俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ? (Par)
しおりを挟む

本編 幼馴染が旅立ち、ババアが来た日

短編でふと描きたくなったグラブルギャグ。ザンクティンゼル旅立つまでぐらいは続けるつもりです。




 ■

 

 一  いい日、旅立て

 

 ■

 

 ある時、俺の住む島ザンクティンゼルへ少女が“堕ちた”。それが全ての始まりだった。俺はその場にはいなかったが、村に住む幼馴染のジータが彼女(ルリアと言う名だと後に知る)の元へと向かった。そして直ぐエルステ帝国の船が現れそこから兵隊達がルリアを狙う。その中でジータはルリアを守り一度命を落とす。

 だが奇跡を体現した様な少女であったルリアの力によりジータはルリアと命を共有しその魂を蘇らせた。元より非凡な才能を持つ彼女は己を殺した魔物を打ち倒し兵達は逃げ帰った。

 そして、ジータと少女達は旅立つ。自身の親の残した言葉を胸に。少女を救う使命を受けて。遥かなる空の先、星の島イスタルシアを目指して――

 

 ■

 

 二  ワイ、幼馴染が強すぎて引く

 

 ■

 

 だが、だがあえて言おう。そんな事は、どうでもいいのだ。

 いや、どうでもいいと言う事は無い、無いのだが――しかしこの事は殆ど数日の内に起きた事で実に事態急変、急転直下の連続である。俺はもうわけがわからない。

 ジータは年下の友人であり妹のような幼馴染の少女だ。そのジータがいつの間にか死んで生き返って、しかも星晶獣と言う化け物を操る術をルリアと命を共有する事で間接的に得て元より非凡の才能を更に開花させ俺より一つ下の少女と思えぬ歴戦の勇士の様な風格さえ漂わせていた。「私今なら何でも出来そうッ!!」と溢れる力を抑えきれず、森に出て魔物を狩りまくった彼女を見てどう反応せよというのだ? 「スーパーザンクティンゼル人かな?」と思わず言えば、「やだもー」と照れ隠しの手刀をくらい俺の意識は刈り取られた。よしんば照れ隠しでビンタはわかるが手刀とは、実に殺意が高い。恐ろしく早い手刀、俺でなきゃ見逃しちゃうね。尤も見えるだけで避けれないが。ぐえー。

 そして帝国兵襲来の次の日。

 

「私、お父さんに会いに行くっ!」

 

 と、決意した目でいきなり宣言された俺は、尚更どう反応せよと? 間をおいて「はあ、そうか」としか言えず、ルリアの保護者らしいカタリナと言う女性に取りあえずジータと相棒の子供ドラゴンのビィを共々宜しくと言うぐらいしか出来なかった。

 そして更に次の日にはジータ一行は、小さな騎空艇に乗りこみザンクティンゼルを去った。操縦するカタリナさんの操縦が下手だったのか無茶苦茶な飛行をしながら雲海へと消えた騎空艇に一抹の不安を覚えながら、初めて俺はジータが旅立った事を実感した。

 この間二日と半日である。ジータ、君は確かに御淑やかなようで嵐の様な性格だが、一変死んで生き返り、一日ちょっとで星の島を目指すとは、落ち着きが無さ過ぎないだろうか。しかもルリアと言うなにやら帝国がらみの問題まで抱えている。心配だ。実に心配である。

 だがどうしてであろうか、不思議と彼女の死ぬ姿はまるで想像できない。いや、一度死んだらしいが多分もう死ぬ事は無いような気がする。それどころか行け行けドンドンと帝国を蹴散らし化け物共も跨いで通るような姿の方がしっくり来るしまつ。いつかきっと、ドラゴンすら跨いで通るかもしれない。噂でそんな奴がいると聞いた事もある。きっとジータと気が合うだろう。

 そしてそれで終われば幼馴染が旅立っただけで終わるが、どっこいそうはならず、この時から俺の災難と試練と苦難の日々が始まるのだ。

 

 ■

 

 三   婆襲来

 

 ■

 

「あの子が旅に出たから次はあんただねぇ」

 

 ジータが旅立った次の日、俺の元に村に住むばあさんが現れた。ばあさんはよくわからない事を言いながら突然俺の首根っこを掴み、そのままズルズルと俺を引きずり連れて行った。

 恐ろしきはその力であり、普段腰を曲げて歩くばあさんと思えぬ足取りと力に俺の抵抗はまるで意味が無かった。

 その日から唐突な地獄の特訓が始まった。

 連れて行かれた訓練場で、俺はわけがわからぬままに刀剣類や弓に銃に鎚に槍に格闘技に、果ては楽器までも使い特訓を強制的に受けさせられた。これら武器(楽器も?)の扱いをマスターするまで続けるというのでたまったものではない。そもそも何故俺がこんな目に遭わねばならぬ。と非難の声を上げるとばあさんは、突然語りだす。

 

「ジータはあの人の娘……かねてよりその力が非凡である事は、無論わかっていたよ……1を教えればあの子はそれで10を知り、そこから100を覚える。あれは正に天賦の才」

 

 んなこたぁ知っている。あの娘の凄まじさは今回の事で更に思い知らされたのだから。

 

「そしてあんたはその逆……剣を振るった事も無ければ弓もまともに扱えない」

 

 それも言われんでも知っている。わざわざ言わないでほしいものである。

 

「だが、故に面白い。あんたにはあの子と違う才がある」

 

 ばあさんが、目を光らせる。

 

「言うなればあの子はどのような事も幾らでも受け止め蓄えられる巨大な器、最早大海とも言えるその器は一度蓄えれば尽きず、あらゆる戦う術を己のものにする。ならばあんたはなんだ? あの子とは違うあんたはあらゆるものを吸い取る布さ。今はまだカラカラのただの布切れ。だけどね、あんたという布はこれから技と言う水を吸う。しかもその布は、幾ら吸おうが限界は無い。だが溢れぬ無限の器と違い、吸い続けねばいつかは乾く布なのさ」

 

 なるほど、ばあさんの言いたい事はわかる。要はジータは一度身に付けたらそれを完全に自分の物にしてしまう。一方俺はジータと違い、得た経験を直ぐに己のものとするがほっとけばそれも忘れちまうと。

 

「だから鍛える。一日も絶えず、怠らず、只管にやるよ」

 

 いや待て、やはりわからん。答えになっていない。ジータと俺の才能はこの際どうでもいい。何故俺がこんな目に遭ってるのかの答えが出てない。

 

「そんなの決まってる。あんたが旅立つあの子を追いかけたそうにしてたからねえ」

 

 そのような事実はございません。

 マジな話、確かにジータは心配だ。どちらかと言うとジータの周り、彼女に振り回されるビィなどの面々のほうだが。ジータに振り回されて何度ビィが死にかけたかわからん。稀に文字通り振り回された時があるのだから悲惨だ。挙句精神を崩壊させ「オイオイオイ、死んだわオイラ」「オイ、オイ、オ、オイオイラオイララ……オイラァッ!!」となんかヤバイ感じになった時期もあった。ビィ、今頃どうしてるだろうか? また精神を崩壊させてないといいが。

 だがそう言ってもばあさんは「あたしはわかってるよ、坊主」的な視線を向けるばかり。ねえ聞いて、聞いてクレメンス。

 無常にも修行は続行された。

 

 ■

 

 四   デケェ!!

 

 ■

 

 さらに暫く経った時、島に異変が起きた。

 ザンクティンゼルには〔碧空の門〕と呼ばれる場所がある。閉鎖的な島の中で、外に通じる場所のひとつ。そもそも山に囲まれた所為で騎空艇での飛行技術が向上するまで正に閉ざされた島だった。そんな門へと行くまでに島の中の森を歩く。その森には、古くから星晶の祀られる祠がある。ありがたい場所であり、森には魔物も出るため遊ぶような場所ではなく、子供はおろか大人でさえも近づかない。また、そこには選ばれた巫女などしか近づいてはいけないと言う理由もあった。

 唯一、例外としてあのジータを除いて。

 彼女は、とにかく奔放でヤンチャだった。だから大人に近づくなと言われた祠だろうと魔物の巣窟であろうと、ガンガン突き進む。それに付き合わされたビィは勿論だが俺も悲惨であった。何度死にかけたかわからない。

 話を戻すと、その碧空の門へと向かう祠で異変があった。だがこの異変に気がついたのは俺とばあさんだけであった。ほかの皆は天気が変わったかな程度にしか感じ取っていないが、俺達は大気を振るわせるような力と重圧を感じた。

 

「どうやら星晶の力が溢れたらしいねぇ……」

 

 ばあさんの言う事はよくわからないが、何かえらい事が起きたのは確からしい。果たしてどうするのかばあさんに聞くと「お前がやるんだよ」と言われた。

 

「星晶獣でも特に力の強いのが、真の力を解放したんだよ。きっとお嬢ちゃんあたりが楔を壊したんだね。ただそれだけなら力が漏れる程度だろうけどね。これも多分だけど、お嬢ちゃんが旅に出る前にここで遊んで偶然祠をいじったんだろうねぇ」

 

 待ってほしい。ジータが何かしたのはまあしょうがないとして、今の事態と俺が解決する事が結びつかない。俺に彼女の尻拭いをしろと言うのか。

 

「ほっとくと、溢れた力の制御が利かなくなる。危険だから止めるよ」

 

 サラッと言うけど、俺がだよね?

 

「当たり前さ、修行の成果をみせてみな。あんたなら一人(ソロ)でもあの状態(レベル50)もいけるさ」

「無理っす」

 

 俺は即行で逃げ出した。

 

「逃げ切れると思うのかい?」

 

 だが後ろを向いた瞬間にばあさんが目の前に現れた。即座に俺の鳩尾に拳が抉り込まれ、俺の意識は一時途絶えた。だが手加減をしたのだろうか、俺の意識は少し後で目覚める。そして目の前に現れたのは、今度はばあさんではなく巨大な女だった。そう、女だった。3頭の首の長い竜を従える巨大な女だった。

 

「人ノ子ガ、風ノ力ニ敵ウト思ウノカ」

 

 思いませんから帰っていいですか?

 

 ■

 

 五   勝ってしまった。

 

 ■

 

 あの日、突風旋風大嵐で大騒動であった碧空の門付近での戦いは俺の勝利で終わる。実に激しい戦いだった。巨大な女ティアマト、彼女は風を司る星晶獣。ティアマトは、まずその巨体が既に圧倒的な武器であるが、それ以上に常時突風が吹き俺を吹き飛ばそうとして、そうかと思えば上下左右360度全方向から紫の光線が飛び、圧縮した風の力で土地ごと吹き飛ばそうとしたりと最早人間のやる戦いじゃないと思った。それで勝ってしまったのだから我ながら自分も化け物じみたと思う。ばあさん経由で以前手に入れた火の属性付与の剣が無ければやられていた。

  戦い終わってコテンパンにしたティアマトに話を聞いてみる事にする。少ししょんぼりしながら巨体のまま正座して他の三頭の竜達も頭をたれていてちょっとかわいい。

  彼女ティアマトは、普段は別の島であるポート・ブリーズ群島で祀られる土地神である。そんな彼女が少し前になにやら帝国の罠にはまり、同時に「最近人間ガ私ヲ信ジナイ」とかナイーブだった所為で案外あっけなく洗脳されたとか何とか。んでポート・ブリーズ崩壊の危機の中それをジータが物理で止めたらしい。やるな、流石ザンクティンゼルのリーサル・ウェポン。

 以降ジータと共に居る蒼の娘ルリアの呼びかけに応える形で力を貸していたが、旅立ちより以前にここで遊んでいたジータがいじった祠に綻びが生まれここにも顕現した。

 ちょっとまってよ、君普段ポート・ブリーズにいんじゃないの? と聞くと、あの姿は〔マグナ〕と呼ばれるものでありどっちが本体とかあまり区別は無いとか。マグナの力が強すぎるためにポート・ブリーズ一箇所で力を留めておくとヤバイから、封印に適したこの地に他の星晶獣と寝てたと言う。

 ほーん? 他の星晶獣、と。

 この時点で言っておこう。嫌な予感しかない。

 暢気に茶を飲んでたばあさんに視線を送ると「ひっひっひ」と急に魔女みたいに笑いながら「今更祠を直したって、溢れた力は収まらないよ」「なぁに今日明日ってわけじゃない、しばらく体を休めておきな。そしたら直ぐに修行だよ。次何が出るかはわからないからねぇ」だと。

 更にばあさんは「お嬢ちゃんならもう少し上手くやれたかもね」「婆の私でももう少し早く出来る」とダメだし。ならばあさんがやれよと非難の目を向けるが「これも修行だよ」と言われる。

 冗談ではない、逃げるぞ俺は。

 

 ■

 

 六   【魔境】ティアマト、我が家に居つく【ザンクティンゼル】

 

 ■

 

 なんかティアマトが縮んだ。曰くマグナ本体を祠の所で休ませた状態での分身かつ省エネモードらしい。マグナ形態のボインちゃんからちょい控えめボディになり身長も俺よりちょい下程になる。三頭の竜(ニル、ゼル、エア)もミニサイズでどこかビィを思い出す。

 いや待て。ビィを思い出してちょっとほっこりしたがなんで君縮んだの? あとなんで家にいるの?

 

「星晶ノ力ヲ、正面カラ打チ破ル人ノ子、オ前ニ興味ガワイタ」

 

 いや知らんがな。

 

「アトアノ老婆ガ、オ前ヲ鍛エテヤレト」

 

 またばあさんか。あのばあさん、ティアマトを修行サボり阻止のために派遣しやがった。なんというばあさんだ。監視役に星晶獣使う奴があるか。第一、いきなり竜を三匹引き連れた女連れ込んで他の人にどう説明すればいいのだ。俺は村で一人暮らしで人の目も在ると言うのに。

 

「なんだ、ジータちゃんが旅立ったと思ったらまた変なのが来たなぁ」

 

 全く心配なかった。

 村人全員ティアマトとニル達を見ても「わ、知らん奴」「ほ、何時の間に?」程度で、俺の家に引き取る事ということを言うと「がんばっ!」で終わった。

 ジータとビィと言う前例を忘れていた俺は、同時にこの村の住人がばあさんほどでないにしろちょっとおかしい事を忘れていた。

 不本意ながら無事にティアマトが我が家の住人になった事で、俺の修行バックれ計画はほぼ消えてなくなった。というかティアマトが一々「コノ食ベ物ハナンダ?」「食エルノカ」「風呂ッテナンダ」「服ガ無イゾ」とか世話がかかる。星晶獣って神様じゃねーのか? なんも知らないじゃないか、と憤慨してると「人ノ生活マデ知ラヌ」と言われた。とにかく赤子より手のかかるティアマトに振り回されサボりどころではない。それどころか朝昼晩ティアマトだけでなくニル達の世話までするのだ。俺が。もう一度言う、俺が。

 朝起きると、現在のサイズで寝たことが無いティアマト達はベッドの上でこんがらがっていた。最初そう言うプレイかと疑ったが、ティアマトもニル達も息苦しそうだったので寝相が悪いだけのようだ。俺の朝は彼女達を解く事で始まる。

 飯を食わせるとティアマトが外でザンクティンゼルに風を吹かせる。風を司る彼女は、風を吹かせるのが日課と言う。風を吹かさないと調子が悪くなるとか。ウンコみてーだなと言ったらトルネードディザスターで吹き飛ばされた。

 ばあさんの修行に行く前に洗濯をする。洗い物を外で干すとティアマトが風で乾燥させてくれるのでこれは助かる。星晶獣でもトップクラスの存在を洗濯乾燥に使うなど全空でも俺ぐらいだろう。

 昼前、修行開始。またばあさんにしごかれる。今まででも大概辛かったのにまた修行の激しさと使用武器の種類が増えた。俺の使いたい武器の要望を言うとばあさん経由で何かしらの武器が手に入る。だが最終的な武器チョイスは俺の実力に見合ったようばあさんチョイスなので、完全に要望通りの武器が来るかはわからない。しかしばあさんの武器入手経路が謎なのは気になるが、聞いたらなにか怖い気がするので聞けない。

 

「その内あんたもいろんな島に行って、いろんな武器を自分で手に入れるといいよ」

 

 ばあさん曰く、武器には人との縁があるものが多いと言う。縁が強い武器を手に入れれば、武器と縁のある何者かと出会い仲間となるかもしれない。おそらくジータもそうしているはずだと。

 じゃあ俺の武器は、縁もゆかりもないちょっと良い(レア)武器と言う事かと聞けば、「あんたにはそれで十分さ」とにべも無い。仕方なく俺は、ばあさん経由(ガチャ)で手に入ったちょっと良い(レア)武器でセコセコ修行するのである。

 

 ■

 

 七   もっと熱くなれよっ!!

 

 ■

 

 家が揺れた。急に嫌な気配がすると思ったら、圧迫されるような感覚と共に嫌に村全体が熱くなった。そしてこの感覚は、ティアマト出現の時と同じ感覚であった。

 

「どうやら次が出たみたいだね」

 

 ばあさんがまるで焦った様子も無く笑って祠の方角を見ている。

 

「この熱気……どうやら相手はとっても熱いようだよ。水属性武器を持っていきな」

 

 それはいいが、姿が見えない段階でこの熱さだと死んでしまいそうだ。無言の抗議を続けるがばあさんはそれを無視。そしてピクニックに行くようなバックの中身を見せる。中には、赤い瓶が何本もあった。

 

「死に掛けたらエリクシールぶっ掛けてやるから安心おし」

 

 なにも安心できない。

 エリクシールと言ったら秘薬である。一応は市場に出回るようだが、基本的に高価で模造品も多く、手に入っても精々ちょっとした体力回復効果のあるハーフサイズ程度のはず。それをばあさんが何十本ももっている。

 この際どうやって手に入れたかは追求しないとして、この瓶一本あれば確かに即死でもなければ死ぬ事はない。ないのだが、それはつまり、俺は死に掛けても戦わされるという事を意味した。

 ふと、近くでビーチ用の折り畳みベッドでサングラスを付けてキンキンに冷やした飲み物を飲んでくつろいでいるティアマトを見る。

 

「ティアマトは、手伝ってくれたりとか」

「アレハ熱イカライヤダ」

 

 にべもにない。あとお前、そのベッドどうした? 買った? 金は? 俺の金で? 買ったの……あ、そう……勝手に、おま、お前、お前……。

 いや、しかし冗談ではない。確かにティアマトには勝てたが、次もそうとは限らない。俺は逃げ出した。今度はばあさんの動きを予測し逃げ切ってやる。

 

「予想して逃げ切る。そう考えてそうだけど甘いよ坊主」

 

 が、またも回り込まれた俺は手刀で意識を刈り取られた。次の展開、予想できます。

 

「―――ッ!! ――――――!!!」

「何言ってるかわからねえ」

 

 熱さで目を覚ますと、ティアマトほどではないにしろ巨大な鉄の鎧が俺を見下ろし言葉にならぬ鉄が擦れる様な音を上げていた。手には巨大な剣。当然ばあさんとティアマトはいねえ。

 やるっきゃない(諦め)。

 

 ■

 

 八   また勝ってしまった。

 

 ■

 

 ファッキンホット(クソ熱い)ッ!!

 戦い終えた俺は脱水症状で死に掛けた。ばあさんに運ばれ家でティアマトの出す風で冷やされているとティアマトにエリクシールぶっ掛けられた。ティアマト、違う。それは口で飲む物です。けどそれで症状が改善されるのだからさすが秘薬である。

 今回の相手は、巨大な鉄巨人コロッサス。いやぁ、今回も強敵でしたね。などと他人事のように言いたくもなる程疲れた。ティアマトの時も大概疲れたが、今回はとにかく熱かった。熱は熱いし、気温は暑いし、コロッサスの装甲も厚い。熱い、暑い、厚いと熱盛状態だ。正直やってられない。次元断とか言う一文字の斬撃なんか食らえばミンチより酷い事になるのは間違いなかったろう。

 結果的に鎧もボコボコにしてやったコロッサスは、すっかり熱が冷めサイズダウンして俺の家にいた。

 お前もか、コロッサス。

 

「――――……―――……ッ!」

「何言ってるかわかんねえ」

 

 ティアマトの通訳を交え一応流れで話を聞けば、ティアマトと似た展開であった。

 コロッサスは、もともとドラフ族と言うでかい角付きの種族が主に居るバルツ公国で作られた星晶獣。ざっくり言うと昔々労働力としての奴隷だったドラフ族の怨念が宿ったとかなんとか。怨念がおんねん、などと下らない事を言いたいほど暗い話で言う事無い。まあ暗い話はどうでもいいや。結局未完成だったけど最近帝国がなんかいらん事して結果的に完成してバルツヤベェとなった時に、ジータが現れ物理で止めた。ジータ、また君か。

 結果的にティアマト同様呼ばれたら力を貸してるとか。

 それはいいんだけど君なんで家に居るの?

 

「オ前ガ倒レテル時ニバアサンガ、家ニ来イト連レテ来タ。修行ト監視用ニダソウダ」

 

 あの婆っ!!

 

「ヨカッタナ、家族ガ増エタゾ」

「よくねえよ、ティアちゃんっ!!」

 

 平穏が、ガラッと壊れる、音がする。俺、心の俳句。

 

 ■

 

 九   (`・ω・´)

 

 ■

 

 拝啓、ジータさん。お元気ですか? 落ち込んだりばかりで、俺はもうだめかもしれません。もし話が出来るならお聞きしたいのですが、そちらのコロッサスとは、どうやってコミニケーションをとっていますか? 我が家のコロッサスなんですが、ちょっとおかしいかもしれません。

 

「(>▽<☆)オハヨウ」

 

 これ、これね? コロッサス。ちょっと意味わからないけれどね、コロッサスなのね。今朝起きたらこの……これ、なに? なんて言えばいいのか、とにかくこうなってた。

 

「(`・ω・´)/シャキッ」

 

 わぁ、凄い感情豊かなのね君。それでそれ、どうなってるの?

 

「(´・ω・`)?」

 

 なんかできた? 気合で? 自分でもわからない、と。このなんと言うのか、表情が現れてるのか、浮かんでるのか、俺の脳に直接見せてるのかわからないが、とにかく表情がわかるようになった。気合で何とかなるなら発声能力を取得してもよかったんじゃないかと思う。

 

「((-ω-。)(。-ω-))ンーン」

 

 あ、これでよかったのね。

 

「(`・ω・´)ウン」

 

 

 まああんたがそれでいいならいいけどさ。サイズダウンしてもごっつい黒い鎧なもんだからギャップが激しい。本気でジータに会う機会あったらあっちのコロッサスはどんな感じか聞いておこう。

 

「(*´∀`*)ノオハヨウ」

「ウワ、ナンダオ前」

 

 ティアマトもびっくりだった。

 ところでコロッサスだが、案の定ティアマトとニル達で我が家のキャパシティーは当然の様にオーバー、入りきらない。すまんなコロッサス、お前は基本外で置物になってくれ。雨降ったらちゃんと屋根は作るから。

 

「(*´・∀・*)ヨロシクオネガイシマス」

 

 すまんな、恨むなら無責任に俺の家によこした婆さんを恨め。

 なお、村人達は「でけー案山子だな」「なんだ動くんか、ちょっと荷物運ぶの手伝って」とちょっと反応が鈍すぎる。

 

「ヽ(`∀´)ゝイイヨッ!!」

 

 そして嫌な顔一つ……そもそも表情筋がないが、喜んで村の手伝いをするコロッサス。

 オイオイオイ、良い奴だわアイツ。

 

「ヨクヤルナ、アイツ」

 

 一方ティア様、家のソファーでくつろぎながら菓子食ってる。薄い服をだらしなくはだけさせて、色っぽさよりおばさん臭い。君数日でイメージ崩壊してない? ニル達もだらしない主(?)に困惑している。

「アノ老婆ニ頼マレタノハ、オ前ノ監視ト修行デアッテ、家ノ事ナド知ラン」

 

 ちくしょう。

 だがそれは構わないが、そんな生活すると太ると思う。

 

「星晶獣ハ太ラナイ」

「本当かよ……」

「太ッタ星晶獣ナンテイナイ、ツマリ星晶獣ハ太ラナイ」

 

 星晶獣の事にそんな詳しくないのでそう言われると否定も出来ない。だとしても家の食料を勝手に食わないでほしい。

 なお、数か月後の事。見事腹の弛んだデブマトが出来上がり、世にも珍しいダイエットに勤しむ星晶獣(笑)の姿があった事をここに記す。

 きっともう星晶獣の住人は増えない。ありえないしね。ただでさえ家にトップレベル(SSR)星晶獣がゆるキャラ化して住んでる状態が異常なのに、これ以上そんなことある? きっと無いさ、ないないない。アハハ。

 

 

 




主人公は、強くなりますがこの世界でジータとばあさんは、ちょっと強すぎる。なんで一度とはいえ死んだんだろうってぐらい強い。きっとルリアを護るために油断したんだ。と言う感想は、アニメを見て思いました。

追記
あんまネタ解説は、寒いかもしれませんが、村人の「ほ、何時の間に?」は、東映版スパイダーマンの空耳が元ネタで、思いつきで入れました。すみません、誤字じゃないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星晶獣(笑)

いよいよキャラ崩壊著しくなってきます


 ■

 

 一 星晶獣(笑)

 

 ■

 

 今日の星晶獣。

 ザンクティンゼルはキハイゼル村から。今我が家には二体の星晶獣がいます。ええ、ええ普通居ませんよ、星晶獣二体が普通の民家になんて。しかも方や基本家でダラダラしてる星晶獣(笑)。方や表情筋ないのに表情豊かになった鉄巨人。

 なんだこれ?

 

「ドウシタ、モット走レ走レ。デナケレバ死ヌゾ」

 

 そして家じゃダラダラ女の星晶獣(笑)のティアマトが、今俺に向かって全力で紫光線を撃ちまくる。当然修行のためである。実質イジメだが。

 この時のティアマトはサイズアップする、と言うか通常の巨人モードになる。ただしマグナ形態ではない姿。ポート・ブリーズでのティアマトはこれがスタンダードらしい。しかしこの状態でもポート・ブリーズの土地神、風系星晶獣トップレベルの実力は伊達ではない。迫る光線の威力はマグナ状態の時に比べても遜色ない。しかも俺に負けた事を少し根に持ってるのか、攻撃に私怨を感じる。

 

「逃げるだけじゃ駄目だよ坊主。ちゃんと攻撃おし」

 

 この激しい攻撃の中、切り株に腰掛けて暢気に茶を飲み観戦するばあさんが俺に檄を飛ばす。そうは言うがこれでも必死なのだ。マグナで勝てたんだから楽なもんだろうと俺もちょびっと思った。思ったけどそんな事ないです。やめていいですか? マグナに一戦勝てた事とティアマトに常勝無敗である事はイコールでない事を痛感した。やめていいですか?

 

「あんたも刀剣類の扱いがやっと上手くなったんだ。感覚忘れないように死ぬ気でやりな」

 

 死にそうになったってあんたエリクシールぶっかけて特訓再走させるじゃないですかーやだー! しかもエリクシールハーフまでしこたま溜め込んで、ただの体力疲労はそれで回復させてくる。今ばかりは秘薬の高い効能が恨めしい。

 

「あと5分したらコロッサス追加だからね」

「デバン(゚∀゚)キタコレ」

「死ぬわっ!?」

「だからやるんだよ」

 

 この婆悪魔か何かじゃないだろうか。あとコロッサス、やる気出さないで。死ぬ。

 吹き荒れる暴風が炎の斬撃を飛ばし俺の周りには熱風が吹き荒れる。ティアマトのエリアルクラスターとコロッサスのフォースグラウンドで風が吹き荒れ大地が弾ける。ちくしょう、この野郎、馬鹿野郎。俺にも我慢の限界と言うのがあるんだ。

 

「一度とはいえ仮にもテメーらボコボコにしたんだからなっ!! 見とれこの野郎、馬鹿野郎っ!!」

 

 おそらく逃げ回ってもばあさんが終了を認めないだろう。倒すことでしか俺の安寧は訪れないのだ。見せてやろう、無駄に鍛えられた結果身に着けた秘儀・戦闘中の武器取り換えの術。

 

「ムウ、小賢シイヤツメ」

「うるせいやい」

 

 婆さん曰く。武器には、構成要素が幾らでもあると言う。単に火や水、風に土などの属性でなく、武器にこもった製作者の思いや時を経て宿った力など様々だ。それらを組み合わせ構成する事で、戦いを有利に進める事が出来るのだ。今俺はばあさん経由の武器しか持っていないが、それでも武器特有の特性がある。いつかもっといい(SR)武器、更に良い(SSR)武器を手に入れればその幅も広がるだろう。

 現状俺は今あるちょいいい(レア)武器で頑張るしかないが、戦う二体の星晶獣の弱点属性を個別でつければ幾分か楽になる。特にティアマト、テメーは許さん。

 

「お前いい加減俺の金で勝手に買い物すんな!!」

「ヨク寝レル枕ガ欲シカッタンダッ!!」

「だからって5万ルピもする枕勝手に買うなっ!!」

 

 5万ルピの枕。信じられるだろうか。5万ルピだ。この女、己が惰眠を貪るために家主の俺に黙って且つ俺の金で勝手に5万ルピもする枕を購入しやがった。「フカフカダゾッ!」と興奮気味に枕を見せに来て値段を聞いた時俺はぶっ倒れた。今月の生活費の殆どを枕一つに使いやがった。それが星晶獣のやる事か。結果両手足を縛り、長いアイツの髪を柱に括り付けて目の前でシチューを食ってやった時の悔しそうな表情を見て幾分か気は晴れたがそれでも許せん。なおニル達3匹に罪はない。許せる。

 

「(・ω・`) ケンカヨクナイ」

 

 コロッサス、君なんでそんないい子なん? もういいよ、ティアマトは祠の本体の方帰ってコロッサスだけいてよ。

 

「祠帰ッタラ、オ菓子食ベレナイジャナイカッ!!」

「子供かっ!!」

 

 星晶獣(笑)め、世俗に染まり過ぎだ。

 なお、この言い合いの最中でも戦いの手が緩められる事は無いので、やはり俺も大概おかしくなりつつある事を実感した。大変複雑な気持ちである。

 

 ■

 二 二度ある事は、もっとある

 ■

 

 毎日毎日修行とティアマトの勝手な買い物に怒り、ニル達の世話で少し癒され、ティアマトの一切家事をやらないスタイルに怒り、コロッサスとのコミュニケーションで癒され、ティアマトとの食事ではグルメぶったティアマトのうんちくに怒り、実は酒乱だったティアマトの暴走に怒り狂い、枕に加え安眠グッズを買おうとするティアマトに怒りの奥義をぶち込む毎日が数週間続いた。

 そしてまた来た。あの嫌な感覚。圧迫するような星晶の力。

 

「あって欲しくなかった」

「嘆いたって無駄だよ。この感じ、次は水かねぇ……土の武器を揃えておきな」

 

 相変わらずばあさんは冷静そのもので、戦いに向かう俺に武器構成をすすめる。

 

「あとあんたは基本戦術とか無い脳筋だから、今回は……そうさねぇ、ビショップあたりで攻めな」

 

 珍しくばあさんからのアドバイスが多い。脳筋は余計だが。こら、ティアマト笑うな。

 ばあさんによる地獄の特訓によって、俺の武器の応用力は高くなったと思う。少なくとも、帝国の雑兵よりは断然強いはずだ。今でこそ星晶獣(笑)となったティアマトであるが、星晶獣でもトップクラスのマグナ状態の彼女やコロッサスに勝てたのだからこれぐらいは自負してもいいと思う。と言うか思わせて。そんぐらいしか今のところ修行の意義を見出せない。

 そのおかげで俺は多くのジョブを選べるようになって来た。ジョブとはファイター、ナイト、ウィザード等、剣や斧に魔法等それぞれが武器や扱う技に特化した武器と鎧などの構成だ。ジョブそれぞれに色んな特徴があるが、今回ばあさんが勧めたビショップは、中堅かそれよりも有名な騎空団にも一人は欲しいサポート系ジョブである。

 

「そろそろ純粋な殴り合いでの勝負が難しくなりそうだからね、これも修行だよ」

 

 尤もである。尤もであるが、一つ聞きたい。

 

「基本サポートジョブ構成で俺一人?」

「当然」

 

 俺は逃げた。今度はあらかじめ用意した煙幕まで使用して逃げた。フハハ、とらえきれまい、この動き。

 

「戯ケメ」

 

 瞬間、ティアマトの風で煙幕は吹き飛ばされ、晴れる煙の中から飛び出たばあさんの拳が俺の意識を刈り取った。

 あのねー、僕この後の展開知ってる。

 

「UGYAAAAAAAAAAA!!」

「うるせえっ!!」

 

 バカでかい声で目が覚めたら水色の巨大な奴がいた。竜なのか、蛇なのか、魚なのか、それともそれ以外の何かなのか。全長であればティアマト・マグナを超すかもしれない巨大な怪物は、自ら生み出した水流で俺を飲み込んだ。

 

 ■

 

 三 サンサンサン、さわやかリヴァイアサン

 

 ■

 

 危なかった。死ぬかと思った。死ぬかと思った事は、もう既に経験済みだが今回は、またさらに死を覚悟した。クソデカ魚類のリヴァイアサン、水を司る星晶獣。もうね、水ヤバイ。あいつ水を引っ切り無しに生み出しては操り俺を溺死させようとする。やる事は単純だが一番きつい攻撃。水の中に入る事は、既にリヴァイアサンの腹の中にいるのと同意なのだからたまったものではない。土壇場の気合で取得したザンクティンゼル泳法で乗り切れなければマジで溺死したと思う。抉るような潜り込みに弾丸の如く進む泳法は、リヴァイアサンの水流に何とか打ち勝てた。ありがとうザンクティンゼル泳法。ひとえにばあさんに鍛えられた肉体のおかげで可能だったザンクティンゼル泳法、だけどこんな目に遭ってるのは、ほかならぬばあさんのせいなのでばあさんへの感謝の念はまるで無い。

 ザンクティンゼル泳法を会得した俺に最早水攻めは効かぬ。それでも阿保みたいに固いバリアみたいなのを張るのでビショップ怒りのディスペルで解除して最終的にボコボコにしてやった。魔法?最終的には物理だよ。杖でも殴れるから良し。サポートジョブとは、なんだったのか。

 でまあ聞きましたよ。ええ、事情をね。君なんでこんなとこいんの? 結局「Guaa……」とかしか呻けないリヴァイアサンに代わりティアマト通訳再び。

 リヴァイアサンは、通常水の島アウギュステ列島におり、そこで滾々と清らかな水を生み出し人々を見守る水の星晶獣。アウギュステの水、広大なそれは海と呼ばれこんな僻地のザンクティンゼルでは、縁も無い膨大な水の広野と俺は聞いている。その海が最近とにかく汚れてたまらなかったそうだ。汚い臭い気持ち悪いの3Kそろい踏み。めっちゃイラつきテンションアゲアゲ状態の時帝国に操られたそうで。

  また帝国か。

 アウギュステ消滅の危機(帝国原因による島消滅の危機今季3度目)であったが、現れた騎空団「ジータとゆかいな仲間たち団」を率いる団長ジータによって物理で止められた。

  またジータか。

 なんだろう、ジータが活躍するに比例して俺の心労と肉体疲労が蓄積されていく。あと「ジータとゆかいな仲間たち団」は無い。いくら何でもない。自己主張どころじゃない。きっとビィあたりが必死で止めた事は、想像に難くない。あの女は、捕まえた魔物のウィンドラビットをペットにしようとして、名前を「スーパーブリリアントマサムネ三世」にしようとした前科がある。なおそのウィンドラビットは、スーパーブリリアントマサムネ三世にされる前にあまりに不憫に思った俺とビィの手で解放した。心なしか目に涙を浮かべ俺達に礼を言いながら逃げていった気がした。

 はい。さて、もうね、この時点でもう俺は、疲労困憊であるわけ。なのにもうわかっちゃうのね。次の展開。予想するより早くわかってしまいます。

 

「バアサンニ頼マレテ、買ッテオイタゾ」

 

 我が家の庭に幅10mぐらいの巨大な生け簀が設置されました。ティアマトがばあさんに頼まれまた俺の金で買った工事費込み25万ルピの生け簀。うん、もっと安いのあったと思う。一番いいのでいいと思った?君もっと買い物と言うものを覚えようか。

 中身?うんうん、中身はなんだろうなぁ~俺気になるぅ~。

 

〈水は弱酸性で頼む〉

「こいつ、脳内に直接……っ」

 

 知ってた(覚り)。

 生け簀で悠々と泳ぐサイズダウンの省エネモードリヴァイアサン。図々しくも水の水質の注文をしてきた。しかも発声器官がないため念話で。むだに星晶獣っぽいことしやがって。水槽に入った星晶獣なんてもう(笑)だよ。星晶獣ならぬ水槽獣ってか、馬鹿野郎。お前ティアマトと同類だ。ちくしょう、いいじゃねえかどうでも。水なんてみんな一緒だよ。

 

〈我は敏感肌だ〉

「3枚におろすぞてめー」

 

 もう自分で調整しろよ水出せんだろお前。

 案の定リヴァイアサンは、ばあさん依頼での俺の監視兼修行要員であった。「これで三属性の攻撃への特訓ができるよ」とばあさんは満足げだが勘弁してほしい。ティアマトとコロッサスに加えリヴァイアサンの攻撃が入り混じる特訓をする事になるのだから。

 

「(´・ω・`)ダイジョウブ?」

 

 ほんとコロッサスは癒しやで。

 

 ■

 

 四 風の噂は、ろくでもねえ

 

 ■

 

 ザンクティンゼルに噂が流れてきた。月に何度あるかわからない行商の船が立ち寄り商人達から聞いた噂。

 

「なんでも、「ジータとゆかいな仲間たち団」とか言う新興の騎空団がえらい活躍しとるとよ。聞いた話じゃここ出身とか言うじゃねえか」

「名前はともかく、とにかくすげー活躍ぶりなのよ」

「おう、名前はともかくどんな星晶獣にも負けないとさ、名前はともかく」

「仲間も少数だが全員が凄腕。特に団長のジータは、一人であらゆる武器を扱って手のつけられない強さってな。名前はともかく」

 

 名前はともかく。

 ジータの活躍は、空に轟き始めたようだ。知ってるけどな。ティアマト始めリヴァイアサンの暴走まで止めたのだ。当事者から聞いたのだから間違いない。その活躍と同時に俺の命の危機が増えていくが。

 同時に壊滅的な彼女のネーミングセンスも広まりつつあった。きっと彼女は満足げだろうが他の団員のなんとも言えない表情も全空に広まってるだろう。たとえどんな凄腕でも噂される度「あの、ジータとゆかいな仲間たち団の」と頭についてしまうのだから当然だろう。

 

〈あんな酷い名前の団は、我も初めて聞いた〉

 

 湯に浸かるように優雅なリヴァイアサンがしみじみと言う。皆さん、庭の生け簀でくつろぐ星晶獣(笑)が見れるのは家だけですよ。

 そしてただ飯を食らわせる気は俺にはない。ただでさえティアマトの浪費癖が酷いので無理やりこいつら全員には、家事をやらせないと気がすまない。おうおうおう、働かないと無理やり祠にぶち込むからな。

 特に洗濯だ。リヴァイアサンの水流で衣類の汚れを吹き飛ばし、ティアマトの風で脱水、乾燥、コロッサスの熱い篭手でアイロンをする。なんだよ、なんだよこいつら便利すぎ。一家に一体星晶獣かよ。

  とにかくティアマトが嫌がるが菓子を没収するとしぶしぶ働くのでいよいよ子供みたいだ。リヴァイアサンもなんとなく嫌がったが、光属性武器で雷の力を持つナイフを水槽に入れたら言う事を聞いた。コロッサス?二つ返事で手伝ってくれました。おう、他の星晶獣(笑)、コロッサス見習えよ。

 

 ■

 

 五 巨女、再び

 

 ■

 

 麗かな午後。相変わらずばあさんの修行に悲鳴をあげティアマト達の3体の星晶獣から攻撃を受け必死に攻撃をかわしては、反撃してを繰り返すを行っていた時。

 

「おや、次が来たねぇ」

 

 皆が動きを止めた。

 

「コレハ、アイツダナ」

〈ああ、あいつだ〉

「(-ω- )ウン」

 

 どうやら皆この気配を知っているようだった。

 

「オイ、アイツハ、土ノ星晶獣ダ」

 

 まえのばあさんに続いて、ティアマトが珍しくまともなアドバイスをしてきた。驚きである。

 

「ダカラコレヲ使エ」

 

 ティアマト、と言うかニルが口に一振りの剣を差し出してきた。鍔近くの刃に鋭い返しがついた紫の剣。その意匠には、凄い見覚えがあった。

 

「え、これティアマトプレゼンツ?」

 

 ぶっちゃけティアマトの従えるニル達を剣にしたような姿だった。

 

「私ノ加護ヲ与エタカラ私ノ技モ使エル。今マデノニ比ベレバ遥カニ良イ武器ダ。役ニタツダロウ」

 

 ちょっと、ちょっと信じられます?あの、あの惰眠を貪り人の食料を勝手に食い、人の金で勝手に買い物をするあのティアマトがまるで威厳のある星晶獣みたいな事言ってますよ。ちょっとコレは、認識を改める必要があるかもしれない。

 

「相応ノ鍛冶家ニ頼ンダ。ソノ剣ヲ創ルノニカカッタ費用ハ、オ前ノ金カラ引イトイタカラナ」

「ぶっとばすぞてめー」

 

 やはり(笑)だった。

 まってまって、この剣幾らかかかったの?普通のやちょい良いのなら、安くて100か良くてまあ4、5000ルピで買えるよね?

 

「私ノ加護ヲ受ケルニ相応シイ剣デナケレバナラナイ。一カラ創ルヨウニ依頼シタ。シメテ12万ルピダ」

 

 クレイジー。

 

「もうやだ、俺帰るっ!!」

 

 俺の金勝手に使われてまで戦いたくない!やだやだ、俺もうやだ!!

 

「無駄だよ、無駄無駄」

「くそうっ!!食らえババア、怒りのドライブバーストッ!!」

「甘いよ坊主ッ!!」

「ぽへぇっ!?」

 

 逃走経路に立ちふさがるばあさんに我が怒り込めた斬撃を繰り出すがあっけなく躱されてしまい頚動脈辺りをクニッとされ俺の意識が途絶えた。知ってます。この展開、4度目。

 

「――――ッ!!」

「何言ってるか、わからねえ」

 

 コロッサスと同じ反応をしてしまう。

 目が覚めたら目の前にでかい女がいた。フワフワスカートをはいた耳鳴りみたいな声を出す女の星晶獣だった。

 

 ■

 

 六 ユーグユッグユッグ ユッグドラッシル

 

 ■

 

 強い。この女、土の星晶獣ユグドラシル強い。まあ勝ったがね。

 我が家の星晶獣の面子と比べても若い少女の容姿をした彼女だが、俺たちが暮らす島、即ち土を司る力は、尋常ではない。リヴァイアサンの時もそうだが、生き物が無意識に、そしてもっとも必要とする自然の物を司る者達は、強すぎる。まあ勝ったがね。

 大地をうねらせ盛り上がり襲い掛かる土の槍。吹き飛ばされたりしながらも戦うが、このユグドラシル草や木まで操れるときたもんだ。森の木々が俺を囲い襲いだしたのには、大変参った。まあ勝ったがね。

 やってられんので火属性のナイフで焼ききって、がむしゃらに突貫して、武器で焼ききって、突貫して、焼ききって、適当にティアマト剣(仮)を取り出し今必殺のエリアルクラスターで撃破。ボコボコにした。それでも俺の体もボロボロで帰ってからは、エリクシールハーフのお世話になった。まあ、勝ったがね。

 しかも今回俺が家に帰るともうユグドラシル居ました。展開速いね。と言うかなんかマグナ状態より縮んで衣装も大人しくなったユグドラシルが家で菓子食ってんの。ティアマトに薦められた?あいつ居候と言う立場をわからせてやる必要があるな。

 はい、それでこれも恒例のね。事情を聞いてみようのコーナー。

 彼女の場合ちょっと今までと事情が異なる。まあ大凡は、同じのようだが。帝国関係の奴が彼女の普段眠るルーマシー群島でシャレにならない悪戯して目が覚めて寝起き悪くて暴走して丁度いたジータの手で再び眠りにつかされた。けど眠りが浅いのか、今でもちょっと暴走気味でこっちのマグナも影響を受けたそうだ。低血圧かな?

 

「―――……」

 

 彼女は、基本しゃべらない。コロッサスのように奇天烈コミュニケーションも無ければ、ティアマトのように片言でなく、リヴァイアサンのように念話でもない。不快ではない耳鳴りの様な音を鳴らしているだけだが、それでも何故か彼女の意思はわかる。なんだろう、一番星晶獣っぽい。

  そしてえらい申し訳なさそうな表情で落ち込んでいる。暴走気味のまま俺を襲った事を悪く思っているようだ。「ソウ落チ込ムナヨ」とティアマトが彼女の口元にクッキーを運ぶと、申し訳ない顔でポリポリ食べている。まてまて、なにそれ可愛い。ちょっと俺にもやらせて。

 

「これもあげよう」

「―――」

 

 スティック状のチョコ付きビスケットを差し出す。

 

「――――――♪」

「そうかそうか、もっと食うといいぞ」

 

 お気に召したようなのでクッキーやらビスケットやら出す。喜べ俺、コロッサスに続く癒し枠だぞ。やったぞ俺。

 

「オイ、私ト扱イガチガウゾ」

「星晶獣(笑)は、黙っててくれませんかねえ」

「ヨーシ、表出ロ」

 

 本日第2ラウンド開催であった。

 

 ■

 

 七 家を作るなら、星晶獣(笑)のいない癒し系コロッサスとユグドラシルのいる家にしたいのであります。

 

 ■

 

 我が家のゆるキャラ星晶獣(笑)が4体になった。

 いい加減家のキャパシティーどころではない、家の中にティアマトとニル達3匹のチビ達。庭に生け簀にコロッサス。そしてユグドラシル。幾らなんでももう無理だ。だがユグドラシルを家の外に出すわけには行かない(使命感)。ならニル達だけ残してティアマトだけ追い出そうと思った。

 

「フザケンナ」

 

 却下された。

 しかし拡張するにも金がない。なんでないってそりゃもう言うまでもなくティアマトのせいである。枕の5万に始まり生け簀の25万、ティアマト剣(仮)の12万、その他勝手に注文したり盗み食いでの食費などで込々彼女だけで50万以上飛んだ。一人暮らしでほぼほぼ自給自足のキハイゼル村のためにそれなりの貯金があったはずが、どんどん溶ける。こうなるといくら自給自足可能な自然の村でも家を工事する金どころか、しばらく生活も危うい。

 

「――――!」

「お、おい?」

 

 俺の金への執念を感じ取ったのかユグドラシルがなにか決心をしたようで唐突に家を飛び出した。待つんだユグドラシル、癒し枠のお前を外に追い出すわけにはいかないっ!!

 

「ダカラ、対応ガ違ウ!!」

 

 うるさい、(笑)!!

 ユグドラシルを追いかけるとすぐ外で彼女は、なにか唸りを上げて両手を掲げていた。

 

「――――――ッ!!」

 

 彼女が雄たけびを上げるともりもり俺の家が建つ敷地が盛り上がる。するとどう言う事か、俺の家を取り囲むようにして大木が生えてきてグングン育つではないか。しかもそのままその大木は、形を蛇の様な動きで形を変えついにそこには、100%自然素材で出来たメイド・イン・ユグドラシルのログハウスが我が家を咥え込むようにして出来たではないか。

 なんということでしょう。あれほど星晶獣(笑)のせいで狭く住み辛かった我が住まいが匠の手で立派なお家になったではありませんか。

 

「―――♪」

 

 ユグドラシルが少し誇らしげに俺を見る。

 

「星晶の力の使い方、ナイスだね!」

 

 サムズアップ。

 ユグドラシルが来た事で我が家は、予想しなかったリフォームが行われたのだった。

 

 

 




ティアマトの扱いが酷いようですが、ストーリー初期での星晶獣だとティアマトが好きすぎてこんな(笑)になってしまいました。ティアマトファンの皆様ごめんんさい。きっともう手遅れです。

スーパーブリリアントマサムネ三世は、ブリリアント太郎マサムネの予定でしたが、この世界観に「太郎」が遭わないので断念しました。くやしいです。

ユーッグユッグユッグ ユッグドラッシル。大きなカメラのCMに乗って口ずさもう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

光と闇が合わさり

言うまでも無いですが、ギャグなので通常本編でこんなプレイは出来ないです。勿論マグナ達がこんな性格なわけないです。


 ■

 

 一 旅立ちへの予感と必要性

 

 ■

 

 ひょんな事で完成した家の拡張。居住性が抜群なのは言うまでもない。一本の大樹から変形したのにもかかわらず、扉もついてて部屋も区切られ、間取りもバッチリでいつの間にかリヴァイアサンと協力して水道までひかれていた。なにこれステキ。見た目は巨大な大樹なので村人達も騒然とした。星晶獣が我が家に現れた時より驚いている事は、この際無視しよう。

 元の住まいを飲み込むように生まれたユグドラシルハウス。木漏れ日に誘われ小型の大人しい動物と魔物まで我が家の庭に休みに来る。丈夫な枝には、何時の間にかハンモックまであり一番いい場所をティアマトが占領している。案の定このハンモックもティアマトがまた黙って購入したものだ。ふざけろ。

 大した名所も無いこの村で、大樹の家など中々に刺激的だったのか村人も来るわ来るわ、家はキャンプ場じゃねーぞと言いたくなるような事態にもなった。ああ大丈夫、ユグドラシル、怒ってないから。そんな不安そうな顔しなくていい。君は何も悪くない、いい子いい子。

 そんなもんで、村の子供もしょっちゅうこのハウスに来るのである。そしてその子供達とユグドラシルとコロッサスが遊んでいる。木を操り生み出したブランコではしゃぐ子供。コロッサスをアスレチックにして遊ぶ小僧たち。人間と星晶獣、垣根無く触れ合う素晴らしい光景だ。

 なお、ティアマトは子供の相手を嫌ったが、子供の一人が最近弛み出した腹を指摘、更に「デブマトのねーちゃん」と呼ばれた結果怒りの鬼ごっこが開始。だが大樹を縦横無尽に駆け回る子供に遊ばれていた。子供とは言えザンクティンゼル人を舐めてはいけない。リヴァイアサンも特に興味無さそうだったが、キラキラ光る子供の純粋な視線に根負けして自身の生け簀の水流を操作して流れるプールにしてかまっていた。あれで面倒見がいいので同じ(笑)でも、ティアマトよりはマシかもしれない。

 これだけだと実に穏やか(?)で平和(?)な光景だが、俺は大きな問題を抱えていた。そうだ、金がねえ。金が無いのだ。

 ひどいものだ。この一月と数週間を思い起こした時最初に思う事がこんな事とは、あまりにひどい。何時から俺は、金の亡者になったのか。しかしユグドラシルのおかげで我が家のキャパシティー問題は解決したが、根本解決には至っていないのだから仕方ない。

 ティアマトの浪費と増える居候達の生活費。どう考えても俺一人で賄えない。それを原因の一つであるばあさんに相談したが、「そうだねぇ、そうだねぇ」と怪しく笑う。意味を含んだ笑いだったがその意味は、俺には読み取れなかった。

 こうなると俺は、いよいよ最後の手段を取る必要がある。あまり乗り気ではなかったが、たとえ呑気な片田舎でも金はいるのだ。この世界、この空で金を稼ぐ手っ取り早い方法が、かなり大きな賭けでもあるが一つある。

 後々、思えばこの手段を考えた事こそがあのばあさんの狙いだったのだが、この時の俺は、それを微塵も考えていなかった。

 

 ■

 

 二 出たぞ、第三巨女

 

 ■

 

 5度目の威圧感を感じた時。俺は既にあきらめの境地であった。ただし、今回は少し出現場所がずれた。今までは、例の祠を中心に碧空の門付近であったが今回は、碧空の廻廊。場所の特徴としては、今までの碧空の門のように数少ない外界へと通じる場所の一つ。そこら辺からプレッシャーを感じて仕方ない。

 

「お次は何だ?」

 

 カッコつけたはいいが、正直辞めたい。

 

「光ノ気配ガアル。持ッテ行クナラ闇属性武器ニシロ」

〈たぶんあいつだからな、我の時みたいにビショップで行け〉

 

 なんだこの協力的星晶獣(笑)コンビ。一緒に来て手伝うとか言わないあたりは相変わらずであるがまあいいだろう、慣れたよあはは。

 しかしふと思う。俺はティアマトに始まり今の所ユグドラシルと戦ったが、その戦闘の余波は凄まじいものだった。今まで何にも思わなかったがいつこのザンクティンゼルが吹き飛んでもおかしくなかった。ねーねーなんでこの島無事なん?

 

 〈我等とてこの島が無くなると困る。戦う時は、可能な限り星晶の力で自身の戦いの場を展開しているからこの村等には、被害は無いはずだ〉

 

 リヴァイアサンが疑問に答えた。こいつの水召喚とかも似た物だろう。そらこいつらぐらい(一応)高等な星晶獣となれば、優位な地理を生み出したり召喚できても不思議ではない。

 さて、現実逃避もほどほどに俺はビショップ装備に着替え覚悟を決め死地へと赴きだす。

 

「などと思ったか馬鹿野郎!!」

 

 煙幕だけではティアマトに無力化される事を知り、煙幕をぶちまけた後に今度はあらかじめ用意した脱出用地下通路へと潜り込み逃走を図る。な、なんて天才的発想。奴らの目を盗み作り上げたこの地下通路をネズミの様に逃げる俺を捕えられると思うなよ。

 

「――――♪」

「Oh……」

 

 楽しそうな笑顔のユグドラシルが目の前に現れた。はっはーん、土の星晶獣がいる以上この方法まるで無駄でしたね?うん、あとこれ別に鬼ごっこでもかくれんぼでも無くてね、俺が逃げたいだけであって遊んでるわけじゃなくて。

 

「無駄口叩いてないで行きな」

 

 地表から突きこまれたばあさんの手刀が地下の俺の身体を正確につかみ取りそのまま芋でも引き抜くように俺を引っこ抜いた。同時にその衝撃で俺の意識がとぶ。

 そして次に意識が回復した時。

 

「Wooooooooooouuumuu!!」

「目がいてえ」

 

 やたら光り輝く巨大な女がそこにいた。

 

 ■

 

 三 くっ殺せ!

 

 ■

 

 女騎士と言うものに勝ったら妙な高揚感と満足感を得られると聞いた事があるが、そんなものはまるで無く俺の身にあるのは、疲労感のみであった。

 巨大な4腕の女騎士、光の星晶獣シュヴァリエ。彼女は、その四つの腕に剣、斧、槍、レイピアを握り殺意が高い。彼女との闘いに関して言うなら、もうただ只管めんどくさかった。何がって固い固い。その上羽虫みたいに飛び回るビットがうっとおしい。逐一攻撃の殆ど、全属性をカットしてくるバリアみたいなのを展開するのでディスペルをかけては殴りを繰り返し、ついでにビットを叩き堕とす事を繰り返す。何度バリア張ってもディスペられるので痺れを切らしたのかシュヴァリエ怒りの天からいっぱい光の剣攻撃を食らった時は、結構ヤバかったが俺もいい加減疲れていたので振ってきた剣の何本かを闇属性の杖で叩き返してやった。むこうも意外だったらしく叩き返した四つの光の剣が彼女の得物をはじき落とした。それに焦りを見せたのでもう後は、ボコボコにするだけである。なめんな。

 例によってちょい暴走気味なシュヴァリエであったが、負けてしまえば冷静になったのかその場でへたり込む。後ろでなんかくっついてた城の残骸も消えてやっと視界にやさしい。

 すると自身の眼下にいる俺に気が付き彼女が発した最初の言葉。

 

「くっ殺せ!!」

 

 なんなんこれ?

 結局殺すも何も俺の要望としては、祠に大人しく帰って欲しいので「いいから帰れ」と言ったのだ「アルビオンでは強すぎる力を抑えるために分けたアストラル体とは言え、マグナ形態で負けては、私に何が出来ようか……くっ殺せっ!!」「おのれ、ゲスな視線を向けるとは……くっ殺せっ!!」とばかり。始めてまともに言葉を話す星晶獣と出会いましたが話す内容は、わけがわからずこれは(笑)の気配が濃厚になってきて俺は、早々に絶望し始めた。

 

「殺さねーから帰れよもう!」

「そう言って、あれだ……私が油断した隙に好きにするんだろう!!」

「しねーよサイズ差考えろ!!」

「じゃあこれでどうだっ!?」

 

 そう言うとシュヴァリエは、一気にサイズダウンし俺より少し背が高い程度の大きさになった。

 

「これでどうだ、じゃねーよ!?なんでお前から縮んでんだよ阿保かっ!?」

「はっ!?おのれ、私とした事が、ゲスの話術に騙されこの様な失態を……っ!!」

 

 確かに失態だわ、大失態だ。これ以上ない自滅だが。

 

「負けた上にこの様な姿にされ……おのれ、もう既に私に抵抗の手段は無い、くっ!殺せっ!!」

 

 帰れっ!!

 

 ■

 

 四 星晶騎士シュヴァリエ あなたって本当に最低のオリ主だわっ

 

 ■

 

 帰れと言っても帰らないシュヴァリエは、俺が家に帰るまでずっと「くっころ!くっころ!」と鳴き声みたいに騒いでいた。

 光を司り騎士の心を体現した星晶獣シュヴァリエは、城砦都市アルビオンの領主を主としてその主に仕える星晶獣。だが近年不穏な動きを見せる帝国。士官学校として有名なアルビオンからは、多くも帝国へ兵を輩出している故に現在微妙な関係であったが、案の定帝国のあんぽんたんがやらかしてしまい、アルビオンのシュヴァリエが激おこになり、そして利用された。これまた案の定アルビオンピンチな時に現れたのは、最近話題のいかした奴ら、ジータとゆかいな仲間たち団である。

 帝国の兵器アドウェルサを動かすために利用されたシュヴァリエを物理で解決。活躍を聞くにジータは相変わらず元気そうだった。

 

「必要な事は話したはずだ。早く私を解放しろっ!!」

 

 これなんなん?

 どうせまたジータ関連と思い話を聞こうとしたら「私は何もはかんぞ!」「た、たとえ体を弄ばれようと……っ!」と訳が分からない。そういいながら自分からペラペラしゃべるから尚更訳が分からない。別に拘束もしてないのに開放も何もあるか、帰れよはやく。こいつ何時もこんなのなの?

