IS VS Build (シュイム)
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キャラ設定

このキャラ設定情報にはネタバレが多々ありますので、先に本編ssを読んでから見るのをオススメします。
また、本編の情報を分かりやすくまとめたつもりなので振り返ってみるのに良いかもしれません


桐生 建兎(きりゅう けんと) (前世名:犬飼 貴之(いぬかい たかゆき))

誕生日:6月13日 (転生した後前川家にやって来た日)

身長:173cm

体重:64kg

歳:15歳

好きな物:勉強(特に理系科目)、身体を動かす事、料理、餃子、ギターなどの音楽やDVD鑑賞、スポーツ観戦(最近はシュートボクシングがお気に入り)

嫌いな物:カタツムリやナメクジ、面倒臭い人、ISやビルドを兵器として見る人。

IS適正:C

専用機:打鉄(貸出)→ビルド(仮)

 

子供を庇い、交通事故で死亡。

その後、神様の計らいで『インフィニット・ストラトス』の世界へ転生し、転生後は義父である「前川惣一」、後に家族となる「篠ノ之束」と共に「桐生建兎」として生きる。

 

ある日興味本位で触ったISを起動させた事でIS適性があることが判明。後に通っている学校で行われた適性検査で大々的に知られ、強制的にIS学園へ行くことに。

 

前世からのヒーロー観があり、力のあり方や持つことの重大さを特に気にして歴代仮面ライダー達の持つヒーロー像を模索中だがまだまだ届かないと思っている。

ISもあくまで兵器でなく「宇宙への翼」であると認識している。

そして原作知識も持ち合わせているので起こる未来を見据え人々を助け出したり、何かとトラブルの多い原作キャラ達のフォローに回ったりもする。

 

クラス代表決定戦の時に起きた事故からクラスメイトを救ったことによりビルドの正体であることが発覚。

クラス内でも最初は浮いてしまったりクラスメイトとよそよそしくなってしまったが、本音や救った人達の尽力で後に改善。

一夏や千冬からは感謝、他のクラスメイトなどからは応援などをもらうほどにまで関係は良くなった。

 

『仮面ライダービルド』

建兎が転生特典として神様から貰った力。

現世の「仮面ライダービルド」と同じ力だが、今は全ての能力は扱えず、時と共に神様からフルボトルが送られる。

ビルドドライバーやフルボトルは束でも解析不可能で、変身出来るのも建兎のみ。

他にも『スマッシュから成分を抽出すること』や『使用武器は変身者である戦兎が作ること』など、本編との違いは所々ある。

 

使用装備

ビルドドライバー

フルボトル

ビルドフォン

クローズドラゴン

 

使用可能フルボトル (ベストマッチ順)

ラビット×タンク   

ゴリラ×ダイヤモンド   

タカ×ガトリング 

ハリネズミ×消防車

ライオン×掃除機 

忍者×コミック 

パンダ×ロケット

ロック×ドラゴン

海賊×電車

オクトパス×ライト

サンタクロース×ケーキ

 

使用武器

ドリルクラッシャー

ホークガトリンガー

四コマ忍法刀

カイゾクハッシャー

ビートクローザー

 

 

ちなみにこのISの世界には「仮面ライダー」という概念が無く、『ビルド』もISと同等の存在として見られているが建兎は『ビルド』を『戦うために作られたもの』というISとは違った認識のためこれを強く否定。

当然スマッシュやファウストも存在しておらず、建兎がビルドを用いて本気で戦うのはよっぽどの時のみである。

 

原作キャラとの関係・建兎に対する意識

織斑一夏→同じ男性IS操縦者の親友。自分がなりたいと思っている目標。

 

篠ノ之箒→頼りになる友人。少し一夏との関係に嫉妬する対象。

 

セシリア・オルコット→自分の目を覚ましてくれた恩人であり友人。

 

凰鈴音→頼りになる友人。本気で戦って、勝ちたい相手の1人。

 

シャルル・デュノア→お近づきになりたい人。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ→私怨のある相手。

 

織斑千冬→一生徒。(一夏)を救ってくれた恩人。

 

山田真耶→一生徒。自分を先生として尊敬、頼ってくれる人。

 

篠ノ之束→お気に入りの1人。自分を受け入れ、変えてくれた人。建兎の前世の事も知っている。

 

更識楯無→小さい頃自分と妹を救ってくれた人。比較的信頼してる人。からかいがいがある子だったが別の一面を見て、新しい感情を抱くように。

 

更識簪→小さい頃自分と姉を救ってくれたヒーロー。他の人より話しやすい人。憧れの人。

 

布仏虚→小さい頃妹を救ってくれた恩人。

 

布仏本音→小さい頃自分を救ってくれた人。ずっと一緒に居たいと思ってる人。

 

相川清香・鏡ナギ・谷本癒子→クラス代表決定戦で自分達を身を挺して守ってくれた恩人。他のクラスメイトと比べて、より信頼できる人

 

黛薫子→取材対象(ネタの宝庫)。楯無の話からある程度は信頼出来ると思える人。

 

轡木十蔵→一生徒。要注意人物。

 

オリジナルキャラとの関係・建兎に対する意識

赤楚龍我(あかそりゅうが)→親友。元同じ部活仲間。分からない問題あったら教えてくれる良い奴。建兎がビルドと知ってからもちょいちょい連絡はとっている。

 

石動美空(いするぎみそら)?→どうでもよかった人物。後に復讐を誓う。

 

前川惣一(まえかわそういち)→育て親で、血は繋がってないが本当に大切にしている息子。束同様建兎の前世の事を知っている。

 

鍋島一(なべしまいち)(ゆき)・れん→火事に巻き込まれた際ビルドに助けられた。経営するラーメン屋の常連。家族3人でビルドのファン。れんはあやとりを教えてくれる。

 

妹尾立弥(せのおたつや)→アルバイトしてる店の常連。不良に絡まれてる所を救われ、以来兄貴と慕っている。

 

 

オリジナルキャラの名前の由来

⇒基本的に 名字(演者の名字)+名前(本編ビルドの作中の名前) である。

 




キャラ設定はこのssのストーリーが進むにつれて内容が増えます。
あと、追加してほしい情報とかあったら言ってください。


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トライアルストーリー
閑話-1 一夜限りのクリスマスの使者


急いで書いたので短め+駄文です。


さて、今俺はIS学園の屋上にいる。

深夜11時近く。静かな夜は当然出歩く人も居らず、生徒たちは既に寝てしまっているだろう。

だが俺は違う。危険を冒してでもやらねばならない使命がある。

では...行くか。

 

シャカシャカシャカシャカ

シャカシャカシャカシャカ

 

「サンタクロース!!」

「ケーキ!!」

『ベストマッチ!!』

 

なぜか昨日枕元にあったフルボトル。

これはこの時しか使えないだろう!

 

『アー ユー、 レディィ!?』

 

「変っ...おおっと、変身!

 

『聖なる使者! メリィー、クリスマス!! イェェイ!』

 

サンタクロース、ケーキの成分が含まれた赤と白のフルボトルで変身するベストマッチ、メリークリスマスフォーム。

右眼や左肩のケーキや左眼にはサンタの帽子があってとても凝ったデザインである。

しかも身体中に例えばオーブンが付いていたりイチゴをしまうことが出来たりとあらゆる機能が付いてる優れモノだ。

 

あーっと、こうしちゃいられない!

さっさと行かないと!

 

俺は抜き足差足で学園を周り、皆の元へメッセージを添えたちっちゃいケーキを送った。

(ちゃんと冷蔵庫に入れたよ!)

時々勘のいい人達がバッと起き上がったのにヒヤヒヤしつつ、なんとか全ての部屋に配り終わった。

 

明日の皆の反応が楽しみだ。

さて、一仕事終えたしサンタはまた364連休しますかね...「遅かったな、桐生。」

 

突然聞こえた後ろの声の方へゆっくり首を向けるとそこには...

 

「貴様には就寝時間を超えての寮の出入りとビルドの無断使用のペナルティがある。覚悟は良いな?」

 

真っ黒なサンタならぬサタン。もとい織斑先生が。

 

「いや、違うんですよ。 高校生になってもサンタさんを信じる心を忘れないでほしいなーって言う俺のささやかな気持ちでして」

 

「...ふむ、確かにそうだ。 今年の生徒は皆良い成績を残し、態度も悪くはなかった。 それは認めよう、」

 

「じゃ、じゃあ...」

 

「だが貴様は悪い生徒だ。私直々に(プレゼント)をくれてやろう。」

 

「嫌だァァァァァ...」

 

織斑先生に引きずられ、俺が作れる最高のケーキをあげても許してもらえず、俺はやむなく寮長室で罰を受けることとなった。

やったね! クリぼっちを免れたよ!(血涙)

 

翌日生徒達は知らない間に冷蔵庫に入っていたケーキを喜んで味わい、どの生徒も素敵なクリスマスを過ごしましたとさ...。

一方、一夏はカッコつけて切ろうとして見事に失敗していた。

アイツに切れないものは普通にあった。




せっかくのクリスマスだし、またそれに合わせたベストマッチがあるんだから何かやりたいと思って書き上げました。
年内最後の投稿だー、こんなでいいのか。
それでは皆さん。メリークリスマス、そして良いお年を!


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閑話-2 謹賀新年、イェーイ!

新年初の投稿。短いけどあしからず。


「あけましてぇ、おめでとーー!」

 

「おめでとーー!」

 

「久々の出番だあああ!」

 

今日は元日。

丁度今0時を超え、2018年になった所である。

せっかくの年に1度のイベント。

家族で過ごそうということで久しぶりの自宅で豪華な食事と共に新年を迎えていた。

 

 

「いやーけんくんも来年で2年生だね! もうすっかり学園には慣れたんじゃないかな?」

 

「たくさんの女の子に囲まれて羨ましいぞ〜! こいつ〜!」

 

「え? まだ1年生の半分も行ってないけど?」

 

「「えっ?」」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「と、とりあえず乾杯しよう! 乾杯!」

 

「う、うん! かんぱーい!」

 

「そ、そうだな! 乾杯〜!」

 

『ツッコんではいけない。』

3人の気持ちが一致した瞬間である。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

年が変わって2時間ほど経ったが3人ともまだまだフィーバー中であった。

 

「ふひ、ふひひ! ねぇねぇ〜、けんくんは好きな子とかいないの〜?」

 

酔いの回った姉さんが絡んできた。

正直この状態の姉さんはめんどくさい。

何かとしつこいし無理矢理剥がそうにも力じゃ勝てない。

腐っても天災、酔っても天災ということか。

 

「お、そうだそうだ! お前女の子に絡まれてんだからそういう子の7、8人はいるだろ!」

 

「いや、別にいないよ...。」

 

父さんまで絡んできた。

超鬱陶しい...。

 

「ふ〜〜〜ん、あの赤髪のほほん娘とか水髪会長娘とかはどうなの?」

 

「何っ! お前居るのになんで嘘つくんだ! ちゃんと幸せにしてやらなきゃダメだろ!!」

 

「うるさいなっ! これでも喰らえっ!」

 

なんか手元にあったタコを投げつけた。

 

「うげっ! ちょ、ちょっと! 俺タコ嫌いなんだよ!! 」

 

こうかはばつぐんだ。

某ジョーカーだったら片手でキャッチしてたんだからあんたも見習えよ。

 

辺りをよく見るとあちこちにタコ関連のものが置いてあった。

胸にたい焼きが描かれてる黒いスーツとか緑のショールもある...。

あとついでにオクトパスフルボトルも。

 

...おっと、ちゃんと皆に言っておかなきゃな。

 

「皆さん、あけましておめでとうございます。 また2018年も頑張るので、活躍を楽しみにしててね!」

 

「今年受験の人は頑張ってね〜。 ひっく、試験のコツは〜、どんなものもまず『出来る』って言って頭が痛くなるくらいいっぱい考える事だよ〜。 ういっ、まあ束さんは大抵の事は出来るけどね〜。」

 

「料理は出来ないけどね。こないだお菓子作ろうとしたらゲル状のゼリーみたいなの出来てたじゃん。」

 

あんなヘルヘイムの果実みたいなのはごめんだ。

 

「あ〜、ようやく取れた...。 あ、俺達も少なからず応援してるぞ〜! ラストスパート頑張れ!」

 

「...うん、じゃあ。今年もよろしくお願いします!!」

 

その後眠ってしまった姉さんを父さんと運び、寝床についたのは日付が変わる直前だった。

また少ししたら学校だ...。一夏達は何してるだろうな。

少しずつ輝きを増す空を横目で見ながら俺は学園のことを考えながら目を閉じ、深い夢の中に落ちていった。




戌年なのにタコを推してくスタイル。
どうもみなさん、あけましておめでとうございます。
昨年の九月末から投稿を始めて多くの方々がこの作品を見てくださり、本当に嬉しい限りです!
今年作者同様受験をする方は一緒に最後まで、オクトパスフルボトルを置いて頑張りましょう!
今話が投稿されてる瞬間には作者は地球上に居ないと思うので返信遅れるかもです。
では今後ともよろしくお願いします!!


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閑話-3 一夏と建兎の勉強会

時系列は本編11話〜12話くらい
ギャグ成分入れたのでキャラ崩壊あるかも



「で、全部のISにこのパッシブ・イナーシャル・キャンセラー、PICが搭載されてるんだ。 それによって浮遊、加速、停止してるんだよ。」

 

「お、それ山田先生が何度も言ってたな。 さすがに覚えたぞ」

 

織斑先生に一夏の勉強を見るよう言われてから数日。

ようやく基本を理解できるようになり、最初と比べてかなりペースが良くなった。

 

「しかし俺がやってなさすぎとは言え、建兎は本当に詳しいよな。 男なのになんでそこまで詳しいんだよ?」

 

「い、いや、あの参考書読んでりゃ誰でもここまで行けるって。」

 

「本当かぁ? クラスの子も全然知らないことまで知ってて凄いとか言ってたぞ」

 

くっ! コイツ本当に無駄なところで鋭いな

せめて今は束姉さんと住んでたことは内緒にしておきたい

なんかポロッと言っちゃいそうだし

 

歯切れの悪い俺の態度に疑いの目を向ける一夏

周りに生徒がいないからか少しずつ自分の心臓の音が大きく聞こえてくる

なぜ何も悪いことしてないのにこんなドキドキしなきゃいけないのか

 

「調子はどうだ?」

 

と、そこに救世主(織斑先生)が現れた

右手には袋を持ち、左腕で出席簿やらファイルを持っている

会議か何かの帰りだろうか

 

「おう、建兎のおかげでいい感じだぜ千冬姉!!」

 

「織斑先生と呼べ、全く...。」

 

口では一夏を叱るもののその表情は嬉しそうだ

先生としても姉としても一夏を案じてる彼女のいつもと違う一面である

しかし俺達のノートを覗き込み、やれ書き込みが足りないだの やれきちんと理解出来てるのかだの口を酸っぱくして言ってくる。

 

これもまた先生なりの愛情表現なのだ。

 

スパァンッ!

 

「桐生、また何か変なことを考えていただろう。 なんなら後で組み手の相手になってやろうか」

 

「いえ、結構です...。」

 

ひどい、思想の自由すら奪おうというのかこの人は

目の前の一夏も同情する目で見てきた

俺達は今、強い結束で結ばれた気がする

 

「全くどいつもこいつも...。 そうだ、差し入れと言ってはなんだがこんなものを買ってきた。 遠慮せず飲め」

 

ドンッと机の上に置かれたそれはとっても見覚えがあるものだった

 

「こんなの...見たことないぞ?」

 

「たまたま見つけたのだがドラゴンゼリーとロボットゼリーと言うらしい。 どちらか好きなのを2人で分けるように」

 

一夏は見たことないゼリー飲料に興味を持ってるがそういう問題じゃない

サイズや形は普通のゼリー飲料と同じだがそうじゃない

青い龍が描かれた銀色のゼリー飲料とロボットが描かれた金がかったゼリー飲料

こんな見た目のゼリー飲料なんてひとつしかない

 

 

...どう見てもスクラッシュゼリーだ。

いやこれ飲んじゃダメだろ

 

「え、大丈夫なんですかこれ」

 

「何を疑ってる。 私も飲んでみたが味はともかくとして普通に飲めたぞ」

 

不味かったのに何故差し入れとして持ってきた?

 

「ドラゴンゼリーを飲んだ山田先生は体調不良を訴え会議を欠席したが」

 

山田先生ぇぇぇぇ!!

 

「いやなんで飲ませたんだよ!」

 

「山田先生にも労うつもりで買ったからな。 まあ今日は朝から調子が良くないと言っていたし疲れが溜まったんだろう」

 

それは絶対関係ない

 

「では何か質問があれば私に聞きに来い。 時間までには自室に戻れよ」

 

これだけ危ない物残してそのまま帰るの!?

ここまで嫌な話されて飲みたくなるわけないだろ!

 

俺の思いとは裏腹に先生は去ってしまった。

あの人マジで身体が何で出来てるのか不思議で仕方ない

 

そして残された俺たちは...

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「...どうする? これ」

 

「...少なくともドラゴンゼリーは飲みたくないぞ」

 

山田先生の二の舞になりたくないので2人とも手をつけようとしない

かと言ってクラスメイトの誰かに飲んでもらおうとか捨てようとか提案しても一夏が頷くとは思えない

 

日も傾きはじめ、そろそろ自室に戻らなければならない

とりあえずこの問題は後々に持ち越しだな

 

「...俺、トイレ行ってくるわ」

 

「...俺も行くわ」

 

途端にどっと疲れがやって来たと同時に尿意も来た

目の前の現実(ゼリー)から目を背けるように俺達は教室を後にする

 

 

────────────────────────────────────

「一夏、居るか? ....居ない。 トイレか?」

 

「きりりんも居ないね〜」

 

一夏達がトイレに行った後、箒と本音が2人の様子を見に教室にきた

2人が居ないことを確認し、2人が勉強していた所へ向かう

 

「きりりんのノートすご〜い! 今度見せてもらお〜」

 

「た、確かに... 私もこのくらい出来れば一夏と...ブツブツ」

 

各々別の感想を持ち、しかし共に好意を持つ者に対する反応をする2人

特に箒は一夏の前で素直になれない事が多い分、建兎に嫉妬してる節の様子も見られる

 

「ん? これはなんだ?」

 

ふとその時箒が2つのゼリーを見つけた

見たこともないゼリーだったがまだ冷たく、表面を露が滴っている

 

「なにそれ〜」

 

「ゼリー...だとは思うが、初めて見る。 ちょっと気になるな」

 

「私も私も〜! 喉乾いちゃった!」

 

2人ともちょうど水分を欲しており、ゼリーに対する興味も相まって箒はロボット、本音はドラゴンのゼリーを手に取る

 

「一夏達の物だと思うが...まあ後で返せば良いだろう」

 

「ちょっとだけなら大丈夫っ♪」

 

そう言って2人はゼリーを潰し、思い切り中身を飲み込む

冷たいジェル状のものが喉を勢いよく流れ、爽快感を味わった途端

 

「☆¥%○+<「〒^~!?」

 

「♪$°*×=」々|…!?」

 

えも言われぬ味が身体中に染み渡り、2人の頭を刺激。

まるで頭から何かしら溢れ出てきそうな感覚の中、2人はその場で倒れた

 

 

数分後、トイレから戻ってきた一夏達に発見され、2人は保健室へ運ばれた

寝かされた2人はうわ言で二字熟語ばかり言うようになったり、エビフライを欲しがっていた

 

翌日、山田先生に本音に箒が授業を休み、スクラッシュゼリーが販売中止になったのは言うまでもない。

 



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第零章 バトンタッチ編
プロローグ


初投稿です。読みにくい、つまらないプロローグですがどうぞ


「ここは?」

目が覚めると俺は森の中に居た。 丁度仮面ライダーゴーストに出てきたタケルとおっちゃんが邂逅した森に似ている。いや、それと全く同じ...?

 

「目が覚めましたか?」

 

不意に声をかけられ振り向くと20代位の綺麗な女の人が立っていた。

白い肌に整った顔立ち、スラっと伸びた身長が白いドレスの様な服にとても似合っている。...ん? 顔が赤くなった

 

「えっと...ですね... あなたは何故ここに居るのか覚えてますか?」

 

「え? いや、俺は確か学校の帰り道で横断歩道渡ろうとしてて...

!! そうだ! 子供が車に引かれそうになってて!」

 

「はい、そこであなたはその子供を助ける為に飛び出しました。

それで...非常に申し上げにくいのですが...「俺は死んだ...と」...はい」

 

「そうですか... そうだ! あの子供はどうなったんです!?」

 

「無事とは言えませんがあなたのおかげで助かりました。今手術を受けています。」

 

「それなら...良かったです。」

 

「悔いはありますか?」

 

「まだ生きていきたかったことは事実ですし、今でも死んだ事はショックです。でも、とりあえず誰かの役に立てたなら 良かったと思います」

 

なんて言ってるが内心悲しみまくりである!!

彼女欲しかったし仮面ライダー見てたかったし 卒業だってまだだったんだ。

このままじゃファントム生み出しそうだァ... あ、もう死んでるから出てこないか☆ 良かった良かった泣

 

「...どうやら未練がまだまだ残ってるようですね」

 

声のトーンがガタ落ちしてる。 あれ?もしかして心の声丸聞こえ?

 

「はい、最初から」

 

マジか! 最初のアレもモロバレと分かった途端恥ずかしいんだけど!

 

「ともかく! あなたはまだ天国に行くのも地獄に行くのも勿体無いのです。 そこで我々は転生という形でチャンスを与えています。」

 

「転生? それって二次創作によくあるあの?」

 

「はい、あなたには『インフィニット・ストラトス』というライトノベルの世界に行っていただきます。」

 

『インフィニット・ストラトス』。略して『IS』

天災科学者 篠ノ之束は宇宙へ行くためインフィニット・ストラトスというパワードスーツを作り出した。

しかし、それは宇宙への道具ではなく戦争の道具として使われるようになる。

そして、それは女にしか使えないという欠点を持つために女尊男卑なる風流が生まれた。

そんな中、男子で唯一ISを動かせる人間、織斑一夏が女だらけのIS学園で様々なトラブルに巻き込まれながらヒロインと学園生活を送るハイスピードラブコメディ、俺の大好きだったライトノベルである。

 

「一言で言えばハーレムありのロボットバトルノベルだ」

 

「誰に言ってるんですか? 話を戻しますがそんな特別な世界でも生きていけるよう、あなたには特典を三つまで用意してあります。 」

 

「三つ!? 何でもいいんですか!?」

 

「よっぽどのものじゃない限りはですが、ある程度なら可能ですね」

 

「じゃあまず仮面ライダービルドに変身させてほしいです」

 

「ビルド? いいんですか? まだ放送中で今度新フォーム出るはずでしたよね?」

 

「大丈夫です、このssそんなにストーリーすぐには進みませんから」

 

「そうですか、まあ未登場のフルボトルやフォームは出ないようにしておきますか」

 

さっきからすんごいメタいなぁ。大丈夫かコレ

 

「二つ目は身体能力が高くなること、三つ目は戦兎並とまでは行かなくても頭良くしてください」

 

「分かりました。 では、良き二度目の人生を」

 

テンプレだと足元にパカっと扉開くんだよなぁ

でもここ森の中だし

って何あれ土管? 「CONTINUE」って書いてあるけどまさか...

 

「ではどうぞその中へ」

 

「え、まじでアレなんですか? アレって(檀黎斗)専用じゃ...」

 

「私の上司の趣味なんです。死んで生き返るシステムが似ててウケたのか今年からアレに変更となりました。」

 

きっとその上司とは仲良くなれるだろう

 

「まあ分かりました行ってきます。」

 

「お気を付けて」

 

そう言って俺は土管に入っていった...

てか中結構狭! ちょ、痛い痛い!

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

...彼が行ってから数時間、私は彼に関する書類を見ていた。

 

犬飼 貴之 『いぬかい たかゆき』(21)

・19✕✕年 ○○県生まれ

・△△大学 からの帰り道、車に引かれそうになっていた少年、()()()()を庇い交通事故で死去。 享年21歳

その後宝生少年は手術により命をとりとめ、生き長らえた。

 

 

犬飼さん、気づいてないでしょうがあなたは知らず知らずの内に仮面ライダー、人類の未来を守ったのです。

本来の未来とは違う世界の中、我々は直接人間界に手を出してはいけないというルールのためどうしようもなかった所、あなたに助けられました。

あなたがビルドに変身出来るのも、ISの世界に行けるのもご自分で掴み取った力なのです。

 

全ての神に変わって感謝します。

せめてあなたが第二の人生、楽しく生きられますよう願っております。

 

 

 




あー疲れた。皆さんよくあんなたくさん書けるなぁとめっちゃ思います。
次の更新もなるべく早く出しますので、よろしくお願いします。


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第一章 原作前編
第1話 建兎、ビルドアップ


とりあえず第2話という名の第1話。
これからどんどん忙しくなるからなぁ...
合間で少しずつ出していきます。
ビルドは時間変更のせいで塾と被ってリアタイで見れない...



土管に入ったんだから土管から出てくる筈だ。

そう思ってた自分がいました。

 

目覚めるとなんとゆりかごの中。身体は縮んで1、2歳位の赤ちゃんになっていた。

何事かと驚いてるとスキップする足音が近づいてくる

その人は俺にはとても見覚えのある人であった。

 

「ほーら建兎ー、ご飯の時間だぞーう! 沢山食えよー!

あ、しまった! 形が崩r 零れてきたぁ!」

 

ビルドのおやっさん枠、マスターこと石動惣一であった。

いやいやいや、なんでこの人が!? マスターってまだまだ若かったはずなのに!?

顔は変わらないが歳は30代位、白衣を着たまさに「科学者」って感じのナリになっていた。

 

てかうざい、めっちゃうざい!

マスター不格好なおにぎりグイグイ押し付けてくんだけど!

それじゃあ食べたくても食べられないだろ!

 

「ほーら、ちゃんと食べないとダメだぞう?お腹空いてないのか?」

 

あーもう!何が悲しくて赤ん坊に戻ってオッサンに抱きつかれなきゃいけないんだ!

母親はいねーのか!

 

「ははは、相変わらず懐いてくれないなぁ。だけど今日はあまり泣かないなぁ。まあでも次こそは笑顔を見せてもらうぞ! ...おっと、そろそろ時間か。 じゃあ建兎、いってきまーす!」

 

そう言って嵐の様に去っていった...。

もう、疲れたんだけど...。 転生するんなら幼少期は飛ばして欲しかったなぁ。

 

それからというもの、マスターと俺との二人暮らし兼格闘戦が始まった。

言葉を初めて喋った時は感涙しすぎて倒れてたし、しつこく絡んでくるから「鬱陶しい」と怒鳴った時は物凄く悲しそうな顔してすごすご自分の部屋に戻っていった。こっちが悪いみたいじゃん...。

それにどうやらマスターは本物の科学者らしく、研究所内でも結構高い位置にいるらしい。飛行機やロケットについての研究してたんだったかな?

その為に帰ってくる時間は遅く、休みの日も少なかった。

「本当はもっと遊んでやりたいんだがなぁ」とボヤいていた。

 

しかし、マスターに対して嫌な感情はなく、前世の親と同じように厳しくも優しく育ててくれたため、自慢の義父だった。

 

義父というのは俺の名前が桐生 建兎、マスターの名前が本編と違い、前川 惣一という名で肉親ではないからである。

 

前に1度だけ俺の親はどうしたのか聞いてみたところ、あの陽気なマスターが一言も話さなくなってしまった。

なんというか何とも言えない顔してた。

何かしら事情があるのだろう。あまり深くは聞かなかった。

翌日には陽気なマスターに戻ってたけど。

 

 

 

そして時は流れ、小学生になったある日、マスターが家に帰ってこなかった。

え? 展開早すぎだって? まあ言いたいことはわかる。 だが私は謝らない

 

その翌日、帰ってきたマスターと一緒にいた人を見て俺は吹き出してしまった。

そこに居たのはISを作り、女尊男卑の世界を作り上げたこの『インフィニット・ストラトス』の世界の超有名人、篠ノ之束博士その人だった。




展開早いよね(小並感)
とりあえず次回白騎士事件、束さんとマスターの関係までは書きたいです。
では、また次もよろしくお願いします。
Next→第2話 ベストマッチな兎達


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第2話 ベストマッチな兎達

連続投稿しちまった。
悔いはないが

Be The Oneを聞くのが日課になってる今日この頃
本編ビルドの合間に読んでくれたら嬉しい!
ではどうぞ!


マスターと篠ノ之束が帰宅してきて数時間後、今俺は夕飯を作っていた。

料理下手なマスターに変わって俺が代わりにやっている。

前世でも俺は料理好きだったし、独身だったからよく作ってた。

 

そうそう、2人は今奥の部屋で2人きりで何かしら話し込んでいる。

マスターによると今日束さんと知り合い、2人で話がしたいらしい

恐らく今日はあの論文の発表が行われた日だったんだろう。

 

篠ノ之束は高校生の頃に既にISを完成させ、論文も作成していた。

しかし、大人達は彼女やISの事を認めず笑い、罵り、まるで相手にしなかった。

話だけ聞くととても不憫に思う

マスターも俺と同じ気持ちなのだろう

それに、マスターは元々宇宙に行きたいと願い、それが科学者になったきっかけだとも言っていた。つまり、単なる優しさや憐れみで声をかけた訳では無い。

マスターも力になりたい、そう願ってのことだと思う。

 

「すまないな、建兎。束ちゃんを送っていくよ。」

 

「え、ご飯はいいの?」

 

「ああ、束ちゃんも今は食欲が無いらしいしな。じゃあ行ってくる」

 

...3人分作っちゃったんだが。 絶対余るだろこれ。

やれやれとため息をつきながら片付けをしていると

 

 

「...ねぇ」

 

不意に声をかけられた。マスターと違い高く綺麗な女性の声。

主は言わずもがな篠ノ之束その人である。

 

「君は、名前なんて言うの?」

 

「え? えっと...」

 

まさか声をかけられるとは思わずどもってしまう。

 

「建兎... 桐生 建兎です。 建築の建に、兎」

 

「へー、じゃあけんくんだねー。 いくつ?」

 

「けんくん!? あ、あーっと10歳です。」

 

この人は気に入った相手をニックネームで呼んでいる。

気に入った相手といっても数えるほどしかいないのだが。

 

「そっかー、てことはいっくんやほーきちゃんと同い年だね。」

 

「は、はぁ」

 

ここでの『いっくん』は 主人公の織斑一夏、『ほーきちゃん』は束博士の妹の篠ノ之箒のことである。

初対面でここまで気に入られるとは、本当に予想外だ。

 

「ふんふんふん、はーん、ふむふむ」

 

「え? あのちょっと、ち、近いんですけど」

 

何故か束博士は俺の顔のすぐ近くをじーっと見ていた。

 

「うん、なるほど。 君は興味深いね。 束さんのお気に入りに入れてあげよう!」

 

「え? え!?」

 

「実は嘘なんじゃ」とも考えたが、本当に気に入られたようだ。

しかしまだ事実であるというのに理解が追い付かない。

 

「んー、うまく言えないけど君は少なくともそこらの凡人とは違うね

君からは私と同じような感じがする。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

え...?

 

「束ちゃーん? どーしたー?忘れ物したかー? 」

 

「あ、ごめん。そーさん。ちょっとけんくんとお話してた!」

 

「何!? もう仲良くなったのか!? 俺が親として認められるようになるまでどれだけ―」

 

まじ...かよ。 そんなことまで分かるのかよ!?

あまりの衝撃に俺は呆然としていた。彼女と特に話した訳でもなく、マスターもそういうことは話してないだろうし、特に何かがおかしかったとは思えないんだが...

 

 

少ししてからマスターが帰宅。 2人で三人分のご飯を消費することになったがなんとか平らげた。

食事中マスターが何か言ってたが頭に入らず、その日は寝られなかった。

 

学校でもボーッとする日が増え、先生に注意を受けて指される事も多かった。(まあ問題なく答えられるんだが)

 

その数日後、遂に白騎士事件が起きた。

 

日本に約2300ものミサイルが撃ち込まれ、それを白騎士こと織斑一夏の姉、織斑千冬がどんどん撃墜していく。

ミサイルを落としきった後、戦車やら爆撃機やらが出撃していくがそれも難なくしかも1人の犠牲者を出すこともなく機能停止させて行った。

 

原作を知ってるとは言え、凄まじい光景だった。

高校生2人が世界を揺るがす大事件を引き起こしていたのだから。

俺と一緒にテレビを見ていたマスターは

「束ちゃん...」

と、心底悲しそうに呟いていた。

自分も束博士に賛成していた手前、こうなってしまったらもう軍事利用されてしまうと目に見えたのだろう。時折俺の方を見ては何かを決意した様な表情をしていた。

 

こうして白騎士が圧倒的な力の差を見せつけ、白騎士事件は終わりを迎えた...。

 

 

そしてその後、束さんが再び家にやってきた。

 

「やっほー! けんくん! 元気してた!? 愛しの愛しの束さんだよー!」

 

「分かった! 分かりましたから! 頬ずりしてくるのは辞めてください!」

 

「...束ちゃん、悪いが少し建兎と話したいんだ。君も一緒に居てくれ」

 

あれ? おかしいな? いつもなら

「あ、束ちゃんだけずるいぞ! 俺だって建兎としてやるー!」

とか言って混ざってくるのに。

 

凄い真面目な表情で俺を見ていた。怒ってるとも、悲しんでるともとれる目をしていた。

 

「うん! りょーかい!」

 

そういって束さんは俺から離れ、椅子を取り出し座る。

なんだこれ、俺尋問されてるみたいじゃん

そんな事思ってたらマスターがおもむろに口を開き、

 

「建兎、単刀直入に言う。()()()()()()()()()

 

 

 

 

 




作者はビルドの小説を書いていながらエグゼイドロスになっている。
今年は平成ジェネレーションズやトゥルーエンディングなど見たかったが受験で見られなかったのもあって少し物足りない気分だ。
ただ、それだけ

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第3話 ゼロから証言する

受験期なのに4話投稿とか我ながら頭おかしい。
しかし、コメントやお気に入りして下さる皆さんの期待は裏切れない!

では、第3話! 続きをどうぞ!


()()()()()()()()()

心臓が止まるかと思った。

まさか束博士だけでなくマスターまで気づくとは思わなかった。

 

「...何者ってどういうこと?」

 

「言葉通りの意味だ。 お前は少なくとも普通の小学生じゃない。 気付いてないと思ってるかもしれないが、俺の技術書読んでるの知ってるからな。」

 

「...!!」

 

「束ちゃんが来た時、お前驚いてたよな? 全く知らない人のはずなのになんであんな反応したんだ?」

 

「それは...」

 

やばいやばいやばい。どんどんあっちのペースに持ってかれてる

束博士は何も言わずにじっとこっち見てるし。

マスターがここまで鋭いなんて。

なんて考えてる間にも質問は続く

 

「最後に。こないだの事件についてだ。 お前はあの事件が起こってる最中、驚くでも怖がるでもなく、ただ平然と見てた。世界中がパニックになったってのに小学生があんな態度はおかしいだろ。 そもそもここまでの話を理解できてる時点で普通じゃないと思ったが。」

 

...侮ってた。見くびってた。

ただでさえ忙しく、少ない時間でしか俺と触れ合えなかったはずのマスターがその少ない時間でここまで見抜くなんて。

驚くのと同時にそこまで俺を気にかけてくれてたのかと嬉しさもあった。

...マスターの親バカが移ったかな。

 

「...」

 

「どうなんだ? 答えろ、建兎」

 

言葉とは裏腹にマスターの瞳は凄く真っ直ぐだった。

疑ってるのではない、純粋に俺を見ている。

そんなマスター、いや父さんの気持ちに折れた。

 

「...うん、分かった。 義父さん達の考えは合ってる。話すよ。全部」

 

そうして俺は父さんと束さんに全てを話した。

俺が転生者で神様から生き返らしてもらったこと。

幼児の頃から前世の記憶があったこと。

束さんやこの世界の人々を詳しく知ってること。

そして...この世界の未来を知ってること。

 

義父さんに束さんは何も言わずに俺の顔を見て一言一言噛み締めるように聞いていた。

話し終わって、辺りは静かになる。

 

「...これが俺の全て。 ごめん、騙してて。」

 

「けんくん...」

 

「建兎、それは全て本当なんだな?」

 

「...うん、俺はこの世界の人間じゃない。本当は居たらいけないイレギュラーなんだ「違う!!」...!」

 

突然父さんが大声を上げるので俺も束博士もビックリした。

というのも父さんは今まで俺に対して怒ったことはあっても、怒鳴った事は無かったからだ。

束さんも普段の父さんからは想像もつかなかっただろう

父さんの表情はさっきとうって変わり、怒り一色になっていた。

 

「お前がイレギュラー? ふざけるな!! お前がどんな秘密抱えて、血が繋がってなかろうと、何年も掛けて俺が育ててきた大事な息子だ!! お前はその事も否定する気か!!」

 

「違う...違う!! 俺は!! 」

 

「いいか、お前は確かに転生してこの世界に来たかもしれん。だが、今更お前がどうしようとこの世界で生きてきた、過去は無くなったことになんかならない!! もしそれでも今お前がイレギュラーだと言う者がいるなら、俺がぶっ飛ばす! それがお前自身でもだ!!」

 

普段の陽気な雰囲気なんて影もない、熱く力強い言葉だった。

すると、いきなり束博士が抱きついて頭を撫でてきた。

 

「え!? あの、ちょっと!?」

 

「...けんくん、束さんはまだけんくんをあんまり知らない。だから束さんがこんなこと言っても信用できないと思うけど、束さんはけんくんを信用してる。そーさんと同じ気持ちだし、全部知ってて束さんを拒絶しなかったけんくんも大好きだよ? だから...」

束さん達はけんくんと一緒にいるよ

 

その言葉で遂に涙が出てきてしまった。

ずっとずっと心のどこかでこの気持ちをぶつけたかったのかもしれない。

心のどこかでその言葉を言ってくれるのを待ってたのかもしれない。

 

俺はただただ束博士、いや束姉さんの胸で泣きじゃくった。

結局男は何歳になったって母性には敵わないって事がよーく分かった。

父さんも何も言わずに俺の背中に手を回し、さすってくれた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ぐすっ、うぅっ、ふぅ。」

 

「落ち着いた?」 「落ち着いたか?」

 

「うん、ありがとう。2人とも、こんな変な話聞いてくれて。」

 

「ううん! 束さんもけんくんの心の底の気持ちが知ること出来てちょー嬉しいよ!」

 

「ああ、俺もお前が事実を隠してた事に怒りなんかしないよ。これでようやく親子の絆が深まったってことだ。」

 

「え、親子の絆なんか元々あったの?」

 

「嘘だろお前! このタイミングでそんな事言うか!?」

 

「あーそうだね。 そーくんは親って感じじゃないかも。親戚のおじさんかな?」

 

「束ちゃんまでそんな事言うのかよ!!」

 

「「「ぷっ」」」

 

そして、俺たちはおかしくなり笑いあう。

やっぱりシリアスよりもコントみたいな雰囲気が似合っているな。

 

「はーあ、けどありがとうね。束姉さん。俺、吹っ切れた気がするよ」

 

「!!!??!?、け、けんくん! もっかい!もっかい今の!!」

 

「え? 吹っ切れた気がするって...」

 

「その前!!!」

 

「え? えっとぉ... 束姉さん...?」

 

「!!!!!」

 

うおお、束姉さんが凄い嬉しそうな顔してるわ。

そんなに嬉しかったのか。

 

「いよっしゃーーー!! 束姉さん貰ったぜーーぃ!!

ほーきちゃんも呼んでくれなくなったから落ち込んでたらけんくんから呼ばれるなんて!! これからもその呼び方でお願いね♪」

 

「あ、はい。」

 

「おい、建兎! 俺には!? 俺にはないのか!?」

 

「え、じゃあ父さんって...」

 

「うぉっしゃーーー!! 遂に父さんキターーー!!

いっつも義が付いてたがようやく! ようやく真の父になれた!! これからもその呼び方で頼むぞ♪」

 

大の高校生と大人が小学生からの呼び名で騒ぐなうるさい

はぁ、これから呼び方変えた方がいいかな...

 

「そうだ、俺たちの事も何か聞きたいことあるか? お前、大抵知ってるかもしれないが」

 

「あー、じゃあなんで父さんは「イヤッフゥゥゥ!」うるさい!!束姉さんの「イヤッホォォォ!」だからうるせぇ!味方、というかサポートしてあげたの? 正直、あんまりメリットは無いよね?」

 

そう、この事についてだ。

もし束姉さんの論文が完璧だったとしてもいち高校生のために私財を投げ打ってまで援助してあげる事が父さんにとっていい事だとは思えない。

見ず知らずの人のしかも世界各国の科学者が相手にしなかったものに対して

 

「あー、それはな。 俺が宇宙に行ける全く新しい機械作りたくて科学者になったって前教えたろ? まあ結局出来なかったんだけどな。 そこに束ちゃんが来た。」

束姉さんの方を見る。あ、ドヤってる

 

「正直すげえ嫉妬したよ。悔しかったし、こんなにも歳違う子に先に実現されちゃったからな。」

 

頭をかきながら、苦笑して言う。

 

「けど、やっぱり時代を作ってくのはいつでも子供の夢だからな。 俺たち大人はその子供達の夢を未来の現実にするため、少しでもその子達に力を貸してやるべきだって思うんだよ。 だからこそ、俺はお前のいう、突飛もない話にノったんだ。」

 

そう、だったのか。

父さんにあったのは本当に優しさでも情でもなくて、自分の夢を束姉さんに託そうとしてたんだ。

本当に強いのは人の思いってことだな。

 

「そーくんのおかげで束さんは他人が全部全部石ころって訳じゃないって思ったんだよ。 もちろん石ころ並に役に立たない奴だっているけど、そーくんやけんくん、少なくとも束さんの事を篠ノ之束(天災)じゃなくて束さん(しのののたばね)として見てくれる人はお気に入りの人以外もいるって分かった。 だから束さんが丸くなったのは半分はけんくんのおかげだね♪」

 

そこまでハッキリ言われるとなんか...照れるな

 

「お!? けんくんが照れてる! イェーーーイ!! 今日は最高だぜぇぇい!」

 

「建兎の照れ顔だと!? これは是非ともカメラに収めねば!!」

 

...。

今自分の顔がどうなってるのか自分でも分かんないけど目の前の二人を見る限りとんでもない顔なんだと思う。

 

「あ、ち、違うんだよ。けんくん。 けんくんが可愛かったからつい、ね...?」

 

「そ、そうだぞ、建兎。 お前は昔から感情の起伏が少なかったからこういう珍しい事もあるもんだーって思って...」

 

「...。」

 

 

数分後

 

 

天災兎と親バカマスターから数個のたんこぶ、たんこぶからは真っ白な煙が上がり、両者ともノックアウトしていた。

 

「そういや父さん」

 

「なん...だ...息子よ」

 

もう既にグロッキーに到達しているがその中でも返答しようとする惣一には感服する束であった

 

「あそこまで気づいてて何で俺が自分の過去について聞いた時顔しかめてたの?」

 

「あーっと...それはだな。」

 

バツの悪い顔をし、ゆっくりと立ち上がり奥の部屋へ行ったかと思えば

 

「こんなものがお前のベビーカーに入っててだな」

 

そう言って渡されたのは1枚の何の変哲もない紙だった

開けてみると

 

『無事に着きましたか? あなたはこれから「桐生 建兎」として生きていって貰います。 この世界についてはあなたの方がお詳しいと思うのでおまかせします。 ビルドドライバー、フルボトルはベビーカーに入れておきました。 では良い人生を 神より』

 

...なんじゃこりゃ

 

「その、最初それ読んだ時捨てた奴のイタズラだとおもったんだけど...

建兎の様子見ててひょっとしてって思ったんだ。だからその...」

 

「ありゃりゃ、 こんな用意までして、驚きだねーけんくん。 ...けんくん?」

 

なーにをやっとるんだあの神はぁぁぁ!!

こんなのバレて当然じゃねーか! 俺の10年近くの苦労返せ!!

てかこれじゃあ父さんが鋭かったのかこれ読んで知ったのか分からんし!!

...後で問いただす必要があるな

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

その頃、森では...

 

 

「へっくしょい! うーん、誰か噂してるんでしょうか。それとも風邪かなぁ」

 

神は少し常識がズレていたようだ...

天然なのかもしれない

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 




長ったらしくてすみません! しかし、今回の話は構想が消えない内にどうしても早めにやっておきたかったし、個人的に重要な回だったので!
では次回! ビルドに変身します!

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第4話 建兎のアイデンティティー

深夜のテンションで書いてしまった。
このままじゃ勉強進まない...どーしょー!!(自業自得)

さて、そんな作者は無視して今回も楽しんで下さい
今話はビルド初変身回です!

ではどうぞ!


「あ! そうだ! ビルドドライバー! 父さん、あれどこにやったの?」

 

「そうだそうだ! 忘れてた。あれ一体何なんだ? 見たことも聞いたこともないもんだったが」

 

「そーそー! 束さんにも解析出来なかったんだよ! 何あれ?けんくん」

 

2人とも興味津々といった顔で俺に聞いてくる

 

「...あれは俺のいた世界にあったビルドっていうヒーローになれるベルトとアイテムだ」

 

ドライバーとフルボトルを交互に見せ、一言にまとめて説明する。

出てきたフルボトルは「ラビット」、「タンク」、「ゴリラ」、「ダイヤモンド」、「タカ」、「ガトリング」、「ハリネズミ」、「掃除機」、「ライオン」であった。

やはり神の言葉通り現世に出ているものしかないようだ(メタ)

 

「へえ、やっぱりお前前世でもヒーロー物好きだったのか。 今でもニチアサのヒーロー番組見逃さないもんな」

 

「そうなの!? けんくんかわいい!!」

 

「何ばらしてんだァァァ! って今はそんな事関係ない。 ビルドは動物と物質。二つの力で変身するんだ 例えばウサギと戦車とか」

 

「「ウサギと戦車〜?」」

 

信じてないなこいつら

 

「まあ言うより見せた方が早いかな」

 

そう言って父さんからビルドドライバーとフルボトルを受け取り

 

腰に巻き付け、父さんの家の近くにある実験室に向かった。

 

―――――――――――――――――――

 

「さあさあ見せてみろよ! そのビルドとやらを!」

 

「けんくーん! いつでもいいよー!!」

 

片や父さんはカメラ、片や束姉さんは解析機を持って今か今かと待ちわびていた。

どこから持ってきたそんなん

 

「はぁ...。じゃあ行くぞ!!」

 

シャカシャカシャカシャカ

 

シャカシャカシャカシャカ

 

『ラビット!!』

『タァンク!!』

 

『ベストマッチ!!』

 

父さん達の方からおぉ〜!という声が聴こえるが気にならない。

遂にあの仮面ライダービルドになれる。

軽快なボトルの音、ベルトから聞こえるボイスがそう実感させていた。

 

『アー ユー、レディィ!?』

 

「変身!!」

 

『鋼のムゥゥンサルトォ! ラビット、タァンク!! イェェェイ!』

 

フルボトルを差し込み、レバーを回すと建兎の周りに大きなパイプが発生。

フルボトルから抽出された液体がパイプを通り、ビルドの半身をそれぞれ形成。

建兎の掛け声に合わせパイプが合体。

体から煙を吹き出し、仮面を着けた二色の戦士を構築する。

赤い左眼、青い右眼。

それぞれが形成したフルボトルの特徴、

兎の頭、戦車の砲台を表していた。

 

建兎は嬉しそうに、しかし冷静の戦兎のあのポーズを取った。

左腕を横に伸ばし右腕は左胸に置き、そして左手を腰に右手をクルッと回しながらかの「フレミングの右手の法則」を取る。

 

遂にこの時が来た! 長年憧れ、夢見て、真似事で終わっていた変身ができる時が!

