ガンダムビルドファイターズ ザイン (亀野郎)
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Episode:1死神は紅き衣を纏う
LOAD:1もう一度そこへ



第1話は大体プロローグ、ガンプラバトルはありません。次の2話からメインです。


      キャラクター紹介

遠野紅衣···主人公。とある目的を達する為に東京へ来た。詳細は不明。

椿ヒロ···もう1人の主人公。過去に兄を失っており、その影響で今もガンプラバトルを敬遠している。

椿アキ···ヒロの実の姉。ツバキ模型店を経営しながら大学に通っている。

椿トオル···ヒロ、アキの実の兄。五年前に行方不明になっている。

チンピラ共···世紀末野郎共。

ラルさん···現時点でのヒロ達との関係は不明。



        ガンプラ

 機動戦士ガンダムのプラモデルの総称であるが、その種類は様々である。

 

 HGと呼ばれる最も一般的なシリーズ、MGと呼ばれるキットの作り込みを細かくしたシリーズ、他にもRGやPGなどといった様々なシリーズが展開されている。だが、あくまでシリーズの規模が大きいというだけで特に何かあるわけでもない。

 

 いや、以前はそうだった。しかし今から約20年前、出所不明の未知の粒子物質が発見された。その粒子は一体何が含まれておりそもそもどこから流出しているものか当時は不明であったが、その粒子が持つ特殊能力が発見から程なくして多くの人々の元に知れ渡る事となった。

 

 その粒子は一定範囲内にあるプラスチックに反応して流体化する特性を有しており、これを利用して動力のないプラモデルなどを現実さながらに動かすことができる事が発覚した。これはもちろんガンプラにも反映される。これが後にガンプラバトルシステムと呼ばれる物の始まりだった。

 

これはそんなガンプラを頼りに自分という存在を探している者に誇示しようと進む少女とガンプラを愛していながらも、そのガンプラで絶望の淵まで落ちた少年、二人の少年少女が互いを支えあいながらあるべき場所へと進み続ける物語。

 

 

 

   お台場 元ガンダムフロント東京

 

 初夏、セミが鳴き始めた頃、一人の少女はそこにたどり着いた。

 

「...暑い...ここはどこだ...?」

 

そういうと少女は黒く長いポニーテールを振りほどきボソボソと独り言をつぶやく。

 

「東京...噂には聞いていたが広いな...ラルの言っていたツバキ模型店とは、一体どこにあるんだ...」

 

そういうと彼女はおぼつかない足取りでまた進み出した。

 

ツバキ模型店、東京都周辺の近郊にひっそりと佇む小さな模型店である。プラフスキー粒子が見つかって以降、需要が上がりかなり多くの模型屋が増えたが、この模型店は昔からあるかなりの古株...なのだが中々売上があがらない。

立地的な問題などもあるのだろうが...

 

「あぁっ!もうあっつい!!!」

 

限界に達したのか、レジでぐったりと横になっていた女性は叫びながら飛び起きた。

 

「そろそろ店番代わってよー!ヒロくんんんん」

 

その呼び声が店内に反響してから十数秒程置いて、店の奥からボソボソと声が聞こえてくる。

 

「もうちょっと...」

「さっきも言ってましたーもう我慢できないよぉ」

「アキ姉、昨日はずっと僕が僕が店番やってたんだから...」

「仕方ないでしょおお?だって大学の講義があったんだもん」

「午前中だけでしょ。その後友達と遊んできたって」

「はいはーいそうですよーだ!ならヒロくんも友達作って遊びに行けばいいのに」

「......いいよ。別に」

「またそれだー」

 

会話を続けていると店の奥の扉から、透き通った白髪、憂いを帯びた碧眼の、どこか変わった雰囲気を醸し出す少年が出てきた。少年の名は椿ヒロ。だがその表情は決して良いと言える様子ではなかった。

 

「どこか行くの?」

「少し、散歩に。すぐ戻るよ」

 

ヒロが何か考え事をしているようにも見えたが、アキは何も言わなかった。

 

「そう...いってらっしゃい。気を付けてね。…あっ!逃げられた!」

 

足早に店を出たヒロはしばらく走った後とたんに足を止め、大きなドームの前で動きを止めた。国立聖鳳ドーム。ここでは、1か月後にガンプラバトル選手権の地区予選が行われる。地区予選、ガンプラバトル大会の地区代表者を決める予選。ここは学生大会とは違う、いわゆる一般部門の参加者が参加する。毎年約150人程度のファイターが自分のガンプラを持ち込みバトルする。

 

「今年も...無理かな、僕の腕じゃ多分予選すら通れないだろうし」

 

主にガンプラファイターは自分でガンプラを作り、戦うが、中にはバトルに不慣れな者もいる。

そしてその大体が自分の代わりに戦ってくれるファイターを見つけ、タッグを組み、ビルダーとファイターとして大会に出場する。

 

「それはおろか、チームを組む仲間も見つかってないのに…」

 

そう、そして現在採用されている公式ルールでは3対3のチーム戦を主としている。1人での参戦も可能であるが、相当腕に自信のあるファイターしか参戦しない。その為、必然的に数の不利になることは誰もしようとはしない。

 

 ーーそれに、僕なんかがガンプラバトルをすることはできない。タッグを組む相手もいなく、チームの仲間すらいないのに参加なんてできる訳ない。

「...僕はあの人のようにはなれない」

 

しばらくドームを眺めた後、来た道をとぼとぼと帰路についた。

 

「…すまないがそこの方、少しいいか?」

 

「え?」

 

だが、帰ろうとした矢先ふと声がかかり、足を止める。女性、というよりもっと若い女の子の声だった。その姿を見るため、後ろをふりかえる。そして、その目線は、言葉が出なくなってしまう程に釘付けにされた。

 

「...」

「あの」

「...」

「あっ、あの!」

「えっ?あっすみません」

 

耳元で呼びかけられ、先ほどから話しかけられていたことに気づき、我に帰る。

 

「え、えと僕に何か用ででででっすか?!」

焦ってしまった為、日本語が中半適当な状態で聞き返す。

 

「あぁ、すまない。とある店を探しているんだが」

 

少し吊り目ぎみの黒い瞳、腰まで余裕に届くぐらいの黒髪のロング。自分と同じか、それ以上の身長。その身体の細さには割に合わない程豊かに実った胸と、細い腕にはめられた腕輪。可憐な容姿で、一際周囲からの視線を集める彼女に、心なしか自分も気を引かれる。

 

「えっ、あっ、お、お店ですか。あの、その店の名前とかは?」

 

 ーーこんな広い場所で店を探しているといわれてもわからないぞ...

 

「あぁすまないまだ言っていなかったな、忘れていた。ツバキ模型店というんだが...知らないか?」

「はぁ、ツバキ模型店ですか...」

 

助けたいのは山々だが、何せこの広い東京で一つの店を自力で探すのはかなり難しい。携帯でもないかぎり、案内はできないだろう。

 

「流石に無理、か?」

「うーん...うーん......んー???、もう一度店の名前教えてもらって良いですか?」

「ツバキ模型店だ」

 

または、自分の店でもないかぎり...だが。

 

「そこ、自分の店です。」

「おおっ!そうか!これは凄い奇遇だな!」

 

最近で、一番のラッキーイベントだったかもしれない。軽く口元が緩む。

 

「...どうかしたのだろうか?」

「あ、すいません。すぐにご案内します」

 

ヒロは黒髪の彼女を連れ、店へと向かった。

 

 

 

「あなたの店ということは、貴方がアキか?」

「あぁいえ、アキは自分の姉です。僕は弟のヒロといいます」

 

自分の立場を明確に教え、会話を続けながら二人は店に向かって歩いていた。

 

「あの、もしよければあなたの名前をお聞きしても...良いですか?」

 

別にそこまで畏まることではないのだろうが、滅多にない姉以外の異性との会話のため、恐る恐る聞いてしまう。

 

「おぉ、すまない自己紹介が遅れた。私は紅衣だ、遠野紅衣。」

「くれい...さんですか」

 

紅衣と名乗る彼女は暑い太陽の光を背にヒロに笑顔を見せた。アキ以外の異性と話すのが久々なせいなのか心なしかぎこちなくなるが何とか冷静を保つ。

 

「く、紅衣さんは今日何の用でいらしたのですか?」

「あぁ、それは...」

 

重要な話が始まろうとした瞬間、聞こえてきた声に遮られる。

 

「ちょっと!あんたたちいい加減うちに来んの止めなさい!」

「なっ、なんだ!?」

 

気付くとすでに店の前まできていた。

それと同時に中からアキの怒鳴り声が聞こえてきた。そして、そこにはアキの他に三人の大柄の男が居座っていた。

 

「ああん?うるせぇな、テメェには関係ねぇだろ」

「関係ないって、ここはうちの店!あんたたちの溜まり場じゃない!」

「またあいつらか...」

「ヒロ、彼らは?」

「ここら辺で評判の悪いチンピラですよ...たまにうちに来て溜まるんです」

 

このご時世にヤンキーなどまだいるのか、という気持ちになるが、居るのが事実で頭を抱え込みたくなる。

 

「...そうか」

「紅衣さん...?」

 

紅衣の声色が急に暗くなる。

 

「良いからさっさと帰って!いい加減にしないと警察を呼ぶわよ!」

「良いじゃねぇかよ、どうせ客なんか来やしねぇんだからよ」

「なっ...」

 

あまりにも自分勝手な物言いに流石のアキも動揺を隠しきれなくなる。

 

「はっはっ、流石センパイ!言いますねぇ!」

「むしろ俺らが店の雰囲気を盛り上げてやってるんだから感謝しろよなぁ!」

「「「はっはっはっはっはっ!」」」

「あ、あんたら...いい加減にっ!」

「落ち着いてアキ姉」

 

流石に聞き耐えるのに限界がきたようで、ヒロがアキのフォローにまわる。

 

「ヒロくん...帰ってきてたのね」

「どうやら彼らは言葉が分からないらしい...」

「お、弟くんじゃねぇかぁよく帰ってきたなぁ」

 

分かりやすい煽り台詞を言ってみたが、流石にこれじゃどうこうできる訳じゃないらしい。

 

「そうだ、アキ姉。今紅衣さんっていう人が来てて...あれ?紅衣さん?」

 

気付くとさっきまで隣にいた紅衣がいなくなっていた。

 

「おい貴様。どうして貴様達ははここにいる?」

「あぁ?誰だテメェ」

 

今度は何事かと思うと、そこにはチンピラ共の前に立つ紅衣がいる。

 

「こちらの質問に答えろ。何故、ここに、いる。」

 

その口調からは、微かに怒りが感じ取れた。

 

「なんだこの女!なめた口ききやがって!」

 

次の瞬間、男の1人が紅衣に殴りかかろうとする。

 

「危ない!」

咄嗟に紅衣に向かって手を伸ばす。本能的に体が動いた。だが事態はこちらの予想とは大きく外れた。

つい今、紅衣に手をあげようとした男が腹を抱えて倒れこんでいた。

 

「いっ、痛ぇぇぇ!!!」

「な、何しやがったてめぇ!」

 

そしてもう1人の男も殴りかかろうとしてくる、だが紅衣はその男の拳よりも速く男の顔側面に蹴りを見舞いする。男の体が宙に舞った。

 

「あ、あがががが」

「なっ...」

 

目を疑う。その場にいた全員が唖然する。

そして、彼女の腕輪から出ていた赤い閃光が尾を引く。ほんの微かに光っただけだったので、それに気づいたのはヒロだけだった。

 

「な、なにしやがるてめぇ!」

「なんなら貴様も相手してやろうか?」

「ちょちょちょ、ちょっと!店の中で暴れたれら困るわ!」

「あ、すまない」

「糞がっ、覚えてろ!」

 

事の展開が速すぎて、未だに状況が把握しきれない。

だが連中は立ち去ったようだ。

 

「...え、えーともしかして貴女が紅衣ちゃん?」

「ああ」

「やっぱりそうだったのね!良かったわ無事会えて!」

「あぁこちらも無事会えて良かった。アキ」

「えっ?えっ、えっ?」

 

やはりまだ状況の整理がつかない。

チンピラ共に絡まれるわ、ちょっとした暴力沙汰になったり、アキは今初めて紅衣さんに会ったばかりのはずだ。

 

「あーそういえばヒロくんには言うの忘れてたね」

「ちゃんと言ってよ!」

「あはは、ごめん」

 

チンピラが立ち去ったおかげかアキは落ち着きを取り戻していた。普段はとても落ち着いているのだが、店の経営事に関わるとなるとかなり敏感になる。

 

「でもすごいわ紅衣ちゃん!まさかあいつらを追い払っちゃうなんて!」

「気にしなくていい。私がやりたかったからやっただけだ。」

 

根っからの武闘派ですかそうですか。思わず口にしそうになり思わず口を塞ぐ。

 

「あ、そう?でもありがとう。助かったわ」

「そ、それで話の本題に入りたいんですけど」

「あぁ、そうだな。では改めて」

「お、おう」

「今日からここで世話になる。アキ、ヒロ」

「あ、よろしく...ってええええええええ!?」

 

 

    

 

 

「糞が!何なんだあいつは...」

 

先程紅衣にひどい仕打ち、というより自業自得なのだがボコボコにされたチンピラ達は店から離れた路地裏にいた。

 

「くっ、くそあのやろう...必ずぶっ飛ばしてやr...いてぇ...」

 

腹パンを受けた奴はは未だに悶えており、吹っ飛ばされたもう1人は気絶している、恐らく相当な威力があったに違いない。

 

「センパイ!やり返しにいきましょう!すぐにでも!」

「...いや、今行っても勝てる相手じゃない...それは俺でも分かる」

 

たかが一人の少女に勝てなかった。という事実だけは確かであった。

 

「じゃあどうするってんですか!」

「「「...」」」

 

「おたくら、何やらお困りみたいやなぁ?」

 

途方に暮れていた三人にどこからともなく声がかかる。

 

「誰だ!?どこにいやがる!?」

「ここやでー」

 

声の持ち主は唐突に現れた。頭の上にずっしりと何かが乗ってくるのが分かった。

 

「よっ!」

「てめぇ!どこに乗ってやが...」

 

そこに現れたのは青い長髪の少女。見た感じでは高校生ぐらいだろうか、身長もかなり高い。

 

「で、お困りの様子みないやけど、どないしたん?」

「なんだテメェは!」

 

血の気の多いチンピラの一人が恫喝する。リーダー想いなのだろうが、それをもっと他の事に役立てればいいのだが。

 

「落ち着けお前ら!...で、何のようだ。お前は。」

 

やっと話の本筋に入れると思ったのか、その関西弁の少女は不適な笑みを浮かべる。

 

「いやーウチはただ困ってる人がいたから、その人を助けたあげよーかな思って~...おにーさん達、もしかしてあの模型店のとこの子と揉め事を起こしたんちゃう?」

「どうしてお前がそれを知ってるんだ?」

「いやー結構有名なんやよあそこの店。だからちょっとそこでおにーさん達の噂をちょいとね?」

「...だったらなんだってんだ」

「...ウチが手助けしてやるで」

 

 ーー話だけ聞くととてつもなく胡散臭いが、それ以上に興味をそそられる案件じゃねぇか…

 

「...おもしれぇじやねぇか。お前、名前は?」

「ウチ?ウチか。ウチは関西一のガンプラビルダー...ガンプラ心形流次期候補者や」

 

 

 

 

「ラルさんが?」

「そうそう。ラルさんがとある知り合いの女の子が東京に上京する上で家に困っているっていうからね」

「普段ラルさんにはお世話になってるし、その子にもあってみたいなーって思ってね」

 

 ーーまたラルさん絡みか、あの人本当人脈広いな...

