凡骨闘士の最強道 (脱毛希望)
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負け犬の転機

誰かがリメイクしてくれるぐらい頑張りたいです。


人気が全く無い森の中に一人の少年が立っていた。鳥の囀り、風で動く葉のこすれる中、拳が空気を打つ音が森に響き渡る。地面は少年の血と汗で湿っている。

人が腰を降ろせるぐらいの岩の上に置いた生徒手帳から着信が入る。

彼は動きを止め、面倒臭そうに電話に応じる。

「はい、何ですか理事長」

 

「おい、予定の時間を過ぎても連絡一本寄越さないとはな。えらくなったじゃないか?」

 

「あ、すいません。今から向かいます」

 

「1時間以内に来なかったらお前の部屋は無しだからな」

 

プツンっと相手が電話を切った。

 

「そういやぁ、理事長に呼び出し喰らってたな」

 

ボソッと呟き、少年は荷物をまとめて森を後にする。

 

 

ーーーーーー

 

理事長からの電話から5分後、森にいた少年は理事長室前まで来ていた。森にいた時とは雰囲気が違い、制服をキッチリと着こなし眼鏡をかけて根暗な感じを出している。扉の前に立ちノックしようとすると理事長室の中から何かしらの言い争ってるが聞こえてくる。普通はとても入り辛いがこの少年はそんな事を気にしない。

 

「失礼します。理事長お待たせしました」

 

ノックをし中に入ると案の定、少年と少女が言い争っていた。

理事長である新宮寺黒乃は鬼の形相で彼を睨みつけていた。そんな彼女を見て、言い争っていた男女がぎょっとし口を閉じた。

黒乃は怒りを抑えながら静かな口調で口を開く。

 

「いいか。今回は初回だからそんなに言わないが、もし次同じような事をしたら覚悟しとけよ。わかったな?」

 

「……あー、……善処します」

 

「そこはハイだろうが……」

 

黒乃は溜め息を吐き、彼に物を投げ渡す。

 

「それはお前の部屋鍵だ。相部屋だが女子と一緒にしておいたよ、喜べ」

「なんで!?女性と同じ部屋なんて何考えてるんですか!?」

 

「お前の実力に近い者だとあの子しかいないだけの話さ」

 

「て事はアイツと同じ部屋なんですか!?冗談じゃないですよ!!オレが襲ったらどうするんですか!?」

 

「私とてそれぐらいは考えている。無理やり致すような輩を女子と一緒の部屋にする訳無いだろう」

 

「〜〜〜ッツ!!……オレの負けです。そんな風に言われたら言い返す言葉はないですよ」

 

ハァと溜め息を吐き理事長室から出ようと扉を開けた時、黒乃が優しい表情で口を開いた。

 

「安心しろ。お前のよく知る人物と同じ部屋だ。……頑張れよ」

「……余計なお世話だっての」

 

顔を赤く染め部屋から出て行く。

言い争いしていた少女、ステラ・ヴァーミリオンが口を開く。

 

「あの、さっきの人って誰なんですか?」

 

「ああ、ヴァーミリオンはアイツを知らなかったな。この学園で有名な奴だぞ、悪い意味でな」

 

ステラはますます疑問に感じた。見た感じとても悪さをする人には見えなかったが、悪い意味で有名とはどう言う事なのか?

 

「黒鉄など比べ物にならない位の才無き奴だよ」

 

「アイツの名は岩槌(いわつち)アイル。伐刀者ランクF-で二つ名は【負け犬(アンダードック)】だ」

 

 

 

 




日常会話は細かく書くと時間が掛かりエタりそうになるので細かくは書きません。


オリ主はグラブルのアイルと同じ顔だと思って下さい。


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負け犬の強さとは

やっちまったよ……
アンチってしまったよ……


アイルは自分の部屋の鍵を開け、部屋へ入った。

サー……と音が聞こえるので同居人はシャワーを浴びている事が分かった。

自分が部屋に入ってきたことに気付かず下着のままシャワーから出てきたり、下着を準備し忘れ出てきたりしかねないのでそれらを未然に防ぐ為にシャワー室の戸を叩きに行く。

アイルがシャワー室の前に着き、戸を叩こうした瞬間ーーー

 

 

「もう、洗顔クリーム出すの忘れて〔ムニュ〕……た……」

 

「 」

 

 

タイミング良く開かれた戸からシミ一つなく、水に濡れた一糸纏わぬ女体がアイルの眼前でさらけ出している。

ノックしようとした左の拳は彼女の胸に触れており、温かく柔らかい感触が伝わってきた。

彼女の顔が朱に染まっていく。そんな姿を見てアイルはーーー

 

 

 

自分の指で自分の目を目潰しし、自分の顔を思いっきり滅多殴りした。

そんなアイルを見た彼女は必死に彼を止める為に抱き着いた。その行動が彼にトドメを刺した。

アイルは鼻血を大量に出し目の前が真っ暗になった。

 

「ア、アイルくーん!!」

 

意識が途切れる前に彼女、絢辻綾瀬の声が聞こえた気がした。

 

 

 

ーーーーーーーーー

ーーー

 

「オレは男として最悪の事をした。好きなだけ罰してくれ」

 

「ボクはそんなに気にしてないから顔あげてよ」

 

一分後に目が覚めたアイルは綾瀬に対し、頭を深々と下げた。綾瀬の了承得たので顔を上げる。彼女は気にしてないと言っていたもののまだ顔が赤い。

 

「でもまさか相部屋の相手がアイル君だったなんてビックリしちゃったな〜あはははは〜(棒読み)」

 

綾瀬は視線を泳がしながらそう言った。彼女は嘘を付いている。理事長である黒乃から事前に言われてたので相手がアイルだと前々から知っていたのだ。

 

〜回想〜

 

「ボクがアイル君と同じ部屋ですか!?」

 

「なんだ?不服か?」

 

「い、いえ、不服ではないんですが、なんと言いますか……」

 

黒乃に呼び出された綾瀬は理事長室に立っていた。

 

