俺ガイルSS 貴方を守る為ならば (碧井)
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俺ガイルSS 貴方を守る為ならば (1)

比企谷家にて

 

「お兄ちゃーん!プリン買ってきて〜!」

 

「小町…人を使うんじゃありません」

 

「え〜だってお兄ちゃん暇でしょ〜?こんな休日の真昼間にどこにも出かけないでゴロゴロしてるじゃん」

 

「こ、これでも忙しいんだよ!」

 

「へぇ……そ れ が 忙しいの?」

 

「……買いに行きます行かせて下さい小町様……」

 

「よろしい!あ、あと次いでにカフェラテもよろしく〜!」

 

「へいへい」

 

 

 

小町視点↓

 

 

 

私比企谷小町は最近兄がおかしいと感じている。明確な根拠はないんだけど妹の勘というものだろうか?長年一緒に一つ屋根の下で暮らしてきたが故に兄の様子が最近おかしいと感じる。

 

ちょっとしたことなのだけれど、兄が夜中遅くまで起きているのである。これはまぁ特に、という訳ではないのだけど問題は夜中に何をしているかである。兄がコソコソと部屋から出て外に出かけていくのである。

 

前にコッソリついて行こうとしたらとんでもなく怒られてしまった。あの時怒ったお兄ちゃんは本当に怖くてビックリして泣き出してしまった。お兄ちゃんはおろおろしていて私を慰めてくれて、やっぱり私の勘違いなのかな……

 

 

八幡視点↓

 

 

 

(ふぅ……プリンとカフェラテをコンビニに買いに行こうとしたらまさかのソールドアウト……仕方なく少し遠い駅前のコンビニに行く羽目になっちまった……まぁ小町の為だしいいか……)

 

「あれ?比企谷じゃん?」

 

「げっ、折本…」

 

「うっわ〜今あからさまにげって顔したでしょーマジ受ける〜!」

 

「受けねぇよ……」

 

「てか比企谷こんなところで何してんの?」

 

「あ?別になんでもいいだろ?」

 

「なんか比企谷冷たくな〜い?」

 

「いつもこんなもんだろ?」

 

「それもそっか。てかあの時はマジ受けたわ〜!」

 

「いやどの時だよ……」

 

「ほら、あの何だっけ?合同で企画やった時のミーティングの時さ〜」

 

「あー……あの時はまぁ……な」

 

「比企谷と一緒にいたあの女子まさか彼女だったりするの?」

 

「なわけねぇだろ!」

 

「だよね〜!あんな綺麗な人が比企谷となんて付き合うワケないよね〜!受ける〜!!」

 

「てかもうそろそろいいか?俺もう帰るんだが」

 

「あ、いけない私もこれから友達と映画見に行くんだった〜!あ、比企谷友達いるの?」

 

「う、うるせぇ!さっさといけ!」

 

「ごめんごめん、それじゃまたね〜」

 

(出来ればもう二度と会いたくない……)

 

(さぁ小町が待っている我が家へ帰るとするか……)

 

 

 

比企谷家

 

「ただいま」

 

「お兄ちゃんおかえり〜!買ってきてくれた〜?」

 

「おう、ほれ」

 

「……お兄ちゃんこれプリンじゃなくて焼きプリンじゃん……」

 

「プリンだろ?」

 

「違うよ!焼きプリンじゃん!私が食べたいのは普通のプリンなの!」

 

「す、すまん間違えてしまった…」

 

「いいよ、私がちゃんと言わなかったのも悪いし、カフェラテは大丈夫だね!ありがとうお兄ちゃん!」

 

「おう」

 

 

 

小町視点↓

 

 

(お兄ちゃん私の大好物プリンだって知ってるはずなのに……なんで間違えちゃったんだろ……いつも間違えないで買ってくるのに……やっぱりお兄ちゃんなんかあるのかな……?)

 

八幡視点

 

 

(マズイ……何故俺は間違えたんだ……小町の大好物はプリンだと知っていた筈なのに……次は間違えないようにしないと……)

 

 

ピンポーン

 

「はーい!あ、結衣さんこんにちは!」

 

「小町ちゃんやっはろー!ヒッキーいる?」

 

「いますよ!ちょっと待ってて下さいね!」

 

階段タッタッ

 

「お兄ちゃん!結衣さん来てるよ!」

 

「あ?由比ヶ浜が来てんのか?」

 

「うん!なんか用があるのかも」

 

「分かった今行く」

 

タッタッ

 

「どうした由比ヶ浜」

 

「あ、ヒッキー!ちょっと話したいことがあって……」

 

「ここで話せるか?」

 

「場所変えてもいい?」

 

「分かった。それじゃサイゼに行くか」

 

「小町ー、ちょっと出かけてくる」

 

「うん!いってらっしゃい!」

 

「ういー」

 

 

比企谷視点↓

 

 

「それで……どうしたんだ?」

 

「えっとね……最近私誰かに付けられてる気がするの……」

 

「ストーカーか何かか?」

 

「分かんない……でも夜歩いてたりすると後ろから足音が聞こえてきて怖くなって走ったら後ろの足音も速くなって……私怖くなって……

すぐに家に帰ったの……それが昨日で……」

 

「なるほど……確かに女の子だしさぞかし怖いだろうな……俺に何か出来ればいいんだが……」

 

「こんなこと相談出来るのヒッキーだけだから……」

 

「三浦とかにはしたのか?」

 

「優美子は絶対危なっかしいことするから言わないよ…」

 

「雪ノ下は?」

 

「ゆきのんには心配かけたくないし……」

 

「そうか……それじゃあどうする?犯人を探突き止めるか?」

 

「そんなこと出来るの?」

 

「一か八でリスキーだが一つアイデアがないこともない」

「教えて教えて!」

「お前を夜出歩かせて、俺がポイントに隠れておく。そんでその時後ろに誰かいたら走ってくれ。そしたら俺が捕まえる」

 

「ヒッキー1人で出来るの?それに私怖いし……」

 

「確かに俺1人じゃ無理かもしれない……葉山でも呼ぶか?」

 