 

「うむ、ラルに私を泊めてくれるという相手を見つけたと言われてな」

「はぁ...」

「それにここは学校に通うのに差し支えない場所に位置しているしな」

「え、紅衣さんまだそんな年なんですか?」

「そうだ。もう17になった…はずだ」

「そ、そうだったんですね」

 ーー随分と大人びた人だからてっきり成人ぐらいはしてるのかと思ったけど…

 

「…私が17にみえないのか…?」

 

そういわれた瞬間、紅衣の方を見ると彼女は少し頬を膨らませていた。

 

「えっ!?、あ、そ、そーゆーことじゃなくてっ!」

「うわぁー女の子にそんなこと言うなんてヒロくんサイテー」

「あ、アキ姉!」

「ごめんねー紅衣ちゃん、ヒロくん女の子とあんまり喋ったことがないから...」

「あうぅ...」

「あーあ紅衣ちゃん可哀想ー」

「も、もういい!許すから頭を上げてくれ!」

「す、すいません」

 

流石に言い過ぎたと思ったのか紅衣はこれ以上の追撃はしなかった。

 

「ま、まぁそれにこの店にあるものに興味がある」

「模型ですか?」

「模型、というかガンプラとやらが気になっていてな」

「ガンプラですか!?」

 

紅衣がそう言った瞬間、ヒロは突然椅子から立ち上がった。

 

「あ、あぁそうだが」

「なんだったらここにあるガンプラ、紹介しましょうか?」

 

そう言いながらたじろぐ紅衣の両手をがっしりと掴んだ。

 

「そ、そうか、ありがたい…そ、それはそうとまず少し落ち着いてくれないか?」

 

紅衣は鼻息を荒くしているヒロになだめるよう言う

…まるで闘牛の様に荒々しい鼻息である

 

「いえ!そうと決まったらすぐに行きましょう!」

「え、あっちょヒロ!」

 

慌てる紅衣に目もくれず、その手を引き店の展示ペースへ走っていく。

 

「あーあ行っちゃった...」

 

1人リビングに残されたアキは寂しげにつぶやく。

きっとずっと自分しか話してやる相手が居なかったヒロが、紅衣に興味を示した事が嬉しくも寂しいという気持ちもあるのだろう。

 

「ヒロくんとっても楽しそう。まるであの時みたいに...でも紅衣ちゃん、今日はずっと歩きっぱなしだったって言ってたし、疲れてないかなぁ」

 

 

店の中にある大きな展示スペース。そのガラス越しには多数の模型、そしてガンプラが飾られている。

 

「しかし、沢山いるな...ガンダムと名の付く物でもかなりある...」

「えぇ、なにせ何十年も続いてる作品ですからその種類も多種多様です」

 

ショーケースの前で屈んで中の機体をみる紅衣にガンダムというシリーズの歴史について語ると、ますます興味を持ったように黒い瞳を輝かせた。

 

「これがザクか、こいつは私も知っている…しかしこのぐふという奴とこのザクは一体何処が違うんだ?色が違うのは分かるが」

「良い質問ですね、分かりやすく説明すると、そのザク2とグフはそもそもの運用思想が違うんです。元々ザクは空間戦闘に特化、並びに重力化でのある程度の運用も考えられた機体です。それに対してこのグフは試作機から様々な調整を加え、重力化での運用を目的として格闘戦に特化した機体になってるんです。」

「は、はぁ」

「更に説明しますとねっ!」

「あ、いやそこまでで良い、十分分かった」

「そうですか?」

 

目をキラキラさせながら説明するヒロを見て長くなると察したのか解説を途中で止めさせる。

 

「しかしあれだな。これだけ数があっても今はガンプラバトルというものがあるからもて余すことも無いんだろう?便利な時代だ」

「そうですね...自分のガンプラを使って戦うのは昔から皆の夢でしたから」

「そうだろうな...自分の力作を自分の手で試せる。それは胸が熱くなるものだ…ヒロも、自分で作った機体を使って戦うのだろう?」

「えっ、あ、いや…なんていうかその」

「ヒロ?」

 

先程までの勢いがまるで嘘みたいに突然黙りこんだヒロに、紅衣は少し違和感を覚える。

 

「…僕はガンプラバトルはしません…いえ、できないんです」

「どういう…事だ?」

 

突然謎の告白をしたヒロに紅衣は質問を投げかける。

 

「僕には昔、一緒に遊んでた兄がいました」

「アキ以外にも兄弟がいたのか」

「えぇまぁ。僕達はずっと前に事故で両親を無くしているんです…だから僕はしょっちゅう兄とアキ姉に遊んでもらってました。家が元々模型店だったという事もあるんですが物心ついたときから、兄とはガンプラで遊んでたんですよ」

 

苦笑混じりの会話は他所から見てもとても楽しそうと思えるものではなかった。

 

「兄はいつもやんちゃな人でした。でもとっても優しくて、まだ幼かった僕にガンダムというアニメ、それこそ違うものも見せてくれたり、教えてくれたりしました。その頃からです。僕がガンプラ、言っちゃえばガンダムを好きになったのは」

 

淡々とただ黙々と話を続けるヒロの隣で紅衣はただ静かに聞いていた。

 

「兄は近所でも有名になるくらいガンプラバトルが上手くて、一方の僕は全くと言って良いほど下手だったんですよ、当時の僕はもうそれはそれは落ち込んじゃって。そんな僕を見て兄は、ならバトルは俺に任せてお前は俺のガンプラを作れと言いましたその時からプラモ製作は、いや、自分で言うのもなんですけど、僕の方が秀でてたので僕は喜んで引き受けました。そして約束したんです、いつか二人で世界大会を目指そうと」

「世界大会…」

「僕が作って、兄が戦う、最初は破竹の快進撃でした。そしてそれから1年後の地区予選で僕は兄とタッグを組み、出場しました。参加してからというものの、兄は僕のガンプラを使い、対戦相手を次々と倒していきました」

「当時の新聞で期待のルーキー参上、とまで書かれる位に。僕も天才ビルダーとまで言われるようになって...少しずつ夢に近づいていたんです。…でもそれは、予選決勝戦の前日に全て消えました」

「...消えた...?」

 

紅衣は途中で少し黙ったヒロに視線を落として気にかける。

「兄が、姿を消したんです」

「何かあったのか?」

「あれ、あんまり驚かれないんですね」

「まぁ、そういうのは慣れっこだ…そこはもう気にするな、続けてくれ」

「...?はい。そして行方不明になった兄は今も帰ってきません。今はどこで何をしているのか...そもそも生きているのかすら分かりません。…行方不明になる前日、兄にこう言われました。次の決勝戦、お前が作った新しい機体で絶対に勝ってやる、だからメンテは欠かすなよ、と。兄がいなくなってからこの言葉を思い出すと、今でも思うんです。僕が作ったガンプラを使ったから兄の身に何か起こったんだと」

「なぜそんなことを思う?」

「はは、端から見たらなにいってるか分かりませんよね...でも、それが偶然かどうか分かりませんが、兄が僕のガンプラを使い始めたころから兄の身に様々な災難が降りかかったんです。最初はちょっとした異変だったんです。でも、兄が少し体調を崩しやすくなって。」

 

紅衣はどこか、既視感を抱いていた。

 

「でも段々とその異変は大きくなっていきました。兄はその後も体調を崩したり、戦闘中に目眩、突然体が動かなくなったり、挙げ句のはてには一度倒れて病院に搬送されたりしました。その事実が明るみに出た後、僕が作ったガンプラは悪魔だとか呪われてるとか、操縦者は不幸な目に合う。なんて情報があちこちで流れたんですよ」

 

既に事の経緯を全て察した紅衣は何も言わず、最後まで黙って聞いている。

 

「決勝は...その日に棄権しました...僕はまたあの舞台に立つことが怖くなったんです...それはおろか誰かが自分の作ったガンプラを使ってバトルすることも...遂にはガンプラを作ることさえ躊躇うようになりました。もしまた僕のせいで、誰かの身になにか起こったらどうしようと」

「でも止められなかった」

「止めたくなかったんです。兄の、トオル兄との、大切な思い出だから。」

 

築くとヒロは歯を強く食いしばっていた。頬から何か落ちたのに気づくとそれを手で優しく拭い、紅衣はゆっくりと口を開いた。

 

「なら続ければ良い。止める必要はない」

「っ!…」

「私はまだあまりヒロの事を知らない、だからあまり勝手な物言いはできんが、それだけだ。私はもう疲れたので寝る。」

「紅衣さん...」

「それと、もう敬語で妙にかしこまって話すのはもう止めてくれ」

 

目を大きく見開き、疑問の声が浮かぶ。

 

「それじゃ、また明日会おう」

 

そういうと紅衣は部屋の方に戻っていった。

 




どうでしょうか?1話は戦闘描写がありませんでしたが内容は理解頂けたでしょうか?

前まで書いてたのを途中で投げ出し新シリーズをだしてしまいましたが。
肝心のガンプラ要素があまりありませんでしたが、次回からは内容をきちんとガンダムビルドファイターズもりもりにするかもしれないので是非お待ち下さい。








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LOAD:2二人なら

ぶっちゃけここまでが一話。

     主要登場人物紹介

遠野紅衣 トオノクレイ...主人公。色々あって椿模型店に住まうことになった。

椿ヒロ ツバキヒロ...もう一人の主人公。兄がいなくなった理由が自分にあると思っている。

椿アキ ツバキアキ...ヒロの姉。椿模型店を経営しながら大学に通っている。現在は実質ヒロの親代わりになっている。

椿トオル ツバキトオル...椿家の長男。五年前にどっかいった。

チンピラ共

ダイア...リーダー。片想い野郎。

ムッシュ...たまにいるすぐチクる奴。

オルテマ...あんま設定考えてない奴。


      所要登場ガンプラ


M1アストレイシュライクステルス

【挿絵表示】


【挿絵表示】

ヒロが二年程前になんとなく素組みしたM1を、つい最近になって改造、塗装した機体。
ノーマルとの大きな変更点、シュライクローターはプラ板やアムアム関節を使用して製作した。塗装に使用した塗料は、プラフスキー粒子に反応してレーダーへの非発見度を高める特殊塗料を使用している。

メイン武装

71式ビームライフル
70式ビームサーベル
80ミリ対空自動バルカン砲搭システムイーゲルシュテルン
これに関してはヒロがピンバイスで砲の口径を広げている。
9.1メートル対艦刀


ZGMF-XX09Tドムトルーパー


【挿絵表示】

製作者は現在不明。劇中での使用者はムッシュとオルテマ。
目立つ特殊改造はされていないが、各関節の稼働範囲及び設定準拠の精密なフル塗装が施されている。

メイン武装

JP536XギガランチャーDR1マルチプレックス
G14X31Zスクリーミングニンバス
MX2351ソリドゥス・フルゴールビームシールド発生装置
MMI-GAU25A20mmCIWS
EX-EZイージーウィザード
MA-X848HD強化型ビームサーベル


ドムトルーパーナイトウィザード


【挿絵表示】

同じく製作者不明のガンプラ。使用者はリーダーのダイア。
この機体は元々ガンダムSEEDのMSVに登場する機体で、本編劇中では使用されなかった換装パック、ナイトウィザードを装備したモデル。
このガンプラでは主にプラ板、パテを用いて再現されており完成度はかなり高い。

メイン武装

ノーマルの物とは一部武装を除いて基本同一の物が装備されている。
ドリルランスMA-SX628フォーディオ
対ビームシールド
EX-G1ナイトウィザード



問題なければ、今回挿絵が貼れてると思います。

今回くそ長ぇ!後自分で言うのもなんですけど前振り長ぇ!




彼女は深く澄みきった赤い目をしていた。

その瞳の奥には何があるのかわからない。

だけど、心なしか自分と同じ雰囲気を感じた。

 

 

 

「...体が痛い」

 ーー昨日紅衣さんが部屋に戻るとは言ってたものの、まさか自分の部屋で寝てるとは...おかげで昨日はソファーで寝たせいか体が痛い...