「岩槌はどういった状況かは知っているだろう?同居人ぐらい信頼出来る者と一緒に入れた方がいいだろうと思ってな。そうなると絢辻しかいないなあと思ったのだ。しかし、一緒が嫌なら違う女子に頼むしか無いか」

 

「そ、その必要は無いです!アイル君と気軽に話せる人は学園の中じゃあ、ボクしかいないですから!任して下さい!」

 

「(チョロいな…)そうか。そう言ってくれるのは有り難い。岩槌のことは任せるぞ」

 

「はい!!」

 

「あ、そうだ。あの男は案外純粋なんだ。下着姿や裸なんぞを見たら自分の顔を殴りつけるかも知れない。見せ付けるなよ」

 

「ボクはそんな事しないです!」

 

〜回想終わり〜

 

 

まさか生活開始一日目で裸を見せてしまうとは思わなかったなぁと綾瀬は思い更けていた。

アイルはやはり気にしていると思いある提案を出した。

 

「綾瀬、少し外に出歩いてみたらどうだ?一回外の空気を吸えば少しは気持ちが和らぐと思うぜ」

 

「あ、うん。じゃあ一緒に行こ?」

 

「い、一緒に!?オレと一緒になんて気まずくないか?さっきの事もあるし」

 

「もう気にしてないから!ほら、アイル君行こ?」

 

「あ、ああ」

 

ーーーーーー

ーーー

 

「青春しているな。もうデートまでこぎつけたのか。どっちから誘ったんだ?」

部屋を出て近場をプラプラしていると黒乃と遭遇した。二人で一緒に歩いてる所を見てにやけながら声を掛けてきた。

 

「デートなんて大層なヤツじゃあないですよ」

 

「む、面白くない奴め。話しは変わるが今からAランクとFランクが戦うのだが見に来るか?」

 

「誰と誰が戦うんですか?」

 

興味を持った綾瀬が黒乃に質問した。

 

「ステラ・ヴァーミリオンと黒鉄一輝だ」

 

「名前言われても分かんないっすよ」

 

「岩槌、お前が理事長室に入ってきた時言い争っていた二人だ」

 

「ああ、アイツラねぇ……。綾瀬、お前は観に行くのか?」

 

「うん。Aランクの人が戦うところ見た事無いし」

 

「じゃあオレも観に行きますわ」

 

「そうか。第三訓練場でやるから一緒に行くか」

 

 

 

ーーーーーー

ーーー

 

第三訓練場に行くとそこには騒ぎを聞き付けた観客がリングに佇む一輝とステラを見て、どちらが勝つかなどという予想でざわついている。アイルと綾瀬、黒乃は余り人のいない客席に腰を下ろした。

 

「絢辻と岩槌はどっちが勝つと思う?」

 

その問いに対してアイルはつまんなそうに答えた。

 

「どっちも弱いっすね」

 

「勝ち負けを聞いているんだ。強い弱いは聞いてない」

 

「じゃあ分からないっす」

 

「分からない?」

 

「はい。お互い弱いからどっちが勝つか分からないって事ですよ。てか、どっちが勝とうが負けようが興味ないっすね」

 

「ふむ、そうなのか。絢辻はどうだ?」

 

「ボクは黒鉄君が勝つと思いますよ。ステラさんより少し強いので」

 

「絢辻は分かるのだな」

「悔しい事にまだ分かってしまいます」

 

「なに、まだまだこれからさ」

 

黒乃がそう言うとブザーが鳴った。

Fランクである黒鉄がAランクであるステラを下すという前代未聞な結果で幕を閉じた。

 




よくどっちが強いなど分かる人がいるけどその人って《分かってしまう程度の強さ》なんだと思う。
真の強者は自分より弱い奴同士が戦ってもどっちが強いかなんて分からないと思う。
たとえ片方が強く、もう片方が弱くても強者からしたら同じサイズの蟻同士の小競り合いにしか見えないって事。
上の文は分かりづらいな。
マラソンで例えると《分かってしまう程度の強さ》の人は後ろを振り返ると人が走っているのが見えている状況。それだとどっちが早いかが分かる。
強いのに分からないのは、後ろを振り返ると人の姿が見えない状況。
姿が見えないからどっちが早く走ってるかなんて分からない。

こう言う事などではないかと自分は思っている。




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負け犬の夢

これある意味虐待だろレベル


「また同じクラスになれたね!アイル君!!」

 

「三年間綾瀬と同じクラスとは思いもよらなかったよ」

 

入学式を終え、各々が自分の教室に入っていく。窓席の一番前の席に座るアイルと隣の席の綾瀬が笑顔で話ししている。

 

「見なよ。また【負け犬】と一緒にいるよ。キモくない?」

「ダメな男が好きになるダメ女って感じ」

「類は友を呼ぶって言うでしょ?人生の負け犬同士舐め合ってるのよ」

「ちょっと、本当の事言ったら可哀想よ。聴こえたらどうするの?」

 

「また絢辻に話しかけられるぜ。羨ましい…」

「絢辻が好きなのか?まあ、顔も身体も良いけどな」

「【負け犬】に股開くような奴だぞ、無いだろ?」

「あんな奴に股開くならお願いしたら俺達にも開いてくれるんじゃね?」

 

そんな綾瀬を見ているクラスメイトは小声で、されど本人に届くような大きさで陰口を叩く。

 

「良いのかよ?好き放題に言われてるぜ?」

 

「アイル君も言われてるじゃん。それに今年の七星剣武祭代表選抜戦はランク関係無しの実力で代表が決まるんだって。彼等がもし当たったら容赦はしないよ」

 

「まあ程々にな」

 

フフフと綾瀬が笑いながらささやかな復讐方法をアイルに話していると教師が入って来たので皆、席に戻りホームルームが始まった。

挨拶、自己紹介、連絡事項を知らせてから今日の授業が終わった。

 

「アイル君は今から何やるの?」

 

「鍛錬かな。綾瀬も一緒に行くか?」

 

「一緒に行くけどアイル君の鍛錬には付き合えないよ?頑張れば付いていけるレベルじゃないもん」

 

そんな話してをしていると上の階から衝撃音が聞こえた。

ほとんどの人が何だと言い衝撃音のした方へ向かっていく。

アイルと綾瀬も気になったので向かう事にした。

 