 

 〈知らん、我らは常に互いを認識はしているが、基本不干渉だ。そもそもこんなに話をしたりなど本来星晶獣はせん〉

「今コノ環境ガ異常ナノダ」

「(-ω-。)ヨクシラナイ」

「―――?」

 

 リヴァティア(笑)コンビがそういうが、その異常環境を作り上げた原因の筆頭達が言ってもなあ。あと(笑)コンビが(笑)トリオになりそうであるが。コロユグ癒し組の反応も似たようなものだ。

 

「おのれ、情報だけでは飽き足らず私の体が目当てだと言うのか……」

「ねえ、なんで君鎧がだんだん剥げてんの?」

 

 さっきから気になったのだがシュヴァリエの鎧がだんだん剝がれている。確かに戦いのせいで鎧にヒビは入っていたが、ここまで簡単に剥がれる程酷い損傷じゃなかったはずだ。

 

「く……っ!やはり私の体が目当てなのか。ああ、やめろ!鎧を脱がすのをやめろっ!」

「待って待って、あんたさっきから自分で鎧剥がしてない?ねえ、いままた自分で剥がし……おい、おい!やめろぉ!!」

 

 わかった。なんとなく予想してたけどやっぱりこいつ変態だ。(笑)どころじゃない、星晶獣(変態)だ。

 良かったな(笑)コンビ、仲間は増えないようだぞ。残念だったな俺、自体はより深刻だぞ。

 

「すでにオークを数十体も用意して準備万端なんだろう、この屑めっ!!」

 

 なんでオーク?いねーよ、こんな片田舎の島に。

 

「ふんっ!さあ、好きにするがいい!だが勘違いするな、例えどれ程の責め苦を受けようとわが心は、私だけのもの。貴様になど屈する事はありえん!!」

 

 ところで俺は、こいつと激戦を繰り広げいい加減休みたいのだ。それなのにこんな疲れる話題と会話を続けられて俺も我慢の限界である。キレちまったよ、もう日常的で久々ではないが。

 

「おめーいい加減大人しくしろや。今すぐ祠に帰るか、ここにいるつもりなら即口を閉じて豚みてーに鼻で必要最低限の呼吸だけでして黙ってな」

「……ぶ、た?」

 

 ピタリと、シュヴァリエの動きが止まりとたんに息が荒くなった。

 

「この私に、栄光の騎士とまで言われた星晶獣である私に対して、雌豚などと……」

「雌とは言っとらん」

「……良い」

 

 あ、凄まじく嫌な予感しかない。

 

「本来アルビオン領主しか主と認めぬが……だが今この私は、アルビオンより離れたマグナの力を宿しアストラル体。別に、ちょっと、性癖に正直になっても……」

「おい、やめろ、何考えてるか知らんがやめろ」

「な、なあ……ちょっともう一回、私の事雌豚って呼んでみないか」

「だから言ってねえ!!」

 

 ちょっと誰か、この際ティアマトでもいいから助けて、誰かあっ!!

 

「無理ダ」

「(;ω;`)ゴメンネ」

「諦めろ」

「――――……」

 

 ちくしょう!!

 

「一回、もう一回だけでいいから!!頼む主様!!雌豚と呼んでくれ!!」

「悪化してるじゃねーか!」

 

 誰か男の人呼んでぇーーっ!!

 

 ■

 

 五 星晶獣と

 

 ■

 

 イジメなどと言う言葉も生ぬるい修行の末、最早人の身でありながらジータに追いつかんばかりの強靭になった身体。ナチュラルにジータを人間として扱わないのは仕様だ。あれを純粋な人の強さと認めん。ばあさん、あんたもだ。

 ティアマトのトルネードディザスター、コロッサスのイグニスリリース、リヴァイアサンのグランドフォール、ユグドラシルのアクシス・ムンディ。そしてシュヴァリエの光の剣。シュヴァリエだけマグナ形態なのが非常に文句があるのだが、見た目はそのままに省エネモードなので文句言うなとの事。そしてシュヴァリエは、修行終わる度に「くっ殺せ!」を言うのをそろそろやめるべき。

 とにかくこの星晶連合に俺単体で挑み勝ち越してるのである。そろそろ星晶獣キラーを名乗っても良いのではなかろうか。

 だが一つ、非常に気になる事がある。

 ばあさんが修行をティアマト達に任せ居なくなる事が増えた。何をしているのかは、ティアマト達には話したらしいが俺には秘密のまま。のけものは酷いと思います。

 ともかくばあさん一人が動いている事態が非常に気になる上に不安だ。何しているかわかったもんじゃない。以前ならこの隙に逃げだしたものの、今ではシュヴァリエ加え星晶獣が5体。逃げ切れるわけがない。結局俺は、大きな動きがあるまで日々ティアマト達のイジメを受けるのだ。助けて。

 マイホーム改めユグユグハウス。大樹の我が家でも俺の戦いは続く。相変わらずだらけるティアマトのケツを蹴り上げ彼女に割り振られた家事当番をさせる。食うだけ食って寝る生活なんてお母さん許しませんよ。

 リヴァイアサンは、別に完全水棲じゃないが見た目蛇なので洗濯以外では、特にやる事が無いのだが、それでも十分役にたつ。ユグユグハウスは、リヴァイアサンの生け簀と一部連結したので、やつも室内に入る事が出来るので室内での水を使う掃除もある程度出来る。

 だがティアマトが勝手に買った女物の衣装が多量に溜まりだしたのでそれの洗濯をさせた時、一度水流の加減を間違えたため服の幾つかが破れティアマトが怒り狂った時があった。その後は、一応は謝罪したリヴァイアサンに対し怒り続けるティアマト、それにキレたリヴァイアサン。どっちが悪いだの子供の喧嘩の様相を呈してきてついには、風と水の星晶獣が一着の衣類を原因によりによってマグナ形態でガチ喧嘩し始めた。たぶんかつてあったと言う覇空戦争含め類を見ない最低な理由の星晶獣同士の戦いでは無いだろうか。

 コロッサスとユグドラシルは、大変すばらしい花丸優等生。ユグドラシルの手で我が家は、コロッサスすら入れる星晶獣バリアフリーハウスだ。住む以上自分にできる事はするとコロッサスは進んで掃除洗濯家事手伝いを全てこなす。これ本当にドラフの怨念と共に作り上げられたの?ユグドラシルが外で箒を掃いてる姿は、もうご近所ではおなじみだ。嫁に欲しい。

 シュヴァリエは、現在教育中である。だが戦闘時とくっ殺状態以外では、案外常識人だったので幸いにもそう手間はかからなかった。それでも腕が四つあるクセに不器用すぎて今のままでは使えん。「だって、剣や槍以外持った事ないもの」じゃない。今てめーが手に持つべきなのは、箒と塵取りと雑巾にバケツなんだよ。掃除しろおら。

 

「私のケツは蹴らないのかっ!?」

 

 やだよお前何時も鎧じゃん、痛いもん。これは、ティアマト用の蹴りです。ティアマト、煩い。

 

 ■

 

 六 ゴシック巨女

 

 ■

 

 まただよ。

 はいはい、星晶獣星晶獣。相変わらず修行中に急に来るんだね。出現場所は、シュヴァリエとほぼ同じとみた。今の俺は、島一つぐらいの範囲なら星晶獣の気配でその位置を誤差5~10mで当てられる自信がある。すごいだろ、別に要らなかったよ、こんな能力。

 

「と言う事は、アイツか……主様、私の力を使うとよい」

 

 シュヴァリエは、くっ殺ばかり言うくせにもう俺を主認定である。言葉にはまるで敬意は無いが、なんだこの妙なポジションは。それはともかく、シュヴァリエが一振りの剣を俺に渡す。

 

「私のコアの欠片を埋め込んだものだ。光の属性が付与されたのと私の力の一部が使えるから役に立つだろう」

 

 確かにこのシュバリエ剣(仮)からは、非常に聖なる力を感じる。感じるがこのパターンは、非常に嫌なパターンなのを俺は知っている。おう、金はどうした?いくら使った。

 

「……?なぜ金が必要なのだ?既にそれなりの武器がそろっていただろう。その内の一振りにコアを埋め込んだだけだから金など使ってないぞ」

 

 今明かされる衝撃の真実ゥ。

 おうおう、ティアマトこっち向けや。おら、逃げんなコラ!おいコラまていっ!!

 

「ダッテ、私好ミノ武器ガ無カッタンダッ!」

「だったらてめー自分で金稼いで依頼しろや、おらぁ!!」

 

 そんな理由で俺の12万ルピが溶けたのか。あんまりすぎる。

 こんな気持ちじゃ俺、……星晶獣と戦いたくなくなっちまうよ……。いや、前からそうだわ。なんで俺使命にかられだしたの?別に俺に星晶獣と戦いさらには、面倒を見るような使命も義務も無かったわ。

 そして考えてみると今ここには、あのばあさんが居ない。確かに少し前まで星晶獣達に囲まれていたせいで脱出も絶望的であったが、今までの例を考えると俺への止めはいつもばあさんだった。いけるかもしれない。いや、いける。

 やれるやれる、頑張れ俺。

 

「うおおぉぉーーー!!くらえ、無駄に鍛えられた結果身に着けた逃走用スキルコンボをぉーーーっ!!」

 

 全員にソウルピルファー、ディレイ、グラビティ、クイックダウン、ブラインドを瞬時にぶち込んでその上煙幕を放ち閃光玉も破裂させ俺は逃げた。デバフ効果の手応えはあったのでもしかしたら今日は、いけるかもしれない。

 

「私が居なければ、逃げれるなんて……それは、甘いよねぇ」

「なん……だと……」

 

 いつの間にか、俺の目の前にはばあさんがいた。いつ帰ってきたのか。いつ近づいたのか。そんな事を思った瞬間に俺の意識は刈り取られた。

 

「FoooooUumu……」

「でか……え、デカァッ!?」

 

 目を覚ますと、そこには無数の船の残骸に結ばれるようにしてそびえる今までのマグナ達以上に物理的威圧感が凄まじい女がいた。

 

 ■

 

 七 日光嫌いセレストさん

 

 ■

 

 マジふざけんなよ、この野郎。

 船の墓場に立つ巨大な闇の星晶獣セレスト。こいつ通常の攻撃はともかく、やる事がえげつない。なんか戦ってたらいきなり俺に再生効果を付与してきて困惑したら、直後俺をアンデッドにしやがった。いわゆるアンデッド状態と呼ばれるのだが名の通り死を奪われた状態、そのせいか原理は知らんが『回復すればするほど死ぬ』と言う訳が分からない状態になった。言葉が矛盾していて無茶苦茶だが、そうなので仕方ない。そのうえ俺を腐らせやがった。シャレや冗談じゃなくマジで〔腐敗〕させてきた。どう足掻いてもダメージを食らい死ぬに死ねない状態なのに弱ると言うどうしようもない状態が続くため下手すると詰んだ状態になる。

 だがセレスト、相手が悪かったな。

 日々星晶獣とばあさん達の相手をしていた俺が、そんなねちっこい手段でやられると思うなよ。別にディスペってもいいが、俺が死すら超えた死に行きつき貴様に食われる前にボコボコにすればなんの問題も無いのだ。物理万歳。体格差?殴れるならそんなものは意味をなさん。

 船の残骸も奥義で粉砕しセレスト本体をボコボコにしたらセレストの生み出したらしい辛気臭いフィールドが消え、そこには縮んだゴスロリ女がタンコブつけてぶっ倒れていた。もう慣れましたよ、このパターン。後どんだけつづくん?

 どうせ放っておいてもばあさん辺りが回収していつの間にか家にいるのは、火を見るよりも明らか。仕方ないので肩に背負って連れて行く。

 家に行くまでに気が付いたのかうめき声がやたら聞こえてきて、ああ喋れる系星晶獣かと思ったが「熱い……日差し、きつい」とか「つらい、死ぬ……死なないけど」とか聞こえてくる。なんか残念そうな気配がする。

 家ついてまず床にジュースを零しニル達の仕業にさせようとした上に、証拠を隠滅しようとしているティアマトのケツを蹴りあげ掃除させた後は、お待ちかねてもない質問タイム。ねーねー教えてセレストさん。あんたは、どういう状況でジータに殴られたん?

 

「彼女が関わってるのは……わかってる、のか……」

 

 そらもうね、確認取るまでも無いもん。絶対ジータなんかしたよ。

 

 セレストは、移動する星晶獣。どこかの島に居続けるわけでなくただ只管空を移動する。その先で出会う、相手からすれば〔出遭って〕しまっただが……とにかくセレストは、出会う者達の〔死〕を奪う。それが何故かと言われてもそれはそう言うものなのだろう。彼女は闇の星晶獣、闇と死を司る。そう言う星晶獣なのだ。そしてここ百年ちょいある島にひっついて島全域の住民をまとめてアンデッドや幽霊にしてしまったようだ。理由は「なんか、呼ばれたし……」との事。結果万年霧に包まれたその島は、より濃く暗い瘴気に包まれた。それにどうやらジータが巻き込まれたらしい。

 始めは迷い込んだ迷子の騎空団程度の認識で、そんなものは今までもいたのでまた死を奪い食うか眷属にでもしようか考えていたらまさかの反撃にあい倒されたらしい。何度か自身の死まで奪い復活したが、結局敵わず復活しても倒されるだけなので逃げたとの事。

 

「あの島は、霧が濃くて良かった……薄暗い場所が良い……」

 

 真っ黒のゴスロリ衣装に身を包むセレスト省エネ。クソ熱そうな恰好のクセに暑いのは苦手。直射日光なんて冗談じゃないとさ。適当にじめっとしてて日の少なそうな島に極力留まりなんなら動きたくないのだが、星晶獣としての本能がそれを許さず、偶然とは言え呼ばれてそれを利用して島にいる事が出来たのに追い出されたと不服そうだ。

 ただ島にいた方のセレストと、この元マグナのセレスト省エネは、同一でありかつ別個体なのであくまで意識を共有した上での意見である。

 

「ユグドラシル……ここ、地下に部屋作れる?」

「―――」

「じゃあ……お願い、キノコ生えそうな……湿り具合で」

 

 おいおい、まてまて。なに唐突に我が家へ移住する話を家主抜きに進めてるわけ?

 

「……だめですか、そうですか……」

「ウワ、コイツ星晶獣トハ言エ、女ヲ泣カセタゾ」

〈最低だな〉

「はい、黙れ(笑)コンビども」

 

 わかったよ、わかってますよ。どうせ俺が断ってもばあさんがまた勝手に話進めるもんよ。無駄無駄、所詮俺の抵抗など無駄なのだ。

 

「住むのはいいとして、掃除洗濯家事手伝いはやってもらう。それと勝手な買い物をしようものなら、てめーがいかに死を奪えようが、復活するたびボコボコにするからなてめー」

「ひぃ……この人間怖い」

 

 うるせいやい。こちとら死活問題なんだ。祠にぶち込まないだけいいと思え。

 

 ■

 

 八 (笑)と癒し

 

 ■

 

 俺は気が付いた。

 我が家に来る星晶獣達。(笑)と癒し系にかかわらず総じてゆるキャラ化しているが、それにある法則があった。

 初めに俺が戦い家に住み着いた居候星晶獣はティアマト、これは(笑)となった。そしてその次、コロッサス。こちらは、見た目に反して実に優等生で癒し枠だった。そしてその次、リヴァイアサンは、今では生け簀の主となり(笑)だ。その次のユグドラシルは、言うまでもない。シュヴァリエも普段はともかく、くっ殺モードがひど過ぎて(笑)と言うか変態だ。変態で大変だ。

 おわかりいただけただろうか?つまり(笑)と癒し枠が交互に来てるのだ。

 

「お、お茶……淹れたから……」

 

 もうね、ちょっとほんと……このセレスト、やばい。

 

「明日……シュヴァリエと私で交互の光闇属性特訓だから……準備、しとくね」

 

 ハッキリ言って体力が無いセレスト省エネが、甲斐甲斐しく家事をする姿を見た時俺は衝撃を受けた。俺から言ったとは言え、なんか申し訳ない気持ちが溢れてきて、やれる事だけでいいと言ったらなんて言ったと思う?

 

「そ、それでも……住まわせてくれたし、やるから……」

 

 ティアマト、お前はセレストの爪の垢を煎じるどころか直で食わす。

 

「き、汚いよ……」

 

 うんうん、例えだから。先人の言葉の例えだからあんしんして。

 そしてね、また別の日なんだけどもうね、もう見て……うちの癒し達見て。

 

「(*´ω`)クッキーハネ コウヤクノ」

「なるほど……」

「―――♪」

 

 コロッサスとユグドラシルが、セレストにクッキーの焼き方教えてんの。直後ソファーでヘソ出して寝てるティアマト見て直ぐに焼けていくクッキーを見ているセレスト達を見て俺は泣いた。色んな感情が押し寄せた。

 なにが闇と死の星晶獣じゃぁい!!うちの子です、もうセレストも家の子だから!!祠になんか帰すか!!

 

「今日ノ飯ハナンダ?」

 

 おま、お前はほんと……この、この野郎!!

 

「ワアッ!?ナンダ、ウワヤメ、ウワアア~~ッ!!?」

 

 

 ■

 

 九 ----

 

 ■

 

 老婆はある島にいた。

 あの孤立した孤島ザンクティンゼルをどのようにして出たのか、それは老婆だけが知る。

 

「それじゃあ、予定通り納品はこの日で頼むよ」

「はい~了解しました~」

 

 人が多く集まる食堂で、老婆は一人の少女と話をしていた。互いに書類を確認し満足そうにしている。

 

「それで~?例の方は、どのような具合ですか~」

「いい塩梅だよ。流石にジータちゃんと比べるのは気の毒かもだけどね。それでもいつ空に出てもいい。今のあの子なら、古戦場でも相当なものになるよ、ふっふっふ……」

「それはそれは~素晴らしい御弟子さんですね~」

「ただもう二つ、あの子にはやってもらう戦いがある。それが終わればもう準備は終わりさ」

「うふふ~ジータさんのように誠実で頼もしい騎空士さんが増えてくださるなら、私の方も助かるので嬉しい限りですね~」

「あの子が村を出たら、世話してやっておくれ。空の事なんてこれっぽちも知らないんだから」

「勿論ですとも~」

「それじゃあこの事、よろしく頼むよよろず屋さん」

「はい~今後とも、御贔屓に~」

 

 老婆がこの島で交わした話を、勿論彼は知らない。まして、その内容が自分の知らぬ所で進められる自分の人生にかかわる商談である事など本当に知らない。

 幼馴染の死と復活と旅立ち。星晶獣との闘いとそれによる心労。彼の人生とは、常に唐突なのだ。

 

 

 




主人公が名前を呼ばれてないですが、深い意味はないです

追伸
ジータはオリ主の強さ以上です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

GO

一応はおわりの物語


 ■

 

 一 今は昔、気苦労の少年と言う者ありけり

 

 ■

 

 ばあさんに呼ばれた。

 修行の後疲れ切った俺に話をしないかと誘われた。ばあさんの実に優しい老婆らしい笑みをむしろ不気味に思いながらもばあさんの家に付いて行く。

 

「あんたの修業を始めて、もう二月は経つかねぇ」

 

 そうですね。しみじみとあっという間みたいに言いますけどな、この二月俺は地獄よりもつらい思いをしてるのだがそこの所どうですか。

 

「あんたは、私の想像以上だったよ。年甲斐も無く若い頃思い出してしまうねぇ……あの人達との旅は、楽しかった」

 

 無視しないでくだせえ。

 

「……ジータちゃんは、心配かい?」

 

 ……ふむ。どうやら真面目な話らしい。

 

「そら、心配っすよ」

 

 ジータの無茶は、居なくても不安にさせる。なまじ我が家の星晶獣戦隊から聞いた話もあるものだから余計に。主にビィと周りの人達が。

 

「そう言って、真っ先に原因のジータちゃんを案じるのだから、誤魔化せないねえ、あんたも」

 

 うるせいやい。どんな化け物じみた強さの少女でも俺の幼馴染で妹みたいな娘なのだ。心配するなと言うのが無理な話なんだ。元から強かった彼女でも、一度命を落としている。ルリアがいたから助かったが場合によっては、それが最後の別れだったかもしれない。だとすれば、俺はあの幼馴染の死に目に会う事が無かったのだ。こんな理不尽があるか。結果オーライとは言え帝国に対しての不満や、死を恐れなさすぎるジータへの不安は今でもあるのだ。

 

「二人はいつも一緒だったねぇ……あの子が村に来て、丁度近所であの子の面倒を見れる歳近い子は、あんただけだったから」

「あの時から危なっかしい娘っすから。一人手作りの木刀で魔物討伐に行った時は、しっかり監視してなかった自分を恨みました」

 

 ビィが泣きながら俺にその事を教えに来た時、マジでジータが死ぬと不安になり大人達の制止を振り切り手斧片手に森に助けに行った。だが魔物の巣につくと4、5匹の魔物を既に余裕で狩って「お兄ちゃん、これ食べよう!!」と明るい笑顔で言ってきた。あまりの事に俺は、一度ぶっ倒れて目を覚ました後しこたまジータを説教した。あの日ばかりは、泣いても許さんかった。魔物?美味しかったよ。

 以来どこに行くにも俺とビィが居なければ一人で森に行く事は禁じた。

 

「それでもあの子は良い子だからねえ。ティアマト達の話を聞くにいい仲間に恵まれてるよ」

「でしょうね。あれで人を惹きつけますから」

 

 ナチュラル・ボーン・人たらしとは、彼女の事だ。

 

「……羨ましいかい?」

 

 はぁん?何を言うやらおばあさん。俺が何をうらやましいと言うのか。馬鹿言っちゃいけない。そんな要素ありましたかねえ?

 

「表情に出てるよ。自分も空に行きたいってねぇ……ふぇっふぇっふぇ」

「まさかまさか」

「自分も空に行きたい。あとどうせなら、騎空団を作って生活に困らないお金を稼いで平穏を手に入れたいってねえ」

 

 俺の表情筋素直過ぎません?

 

「……もしかして、我が家の財政事情圧迫原因のティアマトにまったく注意をしないのって」

「さてさて……あれは、勝手にティアマトがしてる事だからねえ」

 

 利害の一致ですか?くそう、くそう。

 結局具体的な何かを言われる事無く俺は、家に帰った。だがジータの事、ばあさんの言いたい事はわかる。そして、俺もそれは自覚していた。

 俺が家に帰る前にばあさんは言った。

 

「あんた達は、よく話したねえ……「どっちが先に、イスタルシアに行けるか」って」

 

 忘れるわけの無い、それは二人の約束だった。

 なお、これで終わればちょっといい話なのだが、ただ本当に珍しい事に、明日は一日だけ休みを取るからよく体を休ませておけ、との言葉が気になる。嫌な予感がまんまんだ。

 

 ■

 

 二 褐色と黒銀

 

 ■

 

 休みを挟んで修行日、ばあさんがいつもより早く家に現れた。そして開口一番。「残り二回、あんたは戦ってもらうよ」だと。

 わーお、この地獄が後二回で終わるって?そいつぁハッピーだねえ……とでも言うと思う?その二回ってなによ、何が来るのさ。

 

「そろそろいい具合にバランスが崩れ出したからね。もう現れるだろうさ。ジータちゃんもやんちゃしてるみたいだし、思ったより早かったよ」

 

 話を勧めないでくれ。嫌な言葉がさっきからバンバン出てる。

 ばあさんに詰め寄ろうかと思った時、我が家の扉をノックする者が現れた。ユグドラシルが耳鳴り音で返事をしながら扉を開けると、そこには見慣れぬ褐色肌の少女が一人立っていた。誰やあんた。

 

「貴様が例の男か……」

「おや、もう来たのかい?」

「今日は様子見だ。結果がどうあれ、一度顔を見ておきたかった」

「そうかい、そうかい。なら今日は、アレとかねぇ」

「そうなるな」

 

 少女はドカドカと我が物顔で家に入り俺の目の前に。だから誰や。

 

「……なるほど、顔も雰囲気も普通の至って平凡な男だ」

 

 喧嘩売ってんの?

 ティアマト笑ってんじゃねーぞ。

 

「だが確かに強い。星晶獣を人の力のみで下すその力、危険だな」

 

 少女よ、何を思っての発言か知らんが、俺はこんな力別に欲しいなんて言ってないのだよ。

 

「しかし聞いた通りの人物でその点は、安心したよ。星晶獣を従えし男よ、また直ぐに会う事となる。今日を生き延びればだがな。さらばだ」

 

 へいへいへい、言うだけ言って帰んな。君ばあさんとどう言う関係?これは既に俺がいない時に話がまとまっていた案件ですぞ。どゆことー。

 

「さあ、坊主。既に賽は投げられた。試練は二つ、まず一つを打ち破り空への道を開きな」

 

 何それ、俺は選ばれし勇者かな?違いますね。いよいよヤバイ。これは今まで以上にヤバイ。さらに言うなら、少女が現れた時点で彼女から発せられる覇気が凄まじいのと同時に別の場所から今までと比べ物にならない気配が発せられた。

 これは流石にヤバイ。語彙力が死滅するぐらいヤバイ。ヤバイしか言えない。

 

「なんだい、そんなに震えて武者震いかい」

 

 ビビってんだよ。

 

「安心しなよ。流石に今回ばかりは、一人ではいかせられない」

「は?」

「ティアマト達を連れて行きな。マグナ形態全員でやるんだよ」

 

 勝ったな(確信)。

 おいおい、いいのそれ?それちょっとヌルゲー過ぎると思うけど、それOKなん?なんぼ我が家で(笑)認定受けたゆるキャラ達でもマグナになると鬼の様に強いのに?

 

「ああ、かまわないよ」

「事前ニ話ハ聞イテイル。私達モ準備ハ出来テイル」

「(p`・ω・´q)ガンバル!!」

 〈前衛には、シュヴァリエを入れろ〉

「ーーーー!!」

「護りを固くする必要がある」

「私は、後衛で……がんばるから」

 

 頼もしすぎる。こら勝ち確定ですわ。逃げる必要ないね、さあ行くとしよう皆の衆。どんな星晶獣だろうと俺達に倒せないものはない。

 目指すは、この気配の元。碧空の領域!!待ってろ星晶獣!!今の俺には、マグナ6体が付いているのだ!!

 

「UGAAaaaaaaAAAAAAA!!」

「すんません、調子乗ってました」

 

 邂逅、黒銀の翼。

 

 ■

 

 三 ぼくらの火の七日間熱戦・烈戦・超激戦

 

 ■

 

 洒落や冗談でも比喩でも無く、死ぬかと思った。

 七日間だ。現れたドラゴン、黒銀の翼をもつ圧倒的な存在。プロトバハムートとの闘いは、七日間続いた。

 舐めてました。調子乗ってました。マグナ6体いれば楽勝とかありえません。ほんと調子乗ってましたごめんなさい。プロトバハムート(以下プロバハ)が戦闘フィールドを弄って無ければザンクティンゼルどころか世界が吹き飛んだとしてもおかしなかった。

 初日プロバハは、拘束具を装着した状態で開幕一発目からラグナロクフィールドと言う特殊力場を発生。ダメージを食らい続けるので即クリアオール発動で事なきを得る。以降ある程度強い攻撃と特殊技アルカディアで一々こちらにデバフをかけてくる。格の違いなのか野郎の弱体効果が普通にティアマト達に通るので念のためベールかけててよかった。この時点で「おっ?いける?」とか思ったがそんな考えが甘いとわかるのにそう時間はかからなかった。

 二日目に突入。プロバハは、まるで体力が減ってないようなそぶりで嫌になる。攻撃も無茶苦茶でレギンレイブはあらゆる属性攻撃を放つので、凄まじい痛手だ。だがあえてベール状態でセレストのヴォイドウォールを味方全体で食らう事で体力を無理やり回復させるなどで耐える。これが三日目まで続く。

 四日目、ついにプロバハが、手加減無用となる。戦闘開始しばらく着けていた拘束具を外し本気を出して来た。嫌んなる。自分で外せるんじゃ拘束具の意味が無いと思うのだが。なお激しくなるプロバハの攻撃にシュヴァリエのイージスマージが無ければ即死んでいたのは、間違いない。また幸いにマグナ達のほとんどが幻影効果持ちなので、かなり助かった。それでも全体攻撃が多いので常に死と隣り合わせだが。ダメージカットスキルを持っていてよかった。

 五日目から六日目。やっとこさプロバハに疲労の色が見え始めた。こちとらそれ以上の疲労具合だがね。

 基本的な戦法は変わらないのだが、自分達に再生効果をかけてもとにかく食らうダメージの方が多いのでマグナ達の再生効果でも到底間に合わない事態に。俺の回復スキルとマグナ達の防御スキルをフルに活用してやっと耐えれる程度なので必死になる。護りながら殴るを繰り返すしかなくつらい。

 七日目、最終日。前まではあった、俺は何でこんな戦いをしてるのかと言う疑問すら消え、空腹も渇きも最早感じないほどに熾烈を極めた戦いの終わりが見え出し、自分の感覚がどこか不思議な空間へと飛ぶような気持になった。相手の行動が見えるような。今奴はどの程度の体力なのか、弱点は、どんな攻撃か、それがわかるような気がしたのだ。なんとなく、これがジータが戦う時に得ていた感覚なのではないか、そう思えた。

 だからこそ、奴がその喉に怪しくも神々しい光を宿し始める前に、マグナ全員に防御態勢をとらせあらん限りのダメージカットを行えたのだと思う。だがこれでコロッサスとリヴァイアサンが落ちた。死んではいなかったが、最早限界を迎えその姿が消えた。

 いよいよ正念場。コロッサス達が死んでいないのは、ティアマト達の言葉でわかっていた。マグナ大元は、依然として祠なのでたぶん家に帰ったとの事。こんな状況であれだが呑気なものだ。だがとにかくもう後は、殴り続けるしかない。物理攻撃が苦手なセレストまで前衛にいれて戦闘を続行。出し惜しみなしのスキル乱舞。ばあさん達に鍛えられ得たあらゆるスキルを舐めるなよ。

 満身創痍。俺もプロバハもボロボロ。奴もさすがに空を飛ぶのも出来なくなり、互いに大地で相対する。だが最後の最後に奴の喉がまた光る。瞬間残ったマグナ達がダメージカットを発動しかつ自身を盾にした。プロバハの口から放たれる大いなる破局。俺は無事だがティアマト達が消し飛んだ。家に帰ったのだろう。残ったのは、ついに俺とプロバハだけ。

 

〈星晶獣を従え、しかし人の身であり続けながら我を下そうとするか〉

 

 行き絶え絶えになりながらプロバハが念話を送ってきた。

 

「そんなつもりもなかったけど……ちくしょう、疲れる……アイツらが御膳立てしてくれたからな。ちくしょう、この野郎、とりあえず勝つぞ、俺は」

 

 剣を杖にしてやっとの思いで立っている。もうあと少しで終わる。

 

〈勝ったとしてどうする?世界を護る戦いでも無い、貴様になんの得があると言うのか?竜殺しを名乗るか?我より強き竜は、まだいるぞ〉

「知らんわ、んなこた」

 

 もうここまでくると男の子の意地です。今まで嫌々ながら死地に投げ込まれても勝ったのは、負けるのが悔しいからだ。男の子なんだよ、俺は。

 

「意地を通す男の力を知れよトカゲ野郎!!」

〈トカゲでは、ないっ!!〉

 

 プロバハが腕を振り上げ、俺が剣を構える。互いに同時の攻撃は、ぶつかり合ってはじけた。同時に俺の意識が飛ぶ。

 

「見事だ、人の子よ。しばし身体を休めるがいい。最後の試練で待つ」

 

 最後にあの褐色少女の声がした。

 

 ■

 

 四 オイラァッ!!

 

 ■

 

 俺が目を覚ました時、見知った天井で自身の寝室である事はすぐわかった。ああ、あの後誰かに回収されたんだなと思い、その誰かがたぶんあの褐色少女だと言う事は予想できた。かなりボロボロであったので、誰かの看病でも期待したのだが誰もいやしねえ。仕方なくまだ痛む体を引きずるようにして部屋を出るとティアマトが相変わらずソファーでヘソ出して寝てた。

 あきれ返るほどいつも通りだった。

 

「( ゚ ω ゚ ) オキタッ!?」

 

 コロッサスが起きて来た俺に気が付いてキッチンから飛び出して来た。

 

「(;ω;*)ダイジョウブ?」

「――?―――……」

「身体の調子、どう……?」

 

 すると我が家の癒し枠達が一斉に来た。それを見た瞬間俺を蝕んでいた倦怠感が全て吹き飛ぶようだった。だがティアマトのだらけ具合から、俺が寝ていた間の家事は、ほとんどコロッサス達がしていたようだ。これはもう寝てなどいられない。

 

「エリクシール持ってきな!」

 

 その勢いでエリクシール一気飲み。スタミナが溢れあの七日間などなかったような気分だ。

 

「オウ、起キタノカ」

 

 ティアマトが俺に気が付いたが一言そう言ってまた寝た。てめーこの野郎。

 

 〈結構時間がかかったな。三日寝てたぞ〉

「死にはしないとわかっていたが、もどかしかったな」

 

 そしてリヴァイアサンとシュヴァリエ。七日の激闘で死にかけて三日で回復したのか俺。もう俺、普通の人間には戻れないのかな。

 

「まあ、そう悲観するこねぇぜ」

「だけどなぁ……」

「力こそ、パワー。おめえは、オイラを倒すだけの力があった。それは誇っていいことだぜ。」

「そ、そうか?」

「そうさ、力はあって困るものじゃあねぇ……おめえがその力の使い方を間違えねえなら、おめえだけじゃねえ、おめえにとって大事な人や物を護る力になるぜ」

「お前いい事言うな……お前、おま…………」

 

 誰やこいつ。

 

「であええーーー!!曲者、曲者だあああっ!!」

「ウルサイ」

 

 超絶ビビッて錯乱したがティアマトに蹴りを入れられた。普段は俺が蹴るのに。

 

「混乱してるみてえだな。ま、無理もねえか……突然家の住人が増えてんだからよ。だけど、この姿ならそう混乱させる事もねえと思ったけどなあ」

 

 この姿?それはその、なんだ……うわあ、なんだよこれ。まさかと思うけどその姿お前、まさか”ビィ”のつもりか?

 

「おう、あいつがこの村にいる時からよく知ってるからなぁ、参考にさせてもらったぜぇ」

 

 そしてその口振り、今までのパターンを考えるとまさかお前。

 

「そうさ、オイラはプロトバハムート。もっとも、その力の一部……角一本分ぐらいの力しかねえけどよぅ」

 

 うわあ、うわあ。待ってくれ待ってくれ。ちょっと理解が追い付かない。ビィをモデルにしたって?プロバハお前、本気?その姿鏡で見た?

 ビィは基本宙を浮いてるけど、確かに二足歩行できるよ?けどお前、それ完全に二足歩行向きじゃない?脚が完全に円錐なんだけど。あと申し訳程度に浮いてるけどさ。なんか等身とか顔のバランスとかおかしいぞ。喋り方もなんだ、その絶妙なパチもん臭さは。しかも色が黒い。カラーリングが完全にプロバハじゃんか。

 

「ま、あくまで参考にした程度だからな。いわゆる2Pカラーってやつだぜ。本体から切り離される時に、ちょっと別の【特異点るっ!】から影響強く受けちまったみてぇでな」

 

 言っている意味がわからない。なに2Pカラーって?【特異点るっ!】ってなに?

 

「世界に同じモノが存在するのは難しいのさ。おめえのとこに居る星晶獣が(笑)や、或いはゆるキャラになってるのも、完全な同一個体にならねえための修正力ってやつだよ。オイラの場合それがかなり強くなっちまったけど、まあ問題は微々たるもんさ、気にするこたねえぜ」

 

 気にするよ、気にするよ。

 今までの状況からプロトバハムートが家に来るかもしれないのは予想したけど、こんなビィもどきが来るなんて予想できるか?七日間の激闘のシリアスが一気に崩れていく。

 

「なんだよ?もしオイラの実力について不安なら心配ないぜ。角一本程度とは言え、腐ってもプロバハHL相当の角だからな」

 

 ねえ、プロバハHLって何?もしかしてなんかのランク?俺ってもしかてやらなくてもいい難易度でプロバハに挑まされた?ねえ、ちょっとってばねえ!!

 

「だから、おめえを鍛えるのも模擬戦もいくらでもできるぜ……こんな風に、なっ!!」

 

 突然ビィ?が気合を入れると、ビィ?の身体が膨れ上がり一気に筋骨隆々のマッチョマンの変態になった。顔がそのままで。顔がそのままで。

 

「っとーー……いけねえいけねえ、やり過ぎちまうところだったぜ。これがパワー特化、それでいてスピードも兼ね備えてる。戦力としては、申し分ないぜ」

 

 違うんだ。お前が戦力になるとか、ならないとか、そんな事はどうでもいい。なんだこれ、なんだこれ。

 

「ま、これからよろしく頼むぜ相棒。俺もちょいと外の世界ってのを見てみたかったからよ」

 

 なんだこれ。

 

 ■

 

 五 B・ビィ

 

 ■ 

 

 ビィもどき改め、ブラック・ビィ。略してB・ビィ。

 法則的に(笑)枠なのはわかっていたが、シュヴァリエが変態だった時以上の混乱が俺を襲う。そもそも星晶獣なの?なんなのこいつ。

 

「本体が星晶獣だからな、まあ括りとしては星晶獣だぜ。シュヴァリエのビットと似たようなもんさ」

 

 そうですか、そうですか。つまりよくわからん謎生物でいいね。

 

「失礼な奴だな」

 

 お前がビィに失礼だよ。よくそんな姿でビィを名乗れるな。

 

「しょうがねえだろ、あまりにも【特異点るっ!】の闇が強すぎたんだ。オイラがオイラを参考にする以上避けられねえ問題さ。オイラに文句言われてもしかたねえぜ」

 

 だからなんだよ【特異点るっ!】って。

 

「おめえが知る必要ねえ事さ相棒」

 

 あと、相棒になった覚えはない。

 ともかくビィを模してプロバハが創ったB・ビィ。謎の【特異点るっ!】の影響とやらで本物のビィと比べ絶妙に似せて来ているのが腹立たしい。

 

「オリジナルの影響も大きいからよ。オイラの好物は当然リンゴだぜ」

 

 ああ、そうかい。お前にもビィっぽさは、一応あるんだな。

 

「当然だぜ、オイラはビィだからな」

 

 それは認めん。お前にビィの要素があるとしても、お前をビィそのものと認めると何かまずい気がする。色んな方面で……うん?色んな方面ってなんだ?

 

「おっと、あぶねえ。オイラの影響を受けちまってるな。ちっとばかし抑えるか」

 

 ……俺今何を話してたっけ?

 

「別に何でもねえぜ、リンゴの話をしてただけさ」

 

 そうか……そうだったろうか?何かもっと、割と重要な事だった気がするが。

 

「気にするなって、それよりおめえ体力のほうはどうだ?」

 

 誤魔化された様な気がするがまあいいか。

 体力の方は、寝起きのエリクシールでかなり回復した。何時でも奥義を放てるぐらいだ。流石秘薬の効果はすげえや。

 

「そうか、そいつはよかったぜ。次の闘いに調整できるからよ」

 

 ……あいたた、うーんやっぱりまだ本調子じゃないかも?肋骨、肋骨あたりが痛いなあ~?折れたかも、鎖骨とかもぽっきりイッてそう。肺とかやられたかもしれない。ちょっと吐き気もするし、頭痛もするような。

 

「仮病は無駄だぜ、エリクシールに加えて星晶獣の加護で爆発的に体力と傷を戻したからな。たとえ骨が折れててももう接合してる筈だぜ」

 

 おーい、そいつぁ初耳だぞお。

 

「ばあさんは、しばらく用事で来れねえが、その間オイラがおめえの修行を任された。次は最後の試練で更に強敵だからな、すでにティアマト達は修行場にいる。今から死ぬ気でやるぜ」

 

 瞬間B・ビィの体が膨張しまたマッチョのビィ、マチョビィになった。キモイ、キモ過ぎる。やめろお、マチョビィ!俺に触れるなぁ!!

 

「無駄無駄ぁ!!病み上がりでオイラとの戦いに慣れてねえおめえに避ける術はねえ!!」

 

 ぎゃあああああああっ!!

 

 ■

 

 六 我が家=世界の均衡が崩れる可能性

 

 ■

 

 星晶獣戦隊にB・ビィが加わりいよいよ俺の勝ち越し記録が破られそうになる。むしろよく今まで勝ち越していたものだ。

 B・ビィのやつ見た目ビィもどきの癖にその強さときたらプロバハそのもの。何が角一本分だ。こんなの詐欺だ詐欺。野郎ただでさえ普段のB・ビィ形態でも何故か強いくせにマチョビィになると力が増してスピードも上がりやがる。それでもやばいのに「なるほど、耐えしのぐか……ならこいつはどうだあ!!」と吼えると、その姿が細身の人間のようになった。顔はそのままに。

 

「これが、スピード特化のオイラだ」

 

 ほんとお前なんなんだよ。それでもまだビィと言い張るのか?

 スピード特化B・ビィは、手刀にエネルギーを纏わせる斬撃が得意らしく、いつの間にか切り刻まれていることがある。悪夢だ。さらにとんでもない事にB・ビィが言うには、分裂ができると言う。

 

「やろうと思えば自己を分離させてパワー特化とスピード特化の二体で戦えるけど、自己が確立しちまうからな。【特異点るっ!】でないこの世界じゃ冗談じゃすまねえから、使わないでおくぜ」

 

 そうしてくれ。そうなると流石に俺は、状況を受け入れる事が出来ず自身で命を絶つかもしれん。なんと言うか、お前元のプロバハより強くないか?プロバハと違うベクトルで強すぎる。

 そんなこんなで、混迷きわまる修業が続きながらもついに運命の日が来た。

 

「待っていたぞ、人の子よ。はむ」

 

 その日も修行から帰ると、我が家でクッキーを食べているあの褐色の少女がいた。

 

「無礼は承知で上がらせてもらっている。今はいないが、あの老婆に合鍵を貰ったのでね。はむっ」

 

 食うな。

 

「はむむ……この、くっきーと言うのは、美味しいな。初めての感覚だ」

 

 だから食うなって。ハムスターみたいに食うのは、かわいいから、やめろ、かわいいから。その攻撃は、俺にきく。俺の心が揺らぐからやめろ。

 

「むう……まあいい。人の子よ、どうやら準備は整っているようだな。私も安心して戦いに臨めると言うものだ」

「……次は、君とか」

「まさか小さな女と侮りはしないだろう?」

 

 まさかまさかである。少女の持つ力がプロバハと同じかそれ以上と言うのは、聞くまでもなくよくわかる。マグナ六対にプロバハとの戦いを経てなければわからないし、わかっても気絶していたかもしれない。

 

「やだなーやめたいなー……平和万歳、戦争反対」

「すばらしい考えだ。だが君の力、そして君の周りの力はすでに世界の均衡を崩しかねない。私は、使命に従い君と戦わねばならない」

「お断りしたい」

「残念だが無理だ。くっきー、美味しかったよ。明日、会おう……私の使命のため、世界の均衡のため、君の運命を試す」

 

 少女は、凛々しい顔で去って行った。頬にクッキーかすを付けながら。まるでしまらない。

 流石に俺もこうなっては、腹を括るしかない。どうあがいても戦いは避けられないらしい。避けられるような気もするが経験上無駄と悟る。明日に備えてティアマト達も早くに就寝し俺も準備を終え眠りについた。

 

【探さないでください】

 

 なんて思ったか馬鹿め!!寝る前の準備は夜逃げの準備だこの野郎。そうだ、いつも俺は、さあ行くぞ言うタイミングで逃げるからだめだったのだ。用意周到に準備した夜逃げ。わはは、今頃俺の置手紙を見て騒いでいるだろうがもう遅い。慣れ親しんだ森に逃げ込めば、俺一人なら一月、三月は余裕で逃げれるぜ。ぎゃはは、ばーかばーか!!

 

「そんなこったろうと思ったぜ」

 

 うそやん。

 

「おめえが基本せこくてへたれなのは、周知の事実だぜ。大人しく戦いに行く訳がねえよな」

 

 馬鹿な、だとしても何故貴様が、B・ビィ!!

 

「忘れたのか?オイラの本体は、プロトバハムートだぜ。ザンクティンゼルを守護する役目も持つ本体とリンクすりゃあ、おめえの居場所なんて一発よ」

 

 そんな……失敗……うそだ。こんなことが……ありえない。逃げ、逃げる……無理、けど……逃げたいっ。

 

「さあ、現実逃避もそこまでだぜ。マグナとオイラ、そしておめえの力で調停の翼をもいでやろうじゃねえか!!」

 

 は、な、せっ!!

 

「世界の均衡が崩れる可能性が生まれた時、私は顕現する!」

 

 B・ビィに首根っこをつかまれ連れて来られたのは、プロバハとの戦いの跡地。そこには、すでにマグナ形態となったティアマト達。そしてあの褐色の少女が、二体のワイバーンを従えながら、剣と盾を構えていた。

 降臨、調停の翼。

 

 ■

 

 七 あの戦いのGONGを鳴らすのはあなた

 

 ■

 

 少女、調停の翼ジ・オーダー・グランデ。彼女とプロトバハムート、どちらが強いか?ナンセンスな質問だ。この両者は、互いに極端な位置にいる。プロバハは、破壊と再生。ジ・オーダー・グランデは、均衡。どちらが強いというものでは無いのだ。それぞれに、役割と使命がある。それだけなのだ。

 ゆえに、彼女との戦いにプロバハに勝てたから、と言うのは通じない。

 開幕は様子見、ジ・オーダー・グランデの出方を見ながらこちらの守りを固める。当然ベールも展開し何時でもクリアオールも出来る。もっとも、それ以上に護りと体力回復が重要で、結局ダメージカットスキルが凄まじく仕事した。二体のワイバーンを、三体のマグナ達に任せ残りと俺はジ・オーダー・グランデ本体とも言える少女に向かう。

 

「俺の家を勝手に世界のバランスブレイカー認定しないでくれないかねえ!!」

「マグナの力を従え、黒銀の翼を下した君を見過ごす事はできないのだ!!」

「あいつらはただの(笑)と癒しのゆるキャラだよっ!!」

 

 そして、俺はただの一般人だっ!!

 

「それだけは、断じて……無いっ!!」

 

 失礼な女め。

 だがやはりジ・オーダー・グランデ、偉大なる秩序を名乗り語るだけはある。プロバハと比べるのは、やはり意味がない。これは別のベクトルの強さだ。リヴァイアサンをリーダーにセレスト、ティアマト達が一体のワイバーンを足止めしてくれているだけでもだいぶ助かるが強い。ああ、逃げたい逃げたい。

 

〈おい、こちらも長くは持たんぞ〉

「小型だけど……ジ・オーダー・グランデの力の一端……期待してくれるの嬉しいけど、限度はある……っ」

「早メニソッチノ、ケリヲツケロヨッ!!」

 

 言われんでもこっちもまた七日間も飲まず食わずで戦いたくない。今日中に決着をつけるぞ俺は。

 

「おうおう!意気は良しだけどよ、飛ばし過ぎっとバテちまうぜ!!」

 

 B・ビィ(マチョビィ)が残りのワイバーンをボコボコにしながら叫ぶ。ワイバーンもあまり参っていないように見えるが、そもそもマグナ三体で足止めできるワイバーンを一人で割と問題なく足止めしてる件について。化け物が化け物と戦ってやがる。怖いです。

 さて、実際ムキになるとヤバイ。ジ・オーダー・グランデは、ちょいちょい幻影を出してくるので、攻撃が当たらない時がある。冷静に対処しないと、スタミナが切れてしまい不利になってしまう。

 

「一々幻影潰したって意味ねえ!!ユグドラシル、俺達を護れ!!コロッサスは俺ととにかく殴るぞっ!!」

「――――っ!!」

「(*`・ω・)ゞデシ」

「主殿、私は!!」

「シュヴァリエは打ち合わせ通り、やれる限り俺達固めて再生サポートと攻撃!!」

「よし、後でケツを蹴ってくれっ!」

「うるせえっ!!」

「むう……破廉恥、なっ!!」

 

 ほらみろ、敵に呆れられた。

 しかしたぶんコレが一番早いやり方じゃない?

 ……はあ、んなわけないか。とにかく安定した形を作ってそれを続けるのがいいだろう。実際それでジ・オーダー・グランデも後退を始めている。ボッコボコにしてやるぜ。

 

「……なるほど、やはりこの力……強い!!」

 

 いかん、調子に乗ったかもしれん。嫌な予感がする。

 

「いいだろう…来たれ!調停の翼よ!!」

 

 すると一瞬で彼女の姿が消え、代わりにデカい馬のような翼竜が出て来た。本気を出した?違う、こいつは第二段階って感じだ。あとこいつが調停の翼だったのか。こういう時は、様子見しながらベールにダメージカット準備ですぞ!!

 とか言いながらやってるうちに、調停の翼の口が怪しく光って……。

 

「総員対即死ダメージ防御おおおぉぉっ!!」

 

 何かをしないと、即溶ける光景が浮かんだ。ファランクス発動してシュヴァリエもイージスマージを展開。コロッサスがシェルターを張り物理結界でユグドラシルが山のような岩盤を俺達の間に生み出した。

 それでも、それでもなお調停の翼から撃ち出された光線ガンマ・レイが岩盤を焼き切りイージスマージを突破。頼みのファランクスとシェルターでなんとか耐えきったが何つう攻撃だよ。衝撃だけで死ぬかと思ったわ。

 

「これを、耐えるか」

 

 すると姿が見えなかった彼女が再び姿を現す。

 

「ならば、見せよう……均衡を護る翼の真の力っ!!」

 

 少女が飛び上るとそれを追うように調停の翼が飛翔。縦に並んでそのまま一人と一体が近づき、近づ……な、なにぃっ!?

 

「行くぞ!蒼天の映し鏡たる我が剣にて、万象の憂いを断たん!」

 

 が、ががが、合体したあぁーーーーっ!?

 う、ううっ!!ちくしょう、羨ましかねえ!!羨ましくなんかねえ!!けど、ちくしょうカッコいいこの野郎!!

 

「ふっ……そう褒めるな」

 

 うるせえ!!男の子心をくすぐりやがって!!

 

「混沌の体現たる子よ!!今こそ均衡を正すため、貴様を討つ!!」

「俺を大げさな存在にするんじゃ、っねえええええっ!!!」

 

 ぶち抜け成層圏。マグナ達をブッチギリ、俺とジ・オーダー・グランデは、一騎打ちへ。大気渦巻く不思議空間でぶつかり合い、そして眩い閃光と共に終わった。

 

 ■

 

 八 あの娘かわいや大食娘

 

 ■

 

 疲れた、もおーーーーっ!!

 一週間、ジ・オーダー・グランデとの闘いの後ぶっ倒れた俺は、一週間寝ていた。プロバハより多いじゃないか!!筋肉が痛いっ!!ベッドから起きれないっ!!

 

「煩イ」

「ぐわあああああぁぁぁああああっ!?」

 

 と、一週間の眠りから覚めた俺を出迎えたのは、傷まみれの俺の身体にエリクシールをぶちまけるティアマトであった。くっそ染みてクソいてえ。

 

「かい、ふくっ!!」

 

 それでも治ってしまう俺の身体よ……。

 プロバハより多く寝たのは、結局取り切れていなかった疲れの反動だろう。ああ、もうこれで星晶獣とのやらんでいい戦いが終わると言う安心感もあったかもしれない。うーん、開放感。そして空腹感。飯を食うぞ俺は、食うぞ俺は。

 

「ふぁむ?ふぉきふぁか」

 

 俺の胃は、食料を求めていた。空腹だったのだ。胃液が空の胃の中で流れ、より刺激する。食料を、一心不乱の食料を……そう思っていた俺の目に飛び込んで来たのは、大皿何十枚も積み上げ両頬をボールのように膨らましむっちゃむっちゃと飯を食いまくる女がいた。

 

「はむむ……んっぐむんっ!……失礼した、料理がおいしくてな」

 

 と言うか、ジ・オーダー・グランデだった。

 まあ、予想はしてたけどさあ……まあ、家来るだろうなあとは思ったけどね?そもそも前から侵入してたし。けどさあ、このもうゆるい空気よ。今までもそうだけど、激戦からの落差の凄まじみがすごい。

 

「はもむぅ?」

「ガー」

「キー?」

 

 ああ、駄目です。これは、ダメダメ。カワイイ、何これどうしよう、どうすればいいの?ジ・オーダー・グランデだけじゃなくよりサイズダウンしたワイバーンズまで飯食っててうわあああ。くそう、命のやり取りしたのにいつも俺はこうだ。ティアマトはじめ(笑)のストレスがデカすぎてカワイイモノにちょろくなってきてる。

 

「……ほむ?美味いぞ、食べないのか?」

 

 あ、もういいや。カワイイは正義、はっきりわかんだね。

 問題保留!コロッサス、おれにもごはん!!

 

「(;ω;*)・・・ゴメンナサイ」

「こ、この子が家にある食材……全部たべちゃって」

 

 ……うん?ごめん聞こえない、セレストもっかい言って?

 

「今日そろそろ、君が起きるかもって……急にこの子が来て……待ってる間、何か料理を食べたいって言うから……そしたら」

「(´;ω;`)リョウリオイツカナイノ」

「食材全部……貯蔵庫のも、もうからっぴっぴ…………」

 

 セレストが腕を交差させバッテンマークを作る。

 貯蔵庫って……ユグユグハウスになってデカくなった貯蔵庫?財政難の我が家でも今後問題ないようにしこたま溜め込んで、保存食だけでも一年は持つ様にしたはずじゃない?それが?今日一日で?

 

「……正確には、一人と二体で、一年分……大凡1時間での、完食」

 

 あひぃ。

 

「……すまん」

 

 ジ・オーダー・グランデが謝る言葉を聞きながら、目が覚めたばかりなのにもかかわらず、俺は全く違う理由でぶっ倒れたのだった。

 

 ■

 

 九 笑えばいいと思うよ

 

 ■

 

 後日、また一日気絶した俺はやっと目を覚ました。

 話をまとめると、ジ・オーダー・グランデが家に、と言うか俺に付いて行くと宣言した。

 

「君は、あまりにも危険だからね。あの彼女、ジータ……だったか?彼女を面白いと観察していたが、君の場合彼女と似ていながら混沌そのものだから……今回も私は、本気で君を討つつもりだった」

 

 あーあ、ジータ。出ましたよ最恐で最強の幼馴染。こら逃げれん運命だな。あいつ関わってると、もうどうしようもないわ。

 

「彼女は凄いな、定められた運命を歩むようで、常に運命の外を選びつかみ取っている。それがまた、均衡を崩す事にもなるが……あの力は、実に興味深いよ」

 

 わかる。あいつは、たとえ運命が相手でも手が届かないなら届くようにする女だ。物理で。崖の上に欲しい花があれば、崖を壊してとるかも知れないような女だからな。無理だとか不可能なんて言葉アイツには無駄だろう。

 

「そして君も実に面白いな。なんだか、彼女とは違う感覚を覚えたよ。彼女への興味と君への興味……何が違うのだろうか……私には、わからないんだ」

 

 俺にもわからん。

 

「そして、君が黒銀の翼を下しこの家に招いた時、ついに均衡が崩れる可能性が危険なまでに膨らみ私は顕現した」

 

 招いてねえ、野良ネコみたいに勝手に来てるの。

 

「私は、そう……世界の味方。世界の敵になりえる者は、討つのが私の使命。だけれど、私は均衡を崩す可能性の塊の君に負けた……なぜだろう?」

 

 知らん。

 

「わからない……君は、混沌そのものなのに。秩序が混沌に負けるのだろうか?」

 

 たぶん時と場合によりけりだと思います。あと俺をカオスの権化扱いやめて。不本意極まる。

 

「そして同時に、負けて私はホッとした気がした……あの場所で、君に負けて最初に思ったのは……使命の失敗への後悔でなく、君や他の人の子達をまだ見ていられると言う気持ちだった……この気持ちはなんだ」

 

 はあ……クソでかいため息が出てしまう。

 何という固い頭だ。まるで感情と言うものを理解していない。

 

「いいか、よく聞け」

「うん?」

「まずあれを見ろ」

 

 俺は離れたところにいるティアマトを指さした。そこには、あの激闘などなかったかのようないつも通りにだらけて弛み出した腹とヘソを出したティアマトがいる。

 

「アイツは風の星晶獣のくせして星晶獣(笑)第一号にして、我が家では怠惰と惰眠の星晶獣認定だ」

「ふむ」

「どう思う?」

「どう?……どう、とは……」

「胸から湧き上がる妙な殺意に似た怒りがないか?」

 

 ジ・オーダー・グランデは、きょとんとしながらも胸に手をやりジッとしてふっと目を見開いた。

 

「あった、不思議な……殺意とも怒りともつかない……なんだこれは、胸がざわつく」

「それはな、呆れてるんだ」

「呆れ?」

 

 あとイラついてる。星晶獣ともあろう者が部屋のソファーで弛んだ腹とへそを出し、さらに言うなら最近は、足の指で服を拾う姿も見かけた。呆れかえるしかない。いっそ殺してやった方が星晶獣の名誉が護れるのではないかと思うほどだ。

 

「じゃあ次にあれを見ろ」

「うむ」

 

 次に窓の外に見えるコロッサス、ユグドラシル、セレスト癒しトリオを見せる。彼らは、近所の人と談笑したり、子供達と残り少ない材料で作っていたお菓子の交換をしたりと楽しそうだ。

 

「どうだ」

「……うん?」

「すごく良いだろう」

 

 彼女はまたきょとんとした後、一度ティアマトを見て顔をしかめた後もう一度コロッサス達を見た。表情の違いは、明らかだ。

 

「良い、か……そうだ、な。良いな……この感情、不思議だが悪くない」

「それはな、楽しいとか、嬉しいとか、あとは……胸があったけえって気持ちだ」

「胸が、あったけえ……?」

 

 彼女はもう一度、胸に手をやってティアマトとコロッサスを交互に何度も見た。同時に顔を面白おかしく変化させ、だんだんその変化も激しくなる。

 

「あったけえ……不思議だ。熱なんてないのに、その言葉がピッタリとはまる。ティアマトの姿をみると、無性にざわつくのに……外のコロッサスや子供達を見ると、あったけえ……」

 

 ああ、あったけえ……自分の胸に手を当ててほほ笑むジ・オーダー・グランデを見ていてこちらの心が癒される。なるべく視界にティアマトを入れないのがコツだ。

 

「……俺に負けた時、俺達をまた見れると思ったなら、それは……良かった、って事なんだろ。お前は、俺だけじゃなくて人を見ていてそういう気持ちだったんだろう。見てたいんじゃないの?人とかを」

「人を……」

 

 今度はコロッサス達でなく、その周りに更に集まりだした子供や大人達を見る。星晶獣だろうとかまわず囲んで井戸端会議をする奥様達。コロッサスに上ろうとする子供。彼女の顔は緩むばかりだ。

 

「見ていたい……そうか、私はもっと見ていたいのか、人々の営みを。使命なのではなく、これが私のしたい事なのか……」

「はい、解決」

 

 もう難しい話で俺は疲れました。結局飯食えてないし。もうご近所さんに頼んで食料分けてもらうしかないわ。

 

「ふふっ……だが、あの老婆がいきなり現れて君の事を教え、君を試せと言われた時は、何事とか思ったよ。私の領域に入り込んで来たのだからね。しかも、人の子の試練のためにわざわざね」

 

 ……。

 なん、だと?

