インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者 (ichika)
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光を継ぐ者

はいどうもで~す!!
長かった・・・、本当に長かった・・・。

5周年を記念して、光の彼方の続編を投稿する事が出来ました。

光の彼方や他の3作品に負けぬ様、こちらも鋭意執筆していきたいと思います。

それでは、お楽しみください!


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インフィニット・ストラトス

 

通称として≪IS≫と呼ばれるそのパワードスーツが登場したのは、30年前に遡る。

 

篠ノ野束が作り出したそれは、当時の現行壁の全てを凌駕する性能を持ちながらも、女性にしか扱えないと言う致命的な欠陥を持っていた。

 

その結果、女の方が優れ、男は何も出来ないと言う女尊男卑という風潮が世界中に蔓延る事となり、冤罪等も増加の一途を辿っていた。

 

それが悪化の一途を辿る中、男性たちの希望とも取れる存在が現れる。

 

彼の名は織斑一夏。

 

当時世界最強と呼ばれた織斑千冬の弟にして、世界初の男性IS操縦者として確認された存在だった。

 

当然、男達は彼を希望と、女達は邪魔者として見做すようになり、世界は再び揺れ動いた。

 

だが、当の彼は弱冠15歳、まだ自分の出来る事もやりたい事も無いまま、彼は流されるままIS学園に入学し、ただ日々を無為に過ごすばかりだった。

 

しかし、その状況はある日を境に一変する事となる。

 

クラスメイトで、一時は同室として生活していたシャルロット・デュノアと紆余曲折の果てに、真実の愛を育み、そして結ばれる事となる。

 

そこから彼は、愛する者を護るために戦い続ける。

 

自身に片思いしていた幼馴染が、嫉妬の果てにその身を墜とし、世界を巻き込む戦争へとその憎しみと悲しみを広げても、彼は彼女を討ち取る事で戦争を終わらせた。

 

そこに、嘗て姉と慕った者との別れがあったとしても、彼は歩みを止める事はなかったのだ。

 

それから3年後、一夏はシャルロットと結婚し、2児を設けて、彼等が幼少の頃に得る事の出来なかった幸せな家庭を築き上げた。

 

そこから更に数年の後、ISコアの情報開示により、男性にもISが動かせる様になってから、世界はその姿を変えていく。

無論、そこに潜む闇も、長く続く憎しみの連鎖もまた、その深さを更に増していくのだった・・・。

 

何度も変わりゆく世界に生まれた新たな光は、その果てに何を見るのか・・・。

 

今、新たなる戦いの幕が開かれたのであった。

 

noside

 

春、それは出会いの季節である。

 

会社では入社、学校では入学式等で賑わう季節でもある。

 

それは、世界一のIS操縦者教育施設であるIS学園も例外では無い。

 

今まさに、始まりのセレモニーたる、クラスごとのHRが行われつつあった。

 

「皆さん、ご入学おめでとうございます、私はこの一年一組の担任、

藤堂香里奈と言います、これから一年間、宜しくお願いします。」

 

教壇に立ち、穏やかな微笑みを称えた顔を、

目の前に座している生徒達に向け、自身の自己紹介をしている女性は、この度一年一組の担任を任された女性、藤堂香里奈だ。

 

彼女の自信に満々た自己紹介に、

彼女の言葉を聞いていた生徒達の間から拍手が上がる。

 

その様子に満足した様に頷き、

香里奈は生徒に自己紹介をする様に促していく。

 

「それでは、出席番号順、青樹さんから自己紹介をお願いします。」

 

「はい!」

 

元気よく立ち上がる少女の座席から後方へ数えること三つ、

金髪の少年が窓の外を眺めながらも、何処か物思いに耽っていた・・・。

 

sideout

 

side一輝

 

ああ、やって来ましたIS学園、

現在、俺は窓際の席に座り、窓の外に広がる海を眺めています。

 

特に何が見える訳でも無いけど、

海を見ていると気分が落ち着くし、何より、海面が太陽の光で照らされて輝いているのを見るのが、俺は好きなんだ。

 

あ、そんな事は別にどうでもいいかな。

 

えー、さて、簡単に今の世界情勢を説明しますと、

今から十年前、コアの量産化によって世界は物量にモノを言わせた、嘗ての大国主義の世界に戻った。

 

だけど、違う点を挙げるとすればこれまでと違い、

国家間の結束が強まり、以前のような会議中のテーブルの下では足の踏み合い、

何て言う表面上の同盟や結束ではなくなった。

 

まぁ、そうだわな、テロとかが異常に発生してる中で、

互いにいがみ合ってる場合じゃ無いしな。

 

ん?お前誰だよって?

あ、自己紹介まだだったな。

それは失礼した、俺の名前は織斑・D・・・、

 

「はい、ありがとうございました、次は織斑君、お願いします。」

 

あらら、自己紹介の前にご指名だよ、まぁ仕方無いか。

 

「はい。」

 

香里奈姉・・・、おっと、違った違った、

藤堂先生に返事を返し、窓に背を向けて立ち上がり、クラス全体を見渡す。

 

おぉっ、視線がすげぇ・・・!!

 

一応、クラスの人間は男女半々といったところだ。

 

けど、聞いた話によると、親父は女だけのところに、

男一人で放り込まれたらしいんだよな。

 

おおぅ、想像しただけで超アウェーな場面が目に浮かぶ・・・。

 

あの人も苦労して来たんだよなぁ、

息子である俺も、そうなるのかねぇ・・・。

 

まあそんなことは今はどうでもいいか。

取り敢えず自己紹介と洒落こみますか。

 

「織斑・D・一輝です、趣味は家事全般、主に料理が好きです。

日本代表候補生やってるんで、何か分からないところがあれば聞きに来てほしい。」

 

うん、我ながら中々の自己紹介だったな・・・、って、

なんだよそのもっと喋れるだろ?って目はよ!?

 

あーもう!分かったよ!言ってやりゃぁ良いんだろ!!

 

「あー、因みに、知ってると思うけど、俺達の親父は日本軍准将、織斑一夏だ、

ついでに言うなら、母親は日本軍大佐、織斑・D・シャルロットだ、

正直、こんな事言っといてなんだけど、色眼鏡で見られんのは嫌いなんで、あんまりそう言うことに触れ無いで欲しい、以上です。」

 

やれやれ、言わなきゃいけないこととは言えど、結構辛いな。

 

俺の名字から判別出来ると思うけど、

俺の親父は、男性としては世界で最初にISを動かし、その後、世界を救った英雄、織斑一夏だ。

 

彼はIS学園卒業後、軍に所属しながらも、

ISの量産化や宇宙進出計画の推進、他にも数えきれない程の偉業を残している。

 

正直、身内贔屓無しで見ても一人の人間が為せる行為じゃ無いことなんて一目瞭然だ。

 

だとしても、俺は俺として、織斑・D・一輝として見られたい。

 

織斑一夏の息子としてではなく、

俺自身として・・・。

 

そんな事を思いながら、俺は次に呼ばれるであろう、

双子の姉、ルキアの方を向いた。

 

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sideルキア

 

ど、どうしよう・・・!?

 

私は廊下側の席でかなりテンパっていた、

だってそうでしょう!?

なんで言おうとしてる事を全部言っちゃうのよ!

バカ一輝!!

 

お父さんの事もお母さんの事も全部言っちゃうなんてアンタバカァ!?

 

ああぁぁぁぁ!!ヤバイ!!

順番が回って来ちゃったよ!!

ええい!こうなりゃ自棄よ!!

 

香里奈姉さん・・・、あぁ、今は藤堂先生だったわね、

先生に名前を呼ばれたから、私はゆっくりと立ち上がり、クラスメイトの皆へと目を向けた。

 

「織斑・D・ルキアです、そこにいる一輝の双子の姉です、

趣味は裁縫、一応日本代表候補生やってます、

皆と一年間、同じクラスで頑張りたいと思います。」

 

エセスマイル(作り笑い)でなんとか自己紹介をする。

 

作り笑いとかにはもう慣れっこだから、別に面倒でも何でもない。

 

あぁ、そうそう、言い忘れてたわね、

代表候補生と言っても、昔みたいに代表の座につけるのはたった一人、

なんて訳じゃなく、五人位が代表の座に就く方式に変わったの。

 

勿論、やらなきゃならない訓練の質も向上したし、代表候補生という肩書きに付随する宣伝とかプロパガンダには必ずと言って良いほど参加しないといけないとかの縛りは増えた。

 

ハッキリ言って、面倒な事この上無い、

特に私と一輝は、日本軍准将の娘と息子だから余計にその頻度が増えてる。

 

お父さんとお母さんの事は誇りに思ってる、

だけど、やっぱりそれなりの期待とかは荷が重く感じる時はあるかな・・・。

 

「はい、ありがとうございました、次はオルコットさん、

自己紹介をお願いします。」

 

「分かりましたわ。」

 

あ、そう言えばリザも居たのね。

そんな事を考えつつ、私は幼馴染みのリザの方を見た。

 

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sideリザ

 

一輝さんの自己紹介は途中までお見事でしたが、

後半とルキアさんの自己紹介はヤケクソでしたわね。

 

まぁ、同じ二世として、その御気持ちはよく分かりますが・・・。

 

それよりも、わたくしはお二人の二の舞にならぬよう、

しっかりと自己紹介をさせて頂きますわ!

 

「リザ・オルコットと申します、イギリス代表候補生を務めております、

趣味はピアノ演奏と音楽観賞、皆様と学友になれました事を嬉しく思いますわ、

一年間宜しくお願いいたします。」

 

我ながら上々ですわね、これぐらいで良いでしょう、

他にお話しする様な事はありませんし。

 

まぁ、オルコットの名を名乗っている以上、

実家の名誉や、それに付随する偉業についてのアレコレからは逃れられない事は事実でしょう・・・。

 

ですが、そんな事は構いません、

何せ、ここに入学出来た事で、私の望みがひとつ、叶いましたもの、

それだけで、今は良しとしましょう。

 

後で、一輝さんに会いに行きませんと、ね・・・♪

 

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一組で一輝、ルキア、リザの三名が自己紹介をしている頃、

一年三組の教室では・・・。

 

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sideエドワード

 

はい、皆さんこんにちは!

 

リク・オルコットの息子、エドワード・オルコットです、

この度、僕はIS学園にイギリス代表候補生として入学しました。

 

さて、一組にはリザをはじめ、一輝にルキアもいるんだよな、

なんか僕だけハブられた感が半端ない。

 

「それではオルコット君、自己紹介をお願いします。」

 

「わかりました。」

 

おっと、ご指名だ、ならやらせてもらいますか。

 

取り敢えず立ち上がり、クラス全体を見渡す。

知った顔は・・・、あれ?

あの水色の髪の子、何処かで会った事がある・・・?

 

そう言えば、数年前に幼馴染同士で会って以来、連絡も殆ど取れなかった彼女に、少し似ている気が・・・。

 

いや、後で聴けば分かる事、かな・・・?

 

だから今は、目の前の自己紹介に気合入れないとね。

 

「エドワード・オルコットです、イギリス代表候補生を務めています、趣味は天体観測です、双子の姉が一組にいるんで、姉弟共々宜しくお願いします。」

 

こんなもんで良いでしょう。

 

そう思って席に着いた。

 

そして次々と自己紹介が終わり、さ行の人の番になった。

 

「ありがとうございました、それでは、更識さん、お願いします。」

 

「はい。」

 

更識ねぇ・・・、って!?

マジですか!?

