った。やつらが作り上げたものを恥じるがいい。私は彼を呼んだ、そして彼はくるだろう。彼は手を伸ばすだろう。愛する彼女を取り戻すために。そして彼女は私を愛してくれない彼を殺すのだ」

 文字通り、自らの有する「特異菌」の副産物である「家族」の力を借りる宝具。ウェスカーの宝具の特異菌版とも言える宝具。特異菌で構成されている物なら、菌糸で再現・形成して召喚、思いのままに使役する事が出来る。エヴリンが死んだ後に誕生した白いモールデッド系統は召喚できないが、スワンプマン変異ルーカスは例外的に召喚できる。

足元から特異菌の黒カビを水たまりの様に出現させ、そこから各種モールデッドを魔力の続く限り僅かな魔力を消費して召喚することが出来る他、「バイオハザード7」のテーマソング「Go Tell Aunt Rhody」を日本語にして少しアレンジした上記の詩を詠唱し真名解放することで魔力を多く消費しモールデッド以外のクリーチャーを召喚可能。「水辺」などの特定の条件が重なると形成にかかる時間と魔力量が短縮される。

また、オリジナルの人格が出ている際にはアヴェンジャーとしての使い方が行使可能であり、奥の手として詠唱することで自らを特異菌で覆うことで姿を変えることが出来る。

 

 

 

概要

 第四特異点ロンドンを覆った魔霧によって召喚されたアルターエゴのサーヴァント。召喚して間もなく似たような目的を持つジャック・ザ・リッパーと邂逅し、行動を共にしていた。「家族」の特に「母親」を追い求める不安定な精神状態の少女であり、時折「イーサン」と呼ぶ誰かを憎悪している他、自分を嫌う存在をよしとせず嫌悪感丸出しで拒絶する。

ステータスは敏捷と宝具以外Eとディーラー以上にピーキーであり、スキルと宝具に特化していて基本的にモールデッドを召喚して人海戦術で攻め、隙を突いて自らが奇襲するというアサシンに近い戦法をとる。戦闘向けのB.O.W.ではないため自衛能力は低いが、衝撃波を放つことができる。

 

 その正体は焼却されたはずの2015年以降の記憶を有した反英雄(B.O.W.)の英霊…の別側面。バイオハザードの根源たるB.O.W.な上に存在しない2017年の記憶を有している存在としてソロモンに危惧されていた他、ジルが召喚されたと同時期にロンドンに召喚されていたアルバート・ウェスカーに未知のウィルスとしてずっと尾行されていた。

憎悪に満たされているオリジナルのエヴリンとは違う、いわば「純粋」な側面のエヴリン。同類が誰一人いない、究極的に孤独な少女のIFともいえる存在。「愛してもらうことにした」のがアヴェンジャーで召喚されるオリジナルのエヴリンであるのに対し「愛してほしい」のがアルターエゴのオルタで、こちらは2014年時の幼女が全盛期で本来の姿。

能力や記憶、有している「家族」はオリジナルのアヴェンジャー準拠であり自らを殺したイーサン・ウィンターズへの憎悪を持ち合わせるが、それが発現する場合は二重人格みたいな状態になっていてオリジナルの人格が垣間見えて殺意を出し、そうでない人格との矛盾により記憶の混濁が幾度も起こり板挟みになり苦しみ続ける。オリジナルとは異なり殺人を良しとせず、通りすがりの女性を襲おうとしていたジャックを諌める程に徹底しているが、多大なストレスに苛まれた際にはオリジナルの人格が顔を出して自らを嫌う人間を容赦なく殺そうとする不安定にも程があるサーヴァントである。

 

 出会った当初、己を容赦なく殺そうとしていた立香を恐れて嫌悪し、まるで反抗期のような態度を取っていた。邂逅直後に殺そうと息巻いていたのはオリジナルの人格が出ていたためであり、ジャックと行動を共にすることで落ち着いた。

再び立香と邂逅した際に誠心誠意謝罪され、怒りにかられながらもジャックのためだと自分に言い聞かせて立香を仮のマスターとし、ナーサリー・ライム戦から行動を共にし最終局面まで立香を守り続け、ソロモンに不意打ちで殺そうになったところを立香に命がけで庇われた際に立香に対する認識が一変。「ママ」になってくれるかもしれない人として守り、嫌われるかもしれないと危惧しながらも立香を死なせないために最善を尽くしたのちに消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲様

 

クラス:追跡者(チェイサー)

真名:レッドピラミッドシング

マスター:ジェイムス・サンダーランド→オルガマリー・アニムスフィア

性別:男性→女性

出典:サイレントヒル2

地域:アメリカ・サイレントヒル

属性:中立・善・地

イメージカラー:錆びたような赤

天敵:ジェイムス・サンダーランド、罪のない人間、罪を自覚し償おうとする人間

CV:Guy Cihi→米澤円

 

ステータス:筋力B 敏捷D+ 耐久C+- 魔力C 幸運E 宝具A

 

スキル

・追跡開始A:クラススキル。目標を見定めると敏捷と耐久のステータスが二段階上昇する。

 

・追跡続行A:クラススキル。目標が健在の場合、戦闘不能になっても数分経てば仕切り直しして復活できる。ただし体力は半減。

 

・加虐体質A:戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増していく。性質は狂化スキルに近い。

 

・恐慌の声C:聞くものの精神を弱らせる声を響かせ、対象に精神攻撃を行う。しかし彼は物理攻撃が主体なためランクは低い。

 

・処刑人EX:悪を以て悪を絶つ、究極の裁断行為。属性「悪」に対するダメージが向上するどころが「即死」の域となる。また、そのサーヴァントの行為が悪と見なされた場合でも対象となるが、こちらはダメージ増加のみ。

 

 

宝具

赤い三角頭の処刑執行人(レッドピラミッドシング)

ランク:A

種別:対罪宝具

 相手の殺して来た人間の分だけ分身し、現実を直視するまで執拗に追いかけ処刑する。正体が自分の「殺人」の罪だと気付かない限り不死身の存在と化す。逆に、一度も誰も殺していない人間ならば害はないが、ほとんどの英雄にとっては最悪の敵たりえる。特に狂っていて認める事が出来ないバーサーカーには天敵。マスターがいる場合、相手がどんなに罪があろうと分身出来る数はマスターの魔力量に限定される。オルガマリーだと100体が限度。

 

 

概要

 第四特異点ロンドンを覆った魔霧によって召喚されたチェイサーのサーヴァント。触媒は濃霧とオルガマリーの自罰意識。成人男性の様な身体に袖がないトレンチコートのような白い衣装を身に纏い、黒い長靴と白いゴム手袋を着用し赤い角錐状の兜を身に着けた異様な姿をしており、目標を捜して罪人やゾンビを惨殺しながらロンドンの街を徘徊していた。

見境の無い凶暴性と嗜虐性を有しており、手にした槍による連続攻撃や、身の丈ほどもある大鉈による即死攻撃を繰り出す。強固な兜は破壊不可能であり肉体も鈍間だが頑強で、スキルも相まってほぼ完全に不死身。最大の弱点は魔力切れ。

 

 とある錆びれた湖畔の町(サイレントヒル)にある「霧の日、裁きの後」と言う絵画に描かれた処刑人が、サイレントヒルの「力」で断罪の化身として実体化した存在。人間ではなく知性があるかどうかも怪しく、厳密には英霊ですらなく「幻霊」と呼ばれる存在に近い。その在り方から、マスターがいようとなかろうといずこかの時間軸のジェイムス・サンダーランドをマスターとしていて、「もう一人のジェイムス」の姿を取る。罪を自覚していないマスターに召喚された場合容赦なく襲いかかる。

 

 人理焼却の首謀者ソロモン王の行いに自身の必要性を感じており、個人的にもジェイムスとの戦いを無かったことにされた怒りに打ち震えカルデアの召喚に応じる。罪人が目の前にいる場合問答無用で暴れ出すが、潔く罪を自覚し人生を懸けて贖罪しようとする者に対しては忠誠を誓い、手足となって外敵を討つ「精神的な守護者」である。その実態は第四特異点の最終局面にて発揮され、マスターをジェイムスからオルガマリーに移行。心の中にいるもう一人のオルガマリーの姿を取り、オルガマリーの贖罪がために力を貸した。オルガマリーに召喚されるとこの時の姿を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジル・バレンタイン

 

クラス:弓兵(アーチャー)

真名:ジル・バレンタイン

性別:女性

出典:バイオハザード3(ラクーンシティ崩壊事件)他

地域:アメリカ

属性:秩序・善・人

イメージカラー:青

特技:ピアノ演奏

天敵:アルバート・ウェスカー、ネメシス

CV:湯屋敦子

 

ステータス:筋力C 耐久D 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具B

 

スキル

・対魔力(T-ウィルス)E:クラススキル。魔術に対する抵抗力だが魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する他、T-ウイルスに対して完全な抗体を持っており感染しない。

 

・仕切り直しC:戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。体力を全快近く回復させるハーブを多数持ち合わせている。

 

・射撃C:銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術。ハンドガンとマシンガンのリロードを素早く行える。

 

・緊急回避B:敵を視認していれば攻撃される瞬間に回避できる能力。クイーン・ゼノビアではこの能力を駆使してウーズの群れから逃げ切った。

 

・キーピックC:手先が器用で鍵の解除が可能。

 

・悪夢からの生還者B-:心眼(真)と酷似したスキル。洋館事件とラクーンシティ事件の生還者。窮地に追い詰められた時に真価を発揮し、襲い来る外敵の動きを読み、卓越した判断力から最適解を得て実行する事が出来る。ただしあまりにも多い物量には意味を成さず、逃げ出せば高確率で逃走に成功する。

 

 

宝具

詰め込まれた道具箱(アイテムボックス)

ランク:C

種別:空間拡張接続宝具

 ダビデの契約の箱(アーク)と同じく彼女の召喚と同時に複数個が半径五キロにランダムに設置される特殊な宝具。その内部は全て謎空間で繋がっており、内部では時間が止まっており爆発物などでも安全に保持される他、一度入れて別の場所から取り出す事も可能で無尽蔵に収納できる。

設置されるのは人気の少ないところか、休憩所のような場所が多く、ジルは武器・弾丸などを最大六個までしか持てない上に、所持しているマップには自動的に現在居るエリアが描かれるためそれを元に探さないと行けないというデメリットが存在する。

 

 

無限の弾丸(アンリミテッド・ガン・バレル)

ランク:B

種別:対B.O.W.宝具

由来:バイオハザード3の隠し武器及び、シリーズ恒例「無限弾丸」から

 アーチャーとしてのジル・バレンタインの宝具。ラクーンシティから脱出する際に見付けた、軍が使用したと思われるガトリング銃で拾ってすぐにゾンビの大群相手に使用したが、あまりにも強い反動と重量から殲滅した後にその場に残してきたものが何故か宝具になったもの。魔力が続く限り文字通り無限の弾丸を連射し続ける事が可能という破格の性能を持ち、B.O.W.に対してはダメージ値がプラスされる。

詰め込まれた道具箱(アイテムボックス)から取り出す際に所持枠を全て圧迫するため全部のアイテムを預けるというデメリットの上で使用可能となるため、使用中は回復不可能でさらに移動も制限される他、一分以上撃ち続けるとオーバーヒートを起こしてしまい銃身の冷却を待つ必要がある。名前は似てるが某無限の剣製とは無関係。

 

 

概要

 第四特異点ロンドンを覆った魔霧によって召喚されたアーチャーのサーヴァント。召喚直後に移動したためパラケルススの接触は受けず、フランケンシュタイン博士に出会い状況を知ると探索を続け、アンデルセンと合流後は行動を共にしていた。バイオハザード解決の先輩として立香とオルガマリーをサポートする。

 

 元ラクーン市警特殊部隊「S.T.A.R.S.」アルファチームのRS(リア・セキュリティ)を務めた隊員。元陸軍所属で特殊部隊デルタフォースの訓練過程を修了しており、後方の援護他、爆発物の処理に長けている。

ラクーンシティ脱出後は対バイオテロ組織「B.S.A.A.」を創設したオリジナル・イレブンの一人として活動。ヴェルトロ復活事件の際にはパーカーと共にクイーン・ゼノビアに乗り込んで解決に導いた。

 

 冷静な性格で非常に強い精神力を持ち、正義感が強い。また、洋館事件でショックを受け過ぎたためかアグレッシブな行動をとる。天敵であるアルバート・ウェスカーとネメシスはいずれも因縁の敵であり、一人では決して勝てない。ラクーンシティ事件にてネメシスに一度敗北しており、その際高濃度のT-ウイルスを打ち込まれ行動不能になるも、カルロス・オリヴェイラの尽力で復活しT-ウイルスへの完全な抗体を得た。

アーチャーのクラスではラクーンシティ事件時の姿で召喚された。バーサーカーの適性もあるが、その際は全く別の姿と在り方で召喚される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネメシス

 

クラス:追跡者(チェイサー)

真名:追跡者(ネメシスT-型)

性別:男性

出典:バイオハザード3(ラクーンシティ崩壊事件)

地域:アメリカ・ラクーンシティ

属性:中立・中庸

イメージカラー:黒

特技:偏差射撃

天敵:パラケルスス、ジル・バレンタイン

CV:奈良徹

 

ステータス:筋力B 敏捷D+ 耐久C+- 魔力E 幸運C 宝具C

 

スキル

・追跡開始(S.T.A.R.S.)A:クラススキル。S.T.A.R.S.の一員である目標を見定めると敏捷と耐久のステータスが二段階上昇する。また、メンバーと接触しているものや自身に攻撃を行う者も容赦なく目標と認識する。

 

・追跡続行(S.T.A.R.S.)A:クラススキル。目標のS.T.A.R.S.が健在の場合、戦闘不能になっても数分経てば仕切り直しして復活できる。ただし体力は半減。

 

・生物災害B:ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。バイオハザードの根源そのものたる特性。マスターがいなくとも顕現し続けることが出来る。高濃度のT-ウイルスを内包しており、捕らえた人間に打ち込んで確実に感染させる。例え耐性があってもアウト。

 

・恐慌の声C:聞くものの精神を弱らせる声を響かせ、対象に精神攻撃を行う。

スタアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッズ!!!!!!

 

・自己改造(NE-α)C:元々人体改造の極みであるタイラントをベースに寄生虫「NE-α」を埋め込まれており右腕を自在に触手に変形させる他、頭部に度重なるダメージを蓄積することでNE-αが発達、コートの上半身が破け、右手から複数の触手が生えてきて火器の携行は不可能になる代わりに戦闘力を増した所謂暴走形態になる。

 NE-α自体は戦闘力を持たない代わりに生物に寄生し、延髄で肥大増殖して新たな脳を形成、宿主の身体を乗っ取る能力を持ち、宝具真名解放時に真価を発揮する。

 

・射撃(重火器)A:銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術。ロケットランチャーとガトリングを使いこなし、偏差射撃までこなす。

 

・鋼鉄の黒衣A:タイラント系専用スキル。身に着けている対爆・対刃コート。銃・剣による攻撃を無効化し頭部にしか攻撃が通らない。暴走形態になるとコートが外れてしまう。鋼鉄製のため物理的に重い。

 

 

宝具

醜悪なる捕食変異(ネメシス・タイラント)

ランク:C

種別:対人宝具(己)

 度重なるダメージを受けた肉体のNE-αへの拒否反応から醜悪な異形への変容を繰り返し、他者の遺伝子or霊基を取り込んで第三形態に変異する自己変革宝具。致命傷を負うことで発動する再生能力+生存本能。

ラクーンシティの追跡劇における終盤にて、ゴミ処理場の処理液内に落とされ身体を溶かされた際に処理液に耐える事が出来るように肉体を変質させ、タイラントの死骸を捕食して肉体を修復・変異した出来事が宝具と化した物。

巨大化したNE-αの触手が四肢と頭部を形成しブリッジした醜悪な姿で、面影はほとんどないが、取り込んだ霊基の能力を用いることが出来る。ロンドンでは消滅間際のニコラ・テスラを取り込み「テスラコイルネメシス」に、さらに女王ヒルを取り込んで「リーチネメシス」と化した。

ゴミ処理施設に廃棄されていた試作型レールキャノン『パラケルススの魔剣』の一撃により肉体の大部分を喪失し、ジルのマグナムの連射で敗れたため、これを使われると敗北が確定する。英霊パラケルススの宝具でも代用可能。

 

 

概要

 第四特異点ロンドンを覆った魔霧によって召喚されたチェイサーのサーヴァント。ジルを触媒にして連鎖召喚され、カルデアからブラッドを立香達と共に「S.T.A.R.S.」として執着し追跡。その道中でジルと接触した人間にT-ウイルスを投与してゾンビを複数生み出し、女王ヒル召喚によるパンデミックのきっかけを起こした。ブラッドを排除したものの立香達に敗れて頭部を失うも追跡続行のスキルで存命したところをマーカスに回収されヒルで頭部を作られ言いなりになり「切札」として運用された。

 

 タイラントをベースに寄生虫「NE-α」を埋め込まれ改造されたB.O.W.の傑作。初期タイラント他B.O.W全般の欠点であった「知性の低さからくる制御不安定」を改善すべく作られ、タイラントの強靭な肉体に加えてNE-αによる知能向上により複雑な任務を理解し遂行できるほか、銃火器を扱い更に簡単な言葉を話す事が可能になった。

ラクーンシティ事件の最中にS.T.A.R.S.を抹殺するためにラクーンシティに放出され、ブラッド・ヴィっカーズを殺害しジル・バレンタインを追い詰めた。タイラントがベースなため凄まじい戦闘力とタフさを持ち合わせ、接近に持ち込むと相手の顔面をわしづかみにして持ち上げてもう片方の手から触手を突き出して相手の脳天を貫く即死攻撃を持つ。追跡者の名前の通り、どこに逃げようと追いかけてくる執念深さを持つ。

もしも召喚された場合、命令に忠実なサーヴァントとして召喚されるが、ジルなどの標的がいると暴走してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女王ヒル

 

クラス:狂戦士(バーサーカー)

真名:女王ヒル

性別:雌雄同体(ジャック・ザ・リッパー曰く「女」)

出典:黄道鉄道事件(バイオハザード0)

地域:アメリカ・ラクーンシティ

属性:混沌・悪

天敵:ビリー・コーエン、レベッカ・チェンバース、アルバート・ウェスカー、ウィリアム・バーキン

CV:平川大輔(若マーカス)、糸博(老マーカス)、新垣樽助(マキリ)、川澄綾子(アルトリア)

 

ステータス:筋力B 敏捷C 耐久EX 魔力C 幸運D 宝具C

 

スキル

・狂化EX:クラススキル。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿す。通常時なら意思疎通は可能。ただし天敵と相対すると理性がぶっ飛ぶ。

 

・陣地作成(ヒル)A:本来はキャスターのクラススキル。子供である変異ヒルを屋内の天井や壁に敷き詰めらせ、自らに有利な陣地を作り上げることができる。陣地を維持することで子供たちを増やし、擬態による分身を作ることが可能。また、変異ヒル同士が細胞を結合しているため強固でありそう簡単には壊せない。

 

・擬態EX:長年マーカスを観察し続けその姿に擬態する事を覚えた記録がスキルとして昇華された、変化とは異なる変身能力。数分、観察する時間さえあれば完全に擬態し、戦闘スタイル・武器・宝具まで再現できる規格外の代物。ただし宝具は1ランク格落ちし出力も落ちる。子供たちが集結して生まれた分身も擬態することが可能。

 

・生物災害A:ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。バイオハザードの根源そのものたる特性。マスターがいなくとも顕現し続けることが出来る。文字通り全てのバイオハザードの原点である怪物であり、洋館事件を起こした真犯人。彼女からT-ウイルスは生まれた。子供達を使ってT-ウイルスを感染させる他、ほとんど何も調整されてない始祖ウイルスを投与されているため、炎などの弱点を突く攻撃でも数秒で再生する上に耐久力は極めて高く、生前からロケットランチャーの直撃にも数発耐える程。

 

・千里眼(ヒル)C:遠方の標的の捕捉。自らの能力を用いた擬似的なもの。子供たちと視界を共有することが可能で、監視カメラのような芸当ができる。

 

・始まりの記憶A:自らの記憶にあるクリーチャーに擬態しその力を完全に行使できる。しかしその後に生まれたクリーチャーについては皆無であり、ウーズとモールデッドを突然変異したゾンビだと誤認していた。「バイオハザード0」及び「バイオハザード HDリマスター」に登場したクリーチャー全て完全再現できる。

 

 

宝具

我が子達よ集え、復讐するは我に在り(バイオハザード・ゼロ)

ランク:C

種別:対人宝具(己)

 奥の手である女王ヒル第二形態へ。更に大量の変異ヒルを吸収して細胞増殖と共に肉体構造を完全に組み替え、同時に肉体のリミッターを解除して巨大化した、より異形かつ醜悪な姿。変身と同時にダメージを完全回復するが、自重に耐え切れず四つん這いに移動する。

変異ヒル同士が強固に細胞を結合していることにより凄まじい耐久力を持つ他、背中の孔から地面を溶かしサーヴァントの武装すら浸透する強力な毒液を撒き散らしながら、巨体に似合わぬ素早い動作で体当たりを行う。

 

 

概要

 ロンドンに現れたゾンビに対する抑止力としてマキリが召喚してしまったバーサーカーのサーヴァント。数々の偶然が重なり触媒となって召喚され、願いを叶えるべくマキリを殺害して擬態して成り代わり魔術師「M」としてPとBを操って魔霧計画を進行させていた黒幕。サーヴァントでありながらマスターである稀有な存在であり、パラケルスス、バベッジ、ネメシス、テスラを操った。

 

 アンブレラ創立のメンバーの1人で幹部養成所の初代所長であるジェームス・マーカスが始祖ウイルスを蛭に投与して作り上げた変異ヒルの群れを統率する当確個体で、死亡直後のジェームス・マーカスの体内に侵入し10年の歳月をかけてDNAを取り込んだことで、記憶や思考をコピーし極めて高い知性とマーカス本人の全てを手にした事で女王ヒルに進化し仮初めの自我を得た。普段は「かつての若く美しい姿でいたい」というマーカスの願望により大学時代のマーカスの姿に擬態しているが、真の姿は無数の変異ヒルと融合した人型のヒル人間。高い知性を持つのだが、脳筋思考なため使いこなすことが出来ず頭が悪い。

 

 本物のジェームス・マーカスは養成所の社員達を実験台にする残虐非道な研究でT-ウィルスの開発に成功するも、ウィルスを巡るアンブレラ社内の権力闘争によりアンブレラ総帥オズウェル・E・スペンサーに裏切られ、愛弟子のウェスカーとバーキンに暗殺されたが、その際に研究されていた当確個体の変異ヒルが死体の体内に侵入して10年後に女王ヒルに進化、父であり自分でもあるマーカスを闇に葬ったスペンサーとアンブレラへの復讐のためにt-ウィルスをばら撒いてバイオハザードを発生させ洋館事件を起こした。それだけでは気がすまず「この世に災いをもたらし全てを地獄の炎で焼き尽くす」というマーカスが抱いた復讐を成し遂げようとするも、偶然巻き込まれてしまったレベッカとビリーに敗れた。

 

 変異ヒルはジェームス・マーカスがヒルへの異様な愛情で始祖ウィルスの品種改良実験を繰り返して生まれた。全長20センチで身体の上部に目を思わせるレンズ状の組織があるのが特徴で、下部の吸盤に鋭い牙が並ぶ口があり、獲物の血液を肉ごとかじり取り致命傷を与えた上に高濃度のウィルスが傷口から体内に入り込んでしまうため、襲われると高確率でゾンビ化する。また、無数に集まることで生みの親であるマーカスなどに擬態することができ、ヒル同士が特殊な液体を分泌してお互いの皮膚に浸透させて接着剤のように用いることで強固に結びつく他、顔のしわや衣服の模様まで再現する。

 弱点は日光と高熱と硫酸。硫酸や高熱でヒルの結合を緩み、極めて高い細胞への浸透性を持つため日光による紫外線を浴びると細胞を直接焼かれて結合が緩んでしまい弱体化する。

 

 女王ヒルがレベッカとビリーを恐れて捨てるまで「マーカスの意思」はあったが、今や仮初めの自我は単なる模倣でしかなく、父親への愛情と復讐心だけが原動力であり、復讐心に見せかけた空っぽの自我しか持たないため、自分が何者なのかもわからずマーカスが最期に抱いた世界への復讐に盲目的に追いすがるしかなかった空虚な怪物である。もしもサーヴァントとして召喚されたならば刷り込みでマスターを父と呼び慕う。ロンドンに集ったモードレッド、ジャック、フラン、エヴリンと言った「親を求める子供」達の1人であった。

 




 立香と邂逅直後のエヴリンが殺意マシマシだったのはアヴェンジャーの人格が混ざっていたためでした。「殺そう」とは言う物の絶対殺したくないエヴリン・オルタです。宝具の詠唱は7のテーマソングをそのまま使う訳にもいかないから直訳を少しアレンジしたものでした。あと意外にもステータスはディーラーにも負ける最弱っぷりです。

▲様は改めて設定を纏めました。イメージはサーヴァントになった幻霊。特殊なうえに不安定なサーヴァントです。ちなみにチェイサーのクラスシンボルは鋏で、クラスカードの絵柄はシザーマンだったりします。初登場時に描写しましたが気付けた人はいたのかどうか。

ジルの設定で、パーカーの時記載された「悪夢からの生還者」がバイオハザード主人公特有のスキルだと判明しました。緊急回避とキーピックはどうしてもスキルとして加えたかった。

実はさらっとテスラを取り込んだ際に発動していたネメシスの宝具名がやっと登場。ろくに喋らないキャラなので宝具名を言えない悲しみ。バレンタインでもネタになった「鋼鉄の黒衣」はナイチンゲールの「鋼鉄の白衣」が元ネタ。

女王ヒルの宝具名もやっと登場。ウェスカー、ノーマンと同じ系譜。サドラーと同じ強いのか弱いのかよく分からない宝具です。耐久はG生物と同じ規格外のEX。始祖ウイルスを用いた最初のB.O.W.は伊達じゃない。マキリの声は息子の間桐鶴野のものをイメージ。

こんな設定ですが感想や意見をいただけると嬉しいです。次回の設定はサーヴァント×B.O.W.…つまりは変異ナーサリー、テスラコイルネメシス、リーチネメシスです。そして監獄塔編、その後に特異点攻略半分まで来たので立香やオルガマリーなどの設定をまとめようかと思ってます。


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ロンドンの変異サーヴァントだストレンジャー

ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、つい先日、鋸と金槌とバールのようなものを振り回して棚やら解体してストレス発散したり、まだ21歳なのに整骨院でマッサージ受けたり、その帰りにカルデアエースvolume2を買ったり変に充実した一日を送った放仮ごです。ストレス発散していた光景を見ていた人から奇声を上げて笑いまくってたバーサーカーだったと言われました。

今回は第四特異点:死界魔霧感染都市ロンドンシティに登場した変異サーヴァントの詳細です。一年ぐらい書いてたはずなのに、なんと実質二人だけ。意外と少なかったです。

よければどうぞ、見て行ってください。


変異ナーサリー・ライム

 

クラス:魔術師(キャスター)

真名:ナーサリー・ライム

性別:女性

出典:イギリス童話

地域:欧州

 

ステータス:筋力A 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具‐

 

スキル

・生物災害E:『どうか燻り狂えるバンダースナッチに近寄らないで。ああ、ああ……楽しいわ楽しいわ楽しいわ!』ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。バイオハザードの根源そのものたる特性。マスターがいなくとも顕現し続けることが出来る。感染したてのためランクが低い。自らとバンダースナッチが作った傷口からT-ウイルスを他者に感染させる他、魔霧から魔力を吸収して無尽蔵にバンダースナッチを召喚可能。

 

・陣地作成A:『小さな扉、くるくるお茶会、白黒マス目の虹色草原、お喋り双子の禅問答。でもでも、お気に入りはやっぱり一つ。全てを忘れる、名無しの森にご招待!』魔術師として自らに有利な陣地「工房」を上回る「神殿」を物語を演出する舞台として作り上げる。変異後は腕を広げた範囲から「新しいお友達」であるバンダースナッチを永遠に召喚し続けることが可能。

 

・一方その頃A:『頼れる仲間と船に乗り、旅は始まり前途は多難。先に待つのは希望の出会いか悪意の罠か。それはともかくあちらの事情は興味津々。他人の秘密は蜜の味。それでは、世界の裏側へご招待!』

 

・自己改造A:『自身の肉体にまったく別の肉体を付属・融合させる適性。このランクが上がれば上るほど正純の英雄から遠ざかっ、カカ、かかか関係ない関係ないそんなのまったく関係ない! 何であろうときっかけ貴方の注文通り!』皮肉にもT-ウィルスを身体に馴染ませ変異の進行を早めている原因となったスキル。これが原因でゾンビ化することなくB.O.W.の形をとる。

 

・変化A+:『変身するわ、変身するの。私は貴方、貴方は私。変身するぞ、変身したぞ。俺はおまえで、おまえは俺だ。』文字通り「変身」するスキル。これを用いて下記の第ニ形態へと進化した。

 

 

宝具

何時か私たちが逢う為の寓話劇(ナーサリー・ライム・グラン・ギニョル)

ランク:-(正確には宝具じゃないため)

アリスがありすに会うための道程。ありすがいなくて寂しくて、悲しくて。痛くて、悔しくて。ありすがいなくてジャバウォックがいないから負けるなら、私がジャバウォックになればいい。

誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)なのか血生臭い大衆芝居(グラン・ギニョール)なのか、自らが何なのかさえも見失い、錯乱して一つにしてしまった魔本の末路。第二形態へ移行する。

 

 

概要

 第四特異点ロンドンを覆った魔霧によって召喚されたサーヴァントもどきである概念英霊『魔本』が、アンデルセンが名付けた「誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)」をジル・バレンタインが呼んだことで少女の姿で実体化したキャスターのサーヴァント。炎・氷・風の属性を操り、メルヘンな菓子や人形を出して爆発させる戦法を取り、ジルの冷凍弾・火炎弾・硫酸弾といったグレネードランチャーを無効化する。元々有していた宝具は凶悪の一言だが、T-ウイルスの影響で正気を失い使用不可能になり。便宜上「変身」が宝具になっている。

 

 存在そのものが固有結界であり、マスターの精神を映し出す特性を持つ。魔本の状態で閉じ込められていた古書店にて侵入してきてジルに返り討ちにされたゾンビの返り血が染み込み、T-ウイルスに感染してしまった。

実体化前は物理攻撃が通じない魔力の塊としてソーホーエリアの人間を眠らせてマスター捜しを行い、実体化後は自分を「アリス」と称し、ウェストミンスターエリアにて「ありす」と呼ぶ誰かを探して徘徊し、「ありすを捜す邪魔をする」と勘違いして橋の上でジルと交戦、追い詰めるもジャックに右腕を斬りとばされ、セイバーオルタに切り捨てられ…

 

 変異直後は目が赤く光りバンダースナッチを召喚するのみだったが、スキルの影響もあり変異が進んで幾等でも伸ばせる人形の様な球体関節が沢山ある人形の右腕を持つ異形の姿と化した。この人形の腕はナイフを突き刺したら血が出るのだが、ダメージが通らないほど痛覚が失われている。キャスターに見合わぬ怪力で敵の首を掴んで締め上げる他、バンダースナッチを召喚し続けてジルを追い詰める。力を行使するたびに正気を失っていき、最終的には玩具で遊ぶ殺戮を愉しむ様になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナーサリー・ライム・グラン・ギニョル

 

クラス:魔術師(キャスター)

真名:ナーサリー・ライム

性別:女性

出典:イギリス童話

地域:欧州

 

ステータス:筋力A 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具C

 

スキル

・生物災害D:変異ナーサリーと同上。よりB.O.W.に近くなったことでランクが上昇している代わりに魔力と幸運のランクが低下している。

 

・陣地作成A:変異ナーサリーと同上。この形態の場合「繰り返すページのさざ波、押し返す草の栞──すべての童話は、怪物たちは、お友達よ!」と人形の腕の指を振るいながら詩を謡う詠唱を必要とする他、鎌以外の四本の腕が伸びた範囲全てが「神殿」と認識される。

 

・首狩りA:B.O.W.の一つであるハンターの即死技。斬りとばされた右腕の肘から伸びた、ジャバウォックS3のそれを模した鋼鉄並みの硬度を持つ大鎌のような爪を用いて、高速で移動しつつ首を刈り取る。

 

・精神汚染A+:T-ウィルスの影響で知性・記憶の欠落と急激な代謝促進で極度の飢餓感が生じており精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。猟奇殺人などの残虐行為を率先して行う。

 

 

宝具

永久渇望機関・死に際の少女帝国(クイーンズ・タイラント・グラスゲーム)

ランク:C

種別:対己宝具

『恋しいアナタ(ありす)と寂しいワタシ(アリス)、一つの夢を繋ぎましょう――物語は永遠に続く。か細い指を一頁目に戻すように。あるいは二巻目を手に取るように。貴方達に終わりはないわ。みんな一緒に終わりましょう?』

元々はありすという少女のために用意されたおとぎ話でナーサリーライムの宝具ではなく、自身や創造物の時間を巻き戻す「明日を拒絶し、同じ今日を永遠に繰り返す」力だったが、T-ウィルスの影響で変容した物。

 生への渇望を感じた死に際に発動する、一種の暴走形態。死ぬ間際だという現実を拒み、自らの世界に引き籠もることで尋常じゃない再生能力を得て第三形態へと移行し、ありすを探し求める「手」を伸ばす。血まみれた絵本、みんな忘れた物語。

 

 

概要

 立香達が駆けつけたことにより逆に追い詰められ、苛立ってスキル:変化を使用し自らが何なのかさえも見失った変異ナーサリーの成れの果てである第二形態。頭部と両足はそのままなのだが、ジャックとセイバーオルタに致命傷を負わされたことでT-ウィルスが活性化した胴体が異様な変異を起こした。

ジャックに斬り飛ばされた右腕の肘から枝の様に分岐して鎌の様な爪を持った腕とバンダースナッチのものに酷似した伸縮する剛腕を、左腕はいくつも球体関節を増やして伸びた人形の腕を、斬り裂かれた胸部と背部の傷口から、胸部側に伸びる人形の腕を、背部からバンダースナッチの剛腕を、右腕と背部の二つの剛腕で自らの小さな体を支えて持ち上げて移動する、五本の腕を持つ蜘蛛みたいな完全な異形と化している。

 

 六体のサーヴァントを相手にして圧倒する多彩な能力の強大な戦闘力を持つ。二本の剛腕を動かして高速で橋を這いまわって攻撃を回避し不意打ちを繰り返す、「嬉しいわ楽しいわ悲しいわ楽しいわ寂しいわ楽しいわ愉しいわ!」を始めとした大声で連呼して周囲のゾンビを集めたり、バンダースナッチを永遠召喚したり、人形の腕を伸ばして首を掴んで締め上げたり、人形の腕を伸縮して鞭の様に使って薙ぎ払ったり、バンダースナッチの腕で押し潰す、鎌で首を刈るといった即死攻撃や、炎で弱める、氷で銃を凍らせて使えなくする、風で体勢を崩す、と三つの属性攻撃で妨害するなど、歴戦の戦士であるジルでさえ大苦戦させ、巨体を持つジャック・ベイカーであっても玩具扱いで取っ組み合いしキャットファイトするなどやりたい放題。

 

 弱点は有してない属性である電撃と、攻撃手段でもある人形の腕であり、特に人形の腕は耐久力が脆く破壊されるとほとんどの能力を使用不可になるが、休むことなく高速で移動する上に非人間の動きなため動きが読めず、まず当たらない。変異していない頭部と足は一応弱点なのではあるがゾンビのそれと同じになっていて、例えマグナムが当たっても血が出るだけでろくに怯まない。脚に至ってはジャック・ベイカーと取っ組み合いする己の胴体を水の中で支えるばかりかピョンピョン跳ねるなど足腰も強い。また、腕を使って軽々跳躍するが、着地直後に一瞬硬直するのも弱点。

 

T-ウイルスの影響で思考が幼児化しており、徐々に理性を失って子供の癇癪の様に暴れ回ったり興味が直ぐに移ったり、最終的に「愉しいわ愉しいわ愉しいわ!」と連呼し遊ぶことを心の底から愉しんでおり、「ありす」を捜すことより遊ぶことを優先していたが、ジルの宝具で痛みを感じて孤独の寂しさを思い出したことで半分正気に戻るも、すぐに痛みから引き攣り始めた笑顔を張り付けたまま半狂乱と化してしまう。

 

 生への渇望から宝具を発動。今まで移動に使っていたバンダースナッチの腕を防御も兼ねた攻撃に転用し、祈る様に跪いたその小柄な体躯から、質量を無視したバンダースナッチの腕二本と、新たに一本背中の傷口から生やした人形の腕三本、鎌を備えた球体関節の腕を一本、縦横無尽に駆け巡らせてタコの様に暴れる第三形態に移行。

立香達を道連れにしようとするが、巨腕を足代わりにする必要上、右腕側を下にして前に向けて、左腕側を後ろに回しているため、巨腕二本とその間に生えた鎌を前にしていて、どうしても顔が左側を向きやすく、右側に視線をやるには首をぐるっと回す必要があり、元が人型で自我をある程度残しているが故にどうしても死角が右側に生じてしまうことを立香に看破されてジャックの宝具でバラバラに切断され水没、自らの惨状に気付いて消滅を受け止め、案じてくれた立香に小さな笑みを浮かべてその心情に変化を促しながら消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テスラコイルネメシス

 

クラス:弓兵(アーチャー)

真名:追跡者(ネメシスT-型)

属性:混沌・中庸

天敵:パラケルスス、ジル・バレンタイン

CV:奈良徹&稲田徹

 

ステータス:筋力A 敏捷B 耐久A 魔力B 幸運C 宝具‐

 

スキル

・生物災害B:ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。バイオハザードの根源そのものたる特性。マスターがいなくとも顕現し続けることが出来る。高濃度のT-ウイルスを内包しており、捕らえた人間に打ち込んで確実に感染させる。例え耐性があってもアウト。

 

・恐慌の声C:聞くものの精神を弱らせる声を響かせ、対象に精神攻撃を行う。

カルデアァアアアアアアアアッ!!!

 

・ガルバニズムA:生体電流と魔力の自在な転換、および蓄積。魔光、魔風、魔弾など実体のない攻撃を瞬時に電気へ変換し、周囲に放電することで無効化する。また、蓄電の量に応じて肉体が強化され、ダメージ修復も迅速に行われるようになる。生命活動を肉体に宿る電気で説明するガルバニズムの概念は、フロギストンやエーテルと同じく、錬金術のカテゴリーに属している。

 

・対魔力C:魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

 

 

宝具:無し

 

 

概要

 ネメシスとテスラ、二体の英霊の霊基を併せ持つサーヴァント。ジル・バレンタインに敗北したもののとどめを刺されず消滅を免れたネメシスが、女王ヒルの「保険」として変異ヒルにより再び頭部を形成されて復活、宝具「醜悪なる捕食変異(ネメシス・タイラント)」を使用し、敗北したものの令呪の影響で消滅を免れていたニコラ・テスラを取り込んだ姿。

両肩から伸びた一対の電極が蒼雷を迸らせるネメシス第三形態と言った姿をしており、クラスがアーチャーへと変容している。放電し続けながら突進する、電撃を帯びた触手を伸ばす、電撃を飛ばすなど攻撃は多彩。ウェスカーを一撃で倒してしまう強さを持つ。

 

 元々はテスラが倒された際に、その死体が消えるまでに取り込んで自分の言う事を聞く従順な最後の鍵を得て、魔霧の中心で放電を放たせるというのが女王ヒルの「保険」だったのだが、ウェスカーの出現で女王ヒルが狂乱状態に陥った挙句にアンリマユに敗北してしまい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーチネメシス

 

クラス:狂戦士(バーサーカー)

真名:追跡者(ネメシスT-型)

属性:混沌・悪

天敵:パラケルスス、ジル・バレンタイン

CV:奈良徹&稲田徹&平川大輔&糸博&新垣樽助

 

ステータス:筋力A 敏捷A 耐久EX 魔力B 幸運C 宝具‐

 

スキル

・生物災害B:ビーストクラス等が保有するスキル、単独顕現に酷似したスキル。バイオハザードの根源そのものたる特性。マスターがいなくとも顕現し続けることが出来る。高濃度のT-ウイルスを内包しており、さらにほとんど何も調整されてない始祖ウイルスを投与されているため、炎などの弱点を突く攻撃でも数秒で再生する上に耐久力は極めて高くなっている。

 

・恐慌の声C:聞くものの精神を弱らせる声を響かせ、対象に精神攻撃を行う。

カルデアァアアアアアアアアッ!!!