「あっ、おはよーヒロくん。朝ご飯出来てるわよー」

「あぁ、ありがとう」

「む、起きるのが遅いヒロ。」

「えぇ...」

寝起きの悪いヒロとは正反対に、ずいぶん調子の良さそうな紅衣。昨日は長旅のせいかかなり覇気の無い顔だったが、それに比べ今日はかなり元気そうだ。

「そもそも紅衣さn...紅衣が僕の部屋で寝てるからでしょーが」

「ヒロも一緒に寝れば良い」

「なっ...そ、そ、それはえと...あの..」

「まぁまぁ!ヒロくんも早くご飯食べちゃいなさい!」

これ以上この話が続くと弟のMPが尽きると判断したのか、アキは無理矢理話を話を遮りつつヒロを椅子に座らせた。

「そういえば紅衣ちゃんは今日の予定はどうなの?」

「今日は少しこの近辺を散歩するつもりだ」

「それならヒロくんに案内してもらったら?せっかくだし」

「別に構わない。どうせすぐ戻るだろうし」

事情を説明しつつ、紅衣はお椀の中に残った味噌汁を全て飲み干す。

「ご馳走さま。美味しかった、アキ」

「それは良かったわ~最近ヒロくんは私が作ったご飯食べても美味しいって言ってくれなかったから~」

「ちゃ、ちゃんと美味しいと思ってるよ!」

「ほんとかなー?」

いつものごとくヒロをいじり倒すアキ。なんだかんだいって仲が良いのは事実と言うべきか。

「ふふっ、本当に仲が良いんだな二人共」

「まぁ姉弟だからね~」

「僕はいつも理不尽な目にあってるんだけど」

どうも上手いこと毎回言いくるめられて気がする。まぁいつものことだから今更どうこうしようと言うわけではないのだが。

「あっ、そうだヒロ」

紅衣が食べ終わった食器を片付けながら何か思い出した様に突然聞いてきた。

「帰ってきたらまた、ガンプラの事教えてほしい」

 ーー…少し驚いた。

昨日あんな気の滅入る話をしてしまっただけに、昨日から地味に引きずってしまっていたのだが気にする必要はないようだ。

「...もちろんです。最初からその気でしたから」

本心を隠そうとしつつ、クールに応対しようとするヒロを見て紅衣はクスッと微笑んだ。

「ではそろそろ行く」

「行ってらっしゃーい迷子にならないようにねー」

最後までその声を聞きつつ紅衣は店を出ていった。

 

 

 

「なんだかんだいって紅衣ちゃんといるの楽しいでしょ?」

「まぁ、うん。」

紅衣を見届けた後、そそくさと部屋に戻るヒロを引き留めて話を続ける。

「最初は女の子の同居者が増えたらヒロくん部屋から出てこなくなるだろうなーって思ってたけど」

「僕はそんなに人見知りじゃないって」

「HAHAHA」

「からかわないでよアキ姉」

弟の事をよく知っている彼女だからこそ、一番心配していたのだろう。アキは深いため息をつく。

「やっぱりあの機体、完成させようかな」

「それって前にヒロくんが大会用に作ってて、途中で作るの止めちゃった機体?」

「うん。でもまぁ、まだ紅衣がガンプラバトルをやると決まった訳じゃないんだけどね」

正直な所、紅衣には自分と一緒にガンプラバトルトーナメントに出てもらいたいと思っている。もちろんまだ彼女に頼んだ訳でもないし、自分自身のトラウマと決別できたと言うわけではない。

「だけど念のため、ね?」

だが昨日紅衣と話終わったあと、不思議と今までにない開放感が沸き上がってきていた。今までためていた物が全て吹き飛んだ、そんな感じがしたのだ。

彼女は自分に作りたければ作ればいいと言った。言われた時、心なしか嬉しくなった。自分はきっと、誰かに慰めてもらいたかったのだと思う。もっとも紅衣の言葉は慰めと言うには程遠いぐらいにサバサバしたものだったが。

「...久々に展示品以外のガンプラ作るか」

「ふふっ、がんばれ~」

 

 

「お邪魔するぜぇ」

...だがこちらの思うように事は運ばない。また面倒なのがご来店したようだ。

「またアンタたち…もういい加減うちの店に来ないでほしいわ」

相手の話を聞く前に条件反射で追い返そうとするアキ。まぁ無理もない。

「まぁそう言うなって、ん?昨日のお嬢ちゃんはいないのかよ?」

気持ちの悪い笑顔を振り撒きながら話を続けるチンピラ共。リーダーらしき男はいかにも紳士に振る舞おうとしてるが、昨日の事を相当恨んでいるのだろう。連れの二人は嫌悪感を隠すこともなく、しかめっ面でヒロたちををにらんでいる。

「悪いけど、お目当ての娘なら今はいないわよ」

「へぇ、まぁいないならいいさ」

随分と澄ました顔をしている。恐らく何か企んでいるのだろう。いや考えなくても分かる。

「で、何か用があるならさっさと言ってくれないかな。こちらも貴方達の相手をしている暇はない。」

「まぁ、そういうなって。今回俺達が来た理由はただ一つ、あんたらと“駆け引き”をしにきたのさ。」

「駆け引き?」

 ーー正直いうとろくな気がしない。こいつらがまともな提案をしてきた事がない。…というかもう何回もこんなことやってる気がする。

「あぁ、そうだ。俺たちと今から勝負してもらう。」

「断る」

「断るわ」

「「ええっ!?」」

連れの二人があまりの早さの即答に驚いて声をあげた。

「まぁまぁ最後まで聞けって。その勝負に俺達が負けたらもう二度とここには迷惑をかけないと約束するぜ。」

「迷惑云々の前にそもそも店に来ないでよ。」

「だがあんたらが負けたら...」

チンピラ、ここを華麗にスルー。最初から拒否権なんぞないらしい。

「今まで通りここに居座る!」

「...随分としょぼいな」

「それとあんたらの身柄を好きにさせてもらうぜ。」

「はぁ...はぁ!?」

突然とんでもない条件を要求されて声を荒げる。

「それで勝負内容は、」

「ちょ、ちょっと!何!?勝手に話を進めないでよ!身柄ってどうゆうこと!?」

「まぁまぁ、じきにたっぷりと教えてやるよ...」

目が完全にヤバいやつのそれである。そもそもこのチンピラ共は普段何をやっているのだろうか。

「やはり断る、こちら側のメリットが少なすぎる。こんなハイリスクローリターンの駆け引きをこちらが受けると思っていたのか?」

「まぁこの駆け引きを断ればこちらは実力行使するだけだぜ?。たかがガキ一人と女一人で俺らに勝てると思うか?」

こいつらは昨日の出来事を忘れているのだろうか?あれだけ痛い目にあったというのに。

「それにあんたらも面倒事を起こして、余計客が来なくなってもこまんだろ?」

「ぐっ、それを駆け引きに出すなんて...」

「あぁそうだ。なんならあんたらが勝利したときのメリットってものを追加してやるよ。そっちが勝ったら俺らが駅前やここら辺でこの店の宣伝をしてやるよ!」

「...ほう」

「あ、アキ姉...?」

「せ、センパイ!?」

「何勝手に面倒な条件増やしてんすか!」

「落ち着けお前ら。どうせこっちの勝ちは決まってんだ。少しは面白くねぇとつまんねぇだろ?それに向こうも引くに引けねぇ状況みたいだしよ」

 

 

 

「...どうするアキ姉、ここは断った方が良いと思うけど......っ!?」

 ーーおい、なんだその顔は。頼む。止めてくれ。その屈託のない笑みを向けないでくれ。

 

この勝負を引く提案を出しながらアキの方を見やると彼女は満面の笑みを浮かべていた。

「ヒロくん。ふぁいと!」

「ええええええやっぱりそうなりますぅー?」

「そりゃそうよ!確かに負けたらどうなるか分からないけど、勝てば店の広告代理としてあの連中をこきつかえるのよ!ここはやるしかないわ!ってことでヒロくん任せた!」

「ですよねー。」

上手いこと言いくるめられた事に気がついてはいたものの、このままでも事態は何も解決しないという事を悟り、要求を飲むことにした。

「ぐっ...わかった。で、聞きそびれていたがその勝負内容というのは?」

「へっへっへっ、そりゃ決まってんだろ。ガンプラバトルだ!」

「が、ガンプラバトル...」

突如ヒロの顔が青ざめる。さっきまでの調子が嘘のように。まさかここでそうくるとは思っていなかったのだろう。

「おいおい、まさかこれをやらないつもりはないよな?五年前に表舞台から姿を消しちまった元天才少年ビルダーさんよぉ?」

 ーーこいつら...最初からそれを知って...!

全身から血の気が引けていくのが分かる。いずれこうなるときは覚悟していたはずなのに、いざとなると全く勇気が出ない...。手の震えが止まらない。誰か別の人が自分が作った機体で戦う訳ではないのに、震えが止まらない。そもそも自分がガンプラバトルを行うこと自体に恐怖心や罪悪感を抱いているからかもしれない。

「センパイ、やっぱりアイツが言ってた通り、こいつガンプラバトルが出来ないみたいですよ」

連れの一人がリーダーに耳打ちする。

「ああ、どうやらそうみたいだな」

「や、やっぱり僕は...まだ...」

「ひ、ヒロくん...」

 ーーアキ姉...そうだ、ここで引いてどうする...こいつらに馬鹿にされたまま、終わるのか...こんなとき...トオル兄なら......紅衣なら.....

「や、やっぱり代わりに私がガンプラバトルをっ...」

「ガンプラバトルを一度もやったことのないアキ姉がやろうとしてどうすんの...」

「ヒロくん...?でも...」

「大丈夫...やれるよ...」

 ーーまだ覚悟が決まった訳じゃない。でもやらなきゃ何も始まらない!

「どうやら決まったみてぇだな!んじゃ早速やろうじゃねぇか!」

連中を奥のバトルブースに案内する。その途中のショーケースの中にはヒロが製品の完成見本として作成、展示しているガンプラがズラリと並んでいる。勿論ガンプラ以外の模型、戦車や航空機、艦船模型からフィギュアまで多種多様にある。どれも基本的な工作しかしていないが、完成度は高い。だがそれを見てもチンピラ共は余裕の笑みを浮かべている。

「よーしこっちは準備OKだ!お前はどうだぁ?」

 ーーしかしやるとは言ったものの、まだあの機体は完成していない…あれを使うか。

「こちらも問題ない。始めよう」

 

«ガンプラバトルシステム、スタンバイ»

 

アナウンスが鳴ったと同時にバトル台を間に挟んだヒロとチンピラ共の周りを青い粒子が包み込むように放出される。ガンプラバトルシステムのアナウンスはつい数年前まではテンションの高いEnglish音声だったのが、ヤジマ商事によるアップデートで様々な言語が選択可能になった。理由としては英語がよく分からない子供や一部の言語の使用しか認められない、宗教などに所属する人達のガンプラバトル意欲を高める為にということらしい。

ここのバトル台は日本語の設定になっている。一応男性ボイスと女性ボイスの選択が可能だが、ヒロは雰囲気よりも耳の癒やしを取り女性ボイスに設定している。

«GPベースをセットして下さい»

 

システムの指示に従い、双方がGPベースをバトル台にセットする。GPベースにはガンプラのIDや、精密な機体情報が組み込まれている。

 

«バトルフィールドを選択中···フィールド、オノゴロ島»

 

バトルフィールド、これからガンプラが戦う戦場はバトルシステムによってランダムに選ばれる。その種類は多種多様で、今までの歴代作品に実際に登場したステージが多く存在する。

何が起きるか、始まるまで誰にも分からないのだ。

 

«ガンプラをセットして下さい»

 

ヒロはその手に握られたガンプラをGPベースの上に置く。セットされたガンプラの周りにより濃度の濃い粒子が放出される。この瞬間、ガンプラに命が吹き込まれる。その機体のデュアルアイに黄色い光が走る。操縦者の手元に2つの球状の物体が出現する。コントロールスフィアだ、これで機体制御からFCS(火器管制システム)、通信などの処理を行う。

「この感覚久しぶりだ。五年前に触ったきりだったからかな...」

«全システムオールグリーン、発進可能»

全ての行程が終了し、発進可能の合図が出る。息を大きく飲み込み、一度深呼吸をする。

「大丈夫。できるよ!ヒロくん!」

アキ姉がバトルベースの外から応援をしてくれる。そうだ、できる。

「...っ!M1アストレイシュライク!ツバキ·ヒロ!出ます!」

そう叫びながらコントロールスフィアを大きく前に押し込む。それに答えるようにアストレイが勢いよく射出され、粒子で生成された大空に飛び立つ。

「...また帰ってきたんだ、ここに!」

白と黒のモノトーンに塗装されたその機体は、背中のEF-24Rフライトローターシュライクを展開し空中で体勢を立て直す。映えない機体色だが、その威容は実際の作品に登場した鋼の巨人を彷彿させる。

「奴等はどこだ?」

機体のレーダーを展開し、熱源探知と目視で敵の機体の居場所を探す。

 ーーあの連中の事だ、きっと派手な機体を使用してるに違いない(偏見)。

「先に見つけて先制攻撃を...」

しかし先に火を吹いたのは相手の火砲だった。

「攻撃!?どこから!」

アストレイの横を緑色の閃光が掠めていく、その大きさからしてかなり大口径の物だ。幸いにも攻撃警報アラートに気付いてからでも回避は間にあったが、この緑色のビームは恐らく...