 

慌ててその人の方を見ると、予想した通り、水色の髪の少女が立ち上がっていた。

 

あぁ、なんで今まで忘れてたんだ・・・、

彼女は僕の・・・、僕の幼馴染みじゃないか・・・。

 

「更識楯無です、趣味は編み物、日本代表候補生を務めています、皆と仲良くなりたいので、色々とヨロシク!!」

 

彼女は輝く太陽の様な笑顔で挨拶をしていた。

元気溌剌、まさにその言葉が似合う笑顔だろう。

 

だけど、僕にはその笑みが、何処か仮面の様に見えて仕方なかった。

 

そう、僕は知ってる、彼女が自分自身を偽っている事も、そして彼女の本当の名前も・・・、

 

(千恵・・・。)

 

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side楯無

 

私は、どうすれば良いんだろう・・・?

 

このクラスには、私の過去を知る、エドがいる。

でも・・・、今の私は・・・、

あの頃の、千恵だった時とは違う・・・。

 

更識家を継いで、楯無の名を名乗ってる・・・。

 

彼の方を見ると、彼と目があった。

エドの目には再会の喜びと、ある種の戸惑いがあった。

 

私だって彼と再会できたことは素直に嬉しい、

でも、私はあの時と随分変わってしまった、だから・・・、

どういう風に彼と向き合えば良いのか分からない。

 

(エド・・・。)

 

私はそんな感情を面に出さず、席に着いた。

 

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日本軍第七特務基地、

日本国内唯一のISの稼働試験場を設けた基地であり、世界最高峰の技術が納められている場所でもある基地だ。

 

その存在は、ISの登場によって作り出され、30年が経過した今でも日本のIS界の中心に位置する場所である。

 

その建物の中にある提督室に、一人の男性が入っていった。

 

「准将、失礼致します。」

 

男性、影山は提督室にいると思われる上官に向けて敬礼しながらも、敬礼、基地提督が振り返るのを待った。

 

「御苦労だったな、影山、今回のIS学園の入学者名簿、持ってきてくれたか?」

 

彼の目の前で、基地提督であり、彼の直属の上官である男性が振り向いた。

 

白い軍服に身を包み、二十代と言われても差し障り無い様な外見を持った男性は、優しげな表情の中にも何処か凄まじいプレッシャーを持っていた。

 

一般人が彼に会えば、間違いなく緊張してしまうだろうが、若い頃から彼の下にいる影山にとっては、それは誤解であるとしか言いようが無かった。

 

何せ、男性の本当の顔を、彼は知っているのだから・・・。

 

「はっ、お持ち致しました、こちらになります。」

 

影山少佐は脇に抱えていた、それなりの分厚さを持ったファイルを、自身の上官に手渡した。

 

手渡された資料に目を通しながらも、男性は何処か考え込む様な表情を見せた。

 

「ふむ・・・、今年は例年よりも入学者が多いんじゃないか?」

 

「留学生が例年よりも多くなっているからかもしれません、准将の御友人の御子息や御令嬢も来られているでしょうし・・・。」

 

彼の疑問に答えつつ、影山は今年度の入学者の中でも特に注目すべき人物達の顔を思い出していた。

 

自分が教官として鍛え、同期がこれから育て上げる事になる、第二世代の者達を。

 

これまで見て来たどんな候補生よりも秘めたる素質を持った、光を継ぐ者達の軌跡を思い描いた。

 

「藤堂少佐・・・、いや、香里奈には迷惑をかける事になりそうだな、アイツもいい加減、こっちに戻って来て欲しいんだけどな・・・。」

 

「それは難しいでしょう、香里奈がそう望んだのならば、我々にはどうする事も出来ません、非常に不本意ですが・・・。」

 

「だよな、すまんな。」

 

彼の言葉に返す副官の言葉に苦笑し、彼は再び窓の外に目を向けた。

 

それはまるで、遠くを見る様でありながらも、彼の大切な者達を案じている様でもあった。

 

「だが、見届けてやろうじゃないか、新たな世代が作る時代と言う物を、な?」

 

「はい。」

 

そう呟きながらも、彼は自分の過去に想いを馳せ、これからの時代を楽しみにする様に笑っていた。

 

それは、自分が抗ってきた荒波に揉まれる新時代の担い手達のこれからを、青春を期待するかのようでもあった・・・。

 

sideout




次回予告

父母が学んだ学び舎に集った新たなる光は、懐旧の想いと共に再会を果たす。
その再会が、各々にとって何を意味するのか、誰も解らぬまま・・・。

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

再会の光達

お楽しみに。


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再会の光達

side一輝

 

SHRが終わり、休み時間に入った直後、俺は此方に向かって来ている女生徒の方へと歩いた。

 

ミドルヘアーのブロンドを持った、美人と形容すべき容姿を持つ彼女は、俺の幼馴染のリザ・オルコットだ。

 

代表候補生選抜試験の前に会ったのが最後だったから、実に三年、いや、二年ぐらい前か?

 

彼女も俺をジッと見つめながらゆっくりと歩いて来る。

 

その表情には、俺が大好きな優しい笑みがあり、昔と何も変わらない彼女の面影があった。

 

だが、その瞬間に教室の空気が変わった。

 

恐らく、日本代表候補生とイギリス代表候補生が互いを見据え、ゆっくりとその距離を詰めていく事に対する恐怖と緊張によるものだとすぐに判る。

 

まぁ仕方ないか。

何せ、力を持つ者同士がやるのって、結局は権力争いとかに集結するもんだし、解らなくはない。

 

けどな、皆勘違いしてるぜ?

 

俺とリザは、そんな肩書きなんて必要ない関係なんだからよ。

 

そんな事を考えている内に、俺と彼女の距離は1メートルを切り、その気になれば互いを殴れる距離に、クラス中に先程より強い緊張が一気に走る。

 

一体何が始まるのか、必要なら教師でも呼びに行かねばとでも思っているのかね?

 

ホント、気ぃ遣い過ぎだって。

 

そんなクラスメイト達の様子に吹き出しそうになりながらも、取り敢えず目の前の事に集中する。

 

今は、彼女の事を見詰めてないと失礼だろ?

 

「久し振りだなリザ。」

 

「お久し振りですわ一輝さん、二年振りですわね♪」

 

あぁ、ホントに何も変わらない、この感じ。

懐かしいよなぁ。

 

「そうか・・・、あれ以来か、なんか随分長く感じるよ。」

 

「ええ、私も、もっと長いと思っていましたわ。」

 

互いに手を差し出し、握手しながらも抱擁を交わすと、その和やかな雰囲気に、何か起こるのではと身構えていたクラス中の人間が呆気にとられた様に口を開けていた。

 

そりゃそうか、ここまで和やかだと逆にアレだと思うわな。

 

「にしても、前に会った時より美人になってたから、一瞬見惚れたよ。」

 

少しだけ身体を離し、彼女の成長を褒める。

 

前に会った時は、お互いジュニアスクールだったからな。

 

リザは彼女の御母さんに似て、ホントに美人になってるんだよ。

幼馴染じゃなかったら、こうもすらすら話せてないってぐらいにはね。

 

「あら♪お上手ですわね♪一輝さんもずっと素敵になられましたわね♪」

 

嬉しい事言ってくれるなぁ。

 

互いに相手の成長を誉めあう、端から見たら完全にバカップルのそれだろう。

けど、俺達はまだそんな関係では無い、今はまだ、だけどな。

 

そう言えば、ウチの親もリザの親御さんも、万年バカップルなんだよなぁ・・・。

 

あの空間にいるとカレーまで甘くなっちまって食欲が失せそうになるぞ、ホントに。

 

え?お前はどうなんだって?

さぁ、どうでしょうね。

 

「あ、あの~、織斑君とオルコットさんって、知り合いなの?」

 

同じクラスの、確か青樹さんだったかな?が、俺達の関係を訊ねてくる。

 

改めて周囲を見てみると、何が何だかサッパリと言った風な様子で、皆興味津々といわんばかりだった。

 

まぁ、隠すほどの事じゃないし、話しても良いか。

 

「ん?ああ、俺とリザは幼馴染みだよ、実家同士が元から仲が良かったから、付き合いは十三年位あるぞ?」

 

「そうですわね、そう言えば、おじ様とおば様はお元気でして?」

 

「ああ、二週間ほど前に会ったけど、相も変わらず激甘だったよ。」

 

「そうなんですの、まぁ、お父様とお母様も似たようなものですがね。」

 

談笑をしている俺達を見て、クラス中の人間は呆気にとられると同時に、リザの実家に思い至った人間も居たようだ。

 

そりゃそうか、俺は慣れてるから何とも思わないけど、そうじゃない人間の方が多いんだよな。

 

「オルコットって・・・、まさかイギリス有数の大財閥じゃないか!?」

 

『ええ!?』

 

再度クラス中の視線が俺達に集まる。

 

その視線には畏怖と驚愕、その両方と過分な好奇心が含まれている。

 

やれやれ・・・、実家は実家、俺達は俺達なんだけどなぁ・・・。

 

まぁ、そういう訳にもいかない、よな・・・。

 

「そうですわ、私の実家はオルコット家、そして、父は二番目の男性IS操縦者、結城リクです。」

 

「そして、リザのお母さんは元イギリス代表候補生で、オルコット家の当主セシリア・オルコットだ。」

 

俺とリザの言葉に、クラス中のざわめきが更に大きくなる。

 

当然だ、俺もリザも、そしてルキアも、あの最高の世代と謳われた人達の血を受け継いでいる。

 

言ってみれば、二世なんだから。

そりゃ、ざわめきたつのは仕方のない事だね。

 

だけど、俺はそれをどうとも思っていない。

なんせ。二世は所詮は二世でしかない、親の七光りって呼ばれる事もある上に、まだまだ技術も稚拙だし、経験も無いに等しいんだ、それを理解していない俺達じゃない。

 

だからこそ、その肩書に恥じぬ力を着けて、俺はあの人を超えるんだ・・・。

 

それが、俺の昔からの夢だから。

 

「ま、いいや、飯食いに行こうぜリザ?」

 

まぁ何はともあれ、昼飯の時間なんだ。

積もる話は山ほどあるし、時間は有効活用しなくちゃな。

 

「はい♪エスコートしてくださいな、一輝さん?」

 

そう言いつつ、彼女は華やぐ笑みを浮かべて俺に手を差し出す。

 

昔からそう言う人懐っこいトコ、全然変わってないな。

今も昔も大好きな、その表情を懐かしく思いながらも、俺は腕を差し出した。

 

「分かってるよ、お姫様。」

 

リザと腕を組み、呆気にとられているクラスメイトを放置して、俺とリザは教室を後にした。

 

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一組で一輝とリザが再会を喜んでいる頃、屋上では・・・。

 

「やあ楯無、久しぶり、だね・・・。」

 

「っ、久しぶりね、エド・・・。」

 

イギリス代表候補生、エドワード・オルコットと日本代表候補生、更識楯無は二人っきりで会っていた。

遡ること数分前、彼等は互いを屋上に呼び出し、誰にも邪魔されずに再会を果たした。

 

代表候補生同士の事で、まさか初日から喧嘩かとクラスメイトがざわついたが、当の彼等の心はそこには無かった。

 

何せ、彼等は物心つく前から一緒にいた幼馴染同士なのだから・・・。

 

しかし、二人とも何処か思い詰めた様な表情を浮かべており、喜びよりも寧ろ、困惑の色が濃かった。

 

「本当にね、最後に会ったのは、確か三年前だっけ?」

 

「そうね、確かそれぐらいだったわ。」

 

二人とも、何処か固い言葉で再会の言葉を交わしていた。

それもそうだろう、何せ、彼等の立場は、昔とは大きく変わってしまっているのだから・・・。

 