 

 

「……聞いてなかったのか?」

 

 あ、あのババア……それじゃあジータが原因のマグナ達以外のプロバハとジ・オーダー・グランデは、全部あのばあさんが、仕組んで……。

 

 

 ■

 

 十 決断

 

 ■

 

「ふぇふぇふぇ……よくすべての戦いを耐えきったねえ」

 

 久々に帰ってきたばあさん。ばあさんは、やたら大荷物でにこやかに俺の家に現れた。

 

「ええ、まったくもってばあさんとティアマト達の修行のおかげで死ねいっババアアァァっ!!」

「甘いッ!!」

「……ちぃっ!!」

 

 両手を広げばあさんを迎え入れるように向かって行きながらそのまま手刀を突き刺そうとしたが容易くつかまれてしまった。

 

「けど、遥かに強く……本当に強くなったね坊や」

「何時もみたいに坊主呼びにしてくれ」

 

 感動的な台詞を言ってるが俺の怒りの感情は凄まじいぞ。

 

「へっへっ……さぁて、丁度みんな予定通り揃ったね。よくやったよ坊主」

 

 今、俺の家には、ティアマト達マグナ6戦隊とB・ビィ&ジ・オーダー・グランデ……改め。

 

「私の名前は、ゾーイだ」

「おやまぁ……名前、つけたのかい?」

「つけてもらった。ずっとジ・オーダー・グランデじゃ長いし、名前らしくないって」

 

 ああ、心が浄化される……ゾーイが笑顔で、自分の名前を愛おしそうに言うのが尊すぎる。今ばかりは、ばあさんの組み合わせが孫と祖母みたいですばらしい。

 なお、名前を付けるのは、いい加減ジ・オーダー・グランデでも、グランデでも名前っぽくない会議が開かれ、ティアマト達と話し合い決められた。ジータがいなくてよかった。もしいたら「シルバー褐色レディちゃん」ぐらいは無理やりつけてそうだ。ついでにワイバーンズにもディとリィの名が付いた。B・ビィ、と言うよりビィに似せて来た形になる。ディには尻尾にリボンが付いててカワイイ。カワイイ。カワイイ。

 まあともかく、マグナ6戦隊とB・ビィ&ゾーイがいるわけで、それをばあさんが〔予定通り〕と言いやがった。

 

「俺はずっとあんたの掌の上ですかい」

「私の期待通りだったと言う事だよ」

 

 ため息がでる。

 

「さて、なら話を進めようかね。坊主、あんたこれからどうする?」

「……どうするも何も」

「村に、残るかい?」

 

 さて、さてさて……どうするか。

 

「正直言えば金がねえからもう騎空団でも立ち上げて金稼ぐしかない気がするんだけど」

 

 主にティアマトのせいで。最近だとゾーイの貯蔵庫全滅事件も大概酷いが、いいんだ……ゾーイに罪はない。

 

「オイ、コラ」

 

 お黙り(笑)。

 

「そうだねえ……確かに、坊主には苦労を掛けたからね。ならもし村に残るなら、今まで使われた出費全部出してあげるよ」

 

 ……この家、録音機器とかある?

 

「勿論昨日消えたと言う食料も都合するよ」

 

 あーこの音声証拠でおいときたかったー。

 

「ただし、空に出たらやらんけどね」

 

 ま、そうだよね。

 あーあー……そうですか、そうですか……。

 

「……いや」

「うん?」

「……俺、行くわ」

「どこへ向かうんだい?」

「それは……」

 

 行く場所、会いに行くやつ。

 もう、決まっているのは、わかっていたのに。置いてかれたなんて、もう思っていたのに。何度も死にかけてやっと決心がつく。

 

「俺は」

 

 ■

 

 零 こぼれぬ、おもひで

 

 ■

 

「わたしね、何時かイスタルシアにいくの」

「マジかよ」

「なんか楽しそうだから行く!!それにお父さんもなんか帰ってこないし、お母さんもお父さん追っかけて帰ってこないし……だからわたし、おっきくなったらお父さん追いかけてボッコボコにするの!!」

「マジかよ……」

「だからね……その時、一緒にきてくれる?」

「一緒かぁ……どっちかって言うと競争でもした方が面白そうだけどなあ」

「競争……競争!!いい、すごくいいね!!じゃあ私とあなた、どっちが先にイスタルシアにつけるか競争しよう!!」

「……ん」

「もしわたしより先にお父さん見つけたら、代わりにボッコボコにしておいてね!!」

「マジかよ」

 

 ■

 

 終 戦い終はらば、らう(苦労)がまた来たり

 

 ■

 

 ばあさんに俺の意志を告げて数日。ザンクティンゼルに一隻の船が来た。珍しい事だ。その船の前に、俺とティアマト達が並んでいる。

 

「これが、エンゼラか……」

 

 緑のヒレを付けたような丸っこい、魚のような印象を受ける騎空艇〔エンゼラ〕。

 

「この度は、ご購入ありがとうございます~」

 

 そして俺の腰の下あたりから聞こえる声。別に腹が喋ってるのではない。

 

「あんたが、噂のよろず屋さんか」

「はい~♪その噂のよろず屋シェロカルテと申します~」

 

 ハーヴィン族と言う種がいる。大人になろうと人間の子供と同じかそれよりも小柄な種族。彼女、よろず屋シェロカルテは、そのハーヴィン族だ。

 

「中古ト聞イタガ、悪クナイナ」

〈水の加護をかけられているようだ。我にとっては居心地がいいな。コロッサス、生け簀を移してくれ。ユグドラシルも生け簀の固定を頼む〉

「(* >ω<)オマカセ」

「――――♪」

「我々の私物も移さねばな、使ってもらう予定の首輪や鞭が多くて……」

「そ、倉庫とか……じめっとした場所ないかな……そこ部屋にしたい」

「キッチン、キッチンはどうだ?美味しい料理作れそうか?」

 

 お引越し気分のマグナ戦隊とゾーイは置いておこう。

 

「エンゼラは、以前海や水の豊かな島をめぐるのに利用されていた騎空艇でして~目的を終えて解体待ちだったのですが、まだまだ現役で通用するようでしたので~私が引き取ったんですよ~良い船ですよ~♪」

「確かに、綺麗な船だよな」

 

 実際に中古とは思えない。

 これが、俺の船。いつの間にか、ばあさんが手配していたらしい。予定もピッタリに納品されている所をみるに、やはり俺はばあさんの掌の上であったようだ。

 結局俺は、空に出る。ジータに会いに、そしてその後どっちが先にイスタルシアにつくか競争するために。マグナ達を引き連れて、空を飛ぶ。

 置いてかれたんじゃない、俺が行かなかっただけだった。だから追いつく。あいつと、同じ場所に。強さだとか関係なしに、楽しんでいきたい。同じ憧れを抱いていたあの時の様に。

 

「おめえの準備はいいのかよ?」

 

 B・ビィが俺の顔の隣に浮いている。すっかり定位置になってしまい、もうあきらめた。すっかりビィ気取りか。

 

「だから、オイラはビィだぜ」

 

 うるせい。

 さて、用意とっても俺には大して用意する物はない。ティアマト達は、俺に黙って買った私物やらが溜っているようだが、そのせいで、そのせいで、そ・の・せ・い・で・!俺が個人的な私物を買う余裕がなかったのだ。持っていくのは、今までのちょっと良い武器程度だ。

 見てろよ、ジータに追いついてガンガン金稼いで俺も好きな物買うんだからな!!

 

「ふっふっふ。楽しそうだね坊主」

 

 ばあさんが現れた。もう流石に奇襲は仕掛けない。

 

「だが恨みは忘れねえ」

「ふぇふぇ、そう言っていいのかい?せっかく餞別を持ってきたのに」

「うん?」

 

 言われてみると、ばあさんが俺の荷物に交じって置かれている大き目の木箱を指さしている。数は三つ置かれていた。

 

「よろず屋さんに都合してもらった各地に散らばる武器さ」

「おっほ?」

 

 思わず変な声出た。

 

「人との縁が深い物を選んでもらったからね、もしかしたらいい仲間に出会えるかもしれないよ」

「こちらの方でも、がんばらせていただきました~♪」

「マジか、そんなにくれんのかよ」

「三つの内一箱だけ選びな」

 

 んだよ、んだよおー。テンション下がるわお前ー。

 

「流石にそんな甘えさせられないよ。一箱に10個の武器、それでも必ずかなりいい武器が一本はあるよ。もしかしたら二本かもね。どれに何を入れたかは、私ももうわからない運試しさね」

 

 ふーむ、それはそれで面白いな。俺の船出の運試しってところか。

 

「まあ、いわゆる初回の10連無料ガチャだな。あいにくリセマラは出来ねえけど、直感でやりな」

 

 B・ビィ、お前は何を言ってるんだ?

 さて、では選ぶとするか。真ん中か、右、左……。

 

「せっかくだから、俺は真ん中の箱を選ぶ!!」

 

 ずいっと箱奪取。

 

「はいはい、それじゃオマケ、あれも上げるよ」

 

 するとばあさんは、武器箱とは別の木箱を指さした。

 

「修行で余ったエリクシールとエリクシールハーフだよ。20本以上あるからしばらくは大丈夫だろう」

「うわぁい、ばあさん太っ腹」

 

 まるで今までの反動のようだ。優しいおばあちゃん僕大好きー。

 

「箱は船に乗った後にでも開けな。広げると手間だからね」

「そうするわ、ありがとなばあさん」

 

 ちょうど戻ってきたコロッサスに頼んで搬入しておいてもらう。ありがとね。

 

「さて、それじゃあそろそろ旅立つわけだけど……坊や」

 

 おっと、坊や呼び。

 

「あんたにはあらゆるジョブの特訓を課した。そこいらの騎空士じゃできないようなスキルを身に着け、特殊な武器もより多く使える。これから武器は、自分で好きなように工夫して使いな」

「それって」

「免許皆伝、ってことだよ」

 

 ……ばあさん。

 

「ジータちゃんに会ったらよろしくね。そろってでも、どっちかだけでもたまに帰ってきな、いつでも組手してやるからね」

 

 ……ば、ばあさん。

 

「最初の目的地は、ポート・ブリーズだったね。ジータちゃんの辿った後を追うって事で」

「道中と島についてからの事は、ついでに乗らせていただくので私の方から色々とお教えしますね~」

「ティアマトがいれば風の調整もできる。そもそもが船型のセレストは、船を動かしてくれるしこの空域のルート殆ど覚えているようだから心配はないよ」

 

 ちくしょう、恨みこそ多けれど……やはり、ばあさんのこの気遣いには、感謝の念がある。

 そして、ついに船に乗り込み船が出る。

 

「身体に気を付けなよぉーーー!」

「おーう!!」

 

 徐々に離れていくエンゼラ。村のみんなや、ばあさんが俺達を見送る。ジータもこんな気持ちだったのだろう。また村に帰る事もあるだろうが、最後にばあさんに感謝の言葉を言うべきだろう。船から身を乗り出し叫ぶ。

 

「ばあさああーーーん!!」

「ぼうやあーーー言い忘れてたけどねえーーーー!!船代と船の補修代!!武器代とその他旅の必要な雑貨食料その他料金あんたにつけておいたからねええええええーーー!!!!」

「ヴァヴァアアアアアアアアアアッ!!!はあああ、は・な・せええええ、はなせえシュヴァリエエエエ!!今すぐ、あのババア殺してやるうううううう!!!」

「借金かなりあるけどおおおーーー!!全部シェロカルテさんに払うようにねえーーー!!それじゃあ元気でねえーーーー!!ふぇーっふぇっふぇっふぇっ!!」

「船代維持費生活必需品、もろもろしめて、100万ルピになります~♪今後とも、”今後”ともよろず屋をよろ~ず~♪ぷっぷっぷぅ~♪」

「んっがああああぁぁ~~~~!!ふね、船を戻せセレストオオオオオ!!!あ、ああああんぎゃあああああああああああああ!!!ムキギイイイイイイイイイイイっ!!」

 

 俺の遥かなる空への旅立ちは、怒りの絶叫と大量の借金と共に始まった。

 そしてその後、せめていい武器をと武器を確認すると【割れた酒瓶】【ハリセン】暴発しやすい【ハンターライフル】等ポンコツ武器が混ざり10個入っている事にも気が付いた俺は、何処までも続く蒼い空に叫び続けていた。

 

「へっ!こいつあ、にぎやかな旅になりそうだぜ。な、相棒!!」

「ぬがあああああああああぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!」

 

 

 

 これが、スーパーザンクティンゼル人GODと呼ばれ全空から尊敬と、信頼と、畏怖を集めた史上最強のヒト、ジータが率いる後の伝説の騎空団【ジータとゆかいな仲間たち団】と双璧をなす事となるもう一つの伝説、もう一人のスーパーザンクティンゼル人の男が率いた伝説的騎空団【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の物語の始まりであったのだ。

 

 




やりたい事はしました。

原作も終わってるわけでもないので、後はイベントを絡めたり、好きなキャラをやったり、アニメ世界にこいつ等ブチこんだり更に好きにする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スーパーザンクティンゼル人の軌跡 名前を決めて迎えよう酔っぱらい

あの団名決定とRキャラ話
時系列は、団として少し活動してからな感じ


 ■

 

 一 団の名は。

 

 ■

 

 

 重要な事に気がついた。

 俺達がザンクティンゼルを旅立ち、イスタルシアへと向かう……。その前に俺は知らぬ間に作られた借金を返済するためよろず屋シェロカルテから報酬のいい依頼を貰ってはそれをこなし金を稼ぐ。そんな中で気が付いた重要な事。これを何時までも後回しには出来ない、俺は至急エンゼラの会議室に団員達を集めた。

 

「寝テタノニ……」

「(´・ω・`)ドシタノ?」

 

 もっとも今居る団員などザンクティンゼル出た時の化け物集団ばかりだが。

 

「皆の衆、俺は大変な事に気がついた」

〈なんだ唐突に〉

「わからないか?俺達は、過程はどうあれついに船を手に入れた」

「借金と共にな」

「……それなりの武器も手に入れ」

「8割……ポンコツだったね……」

「…………頼もしい仲間もむかえて、むかえ……」

 

 (笑)ばかりだが。

 

「泣いてるのか、団長?」

 

 よそう、これ以上自分で自分の傷をえぐるのは。

 

「それよりもまだ俺達に無いものがある」

「イイカラ本題ニハイレ」

「……いいか、耳かっぽじってよぉうく聞け」

 

 極めて重要で可及的速やかに、今後俺達が騎空団として活動するに当たり絶対的に必要なものがある。

 

「団名決まってないじゃん」

「そういや、そうだったな」

 

 名前がない。俺達は未だ無名の騎空団なのだ。旅立ちの時点でよろず屋シェロカルテと出会えたためにわりと最初から依頼を受けれたりできたので完全に忘れていた。あっはっは、うっかり。

 これを決めない事には今後自分達だけでは依頼を取りにくい。

 無名の騎空団などあるだろうか? いや、ない。

 騎空団とは、名が売れてなんぼである。覚えてもらうには、活躍と共に名前を売り込むのだ。

 

「と言うわけで、速やかに騎空団名を決める会議開始します。はい、団名案ある人挙手」

「急すぎるぞ主」

〈まあ、確かに重要だ。あの娘でさえ団名をつけているからな。名前はともかく〉

 

 ジータとゆかいな仲間たち団の事は置いておこう。あんな名前になんかせんぞ俺は。

 

「だがジータの団名は覚えやすさでは抜群だよ団長」

「たしかになぁ。名前はともかく、誰が団長か一発だもんな!」

 

 ゾーイとB・ビィの意見も最もである。よし皆の衆、なるべく覚えやすくてインパクトばっちりな奴頼むよ。

 

「ジャア、【美しき風のティアマトの団】」

 

 ふざけんなよ。

 

「却下に決まってんだろ」

「ナゼダ!!」

「おめーの団じゃねーだろ!! 俺が団長だぞ!!」

「オマエミタイナ、パットシナイ奴ガ団長デハ覚エテモラエンダロ!!」

「うるせえ!!」

 

 こいつじゃ駄目だ。次だ次!!

 

「(。-ω-)ボクナンデモイイヨ」

 

 コロッサス、それちょっと一番困るやつ。

 

〈【リヴァイア団】とかどうだろうか〉

 

 駄洒落かよ。しかもクソつまらんし。

 

「――――♪」

 

 ユグドラシルよ……【ユグユグ団】は、可愛いけどちょっと勘弁して。なんか悪の組織っぽいし。

 

「なら【星晶騎士シュヴァリエ~へ、変態、この変態男!少しは恥を知りなさい!~】」

 

 なめてんの? なんでサブタイトルあんの? 悪名しか轟かねえよ。依頼一つも来ないよそんなの。

 

「じゃ、じゃあ……えっと、えっと……【団長が普通の団】とか」

 

 セレスト、君良いつもりで言った? 俺の心が粉砕し始めてるんだけど。

 

「ネタでいいなら【ぐらぶるっ!】でいこうぜ」

 

 いいわけあるか。なんだよ【ぐらぶるっ!】って。例の【特異点るっ!】の事か?

 

「……ふむ、【世界調停の翼】」

 

 まてまてゾーイ、これ別に大喜利じゃないだ。お前までネタに走るな。いや本人は真面目なつもりかもしれん、字面が良いのがまた何とも言えんがこの団にそんな使命はない。

 と言うか何これ、この団殆どの奴センスが壊滅的じゃん。ジータの事何もいえないよ。目くそ鼻くそだよ。クソしかねえよ。

 

「ナラ、オマエノ案ヲ言エ」

 

 ……まあ結果的に? 真打が最後に来る的なね? 俺のネーミングセンスが良いと自惚れるつもりは無いが、これだけクソな名前が揃えば悪いと言うこともあるまい。全員の特徴を踏まえ、インパクト抜群なやつをかましてやるぜ。

 

「騎空団【グランブルー】だ」

「普通スギル、却下ダ」

「(-ω- )ン、ン∼…?」

〈つまらん〉

「……?」

「グラブル団とか略されそうだぞ主よ」

「ジータの船って……グランサイファーだっけ……かぶってる」

「かっこいいとは思ったんだろうな。遅く来たお年頃か相棒」

「私にはよくわからないな」

 

 あれあれ?ねえ、俺なんか変な事言った? ここまでボロクソ言われる様な事。

 

「うるせえ! 団長は俺だ!!」

「横暴ダ!!」

「ならせめてもうちょっとまともな案だせやオラァ!!」

〈しかたない、力尽くしかないようだな……〉

「主が相手とて致し方ない……なるべくケツを攻撃してくれ」

「おもしれえ……死にてぇ奴からそこに並びな」

 

 おう、いい度胸だこの野郎。騎空団命名権賭けてやってやろうじゃないかこの野郎、てめえ。

 

「まとめてかかって来いやああぁぁーーーーっ!!」

 

 

二 寿限無ジュゲム

 

 

 その後、船が壊れそうになるのを回避するため無人の孤島で繰り広げられた騎空団の命名権を賭けた最低の戦い、それは全員ノックアウトの引き分けとなり戦いに参加せずお菓子をつまみながら静観していたコロッサス等癒し組の手によって阿呆達全員が気絶している間に考えられた団名をシェロカルテを通して正式に【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】として登録された。

 このことに関して、一切初期メンバーにかかわらずスルーされた団長の少年は、後にファータ・グランデ空域で著名な雑誌のインタビューで「誠に遺憾である。改名の機会があればせめて自分(団長)の名を入れたい」と語っている。

 事実この後この騎空団は新たな仲間を迎えた後も何度か改名機会があったが、そのたびに上がる候補がクソ過ぎて結局阿呆達による命名権を賭けた戦いを繰り広げられ、全員が倒れた後その時の癒し組達によって【超星晶戦隊マグナシックスクライマックスwith具羅武流!B・ビィくんマン&均衡少女キューティ・ZOY】、或いは【星晶戦隊マグナシックスMEGA MAXと仮面戦士B・ビィくんマン&プリティー均衡少女ZOYマックス・スマイル】などの些細な改名が何度かされるものの「略し辛いし、いくら何でも長い」と各方面から言われ結局【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】と稀に【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOYと仲間達】に落ち着きついに団長の名が追加される事は無かったと言う。

 この伝説のスーパーザンクティンゼル人と呼ばれる男が率いているにかかわらず、名を入れぬ事でよりそのスーパーザンクティンゼル人の存在を神秘的にさせていると言う説もあるが、当時のメンバーの証言からも「忘れてた」説が定説である。

 

 

一 フェイトエピソード 帰ってくれ酔っ払い

 

 

 

 ある村の居酒屋。何か特別な村と言うわけでもない、過度な善人がいるでも最悪の悪党がいるでもない普通の村の居酒屋で。

 

「なあ……ラムレッダ? おまえ、今回で皿割るのとお客様に粗相するの……何度目?」

「ふにゃぁ~……?」

「ね、聞いてる?」

「んにゃぁ……ごめんなしゃい、店長。聞いてるにゃぁ……」

 

 酔っ払いが説教を受けていた。

 

「じゃあ、俺の質問答えれる?」

「はひぃ……おしゃらはぁ、今日で25枚い~? おきゃくさんに、おしゃけ零したりしたのはぁ……34回ぃ?」

「皿は56枚客への粗相は70回だよ、この店が開店して以来、一人が一月で割った数の新記録だ」

「おぉ~~」

「私はなんで君を雇ったのか、自分でもわかんなくなってきたよ」

「にゃは、にゃはは……ごめんなしゃい」

 

 ベロンベロンに酔っ払い修道服を着たドラフのシスター、ラムレッダがこの店に来た時の事をこの店長の男はよく覚えている。半年前の事であろうか、彼女は初めこそ普通の客として店に酒を飲みに来た。そして何時まで経っても店を出ない。しこたま飲んだ酒の空き瓶が並び、床にも転がり一方で彼女は幸せそうだった。

 「お客さん、閉店ですよ」と呼びかけてもまるで反応が無い。しかしそのままにも出来ないので少し肩を揺らしたのだがそれがまずかった。

 

「おぶぅ」

 

 彼女の口から虹がかかり店がちょっとすっぱい匂いになった。

 後日一日店で安静にさせた後、心底申し訳なさそうなラムレッダに毒気を抜かれた店長が話を聞いた。

 今まで修道院で清貧な生活を心掛けていたが、成人して初めての酒を飲んで飲んで飲みまくり、ついに記憶が飛ぶほどに呑んだ。そして冷静になった時自分は、修道院の外におり、記憶が無く何をしでかしたのかわからぬ恐怖にかられ飛び出してしまったとの事。

 彼女は今27と言うので、もう7年もそれを理由に放浪し続けているのだからある意味大したものだ。はっきり言ってしまえば自業自得なのだがなんとも目の前でしょぼくれるラムレッダを見てるとほおって置けない気持ちにさせられる。

 店長は、ラムレッダを雇う事にした。打算的な事だが彼女は、女性のドラフ族特有の小柄でありながら豊満な胸があった。そして容姿も良い。シスターと言うのも面白かった。案外いい看板ウェイトレスにでもなるかもしれないと、暢気に考えラムレッダもまた店長に感謝していた。

 そして店長の期待が大きく外れたのは、彼女を雇ったその日の内であった。

 ラムレッダは、酔っていた。常に酔っていた。酔ったウェイトレスが居るだろうか?いや、いない。よしんば酒が入っても前後不覚、営業に影響が出るほど飲むか?飲まないはずだ。だが彼女は飲んだ。飲んで呑んでのみまくる。当然皿は割る、客に料理をぶちまける。出す料理を間違えるなんて日常茶飯事だ。

 客も客で夜の居酒屋にくる客の中には、既に出来上がってるものもいる。大酒飲みのラムレッダを面白がって、接客中に飲ませるやからがおおい。そのまま接客に戻るラムレッダによる被害が大きくなるのは、当然の事であった。

 普通ならもうその日の内にクビにするのだが、酔いが覚める度申し訳なさそうな彼女の顔や、それでも楽しそうな店の客達を見ていると、どうしてもクビには出来なかった。だからこそ、半年持ったのだ。

 だが流石に限界が来た。幾ら客が彼女を許し、自身も彼女を許そうと彼女による物損被害などもろもろが多すぎる。

 

「……君の事を理解はしてるけど、だが私は店とそこで働く店員の生活を預かる身だ。これ以上は見過ごせないよ」

「あぅ……はいぃ……」

「一先ず、今日一日頑張って……お酒は……もう飲んじゃってるから無駄だけど、それ以上飲まないでね、いいね?客に勧められても飲んじゃ駄目、ね?」

「んにゃ、わかったにゃあ」

 

 店の休憩室からトボトボ出て行くラムレッダを見ると罪悪感が湧くが、しかし同時に彼女に頭を悩まされているのも事実だった。男は、人からはよく、御人好しといわれるが彼は、自分でもそれを今自覚していた。

 

(だれか都合よく彼女を引き取ってくれる人でも現れないだろうか)

 

 あんな問題児、好き好んで引き取る人間なんて全空広しと言えどいないだろうにそんな期待を持たざるをえない店長だった。

 

 

二 問題児には、問題児をぶつけんだよ

 

 

 その日、ラムレッダはとても緊張していた。まるで初めて働き出した時のようだ。店長の言葉が頭に日響く。

 

「これ以上は、見過ごせない」

 

 わかっている。自分でもこのままではいけないと。酒が悪いんじゃない、酒に飲まれる自分が悪いんだ。酒、なんて罪深い命の水よ。だが彼女は決意した。わかった、私は断とう。この日を乗り切るため、酒を断ち接客に挑むのだと、そして緊張を和らげるため彼女は、一杯の酒をあおったのだ。

 

「……んにゃあ!? だめじゃん!?」

 

 結局彼女は、酔ったまま接客に挑むのだった。

 そして……。

 

「きゃあっ!! 服にスープが!!」

「ひいっ!! 皿が飛んできたぞ!?」

「料理が違うんだけど……」

「なあ、この料理はなんて言うんだ?」

「よう知らんけどこの島の名物のしこたま芋ぶち込んだシチューだそうだ」

「それは、食べがいがあるなあ団長」

 

 駄目だこりゃ。店長は頭を抱えた。

 こうなるだろうとは思っていた。まずこうなると思っていた。けれど最後に信じてみようと思ったのも確かだった。だが無理、もう駄目だ。ほろ酔い状態で接客に挑んだらラムレッダ、あっさり客に勧められた酒を飲みまくりベロンベロンになった。

 だが店長が更に頭を悩ませているのは、店の団体席を物理的に占領してる団体に対してだった。団体席を団体が使用し占領するのは当たり前のように思えるがこの団体、圧が凄い。小型の竜を3匹従えた美人なのに残念そうな女性と、床ぶち抜きそうな鎧と、でかい蛇っぽい魚類(?)と、めっちゃ癒し空間撒き散らす少女に、腕が四つある女と、クソ暑そうなゴスロリ衣装の女に、黒い竜のような小さいナマモノ、さっきから大人五人前ぐらいの料理を一度に注文し平らげては追加注文する褐色の少女。あとなんか印象が薄い少年。旅の騎空団らしいこの者達だが、何だこの色物集団。入店させたのはどいつだ。

 

「んにゃぁ~おもしろそうなお客さん達……ごあんにゃい~しておきましたにゃ~」

 

ラムレッダだった。店長は願った。正直早めに店を出て欲しい。

 

「んにゃあぁ~~~~っ?」

「ぁじゃあっ!?」

「ああ……団長が、熱々シチューに顔を……っ!」

「はにゃあ~~~っごめんにゃさ~い」

「プークスクス、ダッサ。超ウケルワ」

「そう言う熱々なのは、蝋攻めで私にしてくれ」

「団長、皿に顔を突っ込むほどお腹すいてたのか?」

 

 そしてよりによってラムレッダがその印象の薄い少年の頭に持ち歩いていた酒瓶を当ててしまい、少年の頭は熱々シチューにイン。他の仲間と思われる者達の反応もおかしい。

 

「らいじょうぶですかぁ~? おきゃくさん~」

「あ、気にしなくていいぜ。こいつ何時もこんな感じだからよ。酔っ払いの姉ちゃん、オイラりんごあれば欲しいんだけど頼むぜ」

「にゃあ~~ん? ぬいぐるみがしゃべってるにゃ?」

「はっはっは、オイラは人形じゃねえぜ」

「にゃはは~おもしろ~いにゃ~……」

 

 よりによってその団体に絡まないでくれラムレッダ。

 店長は頭を抱えてうずくまった。

 その時である、店の中に一人の【チンピラ風の男】が現れた。店長の嫌な予感が膨れ上がる。チンピラ風の男は、腹が減ってしょうがないからと食事を出せと言いながら席に着いた。

 そして、店長は知る事になる。酔いどれラムレッダ、奇天烈集団、チンピラ風の男。この組み合わせが、この店長にとっての光明となるのだった。

 

 

三 割れた酒瓶の出会い

 

 

 変な店に来た。

 いや、店自体はおかしくないのだが、店員の一人がおかしい。ドラフ族の女なのだが、この女酔っ払いながら接客してる。しかも商品ではない個人用のでかい酒瓶を持ってるもんだから危ないったらありゃしない。とか思ってたら、バランスを崩したその女に瓶で頭を打たれ俺は、注文したやたら芋のあるシチューに顔を突っ込んだ。クッソ熱い。

 おら、ティアマトも笑うんじゃねい。ゾーイ、別に腹空いてるわけじゃないよ、見てなかった?あとB・ビィ、何時もどおりって何だてめえこの野郎。我が団の仲間達は、コロッサス達癒し組みを除き心配してねえ。俺は認めねえぞ、こんな通常運転。

 おうおう、姉ちゃん何してくれんの?と文句の一つでも言おうと思ったが、どうもこのドラフの姉ちゃんを見てると毒気を抜かれる。酔ったのも客が飲ませたらしいのでなんとも言えん。だとしてもよく店は、こんな店員雇っているもんである。しかもシスターの格好。なんなの? 趣味なの? もしかして、ここそう言う店?

 勿論そんなわけないだろう。だとしたら、未成年の俺を入店させていない。なお更この姉ちゃんの位置が不明だが。

 

「ふざけやがって、ぶっ殺してやる!!」

 

 唐突に誰かが叫んで店長の悲鳴が上がった。

 なんだ喧嘩かと声のほうを見ると、あの姉ちゃんがチンピラに絡まれとる。物の数秒でトラブルを起こすとは、トンでもないトラブルメーカーだ。店長が仲介に入っているが、それでもチンピラの怒りは、収まらないようだ。しかし、あんな脅し文句言う奴がいるとは、実に三下っぽい奴だ。

 

「オマエモ、悪態ツク時大概三下ッポイゾ」

 

 うそやん。

 

「は? お前、何証拠にそう言う事言うわけ? ふざけんなよ、てめーこの野郎、てめー」

「ソウ言ウトコロダ」

「わざとだし、わざとそれっぽくしただけだし」

「((;´・ω・`))ケンカ イヤダナア」

「お代わりを頼みたいのだが……店員さんがいないな……」

「――……」

「お前まだ食うのか……」

〈今日稼いだ報酬の殆どなくなるな〉

「燃費……悪すぎ……」

「りんごまだかよ」

「そこっ!! さっきからゴチャゴチャうるせーぞ!? この、なんだこの……なんだこの集団っ!?」

 

 チンピラが俺たちに向かって咆えるが直ぐなんかわけわからん物を見た表情になる。気持ちはわかるぞ、チンピラ。正直よく店に入れたと思うほど混沌とした集団だからな。見た目完全に人間っぽい奴が俺とゾーイ以外いない。

 

「お構いなく、俺達ただ飯食ってるだけです」

「いや……と言うか、お前大丈夫か? 顔めっちゃ火傷してるけど……」

「その店員に出来立てシチューに顔突っ込まされただけだからご安心ください」

「ええ……やだ、何この店こわい……」

 

 強気だったチンピラだがカッとなっただけだったのか俺の惨劇を聞いて途端に弱気になっている。俺も自分で言っててなんだろう、なんでこんな目に遭ってるのか。ただ飯を食いに来ただけなのに。

 

「お、お客様……大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません……お食事の方直ぐにお運びしますので……」

「いや、いいよこわいよ……何だよこの店……シチューに客の顔ぶち込む店員と訳わかんない集団いるし……帰るわ……帰るわ」

 

 店長は恐る恐るとチンピラに謝罪を述べるが、チンピラはすっかり怯えた様子で店を出てった。店長の後姿が実に哀愁漂っている。きっと何時も苦労してるんだろうな。わかるよ、その気持ち。

 

「にゃぁ~……しゅみましぇん、てんちょ……もって行く順番と料理間違えて、危うくおしゃけの瓶でおきゃくさん叩きそうににゃって、おしぇけおきゃくさんにぶちまけちゃって……」

 

 そら怒るよ。あのチンピラなにも悪く無いじゃん。おこだよ、激おこだよそら。何してんのこの店員。チンピラが気の毒だよ。こわ、近づかんとこ。

 だが、その時店長の哀愁の中に鋭さを宿した眼光が俺を見たことに気がついた。めっちゃ嫌な予感がした。

 

「オイお前ら、帰るぞっ!!」

「逃がしゃしませんぜお客さまぁ!!」

「ぎゃあああああああっ!?」

 

なになに、なんなのこの店長はやっ!! やめろ、腰を掴むな離せこの野郎!! 何だつよいぞ、この店長っ!!

 

「思いだしたぞ……最近話題の……っ!! 僥倖……っ!! 圧倒的……僥倖っ!!」

「なにこの店長怖いんだけどっ!!」

「特徴的な色物の団員しか居ないと話題になって、そのくせ団長の印象が薄いと言われる騎空団っ!!あんたらがそうだな!?そうなんだなっ!!」

「うるせぇ!!」

 

 色物は否定せんが団長の印象が薄いってどういう事だおらあっ!!

 

「見タ目普通ダカラナ」

〈正直地味だ〉

「平凡と言うやつだな」

「主人公顔ではねえよな」

 

 お前らぶっとばすぞォ!!

 

「……お願いです、私の頼みをお聞きくださいぃ~~~っ!!」

 

 すると店長が野獣の様な表情から一気にボロボロ泣きまくる。周りの客の目など気にするそぶりは一切無い。ああ、俺のズボンがおっさんの涙と鼻水で汚れていく……。

 

 

四 俺の胃死にたまふことなかれ

 

 

 後日、船に一人団員が増えた。

 

「にゃぁ~今日からよろしくにゃ」

 

 結論から言ってしまうとあのウェイトレスのドラフをうちの団で引き取る事になった。どうしてこうなった。どうしてこうなった。

 見たくも無い涙と鼻水と涎をボドボドに出しまくる店長のおっさんに無理やりに店の休憩室に引き込まれ曰く”聞くも涙、語るも涙”なドラフ娘、改めラムレッダの話を聞かされる。だがなにが”聞くも涙、語るも涙”だこの野郎。世間一般じゃそれを笑い話とか失敗談と言うのだ。初めての酒で失敗しただけじゃないか。

 それでも店長のおっさんには、確かに同情を禁じ得ない。なまじ人が良いために追い出せない問題児。わかるよ、なんとなくその気持ち。苦労人だったんやな。

 そこに来た問題児に慣れていると噂の騎空団。慣れてないよ、つらいよ。店長の脳内に「押し付けよう」と言う妙案、俺にとっては迷案が思い浮かぶのに時間はかからず、俺の腰にタックルし俺を確保したのである。

 

「君の真の居場所はあそこだラムレッダ!」

 

 と、目を輝かせ適当に感動的な台詞を言いながらラムレッダの説得(クビ)を完了させ、とうのラムレッダ本人もなんとなくその気になってしまい、最終的に俺の説得をごり押しした。と言うか外堀を固められた。「別ニ、カマワンダロ」とティアマト始め全員がOKサインを出してしまい、団長として立場がいまいち弱い俺が反対しきる事が出来なかった。

 そして何より。

 

〈我々以外の仲間もそろそろ必要だろう〉

 

 リヴァイアサンのその一言に揺らいだのは確かだった。

 そして今に至る。

 

「んにゃあぁ~~~っはっはっはぁっ!! きょうはぁ~あたしの入団歓迎ありがとにゃぁ~~んっ!!」

「オウオウ、飲メ飲メ」

〈酒なら多量に買っといたからな〉

 

 どうしてこうなった。どうしてこうなった。

 さっきまでまだシラフじゃなかった? なんでもう出来上がってるの? 歓迎会ってなによ、俺知らない。なんで料理と酒が用意されてるのさ。

 

「戻る途中でみんなで買い物したじゃないか、団長」

 

 必要な生活用品の補充だったはずだよゾーイ。何時の間に買ったのさ。こんな飲み食いしまくるだけの材料買う予定なかったよね。酒も暫く買う予定なかったよね? 主に(笑)達がウワバミだったから、しこたま飲むからやめようってなったよね? ねえ!!

 

「(*`・ω・)イッパイツクルヨッ!」

「ざ、材料は……良いものを揃えてるからね」

 

 高級食材ですか? そうですか……あのところで、お金……お金は?

 

「あたし……こんなに歓迎しゃれたのはじめてだにゃぁ~~とっても嬉しいにゃあ!」

「ウム、イイ飲ミップリダナ」

「美味い酒にあう飯もあるからな」

 

 だ、駄目だ……全員既に酒が回っている。話が通じねえ。

 

「だぁ~んちょ~~!! たのしいにゃぁ~~うれしいにゃぁ~おしゃけおいしいにゃぁ~」

「ちょ、いきなりつかまるな……くっさっ!? 酒くさ!!」

 

 ラムレッダが千鳥足と思えぬ早さで俺の腰に絡みついてくる。その上酒臭い。

 

「あらためてぇ、よろしくにゃぁ~だんちょうくん~」

「はいはい……」

「にゃはは……団長君は、まだ子供だったねぇ……おしゃけ、飲めるようになったら、飲み方おしえてあげるにゃ~」

「はいはい、ありがと、ありがと」

「む、むぐ……ッ!?ぁ……やば、ぃ……き、昨日までのおしゃけ……まだ、けっこ……のこって……うぷっ!?」

 

 へいへい、ちょっとそれはまずいですよ、まってまって!!

 

「あ、ごめ……ちょっと……む、りぃ……うっ!」

 

 待て待て待てまていっ!! 待つんだラムレッダ、耐えろ! せめて離れてから……力つっよっ!! はなせねええっ!?

 

「ぁ……ゆらすと……まず、うっぶっ」

 

 し、しまったっ!! あ、ああっ!! うわあああぁぁつ!!

 

 

五 苦労を買った覚えはない

 

 

「シェロさん……依頼ください、報酬良いやつ」

「うふふ~団長さんは、熱心で関心ですねぇ♪」

「出費がひどいもんで……」

「出費がしゅっぴきならない事になってるんですねぇ?うぷぷぅ~♪」

「あはは、わらちゃう……ちなみに、今借金幾らです」

「えっとぉ……現在234万と5600ルピですねぇ」

「なんで増えてんのっ!?」

「たまに団員の方達、主にティアマトさんがツケで趣向品などをうちで購入されるもので~」

「あのくそどもがっ!!」

 

 

 




ラムレッダは、エピソード事態は、SRのを元にしてますがイメージは、Reverseバージョンじゃ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

縁を感じろ、強敵〈とも〉となれ。風はいつでも吹いている。

今更ですが、また独自の設定が出てきます。原作と違うと感じる点は、かなり多いと思いますのでご注意ください。



【朗報】オリ主、言うほどガチャ爆死ではなかった
【悲報】なお、仲間は


 ■

 

 一 俺待つわ(常識人を)

 

 ■

 

 旅の中で必要な物とは、色々あるが騎空団を立ち上げた以上武器が必要なのは言うまでもない。もともとばあさん経由での武器は、色々と持っておりミスリルを使った武器は全種類あったし、丈夫で使いやすいため基本それを俺は愛用している。

 さて、旅立ちの時質が良い悪いもバラバラな武器がランダムに入っている三つの箱の一つを選んだ俺だがその中身のほとんどが到底武器と思えぬものが多かった。

 具体的に言うと【割れた酒瓶】【ハリセン】など完全にネタである。これを入れたばあさんのいるザンクティンゼルに向かって吠えた俺の気持ちたるや……。だが普通に武器として使えてしまったため、複雑な気持ちが俺を支配した。

 他に【ハンターライフル】、一見宝石を埋め込んだ良い銃に思えたが、何か知らんが頻繁に暴発する。前の使用者のクセでも残ってるのだろうか。ポンコツである。

 【ブラストヘヴィナックル】、バチバチ蒼い光がうるさい手甲。格闘戦では、かなりいい感じ。

 【ナイトベル】、小振りの鐘である。夜中鳴らすとよく寝れる。武器?だがばあさんの特訓により楽器すら魔力を操り武器として使えるので武器である。

 【ホワイトソード】、実に素直な直剣。実際は儀礼用らしく武器としての使用は、あまり期待しない方が良いだろう。

 【ブルークレスト】、蒼い刀身が実に美しい剣で質も結構なもので、箱にあったまともな武器の一つ。

 【ライトスタッフ】、結構な呪い耐性力をもつ杖。悪くは無いがシェロさん曰く、俺が使うにはちと弱いので、対呪能力を期待したお守りとしての方が優秀。

 【クラウ・ソラス】、めちゃくちゃいい剣、のレプリカだそうだ。本物のクラウ・ソラスは、本来なんたら騎士団とか言うとこの団長殿だけが手にしてるはずなので、ここにあるのはおかしいとシェロさんの談。けど単純な武器としては、本物と遜色なく優秀なので入荷し箱に入れてくれたらしい。

 【ソウルイーター】、鎌。デカイ鎌。三日月形の鎌にはボロ布が少しまかれててイカすと思う。いいね、こう言うのだよこう言うの。

 全体的に見て、「あれ、いいじゃん?」って最初なりそうだった。だが、どうも一部ハンターライフルやブラストヘヴィナックル、より良い武器のはずのソウルイーターなどから嫌な予感がする。ナイトベルあたりも何とも言えん。クラウ・ソラス(レプリカ)も何故だろう、なにか胸騒ぎがする。

 ばあさんが言っていた。「特に人と縁が強い武器を選んだ」と。

 武器がよかろうと、はたしてその縁はどうなのだろうか。少し前に仲間になったラムレッダと言う例がある。彼女がしょっちゅう戦いで使うのがでかい酒瓶で何時も酔っ払ってる事から、【割れた酒瓶】が引き寄せた縁なのだとわかる。

 だが今後もきっと俺は色んな武器を手に入れるだろう。その縁で様々な人達と出会い、仲間になるかも知れない。

 仲間になるのなら、ぜひ常識人が多めに来てほしい。特にうちの面子を制御できる人材募集中。【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】(と俺)は、いつでも仲間を募集してるぜ!!

 

 ■

 

 ニ フェイトエピソード 強い奴に会いに行こう

 

 ■

 

 少年は、ある噂を聞いた。

 少年は、強き者を求めた。

 少年は、故にその噂の者を探した。

 少年は、夢があった。

 少年は、信じた。

 拳で語れぬ者はいない。拳で通じぬ心は無い。

 強さとは心、心とは強さ。

 心の強さを拳に乗せて、交わす拳の語り合い。

 口でわからぬことあれど、拳でわからぬ事は無い。 

 拳を信じる者ならば、心を信じる者ならば。

 口で語るな、拳で語れ。

 己が魂たぎらせて、その手を握り力を籠める。

 強敵(とも)よ待ってろ、そこへゆく。

 俺の拳を受けてくれ。

 お前の拳を魅せてくれ。

 だから闘う、己のために。

 だから闘う、強さを求め。

 だから闘う、君と強敵(とも)となるために。

 

「あんたが【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長だなっ!! さぁ! 拳で語り合おうぜ!!」

「お断りします」

 

 

 ■

 

 三 強い奴が”遭い”に来た

 

 ■

 

 魔物討伐依頼を報告しに行った帰り、なんか知らん奴に「殴り合おう」宣言されてドン引きしてる。

 

「いや、誰君?」

「おっとすまねえ、名乗るのが遅れちまった。俺はフェザー! さあ、拳で語り合おう!!」

「あー……うん、ちょっと待って」

「待つぜ!!」

 

 これはヤバイ奴に絡まれたかもしれない。少しばあさんと同じ気配がするのもいただけない。見たところ暑苦しい俺と同じ歳ぐらいの少年だが、相当な実力者であるようだ。ううむ、一発で相手の実力見抜けるようになってるなあ俺。

 

「……どうしよう」

「別にかまわねえんじゃねえか?」

「相手シテヤレバイイダロ」

「にゃ~? 団長君なら、すぐ終わるんじゃないかにゃぁ~?」

 

 今回の依頼メンバーのB・ビィとティアマトとラムレッダによる適当な言葉。誰だこのメンバー依頼で選んだやつ。依頼中B・ビィはビィ気取りで特に戦闘に参加せず、ティアマトもサボるわ、ラムレッダは吐くわ大変だったぞ。それでも仕事はしっかりとしたから文句言えんが。ラムレッダはなんで酔うと攻撃力上がるのだろう。本来修道院出の詠唱魔法の方が得意なはずなのに、始終酒瓶を武器に物理で殴るし。吐くし。

 

「……うん、それでフェザー君、なぜ俺と戦いたいのかね?」

 

 とりあえず理由を聞いておこう。問答無用で殴り掛からないぐらいには常識はあるようだから。

 

「よく聞いてくれた! 近頃、駆け出しの騎空団でありながらメンバーの殆どが星晶獣並みの力を持ちそれを束ねる影が薄く地味だけどやたら強い団長がいると聞いたんだ!」

「その噂流したの誰じゃい」

「俺は知らないな!」

 

 元気がいいね君。

 

「それでかなり強いと聞いた俺は、ぜひ手合わせ願おうと思い噂を頼りにあんたを探し出したんだ! さあ、語り合おう!!」

「落ち着こう、ちょっと落ち着こうか」

「落ち着くぜ!!」

「落ち着こう?」

 

 とんでもねえ噂だ。星晶獣並みと言うか星晶獣その物だが、この際それはいい。影の薄い地味な団長ってなんだ。

 

「確かに地味な感じだが逆にそのおかげで直ぐあんたが【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長だとわかったぜ!!」

「うるせいやい」

「それにさっきの魔物との戦い、観させてもらったぜ……間違いない、あんたは強者だ! ぜひ闘いたい、語り合いたい!!」

 

 ああ、暑苦しい暑苦しいよう。苦手だぞこいつ。

 

「やだよ、見てたならわかるけど俺魔物の群れ全滅させて疲れてるもん」

「そうなのか!?」

「そうだよ」

 

 君と会ってからさらに疲れたよ。

 

「……確かに、実力が発揮できない時に語り合ってはあんたにも失礼だな」

「わかってくれたか」

「後日また尋ねる!じゃあな!!」

「わかってくれなかったか……」

 

 フェザー君は、俺の返事を聞かないで走り去ってしまった。

 実にマズイ。これはいかんですよ、目を付けられた……面倒な奴に絡まれてしまう。早急に彼から逃れる必要がある。

 

「急ぎエンゼラに戻り島を離れるぞ!」

「疲レタカラ途中ノ村デ休ミタイ」

「ごめ……途中で、飲んじゃったから……はき、そ……」

「駄目だ相棒、特にラムレッダが動けねえぞこれ」

 

 このしまつ。

 仕方なくその日は、船にすぐ戻らず途中にある小さな村に一泊していった。

 

 ■

 

 四 確かみてみろ!

 

 ■

 

 村で一泊した後、すぐにエンゼラへと戻る俺達。幸いにもフェザー君は、村に現れず無事やり過ごせたらしい。俺はこれ以上気苦労を抱えずに済むとホッと胸をなでおろし、やっと戻ったエンゼラへと入り込んだ。

 

「待っていたぜ、団長!!」

「うそやん」

 

 まさかのフェザー君であった。

 おいおい、誰だこいつエンゼラに乗せたの。と言うかいつの間にいたのさ。

 

「これがあんた達の船だって言うのは、親切なよろず屋から聞いていたからな! 昨日のうちにこの島で停泊中の船調べておいて、先に上がらせてもらった!!」

 

 ストーカーかな? と言うか、シェロさんなに勝手に教えてんの?

 

「君の知り合いと言うから船にあげておいたよ」

 

 ちょっとドヤ顔なゾーイ、カワイイ。そうだね、君の純粋な気持ちは大切だね。けどこいつは別に知り合いにすらまだなってない。時間にして五分ぐらいしかあってない。

 

「しかし凄いな団長! 団員が星晶獣並みに強いとは聞いたけど、みんな星晶獣そのものだったなんて! しかもみんな団長と闘って仲間になったらしいじゃないか!」

「うん……まあ、流れでしかたなく」

「うおぉーー! あんた最高だぜ! 俺は、何時か星晶獣とも拳で語り合えるぐらい強くなりたい、そう思ってた。それをあんたはもう可能としてる!」

「あ、うん」

「拳がうずいて仕方ないぜ!さあ、団長!!今から拳で語り合わないか!!」

 

 これだよ。

 

「相手してやったらどうだ主殿。一回闘ってやれば満足するだろ」

 

 悔しいがシュヴァリエの言う事も一理ある。キラキラと目を輝かせ闘気をその身から溢れさせているフェザー君は、既にやる気満々のようである。

 

「しかたねえなぁ……一回だけだからな」

「ありがとう!!」

 

 とっとと出航して、次の依頼をシェロさんに貰いに行きたいのでとりあえず一回だけ相手してやろう。やだなーめんどくさいなー。

 

「ふっ……やっぱりだ。あんたを前にすると、より気持ちが昂る……」

 

 俺は無用な闘いを前に、気持ちが萎える。

 

「改めて名乗らせてもらうぜ!! 俺はフェザー!! 騎空団【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】団長……さあ、語り合おうぜ!!」

 

 団名は別にフルで言う必要ないよ。

 

 ■

 

 五 アニムス見てから幻影余裕でした

 

 ■

 

 語り合いました。

 

「ぐぅ……っ! さ、流石だ……俺が、手も足も出ないなんてな……っ!!」

 

 すまんな、フェザー君。君は確かに強かった。たぶんそこいらの雑兵帝国兵や魔物の群れとかも問題なく一人で対応できるような実力だ。若くしてその実力はすごいと思う。うん、すごいすごい。

 ただやっぱマグナ戦隊の援護有とは言え、マジなプロバハとゾーイと戦った身としてはね、ああこれが人間の強さだよなって感じなのね。同じ人間でもばあさんとジータを知る身としてはね。結局全体攻撃少ないようなので、幻影張りまくったら完封してしまった。

 

「へ、へへ……空は、広いなぁ団長!こんなに強い奴が、いっぱいいるなんてさ!」

 

 爽やか過ぎか。なんか申し訳ない気持ちになるなあ、適当に戦った身としては。

 

「はは……それに、あんたがまるで本気じゃなかったのは、わかってたぜ……悔しいなぁ、たまらなく悔しいぜ!」

「けど楽しそうだね」

「そりゃそうさ! あんたの拳、響いたぜ! 星晶獣とだって語り合える拳……本物だった。やっぱりすげえよ、あんた!」

 

 ……うん、まあこうストレートに褒められるのは、素直に嬉しいな。むふふ。

 

「団長君、顔が緩んでるにゃぁ」

「褒められ慣れてないから……普段から辛い思いしてて……うっうぅ」

「・(。>ω<)・゚カワイソウ」

 

 うるさい、可哀想じゃないやい。

 

「……団長、無理言って闘ってくれたうえに負けた俺が頼める立場じゃないのは重々承知、だが一つお願いを聞いてくれないか」

 

 フェザー君がいきなり神妙な態度になり、今までとはまた違う真剣な表情で俺を熱烈に見てくる。嫌と言っても話してきそうなので聞くしかないだろう。なんか悪いし。

 

「いいよ、言ってみ」

「すまない……団長、あんたの強さと星晶獣達を束ねる【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長と見込んで頼みたい!俺を、団に加えてくれないか!?」

 

 うむ、なんかそんな気はしたよ。あと団名はフルで言わなくていいってば。

 

「あんたの元に居れば、俺は更に強くなれると思う。それに先に船へ来た時、コロッサス達から話は聞いたぜ。あんた星の島を目指してるんだろ?そんな途方もない旅……どれ程の強敵達と出会えるだろうか!俺は、考えただけでも身体が震えてくる!!」

 

 俺も同じこと考えると震えるよ。ビビッてしまってね。こわいです。

 

「だから頼む、俺をあんたの仲間に、旅に連れてってくれ!迷惑はかけない、雑用だろうがなんでもやる!」

 

 ん?今なんでもやるって言ったね?

 

「依頼での金銭稼ぎ多いけど」

「いくらでも受けて立つぜ!!」

「一人当たりの負担多くて大変かも」

「一人の旅でも似たようなもんだったさ!」

「……けどうち、金欠気味でさぁ……団員増えるとなぁ」

「俺が旅で稼いだルピも勿論団に寄付するぜ!!」

「ようこそ、強敵(とも)よ」

「っ!! ありがとう、団長!!」

 

 俺とフェザー君が熱く握手!面倒な性格だが素直に戦って依頼をこなしてくれる要員を確保できたぞ。悪くない、悪くないんじゃないこれ?

 

「お金の絡んだ話になった瞬間目の色変わったな」

〈金の亡者か〉

 

 うるさいぞ、シュヴァリエとリヴァイアサン。主にお前らの出費が多いから借金が減るどころか増えてんだ。シェロさんが優しいから……うん、優しいから返済期限は、何時でもいいって事になってるけど大変なんだぞ。これが弱みで無茶苦茶な依頼を頼まれても断れないし、なんか近々ようわからん島の古戦場とか言うとこで色々やらされそうだし……あれ、優しい?……うん、優しい。シェロサンハ、ヤサシイデスヨ。

 

「ああ、団長……戻って来るんだ……っ!」

「~~~~!!」

「ハッ!?」

 

 セレストとユグドラシルに体を揺すられ正気になる。俺今どうなってたの? な、何か疑問に感じてはいけない事を疑問に思ってしまったような、うっ! 頭が。

 

「うぅ……っ!」

「あ、どうしたフェザー君、怪我が痛むのか」

「うぅ……うおおっ! 駄目だ、まだまだ拳がうずいてる! 語り足りないぜ!! 団長、もう一戦どうだ!!」

「お断りします」

 

 心配してそんした。

 冗談ではない、一戦だけの約束だ。俺は疲れたんだ。精神的にも疲れた。しかしフェザー君元気だね、引っ込まなさそうなのでしかたない。

 

「B・ビィ、相手してやってくれない?」

「ええ、オイラかよ」

「いいじゃん、たいして仕事してないんだから」

「しかたねえなあ……ふんっ!!」

 

 B・ビィが体に力をこめると、一瞬で膨張しマチョビィへと変貌する。やはりキモイ。

 

「おお! トカゲ、お前も只者じゃないとは思ったけど、凄いな!!」

「ふぅ~~……オイラは、トカゲじゃねえぜ」

 

 そうだな、トカゲではないな。ドラゴンでもないと思うが。どっちかと言うとB・ビィという謎生物と言うナマモノか。

 

「オイラは、相棒ほど手加減が上手くねえからよ、死ぬ気でかかってきな」

「勿論だぜ!!」

 

 二人は、そのまま外で好きなだけ闘ってもらいながらその間俺達は、荷物の積み込み等出港準備をしていつでも出れるようにした。

 なんともまた面倒な奴を仲間にしてしまったが、まあ仕事を手伝ってくれるならかまわないだろう。きっと何とかなる。

 数時間後、マチョビィにボロボロにされながらも満足そうなフェザー君がいた。

 

 ■

 

 六 メタモルフォーゼだB・ビィくんマン!

 

 ■

 

 後日、B・ビィとフェザー君が揃って現れた。

 

「相棒、オイラ一つフェザーと連携技編み出したぜ」

「……一応みるわ」

「おう、行くぜフェザー!」

「わかったぜB・ビィ!!」

 

 するとB・ビィが飛び上がりフェザーが拳をかかげた。

 

「うっおおぉぉぉーーーーーっ!!【ブラストへ“ビィ”ナックル】!!」

「ぎゃああああっ!!?」

 

 B・ビィが突然体をグネグネ不定形生物みたいに変形させて手甲型に変形、変身?した。キモイキモイ、キモイ!!

 

「でやあ!装着!!B・ビィアニムス・ブロー!!」

 

 その手甲?をフェザーが装着すると光と闇の力の渦が巻き上がり凄まじいパワーを感じた。

 

「っとぉ……どうだ相棒?」

「凄いだろ!!」

「キモイわ」

 

 フェザーが仲間になり、B・ビィの謎が更に増えた。

 

 

 ■

 

 七 日常回

 

 ■

 

 俺の旅というのは、今のところジータを追いかける旅になる。今も彼女が立ち寄った島をめぐりながら騎空団として依頼を受ける日々だ。

 会おうと思えば勿論直ぐにでも会えるのだが俺としては、それは面白くない。やはり彼女の旅の跡と言うのを見てから会ってみたいという思いがある。

 最初に立ち寄ったポート・ブリーズは実にいい島だった。広がる平原に吹く穏やかな風は、体を透き通るようで嫌なものを飛ばしてくれる。薄着では肌寒さを感じるかもしれないがそれでも心地良い風だ。

 

「ソウダロウ、ソウダロウ」

 

 ……あそこの風は騎空士達、とくに操舵士に好まれる船を飛ばしやすい風だ。うちは操舵士という者がおらず通常では船型星晶獣のセレストが「頑張るよ」と星晶パワーで動かしてくれているが、やはりポート・ブリーズに立ち寄った時は動かしやすいと言っていた。

 

「ダロ? ダロ?」

 

 ……ポート・ブリーズに来るまで同行してくれたシェロさんは、今後も困ったら取りあえずポート・ブリーズに寄れとアドバイスをくれた。立ち寄りやすい場所であり多くの騎空士が立ち寄るために物資の補給などがしやすいからだ。確かにその通りで今でもちょいちょいポート・ブリーズへ用事で立ち寄っている。それだけ発展もしたバランスの良い島だと言う事だ。

 

「フフン」

 

 ……ちなみにポート・ブリーズを守護し恵まれた風を吹かせているのは、星晶獣ティアマトである。島の人達は最近まですっかりティアマトの守護を自然と受け入れすぎて忘れていたので、帝国による騒動が起こりジータが物理で解決したのであるが、今ではすっかり「やっぱティアマト様はすげえや」感があるそうだ。

 

「ドヤァ」

 

 うちのティアマトも見習って欲しいものである。

 

「オイ」

 

 いい加減物思いにふけり旅の日記を書いている俺の横で始終ドヤ顔満面なティアマトがウザイ。人の日記覗き込んでんじゃないよ、食堂で書いてる俺も悪いけどさ。

 

「アソコニ居ル、“ティアマト”モ同ジ“ティアマト”ダゾ!!」

 

 いいや、俺は認めないしティアマト(真)に失礼だ。

 

「(真)ッテナンダ!?」

 

 お前忘れたの? 里帰り的な感じだからってこっちの自分に顔出してやるかとか何故か先輩風吹かせてポート・ブリーズのティアマトに会いに行ったらめっちゃ嫌な顔されてたじゃん。

 

「私ハ星晶獣ノ、マグナトシテノ「力」ヲ分ケタ部分ダ。強サ的ニハ私ガ凄イ」

 

 結果ティアマト(真)がお前の堕落ぶりに顔をしかめてたけどな。サングラスつけて花柄シャツ着てちょい腹弛んだ自分が「オッス、元気?」みたいに現れたら誰だっていやだよ。「エエ、コレガ私?」ってショック受けてたじゃん。お前ら星晶戦隊ってふだん他の島とかにいる個体とリンク切ってるから、互いに情報無くて度肝抜いてたぞ。あまりの変わりように。

 あっちとこっちのニル達は親しげだったけどさ。

 

「別ニ私モ仲良カッタダロ」

 

 いや、お前面白がって「我ハ汝、汝ハ我」とか耳元で呟いた所為であっち「オ前ナンテ、私ジャナイ!」と叫んでたぞ。完全にうっとおしい親戚の姉に絡まれてる感じだったよ。気の毒だったわ。

 

「ウルサイ、ソレニモウ腹ハ引込メタ」

「そういってリバウンドするんだお前は、オラオラ」

「アフン……ッ!」

 

 知ってるか、ティアマト(笑)の弱点は、ヘソだ。たとえ引込めても、弛み気味の腹のヘソの位置は、簡単にわかる。つっついてやれ!

 

「コ、コノ餓鬼!!」

 

 フハハハハッ!!愚かなりティアマト!怨むなら怠惰な生活を送り腹を弛ませた己を怨むのだな!!