「それなら安心かも……」

 

「それじゃあ今夜決行するか」

 

「分かった!それじゃあまた後で連絡するね!」

「おう」

 

比企谷家

 

「戻った」

 

「おかえりお兄ちゃん!何か進展でもあった?ニヤニヤ」

 

「お前は何の話をしてるんだ……あ、それより今夜はちょっと出かけるから夜飯はいらん」

 

「あ、そなの?りょーかい!てかもしかして結衣さんと夜会うの?」

 

「い、いや……ちょっと本屋で立ち読みしてくるから遅れるってだけだ」

 

「へぇ〜……まぁいいや。それじゃ私は友達の家に泊まりに行ってくるのでよろしくで〜す!」

 

「お、おう」

 

 

夜22:00過ぎ

 

 

「あ、悪い遅れて」

 

「全然良いよ!隼人君も今日は来てくれてありがとう!」

 

「全然良いよ、結衣にもしものことがあったら優美子も心配するだろうし」

 

「そんじゃ俺と葉山はこっから200m先にある路地裏に隠れておく。由比ヶ浜は駅前から歩いてきてくれ」

 

「分かった!」

 

「もし何かあったら携帯で電話なりメールしてくれ、即向かう」

 

「うん!よろしく!」

 

「それじゃあ頼む」

 

タッタッタッ

 

「比企谷…」

 

「なんだ葉山」

 

「まさかとは思うが君、犯人が分かっているんじゃないのか?」

 

「な、なんでそう思うんだ?」

 

「いや、特に理由はないが……君の顔がいつにもまして険しいからね……もしやと思ってな」

 

「一応言っとくが俺は誰が犯人か分かってないからな……誰が犯人かなんて……分からない……」

 

「比企谷?」

 

「いや、なんでもない。それより早く向こうへ行くぞ。由比ヶ浜ももうじき駅に着く」

 

「そうだな」

 

 

由比ヶ浜視点↓

 

(駅に着いた……それじゃ行こう……)

 

タッタッタッ

 

(今のところ怪しい人は見当たらない……)

 

100m歩いて

 

(まだいないみたい……え?)

 

タッタッ タッタッ

 

(いる……!?怖いよヒッキー……!!)

 

(そうだメールしよう!)

 

ピロリンッ

 

「ん?メールだ……ん、葉山、ストーカーが現れたらしい」

 

「それは本当か……!?大丈夫なのか結衣は!?」

 

「今のところはな。もし危なくなったらまた連絡が来ると思う」

 

「そうか……」

 

ピロリンッ

 

(ヒッキーからだ……『落ち着いて歩いてこい、危なくなったら電話しろ』……よし、もう少し頑張ろう!)

 

タッタッ タッタッ

 

(少しずつ近くなってる……怖い……あ、もう少しで路地裏だ!)

 

タッタッ タッタッタッ

 

「ビクッ!?」

 

(走ってきた!?怖い怖い怖い!!ヒッキー!!!)

 

ピロピロリンリン

 

「由比ヶ浜大丈夫か!?」

 

「ヒッキー助けて!走ってきてるよ!」

 

「今行く!待ってろ!」

 

タッタッタッ

 

「ヒッキー!!!」

 

「由比ヶ浜!」

 

「結衣!」

 

「怖かったよ〜……」

 

「ストーカーはいるか!?」

 

「……いないみたいだね……」

 

「今日は一旦帰るか……もう遅いし」

 

「そうだね……」

 

「比企谷、結衣を送っていこう」

 

「そうだな」

 

「お願いしてもいい?」

「当たり前だ。万が一があるからな」

 

「ありがとう……」

 

タッタッタッ

 

「ここまででいいよ!今日はありがとう!」

 

「家まで送るぞ?」

 

「いいの、ここから家近いしすぐそこだから」

「本当にいいのか?」

 

「送っていくよ?結衣?」

 

「大丈夫だって!今日は本当にありがとう2人とも!またね!」

 

「分かった。またな」

 

「またね結衣」

 

「なんかあったら連絡しろよ!」

 

「うん!また明日!」

 

タッタッタッ

 

「それじゃあ俺はこっちだから」

 

「おう、お前は1人でも大丈夫だよな?」

 

「ハハハ、もし無理だったら家まで送ってくれるのかな?」

 

「それはない」

 

「相変わらず変な奴だな比企谷は」

 

「うっせ」

 

「ハハ…それじゃあまた明日」

 

「またな…」

 

 

 

(さて、少し本屋にでも寄ってくか……)

 

30分後…

 

ピロピロリンリン

 

(ん?由比ヶ浜?)

 

「どうした?」

 

「……」

 

「由比ヶ浜?」

 

「……」

 

「おい、由比ヶ浜?」

 

「……」

 

「悪戯ならやめろ由比ヶ浜」

 

「……」

 

「おい、本当にどうした?」

 

「………………ひ……き……ぃ…………」

 

「ゆ、由比ヶ浜!?どうした!?何があったんだ!?」

 

「プツンッ」

 

(何か嫌な予感がする……)

 

タッタッタッタッ

 

ピンポーン

 

「由比ヶ浜!」

 

ピンポーン

 

「由比ヶ浜!出てくれ!」

 

「出ねぇ……鍵は……空いてる?」

 

ガチャッ

 

「おい!由比ヶ浜!いるなら返事をしてくれ!」

 

玄関に上がり廊下を進むところで何か嫌な予感がした。何故なら異臭がするからだ。血生臭い嫌な感じの臭いが二階の方から下の方へと漂ってきている。

 

嘔吐感を抑えつつ鼻を塞いで1歩ずつ階段を登っていく。

 

「由比ヶ浜……いるのか……?」

 

ある部屋の前に着いた。しかしそれと同時に全身に鳥肌がたった。足元、ドアの隙間から赤黒い液体が溢れ出てきている。足につきそうになり、避けようとして俺は尻餅をついた。

 

何かねっとりとしたそれは異臭を放ちながら未だ進行し続け、止まることを知らない。俺はそれを『血』と認識することを本能的に否定していた、しなければならなかった。

 