「・・・、僕は、どっちの名前で呼べばいいかな?」

 

「えっ・・・?」

 

唐突にエドが言った言葉に面食らい、楯無は尋ね返す。

 

「君がもう楯無だって事は分かってる、だけど、僕にとって、君はずっと千恵なんだ、だから・・・、その・・・。」

 

しどろもどろに言い、照れを隠すように明後日の方角を向く。

 

伝えたいけど、素直な言葉が出て来ないと言ったところか、思春期の少年らしい表情がそこにはあった。

 

「君さえよければ、僕は君を千恵って呼びたいんだ・・・、ダメ・・・、かな?」

 

だが、伝えなければ進まないと言わんばかりに、彼は意を決して楯無の、幼馴染である千恵の瞳を見詰めた。

 

「うん、私とエド、二人っきりの時だけ、そう呼んで?」

 

その想いを受け取って、千恵は微笑みながらも、嬉しそうにお願いしていた。

 

変わってしまったと思っていた事を払拭してくれた事が嬉しかったのか、その表情には可憐な笑みが浮かんでいた。

 

「分かったよ、千恵。」

 

彼女の答えに、内心喜びつつもなるべく平常を保ち、エドは千恵の方に向き直る。

しっかりと見つめていたい、そんな想いが見て取れるようだった。

 

「ははっ、凄く緊張しちゃったよ、千恵、凄く綺麗になってるからさ。」

 

エドは照れ臭そうに頬を掻きつつも、目の前にいる彼女の事を誉める。

 

年相応の少年らしい表情と言葉に、千恵もまた、顔を朱くする。

 

「も、もう!それを言うなら・・・、エドだって、凄くかっこよくなってるよ?」

 

「あ、ありがとう・・・!そんな事言われたのは初めてだよ・・・。」

 

「そ、そうなの・・・!?」

 

はわわ、という擬音が見える様な感じで慌てる二人は、何処か初々しいカップルの様に見えた。

 

実際問題、幼馴染同士の中でも最も仲が良かった二人だが、今現在そう言う関係ではまだない。

 

「なーにやってんのよあんた達?」

 

「「!!?」」

 

出入り口の方から聞こえた呆れる様な声に、エドと千恵は驚きつつもその方向を見る。

 

そこには黒髪長身の男子学生と、金髪の女子生徒が呆れた様な表情をして立っていた。

 

彼等が醸し出す雰囲気に耐え切れなくなった、そう言わんばかりの表情だった。

 

「む、睦月さん!?」

 

「る、ルキア!?なんで此処に!?」

 

二人同時に慌てたように叫び、

あたふたといずまいを正すかの様に動いていた。

 

「熱いねぇお二人さん?再会を喜ぶのは良いが、周りの目だけは、気にしとけよな?」

 

「む、睦月さん・・・、茶化さないでくださいよ・・・。」

 

エドに近付いた睦月と呼ばれた男子生徒は、彼の肩を肘で小突いていた。

 

まるで、年上の従兄がやる様な光景だったが、彼等の仲を考えるとそれも強ち間違いでは無かった。

 

「楯無もウブウブね~?なんだったっけ~?エドも凄くかっこよくなってたよ・・・?だった~?」

 

「や、やめてルキア~!?」

 

ルキアのからかいに、千恵はその顔を林檎の様に真っ赤に染め、聞こえないと言わんばかりに耳を塞いだ。

 

いくら幼馴染み同士とは言えど、こう言った関係での弄りは勘弁してほしいのだろう。

 

「うぅっ・・・、そ、そう言えば、一輝とリザがいないね、どうしたんだろ?」

 

何とか話題を逸らそうと、千恵は必死になってこの場にいない幼馴染み達の名を出した。

 

それが功を奏したのだろうか、そろそろ止めておいてやろうと言いたげな表情をし、睦月は顎に手を当てつつ考えた。

 

「さぁな、あの無自覚バカップルは自分達の世界にフォーリンラブでもしてんじゃないか?」

 

「でしょうね・・・、リザも一輝と会えると知って、無意識にテンション上がってましたし・・・。」

 

その言葉に同意し、エドは苦笑しながらも呟いた。

 

彼の姉であるリザと、幼馴染の一輝の関係は単純な幼馴染と言う括りでは納められないだろう。

 

何せ、彼等の雰囲気はそれなりの時間を共に過ごした夫婦と言うべきもので、彼等の父母同様の雰囲気なのだから。

 

「で、でも、私達がこうやって揃うのなんて、本当に何時振りだろ?」

 

「そうだねぇ・・・、睦月さんがここに入る前だから、かなり長いね。」

 

「もう二年も前、か・・・、俺達の付き合いはそれなりに長いが、こんなに離れて長いと感じたのは初めてだな。」

 

楯無の言葉に、エドと睦月はそう言えばそうだとばかりの表情をし、過ぎた月日を慈しむ様に笑っていた。

 

「さてと、そろそろ食堂に行きましょ、どうせ一輝とリザも筈だしね。」

 

そんな中、ルキアがそろそろ行かないかという風に呼びかけ、さっさと出口の方へと歩いて行ってしまった。

 

「はいよ、久々に思いっきりからかってやんぜ。」

 

彼女を追う様に睦月も駆け出して出口へと向かって行ってしまった。

 

残されたエドと千恵は二人の様子に顔を見合わせて苦笑していた。

 

彼等は何も変わらない、幼いころから同じ空気で自分達と接してくれている。

それが、彼等にはこの上なく嬉しい事だった。

 

「さっ、僕達も行こうか、千恵?」

 

「うん、行きましょ?」

 

置いて行かれては堪らないという様に、二人は少しおっかなびっくりながらも手を繋いだ。

 

その二人の表情は何処か照れ臭そうだったが、それ以上に、喜びに満ちていたのであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

久方ぶりの再会に湧く少年少女たちに、それは突如として舞い訪れる。
新たな翼の飛翔は、すぐそこまで迫っていた。

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

一輝とリザ

お楽しみに


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人物紹介

織斑・D・一輝

 

性別 男

年齢 15歳

誕生日 7月17日

所属 日本国代表候補生

専用IS 白式参型

 

英雄、織斑一夏とその妻、織斑・D・シャルロットの実の息子。

容姿はIS学園一年の頃の一夏を、シャルロットの様な金髪とアメジストにした様な容姿。

日本代表候補性の一角を張り、その実力は発展途上ながらも目を見張るものが有る。

 

父である織斑一夏の事を敬愛しているが、彼の息子いう色眼鏡を掛けて見られる事を嫌っている気色があり、一夏の前では、彼の事を親父呼ばわりをするなどあまり口が良くない。

 

一夏を超えるという夢を強く持ち、何時の日か、彼をISで超える事を目指して幼馴染達と共に互いを磨き合っている。

日本軍の上層部や学園の一部からは、英雄、織斑一夏の後継者と目されており、本人もそうなるために修練を積んでいる。

 

家事全般が得意であるが、指先の細かな作業は姉であるルキアには及ばない。

趣味はダンスで、特に好むのはリザと組む社交ダンスや、仲間と一緒に踊るストリートダンスもやっている。

 

幼馴染みであるリザとは、幼少のころからの許婚に近く、友人以上恋人未満の関係であり、周囲からよくからかわれているが、それ以上の糖害を巻き起こすなど、入学数日で一年の名物となったという伝説を持つにいたる。

しかし、本人達があまりに近くにいるため、無意識化でいて当たり前状態になっているという危うさもある。

 

得意とする戦術は、母親譲りのラピッド・スイッチと父親譲りの高速格闘戦術の融合であり、適切なタイミングでそれらを適切に叩き込む事を重視するテクニカルファイター。

一撃必殺の技は無いが、絶え間なく打ち込まれる技の連続に絡め取られた相手は為すすべなく討ち取られる事となる。

 

 

織斑・D・ルキア

性別 女

年齢 15歳

誕生日 7月17日

所属 日本国代表候補生

専用IS リヴァイブ・アンジェラス

 

織斑一夏と織斑・D・シャルロットの実の娘であり、一輝の双子の姉。

織斑マドカの髪と瞳をシャルロットと同じブロンドとアメジスト色にした容姿を持っている。

 

両親の事を深く敬愛し、母であるシャルロットの様な強さと慈愛兼ね備えた女を目指したいと思っている。

 

性格は勝気で男勝りな部分が強いが、母親譲りの人懐っこさもあるため、姉御肌的な性分を持っている。

 

ISによる戦いよりも、篠ノ野 束が夢見たインフィニット・ストラトスへの憬れがあり、誰よりも高く、早く飛ぶことを望んでいる。

 

幼馴染であり、義理の従兄にあたる睦月とは既にデキている模様。

一輝程ではないが、それでも相当に仲のいい様子を見せ付け、同級生たちに色々と傷を与えている模様。

 

料理類はあまり得意ではないが、手先が器用なため、裁縫などでは大活躍する。

趣味は天体観測であり、エドと共に望遠鏡を覗いている光景がたまに見られる。

 

得意とする戦闘スタイルは、尊敬する母親が好み、父親が得意とした刀剣での一撃必殺であり、手数よりも一撃を重視したパワーファイター的戦闘スタイルを取る。

一撃でも当てる事が出来たならば、相手が格上であろうと逆転できる可能性を持っている。

 

 

リザ・オルコット

性別 女

年齢 15歳

誕生日 9月15日

所属 イギリス代表候補生

専用IS ブルー・ティアーズ・サード

 

元IS学園所属で、イギリス屈指の財閥であるオルコット家の当主であるセシリア・オルコットと、元IS学園所属でイタリア出身の男性操縦者、結城リクの間に生まれた娘。

 

母親譲りの穏やかな笑みを湛えた美女であり、聡明かつ朗らかな性格の持ち主。

 

母親であるセシリアをオルコット家の当主として、父親であるリクをIS乗りとしてそれぞれ尊敬しているだけでなく、世界最強を名実ともに物としている織斑一夏を、自身達が超えるべき世界の壁と表している。

 

幼馴染である一輝とは物心つく前からの付き合いであり、許婚に近い形で付き合いが続いている。

本人達も満更では無く、普段から肩が触れ合う距離で並んでいる事が多い。

 

何れはオルコット家当主を母から継ぎ、母が自身を身籠った事で辞退した代表の座に就く事を望み、一層の修練に励んでいる。

 

幼い頃より社交界にいたため、社交ダンスなど上流階級の嗜みも一通りは熟せる。

趣味はピアノ演奏と生け花で、休日は幼馴染の千恵と共にピアノの連弾を行っている事もある。

 

得意とする戦法は、母親が得意としたビットによるオールレンジ攻撃と狙撃をメインに据えながらも、父親が得意としたバスターソードによる格闘も熟すなど、テクニカルファイターとしての側面が強い。

 

 

エドワード・オルコット

性別 男

年齢 15歳

誕生日 9月15日

所属 イギリス代表候補生

専用IS テンペスタ・アポストロ

 

元IS学園所属で、イギリス屈指の財閥であるオルコット家の当主であるセシリア・オルコットと、元IS学園所属でイタリア出身の男性操縦者、結城リクの間に生まれた息子であり、リザとは双子の姉弟の関係。

 

父親のように人懐っこい性格ながらも、母親譲りの器量の良さも兼ね備えており、クラスの優等生を地で行く。

少しやんちゃが入っている一輝とはかなり性格が違うが、仲が良い悪友と呼ぶべき関係を築いている。

 

宙の彼方へ、インフィニット・ストラトスへの憧れを抱き、幼馴染であるルキアとは馬が合っており、大気圏外でのIS活用で談義する様子もしばしば見受けられる。

 