 

ーーーーーーーー

ーーー

 

人混みを割いて最前列に着くと教室内でステラと銀髪の少女が戦っていた。

近くにいる人に何故こうなったか尋ねてみると、ステラと戦っている少女はBランクの黒鉄珠雫で黒鉄一輝の妹らしい。一輝に対する珠雫のスキンシップが苛烈だったらしく気に食わなかったステラが割って入り、お互い口論なるがお互いの悪口にかわり、そして戦闘が始まったらしい。

それにしても教室の中は荒れ放題で備品の殆どは戦いの余波で壊されている。

 

「そんな理由で学を学ぶ教室で戦うなんて非常識だよ」

 

「まあ、勝手にやらせとけ。その内誰かが止めに入るだろ?」

 

そう言いアイルと綾瀬は荒れた教室を後にする。

 

ーーーーーーー

ーーー

 

「ふぅ、準備運動終わりっと」

 

「これで準備運動だなんてどんな身体してるの?」

 

五十キロ以上の距離をペースを落とさずに全力疾走、逆立ち腕立て指立ちの重り有り千回、ドラゴンフラッグ重り有りを千回、懸垂重り有り千回、レスラーブリッジの重り有りを三十分、特注バーベルのフロントプレス千回、ベンチプレスを千回を準備運動で済ますアイルに綾瀬は少し呆れていた。

 

「綾瀬に言ってなかったか?オレの身体は『進化』してるらしい」

「うーん、『進化』してる事は知ってるけどどんなものかは聞いてないなぁ」

 

「筋密度と骨密度が常人より高いんだよ。そうなると余程の事をしない限り体型は変わらないんだってよ。でも身長とかは伸びるぜ、不思議だよな?」

 

「え!?体型が変わらないって本当!!?何か『進化』するには条件みたいのはあるの?」

 

体型が変わらないと言う夢のような身体が手に入るかもしれないと思った綾瀬はアイルの話に食い付いた。

 

「結構食い付いたな。条件とかはないな。『進化』しなきゃ体が壊れる鍛錬を積めば誰でも出来るらしいぜ。オレはそう教わった」

 

「体が壊れるってどんな鍛錬を積んできたの?」

 

「どんな鍛錬って言われてもなぁ。腕も脚も指も肩も胸も腹も背中も首も取り敢えず限界まで持ってきてからがアイツの鍛錬だった」

 

「限界まで持ってきてからが鍛錬?」

 

「ああ、よくあるだろ?限界だ、これ以上は無理って思う事。それを思ってからどれぐらい自分は自分の定めた限界を何度越えられるかがアイツの鍛錬の仕方だな」

 

「休憩は挟んでやってた?」

 

「休みは排出物出す時ぐらいしかなかったな。あと、自分から寝ようなんて思うことも学園に入るまで無かったし」

 

「え!?ほぼ不眠不休で鍛えてたって事!?」

 

「流石に寝なかったら死んじまうよ。ぶっ倒れるまで鍛えて、3〜4時間したら起こされてまたぶっ倒れるまで鍛えるの繰り返しだ」

 

「……それって何歳の時からやってたの?」

 

「あの時アイツと会ったのが六歳だったから多分それぐらいからやってる」

 

自分の限界を越え続ける荒行を六歳の頃からやっていた事もあるがそれをやり続ける精神力に綾瀬は衝撃を受けた。

 

「……よく挫折しなかったね」

 

「自分で選んだ道だ。それに【最強】目指してるんだ。挫折なんてしてるヒマなんかねぇよ」

 

アイツは拳を握り締め、まだ見ぬ強者を想い笑う。

 

 

 

 




何故彼の師匠(本人は認めてないのでアイツ呼ばわり)は六歳の子供にこれ程の鍛錬をさせたのか、いつか過去編とかやりたいですね。


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負け犬の非日常

綾瀬ちゃんとのデート。
まぁ、俺顔はそこそこイケてるけど女性耐性がほとんどなく、女の子と二人で出かけた事もないので自分の願望丸出しでいきます。



「アイル君カッコいい!!」

 

「綾瀬、もう少し声を落としてくれ……」

 

ショッピングモールの洋服屋でアイルの服装をコーデしている綾瀬。何故二人は一緒にいるのか。それは昨日に遡る。

 

 

 

ーーーーーーーー

ーーー

 

〜昨日〜

 

「アイル君、明日一緒にショッピングモールに行かない?」

 

「ああ良いぜ。何時頃行く?」

 

綾瀬がアイルをショッピングに誘う。それに対してアイルは誘いに乗る。至って普通の会話だが二人の顔は真っ赤である。

そして内心はーーーーー

 

 

「(きゃー!!遂に誘っちゃった!!服装どうしようかな!?メイクした方が良いかな?でもメイクの仕方なんて分かんないし、友達もいないから教えて貰う事もやって貰う事も出来ない!!どうしよう!?

スッピンで行くなんてアイル君にそっちからデートの誘いをしたのにスッピンとか女捨ててるなお前って幻滅されたらどうしよう!?)」

 

「(これデートの誘いなのか!?それともただのショッピングでオレは荷物持ちなのか!?どっちだ!?いや、どっちでも構わない。でもオレお洒落な服装なんざ持ち合わしてないぞ!?買いに行くのか?明日一緒にショッピングモール行くのに?それに行ってもオレにはファッションセンスがないと自覚している!!くそ!鍛えが足りなかったか!!)」

 

 

と嬉しさと不安が入り混じっていた。

 

 

ーーーーーーー

ーーー

 

当日、アイルはいつも通り四時頃に起き、朝の準備運動と鍛錬を済ませてから帰ってシャワーを浴びると十一時頃で綾瀬はもう部屋にはいない。アイルは急いで自分の出来る最大のお洒落をして出掛ける。

ショッピングモールまでは走って行くと三分後にはモールの近くの集合場所へと着く。綾瀬はもう来ておりベンチに座ってる。

綾瀬の服装を見てつい顔が熱くなる。

白色の肩出しニットにブルーのロングスカートは彼女の清楚感をより引き立たせた。

それに対してアイルは文字の入った黒色の長袖Tシャツに白の長ズボンといったシンプルな服装だった。

 