「ヒャッハア!喰らいやがれぇ!」

その叫び声と共に市街地のビルから紫色のずんぐりとした機体がこちらに向かって射ってくる。

「ぐっ、あれは...ドム!?いやドムトルーパーか!」

その機体はヒロのM1シュライクと同じく、機動戦士ガンダムSEEDDestinyに登場した機体、ドムトルーパーだ。ドムと言っても様々なバリエーションが存在するが、このトルーパーはかなり厄介な機体だった。

「くそっ!」

間一髪攻撃を回避した後、ヒロはトリガーを引く。アストレイはその手に持った71式ビームライフルをドムに向けて連射する。

「へっ、当たるかよ!」

しかしドムはそのホバー機動を活かした機動力でそれを易々回避する。

「こいつら、なんでこんな手際いいんだ!?」

その見た目からは想像もつかないくらいの操縦技術に感嘆しつつも皮肉を叫ぶ。

「このままじゃあいつらの良い的かっ...一度降りないと!」

だが相手はこちらを待ってはくれない。先ほどのドムと真逆の方向、軍港施設からもう一機のドムトルーパーが大口径砲JP536XギガランチャーDR1マルチプレックスを構え、こちらを落とそうとしてくる。牽制射撃ではない、こちらを落とす気満々の攻撃だ。

「おちなぁ!カトンボぉ!」

実にヒャッハーな台詞を吐きながらなおもこちらを撃ってくる。しかし今さらながらシロッコは凄い独特な言い回しをしている…などと考えながら機体を回避させる。

「とりあえず市街地にっ...っ!?」

直後、港方向からの攻撃がアストレイの背面に直撃する。元々装甲が薄い上にスラスターが集中しているバックパックに命中したため、アストレイは空中での体勢を崩す。

「くそっ、こんな場所じゃ視認性を下げる為の塗装も意味がっ!」

「あ、一応その地味な色に意味あったのね」

つい、と言わんばかりにアキが外からボソッと呟く。

「と、とにかく姿勢制御を...あっ」

ヒロがそれに気づくのは遅くなかった。どうやら先程の攻撃でフレームが歪み、姿勢制御システムがダウンしてしまったようだ。機体のコンディションアラートが黄色になる。

「あああああ落ちるううううううう!!!!!」

飛行能力を失い、真っ逆さまに落ちていく。やがて機体は音を立てて墜落する。

「いててて、ここはどこだ...?」

ふと周りに目をやる。どこに墜落したか確認しようとしたが、機体の下敷きになってる建物が何かに気付く。モルゲンレーテというロゴが描かれたここは、SEEDおよびDestinyに度々その名が登場するオーブの兵器開発企業である。

「くっ、機体のあちこちがイカれてる...早くここから移動しないとっ!」

「わりぃが、そうはさせねぇぜ」

大層な登場台詞と共に、メインカメラに一機の機影が映る。その形状は先程まで戦闘していたドムとは少し違う。

「そ、その機体は...ナイトウィザード...?」

背面に大型のバックパックを背負い、ランスのような武装を持つその機体はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

「あ?へー、こいつそういう名前なのか..よっ!」

ドムトルーパー・ナイトウィザードと呼ばれるその機体は、アストレイに向かってランス状の武装を向ける。

「何を...あっ!」

反射的に機体を横に仰け反らせる。そのわずか数秒後、アストレイの横を何かが掠め、そして後ろの壁面にとてつもない音を立てて突き刺さる。間一髪だった。その武装の正体を知らなければやられていたであろう。

「おぉ、今のを避けたか!やるじゃねぇか!」

あの武装はランスとしての機能は勿論だが、その先端部はドリルの様に回転し、遠距離にいる目標への発射も可能なドリルランスMA-SX628フォーデイオである。しかもそのドリルは一回の使いきりではなく、背面のナイトウィザードに何本もストックがある非常に厄介な武装だ。

「そんな完成度の機体を...作ったのは本当にお前達なのか!?」

「テメェには関係ねぇだろぉ!」

間髪入れずにランスでの突きがくる。だがその攻撃は回避。しかし二度目、三度目と攻撃が止まない。その攻撃自体はかなり大振りだがリーチが長く、至近距離では回避が難しい。おまけにアストレイのシールドではダメージを防ぎきれない。

「ちょこまか避けんなよぉ!」

「僕だってこれぐらいの攻撃は避けきれるさっ!」

だが体は正直だ。手汗がどんどん涌き出てくる。

しかしこちらもやられっぱなしではいられない。トリガーを引きライフルで反撃をする。だがその射撃は全てエネルギー状のシールドでかき消されてしまう。

「フルゴールビームシールドかっ!それなら!」

ライフルをバックパックにマウントし、腰部サイドアーマーに懸架された試製9.1メートル対艦刀を引き抜こうとする。

「俺らも忘れんなよぉ!」

「しまっ...!」

突如後ろに現れたもう一機のドムに後ろからタックルを喰らう。

目の前の敵に集中しすぎて他の二機を忘れていた。機体は眼前にあるビルに叩きつけられる。

「ぐっ!」

機体を起こそうとする...が、頭部をドムの大きなマニュピレーターで掴まれ、後方のビルにまた叩きつけられる。

「おいおいおいこんなもんかよぉ?“元”天才ビルダーさんよぉ」

「だからヒロくんはビルダーだって言ってんでしょうがぁ!」

アキが外からブーイングを飛ばす。まぁ、その通りなのだが。

「やっぱテメェはせいぜいガンプラだけ作ってるのがお似合いだなぁ!」

分かりやすい煽り台詞を吐いてくる。だがこんなので頭に血が上がるのはこいつらと同じような奴か、相当な短気ぐらいなものだ。

「なんですってぇ!もう一回言ってみろぉ!」

 

 ――...いた。身近にいた。家族にいた。気持ちはありがたいが、チョロすぎるよアキ姉。

「まぁもっとも、テメェの作ったガンプラなんて恐ろしくて使いたかねぇけどなぁ!」

「実際にそれでいなくなっちまった奴がいるんだってからなぁ!」

「「「はははははっ!」」」

「......」

「どうしたぁ?なんも言い返せねぇのかぁ!?」

「アンタ達!いい加減に...」

頭に血が登るのが自分でも分かる。だがそれ以上に、再び罪悪感に襲われた。

そうだ、自分は今、またここに立っている。本来、あの人がいるべき場所に。

「僕は...」

「あ?」

「どうして僕が...」

「...はーん、とうとう限界がきたってか?トチ狂って途中で逃げ出すんじゃねぇぞ?しっかりといたぶってやるんだからなぁ!」

胸部にランスを突き刺される。重要なユニットは外れているが、機体はギリギリと軋む音を出しながらビルに押し込まれる。

「ヒロくん!」

「僕は、ここにいちゃ、駄目なのに...」

トオル兄の存在を消してしまったのは自分なのに、どうして僕がここにいるんだ。

それだけがただひたすら頭の中を埋め尽くす。目の前が見えなくなる。

体が動かない。目の前の敵が恐ろしい訳じゃない。

なのに、動かない。

モニター内が«システムダウン»という表示で埋め尽くされる。

「そろそろ終わりにしましょうぜ、センパイ。」

「...そうだな。んじゃそうすっかぁ!」

「お願い!戻ってきて!ヒロくんがここにいちゃいけないわけがないっ!だって...ガンプラは...ヒロくんとトオルのっ!大事な思い出なんでしょ!だから...」

「これでぇ!」

「戻ってきなさい!ヒロ!」

「終わりだぁ!」

 

 

あぁ、ごめん...アキ姉...トオル兄..........紅衣...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後ろを振り返るな!前を見ろおおおおお!!!」

「えっ?」

その叫び声と共にヒロの腕ごとコントロールスフィアが押し出される。それに呼応するように、アストレイの目に光が走る。

バーニアから青白い光が吹き出し、機体が目の前の敵めがけ飛び出す。

「んなっ!?」

あまりの初速の速さに対応出来ず、アストレイの突撃をモロに喰らい吹き飛ぶドムNW(ナイトウィザード)

「センパイがっ!?」

他の二機のドムがアストレイに攻撃をしようと武器を構える頃には既に目標はメインカメラには映っていなかった。

「やろうどこに!」

「ここにいるっ!」

ドムの直下から頭部に向けて飛び蹴りをかます。そして残りの一機がこちらを捕捉する前に蹴り飛ばしたドムの腕部を掴み、投げつける。

「畜生!テメェいつの間にぃ!」

後方からの攻撃がくる。だがこれをなんなく回避し、カウンターの肘うちをかまし敵機を吹き飛ばす。

「少し強引すぎたか...」

「く、紅...衣...?」

「紅衣ちゃん!」

風になびく黒い長髪。誰かなんて聞かなくても分かる。

「遅くなってすまない。少し寄り道を。」

「よ、寄り道...」

「それとヒロ、少しどいてほしい、これじゃちょっと窮屈だ。」

「えっ...っ!」

気付くと紅衣の豊満な胸が背中に当たっていた。温かく柔らかい感触が背中を包み込んでくる。

「ご、ごごごごめん!」

つい後退りしながら土下座する。至って健康的な反応である。

「構わない。それともう遅いと思うがこのバトル、私に任せてほしい。」

「えっ?えと、紅衣が...?」

「迷っている暇はない、奴らがもう動き出している。」

そう言われてモニターを確認する。確かにあの三機は再び動き出している。あれだけやられても、所詮はアストレイのちゃちい素手攻撃では撃破するまでには至らない。確かに迷っている暇はない。だが機体の耐久値はすでに限界に達していた。だがそれ以上に...自分の作ったガンプラを操作させるのが嫌だった。

「でもっ!...もし何かあったら!」

「...大丈夫だ」

紅衣の赤い真紅の瞳がこちらを力強く見つめる。まるで心の底を見透かされているような、そんな気分になる。

「だけど...」

 ー 上手く言えない。言いたくても言えないけど...託すしかないっ!

「...僕がサポートする。」

意外な反応が帰ってきたのか、紅衣は目を丸くする。

「ふっ、あぁ!頼むぞ!ヒロ!」

「畜生、調子にのりやがってぇ!」

奴らがジリジリとこちらに接近してくる。どうやら完全に頭に来ているようだ。

「ビームライフルは!駄目か...」

バックパックにマウントしてあったビームライフルは、先程攻撃を喰らった時に破損している。ならば、直接斬りに行くしかない。

「紅衣!スロット3番!対艦刀を!」

「スロット3...どうやるんだそれっ!」

「コントロールスフィアを横に三回くいっと!」

「横にくいっと...こうか!」

少々手間取ったが、アストレイはその腰部サイドアーマーに懸架された二振りの対艦刀を引き抜く。

「くそがっ...もう手加減しねぇ!ムッシュ!オルテマ!あれをやるぞ!」

「「おう!」」

謎の、というよりはどっかで聞いたことのあるような掛け声と共に三機のドムが縦一列に並びながら突撃してくる。

「あの体形はっ!来るぞ紅衣!」

一方の紅衣は案の定頭に?を浮かべている。無理もないが。

「「行くぜっ!」」

「恐怖のっ!」

「「「ジェットストリームアタック!!!」」」

説明しよう。ジェットストリームアタックとは(ry

ジェットストリームアタックの先頭にいるドムNWが左胸部に設置されている大型ビームシールドG14X31Zスクリーミングニンバスを展開する。本来からジェットストリームアタック用に装備されているこれは機体の前面に展開し、あらゆる物理攻撃、ビーム攻撃を遮断する。これとドムの機動性を兼ね合わせることで、ジェットストリームアタックはまさに攻防一体の戦闘体形となる。

「避けれるもんなら避けてみなぁ!」

「危ない!避けて紅衣ちゃん!!」

流石に危険を察知してか、アキが呼びかける。

だが、紅衣は...

 

「...ならそうさせてもらう!」

対艦刀を逆手持ちし、高速で接近する三機のドムに向かいブースターを吹かしながら突撃する。

「無茶だ紅衣!それじゃっ!」

だが、こちらの予想は大きく外れた。

機体が敵機とぶつかる直前、紅衣は機体の脚部スラスターを全開にし、先頭の機体を踏みつける。

「なっ!?俺を踏み台にしたぁ!?」

Q.言ってみたかっただけだろそれ。A.言わせたかっただけだよ。

そして中央に位置するドムに、真上から対艦刀を差し込む。

その後間髪いれずに三機目のドムの土手っ腹を真っ二つに切り裂く。

「そんなっ!」

「バカなっ!」

二機のドムが自機後方で爆発する。モニターに敵機撃破の通知が表示された。

「そんなっ...ジェットストリームアタックが一回目で攻略されただと...」

「凄い...」

「よっしゃああああ!そのままやっちゃえー!紅衣ちゃーん!」

「すまないな、避けるのはおろか防ぐことすらできなかった」

 

«制限時間まで、残り一分です。»

 

制限時間を知らせるアナウンスが鳴り響く。通常レギュレーションでは制限時間は20分とされている。

「ちくしょおおおおおお!!!!!」

残ったドムNWがドリルランスで突貫をしかけてくる。

だが、もう一機になってからでは遅い。

「紅衣!スロット2番!ビームサーベルをっ!」

「あぁ、これで...終わりだっ!」

ドムの攻撃を受け流し、出力全開のビームサーベルで袈裟斬りにする。

「う、嘘だっー!」

 

 

 

«バトル、終了»

 

 

 

「さー、どうしたもんかねぇ?勝ちましたよ?勝負?」

「アキは何もしていないだろう」

バトルが終わり、チンピラ共にとってはもっとも恐るべき時間が来た。

自分達が負けると思っていなかったのか、相当焦った顔をしている。

「ぐっ、仕方ねぇ!じゃあここに迷惑をかけるのはこれっきりにしてやるよ!行くぞ!お前ら!」

早々に話を切り上げ、そそくさと逃げようとする。

「...待ちなさい。こっちの勝利条件はそれだけじゃないでしょう?」

逃げようとするチンピラ共の肩を掴みながら、ドスの聞いた声で問いただす。

「アキ姉のあんな声、初めて聞いた...」

「そうなのか。私は昨日ずいぶんと聞いていたが。」

「...えっ、?」

「あんたらには駅前でうちの広告をしてきてもらうわっ!ほら!その為のビラもあるからっ!」

「えっと、気が向いた時にでも...」

「何言ってるの?今からに決まってるでしょ?」

「はいいいいい!!!」

先程までの威勢の良さは既になくなっていた。

「あっそういえばあんたらに聞きたかったんだけどさ」

何か思い出したかのようにチンピラ共に質問する。

「もし僕たちが負けたら身柄を好きにさせてもらうって、最初言ってたけど一体何が目的だったんだ?」

「そ、それは...」

リーダーが何か聞かれたらまずそうな様子で返答を濁らす。

「...センパイ、アキさんの事が好きなんだよ。」

連れの一人が唐突にとてつもない返答を返してきた。

「んなっ!お前!それは黙ってろって言っただろうがぁ!」

「それで、この勝負で勝ったら、俺告白すっからっ!って...」

「ヤメロオオオオオオオ!!!」

 