そうすれば最悪の事態を想像することを避けられると考えたからだ。しかし扉を開けたその先の光景はその全てを黒く染めて、覆す。

 

俺は嘔吐してしまった。止まらなかった。口元を手で覆い鼻水も出ていたがそんなことを考える余裕なんてなかった。俺は何故ここにいるのかさえ分からなくなっていた。その光景があまりにも非日常過ぎて、俺は足から崩れ落ちた。

 

目の前に転がっているのは彼女であろう由比ヶ浜結衣の頭部であった。しかし彼女の顔は恐怖に歪み血によって顔は紅く染められ髪は乱れていた。

 

ベッドの上には彼女の肢体が切り刻まれて乗っていた。腕と足をロープのようなもので結ばれていて、俺はまた吐いてしまった。もう見たくもなかったのにソレは俺の目を悪い意味で釘付けにした。もう二度と頭から離れないだろうと、その光景はあまりに凄惨で殺伐としていた。

 

「由比……ヶ浜……」

 

もうそこには彼女はいない。そう悟った時涙が両目から溢れ出た。彼女との思い出がフラッシュバックする。彼女は一生懸命今を生きていた。まだたった十数年しか生きていない若者が、たった一夜にしてその全てを終えたのだ。まだやりたいこと、行きたい所、なりたいもの、沢山あっただろう。だがしかし彼女は全てをやり終えることなくその生涯に幕を閉じたのだ。

「由比ヶ浜……結衣……」

 

無意識に彼女の名前を呼んでいた。何度も呼んでいた。いつか返事をしてくれると、そう信じて何度も呼んだ。

 

「由比ヶ浜……由比ヶ浜!!由比ヶ浜!!」

 

しかし彼女は返事をしない。何故ならもうそこにはいないのだから。諦めの悪い俺は何度も何度もその名を呼ぶ。

 

「由比ヶ浜……」

 

それが最後だった。彼女からの応答はない。

俺は立ち上がり部屋を出た。そして家を出てから気を失った。そこからの記憶はない。

 

 

 

 

 

 

 

 



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俺ガイルSS 貴方を守る為ならば (2)

遅くなりました


あれからどれくらい経っただろう。俺が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。側には雪ノ下と葉山がいた。後から平塚先生も来たのだがすぐにまた『用がある』と出ていってしまった。

 

「比企谷君?大丈夫?」

 

「比企谷、大丈夫かい?」

 

「……俺は……何故ここに?」

 

「今朝君が倒れているのを発見した人が通報してくれたらしい」

 

「そうか……あ、由比ヶ浜は!?由比ヶ浜はどうなったんだ!?」

 

「彼女は……行方不明なんだ……」

 

「は?……行方不明……??」

 

「あぁ、警察の調べによると部屋にはおびただしい量の血と肉片が散っていたらしい。DNA検査によって彼女だということは分かっているんだが彼女の遺体が発見されていないんだ……」

 

「比企谷君。昨日のこと……覚えてる?」

 

雪ノ下にそう問われて昨日のことを思い出す。あの凄惨な光景を思い出して思わずえずいてしまった。

 

「ごめんなさい……配慮に欠けたわね……」

 

「いや、いいんだ。俺は昨日の夜、葉山と由比ヶ浜と別れた後本屋に寄ったんだ。それ数十分後に由比ヶ浜から電話があって……それで家に向かったら……うぅ……」

 

「大丈夫かい比企谷!?くそっ……しっかりと彼女を家に送っていってあげていたら……」

 

「いいえ葉山君。例え貴方と比企谷君が由比ヶ浜さんを送っていたとしてもこの犯罪を防ぐことは出来ないわ」

 

「その通りだ。恐らく犯人は由比ヶ浜が一人になるタイミングを待って隠れていたんだろう。それが由比ヶ浜の家だった。由比ヶ浜の両親はたまたま出かけていていなかったらしいからな……」

 

「そうか……それにしても酷すぎる……なぜ彼女が殺されなければならないんだ!優美子はショックで今日も学校に来ていないらしいし……」

 

コンコン

 

「はい」

 

「お兄ちゃん!?大丈夫なの!?」

 

「あ、あぁ……俺はなんともないよ。ただ……」

 

「……」

 

「こんにちは、小町さん」

 

「こんにちはです雪ノ下さん!」

 

「比企谷の妹さん……かな?」

 

「はい!妹の小町です!」

 

「よろしくね」

 

「こちらこそ!」

 

ガラガラッ

 

「比企谷!目を覚ましたのか!」

 

「はい……お陰様で……」

 

「そうか、それは良かった……それよりも、だ」

 

「??」

 

「由比ヶ浜の死体が見つかったそうだ」

 

「「!?」」

 

「ど、何処にあったんですか平塚先生!?」

 

「……聞きたいか?」

 

「……はい」

 

「駅の近くに少し大きな公園があるだろう?」

 

「はい」

 

「その公園のゴミ箱五つに彼女の死体を五つに切り分けて捨てていたらしいんだ」

 

「……」

 

その瞬間俺は思い出した。彼女の体とは全く別のところに転がっていた彼女の頭部を。切り刻まれた彼女の肢体を。

 

「す、すまんトイレに……」

 

「比企谷……」

 

「平塚先生。由比ヶ浜さんは……殺されたんですよね?」

 

「それ以外に何があるというのだね」

 

「私は犯人を許しません。絶対に許しません」ギリッ

 

ガラガラッ

 

「雪ノ下!どこに行く気だ!」ガラガラッ

 

「小町ちゃん。俺はちょっと比企谷の様子を見てくるよ」

 

「……はい」

 

ガラガラッ

 

 

小町視点↓

 

どうしてこんなことになってしまったんだろう。人が死ぬのは知っている。いつか私も死ぬのだから。けどそれはもっと先の未来の話であって、今そのようなことが、そしてそれがとても身近な人に起こったという事実が私を苛んでいる。

 