趣味は天体観測で、空の果てがどの様なモノかと夢を膨らませている。

 

幼馴染であり、名門の家系に生まれた楯無(千恵)とは互いの立場に歯がみしながらも、幼馴染以上恋人未満の距離感であり、互いに初心な所があるために、周囲はその関係にやきもきしている。

 

得意とする戦闘スタイルは父母から受け継いだものでは無く、自身の身一つで挑むボクシングスタイルを取り、相手の攻撃の間を縫って攻め込む事を好んでいるが、一通りの射撃武器や格闘武器も扱える。

 

 

更識 楯無

性別 女

年齢 15歳

誕生日 10月5日

所属 日本代表候補生

専用IS ファルス・ヴァージニア

 

元IS学園所属の元ロシア代表にして、更識家前当主の更識楯無(神楽)の娘にして、一輝やルキアと同じく日本代表候補生の一人。

 

母親譲りの空色の髪を持ち、父母譲りの人当たりの良い性格で、チヤシャ猫の様にコロコロ変わる表情を見せるが、それは本当の性格を隠す為の仮面でしかない。

本来の性格は、気弱で臆病であると自覚し、誰かが支えねば立っていられないとさえ感じてしまうほど。

故に、周囲に嘘を吐き続けている自分自身を嫌っている節さえある。

 

母親から楯無の名と家督を受け継いではいるが、自分では務まらないと常々感じている。

 

家庭的な事全般が得意で、たまに自作弁当を幼馴染に振舞う事もあり、その料理の味や菓子の出来栄えは正に天才クラス。

幼少期から付き合いのあるオルコット家の影響を受けてピアノを好んでおり、休日はピアノの練習に費やす事が多い。

また、叔母である簪からの影響で、特撮モノを好んでみているとのこと。

本音を言えば、ISや家の習わしというしがらみから逃げ、普通の少女として生きたいとさえ願っている節もある。

 

幼馴染であるエドワード・オルコットとは、幼馴染6人の中でも特に仲が良く、数年ぶりの再会の喜びながらも、立場が変わってしまった自分達の間に横たわる溝を恐れている。

 

得意とする戦闘スタイルはランスやハンマーと言った長物をメインに、相手の間合いから微妙に外れたポイントからの攻撃をメインとするが、弓や剣などの武器も扱える。

 

 

小早川 睦月

性別 男

年齢 17歳

誕生日 4月9日

所属 日本代表

専用IS セイクリッド・エンハンスド

 

日本軍中将小早川海斗と小早川深夏との間に生まれた子で、一輝達とは一つ歳の離れた少年。

 

海斗と深夏は、織斑一夏の兄姉代わりであり、本当の兄弟同然だった事もあり、一夏の事を叔父貴と呼び慕っている。

 

周囲を纏めるカリスマ性と、それに見合うだけの度量を兼ね備えており、幼いころから一輝達の兄貴分として振舞ってきた。

本人は、親や叔父達の偉大さを誰よりも理解しており、そんな彼等を打ち倒して自分が世界一の座に就く野心も持っている。

 

IS学園在籍中、一輝達が入学する半年前に行われた、モンド・グロッソ以外に行われるようになったエキシビションマッチで日本代表に抜擢され、一夏と共に戦った事もある。

周囲からは、一輝と同じく一夏の後継者と目されており、彼自身もそう在ろうとしている。

 

幼馴染であり、妹分のルキアと入学前から交際しており、一夏にもこっそりあいさつしたらしいが、ドラマの様な展開になったとかなんとか・・・。

 

趣味はダンスであり、ストリート系のダンスから社交ダンスまで幅広く熟せる。

反面、他の幼馴染達が程度の差はあれど得意とする家事系は絶望的なまでに出来ないため、少しジェラシーを感じる部分があるらしい。

 

どんな武器でも一通り使う事が出来るが、主にピストルと日本刀が融合したソードピストルと盾をメイン装備とし、相手の攻撃を往なしながらも圧倒する戦闘スタイルを取っており、同年代に並ぶ者無しと表される程の強さを誇る。



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一輝とリザ

noside

 

屋上で再会を喜んだ四人が食堂に入ると、真っ先に目に飛び込んで来たのは食堂全体を支配する甘ったるいピンクのオーラであった。

 

周囲の生徒達はその雰囲気に戸惑うか、若しくは壁を叩くかしており、被害はそれなりに甚大であった。

 

「あーぁ・・・、やっぱりこうなる訳ね・・・。」

 

その惨状にやはりかと言う様な表情をしながらも、ルキアは額を抑えた。

 

実に数年ぶりに見たが、収まるどころかひどくなっている様な気がしてならなかった。

 

「やっぱり、こうなっちゃうかぁ・・・。」

 

その元凶を作っているのが自分の身内だと思うと、周囲の生徒に申し訳なく思うエドだったが、致し方あるまいとさえ思ってしまう。

 

「羨ましい・・・。」

 

その中心にいる者達の関係を思うと、少し羨ましく思う楯無であったが、もし自分が想う相手とそうなった場合を考えると、赤面せざるを得なかった。

 

無理もない、彼女とてまだ15の少女なのだ。

そう言った事を夢見て当然だった。

 

「やってるねぇ、俺が最後に見たのは3年前だったな、よっし、からかってやる。」

 

睦月はワルそうな笑みを浮かべながらも、それの発生源まで歩みを進めた。

 

そんな彼において行かれまいと、彼等もその背を追った。

 

「リザ、そのかつ綴じの味、どうなんだ?」

 

「悪くはありませんわ、御母様達が召し上がられたものと同じだと思いますと、なにやら不思議な心地が致しますわね♪」

 

そんな彼等が間合いに足を踏み入れた途端、会話の内容が鮮明に聞こえてくるようになる。

 

「一輝さんの天ぷらは、どの様な御味でして?」

 

「気になる?」

 

「えぇ、久方振りの日本食ですもの♪」

 

昼間から天ぷら定食を食べている一輝だったが、それはリザが久方ぶりの来日だと知っているからこそ選んだものだった。

 

幼少の頃からかなりの日本びいきであり、日本食を何より好むリザに、久方ぶりの味を楽しませてやりたいと言う気遣いもあるだろうが、彼の思惑はそこには無かった。

 

何せ、リザが楽しそうに笑っている事が、彼は何よりも大好きだったから。

だから、彼女の笑顔が見られる様にと、日本食メインの天ぷらを選んだのだった。

 

言うなれば、大好きな彼女のため、とも取れる行動だと言えるだろう。

 

「なら、俺のおすすめ食べる?」

 

そう言いつつ、彼は箸できすの天ぷらを器用に切り分け、その一切れを抓んでリザの口元へと運ぶ。

 

所謂、『はいアーン♡』の状態だった。

 

「ふふっ♪あーん・・・♪」

 

その意図が伝わったか、リザはパッと笑顔を浮かべながらも、ぱくりと天ぷらを食べさせてもらった。

 

下品と思われない様に小さく口を開けて口に含むが、そこは幼馴染同士のアレコレと言うべきか、一輝に対しては遠慮を見せてはいなかった。

 

「ん・・・、昔おじ様に連れて行っていただいたお店の味とは違いますが、美味しいですわね♪」

 

「ははは、そりゃ何より。」

 

口元を抑えつつ咀嚼し、柔らかく微笑むリザに、一輝もまた頬を綻ばせる。

 

様子だけ見れば、完全なバカップルそのものに、周囲の生徒は皆苦笑するか、悔し涙を流す以外なかったのだ。

 

「ホント、お熱いこって・・・。」

 

そんなラブラブ空間に足を踏み入れた睦月は、一輝の頭に顎を乗せながらもからかう。

 

まるで、カップルに絡む不良のようにも見えたが、それはそれで間違ってはいないだろう。

 

「げっ、兄貴、なんだよ急に・・・。」

 

「あら、御久し振りですわね睦月さん。」

 

そんな彼に、一輝は少し嫌そうな顔をし、リザは少し残念そうに笑いつつ、会釈していた。

 

この二人、自分達の雰囲気を邪魔される事が結構嫌なのだろうか・・・。

 

「おう久し振り、俺は御邪魔虫かよ・・・、折角コイツ等連れて来たのに。」

 

そんな二人の反応に苦笑しながらも、睦月は彼等と相席すべく、手早く席を4つ確保する。

 

「一輝~、アンタ、あんまり目立ち過ぎんじゃないわよ?」

 

「なんだよルキア、先に食堂に行ってるのかと思ってたぞ、折角誘おうと思ってたのに。」

 

「あっそ、それは悪うございました。」

 

苦笑しながらも弟を宥めるルキアだったが、当の一輝は少しだけむくれていた。

 

本音のところは分からないが、それでも誘うつもりだったと言われれば釈明位はせねばと思ってしまうのが人間だった。

ルキアは、仕方ねぇなコイツ、とか思いながらも平謝りしていた。

 

「一輝、久し振りだね、リザと仲良さそうで何よりだよ。」

 

「エド!二年ぶり~!」

 

睦月の後ろから現れたエドに、一輝はパッと破顔、席から立って固い握手と抱擁を交わした。

 

同い年で幼馴染、性格は違っていても、幼い頃は睦月も連れだって悪戯をよくやっていたモノだ。

 

まぁ、その悪戯で女子を泣かせると、もれなく一輝の父から鉄拳を喰らわされていたのは良い思い出だ。

 

そんな仲の良い二人の様子に、リザは少し複雑な表情を浮かべる。

 

まぁ、自分の許婚に近い男と、自分の弟が仲良さ気なのを見ているのはあまり面白い事では無いのだろう。

 

「リザ~!」

 

「まぁ!ち・・・、いえ、楯無さん!御久し振りです!」

 

楯無の登場に、リザは複雑な心境を何処かに吹きとばし、幼馴染との抱擁を交わす。

 

最初に言い淀んでしまったのは、幼い頃の感覚がまだ抜けておらず、嘗ての名で呼びそうになったのを自制した結果だと言えるだろう。

 

その反応に、楯無は僅かに寂しげな表情を覗かせるが、それも仕方ないと頭を振って、旧友との再会を喜んでいた。

 

「皆、代表候補生に成れたんだな、何よりだぜ。」

 

席に着きつつ、睦月は何処か嬉しそうに話す。

 

自身の弟妹のように見て来た者達が、自分の後を追ってくる事が、昔からの目標であった代表への一歩を踏み出した事が何よりも喜ばしい事だったのだ。

 

「兄貴こそ、遂に代表だよな、楯無の御母さんと同じ年齢でだって?」

 

「まあな、お偉いさんからの推薦もあって、いい経験させてもらったさ。」

 

だが、睦月は彼等より一年早く生まれている分、更に多くの経験を積んでいた。

 

彼は日本代表となり、第一線で活躍する者だった。

 

その報は既に一輝達も知る所であり、当時は互いに連絡を取ったモノだった。

 

「ソイツは良い、俺も直ぐに追いつくよ。」

 

「私も、ですわね。」

 

かかって来いと挑発する様な彼の表情に、一輝とリザが好戦的な笑みを浮かべていた。

 

負けず嫌いかそれとも別のモノか。

分かるとすれば、彼等が戦って己を高めようとしている事だけだった。

 

「へっ、良い顔するな、後で模擬戦の相手してやらぁ。」

 

その覇気に応じ、睦月の顔もまた野獣じみた好戦的な笑みへと変わる。

 

そんな三人の様子に、昔と変わらない何かを感じたのか、ルキア達三人は苦笑する以外なかった。

 