...唖然。口が開いたままになっているのにも気付かず、ただ唖然していた。

「そうか、つまりお前はこの勝負に勝ったらアキにあんなことやこんなことをしようとしていたのか。」

「ちげええ!いや、違くはねーけどっ!」

「なるほど、理解した。」

「人の話を聞きやがれええええええええ」

今回ばかりはあいつらが可哀想になった。

だが、いい気味でもある。

ちなみに肝心のアキはというと、あっけに取られてどこか遠い場所を見つめていた。

「と、とにかく!さっさと広告行ってこおおい!!!」

「「「はっ、はーい!!!」」」

「あっ、待って!後もう一つ!聞きたいことがある!」

「なんだよまだ何かあんのかよ!」

「さっきのドム。あれ、お前達が作ったガンプラじゃないだろ?一体誰がお前達に提供したんだ?」

「あぁん?...ガンプラ心形流、がどうのこうのって奴だよ。それ以外はなんも知らねぇ」

「ガンプラ心形流...」

 

 

一連の騒動が終わり、気付くともう夜になっていた。あの連中はあの後5時間ほど働かされていたという。

今は二階のベランダに座り込んでこうして月を見ている。月は欠け、今日は三日月だ。

「...わっ!」

「うわああ!...って紅衣!」

「はっはっはっ!相変わらず面白い反応をするな、ヒロは」

子供の様なドッキリについびっくりしてしまい、少し顔を赤らめる。

「よいしょっと...」

紅衣がこちらを覗きこむように隣に座ってくる。…近い。

その後3分間ぐらい二人とも何も喋らず、ただ呆然と夜空に浮かぶ三日月を見ていた。

「...っあの!」

「ん?どうした?」

あまりの静寂に耐えきれず、つい喋ってしまった。

「あ、いや...今日はありがとう...」

ぎこちなく喋るヒロを見て、紅衣の口からは笑みが零れていた。

「なぁに、構わないさ。むしろ私の無理を聞いてもらったんだ、感謝するのは私の方だ」

「そんなことっ...」

何も言えない自分が情けなくなる。結局今回も戦えなかった。

「...ねぇ、ヒロ。お前はまだ昔の事を気にしているのか?」

「気にしてない...って言ったら嘘になるけど...」

やはり紅衣はこちらの心を見透かすような事を言ってくる。隠し事があれば「それはない」と嘘をつけばそれまでだが自分自身、それを聞いてほしいと思ってしまう。

「やっぱり、僕はガンプラバトルをしちゃいけないんだなって思ったよ」

「...それで、ヒロと、ヒロの兄さんの夢は叶えられるのか?」

「...え?」

「アキに聞いた。本当はヒロもガンプラバトルをもっとしたいって。また大会に出たいんだって。」

 ー アキ姉...本当に口が緩い。

 

「私の勝手で話して申し訳ないんだが、ヒロ。お前は昔の事があーだこうだ言って、自分から逃げているだけなんだ。」

「...自分から?」

今まで散々いろんな人に君は悪くない。それは仕方のないことだと言われたが、こんなことを言われたのは初めてだった。

「...だけど」

「お前の作ったガンプラが呪われている、そんなこと言ってる連中の事なんか気にしなくていい。好きに言わせとけばいい。それにこんなこと言ったらなんだが、普通本当にそんなことがあると思うか?」

「確かに...」

「ヒロの兄さんが今どこにいるのかはわからない。でもそれはヒロのせいじゃない。だからヒロがガンプラバトルをしちゃいけないなんて理由はどこにもない。なのにヒロはそれを理由に現実逃避して、兄さんの事から目をそらしている。」

「そ、そんな訳じゃ!...」

「何も違わない。」

紅衣は表情を変えずに淡々と話し続ける。その考えを一切曲げることなく、相手に気を使うこともなく。

「だけど、今更ここでこんなこと続けてもトオル兄が戻ってくるわけじゃない!」

「そんなの分からない!明確に目の前から消えたわけでもなければ、遺体が在るわけでもない!」

「っ!...」

今までそんなにはっきり言われたこともなかった。考えればすぐ分かることなのに、どうして気づかなかったのだろう。馬鹿みたいに意地を張る自分が情けなくなる。

「...ははは、なんか、情けないね僕。一人じゃなんもできなくて」

「人なんて、皆そんなものだ。お前だけが一人な訳じゃない。それに、お前の側にはアキだっている。私とは、違う...」

「えっ?」

「いや、なんでもない」

小さくしか聞こえなかったが微かに紅衣が言ったことが気になった。

「そこでだヒロ、一つ提案がある。お前はまた、あのガンプラバトル選手権とやらに出ろ。」

「あぁ....えっ!?」

「それに出て優勝する。それが無理でも行けるところまで行く。そうすれば、また兄さんに会えるかもしれない。もちろんもしかしたら、だが。それが無理でも何か関係する情報が得られるかも知れない。」

「っ、...でも、仮にそうだとしても、僕には参加できるファイターぐらいの実力はないよ...」

そうだ、自分一人では無理だ。強豪が集うあの場所で、戦えるぐらいの実力はない。

「なら、私が戦う。」

「...えっ?」

「私がお前の代わりに...いやヒロと一緒に戦う。ヒロが作って、私が戦う。私がお前の代わりの矛になる。」

そうだ、思いだした。その言葉を聞きたかったんだ。最初はこっちから誘うつもりだったのに、いつのまにか立場が逆転してしまった。

「でも!紅衣にはまだ基礎知識だって教えては...」

「今から覚える!」

そう言う彼女の顔は、とても自信に満ち溢れていた。

「...本当にいいの?やるって決めたら、やりきるまで止まらないよ?それでも、一緒に戦ってくれるの?」

「あぁ!もちろんだ!」

「そっか...」

「よし、これで決まりだ!今から私達はチームヒロ&クレイだっ!」

「はは、なんだそれ」

「良いだろう!これでっ...何故泣いている?」

言われて気付く、頬から何滴か涙が溢れていた。口のなかに入ってきて、微かに塩味が広がる。

「あれ?なんでだろ。おかしいな。」

次第に涙が奥からどんどん涌き出てくる。止めようと思っても止まらない。

涙を止めようと顔を埋める。すると突然、体が暖かくなった。

「なんだ。ヒロは泣き虫なのか。私が慰めてやろう、よーしよし」

「...別に泣いてないよ」

「そういう割には抵抗しないんだな」

「...もう泣き虫でいいや」

抱き締めてくる紅衣の体の温かさが伝わってくる。今は、ずっとこのままでいたいと思った。

 

 

「...良かった。ヒロくん、紅衣ちゃんとチーム組めたんだ。」

物陰から二人を見て、アキは呟いた。

「でもヒロくんをよしよしする役を奪ったのはいささか許せないわねぇ...」

「...っ!今なにか、殺気が...」

「?気のせいじゃない?」

 




はい。前回より1ヶ月以上経ちました。はい。すいません。

ま、まぁその代わり今回長かったから...(面白いかは別として)

これからも不定期更新は貫きます(断言)。
気長にお待ち頂けたら幸いです。
さて次回についてなんですが、オリジナルガンプラの登場、及びその画像を公開します。
完成度は高くないので期待はしないで下さい...

え?シュライクやナイトウィザードはなぜ作らなかったのかって?
まぁそれはさておき、キャラクターの画像に関しては私が絵心がないのも災いして中々進みません。
なのでキャラクター達はいずれやるであろうガンプラ紹介、キャラ紹介回にてお見せしたいと思います。因みにこちらも期待はしないようお願いします...

後今更ですが私には文才がありません。何か目に留まる事があれば、感想文にてご報告お願いいたします。
では長くなりましたが今回はこの辺で。グッバイ!


次回予告...十一番目の機体。




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LOAD:311番目の機体

不定期更新ですいません。
ガンプラの画像は少々お待ちを。
  

   «そろそろめんどくさくなってきた登場人物紹介»

遠野 紅衣;トオノ クレイ...主人公。東京に上京してきた際に、訳あって椿家に居候することになる。ガンプラバトルに置いて異常なまでの戦闘能力を持っている。腕に赤い宝石の装飾が施された腕輪をはめている。身元不明17才。

椿 ヒロ;ツバキ ヒロ...主人公。椿家の次男。物心ついた時に両親を亡くし、姉の椿アキと二人で椿模型店を経営している。名を馳せる天才ビルダーだったが、とある理由から5年前から表舞台から姿を消している。聖鳳学園高等部2年、16才。     

椿 アキ;ツバキ アキ...ヒロの実の姉で椿家の長女。同じく両親を亡くし、今ではヒロにとって母親の用な存在となっている。店番は基本ヒロに任せ、大学が休日の時はぐったりとくつろいでいるが家事全般は全てこなしている。大学生で、21才。

八坂 薊;ヤサカ アザミ...ヒロに接触を図ろうとする正体不明の少女。話す時に関西弁特有の訛りがあるた
め、関西弁そのものを知らない紅衣に出会った時に人間かどうか疑われる。


さて、三話始まります。
  




「お姉ちゃん。お母さんはどこに行っちゃったの?」

 

頭の中に響くような声、その声はまだ幼くどこか呆けている。

私はこの声が誰のものか知っている。

 

「シャル、お母さんはきっと忙しいんだよ。でもきっとすぐに帰ってきてくれるはずだから、もう少しだけ待とう?」

「うん。」

 

そうだ。私は嘘をついたんだ。隠し通せるはずないのに。

その虚ろな瞳に、嘘を、ついた。

 

「お母さん、まだ帰って来ないの?シャル、お腹空いちゃった。」

「うん...もう少しだけだからね。...そうだ、チョコがある。これを食べていいよ。」

「良いの?ありがとうお姉ちゃん。お姉ちゃん、大好き。」

 

大好き。言われて嫌なはずないのに、心が締め付けられる。まるで鷲掴みにされているような気分。そのチョコレートは少し溶けていた。ずっと懐にしまっていたからだろう。

 

私がシャル、というその子は美味しそうにチョコを頬張っている。

 

「美味しい。ありがとう。」

 

礼を言いながらシャルはチョコレートを全て食べきらないまま袋に閉じた。

 

「...もう、いいの?」

「うん。残りはね、お姉ちゃんとお母さんの分に取っておくの!」

 

私と、お母さん。

 

もう、帰ってくるはずもないのに。

 

 

まただ。またあの記憶が頭に浮かんでくる。ここ最近ずっと、際限なく続く。何かの出来事がきっかけとなり、唐突にフラッシュバックしてくるのだ。

 

どれだけ忘れようとしても忘れられないのだ、この記憶は。

 

 

 

 

「...衣...紅....紅衣!」

 

自分を呼ぶ声に揺さぶられ目を覚ます。だがそこはベッドの上でも布団の上でもない。ガンプラバトルシステムの中だった。目の前にはプラフスキー粒子で生成されたフィールドが広がっている。

砂漠、というよりはやや赤錆びた色合い。火星フィールドだ。いつも風が強く、常に砂吹雪が舞っている。

 

「紅衣?大丈夫?ボーッとしてたみたいだけど...」

「え?...あぁ、すまない。気にしないでくれ。」

「?...、無理しないでね。それともうすぐ接敵するよ、備えて。」

 

ふと、紅衣が腕にはめている腕輪の中にあるガラス玉のような物が光っているのが見えたが、些細な事だと自分に言い聞かせすぐに目の前の戦場に意識を戻す。

 

目が覚めてやっと思考能力が回復してきた。機体の姿勢制御スラスターを吹かし、火星の表面に着地する。続いてレーダーを確認し、接近してくる機影を三機捉える。目視できる距離まで接近するとその機体の全貌が明らかになる。機体色は深緑、まるでモンスターのようなデザインをしている。

 

「あの機体はダナジンだよ。MA形態への変形能力を有する機体、油断しないでね。」

 

ヒロの忠告を聞き、コクりと頷く。ガンプラバトルを始めてからまだまもなく、こういう機体知識には疎い。アドバイスはしっかりと聞き入れた方がいいだろう。そしてなにより、あの三機のガンプラはヒロが店の展示サンプルとして製作したガンプラ。これといった特殊改造は施されていなくても、その性能はかなり高い。ただのCPU機体とは違い、普通に戦えば勝つのはそれなりに難しい。

 

「だが、こちらとてヒロが作ったガンプラだ。これぐらい勝ってみせる!」

 

コントロールスフィアを握り締め、そのトリコロール(バルバトスルプス)の機体を駆る。

右手に持ったソードメイスを両手で握り、大きく振りかぶる。互いにかなり接近し、三機のダナジンが散開しようする...がそれよりも速くメイスを中央のダナジンの頭頂部に叩きつけた。メシメシと無機質な装甲が歪み、強靭な鉄塊がダナジンのボディにそのままめり込む。まずは一機撃墜。残った二機にも狙いをつけようとすると、一機のダナジンがマニュピレーター内部から黄色いビームサーベルを展開し斬りかかってきた。メイスで防ごうとしたが、思ったよりも深く装甲にめり込んでしまったため、咄嗟に引き抜くことができず、左腕で受け止める。

 

「ぐっ...!」

「大丈夫だ紅衣、ルプスの装甲にはナノラミネート塗装が施されてる。多少のビーム兵器なんて気にせず戦うんだ!」

 

確かに普通の機体ならば、ビームサーベルを直接受け止めなどしたらすぐに装甲が溶断されてしまうだろうが、この機体、というより鉄血キットは全ての機体が総じてその装甲に対ビーム塗料、ナノラミネートアーマーが施されている。