しかもその死因が老衰や病気ではなく、『他殺』ということこそが一番の理由なのかもしれない。人が人を殺す。生命が生命を奪う。これはあってはならないことであって、どんな理由があったとしてもしてはならないことだと誰かに習った。人が死ぬ。赤の他人からしたら儚いだろうが、身近な人ならばそれはとてつもなく重大なことなのである。

 

八幡視点↓

 

由比ヶ浜結衣。いつも俺のことをヒッキーと呼んでいた。俺と由比ヶ浜と雪ノ下とで奉仕部の教室で三人で語り合う。それが最近の日常だった。俺はそれがずっと続くと思っていた。そう願っていたのだ。しかしそれは続かなかった。叶わなかった。

 

由比ヶ浜結衣が死んだ。俺達がおじいちゃんおばあちゃん世代なら「そうなのか」と大半はなんとなく納得できる。しかし由比ヶ浜は10代だ。途中で大病でも患って万が一が起きない限り何十年も生き長らえたであろうその命を他人が奪った。憤りを覚えない人がいるであろうか?いやいないだろう。いるとすればそれは俗に言う「サイコパス」だとでも呼ぶのだろう。その類の中に犯人はきっと分類されるだろう。

 

『別に殺すつもりなんてなかったんだ』ソレはそう言い訳出来るものではないものだった。あの殺し方、遺体の処理、その全てが常人が考えるには至らない結末なのだ。許されないその行為を彼らはきっと自己で正当化しているのだろう。

 

 

 

 

────────────────

 

 

学校にて

 

ザワザワ

 

ザワザワ

 

「由比ヶ浜さんが殺されたらしいよ〜」

 

「何それコワーイ!」

 

「おいおいマジかよ」

 

「マジらしいぞ!」

 

案の定クラスは由比ヶ浜の件でザワついている。三浦が欠席しているのが追いうちとなっているのだろうか、彼らの話題の信憑性はとても高いものとなっている。

 

ガラガラッ

 

「お前達席につけ!」

 

「……お前達も知っているようだが、昨夜由比ヶ浜が何者かに殺害された」

 

『ほらなやっぱり!』

 

『嘘マジ〜!?』

 

「静かにしろ!」

 

シーン

 

「……今日は先生達の臨時集会と念のため今日は授業を取り止め帰宅するよう連絡がきた。終礼はもうしないから各自集団で下校するように。それじゃあまた明日な」

 

そういって平塚先生は教室を出ていった。

 

俺はすぐに奉仕部に向かった。もしかしたら雪ノ下が来ているかもと思ったからだ。

 

ガラガラッ

 

「雪ノ下!」

 

「あら、比企谷君……こんにちは」

 

「おう、お前は帰らないのか?」

 

「私は調べ物をしているの」

 

「調べ物?」

 

「由比ヶ浜さんを殺した犯人を探しているのよ」

 

「……探し出せるのか?」

 

「正直不可能だって分かってるわ。でもこのまま黙って指をくわえて警察の人達が解決するのを見てろって言うの?」ギリッ

 

「それも確かにそうだな……でもまだ犯人は捕まってないからあまり執拗に嗅ぎ回るなよ……危ないからな」

 

「そうね……今日のところは帰ろうかしら」

 

「そうした方がいい……あ、送っていこうか?」

 

「遠慮しておくわ、と言いたいけれど怖くないといえば嘘になるわ……お願いするわ比企谷君」

 

「おう」

 

タッタッタッ

 

「比企谷君は今回のことを……どう思う?」

 

「ん?どういう意味だ?」

 

「彼女がなぜ狙われたのか、犯人はどのような人物か、とかよ」

 

「そうだな……由比ヶ浜は良い奴だし他人に恨まれるようなことをするようなタイプじゃないと思う……犯人については見当もつかん……」

 

「やっぱりそうよね……そうだとしたら余計腹が立つわ……」

 

「同感だ。でもだからってあまり無茶はするなよ?」

 

「心得ているわ。でも必ず犯人をこの手で……ボソッ」

 

「雪ノ下?」

 

「いいえ、なんでもないわ。それより今日はありがとう送ってくれて」

 

「いや、当たり前のことだしお礼を言われるようなことはしてない」

 

「ふふ、それじゃあまた明日……ね」

 

「あぁ、また明日な」

 

 

 

───────────────

 

 

 

比企谷家・夜

 

 

 

「小町、お前はあまり外を彷徨くなよ。お前に死なれちゃ困るからな」

 

「はいはい分かってますよー。あ、お兄ちゃんも死んじゃダメだよ?今の小町的にポイント高いっ♪」

 

「へーへー俺は死なねーよ」

 

「それならいいけど……ね」ギュッ

 

「ど、どうした小町……?」

 

「お兄ちゃんに何もなくて良かったよ……ホントに……」

 

「あぁ、ありがとう」ギュッ

 

「それじゃあ私そろそろ寝るね!」

 

「おう、おやすみ」

 

「おやすみっ」

 

タッタッタッ

 

(俺も寝るか……それにしても流石にちょっと疲れたな……)

 

自室のベッドに横たわり俺は軽く本を読み、眠気が強くなってきたので目を瞑った。

 

…Zzz

 

一時間後・夜中の一時

 

ピロピロリンリン

 

(ん?なんだ?雪ノ下?)

 

『……比企谷君、助けて……』

 

「どうした雪ノ下!?何があった!?」

 

『今……私が寝ていたらいきなり何者かに襲われて……私は相手を蹴ってお風呂場で鍵を閉めて隠れてるわ……お願い……来て……』

 

「待ってろ!今行く!電話は切るなよ!」

 

『えぇ……早く……お願い……』

 

(クソったれ!)