昔の喧嘩や稽古の時のように、先に立っている睦月に向かって行く一輝とルキアの様子がフラッシュバックして、懐かしさと同時に呆れも湧き上がってくるのだろう。

 

和やかな雰囲気が幼馴染達を包みかけていたその時だった。

その来客は突如として訪れた。

 

「こんなところでお喋りとは、良い御身分なモノね、代表さん?」

 

「あ?」

 

あからさまな敵意を含んだ言葉に、一輝達は雰囲気をぶち壊された苛立ちを隠さずに振り向いた。

 

声の主は女子生徒のモノで、日本人だと窺える容姿と、現時点の2年を表すリボンを身に着けていた。

 

彼女の周囲には取り巻きと思しき数人の同学年生がおり、それこそ国籍の隔ては見られなかった。

 

「あぁ、またお前等か、謹慎解けたばっかりだろ、いい加減大人しくしてろよ。」

 

睦月はその女子生徒達と知り合いだたのだろう、げんなりとした様な表情で宥めようとしていた。

 

どうやら、突っかかってくるのはこれが初めてという訳では無く、何度も何度も、鬱陶しいとさえ思ってしまうほどの頻度でやって来ていると推察できた。

 

「兄貴、この人達は?」

 

雰囲気で良くない事と察知したのだろう、一輝は少々険のある声で尋ねた。

 

睦月を代表と知りながらも突っかかってくると言う事は、ファンと言うよりはむしろ、アンチと言うべき感触を持っている様だった。

 

「この前まで一緒のクラスだった奴等だよ、古臭い思考に囚われて、何回も謹慎喰らってる懲りない奴等さ。」

 

「それって・・・。」

 

睦月の吐き捨てるような言葉に思い当たる節があったリザは、表情を顰めながらも呟いた。

 

彼女の思い至ったそれは、ISが世に公表されてから10数年に渡って広まり、悪化していった悪しき風習、女尊男卑だった。

 

嘗ては社会問題となる程に深刻だったそれは、織斑一夏を始めとした男性IS操縦者の登場とその活躍によって今は廃れたモノとなってはいた。

 

だが、やはりISは女のモノ、と考える者はいなくなるはずも無く、今でもネット界隈の一部のコミュニティに過激思想を持つ者達が集まり、不穏な気配をにおわせてはいた。

 

しかし、一輝達は幼い頃からの教育により、女尊男卑は忌まわしい風習であると教えられてきており、そのロジックも学んできていた。

 

故に、それが忌むべきモノだと理解しているし、それをまたしても推し進めようとしている者達に対して、呆れや憐みの念しか浮かばないのも事実だった。

 

「黙りなさい!そもそも、ISは女だけのモノだったのよ!それを、あの織斑一夏とかいう男が穢したのよ!!あぁ、なんて罪深い・・・!!」

 

だが、それを受けて更にヒートアップしたか、その女子生徒はまくし立てるように宣った。

 

織斑一夏さえ現れなければ、ISが穢される事は無かったと。

それが、女尊男卑主義者のもつ見解であった。

 

だが・・・。

 

「アンタ等の理想を語るのは勝手にしてりゃいいさ、だが、人の親父を貶すのはどうなんだよ。」

 

「ホント、気分悪いわ、アンタ達みたいな屑に、そう言うのを語る意味なんてないわね。」

 

彼の息子と娘は、その罵倒に対して凄まじい怒気を放つ。

 

彼等にとって、誰よりも尊敬し、超えるべき目標である父を貶される事が我慢ならなかったのだろう。

 

「お、親父って、あなた達まさか・・・!?」

 

そんな彼等に気圧されたか、リーダー格の少女は狼狽える様な素振りを見せた。

 

まさか、自分が貶した相手の家族が目の前にいるとは思いもしなかったのだろう。

 

「俺は織斑・D・一輝、憶えてなセンパイ。」

 

「あたしはルキア、コイツの姉よ、ヨロシク。」

 

威嚇する様な、年上に対する言葉づかいでは無い言葉で自己紹介する一輝とルキアの目は、一切笑っていなかった。

 

仕方あるまい、大切に想っている身内を貶されて黙っていられる程、彼等は腐ってはいなかったのだから。

 

「で、俺も男だし、気に喰わないんだろ?売られた喧嘩は買うぜ?それとも、そんな度胸も無いって言うの?」

 

挑発するように、一輝は喧嘩を買うと宣言した。

 

それは、彼女達が馬鹿にした男の息子が、彼女達のプライドを圧し折るという意図が込められていたに違いない。

 

「じ、上等じゃない・・・!!今日の放課後に、第一アリーナで待ってるわよ!!逃げない事ね!!」

 

それを理解したか、それともメンツを保つためかは分からなかったが、その少女は声を張り上げて宣言し、捨て台詞を残しながらも、取り巻きを引き連れて野次馬をかき分けて去って行った。

 

その背に、一輝とルキアは嘲笑を投げかけ、それを見た他の四人もまた、タメ息を吐きつつ、終わらない習わしを呪っていた。

 

だが、それでも構わない。

自分達が力を着ける為にも、新たな戦いの一歩と刻むために・・・。

 

sideout




次回予告

光を継ぐ者が踏み出す新たな一歩は、忌まわしき過去の遺物との戦いでもあった

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

白き旋風

お楽しみに


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白き旋風

side一輝

 

「それでは、今日の授業は此処までとします、明日からも頑張りましょうね。」

 

思い出すだけで胸糞悪い昼の出来事から数時間後、今日一日の授業が終了した。

 

いや、初日から4時間も授業あるなんて聞いてないぜ。

 

まぁ、3年しかない期間内に、ISの基礎から専門の課程、並びに一般高校教育のプログラムも入ってくるから、そりゃキツキツに詰め込まなきゃ終わらんわな。

 

夏休みも冬休みも、一般の高校に比べりゃかなり短い部類に入るらしいし、仕方ないと言えば仕方ないかな。

 

まぁ、そんな事はさて置いて・・・。

 

担任である藤堂先生の号令を受け、クラスの全員が起立、一礼の後に全員が思い思いの放課後を謳歌しようと動いていた。

 

そんな中で、食堂での一件に関わった三人は集まりを持った。

 

無論、俺達織斑姉弟と、リザの三人だ。

 

「んじゃ、さっさと行きましょ、あたしが先鋒ね!」

 

「何勝手に決めてんだよ、相手が何人か分からんのだ、俺が先に出るからルキアは待機。」

 

喧嘩っ早いのは若い頃の親父譲りなのかも知れない俺達姉弟、なんか、言ってて悲しくなるようなならない様な・・・。

 

「おじ様を侮辱したのです、相応の報いを受けて頂かねば・・・。」

 

「「待って、リザ、落ち着いて。」」

 

それ以上にキレてたのが、一番御淑やかだと信じていたリザだった。

 

俺達の親父の為にキレてくれていると分かってるからありがたいのだが、この件は織斑に売られた喧嘩だ。

オルコットまで巻き込むつもりは毛頭ない。

 

「落ち着いてくれよリザ、俺だけで何とかしてみせる、エドや楯無もキてるだろうけど。」

 

まぁなんにせよ、売られた喧嘩は買う。

それが善きにしろ悪しきにしろ、責任は取るつもりでいた。

 

ま、全部親父や海斗おじさんからの受け売りなんだが・・・。

 

それはさて置き・・・。

 

「そこの三人、ちょっと来なさい。」

 

そんな話をしている事がバレたのか、俺達三人は教壇に居た先生から見事にご使命を喰らう。

 

顔があんまり笑ってないから、結構迫力ありますね・・・。

 

っていうか先生、俺達がなにしたって言うんですか・・・。

 

しょんぼりと、三人そろって教壇で待っている先生の所に向かう。

 

見た目は美人だけど、その苛烈さはIS業界では相当有名な人だ。

 

何せ、この人、俺の親父が指揮官やってた部隊の設立当初からのメンバーなのだから。

 

その関係で良く家にも遊びに来てたし、俺達も小さい頃、香里奈姉が遊び相手になってくれた事を思い出す。

 

まぁ、戦場に出ればゴリゴリの武闘派になるってなもんで、テロリストの殲滅に成ったらそりゃもうえげつない事になっているらしい。

 

その辺は、実際に見たことないから何とも言えんが・・・。

 

そんな俺達の様子に気付いたのか、クラスの面々が、御愁傷さまと言った様にそそくさと教室内から消えていった。

 

そんな気遣いはいらないから助けてくれよ・・・。

 

薄情なクラスメイトに恨み節を抱きながらも、俺達は先生の顔を見た。

 

「聞いたわよ一輝、ルキア、上級生に喧嘩吹っかけたんですって?」

 

呆れた様に、藤堂先生、いや、香里奈姉は教室に他の生徒がいない事を確認して尋ねてきた。

 

あ、特別扱いしないって事と、昔馴染みって事は分けて考えてくれてるのかなぁ。

 

俺達が幼稚園の頃から、香里奈姉が候補生候補だった頃から知ってるし、融通効かせたいって事かな?

 

「違うって香里奈姉、あっちが女尊男卑振りかざして親父を馬鹿にしたんだよ、ここにいるリザと、睦月の兄貴が証人だよ。」

 

この人は俺達の姉代わりになってくれてた人だから頭は上がらないが、せめてもの名誉の為、自己弁護を行う。

 

尤も、大した効果は得られそうにないのは事実だけど。

 

「知ってるわ、だからこそ忠告しようと思っただけ、やり過ぎないようにね?」

 

予想に反して、香里奈姉は悪戯っぽい笑みを浮かべて忠告してくる。

 

やっても良いがやり過ぎるな、か・・・。

親父みたいな事を言うなぁ・・・。

 

「あの子たち、実力は然程高くは無いけど、その思想が上層部でも問題になっててね、そろそろ目に余るから、謹慎以上の事を用意しないといけない頃合いなのよ。」

 

それは大体分かる気がするよ。

何せ、兄貴が嫌そうな顔をするぐらいなんだしな。

 

「だから、一夏先生の息子の貴方が、彼女達の幻想をぶち壊して頂戴。」

 

なるほど。

単純に男に負けるよりも、織斑一夏の息子である俺に負ける事が何よりの屈辱だって事か。

 

確かに、そりゃ胸が空く良い刺激になりそうだ。

 

「あぁ、やってみるよ、俺も、修行の一環として頑張るよ。」

 

「えぇ、その意気よ、やってやりなさい、ご挨拶、ね?」

 

俺より一回り近く年上とは思えない程キュートなウィンクに少しドキッとしたが、それ以上に闘志が燃え滾って仕方なかった。

 

何せ、派手にご挨拶できるんだ、それも教師公認でね?

 

後ろでリザが面白くないと言わんばかりの様子で俺を見てるが、ルキアが宥めてくれるだろうからとりあえず流しておこう。

 

それじゃ、派手にいくぜ!!