 

束達もこれには興奮を隠せない。

目の前で己が作りだした最高傑作(インフィニット・ストラトス)にも劣らない発明品が居るのだ。しかも、別世界から来たこの世にたった一つしかないものでもあったからだ。

 

かく言う惣一も驚きを隠せないでいた。

建兎の事はもちろん信じていたし、神様の事も直筆の手紙(笑)があったため理解していた。

しかし、だがしかし、目の前のビルドは()()()()()()()

これはきっとIS同様世界を変える。そんな確信が彼にはあった。

 

「すごーい!! 凄い凄い! 束さんのISはすぐに変身出来るけどビルドはこうグルグルって! ガシューン!って!」

 

興奮しすぎて擬音ばっかになってるな。気持ちは分かるが

 

「ビルド、ここまで凄いとはな!! ハッキリ言って想像以上だ。 男女関係なく変身出来るのか?これは」

 

「いや、男女ってーか俺にしか変身出来ない。 そう神に設定してもらったから」

 

残念ではあるがこれも俺の正体がバレないようにする為だ。

ここだけ見るとIS以上の欠陥品だな

 

「まあでもしょうがないよね〜。 ビルドにけんくん以外の人がなるの嫌だもん」

 

「え、俺なってみたかったんだけど」

 

「いや、父さんには絶対させないから。 もし誰でも変身出来たとしてもさせないから。」

 

「なぜだァァァ!!」

 

天を仰ぎながら嘆く父さんを無視して2人で話を続ける

 

「ちなみにフルボトルはドライバーにセットせず、生身のままでも振るだけで能力は一時的に得られる。例えば...」

 

俺は変身解除し、ラビットフルボトルを数回振る。

そして...一気に2人の後ろに回り込む!!

 

「ええ!? はや! 早すぎて束さんじゃなかったら気づけなかったよ!」

 

「変身しなくてもいいとはなぁ...他はどんな能力があるんだ?」

 

「そうだねぇ... 他にはこれなんかが...」

 

 

 

こうして俺たちは初めてビルドに変身、謁見する事になった。

3人で久しぶりに凄い充実した時間を過ごせた気がする。

きっと、お互いに気兼ねなく接せるようになったから...かな

この2人には感謝しきれない

 

あと余談だが束さんがどうにかして解析してやろうと画策。

見事撃沈させられていた。

 

 

 




いかがでしたか?
作者は変身してみたいライダーはたくさんありますが、敢えて挙げるならやはりゼロノスですかね。彼はお気に入りです。

次回は束さん以外の原作キャラとの出会いを予定しています!
誰が出るかはお楽しみ。
感想、批判、並びにこうした方が良いのではというアドバイスもお待ちしています。
ではまた次回!

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第5話 平和主義なヒーロー

皆様、感想やお気に入りして下さり、本当にありがとうございましす!
作者もとても励みになります!
多くの人に楽しんで頂けるよう、頑張ります!
あと第1話でご指摘のあった誤字を修正しました。
では、最新話どうぞ!


ビルドのお披露目から少しして、俺は今郵便局に向かっていた。

ハガキを出しに行くついでに切手を買って来てと父さんに頼まれたからだ

家から郵便局は歩いて10数分の距離にあるためそんなに大したお使いではない

 

とは言え...やばい、筋肉痛が...

 

実はビルドに変身するようになってから、

「変身して戦うようになったら強くなってないとね!」

という束姉さんの意向で束姉さんが用意した全身装甲(フルスキン)のIS、ゴーレムとの擬似戦闘を行うようになった。

最初こそビビりまくってボッコボコにやられていたが、途中から感覚を掴み回避やそれに合わせてカウンターを叩き込むなど、何とか様になった。

それに神様の恩恵だろうか、身体能力や頭の良さ以外にも目や耳が良くなった気がする。

慣れてくるとゴーレムの動きが先に読めた事もあった

改善したい所はビルドに変身する事によって元々の身長を優に超える身体になるため、動かしづらい事か。

 

ようやく着いた。

ハガキをポストに入れ郵便局で用事を済ませた後、ドーナツ屋でプレーンシュガーを買い、帰り道ふと家電量販店のテレビを見る。

 

『フランスの企業、デュノア社が第二世代機、ラファール・リヴァイブの量産に成功。』

 

『電車内で男性に痴漢行為をされたと嘘の供述をした30代女性が逮捕されました。 調べによるとその女性は『ISを動かせる私達女の方が偉い。 男は女に従うべきだ』と供述しているということです。』

 

...こんなことばかりだ。

ニュースを見れば大抵ISか女性権利団体の事ばかり。

束姉さんのISはこんな事もたらしたかったんじゃないのに...。

 

そんな折、パトカーや救急車のサイレンがけたたましく鳴り響いた。

音の大きさからだいぶ近いと思われる。

 

何かあったのか? 気になるしついて行ってみよ

ラビットフルボトルを振り、人目につかない場所を駆け抜ける

 

パトカーの後を追い、たどり着いた先は銀行であった。

たくさんの人だかりが出来ており、入口は封鎖されている。

これはもしや...銀行強盗!?

こんな事原作にはなかった。 ましてや原作が始まる前のこのタイミングで!

 

『ドォン!!』

 

「「「キャアアア!!」」」

 

「おらおら、警察ども!! この銃が見えねぇか!? 少しでもおかしな動きしたら人質の命はねぇからな!!」

 

突如銃声が聞こえたかと思えば中からたくさんの悲鳴が。

犯人がイライラしている。それは顔を見ずとも声だけで充分分かった。

 

これは...行くしかない。

中に突入して強盗を捕えられるのは(ビルド)だけだ。

 

そう思ってはいるが足がすくむ。

体が震えるし、心臓の鼓動が早まる。

訓練の時のゴーレムとは違い、相手は銃を持ち人を殺すことに躊躇なく襲いかかってくる大の大人だ。

いくらビルドを纏って戦う力があっても怖いものは怖い。

前世でもこんな経験なかったしな

 

超怖いな、中がどうなってるかも分からんしもしかしたら俺が何もしなくても上手く行くかもしれない。

そうだ、もっと詳しく状況を確認しよう! 犯人が何人だとかどれだけの人が人質になってるか分からない内はどうしようm『助けて...ヒーロー...』

 

耳が良くなったからか、気のせいか、フルボトルの能力なのか分からない。

だが、声が聞こえた。

困ってる、怖がってる、助けて欲しいと願ってる。

俺の腹を括らせるにはそれだけで充分だった。

 

「手が届くのに、手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。だから手を伸ばす。なんて言葉あったっけな...!!」

 

『ラビット!!』

 

『タァンク!!』

 

『ベストマッチ!!』

 

「変身...!」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

???Side

怖い...怖い...!!

今日はたまたまお姉ちゃん達とお出かけしてて銀行に入っただけだったのになんでこんな事に...。

 

周りには私と同じように銃を持ったおじさんを怖がってる人達が何人も居て、泣いてる人もいた。

おじさん3人は笑いながらお金を袋に詰めている。

どうして? どうして、おじさんの悪いことに私達が怖い思いしないといけないの?

お姉ちゃんは私の手を取って「大丈夫」と言ってくれている。

そんなお姉ちゃんも泣いてはいないけど凄く怖い顔してた。

きっと私の事を守るために強がってるんだと思う...

 

こんな時、私の大好きなヒーローは颯爽と駆けつけてくれる。

悪い奴らを懲らしめて、皆を守ってくれる。

ヒーローなんて来ないかもしれない、居ないのかもしれない。

けど、言わずにはいられなかった。

 

「助けて...ヒーロー...」

 

そんな私の声に皆が一斉にこちらを見る。

おじさん達は笑いながら私の顔をのぞき込む。

 

「ヒーロー? 無理無理! テレビの見過ぎだ。 警察の奴も入ってこねぇ所に現れる奴なんかいねぇーよ!!」

 

「違いねぇ! ぎゃははははは!」

 

おじさんの気持ち悪い笑いが響く。

そういうとお姉ちゃんはおじさんを睨んだ。

周りの人たちもまるでこの世の終わりみたいな顔をしてしまっている。

 

もうダメ...。そう思っていた。

 

突如、ドアの壊れる音が聞こえた。

皆がドアの方を見るとそこには赤と青で出来た、仮面を着けた見たことのないヒーローが立っていた。

 

???Side out

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

建兎Side

ビルド ラビットタンクフォームで銀行内に突入。

中には3人のマスクを被ったおっさん、10数人もの人質がいた。

その中には見覚えのある人達がいた。

水色の髪に整った顔立ち。片や手を握りこちらを驚きの眼差しで見ており、片やメガネをかけて手を握られこちらも驚きの表情をしている。

間違いない、更識姉妹だ。 まさかこんなことに巻き込まれてるとはな...

 

「だ、誰だテメェは!!」

 

「人質の命はねぇと言ったはずだぞ!!」

 

おっさん達は銃を構えそんな事を口走ってたがそんな事気にならなかった。

落ち着いてるのではない、分かってたとは言えこんな状況になってて心臓バックバクなのだ。怖いし震えるし吐きそ...。

 

「無視してんじゃねぇ!!」

 

おっさんAが銃を発砲した!

ビルドの回避!

おっさんAの銃撃は当たらなかった!

 

いやなんでポ〇モン風なの? それだったらエグゼイドの方が適任だろ

 

「なにィ!?」

 

「落ち着け、3人で撃ちゃ当たる!!」

 

「無駄だよ」

 

3人での一斉射撃も難なく躱していく。

身体はまだ震えているが、ゴーレムに搭載されていたレーザーに比べれば可愛いもんだ。

まあそもそもそんなちゃちな銃で撃たれてもタンクハーフボディなら効かない可能性もあるが。

 

とりあえず俺は銃弾を躱しながら強盗の周りを走り抜け弾が無くなったと同時に、チェーンでおっさん達2人を捕らえた。

1人は格闘技か何かやってたのだろうか咄嗟に伏せ、躱していた。

敵ながらその身のこなしはアッパレである。

 

「おいコラテメェ! こいつが見えねぇか! こいつを死なせたくなきゃ今すぐ仲間を離せ!」

 

「いや、やめて!」

 

「簪ちゃん!!」

 

しまった! 簪が捕まった!

簪はおっさんの太い腕に捕まり、こめかみに銃を突きつけられ今にも泣き出しそうだ。

このままじゃあ楯無が脇目もふらずに突っ込んでいってしまう!

 

「ほらほら、どうした? 早くしないとこのガキが死んじまうぞ!!」

 

「痛い、怖いよ、お姉ちゃん...!」

 

「簪ちゃんを離しなさい!!」

 

「うるせえぞこのガキ!」

 

「キャア!!」

 

「お姉ちゃん!」

 

不味い、おっさんがキレ始めた!

俺が介入してきた事でイライラが爆発したんだろうか。

楯無の足元に発砲、怪我はなかったが楯無も動けなくなってしまった。

 

くそ! 簪が捕まってるからドリルクラッシャーで無理やり捕まえる事も出来ないし、こんな室内で本気のジャンプとかしたら他の人質に危険だし どうすれば... ...!!

 

俺は懐からビルドフォンを取り出した。

 

「へへへ...、そんなもん出してどうする気だ? 助けでも呼ぶか?」

 

「ううん、勝利の法則はこれで決まりだ。」

 

「あぁ? 何言って...!」

 

『ビルドチェンジ!!』

 

ビルドフォンにライオンフルボトルを装填、するとビルドフォンが巨大化し前方に歯車の付いたバイク、マシンビルダーになった。

 

「な、何しやがった!!」

 

「さあね、とりあえず喰らえ!」

 

マシンビルダーにエンジンを駆け、おっさんへ突撃する!

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

思わずおっさんと簪は目を瞑る。

すると、何も起こらない。

恐る恐る目を開けると...

 

「悪いね、俺こう見えて平和主義者なんだよ。はい、おやすみ。」

 

目の前にはビルドが。 思いっきりおっさんにデコピンをして気絶させる。簪をちゃんと抱きかかえながら。

いや、そりゃそうでしょ。こんな室内でバイクぶっぱなす訳ないじゃん。俺免許持ってないし。

マシンビルダーはビルドフォンへと戻っており、無事に銀行強盗は御用となった。

 

警察が突入し人質が解放される中、俺は銀行の裏へ回り見つからないようにしていた。

さて、帰るとするk...「あの...!」

裏路地を通っていたはずだがついてきてたのか、後ろから声をかけられ振り向くと簪と楯無が居た。楯無は少しこちらを警戒しながら見ていた。無理もないか

 

「えっと...その...助けてくれて...ありがとう。とってもかっこよかった。」

 

「どう、いたしまして。」

 

クールに決めたいが無理だ。顔を赤くし、羨望の眼差しで見てくる簪は可愛かったし褒められて嬉しかったし

 

「私も少しいいかしら。 ...あなたは一体、何者なの?」

 

楯無が警戒しながら俺に聞いてくる。

彼女達は暗部の一族である更識家にいる。

裏社会に詳しく、亡国企業などテロリストについての事も知っている

例え小学生であっても更識家の当主である「楯無」という名前を襲名するために訓練を受けているのだ。

とても今の俺と1歳違いとは思えない。

 

「俺? 俺はビルド。 建築する、構成するって言う意味のビルドだ。」

 

「ビルド...」

 

「ビルド...ね。 じゃあ質問を変えるわ。 あなたは敵なの?味方なの?」

 

「どうだろう、全人類の為に戦えって言われたら無理だな。」

 

「...それはつまり「赤と青のコスプレヒーローはどこいった!?」「まだ遠くには行ってないはずよ! 探し出して情報を聞き出してきて!」...!!」

 

やべっ! もう勘付かれた! これ以上ここにいて捕まったりなんかしたら最悪だ。 ドライバーやボトル没収された挙句連行される未来しか見えない!

 

「悪いね2人とも! そろそろ行かなきゃ!」

 

「あっ...」

 

「!! ま、待ちなさい!」

 

「何!? 急いでるんだけど!」

 

焦りながら後ろを向く。 これ以上聞かれても答えられないと思うんだ

が...

すると楯無は少し顔を赤らめ、少し間を置きゆっくり口を開いた。

 

「その...簪ちゃんや私を、助けてくれて...ありがとう。 あなたが居なかったら私達死んでたかもしれない、から...」

 

「お姉ちゃん...」

 

「...!?」

 

驚いた。原作ではイタズラ好きの飄々とした人だと思ってたけどこんな一面もあったのか。 素直な楯無も悪くないな。

 

「...うん、どういたしまして。 2人とも気をつけてね」

 

俺はラビットの能力で飛び上がり、建物の上から逃げて行った。

残された2人はいなくなってからもビルドの後を目で追っていた...。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

あー、疲れた。とりあえずここまで来りゃあ撒けただろう。

銀行から少し離れた所の建物の陰で壁に背中を預け座り込む。

まさかこんな時期に原作キャラ、しかも更識姉妹に遭遇するとはなぁ...

原作でだって結構後だったはずなのに

 

変身解除しようとしたらまたもや見たことのある顔が見えた。

茶色っぽい髪にメガネ、ポニーテールをした女性。

布仏虚さんだった。

彼女は更識家に代々使える使用人の家出身で彼女の妹である布仏本音、通称のほほんさんと共に楯無と簪に仕えている。

ん? 本音は? てかなんか焦ってないか?

 

「本音! 早く! お嬢様達を追わないと! 恐らく駅の方に行ってしまわれたはずです!」

 

「待ってよう、お姉ちゃん! そんなに早く走れ きゃん!」

 

「本音!?」

 

何と横断歩道を渡っている途中、虚さんの後ろで走ってたのであろう本音が道の真ん中で転んでしまった。しかも間の悪いことに目の前には信号無視した車がフラフラと突っ込んできた。

 

「あ、あ...」

 

「本音ー!!」

 

ちぃ! トラブルは続くって言うけどなんでこんな危ないことばっかり!

 

俺はラビットの能力をフルで使用。まだ慣れてないためフルで使うとめっちゃ反動が来るがそんな事今は気にしてられない!

建物の陰から大きくジャンプ、少し地面がめり込み俺の周りに風が生まれた。

そのまま車の上を飛び越え、横断歩道の真ん中、本音のいる前に着地。

本音を抱きしめ、車をタンクのキャタピラで受け止めながら停止させた。

 

数メートル進み、ようやく止まった。

 

「本音、本音!」

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃ〜ん! 怖かったよ〜う!」

 

姉妹ともが泣きながら抱き合う。 本当に良かった、間にあって。

ふとこの世界に来た理由も子供を庇ったためということを思い出し、少し考えさせられるものがあった。

 

「ぐすっ、あの! 本当に、本当にありがとうございます! おかげで本音は助かりました!」

 

「ぐすっ、うぅ、うえぇ〜ん!」

 

虚さんが泣きながら俺に感謝してきた。この人も原作では凄い冷静沈着って言うか、クールな感じだったはずだけど...。

妹の事、凄い大切にしてるんだな。

 

「えく、えっく。 ありがとう〜」

 

そういう本音は抱きついてきた。 はは、俺と同い年とは言えこの光景は可愛いな。なんてこと思ってると

 

『ぐ〜』

 

本音のお腹が鳴った。 姉妹が赤くなる。

 

「もう、本音! こんな状況で!」

 

「私も恥ずかしいよ〜! でもこんな時でも体は正直だもん〜」

 

やれやれ、こんな所も本音らしいっちゃらしいんだけど。

俺は懐からプレーンシュガーを取り出し、

 

「良かったらこれ食べる?」

 

「いいの〜? やった〜」

 

「はぁ... 本当にすみません。何から何まで...」

 

嬉しそうにドーナツを食べる本音、呆れてはいるが笑みを浮かべながら本音を見る虚さん。

更識姉妹にも劣らない、素晴らしい家族だと思う。

 

「そういえば、あなたは何者なのですか? その不思議な装甲はもしかしてIS?」

 

「あー、申し遅れたね。 俺はビルド。 建築する、 構成するっていう意味のビルドだ。」

 

「ビルド...。 分かりました。 覚えておきます。」

 

「じゃあビルルンだね〜」

 

「び、ビルルン?」

 

「気にしないでください。本音はいつも他人をこうやって呼ぶんです。」

 

まあ知っては居たがまさかビルドにまでそんなニックネームつけるとは。

 

「では、私達はこれで。 ビルドさん、今日は本当にありがとうございました。」

 

「ビルルン〜、バイバ〜イ!」

 

「うん、じゃあ()()()()

 

またね、という言葉に疑問符を浮かべながらも2人は更識姉妹の元へ向かった。

 

あ、忘れてたけど車の運転手って...あ、居眠りしてる。

じゃあ気にしなくていいや。

俺は足に痛みを覚えながら人目につかない所で変身解除、帰宅した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

その夜、テレビをつけるとニュースはビルドの事でいっぱいだった。

どこで撮ったのか写真も多く出回っており、

「束博士が作り出した新しいIS」だったり

「ISに対抗して作られた、欠陥品」だったりと

参議を醸し出していた。

ちなみに後者は女尊男卑派のコメンテーターの意見である。

 

「やっちまったなァ、建兎。」

 

「やっちゃったねぇ、けんくん。」

 

そんな事をニヤニヤ笑いながら言ってくる2人。言葉とは裏腹に凄く嬉しそうだ。

 

「...なんでそんな顔してる訳?」

 

「「んー、べっつにー?」」

 

うっぜぇー... そんなにも俺が人助けした事が意外かよ。

 

「まあとにかくだ。 これでそれぞれ意見に違いはあれど世間にビルドが認められたってわけだ。 きっとお前は人類の運命を変えることになるぞ」

 

「よーし! けんくん! IS使って悪いことしてる女尊男卑の奴らをぶっ潰せー!」

 

「いや、やんないよ!? そんな事!」

 

日本で初めてビルドが世間に広まった日、俺が束姉さん以外の原作キャラと出会った日。今日は激動の日であった。

しかし、今日も今日とて変わらず3人はドタバタして、俺もそんな光景に笑みを零していた。

 

 

 

 

 

 

 




なっげえ... 書いてて何となく思ってたけど凄い長い。
こんな文字数を毎度の如く書いてしかも面白い人たちって一体俺と何が違うんだ?
俺はただ... 文才が欲しかっただけなのに...
次回もよろしくお願いします。

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第6話 救出のランナウェイ

この話を書き終えた直後、なぜか書いたデータが反映されずまた1から書き直しに。
昨日までと違い、ゆっくり少ない時間で合間にちょくちょく執筆、書き終えたために本気でスマホぶっ壊そうかと思いました。

それではどうぞ!(血涙)


ビルドが日本に広まってから早3、4年が経ち、俺は中学生になっていた。

中学生になっても相変わらず父さんと束姉さんは鬱陶しい。

俺のブレザー姿をカメラを収めようとしたり、学ランの方が似合うと言って着せようとしてきたり...

まあ2人に絡まれるのも嫌いじゃないわ。

 

そんな中、3人で夕飯を食べていると

『第2回 モンド・グロッソ! ドイツで開催!

優勝候補は第1回での優勝者! ブリュンヒルデこと織斑千冬!!

次に―』

 

...!! そうだ、忘れてた!!

この日、織斑一夏は織斑千冬の優勝を阻止しようとする者達によって誘拐されるのだ。

結果的に織斑千冬は決勝戦で不戦勝、一夏は無事に保護されたが千冬さんの功績に泥を塗ってしまった事に負い目を感じてしまう。

元々この大会で引退する予定だったからと当人は気にしていなかったらしいが、この事件が一夏に大きな影響を与えた事は間違いない――

 

「けんくん?」

 

束姉さんの言葉でハッとする。

束姉さんも父さんも心配した顔でこちらを見てきていた。

しまった、思わず考え込んでしまった。

 

「あ、ごめん。 何でもないよ。」

 

「本当に? 大丈夫?」

 

「建兎、もしかしてこの大会で何か起こるのか?」

 

「...!!」

 

「...やっぱりか。 はぁ...。お前な、そういう事は俺達には気兼ねなく話せって言ってるだろ? まあもちろんどうしても言いたくないのなら別だがな」

 

束姉さんも笑顔で俺を見てくる。

やっぱり父さん達には隠し事は出来ないらしい。

いや、俺がわかりやすいだけか。

束姉さんのお気に入りである千冬さんにも一夏にも関わる事だし話しておこう。

 

「うん、実は―」

 

とりあえず俺の知ってる事を全て話した。

2人とも最後まで聞き漏らすことなくちゃんと聞いていた。

 

「そっか、そんな事が...。 ちなみにちーちゃんが引退する理由は知らないの?」

 

ここで言うちーちゃんとは千冬さんのことであり、束姉さんがつけたニックネームである。

 

「ごめん、分からない。 というか覚えてないんだ。」

 

そう、俺はこの世界で生きていった10数年の内に詳細を忘れてしまった。

ぶっちゃけ話したことも曖昧で必ず合ってるとは限らないし、その上俺がいた為に起きた原作改変で全く別の未来になる可能性だってある。

例えば更識、布仏姉妹のあの出来事だ。

あの事件で更識姉妹は死んでいたかもしれないし、本音もよくて大怪我というレベルであった。

 

このことを考えると必要以上に関わってどうなるか分からないまま出来事が起こるよりかは原作通りにキャラ達に任せるという方がいい気もしてくる。

 

「...けんくん。 君はどうしたいの?」

 

「俺? 俺...は...」

 

「もしけんくんが助けたいなら束さんも本気出して協力する。

助けたくないなら、束さんは手を貸さない。 どうする?」

 

「...」

 

分からなかった。 俺はどうしたいんだ?

俺が助けなくとも一夏は助かるだろう。 千冬さんだって元から引退するらしいじゃないか。そうだ、俺は別に何もしなくても...

 

「...助けたい。」

 

思わず口にしていた。 父さんも束姉さんも驚いたが構わず続ける。

 

「一夏を助けたい、助けたいよ! 正直怖いし、できるか分からない...。 でも、何もしないのは嫌だ!」

 

言い切った。 少々小っ恥ずかしかったが、これが俺の本音だ。

父さんも束姉さんもニヤリと笑う。

 

「...その言葉を待ってたよ! よし、いっくん救出作戦といこうか!」

 

「建兎、俺は今回はお前達の力にはなれない。 けど、忘れんなよ? 近くにいない時はもっと近くにいてやる。 俺はお前の味方だ。 」

 

「もうそれ何回目だよ...。 でも、ありがとう。 それが何より助かるよ」

 

俺は父さんと力強く握手をする。

きっと自分も何かしら手伝いたいが何も出来ない事に悔しいのだろう。

そんな父さんに俺が出来ることは無事に成功し、帰ってくることだ

絶対、帰ってくるよ、父さん。

 

こうして俺たちの「織斑一夏 救出作戦」は始まった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

あれから数日後、第2回 モンド・グロッソ当日の夜、俺はドイツに居た。

束姉さんのロケットを使いドイツにやってきたのだ。

...やってる事は犯罪だろうが仕方ない。 俺しかやれる奴が居ないのだ。

 

さて、「織斑一夏 救出作戦」についてだが、簡単に言えば

1. 一夏が居たカフェに予め隠れる

2. 黒ずくめの奴らが来た時に一夏を連れマシンビルダーを起動。

3.マシンビルダーによって逃走、敵がISを使う前にビルドで無力化出来れば良し。最悪戦闘になれば倒すつもりで行く。(免許は取得済み)

4. 他のモンド・グロッソ関係者に一夏を託す。千冬さんにバレないようにする。

というものだ。

上手くいく確証はない、だがやるしかない。

 

隠れて少しした後、俺はある事に気づいた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

今は大会途中だ。客足も普段と比べれば減ってるのは分かる。

現に今も道を歩いている人は居ない。

だが、幾ら何でもおかしい。

俺はこっそりビルドに変身、陰に隠れながら店に近づくと...

 

「....!! クソっ! やられた!!」

 

そこには客どころか店員もいないもぬけの殻になっていた。

原作改変で店員も連れ去られたか、誘拐犯とグルだったか、最悪誘拐犯に...

 

チッ、俺のせいで!

やり場のない怒りを落ち着かせ、束姉さんに報告する。

 

「もしもし、束姉さん? やられた。店には誰もいない。店員ごと連れ去られたかもそれないし、最悪は姿を見られたってことでそのまま...」

 

『そ、そんな!! いっくんは!?』

 

「分からない、でも少なくとも人質として捕らえたんだから殺されてはいないはずです。」

 

『そっか...それならとりあえずいっくんの場所を探さないと...』

 

「でも、どうしたら? テキトーに探してたって見つからないだろうし、このままじゃ試合が始まっちまう!」

 

刻一刻と迫るタイムリミットの中、俺は焦りと自責の念に駆られていた。

あの時こうしてたら、束姉さんと綿密に話し合っていれば...

今更どれだけ後悔したって後の祭りだが、悔しくて仕方なかった。

 

『うーん、ISの探知してるけどすぐには検出できないなぁ...

恐らく変なジャミングしてるんだと思うけど...』

 

「そうか... でもどうしよう、本当にこのままじゃ... !」

 

その時俺はあることを発見した。

 

「...束姉さん、もしかしたら一夏の場所割り当てられるかもしれません。」

 

『え!? うそうそ! どうやって!?』

 

「えっとですね、実は...。」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

一夏Side

 

「クソっ! なんでこんなことに! どこだよここ!」

 

一夏は暗い倉庫の中で拘束、監禁されていた。

すると、数人の男女がやって来た。

「悪いな、坊主。お前にゃあ恨みはねぇが人質として捕えさせてもらう。 」

 

「!! あんたはカフェのマスター! なんで俺にこんなこと!」

 

「俺は雇われたのさ。ブリュンヒルデ、織斑千冬を嫌う奴にな。依頼主は今度のモンド・グロッソで奴が二連覇するのが気に食わないんだとよ。

それを阻止するためにお前を誘拐したってわけだ」

 

「そんな事の、あんたらの勝手な事の為に! 俺を誘拐したのか!! ふざけんな!!」

 

「あのね、私達にも生活ってものがあるの。大変だったのよ?アンタがどこに向かおうとするか綿密に打合せして、カフェの店員に成りすますの」

 

「そうだ! 助けて欲しけりゃ神様にでも祈ってみれば? 大事な大事なお姉ちゃんに来てもらうまでな! ギャハハハ!」

 

「うるっせぇ! この、卑怯者が!!」

 

その言葉が彼女の琴線に触れた。

 

「ブチッ! てめぇ、言わせておけば言いたい放題言いやがって!! 黙ってりゃ可愛げもあるってのによォ!」

 

バキっ、ズムっ!

 

「グハッ!!」

 

一夏は彼女に一方的に殴り、蹴られた。

鼻や口から血が出てき、アザや汚れもついた。

 

「へっ! 残念だったな! お姉ちゃん以外だーれもお前のことなんか救っちゃくれな「何が残念だって?」...なにィ!?」

 

全員が声のした方を向いた。

薄れゆく意識の中、一夏が見たものは赤と青の色で出来たヒーローだった。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

その言葉を耳にすることなく、一夏は意識が途切れた。

 

一夏Side out

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

建兎Side

 

「てめぇ、どうしてここが分かった!」

 

「そんなこと、言うわけないでしょ?」

 

ふぅ、無事ではないにせよ、なんとか間に合ったな。

まさかビルドフォンに解析機能が追加されてたとはな。

すげえ助かった。

 

束姉さん、父さんや父さんの研究所の人たちの協力でビルドフォンの解析は出来ていた。

しかしそこから加えて出来た事は少しの解析機能のみであり、しかもつけるにはとてつもない時間と労力を要するものだった。

 

普段はあんなんだが、やるときゃやるんだな。

父さん、ありがとうよ。頭が上がらないな。

 

「チッ、まさかもう追っ手が来るとはな。おい、こいつは俺達が運ぶ。

お前らはあいつの足止めをしろ」

 

「分かってるよ! あたしらに指図すんな!」

 

そう言って男達は一夏を背負い、車で行ってしまった。

女二人はフランスの第二世代機、ラファール・リヴァイブを装着して臨戦態勢に入る。

 

「へっ! 格の違いってものを教えてやる!」

 

「何者かは知らないけど見られたからには逃がさないわよ?」

 

そう言って片方は俺に突進、もう片方は銃撃をしてきた。

突進とはいっても直線の突撃ではなく緩急をつけた動きに、俺の動きを先読みして打つ精密射撃。

チームワークはなかなか良く、ラビットの能力や長年の鍛錬が無ければ躱すことは容易ではないだろう。

 

「かっこよく登場しといてそんなもんかァ!?」

 

「悪くないけれど、ここまでね」

 

2人は余裕綽々と言った顔で話しかけてくる。

まあ、2人からしたらそういう風に見えるだろう。

 

ギュイイイイン、ズドンッ!!

 

「うっ!」 「ぐはっ!」

 

()()()()()()()()()()()2()()()()()()()()

 

急いでるのはやまやまだったが加減が分からず、本気出したら1発でIS強制解除、絶対防御が発動し、2人は気絶してしまった。

 

とりあえず捕縛して後でおまわりさんに渡そう。

 

さて、と。

 

『ビルドチェンジ!!』

 

マシンビルダーを起動、一夏を乗せた車を追跡した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

そこから先は蹂躙劇と言っても過言じゃなかった。

解析機能で追跡。

割とすぐに合流し車を襲撃。

一夏を救出した後、誘拐犯を気絶させ(デコピン)捕縛。

後は警察に任せた。

 

これで長い織斑一夏 救出作戦は幕を下ろした。

束姉さんに連絡すると、もう既に千冬さんは決勝戦を不戦敗で終わらせてこちらに向かってるらしい。

ミッションコンプリートしたとは言え、パーフェクトとは行かなかった。

俺の両腕で眠ってる一夏を見て俺は複雑な気持ちになった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

千冬Side

 

「一夏、一夏っ!!」

私は弟の名を呼ぶ。返答がくるとは思っていないが、呼ばずにはいられなかった。

 

一夏は私の唯一の家族であり、私を支えてくれる大切な存在であった。

そんな一夏が私のせいで誘拐されたと聞いた時は言葉が出なかった。

 

「待っていろ! 一夏! 」

 

そんな言葉とは裏腹に私はとても焦っていた。

一夏が私の前から居なくなるなど考えたくない。

 

「...!?」

 

すると突如謎の人影が私の前に現れた。

目を凝らし、よく見るとその影の正体に気づく。

私はそいつを知っていた。奴の名は

 

「ビルド...!」

 

数年前、突如として日本に現れた謎のヒーローであり、あらゆる状況で人を救っており、多くの人々に噂されていた。

 

ある子供は奴に憧れ、ある男はISを超える戦士と崇め、ある女はISを真似した模造品と罵った。

しかし、未だに奴の正体や装甲については分かっておらず、謎だらけの人物であった。

 

彼の登場に私は混乱し、様々な疑問が生まれた。

なぜ奴がここ、ドイツにいるのか。

なぜ一夏が危険な目にあっているのを知ってたのか

なぜ私がここにいると分かったのか

 

しかし、そんな考えは一気に飛んだ。

彼が両腕で抱きかかえてる男

それは私が必死で探していた弟、織斑一夏だった。

目を開けず、体を彼に預けていた。

 

「...!! 一夏っ!!」

 

「大丈夫です。 眠ってるだけですよ。」

 

奴はそう諭すよう私に言うと、一夏を渡してきた。

よく見れば一定の呼吸に人特有の温もりがあった。

よかった。本当に...良かった...!!

 

「では、俺はこれで。」

 

「! ま、待て!!」

 

思わず呆然としてしまったがハッと我に返り、奴を睨みつけ問いただす。

 

「お前はなぜここ(ドイツ)にいる! なぜ一夏が危険だと知っていた! なぜ私がここにいると分かった! 答えろ!!」

 

「...」

 

しかし、奴は何も答えない。

痺れを切らしてさらに怒鳴ろうとすると

 

「俺はどうしても助けたかった。 ただそれだけです。」

 

何を言い出すかと思えばたったそれだけの言葉であった。

そんなの理由になっていない、ふざけるな。普段ならそう言っていただろう。

だがその言葉が妙に納得でき、嘘だと到底思えなかった。

 

「それでは、お気をつけて」

 

そう言って奴は屋根を飛び越え、去っていった。

私は奴を追うことも止めることも出来ず、呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 




ようやくここまで来た...。
あと一話終えれば原作第1巻の話に入ってきます。
もう暫しこの拙い茶番にお付き合い下さい!

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第7話 開かれしパンドラボックス

今回は前回とかと比べて短めです。
皆さんに活動報告でオリジナルフォーム、オリジナルフルボトルについてのアンケートを取りたいと思っております。
何かご意見あれば是非お願いします。

それでは第一章の最終話、どうぞ!


「織斑一夏 救出作戦」が終わり、俺は今学校でIS適正検査の待機をしていた。

そう、一夏が触ってしまったのだ。ISに。

原作と違い、藍越学園と間違えてIS学園に行ったのではなくあの事件で保護された後、千冬さんと共に一夏を捜索していた人の「打鉄」に触れてしまい、IS適正がある事が判明。

瞬く間に「世界初の男性IS適正者」として世界中に広まった。

そして「それなら他にも適正者いるんじゃね?」という事で全国一斉IS適性検査が行われ、冒頭に戻る。

 

クラスの皆は適正あればいいなー、とか女の園(IS学園)行ってみたいなー、とか冗談交じりに喋っていた。

皆正直自分に適正があるなどと思ってないようで、「授業潰れてラッキー」くらいしか思ってないのだろう

かく言う俺もわざわざ受ける必要が無いと分かってるので暇で仕方がない。

 

「なぁ建兎ー、お前どう思う? ビルドのこと。 まさかドイツにも現れたとはなぁ...。噂だと中身はごついおっさんが入ってるんじゃないかって言われてるらしいぜ」

 

こいつは赤楚 龍我。 俺の中学での数少ない友人だ。

友人が少ないというのはあくまで俺がコミュ障だからじゃない。(それも少しあるけど)

 

俺の通う名下(なした)中学での俺の印象は「完璧」であった。

いや、自分で言うのもなんだが本当にそういう感じなんだ

神様から与えられた頭の良さに身体能力の高さ、そして本家仮面ライダービルドこと桐生戦兎のビジュアル。

いやこれ全部神様のおかげじゃねーか、切ねえ。

 

そのため、俺は昔からモテていた。

それを妬んだ奴らが... と言った感じだ。

 

龍我は良くも悪くもバカなのでそういうことは気にしてないのだ。

「お前今なんか失礼な事考えなかったか?」

 

「は? そんな訳ないだろ? てゆーか待ち時間長いよな。 いつまでかかるんだろ」

 

「だよな。ま、俺としては数学受けなくていいからラッキーだったけど」

 

あっぶねぇ、こいつなぜかバカという言葉にだけものすごく敏感だからな...。

そしてこいつと仲良くなったきっかけは他にもあり、同じボクシング部という事だ。

俺はゴーレムとの訓練以外にも、俺自身のパワーアップの為に何かスポーツをしたいと思っていた。

その時出会ったのが龍我とボクシングだ。

ボクシングならばプログラムされた動きしか出来ないゴーレムと違い、相手によって臨機応変に対応し、いかに一撃を加えるか。

それを鍛えられるので俺にはピッタリだった。

まあ、ぶっちゃけゴーレムの方が何倍も痛いし怖いんだけどな。

 

「それでは2組! 検査を行うから出席番号順に並べー!」

 

来た、俺たちの組の番だ。

さて、行ってくるとしますかね...

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「それでは次、12番 桐生 建兎。 そこの打鉄に触れてください。」

 

そう言われ、俺はおもむろに手を乗せる。

すると、触れた瞬間頭に大量の情報が流れ込み、まるで元からこれの使い方を記憶していたかのような感覚になる。

それと同時にまるで海に潜ったかのような爽快感もあった。

そして気づけば俺は打鉄を纏っていた。

あぁ、()()()()()()()()()()

 

検査員や順番待ちしていた人達はひどく驚いていたが、俺はそうでもなかった。

実は昔束姉さんが作ってたISに興味本位で触ってみたら動かしてしまい、父さんと束姉さん、俺自身も凄く驚いた。

神様転生した人たちもIS適正を持たされるのは二次創作によくあったが自分もそうだとは思わなかった。

 

 

そんなこんなで俺は今別室移動。

とある人たちを待ってる間、検査員から身柄を保護するため強制的にIS学園に通ってもらうこと、ISを学ぶために入学式までに参考書に目を通しておいて欲しいことなどを伝えられた。

 

そしてそのとある人たちがやって来た。

織斑千冬と山田真耶。

IS学園に勤務する教師2人であった。

 

「初めまして、私はIS学園で教師をしています。山田真耶と言います。」

 

「えっと、名下中学 3年、桐生建兎です。 初めまして」

 

「...」

 

簡単な自己紹介を済ませたのだが、なぜか千冬さんは何も喋らない。

こちらを睨みつけるが如くじーっと見ている。

 

「あ、あの? 織斑先生?」

 

「どう、されたんですか? 織斑千冬さん?」

 

思わず声をかけてしまったが、その事に対する返答はなかった

 

「...変な質問をするが、お前 私とどこかで会わなかったか?」

 

びくっ!

 

「え? いや、そんな事は無いはずですが... 何故ですか?」

 

「そうか... それならばいい。 唐突に済まなかった。私は織斑千冬。 山田先生と同じくIS学園で教師をしている。」

 

ビビったァ... まさか気づかれそうになるなんて。

束姉さんにもビルドの事は千冬さんには言わないように言ってたから誰も俺の正体を知らないはずなんだが...

この人とは会話を二往復くらいしかしてないってのに...どんだけ鋭いんだよ

 

そして、2人から言われたことはほとんど検査員の人と同じ。

学園や勉強のことであった。

その間俺はバレないよう、一言一言気にしながら話すこととなりすんごい疲れた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ただいま〜...」

 

「おっかえりー! ニュース見たよ! 栄えある二人目だね! けんくん!」

 

「あはは... はい」

 

「おかえり、建兎。 どうだ?IS学園へ入学する事になった心境は?」

 

「IS学園はとりあえず置いといて...。 束姉さん、千冬さんに俺のこと何も話してないよね?」

 

「え? うん。 言わないでって言われたし、ちーちゃんも電話で何か知ってるんじゃないのかって聞いてきたけどごまかしたし。」

 

首をかしげ、不思議そうに答える束姉さん。

嘘はついてないだろう。てことは本当にあの短い間に勘づいたということだ。

末恐ろしい。

 

その事を束姉さん達に話すとなぜかドヤ顔で

 

「さっすがちーちゃん!」

 

「ブリュンヒルデも凄いな。 さすが束ちゃんと友達なだけはあるな。」

 

とか言ってた。

いや、俺は心臓が止まるかと思ったんだけど

 

それからはIS学園入学に向けて勉強が始まった。

と言っても持ち前の頭の良さに、日頃から束姉さんとISの話をしていた俺としてはもらった参考書などほとんど不必要だった。

 

こうして10数年の時を経て、ようやく原作の始まりを迎えた。




さて、第一章が終わりました。ようやく。
てか最近仮面ライダーネタ入ってねぇなぁ。
次回からIS学園編に入ります。
ではまた次回!

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第二章 原作開始編
第8話 さあ、ハイスクールライフを始めようか 前編


という訳で原作突入です。
大変長らくお待たせしました。
あと突然ですが作者の力不足であまりに文章が長くなってしまったので前編、後編と分けさせていただきます。
後編も出来る限り早く投稿するので!
あと今でも活動報告でアンケートは募集してるので気楽にご参加ください。

では原作開始! どうぞ!


「全員揃ってますねー。 それじゃあSHRはじめますよー」

山田先生がおっとりとした声で挨拶、自己紹介をしている。

背の低さ、合ってないサイズの服やメガネに幼げな顔立ち。

前世から知っていたが山田先生は本当に子どもっぽい。

こないだ会った時もそれを再確認させられた。

 

...ていうか周りからの視線が凄い、めっちゃ見られてる。

学園で2人しか居ない男子に全員興味津々で先ほどの山田先生の

「1年間よろしく」という挨拶に誰も反応を示さなかった。

涙目になり少しかわいそうだったが俺ももう1人の男子同様反応できる余裕などなかった。

 

右斜めの方向を見るとその男子、織斑一夏が居た。

ここからでは顔は分からないがきっと今頃緊張で顔がエラいことになってるのだろう。俯いて顔を上げな...あ、窓の方向いた。

その視線の先には一夏の幼馴染でありヒロインの一人、束姉さんの実の妹の篠ノ之箒が居た。

助けを求めているのだろう。良い判断だ。だが無意味だ。

 

「....くん。 織斑一夏くんっ」

 

「は、はいっ!?」

 

いきなり大声で呼ばれたことに驚いたのか素っ頓狂な声を上げ、周りからくすくすと笑い声が聞こえてくる。

 

「あっ、 あの、 お、大声出しちゃってごめんなさい。

お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね!

でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。

だからね、 ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 

山田先生が頭をペコペコ下げながら一夏に謝っている。

そんな謝らんくてもいいと思うんだが。一夏も同感なのか焦ってやんわり止める。

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても... っていうか自己紹介しますから、先生落ち着いてください」

 

「ほ、本当?本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ。 絶対ですよ!」

 

その光景にまたもや注目を浴びる2人。

まあ、話聞いてなかった一夏の自業自得だわな。

 

そしてこちらを振り返り、強ばった顔で自己紹介する。

 

「えー...えっと、織斑一夏です。 よろしくお願いします」

 

一言そう言い切り、頭を下げた。

しかし、周りは納得しておらず

 

『もっと喋って!』 『それだけ?』

 

とでも言いたげな雰囲気だった。

一夏は間を置き、深呼吸。 大きく口を開き...!

 

「以上です」

 

その直後椅子からこける音が各所から聞こえてくる。

ほら見ろお前。期待してたのに皆思わずコントみたいなリアクションになっちゃったじゃねーか。山田先生なんかさっきより明らかに涙目になってるし。

 

パァンッ!

 

「いっーーー!」

 

直後にとても気持ちのいい音が響いた。

音の発生源は黒のスーツを着て出席簿を持ち、鋭い目をした女性。

彼女こそ言わずと知れた一夏の実の姉、織斑千冬先生その人だった。

 

「げえっ、関羽!?」

 

パァンッ!

 

二回目だ。バカかあいつは。

何故わざわざ火に油注ぐこと言う?

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者。」

 

そうだな、関羽は言いすぎだ。

せめて、虎姉さんことタイガーアンデッドと...

やべ、睨まれた。 なんで分かんだこの人。

 

「あ、織斑先生。 もう会議は終わられたんですか?」

 

「はぁ、全くどいつもこいつも...。 あ。ああ、山田君。クラスへの挨拶を押しつけて済まなかったな。」

 

「い、いえっ。 副担任ですから、これくらいはしないと...」

 

そう言って山田先生ははにかみながら熱っぽい声で織斑先生と話していた。

彼女も偉大な先輩、織斑先生のファンなのだ。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。 君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。 私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。 出来ない者には出来るまで指導してやる。 私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜くことだ。 逆らってもいいが、私の言うことは聞け。 いいな」

 

とんでもない暴力発言。

とても教師とは思えぬその言葉や風格に水城史朗を思い出した。

 

すると教室からh

 

「キャーーー! 千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 沢芽市から!」

 

ビートライダーズ達は元気かい?

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

 

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

...とまあこんな感じで黄色い声援が上がったが、織斑先生はかなり鬱陶しそうな表情をする。

 

「...毎年よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。 感心させられる。 それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

この言葉に少しは静かになると思いきや

 

「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように躾をして〜!」

 

最早ここまで来ると信仰的な何かを感じる。

織斑先生は遂に声援を無視。 一夏に向き直り、

 

「で? 挨拶もまともに出来んのか、お前は」

 

「いや、千冬姉、俺はーー」

 

パァンッ! 本日、SHRだけで三回目。

この調子だと叩かれすぎて卒業する頃には頭が真っ平らになるんじゃないのか?

 

「織斑先生と呼べ」

 

「...はい、織斑先生」

 

さすがにこれ以上頭を叩かれたくないのか理解して従う一夏。

まあそりゃあ実の姉とはいえ反抗出来ないか。

 

「え...? 織斑くんって、あの千冬様の弟...?」

 

「それじゃあ、世界で唯一男で『IS』を使えるって言うのも、それが関係して...」

 

「ああっ、いいなぁっ。 代わってほしいなぁっ。」

 

いや、代わってほしいか? あれ。

 

「静かに、まだ自己紹介は終わってないぞ。 桐生、挨拶をしろ。 そして織斑、お前は席につけ。」

 

そんでいきなり俺かよ!

まだ間すげえ空いてるし一夏はあれでいいのかよ!

さっき一夏にそれだけ? とか言ってたけどいざ俺の番になると何言やいいのか分からん...。 ここは無難に...!

 

「どうした? 早くしろ」

 

ええい、ままよ!

 

「えっと、桐生 建兎です。 好きな食べ物は餃子、趣味は料理と体を動かすこと。 スポーツは中学ではボクシングをやっていて、得意科目は理科です。 これからよろしくお願いします。」

 

ふうっ何とか言い切った。

内容としては普通過ぎるがまあ一夏に比べればマシだろう。

 

「料理得意なんだー! 家庭的〜」

 

「ボクシングですって! ああ見えてハードなスポーツしてたのね!」

 

「私、物理とか苦手なんだよねー、教えてもらおっかな〜」

 

良し! 周りの印象もいい! シンプル・イズ・ベストとはまさにこのこと。

織斑先生もこれで満足したようだ。

 

「分かったか織斑、自己紹介とはああやるのだ。 また後でやり直せ」

 

「...はい。」

 

するとタイミングよくチャイムが鳴る。

 

「さあ、SHRは終わりだ。 諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。 その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。 いいか、いいなら返事をしろ。 よくなくても返事をしろ、 私の言葉には返事をしろ」

 

鬼か。

これはもう関東の鬼で言えば朱鬼だな。

こんな鬼だったなら戦国時代に村の人々に恐れられても仕方ないだろう。

 

パァンッ!