 

・ガルバニズムA:生体電流と魔力の自在な転換、および蓄積。魔光、魔風、魔弾など実体のない攻撃を瞬時に電気へ変換し、周囲に放電することで無効化する。また、蓄電の量に応じて肉体が強化され、ダメージ修復も迅速に行われるようになる。生命活動を肉体に宿る電気で説明するガルバニズムの概念は、フロギストンやエーテルと同じく、錬金術のカテゴリーに属している。

 

・対魔力C:魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

 

・擬態EX:変化とは異なる変身能力。数分、観察する時間さえあれば完全に擬態し、戦闘スタイル・武器・宝具まで再現できる規格外の代物。ただし宝具は1ランク格落ちし出力も落ちる。子供たちが集結して生まれた分身も擬態することが可能…というか、この姿だとむしろ子供たちに擬態させることしか出来ない。

 

・始まりの記憶A:自らの記憶にあるクリーチャーに擬態しその力を完全に行使できる。しかしその後に生まれたクリーチャーについては皆無であったが、ネメシスの記憶も共有されたため「バイオハザード0」「バイオハザード HDリマスター」に加えて「バイオハザード2」「バイオハザード3 last escape」に登場したクリーチャー全て完全再現できる。

 

 

宝具:無し

 

 

概要

 ネメシスとテスラ、さらに女王ヒルの三体の英霊の霊基を併せ持つサーヴァント。しぶとさなら最強のB.O.W.をイメージして誕生した悪魔の怪物。生存本能の赴くままにテスラコイルネメシスが死ぬ間際だった女王ヒルを捕食し、取り込んだ姿。女王ヒルとテスラ自身は既に消滅したものの、執念から女王ヒルの意識が中心になっている。

 

 女王ヒルとネメシス、二つの首の間にテスラコイルが突き刺さり、様々な生物を無理やり融合したような姿の多数の手で地を踏みしめる肉塊の如き、両肩どころか体中に電極が突き刺さった実験体の様な風貌で多数の手を伸ばし、二首の間の背にはボロボロの服を纏った上半身だけとなった赤い目のニコラ・テスラが生えている、不恰好で醜悪な姿の怪物。マーカスとテスラ、二人の天才の頭脳を有しテスラの口で喋る。

テスラコイルに両手をかざして放電することで、全ての電極に伝達した大放電で宝具級の電撃波を放射する他、電撃・毒液・ヒルの塊を放出する、変異ヒルが擬態したB.O.W.を形成する、触手で攻撃する、全ての腕の掌に毒液をにじませ融解させて登る絶壁踏破能力、追跡者の執念深さと多数の能力を持ち合わせているのだが弱点ができてしまい、天敵さえいなければ強敵なのだが、天敵が揃ってしまうと弱くなるサドラータイプのラスボス。

 




ナーサリー・ライム・グラン・ギニョルは、正直言って自信作でございます。我ながらよくできた。

リーチネメシスは…もっと強くできたはずなんだ。今回の四つは、オケアノスのメンツと違って、この一年で新しく知ったホラーゲームやゲームのクリーチャーたちが元になってます。サイコブレイクとかサイコブレイク2とかthe forestやらバイオハザードマルハワデザイアとかバイオハザード6とかリベレーションズ2とかダムネーションとか。ガイデンまで知り尽くしたのでもはやバイオハザードに死角なし。

こんな設定ですが感想や意見をいただけると嬉しいです。次回はついに監獄塔編!やっと書ける。ソロモン戦でだいぶ消耗したので五章に色々新しい仲間サーヴァントを出したいので、そのための閑話となります。ちょっとだけ以前書いた「ウェルカム!ディーラー」に載ってたり。待て、しかして希望せよ。


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バイオハザードクロニクルズ 監獄塔に復讐鬼は哭く
アンタの知らない秘密だストレンジャー


ウェルカム!ストレンジャー…どうも、21歳にもなってようやく就職できた放仮ごです。四月から働き始めるので、投稿スピードが落ちるかもしれないことをご了承ください。むしろ集中力が上がって投稿スピードが上がるかもですが。

今回から四章と五章の間、イベントである監獄塔編です。ロマニが解き明かした立香の秘密が明らかになります。楽しんでいただけると幸いです。


 それは、立香、ディーラー、マシュ、オルガマリーがロンドンから帰還してすぐのことだった。

 

 

「お帰り、四人とも。今回も無事…とは言い難いけど、とにかくよかった」

 

「立香ちゃん!さっそくで悪いが君は治療と検査だ!所長とマシュも後から検査を受けに来てくれ!レオナルド、あとはよろしく!」

 

「え、え?」

 

 

コフィンに出迎えに来たダ・ヴィンチちゃんからねぎらいの言葉を受けたかと思えば、ロマンが立香の手を掴み問答無用で連れて行った。彼らしからぬ強引な早業に目を白黒させるオルガマリーとマシュ。ディーラーはやれやれと肩をすくめた。

 

 

「…ロマニ、自分を過小評価しすぎのチキンだからてっきり元気がないと思っていたんだけど」

 

「心配無用だったみたいですね…?」

 

「いやなに、さっきまであまりのショックに駄目になってたんだけどね。立香ちゃんの状態データを見た途端あれさ。異常しかないらしい。血が足りない筈なのに問題なく動いている、とかね」

 

「ストレンジャーの状態が異常なのは確かだ。止血帯でさえ止まらない量の血が流れたはずなのに元気にソロモンの野郎にナイフを突き刺していたからなあ?」

 

「ディーラーから見てもそうか。だが感染したとしても何時だ?…逆にオルガはマシュに支えられてないと立つのも無理そうだけど」

 

「魔力枯渇よ。ちゃんと休めば回復するわ。それよりも、清姫は?アルトリアは?ネロは?みんな無事に帰還してる!?」

 

「それなら問題ない。さすがにダメージが尋常ではなかったからかまだ意識は戻ってないがマスターの君が側にいたらすぐにでも回復するさ。無論、立香ちゃんのサーヴァントもだ」

 

 

それを聞いて胸をなでおろすオルガマリー。また、自分の采配でやられてしまったのだ。もし何かあれば悔やんでも悔やみきれない。ディーラーも嬉しそうに笑った。

 

 

「そいつはよかった。オルタのところに冷やかしでも行くか、見舞いの品でも持っていこう」

 

「サーヴァントのアフターケアは君に任せたよディーラー。さあ、後処理は私たちに任せてオルガとマシュ、君たちは休みたまえ。ちゃんと検査も受けるんだよ、清姫とモードレッドが初期感染していた未知のウイルスに感染してないとも言い切れないからね」

 

「分かってるわ。…ウィルスの恐ろしさは、四つの特異点で嫌というほど味わってきたもの」

 

「第一特異点のプラーガ。第二特異点のG-ウイルス。第三特異点のt-Abyss。そして第四特異点のT-ウイルス。おそらくだが、現代の英雄達でもここまでの種類と全部戦ったって奴は居ないだろうラインナップだ。個人的には南極に保管されたって言うt-Veronicaって言うのが無いだけマシだがね」

 

「「!」」

 

 

オルガマリーの言葉に頷いたディーラーのこぼした言葉に反応するオルガマリーとダ・ヴィンチちゃん。その視線は、何かに焦っているようだった。取り繕ったダ・ヴィンチちゃんが恐る恐る尋ねる。

 

 

「南極だって?」

 

「ああ。レオンが共にラクーンシティを生き延びたクレアって嬢ちゃんが出くわした強力なウイルスらしい。感染力はそこまでないが、危険性ならピカイチだ。だが、今は2015年…の12月ぐらいだろう?確か、それが保管されていたアンブレラの南極基地は1998年の12月に崩壊したらしいから問題はないだろう」

 

「…確かにそれなら問題ないわね。そうよね、ダ・ヴィンチ?」

 

「ああ、大丈夫だとも。だがそのウィルスはこれからのいずれかの特異点で出現する可能性が高い。何か対策は作っておくべきだね。そこは任せたまえ、対B.O.W.兵器でも考案しよう」

 

「ああそれなら、余っているジャンクはあるか?俺も作りたいものがある」

 

「もちろんだとも。君の新作か、興味深いねえ」

 

 

そう言って語り合いながら共にダ・ヴィンチちゃんの工房に向かって行く二人を見送り、オルガマリーとマシュは顔を見合わせた後、苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ロンドンから帰還して一日たった頃。立香とマシュとオルガマリーの検査が終わり、ゆっくり休養を取っている間の事だった。

 

 

「…これは、まさか」

 

「どうしたんだいロマニ?」

 

 

モニターとにらめっこしていたロマンに、近くで魔術礼装の調整をしていたダ・ヴィンチちゃんが訪ねた。モニターには立香のデータが映っている。

 

 

「いやね、立香ちゃんと所長とマシュの三人が変なウイルスに感染してないか検査したんだけど…何故、この可能性に行きつかなかったんだ…」

 

「だから、なにさ?生憎プラーガのメカニズムはともかくウイルスに関してはさっぱりだよ」

 

「立香ちゃんはハーバードヴィルでバイオテロに遭った際、T-ウイルスに感染したけどワクチンを打たれたというのは前に話したよね?」

 

「ああ、うん。何かおかしいところでも?」

 

「…そのワクチンの影響で分からなかった。それが、今回致命傷を負ったことで表に出て来たんだ」

 

 

ソロモンの攻撃からエヴリンを庇ったことで負った致命傷。それでもディーラーに止血帯を巻かれ懸命に治療されたとはいえすぐに回復し、特攻して返り討ちに遭いさらに重症を負った立香。なのに、帰還する頃にはほぼ全治と言ってもいい状態だった。そのメカニズムの正体にロマンはいきついたらしい。

 

 

「いいかい、今からする話はどれもこれもトップシークレットだ。僕と君、そして所長にしか知られてはならない」

 

「そこまでか。もちろんだ、ドーンとこの天才に任せたまえ」

 

「よし、なら言おう。答えは簡単だった。立香ちゃんは、データに存在する1000万人に1人の確率で存在すると言われている、T-ウィルスに感染しても脳細胞や肉体に劣化が全く起きない、ウィルス完全適応者の可能性が高い」

 

「…なんだって?」

 

 

元々、遺伝子による相性が原因で10人に1人の割合でT-ウィルスに対する生来完全な抗体を持った人間が存在する。いわゆる、噛まれても平気な人間である。ジル・バレンタインやレオン・S・ケネディと言ったバイオハザードを解決に導いてきた者達の多くがそれだ。

 しかし、ジルはネメシスの手で濃度の高いT-ウイルスを打ち込まれたことによりゾンビ化一歩手前まで追い詰められたこともあり、完全に耐性があるわけではないがしかし、完全適応者は別だ。

 

完全適応者は、そうでない者に見られる脳に知能の低下や自我を損失するなどといった障害をおよぼすこと無く肉体の増強が可能であるうえ、自身の意志で肉体のリミッターを外し、タイラントなどに見られる劇的な形状変化…いわゆるスーパー化も可能というバケモノ一歩手前の存在だ。1000万人に1人の確率がどれほどか分かるだろう。

 かつて確認されたのはタイラントの素体であるクローンの元となったアンブレラの幹部、セルゲイ・ウラジミールのみだ。セルゲイはその特異性からアンブレラの幹部の座を手にしたと思われ、どれほど貴重な存在かが窺われる。…まあ、その後判明したウェスカーのあらゆるウイルスへの抗体の方が凄まじい物だったのだが。

 

 

「かつて、立香ちゃんは負傷しT-ウイルスに感染しながらも海兵隊に救出され、ウィルファーマ社が開発したというT-ウイルスのワクチンを打たれたと言っていた。それが原因だったんだ。立香ちゃんの体内にあったT-ウイルスがワクチンで抑制され、本来の効果を出せないようにしていた。それが今回、瀕死の重傷を負い生命の危機に瀕したため活性化した…ということだろう。映像は記録できなかったが、ディーラーが回復を諦める程の重症があんな数分で治るなんて、それしか考えられない」

 

「まあ、確かにそうだけど…ワクチンを打たれたならウイルスは消えているはずじゃないのかい?」

 

「医者じゃないなら勘違いしやすいだろうけど、ワクチンは元々ウイルスの感染を未然に防ぐための物で、予防接種のことだ。既に感染したウイルスを取り除ける便利なものじゃない。

 記録によればアンブレラ社を始めとした各所の研究機関で、さまざまなワクチンが開発されているけど、「事前に接種しておけば」感染を防げる物、一時的に体内のウィルスの活動を抑制する物、体内からウィルスを駆除する物のいずれかだ。ラクーン大学で開発された「デイライト」は、抗体のない人間でも即座にT-ウィルスを死滅させ、さらに以降の感染も防げるらしい。

一度感染し動けなくなったジル・バレンタインは病院で開発されたという中和剤で動けるようになったとのことだ。分かるかい?ワクチンじゃ感染した後のT-ウイルスはどうしようもないんだ。例外的にプラーガだけは孵化しても定着していなければ特殊な放射線で完全に除去できるけどね。また、定着しても脊髄ごとプラーガを撃ちぬけば除去は出来るらしい。立てなくなるが」

 

「オーケーオーケー、理解した。君が立香ちゃんとオルガマリーのために死力を尽くしてデータベースを漁ったことは分かったよ。オケアノスの時から、じっとしている訳にはいかなかったんだね」

 

 

そう笑顔でダ・ヴィンチちゃんに言われ、頭を掻くロマニ。しかしすぐに顔を引き締める。

 

 

「感染していたのに何でゾンビ化しなかったのか。その謎がようやく解けた。でも、これを本人に伝えるのはやめておこう」

 

「それは何故だい?」

 

「これが分かれば、立香ちゃんは必ず無茶をする。怪我しても治るんだから大丈夫とか言って特攻しかねない」

 

「否定しきれないのが何とも…でも、さすがに自分で気付くと思うよ。まさかウィルス完全適応者だとは思わないだろうけど。まあ、分かったよ。…でも、本当にそれだけかい?確かにT-ウイルスは代謝を底上げして死者でも生き返らせることが出来るらしいけど…あんな速度の治癒はさすがにおかしいと思うよ?」

 

「やっぱりそこだよね。完全適応者なら或いはと思ってたんだけど…それが、体内にもう一つおかしなものがあった」

 

「それは?」

 

 

ロマニが差し出したレントゲン写真に顔をしかめるダ・ヴィンチちゃん。頭部の影だけでよく分からないが、明らかに異物である。

 

 

「…それはある種の「真菌」…つまりカビに似た構造なんだ。もし何らかの寄生菌ならすぐにでも除去しないと手遅れになりかねないんだけど…僕は外科医じゃない。ここも爆破されて満足に設備が整っている訳じゃない。お手上げだ」

 

「…カビ、か。頭部と言えば最終局面でエヴリンに殴られて一時気を失っていたと聞いたけど…なんにしてもどうにもならないか。せめて医者のサーヴァントがいればねえ」

 

「ああ、それと。音声記録に残っていたエヴリンの叫んでいた名前をかろうじて残っていたネットワークで検索にかけてみたら興味深い事が分かった。見てくれ」

 

 

そう言ったロマンがモニターに写したのは、「行方不明者」と題名に記されたレポートだった。

 

 

「アランという名前は何も出なかったけど、トラヴィス、ハロルド、アーサー、タマラ、ヘイディ、リンゼー、スティーブン、レイド、スーザン、ジム、ドルー、ジョヴァンニは全員、2014年頃からアメリカのルイジアナ州ダルヴェイで行方不明になった人間の名前の一部だ。そしてマーガレット、ルーカス、ゾイ、ジャックという名前の四人はそのルイジアナ州ダルヴェイにある農家の「ベイカー家」の人間で……………」

 

「どうしたロマニ?」

 

 

変なところで口ごもったロマンに首をかしげるダ・ヴィンチちゃん。ロマンは一呼吸置いて、真剣な顔で告げた。

 

 

「ここから先は絶対に立香ちゃんには伝わらないようにしてほしいんだけど…ジャック・ベイカーは元海兵隊で…例の空港で立香ちゃんを助けた張本人だ。ベイカー家は彼女が一年間お世話になっていた家らしい」

 

「…それは」

 

「ああ。エヴリンが2015年より先の記憶を持つ反英雄のB.O.W.だから確証はないが、この仮説が正しい物だった場合…知らない方がいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂

「やっと検査が終わった…藤丸も完治したようで何よりだわ」

 

「あはは…自分でもなんで無事なのか不思議なんですけどね」

 

 

ロンドンから帰還して一日、休養の時間をとった直後にオルガマリーとマシュも検査を受け、その数時間後。心身ともに疲れ果てたオルガマリー・アニムスフィアと藤丸立香は食堂に訪れていた。マシュは現在、治療を受けた後自室でゆっくり療養中である。ディーラーはダ・ヴィンチちゃんの工房からいくつかのジャンクを風呂敷に入れて持ち出したかと思えばそのまま自室に引き籠もってしまった。

 

 

「ソロモンの攻撃は規格外ね。カルデアの電力も限りがあるから、回復するにも時間がかかるだろうし…」

 

「呪い…でしたっけ?治るんですか?」

 

「ディーラーのブルーハーブで呪いは解けても弱っている状態だから…何ともいえないわ。無事なのはソロモンと戦わずに済んだアシュリーとマイクぐらいかしら。他のサーヴァントは次の特異点に連れていけないと考えた方がいいわ」

 

「だとすると…私はクー・フーリンとメディアさん…?」

 

 

それぞれオルレアンとオケアノスで活躍した二名の名を上げる立香。だが、キャスターというクラスは閉じこもってこそ真価が発揮されるため、安全な拠点を手に入れにくい特異点ではほぼ活躍できない。最優のクラスであるセイバーオルタと、何かと万能なライダークラスの二人を連れて行っていたのはそういう理由もあり、不安をあらわにする立香。

 

 

「キャスターばかりで不安ね。私の清姫とアルトリアも動けないし、召喚した方がいいかしら。…しょうがないから奮発するわ。10連鎖召喚をしましょう、二人分」

 

「私と所長で、ですか?」

 

「ダ・ヴィンチに言って無理してでも揃えてもらうか。金なら問題ないわ、これでもアニムスフィア家の当主ですもの」

 

「おお。正直ロードとか時計塔とか魔術師の家系がどれだけすごいのか分からないけど頼もしい!」

 

 

胸を張るオルガマリーと、それを満面の笑みで褒め称える立香。そんな二人の様子に、厨房を預かっているクー・フーリンとメディアは笑みを浮かべた。我らがマスターはどうも同年代との交流が乏しいと、彼 彼女等なりに心配していたのだ。

 

 

「欲しいのはアーチャーね。ディーラー以外にも援護射撃に特化した英霊、それも三騎士の一つが好ましいわ。前衛としてランサーも欲しいわね」

 

「クー・フーリンもランサーで召喚してたら本人曰く申し分ないそうですけどね…」

 

「アサシンも諜報用としては欲しいけど、まあそこはディーラーで何とかなるわ。霊体化した分体を敵地に送り込んで情報を共有しても早々気付かれないのはかなりの強みよ。あとは陸用のライダーね。マイクのヘリは乗れる数に限りがあるから、オルレアンでのマリーみたいな馬車持ちのサーヴァントが頼もしいんだけど…ロンドンみたいな狭い特異点でもあちこち移動するだけで疲弊したもの」

 

「私が使った機関車みたいなのがあれば楽なんですけど、サーヴァントのみんなに負担を掛けますしね…」

 

「…私と貴方の心配がちょっとずれているのは注意しておいた方がいいのかしら。とにかく、カルデアの隅から隅を漁って少しでも目当ての英霊が呼べる触媒を探しましょう。何時までもディーラー頼みにしていたらアンリマユみたいな強いのか弱いのかよく分からないサーヴァントばかり来てしまうわ!」

 

 

なにやら食堂のど真ん中で熱弁するオルガマリーに、食事中だったスタッフは「自分たちも駆り出されるのかな…」と苦笑い。クー・フーリンは「ランサーじゃなくて悪かったな」とちょっと顔をひきつらせ、メディアはそれを見て笑いながらオケアノスでの船一つを持ち上げるなどという重労働を思い出して少し冷や汗をかいた。

 

 

 

そして、立香は苦笑いしつつテーブルに突っ伏していて。

 

 

「それもそう、です…ね…」

 

「藤丸!?」

 

 

その意識が途絶え、水の入ったコップがテーブルに転がって濡らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、微睡の中で。寂れた牢屋の様な部屋で、倒れていた立香は目を覚ますと、そこは地獄だった。

 

 

「え?……!?」

 

 

牢に手を掛けて今にも破ろうとしているゾンビの群れに、思わず声にならない短い悲鳴を上げる立香。慌てて銃を取ろうと探るも、常に携帯しているはずのそれはなかった。

 

 

「そんな…えっと、何か、武器は…?そうだ、令呪…ディーラー!…ディーラー!?マシュ、オルタ、みんな!?」

 

 

慌てて武器になりそうなものを探すも殺風景な牢屋の中には壁に繋がれた鎖と毛布ぐらいしかなくて。令呪の刻まれた手をかざしてディーラーたちと連絡を取ろうとしても返答は無くて。今にも牢が外れそうで、こうなればジョーさんには止められてるけど拳だと言わんばかりに気を引き締めていると。

 

 

「オレを呼んだな!」

 

 

一瞬のうちに、ゾンビの群れは青黒い炎を纏った何かに蹴散らされ、燃え尽きた。そして牢の扉が開くと、そこにはこちらに視線を向ける長身の人影がいた。黒い炎に包まれていて、姿が判別できない。

 

 

「…………ここは?…貴方は、誰?」

 

「ふむ、余計なものまで付いてきたか。それもいいだろう、許容範囲だ。ここは地獄。恩讐の彼方たるシャトー・ディフの名を有する監獄塔!」

 

「…シャトー・ディフ?」

 

 

牢屋の外を見てみれば、さも当然の様に男の背後に広がる廊下をゾンビやウーズ、モールデッドが徘徊していて、さらに奥からはこの世の者とも思えない雄叫びが聞こえてくる、まさに地獄のその場所で。己を覆っていた黒炎を取り払った、緑のマントを着こんでポークパイハットを被った色白の肌をした青年はその瞳に復讐の炎を燃やし、高らかに名乗りを上げる。

 

 

「そしてこのオレは英霊だ。お前がよく知っている筈のモノの一端だ。この世に陰を落とす呪いのひとつだ。哀しみより生まれ落ち、恨み、怒り、憎しみ続けるが故にエクストラクラスを以て現界せし者。そう―――復讐者(アヴェンジャー)と呼ぶがいい」

 

「アヴェン、ジャー…」

 

 

はて。その名前をつい最近もどこかで聞いたような。何時だっけ…?といまだに覚醒しない頭を働かせるが、思い出せない立香に、アヴェンジャーはにやりと笑みを浮かべた。

 

 

――――ヴェルカム!藤丸立香。悦べ、お前の願いは、ようやく叶う。




これは、第五特異点に至る前の前哨戦。藤丸立香が望んだ願いを叶える刹那の物語。

番外編以来の登場、アヴェンジャーさん。バイオを絡めた監獄塔編は書こうと決めていた。今章の立香の相棒となります。個人的にバイオハザードとの相性はバツグンだと思われます。

そんなわけでT-ウィルスの完全適応者である可能性が高いことが分かった立香さん。ソロモンと一瞬でも渡り合った身体能力の理由がこれです。子供の頃に感染したはずなのに何もなかったのがフラグであった。なおスーパー化とかはできないため、セルゲイさんの劣化品の模様。体術が異様に弱いのもこれが理由で、力加減のコントロールがろくにできてないからだったり。本人が知ればさらに突っ込む可能性大。

何気にベイカー家の真実に気付いてしまったロマニとダ・ヴィンチちゃん。立香に隠し通すことはできるのか。

ロンドンの戦いで思うところがあったのか、新しい武器を開発中のディーラー。新しいサーヴァントを呼ぼうと画策するオルガマリー。なにができて、何が召喚されるのかはお楽しみということで。

三回ぐらいで終わらせたい監獄塔編。次は七つの大罪を背負った人間達と立香の闘い。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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嫉妬に狂った監視者(オーバーシア)だとよストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…珍しく前回を投稿した一日後に投稿できて本人が一番驚いている放仮ごです。冬木かオルレアンの時の様に、何故か筆が進む。

前回より始まった「バイオハザードクロニクルズ 監獄塔に復讐鬼は哭く」の初戦。バイオハザードクロニクルズの名の通り、彼女が参戦します。楽しんでいただけると幸いです。


旅行者はたずねた。

「あの男、自分自身に課せられた判決を知らないのですかね?」

 

将校は答えた。

「教えてやっても意味はないでしょう。なにしろ自分の身体に刻まれるわけですから」

 

フランツ・カフカ 『流刑地にて』より

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、先輩(・・)!ここはこの世に存在していた地獄、絶望の島「監獄の塔(シャトー・ディフ)」。奴等は貴様のよく知る異形に見えるだろうが、本質は全く異なる。恨み、苛立ち、ねたんでいる。地獄を一人抜け出したお前の温かく脈動する魂が気にくわないらしい」

 

 

アヴェンジャーに蹴散らされてなお、すぐに集ってくるゾンビやウーズにモールデッド、そして目は赤く全身には針金を巻きつけたり釘を刺されていたり裂傷や切り傷があったりと痛々しい姿をしているゾンビの様な何か「アフリクテッド」の群れに、アヴェンジャーは背を向けて余裕綽々に語り出し、立香もそれに当てられたのか構えながらも応える。

 

 

「…そんなこと言われても。私は今、白昼夢かなにかを見ているの…?でも、この感触は夢とは思えない。まるで、あの時の様な…」

 

「落ち着けマスター(・・・・)。まるで地獄を生き延びてきたかの様な言い方だな。いや、貴様は俺と同じく地獄を一人抜け出した。それは間違いないらしい。お前は知らねばならない。多くの事柄を。例えばここが何処なのか。例えばオレが何者なのか。例えば、お前は一体何なのか」

 

「私が一体何なのか…?いや、それよりもマスター、だって?」

 

「罪深き者、汝の名は藤丸立香!此処は恩讐の彼方なれば、如何な魂であれ囚われる!お前とて例外ではないさ。得られる知識の多くは瑣末に過ぎんが…」

 

 

マスターと呼ばれたことに驚いた立香に、アヴェンジャーは嗤う。その背後で、ゾンビのうち二体が膨張して変形、筋肉組織が剥き出しの獣染みたマッシブな体格となり鋭い爪と牙に長い舌を備えた「リッカーβ」と、同じく筋肉組織が剥き出しだが四つん這いにならない大型のゾンビ「ブラッドショット」へ、ウーズの一体が膨張してただの肉塊の様なナマコの様な何かであるグロブスターに、アフリクテッドの一体は皮膚や肉が腐敗し骨格が露出した「ロトン」へと変貌、一見隙だらけのアヴェンジャーに襲いかからんとし、立香が思わず退いて足を滑らせて転倒する。

 

 

「そうだな。ひとつぐらい学んでいくがいい。例えば———そう、こいつら…いや、人間(オマエタチ)の醜さを」

 

 

しかしアヴェンジャーから青黒い魔力が雷の様に奔り、背後にいた異形の群れを悉く粉砕。倒れた立香をアヴェンジャーは見下ろし、手を貸した。

 

 

「…助かったよ、アヴェンジャー。ありがとう。シャトー・ディフだっけ?気が付いたらここにいたんだけど、何か知っているなら教えてくれない?」

 

「オレはお前のファリア神父になる気は無い。このオレがわざわざ懇切丁寧に伝えてやる義理はない、が。気の向くままお前の魂を翻弄するまでだ。最低限の事柄は教えてやろう、奴が来る前に手短にな。

 お前の魂は囚われた。この監獄塔に。何故かはオレの知るところではないが、思い当たる節があるだろう。それとも既に忘却したか。いいとも、存分に忘れ去るがいい。あらゆる全てを魂に刻み続けるのは復讐鬼だけだ」

 

「……」

 

 

立香の脳裏に、ロンドンでの死闘が蘇る。魂を捕らえる呪いの様な物には、彼しか心当たりはなかった。忘却などしない、あんな悔しさを、無力感を忘れてはならない。

 

 

「まあいい。此処は歴史上に存在したイフ城とは大きく異なっている。ゾンビ共が溢れ、安全地帯などどこにもない。ここから出るのはなに、特別なことはない。多少歪んでいてもここは監獄だ、脱獄すればいい。檻は既に解き放たれている。厄介な看守…いや、監視者(オーバーシア)はいるが問題ないだろう。それも含め、ただ人間の罪があるだけの地獄だ」

 

「魂ってことは私の身体はカルデアに?」

 

「そうだ。それも、まだ魂がここに定着していない。何度か覚醒するだろう。だがすぐにその魂は完全に此処に囚われる、二日あればいい方だ。此処で死ねばお前の魂も消え失せる。此処はそう言う場所だ」

 

「…なら脱獄するしかないか」

 

「お前一人で生き残れるほどこの牢獄は甘くはないぞ?」

 

「大丈夫。私は、一度一人で地獄を生き延びた。貴方は強いから置いて行っても大丈夫、だから何も憂いはない。脱出するまで生き残るぐらいなら私一人でもできるから。…私をマスターと呼んでくれても、私に付き従う義理は何も無いもの」

 

 

そう宣言しながら廊下に出た立香を、黙って目線で追っていたアヴェンジャーは溜め息を吐き、ずれていた帽子を直しながら口を開く。

 

 

「…そうか。ならば一つ忠告だ。――――人を羨んだことはあるか?己が持たざる才能、機運、財産…そうだな、家族や友人がいる人間を前にして、これは叶わぬと膝を屈した経験は?世界には不平等が満ち、故に平等は尊いのだと噛み締めて涙に暮れた経験は?」

 

「腐るほどあるよ。このクソッタレな世界はそれを抱いた人間が星の数ほどいる。私もその一人だ」

 

「…答えるな、その必要はない。心を覗け。目を逸らすな。そうだ、それは誰しもが抱くが故に誰一人逃れられない。他者を羨み、妬み、無念の涙を導くもの。…特に、他者ですらなく。堕ちた自分に無い物を手にした自分(・・)に抱くのは、恐怖か絶望か羨望か?いや、嫉妬の罪だ」

 

「なにを言って…?」

 

 

そこで、視界が歪む。アヴェンジャーの瞳が炎と燃える。全身を殺気が通り抜けていき、その矛先…廊下の奥へと視線を向けた。

 

 

ナタリアァアアアアアアアアアアアア!!

 

 

廊下の奥から悍ましい姿をした巨大な何かが四つん這いで凄まじい速度でやってきたその瞬間、意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂で気を失った立香。しかしすぐに意識が覚醒し、心配して集まってきたサーヴァントたちに「心配ないから」と断り、ふらふらと自室に戻って行く。

 

 

「これが、アヴェンジャーの言っていた覚醒か。所長や皆に心配をかけたな…」

「ママは何も悪くないよ」

 

 

夢だったのかは分からないが、あの場所に至ったことで急に罪悪感と無力感が過去最高に圧し掛かってきたのだ。廊下を通りがかる度に、すれ違ったカルデア職員の皆さんに心配された。吐き気がする、悪寒が酷い。早くベッドに入って休まなきゃみんなに迷惑をかけてしまう…そう思い至り、自室へと向かう足を速めた。

 

瞬間、意識が暗転する。半分機械の醜い異形の女ともいえない何かに追いかけられる光景がフラッシュバックして、またカルデアの廊下へ戻る。目の前には、こちらに向かってきたのであろう、肩を上下させたマシュがいた。

 

 

「先輩。ロンドンから帰還してから、たまに呆けることはありましたが、今回は意識まで…先輩?何でこんなところで立ち止まって…あの、どうかされましたか…?」

「大丈夫?ママ?ママー?」

 

「先輩?…先輩!」

「ママー?聞いてるー?」

 

「うるさい!」

 

 

意識が戻るや否や、立香はマシュに怒鳴ってしまっていた。耳鳴りが酷くて、耐え難くて。ただただ、振り払いたかった。

 

 

「せん、ぱい…?」

 

「っ…ごめん!」

 

 

ショックを受けたらしいマシュの顔が見られなくて。立香はそのまま自室に辿りつくと、日記に心境を書き殴ってからベッドに倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナタリアァアアアアアアアアアアアア!!

 

「っ!?」

 

 

再び意識が監獄塔に移った瞬間。殺気を感じて、慌てて後方に飛び退く。そこには、呼吸器を始めとした様々な機械を体に取り付けていて、背骨が異様に発達し手足が伸びた異様な巨体の体格をダークグレーの大きなマントで隠した、露出した顔は髪が殆ど抜け落ちて肌が白濁した色で目を赤く光らせた女性の様なクリーチャーが、今まさに立香を捕まえようとした手を伸ばして石の床を砕いた光景があった。

 

 

「許さない…逃がさない…お前が消滅しろ…ナタリアァアアアアアア!!」

 

「っ、知らないよ!」

 

 

恩讐の声を上げて振り上げ、勢いのまま振り下ろしてきた長い腕の攻撃を避けて、目の前に迫った顔に砕けた床の瓦礫を手に取って叩きつけ、怯んだ隙に逃げ出す立香。アレがアヴェンジャーの言っていた監視者(オーバーシア)だと当たりを付け、立ちはだかるゾンビにウーズにモールデッドにアフリクテッドを押しのけながら全速力で走る。銃もない今、アレに捕まったら終わりだ。せめて武器が欲しいと、そう思い。アフリクテッドが手にしていた斧を奪い取り、切り伏せてから立ち止まり、振り返って構えた。以前は持てない重さだったが、軽く持てた。

 

 

「ディーラーの武器が欲しいところだったけど、これなら…!」

 

「ナタリアァアアアアアアアアッ!!!」

 

 

ズンズンズンズンと、ゾンビを押しのけウーズを踏み潰しモールデッドを蹴散らしアフリクテッドを突き飛ばしながら迫る監視者(オーバーシア)に、立香は軽々と振り上げていた斧を、その首に叩きつける。銃が無い今、勝つ手段は首を断ち切るしかない、そう結論した一撃だった。

 

 

「アァアアアアアアアッ!」

 

「ッ!?」

 

 

しかし、両腕を天井に伸ばして異様に反り上がった身体の首には当たらず機械化されている部分に当たって火花が散り、それに怯んだところを殴りとばされてしまった。

 

 

「があっ!?」

 

 

廊下の奥にあった扉を吹き飛ばし、天上が高い広間の様な所に投げ出された立香。その立ち上がったところに、アヴェンジャーはいた。

 

 

「アヴェン、ジャー…」

 

「まさか監視者(オーバーシア)から逃げのびたばかりか、自力でここに辿り着くとは大したものだマスター。啖呵を切るに足る何かがあるかと思えば、単なる強がりとはな。オレを呼んだか?伝え忘れたが、脱出のためには七つの裁きの間を越えねばならん。裁きの間で敗北し殺されれば、お前は死ぬ。何もせずにこの監獄塔内で七日目を迎えても、お前は死ぬ。ここは魔術の王により作り出されたある種の狩り場だ」

 

「やっぱりソロモンの仕業か…とんでもなく理不尽なのは分かった」

 

「よろしい。さて、監視者(オーバーシア)から逃げのびても、この裁きの間で決着をつけねば何も進まない。七騎の怪物が、誰も彼もがお前を殺そうと手ぐすね引いているぞ?さあ来るぞ!見るがいい、味わうがいい!第一の怪物は、まさしく監視者(オーバーシア)!…名をアレックス。自らの愚かさにより全てを失い、全てを奪って行った自らを妬み取り返さんと足掻く、嫉妬の罪を持ってお前を誰かと誤認し殺そうとする怪物だ」

 

「?? 意味が分からないんだけど…誤認?」

 

「気にするな。理解しようとしたところで理解に苦しむだけだ、こういう類の輩はな!」

 

「ナタリアァアアアアアアッ!」

 

 

そこへ、扉の両端に手を付けて無理矢理その巨体をねじ込んで現れた監視者(オーバーシア)は天井に上り、二人を見下ろして恩讐の声を上げる。そして、立香のうちに声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

――――――私は・・・・・・なんて醜いのか。私が、醜い醜い醜い、ワタシじゃない。私が醜い・・・・・・あの死は、私の死ではなかった。それは全て自らが招いたこと、ああ。あの引き金を引く瞬間、私が、世界から消滅することに、私が、恐怖を覚えるなんて。死に損ない、病魔に侵された肉体を、ウィルスの力にすがり、生き存えるとは………

 

 蘇生したもう一人の私が、覚醒する。その時、醜い姿に変身し生き存えている。許されない。私は、認めない、こんな姿を覚醒した私が、私に笑いものにされる。私は・・・・・・なんて醜いのか。私こそ、私なのに。私こそ、覚醒した私だったのに。なのに、なんであいつがみんな持っているの…私が持てるはずだった全てを!妬ましい、私にはないのに当然だと言わんばかりに正常な命を持っている人々が妬ましい。私じゃないワタシが妬ましい。あまねく全てが妬ましい!

 

 そうよ。ああ、そうだわ。私は、私しかワタシじゃない、だから、ヤツはワタシじゃない!だから、ヤツはニセモノ。まがいもの!だから、消滅するのはヤツ。殺さなければ。ワタシがワタシにあるために。お前が消える時、その時、ワタシはワタシに転生するのよ、ああ。ナタリア・・・・・・死ね、ナタリア。死ね、消えろ。死ね、死ね、死ね!

 

 

ナタリアァアアアアアアアアアアアア!!