 

タッタッタッ

 

『比企谷君……』

 

「どうした!?まだ無事か!?」

 

『……』

 

「雪ノ下……?」

 

『……もう……ダメみたい』

 

「雪ノ下!待ってろもうすぐ……」

 

『…………ミイツケタァァァァァァァ』

 

プツンッ

 

「雪ノ下ぁぁ!!」

 

俺はそれから夜道を必死に走りなんとかマンションに辿り着いた。途中で警察にも通報して彼女の部屋へと着いた。

 

「鍵が……空いてる……」

 

俺は恐る恐るドアを開け部屋に入った。風呂場を探して慎重に探索する。

 

しかし問題のお風呂場にもこの部屋の何処にも彼女は見当たらないのだ。血飛沫も無く争った痕跡もない。

 

それから数分後警察が到着して俺は事情を説明した。

 

「なるほど……つまり行方不明なんだね?」

 

「はい……お願いです!雪ノ下を!雪ノ下を探してください!お願いします!!」

 

「全力を尽くすよ。君は一旦家に帰ったほうがいい」

 

「……分かりました」

 

そして俺はなんともいえないモヤモヤを抱えて帰宅した。あれから2時間経過していて時間は夜中の3時だった。

 

小町もカマクラも父さんも母さんも皆眠っている時間帯だ。

 

俺はこっそりと自室に戻り眠りについた。

 

 

 

 



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俺ガイルSS 貴方を守る為ならば (3)

「………んっ」

 

彼女、雪ノ下雪乃は見知らぬ場所で目を覚ます。そこは暗くて、とても狭いスペースであることぐらいしか分からない。

 

「ンー!ンンー!!」

 

口をテープで塞がれて、椅子にロープで身体を拘束されている彼女は、必死に助けを呼ぶ。

 

(……誰か……比企谷君……助けて……)

 

『起きたの?雪ノ下さん?』

 

そう呼ばれて私は声のした方へと目を向ける。そこにいたのは狐のお面を被った少女であった。

 

『雪ノ下さんがなんで捕まったか……分かる?』

 

「……」

 

私は首横に振り狐のお面をキッと睨みつける。

 

『怖い怖い、あ、由比ヶ浜さんの時はすごーく楽しめたよ〜』

 

「……!?」

 

「ンンー!!!」

 

『あら?怒っちゃった?アッハハ、人の体を切るって楽しいよ〜!真っ赤な血も凄く赤くてトロトロしてて、まさに生きてるって感じかな?アッハハハ!』

 

(サイコパス……)

 

『さぁて、どうしよっか?このまま殺しちゃってもいいけど……由比ヶ浜さんみたいにあからさまにはシてなかったから少しだけ猶予あげちゃおっかな〜?』

 

(由比ヶ浜さんが何をしたというの……!?)

 

『何をしたって顔だね?そうだ!それじゃあ自分でそのことが分かったら誰か1人にだけ電話かけさせてあげる!警察はNGだよ!それじゃあ今から12時間考えてねっ!アッハハ!』

 

そういって狐面の少女は重そうなドアを開けて去ってしまった。恐らくこの部屋は外に声が漏れないように防音構造になっているのだろう。だとしたら外に声は届かない。

 

(私と由比ヶ浜さんがしてしまったこと……何なの……見当もつかないわ……)

 

 

 

────────────────

 

 

 

「……ふぅ……」

 

午前7時。俺は四時間の間眠っていた。起きてすぐ考えたのは雪ノ下のことだ。彼女は今日の夜中に行方不明になった。由比ヶ浜のように自宅では殺されていなかった。つまりそれはまだ殺されていない可能性があるということ。

 

今の俺を支えているのはこの一縷の可能性である。由比ヶ浜のようなあんな酷いことをもう二度と起こさないために俺はなんとしてでも雪の下を探し出してみせる。

 

しかしそうは言ったものの……彼女の居場所を掴めるような手がかりは何も無いし物的証拠は殆ど警察の方が回収していっただろう。

 

(打つ手なし……か)

 

コンコン

 

「お兄ちゃん、起きてる?」

 

「どうした小町?」

 

「あのね……雪ノ下さんに何かあった?」

 

「ど、どうしてだ?」

 

「やっぱり……なんとなくそんな気がしたの……最近結衣さんがあんな目にあったからもしかしたらって……」

 

「……小町」

 

「?」

 

「雪ノ下が……行方不明なんだ……」

 

「行方……不明……?」

 

「あぁ。俺今日学校休んでちょっと調べてみるよ」

 

「お兄ちゃん、行方不明ってことはまだ……?」

 

「雪ノ下はまだ死んでいない……可能性がある」

 

「……っ!」

 

「小町は今日どうする?学校……行けるか?」

 

「お兄ちゃんはどうして欲しいの?」

 

「……出来れば休んでほしい。ってのが俺の本音だ。でも学校を休めと強制はしない」

 

「お兄ちゃんがそう言うなら今日休むよ。そっちの方がお兄ちゃんも安心するでしょ?」

 

「小町……」

 

「お兄ちゃんは一刻も早く雪ノ下さんを探し出して!お兄ちゃんならきっと出来るよ!」

 

「あぁ、絶対に見つけてみせる……!!」

 

「うんっ!」

 

 

 

─────────────────

 

 

 

ピンポーン

 

「はい?」

 

「比企谷君、こんにちは」ニコッ

 

「雪ノ下さん……」

 

「もう……知ってるよね?」

 

「はい……」

 

「それじゃあ話は早いね。私と協力して欲しいの」

「具体的には?」

 

「私、隼人で今連絡を取りあっててね。親にも協力してもらって全力で捜索してるの。でも全然手がかりも見つけられないし……猫の手も借りたいって状況でね。それで比企谷君に声をかけたわけ」

 

「なるほど……でも俺も雪ノ下の手がかりなんて何も分からないですよ?」

 

「比企谷君は雪乃ちゃんを探す予定だったんでしょ?」

 

「まぁ……はい」

 

「なら協力して情報を共有し合った方が効率も良くならない?」

 

「確かにそうですね……」

 

「それじゃあ決まりね!ちょっと携帯かしてっ」

 

「は、はい」

 

「…………これでよしっと。はい返すね」

 

「何したんですか?」

 

「メアド登録しておいたから何かあったら連絡して。それじゃあよろしくねっ」

 

「は……はい」

 