 

「ウェイ!?」

 

そんなこと考えてたら直後、織斑先生の出席簿が火を吹いた。

鋭い目付きでこちらを睨む。

 

「な、なんで... 」

 

「お前今失礼なことを考えたろう、次はないと思え」

 

だからなんで分かるんだよ!

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

一時間目が終わり、休み時間になったがこれは休めない。

教室内からだった視線に教室外からの視線もプラスされたのだ。

隣のクラスや別の学年の生徒がわざわざこんな所まで来ているのである。

...これはもう動物園の動物状態だ。

 

「なぁ、少しいい?」

 

「ん?」

 

唐突に呼ばれ振り向くと一夏であった。

恐らく男子同士で仲良くしようとか気さくな奴のお約束だろう。

すると手を差し伸べられる。

 

「俺、織斑一夏って言うんだ。 よろしく桐生...だっけ?」

 

「ああ、合ってる。 よろしくな織斑。」

 

「一夏でいいよ、俺も建兎って呼ばせてもらうからさ!」

 

「...そうか、まあ自由に呼んでくれ。」

 

差し伸べられた手を握り返し、周りの女子がきゃあきゃあ喚く中、俺は複雑な心情だった。

原作や二次創作でも知っては居たがこいつやっぱり馴れ馴れしすぎる。

大方2人しか居ない男子、緊張してるのは同じだろうから俺も力になろうとか思ってるんだろうが...

俺は気にしないからまだいいがそういうのを気にする奴だっていくらでも居るぞ?

その辺のこと、いつかちゃんと言っておくべきだな。

 

「...ちょっといいか」

 

「え?」 「ん?」

 

不意に話しかけられて変な声出したけど大体分かる、箒だろう。

 

「...箒?」

 

「........」

 

あの、そんな顔してたら怒ってるか嫌われてると思われて当然ですよ?

箒は一夏を好いてはいるがいささかそういうことに不器用な為、こうなってしまうのだ。

よし、少しほぐしてやろう。

 

「なんだ一夏、お前も隅に置けないな。 こんな可愛い子侍らしてるなんて。」

 

すると途端に箒の顔が赤くなる

 

「な、なななな! 何を言ってるのだお前は!」

 

「そうだぞ、ああ 紹介まだだったな。 こいつは篠ノ之箒。 小学生からの幼馴染なんだ。」

 

すると途端に箒の顔つきが鋭くなる

このバカは...。 本当に気づかないとはな。 箒が不憫すぎる。

 

「...廊下でいいか」

 

「え? で、でも。」

 

無理に連れていこうとする箒に、一夏が俺の方をチラチラと見てくる。

俺に気をつかってるのだろう。 その気遣いを目の前の子にしてあげろ。

 

「俺のことは気にしないでいいよ、久しぶりなんでしょ? 積もる話もあるだろうし。」

 

「...すまないな。 では私達はこれで」

 

「あ、おい! 箒! 悪いな建兎、 また後で!」

 

そう言われて連れ去られていった。

...それにしても数年前助けた奴があんなふうになったとはな。

きっとあいつもあんなんだが千冬さんのいない間1人で頑張ったのだろう。

なんかこう、来るものがあるな。

 

「ねぇねぇ〜」

 

「うん?」

 

今度はゆったりとした、いやのほほんとした声が聞こえてきた。

彼女もまた俺がビルドとなって救った人物の一人、のほほんさんこと、布仏本音である。

 

「えっと、布仏さん。どうしたの?」

 

「おお〜、覚えてくれたんだ〜! 嬉しい〜」

 

「うわっ、ちょっ!」

 

するといきなり抱きついてきた。

周りの女子もまた「ああっ!」と言った声を上げる。

先程から話しかけたいなら話しかければいいのに...。

それにしてもさすがに長い。

抱きついてその上胸に顔をうずめてるからなおのこと恥ずかしいしそろそろ離れてもらおう。

 

「あのー、布仏さん? 離してもらっていいかな?」

 

「...ハッ! ご、ゴメンね!」

 

「いや大丈夫だけど... どうしたの? 長いことそのままだったけど」

 

「うーんとねー、なんか懐かしい〜って感じがしたの。」

 

「...え?」

 

「昔もしてもらったような〜。でもきりりんとは初対面だし〜。」

 

マジでびっくりした。それこそきりりん(なんだそのあだ名は)というニックネームが気にならないほど。

まさかあののほほんとしててのほほんさんとまで呼ばれる本音にまで勘づかれるなんて!

この世界マジ鈍いやつは一夏だけなんじゃないか!?

 

「むー、なんか失礼なこと考えてる?」

 

「イ、イエ。ナニモ!」

 

「そう〜? それならいいけど〜」

 

やっぱり鋭い!! 要注意人物だ!!

俺が内心で汗をかきながら本音と接していると

コツコツと近づく音が聞こえてきた。

 

「ちょっと、よろしくて?」




また長くなってしまった。
色々詰め込もうとする作者の悪い癖です。
こんな調子でビルドの再登場はいつになることやら...
作者のことは嫌いになってもこのssやビルド本編は嫌いにならないでください。
では、また後編まで!

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第9話 さあ、ハイスクールライフを始めようか 後編

オリジナルのフルボトル、フォームのご意見について、活動報告でコメントできない方はメッセージで送っていただいても構いません。(しつこい)
そしてようやく原作二人目のヒロインが出てきます!
彼女のキャラは嫌いじゃありません。

それでは後編どうぞ!


「ちょっと、よろしくて?」

 

俺が本音と話していると、横からメズー... もといイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットが声をかけてきた。

すらっとした姿勢、ドリルを巻いた長い金髪に青いカチューシャが良く似合う。

見た目は良かった。 そう、見た目()な。

「はい?」 「なに〜?」

 

「まあ、なんですのそのお返事! わたくしに話しかけられるだけでも光栄だというのに! ノブレスオブリージュ、あなた方はそれ相応の反応をすべきではなくて?」

 

これである...。

この頃のセシリアは女尊男卑に染まっており男を見下し、日本人にも失礼な態度をとっていた。

ノブレスオブリージュの意味を高虎兄さんに聞いてきた方がいいな。

 

「んー、何か用だったかな? セシリア・オルコットさん。」

 

「あら、あなたは男にしては教養があるようですわね。 そう! わたくしはイギリスの代表候補生であり、学年首席のセシリア・オルコットですわ!」

 

ドヤると同時に腰に手を当てポーズをとる。

本音は「おぉ〜」と拍手していた。

 

「で、要件は...」

 

「ええ、 男子のIS操縦者としてはまだ拙いところもあるでしょう。どこか分からない点があればわたくしが教えてさしあげてもよくってよ?」

 

「ん、分かった。 もし何かあったら頼らせてもらうよ」

 

「分かりましたわ。では。 」

 

そう言って颯爽と去っていった。

チャイムが鳴り、本音も自分の席に戻る。

はあ、めんどくさかった。

俺のIS適正値は確かCだったかな?

セシリアの言う通り、俺は束姉さんの時と学校の時の2回しかまだISに触れていない。そのため俺は知識はともかく技能に置いては新米のペーペーである。これから何とかしていくしかないな。

遅れた一夏と箒は織斑先生による出席簿の一撃を喰らっていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「...ということです。 ここまでで何か質問ある人はいますか?」

今は二時間目、山田先生によるISの簡単な理論についての授業中である。

頭を良くしてもらい、束姉さん(ISの生みの親)から直々に教えて貰った俺としては今更確認するまでもない内容だが山田先生の教え方はとても上手い。

見た目がどうこう言ってしまったが撤回しよう、彼女はとても先生らしい。

 

ふと一夏の方に目がいく。

机の上に教科書を何冊も置き、頭から煙が出てるような錯覚が見える。

 

「織斑君、どこか分からない所があったら遠慮なく聞いてくださいね?

何たって私は先生ですから!」

 

山田先生はそう言ってドン!と胸を張る。

...うん、やっぱり彼女は子どもっぽくはなかった。物凄くそう思う。

すると一夏は渡りに船と勢いよく

 

「ほとんど全部分かりません!」

 

分からない所を遠慮なく聞くが、

その拍子にまた周りの女子は椅子からコケることになる。

そんでまた山田先生涙目になる

 

「えっと、他に織斑君以外で分からないっていう人は...?」

 

シーン...。

まあそりゃそうだ。こんなの初歩の初歩だし狭き門であるIS学園に受かった彼女達からしたら分からない方がおかしい。

すると隅にいた織斑先生が立ち上がった。

 

「織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

「えっとあの分厚いのですか?それなら古い電話帳と間違って捨てました。」

 

パァンッ!

PERFECT! 会心の一発ゥ!

 

「必読と書いてあったろうが馬鹿者。 まったく...。 桐生、お前はどうだ? まさかこいつ同様分からんなどとは言わんだろうな?」

 

うわっ、こっちに飛び火が来た! いや、そいつと一緒にしないでくださいよ! てかそんなに睨まないで!

 

「いや大丈夫ですね。 参考書も読みましたし山田先生の教え方も分かりやすくて助かります。」

 

あー怖かった。俺関係ないのに。

でもまあ山田先生が笑顔になったので良しとするか

一夏は驚愕していたがスルーしよう。

 

「ふん、ならばいい。 織斑、あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。 いいな」

 

「い、いや、あの量を一週間以内では...」

 

「返事は はい か Yes だ。」

 

「それどっちも肯定じゃ!...はい。やります。」

 

睨みつけて無理やり言うこと聞かせる。

やってる事は不良のそれと変わらないな。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。 そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。 そうしないための基礎知識と訓練だ。 理解が出来なくても覚えろ。 そして守れ。 規則とはそういうものだ。」

 

うん、正論だ。 正論...なんだけどな、千冬さんがそれ言っちゃうか...。

束姉さんはISをそんな目的で作ったわけでもなければそんな風に扱われることを良しと思ってるわけでもないんだが

それを聞いて俺はなんとも言えない気持ちになる

 

「....貴様ら、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」

 

一夏はビクッと反応する。図星のようだ

俺はそういう訳では無いが勘違いされたようで

 

「望む望まないに関わらず、人は集団の中で生きなくてはならない。 それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな。」

 

織斑先生による二重の正論によりクラスの皆は押し黙る。

 

「それと桐生、この馬鹿者に勉強を教えてやれ。 同じ男同士都合がいいだろう。」

 

「分かりました。」

 

織斑先生の一言で再び授業を再開する... かと思いきや山田先生が教壇でコケた。 周りの女子もクスクス笑い出す。

がんばれ、山田先生。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

休み時間になり、俺はトイレへ行こうと廊下に出る。

当然廊下には多くの女子生徒が居たが、俺が通ろうとすると道を開ける。

大富豪の帰宅か。

 

用を足して、曲がり角に差し掛かる所で1人の生徒とぶつかった。

 

「きゃっ!」

 

「うわっ! ご、ごめん。よそ見してた。」

 

「う、ううん。 私も走ってたから... ごめんなさい。」

 

顔を上げるとその生徒には見覚えがあった。

より鮮やかになった水色の髪、少し伸びた背、メガネを掛けてるのは相変わらずだった。 何年ぶりであろう。更識簪であった。

と、手元にあったプリントが零れる。

しかし、何故か彼女はプリントには反応せず、こちらを見ている。

仕方ないので拾ってやるか。

 

「はい、これ。」

 

「え? あ、ごめんなさい! ありがとう...」

 

落としてたことに気づくと顔を少し赤らめる。

あの頃と比べても可愛くなったなぁ...

 

「あなたが、『2人目』の桐生建兎...? 」

 

「うん、君は更識簪さん、だよね?」

 

「私のこと、知ってたんだ...。」

 

「そりゃあ、日本の代表候補生だからね。 これでもチェックはしてるんだ」

 

「...そう。」

 

あ、やべ。嫌なこと思い出させた。

彼女は日本の代表候補生で専用機持ちなのだが()()()()()()

彼女の専用機開発に携わっていた倉持技研が突如現れた男子IS操縦者、織斑一夏の専用機開発に鞍替え。彼女の専用機開発は無期限凍結となってしまったのだ。

他にも優秀な(更識楯無)の存在によって自分はダメな奴だと思い込んでしまっているため、とても控えめになってしまっているのだ。

 

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。

 

! チャイムが鳴ってしまった。

早く戻らなければ織斑先生の終焉の一撃(出席簿アタック)を喰らってしまう!

 

「ごめん、話しこんじゃって。 そろそろ戻らないと。」

 

「うん、さっきはありがとう。」

 

「いいよそんなこと。」

 

「ううん...、でもなんか不思議なの...。 あなたとは初めてあった気がしなくて。 私いつもはあまり初対面の人と話せないのに...。」

 

「そ、そうなんだ。 じゃあ俺はここで!」

 

まさかの簪の発言に俺は無理やり話を終わらせ自分の教室に逃げる。

なんでどいつもこいつもこんな鋭いのさー!

 

席につき、一夏の席の方を見ると

 

「えーと、落ち着けよ。な?千冬姉も来たs」

「これが落ち着いていられーー」

 

パァンッ!

 

「席につけ。オルコット、授業の邪魔だ」

 

「〜〜〜! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

なんてことやってた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

3時間目。

1、2時間目と同じようにISについての授業かと思いきや、クラス代表を決めることに。

 

「クラス代表者は簡単に言えばクラス長だ。クラス間の対抗戦に生徒会の開く会議や委員会の出席。クラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものであくまで向上心を上げるために行われる。ちなみに一度決まれば一年間変更はない。」

 

やっぱり面倒臭い仕事だよな。クラス長って。

クラスに一人か二人やりたがる人はいるが俺は断然やりたくない人だ。

 

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

 

「私もそれがいいと思いますー」

 

「私は桐生くん!」

 

「きりりんもおりむーも がんばれ〜」

 

「ふむ、織斑に桐生か。他にはいないか? 自薦他薦は問わんぞ。」

 

「お、俺!?」

 

...でもまあそうなるわな。

2人しか居ないんだ。そらそうしたら目立つし面白いだろうし。

当然の事ながら一夏は嫌がるが織斑先生はそれを認めない。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

すると先程までわなわなと震えていたセシリアが反論し立ち上がる

 

「そのような選出は認められません! 大体、男が代表など恥さらし以外の何物でもありません! わたくし、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!? 」

 

いや、もう少し落ち着こうぜ。ひとやすミルク食うか?

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然! それを物珍しいからと言って極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

おーおー、どんどん周りの空気が悪くなる。

このシーンは前世でも結構悪い意味で記憶に残ってるから俺は慣れてしまってるが、他の子からしたら気持ちのいいものではないだろう。

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップ、つまりわたくしがなるべきです! そもそも、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛でーー」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年チャンピオンだよ」

 

あーあ、言っちゃった。

そろそろかなとは思ったけど一夏がセシリアに反論していた。

その言葉にセシリアは顔真っ赤。

 

「あ、あなたねぇ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「先に侮辱したのはそっちだろ!」

 

「〜〜〜! 決闘ですわ!」

 

「おう、いいぜ。 四の五の言うより分かりやすい。」

 

やっぱりこうなる。

お前ら争うのは勝手だがそれ俺も巻き込んでるからな?

しかし2人は今お互いの事しか見えていない。

頭に血が上って冷静な判断力を失っているのだ。

やれやれ。俺は決闘なんてしたって負ける未来しか見えないし、間違ってもこんな事にビルドの力は使いたくない。

けどま、セシリアの事情を知ってる俺くらいはセシリアのサポートに回ってやるか。

 

「まあまあ、2人とも落ち着け?」

 

「!! 何ですの!? あなたまでわたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「!! 何でだよ建兎! 元はと言えばこいつが!」

 

「だから落ち着けって。

一夏、代表候補生ってのはな、一朝一夕でなれる物じゃないんだよ。それこそ必死の努力で掴み取ったものなんだ。俺達が想像出来ないくらいの、な。

それにオルコットさんは専用機を持ってて学年首席。それくらいになるまでやってきたのにいきなり現れたお前と俺っていうイレギュラーの方がチヤホヤされる。しかもお前は『代表候補生』の名前すら知らなかったってのにだ。 悔しいに決まってる。

自分のしてきた努力や持っていた誇り、全否定されたようなもんだからな。 どう思う? そんな立場になったとしたら。」

 

「「....!!」」

 

俺の言葉に一夏もセシリアも目を見開く。

恐らく自分の事を純粋に褒めてくるとは思わなかったのだろう、特にセシリアは開いた口が塞がらないようだった。

 

「...でも、さすがに『後進的な国』とか『極東の猿』は言い過ぎだよね? 代表候補生として相手国へのそういう悪口は問題だし。そこん所は謝っておこうか?」

 

するとセシリアは途端に青ざめ、自分の逆上して思わず発してしまった言葉の重要さに気づく。

俺からはなんとも言えないけど、彼女は誰かから褒めてもらいたかったのではないだろうか。 事故で親を失い、ずっと1人で周りの汚い大人から家や誇りを守ってきたのだ。

いくら代表候補生でしっかりしてるとは言え、まだ15歳。

未熟な所もあって当然だろう。

 

「そんな訳だからさ、皆も彼女の事許してあげてほしいんだ。俺からもお願いする。」

 

俺はそう言い、頭を下げる。

顔を見合わせていた皆がざわざわしだす。

 

「...うん、あたしは良いよ。」

 

「私も。」

 

「正直嫌な気持ちになったけど、今の話聞いたらあたしだって理不尽だって思うだろうしね。」

 

良かった。 皆も分かってくれたようだ。

 

「...! す、すみませんでしたわ、皆さん。 わたくしの勝手な言動で不快にさせてしまったこと。お詫びします!」

 

「もういいよー!」

 

「大丈夫、気にしないから!」

 

「ありがとう、ございます...!」

 

良かった。とりあえずこれで一安心だな。

ちらっと織斑先生のいる方を見ると、向こうもこちらを見ていた。

 

「.....」

 

「えっと、織斑先生?」

 

「...まあいい。オルコットはこれからそういう事には気を付け、代表候補生としての自覚をしっかり持て、いいな。」

 

「は、はい!」

 

「だがまだ話は終わってない。 織斑、桐生、オルコット。 この3名でのIS勝負を行う。 一週間後の月曜。 放課後、第三アリーナで行う。 3人はそれぞれ用意をしておくように。 それでは授業を始める。」

 

ちっ、やっぱり勝負は無しにならないか。

避けられない運命に面倒を覚えながら俺は授業の準備をする。

セシリアの戦闘スタイルとかは予め何度か見てたし、原作知識もあるけどとりあえずやれるだけやってやるか。

山田先生の号令で3時間目が始まる。

俺は再び授業を真面目に聞く振りをして来るべき勝負の構想を練ることにした。




あー、くっそ長い。 しかも大してストーリー進んでないし。
毎度の事ながらこんな駄文を読んでくださる皆さんには感謝です。
最近はお気に入り登録、UAの数も増えてニヤニヤしてる毎日ですw
これからも建兎の活躍をお楽しみに!

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第10話 エンプティな存在

遂にお気に入り登録者数3桁を突破しました!
2017/09/29 00:09:40 現在
そして、ルーキーランキングで21位になりました!
(凄いのかどうかは分からないですがw)
スクショはしたのですがどうやればいいのか分からないので分かり次第画像を貼ろうかと。
これもひとえに応援してくれている皆様のおかげです!
これからもIS VS Buildをお願いします!

それでは第10話どうぞ!



「うう... ややこしすぎて意味が全然分からん...。」

 

「電話帳と間違って捨てたりなんかするからだろ... とりあえず今は俺が取ったノート読みな。 徐々に慣れてくしかないよ。」

 

放課後、俺は一夏の勉強に付き合い教えていたがなんせ専門用語だらけの物なので参考書などがなければ触れた事のない限り全く理解することは出来ない。

一夏は机の上でぐったりと項垂れていた。

 

「ああ、織斑くんに桐生くん。良かったです。まだ教室にいて。」

 

「はい?」 「ん?」

 

名前を呼ばれ、上を向くと山田先生が。

 

「えっとですね、寮の部屋が決まったんです。」

 

「え? 俺、前に聞いた話だと一週間は自宅通学になるって...」

 

「俺もそう聞いたんですが」

 

「そうなんですけど、事情が事情だったので政府特命で部屋割りを無理やり変更したらしいんです。」

 

まあ分かってはいたが。

貴重な男子IS操縦者を各国のやべー奴らから守るためにもこうした措置がとられているのだ。

 

「1ヶ月もあれば、お二人共個室が用意できますのでしばらくはどちらか相部屋で我慢してください。」

 

ん? ()()()()

 

「あの、てことは相部屋なのは1人だけなんですか?」

 

「はい、たまたま倉庫代わりに使ってた部屋があったのでそれを改修して個室にしたんです。 しかしもう一人分は用意出来なくて... すみません。」

 

そう言って山田先生は頭を下げる。

 

「あ、いや、謝らないでください。 仕方の無いことですから。 ...とは言ってもどうする? 俺は個室がいいんだけど」

 

「俺だって個室がいいさ、けど一夏、それよりまず荷物はどうすんだ?」

 

「あ、そうだ! 荷物はー」

 

「私が手配をしておいた。 ありがたく思え。」

 

おおう、いきなり現れたな織斑先生。

一夏はダースベイダーかターミネーターの曲が聞こえるとか言ってたけど俺は魔進チェイサーの変身音だな。

 

「まあ、着替えと携帯電話の充電器など生活必需品だけだがな。ちなみに桐生の荷物はお前の義父が用意したらしいから後で取りに来い。」

 

悲しいな。もう少し娯楽を求めたっていいのでは?

ストイックすぎるでしょう

 

「あと部屋についてだが個室は桐生に使ってもらう」

 

「え!」 「な、何で!?」

 

「同居人の問題でだ。 相部屋の相手は篠ノ之だからな、面識のある者同士の方がいいだろう。」

 

「な、納得いかないけどそういうことなら仕方ないか。」

 

いや、違うな。 俺はまだまだ怪しい面も多いからとかだろう。

山田先生から鍵を受け取る。

ちなみに一夏は1025番、俺は213b...いや、1213番だった。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は6時〜7時、寮の一年生用食堂で取ってください。 ちなみに各部屋にシャワー室がありますが、大浴場もあります。 学年ごとに使える時間は決まってますが...織斑くん達は今のところ使えないです。」

 

「え、何でですか?」

 

いや、逆に何故「何で」と聞く?

 

「アホかお前は。 まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

 

「あー...」

 

「おっ、織斑くんっ、女子とお風呂に入りたいんですか!? だ、ダメですよ!」

 

「い、いや、入りたくないです。」

 

「ええっ? 女の子に興味がないんですか!? それはそれで問題のような...」

 

はあ、こいつはいっつも言い方が悪いな。

そんな風に言えば男色家と思われ...

 

「織斑くん、男にしか興味ないのかしら...?」

 

「それはそれで...いいわね」

 

「織斑×桐生! いや、途中で織斑くんが負けて桐生くんの逆転かしら!?」

 

おいお前なんて事してくれた。

また俺も被害受けてるじゃねぇか。

そういうことなら俺にも考えがある。

 

「ち、違う! 俺はノーマルだ!」

 

「そうだ、一夏は『ソッチ』じゃない」

 

「け、建兎...!」

 

「一夏はただのシスコンだ。」

 

「うぉい! お前もか!!」

 

「ああ、その事に関しては私も同意見だ。」

 

「千冬姉まで!?」

 

パァンッ!

 

「織斑先生だ。」

 

「はい...」

 

静かだった教室内が阿鼻叫喚と化す中、俺は前途多難な寮生活に頭を抱えた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

一夏に「違うからな!」と強く否定されながら俺たちは別れ、各々の部屋へと向かった。

1213番、ここだな。

誰も居ないだろうが一応ノックする。

 

コンコンッ 「は〜い♡」

 

...え?

 

声が聞こえ不思議に思い、ドアを開けるとそこには

 

「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」

 

...裸エプロンを着て(中に水着は着てる)待機していた生徒会長こと更識楯無が居た。

 

沈黙する2人。

向こうは恐らくこの突然の訪問に驚いてるのだと思ってるのだろうがそれは違う。

いや、驚いてはいる。違うのはこの早い時期に楯無さんがいることについてだ。

原作だと登場は二学期からだったしな。 けど今更原作改変に驚いてたらついていけないか。

 

「ねぇ〜、もっと反応はないの? おねーさんがわざわざ出迎えてあげたのに。」

 

「そうですね、では。」

 

そうだ、据え膳食わぬは男の恥。

ここは一つ、男として取るべき行動を取るとしよう。

俺は荷物を床に置き、おもむろに服の中に手を突っ込み...

 

「もしもし、織斑先生ですか? 今俺の部屋に変質者g」

 

「ちょちょちょちょ!! 何やってんの!? というか織斑先生にかける気なの!? まだ死にたくないから本当にやめて!!」

 

通報することにした。

いや、当たり前だろ。男とか女とか関係なく自分の部屋に不審者居たら誰だってするだろう。

それにこの手の奴なんていくらでも居たからな。

 

「いやだって不審者がいたんで...」

 

「だから不審者じゃないわよ! 少しからかおうとしただけで!」

 

確信犯じゃないか。

 

「はあ、予想の斜め上を行く人ね...」

 

「あなたに言われたくないです。」

 

「改めて私はこの学園の生徒会長、更識楯無よ。 よろしくね。」

 

するとどこからか扇子を取り出し開く。そこには達筆で『よろしく』と書いてあった。 本当便利だよなそれ。

 

「あーどうも... それで俺になんの用ですか?」

 

「もう、いきなりそういう核心つくこと言う? もっと話しましょうよ〜」

 

「今日はもう疲れたから眠いんですよ... さっさとシャワー浴びて寝たいし」

 

「はぁ、じゃあしょうがないわね。 あなたには聞きたいことが三つあるの。 まず一つ目、桐生建兎くん。あなたは一体何者なの?」

 

「なんですかその質問...」

 

しかし楯無は続ける

 

「ううん、真面目な話。 私は家柄、色々な情報を探ることが出来るのだけど、あなたには前川惣一という義父の元で育ったという記録はあっても()()()()()()()()()()()()()()()()。 そこの情報だけすっぽりとね。 」

 

「...隠し子らしいですよ? 俺」

 

「ううん、それはないわ。 少なくともあなたは1歳の頃に前川惣一の元に居た。 でもそれ以前の情報は全くないの。 私達はそんな事だって調べられる。 あなた、自分の出自について何か知ってるんじゃないの?」

 

マズッたな。そこまで分かるとは。

いつか聞かれると思って用意してた嘘まで見抜かれてるなんて。

かと言って「神様転生しました!」なんて言えるわけもない。

仕方ない。そこまでバレてるなら少しフェイクを入れて本当の事を言おう。

 

「俺は自分の出自については全く知らないです。それに、自分の事捨てた親なんか親として見られません。 俺の父親は前川惣一ただ一人です。」

 

「...」

 

楯無は未だ警戒の目で俺を見る。

当然だがな、こんなの信じる方がどうかしてる。

 

「...まだその言葉の真意は分からないけどとりあえず置いておくわ。 次に二つ目。 あなたはさっきの事から今のままでは信用しかねる。 だからこそ直接聞く。 あなたはこの学園の味方?それとも敵?」

 

再び怪訝な顔でこちらを見てくる。

なんですんごい疲れてる時に限ってこんな目に...

 

「少なくとも敵ではないです。俺の事が信用出来ないのは分かります。でもここには俺の事を認めて仲良くしてくれる人だっているんです。 同じクラスの人や同性の織斑一夏、...あなたの妹にも、ね。」

 

「!!」

 

そういうと目を見開く。

あんなに人付き合いの苦手な簪と俺がそんなにすぐ仲良くなったのが不思議なのだろう。

驚きとも妬ましいとも取れる呆気に取られた顔をしている。

 

「そ、そう。 それなら分かった。あなたに敵意が無いことも話してる雰囲気で分かったし」

 

今日イチ動揺してる楯無さん。

こうして見れば可愛いな。

 

「さて、最後の質問だけど。 ...建兎くんって私と会ったことないかしら?」

 

もう俺は驚かんぞ。

ここまで来たならもうみんなみんな勘づいてると思ったもん。

こういう展開に慣れすぎてすごい冷静だし

 

「いや、ないですね。 初めましてです。」

 

「そう、まあその表情で言うならそうなのでしょうね。」

 

楯無さんがさっきとうって変わり少し控えめな声と顔で言う。

え?どんな顔なの俺今。

 

「じゃあ堅苦しい話はここまでにして、建兎くんに一つ提案があるの!」

 

と、いきなり元気になる。

やっぱりこの人はこういう感じの方が良いな。

 

「建兎くんさ、私の元で修行しない?」

 

「え?」




少し早い楯無さんの登場。
ちなみにですが原作同様楯無さんと簪の間には軋轢があり、簪は専用機を自分で組み立てている設定です。
これから彼女は少々疑っている建兎とどのように接していくのか...
ではまた次回!

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第11話 日常に隠れるトラジェディー

今回はクラス代表決定戦の直前の日常回です。
ちなみにトラジェディーとは『悲劇』という意味。
ほら、『スカイウォールの悲劇』って事で...ね?
あとアドバイスをいただき、タグを何個か加えました。
そして気づいた方はいないかと思いますが間違えて違う話を投稿してしまいました。申し訳ありません。
気を取り直してどうぞ!




「修行、ですか?」

 

「ええ、1組内でイギリスの候補生と織斑一夏くんとクラス代表決定戦やるんでしょ?」

 

「ええ、てかよく知ってますね。」

 

「そりゃあそんな話題いやでもすぐに広まるわ。 それに聞いたわよ? 上手いこと機転をきかせてクラス内の雰囲気良くしたんでしょ? やるじゃない。 おねーさんが褒めてあげる」

 

そう言って思い切り抱きしめてくる。

うーん嬉しいんだか恥ずかしいんだか...。

けどまあ褒められるのは嫌な事じゃない。

とは言っても...

 

「あ、あの。 なんと言いますか胸が...」

 

そう、さっきから顔に当たってる。

数年もしたらここまで立派になるのか。しかも格好も格好だからなおのこと照れてしまう。

 

「へー、無反応かと思ってたけど可愛い反応するじゃない。 ほら、どうだ!」

 

「だからやめてくださいよ!」

 

もうこれ以上はやばい! 俺のライダーゲージ(理性)が限界を迎える!

楯無さんの拘束から無理やり離れる。

 

「あっ、もう〜。もう少ししてあげようと思ったのに」

 

「もういいですよ! それに修行の事でしたよね!? それなら是非お願いします!」

 

「そう、ならよろしくね。 こちらで訓練機は用意しておくからこれから放課後になったら生徒会室に来て。 それじゃあね〜」

 

そう言うとさっと着替えて嵐のように去っていった。

...疲れた。さっさとシャワー浴びて寝よ。

奥の方からドカーンとか聞こえてくるけどあれだ。

一夏達が夫婦喧嘩してるだけだ。無視するとしよう

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

翌日、朝起きて俺は荷物を整いていた。

着替えに充電器、本にパソコン... ? 袋?...!これは

袋の中には紫と黄色のフルボトルが入っていた。

恐らく神様から送られてきたのだろう。

俺は期待を胸に食堂へ向かった。

 

 

 

「お。おはよう、建兎。」

 

「...」

 

食堂でちょうど2人と鉢合わせした...が... 箒さんめっさ不機嫌やん

さっきから名前で呼ぶな、名字で呼ぶなとか無茶苦茶言ってるし。

すると、3人の女の子が近づいてきた。

 

「ね、ねえ。 相席してもいい...かな?」

 

「ああ、いいぞ。」 「俺も構わないよ」

 

すると途端に小さくガッツポーズ。 周りは出遅れたと焦る。

いや、それなら話しかけてこいよ

 

「じゃあ失礼して...。あ、織斑くんも桐生くんも凄い量。 朝食べる方なんだね 」

 

「さすが男の子って感じ〜」

 

「俺は夜は少なめだから、朝たくさん取らないと色々きついんだよ。 ていうか三人はそれだけで平気なのか?」

 

いやデリカシーの無さよ

 

「わ、私達は、ねぇ?」

 

「う、うん、お菓子よく食べるし」

 

「平気かなっ?」

 

3人はしどろもどろで答える。

色々と多感な時期なんだ。察してやれ。

すると箒は先に行ってしまう。

 

あ、織斑先生が入ってきた。

早く食べないと!

 

「ああ、まあ幼馴染だし。」

 

「え、それじゃあーー」

 

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よくとれ! 遅刻したらグラウンド十周させるぞ!」

 

「不味い! 建兎、俺達も早く食うぞっていねぇ!?」

 

「遅いぞ。口を動かす暇があるなら手を動かして口に入れろ。」

 

「あんだけあったのに!? ちょっと待ってくれよ!」

 

一夏の悲痛な叫びが上がるが俺だってグラウンド一周 5km ×十周=50kmなんて走りたくない。先に行ってるぞ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身をーー」

 

今は再び山田先生によるISの基本知識の授業である。

一夏は未だ理解出来てないようで教科書と睨み合う

 

 

「これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがーー」

 

「先生、それってなんか体の中をいじられてるみたいで怖いんですけど...」

 

「そんなに難しく考えなくても大丈夫です。例えば皆さんのしているブラジャー、あれと同じでサポートはしても人体に悪影響が出ることはないです。もちろん自分に合ったものでないと違和感はありますが...」

 

そこまで言って俺達の存在に気づき、みるみる赤くなる。

 

「あ、えっと、織斑くんたちは分からないですよね、この例え。 あ、あはは...。」

 

そんな言い方するせいで皆意識し出す。

俺は家で二人きりの時束姉さんが下着姿でいることも多くてそのせいで良くも悪くも慣れてしまった。

 

「んんっ! 山田先生、授業の続きを」

 

「は、はい。 それともう一つ大事なことで『ISとの対話のようなもの』があります。 ISにも意識のようなものがあり、操縦時間に比例して操縦者を理解しようとするのです。 それにより相互的に理解することでより性能を引き出せます。 道具ではなく、パートナーとして接して下さいね。」

 

「先生、それって恋人のようなものなんですか?」

 

10代特有の質問に周りの雰囲気もどんどん緩くなる。

しかし山田先生は顔を赤らめ俯いてしまう

 

「それはその、私には経験がないので分かりかねますが... (スッ)」

 

と、こちらを見てきた。

え、何? なんすか?

 

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。

 

「あっ。えっと、次の時間は空中におけるIS基本制動をやりますからね。」

 

そう言って山田先生達は去っていく。

 

さてと、俺はトイレに行くとするかね。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

ふう〜、間に合ったー。

この学園元々女子校だったこともあって職員用のトイレに行かなきゃいけなくて面倒なんだよな〜。

すると、壁の向こうから声が聞こえてきた

 

「アリーナの観客席側のシールドに異常が? それは本当なんですか?」

 

「はい、今のところ目立ったアクシデントも無く多少エネルギーの量にバラつきがあるだけなので心配はないはずですが。」

 

「そうですか... 数日後には第3アリーナで1-1のクラス代表戦があったはずでしたね... それまでに調整をーー」

 

なんだ? 異常? アクシデント?

何かあったのか?

 

「おい」

 

「!! 」

 

声をかけられ振り向くと織斑先生が。

 

「立ち聞きとは感心せんな。 それにそろそろチャイムが鳴る。 教室に戻れ」

 

「は、はい。 」

 

俺はそう言われすぐに教室に向かう。

焦ったー。 音も気配もなく来てたぞあれ。忍者か

 

教室に入り席に座る。

するとまたもや一夏の周りに人だかりが出来ていて

 

「千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの!?」

 

「え。 案外だらしなーー」

 

パァンッ!

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

織斑先生による一撃。もうこれが1組では見慣れた光景になっている。

 

「ところで織斑、お前のISだが予備機がなく学園で専用機を用意するため準備まで時間がかかる。 」

 

「???」

 

こいつやはり分かってないな。後で教えるか

 

「い、1年のこの時期に専用機!?」

 

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで...」

 

「いいなぁ〜、私も早く専用機欲しいな〜。」

 

女子が一斉に羨ましそうにする中、未だわかってない一夏に織斑先生がため息。俺に専用機についての説明を求めた。

 

現在世界中にあるISは全467機。

ISのコアを作る技術は篠ノ之束博士しか知らず、当人はこれ以上の作成を拒否。

仕方なく各国家などには残っているISコアを割り振り、各々が研究などを重ねている。

また、コアの取引は禁止されている。

以上、教科書より

 

「...という訳だ。と言っても言い方は悪いがお前は実験体として渡されることになる。分かったか?」

 

「な、なんとなく」

 

「桐生の言う通り、お前にはデータ収集を目的として専用機が用意される。 ...しかし、すまないが桐生には専用機は用意されていない。当日は訓練機でやってもらう。」

 

「「「「ええええ!?」」」」

 

周りから驚愕の声が上がるが致し方ない。織斑千冬(ブリュンヒルデ)の弟という肩書きを持つ『1人目』の一夏と違い、俺は何の後ろ盾もないただの『2人目』だ。

それは俺もなんとなく分かっていたので構わなかった。

「それじゃ勝てないんじゃ」という声も聞こえるがまあどうしようもないのだ。

 

「はい、ある程度予想してましたから大丈夫です。」

 

「そうか... すまないな。」

 

「ち、千冬姉! どうにかならないのかよ!」

 

パァンッ!

 

「織斑先生だ。 まあお前の言う事は分からんでもない。 だがこれは政府の命令。 我々ではどうしようもないのだ。」

 

「そんな...。」

 

2人とも自分のことのように悔しがる。

やれやれ、普段はあんなだがやっぱりこいつは良い奴なんだな。

 

「あのー、もしかして篠ノ之さんって、篠ノ之博士の関係者なんですか?」

 

「...ああ、そうだ。 篠ノ之はあいつの妹だ。」

 

いややっぱりバラすんかい。

すると当然の如く皆はまた驚愕しており、どんどん箒に詰め寄る。

ここで俺はふと束姉さんとの会話を思い出した。

 

『束姉さん、箒さんとは話さないの? 大切に思ってるんでしょ? 彼女のこと』

 

『んー、確かに束さんはほーきちゃんを世界一愛してると言っても過言じゃないくらいだよ? でも、きっとほーきちゃんは束さんのこと嫌いだからね...』

 

『で、でも! 話し合ってみないとそれは!』

 

『いいの! けんくん、もういいの。 束さんが悪いことは事実だし、これは束さんが散々悪いことしてきた罰なの。 だから...もういいの。』

 

そう言った束姉さんの顔はとても悲しげでいつものやかましい雰囲気なんてどこにも無かった。

本当なら一緒に居てあげたい。普通の姉妹らしく笑って喧嘩して、ふざけ合って...。

俺は思わず束姉さんの背中をさすった。

束姉さんは何も言わず、声もあげずただただ泣いていた...。

 

 

そんなこと知ってしまってる俺は、例え束姉さんが聞いてなくても俺は、彼女の拒絶を止めたかった

 

「あの人はーー」

 

「ごめん、皆。篠ノ之さんとこないだ話した時に俺も聞いたんだけど何も知らないって言ってたし、色々とあったらしいんだ。 だから、ね?」

 

俺は箒の言葉を遮り、発言する。

一夏、箒と織斑先生は目を見開く。周りの皆は「しまった...。」と言った顔で顔を見合わせる。

 

「あの、ご、ごめんね? 篠ノ之さん。勝手に色々聞いちゃって」

 

「そうだよね、そんな有名人なお姉さんだったら大変だったよね... ごめんなさい。」

 

「い、いや。私もすまなかった。桐生の言う通り、私はあまりあの人の事は知らなくて...」

 

良かった。本当に皆よく分かってくれる。

お互いに謝ったし、これで箒が周りと軋轢が生まれるのを阻止できたかな。

また織斑先生にじっと見られてるが

 

「...。ふぅ。さて、授業をはじめる。 山田先生、号令。」

 

「あ、は、はいっ。」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「織斑さん、桐生さん。」

 

授業が終わりセシリアが俺たちの元へやってきた。

 

「なんだ?」 「どうしたの?」

 

「以前のわたくしならば、訓練機や専用機などの事で何かしら言っていたでしょうが今はそんな事はありません。 例えあなた方がどんな機体で来ようと! わたくし、セシリア・オルコット、全力でお相手致します!」

 

キリッとした態度で俺たちに宣戦布告する。

そこには俺たちを侮ることなく、心の底から戦おうという強い意志が見られた。

...変わったな。一夏も驚くがすぐに笑みを浮かべ、

 

「ああ、俺たちだって負けないぜ!」

 

「ぶっちゃけ自信はないけど胸を借りるつもりでやらせてもらうよ。」

 

俺たちは各々握手をして互いに勝負に向け気持ちを高め合う。

そんな俺たちにクラスの人たちは拍手を送っていた。

 

 

 

「...桐生、先程のあれはどういう事だ。」

 

昼食を取ろうと廊下に出たら箒に話しかけられた。

 

「先程のってあの篠ノ之さんの家族のこと?」

 

「箒でいい。 そうだ、あの時何故あんなふうに言ったのだ? あ、いや、ああ言った事が嫌だった訳では無い。 むしろ彼女らに八つ当たりせずに済んで助かった。 礼を言う。」

 

そう言って廊下で頭を下げる。

当然周りのギャラリーは騒ぐ。もうちょっと人目につかない所で言って欲しかったかなぁ...

 

「ううん、いいよ気にしないで。 で、あの事だよね? 実は前に一夏から千冬さん関連で昔結構理不尽な事言われたらしくて箒さんもそうなんじゃないかって思ったんだ。」

 

「そうか...。 ならばいい。すまなかったな、時間を取らせて。」

 

「ううん、構わないよ。あと、俺も一夏との事応援するから

 

「は、ハァッ!? な、何を言っている!」

 

「隠さなくても大丈夫。 俺もわかってるからさ。」

 

「そ、そんなにわかり易いのか? 私は。うぅ〜〜」

 

赤くなり、唸ってる箒に思わずキュンとしてしまった。

 

「じ、じゃあまずは食事に誘ってみたら? 一夏は恐らく『恋』ってもの自体意識してないからゆっくり焦らず、でも確実にが大事だと思うよ。」

 

「そ、そうか。分かった、試してみよう。 あと、その、なんだ。私もお前の事は建兎と呼ばせてもらってもいいか?」

 

またもやキュンとさせる事言ってくる箒さん。

これに気づかないとか一夏はマジで『アッチ』なんじゃないのかと思う。

 

「う、うん。いいよ。じゃあ俺はこれで」

 

「ああ。またな」

 

そう言って箒と別れる。

あードキドキした。俺は特に誰が好きってわけでもないがやっぱりやばいな。10代の女の子って

 

向き直り、俺は食堂に向かう。

ちなみに一夏は色々な女の子から昼食に誘われ、悪い気がしなかったのか緩んだ顔をしていたために箒にぶっ飛ばされたらしい。




箒ちゃんが建兎にデレました。
でも好きなのは一夏です。言わずもがな
ヒロイン候補は更識姉妹、本音、シャルとかを考えましたがまたアンケートとります。
次回早いですがクラス代表決定戦に入ります

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第12話 戦闘開始、アー ユー レディ?

今回初めてちゃんとした戦闘シーンを書きましたがやっぱり難しい!
少し仮面ライダーのオマージュも入ってます。
加えて、オリジナルフルボトルの件ですが、今のところ賛成が4人、反対が1人という感じです。 とりあえず賛成という事にしますがこれからも賛成・反対の意見は受け付けます。
番外編を書くとしたら臨海学校が終わってからになるかな?
てか受験終わってからか
それでは建兎のIS初戦闘、どうぞ!


「ーなあ、箒。 気のせいかもしれないけど... 俺達剣道の練習しかしてなくないか?」

 

「(フイッ)」

 

「目 を そ ら す な」

 

月曜、クラス代表決定戦当日となった。

それまでの間なんと2人は剣道の練習ばかりしてたのだ。

なんでも久しぶりに試合をしてみたら一夏のあまりの弱さに箒が憤慨。

ISの事もやらずにひたすら稽古をしていた。

まあ下手に色々手をつけるよりは慣れたもので鍛え、体を作ることも大切なんだが...

 

ちなみに俺は楯無さんの元、放課後みっちりISの訓練をした。

俺は『打鉄』を使っていたのだが当然こてんぱんにされ、気絶した回数も少なくなかった。

そもそも飛んだり武器を出すことすらままならないってのに...

だがまあ何とか感覚を掴めるまでにはなった。

ビルドとはまた違った感じで楽しかったし

 

「桐生、悪いがまだ織斑の専用機が来ていない。アリーナの使用できる時間の関係で先に試合を行ってもらう。」

 

「わ、わかりました。」

 

来た、遂に俺のIS操縦者としての初舞台だ。

心臓はドキドキするし、手汗がヤバい。

それが目に見えて酷かったのか

 

「大丈夫だ。如何なる時も冷静に判断し有効な手を打つ。お前の普段からやってる事を全力で出来れば十分だ。」

 

なんと織斑先生(ブリュンヒルデ)からのお褒めのお言葉。

さすがにこれには喜びが隠しきれない。

 

「ああ、俺たちも応援してるぜ!」

 

「桐生くん、落ち着いて頑張ってくださいねっ」

 

「建兎、陰ながら私も見守っているぞ。」

 

...ふっ。嬉しいな、皆からこんな風に言ってもらえるなんて。

 

「...うん、それじゃあ言ってくるよ。」

 

そう言って俺は打鉄を纏い、一体化。

ピット・ゲートに進み、アリーナへ出る。

ハイパーセンサーに問題はなく、あらゆる角度を見渡し感じる事が出来る。目の前の『相手』、セシリアの事も。

 

「お待ちしておりましたわ、桐生さん。」

 

真剣な表情で話すセシリア。

彼女は青い綺麗な翼を持った機体、『ブルー・ティアーズ』を纏っていた。

手にはセシリアの身長を超えるほどの銃器、『スターライトmkⅢ』を握っている。

 

「あらかじめ言っておきます。」

 

「?」

 

「わたくしは例えあなたが初心者で操縦がおぼつかない、という事でも容赦なく攻撃します。やりすぎだと罵られるかもしれません。しかし!わたくしは代表候補生として、対戦相手に対する最低限の礼儀として、最後まで全力で戦わせていただきます!」

 

「...! 分かった。俺だって何もしてこなかった訳じゃない。一矢報いる位はするさ!」

 

『試合開始!』

 

「ハッ!」

 

「グゥッ!」

 

スターライトmkⅢからレーザーを発射。

俺はそれをギリギリで躱すが装甲に掠ってしまいダメージを受ける。

 

ーバリア貫通、ダメージ58。 シールドエネルギー残量、486。

実体ダメージ、レベル低

 

ちっ! やっぱりまだ慣れきれていないk... ズドンッ!...!!

ヤバい、全弾的確に撃ってくるから躱し切れないぞ!

