月を守る太陽である為に何が出来るか…? (ぬヰ)
しおりを挟む

月の消失

よろしくお願いしますm(*_ _)m


これは、翼、響、マリアがギャラルホルンのゲートに飛び込み天羽奏と共に黒いノイズ、通称カルマノイズの殲滅を試みていた時、ギャラルホルンに飛び込んでいないクリス、切歌、調、未来に起きた出来事の話ー

 

「おいおっさん!!なんで黒いノイズがこっちに来てんだよッ!?」

 

「ゲートの向こうの世界はこちらの世界と平行している。つまり向こうの世界とこちらの世界が現在繋がっている状態だ」

 

「要するに別の世界だけれど同じ世界、隣り合わせってことデース!」

 

「きりちゃん、余計にややこしくなってるよ」

 

元の世界に黒いノイズが探知され、クリス、切歌、調は出動要請が出されていた。

クリスは文句を言い放ちながらカルマノイズが探知された場所へ切歌と調を連れて向かった。

途中途中現れるノイズをそれぞれ倒しながらカルマノイズの出現場所へと急ぐ。

 

「あれか…?」

 

クリス達の前には今までに見たことない人型の黒いノイズが姿を現していた。

 

「今までに見たことないノイズ…きりちゃん、気を付けよう」

 

「大丈夫デスよ調!クリス先輩!行くデース!!」

 

「おうよ!」

 

クリス、切歌、調の3人はそれぞれカルマノイズにダメージを与えていく。

多少ダメージが通り、3人の装者は息を合わせて手を出させないようにダメージを蓄積させていった。

 

「トドメだッ!これを耐えてみなッ!!」

 

クリスは大量のミサイルをカルマノイズに食らわせる。

 

ドォォォン!!

 

と轟音が鳴り響き、煙が立つ。

 

「やったデース!」

 

「おっさん!エネルギー反応消えたか?」

 

「いや、まだ消えていない。どこかに居るはずだ」

 

指令からの忠告を3人は聴き煙が収まるのを待つ。

 

やがて、煙が収まるとカルマノイズの様子が見えてくる。

 

「ッ!!居ないだと…!?」

 

「どこ行ったデス?」

 

クリスと切歌は辺りを見渡す。

 

「きりちゃん!危ない!!」

 

調が叫ぶと切歌は後ろを振り向いた。

後ろにはすぐ近くにカルマノイズの姿があり、今にでも切歌に攻撃しようとしていたところだった。

 

いち早く気づいた調は切歌の前に立ち、カルマノイズの攻撃を防ぐ。

 

「ぐっ…」

 

調はカルマノイズの攻撃を踏ん張るものの、攻撃は予想以上に重く後ろへズズズっと押されてしまう。

 

「調!!」

 

切歌は調が守ってくれたことに気づきカルマノイズの背後に周り、調の手助けをする。

 

だが、カルマノイズの力は異常な程で切歌の攻撃は食らっているものの倒れず、逆に切歌が鎌を振り下ろして攻撃していた隙に、鎌を掴みそのまま切歌ごと投げ飛ばしてしまった。

 

「嘘デース!!?」

 

クリスは今ド派手に打っ放すと調に当たる可能性があるため、不用意に打てなかった。

 

そして、受け止めていた大きな鋸はカルマノイズの更なる攻撃により、パリィィン!と砕けてしまう。

 

「嘘…シュルシャガナが……」

 

調は後ずさり、逃げようとするもカルマノイズは既に右腕を上へと上げていた。

 

「クソッ!これでも喰らえ!!」

 

クリスは調とノイズが少し離れた隙に矢を放つ。

クリスの放った矢は一直線にノイズへと向かうが、ノイズは左手でその矢を掴んでしまう。

 

「嘘だろォ!?」

 

カルマノイズは調のペンダントに向けて、腕を振り下ろした。

調は衝撃により後ろへ吹き飛ばされる。

 

「きゃああああ!!!」

 

「ぐっ……調ぇ……!!」

 

切歌は歯を食いしばりながら体を起こす。

 

「クソッタレがぁ!!!」

 

クリスは怒りに狂い、カルマノイズに向かってあらゆる手段の銃弾を打っ放す。

 

しかし、その銃弾がカルマノイズに届く前に、カルマノイズは姿を消してしまった。

 

「消えた……?」

 

「……しら…べ……調ぇー!!!」

 

切歌は何とかして立ち上がり、調の元へ駆け寄る。

その姿を見たクリスも調の元へ向かう。

 

「調!調!聞こえるデスか!?調!!」

 

切歌は調を抱き抱え、呼び続ける。

 

そして調のペンダントが……

 

パリィィンッ!!

 

と音を立てて砕け散った。

 

「ペンダントが……!」

 

クリスが驚きを隠せずに言う。

 

「調!目を覚ますデス!!調ー!!」

 

切歌は調を呼び続けるが調の瞼は開かない。

 

「一度エルフナインに見てもらおう、戻るぞ」

 

「了解……デス…」

 

 

 

 

本部へと戻った3人は指令やエルフナインに事情を説明する。

 

「なるほど、人型のカルマノイズ、、そして調くんのペンダントの完全消滅…か…」

 

「調は…!調は無事なんデスか!?調は!!」

 

「今メディカルチェックをエルフナイン君にしてもらっている」

 

そう話すと、エルフナインが戻ってきた。

が、どこか顔色が悪いというか、様子がおかしかった。

 

「調は!調は大丈夫デスか!?」

 

「調さんの身体には異常ありませんでした」

 

「本当デスか!?よかったぁぁ」

 

「……ですが…調さっ…」

 

「早速調に会いに行くデース!!」

 

「あぁ…」

 

切歌は調の元へ急いで向かっていった。

 

「どうやら、何かあったみてぇだな」

 

クリスは腕を組みながらエルフナインに聞く。

 

「はい…身体や精神の問題では異常は無かったのですが………」

 

「調さんは……」

 

切歌は調の居るメディカルルームに入る。

中には調がベッドで上半身を起こして窓の外を眺めていた。

 

「調ー!!よかったデスよ!調に何かあったらもう…!!」

 

「あなたは……どなたですか……?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「調さんは、装者関連の記憶を失ってしまっていました……」

 

エルフナインの忠告に度肝を抜かれたクリスは驚きを隠せていなかった。

 

「記憶…喪失って事か…?」

 

「それも一部、自分の名前、装者である事や過去に孤児院に居た事だけ記憶がないみたいなんです……」

 

「おいおい、冗談じゃねぇぞ…そんじゃあアイツ、、切歌の事もすっかり忘れてるのか…!?」

 

「特に切歌さん関係の記憶を主に無くなっています……」

 

「なん…だよ……それ…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「調………?何を言ってるデスか…?」

 

「し…ら…べ……?もしかして私の名前ですか…… ?」

 

「い、嫌だなー調ったら……演技上手過ぎて本当に見えてくるデスよ…?」

 

「もしかして私の知り合いなのですか…?すみません…私、自分の名前すら忘れてしまって……」

 

この時、切歌は完全に理解してしまった。

調は記憶を失ってしまったんだ。と…

 

「記憶喪失ってやつデスか…?」

 

「きっとそうなのだろうと思います…この身が言うことではないのですが、何か思い出せるかもしれないので、出会いとか色々教えていただけませんか…?」

 

切歌は必死に涙を堪え、調を心配させないように笑って話し始める。

 

「調は…私と同じ、孤児だったデスよ…。孤児院に預けられた私達はシンフォギアと言うものを纏い、フィーネの器となるために頑張ってきたデス」

 

「その、シンフォギア…というものはその孤児院に居た人達全員纏えるものなのですか…?」

 

「いいや、その入口にこっそりいるクリス先輩、そして今はここにいないデスけど、響先輩、翼先輩、マリア、そして私、暁 切歌とあなた、月読 調の7人しかシンフォギアの適合者とならなかったデス」

 

「調との出会いは孤児院で、私が調と言う文字が読めずに、調になんと読むか聞いたことが出会いデス、調(しらべ)って言う名前を聞いた時、私なんて答えたと思うデスか?」

 

「なんと言ったのですか?」

 

「ヤジロベーみたいでいかすデス!」

 

切歌は小さい頃調に言った時と同じような声のハリ具合で言う。

調は初めはキョトンとしていたが、そのうちにクスッと笑い始める。

 

「私の誕生日も孤児院に来た時にされたから似た者同士仲良くするデスって言ったのが出会いです」

 

「少し…安心しました…」

 

調は胸に手を当てて、ホッとするような顔をする。

 

「何がデス?」

 

「もしかして、とんでもない形で出会ったんじゃないかって考えてしまって……」

 

「人との出会いなんて、些細な事から始まるもんデスよ……さて、私はそろそろ行くデス、調はゆっくり休むデスよー?」

 

調は少しだけ悲しそうな顔をして言う。

 

「明日とかって……」

 

切歌はにっこりとして

 

「明日も明後日も明明後日も来るデスよ、調は私の大事な人何デスよ!」

 

と言った。

 

「ありがとう……」

 

と調は言うのを聞き、切歌は調の元を離れた。

 

 

 

切歌は外に居たクリスに顔を合わせずに、去ろうとした。

 

「ちょっとまて!」

 

クリスが切歌を止める。

 

「何デスかー?クリス先輩」

 

クリスは場所を移動しようと言い、切歌を倉庫に連れてきた。

 

「理解してるんだよな…?お前は…」

 

クリスは切歌が調にいつも通りニコニコしながら話してたことに疑問を抱いていた。

 

「理解したデスよー、だから出会った時の事を調に話してたデス」

 

「…どうしてだ……?」

 

「え…?」

 

「記憶が無いって気づいてなんでそこまで笑顔を作るんだ、自分を苦しめてるだけだぞ」

 

「分かってるデスよ…」

 

「分かってるんデスよぉぉぉ!!!!」

 

涙を極限まで堪えていた切歌だったが限界に達し、一気に涙が溢れだしてきた。

 

「わ、わりぃそんなに思い詰めるような言い方をするつもりは無かったんだ…」

 

「クリス先輩のせいじゃないデス…」

 

切歌は両肩を擦りながら話す。

 

「調に知り合いなのかって言われた瞬間に理解したデス、でもなんも知らない調の前でいきなり泣き始めたら……調が困っちゃうじゃないデスか!!」

 

「お前…そこまでアイツのことを……」

 

「私が調の前で泣いてどうするんデスか…泣いて何になるって言うんデスか…!一番泣きたいのは調なんデスよ!!気づいたら記憶が無くなって…!話してる相手すら誰だかわからない…!思い出したくても思い出せない…!そんなのって…そんなのって………!」

 

切歌は徐々に声が弱くなっていく、しかし最後に力を振り絞って、叫ぶ。

 

「この世界の誰よりも可哀想じゃないデスかー!!」

 

「ッッぁああああああああああああああ!!!」

 

切歌は遂に泣き潰れてしまった。

クリスはそんな切歌を見て、もらい泣きをしながら切歌の頭をそっと撫でる。

 

 

 

「ごめんなさいデス、少し感情的になりすぎたデス」

 

「いや、アタシも言い方ってもんがあった、わりぃな…」

 

「この事は調には内緒にして欲しいデス、調に泣いているところは見せたくないデスから…」

 

だが、その願いは叶わなかった。

 

何故なら、

 

その光景を偶然調は聴いていたからだ……




ご覧いただきありがとうございます!
多少の感動要素を入れてみました。更新頻度は不定期ですがなるべく早く更新出来たらいいなと思っています!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思い出のその先に…

この話は2話となっております。


調が記憶を失ってから一週間が経とうとしていた。

あれ以来黒いノイズは現れず、普通のノイズをクリスと切歌で殲滅していた。

 

本部へ戻ってきた切歌は毎日すぐ、調が居る部屋へと向かい、調と話していた。そのお陰で調は前よりも笑顔を見せるようになっていた。

そして今日も、、

 

「調ー会いに来たデスよー!」

 

扉を開けながら言うとそこには調とエルフナインが居た。

 

「お疲れ様です、切歌さん。今調さんにシュルシャガナの事を教えていたところです」

 

「おおー、調は理解してるデスか?」

 

「何となくですけど……私に出来るかどうか……」

 

「調の身体には問題が無かったんデスから問題ないと思うデスけどねー」

 

ベッドの横にある椅子に切歌は腰を掛け、背もたれに肘を付く。

 

「以前の調さんはしっかりと纏えていましたし、身体に異常も見当たらなかったのでペンダントさえあれば即纏えると思うのですが……」

 

「完全、消滅…デスよね、、」

 

エルフナインはこくりと頷く。

 

「一応賢者の石のほんの一部は残って付いていたのでそこからの修復を試みます」

 

「イガリマの情報も欲しいので切歌さん少しだけ来てもらえますか?」

 

「了解デース!調、また戻ってくるデース!」

 

「分かりました、行ってらっしゃい…」

 

手を振って、切歌はエルフナインと研究室へ移動した。

 

 

 

「一週間が経ちそうなのにまだ謎だらけです…」

 

「調の記憶喪失の原因ってなんなんデスか?」

 

研究室へ移動し、エルフナインにイガリマを渡しながら切歌はエルフナインに問う。

 

「それに関してなんですが、2つほど可能性があります」

 

「一つ目はギア装備中のペンダントの破損によるもの、二つ目はカルマノイズの特殊攻撃に記憶に関する効果があるの2つが考えられます」

 

「ムムム…二つ目の方が辻褄が合ってるように思うデース…」

 

一つ目も二つ目も充分可能性があるが、二つ目の方が考えやすいため、2人は二つ目の考えを仮定としていた。

 

「昨日最初に思った事は後頭部などを強く打ち記憶が喪失したと考えたのですが、メディカルチェックの結果何処にも損傷は無かったんです」

 

エルフナインの難しい説明に切歌は話について行くのがやっとだった。

 

「よーするに、あのカルマノイズってーもんを倒せば可能性が絞ることが出来るって事だろ?」

 

話を聞いていたのかクリスは入口の傍に立ち、簡潔にまとめた。

 

「それはそうなのですが、、少し奇妙な点がありまして……」

 

「奇妙な点、デスか?」

 

「調さんと話していた時に少し感じたんです、記憶を失った割にはとても楽しそうだと」

 

「調は大人しい性格デスけど、基本楽しそうにしてるデスよー?」

 

「ですが、シュルシャガナを見た時調さん辛そうな感じでした、それに何か…懐かしいものを見るような目をしていたんです」

 

「懐かしい者を見るような目……デス?」

 

「シンフォギアは最悪命を落としかねない物です。それをいきなり見せられて何も知らない人は驚くか、怯えるか…他にもあると思いますけどそのような反応すると思ったんです。ですが、少し苦しそうな時や軽く微笑んだ時がありました」

 

「むむー…じゃあ調は記憶を失ってる訳ではないって事デス…?」

 

「記憶が一部ブロックされてるんじゃねぇか?」

 

「その可能性は充分に有り得ます。まだ分からないですが…」

 

3人の会話に沈黙が訪れる。

 

「それならー」

 

すると入口からこの3人以外の声が聞こえ、3人は入口の方を向くとそこには未来が居た。

 

「3人で遊びに行ってみたら?」

 

未来の提案に3人は首を傾げる。

 

