キュゥべえの関連業者 (蕎麦饂飩)
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少女漫画であったような……

ボーイミーツガール


イメージの曲は、
この恋、青春につき。(R-18)
のEDです。


この世界は他の世界と何が違うだろうか?

それを問われると、『巴マミの願い』が違う。そう答えるしかない。

 

同乗した両親が即死した交通事故で、虚ろな死の淵に沈んだ彼女は願った。

 

「たすけて」

 

 

その願いに応じてキュゥべえは彼女を魔法少女として契約させた。

其れが他の世界の定例だったはずだ。

だが、この世界線では彼女の願いは違った。彼女の一家は交通事故に遇わなかった。

にも拘らず彼女は契約の元に魔法少女に成り果てた。

 

 

 

彼女の願いは――――――――私を認めてくれる人が欲しい

 

 

彼女はボッチだったのだ。

その願いに何かを察したキュゥべえが「本当にそれで良いのかい?」と聞かぬほどに。

 

 

 

 

 

 

 

彼女の願いから幾つかの季節が過ぎ、彼女の運命に密接にかかわる少女たちが入学した年、

彼女は運命と会合した。

 

「みんな、このクラスに転校生が来たわよ」

 

婚期を逃す同僚を鼻で笑いつつ、自身も人の事を笑えない年齢の教師がそう告げる。

転校生が美少年や美少女なのはアニメのお話。最近の冷静な学生たちはそう高をくくっていた。

 

そんな大して期待値の高くない敷居の中、ドアを開けて入ってきたのは金髪碧眼の美少年。

巴マミのよく読む少女漫画、もしくはこっそりパソコンでチェックした乙女ゲームの王子様だった。

 

 

「宇保木スティルです。両親の仕事の関係でイギリスからやってきました。

まだまだ日本語に不慣れな所もありますが、これからこのクラスでお世話になります。

よろしくお願いします」

 

もはや、日本語が流暢すぎてその言葉が嫌味にしか聞こえない。

けれどもその爽やかな話過多に嫌味さは感じられない。

 

思わず担任も、あと数年たてば…とつぶやいてしまうのも仕方ない事だった。

 

当初の予想に反してクラスが熱狂に包まれる中、巴マミも例に漏れずその熱意に染まっていた。

だが、マミは何処かで彼にあった事があるという、在り得ない事実がデジャブの様に浮かんでいた。

 

そんなマミはクラスのある女子の質問に対するスティルの答えに一躍クラスの羨望と嫉妬を一身に浴びる人物になった。

 

 

「日本に来るのは初めてですか?

それと、日本に知り合いはいるんですか?」

 

その女子の問いに彼は答えた。

 

「日本に来るのは二度目だよ。初めて来たときはどうしていいのかわからなくてね、

その時に助けてくれた女の子に御礼が言いたくてこの土地に来たんだ。

日本語もそのために勉強してきた。今なら言えるよ。

――――――――――――巴マミさん、あの時はありがとう」

 

「……えっ?」

 

思わず驚いたような声を出すマミ。

そして記憶を必死に探る。あのような美少年は過去にあった事があるだろうか?

…いやない。そう結論を出す少しだけ前に僅かに外国人の男の子と話したことがあったような気がするが、

このようなキラキラ王子様だっただろうか?

正直、その記憶に自信は無い。

 

此処までの記憶の整理に掛かった時間僅か1.2秒。

世界をまたしても縮めてしまった巴マミ。

しかし残念かな。その記憶の整理に成功しても、その後のクラスの注目に対する耐性は、

おっぱい以外は目立たないボッチ系女子たる巴マミには存在しないのであった。

 

 

男子の冷やかしと、女子の余裕の無さを隠しきれない冷やかしモドキ…。

その中心に巻き込まれた片割れは憎たらしい程に爽やかに笑っている。

風も無いのに彼の周りにだけ涼しげな風が吹いている様だった。

 

巴マミは混乱の中、彼に救いを求めた。

そして彼はその視線を待っていたように彼なりの助け舟を出した。

話題を一瞬でシフトする言葉で。

 

 

 

「先生、僕の席はマミさんの隣で良いですか?」

 