打鉄の武器である葵をようやく呼び出す事が出来たが、その間も攻撃を喰らっていた。

ブルー・ティアーズには更なる武器であるBTレーザー付きのビット、「ブルー・ティアーズ」がある。 いや本当にそういう名前なのよ。

ライフルに加えて4基のビットによる連続射撃、簡単に躱せるわけもなく

ダメージ 43、ダメージ 36、ダメージ 45... アラートがうるさいし、どんどん蓄積していく!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

ピットSide

「桐生くん、大丈夫でしょうか...。 先程から攻撃が当たってしまって...。 やはり訓練機ではーー」

 

「...」

 

山田先生は心配そうな顔で、織斑先生は相変わらずの無表情。

しかし、その顔にはどこか期待してるような雰囲気が見られた

 

「「建兎....」」

 

心配そうなのは山田先生だけでなくモニターを見ていた一夏と箒もであった。

あんな相手に次は俺が試合をする...。特に一夏はそんな緊張感も持っていた。

 

一方、観客席では

 

「桐生くん、やっぱり訓練機じゃ勝てないのかな...」

 

「でも、そんなの分からないわよ」

 

「無駄無駄、所詮男がISで女に勝とうなんておこがましいのよ!」

 

「きりりん〜...」

 

「桐生くん... 頑張って...!」

 

皆思い思いの言葉を話していたが、その中でも本音と簪は変わらず建兎を応援していた。

そんな建兎を応援する者が影にもう1人、建兎の修行相手こと更識楯無がいた。

 

「桐生くん、見せてみなさいな。あなたの底力を。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

俺はひとまず体制を整え、直撃のみを避けながらセシリアに近づく

ハイパーセンサーで上あらゆる方向を見れるのでビットの位置は良くわかる。

 

「うおおお!」

 

「っ! やりますわね! この弾幕から接近してくるなんて!」

 

そういいながらもセシリアは慣れたように躱す。

なんとか一撃、掠らせることは出来た...。

けどだめだ、こんなんじゃ!

 

その後も軌道が読みやすい弾であるからか少しずつ慣れてきた俺は弾幕を躱しながらセシリアに一閃。という流れを繰り返し、当然エネルギー残量に差はあるものの、着実にダメージを与えていく。

 

「あなた、本当に初心者なんですの!? こんな短時間でブルー・ティアーズの射撃に慣れてくるなんて!」

 

「さあ、どうだか、な!」

 

さらに一撃!セシリアが驚き、焦り出したことはハイパーセンサーで分かる。何せ俺がISに触ったのは数える位しかなく、しかも使ってるISは訓練機である打鉄。驚くのも当然である。

 

「ここまで耐え切るなんて...。やはりあなたは何か他とは違いますわね。 ですが、ここまでです!」

 

そう言ってビットがそれぞれ上下左右に配置され、俺に接近してくる。

俺はそれを無理矢理突破するもビットとライフルで一撃ずつ喰らう。

 

残量は残り65...あと一撃で致命傷か... こうなったら!

 

「はあああ!」

 

俺は射撃してくるビットに向かって全速力で突撃、ビットを1機破壊した。

 

「なっ!」

 

これにはセシリアも思わず驚く。

教科書通りってのはこういう不測の事態に弱いってな!

まあ元々この機体の弱点を知ってたのもあったんだけどな。

 

俺はその隙を見逃さず、そのまま突撃。

彼女に有効な一撃を与えた。

 

「っ!」

 

「よし!」

 

ライフルを構え撃ってくるがもう遅い。

目が慣れてしまってるから躱すのは容易だし、ビットもある程度どこから撃ってくるのかも予想できた。

二機目、三機目と破壊しどんどん優勢になっていく。

よし、()()()()()()()()

 

俺はわざと突撃、それを見たセシリアがニヤッと笑い

 

「お生憎様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!」

 

腰の辺りから砲台が現れ、ミサイルが発射される。

まさかの武器に躱し切れず直撃。ーー()()()()()()()()()()

 

「ハァッ!」

 

「!?」

 

俺は下から浮かび上がり、セシリアに上段斬りをかます。

予測できていなかったのかそのまま喰らってしまう。

そう、俺はその武器を知っていたため砲台が見えた瞬間体を捻らせてダメージを減らし、低空飛行に切り替え爆発に乗じて上昇、カウンターを放ったのだ。

元々防御型の打鉄だからこそできて、タイミングを間違えば即ゲームオーバーの捨て身技だけどな。

 

「そんな!なぜ、この武装の事を!?」

 

「ブルー・ティアーズについては結構調べたからな!」

 

その後も残されたビットを躱し続けてセシリアを追う。

ライフルを蹴り上げられバランスを崩したセシリアの後ろに回り込み、そのまま叩き斬る!

俺の残量 32...! これで終わ...!

 

ドゥン!

 

!?

刹那、俺は側面からの謎の攻撃に吹き飛ばされ、体に衝撃が走った。

 

ビーーーー!

 

『試合終了。勝者ーーセシリア・オルコット』

 

...は?

今、何が起こった?俺は体勢を立て直しセシリアの方へ向き直る。

セシリアもわけが分からないようだった。

試合を見ていたギャラリーは何かに気づいたようだが...

 

ダメージを確認してみると、

ビットによる射撃 ダメージ 47 とあった。

馬鹿な、ビットはセシリアを間に挟んだ所にあったはず!

あの位置からじゃ狙撃なんて... !

 

まさか...偏向射撃(フレキシブル)!?

 

ブルー・ティアーズにはBT兵器の機能として、偏向射撃が備わっている。通常、直線でしか飛ばないレーザーを曲げて様々な方向に撃つ機能だ。

しかし、この時点ではまだセシリアは使えてなかったはず。

もしやあのピンチになった瞬間に咄嗟にやったってのか!?

 

 

「あ、あの。 桐生さん...?」

 

何も言わない俺を見かねてかセシリアが声を掛けてくる。

 

「...オルコットさん。ブルー・ティアーズには偏向射撃があったよね?」

 

「え、ええ。 よくご存知ですわね。あれが?」

 

「恐らくあれが決まって俺は負けたんだ」

 

「ええ!? でも、わたくしは今ビットを操作した覚えは! それにそもそも偏向射撃は使えなかったはずです!」

 

「もしかしたら無意識に動かしたのかもしれない。『負けたくない』って言う、強い意思で。」

 

「そう、ですか。」

 

何とも言えない表情をするセシリア。

勝てたこと、初めて偏向射撃をできた事に対する喜びやあと少しで負けていたかもしれない事に対する焦り。

正直『俺が負ける』事はなんとなく皆も思っていたかもしれない。

だが、そんな俺たちにギャラリーの皆は拍手をしてくれた。

照れくさくなり、俺たちはそれぞれのピットへ戻る。

そこには一夏や箒、先生達が出迎えてくれた。

...楯無さんに修行してもらったんだから勝ちたかったけどなぁ。

まあ、一夏にセシリアの奥の手とかも見せられたから良しとしよう。

こうして俺のIS初試合は黒星スタートとなった。

 

1-1 クラス代表決定戦 第一試合

勝者 セシリア・オルコット




というわけでクラス代表決定戦はまずセシリアが1勝です。
言い忘れてましたがこの作品では原作と比べてそれぞれのキャラを強めにしようかと思っております。
そこら辺もタグに加えた方がいいですかね?
それではまた次回!

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第13話 鋼を砕きしムーンサルト

今回は雑な描写+普段と比べて短めです。
10月に入り、寒くなってきたこの頃。
作者はこの小説の執筆中風邪を引きました...。
皆さんも気をつけて下さい。
それではどうぞ!


セシリアとの勝負が終わり、今俺はピット内で一夏達と話している。

 

「すみません、負けてしまいました。」

 

「い、いえ! とてもかっこよかったですよ!」

 

「ああ、ISを操縦して数回とは思えないほどの出来だった。それに最後のは反応出来なくても仕方ないだろう。あれは我々でも予想外だった。」

 

「建兎凄かったぜ!剣一本であんなに追い詰めるなんて!」

 

「あんな芸当、とても私には出来ないだろう。素晴らしかった。」

 

皆からは称賛の声が上がるが俺はなんとも言えない感じだった。

楯無さんに修行してもらったこともあるが、こちらは原作知識という反則並のものに加えて神様から貰った恩恵があり対する向こうは全くの初見+今までの努力で勝利したのだ。

いくら訓練機とは言え明らかに俺の方が有利であったのに...。

ま、それもセシリアの努力の賜物ってことか。

 

「そろそろか...。織斑、話はそこまでにして準備を始めろ。」

 

「わ、分かりました。」

 

そう言って俺以外の皆は一夏の専用機、『白式』の元へ行く。

俺? 俺はトイレだぜ。

先程から行きたかったんだ。

 

俺はピットから出る。

その時、ピット内のモニターには不穏な警告が出ていた...。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

トイレから戻ると既に箒や織斑先生、山田先生は戻っていた。

 

「始まりました?」

 

「ああ、ちょうど今な。あと、お前の先程の試合は録画してある。お前の視点からでは何が起こったか分かりにくかっただろう。きちんと確認して、次に活かせ。」

 

「了解です。」

 

モニター画面の前に出て、隣にいる箒をふと見る。

モニターを見る箒の表情からは不安と焦りが見られた。

きっと普段からあんなやり取りしてるが本当は誰よりも一夏の身を案じている。

俺もモニターに目を向けると一夏はとてつもない弾幕から少しずつダメージを受けながら辛くも逃げていた。

 

「一夏....」

 

「大丈夫だよ。」

 

「だ、だが!」

 

「箒さんが信じてあげなきゃ、誰が一夏の味方するの?」

 

「!! ...ああ、そうだな。感謝する。」

 

そうして箒は元の凛とした表情に戻り、再びモニターを見る。

セシリアは原作のように一夏を侮ることなく、確実に倒し切るよう戦っていた。一夏もそれに呼応するかのように持ちうる力を使って全力でぶつかり合う。

 

正に真剣勝負。

あらゆる角度からのビット攻撃に耐えかねてなんと無意識に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用。セシリアに一撃を与えた。

これには一夏自身も驚いていたようだ。

その隙を見逃さず、セシリアはライフルとビットで一斉射撃。

剣で受けるも吹き飛ばされる一夏。

 

「一夏っ!」

 

「...!」

 

箒と山田先生は目を見開きモニターに釘付けになる。

しかし俺と織斑先生は慌てず口を開く。

 

「ふっ、機体に救われな、馬鹿者め」

 

「さあ、お楽しみはこれからだ。」

 

一次移行(ファーストシフト)!? あなた、今まで初期設定だけの機体でわたくしと...!?』

 

『これでようやく、俺専用になったわけだ。俺はこれからは守られるばかりじゃない。俺の家族を世界で最高の千冬姉を守る!』

 

織斑先生の全盛期の武器、『雪片』のニュータイプこと『雪片弍型』

より近接に特化され、一次移行したことにより先程の初期設定の武器よりも扱いやすくなっただろうその武器はとても美しい。

そして予め知ってたように単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)、『零落白夜』を起動。セシリアに迫る。

 

「うおおおお!」

 

「!!」

 

その武器から発せられる危険な雰囲気を本能的に感じ取ったのか、ライフルやビットを使って距離を取ろうとする。

しかし更なる加速力やセンサーのグレードアップによりビットは全て爆ぜてしまった。

 

『ぐっ、ならばミサイル!』

 

『遅い!!』

 

腰から放たれたミサイルを軽く躱し、セシリアを一閃しようとした直後

 

 

ビー! ビー!

 

「「「「!?」」」」

 

けたたましいサイレンが鳴り響き、モニターを見ると『警告』の文字が

 

『警告 アリーナ内のシールドエネルギー供給がストップしました。 アリーナ内にいる生徒は至急避難してください』

 

「な!?」

 

「不味い、ひとまず生徒を...『ドゥン!!』...!」

 

見ると観客席の屋根に先程セシリアが撃ったミサイルの残りが着弾。

今にも崩れそうになっていた。

 

『『『『キャアアア!!』』』』

 

観客席にいる生徒は一瞬でパニック状態に。

このままでは二次被害が起こる!!

 

「桐生、篠ノ之! 2人は生徒達に避難勧告を!」

 

「「はい!!」」

 

俺達は西と東に別れ、観客席へ向かう。

着くとそこには大勢の生徒が。

 

「助けて!」

 

「ちょっと、押さないでよ!!」

 

「嫌ッ、死にたくないーッ!」

 

「皆、まずは押さないこと! ゆっくりでいいから確実に脱出することを優先に動いて!」

 

っ! これは不味い。皆錯乱して全く避難が出来てない!

楯無さんも必死に声を上げるが誰も耳を貸さない。

くそ、モタモタしてたら屋根が降ってきて大事故になるってのに!

 

パンパンッ!

 

「皆、聞いてくれ!!!」

 

「「「「!!」」」」

 

俺の大声に皆一斉にこちらを見る。

 

「今のままじゃ逃げられる人も逃げられない! けどこんな状況で『落ち着け』『泣くな』なんて無理だろう!? だからこそ、怖がって動けない者は手と手を取り合え! 泣いてたって構わないから前を見ろ!」

 

俺の言葉に手と手を取り合い、手を差し伸べる者もいる。

当然だが誰だって助かりたいのだ。今は藁にもすがる思いなのだろう。

 

「よし! そのまま数人で固まってドアから出て! 早く逃げたいからって押しちゃダメだぞ!」

 

上からはギシギシという嫌な音が聞こえてくる。

もうあと少しで落ちてきてしまう!

 

「きゃっ!」

 

「清香!?」 「大丈夫!?」

 

「う、うん。なんとか... いたた!」

 

「! 足怪我してるじゃん! ほら立って!」

 

なんと相川さんが転んでしまい、友人の2人が駆け寄る。

その瞬間

 

バキッ!

 

「「「え...」」」

 

「クソッ!」 シャカシャカシャカシャカ

 

「どきなさい、桐生くん!!」

 

狙い済ましたかのように屋根が落ちてくる。

後ろから彼女達を助けようとする楯無さんの声が聞こえるが、誘導していてドアの向こうに居た彼女が周りの人に気をつけながらどれだけ加速しても間に合わないし、ISでも3人救うのは不可能だ。

3人は動けず落ちてくる屋根をじっと見ているしか出来ない。

俺は無心でラビットフルボトルを振るが考えてみれば俺も3人を抱えての脱出は無理だ!

こう、なったら...!!

 

「「「あ... あ....」」」

 

シャカシャカシャカシャカ

 

『ラビット!!』

『タァンク!!』

 

『ベストマッチ!!』

 

『アー ユー、レディィ!?』

 

「変身!!」

 

ドゴォォォ!!

 

建兎が3人の元へ行った直後屋根は落ちた。

生徒達はもうダメと諦め言葉を失う。楯無さんは膝から崩れ落ちる。

これにはピットにいた織斑先生、山田先生に箒。

並びにピット内へ戻っていたセシリア達も目の前で起きた信じたくない光景に目を背け、苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

しかし誰もが諦めたその時ーー

 

ドガァッ!! ガラガラ、ドシャァ...

 

一発の爆発したような音がすると瓦礫が崩れ、煙の中から現れたのは目立った怪我もなく、まるで寄り添う様に座り気絶している相川さん達3人。

そして、「赤と青」。

 

『鋼のムゥゥンサルトォォ! ラビット、タァンク!! イェェェイ!』

 

ドリル状の武器を持ちながら3人を覆う様に立ち、ダメージが行かないように庇っていた者が1人。

それは彼女達、いや世界中が知る『ISの発明』や『白騎士事件』に並ぶ大きな話題となった人物。

「正体不明のヒーロー」、『ビルド』であったーーー




というわけで伏線回収及び久しぶりのビルド登場回でした。
導入が無理矢理過ぎる気がしますが作者の力ではこれが限界でした...
建兎がビルドと知った者達はこれからどのように建兎と接していくのか....
あとこれからは週一の投稿になりそうです。まだ詳しい曜日や時間は決まってません。
とりあえずクラス代表決定戦編が終わるまでは頑張りますが。
とは言えそのうち週一投稿すら出来ない様になると思います。
そこのところよろしくお願いします。
ではまた次回!

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第14話 明かされるスタークストーリー

私事ですが本日誕生日を迎え、18歳になりました!
たまたまですがタケルと同じ誕生日なんですよねw
少し早い大人の仲間入りです。
「スタークストーリー」はありのままの話というニュアンスで
それではどうぞ!


やっちまった。

そりゃああんな状況で助けない訳には行かないだろう。

現に周りの生徒は目を丸くしてこちらを見ている。

あれだけ騒がしかった観客席がまるで嘘のようだ

 

よく見れば奥の方に簪や本音が共に驚きの表情、目の前の楯無さんが驚きながらも何か気づいたような顔で見ている。

さて、これからどうすっかな...。

 

『えっと、桐生くん...ですか?』

 

俺の前に山田先生の映るディスプレイが。

画面の奥には一夏、セシリア、山田先生そして織斑先生が信じられないと言ったような顔をしている。

 

「...はい、そうです。」

 

『!!』

 

『...桐生。生徒の避難指示、ご苦労だった。残っている者が居れば周りの様子に気をつけて避難させてくれ。 ...後で話がある。終わり次第こちらまで来い。』

 

「了解です。」

 

織斑先生との低いトーンでの会話。

まさか俺が、というよりかビルドが年下だと思わなかったのだろうな。

...そろそろ皆を避難させるか。

 

もう既に桐生 建兎=ビルドという方程式が出来上がってるだろう。

俺は逃げるでも隠れるでもなくそのまま皆の目の前で変身解除。

再び驚く声が上がる。

 

「...皆、とりあえずまだ何かしら起こるかもしれないから避難しよう?」

 

「あ、うん...。」

 

「分かった...。」

 

「...桐生くん、その子達は私達が預かるわ。この後のことも私に任せて。」

 

皆なんとも言えない雰囲気から逃れるようにアリーナを後にする。

相川さん達は楯無さん達が運んでいってくれた。

これから、大変だなぁ...

俺は思わずため息をし、俯かせていた顔を上げ空を見上げる。

そこには俺の気持ちとは裏腹に雲一つない綺麗な青空があった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

あの事故から数時間後、俺は別室で織斑先生と山田先生から事情聴取を受けていた。

 

「さて、話したいこととは言わずもがな『ビルド』の事だ。お前には聞きたいことがたくさんあるが... まず1つ。今まで人命救助などを行っていたあの『ビルド』もお前か?」

 

荒げないが芯のあるハッキリとした声で聞いてくる。

まるで「嘘は許さん」と言わんばかりに。

そもそもああやってバレた以上俺は嘘なんてつけないしつく気もない。

話せる事は全て話すことにした。

 

「...はい。『ビルド』は俺一人です。 そもそも俺一人しか変身出来ないので」

 

「!! そうか...。では、あの力はどこで手に入れた? 篠ノ之束、奴が関わっているのか?」

 

「いえ、束ね...束博士は関係ないです。ただ、俺は束博士とは面識はあります。彼女は『ビルド』の事も最初から知ってました。」

 

すると、「やっぱりか...」とでも言いたげな顔をしてため息をつく。

 

「はあ...。 その力についてはどうしても答えられないのか?」

 

「はい、『ビルド』の力は俺が生まれた時に持っていたものです。だから俺も知らないし、解析もできませんでした。束博士でも」

 

「「!?」」

 

あの天災、篠ノ之束ですら解析不可能という言葉に2人とも思わず驚く。

小学生の頃から彼女を知る織斑先生にとってはとても信じられないだろう。

 

「...ならば桐生。1つ聞かせてくれ。唯一その力(ビルド)が使えるお前は一体何者なんだ?」

 

「...」

 

またこの質問か...。

悪いがまだ織斑先生や山田先生に話すわけにはいかない。

『IS学園の生徒としての信頼』はある。が、『俺の秘密を明かせるほどの信用』はない。それは一夏達も同じである。

話したのは今でも俺をガキの頃から育てて、見ててくれた父さんや束姉さんの2人。俺のわがままかもしれないけど、本気で俺を想ってくれて情報を無闇に晒したりしない。そう心から信用できる人。明かせるのはそんな人だけだ。

 

「...なんとも言えないです。俺は捨てられた子供なので。更識生徒会長にも聞かれました、『君は私達でも調べられなかった』って。俺が話せるのはそれだけです。」

 

「「....」」

 

2人とも何も言わない。そんな戯れ言と思っているのかもう少し泳がせてみようとか思ってるのかもしれない。

織斑先生が口を開く

 

「...お前から何かしら聞けるかと思ったがより一層分からない事が増えたな。最後に一つ言いたいことがある。」

 

まだあるのか...一体いつま...え?

そう思ってると唐突に織斑先生は頭を下げる。

これには山田先生も「え? え!? 織斑先生!?」と慌てていた。

 

「第2回 モンド・グロッソの時、一夏を救ってくれて本当に助かった。あの時私はお前を疑うばかりで礼の一つも言わず、ずっと後悔していたのだ。あの時は本当にすまない... そして、本当に...ありがとう...!!」

 

「....!!」 「織斑、先生...」

 

そこには世界最強(ブリュンヒルデ)や普段の暴力教師の影など無く、ただ弟を想い、頭を下げる姉の姿があった。

...やっぱりこの人は不器用なだけなのだ。一夏を誰よりも案じているがブリュンヒルデや教師という肩書きによって甘えや弱さも見せられない。

あの出席簿だって一夏を思ってのことなのだ。一夏自身もそれをなんとなく分かってるからか嫌がりはしても千冬さんを嫌ったりなどしていない。

 

「大丈夫ですよ、全く気にしてないです。」

 

「...そうか。すまないな突然。」

 

そう言って顔をあげる。気のせいか目尻に光が見えた。

 

「とりあえずお前の情報は既に世界中に広まりつつある。明日になればあらゆる国からお前に契約の申し込みなどが殺到するだろう。一応、義親さんには伝えておけ。」

 

プライバシーもあったもんじゃねぇな

まあ誰しも気になってた事だし何しろ『2人目』がそうだったなんて知ったらいてもたってもいられず誰だって話すかもな。

 

「分かりました。」

 

「あと、すまないがお前はこれから授業中などにも『ビルド』を使ってもらう事になる」

 

「...は?」

 

「急遽行われた会議で決まったのだ。学園だってISが無尽蔵にある訳では無い。そこで『ビルド』を桐生建兎の『専用機』として扱うという話になったのだ。」

 

嘘だろ!? 俺そんなことに使いたくないからわざわざこの試合ISで受けたってのに!

第一それじゃ単なる見世物じゃねーかよ!

 

「いやいやいや! 『ビルド』は無くはないけど飛行ユニットの標準装備はされてないんですよ!? それにISと違って『ビルド』は戦闘向きの武装です!『打鉄』や『ラファール』とかとは根本的に...」

 

「私だって!!」

 

「「!!」」

 

「...私だって反対だ。賛否両論はあったがビルドは私の唯一の家族を救ってくれた恩人だ。そもそもIS自体こんな事のために使うものではないと分かっている...。だが、私はこの決定を変える力もない。世界最強が聞いて呆れる。ただの無力な女なんだ、私は...。」

 

心底悔しそうに織斑先生は話す。山田先生もそんな千冬さんの姿に悲しそうな表情を浮かべる。

俺は初めてビルドの力を求めた事を後悔することになる。本来人の自由と平和を守り、別のライダー達と時にぶつかり合い、時に協力し敵と戦い続ける。そんな仮面ライダーの力があろうことか人を傷つけるために使われる。悔しくて仕方なかった。

 

その後、何かあればいつでも2人ともサポートすると言ってもらい、事情聴取は終わった。

言葉にできない悔しさを胸に、俺は自室へ戻ることになった。

しかし物陰から俺を見てくる存在に俺は気づけなかった。




山田先生が空気だ...。
ちなみに作者だったら建兎と違ってこういう事に仮面ライダーの力を使うことを躊躇ったりしない気がしますw
次回は中止になったクラス代表決定戦のその後です。

Next→第15話 戦いのフィニッシュのその後で


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第15話 戦いのフィニッシュのその後で

ヒロインを誰にするかというアンケートを取りたいと思います。
詳しくは活動報告で。メッセージで投票しても構いません。
あとこの話の次である16話から週一投稿にします。
曜日はビルドの元ニチアサの時間、日曜朝8時にしようかと。
楽しみにして下さる方には本当に申し訳ないです。
それと今話は会話文が多くて読みにくいです。
それではどうぞ!



俺は事情聴取の後、自室で父さんや束姉さんに『ビルド』であることがバレたこと、そっちにたくさんの研究者などが来るかもしれないこと、その為にどこかへ隠れた方がよいことを連絡していた。

まあ既にテレビで世界中に俺の事は広まっており、「人の口に戸は立てられぬ」とはまさにこの事。一夜にしてニュースのトップを飾ってしまったのだ。

 

『なるほどな...。 事情は分かった。 とりあえず束ちゃんと海外に逃げることにするよ。』

 

「うん。 ごめん、父さん。 こんなことになっちゃって...。」

 

『おいおい、何謝ってるんだ? お前はお前の信じる正義、『人を守るため』にビルドを使った。結果救うことが出来た。 それでいいじゃねぇか。そんな事でいちいち俺も束ちゃんも怒ったりしねぇよ』

 

「で、でも!」

 

『だから...お、束ちゃんが代わりたいそうだ。じゃっ』

 

「え!? ちょっと!」

 

『もすもす、終日? どーも皆のアイドル束さんでーす!』

 

「さようなら」

 

『待って! 謝るからもうちょっと待って! 』

 

おっとあまりの下らなさに思わず。箒や千冬さんがイラッとしていたがこれは確かにうざいな。

 

『けんくん、束さんは白騎士事件を起こしたこと後悔はしてないけど反省はしてる。それはそーさん達の気持ちを無視しちゃったから。』

 

「!!」

 

『けんくんはビルドを使ったことで束さん達に迷惑がかかる事に後悔してるかもしれない。でもね?絶対、ぜーったい、束さんは恨んだりなんかしないよ?いつもけんくんは束さんやそーくん、皆の事を考えて力を使ってる。束さんもそれを信じてるからね。』

 

「....」

 

『だから、もしこれからけんくんが悪いことに力を使おうとするなら束さん達が全力で止める。もし束さんが悪いことしようとしてたらけんくんがビルドを使って止めてね?これからも束さんは2人に迷惑かけまくるから、けんくんもどんどん迷惑かけていいんだよ?』

 

もう既にあんたに振り回されてんだけど。こっちから無条件で何かしら求めてもいいくらい迷惑かかってんだけど。でも...まぁ...。

元気...出たかな。

 

「ありがとう...。束姉さん。」

 

『うん!それでこそ私のけんくん!...それと、ほーきちゃんとのこと。アリガトね♪』

 

「えっ!?」

 

『じゃーね!』

 

ツー、ツー。

切られた...。まったく、どこまで知ってる事やら。

苦笑しながら電話を切ると、ノックする音が。

出るとそこには昼間助けた相川さん達が

 

「えっと、桐生くん、今大丈夫?」

 

「あぁ、まあいいよ?どうしたの?」

 

「えっとね、昼間の事まだお礼言ってなくて... あの時は本当にありがとう!!」

 

途端に頭を下げられる。

俺が慌ててると3人は続ける。

 

「それで、皆から聞いたの。桐生くんがビルドだったって。ビルドになって助けてくれたって。だから、私たちのせいで桐生くんが大変な事になったと思って...ごめんなさい!!」

 

すると先程よりも深々と頭を下げられる。

その姿に俺は何か違うと思った。

確かに3人を助けた為、ビルドであることがバレた。

しかし、それで彼女達を責めるのはおかしい。

 

「...頭を上げて。3人とも」

 

「桐生くん...」 「私たち...その...」

 

「とりあえず俺は3人が無事で良かったし、あの時は仕方なかった。それだけだよ。...でもそうだな。これからクラスの人たちと接しにくくなるかもしれないしその時に手伝って貰ってもいいかな?」

 

「!! ...うん!それくらいお安い御用だよ!」

 

「驚いたけど、やっぱり桐生くんはいい人だったしね!」

 

「ちゃんと皆も分かってくれると思うし!」

 

...ああ、そうか。こういうことだったんだな。仮面ライダー達の強さの元って。きっと、()()()()()()()なんだ。

戦兎が人のためになれたら「クシャッ」て笑ってしまうのも分かる気がする。

再び礼を言われ、俺たちは別れた。

今日は俺にとって激動の1日だった。

ビルドであることがバレたこと。改めて家族の有り難みが分かったこと。ビルドを望んだのが間違いなんかじゃなかったと思えたこと。

これからビルドは本来の「人を救うため」とは違った使い方がされてしまうだろう。

しかし、俺が自分の信じるものを曲げずフィリップの言っていた『優しさ』があればビルドだって単なる戦闘マシンにはならないだろう。

気持ちを改め、俺はシャワーを浴びる準備をする。と、またノックする音が。

開けるとそこには楯無さんが。

 

「やっほー♪」

 

「....何の用ですか」

 

「やー不機嫌ねー。もう少し明るく行きましょうよー!」

 

「あなたが来たせいでテンションダダ下がりなんです。」

 

「ひどくない!?」

 

「冗談ですよ。で、なんですか?ビルドのことなら答えられませんよ」

 

「はあ...。 あ、それに関係した事よ。」

 

切り替えて真面目に話し出す。

 

「あれが君の正体だったのね。どうりで話せないわけだわ。」

 

「...そうですけど。」

 

「じゃあ聞くわ。あなたは力を使ったこと、後悔してる?」

 

「してません。」

 

「即答ね...。もしあなたがシラを切るならあなたの本性が分かるまでどうにかしようかとは思ってたけど」

 

「!! まさか、あなたがアリーナのシールドを!?」

 

「待って待って、違うわよ! いろいろ聞きだそうと思ってただけ! そもそも束博士じゃあるまいしこんな大きな学園のシステムをたった1人でどうにか出来るわけないでしょう!? そんなに睨まないでよ!」

 

焦りながら開かれた扇子には「冤罪!!」とあった。

 

「....」

 

「はあ...。とりあえず桐生くんが敵じゃないって事は本音ちゃんの話やさっきの彼女達の様子からも分かったし、何よりあなたは自分を犠牲にして生徒を救ってくれた。織斑先生から色々聞いたしあなたは十分信用できる。。でも今まで通り監視はさせてもらいます。」

 

え、俺監視されてたのか。全然気づかなんだ。

 

「そこで提案なんだけど桐生くん、生徒会に入らない?」

 

「え、でもそんな簡単に入れるんですか?」

 

「ええ、というか私が認めないと入れないから。認められれば簡単に入れるの。で、どうする?」

 

彼女の目的は俺の監視。そして俺をあらゆる勧誘から守るためだろう。彼女の強さは文字通り痛いほど身に染みてる。

生徒会には楯無さん以外に虚さんに本音が居たはず。一応見知った顔だし守ってもらえるなら都合がいいか。

 

「わかりました。よろしくお願いします。」

 

「ん、了解。 じゃあ手続きしておくからまたね。...あと、」

 

近づいてくる楯無さん。すると、顔の近くに来て

 

チュッ

 

頬に柔らかい感触がした。

 

「!!??!?」

 

「...私の生徒を助けてくれてありがとう、ヒーローさん♪ おねーさんからのご褒美よ」

 

何が起こったか分からなかったが、すぐ隣で顔を少し赤らめながら笑う楯無さんがいる。てことは...キス、された!? 楯無さんが手を振って出ていくが俺は頬を抑えて呆然として倒れ込む。

 

今日イチ衝撃的な出来事かも...

しかしずっとこんな事してる場合じゃない。さっさとシャワー浴びて今日は寝よう!そうしよう!

 

コンコンッ

 

...イラッ

 

ドン!「何ですか!?」

 

「キャッ! き、桐生さん! どうされたんですの!?」

 

「あ、お、オルコット、さん...。ごめん、少し苛立ってて」

 

そこにはびっくりした表情のセシリアが。

あっぶな...。思わず八つ当たりしてたよ。

 

「い、いえ。大丈夫です。あと、今日来たのは少しクラス代表の事で提案がありまして。」

 

「提案?」




今までで最もワケわかんない話かもしれません。
読みにくいし、いるのこの話と思われた方。
その通りでございます涙

この次は1組のクラス代表決定+出来ればとあるツインテールの登場までやりたいです。
次回もよろしくお願いします。

Next→第16話 勝者とリーダーは決まった!


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第16話 勝者とリーダーは決まった!

この話から週一になると言ったな?あれは嘘だ。
いや調子乗りましたマジすんません!
あの話で終わらせるのは忍びないので急遽連続投稿です。
次話からマジで週一投稿になります。
それではどうぞ!


「1組の代表は織斑一夏くんです。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

数日後のSHRで山田先生が嬉々として話す。

それに合わせてクラスの皆も盛り上がる。一夏は「なんで?」みたいな顔をしてるが

 

「先生、こないだの決定戦は無くなったし仕方なく決めるにしても何で俺なんですか?」

 

「それはーー」

 

「それはわたくし達が辞退したからです。」

 

山田先生の発言を遮り、セシリアが話す。

そう、彼女の言っていた「提案」とは一夏にクラス代表を譲ることなのだ。

セシリアは今回の勝負で再び自分が驕っていた事を痛感し、代表候補生としてあるべき姿になるべく、また新たに勉強を始めたらしい。

そして『ビルド』である俺を気遣い、これからの成長なども考えて一夏に代表を任せようという話になったのだ。

元々俺は面倒だったし、原作通りになって良かったと思う。

 

「勝負はつきませんでしたが、きっとあのまま続いていればわたくしは負けていました。それにわたくしは以前のことからまだ人の上に立てるような器でないと思ったのです。そして桐生さんの正体が『ビルド』であると知れ渡ってる中、彼に任せるのはとても負担になってしまうでしょう。そう桐生さんと話し合ったのです。」

 

「...そうか、分かった。二人の分も頑張るよ」

 

意外とあっさり引き受ける一夏。クラスの皆もそれに賛成する。

ちなみにクラスの皆とは最初こそ少し溝があったものの、相川さん達や本音のおかげで徐々に元の関係に戻りつつあった。

元々気の利く子たちだったからか俺がビルドである事の話を避けるでもなく俺の都合を考えて話してくれたし、「かっこよかった」や「テレビ見てファンだった」なども言ってくれて少し照れくさかった。

未だに別のクラスなどから質問攻めにあったりするが織斑先生や楯無さんに一蹴され、なんとかなっている。

 

「一夏、俺達も出来る限りお前のサポートするよ。教えられることがあったらなんでも聞いてくれ。それでもいいかな?箒さん。」

 

「ああ、構わない。だが、私も同伴はさせてもらう。」

 

こちらも意外とあっさり引き受ける箒。

セシリアが一夏に好意を持ってないと分かってるからか余裕がある。俺達が教える事も一夏の為になると分かってるだろうしな。まあそれでも出来る限りは二人きりで居たいと思ってるだろうが。

 

「そういうわけだ。1組のクラス代表は織斑一夏。異論はないな。」

 

珍しく最後までセリフが無かった織斑先生。

原作と違って皆謙虚になっていさかいも少ないしな。

このまま原作乖離で織斑先生も優しくなってほしいもんだ。

 

パァンッ!

 

「...お前今何か無礼なことを考えていただろう」

 

「すみませんでした」

 

「分かればいい。」

 

ついでにどうやったら読心術が身につくのか教えて欲しいもんだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

四月も下旬に入り、知識だけでなく技能の授業も入るようになったこの頃。

俺達は今外で織斑先生による飛行に関する実践が行われていた。

 

「ではこれよりIS及びビルドの基本的な飛行操縦を実践してもらう。ビルドに関してはあまり意味は無いと思うだろうがISに肩を並べるほどの力を持つものであるということを諸君も理解しておくべきだ。織斑、オルコット、桐生。やってみせろ。」

 

さて、久々にビルドになるな。しかも皆がめっちゃ見てる中。

俺は2人と違いベルトを使って変身するのでピッチピチのスク水みたいなISスーツは必要ない。

(ちなみにビルドの力やフルボトルについては教えられる限り先生達に伝えてある。)

ビルドドライバーをセットし、フルボトルを振る。

 

シャカシャカシャカシャカ

シャカシャカシャカシャカ

 

『タカ!!』

『タァンク!!』

 

レバーを回し、俺の変身を今か今かと待ち続け、皆釘付けになる。

 

『アー ユー、レディィ!?』

 

「変身」

 

掛け声と共にビルドのハーフボディが俺を挟んで合体。

橙と青で形成されたビルドのトライアルフォーム、『ホークタンクフォーム』になる。

あの場で見てなかった者も居たため、興奮して騒ぐ子も居た。

 

「静かに! 織斑も早く展開しろ。熟練のIS操縦者ならば一秒とかからんのだぞ。」

 

そう言われ、一夏は焦りながらも集中し『白式』を呼び出す。

セシリアは既に展開済みで地面から少し距離を空けて浮かんでいた。

その後の織斑先生の言葉で俺とセシリアはすぐさま上昇。一夏も遅れながら遥か頭上で静止した。

 

「スペックでは上って言われてもな... どうしてもまだ感覚は掴めないし飛ぶ時のイメージに慣れないんだよなぁ」

 

「織斑さん、イメージは所詮イメージです。あらゆる方法を試して自分に最適なものを選ぶことがベストですわ。それに織斑さんは飛ぶ時にISがどうなってるのか学ぶよりも体で覚えるよう何度も試す方がよろしいかと。」

 

少し棘があるが全くの正論である。

一夏も自分の事ながら同感なのか頷く。

とは言え多少は言葉を理解すべきだと思う。練習に付き合っていて、というか一応知っていた事だったが箒の教え方は「ぐっ」だの「ずかーん」だの擬音ばっかで酷いのだ。ここら辺は姉妹似た者同士だな。

 

「織斑、オルコット。急降下と完全停止をしてみせろ。目標は地表から10センチだ。桐生は翼を用いてあの時の様に低空飛行をやってみせろ。」

 

「了解です。ではお二人共、お先に。」

 

そう言って慣れた様子で地上へ向かっていく。

一夏も感心したように眺めている。今更ながら彼女の実力が分かってきたのだろう。

さて、とある事の予防のために先俺行くか。

 

「じゃな」

 

「え? お、おう。」

 

俺はそう言って頭から落ちる。そこから翼を広げて一回転。地面スレスレを飛びながら徐々に減速。周りからは拍手が起こる。

よし、用意するか。

 

シャカシャカシャカシャカ

 

『ゴリラ!!』

 

『アー ユー、レディィ!?』

 

「ビルドアップ」

 

俺はタカからゴリラに差し替え、『ゴリラタンクフォーム』にビルドアップする。茶色のボディに目を引く太い腕。複眼はゴリラの横顔になっている。

落ちてくる『白』の落下地点を予測し、ゴリラで受け止め...タンクで支える...!! 地面にタイヤ痕が出来ながらも一夏を受け止められた。

...ふぅ、なんとかクレーターが出来なくて済んだな。

 

「良くやった、桐生。それに引き換え織斑。桐生が受け止めなければ地上に激突していたぞ。ちゃんと覚えろ馬鹿者。」

 

「はい...。」

 

いや確かに穴あく所だったけど厳しすぎませんかね?

俺は一夏を下ろす。これ以上やってたらキャーキャーうるさいし。

次は武装の展開の実践である。

 

まず一夏が『雪片弐型』を呼ぶ。

右腕から光が放出、形を作り上げ完全に光が収まると実体化していた。

 

「遅い。0.5秒で出せるようになれ。次はオルコットだ。」

 

やっぱり褒めなかった。一応こいつ日頃から出せるように努力してんのにな...。

 

「はい」

 

すると左手を肩まで上げ、右手から強い光が。一夏と違い、一瞬でライフル『スターライトmkⅢ』が展開される。これはやはり経験の差だろう。あれから再び努力をし、正面に向けて展開も出来ている。

左手を上げる癖はまだ抜けてないが最初と比べればマシになった方である。

 

「よし、次は近接用だ。」

 

「はい!」

 

先程よりも強い声で気合を入れる。

ライフルを光の粒子に戻し、今度はナイフの様な武器『インターセプター』が出てきた。

これもまたセシリアの努力で出来るようになったものだ。

あれから俺もセシリアの練習に付き合い、偏向射撃は未だあれ以来出来ていないがある程度は素早く出来るようになっていた。

やはりセシリアには才能があるのかもしれない。

 

「上出来だな。改善すべきは左手を上げる癖だ。なんとかしておけ。これからも鍛錬を怠ることのないように」

 

「は、はい!」

 

織斑先生に褒められ嬉しそうにするセシリア。

次の俺の番ではドリルクラッシャーを展開し、ブレードモードからガンモードへ素早く変形させたりしてお褒めの言葉を貰い、授業は終わった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

夜、IS学園にツインテールの小柄な女が立っていた。

 

「ふぅん、ここがそうなんだ...。さて受付はーっと」

 

そう言ってポケットから紙を1切れ出す。しかしそれはくしゃくしゃになっており、文字が見にくくなってしまっていた。

 

「本校舎1階総合事務受付...がどこにあるのか分からないから探してんだけど。 はあ、自分で探すしかないわね。」

 

ぶつくさ言いながら再び歩き出す。

しかしやはり良くわからない。誰か案内してもらえる人がいないかと辺りを見回すと...

 

「ん? 男子? って事は一夏?」

 

「え? あ、凰さんか。どうしたの?」

 

そこには一夏と同じくらいのルックスにすらっとした背、優しそうな雰囲気を漂わせた男だった。恐らくこいつが『2人目』の「桐生建兎」で『ビルド』なのだろう。

 

「えっと、実はここの場所が分かんなくて」

 

「えーっとここはね...。こっち」

 

そう言って先導してくれる。やはり雰囲気で感じた通り優しい奴だ。

...ん? 『凰さん』?

 

「ねえ、なんであんたあたしの名前知ってたの?名乗ってないわよね?」

 

「え?あ、あー。調べたんだ、中国の代表候補生の凰鈴音さん。俺結構気にするからそういうの。」

 

そうは言うが少し焦ったような様子でなーんか気になる。けどまあそういう事でいいか。

 

「ふーん勉強家なのね。あたしは他の国の事とか気にしないけど」

 

「あ、言い忘れてたけど俺は「桐生建兎でしょ?それくらいは知ってるわ。何せ『ビルド』だしね」そ、そうなんだ。あ、ここだよ。」

 

「ん、ありがとうね。あ、ちなみに一夏って何組か知ってる?」

 

「一夏は1組だよ。ついでにクラス代表だし。」

 

「ええ!?あいつが!?じゃあ、あたしもクラス代表になれば...いや、同じクラスならそれはそれで...

 

「えっと、凰さん?」

 

おっといけないいけない。ついつい自分の世界に

 

「ん?ああごめん。ちなみにあんたは?」

 

「俺も同じ1組だよ。」

 

「そ。あ、ここまで本当にありがとうね。また礼はするわ。」

 

「いいよそのくらい。じゃあこれから縁あったらよろしくね。」

 

そう言って桐生と別れ、私は受付へ向かう。

聞くとあたしは2組らしいからこれはもうクラス代表になるっきゃないわ!!

待ってなさいよ、一夏!あと桐生!




というわけでセカンド幼馴染、鈴ちゃんとの邂逅でした。
鈴ちゃんの言葉遣い難しい...。
色々模索しながら頑張ります!
それではまた次回!

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第三章 クラス対抗戦編
第17話 現るハーフの幼馴染


えー大変申し上げにくいのですが「楯無さんのキス」
あれは頬にしたものです。混乱させてしまい申し訳ないです。
ちゃんと描写すべきだったのですが忘れてしまいました。
それに彼女にとってのそれは「褒美」と合わせて「驚く顔を見るためのイタズラ」という感じです。
ちゃんとこの作品が投稿され次第修正します。
では最新話どうぞ。


クラスの皆が代表となった一夏を祝うパーティが開かれるらしいので行こうとしたら一夏に外へ呼び出された。

 

「で、なんだ話って」

 

「ああ、俺が攫われた第二回 モンド・グロッソの話でちょっとな。遅くなったけどあの時助けてくれて本当にありがとな。」

 

「...よせよ今更。照れるわ。」

 

「いや、言わせてくれ。俺はあの時からビルド(お前)みたく強くなりたいって思うようになったんだ。千冬姉達だけじゃない、誰にでも手を差し伸べられるようにな。」

 

まさか一夏にそこまで思われてたとはな...。あの時は結局目的全部が達成出来ずに意味あったのかなって思った事もあったけど、やっぱりビルドの力があって良かった。

 

「...ああ、分かったよ。でもそろそろ行こうぜ。主役が遅れちゃいけないだろ?」

 

「ん、そうだな。行くか。」

 

夜の少し冷たい風を感じながら俺達は食堂へ向かう。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

食堂へ着くと遅れて同時にやって来た俺達に「腐」の属性を持つ方々がヒソヒソ話していたが俺は無視した。なんか慣れてきたし

 

一夏は皆から祝福され、箒に少し嫉妬される。

セシリアは皆に混じって色々と話をしていた。

そして2人は取材に来た先輩の質問にそれとなく答えている。

ちなみに俺は少し離れた所で本音と居る。「本音と」ってゆーか本音がこっち来たんだけどさ。

本音は俺がビルドと分かった時でも変わらず接してくれたのとクラスの皆との仲を取り持つのにも尽力してくれたため頭が上がらない。

現にこうやって有無を言わさず抱きつかれて周りの子から羨ましがられる。本音にはうまく言えないが母性のようなものがあるからか、抱きつかれると心地よい。とは言っても恥ずかしいんだよな〜。

 

「きりりん、あの時助けてくれてありがとうね〜!凄く嬉しかったよ〜!」

 

「ううん、布仏さんこそありがとう。皆に説得してくれて。凄く助かった。」

 

そう言ってなんとなく頭を撫でる。少し驚いていたがすぐに嬉しそうに撫でられた。

 

「ん〜、気持ちいい〜♪ ねぇ、私のことは本音って呼んで〜?」

 

「え!? あ、ああ。じゃあ、その、本音...?」

 

「!! うん!これからちゃんとそう呼んでね〜!」

 

そう言って抱きついてくる。これには俺も恥ずかしくなる。周りもキャーキャー湧いてるし。

 

「おぉ〜、ラブラブだねぇ。ところで少しいいかな?」

 

「なんです?」 「ら、ラブラブ...。 えへへ~」

 

「初めまして、一つ上の新聞部の黛 薫子よ。取材させてもらってもいいかしら」

 

「ビルドの事以外なら...」

 

「了解、まあその辺の事はたっちゃんから聞いてるからいいけど。じゃあ桐生くんはクラス代表の織斑くんに何か意見ありますか?」

 

「そうですね...とりあえずシスコンを治すべきかと」

 

「おいまだ言うか、ちげーからな!!」

 

一夏のツッコミが響く中、パーティはつつがなく終わった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

翌日、クラス内では2組に新しく中国からの代表候補生が来たことが噂されていた。十中八九鈴だろう。

その話を聞いた一夏は心当たりがあるためその子の顔を思い浮かべている。

近々クラス代表戦が行われる中、そんな調子じゃダメだ。と箒やセシリアはそんな一夏にハッパをかけていた。

優勝したクラスには学食のスイーツ食べ放題の権利が貰えるため皆も応援する。

 

「織斑君が勝てば皆幸せだよー!」

 

「それに専用機持ちは他に4組だけだから余裕だよ!」

 

 

「――その情報古いよ」

 

ドアの方を皆一斉に向くとツインテールの小柄な女...これ2回目だな。が腕組みし片膝立ててドアに寄りかかり立っていた。

 

「2組のクラス代表も専用機持ちになったの。そう簡単には優勝出来ないわよ?」

 

すると一夏は予想が当たったので驚き、

 

「鈴? お前鈴か?」

 

「そうよ。中国の代表候補生としてクラス代表のあんたと桐生に宣戦布告しに来たわ!」

 

と、ビシッと決めるが

 

「何やってんだ?似合ってないぞそれ。」

 

「もう少し身長があれば良さげなんだけどな。」

 

「な、何言い出すのよあんたら!!」

 

俺と同意見だったようで一夏は冷静にツッコむ。

結局織斑先生が来て鈴に一撃。そそくさと帰って行った。

「あいつは誰だ」と一夏は箒に、本音は俺に詰め寄るが織斑先生の言葉で渋々着席。

その事が気になって授業中も集中出来ず、何度も頭を叩かれていた。

そして何故か本音も山田先生から注意を受けていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

授業が終わると箒は自分の失態を一夏のせいにし出す。それを見たセシリアが呆れながらも気を利かせ昼食を取ろうと提案する。

食堂に着くとそこにはラーメン片手に仁王立ちする鈴が。

 

「待ってたわよ一夏に桐生! というか何で早く来ないのよ!私がラーメンを持って待っててあげたってのに!」

 

「約束もせずにここに居た、お前が悪い。」

 

「ぐっ、席取っておくからさっさと来なさいよ!」

 

俺の正論により鈴は逃げるように立ち去る。

 

俺はこの話知ってるから同じ席にはつかないけどさ。何より修羅場に遭遇なんてしたくない。

 

「きりりん〜、りんりんとどうして知り合いなの〜?」

 

「わたくしも気になります。いくら桐生さんが話題に上がったとは言え何故あそこまで親しかったんですの?」

 

ご飯を食べようとすると本音がちゃっかり隣に座り、鈴との関係について聞いてくる。それはセシリアも同じのようだ。

 

「凰さんが初めて学園に来た時に俺が道案内しただけだよ。」

 

「なんだ、そうでしたの。」

 

「良かった〜。」

 

と、俺達が談笑する中、向こう側の席は絶賛修羅場中だ。

言わずもがな鈴は一夏に惚れている。中学の時に中国出身というだけでいじめられてたのを助けられたかららしい。

だが当然唐変木の一夏は気づくはずもなく鈴を「ただの幼馴染」として認識しており、「彼女なのか」という質問の返答で箒は安堵、鈴は分かってはいたものの怒りを露わにする。

そして互いにライバル(一夏ラバーズ)同士熱い握手を交わす。

背中にはブラックサンとシャドームーンが見えるような...