 

「ああっ! 主殿がティアマトになんか羨ましいことしている!!」

 

 めんどくさいのが来た。

 

「ヘソ責めなんて、そんなマニアックな……私にもやってくれ!!」

「やだ」

「そんな!?」

 

 日記をたたみ逃げるように食堂を出る。ティアマトやシュヴァリエがうるさいがとっと逃げる。

 さて、部屋に戻ったら日記に書こうと思うのは、ティアマト(真)の言葉。(笑)の方がゲラゲラ笑いながら街の居酒屋に繰り出しに行く姿を見て肩を落としながらも俺に「アッチノ私ヲ頼ム」と言って来たのは印象深い。

 島を守護する星晶獣として責任があるため、自身が世俗の世界に行けないので、何も考えず飲み食いしに行くもう一人の自分が羨ましそうでもあった。その姿を見てうちとあっちのトレードを考えた俺は悪くない。まあ、トレードできたとしてポート・ブリーズがえらい事になりそうなので無理だが。

 次に会う時は、酒や食い物を土産で持っていこうと思った。

 なんて、再度物思いにふけりだしたら甲板からフェザーとB・ビィの組み手の騒音と、ラムレッダがえずく声がどこからか聞こえて来てしまい、俺は一気に現実に戻されてしまうのだった。

 

 




クラウ・ソラス(レプリカ)は、この作品での二次設定であり当然ながら原作と関係ない設定です。パーティにクラウ・ソラス持ち主人公とシャルロッテ並んでて違和感あったのでこうなりました。

手に入れた武器由来の仲間は、勿論登場させますが、それ以外のキャラも仲間にさせていきたいと思います。

【ジータとゆかいな仲間たち団】は、そのうち出したいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こいつは、独楽った

シェロカルテは、オリ主を信用してるのです



 

 ■

 

 一 フェザー「噂の騎空団について教えてくれ!!」

 

 ■

 

  【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】ですか~?ええ、勿論しってますよ~。

 以前からお得意様だった方のご紹介でしたが~想像以上の方で驚きましたね~。同じ出身のジータさん。ああ、そうですよ~あの【ジータとゆかいな仲間たち】のジータさんです~。

 彼女と同じ出身ではありますが、まさかあそこまで強いとは思いませんでしたよ~。今ではすっかりお得様です~。

 それに~あの方は、普通の騎空団では頼めない依頼を押しつ……任せられる頼もしい方で、嫌な顔一つせず依頼を受けてくれる優しい方なんですよ~?

 あの方の特徴ですか~?うぅ~~……特徴は無いですねぇ~……。ええ、本当にないんですよ~。しいて言うなら身長がヒューマンの平均男性よりわずかに高いぐらいでしょうか~。けれどそれもほんの少しですからね~。街なんかの人が多い場所で、あの方一人だときっと気が付きませんね~。

 ただその分やたらめったら強い集団にいる異常に強い地味な少年、と気にしていればわかるかも知れないですね~。あの方、いつも面倒事に巻き込まれますから~。

 ええ、そうなんです~。基本あの方は、人畜無害な闘いを好まない人間ですが、状況がそれを許してくれないんですね~。この空域じゃあ、あの人に並ぶトラブルホイホイはいないと思いますよ~。

 その分面倒な事に慣れているので~、先ほど言ったようにそんなややこしい依頼を押しつ……いえいえ頼むには、これ以上ない騎空団ですよ~。それ以外でもトラブルを起こす騎空士や人物が居る時なんかも……うふふ、喜んで仲間として迎えてくれますよ~。強いだけじゃなく本当に、懐の広い方ですから~。今度も古戦場へ行ってもらい、ちょっと珍しい武器を探してもらおうかと~……――――――

 

「てな感じで、教えてくれたぜ!」

「……あ、そう」

 

 ―――――――――

 

 

 ■

 

 一 フェイトエピソード 回る回る、思考は回る

 

 ■

 

 話すのが好きなのだろうか。

 答えを得るのが目的なのだろうか。

 それが何時からそうであったか、覚えてはいない。思考を廻らせ己で問い、己で思考する。答えがあろうはずはない

 それは哲学である。底の見えぬ空を落ち続けるかのような、答えの無い問い。先の見えぬ道を歩き続けるような問い。答えを求め、それでいて求めてはいない。追及する、それが哲学だろうか。だが追及する事に囚われてしまえば、それが答えになってしまう。それは答えなのか。

 彼女の思考の空間には、常に問いと一時の答え、そして新たな問いが生まれては、消えていく。完全な答えなどなく、それを思考し空を漂う。彼女は、黙々と考える。

 戯れに人に問う時もある。

 難解、奇天烈。はなから答えらしい答えなど無い問いを問われ、誰もが顔をしかめる。馬鹿にしてるのかと怒る者もいる。考え続けて疲れ果てる者もいる。知ったような口でつまらぬ答えを言う者もいる。だが誰もが総じて困り顔だ。彼女は、それがたまらなく面白かった。旅の中、困る顔が面白そうな人を見つけては、いつも声をかけて問いかけた。広い空の中、一人一人の出会いを大切にし、面白く問い続けた。

 だから今回も問う。一際困り顔が面白そうな少年を見つけたから。

 

「おっと、操作が……あっ」

「ぐはあっ!?」

 

 ■ 

 

 二 前が見えねえ

 

 ■

 

 人との出会いって言うのは、大概唐突だけれどさ、俺の出会いがことごとく唐突過ぎて困る。星晶戦隊からのラムレッダしかりフェザー君しかり。しかし船で移動中に頭の上から降ってきて、そいつが乗ってるデケー独楽の先が顔に刺さる経験ってある?俺初めてだったわ。たぶん全空探しても俺しかいないだろう。

 

「いやあ……ごめんね少年。急な風でクリュプトンの操作が狂ってしまった……」

「そう思うならどいてくれ」

 

 空が晴れていい天気だから、甲板で風にでもあたろうかと思って空を見上げてみればこれよ。急になんか不審物が落ちてくると思ったら一気に俺の顔面に刺さりやがった。もう体験したくない痛みランク堂々のNo1である、【格闘戦の特訓でばあさんに関節全部外され、ぶっかけられたエリクシールによって【ベキベキ】と一瞬で治るのと同時に訪れる関節痛】に次ぐ痛みかも知れない。死ぬほど痛いぞ。

 

「団長!何か降りて来て団長の顔に刺さるのが見えたが……うん?誰だ!!」

「また変な奴引き寄せたなあ相棒」

「サッキ、クシャミシタラ、ウッカリ風吹カセテ何カ落トシテシマッタガ特ニ被害ハナイナ」

 

 俺の珍事を目撃したフェザー君が駆けつける。その騒ぎを聞きつけゾロゾロ他の奴らが来るが、お前らちゃんと俺の心配しろ。と言うかお前が原因かティアマト。バッチリ被害でとるわ、俺の顔がちょっと沈んだぞ。

 

「やあやあ、皆様。お騒がせして申し訳ない。申し訳ないついでで、突然ながらお一つ問うね?」

「問うな問うな、何なんだあんた」

「君は、君達は空を飛んでいるのかな?それとも飛んでいないのかな?」

 

 無視かよ。

 

〈なんだなんだ、何かと思えば頓智か?〉

「わ、魔物?」

〈魔物ではない〉

 

 あ、そいつ一応星晶獣(笑)なんですよ。省エネのせいでデカい蛇かウナギにしか見えないけど。

 

「おやおや……星晶獣に地味な少年……もしや、これが噂の騎空団かな?」

「うむ、主殿を地味と感じたか。その通りだ」

「じゃあ噂の騎空団だ……あは!」

 

 シュヴァリエ、その言い方ないんじゃない?

 

「これは面白い答えが聞けそうだね……あは。さあ、答えを聞かせておくれ」

「ヤレヤレ……飛ンデイルカナド……私ハ、風ノ星晶獣ティアマト。常ニ飛行シ飛ブノハ当然ダ」

「ほうほう?それは確かに……けれど風の星晶獣様?風の星晶獣ならば、風そのものでもありますね」

「ウン?」

「そうであれば、あなたは飛ぶのではない、空に存在するだけ、あるいは浮かんでるだけなのではないですか?」

「イヤ、ソレモ飛ンデイルダロウ」

「しかし浮かぶのであれば、水でもできますね。空中水中、どちらも上へは上がる、下へ下がる。どれも同じです」

「ウン……ウン?ソレジャア、泳イデル事ニナッテシマウゾ」

「ならあなたは、実は空を泳いでいるのであって、飛んではいないのではないのかな?」

「エ、エ……?イヤ、私ハ飛ンデ……アレ、ケド前空デクロールシタラ進メタシ……アレェ?」

 

 ティアマト?君人間に言いくるめられているよ、大丈夫?と言うかクロールしたの?何してんの、暇なの?ポート・ブリーズのティアマト(真)が泣いてるぞ。

 

「じゃあそこの君、君は飛んでるのかな?それとも飛んでないのかな?」

「私か?」

 

 次はゾーイが指名されてしまった。え?これ続けるの?誰も文句言わないから言いにくいじゃん。

 

「ふむ……深い問いだ。我々は今、騎空艇に乗り飛んでいる。そういう意味であれば飛んではいるだろう。だが我々自身は、騎空艇に立っている。であれば、飛んでいると言い難い……ううむ」

「あは……君の困り顔、かわいいね」

「そうか、ありがとう……飛ぶ、飛行とは……」

 

 根が真面目なゾーイは、適当な返事をしてそのまま思考の海に沈んでしまった。

 

「あは……いいねえ、人の困り顔って可愛いと思わないかい?」

 

 ゾーイの困り顔がカワイイのは、全面的に同意したい。

 

「それはともかく、結局あんた何者なの?」

「ああ、すまない自己紹介が遅れたね……私はフィラソピラ、人は私を賢者と呼び、人は私を哲学者とも呼ぶ」

 

 ああ、なるほど。つまり面倒な方なんですね、お帰り下さい。

 

「あは……君のさっきから次々変わる困り顔、すごくいいね」

 

 まるでうれしくねえ。顔について地味だとかしか言われないうえ、困り顔褒められたってどうせいと言うのか。

 

「君の答えは面白そうだ……だから、君の問いの答えは最後に聞くよ。さあ、他の皆の答えもきかせておくれ」

 

 そう言ってフィラソピラが皆に答えを促した。というか、勝手にハードルあげるな、おいコラ。

 しかし、こんな答えの無い問いなど、みんな大体困り果てるだけで終わる。たとえ(笑)であっても理性派のリヴァイアサンと、変態状態で無ければ真面目のシュヴァリエなどは、色々と答えを出しては彼女と問答をするが、結局頭を捻るばかり。癒し組は、そもそもよくわかってない。

 

「おぶぇ……と、トぶぅえ……うぶっ」

 

 お前はなんで来たラムレッダ。ある意味ぶっ飛んでるわ。一人だと寂しい?いいから部屋で寝てなさい。コロッサス、介護してあげな。

 

「よくわからないから、拳で語り合おうぜ!!」

 

 これは論外である。物理学としての哲学でなく、哲学(物理)とは、たぶんフェザー君と同じ人種じゃないと通用しないだろう。見なさい、フィラソピラが少し引いている。

 

「オイラってオリジナルビィをモデルにしてるから羽と言うより魔力飛行に近いんだよな……けど、キラービィ形態なら、露骨な羽の飛行になれるぜ!」

 

 やめろ、露骨とか言うな。あとそれ以上不定形生物ぶりを見せないでくれ。

 

「みんな面白い答えばかりだね……あは」

 

 一人拳で語り合おうとして、一人吐きそうだったがな。

 さて、面倒な事に俺がトリである。団員とフィラソピラの期待が無駄に大きい。勘弁してくれ、俺は哲学なんて柄ではないのに。大体なんだってんだい、飛んでるかどうかなんて、それ聞いてどうすんの?言い方で答えが変わってしまう事もあるじゃないか。

 

「さあ、それじゃあ君の答え……聞かせておくれ?」

 

 満足いく答えじゃなくても文句言うなよ、ちくしょうめこの野郎。

 

 ■

 

 三 困り顔しかしない男

 

 ■

 

「ガッカリダナ、実ニガッカリナ男ダ」

「うるさい」

「オマエノ程度ガ知レル、ガッカリナ答エダッタ」

「うるさい」

 

 ティアマトが食堂で不貞腐れている俺の後ろから、うだうだとうるさい。

 

「アンダケ引ッ張ッテ置イテ、アレハナイ」

「うるさい」

「ガッカリ団長ダ、オマエハ」

「うるさい」

 

 まったくもってうるさい星晶獣だ。誰がガッカリ団長だ。俺がガッカリ団長ならお前は、ガッカリ星晶獣だよ。バーカバーカ。

 

「オオトリデ、一番最後ノ答エガ『宿題にしちゃダメ?』ハナイ」

「うるさいっての」

 

 いくら頭捻ってもそれらしい答えが出ず、とっさに逃げの答えを出してしまった。

 だってわかんねーもん、そんなパッとでないよ答え。

 

「まあまあ……私は実におもしろかったから、いいじゃないか……あは」

 

 俺の前でくつろぐフィラソピラ。

 ちゃっかりいる、フィラソピラ。

 

「結局ついて来るの?」

「勿論、君の困り顔は実に面白いからね……」

 

 やかましい。

 俺の『宿題にして』発言を受け、面食らったフィラソピラは、すぐにケラケラと鈴の様な声で笑った。どうも彼女のツボにはまる発言だったようで、興味を惹かれてしまったらしい。

 

「その後の君が言った”いいわけ”を言う時の顔は、実に可愛かったよ……今思い出しても、あは」

 

 あの時、空気が死んだのを察した俺は、直ぐに弁解しだしてしまい、余計に彼女を楽しませてしまった。あーでもない、こーでもない、つまり今は思いつかないけど、きっとあとでいい答えが云々……その時の俺の顔の百面相がよほど愉快であったらしい。俺としては複雑だ。

 

「それに、宿題なんだろう?楽しみだな……空の果て、星の島を目指す先に出る君の答え」

 

 更に俺達が星の島イスタルシアを目指している事を話すと尚更興味を持ったようで、雑用でも構わないから連れて行っておくれ、と頼まれてしまった。聞けば回復魔法の心得もあると言うので、依頼などでも頼れるだろうと思い仲間に迎えた。

 

「(*´ω`)カンゲイスルヨ」

「お菓子、あるから……食べてね」

 

 常に通常運転なのは、癒し組も変わらずで早速仲間になったフィラソピラに色とりどりの菓子を出して……出して……。

 

「まて、何だこの高そうな菓子は」

「ああ、前買い出しに行った時、団長が買うよう言ってたと聞いたから買ったんだが」

 

 フェザー君、それ初耳なんだけど。誰に聞いたの?

 

「うん?買い物に行く時にティアマトが」

「(´・ω・`)アッ」

「に、逃げた」

 

 後ろを向いたが、そこには僅かにそよ風が残るのみであった。

 

「……フィラソピラ、このお菓子は入団記念だから全部食べていいよ」

「わあ……全部いいのかい?」

「ああ、勿論……」

「じゃあ、全部は流石に無理だし、みんなで食べようか」

 

 俺はいいや、食べても虚しさしかなさそうだ。

 しかしあれである。シェロさんと会った時が初ハーヴィンとの出会いであったが、本当に小柄だ。歳聞いても「秘密」との事なので、想像がつかない。まあ、これはハーヴィン共通の特徴であり、彼等そして彼女等にとっての種族的悩みともいえる。ザンクティンゼルを出て色々な島に行くとやはりハーヴィン族をちょいちょい見かけるが男女問わず、なんと言うかカワイイので癒される俺がいる。だがそう思われるのを嫌うハーヴィンも少なくない。そりゃそうだ、もし大人なら「カワイイ」とかより「大人」として見てほしいだろう。多種族との交流をする際、ハーヴィン本人達からすれば悩みの種かもしれない。

 

「はむはむ」

 

 そう、だから迂闊にハーヴィン女性にカワイイだなんて言うのは、失礼と言うものだ。シェロさんにもそうそう言わない。思ってはいるけど。あのモフッとした髪とかワシャーっとしたいけど。

 

「甘い……あむっ」

 

 うん、だからね、けっしてハーヴィン達は、かわいいと思われたくてああいう姿ではないし、けどその姿でこう小動物みたいに菓子を食われると、どう足掻いても。

 

「はむっ……あむっ……」

 

 だめ……ああ、だめですねこれ、カワイイは真理、カワイイは哲学。

 

「……フィラソピラ、改めて歓迎するよ」

「うん?ああ、ありがとう、団長……これからよろしくね。あは」

「うん、うん……あと、これも美味しそうだぞ」

「わあ……ありがとう、あむっ」

 

 そう、俺には癒しのある日常が必要だ。ラムレッダは、そりゃ美人だが酒癖が悪い。フェザー君は、戦闘では頼もしいが隙あらば拳で語り合おうとする。フィラソピラは、まあ難解な問いかけがあるが、しかしいいや、もういいです。カワイイからいいや。

 なお、後日俺はティアマトの菓子類を全て没収した。愚か者め。

 

 




エンゼラで旅させたいからエンゼラにしたけど、ちょっとだけセレストの船形態での旅も考えてた。ちなみに、ジータはメインストーリーを進んでる。なんでオリ主は、そろそろサイドストーリー方面に絡ませていきたいけど、とりあえず、ガチャキャラ出し切りたい。
また別の展開として、戦隊ものには、追加戦士がつきものだと思いました。どうしよう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クロスフェイト 正義を叫べ (前編)

なんだか、長くなったんで前後編。
フェイトエピですが更に、オリジナルの展開があるので、そう言った要素が気になる方はご注意ください。


 ■

 

 一 フェイトエピソード 最後の切り札

 

 ■

 

 騎士団の掲げる正義を誇りに、騎士の正義を使命として、彼女は蒼き剣を携え正義を問う。

 

 ”正義とは、何ぞや”

 

 正義を問われ戸惑う者よ、この蒼き剣を恐れる者よ。使命にはむき、正義を忘れるならば、この者が相手になる。

 リュミエール聖騎士団遊撃部、最後の切り札、コーデリア・ガーネット。彼女は、騎士団の使命を今日も使命を帯び、正義を問う。だが、正義を問われる者、それは、愚か者だけではない。

 

(リュミエール聖騎士団団長……シャルロッテ・フェニヤ。小柄なハーヴィン族でありながら、種族の差を覆す剣技とカリスマを持つ彼女……歴代最強とも謳われる彼女への正義審問、最も辛いものとなるだろう……)

 

 騎士団遊撃部として、彼女は騎士団を抜け姿をくらました者を追い詰める。騎士団としての使命を、正義を忘れ悪しき道に進む者あればそれを討ち、騎士団の名を貶める者あればそれも討つ。

 遊撃部としての任とは、かくも辛く厳しいものであった。それがまして、現騎士団団長を相手とするのであれば、いつも以上に厳しいものとなるのは、明白であった。だがそれを遊撃部の任務と割り切り、正義を問うべき相手を探し出す。

 

(それに、まだ他に最近団に姿を見せぬ者……退団したわけでは無いらしいが、それでも問わねばなるまいな……)

 

 聖騎士団の名は、軽くはない。たとえ見習いや新人であろうと、片手間に出来るようなものではない。その者が、リュミエール聖騎士団に仇なすか否か、小さな芽のうちに摘むのも彼女の使命だ。

 騎士団長シャルロッテ・フェニヤは、騎士団長としてよりふさわしくなると言う名目で職務を休みがちとなり、結果その姿をくらましている。使命を完遂するためには、まずシャルロッテを探し出さねばならない。

 人探しは、この任務を多くこなして来た彼女にとって常である。見つかるかはともかく、有効な手段は既に承知であるために今回も今まで通りに彼女は、シャルロッテとそれ以外の騎士団員を探し出す。

 この空の世界における人探しの常とう手段は、騎空団の人間に情報を求める事だろう。島々をめぐる騎空団は、それだけ様々な人間に出会っている。そして今は知らなくとも、今後島をめぐる上で出会う可能性もある。それでも今回探し出す人物は、騎士団長とあって特別だ。迂闊に口の軽い騎空団に話を聞くのは得策とは言えないだろう。無論百戦錬磨の遊撃部最後の切り札、下手な真似はしないがそれでも万が一を考え慎重に行う。騎士団でも名の知れた信用あるよろず屋に、情報が集まりそうでかつ、信頼のおける騎空団の紹介を頼むとある騎空団を紹介された。

 ハッキリ言って名前を考えた者はどうかしてると思うような団名であったが、よろず屋が自信をもって「必ず尋ね人につながる」と言うのでそれを信用しある島のよろず屋が経営する居酒屋で落ち合う事が決まった。

 そして、その待ち合わせ場所へと向かう途中の事。

 

「……やれやれ、私はこれから用事があるのだがね」

「へへ……悪いけどそうはいかねえよ兄ちゃん」

 

 街の路地裏の袋小路。そこでコーデリアは、悪漢達に囲まれていた。ヒューマンとドラフの混ざる悪漢達は、品のない笑みを浮かべ手にナイフにこん棒と得物を持つ。既に日は沈み時間は、夜となっている。人を呼ぶにも人通りは無い。

 

「ある人から頼まれてな、なんでもあんたに恨みがあるそうだ」

「恨み、か……確かに恨みを買う事をして来たと自覚しているがね。しかし私一人を大勢でこんな場所に追い込むとは……卑怯とは思わないのかな?」

「ひゃひゃっ!違うね、これは知略って言うんだぜ!」

「兄ちゃん一人やるだけで、大金がもらえるんだからよ。何だってするぜえ」

「ふっ……なんでも、か。だがそれがこんな浅知恵ではな」

「なにいっ!!」

 

 コーデリアの冷やかな微笑、そして挑発に悪漢達が声を上げた。

 

「相手一人を大勢で追い込むなど、子供の手段だ」

「うむぅっ!?」

「それに、君達は私を何者か知らぬようだが……相手の力量もわからずそうしたのであれば、救いようもないな」

「こ、この野郎!!」

 

 自身の事を「兄ちゃん」と男として認識しているのを見て、男達は依頼主からろくな情報を貰っていないと確信があった。指摘され動揺する様子からも間違いなかった。

 

「はっはっはっ!この程度の挑発で顔を赤くして、図星を突かれたのかな?」

「う、うるせえ!!やるぞお前ら!!」

 

 芝居がかった言葉としぐさが様になるコーデリア、もしここにいるのが悪漢でなくうら若き乙女であれば心奪われたろう。しかしここにいるのは、正義も知らぬ悪漢。もう我慢ならぬ、悪漢達がそれぞれ得物を振り上げ襲い掛かろうとする。コーデリアは、正義の証であるリュミエール聖騎士団から賜った蒼き剣を抜き構えた。多勢に無勢、相手は10人。だが恐怖は無い。引き抜かれた剣が描く蒼き光跡、一切のブレの無いそれが彼女の研ぎ澄まされた心、鍛え抜かれた剣技を現している。

 リュミエール聖騎士団、遊撃部最後の切り札。その強さが披露されるかと思われたその時であった。

 

「ほがっ!?」

「でがぁっ!?」

「たっぱすっ!?」

「むっ!!」

 

 彼女へ襲い掛かろうとした悪漢の内三人が情けなく短い悲鳴を上げ倒れた。悪漢達だけでなくコーデリアも驚き倒れた三人の傍に立つ者達を見た。

 

「おうぇ……にゃぁ~んだか物騒なかんじだにゃ……うえっぷっ!?」

「喋んなラムレッダ」

「こう言うのは好きじゃないな……その根性、鍛えなおしてやる!さあ、語り合おう!!」

「あーうん、存分にそうしてやんな」

 

 酒瓶を持つドラフのシスター、拳を構える暑苦しい金髪の少年。そして、それに挟まれた一人。

 

「……”トラブルが起きて、強い者達の中にいる地味な少年”、もしや」

「おう、姉さん。それ誰に聞いたの?」

 

 さして特徴のない少年は、何時もと変わりなく憤慨した。

 

 ■

 

 二 イケメン(きた)りて、地味霞む

 

 ■

 

「団長殿、改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」

「ああ、はいはい」

 

 俺に頭を下げる麗人に、適当な返事をする。

 数日前、シェロさんから依頼が来て「ぜひ会って力になって欲しい人がいる」と言われる。とにかく会ってみてから、あとは俺達のほうで自由に対応してよしとの事であったので、とにかくシェロさん側でセッティングされた待ち合わせ場所で依頼人を待った。だが待ち合わせの場所に一向に来ない依頼人が心配になり、B・ビィを店で待機させ今回の依頼メンバーであったフェザー君、ラムレッダと共に待ち合わせ場所である店の周辺を探索。そしてラムレッダの「にゃんかきこえる」という言葉をうけ路地裏の方へ行ってみれば案の定ややこしそうな事が起こっていた。

 如何にも三下奴な奴らの集団が一人女を囲っている。その人が例の依頼人であるかは、すぐはわからなかったが、違ったとしても見捨てるわけにもいかない。まあ結局依頼人であったが。

 依頼人の姉さんの実力も高く、時間もかかる事も無く雑魚はボコボコにする。依頼人が現れるまで酒を飲んでいたラムレッダの酒瓶で殴打され案の定吐いたラムレッダのゲロにまみれたヤツ。フェザー君の拳を受け唐突に心入れ替えたヤツなどなんとも混沌とした場となった。街の衛兵が駆けつけ男達を連行する時、ボコボコにされゲロまみれとなった奴に、瞳が綺麗になった男達を見て何とも言えない表情であった。

 やっと場が落ち着いたので、俺達は大幅に予定が遅れたものの、もう一度約束の店に行き依頼人、コーデリア・ガーネットから話を聞いていた。

 

「人探しねえ」

「ああ、貴君はリュミエール聖騎士団を知っているかな?」

 

 そう言えば、シェロさんの言ってた騎士団の名前がそんなんだったな。やっと思い出せた。

 

「あいにく今までど田舎に住んでたもんで、そういうの知らないんですよね」

「なあに、そのように己の出身を卑下する事は無いよ。知らない事は、誰にでもある事さ」

 

 ヒューッ!イ、イケメ~ン。

 

「てことは、探してるのは騎士団関係者ですか」

「まあそんなところだね。だが、あまり深く追求しないでくれると助かるよ」

「そら勿論。態々藪を突く真似は、したくないので」

 

 俺の場合、藪を突くと蛇や鬼どころでは無い結果になりそうで怖い。

 

「助かるよ」

「まあ、とりあえず依頼の方は、その失せ人探しに情報提供ってところですかね」

「そうなるな。この島で目撃情報が幾つか上がっている。貴君達には、私と共にその調査を願いたい」

「あいあい……久々にまともな依頼だな」

 

 いつも異常なまでに増えた魔物の討伐や、盗賊団のアジトにカチコミかけての掃討作戦など、駆け出し騎空団に頼む内容ではない。まあ、うちの戦力も異常なのは承知してるが、俺一人当たりの負担が多い。魔物の巣に行った時も、洞窟が崩落して俺とそれ以外のメンバーが分断。結果、俺一人で100匹以上の魔物と戦う羽目になり、洞窟からの脱出も三日かかった。盗賊団共のアジトへのカチコミも、その日に限って「盗賊団のトップが誕生日だから」と言う理由で他の島で活動している盗賊メンバーが急きょ勢ぞろいとなり、想定の3倍の数を相手にしなければならなかった。しかも深夜の奇襲計画であったため、目立つマグナ達を置いて俺とB・ビィにフェザー君のみと言う編成のせいでかなり疲れた。

 しかもなんだ、よくよく調べると魔物の異常発生は、帝国主導による実験の結果でその後始末もせず帝国は、実験機材だけ持って撤退し増えた魔物はそのまんま放置したせい。盗賊団も構成メンバーのほとんどが帝国の脱走兵やらで構成されていた。

 また、帝国か。

 あいつらマジ許さんからな。その内本気で帝国乗り込んでやろうかこの野郎。星晶戦隊全力投入だこの野郎。

 

「どうかされたか?」

「あ、いや……ちょっと普段の疲れが出たみたいで」

 

 嫌な事を思い出したらコーデリアさんに心配された。

 帰ったらゾーイかフィラソピラと戯れよう、そして癒しを補充するんだ。

 

 ■

 

 三 イケメンと引き立て役(なお主人公)

 

 ■

 

 後日、俺は団のメンバーで街でも目立たぬ面子を揃えて情報をあつめる。単独行動に向かないコロッサス、リヴァイアサンは勿論、意思疎通が出来ても目立つユグドラシル、日光が嫌いで体力が無く聞き込みに向かないセレストもお留守番。またティアマトは人型であるが彼女をはじめ(笑)の奴らは、街に入れると何をしでかすかわかったものでは無いので、今日は船で待機させる。ようは星晶戦隊は、みんな待機。癒し達には、後でお土産をあげる。

 捜索対象の情報は、限られている。その者がハーヴィン族である事と、コーデリアさんは明言してはいないがリュミエール聖騎士団関係者である事のみ。ハーヴィン族は、シェロさんのように商人を生業にしてる者が多いがそれ以外のハーヴィンを街で見かけるのは、他の種族に比べると少ない。別に多種族との交流が少ないわけじゃないのだろうが、失礼を承知で言うと多分ドラフやエルーンの様な高身長の面子に交じり目立たなくなるのではないか。ドラフの男となると、2m越えは珍しくない、街によってはそれが集団でいるのだから、そんな中に居たらヒューマン男性だって目立たない。ううむやはり、そんな気がしてしまう。

 だからこそだろうか、一際目立つ行動をするハーヴィンとなればおのずと情報が集まる。

 

「騎士らしきハーヴィン女性の目撃情報は、結構あるようだね~」

「にゃぁ~けど情報が二通りあるにゃ」

 

 フィラソピラとラムレッダの言う通り、どうも目撃情報のハーヴィンの特徴が分かれている。どちらも騎士らしきハーヴィンなのは共通しているが、話を聞くとどうも別人のようだ。

 片方は、特に何をすると言うわけでもなく色々と話を住民から聞いて周り情報を集めていたらしい。片方は、街で困る者を見つけては、手伝いをしまくっていたと言う。

 

「とりあえず、片方はもう島を発ったらしいのは確かだな」

 

 フェザー君は、聞き込みとか地味で地道なのは苦手らしいが、暑苦しくも爽やかで人当たりが良いおかげか、案外しっかりと情報を集めてくれるので助かる。

 

「私達のほうも、似た情報ばかりだな」

「一応片方のハーヴィンのいる場所は、ある程度わかるから、行ってみるのもいいかもしれねえぜ?」

 

 B・ビィは、ゾーイと共に行動させた。俺といると、かなり相手に不信感を与える。かといって待機するのを拒否られたので、せめて見た目が良いゾーイと行動させてみたがどうやら正解だったようだ。

 さて、とにかく有力かはまだ分からないが、一人それらしいハーヴィンを見つけそれがまだこの街にいるのは、間違いないようだ。俺はすぐに別の場所で聞き込みをしているコーデリアさんと合流しその事を話した。

 

「ふむ、手あたり次第に人助けをするハーヴィンか……」

「心当たりあるんですか?」

「……実は探している人物は、何人かいてね。今回の本命は、別だったので特に話さなかったが……いや、とにかく確認した方がいいだろうな」

「ある程度場所はわかるようなんで、行きますか」

「ああ、お願いするよ」

 

 もう片方の目撃情報については、コーデリアさんも意外であったようだ。ともかく俺達は、そのハーヴィンがいると言う場所へ向かう事にした。

 

「……しかし」

「うん?どうかしたかい?」

 

 コーデリアさんが表を歩くと、蜜に集まる虫の様に、と言うとかなり言い方が酷いが、思わずそう思ってしまうほどの勢いで女性が集まる。

 

「あらぁ~いい男ねぇ!」

「ほんと、うちの旦那とはえらい違いだわぁ!」

「旅のお方かしら?ねえねえ、ちょっとうちの店、寄ってきなさいよぉ~」

「ありがとう、ご婦人方。だがすまない、今は所用があってね。またの機会に」

 

 集まる女性達を慣れた様子でかわして行き、進む姿が実に様になっている。

 

「いやいや、手慣れたもんだと感心しまして」

「ふふ……まあ、仕事柄と言うやつだ」

「羨ましい話ですねえ」

「いやはや……しかし、今日はいつもよりか声をかけられるが……どうした事だろうか」

「ああ、そりゃイケメンの姉さん、横に相棒がいるからだぜ」

「彼が?」

「地味モブ顔の相棒が、超絶イケメンの隣にいりゃ、そりゃ姉さんが目立つってもんさ」

 

 B・ビィ、ぶっ飛ばすぞお前。

 

「こらこら、B・ビィ殿。そのような事を言う者じゃない。愛嬌があって、かわいらしい顔じゃないか」

 

 おっと、一瞬ときめいたぞ俺。ヤバイヤバイ。

 しかし、モテたいとは思わないが、ちょっとぐらい街で声をかけられるぐらいの事を経験してみたいとは思う。モテたいとは、別に思わないけどさ、まあ地味だ平凡だと言われる身としては、あらいい男、なんて台詞をマジで言われてる場面を見せられては、そうも思う。いや、別にモテたいとかは思わないけど。

 

「相棒、考えてる事顔に出てるぞ」

「うそやん」

「団長、”モテたいとは思わないが、ちょっとぐらい街で声をかけられるぐらいの事を経験してみたいとは思う”みたいな事考えてたろう?」

 

 前も似た事あったけど、俺の表情筋正直すぎない?

 

「ふっ……これはこれで、面倒なものだよ」

 

 コーデリアさん、それ逆に惨めになるんで言わないでくだせえ。

 

「情報を集めるうえで、私の端麗な容姿は、なにかと便利ではあるがね……女性としては、複雑なものさ」

「まあ、そりゃそうでしょうけど」

「貴君も、シェロカルテ殿に聞いていなければ私が女性とは、わからなかったろう?」

 

 などと、突然言われて首をかしげる。

 

「は?何がっすか」

「うん……?貴君は、昨日悪漢達を蹴散らす際に、私を”姉さん”と呼んだろう?その後も自然と女性として接するので、シェロカルテ殿から依頼人が女性である事を聞いていたと思ったが……違うのかい?」

 

 あーあーなるほどね、はいはい。一瞬何の事かわからんかったが、そう言われて納得。

 

「俺ある人に無理やり鍛えられたんすよ」

「うん?」

「その過程で、襲ってくる相手が男に見えても女だったり、女と思ったら男だった……みたいなヤツが稀にいるから、相手の体格と声の出し方やクセから一発で男女見分けろって叩き込まれたんで……まあ、そう言うわけで直ぐわかりました」

「そのような事が……」

 

 ようは主にハニートラップ対策である。他にも足音で体に仕込んでる武器を見分けろとか、体重移動だけでそいつの得意な武器を予測しろとか、無茶な事ばかり叩き込まれた。勿論あのばあさんにである。しかも、慣れるとわかるもんなのだなぁ、これが……。もっとも、ハニトラにかかった事なんぞ一回も無いが。厳密には、ハニトラが一回も無かったが。

 

「ただそれ抜きでもわかりそうなもんですけどね」

「おや、そうかな?」

「だって……コーデリアさん、まんま“男装の麗人”過ぎて俺は、男と思えんですね。男性像として理想的過ぎますよ」

 

 こんな芝居がかった台詞が素で似合う男と言うのは、中々いない。そしてそんな理想的男性を演じれる男もこれまたいるもんじゃない。女性のツボをおさえた台詞や仕草と言うのも、女性ならではの技にも思える。

「なるほど……そう言う意見は、初めてだな」

「あーいや、失礼でしたね」

「ふふ、そんな事は無いよ。貴重な意見だ。……しかし、如何なる理由とは言え、最初から女性として接してもらうと言うのは、嬉しいものだよ」

「そんなもんすかね」

 

 街で女性に声をかけられもせず、ハニトラにもあわん俺にはわからん感覚である。

 

「そんなものなのだよ。男性としての振舞いが板につきすぎたのか、騎士団内でも私を女性と知っていながら先程の婦人達の様な扱いを受けてね。色々と複雑なものさ」

 

 ふむ、イケメンには、イケメンの悩みがあるらしい。俺は一生わからん悩みだろう。

 

「そういえば、信じられます?前フェザー君にハニトラがあったんですよ……」

「あぁ~あったにゃ~そう言えば」

「私が団に入る前のことかな?」

「そうそう、フィラソピラが来るちょい前かな」

「ん?そんな事あったか?」

 

 お前が忘れるなよフェザー君。

 

「噂の騎空団の一人だって聞いて、彼から俺達の情報を引き出して財産盗もうとしたらしいんですけどね」

 

 宿泊先の個室でハニトラ仕掛けに来た女が「坊や、私と良い事しない?」と迫ったら「良い事?……なるほど!それじゃあ早速語り合おうぜ!!」と良い事を自己流に解釈したフェザー君によって、”良い事”は”拳の語り合い”になり、女は一発ノックアウト。そこから女が所属する盗賊組織が捕えられた。愚かな奴だ。仮にエンゼラに侵入しても、それぞれの属性を司る星晶戦隊が、侵入者の息づかいや、体温など何かしらの形で感知して侵入者を撃退してしまう。そもそもうちの騎空団に財産など無いのに……。

 ちなみに団長である俺を何故ハニトラしなかったのか?については、「地味とは聞いたが、まさかあんな地味な男が本当にあの団の団長と思わなかった」との事。コメントは、差し控えさせていただきます。

 ところで、コーデリアさん笑ってません?ねえ?肩震えてますけど、ちょっと。

 

「……す、すまない……内容が、予想外だったので、その……くっ」

 

 まあ、笑い話ではあるけどね、何処で笑ったの?怒るよ?笑った場所によっては、依頼人で年上でも怒りますよ?ねえちょいと。

 

「ふっく……ああ、本当にすまない……」

 

 しかたない、顔を背けて笑う姿にギャップがあって可愛かったから今回は見逃そう。俺のカワイイものへのちょろさは、全空一ぞ。

 

「ふふ……さて、そろそろ例のハーヴィンがいる場所だ」

「おっと?」

 

 世間話をしていたら、いつの間にか目的の場所にたどり着いた。集めた情報では、ここでゲリラ的に人助けをするハーヴィンがいるらしいのだか……。

 

「ご老人!お荷物、とことんお持ちするです!」

「あらあら、ありがとうねぇ」

 

 いたわ。間違いないわ、一発で発見だわ。

 

「……やはりか」

 

 コーデリアさんは、彼女に見覚えあるらしく、どうやら情報は間違いないようだった。

 

「まさか、貴君を最初に見つけるとは、予想していなかったよ。ブリジール」

「え?あ、コーデリアちゃん!」

 

 小さいながらに甲冑を着込んだハーヴィン、ブリジールが驚きの声をあげた。

 

 ―――――

 

 ■

 

 一 クロスフェイト 小さな勇気はデカくなる

 

 ■

 

 リュミエール聖騎士団団長、シャルロッテ・フェニヤ。その名は、歴代最強として名を馳せ、騎士団の中で知らぬ者はいない。そして多くのハーヴィンにとっては、種族としての体格差をものともしない剣技とカリスマを併せ持つハーヴィン界の憧れとしても知られていた。

 憧れを憧れのままにするか、それとも自分自身もその高みへと昇るのか。前者を選んだとしても、だれも責めはしない。だが、己自身が後悔するだろう。だからこそ、彼女ブリジールは、ハーヴィン族でありながらもリュミエール聖騎士団の門をたたいた。

 彼女が騎士団に入る事を笑う者はいない。だがその道が困難である事を告げる者は多かった。シャルロッテ・フェニヤと言う例外、あれは正にずば抜けた努力と才あっての事、全てのハーヴィンがあの域に達する事が出来ると軽々と言える者はいない。

 そして、彼女は弱かった。ハーヴィンと言う種族差以前に全てが足りない。剣技、スタミナ、才能、あらゆる面で弱い。だが、誰もが彼女に一目置いたのは、ひたむきな努力と言う才能かも知れない。

 どれ程無理だと言われても、それを自身で理解していた。そして、あきらめはしなかった。厳しい訓練について行けない事は、常の事。それでも憧れをただの憧れ、夢物語にする気など一切なかった。

 そして、彼女は友に恵まれた。ヒューマンの女性と親友となり、彼女と共に切磋琢磨しあった。辛い時があろうと、友がいれば乗り越えられた。

 結果、彼女は友と共に見事リュミエール聖騎士団へと入団が叶い、なおもハーヴィンとしての不利や偏見に悩みつつも自身が掲げたモットー「一日十善」を行う。自分の身の丈に合わぬ善行、余計なお世話と言われても、困る者いれば手を指し伸ばす。それこそが、自身の正義だと胸張っていえる。

 

「貴君を最初に見つける事になるとは、予想していなかったよ……ブリジール」

「コ、コーデリアちゃんっ!?」

 

 一人の老婆を手助けしている時、現れた騎士団の友。そして地味目な少年。その出会いが、ブリジールとその友コーデリアにとって大きな転機となる。

 

 

 ■

 

 二 何ニモマケズ

 

 ■

 

 俺達の情報収集によって見事見つけ出したハーヴィンの女。だが、どうもコーデリアさんの探す本命とは、また別の探し人であったようだ。

 

「ブリジール……こんな所で何をしているんだい?」

 

 相手の事をコーデリアさんは、よく知っているようで呆れた調子でブリジールと呼ぶ彼女へと問いかけた。

 

「わあ、コーデリアちゃん!ご無沙汰でありますです!見習い時代以来ですか?」

「ブリジール……」

 

 さて、俺はコーデリアさんから詳しい目的は聞いていない。だが彼女の強い意志を秘めた目を見れば、ただならぬ目的であるのは理解できた。まあよからぬ感じはしなかったので、特に追及をする気は無いが。

 ともかくシリアスな雰囲気が漂ったのだが、ブリジールと言う彼女の何とも間の抜けた言葉で一気に場の空気が和んでしまった。

 

「ブリジール、その……ちゃん付けはよしてくれないか」

「え?なぜです?」

「いや……まあいい。それよりもブリジール、場所を移したい。どこか人のいない所へ」

「ああ、そうだ!コーデリアちゃん!!ちょっと手伝ってくださいです!!」

 

 やおらブリジールは、コーデリアさんの手を掴むと彼女を無理やりに連れて行ってしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ちたまえブリジールッ!?わ、私は今から君に」

 

 コーデリアさんは、狼狽えながらもそのまま連れていかれる。

 

「……いや、これ俺達もいかんと駄目だぞ!」

 

 あまりに急な展開にポケッとしてしまったが、依頼人が連れていかれるのを黙っているわけにいかない。俺達も急いで彼女達の後を追いかけた。

 

「とことんお助けするです!」

 

 ブリジールさん、やはりハーヴィン族と言う事で年の頃はわからないが、コーデリアさんと馴染みと言うのなら年上だろう。彼女は、コーデリアさんを連れまわし行く先々で困っている人々を見つけその手伝いをしまくる。とにかく手伝う手伝う、その勢いたるや休む暇ない手伝いマラソンだ。

 東に重い荷物に困る人あれば、行って荷物をもってやり。西に犬に怯える子があれば、あっち行けと追い払い。南に粗暴な客に怯える者があれば、やめよやめよと場をおさめ。北に伸びすぎた街路樹に困る声あれば、私が切ろうと声をあげる。

 そんな人に俺は今なってる。

 

「ゼェ……ハァ……あ、あんたぁ、無茶すんなよ」

「め、面目ないです……」

 

 重い荷物を持とうとして、そこまでは良いが荷物のせいで足元が見えずこけそうになりフェザー君と俺で咄嗟に荷物と彼女を受け止める。

 犬に怯える子供のために、犬を追い払おうとしたら吠えられて逆に怯え俺とゾーイで犬をなだめてどっかに行かせた。

 乱暴な客に怯える八百屋の女将がいたので、助けに入ったらやはり怯えてしまったのでマチョビィ状態のB・ビィを客にけしかけ退散させる。女将や他の客も怯えていたが、気にしない。

 街路樹の剪定をすると言って梯子を借りてきたは良いが、登ったら高くて怯えてしまい剪定どころで無いので、仕方なしに俺が代わりに剪定した。

 

「聞き込みより疲れたぜ……」

「すまないな団長殿……付き合わせてしまって」

 

 別にコーデリアさんが謝る事は無いのだが、なんともブリジールさんとやらは、空回りが多い。それでフォローする方は大変だ。

 

「彼女、いつもこんなん何ですか……」

「ああ……彼女は、人助けをモットーとしているからね」

「そりゃ立派ですが……」

「まあ、見ての通り身の丈に合わぬ事までしようとするのだよ……」

 

 コーデリアさんもあきれた様子であるが、ブリジールさんに付き合っていると面白い事に気が付く。

 

「まあ、結果的にみんな喜んでるんで良しとしますけどね」

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 とにかく一生懸命なブリジールさんの手助けは、空回りはしているが助けられた人は、皆笑顔であった。そうであるなら、文句は言えまい。過程も大事だが結果も重要だ。

 

「兄ちゃん、上手く切るもんだねえ?どっかの職人かい?」

「良ければうちの庭の木もやってくんねえかい?伸びちまって仕方ねえのよ」

 

 ……ふっ。どうやら、今は懐かしきユグドラシルハウスでの剪定技術が唸っちまったな。あの巨大なログハウスは、家であると同時に生きた大樹。ほっとくと枝が伸びる伸びる。だから剪定は俺の仕事だった。

 しかも面白がったユグドラシルが、ちょくちょく樹木を生やし俺に色々な形で切らせた。リクエストに応えてウィンドラビット、ビィ(B・ビィじゃない)はお手の物。リヴァイアサンにプロトバハムートだって軽いぜ。そのおかげか、技術ばかり向上して、村の老人達に植木なんかの剪定を任されまくっててしまったからな。多分これだけでも食っていけるんじゃないだろうか。

 

「わ、わ……たくさんです!」

 

 明らかにブリジールさん一人では、捌ききれない人数がワラワラ集まってきた。そして申し訳なさそうにしながらも、どこか期待した目で俺を見るブリジールさん。カワイイ。

 

「……しかたねえ、俺の鋏裁きを見せてやるぜオラア!」

 

 ――この時の、火の様に激しくも、水の様に流れる剪定技術は、瞬く間に評判となり、その日一日を費やし街の殆どの街路樹や庭木を剪定、【一夜大剪定】と呼ばれた出来事は、【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の新たな伝説を生み出し【ザンクティンゼル剪定術】と言う新たな剪定術の流派を確立したとかなんとか。

 その噂を聞きつけたある庭師のエルーン女性がいたと言うが、街の誰もが剪定技術だけ印象に残り、肝心の少年の姿がおぼろげのままであったため、【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】以外の情報は、集まらなかった。そのため「もしかしたらこの活躍で、俺個人の印象アップ?」と期待した少年の思惑は、見事にハズれたのだった。

 

 ■

 

 三 ますです!

 

 ■

 

「本当に助かりましたです!ありがとうございますです!!」

 

 俺と団の仲間と、コーデリアさん全員を巻き込んだゲリラ的人助けは、結果的に一日中行われ、本来の目的を果たせていないコーデリアさんは、後日コーデリアさんと待ち合わせたあの店でブリジールさんを交えて集まった。

 

「是非お礼を言いたかったのです!」

 

 俺は一応の目的を果たし、依頼も終わりとなりコーデリアさんからは、あとは自分達の問題だと言われたのだが、ブリジールさんがどうしてもお礼を言いたいと言う熱意に負けたコーデリアさんの許可がでたので、俺達も店に現れた。依頼も終わってるので団の皆は、自由行動と言う事にした。なので今ここには、俺とB・ビィだけ。

 

「改めて、自分リュミエール聖騎士団の新入り、ブリジールと申しますです。昨日はあわただしく、ろくに挨拶も出来ず申し訳ありませんです」

「あ、いやこれはご丁寧に……」

「団長さんの騎空団の噂は、私もかねがね聞いておりますです。団員だけでなく、団長さんもかなりお強いと聞いておりますです!」

「あ、はあ……」

「しかし、強いだけでなく素晴らしい剪定技術もお持ちとは、驚きましたです!」

「うむ、確かにあの技術……リュミエール聖国の王室庭師としても申し分ない……いや、それ以上か」

「ええ……」

 

 俺そんなにすごい事してたのか?調子乗って「これで食っていける」なんて思ってたけど、冗談のつもりだったのだが。

 

「いや、もし騎空団以外の選択肢があったなら、選んでみるのもいいかもしれないよ。君は、自分で思っている以上に多芸に秀でているかもしれない」

 

 コーデリアさんの、冗談とも本気とも取れる言葉は、一応胸にとどめておこう。

 

「しかしよお、ぱっつん髪の姉ちゃん。人助けも結構だけど、自分でやれる事ぐらい見極めないと危ないぜ?」

 

 B・ビィは割と言いにくい事をばっさり言うなあ。

 

「あう……も、申し訳ないです」

「そうだぞ、ブリジール。貴君の行いが立派なのは、私も認めるがそれで貴君に被害が出ては周りが困ると言うものだ」

「お、おっしゃる通りです……」

 

 きっとこの人は、今までも同じ事を言われたのだろうなあ、とぼんやり考えながらも、同時に昨日街の人達が喜んでいた事も思い出す。

 

「まあ、昨日も言ってましたがみんなブリジールさんに感謝してたし、今回はそれで良しッて感じですかね」

「やれやれ……良かったなブリジール」

「はいです!ありがとうございますです!」

 

 ああ~なんだろうか、今日はB・ビィがいるがそれ以外は他で自由行動。それもあって目の前で微笑み談笑するコーデリアさんにブリジールさんの組み合わせが素晴らしく和む。本人達には、あまり言えないが年頃では美女の組み合わせなのはずが、見た目にウェイトがかかり美男子と美少女と言う組み合わせに見え、なんというか絵になるなあ……しかも騎士甲冑のせいもあって余計に絵になってる。場面を変えてもいいなあ、草原や花畑、二人がたたずむだけでどこでも絵になりそうだ。

 

「団長さん?どうかしたです?」

「いえいえ、なにも」

 

 いかんいかん、ちょっと考えが膨らみ過ぎた。

 

「……ところで、ブリジールさんは何でこの島に?お聞きした感じでは、騎士団の本拠地の方に居る事が殆どらしいですけど」

「あ、えっとその……自分、未だ新人なので大きな任務は、あまり来ません……けど、それでも誰かの力になりたいと思って、困っている人を助けていましたです。それで―――」

 

 彼女が話すのは、ハーヴィン族ゆえの苦悩と逆境。憧れのリュミエール聖騎士団の団長のようになるには、未だ未熟で力を付けるにも基礎体力がそもそも無い。だけれど彼女は、困る人がいれば助け続けた。一歩一歩は小さくとも、それが成長につながると信じて。「清く、正しく、高潔に」、これがリュミエール聖騎士団のモットーと言う。彼女は、それをまさに実行しているのだ。

 まあ、それを実行しまくっていたら、だんだんとそっちに集中し出し、ついに騎士団の仕事以上にのめり込み「あれ?最近ブリジールいなくない?」と言われ出した。そんなことある?と思ったが、どうも彼女は、普段から手伝いの幼子と間違われてろくに剣術指南も受けれず、騎士団の任務もあまり来ないと嘆いているようだ。そのため姿を見せなかったとしても、なんとなーく「そういえばいねえな」程度だった。そしてその頃彼女は、島を渡り善行を行い続けていたのであった。

 

「リュミエール聖騎士団って、そんなゆるい職場なんすか?」

「断じて違う……」

 

 しかしコーデリアさんの言葉も、力無いものだった。色々思う所があるらしい。まあ、本当にそんなゆるい職場なわけは無いだろう。あくまで色々な事が重なっての事だと思いたい。

 

「さて……ブリジール?彼への礼は、もう終えた。気はすんだだろう?」

「はいです!お手数おかけしましたです!!」

 

 ペコリと頭を下げるブリジールさん。くそう、カワイイ。

 

「ブリジールも満足しようだ。貴君には、色々と世話になった」

「かまいませんよ、仕事ですし」

「それじゃあ、我々は」

「あの、騎士様……」

「うん?」

 

 

 コーデリアさんが席を立ちさいならしようとしたら、突然見知らぬ男に声をかけられる。

 

「突然の無礼お許しください。そちら、昨日街で多く人助けをして下さった方々とお見受けしますが」

「はい!昨日はとことんお助けしましたです!」

「おお!これは、何と言う幸運!」

 

 男は実に嬉しそうにブリジールを見て歓声を上げる。

 

「実はお願いがあってまいりました。貴女様方に、魔物の討伐をお願いしたいのです」

「魔物討伐だと?」

「はい、実は街外れの洞窟に少し前からゴブリンが巣食ってしまい……初めは気をつけさえすれば大丈夫でしたが最近更に数を増やし、ほとほと困ってしまいまして。特に我々は、仕事でその近くの道を通って荷物を運んでいるのですが、一度襲われると何せ数が多く逃げるので精一杯……」

「むう、それは許せないです!」

 

 話を聞くとブリジールさんは、目に闘志を燃やして立ち上がった。

 

「待ちたまえブリジール。まさか貴君、行く気ではあるまいな」

「勿論行きますです!人々の暮らしを脅かす魔物、許してはおけないです!」

「やれやれ……だが、貴君ゴブリン複数相手に戦えるのか?」

「あ、それは……」

 

 ああ、この人はゴブリン相手もきついのか。もっとも、ゴブリンも知能のある魔物であり迂闊に「ゴブリン程度」と舐めてかかれば痛い目を見る。ゴブリン狩りを専門とする者もいると聞くほどだ。特に今回の様な集団となると、指揮を取るボスもいるだろう。

 単体での強さと集団の強さを知らなければ、魔物とは戦えない。ばあさんによく言われたものだ。

 

「手伝いましょうか?」

「いや、貴君にこれ以上迷惑はかけられない」

「やーしかし」

「安心したまえ、私がついていくからね」

「コーデリアちゃん?」

 

 爽やかな笑みをブリジールさんに向けるコーデリアさん。爽やかさで目が焼けそう。

 

「どうせ止めても貴君は行ってしまうだろう?止めて聞くなら、私がここに現れる事も無かったのだから。だがその後は、わかっているね?」

「コーデリアちゃん……勿論です!ありがとうです!!」

「ふっ……ところで、そろそろ、ちゃん付けは辞めて欲しいのだが……」

「お兄さん、その場所へ案内してくださいです!」

 

 コーデリアさんの最後の言葉を聞かずブリジールさんは、いかにもやる気満々という様子である。

 

「やれやれ……それでは、団長殿。我々は、これで失礼するよ」

「本当にお手伝いしなくていいんですか?」

「ああ、ゴブリンの群れとは、騎士団の任務で何度か戦っているからね。対処の仕方は、心得ている……それと」

「はいはい、わかってます。今後もう片方の情報があれば、シェロカルテさんを通してお伝えしますので」

「助かるよ。では、また会う事があれば、共に食事でもしよう、若き団長殿」

「本当にありがとうございましたです!!」

 

 まあ、コーデリアさんの強さは、最初に会った時ある程度把握している。確かにあれほどの強さなら、小さなゴブリンの群れであれば大丈夫か。深追いをするような人でもないし、手に負えないとわかれば撤退して他の騎空団に協力を仰ぐなりするだろう。あとのリュミエール聖騎士団の問題にまで関わる事は無いので、互いに社交辞令を述べて分かれる。後は俺も自由時間。久々に羽を伸ばして街を散策するのもいいだろうな。

 

「相棒、どっかでりんご食おうぜりんご」

 

 B・ビィがついてるが、この際気にしない方がいいだろう。割り切ろう、それが肝心だ。

 

 ■

 

 四 巣窟

 

 ■

 

 依頼人の男から案内されたゴブリンが巣食っていると言う洞窟。確かに魔物の発する薄気味悪い気配をその入り口奥から感じ取る事が出来る。

 

「うっ」

「怖いかい、ブリジール?」

「こ、怖いです……」

 

 まだゴブリンの姿を見てもいないが、ブリジールは既に腰が引けていた。それを見てコーデリアは、やさしく微笑みかけた。

 

「安心したまえ、私がついている。いざとなれば直ぐ撤退するつもりだ」

「け、けどそれじゃあ……困ってる皆さんが」

「ブリジール、民を助けるとは、己もまた助けねばならない。民のため戦う牙となるならば、我々は倒れる事は、許されない」

 

 リュミエール聖騎士団の騎士達にとって、命がけの任務は珍しくない。罪無き民を護り、牙無き民を護る。如何なる場で命を落とすかわからない。だが、その時その瞬間、最後まで彼らは立ち続けねばならない。彼らに死に場所は無い、あるのは無事己の命と共に、仲間と共に帰る場所のみ。命を捨てる覚悟を持って倒れた時、その後に誰が民を護るのか。

 人を守護する事は、己もまた守護せねばならない。

 

「それに貴君に何かあれば、私はとても悲しいからね……頼むから無茶はしないでおくれ」

「コーデリアちゃん……わかったです!あたし、自分の出来る事をしますです!」

「ああ、その意気だ」

 

 ブリジールらしい言葉を聞き、コーデリアは安心したようで再度洞窟の入り口を見る。

 

「前見た時は、10体程度でした」

 

 ついて来た複数の男達。依頼してきた男の仕事仲間で今までは、自分達で何とかゴブリンを追い払ってきたらしい。今も猟銃や小さな剣に手斧をもって申し訳程度の武装をしている。

 

「それ以上には増えていないのだね?」

「おそらくは……ただ、ゴブリンの繁殖力は強いですから」

「確かにね……」

 

 ゴブリンの繁殖力の高さは、広く知られている。だからこそ多くの人恐れられているのだ。

 

「ともかく様子を見よう、君達はここまででいい」

「いえ、この洞窟は見かけ以上に入り組んでいます。それに見ての通り暗いので、ゴブリン達がいるはずの居住エリアにまでは案内させてください。ある程度進みさえすれば、ゴブリン共が設置した松明もあります」

「ふむ……」

 

 詳しく男達に話を聞くとこの洞窟は、蟻の巣のように道が分かれているところがある。一度慣れてしまえば迷う事は無いが、初めて来たコーデリア達では、間違いなく迷ってしまうだろう。

 

「わかった。ではゴブリンが見つかるまで案内を頼む。その後は、直ぐに引き返してくれたまえ」

「ええ、わかりました」

 

 男達は松明を用意し火をつけた。洞窟は、松明無しではとても先が見えない暗さだ。

 

「さあ、行くよブリジール。準備はいいかい?」

「勿論です!とことんがんばるです!」

 

 頼もしい友の声を受けてコーデリアも強く頷いた。

 

 






 オマケ



「ねー団長きゅん?そういえば、同じ年上なのにあたしの事ラムレッダって呼び捨てで、コーデリアちゃんの事さん付けにゃのは、にゃんでかにゃ?」
「威厳の差」
「にゃぱあっ!?ひ、ひどいにゃあっ!」

 なお、呼び捨て自体は、嫌じゃないらしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クロスフェイト 正義を叫べ (後編)

コーデリアとブリジールは、リアル騎空団でも初期メンバーなので、思い入れが爆発した。


 ■

 

 一 悪しき姦計

 

 ■

 

「お前ら、自由行動とは言ったけどさ……その荷物はなんだ?」

「イヤ、ソノ……」

 

 俺の目の前でティアマトが正座している。あとそれ以外の女性陣は、正座こそしてないが頭を垂れている。場所は、街のマーケット。当然目だってしょうがないが、しかし言わねばなるまい。

 

「俺の目には、大量の女物の服が見えるなぁ?」

 

 ティアマトの横には、しこたま女物の服の入った買い物袋が並んでいる。ゆうに20人分はあるだろうか、それも色とりどりの良い服だ。

 自由行動で街を巡って、シェロさんの店に顔出したらこれだよ。

 

「あの前しこたま服買ったから、仕方なしに……フィラソピラも仲間になったから、本当に仕方なく、借金増やして女性陣のためのクローゼットを増やしたばかりだよなあ」

 

 俺達男共で服を着るのは、人間である俺とフェザー君だけでそもそも服なんて少ない。動ければいいのだ。だから必然的に女性陣の衣類が多くなるのは、確かに仕方ない事だ。星晶獣とは言え、彼女達もオシャレはしたいだろう。だがそれと爆買いする事は別である。

 

「シェロさん、これらの品はお幾らです?」

「そうですね~どれも有名ブランド製で、希少な生地を使った物が多いので~……しめて26万5600ルピとなります~」

「返品します」

「待ッテクレ!!」

 

 俺の言葉を聞いてティアマトが土下座から素早く俺の腰にしがみ付く。

 

「コノブランドノ、コノモデルガ売ッテルノハ、コノ島ダケナンダ!!シカモ今季限定モデルデ、今買ワナイト絶対ニ手ニ入ラナイ」

「やかましいっ!!前同じこと言って服と靴買ったろうがっ!!」

「アレハ、【ギュステ・オリジナル】ノ、別モデルダッ!!」

「知らんわっ!!」

 

 本当に駄目になったなこの星晶獣(笑)!!真面目にティアマト(真)さんとトレードするか、ザンクティンゼルの祠にぶち込んでやろうか。

 

「だ、団長……私の服はいいから、彼女の分は買ってやってくれないか? 見るに堪えない」

「にゃぁ、あたしも基本は修道服だし……」

 

 待て待てお前達、特にゾーイ。お前はオシャレと言うものが新鮮だから買い物やいろんな服を着る事を楽しんでいるのを俺は知っている。他の星晶獣達も、基本決まった姿でしかないからこそ色んな服を着るのが楽しんでるのは、わかってるぞ。

 だがこのティアマトは別だ。こいつはもう十分楽しんだ。他の服は、財政難の我が団でも正直買えん値段ではない。値段も、数も圧倒的にこいつが増やしてる。団の資金を切り詰めるとしたら、こいつしかない。

 

「諦めなさいっ!!」

「ヤダヤダ、絶対買ウンダッ!!」

「駄目ったら駄目ッ!!」

「買ウッタラ買ウンダ~~ッ!!」

 

 前代未聞、服を買いたくて駄々をこねる星晶獣(笑)。皆さん、これ片割れとは言え、ポート・ブリーズ群島を守護する星晶獣(笑)ですよ?多くの騎空士達が感謝する風を生み出す星晶獣(笑)ですよ?

