どうも、初めましての人は初めまして、猫の休日です。
文章力はないし、基本的に自己満足ですが、それでもよければ、どぞ。
食物連鎖の頂点とされる人を…"食糧"として狩る者たちが存在する…。人間の死肉を漁る化け物として、彼らはこう呼ばれる。
ーー「喰種」と。
◇
「逃げろ! 白鳩が来た!」
真っ暗闇の地下を、何人もの人間が走る。彼らはみんなまだ子供で、年齢もせいぜい10歳前後。しかしその脚力は、"人間の"子どもとはとても言えないものがあった。
100メートルを約8秒程で走れる子どもが、果たしているだろうか?
答えは否。いや、世界は広い。もしかしたらこの地球上のどこかにはいるかも知れない。しかし、それは限りなく0に近い数字だ。
ーーそう、人間なら。
バチチと、電気の槍が1人の少年の片腕を吹き飛ばす。
「ギャアアアアア!」
「イクトー!」
「走れ走れ! 立ち止まるな! 兄貴がきっと来てくれる!」
「立てイクト! 逃げるぞ!」
イクトと呼ばれた少年は、片腕を吹き飛ばされた衝撃で転び、まだ立ち上がることができない。
「っ! イクト!」
うつ伏せで倒れているイクトに、影が射す。
闇の中にいるにも関わらずしっかりと見て取れるその影は、正しく死神そのものにも見えた。
イクトが震えながら視線を後ろに向けると、そこには眼鏡をかけた白髪の男がいた。
CCGーー喰種捜査官の死神と恐れられる男が、そこにいた。
彼は何の感情も映さない冷たい目で、イクトを眺める。
「……あっ。……や、やだ、死にたくない。し、死にたくない! 死にたくないよぉ!」
イクトは涙を流しながら、這って移動する。兎に角1ミリでもこの男から離れたかった。
ーーが。
ザクッ。
「えあ?」
足に違和感。見ると両足とも、ない。
「ひぎゃあああああああ!」
両足が切り落とされた。
助けを求めるように仲間へと視線を向けると、そこには2人しかおらず、他のみんなはイクトのことを諦めて先に逃げたしていた。
その二人も、足を失ったのを見て1人は踵を返して駆け出し、もう1人は赫子ーー羽赫をだし、突っ込む。
「ガアアアアアアアア!」
羽赫であることを利用した、瞬発力に任せた一般人には驚異的なスピードで突っ込みーー
ドス。
腹部を、貫かれた。
まだ使いこなせていない赫子での突進など、死神にとっては何ともない。
「グッ、ガフッ……。は、離:…せ」
男はその言葉に従うように、手に持つ武器ーークインケを引き抜く。
引き抜かれた少年は、イクトの上に落ちる。
「……トウ、マ」
「ゲホゴホ……。立てイクト、逃げるぞ」
トウマと呼ばれた子どもが、イクトの手をつかみ引っ張る。ズリズリと引っ張る。
「も、もう無理だ……。頼む、お前だけでも逃げてくれ」
「何言ってんだ、お前をおいて逃げれるかよ……。それにいつも兄貴が言ってただろ。どんなときでも、生きることを諦めるなーー」
首が、飛んだ。
「トウマァアアアアアアア!」
首を失ったトウマの体は、まるで糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。
地に付したトウマの体を、片腕で抱き締める。
その様子を、まるで露呈の石ころでも眺めるように見下ろしていた死神は、そのクインケを振り下ろし、その首をーー
ーー跳ねることが、出来なかった。
クインケを振り下ろそうとした、まさにその時。
CCGの死神は足裏に確かな振動を感じ、すぐさまバックステップで距離をとった。
その次の瞬間、それは起こった。
先程まで死神が立っていた場所から、まるで狐の尻尾のような形をした巨大な赫子が、地面を突き破り生えてきたのだ。
それは続けざまに起こり、計5回、死神の足元から攻撃を繰り出し、死神はその全てをステップを踏んで回避する。
5回も巨体な赫子で穴を開けられた床は、遂にその場を支えることが出来なくなり、崩壊する。その結果、死神とイクトとの間に、約20メートル程の大穴が空いた。
何が起こったか理解が追い付かないイクト。
今まで見たことのない赫子の大きさに、少し眉をしかめる死神。死神が覗き込む大穴の先は今いる場所よりも暗く先が見通せない。