どっちがどっちかはご想像におまかせする。

本人を他所に織斑一夏(バトルホッパー)を取り合う2人を後にした。

 

そしてその後は特筆することも無く昼食や授業が終わり、今はアリーナで一夏のトレーニングをする所だ。

箒は打鉄を借りることが出来たようで今日は共に訓練する。

 

「で、どうするんだ?」

 

「とりあえずお前は動かす事に慣れることだな。あの時偶然出せた瞬時加速(イグニッション・ブースト)をいつでも出せるようにな。あと零落白夜を使うタイミングを気にすることだ。これはもう実践で『ここ!』って時を見計らうしかないな。」

 

「んー.... やることばっかだな...。」

 

「仕方ないだろ? そういう訳で白式を纏っての歩行や飛行、零落白夜のタイミングについてはまずは箒と対戦して、瞬時加速は俺とセシリアが距離を取りながら攻撃するから身体に馴染ませるしかないな。」

 

「よし、分かった!」

 

そうして俺以外の3人はまず基本的な動作を行い、一夏は途中で箒やセシリアにボコボコにされながらも、なんとかやり抜き訓練は終わった。

今回はあくまで瞬時加速や零落白夜のタイミングに集中しながらだったのでこのような結果になった。

 

俺は訓練の後、先に一夏に更衣室に行くよう促しトイレに向かう。

....何か俺がトイレに行くたび何かしら起こるんだよなぁ

聞いたことねぇよこんなジンクス

 

この後に起こるアクシデントと言えば一夏と鈴のケンカにクラス対抗戦の時の謎のISの乱入だが、今回は束姉さんはそんな事はしないだろうし....

とは言え何かしらあいつ(一夏)がやらかすのは間違いない。

俺はトイレを済まして出ると走り去っていく鈴を見つけた。

箒も鈴も....頑張れ

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ねぇねぇ〜、ご飯食べに行こう〜?」

 

「ん、いいよ。俺もそろそろ行くつもり。」

 

夕食を食べようとしていたら本音からお誘いが。

パーティ以来頻繁に本音から声を掛けられたり一緒になっているのでこれが日常的になっている。

まあ未だに抱きつかれたりするのは慣れないけどさ。

 

「ねぇ、腕繋いでいい〜?」

 

「え〜? まあいいけどs」

 

「やった〜!」

 

...こんな感じで有無を言わさずやってくる。こんなだから本音は俺のことを...とは思うがそれはきっと箒達と同じく子供の頃の思い出が美化されて、俺=自分を助けてくれたヒーロー。という子供が抱く憧れのイメージ像が出来上がってるだけだろう。

異性から好かれる事は決して嫌じゃないし、むしろ嬉しいくらいだ。

けど俺は本音のイメージとはかけ離れている。

ヒーロー像はビルドによるものだけだし、クラスの人から俺が変身者だった事に「意外」と言われた事もある。

結局俺はビルドのようなヒーローとはかけ離れた男なんだ。ただの転生した一般人だしな。

いつか彼女も自分の気持ちの正体に気づくだろう。

 

「ぐすっ、ひぐっ...」

 

と、どこかですすり泣くような声が聞こえた。

...やっぱりやりやがったのかあいつは。

声のする方に本音と行くとそこには朝、1組に宣戦布告してきた時の勢いの良さなど見られない俯いて悔しそうに泣く鈴が居た。




転生してる時点で一般人じゃないよね
ヒロイン候補についてですが圧倒的に5のハーレムが多く、そこから+してラウラや大人達の名前も挙がっています。その中で違いがあるとすればシャルを入れるか入れないかという感じです。
試しに大人組から誰か入れてみようかな?
それではまた次回!

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第18話 怒りのドラゴンアサルト

サブタイトルのネタがどんどん無くなる...
そして活動報告でこれからの更新に関する重要な話があります。
絶対目を通してください。



俺達はとりあえず泣いてる鈴に声を掛ける。

 

「えっと、大丈夫? 凰さん。」

 

「どうしたの〜? りんりん〜?」

 

「あだじはパンダじゃないわ!」

 

『りんりん』というワードを聞いた瞬間くわっ!とこちらを見てくる。良かった、多少元気になったようだ。

 

「一夏との事で何かあった?」

 

「....ええ、ちょっとね。今回はあいつが許せないわ。」

 

「そっか...。とりあえず俺の部屋来る?ここにいるのもなんだし」

 

「えぇ〜!? きりりん、女の子を部屋に連れ込むの〜!? ダメだよ〜!!」

 

「はっ! まさか桐生、あんたそのつもりで!!」

 

「いや邪推しすぎだから!話聞くだけだから!」

 

俺そんな事するように見えるのか...一夏じゃあるまいし。

ひとまず元気になった鈴を連れ、俺たちは元いた俺の部屋へ戻り、本音と鈴それぞれに飲み物を出す。つっても麦茶だけどね

すると俺が出した椅子には鈴が座っていたが本音は俺のベッドで寝てる。

 

「いや本音...。なんで俺のベッドに横たわってるんだ?」

 

「え〜? だめ〜?」

 

「いいから降りなさい!」

 

猫の如く首根っこを掴み降ろす。本音が「む〜」とか言って睨んでくるが可愛いだけである。

 

「あんたらね...あたしは今一夏との事ですごい傷ついてんのに目の前でイチャイチャしないでくれる!?当てつけ!? 当てつけなの!?」

 

「違うよ! で、何があったの?」

 

「ああ、実はね...」

 

そこから先は原作と同じだった。

鈴は一夏の同室の相手が女でしかもライバルの箒という事が分かると部屋替えを懇願。当然箒は拒否。

そんな中で一夏に昔した約束を覚えているか確認した。

それは「料理が上達したら毎日酢豚を食べさせてくれる」というまんま日本で言う味噌汁のやつだ。

しかし何を間違ったのか一夏は「酢豚を奢ってくれる」と勘違い。

あまりに酷いと鈴は激怒、一夏を殴って出ていってしまった、というわけだ。

 

「それはおりむーが悪いね〜。」

 

「でしょ!? あいつはなんでいつもああなの!? あたしはあいつの専属コックか何かだと思われてるのかしら!!」

 

「まあとりあえず落ち着きなよ。それで凰さんは一夏とどうしたいの?仲直りしたいのか約束を分かってもらいたいのか」

 

「あたしは...少なくとも今は仲直りしたいとは思わないわ。さすがに許せないし、約束の内容どういうことなのか教えてって言われたとしてもそんなマヌケな事出来るわけないし」

 

「だとしたらクラス対抗戦があるからその時に決着つけたら?それまでの間は一夏と話すか話さないか凰さんが決める。ってことで」

 

「正直大した作戦じゃないけどその通りね。今はそれしかないわ。」

 

少しグサっと来た。ちくしょうこちとら仲持たせるために尽力してるっつーのに。

 

「色々ありがとうね、2人とも。あ、あたしの事は鈴って呼んでよ。呼びにくいでしょうし。あんたの事は建兎って呼ぶから。」

 

「なんでそんな一方的に...「いいから!」...鈴。」

 

「んー、よろしいっ! じゃあまた明日ね。」

 

鈴は嬉しそうな顔で部屋を出ていった。

俺たちに愚痴をぶつけることでうっぷんを晴らせたのだろう。それならば良かった。

すると本音はジト目で俺を見てくる。

 

「...」

 

「...何?」

 

「別にー(フイッ)」

 

その後ぷくーっと頬を膨らませた本音を宥めるのに苦労した。

翌日、クラス対抗戦の張り紙には1組(一夏)VS2組()というセッティングで運命もいきなり2人の決着をつけさせようとしていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

それから数週間、鈴は一夏と全く接しなくなっていた。

1組に来る事も共に食事を取ることもなく、例え会っても目を逸らしていた。

一夏は俺に「鈴について何か知らないか?」と聞いてきたが答えなかった。

そんな事は自分で考えるべきだし何より普通なら考えなくても大抵の人は分かるだろうし。

 

そんなこんなで今は一夏の特訓中。

箒とセシリアがメニューについての話し合いをしていると鈴が入ってくる。

すると箒は途端に顔をしかめる。

 

「貴様、どうやってここに...。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

 

「あたしは一夏関係者よ。だから問題なし。というか今はあたしが主役なんだからあんたは引っ込んでて。」

 

「な!何!?」

 

「...で、一夏。少しは反省した?」

 

! 鈴...。

このタイミングで自分から譲歩したか。すごいな、少し前はあんなだったのに。やっぱり鈴は一夏が好きでこのままじゃ嫌だからなんとかしたいと思ってるのだろう。

さて、一夏はと言うと

 

「は? 何をだ?」

 

「はあ!?」

 

うん、やっぱりな。知ってたけどさ。

 

「だから、あたしに対して謝ろうって気はしないのかってことよ!いいから謝りなさいよ!」

 

「いや、何を謝るんだよ! 約束のことなら覚えてたろうが!」

 

「意味が違うってのに! ああもう!」

 

目の前の男に対するイライラに地団駄を踏む。

 

「じゃあどういう意味なのか教えろよ!」

 

「な、そ、それは...その...」

 

「じゃあもういい、クラス対抗戦で俺が勝ったら説明してくれよ。その代わり鈴が勝ったら何でも言う事聞いてやる。」

 

「「!!」」

 

その発言に箒と鈴が反応する。

大方「付き合って」って言おうとか思ってんだろうな。

まあ言葉の理解出来ずに終わるのがオチだが。

 

「な、なんでも? だったら..一夏と...ごにょごにょ...

 

「なんだ?自信ないならやめてもいいぞ?」

 

「なっ、冗談! 何があってもあんたみたいな初心者の下手くそには負けないわ!」

 

「っ! 俺だって色々と努力してんだよバカ!」

 

「バカとは何よバカとは! それはあんたでしょうがこのアホ! ボケ!」

 

 

 

 

「うるさい、貧乳」

 

 

 

 

ドガァァァン!!

刹那部屋の中で轟音が響く。鈴は片腕に装甲をつけ、怒りの表情を露わにする。

これはもうどうしようもない。一夏の有罪だな。

 

「言ったわね...。言ってはならないことを、言ったわね!」

 

「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。」

 

「今の『は』!? 今の『も』よ! あの時からずっとあんたが悪いわよ! もういいわ、手加減なんてしない。死なない程度にはボッコボコにしてあげる。」

 

 

そう言って鈴は殺気を放ちながら出ていく。

 

「ちょ、ちょっと待てって鈴!」

 

「一夏、今は無駄だ。話なんか聞いてくれないよ」

 

「で、でも...」

 

「まあ、俺が鈴のサポートに回るから一夏はとりあえず訓練に専念してくれ。」

 

「...」

 

はあ、やれやれ。やっぱりこうなったか。でも俺は今回は鈴の味方だからな。そう言って鈴について行こうとすると

 

「おい建兎! なぜお前は奴の味方をする!? お前は1組だろう!」

 

「そうですわ!今のは織斑さんが悪いですがなぜなんですの!?」

 

2人から問い詰められる。

俺としては誰が優勝しようとどうでもいいんだが原作を知ってる知らないに関係なくあの状態の鈴は放ってはおけないし、味方にならないといけないだろう。

事情を知ってる俺くらいは、な。

 

「箒さんは一夏と鈴さんとの事知ってるでしょ? それだけだよ。俺くらいは彼女の味方でないと」

 

「!!」

 

箒はハッとした顔で目を見開く。

箒も鈴に対してライバルとは言え多少は同情してるのだろう。俺の一言に何も言えなくなった。

セシリアは知らないので「?」を浮かべているが

そうして俺も大きく凹んだ穴のある部屋を出ていき、鈴を追った。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

部屋から少し離れた所に鈴はうずくまっていた。

泣いてはおらず、人目のつかない所でただただ座っている。

 

「えーっと、鈴さん...?」

 

「...建兎」

 

ゆっくり顔を上げてこちらを向く。

とてもじゃないが表情は良いとは言えず、怒りや悲しみ、そして悔しさを混ぜ込んだような感じだった。

 

「あたし間違ってたのかな...。一夏にまた会いたくて、異性として見て欲しくて、ケンカしたままじゃ嫌で、頑張ったつもりだったのに...。」

 

「...」

 

重い口を開く鈴。

先程の出来事に後悔の念があるのだろう。もしかしたら自己嫌悪に陥ってるのかもしれない。すぐ手が出てしまう、自分に。

こんな俺が口を挟むのは如何なものかとは思うが仕方ない。

俺は原作ファンとして、ビルドとして二人の仲を守りたいからな。

 

「...間違ってなんかないよ。絶対。」

 

「え...?」

 

「ああやってケンカ出来るってことは心の底からぶつかり合えたって事でしょ?結果はまた仲違いになっちゃったけど、それでいいんじゃないかって俺は思う。」

 

「ぷっ、何それ。ケンカする事がいい事なの?」

 

「んー、ケンカそのものというか。お互いが心置き無く話せるその仲間の証が良いって言うか...。」

 

「あははっ、結局何言ってんのか訳わかんないわ。あーでも笑ってたらなんか色々吹っ飛んだし、なんかこんな事してる場合じゃないって感じ!うだうだしてるのはあたしらしくないし!」

 

高笑いをしながらも俺に感謝し、自らに活を入れ、立ち上がる。

そうだ、こうでなくてはならない。これこそが鈴のあるべき姿なんだ。

 

「よーし!そうと決まれば訓練よ!建兎!あんた相手になんなさい!」

 

「え!? なんでそうなるn」

 

「早く!アリーナの時間決められてんだから!」

 

「いやっ、ちょっ、助けてえええー!」

 

強引に鈴に引っ張られ連れ去られる俺。

なんでこうなる...いつも一夏のフォローしては被害受けてるよ全く...。

その後無理やり戦わされて凄い疲れた挙句に前よりも仲良くなった光景を楯無さんと本音に見られたため、楯無さんからは散々弄られ、本音はまたしても頬を膨らまして拗ねてしまい俺を困らせた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

試合当日。

アリーナ内は満員で溢れる程の人だかり。

そんな中、俺は箒やセシリアと共にモニターで観戦している。

2人とも準備完了でピット内で試合開始を待ちわびており、気合十分と言った感じだ。

箒は一夏の心配をし、セシリアは黙って様子を見守る。

かく言う俺は万が一起こるかもしれない『謎のIS襲撃事件』に気を配っていた。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください。』

 

「一夏、今謝っても遅いからね。何がなんでも勝ってやるわ。」

 

「どうせ謝ったって痛めつけるレベル大して下げてくんないんだろ?全力で来いよ。」

 

「ふーん、自信たっぷりね。あたしだってその気になればシールドエネルギー以上のダメージをあんた自身に与えられるんだからね」

 

これは本当だ。

IS自体『絶対防御』なるものが存在するがあくまで最終手段。

高い力を持つ機体や技術を持つ操縦者の手にかかれば殺さないレベルでやることは出来る。

一夏がどれだけこれまでの期間やってきたとしても鈴とはあらゆる所で差がある。しかもとても大きな差が。

 

『それでは、試合開始!』

 

ブザーの音と共に両者は動き出す。

鍔迫り合いになり、一夏は『雪方弐型』を構え応戦するが鈴の持つ巨大な双刃刀には歯が立たず、押され気味だ。しかもそれを鈴は軽々と振り回し連撃を加える。

このままではパワー負けすると踏んだ一夏は距離を置こうとするが

 

「甘いっ!!」

 

刹那一夏の身体は爆音と共に大きく吹き飛ばされる。

よく見れば鈴の機体『甲龍(シェンロン)』の肩アーマーが開き、光を帯びていた。

ちなみに七つの玉を集めても甲龍は2体にならない。

 

「なんだあれは?」

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成し、残った衝撃をそのまま砲弾化して撃ち出すブルー・ティアーズと同じ第三世代兵器ですわ。」

 

目の前の不可解な出来事に思わず呟く箒。

そう、セシリアの言うあれこそが甲龍の特性。「目に見えない砲台」である。

しかもあれは角度に関係なく撃つことが可能で、それを鈴は使いこなしている。かなりの強敵だ。

現に先程から鈴の猛攻に一夏はへとへとになっていた。

無理もない。砲弾どころか砲身すら見えない武器に初見で躱しきれという方が無茶だ。しかし若干当たりながらも直撃を避け続けているのでこれでも凄い方なのだ。

かと言ってこのままではジリ貧である。

 

しかし一夏には一発逆転の一手(零落白夜)がある。

というか文字通りそれしかない。

武器も技術も知識も経験もない一夏が勝つにはチートと言われても仕方ない武装でやりきるしかない。

だが問題はタイミングだ。

俺が一夏の練習を見てた間、零落白夜の使うタイミングを口を酸っぱくして言っていた。

もちろんそんなすぐに身につく訳もないがやるしかない。

どうにか瞬時加速は身につけたため、それで上手くいくか...。

 

隙をつこうと鈴の周りを持ちうるスピードで飛び続ける一夏。

鈴が両刃青龍刀を構え直し、衝撃砲が撃たれる直前のこの瞬間、勝負に出るっ...!!

思ってもみなかった奇襲に鈴は驚くが間に合わない、これでーー行けるかーーー!?

 

 

ズドオオオオオン!!

 

 

その時アリーナ内で大きな衝撃が走った。

俺は忘れてたこの出来事を思い出しゴーレムだと警戒する。

砂埃が散る中を見るとアリーナの中央には

 

「はあ... めんどくさいしねむいし。なんでわざわざあたしが...。」

 

そこには『ビルド』のヒロインこと、石動美空が複数のISを率いて立っていた。




作者自身こんなで良いのか?とか思いながら書いてるので矛盾などあったら言ってください。
それではまた次回!

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第19話 放たれる輝きとデストロイヤー

この回は元々投稿していた話でしたが削除、再アップしました。
詳しくは活動報告に載っています。
勝手なことをしてしまい、本当にすみませんでした。


「なんだあいつは!?」

 

「山田先生! 生徒に避難勧告を!」

 

「...!!ダメです! 扉がハッキングされたのか全てロックされています!」

 

「ならば織斑と凰に撤退命令を! 至急教師達に制圧に向かわせる!」

 

「は、はい! 織斑くん! 凰さん! 聞こえますか!? 今すぐーー」

 

ピット内が喧しくなる中、俺は周りとは全く別の事で驚いていた。

な...なんで!?なんで美空が!?

石動美空と言えば本家『ビルド』ではマスターこと石動惣一に助けられ、スマッシュの成分を浄化し新たなフルボトルを生み出せる謎のヒロインであった。

そんな彼女がなぜ亡国機業(ファントムタスク)側に!?それともファウストでもいるのか!?

 

そんなこんなでいるとアリーナ内は大混乱。

ドアが開かない中、先程から謎のISのビームによる攻撃で大変なことになっていた。

 

一方、山田先生の命令に背き自分達でなんとかしようとしている2人。

 

「なんだお前...。何が目的だ!」

 

「知らないし。あたしはただ命令されてるだけだし。」

 

「ふざけんじゃないわよ!」

 

鈴と一夏は美空を問い詰めるものらりくらりと返される。

痺れを切らして彼女に衝撃砲を放つもゴーレムによって防がれる。

ゴーレムは少し仰け反るだけで大したダメージは無いようだ。

 

ゴーレムは3体。

それらが美空を守るように周りに配置され、一夏達から攻撃を受けるたび回転、ビーム兵器で迎撃。

と言った動きだ。

 

美空がいる以上原作知識なんて意味ないし何が目的で来たのかも分からない。

とりあえず俺は箒達と共に避難をさせる事にした。

 

「織斑先生、俺は避難を促してきます! その為に最悪ドアを破壊することになりますがいいですか!?」

 

「っ! ...ああ、今は非常事態だ。私が責任を持つ。頼んだ。」

 

「わ、私達も行く!」

 

そう言ってピットを出てドアに向かう。

ドアの前では開けようと必死に制御を試みる先輩や多くの生徒が泣いたり喚いたりしていた。

とは言え、前回の事故の教訓を得た人たちは必死に声を上げて他の生徒を落ち着かせていたため、マシだった。

この状況では本当に助かる。

 

『ハリネズミ!!』

『ダァイヤモンド!』

 

『アー ユー、レディィ!?』

 

「変身!」

 

俺は『ハリネズミモンドフォーム』に変身し、ドリルクラッシャーを生成。

そこにハリネズミフルボトルを装填。

 

『レディ、ゴー!!』

 

『皆、ドアから離れて!』

 

注意を促し扉の前へ立ち、ダイヤモンドボディの力で扉をダイヤに変え、少しひびを入れる。

 

『ボルテック、ブレェェイク!!』

 

『イェェーイ!!』

 

『はぁぁぁ、ハアっ!』

 

トリガーを引き、けたたましい音声と共にドリルが回転。

ひび割れた所に突き立て穴を広げ、どんどん破壊していき綺麗に扉の部分だけ穴が空いた。

 

『よし、皆落ち着いて脱出して! 出来る限り固まって行動するように!』

 

その言葉を皮切りに皆が動き出す。

2、3人が手を繋ぎ本音や相川さん達は誘導をしていた。

 

さて。俺は織斑先生に連絡を取る。

 

『織斑先生、俺も一夏達の援護に向かいます。遮断シールドも破壊することになりますが...その...』

 

『...ああ、分かった。下手にたくさん援護に向かわせるよりはお前に任せた方が良いだろう。シールドの破壊も許可する。』

 

『了解です。』

 

よし、許可は降りた。生徒達は引き続き彼女達に任せてさっさと俺も一夏達の援護に

『一夏ぁっ!!』

...!? この声まさか!

 

『男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』

 

マジか、もうかよ!

幾ら何でも早いだろ、観客席側から見てもまだ一体も倒せてないし美空はもう既に飽きたような顔してるし、ってこれは元からか。

 

と、同時にゴーレムの一体が箒の声のした方へ向き、レーザーを撃たんと構える。

まずい、このままじゃ箒が撃たれる!!

俺は壁を伝って箒の声に困惑している生徒を飛び越え全速力で放送室に駆け出した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

一夏Side

 

「はあ、はあ。 なんで攻撃が効かないのよこいつ!」

 

鈴が目の前のISに怒ってる。

かく言う俺もさっきからチャンスとばかりに踏み込んでもロクに攻撃が当たらず迎撃されて手詰まりだった。

俺も鈴も試合中だったしエネルギーはもうあと少ない。

 

くそっ!こんな状況でどうすれば!?

 

「そう言えばさ。」

 

唐突に女が口を開く。

その時IS達の動きも止まる。

まさか、この子がこいつらを動かしているのか?

 

「ビルド知らない?あたしそいつに用があるんだった。」

 

「はっ!知ってても言うわけない、でしょ!!」

 

鈴は好機とばかりに女に龍砲を放つがISに再び遮られる。

さっきまで動きを完全に停止していたISが咄嗟に回転して女を守っていたということは...やっぱりこの子がこいつらを動かしているのか!

 

「そ、まあいいけどね。探せばすぐ見つかるだろうし。」

 

攻撃されているというのに涼しい顔で話す女。

なんで建兎に用があるんだ? 一体こいつは何のためにーーー

 

『一夏ぁっ!!』

 

!?な、何だ!? 急にでかい音が!

これには鈴や女も顔をしかめ、困惑する。

音がした方へ向くと箒が審判とナレーターを気絶させてこちらに怒ってるような焦ってるような顔を向けていた。

何やってんだよあいつ...

 

『男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』

 

「「....」」

 

俺達はしばし呆然としていた。

気がついたらISの一体が箒に向けてレーザーを撃とうとしていた。

 

「! 箒、逃げーー!」

 

「もう遅いよ。」

 

箒に声をかけようとしたが無情にもレーザーは発射され、放送室は爆発。

認めたくない光景に俺は言葉を失った。

 

「箒ぃぃぃぃ!」

 

「っ! あんた、絶対許さないわ!」

 

怒りの表情と共に鈴は青龍刀を構えて特攻する。

...落ち込んでる場合じゃねぇ。

俺は今すぐこいつを!ぶっ飛ばす!!

 

「はぁぁぁ!!」

 

「無駄だって。」

 

無人機と分かってる俺は零落白夜を起動。

ISを一体叩き切った。これには鈴と女も驚く。

 

「!?」

 

「い、一夏!あんた何やって!人を...」

 

「鈴、こいつらは中に人はいない!遠慮なく行くぞ!」

 

そう言って鈴に促すが元々少なかったエネルギーが底をつき、白式が解除されてしまう。

 

「な!?」

 

「一夏!」

 

「人が居ないのに気付いたのは驚いたけど...これでおしまいね」

 

女の無情な言葉を投げかけISが俺に向かって突撃してきた。鈴は俺の元へ駆けつけるが間に合わない。

俺は死を覚悟し目を瞑る。が、途端に銃声が聴こえ俺に拳が届くことは無かった。

 

「...好き勝手やってくれたな」

 

恐る恐る目を開けるとISは眼前で拳を止め、鈴と女は一点を見ている。

その方向へ目を向けるとそこには銃を構えた建兎(ビルド)が立っていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

ふう、なんとか間に合ったな。

箒は俺がハリネズミで刺した鉄くずなどを即席の壁にした後、レーザーが届く直前で抱き寄せてダイヤモンドボディで直撃を免れながら耐えたため無事だった。

しかし、迫り来るレーザーへの恐怖からかその瞬間に気絶してしまったようだ。

3人を安全な場所へ移動させ、俺は今度こそ援護に向かう。

遮断シールドがレベル4?だったかな?

だがダイヤモンドに変換してしまえば俺には関係ない。

 

もう既に避難は終わっているため、先程の扉と同じ要領でシールドを破壊。

中に入ると白式が解除された一夏がゴーレムに狙われていた。

俺は咄嗟にガンモードで牽制。ゴーレムは動きを止め、こちらを向く。

さて、とりあえず俺は奴らをボコボコにしないと気が済まない。

 

「...好き勝手やってくれたな」

 

少なくとも美空以外はスクラップにしてやる。

それだけ生徒達が傷つけられた事が許せなかった。

 

「あ、ビルドじゃん。あんたに用があったんだけどさ、一緒に来てくれない?」

 

美空はそんな事を言うが俺は無視する。

面倒臭がりなのは変わらないが本編『ビルド』より少しアグレッシブだ。

こっちの美空はそんな印象を受ける。

 

『桐生くん、落ち着いてください!』

 

「桐生さん!わたくしも手伝います!」

 

すると空けた穴からセシリアがブルー・ティアーズを纏って出てくる。

二人の声に俺は少し冷静になる。

そうだ、今は一夏を保護する事が最優先だ。

自分のことばっか気にしてたら、いけない!

 

「鈴、俺がそいつらを止めてる間一夏を連れて退避してくれ!セシリアは俺と鈴のカバーを頼む!」

 

「了解!」 「分かりましたわ!」

 

俺はゴーレムへとジャンプし、ドリルクラッシャーを打ち付けながら、ハリネズミで拘束。

その瞬間にビットでセシリアは他のゴーレムの動きを止めるためビットとレーザーによる援護射撃、鈴は一夏を支えて脱出する。

 

生憎ゴーレムの動きは原作と先程からの映像でよく見てたから理解している。

俺はゴーレムの回転やレーザーを躱し、拘束したゴーレムの体を徐々にダイヤモンドに変え優勢になる。

 

「へぇ〜、そんなことも出来るんだ。」

 

「...」

 

「そんな事言ってられるのも今の内ですわ! 行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

こいつ、自分の守り役(ゴーレム)がピンチなのになんで楽観的で居られるんだ?

疑問を持ちながらもゴーレムの装甲にトゲを刺し、破壊していく。

セシリアの無駄のない援護も相まって一体に集中出来るのが幸いだ。

 

「...でもさ、こっちは()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

美空が指を鳴らすと2体のゴーレムと破壊されたゴーレムの破片が一体化。

一体の分厚い装甲のゴーレムとなった。

 

「な!? 合体した!?」

 

「まさか、まだ強くなりますの!?」

 

「どうする?二人共」

 

ち、これが狙いだったのか!

俺達は同じように合体ゴーレムへと立ち向かうが装甲が固すぎてブルー・ティアーズのミサイルやドリルを使ってもトゲで刺してもダメージがいかない。パンチやキックも同様で、その上素早いためセシリアの精密射撃も間に合わず、ダイヤモンド化も出来ない。

 

『だったら!』

 

「タァンク!!」

 

『アー ユー、レディィ!?』

 

『ビルドアップ!』

 

『ハリネズミタンクフォーム』になり、装甲を削るように蹴りを入れ、ガリガリと音を立てながら装甲から火花が散る。

時間は掛かるが先程より効いている!これなら!

と、思った矢先美空は笑みを浮かべる。

 

「ああ、あとこんな事も。」

 

「え!? きゃああ!!」

 

すると合体ゴーレムから何とゴーレム一体が分離されセシリアへと突撃。飛び出した勢いでとんでもない速さになっている。

インターセプターも回避も間に合わず、回転をモロに喰らったセシリアは吹き飛ばされ壁に激突、気絶してしまう。

 

「セシリア!!」

 

「よそ見してる暇あるの?」

 

っ! しまった!!

振り向くと合体ゴーレムがレーザーを発射。

俺は直撃を許し、変身解除されてしまった。

 

「ぐはっ!...はっ、ああっ!」

 

『オルコットさん、桐生くん! 大丈夫ですか!?』

 

「もう眠いし疲れたし、ビルド連れてさっさと帰ろ。」

 

そう言ってゴーレムに俺を捕まえさせようとする。

抵抗しようにも俺はダメージで動けない、万事休すか...!

 

『建兎っ!!』

 

!! この声、鈴!?

 

『そのままやられるなんてあたしは絶対許さないから! あんたが全力で一夏とぶつかれって言ったのよ!? ならあんたもやってみなさい!!』

 

いや、なんか色々違うんだけど。

勝手に都合よく解釈しすぎだろ。全く...。

でも、ま。ここまで言われて立たないわけに行くか!!

 

俺は自分の頬を強く打ち、立ち上がる。

ビルドドライバーやフルボトルをを拾い上げ、腰に巻き付ける。

 

「何言ってんのかよく分かんないし、あんたも往生際悪いし。」

 

「ああ、俺は最後までクライマックスだからな。」

 

「もっと何言ってんのか分かんないし...。でももう勝てないって分かってるでしょ?」

 

「いや、違うね。 ...さあ、実験を始めようか。」

 

俺の左手に茶色のフルボトル、右手には水色のフルボトルがある。

これは賭けだ。もしかしたら効かないかもしれない、なんて言ってられないけどな!

 

シャカシャカシャカシャカ

シャカシャカシャカシャカ

 

『ゴリラ!!』

『ダァイヤモンド!』

 

『ベストマッチ!!』

 

『アー ユー、レディィ!?』

 

「変身!!」

 

『輝きのデストロイヤァァ...!ゴリラ、モォンド...! イェェェイ...!』

 

新たなるビルドのベストマッチ。『ゴリラモンドフォーム』

茶色いボディと水色に輝くボディ。

右の剛腕と左の角張った腕。

ゴリラのパワーとダイヤモンドの硬さ。

それらが組み合わさったパワー重視のフォームである。

 

「懲りないね...。やっちゃって。」

 

先程と同じく合体ゴーレムに襲わせるが俺は拳をいとも簡単に受け止める。

 

「な、何で!?」

 

『ふぅ、良かった。耐えられるか分かんなかったから、な!』

 

そして押し返す。

ゴーレムはたじろぎ2、3歩下がる。

そのまま俺はゴーレムを攻撃。どんどん装甲が凹み、レーザーはダイヤモンドに変え、逆にゴーレムにはじき返す。

 

「っ! なら分離させて!」

 

『無駄だよ。』

 

ゴーレムの合体を解除して数で攻めてくるもほとんど同じである。

こちらは相手の回転を受け止められるパワー、レーザーを変換できる能力の前では数が増えたところで装甲が薄くなり、弱体化しただけに過ぎない。

 

「そん、な...」

 

美空は初めてまともな表情を見せ、落胆する。

正直ここまでと思ってなかったのだろう。

一夏達を余裕で相手にしていたゴーレム達がどんどんやられ、奥の手である合体化すらまともに効いていないのだ。

脚が故障したゴーレムを思いっきり殴り破壊。残り一体となった。

 

「っ! まだ!終わってないし!」

 

だが美空は諦めず再びゴーレムを合体させる。

最初のより幾分か装甲は減ったがまだまだ大きい。

合体ゴーレムは装甲が所々剥がれながらそのまま突撃してくる。

...よし、これを使うか。

 

『勝利の法則は、決まった。』

 

『レディ、ゴー!!』

 

俺は突撃してくるゴーレムに向かって走り出し、落ちている装甲をダイヤモンドに変え、ゴーレムにぶつける角度を瞬時に計算、足に当てる。

するとゴーレムはバランスを崩し、前かがみに倒れるので俺は倒れてくるそいつの肩に乗り、大ジャンプ。

右腕に力を込めて中心部分に脳天割り!!

 

『ボルテック、フィニィィッシュ!!』

 

『イェェーイ!!』

 

『はぁぁ、ハァッ!!』

 

するとゴーレムは大爆発を起こし、動かなくなる。

これで、完全勝利だ。

 

「...任務、失敗。けどこのままじゃ終わらないし。」

 

『あ、おい!』

 

くっ、ゴーレムに夢中で油断した。ISを纏って逃げる美空を捕えられなかった。

 

『桐生、ご苦労だった。少ししたらそちらに教師陣が向かう。お前はオルコットを連れてピットに戻れ。』

 

『...了解です。』

 

織斑先生からの言葉に俺は変な返答をしてしまう。

そうだ。セシリアは大丈夫か? 見た感じ絶対防御が発動してたから無事だとは思うけど...。

それに、美空...。あいつはなんでここに?

 

俺は少し考え事をしながらピットへと戻る。

ピットでは山田先生や一夏、鈴が心配した顔で駆けつけてきた。

一抹の不安を残しながら、クラス代表戦並びに謎のIS襲撃事件は幕を閉じた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

美空Side

 

「...任務は失敗した。 っ! うるさいな、分かってるよ!」

 

IS学園から逃走して少し経ち、今あたしは報告をしていた。

元々はビルド、桐生建兎を捕らえて連れてくるっていうわざわざあたしが行く必要も無いくらい、簡単な仕事だったはずなんだ。

あたしの能力で全く新しいISに変えたんだからすぐに済むと思ってた。それなのに!

 

「...桐生...建兎!」

 

悔しかった。

今まで研究材料として扱われてきたあたしは引き取られた所であらゆるミッションをこなしてきた。

あたしを拾ってくれたお姉ちゃんの家とは真逆にそこはロクな奴がいなかった。けど今はあそこしかあたしの居場所が無いから仕方なかったんだ。

お姉ちゃんとは離れ離れになったけどお姉ちゃんとお母さんとの思い出を支えに頑張ってきたんだ。

それなのにアイツのせいで失敗し、あのうるさい女の小言で最悪の気分だ。

 

「...もう、今日は寝よう。」

 

あたしは諦めてさっさと帰ることにした。

桐生建兎(ビルド)への復讐を誓いながら...




原作1巻を終わらせました。
ようやくのゴリラモンドフォーム登場です。
この作品を読んでくださっている方が違和感を感じることなくするための勝手な行動でした。
これからはこんな事のないよう気をつけますので、また次回もよろしくお願いします。

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第20話 更けるナイト、謎めくローグ

今話で原作1巻が終わります。
あと前話は再アップされて話が少し変わっているのでまだ見てない人は目を通しておいて下さい。


「織斑先生、解析結果が出ました。」

 

ここは学園の地下にあるごく少数しか入れない関係者以外立ち入り禁止の部屋。

建兎によって破壊された謎のISはここに運び込まれ、解析がされていた。

そして数時間後、結果の報告のため山田先生が千冬へ報告する。

解析している間、千冬はずっと謎のISの映像を冷たい目で眺めていた。

 

「ああ、どうだった?」

 

「あれは元々ラファールだったものが何者かによって全く別のISへと書き換えられていました。織斑君の言っていた通り無人機でコアも登録されたものかどうかも...」

 

「...そうか、ご苦労だった。」

 

千冬には1つ心当たりがあった。

篠ノ之束(生みの親)が新しく作り出した、ということだ。

それが唯一かつ可能性があった案だったが、どうやらその望みは薄そうだ。

束ならばわざわざ作りかえるなどせずとも無人機は生み出せてしまうはず。ただ襲撃するためだけにそんな回りくどい事をするとは思えなかったのだ。

それにあの少女。

何か桐生と因縁があったようだが...。桐生は奴のことは知らないという。

ただ、あいつは何か隠している。聞いた所で答えてくるとは思えないが...。

千冬は再び映像に目を戻す。

山田先生も千冬同様今回のことについて全く分からず謎は深まるばかりだった。

今回のこの事件。一体誰が何のために引き起こしたのか...。

 

千冬Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――

???Side

ここは人里離れたとある拠点。

そこの取調室のような所に美空と数人の女が居た。

 

「じゃあ、詳細を教えてもらえるかしら?」

 

美空の前に座るのは長い金髪の美しい妙齢の女性、スコール・ミューゼルとその後ろに立つ橙の髪で腕を組みながら笑う女性、オータムと織斑千冬と瓜二つの少女、Mこと織斑マドカである。ちなみに彼女はゲームは得意な方だ。

ここは数十年前から秘密裏に活動していたテロリスト集団、『亡国機業』である。

 

「...あたしはまず織斑一夏とピンクっぽい機体に乗ったツインテールの女と戦ってて圧倒してた。そこにビルドと青い機体に乗った金髪の女が現れて、最初は押してたのに途中から姿を変えたビルドにやられた...。確か茶色と水色で出来ていた奴だったと思う。」

 

「なるほど...。中国とイギリスの第三世代機、『甲龍』と『ブルー・ティアーズ』、そして『白式』には通用した、と。でも、まだまだ改善の余地はありそうね。」

 

「ふっ、出不精で他人任せに戦うお前には荷が重かったみたいだな。」

 

オータムの嘲笑に美空は怒る。

 

「っ! うるさい! あんな形態があるなんて知らなかったんだ!」

 

「そんなもの理由にならん。ビルドが勝利し、お前が敗北した。ただそれだけだ。」

 

マドカの正論に何も言えない美空。

そこにスコールが口を開く。

 

「よしなさい、2人とも。」

 

「というか、なんであたしが送り込まれたの!? あたしじゃなくても良かったでしょ!?」

 

「そうね...。あまり詳しくは言えないけど改造したISの試運転と...保険ってところかしら。」

 

「ほ、保険?」

 

「まあでもとりあえず専用機のデータの確保と()()()の試運転は出来ていたし、ミッションは成功としましょう。本当なら映像もあれば良かったんだけどISは完全に破壊されてしまってたし、仕方ないわね。」

 

「おいスコール!次の戦闘はいつなんだ!?今度はアタシに行かせろよ!」

 

「落ち着いて、オータム。最初からあなたを送り込むつもりよ。まあその戦闘自体しない可能性だってあるけど。」

 

「よしっ!ようやくアイツと戦えるんだな! どんなものか御手並み拝見させてもらおうか、ビルド!」

 

最後の言葉が聞こえてなかったのかオータムは叫びながらうずうずしている。

そんな光景にスコールは苦笑、マドカと美空は呆れている。

 

(さて、と。)

スコールは懐から建兎の写真を取り出す。

 

(この子は何としてもこちらに引き込みたいわね。力もそうだけど彼には何か秘密がある...。カワイイ顔もしてるし、独占したくなっちゃう)

 

そう思い、これからの戦いに1人笑みを浮かべるのであった...。

 

亡国機業Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――――

建兎Side

 

「じゃあ、やっぱりアレは束姉さんの作った奴じゃないの?」

 

『うん、確かにアレは束さんの作ったゴーレムと似てるけどけんくんの特訓の為に作ったの以外は知らないから...。きっとその美空って子がやったんだろーね。』

 

事件のあった夜、俺は自室で束姉さんと連絡を取り合っていた。

束姉さんはどうやらこの事が起きたのは知っていたが連絡しようにも俺のビルドフォンがハッキングされて出来なかったとのこと。

そのため、彼女が前世のビルドに出ていた主要人物であることや彼女が何かしらの組織に加担しているかもしれない事を話した。

 

『レーザーや回転する機能は似てたけど明らかに合体とかは出来なかったからね。ていうか束さんでも合体できるIS作るのに結構かかるし。あの子を守ってた所からさしずめ『ガーディアン』と言ったところかな?』

 

「え、合体ってそんなすぐに出来ないの?」

 

『うん。ISにはそれぞれ意識みたいなのがあるし、複数のコアがあるからって複数のIS分のエネルギーを賄える訳じゃないし。そもそも合体させること前提で作られているならまだしもね。』

 

「だったらあの子についての情報は何か無い?」

 

『うーん、良くわかんないんだよね〜。生まれや名前はもちろん、年はパッと見15、6歳だろうってくらいだけど..。少なくとも襲撃してきて経歴も掴めないってことは()()()()世界にいるんだろうね。』

 

「そっか...。分かった、こっちもまた何かあったら連絡する。あ、あと父さんは?」

 

『あー、そーさんはね...。『いって! 痛てぇ!踏んじまって悪かったって! だから噛み付くなよ! っあ! 建兎と電話中か!? おい、こいつは何なんだ!? いきなり家に現れたと思えば襲いかかってk イデデデ! 』...ていうわけ。 けんくん、このトカゲみたいなの何か知ってる?』

 

「トカゲ? ...あ。もしかしてクローズドラゴン...?」

 

『え、何それ。ビルドにペット居たの? というかこっちはそーさんばっか襲ってて大変なんだけど。』

 

「あー、分かった。そいつもこっちに送ってきて。多分俺なら大丈夫だし。」

 

『ん、りょーかい! そーさんもよろしくって!ついでに新しいボトルも送るね!じゃあ、けんくん、バイバ〜イ!』

 

「うん、じゃあね。」

 

まさか家にフルボトルだけじゃなくてクローズドラゴンまで来てるとは思わなんだ。

すまないな父さん。しばし耐えてくれ。

...しかし分からない。

美空がこの世界に居たのは龍我や父さんのこともあるからおかしくはない。

 

問題は美空が敵側にいて、ISのシステムに干渉出来ることだ。

美空は普通の人間じゃないって束姉さんも言ってたから仮に試験体として、美空の居た研究所かどっかから亡国機業かなんかの組織に連れてかれた。とか?

 

それに原作みたく特別な能力が宿ってる。ISに干渉して改造することが出来るだけでも厄介な上にもし亡国機業の奴らの専用機が大幅に改造されていたら原作乖離どころじゃないし、ビルドがあっても対応し切れるかどうかも分からない。

...ビルドに対する影響力がある恐れも孕んでるしな。

 

コンコンっ

なんて事を考えているとドアが鳴った。

開けると楯無さんが。

 

「やっほー、調子はどう?桐生くん。」

 

「はあ...、まあ普通ですかね。気になることは多々ありますけど」

 

「でしょうね。少しお話させてもらっていい?」

 

俺が了承すると楯無さんは部屋に入り、椅子に座る。

お茶やお菓子を出し、話を進める。

 

「で、桐生くん。彼女については何か知らない?」

 

いきなり核心ついてくんなこの人...。

まあ俺に用があったって話を聞けばそう思っても仕方ないんだがな。

とは言っても「前世の時にテレビに出てたキャラなんです。」なんて言うわけもない。

 

「...知らなくはないですが話せないです。あまり詳しくもないので」

 

「詳しくなくてもいいから知りたいんだけどな〜、教えてくれたらお姉さんサービスするのに〜。」

 

「じゃあどこまでなら知ってるんですか?」

 

「そうね...。彼女は普通の人間ではないこと、何かしらの裏稼業にいること、ISを改造できること、あなたと何かしら因縁があること、かしらね。」

 

「ほとんど知ってんじゃないですか...。」

 

相変わらず凄い情報収集力だこと。

 

「まあこんなのは朝飯前よ。とは言っても本当に知らなかったみたいね。はあ〜、何か掴めると思ったのにな〜。」

 

「いや、でも何で裏稼業に居るって分かったんですか?」

 

「あー前にも言ったと思うけど私達「更識」は裏の世界にも通じててね。自然とそういう情報も集まってくるのよ。ちなみに今1番濃い線いってるのは『亡国機業』に所属している、かしらね。」

 

やはり...。楯無さんも同じ考えなようだ。

IS学園のシールドは前に事故が起きたばかりでなんとも言いがたいがとても強固なものであり、普通は簡単に壊されたりなどしない。

それを容易く行ったということはそれなりの力を持っていると考えるのは当然。

真っ先に亡国が挙がるのもうなずける。

 

「あれ? 桐生くん、もしかして君も同じ考えなの? ということは亡国機業について何か知ってるんじゃ...」

 

しまった

 

「あ、あーっと、ちなみにあの時楯無さんは何してたんですか?」

 

上手くごまかせず変な受け答えになってしまい、楯無さんは怪しげにこちらを見てくる。

 

「...少しその態度は気になるけどまあいいわ。あの時はいつでも出撃できるように備えてたんだけど君が居たから代わりにあのISの情報収集やシールドの制御してたの。これが出来たのは既に本音ちゃん達が避難指示をやってくれてたからだけどね。」

 

「そうなんですか...。」

 

ふふん、と言った顔で言う楯無さん。

この人はやはり凄い。

直接あのISと戦った訳では無いが、あの状況の中冷静に出来ることを見つけ裏方として生徒や先生のために先を見据えて行動した。

生徒会長並びに国家代表と言うだけはある。

 

「凄い、ですね、楯無さんは。戦うだけじゃなくて色々と出来るし生徒会長とはいえ皆のためにそこまでやるなんて。」

 

「あら、珍しいわね。桐生くんが褒めてくれるなんて。よしよし、お姉さんも褒めてあげる!」

 

そう言って頭を撫でてくる楯無さん。

彼女はからかう目的でしたのだろうがとても心地よい。

最近はトラブル続きだったしせっかくだからと彼女に身体を預け、抱きしめられながらしてもらおうとしたら突然辞めてしまった。

 

「あっ...。」

 

「き、桐生くん!?どうしたの!?」

 

「あ、えーっともう一回して欲しいんです、が...。」

 

「え!? あ、ああ!いいわよ!」

 

身体を預け、背中に手をまわされながら再度撫でてもらう。

なんだろう、とても優しくて暖かくなる。思わず顔がほころんでしまう程だ。本音もこんな気持ちだったのかな?束姉さん同様やっぱり甘えられる年上はいいもんだ。

 

「〜♪」

 

「!!」

 

と、少しして楯無さんはやめてしまった。

まだやってほしかったが流石にダメか。

 

「ありがとうございました。」

 

「あっ、う、うん。」

 

心なしか挙動不審になる楯無さん。

それに顔もほんのり紅くなり、俯き出した。え?ちょっと待って?まさか?