 

 

 

「…アレが、嫉妬の罪?」

 

 

一人の女の恩讐の声を聴いた立香は、そうアヴェンジャーに問いかけた。監視者(オーバーシア)は壁を這い回り、こちらの様子を窺っている。

 

 

「嫉妬とは、自分がほしいものを他人が持っていることに対する葛藤と、そこから生じるストレスによって自他に対して攻撃的になる様の事を言う。アレは自分に無いものを得ようとしたがために、自分に全てを奪われてしまった哀れな女の怪物だ。ようく見ておけよ、マスター。コレが人だ。お前の世界に満ち溢れる人間どものカリカチュアだ!戦え。殺せ。奴は、問答無用でお前を殺すからな!」

 

「…武器が無い私一人じゃ無理だ」

 

「武器があれば一人で殺すというのか。それもよかろう。だが、今の貴様には武器が必要だ。そうだろう?」

 

 

そう言って視線を向けてくるアヴェンジャーに、立香はハッと顔を向けた。

 

 

「…貴方が、その武器になってくれる?」

 

「互いの目的のための一時の協力か、その言葉にはただ一言を以て返答するとしよう」

 

 

そして、待てなくなったのか飛びかかってくる監視者(オーバーシア)に、アヴェンジャーは黒炎を纏って空中に飛び出し、迎え撃った。

 

 

「待て、しかして希望せよ」




嫉妬はクラウザーか彼女しかいないと思いました。クラウザーだと弱そうだったから…うん。

お気づきの方もいるかと思いますが、この監獄塔はバイオハザードシリーズのラスボスたちがあくまで「人間」として立香とアヴェンジャーの前に立ちはだかります。今回はバイオハザードリベレーションズ2のラスボス、アレックスこと監視者(オーバーシア)。看守にぴったりだな、と。名字は敢えて伏せています。今回初登場のアフリクテッドはリベレ2のゾンビ的存在です。胸糞悪い系ゾンビ。
ちなみにリベレーションズ1のノーマンさんは「憤怒」でしたがもっと適役…というかどうしても出したい人間がいたのでリストラしました。ウーズがいるのはその名残です。

地味に混ざっていたブラッドショット。リッカーみたいにT-ウィルスで生まれるはずがないクリーチャー。つまりは…

若干不安定の立香。現在は「ウェルカム、ディーラー(番外編)」の日記の時系列に当たります。彼女の身に何が起きているのか。精神の方は見た目だけでえぐいアフリクテッドから奪い取った斧で反撃するなど元気です。

次はVS色欲の怪物。クリーチャー自体は既に出ているけど、彼が初登場です。残り五話ぐらいで終わりたい。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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一難去ってまた一難だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、監視者(オーバーシア)を書いて懐かしくなったので実況動画でリベレ2を見ながら執筆している放仮ごです。それはさておき、UA164000突破。お気に入りもついに1000人を超えました、ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

主役であるはずのディーラーがまるで登場しない監獄塔編第三話。今回は監視者(オーバーシア)との決着と第二の怪物との対決、そして今章のヒロイン登場。楽しんでいただけると幸いです。


男は門の中へ入れて欲しいと申し出た。

 

門番は答えた。

 

「そんなに入りたいなら、禁止にそむいて入るがいい。だがいいか、わしはいちばん下っぱだ。

その先にいる門番たちは、ふるえあがるほど恐ろしい」

 

フランツ・カフカ 『掟の門』より

 

 

 

 

 

 

「ちぃっ!」

 

 

空中で監視者(オーバーシア)とかち合ったアヴェンジャーは、一瞬拮抗するも単純な体格か重量の差かあっさり弾き飛ばされて立香の側に降り立ち、黒衣が取れてグロテスクな全身を露わにしながら地面に着地した監視者(オーバーシア)は壁に向けて突進。長い右手で壁を崩して穴を空けるとその中に入って行ってしまう。

 

 

「逃げたか。さて、どうするマスター。奴を倒す術はあるか?」

 

「一つ確認だけど、アヴェンジャーの能力は高速移動と青黒い炎と、雷の様な魔力放出、あとは監視者(オーバーシア)とかち合える強靭な肉体で武器はない?」

 

「大体その通りだ。オレの持つ常時発動型の宝具で、強靭な肉体と魔力による攻撃を行使できる。お前の言う高速移動はまた違う宝具だ」

 

「沢山宝具を持ってるんだね。…真名を教えてくれたりは?」

 

「問題あるまい?我が身は規格外(エクストラクラス)のアヴェンジャー、お前が知るべき情報はそれだけでいいだろう。それよりも、だ。何か策はあるか?」

 

「うん。多分、奴の弱点は胸部に見られたオレンジ色の光。マントで隠してたし、多分アレは核みたいなもの。私が指示するからその通りに避けて、その間に魔力を溜めて近づいて、思いっきり叩きつけてやって」

 

 

そう迷いなく告げる立香に、一瞬呆けたアヴェンジャーは何が可笑しいのか高笑いを上げ、帽子を押さえて腰だめに構えた。

 

 

「くはははは!いいだろう、乗ってやる。ミスはしてくれるなよ?」

 

「…右に避けて!」

 

「ナタリアァアアアアアアッ!」

 

 

ボコボコボコッ、と石畳がアヴェンジャーの足元に向けて盛り上がり、立香はとっさに後退して指示。それを受けたアヴェンジャーは右に飛び退き、飛び出してきた長い腕から逃れることに成功。すると上半身を出してきた監視者(オーバーシア)は煙幕と毒ガスを噴出して目くらまし、さらにそれから飛び退いて逃れたアヴェンジャーに向けて上半身と下半身の間から生やした複数の黒い触手を伸ばした。

 

 

「魔力の雷で散らしながら上に逃れて、天井を蹴って飛び込んで!それで多分、反応できないはず!」

 

「それでいい。ぜぇやっ!」

 

 

右足に黒い触手を巻きつけられていたアヴェンジャーは、雷の様に魔力を放出しながら跳躍。天井に両足を付けると踏み砕く勢いで蹴りつけ、真下に加速。両手に黒炎を纏って監視者(オーバーシア)の胸部のコアに叩きつけた。

 

 

「アァアアアアアア!?」

 

「貴様は復讐者とも呼べないただの怪物だ。情けはかけぬ。存分に、朽ち果てよ」

 

 

そのまま両手を抉り裂く様にコアを握りながら振り抜き、燃ゆる胸部に大穴を開けた監視者(オーバーシア)は青黒い炎に包まれて断末魔を上げながら塵と化して消えた。

 

 

「脆い脆い!哀れ、醜き怪物に成り果てるしかなかったモノよ!シャトー・ディフはおまえの魂には相応しくない!監視者(オーバーシア)を気取り自分が持ちえなかったものを恐怖で御そうとして恐怖に負けたお前はあまりにも哀しすぎる!聖母と崇められた醜き監視者(オーバーシア)よ、おまえの嫉妬を見届けた。お前を殺し、その醜さだけを胸に秘めてオレは征く!」

 

 

消えゆく炎の残滓の側で、立香の方に振り返りながら高らかに叫ぶアヴェンジャー。サーヴァントとは違う消滅の仕方に、立香は目を見開いていた。

 

 

「…サーヴァントじゃ、ないの?」

 

「言っただろう。奴らは人間で、罪の具現だ。サーヴァントに近しい存在だが根本が違う。この監獄塔にいる者は過去、未来のいずれかの時間軸でお前と縁がある者のみ…のはずだ。見覚えが無いのならアレは未来のお前と縁を持つものだろう。…お前、未来で何をした」

 

「こっちが聞きたいよ!?」

 

 

呆れながら聞いてくるアヴェンジャーに怒鳴り返す立香。酷い言われようだ。恐らく後の特異点で出くわすのかもしれないが、少なくとも今の自分は何も知らないのだ。

 

 

「本来ならば、だ。なにかしらの罪を抱えた真っ当な英霊共が番人として現れるはずだった。魔術の王もまさかこうなるとは思ってもいまい」

 

「…つまり、七人全員バイオハザードの関係者?」

 

「お前にとっての「罪」がバイオハザードという事ならば、そうだろうな。クハハッ!どうした、臆したのか?諦めれば死あるのみだぞ」

 

「…大丈夫。アヴェンジャーこそ、指示に従ってくれてありがとう」

 

「っ…くくくっ、はははははははははははは!」

 

 

お礼を述べた立香に、一瞬呆けた表情を浮かべたかと思うと帽子を押さえ高笑いを上げるアヴェンジャー。

 

 

「これが、マスターを有した状態での戦いという奴か!見事な采配であったと言ってやろう。仮の契約ではあるが確かにお前はマスターだ!初見の英霊を、規格外(エクストラクラス)たるこのオレを使いこなしてみせる!」

 

「…エクストラクラスは初めてじゃないからね。ディーラー、アンリマユに…エヴリン。一癖も二癖もあるけど…頼もしい仲間だよ」

 

「ほう……俺以外のアヴェンジャーとして現界した者がいるか。なるほど、合点がいった。…さあ、第二の裁きの間へと向かうぞマスター!虎のように吠えよ。おまえには、すべてが許されているのだから」

 

 

そこで、藤丸立香の意識は浮上する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めると、布団もかけずにベッドに横たわっていたらしく酷い頭痛がして立香は寝癖だらけの頭を押さえながら時計を見た。朝の五時だ。

 

 

「…次の日、か。夕飯も食べずにあそこに飛んでたんだな…」

「ママ、今日は大事なお話があるんでしょ?」

「…そうだ、所長がソロモン対策の会議を開くって言ってたっけ。行かないと…メディアさん、何か残してるかな…」

 

 

髪型を整え、朝食をとるべくふらふらと部屋を出る立香。寝ぼけ眼で頭を抑えながら、少女を追って食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、書庫で時間を潰しながら過ごして二時間後。カルデアの会議室で、今だ制作中のディーラーとダ・ヴィンチを抜いた代わりに普段レイシフト中のオペレーターもやっているスタッフも加えた面子でソロモン対策及びこれからの特異点に必要なサーヴァント召喚の会議のミーティング中、ぼんやりしながら頭をさする立香を心配するオルガマリーの図があった。マシュも書記をしながらちらちらとこちらの様子をうかがっている。

 

 

「大丈夫、藤丸?顔色悪いわよ」

 

「…ああ、所長。私は大丈夫です、それよりも…」

 

「…藤丸。次の召喚はやっぱり、私がメインでするわ。貴方はロンドンで無茶をしすぎ。次の特異点は私とマシュだけでレイシフトするわ。貴方は私に何か遭った際の予備として休みなさい」

 

「っ!」

「ママを仲間外れにする気?許せない!」

 

そんなことを言い出したオルガマリーに、ショックを受けた表情を浮かべる立香。それでもすぐに平静を装いつつ答えた。

 

 

「お断りします。一人だけ安全なところにいるなんてできませんし、所長にマシュ、所長のサーヴァント達だけに戦わせる訳にはいかない。今までもギリギリだったんです。…ディーラーもいないのに、また…所長を見殺しにしてしまうのだけは嫌なんです」

 

「…分かりました。貴方の意思を尊重する。その代わり、次の特異点が判明するまでゆっくり休んで体調を整えなさい。これは所長命令です」

 

「はい…ありがとうございます、所長」

 

 

そう応えて立香は会議室を後にした。…とはいえ、またあそこに行くのだろうから休むに休めないだろうけど、と心の中でぼやき苦笑する立香。しかし体調も酷くなる一方であり回復に専念しなければもたないのも事実で。

 

「大丈夫ママ?すごく辛そうだよ」

「うん、大丈夫だよ。これぐらい…」

 

 

頭痛に顔をしかめながら自室に戻るとベッドに横になり、日課の日記をつける立香。それを最後まで記さないうちに再び意識は沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――例えどんなことがあっても誰かを見捨てない。私は、もう守られたり助けられたりするだけは嫌だ。逆に助けて、戦って、一緒に生き残るんだ。

 

それが、11年前から私がずっと抱いてきた、我儘とも言える、守られるしかなかった無力な自分が許せない、心の底から渇望している原初の思いだ。

 

そのためにはディーラーの武器やサーヴァントのみんなが必要だ。ディーラー自身も、マシュも、所長も、サーヴァントのみんなが生きているのも必要なんだ。

 

そんな、立香の心の中が垂れ流しになっていたのか、目の前に佇んでいたアヴェンジャーは不敵に笑んでいた。

 

 

「独白をどうも、人類最後のマスター。そうか、先輩(・・)。それがお前の抱く罪か。傲慢、強欲、色欲、暴食、怠惰、嫉妬、憤怒。そのどれでもないがそれは立派なお前の罪だな。その自覚はあるか、先輩?」

 

「……」

 

 

そう問いかけられても、立香には分からない。だが一つ。暇な時間ができたことで、知ることが出来たものも一つだけあった。

 

 

「ヒッヒッヒェ、いい武器があるんだストレンジャー。クハハハッ、オレと言うサーヴァントだ。不服か?」

 

「…不服じゃないけど、全然似てないよ。巌窟王(アヴェンジャー)

 

 

シャトー・ディフ。その名前には、心当たりがあった。これでも学生時代は友達がおらず、休み時間のほとんどを読書で過ごしていた藤丸立香だ。その物語も、読んだことがあったのだ。

 

イフの塔(シャトー・ディフ)とは、フランスのマルセイユ沖に実在した、十六世紀に要塞として建造された、政治犯や思想的犯罪者を主に収監していた監獄塔のことだ。十九世紀には牢獄としては閉鎖され、現在は史跡として残されている場所は、アレクサンドル・デュマ著作の小説「モンテ・クリスト伯」の舞台として一躍有名となった。その物語の主人公こそ「復讐者」として世界最高の知名度を有する人物、モンテ・クリスト伯爵。またの名を、巌窟王である。立香はそれこそこのアヴェンジャーの真名だと確信していた。

 

 

「タイムリミットだ。お前の魂は既にこの監獄塔に囚われてしまった。肉体と魂の乖離を防ぎたくば、カルデアに戻りたいならば残り六つの裁きの間を超えればいい。奴等を殺せ、生き抜いて脱出しろ。ここにはいつだって助けてくれるお前の理想の武器商人はいないぞ。奴に会いたいか?奴が居なくて心細いか?よろしい。ならば俺はこう言うしかあるまい。“待て、しかして希望せよ”だ」

 

「…でも、また最初の独房に戻っているような」

 

 

周りを見渡す立香。見覚えのある壁に繋がれた鎖。ゾンビは相変わらず目の前の廊下を徘徊しているし、最初の部屋とまるっきり同じだった。

 

 

「此処とカルデアでは時間と空間の概念が違う。此処での七日があちらでの一日であるかもしれない、その逆も然り。そして常に始まりの場所はここだが、行く先は異なる。裁きの間の先に進めばまたここに辿り付き、再び裁きの間へと至ればそこは次の裁きの間となる。ありていに言えば、ループしているという事だ。行くぞ、第二の裁きの間がお前を待っている。…今回も、厄介な看守がいるぞ」

 

「え?」

 

 

その台詞と共に聞こえてきたカランカランという、鉄製の何かの反響音とドスドスという足音が聞こえてきて、慌てて廊下に出て、前回は監視者(オーバーシア)が出て来た方向…向かって右側を見やる立香。そこには、異形の大男がいた。

 

 

「たあぁぁすけてえぇぇ…」

 

「G生物!?」

 

 

それは、ローマで相対したGカリギュラと同じ、G生物。その、第一形態。ただしこちらはボロボロの白衣と青いズボンを着た金髪の男で、巨大な眼球が存在する右上半身の筋組織が膨れ上がって肥大化しており、右手には鉄パイプを握りしめ引きずりながらこちらへと迫っていた。その危険性、というよりはタフさは身に染みて知っているため、だいぶ離れていて幸いと慌てて逃げようとする立香。しかし、聞こえてきたか細い声がその足を止めた。

 

 

「…誰か…誰もいないのですか…?そこに誰か…いるのですか…?」

 

「?…アヴェンジャー、今確かに人の声が…!」

 

「けて………助けて…助けてください…」

 

 

G生物の前方、ちょうど陰になっていて見えなかった場所から現れたのは、赤い軍服の様な物を着たピンク色の髪の、琥珀色の瞳をした女性だった。立香を見るや否やふらふらと駆け寄った女性はそのまま蹲った。G生物第一形態…G1は今にもここに来ようとしていて、時間はない。

 

 

「あ…ああ…助けて…ください…気付いたらひとりで…この暗がりにいて…ここは一体どこなのでしょうか……ひどく怖気がして…暗く…悲しくて…私は、私は…それにあのお方、私を誰かと間違えていらっしゃるようで…」

 

「もう大丈夫、私と彼がいるから!」

 

「それは正義感という奴か?はははっ、随分余裕があるじゃないか!いいや、違うな。それこそがお前の持つ罪だ。……女。貴様、名はあるのか?」

 

「私…いいえ…ごめんなさい…私なにも覚えていなくて…」

 

「名前よりも今は大事なものがある!とにかく逃げなきゃ、あれは死なない!」

 

「ほう。不死身の怪物か。安心しろマスター。ここでは不死身など通じない。生あるものは死あるのみだ!」

 

 

立香が女性に肩を貸して走り出したのと同時に、そう言って飛び出し、黒炎を纏った拳をG1の右肩に叩きつけるアヴェンジャー。グボッと嫌な音がして、G1は吹き飛ばされ沈黙した。

 

 

「すごい…一撃で」

 

「我が一撃は毒の様な物。直接ダメージに加えて持続ダメージやステータス異常を与える事が可能だ。だが、裁きの間以外で殺したところでどうしようもない。先を急ぐぞ…なに?」

 

「殺してやるぅ…」

 

 

意気揚々と語るアヴェンジャーだがその背後で、むくりとG1は立ち上がった。立香は知っている、G生物ほど持続ダメージが意味をなさない敵はいないと。

 

 

「…なん…だと…?」

 

「G生物は確か、無限に変異を繰り返す怪物…一瞬で死滅するような大ダメージを与えないと倒せない!」

 

 

ローマでの決着を思い出す立香。あの時は立て続けに大ダメージを与え、最期はディーラーの機転で連鎖爆発でとどめを刺した。アレを再現しようにも、こちらには数が足りない。

 

 

「とにかく、先を急ごう!どっちにしろここじゃ狭すぎる!」

 

「同感だ。割に合わん」

 

 

アヴェンジャーが魔力弾を放って牽制しつつ、立香が女性をお姫様抱っこして走り、裁きの間を目指す道中。ふと、アヴェンジャーが立香に尋ねた。

 

 

「では一つ質問だマスター。—————お前は劣情を抱いたことはあるか?」

 

「はい?」

 

「一箇の人格として成立する他者に対して、その肉体に触れたいと願った経験は?理性と知性を敢えて己の外に置いて、獣の如き衝動に身を委ねて猛り狂った経験は?」

 

「…逆に聞くけど、私にあると思います?」

 

「無いな。恋と言うものすら抱いたことがないだろう。心を覗け。目を逸らすな。そうだ、それは誰しもが抱くが故に誰一人逃れられない。他者を求め、震え、浅ましき涙を導くもの。これより挑むは世代交代を繋いで種を絶やさぬようにしなければならない繁殖の宿命、生物として当然の種の存続の本能」

 

 

それを聞いて、思い出すのはネロを付け狙ったカリギュラの末路。後から聞いたことだが、G生物は宿主の近しい者に胚を植え付けることで完全体と化すらしい。その時は何も思わなかったが、つまりそういうことだ。

 

 

「それでも意志疎通の概念と知能を付け過ぎたが故の快楽への沈溺が付いて回るのが人間だ。だが、奴…名をウィリアム・バーキンに至っては優れていたはずの知能すら失い自らの子を吐口とした元人間(ケダモノ)だ。故に、色欲の罪がふさわしい」

 

「シェェリィィ…どぉこぉだぁ…!」

 

 

その右肩の巨大な眼でこちらを認識したG1は鉄パイプを縦横無尽に振り回しながら走り出し、立香も全力で走り出す。アヴェンジャーも牽制しながらそれに追随、裁きの間へと至った。

 

 

「奴は自らの名さえ知らぬその女を自らの標的と誤認しているようだ。今回は運が良かったなマスター?」

 

「わ、わ、私ですか……?」

 

「全然よくない!力を貸して、アヴェンジャー!」

 

「いいだろう!不死身の獣に復讐に猛る虎の牙が通じるか否か!」

 

 

その瞬間、入り口から現れたG1に、黒炎を纏ったアヴェンジャーが高速で四方八方から体当たり。炎の刃が四肢を斬り裂いて脱力させて鉄パイプを手放させると、まるで虎の牙の様に構えた右手の指で大きく胴体を斬り裂いた。

 

 

「やめろぉ…死にたくなぁぁぁい…!」

 

「ぐぅおおっ!」

 

 

すると右上半身が更に膨張して肩から新たな頭部が出現し、バーキンの頭部は胴体左脇へ埋もれて右手から巨大な鍵爪を生やした第二形態へと移行したG2は右腕を振り抜いて一撃。咄嗟に防御の構えを取ったアヴェンジャーを吹き飛ばすも、その際に反撃を受けて眼を貫かれたG2はそのままさらに変異。両腕がさらに巨大になって翼の様に展開し、胴体に新たに腕を二本生やした四本腕の異形と化した第三形態G3へと移行。左足右肩背中に眼を出現させ、女性に視線を向けて獣のごとき咆哮を上げた。

 

 

「アヴェンジャー!?…がふっ」

 

「シェェリィィ!」

 

「ヒッ…!」

 

 

そのままG3は邪魔だと言わんばかりに立香を押しのけ、下の右手で女性を掴み上げた。しかし立香は死力を振り絞って傍らに転がる鉄パイプを拾い上げ、背中から飛びかかった。

 

 

「っ…させるかああああああっ!」

 

「ガアアァアアアアッ!?」

 

 

そしてG3の背中の眼に鉄パイプを突き刺して振るい落とされるも、G3の動きを止めてその手から女性を手放させることに成功した立香に、復帰したアヴェンジャーが不敵に笑んだ。

 

 

「よくやったぞマスター。――――我が征くは恩讐の彼方!」

 

 

その瞬間に、肉体はおろか、時間、空間という無形の牢獄さえをも脱した。まるで時間停止でもを行使しているかの様に、超高速移動したアヴェンジャーはG3に強襲する。

 

 

「――――虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

一瞬のうちにG3のやみくもに振るわれた四つ腕を斬り裂くと、腹部に出現した複数の眼が集まったようなコアを真正面から貫き、燃やすアヴェンジャー。G3は跡形も無く消滅していた。その光景を目の当たりにした女性は、呆けつつも口を開いた。

 

 

「助けてくれてありがとうございます、お二方。…あの方は、助けを求めていました。私は、彼を救うためにここに呼ばれたような気がします」

 

「そうか。お前がそう思うのならそうなのだろうな、名と記憶を奪われた女よ。ならばお前はメルセデスを名乗れ。かつてこのシャトー・ディフにて、名と存在の全てを奪われた男にまつわる女の名だ」

 

「メルセデス…」

 

「…やっぱり、貴方は…いや、なんでもない」

 

 

不死身の怪物を屠るべく発動したであろうその宝具と「メルセデス」という名に、立香は真名を聞くべく訪ねようとしたものの思いとどまった。聞くべき時があるのだ、とそう思ったのだ。

 Gの残した鉄パイプを拾った立香を先頭にそのまま奥の扉を進み、一周して最初の独房に戻ってきた一行。ひとまず小休止だと、簡易ベッドに座って一息つく立香とその隣に座るメルセデスを見据えてアヴェンジャーは問いかけた。

 

 

「さてマスター。汚れた世界を、自らの全てを奪われた世界を救わんと歩む愚者よ。このメルセデスをお前はどうする?ここで置いて行くもよし、牢獄に入れておくもよし。オレはお前の判断に従おう」

 

「一人は、嫌です…良くないものが、私を見つめている気がして…」

 

「分かってる、一人だけ置いて行かれるのは嫌だもんね。こんな大量のゾンビがいるところで一人で置いてけぼりにする訳にもいかない、連れて行こう」

 

「勝手にしろ。この女が何者だろうとお前がするべきことは変わらないさ。見事、第二の裁きをお前は乗り越えた。さあ、第三の裁きの間へと進もうか。今度は看守はいないようだぞ、運がいい」

 

「それは逆に怪しいんだけど…」

 

 

言いながら、三人で先を進む。しかし、すぐにアヴェンジャーはその気配を感じた。

 

 

「…待て。厄介な看守は居ない、が。凶悪な囚人がいたらしい。逃げるぞ、奴は速い上に痛みに鈍い!」

 

「「え?」」

 

 

例にもよって振り向く。そこには、瞼を縫い合わされ兜を被り両腕には大型のカギ爪が付いたガントレットを装備している異様な大男…ガラドールがこちらに走って来ていて。二人は恐怖に慄きアヴェンジャーに続いて走り出す。そして、第三の裁きの間へと辿り着く。そこには、絶望が待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく来たか、人類最後のマスター」

 

「我々が君の幻想に終止符を打ってあげよう」

 

「なっ…!?」

 

 

黒い戦闘服を着こんだ金髪オールバックに赤い眼光がうっすらと見えるサングラスをかけた男と、触手と目が付いている異様な茶色い杖を手にして紫色のフード付きローブを身に纏った金色の眼を光らせた男。立香にとっては、因縁のある者達。それを前にしてアヴェンジャーは合点がいったかの様に笑いだす。

 

 

「はははははははははははははははは!…前言撤回だマスター。お前は見るだろう。およそ人間の欲するところに限りなどないと。奴の欲は文字通り世界へと及ぶもの。愚かにも神などになろうとし、その一歩手前へと至った男を俺は他に知らない。そして高い自尊心、過度の自己愛を有し、他人を一切信じず己の力を過信し、慢心により身を滅ぼした男。奴等は其の大罪を持ちえると言えるし、そうでないとも言える。

 何故ならば、バイオハザードを起こす奴など強欲か傲慢いずれかだからだ。彼らはその中でも少しだけその罪が多いだけに過ぎない。一言で言えば力不足、だからこそ二人で現れたのだ。ここは第三・第四の裁きの間。強欲と傲慢の怪物が同時に現れるとは、不幸にも程がある」

 

 

強欲のままに新世界の神を目指した男、アルバート・ウェスカー。傲慢のままに身の程を弁えず自らの身を滅ぼした愚者、オズムンド・サドラー。かつての強敵達が、立香の前に立ちはだかる。




今章のヒロイン、メルセデス登場。恐らくこのFGO/TADにおける最重要人物ですね。原作とはまた違う立場でここにいます。推し鯖の一人ですが来ないんじゃあ…

今回で「ウェルカム、ディーラー」の時系列まで至りました。「彼女」の正体はこれで分かるかな。見事に浸透してます。立香も変に思わなくなってると言う。

リベレ2のカフカの文面が監獄塔と合いすぎだと思います。そんな訳で監視者(オーバーシア)と、立香は初めて相対したバーキンG生物撃破。ローマでは主に第四・第五形態と戦ったのでG3までと戦いました。元々G生物は好きなんですが、RE:2のG生物がドストライクでした。
今回の立香は武器としてバーキンの鉄パイプをゲットしました。▲頭をカンカンしなくちゃ…

バイオハザードにおける色欲は地味に迷いました。そもそもそんな目的を持っている輩が少ないですからね。最初は色狂いの大統領補佐官を当てはめてたんですが、色欲について調べてみたらもろにG生物ドンピシャだったのでそのまま採用。メルセデスをシェリーと誤認して追いかけてました。成長後ならまだ分かる。

バイオハザード監獄クリーチャーシリーズその二、バイオハザード4からガラドールさん登場。監獄があそこまで似合うクリーチャーもそういない。

そして最後にウェスカーとサドラーが同時に登場。既に一度戦っているのもありますが、残った該当者の中で強欲と傲慢は彼等しか思いつかなかった上に、なんかその理由もなんだかなあ…だったので同時に。アヴェンジャー&立香とのタッグマッチです。バイオが誇る高速移動VS FGOが誇る高速移動の夢の対決と、ディーラーに対する因縁対決。激闘必至です。
次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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復讐するは我にあり、だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、今回は難産だった放仮ごです。仕事が始まる前に監獄塔編を終わらせたい。

主役であるはずのディーラーがまるで登場しない監獄塔編第四話。今回はVSサドラー&ウェスカー。オルレアンにて為す術も無くやられてしまいディーラーを死なせるところだったサドラーへの、立香の個人的なリベンジマッチです。楽しんでいただけると幸いです。


 相対するはアルバート・ウェスカーとオズムンド・サドラー。立香とアヴェンジャーはメルセデスを守るように構えた。

 

 

「私がサドラーを何とかするからアヴェンジャーはウェスカーをお願い!」

 

「それがお前の選択か。いいだろう、傲慢の具現が相手ならば或いは、打倒できるかもしれん。存分に願いを叶えてみせろ、マスター!」

 

 

鉄パイプを構えてサドラーに突貫する立香と、青黒い炎を纏って体当たりするアヴェンジャー。しかしウェスカーはワープするかのごとく高速移動でアヴェンジャーの一撃を回避して背後に立つと「覇砕双剛掌」と呼ばれる両手による強力な掌打をがら空きの背中に叩き込み、サドラーはあっさりと鉄パイプを掴んで立香の動きを止めると尻尾で薙ぎ払った。

 

 

「ガハッ!?」

 

「くっ…アヴェンジャー!大丈夫!?」

 

 

ほぼ同時に倒れ込む立香とアヴェンジャー。メルセデスが駆け寄ろうとするのを制しながら立香はふんぞり返っているサドラーに敵意の眼差しを向けながら鉄パイプを杖代わりにして立ち上がり、アヴェンジャーもよろめきながらも立ち上がり余裕綽々のウェスカーを睨んだ。

 

 

「…力不足と言ったのは訂正しよう、正しくは役不足だな強欲の化身よ。貴様はどうやら一筋縄ではいかぬようだ。これまで戦った奴等が理性を失っていたというのもある。知らずのうちに慢心していたようだ」

 

「フッフッフ…ささやかだがプレゼントだ、身の程を教えてやろう。吹き飛べ!」

 

 

そう言って眼前にワープしたかと思えば、アヴェンジャーの胸ぐらを掴んで「猛衝脚」と呼ばれる技で投げ飛ばして蹴りつけ、一瞬構えると残像を伴いながらアヴェンジャーを追うように突進。

 

 

「どこを見ている。こっちだ」

 

「があっ!?」

 

 

空中のアヴェンジャーに「先崩掌打」と呼ばれる掌打を叩き込んだかと思えば、「轟砲膝」と呼ばれる高速移動からの膝蹴りを炸裂させアヴェンジャーは壁に叩きつけられ倒壊した瓦礫の中に崩れ落ちた。

 

 

「アヴェンジャー!」

 

「余所見をする余裕があるとは心外だ。私たちもゆっくりと遊ぼうじゃないか」

 

 

初めて見たウェスカーの本気の動きに動揺しつつアヴェンジャーに呼びかけるも、触手状に変形したサドラーの右腕が強襲。

 

 

「くっ…!」

 

「もっとも、私を倒すのは無理だと思うがね。儚い幻想は捨てることだ」

 

 

ギリギリ鉄パイプで防ぐことに成功するも腕に巻き付いて持ち上げられ、アヴェンジャーとは反対方向に投げ飛ばされてしまう立香。そのまま石の床に叩きつけられてバウンドし、頭から血を流して倒れ込んだ。

 

 

「立香さん!」

 

「駄目、こっちに来ないでメルセデス…」

 

「これは君にとっては夢に等しいのだったかな?では現実を突き付けてやろう。一人で私に勝つなど、貴様には無理だ」

 

「きゃあああっ!?」

 

 

血を流した立香の姿を見て、サドラーの側を通って駆け寄ってくるメルセデスに警告の声を上げるも時既に遅し。鋭い触手状に変形したサドラーの右手がメルセデスの左肩を貫き、鮮血が舞って立香の側に崩れ落ちた。その時、メルセデスの腰のポシェットから拳銃が転がり落ちた。

 

 

「サドラー、お前…!」

 

「何をそんなに怒っている?お前とて目の前に蝿が飛んでいたら叩き落とすだろう?それと同じ事だ。私にとっては武器商人もマイクとかいう男も同じ虫だがね」

 

「ふざけるな!メルセデスは巻き込まれただけだ、関係ない!それに、ディーラーとマイクを…人と虫の命を一緒にするな!」

 

 

激昂する立香。元々分かっていたが、このサドラーという男との相性は最悪だった。天敵と言っても差し支えない。

 

 

「貴様も力を手にすれば理解できるようになる。私を倒すのだったな、せいぜい頑張りたまえ、それまで命が残っていればの話だが?」

 

「っ!」

 

 

側に転がっていたメルセデスの拳銃…ペッパーボックスピストルを手に取り、怒りのままにサドラーに向けて乱射する立香。弾が切れてもメルセデスのポシェットを漁って再装填、再び乱射を繰り返す。頭に血が上り必死な立香に対し、ビクともせず全弾受け止めるサドラー。立香はオルレアンで嫌というほど見せつけられたはずなのに忘れていた。この男に銃弾は通じないということを。

 

 

「忘れたのかね?それは私にとっては無意味だ」

 

 

そう言ったサドラーの腕が奇妙にボコボコと膨れ上がり、両手の指先を向けると立香の撃った弾丸がマシンガンの様に放たれる。慌てて鉄パイプを掴みメルセデスを担いで回避に専念する立香。自分の思っている以上に体が軽やかに動き、全弾避けていくもじり貧だ。

 

 

「っ…ディーラーから聞いてるぞ!プラーガは痛覚が鈍くなるから浸透しているとマシンピストルみたいな弱い威力の銃は通用しないけど、高威力の銃のダメージは消しきれないって!」

 

「それがどうした?今の君にその手段があるとでも?抵抗は無駄だ」

 

 

そう言ったサドラーが踏み込み、オルレアンで見せた高速滑走で接近。咄嗟にメルセデスを足元に寝かせて鉄パイプで防御しようと構えた立香の腹部に掌底打を浴びせ、吹き飛ばす。臓器がいくつかやられたのか吐血する立香に、嗜虐心がそそられたサドラーは嘲笑を浮かべた。

 

 

「残念だったな。君も分かっていただろう。力なき人間が偶然に、奇跡的に、最後には必ず勝利する。それは映画の中だけのクリシェなのだよ。だが君の足掻く姿を私は気に入った。褒美として君の幻想に終止符を打ってあげよう!」

 

「ァアアアアアアアッ!」

 

 

そして尻尾を出して立香の右足に巻き付かせて吊り上げて足の骨を折り、「骨折」という今まで味わったことのない激痛に悲鳴を上げる立香を、値踏みするかの様に眺めるサドラー。とどめを刺ささんと右手を槍状の触手に変形させて貫かんとした、その瞬間。

 

 

「…おちおち寝てもいられんか」

 

 

復活したアヴェンジャーの蹴りが強襲、サドラーを頭から蹴り飛ばし、投げ出された立香を抱きとめて、側で目を覚ましたメルセデスに託したアヴェンジャーは、立香達を見物していたウェスカーに視線を向けた。

 

 

「お前も辛いだろうが、この身の程知らずを頼んだぞメルセデス」

 

「は、はい…!」

 

「では覚悟しろ強欲の化身。たかが人間だと侮ったオレの慢心を恥じよう。アンジェロ・ブラーガ神父を相手した時と同じ失態だ。これではコンチェッタに何を言われるか分からんな」

 

 

言われるなりポーチから包帯やらを取り出して己と立香の傷の応急処置を始めるメルセデスを一瞥し、吹き飛び倒れているサドラーを警戒しながらもウェスカーに対して言葉を並べ、自嘲気味に笑うアヴェンジャー。ウェスカーも驚いたのか、感心したような声を上げる。

 

 

「まだ息があるとは……生命力だけは及第点だ。実験材料として使ってやろう」

 

「ハッ!強欲なことだ、オレさえも貴様の欲望の糧とするか!だがオレは恩讐の化身だ。『復讐するは我にあり』せいぜい仕留めきれなかったことを後悔することだ」

 

「図に乗るな!そこで寝ていろ…!」

 

 

瞬間、再びワープして掌打を叩き込んできたウェスカーに対し、己も高速移動して背後を取り、右手に溢れさせた黒炎を叩き込むアヴェンジャー。咄嗟にスウェーして回避したウェスカーと、一瞬睨み合う。

 

 

「…いいだろう。新世界の礎となれ!」

 

「クハハハハハッ!」

 

 

そして、同時に高速移動。いわゆる「ヤムチャ視点」の様に、裁きの間を縦横無尽に駆け廻って幾度となく激突する両者。そのうち、「高速思考」も能力の一つであるアヴェンジャーの蹴りがウェスカーの隙を突いて炸裂。しかし、同時に「昇甲掌打」と呼ばれる両手を光らせて放つ当身技がカウンターで炸裂し、ほぼ同時に高速移動の世界から抜け出した。アヴェンジャーの帽子が落ち、ウェスカーのサングラスとハンドガンが石床に転がる。両者共に満身創痍である。

 

 

「俺に小細工など通じん。消えろ!」

 

「うぐ!?…っはははは!…お前は、地獄を見たことがあるか?」

 

 

再び、先崩掌打を放つウェスカーと、黒炎を纏った拳を叩き込むアヴェンジャー。そのまま必殺級の一撃が立て続けにぶつかり、拮抗し、何時終わるかも分からないその激突に終止符を打ったのは、第三者の引き金だった。

 

 

「ッ!?馬鹿な…貴様ぁ!」

 

 

ウェスカーの両足に弾丸が撃ち込まれ、体勢が崩れた。それを行った下手人は、目の前に転がっていたものを、危険を承知の上でメルセデスに回収してもらい座ったままハンドガン・サムライエッジウェスカーモデルを両手で握りしめた立香であった。

 

 

「…ッ、今。分かった。あなた達はそれぞれが強欲・傲慢の具現なんかじゃない。二人とも、強欲と傲慢の具現なんだ。だから二人揃ってここにいた。私なんかになにかできるなんて、思わなかったんでしょ?」

 

「人間程度が…思い上がるな!!傲慢なお前らは裁かれねばならん!…!?」

 

 

つい今まで、拮抗していたのだ。少しでも不利になればそれは敗北につながる。体勢が崩れた所に、全身に黒炎を纏って加速し懐に飛び込んだアヴェンジャーの貫手がウェスカーの胸部を抉り穿っていた。

 

 

「強欲の化身よ、慢心したな。絶望せよ、それが地獄だ」

 

「何故…だ…!」

 

 

信じられないとばかりに慟哭の声を上げて崩れ落ち、そのまま消滅していくウェスカー。それを見て嘲笑する声と拍手の音が聞こえてきて、満身創痍の立香とアヴェンジャーは音の主を睨みつける。そこには、メルセデスを尻尾で締め付け、シーッとでも言うように人差し指を口の前に立てたサドラーがいた。

 

 

「…見物に回っていたかと思えば、妙な真似をするな、傲慢の化身よ」

 

「お前の相方は死んだぞ。これで二対一だ、観念してメルセデスを離しなさいサドラー!」

 

「冗談はやめたまえ。足を折られてろくに立てない力なき人間を頭数に入れても意味がなかろう。それに私が、あの、私のプラーガを盗み出そうとしていたアメリカ人を信用するとでも思ったのか?正直、共に戦うのも虫唾が走り始末に困っていた所でね。おかげで手間がはぶけたよ。ああ、彼女は返そう。私のことを知らせようとしていたから黙らせただけだ、息はあるとも。安心したまえ」

 

 

そう言ってあっさりと投げ返されたメルセデスを受け止めたアヴェンジャーの傍らで立香は戦慄した。二人で来れば確実に勝てたのに、自らの力に絶対の自信を持ち、アメリカ人だからという理由でせっかくの戦力を無駄にするとは。なんたる傲慢だ。ディーラーによれば、プラーガを使い世界を支配せんとした己の強欲のために傲慢にも、孤独だったラモン・サラザールの心につけ込んでプラーガの封印を解かせ、何の罪もない村人達を騙してガナードにし、耐性の無かった若い女子供達を犠牲にしたというのだから最悪の一言に尽きる。

 

 

「それにしても奴を倒すとは。恩讐というのは実に興味深い。そこの少女とは違う意味で放って置けない男だ。だがその程度の恩讐、我がロス・イルミナドスに入信すれば救われたものを。哀れな男だ」

 

「貴様が我が恩讐を語るな!」

 

 

サドラーの言葉にアヴェンジャーが激高する。その瞳に宿る炎が怒りを薪にしてさらに燃え広がり、ビクッと震えた立香の側でアヴェンジャーは吠えた。

 

 

「我が黒炎は、請われようとも救いを求めず!我が怨念は、地上の誰にも赦しを与えず!世界を救済せんとする強欲の化身たる聖人ならのみならず!世界に裏切られてなお人間に対する憤怒・憎悪を抱かない聖女ならのみならず!オレの恩讐は貴様程度に語られるものではない!