そう返事すると彼女は足早に去っていった。一人取り残された俺は先程登録されて一つ連絡先が増えている携帯の画面をじっと見つめていた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「陽乃、何か情報は掴めたかい?」

 

「いいえ。でも有力な協力者が一人増えたわ」

 

「当ててみせようか?」

 

「どうぞ」

 

「比企谷……だろう?」

 

「へぇ……よく分かったわね。根拠は?」

 

「なんとなく……じゃ駄目かな?」

 

「貴方にしては随分と抽象的な根拠ね。隼人」

 

「はは、それよりこっちの方は調査が着々と進んでいるよ」

 

「何が分かったの?」

 

「まず、犯人はこの千葉県にいること」

 

「それは大体分かることだわ。他には?」

 

「……身近な人間が犯人だということ」

 

「それは……本当なの?」

 

「あぁ。心理学者曰く、犯人は被害者達に対して強い憎悪を抱いていたのではないかと推察している」

 

「……強い……憎悪?」

 

「そして一番驚いたのはこれだ。被害者が二人共女性ということから人間関係……いや、異性関係ではないかとも推察しているんだ」

 

「異性関係……ね」

「思い当たることでもあるのかい?」

 

「いいえ……ないわ」

 

「そうか。凶器は解剖の結果、刃渡り30センチのノコギリらしいよ」

 

「そう。それにしてもよく知ってるわね」

「うちの親父はそっち方面にも顔が広いからね」

 

「そのお陰で有力な情報が手に入ったのだから感謝しないとねっ」

「……これも全て雪ノ下の為さ」

 

「隼人……もしかして貴方雪乃ちゃんのこと……?」

 

「さぁね」

 

「ふふっ。それじゃあ私は雪乃ちゃんの部屋に行くけど、隼人も来る?」

 

「俺は学校で友人関係を探るから後で行くよ」

 

「分かった。それじゃまた後でね」

 

「あぁ」

 

(雪ノ下……君は一体何処にいるんだ……)

 

 

───────────────

 

ピロピロリンリン

 

「はい」

 

「あ、比企谷君?今空いてる?」

 

「空いてますよ」

 

「今から雪乃ちゃんのマンションに来て」

 

「何かあったんですか?」

 

「うん、見て欲しいものがあるの」

 

「分かりました。すぐ行きます」

 

俺は自転車の鍵を外してペダルを漕いだ。途中コンビニに寄って二人分のコーヒーを購入した。勿論マッ缶であるが。

 

「すいません、ちょっと遅れました」

 

「いいのいいの。その手に持ってるものは?」

 

「あ、これどうぞ」

 

「あ、マッ缶」

 

「差し入れみたいなもんです」

 

「そう、ありがと」

 

「はい。それで見せたいものとは?」

 

「……これよ」

 

「…………これは」

 

「……それを知ってるの?」

 

「いや、まさかそんな筈は……」

 

「これ、パンさんのキーホルダーよね?」

 

「……はい。しかも限定品です」

 

「これは雪乃ちゃんの?」

 

「どうでしょう……俺もこれを買ったから……」

 

「貴方が付けていたの?」

「……小町にあげました」

「小町って……あの可愛い妹さんの?」

 

「……はい」

 

「そう……でも小町ちゃんのとは決まった訳じゃないし雪乃ちゃんの部屋なんだから雪乃ちゃんのモノって確率が高いよね……」

 

「そうだといいんですけど……」

 

「気を悪くしたらアレなんだけど……一応聞いてみてくれないかな?」

「分かりました……」

 

「じゃあ私は用があるから帰るね、急に呼んじゃってごめんね」

「いえ、大丈夫です」

 

「んじゃまたね〜」

 

彼女はニコッと笑うとバッグを手に持ちユキノシタの部屋を後にする。俺は暫く部屋を眺め、得にめぼしきモノはないと判断し帰宅した。また途中でコンビニに寄り、今度は一人分のジュースを購入した。小町の大好きなオレンジジュース果汁100%である。

 

 

 

 

「ただいま」

 

「あ、おかえりお兄ちゃん!それ何それ何〜??」

 

「お土産だ」

 

「わぁっ!オレンジジュース!ありがとお兄ちゃん!」

 

「おう」

 

「それじゃあ小町ちゃちゃっと夜ご飯作っちゃうからお兄ちゃんはお風呂にでも入ってて〜」

 

「了解」

 

俺は靴を脱ぐと靴箱になおしてリビングに入る。キッチンにはエプロンを付けた天使が軽やかなステップで鼻歌を口ずさみながら踊るように料理をしている。匂いから察するにビーフシチューだな。

 

「小町、晩御飯は?」

 

「ん?ハヤシライス〜」

 

外れた。恥ずかしい。

 

「そうか。小町のハヤシライスは美味いから楽しみだな」

 

「なになにお兄ちゃん、なんかあった?」

 

「な、何だ急に」

「だってお兄ちゃんが急にそんなこと言うなんて何か隠し事でもあるってバラしてるようなもんじゃん」

 

「い、いや実はな──」

 

「へぇ。パンさんの限定キーホルダーか」

 

「あぁ。小町はちゃんと持ってるだろ?」

 

「お兄ちゃん……」

 

「どうした?」

 

「実はね……」

 

「ゴクリ…」

 

「私……」

 

「……」

 

「ちゃーんと部屋にあるよっ!キーホルダー!」

 

「だ、だよな!」ホッ

 

「だから安心してお兄ちゃん!ほら、さっさとお風呂に入っちゃってよ!」

 

「おう!」

 

ガラガラッ

 

 

 

「……」

 

 

 

実は……兄から買って貰ったあの限定キーホルダーを私は無くしている。しかも無くしたと気付いたのが雪ノ下さんが行方不明になってしまった日なのだ。偶然ならいいんだけど……

 

 

数十分後…

 

「お兄ちゃん、あのね」

 

「どうした?」

 

「私……最近何だか変なの」

 

「変って……具体的には?」

 

「なんて言うんだろう……急に意識が飛んじゃっていつの間にか眠っちゃってたり、変な声も聞こえてくるの……」

 