「楽しい事を新たに作れば、少しは記憶のブロックも解除されるかも♪」

 

未来の提案で、切歌と調、そしてちゃっかりクリスも着いて行き、遊びに出かけた。

 

まず出かけたのはカラオケ

 

「調ー!!私の歌唱力を見るデース!!!」

 

切歌達はカラオケボックスに入り、一人一人曲を歌った。

 

「切歌ちゃん、歌上手なんですね」

 

切歌の歌を聴いた調は拍手しながら言う。

 

「そんな、照れるデスよーさささ!クリス先輩も歌うデース!!」

 

「えぇ!?あ、あたしはいいよ…」

 

クリスは照れながら断る。

 

「クリスさんの歌聴いてみたい…」

 

横に座っていた調はクリスの方をじーと見つめる。

 

「……ぅわかった!歌えばいいんだろ!!」

 

クリスは切歌からマイクを奪い取り、照れながらマイクのスイッチを入れたーーー

 

 

 

「楽しかったデース!」

 

「切歌さんもクリスさんも歌がお上手で聴いてて楽しかったです」

 

カラオケを出た切歌達はブラブラと街を歩いた。

 

「しっかし、クリス先輩があそこでラブソングを歌うなんて、、乙女心マシマシデース!」

 

「べ、別にいいだろ!?たまたま歌える曲がトップに出てただけだ!!」

 

クリスは頬を赤くしながらそっぽを向いた。

その後切歌達はクレープを食べ、洋服を見てゲームセンターで遊んだりと、とても満喫した。

気付けばもう空はオレンジに染まっていた。

 

「今日は楽しかったデスね!調!」

 

「はい!とっても楽しい1日でした!」

 

「クリス先輩も、調に感謝デスよー、そんな可愛いウサギのぬいぐるみ取ってもらってー」

 

「そんなに欲しいって思ってないっつーの!!」

 

ゲームセンターでクリスはウサギのぬいぐるみのUFOキャッチャーを眺めていると調がそのぬいぐるみを取って、クリスに渡していた。

 

「余計なお世話でしたか…?」

 

今日のクリスは切歌と調の圧力に負けっぱなしだった。

 

「あーもー!!嬉しかったよ!!」

 

「あークリス先輩顔赤くなってるデース!」

 

「うるせー!!」

 

「およー怒ったデース」

 

「ほら!!帰るぞ!!!」

 

本部へと戻った切歌達は未来と会った。

 

「あ、みんなーおかえりーどうだった?」

 

「楽しかったデースよ!!」

 

「それは良かった!調ちゃんも楽しそうで何より!」

 

未来はクリス可愛いウサギのぬいぐるみを抱えていたのに気づきクリスに向かってクスッと笑った。

 

「なっ……!!」

 

クリスは顔を真っ赤にして下を向いた。

 

切歌達は調のメディカルルームまで連れていき、メディカルチェックなどをエルフナインに任せた。

 

「それじゃ調!おやすみなさいデース」

 

「はい!おやすみなさい」

 

切歌は調見送った後、歯を食いしばりながらクリスの場から立ち去った。

しかし、その切歌の表情を見過ごさなかったクリスは気付かれないように後を付けていく。

 

(アイツのさっきの表情…悲しみ、いやそれよりも酷い……あの表情は苦しみ……か)

 

 

 

切歌の後を付けたクリスは調が記憶を失った日に切歌が本心をぶちまけた倉庫にやってきた。

だが、そこには切歌の姿は無かった。

奥に入ってみると右に扉があるのを見つけ、そこに切歌が入っていくのが見えた。

クリスも続いてその扉を開けようとしたその時…

 

「調………いつになったら……記憶が戻るんデスか……」

 

切歌は泣きながら喋ってる声が聞こえ、クリスの手が止まった。

 

「調……し…らべ………」

 

(アイツ、人の居ないところでずっと泣いてたのか…だが、それもいつまでもつか…調の記憶が戻らない以上アイツが辛くなるだけだ…)

 

クリスは切歌と鉢合わせする前にその場から離れた…

 

 

 

そして次の日、丁度記憶が無くなってから1週間が経った時、思いもよらぬ出来事が起きていた…

 

 

「調ー!会いに来たデースよー!!」

 

「今日はあたしも来てやったぞー」

 

いつも通り調はメディカルルームのベッドの上に居た。

しかし、いつもと様子がおかしかった。

調は切歌達が入ってきたとき、悲しそうに窓の外を眺めていた。まるで記憶を失った日のように……

そして、調の口が開いた。

 

「あなた達は……?」

 

その言葉に切歌とクリスは固まった。

状況が判断出来ていないのだ。

 

「調?どうかしたデス?」

 

「しら…べ…?」

 

「まさか…!!お前!昨日何したか覚えてるか!?」

 

「昨日……すみません、考えると頭が痛くなってしまって……」

 

クリスは状況を確認しようとエルフナインに聞きに行くべく、調に明るく少しだけ大雑把に言い放つ。

 

「…ごめんな、強く言っちまった。また来るからそん時自己紹介な!ちなみにあたしらはお前さんの知り合いだから、顔と名前!教えるから覚えろよ!?」

 

「わ、分かりました。助かります」

 

調はオドオドとしながら返事をする。

切歌はその場では喋ることも出来なかった…

 

クリスは切歌を連れ、エルフナインの場所へと向かう。

 

「おい!チビッ子!!」

 

「ぅぇえ!?僕ですか??」

 

「どーゆー事だ!!!」

 

「…調さんの事ですか?」

 

「今の状況わかってる見てぇだな、なんでまた記憶が無くなってんだ!!!」

 

「恐らく記憶のブロック、その上書きかと」

 

「なんだよそれ!!」

 

「僕の憶測ですが、一週間経つとその一週間の記憶がブロックされ、また記憶が無い状態になったんです」

 

「そんなことしたら…アイツの体が!!」

 

「そうならないように研究を進めてるんです!」

 

「調は……」

 

切歌がこの場でようやく話す。

 

「昨日の調は、楽しかった思い出は…!全部無かったことにされたんデスか!?」

 

「悪く言ってしまえばそうなってしまいます…」

 

「そう…デスか…」

 

「大丈夫ですか…?切歌さん…」

 

「大丈夫デスよ、調は調なりに頑張ってるんデス。私はそれを手伝うことしか出来ないデスよ」

 

そう言うと切歌は指令室から出て行ってしまった。

 

「ごめんなさい、手当り次第解決方法を見つけますから!」

 

「エルフナイン君は頑張っている。あまり無茶はするな」

 

指令がエルフナインに言う。

クリスは何も言わずその場から立ち去る。

それは調に会うため…ではなく、切歌を追いかけるため。

 

 

倉庫の奥にクリスは姿を表した。

そして右側の扉の近くに来ると、切歌の声が聞こえてくる。

 

「なんで…なんでデスか……昨日の楽しかったことも全部台無しじゃないデスか……ここまで教えた事も全部水の泡デス…」

 

「何故調だけ……あんな目に……」

 

「アイツの前に居る時と大違いの顔だ」

 

「ク…クリス先輩……!?」

 

切歌はぐちゃぐちゃな顔を隠して、服の裾で拭いた。

 

「なんでここに…?」

 

「分かってんだよ。お前、毎日ここで泣いてるだろ」

 

(本当は昨日知ったんだけどな)

 

「知られてたデスか……すみません醜くて……」

 

「醜いなんて思っちゃいねぇよ」

 

「クリス先輩はこんなの耐えられるデスか…?」

 

「あたしはギリギリのラインだ、泣いていいってあたしのプライドが許すなら泣いてるだろうな」

 

「凄いデスよ…クリス先輩、でもクリス先輩は耐えられるかもしれないデスね」

 

「どういうことだ?」

 

「クリス先輩には分からないデスよ、昔から大事にして来た親友がいきなり自分のことを忘れてしまう絶望感なんて」

 

「……」

 

「クリス先輩は楽デスよね…まだ先輩後輩の立場で……」

 

「……」

 

「大事な人を死ぬとは別に失うって経験無いデスもんね」

 

「まあ、確かにそうかもしれない」

 

クリスがそう言うと切歌は強く歯を食いしばる。

 

「だが、あたしは大事な人を目の前で失ったことならある、大事な人を死ぬと言う意味で失った事ならある」

 

「それは……?」

 

「パパとママだよ、小さい頃あたしの前で死んだ」

 

切歌は言葉に出来ず涙を拭く。

 

「今でもちょくちょく夢に出てくるさ、その度に胸が苦しくなる。涙がこみ上げてくる。けどな、あたしが泣いてたら……」

 

クリスは下を向いていた切歌の傍に寄り、切歌頭を撫でながら言う。

 

「可愛い後輩に心配かけるだろ?但しお前はあたしの後輩だ、後輩なら後輩らしくあたしを頼れってんだ。何があっても助けてやるから」

 

クリスがそう言うと切歌はクリスに抱きつき、クリスの胸の中で泣き叫んだ。

クリスはずっと切歌の頭を撫でながら自分も涙を堪えていた。

 

 

少し時間が経って、切歌は全てを出し切ったように地面に座った。

 

「少しはスッキリしたか?自称デンジャラスガール」

 

「自称でもデンジャラスガールでもないデス!」

 

「元気になったなー」

 

「ありがとデス、クリス先輩」

 

「お、おう」

 

クリスは頬を赤くしながら返事を返す。

 

「でも、調はどうしたら記憶を取り戻せるんデスかね?」

 

「やっぱカルマノイズをぶっ潰さないと無理じゃないか?」

 

「でも、あのカルマノイズ相当強かったデス、3人でも手をつけられなかったデース」

 

「ユニゾンはどうだ?」

 

「ユニゾン…デスか…」

 

ユニゾンはラピス・フィロソフィカスによる抜剣封殺であり、簡単に言えば装者同士の結びつきを起点に、2人の装者の想いが合致すれば共通の旋律が出来、立ち回りがしやすく、弱点を補える。もっと簡単に言えば切歌と調が一緒に戦うと一つの詩ができ、いつも以上に力を出すことが出来るということ。

 

「その為にはまず特訓だ!今日はできるようにするまでやるぞ!」

 

「なんか、、クリス先輩がガチになっちゃったデース……」

 

そして、クリスと切歌はユニゾン成功を目標にいつも以上に特訓をすることになった




ご覧頂きありがとうございます
相変わらず不定期ですが、ご了承くださいませ。
多少の感動シーンを埋め込んでみました。
誤字、脱字等ありましたらコメントよろしくお願いしますm(*_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カルマノイズ再来

3話デース


ユニゾンを完璧にするべく、調の世話を未来とエルフナインに任せ、クリスと切歌は特訓に専念した。

緒川さんの手伝いもあって、かなり出来は良くなっていた。

そして、ノイズが出る度に対カルマノイズのためユニゾンを成功させた。

 

「ふぅ……ま、こんなもんだろ」

 

「なかなか良くなってきてるデース!」

 

イグナイトを解除した2人は本部へと戻る。

 

「あ、クリスさん切歌さん、お疲れ様です!」

 

向かいからエルフナインが歩いてきた。

切歌とクリスはすれ違うエルフナインを呼び止め、調の状態を聞き出した。

 

「調さんには前回と同様な反応が見られました。シュルシャガナの話を持ち出すと辛そうな顔や緩やかな顔をしています。状態は一週間前と全く変わっていない、とメディカルチェックの結果が出ています」

 

「そうデスか……」

 

「あっ!!!」

 

そう言うとクリスが大きな声をあげた。

 

「どどど、どしたデスか…?」

 

「特訓に集中しててアイツに挨拶すんの忘れてた!!」

 

「デデデデース!!?」

 

クリスと切歌はまずい…と思いながら調の元へと向かう。

急いで、調の居る部屋に入ると未来と話していた調はキョトンっとした顔で2人を見つめる。

 

「あなた達は確か、、、」

 

「あぁ、すぐどっかいっちまって悪ぃな」

 

「いえいえ、話は未来さんから聞いていましたし、それに今は忙しいと、、、」

 

「今は大丈夫デス!」

 

「クリスさんに、切歌さんですね」

 

「覚えてくれて嬉しいデース!」

 

「それでなー」

 

ウィィン!ウィィン!

 

クリスが話を振ろうとした瞬間、サイレンが鳴る。

そしてクリスと切歌の2人に招集がかかった。

 

「お呼ばれの様だ、また悪ぃな」

 

「いえいえ、忙しい中ありがとうございます、また話しましょう」

 

クリスと切歌は手を振り、指令の元へと急ぐ。

 

 

「商店街にエネルギー反応!カルマノイズです!!」

 

クリスと切歌が司令室へ入った途端に情報を聞いた。

 

「カルマ…ノイズ…」

 

クリスがぼそっと呟く。

 

「という訳だ、向かってくれるか?」

 

指令がそう言うとクリスと切歌は頷き、商店街へ向かう。

 

 

暫くすると指令室へ、調と未来の姿が現れる。

 

「調ちゃんが2人の戦いを見たいと言っていたので、連れてきちゃいました」

 

未来がそう言うと司令こと風鳴弦十郎は「いいだろう」といい、モニターを見つめた。

 

 

「さてと、アイツか…」

 

ノイズを倒しながら、カルマノイズの姿を見つけたクリスは切歌と息を合わせ、フォニックゲインを高め始める。

 

カルマノイズはクリスと切歌の存在に気づき、迎え撃とうとする。

 

「こないだのあたし達だと思うなよッ!?」

 

クリスはカルマノイズの動きを一瞬でも止めるためにホーミング弾を何発も打ち込む。

カルマノイズの動きが止まり、一瞬隙が出来た。

そこに切歌が仕掛ける。

 

「デェェェス!!」

 

切歌が声を上げながら鎌を振り下ろす。

前回よりは効いているようだったが、まだ倒れる気配は無かった。

 

「この調子だ!!叩き込むぞ!!」

 

「デス!!」

 

クリスと切歌は同じように立ち回り、前回よりも圧倒的にカルマノイズより優勢な戦いをしていた。

 

しかし、その優勢な戦いも長くは続かなかった。

カルマノイズの姿が変形したのだ。

 

「姿が変わった…?」

 

モニターを見ていた調は呟く。

カルマノイズは人型の姿から、恐竜のような2足で尻尾が付いている姿へと変わる。

 

「第二形態のお出ましか」

 

クリスがそう言うと切歌にさっきと同じように行くぞと言い、走り出した。切歌もクリスに続き走り込む。

するとカルマノイズは迎え撃とうとまた近寄ってくる。

 

「何度やっても同じだ!!喰らえ!!!」

 

クリスはさっきと同様ホーミング弾のようなものを撃ち込んだ。

 

しかし、第二形態のカルマノイズは止まることなく突き進んでくる。

 

「なっ……効かないだと!?」

 

「これでも喰らうデス!!」

 

カルマノイズの背後から切歌が鎌を振り下ろす。

しかし、その攻撃は尻尾によって弾き飛ばされてしまった。

 

そして、クリスと切歌はそれぞれカルマノイズの腕と尻尾で吹き飛ばされてしまった。

 

「クッソ……!こーなったら…!」

 

「イグナイト……やるしかないデス…」

 

 

「「イグナイトモジュール、抜剣ッ!!」」

 