助け舟はタイタニックだった。




これじゃただの最低系イケメンチートオリ主やん…。


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それはとっても素敵だなって

一昔前の少女漫画の王子様の様なスティルの登場で、密かに巴マミを狙っていた男子は卑屈に好きじゃなかったアピールを、

王子様に特別扱いされる巴マミに嫉妬した女子たちは、「あの子調子乗ってるよね。前から思ってたけど性格悪くない?」と、

裏で、というか巴マミには聞こえてスティルには聞こえない絶妙な位置で噂話を連日続ける。

 

そこで、弱った巴マミにひたすら頼ったり、頼られようとしたりする美少年スティル。

彼女が唯一の逃げ道に徐々に依存していく要素は準備されていたと言っていい。

 

彼女と登下校も共にしようとし出すスティルだったが、ある日用事があると言って先に帰っていった。

巴マミもその時には用事があった。――――――魔女退治と言う用事が。

 

巴マミが魔女を無事に倒した後、その視界の先に最近よく見る金髪があった。

 

「~■~~」

「~~■■~」

 

その会話の対象はキュゥべえだった。

良く知る二人(一人と一匹)に巴マミが近づいていくと彼らの会話が聞こえた。

 

「ねえ、日本の猫は皆喋れるの? それとも化け猫だけ?」

 

「意味が解らないよ…」

 

漸く聞こえる様になった会話はとても間抜けなようだった。

そして二人はマミに気が付いたキュゥべえの声によって同時に振り返った。

 

「マミさん、そのドレスも可愛いね。近代日本的ファッションは良く君に似合ってる」

 

「…彼は不思議だね。マミの友達かい?」

 

魔法少女の装束を着たマミに驚くことなくマイペースに口説く様に話しかけるスティルと、

そんな彼に視線を一瞬流して溜息を吐くキュゥべえ。

 

そんな彼らに話を振られた巴マミはというと、流れる様に彼女の手を取って至近距離で話しかけるスティルと、

彼が恐らくコスプレを日本の近代的なファッションだと認識していて、それが染みついていると思われた事に赤面していた。

 

だから彼女は気が付く事も無かった。魔法少女(・・)でもその候補でもない少年(・・)が、

どうしてキュゥべえと語り合っているのかという根本的な疑問に。

 

 

 

次の日も彼がいつ魔法少女の服の事をクラスで話すか気が気で無かった巴マミだったが、

結局彼の口からその言葉が出る事は無かった。

なので一応、下校の時間にスティルにそれとなく秘密にするように釘をさす巴マミだった。

 

「あのね、昨日の服に関しては秘密にしてくれるとうれしいのだけれど…」

 

その言葉に彼は何時ものように爽やかな笑顔で答えた。

 

「じゃあ、僕達二人だけの秘密だね。

だからまた今度、僕だけに見せてくれるとうれしいな」

 

もう、少女漫画の世界であれば理想的な回答だった。

巴マミの理性が沸騰しそうになる位だった。

思わず足がふらつきそうになった彼女を、まるで構えていたように、

スティルは余裕のある優雅な動きでその腰に手を伸ばして引き寄せる様に支えた。

 

巴マミの依存度はまた深みに堕ち(上昇し)た。

他のものが見えなくなっていくほどに。



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もう何も残さない

「そろそろ頃合いじゃないかい? パンドラの親玉」

 

「いや、まださ。まだ絶望へ反転させるのは早すぎる。

もっと彼女は美味しくなれる筈さ。そうじゃないか? キュゥべえ」

 

 

 

少女を魔の側に引きずり堕とす白き獣と、太陽のように輝く金糸を吹かぬ風に棚引かせる少年は、

誰も居ない空間で会話する。

 

 

 

「相対的期待値の少ない個体に、あまりコストをかけたくないんだけど」

 

僕を生み出した(・・・・・・・)願いの少女にあんまりな言い方じゃないか」

 

 

 

少年も獣も互いを侮ったような印象を崩さないまま、姿勢だけは慇懃に話をしていた。

 

 

 

「君にそこまでの権限はあるのかい、使い捨ての子会社(希望の裏側)

 