"虎よ、煌々と燃え盛れ。汝が赴くは恩讐の彼方なれば"

 オレは巌窟王(モンテ・クリスト)!人類史に刻まれた悪鬼の陰影、永久の復讐者である!」

 

「…では、軽口叩きまくって死んでいくがいい!」

 

 

そう吐き捨てて、右手を床に突き刺すと地面が波打って触手が下から急襲。アヴェンジャーはメルセデスを一旦立香に預けると己も両腕を床に叩きつけて炎を打ち込んで撃退し、立香とメルセデスを担いで瞬時に端まで移動。そっと落ろすと、右手に火傷を負いこちらに高速で突進して掌打を叩き込んできたきたサドラーに、その勢いを利用して黒炎を纏った拳を叩き込むアヴェンジャー。

 呻いたサドラーは膝を付き、しかし不意打ちすべく蠍の様な尾をアヴェンジャーに気付かれないようにその背後に回して背中から串刺しにしようとするも、立香に気付かれてサムライエッジの弾丸が側頭部に撃ち込まれて妨害され、それに気付いたアヴェンジャーに慈悲も無く顔を鷲掴みにされ黒炎に包まれ炎上した。

 

 

「ぐあぁああああああっ!?…力なき、人間如きが…!」

 

「よくやったぞマスター。これで貴様は終わりだ。ロス・イルミナドス…教え導く教団とはよく言ったものだ。傲慢にも程がある。真に教え導きたいのならばただこう言えばよかった。

―――――待て、しかして希望せよ(Attendre et espérer)とな。…っ!?」

 

「おのれえぇえええっ!」

 

 

すると燃え広がったサドラーが、口の中に巨大な眼を出現させながら最後の力を振り絞ってアヴェンジャーの首を締め上げる。まさかの執念に不意を突かれ悶え苦しむアヴェンジャー。どちらが死ぬのか先か、我慢比べみたいになっていた。

 

 

「貴様が居なければ、あの商人の大事な大事なマスターはここで潰える!商人には死よりも悍ましい罰を与えねば気が済まん!この私が、君達の幻想に終止符を打ってくれよう!」

 

「ぐっ…ぬっ…!」

 

「アヴェンジャー!」

 

 

その時、声が聞こえた。聞こえるや否や、全てを察してアヴェンジャーは体勢を崩して背中から倒れ込み、サドラーに圧し掛かられる様な状態になり、驚きで顔を前方に向けたサドラーの単眼に映るのは、一発の弾丸。

 

 

「ディーラーは、お前の家畜なんかじゃない!」

 

 

壁にもたれ掛ってサムライエッジを構えた立香の放った弾丸が弱点である単眼を撃ち抜き、サドラーは限界が来たのかそのまま断末魔も上げれぬまま焼滅。ゼーハーゼーハーと息を整えたアヴェンジャーは己の帽子を拾って被り直し、立香に歩み寄ると己の宝具を発動する。

 

 

「必要はなさそうだが、今回死力を尽くしたお前へオレからの褒美だマスター。受け取れ。

―――――待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)

 

 

すると立香の脚が見る間も無く治癒されていき完治した。驚き立ち上がりながらまだ気絶しているメルセデスに肩を貸した立香にアヴェンジャーは笑った。

 

 

「これは…回復宝具?」

 

「悪逆と絶望と後悔に満ちた暗黒の中に在って眩く輝く一条の希望だ。 人間の知恵は全てこの二つの言葉に凝縮される。さあ、征くぞマスター。お前とオレは最早、一心同体だ。あらゆる救いを断たれたシャトー・ディフに於いて、しかして希望し、生還を真に望むモノは!導かれねばならない(・・・・・・・・・・)。お前を!導けるのは、このオレだけだ!」

 

「なにを、今更。まだ、マシュに謝ってない。必ずカルデアに戻る!」

 

「その意気だ。だがその前に、休息を取るとしよう。今回ばかりはオレも疲労した。メルセデスもゆっくり休ませたいだろう?」

 

「…私のせいで巻き込んだ」

 

「気にするな。この女の本質が、そういうものだったというだけの話だ」

 

 

そう会話をしながら、メルセデスはアヴェンジャーが両手に抱いて、立香は鉄パイプとサムライエッジを携えて立ちはだかるゾンビを駆逐しつつ、奥の扉を進んで最初の独房に向かう二人。その光景は、信頼し合う相棒の様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、第五の裁きの間に至る立香達の前に立ちはだかるは、怠惰の化身。

 

 

「アーッハハハハ!!虫けらは虫けららしく、大人しく殺されればいいのよ」

 

 

下品な笑い声が響く。裁きの間の中心に頓挫するは、赤い炎を散らす異形の女。その名もアレクシア・アシュフォード。かつて、超人と化したウェスカーでさえも軽くねじ伏せた最強最悪の女王が、そこにいた。




宝具:待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)はちゃんと原作にもある宝具です。バトル中に使わせてもらいたいほど高性能の単体回復宝具。パラメータが一時的に上がるんだとか。

ダブルバトルは強敵だった…。あのサドラーがアメリカ人とタッグを組めるわけがなかった。そして天敵すぎる立香とサドラー。人間態のまま戦ったからしぶとく生き残ってましたが、ディーラーを陥れるために興奮して弱点を出したのが運の尽き。なお台詞のほとんどは原作の引用です。今回で鉄パイプだけでなく、ウェスカーのサムライエッジまで武器として手に入れた立香さん。身の程を弁えずこれからも突っ込んでいくことでしょう。

今回のウェスカーはマベカプ仕様となってます。いわゆる「本気」モードです。慢心してサングラスをかけてるから視界が狭まって敗北するのがウェスカーさんのよくある傾向。

流血に反応して二度もサドラーにやられたメルセデスさん。記憶を失っていても体は正直な模様。ペッパーボックスピストルはどんな銃なのかよく知らないのでリロードとかの描写に不備があれば申し訳ない。

アヴェンジャーの言っていたアンジェロ・ブラーガ(プラーガじゃないよ)神父とコンチェッタに関してはドラマCD「英霊伝承異聞~巌窟王エドモン・ダンテス~」を参照。
ロス・イルミナドスという言葉に対して 待て、しかして希望せよという言葉と、原作ではジャンヌと天草と対峙した際に言ったアヴェンジャーの「導かれねばならない」のセリフをぶつけたかったのでひとまず目標の一つは達成。あと二つぐらいやりたいコラボがあります。

あと、感想で指摘された今章に入ってから急に男勝りな口調になった立香に関してですが、ぶっちゃけるとこっちが素です。いつもいつも目上の人がいたから敬語を使っていたので、書いてる作者自身も違和感が凄いです。ディーラーか巌窟王だけがいる場合この口調になります。

口調と言えば最後に出て来たお方。個人的バイオハザード史上最も邪悪な外道妹、バイオハザード_CODE:Veronicaのラスボス、アレクシアさん。この人の口調が地味に難しい。外道系お嬢様の口調ってどんなの…?
ダークサイドクロニクルズをプレイした時に初めてその存在を知り、そのあまりの外道っぷりにブチギレながら戦ってその強さに泣いた記憶があります。再戦したらそこそこ安定して勝てるようになったけど地味に強いしリニアランチャー当たらないから嫌い。でも原作のVSウェスカー戦のかっこよさ・美しさは好きというジレンマ。なお描写されてませんが既に戦闘形態なのでつまりは全r(ry

次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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それが憤怒だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、台詞を考えるためにプレイしたダークサイド・クロニクルズでアレクシア第二形態に何度も何度もフルボッコにされ敗北して怒りを募らせている放仮ごです。あの憎らしさで原作より可愛くなったってマジか。

主役であるはずのディーラーがまるで登場しない監獄塔編第五話。今回はVSアレクシア。立香の本音が爆発します。楽しんでいただけると幸いです。


ウェスカーとサドラーを倒した立香とアヴェンジャー。気絶したメルセデスをアヴェンジャーが抱きかかえて先導し、鉄パイプを背中に括りつけた紐に下げて腰にハンドガン・サムライエッジを挟んだ立香が続く。

 

 

「それでマスター。…お前は聞いたか?」

 

「サドラーに言ったことなら聞いたよ。そうじゃないかなと思ってたよ」

 

「…この回廊は長いがメルセデスを刺激する訳にもいかん。ひとつ昔話をしてやろう。他愛のない昔話だ」

 

 

そして語り出すアヴェンジャー。―――――それは、一人の男の復讐の物語。マルセイユの一等航海士だった男は、誠実であったが人の、この世の悪意にあまりにも鈍感で、美しい恋人(メルセデス)と将来の約束を交わしていたものの彼を疎ましく思った者達の手により無実の罪、大逆の濡れ衣を着せられました。いわれのない罪の密告、友の裏切り、法を司る者さえ浅ましき私欲から陥れた男はマルセイユ沖の監獄塔へと送られた。生きては出られないと言われるこの世の地獄(シャトーディフ)に閉じ込められて人生を奪われた男は、絶望の苦痛の中で死をも望みましたが独房に繋がれたファリア神父との出会いにより希望と導きを得ました。それは闇黒の底にあっても輝くささやかな光。多くの知識を神父から学んだ男は病に倒れた神父をの遺体と入れ替わり、脱獄を果たした彼が帰還した世界は実に14年という時間が過ぎ去っていました。神父に託された救世主の山(モンテ・クリスト)の財宝を得てモンテ・クリスト伯爵を名乗った彼は、十四年の間に全てを忘れ去っていた人々と、裏切りと悪逆を見過ごした残酷な世界へと復讐を始めたのです。

 

それが、立香の知っている巌窟王(モンテ・クリスト)のストーリー。世界で最も知られる復讐鬼の物語だ。見れば、アヴェンジャーの表情は憎悪に染まっていた。

 

 

「ククク…!今でも思い出せる、連中の顔 顔 顔!我が名を告げたときの驚愕!己が忘れ去っていた悪業の帰還を前にした絶望!あれこそが復讐の本懐!正統なる報復の極みなる!」

 

「じゃあアヴェンジャー。貴方の真名はやっぱり、巌窟王(モンテ・クリスト)…」

 

「……いいえ、違い…ます…彼の、彼の名…は…」

 

 

独房に辿り着いたちょうどその時、アヴェンジャーの叫びが五月蠅かったのか目を覚ますメルセデス。立香は安堵し、アヴェンジャーはそっとメルセデスを降ろした。

 

 

「メルセデス。起きたか。歩けるか?」

 

「はい。自分で応急処置を済ませますので少々お待ちいただければ…」

 

「分かった。ゾンビが寄ってくるかもしれないからできるだけ急いでね」

 

 

てきぱきと処置をするメルセデスに何か思うところがあるのか。聞こえないようにアヴェンジャーにひそひそ声で問いかける立香。

 

 

「…ねえ、アヴェンジャー。メルセデスのことだけど…あの手際やあの時の勇気…こういっちゃ失礼だけど普通の人じゃないよね。本当に何も知らないの?」

 

「今更気づいたか。既にヒントは与えているぞ。元々、ここの番人は大罪を背負った英霊たちだったと」

 

「じゃあ、メルセデスはその一人…?」

 

「そうだ、言うなれば残骸だろう。喚ばれたはいいが番人の座を奪われたことで行き場を失くし、共に記憶を失って彷徨っていたというのが真実だろう。あの女が通って来た道を逆算すれば、おそらくは傲慢の間の番人のはずだ。本来ならばもっと後半、それも最後のはずだが、サドラーが番人と化したことで順序も入れ替わっている」

 

「じゃあ、やっぱりサーヴァントなんだ…真名までは分からない?」

 

「そこまではオレにも分からんが…さぞかし狂った英雄だというのは分かる。あの状況で、ウェスカーの銃を取って貴様に渡す…相当クレイジーでないと出来ないからな。クラスはバーサーカーと言ったところか」

 

「失礼な。あの時はメルセデスが力を貸してくれないとアヴェンジャーが危なかったよ」

 

「なんにしても、オレなんかとは違う英霊だ。もしもオレが倒れた時には彼女を頼れ。記憶さえ戻れば、お前をカルデアに戻してくれるはずだ」

 

「なにを不謹慎なことを」

 

 

冗談か本気か、アヴェンジャーの台詞に物申す立香。その目は真剣で、アヴェンジャーは思わずその目に引き込まれる。

 

 

「私はアヴェンジャーを殺させないよ。貴方が私を殺させない限り、どんな手を使ってでも守る」

 

「…大きな口を利くものだ、我が仮初めのマスターは。マスターとサーヴァントの関係性すら無視するとはまさか貴様、真正の馬鹿か?」

 

「そうかも。…マシュと所長たちを悲しませない程度には頑張るよ。…メルセデス、終わった?」

 

「はい。処置は済ませました。行きましょう、お二人とも」

 

「待て、メルセデス」

 

 

そう言って先に進もうとするメルセデスを呼び止めるアヴェンジャー。振り返って己を見てきたその目に、何かを感じて怯みそうになりながらもアヴェンジャーは続けた。

 

 

「お前は独房で待っていろ。扉を閉めて引き籠もっていればゾンビ共は入ってこまい。ここから先の番人はオレと立香だけで戦う。はっきり言おう、貴様は邪魔だ」

 

「で、でもメルセデスが居なかったら私たちは…」

 

「わ、私は戦えませんが治療できます!足手まといになるかもしれません、けど私がどうなっても構いませんから!」

 

「それでもだ。この女は誰かを見捨てることを非常に嫌う。それで死んだら世話無い。それにお前はもしもの時の保険だ。この女のことを想うのなら、待っていろ」

 

「…はい、分かりました」

 

 

メルセデスが頷いたのを見て、深いため息を吐いたアヴェンジャーはそのまま不服そうな立香の方を向いて微笑んだ。

 

 

「そんなにオレの言い分に文句があるか?だったら先を急ぐぞ、マスター。この女に戦わせないためには、一刻も早く脱獄すればいい話だ」

 

「…分かった。行こう、アヴェンジャー」

 

「そうだ、それでいい」

 

 

そうして、メルセデスを独房に置いて、立ちはだかるゾンビ等を蹴散らしながら回廊を進む立香とアヴェンジャー。辿り着く直前にて語り出すアヴェンジャー。

 

 

「さてマスター。第五の裁きの間に居る怪物の罪だが、問うぞ。―――怠惰を貪ったことはあるか?成し遂げるべき事の数々を知りながら、立ち向かわず、努力せず、安寧の誘惑に溺れた経験は?社会を構成する歯車の個ではなく、ただ己が快楽を求める個としてふるまった経験は?―――――その女は、10歳で有名大学を首席で卒業するほどの才覚を持つ才色兼備でありながら、自分以外の人間を見下している唯我独尊で高飛車で子供じみた残虐性を併せ持ち、己の研究のために事故による死亡を装い15年もの間を眠り続けていた」

 

「…眠っていたから怠惰?」

 

「いいや、違う。この女にとっては実の父や双子の兄さえも実験材料で、精神崩壊を起こすほど溺愛していた兄に至っては「忠実なだけの無能な兵隊蟻」と切り捨て、他人がどうなろうが気にしない。怠惰の罪とは即ち無関心・無感動の極みだ。他者を働き蟻としか思えない、まさに女王蟻である彼女こそ怠惰の罪の怪物にふさわしい。その女の名を、アレクシア・アシュフォード。断言しよう、この女は生まれついての真性の邪悪だ」

 

 

そう言って扉を開いたアヴェンジャーに突如襲いかかってきたのは、彼の黒炎とは正反対な紅蓮の炎。咄嗟に黒炎を纏った右手で消し飛ばし、中に突入して顔を歪ませるアヴェンジャー。第五の裁きの間は、既にその中心に立つ異様な女の手で炎上していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…シャトー・ディフを炎上させた者など歴史を見てもお前が初めてだろうな、アレクシア・アシュフォード!」

 

「ようこそ、虫けらさん達。一緒にベロニカ・ウイルスの研究をしましょう。このベロニカ・ウィルスの力にどれだけ耐えれるかの実験よ!さあ、私の前に跪きなさい!アーッハハハハ!!」

 

 

植物の様な髪の毛を持つ、一部が植物のような皮膚で覆われている石像のように変色した肉体を有した美しい女体。しかしてその下品な笑い声と卑しい笑いで邪悪なものへと彩られた、異形の女は両手に炎を灯し、振るって炎をばら撒いてきた。アレクシアの攻撃を、それぞれ左右に跳躍して回避する立香とアヴェンジャー。立香は少々足先を掠り、慌てて石床に擦り付けて火を消した。

 

 

「話ができるのに問答無用とは…!清姫の狂化EXでもまだマシだよ!?」

 

「狂化などと一緒にするな、奴は狂気そのものだ!」

 

「アーッハハハハ!私の創り出したベロニカ・ウィルスは、地球上でもっともすぐれたウィルスよ。15年間コールドスリープしないと意識を保ったまま力を使えないのが難点だけど…貴方のような、虫けらを生み出すような出来損ないのウィルスとは違うのよ」

 

「私?」

 

 

なにやら上機嫌でびしっと指を差されて疑問符を浮かべる立香。自分にウィルスなんてまるで心当たりがないと言いたげな顔に、何もわかってないのかと言いたげに卑しい笑みを返すアレクシア。

 

 

「そうよ?もしかして知らなかったのかしら?私の実験体にもなれないなんて可哀そうに…だから、虫けらにふさわしい死に場所を用意してあげたわ!」

 

 

一瞬悲しげな表情を演じたかと思えば、喜色満面の笑みを浮かべたアレクシアの両手から空中へと炎が散布され、炎の雨が迫りくる。慌てて走り回って回避する立香をよそに、炎の雨を受けながら特攻したアヴェンジャーが黒炎を纏った拳をアレクシアに叩きつけるが、それは空を切り石床を大きく砕くだけだった。アレクシアは、跳んでいた。

 

 

「なに!?」

 

「アーッハハハハ!!虫けらは虫けららしく、大人しく殺されればいいのよ」

 

 

スタッと、アヴェンジャーの背後に宙返りして着地したアレクシアの回し蹴りが胴体を捉え、大きく吹き飛ばされるアヴェンジャー。ただの跳躍で見失うほどの身体能力、なるほど最強のウィルスを自称するだけはある。

 

 

「避けれるかしら?」

 

「ちぃ!」

 

 

アレクシアの右腕が振るわれ、まるで蛇の様にうねって迫りくる炎からたまらず逃げるアヴェンジャー。黒炎をも飲み込む紅蓮の炎の火力と誘導性に手も足も出ていなかった。

 

 

「ハァーッハハハハハッ!」

 

「魔力を使わず炎を行使するとは…!」

 

「えっ、魔力を使ってないの!?じゃああの炎は…?」

 

「知らん!奴の言うベロニカ・ウィルスとやらの力だろう!オレの恩讐の炎をも飲み込むとは…おのれ!」

 

 

飛んでくる炎をハンドガンで消し飛ばして防御する立香と、魔力弾を連射してアレクシアに当てようとするも悉く避けられてしまうアヴェンジャー。すると、アレクシアの腕に小さな切り傷が開いてそこから血が溢れ出し、発火した一瞬の光景を、以前より優れた動体視力で立香が見て、気付いた。

 

 

「アヴェンジャー!血だ!空気に触れた瞬間発火してる!あれだけの火力だ、全身から流せば…」

 

「勝機はある、か」

 

「あら、気付いたの?血液が空気に触れると瞬時に発火する……どう?素晴らしい能力でしょう?」

 

「うん、だけど血を流しすぎるのも駄目なんじゃない?」

 

「…貴方は虫けらにしては聡明ね。私を起こすことさえままならない兄とは大違い」

 

「…兄?」

 

 

アヴェンジャーから聞いていたが、どうしても本人の口から聞きたかった。本当に、人間にそんなことが出来る奴がいるのだと思いたくなくて。バイオテロにより家族を失ってしまった藤丸立香は、アレクシアに問いかけた。

 

 

「ええ、愚鈍な兄よ。瀕死になってまで私を起こしてくれたから、そのご褒美にお仕事から解放してあげたわ」

 

「…自分以外はすべて働きアリだとでも言うの?」

 

「いいえ?」

 

 

その言葉に、一瞬だけ喜色を見せる立香。それを知ってか知らずか、アレクシアは無関心な表情で告げた。

 

 

「私が女王アリだとしたら、働きアリと言うのは命令をちゃんと遂行できる優秀な虫けらの事よ。それ以外は…愚鈍な兄も愚かな父も含めて、働きアリというよりは実験材料ってところかしら」

 

「…分かった。よく分かった。…家族に愛されることが、どれだけ幸せなことなのか。家族がいるっていうのがどれだけ尊いことなのか……それを、貴方は何もわかっていない」

 

 

表情に影を落とし、怒りに身を震わせる立香。これまで溜めこんできた、ニュースで見て手を出したくても出せないどこか遠いところに存在し、一発でも殴れればいいやと思い込んできた、バイオハザードの首謀者たちへの怒りをふつふつとにえ滾らせた立香を、何かを察してかアレクシアの攻撃を防ぎながら見守るアヴェンジャー。

 

 

「アルフレッド……愚かな兄。アレは本当に忠実な私の家来だったわ…もう少し、利口だったら何もいう事はなかった。所詮、私と兄は遺伝子操作で生まれた子供よ。私は成功作、兄は失敗作。父にも兄にも私への愛なんかない。だから私も誰も愛さない。研究こそが全てよ」

 

「もういい、黙れ。貴方は邪悪だ、私の敵だ。ディーラー!武器を渡せ、武器をよこせ!……誰でもいい…何でもいい、この外道を黙らせる!」

 

 

そして、立香の目が、T-ウィルスの影響が出たことを表すように赤く光り輝き、それは一瞬のうちに黒に染まった。

 

 

「私は貴方を許さない」

 

 

二人分重なった声が監獄塔に響き渡り、アレクシアはその表情を歪めた。一瞬で、衝撃波か何かが立香から放たれて裁きの間を吹き抜け、炎が霧散と消えたのだ。さらに、どこからともなく黒カビが湧き出てきて、アレクシアの両足を拘束して床に縫い付けた。アヴェンジャーはその光景を、まるで知っていたかの様に愉快そうに眺めていた。

 

 

「…ようやく出て来たか。藤丸立香の中にいた怪物よ」

 

「今だ、アヴェンジャー!慈悲はいらない、切り刻め!」

 

「くはは!残酷なことだ」

 

「クッ……ただの人間に、この私が……!」

 

 

咄嗟に両腕から炎を出して拘束している黒カビを焼き払おうとするアレクシアだが、そうはさせないとばかりに立香が投擲した鉄パイプがアレクシアの胴体を貫いて動きを止め、さらに的確なヘッドショットが炸裂。頭部を押さえてダメージに呻くアレクシアを、取り囲む複数のアヴェンジャー。

 

 

「――――虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

超高速で動くことによって分身したアヴェンジャーの四方八方からの魔力ビームがアレクシアの全身を貫き、何が起こったのかその天才の頭脳で把握できぬまま、孤独な女王蟻は消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無言のまま裁きの間の先へ向かい、回廊を歩み続ける立香に、焦燥を感じさせる表情のアヴェンジャーは問いかけた。

 

 

「藤丸立香。それは、貴様が知らず知らずのうちにため込んできたものだ。貴様のうちに巣食う者も抱いていた、正統なる感情。ああ、先刻も説明した哀れなる男が抱いた復讐心の原初、もっとも強き感情であるとオレが定義するモノ。あえて問おうマスター。お前は、憤怒を抱いたことがあるか?」

 

 

その先、裁きの間の方向からまるで泥の様な灰色の肉塊が徐々に溢れ出し、シャトー・ディフを覆うように迫り一気に立香とアヴェンジャーの足元、さらにはその背後の回廊まで浸食した。肉塊に覆われた壁から女性を模った人型の肉塊が複数体出現し、背後から二人に襲いかかり、難なく鉄パイプと黒炎を纏った拳で散らされるもすぐに補充され、絶え間なく襲い続ける。

 

それは、憤怒の具現。際限なき怒りを表すかのように広がり続ける、一人の女の怒りが生み出した怪物。その名もカーラ・スポア。無限に等しい半固体の肉体を有した怪物が二人の前に立ちはだかった。




結論:第二形態以上に変身できず触手も使わないアレクシアとか雑魚ですわ。正直、触手の方がラスボスだと思うぐらい強い。

題名通り最初から最後まで憤怒の話でした。メルセデスの一応の正体も判明。原作の様に戦うことはありません。その代わり…?

個人的バイオハザード最低最悪の外道アレクシアの家族を切り捨てる行いに、バイオハザードで家族を失った立香が反応しないわけがなく。アレクシアの兄アルフレッドと父親のアレクサンダーは、形はどうあれちゃんとアレクシアを愛してました。父親なんかメッセージを残して「止めてくれ」と頼み込むぐらいに。
それを自分から切り捨てたどころか実験体にしたアレクシアがどうしても許せなかった立香…と同調して、アヴェンジャー曰く立香の内に巣食う彼女が力を貸した結果がこれ。ついに本音が爆発しています。一発でもいいから殴りたいのに、手の届かないところにいるってかなり辛いと思います。何気にアレクシアが虫けらしか生み出さないウィルスと罵ったT-ウィルスの力を遺憾なく立香が発揮していたというね。鉄パイプの元ネタはコマンドー。

ダークサイドクロニクルズで判明しますが、ベロニカウィルスは強力すぎる代わりに血を出しすぎると火の粉になって消滅します。同じように全身から一気に血が出れば燃えるんじゃないかと予想してアヴェンジャーに蜂の巣にしてもらいました。

そして残る罪は憤怒と暴食。残りはどちらもバイオハザード6から登場となります。正直ベロニカよりCウィルスの方がやばいと思う。暴食は元々モチーフっぽかったからそのまま入れたけど、憤怒はこの方しか思いつかなかった。

次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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お前は誰だストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、仕事が始まる間際まで書く事をやめられない放仮ごです。なんか追い詰められるとすらすら書ける、不思議。

主役であるはずのディーラーがまるで登場しない監獄塔編第六話。第六・第七の怪物との激闘。驚愕の真実が明らかに…?楽しんでいただけると幸いです。


―――――告白と嘘は同じものである。告白が出来るようにと、嘘をつく。

 

フランツ・カフカ

 

 

 

 

 

 

「アヴェンジャー!次の相手は、憤怒の具現だって言ってたけど!」

 

「ああ、自らに起因する怒りたる私憤でも、世界に対しての怒りたる公憤でも構わん、等しく正当な憤怒!それこそがこの怪物の宿す、膨大な憎しみの憤怒だ!」

 

 

溶解液を撒き散らしながら襲いくる女性の形をとる灰色の肉塊…カーラスポアSの集団を、鉄パイプで薙ぎ払いサムライエッジで撃ち抜いて蹴散らしながら尋ねる立香に、同じく黒炎を纏わせた手を振るい迎撃するアヴェンジャー。今や監獄塔全てが肉塊で覆い尽くされ、メルセデスの安否も分からなくなり二人は急いでいた。

 

 

「正当な憤怒というものはヒトを惹きつける。古今東西、老若男女の別なく復讐譚を人間(オマエタチ)は好み、愛おしむ。怒りが導く悲劇さえ、時にヒトは讃えるだろう。見事な仇討ちだ、とな。だが奴の怒りは憎しみと自我喪失による暴走だ。

信じるべき男を間違えた。男を見る目と男運が無さ過ぎた。男に唆され、肉体構造に自我と意識までもを根本から別人にされ、裏切られた報復を決意したまではいい。…全世界を震撼させた、2013年に発生した中国のバイオハザード。奴はその首謀者で、憤怒を向ける対象を個人から世界へと向けた。それはもはや、正当な憤怒ではない。俺にはそれが許せん」

 

 

肉塊に包まれた壁から伸びてきた大量の腕による拘束を魔力を雷の様に放出して散らし、天井の肉塊が集った女の顔が変形した怪物の頭部による噛み付きを避け、蹴りを叩き込んで吹き飛ばすアヴェンジャー。監獄塔全体が敵となって襲いくる、その怒りの凄まじさたるや。事実上不死身のカーラスポアSを蹴散らしながら、立香は痛感していた。

 

 

『私が目指したのは、これまで人類が、彼が築き上げてきた安定したものすべての崩壊!ウィルスによる安定しない世界!』

 

 

どこからともなく、声が響いてきた。やけくそと言わんばかりの怒りに震えた笑い声。それは、裁きの間があるであろう奥から聞こえてきた。

 

 

『そのあとに残るものは、なにもない!永遠に安定しない世界、地獄よ!』

 

 

その声と共に、飲み込まんと廊下の奥から巨大な女性の顔が迫りきて、拘束しようとしてくる両際の壁の複数の手を振り切りながら走る二人。裁きの間へと辿り着くと、中心を隔てる様に灰色の肉塊で巨大で歪な顔…カーラスポアの本体であるカーラスポアLが形成され、巨大な赤く腫れ上がった腫瘍を目の様に二つ光らせて溶解液を撒き散らしながらカーラスポアSを次々と生み出してきていた。

 

 

「監獄塔を占領するとは。よほど憎しみがあると見える」

 

『憎い!憎い!殺してやるァアアアアア!』

 

 

魔力の雷でカーラスポアSを蹴散らしつつ、魔力弾を次々と叩き込んでいくアヴェンジャーと、サムライエッジを弱点と思われる目に乱射する立香。そのうち灰色の肉塊が剥がれていって赤い肉壁の内部が露出し、攻撃の勢いが増してきた。

 

 

「物量が…違いすぎる…!」

 

「憤怒の化身、其の名はカーラ・ラダメス!哀しみ、怒り、荒ぶり、噴き上がる黒き炎を宿しているが貴様のそれは正当な憤怒ではない。ただの、八つ当たりだ」

 

『私はエイダ・ウォンよ!本物の、エイダ・ウォン!ニセモノなんかに助けは請わない!あなたみたいなニセモノなんかに!』

 

「私が…ニセモノ…?」

 

「奴の戯言は気にするな。決めるぞ。それを貸せ、マスター!」

 

『死ねぇ!』

 

 

言われるままに、サムライエッジをアヴェンジャーに投げ渡す立香。アヴェンジャーは手にしたサムライエッジに黒炎を集中させ、隙だらけなそこに襲いかかってきたカーラスポアLの巨大な顔に、咄嗟に防御の構えを取った立香の目が黒く染まり、目の前に黒カビの壁が出てきて塞き止めることに成功した。なんで、と心の中で反芻するが、そんな場合じゃないと立香は叫ぶ。

 

 

「今だ、アヴェンジャー!」

 

「そろそろおやすみの時間だカーラ・ラダメス。情けはかけぬ。存分に、朽ち果てよ!」

 

 

その瞬間、アヴェンジャーの手にした光り輝いたサムライエッジから放たれた魔力を纏った弾丸がカーラスポアLを撃ち抜き、跡形も無く消し飛ばした。

 

 

「今のは?」

 

「さてな。チャージショット…といったか。見よう見真似だが上手く行っただけよしとしよう」

 

 

肉塊が消滅していき、元に戻りつつある監獄塔を眺めながらサムライエッジを立香に返すアヴェンジャー。

 

 

「奴は偽物だと言ったが、サーヴァントとはそもそも英霊の影法師、そういうものだ。オレはお前の魂を導くモノだ。お前にオレが与える行く先は恩讐の彼方ただ一つ。お前が諦めようと諦めまいと、オレは、お前の魂をソコへ叩き落すだろう。その時、お前は果たして生還するのか…それとも永劫に囚われ続け、絶望し、狂い、死に果てるのか」

 

「…それは、いやだな」

 

「だろうな。お前は二度とごめんだろう。せいぜい楽しみにしているがいい。そうだ、こう言うべきだったな。

―――――――待つがいい。しかして、希望せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾンビがいなくなった回廊を進み、帰還した二人。そこに見たのは、もぬけの殻となった独房だった。メルセデスの姿はどこにもなく、立香はさーっと顔を青ざめた。

 

 

「メルセデス・・・?」

 

「…監獄塔全体を覆う怪物に飲み込まれたと考えるのが妥当だな。諦めるしかないだろう。それよりも、気付いていたか?この監獄塔からゾンビ共が消えていたことを」

 

「…さっきのに飲み込まれたってだけじゃ?」

 

「いいや、前も言った通り前の回廊とは空間が異なる。残る最後の怪物の司るは暴食…すなわち、無闇やたらとたくさん食べる事。…といえば聞こえはよいが、この世のあらゆる快楽を貪り、溢れども飽き足らず喰らい続けた、実に単純明快極まる悪逆そのものだ。特に暴食の具現は、先の憤怒の具現と密接な関係にある存在だ」

 

「…つまり、彼女が憤怒を向けた対象?」

 

「その通りだ。安定した世界を望むがあまり非道を行い続けた挙句に、自身が最も嫌う永遠に変化し安定しない存在へと変貌、一瞬にして全てを失いあまつさえ怒りを周囲の者へ向け、失ったものを補うように全てを喰らわんとした。後は分かるな?」

 

「…もしかしてゾンビがいなかった原因って…それならメルセデスも?」

 

「その可能性もあるやも知れぬ。急ぐぞ、もしかしたら間に合うかもな?」

 

「っ…急ごう!」

 

 

そう聞くなり己を置いて走って行く立香に、アヴェンジャーは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「ああ、そうだ。お前は決してメルセデスを見捨てられまい。どうやら分かってきたようじゃないかマスター」

 

 

その言葉は、藤丸立香には聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辿り着いた最後の裁きの間には、回廊には見られなかった大量のゾンビたちと、その中心に異様な男がいた。全身にひび割れのような赤い亀裂が生じた上半身裸の壮年の男性であり、背中から巨大な蠍の胴体が伸びたような姿をしている。立香達が入ってきたことに気付くと男は呻き声を上げた。

 

 

「……グゥ、アア、アアアアアアアアアアア……オオォオオオオオオオ……オオオオオッ!!」

 

 

瞬間、サソリの胴体から黒い触手を伸ばしてゾンビに突き刺すと次々と取り込んでいき、その姿が膨張、巨大化していく。監獄塔に存在していたゾンビの大半を取り込み監獄塔の天井に壁さえ突き破り、もはや床しか存在しない裁きの間を空を飛んで見下ろしたその姿は、超巨大なハエに酷似していた。雷が迸る暗雲立ち込める嵐の空を背景にその怪物…変異シモンズ・ヒュージフライは吠えた。

 

 

『オオォ、オオオアアアアアアッ!!』

 

「この監獄塔で空が見えるとは!其の名はディレック・C・シモンズ!まるでベルゼブブ、暴食を司る悪魔を模った異様な姿は暴食の罪の末路だ。アレはお前の魂を貪り喰らうまで止まらんぞ、どうするマスター!」

 

「もちろん、倒す!そしてカルデアに戻るんだ!」

 

『殺してやるぞ、貴様ら…!バラバラに引き裂いてやる…!』

 

 

響くような言葉を紡いだヒュージフライは赤い複眼を光らせて巨大な節足を振り下ろし、アヴェンジャーの黒炎を纏った拳と激突。弾かれたところに立香の手にしたサムライエッジの弾丸を複眼に連続で受け、怯んでグシャリと複眼が砕け散り、そのまま裁きの間へと落ちて倒れ伏した。

 

 

「やったか…?!」

 

「いや、ここからだ。気を付けろマスター!」

 

 

砕けた複眼から黒い触手が伸び、裁きの間に次々と姿を現すゾンビの一体に突き刺すと取り込み、さらに次々と周りのゾンビを吸収して、間接以外はより硬質化し共に巨大化、眼をカバーする様に口元の強固に発達した触角が昆虫の顎の様にカチカチと鳴り、蝿と蜘蛛が融合したような異様な外観に姿を変えたヒュージフライは、裁きの間の外壁に節足を伸ばしてその巨体を持ち上げ、唖然とする立香と好戦的に見上げて笑うアヴェンジャーを見下ろした。背後で光った雷も相まって、絶望感に打ちひしがれる立香。

 

 

『これで終わりにしてやる…!』

 

「暴食とは即ち、摂理を持たない捕食行為だ。崩したのは外装に過ぎん、ゾンビがいる限り奴は再生し続けるぞ!即ち、この監獄塔に置いては不死身の怪物だ!」

 

「そんなの反則では!?」

 

 

現実世界ではなく精神世界であるために、罪の具現であるゾンビが無限湧きするこの監獄塔ではまさしく最強の相手。立香は物怖じしながらもサムライエッジを乱射して再び複眼を狙うも触角に弾かれ、アヴェンジャーの放った魔力弾も巨大な節足で消し飛ばされ、質量の伴った一撃が裁きの間の中心に炸裂。吹き飛ばされ転倒する立香。防御したものの耐えきれず体勢を崩したところに強烈な一撃が叩きつけられダウンするアヴェンジャー。せめてものと、脆そうな関節部分にサムライエッジを連射して破壊してダウンはさせたものの、すぐに周囲のゾンビを黒い触手で取り込んで再生するヒュージフライ。その姿はまさに暴食の権化だ。

 

 

『それで全力かね…!』

 

「ちぃ、今までの怪物どもには存在しなかった質量差がここまでとはな…質量保存の法則とやらはどうなっている?」

 

「それは私も聞きたい。ディーラーがいればロケットランチャーなり使えば行けそうだけど、今手元にあるのはハンドガンと鉄パイプ…それと何故か使えるエヴリンの力だけ。どうすれば…ああもう、邪魔!」

 

 

精神世界だからサムライエッジの弾に限りはないとはいえ、リロードする必要があるその瞬間を襲ってきたゾンビに、咄嗟に鉄パイプを突き刺して蹴り飛ばす立香。その瞬間、暗雲が光り鉄パイプが避雷針の役割を果たしてすぐ近くに雷が落ちてきた。思わずビクッと反応した立香は、とある手を思いついた。

 

 

「アヴェンジャー!触角を外して複眼を攻撃することはできる?!」

 

「できるだろうな。だが、本体までには届かんぞ。どうする?」

 

「打開策、思いついた!私が隙を作るから、頼んだ!」

 

「ふっ、いいだろう…任された!」

 

 

アレクシアと対決した際から何故か使用できる様になったエヴリンのスキル「自己改造(特異菌)」を使用し、左腕に黒カビを収束させて盾を作り、右腕はブレード・モールデッドの刃にして構え、飛び出す立香。ヒュージフライの節足の一撃を優先的に防ぎ、群がるゾンビを右腕の刃で斬り裂きながら耐え続け、アヴェンジャーはその背後でゾンビを迎撃しながら、ヒュージフライを見つめ続けスキル「窮地の智慧」を行使した。

 

 

「ッ…!重すぎる…!?」

 

『さあ、追い詰めたぞ…!助かりたいか!?死にたくないか!?ならば命乞いをしろ!泣いて助けを乞え!』

 

 

連続で節足を立香に叩き込み、頭部を近づけて触角を顎の様に動かして威嚇し勝ち誇るヒュージフライ。中々倒れない少女に集中するあまり、その視界から復讐者の姿は完全に外れていた。

 

 

「ぜぇやっ!隙ありだ、紛い物の悪魔よ」

 

『グゥオオオオアアアアアアッ!?』

 

 

超高速移動したアヴェンジャーの両腕の振り下ろしが、防御が外された複眼に炸裂。もぎ取る様に両眼を抉り飛ばし、ヒュージフライは絶叫してダウン。しかしすぐに再生しようと黒い触手を周囲のゾンビに伸ばし、その瞬間に右腕を伸縮する異形の腕にした立香の掴んで持ち上げた、鉄パイプの突き刺さったゾンビに突き刺さってそのまま取り込んでしまい、ダウンした身体を持ち上げたヒュージフライの複眼で鉄パイプが雷に反射して光った。

 

 

『なんだ、これは?………ァアアアアアアアアアアアアッ!!??』

 

 

瞬間、避雷針となった鉄パイプに雷が直撃し、全身に電撃が駆け巡って分解、肉塊となったゾンビの山の中から姿を現し、痺れて膝をつく本体のシモンズ。そして右腕を元に戻した立香のサムライエッジの弾丸が、シモンズの眉間を撃ち抜いていて。

 

 

「死ぬほどしたもの、命乞いはもうこりごりだ」

 

「その巨体で監獄塔の天井を崩し、空を見せてくれた結果がそれだ。暴食も程ほどにすることだな。俺がもっとも嫌う人種の怪物、紛い物の悪魔よ」

 

 