黒いオーラに2人は包まれ、イグナイトの姿へと変身する。

 

筈だったが、、

 

「ぐっああぁぁぁ!!」

「がぁぁぁああ!!」

 

「なんだっこれッ!!」

「意識が…持ってかれそうデース…ッ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「何が起きているッ!!」

 

司令はその場に居るオペレーターの藤尭と友里に叫ぶ。

 

「クリスちゃん!切歌ちゃん!2人ともフォニックゲイン急低下!!」

 

友里が叫び、状況が不味いことを瞬時に知れ渡る。

 

「あの2人、、とても辛そう、、」

 

何も知らない調はモニターに写っている2人の様子を考察するしか方法は無かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ぐっ……!!」

 

クリスと切歌はイグナイトの維持を諦め、通常状態へと戻る。

 

「どーなってやがる!!」

 

「イグナイトが使えないデス…」

 

「イグナイトの状態でのユニゾンならもっと力が出せるってのにっ!!」

 

クリスと切歌は1度距離を取る。

幸い、まだカルマノイズは威嚇するように吠えるだけでこっちには寄ってこなかった。

 

「クッソ!!もう一回試してみるぞ!!」

 

「デース!!」

 

「「イグナイトモジュール、抜剣ッ!!」」

 

クリスと切歌は再度イグナイトを試みた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ッ!!ダメです!!そのままだとイグナイトが!!」

 

司令室にいたエルフナインがモニターに向って叫ぶ。

が、クリスと切歌には聴こえていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ぅがぁああああ!!!」

「ぐっ…ああぁぁぁ!!」

 

「クソッ!!……このままじゃ……!!」

「暴走する…デース……!!」

 

 

 

「二人共ッ!!今すぐイグナイト状態を解除するんだッ!!」

 

指令が叫ぶとクリスと切歌はイグナイトを解除し、通常状態へと戻った。

 

「はぁ…はぁ…どーなってんだ……」

 

暴走の衝動に駆られ、それに抵抗したせいで2人は疲れ果てていた。

 

「ここで、カルマノイズが来たら……大変デース…」

 

切歌は歯を食いしばり、蹌踉けながらもイガリマの鎌を杖替わりにして立ち上がった。

 

しかし、その場にはもうカルマノイズの姿は無かった。

 

 

「カルマノイズ反応消えました!」

 

 

「あれが、イグナイトシステム……」

 

調はモニターを見つめながら呟いた。

未来はその調の姿を、心配そうに眺めていた……

 

 




ご覧頂きありがとうございます
今回は戦いメインで書かせていただきました。
少し、短いかも知れませんがお許しをm(*_ _)m
誤字脱字やミス等ありましたらコメントお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

太陽の絶望、月の願い

4話です。


クリスと切歌は本部へと戻ると、そこにはギャラルホルンへと飛び込んだ響、翼、マリアの姿があった。

 

「あ!!クリスちゃんと切歌ちゃん!!おかえりー」

 

「およー?皆さんお揃いで」

 

どうやらこの3人は調の状態をエルフナインから聞いた様で、あまり調の事には触れないでくれた。

そして、翼達は向こうでの出来事を話し始める。

 

「向こうには櫻井了子が生きていました」

 

翼がそう言うと指令、風鳴弦十郎は

 

「櫻井了子だとォ!?」

 

と驚いていた。

なぜならこちらの世界の櫻井了子はフィーネとなって、姿を消していたからである。

マリアは了子さんから貰った資料をエルフナインによかったらと渡した。

 

「向こうの世界では人型のカルマノイズは出現してんのか?」

 

クリスが3人に聞くと、向こうの世界では天羽奏が生きていて、やはり人型のカルマノイズが出現しているらしい。

向こうでも出ては消えるの繰り返しでなかなか対処出来ないとの事だった。

 

「そろそろ私達は戻らないと奏1人で任せるわけには行かない」

 

「ええ、そうね。行きましょ」

 

すぐに戻らないといけないらしく翼、マリアという順番でギャラルホルンへと飛び込んだが、響は目の前で止まり、見る限り何か言いたそうな表情をしていた。

 

「響先輩どしたデスか?」

 

「クリスちゃん、、切歌ちゃん、、頑張って!!」

 

と言い放ち、響は飛び込んでいった。

 

「調の事……デスかね…」

 

「あぁ、こっちはこっちの問題、あたし達で何とかしないといけねぇんだ」

 

「イグナイトが使えないとなるとどうしたらいいもんデスかね…?」

 

切歌とクリスは3人を見送った後、目的もなく歩き始めた。

 

「イグナイト無しの状態でユニゾンを発動しても、第二形態には歯が立たなかったしな」

 

「第二形態に対抗できる方法を暫く考えて見るデス」

 

「…ん?あれは……」

 

クリスが足を止めて、ある方向を見つめる。

切歌もクリスの見ている方を見るとそこには調とエルフナインが楽しく、時には真剣な顔で話していた。

 

「最近、アイツらずっと2人で居るよな。んまぁ、あたし達がアイツを放っておいて何だが…」

 

その光景を見て切歌は何か糸が切れるような切なさを感じていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「凄い……!これが…シンフォギアの……!」

 

調と別れ、研究室へ戻ってきたエルフナインはマリアから受け取った櫻井了子の資料に目を通していた。

 

「櫻井理論の…提唱者……ですよね?」

 

「し、調さん!?」

 

別れたはずの調が入口に立っていた。

何故そんな事が調に分かるのかエルフナイン理解出来ていない。

 

「すみません、ちょっとばかり情報を覗き見しまして……」

 

「そうでしたか」

 

「私も見ても良いですか?」

 

と、調はエルフナインと椅子を半分半分にして座り、資料に目を通した。

 

「これがあればもしかしたらシュルシャガナが修復出来るかもしれません!」

 

エルフナインがいきなり立ち上がった。

 

資料にはシンフォギアの事が殆ど書かれており、その情報を元に完成への道を開ければ、シュルシャガナは復活出来るかもしれないとエルフナインは踏んだのだ。

 

「およー!!?調!!!ななななんでここに居るデスか!!!」

 

エルフナインに用があって研究室に入ってきた切歌はそこに調が居て、驚きを隠しきれずにいた。

 

「少し資料を見たいと調さんが言うので、一緒に見ていたんですよ」

 

「ホントはエルフナインちゃんに用があったデスけど、後でで大丈夫デース!調!今日も一緒にお風呂入るデスよ!!」

 

「え…?でも、資料が……」

 

と調はエルフナインの方を見ながら呟く。

 

「良いですよ、調さんにも後で見せますから」

 

とエルフナインは言い、調は切歌に連れて行かれてしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

少し休むことになりクリスと別れた切歌は調とお風呂へと向かった。

 

「切歌さん!私達1回も一緒にお風呂なんか…!」

 

「これから1回目になるんデスよ!」

 

「わわわっ…!!」

 

颯爽と服を脱ぎ、調を連れた切歌は調の脱服も手伝う。

調はそれに混乱する。

 

切歌と調はシャワールームの奥にあるお風呂へ入る。

 

「ふえぇぇ…あったかいデース」

 

「はぁ…なんでいきなり…」

 

そう言うと切歌は背を向けていた調の背中に額を付けて話し始める。

 

「やっと2人だけになれたデスよ」

 

「ぇえ?」

 

「最近はエルフナインちゃんが傍に居たり、友里さんとかもいるデスよ、2人きりになる時間が全く無かったデス……」

 

「……でも、切歌さんも忙しそうで私に会いに来る事も出来なかったでしょう?」

 

「…!?」

 

切歌は思いもよらない言葉が返ってきて、驚いて調の背中に付けていた額を戻した。

 

「た、確かにクリス先輩と特訓に付きっきりで調に会いに行けなかったデス…」

 

「エルフナインちゃんなんてそんなに私の傍に居ませんし、友里さんも飲み物を持って来てくれるだけ」

 

「で、でも……」

 

「切歌さんはクリスさんとの特訓などで忙しそうでしたし……」

「まあこれで話できました、私はここで上がりますね」

 

「調…?どうしたんデスか…?」

 

切歌は何かに怯えるような声で調を呼び止める。

 

「何が……ですか?」

 

「調は……そんな事を言う人じゃなかったはずデスよ…」

 

切歌は調とずっとそばに居るなのに、その調が遠くに行ってしまう気がしてならなかった。

 

「私は記憶を失ってしまった、ですがそんな理由で私がだらけてたら私のいる意味がないんですよ、その為にはこの世界を知らなきゃならないんです」

 

「調……待つデス調!!」

 

切歌は上がろうとした調の腕を掴む。

 

「ごめんなさい、離してもらえますか?」

 

切歌は何か大切な物を失う感じがして、調を懸命に止める。

 

「もう少し、もう少し話すデスよ!調!!」

 

「ごめんなさい!」

 

と調は切歌の腕を強引に取っ払う。

切歌はその反動で後ろへ倒れてしまった、その間に調はその場から立ち去った。

 

「しら…べ………し……ら………………」

 

地面の石に後頭部を強く打った切歌はその場で意識を失ってしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……ぅぇ……?」

 

目が覚めた切歌はいつの間にかメディカルルームのベッドに横になっていた。

 

確か、あの時調に突き飛ばされて……

 

「調!!」

 

様子がおかしかった調を会いに行くべく、恐らく居るであろう研究室へと向かう。

 

「調!!!」

 

研究室の入り口に立った切歌は調の名前を叫んだ。

 

「切歌さん…」

 

調が声を上げる。調は案の定、エルフナインと2人で資料を見渡していた。

 

「調、何故避けるんデスか……?」

 

切歌は少しずつ調の元へ近づいてくる。

 

「切歌さんからしては私は友人で、昔から一緒に居るって思っているんでしょうけど、私は何も思い出せない……だから怖いんですよ、今まで私を気にしてなかった人が馴れ馴れしくしてくるのが」

 

「でも……調は私の大事な人デス!」

 

「それは貴方から見た意見、私から見たら見知らぬ人がいきなり寄ってきて、話しかけられる感覚なんです」

 

「調さんはずっと切歌さんは大丈夫なのかって私に訪ねてきました。私は調さんと切歌さんがいつも通りの関係じゃないのは少し嫌な気分です。ですが記憶が無くなってしまった以上、どう接するか考えないといけないと思うんです」

 

エルフナインが加えて切歌に伝える。

 

「ただ…私は……今までと一緒に……調と仲良くしようと………」

 

「今までの私なんて私は知らない……だからどの程度まで仲良かったのかも分からない…分かってあげたいのにどうすることも出来ない……この気持ちを分かって言っていますか……?」

 

「しら…べ………」

 

切歌は現実を受け止めきれず、その場から立ち去ってしまった。

 

(いつから……いつから進む道を間違えたんデスか……)

 

廊下を走っていると向い側からクリスが歩いてきた。

 

「おぉ、どうしっ………」

 

切歌は声を掛けたクリスを無視し、全速力で走っていった。

 

(今のは……調と何かあったか……?)

 

違和感を感じたクリスは切歌を追いかけた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「良かったんですか…?」

 

エルフナインが調に聞く。

 

「何が……?」

 

「一番頼りになるのは切歌さんですよ?それを切り離すって……」

 

「そうしないと、切歌ちゃんの苦痛でしかなかった泣き声をまた聴くことになっちゃうから……」

 

「調さんは本当に記憶は無いんですよね…?」

 

「うん、記憶は本当に思い出せない…ただ記憶の上書きはされてない」

 

そう、実際調は記憶の上書きなんてされていなかった。

調の企みは最後の最後で切歌に一番の笑顔になってもらう事。

 

何も知らなかった私に隅々まで教えてくれたのは切歌ちゃんの方だ。切歌ちゃんだって私の前で泣きたいと何回も思ったと思う。でも、私の前では涙一滴流さなかった。

 

『この世界の誰よりも可哀想じゃないデスかー!!』

 

一番悲しいはずなのに私を一番に考えてくれた。

 

 

『ッッぁああああああああああああああ!!!』

 

この狂うように泣き叫ぶ切歌ちゃんの声を聞いた。

 

私はあの苦しみの声以上の嬉しさの声が聞きたい。

苦しくて泣き叫ぶ声は聞きたくない。

 

私が求めるのは嬉しくて泣き叫ぶ切歌ちゃんの姿…

 

だから私は切歌ちゃんを切り離す……

 

 

お風呂で倒れた切歌をベッドまで運んだ調は服を着せて、風邪ひかないように布団も掛けて気づかれないように、部屋から出ようとした。

 

「お前は何がやりたいんだ…?」

 

「今は……言えないですね…切歌さんには内緒にしてもらえますか…?」

 

調は廊下に居たクリスに記憶の上書きがされていない事を気づかれないためにあえて切歌さんと話した。

 

「それは無理な話だ、お前がアイツをここまで運んだ事は言わせてもらう」

 

「はは…ケチですね…」

 

調はそう言うとクリスの元から去っていった。

 




ご覧頂きありがとうございます!
シリアスな展開になってきました。この後もこれでもかと思うほどに切歌はドン底に落とされます。
お楽しみにしてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

太陽の絶望、月の願い②

5話になります。


切歌と別れた後、あたしはどうしたらあのカルマノイズに勝てるか考えていた。それと同時に、切歌と調の事を考えていた。

 

「ああぁー、わっかんねーなー」

 

数十分たった後、あたしは気分転換に廊下を歩き始めた。

角を曲がろうとした時、その先にメディカルルームに切歌を運んでいる調の姿があった。

あたしは中に入った調に気づかれないように扉の横の壁に寄りかかり腕を組んで耳を澄ませたが、特に話し掛けるような事は無く調が出てきた。あたしは調を呼び止める。

 

「お前は何がやりたいんだ…?」

 

「今は……言えないですね…切歌さんには内緒にしてもらえますか…?」

 

調はこの事を切歌には内緒にして欲しいらしいがそうもいかない。

 

「それは無理な話だ、お前がアイツをここまで運んだ事は言わせてもらう」

 

「はは…ケチですね…」

 

と言うと調はそのまま去ってしまった。

 

「あー!なーんか気が向かねぇな…」

 

あたしは気晴らしのためトレーニングルームでひと暴れすることにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

トレーニングルームから出て、切歌の様子を見に行こうとした時、切歌が向こうから走ってくるのが見えた。

 

「おぉ、どうしっ………」

 

声をかけたが、切歌は無視して走り去ってしまった。

 

(アイツとなんかあったか……)

 

と思い、あたしは切歌を追いかける。

 

クリスは(切歌はいつもの倉庫にいる)と予測し、倉庫の部屋へと足を踏み入れる。

しかし、そこには切歌の姿は無かった。

感じるのは微かな風の音だけ…

 

「風……?」

 

この空間で風を感じる事は多々ない。

だが、今風を感じるということは倉庫の部屋を出てすぐのベランダのような場所に出る扉が開いている可能性が高い。つまりそこに切歌が居てもおかしくない。

クリスは外に繋がる扉をゆっくりと開く。

クリスの目の先には壁に寄りかかり上を見上げている切歌の姿。クリスの考えに狂いは無かった。

 

「ここに居たか…」

 

「あぁ、クリス先輩デスか…」

 

切歌の声は涙に堪えながら発してる声ではなく、ただ悲しい雰囲気の声でも無かった。

聞こえたのは気力が無い声…

 

「何があった、アイツと…」

 

「調に嫌われた、私はもう何もする事は出来ない…」

 

いつもならば語尾に「デス」を欠かさず付けていた切歌だが、今回は付けていなかった。

 

「デスって言わないと切歌って感じがしねぇな…嫌われたなら何とかして仲直りしようとするのがあたしの知ってる暁 切歌だぞ?」

 

「デス…か、なんかバカバカしく感じてきたデス」

 

「お前……」

 

「もう私は諦めたデス、調は今記憶を無くしているからそれだけで迷惑掛けたくないって言ってる……」

 

「でも、あと1日でまた上書きがー」

 

「されてないんデスよ、記憶の上書きなんて…」

 

「はぁ?」

 

クリスは切歌の発した言葉に戸惑っていた。

 

「調の記憶は上書きなんてされてなかった、つまり3人で一緒に思い出作りしたことだって覚えてる。にも関わらず、記憶の上書きで記憶がまた無くなったフリをしてる…」

 

「じゃ、じゃあなんでエルフナインは上書きなんて言ったんだ!!」

 

「きっと手を組んでるんでしょうね、何が目的なのかはわからないけれど…」

 

「なんだよ…それ……」

 

「私はカルマノイズを倒します。それだけに専念すればいい…」

 

「1人じゃ無理だ!お前も体感したろ!?」

 

「私は、もうカルマノイズを倒す事ぐらいしか出来ませんから……」

 

「アイツ…調の手伝いはしないってことか……?」

 

「そういうことに……なりますね」

 

そう言うと切歌は中に入ろうとクリスとすれ違おうとする。

切歌が横に並んだ瞬間クリスは切歌の手を取る。

そしてクリスは切歌を目の前に引っ張り出し…

 

パァァァン!!