不意に、その大穴から1人の少年が出てきた。少年は頬から口元にかけて伸びる赤い線が入った狐の面をしており、先ほど地面から生えた巨体な赫子を、うねうねとうならせている。
「兄貴!」
「イクトか……。すまん、遅くなった」
大穴から出てきた少年は、イクトと、その腕に抱かれるトウマを見て、そう口にする。
「イクト……コレを喰え」
「…これは?」
「俺の赫包だ」
「……そんな! 食べられないよ!」
「良いから喰え、結構大きいが、その大きさで俺の赫包の1割程の大きさしかないし、俺の赫包は時間がかかるが再生する。……良いから早く喰え。そのままだと死ぬぞ。トウマの死を無駄にするな」
そこまで言われたら、イクトも覚悟を決めて、赫包を食べる。するとどうしたことか、吹き飛ばされ、切断された于でと足が、驚異的な再生力をもって治り始めた。
その様子に、かの死神も目を見開いた。
「治り次第トウマを抱えてここから離れろ。避難先はβだ。分かるな?」
「あ、ああ。でも兄貴は! 兄貴はどうするんだ!」
「どうするって、お前と一緒に逃げるさ。人間にこの大穴を飛び越えてこっちに来る手段はない。けど……」
バチチと、電撃が走る。
それはイクトの腕を吹き飛ばした電撃の槍だった。
その槍を、狐の面をした少年は赫子でなんなく受け止める。
「こうして飛び道具で攻撃される。だから早く行くぞ」
そう言いながら、少年は巨体な赫子を"9つに分けた"。地面から生えた巨大な赫子は、この9本の狐の尻尾のような尾赫を束ねたものだった。
「【狐火】の"九尾"……か」
死神が呟く。
少年は死神が追撃してこないのを見てとると、赫子でまだ足が再生していないイクトとトウマの死体を抱えると、赫子を天井に刺し、収縮させてブランコのように距離を稼いだり、離れた壁に赫子を刺して一気に収縮して距離を稼ぎ、あっという間に暗闇の中へと消えていった。
ーーそれが、後に【喰種の王】と呼ばれる喰種と、CCGの死神、有馬貴将との初めての邂逅であった。
ありがとうございました!
一応ニセコイのSSも書いてます。
よろしければそちらもどぞ。
ではでは。
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第1話 あんていく
あと、タグにはないですが「転生」的な感じにしようかと思います。
と言っても、未来予知的な感じでこれからどうなっていくのか断片的に見える……みたいな感じにするだけなので、あまり気になさらないでください。
ジリリリリと、朝の目覚ましが鳴る。
痛む頭を押さえつつ、目覚ましを止める。時計は15時30分を指していた。……全然朝じゃない。
「あ〜……体だりぃ」
呟きながら、のそのそとベッドから出る。
24区から、ここ東京20区にあるアパートの一室に帰ってきたのは今日の昼過ぎだから……3時間しか寝てない。マジつらたん。
ふらふらとした足取りで洗面所までいき、顔を洗う。冷たい水が気持ちいい。
頭が痛い。昨日、24区の地下でCCGの死神に会っていこう、頭痛が続く。寝たら治ると思ってたけど、甘い考えだったらしい。
濡れた手を額に当てる。気持ちいい。少し頭痛が収まった気がした。ひょっとしてこの頭痛は死神の呪い? …そんなわけないか。
冷蔵庫を開ける。中には24区に潜る前、だから……何日前だ? まぁ数日前に偶然裏路地で狩った、性犯罪者二人組(女の子を押さえつけてるときに殺したので一応未遂。女の子は脅して口止めしておいた)の人肉を取り出し、コーヒーを入れる。もちろんブラックで。
朝食というなの昼食……3時のおやつ? を済ませると、出かける準備をする。数日間24区に潜り付けだったので、店に行くこと事態が久し振りだ。……仕事でミスしないかが怖い。
シフト表を確認する。
「今日は……俺と店長、それに古間さんか……」
ミスしたらからかわれそうだなぁ……古間さんに。
「…ん? 待てよ………」
確か俺が休んでた期間って、テスト期間だったような……。っていうか、今日もテストだったんじゃね? 古文と……なんだっけ?