 

sideout

 

noside

 

それから数十分後、IS学園第3アリーナは全席満員御礼と言わんばかりの盛り上がりを見せていた。

 

何処の誰が伝えたか、昼に起きた、一輝達と女尊男卑思想を掲げるグループとの決闘が行われる事が全学年に伝わり、興味を抱いた者達が詰めかけて来たと言う寸法だった。

 

内訳としては、単純に興味で来た者が八割だったが、残りの二割は些か異なった趣を持ってこの場に臨んでいた。

 

一部は女尊男卑を疎ましく思っていた男達が、彼女達が無様に負ける様を見て、追々のネタにしようと言う魂胆のため、もう一部はその逆であり、英雄など大した事ないと知らしめるためでもあった。

 

そして、最後の一部は、IS業界におけるレジェンドの息子たちの実力を計り、それを打ち破る事でレジェンドたちを倒す足掛かりとしようとしているのだろう。

 

様々な思惑が入乱れる中、彼等はアリーナへ入場し始めた。

 

まずは、女尊男卑を掲げていた2年の少女たちのリーダーが量産型のISを駆って入場してくる。

 

その少女が駆るのは、アメリカ製第四世代IS≪ウェアウルフ≫だった。

IS黎明期の女傑、ナターシャ・ファイルスや元代表イーリス・コーリングが引退前に最後にテストフライトを行った機体としても有名であった。

 

展開装甲を日本製ISを除いて最も早く搭載した機体でもあり、特に姿勢制御と火力に性能を特化させた調整をおこなっていた。

 

特殊な武装は無いが、展開装甲を応用し、大口径荷電粒子砲≪レヴナント≫を形成、敵を一撃で葬る事が出来る火力がウリだった。

 

既に第6世代機が台頭し、燃費やその他諸々の性能で後れを取った第四世代機は、IS学園や各国のIS養成機関に払い下げられ、今や訓練機としての役割を全うしていた。

 

とは言え、その性能は高く、雛形としての扱い辛さもあってか、訓練生にとっては非常に良い教材でもあった。

 

それはさて置き・・・。

 

彼女は今回、ガトリング砲やマシンガンなど、弾をばら撒いて敵を近付かせない事に重きを置いた武装で身を固めていた。

 

装備を見るからして、対近接戦機を想定している事が丸分かりだったが・・・。

 

恐らく、これから相手をする一輝の機体が近接寄りの機体だと想定した結果なのだろう。

 

どれだけ時代が進もうとも、銃のリーチに近接装備のリーチは及ばないという絶対条件は変わっていないのだ。

 

彼女の表情には、最早勝ったと言わんばかりの様子であり、早くその時が来ることを心待ちにしている様でもあった。

 

何せ、彼女の楽しみは此処には無く、この後の男を見下すと言うビッグイベントが待っているのだ。

 

それに加え、相手は候補生とは言え新入生、この一年、女こそが頂点と知らしめるために過ごしてきた自分が負けるはずなど無いと高をくくっていた。

 

もしその予想が覆されようとも、彼女には奥の手がある、負けなど最初から想定に無い。

 

そして、その想いが頂へ高まった時だった。

一際大きな歓声が沸き上がった。

 

「ッ・・・!」

 

その歓声に意識を引き戻された少女の目に飛び込んで来たのは、傾き沈みゆく斜陽に照らされた白亜の機体が、その翼を煌めかせてピットから飛び出してくる所だった・・・。

 

sideout

 

noside

 

時は少しだけ遡る。

 

「おー・・・、結構人いるなぁ。」

 

試合とは名ばかりの私闘が行われようとしている第3アリーナのISピット内で暢気に声をあげたのは、他でもない、この私闘に参加する織斑・D・一輝のモノだった。

 

まるで観衆の事など興味無いと言わんばかりに、念入りに準備運動代わりのストレッチを行っていた。

 

訓練生時代から、訓練開始の15分前から時間を掛けて身体を温める様にしている彼だったが今回は放課後と言う事もあり、特に念入りに行っている様な節も見受けられた。

 

いや、それだけでは無い。

入学後の初戦闘なのだ、あいさつ代わりも兼ねている事も重々承知な上で、無様を晒す訳にはいかないのだから。

 

「はいはい、ンな事気にせずやって来なさい、アタシ等の鬱憤、晴らして来なさいよ?」

 

そんな暢気な彼に、姉であるルキアは呆れながらもしっかりやって来いとエールを送る。

 

姉弟間で通ずる何かがあるのか、彼は無言でニヤリと笑いつつも立ち上がった。

 

今こそ、自分達が培ってきた力を示す時、そう言わんばかりの色が見受けられた。

 

「そいじゃ、行くか、俺の翼!!」

 

彼は左腕に身に着けていたガントレット型の待機形態に触れ、祈る様に目を閉じた。

 

まるで、空を飛ぶ自分を護りたまえと、願う様に・・・。

 

「来いッ!!」

 

祷りを終えた彼は、左腕の拳を天に突き上げて叫んだ。

 

今こそ、俺の戦いの幕が開ける、と・・・。

 

その瞬間、彼の身体をガントレットから発生した光が包み込む。

 

あまりにも眩い光に、慣れている筈のルキアとリザでさえ目を細めていた。

 

その光が晴れた時、彼の身体は白き鎧を纏っていた。

 

西洋の騎士の様なフォルムながらも、どことなく戦国武将を思わせる意匠も取り入れられているその鎧は、嘗て世界を救った、伝説の機体に非常によく似ていた。

 

展開された機体の調子を確かめるために、彼は無言のまま握っていた拳を開き、指を忙しなく動かした。

 

「うっし、感度良好、何時でもやれそうだ。」

 

身体にしっかりとフィットした事を確かめ、カタパルトへ機体を向けた。

 

「一輝さん。」

 

そんな彼の背後で、リザが彼の名を呼ぶ。

 

しっかりと芯の通った声は、一輝の耳にもしっかりと届いていた。

 

「ん?」

 

首だけで振り返りつつも、一輝はしっかりと幼馴染の顔を見詰めた。

 

幼い頃から傍にいた、大好きな笑顔がそこにある。

それだけで、負ける気がしなかった。

 

「御武運を。」

 

「あぁ、行ってくる。」

 

送り出してくれる言葉にしっかりと頷き、彼はカタパルトに機体を固定する。

 

遮蔽壁が閉まるまで、見送る幼馴染の顔をしっかりと見つめながらも、彼は意識を研ぎ澄ます。

 

必ず勝つ。

 

それが、今自分がやるべき事だと。

 

『進路クリアー、一輝、やってらっしゃい。』

 

一輝側のオペレーターを務めている香里奈から檄が飛ぶ。

やってこいと、白の再来を見せ付けてやれと。

 

「了解です!織斑・D・一輝、白式参型、行きます!!」

 

裂帛した気合と共に、白は再び宙へと駆け上がる。

 

嘗て、彼の父がそうであったように、彼もまた、IS学園という舞台へと飛び立ったのだ・・・。

 

sideout




次回予告

舞い降りた白は、その力を見せ付けるかの如く舞う。
だが、卑劣なる手は、白を穢さんと蠢いているのだ・・・。

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

清流の如き

お楽しみに


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清流の如く

大変長い間お待たせいたしました。
お待たせしてしまった割には短いお話になりますが、どうかお楽しみください。


noside

 

「お待たせしましたね、センパイ?」

 

白亜の機体、白式参型を纏った一輝は、不敵な笑みを浮かべながらも腕を組み、今回の対戦相手である少女を見下ろす様に滞空する。

 

見下ろされるのが性に合わないのだろう、彼の性格の一端が現れていた。

 

「来たわね・・・!随分と遅かったから、尻尾を巻いて逃げたと思ってたわよ?」

 

その姿を視認した少女は、その表情に下卑た笑みを浮かべながらも挑発する。

 

どうして遅れたのだ、まさか、代表候補生で、英雄の息子たる者が怯えていたのかと。

 

プライドの高い、短気な者なら激昂しない筈の無い言葉を投げかけ、冷静に戦えない様にするつもりなのだろう。

 

だが・・・。

 

「お生憎、アンタの事なんて眼中に無かったからな、遅れ様が遅れまいが、俺の勝手だろ?」

 

一輝にとって、この試合は自分の名を売る事以外にメリットは無く、別段遅れて来たところで何とも思いはしないと言うのが本音だった。

 

故に、その態度からは不遜とも取れる余裕が感じ取れた。

 

「ッ・・・!バカにしてぇっ・・・!」

 

相手の激昂を狙った言葉が自分に返ってきた事に苛立ちを隠せないのだろう、少女はギリギリと歯軋りをし、彼を睨みつけていた。

 

全く気に入らない、男風情が自分を見下ろし、あまつさえ眼中にないと言い放つのだ。

自分がわざわざ相手にしてやっていると考えている彼女からしてみれば、屈辱以外の何物でもないだろう。

 

「バカにされてる自覚あるんすね、ホント、プライドだけしかないみたいっすね。」

 

そんな女のプライドだけの言動を見た一輝は、それを鼻で笑う。

 

プライドなら自分もあるが、それよりも遥かに安っぽいプライドに最早失笑に値するモノだったに違いない。

 

「ま、さっさと始めましょうや、この後はデートがあるんでね。」

 

そんな事は無いが、今の彼にとってこの試合は順位の高いモノでは無い。

 

もっと大事で、もっと優先したい相手がいるのだ。

故に、彼は空けていた両の手に自身の武装を呼び出していた。

 

「かかって来いよ、親父を侮辱したケジメ、着けて貰うぜ。」

 

『試合、開始ッ!!』

 

かかって来いと挑発した一輝の言葉を皮切りに、試合開始のブザーが鳴り響く。

 

その瞬間、先に動いたのはリーダー格の少女だった。

 

一輝との間合いを取る様に飛び回りながらも、マシンガンで弾幕を張り、接近させない事に重きを置いていた。

 

近接格闘を得意とする機体を相手にする際に取る戦法のセオリーを実践できる辺り、それなりの修練は積んで来たと見受ける事が出来た。

 

だが・・・。

 

「生憎、こっちもそれは織り込み済みってね!!」

 

一輝は壁の如く迫る弾幕の間隙を縫う様に機体を奔らせ、両手に呼び出した銃剣型複合兵装≪ガンブレードⅡ≫のライフルモードでの銃撃戦に入った。

 

「なっ・・・!?射撃タイプの武装・・・!?そんなバカな・・・!?」

 

予想すらしていなかった飛び道具の登場に、彼女は集中力を掻き乱されてしまっていた。

 

まさか、銃の様な飛び道具を使ってくるとは思いもしなかった。

 

世界最強、織斑一夏が駆った白式系はどれも近接格闘戦メインの装備を施されていた。

そこに射撃装備など一切なく、侍というスタイルを突き詰めた機体とバトルスタイルだった。

 

故に、その息子である一輝が駆る白式参型もまた、近接格闘戦に重点を置いた機体だとばかり思っていたのだ。

 

ならば、近付け指せない事を突き詰め、射撃系統の武装で固めれば、被弾の確率は限りなく低くなり、負ける事は無いと踏んでいた。

 

だが、蓋を開けてみればどうだ、こちらの手の内を読んでいたかのように、織斑一輝は自分よりも高度な射撃精度で応戦してくるではないか。

 

これでは勝てる勝負も勝てなくなる。

その焦りからか、彼女の銃口はぶれ、白式参型を捉える事は無かった。

 

「どうした、そんなもんかセンパイ?」

 

ガトリングの弾を回避しつつ、一輝はライフルモードで少女を的確に狙い撃つ。

 

その弾丸は、関節や頭部など、構造上シールドが最も薄くなる部分や急所付近を捉えているため、ウェアウルフのシールドエネルギーはみるみる内に減少していく一方だった。

 

「う、嘘よ・・・!冗談じゃない・・・!!」

 

その現実を受け入れられないのか、少女は青ざめながらも必死に距離を取ろうと機体を動かしていた。

 

しかし、後退などさせないと言わんばかりに、彼女の眼前に白亜の機体が迫ってくる。

 

ばら撒かれたガトリング弾に当たる事など構わず、腕に覚えのある者ならば誰にでも使える技術、瞬時加速≪イグニッション・ブースト≫を使用し、一気に間合いへ入った。

 

「シェアッ!!」

 