 

と切歌の頬に1発ビンタを食らわせた。

 

「ふざけるな!!」

 

怒鳴るクリスだがそれに一歩も動揺せず、切歌は目線を下に逸らすだけだった。

 

「お前が居なきゃ、アイツがもし記憶が戻った時どーするんだ!!」

 

「………」

 

切歌は目を瞑り、暫くして目を開き、

 

「ごめんなさい…」

 

と呟く、その瞬間ー

クリスは切歌に鳩尾を殴られた。

切歌には多少の力があっても、莫大な力は無いだろうとクリスは殴られた瞬間思ったが、クリスは徐々に視界がぼやけていき、瞼が重くなってくる。

 

「きり…か………お……まえ……」

 

辛うじて声を出したが限界だった。

 

 

クリスはその場で気を失ってしまった。

 

ウィィン!ウィィン!

 

タイミングよく、サイレンが鳴る。

 

切歌は指令室へと歩きながら向かった。その背中は楽しげな雰囲気や悲しげな雰囲気など一切無かった。

切歌の背中には何も連想させるものなど無かったのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

切歌が指令室に入ると、そこにはエルフナインと調の姿もあった。

だが、切歌にとってもうどうでもいい事だった。

そこまで切歌は可能性を捨て、諦めていた。

 

「?クリス君はどうした?」

 

指令が切歌に問う。

 

「どうやらお腹が痛いらしいデス」

 

切歌がそう言うと指令の指示も待たずに出撃に向けて指令室を出てしまった。

 

「おい待て!!」

 

指令に呼び止められるが切歌はそれをも無視し出ていった。

 

「くっ!クリス君が来たら即出撃させる!!準備しておけ!!」

 

「切歌ちゃんなんか様子がおかしかった…?」

 

「そうですね…クリスさん不在も気になりますし…」

 

友里と藤尭はそう言うと、調とエルフナインはクリスを探しに行くと言い、トイレへと向かった。

だがそこにはクリスの姿は無く、調とエルフナインはトレーニングルーム、メディカルルーム、クリスが使っている部屋など探した。

しかしどこを探してもクリスの姿は見当たらない。

 

「どうして……」

 

調が考え込もうとした時、

 

「倉庫にいるかもしれません、行ってみましょう」

 

とエルフナインが調を連れ出す。

 

倉庫に来た調とエルフナインは、壁を背にお腹を抑えながら座っているクリスを見つけた。

 

「クリスさん!!」

 

エルフナインがクリスの元に駆け寄る。

 

「悪ぃ……うっ、ちょっとばっかし気絶してた」

 

「どうして…誰がこんなことを!!」

 

「切歌だ………アイツは今さっき何か引っ張っていた糸が切れた……」

 

「切歌さんが……?」

 

調は指令室で見た切歌の表情の意味が分からず、今さっきまでも分からなかった。だが、クリスの言葉を聞いて気づいた。

 

切歌は全てを諦めたのだと……

 

「……!!切歌さん…!!」

 

エルフナインは何か気づき、指令室へと向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「切歌ちゃんの居場所にエネルギー反応多数!!数は……っ!!500!?」

 

「500……だどォ!?」

 

「幾ら何でも切歌ちゃん1人では…!!」

 

「クソッ!!」

 

 

「大丈夫です」

 

指令室にエルフナインとクリスを抱えた調が入ってきた。

 

「クリス君…!何故そんなダメージを…!!」

 

「話は…後だ……それよりエルフナインがなにか気づいたようだ」

 

「今現在切歌さんは絶望の底の下居ます。救い出すことの出来ないほどの深い…深い底に……。切歌さんはその底よりも下の領域に達してしまった。つまり全てを諦め、自分の一番の願いだけを強く思う事で力を何100倍も引き出す。つまり、今の切歌さんなら対カルマノイズだとしてもイグナイトに打ち勝つことが出来る。そして尚、纏うことが難しくなったイグナイトを纏えるのならばイグナイトも強化されるはずです」

 

「イグナイトに打ち勝つことが、今の切歌君に出来る…のか…」

 

指令が言葉を繰り返す。そのままエルフナインは話し続ける。

 

「下手したら絶唱よりも上の存在かも知れません、イグナイトは可能ならばいくらでも段階を上げることが可能なので」

 

「でも、イグナイトのカウントは高速で減っていくだろ?そんなに持つのかよ!」

 

「それは切歌さん次第です。切歌さんが受けたダメージはきっとイグナイトなんかでは打ち消されないと思いますし」

 

「私は……失敗してしまった…」

 

調は少しだけ切歌に落ち込んで貰って、どうにかして自分で記憶を取り戻そうとしたが、記憶の無い調には切歌がどれだけ調を大切に思っているかしっかりとわかっていなかった。

その結果が、今の状況だ。

 

「アイツにとってお前は人生の1つみたいなモンだ……それを、お前はぐちゃぐちゃにした……相当な事がない限り…アイツは戻らねぇぞ…」

 

クリスはエルフナインに捕まりながら調に言う。

 

「切歌ちゃん……」

 

調はモニターを見て呟いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ノイズ出現場所にいた切歌はシンフォギアを纏わずノイズまで寄る。

数が多いため、すぐに切歌はノイズに囲まれてしまう。

 

「カルマノイズは……?」

 

切歌は辺りを見渡す。

しかしこれも数が多いためカルマノイズが居るのか確認する事はできなかった。

 

「カルマノイズのエネルギー反応あります!!」

 

友里がエネルギー探知して伝える。

すると切歌はこくりと頷き、ペンダントを取り出す。

 

「ーZeios igalima raizen tron」

 

詠唱を唱え、切歌はイガリマを纏った。

 

そして、切歌とノイズ約500体の戦いが始まる




ご覧頂きありがとうございます。
次回は戦いメインとなり、今後の切歌についても触れるつもりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ノイズ500 vs 小さな太陽

この話は6話となります。


「ーZeios igalima raizen tron 」

 

イガリマの詠唱が鳴り響く。

切歌は目の前の500体を相手に、1人で立ち向かおうとしていた。

調のシュルシャガナはペンダントの破壊。

クリスのイチイバルは何ともないが、装者が切歌によって負傷。

つまり、今戦えるのは切歌ただ1人、、

 

「私は…カルマノイズを倒すまで倒れない……」

 

切歌はそう呟くと、切歌の周りを囲んでいたノイズが切歌を襲いにかかる。

しかし、切歌は動こうとしない。

 

「あのバカ……囲まれたらこっち不利になるって…分かってんだろ……!」

 

クリスが調の肩を借りながらモニターを見て叫ぶ。

その声は切歌には届いていなかった。

 

手を伸ばせばもうノイズとの接触が可能なところまで寄ってきたところで、切歌は動き出した。

それは刹那の出来事だった。

 

「なん…だと!?」

「えっ……!」

「嘘だろ!?」

「ありえない…」

 

とモニタールームに居た指令、エルフナイン、クリス、調は同時に声を上げる。

切歌が動いた瞬間、囲んでいたノイズは一斉に砕け、灰のようになった。

切歌は囲んでいた大量のノイズの後ろ側に立っている。

どうやら切歌はこの一瞬のうちに50はいるであろうノイズを灰にさせたのだ。

切歌はノイズが溜まっている場所へ駆けた。

その速さは風を切るように素早く、そこに溜まっていたノイズすら一瞬で倒してしまう。

 

「今の切歌さんなら、カルマノイズにも…!!」

 

エルフナインが少しの可能性を考える。

 

「カルマノイズのエネルギー反応探知しました!ですが、この大きさは尋常じゃないです!!」

 

友里が言うと、皆息を飲んだ。

 

「やっと、お出ましか……」

 

切歌はカルマノイズの出現場所を見つめる。

そこからは第一形態、第二形態のカルマノイズの姿ではなく、何十体もの色々な形のカルマノイズが出現した。

 

「1体じゃ無かったのかよ…!!」

 

クリスは切歌を助けに行こうと、モニタールームを出ようとする。

 

「ダメです!その怪我では…!」

 

とエルフナインが止めると同時にクリスはバランスを崩し、倒れてしまう。

倒れたクリスは調がなんとか受け止めたが、クリスのダメージはあの1発で与えられるダメージだとは考えられないほどで、意識はあるけれど動けないという状況になっていた。

 

「クソッあくまでも手助けは要らねぇってか……」

 

数十体ものカルマノイズの姿を見つめる切歌に通常のノイズが襲いかかる。

切歌はノイズの気配に気付き、不意打ちされそうなところをギリギリ避ける。

 

「このぉぉ!!!」

 

切歌はノイズを邪魔だと感じたのか200はいるであろうノイズを一気に倒しに行く。

少しの時間が経ち、切歌は500体ものノイズを1人で消しさらった。

モニタールームの声は届かない、風の音も感じない。

頭の中に残っているのは昨日の調の表情と言葉。

それが頭の中から離れずにリピートされる。

 

「今はカルマノイズ……」

 

切歌は的をカルマノイズへと移行した。

するとカルマノイズは徐々に中心のカルマノイズに近づいていき、あっという間に一体化していた。

その姿は第一形態よりももっと人型で、素早さも攻撃も根っから上がってるように見えた。

 

「私は…カルマノイズを倒すためならなんだって使うから…」

 

切歌はどんな事をしても止めないとだけみんなに伝える。

クリスと指令、エルフナインはまさかと思いながら見つめる。

 

「イグナイトモジュール、抜剣!!」

 

ペンダントが切歌に刺さり、黒いオーラが切歌を包む。

クリスとやった時はこの時点で破壊衝動に飲み込まれそうになり、イグナイトになれなかった。

だが今の切歌は破壊衝動を耐える事が出来、イグナイトへ変わることが出来た。

それと同時に

 

「そうか……!!」

 

とエルフナインが言うとモニタールームから出て行ってしまった。

モニタールームは既に凍りついたような空間で、誰も話すことは無かった。

 

「まだだ、これじゃあ倒せない……」

 

この言葉にクリスは反応する。

 

「バカ…!!これ以上イグナイトを重ねたら…!!」

 

「イグナイトモジュール、抜剣!!」

 

切歌は既にイグナイト状態から重ねて使うことで力を倍増しようとしていた。

確かにイグナイトは重ねて使うことが出来る。

だが、二段階まで来ると破壊衝動が2倍になり抑える事さえ危うい状態になる。

 

「ぐっ……!」

 

切歌はぐっと堪える。

歯を食いしばり、左は右の右は左の上腕を掴み動き出しそうな体を抑える。

 

「はあぁぁ!!」

 

切歌は破壊衝動に打ち勝ち、第二段階のイグナイト状態となった。

 

「嘘だろ…!?カルマノイズの前でイグナイトを二段階も…」

 

流石のクリスも勢いのある話し方が弱くなる。

二段階のイグナイト状態は勿論通常のイグナイトよりもカウントが早く減る、はずなのだが

 

「カウント…イグナイト状態と変わりありません!」

 

と友里が伝える。

切歌は今の状態でカウントさえも抑えていた。

 

「がっ…あぁ…!!」

 

クリスは一瞬切歌の姿が暴走の姿に見えた。

昔響が起こした暴走と同じ姿が切歌にも一瞬だが表れている。

 

「おっさん!長い戦いになるとアイツが危ない!既に暴走状態になりかけてる!」

 

「なんだと!?だが、今の切歌君に我々の声は届かないだろう」

 

「だったらあたしが行くしかねぇ」

 

「無理だ!その怪我では!!」

 

「後輩を助けないで先輩輝度れるかよッ!!」

 

クリスは腹を抑えながらも切歌の元へ向かうために走り出す。

それを調は見ているしか出来ない自分に悔しさのばかり歯を食いしばる。

 

 

切歌はカルマノイズに目を向ける。

すると、そのカルマノイズは徐々に見覚えのある姿へ変わっていく。

 

響、翼、そして未来。

 

「そう言えば未来さん見ないと思ったけど、まさか…ね…」

 

切歌はそう呟くとカルマノイズへ一直線に向かう。

距離を詰めた切歌は鎌を振り下ろす。

未来の姿をしたカルマノイズは体の一部で剣の形を作るとその剣の形をしたものは本物の剣のように輝き始めた。

そして振りかざした鎌をスライドするように跳ね返す。

 

「一部を武器としてる…デスね…」

 

少しだけ距離を取った切歌は体の中で迸る破壊衝動に己を忘れないためにいつもの口調に戻す。

再度切歌はカルマノイズに攻撃を仕掛ける。

右、左、上、下、あらゆる方向から仕掛ける、何回かガードされるが着々とカルマノイズにダメージを与えることが出来ている。

一気に切歌は距離を取り、遠距離技を繰り出す。

やはり、多少当たるが何個かガードされてしまう。

 

「これじゃあいつまで経っても…倒せないデス…」

 

切歌はもう1度遠距離技を放つ。

今度はかなり被弾し、確実にダメージを与えることが出来た。

この調子で切歌は一気に仕掛けようとする。

その時、

 

 

 

ドクンッ!