確か、店長が家の用事で休みって連絡してくれることになってて、次の週から放課後1教科ずつテストして、残ったら土曜日にするんだっけ……。
「うっげぇ、マジで〜……」
思い出さなければ良かった。
トーカ、テストの内容教えてくれたりしないかなぁ……。
うん、しないな。あいつはしない。めんどくさいとか何とか言って、絶対しない。
はぁ、とため息を吐きつつ、時計を見る。
時刻は16時。起きたときからそうだが、普通に遅刻である。
準備をして、ドアを開ける。
地下に潜り続けたせいか、太陽の光が眩しい。眉間の辺りが痛む。どうやら喰種から吸血鬼に進化してしまったようだ。
………どっちも似たようなものか。
そんなどうでもいいことを考えながら、今アルバイトで働いている店、あんていくへ向けて、歩を進めた。
カランカラーンと、ドアを開けると共に来店を知らせるベルがなる。
「いらっしゃいま………って何だ、風音くんか。遅刻だよ」
「お久しぶりです古間さん。いや、本当にすみません、24区から帰ってこれたのが今日の昼過ぎで、さっきまで寝てました」
「ああ、そうなのかい? それはお疲れ様。【狐火】の皆は大丈夫だったかい?」
「いえ、1人だけ、白鳩にやられました」
「そうか……」
「はい。……ところで店長は?」
「ああ、店長なら今、下でリョーコさんと話してるよ」
「あれ、リョーコさん来てるんですか? ヒナミも?」
「うん、来てるよ。今お客さん少ないから、着替えてから顔を見せてきなよ」
「分かりました」
「ああ、そうそう」
着替えにいこうとした背を向けたところに、声をかけられる。
「……どうしたんです?」
「今カネキくんもいるから」
「……誰ですか?」
「新しく入ったこだよ。仲良くしてやれよ〜」
「……はぁ」
かねき……カネキ………金木? あれ? どっかで聞いたことがあるような?
ズキリと頭が痛む。いや本当に何なのこの頭痛。少しずつ強くなってるんですけど。
「……大丈夫かい?」
「大丈夫です。たぶんただの寝不足なので心配しないでください」
「本当に? 無理したらダメだよ」
「大丈夫ですよ。でもありがとうございます」
それでは、と言い残して「あんていく」の制服に着替えに向かう。
ささっと着替えて、2回に向かう。
久しぶりにヒナミに会うな。昨日まで24区にいたから、ヒナミの笑顔で癒されたい。
ヒナミは天使。異論は認めない。
2階に上がり、お客様用の部屋のへと向かうと、中から声が聞こえてきた。
3回ノック。
「どうぞ」
店長から許しが出たので、「失礼します」と言いながら部屋に入る。
「おや、風音くんじゃないか。久しぶりだね」
「はい。お久しぶりです、店長。……リョーコさんもお久しぶり「風音さん!」……おっと」
言い切る前にヒナミが胸の中に飛び込んできた。
「風音さん! お久しぶりです!」
そう言ってにっこりとかわいい笑顔を浮かべる天使。あ、いや違った。女神。
あ〜……荒んだ心が浄化される。ぎゅ〜っと抱きついてくるところなんてもう、可愛すぎて。
勿論、表情に出すようなへまはしませんとも。ええ。キリッとした凛々しいお兄さんでありたいのです。
なので、余裕を持って(持ったフリ)をして、ヒナミの頭に優しく手を置き、撫でる。
なでりこなでりこ。
「えへへ……」
ちょっと、そんな嬉しそうな笑顔を浮かべて上目使いをしたいでください死んでしまいます。
そして額を胸に押し当ててグリグリしないでください。惚れてしまいます。
ちょっとリョーコさんが、「あらあらまあまあ」とか言って微笑ましそうに眺めてるし、店長も優しい目で見てくる。
やめて! そんな目で見ないで恥ずかしいから!
……と、見渡していたら知らないやつと目があった。左目に眼帯をつけた、なよっとした、頼りなさげな男性。
年は……上? この人が古間さんが言ってたカネキ…くん? さん? ……うん、さんでいこう。カネキさんなのかな?
軽く会釈だけしたら、戸惑いながらも返してくれた。良い人だ。
「……風音さん?」
真下からヒナミの声。その声は、少し震えている。
「? どうしたの?」
「……血と、"死"の臭いがする」
ヒナミの一言で、和んでいた空気が一気に緊張で張り詰めた。
「……風音くん。白鳩を………」
「いえ、違いますよ。これは仲間のです」
薄目を開けて少し威圧しながら聞いてきた店長に、苦笑と共にそう返すと、ヒナミの頭を再度撫でる。
「ごめんねヒナミちゃん。一応帰ってからお風呂入ったんだけど、臭いはとれなかったみたいだ。ごめんね、不安にさせて」
「ううん。大丈夫だよ」
微笑みを浮かべ、でも心配を隠しきれないその表情が可愛くてたまりません。なでりこなでりこ〜。
「……君をもってしても守れないとは……相手は誰だったんだい?」
店長が聞いてきた。一応、ここで話して良いのかを聞くために、リョーコさん、そしてカネキさん(?)を見てから、店長に視線を戻す。
店長は無言で頷いた。
ヒナミの耳を塞ぐ。
といっても、ヒナミは俺と同じで五感が鋭いから聞こえてると思うけど、こうすることでヒナミに「聞かない方がいい」ということを伝える。
「……死神です」
店長の表情が険しくなり、リョーコさんは少し顔色が悪くなる。カネキさんはよく分からないのか、不思議そうにしている。
「そうか」
「はい。なので店長。これからは"肉"は1人分少なくていいので」
「分かったよ。風音くん」
それだけ言うと、店長が空気を和ませるかのように、優しい口調でカネキさんに声をかけた。
「ありがとうね、カネキくん」
「いえ…僕も楽しかったです」
あ、やっぱり彼がカネキさんなのか。
……スンスン。変わった臭い。………どっちだ? いや、ここにいるから"同じ"なんだろうけど……。
「…一雨来そうですな。傘をお貸ししましょう」
「あら…ありがとうございます」
「風音さん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとね、ヒナミ」
もう一度頭を撫でると、ヒナミは嬉しそうに笑ったあと、リョーコさんの側へ行った。
「カネキさん。ありがとう…。また教えてください!」
そう言うと、リョーコさんと共に部屋から出ていった。
教えてって……何を?