 

「……どうしても買いたかったら、お前の分だけ自分で稼ぎなさい」

「稼イダラ買ッテイイノカッ!?」

「団の資金で買わないなら今日は見逃してやる」

「ヨロズ屋ッ!!丁度服買エル報酬ガ出ル依頼無イカ」

 

 俺ね、結構前から思ったんだけど、このティアマトは、ティアマトの子供の部分が分かれたんじゃないかと思う。だから対応の仕方も幼児へ向けるような対応で十分だ。

 

「そうですね~ティアマトさんの服のお値段分でしたら~丁度増えすぎたゴブリン討伐依頼が来てますね~」

「オオッ!!」

「……ちょっと待った」

 

 すげー嫌な予感がする。

 

「シェロさん、その依頼って街外れの洞窟で増えたゴブリン?」

「おや、ご存知でしたか~?」

「さっきそれを、例のコーデリアさんとその知り合いに依頼しに来た男が居たんだけど」

「あれ~それは、おかしいですね~?この依頼は、かな~り増えたゴブリンの掃討依頼なので~私やギルドを通してでないと依頼は、出来ないはずなのですが~」

「普通の一般人が依頼を頼むことは無い?」

「ほぼ間違いなく~」

 

 三日前、コーデリアさんは男達に襲われていた。曰く、恨みを買ってしまった。との事。

 

「……相棒、行くか?」

 

 うむ。

 

「お前ら、全員で行くぞ」

 

 駆け足だ。

 

 ■

 

 二 今、正義を叫べ

 

 ■

 

「ギヒイッヒイイイ!!」

「はあぁあっ!!」

「ギャヒッ!?」

 

 暗闇で蒼の光跡が走る。ゴブリンの断末魔が洞窟内に広がっていくが、その音もすぐに別のゴブリン達の下劣な笑いと叫びにかき消された。

 

「くっ……きりがないな」

「コ、コーデリアちゃんっ!!」

「かまうなブリジール!今はとにかく走れ!」

「は、はいです!!」

 

 ブリジールが洞窟の奥へと走り、その後をコーデリアが付いて行く。後ろからは、暗闇から湧き出るかのような錯覚を覚える程。

 

「っう!」

 

 右足に激痛を感じ、コーデリアが態勢を崩す。

 

「ああ、コーデリアちゃん!!」

「へ、平気だよブリジール、少し痛むだけだ」

「け、けど……」

「大丈夫だ。さあ、今はとにかく」

 

 本来甲冑で守られているはずの右足だが、無残にも甲冑は砕かれ、へこみ込んでいる。割れた甲冑の隙間からは、赤い鮮血が垂れていた。ゴブリン達は、その臭いを追う。若い女の血を目ざとく嗅ぎ分け追い詰める。

 

(あの男達……気が付くべきだった。私としたことが……)

 

 痛む足を庇いながら、自分達にゴブリン退治を依頼しに来た男達を思い出す。

 それは、洞窟に入って少し経ってからの事だった。

 

「そろそろゴブリン達が多くいる場所です。奴ら、ここら辺を居住エリアにしてるんです」

 

 先導する男がゆっくりと進みながら話す。男の言う通り洞窟は、奥に進むほどただの土の壁からは、打って変わってある程度の生活感がある様子に見える。それでもゴブリンの様な魔物が手を加えた物なので、通路に設置された松明や簡単な木製の家具に、恐らく人々を襲って手に入れた生活用品がちらほらとある程度だ。

 

「あ……き、騎士様っ。あ、あそこに」

 

 身を屈めて男が指さす所。岩陰からのぞき込めば、そこには一体の大柄なゴブリンを中心に集まる無数のゴブリンがいた。大型は一般的に「ゴブリンソルジャー」と呼称される近接特化のゴブリンであり、それ以外は小柄な「ゴブリン斥候兵」と思われる。ゴブリンソルジャーがここのリーダー格であるのは、間違いない。だが、その数が予想をはるかに超えていた。

 

「ぴいっ!た、たくさんいるです……」

「仲間を集めたか、それとも増えたのか……」

 

 10体程度と聞いていたが、ざっと見てもその数は、30を超えている。しかも入り組んだ洞窟には、恐らくまだ多くのゴブリンがいるだろう。

 

(これは、我々だけでは無理だな……多すぎる)

 

 10体程度であれば、問題なく倒す自信があったがそれ以上となると、コーデリアの実力でも不可能、更には戦闘に不慣れなブリジールがいては尚更であった。撤退の二文字が頭に浮かぶのには、時間を要せず男達にもすぐに逃げる事を伝えようとしたその時であった。

 突然の破裂音。同時に高温がコーデリアとブリジールを襲った。

 

「なにっ!?」

「きゃあっ!!」

 

 咄嗟にブリジールを庇い地面に伏せる。急ぎ立ち上がり爆発のあった後ろを見ると、洞窟の通路が完全に崩れていた。

 

「こ、これは……むうっ!!」

 

 そして男達が一人もいない事にすぐさま気が付く。

 

「ここまでごくろうだったなあ、コーデリア・ガーネット」

 

 爆破され崩された通路の奥から聞こえる男の声。今までいた男達とは別の声だったが、その声を彼女は、よく覚えていた。

 

「貴様はっ!!」

「覚えてくれてたのかいっ!!嬉しいねえ!!そうだよ、あんたに騎士団を追われた哀れな男だよ、懐かしいなあオイ!!」

 

 その品の無い言葉遣い、コーデリアは忘れるはずもなかった。

 「清く、正しく、高潔に」をモットーとするリュミエール聖騎士団と言えど、その心に醜きモノを隠し持つ者は、少なからず存在する。故にコーデリアの様な遊撃部所属の者が存在するのだ。

 この声の主である男。この男は、コーデリアが記憶する中でも特に下劣な部類の男であった。ヒューマンでありながらも、ドラフと見間違えるような恵まれた体躯にすぐれた剣技を認められリュミエール聖騎士団への入団が許されある程度の地位を得たが、徐々にその本性を現す。自身がリュミエール聖騎士団の名の知れた騎士である事を利用し、裏で悪事を働くようになった。時には無法者と結託し、男にとって手ごろな悪党を仕立て上げて己の手柄とするなど、最早リュミエール聖騎士団のモットーばかりか、人の道に反する行いをするようになっていた。

 表向きは、模範的な騎士を演じていた男であったために、誰もがこの男が隠していた醜さまでは”その時”まで誰も見抜く事が出来なかったのだ。

 遅れてこの事に気が付いた遊撃部上層部は、急ぎコーデリアに男への【正義審問】を命じた。この【正義審問】こそがコーデリアの任務、遊撃部最後の切り札としての最大の使命。リュミエール聖騎士団に害なすと思わしき騎士団内の団員を暴き、正義を問う。真意を探り騎士団へ仇名すと判断されれば、その者を討つ。

 即座に男の元へと現れたコーデリアは、証拠を押さえた男の罪の数々を突き付け最後に正義を問う。たとえ外道であっても、一時はリュミエール聖騎士団の騎士であった男、それは最後の審判、そして情けともいえる。”正義とは何ぞや”それを問われた男は、言葉ではなく剣で答えた。その行動にコーデリアの怒りが爆発したのは、言うまでもない。最早問うべき正義は無い。研ぎ澄まされた剣技は、男の力を上回りあっけなく倒してしまった。

 遊撃部の団員達によって連行された男。その後男は、しかるべき沙汰を牢獄で待っているはずであった。

 

「詰めが甘かったなあコーデリアよぉ!俺の息がかかったのが、団内にいないと思ったかい?時間はかかったがなあ、無事に逃げ出せたぜ」

「貴様ぁ……」

「てめえのせいで、俺の人生計画が一からやり直しだ……本当なら直接殺してやりてえが、その悔しそうな声が聴けただけいいとするぜ」

「こ、この程度の壁……ぐうっ!?」

「コーデリアちゃんっ!!」

 

 剣を抜き力を込めた斬撃で壁を破壊してしまおうとしたコーデリアであったが、右足に激痛が走り倒れてしまう。

 

「コーデリアちゃん、怪我をしてるです……っ!」

 

 爆破から咄嗟にブリジールを庇ったさい、爆風と吹き飛んできた瓦礫が不運にもコーデリアの右足を強く殴打し深い怪我を負ってしまった。

 

「じ、自分を庇ったせいで、そんな……」

「かまうなブリジール、貴君のせいではない……っ」

「怪我でもしたかあ?役に立たねえ仲間がいると、大変だねえ」

「だまれっ!!」

「遊撃部最後の切り札もこうなっちゃお終いだなぁ……まあ、あとはゴブリン共に任せて俺達は退散させてもらうぜ……飢えたゴブリン共に嬲られて死んじまいな……」

「ま、待てえっ!!ぐうっ!!」

 

 遠ざかる男達の笑い声。立ち上がるのさえやっとな今のコーデリアには、壁を壊し追う事も不可能だ。そして何よりも今彼女達は、恐ろしい危機の中にある。

 

「ギギィ!人間ッ!!」

「サッキノハ、オマエラカッ!!」

 

 爆発で混乱していたゴブリン達が、倒れているコーデリア達を見つけ自分達の住処に攻め込んで来た人間達だと認識し興奮状態になった。急ぎ武器を持ち洞窟の奥から無数のゴブリン達の声が聞こえてくる。

 

「コ、コーデリアちゃん……」

「くそ……ブリジール、とにかく逃げるぞ」

「け、けどどこに逃げるです!?」

「むう……っ!だが、どのみちこのままでは、奴らに嬲殺しにあうのみ。そこの道を進むぞ、走れ!!」

 

 痛みに耐えながらも立ち上がり、コーデリア達はゴブリンの数が少ない方の分かれ道へと入りとにかく走り続けた。

 そして、今に至る。二人は必死に逃げ入り組んだ道の各所からゴブリン達が現れては、二人でお互いを庇いつつ撃退し、なんとか逃げ続けた。

 しかし、怪我を負ったコーデリアと、戦いに慣れていないブリジールの二人の逃走劇が長く続くはずもなかった。勝手もわからぬ入り組んだ洞窟にも苦しめられながら、最後にたどり着いたのは、無情にも二人を待ち構えたような行き止まりであった。

 

「そ、そんな」

「いや……どうか、ここであっていてくれ……」

 

 ブリジールの表情が絶望に染まるが、コーデリアにはある考えがあった。右足が痛む中壁へと急ぎ駆け寄りその壁を手で探る。

 

「コーデリアちゃん、なにを」

「ブリジール、貴君はジッとしていたまえ」

 

 後ろからは、迫るゴブリン達の声が聞こえるが、彼女は実に冷静であった。

 

「間違いない……神よ、感謝いたします」

 

 何かを見つけたのか、コーデリアは小さく呟きながら蒼剣ブルークレストをかまえ、叫んだ。

 

「ライトニング・ピアースッ!」

 

 放たれる剣技。しかし今の彼女には、本来の威力を出す事は出来ない。鋭いキレも無い力任せの攻撃。だが渾身の力を込めた剣は、壁の一部を穿ち僅かだが外へ通じる穴を開けてみせた。

 

「男達から聞いた洞窟の構造……あれも嘘であったら無理だった……」

 

 洞窟へと向かう前、男達の一人から聞いた洞窟の話の中で洞窟の一部は、壁が薄い場所があると聞いていた。風によって風化し外から崩れていった場所が多いせいだった。そのような薄い壁であれば、今の自分でも壊せるのではないかとコーデリアは考え、どこかの行き止まりを探した。その場所が外へと通じるかは、大きな賭けであったが、見事彼女は賭けに勝った。

 しかし、それでも開けれた穴は、小さなもの。精々ハーヴィン一人が身を屈めて通れるかどうかの大きさである。

 

「ブリジール、君はここから逃げろ」

 

 力を使い果たしたのか、壁に背を向けて倒れ込んだコーデリアがブリジールにとって、非情な言葉を告げる。

 

「そんな、コーデリアちゃん、なにを言ってるです!?」

「背を向けるんだ、急ぎ貴君の甲冑を取る……そうすれば、この穴でも君は通り抜けれるはずだ……」

「ちがうです、そんな事を聞きたいんじゃないです!!逃げるなら二人で!」

「甲冑を着ては、無理だ……二人で取る時間もない。それにこの怪我では、逃げたとしても足手まといになる」

 

 討ち捨てられたゴブリンの死骸は、同時に二人の行き先を示す痕跡となる。もうゴブリン達は追いつくだろう。仮に二人で逃げれても、もうまともに走る事もできないコーデリアを連れてでは、直ぐにゴブリンは追いつきやはり、ブリジールも助からないだろう。コーデリアは、せめてブリジールだけでも逃がすつもりだった。

 

「誰かが、あの男達の事を騎士団に報告をせねばならない……なおも騎士団の誇りを貶める男を許すわけにはいかぬのだ」

「それは、それじゃあコーデリアちゃんが……」

「ブリジール、頼む……」

「ダメです……そんなの、ダメです……っ」

「……友よ、君には、生きてほしいのだ」

 

 ブリジールさえ生きていれば、リュミエール聖騎士団へ報告が可能だ。そして遊撃部、最後の切り札として最後の責任を果たし、なによりも彼女を助ける事ができる。それ以上今コーデリアが望むものは無く、それだけを願う。

 

「……ダ、ダメです」

「ブリジール……?」

「違うです、それじゃあダメなんです!!」

 

 やにわにブリジールは、コーデリアの手とその手に握られたままのブルークレストを掴み上げた。

 

「自分は、最後まで諦めないです!」

「待て、ブリジール何をっ!!」

 

 そしてブリジールは、そのままコーデリアからブルークレストを奪い、開いた片手に握り自身の持つ剣と共に構えた。

 

「リュ、リュミエール聖騎士団ブリジール。同聖騎士団が正義審問に則り、いざ……この碧き剣に誓い、応えるです……っ!」

 

 ブリジールがブルークレストを掲げ、たどたどしくも言葉を繋ぐ。

 

「自分にとって……正義とは、一日十善です!自分の正義を、押しつけと思われたって、たとえ無理だとか、ダメだと言われても、自分は、自分の正義を信じてるです!諦めないです!!とことん貫くと決めたんです!」

「ブリジール、それは……」

「正義審問、一度だけ見たことあるです……コーデリアちゃんの目的、わかってるです!!だから自分の正義、とことんみせるです!!」

 

 それは、まさしくリュミエール聖騎士団の正義審問であった。誰かに問われるまでも無く、ブリジールは自ら蒼剣へと己の正義を誓ったのだ。

 

「イタゾッ!!」

 

 その時、ゴブリン達がついに二人を見つけ出し、ワラワラと洞窟の奥から溢れるように迫った。だがブリジールは、果敢にもコーデリアを庇うように立つ。

 

「自分がコーデリアちゃんをとことん護るですっ!!」

 

 足も震え、目に涙をため、しかしその正義の叫びは騎士のものである。

 今、この瞬間のブリジールは、リュミエール聖騎士団団長に劣らぬ、真の騎士であった。

 そして、正義を叫ぶ者は、決して孤独ではない。

 

「壁が邪魔あぁっ!!!!」

 

 叫び声が聞こえたかと思うと、紫の閃光が壁をぶち抜き二人に向かい襲いかかろうとしていたゴブリン達を巻き込んで全てを吹き飛ばしていった。

 

「ゴ、ゴブリンが、居なくなった……です?」

「こ、これは……助かった……のか?」

「あ、いたいた。無事っすか?」

 

 コーデリアの呟きへの答えたのは、破壊によってできた土煙が晴れる中から現れた少し前に別れを告げたはずだった、あの地味な少年であった。

 

 ■

 

 三 濡れ手で粟

 

 ■

 

 俺は今、かなり上機嫌だ。

 一度胸糞悪いクソ共の阿呆な企みを知って激おこであったが、今となっては気分が良い。スカッとしている。

 

「異常発生のゴブリン討伐と合わせて指名手配犯逮捕協力の報奨金……なは、なははっ!!」

 

 エンゼラの金庫にしまわれた大金。思わぬ形で受けた依頼によって芋づる式に捕えた元リュミエール聖騎士団出身者とその仲間の犯罪集団の捕縛。

 あの時、不穏なゴブリン討伐に向かったコーデリアさん達を追いかけて行くと。明らかに怪しい集団が例のゴブリンの巣から出てきたので取りあえずボコボコにした。もし違ったら「ごめんね」だが、「くくく……いくら遊撃部、最後の切り札と言えど、手負いであれほどのゴブリン達相手では一溜まりもあるまい」とか言いながら出てきたから問答無用である。

 コーデリアさん達の居場所を吐かせようとして、最初強情だったリーダーの男だったがその場で星晶戦隊全員がサイズ抑えながらもマグナモードになり、B・ビィがマチョビィへと変貌しゾーイが甲冑へと変身して完全に怯えきって全部吐いた。

 男達はその場で気絶させてユグドラシルに頼み土中に体埋めて生首状態にした。ラムレッダとフィラソピラに男達の監視を任せ、俺達はすぐさま突入。途中埋まっていた通路は吹き飛ばし、ガンガン進む。

 作戦内容「ゴブリンはぶっ飛ばせ(サーチアンドデストロイ)」。ガンガン突き進む星晶戦隊達を数だけ集めたゴブリン程度が止めれるわけも無く、二人の場所も星晶戦隊の超星晶的能力を駆使すれば特定は容易い。入り組んだ道を通っては遠回りなので奥義をうちまくって直進である。以前ティアマトによって必要も無いのにクソ高い金を勝手に使って作られたティアマト剣(仮)改め「ティアマトソード」での奥義エリアルクラスターは、放ちまくると気分がいい。

 もう後は蹂躙である。

 

「オラオラオラアッ!!死にてえ奴から、かかってきやがれっ!!」

「ウオオオオッ!!魔物だろうと全力で、語り合うぜええっ!!」

「お前達は、増えすぎた……それは、均衡を崩すッ!!」

「私ノ服ノタメニ、大人シク狩ラレロオオオッ!!!」

「全員……死を奪って、あげるから……」

「我が、光の剣に貫かれるがいいっ!!」

 〈水底へと、沈めてくれる……〉

「【アクシス・ムンディ】!!」

「クラエッ ▒▓█▇▅▂∩(・ω・)∩▂▅▇█▓▒▒ カクサンレーザーッ」

 

 正直やりすぎた。

 未だかつて、ここまで蹂躙されたゴブリンは、いなかったろう。気の毒に思うほどだった。俺はとっとと二人を担いで外に逃げたが、そのあとついに洞窟は完全に消し飛んでしまった。調子が出てきたコロッサスが、うっかり広域攻撃の「プロミネンス・リアクター」を結構な出力で発動させてしまい星晶戦隊達ごと巻き込んで洞窟ごと吹き飛ばしたのだ。上空へと撃ち上がって行く星晶戦隊達は、なんともシュールだった。リヴァイアサンなんか、まるで昇り竜のようだったよ。

 まあ、みんな無事だったよ。髪がある奴は、みんなアフロで。唯一人間だったフェザー君は、よく無事だったと思うけどね。アフロにタンコブ一つで。この団で過ごした所為か、肉体的にも色々と慣れてきたな彼も。コロッサスは「(・ω<) テヘペロ」だってさ。んもー。

 その後は、埋めといた男達連行して衛兵に突き出して終了。ゴブリン討伐も完了して報酬ゲットでワッハッハ!

 しかも、リーダーの男がリュミエール聖騎士団出身者のうえに、脱走犯と言う事もあって、リュミエール聖国側からの何かしらの謝礼を期待してよいとシェロさんがちらりと話していた。むふふ。

 ともかく結構な臨時収入だ。追加報酬も期待できるときたもんだ。借金全部返済とは行かないが、一日ぐらい騒いでもいい分の金は手に入った。なので後日俺達は、シェロさんの経営する店を貸し切って宴会を開く事とした。

 

「という訳で、今日は無礼講である!みな良く呑み良く食って、大いに騒げ!!」

「無礼講も何も、うちの団に序列あるのか?」

「うるさいよフェザー君!よし、乾杯ッ!!」

 

 俺の乾杯音頭にみなも呼応してグラスにジョッキを掲げて叫ぶ。そしてすぐにそれを飲み干し、並んだ料理に手を伸ばす。貸し切りであるので、体のデカいコロッサスや人型でないリヴァイアサンも不自由なく飲み食いできる。……そういえば、コロッサスってどうやって飲み食いを……。

 まあいいや、さあ宴会だ!たまには、俺だって何にも気にせず飲み食いしたいんだ!酒は無理だがジュースをあおる!

 

「カーッ!こぉの一杯ッ!!」

「オレンジジュースでよくそこまで唸れるな主殿」

 

 お黙りシュヴァリエ。この100%オレンジジュースの美味さをわからんのか。

 

「ヘ、ヘヘ……トコロデ団長?例ノ事ダケド」

「うわぁ」

 

 突然ティアマトが気持ち悪い笑みを浮かべて擦り寄ってくる。なんだよ気味悪いなあ、わかったよ、言いたい事はわかってるから寄るなっ!!

 

「しかたない、欲しがった服ぐらいは良しとする。買うがいい!!」

「イヨッ!!団長太ッ腹ッ!!全空一ノ地味男!!チョロ男ッ!オーイ、ヨロズ屋!!キープシテタ商品全部買ウカラナッ!!」

 

 こんな時だけ団長である俺をおだてるティアマト。調子の言いやつめ。まあ、今俺もちょっと調子乗ってるけどね、うはは。

 

「自然と馬鹿にされたのに気がついてないねえ~」

「ば、場の空気に……流された、みたいだね……」

 

 何か聞こえるが気にしない。

 

「はいは~い!どんどん、お料理追加しますよ~」

 

 シェロさんと店員がしこたま追加の料理を運んできてくれる。普段なら気を失うような値段の料理だが、今日は大丈夫なのだから気分がいい。

 

「うっひょー!りんごの山だぜ!」

「酒っ!おさけにゃあ!!」

 

 追加料理と追加の酒に飛びかかる者達。うむ、にぎやかである。

 

「やあ、団長殿」

 

 団員達を眺められる場所でゆったりしていたら、イケメンボイスが傍から響く。いつの間にか、コーデリアさんとブリジールさんが揃っていた。

 

「今日は来てくれてありがとうございます」

「こちらこそ、声をかけてもらえて光栄だよ」

「招待されましたです!」

 

 宴会をすると決めた時、二人にも声をかけておいた。コーデリアさんは、怪我を負っていたので、来れないかもと思ったが、どうやら大丈夫のようだ。

 

「傷の方は、大丈夫ですか?」

「ああ、あの後君の仲間、フィラソピラ殿に傷を癒してもらったおかげで、もう大事は無いよ」

 

 コーデリアさんの言う通り、フィラソピラの回復魔法での処置が早く行われたのは、良かったろう。でなければ彼女は、未だ病室にいたはずだ。彼女の足には、包帯が巻かれているがそれが取れる日も近いだろう。

 

「次ぎに会う時は、共に食事でも……とは言ったが、こうも早く約束が果たせるとはね」

「全くです。っと、そういや飯追加貰いに行くんだった」

「あ、自分料理持ってくるです!」

「え?いや、けど……あの中に?」

 

 料理がある場所へ視線を向ける。

 

「おしゃけぇ~おしゃけドンドンもってこぉ~~いっ!!」

「美味しい……はむ、はむ……これも美味しいなあ……」

 〈酒は樽に入れてくれ、グラスでは飲めん〉

「―――――♪」

「シュ、シュヴァリエ……全部の手で料理取るの……ずるい……」

「あるものを使って何が悪いッ!!」

「ヒャッハーッ!!酒ダ!!酒ヲモッテコイ!!」

「(*´ω`)オイシイネ」

「コロッサスは、ほんと器用に食うよな、どうなってんのそれ?」

 

 配膳された料理へは、星晶戦隊と異次元ストマック少女ゾーイとその他が群がりえらい騒ぎだ。あの中に小柄のこの人が行くのか……。

 

「無理じゃないかなあ……」

「い、いえ!ここは自分に任せてくださいです!とことん料理運ぶです!」

 

 そう言うやブリジールさんは、料理が並ぶ机に突進していった。星晶戦隊にもみくちゃにされなければいいが。

 

「彼女は、今回の様な事があっても変わらずですか」

「そうだね。だがそれでいいのだ……私が怪我を負った事で、負い目に感じてしまわないか心配だったが、それもまた今回の事で吹っ切れたみたいだからね」

 

 自分に出来る事を精一杯に、一日十善。それが彼女のモットー。まあ真面目なのだ。ブリジールさんは。きっとこれからもそれを貫くのだろう。

 

「……結局騎士団の任務は、ちょっとは済みましたか?」

「……ああ」

 

 態々聞くことも無いのだが、捕らえた男が元リュミエール聖騎士団と言う事もある。やはり気になってしまう。

 

「あの男は、厳重に移送される。今度こそ牢獄へと入り直ぐにでも沙汰が下るだろう。奴と通じていた団内の者も直ぐに捕らえられる。奴らは、もう日の目を見る事はあるまい」

 

 まあそれはそうだろう。きっと叩けば埃がしこたま落ちるに違いあるまい。今回だけでなく、色々な事を騎士団でもやっていたようだから実に救いようの無い男だ。

 

「ブリジールさんへの用事ってのは?」

「それも今回の事で意図せずながらも、無事終える事ができた」

「ん、よかったすね」

「ああ、まったくだ」

 

 終わり、終了。これではれて、完全に依頼達成……とは、ならず。

 

「けどまだ残ってるんでしたっけね。探してる人」

 

 色々重なって“めでたしめでたし”と言いたくなったが、考えたらブリジールさんへの用事とやらは、本命ではなかったのを思い出した。

 

「その通りだ。これが極めて厄介な人物でね。シャルロッテ・フェニヤ、我らリュミエール聖騎士団の現団長だ」

「……ん、んんっ!?」

 

 なにサラッと言ってるのさ、この人。

 

「任務内容ってあんま話さないって、言ってませんでした?」

「普通はね……ただ、貴君には話しておこうと思う」

「それは、またどうして」

「……貴君は、信頼できると思ったからね」

 

 少し陰のある微笑。そして机に置かれたグラスを指でなぞる仕草が様になる方だ。

 

「私はリュミエール聖騎士団の遊撃部に所属しているのだ」

「遊撃部、ですか」

「そこでは戦時の際、哨戒、攪乱、陽動を行い主要部隊のサポートに回る特殊戦術部隊」

「はえーなんかかっこいい」

「ふっ、そうかい?」

 

 男の子は、特殊部隊と言う言葉に弱いのです。

 

「普段は、諜報活動に内偵調査、篭絡、暗殺など工作員の如き秘密任務に従事している」

「なお更かっこいい」

「ははは……だが私は、その中でも団内の裏切り、不正行為を調査し告発する【正義審問】において絶大な信頼をえている。身内を疑う任務だからね、団内からでも私を嫌う者は、少なくない。何時しか人を信じる事を忘れていたよ……」

「はあ」

「だがブリジールの真直ぐな正義に目を覚まされたよ。私には、あんな素晴らしい友がいた事を思い出せた」

 

 確かに二人は、色々と正反対だ。見た目も中身もアベコベ、けれどだからこそ二人は、唯一無為の友と成れたのかもしれない。

 

「貴君にも感謝してるよ」

「俺ッすか?」

 

 だが身に覚えが無い。

 

「三日程度の付き合いの私達のために、団員全員引き連れて助けに来てくれたからね。貴君等が現れなければ、私だけでなくブリジールもやられていたろう。それを思えば、幾ら感謝してもし足りないさ」

 

 ティアマトが服を買いたいために進撃したのもありますがね。

 

「あー……その、あれですよ、“当然の事をしたまでです”ってやつ」

「ふふ、素晴らしいね」

「まあ、あはは……ところで、ブリジールさん遅くないですか?」

「確かに、どうしたのか」

 

 揃って配膳された料理の山に視線を向けると、相変わらず野獣のように群がる星晶戦隊や酒を飲みに突撃するラムレッダ等がおり、その中でワチャワチャして目を回すブリジールさんがいた。

 

「あーあー……」

「はっはっは!彼女には、あの中に入るのは少し荷が重かったようだね」

「助けますかね」

「そうしよう」

 

 俺達は席を立ち、未だ星晶戦隊の中から抜け出す事も出来ないブリジールさんの下へと向かった。

 

 ■

 

 四 踊れ乙女

 

 ■

 

「あう、目が回ったです……」

「無理せんでいいのに」

 

 星晶戦隊にもみくちゃにされたブリジールさんが、へとへとになって椅子で休んでいる。結局料理も俺達で運んだ。

 

「こ、これぐらいでしか今回のお礼が出来に無いと思ったのですが……面目ございませんです」

 

 まあらしくていいけどね。言っちゃ悪いが、見てて面白かった。

 その後色々話をしていると、会って最初の頃には、態々話さないような事も話題に出る。

 

「ブリジールさん、俺より歳一個上なんすね」

「はい、ちょっとだけお姉さんです!」

「それよりも、コーデリアさんが二個上って言うのが意外……大人び過ぎてない?」

「任務の弊害かな。眉目秀麗、そうあるべきを心がけてるからね」

「けどコーデリアちゃんは、本当はもっと女の子らしい恰好や趣味が」

「はっはっは、やめようか、ブリジール」

 

 引きつりつつも爽やかな笑みでブリジールさんの口を押えるコーデリアさん。はい、何も聞いてません、聞いてないから剣に手を伸ばさないでね。

 そんな他愛もない話をしていると、シェロさんが「ちゅ~も~く」と声を上げる。

 

「今日は音楽隊の方達をお呼びしておりますので~そちらの方も、存分にお楽しみくださいね~」

 

 シェロさんがそう告げると、店の控えめながらも、立派なステージに6人編成の音楽隊が現れる。いいじゃないか、こういう演出は好きですよ。

 直ぐに音楽隊による明るい演奏が店内に流れる。いいなあ、何時か何も気にせず、あの故郷のユグドラシルハウスや、風の穏やかな日に船の甲板で音楽を聴きながらのんびりとした時間を過ごしたい。

 ユグドラシルハウスに帰ってももれなく星晶戦隊達がいるだろうし、船の甲板は、基本フェザー君達が暴れるから静かさなど皆無だが……。

 

「ふふ、こう言う音楽が流れると気分が乗るね」

「そうですね」

 

 すると、彼女の口が悪戯っぽく弧を描く。

 

「どうだい?一つ付き合ってくれないか?」

「は?」

 

 おもむろにコーデリアさんが立ち上がり俺の手を掴む。

 

「あ、ええ?何を……」

「宴には、余興が付きものだろう」

 

 そう言うと彼女は、俺を立ち上がらせて音楽隊の前に連れて行ってしまう。きっと例の任務だとかでこうやって人を誘う事に慣れているのか、流れるような動きでなんとそのまま俺と踊り出してしまう。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「安心したまえよ、私に合わせればいい」

 

 俺は踊りなんて踊った事は無いのに、勘弁しておくれよ。あ、ああ!ほら見ろ、他の奴らが面白そうに笑って見てる!!ティアマトそのむかつく顔やめろ!!

 

「さあ、胸を張りたまえ、若き団長よ!」

 

 突然踊り出した俺達に興が乗ってきたのか、音楽隊の方達の演奏も一段と激しく、早くなる。それに合わせてコーデリアさんの踊りのペースまでが上がる。一方俺は追いつくのに必死だ。

 

「団長!腰が引けてるぞ!!」

 

 フェザー君うるさい、勝手がわからないんだ!!

 

「男ガリードサレテ情ケナイゾ!!」

 

 うるさいティアマト、服没収するぞ!?

 

「て、って言うか!!コーデリアさん、酔ってます!?」

 

 見ると照明の加減で今まで気がつかなかったが、コーデリアさんの頬が赤い。確かに、結構呑んでいたきがする。

 

「異な事を言うね。かように楽しき宴で酔わぬは、無礼と言うものだよ」

 

 くっ!イケメン力が高すぎて納得してしまう。

 いかん、もう完全に彼女のペースだ、巻き返せない!リードが上手すぎる……っ!!ああーーーっ!!だめだ、こ、心が乙女になる~~っ!!いやあーーーっ!!

 

 ―――その後、二人の踊りに盛り上がった団員達もまたそれぞれ思い思いに踊りだし、宴の熱狂は、朝まで続いた。

 またこの時の踊りが元になり、団長は後に新たなジョブ「ダンサー」を確立させ、踊りながら戦う【舞闘】をマスターするのであった。

 

 ■

 

 五 濡れ手で”泡”

 

 ■

 

 結局大幅に出航が遅れに遅れ、俺達はやっと島を発つ。思った以上にややこしい事件だったので、宴会の後も更に依頼の報告やら、手続きに時間がかかった。

 人探しの依頼のはずが、なんとも長い滞在になったものだ。失せ人探しからのゴブリン掃討オーバーキル、元リュミエール聖騎士団員の捕縛と結構疲れた。次は、適当に島巡りながらアウギュステ方面にでも行ってみたいと思う。

 

「積荷の確認は済んだぜ」

「ご苦労さん、全員乗ったな?」

 

 フェザー君達と積荷に乗員の確認。後はもうセレストに声をかけて出航と言うタイミング。

 

「おーい、待ってくれたまえ!」

 

 すると遠くから声を上げて駆け寄ってくる人影が三つ。

 

「よかった、間に合ったです!」

 

 コーデリアさんと、ブリジールさん。そしてシェロカルテさんの三人だった。

 

「どうかされました?依頼の方は、昨日全部確認してますけど」

「いや、それとはまた別だ。また頼みたい事が出来てね」

「新たな依頼ですか?」

「依頼とも言えるが、まあ聞いてくれたまえ」

 

 俺としては、コーデリアさんとブリジールさんが持つ大きめの荷物が気になる。なーんか、この展開、嫌な予感がする。

 

「実は、昨日本国から知らせが入った。例の男達は、問題なく移送されているが、あの男の息がかかった仲間が、国外にまだいる可能性があるとね」

「はあ、それじゃあそいつらを捕まえるって事ですか?」

「ああいや、それも頼みたいが……単刀直入に言おう、私とブリジールを君達の旅に同行させてはくれないだろうか?」

「お願いしますです!」

 

 ほら来た。それぞれの手荷物からなんとなく予想できたよ、この展開。

 

「いやいや、コーデリアさんの任務どうすんですか」

「勿論、それも引き続き行う。どうも貴君等の団にいれば、失せ人も直ぐに見つかると思えてね。それに、6体以上も星晶獣がいる騎空団は、リュミエール聖国でも危険視されている……監視が必要だろう?」

「えぇ……」

 

 マジ?俺ら危険人物?またまたご冗談を。

 

「知らないんですか~?あの【ジータとゆかいな仲間たち団】に勝るとも劣らない、また別の方向で危険な、星晶戦隊を引き連れた“騎空団のヤベー団”として、団長さん達は有名ですよ~?」

「うそやん」

「いや、真の事だ。既にリュミエール聖国だけでなく、各国でも貴君等の事は、マークされているだろう」

「……うそやん」

「星晶獣6体以上引き連れておいて今更ですよ~うぷぷ~」

 

 あはは……まるで、反論できねえ……。

 

「それに正式な指令でもあるのだよ、“件の騎空団に同行し、任務を続けよ”とね。どうも私の報告を聞いて、本国でも私と同じ考えに至ったようだ」

 

 それ言っていいの?まあ、いいのか。きっと話しても問題無い事しか話してないな、この人。

 

「……それはいいとしても、じゃあブリジールさんは何故?」

「はい!自分はコーデリアちゃんの補佐として同行を命じられたです!」

 

 胸を張って答えるブリジールさん。とても誇らしげですね。

 

「自分、これほどの任務を受けるのは、初めてです!!とことん頑張るです!!」

 

 そして嬉しそうですね。友人の力に成れるのが嬉しくてたまらないのか。微笑ましみ溢れる。

 

「それに、団長さんの傍にいれば、自分もっと強くなれると思うです!団長さんのように鍛えれば、コーデリアちゃんの役にも立って、シャルロッテ団長の様な騎士にも成れると思うです!!」

 

 俺参考にしない方がいいです。まず限界まで体作ってから、マグナ6体と戦っても余裕でるぐらいになって、最後に本気のプロバハとゾーイ(ジ・オーダー・グランデ)と戦う必要があります。

 

「……まあ、いいか。それじゃ、しばらくよろしくお願いします」

 

 俺の応えに二人は、笑顔を浮かべてくれる。

 

「ありがとう。勿論、貴君達に迷惑はかけない。騎空団としての依頼も手伝おう」

「自分もとことんお手伝いするです!自分、掃除洗濯も得意です!なんでもするです!!」

「期待させてもらいます……んで、シェロさん?」

「はい~」

 

 ある意味一番嫌な予感がする。

 

「実はですね~先日の宴会の料金なのですが~」

「……はい」

「頂いた金額が、ちょ~~~~~っと、足りないんですよね~」

 

 はい?え、え?ちょちょ、俺の耳が悪くなったのかな?今なんて?え?

 

「すんません、もう一回お願いします」

「貸切宴会の支払いが足りないんですよ~」

「うそやん」

「本当です~」

「だ、だだだって確かに宴会貸切の料金ぴったりを払ってるはず」

「それにプラス、音楽隊の演奏21万ルピに食べ放題飲み放題“対象外”の品分150万2345ルピ、計171万2345ルピが未払いのままなんですよ~。お食事に関しては、かなりお高いお酒が多かったので、このお値段ですね~。こちらも今回の事で何かと忙しく手間取ってしまいまして、確認が遅れてすみません~」

「まって」

 

 まって。

 

「まって」

「はい、未払い分は、借金に回しておきますね~」

 

 違う、そうじゃない。

 

「音楽隊の料金?」

「ええ~」

「あれって……サービスじゃ……」

「違いますよ~別料金です~結構な音楽隊の方達なのでちょっとお高いですが~」

「だって……頼んでない……対象外の料理とか……聞いてない……」

「いえいえ~お店の予約の際に頼まれてますよ~?そちらでの説明もお願いしたはずですけどね~?」

「全員っ!!集合っ!!」

 

 俺の凄まじい怒声を受け、ワラワラと団員達が集合する。

 

「どうしたのかにゃ団長きゅん?」

「うん、聞くけどね……俺って店の予約確かフェザー君に頼んだよね?」

「ああ、けど予約しに行こうとしたら、強そうな奴を見かけて、語り合いたくなったから、ちょうど居たラムレッダに任せたぜ!」

「ラムレッダ?」

「にゃぱっ!?だ、団長きゅん顔が怖いにゃ……」

 

 話、続けてどうぞ?

 

「あ、あたしは、フェザーきゅんに頼まれたから、予約しによろず屋さんに行こうとして、そ、そしてたら前から欲しかったお酒が売ってたから……誰かに買われないうちに買おうと思って、ちょうど通りかかったゾーイちゃんに予約お願いしたにゃ……」

「なるほど、それでゾーイ?」

「うん、そのままよろず屋に言って予約をしてたけど、私は予約コースとかよくわからないからな、それでどれがいいか悩んでたらティアマトが通りかかって」

 

 もういいです。

 

「ティアマトの馬鹿はどこだっ!!!」

「さっき千の風になると言ってどっか飛んで行ったぞ?」

 

 ふ、ふふふ……いい度胸だあの野郎!!

 

「今宵の火属性ソードは、血に餓えておる……」

「まあまあ、落ち着きたまえ」

 

 暗黒面に落ちそうになった俺を、コーデリアさんの冷静な声が現実へと引き戻す。

 

「そうやけになってはいけないよ。確かに彼女の所為で、酷い出費は出たようだが、貴君程の男であれば、この程度直ぐに稼ぐ事ができるさ」

「で、でも今回の報酬より、多い……借金が増えるだけ……」

「無論彼女が相応の罰を受けるのは当然としても、貴君はその刃を仲間に向けてはいけない。身内に刃を向けるのは、私の様な疑う任務を請け負う者の役目。貴君の刃は、この様な事に振るわれるべきではない。彼女には、また別の罰を与えればいいよ。それに、本国から謝礼が出る事は、聞いているだろう?僅かだが、それも今回の支払いに回すといい。それに、資金稼ぎは、私も協力するよ」

「あ、あぁっ……」

 

 流れるように肩を抱き寄せられ、そのまま耳元でささやくような声に、脳が致命傷を受ける。やばい、コーデリアさんに後光がさして見える。いや、それ以上の……これは、イケメン力が溢れているっ!

 

「コ、コーデリアさん……そうだ、俺貴女みたいな人仲間にしたかったんだよっ!!」

「そうかい?それは、光栄だね」

 

 じょ、常識人!!圧倒的な常識人!!癒し等とは、また別の俺の求めた仲間!!常識人枠!!しかもブリジール(癒し)さんまでついて来てくれている!!

 

「俺には、貴女達が必要だったんだああぁーーーっ!」

「わわわっ!?」

「はっはっは、熱烈だね」

 

 俺にとって精神的にも非常に頼もしい仲間が増えた事に、俺は感涙の涙を流し二人を思わず抱きしめた。今後の旅が、今まで以上に楽になると信じて。

 なおティアマトは、見つけ出した後ボコボコにして縛り上げて、「(笑)」と書かれた紙を顔に張って腹に落ちにくいインクで落書きして、マストに一日吊るし上げておいた。刃は向けてない、拳を向けた。あとご飯抜きだもんね、バーカバーカ。

 

 ■

 

 六 友のみぞ知る

 

 ■

 

 コーデリアちゃん、自分は知ってるです。

 貴女が、誰よりも乙女である事を。本当なら、自分以上に遊撃部での任務に向いていないはずなのに、あなたはその繊細な性格を押し殺して、騎士団の正義のために任務に当たっている事を。

 コーデリアちゃん、自分はわかってるです。

 あの宴会の席で飲んでたお酒は、そんなに強くなかったです。それにコーデリアちゃんは、そんなにお酒弱くないです。あの頬の朱色は、お酒の所為じゃないです。

 コーデリアちゃん、自分は覚えてるです。

 貴女は、誰よりも乙女で、甘酸っぱい恋を綴った詩集が好きで、そして好みの男性が、ちょっとアレな感じなのを。

 だから、コーデリアちゃん。自分、いつでもとことん、貴女の味方です!!

 

 




露骨なラブコメ臭が最後ありますが、あんま気にするほど重要な要素にはしないんじゃないだろうか。
主人公が、借金あるとはいえ、中々ジータに会いに行かないのは、なんだかんだで、今の面子で旅をするのが楽しいからです。ティアマトとかには、絶対にその事言わないけど。

常識人来たし、問題児増やしたい。うちに居ないけど、十天衆とか他の戦闘狂とからませたい。いざ戦おうマン/ウーマンとかにからまれるがいいや。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドツキの相方来る

ハリセンの人回。ネットで関西の言葉調べながらやったんで、おかしい点あったら申し訳ございません。

何時も感想、誤字報告ありがとうございます。


 ■

 

 一 パンケーキを食おう

 

 ■

 

 今日も今日とて、エンゼラを飛ばし、空を移動する。

 さて、次の目的地は、アウギュステとした。途中幾つかの島での依頼を消化しながらの移動となる。アウギュステは、一度行けたのだが依頼の関係で直ぐに発たねばならずリヴァイアサンも、あっちの自分に挨拶が出来なかったと不満そうだったので、改めて向かう事にしたが、どうも星晶戦隊の里帰りの旅になりつつある気がする。まあ、ルート的にも問題ないからいいけどさ。

 俺としては、道中の依頼で今回の出費を無くして少しでも借金を無くしたい。現在あの忌まわしき【宴会予約事件】の事もあわせて借金が300万を越えている。これはいかん。シェロさんに更に頭が上がらなくなる。コーデリアさん達を迎えた日の去り際、「ところで、パンデモニウムと言う遺跡があってですねえ~」と不穏な事を言われた。借金返済の助けになると言う事だが、俺は何をやらされるのだろうか……。

 いや、気に病んでも仕方ない。そうだ、シェロさんは、返済はいつでも良いと言ってるじゃないか。実に優しい。天使かな?

 

(まあ、前笑顔で“今のところは”って言ってたけど……)

 

 け、けどいきなり何かを差押えられるとかがあるわけじゃない。精々無茶な依頼をやらされる程度だ。未だ死を覚悟するような依頼とかあるけど、その程度で……。

 

「……ダメじゃん」

「どうした団長?」

 

 あんまりな結論を出してしまい、通路で落ち込んでいたらフェザー君に心配されてしまった。

 

「ちょっと、嫌な事考えちゃって……」

「そうか……なら拳で語り合おう!!スッキリするぜ!!」

 

 君のそう言うところ羨ましいよ、俺。

 

「今そう言う気分じゃ無いなあ」

「そうか……じゃあまたB・ビィでも誘うとするかな」

「良いけど甲板壊すなよ?前床壊したろ」

「ああ、今度は気をつけるよ!!」

 

 そして去り行くフェザー君。元気だねえ。

 今の俺は、どちらかと言うと美味しい物を食べたい。金が無いから贅沢な物は買えない、ならば格安の材料を買って作ればいいのだ。

 俺の口は、今甘味を求めている。確かパンケーキが作れるはずだ。ジャムも残ってるし、それでいこう。

 

「な、無いっ!?ないない無いッ!?」

 

 だが、何と言う事だ。緊急事態である。

 

「おや~どうしたんだい、団長?そんな困った顔をして」

 

 俺の困った顔に釣られて来たのか、フィラソピラがひょっこり表れる。

 

「と、とんでもねえ事に気がついた」

「ほお?」

「こ、小麦粉がねえ……」

「おやまあ」

 

 俺とした事が、まさか補給物資のリストに小麦粉を入れるのを忘れていたとは……。食堂はもちろん、倉庫にも小麦粉一袋どころか一匙すらない。普通に旅の中で困るし、パンケーキ一枚も焼けやしないよこれじゃ。

 

「ベーキングパウダーと砂糖と水……やろうと思えば、飴菓子は作れるが……」

「作るのかい?」

「……いや、俺はパンケーキが食いたいッ!!」

 

 あったかで、ふわっふわで、スフレみたいで、バターとジャムを乗せたパンケーキが食いたいのだっ!

 ここで材料の無駄遣いは、しない事にする。仕方ないので次の島で小麦粉を買おう。ついでに依頼をこなして、ホイップクリームを買えたらいいな。

 

「甘い物なら、私も楽しみだね~」

 

 俺は、紅茶を淹れて、それにジャム入れちゃうもんね。

 

 

 ―――――――――

 

 ■

 

 一 フェイトエピソード 風読み

 

 ■

 

 【風読みの相場師】と呼ばれる者が居る。

 その耳は、あらゆる噂を聞き漏らす事は無く、些細な世間話から物価の変動を読み取る。

 その口は、あらゆる情報を纏め上げ、その者にとって最も有益になる事を告げる。

 その目は、あらゆる価値を見極め、自身と周りにとって最も良き物を選ぶ。

 

「取引で困ったら、風読みに聞け」

 

 各国の大商人達は、口を揃えてそう言った。

 風読みに読めぬ事は無い。生活に必要な物資を安全に購入するため、かの帝国関係者であろうと風読みに世話になった事は、少なくない。

 風読みは、風を読む。

 風の声に耳を澄まし、あらゆる場所へと赴いて、その慧眼を発揮するのだ。

 

「人多っ!?小麦粉クソ高あぁっ!?」

 

 そして、風読みは、少年と出会う。

 

 ■

 

 二 お値段異常

 

 ■

 

 待って待って?何これ、どういう事なのん?

 

「お、俺の目がおかしいのかな……小麦粉1kg2000ルピって見えるんだけど」

「残念だね団長、私にもそう見えているよ」

「私もだよ……これは、どうした事だろうね」

「しかもその1kg2000ルピの小麦に、奥様方が群がってるんだけど……」

「それも現実だよ、団長」

 

 パンケーキを作りたいので、調度寄る予定であった島に立ち寄りついでに小麦粉を買おうと思ったのだが、異常事態がおこる。

 小麦粉が高い。高すぎる。

 1kg2000ルピは、異常だ。幾らなんでもおかしい。1kgなら230か高くて6~700ルピだ。それが四桁?しかももっと異常なのは、そのクソ高小麦粉に、数え切れないほどの主婦が群がり我先にと小麦を買っているのだ。買い物に同行したフィラソピラにコーデリアさんも困惑している。ど、どどどうなってんの?

 

「なんや、あんたら小麦粉買いに来たんか?」

 

 唖然としていると、後ろから声をかけられる。振り向けば、そこには頭から猫っぽい耳を生やして、ゴチャゴチャと色々背負った女性が居た。エルーンの人か、他の島でも見かけたが直接話すのは、初めてだな。

 

「あんたは?」

「うち?うちは、カルテイラや。なんや、あんた等がエライ困っとるように思えて声をかけたんや」

「まあ困ってますが……」

「うんうん、どうせ小麦のことやろ」

 

 初対面だがグイグイ来るなこの人。だが何か事情を知っているようだ。やはりこの価格には、わけがあるようだ。

 

「あんたらが驚くんのも無理ないで。運があらへんかったなあ……小麦粉やけど、ごらんの有様や。今からじゃ多分買えへんわ」

「ふむ、しかしこの価格は、あまりにもおかしい。それでいて、この小麦粉を買う者達がいるとは、一体何があったのかな?」

「それがな?この空域でも特に有名な穀倉地帯、しっとるやろ?」

「ああ、あそこか。ファータ・グランデ空域だけでなく、全ての空域でも屈指の穀倉地帯だが」

 

 さすがコーデリアさん、良くご存知。

 

「リュミエール聖国でも、そこの小麦などを多く買うからね。しかし、そこで何かあったのかい?」

「私も知っているよ~。あそこの小麦は質も量もいいからね、お菓子を作るのに欠かせないのさ」

「せや、せやけどその農場で魔物が増えすぎた所為で収穫も出荷も出きんくなって……普通やったら増えすぎる前に雇った傭兵か騎空団なりに退治してもらうんやろうけど……今年は、魔物の数がえらい増えてしもてな、追っ払うにも退治するにもち~~っとも追いつかんのやって」

 

 更に話を聞くとそこの小麦は、ファータ・グランデ空域の人間が消費する小麦の殆どを占めている。たった一つの島とは言え、そこかから出荷が減っただけでかなりの打撃であった。

 そこで誰かが、まことしやかに言ったと言う、「小麦粉が無くなるかも」と。些細な冗談であったかもしれないが、結局みんなして、小麦粉始め小麦製品が無くなる前にわれ先に小麦製品買い占めてしまい、結果この有様。そりゃ小麦産業への打撃は、確かに大きいがここまでの値段高騰は、そうそうするものではない。だが有名穀倉地帯での問題が深刻である事は、紛れも無い事実であったために民衆は、その流言に踊らされる結果になった。

 カルテイラさんは、その事情をかなり知っているようで、他の店をめぐりながら今回の騒動について教えてもらう。

 

「特にこの島は、その噂の影響が大きくてなあ……見てみ、なんぼ値段上げても売れるよって、何処もかしこもけったいな値段であるだけ小麦粉売っとるわ。便乗値上げなんてツマラン事するやっちゃ」

 

 めぐる店では、小麦粉だけでなく小麦製品、ケーキやクッキーにその他諸々の品までもが高騰していた。これじゃパンケーキを作らず、買って食う事もできないなあ。

 

「だが小麦粉の生産自体は、極端に下がっては無いのだろう?」

「せやねん、実際島の責任者は、その事ちゃんと説明しとる。せやけどみーんな噂の方が怖いみたいやね。誰もそんなお上の言葉に耳かさんわ」

「それは困ったなあ……」

 

 この様子では、他の島に行っても似た事がおきていそうだ。

 

「そう、うちもこまっとる。このままじゃ小麦が適正の価値で売られへん。こんなのゆるせへんわ……」

「貴君も商いを?」

「まあな、聞いた事無い?風読みの相場師とはうちのことや!」

「風読み……なんと、貴君がそうであったか!!」

 

 カルテイラさんの肩書きを聞いて、コーデリアさんが驚いている。風読み、なんかかっこいいぞ。

 

「フィラソピラ知ってる?」

「う~ん、それこそ風の噂で……かなりの慧眼を持つ相場師と聞いたことがあるね」

「その通りだ。どこの国であろうと、あらゆる分野で先を読む力とは、重宝されるものだ。特に金銭のからむ市場や取引においては、その力は重要だ。リュミエール聖国でも、彼女の力を借りた事は、少なくないだろう」

 

 そ、そんなに凄い人だったのか……不思議な方言の、ただのエルーンじゃなかったのか。

 

「ああ、なーんか見た事ある甲冑や思ったら、あんたリュミエール聖国の騎士様かいな。今でもたま“お抱えになりませんか~”って誘いがうっとうしうてかなわんわ、兄ちゃんやめさせーな」

「リュミエール聖国からの誘いを“うっとうしい”で済ますのは、貴君ぐらいだろう。それと、私はこう見えて女性でね」

「なんやそやったんか?そらすまんかったなあ」

「慣れているからね。かまわないよ」

「う~ん?そういや、リュミエール聖騎士団の騎士が仲間になった騎空団言うたら……ああっ!?」

 

 突然俺とコーデリアさん達をじっと見て何か思い至ったのか、カルテイラさんが声を上げだした。

 

「もしかしてあんた、あの星晶戦隊マグロチップスなんたらとか言う、頭おかしい名前の騎空団の団長さんやろっ!!」

「マグナシックスです」

 

 頭おかしい名前なのは、否定しませんが。

 

「そーそー、マイタソックス」

「マグナシックスです」

「まあまあ、細かい事気にしたらあかん」

 

 ソックスを巻いてどうする。

 

「けど、やっぱりあんたらやったんか!あんたらの事は、よーシェロはんから聞いとるでっ!」

「うん?シェロさんと知り合いなんすか?」

「知り合いも何も、うちら古い付き合いやで。今でも商売仲間であり商売敵!しっかしあのシェロはんが「あの人はですね~地味な印象です~」「地味な顔ですね~」しか言わんから、ほんまか思うたけど、ほんま地味やなー自分」

「やかましいわっ!!」

 

 物まねも似てねえし、それ本当に言ってたのかシェロさん!?