 

 

「ぐぁっ…!!」

 

破壊衝動が体の中で暴れ始める。

切歌はその影響で膝を着いてしまった。

 

「はぁ…はぁ…もう少し保って…もう少し……もう少しだから……!!」

 

この隙が仇となったかカルマノイズが目の前に居た。

 

「くそッ!まだ、まだ倒れるわけには…いかないデス!!」

 

立ち上がろうとした時にはもうカルマノイズは剣を振り下ろしていた。

 

「クリス……先輩……」

 

切歌は目を瞑りクリスの名前を呟く。

 

 

切歌自身500体ものノイズを見た時は逃げ出したくなった。

誰かに助けを求めたかった。

だがクリスには酷いことをした、一人でやるしかないと切歌はそう思っていたのだ。

そのせいか、無意識にクリスの名前を呼んでいた。

目を瞑って身構えていると、

 

グチャ!と音の後ドス!と鳴った。そして、

 

「呼んだか……」

 

と真っ暗な空間から誰かの声が聞こえた。

いや、誰かじゃない、クリスの声が聞こえた。

 

目を開けると目の前にはクリスが第二段階ではないがイグナイト状態で立っていた。

縦に振り下ろしたカルマノイズの刀は攻撃を防ぐために右腕を横にして防いでいたので、クリスの前腕は半分斬られていて骨の部分で刀の動きを止めていた。

 

「クリス…先輩……腕が……!」

 

「こんなん気にするな……」

 

クリスは左の手で矢を放ち、カルマノイズを吹き飛ばす。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「クリス先輩…私あんなに酷いことをして……」

 

「あたしの弱さの表れだ。こんなんで倒れちまったんだからな…」

 

「でも、でも!!」

 

クリスはそっと切歌の頭を撫でる。

 

「お前が誰より頑張ってんのは一番そばに居たあたしが知ってんだ、たまに当たりたくなる時だってあるだろ」

 

「ただし…」

 

クリスの左手の動きが激しくなる。

 

「1人で抱え込もうとするんじゃねぇよ!!少しは頼れってんだ!!言ったはずだ!何があっても助けてやるって!」

 

クリスは切歌の頭をグシャグシャと擦ると手を離した。

 

「イグナイト状態ならこっちのもんだ、ユニゾン試すぞ」

 

「でも…右腕が……」

 

クリスの右腕は前腕から血が滴り落ちている。

その場に留めていたからか地面には血溜まりが出来ていた。

 

「大丈夫だ、こんな傷」

 

クリスはそう言うとカルマノイズの方へと走り出す。

切歌はクリスに合わせて駆ける。

 

「喰らいな!!」

 

クリスはホーミング弾をぶちかます。

その弾は体制が崩れているカルマノイズに全弾必中し、カルマノイズの動きを封じた。

 

「喰らうデース!!」

 

そこに追撃で切歌が迅速に鎌を切り付ける。

 

「トドメ!!」

 

切歌は全身全霊の力で鎌を上から振り下ろしカルマノイズを斬りつける。すると

 

「キャァアアアアア!!」

 

とカルマノイズから悲鳴が聞こえる。

 

「この声は……?」

 

すると黒いオーラが消え、中から小日向未来の姿が現れた。

クリスは倒れる未来を支える。

 

「ごめん…なさい……私…調ちゃんの記憶が無くなったから…楽しい事をすれば記憶が戻るかもしれないと思って、提案したのに…それも忘れたと聞いて私のせいで、もっと悲しくなってしまった……私の、私のせいで……」

 

「そんなに引きずって……」

 

未来はカラオケやゲームセンターへ行かせた責任感に耐えられずにその未来にカルマノイズが取り憑いたのだと言う。

 

「調……こればっかりは本当の記憶が無いんだとしても怒るデスよ」

 

切歌はモニターで見てるであろう調に話しかける。

 

「発端は調デス、記憶の上書きと言う嘘を付きその結果がこの状態デス、調が何をしたかったのかは分からないデスけど少なくとも未来さんまで巻き込んだのは事実デス」

 

「なんで……記憶の上書きが嘘だって……気づいていたの…?」

 

「今の調には分からないデスよ、私と調どのくらい一緒にいると思ってるんデス。例え記憶が無い調だとしても嘘ついてるついていないぐらいは分かるデス」

 

「そんなつもりでは無かったのに……私のせいで……」

 

その時、切歌とクリスの元に緒川さんの姿が見える。

 

「未来さんの手当てをしますので未来さんを」

 

「あぁ、頼んだ」

 

クリスは未来を抱き抱え、緒川さんに任せる。

緒川さんは未来さんを抱き抱えると一瞬で姿を消してしまった。

 

「これで……カルマノイズは倒せたのか……?」

 

「多分デスけど…」

 

「複数体居たからまだいる予感はするな……」

 

「調、記憶は戻ったデスか?」

 

切歌は小さなモニターで調の様子を確認する。

 

「何も変わってない…かも…」

 

「という事はやっぱりまだ居るって事デスね…」

 

その途端、切歌の視界の端で何かが動く。

切歌は動いた方に目を向けると、クリスが倒れていた。

 

「クリス先輩…?クリス先輩!?」

 

「っ…………」

 

「クリス先輩!!しっかりするデス!!」

 

クリスのイグナイト、イチイバルは強制的に解除され、私服のクリスの姿へと戻る。

 

そこで初めて切歌は気付く、目を瞑って身構えていた時に鳴った奇妙なグチャッという音は最初クリスが腕を斬られた音だと思ったが、実はクリスはその前に生身でカルマノイズの攻撃を受けていた。

 

クリスはカルマノイズの刀が上から振り下ろされる所に飛び込み、右の脇腹を斬られる。その一秒もしない後にイチイバルを纏い、腹の痛みのお陰で勢いでイグナイトへとなれたのだ。

シンフォギアを纏っていたおかげで痛みを和らげていたが、それも限界に来ていた。

 

倒れたクリスは脇腹から血が止まらず、目を開かない。

 

 

 

ドクンッ!!

 

「ぐっ……ここで……!がぁあっ……うぅぅぅ……!!」

 

衝動はまだ続いていてさっきよりも衝動が高まってきていた。

 

「クリス先輩を……助けないと……!!」

 

切歌はクリスを抱き抱え、急いで本部へと戻る。

幸い、切歌は第二段階のイグナイト状態を解除していなかったため素早く動く事が出来、すぐにメディカルルームへと運んだ。

 

 

 

ドクンッ!!!

 

 

メディカルルームでエルフナインにクリスを任せた後、切歌はイグナイト状態を解除しようとした時さっきよりももっと強い破壊衝動に苦しまされる。

 

「もう、ダメか……」

 

切歌は本部の外へ出る。

 

「何処へ行くつもりだ」

 

森の中へ逃げようとした切歌の行動を知っていたかのように風鳴弦十郎、指令が目の前に居て切歌を止める。

 

「私はもう暴走してしまう…それなら誰ニモ被害を加えナイ場所に……行カナイト……」

 

「そうはさせんな、ここは俺が通さん。通りたければ俺を倒すなり無視していくなりしろ!」

 

「お願いデスヨ……私の意識デ動ける間ニ遠クニ……!!」

 

「言葉の脅しでは通じない…か…ならば…!!」

 

「あぁ……ウッ…ア……ガァァァアアアアアアアア!!!」

 

切歌は遂に衝動に耐えられなくなり暴走状態へと変わる。

 

「アァ……コロス!!」

 

切歌は指令に突進する。

 

「……ッ!はぁぁッ!!」

 

猛スピードの突進を指令は両手で受け止める。

多少は後ろへ後ずさるが、スピードを抑え込むことが出来た。

 

「ありのまま、全てをぶつけろ!!」

 

指令が叫ぶ。

すると暴走した切歌は鎌を持ち、尋常ではない速さで鎌を振り回す。

指令は全ての動きを読み切り、当たらない場所へ避ける。

 

「もっとだッ!闇雲に切りつけようとしても俺には絶対当たらんぞッ!!」

 

「ヴァアアアアア!!!」

 

切歌はもっとスピードを上げて攻撃を仕掛ける。

だが指令はそれをも読み切り、避ける。

 

「オオォッ!!」

 

指令が吠えると猛スピードで切りつけてくる鎌を掴み上へ上げる。

鎌を持っていた切歌も一緒に上に上がってしまう。

 

「ガァアアア!!!」

 

指令は持ち上げた鎌を斜め上へと投げつける。

切歌はそのまま鎌と飛ばされてしまうが、その衝撃を元に指令に再度突進を仕掛ける。

気配で指令は悟る。

この突進にコロスの全てが詰め込まれている。

 

常人がモロ受ければ体は粉々になってしまいそうな勢いで迫ってくる。

 

「これで、止められなければ俺はここにいる資格などない!!」

 

と叫び指令、風鳴弦十郎は切歌の猛突進を片手で迎え撃つ。

指令はまだあまり踏ん張っていない状態だったため、最初のうちは切歌が押していたが、指令が踏ん張り始めると逆に押し返されてしまう。

 

「ぐっ……はぁああッ………はぁッ!!!」

 

指令は何とか片手で切歌の猛突進を受け止めることが出来た。

力尽きたのか、切歌はシンフォギアが解除され私服の状態になっていた。

 

「切歌君は人を頼らないのが悪い癖だ……」

 

指令、風鳴弦十郎は切歌をベッドへと持っていき指令室へと何も言わず戻って行った。

切歌は疲れたのかぐっすりと眠っているようだった。

 

 




ご覧頂きありがとうございます。
今回は3つの戦闘をメインにしてみました。
この物語は10話完結(予定)です。
クライマックスへの準備が少しずつ始まっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変わりない日々

この話は7話となっております


「調?クリス先輩……?」

 

切歌は気付くと夜中の街にポツンと立っていた。

辺りを見渡すと調とクリスがこっちを見つめている。

切歌が2人を見つけると2人は切歌を置いて行くように背を向けて歩き始めてしまった。

 

「調、クリス先輩!ちょっと待つデス!!どこ行くデスか!!」

 

切歌は手を伸ばしながら走り、追いつこうとする。

その途端、目の前にノイズが現れる。

 

「っ……!!ノイズ…?」

 

切歌はすぐにシンフォギアを纏おうとペンダントを取り、手の上に乗せた。

だが、手の上に乗せたペンダントはパリィン!と音を立て砕けてしまう。

「なんで……イガリマが……」

 

そうしている間にもノイズが迫ってきて、いつの間にか囲まれていた。

切歌はどうしていいか分からずにただ立ち尽くしていることしか出来ない。

遂に切歌はノイズの大群に呑まれてしまった…………

 

 

「デデェェェェス!!!!!」

 

目を開けると次に見た景色はメディカルルームの壁だった。

 

「夢……?」

 

切歌は何があったか記憶を遡る。

 

「私は暴走して、それで……」

 

暴走した後の事はよく覚えていなく、頭が痛くなる感覚だった。

 

「……!!クリス先輩!!」

 

記憶を遡ったお陰でクリスの事も思い出した。

切歌はイグナイト状態のままエルフナインにクリスを任せたっきりその後の事は何も知らない。

ベッドから起き上がってクリスの元へ向かおうとする。が、、

 

バタンッ!

 

切歌の視界がグワンと歪み、その場に倒れてしまった。

 

「どこも何も痛くないはずなのに……体が言うこと聞かないデス」

 

地面に座り込んだ切歌の元に風鳴弦十郎が姿を現す。

 

「切歌君、まだ動いたらダメだ。君の体は考えている以上に疲れている」

 

「で、でも何処も彼処も痛くないデスよ?」

 

「例え、刺激的に痛く無くても体の中は疲れきっているのだ、最近は頑張りすぎだ。少し休め」

 

「分かったデス…」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

未来を病院へ運んだ緒川は未来の状態を確認する。

 

「心、身体どちらとも異常は見られませんでした。少し休めばまたいつも通り生活出来るでしょう」

 

医師から説明を受け、指令に連絡する。

 

「未来さんの様態は異常は見られなかったとの事です。すぐに休めば大丈夫らしいです」

 

『うむ、分かった』

 

「そちらは大丈夫なのですか…?」

 

『切歌君は意識は元気だが疲れきっている、動くと体全てを壊しかねない。しかしクリス君は切歌君よりも重症だ。右の横腹を切断され、前腕も斬りつけられている。病院じゃ対処出来ないレベルだ』

 

「そうですか……」

 

『そっちは任せたぞ』

 

「了解しました」

 

緒川は風鳴弦十郎との会話を辞め、未来の看病へと移ることにした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「エルフナインちゃん!まだ!まだ血が……!!」

 

「分かってます!止血剤を投与して、出血を抑えましょう!!」

 

切歌から血塗れのクリスを受け取ったエルフナインは血の気が引いた。

まだ息はしているもののとても弱っていた。

 

「とりあえず、これで大丈夫かと…」

 

エルフナインはクリスの腹に包帯やガーゼなど使えるものはありったけ使い、クリスの出血を止める。

腕も動かないようにギプスの様なもので固定し様子を見る事にした。

 

「すみません調さん、クリスさんと出来るならば切歌さんの事を見ていてくれませんか?」

 

「エルフナインちゃんは……?」

 

「僕は…少しやる事があるので……」

 

「…分かった」

 

調はエルフナインに何も聞くことなく受け入れると、エルフナインは「ありがとうございます」といい、切歌のは別のメディカルルームから離れた。

エルフナインが居なくなった後すぐ、事態が動く。

 

「………んっ……」

 

「……ん?今……」

 

「……ゴホゴホッ…いててて……」

 

「クリスさん!!」

 

クリスの意識が戻ったのだ。

意識が戻った後で混乱していたクリスに調は起きた事を話した。

 

「ハハ……情けねぇな……」

 

「よかった…ほんとよかった…」

 

調は安心したのか、足の力がどっと抜けてその場に座り込んだ。

その調にクリスは立ち上がりながら話す。

 

「心配かけちまって悪いな。カッコつけて助けるだなんてほざいて自分がやられるとは……」

 

「クリスさん!まだ立ったら…!」

 

「だーいじょうぶだ、あたしはそんなに脆くねぇ」

 

(フィーネに散々あれこれやられたからな…体の傷は人1倍丈夫だと勝手に思ってるけど…)

 

イグナイト状態を本当の意味で纏えたわけではないクリスの体はかなりボロボロなはずなのに、クリスは難なく立ち歩くことが出来ていた。

 

「それよりも、切歌のほうだ」

 

「指令が止めてくれなかったら今はどうなっていたか……」

 

「早速向かうぞ」

 

クリスが外に出ながら呼びかけるが、調はその場から動こうとはしなかった。

 

「ん?どした?」

 

「怖い……切歌ちゃんと会うのは……次会ったら今度こそ私の全てを嫌ってしまう」

 

「あーなんだ、よーするに"私のせいでこんなになっちゃったから切歌ちゃんと会ったら何か言われそうで怖いー"、ってか?」

 

「は、はい」

 

………

 

「アホか」

 

「えぇ?」

 

「アイツがそんなに心が狭い奴じゃねぇっつーの。お前だって上書きされてないなら分かってるはずだ」

 

「それは…」

 

「それに、切歌に会えば小さな可能性かもしれないが記憶が戻るかもしれないだろ?」

 

「っ…!!そうですね……行きましょうか……」

 

調は"記憶が戻る"と発した時ビクッと体を震わせた。

クリスにはそれは何を表すか分からなかったが、多少は自分で解決出来るだろうと言う判断で敢えて何も言わずに切歌の元へ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

切歌の居るメディカルルームにクリスと調は入った。

 

「およー、調じゃないですかぁ、それに……ク、クリス先輩!?」

 

「よっ」

 