シモンズは崩れ落ちて消滅。両腕を元に戻して一息つく立香に、アヴェンジャーは笑い、すっかり風通しのよくなった裁きの間に吹きすさぶ風に外套を揺らしながら背後から歩み寄る。

 

 

「メルセデスは、いなかったね」

 

「そうだな。どこへ消えたのやら。それよりも、だ。は、はははははははははは!よくぞ殺した、祝福しよう藤丸立香。なんだ、手慣れているじゃないか?」

 

「これでも四つも特異点を超えて来たからね…でも、エヴリンの力が無かったら切り抜けられなかった」

 

「そうだな、もしもなんの力もない藤丸立香ならば第五の裁きの間で死んでいただろう」

 

「どういう、意味・・・?」

 

 

振り返る立香。そこに立っていたアヴェンジャーを見上げる。その表情は何の感情も感じられなかった。アヴェンジャーの見下ろす立香の表情も、何の感情も感じられなかった。無言で睨み合う両者。沈黙を破ったのはアヴェンジャーの方だった。

 

 

「もはやシャトー・ディフは役割を終える。だがここはシャトー・ディフ。偽りであれど本質は変わらぬ。かつてここを出たのはただ一人。ならばここから出られるのも、ただ一人。もう一人の死体と入れ替わり生き延びる。――――そうだ、お前が第二のファリア神父だ」

 

 

瞬間、反応できなかった少女の胸部をアヴェンジャーの貫手が貫いていた。膝をついてかふっと血を吐き、憎々しげにこちらを睨みつける『藤丸立香』に、アヴェンジャーはおかしいとばかりに嘲笑を浮かべた。

 

 

「あの魔術王は元々、お前と藤丸立香を同士討ちで殺すためにここに入れた。お前のせいでややこしいことにはなったがな」

 

「さっきから、何を言って…!」

 

「では聞こう。お前は誰だ?」

 

「私は…、藤丸、立香……」

 

 

息も絶え絶えにそう答えた立香だが、吹きすさぶ風で視界に揺れる長い黒髪(・・・・)にハッと目を見開いた。今、吐いた血も、よくよく見れば赤い血などではなく、液状となった黒カビで。わなわなと黒カビに塗れた両手を見ると、先ほどまでは確かに令呪の刻まれた大人間近の少女の手だったはずのそれは子供の様な小さな手になっていた。

 

 

「なん、で…」

 

 

慌てて服装を見やる。今まで気付かなかったが、身に着けているのは白いカルデア礼装でも他の礼装でもなく、黒いワンピースに茶色いブーツ。そして、空気も読まずにアヴェンジャーに襲いかかり撃退され側に転がったゾンビの血溜まりに映った姿は、『藤丸立香』などではなく。

 

 

「わたし……なんで、りつか…、エヴ、リン…?」

 

 

長い黒髪を流して驚愕に目を見開いている、ロンドンで出会った幼い少女が、そこにいた。




実は「藤丸立香」と呼称していただけで一度もその容姿については触れていなかった監獄塔編でした。アヴェンジャーはずっとエヴリンの姿をしている立香(?)と会話していました。でもちゃんと立香本人も監獄塔にいたという。どういうことなんでしょうねえ。今までの会話を見てみたらわかるかも?メルセデスはどこにいったのか。

バイオ6の黒幕二人、カーラさんとシモンズの登場でした。ハエ=暴食の象徴だからこれしか思いつかなかった。監獄塔の天井と壁を破壊して雷と風を入れるために最後に配置しました。アヴェンジャーで変則チャージショットはやりたかったことの一つ、彼もまたディーラーと相性抜群です。G生物から鉄パイプを奪っていたのもシモンズ撃破の為でした。

監獄塔編における『藤丸立香』の正体とは?なお、本人は自分を藤丸立香だと思っていた模様。次回で監獄塔編も終局かな。
エイプリルフール特別編を挟みますが、次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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お前はメルセデスだストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、明日から仕事ですが暇だったんで書き終わってしまいました放仮ごです。イベントを周回しようにもリンゴが少ないんじゃあ…

前回、衝撃のラストを迎えた、主役であるはずのディーラーがまるで登場しない監獄塔編第七話。真実の暴露と監獄塔編のラスボス戦。楽しんでいただけると幸いです。


―――――われわれの救いは死である。しかし、この《死》ではない。

 

フランツ・カフカ

 

 

 

 

 

 

 

カーラスポアから命からがら逃げだしたメルセデスは、壁によりかかって頭を押さえて苦しんでいた。

 

 

「ああ、ああ、あああ…違う、違う、違う!これは違う!私は、私じゃない…私は、誰…なの…?」

 

 

ふらふらと、回廊を先に歩むメルセデスの目は、赤く光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾンビの血だまりに手をつけてふらふらと立ち上がり、アヴェンジャーを睨みつける藤丸立香…否、エヴリン。

 

 

「わたし……なんで、りつか…、エヴ、リン…?なんで、なんで…!」

 

「なんでもなにも、ロンドンでお前は言ったのだろう?」

 

――――――「ママは殺させない。私を恨んだっていい、嫌われてもいい。でも、ママが死ぬのだけは嫌だ。だから、死なせない」

 

 

無感情の返答に、頭をよぎるのは「立香」としての記憶の中でおぼろげに聞こえた決意の言葉。

 

 

「それが、どうしたって…」

 

「これがその結果だ。死なせないために特異菌とやらを感染させた。あの時は今にも死にそうな致命傷を負っていた藤丸立香に驚異的な治癒能力を使わせるために、それだけだった。だが、デメリットがあっただろう?お前という幻覚…いや、この場合は防衛装置と言うべきか。誇れ、怪物よ。お前は確かに、藤丸立香の死は回避したのだ」

 

 

先程、何の力もない藤丸立香ならば第五の裁き…アレクシアと対決した際に死んでいた、とアヴェンジャーはそう言っていた。では、いまだに自分を藤丸立香だと思っている私は何なのだと、目で訴えればアヴェンジャーは嘲笑を浮かべて応えた。

 

 

「お前の正体は藤丸立香に感染し体内に潜んでいた真菌だ。お前は藤丸立香にかけられた呪いの存在に気付くと感染を侵攻させて幻覚という形で自我を作り、体内に存在するもう一つの精神だということを利用して自分を藤丸立香だと誤認させ、代わりに監獄塔に取り込まれることで魔術王によって確定された死から救うことに成功した。

 だが、その結果として記憶を共有したお前は自分を藤丸立香だと思い込んでしまった。最初に会った時、令呪の刻まれた手を掲げていたな?それは思い込んでいた貴様だけに見えていた幻覚だ。サーヴァントたちと念話を繋げらず、銃が無いのは当たり前だ。視点の違いも無意識にカビで形成したシークレットブーツによるものだ。力を持つ者達に嫉妬し、傲慢にもディーラーやサーヴァントの力を借りず、力が欲しいと強欲のままに求めた藤丸立香の末路、人ならざる者がお前だ。皮肉なものだ」

 

「でも、現実の私はちゃんとここの記憶を覚えていて…貴方の真名も調べて…!」

 

「それなら、そうだろう。最後にカルデアに戻った時まで本物の藤丸立香の魂もお前と共に在り、ここにいたのだからな」

 

「それは、どういう…?」

 

 

傷を修復して立ち上がりどこか怯えた様子の少女に、アヴェンジャーはまだ分からないのか?とでも言うように瞳の炎を燃やして笑い声を上げた。

 

 

「ッハハハハハ!まだ気付かないのか?既に無意識に気付いていたはずだ。タイムリミットを覚えているか?あの時までは、確かにお前と藤丸立香の意識はともにいた。だが、あの時すでに藤丸立香の魂は記憶のほとんどをお前に渡して乖離していた。さて、どこに行ったと思う?いや、質問を変えよう。お前が今でもなおどうしても見捨てられなかった人間とは、誰だ?」

 

「…まさか、メルセデス?」

 

「そう、お前の肉体が監獄塔での『藤丸立香』の器となってしまったがために行き場を失った藤丸立香の魂はこの監獄塔に存在した英霊の抜け殻…すなわち、メルセデスに入ったのだ。あのメルセデスは、記憶を失い何者でもなくなった藤丸立香だ。不安だっただろう、己の記憶を奪われたのだからな。半ば英霊の側面に振り回されていたが、あの度胸はまさしく人間でありながら英霊に立ち向かった奴その物だろう」

 

 

告げられた真実に、次々と脳裏によぎるのは、これまで戦ってきた怪物たちとの会話。

 

 

――――「ナタリアァアアアアアアッ!」

 

もしかして、監視者(オーバーシア)が誤認していたナタリアという人物はエヴリンと特徴が似ていたのではないのか。

 

――――「ようやく来たか、人類最後のマスター」

――――「我々が君の幻想に終止符を打ってあげよう」

 

ウェスカーとサドラーのあの言葉は、自分にではなくその時側にいたメルセデスの中にいた藤丸立香の魂に言っていたのではないのか。

 

――――「貴方のような、虫けらを生み出すような出来損ないのウィルスとは違うのよ」

 

アレクシアは出来損ないのウィルスと、自分のことをそう呼んでいた。それに家族を切り捨てたと聞いた時に激高したのは、藤丸立香ではなくエヴリンである自分だった。

 

――――『あなたみたいなニセモノなんかに!』

 

ああ、あの時アヴェンジャーはサーヴァントが偽物だからと言っていたが、カーラはまさしく自分に言っていたのだ。

 

――――『ならば命乞いをしろ!泣いて助けを乞え!』

 

シモンズにそう言われたあの時、自分は何と答えたか。「死ぬほどしたもの、命乞いはもうこりごりだ」…藤丸立香は命乞いなどしたことは一度もない。命乞いしたのは、生前イーサンに追い詰められた時の自分だ。文字通り、死ぬほど命乞いをした記憶が確かに在る。

 

 

そして、メルセデス(藤丸立香)の、アヴェンジャーに置いて行くと言われた時の必死な姿。

 

――――「わ、私は戦えませんが治療できます!足手まといになるかもしれません、けど私がどうなっても構いませんから!」

 

 

ああ、身の程を弁えない、いっそ狂っているあの姿は、確かに私が愛してほしかった藤丸立香そのものだった。そう思い至り、藤丸立香(エヴリン)は自嘲気味に笑った。

 

 

「納得したようでなによりだ。偶然とはいえ、奴にはいい機会だっただろう。お前が演じる愚かな自分を客観的に見せられていたのだからな。どこに消えたのかは知らんが、ここの怪物どもよりも獣な本性を宿したあの英霊の自我に押し潰されている頃だろう。残念ながら、同士討ちさせるという魔術王の目論見は成功したわけだ。ならば、もはやお前を導く理由は何もない。だから貴様は、第二のファリア神父だ」

 

「…私が死んだら、どうなるの?」

 

 

自覚したものの、いまだに藤丸立香であるという感覚が抜け切れない藤丸立香(エヴリン)は、自分が生き残っても本物の藤丸立香は救えないのだと悟り、今にも泣きそうな顔で問いかけた。一瞬沈黙し、帽子で目元を隠して応えるアヴェンジャー。

 

 

「………もしも、魂が消えていなければ藤丸立香は特異菌の感染が消えた状態で目覚めるだろう。お前という幻覚に悩まされることも無くなり、お前が恨まれる理由もなくなる。即ち、藤丸立香が命がけで守ろうとしていたお前を自らの手で殺して特異菌を完全に消し去る事こそが魔術王の目的だった。お前さえ消えれば藤丸立香など捨て置いていい存在だからな。

 既に魂が消えているならば、お前が死ねば残念ながら現実の藤丸立香の肉体に魂は帰還せず死に至る。一つだけ、オレが導こうとしていた例外の道もあったが…今や、語る必要もないだろう」

 

「…今までありがとう。こんな私に、付き合ってくれて」

 

「……ふん。礼には及ばん。及ばんが、そうだな……なに。案外、楽しかったぞ。お前とオレは対等だった。実に残念な結末だ。ではな、世界に復讐する権利を持ちながら復讐者にはならなかった無垢なる子よ」

 

 

そう言って、黒炎を右手に纏って爪の様にし構えるアヴェンジャー。そして、勢いよく少女の胸部を斜めに斬り裂き、藤丸立香(エヴリン)は仰向けに倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ごめん、ママ。よけいなことをして、結局、救えなかった。恨まれて当然、だよね…

 

 

かつんかつんと、アヴェンジャーが去って行く足音が聞こえる中、毒の様な恩讐の炎が蝕む致命傷を再生することを自らやめて、諦観した思いでぼんやりを消えていく意識の中で謝罪する藤丸立香(エヴリン)。後悔と懺悔の中、一度は脱したはずの暗闇の中で少女は涙を流していると、声が聞こえてきた。

 

 

「そん、な…しっかり!しっかりしてください!なんでこんな、非道い…アヴェンジャーさんはどうしたのです、まさか彼が…?」

 

「…マ、マ……?」

 

 

目を開けると、そこには涙を浮かべながら自らの小さな体を抱き上げる赤い軍服の様な物を着たピンク色の髪の琥珀色の瞳をした女性、メルセデス(藤丸立香)がそこにいた。よく見れば、その瞳は確かに彼女の物だ。分かるはずもない、記憶も失って、口調も変わり、姿かたちも存在すら別人と化した彼女に、ロンドンで自分を庇ってくれた少女の姿が重なった。

 

《救わなければ…》《命を!!》

「はっ!はあ、はあ…私は、私、は…!」

 

 

すると、唐突に頭を押さえて苦しむメルセデス(藤丸立香)。琥珀色の瞳が真紅に染まり戻るのを繰り返して、メルセデスは藤丸立香(エヴリン)を投げ出して自らの体を抱きしめて嫌な汗を流し、涙を浮かべて表情を苦痛に歪めた。

 

《なんとしても!》《命を救う!!》《救わねば》

「はっ、はっ…!私、が、救う……私は、誰…?」

 

 

そのまま激痛のあまり目を閉じて藤丸立香(エヴリン)の胸元に倒れ込むメルセデス(藤丸立香)

 

 

「私が誰かなんて、関係ない…!今にも消えようとしている命が、目の前にあるのなら…!」

 

 

その言葉と共にすぐに目は開くが、その瞳は完全に真紅に染まり、表情も鋼鉄の如く冷めていた。

 

《命を、救え!!!》

「私はもう、誰一人見捨てない!………傷口を確認。迅速かつ的確な処置によって完治可能。治療を、開始します」

 

 

そう言って藤丸立香(エヴリン)の胸部に手を添え、メルセデス(藤丸立香)がその言葉を告げると、巨大な白亜の看護婦の幻影が現れて手にした巨大な剣を藤丸立香(エヴリン)に振り下ろした。

 

 

「――――――我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)。………血流は安定。心拍、呼吸、共に正常。治療完了。あとは貴方が生きようとさえすればいいはずです。動かないで。安静になさってください。適切な処置を施しましたが、動けば傷が開きます」

 

「メル、セデス…?」

 

 

記憶が混濁した意識で、まるで別人の様に自分を冷たく見下ろすメルセデス(藤丸立香)を見上げ、困惑する藤丸立香(エヴリン)。と、そこへ靴音を立ててアヴェンジャーが戻ってきた。

 

 

「――――クク、驚いたぞ。まさか魂が自我に押し潰されながら己の信念を貫くとは。貴様は今、英霊フローレンス・ナイチンゲールと完全に一体化している!」

 

「そんなことはどうでもいい。あなた、人の命を脅かしましたね…!私は、一切の害ある者を赦しはしない!決して、見捨てない!殺してでも生かしてみせる…!」

 

「フハハハハハ!眼前の全ての命を救おうというのか、なんとも傲慢じゃないか!本来の傲慢の化身、人を救い続けるために自分を鋼とした女の抜け殻に宿った人類最後のマスターよ!ヴェルカム!藤丸立香。悦べ、お前の願いは、ようやく叶う。そいつを助けたければ、オレを殺せ!さもなくば失うのみだ!」

 

「ッ!」

 

 

瞬間、腰からペッパーボックスピストルを抜いて乱射するメルセデス(藤丸立香)。アヴェンジャーは高速移動で空を縦横無尽に飛び回って回避し、空から黒炎を纏った右手を構えて強襲。しかしメルセデス(藤丸立香)はそれを上体逸らしで回避し、同時にアヴェンジャーの脚を掴んで血が噴き出る程に握りしめ、石床に叩きつけた。

そのまま右足を振り上げ、アヴェンジャーの頭部に目掛けて踵を叩き落とそうとするもアヴェンジャーはすぐに退避して回避。すると目標を失った踵落としが石床を砕き、散弾と化した瓦礫がアヴェンジャーに叩きつけられた。

 

 

「グハッ…この力、現実の肉体に宿ったウィルスの影響がここにまで出ているのか…凄まじいものだ。だが、それでは足りんぞ!」

 

「諦めなさい、巌窟王(モンテ・クリスト)…いえ、エドモン・ダンテス。ここの怪物たちをろくに休みもせず七度も相手にしたその体は、既に限界を迎えています。あなたは震えるばかりだった私に名を与えくれた、導いてくれた。まだ記憶は戻らないけど、だからこそ…私は貴方も救いたい。これ以上は…」

 

「…オレはエドモン・ダンテスなどという善なる者ではない。オレは“怒り”だ!憤怒の化身、復讐鬼モンテ・クリストでしかない!この怒りを以て今度こそ完全なる復讐を果たす!」

 

 

そう叫んで両腕を振り上げ、魔力光線を連射するアヴェンジャー。メルセデス(藤丸立香)は跳躍と疾走を駆使してその悉くを回避していくが、藤丸立香(エヴリン)に向けて放たれた光線に気付くとその射線上に移動して背中で受け止め、倒れ伏す。

その隙を突いて突進するアヴェンジャー、斬り裂こうと迫った黒炎を纏った右腕を、振り返りざまに右手で掴んで握りしめ手首を砕いたメルセデス(藤丸立香)は、拘束を振りほどいて後退したアヴェンジャーとの距離を詰めると、右の掌をトンっと軽くその胸部に当てた。

 

 

「…(治療の不完全な傷を体内に多数確認、触診完了)、大人しくしなさい、これは治療です。その血を流し尽くさねばなりません。適切な処置を施します!」

 

 

そのまま、触診で確認した全ての古傷に手を掛け開いて抉り、アヴェンジャーは大量に出血して全速力で大きく退いた。

 

 

「エドモン・ダンテス…どうか、その()と共に怒りも流し尽くされ再び「生」を得てください…」

 

「クハハッ…笑えるほど、その肉体を使いこなしているじゃないか。馬鹿め…それはオレにとっては「死」と同義だ。だがこのシャトー・ディフにおいては、オレは、モンテ・クリストは死なぬ!我が征くは恩讐の彼方…!」

 

 

満身創痍の身となっても全身から魔力を迸らせ、宝具を発動させてメルセデス(藤丸立香)を翻弄し、高速で攻撃を叩き込み続けるアヴェンジャー。メルセデス(藤丸立香)がペッパーボックスピストルを手にして耐え続けていると、裁きの間の床を覆った黒カビから出て来たクイック・モールデッド三匹に抱き着かれて拘束され、床に叩きつけられて動きが止まってしまう。見れば、上半身だけ起こしてこちらに手を伸ばした藤丸立香(エヴリン)がいた。

 

 

「なに!?…まさか!」

 

「…ごめん、アヴェンジャー。でも、ママを虐めるのは見過ごせない…!」

 

「ッ、ハハハハハハハ!お前を捨て置いたオレの過失だ、甘んじて受けよう…殺せ、メルセデス!」

 

「…ァアアアアアアアアッ!」

 

 

そして、反射的にメルセデス(藤丸立香)が構えていたペッパーボックスピストルの弾丸が、アヴェンジャーの腹部を撃ち抜いていた。

 

 

「……わたしたちの勝ちだ、エドモン・ダンテス」

 

「――――ああ、そしてオレの敗北だ…」

 

 

不屈の復讐者の身体がついに倒れ伏す。長き監獄塔の戦いに、決着がついた瞬間であった。




ヴェルカム!藤丸立香。悦べ、お前の願いは、ようやく叶う。
…予告編から言っていたこの一言が全てです。サーヴァント並の力を得て、誰かを見捨てないために戦う。これで立香の願いが叶ったという。立香だと思い込んでいたエヴリンも、エヴリンの力を使ってメルセデスとアヴェンジャーを助けた立香なのでこれまた叶っていたという。

藤丸立香がエヴリンで、メルセデスが藤丸立香…つまりは二人の立香。タイムリミットの時点でメルセデス…ナイチンゲールの抜け殻が現れて二人に乖離しましたが、ちゃんとヒントは散りばめてました。

エヴリンは見た目がもろに子供だからナタリアと誤認されましたし、ウェスカーとサドラーにはメルセデスの魂の形が見えていましたし、アレクシアはエヴリンの存在を侮辱し、カーラは同族嫌悪し、シモンズは地雷を踏み抜いた。本編で言及してませんがGバーキンはメルセデスとシェリーと誤認してましたが、シェリーと立香は幼少期にウイルスを宿して成長して超人になっているという共通点がありました。
メルセデスがアヴェンジャーの真名を知っていたり、ウェスカーではなくサドラーに立ち向かったりしたのも一応フラグ。

魂が押し潰されてナイチンゲールIN藤丸立香というやべーことになっているメルセデス。Tウィルスに適合した力を有するバーサーカーとかいう頭おかしいことになってます。なおまだ自分が藤丸立香だと気付いてはおらず、人格破綻直前まで行ってます。

明日の四時にエイプリルフール特別回を投稿して、その後に更新する予定の次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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空の境界/the_Garden_of_arm’s_dealer

ウェルカム!ストレンジャー…本日四月一日より仕事のためこんな時間に失礼します放仮ごです。去年は「AD.2017 転化特異点:狂菌逸愛邸マッドハウス・ベイカー」なんてものを書きました、エイプリルフール特別編第二弾です。
現在進行中の「監獄塔に復讐鬼は哭く」イベントの前哨戦である空の境界コラボイベントに、ディーラーたちが参戦したら…というIFとなります。なお、イベント報酬の式さんがこの世界線だと強すぎるため召喚させないために、とある理由から正史では立香達はこのイベントに遭遇していません。四章からいきなり監獄塔編になってます。

メッフィーがそもそも立香と出くわしていない上に召喚もされてないため、大事な話はだいぶ省いてシンプルにディーラーVSアサシン式の対決のみで短いですが、楽しんでいただけると幸いです。


 アスファルトで舗装された車道と壁の用に聳える高層建築群。特異点Fとは違う、ごく普通な二十一世紀の日本の都市群のとある丸いマンションの前にある駐車場のど真ん中。

私の前で向かい合うのは、共にナイフを相手に突きつけている、そんな背景に似つかわない格好の男女。一人はディーラー、もう一人は赤い革ジャンの下に青い着物を着ている黒髪の女性。

 

 

「何なんだお前。全身死の線だらけで姿が見えない。吐き気がする」

 

「そりゃあ俺はどこ触ったって即死するんだ。そう見えてもしょうがないかもな?」

 

 

サーヴァントらしきその女性は、交戦していたと思われるエネミーのゴーストを「消失」させたらしいとドクターから語られ、マシュが「まずは会話から」と接触を試みるも「長そうだから」という理由で拒否られ、さらにはナイフを手に「元いた場所に返してやるよ」と襲ってきたため、たまらず交戦。私が援護し、マシュが守り、ディーラーが攻める特異点Fから培った連携で対抗した。

 

しかし私の構えたハンドガン・マチルダが真っ二つにされ、ディーラーのショットガンもマグナム二つも綺麗に両断する謎のナイフに防戦一方。空中に舞って蹴りを入れて来た女性に体勢が崩れたマシュに向けられた凶刃を、下から払いのける形でディーラーがナイフを振るい、目を蒼く光らせた女性との会話がそれだ。

 

 

「まあいいさ。悪人にしろ善人にしろ、頭にコイツを打ち込めばこんな現実(ばしょ)とはおさらばだ。お前ならただ触れるだけでもいいかもな?厄介ごとに首を突っ込んだなら綺麗さっぱり、元いた場所に帰してやるよ」

 

「慈悲のつもりらしいがストレンジャーを殺すというなら話は簡単だ。正当防衛、って事で問題ないな?」

 

「ああ、問題ない。どうせお前は、今ここで死ぬんだからな」

 

 

そう言った女性の姿が、消えた。いや、跳んでいた。一跳躍で視界から外れる高度まで至ったその女性は月光に照らされながら愉しげに笑った。

 

 

「浮世は終わりだ───じゃあな!先に逝ってろ」

 

 

空高く宙を舞い、ディーラーの死角に降り立つと同時に一閃。軽く撫でられ、ディーラーが崩れ落ちる。・・・思わず悲鳴が漏れるが、直ぐに持ち直す。女性の背後に姿を現した二人目のディーラーが銃口をその後頭部に突きつけていたからだ。

 

 

「・・・どんな手品だ?確かに殺したはずだ。目の前の死体(コイツ)は偽物か?」

 

「さあな。無料(タダ)じゃ教える訳にはいかないぜ、ストレンジャー」

 

 

発砲。同時に、体勢を崩して倒れ込んだ女性のローキックがディーラーを襲い、転倒と同時にナイフで心臓を串刺しにする。それでも崩れ落ちた瞬間に、ナイフのリーチから遠く離れた車の上に姿を現したディーラーはマシンピストルを乱射し、女性は大きく跳んで回避するとそのまま走りだし、それを銃弾の雨が追いかける。

 

 

「えっと、どうしましょう先輩。ディーラーさん、頭に血が上っているのか私たちの事が見えていません」

 

「・・・とりあえず、安全な所で見学しておこう」

 

 

流れ弾を盾で防いだマシュの言葉に、苦笑いを浮かべてそそくさと乗用車の陰に隠れる私達。冬木のアーチャーとキャスター、オルレアンのアマデウスとサンソン、ローマのアレキサンダーとダレイオス三世の様に相性が悪い英霊というのはいる物だが、この二人がそれだと何となく分かった。ならば落ち着くまで待つしかない。

 

 

「そっちは行き止まりだぜストレンジャー。こいつで終わりだ」

 

 

マシンピストルで袋小路まで追い詰め、ディーラーがその手に構えるのはロケットランチャー。外さなければ一撃必殺のそれに、女性はナイフを手に不敵に笑んだ。

 

 

「いいぜ、来いよ?」

 

「Goodbye!」

 

 

放たれるロケット弾頭。それに対して、女性は真っ直ぐ突進、ナイフをロケット弾頭に向けて滑らせた。瞬間、真っ二つに切断されたロケット弾頭が転がる。その様子に怪訝な視線を向けながらロケットランチャーを投げ捨て、マインスロアーを構えるディーラー。

 

 

「・・・何をした?」

 

「それはもう殺した(・・・)。死んだ物が役割を果たす訳がないだろう?」

 

「やれやれ。さも当り前の様に言われても困るな・・・!」

 

 

戦意を失い武器を降ろした・・・と見せかけてから瞬時に構えたマインスロアーを連射するディーラー。当たりさえすれば数秒後には木端微塵の代物だ。確実に当てる為に虚を突いた攻撃。それはいくつか真っ二つに斬り飛ばされるが、二つの小型榴弾を女性の腹部、左太腿に撃ち込む事に成功した。

 

 

「チッ・・・!」

 

「無駄だ、それは外せないぜ。GoodBye.Stranger……!」

 

 

小型榴弾をすぐ起爆するために散弾の範囲が広いセミオートショットガンを取り出し速射するディーラー。女性は跳躍してディーラーの頭上を飛び越えることで回避。そのまま蹴りを叩き込み、ディーラーは蹴り飛ばされて消滅。しかし今度は近くの普通のマンションの三階辺りから狙撃が襲いかかり、女性は飛び退いて回避する。

 

 

「ちっ…めんどくせえ。まずはこいつか」

 

 

すると女性は車の影に隠れて狙撃から逃れると、まず腹部にナイフを流すように切った。私達は慌てるも血は流れず、そのまま流れるように左太腿に一閃。しかしやはり血は流れず、それだけで小型榴弾が無効化されたのが分かった。さっきのロケット弾頭といい、物の機能を失くす力か何かを持っていると考えるのが妥当か。

 

 

「ちっ…面倒なところに行きやがって。だが、オガワハイムじゃなくて誰もいないそのマンションに逃れたのは失策だったな」

 

「なに…?」

 

 

ライフルは当たらないと思ったのか、高所からシカゴタイプライターを乱射し車ごと女性を狙うディーラーだったが、女性は車が壊れる直前に跳躍。射線から逃れると、人間離れした跳躍で駐車場を駆け抜けてディーラーのいるマンションに接近すると一閃、二閃、三閃。一瞬でナイフを振り抜くと、マンションの下階が三分割されていて、倒壊した瓦礫の山にディーラーは押し潰されてしまった。

 

 

「ならこいつだ!」

 

 

瞬間、女性の数メートル背後に出現したディーラーがライオットガンを撃ち込み、距離減衰の無い散弾を女性は跳躍して車の上に着地して回避。ナイフを投擲して同時に跳躍、咄嗟に飛び退いて回避したディーラーの着地点に飛び回し蹴りを叩き込んで着地した。この短期間で五回も殺されたディーラーは私たちの側に姿を現すと冷や汗を垂らした。

 

 

「…爆発物の無効化、さらにはたった数回切るだけで建物を崩壊させる、それを宝具ですらないナイフでだと?そいつは反則だストレンジャー」

 

「死んでも簡単に生き返ってくる奴がそれを言うのか?オレの眼はなんだって殺すのに、お前は簡単に生き返ってくる。始めてだぞこんなの」

 

「そうか?俺はすぐに死んでしまうから足りないぐらいなんだが…俺って反則なのかストレンジャー?」

 

「うん、普通に、反則なんじゃないかと思う」

 

 

普通に聞かれたので普通に返してしまった。正確には他の自分にバトンタッチしているだけだけど…傍目から見たら反則だと思う。28回確定ガッツとか頭おかしい。

 

 

「俺はまだまだ行けるぜ?アンタが俺を全員殺しきるか、それとも俺の武器がアンタに届くか、どちらか一つだ」

 

「…あー、やめだやめ。割に合わない。―――生きているのなら、神様だって殺してみせる。そのはずだったんだけどなあ」

 

 

そう言ってナイフを仕舞う女性にチャンスだと思い、いまだに戦闘態勢を取るディーラーを諌め、勇気を出して話しかけてみた。

 

 

「あの、貴方は一体…?」

 

「……名前は両儀式。簡単に言えば、この建物に縁があるからって引き寄せられた擬似サーヴァント、かな」

 

「文字通り、目の色が変わったな。魔眼か、そいつは俺も専門外だ。ただのナイフで俺の自慢の武器が悉く斬られるとはやってられん」

 

「まだやるってんなら気が済むまで殺してやるぞ?」

 

「おっと、そいつは勘弁だストレンジャー」

 

 

とことん気が合わないのか、得物を構えて睨み合う両者を慌てて仲裁する私とマシュ。これは、私が「彼女」と会っていなければあったかもしれない、可能性の一幕だ。




戦闘描写は中古で購入した空の境界DVD「俯瞰風景」「痛覚残留」を元にしました。蹴りもよく使うイメージ。

ディーラーにとっては天敵過ぎた式さん、というか直死の魔眼。ロケランを斬ってなんとかできるのは式さんか某斬鉄剣の使い手ぐらいじゃなかろうか。接近戦ではナイフが強い、をこれほど体現したキャラもいまい。

それでは次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。


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待て、しかして希望せよストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、脱ニートすぐにはきつい五日間の激務を何とか終えて執筆し終えた放仮ごです。ゆっくりできるって素晴らしい…!

大奥イベントのカーマがエヴリンとベストマッチ過ぎるから欲しいなと引き続けてるけど来ません。アンタに愛してほしい子がいるんだよ!あ、依り代の実父の星5礼装なら来ました。なんでや。

今回は「バイオハザードクロニクルズ監獄塔に復讐鬼は哭く」最終話!実は前々回から切ったので3500字と短いです。しかしバイオハザードクロニクルズのラストを飾るにふさわしい人物が登場します。楽しんでいただけると幸いです。


―――――観察者は、《共に生きる者》である、そして《生ける者》にしがみつく

 

フランツ・カフカ

 

 

 

 

 

 

 

 ごめんなさい、ごめんなさい。生きるためにと目を背けて、みんなを見捨てて自分だけ生き残ってごめんなさい。

 

肉体から乖離し記憶も失ってしまった私の魂が入ってしまった英霊の自我に、記憶に押し潰される。涙が出てくる。聞きたくない、「助けて」なんて声、あの地獄と化した空港で何度でも聞いた。いやだ、いやだ、いやだ。でも、助けたい、と思ったのは事実なんだ。ただ、私は両親が生きてと願ったから自分の生だけを考えて、それ以外のことなんて考えられなかった。でもそれをこの英霊は赦さないという。全ての人間を救えと、そう語りかけてくる。

 

もう絶対に、誰一人見捨てないから、私一人だけ生き残ろうなんて思わないから。誰かを殺してでも、私を犠牲にしてでも助けるから。悲劇しか生まないバイオハザードなんて、絶対に根絶させてやる。だから、だから。空っぽの私を、これ以上押し潰さないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足先から黄金の粒子となって消えていくアヴェンジャーは、手首と足首を握りつぶされ古傷を無理矢理開かれた挙句銃弾で腹部を撃ち抜かれて、大量出血しズタボロになった己の姿を見て苦笑する。

 

 

「………クハハッ、悪くない気分だ。だが一つ詫びよう…オレは最初からお前の名前を知っていた、メルセデス…お前は、藤丸立香だ」

 

「…貴方は、誰が何と言おうとエドモン・ダンテスだ、アヴェンジャー。…エヴリンを守ってくれて、ありがとう」

 

 

アヴェンジャーからその名が告げられた瞬間、メルセデス(藤丸立香)の目の色が真紅から琥珀色に戻り、本来の彼女の口調で礼を述べた。アヴェンジャーは不敵に笑んで、それに返す。

 

 

「ふん、言っていろ。誰が何と言おうとオレは復讐鬼モンテ・クリストだ。復讐者として成し遂げられぬまま、オレは勝利の味をつい知らぬまま命を落とした。かつてオレを導いた敬虔なるファリア神父の様に…絶望に負けぬ者を我が希望として送り出すことで…一度でも味わってみたかった。だがお前は!お前たちは、オレに導かれ障害を砕き今、監獄塔を脱出する!勝利なき復讐者のままであるオレに、お前たちは導き手として役割と勝利を与えたのだ!なんと希望に満ちた結末だ!」

 

「え、でも…まだ、終わってない…」

 

「…いいんだよ。終わったんだ、エヴリン」

 

 

呆然とするエヴリンと、メルセデスの姿でなにか納得した様子の藤丸立香に、アヴェンジャーは続ける。

 

 

「クハハッ、エヴリンよ!藤丸立香よ!オレたちの勝ちだ……!あの時、おまえは見逃されたのではない。もう”終わるもの”と見捨てられたのだ。だが―――はは、ははは!結果はこの通りだ!残念だったな魔術の王よ!貴様のただ一度の気まぐれ、ただ一度の姑息な罠は、ここにご破算となった!オレなんぞを選ぶからだバカ者め!二人纏めて絶望に落として地獄に引きずり込もうと欲張るからだ、ざまあない!」

 

 

見物していたのかどうかも定かではない魔術王に向けて嘲笑い消滅していくアヴェンジャーは、ふと、自らの血とアヴェンジャーの返り血を浴びて血塗れの姿でこちらに心配げな表情を向けるメルセデス…藤丸立香に微笑んだ。

 

 

「お前の答えはとうに知っている、藤丸立香。安心しろ、奴はお前が彼女を殺すことしか望んではいない。お前の選択ならば上手くはいくだろう。お前が助かるかどうかも分からない茨の道だろうが、歩むがいい!足掻き続けろ!魂の牢獄より解き放たれて―――おまえは!いつの日か、世界を救うだろう!」

 

「アヴェンジャー…また、会える?」

 

「…再会を望むか、エヴリン。アヴェンジャーたるオレに?はは、ははははははははは!ならばオレはこう言うしかあるまいな!――――待て、しかして希望せよ、と!」

 

 

もう胸から上までしか残っていないアヴェンジャーの答えに、涙ながらに頷くエヴリン。殺そうとしてきたけれど、決して己の存在の否定はしなかった巌窟王に、一種の情を感じていた。それを感じ取ったメルセデスの姿をした藤丸立香は、宣言した。

 

 

「絶対喚んでみせるからね、アヴェンジャー!」

 

「クハハッ、よく分かっているじゃないか、マスター!オレは永遠の復讐者(アヴェンジャー)だ、まだエドモン・ダンテスと呼ぶならしばいていたところだ!それにもこう答えよう!―――待て、しかして希望せよ」

 

 

その言葉と共に、完全に消滅したアヴェンジャー。残された二人は、じっと見つめ合い、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、目が覚めましたか!」

 

 

目覚めると、そこは自室で。周りには、泣きながら抱き着いてきたマシュと、一歩下がって見守るディーラーとオルガマリーがいた。わんわん泣くマシュをなだめつつ、立香は残る二人に尋ねた。

 

 

「…私、どうしたんだっけ?」

 

「会議が終わってからずっと寝たっきりだったのよ。三日も起きないから心配してたのよ」

 

「ようやくか、待ちくたびれたぞストレンジャー。やっぱりあの異常な速度の治癒が原因の疲労か?なんにしてもよかった、せっかく作った新武器をお披露目したかったんだ」

 

「あー…それは後でね」

 

 

布にくるんで両手に抱えたそれを見せびらかすようにするディーラーに苦笑し、立香はマシュに顔を向けて頭を下げた。

 

 

「ごめんね、マシュ。怒鳴ったりして。…少し、考え事があったんだ」

 

「いえ、いいえ…でも、本当によかった。…私、先輩を怒らせてしまったんじゃないかと…」

 

「大丈夫。ちょっと疲れていただけだから。それより所長、召喚しましょう。…多分、戦力になるサーヴァントが来てくれる予感がします」

 

「…そうね、しっかり休んだからコンディションは最高潮かもしれないわ。すぐにでもしましょうか」

 

 

そして召喚部屋に向かう道中、立香の脳裏には監獄塔での最後の光景がよぎっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私が自害すれば、ママはカルデアに戻れる。もう、私の幻影に苦しむことも無い。…どんなに洗っても消えないばかりか増えてくるしつこいカビなんかに感染させてごめんね」

 

「私を助けるためだったなら、文句は言わないよ。それに、多分…アヴェンジャーの言葉が正しければ、私が死ねば、全部元通りになる。ソロモンは私に貴方を否定させて、こびりついてしまったカビ…つまり感染を抹消することが目的だったんだ、私なんてどうでもいいはず。それに私の身体は別のサーヴァントのものだから、多分魂は元に戻る。そうすれば私もエヴリンも消えなくて済むはず」

 

「でも、私という自我が生まれるぐらいに感染は進んでる…このまま戻ったら、ミアやジャックたちみたいにママが別人のようになる、それは嫌だ」

 

「…この身体の霊基が言ってるんだ。目の前の命を救えって。自分が死んで命が助かるなら喜んで引き金を引けって。それに…ロンドンで、私は消えない傷を負った。体にじゃなく、心に。…私は、貴方が死ぬのを二度と見たくない。だから…ごめんね?」

 

 

 

 

 

 

結局、止めてきたエヴリンを無視して、立香はピストルで頭を撃ち抜き自害する道を選んだ。自殺する、というのは初めての感覚だったが怖くなかった訳じゃない。でも、エヴリンを見捨てることの方が怖かったのだ。アヴェンジャーの言っていた答えとはこのことだろう。

あの復讐者もエヴリンに情が移っていた様だ。最初の邂逅の記憶の中でアヴェンジャーは、エヴリンのことを「先輩」と呼んでいた。「地獄を一人抜け出したお前の温かく脈動する魂」とも「貴様は俺と同じく地獄を一人抜け出した」とも。夜明けが来て、光を得たエヴリンに何を思ったのだろうか。

 

なんにしても、藤丸立香(エヴリン)メルセデス(藤丸立香)の記憶は同期した。あの監獄塔での戦いは忘れない。既にこの藤丸立香からは二人の英霊(エヴリンとナイチンゲール)の力は残ってないけど、後者の方は半ばすり潰されながらだが記憶は得た。

 

せっかく得た力だし、活かせるといいんだけど。そんなことを思い浮かべながら、オルガマリーに続いて召喚する立香。召喚部屋を眩く照らす金色と虹色の光。合わせて20連鎖召喚。相変わらず礼装が転がりながら、三騎の英霊がそこにいた。

 

 

 

「サーヴァント・アーチャー、エミヤ。召喚に応じ参上した」

 

「サーヴァント・ライダー、マリー・アントワネットよ。ヴィヴ・ラ・フランス!」

 

 

かつての敵。かつての味方。そして、現れたのは予想外の人物。まるでマフィアの様な黒のスーツに帽子をオシャレに着込んでシカゴタイプライターを手にした金髪の男。

 

 

 

「アーチャー、レオン・S・ケネディだ。どうやら俺はどこに行ってもバイオハザードが付きまとうらしい。泣けるぜ……ああ、一つ言っておく」

 

 

 

バイオハザード根絶という、半ば脅迫されながらも自覚した目標が同調したのか召喚された、真打である紛うことなき現代の英雄たる英霊は、たっぷり溜めてからこう言った。

 

 

 

「――――――俺のギャラは破格だ」

 

 

 

その一言に固まる一同。なにはともあれ、新たな仲間と共に、特異点攻略の旅路は続く。




アヴェンジャー「フッ、どうやらオレはおあずけらしい。難儀なものだ…」
まあ出番はまだあるから、うん。一応うちカルデアのエースの一人なんですけどねえ。


そんなわけでついに登場、レオン・S・ケネディ!知り合いしかいないカルデアへようこそ。アメリカが舞台で大統王が出てくるのに出さないわけがないよね。
あとついでにエミヤさんとマリーさん。以前はいなかったけどロンドン編やってる途中で来たのでやっと召喚できました。所長の新鯖です。立香がエミヤの夢を見たとか言ってましたが、実は「ウェルカム、ディーラー」の独白は結構前後してて予定もちょっと変わっています。すまない。

レオンの召喚台詞はバイオハザードディジェネレーションの有名(?)なネタです。ギャラはQPと再臨素材的な意味で。もちろん星5サーヴァントなので。服装は第一がマフィア風、つまりはバイオ4のスペコス2です。ライダー(ネタ)かアーチャー(ガチ)で迷った。服装チェンジする度にスキルが変わるという超高待遇な特殊なサーヴァントです。詳しくは次回にて!