「オレこんなダサい服しかなくてゴメンな」

 

「そんな事ないよ!アイル君のシンプルな格好、か……格好良いよ…」

 

「かっ!?い、いや綾瀬の服も綾瀬のか…可愛さがより引き立ってるって言うか何と言うか……」

 

「え!?可愛さ!?」

 

などと顔を真っ赤にしながら褒め合う二人はとても初々しかった。

 

 

ーーーーーーー

ーーー

 

昼食を済ませ、アイルがこれからどこに行きたいと綾瀬に問うと彼女は待ってましたと言わんばかりの表情を見せてた。

 

「アイル君にもっとお洒落させたい!」

 

「オ、オレの!?」

 

「そうだよ!今のワイルドな格好もいいけどカジュアルな格好も似合うと思うんだ!」

 

そう言い、メンズの洋服屋に入り、アイルに一般的なメンズのカジュアルな服装を試着させて貰ったところ……

 

「アイル君カッコいい!!」

 

「綾瀬、もう少し声を落としてくれ……」

 

冒頭へ戻る。

 

他のカジュアルを色々試し、ワイルドファッションも色々試着した。

元が良いので基本的に何を着させても似合う。色んな彼を見れる事が楽しいのか笑顔でアイルの服を選んでく。アイルも大変でもあるが彼女の楽しそうにしているので嬉しさがこみ上げてくる。

だが、幸せの時間を一発の銃声が搔き消した。

 

解放軍(リベリオン)だ!!死にたくなかったら指示に従え!!」

 

銃を撃った男の怒声がこの階に響き渡った。客を銃で脅し、一階の広場に移動させている。

アイル達もその指示に従い広場に向かおうとすると男が綾瀬の腕を取った。

 

「なあねーちゃん。銃で撃たれたくないだろ?ちょっとばかし遊んでくれないか?」

 

プツンと綾瀬の何かが切れた。勇気を振り絞ってアイルをショッピングに誘い、頑張って出来る限りのお洒落をして、アイルに可愛いと言われて、幸せの時間をもっと送ろうと思っていたのに解放軍(リベリオン)のせいで全てが台無しにされ、目の前にいる二人の男は自分を慰め者にしようとしている。

アイルも綾瀬同様何かが切れた。綾瀬がショッピングに誘ってくれて、彼女の可愛い姿が見れ、自分に笑顔を向けてくれる彼女を慰め者にしようとしている男共を許せるはずがなかった。

 

「悪いなガキ。お前の目の前でお前の彼女に楽しませてもらうわ。じゃあねーちゃんよぉ、始めるか」

 

その言葉を聞き、アイルと綾瀬は動き出した。

 

 

ーーーーーーーーー

ーーー

 

「広場以外の見回りはこれで最後かな?」

 

「後は広場だけだがそっちの方も片付いたみたいだな。事情調査面倒いからとっとと帰ろうぜ」

 

「……うん」

 

「……まあ、その、なんだ……また一緒にショッピングしようぜ」

 

「! 約束だよ!」

 

二人はまた出かけようと約束を交わす。

 

 

 

 

 

 

そんな少年少女の足下には喉を潰され、四肢の関節が外れた三人の男と両腕を千切られ、顔面が陥没した瀕死の男が転がっていた。

 

 




綾瀬ちゃんの服装はシンデレラガールズに登場する鷺沢文香ちゃんの服装をパクりました。肩出しニットの白バージョンです。
肩出し大好物です。
アイルの格好は俺の勝負着です。
あとこんなイチャついてるが付き合ってもない。
相手対するこの感情が何なのかがお互い分かってない。
簡単に纏めると無自覚カップルってやつですわ。


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勝ち組の集団

何この展開?て思います。
自分も書いてて何でこうなったのか分かんないです。


「黒鉄、今年の七星剣武祭のベスト4までに入ることがお前の卒業条件だ」

 

ステラが日本にくる数日前に破軍学園理事長の神宮寺黒乃が僕にそう言い渡した。

 

「何だ、優勝しろと言うと思ったか?」

 

「え、まあ、はい」

 

「本来ならそう言いたいが今年は難しい……」

 

理事長は僕では優勝は難しいと言った。分かっている事だが面と言われるとちょっと落ち込む。

 

「そんな顔をするな。現七星剣王、いや七星拳王と言うべきか。奴の事を知らん訳でも無いだろ?」

 

「七星剣武祭を二冠した男、鬼山 秀虎(きやま ひでとら)の事ですね。二年間戦ってきた相手を全員三秒で終わらせている武曲学園の三年生で、圧倒的に強過ぎて嫌われてるEランク学生騎士、全試合構えもせず、時には欠伸を噛み殺したまま倒したなんて話をよく聞きますね」

 

「鬼山は武の天才であり、他の者とは比べ物にならない鍛錬を積んだ奴だ。奴に勝てる奴も限られてくるだろう?まあ、ウチにはアイツならもしかしてって思う奴はいる」

 

「鬼山さんに対抗出来る学生騎士が破軍学園にいるんですか?」

 

「騎士と言うよりかは闘士だな。勿論ソイツだけではなく、黒鉄にも期待してるぞ。私に見る目が無い奴だと言えるぐらいの結果を出してやれ!話は以上だ!」

 

「はい!では、失礼しました」

 

一輝が理事長室から出て行くと、黒乃は煙草に火を点け、煙を吸い込む。

 

「フゥー……。嫌な大人になってしまったな」

 

そう呟き、黙々と煙草が無くなるまで吸い続けた。

 

ーーーーーーー

ーーー

 

「イッキどうしたの?考え事?」

 

「あ、ステラ…。うん、ちょっと気になることがあってね」

 

一輝とステラは食堂で昼食を取っていた。彼の箸が時折止まるのが気になり、彼女は声を掛けた。

 

「対戦相手のこと?私に勝ったイッキがあんな奴に負ける訳無いじゃない!」

 

「確かに桐原君の事もだけど、さっきは違うことを考えてただけだよ。そう言えば、ステラの対戦相手を聞いてなかったけど誰と戦うの?」

 