 

「まあそのおかげであの騎空団って今わかったわけやけどな」

 

 地味な顔で判断しないで。

 

「落ち込む事は無い我らの団長よ。貴君の魅力が解る者は、必ずいるのだから」

 

 ほんと、コーデリアさんは、すぐそう言うこと言えちゃうんだからな~。イケメンと言う概念が凝縮して物理的な形を得たのがこの人なんじゃないだろうか。

 

「けど君の困った顔も可愛くて私は好きだよ?」

 

 それはコメントし辛いよ、フィラソピラ。

 

「なな、ところであんたら小麦粉欲しいんやろ」

「まあ、そりゃねえ……」

「ならちょっと、うちの頼み聞いてえな」

「……それって依頼って事でいいっすか?」

「せや、シェロはんの言うとおりの騎空団ならきっとこの事態何とかできるやろ」

「つまり、依頼をやれば、小麦粉買えるって事ですか?」

「結果的にそうなる事は間違いなしや!」

 

 うーむ、面倒事はイヤだが依頼とあれば受けぬわけにはいかん。それに小麦粉は、今後のためにも、価格を適正に戻さねば困る。

 

「かまわないですかね?」

「無論だとも、我々の手で人々が助かると言うのなら、断る理由はない、もとより私は、ここではただの一団員、団長の意志に従うよ」

「私もかまわないよ。君のパンケーキも食べたいしね」

 

 他の奴らも態々戻ってまで聞く事も無いか。基本的に暴れられればいい奴や、物でつれるような奴らだし。

 

「了解っす。カルテイラさんの依頼、受けましょう」

「ほんまっ!?いやーおおきに!!」

「それで、俺達は何をすればいいんですか?」

「うんうん、ようはこの事態は、あの農場からの出荷が無いから起きた騒動やから、原因を断てばおのずと価格も戻って騒動も治まるわけや」

「それはつまり……」

「魔物退治や!まず農場へ行くで!うちも同行するさかい、あんたらの船で連れてってっ!」

 

 本当に押しが強いな。

 しかし確かに原因を治める。これが手っ取り早いな。魔物が増えているという事だから、やる事は単純、まさに異常な戦力を保有する我が騎空団向きの依頼だな。

 そうして、俺達はカルテイラさんを一時的に向かえて、一路例の農場へと向かいエンゼラを飛ばしたのであった。

 

 ■

 

 三 麦畑戦線異常事態

 

 ■

 

「でっけええーーーっ!?」

 

 エンゼラから見えた黄金色の小麦畑。なんヘクタールあるのか想像も付かないほどの広さがあり、上空からでさえその全貌が見えない。

 

「どや?ここから空域で使われる殆どの穀物が出荷されるっちゅーのも納得やろ?」

「ほんとだわ、こりゃ凄いわ」

「ああ、すごいな団長、人はここまでも畑を広げられるのだな」

「麦といえばビールだにゃあ」

 

 純粋な感嘆とストレートな欲望が出てきたりと、甲板から畑を眺める団員からの感想は様々だ。しかし……。

 

「けど一部畑が荒れてるです……」

 

 ブリジールさんが指差す方向、そこの畑は他に比べると明らかに荒れている。遠目からでも分るほどに、麦が飛び散り地面の色が見えるが、収穫した跡と言う訳ではないのは、明白である。

 

「あっちゃ~……やっぱ被害で始めよった。こら、そうとう増えとるな魔物。呑気しとる時間も多くないで」

 

 やはり魔物であった。ゆるせぬ、俺のパンケーキへの欲求は既に限界を向かえそうだ。

 

「団長、船停めるね……」

「頼むセレスト。シュヴァリエ、島入ったら俺とコーデリアさんとカルテイラさんで責任者の人に会いに行くから、しばらくここを頼むわ」

「承った。ところで」

「この程度の働きでケツは蹴らん」

「そんなっ!!」

 

 ご褒美がケツを蹴ると言う事に俺は、常々辟易しているのだがこれをしないとこいつ言う事聞かない時あるからなあ。しかも、手加減せず蔑んだ目線を加える必要がある。ほんと、どうしてこうなった。一度理由聞いたら「シュヴァリエ本体の方の主が、少し歪んだ愛情を持っていた影響だと思う」、だとさ。“なんじゃそりゃ”、だ。

 この広大な畑は、驚くべき事に一つの村で管理している。村そのものは、普通の村と変わらぬ規模だが、古くから農業が盛んであったためにこの規模の畑を維持し続ける事が出来ている。それでも魔物も出てくるので、村人だけでなく、村で雇った騎空団や傭兵達の力を借りて例年魔物による被害を防いでいた。

 

「それが全く、今年は魔物の規模が違いすぎるのです……」

 

 と、俺の前で困り果てているのが村の村長、同時に農場の責任者である。

 

「何よりも困ったのが、虫の魔物です……」

「虫、ですか?」

「はい……今年がそう言う時期なのかわかりませんが、虫の魔物が多い、とくい芋虫型が多く食害が酷いのです」

「じゃあ、空から見た荒れた畑は」

「正しくそいつらの仕業です」

 

 虫型の魔物は、結構な種類がいるが芋虫と言うと「クロウラー」と言う緑の魔物を思い出す。だがあいつらは、動きが遅いので対処できそうと思ったのだが……。

 

「情けない話ですが、畑が広すぎて……自分達ですら対処が追い付かないのです……」

 

 村長は、恥じるように話すが、仕方ない事だ。今までは、少数の魔物が稀に来る程度だったから手が回ったが、今回は別であった。完全に広大な畑が裏目で出た。

 畑を護るための増援を依頼しようとした時、丁度村でもひいきにしている商人カルテイラから「ええ騎空団みっけたで!」と知らせを受けたのである。つまり俺たちだ。

 

「と言うわけで!今回の仕事は、麦畑防衛と同時に虫型魔物の退治である!!」

「気合入ってるなあ団長!」

「パンケーキ食いたいんだよ!!」

 

 高級なケーキと同じ値段する小麦粉買ってまで作る気は無い。さっさと適正価格に戻させてもらう。

 

「まず今日は、魔物からの畑防衛だ」

 〈一気に殲滅しないのか?〉

「そうしたいけどね。まずは防衛、ここ最近は、この時間あたりに麦やら農作物を食い荒しに現れるとさ」

 

 麦畑防衛組には、星晶戦隊を要所へと配置。一体のマグナに既にこの村で雇われ畑を護っていた騎空団や傭兵を編成した混合部隊を配置する。

 

「防衛終わったら、明日朝一で魔物の巣を探して退治する感じ」

「私の方から補足させてもらうが、畑が無事である事が第一になる。特に星晶獣の皆は、うかつに広範囲攻撃を行わないようにしてほしい。特にコロッサスは、前の様にうっかりプロミネンス・リアクターを放つと言うのは、絶対に無いようにしてほしい」

「(*`・ω・)ゞ リョウカイ」

 

 ああ、コーデリアさんいると指示出し楽だなあ……。

 

「ちなみにうちは、戦力として期待せんといてな」

「あー……それは、なんとなくわかってたんでいいです」

「話が早くて助かるわ。弱い魔物程度ならシバけるけど、あんだけの数やと、うち足手まといやさかい。それじゃ、キバってやー!」

 

 曰く、武器はハリセン。思い出すのは、ばあさんのくれた武器。ああ、あんただったんか、あの武器の縁って……。

 とりあえず、とてもカルテイラさんを今回の戦いに参加はさせられない。そもそも依頼主の一人なので、当然である。ともかく、今日は防衛戦。他の騎空団との連携と言うのも初めてだし、気合入れて行こうね。

 

「キモイ、キモイキモイイィィーーーッ!!?」

 

 とか気合入れたとたんこれだよ。

 やばい、想定以上だ。とんでもねえぞこれ。地面が魔物で見えねえ。魔物が七分に、地面が三分、しかも全部虫型でキモ過ぎる!いくら鈍足の魔物でも、うっかりしてると直ぐに抜かれるような数だ。

 

「こ、これが他の方向からも来てんのかよっ!?」

「兄ちゃん、こんなんで参ってられないぜ?これがしばらく続くからよ、最初っからとばし過ぎるなよ!」

 

 既にここで長い事防衛についていた騎空士の一人が教えてくれるが、この人達も大概凄いな。よくこんな数の魔物相手で畑をほんの一部食われた程度で済ませたものだ。

 

「Mogaaaa!!」

「ぎゃああっ!!キンモオオオッ!?」

 

 呑気してる場合でもなく、俺は無数の魔物の群れを相手せざるを得ないのであった。

 

 ■

 

 五 虫退治

 

 ■

 

「可及的速やかに全部潰すぞ」

 

 精神的にも参った俺の言葉に団員の誰もが頷いた。

 

「もう迫り来る虫の相手は嫌だにゃあ……」

「うぅ……返り血、と言うか体液でベタベタです、気持ち悪いです……」

 

 

 主に女性陣の精神ダメージが大きい。あんな芋虫の群れ誰だって嫌だ。

 

「ユグドラシルの張った壁で一時的に侵入を防げたが、これが続くようでは何時破られるかわからんぞ主殿。あいつら壁も登れるし」

「―――……」

 

 ユグドラシルが申し訳なさそうにしているが、彼女は悪くない。あんまり派手に地面掘り起こしたりしたら、畑にまで影響が出てしまう。畑を護れる壁を生み出せただけ手柄だ。

 

「今日は諦めて森に戻った魔物は、フェザー君が斥候してくれて位置を把握出来た。休んだら予定したより早く攻める」

 

 畑が無ければ遠慮もいらぬ。とにかく巣なり見つけ出して奴らをぶっ潰す。

 数時間の仮眠の後。俺達は、まだ日が昇らぬうちにフェザー君の見つけ出した魔物の集団生息地へと向かった。島の森にあるある場所で、やつらはいた。

 

「やっぱキモすぎる」

 

 凄まじい数の芋虫型の魔物が身を寄せ合って眠りについている。それでも稀に体を動かすので、ボコボコした魔物が集まり出来上がった魔物絨毯が波打つ様はかなり気持ち悪い。

 

「ユグドラシルが地面押し上げて、全部押しつぶしてもらうって言うのは……」

「~~~……!」

「だよね」

 

 ちらりとユグドラシル見たら、イヤイヤと顔を振る。カワイイ。まあ、無理に頼み込めばやってくれそうだが、人間の感覚的には、50匹近くの芋虫を一気に両手で潰せって感じだろう。彼女、ある程度大地と感覚は、共有してるし。そら嫌だわ。

 

「と言って、ちまちまやる数でもないからな。仕方ない、シュヴァリエ。畑程遠慮する必要ないからあそこ全部に光の剣掃射」

「私もいやなんだがなあ……」

「つべこべ言わねえで、はよやれや雌豚」

「アヒィン……ッ!くっ!この様な安い言葉攻めで……やるに決まってるだろっ!!」

 

 どっちや。

 ドM気質のシュヴァリエを見て、コーデリアさんとブリジールさんは、すごく複雑な顔してる。同じ騎士として、思う所あるのだろうか。大丈夫です。こんなやつは、こいつだけだとわかってますから。

 

「しかし、あれが彼の求める騎士像だと言うのなら……私は……っ!!」

「早まらないでコーデリアちゃんっ!?団長さんも嫌そうにしてたですっ!!」

 

 なんか二人が喋ってるけど、よく聞こえない。

 とにかくはよ解決しよう。

 

「あ、まて団長」

「どしたのゾーイ」

「あれを見てくれ」

 

 ゾーイが指さす方向、目を凝らして見てみると、一匹芋虫型ではない虫の魔物がいた。蛾の姿だろうか、その魔物が他の魔物と違って今もなお眠らずに何かしている。双眼鏡を取り出しよく観察すると、なんとその魔物は、モリモリ元気に黙々と木々に卵を植え付けていた。

 

「もしかせんでもあれ元凶?」

「そのようだよ。私の均衡センサーにすごく反応する」

「え、何そのセンサー?」

「世のバランスが崩れそうになる原因に反応するセンサーだ。あれは結構強い反応がするぞ」

 

 ゾーイの頭をみると、鳥の尾羽みたいなアホ毛がピコンと動いている。それセンサーだったんだね。聞かれなかったから言ってない?そう……じゃあ、仕方ないね。けどかわいいから今度じっくり見せて。

 しかしあの蛾型は、どうも怪しいのでまとめて消し炭にせず生体を手に入れた方がよさそうだ。

 

「生け捕るのかにゃ?」

「いや、無理っす」

 

 ただし見たところ、一般的な蛾型の魔物より二倍は大きい。その点も怪しいなあ。魔物も多すぎて生け捕る余裕がないので、倒して回収するしかない。あいつだけ避けて範囲攻撃しても、その隙に逃げられるだろうし。

 

「麻酔でもあれば別だけどね」

「麻酔?麻酔弾ならあるで?」

「マジか、用意いいじゃんうわああっ!?」

「ドアホッ!?声大きいっ!」

 

 いやいやいや、なんでいるのカルテイラさんっ!

 

「普通について来たで?」

「そういやいたな、自然過ぎてオイラ達も気が付かなかったぜ」

「なーんかありそうな気がしてな、虫の知らせっちゅうやつ?まあ正解やったな。丁度麻酔弾あるで」

「また都合のいい……なんであるんすか」

「商人ってのは、都合がいいようにするのが仕事や。魔物用の麻酔買う客もおるんやって。あのタイプの魔物にも効く麻酔やで。そんで、つかう?」

「あー……銃が無いんだけど」

「銃かーそっちは流石にないなー」

 

 麻酔弾あるのもおかしい気がするけどね。

 

「銃でいいなら用意できるぜ相棒?」

 

 今度は、B・ビィがなんか言い出してすごい嫌な予感がする。

 

「……一応聞くけど、どうやって?」

「そりゃおめえ、こうやってウオオオオオッ!!」

「ぎゃああっ!?」

 

 突如B・ビィが体をくねらせたかと思うと、その姿をまったく別の物へと変貌させた。デジャヴュ!

 

「B・ビィトランスフォームッ!B・ビィムガン!」

 

 何をどうしたのか、骨格とかそう言うのを全て無視した変形なのか変身なのか、ともかくB・ビィが自らの顔を発射口にして体を拳銃へと変えた。見た感じ、ただB・ビィが気をつけして、腰曲げただけなのに銃に見えてくるもんだから、余計にわけがわからん。コーデリアさん達比較的最近のメンバーは、マジで驚いてる。

 

「さあ、オイラをつかえ!」

 

 そんな無駄に澄んだ眼差しを向けられても。

 

「……銃弾込めれるの?」

「口にくわえればOKだぜ!」

「狙撃に向いてない形状なんだけど……」

「ライフルモード!」

「ほげええっ!!?」

 

 今度は首が伸びて形状”だけ”はスナイパーライフルっぽくなった。ほんとなんなんだ、こいつ。

 

「さあ、麻酔弾をよこしな!」

「団長、B・ビィの熱い魂に応えてやってくれ!」

 

 フェザー君、よく組手してるからか君ってB・ビィと仲いいよね。

 

「えっと、どうするん?」

「……やります。弾くだしゃい」

「お、おう」

 

 あまりにも汎用性の高いかつ気持ち悪い変身に度肝を抜かれつつ、疲れた表情の俺にどこか同情を含んだ視線を向けるカルテイラさん。同情はいらぬ、だがやさしくしてー。

 

「ぱくっ!」

 

 B・ビィの口、もとい銃口に麻酔弾を装填する。そのままB・ビィムガンを構える。銃の心得は、既にばあさんから叩き込まれたため、使用する銃によるが遮蔽物が無く目標が見えるなら基本島の端から端でもいける。やった事無いしそんな状況ありえないが。

 

「早く終わらせるか……」

 

 B・ビィムガンをかまえる。生暖かいのに、しっかり感触は銃だ。なにこれ?スコープ無いのに、なんで見えるの?トリガー無いけど、大丈夫?え、星晶パワーで全部OK?便利だねその言葉。

 ツッコムとキリがないので、無駄に軽く使いやすいB・ビィムガンの引き金をさっさと引く。

 

「狙い撃つぜ!」

 

 オメーじゃねーよ、俺がだよ。

 

 ■

 

 六 商人魂

 

 ■

 

 総括。虫は無視したい。なんて、言いたくなるような依頼であった。

 あの後、問題なく放たれた麻酔弾によって無力化した魔物。その後は、俺達に気がついた他の魔物が迫り来る前に、手はず通りにシュヴァリエの光の剣で全て消し炭にした。撃ち漏らしもいたが、たいした数じゃないので俺達で殲滅。眠っている魔物も回収した。

 

「うちの知り合いの客で、こう言うの好きな研究者おるから、そこに魔物もってってもらうわ」

 

 と、捕獲した異常に成長した魔物は、カルテイラさんの勧めで彼女の知り合いの研究所に引き渡された。ただし俺達で調べた所、やはり自然に起きた変異ではないと、非自然な事に敏感な星晶戦隊達によって結論付けられる。

 

「明らかに自然の摂理から逸脱している。繁殖期でも無いのに、卵を産んだりと、仮に繁殖期だとしても、この産卵ペースはおかしい。これじゃ、均衡が崩れる」

「―――……」

 

 ゾーイの見解、さらにユグドラシルが言うには、魔物の行動には「繁殖」と言う思考が消えていた。ただ只管に増えると言う事のみを考えており、自らの体がおかしくなるような勢いで魔物を増やし続け、同時に生まれた子供も異常な成長スピードであった。繁殖と言うよりも、量産である。明らかに人の手が加えられている。

 まあ、あとは案の定と言うか、魔物が寝床にしてた森のある場所から、帝国の物と思われる機材が残っていた。その事について村長に聞くと、「そういえば、たまに帝国の船が来ていた」「人数もそんなにいなかったから、普通に客だと思った」との事。多分人数分けて、森に勝手に入ったんだろうなあ。

 

「また帝国か」

 

 何度目だろ、この台詞。

 目的もなんとなく察する事は出来る。どうせ、大量に増やした魔物を軍事利用とかでしょうよ。んもー、しょーも無い事をするやつらめ。俺も星晶戦隊も、激おこですよ。もし帝国兵に会ったら、ちょっとお話しようか?大丈夫、俺と星晶戦隊で取り囲んでお話しするだけ、乱暴シナイ。団長、ウソツカナイ。

 

「なんにしても、念願の小麦粉を手に入れたぞ!!」

 

 何かと疲れる依頼であったが、俺としては、カルテイラさんからの報酬に、村からの報酬としてルピと多量の小麦粉をいただけたので気持ちは潤っている。

 さあ、やっとパンケーキが作れる。しかし焦ってはいけない、一度また別の島によって物資補給と、ホイップクリームの材料を買う。報酬がちょっと多いので、少し贅沢するぞ。けど、アンゼリカ(フキの蜜煮)やチェリーのシロップ漬けは、贅沢すぎるな。駄目です、駄目駄目。

 

「せやったら、うちから買うてってや。良いの揃えるで?」

「まだ居たんすか、カルテイラさん」

 

 シェロさんといい、商人って神出鬼没なの?

 

「そう冷たい事言わんと。ところで、うち次の予定でアウギュステ行く予定やねん」

「はあ、そうですか」

「けど今回の騒動の所為で、しばらく島からの定期便出られへんのや。まずは、滞った小麦とかの出荷に船集中して使うってな」

「ほーん」

「いやー親切な騎空団でも居て、ついでに乗せてってくれんかなー?偶然アウギュステにも寄る騎空団とかおらんかなー?こーんなかわいいお嬢さんが困ってるんやけどなー?」

 

 露骨ぅ!!

 かわいいけどさ、かわいいけどさ!耳とかモフらせて欲しいけどさ!

 

「……わー偶然だなー俺達、アウギュステに行くけどカルテイラさん乗ってくー?」

「えー、ほんま?ええのん?」

「あ、別に無理にとは」

「そいじゃあアウギュステまで世話になるで!!」

 

 露骨うぅっ!!

 あんた絶対知ってただろ、俺達がアウギュステ行く事!!

 

「まあまあ、今回の事でうちもほんま感謝しとる。今度の騒動で、混乱に乗っかって阿漕な商売したやから見たやろ?」

 

 ああ、いたね法外な値段つけて売ってた連中。

 

「ああ言うの、うちほんま許せんわ!商人なら、たとえ儲け第一でも護るべきもんあるっちゅうねん!客の足元見るような商売なんて、邪道や邪道!」

 

 えらい熱の入りようである。思う所あるのだろうか。しかしあまり突っ込んで聞く事も出来ないなあ。

 

「だからありがとうな。この島から、小麦の出荷された事が広まれば、直ぐに今回の騒動も治まる。正しい値段で、正しい売り買いを商人と客が出来る。「嫌なら買うな」、そんな商人優位の商いやと、何時か客に愛想つかされるだけや。そうなったら、商人自体が必要とされんくなってまう。互いに平等、そこから商人と客との値段の競り合いがあって本当の商売っちゅうもんや」

 

 ふ、深い。唐突に説かれるカルテイラ商売訓とでも言うのか、彼女の商人としての心意気が俺にまで伝わるようだ。

 

「せやから、欲しいもんあったら言うてや!なんでも揃えたるで!シェロはんのとこよりまけたるから!」

 

 ……けど実際は、ただ商魂逞しいだけなんじゃないだろうか?いや、それもあると言う事か。思わずそう思ったのであった。

 

 ■

 

 七 焼けっぱちパンケーキ

 

 ■

 

 結局アウギュステまで同行を決めたカルテイラさん。途中他の島にも寄る事も了承済みである。まあ色々な商売についての話を聞く事も出来るので、結構楽しい旅になる。

 それよりも俺としては、ついにパンケーキを作るための材料を完璧にそろえた。カルテイラさんによってお手ごろ価格で、トッピングも買い揃えれた。いざパンケーキ!!

 

「ふわっふわ、じゃーーーいっ!!」

 

 可能な限りふわふわに仕上げたパンケーキは、俺が待ち望んでいたものだった。まるで重力を感じさせず、皿に乗せるとふわりとはねて、分厚い生地でも絹のように滑らかに噛み切れるこの出来栄え。我ながら上出来である。

 

「貴君には、この様な特技まであったのか……」

「凄いなれた手つきだったです」

 

 コーデリアさん達が驚いているが、そんなに意外だろうか?レパートリー多いよ俺?

 

「あたし達も最初団長きゅんが料理するってきいて、ちょっと信じられなかったにゃあ。精々男の料理とかそんなのかと思ったにゃ」

「普段料理作るのコロッサス達だしな」

 

 フェザー君達も団員になって暫くしてから、俺の手料理を見たがやっぱり意外そうだったな。

 

「ダンチョウニ (・ω・) オシエテモラッタンダヨ」

「わ、私達で料理できるようになったら……あんまり、作らなくなったからね……」

 

 他人の料理が食いたいんだよ。今日は俺も作りたかったから作ったけど。コロッサス達は、まだ上手くパンケーキ生地ふわふわにできないし。

 

「一人暮らしだったのと、面倒見てた幼馴染に飯食わせなきゃならなかったから、基本俺が作ってやってたらこうなってた」

「それってあの【ジータ団】のジータ?」

 

 そんな略し方あんのか。悪の組織みたいだ。

 

「そう、そいつ」

 

 あいつは、飯作れるようになっても俺の飯が良いとか言って、自炊全くせんかったからなあ。普通に料理上手いのに。嬉しいといえば嬉しいが、それでもたまには、他人の作った飯が食いたいと思うのは、しょうがない。

 思えばあいつが旅立つ時、「お兄ちゃんのクッキー食べたい」とか言うから、大急ぎで焼いたなあ。旅に持っていったが、上手く焼けていたろうか。

 

「フワッフワ、ジャーーイ!!」

「はむっふふぁっふふぁ、ふぁーい」

「ゾーイ、飲み込んでから喋りなさい」

「はむん」

 

 ただ食うだけなら元気なティアマト。リスの頬袋みたいな頬っぺたのゾーイ。どっちがかわいい?言うまでもないね。

 

「やーわるいなあ、うちもご馳走になってしもて」

 

 あと、すっかり我々の仲間の様な様子でパンケーキを頬張るカルテイラさん。

 

「今回色々お世話になったので、そのお礼と言う感じで」

「そかそか、いやしかしあんた滅法強いし、そのうえ料理もできるなんて、結構な優良物件やな。さぞかしモテるんとちがう?」

「え、そそそう思いますか?」

 

 ベッタベタな感じで焦ってしまった。

 

「キモイゾ」

「うるせい」

 

 パンケーキ没収すっぞこら。

 

「あ、いやけど顔が地味やからな~面食いには、うけ悪いな」

「やかましいわっ!」

 

 結局それかい!わかってたよ、どうせそんなオチだって、この野郎!!

 

「ままそう怒らんと。地味やけど愛嬌はあると思うで?」

「慰めにもならねえ」

「それにこうやって、ぱぱっと反応するのもええところやなあ。打てば響くって感じがええ。シェロはんが気に入るわけや」

 

 そんな部分を気に入られたのか俺は。もっとこう、他にさ、あるじゃん……じゃん。

 

「シェロはんが贔屓にする騎空団は、他に無いわけやないけど、あんただけやで?シェロはんが、滅多にやらん借金作らせてまで首にわっかを……あ」

「へい、今最後なんか凄い不穏な」

「い、今の聞かんかった事にしてー!」

「あ、またんかこのっ!?」

 

 俺の借金ってそんな理由なの!!待てこらこの野郎!!

 

「か、堪忍してえーーっ!!」

 

 俺の台詞だよ畜生めっ!!借金なんて嫌いだいっ!!

 

 

 






 一 オマケ 前回のちょいその後



 エンゼラの甲板に、正座をして頭を垂れる星晶獣がいる。そしてその前に立つ俺がいる。以前の【宴会予約事件】で反省させたティアマトをマストからおろし、最後の反省をさせる。

「”もう勝手に、高額な物を買わない、宴会の予約で相談無しに高額なオプションを付けません”……はい、復唱!」
「モウ勝手ニ、高額ナ物ヲ買ワナイ、宴会ノ予約デ相談無シニ高額ナオプションヲ付ケマセン……」
「もっと大きくっ!!」
「モウ勝手ニ、高額ナ物ヲ買ワナイ、宴会ノ予約デ相談無シニ高額ナオプションヲ付ケマ
センッ!!」
「行ってよしっ!!」
「ヤット終ワッタ……ウガッ!?」

 そう言うと、ティアマトは正座の態勢から急ぎ立ち上がろうとしたが、俺の説教が長かったので、足がしびれたようだ。

「オ、オイ……タ、立テナイ……手伝ッテ……」
「それも今回の罰だ馬鹿者め」
「ソ、ソンナ殺生ナ……」
「ガー?」
「キー」
「ンギャアッ!?ア、アア!ニル、ゼア何ヲッ!?」

 立ち上がらないティアマトを不思議に思った省エネモードのニルとゼアが、彼女の震える脚に興味を持ったようで、口先で彼女の脚をつつく。

「ヒィー!?エ、エア二人ヲ止メロォッ!!」
「プヒィー……」
「アァ、寝テルッ!!ギャアッ!ヤメナイカ、ヤメッ!?ワ、ワアアァーーーッ!?」

 愉快な声を聴きながら俺はその場を後にした。ティアマトへの罰は、今回はあれでいいとする。ティアマトめ、俺の優しさに感謝するがいい。



 二 オマケ 星晶戦隊マグナシックス



 星晶獣……それは、それは空の平和を守る為に戦う神秘の召喚獣達の事である!!

【星晶戦隊マグナシックス!!】

 ドラフ族の思いを受け継ぐ鎧。炎の戦士。

「マグナ (@・`ω・)v レッドッ!!」

 騎空士達の感謝を受ける風の加護。風の戦士。

「マグナグリーンッ!!」

 絶え間なき母なる大海。水の戦士。

〈マグナブルーッ!!〉

 優しき心を持つ、豊穣の大地。土の戦士。

「――――(マグナオレンジ)!!」

 高貴なる騎士の魂。光の戦士。

「マグナイエロー!!」

 黒雲に秘めた優しさ。闇の戦士。

「マグナブラックッ!!」

 星晶戦隊、それは勇気ある者のみに許された名誉ある星晶戦士の称号である! デデッデッデッデ!
 

 ――後に来るようになる、星晶戦隊の公演依頼であった。一部の島でカルト的人気を得たそうです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大笑いハンター

上限解放後の尻と脚好き


 ■

 

 一 ポンコツライフル

 

 ■

 

 突然であるが、騎空団の騎空艇である以上エンゼラにも武器庫がある。しまってあるのは、殆どが俺の物で、基本団員の皆は、自分で武器を管理してる。星晶戦隊は、そもそも武器要らずだし、シュヴァリエとゾーイは、自身の意思で武器を出したりしまったり出来るので関係ない。

 なんで武器庫の整理は、基本的に俺の役目となる。俺のものしかないからね。ザンクティンゼルの忌まわしき修行時代から使う平凡な武器に、ちょいいい武器。そしてばあさんがくれた箱に入っていた【ハリセン】から【クラウ・ソラス(レプリカ)】の様な、差がある武器達。依頼によって使う武器は、変えているが基本は、剣とかを使う事が多い。物理で解決、手っ取り早いです。

 そんな武器の中で、俺がその扱いに困っている物がある。【ハンターライフル】と言うライフル銃である。他の【ハリセン】だとか【割れた酒瓶】とかも扱いに困るが、この際横において、問題はこのハンターライフル。

 魔導の力が込められた結晶が埋め込まれた物で、その効果によるのか非常に視力が上がる。撃つ弾丸も闇属性でその点は悪くない。だがどうもこのライフル、肝心なところでポンコツであった。

 何度か試し撃ちをしたのだが、6割近くの確率でまともに弾丸が飛ばない。一度撃ったら、まず弾道がズレた。自身のミスと思い、もう一度撃ったがやはりズレてしまい、跳弾がおきて大変だった。調べると、前使っていた人物が独自の調整を加えたのか、ありえない調整が施されていた。まるで“最初から、上手く発射されない”事を前提にした調整であった。その癖を直してからもう一度撃つと、今度は発射前に腔発して目の前が真っ暗になった。もう一度調べると、前の調整を直したためかいつの間にか砲身にゆがみが出てその所為で発射されずに砲身内で爆発したようだ。それも直して再度撃つと、なぜか発射されず“パスッ”と乾いた音だけがした。ここら辺でもう謎のポンコツ銃であるが、再度弾丸とライフル両方を点検して撃ってみると、銃口から色とりどりのパーティーグッズの旗が飛び出してきた。

 もうわけがわからない。何処に入ってたの?何度も点検したのに、こんなの見当たらなかったしそう言う銃じゃないでしょ?謎のうえポンコツ過ぎる。しかも、点検調整すると、結局最初の仕様に戻るからたちが悪い。どうなってんの?

 そのため、この銃は魔導結晶の効果は高いものの、旅立って直ぐに武器庫の主と化したのである。

 果たして、この武器のもたらす縁と出会いとは何であろうか。俺はとても嫌な予感がしたのであった。

 

 ■

 

 二 食堂の一時

 

 ■

 

 あの【小麦騒動】を解決して、俺達はアウギュステへと向かいながら、小さな依頼も消化しつつの移動を続けていた。溜まった依頼は、シェロさんに頼まれたものとしては、比較的易しいものがばかりで、それに安心しながらも後が怖い俺がいた。

 

「尻に引かれた亭主みたいやな、あんた」

 

 依頼報告書を纏めつつ、まれに落ち込んだりしていると一時旅に同行しているカルテイラさんに指摘されてしまった。

 

「誰が亭主じゃい」

「亭主じゃないなら、首輪つけられた犬や」

「ワンワンワンッ!!」

「わ、犬が吼えたっ!!」

 

 まったく、失礼な人だ。と言うか、もう首輪について隠そうともしない。開き直ったな、こいつめー。

 

「見ているがいい、俺は見事この借金と言う首輪を外し、この大空の旅をより自由なものにするんだ」

「ほっほ~?できるんか~あんたに~」

「なにおうっ!」

「聞いた話やと、あんたの借金って事のなりゆきや、自分以外の所為で増えたやつばっかやろ?」

 

 あ、いや止めて言わないで。

 

「こう言うのってな、いっくら自分が気をつけとっても、何故か減らんのや。借金からあんたに近づく!増える一方、借金人生!」

「うわああああーーーっ!!」

 

 くそ、それについては自分でも、ちょっと考えて直ぐ捨てた考えなのに!!

 

「まああんたが借金返せたら、それはそれでええこっちゃ」

 

 それはそれでってなんだよ、それでいいんだよ!

 

「もし返す見込み無かったらうちに相談してや~、借金チャラにするの協力したるから」

 

 あ、一瞬心揺らいだ。

 

「優秀な商人に必要以上の借り作ると怖いんで遠慮します」

「あらら残念」

 

 少なくとも今は、シェロさん以外の商人にでかい借りは作らない。前回の騒動は、カルテイラさんのおかげで小麦粉が手に入ったが、騒動自体は俺が解決したので貸し借りなしです。たぶん。

 まあ今の話もカルテイラさんの冗談であろう。ずっとニヤニヤ笑ってたし。

 

「団長、島がみえたよ」

 

 キュルキュル回転音が聞こえたと思ったら、やはりフィラソピラか。相変わらず謎の空飛ぶコマ【クリュプトン】に乗って移動するフィラソピラ。船内でもそれで移動するから、最初コマの回転音に慣れるまで時間かかったよ。

 たまに歩いてるのを見ても、「歩行をする事で、より飛行についての考えを」云々。考えるの好きね、ほんと。

 

「報告どうも」

「君は何時も書類整理を食堂でやるね」

「俺雑音ある方が仕事進むタイプなの」

 

 しかもここだと、誰かに紅茶とか淹れて貰える時がある。最近ではコーデリアさんや、ブリジールさんがよく紅茶に菓子も添えてくれるのだ。天国かな?まあ雑音も騒音になれば無理だ。具体的にフェザー君やティアマトとか来ると駄目、拳での語り合いを強要され、御小遣をせびられる。地獄かな?

 それにもう島に着く。次の依頼は、なんかとりあえず島の村長に聞いてくれとの事。面倒な戦いは、無いはずだとシェロさんは言っていたので、直ぐにでも済ませよう。

 

 ■

 

 三 怪奇、樹海に響く笑い声!!

 

 ■

 

 島で依頼のあった村へ行き、そこの村長に聞いた依頼は、何時もと変わらず奇妙なものだった。近くの山の中から、奇妙な声がすると言う。しかも女性と思われる笑い声。それが数日前から聞こえてくるので、怖くてたまらないから調べてくれと言う内容。

 主に笑い声の確認、そしてもしその声の主が魔物か危険人物であればそれを倒すと言う可能性を踏まえた依頼になる。

 

「はい、では今回の選抜メンバー発表しまーす」

 

 今回の依頼選抜メンバー。普通に安定した編成で行く事にしたので、過剰戦力の星晶戦隊は、お留守番。俺とリュミエール聖騎士団コンビと、戦闘があった場合を考えてフェザー君をくわえた四人編成。B・ビィもついてくるが、こいつは基本的にマスコット気取りなので大規模戦闘や強大な敵が相手じゃない限り普段戦力外である。

 

「その声が聞こえるのは、夜に多いそうなので夜になってから入るから。あと森には、魔物はあまり多くないとは聞いてるけど、用心して進もう」

 

 そう言うわけで夜、山の深い森へと入っていく。

 実に気味が悪い。湿気が多いのか、木々の葉から雫が滴りたまに顔に当たったりするのがうっとおしい。

 

「ぴいっ!?冷たいです!!」

 

 一際怖がりだったブリジールさん。怖がりの事を何も言わなかったから気にしなかったけど、強がりだったようだ。申し訳ない気持ちと、ちょっとメンバー選び間違えたかなと思いながらも、怯える彼女がカワイイと思ってしまう。

 

「ぱっつん髪のねえちゃんは、怖がりだなあ」

「だ、大丈夫です!驚いただけです!お、おばけと言うわけでもない、ただの夜露です!怖くないです!」

 

 そう言いながら、徐々に俺との距離が縮まる。おいおい、余計にカワイイわ。

 だが確かに不気味に思うのは、俺も同じ。しかも夜道で森の中なので、ランタンもって歩いているがやはり暗い。木々の隙間から漏れる月明かりなども頼りにして進んでいき、そして足を止める。

 

「……聞こえた?」

「聞こえたね」

 

 コーデリアさんも聞こえたようだ。僅かだが、声が聞こえる。

 

「あっちかな?」

「森の更に奥になる。用心して進もう」

 

 我々探検隊は、更に森の奥へと進んでいった。

 奥に入ると更に湿気は高まり、また湧水があるのか各所にやや深い池や穏やかな小川も流れている。晴れた日の昼にでも来れば、小川を眺める事ができる絶好の登山ルートかもしれないが、今はただ不気味さが目立つ。

 泥濘に注意して進むと、件の笑い声がだんだんと大きくなってきた。だが同時に気づく。

 

「これ、移動してません?」

 

 笑い声に近づいてはいるのだが、向こうの方も少しずつ俺達から離れていっている。もしや俺達の存在に気がついたのだろうか。しかし、笑いながら?

 

「団長、魔物の気配がするぜ」

「知ってる……」

 

 フェザー君に言われるが、俺も気がついてる。しかも笑い声の方向に気配を感じる。どう言う事態になるかわからなくなってきたな。

 

「コロッサスあたりは、つれて来るべきだったか……」

「問題ないと思うぜ?どうせ相棒の事だから、騒動になったって何時もの事だぜ」

 

 それが嫌なんだよ。楽したいんだ俺は。だが、そうは言っても依頼は続けねばならない。ため息を一つ吐いて俺は、笑い声を追った。

 数十mも追うと、笑い声以外に魔物の声も聞こえてくる。しかも複数の声、群れのようだ。笑い声の主は、魔物に追われているのだろうか?状況が読めないためどうすべきか悩んでいると、突如森に銃声が鳴り響いた。

 

「近いっ!?」

「いや、これは声の方向からだ!」

 

 声の主が撃ったのか?わからないが、魔物に誰かが追われていると仮定して動いても良いかも知れない。俺達は、急ぎ銃声のあった方向へと向かう。その間も何度も銃声はなるのだが、音だけを聞いていると、やたらめったらに撃っている印象があった。 

 そしてついに魔物の姿を確認した。すぐに声の主を探そうとしたが、また銃声がなった。

 

「また銃せぃうおわああああああっ!?」

「団長っ!?」

 

 じゅ、弾丸が俺の頬を掠めて飛んでいきやがった。

 

「ふ、ふざけんなっ!?魔物狙いじゃねーのか!?」

「て、敵と言う事でしょうか?」

「わからんな、我々を敵と思っているのかもしれないが」

 

 そしてまた一発の銃声。だが発射の後に、数度跳ね返る音が聞こえた。

 

「ちょ、跳弾でぎゃああっ!?」

 

 今度は俺の眉間に飛んできた。咄嗟にかわしたけど死ぬぞこれ!!

 だが、それで終わらず銃弾はドンドン発射される。どれもこれも、跳弾を繰り返し俺に向かう。

 

「なんっで……っ!?おれ、ばっかり……ぬおおおっ!?」

 

 どこに身を潜めても、あらゆる方向から跳弾して銃弾が襲ってくる。死角が無いのか相手は!?見えてるのか俺が!?どう言う奴だ!!後なんで俺しか狙われてねえんだよ!?。そんな事考える暇を与えないかのように、再び弾が迫る。

 

「ギャヒンッ!!」

 

 こ、今度は魔物に当たったぞ!

 

「だ、誰か知らんが魔物に追われてるなら、手伝ってやる!!俺達を、と言うか俺を狙うな!!」

「ふ、ふひゅ……ひぃひいっ!!」

「うおおっ!?」

 

 だが相手からは、返事とは思えない笑い声と銃弾が返ってくる。や、やっぱり笑い声の主が撃ってるのかよ!

 

「あは、あははははっ!!ふひっ!ごめ、えほほっ!?あは、あははははっ!!!」

 

 わ、笑ってやがる!?やばいぞ!!想像以上にやばい奴を相手にしなきゃならんかもしれん!!

 

「コ、コーデリアさん達は、そこで動かないで!」

「団長はどうするんだ!!」

「隠れても無駄なら、直接やるしかねえ!!」

 

 めんどくさい事はやめだ!!もう攻めるぞ俺は!!

 

「行くぞ、ちくしょうこの野郎!!」

「久々に相棒の貧弱な暴言でたな」

 

 うるせえな!?

 

「あひゃあははははっ!!ははは……っ!!いひひっひひいいぃぃーーーっひひひっ!!」

 

 こっちもうるせええ!!

 

 

 ――――――――――――

 

 

 ■

 

 一 フェイトエピソード 笑撃のファーストコンタクト

 

 ■

 

 ある島にそれなりに名の知られた山賊団がいた。

 山賊と言うと、主に盗賊の事を指すが、物を奪う対象が居ない場合普通に自給自足の生活をする。この山賊団も盗賊行為を行う事もあり、それでいて山での狩猟生活を続けていた。

 そしてこの山賊団の頭には、一人娘が居た。

 彼女は、家族と言える山賊の仲間達に囲まれ暮らしてきた。頭領の娘とあってよくされていたが、頭領である父と仲間達からは、ある点を常に心配されていた。

 

「あいつは、好奇心が旺盛すぎる」

 

 子供の頃から彼女は、とにかく好奇心が旺盛であった。興味を持ったものには、大人の警告を無視して近づく。それが危険な魔物であったりすれば、周りの大人達は、たまったものではない。彼女には、常に監視がついたがフラフラと歩いて興味を持った魔物を追いかけたり、面白い植物が崖にあればそこに行き、とにかく危なっかしい。何時も大人達は冷や冷やしていたが、それも子供の内だけと思っていた。

 実際彼女は、歳が19に成った頃には流石に落ち着きを見せていたが、実のところ本質は変わっていなかった。好奇心旺盛なのはそのままで、そして彼女の興味の殆どは、キノコへと集中する。

 彼女は、キノコが好きだった。珍しいキノコが好きだし、美味しいキノコは、大好きだ。見たことも無いようなキノコは、毒の有無を気にせず思わず取って食うほど。その事を父も仲間も知ってはいたが、“まさか、仲間に出す料理に毒キノコを知らずに出す”なんて事をするとは、思いもしなかった。だが結局それをやってしまった。

 案の定父含め仲間達を一夜にして再起不能にした彼女は、自身も【笑いキノコ】を食してしまい、四六時中笑い続ける症状に苦しめられる事となった。

 仲間の全員を再起不能にして、始終笑い続ける者を山賊として、まして仲間として置いておくわけにはいかない。父も仲間も彼女を団から追い出し、「ここに戻るにしても、せめて笑いっぱなしなのを治してから帰って来い」と言われたのは、当然だろう。

 そして彼女一人、放浪の旅が始まったのであるが、運が無い事に彼女の食したキノコは、新種のために解毒剤がなく何処に行っても有効な治療法が見つからない。同時に笑い続けの彼女を気味悪く思い、彼女の相手をする者は多くない。そのため、道中の路銭を稼ぐ事も満足に出来ずにいた。

 そして例えどこであろうと、笑い続けるためにゆっくりと眠る事は出来ない。過呼吸で苦しみながら、眠りにつくのか気絶するのかわからない睡眠をとる。そんな生活を繰り返す中、常に引きつった笑顔の裏に隠れる、彼女の肉体と精神両方の疲労は、凄まじいものであった。

 そして、ある日の夜。彼女は森の中で発作で笑いを抑えられず倒れ、笑い声に集まってきた夜行性の魔物に追われながら、まともに動く事ができないまま、そして出会ったのだ。

 四六時中笑い続けようと、彼女と同じかそれ以上に濃い面子が揃い、それをまとめながらも、その濃さに埋もれ霞む地味な少年に。

 

「じゅ、銃から手え離せコラ!!うおおっっ!?かす、かすったああっ!!」

「やべえ、相棒三発同時だっ!!」

「う、うおおおおっ!?B・ビィガーードッ!!」

「ンギャアアアッ!?」

 

 ■

 

 二 ノコノコキノコ

 

 ■

 

「はひ、ひぐうふっ!!あは、すま……あははっ!!すまなひひひっ!!」

「まるで誠意が伝わらねえ」

 

 今回の依頼は、山中での戦い、では無く、結果的に救助となった。

 エンゼラの救護室内のベッドで、笑いながらのた打ち回るハーヴィンの女性。名をルドミリアと言う。

 あの後跳弾の嵐を必死に潜り抜ける中、放たれる銃弾は魔物を狙い貫いた。俺も狙われたが、必死に避けてたまにB・ビィを盾にしたので無事だった。

 

「死ぬかと思ったぜ、ひでえや相棒」

「絆創膏一枚ですんでちゃ説得力無いぜ」

 

 おでこに一枚絆創膏を張るB・ビィ。ビィのサイズとはいえ、これでもプロバハの分身(曰く、角一本分)みたいなもんだからな、銃弾ぐらいじゃ死なねえとは思ったが、本当に問題ないからやっぱおかしいなこいつ。

 B・ビィの別に尊くは無い犠牲を出しつつも、銃を撃つ笑い続ける者、すなわちルドミリアに接近できた俺が見たものは、あらぬ方向を向きながら大笑いして片手だけでライフル銃を振り回して撃ち続けるルドミリアだった。

 危ないどころではない。まさかあんな状態で魔物を全滅させて、俺のみを跳弾で狙っているとは思わなかった。ただ正確には、偶然であって狙ったわけじゃないようだ。と言うのも、彼女は、なにかの発作か笑いが止まらず痙攣して、手がトリガーから離れない状態だった。そんな状態でも、しっかり装弾を済ませていたのかまだ弾切れを起こさない。急ぎ彼女と銃を離そうとしたが、上手く離す事ができない。その間も銃弾は放たれ俺を狙う。俺だけを狙う。なんでじゃい。

 なんども死にそうになりつつ、やっと銃を手から外す事が出来、倒れ付すルドミリアに事情を聞こうとしたが、笑いすぎて顔が真っ青になり泡吹いて、こっちが死に掛けていた。そのため急ぎエンゼラへと戻り治療をしていたのだが……。

 

「あはーははひっ!!こ、こんな、あははっ!!!状態ですまなひいひひひっ!!」

「……うん」

「す、すきで笑っている、あはははっ!!わけじゃあははっ!!ないだひひひっ!?」

 

 そらこの状況で好きで笑ってたら、完全にヤバイ人だよ。即衛兵に突き出すわ。

 

「ご、ごめごふう……っ!?す、少し……ふふぅっ!?深呼吸するから……」

 

 ルドミリアは、必死に深呼吸をして呼吸を整えてる。その間も「ほごぉっふうっ!!」「すーーふっひひっ!?」と、まともに深呼吸も出来てないが、多少落ち着いたらしい。

 

「や、やっと……ひひ、落ち着いたようだ……はは」

 

 まあ、あんまそう見えないけど。

 

「あ、改めて、んふっ!ル、ルドミリアだははっ!!」

「ほんと大丈夫なのこれ?」

「だ、大丈夫、すま、すまない……これでも、落ち着いてる方なんだ、あはっ!」

 

 これで落ち着いてるんだ……。

 

「さっきは、すまなかった。魔物に追われて……あーはーはっ!ひひ、銃を撃っていたら発作で、狙いが、さだまらなくなって……ふひっ!」

「俺ばかりに跳んで来たんだけど……」

「ね、狙ったわけじゃ、あははっ!無いんだ……ぐ、偶然だが、あんなの私も初めて、ふふっ!!」

 

 撃った弾全部跳弾して8割俺に向かってくる偶然ってある?

 

「なんでそんな状態で銃撃つのさ……と言うか、なんでそんな事に」

「じ、実はキノコを食べてから、笑いが止まらなく、くっくうふ、あははーーーっ!!」

 

 毒キノコ食って笑いが止まらなくなった……そう言う事、本当にあるんだね。

 

「これマジだと思います?」

「嘘をついている様子……それ以前の問題だが、多分本当だろう。嘘で引き付け起すほど笑う事が出来る訓練をつんでるなら別だが」

「ねえわ、そんな訓練」

「私もそう思うよ」

 

 嘘を見抜くのが上手そうなコーデリアさんに聞いてみても、一応マジで笑い続けるキノコ食っちゃった人らしいな。

 

「何で食っちゃったんだよ……」

「んふっ!は、初めてみるキノコで、たべ、食べてみたくなって、あはっ!!そしたら、このありさまあはははははっ!!」

 

 もしかして、この人笑ってなくてもヤバイ人じゃないかな?初見のキノコを毒の有無確認せずに食うとかってあるの?

 

「あんたって、聞いてた以上にトラブルと濃い人材ホイホイやな」

 

 誰から聞いたのそれ?まあ、どうせシェロさん辺りでしょ、知ってた知ってた。ちくしょう。

 ここいらで、他の団員への説明のための、話してるとこっちも気が変になりそうなルドミリアの事情要約。

 前いた山賊団を、毒キノコ料理で全員再起不能にして、自分も毒に当たって追い出されて、キノコは新種だから解毒できず、放浪していて魔物に追われて今ここ。

 

「コイツ、馬鹿ナンジャナイカ?」

 

 お前にだけは言われたくないだろうな。

 

「ユグドラシルあたり、解毒できない?キノコ詳しそうだけど」

「――――――」

 

 土系統だけど、キノコはそんな詳しくないと首を振られてしまった。他の星晶戦隊も、解毒は無理との事。

 

「俗に【笑いキノコ】とか【ワライダケ】って呼ばれとるキノコは、うちも何度か商品で扱った事あるけど、解毒薬が無いっちゅうもんは、聞いた事ないわ。せめて現物あれば、どこぞの研究所に渡せたんやけどな」

「わ、私も色々な島を探したが、ふふふっ!解毒薬は、無いしこんな状態だから、あははっ!!ろくに相手もされず、だはははははっ!げほぅぅっ!?」

 

 まーヤバイの来たと思うわそれは、ライフル銃担いで大笑いしてる人間来たら。

 しかし、治療したいのにこの発作のせいでまともに相手されず、薬も無い。ろくに一箇所で留まる事もできず、魔物に襲われれば今回の様な事になる。気の毒と思わないでもない。

 俺はふと、あのポンコツのライフルの事を思い出した。

 

「……あんたって、魔導結晶埋め込んだハンターライフル使った事ある?」

「あははっ?や、闇の魔導結晶かい?」

「そうそれ」

「うぷっ!!そ、それなら結構まえに……ふひゅっふふふっ!!使っていたな、こふっ!!い、今の奴を手に入れたから、路銭にして売ってしまったけど……はあ、あははっ!!」

 

 はいはい、そう言う奴ね。やっぱりあの銃の癖あんたの所為か。

 

「……行く当てないなら、うちの団入る?」

「ぷふうぅーーーっ!!」

 

 これって返事?馬鹿にされた?どっち?

 

「あはーあは、あははっ!と、突然なんだい……はひ、ひっ」

「いや、今までの流れで多分俺が何かしなくても、結局うちに来そうだなと思って」

「よ、よくわからないが……んっふぅっ、たす、助けてもらったうえに、これ以上迷惑をかけ、かけられなはははっ!ごほ、がほっ!?」

「いかん、気管に入ったようだ」

 

 うーん、前言撤回したくなって来たぞお。

 だが実際ここでこの人と別れても、何かしらで合流しそうなんだよなあ……。これも武器のもたらす縁なのだろうか。縁って引き合うイメージがあるけど、俺の場合良い物悪い物ひっくるめて向こうから突進して鳩尾に抉り込んでくる感じだからなあ。

 

「まあ、治療法見つかるまでぐらいはいなさいよ。どうせこの島の村とかで宿とっても追い出されるのが関の山だし」

「くふふ、痛いところを、つくなあ……だが、こんな目立つ私を連れては、くひ、君達にまで、迷惑をかけてしまう……あっはっは!」

「目立つ……」

 

 俺は周りにいる星晶戦隊を見た。

 三匹の竜を引き連れた星晶獣(笑)筆頭ティアマト。動く黒鉄鎧、癒し常識枠コロッサス。水質にうるさい敏感肌の尊大ぶったリヴァイアサン。ふわふわと浮いているユグドラシル。腕四本生やしたドM星晶獣シュヴァリエ。移動中も若干瘴気を漏らしているセレスト。存在が闇、バグ、ギャグ、非常識のB・ビィ。ゾーイは、一見ただの少女だが一度飯を食えば嫌でも目立つ。

 

「目立つとか、こいつら以上に目立ってから言ってよ」

「せ、星晶獣を比較に出すのは、ふふっ、卑怯だよ、あは、あはっはっは!」

 

 かもしれない。だが見てみよ、星晶獣以外の面子も。

 酒飲みゲロインドラフ。二言目には、拳で語り合う格闘馬鹿。謎の浮遊コマに乗る哲学者。男よりイケメン女性騎士。とことんガンバルハーヴィン。あと、一時的だが同行中の商魂逞しいエルーン。

 

「目立つとか、うち全員と比較してから言ってよ」

「うふっ君の騎空団どうなってるの……?あは、あはっ!」

 

 うるせいやい。

 だがルドミリアは、俺達面々を改めて確認してなにか一つの結論に至ったのか、顔は笑っているがハッとした表情になる。笑ってるけど。

 

「そ、そうか君達……いひひ、あ、あの噂の星晶戦隊か」

「今気が付いたんだね」

「こ、濃い面子を紹介されてから、あは、君を見たら確信に至ったよ」

「ねえ、それどう言う意味?」

「そ、それは、うぷぷっ!!ぼはっ!!うぶっふうぅーーーっ!!」

 

 なんだろう、何時も以上に馬鹿にされてる気がするぞぉ~~?

 

「くすぐり倒してもいいかな?」

「ご、ごめ、勘弁してくれ、はひひ……っ!!」

 

 足の裏くすぐったら、きっと致命傷だろうなこの人。

 

「だ、だがいいのかい……うぐっ、ほんとうに迷惑をかけてしまうが、ほふっ!」

「いいよ、いいよ……今も言ったけど、どうせここで外放り出したって、またうちに来るだろうから」

 

 ここらへん、俺は諦めの境地である。厄介な事が、不意に来られるより、目の届くところに置いておきたいんだ。

 

「な、なにか辛い事があるようだが、おふっ、お言葉に甘えていいのかい?」

「ああ、俺達星の島目指してんだ。流石にそんな所目指してりゃ道中見つかるでしょ、治療法の一つぐらい」

「イ、 イスタルシアかい?あははっ!それは、すごいひひっ!」

 

 わかってる、わかってるよー、馬鹿にされてるわけじゃないのは。

 

「んっふ……な、ならお世話になろうかな……。こ、こんな事になってるが、何かと役に立てるつもりだ、んふふっ。な、なるべく迷惑はかけないようがんばるよ……なは、んなはははっ!!ご、げほごふぅ……っ!?」

「いかん、また気管に!」

「ああ、泡吹き始めたにゃっ!?」

「引き付け起しとるでっ!!」

 

 ……早まっただろうか。いや、しかし、やはり結局彼女はうちに来る気がする。今か後かの違いになるのなら、とっととこの状況に慣れておきたい……。

 

「がほ……っ!ごほふぅ……っ!?」

「これ、いっそ気絶させた方がよくねえか?」

「かもしれないな」

「おっしゃ、フェザーやってやんな!」

「よっしゃあーっ!!」

「げぼほおおっ!?」

 

 うん、慣れたい……。

 

 ■

 

 三 スーパーザンクティンゼル人考察学会

 

 ■

 

 ―――その後、色々な依頼でルドミリアをつれて行く事もあった団長であったが、彼女の発作に巻き込まれトラブルが続出。ブレブレの狙いから放たれ、跳弾しまくる弾丸に襲われ死にかける事数百回以上。しかし、ルドミリアを退団させる事は無かった。

 なぜ一般的に足手まといと思われる者を仲間にし続けたのか?後のスーパーザンクティンゼル人を研究する者達からは、様々な憶測が出たが、発見された【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団員の物と思われる手記に「団長は、彼女に関しては既に諦めの境地であった。だが、同時に楽しんでいた」とあり、単純に苦労性で諦めていたのと、それを楽しめる度量の深さを併せ持っていたとされる。

 それが幸か不幸かは、本人のみが知る事である。

 

 




彼女が実装された時、衝撃をうけてガチャ回しまくった。

問題児が増えたので、次はまたオリジナルのクロスエピにでもします。二人一気に来て貰おう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クロスフェイト 邪眼が呼ぶ天災 前編

急にSRカルテイラが出たからね


 ■

 

 一 人の噂も七十五日(ただしそれが続く)

 

 ■

 

 アウギュステに向かう途中、俺は新しい俺達【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】についての噂を聞いた。聞いてしまった。

 

「最近あの星晶戦隊によ、新しい団員が増えたってよ」

「マジかよ…・・・あれ以上どう濃くなるって言うんだよ……」

「なんか、始終笑い続けて銃を撃ちまくる女ハーヴィンを仲間にしたとよ」

「マジかよぉ……なんでそんなヤツ見つけれるんだよぉ……」

「空って広いな……」

「な……」

 

 という感じ。

 早くない? ルドミリア仲間になったの、ほんの数日前だよ?ただ他の騎空団にとっては、問題児ばかりの我が団もその事に目をつむれば戦力がガチ過ぎて自分らの仕事が取られると心配する団もあるらしい。取らん取らん、基本シェロさんから次々と依頼が来るだけで依頼なんて奪わねえって。

 だがこの事をコーデリアさんに相談したら割とマジな感じで「各国がマークしてると言ったろう?」と言われた。震えてきやがった、怖いです。

 しかし実際のところ、ルドミリアが仲間になってまだ依頼に出てはいないが、ヤバみを感じる。エンゼラ船内でも笑いの発作は、当然の様に止まらないので、あんまり発作が酷いようだと近くにいる団員に気絶させる方法を取る事にした。ルドミリアもいっそ気絶してる方が楽だそうなので了承しているが、近くにいた団員がフェザー君だったり、ティアマトだったりすると拳か星晶パワーで気絶させられるのでキツイらしい。

 なお、一番楽なのは、セレストによる気絶で、まるで眠る様に気を失うと言うが、セレストヤバい事してないよね?

 そしてアウギュステ前に行う最後の依頼。なんでも新しい魔物図鑑を作るから図解の絵を描く絵師がいるので、その絵師が野生の状態で生きた魔物を描くまでの護衛をしろとの事。

 大きな戦闘が無いと信じて新参のルドミリアを連れて行くのにちょうどいいかと思い彼女をメンバーに加えて俺はその絵師に会いに行ったのだった。

 ――絵師を護る、ただそれだけの依頼がまさかあんな事になるとは、この時思いもしなかったのだ。

 

 ■

 

 ニ フェイトエピソード 一 乾き疼く瞳を持つ者

 

 ■

 

 運命の出会いは、何年も前。絵物語を扱うマーケットで偶然目にした一冊。全身に電流が走るがごとき衝撃をその表紙を見て受けた。心が肉体から離れ、物語の世界に入り込むのを感じた。美しき男達の尊さを知った。

 湧き上がる創作への意欲。元から絵は好きだった。だが、美しいもの、特に美しく可憐な人間を描く事が彼女には、とても難しかった。決して絵は下手ではない。だが、彼女は魔物を描く事に特化していた。見様見真似で人物を描いた。何百、何千、何万、どれ程描いたろうか。

 その中で運命の出会いであった一冊は、「不埒」と断定され親に捨てられた。しかし彼女は、描いた。美しき男達を、耽美なる絵を。

 自分なりに描けた一冊を本にして、店に置いたが売れない。そのため一際才能があった魔物の絵を生活の糧にするうち、何時しか彼女は【魔物絵師】として広く知られ、魔物図鑑或いは魔物の手配書等の仕事では、多くの指名を受ける程になった。

 

「彼女の描いた絵は、まるで生きているようだ」

 

 最大の賛辞、だが彼女の心は晴れない。

 自身の目指すもの、それは耽美の世界。何時か空中の耽美物を集め、自身もまた耽美絵師となりたい。その思いは、決して無くなる事も無く日々魔物の挿絵を描いた。

 ある日受けた新たな魔物図鑑の依頼も、そんな当たり前の日々の一幕。面白くも、つまらなくも無い。そんな当たり前の依頼、そうなるはずだった。地味な少年が率いる騎空団が、自身の護衛に現れた時その運命は変わる。新たなる耽美の世界を求める世界へと。

 

 ■

 

 三 魔物ウォッチ

 

 ■

 

 結論から言おう。

 

「あは、あーははははっ!! ま、待て待てえあははーーっ!」

「GUAAAA!?!?」

「お前が待てルドミリア!! 笑いながらだと魔物が怯えるっ!!」

「うっわわっ!? こっちくんなやっ!?」

「セレスト、餌っ!! 餌ちょうだいっ!!」

「ま、まって……うわっ!!」

「セレストさんがこけたですっ!?」

「いひひっ!! ぶちまけた餌に、まも、魔物がははははっ!んひーひひひっ!!」

「あかん、全部食われるでッ!!」

「だ、だめです!まだ食べちゃだめですっ!!」

「ま、まだルナールさん!?」

「ダメ、もうちょっと」

「んだあぁーーーーーーーーっ!!」

 

 思ったよりきつい。

 依頼メンバー、ルドミリア、カルテイラ、セレスト、ブリジール、俺。ルドミリアは、入団して直ぐで様子を見るのにちょうどいい依頼と思ったから参加。ブリジールさんは、コーデリアさんに比べると戦力としては不安だがサポーターとしては十分と思った。カルテイラさんは、アウギュステまで船に乗せてあげてる分手伝ってもらう。セレストに関しては、星晶獣を連れてくるほどの依頼とは思わなかったが、たまには自分も依頼に行きたいと思ったようだ。肉体労働は、相変わらず苦手だが依頼内容が比較的楽に思えたらしい。

 あと一番着いてきて欲しいがコーデリアさんには、お留守番と補給物資確認の指示をお願いした。ティアマトが残っているがたぶん今船にいるメンバーで一番の常識人だからあっちは心配ないだろう。

 だが全部裏目に出た。

 

「いいわ、そのままで。止まってるなら描きやすいわ……」

 

 一心不乱に、スケッチブックへ魔物を描き込みまくる絵師。ハーヴィンの女性絵師ルナール、今回受けた依頼の護衛対象である。彼女が魔物をスケッチしている間、俺達はひたすら魔物を引き付け逃がさないようにする。シェロさん曰く、「難しくない仕事ですよ~」との事。

 だが、魔物一匹を追い回すのに右往左往する俺達。倒さず逃がさず追い回すと言うのは、思ったより大変だった。こんな姿ばあさんに見られたら、また一から鍛え直されそうで怖いぜ。

 しかし一方こんなありさまでも冷静、と言うかいっそドライに魔物を描き続けるルナールと言う絵師、かなりの集中力だ。腕の良い絵師とは聞いたけど、確かにこれは凄い。凄いが早くして、早く、早くしてくれたのむからねえ!!