立香が自殺したことで、元の鞘に収まることになった両名。アヴェンジャーのカミングアウトで人格破綻はしませんでしたが、状態を言えばむしろ悪化してます。ソロモン的には立香がエヴリンを殺すことでエヴリンを絶望させて、立香の「守る」発言を撤回させて、ついでに立香にこびりついてしまったカビも消せるという超私怨な結末がよかった模様。消滅はしなかったエヴリンはどうなったのかはおいおい…まあ、生きてると言っても本体は既にロンドンで消滅してるから立香に寄生している真菌が見せている幻覚なんですけどね。

エヴリンの自虐的な「どんなに洗っても消えないばかりか増えてくるカビ」という台詞は大奥イベントの台詞を使わせていただきました。愛する関連でカビの話題とか、ファミパン聖女並に狙ったとしか思えない私。バイオハザードに侵され過ぎたか…?

次回はちょっと小休止してからついに五章に突入。休みの日にコツコツと書かせていただきます。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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第五特異点:北米神話宿命大戦イ・プルーリバス・ウナム・ウロボロス
俺達の情報だストレンジャー


ウェルカム!ストレンジャー…令和直前、平成最後の投稿となります放仮ごです。とりあえずエルメロイコラボイベントは大体終えたのでさっさと書き終えました。公式で改変しまくってて、ちょっと書きたいなとか思ったり。でも誰も来ない…私は悲しい(ポロロン

今回は第5章「第五特異点:北米神話宿命大戦イ・プルーリバス・ウナム・ウロボロス」のアヴァンで本編は短く、ちょっとした振り返り回となります。簡単に言えば、設定のおさらいです。急いで書いたからだいぶ拙いですが、楽しんでいただけると幸いです。


 レオン・S・ケネディ。ディーラーとアシュリー、マイクからその名前は何度も聞いていたけど、名前だけ聞いてもピンとこなかった。でも、その顔を見てあの時の光景がフラッシュバックする。私と家族を助けてくれたお姉さんを、再び見かけた時に一緒にいてゾンビを蹴散らしていた男の人だ。上院議員や女子供を守りながら先を急いでいた横顔を覚えている。多分、あのバイオハザードを終わらせてくれたのはこの人なんだろうな、と。そう思った。

 

 

「俺のギャラは破格だ」

 

 

ちょっと頭おかしいのかな?と思ってしまったのは許してほしい。アメリカで一年過ごしててもアメリカンジョークは苦手なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと…レオン?」

 

「なにを似合わない台詞言ってるんだストレンジャー?」

 

「うん?…アシュリー、それに武器商人…だと?」

 

 

召喚早々、場を凍りつかせる台詞を吐いてドヤ顔しているエージェントに呆れた顔で問いかけるアシュリーとディーラー。レオンはそれに気づくと心底驚いた顔を見せた。

 

 

「えっと…レオンさん?何かおかしいところでも?」

 

「いや、武器商人はともかく、アシュリーは俺の宝具としてしか召喚されない、と俺の持つ情報にある」

 

「あ、それなら多分、人理焼却の影響下で例外が沢山生まれたと考えられています」

 

「なるほど、つまり厄介ごとか。泣けるぜ」

 

 

マシュの返答に納得し、目元を隠すように帽子を押さえて溜め息を吐くレオン。アシュリーが正規の英霊ではないと知っていたが、レオンの宝具の一部とは思っていなかった立香が驚いていると、それに気づいたレオンが歩み寄って帽子を外して問いかけてきた。

 

 

「君が俺のマスターかい?」

 

「あ、はい。ディーラーとアシュリーのマスターもしています、藤丸立香です。えっと…ありがとうございます」

 

「うん?礼を言われる覚えはないんだが…?」

 

「ハーバードヴィル空港の、ウィルファーマ社のバイオハザードを解決したのはレオンさん…ですよね?私も巻き込まれて両親を失ったので…当時の私じゃ何もできなかったバイオハザードを解決してくれたレオンさんは私の恩人なんです」

 

「そうか、君はあの空港の生き残りか。いや待て、フジマル・リツカ?…もしかして、俺達が脱出した後の空港に突入した海兵隊に発見された生き残りの子供か?」

 

「知っているんですか?」

 

「ああ、後から報告書を見て知った。すまない、君を見つけられなくて」

 

「いやいや、私も貴方達を避けてたから…あ、あの赤髪のお姉さんは無事に脱出できましたか?」

 

「クレアのことか?ウィルファーマ社のバイオテロに巻き込まれて負傷したりしたけど無事だ。彼女ほど強い女を俺は知らない。安心していい、マスター」

 

 

共通の話題があるためか喜色に溢れた顔でレオンと会話する立香を見て安心したように微笑むオルガマリー。彼女とて、優秀な魔術師だ。立香の身に何かが起きたことはなんとなく確信していた。だから、年相応の様子に安心したのだ。すると、にこやかな笑顔を無言で浮かべる顔見知りの王妃と、そっぽを向いて待機している赤い外套の弓兵に気付いてビクッと震えた。ほったらかしたせいで殺されないかというヘタレ具合は健在である。

 

 

「…えっと、久しぶりね王妃様。第一特異点から長いことかかったけど、再会できて嬉しいわ」

 

「あら、マスター。遠慮しないで、あの時みたいにマリーと呼んでほしいわ。今の私はあの時のことは記録としてしか知らないけど…楽しかった記憶として私の心に残っているの。また、仲良くしてくれると嬉しいわ」

 

 

そう笑うマリーに、何で自分なんかに召喚されてくれたのかと溜め息を吐くオルガマリー。輝く笑顔が眩しかった。

 

 

「貴方はやっぱり私なんかにはもったいないサーヴァントね。なんで今更召喚できたのかしら…」

 

「おそらくだけど、貴方の中で何かが変わったのね。私はきっと、敵を憎んだり倒したりするんじゃなくて、人々を守る命として喚ばれたのよ。今度こそ、大切な人たちを守るために。大切な国を守るために。正しいことを正しく行う。貴方のお仕事、貴方の運命、お手伝いするわ、マスター」

 

「…ええ、ありがとうマリー。で…エミヤ、だったかしら。聞かない名前ね」

 

 

既知であるマリーと共に召喚された己のサーヴァントにいぶかしげな視線を向けるオルガマリー。エミヤ、などという英霊には聞き覚えはない。無銘の英霊なのかと、アルトリアの代わりとなるサーヴァントに来てほしかったオルガマリーは微妙な顔を浮かべ、エミヤは心外だとばかりに肩をすくめた。

 

 

「落胆させてしまったならすまない。だが優秀なマスターであろう君に召喚されたサーヴァントだ、そこらの英霊には負けないと自負している。何にしても信頼に足る采配を願いたいものだ」

 

「まあ、アーチャーを望んだの私だしね。でもステータスは三騎士にしては低いし、問題はランクが不明の宝具だけど…」

 

「いいや所長。そいつは強いぞ。俺が保証する」

 

「あら、ディーラー?」

 

 

するとレオンと立香が話していて肩身が狭くなったのか、避難してきたディーラーが一言物申してきた。

 

 

「彼を知っているの?もしかして生前の顧客かしら?」

 

「いいや。もし会ってたらお得意様になってただろうが生憎知り合いじゃない。所長は会ってないから知らないだろうが、こいつは冬木で俺達と戦ったあのアーチャーだ。武器の扱いが上手い奴だ、俺を追い詰めたぐらいだからな」

 

「それは、強いわね。ディーラーのお墨付きなら安心かしら。これからよろしく頼むわね、エミヤ」

 

「ご期待に沿えるよう尽力させてもらおう、マスター」

 

「ではご飯を所望します、シロウ」

 

 

するとそこにやってきたのは安静にしているはずの青い方のアルトリア。オルガマリーはいつの間に!?と驚くが、側にいるメディアがにやにや笑っているところを見ると彼女が連れて来たのは明白であり、エミヤは何とも言い難い表情を浮かべていた。

 

 

「…シロウ?」

 

「気にするなマスター。分かったセイバー、ご飯だな。キャスター、何か材料はあるか?」

 

「そこのディーラーに聞くといいわ坊や」

 

「坊やはやめてくれ、キャスター」

 

「あら、何か作るのだったら私はブリオッシュを頼めるかしら?」

 

「…了解した、王妃殿。マスターは何か食べたいものはあるか?」

 

「いや、私は紅茶辺りをもらえると嬉しいけど…貴方、アーチャーじゃなくてバトラーの間違い?」

 

「勘弁してくれマスター」

 

 

怒涛の女性陣に溜め息を吐くエミヤに、なんだかんだ上手くやって行けそうだなと笑みを浮かべるオルガマリーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、第五特異点にて。

 

 

「しつけぇなあ、小僧。こっちはとっとと終わらせたいんだ」

 

「ハァ、ハァ、ハァ……おのれ…!」

 

「やはり貴様は最初に始末しておくべきだな、クリス。諦めろ、貴様には俺は止められん!」

 

「知っているだろ、諦めは悪いタチでな…ウェスカー!」

 

 

北米の大地を舞台に行われていた英雄と魔王の戦いは終結し、二人の英雄は、地に堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

・武器商人

 今作の主人公である商人(ディーラー)のサーヴァント。サブキャラに出番を喰われがちなタイプ。コンティニューする度に商品が充填されるため、現状ほとんどの物資を賄っており、カルデアの生命線となっている。何時の間に強化クエストを受けたのか、新たに武器作成スキルを会得した。ダ・ヴィンチやネロなど芸術家タイプと馬が合うらしく、よく会話している。セイバーオルタとはもはや相棒ともいえる信頼関係ができており連携が可能。

 また、正体不明だということから無辜の怪物スキルの様な特性を持っており、時々出てくるナイフを扱うのが非常に上手い個体は「ガナード化したレオン・S・ケネディが正体」という仮説が元になっており、「狙撃が得意」「自爆が得意」「マグナムを多用する」など個体それぞれで戦い方や選ぶ武器の特徴が変わる。

 本人は自覚していないが、立香とオルガマリーにとって精神的支柱となっており、今のカルデアは彼がいてこそなりたっている非常に危ない状態である。

 

 

 

・藤丸立香

 ディーラーに次ぐ第二の主人公ポジである人類最後のマスター。2015年末現在、16歳の日本人の少女。ラクーンシティ崩壊後の2000年生まれ。5歳の頃アメリカに家族旅行に赴いた際にハーバードヴィルにてバイオハザードに遭遇、両親を犠牲にして生き延び、天涯孤独の身となった。当時海兵隊だったジャック・ベイカーに助けられ、一年間をベイカー家でお世話になりアメリカで過ごした。その際に銃の取り扱いを習ったため本編開始時の時点でそれなりの腕前。ただし素手だと最弱で魔術の腕もからっきし。

 武装している以外は原作の女主人公と容姿はほぼ同じ。左胸にナイフホルダーを、脚にホルスターを付けている。一章までは魔術礼装・カルデアを、二章では魔術協会制服を、三章ではアトラス院制服を、四章ではアニバーサリー・ブロンドと、毎回着替えて使いこなしている。私服は思い出の品である白のパーカー。

 実はT-ウイルスの完全な抗体の持ち主で、助けられた時点で感染していたところをワクチンで11年間も抑え込まれていた状態であり、ロンドンで致命傷を負ったことで活性化し人並み外れた身体能力を得た。また、エヴリンの機転で特異菌に感染して尋常ではない自己再生能力も得たが、現状治す手段がないため感染が進んでいる。また監獄塔の一件で英霊ナイチンゲールの医療の知識や技術、記憶を得てしまった。

 

 思考に関しては魔術師以上にブッ飛んでおり、自分の身の安全や魔力量を度外視した奇策ばかり思いつく。人のためなら平気でバーサーカーに立ち向かえる無謀ともいえるメンタルの持ち主。バイオハザードが絡むとスイッチが入る。衛宮士郎の様な「自らより他を優先する正義の味方」ではなく「誰かを犠牲にして1人だけ生き残るのが嫌な、他人の死に凄惨なまでに臆病なエゴの塊」であり、その死生感は自分勝手で相手の名誉や矜持などは気にせずに生かそうとする他、自ら戦おうとする。これは幼少期に銃を握ってしまったことが原因。コンセプトは「バイオハザードに巻き込まれて歪んでしまった一般人」。

 

 四章攻略の時点で契約しているサーヴァントはディーラー、マシュ・キリエライト、クー・フーリン(キャスター)、メディア、セイバーオルタ、アシュリー・グラハム、マイク、アンリ・マユ、レオン・S・ケネディ。共通点としてはメディア以外は「正規じゃないサーヴァント」。メディアはオルガマリーを助けるためと言いながら魔術という武器を求めたため。

 また、召喚に応じてくれたサーヴァントには無条件に絶大な信頼を寄せているが、サーヴァントだけに戦ってもらうことをよしとしていないため、英霊に嫌われているのかというレベルで来ない。特に青い方のアルトリアとは相容れない。

 

 四章攻略直後の所有武器はハンドガン・マチルダ、マシンピストル、ナイフ、リボルバーマグナム。エイム力が強く、連射系や反動が強い武器を得意とする。ロケットランチャーでも百発百中という驚異の腕前。スナイパーライフルだけは苦手。また素手だと弱いが武器を使うと近接戦も結構強く、体格差があったとはいえナイフ一本でサーヴァントを圧倒できる。人並み外れた身体能力を得て、ナイチンゲールの知識を得たことでそれを助長している。

 

 

 

 

 

・オルガマリー・アニムスフィア

 ディーラー、立香に次ぐ三人目の主人公ポジ。原作においての「どんなサーヴァントにでも信頼される主人公」で、行く先々の特異点で野良サーヴァントと仮契約している他、ヴェルデューゴやレッドピラミッドシングなどクリーチャーからも信頼されている愛され系マスター。ヘタレであるため冬木以降はいつもの礼装の下にカルデア戦闘服を着込んでいて、三つのマスタースキルを使いこなす。

 便宜上「所長」と呼ばれているが消滅間際にカルデアの全権をロマンに譲渡しているため、ただのオルガマリー・アニムスフィアと言う名のマスターとして活動する。死んだことで魔術刻印を失ったことはだいぶ堪えており、自分は死んだものとしていて、特異点修正の旅が終われば引退を考えている。

 今の肉体を得る前に存命させるべく過剰に使用されたイエローハーブの影響で生前より体力耐久ともに上昇していて、軽く超人の域でサーヴァントのチェイサー二人から逃げ切った挙句、ネメシスを単騎で撃破してしまう程。敵の特徴から真名を当てるなど洞察力も高く、優秀な魔術師としての技能と知識もトップレベルで瞬時に合理的な作戦を編み出すことが可能。また、一度死んだ経験から「死」に対して予知に近い直感を有しており危機回避が得意。ただし紙メンタルであり、タイラントやヘラクレス、ソロモンなどの絶対的な「死」に直面したりなどの絶望的な状況に弱い。あまりに絶望すると吹っ切れて自棄になる。コンセプトは「バイオハザードの主人公である魔術師」

 

 四章攻略の時点で契約しているサーヴァントはディーラー、清姫、アルトリア・ペンドラゴン、ネロ・クラウディウス、エミヤ(アーチャー)、マリー・アントワネット。ディーラーとは立香と共有のマスターであり、令呪を行使することはできないが念話したり魔力を供給することが出来る。マリー以外の共通点としては「主人公の相棒」「マスターラブ勢」…なのだが、清姫以外のもう一つの共通点として「自分が死んでもマスターを先に進ませる」こと。ディーラーは言わずもがな。アルトリアはstaynightのUBWルート、ネロは原作五章、エミヤはstaynightセイバールート、マリーは原作一章。サーヴァントを犠牲にすることに対して怯えていたオルガマリーがロンドンの件で吹っ切れたため、それまで召喚されなかったマリーとエミヤが召喚された。

 所有武器はハンドガン・ブラックテイルとピストルクロスボウ。立香と比べると素人もいいところだが、集中すれば狙ったところに必ず当てる腕前を発揮する。切り札として令呪を魔力源にした高威力のガンドを有しており、対魔力がなければサーヴァントでも撃破できる。

 

 

 

 

 

・マシュ・キリエライト

 原作とほとんど変わらない。念のためにとマシンピストルをサブウェポンにしていたが合わなかったようでロンドンでマチルダの弾を切らせた立香に譲った。自らに宿った英霊の真名すら知らないまでも、ローマにて二人の騎士王の導きで宝具の片鱗を解放できるようになった。ここぞという時のメイン盾。立香の状態をたびたび心配している。エヴリンには苦手意識を持っている。B.O.W.を相手にするのも若干苦手で、だいぶ押され気味。

 原作との変更点として、一章でアマデウスから、四章でモードレッドから、それぞれ助言をもらえていない。

 

 

 

・フォウ

 原作よりも空気となっている謎の小動物。ちゃんとマシュの盾の内側に潜り込んで毎回ついてきている。あまり喋らない理由としては、立香とオルガマリーとマシュを観察しているため。ゾンビぐらいなら体当たりで退けることは可能。

 

 

 

・ロマニ・アーキマン

 オルガマリー不在の際に司令官を任せられているドクター。定期的にディーラーから物資の補給を行っている。立香とオルガマリーのカウンセリングもしているが、立香には効果が無かったことを悔やんでいる。バイオハザード関連で手遅れなことにならないようにデータベースを漁り寝不足で、ディーラーに指摘される程。ただその結果、誰も気付かなかった立香の秘密に勘づくなど成果は出ている模様。

 

 

 

・レオナルド・ダ・ヴィンチ

 ディーラーの手解きでプラーガ除去装置を数日で作り上げてしまった天才。「エイダ・レポート」では組織がかりで調べ上げたプラーガの仕組みまで理解し、特殊な対バイオハザード礼装のチョーカーを開発。礼装の強化も施し、ウイルスの脅威から立香たちを守るべく最大限サポートしている。また、毎月定期的に謎ルートから大量の聖晶石を仕入れており、大体立香に買い占められる。

 

 

 

・セイバーオルタ

 冬木で立香たちと敵対した記憶を記録として有している黒い騎士王。ディーラーとの約束を守るべく立香の召喚に応じた。立香のサーヴァントの中で最強に位置しており、立香がマシュとディーラーに次いで信頼するサーヴァント。ディーラーとは妙な信頼関係を持っていて相棒ともいえる連携を見せる。ネロの協力でクラスチェンジしてメイドオルタに変身可能。ぶっ飛んだ作戦ばかり立案する立香を気に入っている。

 ハンドガン・レッド9、ライオットガン、セミオートライフルなど数多の武器を初見で使いこなす。単純な破壊力を持ちエクスカリバーと同時に使えるレッド9がお気に入り。大雑把な味が好みで、ディーラーの作る三色ハーブを振りかけた焼き魚と、金の卵を使った卵かけごはんを気に入っている。

 今のところ全ての特異点皆勤賞だが、ロンドンでソロモンに敗北した影響で五章ではお休み。

 

 

・クー・フーリン(キャスター)

 冬木で立香たちを導いた記憶を有しているアルスターの戦士。立香を気に入り召喚に応じた。ディーラーにお手製の槍を特注で作ってもらい愛用している。ほぼ私怨ではあるがランサーを敵視しており、フランスではヴラド三世と激闘を繰り広げた他、似非ランサーであるサドラーが嫌い。オルレアン以降非戦闘員だったためカルデアでの厨房担当の一人を務め、大雑把な焼き料理メイン。

 今のところオルレアンのみ参戦だが、五章では数少ない動けるサーヴァントとして同行する。

 

 

 

・メディア

 オルガマリーを救いたいという立香の願いに応えて召喚されたキャスターのサーヴァント。コルキスの王女で、裏切りの魔女と知ってなお自分を信頼してくれている立香を気に入っていて、弟子として魔術のいろはを叩き込んでいる。…それが真の召喚された理由だったりするが立香本人は自覚してないしメディア本人も気付いていない。

 試しにとディーラーからマシンピストルを購入、魔術で弾丸の軌道を修正するという荒技を披露しアン・ボニーを圧倒した。また、立香のぶっとんだ作戦を実行できる貴重な人物でもある。カルデアでの厨房担当の一人で、何故か和食を作るのに長けている。

 陣地を作って引き籠もるタイプなため特異点の旅には向いておらず、今のところオケアノスのみ参戦。

 

 

 

・アシュリー・グラハム

 ディーラーの声をレオンと間違えて召喚されたライダーのサーヴァント。英雄でも反英雄でもない英霊もどき。本来はレオンの宝具として召喚される。立香をかつての自分と重ね、全身全霊で守ろうと奮闘する。ロンドンでは似たような宝具を持つチャールズ・バベッジと激闘を繰り広げた。守られることで本領を発揮するため、直接戦闘にはあまり向いていない。

 今のところローマとロンドンで参戦。ハンター、G生物など凶悪なB.O.W.達から無敵の防御力で立香のピンチを何度も救うも、アルテラの宝具にテスラのレールガンと、デタラメな力を前に最終局面に行く前にやられてしまうことを悔やんでいる。

 

 

 

・マイク/カーク・マシソン/ブラッド・ヴィッカーズ

 ローマ直前にてアシュリーと共に召喚されたライダーのサーヴァント。バイオハザードの犠牲となったヘリパイロットたちの無念の集合体であり、マイクがメイン人格として出ている。召喚されてから全ての特異点に参戦しており、偵察に援護、移動手段と手広く活躍しているが、スキル「墜落の宿業」の影響もありいずれにおいても序盤で散っている。人格の一つであるブラッドは立香と変なところで分かりあえた模様。

 

 

 

・レオン・S・ケネディ

 監獄塔を越えてアヴェンジャーを召喚しようと息巻いていた立香に召喚されたアーチャーのサーヴァント。ナイチンゲールの記憶に潰された際に「バイオハザードを根絶させてみせる」と決意したため、同じ決意を抱く者として喚ばれた。一日警官、大統領直属のエージェントという肩書を持ち、アシュリーの護衛係をしていた。ディーラーにとっては永遠のストレンジャー。

 数多のバイオハザードを乗り越えた実績を持った歴戦の英雄であり、ハーバードヴィル空港のバイオハザードを終わらせた張本人で、立香からは恩人として慕われて(?)いる。バイオハザードに巻き込まれるたびにめんどくさい女に振り回される女難持ち。今回は立香がそれだとレオンは直感している。

 一昔前のマフィアの様な恰好をしており、シカゴタイプライターと二丁拳銃をメインに使う他、ほとんどの銃器を使いこなしナイフの扱いにも長け、蹴りを主体とした体術も得意なオールラウンダー。ただし策を講じて翻弄するタイプであり、どこかのゴリラと違って力比べは苦手。生前のエピソードから、何らかの形で関わったしまった乗り物を最終的に使い物にならなくするという妙な特殊スキルを持っており、ライダークラスにとっては天敵。宝具は二種類で今のところ不明だが、アシュリーは本来宝具の一部らしい。

「俺の心の中にある幻影かもな…」

 

 

 

・清姫

 オルガマリーの初召喚に応じて召喚されたサーヴァント。オルガマリーを「安珍様」の生まれ変わりだと信じ込んでいて「旦那様(ますたぁ)」と呼ぶ。なによりも嘘が嫌いであり立香の事は「無自覚な大嘘つき」だと嫌っている。オケアノスで連れてってもらえなかったことからロンドン編冒頭でネロを燃やして重傷にし、オルガマリーを悩ませるきっかけを作ってしまった。終盤にてオルガマリーのためにそのことを謝罪し、ランサーにクラスチェンジしてリーチネメシス撃破に助力した。

 今のところローマとロンドンで参戦。

 

 

 

・アルトリア・ペンドラゴン(セイバー)

 ローマでのウェスカー戦にてオルガマリーの機転で召喚された最優と呼ばれるセイバーのサーヴァント。通称青い騎士王。オルタだった特異点Fの記憶はないが、とある世界線の第五次聖杯戦争と第四次聖杯戦争の記憶を記録として有している。同一人物であるオルタを「黒」と呼び「青いの」と呼ばれる。

 ローマで召喚されて以降今のところ皆勤賞。オルタよりも出力が高く、現状カルデアの切札ともいえるサーヴァントであり、タイラント級の相手と互角に渡り合える。宝具であるエクスカリバーはラスボス級のB.O.W.の大半を仕留めることが出来る。湖の妖精の加護で水面を歩けるためオケアノスでは水上戦を披露した。オルタと違って、清姫と同じでディーラーの武器は使用しない。

 

 

 

・ネロ・クラウディウス

 特異点ローマでの記憶を保有して恩に報いるため召喚されたセイバーのサーヴァント。アルトリアとは別の意味で切札ともいえるサーヴァントで、皇帝特権を行使し、味方ごとクラスチェンジしたりとディーラーでさえ度肝を抜かれる活躍を見せる他、特殊なスキルで三回まで力尽きても復活できる。ローマでの旅の道中で立香とマシュとオルガマリー他、自らの剣を褒めてくれた上に美的センスも近いディーラーを気に入った模様。

 ローマでは生前として戦いGカリギュラに引導を引き渡した他、今のところオケアノスでのみ参戦。ロンドンにも参戦する気満々だったが、清姫に強襲されて大火傷状態で寝込むことに。なお色仕掛けでやられたとのこと。

 

 

 

・マリー・アントワネット

 特異点オルレアンの記録を有して召喚されたライダーのサーヴァント。ライダーを欲していたオルガマリーの願いに応えて召喚された。基本的に非戦闘員だが歌声を武器にする他、蹴りを主体とした踊るような攻撃手法を取る。サドラー討伐の際にオルガマリーからブラックテイルを借り受けて狙い撃つなど、銃も扱える。見た目より内部が広いガラスの馬車を有しており多人数で長距離を移動できる。ただし防御力は皆無であり護衛が必要。

 

 

 

・エミヤ(アーチャー)

 特異点Fでディーラーが対峙したアーチャーと同一人物であるサーヴァント。アーチャーを欲していたオルガマリーの願いに応えて召喚された。本人曰く以前のマスターに似ているのも理由らしい。弓兵なのに白兵戦が得意。アルトリアやクー・フーリンにメディアと知り合いらしく苦い顔を浮かべる他、立香の動向を聞いてまるで自分の事の様に頭を抱えている苦労人。アルトリアの鶴の一声により満場一致で食堂を任された。

 

 

 

・エヴリン(???)

 アルターエゴのエヴリンが立香に残した特異菌が自我を持ったもの。血清を作るにはD型被験体の「腕」と「頭」が必要なため除去するのは現状不可能。立香に特異菌の力を付与しており、驚異的な再生能力を与えてソロモンが与えた深手を治した。幻覚として立香に助言するが、その動向はアヴェンジャーの方が近い。監獄塔で立香と会話したエヴリンとはほとんど別物である。

 

 

 

 

 

・この世界の前提

Fate/Grand orderの世界にバイハザード(ゲーム)の歴史が存在する世界線。ある意味異聞帯ともいえるが、滅びはしないためパラレルワールド扱い。そのため、過去に行われた聖杯戦争は2004年の冬木での一度のみ。ゾンビやB.O.W.の存在はある程度魔術世界にも浸透しているが、死徒のまがい物として侮られており危険視しているのは上層部のみで、BSAAやらに魔術師が入り込んでいる。また、カルデアは元々南極に存在した施設跡を利用して建てられたもの。人理焼却後も何者かの工作である程度ネットを廻覧できる上に、BSAAのデータまで見れる。原作においてちょうど2015年から2017年までバイオハザード7という空白期が存在する。

 

・令呪

 カルデアにおいては一日で一画復活するマスターの切札。原作と異なり、具体的な命令を実行させることが可能だが、ある程度の信頼関係が必要。オルガマリーはこれを魔力源にしたガンドを切札として有する。

 

・クラス:ディーラー

 商人のクラス。「商人魂」「商売の鉄則」をクラススキルに持ち、他者に商品を購入させることで本領発揮するエクストラクラス。セイントグラフに描かれているのはアラビア風の商人。シンボルは硬貨。

 金銭を払って購入させた商品は受肉(?)し、例え売った張本人が消滅しようと現世に残り続ける性質を持つ。商品のラインナップが時期で変わる他、いつの間にか商品が補充されてたりする。戦闘は得意ではないが、商品の効果は絶大。主な該当者はアルフレッド・ノーベル、坂本龍馬、バジル・ザハロフ、トーマス・グラバー、マルコ・ポーロ、クリストファー・コロンブス、シンドバッド、リカルド・アーヴィング(バイオハザード5)、グレン・アリアス(バイオハザードヴェンデッタ)など。

 

・クラス:チェイサー

 追跡者のクラス。「追跡開始」「追跡続行」をクラススキルに持ち、特定の相手を追跡することで本領発揮するエクストラクラス。セイントグラフに描かれているのは「シザーマン」。シンボルは鋏。

 条件さえ整えばほとんど不死身のサーヴァントが多いが、「追跡続行」の効果も永続のものではないためいずれ力尽きるが、それまではいくら倒しても復活ししつこく追ってくる。また、「追跡開始」のスキルを使うことで万全になるため素のステータスは低い。主な該当者は清姫、ブリュンヒルデ、シザーマン(クロックタワーシリーズ)、ハンマー男(クロックタワー3)、才堂不志人(クロックタワーゴーストヘッド)、ダニエラ(DEMENTO)、シザーウォーカー(nightcry)、ルヴィク(サイコブレイク)、ジェイソン・ホービーズ(13日の金曜日シリーズ)、リサ・トレヴァー(バイオハザードHDリマスター)、ウスタナク(バイオハザード6)、レイチェル・フォリー(バイオハザードリベレーションズ)など。

 

 

 




カルデアメンバーだけですが、基本的に原作との変更点をまとめました。オリジナル設定で何か気になるところがあれば遠慮なく聞いてください、追記します。


「俺のギャラは破格だ」はDVDのおまけのギャグシーン集のネタだからほとんどの人に分からなかったようで残念です。レオンは立香の恩人としての立ち位置となります。思ったより口調が難しい。ちょこっとレオクレ風味なのは許してほしい、好きなんだ。今回レオンを振り回す女は誰が隠そう、立香である。

エミヤシロウことアーチャー参入によりアルトリアさんご満悦。新たに決意を改めたオルガマリーだからこそ、彼とマリーを召喚できました(メタ的に言うとロンドン編執筆中に二人とも来てくれた)。士剣、士術風味なのは許してほしい、好きなんだ。立香に何か言いたげな様子ですが何時言えるのやら。

もはや何度目か分からないエリザベート・ウェスカー…じゃない、アルバート・ウェスカーさん。ついにカルデアと彼の最終決戦です。対峙するのは因縁のあの男。二人の英雄の敗北と共に物語は動き出します。

最後は世界観と、ディーラークラスとチェイサークラスの設定公開。何気にさらっと魔術師が卒倒しかねない重要な情報を出してますが、気にしないでください。ディーラークラスは史実の、チェイサークラスはフィクションの面子が大半の該当者になってます。好みが偏ってますが気にしない。某断り様はチェイサーなのか微妙である。

次回はカルデアINアメリカ。立香と彼女の再会です。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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お前が怖いんだとよストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…やっと書き終えた令和初投稿なのにあまり満足のいくできじゃなくて若干沈んでいる放仮ごです。何時だって始まりを書くのは難しいと思うのです。令和に入ってから誰も金鯖が来てくれません…私は悲しい(ポロロン

今回からようやく本格的に第5章「第五特異点:北米神話宿命大戦イ・プルーリバス・ウナム・ウロボロス」なのですが…やっぱりあまり進んでません。彼女との再会までいかなかった。カルデアでの日常、つまりはいわゆる準備回となっています。特にディーラーとマシュの語らいは自分でもちゃんと表現できているか分かりませんが、楽しんでいただけると幸いです。


 次の特異点が見つかるまでの間、一見平穏な日常を謳歌する中でそれぞれで準備を行うカルデア。ディーラーの開発した新兵器を試し撃ちしてその威力にご満悦な立香は、射的場から出た足で何を思ったのか医務室に赴いていた。

 

 

「ねえ、ドクター。薬液って在庫ある?」

 

「どうしたんだい立香ちゃん。薬液?なんに使うんだい?」

 

 

新兵器片手に医務室を訪れた立香に少々驚きつつ、その用件に首をかしげるロマン。彼の知識を以てしても何をしたいのかよく分からなかった。

 

 

「うん。ちょっと試したいことがあって…」

 

「それなら、まあ薬液なんか君と所長の傷を治すぐらいにしか使わないから残ってるけど…強いのがいい?」

 

「できれば、普通のもと、あとサプリメントもあればもらえるだけくれると嬉しいなって…」

 

「分かった。何か考えがあるんだろう?ちょっと待っててくれ」

 

 

そして手に入れた薬液と薬液(強)の入った瓶が数本入った籠を手に、ご満悦でマイルームに戻ると、棚の中からディーラーから買い揃えたグリーンハーブを取り出して薬液と並べる立香。

 

 

監獄塔の件で手に入れたのは、何もナイチンゲールの知識だけじゃない。エヴリンの記憶も少しだけ頭に残っていた。ナイチンゲールの知識とエヴリンの記憶を合わせて、グリーンハーブと薬液を組み合わせてクラフトする立香。

薬液とハーブ、薬液(強)とハーブをそれぞれ組み合わせて完成、回復薬(仮)と回復薬・強(仮)である。さらに薬液(強)とサプリメントを合成、新兵器用の弾薬「神経弾」もいくつかクラフトすることに成功した。

 

 

「よし、できた。薬液が数本残ったな…うーん。固形燃料が無いから焼夷弾は作れないし…強装弾はさすがにディーラーに相談しよう。あんまり意味ないだろうけどせっかくサプリメントも多めにもらったし精神刺激薬も作ろうかな」

 

 

思考錯誤しながらサプリメントと薬液を組み合わせ、できたのは精神刺激薬と呼ばれる薬。健全ではあるのだが、ロマン辺りにばれたら怒られそうな代物である。ステロイドとかスタビライザーとか欲しいなあと考え始めたあたりで、側に現れた幻影エヴリンに止められた。さすがに看過できなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ダ・ヴィンチ工房には。呪いがなんとかならないものかと自室で魔力供給を試みていた際に、何故かマシュと似たような藤色に一部染まってしまった髪を清姫に指摘されたオルガマリーが内心とある恐怖に襲われながら訪れていた。

 

 

「ねえダヴィンチ。なんか、私の髪の色が変なんだけど…」

 

「ん?おやおや、まあ急ごしらえだしね。さすがに色が戻って来たか。気になるなら直すからこっちにおいで」

 

 

するとダ・ヴィンチちゃんは特に驚かずにオルガマリーを招きよせ、その反応にオルガマリーの中に生まれていた懸念は確信に変わった。ダ・ヴィンチちゃんの側の椅子に座り、確かめる様に髪をいじられ、体の調子も見るためか服を脱がされ診察されながらオルガマリーは恐る恐る尋ねた。

 

 

「…ねえ。今まで恐くて聞けなかったんだけど、この身体って…」

 

「そりゃあ、カルデアで用意できる肉体なんて君でも一つしか思いつかないだろ?ディーラーに入れ物を、と頼まれた際にこれしかなくてね。見た目を君に寄せ、魔術回路も整えた急ごしらえの物さ。まあ物がものだから魔力量に関しては生前よりも強いはずだ。レイシフト適性を得たのも、この肉体が要因だろうね。あ、調整している際に見せてしまったから、立香ちゃんも知っているよ」

 

 

生前の自分がとある理由から「報復を受ける」と思い込んで「トイレとかで惨く殺されるの!当然だわ!」が口癖になるぐらい恐怖しながら、目を背けられなかった彼女と同じ存在になってしまったのだと今更知って嘆息する。生き返ってからはそんなことはなかったけど、こうして直面させられると自分が嫌になった。おそらく、生き返ってすぐこの事実を知らされていたら鬱でまた死にかけてただろう。

 

 

「…やっぱり、そうか。違和感はほとんどなかったんだけど、それだけに急増品にしては質がよすぎるなと思ってこの可能性は考え付いていたわ。認めたくなかったけど。藤丸も知ってしまったのね、マシュの正体」

 

「君に何も聞かれなかったからね、ロマニからもわざわざ言う事じゃないと言われていたよ。さすがに例の件については言ってないけどね。…知られたら、私達は非難されるかもだね。彼女には実に酷な話だ」

 

「ええ。もし糾弾されたら、甘んじて受けるわ。私にはその責任がある。…同じだというのなら、私も受け入れるわ」

 

「おや。マシュから逃げまくっていた君にしては言うようになったじゃないか」

 

「これまで四度も特異点を修復してきたのよ?いつまでも弱いままじゃいられないわ」

 

「ふむ、いい成長だ。ところで魔力の流れがちょっとおかしいけど…直前になんかやってた?」

 

「…気にしないでちょうだい」

 

「おーけーおーけー。昨夜はお楽しみでしたね?」

 

「ッ…ガンド!」

 

「え、ちょっ、まっ…!?」

 

 

たまたま廊下を歩いていたカルデア職員が爆音とともにダ・ヴィンチ工房の扉を吹き飛ばして出て来た気絶したダ・ヴィンチちゃんと半裸姿で息を荒らげるオルガマリーを目撃したが、見て見ぬふりしてそそくさと立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クー・フーリンとメディア、清姫だけだった料理人にエミヤが入り、これまで以上に賑わうカルデア食堂。いつも自給自足して一人で食事していたもののアルトリアとオルタが太鼓判を押すエミヤの料理が気になったディーラーは焼き魚定食を乗せたお盆を手に食堂を歩いていると、珍しく一人で食事をとっていたマシュを見つけてその隣に座った。