 

「ほぉ...それはいいな!」

 

メイスを握っていた右手を離し、まるで獣のように研ぎ澄まされた鋭利な爪でダナジンの腹部を突き刺す。爆風が機体を包み込む。

 

「残りは一機!」

 

最後のダナジンは腹部ビーム砲を連射しながら白兵戦を仕掛けてくる。紅衣もバックパックにマウントされた二振りの小型メイス、ツインメイスを両手に持ち正面から接近していく。

ビームを乱射しつつ接近してくるダナジンに対し、こちらも負けじと両腕部に接続された200mm砲を前方に展開しながらダナジンに向けて連射する。

互いに近接攻撃の間合いに入る。だが先に攻撃が届いたのはルプスのツインメイスだった。ダナジンの頭部センサーを保護するバイザーが弾けとび、ヴェイガン機特有の頭部があらわになる。そのまま頭部を叩き潰そうとしたが、不意にダナジンの顎からビームダガーが突き出てくる。黄色い粒子の刄がルプスのメインカメラをかすめ、特徴的なV字アンテナの左側が欠けた。

 

「やってくれる!」

 

お返しにと言わんばかりに、ダナジンの顔面を殴り付ける。

 

「ふふ、なんだかんだ楽しそうにやってるわね紅衣ちゃん。なーんか良いなぁ。」

 

紅衣はバトルシステムの外から眺めるアキに気づいたのか、軽く笑みを浮かべ踵を返した。

 

「あと一押しだ紅衣!」

 

勢いよく殴り付けられた深緑の機体、ダナジンは空中で姿勢を崩し落下、そこに更なる追撃が加わる。ルプスは位置関係を逆手に取り、機体の重量をフルで乗せた蹴りを見舞いする。砂ぼこりがフィールド一面に広がり、メインモニターの視界が霞む。やっと視界が回復すると、そこには機体の駆動系を破壊され動くに動けないダナジンの姿があった。バーニアノズルを動かしながらゆっくりと、弱った獲物の息を止める捕食者のように降下する。その胴体を踏みつけ、両手のツインメイスを肩部稼働範囲ギリギリまで振り上げる。

 

「これで...終わりだ!」

 

ピロピロと唸る頭にツインメイスを無慈悲に振り下ろし、叩き潰してその息の根を止めた。

 

 

 

« バトル終了。 »

 

 

 

「お疲れ、紅衣」

 

バトルを終え、周囲を囲んでいた粒子の壁が消えていく。手に握っていたコントロールスフィアも気付くと消えている、この技術をもっと多様化すれば便利だろうに、何故この粒子はプラモデルにしか反応しないのだろうか。

先ほどまで激闘を演じていたガンプラも粒子が消え、バトル台の上で静かに制止していた。こうして見ると簡易的なジオラマもこれで再現できるのだろうか。

 

「凄いね、軽く操作方法を教えただけなのに...」

「私はヒロの言われた通りに動かしただけだ。ヒロの指示が良かったのだろう」

 

図々しく自慢をしてくるのではなく、あくまで謙虚に返してくる紅衣にどこか申し訳なくなる。指示とは言っても機体の特徴や、システムの概要を軽く説明しただけで特にはなにもしていない。紅衣の操作技術が常人よりも明らかに秀でてるのは確かだ。

 

「そんなことないわよぉ、紅衣ちゃんが動かすのも上手いからよ!」

 

何処か居たたまれない気持ちのヒロの代わりにアキがフォローに入る。こういうのは助かるのだが、余計な事されることのが多くてどうにもありがたみが薄れてしまう。

 

「でさ、一戦終わった後で申し訳ないんだけどもう二戦お願いしていいかな?紅衣専用のガンプラを作る上で、紅衣にどういう戦闘スタイルが合うのか他のガンプラでも試してみたくて。」

「私は問題ない。...がその前に昼飯だな!腹が減っては何もできない!」

「あ、うん。分かった...って紅衣朝結構食べてたよね?ご飯7杯ぐらいおかわり申し込んでたよね?」

 

そう、紅衣はというと朝誰よりも早く起きてきて、誰よりも早くテーブルに食器を並べ、誰よりも早くご飯を食べる準備を済ませている。おかわりの量も尋常じゃなく、自分が早く食べ終わるとヒロの分のおかずをじっと見つめてよだれを垂らしている。結局紅衣の視線に耐えきれず、少し分けてしまうのだが...

 

「朝と昼は別腹だ。アキ!昼飯を頼む!」

「はーい♪任務りょーかーい!アキ少佐、お昼御飯の準備に取りかかりまーす!」

 

アキも紅衣の食べっぷりは嬉しいらしく、ついつい沢山作って冷蔵庫の中の食材を使いきりそうになっている。

 

「アキ姉...ご飯炊くなら二合ぐらいにしといてね...」

 

紅衣も紅衣で、その細身の体のどこにそんなに入るのだろうか...

 

「胸か...」

「何か言ったかヒロ」

「何でもありませぬ。」

 

 

「あの様子やとこないだの連中は失敗したみたいやな...せっかくウチがくれてやったガンプラを無駄にしおって...しかし、あの黒髪の子知らん奴やな...まさかチームメイト?」

 

椿模型店内部でのやり取りを外から偵察するがの如く、見ている人影が一人。それはダイア一味に三機のドムを渡した張本人であった。

 

「ママー、何か変な人がいるよー?」

「あんなの何処にでもいるわよ、いいから黙って歩きなさい。」

 

...そう言われるのも無理もない、店の窓にべったりと張り付いて中を見ながらボソボソと呟いていれば誰でもそう思う。

 

「フッフッフッ。まぁ今に見とれ、今度はもっと面白い物を用意したるでぇ。椿ヒロ...」

「あのぉ、すみません。そこの方、ちょっといいかな?私達、警察の者だけど」

「ふぇっ?」     

「ああいや、ここら辺に不審人物がいるって通報を受けてね。お嬢ちゃん、ちょっと職務質問いいかな?」

「ちゃ、ちゃいます!ウチは何もやっとらんです!」

「大丈夫大丈夫。最悪の場合ちょっと署まで来てもらうだけだから。」

「ほ、本当にウチはなんもしとらんってー!!」

 

 

 

「...ふぅ。少し、休憩かな...」

 

店の奥の個人用作業スペースで一人、必死にパーツとにらめっこしながら作業を進めていた。

一度集中すると作業に没頭しやすくなるのだが、その分たまった疲れが後からドッとくる。

体も定期的に伸ばさないとすぐに痛くなってくるのだ。

 

「ぐううぅぅぅぅ~、ん?アキ姉?入っていいよー。」

 

休憩に入ろうとした丁度のタイミングで扉からノック音が聞こえてくる。入る事を許可すると、おぼん皿を手に持ったアキが現れた。

 

「ごめんねー作業中に。軽く夜食を作ってきたから良かったら食べてね」

 

おにぎり4つに漬物、コーヒーと軽いという割にはかなり量が多いような気もするが。

それでも空腹の今はとてもありがたい。

 

「ありがとう、そこに置いといて良いよ。」

「うん。それとどう?そのガンプラ地区予選までに完成しそう?」

 

アキはおぼんを置くと、作業デスクの上に置かれた物を指差して質問する。

指した先にあったのは今製作中の物であろうガンプラだ。

 

「そうだね...多分。サフを吹いて、塗装も済ませて明日には完成するかな」

「もうそんなに進んでるんだ!じゃあ明日には紅衣ちゃんにも見せるの?」

「うん、そうだけど...」

 

ガンプラについてはもう解決した...が、まだ重要な問題が残っている...チームメンバーだ。

 

「そっかぁ...楽しみだなぁ。またヒロくんがステージの上で頑張ってるとこが見れるんだもん!」

 

アキは以前にも、参加した予選大会の応援に度々来ていた。ヒロとしてはもう一度、アキをあの場所へ連れていきたいと思っていた。しかし、そうするにはまだ課題がいくつか残ってるしまっている状況なのだ。

 

「そうだね...必ず、今度は紅衣と一緒に世界大会まで連れてってあげるからね。」

「ヒロくん...ふふっ、楽しみにしてる」

 

まだ参加できるかどうかすら危ういのに、つい期待に胸を膨らませてしまう。

でも、今度こそは行ける。いや、行かなくてはいけないのだ。

 

「あ、そういえば紅衣は?もう寝ちゃった?」

「それがさっき、少し用があるって言って出ていっちゃったの。」

 

またか。紅衣はよく一人で外出することがあるのだが、行き先や、いつ戻ってくるかは言わずに行ってしまう。

 

「まぁいいや、アキ姉ももう先に寝て良いよ。ご飯ありがとう。」

「うん。じゃあヒロくんも作業するのはいいけど、程々にね。」

 

アキが部屋から出ていき、再び作業を再開する。こちらもそろそろラストスパートだ。

 

「これが完成したら、紅衣は上手く戦えるかな...」

 

昼間の戦闘の後も、様々な種類のガンプラを用いて紅衣に戦闘してもらったのだが、紅衣はほぼ様々なタイプの機体を何不得意なく扱ってみせたのだ。遠距離支援タイプ、軽装タイプ、可変タイプ、はたまたファンネル装備機体など...。

当初の見立てでは紅衣は敵の懐に斬り込む近接特化かと思っていたのだが、この結果を受けて急遽製作中のガンプラの運用スタイルを見直す事となった。

 

「...思えば、これは元々トオル兄の為に作ったガンプラだったっけ...11番目のガンプラか、こんなに作ってたんだっけ。グリムモデルだなんて不名誉なもん付けられてたけど...」

 

だが、今は違う。これは紅衣の為のガンプラだ。過去の事は割りきるしかない。

 

「...elfか。」

 

 

 

日がすっかり沈み、月が上がり、そして後もう数時間もすればその月もまた見えなくなる。夜空に浮かぶ月が夜の町を照らす。今日は満月だ。あちこちで虫の鳴き声が聴こえてくる。いったい鳴いている虫は何処にいるのかといつも思う。今日は夜の温度も少し高く、下着に薄手のシャツしか来てなくてもかなりじめじめする。

 

「...夏か。思えばこっちに来てからしばらく経つが、やはり季節というのは不思議なものだ。」

 

同じ場所であっても、夏と冬では感じる世界が違う。当たり前のことなのだが、紅衣にとっては少し普通の人が感じるそれとは違うものだった。

 

「シャル...」

 

ふと、夢の中に出てきた少女の名前が口からこぼれる。ヒロにあんなことを言っておきながら、自分も全く同じような事をしていると、頭を抱えたくなる。

 

 

「いやーっ、しかしほんま嫌になるなー、夏場の夜は。」

「っ?」

 

ふと後ろから聞き覚えのない声が聞こえてくる。独り言か、もしくは他の人に語りかけたのか、しかしこの周辺にいたのは自分とその者だけである。語りかけからしておそらくこちらに話しかけてきたのであろう。

 

「じめじめして服は引っ付くし、汗で体は痒くなるしで、ほんまめんどいわー。な、あんたもそう思わへん?」

「...えぇ、そうですね。」

 

見覚えのない顔だった。何処かで会った記憶もない。整った顔立ちに青髪のロング、綺麗な蒼眼、見ていたらきっと覚えているであろう。

 

「ウチな、東京に来てからまだ時間経ってなくて、ここの周りの事あんま知らんけどここは物静かでエエなぁ。な、あんたはよくここに来とるん?」

「いえ、私もこっちに来てからまだ時間が経ってないのでよく分かりませんけど、確かにここは静かで良いですね。」

 

静かというのも、ここは東京都区内でも一番の敷地面積を持つ代々木公園であり、夜は意外と静かになる。

 

「へーそうなんか!ウチと同じやな!どっから来たのか聞いてもええ?」

「え?あ、えーと...」

「あ、あ、...秋田から」

 

咄嗟に言ってしまったが、名もしらぬ相手にこんなことを言ってしまって良かったのだろうかと考えこむ。

 

「秋田かーっちゅーことはウチとはかなり離れた所から来たんやな。ウチはちなみに京都からや!まぁ出身は京都ちゃうんやけどな。あぁ、それとわざわざ畏まって敬語使わんでもええで!あんたとは仲良くなりたいしな!」

 

急に仲良くなりたいとは言われても少し踏み込み過ぎではないかと思ったが、まぁ向こうが敬語を使うなと言うのであれば、といつも通りの男勝りな口調に戻る。

 

「その、なんだ。そもそもお前はなんだ?名前ぐらい名乗ったらどうだ?」

「ああ、そういえばまだ名前を言ってなかったわ。ウチは八坂薊。ヤサカアザミや。気軽にアザミちゃーん♪って言ってええよー」

 

薊、という名前がこっちの世界で珍しいのかどうかは知らないが聞いたことのない名前だったため、少し関心が沸いた。

 

「わ、私は遠野、遠野紅衣だ」

「紅衣ちゃんか!覚えたでーっ!!」

「そ、そうか...。では八坂、一つ聞いてもいいか?」

「八坂て...、ゴ、ゴホン!な、なんや?」

 

名字で呼ばれた事にやや距離を取られてるのを感じ取ったのか少し苦笑したが、無理やり話を切り替える。

 

「貴様...」

「...な、なんや...?」

「けやきヶ丘までの行き方を...知らないか?」

「へっ?」

 

かなり溜められたからてっきりこちらの行動に気づかれたかと思ったのだが、予想外の質問が来たため口からなにかがもれてしまった。

 

「いやぁ、ここまで来たはいいがすっかり来た道を忘れてしまって...周りもすっかり暗なってしまったし...駄目か?」

「あ、か、かまへんよ全然」

 

よくそんなんでここまで来たなとは思いつつ、紅衣を案内することを決める。電車に乗って帰る事も進めたが、ここまで徒歩で来たらしく一切の金銭を持っていなかった。

 

 

夜の景色というものは不思議なものである。昼間と見ているものは同じはずなのに、目に見える世界が変わったように見えてしまう。昼間はくっきりと見える人の姿も、夜は町の光に照らされてぼんやりとしか見えない。