「いつの間にか眠ってるってのは……貧血とか目眩とかじゃなくて?」

 

「うん……言いにくいんだけどそういうやつじゃないと思う……」

 

「変な声が聞こえてくるってのは……つまりは幻聴ってことか?」

 

「そう……なのかな?夜眠っていると夢の中である女の子と出会うの。その子は私が小さい頃から夢で見てきた子でね。いつも『貴方が憎い』って言ってくるの……その子の声が度々聞こえる変な声と似てるっていうか……」

 

「そうか……その夢に出てくる女の子の特徴とかはあるか?」

 

「うーん……見た感じ身長は私と同じくらいで……髪はショート……でも一つだけおかしな部分があってね……」

 

「おかしな部分……?」

「彼女……お兄ちゃんを知っているみたいなの……」

 

「俺を……知っている?」

 

「うん……それでお兄ちゃんのことを大好きみたいなの……」

「……」

 

「あ、ごめんね!変な話しちゃったね!それじゃあご飯食べよっか!」

 

「……そうだな!いただきますっ」

 

「いただきますっ!」

 

 

 

「ご馳走様。俺はもう寝るけど、小町は大丈夫か?」

 

「うん!おやすみお兄ちゃん!」

 

「あぁ」

 

「……お兄ちゃん!」

 

「どうした?」

 

「……お兄ちゃん、大好き!」

 

「……急にどうした?」

 

「ううん、何でもない!じゃあね!」

 

「……小町」

 

 

 

小町らしくない。普通小町はそういうあざといセリフを言ったあとは決まって『小町的にポイント高いっ♪』って言うのだが今回はそれを言わなかった。小町は本当に俺を好いていてくれているのだろうか。そして何故今小町はそれを言ったのか。俺は机に付属しているライトを点け、軽く本を読みながらその事を考えた。しかし考えても無意味だと分かるとベッドに横になった。

 

(俺が小町を守らなくちゃな……そして雪ノ下を見つけ出してみせる……)

 

そう決意して俺は眠りについた。

 

 

 

しかし事態は急変する。

 

 

 

────────────────

 

 

 

翌日、小町が行方不明になった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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俺ガイルSS 貴方を守る為ならば(4)

投稿遅くなって申し訳ないです!


前置き~ 投稿がかなり遅くなってしまい本当に申し訳ないです……。それと前から読んでくださっている方でちょっと記憶違いで前作と同じことを書いてしまった表記の部分があるので前作の(3)を少し修正していますので予めご了承ください!

 

では本編の方どうぞお楽しみください……

 

 

 

 

 

 

 

 

ベッドから重い体を起こしスマホを見る。時間は6時26分。本来なら起こしてくれるはずの小町が今日は起こしに来ない。

 

何故か急に不安になり俺は飛び起きて階段を急いで降りる。が、毎朝作ってくれる朝食は卓上には無く、キッチンにも小町の姿は見えなかった。何かあるとするならば、昨日の夜小町の為に買ってきたオレンジジュースが空になって置いてあるだけだった。

 

妙に胸騒ぎがする。とてつもない悪寒と身震いする程の震えが同時に体を襲い、思わずその場で手をつきうずくまる。

 

まさかそんなはずはないと、ただ小町がまだ部屋にいるだけだと思い小町の部屋に急いで駆け込む。そこに小町の姿はなくて、代わりに床に敷いてあるカーペットの上に紙切れのようなモノが落ちてあった。

 

俺はそれを拾い上げ、それに書かれてある赤い文字を読んだ。

 

『君は一人だ』

 

たったそれだけ書かれていた。突然堪え切れない震えで足がガクガクと揺れ、遂には力が抜けて半ば倒れ込む形で座り込んだ。俺の手から逃れてヒラヒラと舞い落ちるその紙を呆然と見つめ、床に落ちると同時に荒々しく掴んで力の限り引き裂いた。

 

(どうして、どうしていなくなるのはいつも……っ!!)

 

耐え難い苦しみと、やり場のない怒りに苛まれて俺は床を何度も殴る。殴って、殴り続けて、床に触れる拳の先が赤く腫れ上がっても止まらない。止められない。痛みなんて気にする余裕がない程に、それ程に俺の心は廃れて、憎しみに包まれていた。

 

そんな時、右ポケットに入っていた携帯が着信音を鳴らして振動する。俺はそれでなんとか正気に戻り、深呼吸してから携帯を開く。雪ノ下さんからのメールだった。メールには『今すぐ総武校に来て』と書かれている。フラフラとなりながら体を奮い立たせて、連れ去られた雪ノ下と小町を救い出す為に俺は家を出た。

 

総武校に着くと雪ノ下さんと葉山、それから平塚先生だった。

 

「遅いぞ比企谷」

 

「比企谷君にしては遅かったね?」

 

葉山と雪ノ下さんに言及され、その理由を話すために場所を移動してもらうことにした。

 

「警察には連絡したのか?」

 

「いや、まだです……。本当に急だったので冷静な判断が出来なくて……」

 

すると平塚先生は「ちょっと煙草を吸ってくるよ」とだけ言って席を外した。大方俺の代わりに警察に連絡してくれているのだろう。その時は本当に感謝した。

 

「そっか……小町ちゃんも……」

 

「まだ雪ノ下も見つかっていないんですよね?」

 

「……うん」

 

その場に重い空気が立ち込める。その空気の中でも葉山は凄い。

 

「それより陽乃さん。急に来いって連絡が来てたけど、何ですか?」

 

「なんだ、葉山の方も呼ばれたのか」

 

「あぁ」

 

雪ノ下さんは頼んでいたアイスティーを一口啜ると、意を決して話し始めた。

 

「多分、次のターゲットは私か隼人達の後輩のいろはちゃんかもしれないの」

 

急な話に俺と葉山は顔を見合わせる。

 

「陽乃さん、その根拠は?」

 

「この事件は本当に不思議でね。ある人を中心にして起こっているの」

 

「俺、ですか」

 