「確か岩槌ーーー」

 

「アイル君の対戦相手って誰になったの?」

 

ステラが対戦相手を言おうとしたとき、後ろの席から人の声がステラの声と被さった。

 

「今後ろにいる男の人が私の対戦相手よ」

 

ステラが小さな声でそう一輝に伝えた。後ろを振り返るとステラと理事長室で言い合ってた時に入って来た人だった。向こうには声が届いてないのか、普通に会話していた。

 

「確か、え〜と、誰だっけな?最近聞いたことのある名前なんだよ。オレの対戦相手はーーー」

 

「【紅蓮の皇女】、ステラ・ヴァーミリオンだろ?【負け犬(アンダードッグ)】君よぉ?」

 

「お前がエントリーした時点で笑い話なのに対戦相手がAランクだなんてネタだろ!?お前俺らを笑い殺す気かよ!?」

 

突然、五人の男は笑いながらアイル達の会話に割り込んできた。

 

「……教えてくれてありがとう」

 

「……おい負け犬。何だその態度は!?教えて頂きありがとうございますだろうがッ!!」

 

アイルの態度が気に入らなかった男が彼の髪を掴み、左右に振り回す。

 

「ちょっとやり過ぎよアンタ!!」

 

男の突然の行動に憤りを感じたステラが立ち上がった。

 

「おや?Fランクに負けた名ばかり皇女様ではないですか?ギャハハハ!!」

 

一人の男がそう言うと男達の中で笑いが起こった。

 

「何?アンタ達、私にぶっ潰されたいの?」

 

ステラの台詞に一人の男が突っかかった。

 

「おい、先輩に対して何だその口の聞き方は!!いいか、ここはテメェの国じゃないんだよ。社会じゃあ、年下だろうが優秀なヤツには敬意を払わないといけないが、学園はな!どんなに優秀なヤツだろうが年上には敬意を持って接するんだよ!!」

 

「確かにそうかも知れないですが、先輩の在り方に口を開く権利は年下にもある筈です」

 

「はあ!?そんな事社会に出てからも言えんのかよ!?」

 

先輩方が言ってた通り、社会なら呑み込まなければならないですが、ここは学園ですよ」

 

一輝がニコッとすると取り巻きの男達は表情が歪むがリーダー格の男だけは無表情だった。

 

「……お前、調子乗ってんじゃねえぞ」

 

リーダー格の男がそう言うと水が入ったコップを一輝の頭にぶっ掛け、一輝の髪を掴み自分の顔に近付ける。

 

「イッキ!?アンタいい加減にーーー」

 

「黙れメスガキが。今はコイツに用があるんだよ。今回はこれで許してやるが、次俺達をコケにしやがったらこんなんじゃ済まねえぞ」

 

「……はい」

 

男はそう言うと取り巻きを引き連れ食堂から出て行く。

 

「イッキ!!何であんなヤツの行動に黙ってるよの!?」

 

「仕方ないですよ」

 

「シズク!?」

 

何処からか、一輝とステラの会話に珠雫が入って来た。

 

「アリスと昼食を取っていたのですが聴こえてしまい、貴方は知らないと思いますが彼のお父様は連盟の重役です。下手に逆らうと社会的に消されるかも知れないから誰も口を出さないのです」

 

「その子言う通りだよ。でも今はボク達に目を付けてるからそっちに被害が及ぶことは無いから安心して?」

 

綾瀬が一輝達に苦笑いしながらもそう言った。

するとアイルが席から立ち、ステラの前に立つ。

 

「アンタがステラか。さっきはありがとう。明日はお互い頑張ろうぜ」

 

そう言い、アイルは握手を求めた。

 

「え、ええ。全力を尽くしましょ」

 

ステラも戸惑いながらも握手に応じる。

 

「それじゃオレ達はここら辺で失礼するわ」

 

「じゃあね。ステラさん、アイル君の為に怒ってくれてありがとう!」

 

そう言い、二人は食堂を後にする。

 

「イワツチさんさっきまでとは雰囲気が違かったんだけど?」

 

「年下だからって大きく出たんですかね?」

 

「いや、きっと今のが素の彼だと思うよ」

 

ステラと珠雫の言葉に一輝が答える。一輝が言うなら間違いないと二人は納得した。

 

 

 




次代表選抜戦です。
ようやくオリ主が戦う。
よくオリ主とステラが戦うのが多いですよね。
一輝がそうであったように丁度いい相手なんですよね。
普通に強いから。


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代表選抜戦
負け犬同士の闘い


俺の大好きな言葉を入れました。
分かる人には分かります。
マーヴェラス・○キさんです。


FランクがCランクのトップクラスを倒すという普通では考えられないことが起こった。そんな中、Aランク対F–ランクの対戦が始まった。

ーーーーーーーーー

ーーー

 

 

〔さあさあやって参りました!!破軍学園唯一のAランク!【紅蓮の皇女】!ステラ・ヴァーミリオン選手の登場です!紅い髪を揺らしながらリングに姿を見せる!!おお〜凄い歓声だぁああ!〕

 

 

客席から大きな声援が飛び交う。彼女は歓声に手を振って応える。

 

 

「流石、一応皇女なだけであって慣れてますね」

 

「ステラもリラックスしてるし、岩槌さんのデータを見る限り負けるような相手じゃないよ」

 

「私も目を通しましたがあれ程酷いとは思いませんでした」

 

 

一輝と珠雫はリングが良く見える客席で客席に手を振るステラを見ながらアイルの話をしている。

 

 

「でも貴方みたいに特殊な人かも知れないわよ」

 

 

女性口調で話す男子、有栖院凪は遅れて一輝達のいる所へ歩いてきた。

 

 

「そうかも知れないけど僕が見たところだと何も感じなかったから大丈夫だよ」

 

 

一輝がそう言うとアナウンサーの声が客席全体に響き渡る。

 

 

〔そんな彼女に対するは破軍学園最も低いF–ランク!!【負け犬(アンダードッグ)】の岩槌アイル選手!うわ!?ステラ選手と違って酷い罵声が客席から飛び交ってます!〕

 

 