「…精々、親会社(絶望の収穫者)の期待に応えるとするよ」

 

 

互いに言いたいことだけを告げると、獣は昏き光の中に、少年は眩き闇の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巴マミはある魔女を追っていた。

お菓子の魔女シャルロッテ――――――その性質は執着。

構成するキーワードは『ガン治療』『チーズケーキ』『未成熟な少女』

 

巴マミが知る由は無いが、病に倒れた母に好物のチーズケーキを振る舞う為にキュゥべえと契約した魔法少女のなれの果て。

巴マミは一緒についてきた後輩である、後輩である鹿目まどかと美樹さやかの前で良い所を見せようと、

シャルロッテがチョウチンアンコウの疑似餌の様に顕現させている仮の肉体を本体と思い込み、

最大火力で圧倒したところで油断しきって居た所だった。

 

可愛らしい人形のような体から、ウツボの様な本性と肉体を現したシャルロッテに、

警戒を解いていた巴マミはその首を食い千切られる―――――はずだった。

 

 

「無毒化措置――――それが廃棄物の元燃料に必要な措置だ」

 

金髪碧眼の少年が何時の間にか其処に居た。

彼が指を鳴らすと、シャルロッテの周囲に幾つものシャボン玉が現れる。

そのシャボン玉はどれも鏡のように明確に物を映し出す鮮明さを表面に張り付けていた。

シャボン玉に少女とその母親が映し出される。

その舞台は病院。少女は母親にチーズケーキを差し出すが、チーズケーキが母親の口に入る手前で、

チーズケーキに紅い液体が掛かる。勿論それはイチゴのソースなどでは無く母親の吐血によるものだった。

そして母親は全身が黒く染まり、腐り堕ちて逝く。

 

それが何度も再生されて繰り返されていった。

そしてその再生の度にシャルロッテの身体が薄まっていく。

 

「マミさん、救けに来たよ。怪我は無い?」

 

そう爽やかに話しかける彼の足元に、今まさに消えかかるシャルロッテが喰らい付こうとしたが、

其れは片足を軽く上げながら跳躍したことによって躱された上に、

跳躍の結果である着地と同時に、その頭蓋を踏み抜かれた。

 

「…巴マミの前でカッコ良く決めたかったのに、全くしつこいね。

お菓子の魔女シャルロッテ…君の役目はもう終わりだ。

いや、もうとっくの終わっていたんだ。燃え尽きた煤は吐き捨てるに限る」

 

その魔女にだけ聴こえる様に呟かれた声は、底冷えする様な冷酷さを孕んでいた。

いや、正しく冷酷そのものだった。

 

キュゥべえ=インキュベーターが少女を魔法少女に変えて、その魔法少女が魔女に堕ちる時、

その感情の位置エネルギーが宇宙の熱量維持の燃料になる。

つまり、工業的には魔女はもはや燃えカスでしかない。

 

少年にとってはそのような理論で、偶々有害な燃えカスを分解できる能力を持っていることを有効活用できるから、

そうするだけであった。

宇保木スティルは大きく分けて2つの能力を持っている。

一つは廃棄物であり有害物質たる魔女に対する天敵効果。

一つは既に魔法少女として契約する際に魔法少女としての商品価値が決まった少女の後天的な商品価値の格上げと再登録。

今回はその前者の能力が使用されていた。

 

勿論、魔女には厄災を振りまいて次の魔法少女を振りまく、少女を産む母としての役割はあるのだが、

少年にとっては孵る前に卵を喰らう母鳥は駆除対象でしかなかった。

母鳥がいなくても卵が出来るのなら、それは完全に間違いと断じる事は出来なかった。

 

寧ろ、願いの果てに希望が絶えた魔法少女の末路など、巴マミの信頼と依存を自分に引き寄せる為の道具としか思っていなかった。

魔女シャルロッテの中に、ほんのわずかに不完全燃焼として残っていた少女の部分を感知すると、

少年は、それを周囲の燃焼前の燃料たちに気が付かれない様に、完全に燃焼させた。

 

(自己の判断で予定以上の売り上げを得たとして、それを正直に報告して親会社に献上する必要はない)

 