おいカネキさんとやら、ヒナミに何を教えた? ああん? 何仲良くなってんだしばくぞコラァ。お前にはトーカがいるだろうがよ〜。
ーーズキン。
「……っ!」
「大丈夫かい?」
「……はい、ちょっと頭痛がしたもので」
………? 何で、今……トーカが出てきた? 何で今一瞬だけ鋭い痛みがはしった?
……何か、忘れてるのか?
「あ、あの……店長」
「ん? どうしたんだい、カネキくん」
「いえ、あの……この人は?」
「ああ。会うのは今日がはじめてか。風音くん」
「あ、はい。え〜と、カネキさん……ですよね? 俺は風音蓮です。トーカと同じ清巳高校に通ってます。よろしくお願いしますね」
「あ、ど、どうも。金木研です上井大学へ通ってます」
「お〜、上井大学ですか。賢いんですね!」
「い、いや。僕はそうでもないよ」
「そうなんですか〜………。で、どっちなんです?」
「え……?」
「カネキさんは、どっちなんですか? 変わった臭いしてますけど。まぁここにいる以上、同じだと思うんですけど、一応確認しておきたくて」
「僕は……元は普通の人間なんだ……。でも事情で"喰種"の身体が混ざっちゃって……。今は普通の食材はとれないし、存在は君たちに近いんだと思う」
「元……人間?」
思わず目が鋭くなる。
「うん……」
「事情ってのは……リゼが関わってる?」
「ど、どうしてそれを!?」
「リゼの臭いがするから」
「……えっ…と……………」
「この話は後にしよう」
カネキさんがどう言おうかといった感じで言い淀んだところで、店長が口を挟んだ。
「まだ店は空いているからね。続きは閉店してからだよ」
「は、はい」
「……分かりました」
……まぁ確かに、後でゆっくり聞けば言いか。
でも、一つだけ言っておきたいことが。
「カネキさん。一言だけいっておきたいんですが……」
「な、何かな……?」
「……もし、俺たちのことを誰かに話したりしたら、その時は殺しますので、覚えておいてください」
「えっ………」
固まったカネキさんの横を通りすぎる。
「それじゃ、先に下に行ってますね」
カネキさんにこんなことをいう必要はなかったとは思う。だって言えばカネキさん自身も危険だから。
でも"人間"ってのは、何をしでかすかわからない、本当に怖い生き物だから。
それに、俺はあいつら、【狐火】の皆を、守らないといけないから。何故か大丈夫と確信してるんだけど、言っておかないと、いざ、もしかしての時に、覚悟が持てないかもしれないから。
だからカネキさん。俺に、殺させないでくださいね?