 

「あの、楯無さん?」

 

「へっ!? な、何!?」

 

「いや、どうかしたのかなって」

 

「べ、別にどうもしないわよ!? あ、ああ!あと時間取ってごめんね!お茶とお菓子もありがとう!」

 

「はあ、どうも...。あ、あと楯無さん。」

 

「な、何かしら。」

 

「その、また、お願いしてもいいですかね?」

 

「!!?!?」

 

立っている楯無さんに対して見上げるようにお願いする。

楯無さんからしたら上目遣いになるが果たして...ってもう既に顔が真っ赤になってるわ。

 

「え、ええ!!い、いいいいわよ!?いつでも、お姉さんに任せなさい!じゃ、じゃあお邪魔しました〜!!」

 

テンパりすぎて言葉がおかしくなってる。

扇子のチョイスも何故か『檀黎斗神』だし。

そしてそのまますごい勢いで立ち去ってしまった。

 

...これはもしや、フラグを建ててしまったか...?

あんまり気持ちがいいもんでつい...。はあ、また悩みの種が...。

 

残された部屋で俺はポツンと1人で、新たに追加されたこれからの楯無さんとの関わりについてまた頭を悩ませることになった。

 

 

建兎Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――

楯無Side

 

「はあっ、はあっ、はあーっ!」

 

今私は寮の廊下を走っている。

話を聞きに行った『2人目』であり、恩人の男の子の元から逃げてきたのだ。

とても息を乱れさせ、顔もとても紅くなっていると自分でも分かるほど。しかしそれは走ったからじゃない。先ほど目の前で起きた光景が頭から離れずとてもモヤモヤしてるからだ。

廊下の端に辿り着き、心臓を手で抑えると

ドクンッドクンッドクンッドクンッ

と普段よりも速く鼓動している。

これも恐らく走ったからじゃないだろう。

 

「はあ...、一体、何で?」

 

『2人目』であり恩人と言うのは彼は『2人目』の男性IS操縦者であり、子供の頃私と簪ちゃん、並びに従者である虚ちゃん達を助けてくれた恩人ということだ。

彼は良くも悪くも目立っていた。

頭が良く運動も出来てイケメンで優しい。これが私の聞いた子達の評価だ。中には『1人目』であり織斑先生(ブリュンヒルデ)の弟の織斑くんより良いかもって人もいたほど。

このように女尊男卑じゃない子達からはとても評判は良かった。

 

けどその反面、彼は過去や生い立ちなど素性が知れなかった。

暗部の一族である更識家の情報網を持ってしても分からず、先程の様子からも彼にはまだ誰にも話していないだろう秘密を抱えていることが分かる。

ただ少なくとも悪い人ではないということは前の接触の時から分かっていた。それにからかいがいのあるかわいい子っていうことも。

 

だから今日も情報を得るついでにいっぱいからかってあげようと思って頭を撫でたら...まさかそのまま身体を預けてくるなんて...。

それにあの笑顔...。

普段のキリッとした真面目な顔やクラスメイトと談笑して笑っている顔とは違う完全に緩んで気持ちよさそうにした顔。

そんな顔を見て私は不覚にもドキッとさせられた。普段から冷たく返してた彼がこんな表情するなんて、と。ギャップって奴なのかな?

お願いしてくるから再び撫でてあげたらまた身体を預けてきて凄く嬉しそうだった。桐生くんの甘えてくる姿に可愛らしさを覚えてしまい、思わずうろたえてしまった。

 

そして最後の上目遣い...。あれは反則でしょ!!

頬を少し赤らめて小動物が餌をお願いしてくるみたいな顔して...!それが狙ってやった訳じゃなさそうなのが腹立たしい!

 

それでもう私は耐えられなかった。

呂律が回らなくなり、思わず走り出してしまった。

何なんだろう、これ。 恋、なのかな?

今までしたこともする機会もなかったから...こんな事でこんなになってる私ってもしかしてチョロい...?

 

で、でも、桐生くんは私に「お願い」をしてきた。単純に後輩が困ったことがあって先輩に相談するみたいに。

そう、そうよ!あれはその、違うわ!決してそういうものではないのよ!

不純異性交遊とか、そういう目的で桐生くんは言ったわけじゃないわ!

 

そう思うと少しずつ落ち着いてきた。

そう、これで良いのよ。私は先輩として後輩のお願いを聞く。今までやってきたことじゃない。それがちょっと、その、えっと、ボディータッチが含まれてるだけよ!

 

少し心がチクリとしながらも私はまた自分の部屋へ向かうため歩き出す。さて、戻ったら次は事件の情報収集に残ってる資料に目を通して...はあ、抜け出しちゃったこともあるしまた虚ちゃんにドヤされるわね。

何かと事件が続いてるからそろそろ桐生くんには生徒会での活動もしてもらおうかしら。

でもいきなりは厳しいかしらね...。ま、でも教えてあげれば大丈夫でしょ。またその時にでも...

 

『楯無さん。この書類、これでいいですか?』

 

『どれどれ...。うん、大丈夫よ。』

 

『やった!ありがとうございます!...じゃあその、いつものを...』

 

『また〜?しょうがないわね〜。はい、おいで』

 

『えへへ〜、またこれで頑張れます!』

 

『こんなのでいいならいつでもやってあげるわよ。』

 

『...本当ですね?』

 

『え...?』

 

『俺...これからも、楯無さんに頭撫でてほしいです!』

 

『ちょ、ちょっと、桐生くん!?』

 

『楯無さん。俺生徒会役員として頑張ります!だから、楯無さんにいつでも褒めてもらえるように...俺と...「付き合ってもらう!!」』

 

「ひょわあああ!?」

 

ドアの前から突如聴こえた声に変な声が出る。

 

「き、桐生くん!!そ、そんな!ダメよおおお!!」

 

私は妄想していた時から出ていたであろう鼻血が止まらないまま、羞恥心に耐えきれず自分でも驚くぐらいの速さで再び逃げるように走り出す。

そして生徒会室に着く頃にはとんでもない貧血で虚ちゃんにとても心配されてしまった...。はあ、これから桐生くんの顔ちゃんと見られるかしら...。

 

 

楯無Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――

そして楯無が走り去っていく頃皆が一斉に部屋から出てくる中、とある一人が不機嫌そうな顔をしていた。

黄色い着ぐるみを着た赤髪の女の子、布仏本音である。

 

「さっきの何だったんだろ〜」

 

「トーナメントで優勝したらどうとか〜って」

 

「ていうか変な叫び声したけど大丈夫なのかしら」

 

女子生徒達は口々に先程の声について話し合うが本音はそんな事は気にしておらず、

 

「む〜、きりりんめ〜今度はたっちゃんなの?また他の子とばっかり〜...。ふんだ!明日口聞いてあげないもん!」

 

皆がまだ喋り続けている間、一足先にぷくーっと頬を膨らませて自分の部屋に帰ってしまった。

こうして「美空の襲撃」、「美空の能力」、「楯無さんとの接し方」に加え、「本音の不機嫌になる頻度の高さ」も建兎の頭を悩ませる要因の一つとなった。




今話で先にも話していたように一旦ssの更新がストップします。
とても微妙なタイミングで終わらせてしまうのは忍びないですがご了承ください。
もしかしたら何かしら投稿するかもしれませんが
ではまた3月まで!

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第四章 3人の代表候補生編
第21話 クローズドされた心


はい勉強のストレスに耐えきれませんでしたー、盛大なタイトル詐欺でーす。
そのうえ明後日模試ありまーす。
それではどーぞ


「この部品は...どこにあるんだ?」

 

「あー確か整備室にあったはず」

 

どうも建兎です。

ただ今箒と一緒に山田先生から頼まれた部品探しをしています。

 

何故こうなったのか理由を言うと少し長くなるけど...

箒は謎のIS襲撃の際の勝手な行動で迷惑を掛けたこと。

俺は束姉さんから届けられた荷物に一緒に入ってたクローズドラゴンが部屋で暴れて個室がボロボロに。

織斑先生にしこたま叱られて現在先生と同棲中です。(泣)

 

いやね?多分電話越しでも分かってたんだけど凄い性格に難があるのか全く懐いてくれないのよ。

今は織斑先生が拘束してくれているけど解き放ったらとんでもないことが起こる...はず。

これらの理由で俺たちはペナルティとして一週間放課後の雑用を命じられているのだ。

 

「あれ、無いぞ? ここにあるはずなんだが...」

 

「え、じゃあそっちのボックスは...コードか。 じゃあどこだ...?」

 

「何、してるの...?」

 

「「ん?」」

 

後ろからの声に反応し振り向くと手にCD-ROMのようなものを持った簪が居た。

恐らく「打鉄弍式」の組み立てのためにここにいるのだろう。

 

「えっと、すまない。 君は...?」

 

「私は更識簪...。 篠ノ之さんに...桐生くんもどうしたの...?」

 

「あー簪さん、実は今この部品探しててさ。」

 

「どれ...? あ、これならこっちの棚にある。」

 

「あ、ありがとう。 というか、何故私の名前を?」

 

「あなたが篠ノ之束の妹って事は私の組にも伝わってる。...けど、あれだけ派手な事してたら嫌でも覚える。」

 

「うぐっ」

 

簪の一言に箒はダメージを受ける。

少なくともやってる事が危ないことだって自覚あったんだな。

 

「...なんであんなことしたの...?」

 

「わ、私には一夏を助ける力が無くて...。 せめて、せめて何か出来ないか、と思って...。」

 

「織斑、一夏...。」

 

箒の言葉に簪のCDを持つ手の力が強まる。

あ。あかん、これあかんやつや。

 

「か、簪さんはここで何してたの!?」

 

「...ごめん。 それはあなたにも話せない。 じゃあ、私行くから。」

 

「あっ...、ちょっと」

 

そう言って簪は去ってしまった。

俺たちはいたたまれない空気の中、職員室へ向かった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

簪Side

 

「はあ...」

 

私は目の前にあるIS、打鉄弍式を見ながらため息をつく。

ここはISの整備室内にある、プログラムを行うスペースである。

そこで先程の出来事に対して自己嫌悪に陥る。

 

言ってしまった。

憧れの人に、感情的になって冷たく当たってしまった。

私らしくもない...

 

「織斑一夏」...。

彼女の言った『1人目』である男子が私は嫌いだ。

とは言っても直接なにかされた訳じゃないのだが。

 

私は暗部の一族として代々伝わった「更識」の娘だ。

そんな私には第17代目の現当主でこの学園の生徒会長、その上ロシアの国家代表をも務める私と違って優秀な姉がいる。

 

そんな姉といつも比べられて凄く嫌だったし、姉自身からも

 

「あなたは無能でいなさい。」

 

とまで言われた。

 

それでも負けたくなかった。

勉強した。鍛錬した。日本の代表候補生になって専用機だって用意されていた。

それなのに織斑一夏が現れたことによって私の専用機制作は永久凍結。

 

私が何かしただろうか、何故私がこんな罰ゲームを受けなくちゃいけないのか。

心が折れそうで挫けそうになったことだっていくらでもある。

 

でも、それでも私には幼い頃に出会った心の支え(ビルド)が居た。

今でもあの時の興奮は覚えている。

彼のようなヒーローに、強い人間になりたい。

私が今打鉄弍式を1人で組み上げているのも姉への対抗心よりもそれが大きい。

 

だから『2人目』の男子である桐生建兎がビルドであると知った時は本当に驚いた。

彼とは1度話した事があったけど、その時に何となく懐かしく感じたのは気のせいじゃなかったんだろう。

 

本当はあの時のお礼をちゃんとしたい。憧れの人とまた話をしたい。

でも彼はこのIS学園でも皆を助けるヒーローとして活躍してたりこの間お姉ちゃんと仲良くしていたりして今まで話が出来なかった。

 

だからさっきの事は本当に悔やまれる...。

はあ、今日はビルドの動画見るのは止めよう。

止まっていた手を動かし、私は再び打鉄弍式のプログラムを始めた。

 

 

簪Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――――

建兎Side

 

「はあ...」

 

「何辛気臭え顔してんだよ、ほら行くぞ! こんちはー!」

 

「おう、いらっしゃい」

 

今日は休日。

久しぶりに外で龍我と一緒に出かけようという事で行きつけのラーメン屋である「ラーメン鍋島」に来ている。

簪との事があって俺は少し落ち込んでいるのだがそんなこと龍我はお構い無しだ。

さすがバカだ。人の気持ちにここまで鈍感なやつは一夏だけだと思ってた。

「お前絶対今バカって考えたろ」

 

「いや、何のことだ?」

 

「あら 建兎くんも龍我くんも久しぶりねぇ」

 

「いらっしゃい! お兄ちゃん達!」

 

「あ、兄貴! こんちゃーす!」

 

ホッ、あぶねえ。

従業員さんのおかげでなんとか話題をそらせられた。

店主の鍋島 一(なべしま いち)さん、奥さんの(ゆき)さんに娘のれんちゃん。そしてアルバイトの妹尾 立弥(せのお たつや)さん。

 

全員俺がビルドとして助けた事のある人達だが、その前からもラーメン鍋島には通っていた。

初めて会った時は思わず叫んだけどな。

 

立弥さんは自分のが年上なのに俺がビルドと知ってから「兄貴」と呼んで

くる。そしてなぜか

 

「また俺には挨拶なしかよ」

 

「...こんちゃーす

 

「声ちっさ!」

 

...龍我を嫌っている。

本編でも確かに仲良くはなかったけどここでもそうだとはな。

 

「おい立弥! 喋ってる暇があるなら足を動かせ!」

 

「は、はい!!」

 

「はあ...。んじゃ大将! 俺シノビラーメンのみそで!」

 

「...俺はスクエアラーメンの塩で」

 

「あいよ」

 

待ってる間も俺は簪との事が頭から離れなかった。

原作でも好きなキャラだったから思った以上に拒絶された事が結構応えている。そりゃなぜあんな態度なのかも知ってるんだけど...。

当然俺は簪の手伝いはしてやりたいが思い返すと楯無さんともよく関わってる俺が接しようとしても逆効果な気もしてくるし、簪を絶対説得出来るとも言えないしな...。

 

「で、お前は何でため息ばっかなんだよ。IS学園でなんかあったか?」

 

「...まあちょっとな。」

 

「なんか分かんねぇけど俺はお前が間違ってるとは思わねえよ」

 

「!?」

 

「お前いっつもビルドになって誰か助けてんじゃねえかよ。 俺もお前が勉強見てくれたおかげで今の高校に入れたようなもんだし。だからよ、誰かがお前を悪く言っても俺は味方でいるぜ?」

 

「俺達もそうだぜ。テレビで言いたい放題言うヤツらもいるが、俺も幸もれんも立弥もお前を信じてる。ほら、とりあえず今は食え!」

 

そう言って俺の前に真四角の皿のラーメン、龍我の前に手裏剣の形を模した海苔の入ったラーメンが置かれる。

...龍我、それはお得意の第六感か? ほんっと凄い鋭いな。

でも、そうだな。また弱気になってた。

これからもっと大変なことだって起こるんだ。気を引き締めてかないと!

 

パンパンッ!

 

「いただきます!!」

 

「「うるさい!!」」




また話進まねえ...。
ちなみに建兎達がラーメン屋にいる時一夏は五反田食堂に居ます。

あと今月末キャラなどの設定出すのを予約してます。
さて次回はいつだ!←

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第22話 天空に立つ暴れん坊達 前編

模試が(色々と)終わったんだから今日くらいいいよね!
てか最近書き方が分からなくなってて話し進まないわキャラブレるわ大変大変。
そのせいで前編後編と分けることになってしまいました。サーセン


「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

 

「え? そう?ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

 

「そのデザインがーー」

 

休日が明け、月曜日の朝。

一夏達クラスメイトはISスーツについてカタログ片手に談笑している。

俺はビルドだからスーツは必要ないんだけど、あんなピッチピチの水着みたいなのは思春期男子には目に毒だ。

...まあ前世の歳も含めたら30代で未経験(ウィザード)な奴が思春期も何もないけどな。

 

「えっと、ISスーツって着けてると確か反応速度が...なんだっけ?」

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。」

 

「あ、そう! それです!」

 

「また、そのスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら衝撃は感じるものの、完全に受け止められる。ですよね?」

 

「はい! 桐生くん、その通りです!」

 

すらすらと説明しながら現れた山田先生。

この人は普段はいじられキャラだがこういう時とてもかっこ良い。

俺は普段からとても尊敬している。

 

「山ちゃんも桐生くんも凄い!」

 

「今日が皆さんのスーツの申し込み開始日なので、一応先生として予習はしてあるんですよ。....って、や、山ちゃん?」

 

「うん、山ぴーとかまーやんとかもあるよ?」

 

ほら、これが山田先生のいじられキャラとしての才能だ。

既に彼女は8つものあだ名がある。

 

「あ、あの、教師はあだ名で呼ぶものでは...」

 

「えー? じゃあ最初のヤマヤとかもダメ?」

 

「あ、あれは本当にやめてください!」

 

何故か「ヤマヤ」というあだ名をとても嫌がる。

大方名前が「山田真耶」で回文だもんだからさんざんからかわれたとかだろうな。

 

「山田先生、そろそろ授業始まるんじゃないですか?」

 

「! は、はい! 皆さんも桐生くんのようにちゃんと予習復習、名前に先生を付けることを心がけてください!」

 

俺に先生と呼ばれたからかすっごい嬉しそうな顔してみんなに注意を促す先生。

多分最後のを特に伝えたいんだろうが当の彼女達は暖簾に腕押し、糠に釘、豆腐にかすがい...。

 

「諸君、おはよう」

 

「「「お、おはようございます!」」」

 

先程とはうって変わり織斑先生の登場でその場が引き締まる。

彼女の持つオーラというかそんなようなものが自然と俺たちに働きかけているのだろうか。

 

「今日からは本格的な実験訓練を開始する。 訓練機ではあるがISを使った授業なので各人気を引き締めるように。 今は学校指定のISスーツを使用する。忘れたものは水着か下着で受けろ。」

 

俺は映司じゃないので無理です。

アンク復活、CSMオーズドライバー発売おめでとうございます。

てか俺は必要ないわ。

 

「えっと、ではホームルームを始めますが、その前に...転校生を2人! 紹介します!」

 

「え...」

 

「「「えええええっ!?」」」

 

...遂に来たか、この時期が。

俺が内心色々と画策してるとは皆思わず一斉に叫び出す。

まあ1クラスに同時に2人なんてこと前世でもなかったし、驚くのも無理はないけどな。

 

「失礼します。」 「.......」

 

教室に入ってきた2人の転校生の内の1人に皆が目を引く。

何故ならば...

 

「シャルル・デュノアです。 フランスから来ました。 この国では不慣れな事も多いかと思いますが、よろしくお願いします。」

 

その者が俺、一夏に次ぐ3人目の()()だったからだ。

 

「お、男...?」

 

「はい。こちらに、僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入をーーー」

 

「きゃ、」

 

「え?」

 

「「「きゃあああああーっ!」」」

 

「ぎゃああああーっ!」

 

煌めく金の髪を後ろにまとめ、顔は中性的ながら優しげで、姿勢よく礼儀正しい。

まさに貴公子。

そんな彼に皆は思わず叫び声を上げる。

なお最後のは一夏の別の悲鳴だけどな。

 

「男子! 3人目の男子もうちのクラスに!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「地球って素晴らしいのね! この星ナメてたわ!」

 

いや、この星をナメるなよ

 

「あー、騒ぐな。 静かにしろ」

 

「み、皆さんお静かに! まだ自己紹介は終わってませんよ〜!」

 

めんどくさそうにする織斑先生に必死に宥めようとする山田先生。

今回は俺も織斑先生に同感だ。ちょっとこれはウザいし引く。

それに俺はまあ知ってるから分かるけどなんか、あれだな。

原作より男っぽい?というか。気のせいか。

どうせ後にハッキリするんだ。

 

「........」

 

忘れられて...ゲフンゲフン何も話さず1人佇む銀髪の小柄な少女。

ドイツ軍人の試験体、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

左目には軍人が着けている黒眼帯、シャルルとは違いまとめること無く伸ばしっぱなしの髪。

うまく言えないが織斑先生に似た「何か」が彼女からは感じ取られる。

 

「...挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

初めて見せるまともな表情と言葉。

彼女は過去に織斑先生に直接指導を受けており、以来織斑先生を心酔している。

 

「私はもう教官ではないし、お前も一生徒だ。これからは織斑先生と呼べ。」

 

「了解しました」

 

ビシッとバリバリ軍人の敬礼をするラウラ。

ある意味礼儀正しいっちゃ正しい。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「「「.......」」」

 

「あ、あの、以上...ですか?」

 

「以上だ。」

 

どうだ一夏、名前だけ紹介された気分は。

このいたたまれない空気がどれだけめんどくさいか分かったか?

 

「! 貴様がーーー」

 

あ、やべ。

シャカシャカシャカ

 

パシッ!

 

「「「!?」」」

 

一夏の前に立ち、平手打ちかまそうとするラウラの手を止める。

フルボトル使ったからね、一瞬の出来事でクラスメイトや目の前に居た一夏、殴ろうとした当のラウラも何が起こったか分からなかったようだ。

 

「!? き、貴様! 何をする!」

 

「まあまあ、落ち着けっていきなり殴ることないだろ?」

 

「! 貴様が桐生建兎か。織斑一夏だけでなく貴様にも用はある」

 

「っ! お、俺がお前に何したってんだよ! 建兎だって何の関係が!」

 

「ふん! 私は貴様があの人の弟であるなどとは認めない! 桐生建兎、貴様も覚悟していろ。」

 

俺から手を離しすたすたと自分の席に向かうラウラ。

...なんで俺こうもトラブル体質なの?

 

「ゴホンゴホン! ではホームルームを終わる。 今日は2組と第二グラウンドで合同授業で模擬戦闘を行う。時間に遅れぬようすぐに着替えろ。解散!」

 

さて、俺は必要ないから直接向かうとして一夏に釘刺しとくかな。

 

「織斑、デュノアに更衣室への案内をしてやれ。」

 

「は、はい。」

 

「君達が織斑くんに桐生くん? 初めまして。僕はーー」

 

「とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから。」

 

「一夏。」

 

「な、何だよ建兎。俺達急がなきゃー」

 

「シャルルにあまり馴れ馴れしくするなよ? 体をペタペタ触ったり名前をいきなり呼び捨てにしたり...俺は気にしないけど他人からしたら迷惑だったりするから」

 

「...え? あれって迷惑だったのか?」

 

「うーん... 人にもよりけりだけど」

 

「そんな...俺は同じ男子と仲良くしようと思って...」

 

ズーンとでも聞こえてきそうな落ち込みポーズをとる一夏にシャルルが慰めるという構図が出来た。なんだこれ。

 

これからは気をつけるよ...と消え入りそうな声でシャルルに支えられながら歩いていく一夏を見送って俺はグラウンドに向かう。

どんだけショックだったんだよ....。

 

さて、俺はやるべき事をするかな。

近くに誰も居ないことを確認し、ビルドフォンでとある人に連絡する。

 

『もしもーし! 皆大好き束さんだよ!』

 

「もしもし、束姉さん? ちょっと調べてほしいんだけど」

 

『ガンスルー!? 罵倒されるよりキツいんだけど!』

 

「今日来た転校生の事なんだけどさ、束姉さんも知ってるよね?」

 

『はあ、スルーで通すのね...。 うん、知ってるよー! てゆーか既に正体とかも色々分かるよー! けんくんも知ってるだろーけどね!』

 

「うん、シャルル・デュノア。あいつは...()だ。」




バラすの早くない?と思った方。
こうしないとグッダグダになるので耐えてください。
ああああ、お願いします!
いつかヒロイン達の番外編書くつもりなので見捨てないで!

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第23話 天空に立つ暴れん坊達 後編

作者は感想の通知が来るととてもやる気を発揮します!|ω・)チラッ
もうこの更新速度ならタイトルの3月までっての消そうかな


『やっぱり知ってたんだ。 さすが転生者!』

 

「それより束姉さん、デュノア社の不祥事とか脅迫材料を手に入れといてほしいんだ。 シャルルを助けるために、ね。」

 

『ん、りょーかい! ...でもさぁけんくん、おかしいと思わない?』

 

「何が?」

 

『あのデュノアって子、シャルロットだったっけ? 男装にしては拙い出来だとは思うけど他の子達ならぱっと見じゃ気付けないくらいにはなってるんじゃない? そりゃスパイって事がバレないように結構気にしてると思うけど。』

 

束姉さんも俺と同じ意見のようだ。

あの時感じた男っぽい雰囲気。

身体に特別何か手を加えたりはしていないだろうが声がアニメで見た時より低く聞こえたし、仕草や歩き方は男性が何気なしにやりがちな動きも見られた。

俺に原作知識があったにもかかわらず多少分かりにくくなっている。もしかしてここでもまた原作乖離か...?

 

『「篠ノ之博士、こちらはどうします〜?」 あ、はいはい! ここはこのシステムでよろしくー!』

 

「? 束姉さん、そこに誰かいるの?」

 

『んっふっふ〜、まだけんくんには秘密! じゃあちょっと今束さん忙しいからここで切るね。けんくんも授業あるでしょ? デュノア社の不祥事は転送しとくから! んじゃ!』

 

「え!? あ、ちょっ!」

 

切られてしまった..。

何だったんだ? 一体。

とりあえずデータを受け取って俺もグラウンドに向かう。

シャルロット...あいつは何を隠してるんだろうな...。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

第二グラウンドに1組と2組の女子達大勢がISスーツを身にまとい整列している。

一夏とシャルルは遅れてきたので叩かれた(一夏のみ)

とか言ってたら一夏と話してた鈴も叩かれた。

恋多き女は大変だな。相手が一夏ならなおさら。

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する。」

 

「「「「はい!」」」」

 

「...一夏のせい一夏のせい一夏のせい」

 

「なんだ凰、まだ活力があるのか。ならば今日は戦闘を実践してもらおう。オルコット、お前も手伝え。 」

 

「な、なぜわたくしまで!?」

 

完全なるとばっちりに驚くセシリア。

なぜああも織斑先生は無理やりなんだ?ハプニングに巻き込まれることの多い俺としてはとんでもなく迷惑なんだが。

 

「専用機持ちはすぐに始められるだろう。さっさと前に出ろ。」

 

「理由は分かりますがなぜ何もしていないわたくしが...」

 

「一夏のせいなのになんであたしが...「ほう、アイツにいい所を見せられるチャンスを捨てるか?」 全力でやってやるわ!」

 

なんという変わり身の早さ。インペラーもびっくりだよ。

 

「では、お相手は鈴さんなのですか?」

 

「あたしはそれでも構わないわよ!」

 

「慌てるな馬鹿ども。相手はーー」

 

キィィィン...

あ、この音は。

 

シャカシャカシャカシャカ

シャカシャカシャカシャカ

 

 『タカァ!!』

 『ガトリング!!』

 

 『ベストマッチ!』

 

「ああああーっ! ど、どいてください〜っ!」

 

突如空から落ちてくる謎の白い物体。

皆が悲鳴を上げて逃げる中俺はそれの下へと走る...!

 

『アー ユー、 レディィ!?』

 

「変身!」

 

「きゃああああ! ...あ、え?」

 

『天空の、暴れん坊ぉぉ! ホーク、ガトリィング!! イェア!』

 

謎の白い物体とは我らが山田先生であった。

撃墜する前に橙と灰色の姿「ホークガトリングフォーム」に変身。

下から飛翔し抱き上げる事で身体を支え、空中で受け止められたのだ。

原作であれば一夏に撃墜→山田先生のおっぱい触る→鈴やセシリアに暗殺されかける

というハプニングが起こるがそんな事はさせないし、一夏だけにそんな良い思いもさせない。

 

「あ、き、桐生くん、ありがとうございます..。」

 

「...」

 

ふと山田先生の方を見る。

幼く見えながらも立派な女性。ピチピチのISスーツ姿の彼女は身体のラインがハッキリ分かるのでとても色っぽく見え、彼女の照れからか少しずつ赤くなる顔も可愛らしく見える。

 

『桐生、事故が起こる前に対処した事は評価する。だが、そろそろ降りてこい。山田先生も困っているだろう。』

 

おっと、そうだった。ついつい。

先生がISを纏っているのと変身してるのとも相まって彼女を重く感じる事は無く、抱き上げるようにしたため自然とお姫様抱っこの状態になってしまっているので客観的に見ると大分恥ずかしい状態だ。

下からも女子達のキャーキャーという声が聞こえてくる。

...うん、本音はジト目ですね。またドヤされるなぁ...。

 

「じゃあ、降りますよ。」

 

「は、はい...。」

 

そう言って地上に降り立つと山田先生は息とメガネを整えて織斑先生の横に並ぶ。もう既に顔は真面目なものに戻っている。

 

「え、じゃああたし達の相手って山田先生?」

 

「ああ、では始めるぞ」

 

「い、いやでも2対1ってのは...」

 

「油断しない事ですわよ鈴さん。山田先生は昔代表候補生として活躍されていたらしいですわ。わたくしと鈴さんが協力しても恐らく勝てないでしょう。」

 

「! あんたがそこまで言うならよっぽどなんでしょうね...。」

 

セシリアの言葉に鈴も表情が固くなる。

それほど相手がどんなもので自分との力量差がどれほどなのか理解できる所まで達しているのだ。

お互い原作と比べて精神的な強さを持つようになっていると分かってなんだか少し嬉しくなるな。

 

「よい判断だオルコット。勝てとは言わん、お前の今の実力を私に見せてみろ。」

 

「は、はい! では山田先生、お願いします!」

 

「悪いけど負けると言われてそのままやられるつもりなんて無いわ!」

 

「い、いきます!」

 

「では、はじめ!」

 

最初に鈴は前へ、セシリアは後ろへ回った。

パワー型で燃費の良い甲龍で攻め、ブルー・ティアーズで援護射撃という現時点で最も良い戦法である。

山田先生の様子を見るため、最初は軽く衝撃砲を撃ったりレーザーで動きをとりにくくするなどガンガン攻めるのが得意な2人にしては慎重な流れだ。

 

そんな中、山田先生は冷静に2人の動きを見極め手に持つライフルで少しずつだが確実にダメージを与えていく。

シャルルが今説明しているが山田先生が乗ってるのはデュノア社が作った第二世代の最後機である量産機「ラファール・リヴァイヴ」

主な特徴としては

1、第三世代とも劣らないスペックに安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装

2、世界で量産型ISのシェア3位を誇り、十数カ国で生産、採用されている

3、操縦者を選ばず、装備によってあらゆるタイプに切り替えが可能という操縦の簡易性を持つ

という事だ。

 

ビルドである俺の持つアドバンテージは「相手に情報があまり知られてないこと」と「様々な能力を自在に変えられること」の2つだ。

それを使ってゴリ押しで戦うことも多い。

そのため、ビルドがどれだけ強かろうと山田先生などの経験豊富な実力者が相手だと絶対に勝てる自信がないのだ。

まあ相手が織斑先生ならビルドとか関係なしに勝てる気しないけどな。

 

「桐生、放課後部屋に戻った時覚えていろ」

 

だからなんで心読むんですか!?

とか考えてたらもう決着がつく寸前であった。

一瞬の隙を突かれ、2人のISが衝突し手榴弾で撃墜。

2人とも努力のかいあって衝撃砲を撃つタイミングやビットの射撃なども上手くいっていたし油断はなかっただろうが山田先生の技量が上回ったのだ。

 

「よし、終わるぞ。 2人とも即席にしてはなかなかのコンビネーションだった。 だがまだ荒削りな所もある。 今回のことから各々反省するように」

 

「はい!」「山田先生、ありがとうございました!」

 

「は、はい! 私で良ければまた相手をしますよ!」

 

「さて、諸君にもIS学園教員の実力は理解出来ただろう。これからは敬意を持って接するように」

 

これでみんなも多少山田先生との接し方を見直すだろうな。

その上さっきの試合は専用機でなくとも強くなれるという可能性を見せるのも兼ねていたのだろうか分からないが、皆の顔付きも少し変わっている。

 

「専用機持ちは織斑、オルコット、桐生、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。今挙げた名前の者達を各グループリーダーに、八グルーブに分かれろ。」

 

と、織斑先生が言うや否やいきなり俺たち男3人に群がる方々。

 

「織斑君、一緒に頑張ろう!」

 

「デュノア君の操縦技術見たいなぁ」

 

「さっき山田先生といったい何があったの!? もしかして教師×生徒との禁断の関係でも生まれた!?」

 

いや最後の関係ないよね?

 

「このバカどもが...出席番号順に先程言った順番で一人ずつ各グループに入れ! 次もたついたらISを背負ってグラウンド100周させるぞ!」

 

すると皆一斉にグルーブが出来るように集まる。

IS背負ったまま100周とか人間に不可能だろ。

 

「最初からそうしろ。馬鹿者どもが」

 

すると皆ヒソヒソとバレないように話し出す。

 

「...やったあ、織斑君と同じ班っ。 名字のおかげねっ」

 

「...セシリア、あのビットってどうやって動かしてるの? あたし普通の武器でも的に当てるのが難しくて」

 

「...桐生くん、さっきのこと話してもらうわよっ」

 

こいつしつこいな!

 

「...凰さん、よろしくね。 あとで織斑君のお話聞かせてよっ」

 

「...デュノア君! 分からない事があったら何でもきいてね! ちなみに私はフリーだよ!」

 

「.......」

 

最後のラウラの班はまっっったくおしゃべりがない。

ラウラは他の子達を拒絶してるからもちろん、みんなも何も言えず押し黙る。

 

...はあ。 フォロー、してやるか。

 

「なあ、ボーデヴィッヒさん。 もしあれだったら俺も一緒に手伝うけど」

 

「...ふん、貴様の助力など要らん。 そもそもこいつらなどISを教えるに値しない。」

 

俺の一言にパァァと輝く彼女達の顔を再び曇らせるラウラ。

ふーん、そんなこといっちゃうか

 

「ボーデヴィッヒさんはなんでそう思うの?」

 

「そんなもの決まっている。 こいつらはISをファッションか何かだと勘違いしている。 危険を及ぼす恐れがあるものだと理解出来てない者に教えてやる必要などない。」

 

「じゃあそれを分かってる人が教えてあげたらいいだろ? ボーデヴィッヒさんだって初めからなんでも使い方が分かってた訳じゃないだろうし」

 

「! 黙れ! 貴様にそのように言われる筋合いなどない! そんなに教えたければ貴様が教えればー「じゃあ」!?」

 

「ボーデヴィッヒさんは織斑先生の指示を無視するんだ。軍人なら上からの命令を無視しちゃダメなんじゃないの? ましてや自分の尊敬する人の言葉を」

 

「貴様...!」

 

「でもまあそこまで言うなら君が教えるはずだった子達は俺が請け負うよ。 時間は限られてるから早くしないといけないしな。 何より織斑先生が指示したことだもの。」

 

「っ! ...確かにお前の言う通りだ。 教官の命令は絶対。 あの人の指示に間違いなどないからな。 ーーでは貴様ら。時間が無い。さっさと始めるぞ。」

 

いや、あんたのせいなんですけどね。

まあなんとかなってよかった。ラウラの班の子から感謝されたしな。

 

ぎゅ

 

「ん?」

 

なんか掴まれた感覚がしたから振り向くとそこには本音が。

...あ、やっべ忘れてた。なんて言い訳しようかな。

 

「あ、えーと、本音? あれは、その...」

 

「...きりりんは」

 

「え?」

 

「きりりんはおっぱい大きい子が好きなの?」

 

ブフォ!

 

「は!? なんでいきなりそんなこと!?」

 

「だってたっちゃんもまやまやも大きいんだもん! 私だって結構あるんだよ!」

 

い、いやいやいや。 おかしいだろタイミングが!

ほら見ろ周りの子が本気の興味やら微笑みやら色んな表情を..,ってうぉっ! 織斑先生がとんでもなく怖い顔してる! やばいやばいやばい!

 

「ほ、本音! それは後で! 後で答えるから!」

 

「ほんと〜?」

 

「ほ、本当本当!」

 

ジト目で見てくるが本当だ。というかここでなのが無理なんだ

でないと社会的にも物理的にも死ぬ。それは避けたい。

 

「...じゃあさっきまやまやにしてた事して」

 

「え? あの、抱っこのこと?」

 

「うん、抱っこして乗せてくれたら許してあげる〜」

 

満面の笑みで言ってるけど怖いわ。なんかこう、えも言われぬ恐怖が。

 

「...はい。」

 

「〜♪」

 

結局言われるがまま抱っこしてあげ、他の子達のISの操縦も見てあげた。

それに伴って周りの一夏やデュノアの周りでもお姫様抱っこしながらの搭乗をさせろと騒ぎ、織斑先生にしばかれる。

俺がさっきしばかれなかったのは山田先生やラウラとのフォローしたからなのかな。

 

その後の射撃訓練ではISの事だから上手くは言えなかったが俺が普段からドリルクラッシャーを使う際に気をつけていることを話した。

ホークガトリンガーを使用した精密だが威力のある速射には皆拍手してくれた。

 

その後のISの格納では一夏が必死に一人で運びシャルルは女子に運んでもらう中、俺はコミックの持つ能力「リアライズペインター」で巨大なロボットを作成。壊さないよう慎重に運ばせた。

その際に一夏達がなんか言ってたけど気にしない。

 

一時はどうなるかと思ったけどやっぱ情けは人の為ならずってこのことだな〜

いやー助かった助かっ..

.「さて桐生、お前へのペナルティがますます追加されているが明日()()()()()()出席するように」

いや怖っ! 超怖っ! 何されるんだよ俺!

そして俺は再び絶望の淵に立たされるのであった...。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

昼休みになり、一夏に昼食一緒にどうかと誘われたが断った。

悪いけどこれ以上の修羅場は結構だ。

たまには1人で何とかしてくれ。

 

ちなみに一夏にデュノアの事について聞いたが特に変な所はなく、女子に騒がれたりした時も「男はやっぱり珍しいから騒がれるよね」とか言ってたり、着替えをする時も一緒になって着替えたらしい。

その時にあまり馴れ馴れしくはしなかったぞと誇られたけどそんなことはどうでもいい。

 

やっぱりおかしい。

原作と反応が違うし、一緒になって着替えた時もデュノアの方から一緒になったというのが不可解だ。

一夏の鈍感さがあったとしても不自然な所はないと感じられる。

もしかして原作知識関係なしのパターンまた来たか?

 

束姉さんに電話したけど繋がらなかったのでメールで一応伝える。

すると受信フォルダに届いていたメールを見た時俺は驚きを隠せなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

簪Side

遅くなっちゃった。

図書館で調べものをしていたら思わず読み進めてしまったのだ。

私は早く打鉄弍式を組み立てて、あの人に追いつきたいんだ!

 

「...あれ?」

 

あそこにいるのは....桐生くん?

何か捜し物してるけど何かあったのかな?

 

と、彼に向かって進もうとしていた足を止める。

 

...だめだ、私は彼に対して酷い対応をしてしまった。

きっと彼も怒ってるだろう。

このまま黙って去ろう...「カタンッ」っ!

 

音のした足元を見るとネジが一本落ちていた。

ど、どうしよう。桐生くんが来ちゃう!

 

「あれ? 簪さん?」

 

時既に遅し。

桐生くんは私の目の前まで来ていた。

ど、どうしようどうしよう。なんて言われるか...

額には汗が浮かんで体が思わず震える。

ドキドキが止まらず消えてしまいたかった。

 

「あのさ」

 

「は、はい!」

 

ああ、何か言われるーー

 

「またで悪いんだけどこの部品ってどこにあるかな?」

 

「...え?」

 

「知ってたら教えて欲しいんだけど、ダメかな?」

 

そう言って首を傾げてお願いしてくる。

怒ら、ないの?

 

「えっと、あっちの棚にあったはず」

 

「ほんと!? いやー助かるよ! ありがとうね、何度も何度も!」

 

そう言って桐生くんはあっちへ行ってしまう。

あ、こ、このままじゃ...

 

「ま、待って!」

 

「ん?」

 

自分でも驚くくらいの声が出て桐生くんを呼び止める。

しまった、なんて言おう。 えーとえーと...

 

「その、前に篠ノ之さんと来た時に冷たいこと言って...ごめんなさい! あとずっとお礼が言いたかったんだけど、どう言えば良いのか分かんなくて...。だから、本当にあの時はありがとう!」

 

私は思い切り頭を下げて思いの丈をぶつける。

彼は許してくれないかもしれない。でも言いたかったことは伝えられた。

それなら私はもうなんて言われても気にしない。

けど彼は怒るでもなく突然

 

「ぷっ、あははは!」

 

「!?」

 

笑い出した。

普段のキリッとした顔とは違った可愛らしい笑顔にちょっと照れてしまう。

 

「なーんだ、俺簪さんに嫌われてたわけじゃなかったんだね。 それならよかったよ」

 

「えっと、怒らないの...? 私に...」

 

「うん、ちゃんと気持ちは伝わったしね。」

 

ニッといたずらに笑う姿がからかわれたような気がしてちょっとムッとなる。

 

「なにそれ。じゃあ桐生くんの事嫌いになるかも」

 

「待って、冗談だって。」

 

なんて言い合ってお互い笑い合う。

あれ? こんなふうに他人とすぐにいざこざがなくなって話せるようになったのっていつぶりだっけ?

お姉ちゃんともまだ解決出来てないのに...彼が特別なんだろうな。

 

彼はなんとなく話しやすいって感じだったけどそれだけじゃなかった。

優しくて、でも面白くて。かっこいいのに可愛い所もある。

...変な人。

 

「じゃあ俺もう行くけど、これから俺のことは下の名前で読んでも構わないよ。」

 

「え...じゃあ...その、建兎...?」

 

「うん、あと気にせず話に来てくれよ。 俺ももっと簪さんと話したいしさ。」

 

!! 話したい...!? 私と!?

嬉しかった。彼は、彼だけは私を「更識簪」として見てくれてるような気がして、優しく接してくれて。

 

「...うん、じゃあ行けたら1組に行ってみる」

 

「それ行かないやつだよね?」

 

「そうかな?」

 

また笑い合う。

こんなに笑ったのもなんだか久しぶりな気がする。

ちゃんと心から笑えたって事が。

 

「簪さん!」

 

「?」

 

「もし何か困ったら俺に頼ってくれよ。 俺は簪の味方だからさ。」

 

「!! う、うん。 その時は、その、よろしく...」

 

び、びっくりした。

まさか、いきなりそんなこと言われるなんて...

今日は久しぶりにビルドの動画見ようかな...

 

でも、去り際の建兎はなんだか焦ってるように見えた気がした。

 

 

簪Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――――

一方その頃...

 

「ぐぬぬぬ」

 

整備室の横の壁にとある影が一つ。

それは簪と似た水色だった。

そう、彼女の姉。更識楯無である。

 

「桐生くんめぇ...、まだ会って少ししか経ってないのに簪ちゃんともうあそこまで...! うー、羨ましい!!」

 

しかし、楯無は気づいていなかった。

嫉妬を向ける対象が建兎だけではなかったことに...




クソ長い文を読んで頂きありがとうございます。
ようやくホークガトリングフォームの登場ですが、これから先ベストマッチはガンガン出して行きます。
だってそうしないと足りないもの。(白目)
次回もよろしくお願いします!

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第24話 優しさのボーダーライン

今回ちょっと一夏にアンチ入ってるかもしれません。


「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

「そ、そうなのか? 一応分かってるつもりだったんだが...」

 

「うーん、知識はあるけどそれが生かせてないって感じかな。一夏のISは近接武器だけだからもっとよく把握しないといけないよ。さっきの僕との試合みたいに間合いを詰められずに負けちゃったり瞬時加速も一夏の場合直線的だから予測で攻撃できちゃったりするから。」

 

「直線的か...。 ちなみに向きとか変えようとしたらどうなるんだ?」

 

「無理して変えようとしたら空気抵抗とかで機体に負荷がかかって最悪骨折しちゃうよ?」

 

「よし、やめとこう。」

 

今日は土曜日。

前の世界なら学校は休みだったがIS学園では違う。

午前に理論学習、午後の自由時間を利用してアリーナでの実習をよく生徒は行っている。

 

現に俺達もそうしており一夏はシャルルの分かりやすいレクチャーを受け、箒と鈴は羨ましそうに2人を見ながら練習してる。

というかさっきからそのせいで集中出来ていない。

ちなみに俺はセシリアとだ。

 

白式は零落白夜に容量を使いすぎて他の武器が使えない。

そのため実際に銃を使うのは一夏は初めてだったりする。

慣れない武器に苦戦しながらもシャルルの指示通り試し撃ちを続けている。

 

そんな中で俺はシャルルに注目していた。

今のところ、一夏の話以外は原作乖離が起きている感じはしない。

専用機も「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」だし、今話している内容を聞く限り性能は原作と変わっていないと分かる。

だがまだ結論を出すのは早い。アイツが敵になるか味方になるか分からない内は目を光らせておこう。

 

そんなことを考えていると奴さんはやってきた。

 

「ねえ、ちょっとアレ...」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど...」

 

シャルルと一緒に転校してきたラウラである。

彼女もまた話題となっており皆が注目する。

 

「おい」

 

「...なんだよ」

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

「専用機持ち」を「ライダー」に変えたら完全に浅倉じゃん。ビルドのコブラ枠はスタークで十分なんだが。

 

「イヤだ。理由がねえよ」

 

「貴様にはなくとも私にはある」

 

前にも言ったが彼女は織斑先生を心酔している。

それがなぜ一夏を恨んでいる事になるかと言うと第2回モンド・グロッソが理由だ。

あの時一夏が攫われたことを知った織斑先生は試合を棄権し一夏救出に向かった。

彼女の強さをよく知る者達は大会二連覇を期待してただけにまさかの不戦敗に驚愕。

そして一夏の誘拐されたルートを知っていたドイツ軍関係者への借りを返すために織斑先生はドイツ軍の部隊での教官に任命され、そこでラウラと出会った。

 

そこで彼女は織斑先生に救われ、尊敬するようになる。それから織斑先生の経歴に泥を塗った一夏に恨みを持つようになったのだ。

俺に対してはまあ、恐らく織斑先生が助ける前に攫われた一夏をビルドに助けられた云々とかでムカつくって事だろうな。

 

はっきり言って俺と一夏にとってあの事件はあまり思い出したくない出来事である。

一夏自身も姉に迷惑をかけたと(先生本人は気にしてないが)責任を感じており、俺ももっと他に方法があったのではと後悔しているからだ。

 

しかしラウラはそんな事知るわけもないので

 

「ふん。ならばーー戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

瞬間ラウラは自身のISを戦闘状態にシフト、左肩の砲台から実弾を一夏に向かって発射。

 

ゴガギンッ!