アイルがまだ登場もしてないリングに彼に対しての罵声が会場を叩く。

 

 

〔Fランクより低いF–ランク、誰も戦っている姿を見た事がない、実戦をサボっている、金で教師を買収していたなどがあり、着いた二つ名が【負け犬(アンダードッグ)】。今日、Aランクのステラ選手を倒し汚名返上なるか!?アイル選手の登場です!!………え?〕

 

 

罵声に包まれた会場がアイルの姿を見た瞬間、会場全体がざわめき出した。

普段は眼鏡を掛け、背筋は少し曲がっていて、精気の無い目をした彼が、両腕にはバンテージを巻いて、眼鏡を掛けず、背筋を伸ばし、拳と拳をぶつけて登場する。

前に見たアイルの変わり様に戸惑いも覚えながらもステラは右手を差し出す。

 

 

「イワツチさん、お互い全力を尽くしましょう」

 

 

手を差し出すステラを一瞥するとアイルはポケットから紙きれのようなモノを取り出し、持ったままステラの手を取った。

 

 

「ああ、お互い負けても文句なしだ」

 

 

そう言って手を離し、ステラはアイルから無理やり握らされたモノを確かめる。

 

 

「な!?」

 

 

ステラが渡された紙きれの正体は三枚の一万円札だった。ステラがアイルを睨らみ、どういう事だと問いただした。

 

 

「この試合負けてくれるならその十倍は出すってことだよ」

 

「アンタおふざけで選抜戦にエントリーしたの!?だったら今すぐ降参しなさい!不愉快よ!!」

 

 

アイルの行動に憤りを感じたのはステラだけではなかった。

 

 

「巫山戯んじゃねえ!!」

「ぶっ殺すぞ!!」

「金の亡霊が!!」

「引っ込めカス野郎!!」

 

「あのような不快な人などとは知りませんでした!負け犬と呼ばれて当然です!」

 

「ああいうタイプは好きじゃないわね」

 

 

客席にいた生徒は勿論、珠雫達もアイルの行動に抗議の声が上がった。

 

 

(何故このタイミングで八百長を持ちかけたんだ?ステラは王族だ。お金で釣れないことは分かる筈なのに……?)

 

 

一輝は一人アイルの行動に疑問を持つ。アナウンサーが観客を鎮め、レフェリーが霊装(デバイス)の展開を促す。ステラはアイルに三万円も叩き返して霊装を展開させる。

 

 

「傅きなさい!《妃竜の罪剣 (レーヴァティン)》!!」

 

 

ステラは炎を纏う大剣を顕現させた。

アイルは叩き返された三万円を拾いポケットにしまう。しまった後に霊装を展開させる。

 

 

「消せ。《首飾り》」

 

 

アイルの首に薄い銀色のプレートペンダントを顕現させた。

 

 

「へぇ〜。霊装が首飾りね。【負け犬(アンダードッグ)】に相応しい霊装ね?」

 

 

ステラはアイルに挑発するが、彼にはすぐに伝わらず、ちょっとしてから気づいた。

 

 

「もしかして挑発してるつもりか?なってねえな。挑発の手本を見せてやるよ。……負け犬って言うがテメェも負け犬じゃねえか。Fランクに負けた奴が強者ぶってんじゃあねぇぞ。負けた男のケツについて行くしか能の無い雌ブタが」

 

 

ブチンッとステラの何かが切れる音がすると同時にレフェリーのコールが入る。

 

 

「お互い構えて!!」

 

 

ステラは大剣の切っ先をアイルに向けるように構える。対するアイルは左拳を顎に、右拳を下げる独特の構えを取り、直角に曲げられた右腕が振り子のように揺らす。

 

 

「お兄様……。あの構えは?」

 

 

「珠雫は見た事があるか分からないけどアレはボクシングのフリッカー、《ヒットマンスタイル》とも呼ばれてる構えだよ。でもボクシングは武術ではなくルールに守られたスポーツ。ましてや、拳だけ使用の非効率的なモノにステラが負ける訳ない」

 

 

一輝はステラの勝ちを確信すると同時に、卒業条件を言い渡された時に黒乃が言った言葉が頭から離れなかった。

レフェリーが手を挙げ、叫ぶように口を開く。

 

 

「準備はいいな!!……LET's GO AHEAD(試合開始)!!」

 

 

レフェリーが挙げた手を勢い良く振り下ろすと同時にステラがアイルに突っ込む。

 

 

「ボクシングなんてお遊びでアタシに勝つなんて一生無理よ!!!」

 

 

そう言い、彼女の大剣がアイルの身体を貫いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筈だった。

 

 

 

彼女の突きは彼の身体を横切っていた。

一瞬放心してしまったがすぐに戻り、アイルに皇室剣術(インペリアルアーツ)を振るうが全ての斬撃、突きが彼の身体を横切っていく。

 

 

〔一体何が起きてるんだ!?ステラ選手の攻撃がアイル選手に掠りもしない!?アイル選手が右腕を振ってる以外動いてないのでステラ選手が遊んでるだけなんでしょうか!?それともアイル選手の伐刀絶技(ノウブルアーツ)なのか!?〕

 

〔それは違うよ。単にアイルの奴がステラ嬢の剣腹を拳で殴って弾いてるだけさ〕

 

〔西京先生!?いつここに!!?〕

 

〔今さっき〕

 

 

アナウンス室にだぼだぼの和服を着崩した少女の姿をした破軍学園非常勤教師の西京寧音がマイクの前に座っていた。

 

 

〔剣を拳で弾いてる!?わ、わたくしには全くもって見えません!!〕

 

〔ボクシング最速のパンチ、ジャブで弾いてるんだよ。あたしも見えないけど当たらないってことはそういうことでしょ〕

 

 

寧々の言葉でアイルの腕を見るがただ左右に揺らしてようにしか見えない。

 

 

「(押し切れないッ……!!接近戦(クロスレンジ)じゃあいつまで経っても決着が付かない!一旦距離を取って中距離戦(ミドルレンジ)で種を明かさないと!)」

 

 

攻め切れないステラはアイルから距離を取ろうと地面を強く蹴り、後ろに下がろうとした。

 

 

ドンッッッ!!!