 

 

「ここ、座っていいかストレンジャー?」

 

「あ、ディーラーさん…どうぞ」

 

「どうした、マシュ。元気がないな?」

 

「それは…なんでもありません」

 

 

珍しくはぐらかしてくるマシュの暗い顔を見て、いつも食事を共にしている立香やオルガマリーがいないことに気付くと、元々客の欲しいものを知ることが大事な商人をしていたディーラーは察した。

 

 

「ストレンジャーたちや俺には相談できない事か。…そうだな、銃が怖くなったか?」

 

「え!?」

 

 

図星を突かれたのかお茶を吹き出しそうになりむせて咳込むマシュ。銃はディーラーにとってはアイデンティティと言っても過言ではないものだと知っているマシュはサッと顔を青ざめるが、マスクを一々外して白ご飯と焼き魚を交互に食べながら答えを待つディーラーの姿に怒ってないと察して恐る恐る話し出した。

 

 

「…銃が悪いものだとは言いません。でも、引き金を引くだけで人一人の命を容易く奪えてしまう銃を握っているのが恐ろしくなって…先輩に、お譲りしました」

 

「ナーサリーライム戦だな。あの時マシュがストレンジャーに渡したマシンピストルのおかげで持ち堪えられた。だが、それ以降返却してもらうこともなく俺から新たに購入する気配もない。マシンピストルを購入した際はマスターを守れるように少しでも力を、と息巻いていたのにな?で、ドクターからお前の成り立ちを聞いた。…さぞかし怖かっただろうな」

 

「…はい」

 

 

申し訳なさそうに頷くマシュに、「なにも悪くないさ」と笑いながらハンドガンを取り出して机の上に置いたディーラーは、ビクッと反応するマシュに苦笑いしながら説明を始めた。

 

 

「マシュ、お前は間違ってない。銃の本質は「恐怖」だ。音と煙が上がると誰かが死ぬ、その恐怖を刻み付けることが出来る。銃を恐れないゾンビには全く意味がないが、人間はその恐怖に抗えない。必ず足が竦んでしまう。さらに言えば安全な場所から攻撃できる射程や「引き金を引くだけ」の動作の簡潔さから殺傷に対するストレスを大きく軽減出来る上に、どんなに小口径でも当たれば致命傷を与えられる。特殊な資質や技量を必要としない、つまりはお前や所長殿の様な初心者や女子供でも短い訓練期間さえあれば簡単に扱える武器、それが銃だ」

 

「は、はあ…」

 

 

まくしたてたディーラーだったが、若干引き気味のマシュの様子にハッと気付くと溜め息を吐いた。

 

 

「…すまん。銃の利便性について語ってしまったが、そういうことじゃなかったな。…その簡単に命を奪える銃を嬉々として使うばかりか使いこなしてしまうストレンジャーを恐れてしまったといったところか」

 

「っ…はい。私には、先輩が分かりません。誰よりも優しいことは知っています。だけど、銃を握ってゾンビを蹴散らす様を見ていると…理解できなくて、先輩が怖くなってしまって…」

 

「ほう、怖いか。ストレンジャーが嬉々として銃を使っていると?だとしたら、ストレンジャーの事をまるで分っていないな」

 

「え…?」

 

 

やれやれとでも言いたげに肩をすくめるディーラーに、首をかしげるマシュ。話がずれて来てしまったが、藤丸立香を一番知っているからこそ、その間違いは正しておかねばなるまいとディーラーは決意した。

 

 

「いいか?ストレンジャーはな、臆病だ。自分勝手で、自分だけ生き残ることが嫌で、周りの人間が自分を守って死んでしまうことにトラウマを抱いている。戦いたいのに、守られたくないのに、自分にはその力がない。弱いからだ」

 

「っ…先輩は弱くありません!いくらディーラーさんでも先輩をけなすことは許しません…!」

 

 

食事中にも関わらず立ち上がり怒号を上げるマシュに何事かと周りの視線が集まるが、ディーラーは気にせず続けた。食事中にする話じゃなかったなと反省はしているが、勘違いしたままだとどちらにとっても不幸になことになると確信していたからだ。

 

 

「弱くない、ね。そいつはマシュの勘違いだ。いや、ストレンジャーは強くあろうと演じているから勘違いしてもしょうがないが…俺達にはバレバレだ。ストレンジャーが銃を握るのは自分が弱いからと自覚しているからだ。さっき言っただろう?特殊な資質や技量を必要としないって。マシュ、お前はデミサーヴァントになれたから銃を必要とせず戦えるが、心も未熟で肉体もか弱いストレンジャーに限っては…銃しかなかったんだ」

 

「それは…私たちが、弱いからですか?先輩に心配させてしまうからですか…?」

 

「そうは言っていない。さっきも言ったが、守る人間の強弱関係なく、守られるだけが嫌ってだけだ。マシュや俺達を信用していても、万が一にも失ってしまうのが怖いんだ。アシュリーやマイクが倒されるたびにお前は見てきたはずだ。理解できないからって理解しようとしないのは違うぞ、マシュ」

 

 

ビシッと箸をマシュに突き付けるディーラー。すると厨房のエミヤから「マナーが悪い」とお叱りを受けてしぶしぶ引っ込め、変な空気になってしまった場を誤魔化す様に咳払いして続けた。

 

 

「お前のよく知る先輩は、どうしたってマシュや俺達サーヴァントと共に戦う事を選ぶ。危険だろうが死地だろうが迷う事もなく飛び込むだろう。それをできるように努力してきたのが今のストレンジャーだ。幼少期にバイオハザードに襲われ両親を失うという絶望を味わいながら、それでも歩むことを止めなかったのは何のためだと思う?」

 

「…自分と同じような人間を出さないようにするためなのでは?」

 

「残念ながらそうじゃないんだなこれが。誰かを救うためなんかじゃない。正義の味方になりたかった幼いころの夢を叶えるためじゃない。命は消える時は簡単に消えてしまうっていう現実を知ってしまったストレンジャーは恐れたんだ。

 ただ守られる事を、見守るだけで失ってしまうことを。本当の意味で誰も信用できないんだ。みすみす失い、置いて行かれることが何よりも恐ろしいんだ。その恐怖を乗り越える為に、他人ではなく己に「強くあれば」と求め、ただひたすらに前を向いて努力し続けた行く末に選んだのが銃だ。マシュや所長、俺達を失いたくないからストレンジャーは銃を握るんだ。勿論それが間違っているはずがない、ストレンジャーの選んだ答えだからだ。例え自らの心身が磨り減ろうとも精一杯頑張ってるのがお前の先輩だ」

 

 

その言葉に、どこか納得してしまったのは、今までずっと先輩と一緒にいたためだろう。そんな人間だといつしか気付いてはいた。だけど、理想の先輩を押しつけてしまっていたのだとマシュは気付く。そして、自分以上に先輩を理解しているディーラーに嫉妬した。

 

 

「さっき言ったな。先輩は弱くないと。なら、お前が誰よりも強いと信じる先輩を、ストレンジャーを、いや、藤丸立香を信じてやれマシュ。銃を握ってる程度でそう怖がってやるな、ストレンジャーはあれで繊細だからな。マシュにそう思われてると知ったら泣くぞ?ヒッヒッヒッヒェ…」

 

「ふふっ、そうかもですね…」

 

 

その光景を幻視したのか楽しそうに笑うディーラーに釣られて微笑むマシュ。しかし話が摩り替っていて忘れていたが、銃への恐怖はやっぱり拭えない。人の命を簡単に奪えてしまう、それだけでマシュにとっては忌避する物だ。

 

 

「おっと、話が逸れていたな。まあ今のマシュに銃に対する強い拒否反応があるのはわかった。使いたくないなら使わなきゃいい。無理強いはしないさ。だがな?銃は何も殺す為だけのものじゃないんだぜ?ちょうどレオンって言うおあつらえ向きの英雄様が召喚されたんだ。あいつの使い方を見て、もう一度見定めることを推奨するぜ。考え直して、必要になったらいつでも言えよ?その時は最高の武器を見繕ってやる。客の注文には最大限に応えるぜ。俺は武器商人だからな」

 

「…はい。マシュ・キリエライト、全身全霊で学ばせていただきます!」

 

「何事にも全力で取り組めるのはマシュのいいところだ。なんだ、出会ったころに比べるとだいぶ人間らしくなってきたじゃないか」

 

 

ふんす!と気合を入れるマシュと、感慨深げに頷くディーラー。その後、楽しげに語らいながら食事を共にする両者の光景が食堂にて見られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数週間後。ついに五つ目の特異点が発見された。セイバーオルタたちがソロモンにかけられた呪いこそ解けなかったものの、万全に準備が整っていた時だった。立香とオルガマリー、そしてマシュとディーラー、レオンたち今回の特異点に同行するメンバーが集まりブリーフィングが始まった。

 

 

「そんなわけで、今回のポイントは魔術師的には驚きの場所だった。だがレオンくんが来てくれた矢先にこの場所はむしろよかったかもしれない。第五特異点は北アメリカ大陸、アメリカ合衆国と呼ばれる超大国だ」

 

「アメリカ…!」

 

 

レオンよりも先に反応する立香。アメリカ。ラクーン・シティを初めにバイオハザードが最も多発し、両親をバイオハザードで失い、そして自らを家族と呼んでくれた人達が暮らす国、もう一つの故郷。反応しない訳がなかった。

 

 

「歴史上においてもこの国を外すことはできないだろう。バイオハザード云々はもとより、魔術的には歯牙にもかけられてない国だけど、歴史的にはローマに匹敵する重要性を持っているからね」

 

「ローマに匹敵するとは…ううむ、滾ってくるな!」

 

「皇帝様に進言するってわけじゃないが…歴史的には浅く、若い国だ」

 

「あまり比べないでくれると嬉しいかな…」

 

 

なにやら滾っているネロに苦笑いを浮かべるレオンとアシュリー。我が国ながらローマと比べられるとさすがに恐れ多い。

 

 

「魔術的に薄いと言ってもそうでもないわ。精霊を降臨させるような独自の魔術が発達していたらしいわ。いわゆるシャーマンね。さらに言えばあらゆるものに反逆するアウトローの伝説が根強く残っていて、英霊も多く存在する国よ。レオンやアシュリー、ジル他バイオハザード関連の英霊もアメリカ出身が多いんじゃないかしら」

 

「何故かサドラーがコンプレックスを抱いて嫌悪していた国でもあったな。詳しくは知らないが」

 

 

魔術的な知識に疎い立香に説明を付け加えるオルガマリーと、サドラーを思い出して何とも言えない表情を浮かべるディーラー。レオンとアシュリーも思い出したのか、微妙な顔を浮かべた。

 

 

「これまでに比べると勝手が違うのは明白だ。なにより、バイオハザード発祥の地でもある。この特異点に限ってはバイオハザードが絡んでこないなんて絶対にない。これまで以上にウイルスの脅威にさらされるだろう。気を引き締めて探索に望んでほしい。――――では、レイシフトを開始する。立香ちゃん、所長、準備を」

 

 

いつも以上に緊張した面持ちでロマンが見送り、レイシフトが始まる。そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って!?」

 

「よりにもよって…!?」

 

「先輩…!」

 

 

レイシフトした場所は不幸にも、機械人形と古代の鎧に身を包んだ兵隊たちが争い、リッカーやハンターを始めとしたB.O.W.も投入されている戦場の真っただ中であり、立香達は砲弾の雨に襲われた。




いきなり修羅場。容赦しないです。

・今回のサーヴァント
立香がマシュ、ディーラー、キャスニキ、レオン、アシュリー(控えでマイク)で、オルガマリーがネロ、エミヤ、マリー・アントワネットとなっています。ネロはスキルのおかげで呪いを免れていたので続行です。

・薬液厨になった立香
監獄塔編で得た知識を早速披露。バイオハザード7ネタです。エヴリンの記憶で知ったステロイドとスタビライザーが欲しいみたいだけど幻影エヴリンに止められている始末。

・オルガマリーの事情
今章で明らかになる例のアレの産物。誰かツッコんでくれないかなと思っていたけど触れられなくて残念だったことの一つです。肉体をそんな簡単に用意できるはずがないじゃない。なお、清姫達と何をしていたのかはお察し。

・充実したカルデア食堂
清姫メディアクー・フーリンに加えて、我らがバトラー、エミヤ参入でこれまで以上に賑わうカルデア食堂。メイン料理は物資の問題で魚料理。ブラックバスも美味しく料理できる料理人たちである。

・銃にトラウマを抱いていたマシュ
四章の中盤から使っていなかった理由がこれ。マシュの在り方上、銃は相容れないものでした。現在は握ることもできなくなってます。バイオハザードキャラの誰かと似ている状況ですが…?

・銃を語るディーラー
これまでで一番元気に話している図。銃の本質は「恐怖」だと理解しているからこそ、マシュに拒まられようと受け入れる商人の鑑。

・藤丸立香という少女
誰よりも理解しているディーラーの語る立香という存在。これまでぼんやりとしか語ってこなかった真実がこれ。若干すれ違っていたマシュの立香への認識が改まりました。何気に食堂にいた人間に聞かれていましたが、昼過ぎなのであまりいなかった模様。立香本人はいなかったけどオルガマリーはいた模様。

・最初からクライマックス
監獄塔でしくじった魔術王の意図を感じる…なんてこともなく。原作の地点まで戦場になるぐらい戦線が拡大しているだけの話。


次回、今度こそ彼女との再会。やべー奴×やべー奴。バイオハザード関連サーヴァントも出せるかもしれません。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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クリミアの天使だとよストレンジャー

ウェルカム!ストレンジャー…どうも、本日7月23日を以てハーメルンでの初投稿から六周年となった放仮ごです。お久しぶりです。新作やらを投稿していてだいぶこっちの執筆が停滞していました。FGOのイベント多すぎない?

ついに本格的な特異点アメリカでのバトルです。今回は三人称と、途中から立香視点でお送りします。ようやく彼女と立香が再会(?)します。楽しんでいただけると幸いです。


 レイシフトした立香達の周りでは二つの勢力が戦争していた。いや、戦争と呼べたものではない。

 

 ロンドンでも見たヘルタースケルターに酷似しているが剣ではなく機関砲を装備した色鮮やかな機械兵と銃を手にした人間の兵隊の一団を、古代の鎧に身を包んで槍を手にしたレトロチックな戦士の集団とリッカー、ハンター、スカルミリオーネ、そして鳥か蝶の様なB.O.W.、見上げる程の巨躯を持ち腰に兵隊の死体を複数ぶら下げたB.O.W.、歩脚も兼ねた4枚の翼を持つ巨大な蝙蝠のB.O.W.が蹂躙していた。

 

 戦士達も銃弾が当たろうがまるで怯まず、口から花弁のようなクチバシを出して兵隊に噛み付いたり、銃弾で頭部が吹き飛ばされると鉤状の突起の付いた肉の触手が飛び出して逆に兵士の首を刎ね飛ばす。

 

 それに対抗すべく兵隊側も機械兵団の軍勢や大砲が導入されているが、それを嘲笑うかのごとくネメシスのそれに似た防弾・防刃コートを着たタイラントが五体と、処刑人の様に頭に黒い布袋をかぶり身体に拷問されたような傷と釘がいくつも付いた巨体で大刃をくくりつけた巨大な斧を引きずった大柄な大男が数体出現。大砲を物ともせずに兵隊を薙ぎ払い機械兵を蹴散らし、大砲を叩き潰してズンズンと進軍してきていた。

 機械兵はリッカーやハンターの斬撃は弾けてもタイラントや巨人、大男の重量級の一撃には耐えきれず瞬く間に鉄クズと化していき、首から上が無い屍と鉄クズの山を踏み荒らして迫りくるB.O.W.の軍勢は悪夢でしかなかった。

 

 

「ば、バカな!ケルト兵でさえ容易に破壊はできない、閣下に頂いた強化外骨格ハードワークMk-2を物ともしないだとぉ!?」

 

「報告に在ったサーヴァントタイプでもないのにか!?」

 

「リッカ―、ハンターと呼称される奴らに対して強化外骨格が通用すると喜んでいたところにこれか!?馬鹿な、強すぎる!」

 

「ええーい、前線後退!援軍が到着するまで大砲で牽制しつつ後退である!急げ!奴等をできるだけ近づけるな!」

 

 

 機械兵があっけなく破壊されると、生身の兵隊達が慄きながらも後退していく。それでも機械兵は進軍し大砲はどんどん発射されているが、関係ないとばかりにB.O.W.が蹂躙していく光景に岩陰に隠れたカルデア一行はどうしたものかと動けずにいた。オルガマリーは二つの陣営の戦力を見比べ、戦況を把握すると近くに広がる森を指差した。

 

 

「この時代側…と思われる兵隊が後退してるわ、私達も急いで下がるわよ、よりにもよって二つの陣営に挟まれる位置で…来る!?」

 

「フォウフォウ!?」

 

「くそっ、マシュとアシュリーはマスター達を守れ!」

 

「こいつは洒落にならない数だぞストレンジャー!」

 

「ちいっ、ゲイボルクでもない槍じゃ致命傷にもならねえか…!」

 

「このままではじり貧だぞ、マスター!」

 

「この人たち、まるで正気を失った民衆の様だわ!止められない!」

 

「余と渡り合える強者までいるぞ!この者達、少なくとも神代の人種だ!」

 

 

 砲弾の雨を掻い潜って突進してきたスカルミリオーネをシカゴタイプライターを手にしたレオンが全身を吹き飛ばして迎撃し、空から飛来した小型飛行B.O.W.をディーラーがハンドガン・レッド9で撃ち落とす。

 

槍を手にしたクー・フーリンが飛びかかってきたリッカーを脳天から串刺しにして炎で燃やしてから打ち捨て、エミヤがハンターの脳天を次々と矢で射抜き、接近してきたB.O.W.は弓を捨てて手にした双剣で切り払う。

 

マリーが歌声による魔力の衝撃波で戦士たちを吹き飛ばし、ネロが大男の振るう大斧を斬り弾いて迎撃する。

 

しかしそれでもまったく減らず獲物だと言わんばかりに立香達に襲いくるB.O.W.の軍勢にたまらず逃げ出す一同。鈍間だからいいが、これにタイラントや巨人が加わったら洒落にならない。

 

 

「くっ…マシュ、みんな!一旦逃げるよ!所長!」

 

「ええ、一度退避よ!すぐそこの森に逃げ込みましょう!」

 

 

 マシュとアシュリーが防ぎ、自分たちも銃を手に応戦していたがタイラントの集団が近づいていることに気付くと迷うことなく逃亡を選んだ立香。アルトリアとセイバーオルタがいない今、タイラントとまともに渡り合えないと判断したのだ。オルガマリーはエミヤが担ぎ、迎撃しながら全速力で逃亡を図り、何とか森に飛び込むカルデアの面々。立香はいつものようにマシュには掴まらず、己の脚力でサーヴァントたちに追従していた。

 

 

「ガナード、それにエルヒガンテ…いや、違う!?プラーガがこんな日中に出てきて溜まるか!?なんだあのB.O.W.は!?」

 

「奴等はクリスたちBSAAのレポートにあったトライセル社が改良したプラーガで生み出された「マジニ」だ。ガナードと違って日中でも寄生体を露出させる。あのでかいのは複数寄生させて生み出した「ン・デス」。エルヒガンテとはしぶとさも強さも段違いだぜ武器商人。飛んでるのは「キペペオ」と「ポポカリム」。サドラーが死んでからもプラーガのサンプルを奪取したある男により改良されたプラーガのB.O.W.が生み出されている。…プラーガとの因縁は終わらなかったってことだ!」

 

「ディーラーよ、オケアノスで戦った魔女のプラーガとやらも日中に出て来ていたぞ?アレの同類ではないか?」

 

「そんなことより、なんでこんなたくさんの種類のB.O.W.が勢揃いしているのよ!?エミヤ、全速力よ!マリーの馬車を出している暇もないわ!あとなんで藤丸は普通についてきてるのかしら!?」

 

「いや、なんか…夢の中の数日で当たり前になってしまって…」

 

「ですがこれなら、先輩の守りに集中できます!」

 

 

 そう言って振り返りながら、飛んできた矢を盾で弾くマシュ。それを射た張本人であるレトロな装備のマジニは即座に、弾かれた矢を手にしたエミヤの返し矢で頭部を貫かれ、出て来た寄生体を、ディーラーから手渡されたレオンの手にしたスナイパーライフルで撃ち抜かれ消滅した。しかしゾロゾロと木々の間を縫うようにしてリッカーとハンターが迫り、その後ろからは弓矢を手にしたマジニが追従する。既にタイラントたちの姿は見えないとはいえ、追跡を振り切るのは困難だった。

 

 

「どうだストレンジャー、やっぱりレトロがいいだろう?」

 

「数がいる時にはセミオートライフルがいいがまあ言いたいことは分かる。商人、奴らの足止めになんかないか?」

 

「足止めならアンタのお得意だろうが。ストレンジャー、ここはレオンに任せて先を急ぐぞ」

 

「確かにアーチャーだから別行動は理想的だけど…レオンさん、大丈夫なの?!」

 

「ああ、奴らの相手は俺の専門だ!」

 

 

 そう帽子を押さえながら不敵に笑って足を止め、シカゴタイプライターを手に銃弾をばら撒くレオン。放たれた弾丸はマジニの脚を撃ち抜いて転倒させ、リッカーとハンターの頭部に当てて怯ませ、空を自在に駆って襲いくるキぺぺオは反動を懸念したのかシカゴタイプライターではなくハンドガンで撃ち落とす。手慣れた熟練の対応に感嘆の声を漏らした立香は、脚を止めてしまっていた。

 

 

「ッ、おいストレンジャー!足を止めるな!」

 

「先輩!」

 

「なにしてるの、藤丸!?そこは…!」

 

「はい?」

 

 

 すぐさま気付いたディーラーとマシュ、オルガマリーが警告の声を上げた物の時すでに遅し。運悪く、立香達に誘導されたタイラントの群れ目掛けて放たれた砲弾がすぐ側に着弾、咄嗟に跳躍した立香はキリモミ回転して吹っ飛び、眼前に迫った木に咄嗟に右腕を突き出して衝撃を緩和するもそのまま右腕が変に曲がって激突。意識を手放した立香の身体はさらに一回転して吹き飛び、何回か木々やら岩やらにぶつかってからクー・フーリンに受け止められて崩れ落ちた。色々飛んでいて見るに堪えない姿になった立香に一行が慌てる中、立香のポケットから転がり落ちた回復薬の瓶をディーラーが拾った。

 

 

「マスターは辛うじて生きてるがどうする、ディーラー!?」

 

「先輩、先輩…ああ、どうすれば…」

 

「ひとまずは拾って集めろ!ロンドンの事を考えればどうにかなるかもしれん!」

 

「でも集めている間に距離を詰められるわ!…レオン、任せられる?」

 

「おいおい。…切り抜けられないとは言わないが、泣けるぜ」

 

 

 気を失った立香を抱えたクー・フーリンにマシュ達が駆け寄る中、足止めを買って出た現代の英雄は、眼前に迫るタイラントの群れを前に立香達とは反対方向に走り出し、帽子を押さえて不敵に笑む。

 

 

「ほら、こっちだ!究極の出来損ない共!」

 

 

 シカゴタイプライター片手に大きな動きで帽子を上空に放り投げ、パフォーマンスするレオン。落ちてきた帽子をキャッチして再び被り、ビシッと無駄に様になるポーズを決めたドヤ顔のレオンに引き寄せられるタイラント達。彼のスキル「挑発効果」だ。パフォーマンスで注目を集め、護衛対象に向けられた敵の意識をこちらに向ける。そして、シカゴタイプライターを魔力に戻したレオンは代わりにロケットランチャーを取り出した。赤いロケット弾頭のそれは、ディーラーのそれとは違い歴然たる宝具であった。

 

 

「結局はこいつに頼る訳か。 これで終わりだ!よく眠りなよ。ファイア!」

 

 

 シカゴタイプライターを半日使えなくなる代わりに使用可能になる彼の宝具【朝日迎える必滅の引き金(ロケットランチャー)】がタイラントの一体に直撃。必然の如く装甲服ごと木端微塵に消し飛ばし、さらに余波で周りのタイラントの装甲服も剥がしてスーパータイラントに変貌されるも即座にディーラーが手にした閃光手榴弾を放り投げて目くらまし。タイラントの動きが止まった間にカルデア一行は逃走することに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「患者ナンバー99、重症。どうすればこんな複雑骨折になるのか…右腕の負傷は激しく、切断が好ましい」

 

 

 あれ、なんで私…意識が…飛んでた…?確か、特異点に辿り着いた直後に…砲弾の雨とB.O.W.の群れに囲まれて、たまらず逃走した…はず。飛来する砲弾と、B.O.W.の群れから必死に逃げて、そして…レオンさんが足止めに出てくれて、それで…あれ、この、聞き覚えのある声は…?

 

 

「左太腿部損壊、右脇腹が抉れていましたが、共に運び込まれてから数分で自然完治。原因を突き止めたいところですがここは放置です。さて、では切断の時間です。本来なら医者の仕事ですが、何しろ軍医が絶望的に足りないので私が代行します」

 

「ちょっと待った待った!?」

 

 

 慌てて起き上がると、そこにはどこかデジャヴを感じる赤い軍服の様な物を着た赤みがかかった銀髪で赤い瞳の女性が立っていた。周りを見ると、テントの中らしく私の他にも負傷者が寝そべっている。野戦病院…?

 

 

「歯を食い縛って下さい。多分ちょっと痛いです。そうですね、喩えるならば腕をズバッとやってしまうぐらいに痛いです」

 

「待って。右腕が変に曲がっているのは分かる、それはいいけど切断は待って。多分きちんと戻せば治るから。私の異常な再生速度は見てるんでしょ?!」

 

「そんなの関係ありません。切ります。切らねばなりません」

 

「なにがなんでも切りたいのは分かったけど待って本当に待って!?」

 

 

 自力で戻せればいいんだけど生憎なんか左腕を拘束されていて何も出来ない。こうなったらできるかは分からないけど拘束を引きちぎるか!?もしくはこのこれ以上動かしたらどの向きになるか分からない右腕でこの人を殴ってでも止めるか!?そんなバカなことを考えながら必死に女性を制止していると、テントの外から見覚えのある鎧姿の少女が入ってきた。頼れる後輩だ。

 

 

「待ってくださーい!ストップ!その人は大丈夫です!」

 

「患者は平等です。二等兵だろうが大佐だろうが負傷者は負傷者。誰であろうと可能な限り救います。そのためには衛生観念を正すことが必要なのです。いいですね?そこを一歩でも踏み込めば撃ちますから」

 

「っ…銃で人を脅すなんて卑怯だと思います!」

 

 

 踏み込んでも無いのに撃ったぞこの医者(?)。はて、その手にある銃にも見覚えがあるようなないような。握ったことがある気もする。しかしマシュが怯えた顔をしているのでやめてほしい、と抗議しようと思っていたらそこにディーラーがやってきた。

 

 

「マシュ、落ち着け。お前はテントの外で所長達にマスターの無事を報せて待っていろ、ここは俺が何とかする」

 

「ディーラーさん…わかりました。先輩、お大事に。私は外で警戒しています」

 

 

 ディーラーに諭され、私の無事を確認して笑みを浮かべた後輩はそのまま出て行った。…マシュ、何かあったんだろうか。

 

 

「さて、それぐらいにしてくれないかメディック。さっきも言ったが腕を元の位置に戻すだけで大丈夫だぜストレンジャーは」

 

「何が大丈夫なものですか。砲弾と榴弾の直撃を喰らって手足が繋がっている方が奇跡です。薬草と包帯を提供してくれた貴方とはいえ、それは聞き入れませんよMr.ディーラー。本来ならば切断して余分なところに血が巡るのを防ぎたいのです。清潔にしていれば、感染症は防げます」

 

「いやだからだな?ストレンジャーの手足は吹っ飛んでたがくっつけて回復薬をジャブジャブかけたら元に戻ったから、多分捩れば元に戻る…」

 

「待ってディーラー。私の手足が吹き飛んだって何?」

 

「言葉通りだ。寝かせる場所が必要だったからここに連れてきたがここまでクレイジーだとは恐れ入った」

 

 

 詳しく聞こうと顔を向けたら青ざめた顔でさっとそっぽを向いたので、それはもう悲惨だったことが窺える。うーん、監獄塔で自覚したとはいえエヴリンになんかされた私の身体、どうなってるんだか。うん?監獄塔?……………あ。

 

 

「安心してください。私は殺してでも彼女を治療します。そう――――私はすべてを尽くしてあなたの命を救う!例え、あなたの命を奪ってでも!」

 

「結果と目的が入れ替わってるぞ!?」

 

「…滅茶苦茶だけど、分かる気はするよ。医療って時には問答無用なものだもんね」

 

 

 思い出した。この人、監獄塔で私が身体を使わせてもらった英霊だ。エヴリン視点の記憶で見た姿だ、目の色が違うけど間違いない。…アヴェンジャーの言っていた、過去現代未来で出会うってこういうことか。…ああ、じゃあ。私が押し潰された、「誰一人見捨てない」という思いはこの人の…ああ、思い出した。私はあの時、エヴリンを救うために宝具を使った、その真名は…。

 

 

「…フローレンス・ナイチンゲール。私は貴女を知っている(・・・・・・・・)。全力を尽くして治療する、それが貴女の信念だとも。でも、貴女も理性では判断できているはずです。私に治療の必要はないと。している暇があったら他を救うべきだと」

 

「……いいでしょう、貴女の治療は一旦保留とします。…先程の盾の少女にも思うところはありますし。ですが貴女の今の言葉はいただけない。まるで自分の命はどうでもいいから、他の人間を救ってくれと。そう言っているように見えました。他人の命にどうこう言いたいのなら、まずは自分の命を最優先になさい。自分が生きないと誰も救えません」

 

 

 止まってはくれたが、図星を刺されて言葉を詰まらせてしまう。ああ、監獄塔で魂を潰されそうになったからか、それとも価値観が真逆だからか、この英雄は苦手だ。言い返せなくて黙っていたところで、ディーラーが歩み寄って来て右腕を掴んでぐりぐりと捩ってはめ込んでくれた。これで治る私の身体はだいぶ人間をやめたらしい。エヴリンのおかげだろうか。

 

 

「これでいいか?ストレンジャー。しかし驚いたぞ、どこでこのメディックと知り合ったんだ?」

 

「ちょっとね…うん、問題なく動くよ」

 

「さあ、終わったら退きなさい!次の患者が来ます!」

 

「あ、はい!」

 

 

 ナイチンゲールに怒鳴られて慌ててテントの隅に寄ってディーラーにここがどこか聞いてみる。私が気絶した後、所長の指示で逃げた先にあったアメリカ独立軍の後方基地の様だ。あの時点でアメリカ側…ロボット兵がいた側は敗北していて、前線を後退させるべく撤退するアメリカ軍についていって所長が私の治療を頼んだらしい。本当に、私なんかと違って頼りになるなあ所長は。

 ちなみにB.O.W.を使役していた相手方の詳細はまだディーラーは知らないらしい。英国軍で無いことは確実だが。…英国と言えばナイチンゲールの出身地だっけ。関係ないかな。

 また、国旗が本来の物と違ったらしく、あのヘルタースケルターと酷似した機械兵といいアメリカ軍も様子がおかしいようだ。ウイルスの類を使ってないだけで私は安心だけどね。

 

 と、ディーラーから情報を得ながらマシュや所長達と合流しようとテントの外に出ると、アメリカ兵の一人が敵襲を報せに来ていて、例の機械兵はいなくて大砲で凌ごうと言うところらしく兵を募っていた。ちょうどそこに所長とマシュを始めとした皆の姿を見つけて、駆け寄った。

 

 

「マシュ!所長!」

 

「いいところに来たわ藤丸。腕は治ったわね?ここはひとまず私達も迎撃に出るわよ。今はアメリカ側に協力した方がいいと見たわ。B.O.W.を使用するあちらを無視できない」

 

「先輩、私達も戦いましょう。ここで前線を維持できなければ患者さんたちが…!」

 

「わかってる、マシュ!所長はここの守りを!私のサーヴァントたちで迎撃します!」

 

「頼むわ藤丸。…このバカのお守は任せたわよ、ディーラー」

 

注文(オーダー)には応えるぜ、マスターの事は任された」

 

「お待ちなさい。私も同行します」

 

 

 所長の許可を得て、マシュ、ディーラー、クー・フーリン、アシュリー、レオンさんを引き連れて迎撃に向かおうとすると、テントの中から出て来たナイチンゲールが私たちを呼び止めた。

 

 

「こう見えて戦いの心得はあります。なにより患者をこれ以上負傷させるわけにはいきません。例え完治していようとです。ドクター・ラッシュ!患者の扱いは先程の指示通りに!ここは我々の聖域です、このテントまで敵は来させません。いきますよ、ついてきなさいそこのマスターとサーヴァント!」

 

「は、はい!」

 

 

 何故かナイチンゲールに先導されてしまう私達。私はどうも、この人には極力逆らえないらしいと項垂れていると、私の前を走っていたディーラーがいきなり立ちどまり、振り返ってリュックの中からそれを取り出した。

 

 

「おっと、そうだストレンジャー。新装備ここで使うか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では治療の時間です。速やかに患部を切除します」

 

 

 B.O.W.の大軍と十数人のレトロ兵で構成された第一波…ハンターの群れとスカルミリオーネの一団と出くわすなり、自ら飛び込んでハンターの口に両手を無理やり入れてちぎっては投げを繰り返したかと思えば、突進してきたスカルミリオーネをサマーソルトキックで上半身を吹き飛ばし、残った下半身の脚を掴んでヌンチャクの様に振り回して電気を帯びた神経組織がレトロ兵を次々と感電させて薙ぎ倒していくナイチンゲール。B.O.Wを相手にすることにかけてはカルデア一であろうレオンさんでさえ惚れ惚れしている無双っぷりだ。

 

 そんな、ナイチンゲールの無双から逃れたB.O.W.を確実に倒していく私達。レオンさんの二丁拳銃とディーラーのサブマシンガンで動きを止めつつ、私とマシュとクー・フーリンで仕留めていくという戦法だ。アシュリーはいつも通り大軍の中に飛び込んで暴れている。

 透明になるハンター…ファルファレルロもいたが、姿を現して「首狩り」しようとしてきたところをレオンさんの速射(クイックショット)で怯んだところをマシュのシールドバッシュが叩き潰した。やだ、私の後輩頼もしい…!そんなことを考えていたら、いつもの様にハンターやレトロ兵を無敵の鎧で殴り飛ばして行くアシュリーから目を離してしまい…

 

 

「えっ、ちょっ!?」

 

「アシュリー!?」

 

 

 いつの間にかハンターに紛れてやって来ていたカエルの様な大口のハンター、ハンターyにアシュリーが丸飲みにされており、他のみんなは手が離せなかったようなので、私は背中に担いでいたディーラーの新兵器…お手製グレネードランチャーに自作の神経弾を装填し、発射。

 

 

「でりゃあ!」

 

「グエェエッ」

 

「ぶはっ!助かったわマスター!」

 

 

 神経ガスを浴びたハンターyが瞬く間に弱ったところに、拳を腹部に叩き込むとべたべたになった鎧姿のアシュリーが吐き出されるなり、アシュリーに頭部を殴りつけられて地面に叩きつけられハンターyはカエルの様に潰れた。

 ついでとばかりに、ナイチンゲールから逃れ、私がこちらの将だと判断したのか突進してきたハンターに続けて装填した焼夷弾を発射。ハンターは炎上し、苦しみながら黒焦げとなり倒れる。うん、ロンドンでジルさんが使っていた時から思っていたけど、色んな弾で色んな状況に対応できるグレネードランチャーは強いな。一発ずつしか装填できないのがたまにきずだけど。敵が隙だらけじゃないと早々使えない。

 

 ナイチンゲールに頭部を吹き飛ばされ、プラーガが飛び出たレトロ兵をハンドガンマチルダの三点バーストで仕留めていると、ドクターから通信が入った。サーヴァント反応を検出したらしい、それも二騎。ハンターたちを率いているらしく、どうやら味方じゃなさそうだ。現れたのは、美形の男サーヴァント二人だった。得物を見るにどちらもランサーだろう。ムカつくほどのイケメンだ。イケメンは嫌いだ、フレデリック・ダウニングみたいにいい顔している裏でどんな悪いことしてるか分からないもの。

 

 

「戦線が停滞するのも無理もない、サーヴァントと…ウェスカー殿と同じ時代の武器があるとは。名を残せなかった者達ではここが限界でしょう、今こそ我らの出番です我が王フィン・マックールよ」

 

「その様だなディルムッドよ。さて、それでは戦おう。なにせフェルグス殿の二の舞にはなりたくないからね!我らフィオナ騎士団の力、存分に彼らに見せつけよう!」

 

「御意。ではご婦人方、お覚悟を。我はフィオナ騎士団の一番槍、ディルムッド・オディナ。ゆくぞ!」

 

 

 そう言ってニ槍を構えた泣き黒子の男、ディルムッドに、不意打ちでクイックショットしてから飛び出したレオンさんのナイフとディルムッドの布が巻かれた槍が交差する。もう一本の槍が振るわれるかと思えば、アシュリーが飛び込んで鎧で受け止め、マシュはディルムッドの奥で優美に構える金髪の男…フィンの元へと向かった。

 真名を自分から敵にばらすのか。アルトリアみたいなTHE騎士みたいな人たちなんだろうか。するとここに来てから何故かフードを被って素顔を隠すようにしていたクー・フーリンが私に近づいて小声で言ってきた。

 

 

「どうやらやっこさん、俺と同郷の様だな。まさかと思っていたが、あちらの兵…ケルト兵か?」

 

「え?それは本当?クー・フーリン」

 

「おそらくだがな。とにかくここは俺に任せなマスター。槍で負ける訳にはいかねえからよ…!」

 

 

 そう笑みを浮かべるとディーラーお手製の槍を手にフィンに向けて駆け出した。…キャスターとランサーじゃパラメータ的にちょっと不安だけど、ここは任せよう。それよりも、クー・フーリンがケルト兵だという残りのレトロ兵なガナード…じゃなかった、マジニが問題だ。

 フィンとディルムッドに反応を示したもののこちらの方が重要だと判断したのか無双を続けるナイチンゲールと、私とディーラー以外の四人がサーヴァント二騎を相手にするわけだから、必然的にさっきまで六人でしていた対処を私とディーラーでやらないといけない訳だ。ナイチンゲール、クラスはバーサーカーなのかだいぶ倒し損ねていて、さらにはサーヴァントの対処もしたいのか動きが荒くなって無事な奴もちらほらやって来ていた。マシュ達に指示を出したいけど、ここを抜かせてしまったらキャンプが危ない。腹を括るしかない。

 

 

「さてストレンジャー。サーヴァントを四人に任せたからこいつらの相手をすることになるわけだが、大丈夫か?」

 

「首を斬られない限りは何とかなるから…!私だけ戦わせないとか、無しだからね!」

 

「だったら所長とマシュに怒られない程度に暴れろ、ストレンジャー!」

 

 

マチルダとナイフを両手に構え、ディーラーの援護射撃を背後からもらいながら私はB.O.W.の群れへと飛び込んだ。この時の私はとても生き生きしていたと後のディーラーは語る。

 

 

―――――ああ、私が求めていたのはこれなのだと、監獄塔に続いて実感した。




キャスニキを召喚した時点で五章に参戦させない訳がないよねって。いきなり無茶ばかりする立香さん。分かる人には分かりやすく説明すると立香は火野映司。ナイチンゲールは伊達明です。共闘は出来るけど相容れない。