ありがとうございました。
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第2話
そしてごめんなさい。またしばらく更新できないと思います。
というのも、私就活中でして……。
今回もちょっと息抜きに…という感じで執筆したので、次何時になるか分かりません。
何卒、御容赦を。
ニセコイの方も同様です。
それでは、第2話、どぞ。
「ありがとうございました~」
カランカランと音が鳴り、店内に残っていた最後のお客様が帰った。
「ちょっと早いですけど、今日もお疲れさまでした」
「本当に早いね、蓮君。金木君、店の立て看板を閉店にしてきてくれるかい?」
「分かりました、古間さん」
「あっ、店長! 食器下げるのは俺がやっておくので、店長は店長の仕事を」
「おや、ありがとう」
店長が店の奥に向かうのを見て、俺も机に残っているマグカップを回収する。
流しのところでは、古間さんがスポンジ片手に食器洗いの準備をしていてくれた。
「ほい」
「はい」
手を差し出してきた古間さんの手に、マグカップを乗せる。
「ん」
そのまま食器を洗い出す古間さん。
……………。
「………何か、今のやり取り熟年夫婦みたいでしたね」
「ブッフォ! な、何気持ちの悪いことを言ってるんだ!」
「いえ、何となく思ったんで」
「いや、だからと言ってわざわざ口に出さなくてもよくないかい!? ああほら! なんか金木君が変な目で見てきてるじゃないか!」
古間さんに言われ、入口のほうを見ると……なるほど、確かに訝し気な顔をしながら俺と古間さんを交互に見て、その口は今にも「お二人ってそういう関係なんですか?」とでも聞いてきそうだ。
……もし本当に聞いてきたら全力で殴ろうかな。
と、思っていたら金木さんは俺と目が合うと慌てたようにすぐに目を逸らした。
「………蓮君、金木君に何かしたのかい?」
「あー……いや、何と言いますか」
「ん?」
「……ちょっと脅しました」
「……脅したの?」
「はい。……もし俺たちのこと誰かに話したりしたら、その時は殺しますって」
てへっ☆
俺がそう言うと、古間さんはそれはそれは深い溜息を吐いた。
何かすいません。
「はぁ……確かに金木君は元人間みたいだけど、僕たちと同じになったんだからもし言ったら自分も危ないってわかってるでしょ?」
「いやー、それは分かってるんですけどね? ほら、人間って何しでかすか分からないじゃないですか。それに金木さんは訳アリみたいですし、悲劇のヒロインみたいに扱われたり、情報提供者とかで保護されるかもしれないじゃないですか」
「まぁそれはそうだけど」
「だから、念のための念押しがしておきたかったんですよね。それに、もしもの時俺が殺すのを躊躇わない為にも、ここは言っておきたかったんですよ」
そこまで言うと古間さんはしばし考え始め…、仕方ないというかのように小さなため息をついた。
「はぁ…確かに君の立場だとそうなるよね。でも、金木君明らかに蓮君にビビってるから、早めに関係修復しなよ? これから同じ店で働くことになるのに、いつまでも気まずいのは嫌だからね」
「分かってますよ。今日一緒に帰りながら話しするつもりですし」
「何か不安だなぁ。まぁいいや、蓮君は金木君手伝って来て」
「はーい」
古間さんとの会話を終え、テーブルを何やら一生懸命に拭いている金木さんのところへ行く。
「金木さん」
「……な、何かな?」
びくびくしながら反応する。
「いやいや、そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか」
「い、いやまぁそうなんだけどね」
ハハハ、と乾いた笑顔を浮かべる。
「まぁその、先ほどはちょっと強く言い過ぎました。すいません。でも、別に仲良くしたくない訳じゃありませんからね? 金木さん上井大でしたよね? 俺喰種だから、勉強できなくて授業について行くので精いっぱいなんですよ。良かったら今度教えてくださいよ」
「え? ……風音君学校行ってるの?」
「ええ。行ってますよ。喰種が学校に行ってるのは変ですか?」
「ああいや、ごめん違うんだ。そう言う意味じゃなくて、今日私服で来たから、てっきり学校は行ってないのかと」
「ああ大丈夫ですよ。今日私服なのはまぁ上でチラッと話していましたけど、理由がありまして。しっかり学校は行ってますよ。ああ、あと俺のことは蓮でいいですよ?」
「そう? じゃあ蓮君って呼ぶね。蓮君はどこの学校行ってるの?」
「清己高校です。トーカと一緒です。……あっ、トーカって分かります?」
「分かるよ」
「俺あいつと同じクラスなんですよ」
はぁ、と俺がため息をつくと、金木さんはアハハと苦笑を浮かべる。
「トーカちゃん怖いよね」
「分かります!」
「うわぁ!」
俺が突然大声を出したから、金木さんが吃驚して声を上がる。
「分かります分かります。やたら偉そうだしすぐ暴力振るうし、言葉使いは荒いし目つきも悪い。しかも俺に学校では話しかけるなとか言っておきながら、時偶に話しかけてくるし。理不尽というかなんというか。金木さんも気を付けてくださいね? っていうか、金木さん年上なんだからちょっとガツンとトーカに言ってやってくださいよ」
俺がそう言うと、金木さんは何かを思い出すようなしぐさをした後、
「いやぁ……僕には無理かなぁ」
ものすごく頼りなさげな声で、そう言った。
「『ニャーニャーうっさいんだよっ!』って言われたこともあるし、僕のマスクを作りに行ったとき、4時半に集合って言ってきたのに、来たの40分ぐらい遅れてきたからね、トーカちゃん」
怖いよね、と金木さんがそう締めくくる。
………。
「お疲れ様です」
「アハハ…」
「おーい、そっちはもう終わったのかい?」
「「あっ、もうすぐ終わりまーす」」
古間さんの声に、俺と金木さんは慌てて片づけを再開した。
◇
店を閉じた後、雨の中金木さんと二人で雑談をしながら歩いていた。
もう金木さんも俺のことを怖がらなくなって、今は高槻先生の小説の話で盛り上がっている。
「あ、そう言えば金木さん。今度漢字を教えて貰ってもいいですか?」
「漢字?」
「はい。簡単なものは分かるんですけど、あんまり目にすることの無いような漢字だと。途端に分からなくなるんですよね」
「フフフ……」
突然金木さんが笑い出した。
「えっ、何? どうしたんです?」
「ああごめん。ヒナミちゃんにも漢字を教えていたから、何かおかしくて」
「ヒナミちゃん? ……ああ、そう言えばまた教えてくださいってヒナミが言ってたのは……」
「漢字だよ。ヒナミちゃんも高槻先生の本を読んでいたから」
「あ、ヒナミに高槻先生の本を進めたの俺なんですよ」
「そうなんだ」
「はい」
と、そんな話をしていた時。
すれ違った二人の男に、思わず二人とも口を噤んだ。
「――いやー、俺”喰種”って初めて見たよ」
っ!!?