「よっ、じゃないですよ!!体大丈夫何デスか!?」

 

「思ったよりも傷が深くなくてな、あたしでも不思議なくらいだ」

 

「エルフナインちゃんと私で何とか止血したんだけど、一時期血が止まらなかったんですよ!」

 

「えぇ!?…………まじか…」

 

いつの間にいつもと何ら変わりない空間が作り出されていた。

どこか懐かしい様な感覚がクリスの心に染み渡る。

 

「出来ましたー!!!」

 

話をしているとエルフナインが走って飛んできた。

 

「もう!クリスさんの部屋行ったら誰もいなかったのでびっくりしましたよ!」

 

『出来ましたー!!…………アレ?』

 

エルフナインは自分であの時の様子を思い浮かべる。

誰にも見られてなくて良かったと心の中で感じ、ほっと息を吐く。

 

「出来たって何が……?」

 

調が聞くとエルフナインの口から信じられないものが発せられた。

 

「シュルシャガナ…!治りました!!」

 

エルフナインは櫻井理論の資料に沿ってシュルシャガナの修復を夜の睡眠を削り、全力を尽くしていた。

 

「ウソ…?」

 

「よかったデスね!!調!これで記憶が戻る可能性も増えたデース!」

 

この時もやはり調は"記憶が戻る"という言葉に身を震わせていた。

 

(もしかして戻るのが嫌なのか……?いや、だとしたらなんでだ…?あんな失敗して戻りたがるのが普通だと思うんだけどな…)

 

調の様子がおかしいとクリスは感じ始め、様子を見る事にした。

 

「切歌ちゃんは体は大丈夫なの…?」

 

調はエルフナインから貰ったペンダントを首に掛けながら問う。

 

「この通りバッチリデス!!……と言いたいところなんデスけど、流石に今回は堪えたデスねー」

 

「そりゃあイグナイトを第二段階まで上げるとかアホなことしたからだろ」

 

「そうじゃないと倒せなかったデスよー!」

 

「そうで"あっても"の間違いじゃねぇか?」

 

「な、な、なんデスとぉぉぉ!!」

 

「ひー怖い怖い」

 

切歌とクリスのやり取りを見ていた調はクスッと笑い、それに切歌とクリスは目を見合い、なんだか可笑しくなり2人も声を上げて笑った。

 

「しかし、みんな元気で何よりです」

 

エルフナインが笑いが絶えた後に言う。

 

「ま、そりゃああたし達だって特訓やらなんやらやったからな」

 

「切歌ちゃん達一時期私に殆ど目を向けないで特訓してたもんね」

 

「それは!調が記憶無くなったとかまた言ったからデスよ!何考えてるんデスか」

 

「うぅ……悪かったてぇ……」

 

調はしょぼんとしてしまい、切歌が慌てて慰める。

時間は刻一刻と過ぎていきその間に小さな言い争いや笑い話やたくさん話した。

 

「ふぅ…そろそろ疲れたデスねー」

 

「そうだな、あたしは向こうのメディカルルームに戻ろうかな」

 

そう言うとクリスは椅子から立ち上がり切歌に挨拶をして戻ろうとした。

同じく調もベッドルームに行くと言ったので調を先に通した。

クリスは調とすれ違う時、バッチリ調の表情を捉えた。

 

(何か怯えてるな…)

 

クリスは切歌に向けて手を挙げ、別れを告げる。

切歌は手を振ってベッドに横になると、すぐに眠りについてしまった。

 

調に気付かれないように着いて行ったクリスは調が倉庫に入っていくのが見えた。

倉庫へ向かうと調は奥の右の扉へと入った。

 

「全く……2人して倉庫大好きかって……全く同じ場所が落ち込む場所ってか」

 

クリスはそっと扉に近づく。

切歌ならば近づくと声が聞こえてくる。

調の場合は何も聞こえてこない。

クリスは勇気を振り絞って扉を開ける事にした。

 

ガチャッと音が鳴ると、扉が開く。その中には調が扉のそばで体育座りをして顔を伏せていた。

調は開いた扉からクリスが現れて驚いたのか顔を上げて

 

「なんでここに…?」

 

と言った。

 

「第一声まで同じとは……流石としか言えねぇな…」

 

以前切歌もここで泣いているところをクリスが入った時「なんでここに…?」と声を発した。

 

「そんな事はほっといて、お前、なんでそんな怯えてんだ?」

 

「………怖いんです……」

 

「アイツが?」

 

「いえ……自分が……」

 

「どーゆー事だ?」

 

「時々私の知らない記憶が映る時があるんです。多分これは記憶を失う前の記憶なんだと思いますけど」

 

「なるほど、つまり記憶が戻ったら今の記憶は無くなってしまうんじゃないかって考えた訳か」

 

「そう考えるとどんどん不安になってしまって……」

 

調は最近、徐々に知らない記憶が頭の中に過ぎっていた。

 

(ギャラルホルンに飛び込んだ先輩達がカルマノイズを倒してくれているのかもしれない…)

 

「でも、こうは考えないのか?失う前までの記憶だけが戻り、記憶が無くなった後の記憶はそのまま記憶されるって」

 

「考えたいんですけど……クリスさん……貴方達はいつどこで紹介しましたっけ……」

 

「確か、最初はアイツがお前に色んなことを教えてたな……まさかお前……」

 

「徐々に記憶が薄れて行くんです……きっと元の記憶が今の記憶を侵食している……」

 

「なるほど、これは切歌に言ってみよう」

 

「また迷惑掛けてしまいます!!切歌ちゃんだけには!!」

 

「そーやって1回失敗したろ?みんなで考えれば何かいい方法が飛びかかるかもしれない」

 

「……分かりました…自分の口から話します」

 

「その方がいい」

 

そして今日はクリスはメディカルルーム、調はベッドルームにそれぞれ行き、事情は起きた後に話そうと決めた。

 




ご覧頂きありがとうございます!
今回はゆっくりと物語を進めた(つもり)ことが出来ました。
切歌の体の疲れ、クリスの人を思いやる力、調の恐怖心などがこの回で目立ってくるはずだと思います。
のこり2話、3話で物語が終結するかと思います。
残り少ない期間ですがよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

月の決断

この話は8話となります


クリスと調はそれぞれの場所へ戻る時にこんな話をした。

 

「今ノイズ現れたらお前戦えるか?」

 

クリスと切歌は戦える体では無いため、今はエルフナインが治してくれたシュルシャガナを纏える調しか装者は居なかった。

 

「今まで皆さんに迷惑かけて来たのでそのくらいは出来ます!」

 

「よぉし、いい意気込みだー頼むぞー!」

 

クリスは左手で調の頭を撫でる。

調は少々頬を赤らめ、照れている様だった。

そうした後にクリスと調は別れた。

その時クリスはバレない程度に早歩きをして、メディカルルームへと戻った。

メディカルルームの扉を開けて、エルフナインが居ないことを確認する。

 

「エルフナインは………?」

 

クリスはメディカルルームを出て、ベッドルームへと向かってみる。

ベッドルームに着くと調が今入ったらしく後ろを振り向く。

 

「エルフナイン居るか…?」

 

「はい、ぐっすりと眠ってます。シュルシャガナを夜中頑張って治したので疲れたのでしょう」

 

「なるほど………ありがとな…」

 

とクリスは言い放ちメディカルルームへと急いで戻る。

メディカルルームの扉を開けて今度こそ中へ入る。

扉が開くと同時にクリスは床に膝を着いた。

 

「がはッ…!!はぁ……はぁ……」

 

さりげなく抑えていた横腹から手をどかしてみると服に血がにじみ出ていた。

 

「はは……これは……はぁ……厳しいな……」

 

クリスは四つん這いになって、ベッドの横の台に置いてある包帯と止血剤を取りに行く。

そうしている間にも前腕からも血がにじみ出てきた。

止血剤とは言え血がピタっと止まるわけでもなく効果は薄れていく。

クリスの予想以上の元気さに調とエルフナインは安心してしまったのだ。

 

「アホはあたし……の方か……」

 

ベッドにたどり着いた時、傷の痛みが激しくなっていた。

 

「ぐっ…ッ!がはっ!はぁ………はぁ………」

 

次第に出血は酷くなり、血が垂れ始めていた。

クリスは止血剤と包帯に手を伸ばす。

 

「これがあれば……はぁ……多少は……」

 

そしてクリスはなんとか止血剤と包帯を取る。

しかし、貧血で頭がフラっとしてクリスは倒れてしまう。

 

「クソッ!……これで…………!!」

 

その後、メディカルルームに声が響くことはなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「また…これだ…」

 

調は昔の記憶、孤児院にいる時の記憶が徐々に蘇っていた。

マムや少し幼い切歌と調、マリアの存在も分かってきた。

 

「嫌だ……私は月読調なんだ!他の誰でもない!この記憶は月読調の物なんだとしても!今の月読調は月読調なんだ!!」

 

調はバサッと布団をどかして起き上がると日が昇り始めている状態だった。

 

「どうしたら……」

 

調は切歌に話すためベッドから起き上がった。

エルフナインの様子を見ると、ぐっすりと眠っていたので起こさないようにした。

 

「クリスさんも連れて行こう…」

 

多少勇気を出せると思い、調はクリスの元へ向かう事にした。

ベッドルームを出て右に歩くとすぐクリスがいるメディカルルームがある。

調はクリスが起きているか確認するために扉を開く。

しかし、そこにはクリスがベッドの横で倒れている姿が調の目に映し出された、

 

「クリスさん!!!」

 

調は血だらけのクリスに顔を青ざめ駆け寄る。

 

「クリスさん!!しっかりしてください!!クリスさん!!」

 

調は懸命にクリスの体を揺らす。

 

「……ん……」

 

「!!クリスさん!大丈夫ですか!?」

 

「……ん、おはよう…」

 

「おはようじゃないですよ!これは一体…!」

 

床には血溜まりが出来ていてその上にクリスは倒れていたのだ。

 

「あぁ、止血剤と包帯をなんとか巻き付けて止血したんだけどな、貧血で倒れてそのまま眠ったみたいだ」

 

どうやらクリスはその状態で寝てしまったようだ。

 

「驚かさないでくださいよ……!!」

 

「悪ぃ悪ぃ、ちとシャワー浴びてくるから待ってな」

 

クリスはそう言うとメディカルルームに備え付けてある小さいシャワールームへ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「んで、切歌に言いに行かないのか?」

 

クリスは調が用意してくれた食パンをかじりつきながら言う。

 

「クリスさんについてきてもらおうと思ったんです。その方が勇気が出ると思って……その矢先にコレですよ!!」

 

「まあ何とかなったんだし、大丈夫だろ」

 

「ほんとに心臓止まるかと思いました!!」

 

「悪かったて……」

 

クリスはパンを食べ終わると調を連れて切歌の元へ向かった。

廊下を歩いているとクリスが口を開く。

 

「お前、どこまで覚えてる」

 

「えぇっと、切歌さんとクリスさんが私に挨拶しに来た時すぐサイレンが鳴った時は鮮明に覚えてます」

 

「って事は2度目のカルマノイズが現れた時か……お前、あたし達と遊びに行った時は覚えてないのか……?」

 

「不思議なことにその事は覚えてます。切歌ちゃんが一生懸命に何も知らない私に説明してくれたことも…」

 

「まあそれが覚えてるならまだ大丈夫だな」

 

そうしてクリスと調は切歌の居るメディカルルームに到着し、扉を開ける。

その時切歌は立ち上がって着替えている所だった

 

「およー?調にクリス先輩、おはようデス!」

 

「切歌ちゃん!!とりあえず服着て!!」

 

切歌は丁度全て脱いでいて、下着状態だった。調に言われて服を着た切歌はベッドに腰を掛ける。

 

「体は大丈夫なのか?」

 

「この通りバッチリデース!今度はホントデスよー?」

 

「お前の回復の速さはどーなってやがる……」

 

「クリス先輩も元気なようで」

 

「まあな」

 

(昨日の夜大変な事になった事は言わないでおこう…)

 

「それよりもコイツが何か言いたそうだったぞ」

 

調が言いにくそうにしていたのでクリスは敢えて調の発言時間を与えた。

調は覚悟を決めたのかゆっくりと切歌の元へ近寄る。

 

「どしたデスか?調」

 

「………切歌ちゃん……」

 

切歌は首を傾げて調の次の発言を待っていた。

 

「実は……記憶が徐々に忘れて言っているの、今の記憶が……」

 

「と言うのは……?」

 

「つまりだな、記憶が無くなる前の記憶が最近見えるようになってきてその代わり記憶がなくなった後の記憶が無くなっているらしい」

 

「切歌ちゃん、私もう、切歌ちゃんとクリスさんに初めて会った時の事も忘れて……2回目のカルマノイズが出現した時までしか覚えてない……」

 

調が泣き目になりながら勇気を振り絞って切歌に打ち明けた。

 

「やっと、私に言ってくれたデスね」

 

「えぇ?」

 

「ずっと待ってたデスよ、調が私を頼ってくれる時を……」

 

切歌は立ち上がり調をギュッと抱きしめる。

調は驚きを隠せずに涙だけが流れていた。

 

「驚いたりしないの……?私が今の記憶が無くなってることに……」

 

切歌は抱きしめた後調の肩両手を乗せると、少しの間があって切歌が口を開く。

 

「調」

 

切歌に呼ばれた調は涙を流しながらも切歌の顔を見る。

 

「知ってたデス」

 

切歌は今の調が見た事もない笑顔で言った。

調はどうして…と言うと今よりも大量に涙が溢れてきた。

 

「調、記憶が戻るって言葉に怯えてたデス。私も体以外は元気だったから考えてたデスよ、調の記憶が戻るのは凄くいい事デスけど記憶が戻ったら失ってた間の記憶はどうなるのかって…」

 

切歌は調に散々色々な事をされてもなお調の事を第一に思っていた。

 

「結果は思った通りデス、調が怯えた瞬間に私の考えてた今の記憶は無くなってしまうと言うのは憶測から確信に変わったデス」

 

切歌の憶測は完璧過ぎて、クリスも何も言えなかった。

 

「方法は2つデスよー。このまま記憶がなくなるまで楽しく過ごすか、記憶を無くさずに記憶を取り戻すか」

 

「記憶を無くさずに記憶を取り戻すことなんて出来んのか?」

 

クリスは率直な疑問を問う。

 

「それは調次第デス、今の記憶の調次第……私たちにどうこう出来る問題じゃないんデスよ」

 

いつもの切歌なら「出来るようにするんデスよ!」と言うが、絶望を味わった切歌は1つ成長していたのだ。

確かに記憶を無くさずに昔の記憶を取り戻す方法なんて切歌には分からなかった。ただ、自分がどうしてやる事も出来ないという事だけは確信していたようだ。

 

「私は……記憶が無くなっていくのは怖い……だけど、だけど!昔の記憶を取り戻した方が月読調としてはいいんだと思う…」

 

調は続けて話す。

 

「って考えたいけど…やっぱり自分が消えるのは怖い……」

 

「しょうがないデスよ、誰だって自分が消えるのを怖がるデス。今の調はどうしたいデスか?」

 

そう聞くと調は暫く目を瞑り考え込んだ。

その調に何を言うこともなく切歌とクリスは調が自分で答えを出す時を待った。

 

「決めたよ」

 

調は決心したように顔を上げた。

その顔には涙は映し出されていなかった。

 

「私は、私の為に今の記憶を無くす。それが今後記憶を取り戻した後の月読調にとって楽だから」

 

「調ならそう言うと思ったデス」

 

「ま、それしかないわな」

 

切歌とクリスはどうやら調の出す答えを大体予想していたらしく、特に反論もせず受け止めた。

 

「そうと決まれば最後に遊びまくるデース!!」

 

ウィィン!ウィィン!