 

「...こんな狭い所でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人は沸点が随分低いんだね。ビールだけじゃなくて頭もホットなのかな?」

 

「貴様... フランスの第二世代型ごときが私の前に立ちふさがるな!」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型よりは動けるだろうからね」

 

しかしそれをシャルルがインターセプト。

自らも武器を構えて威嚇、一触即発の雰囲気になる。

 

しかしその静寂を破ったのは

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

騒ぎを聞きつけた担当教師の声だった。

 

「...ふん、今日は引こう。 桐生建兎、貴様もいつか叩き潰す。」

 

そう言ってラウラはさっさとずらかる。

あくまでさっきの俺への恨みの理由は推測だけどもしそうだとして逆恨みが過ぎる気がする。

 

「一夏、大丈夫?」

 

「あ、ああ。 助かった。」

 

「今日はもうあがろっか。 そろそろアリーナが閉まるし。」

 

「おう。そうだな。」

 

...あ、もう。終わりか。

新しいボトルの調子試してたから夢中になってたわ。

さて、今日は簪と話があるんだけどちょっとその前に...

 

「ふぅ、ではわたくし達もそろそろお開きとしましょうか。 桐生さんも彼女には気をつけてくださいましね。」

 

「オルコットさん、ちょっと待った。」

 

「はい?」

 

「ボーデヴィッヒさんの事なんだけど、もしオルコットさんが襲われたらその時は....」

 

来たる脅威は避けるべし。

セシリアにとある話をしておいて今日の実習は終わった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「...いちいち気にかけてくるの。 お節介もしてくるからめんどくさくて」

 

「そう! そうなんだ! 最近は無かったが私に声もかけず一人で突っ走る事が多々あった! それこそ何度呆れたことか...」

 

ここは整備室。

この間簪が1組を訪れた際に箒にも冷たく接してしまったことを謝罪。

それ以来仲良くなり、今は姉に対する愚痴話に花を咲かせていた。

 

「私なんて影から監視されたりもしてーー」

 

「私なぞ監視どころか心を読まれたりするぞ!? 本当に人間なのかあの人は!」

 

「...お互い姉に好かれてるね」

 

「...ああ、ウザさを感じるほどにな」

 

恐らく2人の姉はどこかでこれを聞いてるし愛する妹の容赦のない言葉に打ちひしがれているだろう。

 

「...でも、私も私なんだよね...。」

 

「...?」

 

「お姉ちゃんに負けたくない、周りを見返したい。 そう思っているけど、心のどこかでそれを否定してる自分もいる気がする...。 本当はもっと素直になりたい、のかなって。」

 

「....」

 

「...箒は、どう? あのお姉さんの事は嫌い...?」

 

「わ、私...は「ごめん! 簪、遅くなった!」!!」

 

「はあ...はあ...。 あれ? 2人とも何か話してた?」

 

「い、いいいや! 何でもない! では、私はこれで、失礼する!」

 

突如現れた建兎に2人は驚き、箒はそのまま走って帰ってしまった。

何も知らなかったとは言え、簪は建兎を思わずジト目で睨んでしまう。

 

「....」

 

「えっと、何か、すみません...」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

一方その頃、箒は

 

「私は姉さんの事が、嫌い...なのか?」

 

簪の先程の質問が胸に刺さる。

正直に言えば好きではない。

好きな人である一夏や家族と離れ離れになってしまったのは姉の作り出したISのせいであり、小学生の頃から何度も何度も転校を繰り返し、心が休まる時など無かった。

 

しかし、自分は都合の良い時だけ姉の名を使うことがある。

常に自分は一夏への思いで何とか保ててこられた。

そんな一夏を取られたくなくて、一夏と一緒に居たくてつい、と。

 

思えばとても情けない。

私は「篠ノ之束の妹」じゃない、他の誰でもない「篠ノ之箒(一人の人間)」でありたい。

そんな思いだった癖にこの有様だ。

一夏に会えない鬱憤を剣道の対戦相手にぶつけていたあの頃と何一つ変わっていない。

 

謎のISが襲ってきた時も力が無いからと言い訳して結果的に一夏達に迷惑をかけてしまった。

しかも、そんな事をしでかしておいて罰は大した事がなかった。

ここでも「篠ノ之束の妹」という肩書きが味方をしてくれたのだ。

その事を姉さんはどう思うだろう。

 

「...姉さん。」

 

あなたは今も、私を見ていてくれているのですか? 大切な妹だと思ってくれているのですか? こんな、身勝手な私を...

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

簪Side

 

「じゃあテキトーにくつろいでって」

 

「う、うん。」

 

今、私は建兎の部屋..もとい織斑先生の部屋に居ます。

あれ以来建兎とは仲良く話せているけどいきなり彼の部屋に入るなんてドキドキが止まらない...。

まあその気持ちの半分くらいは織斑先生も住んでる部屋だからってことなんだけど

 

「建兎...」

 

「うん?」

 

「えっと、大丈夫なの? 私が男の子の部屋に入って。 織斑先生に怒られたり、しない?」

 

「あー、大丈夫大丈夫。 ちゃんと許可はとったから。」

 

「...そ、そう。」

 

それなら良かった。

女尊男卑の連中に襲われたりハニートラップを仕掛けられたりって危険もあるからこういうことってダメな気がするんだけど... 信用してもらえてるって事なのかな...?

 

「んじゃ、お茶入れてくるよ」

 

「あ、お気づかいなく。」

 

彼はそのままキッチンへ向かった。

私は何となくそわそわしてしまって彼を待っているとカタカタと小さく揺れてる変な箱を見つけた。

厳重にロックされて張り紙には『開けるな危険!』と書いてあった。

 

...開けるなって言われると開けたくなるんだよね。

私はシステムをハッキングしてロックを解除した。

思ってたより簡単なシステムだったので楽に開けられた。

そしてそれを開こうとした瞬間ーー

 

「簪、ダメだ!」

 

「!?」

 

後ろから建兎の声が。

しかしもう開けきってしまっていたので、中にあったものが勢いよく飛び出してきた。

 

『キシャー!』

 

「簪、離れろ! そいつは危険だ!」

 

「え? え?」

 

突然のことに動くことが出来ず、目の前のモノと目が合う。

それは小さなトカゲ?で、空を飛んでいた。

オモチャみたいだけどこんなの見たことない。

建兎のなんだろうか?

 

「...あれ? 襲わない?」

 

「え?」

 

『キシャー! キシャー!』

 

するとトカゲは私に寄ってきて、思わず避けてしまうが絡んできた。

私の周りをゆっくりと飛び、頭をスリスリしてくる。

あ、こうしてみると可愛い...かも。

 

「...建兎、この子は?」

 

「えーっと... クローズドラゴン、なんだけど。 そいつ襲ってこないな... いつもは誰にでも襲ってくるのに...。」

 

聞けばこの子はとんでもない暴れん坊で誰にも懐かず、建兎はおろか織斑先生でも捕まえるのに手を焼いたらしい。

あと建兎がこの部屋に移ることになったのもこの子のせいらしい。

説明してる時も私に近づいたからか建兎を襲っていたし、口から青い火も吐いていた。

 

「あっつう...。 でもまさかそこまで懐くなんてなあ...。あんなに苦労してたのが嘘みたいだ。」

 

「...ねえ、建兎。この子、私で預かっても...いい?」

 

「え!? で、でもそれは!」

 

「お願い! なんだかこの子私から離れようとしないし、近づいたら襲いかかってくるんでしょ?」

 

「まあ、確かにそうだけど...。」

 

「...ダメ?」

 

思わず建兎の手を取って覗き込むようにお願いしたら建兎がちょっと赤くなる。

 

「...わ、分かった! 分かった! 簪に預けるよ! でも何かあったら絶対俺に言えよ!?」

 

「! ありがとう!」

 

思わず飛び上がって喜んでしまう。

心無しかこの子も嬉しそう。

...でも「この子」はダメだよね。「クローズドラゴン」も長いし。

うーん...

 

「『クーちゃん』...」

 

「え?」

 

「そう! クーちゃん! 君はこれからクーちゃんだよ!」

 

『キシャー! キシャー!』

 

困惑する建兎を横に私はクーちゃんを抱きしめる。

えへへ、これからよろしくね。クーちゃん...♪

 

 

簪Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――――

建兎Side

 

はあ、何だったんだクーちゃんって...。

まあクローズドラゴンが暴れずに居てくれたら万々歳なんだけどな。

簪ならばああいうのでも大切に扱ってくれるだろう。

 

簪の去った後の自分の部屋で俺は一人横になっていた。

もう夜に差し掛かる頃なので部屋に明かりを付けている。

織斑先生はまだ帰ってきておらず、静かな一時を過ごしていた。

...多分そろそろかな。

 

ドンドンッ!

 

「け、建兎! いるか!?」

 

来た

ドアを開けると走って疲れたような焦ったような顔をした一夏が。

 

「どうした?」

 

「頼む! ちょっと来てくれ!」

 

「...了解」

 

一夏に引っ張られ、部屋に入るとそこには

 

「...なんで建兎も?」

 

ジャージを着て、少し呆れたような顔をしたシャルルが。

アニメとかだと目に見えて女だと分かったはずだがあまりその様子は見られない。

 

「一夏に呼ばれたからな」

 

「建兎もシャルルを()()してくれ!」

 

...は? 説得?

 

「だから一夏...。 僕は助けて欲しい訳じゃないって」

 

「でも! 俺達にだって何か出来ることくらい...!」

 

「ちょっと待て待て、何がどうした?」

 

「...はあ。建兎にも一応話しておくね。実はーー」

 

ため息交じりにシャルルは自身の過去を明かす。

自分は愛人の子として生まれ、実の母と血の繋がらない妹と過ごしていた。

しかし、数年前に母が他界。

デュノア社に引き取られ、自分達2人は義母に叩かれ無理やりISに関する仕事をされたらしい。

そして父親が妹を別の金持ちの家に売り、自分は一夏と俺のISのデータを取らせるためにIS学園へ入学させたようだ。

 

「...で、僕は元は女なんだよ。 今はこんな体だけどね。」

 

「いや、それは知ってたけど。」

 

「知ってたのかよ!」

 

「じゃあなんで一夏にバレたんだよ?」

 

「...えっと、その元々女だったからか、その、アレが無かったから」

 

「一夏お前...どこまで見たんだよ...」

 

本格的に一夏と接したくなくなってきたんだが。

 

「い、いや! 悪かったよ! それは!」

 

「はあ...。 じゃあなんで女だった体がそうなったんだよ」

 

「...覚えてないんだ。」

 

「は?」

 

「僕には引き取られた時の間にブツっと記憶が途切れてる部分があって、多分その時...かな。」

 

...なんだそれ。とてもじゃないが本当の事とは思えないぞ。

でもシャルルの顔は何かを諦めたような顔ではない。

本当にあった事をただ淡々と話しているだけ。って感じがする。

 

「こんなことになったけど、2人にはその、黙っててほしいんだ。 僕はこの任務は失敗出来ないから。」

 

「!! 何でだよ! 親にそんな事強いられて、なんでそのまま受け入れられるんだよ!」

 

「...一夏」

 

熱くなる一夏を制止するがこいつは止まらない。

親に捨てられた自分と重ね合わせているから余計に感情移入してしまっているのだ。

 

「シャルルは、シャルルは何とかしたいって思わないのかよ!」

 

「一夏に僕の気持ちなんて分からないよ!!」

 

シャルルは突如大声で叫ぶ。

さすがの一夏もたじろぎ、黙ってしまう。

 

「...ごめん、でも僕は大丈夫だから。 2人には気持ち悪いかもしれないけど今まで通り振舞ってほしい。」

 

「シャルル、でも... っ!」

 

「...(フルフル)」

 

恐らく今は話がちゃんと出来ないだろう。

一夏の肩に手を乗せてシャルルを一人にするように促す。

 

「...シャルル、俺達は一旦メシ取りに出てくる。 その間少しだけでも一夏の言った事ちゃんと考えてみな」

 

そう言って出ていく俺達2人。

シャルルは俺の言葉に返答せず、俯くだけだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

部屋を出て廊下に出る俺達。

しかしそこでも話は終わらなかった。

 

「建兎、お前はどうなんだ? アイツを、シャルルを救いたくないのか?」

 

「そりゃ救いたいさ。けど、アイツ自身が何とかしたいって思ってない限りどうしようもない。 」

 

「っ! そんな事ないだろ! ここの特記事項二十一だってあるし、その間どうにか「例えば」…?」

 

「小学生が宿題出来なくて困ってたらお前はその子の代わりに全部解いてやるか? 違うよな? せいぜい見てやるか教えるくらいだろ?」

 

「そ、そりゃそうだろうけど。 それは今の事とレベルが違うだろ!」

 

「ああ、小学生の宿題だったらお前一人でもどうにか出来るかもしれない。でもこれは国家が絡んだ重大な事だ。俺らだけじゃどうにも出来ない。」

 

「うっ、で、でも。」

 

「仮に俺達でどうにか出来たとして宿題はその子が解けるようになって理解出来なきゃ意味がない。後でどうにかしようとそのまま放置してたってより面倒になるだけだ。 そこら辺は今回の事と似てるんじゃないか?」

 

「それは...」

 

「100%救える方法が無いのに聞こえの良い言葉を掛けて親身になってやるだけじゃ『優しい』とは言わねえぞ」

 

俺の言葉に項垂れる一夏。

あ、やべ。簡単な例え話するつもりが言い過ぎたかも。

 

「けど、まあお前のそのシャルルを何としても助けたいって気持ちや他の人達に迷惑を掛けたくないって気持ちは良いことだとは思うぞ。」

 

「!」

 

「ただ俺達はまだまだ大人に助けてもらわなきゃならない子供だ。 ちゃんと大人を頼って確実にシャルルを助けられる方が良いだろ?」

 

「...ああ」

 

「俺達にはちゃんと信頼出来る、頼りになる大人だってちゃんと居るだろ? 感情的になって狭い視野で物事を見たって空回りするだけだ。 少し冷静に、な。」

 

「ふぅ...。 お前の言う通りだな。 ふんっ!」

 

一夏は自らの頬を強く叩く。

ようやくエンジンかかったかな

 

「俺も千冬姉に話してみるよ。建兎も何かあったら俺に言ってくれ。俺も、力になりたいんだ!」

 

「ふっ、了解!」

 

よし、これでこそ一夏だ。

バカだけど真っ直ぐ。さすが主人公だ。

 

「んじゃ、俺は束博士と生徒会長とに連絡取ってみるわ。 とりあえず今は飯だな。」

 

「え!? 建兎って束さんと面識あったのか!?」

 

一夏のツッコミが廊下に響く。

いちいちリアクション大きすぎだろ...。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

シャルルSide

 

はあ、酷いこと言っちゃったな。

2人は僕のこと助けようとしてたのに。

 

残された部屋で先程の出来事にシャルルは自己嫌悪していた。

自分が思わず言ってしまった言葉で特に一夏を突っ返してしまった。

 

「何とかしたいのは、僕の方だよ...」

 

建兎の言ってた事は分かる。

けど、今僕はどうしても達成させたい事があるんだ。

そのためには2人や皆を騙さなくちゃいけない。

心は痛む。でも、元々嫌だったこの体を利用すれば出来るはず。

 

そうしてシャルルはポケットから写真を取り出す。

そこには髪の長い女性と小さな女の子が2人。

一方は女性と同じ金髪で、もう一方は黒髪の子であった。

 

フランスの代表候補になって、堂々とまた会いに行くんだ。

待っててね、美空...。




このストーリー展開で良いのか不安を感じながら投稿。
ちゃんと考えながら書いてるから大丈夫だとは思うけど...
ではまた次回。

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第25話 青と黄と交差するブラック

お久しぶりでございます。
今回投稿する際、前までの話をほぼ全て編集しました。
ストーリー上は何も影響はないはずですのでご安心を。
あと今話のサブタイ変えました。


暗い、暗い闇の中。

何も見えず、聞こえず、感じない。深い、深い闇。

ラウラ・ボーデヴィッヒは生まれた時から今までその闇の中に生きてきた。

 

自らはなぜ生きるのか、何のために生きるのか、「ラウラ・ボーデヴィッヒ」とは何なのか...。

そんな疑問は自分には不要だった。

自分は数ある代わりの一つに過ぎない。

そんな現実が彼女を何度も苦しめた。

 

今もなお闇の中へと堕ち続ける彼女に差し込んだ光。

それは教官こと織斑千冬であった。

 

彼女と初めて出会ったとき、その強さにとても震えたのを覚えている。

彼女が先ほどの疑問のすべての答えになった。

織斑千冬が師匠であり、目標であり、自分が「ラウラ・ボーデヴィッヒ」である理由となった。

 

...そんな彼女を不完全にさせた二人。

彼女の実弟であり、汚点を残した張本人「織斑一夏」。

彼女をたぶらかし、甘い人間にしたビルドこと「桐生建兎」。

絶対に認めない。たとえどんな手を使おうとも...。

 

彼女は鈍く光る赤い右目を閉じ、夢のない眠りに沈んでいった...。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そ、それ本当!?」

 

「う、ウソついてないでしょうね!?」

 

月曜の朝、教室内で騒ぐ声に廊下にいた一夏と俺は目が目をしばたたかせた。

 

「なんだ?」

 

「...さあな。 ふぁあ...。」

 

ちなみに俺も一夏もシャルロットの事で夜通し話していたのですごい眠たいのだ。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ち切りなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君達と交際できーー」

 

「俺たちがどうしたって?」

 

「「「きゃああっ!?」」」

 

一夏が声を掛けた途端すごい悲鳴があがった。

遅れてシャルロットも教室に入り、何事かと俺に声をかけてくる。

 

「で、何の話だったんだ? 俺の名前が出ていたみたいだけど」

 

「う、うん? そうだっけ?」

 

「あ! あたし自分の席戻らなきゃ!」

 

「そ、そうだった! 早く戻らないと!」

 

どこかしらよそよそしい様子で皆自分の席やクラスに戻り、廊下に居た女子達も蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 

「...なんなんだ?」

 

「僕も今来たばかりだから何とも...。」

 

「早く座るぞ」

 

このイベントについて知ってはいたが眠気に耐えられずさっさと座り、うつ伏せで眠った。

以降、授業中に指され叩かれたのは言うまでもない。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「はー。この距離だけはどうにもならないな」

 

「あー、いってぇ...。 この痛みだけはいつになっても慣れないな」

 

授業終了後、俺たちは共にトイレへと向かっていた。

いわゆる連れションである。

 

学園内で男子が使えるトイレは増えたとはいえ3つのみ。

廊下を走らねば間に合わない距離にあるのに、当然走れば怒られる。

それでもなんとか間に合うよう早く歩いていると声がした。

 

「なぜこんなところで教師など!」

 

「やれやれ...」

 

「うん? 千冬姉に、ラウラの声...?」

 

曲がり角の先で2人が何やら話し合っているので俺たちは物陰に隠れた。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ。」

 

ラウラはこれまでにも織斑先生にドイツに戻るよう直談判していた。

しかし答えは「無理だ」の一点張り。

そんな織斑先生にラウラの不満もヒートアップする。

 

「お願いです、教官。 我がドイツで再びご指導を。このような極東の地での役目を果たしていても、あなたの能力は半分も生かされません」

 

「ほう」

 

「大体、この学園の生徒は意識が甘い、危機感に疎く、加えてISをファッションかなにかと勘違いしている。 そのような程度の低いものたちなど教官が教えるにたらなーー」

 

「ーそこまでにしておけよ、小娘」

 

「っ...!」

 

っ!

少し離れたここでも気迫が伝わるほどの声に関係ない俺もビビってしまった。

それはラウラも同じなようですくんでしまい、続きが出てこない。

 

「少し見ない間に偉くなったな。15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ、私は...」

 

ラウラの震え、消え入りそうな声。

先程の気迫に震える恐怖と自分の全てとも言える相手に嫌われてしまうのではという恐怖が彼女に見受けられる。

 

「お前は転入してきたばかりだから知らないだろう。 この学園の者達は少しずつだが『力』というものを理解しつつある。 私やお前とはベクトルの違う『強さ』を彼女達は掴み取るだろうさ。」

 

「...」

 

「そして、そんな彼女達を変えたのは桐生、 奴の存在だ」

 

「!!」

 

俺の名前が出た途端ラウラは驚き、すぐに恨めしそうな顔をする。

そんなに彼女に恨まれてるとは思いもしなかったがな...。

 

「お前と同じ候補生のオルコットや凰、そして私の弟も例外ではない。 奴がアイツらに良い影響を与え、少なからず心身共に成長させている。 そう、出来すぎているほどにな...。」

 

最後だけなぜか織斑先生はなんとも言えない顔をしていたが、ラウラは本当に悔しそうな顔をした。

自身が恨んでる相手が尊敬してる相手にとても褒められている。

それは面白くないだろう。

 

「桐生建兎...! 何故ですか! あなたは、何故奴にそこまで!!」

 

「...はぁ、そろそろ授業が始まる。 さっさと教室に戻れよ」

 

「......」

 

声色の戻った織斑先生が未だに納得のいってない様子のラウラをせかし、その後にこっちに...あ。

 

「そこの男子ども。 盗み聞きか? 異常性癖は感心しないぞ」

 

「な、なんでそうなるんだよ! 千冬ねー」

 

パァンッ!

 

「学校では織斑先生と呼べ」

 

「は、はい...」

 

「それから桐生、お前もだ。 お前はこの劣等生と違って座学も実技も大丈夫だろうが、勤勉さを忘れるな。 言わずもがな織斑もな。」

 

「「はい...。」」

 

「廊下は走るなとは言わん。 バレないよう、間に合うように走れ」

 

「了解」

 

結局間に合いませんでした

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「さて、じゃあこないだやってたあたしが近接戦中にセシリアが援護ってのやるわよ」

 

「了解しましたわ。 ですが、誰かお相手してくださると良いのですけど...。」

 

放課後、第三アリーナで鈴とセシリアは山田先生と模擬戦をした時の復習をしていた。

月末にあるトーナメント戦であらゆる人達と戦う以上、新しいことに挑戦するより失敗を見直し、改善しようと2人で話し合った結果だった。

各々で改善点を見つけ、良くはなっているが出来れば完璧にしたい。

本当ならば誰か相手がいると良かったのだが、山田先生は仕事で出られず友達にも声を掛けたが都合が合わなかったのだ。

 

と、そんな折に2人に超高速の砲弾が飛来した。

 

「「!?」」

 

緊急回避の後、飛んできた方角に目を向けるとそこには漆黒の機体、名は『シュヴァルツェア・レーゲン』、操縦者はーー

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ...」

 

セシリアの顔が苦くこわばる。

鈴は戦闘を予測し、準備を整える。

 

「...どういうつもり? いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。 ...ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

いきなりの挑発的な物言いに、口元が引きつる2人。

 

「何? やるの? わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。 それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

 

「...」

 

ラウラの態度に不快感を抱いた鈴は負けじと罵倒するがセシリアは何も言わない。

しかし、ラウラは続ける。

 

「はっ...。 ふたりがかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。 よほど人材不足と見える。 数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国はな」

 

ぶちっーー!

 

鈴の中で何かが切れる音がした。

と、同時に装備の最終安全装置を外す。

 

「ああ、ああ、わかった。 わかったわよ。 スクラップがお望みなわけね。 ーーセシリア、どっちが先やるかジャンケンしよ」

 

もう既に鈴の怒りのゲージはMAXに差し掛かっており、今すぐにでも暴れだしそうな雰囲気だった。

さぞセシリアも怒り心頭かと思いきや

 

「ーーいえ、ここはボーデヴィッヒさんに先程の練習のお相手になって頂きましょう」

 

「...は?」

 

「!?」

 

セシリアはニコッと笑い、なんと共闘することを提案してきた。

あまりの意外さに鈴は変な声をあげ、ラウラも驚きを隠せない。

 

「ちょうどわたくし達、こないだの模擬戦の復習をしようとしてまして。 ついでにお相手になってください」

 

「ちょちょちょちょ!!」

 

勝手に1人で話を進めるセシリアに鈴は耐えかねて個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)で話をする。

 

『何勝手に話進めてんのよ! 大体なんでアイツに練習相手頼んでんのよ! さっきからあたし達をすごいバカにしてきたのに!!』

 

『鈴さん、落ち着いてくださいまし。 この間桐生さんがこうおっしゃっていましたの』

 

鈴を宥めながらセシリアはこの間の話をする。

彼女の言う建兎の説明とは

 

『ボーデヴィッヒさんの事なんだけど、もしオルコットさんが襲われたらその時はとにかく冷静に無関心を装うんだ。』

 

というものだった。

建兎曰く怒りっぽい人に1番有効な手だとか。

 

『なるほどね...。 正面から罵倒しあうんじゃなく好きに言わせておくってこと』

 

鈴も落ち着き、セシリアに同意する。

こちら側としては相手を探していて、なおかつそれなりに強いヤツとが望みだったので、まさに願ったり叶ったり。

鴨がネギしょってきたようなものだった。

 

『腹が立っているのはわたくしも同じです。 ですがここは抑えて、逆に今までの成果を見せて差しあげましょう』

 

『そうね! ついでにボコボコに出来るし一石二鳥よ!』

 

(本当は『無視しろ』まで言われてましたが、まあいいですわよね)

 

ちゃんとアドバイスを聞いてるようで聞いていないセシリアだった

 

通信を切った2人は再びラウラと向き合う

 

「お待たせしました。 では二人で行かせていただきます」

 

「はっ! 同じ過ちを何度繰り返すつもりだ? 所詮下ら「はいはい、わかったから。 ちょっと黙ってて」っ!」

 

「では鈴さん、こないだは距離を開けすぎたので今回は...」

 

「そうね、途中でローテーションするのも「貴様ら! 私を無視するなっ!」...うるさいわね。 あたし達は相談してんの。 あんたには後でかまってあげるから待ってなさい」

 

ここまでは概ね計画通りである

怒りに身を任せるとロクなことにならないことを知っている二人はラウラの行く先を予想していた

 

ラウラは同学年で最も強い

それは二人も知っていたが、今回は自分たちに分があった

二対一というのもあるが、相手は怒っていて自分たちを侮っている

自分たちは冷静であり、これまで何度も勉強や特訓を重ねてきたので自信もあった

 

「じゃ、行くわよ!」

 

「参ります!」

 

「とっとと来い!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一夏Side

 

「一夏、今日も放課後特訓するよね?」

 

「ああ、もちろんだ。 今日使えるのは、ええとーー」

 

「第三アリーナだ」

 

「「わあっ!?」」

 

廊下でシャルルと並んで歩いていたら、いつの間にか横に並んでいた第三者こと箒からの予想外の声に俺たちは思わず大声を上げた

俺たちの反応が不満だったのか箒は眉をひそめる

 

「...そんなに驚くほどのことか。失礼だぞ」

 

「お、おう。 すまん」

 

「ごめんなさい。 いきなりのことでびっくりしちゃって」

 

「あ、いや、別に責めているわけではないが...」

 

ぺこりと礼儀正しく頭を下げるシャルルに、箒も気勢をそがれてしまい、話を逸らすように咳払いをする

 

「ともかく、だ。 第三アリーナへ向かうぞ。今日は使用人数が少ないと聞いている。空間が空いていれば模擬戦できるだろう。 ...それより、今日は建兎は一緒ではないのか?」

 

「ああ、なんか寄るところがあるとか言って行っちゃったぞ」

 

そう、建兎も誘ったのだが断られてしまい、シャルルと二人だけで行動していたのだ

仕方がないので三人で実践訓練をすることにした

 

喋りながら向かっていると何やら第三アリーナで騒ぎが起きているようだ

シャルルに促され、俺たちは観客席で先に様子を見ることにした

 

「誰かが模擬戦をしてるみたいだけど、それにしては様子がーー」

 

ドゴォンッ!

 

「「「!?」」」

 

突然の爆発に驚いて視線を向けると、その煙を切り裂くように影が飛び出してくる。

 

「鈴! セシリア!」

 

特殊なエネルギーシールドで隔離されたステージで二人と戦っていたのは『シュヴァルツェア・レーゲン』を駆るラウラだった

しかしよく見るとその機体にはところどころ損傷していた

鈴とセシリアがラウラを押しているのだ

 

「くらえっ!!」

 

鈴のIS、『甲龍』の両肩が開く

そこには不可視の砲台である衝撃砲『龍砲』が搭載されている

そこから放たれる一撃は訓練機ならば即ボロボロにさせるであろう

その砲撃をラウラは傷ついた機体ながらも回避をしようともしない

 

「くっ! だが、このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前では「遅いですわ!」なッ!?」

 

しかし、ラウラが何かするより早くセシリアが狙撃する

無駄のないコンビネーションに翻弄され、うまく回避ができずに衝撃砲にも当たってしまった

 

鈴が『双天牙月』メインで衝撃砲も使う格闘戦に加え、ピットを使った変幻自在でタイミングの良い射撃を繰り出すセシリアの援護

この間の山田先生との模擬戦からそんなに経ってないのに物凄く上手になっていた二人にシャルルと箒も驚いている

 

「くっ! ありえない! あの教員との戦闘ではここまでの動きはできなかったはず!」

 

「ほらほら、最初の威勢はどうしたの? まるで相手にならないわね」

 

「あれからわたくし達も鍛錬を重ねたのです。 むしろできていない方がおかしいですわ」

 

ラウラの悔しそうな顔を見る二人はまだまだ余裕のようだ

二人の機体もダメージは見られるが、ラウラのと比べれば大したことはない

 

「でもま、二対一なんだから仕方ないわよ。 付き合ってくれてありがとね」

 

「お相手していただきありがとうございました。 では」

 

そう言って二人は自分のピットに戻ろうとラウラに背を向ける。

 

しかし、その時ーーー

 

「っ!! 舐めるなあああああああ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

突如シュヴァルツェア・レーゲンが閃光を放った。

何事かと振り返る2人にワイヤーブレードが襲いかかる。

 

「ぐうッ!」 「うああッ!」

 

油断していた2人は捕まってしまい、動きを封じられる。

ラウラはニヤリと笑い、何かのスイッチを押した。

するとワイヤーから()()()()が吹き出し鈴とセシリアを蝕む。

 

「うぅッ! ああああ!!」

 

「ぐぁッ! いやああああ!!」

 

2人は断末魔の叫び声をあげ気絶。一気にISも解除されてしまった。

それでも尚2人を狙うラウラに恐怖を覚えながら、これ以上被害を広げないよう俺も白式を起動し突入しようと思った時

 

『ドゥン、ドゥン!!』

 

2発の銃撃音が鳴り、ワイヤーは止められ俺も冷静になる。

 

「チッ! 誰だ!」

 

ラウラが怒鳴るが、姿はどこにも見当たらない。

しかし、ラウラの向いてる方から

 

『ボンッ!』

 

『やれやれ、平穏に終わるかと思ったけどさすがにこうなったら手を出さざるをえないよな。』

 

青と黄色い姿のビルド、建兎が煙と共に現れた。

 

一夏Side end

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

建兎Side

まったく、無視しろって言ったのにな...。

まああそこまでけなされたらムカつくのも分かるけど

 

突然の俺の登場に驚くラウラ。あと観客席の一夏にシャルルや箒

突然とは言ってもずっと居たんだけどな、アリーナ内に

 

この『カイゾクコミックフォーム』のまま『四コマ忍法刀』を使って隠れ身の術してただけだ

それはさておき、どうするかなこの状況...。

あれだけ余裕だった鈴やセシリアならワイヤーが飛んできても振り切れるだろうと思ってたらまさか()()()()()()が搭載されてるなんてな...。

鈴やセシリアは無事か?

ガスが入ったのは一瞬だったしそれもISがガードしてくれたみたいだからなんとか大丈夫であってほしいが

 

「ふっ! ようやく現れたか桐生建兎!! 味方がやられてノコノコやってくるとは間抜けなものだな」

 

ラウラは先程まで狙っていたセシリア達に目もくれず俺を嘲笑う

一夏は今にも飛び出して来そうだがとりあえず今は目の前の相手に集中する

 

『ああ、分かった分かった。 俺と相手したいんだろ? してやるよ。その代わりその2人を先に運んでからな』

 

「はっ! そんなもの...。 聞くわけがないだろう!!」

 

と、言い終わるや否やいきなりレールカノンをぶっ放す

それをギリギリで躱し、ドリルクラッシャーで反撃

しかし、停止結界がそれを止める

 

当然だが彼女は飛べるので俺のビルドとは相性の良さで言えば向こうに軍配が上がる

そのため何度も銃撃を繰り返すが一向に当たらない

 

「無様だな桐生建兎! やはり貴様は私の敵ではない! 」

 

すごく嬉しそうなラウラ

 

そして遂に一夏とシャルロットはバリアを破壊し、突っ込んできた

 

「建兎! 鈴とセシリアは任せろ! 俺も後で援護に入る!」

 

「ボーデヴィッヒさん! 君の相手は建兎だけじゃないよ!!」

 

シャルロットのアサルトライフル二丁での射撃がラウラを足止めする

箒は先生を呼びに行ったのか既におらず、一夏も2人の様子を確認し観客席に戻る

 

「こざかしい!!」

 

「ぐっ、うあッ!」

 

止まない銃撃に痺れを切らしたラウラは強引に瞬時加速(イグニッション・ブースト)でシャルロットを突破

勢いよく飛び出してきたのでシャルロットはそのまま吹き飛ばされてしまった

 

「これで、終わりだあああッ!!」

 

俺の方向へとてつもないスピードで突っ込んでくる

右拳を強く握り、突き出す。が、

 

『分身の術!』

 

「っな!?」

 

横向きにジャンプし、俺2人で躱す

ラウラからすれば俺が分裂したように見えただろう

また背中から1人、2人と増える

 

「さっきから何なのだ貴様は! 真面目に戦え!!」

 

「建兎だけじゃねーぞ!」

 

「さっきから僕達のこと無視しすぎだよ!」

 

さらに一夏とシャルロットも再び加わり、一気に形勢は逆転した

ワイヤーブレードを飛ばし、俺たち4人を捕らえようとするが当たらない

一夏の単純な攻撃ならいざ知らず、シャルロットの無限とも思える銃撃はラウラに厄介だった

先程から攻撃がのらりくらりと躱され、レールカノンでは先に向こうが攻撃出来てしまう

 

そこでラウラは考えた

 

「はっ!」

 

「!?」

 

「なっ! させるか!!」

 

なんと先程吹き飛ばしたシャルロットを狙い、ワイヤーブレードを飛ばしたのだ

しかし、シャルロットなら躱すことは容易いはず

本当の狙いは...

 

「...かかったな、愚図め」

 

「しまっ! ぐはぁッ!」

 

そう、必ず一夏はシャルロットを庇うだろうと読んでいた

すぐに停止結界で動きを封じる

 

「一夏ッ!」

 

「クソがっ!」

 

「は、はなせッ!」

 

「貴様も終わりだ...。」

 

スイッチを押すラウラ

もう間に合わないかもしれない

一か八か、この手段を使う!!

 

『隠れ身の術!!』

 

『ドロン!』

 

刹那ビルドの姿が消える

が、即座にまた現れた

その場所は

 

「どけっ!」

 

「何っ!?」

 

「建兎っ!」

 

一夏の位置である

瞬間移動ではないのだが、突然現れたことによりラウラは一瞬、ほんの一瞬集中が切れてしまい、一夏を離した

 

一夏をどかし、煙はそのまま俺に勢いよく吹き出す

 

「ぐ、ああああッ!!」

 

「け、建兎っ!!」

 

「い、いやあああ!!」

 

即座に変身解除

一瞬だけガスが入った鈴やセシリアがあれだけ苦しんだのだ、数秒など想像を絶する痛みだと思われる

 

そのまま受け身も取れず倒れる建兎

一夏は目の前のラウラに目もくれず友に駆け寄り、シャルロットはあまりの衝撃で動けなかった

唯一ラウラだけが笑みを浮かべ、再び一夏へ攻撃を始める

 

ワイヤーブレードを叩きつけようとした瞬間、

 

『ガギンッ!』

 

金属音が激しく鳴り響き、ラウラは我に返る

ラウラの攻撃を止めたのは

 

「...やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

「ち、千冬姉!?」

 

いつもと変わらないスーツ姿でIS用近接ブレードを軽々と操る織斑千冬先生だった

当然ISもISスーツも身につけておらず、ラウラよりも早く動き、攻撃をその身で受け止めたのだ

もうこの人1人でいいんじゃないか?

 

「模擬戦をやるのは構わん。 ーーが、アリーナのバリアーまで破壊し、未確認の装備で重傷者を数人出す事態になられては教師として黙認しかねる。 この戦いの決着は学年別トーナメントで決めろ」

 

「教官がそう仰るなら」

 

ラウラは素直に頷き、ISを解除する

アーマーは光の粒子となって消えた

 

「織斑、デュノアもそれで良いな? それより早く桐生を医務室へ運べ。 時は一刻を争うぞ」

 

「あ、ああ」

 

一夏は先程から予想外のことが起きすぎて惚けてしまい、思わず素で答えてしまう

シャルロットも賛成し、建兎を抱えて医務室へと向かった

 

「...そしてボーデヴィッヒ、お前にはまだ聞かねばならないことがある。 後で私の部屋まで来い」

 

「っ、 はい...。」

 

いつもならすごく喜ぶところだが状況が状況なのでとてもそんな気になれない

そしてアリーナ内の全ての生徒に向けて

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。 解散!」

 

パンッ! と強く手を叩く

先程まで起きていた蹂躙劇の終わりを告げるチャイムのように、しかしそれが現実であると気付かされるように聞こえた




えー、ブラックラビッ党の方、大変申し訳ありません。
書き方が思い出せず1から書き直したらなんか完全に悪者になってしまいました。
作者もラウラは結構好きなキャラなんですけどね...。

ではまた次回。

あとコラボ予定してます。


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第26話 メモリーを語り始める

「・・・」

 

「・・・」

 

あの第3アリーナの事件から1時間、建兎にセシリア、鈴は保健室へと連れられた。

ベッドの上には包帯を身体中に巻かれた鈴とセシリアの姿があった。

2人ともあれから目を覚ましたものの、少なくないダメージを受け軽くトラウマを負っていた。

 

「えっと...大丈夫か...? 2人とも」

 

「...大丈夫とは言えませんわね。 今でも震えが止まりません」

 

「私もよ。 あんな装備があるなんて完全に予想外だったわ」

 

セシリアは俯き、鈴は悔しそうに唇を噛み締める。

一夏もシャルルもあまり良い表情はしていない。

 

助けに行ったのに何も出来なかったこと、自分を庇って傷ついた人がいること、自分の中の憧れ(ビルド)がやられたこと...

様々な感情が入り乱れてる中、ふとシャルルは別の方を見る。

 

そこは建兎が眠っている、普通のベッドと隔離された個室である。

ほんの少しだけ煙を浴びたセシリア達と比べ、浴びた時間も量も倍以上の彼にはあらゆる装置を備えているこの部屋での治療が決められた。

 

今のところ落ち着いてはいるものの、未だ目覚めず後遺症などの心配もある。

しかし、医学の知識などもちろんない一夏達は少しでも回復を祈るばかりであった。

 

「とりあえず2人が目を覚まして良かった。 目が覚めなかったらどうしようかと思ったぜ」

 

「ご心配をおかけしましたわね」

 

「なっ、えっ、とその... あり、がと...」

.

一夏の意外な発言で鈴は俯いてしまった

もちろん一夏にとっては友達としての心配であり、特に他に意味はないものである

 

ギィ...

 

「...?」

 

「? どうした? シャルル」

 

「いや、今...」

 

ドドドドドドッ......!

 

シャルルが何かに気づいたがとある地響きに遮られる

その音はだんだんと近づいてきておりその直後

 

ドカーンッ!

 

と、保健室のドアが思い切り吹き飛ばされた

 

目の前のありえない光景に目が点になる4人

その目前にはドアを蹴飛ばした張本人達、女子生徒数十人が息を切らしながら男子組を取り囲むように立っている

 

「織斑君!」

 

「デュノア君!」

 

「な、なんなんだ...?」 「ど、どうしたの? みんな」

 

取り囲まれてる壁の中から伸びてくる手に若干、いやかなり恐怖を覚えながら答える一夏とシャルル

完全に蚊帳の外のセシリアと鈴も軽く引いている

 

「「「「これ!!」」」」

 

女子生徒が2人に出したのは学校の緊急連絡が入った申込書であった

その中身を見ると『今月の学年別トーナメントは2人組の参加を必須とする』という旨が書かれている

 

そう、彼女たちの目的は一夏かシャルルとの参加である

一気にお近づきになれるチャンス!と我先にお願いしに来たようだ

 

「え、えっと...」

 

しかしそれは一夏達にとってはかなり不味い話である

シャルルは外見は完全に男だが実際は女であり、その事を知るのは一夏と建兎のみである

バレる恐れは低いとは思うがまだ具体的な解決策も何もないままここまで来ているので少しでもそうなってしまうのを避けたい

 

建兎は今意識が戻っておらず、シャルルもどうしようと言う顔をしている

しかし困ってることを悟られぬようにすぐに俯いてしまう

一夏はそんな姿に苦笑しながら、一呼吸置き生徒達に宣言する

 

「悪いな。 俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

しーん...。

その言葉を皮切りに辺りは静まり返る

先程までの大騒ぎが嘘のように消えたので一夏も少し判断をミスしたかと焦る

 

「まあ、そういうことなら...」

 

「他の女子と組まれるよりはいいし...」

 

「男同士ってのも絵になるし...」

 

一応納得はしたようで、各々思うことを言いながら1人また1人と保健室から出ていく

それからは新たにペア探しを始めたようで廊下から再び女子達の(かしま)しい声が響いてくる

 

「...ふう「一夏っ!」」

 

ようやく去ったカオスにため息をつく暇もなく今度は後ろから声がかかる

その主は鈴で、十中八九内容は先程のペアについてだろう

さっきの女子達とは違い、鈴はなかなかに意見を曲げないだろう

一夏はそんなこと考えてるが勢いよくベッドから飛び出してきた

 

「あ、あたしと組みなさいよ! 幼なじみでしょうが!」

 

「鈴さん! ペアでしたら何度も練習したわたくしとにして下さい! せっかくのチャンスですわよ!?」

 

先程までケガやトラウマで震えてたとは思えないほど元気になった2人に一夏はさらにため息をつく

珍しくズレたことを言ってるセシリアもいるので、さらに説得が面倒臭くなりそうな気配がする

 

「ダメですよ」

 

「「「「!?」」」」

 

いきなり声をかけられ4人ともビックリする

一夏の背後からひょこっと現れたのは山田先生

真面目な顔でメガネを上げる先生は言葉を続ける

 

「おふたりのISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。 その上、不明の物質が機体に混入しています。 修復やその物質の解析が完了しない限り、トーナメント参加は許可できません」

 

不明の物質

それは言うまでもなくラウラの機体から出ていたガスのことだ

 

一撃でダメージレベルがCまで達するほどの装備など聞いたこともない

シュヴァルツェア・レーゲンに停止結界以上の切り札とも言える武器が備わっていたこと

何よりそれを発動した時のラウラの顔が頭から離れない

 

その事を思い出したのか再び2人は俯いてしまう

 

「うっ、わ、分かりました...!」

 

「それならば...仕方ありませんわね」

 

いたたまれない雰囲気になった5人だが、山田先生は笑顔で答える

 

「分かってくれて先生嬉しいです。 おふたりは今回とても怖い体験をしました。 そんな状態で無理をすれば自身もISも壊れてしまいますからね。 肝心なところでチャンスを失ってしまうのはとても残念な事です。 あなたたちにはそうなってほしくありません」

 

「先生...」

 

「....」

 

顔を上げ、山田先生を見る2人

先生は2人の前へしゃがみ、手をとり優しく握る

 

「あなたたちが代表候補生として心身ともに成長していること。 私も織斑先生も認めています。 お気持ちは分かりますが今はご自身の体を治すこと、そしてISを(いた)ってあげることを優先してください」

 

真面目な口調だが暖かく、子供を諭すように言う先生に鈴やセシリアのみならず、一夏もシャルルも顔が緩む

こういうことをやらせたら山田先生の他に適役はいないだろう

 

「ふんっ!」 「んっ!」

 

手を離し、顔をはたく鈴とセシリア

少し顔が赤く見えるのはそれだけが理由ではないだろう

 

「先生!「ありがとうございます!」」

 

「はい! では織斑君達はトーナメント頑張ってくださいね!」

 

そう言って保健室を去る山田先生

帰り際にドアの修理費についてブツブツ言ってた姿に少し笑ってしまった4人だった

 

☆☆☆☆☆

一夏サイド

 

「ねぇ、一夏」

 

「おう?」

 

夕食後、部屋に連れたって戻るなり、シャルルが口を開いた

あまり語調に勢いが感じられないがなんだろうか?

 

「えっと... ごめんね。 前に酷いこと言っちゃって」

 

「っ、シャルル.....」

 

“前”とはシャルルが男ではないこと、親に言われてやらされてることを知った日のことだ

あの日、俺は熱くなって何も考えずに自分の気持ちを押し付けてしまった

その結果シャルルを怒らせ、建兎にたしなめられることになった

 

思えばあの事について未だにシャルルに謝れてなかった

それなのに今俺はシャルルに謝らせ、申し訳なさそうな顔をさせてしまっている

 

「いや、あの時は俺が悪かった。 何も考えてなくて... シャルルのこと気遣ってやれなかった。 ごめん」

 

そう言って頭を下げる

男として、ちゃんと悪いことしたら謝らなければならない

言うのが遅くなってしまったのなら尚更だ

 

「い、いいよいいよ。 一夏も建兎も僕のために言ってくれたんだよね? それに他の人に言わないでいてくれてるし、それはすごく助かってるよ」

 

控えめな笑顔をして感謝を言うシャルル

でも、とても心から笑ってるとは思えない

...やっぱり納得いかねえ

建兎に言われたことも理解してる

「俺だけじゃどうしようもない」って

 

けど...けど...!!

 

「...シャルル、俺達は諦めてない」

 

「え...?」

 

何の足しにもならないけど、せめて学校とか身の回りのこととかだけでも本音で話し合えるようにしたい

国家だったり企業の問題だったり難しいことは分からないけど、少しぐらいその事を忘れて笑ってもいいんじゃないかって俺のわがままだ

...建兎にまた怒られるかもな

 

「俺達だけじゃ頼りないだろうけど、でも俺はもちろん建兎だって必ずシャルルの味方になる! 辛かったら口に出さなくても良い、手を握ってくれ。 俺達が隣にいる...からさ」

 

「.....」

 

気の利いた事なんて言えなかった

シャルルは少し驚いたような、けどあまり感情が読み取れない無表情といったような顔をしている

また怒らせちまったか...?

 

「っぷ、 あはははっ!」

 

「!?」

 

かと思えばいきなり笑い出した

ど、どうしたんだ? そんなおかしい事言ったか!?

 

「シャ、シャルル?」

 

「あははは! あー、思わず笑っちゃったよ」

 

軽く目に涙を浮かべながら軽く歯を見せてほくそ笑んでいる

少しドキッとした

笑うとこんなに...可愛いんだな

いや、というか!