「見た目はまんま人間だったなー」
「バケモンになってからはヤバかったけど…」
「どうせならもっと見たかったよな」
……”喰種”を…見た…?
俺はすぐさま音と臭いに集中する。が、雨のせいで音もあまり拾えないし、臭いも分からない。
誰だ。誰が襲われてる!?
「……ヒナミ…ちゃん…」
金木さんが見つけたのは、ヒナミと名前が書かれたノートだった。
「金木さん! 携帯で電話して!」
「分かった! 風音君は?」
「俺は音と臭いを探す!」
ダッと走りながら嗅覚と聴覚を研ぎ澄ませる。後に金木さんが続く。
クソッ。頼むから違ってくれよ!
走っていると不意に、前の方から誰かが奔ってくる音が聞こえる。
靴と、そして息遣いから若い。そして女の子。泣きながら懸命に走っているのア伺える。次いで、ほんの少し前にかいだことのある臭いが……!
「ヒナミ!」
「風音さん!」
ヒナミちゃんは俺に飛び掛かるようにして抱き着く。
「ヒナミちゃん? よ…良かった…」
「ヒナミ。リョーコさ「おか…お母さんが…一人で…うう…ああ…っ」っ!!」
「金木さん!」
「はい!」
「ヒナミをお願い!」
「えっ。ちょ、まっ!」
ヒナミちゃんを金木さんに預け、足に力を籠める。
次の瞬間には地を強く蹴り、一気に加速する。今ヒナミが通ってきた道、ヒナミの匂いを追って行けば、まだ間に合うかもしれない。
奔りながら下げていたカバンから狐の面を取り出し、被る。
走るのに邪魔なかばんは、その場に捨て置く。遥か後ろの方を走る金木さんとヒナミが拾って来てくれるだろう。
雨のせいで少し臭いが薄くなってる。急がないと……っ!
「見つけた!」
リョーコさんの匂いを見つけた。…が、この匂いは。
「……ぁ……ああっ……あ…あなた…何を…っ」
声が聞こえた!
急いで近くの他のところより少し高い建物の上に跳躍する。
…いた。
リョーコさんと、クインケ持ちの白鳩2人にスーツの捜査官2人。
「ああ…嫌よ…そんなの…」
そして、あの死人みたいなやつが持っているクインケは……ッ!
「クク…クク…。いい…いいぞ…最高だ!! 悲嘆…絶望…憎悪…!! その表情だ!! もっとだ…もっと見せろ!!」
…あいつは、必ず殺す。
俺はその場を跳躍。
そして――
「そうだな。俺もあんたの顔が苦痛や絶望に歪むところが、見たくてたまらないよ…」
真上から赫子を展開し、鋭い突きを、白鳩に穿った。
ありがとうございました。
さてさて、次話はとうとう白鳩との戦闘です。
リョーコさんの運命やいかに!
……と、いいつつ次の更新いつか分からないという。
早いかもしれないし、むちゃくちゃ遅いかもしれない。
気長に待っていただけたらと思います。
――追記――
近々地道に書いていたゴッドイーターの小説、プロローグが書ききれそうなので、投稿するかもです。
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第3話 人間という名のグズ
ものすごく難産でした。
私はどうして赫子を9本にしたんだ……お陰でただでさえ難しい戦闘描写が驚くほど難しくなってしまったじゃないか。もう、ぼかして書いたよこんちくしょう!