「そう。比企谷君、君の周りの人間関係を大体網羅的にした結果、だけどね」

 

それだけ言って雪ノ下さんはまたアイスティーを飲む。葉山はあまり驚かなかった。恐らくこのことは粗方予想していたのだろう。

 

俺は正直ショックを受けた。自分でも分かっていた。分かってはいたけれど、それを言葉にして、直接現実の事として突きつけられたこと。ただそれだけの事だけれど、それは俺には重過ぎる程の罪悪感として、もう二度と償えない罪と化した。それでも俺は償わなくてはならないと、その意思を強くする。

 

「……雪ノ下さん。話すことはそれだけですか?本当はまだあるんじゃないですか?」

 

彼女にそう尋ねると、「さっすが比企谷くーん!鋭いな~」とおちゃらけて、残り少ないアイスティーを空にする。そして、先程とは違う真剣な顔で俺達に告げる。

 

「……実は、とっておきの作戦があるの。これで多分犯人は特定出来る、かな」

 

そこまで言うと俺はその作戦が何なのか分かってしまった。葉山もそうだろう。拳を強く握り締めるのが分かった。

 

「まさかそれって──」

 

俺の放った言葉とほぼ同時に葉山がバッと立ち上がった。立ち上がって雪ノ下さんをキッと睨みつける。突然の彼の行動に、雪ノ下さんは驚いたのか口がうっすらと開いているのが分かった。

 

「陽乃さん。それって貴方が囮になるってことかな……?」

 

語気を強めて葉山は雪ノ下さんにそう捲し立てる。雪ノ下さんも負けじと立ち上がった。

 

「そうだよ。そうすれば雪乃ちゃんを助け──」

 

最後まで彼女が言い切ることはなかった。何故なら、彼女は涙目で頬を抑え、その代わりに彼女の視線の先にいる葉山、彼が大きく伸ばした腕が彼女の顔の横、その直線上に浮いていた、そう葉山が雪ノ下さんはさんをぶったのだ。

 

「そんなことダメに決まってるだろ!!」

 

葉山の怒声が店内に響き渡る。しかし彼はそんなこと気にせずに雪ノ下さんだけを、彼女だけを見ていた。

 

「だって……だってそうしないと雪乃ちゃんを助けられない!今もこうして話しているうちに雪乃ちゃんが……雪乃ちゃんが!!」

 

「もしも、もしも貴方が殺されてしまったらどうするんだ!」

 

「私は別にいいよ!雪乃ちゃんが助かればそれでいい!」

 

「だから──」

 

そこまで言って俺が二人の頭をチョップする。自分でも何故チョップなのか分からないが、二人が止まったのでそれはそれで良いか。

 

 

「まずは店の人達に謝れ」

 

店内は完全に賑やかムードから一変して俺達の方を見ていた。店員さんでさえも仕事の手を止めてこちらを見ていたくらいだ。

 

二人はやっと冷静になったのか「お騒がせしてすみません」と謝っている。そしてまた賑やかさが戻ると二人は席に座った。

 

「ごめんね隼人……感情的になっちゃって……」

 

「俺の方こそ悪かった……」

 

そうやって互いに謝り合っている二人を見て俺は気づいた。俺だけじゃない、二人も犯人に対して怒りや憎しみを抱いているのは、大切な人が突然日常から消えて混乱して、悲しんでいるのは俺だけじゃないのだと。

 

「まぁとりあえず雪ノ下さんが囮になるって作戦はかなりリスキーだしもし何かあったら大変です。と言いたいところですが警察に相談したところですぐに動いてくれそうにないし窮地に陥ってるってのは否めないですね……」

 

俺が悩んでいると、雪ノ下さんが良いアイデアを見つけたかのようにハッとなる。俺と葉山は?マークだ。

 

「比企谷君と隼人で私を守るってのはどう? あ、具体的に言うと私を監視するの。もし何かあればすぐに警察に連絡出来るし二人が近くにいれば流石に男二人なら対抗出来ると思うし、どう?」

 

「まぁ確かに良い案だとは思うけど、逆にそんなに都合よくいくかな……比企谷はどうだい?」

 

「俺も良い案だと思う。けどやっぱりお前の言う通り不安も残る。が他に良い案はないし警察にも頼るに頼れない。最善策としてはこれがベストだと思うぞ」

 

そこまで言って雪ノ下さんはニコッと笑って「じゃあこれで決まりね!」と嬉しそうにする。俺ももうすぐ小町を助けだせると、その一歩としてこの状況に喜々とした。

 

「でも隼人。万が一があるからいろはちゃんにも連絡してもらえる?」

 

「分かった」

 

そして葉山は財布から三千円を取り出して店を後にした。やっぱイケメンだ。

 

「じゃあ静ちゃんも暫くは帰ってこないだろうし私から連絡入れておくから今日は一旦解散しよっか」

 

その日はそれで解散になり、俺は念の為もあり雪ノ下さんを駅まで送ることになった。

 

「……今日はごめんね。二人して取り乱しちゃって」

 

「別に気にしてないです。でもちょっとビックリしましたね」

 

そう言うと雪ノ下さんは「なんで?」と首を傾げている。

 

「だって雪ノ下さん、あまり感情とか表に出さないでしょ?」

 

雪ノ下さんはそれを聞いてムスッとして、「そんな事言われたらお姉さん傷ついちゃうな~」なんて言って俺の頬を抓ってきた。痛いんですかそれは。

 

「今日は本当にありがとう!またね!」

 

何分か前に来ていた電車に彼女は駆け込む。と同時にドアが閉まった。手を振ってニコニコと笑っている。

 

俺も恥ずかしながら、手を振り返す。それに気付くと今度はニヤニヤと口元を手で隠して笑う。俺はそれにイラッとしてしっしっと手で払う素振りをする。それと同じくして電車は発車した。雪ノ下さんはまだ見えるか見えないかの場面で口パクで何かを言っていた。俺には彼女が何を言っていたのか、伝えたかったのか、分かることが出来なかった。

 

 

 

────私を守ってね

 

 



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