 

「このアホッ! 勝手に餌全部くうなっ!」

「Gyan!?」

 

 強化ハリセンで魔物をドツキ回すカルテイラ。案外この点は助かる。今回は、魔物の討伐が目的で無いので非殺傷武器(?)を使うカルテイラさんには、けん制をしてもらう。

 

「もう少し動いてる時が見たいわ、うまく誘導して」

 

 注文が来れば俺達は、従うほかない。何故なら彼女は、依頼主だから。

 

「しかたねえ……行けB・ビィ!!」

「しょうがねえな……」

 

 あと普通にいたB・ビィ。まあ、こいつはビィを自称してるので基本俺といるから当然なのだが。

 そんなB・ビィが俺の指示を受け、通常形態のまま空を飛び魔物が食らい付いている餌を奪う。

 

「Ugaa!?」

「こっちだぜノロマッ!!」

 

 餌を奪われ怒った魔物は、絶妙なスピードで飛ぶB・ビィを追いかけた。

 

「いいわね。そのままでお願い」

「変身は無しだからな!魔物が怯えて逃げるから!!」

「クッソが!これ結構つかれんだからな!あとでリンゴよこせよ!!」

 

 通常形態でもクソ強い癖に文句言うんじゃねえ。

 ちなみに、こんな感じの事が午前中からずっと続いてる。今のところ休みなしだ。この魔物が終われば一息入れて午後残りの魔物スケッチだ。

 

 ■

 

 四 一時の安らぎ

 

 ■

 

 普通の戦いより疲れた気がする依頼の前半を終え、一時丘の上で休息する。飲まず食わずでこんな事出来る訳がないし、いい加減腹が減ったのだ。

 

「ああ、しんど……」

 

 すっかり疲れて丘の上でねっころがるカルテイラさん。かく言う俺も、レジャーシート広げて一緒に倒れ付している。

 

「そ、想像以上にきつかった。まだ午後もあるのか……」

「あんた、もうちょっと考えて依頼貰いや。船乗せてもろてるさかい、そら手伝いせい言われたら断る気はあらへんけど、限度ッちゅうもんがあるで」

「だって、シェロさんが難しい仕事じゃないって……」

 

 そしたら「ド阿呆」とハリセンで頭をはたかれた。

 

「“難しくない事”と“楽な事”は別や」

「うぐぐ」

「まあ、これもシェロはんの信頼の証かもしれんな。あんたらなら、なんやかんやで依頼をやり遂げるちゅう信頼があったんやろ。せやけど、気をつけんと一々面倒な依頼ふられる事になるで」

 

 好きで依頼を受けているのではない。シェロさんから来る依頼は、選好みできないのだ。借金あるから。

 

「おまはん、借金無くても貧乏くじばっか引きそうやな。生まれついての苦労人」

「やかましいなあ、思い当たる事多すぎて困るから止めて」

「あるんかいな」

 

 あるんだなぁこれが。

 

「ご飯準備できたです!」

「うっひょー! 待ってたぜ、りんご!りんごくれ!」

「落ち着くですB・ビィさん、りんごは逃げないです」

 

 ブリジールさんが持ってきた荷物から用意した弁当を取り出す。手馴れた様子で食事の準備をするブリジールさん。更にコーデリアさん手製のサンドウィッチだぞ。やったぜ。

 

「そういやルドミリアはんは?おらんやん」

「なんか、近くの森で珍しいキノコないか見てくるって」

「止めんでええんかいな、またけったいなキノコ食って症状悪化すると面倒やで」

「キノコ見つけても、まず持って来いって言っておいた」

「大丈夫やろな~」

 

 多分大丈夫だよ。多分、きっと、メイビー。

 

「てか、セレストは?ルナールさんも」

「お二人なら、木陰でお休みになってるです」

 

 ブリジールさんが指差す方向には、確かに二人がいる。一応声をかけた方がいいだろう。

 

「熱い……日差しきつい」

「……」

 

 どっちも日光が嫌いのようで、セレストはぐったりとしている。大して日差しはきつくは無いのだが、彼女にはつらいようだ。一方でルナールさんも日差しを疎ましそうにしているが、それ以上にスケッチに熱中している。休憩中と言うのに熱心なものだ。

 

「セレスト、飯どうする?」

「お、おいといて……後で食べる……」

「ルナールさんも、ちょっとは休んだらどうですか?食事も用意してますけど」

「別にいいわ、もう少し描いておきたいし」

「あ、はい」

 

 にべもねえや。

 仕事人間なのだろうか、それとも絵が好きなのだろうか、俺にはわからん。しょうがないので、食事と飲み物だけ置いておく。

 彼女の持つスケッチブックには、既に多くの魔物の姿が描かれている。一体の魔物もあらゆる角度で描いて最もその魔物が生き生きとしている構図を見つけ出す。そして図鑑用のわかりやすい挿絵用の構図もまた同時に考える。一度彼女の絵を見たが確かに「生きているようだ」と言われるだけはある。

 絵を描く事を仕事にするって大変だなあ、と思いながら元のレジャーシートに戻りコーデリアさんお手製のサンドウィッチを食べて休む。

 

「あは、あははっ!! だ、団長、ちょっといいかな?」

 

 はずだった。

 

「……どしたの、ルドさん」

「その略し方は、初めてだよ、ふふっ! ちょっと、森の方で気になる事が……ほふひひっ!」

「気になる?」

「魔物じゃない気配がするんだ……んふっ、人がいない場所のはずだからおかしいと思って、ひひっ。か、確認をしたいが、私一人では多分無理だろうからね……なはははっ!!」

 

 そうだね、現状ルドさんは、全空一斥候とか出来ない人ナンバーワンだろうさ。

 

「10秒待って」

 

 手に持ったサンドウィッチを頬張り一気にお茶で流し込む。本当はもっと味わいたかったよ。コーデリアさんの手作り。

 

「セレスト、ルナールさんの護衛お願い。なるべく直ぐ戻る」

「わかった……」

 

 ぐったりしたまま返事してる……大丈夫かな。俺が残ってブリジールさんに様子を見に行ってもらうって言うのも……ああ、いや駄目だ。たぶん彼女だと、ルドさんに振り回されてまともに動けないだろう。危険な魔物か人物であった場合を考えれば、カルテイラさんも除外だ。やはり俺しかないか。

 

「ルナールさんも、すみませんが」

「かまわないわ、どうせまだ描いてるから」

 

 ドライだねえ。

 

「カルテイラさんにブリジールさん、ちょっと森の様子見て来るんで少し頼みます」

「了解しましたです!とことん頼まれました!」

「気いつけや」

「あと特にB・ビィ、お前は念のため残しておくからな。勝手についてきたりするなよ」

「わかってるよ」

 

 あいあい。それじゃ行きますよルドさん。魔物じゃないと言うが、せめて盗賊程度であるといいが。俺の場合、薮突いた場合蛇どころか星晶獣が出かねないからなあ、悲しいかな。

 

「んふふぅ……っ、そ、それじゃ案内するよ、うぷっ!」

 

 しかしよりにもよって気配に気づいたのがルドさんか。道案内の途中でその未知の相手に気取られないよう願うしかない。相変わらず笑い続けるルドさんを連れ、二人森へと入っていった。

 

 ■

 

 五 闇引き合い、天災来たり

 

 ■

 

 笑いまくるルドミリアを引き連れながら森へと入っていく団長を、木陰でうなだれたままのセレストは見送る。

 そしてふと気がついた。隣にいるハーヴィン、絵師ルナール。彼女は黙々と絵を描いているが、この空間に気まずさを感じ始めてしまった。視線をカルテイラとブリジールがいるレジャーシートに移す。そこは、普通であれば穏やかな日差しだが彼女にとっては炎天下。そこに移動する気は起きなかった。

 

「ご、ごはん……食べなくていいの?」

「いいわ」

 

 やはりにべも無い。

 移動する気も起きない以上、ここで用意された食事を取るしかなく、団長が置いていったサンドウィッチをモソモソと食べ始める。

 モクモクと絵を描くハーヴィン、モソモソと食事をする星晶獣。相当珍しい光景だろう。だがそれぞれは、それぞれの事に集中してるのでそんな事を考えていない。そんな事が数分続く。

 だが気まずい。何も問題が無いはずなのに、互いに無言の気まずさ。ただ純粋に星晶獣であった頃には、味わうはずの無かった感覚に戸惑いながらセレストは、この気まずさの突破口を探していた。

 

(そうだ、絵の話題……)

 

 絵を仕事にしてるなら、絵の事を話題でふったら反応してくれるだろうか。そう思いルナールを見る。だが彼女は相変わらずスケッチに夢中だ。

 

(声……かけ辛いなぁ……)

 

 セレストは人見知りであった。この時ばかりは、星晶戦隊内でも空気を読まない事に定評があるティアマトの図々しさが羨ましかった。反面ああはなりたくないとも思うが。

 どうしようか悩んでいると、今度はルナールのほうがセレストを見た。

 

「あ……」

「なに? さっきからチラチラ」

 

 どうやら気が付かれていたらしい。セレストは、申し訳ないのと恥ずかしさで赤面した。

 

「ご、ごめんなさい……」

「はあ……貴女、話を聞いた限り星晶獣なのよね?ただの人間に何遠慮してるのよ?」

「い、今は……ただの星晶戦隊の一員だから……」

「それにしたって威厳が無いんじゃないの?」

「け、けど……うちには、無駄遣い多くて団長にお尻蹴られたり……住んでる水槽の水質に煩すぎて、蒲焼にされかけたり……ドMで団長に罵られたがる……もっと駄目駄目なの……いるよ」

「大丈夫なの、その星晶獣……」

 

 きっと大丈夫ではないだろう。

 

「それで、何か聞きたいの?」

 

 ルナールは、すっかりセレストを星晶獣と言うよりもただの気弱な人間として認識したようだ。

 

「あ、あのね……」

 

 まさか向こうから話をふってくれるとは思わず、慌ててしまう。そもそも漠然と絵の話をすればいいかと思っただけで、どう話題をふろうかまで考えていなかったのだ。

 ワタワタしながらセレストは、何か言わなければと焦りそして。

 

「絵って描いてて楽しい?」

 

 言ってちょっと後悔した。もう少し言うべき事があったろうに、なぜこんな当たり障りも無さ過ぎて話の続かない事を言ってしまったのだ。ベールで隠されたセレストの瞳は、涙目であった。

 

「いきなり何よ……」

「あは、はは……ずっと描いてるから、好きなのかなって……なんか、ごめん」

「星晶獣が簡単に謝らないでよ、調子狂うわね……別に好きじゃないわ、嫌いでもないけど」

「え……?ならなんで描いてるの?」

「仕事だからよ、それ以上理由ある?」

 

 そうだろうか?セレストは、疑問を感じた。言われてみれば、彼女の魔物を描く姿は、絵師か職人のそれだがどこか作業的であった。しかし絵を描くという行為にたいして「好きでも嫌いでもない」と言う半端な思いは、感じられなかった。

 

「他に、魔物以外を描いたりとか……してるの?」   

「う゛ぅ゛ん゛……っ! ……い、いいえ? まあ、たまに? 人物や模写とか? 人型の魔物とかいるし? そう言うのとかは、するわよ? 当然ね、ええ」

 

 露骨に焦りだした。これはあまり聞かない方がいい内容のようだ。そうセレストは、人間社会に出て学んできた技“空気を読む”によって感じ取った。なので、とりあえず話題を変えることにした。

 

「ちょ、ちょっと……見てもいいかな?」

「……これは、仕事用だから……うん、何も描いてない」

「え?」

「ああ、ううん!なな、なんでもないわよ?まあ、見るぐらいなら別に、ある程度は描けたし……はい」

 

 そう言ってルナールは、今まで使用していたスケッチブックをセレストに渡した。セレストは、それを嬉しそうに受け取ると、パラパラとめくり絵を見る。

 

「わあ……す、すごいなあ……」

 

 そこには、団長も見たようにまるで生きているような魔物達の姿があった。ただ一つのペンから生まれるとは思えない躍動感。この短時間で描いたとは思えない量と精巧な書き込み。

 人の生み出す芸術、それをセレストは初めて実感した。

 

「ど、どうやったら……こんな風に描けるの?」

「どうもなにも、描くしかないわ。スケッチでも模写でもいいから、一日一枚とか十枚とか決めて、描き続けるの。じゃなきゃ上達もしないし腕が描き方忘れるわ」

 

 そう言うルナールの姿に、まるで歴戦の戦士の様な風格すらセレストは感じた。ほんの22歳、しかし絵師としての心構えは、既に達人の域に達しようとしている。セレストは、星晶獣として長く生きてきたが、あの団長とジータの次にルナールと彼女の描く絵に強く関心を持った。

 そして可能なら、彼女の描く他の絵が見てみたいと言う欲求が生まれる。自ら欲する、それもまた初めての感情だった。

 

「依頼が終わったら……ちょっとだけでいいから、絵の描き方とか……教えて欲しい」

「私が?」

「だ、駄目かな?」

 

 ルナールは、意外そうにしている。またかなり困惑もした。

 

「なんでそんな」

「わ、私星晶獣だから……団長と出会うまでずっと空を漂っては、人の死を奪って眷族にしたり、取り込んだりするだけの生活だったの……」

「そ、壮絶ね……そこら辺は、流石星晶獣だわ」

「だからね……今団長と空を旅するの、凄く……た、楽しい。こうやって……今まで気にも留めなかった……絵とかに興味がわくから」

 

 血の気の無い、蒼白の皮膚。だが紫の口紅が弧を描き、表情はベールに隠れても彼女が生き生きとした笑みを浮かべているのは、ルナールにもわかる。

 

「……ちょっとだけよ?」

「あ、ありがとう……」

 

 見た目は大人の女性で、しかも星晶獣。なのにやたら人間らしく、弱々しさすら感じるのは、あの変わった団長の所為だろうか。船に残りまだいると言う、セレストよりも“駄目駄目”な他の星晶獣とやらも、少し気になりだしたルナールだった。

 そして、そんな穏やかな時間は、突如として終わりを迎えるのだ。

 

「あ、あれ?」

「どうしたのよ」

「なにか……聞こえた」

「なにか?」

「うん……森のほうから」

 

 セレストが不思議そうに団長とルドミリアが入って行った森をみた。一見何も無いただの森であったが、しかし徐々に、徐々に奇妙な音が響く。

 

「な、何の音?」

「わ、わからない……何かが、動いて……回転する様な……」

 

 その時である。木々が伐採され吹き飛ぶ。けたたましいエンジン音が鳴り響き、そして現れたのだ。

 

「そ、総員退避いぃーーーーーっ!!」

「あははーーーっ!! あはははっ!? やばひっ!! ぶへえっ!! うはははっ!?」

 

 二人並んで森から出てくる団長とルドミリアの二人。その後ろからせまる、一人の女性。

 

「ヒャアアアッハアアアアアーーーーッ!! クウゥゥレイイジイイィィィーーーーーーッ!!!」

 

 人はそれを、“歩く天災”と呼ぶと言う。

 

 




SRカルテイラ可愛すぎない?あとあれ、一枚目ちょっと乳首浮いて見えてエロい。貯めといた石全部つぎ込んだよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クロスフェイト 邪眼が呼ぶ天災 中編

後半だけ長すぎてもダレるんで、さらに分けました。

追記 11.17
 おそらく文章の重複は直っていると思います。また何かあれば、活動報告でも報告いたします。


 

 ■

 

 一 クロスエピソード 加虐少女は安心の夢を見るか

 

 ■

 

 上流と下流、二つに分かれた生きる世界。安寧とは程遠い下流の世界、更にその下。世の掃きだめの様な場所、スラム街で彼女は生まれた。

 スラムで生まれる事は、その時点で試練である。生まれて直ぐに命を落とす事など珍しい事ではない。まともな医者もいない場所では、出産すら命取りだ。だがそこで無事生まれたとして、それは幸運であろうか。

 親がいない、それも珍しくない。誰もが自分の事は自分で守らねばならなかった。彼女もそうだった。加虐者達は、少し脅すだけで怯え震える少女を面白がった。ドラフ特有の幼いながらに豊満な肉体を狙った者もいた。

 そんな世界で小さな少女が生き残るのは、並大抵の事ではない。

 何故皆は自分を虐めるのか? なぜ自分がこのような目に遭うのか? 逃走の日々の中、彼女は一つの答えを導き出した。

 

「遠ざけるには、自分以外が離れていけばいい。自分以外の、全てが」

 

 無心にガラクタを集め、彼女は一つの武器を作る。ドラフには、手先が器用な者が多い。彼女もそうだったからこそ、その武器を作れた。全てを遠ざけ恐れさせる事だけを考え作り上げた物。”全てを遠ざける暴力”そのもの。彼女は、それを壊天刃と名付けた。

 一振りすれば誰もが怯え逃げて行った。その音を聞くだけで、誰もが悲鳴を上げた。それを持つ限り、誰もが彼女に近づく事は無かった。

 その事に安堵しながら、彼女はスラムを後にした。遠ざけるだけでは駄目だ。誰も来ない、自分を傷つける者が現れない平穏の場所を求めて。島々を渡り歩くうち、その姿を見た者が言い出した。

 

「知ってるか……”歩く天災”ってやつを」

 

 壊天刃は、全てを壊す。あれは最早災害、近づく事なかれ。無数の刃が回り鳴り響く破壊の音が聞こえたならば、すぐさま逃げろ。

 そして徐々に誰もが彼女へと近づこうとはしなくなる。ただ只管に破壊を楽しむ天災に関わる事を恐れた。

 中には、度胸試しだと天災を探し会おうとする者がいた。噂を確かめようとする者もいた。だが、誰もが真っ青な顔で戻り、もうあれに関わるのは止せと同じような事を考える者達に言った。

 その事を彼女は、喜んだ。しかしこの時、ぽっかりと心に穴が開いたような感情にも戸惑う事になる。彼女は、この時得られた安心が、望んでいた安心と違う事に、気づけずにいたのだ。そして人々は、彼女はただ安心を求めている事に気がつかずにいた。

 本当に望む事に気がつけない少女。彼女が何を望んでいるか気がつけない人々。だが天災とは程遠い平凡で特徴もない男が、この不幸なすれ違いを埋める事になる。

 

「総員撤退いぃ────っ!!」

 

 ■

 

 二 逃げるんだよぉっ!! 

 

 ■

 

 絶賛回転鋸を振り回すドラフ少女に追われる俺達。ルドさんに言われて森に入ったらこれだよ。森で正体不明の気配があると言うから来たが、途中珍しいキノコに興味を奪われたルドさんが、俺の制止を聞く前にそれを食べてしまい発作が悪化。森全体に響き渡るような大爆笑をあげ引き付けを起こししょうがないので一発腹部を殴打してキノコを吐かせた。

 この大声でその謎の存在に気がつかれやしないかと思ったが、時既に遅し。

 

「ハァッロオォォ~~~ッ?」

 

 背後から聞こえた少女の声は、ぞっとする様なものであるが同時に可愛らしい声だった。一緒に猛烈に殺意全快バリバリな武器が音を上げていなければよかったよ。

 

「ねえねえ~? なぁ~んで君達ぃ、こぉ~んな所にいるのぉ?」

「あは、あはは……えっと、ここにお住まいの方でしょうか?」

「そぉ~住んでたの、独りぼっちで静かぁ~に住んでたのにぃ……また、怖い人達来ちゃった」

「そ、その武器を向けるのを止めてくれないかなあ、なんて……」

 

 その武器は、初めてみる武器だ。そもそも武器なのだろうか? 複数の刃が常に回転している。刃を動かすなんて発想、した事が無い。

 

「ノンノンノ~ンッ! ダメダメダメェ~ッ! だってだって~……君達、僕に酷い事しに来たんだろぉ? こわいなぁ……」

「あひゃっ!? あひひひっ! わ、私達は君に危害なんて加え……はひひっ!! ひひ、あはーははっ!!」

「ひひっ!? なんだなんだなんだぁ~~っ!? こんな状況で笑ってやがるぜぇ~? やべえなぁ……こわいなあ……けどサイッコーに、クレイジーだぜえっ!?」

 

 確かにクレイジーだけどね。好きで笑ってるんじゃないのこの人。

 

「だ~か~らぁ~……怖い人達はみ~~~んな……っ!」

 

 少女がその武器についている紐を思い切り引っ張ると、より大きく刃が回転する。俺が何をしたって言うんだ、くそったれ。ちくしょう、この野郎。

 

「ルドさん、逃げますぜ!」

「さ、賛成だはははっ!!」

「サヨナラ、バイバイしねえぇとなあぁ──ーっ!!」

 

 全力で振り返り走り出す。そして直ぐに少女があの武器を振るうと一瞬で周辺の木々が切り刻まれ吹き飛んだ。凄まじい切れ味に度肝を抜かれるがそれよりも逃げる事が先だ。急ぎ森を出てこの事態を知らず、暢気してるB・ビィ達が見えた。

 

「総員退避、退避い──────ーっ!!」 

「ヒャッハアアアァァァ──────────ーッ!! クウゥレイッジイィ──ーッ!!」

 

 鬼気迫る俺の叫びと木を吹き飛ばしながら迫るドラフ少女を見て、瞬時に異常事態を悟ったB・ビィ達は、一瞬で荷物をカバンや篭に押し込み逃げ出した。

 だが一人この事態に置いていかれる者がいた。

 

「な、ななな何事よぉっ!?」

 

 今回の依頼人ルナールさんが、腰を抜かしている。これはいかん、ヤバイ。

 

「失敬っ!!」

「きゃあっ!?」

 

 通り過ぎる前にルナールさんを左手で掴み抱える。小柄なハーヴィンだから掴めたが、他の種族では無理だな。本人には言えないが、彼女がハーヴィンでよかった。

 

「……ってぇ!? この担ぎ方はないんじゃないのっ!?」

「余裕無いんっすよおっ!!」

 

 急ぎ逃げる都合上、申し訳ないが肩に担ぎ上げている。まるで人攫いのようだがこの際仕方ない。

 

「もっと普通に抱き上げるとか無い訳っ!?」

「んな暇無いですってばあ!!」

「こう言うシチュなら、お姫様抱っことかあるじゃない!?」

「知らんですって!!」

「オラオラオラァ──ッ!! みぃ~んなバイバイしちまいなぁ!!」

「んぎゃあああっ!? せ、せめて正面向かせてぇ──っ!!」

 

 担ぎ上げた時、彼女の顔は後ろに向いてしまった。その所為で猛進する少女と、その少女が振り回す異形な武器が誰よりも見えてしまい悲鳴を上げている。

 

「あ、あんたっ!! なんちゅうヤツ連れて戻って来とるんやっ!?」

「俺だってこんな事態想定外ですよっ!!」

「んは、んははっ!! ごほっ! ……んひゃははっ!! はひ、逃げ、にげばはははっ!?」

「ルドミリアさんが顔真っ青ですっ!?」

 

 笑いながら全力疾走すりゃ死にそうにもなるわな。

 

「ルドさん空いてる肩乗りなっ!!」

「す、すまなひいっ!!」

 

 ルドさんが走りながら俺の空いてる方の肩に飛び乗る。ハーヴィンとは言え、二人抱えては流石に重いが走る分には問題ない。ばあさんのしごきを耐えた日々は、伊達じゃねえぜ。

 

「ぜぇ──……っ! ひぃ……っ! うえ……うぷぅっ!」

「相棒、セレストもヤバイぜ!?」

「わ、私も……おぶってぇ……」

「無理に決まってんだろっ!?」

 

 既に二人担いでるんだから無理だ。それにコイツの運動神経だとルドさんみたいに飛び乗れるわけもなく、もうこのまま走ってもらうしかないが……。

 

 

「どうしても無理なら、マチョビィ形態のB・ビィに運んでもらえ」

「……も、もう少しがんばる」

「そりゃどう言う意味だよっ!?」

 

 単純にキモイんだと思うよ。

 ギャーギャー騒ぎながら逃げる逃げる。ひたすら逃げる。

 

「逃げろ逃げろぉ~! そのままどっかに、いっちまいなぁ~~~っ!!」

 

 言われんでも逃げとるわ。そっちが追うのだから逃げるしかない。

 

「こ、このままじゃいかん、説得作戦だ!」

「あんなん、どう説得すんねんっ!?」

 

 見とれ、無害アピール作戦じゃっ!! 

 

「お、俺達なんもしないから見逃してくれえ──っ!!」

「ダウトダウトォー!! そー言って騙すんだろぉ~っ! うっかり信じて後ろからばっさりダァ~~ッ!!」

「んなこたぁしねえよっ!!」

 

 どんだけ疑い深いんだよ!? 

 

「駄目、無理でした、説得失敗ですっ!!」

「ド阿呆っ!! そんな説得の仕方あるかっ!?」

「じゃあ次カルテイラさん!!」

「えっ!? ……あ、えっと、じょ、嬢ちゃんお菓子やるから見逃してぇーなっ!」

「それもノ~ッ!! 知らない人からお菓子なんて~ダメだ、ダメだ、ダメダメだァ~ッ!!」

「ダメやっ! 作戦失敗や!」

「あんたも大概しょぼい説得じゃねーか!?」

 

 あれお菓子で釣れるよーな感じしないよね。むしろ「手前らの血をよこしなっ!!」とか言い出しそうな勢いだよ!! 

 

「次ブリジールさんっ!」

「え、えっと……自分、何もしないです! とことん無害ですっ! 騎士に二言はないですっ!!」

「ヒャッハアァ~~~~ッ!! 騎士様だからってェ? 信じると思うのかァ~~~~っ!!」

「ぴぃっ!? すみません、無理だったですっ!!」

 

 くそ、彼女では臆病すぎるかっ! 

 

「次、ルドさんっ!!」

「あは、あはははっ!? いひぃ──ひひっ!! ぼほっ! うおぁ……んひゃ、ひゃはははっ!」

「ヒャッハァッ!! まだ笑ってやがるぜぇ~~~~っ!」

 

 だろうと思ったよ、ちくしょうめっ!! 

 

「セレストッ!」

「む、むりぃ~……」

 

 だろうなっ!! 

 

「B・ビィッ!!」

「もうめんどくせーから、倒すでもいいんじゃねーか?」

「やっぱり怖い人達じゃねーかぁっ!! ゥオラオラオラアァッ!!」

 

 この野郎、余計に場を乱しやがった!! 

 つ、次は、残りはもう……。

 

「ル、ルナールさん!!」

「わ、わたしぃ!?」

「頼みますっ!!」

「そ、そんな事急に言われたってぇ……うわっ!?」

 

 走る振動の所為かルナールさんの腰につけたカバンから一冊のスケッチブックが零れ落ちた。

 

「ケヒッ!?」

「そ、そっちのスケッチブックはダメェ~っ!?」

 

 そのままスケッチブックは、あのドラフの顔に直撃した。だが、それで動きを止めた。これは今のうちに逃げれるぞ。

 

「ちょ、戻ってっ!! あれは、アイディアスケッチ用で、仕事用じゃないから駄目っ!! 取り戻さないとっ!!」

「んなの、後でいいでしょっ!?」

「いいわけないでしょっ!? アレを見られるわけにはいかないのよっ!? あれ見られたら死ねる、と言うか死ぬっ! わたしは行くわっ!!」

「あ、ちょまっ!?」

「トゥウアーッ!!」

 

 やたら軽快な声を上げてルナールさんが俺の肩から飛び去ってしまった。

 

「ウキャ? なぁにこれぇ~……」

「ウナァ──ッ!! か、返しなさぁーいっ!!」

「ひぎゃあぁ────っ!?」

 

 直ぐ鬼気迫るルナールさんが突貫。相手も悲鳴を上げてひっくり返った。そしてそのまま、二人はぶつかりゴロゴロと丘を転がり落ちていく。

 

「相棒、二人とも行っちまうぞ!?」

「あーもう、くそったれ!! どうしてこう何時もまともに事が進まないんだっ!!」

「文句いっとる場合かっ! 追うでっ!!」

「わかってるよ!!」

 

 ルナールさんを見捨てるわけにいかない。全員疲れているが、それでもまだまだ必死に走って追いかける。

 

「ああ、いたぞまだ取っ組み合ってる」

 

 転げ落ちた先で、二人がドタバタとしている。体格小さい同士だから、子供が喧嘩してるように見えてしまう。

 あ、ルナールさんがスケッチブックを掴んだ。

 

「取ったどォ────っ!!」

 

 ルナールさんの叫びがこだました。やたら勇ましいな。

 

「あ、危なかった……やっぱりアイディア用とは言え、安易に外に持ち出すべきじゃなかったわね……」

「きゅう……ひ、ひどいィ……ボク、なにもしてないのにぃ~……」

「ちょ、ちょっと泣かないでよ……」

「ああ、いたいた。ルナールさん勝手に飛び出さないで……と言うか何これ」

「し、知らないわよぉ……なんか、急に泣き出して」

 

 ええ、なにそれ、どういう事。

 

「ちょっとちょっと、お嬢さんそんな急に泣かないでよ……なんか、俺ら悪いみたいじゃん」

「だって、お前ら……ボクをイジメにきたんだろォ……うぅ、帰れよう……こ、怖い人は、いやだよう……」

「こ、怖くないよ?」

「嘘だ……み、みんなそうやって嘘つくもん……もう、どっかいけよぉ……バ、バラバラにするぞ……ほ、ほんとだぞぉ……ぐすっ」

 

 説得力ねえなあ……。だがまいったな、とことん疑っている。放置って言うのも気が引けるしなあ。

 だが本当にどうしようか悩んでいると、また遠くから可笑しな音が聞こえてきた。こう、壷がズンズン動いてくるような、そんな音だけど……。

 

「……なあ、走ってて気がつかなかったけどさ、ここって」

「……そ、そういえば……次の、魔物目撃地帯……」

 

 魔物の観察、スケッチ予定地、またその対象の出没地域。今日の依頼最後の“標的”と、“その仲間達”。恐る恐る、近づいて来る音の方向を見る。するとそこには、小さなスライムの群れを引きつれ元気にこちらに迫るキングゴールドスライムがいた。

 

「総員退避い────────ッ!!」

 

 本日二度目の逃亡開始である。

 

 ■

 

 三 スライム狩り

 

 ■

 

「どう言う日だよちくしょうっ!? こうも連続でトラブルが起きやがる!!」

 

 つぶらな瞳で俺達を追いかけるスライム達。基本奴等は、無害な魔物に分類される。だがどう思ったのか知らないが、俺達に興味を抱いたようで妙に執拗に追ってくる。

 

「相棒、倒さなくていいのかよっ!?」

「こいつ倒すと依頼完了しないんだよっ!!」

 

 ただ働きをする気はないので、そんなのは冗談じゃない。

 

「ルナールさん、今描けますか!?」

「走ってるうえに、こんなにスライムいるんじゃ無理に決まってるでしょっ!?」

「ですよね、こんちくしょいっ!!」

 

 キングゴールドスライムは、かなり発見率が低いレアな魔物だ。倒しても逃しても次何時見つかるか分からない。だが、俺はあきらめんぞ!! 

 

「い゛や゛あ゛ぁ゛~~~っ! ねばねば、こないでえぇ~~~っ!!」

「いや、なんで一緒に逃げてんの!?」

 

 あと何故かあのドラフ少女が共に逃げていた。

 

「ねばねば嫌なんだもんっ!!」

「だもん、ってあんた……」

「だってあいつら、壊天刃でも切れないんだもんっ!! 嫌い……ねばねば嫌いっ!」

 

 ねえ、君なんか感じ変わってない? さっきまでのクレイジーさはどこへ消えたの? 

 

「んで、実際どうするつもりやっ!! 何時までも逃げれられへんでっ!?」

 

 カルテイラさんの言う事も尤もだが、キングゴールドスライム以外のスライムが多すぎる。あれ30匹以上いるぞ。しかもこんな大規模な戦闘想定してない今の装備だときつい。

 一応手段はあるのだが、逃げながらでは無理だ。誰か囮になってもらう必要があるが……。

 

「きゃうっ!?」

 

 とか考えてたら、視界の隅に見えてたドラフ少女の角が消えた。

 

「ああ、ドラフの人こけたですっ!?」

「なぁにいっ!?」

 

 振り向くと確かに見事すっころんでいる。しかしあれは、駄目だ。ああ、もうスライムに取り囲まれた。と言うか完全にスライムの興味があっちに向いた。

 

「ぅあ……こ、こないでぇ……うぅ、やだぁ……」

「────!」

「──!?」

「ひんひん……っ! やめ、いじめないでぇ……っ!」

 

 何と言う事だ。スライムの群れが完全に彼女を取り囲み、ポコスカいじめだしたではないか。しかし襲うと言うよりも、ちょっかいをかけているような雰囲気だ。

 

「なんか、敵対してると言うか子供のイジメを見ているようだ……」

「うちもそう見えるわ……なんやあれ……」

「あーあー……ペチペチ叩かれて、粘液飛び散っちゃってるよ」

 

 言っちゃ悪いが、まるで危機感がなかった。だが少女はマジ泣きしてて、彼女にとってはわりと深刻な事態らしい。スライムの粘液も気持ち悪いしなあ……。

 

「んふ……っ! い、いじめられっ子なのかな……ほふっ!?」

「た、助けた方がいいです! かわいそうです!!」

 

 ブリジールさんは、本当にいい人だなあ……。

 だが実際これは好機だ。スライム達の興味が完全にあの少女に向いているので、この隙に大技で数を減らす事が出来る。

 

「……よし、ルナールさん。離れた場所でスケッチお願いします」

「えっ! や、やるのっ!?」

 

 やるともさ。今やらないと多分もう無理。

 

「けど、数多いけど……」

「まあ、意図せずあの娘さんが囮になったんで雑魚は、この隙に一網打尽にします。ブリジールさんとカルテイラさんは、ルナールさんの護衛頼みます」

「ん、まかせとき!」

「とことん御守りするです!」

 

 うむ、実に頼もしい。

 

「セレスト、やれる?」

「うん……今なら、集中できるから……」

「よし、なら全員やっちまって」

「わ、わかった……“安楽”……」

 

 普段は体力もやしのセレストだが、仮にも星晶獣である。一言呟き、闇の力を使うと、瞬く間にスライム達はパタリパタリと倒れていった。セレストの技〔安楽〕によって強制的に眠らされ、しかも〔アンデッド状態〕になっている。まあ、この場で重要なのは睡眠効果であるが。

 だが一体、キングゴールドスライムだけは、無事なままで仲間の異常事態に驚いていた。ううむ、セレストの状態異常を跳ね除けるとは、伊達にキングじゃないようだ。

 

「後はルドさん、適当に標的を釘付けにしてやって。あの子助けたら、俺も行くんで逃がさないでね」

「よ、よし……ふふ、ま、任された、あはっ!!」

「あと俺を撃たないでね」

「いひっ! だ、大丈夫だ……んはははっ!!」

 

 本当に大丈夫なのだろうか……。

 

「じゃあ、ルナールさん。スケッチ頼みます」

「わ、わかったわ」

「B・ビィ、あの娘さん助けるよ」

「おうよ!」

 

 それでは、行動開始! 

 




ルドミリアのキノコキチ具合は、帽子を新種のキノコと間違って実際かみついた程とクロスフェイトで判明。これほどとは……。

あと、私はフロム脳です。

次、ルナールメインっす。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クロスフェイト 邪眼が呼ぶ天災 後編

前回は、色々とお騒がせしました。


 ■

 

 一 プルプルッ! ボク悪いドラフじゃないよう

 

 ■

 

「うぇぐ……こ、怖かったよォ……」

「もう大丈夫です、魔物はみんな追っ払いましたです!」

 

 べそかいてるドラフ少女を安心させているブリジールさん。迷子保護した気持ちだよ俺ぁ。

 

「スライム達もう全部いないな?」

「大丈夫だぜ。寝てる間に放り投げたしな」

 

 セレストの“安楽”で睡眠状態になったスライム達は、マチョビィが全部遠くに放り投げた。やつらが住処にしてる壷を除けば、液状の生物だから死にはしないだろう。その隙にやられ放題だったドラフ少女を救助する。

 キングゴールドスライムは、俺も合流してルドさん達と共に引き付けルナールさんにスケッチさせた。普通の攻撃が殆ど通じないから、手加減なしでもいいのは、実にやりやすかった。別にストレス発散ではない。ほんとだよ。

 ただ結局ルドさんの発作が起き、跳弾地獄再び。こんな丘で、土と草しかないような場所で、どうしてポンポン跳弾できるんだよ。しかも相変わらず8割俺に飛んでくるし。

 その後スケッチが終わったら、キングゴールドスライムもマチョビィに遠くまで投げさせておいた。逃げ回ってたのが嘘みたいな結末である。まあ、無力化したからね、しかたないね。

 

「んで、君は結局なんなのだね?」

 

 そして最後の問題であるこの少女。

 

「ぅお……ぐじゅ……い、いじめないでぇ……」

「泣きすぎだよ……そろそろ俺も傷つくぞ……」

「うぎゅ……ほ、ほんとにいじめない……」

「だから、いじめないってば……」

「ぐず……うぅ……」

 

 結局更にブリジールさんなど癒し枠の説得を受け泣き止んだ少女。目に涙が溜まったままだが、とりあえず話せる状態にはなった。

 彼女は、名をハレゼナと言うらしい。この辺りに住んでいる……正確には、住み始めた少女。もう見ての通りのいじめられっ子で、何処に行くにも人や魔物からいじめられたらしい。小動物感あるから、いじめたくなったのだろうなあ。

 しかしいじめられる側からするとたまったものではない。呼んでもないのに寄ってきて自分をいじめる輩に嫌気がさしたハレゼナの対抗策が、この場所の様に人気が無い場所に隠れ家を見つける事と、万が一誰かと鉢合わせた場合の回転鋸と異常な言動であった。

 

「ようは、うちらのことさっさと追い出そうおもて、あんなドギツイ事叫んで追い回したんか……」

「良くそれであれだけ叫べるなお前……」

「ひゃ、ひゃは……や、やばい感じ出すと……みんな離れてくから」

 

 そりゃあねえ、大木簡単に切り飛ばすような武器振り回すヤツに追われたら誰だって逃げるわな。

 

「回転鋸……もしかして、あなた“歩く天災”ってやつ?」

「あ、うん……ケヒヒ、だ、だんだんそう呼ばれ出してるのは知ってる」

 

 ルナールさんがどうやらハレゼナについて知っているらしい。

 

「なんすか、その“歩く天災”って?」

「人気の無い場所で突如聞こえる駆動音。そして現れる回転鋸を振り回し、目に付くヤツを全て八つ裂きにする災害が如き何者か……って言う噂があったのよ」

「ああ、そらこいつだわ、間違いないわ」

 

 そもそも回転鋸なんて武器扱うヤツなんてこいつぐらいだろう。

 

「しっかし、よくまあ人遠ざけるために、こんな武器手に入れたな……」

「手に入れたんじゃないよ……自分で、作ったんだよ……」

「はっ!? お前作ったのコレ!?」

「フヒヒ……ッ、そ、そうだゼ?」

 

 どう見ても個人で作るような構造をしていないが……。ノコギリ部分を回転させるために、駆動させるエンジンも必要だし、高速回転する振動に負けない上に、いくら大木を切り倒しても刃こぼれしない強度が必要だろうに。しかもそれを、人ひとりで振り回せるサイズに収める点もすごい。

 

「誰か手伝ったりとかは?」

「そォんなのはナァ~ッシング! ボク一人で適当にぃ~材料集めて~、アレしてコウして、ガシャーンとして、ウィーンッてして、ここをこうして……そぉ~れぇ~でぇ~完成だァ!!」

 

 その「アレしてコウして、ガシャーンとして、ウィーンッてして」の部分がわからないのですがそれは……。いや、しかしどうもマジで自分で作ったらしい。ドラフって手先器用とは聞くけどこれほどとは。

 あと、だんだん調子が戻ってるね君。

 

「はえ~すげえな、お前」

「んふふ~~? もっと褒めてもいいんだぜェ?」

「それにあれだ。メカメカしいのが良い。ありえん組み合わせを混ぜるって言う発想が好き」

 

 いや、見れば見る程、ロマンあるなこれ。普通にかっこいいし、ちょっと欲しいぞ俺。

 

「あと、なんつったけ……これのその、名前?」

壊天刃(キルデスソー)オォ!! 天も壊す刃で、壊天刃っだアァ──っ!!」

「それな、勢いが良い。かなりイカす」

「へ、へへ……っんだよォ、お前ェ~~わかるじゃん、わかってんじゃぁ~~~~んっ!! いいよなァ、ラブリィ~だよなぁ!! サイッコーにクレ~ジ~だよなァ!!」

 

 クレイジーなのは同意するが、ラブリーなのだろうか? いや、しかし要所要所に、女性らしい可愛らしさが……ねえな。まあ、感想は人それぞれか。ラブリーと言うなら彼女には、きっとこれがラブリーなのだろう。

 

「相棒ってこう言うの好きな。そこんとこ、男の子なんだよなあ」

「いや、だって普通にかっこいいじゃん、メカメカしい所がいいじゃん、すげーじゃん」

「わから無くはないけどよう、まあいいけど」

「……黒トカゲ」

「おう?」

「このトカゲも、超、ラブリ~!!」

「んぎゃあっ!?」

 

 ハレゼナが会話に入ってきたB・ビィを見つめると、素早くB・ビィを抱きしめた。抱きしめたと言うか、抱き潰す感じだった。

 

「んごぉ──っ!? ぐ、ぐるぢっ!!」

「トカゲェ~黒色でクルクルっとしてて、モチモチっとして、お前も超ラブリ~だよ~」

「オ、オイラは……トカゲじゃ、ぐわっ!?」

「んふふ~きゃぁ~わいぃ~~っ!!」

「ぶへえっ!! ち、力がつよく、つよ……おごっ!?」

 

 こ、こいつあのB・ビィを割とマジで困らせているだと……。

 

「そんなラブリー言う程カワイイやろか、アレ……」

「ま、まあ普段何もしなければ……その、カワイイかもです」

「ふふっ! わ、わたしは、トカゲよりキノコの方が、いひっ!! 好きだなぁはははっ!!」

「……どちらも理解できないわね」

「う、うん」

 

 ああ、他の面子はやっぱりB・ビィに対してはそんな感じだったか。

 

「んきゅ~ラブリ~なトカゲェ……なあなあ、お前らってぇ、騎空団なのかぁ?」

「うん? まあ、そうだけど」

「ヒャッハーッ!! じゃあじゃあ、ボクも連れてってくれよぉー!!」

 

 おっとぉ? これは、またそういう展開ですかぁー? 

 

「……まず、理由を聞こうか」

「あんしん、あんぜーんっ!!」

 

 理由がみじかぁい! 

 

「……つまり?」

「騎空団ならさぁ? もう一々隠れ家探さなくていいもんなあー。それに、お前はあんぜんで、あんしんみたいだしぃ~? つまりぃ一緒に居れば、あんしんじゃぁ~~~~んっ!!」

 

 これは、もしかして懐かれたのだろうか……。やたらはじけた口調と裏腹に、先程からハレゼナから溢れる小動物オーラが増している気がする。まるで捨て犬を目の前にしているような感覚だ。だが、天災と呼ばれる人を仲間にすると、また妙な噂が流れるんだろうなぁ……。

 

「……だ、だめ?」

 

 あ、駄目じゃないです。涙目上目遣いで一発KOですわ。

 

「来いよ、クレイジーガール!」

「ヒャッハーッ!! やったぜぇ!!」

 

 カワイイ万歳、超ラブリー。噂なんて気にしないですよ? 言いたい奴に言わせとけばいいの。俺、噂、気にしない。

 

「あーあー……また、濃い仲間増やしおった」

「賑やかになるです!」

「また……女の子だね」

「ぷふふ、だ、団長は、基本的に変わり者に、あははっ! あま、甘いなぁっひゃはははっ!!」

 

 あっはっは。ルドさん、あなたがそれを言うのかい? 

 

「貴方、こうやって無茶苦茶な騎空団になっていくのね」

「言わないでルナールさん、俺もわかってるんです……」

「苦労性と言うか、何と言うのか……それじゃあ、スケッチも全部済んだから今日はもう帰るわよ。家まで護衛お願いね」

「了解です」

「……ところで、あのトカゲ死にそうだけど」

 

 そう言えばB・ビィがハレゼナに捕まったままだった。

 

「た、たすけ、たす……あいぼ……」

「んふふ~トカゲェ~? これから一緒だぞぉ~楽しいな、うれしいなあ~、サイッコーにラブリ~!」

「……ふむ」

 

 これ、対B・ビィ用の抑止力になるな。

 

「ハレゼナ、B・ビィと仲良くしてやってくれ」

「んなぁっ!?」

「言われなくてもヒャッハーッ!!」

「オ、オイラを売ったな、あいぼごぼぉ────っ!?」

 

 マチョビィ形態にならず、されるがままなのを見る限り彼女に対しての遠慮があると見た。よしよし、上手くすればこれで俺の胃痛の一つが減るかも知れん。

 

「……胃痛が減るとか考えてそうやけど、天災がおるとむしろ胃痛増えるんと違うか?」

「可愛ければ許せる」

「このガキ……」

 

 B・ビィもせめて見た目が元のビィの通りならよかったのにな。その姿になった君が悪いのだよ、B・ビィ。

 

 ■

 

 二 今解かれし、禁じられた書

 

 ■

 

「はぐ……ほあぁ……」

「ラ~ブリ~、ラ~ブリ~♪ ラ~ブ、ラ~ブリ~♪」

 

 B・ビィが白目をむいている。珍しい光景だな。

 

「本当に助けなくていいの、あれ?」

「いいのいいの。たまには、あいつも苦労すればいいんだ」

「あっそ……貴方達は、適当にくつろいでちょうだい、今日は疲れたろうからね。お互いに」

「いやあ……なんか、すんません」

「いいわよ、別に」

 

 我々は、ルナールさんの自宅で休ませてもらっている。家までの護衛で終わろうと思ったが、俺の視界の隅に見えるルドさんが発作を起こしたため、お言葉に甘えて休ませてもらっている。少なくとも、ルドさんの発作が収まるのを待つ必要がある。

 

「ふひ……あは、なははっ!! ぎゃひっ!! ぐほっははひゃっ!!」

「ほんと、すんません」

「今回と言い、よくアレを仲間にしようと思ったわね……」

「返す言葉もねえ」

 

 実際依頼も、想定したよりも大変な依頼になってしまったからな……あれ? いつも想定より疲れてるような……。いや、よそう。あんま考えたくない。

 

「ルナールさんはお休みにならないです?」

 

 ルナールさんは、今日使った道具を整理した後スケッチブックを広げている。休む用が無いのでブリジールさんが気にして声をかけた。

 

「わたしは、このまま仕事。絵を仕上げないといけないからね」

「ん? 絵はさっき描き終わったんと違うんか?」

「あれはスケッチ。描いた魔物のイメージが残ってるうちに、修正したりして着彩、それで終了よ」

「はぁー、絵師っちゅうんも大変な仕事やな」

「仕事だから割り切れるけどね。クライアント側の指定した、ここまで描けてればOKって言うラインがあるのは、色々考えなくていいし」

「そう言うもんかいな?」

「そう言うもんよ」

 

 やはり俺達にはわからない、絵師の世界の苦労があるのだろうなあ。絵を描くって、もっと楽しいものと思ったけど。

 

「……あれ、セレストがおらんわ?」

「は、さっきそこに……あ、いない?」

 

 カルテイラさんが指摘して気がついた。ソファでぐったりしていたはずのセレストがいない。

 

「便所か?」

「言い方……星晶獣言うても女やで、せめてお手洗いと言わんかい」

「お手洗いの場所は聞かれてないわよ?」

「じゃあどこに……」

 

 外に出た様子も無いので、星晶獣だし星晶的な力で勝手に消えたかと思ったその時。

 

「ほ、ほわぁ~~~~っ!?」

 

 家の奥から間の抜けたセレストの声が聞こえた。

 

「わ、わたしの仕事部屋から……っ!」

「あいつ、人の家でなに勝手に!」

 

 リビングの奥の扉が、薄く開いている。どうやらそこにセレストがいるらしい。変わってはいるが、こんな失礼な事するような奴じゃないのだが、どうしたんだアイツ。

 

「おいおい、セレストなに勝手に人んちうろついて……うわ、暗っ! 窓ねーのかこの部屋!」

 

 入った部屋は、深い暗闇であった。入り口から入るリビングの明かりだけが部屋をわずかに照らしている。窓も見ればカーテンで覆っているので、まだ日は沈んでいないのに真っ暗だ。

 その部屋の隅でうごめくもの、暑苦しいドレスですぐにわかる。セレストだ。

 

「お、おぉー……これ、ええー……わ、うわぁ……」

「セ、セレスト?」

 

 そのセレストだが、部屋の隅で座り込み俺にも気がついていない。何かを読んでいるようだが……。と言うかこの部屋、ルナールさんの仕事部屋だよな。

 

「セレスト、こら、セレストお前……って」

 

 セレストに近づいたら床に何枚も紙が散らばっていた。ルナールさんの仕事の絵かな? まさか、セレスト君が散らかしたのかい、んもー。片づけないとだめよ君ぃ。

 

「人ん家の物散らかしてまったくもー」

 

 ひょいっ、と拾ってその瞬間、俺は紙に描かれた絵を見た。見てしまった。そして。

 

「見るな嗚呼あぁぁ!!」

「うわあぁぁっ!?」

「あ、あわ──っ!?」

「うなあああ──ーっ!?」

 

 ルナールさん登場により驚いた俺、そしてセレストがやっと俺達に気付き声を上げ、セレストと俺がばっちり何かを見てるのに気がついて悲鳴を上げるルナールさん。

 

「見たなっ!! なあ!? それ、見たなっ!?」

「あ、わ……その、あわわ」

「ちょ、落ち着いてルナールさん」

「落ち着いてられるかぁーっ!!」

「なんや、なんや騒がしい」

「うわあ──っ!!」

 

 ドタバタしてると他の面子が来てルナールさんが更に悲鳴を上げた。

 

「なんで来るのよっ!?」

「あんな騒がしくしおったら様子見に来るわ。あんたら何しとん?」

「なんもないわよ、とにかくここから出て」

「ヒャッハーッ!? ク、クク、クレージーッ!?」

「ギャーッ!?」

 

 ハレゼナが叫んだと思ったら、一冊本を手に持っていた。それをみてまた更にルナールさんが叫んだ。目にも止まらぬ速さでハレゼナの手から本を奪い取る。今日の動きといい、とっさの動き凄いなこの人。

 

「なんで! 勝手に! 見るのっ!?」

「は、はわわ……ご、ごめん……」

「とにかく、ここは仕事部屋だから貴方達は」

「ね、ねえねえルナール……こ、この本なんだけど……っ」

「なんで見開きページを開いて来た────っ!?」

 

 必死に見せまいとしていたルナールさんの行動むなしく、セレストが手に持っていた本をバッチリ開いて駆け寄ってきた。勿論みんな見てしまう。そう、見てしまったのだ。

 おぞましい絵のタッチで二人の男達が、ほぼ全裸で絡み合う姿が描かれた見開きのページをっ!! 

 

「うわあ────っ!?」

「ひやあぁ────っ!?」

「うひゃーっ!? クク、クレージーッ!?」

「あひゃははっ!! ふはーっ!! ふひ、んははははっ!!」

 

 約一名笑ってるだけだった。

 

「な、ななななんちゅうもん見せるんやっ!? し、しまえやはよっ!!」

「わわわ、お、男の人が、男の人が男の人ですですぅ~~~っ!!」

「サイッコーにクレージー……だけど、ラブリ~じゃないィ……」

「ぶははははっ!!」

「他の意見もあれだけど、笑われるのも腹立つっ!!」

 

 ごめんね。そればっかりは、もうどうしようもないです。

 

「これ、すごい……これ、他にない……っ?」

「セレストは凄い食いついてるし……」

「あ、あぁ……な、なんで……」

 

 どうも、今日の騒ぎはまだ終わらなそうだ……。

 

「なんで、こうなるのよぉ~~~~っ!?」

 

 ■

 

 三 その欲望、開放しろ

 

 ■

 

 世の中、男同士、或いは女同士の愛と言うのはあるのだろう。俺にはわからないが、わかる者にはわかるのだろう。そしてわかる者同士が出会い、通じ合えばその愛は、更に深まるのだろうな。

 まあ、現実の話はともかくそれを空想、想像、物語で楽しむ人もいるんだろう。同性だからこその良さがあるのだろう。うん、そういう人もいるんだろう。そうだろう。

 

「だからね? 今まですれ違ってた二人が、立場も変わり敵と味方で再開してからの……苦悩がね?」

「ふんふん……っ」

 

 と言うか、目の前にいた。そして今日の依頼人だった。ようは、ルナールさんだった。

 

「今まで会いたかったのよ? 会いたくて、いろんな事を話したかったのに、いざ再開したら敵と味方……国を背負う故に、己を殺し友をも殺さないといけない、そこで揺れる思いがね? もうね……」

「おぉ……ポ、ポポルゥ……」

 

 そしてルナールさんは、主にセレストに対し、熱心に何かを語っていた。あとセレストの食いつきが凄まじい。

 

「……これいつまで続くん?」

「お二人がとことん満足するまで……でしょうか?」

「そら長くなりそうやな……」

 

 ……えらい事になったなぁ。

 発端としては、勝手にルナールさんの本を読んだセレストが原因だった。そう、ルナールさんは男同士の愛を描く通称【耽美物】と呼ばれる絵物語が大好きだったのだ。そして彼女は、自身でも耽美絵を描いていた。それをセレストは見つけた。ちなみに、セレストが勝手に部屋に入った理由は、曰く「ジメッとしてて……暗くって……閉鎖された感じ」を感じ取ったから吸い寄せられたとの事。

 もうね、すごい内容だった……内容と言うか、絵柄がね? こう、魔物が上手い方だったけど、人のとかもそのまんまのタッチだったから……内容とのギャップがさぁ。

 様子見に来た全員にそれ見られて「いっそ殺してっ!」と叫び出すルナールさんを落ち着かせるのは大変だった。ちょっと男二人が出てる絵なら人体模写とか誤魔化せたかもしれないが、その……つまり、バッチリな絵だったからもう言い訳のしようが無い。そういうのに免疫ないのか、セレスト以外ほとんど赤面して混乱状態だった。ああ、けどルドさんは、単純に笑いまくってそれどころじゃなかったけど。

 落ち着かせたルナールさんは、即弁明を始めた。部屋に積み重なった大量の絵。それは全て仕事の絵ではなく耽美絵だったのだ。よくもまあ、こんな数こさえたものだ。更に全てがオゾマシイ絵柄なのは、最早仕方ない。

 つまりルナールさんは、本当はこう言う耽美絵を描く耽美絵師になりたかったようだ。だが絵柄が絵柄のせいで、いまいち上手くいかない。本人もそのギャップに悩まされ、一冊二冊耽美物の絵物語を作り店に置いてもらってるようだが現状一冊も売れては無いらしい。セレストが見つけたのは、その一冊だった。内容はお察し。

 だがここで更に問題と言うか、事態をややこしくしたのがセレストがそれを非常に気に入った事だった。星晶獣になって以来、生まれて初めての衝撃。耽美の世界がセレストを受け入れ、セレストは一瞬にしてその世界へとのめり込んだのだ。

 なんてこったい。

 その後色々と聞いてくるセレストに同志の匂いを感じ取ったのか、ルナールさんは、俺たちには分からない世界を語り出し、セレストはそれを熱心に聴いていた。

 

「つ、続きは……」

「ちょっとまって、こうなったらポポル・サーガ全巻持ってくるわ……」

「いや、それも待って、ちょっと待って」

「何よ良いところで」

 

 そう言わないでくれよ、これほっとくと終わらないやつだよ。

 

「これ長くなります?」

「……まあ、ちょっと?」

「具体的には?」

「…………2、3時間は欲しいわ」

「夜中じゃねえか」

 

 駄目に決まってんだろ。エンゼラに帰れねえよ。

 

「だ、団長……私、まだ話したいかなって」

「いやいや、出来れば今日中にエンゼラに戻りたいんだよ。途中宿とかないんだぞ」

「なら泊まってきなさいよ、わたしもまだ話したいし……」

「ええ……」

 

 そう言われてもなあ……趣味人って話すると長いからなあ、もー。どうしたものか……。

 

「んふーふふ……っ、だ、団長」

「なんすかルドさん」

「あ、あれ……ほっひ」

 

 ルドさんがソファを指差す。そこには、ぐったりとしたB・ビィを抱きしめたまま穏やかな表情で眠るハレゼナの姿がっ!! 