・B,O.W.軍団Inケルト軍
ケルト兵が素体のオリジナルB.O.W.「ケルトマジニ」、ちょっと特別性のリッカー、そして通常のハンター、ファルファレルロ、スカルミリオーネ、新登場のキぺぺオ、ポポカリム、ン・デス、処刑マジニ、量産型タイラント、ハンターyと原作以上に過剰戦力なケルト軍。前々回登場している例のアイツが本気を出してきています。正直、ゲームでいっぺんに出されると軽く絶望する面子じゃなかろうか。

・大混乱のディーラー
マジニやら「5」から登場したプラーガのB.O.W.の存在をディーラーは知りません。ディーラーが死んだその後に現れているので。これまでと違い、レオンの知識だけが頼りです。

・パワーアップ立香さん
サーヴァントたちに脚力で追いつき、砲弾で手足がもげても前回作っていた回復薬で治り、変に曲がった腕も無理やり戻し、ハンターyをぶん殴ってアシュリーを吐き出させるという超人立香さん。監獄塔の邂逅でエヴリンの真菌の存在に気付いているので、あまり動揺はしていない模様。逆に守られる必要もなくなって嬉しい。あとフレデリック・ダウニングのせいで変に笑顔ばかりのイケメンは大嫌い。

・レオンのスキル「挑発効果」
ゲーム的に言えば三ターンのみターゲット集中+確率で回避という破格の性能。元ネタは原作バイオハザード4スペシャルコス2でのシカゴタイプライターのスタイリッシュリロード。隙だらけなため敵の注意を惹きつける。見た目がスペシャルコス2なのはそのため。

・レオンの第一宝具【朝日迎える必滅の引き金(ロケットランチャー)
チートな基本武器であるシカゴタイプライターを半日使えなく代わりに一発だけ使用できる最終兵器。必殺宝具であり、当たると確実に殺すことが出来る。台詞はPXZ2から。

・本人初登場ナイチンゲール
監獄塔で立香の意識を押し潰して若干変えた張本人。立香の超人な回復ぷりに驚きつつも治療を止めない鋼鉄の白衣。自分をないがしろにしながら周りだけ守ろうとする立香との相性は最悪である。今回の裏で交渉したオルガマリーの方が相性はいい。人体理解のスキル持ちであるため、人がベースだったり人型のB,O.W.相手には無双する。

・新装備グレネードランチャー
バイオハザード7仕様の、カルデアの倉庫のガラクタでディーラーが作ったお手製グレネードランチャー。ロンドンでのジルを参考にして作成した。所持しているグレネードを利用した特殊弾も同時に開発。立香も独自に神経弾を制作した。一発ずつなため連戦には向いていないが、あらゆる状況に対応可能な武器である。ちなみに、ナンバリング作品ではレオンは一度もグレネードランチャーを使用していなかったりする。

・ハンターy
バイオハザード3に登場するみんなのトラウマ。一見ハンターには見えない外見と、即死技「丸呑み」で殺されたジルは多数。

・フィンとディルムッド
何も改造されてないお二方。ウェスカーを知っている模様。フェルグスの二の舞になりたくないとのことで、激突する。実はこの二人を最初から改造するかどうかで迷って無駄に時間がかかりました、はい。


今回、明らかにクオリティが下がっていたことをここにお詫びします。次回、大統王とレオンの邂逅。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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クイーン・マジニだとよストレンジャー

……|д゚)チラッ



本当にお待たせいたしました。FGO/TAD復活でございます。約一年ぶりの更新です。バイオRE3とかレジスタンスとか色々ありました。個人的にRE3で存在を消されたグレイブディガーや時計塔、パラケルススの魔剣の件には一言物申したいです。あと6と5を購入してやり込んでます。

今回はVSディルムッド&フィンの決着、そしてあの女王が?となってます。バイオ要素としてはダムネーション要素があります。楽しんでいただけると幸いです。


「っ…ディーラー!カバー!」

 

「世話が焼けるな、ストレンジャー…!」

 

「殺菌!」

 

 

 飛びかかってきたハンターをグレネードランチャーで撃退し、ナイチンゲールが投げてきた簡易ベッドを避けると死角から立香を狙っていたハンター二体が撃沈。その隙を突いて空から襲ってきたキぺぺオもディーラーが撃墜し、一息吐いた立香はナイチンゲールをジトーっと睨み付けた。

 

 

「…もしかしなくても私ごとやろうとしていませんでした?それにこのベッドは何処から…」

 

「貴方なら簡単に避けて見せるでしょう。何故は知りませんが私の事をはよくわかっているでしょうし。このベッドは、数日前まで野戦病院だったこの場で朽ち果てていたものです。最後まで医療の役に立つのです、本望でしょう」

 

「理性的なのか狂ってるのかどっちなんだ?」

 

「理性的に狂ってる、が正解じゃないかな?」

 

「ストレンジャーの同類か、違いない」

 

「どういう意味?」

 

「そのまんまだ。バイオハザードに関係してしまうとそういう人間ばかりになるようだな?ストレンジャー」

 

「安にサドラーやウェスカーと同類だと言われているようで納得いかない…」

 

 

 若干失礼なことを言いつつ、立香とナイチンゲールというバーサーカー二人をハンドガン・レッドナインを片手に的確に援護しながら、サーヴァントと戦っているレオン達にも目を配るディーラー。さすがは生身でB.O.W.と渡り合ってきた男と言うべきか、英雄を相手にしても互角に渡り合っている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴殿、見た所ライダーか?中々の戦士だとお見受けした、行くぞ!」

 

「残念ながらアーチャーだ。卑怯だと言ってくれるなよ?」

 

 

 ナイフで槍を受け止めながらディルムッドの腹部を蹴りつけて距離を取り、二丁のハンドガンでクイックショットを連射するレオン。対して体勢を立て直すなり二槍を巧みに振るって弾丸を弾きながら距離を詰めるディルムッド。その横からアシュリーが体当たりしてレオンの助けとならんとするも、ディルムッドの紅い槍は甲冑を透過してアシュリーの右腕を斬り付け、それを見たレオンはハンドガン二丁を高速連射してディルムッドを後退させてアシュリーに駆け寄った。

 

 

「アシュリー!」

 

「ぐっ…ごめんレオン、助けになろうと思ったんだけど…なんで、私の鎧が…」

 

「我が槍の前に魔術的防御は意味を成さぬ。対魔力で我が黒子に魅了されぬ女とはいえ騎士として戦うのならばこのディルムッド、容赦せん!」

 

「なるほど、宝具か。アシュリーは下がっていろ。ここは俺が…!」

 

「貴公の得物で我が槍を受けれるか!」

 

 

 振るわれる紅槍をナイフで弾き、続けて突き出される黄槍を咄嗟に掴んでカウンターの要領で肘を叩き込んだレオンは反撃の槍も受け止めて蹴り付け、怯んだところに距離を取ってハンドガン二丁を構えた。

 

 

「生憎と、得物を使う敵には慣れているもんでね。曲芸は終わりか?」

 

「面白い…行くぞ!」

 

 

 不敵な笑みに好戦的な笑みで返し、体勢を低くして駆け抜けてくるディルムッドと、同じく全力で走り出すレオン。突き出される黄槍をスライディングで頭すれすれに避けつつディルムッドの懐に潜り込み、手にしたハンドガン二丁を連射するも跳躍で避けられ、急降下と共に槍が突き下ろされるも横に転がり回避。

 

 

「なにっ!?」

 

「土に塗れてでも、生き汚くても、どんな手を使ってでも俺達は生き残らなきゃいけないんでね。誉れ高い騎士様には理解できないか?!」

 

 

 その動きにディルムッドが呆気にとられたところに立ち上がって取り出した閃光手榴弾を放り、閃光が辺り一帯を支配して視界を奪われ怯んだディルムッドにレオンはフィニッシュブロー…蹴り一閃。

 

 

「ぐっ…重い!?」

 

「俺達は、誉れ高く戦うためじゃなく、地獄から生還するために戦い抜く!命を投げ出している連中なんかに遅れは取らん!!」

 

 

 腹部を蹴り飛ばされ、受け身を取ったディルムッドが視界を取り戻した際に目にしたのは、ディルムッドの取りこぼした黄槍を拾ったレオンの投擲。咄嗟に手放していなかった赤槍で弾くも、その隙を突いて迫りくる鉄の拳があった。

 

 

「でりゃああああ!」

 

「があああっ!?」

 

 

 無防備な姿で突進してきたアシュリーの、一瞬だけ鎧姿となって放たれた鉄拳が顔面にめり込み、吹き飛ばされ背中から叩きつけられるディルムッド。立ち上がり、反撃を試みるものの追撃とばかりに全速力で走ってきたレオンの蹴りが顔面に直撃。綺麗な顔から鼻血を垂らし、サッカーボールの様に蹴り飛ばされたディルムッドはそのまま岩に叩きつけられ崩れ落ちた。

 

 

「ぐっ…はっ……み、見事…女と侮ったが故の敗北か…。此度こそは勝利を…そう誓ったものの…!我が王よ、無念…!」

 

「ディルムッド!」

 

 

 マシュの盾とクー・フーリンの槍の連携相手に攻めあぐねていたフィン・マックールが消滅していくディルムッドを目撃し、俄然とする。フィン・マックールの操る水流と、攻撃回復共に秀でた魔術を相手にして互角に立ち回っていたマシュとクー・フーリンも一息吐く。

 

 

「くっ…私が手こずっていたばかりに…すまない、ディルムッド。我々二人でも手に余るとは。これはなかなか…歴戦の勇士だな。特に麗しきデミ・サーヴァント、よい眼差しだ。誠実さに満ちている。私が勝ったらその心をいただきたい。うん、要するに君を嫁にする。ディルムッドには悪いがこの性分は変えられないのでね」

 

「はい?」

 

「要するに、私に負けるつもりはないという意思表示だ。だが実に気持ちいい約束だ、そう思わないか?」

 

「ふざけないでください!私を勇士と言ってくださるのは嬉しいですがお断りします!」

 

「うーん、それは残念だ。ならば優美華麗に勝利して君の心を奪って見せよう!」

 

 

 マシュに求愛したかと思えばフラれて肩を竦めているというのに油断なく構えるフィン・マックールに、クー・フーリンは好敵手を得たとばかりに笑った。 

 

 

「ハッ!俺達二人を相手にして無傷でいるのは伊達じゃないってか、なあ嬢ちゃん?!」

 

「はい!あの堅牢な防御を突破する手段がありません。キャスターさんの槍と魔術で互角に立ち回れていますが、このままでは千日手に…」

 

「まあそういう訳だ。悪く思うなストレンジャー」

 

「む?!」

 

 

 マシュとクー・フーリンがどうしたものか攻めあぐねていると、いつの間にかフィンの背後に立っていたディーラーがナイフを一閃。肩から背中にかけて切り裂いたディーラーに信じられないという表情を向けるフィン。

 

 

「があっ…馬鹿な、気配すら感じなかった…それに何故…先刻まで兵の相手をしていたはずでは…!?」

 

「ああ、それか。見せてしまったんならアンタは倒すしかなくなったが、奥の手でな。ちょっと死んできたんだ。俺も予想外でね」

 

 

 その言葉にマシュとクー・フーリンと共にフィンが目を向けてみれば、そこには黒いローブを身に着けた首なし死体がケルトマジニ達の中央に転がっていて。油断したところをハンターにやられたであろうことは明白であった。アクシデントの死でさえ機転につなげる。自分の死に疎く合理的に思考を組み立てるディーラーならではの奇策であった。

 

 

「エリンの守護者たる……この…私…が……!おのれ、卑怯者め…!」

 

「卑怯もなにもここはルール無用の戦場だぞ?なにも正々堂々戦うことはない。敵が騎士道を志すなら利用しろってのが黒い騎士王様からの教えだ」

 

「…ちょっと後味が悪いが」

 

「これで終わりです…!」

 

「だが俺達のマスターはできるだけ命を助けたいって変わり者でな?降参して情報を流すなら見逃してやるがどうする?」

 

 

 ディーラー、クー・フーリン、マシュに囲まれ、ディーラーから取引を持ちかけられるフィン。しかし立ち上がることなく槍を側の地面に突き刺し、どっしりと座って笑いながら見上げるフィンの姿に臆されてしまう。

 

 

「はっはっは、冗談はよしこさんだ。敗者ならば従わねばならないのだろうが…私はエリンの守護者。栄光のフィオナ騎士団の長だ。主君への義理にて尋問には応じないし、このままおめおめ逃げ帰ってもああなるだけだ。ならば、誇り高き騎士としての死を選ぼう。特に君の様な麗しいデミ・サーヴァントの手にかかるなら本望だ。さあ殺せ!さあ!」

 

「ディーラーさん、様子がおかしいです。まるで何かを恐れているような…」

 

「潔く死を選ぶなんて、理由は一つしかないだろう。…あの兵士たちの様にマジニにされるのか?」

 

「フフッ、どうやら何も知らないようだ。そんな生易しいものじゃないさ。彼らは名も無き戦士たち。ただただ戦い続けるばかりか、文字通り比類なき無限の怪物と化した者達だ。サーヴァント相手には鎧袖一触な存在だが、ああなることで戦闘力を飛躍的に上げた。我らが王は合理的でね。そして我らにとっては…如何に女王の命令だろうと、アレだけは英霊としては受け入れ難い。ただそれだけだとも。さあ頼む、殺してくれ」

 

「へーえ、そうなの?」

 

 

 ゾクッと、立香の肩が震えた。声だけで震えが走る、圧倒的支配者がそこに現れた。戦慄したのはディーラーたちサーヴァントも例外ではなく、フィンは顔面蒼白で冷や汗を流しながら声の方に振り向くと、ピンク色の長髪を翻した赤い改造軍服姿の美女がいた。

 

 

「じょ、女王…何故、ここに」

 

「あら、知らなかったかしら。私と私の勇者たちは視界を共有できるのよ?貴方達があまりにだらしなくて、ディルムッドがやられたらしいから迎えに来てみればなに?自ら死のうとするなんて…そんな自由が貴方たちに与えられているとでも?」

 

「だ、だが私は女王の騎士である前に戦士だ!あの様はあまりにも冒涜だ!」

 

「クーちゃんなら「くだらねえ手間だ」って殺してしまいそうだけど…私、優しくないのよねえ。とりあえずお仕置きはあとよ。勝手に死なれる前に帰還してもらうわ。いいわね?」

 

「…御意」

 

 

 俯き、 後ろ髪を引かれるようにマシュに視線を向けながら背後に下がるフィンに満足したのか女王と呼ばれた美女は上機嫌に立香達に向き直る。笑みを向けてくるが、目は笑っていなかった。

 

 

「さて、この世界を修正しようとするサーヴァントたち。見苦しいところを見せたわね。お詫びに見逃してあげてもいいんだけど、……そっちにいるんだ、クーちゃん」

 

「…メイヴ。やっぱりお前か」

 

 

 美女、メイヴの言葉に応えるクー・フーリン。フードで隠していた顔を晒し、杖を手に睨み付ける。その名前からケルト神話でクー・フーリンと敵対したコナハトの女王だと察し、手持ちにチーズが在ったかどうか思考するディーラー。敵の将が出向いてくれたのなら話は速い、とレオン他サーヴァント達も構える中、メイヴは立香を睨みつけていて。

 

 

「…気に入らないわね。私以外の女がクーちゃんを召喚して側に侍らせているなんて」

 

「侍らせ…ッ!?キャスターとはそんな関係じゃないです?!」

 

「関係ないわ。クーちゃんを召喚してるってだけで大罪よ。行きなさい、私の猟犬たち!」

 

 

 そう叫んで手にした鞭を振るったメイヴの元に現れたのは、大量のリッカーだった。

 

 

「「「「シャー!!」」」」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

 B.O.W.を操るサーヴァントの存在に驚きを隠せないまま、襲いくるリッカー軍団に応戦する立香たち。本来なら甲高い声を上げるメイヴを襲うはずのリッカーではあるが、メイヴに目もくれないどころか従順に立香たちを襲い、それに違和感を感じるディーラー。

 

 

「…おい、まさか…支配種か?だが、リッカーだろこいつらは!」

 

「いや、一度だけ同じものを見たことがある。東スラブ共和国で起きた内戦で、反政府側が運用した支配種プラーガを利用した、隷属種プラーガを埋め込んでリッカーを制御する運用法だ」

 

「なんだそのサドラー以上にクレイジーな発想は!本当なのかストレンジャー!」

 

「ああ本当だ!政府側のタイラントと戦った際に共闘したぐらいだからな、リッカーと!」

 

「じゃああのメイヴってサーヴァントは、支配種プラーガを寄生させてるってこと?でもどうして!」

 

 

 立香が焼夷弾を炸裂させ炎上して怯むリッカーをマシュが殴り飛ばし、ディーラーがショットガンで脳天をぶち抜くことでようやく一体倒すことに成功。レオン、アシュリー、クー・フーリンも応戦するが、異様に数が多いリッカー相手に立香を守ることで精一杯であり、突破も不可能な状況。その様子を満足げに見ていたメイヴが立香の絶叫に楽しげに応えた。

 

 

「どうしてって、話は必然で愚かな貴方達にも理解できるぐらい簡単よ。アメリカがまだ反抗するもんだから、クーちゃんにふさわしい最強の軍隊を作るためにあの男を利用してこの力を手に入れたの。あの男はクイーン・マジニと呼んでいたわ。マジニ(悪霊)だなんて気に入らないけど、私にふさわしい名前じゃない?」

 

「プラーガがどんなものなのか、わかっているの…?!」

 

「ええ、私の勇者達で実験していたのをこの目で見ていたからね。この子たちは失敗作なの。でも、私の犬として新たな生と使命を得たの。光栄よね?さあ、私の猟犬たち!声高らかに、私を褒め称えなさい!そして褒め称えながら敵を殺しなさい! メイヴちゃん、サイコー!」

 

 

『『『『『メイヴヂャン、サイゴォオオオオオオッ!!!』』』』』

 

 

 メイヴの掛け声と共に、咆哮を上げるリッカ—たち。異様な光景に怯む立香達。と、そこに。ベッドを抱えた看護師(バーサーカー)が舞い降りた。

 

 

「わかりました、つまり病気ですね?切除します!」

 

「キシャー!?」

 

 

 リッカーを一体、ベッドで押しつぶしたかと思えばだらんと伸びた舌を手袋を付けた手で引っ掴み、グイッと引っ張るナイチンゲール。思わずそれぞれ立香、マシュ、アシュリーの目を塞ぐディーラー、クー・フーリン、レオン達。

 

 

「な、なにディーラー。なにが起きたの?」

 

「キャスターさんセクハラですか?!」

 

「レオン、どうしたの?」

 

「「「見ない方がいい」」」

 

 

 脊髄ごとプラーガをぶっこ抜いてその場に投げ捨て、次の獲物にベッドを投げ飛ばして襲いかかるナイチンゲールにドン引きするメイヴ。真正のバーサーカーがそこにいた。

 

 

「根源が寄生体と言うのなら、直接引っこ抜けばよいこと!患者を殺してでも!救います!」

 

「うわっ…なんてサーヴァントがいるのよ。ならしょうがないわね、私の勇者行きなさい!」

 

 

 メイヴの指示で現れた、クー・フーリンと似たフードを被った上から麻布を被さった頭部を紐でグルグル巻きにされた魔術師(ドルイド)…チェーンソーマジニが血塗れのチェーンソーを手にリッカーを守る様にナイチンゲールに襲いかかる。ナイチンゲールは咄嗟にベッドを盾に一撃必殺のチェーンソーを防ぎ、ベッドの破片である鉄パイプを握るとチェーンソーの腹を殴りつけて弾き返し、そのままぶつけ合いを始めた。想像していたのと違ったのか若干ひくつかせながらも、今だ有利な状況にほくそ笑むメイヴ。

 

 

「クーちゃんじゃないバーサーカーは扱いやすいわね。降伏しても許さない。ここで無様に死に絶えなさい!」

 

「くっ…!」

 

 

 周囲を囲み、まるでライオンの群れかの如く連携攻撃で襲いくるリッカーに苦戦する立香たち。すると、眩い光が周囲一帯を照らした。太陽が後光を指す、上空に。そのサーヴァントは浮いていた。

 

 

「真の英雄は目で殺す!」

 

 

 その目からレーザーが放たれ、器用に立香達を避けながらリッカーの大半が焼き殺され、ついでにチェーンソーマジニも焼却された。腹立たしげに上空を睨みつけるメイヴ。白い髪と肌をした異様な雰囲気の槍兵が舞い降り、ヒョコッと紫髪で魔導書を手にした少女も現れた。どうやらサーヴァントらしい。

 

 

「ちっ、もう出て来たのか。早いわねアメリカ軍」

 

「バーサーカーのフローレンスが出たら戦線が混乱するとはわかっていたけど、カルナを連れて来て正解だったわね。まさか敵の女王が前線に出てくるなんて。逃がさないで、カルナ!」

 

「心得た!」

 

「さすがに、分が悪いわね!逃げるわよ、貴方の処罰はそれから」

 

「…御意。ここまでだ、麗しき盾のデミ・サーヴァント。君に出会えてよかった」

 

 

 黄金の槍を手に突撃する槍兵の男…カルナの攻撃を、それに劣らぬ身体能力で宙返りして避けるメイヴ。側で待機していたフィンが激流の壁を作ってカルナを遮りリッカーの一体に組み付かせて動きを止めると、リッカーに乗って女王メイヴとフィン・マックールは去って行った。

 

 

 

 

「逃がしたか。しょうがないわね。で、貴方が藤丸立香、かしら。私はエレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー。貴方の仲間が私達の王様と会合したわ。よければついて来てもらえるかしら。ついてこないのなら敵に回るとして手荒な真似をしてもいいのだけれど」

 

「…はい、わかりました」

 

 

 少女、エレナの要請に応えることにした立香。こうして特異点アメリカでの初戦を終えたのであった。




クイーン・マジニ爆誕。支配種プラーガを有効活用できる人材がいるなら使うしかないよね。

・理性的に狂ってるナイチンゲール
誰もがどん引きする大暴れっぷりを見せる婦長。ベッドは鈍器。リッカーからプラーガを舌と脊髄ごと引っこ抜く某仮面ライダー序章的なことまでやってのける真正のバーサーカー。鉄パイプでチェーンソーと渡り合うバーサーカーの明日はどっちだ。

・レオン&アシュリーVSディルムッド
イケメン対決。鎧を完全攻略されながらもアシストして勝利に持ち込んだアシュリー。誉れ高く戦う騎士とは異なり、地獄から生還するために戦い抜く生き汚さを持つレオン達の勝利。バイオサーヴァントとFateサーヴァントの一番の違いはここなんじゃないかな。個人的に一番上手く描けた戦いです。

・潔く死を選ぶフィン・マックール
不慮の事故による不意打ちで勝利したディーラーたちに対し、潔く死を迎えようとするフィン。英霊としては受けがたい罰が待っているようだが果たして…?

・原作より速く登場したメイヴ
死のうとしたフィンを察知して自らやってきたメイヴさん。原作よりも強化されているため、単独で戦場に出ても一級のサーヴァントと渡り合えるという。クー・フーリンを召喚した立香に対して気に入らないと攻撃を仕掛けるめんどくさい性格は相変わらず。服装は何故か監獄長スタイル。

・クイーン・マジニ
完全新種のマジニ。支配種プラーガを異形化能力を最大限に抑えて支配と身体強化に回した完全人型のマジニ。隷属種プラーガを植え付けられた全てのマジニ、リッカー他クリーチャーを意のままに支配できる。あの男から得た力と言う事だが…?元ネタはバイオハザードダムネーションのアレクサンドル・コザチェンコ。

・ドルイドマジニ
プラーガを寄生され強靭な肉体を得てチェーンソーを手にしたドルイドの成れの果て。チェーンソーに炎を纏わせたりなど変則的な戦い方が可能。なお戦闘能力はからきしで馬鹿力だけなので大ぶりな攻撃を見切られナイチンゲールに弾かれた。

・真の英雄は目で殺す
リッカーの群れを薙ぎ払った一撃。トップクラスのサーヴァントゆえの力。それでも本能的な直感で逃れたリッカーもいた模様。


というわけでカルナとエレナとの邂逅でした。次回、ようやく大統王とレオンの邂逅。ここまで長かった。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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大統王だとよストレンジャー

本当にお待たせいたしました!ラーマのところで詰まってました、放仮ごです。五章は何度も読み返さないとどんな展開なのか覚え辛い…

今回は大統王、そしてコサラの偉大な王に最強の傭兵と新キャラが続々登場。楽しんでいただけると幸いです。


「私こそがサーヴァントにしてサーヴァントを養うジェントルマン!大統王トーマス・アルバ・エジソンである!」

 

「アダム!?」

「パパ!?」

 

「おお、我が友レオンに我が愛娘アシュリーではないか。君達がサーヴァントとして現れて心強いとも」

 

 

 エレナさんの説明によると現在のアメリカの状況はこうだ。曰くただ滅ぼすしか能がない野蛮人なケルト人の東部と、エレナとカルナたちアメリカ軍を率いるアメリカ西部合衆国の、全く未知の二つに分離して絶賛内戦中の南北戦争ならぬ東西戦争。それがこの特異点アメリカを襲っている異変なのだという。

 しかし当初はまだ真面だったケルト側がB.O.W.を持ち出して来て戦線は混沌を極め、トップクラスのサーヴァントであるカルナがいても数と質の暴力で蹂躙されアメリカ側は敗色濃厚らしい。

 

 そして、エレナさんとカルナの言う王様が勝った場合、どこの次元からも分離した大陸となって彷徨い続けるのだという。救いはあるだろうがそれは、アメリカ以外を見捨てて切り捨てるということだ。カルデアとしては看過できない。絶対にノーだ。そうオルガマリー所長が言ったところ、エレナさんに敵とみなされてカルナをけしかけられて、戦力差を悟った所長が降伏。王様に出会ってからどうするか決めろと言われ、連れてこられたアメリカにあるまじき城塞で出会ったのは、発明王を名乗る白いライオンの頭部を持つスーパーヒーロー染みた赤と青のスーツを纏った異形の大男。それを見るなり、知り合いにでもあったように声を上げるレオンとアシュリーに親しげに話しかけるその声は、すごい声量だけど見た目に反して理性的であった。

 

 

「…アンタはアダム、なのか?いや、だが…アシュリーはグラハム大統領だと…」

 

「ラクーン事件の全てを話す…私の悲願は果たせなかったね、レオン。だが我々はこうしてまたアメリカのために立ち上がった。私は、トーマス・アルバ・エジソン。アダム・ベンフォードでもあるし、アシュリーの父親でもある。アメリカという国家を支えた歴代大統領が「エジソン」という概念を補強する一種の礼装として使われているのだ。此処にいるのはエジソンであるが、大統領たちとも言える」

 

 

 だから大統王なのかと納得する。しかし話を聞いていくと、アメリカを生かす為なら手段を選ばず、人間の限界を無視して機械化兵団を酷使して世界を救おうとしている。機械化兵団は元は国民らしい。…それは、プラーガでガナードを作って兵士にしていたサドラーと何も変わらないのではないか。

 

 

「単刀直入に言おう。マスター達よ。四つの時代を修正したその力を活かして、我々と共にケルトを駆逐し聖杯を奪い取るべきではないか?アメリカを永遠に生かすのだ」

 

「それは…」

 

「所長、ごめんなさい。…大統王。貴方のやっていることはアメリカ嫌いのサドラーと違わない。嫌な予感しかしない。それは、看過できない」

 

「藤丸!?」

 

「…藤丸立香。私も貴方と同意見です。その目をした人間は、必ず全てを破滅へと導く!そして最後に「こんなはずではなかった」と無責任に宣まうのだ!例え他の人間が承諾しても私が許しません!」

 

 

 私の人生、ナイチンゲールの人生、二つの人生からの結論を述べる。同意するナイチンゲールに頷く。例え正しく見えようと、それは間違っていると断言できる。理性的に考えればひとまず手を組むのがいいんだろう。所長はそうしていたはずだ。だけど、こればっかりは看過できない。

 

 

「…意外と言えば、意外な答えだ。裏で何を策すにせよ、共闘は承知すると思っていたが。その誠実さ、真摯さ。トーマス・アルバ・エジソンとしては許すべきなのだろう。しかし、残念だ。例え友が、娘がいようと。大統王としての私はお前たちをここで断罪せねばならん。…やれ!」

 

「そう来ると思った!」

 

 

 命令が下るなり、所長に襲いかかろうとした機械兵を渾身の飛び蹴りで蹴り飛ばす。頭部がひしゃげたガラクタが崩れ落ち、それを合図に囲んでいた機械兵をディーラーとレオンのシカゴタイプライターが蜂の巣にし、それでも突進してきた機械兵はアシュリーの鉄拳で潰され、ネロとエミヤに斬り伏せられる。理解が追い付いてないらしい所長以外の皆は既に戦闘態勢だ。レオンとアシュリーには酷だが、サドラーと同じと言った時に覚悟を決めた顔をしてくれた。感謝しかない。

 

 

「所長、しっかりしてください!」

 

「マシュ、私はいいから所長を守って!みんな、ここから脱出するよ!」

 

 

 グレネードランチャーの硫酸弾で退路を切り開きながら叫ぶ。次から次へと現れる機械兵全てを相手にする必要はない。一度逃走して、体制を立て直す。問題はカルナだけど…

 

 

「させん…!」

 

「それはこちらの台詞だ。投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

 対の中華剣を投影したエミヤが剣を投擲すると同時にカルナの目の前で大爆発させて妨害。確か、投影した宝具を自壊させた魔力を利用した壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)だ。黒髭以来に見る…感傷に浸っている場合じゃないか。ナイチンゲールが奪い取った機関砲を蹴り飛ばして機械兵の頭部を粉砕するのを横目に私は広間の出口へ突き進むとうじゃうじゃと出口から数えきれないほど機械兵が湧いてきた。是が非でも逃がさないつもりか。

 

 

「我が自慢の機械歩兵がサーヴァントのみならずマスターの少女にさえ負けるだと!?お、お前は一体何者だ!?」

 

「通りすがりのただのマスター、アメリカの生んだ負の遺産、だよ!」

 

 

 吠えるエジソンに、機械兵を文字通り蹴散らしながら言い返す。バイオハザードを生んだのは間違いなくアメリカだ。エヴリンの特異菌に感染した私はその末路と言っていい。なんか別の力も起因している気がするけど!

 

 

「おのれ、逃がすな!」

 

「出口がないなら作るまで!ディーラー!手榴弾ちょうだい!」

 

「何考えてるか知らんが、受け取れストレンジャー!」

 

 

 ディーラーから投げ渡され危なげなくキャッチした手榴弾を、窓の横の壁に向けて投擲。ハンドガンマチルダで狙い撃ち、爆発。大きな穴を作り上げる。こんなに呼び寄せて、まさか外にまで配置しているはずがないでしょう!

 

 

「みんな、こっち!婦長も来て、今はその時ではない!」

 

「ええ、いいでしょう!」

 

「えっ、え?」

 

「させん!」

 

「マシュ!お願い!」

 

「はい、先輩!」

 

 

 混乱に次ぐ混乱で動かなくなった所長をお姫様抱っこで抱き上げ、襲ってきたカルナをマリーの歌声の援護でマシュが防ぎ飛ばした隙を突いて飛び降りる。

 

 

「マリー!」

 

「ええ、立香!私達のマスターをしっかりお願い!」

 

 

 そして展開された共に飛び降りたマリーの展開したガラスの馬車に飛び乗り、サーヴァント達も全員乗り込んで走り出し、逃走に成功した。

 

 

 

 

 

 

「…まさか、逃がしてしまうとはな」

 

「すまない。油断した。カルデアは恐るべき相手だった」

 

「あのマスター、とんでもなかったわね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、逃げ切った……?」

 

「そのようね。…しかしやってくれたわね藤丸」

 

 

 砦からしばらく走った先にあった町の側で止まった馬車から降りて追手がいないことを確認。同じく確認していた所長に邂逅一番お叱りを受ける。

 

 

「すみません所長。でも、サドラーみたいな人間と協力することはできません」

 

「わかっているわよそれぐらい…でもね、もし捕まっていたらどうするつもりだったの」

 

「どっちにしろナイチンゲールは承服しませんでしたよ。私から断った方がいい」

 

「私のため、ですか?」

 

「うん。まあ絶対協力はしないんだけど、もし私達だけ協力してもナイチンゲールだけは拒否していたでしょ?私は絶対貴方を見捨てない」

 

「…少し、誤解していた様です。愚かだと他の誰かは思うかもしれませんが、貴方の振る舞いは誰に卑下することもない高潔なものです。藤丸立香」

 

 

 どうやらちょっとナイチンゲールに認められたらしい。今までの印象とは大きく異なる優しい笑みが、とても美しかった。

 

 

「しかしあの数は反則だがこっちのストレンジャーの判断力が勝ったな。あそこで飛び蹴りとは恐れ入ったぞ」

 

「同感だ武器商人。だがあれは英断だった。初手を間違えればあっという間に包囲されて捕まっていただろうからな」

 

「ディーラーにレオンまで言うなら仕方ないけど…これからどうするのよ。さすがにこの面子だけで二つの軍と戦うのは無謀というものよ。ロマン、なにか策は?」

 

『もちろんない。万策尽きたと言ってもいい。サーヴァントは一騎で軍隊とも戦えるけど、あの二軍は異常だ。片や機械の歩兵。片や古代ケルトの兵隊を素体にしたと思われるB.O.W.正直、現代の戦争に出されたら蹂躙できる戦力だ』

 

『しかも現在療養中のアルトリアとも互角に渡り合えるタイラント級がうじゃうじゃといる。慣れているレオンがいると言っても、正直カルナが味方だと頼もしかったんだけどねえ』

 

「…なんか、すみません」

 

 

 カルデアの二人に苦言を呈され、さすがにちょっと罪悪感を抱いて項垂れる。…そうだ、相手は軍隊。これまでの様な烏合の衆とは違う。すると、誰もいなかった所長の背後から黒人が姿を現し立っていた。

 

 

「…まあ、無茶ではあるな」

 

「サーヴァント!?先輩、所長、離れて…!」

 

「まあ待て。私は敵ではない。そうだな、名を明かさねば信用もされまい。だが私の真名を知る者は誰もいまい。故にこう名乗ろう。ジェロニモ、そう呼んでくれ」

 

「ジェロニモ…アパッチ族の精霊使い(シャーマン)。キャスターとして召喚されたのですね?」

 

「厳密には精霊使いとは程遠い存在だがね。私はただの戦士でしかない」

 

「…なら貴方はエジソンに従うはずがないわね。それにケルト側とも思えない」

 

「ああ、私は君達の敵ではない」

 

 

 ジェロニモと名乗ったそのサーヴァントが言うには、自分はカウンターとして召喚されたサーヴァントであるという事。他にも仲間がいるが戦力不足で迂闊に動けないこと。他にも様々なサーヴァントが召喚されているであろう事。そうこう話しながら彼の道案内で辿り着いたのは、西部の小さな町だった。ケルトの猛攻のせいで町人は避難しているらしく、ジェロニモの同胞が集結しているとのことだ。サーヴァントだけでなく、ごく普通の人間の兵士たちもいた。

 

 

 そして運ばれてきたのは、重症の赤毛の少年サーヴァント。ナイチンゲールとディーラーに治療してほしいらしい。…私も腹部ごっそり抉られたことがあったけど、何で生きているのか不思議なくらいの重傷だ。

 

 

「ひどい…」

 

『心臓が半ば抉られているじゃないか!?よく生きているな、彼!?』

 

「まあ…頑丈なのが…取り柄だからな…」

 

「…ストレンジャー。こいつは俺のハーブや救急スプレーじゃ無理だ」

 

「ええ、私もこんな傷は初めてです。ですが、見捨てることはしません。安心しなさい少年、地獄に落ちても引き摺り出して見せます」

 

「あ、イタタタタ!き、貴様もうちょっと手加減できんのか!?余は心臓を潰されているのだぞ!」

 

「心臓潰されて喋ってる方が驚きだけど…諦めた方がいいよ。あ、切断はなしねナイチンゲール」

 

「余は切断されるのか!?」

 

「むっ…貴方には借りがありましたね。ならば尽力させていただきましょう」

 

「礼を言うぞ、そこのマスター。余はラーマ!コサラの偉大なる王である!」

 

 

ラーマ…確か、インド神話ラーマーヤナの英雄の名だ。そんな大英雄がここまでやられる相手…それほどか。そしてナイチンゲールが言うにはもうほぼ手遅れの状態らしく、追いかける死の速度を鈍くはできても止めることはできない、とのこと。それでも諦めないナイチンゲールには頭が上がらない。

 

 

「だけど…一体、誰と戦ったらこんな深手を負うの?カルナかしら?」

 

「カルナ…我が祖国の大英雄たる彼ではないさ。だが仕方あるまい…何しろ相手は…クー・フーリン。アイルランド最強の英雄だ」

 

「なんだって?」

 

 

その言葉に一斉にキャスターのクー・フーリンに振り向く私達。当の本人は予想していたのか神妙な顔だ。

 

 

『うぁぁ…いるよなあ、メイヴ、フィン・マックール、ディルムッドとケルトの戦士たちが相手なんだから、絶対いるよなあ』

 

「女王メイヴの反応から予想はしていましたが…」

 

「クラスはランサーかしら。その傷からしてゲイ・ボルクを持っているとして…キャスターのクー・フーリンだと相手が悪いわね」

 

「ちっ、余計なお世話だ。だが、それだけじゃないだろう。あのメイヴの反応だともっと悪い」

 

「その御仁もクー・フーリンか。同じサーヴァントが同じ聖杯戦争に召喚されることもあるとは聞くが…不思議なものだな。だが、そこの彼とはまるで違う。奴は…怪物だ。クリス殿と分断されたとはいえ、一対一でこの余が、完全に敗北してしまった」

 

「クリスだと?」

 

 

 その名前に反応したのはレオン。クリス、その名前って確か…すると、ジェロニモの背後から一人の男がやってきた。黒いコートを身に包み、薄い赤髪で悪そうな顔だがその手に持つ食べかけのリンゴがその印象を緩和する。その男を見てさらに驚くレオン。知り合いかな…?

 

 

「そうさ、レオン。あの野郎が捕まったんだとよ」

 

「お前は…ジェイクか!」

 

「ああ。ライダーのサーヴァント。ジェイク・ミューラーだ。よろしく頼むぜ、マスター殿?」

 

 

 ジェイク・ミューラー。彼の存在が、この第五特異点を引っ掻き回すことになることを私達はまだ知らない。




バイオ6の主人公の一人、ジェイクが参戦です。レオン、そして今回名前が出たクリスが出たら表の主人公勢ぞろいですね。

・大統王エジソン
6での大統領アダムと4での大統領グラハムが融合しているバイオ世界ならではの大統王。レオンとは友人でアシュリーの父親、もう訳が分からないことになってます。

・立香VSエジソン
そんなエジソンをサドラーと同じだと断じ、敵対する立香。ナイチンゲールの記憶を知っているからこそ、一番の理解者としてふるまいます。飛び蹴りで機械兵を蹴り飛ばし、グレラン片手に大暴れ。こいつ1人でいいんじゃないかな?台詞は某世界の破壊者から。

・ジェロニモ
原作とは異なり助けに来る理由がなくなってしまったため普通に合流したキャスターのサーヴァント。

・ラーマとクー・フーリン
カルデアのキャスターのクー・フーリンとは異なる怪物と称されるクー・フーリンに腹部をごっそり抉られる重傷を負わされたラーマ。前回のメイヴの台詞から何となく察していた我らがキャスニキ。彼の存在がどう影響するのか、こうご期待。

・レオンとジェイク
お姫様の保護者と、愛娘の騎士様。この二人の関係性と信頼がなんか好きです。そして捕まっているクリス。彼らが揃うのは何時なのか。


次回、ジェイクと立香の共闘。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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