 

「な、何がそんなに笑えたんだよ! 俺別に面白いことなんて言ってないぞ!」

 

「いやー、一夏って不器用なんだって思ってね」

 

「うぐっ!?」

 

「悩みを言えないからっていきなり手を握ると思う? そっちの方がハードル高いと思うよ 」

 

「うぐぐっ!?」

 

「それに何か上手いこと言おうとして言えなかったから語尾もだんだん低くなったって感じだったしね」

 

「ぐぅぅ...!!」

 

シャルルの3連続パンチは俺にダウンを取るのに十分過ぎるほどの威力を持っていた

しかもことごとく考えたことを見抜かれて凄く恥ずかしいっ!

 

「でも、ありがと」

 

「え...?」

 

倒れ込んだ俺の目線に合うようにしゃがみ、腕を膝にかけて腰を下ろさずに立っている

てか結構顔の距離が近い...!

 

「僕ね、どうしても達成させたい目標があるんだ」

 

「!」

 

「でも、そのためにはフランスの代表にならなきゃいけない。 だから少しでも自分が有利にならなきゃって思ってたんだ」

 

淡々と話すが言葉に力を感じる

シャルルの思いが込められてるというか、熱意が伝わってくるようだ

 

「それで、色んな人のデータを手に入れたり一夏達を騙して仲良くなろうとしたりした。 正直最初は人の良さそうな2人だったからラッキーって思ってた。 本当にサイテーだよね、僕」

 

「.....」

 

「でも、でもね? 羨ましくなっちゃったんだ。 ただの任務なのに、偽りの友情なのに... 楽しそうに毎日を過ごしてる皆が」

 

「シャルル....」

 

どんどん声が弱くなっていく

きっとこれがシャルルの本音なんだろう

なら俺はこれをちゃんと聞いてやらなきゃいけない

 

「こないだ怒鳴っちゃったのはそれもあるかも。 普通に通ってる一夏達には分からないって八つ当たりしたってことだね」

 

「で、でもそれは!!」

 

「いいの、実際そうだし。 でね、それでもう完璧に嫌われたって思ってこれで何も気にせず自分の任務に集中出来るって思えた。 でも..でも.....」

 

「!」

 

気づけばシャルルは泣いていた

まさに(せき)が切れたという感じで

今まで積もっていたものが抑えきれなくなったのだろう

 

「一夏はっ、全然気にせず接してくれてっ、ぐすっ、それに、今だって味方になってくるって、言って、くれて... ほんと、一夏はお人好しすぎるよ! 少しも僕のこと警戒しないなんてっ!」

 

溢れ出る涙を抑えることなく思いを口にするシャルル

初めてだった

ここまで彼女が強く感情を示したのは

 

俺は思わずシャルルを抱きしめた

彼女の肩に手を伸ばし、力を込めずに背中をゆっくり叩く

しゃくりながらなおもシャルルは止まらない

 

「どうして!? どうして怒らないの!? 騙そうとしたんだよ!? 一夏の気持ちを裏切ったんだよ!? なのに...!「そんなの」」

 

シャルルの気持ちは分かった

辛かったんだ、苦しかったんだ

いくら平然を装ってもやっぱり嫌だったんだな

 

...なんだろう不謹慎だけど、すごく嬉しいと思ってる俺がいる

体は男で、シャルルという名前も本物かは分からない

しかし、初めてシャルル・デュノアに会うことが出来た

そして、ようやく....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルルが大事な友達だからに決まってるだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからシャルルは耐えられなかった

俺の胸に埋もれ、ありったけの涙を流しきった

子供のようにむせび泣く彼女を俺はただただ受け止め続けた.....

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

「ご、ごめんね。 見苦しい所見せちゃって」

 

泣き止んだシャルルは恥ずかしそうに顔を赤らめ、謝罪してくる

俺の制服はシャルルの涙でベチャベチャになってしまっているが、そんなの全く気にならない

 

「気にするなよ。 俺は嬉しかったぞ、シャルルが思いの丈をぶつけてくれて」

 

「そ、そう...? えへへ...」

 

「それに、俺はシャルルが笑ってる方が好きだぞ。 何より可愛いと思う」

 

「え、えっ!? ほ、本当に!? 嘘ついてない!?」

 

途端にシャルルの顔が赤くなる

どうかしたんだろうか?

 

「ついてねえよ、信じろって」

 

「そ、そうなんだ... うん、じゃあ、別にいいかな」

 

最終的に別にいいということになったみたいだ

 

「あ、あとさ 保健室の時もありがとね。 トーナメントのペア言い出してくれて」

 

「ああ、アレか。 まあ気にするなよ。 事情を知ってるのは俺と建兎だけだし、俺しか言い出せなかったしな」

 

あの場ではあれぐらいしか方法がなかった

味方になると言った以上、そのくらいはしなきゃな

 

「ふふっ、一夏ってやっぱり優しいんだね。」

 

「いや、そんなことないって」

 

「そんなことあるよ。 誰かのために自分から名乗り出せるのって素敵なことだと思うし、僕は嬉しかったな」

 

...な、なんだろう凄く照れてしまう

顔が熱くなるのを感じ、パタパタと手のひらで仰ぎ冷まさせる

 

「...でもやっぱり俺が優しいってわけじゃないな。 味方になるとか言って結局大して案も出てないし... ははは」

 

苦笑するしかない

建兎は束さんに話をしてみるとか言ってたけど、俺は最近ちょっとゴタゴタしてたのもあって授業中とかに考えて千冬姉に叩かれることが多かった

シャルルのためにって言ってたけど、やっぱり俺1人じゃどうしようもなかったんだな...

改めて思い知らされる

 

「一夏、とりあえず今日は休も? 僕泣き疲れて眠くなってきちゃった」

 

「お、おう。 そうだな。 じゃあさっさと着替えるか」

 

俺の様子を見かねてかシャルルが自然に話題転換をする

この気配りもシャルルが人気になる理由なんだろうな...

 

シャルルがズボンに手をかけゆっくり下ろす

男物の下着が(あらわ)になり、室内着に履き替えた

 

「い、一夏...?」

 

「...ん?」

 

「あの、その、そんなに見られるとさすがに恥ずかしいんだけど...」

 

「!!」

 

そういえば俺は一連の動作をマジマジと見ていた

女だと知らなかった頃から何度も共にした行為だったのに...

これじゃまるで変態じゃないか!

建兎が前に言ってたけど俺はそっちじゃないぞ!

 

「わ、悪い! ちょっと洗面所の方に行ってくる!」

 

彼女に背中を向け、赤くなった顔を悟られないように足早に去ろうとしたがシャルルは呼び止める

 

「ちょっと、どうしたの? 前からやってたことじゃ... ってうわああ!」

 

「? どうし、 どわああ!?」

 

するとなにかにつまずいたのか俺へ倒れるシャルル

急なことに対応しきれずそのまま2人ともドシーン!と倒れてしまった

幸いどこも打つことはなかったが、シャルルはケガしてないだろうか?

 

「あたた... ごめんね、一夏...」

 

「い、いや、俺は大丈夫... !!」

 

シャルルも特にケガした様子はなく、良かった

しかし、俺の手が問題だった

受け止めようと手を伸ばした先に、シャルルの...胸が...

 

「うおおお! ご、ごめん! そんなつもりじゃっ...!!」

 

「い、一夏!?」

 

慌てて飛び退いたら思い切りベッドに頭をぶつけてしまい、意識が遠のいて来た

薄れていく意識の中見たのは少し顔を赤らめながら、俺の顔をのぞき込むシャルルだった....

 

☆☆☆☆☆

今、千冬の部屋には主ともう1人、ラウラが居た

向かい合うように座り、まるで刑事ドラマの取り調べのような雰囲気である

 

ラウラは主こと織斑千冬を心酔しており、この状況普段ならば彼女にとって歓喜ものだった

しかし、当然彼女達はおしゃべりをしているわけではない

ラウラの機体に搭載された謎の装備についての聴取であった

 

「...では、お前自身はあの装備について何も知らないと」

 

「...はい、性能や用途ほどしか伝えられていません」

 

ただ、話している内容についてはほぼすぐに答えは出た

ラウラ自身は何も知らず、あのガスについても大した情報は得られなかった

ラウラに嘘をついてる様子はなく、このまま続けても意味は無い

ドイツ軍に連絡を取っているものの、その装備について答えるものはほとんどいなかった

 

「...はぁ、ではこの話は終わりだ そしてボーデヴィッヒ、お前はトーナメント戦は不参加とし、シュヴァルツェア・レーゲンは一時こちらで預かる」

 

「っ! 何故ですか!?」

 

千冬の突然の言葉に思わず身を乗り出して答えるラウラ

再びため息をつきながら千冬は続ける

 

「当然だ。 あんな危険なものを使われたら生徒に多大な被害が及ぶ。 オルコットや凰の機体に混入したガスの詳細を調べるという意味でもお前に渡しておく訳にはいかん」

 

「し、しかし!」

 

「くどいぞ。 さっさと自分の部屋に戻れ」

 

それでも納得がいかないラウラに千冬は冷たく切り捨てる

今日一番悲しそうな顔をするラウラ

一礼をし、静かに立ち去ろうとした

 

しかし、その時

 

「...ボーデヴィッヒ、この謹慎はお前に自分の意見を持たせるためにクールダウンさせる期間でもある」

 

「...え?」

 

千冬から予想外の言葉を投げかけられ、素で返事をするラウラ

 

「お前は私の命令ならば何でも聞こうとする。 だが、それだけでは一夏や桐生には勝てんぞ」

 

「っ!!」

 

「ドイツの代表候補生、シュヴァルツェア・レーゲン、織斑千冬...。 何もかも捨てた今のお前に消えずに残っているもの、それがどんなものか考えてみろ お前という存在を」

 

「...承知しました」

 

ラウラには分からなかった

自分は闇から生まれた存在

ラウラ・ボーデヴィッヒという記号が与えられたモノ

それ以外彼女に何も無かった

 

「...失礼しました」

 

ギィ...と扉を閉める

ドアの向こうにはなおもこちらを見ている千冬の姿が見えた

彼女が何を言いたかったのか、分からない

私はどうすればいい?

 

それとは別に違う罪悪感が彼女の中でこみ上げる

 

(...すみません、教官。 私は嘘をつきました)

 

先程の話の内容で実は一つだけ彼女は千冬に隠したことがあった

あの装備の開発者であり、ガスを生成したと思われる科学者がいたのだ

しかし、その名を知られぬようにとその人に念入りに忠告されたのだ

ラウラはその人物に直接会った訳では無いが、とても高い科学者だと伝えられている

その名も

 

(カツラギ ユキアキ...)

 

しかしそれは語られることなく、ラウラの心の中に沈んでいった

 

☆☆☆☆☆

シャルルサイド

 

ふう、これでひとまず大丈夫かな

 

先程思い切り頭をぶつけて気絶した一夏を制服の上だけ着替えさせ、ベッドにゆっくり下ろした

一夏が思ったより重くて筋肉質だったのがちょっと驚きだった

僕の体とは大違い

その時に体ペタペタ触っちゃったのは不可抗力だよね?

だって、何もやましいことしてないもん!

 

否定するように頭を振り回してるとさっき脱がした制服が目についた

それはものすごく濡れてて下のシャツにまでシミがついてて、自分のものながらちょっと汚いと思ってしまった

どれだけ涙を流したんだよ僕は...

 

でも、ここまで思いっきり泣いたのも久しぶりかも

ずっと...泣かないようにしてたしね

お母さんが死んじゃって、お義母さんに叩かれて、美空と離れ離れになって、男の子になっちゃって...

泣いたことはたくさんあったけどその時とは違う涙で...

すごくスッキリした気がする

 

ふと、一夏の枕元に座る

すぅー、すぅーっと静かに寝息をたてて眠る一夏に思わず微笑んでしまう

それにしてもさっきの一夏は大胆だったなあ

いきなりあんなこと言ってくるなんて反則だよ!

 

...あれ?でもあの時僕の体まじまじ見てて、照れてたように見えたのはひょっとして...

 

「って! 無い無い!」

 

僕は即座に否定し、顔と手を横に振る

あんな鈍感を具現化したような人が...ありえないよ

 

で、でも...

でももしそうなら...

 

「ちょっと、嬉しい、かな...。 って、さっきから1人で何言ってるの僕は!」

 

男の枕元で百面相をしながらブツブツ呟く男

傍から見たらとてもヤバい人に見えることに気づき、誤魔化すように咳払いをする

 

再び向き合い、一夏の頭に手を乗せる

あったかい...

 

「ありがとね、一夏。 後で建兎にもお礼言わなきゃ...」

 

そしてポケットから写真を取り出し、窓へ向かい、カーテンを開けて、星を見上げる

お母さんは見てくれてるだろうか

 

「...お母さん、僕、1人じゃないよ。 友達が一緒に居てくれてる。 美空のことも、僕はあきらめない。 だから、見守ってて」

 

当然返答なんてない

でも、伝わったと思う

 

僕は電気を消して自分のベッドに戻る

今日あったことが夢でまた出てきますように...




活動報告にてヒロインの変更に関する話があります
あとサブタイトルについても聞くつもりです


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第27話 開幕のゴングが鳴る

難産でした...


6月も最終週、月曜からIS学園は学年別トーナメント一色に変わる

今現在俺たちは第一回戦が始まる直前だが、未だに全生徒が雑務や会場の整理などを行っているほどの慌ただしさだ。

ようやくそれが終わり、生徒達は急ぎ各アリーナの更衣室へと走る。

参加する男子組は俺とシャルルだけなのでこのだだっ広い更衣室を二人占めである

 

「しかし、すごいなこりゃ...」

 

更衣室のモニターから観客席を覗くと各国の政府関係者や研究所員など、テレビでも見たことあるような人まで見受けられる

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成長の確認にそれぞれ人が来てるからね。 今のところは関係ないけど一年にもトーナメント上位入賞者にはチェックが入ると思うよ」

 

「ふーん、ご苦労なことだな」

 

しかし、俺自身あまり興味も無くほとんど右から左へと突き抜けるように話を聞いていたが、なんとなく考えが読めたのかシャルルはそんな俺を見て笑う

 

「あんまり気にしてないみたいだね。 各国にアピールするチャンスだけど」

 

「ああ、まあな...」

 

正直俺としては今回のトーナメントはあまりやる気がしない

山田先生に「頑張れ」と言われ、専用機持ちであり国家代表候補生のセシリア達に「絶対勝て」とは言われたが気分が乗らないものは乗らない

 

何も緊張してるとか不安だとかじゃない

コンディションは良い方だし、今日のために勉強だってたくさんしてきた

ペアを組むと決まってから、シャルルと今まで以上にコンビネーションもこなしてきたのだ

...まあ正直、前に比べたらよそよそしくなってしまった気もしたが

 

それはさておき

そんな俺のやる気がしない理由。 それは...

 

「一夏、ボーデヴィッヒさんと戦いたがってたもんね...。 まあ先生が決めたことだったら仕方ないと思うけど」

 

「ああ.... そうだな...」

 

シャルルの苦笑混じりの言葉に俺はガクッと項垂(うなだ)れる

浅いため息も同時に出てしまった

 

そう、ラウラ・ボーデヴィッヒのまさかのトーナメント不参加...

 

詳しい理由は聞かされなかったが、恐らくはあの模擬戦だろう

一年の間では同学年で最強と思われるラウラの不参加に安堵する者が多かった

嫌うとまでは行かないものの、彼女に対してあまり良い感情を持ってない者も少なからず居たようである

ラウラとは戦いたくないしペアにもなってほしくない

その気持ちは凄く分かる

 

しかし、俺はラウラとトーナメントで決着(ケリ)をつけたかった

滅多にないアピールチャンスのトーナメント戦で出場出来なくなった鈴やセシリア、俺の代わりにやられた建兎

みんなの分も背負って全力で戦い、勝ちたかったのだが...

 

なんてこと考えてもう早数十分

そんな姿を見かねてシャルルは明るくフォローを入れてくる

 

「ま、まあまあ一夏! ポジティブに考えよ? ボーデヴィッヒさんが不参加ってことはかなり優勝出来る可能性が上がったってことだし、まずは一回戦確実に取ろ? ね?」

 

俺の前に移動して必死に励ましてくるシャルル

あの部屋での一件があってからより一層面倒見が良くなった気がする

俺が行き詰まった時も彼女は励ましてくれ、支えてカバーしてくれた

なら俺は...その受けた恩の分シャルルに返さなければならないだろう

 

よーし!

俺は立ち上がり、シャルルに笑みを向ける

俺より少し身長の低いシャルルもつられて笑顔になる

ちゃんと笑えるようになったみたいで安心した

 

「...おう、悪いな。 迷惑かけて」

 

「お互い様だよ。 その代わり、対戦中はちゃーんとコンビネーション守ってね?」

 

「うぐっ。 わ、分かった」

 

顔は笑ってるがとても怖い

俺は熱くなってコンビネーションを乱してしまい、シャルルに度々それを指摘されていたので、本番でやらかさないよう釘を刺しておいたのだろう

こんな笑みも出来るようになったのかと嬉しいようなそうでもないような

いや、やっぱりいらないかな....

 

時間を見るともうそろそろ対戦表が発表される頃だ

今回は突然ペア戦に変更されたため、今までのシステムが正しく機能せずくじ引きで決められることになった

ちなみに作ったのは生徒達で、しかも作り始めたのは今朝からだそうだ

お疲れ様です、皆さん

 

「一年の部、Aブロック一回戦一組目だからね... そこはちょっと不運だったかな」

 

「え、なんでだ?」

 

「1番最初の最初に手の内を晒すことになっちゃうでしょ? 僕はともかく一夏の射撃の腕はまだまだだし、後の人達に色々と対策を練られる恐れもあるからね...」

 

シャルルらしい、冷静な分析だ

もしかしたらこれが普通なのかもしれない

だが、今更決まったものは変えられない

出たとこ勝負、思い切りのよさで行くのも大切だと俺は思う

それに、俺たちみたくペア戦なんて初めての人だって少なくないと思う

皆スタートラインは同じ....なはずだ

 

「あ、対戦相手が決まったみたい」

 

モニターがトーナメント表へと変わる

俺もシャルルも食い入るように画面を見つめた

 

「....箒か」 「更識さん...ね...」

 

一回戦の対戦相手は水色の髪をした眼鏡の子、そして箒のペアだった

 

☆☆☆☆☆

 

「「......」」

 

一夏達が使ってるところと反対側の更衣室

そこはたくさんの女子生徒で溢れかえっており、また全員がモニターを一斉に見ている

とてつもない人口密度に苦しんでた先程までとは打って変わってありえないほど集中する彼女達

その中に簪、箒はいた

 

(初戦の相手が一夏!? なんという組み合わせだ...)

 

(織斑、一夏....)

 

2人に緊張が走り、自然の互いの顔が引き締まる

ふと箒は簪の方を見ると手をギュッと握るのが見え、すぐに目をそらす

一夏に対して自分とは全く違う感情を向ける彼女になんと言えば良いのか分からなくなり、思わず立ち上がりロッカーの裏へと隠れてしまった

 

箒は元々一夏とペアを組むつもりでいた

しかし、上手い誘い方を考えている内に夜になってしまい、その後に部屋を訪れたら既にシャルルと組んだと返された

 

それからどうしようか考えていると簪から誘いを受けたのだが箒はその誘いをすぐには承諾しなかった

簪は専用機が無いとは言え日本の代表候補生、その上普段から仲の良い彼女からのお誘いである

くじ引きで決められるよりか気心知れた者とペアを組める方が断然良い

 

しかし、箒は簪が一夏をよく思っていない理由を聞いており

その話を聞いた時、箒も思わず声を上げ怒ってしまったのだがその一方で「一夏は悪くない」と言いたい自分がいた

 

自分も打鉄弍式の組み立てをする簪を見ており、その度に専用機というものの重大さや、簪ほどの実力者でも後回しにされてしまう不条理さを知った

そして同時にこれを1人で作り続けていた姉のことを何度も考えるようになった

 

許してあげてほしいと自分が言えた義理ではないのは分かっているが、何より親しく話せるようになった簪に一夏の敵として回って欲しくなかったのである

 

そして箒は簪に自分の一夏に対する想いを話していた

それが発端で嫌われてしまう恐れもあった

だが、自分に全てを話してくれた簪に対して礼も含めて話したのだ

簪からは「...そう」とだけ言われ、その話はその場で終わったのだが...

 

結局簪とペアを組むことになり、2人で特訓も重ねたが前と比べて会話がぎこちなくなってしまった気がした

 

現に今もこうして逃げ出してしまっているわけで....

 

「...箒」

 

「うわぁい!?」

 

これからどうしようものかと、うんうん唸ってたら後ろから声を掛けられ、思わず変な声で叫んでしまった

周りからはくすくすと笑う声が聞こえ、顔が赤くなるのを感じる

 

「....気持ちはなんとなく分かる。 けど、今は話し合う時間」

 

「あ、ああ。 そうだな、すまない」

 

目の前の簪はそんな声に反応することなく淡々と話す

その態度にありがたいようなかえって恥ずかしいような気持ちになってしまう箒

しかしそんな箒をよそに簪は続ける

 

「対戦はマンツーマンでやろう。 私はシャルル・デュノアとやるから...箒は織斑一夏をお願い」

 

「な、何? 私が一夏と...?」

 

その提案は別におかしいものではない

代表候補生は代表候補生同士、戦った方が良いだろうし専用機持ちとは言え一夏はまだ初心者である

さらにその専用機(白式)には遠距離武器が無いので、同様に刀以外をあまり扱えない箒にも分はある

しかし、てっきり簪は自分の手で一夏と決着をつけたいのではと思っていたので、箒にとっては少し意外だった

 

「今でも織斑一夏は殴りたいとは思ってる...。 でも、それ以上に..箒と勝ちたいから。 専用機が無くたって勝てるんだって証明したいと思ってる、から。 箒に任せたいの...。 ....ダメ?」

 

「!!」

 

箒は誤解していた

てっきり簪は自分のこともあまり良くは思わなくなったのだと思い込んでいた

自分と同じ気持ちだったなんて、思ってなかった...

 

「ふっ、はははっ! ああ、なんだが自分がバカバカしく思えてきたな」

 

「....?」

 

簪は負けてなかった

姉というコンプレックスや専用機の与えられない悔しさをバネにここまで強く生きている

それは彼女1人で掴み取ったものでは無いが、箒にはそんなこと関係なかった

少し前までまるで自分が世界一不幸な人間だと思っていたのが恥ずかしい

また、自分の弱さを知ることが出来た

もう二度と、彼女は力を誤って使ったりなどしないだろう

 

「大丈夫だ、私達ならば勝てる! 一夏は私に任せろ!」

 

「...うん、負けるつもりなんて..ない」

 

笑顔で拳を突き出す箒に、簪も笑顔で応える

クールで熱い、2人の表情は凛々しいものだった

 

まもなく、第一回戦が始まるーーー

 

 

☆☆☆☆☆

「一戦目で一夏ととはな。 だが、負けるつもりは無いぞ」

 

「そりゃこっちも同じ気持ちだ。 全力で行くぞ! 箒!」

 

「.....」

 

「え、えーと... よろしく、ね?」

 

試合開始まであと五秒。 四、三、二、一、・・・ 開始。

 

試合開始と同時に一夏は瞬時移動(イグニッション・ブースト)を行う。

先手必勝、なるべく戦況を有利にするべく一手目を頂くつもりだ

 

「おおおっ!」

 

「ふっ!」

 

だが箒はギリギリで上空に飛び、これを躱す

傍から見れば凄いことではあるが、ちゃんと理由があって箒は避けられた

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)は作動中は方向転換は出来ずに、そのまま直進する。

その上、一夏の動きは大振りなのが多く、読みやすい

剣道で鍛えられた目や一夏の腕の動きにより、予測して動けたのである

 

「くっ...! 躱された!」

 

「どうした一夏、それで終わりではないだろう!」

 

飛び上がった後、箒は刀を突くような形で構え一夏に突進する

一夏も体を捻り、雪片弍型で応戦する

 

何度か刀がぶつかり合い、金属が響き合うような音を出しながら火花が散る

一夏の斬撃はスラスター推力を上げ、加速度が増し箒は後方に押されていく

だが箒もそれに焦ることなく受け流すように刀を振るう

少々箒が押されてはいるものの2人の戦いは互角に見えた

しかし、これは一対一の戦いではない

 

「こっちもいるよ!」

 

シャルルが一夏の頭を飛び越えて現れ、それと同時にアサルトカノンによる射撃を箒に浴びせる

 

集中していて一瞬シャルルを捉えられず、動きが瞬間止まる

シャルルは刀の腹や実体シールドで受けながら、後退する箒になおも撃ち続ける

 

「逃がさないよ!」

 

すると即座にシャルルの左手から銃が形成された

これはシャルルが得意とする技能『高速切替(ラピッド・スイッチ)』である

戦闘と平行して武装を呼び出せるので、彼女の持つ器用さと素早い判断力も相まってまるで銃が突然現れたかのように見えるのだ

 

「私もいる....」

 

銃弾をインターセプトしながら箒のカバーに入る簪

彼女も負けじとラファールの拳銃でシャルルと撃ち合いに入る

空中を高速で移動しながらの銃撃は一夏にとってとんでもない技術であるように思えた

 

箒と再び刀でぶつかり合う中、一夏は簪の弾切れを狙っていた

豊富な後付武装(イコライザ)のラファールと、高い技術力や知識を併せ持つ彼女と言えど弾は無限ではない

彼女の武装を見る限りシャルルと同じく射撃型だと気づき、つまり接近戦には弱いと考えた

 

すると、一瞬簪の手から銃が離された

 

『一夏、今!!』

 

『おう!!』

 

プライベート・チャネルでシャルルがタイミングを伝える

と、同時に一夏が箒を蹴り飛ばし、瞬時加速(イグニッション・ブースト)でシャルルの向こうの簪を目標に突撃した

零落白夜を起動し、雪片弍型を横に構えて一閃する

 

が、

 

「させるかっ!」

 

「ぐあっ!!」

 

「一夏!?」

 

なんと箒がきりもみしながらひっくり返り、頭を下にした姿勢のまま刀を一夏の移動する直線上に縦向きで構えたのだ

進む向きを変えられず一夏は刀にぶつかり、勢いはそのままに体勢を崩して地面に落ちて行ってしまった

 

「...スキあり」

 

「っ、しまっ!!」

 

動きを読まれたことに驚き、一夏とお互いの位置を入れ替えるために宙返りをしていたシャルルはリロードを済ませた簪の射撃をまともに喰らってしまった

 

スピードを上げ、シャルルはなんとか体勢を立て直す

一夏もふらふらする頭を叩き、空中に戻る

 

『無事か? シャルル』

 

『一夏こそ。 頭から落ちてなかった?』

 

『なんでそこだけちゃんと見てるんだよ』

 

プライベート・チャネルで軽口を言い合うが状況は不利だ

一夏達は元々『箒を先に倒そう』作戦を練っていたのだが、それはあまり効果が無さそうだ

その上零落白夜で早く倒してしまおうとも考えていたものの、2人に一切当てられる気がしない

 

量産機というハンデがありながらも想像以上に向こうのコンビネーションが上手く、個人技のレベルも高い

代表候補生の簪もそうだが、箒の先程の一撃は敵ながら天晴と言いたくなるものであった

専用機を持っていたことで優位だと思っていたが、一夏はそれはただの驕りだったと気づく

 

「箒、さっきのは...良かった...」

 

「ああ...。 正直私もびっくりだ。 だが、行けるぞ! 簪!」

 

向かい合って話し合う箒と簪

この光景を簪を知る者が見たら間違いなく驚くだろう

それでなくとも、専用機持ち(一夏とシャルル)を押している量産機使い(箒と簪)に観客達は魅せられていた

今、確実に流れは2人にある

 

『一夏、僕が篠ノ之さんの相手しようか? 今のままじゃ絶対に勝てないよ』

 

『...悪い。 俺もやられないよう気をつける』

 

『うん、僕も出来る限りサポートはするから。 更識さんは頼んだよ』

 

プライベート・チャネルを閉じ、一夏達は先程と違う相手へ突撃する

突然の入れ替わりだが箒達も構えながらぶつかり合う

 

トーナメントもこの試合も、まだ始まったばかりである

 

☆☆☆☆☆

「2チームともすごいですねぇ。 二週間ちょっとであそこまで連携がとれるなんて」

 

場所は変わり、ここは観察室

麻耶はモニターに映る4人を見て感心のため息を吐き出す

 

「織斑君も凄いですけど、篠ノ之さんの先程の動きはどうやったんでしょう。 やっぱり、篠ノ之博士の妹さんだから...?」

 

「篠ノ之にも少なからず才能はある。 だが、それ以上に『誰よりも一夏を見てきている』というのも利点の1つだろう。 個々の技だけでなく更識との連携も上手い。 ...あいつもアレの半分は出来ねばならんのだがな」

 

箒にはべた褒めだが一夏にはとんでもなく辛口である

確かに今の彼のチームの連携はシャルルのの活躍によるものが大きい

かと言って一夏が一切活躍できてないわけでもなく、落ち着きを取り戻し着実にダメージを与えられている

単に弟を素直に褒められないだけかもしれない

苦笑混じりの麻耶だが、それ以上にあまり良くない顔色である

 

「...桐生君はまだ目覚めてませんがトーナメントは普通に行われるんですね」

 

「...ああ、自国他国のISの技術を見るためだけでなく、より実戦的な戦闘経験を積ませる目的もある。 先月の事件もあったからな。」

 

先月の少女と謎のISの襲撃事件は反政府組織の仕業ということになっている

各国の第三世代型兵器も効かず、更には合体するISなど聞いたこともない

あれほど大規模な事件が起きたにも関わらず分かった事が少なすぎるため、どの国も緊張状態に入っているのだ

 

「それに、これは桐生のためでもある」

 

「え?」

 

「特に今年の新入生には第三世代型兵器のテストモデルが多い。 操縦者は万が一の時、自身はもちろんそれらを積んだISも守らなくてはならない。 今までのように桐生がなんとかしてくれるとも限らないからな」

 

結局あの襲撃事件もビルドが撃退させたようなものだった

これから先どのような脅威が待ってるか分からない以上、自分の技量や戦闘中に自らが取れる選択肢を少しでも理解しておく必要がある

それと同時に、少しでも建兎の負担を減らせるようにしたかったというのもあった

 

ヒーローとして誰かを守り、救ってきた彼だって人間である

何もかも1人でやっていけるわけがない

ならば教師として自分達が支えねばならないだろう

 

「そう、ですね...。 私達、いつも桐生君に頼りすぎていた気がします」

 

「自分が各国が欲している力を持っていることをもう少し自覚させる必要も『織斑先生、山田先生、大変です!』 ...? なんだ?」

 

同僚の先生からモニターを介しての通知が来た

場所は学園内、このタイミングということはかなりの急用だと思われる

 

『それが...ボーデヴィッヒさんのシュヴァルツェア・レーゲンが暴走!! ボーデヴィッヒさんは搭乗していませんが黒く濁ったボディをしていて、恐らくVTシステムかと思われます! 』

 

「「!!!」」

 

2人とも目を見開く

千冬の中には様々な疑問が飛び交うが、今1番重要なのはトーナメントを観戦している者達に被害を出さないことである

 

『そして、今現在ビルドが交戦中! 至急、応援を頼みます!』

 

「き、桐生君が!?」

 

「了解!! 私もすぐにそちらに向かう!!」

 

話を終え、麻耶に指示を出すと千冬はすぐに観測室を後にしてその場所へと全力で駆ける

終わらないアクシデントに頭を悩ませている暇などなかった

 

☆☆☆☆☆

「はああ!!」

 

「ぐっ! うぅっ!」

 

シャルルの連撃に箒は苦い顔をする

砂漠の逃げ水(ミラージユ・デ・デザート)』と呼ばれるその攻撃は剣から銃へ、銃から剣へと流れるように武装を切り替えて行われる

箒のISのエネルギーはかなり減っており、箒自身もどんどん焦ってきている

やはり、彼女は射撃相手は苦手なようだ

 

「箒っ!」

 

「おっと、まだ俺もいるんだぜ!!」

 

「ぐっ、避けてるだけのくせに...!」

 

相方のサポートに入ろうとする簪に一夏が妨害する

とは言っても攻撃をせずに急停止、転身、急加速を繰り返し回避に徹してるだけだが

それでも専用機と量産機の違いなのか、白式のスピードに上手く撹乱されてしまっている

 

「ちっ、だが、これなら!」

 

少しでも間合いを離そうと宙返りしながら下方へダイブする

とりあえずこの状況を打破するための苦肉の策だったが

 

「甘いよっ!」

 

「なっーー!」

 

シャルルはなんと瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用

これはパートナーの一夏も知っておらず、シャルルの技量に驚いていた

 

すぐに追いつき、箒を切り伏せる

打鉄はエネルギーが0になり、箒は撃墜してしまった

 

箒を倒したことを確認したシャルルは一夏と合流する

 

「一夏、大丈夫?」

 

「ああ、なんとか...。エネルギーはもう零落白夜も使えないほどギリギリだけどな」

 

さっきから集中しながら躱し続けていたので一夏は息が荒い

白式もあちこち弾痕などダメージが見られ、もう高速での稼働は無理だろう

 

「分かった、更識さんは僕に任せて」

 

「悪い、頼んだ...。 」

 

そう言って一夏と再び離れ、簪とシャルル。代表候補生同士の一対一となった

 

「行くよ、更識さん」

 

「負けない...。 負けられないっ!」

 

直接的な攻撃こそ無かったものの無駄に時間を取られたおかげで簪のラファールのエネルギーもそこそこ減っていた

それでも簪の目にはまだ闘志が宿っている

 

このままただやられたくない

足掻(あが)けるところまで足掻(あが)いてやるという思いが簪の銃を握る手を強める

 

弾幕の飛び交う激しい空中戦のさなか、簪がリロードをしようと止まった瞬間、左側から衝撃が生じた

横目で一夏がアサルトライフルを構えていたのを簪は確認する

もう何もしてこないだろうと完全に眼中になかった所からの攻撃に動揺し、大きく隙が出来る

 

「っ!?」

 

「! はああっ!!」

 

その隙をシャルルは見逃さない

一気に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰め、簪とぶつかり合う

その際勢いに負け、簪のラファールは大きく後退する

 

「うっ、でもまだエネルギーは...」

 

「いや、この距離なら外さないよ」

 

そう言って盾の装甲が弾け飛ぶ

そこからリボルバーと杭が合体したパイルバンカーが現れる

単純な攻撃力だけで言えば第二世代型最強と謳われた《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》 通称ーー

 

「『盾殺し(シールド・ピアーズ)』...!」

 

簪の顔が青くなる

当然ながらこの装備については彼女もよく理解している

そこで彼女は手元にあった箒の使っていた刀を拾い上げる

 

「おおおおっ!」

 

シャルルは左手をきつく握りしめ、叩き込むように突き出す

斬る、薙ぐとは違う、点での攻撃である

さらに瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用しながらの接近なので全身停止は間に合わない

 

そこで簪は

 

「ふっ!!」

 

拾った刀でシャルルにまっすぐぶつかっていった

 

「ううっ! ぐ、はああっ!」

 

「うああっ!!」

 

刀に一撃が叩き込まれ、狙っていた部分から少しズレてしまった

だが、簪のISのシールドエネルギーは絶対防御に集中し、相殺しきれなかった衝撃が体を貫く

苦悶の表情を浮かべたまま簪は壁へ叩きつけられた

 

「はぁ、はぁ...。 ここまで耐えるなんて...。 でも、これで...!」

 

再び『盾殺し(シールド・ピアーズ)』を簪めがけて構える

そして、飛び出そうとした瞬間....!!

 

『非常事態発令! アリーナへ謎のISが接近中! 鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す!』

 

突然のアナウンスに全員の動きが止まる

観客席はシャッターで閉じられ、けたたましいサイレンが鳴り響く

『謎のIS』と聞いて一夏と箒、簪はこの間の事件を思い出すが

 

ドゴォォォン!!

 

「ぐあああっ!!」

 

奥のピットから2つの影が声をあげながらとんでもない勢いで突っ込んできた

その衝撃で煙が立ち、視界が遮られる

 

突然現れた侵入者に、一夏達はひとかたまりになって武器を構える

視界が見えてくると、そこには膝をつき肩を大きく揺らしながら立ち上がろうとする白と水色のビルドと

 

ズズゥン...とゆっくり重そうな音を立てながらアリーナの中心で佇む濁った黒

 

先月の襲撃者とは全く異なる、どこか闇を感じる『何か』

その全身装甲(フルスキン)のISが手に持つ武器に一夏は見覚えがあったし、彼が見間違うはずもなかった

 

「雪片...!」

 




作者は小説だけでアニメをちゃんと見てないのでここおかしいぞってのあったら教えてください


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第28話 モノトーンをぶっ飛ばせ

今回は前話の別視点です
あと前話で少し書き直しました


建兎サイド

「う...ん」

 

頭痛で目が覚める

しかし体がだるくて、力も入らない

今自分がどんな状況だったか思い出せない

 

「...ん、け...く...、けん...」

 

右上から何か女の人の声が聞こえる

自分の手を握り、何度も語りかけてきている

 

重いまぶたを開けると紫の髪をし、ワンダーランドみたいな服を着た女性が目を見開く

頭にこんな変な飾りを付けてる人は俺は1人しか知らない

 

「姉...さん...」

 

「けんくん〜!!」

 

「おぶっ」

 

掠れる声を上げると思いっきり抱きしめられる

彼女の腕が俺の背中に回り、首が完全にキマっている

 

「良かったよ〜! 本当に良かったよ〜!! 心配したんだから〜!!」

 

「む、ぐっ。 ふぐっ!」

 

彼女のふくよかな胸に顔が沈められ、幸せだがとんでもなく苦しい

だが顔が埋まってて声も出せず彼女の体を必死に叩き、ようやく離された

 

「あっ、ごめんごめん! つい興奮しちゃって」

 

「ごほっ、えほっ。 い、いや、大丈夫... むしろごちそうさまです」

 

「え? なんか言った?」

 

「いえ、何も...」

 

アホなこと言ってる内にだんだんと思い出してきた

俺はラウラにやられてそのまま意識を失ったっぽい

しかもそのまま数日間眠って.... !!

 

「ね、姉さん! 俺が倒れてからどれだけ経った!?」

 

「え? えっと...1週間くらいかな。 今日は学年別トーナメントの日らしいよ」

 

てことは...今もう既に一回戦が始まってるはず!!

 

俺は無理矢理体を起こし、ビルドドライバーを抱えてベッドから降りる

なぜ保健室の先生がおらず、姉さんがいるのかと思ったが今はどうでもいい

 

「ちょ、ちょっとけんくん! どこ行くの!? まだ病み上がりなんだから無理しちゃダメだよ!!」

 

「ダメ、だ...! ラウラのISに、VTシステム...が、!!」

 

「『シュヴァルツェア・レーゲン』に載ってるの!?」

 

起きた途端に部屋を出ようとする俺を姉さんが止める

当然だ、体はフラフラで息も整っていない

とても傍から見て戦闘など出来るように見えないだろう

それでもネビュラガスが搭載された兵器を持ってる以上、原作より被害が甚大になる恐れがある

ならばそれを知ってる俺が止めないと

 

「うん... だから、俺が...止め、ぐうっ!」

 

突然の激しい頭痛に立てなくなる

 

「ほら、まともに歩けてないじゃん! それに今回ラウラちゃんは出場してないみたいだよ!?」

 

...え?

思わず姉さんの顔を見るが彼女に嘘をついてる様子はない

原作ではラウラは箒と出場、負けそうになったところでシステムが発動していたはずだったが...

今回は良い方向で原作乖離したのだろうか

 

ドォォォン!

 

「「!?」」

 

突如廊下から何かが破壊された音が聞こえた

その先には逃げ出す多くの教員と壁を破壊し、刀を構える黒いISが居た

その目前にはラウラが尻餅をつきながら、顔を強ばらせて後ずさっていた

ISはラウラに手を伸ばす

 

「危ねぇ、ラウラっ!!」

 

「けんくん!?」

 

どうやら面倒な方に乖離してしまったようだ

ビルドドライバーを装着し、俺は思わず叫び出していた

 

シャカシャカシャカシャカ

シャカシャカシャカシャカ

 

『ラビット!!』

『タァンク!!』

 

『ベストマッチ!!』

 

姉さんの声を無視して走り出す

気づけば頭痛や体のだるさなどすっかり忘れていた

 

『アー ユー、レディィ!?』

 

「変身!!」

 

『ラビット、タァンク!! イェェェイ!』

 

スナップライドビルダーが重なり、変身する

ISに蹴りを叩き込み、吹き飛ばす

しかし、大して効いた様子もなくすぐに立て直している

 

近くで見ると単純な黒ではなくまだらにシミが見られ、所々濁った色をしている

とりあえずラウラを守ることには成功した

 

「桐生建兎! 貴様...なぜ!」

 

『いいから逃げろっ!!』

再びラウラに迫るISを遮る

刀とドリルクラッシャーがぶつかり合うが完全に向こうの方が力が上だ

タンクでなんとか踏ん張るものの、押され続ける

 

ならば押し返す!

シャカシャカシャカシャカ

 

『パンダ!!』

 

新しくボトルを装填しながらISを蹴り飛ばす

すかさずもう一方を差し込む

 

シャカシャカシャカシャカ

 

『ロケット!!』

 

『ベストマッチ!!』

 

少し離れた所で姉さんがラウラを保護し、こちらにサムズアップするのが見えた

これで遠慮なくやれる

 

『ビルドアップ』

 

『ぶっ飛びモノトーーン!! ロケット、パンダ!! イエアアァイ!』

 

白と水色のベストマッチ、ロケットパンダ

今の相手と真逆のカラーリングである

 

『はぁっ!!』

 

パンダのアームで叩きつけるように殴り、切り裂くように腕を振りまくる

相手は硬く、刀でも受けるが防戦一方な状況だ

これはチャンスとタックル、頭突きなどインファイトを続け、連撃を叩き込む

 

そしてボディががら空きになり、一気に詰めるとロケットのアームを打ち付け、ゼロ距離で発射

ISは勢いよく吹き飛び、壁に叩きつけられる

 

その際壁や部屋のあちこちが壊れてしまったが今は気にしない

ロケットが戻ってくるとISもまた立ち上がる

ラウラが搭乗していないので好き放題ボコっていたがそれにしてもおかしい

あくまで織斑先生と同じくらいの力はあるはずなのだがここまで簡単に相手が出来るとは

ま、いいか。 危険すぎるし倒しておこう ....!!

 

『ぐうっ!!』

 

や、やばい!!

また頭痛が、こんな時に...!

 

やはり先程から無理していたのが(たた)ったのだろう

俺は頭を抱えて膝から落ちる

 

そんな隙をISは見逃すわけがない

 

ギィン!!

 

『ぐああっ!』

 

突如高速で飛び、俺を叩き切った

ガードも受け身も取れずに吹き飛ばされる

なおも攻撃は止まない

 

『ぐっ、あっ、うあっ! ぐわぁっ!!』

 

先程とは打って変わって一気に形勢逆転

本気を出したのかパワーもスピードも桁違いだ

一方的に切られ続ける

 

「けんくんっ!!」

 

姉さんの声が聞こえる

俺を助けに走り出してきたのだろうか

 

ザンッ!

 

「ふっ!」

 

ISはターゲットを変え、姉さんに切りかかるがするっと躱す

攻撃が効かないことは見ていて分かっていたようで俺を逃がすことに徹底した

 

守るとか言っておきながら結局助けられてることに悔しさを覚えながら、声に出さず感謝して撤退する

 

ギュン!!

 

「えっ!?」

 

『ぐぅ!?』

 

が、ISは姉さんを無視して俺に飛んできた

背中を向けていたので全く反応できずそのまま倒される

仰向けに倒れる俺にISの顔と目が合う

心なしか無表情であるはずの顔が歪んで笑ってるように見える

「お前では私には勝てない」と

 

もうダメだ、動けねえ...

仮面の奥で目を閉じ、最期を覚悟する

 

「桐生っ、無事か!!」

 

すると織斑先生がIS専用の刀を帯びながら現れる

目に映った光景から全てを察したらしく、苦い顔をしながら刀を構える

 

『せん、せぇ... そい、つは...』

 

「桐生、動けても動けなくとも走れ 必ず逃げ切れよ」

 

相変わらず真面目な顔で無茶苦茶言ってくる先生

だがそんなこと言ってる暇はない

ロケットで思い切り離脱した

 

前も見ず突っ込んだのであちこちをぶつけて痛いが、今はどうしようもない

這いながら部屋の隅に隠れるが

 

ドゴォォォ!

 

『何なんだよ全く....!』

 

執拗にISは俺を追いかけてくる

これだけ早く着いたんだ恐らく織斑先生も無視したのだろう

ただ、この状況はマジでやばい...

 

「けんくんっ!」

 

「もう逃がさんぞ!」

 

姉さん達も追いついた

だが一切彼女らに目もくれず俺ににじみ寄る

すると織斑先生に連絡が入る

 

『報告! アリーナのシャッターは閉じられ、織斑一夏君達も戦闘を中止! アリーナで待機しています!』

 

その報告が流れた時、ISがピクっと反応し動きが止まった

かと思えばいきなり部屋を飛び出し、高速でどこかへ飛んでいってしまった

 

「い、いきなり何!?」

 

「しまった...! あっちにはアリーナがある! 一夏ッ!! 」

 

先生は後を追い、姉さんは俺に寄り添ってくる

 

「けんくん、大丈夫? もう、本当に無茶ばっかりして〜」

 

少し泣きながら俺をポカポカ叩く姉さんはちょっと可愛かった

ごめんと軽く謝って、ゆっくり立ち上がる

 

しかし、何故いきなり飛び出していったのか

あそこまで俺に執着してて、急に見向きもしなくなったのか

姉さん達が邪魔しても一切危害を加えてこなかったのか

 

『織斑一夏君達も戦闘を....』

 

っ!!

 

『ま、さか...!』

 

「け、けんくん!?」

 

俺の中で1つの推測が生まれた

もしそれが正しければ...一夏が危ない!

 

痛む体にムチを打ってロケットで飛び出す

出せる最速のスピードを出しているので体のあちこちに圧力がかかる

途中で織斑先生と合流したが無視してそのままISを追う

 

追いついた!

ISに飛びかかり、抑え込もうとするが簡単に押し返される

前を見ておらずどこそこにぶつかりながらの無茶苦茶な飛行になる

 

ISは俺の妨害があっても目標にたどり着けたようで、ピット内に侵入

驚く職員達を通り過ぎてそのままアリーナ内へ侵入し、俺を投げ飛ばす

 

ドゴォォォン!!

 

「ぐあああっ!!」

 

煙を立てながら思い切り地面に体が叩きつけられる

先程からガムシャラに動きすぎて呼吸がおかしなことになっている

 

横目に一夏にシャルル、箒に簪が固まって俺達を警戒してるのが見えた

俺はフラフラしながら立ち上がる

 

こうして満身創痍(まんしんそうい)ながらVTシステムとの第2ラウンドが始まった




今更ですが、皆さんたくさん評価の評価ありがとうございます!
☆10 麦ちゃさん、八国多々音さん、十露盤さん、てぃがさん、極み吠えるジンオウガさん
☆9 剣城沙耶さん、FGO ノッブさん、夢咲豆柴さん、やまないしさん
☆8 サクライダーさん、ZENOSさん、カブトロンガーさん
☆7 螺旋パニックさん
☆6 信田さん
☆5 bramさん
☆3 Eisenさん、ちょろめんまさん
☆1 とんこつラーメンさん、気分は形而上さん、一二三之七氏さん、速読歴さん、ゴミさん
☆0 光沢Zさん
皆さんに頂いた評価を噛みしめながら、これからも頑張ります!


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