 

 

「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

「な……何が起きたの……?」

 

気付けば後ろに引こうとしたステラがリングの上を仰向けで倒れていた。

観客は愚か、ステラ本人さえ何が起きたか分からない。

 

 

〔ど、どういう事だぁああ!?距離を取ろうとしたステラ選手が仰向けで倒れてる!?アイル選手から何かされたのか!?〕

 

〔ステラ嬢の足を見てみな。答えはそこにあるよ〕

 

〔え……!!あ、あれはッ!?アイル選手の左足がステラ選手の右足を踏みつけている!!〕

 

〔そう、地面を蹴った瞬間に足を抑えることによって後ろに行こうとした体は後ろに行けず、そのまま地面に倒れたんだ〕

 

「このッッ!!」

 

ステラが踏まれている足に力を入れて脱出を試みるもピクリとも動かない。アイルはそんな彼女を見下ろし、ニヤニヤしながら挑発をする。

 

「どうした?もう終わりか、才能だけで勝ってきた天才ちゃん?」

 

パッと足を放し、自分からステラとの距離を取り、来いよと右手でジェスチャーをする。

 

「ッッ!!何も知らないくせに!!」

 

アイルの度重なる挑発と行動にステラは顔を怒りに染め、自ら接近戦に飛び込んだ。

 

「ステラアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!落ち着くんだぁあああああああああぁぁぁ!!」

 

一輝が会場中に響き渡る程の声でステラを止めようとするが、頭に血が上り切っている彼女にはその声は届かなかった。そんな彼女を見てアイルの口元が軽く吊り上がった。

 

「何だ?もしかしてアタシだって努力してきたんだぞって言いたいのか?だったら教えてやるよ」

 

振るわれる大剣をフリッカージャブで弾きながら器用に喋る。それが更にステラの怒りに油を注いだ。両手で剣を持ち、アイルの首を目掛けて剣を振るう。それを難なく左手で刀身を掴み取る。ジュウゥゥと人の肉が焦げる音と嫌な臭いがする。自分の手が熱で焦げているにも関わらず、アイルは何事もないように口を開いた。

 

 

 

 

「努力ってのは結果を出して初めて努力したって認められるんだ。要するに、オレもオマエもまだまだ努力不足って事さ」

 

 

そうそう言い忘れてたとアイルは口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚えときな。ボクサーはなぁ…挑発が上手いんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

アイルがグッと左手に力を入れ、ステラの妃竜の罪剣 (レーヴァティン)を握り砕いた。

驚愕に顔を染めた彼女を見て、アイルは口元を吊り上がせながらステラの顔面に力の篭ったジャブを打った。

スパァァンという音が響き渡り、彼女は膝から崩れ落ちるようにうつ伏せに倒れた。

そんな彼女の頭に自身の制服の上着を被せ、レフェリーにこれで顔を隠しながら運ぶように伝え、伏せるステラを一瞥してリングを後にする。

 

 

〔け………決着です。勝者はF–ランクの岩槌アイル選手です……〕

 

 

突然と呆気ない決着に動揺を隠し切れないながらも勝者の名を言葉にする実況者。客席にいる生徒、一輝達も呆然としている。

 

 

〔西京先生、質問があるんですが?〕

 

〔ん?何でも答えるよ〕

 

〔先程戦ってたアイル選手から魔力を感じなかったんですけど……〕

 

〔お!良いところに目を付けるね。アイルの奴はこの試合中一度も魔力を使ってないよ。てか、使う気ないよ〕

 

 

寧音の言葉に会場中がざわめき出した。

 

 

〔彼女は総魔力(オーラ)伐刀者(ブレイザー)の多少の攻撃なら無効化してしまうほどの魔力量なんですよ!?ましてや、魔力がない攻撃はランク関係無しで効かないんですよ!?一体どうやって!?〕

 

〔アイルの霊装の能力だよ。アレは総魔力(オーラ)を打ち消す能力を持ってる。でも、魔力で身体強化を施したのを打ち消すとかはないよ〕

 

〔た、確かに総魔力さえ無くせば魔力のない攻撃も通りますが、魔力で身体強化された肉体に武器も使わず、身体強化もされてないただの拳で倒すなんて不可能ーーー〕

 

〔でも、実際に倒しちまったんだ。そういう事なんだろ?〕

 

 

寧音はそう口にし、大荒れになるであろう代表選抜戦、いや七星剣武祭を想像して笑った。

 

 




間違えとかあったら教えて下さい。
この話でアイルの事嫌いなるかも知れません。
次の話で何故こんな事をしたのか分かります。


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負け組の決意と権力者の思惑

おまたせ!(檄遅+誰も待ってない)


……目が覚めるとアタシはベットの上で寝ていた。

 

「ステラ!目が覚めて良かった……」

 

アタシの横にはイッキが座っていた。

 

「………………………………………………………え???ここは………?アタシ………は?」

 

ここは何処なのか?何でアタシが寝てるのか?隣にイッキがいるのか?全く状況が把握出来ない。

 

「落ち着くんだステラ。ここは医務室だよ」

 

イッキが落ち着いた声で教えてくれたが益々混乱した。

 

「ちょ…ちょっと待ってよ。試合……試合は………」

 

アタシの質問にイッキは口を紡ぐ。

 

「……………あ……………」

 

思い出した。アタシはアイツに負けたんだ。アタシはイッキとの約束を……

 

「…………ご、………ゴメンなさい……」

 

この言葉しか出てこない。悔しさ、情けなさで涙が溢れてくる。約束を果たすことが出来なかったのだ。

 

「落ち着いた?」

 

「……うん」

 

アタシが泣き終わるまで何も言わず待っていたイッキはアタシに声を掛け、アタシも落ち着いた声で返事を返した。

 

「ステラに聞きたい事があるんだ。岩鎚さんからお金を渡されたときなんだけどどうしてあそこまで怒ったんだい?」

 

アタシが八百長に対してあそこまでキレたのかイッキは疑問に感じたようだ。

 

「アタシがイッキに自分の国から出た理由はあそこにいたら強くなれないって言ったこと覚えてる?」

 