ブレードモードへと切り替えたガンブレードを振り抜き、ガトリング砲の砲身を切り裂いた。

 

「せ、接近戦・・・!?そ、そんな・・・!」

 

「母さん仕込みの妙義、お見せできた様で何より!!」

 

瞬時に武器を切り替え、戦い方を戦況に合わせて流動させていく技、ラピッドスイッチ。

彼の母親、織斑・D・シャルロットが得意としたその技は、息子である一輝にもしっかりと受け継がれていた。

 

とは言え、まだまだ荒削りな部分もあるため、今後に期待と言わざるを得ない部分もあった。

 

しかし、そんな事は対戦している少女には関係の無い事だった。

 

こんなはずでは無かった、その表情からはそんな思いが透けて見える様だった。

 

だが・・・。

 

「(喧嘩吹っかけ解いてこの程度、って訳でも無さそうなんだよなぁ・・・、なんか、奥の手っつーか、隠し玉がありそうなんだよなぁ・・・。)」

 

その動揺に何か違和感を感じ取ったのだろう、一輝は警戒を解く事無く、より一層攻撃に力を入れ始めた。

 

一方的な試合運びにも思えたが、幾らなんでも上手くいきすぎではないだろうか、そんな懸念があった。

 

隠し玉を用意しているなら、それを使うべきタイミングは自ずと絞られて行く。

 

劣勢に追い込まれ、相手が自分を討ち取りに来るタイミングか、それとも・・・。

 

「(ま、なんにせよ、さっさと討ち取らせてもらうとするか!!)」

 

しかし、その奥の手を切らせない様に、一気にカタを着ける。

 

故に、彼は白式参型のスラスターを解放し、一気に相手に向かって突っ込んで行く。

 

同時に、細やかな姿勢制御で被弾を極力抑えている様で、相手が張る弾幕にさえ怖気を見せる事無く、ただ真っ直ぐ駆けた。

 

「は、速すぎる・・・!?」

 

風か何かかと錯覚するほどの速さに、少女は悲鳴にも似た叫びをあげる。

 

突進を何とか避けても、今度は違う方向からの攻撃に晒される。

完全に網に掛けられた魚の様に、逃げ場を失いつつあった。

 

「これで決めるッ!!」

 

両腕に保持したガンブレードⅡの刀身にエネルギーを纏わせ、威力を高める。

 

父の白式、母のプルトーネから受け継いだ力を今こそ示す。

 

「墜ちろ!!」

 

零落白夜とまでは行かないが、それでも高密度に集中されたビームの刃が敵の懐に叩き込まれようとしていた。

 

その時・・・。

 

「ッ・・・!!」

 

敵である少女の表情が、わずかながらも歪められた事に気付いた。

 

そこに嫌な気を感じた一輝は、強引に刃を止め、無理やり機体を反転させた。

 

その直後、彼の居た空間を、幾重もの銃弾とレーザーが薙いだ。

 

「ちっ・・・!」

 

自身の嫌な予感が当たった事に、一輝は舌打ちしながらも距離を取る。

 

それを見ていた観客たちは、一体何が起きているのか理解出来ない様で、皆一様に困惑を浮かべるばかりだった。

 

「どーも嫌な感じはしてたけど、やっぱりそういう事かよ・・・。」

 

相手が何をしたか理解したのだろう、彼は鼻で笑う様な素振りを見せた。

 

何処までも姑息な真似を。

そう思っているのだろう。

 

「ちっ・・・!不意打ちを避けるなんてね・・・!流石代表候補生ってわけ?」

 

少女が舌打ちすると同時に、彼女の両隣に一機ずつ、そして、一輝の白式参型を囲う様にして二機、合計して4機のISが現れた。

 

皆、学園に配備されている第四世代機、リヴァイヴ・ジャッジメントやウェアウルフといった機体に乗っており、一様に下卑た笑みを浮かべていた。

 

力で勝てなくとも、数で、リンチの様に男を虐げる事が出来るならばそれでよし。

 

彼女達の歪んだ思惑が透けて見える様だった。

 

「サシでやれないと解ってて仕込んでやがったか・・・、どこまでも見っとも無ぇ奴等だ・・・。」

 

「ふん!代表候補生相手に勝てるなんて最初から思ってないわ!だったら勝てるように数を揃えるまでよ!!」

 

憐みや呆れを含んだ一輝の言葉に、女達はせせら笑う様に答えた。

 

如何に代表候補生とは言えど、流石に5人を一度に相手にするのは困難だろうと踏んでいるのだろう、その表情には、一輝を嬲れる事を楽しむ様な色さえ見て取れた。

 

「チッ・・・、とはいえ、流石にこれはヤバいかな・・・?」

 

負けを予想しないではないが、流石に多対一の訓練でもここまで大がかりな事は経験した事の無い彼は、どうした物かと毒づいた。

 

粘る事は出来ても、勝利する事はそれなりに厳しくなってしまった。

一撃必殺が無い彼の機体では、活路を見出す事さえ難しくなりつつあったのだ。

 

「やるわよ皆!!あの男を痛めつけるのよ!!」

 

リーダー格の少女の言葉と共に、総勢6機のISが一輝に向けて銃口を構えた。

 

ガトリングやレーザーライフル、更にはバズーカなども見て取れる事から、相当に殺意や害意は高いだろう。

 

「チッ!!」

 

舌打ちしつつ、彼は射線から逃れるべく機体を動かす。

 

機体の機動性だけでなく、彼自身の身体能力も駆使したマニューバで撃ち掛けられる銃弾を回避し、何とか勝利の糸口を探る。

 

だが、360°すべての角度から撃ち掛けられる弾丸を避けるのが精一杯で、とてもではないが攻撃など出来た状況では無かった。

 

このままではジリ貧となり、いずれは撃墜されるのが目に見えていた。

 

「さぁ!これでチェックメイトよ!!」

 

リーダー格の少女が構えた大口径レーザーライフルが、逃げ舞わる白式参型に定められる。

 

直撃すれば大ダメージを免れないそれを、彼女達は一輝が逃げられぬ様に詰めていっていたのだ。

 

多対一とは言え、実力者を相手にするならば効果的なそれは、一輝に逃げ場をなくしていた。

 

「ッ・・・!!

 

逃れ得ぬ光条が撃ち掛けられ、白い機体を呑み込むかと思われた刹那、それは瞬いた。

 

「なっ・・・!?」

 

予想だにしない事が起こったのだろうか、リーダー格の少女は驚愕の声をあげた。

 

「まったく・・・、俺もまだまだダメだなぁ・・・、結局、助けられちまうんだよなぁ・・・。」

 

目の前に展開する、光の防壁の様なものに遮られ、白式参型を墜とそうと迫ったレーザーは霧散していた。

 

それをみた一輝は、自身の甘さを痛感し、何処か自嘲気味に、それでも頼もしげに呟いた。

 

自分は何時だって彼女に助けて貰ってばっかりだ。

少し情けなく感じる事も無いではないが、それよりも何よりも、頼もしさと安心を覚える自分がいる事を自覚するのだった。

 

「まったく・・・、幾ら強者に挑むにしても、果たし合いを望んでおきながら不意打ちするしか出来ませんか・・・。」

 

「あ、アンタは・・・!!」

 

呆れる様な声に、リーダー格の少女は愕然と声の主を見やる。

 

その視線の先には、沈みゆく夕日を背に佇む、青きISを纏う、風に靡くミドルブロンドの少女の姿があった。

 

一輝を護る様に展開された光の障壁が解除され、それを発していた3基のビットが、まるで主の下へ駆け寄る猟犬の様に戻って行く。

 

「お怪我は有りませんか、一輝さん?」

 

「お蔭さんで傷一つないさ、助かったよリザ。」

 

「どういたしまして♪」

 

一輝の隣に並び立つように、その少女、リザ・オルコットはにこりと微笑み、一輝の礼に対して優雅にお辞儀していた。

 

茶会に参加する令嬢の様な優雅さを持ちながらも、戦場に降り立つ戦乙女の様な風格さえ漂っていた。

 

「あのような卑怯者に、一輝さんを穢させる訳にはいきません、私も共に参りますわ。」

 

「委細承知、一曲付き合ってくれよ。」

 

「お受けいたしますわ。」

 

差し出された一輝の手を取り、空いた左手に大型ライフルを呼び出す。

 

それは、嘗て彼女の母、セシリア・オルコットが愛用した装備、スターライトMk-Ⅱに良く似通ったライフルだった。

 

そう、彼女もまた、母親の名声を、その重荷を背負っているのだ。

 

だが、それが如何したと言うのだ。

今は家の名、母の面目などどうでも良い。

 

大切な幼馴染を侮辱し、あまつさえ卑劣極まりない手段を用いた女達を許す事は出来ない。

たった一つの感情が、彼女を突き動かしていた。

 

「覚悟なさい不埒者、その邪心ごと、この私が撃ち抜いてみせましょう。」

 

舞う様に、踊る様に機体を翻し、白式参型と背中合わせとなった。

互いを護る様に、互いを慈しむ様に。

 

「リザ・オルコット、ブルー・ティアーズ・サードの舞台へようこそ、私達の織り成すワルツに、着いて来れますか?」

 

挑発するように、リザは銃口を向けた。

 

その射線から逃れようと、今回の敵である少女たちは己が機体を動かして乱れ飛ぶ。

 

だが、それが如何した。

自分ならばそれを撃ち抜く事など容易い。

 

それに、喩え外したとしても、こちらには誰よりも信頼できる男がいて、敵を斬ってくれる。

 

愛情にも似た絶対的な信頼で、彼女は戦うと決めた。

 

幼馴染が受けた屈辱を雪ぐ為に。

自身の誇りの為にも・・・。

 

sideout

 




次回予告

女尊男卑の思想を持つ少女たちに、一輝とリザは己が志を持って答える。
それが、喩え思想など形振り構わぬ物であったとしても。

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

何時かの言葉

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何時かの言葉

noside

 

「なによ・・・!何よこれ・・・!?」

 

試合の最中、チャレンジャーである集団の内の一人は、今の状況を受け入れられないか、愕然と呻く事しか出来なかった。

 

何故こうなった?こんなはずでは無かった。

そんな戸惑いが、その言葉と表情からは如実に表れていた。

 

無理も無い。

現状を見れば、それは事実、彼女達にとっての悪夢としか思えなかった。

 

その状況は、イギリス代表候補生、リザ・オルコットの駆るブルー・ティアーズ・サードが乱入した事から始まったのだ。

 

ブルー・ティアーズ・サード。

 

イギリス製第7世代ISにして、かつてイギリス代表候補生としてIS大戦に参加したセシリア・オルコットの愛機、ブルー・ティアーズの正統後継機である。

 

最早基本兵装として普及した展開装甲の改修発展型を実験的に装備しており、その戦闘能力を測る目的で開発されている。

 

つまり、リザは母親の名を継ぐ事を求められたと同時に、テストパイロットとしての役割を与えられていたも同然だった。

 

だが、それがどうしたことだと、リザ本人は感じていた。

 

母の名が何であれ、データ取りが何であれ、自分が今やるべき事は只一つ。

 

大切な幼馴染みの父親を、自分にとってももう一人の父と呼ぶべき者を侮辱した者達に目にもの見せる。

 

ただそれだけだった。

 

「行きなさい、ティアーズッ!!」

 

青の機体から飛び立つ10を超える独立稼働砲台、ブルー・ティアーズ・サードが乱舞するかの如く飛び回り、彼女の敵である少女たちに襲い掛かる。

 