あの後、八坂に模型店最寄りの駅前まで案内してもらったおかげで、無事ここまで戻ってこれた。八坂が椿模型店を知っていたというのも幸運だった。

 

店の前まで到着し、ふと自分の手にはめられた腕輪に目を見やる。

 

「...まだ応えないか、こいつめ」

 

腕輪に謎の悪態を吐きつつ、店の中を見やる。とっくに閉店時間を過ぎているため、中は見えない。

 

「これ、店が閉まっている時どこから入れば...」

 

すると、店の奥の方が光ったのがカーテン越しにわかった。数秒ほどして、扉が開きアキが顔を覗かせてきた。

 

「紅衣ちゃん!おかえりなさい!」

「ただいま。すまない遅くなって。待っててくれたのか」

「気にしないで、さっ早く入って!」

 

店の中を通って椿家の中に入る、すると微かに良い臭いが漂ってくる。わざわざ作って待っててくれたのだろう。家の中の照明はリビング以外はほとんど消えていた。

 

「ご飯出来てるけど、先にお風呂入ってくる?汗かいたでしょう?」

「いや、先に夕御飯...という時間でもないが、先に食べる。だが、その前に...」

「どうかした?」

「ヒロはまだ起きているか?」

 

 

 

「すまんな紅衣ちゃん...でも、ちょっとばかりウチからのサプライズや」

 

小脇に抱えたケースを開き、それを取り出す。その姿はまるで、鳥、いや...天使のようなものだった。

 

 

 

店の作業スペース兼、ヒロの私室である部屋の扉の前に立ち、ノックをする。

 

「ヒロー?入っていいか?というか起きているかー?ヒロ...」

 

だが、少し待っても返事が返ってこなく、作業に集中してるかもしれないとも思ったが、体が先に扉を開けてしまっていた。部屋の照明は消されており、作業デスクの上の蛍光灯だけが点いていた。そして、ヒロはデスクの上で力尽きたようにすやすやと眠りについていた。

 

「遅くまでやっていたとは聞いていたが、とうとう睡魔に負けてしまったか。ふふっ、気持ちよさそうに寝ているな。こいつめ、ウリウリ」

 

起こさないように声を抑えつつ、ヒロの頬を突っつく。その肌触りはとても柔らかく、触ってる側すらもふわふわ...といった感触だ。

 

「お疲れ様...ん?...そうか、もう出来たんだな。」

 

デスクの上に、一機のガンプラがその凛々しい姿を誇るように立っていた。

まるで、空に溶け込んでしまいそうな空色の装甲に、左肩と左膝の前面にはXIの文字が赤く刻まれていた。

 

「...これが、ヒロのガンプラか...私もこいつに愛想を尽かされないような活躍をしなければな」

 

ヒロにタオルケットを掛け、リビングに戻る。そこには、疲れ果てたように寝息をたてながらテーブルの上で眠り込んだアキがいた。

 

「...そういえば、アキも待っていてくれてたんだったな。...ご飯ありがとう。さて!では一足早く朝飯を頂く!いただきます!」

「ふぁ~い...いっぱい食べてねぇ...」

 

既に、町を照らす日が昇り始めていた。

 

 

 

「よし!やるか!」

「待って待ってもうちょい待って。もう少し準備を...」

 

バトル台の前で準備をするヒロを急かす紅衣。そう、とうとう待ちに待った起動テストの時間がきたのだ。

 

「...そろそろ待ち飽きたぞ」

 

戦闘衝動を抑えられず、さっきまではずっと腹筋していたのだが、そろそろ待ち飽きてしまったらしい。

 

「バトルシステムのダメージレベル確認、粒子供給量正常、フィールド形成率99.7%...うん、問題ない。」

 

周囲を囲むように蒼い粒子が放出され始める。

 

「行けるよ紅衣!」

「あぁ...行くぞ」

 

«エラー。障害が発生しました»

 

突如、アラートが鳴り始める。まだ、ガンプラはセットしていない。フィールドが形成され、バトル開始を告げる音声が鳴り響く。

 

「えっ!?なに!?どういうこと!?」

「...敵だ。」

「...えっ?」

 

そしてまた、紅衣の腕輪が赤く光る。瞳が赤く染まっていく。

 

「ヒロ!ガンプラをセットしろ!このままだと好き勝手に暴れられるぞ!」

 

背中に悪寒が走る。慌ててモニターを覗くと、そこにそれはいた。

白き翼、無機質で荒々しい鉤爪、耳を打つような駆動音、いやそれはまるで鳴き声。

見るものを圧倒するそれは、そこにいた。

 

「ハ...ハシュマル!?なんで...あんなものNPCに設定出来ないし、そもそも完成済みのキットなんてここには...」

「ヒロっ!」

「っ!...わかってる!紅衣、GP ベースを!」

 

«ガンプラをセットしてください»

 

これが何の始まりであるかはわからない

 

«システムエンゲージ»

 

ただ一つ言えるのは、

 

«発進、可能»

 

私たちにとって、

 

「行くぞ...」

 

これからの全てを決める、

 

「ガンダム、ストライク...エルフ!」

 

選択肢の先駆けだったのかもしれない

 




1ヶ月過ぎました...いやー流石にこれは...と自分でも思います。
なるべく早く更新したいものです。

しかしこの1ヶ月は無駄ではなかった!悩んでたキャラクターの原案もとある方の寄稿のおかげで大分進みましたし、次回からはもっとハイペースで進みたい!(願望)
なるべく本編を長くしたくないとは思っても、結局こんくらいまで長くなっちゃいました。

ガンプラの画像は前書きでも言った通り、もう少々お待ちください。出来たら三話の本文にでも貼っておきます。後はガンプラ紹介回にでも。

あと、一話と二話を少し編集しました。


それではまた四話で会いましょう!




あーフルメタIV早く見たいっす。

あとキャラ案の寄稿など、バシバシお待ちしております!


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LOAD:4その名はエルフ

最後に投稿したのいつだったか覚えてねぇです…

«登場キャラ紹介»

遠野 紅衣:トオノ クレイ…前回参照
椿 ヒロ:ツバキ ヒロ…前回参照
椿 アキ:ツバキ アキ…そもそも今回出てない
八坂 薊:ヤサカ アザミ…前回参照

あと今更ですが、原作ビルドファイターズではキャラの名前は大体カタカナ表記ですが、この作品では主に漢字で表記します。理由は後程。

それと今回から書き方を変えてみました。


空に溶け込みそうなほどの蒼い機体色、ガンダムストライクエルフ(XI)。エルフの由来はドイツ数字で言う11番に当たる。

 

この機体、及びそれ以前の10機のガンプラにそれぞれの機体番号が与えられている。

1番目の機体から順に、アイン()ツヴァイン()ドライ()フィーア()フュンフ()ゼークス()ズィーベン()アハト()ノイン()ツェーン()…などと。

 

このガンプラ達は後にグリム(死神)シリーズと命名されることになるが、それは恐怖や畏怖の念を込められたものだ。

_____だがその性能は常人の作品を遥かに凌駕するものであり、どれもグリムの名にふさわしい機体であった。

エルフはその11番目に該当する機体であり、現グリムシリーズの最後のナンバリング機体である。

 

蒼く澄み渡る空、太陽の光が反射して一面が光り輝く海。波は穏やかで荒れる様子は一向に無く、白波が静かな音を立てて、浜辺に押し寄せていた。見るものを欺くがの如く美しい景色だが、それは全て人工的に創られた偽りの景色だった。

_____そこにそびえ立つ二つの影。片方は人と類似した姿をしており、少々独特なシルエットではあるがそれが人をモチーフにしているということは辛うじて分かるだろう。麗美な蒼色、膝にはⅪと赤く記されていた。それに対し、もう一方の影はとてもじゃないが人といえる姿形はしていない。人外とでも言うのだろうか、しかし、その姿は不思議と見るものを引き込む“美しさ”を持っていた。

 

 

 

「行くぞ…ガンダム…ストライクエルフ!」

 綺麗になびく長い黒髪を持つ少女がエルフと呼ぶその機体は、足元の波を掻き分ける様にして臨戦態勢を整える。戦いの火蓋はなんの前触れもなく始まった。その白き天使は、エルフを眼前に捉え、耳をつんざくような駆動音と共にエルフと紅衣に飛びかかる。飛行こそできないものの、その機動性はメインカメラで捉えられないほど速い。

 

「避けて!」

 これをなんとか回避したものの、機体の動作が安定しないため、完全には避けきれなかった。最初の一撃こそ大雑把ではあったものの、その攻撃力は計り知れないものだった。

 標的を抉る恐ろしき鉤爪は、エルフの胸部装甲を掠めただけにも関わらず、一部の装甲板を弾き飛ばす。弾け飛んだ装甲板の一部はポチャンと音を立てて海面に四散する。

 

「ぎりぎり…だったな、しかしこのエルフ、聞くにも勝るじゃじゃ馬っぷりだな!」

「ご、ごめん…最終調整がまだ済んでなくて…」

「構わないさ、それより早く武器を持って来てくれると助かる」

 分かったと返事をすると、ヒロは足早に自分の部屋に向かう。そう、現在このエルフはまだロールアウトしたばかりで、実戦での安定した継戦能力がなく、装備も乏しい状態にある。

 しかし、こちらの事情などお構いなしに敵は連続攻撃をしてくる。ましてや、ファイターが操作している訳でもない、無人機だ。攻撃の勢いは留まることを知らず、更に加速していく。

 

「とてつもない速さだ…だが、そんな当てずっぽうの攻撃が当たるほど、私も鈍っちゃいない!」

 エルフの高い機動性を利用し、ハシュマルの一撃を躱しつつ距離を詰め、懐に潜り込む。

 

「そこだぁっ!」

 脹脛の装甲を展開し、ナイフシースから高周波切断具、リバースブレードが勢い良く射出される。それをマニュピレーターで受け取り、ハシュマルの下部装甲に突き立てながら、機体を取りつかせた。

ハシュマルは自身の身体に取りついた虫を払い落とそうとするが如く、縦横無尽に暴れまわる。メインカメラが激しく揺れ、その衝撃はファイターである紅衣自身にも襲いかかった。だがそれでも落とされまいと、リバースブレードを装甲に深く突き刺し、衝撃に耐える。

 

「振り払えるものなら振り払ってみろ!この手は絶対にっ____」

 だが、そう言った次の瞬間、ハシュマルの後頭部より何かが飛び出すのがカメラに映る。そしてそれが何か確認するよりも早く、機体に強い衝撃が走り、吹き飛ばされる。エルフは本体重量が軽く、機体の安定性が規定値に達していないため、勢いよく宙に舞い、地面に叩きつけられる。エルフが衝撃を受けた同じ部位の自分の身体に鈍い痛みが走るのを感じる。

 

「____ぐっ!!...今のは、なんだ...?」

 生物の尾の様にも見えるそれは、本体から独立して機動し、同時に動くことのできる、言わば手足のような物、超硬ワイヤーブレード。天使の如く美しい外観とは裏腹に、悪魔の牙を持つ化物は見るものを愕然とさせた。

 

「攻防一体か…こればかりはどうしようもないかも知れんな…」

 らしくもなく諦めの言葉が漏れる。それほどにまでこの化物は恐ろしいのだ。だが、だからと言ってこの戦いを放棄する訳ではない。すっと息を吸うと、再びコントロールスフィアを強く握りしめ、機体を前に出す。新機体の初陣にしてここまでの化物を相手するのを、紅衣は嫌では無かった。むしろ、久々にここまで熱くなれる事を心から楽しみながら、魂を燃やしていた。赤い瞳の戦士は高揚する。

 

「さぁ、もう一度こちらから行かせてもらうぞ!」

 操縦桿を握りしめ、機体を眼前の敵へ向け突貫させる。向こうも黙って見ている訳もなく、けたたましい咆哮を上げると、こちらへ向かって一直線に突撃してくる。本体と別の方向から、しなる鞭の如きワイヤーブレードがエルフを標的と定め向かってくる。

 

「二度も同じ手を喰らうかっ!」

 腰部スラスターを噴射し、上に飛び上がるようにしてそれを回避する。自在に動き、向かってくるワイヤーブレードを紙一重で回避、回避、回避。もしハシュマルを誰かが操作していたならそのファイターはおそらく、焦りともどかしさで判断能力が低下していたことだろう。決して当たるまいと避けるエルフのデュアルカメラからは、緑色の光が尾を引いていた。

 

 ーー体が熱い、こんな風になったのはいつぶりだろうか..."あの時"はよくこんな風になっていた...だんだん体が言うことを聞かなくなって、自我を忘れかけて、制御の効かぬ化け物のように...だが、今は違う。今私は、楽しんでいるんだ!

 

  そうだ、これがガンプラバトル...