少年は、内心でシャルロッテに成り果てて、燃え尽きる前に燃え残った魔法少女の部分を嘲笑いながら、

なるべく巴マミが惹き付けられるように、女性のピンチを救いに来た爽やかな騎士様を装う。

 

彼女を気遣う様に、軽く抱きしめて、その肩を撫でながら死の恐怖から立ち直っていない巴マミを慰める。

その『※ただしイケメンに限る』馴れ馴れしさで、巴マミの雌の部分を誘発させていた。

 

その奥で、燃料として焼き尽くすには、告白の後、キスの後、抱いた後…、

どの段階で絶望に突き落とすのが良いかという事を考えているのは表に出さない事は言うまでもない。

 

 

少女漫画から抜け出てきたような美少年に、少女たちの反応は様々だった。

 

文字通り、魔法少女とそのピンチに助けに来る美少年と言うファンタジーの世界にポーッとなるピンク色の少女。

確かに美形と言えば美形だけれど、恭介の方があたしは好きだなと意地っ張りの癖に色ボケした青色の少女。

少年の思惑に気が付く事も無く、少年の思惑通りにときめく鼓動を抑えきれない黄金の少女。

そして、今までの周回にこんなイレギュラーがいなかった事に警戒を露わにする、たった今この場に表れた漆黒の少女。

 

「――――貴方、いったい何者なの?」

 

漆黒の少女は金糸の髪を持つ男女の少年の側にそう話しかけた。

 

少年は外国人らしい少々オーバーなリアクションで、少なからず驚いたように黒い少女の方に振り向いた。

 

「うわっ、驚いたよ。何時の間に君は其処に居たの?

僕は宇保木スティル。君こそ何者なんだい?」

 

確かに、突如現れた少女に一方的に何者なのかと尋ねられた時に、標準的な感想はこうだろう。

『お前が言うな』

そんなギャグ染みた事をソフトに爽やかに言ってのける事が許されるのも、彼がイケメンだから許される所業である。

 

「私は…」

 

 

 

「転校生っ!!」

「ほむらちゃんっ!!」

 

「…へぇ、ほむらさんっていうのか。日本語の流れるような響きのある綺麗な名前だね。

彼女達のお友達かな? お友達ならいきなりワープしたか停止した時間を移動したかのように表れなくても良いんじゃないかな?

ましてや今僕に向けている銃はまさか本物じゃないよね? 君が銃刀法に違反しているなんて僕も彼女達も思いたくは無いよ。

取り敢えずこちらにおいでよ。友達になろうじゃないか」

 

スティルは相手の求める情報を伝える事無く、相手の情報を取得して推測して、その上で余裕をもって見せつける。

巴マミの弱点が『ボッチ』であることなら、暁美ほむらの弱点は『コミュ障』。

クラスの中心人物の様に振る舞って振り回してやれば、前者はそれに憧れ、後者は強烈な苦手意識を持つ。

暁美ほむらが急に表れた手段については追求する積りも必要性も感じていないが、

その『コミュ障』部分を追求するように、リア充オーラで押し切れば暁美ほむらにはそれだけで撤退の理由になり得た。

今までの時間軸では、彼女の周囲では精々、美樹さやかがリア充よりと言うだけで、

基本クラスの地味勢や社会不適合者たちとしか接点が無かった暁美ほむらにはキラキラ王子様は猛毒過ぎたのだ。

 

この状況で、彼女やマミの後輩たちへ希望の提示(絶望のお膳立て)をしてもいいが、

スティルにとってマミ以外の者にそれをする必要性も義務も無い。

 

故に、暁美ほむらが逃げ出したのを不思議そうに演じながら見送りつつ、

意識を巴マミを中心に再構築する。

 

 

「落ち着いたかな、マミ」

 

巴マミの依存度がある程度に達したと判断して、スティルはその呼び方を一歩踏み込んだものへと変えた。

名前を呼び捨てにされて少々ドキドキしている少女を視界に納め――――

 

 

「それにしても、君が無事でよかった」

 

抱きしめる腕の力を少し強めて引き寄せる事により、マミの視界から自身の顔を外した希望の光(パンドラの親玉)は歪に嗤った。



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