機体の名を冠するその砲台は、一基ごとに意志を持つかのごとく、回避行動を取る少女たちの行く手を阻む様に立ちはだかり、BTレーザーによる射撃を開始する。

 

「きゃぁぁぁっ・・・!!」

 

「こ、このっ・・・!」

 

少女たちは何とか回避しようと機体を動かすが、リザの操る雫は、その上を行っていた。

 

無数に乱舞する砲塔が少女たちの周囲を取り囲み、レーザーを雨霰と撃ち掛けた。

 

「ティアーズ・・・!で、でも対処法なら・・・!!」

 

だが、所詮ティアーズ、ビット系の兵装はそれこそ20年前からある装備、対処法など確立されて久しいモノだった。

 

腐ってもIS学園で学んで来た彼女達だ、その教本通り、360度すべてに気を配り、機体を捻り、或いは手持ちの盾で防御しながらもレーザーを回避していく。

 

だがそれは所詮、ビットを装備した機体と1対1で戦う時を想定した物であり、それ以外の者がいないという想定で組み立てられている物だった。

 

「俺を忘れて貰っちゃ困りますぜ、センパイ?」

 

少女たちのISを貫く事無く突き進んでいたBTレーザーの先に、エネルギーを纏ったガンブレードを保持する白式参型の姿があった。

 

「踊るぜ、ついて来いよッ!!」

 

徐に、彼はガンブレードを一閃、BTレーザーを弾き返し、その軌道を偏向、敵である少女たちに向かわせた。

 

一発弾き返せば機体を次にレーザーが飛んできそうな場所に動かし、レーザーを弾いて少女たちに反撃の隙を与えない。

 

「ちょ・・・!?ちょっと・・・!?」

 

想定外の事態に、少女たちは慌てふためきながらも回避に徹する。

 

まさか、レーザーを弾き返して攻撃すると言う戦法に出るなど考えもしていなかったに違いない。

 

教本には、零落白夜の能力によってレーザーがかき消されたという事例が載っている事は載っていた。

 

だが、どういう原理なのか、一輝はレーザーを打ち返すやり方を見せた。

それが、彼女達の動揺を誘い、回避さえままならなくさせていた。

 

自然と、だが狙って密集するように、少女たちは追い込まれていた。

 

「こ、このっ・・・!調子に乗ってぇ・・・!!」

 

「あら?もうお疲れですか?フィナーレには、まだまだ時間がありましてよ!!」

 

反撃を試みる敵ISに、リザは容赦なく手に持つスターライトMk-ⅴで同時に狙撃を行う。

 

それは的確に、少女が持つガトリングを射抜く。

 

「くぅぅ・・・!?」

 

「きゃぁぁっ・・・!?」

 

密集していたが故に、ガトリングの爆風に巻き込まれたか、一人の少女が体勢を崩す。

 

そこに幾重ものBTレーザーが襲い掛かり、一気に機体のエネルギーを奪い取る。

 

そこで、その少女の機体、ウェア・ウルフのエネルギーが切れて地に墜ちていく。

 

「アカネ・・・!?」

 

「余所見は禁物だぞっと!!」

 

味方がやられた事に気を取られ過ぎたか、少女たちは一輝の接近を許してしまう。

 

フレンドファイアを恐れず、幼馴染の射撃能力を信じ、彼は瞬間加速≪イグニッション・ブースト』を用いて彼女達の死角に入り込んでいたのだ。

 

「し、しまっ・・・!?」

 

「遅いッ!!」

 

エネルギーを籠めた刃が、反応しきれなかった二人の少女の機体を切り裂き、絶対防御を発動させてエネルギーを一気に奪い去った。

 

暮桜、白式、そして白式弐型にあった零落白夜の様な単一仕様≪ワンオフアビリティ≫ではないが、それでも技術革新によって、それに近い高火力を実現できるようになった。

 

その威力をまともに受ければ、第四世代ISでは到底防ぎきれるものでは無かった。

エネルギーは一気にそこを尽き、二機は地に墜ちていった。

 

「こ、このぉぉぉ・・・!!」

 

味方がやられた事、そして追い込まれた事を悟りながらも、少女は牽制の様にガトリング砲やミサイルをばら撒き、一輝の接近を妨げようとしていた。

 

「追い込んだぞ!」

 

「チェックメイト、ですわね。」

 

もう勝敗は決しかけている、今の内に降参しておくつもりはないか、そう勧告している様にも見えた。

 

身内を侮辱されたからには、只敗北するよりも惨めな負けを、自身から戦いを放棄させると言うやり方で終わらせる、そう考えたのだろうか。

 

「ば、バカにしてぇッ・・・!こうなったらっ・・・!!」

 

それに気付いたか、それともただの自棄か、少女は激昂し、残った最後の一人と共に突っ込んで行く。

 

「ちっ!」

 

「いい加減にッ・・・!」

 

往生際の悪さに舌打ちしつつ、リザは己の火器を構える。

 

突っ込んでくるだけならば、最早ただ早く動く的でしかない。

そんな事など、候補生としての訓練を積む中で、散々アグレッサーを相手にやったモノだ。

 

勝利は目前、彼女はその指を引き金に掛け、引き絞る。

 

だが・・・。

 

「ッ!!」

 

「え・・・?」

 

「なっ・・・!?」

 

リーダー格の少女が、仲間であるはずの機体を掴み、リザの射線上に投げた。

 

自分が何をされたのか分からぬまま、放たれたレーザーと弾丸が直撃、一気に機体のエネルギーを奪い去って行った。

 

それはまさに、味方を盾に使うやり方そのものだった。

勝つためなら、自分が正しいと証明する為なら誰でも犠牲にする。

 

それが、その少女の持つ意地であり、性根でもあった。

 

だが、どれだけ汚くとも陽動作戦にはなる。

その証拠に、リザは虚を突かれたかの如く硬直し、次の行動に移せずにいた。

 

「これで・・・!!」

 

「っ・・・!?」

 

突然の事に硬直していたリザの前に、ボウガンの様なものを構えた少女の機体がその姿を見せる。

 

それは、ウェア・ウルフが装備している展開装甲を、遠距離砲撃用のボウガンへと変形させたのだ。

 

無論、第四世代の時代の武器とは言え、その威力は燃費を度外視した物である。

故に、至近距離でまともに喰らえば、如何に開いた世代差を物ともせず、撃沈せしめる威力があったのだ。

 

勝てはしないまでも、せめて一人でも落としておかねば面目が立たない。

一矢報いて吠え面かかせてやると。

 

「これでっ・・・!!」

 

狙いを定める必要など無い。

後は引き金を引くだけだ。

 

討つ。

その意思を籠め、少女は引き金を引いた。

 

だが・・・。

 

「お生憎、姫には騎士が付き物ってね。」

 

これは一対多のバトルでは無いのだ。

 

「なっ・・・!?」

 

少女が知覚するより早く、白い影が視界に映り込む。

 

それは、回避行動を取っていた一輝が、一瞬でリザの下まで駆けつけ、間に割り込んだ証左でもあった。

 

それを一瞬で為せたのは、一重に白式参型に隠された機能の一つだが、今はそれを解説する暇はなかった。

 

「今度こそ、チェックメイトだ!!」

 

「なにをぉぉ・・・!!」

 

煌めく刃が、ボウガンの砲口から光が放たれるより早く、ボウガンごとウェア・ウルフを切り裂いた。

 

そこから更に、正しく電光石火が如く連撃を叩き込み、一気にエネルギーを奪い去った。

 

「なんでよ・・・!なんでぇぇぇ・・・!!」

 

断末魔の様な悲鳴を上げ、少女と機体は地に墜ちた。

これで、最初からアリーナに居た2人の内の一人は敗北し、残った一人の勝利を決めたのだった。

 

『試合終了!勝者、織斑・D・一輝!!』

 

アリーナ全体に、勝利を告げるアナウンスが響き渡る。

 

それと同時に、観客席からは盛大な歓声と拍手が巻き起こった。

一輝達を祝福しているのか、それとも女尊男卑思想を持つ少女たちを下した事に溜飲を下げたか。

 

それとも、一輝達に狙いを定めたが故の何かか・・・。

 

様々な思惑を抱えたままに、野良試合は終わりを告げたのだった・・・。

 

sideout

 

side一輝

 

「ありがとなリザ、お陰で助かったよ。」

 

試合が終わった後、俺は一緒に戦った幼馴染、リザに礼をいう。

 

お互いピットに戻り、機体を待機形態に戻して集まっていた。

 

彼女の乱入と助太刀が無かったら、今頃俺は敗北して地に墜ちていただろう。

いっつも、この可憐で強い少女に助けられっぱなしで、何とも情けない様な誇らしい様な心地になる。

 

「いえいえ、最後は結局は私が助けて頂きましたもの、貸し借りは無しと言う事で如何です?」

 

少しだけ、しょげた様な表情を見せて終わらせようとしていた。

 

全く、変な所で頑固なんだよなぁ。

俺も人の事は言えんか・・・?

 

とは言え、女の子にこんな顔させてちゃ男が廃るってなもんだ。

 

そういうコトは親父に結構仕込まれて来たからなぁ。

古風とは思わなくも無かったけど、見て見ぬフリってのも気に喰わないってな。

 

「あー・・・、リザを護るのは俺の役目だって昔言ったろ?なら上等だっただろ?」

 

もう十年近く前、まだお互いが男女の区別なく、ただの幼馴染として言ったあのセリフ。

 

カッコ付けだと兄貴からもからかわれたけど、俺は如何してかそれを曲げる事は無かった。

 

だから、リザは俺が護るし、泣かせたり困らせたりしたくないっていう気持ちだけは、紛れもない本心だ。

 

「ふふっ・・・♪相変わらず、優しいのですね、一輝さんは・・・♪そう言う事でしたら、ありがたく頂戴いたしますわ。」

 

俺のちょっとした意地を汲んでくれたか、彼女は何処かおかしそうに笑ってそれを受け入れてくれた。

 

そうそう、やっぱりリザには笑顔が似合う。

だから、これで良いんだ。

 

「あーはいはい、惚気は2人っきりでやってくれない?胸やけしそうだわさ。」

 

「うぉ・・・、居たのかよルキア・・・。」

 

すっかり忘れてたけど、そういやセコンド的な立場で来てたなぁ・・・。

 

その表情には何処か呆れが見て取れて、一体何を思っているのか分からなかった。

 

まぁしかし、もう良い時間だ。

そろそろ引き上げて晩御飯としようじゃないか。

 

「ほら、キリキリ動く!置いて行くわよ!」

 

そう言って、ルキアはさっさとピットから出ていってしまう。

全くせっかちな姉さんだこって。

 

だがまぁ、兄貴やエド達も待ってくれてる事だろうし、そろそろ行くとしよう。

 

「リザ。」

 

と言うわけで、俺はリザに手を差し出す。

 

なんの事はない。

ガキの頃からやってる、幼馴染みへのエスコートってヤツだ。

 

「はいっ♪」

 

何時もと変わらない、俺の大好きな笑顔を浮かべて、彼女は俺の手を取り、そのまま自然に腕を絡めてくる。

 

あぁこれだよこれ。

やっぱ落ち着くなぁ。

 

これが俺達の距離。

誰にも邪魔されない距離が、何より心地よいものだ。

 

ま、とりあえず、今は他の幼馴染み達との時間を優先しようじゃないか。

 

誰にも邪魔されない、俺達の時間を。

 

そう思いつつ、俺達は連れ立って歩き出した。

 

sideout




次回予告

人には夢がある。
見える夢かまだ見えぬ夢か。
彼等の目には、何が映るのか

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

見上げる星

お楽しみに


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