俺が穿った赫子は、しかしすんでのところで躱された。
「新手か…。っち、グズめ。…まぁいい。すぐに片付ければいい話だ」
「………」
白いやつが持ってるあの赫子。形も、匂いも、何もかも、見間違いようがない。あのクインケは、ヒナミの父親だ。
奥歯をギリッと噛みしめる。
「リョーコさん、走れますか?」
「え、…ええ」
「なら、逃げてください。娘さんは無事ですので、ご安心を。取り敢えず、例の場所へ」
「で、でも」
「俺のことは心配しないでください。こいつら殺して、終わりです」
「ほう…。随分と簡単に言ってくれるなら。私が逃すとでも?」
白いやつがクインケを振るう。それは不規則な動きでうねり、リョーコさんに迫るが…何回もヒナミの父親と模擬戦をした俺からしてみれば、防ぐのは容易い。
赫子を一本動かして、クインケを弾く。
「……簡単だからな」
「………」
リョーコさんが走り出す。その姿を隠すように、赫子を広げ威嚇する。
「…ふむ。どうやら、少しは出来るグズのようだ。亜門君。君は私のサポートに徹したまえ」
「!? 真戸さん、俺もーー」
「このグズは、君には少し荷が重い」
「…真戸さんがそう言うのであれば」
「…待たせたかな」
「いや、別に待ってねぇよ」
もう、攻撃は始まってる。
◇side亜門
「いや、別に待ってねぇよ」
新しく乱入してきた喰種がそう言った瞬間、私の上司である真戸さんが右に飛んだ。そして次の瞬間、真戸さんが立っていた地面から赫子が生えてきた。
思わず息を飲む。この喰種、今まで戦ってきたどの喰種よりも、強い。俺なら、今の一撃で確実に死んでいただろう。
「……どうやら、あんたもそこいらの白鳩とは違うみたいだな。随分と戦い慣れてる。特等か?」
「グズに言うわけがないだろう? しかし、やはりグズだな。いきなり不意打ちとは。随分といい性格をしているようだ」
「…あんたには言われたくねぇよ」
そこからまた攻防が始まった。合計5本になった赫子の内、2本を主に使い、隙ができれば待機させていた一本で攻撃を繰り出す。残りの一本は常に自身の周りに展開し、防御を固め、残りの一本は俺の方に向いている。
俺が少しでも動くと、赫子がすぐに飛んでくる。
…隙がない。
「草場さん、中島さん。今すぐここから離れて応援を要請してください」
「わ、分かりました」
聞こえたのだろう。すぐさま阻止するように赫子が攻撃してきた。クインケで、なんとか受け止めるが…重い!
勢いを止められず、宙に弾かれる。
「ぐっ…」
「亜門さん!」
「早く行ってください!」
くそっ、ただ振るわれた尾嚇が重すぎる! 一本でも厄介なのに、それを3本も……っ!
「真戸さん!」
真戸さんが、吹き飛ばされた。
◇
あの亜門とかいう奴を弾き飛ばした時、目の前のハトに一瞬隙ができた。
俺はそれに躊躇することなく尻尾を薙ぎ払う。咄嗟にクインケを盾にされたが、その程度でどうこうなるほど、俺の嚇子は優しくない。白鳩を吹き飛ばした。
白鳩は壁に叩きつけられ、ずり落ちる。
そうこうしているうちに、クインケを持っていない2人には逃げられてしまった。まだここからでも足音は捕捉できているがーー今はこいつらを殺すことを優先させた方がいいな。
亜門とかいう奴が白い骸骨みたいな白鳩を庇うように立つ。その目には敵意がありありと浮かんでいる。
俺はトドメを刺すように、5本全ての尾を白鳩に向けーー弾けるように、そこから距離を取る。
次の瞬間、俺が立っていたところに電撃の槍が降り注いだ。
雨のせいで殆ど匂いと音がしなかった……。いや、これはただの言い訳だ。こいつなら、今まで俺のように五感の優れたやつと戦ったことはあるだろうから、もう癖のように染み付いている動きだったのだろう。
「あなたは…」
亜門とやらの目が、驚きに開かれる。
「死神……」
CCGの死神が、そこにいた。
嫌な汗が、背を伝う。
「よう、昨日ぶりだな」
「………」
死神は俺の声を無視して、クインケを構え一気に距離を詰めてきた。
「いきなり、かよ!」
2本の尾を迎撃に向かわせ、それを難なく弾かれ、かわされたことにより様子見をやめて全力で戦うことを選択する。
すなわち、残り4本も展開し、全9本で相手をする。
「なっ、9本に増えただと!?」
そんな亜門の驚きの声が聞こえないほど、死神と蓮の間で激しい攻防が繰り広げられる。
蓮は9本の尻尾を巧みに操りそこいらの白鳩ならとっくに命はないであろう攻撃をひたすら繰り返す。それに対して死神は、まるで舞うかのようにクインケで弾き、防ぎ、いなし、かわす。隙を見つけては電撃を放ち、それを蓮は容易く避け、あるいは防ぐ。