 

「そうも行かないみたい、私行ってくるね」

 

サイレンが鳴り、調は司令室へ向かう。

 

「さて、私も準備するデスかね」

 

「ん?どこ行くんだ??」

 

「何言ってるんデスか」

 

 

 

「私も戦いに行くんデスよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「調君、君一人で大丈夫か?実践経験はあるだろうが、記憶が無いのなら初体験と同じような物だ」

 

「やって見せます!!」

 

「私もいるから大丈夫デスよ」

 

司令室に切歌が現れた。

 

「何を言ってるんだッ!切歌君はまだ体が万全じゃないんだぞッ!」

 

「んなことアイツに限って分かりきってるだろおっさん!」

 

後からクリスも入ってくる。

風鳴弦十郎も無理に止めるのを辞める。

 

「切歌はアイツのためなら何でもやるって聞かねぇからな」

 

「クリス君、君はダメだぞ!」

 

「わーってるって、こんな無様な格好で戦えるか」

 

切歌と調はノイズのエネルギー反応が出た場所へと向かう。

幸いと言っていいのかわからないがカルマノイズは出現していなかった為、切歌と調にとっても負担が少なく済みそうだった。

 

「調!行くデス!!」

 

「うん!!」

 

「ーZeios igalima raizen tron 」

「ーVarious shul shagana tron」

 

2人は詠唱を唱え、イガリマとシュルシャガナを纏う。

 

記憶を無くしてるとは言え、イガリマとシュルシャガナの相性はバッチリで、ノイズを次から次へと灰にさせる。

 

「バッチリデス!調!!」

 

「うん、なんとか動ける!」

 

ノイズを倒していると中央にボスらしき大型ノイズが現れ、切歌と調は一緒に飛び込む。

 

「デェェス!!」

「やぁぁ!!」

 

手を繋いだ切歌と調は大型のノイズに1発蹴りをお見舞いした。

いつの間にか切歌と調はユニゾンの力を発していて、フォニックゲインが上昇していた。

おかげで大型のノイズを倒す事が出来て、その場からノイズは消えた。

 

切歌と調は本部へと戻る。

すると本部にいた人全員よくやったと言ってくれて切歌も調も嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、改めて最後に遊びまくるデス!!」

 

切歌は調を引っ張って早速出発しようとした。

その切歌を見たクリスはやれやれと呆れた顔をしながら切歌の後を着いて行く。

丁度エルフナインも起きたようで、クリスは無理矢理エルフナインも連れて行くことにした。

本部の外へ出ると前には緒川さんが車から降りて待っていたかのように手を振る。

中には未来も居て、未来が車から出てくる。

 

「迷惑かけてごめんね、みんな乗って」

 

切歌と調は何が起きているか分からなかった。

クリスは緒川さんにアイコンタクトを送り、車に乗る。

 

切歌と調が戦闘中の時に、緒川さんから未来が退院した事を聞き指令、風鳴弦十郎が緒川さんに最後の思い出作りの手伝いをしてやれと言ってくれて、移動手段として手配してくれたのだ。

その事を切歌と調に話すと切歌はとても喜びはしゃぎながらも車に乗る。

 

「もうこれは要らねぇな」

 

クリスは車に乗ると右腕に付けていたギプスを取り、包帯すら取った。

包帯の下に現れた上腕は嘘みたいに何も跡が無く、横腹も包帯は必要だが、殆ど傷が治っていた。

 

「何でデスか!?」

 

「言ったろ?あたしは人1倍体が丈夫なんだ」

 

(ここまで治るのは想定外だったが……)

 

そして、緒川さんの車に乗った切歌、調、クリス、エルフナイン、未来の5人は遊びへと出掛けたのだった。

 

 




ご覧頂きありがとうございます!
時間が無く、少し期間が空いてしまうかと思いましたがなんとか8話を書くことが出来ました。
今まで暗い話ばかりでしたが、8話の最後にはみんな揃って出かけると言う展開になりました。
恐らく次回最終話となります。
短い期間でしたがご覧頂いた方はありがとうございました!
9話の後には番外編として切歌、調、クリスの3人がこの話を読んだ感想みたいな感じの話を書きたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

月の消失 ー終ー

この話は最終話、9話となります


緒川さんの車に乗る時、助手席にクリス、後ろの座席は左から未来、調、切歌と座るがエルフナインの場所が無く、エルフナインがあたふたしていると未来がエルフナインを膝の上に乗せ、エルフナインはキョトンとした顔で未来の膝の上に座らされた。

 

「ぼ、僕は子供じゃないですよー…」

 

「ここの中では1番小さいじゃない?」

 

照れているエルフナインに未来がニコニコしながら言う。

エルフナインはしょうがなく未来の膝の上に座らせてもらう事にした。

 

「ねぇ、切歌ちゃん」

 

「どしたデスか?調」

 

車が走り出して少しした時調が切歌に疑問に思った事を言う。

 

「どうして私が記憶を無くすって言うって思ったの?クリスさんも…」

 

「調は記憶を無くしても調だと思ったからデスよ」

 

切歌の説明では不十分で調は頭の上にハテナを浮かべていた。

 

「よーするにだな、前の記憶だろうが今の記憶だろうがお前はお前だ、あぁ…説明すんの難しいな…つまり長い付き合いならでは分かる感覚みたいなもんだ」

 

「デスデス!」

 

調はこれでもやっぱりよく分からずハテナを浮かべていた。

 

「そろそろ着きますよ」

 

緒川さんが言うと外には遊園地の観覧車やジェットコースターが見えた。

 

「およー!沢山あるデース!!」

 

「楽しそう…!」

 

切歌と調は車から降りるとわくわくしながら遊園地の方を眺める。

 

「フリーパスのような物を指令が手配してくれたのでこれでいくらでも楽しめますよ」

 

緒川さんがチケットの様なものを渡してくれた。

エルフナインがチケットを受け取るとチケットにはこどもと書かれていた。

 

「だから子供じゃ無いですって!!」

 

「冗談です」

 

緒川さんはクスッと笑い普通のチケットを取り出す。

エルフナインは少し怒りながらチケットを受け取った。

 

「さて、どこ行くデスか?調が行きたいところ行くデスよー!」

 

「えぇーっとじゃあアレで!」

 

調が指を指した方向に皆目線を向けるとそこは90度に落ちるジェットコースターだった。

 

「げっ…」

 

クリスは呻き声を上げる。

 

「アレ?クリス先輩もしかしてジェットコースター苦手デスかー?」

 

「そ、そんな訳ねぇだろ!!」

 

「じゃじゃクリス先輩も行くデース!」

 

「僕も行きます!」

 

切歌と調、そしてクリスとエルフナインはジェットコースターの席へと座る。

 

「私は荷物見てるね、楽しんできて」

 

「クソッ!乗らないからって!!!」

 

「ふふっ」

 

ジェットコースターのシートベルトを付けられた時にクリスが叫ぶ。

それでも未来は動揺もせずニコニコして手を振っていた。

 

前列に切歌と調、後ろにはクリスとエルフナインがそれぞれ乗った。

そしてジェットコースターが動き出す。

動き出すと徐々に上へと登っていく。

 

「楽しみデスね!調!」

 

「うん、ドキドキする…!」

 

「ちょ、高い……」

 

「少し緊張します…」

 

切歌、調、クリス、エルフナインは登っている最中に身構えた。

ジェットコースターは90度に落ちる手前まで迫り、遂にジェットコースターが重力に引き寄せられる。

 

「うひょー!!」

 

「わぁあああ!!」

 

切歌と調は手を挙げながら楽しそうにしているが、エルフナインは

 

「おおお!!」

 

と驚いていた。

一方クリスは……

 

「ギャアアアアアアアア!!!!」

 

と聞いたことがないような叫び声を上げていた。

機体は勢いを増して、一回転する場所まで一気に走ってくる。

 

「まてまてまて!!落ちる!落ちるって!!やめてぇぇぇ!!」

 

クリスは機体が一回転している最中己が分からなくなるほど叫んでいた。

ジェットコースターは登ったり降ったりを繰り返し、スタート地点に戻ってきた。

 

「どうだったー?」

 

待っていた未来がみんなに聞く。

 

「楽しかったデース!」

 

「うん、凄かった!」

 

「案外楽しいものですね!」

 

切歌、調、エルフナインは満足した様子で戻ってきた。

 

が、クリスは年寄りのおばあちゃんみたいに腰が曲がりフラフラになって歩いてきた。

 

「あれ?クリスジェットコースター大丈夫だったんじゃなかった?」

 

「一回転は無理だ、死ぬ……」

 

皆クリスを見て笑い声を上げた。

 

「さてさて調、次はどこ行くデスか?」

 

「んー、やっぱりお化け屋敷かな…?」

 

「あ、いいね!行こう!」

 

これに反応したのは未来だった。

 

「あたしはいいや、少し休む…」

 

クリスはジェットコースターの影響で行ける雰囲気ではなかった。

 

「エルフナインちゃんは?」

 

未来がエルフナインに聞く。

 

「ちょ、挑戦してみます!」

 

エルフナインは少し震えているが決心をしてお化け屋敷に行く事にした。

 

「私は行かなくていいデスよー、、、」

 

切歌はそーっとクリスの方へ寄る。

 

「切歌ちゃん行こう?」

 

調に誘われたが、切歌はブンブンと首を横に振った。

しょうがないので、切歌とクリスを置いて調、未来、エルフナインが中へと入った。

 

「なんでお前入らないんだよ…」

 

「お化けは無理デス!」

 

切歌は断言する。

 

「まああたしも同感だけどな」

 

どうやら2人はお化けなどの心霊に弱いらしく、逃げたようだ。

 

 

「ふわああああ!!!」

 

声を挙げたのはエルフナインだった。

後ろから肩を掴まれびっくりしたのだ。

 

「エルフナインちゃん、手に捕まって」

 

未来がエルフナインの手を握り、先へ進む。

 

「あ、光見えますよ!」

 

調は出口であろう場所を見つけた。

3人が出ようとした瞬間、上から真っ白な女性が出てきて3人とも叫び声を上げた。

 

「おぉ、怖かったぁ…」

 

「スリルあったねー」

 

「最後のは反則です……」

 

調、未来、エルフナインは見事出口から出る事が出来、外で待っていた切歌とクリスに合流する。

 

「どうだったデスか?」

 

「怖かっ……」

 

調が感想を言おうとした時、未来が手を出しちょっと待ってという合図を出した。

そして未来が口を開く。

 

「あまり怖くなかったよ、切歌ちゃんとクリスも行ける感じだったし」

 

「ホントか…?」

 

「嘘くさいデース…」

 

クリスと切歌は未来を睨む。

 

「はい、怪しむなら入ってみる!!」

 

未来は2人を無理矢理お化け屋敷の中へ入れる。

 

「未来さん、鬼ですか…」

 

エルフナインが呟くと未来が、

 

「2人のリアクションみたいじゃない?」

 

と言った。

 

 

「ちょちょっと、クリス先輩前行ってくださいよ!!」

 

「何でだよ!お前が行けよ…!!」

 

そう言いながら2人で先に進んでいると後ろに居たクリスの肩を掴まれた。

 

「ヒッ!!」

 

「クリス先輩変な声出さないでくださいよ!!」

 

「だだだだだってなんか肩掴まれられられ!!!」

 

「とにかく前に逃げるデス!!」

 

と前に進んでいると出口の光が見えた。

 

「出口だ!」

 

「早く出るデス!!」

 

クリスと切歌は走って出口へ向かう。

出口の前に来るとさっきと同様、真っ白な女性が上から出てきた。

その瞬間

 

「いぎぇあああああああ!!!!」

「ぎぇああああああ!!!!」

 

クリスと切歌は叫び出し、出口へ走り抜ける。

 

「無理無理無理無理だって!ホンットに!!」

 

「デスデスデス!!」

 

クリスと切歌は全速力で走り抜け、息切れていた。

 

「お疲れ様ーどうだったー?」

 

未来と他2人が寄ってくる。

 

「お前は…はぁ…はぁ…悪魔か…!?」

 

「本気で死ぬかと……はぁ……思ったデスよ!!」

 

2人の反応に未来はフフッと笑っていた。

すると

 

グゥゥゥ

 

と腹の音が鳴る。

 

「す、すみません…お腹が空いて…」

 

正体は調だった。

時間を見るともう昼食時で、皆もお腹空いていた。

 

「なら、少し休憩デース!」

 

イートスペースへ来た切歌達はみんなでお好み焼きを食べようということになり、お好み焼き屋さんへ足を踏み入れた。

店員さんが焼いてくれて、5人分に分けてくれた。

 

「これ美味しい…」

 

調が一口食べると美味しかったらしく目を丸く開いて言った。

続けて切歌も食べると「美味しいデス!」と言って絶賛した。

すぐみんな平らげてしまって、次にクレープをデザートに食べることになりクレープ屋さんに向かった。

それぞれ別の味を買って、ベンチに座って食べる。

 

「調の何味デスか?」

 

「チョコストロベリーかな?」

 

「美味しそうデスね、一口もらうデス!」

 

と言い切歌は調のクレープを一口食べた。

 

「あ!切歌ちゃんずるい!私も食べるよ!」

 

と調はお返しとして切歌のクレープを一口食べた。

 

「チョコバナナらしいデース」

 

「うん、美味しい」

 

切歌と調は少しずつ分け合いながらクレープを食べた。

 

「お腹もいっぱいになったデス!次はどこに行くデスか?」

 

「んー、どうしようかな…」

 

「ゲームセンターとかどうだ?」

 

クリスが提案する。

 

「いいですね!」

 

調はそれに共感して、ゲームセンターへと向かった。

切歌と調はリズムゲームで勝負をして1回目は切歌が勝ち、2回目は調が勝つ。

3回目はギリギリの差で切歌が勝利した。

 

「勝ったデース!!」

 

「うぅ、負けた……」

 

その時クリスとエルフナインは2人でゾンビゲームをやっていた。

 

「おらおら!もっと近づいてこいよ!!」

 

「この!この!いけ!あ!倒せました!!」

 

「なかなかやるじゃんか!」

 

クリスは流石銃の扱いは器用だ。エルフナインも不器用ではないのでそこそこ理解し、できるようになった。

クリスとエルフナインはゾンビゲームに没頭してしまったため、未来と切歌と調はUFOキャッチャーで色んなものに挑戦していた。

 

「これ取れたらクリスさんに上げないと…」

 

「あら、可愛いぬいぐるみ」

 

調が昔ゲームセンターで取った時みたいなタヌキのぬいぐるみを挑戦していた。

調が操作しているアームはぬいぐるみの場所にピッタリと入りそのまま持ち上げる。

 

「よし、そのまま……」

 