 

「やっぱり、最高だなァ!ガンプラバトルはぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 紅衣の叫びに呼応するように、エルフの瞳が赤く染まる。ワイヤーブレードが波を切り裂く様にして迫る。右脚のナイフシースからリバースブレードを取り出し、これを弾き飛ばす。しかし弾き飛ばされたにも関わらずその尾の勢いは止まることを知らない。三度エルフに向け、今度は後方から襲いかかる。

 だがその恐ろしき刃を紙一重で躱し、ワイヤーブレードのワイヤーとブレードの接続部を掴み取り、リバースブレードでそのワイヤーを切り裂いた。

自身の身体の一部が失われた事により、ハシュマルの猛進の勢いは減衰した。いくら感情や心を持たぬ"物”でも損傷すれば、それに影響される。その隙を逃さず、エルフを駆り、ハシュマルに肉薄する。咄嗟の事にも何とか対応しようと、ハシュマルはその爪を振り下ろすが、届かない。動きにムラがある状態ではエルフと紅衣には一撃足りとも当てる事はできなかった。懐に潜り込んだエルフに対応できなく、ハシュマルは二度目の本体への攻撃を許してしまう。リバースブレードを叩きつける様に、天使の装甲を滅多刺しにする。

 

「このまま刺し崩すっ!」

 だが、向こうも黙ってなされるがままではなかった。これまで以上に猛々しい咆哮をフィールド上に轟かせると、身体を大きく振り動かし、エルフを振り落とすとその上に覆い被さる様に馬乗りになり、巨大な三本の鉤爪を突き立てる。

 

「振り払えないっ…何か来る?!」

 予想は当たっていた。その大型のマニュピレーターの内部から、何らかのチャージ音とも思われる作動音が鳴り響く。必死に引き剥がそうとするが、その鉤爪は先程までとは比べ物ならない程に、硬く、深く地表に突き刺さっており、エルフの出力を持っても押し返す事はできなくなっていた。

 

「これは流石にもらってやるしかないかっ...!」

 

力任せに腕部を叩きつけても、びくともしない。

刻一刻と迫り来る敗北の危機、

だが、全ての不安を捨て去るがの如く、“彼”は戻って来た。

 

「紅衣ぃぃぃぃいい!!!!!!!!!」

 喉を潰してしまいそうなほどの勢いの叫びと共に、白髪の少年が足元に滑り込んでくる。

 

「ヒロ!戻って来たのか?!」

「あぁ、待たせてごめ...?!く、紅衣その目っ...」

 ヒロが見た時には紅衣の瞳は既に真っ赤に染まりきり、元の落ち着いた黒い瞳の面影は無くなっていた。

 

「大した事はない、それよりお前も随分とやられているな、顔に出ているぞ」

 対するヒロの顔も店の中を忙しく動いていたとはいえ、かなりの量の汗が滲み、息切れを起こしていた。徹夜が多かったというのもあるが、普段外に出てないつけが今に限って祟ったと内心で自分を叱咤する。だが紅衣は待っていたと安堵した表情で迎え入れてくれた。

 

「ぼ、僕は大丈夫っ!そ、それより、ハァハァ、今の状況はどうにかっ、できそうっ?」

「どうにか出来るならとっくにどうにかしている。今のこいつはどうやら“私一人”ではどうにもできないらしいっ…!」

 現状を見て打開策を得るためには、ヒロの力が不可欠だった。幸いにもハシュマルは、機体を暴れさせるエルフに、中々狙いを定められずにいた。だが、それも時間の問題だった。機体にかかる負荷はかなりの勢いで蓄積され、機体のモニター画面が通常時の青色からダメージを受け損傷をしている事を表す黄色、イエローシグナルに変わっていった。

 

「何か…何かないか…」

 額に汗が滲んでるのが自分でも分かる。集中力を損なわぬ様に考えても、中々頭が回らない。

 

「くそっ!…今のエルフにはもう何も残されては……?あれはっ!」

 何かに気がつき視線を目の前のハシュマルに移す。そう、その打開策は手の届く場所、いや、足の届く場所にあった。ハシュマルの下部に深々と突き刺さったリバースブレードのグリップが、自分を使えと言わんばかりに光を反射し、輝いていた。これだけ見ても普通の者なら何の役にも立たないと思うだろう。その性能を知らぬ者なら。だがこの武装をエルフに授けたヒロだから分かる。これしかないと。

 

「紅衣!あいつの股下、刺さっているリバースブレードを蹴り飛ばして!」

「リバースブレード…?了解した!」

 考える時間はかけない、言われた通りにエルフの足を目一杯折り曲げ、勢いよく蹴り出す。凄まじい勢いで放たれた蹴りは、リバースブレードの柄の芯をしっかりと捕らえ、その刃をへし折った。付け根の部分から勢いよく折れた刃の欠片がパラパラと舞う。そしてへし折って1秒も経たぬ内にその刃は爆炎を噴き出しながら砕け散る。爆発の規模はそれほど大きくは無いものの装甲内部で炸裂した事によって、ハシュマルの巨体が様々な部品を撒き散らしながら吹き飛ぶ。

 

「これは...初見ではまず見抜けんな、流石ヒロだ」

 内心で感嘆しつつも、機体を起こしその場を離脱、一定の距離を保ち、機体のダメージ状況を確認する。

 ーーこちらも既に虫の息か。笑っていられんな…

 

「もう後が無い…新しい武器を送り出す!そいつをあいつにぶち込んでやるんだっ!」

「あぁ、言われなくてもそうするつもりだっ!」

 ヒロが手のひら程のサイズのコンテナを発進コンソールに設置し、プラフスキー粒子の供給を開始、エネルギー100%とと言う表記が表示される。

 

「今はこいつしか用意できないけど、それでも!紅衣なら!」

 コンテナがコンソールから射出され、威力を留めないままエルフの元へと向かう。空中でコンテナの外装がパージされ、鋼色の光沢を放つ超電磁砲が姿を表す。それを確実に受け取る為に紅衣が機体を飛翔させる。だが、蒼き機体が空を跳ぶのと同時に、赤黒い血のようなオイルを撒き散らしながら、白き天使はその身体を揺れ動かし、その嘴を蒼き機体に向ける。直後、フィールド上に眩い光が迸る。やがてその光は一本の光に収束し、プラフスキー粒子で創られた偽りの空を貫く。とてつもない出力を誇るそれは、ビームというよりはレーザーに近いものだ。赤い熱線がエルフと超電磁砲に迫った。

 

「まずい!」

「さっ…せるかぁっ!!!」

 レーザーがエルフごと超電磁砲を貫くよりも先にそれを手に掴み取り、機体の右腕を咄嗟に前に突き出し、超電磁砲を庇う。数秒遅れて来たレーザーがエルフの右腕に直撃、肩部装甲を貫いて右腕は無惨に焼き千切れる。だがおかげで勝利の鍵は失われずに済んだ。

 

「まだ奥の手を隠していたか、だがその程度では私達は止められない!」

「とは、いっても紅衣、そのレールガンは調整が間に合わなくて現状で撃てるのは一発だけだ!確実に仕留めないと」

 手元のモニターに目を落とすと、ヒロの言った通り、残弾数1と表示されていた。ビーム、粒子兵器なら機体のジェネレーターに直結するなりなんなりで補給可能だろうが、実弾はそうは行かない。だがこの状況に置いても紅衣は不安を感じさせない笑みを浮かべる。

 

「一発で充分だ!」

 レールガンを手に取り、ハシュマルに最後の突貫を仕掛ける。高速で迫ってくるエルフに再び赤い閃光が迫るが、機体の重心を僅かに右に反らし、止まることなくこれをやり過ごす。高熱の余波で左頭部が抉られ、左のデュアルカメラがダウンする。だがもはやこれでは今の紅衣とエルフを止めることはできない。その鬼神の如き機動は相手に捕らえられない為だけではなく、見てる側を驚愕させる意味もあるのかもしれない。並のファイターではこの機体を使っても扱いきれず、エルフの足枷にしかならないだろう。などと言っている間に、ハシュマルの眼前まで迫ると、機体は跳躍し直上からハシュマルの白き身体に取り付き、その左手に持ったレールガンを開きかけていた口部ビーム発射砲の内部を抉りながら突き刺し、砲身がメシメシと音を立ててる事など一切気にせず、左腕ごと強引にねじ入れる。先程までの戦闘で深手を負ったのはエルフだけではない、ハシュマルとて大きく損傷し、もはや紅衣達を止める術は無くなっていた。

 

「「吹っ飛べえええ!!!!!」」

 

 レールガンの引き金が引かれ、ゼロ距離で撃ち出された弾体が電磁波を纏いながら、ハシュマルの内部で炸裂する。勢い余った弾体が装甲を貫き、外部へとこぼれ落ちた。そしてしばらくの間、両者はどちらも動かず沈黙状態だったが、十数秒後、先に膝を折ったのはハシュマルだった。

 

「やったか!?」

「それはやめて!」

 一部の界隈では縁起でもない言われる台詞を口走った紅衣に咄嗟にツッコミをいれる。

 

「…まぁ、とりあえず勝った…のかな?」

 先程まで猛威を奮っていた白き翼を持った天使は、見る影も無く無惨に朽ち果てていた。

 

「しかしまぁ、こちらもこっ酷くやられたもんだ」

 無論エルフも無傷ではなく、機体の各所の装甲はめくりあがり、抉れ、焼き切れていた。中でも右腕と頭部の損傷は一段と酷く、もはやスペアパーツと交換するしかない程であった。塗装も激しい戦闘の末、剥げ落ち、元の麗美な蒼色の機体の面影は無くなりつつあった。

 

「あはは…こりゃまた作業が増えるなぁ、積みプラ崩しはまた今度か。…いつもこうだな」

 苦笑気味に自分に対する皮肉を言うと、紅衣が一瞬の間を置いてくすくすと笑い始めた。どうかしたのかと聞くと、帰ったきた台詞は実に素直なものだった。

 

「いやぁすまない、なんと言うか、こう言ったら悪いがヒロの事を見てるとつい健気だなぁと思うんだ」

「なんだよぅ、不幸な奴だとても言いたいの?」

「ふふっ、すまんすまん…ヒロといると飽きなくて良いな」

 こっちはやる事がまだ沢山残っているというのに、無邪気に笑う紅衣が羨ましいと思ってしまう。まぁもっとも、紅衣がいないとガンプラを作る意味は無いのだが。

 

「ふふふっ、あははははっ」

「いつまで笑ってるんだよ!ほら、紅衣も直すのちゃんと手伝ってよ!」

「わかっているわかっている、くくっ」

 ーーわかってないなこやつめ…

 しかし、また一つ解決すべき問題が出てきた。そう、このハシュマルは一体誰が作り、一体何のためにこの店のバトルシステムに仕組んだのか、ということだ。思いつく宛はヒロには無く、頭を悩ます。

 

「ヒロこそどうした?そんな眉間にしわを寄せて」

「ハシュマルを仕組んだのが誰かってことだよ。誰か突き止めないと…またこんな真似されたら大変だし。ただ僕は誰かやったのか心当たりがないんだ」

 ーーあのチンピラ共…じゃあないな、あんだけお仕置き食らった後だし、またこんな真似をするとは考えにくい…

すると紅衣は何かを悟ったかの様に表情を変える。

 

「それなら心当たりがある。おそらく奴だろう」

 やつ…が誰のことかはヒロにはわからなかったが、紅衣を見る限り、この件は彼女に任せてもよいと判断した。

 

 

 

「―――結局今回も上手くいかんかったわぁ」

 例のハシュマルをシステムに組み込んだ犯人は公園のベンチに深く腰を掛け、ため息を吐きながら今回の失敗の原因を考えていた。

 ここのベンチは風通し良い通りにあり、人目にあまりつかないというのも相まって、彼女にとって東京で一番最初の安息の地となっている。無論自宅が一番ではあるが。

 

「何が駄目やったんや…そこそこ自信作だったんやけどな〜」

 とは言っても、この程度でどうにかなるとは最初から思ってはいなかった。今一度様子見のつもりで仕組んで見たものの、やはり向こうの方が上手だったようだ。

 

「やっぱファイターの紅衣ちゃんが強いっちゅーのもあるか…」

「それは違うな」

 人目につかないからこそこうして独り言を喋ってはいたが、突然後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「く、紅衣ちゃん!?い、いつからそこに!?」

 心臓がきゅっと縮んだのが分かる。一番聞かれてはならない相手に聞かれて、慌てて紅衣の方を振り向く。紅衣は何かを見透かしたかの様に微妙な笑みを浮かべている。

 

「そうだな、お前がここに座った辺りからかな」

「最初からやんそれ!」

 口角を少しあげニヤニヤと青髪の少女を見据える黒髪の少女と、汗を額に滲ませ、あたふたと慌てふためく青髪の少女。二人はこうして再開を果たした。

 

「え、えーと今のはち、違くてな!?なんというか虚言というか独り言というか」

「まさかとは思ったがやはり八坂だったかーそうかーそうだったのかー(棒)」

 もはやここまで来ると言い訳が通じる様子は無かった。言い逃れできない事を悟り、諦めて本音を口にする。

 

「ん、まぁーはい、ウチです。ウチが全部やりましたぁ」

 ヤケクソ気味にぶっちゃけると、紅衣はふふっと笑い、もういいと薊をなだめた。

 

「全部というと、やはりあのゴロツキ共にガンプラを渡したのもお前だったか」

「そうやけど...しかしぃ、なんでウチがやったってわかったん?」

「勘だな」

 どんだけ鋭い勘だと言いたくなったが、言った所で無意味だと思い、心の中には留めることにした。

 

「しかしお前こそ何故こんな回りくどい真似をしたんだ?ヒロと会いたかったのであれば普通に殴り込んでくればいいだろう?」

「殴り込んだらお店の迷惑になるしぃ…ってちゃうちゃう!そうやなくてウチが直接乗り込んだ所であいつは絶対に断るに決まっとるからや!」

「その様子だとヒロとは面識があるのか?」

「ないけど」

珍しく紅衣のツッコミが炸裂した。

 

「まぁ、一度はあるんやけど、多分ヒロはもう覚えてないと思うんや…ずっと昔のことやし…」

「昔、か。気になるな、話してくれ。なぁに、ヒロに告げ口をするつもりはない」

 

「...そんな大袈裟に言うほどでもないんやけどな」

 

 

 

―――もう5年以上も前の話になるわぁ   

 

 

 




「今日から君が、僕のダーリンだ!」

はいこんにちは。亀野郎です。お久しぶりです。
更新が遅いのはもういつもの事なので触れません(絶唱顔
今期のアニメ面白いですよね。いやホント。
それはそうとビルドダイバーズ、楽しみですね。あれのおかげて大分モチベを保ててます。

ってことで何だかんだこの作品続きますので、是非、気長にお待ち下さい。

肝心のガンプラは写真の画質改善と塗装に戸惑っているのでもうしばらくお待ち下さいぃ。
というか今思えば詳しい機体概要とかないと読んでる側も分からないですよね...すいません。何やねん高周波切断具て(^_^;)




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