「うん、覚えているよ」

 

アタシは一呼吸し、口を開いた。

 

「アタシね、一度だけヴァーミリオン皇国で一番強い人と戦いたいってお父様に我儘を言って勝負させて貰ったの。それでね、その試合に勝ったのよ。アタシは大喜びしたわ。お父様に褒めて貰いたくてお父親の部屋に向かったの。部屋の前まで行った時に声が聞こえてね。その時に気付いたの。さっきの試合は八百長だったって事をね」

 

アタシはその当時の記憶を思い返すとお父様への怒りが蘇った。

 

「アタシはお父様に問いただしたわ。そんな事しなくても勝てるって。お父様はアタシを笑って言ったわ。『だったらこんな事はしない』って。お父様は王族であるアタシが国内で負けては示しが付かない、ヴァーミリオンの血筋は国内最強でなくてはならないって過去に何度か同じ事をしてたの!お金でアタシの勝利を買ってた!だからアタシはお金で勝利を買う人が大っキライなのよ!!」

 

思い出して悔しさで涙が滲む。

 

「お父様の手が届かない所へ行きたい。だから強い人がいる日本へ来たの。ここなら八百長なんてする人がいないと思ったから……」

 

「でも岩鎚さんが八百長を持ち掛けた」

 

イッキがアタシの言いたいことを言ってくれた。

アタシはあの試合で思った事をイッキに話す為、口を開いた。

 

「頭にきたのはそれだけじゃないの。試合前の挑発にはイラってきた。あそこまで堂々と言われたの珠雫ぐらいだったからね。足を踏まれた時だって振り解けなかった。初めてよ……力比べで負けたのは。

力だけなら誰にも負けない…そんな自信を打ち砕かれてそれを認められなかった。そして何より……

 

 

 

 

手加減どころか遊ばれてたこと」

 

 

アタシは言い終えた後にイッキの方を見ると彼は拳を握り締めていた。彼も気付いていたのだろう。イワツチさんが全力は勿論のこと、手加減すら出してない事に。

 

「一度も、一度たりともを避けるそぶりを見せなかった。……完敗よ」

 

先程の試合でイワツチさんはアタシの攻撃を全て拳ではたき落としていた。最後に至っては三千度を超える熱を帯びる《妃竜の罪剣 レーヴァティン》を掴み、砕かれたのだ。あそこまで舐められた状態で負けたのは初めてで情けなく感じる。

そう思いにふけていると突然イッキが椅子から立ち上がり、アタシの手を取る。

 

「ステラ、僕と一緒に代表になって彼を見返してやろう。自分達は弱くなんかないって証明してやるんだ」

 

手を握られ顔が熱くなっていたアタシは何とかして声を出す。

 

「え!?でも、アタシ負けちゃったのよ…」

 

「大丈夫!これから負けなければチャンスはある。折木先生の話によるとこの選抜戦はこのまま進めば代表枠三名は無敗が埋めることになる。一敗だけの人達と残り三枠をかけて総当たりで決めるんだ。ステラの代表入りの道はまだ終わってない」

 

「一回でも負けたらダメなんでしょ?アタシ……勝ち続けれるかな……」

 

「弱気なんてステラらしくないよ。僕が認めたライバルはそんなんじゃない筈だ」

 

イッキの言葉にアタシは元気づけられた。

 

「そうよね。アタシらしくないよね!よしっ!もう負けないわ!やってやるわよぉおおおおっ!!」

 

もう弱気になったりしない。今日よりも強くなってイワツチさんを見返してやるんだから!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

 

 

「くーちゃん、今年の選抜戦やけに気合い入ってるじゃん?」

 

「当たり前だ。今年の優勝がどれ程の価値があると思う?」

 

破軍学園理事長室に黒乃と寧音が話していた。この二人は今年の七星剣武祭の重要性を話していた。

 

「鬼山秀虎、奴が今なんて言われているか知ってるか?」

 

「歴代七星剣王最強だっけ?」

 

「そうだ。その影響か、今年の武曲学園は新入生の数が歴代最高だ。他の学園は歴代最低でな。これ以上武曲学園に遅れを取るわけにはいかん」

 

「来年から優勝したらいいじゃん?そいつ卒業していなくなるし」

 

「阿呆、だからこそ今年しかチャンスは無いのだ」

 

「? どゆこと?」

 

「奴が最強の称号を持ったまま卒業されたら、武曲学園は歴代最強の七星剣王を輩出した箔がつく。武曲学園は他の学園より優れている学園と今後見られていくことになるだろう。歴代最強の称号はそれ程価値あるものなのだ。今年はその称号を奪う最後のチャンスなんだ」

 

「成る程、積み上げてきたモノを根こそぎ奪う訳だ。いやらしい〜」

 

「なんとでも言え」

 

 

そう言いながら黒乃は煙草に火を付け一服する。歴代最強を名乗れる道はただ勝つだけでは名乗れない。どんな能力だろうが勝てないと思わせる圧倒的実力と無敗の経歴そして、過去に歴代最強と言われた七星剣王への勝利がなければ学生の内に最強など名乗る事が出来ないのだ。本来なら卒業し、KOKで結果を残して最強と呼ばれるのであって学生時代で呼ばれるのは鬼山が初めてである。

 

「鬼山に勝つ為に、どの学園も能力値選抜制を今年は取り止め、実力トーナメント制に切り替えた。切り替える気が無かったのは前破軍理事長ぐらいだ」

 

そんな男に一勝を納めるだけで全てが手に入る。どの学園理事長も本気で鬼山に勝ちに行くつもりなのだ。

 

 

黒乃同様、岩槌のような切り札を持っている可能性が高い。

 

 

彼女を含めた全理事長はあくまで切り札が鬼山に勝つ事が本命で残りの選手は他学園の切り札を倒してくれたら儲けぐらいにしか思っていない。他の生徒には悪いと思っているが今年はそれ程の価値がある。

 

 

 

「今年だけは勝たなければならんのだ」

 

 

黒乃は小さくなった煙草を灰皿に投げ捨てた。

 

 




現実逃避してる時に指が進む


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