ぬいぐるみはアームに引っかかったまま取り口に向かう。

しかし、あとすこしの所でするりとぬいぐるみが落ちてしまい、ゲットすることは出来なかった。

 

「あぅ……」

 

調がガックリとすると未来がヨシヨシと頭を撫でた。

 

それぞれ満足したのか切歌、調、未来はクリス達がいるゾンビゲームの場所へ集まる。

 

「クリス、そろそろ行こー?」

 

「んあ?なんだもう終わりかもう少しぶっぱなしたかったんだけどなぁ」

 

クリスは未来に呼ばれ、エルフナインを連れて歩き出した。

 

「初めてやりましたけど爽快感があって楽しかったです!」

 

エルフナインがゾンビゲームを絶賛するとクリスが「分かってるなー!」と大喜びをした。

 

その後、カラオケに行ったりグッズショップへ行ったりして気付けば日が沈み、夜の遊園地へと変わっていた。

 

「すっかり夜になったデスねー」

 

「そうだな、遊びまくってたら時間も忘れてたなぁ」

 

時計を見ると10時を回っていた。カラオケに長い時間居たため時間が早く過ぎていったのだ。

各々話しながら歩いていると前から緒川さんの姿が見え始めて、見つけたのか手を振ってくれた。

 

「皆さん楽しかったですか?」

 

「バッチリデース!」

 

「うん!楽しかった!」

 

切歌と調が返事をする。

 

「でも…」

 

調が後に呟く。

 

「最後に観覧車……乗りたい…」

 

どうやら調は夜の景色が見たかったらしく観覧車は敢えて乗っていなかった。

 

「いいんじゃねぇか?」

 

「閉園までまだまだ時間ありますし、行ってきてもいいですよ」

 

緒川さんが許可をしてくれたので切歌達は最後に観覧車に乗ることにした。

 

「すみません、僕はそろそろ戻らないと行けないので…」

 

エルフナインがここで仕事があると言う。

 

「まぁしょうがないデス!エルフナインちゃんが楽しかったならそれで良しデス!」

 

「はい!とっても楽しかったです!!」

 

エルフナインは笑顔で話して、緒川さんの車へと戻る。

残された切歌、調、クリス、未来は観覧車に乗るために列に並んだ。

 

「混んでるデスねー」

 

「みんな夜景を見たいんじゃないかな?」

 

「なるほどデース!」

 

未来がそう言うと少しだけ列が前に進んだ。

 

「切歌ちゃん…」

 

調が切歌を呼ぶ。

切歌は調の方を向いて「どうしたデスか?」と調に問う。

 

「今日はありがとう、本当に楽しかった…」

 

「私もデース!とっても楽しかったデスよ!」

 

「実は…もう、昨日の事までしか記憶に無いの…」

 

「ってことは、3人で遊びに行ったことも忘れちゃったか…?」

 

クリスが調に聞く。

調は躊躇いながらも首を縦に振る。

 

「まだ今日の記憶は残ってるデス、この時を大切にするデスよ」

 

切歌が慰める。

すると調はニッコリと笑い、ありがとうと言った。

そして、切歌達の乗る番がやって来て切歌達は4人同じ部屋に乗った。

徐々に観覧車は上へと上がり、景色も見え始める。

 

「綺麗デスね!調!」

 

「うん…とっても……」

 

「綺麗だね、クリス」

 

「あぁ、滅多に見られるもんじゃないしな」

 

その時間は刹那のように過ぎ去っていき、4人は観覧車を降りた。

 

「調、もうやり残すことは無いデスか?」

 

「…本当はもう一つあったんだ…」

 

「なんデスか?言ってみるデスよ」

 

調は静かに横に首を振った。

 

「それは叶わない事だから…叶えられたとしても、その時にはこの私はもう居ない…」

 

「そう…デスか……」

 

調は歩いていた足を止めて切歌を見つめる。

 

「そろそろ月読調が起きるかな」

 

「調……行っちゃうんデスね……」

 

「うん、前の記憶も戻ってきてるし私の記憶は抹消される」

 

「調……」

 

「切歌ちゃん、クリスさん、未来さんも本当にありがとう」

 

「今の調と会ったことは忘れないデス、忘れるもんかデス!」

 

切歌が涙を堪えながら言う。

 

「たくさん迷惑かけちゃったけど、私も忘れないよ!」

 

未来が続けて言う。

クリスは

 

「色々悪かったな、お前には迷惑かけられたし迷惑かけた」

 

と腕を組みながら言った。

 

「本当は、もう変えることが出来ないけれど、本当は…もう少しだけこの楽しい時間をみんなと過ごしたかった……」

 

調が悔しがりながら話すと切歌の目からは自然と涙が溢れてしまった。

 

「調の前では泣かないって決めてたのに……おかしいデス…涙が止まらないデスよぉー!」

 

「私ではない月読調をまた宜しくね、きりちゃん」

 

調は前の記憶を遡り、敢えて記憶を失う前の呼び方で名前を呼ぶ。

 

「調………行か……ない…で……」

 

切歌は無意識のうちにずっと隠していた本音が出てしまった。

それに調は驚いていたがすぐに笑い始める。

 

「ごめんね、切歌ちゃん…私はもう今日の遊園地で遊んだことすら忘れかけている。そんな顔をしてると私が困っちゃうよ」

 

「でも……でも…!!」

 

「悲しいのは分かる、だがなコイツがやっと立ち上がって1人で決心した事だ。あたし達にはどうすることも出来ないっつったのはお前だぞ?切歌」

 

クリスが後ろから切歌に話しかける。

 

「もう行かなきゃ……」

 

「調…!待つデス!もう少し話すデスよ!!記憶がまだ残っているうちに!!今日の事を楽しく語り合うデスよ!!楽しかった事を思い出しながら話すのも……凄く楽しいデスから……!!」

 

「そうしたいけど……出来ないよ……!」

 

潤いも無かった調の輝く瞳から涙が零れる。

 

「私だって…!もっと話したい!楽しかった事を部屋でお菓子を食べながら!話したい!笑い合いたい!!けど……出来ないよ………」

 

「調……」

 

「だから……私の事は忘れないで欲しい!私は…私は……みんなの中に居るから……!」

 

その途端に調の周りにオーラが表れ、調を包み込む。

 

「調……!調ぇぇ!!!」

 

調はその姿のまま光へと変わる。調の体はそのまま倒れ、倒れた調を未来が抱き抱える。

記憶の塊のような光が調の周りをふわりと浮かび、徐々に細かくなっていく。

クリスは少しだけその場から離れ、後ろを向く。

 

「調!調は私の友人で、大切な人デス!いつまでも忘れないデスよ!!」

 

そう切歌は言うと、調の姿は足から少しずつ砕けていき顔の所まで来るところで調の口が5回動いた。

切歌には調の声は聞こえなかったがなんと言っていたのかハッキリ分かった。

切歌は涙を服で拭い、調を見届ける。

光の姿の調は鼻までになり、目に差し掛かろうと言うところだった。

後ろを向いていたクリスが振り向く。

そのクリスは切歌も調も、未来も見たことない泣き顔だったが口は笑っていた。

そして、涙を流しながら叫ぶ。

 

「じゃあなッ!調!」

 

初めてクリスの口から『調』という名前が出てきて、目だけだったが調が笑ったような気がした。

 

そして、調の姿は完全に砕かれて、天へ舞った。

切歌の服で拭ったはずの顔には既に涙が流れていた。

未来も調を抱えながら涙を流す。

 

「さて、あたし達がずっと泣いてても仕方がねぇ、調をさっさと運ぶぞ」

 

クリスはわざわざ前に出て、2人に顔を今更隠すようにして言う。

気を失っているうちに調を車に乗せて本部のメディカルルームに寝かせる事にした。

 

「良かったんですか、行かなくて」

 

「僕が行ってしまうと泣いてしまいますから」

 

「別に泣いても良かったんですよ?」

 

「僕は泣かないって決めたので…」

 

「それは心強い」

 

切歌、クリス、未来がこちらへ歩いてくる時に緒川さんとエルフナインはこうした会話をした。

 

「さて、戻りますか」

 

「デス!調が起きちゃったら理由話すのもめんどくさくなるデス」

 

そうして、調を含めた5人を乗せた車は本部へと走っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

切歌とクリスはメディカルルームに調を寝かせた後外へ出た。

 

「調にあれだけでよかったんデスか?クリス先輩」

 

「どーゆー事だ?」

 

「クリス先輩だって何か言いたいことだってあったはずデス。それなのに『じゃあな』の一言だったデス」

 

「別れに言葉なんて要らねぇんだ、一言でもその一言に詰められた感情は相手に届くはずだからな」

 

「ほぅークリス先輩地味にカッコイイデース」

 

「地味にとはなんだ!地味にって!」

 

「また怒ったデース」

 

クリスはカァッとなり切歌を追いかけようとしたが、今日だけは辞めておいた。

クリスから逃げた切歌は調が起きるまで調の傍に居た。

やがて日が昇り初めて、メディカルルームに日が差し始めた。

 

「……ん…」

 

それと同時に調の体が動く。

 

「調…?」

 

「……きりちゃん……?」

 

「もう!調ったら1人でカルマノイズに向かって無茶して!どうなるかと思ったデス!」

 

「えぇ?私そんなことしてた…!?」

 

「デスデス、何日も眠りの状態で心配したデスからね!」

 

「長い夢を見ていた気がする」

 

「ん?どんな夢です?」

 

「私が記憶を失った夢」

 

「ほぅー」

 

 

「きっと記憶失った調でも変わらない調だったと思うデスよ」

 

「え?」

 

「何でもないデース!」

 

「えぇ?ちょっときりちゃん!」

 

「へへー」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

調が目覚めて数時間経つとギャラルホルンから響、翼、マリアが帰ってきた。

切歌はおかえりデース!と言い3人を迎えた。

1度帰った時の雰囲気と違く、いつも通りの雰囲気だったためギャラルホルンに飛び込んだ後に解決したのだと察した。

 

ウィィン!ウィィン!

 

と帰ってきた途端にサイレンが鳴り、響、翼、マリアを休ませるために切歌、調、クリスが殲滅に向かった。

 

「行くデスよ!調!」

 

「うん!きりちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

調………もし、もしもデス。

未来さんもクリス先輩もあの調を忘れたとしても、私は暁 切歌は絶対に調の事は忘れないデスよ!

そして、最後に私に言った言葉も……………

 

 

 

 

ー終ー

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました!!
全9話という短いストーリーでしたが、完結まで書くことが出来ました!!
作品に関しては次に出す、【3人の装者による感想】で書きたいと思います。
ひとまずお疲れ様でした(自分で言うか…)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3人の装者による感想

これは本編ではありません。


「やぁやぁ、どもデース!この私の4期の曲、デンジャラス・サンシャインのサビの部分を抜き取って見事にタイトルにしやがったデース!」

 

「きりちゃん!ドストレート過ぎだよ!」

 

「まあそんなことは置いておいて、確か筆者はきりしら推しでその中でも調推しって言ってるのになんで調の記憶を失わせようって考えたんデスかねー?頭おかしいんじゃないデスか?」

 

「でも大好きだからこそかも知れないよ?」

 

「それ、調自分で言っちゃうデスか…?」

 

「んな事はどーでもいい!切歌に調は読んでどうだったよ?」

 

「やっぱり最後は調の記憶を失わずに戻せる事に何でしなかったデスかね?その方がハッピーで終わるデス」

 

「でも記憶戻っちゃうと今までの返せってなっちゃうね」

 

「気に食わないデース!!」

 

「それにしてもきりちゃん、私が記憶が無い間に別の私と楽しい事や楽しい事を………!!」ブツブツブツ

 

「クリス先輩はいつも以上に先輩らしかったデスよねー」

 

「先輩なんだからいいだろううが!」

 

「あ、そうだきりちゃん」

 

「どしたデスか?」

 

「私が最後倒れて運んでいる時、目を覚ましたら説明するのめんどくさいってどーゆー事なのかな……?」

 

「いや、それは、デスね、私のせいじゃないデスよ、デスデス…」

 

「じー…」

 

「調、視線怖いデス…」

 

「そーいやー最後調が切歌に言った五文字って何だ?特に書かれてなかったし気になるんだが」

 

「単純に『ありがとう』とかじゃないデスか?」

 

「『さようなら』かも知れない」

 

「切歌泣いてたから『泣かないで』もありそうだな」

 

「最期の最後で泣かないでって言うデスかねー?」

 

「あたしが知ってると思うか!?」

 

「でもその可能性も無きにしも非ずだよ」

 

「並木に使徒会わず?なんデスかそれ」

 

「なきにしもあらず!!ないわけじゃないって意味!」

 

「難しいデスねー」

 

「『愛してる』とかはねぇか?」

 

「クリス先輩……それはないデスわ…」

 

「うん、無いですよ…」

 

「なんだ!2人して!!」

 

「クリス先輩に恋愛は似合わないデス!クリス先輩は一匹狼のイメージしかないデスよ」

 

「んな事ねぇよ……!」

 

「そー言えばクリス先輩最初は私達のことを『お前』だとか『アイツ』って言って名前呼ぼうとしなかったデスよね?」

 

「そりゃあまあ馴れ馴れしくするのも好きじゃねぇし…?」

 

「その割には最後カッコよく私に『調!』って言ってた気が……」

 

「それはあたしのせいじゃない、絶対に!!」

 

「本当は最後の場面クリス先輩が『行かないでー』って言うはずだったらしいデスよ?」

 

「アイツはどれだけあたしで弄ぶんだ、キャラが崩壊してんだろ!」

 

「クリス先輩にキャラ意識なんてあったんですか…!?」

 

「お前はあたしをなんだと思って見てたんだ!!」

 

「それと最後に活躍した未来さん凄かったデスねー」

 

「話をそらすなぁぁ!!」

 

「クリス先輩をあんなにボロボロにしたしね」

 

「話聞いてねぇな……クソッ!」

 

「でも未来さん最初は名前だけ出て何もしなくって第一声が遊んできたら?だったデスね」

 

「それで未来さん現れなくなっちゃったもんね」

 

「そん時はアレだろ?カルマノイズに呑まれてたんだろ?」

 

「なんだかんだで未来さん強かったデスよ?」

 

「そりゃあ、まあね。カルマノイズと合体したんだもん」

 

「どうやら筆者、虹奏とかいう奴は最終回書いてる最中1人で泣いてたんだそうだ」

 

「クリス先輩、嘘は程々にするデスよ?」

 

「幾ら自分が弄ばれたからってそれは通じないかと…」

 

「なんで…お前らはあたしを敵にしてんだ……」

 

「という訳で最後までお付き合い頂き誠にありがとデース!!」

 

「次回作もなにか考えてるみたいだよ?」

 

「だがシンフォギアだとは限らないけどな」

 

「クリス先輩……」デスデス

 

「夢のない事を言わないでくださいよ…」

 

「まぁたあたしを敵にするのか!!」

 

「それじゃあまた何処かでデース!!」

 

 

ー終ー




最後までご覧頂きありがとうございました!!
全10話ということでこの物語は完結致しました。
少し期間を開けてから別作を書きたいと思います。
その時はまたよろしくお願いします!

また何処かで!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。