1秒が1分とでも錯覚してしまいそうなほどの攻防の果て、両者の一撃がお互いに弾き合い、距離を強制的にとったことで、一旦の攻防は終わった。
睨み合いの中、蓮は内心で舌打ちをする。
お互いまだ本気ではないとはいえ……CCGの死神が想像以上に強い。24区であったときから感じていたが、実際はそれ以上に厄介だった。大抵の白鳩なら、9本の攻防に対処しきれないのだが、こいつは違う。どれもこれも最小限の動きで回避し、反撃までしてくる始末。実力は、五分五分といったところ。いや、これまでの経験から、死神の方が一歩まさっているだろう。
そこまで思考し、さらに舌打ちする。目撃者である4人の白鳩は殺しておきたかったが、現状不可能になってしまった。
亜門とかいうやつと骸骨野郎も態勢を整え終えている。時間稼ぎは十分だし、潮時か。
死神が電撃を放ってくる。それを回避すると同時に大きく距離を取り、二階建ての建物の屋根の上に飛び移る。
死神と目が合う……どうやら、追ってくる意思はないようだった。
それを確認し、背を向けてその場を離脱しようとした、その時。
「待て! お前らグズは罪のない人を平気で殺め、己の欲望のまま喰らう! 貴様らの手で親を失った子も大勢いる! 残されたものの気持ち、悲しみ、孤独、空虚……お前たちはそれを想像したことはあるのか! 彼らのどこに、貴様らに殺される理由があった! この世界は間違ってる! 歪めてるのは、貴様らだ! どこに逃げようと、俺が必ず貴様らを仕留める!」
そう、心からの憎悪の叫びを聞き、
「……あ?」
自分でも信じられないほど低い声を出した。
しまった赫子を再び展開する。
「誰が、平気で人を殺し、欲望のままに食らうだって?」
屋根の上から飛び降り、ゆらりゆらりと歩を進める姿は、さながら幽鬼。
「悲しみ、孤独、空虚…それを想像したことがあるかだぁ? それはこっちのセリフだゴミが。お前らは、1人残された喰種の子どもたちの悲しみ、孤独、空虚、それに、他の喰種に喰われるかもしれないという恐怖を考えたことはあるのか? 俺たちが何の罪悪感もなく、人を喰らってるとでも? もちろん、中にはそんなやつだっているさ。だがな、大抵の喰種は、その罪悪感に苦しんでるんだよ。さらに言うなら、リョーコさんは一度たりとも、その手で人間を殺してはいない。聞こう。彼女を殺す理由が、どこにある?」
「ふん、そんなものーー」
「喰種だから、だろ? 聞き飽きたよ。お前らの戯言は。仕方ないだろ。俺たちは偶々喰種に生まれたんだ。人間しか食べれないんだよ。なら、死にたくないから、人間を食うしかないだろうが。というかさ、さっきから俺らのことをグズグズいうが、人間の方がグズだろうが」
「…なんだと?」
「その骸骨みたいなのが持ってるクインケ、リョーコさんの夫だろ。お前ら、よくそんな残酷なことができるよな」
「何をいうかと思えば…」
「なんだ? 喰種だから当たり前だとでも? なら分かりやすく人間で例えてやる。お前らは幸せな人間の家庭の夫を殺し、その骨で武器を作り、その武器で妻とその娘を殺そうとしてるんだぞ? お前らの方が、よっぽどクズだ。っていうか、テメェーらが歩み寄れば、多少なりとも喰種の被害は減るんだよ。テメーら人間が、死んだ人間を俺たち喰種に恵んでくれさえすれば、人間をわざわざ襲って喰う喰種は少しは減るだろうに」
「そんなこと」
「出来るわけない、だろ? なら俺らは生きるために、人を殺して喰うしかないんだよ。歪めてるのは喰種だって? それはそうだろう。人間しか食えないからな。だが、本当に俺たちだけか? 俺からしてみれば、人間の方がよっぽど、この世界を歪めてるよ。本当に、思考を放棄したお前みたいな醜い人間を見ると、殺したくて殺したくて仕方がなくなるよ」
それまで、意外なことに黙って話を聞いていた死神が、かちゃりとクインケを構える。
俺はそれに相手に聞こえるように舌打ちをし、
「俺をどこまでも追いかけ、仕留めようとしようが勝手だけどな、その時は俺はお前を殺して、親を殺された喰種の子どもたちの飯になってもらう。覚悟しとけよ、人間という名のグズ」
それだけ言い残すと、俺は再び屋根の上に登り、その場から離脱した。
お疲れ様でした。
いやはや、本当はもっと蓮くんに人間のグズ度を言わせたかったんだけど…まぁ、思うようにいかないよね。
まぁそんなわけで大変遅くなって申し訳ありませんでした。
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