 

「……静かだと思ったら」

「つ、つかれて寝ちゃったんだね、んはは……っ」

「子供かよ……いや、子供か……」

 

 だが「むにゃむにゃ……クレ~ジ~……」とか寝言を言ってる姿を見ると、起すのが申し訳ねえな。カワイイ。

 

「B・ビィの息は?」

「呼吸はしてるようだから、うひ……っ、だいじょう、ぶだよ、ひひっ」

「……あと笑い方が相当無理してるけど、どしたんすか?」

「おこ、起こしちゃ……はひっ、わ、悪いと思って……んっふぅぅ……ふぐっ!」

 

 さっきまで酷い発作だったしなあ。今も笑い声が出そうになるたび、息を飲み込んでるからルドさんも大変な事になってるなあ。

 しゃーねーなー、んもー。

 

「泊まっていいんすかね?」

「良いわよ、仕事用で住んでる無駄に広い家だから、部屋はあるし」

「いいんですか、団長?」

「うん、なんか俺も疲れました……」

 

 帰るのも面倒になってきたよ、俺ぁ。

 

「セレスト、好きにしていいよ」

「あ、ありがと……ね、ね続き」

「はいはい……」

 

 ああ、セレストが耽美の世界に入り込んでいく……。お堅い感じの星晶獣より、人間臭さが出てきたが、これって喜ぶべき事? それとも辞めさせるべき事? 俺にはわからん。

 

「子供の育て方に悩む親父の哀愁が出てるで」

「マジっすか……」

「18で出す雰囲気じゃあらへんわ」

「そりゃ、まいっちゃうなあ」

 

 その夜、ルナールさんとセレストがいる部屋から、二人の語り合う声が止む事はなかった。

 ほんと、まいったなあ……。

 

 ■

 

 四 「やはり星晶戦隊か……いつ出発する? わたしも同行させろ」 「強引」

 

 ■

 

「騎空団に入れば、他の島の耽美絵物が手に入るんでしょうね……」

 

 次の日、朝食を頂いてる時にやたらと露骨に俺を見ながらルナールさんが呟いた。思わず手を止めてしまう。

 

「……そっすね」

「耽美物ってね、一般的に流通するものじゃないから、描いてる絵師さんがいる島じゃないとまず手に入らないのよね……」

 

 それは昨日聞いた。その所為でコレクションも増えず、絵の模写も出来ない事も延々と聞かされた。

 

「きっと空には、わたしの知らないような耽美物があるのよねえ……」

「い、今まで行った島も……気にしなかっただけで……色々、あったかもね」

 

 おっとぉ? セレストが会話に混ざってきたぞこれ。

 

「ルナール先生は……色々絵をみて、もっと絵の勉強……したいんだよ、ね……」

 

 ルナール先生なんて呼んでんのセレスト? 昨日の間にどんだけ語り合ったんだよ。

 

「ええ、そうね。自分の絵柄じゃ耽美物には向かないってわかってるから、ね」

「そ、そうだね……色々、手に入るといいよね……ね」

 

 ね、の所で二人とも俺を見た。

 

「あんた、遠まわしやけど、あれ完全に連れてけって意味やで」

「言われんでもわかりますよ。けど何故突然」

 

 カルテイラさんと小声で会議。誤魔化しきれてない露骨なアピールに苦笑すら出ない。

 

「あははっ! んっは……っははっ!!」

「ヒャッハーッ!! 今日も朝からクレージーだなァ、オイィ!!」

「んぎぎ……っ、め、飯が……食え、ねえ……」

「あ、あのハレゼナちゃん、B・ビィさん離してあげた方がいいです」

 

 笑ってますが、これは別です。うーん、にぎやかでよろしい。

 

「あーあー……偶然一人の絵師を仲間にしてくれる様な、変わった騎空団がいないかしら、ね?」

「そ、そうだね……どんなに扱い辛い仲間でも……仲間にしちゃう様な、変わった騎空団とか……ね」

「OK、OK……どうした?」

 

 とりあえず話を聞いたほうが良いなこれ。

 

「べ、別に……? も、もっと話したいし、耽美絵の事勉強したいから仲間にするために打ち合わせしたとか、ない……よ?」

「ええ、まったくそのような事実はないわ、ええまったく」

 

 こいつら、急に早口になりやがった。

 

「あ、あれ? そう言えば……エンゼラには、まだ部屋いっぱい余ってるなー……」

「えーなんですってー、ああ、けど突然わたしが同行するなんて、そんなあつかましい事できないわー」

「わ、わーどうしようー……」

 

 へたくそか。棒読み極まれり、演技する気無いなこいつら。

 

「……昨日と言い、俺が何時もこう言う状況だと、なあなあで終わるから押せばイケると思ったろ、セレスト」

「はう……っ」

「や、やばいわセレスト……作戦がっ」

「ど、どどどうしようルナール先生」

 

 目に見えて慌て出したぞ、ポンコツか。

 

「で、どないするん?」

「さーて、これは……」

 

 ぶっちゃけ、この人来てどうする? 耽美物集めるだけは論外だ。何もしない人を乗せれるほど余裕はない。かと言って絵師だからなあ、旅の記録の絵を描いてもらうとかはそれっぽいが、それだけと言う事も出来ない。戦えないだろ、依頼どうするのさ。戦いだけではないけども。

 

「弊騎空団をご希望のようですが、入団した場合どのような活躍ができますか?」

「へぁ!? え、えっとぉ」

「面接かっ!?」

 

 カルテイラさんにハリセンでどつかれた。だが聞いておくべき事ではある。今までは、聞くまでも無い人達だったから聞いてないが、絵師だぞ? 聞かないとね。

 

「ル、ルナール先生……っ、き、昨日のあれ」

「はっ!! そ、そう! わたし戦えるわよ!? 役に立つわっ!!」

 

 セレストが何か耳打ちすると、ルナールさんが張り切って応えた。

 

「……いやいや、どうやって?」

「き、昨日試しに星晶パワーの加護を与えたら……描いた絵を短時間だけ、具現化して……攻撃できるようになったよ」

「魔物とかなら、ごまんと描いてきたわ!! 速筆で魔物を描いて攻撃できるわ!」

「そ、その速さなんと……0.02秒っ」

「おいおいおい」

 

 こらこら、何勝手に星晶パワー安売りしてるのこの子は。あと0.02秒は流石に嘘だろ。

 

「うん……本当は、1秒か0.5秒ぐらい」

「うそやん」

 

 ワーオ、どの道すごかった。

 

「絵の熟練のルナール先生だから……出来た技だよ……っ」

「いや、だけどセレスト、お前ねえ……」

「だ、だって……ルナール先生と、お話するの……た、楽しいから……騎空団で、活躍できるなら……一緒に旅できると思って……ダ、ダメ?」

 

 ダメ? &上目づかいコンボ、昨日に続いて二度目です。あーもーあーもー、うちの子はなんでもう……こう、カワイイのか、畜生め。

 

「おとうちゃん、しっかりせな」

「ハッ!?」

 

 またハリセンで頭叩かれハッとする。あと誰がおとうちゃんじゃい。

 

「くぅ……ほら、ルナール先生も」

「ええ、わたしもっ!?」

「団長は……ハーヴィンとかの小柄な、かわいいのに……弱い」

「な、なるほど……そんな趣味が……」

「聞こえてんだけど?」

「け、けど私別にかわいいとは……」

「だ、大丈夫……ルナール先生ならイケる……っ」

「聞こえてんだけど?」

 

 誰が小柄なかわいいのに弱いだ。その通りだよ畜生この野郎。

 

「だが心構えが出来てる今、安易なおねだり攻撃なんて」

「ダ、ダメ……?」

「あ、団長白目向きおったわ」

 

 えーなにあれ、えーハーヴィンの上目遣い、えーちょっと……あれ? ルナールさん、あんな可愛かった? 昨日今日だけどこんな印象変わる? あ、ダメ……た、耐えろ俺の常識ぃ……。

 

「……あ、あんまり、船で耽美物の布教は、しないで下さい」

「や、やったっ!!」

「よ、よかったね……ルナール先生っ!」

 

 あ~可愛いのが二人はしゃいでるよ~。

 

「チョロすぎやで自分」

「可愛い無罪」

「大丈夫かいなこの騎空団……」

 

 うーむ、島移動する度仲間増えるなあ、俺。これも喜んで良いんだか、悪いんだか。だが喜ぶセレストの笑顔、プライスレス。

 ちなみにエンゼラに帰った時、「今度は団長が、どんなヤツを連れてくるか」の賭けが行われていた。ふざけんな。なお「女性で濃いキャラで、ドラフとハーヴィンの二人」と中々にピンポイントな予想をしたゾーイの一人勝ち。ヒューマン女性を予想して負けたティアマトに文句を言われたが、知ったこっちゃない事であった。

 

 ■

 

 五 (笑)と癒しの星晶獣が七体いて、割と吐く大酒飲みのドラフと、格闘馬鹿と、回る哲学者と、イケメン騎士と、頑張り騎士と、名の知れた商人相場師と、始終笑い続けるキノコキチハンターと、歩く天災のファッションクレージーと、腐女子絵師がいるアットホームで団長の胃痛が耐えない騎空団です

 

 ■

 

 ある時、街を歩いていたらまた俺達の噂を話す男達がいた。どうせろくな噂じゃないとは思いつつも、聞き耳を立てる

 

「聞いたかよ、【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】にまた仲間が増えたってよ」

「ちょっと待てよ、ちょい前に笑いまくるハンターが仲間に入ったって聞いたばっかだぞ……」

「そうなんだが……しかも仲間になったと言うのが噂の歩く天災と、有名な絵師を仲間にしたって話だ」

「なんなのあの騎空団」

 

 そんな事言われても知らん。俺だって自分の騎空団ながらわけわからんと思うわ。

 

「……ところで、星晶戦隊の面子……女子多くね?」

「それな」

 

 どれな? いや、ああそう言えば確かにうちは、女所帯である。今回の事で更に増えたからな。人間の男なんてフェザー君しかいないし。

 

「あとさ、なんでかハーヴィンとドラフ多いけど……これさ」

「え? ああ……いや、けど」

「いやいや、流石に狙わないとこれ揃わないだろ?」

 

 え、なになに? なんか嫌な予感するよー? 

 

「確かに……全員ちっさいな」

「一部デカイけどな」

「ああ、一部な。ドラフはな……けど、やっぱり」

「うむ、もしかしたら……」

「あそこの団長、ロリコンか……」

 

 違いますッ。

 違いますッ! 

 違いますッ!! 

 

「しかもハーヴィン、合法ロリ……考えたな」

 

 考えてねえよ、何言ってんだよ。馬鹿なのこの人達? 

 

「けど団長って、まだ子供だよな? 会った事ねーけど」

「合法ロリの年上ハーヴィン、ドラフ特有のトランジスタグラマー……すでに目覚めてやがる」

 

 何に? 何に目覚めたって? 

 

「こりゃこれからも見逃せねえな……あいつらの活躍によ」

 

 全力で見逃せ。

 

「まったくだな……今度友達になろうかな」

「え、お前……」

 

 二人の会話に打ちひしがれながら、その場を後にする。また、この事を後でコーデリアさんに相談すると、そっと蜂蜜を入れたホットミルクをくれた。

 少し泣く。

 




前書きにも書きましたが、前回はお騒がせして申し訳ありませんでした。これからは直ぐに対応できるよう心掛けます。

以下、あとがき色々。

実は、団長君の10連ガチャ内容が判明した第六話の時点で、うちの騎空団にハレゼナいませんでした。書いたら出ると思ったが……けど書いたほぼ直後にサプチケが来た。やったぜ。

団長、ロリコン疑惑。メンバー選出は、自分の好みもありますが、最近コーデリアが追加され、平穏が見えた団長の胃痛を増やそうとしたら……すまんな。

グラブル本編に関わらないが、コラボキャラである白蛇のナーガ。とてもとても、この騎空団に入れてあげたいですねえ。大丈夫、優秀な水属性だよ。

当初は、イッパツを入団させる予定があった。そのうちにやりたい。

見ようと思えば、ネットで逃した過去イベは見れるが、やっぱり自分でやりたい。プラチナ・スカイ復刻で来たので、レースに参加させたいね。ロボミィー早く来てくれぇー!

ジータとは運命的な再会をすると団長は、常々思っているでしょうなあ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

衝撃!アウギュステ編 ギュステが荒れる5秒前

団長君10連キャラ開放のトリ、そして団長に奴が徐々に迫る


 

 

 序 同じ空の下

 

 

「はあ……」

 

 ある騎空艇、その中の食堂で一人、いや一匹で机の上に腰かけため息を吐いている小さき者がいた。赤い皮膚に小さな翼。当然人ではない。彼は手に持ったリンゴをガジガジ食べては、またため息を吐く、それを繰り返した。

 

「おやどうしたビィ君?」

 

 そんな小さき者、子供ドラゴンであるビィに声をかけたのは、鎧を着た女騎士カタリナであった。

 

「ああ……姐さんか」

「うん?元気がないな……何か悩みでもあるのかい」

 

 カタリナはにこやかな表情でビィに語り掛ける。彼女は小さくて可愛らしいビィを気に入っていた。多少スキンシップが過激な時があるが、その事をビィは、ほどほどにして欲しいと思いながらも、よく思われていること自体を悪くは思っていない。

 悩むビィの力になりたいとカタリナは、手を差し伸べる。だがビィは依然表情が曇る。

 

「悩み……まあ、悩みだなぁ……ジータの事なんだけどさ」

「おぉう……そ、そうか」

 

 ジータ、その名を聞いた途端、カタリナの表情は強張った。

 今この場にはいない少女、ジータ。彼女こそまさに【ジータと愉快な仲間たち団】の団長にして、最近話題のイカれた奴ら【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長である少年の幼馴染であった。

 カタリナとジータの出会いは、カタリナが元々所属していた帝国で道具の如き非道の扱いを受けていた神秘を秘めた少女ルリアと共に帝国から逃げ出す最中、ルリアが誤ってザンクティンゼルへと堕ちた事が始まりだった。ルリアを保護したジータは、カタリナと出会いジータは二人を逃がそうと戦いに加わった。だがその戦いで命を落としたジータだが、ルリアが自分の力で自分とジータ、二人の命を繋ぎ文字通り一心同体となる事で蘇生した。

 その身に秘めた、有り余る力を目覚めさせて。

 その後、運命共同体となった二人は、互いのために旅に出た。星の島イスタルシアを目指して。

 旅の中で仲間も増やし、帝国の妨害や野望を打ち砕き進む彼女達。だが団員全ての悩みの種は、他ならぬ団長ジータだった。

 強い、強すぎる。ジータは強すぎたのだ。一度命を落とし復活した彼女は、まるで何かの枷が外れたかのように強靭な肉体と溢れる力を得ていた。向かう所敵無し、戦略的苦戦はあれど彼女自身の実力で苦戦した事が今の所ない。しかもその強さは、成長を続けていた。

 一度相対した全空でも恐れられ”化物”とも言われる七曜の騎士が一人”緋色の騎士バラゴナ”をして「あの人に負けず劣らず、化物ですね……貴女も」と冷や汗を流し言われたのは、彼女ぐらいだろう。なお、直後「体も温まってきました!さあ、続きしましょう!」と疲労の無い笑顔で剣を振り回すジータを見て、流石にバラゴナも真顔で固まっていた。

 強さは、騎空団を率いる団長であれば損な事ではない、むしろ必要な事だ。だが「ジータの事で」と聞いただけでカタリナが顔を強張らせる理由は、ジータが強い上にトラブルメイカー&トラブル大好き人間と言う事だろう。

 どこに行こうとトラブルを起こし、或いは巻き込まれ。そして嬉々としてそれを解決する全空一のお人好し、それが彼女なのだ。

 聞こえはいいが、仲間は大変だ。ただでさえ「あの【ジータと愉快な仲間たち団】の仲間か」とか言われるのに、トラブルに巻き込まれるのだ。なまじしっかりトラブル解決して感謝されてるから文句も言えない。

 もう少し落ち着きを持てばいい、そう団員達は願い、誰よりも彼女と過して来たビィはもっと強く願っていた。

 

「ま、まあ話は聞こう……」

「オイラ達、ザンクティンゼルを旅立ってだいぶ経つだろ?」

「そうだな」

「それはつまり、ジータが兄貴と会わなくなって長いって事なんだよ」

「兄貴?」

 

 はて、ジータに兄弟はいたろうか?カタリナは、首を傾げた。

 

「ほら、姐さんも会ったろ?見送りの時にクッキー焼いて来た奴だよ」

 

 ビィに言われ思い出す。ジータに貰ったやたら美味しいクッキーを焼いて来たと言う男のぼやけたシルエットを。

 

「……あ、ああっ!いたな、そう言えば……クッキーの美味しさ以外、印象が妙に薄くて思い出せなかった」

「兄貴……本人がいなくても不憫な……」

 

 ビィの言う兄貴、それは【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長の事だ。家が隣で親のいないジータとビィ、その普段の面倒を見ていたのは、彼だった。故に二人とも、少し年上の彼を「お兄ちゃん」「兄貴」と慕った。

 

「それで、彼に会えないと何か不味いのか?」

「ああ……そろそろ”お兄ちゃん分”が足りなくなる頃合いなんだよ」

「……すまん、ビィ君。もう一度たのむ」

「だから”お兄ちゃん分”が足りなくなるんだよ、ジータの」

 

 カタリナは眩暈がした。日ごろ滅茶苦茶なジータだが、またよくわからない設定が出て来た事に頭痛も感じた。

 

「うん、気持ちはわかるぜ姐さん」

「……その、お兄ちゃん分とは?」

「ジータが言うには、自分が生きる上で欠かせない癒しと、栄養と、デトックス効果と高揚効果とテンションが上がる効果がある成分だってさ」

「……それは、彼に会うと補給されるのか?」

「らしいぜ?」

(……そうか、あの男もまた【生きる上で欠かせない癒しと、栄養と、デトックス効果と高揚効果とテンションが上がる効果がある成分】を持つルリアと同じ生きた神秘だったのか……)

 

 カタリナは、一時思考を放棄した。

 

「冗談はともかく、結局何が問題なのだ?」

「ようは、ホームシックみたいなもんだよ。兄貴に会いたくてたまらなくなるんだ」

「……それだけなら、問題なさそうだが」

「ああ、それが……お兄ちゃん分不足状態のジータのやつ、普段より妙にトラブルに巻き込まれるみたいでさあ……ザンクティンゼルにいた時も、一日二日お互い用事とか重なって近所なのに会えない時あったんだけど、そしたら山で竜巻が起きたり、一度も降った事がない雹が降りだしたり何かとあってさ……」

 

 お兄ちゃん分不足は、気候まで変えるらしい。論文にしたら、大発見だなとカタリナの頭脳は、思考の放棄が進んでいた。

 

「待て待て、ザンクティンゼルを発って一日二日どころじゃないぞ?なぜ今になって……」

「なんか兄貴と交渉して、兄貴が使ってた毛布とクッション貰って来たんだってさ……けど、その効力がそろそろ」

「中毒患者か何かか彼女は……」

 

 そしてそれが自分達の団長である事を思い出し、カタリナも椅子に座りため息を吐いた。

 

「それじゃあ、そろそろ我々はまた何ぞトラブルに巻き込まれるのだな……」

「いや、まあ兄貴に会えば多少解決するんだけどな」

 

 あくまで”多少”だけどよ、とビィは付け加えた。

 

「それもそうか……だが今からザンクティンゼルへ戻るのは、結構な時間を要するぞ?」

「それがよ、前よろず屋が噂の【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長が兄貴だって教えてくれたんだ」

「……何だって?」

 

 星晶戦隊(以下略)。その名は、自分達が騎空団として活動し始めて少し経ってから轟きだした騎空団の名、カタリナはそのぶっ飛んだセンスの名をよく覚えていた。

 

「オイラ驚いたぜ、まさか兄貴まで空に出てるなんて。しかもあの星晶戦隊(以下略)の団長って言うんだからよ!」

 

 今までと一転してビィの表情が明るくなった。

 

「実を言えば、オイラも兄貴に会えなくて寂しくってさ……その内会いに行こうぜってジータに言おうと思ってたんだ。けど今空にいるなら、もしかしたらザンクティンゼルに行かなくても直ぐ会えるんじゃないかって考えてて」

「そうか、そうすれば必然的に……」

「ジータのお兄ちゃん分不足も解消されるってわけだよっ!」

 

 ビィとしては、兄貴と慕う彼に会いたいと言う思いと、ジータの【お兄ちゃん分不足症候群による、偶発的天変地異とトラブル】の頻度と被害を少しでも小さくしたい切な願いがあった。それは、この話を聞いたカタリナも同じである。

 

「近くシェロカルテ殿に頼んで会わせてもらっても、いいかもしれないな」

「だなっ!よろず屋なら、騎空団との連絡を取るぐらいできそうだしよ!」

 

 ジータのお兄ちゃん分不足症候群を解消する手段を見つけられた事に喜ぶ二人。だがカタリナは、一つ気がついた。

 

「解決手段があるなら、何故あんなに悩んでいたんだい?」

「それは……姐さん、星晶戦隊(以下略)の名前ってどう思う?」

「どうって……それは、まあ」

「オイラ正直うちの団名より酷いと思うぜ……しかも、何故か知らねえけど、オイラの名前入ってるし」

「ああ……何故だろうな」

「B・ビィってなんだよ……兄貴、どうしちまったんだよう……」

 

 ビィは知っている。自分が兄貴と慕うあの男が、ジータに普段から振り回され彼女の絶望的ネーミングセンスにも頭を悩ませていた事を。だからこそ解せなかった。彼に限って、何故こんなジータを上回る酷過ぎる団名を付けたのか。

 ビィは知らない。兄貴と慕うあの男の元には、ジータと同等かそれ以上のトラブルメイカーで、彼の胃を痛ませ、団の資金を圧迫し、借金を増やす者達が多く集まり、その者達の所為で自身の考えた団名が採用されるどころか、クソ長い団名にされ、更に初期メンバー(しかも団長)にも関わらず名前を入れるのを忘れられていた事を。

 きっとこの事を知ったらビィは涙を流すだろう。

 

「ま、何にしてもよろず屋に会わねえとな」

「では島についたら会いに行くとしようか」

「ああ、久々のアウギュステだから楽しみだぜ!!」

 

 ビィ達が乗る騎空艇、蒼き飛竜の如き姿。グランサイファー、その巨体は真っ直ぐに海の島アウギュステを目指す。

 だが、もう一つ……ビィは知らなかった。最近追加された「星晶戦隊(以下略)の団長は、巨乳好きでロリコンの苦労人」と言う諸々の噂をジータが既に耳にしている事を。

 既に波乱の種は、芽生えていたのだ。

 

 ■

 

 一 行くぜギュステ

 

 ■

 

 なんか、めっちゃ嫌な予感がした。

 え、なんで?俺普通に甲板でクールに決めて考え事してただけなのに。どっかで誰か噂してる……いや、されるわ。と言うか最近噂しかされてないわ。持ちきりだわ、ろくでも無い噂で溢れてるよ最近。なんだってロリコン疑惑をかけられねばならんのだ。俺が何をしたって言うんだ……。

 次もし仲間にするなら、男の人にしよう……なるべくゴリゴリのマッチョさんにしよう。そうすれば、ロリコンとかなんてクソな噂は消えるはずだ。最悪でもコーデリアさんとかの様な大人の女性である必要がある。

 そう言えば俺のロリコン疑惑を強める一因となった一人、ルナール先生が仲間になって、セレストは殆ど彼女の部屋に入り浸っている。元々倉庫の隅の暗い場所を気に入ってジメジメとキノコのように生活していたセレストだが、多少社交的になったと思った。だが、ルナール先生の部屋は、一部屋あげたその日のうちに魔窟と化した。持ち込んだ彼女の絵の資料が積み上げられ、そして先生自身の絵で更に埋まった。それを見に行くセレスト。二人の生活リズムは、殆ど同じで更にどちらも暗くジメジメした場所を好んだ所為でセレストはただいる場所が変わっただけだった。

 今日も彼女は、ルナール先生の部屋でなにかの作品の話を聞いたり、絵の練習したりしてんだろう。まあ趣味が出来たのは良いことだよ。ルナール先生の趣味が趣味なだけに、若干不安なのも事実だが。「受け」「攻め」とか廊下ですれ違う時になんか呟いてるんだよな……。

 まあ今はやっとアウギュステに辿り着くことの方を考えよう。一々受けた依頼が面倒な事になって、移動も遅れに遅れたからな。同時に仲間も増えたが大変な道中であった。もう一時間もすればアウギュステ、暫く羽伸ばせるかな。

 

「ああ、こんなとこにおった」

 

 甲板でアウギュステでの事を考えていると、カルテイラさんが声をかけてきた。

 

「部屋にも食堂にもおらんから探したで」

「あ、そりゃすみません。なんか用ですか?」

「いや、うちって一応アウギュステまで乗せてってくれっちゅう話しやったやろ?」

 

 ああ、そう言えばそうだわ。なんか凄く馴染んでたけどこの人アウギュステまで運ぶという話だったな。

 

「アウギュステでも商売ですか?」

「もちのろんや。アウギュステは、空域でも一二を争う観光地で商売激戦区。当然人はぎょうさん集まる。やり方さえうまけりゃ、ちょっとした屋台でも相当稼げるで」

「逞しい事で」

「そっちは?」

「もちのろん、バカンスですよ」

「はは、そらええわ」

 

 ふらりと一度だけ寄った事のあるアウギュステ。観光どころか、シェロさんから依頼の話聞いて終わったのだ。信じられねえ。

 

「もうね、しばらくは休みますよ俺は、もう疲れたわ。肉体と心が休息を求めてるのがわかるね」

「そら疲れるやろなぁ……他の騎空士でこんな疲れる仲間率いる団長そうおらんわ」

「わかってくれますか……」

 

 アウギュステでは何しようか。噂の海は、遠目で見ただけだからなあ、砂浜でのんびりして、海で泳ぐってのは当然だよなぁ。名産の海産食いまくるのもはずせねえな。ああ、あと船だ。騎空艇ではない水上を進む船も乗りたい。

 

「アウギュステはええよぉ。食いもん、名所目白押し。一日二日じゃ足らんわ」

「滞在日数は、しっかり一週間を予定してます」

「遊び倒す気満々やな」

「まだまだ遊び盛りの少年なので」

「せやったな」

 

 あれもこれも、なんでもやりたい。ギュステが俺を、呼んでるぜ。

 

 ■

 

 二 水の島、海の都

 

 ■

 

 来たよ、ギュステに。

 ああやっと着いた。もう俺の心はウキウキだ。海ですよ海、島に着いただけでもう磯の香りがする。流石海の島、改めて見て凄さがわかる。島の殆どは、広大な塩水の水溜り【海】になっている。巨大な湖等は、他の島にもあるがここまでの規模の水溜りがあるのは、ファータ・グランデ空域でアウギュステだけだ。団員の何人かも、海は初めてなのか甲板から身を乗り出して眺めていた。

 

「ヒャッハーッ!!なんだァありゃあっ!!馬鹿デケェ水溜りじゃねーかァーっ!?」

「あはははっ!!あ、あれが、わはっ!う、噂で聞いた……うっふっ!う、海か……っ」

 

  特にハレゼナやルドさんの興奮具合は、他より大きい。ルドさんなんかは、元山賊らしいので、本当に珍しいのだろう。島上空からでも首都と観光地の砂浜が見える。水があるところ人は集まるが、ここは別格だな。アウギュステは、アウギュステ列島特別経済協力自治区と正式に呼ばれるが納得だ。カルテイラさんが商売に来るのも頷ける。

  騎空艇停泊は、島の特性故に島の岸壁への停泊ではなく、海への着水になる。その後桟橋付近に止めるのだがこれも初見組には、中々衝撃だったようで驚いていた。かく言う俺も、まだ水へ直接騎空艇が降りるのに慣れていない。楽しいけどね。

 

「これ……結構大変なんだよね……」

 

 普段そうは見えないが、エンゼラの操縦を殆ど全て担っているセレストは、水上への着水を何時もより慎重に行う。船型星晶獣時代でも着水経験など無かったと言う。もしうっかり速度上げたまま角度間違って着水すると、そのまま水に弾かれ最悪バラバラになるから神経質になる。その姿に、何時もありがとうと手を合わせておく。ありがとう。

 てなわけで、無事アウギュステへと来ました。

 

「ほな、うちはここで」

 

 停泊の申請をしに行く時カルテイラさんが沢山の荷物を背負って挨拶をしに来る。

 

「ここまで助かったわ、ほんまおおきに」

「いえいえ、俺も助かりましたから」

「面倒事もあったけども」

 

 それ言われちゃうと弱いなあ。

 

「はっはっは……面目ない」

「にしし、まあお互い様や。うちミザレアの“願い橋”近くで店出すよって、暇あったら見に来てや」

「勉強してくれるなら行きますよ」

「うちは勉強熱心やでぇ~」

「だと思った。それじゃ、また会いに行きますね」

「ん、ほなな~」

 

 手を振って去っていくカルテイラさん。短いながらも、濃い時間を過ごしたので、少し寂しいが時間もたっぷりあるし、アウギュステ居る間また会いに行こう。

 その後滞りなく手続きを終えて俺達はついに街へと繰り出したのだ。

 

 ■

 

 三 星晶戦隊ご一行様

 

 ■

 

「自由行動に入る前に、言っておくことがある」

 

 宿泊する宿に荷物を置いて部屋も割り振った後、解散する前に団員全てを集めた。この後は、もう全員が自由行動でたっぷり一週間羽を伸ばす。故に、俺はちゃんと話しておかねばならない。

 

「我ら星晶戦隊(以下略)は、これから完全自由行動に入り誰かと行動するも、一人で行動するも自由だ」

「早ク行カセロヨ」

 

 うるさいよ、ティアマト。もう既に着替えて完全に遊ぶ気満々の服装じゃねーかこの野郎。セレブ気取りの服着やがって、なんだそのデカイサングラスは?ファビュラスだろうって?知らんがな、割るぞ。

 

「いいかね皆の衆、こうやって話を遮って勝手な行動をしようとする奴がいる。俺は大変その事が心配です」

「引率の先生みたいね」

「彼は何時もこの様な立ち位置なのだよ、ルナール」

「それは予想出来てたわ」

「我々でフォローもしているのだがね……」

 

 うんうん、ルナールさんもこの数日ですっかり馴染んでくれたね。コーデリアさんの言う事に自分の事ながら眩暈を感じたが今はいいや。

 

「いいかっ!?自由行動とは言ったが、常識をもって行動しろよっ!?非常識な買い物、他人への迷惑は禁ずる!特に(笑)共、と言うかティアマト!!」

「名指シッ!?」

「てめえ前の音楽隊の事忘れたと言わせねえからなっ!高額な物で欲しい物があったらまず相談しなさいっ!!もし勝手に団の金でクソ高いもん買ったらただじゃおかねえからな、肝に銘じとけよっ!マジでっ!!」

「ハイハイ、ワカリマシタヨー」

「……」

「ア、 ハイ。ワカリマシタ、ダカラソノ火属性ソードシマッテ」

 

 後でそれとなくコーデリアさんかブリジールさんに監視を頼んだほうがいいかもしれん……考えておくか。

 

「と言うわけで、ぶっちゃけアホな買い物や行動しなきゃもういいです。はい、解散」

「実質ティアマトへの注意だったな」

「(´・ω・`)コリナイカラナァ」

「ウルサイッ!」

 

 シュヴァリエ、コロッサスの呟きに顔をしかめているティアマト。星晶戦隊同士でもすっかりこんな扱いか。

 俺からの諸注意も終わったので、後はそのまま皆は思い思いに行動を開始する。

 

「私達は、観光がてら団長の情報を集めるとするよ」

「シャルロッテ団長も来てるかもしれないです」

 

 リュミエール組は、本来の目的も忘れていないので実にしっかりしてるなあ。

 

「アウギュステの軍ってのは、ほとんどが傭兵らしい。かなりの手練れもいると聞いたからちょっと語り合ってくるぜっ!」

 

 フェザー君、君はほんと変わらないね。観光しないの?あ、こっちの方が楽しい……はい、じゃあうんもういいです。怪我しないでね。

 

「アウギュステにも色々美味しいお酒があるからにゃ~今からはしご酒にゃ~」

 

 この人も変わらねえなあ、まだ日も高いのに……さっきも言ったけど、常識ある行動を心がけてね?あと吐くなよ?絶対だぞ?団長との約束だぞ?

 

「人が多いからね、色んな答えが聞けるね」

 

 そう言ってクルクル回り飛んでいく我が団の哲学者。この人も他の人に迷惑かけないといいけど。

 迷惑と言うとあとの問題児達。

 

「ルドさんとハレゼナは、一人で行動しないで下さい」

「あはは、だ、だろうね……いひひっ!」

 

 なんなら部屋でじっとしてて欲しい二人組みだ。特にルドさん。しかしここまで来てそれはあんまりだ。

 

「ルドさんは、発作起きた時対処できる人と行動する事。今日は、シュヴァリエが一緒に居てくれますから」

「発作が起きても直ぐに気絶させてやる」

「お、お手柔らかに、はははっ!たの、む……うひひっ!」

「それと、主……この任を終えたら」

「ハレゼナは、そうだな」

「無視、放置プレイか……悪くないなっ!」

「君は、色々と、ぷふふっ!て、手遅れだなぁ」

 

 変態の相手は疲れるからね。仕方ないね。

 

「ハレゼナは……よし、B・ビィ頼んだ」

「な、なにぃっ!?あ、相棒まてそれは」

「トォ~カゲ~!」

「んぎゃおっ!?」

 

 無残B・ビィは、ハレゼナに抱きしめられた。計画通り。

 

「ハレゼナ、B・ビィの言う事よく聞くように。変な事しちゃだめだからね」

「任せろぉ!さぁ~トカゲェ~一緒にお出かけ、しようナァ?」

「あ、相棒、まって……く、くそぉ……これは、特異点【るっ!】の影響か……っ!?力が……ち、ちくしょぉーーっ!!」

 

 久々に特異点【るっ!】が出たな。まあ奴の言う事は、よくわからない事しかないので無視しよう。頑張れB・ビィ、ハレゼナに外の楽しみを教えてやれ。

 

「ゾーイは?」

「私は、コロッサスとユグドラシルとで食べ歩きにいくよ」

「――――♪」

「カイセンリョウリ(*´ω`*)タノシミダネ」

「今日の分のお小遣いだと、どれぐらい回れるかな?」

「――――?――――♪」

「ショニチダカラ(*`・ω・)ヨウスミデイコウ!」

 

 平和だ……すさんだ俺の心が癒されていく。コロッサスは、店の入り口気を付けてね。

 

「あれ、そう言えばセレストは?」

「もうルナールと出かけたぞ?アウギュステでしか見つからない本を探すと言っていた」

 

 あの二人、好きな事への行動は、妙に早いな。インドアなのかアウトドアなのか分からん。

 

「リヴァイアサンは、こっちの自分に顔出しに行くんだよな?」

 〈ああ、直ぐにでも会いに行く〉

「じゃあ、俺も行くわ。一応顔を出した方がいいだろうし」

 

 海にさえ行けば何処でもいいらしいので、近くの海岸に行けばいいだろう。

 さあ、俺達のアウギュステ一日目が始まるぞ!

 

 ■

 

 三 楽しい一週間が始まる。とでも思っていたのか?

 

 ■

 

 〈最近、海水がちょっと肌にキツク感じてきてな……〉

 〈たまには汽水域に入らないとダメだ。海水だけだと肌に悪い〉

 〈そっちはどうケアしてるんだ?〉

 〈生け簀は、淡水で水質を軟水か中性にしてる。ただ、海水生活が長かったからかたまに塩水にしないと逆に鱗が弱るな〉

 〈いいな……こっちじゃプライベートな場所がないからな、勝手に水質を変えられん〉

 〈どこか人気の無い入り江がなかったか?そこでなら良いだろ〉

 

 女子か。

 もう一度言う。女子かっ!

 うちのリヴァイアサンと一緒にアウギュステのリヴァイアサンに会いに来たが、二体の会話があまりに女子過ぎて言葉を失う。すっごいシュールだよ。二体の星晶獣が肌ケアの仕方を熱心に話し合う光景。しかも人型じゃないときたもんだ。と言うか、お前等肌じゃなくて鱗だろ。

 頭が痛くなりそうだったので、俺は早々にその場を後にした。付き合ってられん。リヴァイアサンは、暫く海に残るそうなので何なら最終日まで帰らんな。そう思うと(笑)の一体が一週間いないのでちょっと気が楽になった。

 だが呆れたやり取りを見た所為で初日も初っ端から疲れたな。いや、しかしまだ一日目、俺のアウギュステは始まったばかりだ。前向きに行こう。ほらもう既に俺の周りには、アウギュステ自慢の名産を扱う店が並ぶ。今の俺は、完全フリー、B・ビィも居ない。好きに出来る、選り取り見取り、さあ!どこから行こうかな!

 

「うぅ……っ!?」

「あ、ご婦人大丈夫でありますか?」

「いってーなぁ、ババア?ちんたら歩いてるんじゃねーよ、邪魔だっ!」

「何を言っているでありますかっ!?今のは、そちらからぶつかって来たではありませんかっ!」

「あ~ん、俺達が悪いってのかよ?」

「そう言ってるのでありますっ!」

「たくっなんだぁ?さっきからこのガキァ?」

「だ、誰がガキでありますか!」

 

 ……さあ、どこから行こうかなっ!!

 

「お、お嬢ちゃん、私は大丈夫だから……およしよ」

「いえ、この様な非道を見過ごすわけにはいきませんっ!」

 

 …………さ、さあ、どこから行こうかなっ!!

 

「おうおう、威勢のいいガキだ。一丁前に玩具の鎧に剣なんぞ持ちやがって」

「玩具じゃないでありますっ!!これは由緒ある騎士団の鎧であります!それにこの剣も」

「あーあーうるせえなぁっ!!痛い目見たくなかったらとっとと消えなっ!」

「それとも俺達に喧嘩売る気かぁ?チビのくせによぉ!」

「ななな……っ!!ガキだけでなくチビとまで……も、もう許さないであります!全員成敗するでありますっ!!」

 

 なんなのっ!!何で態々一歩踏み出そうとした目の前で俺の行く道を全部塞ぐように老婦人が不良グループに絡まれてそれに割って入ったハーヴィンの女と不良グループの争いが起こるのっ!?治めろってか、俺にっ!!

 

「馬鹿がっ!かまわねえ、たたんじまえっ!」

「ヒャハハーッ!身包みはがしてその鎧と剣売り払ってやるぜーっ!」

「しねぇ~~~いっ!!」

 

 俺は茶番が寸劇でも見せられてるのかな?なにこの絵に描いたような三下奴。馬鹿なの?だがハーヴィンの騎士(?)が悪漢に襲われそうになっているのは事実……しゃーない、助けに入るか。

 

「甘いでありますっ!」

「うごっ!?」

(おっと……これは)

 

 思わず感嘆の声を漏らした。ハーヴィン女性だからと甘く見てしまったなぁ、殴りかかる悪漢に対して難なく攻撃をかわし手に持つ剣の柄頭で鳩尾を突いた。相手はそのまま気を失ったようだ。

 

「こ、このガキ!もうただじゃおかねえぞっ!!」

「無駄口を話す暇があるなら、皆でかかって来てはどうでありますか?」

「な、舐めやがって~~くらえっ」

「まだまだっ!」

「ほげえっ!?」

「おい、なんだっ!?やべえ、強いぞあのハーヴィンッ!!」

 

 おーすげえ、すげえ。幅広の剣身部分の腹や柄頭の部分で血を流さず戦ってやがる。これは、助けいらないな。

 しかし、その動きの滑らかなこと、荒っぽい喧嘩しかした事無いのであろう悪漢達の大振りばかりの攻撃は、彼女にかすりもしない。同時に剣の重心を利用した攻撃は、見た目以上の攻撃力がある。回避に攻撃、小柄の体型をむしろ有利に使っている。ただのハーヴィンじゃねーなこれは……。身に着けている鎧も立派だし、どこぞの騎士様かもしれな……い……。

 

『捜索対象の情報は、その者がハーヴィン族であること』

『シャルロッテ・フェニヤ、我らリュミエール聖騎士団の現団長だ』

 

 俺の脳内で過去の情報が蘇る。見覚えのある蒼い鎧に剣、ハーヴィンの騎士。なんかリュミエール感あるよ……?いやいや、まさかそんな……こんな偶然ってある?ないない、俺の休暇一日目からこんな騒動の種に出会うなんてありえないって、マジで。

 

「口ほどにも無いであります」

 

 とか悩んでたらもう男達は、地面に伏していた。彼女が強いのもあったがやっぱ烏合の衆だったな。

 

「く、くそ……」

 

 あ、この野郎。

 

「しつこい、展開的にも大人しくせい」

「あひっ!?」

「むむっ?」

 

 彼女にやられて後ろで倒れていたが、ナイフを手にして起き上がった一人の男を拳骨で気絶させる。

 

「いらん手助けだったかな?」

「いえいえ、助かりました。感謝いたします」

 

 互いに挨拶。しかし彼女の顔より、その頭に載せた身の丈の半分ぐらいの冠が目に付く。40センチ程度かな?どうやっても視線がそこにいくな。

 

「むっ?どこを見ているでありますか?」

「冠」

「むむっ!自分の顔はその下ですっ!」

「分かってますよ、視線合わせます?」

 

 だがそうするには、しゃがむしかない。子供に対する接し方だな。試しにしゃがんでみた。

 

「うぐぐ~……これはこれで、馬鹿にされてる気がするであります!」

「してるつもり無いですけどね」

「そ、それはわかってるでありますが……」

「ハーヴィン故致し方なし」

「はっきり言いすぎでありますっ!?もっと誤魔化すなどしないでありますかっ!」

「まあまあ。奥さん平気?怪我してない?荷物これで全部かい?」

「ああ、ありがとうね貴方達……」

 

 腰を抜かしていた婦人を助け起こしてのびた悪漢達は駆けつけた衛兵……ああ、アウギュステだと傭兵なのか?まあ担当の人達に任せた。まあこいつらはいいんだ、問題じゃない。問題は、悪漢達に立ち向かい数と体格の不利をものともしないハーヴィンの彼女。ああ違って欲しい、厄介事にならないで欲しい……だが確認しないわけには行かない、コーデリアさん達の依頼は、まだ生きている。もし彼女がそうであるのなら、コーデリアさん達に教える必要があるのだから。

 

「先程は助かりました。改めて御礼を言わせて欲しいであります」

「なに、あんたなら問題なかったんじゃないかな。けどあんた強いねえ、どっかの騎士かい?」

 

 それとなーく確認。いや、けど違う可能性の方が普通大きいよね?早々こんな連続で島に立ち寄るたびに色々濃い人に会ったりなんてね?まさかまさか、そんな御冗談を。

 

「はい。自分は、かのリュミエール聖国を建国せし、誉れ高きリュミエール聖騎士団の現団長を務めております、シャルロッテ・フェニヤであります! 以後お見知り置きを」

 

 ……知ってたよ、この展開……。

 

 

 

―――星晶戦隊(以下略)、ギュステバカンス一日目。【ジータと愉快な仲間たち団】アウギュステ到着四日前の事であった。

 

 




一回目逃した分、プラチナ・スカイ楽しかったです。その内時系列関係なしで、話投稿したいね。マグナシックスは、出場させよう。そして多分本来の流れ以上に予選が荒れる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嵐の前の静かすぎる数日

ギュステでシャルロッテと観光したい人生だった


 

 ■

 

 一 フェイトエピソード 小さくも、高き志を胸に

 

 ■

 

 空には、多くの国がある。そして国の成り立ちは、それぞれだ。

 優れた者が王として選ばれ、国とした。

 人々を力でねじ伏せ己の国とする。

 何かの目的で集まり何時しか国となる。

 しかし栄枯成衰、国生まれればまた滅びもする。それを繰り返すのが世の習いである。その中で長い歴史を持つ国こそ安寧の国なのだろうか。

 ここもまた長い歴史を持つ一国、かつて正義を掲げ集った騎士達が建国したリュミエール聖国という国がある。何時の世も正義を求める声は止まない。その声に答えるため、何時しか騎士が集まり国となった。聖王と呼ばれる者を王として、それに仕えるのは、誇りあるリュミエール聖騎士団。

 

「清く、正しく、高潔に」

 

 それを掲げた者は、誰だったのだろうか?最初の騎士団長か、初代聖王か。だが誰が言ったのかは、重要ではなかった。その言葉の重みが、聖騎士団の結束を生んでいる。その三つの言葉を胸に刻み、信じる事が出来るならば、リュミエール聖騎士団は、これからも繁栄し正義を護り続ける。

 その事を騎士団の者は、誰も疑わない。だが、ある時リュミエール聖騎士団の歴史上例の無い事態が起きた。現団長、シャルロッテ・フェニヤの出奔であった。

 シャルロッテ・フェニヤは、若きハーヴィンの騎士である。ハーヴィン族の騎士団員は、決して少なくない。だが多くが下級の見習い騎士などである。あるいは、体格の不利に悩まされ剣を置き騎士団の事務仕事を担う事に者が多い。戦う騎士として重要な役職につく事は、ハーヴィンと言う種族の体格ゆえにまず無い事だった。その本来戦いに向かぬ小柄なハーヴィン族である彼女が誉れ高きリュミエール聖騎士団の団長となれたのは、尋常ならぬ鍛錬の成果である。

 ハーヴィンの努力を笑う者も居た。無駄だと言う者も居た。だがそれを気にする事無く直向な努力を続ける彼女の姿に何時しか騎士団の者達は、騎士としてあるべき姿を彼女に見出し、そして思った。彼女こそが、新たな団長に相応しいと。そしてシャルロッテは、リュミエール聖騎士団の新たな団長と成ったのだ。誰も考えもしなかったであろう、ハーヴィン族の騎士団長として。

 騎士団長としての任は、並大抵の物ではない。騎士としての戦いは勿論の事、騎士団の運営にも関わる。慣れぬ運営業務は、他の団員が手伝いを申し出て彼女の助けとなった。戦いの場でも、頼れる仲間が居た。皆がシャルロッテを慕い団長として尊敬していた。

 その事を誇りに思い、自分はなんと仲間に恵まれたのだろう、とシャルロッテは思っていた。だが、ある日任務で外に赴いた折人々の噂を聞いてしまう。

 

「リュミエール聖騎士団の新しい団長は、ハーヴィンだそうだ」

「小さなヤツに従うようじゃ、あの騎士団もお終いだぜ」

 

 所詮戯言である。小柄なハーヴィンが騎士団長と言う名誉を得た妬みでもあるかも知れない。だが当事者であるシャルロッテにすれば、その言葉は如何なる刃よりも鋭く胸を抉った。何より、あの信頼できる仲間達までもが嘲笑の的にされる事が悔しくてたまらなかった。

 自分がハーヴィンである所為で、この事で悩む事が以前より多くなったシャルロッテは、目に見えて落ち込む事が多くなった。そして噂を聞いた団員達は、それが原因と察し「そんな戯言気にはしない、言わしておけばいい」と話し、また彼女を気遣い励ました。その心遣いに更に仲間への感謝の念を強くしたシャルロッテだったが、一つ気がついた。

 

(あれ……?自分、マスコット扱いされてはいませんか……?)

 

 妙に甲斐甲斐しい気遣いや、着せ替え人形の如き扱いで可愛い服を団員が持ち寄ってきた時自分の扱いに気がついた。勿論団員達の騎士団長への尊敬の念は、並々ならぬものがあるが、それと同等か稀にそれ以上の熱意を込めて愛でられている様な気がしてならなかった。

 彼女はもう24の大人の女性だ。見た目が小柄だからといって子ども扱いを受けるのは耐えられない。ガールじゃないのだ、レディなのだ。これはいよいよハーヴィンの体型ではいられない。シャルロッテは、ある決意をした。

 体型に悩まされていたのは、今に始まった事ではない。だから彼女は、知っている。子供の頃から調べていたのだ。この空には、想像も付かないような神秘が散らばっている事を。そして、その神秘の力を使えば、今の自分の姿を念願のヒューマン、エルーン、ドラフ(胸部)顔負けなダイナマイトなボディに変える事も可能に違いないと。

 そして、出奔へといたる。

 勿論黙って消えたわけではない。名目上は、他国で活動する騎士団員の査察とした。だが行動が唐突過ぎたため団員達からは、突然消えたように思われており、更に「身長をおっきくしたい」と言う真の目的が目的だけに、内心申し訳なさと情けなさであまり本国と連絡を取ろうとせず、ついにリュミエール騎士団は、彼女の行く先を見失い失踪扱いでもある。

 そして一応他国での騎士団査察もしっかり、こっそり行いながら、島々をめぐり身長アップの手段を探していた。そんな中で彼女は、アウギュステへと訪れていた。理由としては、ちょっとした“願掛け”をしに来たのだが、そこで偶然老婦人に狼藉を働く悪漢達を目撃してそれを成敗する。その中で手助けに入った一人の少年と出会う事になった。

 

「いいでありますか?自分はこれでも立派な大人の女性なのでありますよ?」

「知ってます、分かってます」

「なんだかいい加減でありますなぁ……」

 

 自分の名前を知った途端、妙にテンション下がった少年なのであった。

 

 ■

 

 二 まともな休日など送らせるものか

 

 ■

 

「シャルロッテ団長に、会っただって……?」

「そっす」

 

 我ら星晶戦隊(以下略)の宿泊する宿のコーデリアさん達の部屋に俺達は集まった。勿論リュミエール聖騎士団団長について話すためだ。そのまんま今日シャルロッテに出会った事を話したら、コーデリアさんは久々にシリアス顔になった。

 

「オ前ハ、初日カラ厄介ナ事ニナッテルナ」

「うるさい」

「それで、シャルロッテ団長は?」

「引き止めても怪しまれるんで、適当に誤魔化してまた会う事にしました。勿論コーデリアさん達の事は、話してないです」

「素晴らしい、何時でも遊撃部に入れるよ」

「……次の事聞いてもそれ言えます?」

「と言うと?」

 

 シャルロッテさんと出会った後、無理に引きとめ怪しまれないように誤魔化したのは本当だ。ただその時色々と後日合う理由を考えた時、シャルロッテさんがアウギュステに慣れている雰囲気を感じて出てきた言葉が「アウギュステって初めてで、何見れば分からないから、案内してくれません?」であった。

 アウギュステは二度目だが、観光は初めてだから嘘じゃないよ?何見ればいいのか分からなくて案内が欲しいのも本当だよ?調度助太刀のお礼をしたいと言われたのでそれにのった形になる。最初めっちゃキョトンとしてたけど、結局「お任せください、アウギュステは、何度か来ております」と自信満々の彼女に観光案内を頼むことに成った。しかもその後にシャルロッテさんに予定を聞かれて失敗をする。

 

「日程はどの様になっているでありますか?」

「あ~、今日込みで一週間だけど……どっか都合がいい日で……」

「おや、それは奇遇でありますな。自分も一週間ほどアウギュステに滞在する予定なのであります」

「え?ああけど、どっか一日だけで」

「ただ今日は、少し都合が悪いので……それでは明日にでもまたお会いしましょうか」

「え、あ、いやその」

「六日もあれば、十分にアウギュステを楽しめるでしょう。楽しみにしていて下さいであります。騎空艇の係留所近くの閘門、あすそこで落ち合うといたしましょう」

「あ、はい場所は、わかりますけど、あの」

「それでは、自分は用事がある故ここで。また明日にお会いしましょう!」

「あ、あはは……た、楽しみだなぁ……さいならぁ……」

 

 てな具合である。俺は残り六日間シャルロッテさんと共にアウギュステ観光をする事になった。我ながら上手いこと話をごまかし進めるのが下手だと思った。

 

「てなわけで、俺明日からシャルロッテさんとアウギュステ巡りしないといけなくなりました」

「なるほど……遊撃部見習いからかな?」

 

 呆れた様子ながら笑みを絶やさないコーデリアさんは、流石だと思いました。

 

「君は、本当に面白いなあ」

「押シニ弱インダ、コイツハ」

「気合が足りないぞ団長!」

 

 えらい面白そうにしてるねフィラソピラさん、俺が困った顔してるとほんと嬉しそうだね。あとティアマトもフェザー君もうるさい。

 

「どうしましょうか、別に明日とっととコーデリアさんが用事済ませても良いと思いますけど」

「ふむ……」

 

 顎に手を当てて思案するコーデリアさん。申し訳ねえな、無駄な面倒起しちゃって。

 

「いや、ここは一つ様子を見てみようか」

「様子、シャルロッテさんのですか……」

「相手を問い詰め真意を問うのは、いつもの事。だが、話を聞いているとシャルロッテ団長は、君に気を許したようだ」

 

 コーデリアさんに「その点は、本当に人たらしだね」と言われてしまう。覚えがありませんなあ。

 

「自然と出てくる言葉にこそ真実はある。我々では、顔が割れているかもしれないからね。団長殿、一つ君にはシャルロッテ団長が失踪へ至った経緯をそれとなく調べてみて欲しい」

「俺がっすか……」

「事態をややこしくした責任を取るつもりで頼むよ」

 

 ああつらい、それ言われるとつらい。あとコーデリアさん、めっちゃ笑顔っすね。

 

「気が休まらない休暇になってしまった……」

「自業自得ダ」

「やかましい!」

「ふふ、まあ良いじゃないか、リュミエール聖騎士団の団長に案内されてのアウギュステ観光なんて、滅多に無い機会だ」

「うぅ……じ、自分もお供したいです。シャルロッテ団長との観光……」

 

 変われるなら変わって欲しいよブリジールさん。けど貴女だとなんか俺以上に嘘がつけなさそうだから、きっとこう言うの向いてないですよ。

 

「それと、君が【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長だとバレると、そこから私達に感づかれるかもしれない」

「知ってますかね、あの人」

「団長の顔を知らなくても、名は知っているかもしれない。名前は名乗ったのかい?」

「いや、なんか急いでたみたいで、俺だけ名前言ってないです」

 

 顔どころか名前も最近覚えられてない気配があるけどね。俺ってば。いい加減団名変えるか、せめて俺の名前入れたい……。

 

「そうか、普通なら礼を欠くが今回は、かえって都合がいい。君が騎空士である事も話してはいないね?」

「身の上話する暇も無かったっす」

「よし、ならば明日から君は、ただ観光に来た一般人だ。シャルロッテ団長には、偽名を名乗りたまえ」

「偽名……何にしましょうか」

「“ジミー”トカデ良イダロ、地味ダシ」

「んっふ……」

 

 ねえ、コーデリアさん笑った?ねえ、今ティアマトの発言聞いて笑った?

 

「ああ、成る程ジミー……」

「あはは……っ!ジ、ジミー団長……っ」

「星晶戦隊(以下略)団長のジミーか」

 

 お前らジミー、ジミー煩いぞこの野郎、畜生!!

 嫌だからな!?俺そんな偽名嫌だからな絶対に!!聞いてるのかお前ら、この野郎てめーオイコラ!?オーイッ!!

 

 ■

 

 三 ジミー団長(仮名)のアウギュステ二日目

 

 ■

 

「…………」

 

 アウギュステの首都ミザレアは、商業と観光が盛んな水上都市として名を馳せている。アウギュステ列島内の移動は、主に空を飛ぶ騎空艇でなく水上を進む船で行われる。ここを訪れる人の中には、水の上を進む船を珍しがる者もおり、観光用の船もまたミザレアの観光資源である。

 張り巡らさられた水路は、主に移動のために作られたものである。中でも水位を調整し船を上下させ進ませる閘門(こうもん)と呼ばれる装置は、豊富な水量と水路を持つアウギュステぐらいでしか見られないために、観光客が見に来る名所の一つでもある。

 そんな幾つかある閘門の内でも有名な一つの傍で、やたらソワソワした挙動不審な男が一人いた。星晶戦隊(以下略)の団長である。普段の服装……は、どんな格好を好んでるかも団員からは、既に忘れられているが、多少(彼なりに)決めた服装に身を包んでいる。

 

「アノ馬鹿、モウチョット御洒落ヲ出来ナイノカ」

「あれが相棒の限界だよティアマト」

「ダカラ私ガ、コーディネートシテヤルト言ッタノニ」

 

 さらにその挙動不審な男を、建物の影から覗く幾つもの影があった。

 

「団長は、何故あんなに緊張してるんだ?」

「今朝起きて、冷静になって初めて女性とデートをすると気がついたそうだよ」

「童貞力振り切れてるな、主殿」

「け、けど……相手の人、たぶんデートとか、思ってないよね……」

「デートと言うか、デート(笑)って感じね」

「あれ?騎士団長と語り合うんじゃないのか?」

「フェザー、君はそれしかないのかい?」

 

 と言うか、ティアマトやらコーデリアやらルナールやらがワラワラと物陰にいた。この事を団長である彼は、まるで知らない。普通に休日を過ごすよう言っておいたのだが、彼らは「ジミー団長(仮名)見てたほうが面白そうだ」と言ってみんな来てしまった。

 だが、まるで潜んでいない。すっかり建物からは、はみ出ている。当然である。省エネモードに加え未だ海にいるリヴァイアサンを除くとは言え、星晶戦隊が5体にB・ビィとゾーイ、その他団員全員だ。むしろ、どうやって覗き込む姿勢を維持してるか不思議でならない。他の通行人がギョッとしているが当然の反応だ。

 

「けど、それで団長はボロ出さずにお相手できるのかい?」

 

 相変わらずクリュプトンに乗ったままで目立つフィラソピラの懸念にB・ビィが胸を張って答えた。

 

「そこは、相棒を知り尽くしたオイラがアドバイスをしておいたから平気だぜ」

「ほう、どの様なアドバイスをしたんだい?……あと、彼の事で少し色々聞かせてくれ、好きな料理とか」

「お?おう……まあ、アドバイスは簡単だぜ。“普段どおり”ってな。うちの団員と接する感じでいいのさ」

「……それって大丈夫なの?」

 

 入団して日が浅いルナールだが、普段の団長の言動を思い出しむしろ不安になった。だがB・ビィは、心配する素振りはない。

 

「どうせ緊張して畏まったって、相棒は面倒な事になるだけさ。なら何時もどおりのノリでやった方がやりやすいってもんさ」

「そんなもんかしらねぇ……」

「それに、相手がハーヴィンってなら……たぶん大丈夫だろうな」

「ハーヴィンならって……」

「んぁ?アレじゃあねぇ~のかぁ~?」

 

 ハレゼナが閘門へ来るための橋を渡ってくる一人のハーヴィンを指差した。私服ではないが、かと言って重装備でもない、この空の街中では珍しくも無い軽装の騎士が現れる。

 

「ああ、間違いないシャルロッテ団長だ……」

「わ、わ……ほ、本物のシャルロッテ団長ですッ」

 

 リュミエール組み二人が間違いないと頷く。一方シャルロッテは、待ち合わせ相手の男を捜してキョロキョロと辺りを見渡しながらトコトコ歩いていた。

 

「あーやばい、アレは相棒の琴線触れるわ、色々ストライクだわ」

 

 愛らしさ100%の姿を目にしてB・ビィは、何かを覚った。

 

「アレッテホントウニ(*´・ω・`)ダンチョウサン?」

「その通りだ。ハーヴィン種特有の体格でありながらも、並々ならぬ鍛錬を行い我らがリュミエール聖騎士団の団長と成った彼女こそが」

「あ、迷子と間違われて声かけられたにゃ」

「……彼女こそが」

「オ前ラノ団長、子供扱イサレテメッチャ怒ッテルゾ」

「……」

「コーデリアちゃん、辞めないで!?そこで言葉を詰まらせちゃだめです!」

「おや、団長が気がついたよ?」

 

 プリプリしてるシャルロッテに気がついた彼は、急いで駆け寄り何か適当にその場を誤魔化したようだった。だがいっそうシャルロッテの機嫌が悪くなったようにも見える。

 

「――――?」

「ユグドラシルに、大丈夫かって心配されてるぞ相棒……」

「何言ッタンダカ」

「B・ビィのアドバイス通り、”いつも通り”だったんだろう。主殿は基本適当だからな」

「おっと、どうやら移動するようだよ?」

 

 プリプリするシャルロッテをなだめながら、団長が移動を開始する。

 

「よし、確かにシャルロッテ団長である事は、この目で確認できた。一度散ろう、各自それとなく彼を監視しておくように」

「もうコーデリアが団長でいいんじゃねーのかな」

「ふふ、この団は彼が団長でなくてはダメさ」

「んは、じゃ、じゃなきゃ……んふふっ、私の様なヤツも仲間になれなかったからね、あはっ!」

「それもそうだな、よっしゃそれじゃあ別々にこうど、ごぉっ!?」

「トカゲェ~?お前は、ボクと一緒だよぉ~」

「お、おう……う、うで緩め、ゆるめ……」

 

 と、賑やかに彼らは解散した。それにまるで気がつかないジミー団長(仮名)とシャルロッテ騎士団長のダブル団長であった。

 

 ■

 

 四 やあ、ボクはジミー、ハハッ!

 

 ■

 

「うぅ~迷子扱いなんて……屈辱でありますぅ」

「まま、しかたないっすよ。一応善意ですよ、相手も」

「それは、勿論承知でありますが……と言うか、ジミー殿!娘とは、なんでありますか!そっちの方が酷いであります!」

「第一印象で決めてました……」

「なお酷いっ!?」

 

 迷子の迷子の、リュミエール聖騎士団現団長シャルロッテ・フェニヤ(24歳児)を保護した俺だが、誤解解こうとした時、「あ、すみません俺のツレなんです」「……娘さんですか?」「あ、はい」と勝手にシャルロッテさんを娘にしてしまった。

 

「そもそも種族が違うではありませんか……」

 

 その所為でシャルロッテさんを憤慨させてしまった。けど、ごめんなさいプリプリして怒ってるのが、その、可愛い。言わないけど。あと種族については、気付いてたんじゃないかなぁ、そうでなくても……相手の人「お若いのに……」とか妙に同情を含んだ視線をしてたけど、あれ若い義父と養子と思われてないか。

 

「すみませんって」

「まったく……」

 

 後、誠に遺憾ながら偽名がジミーになってしまった。反対意見が俺しかおらず、謎のジミー推し勢力によって、暫し俺の名はジミーです。

 ダメかなあ……偽名で“グラン”ってかっこいいと思うのに。

 

「ふふん、しかし自分の考えたアウギュステ観光ルートを堪能すれば、そのような認識は、一変するでありますよ」

「自信満々っすね」

「勿論であります。今日含め6日間でじっくり巡るルートで自分が考えた完璧な大人な観光ルートであります」

 

 あー”大人な”、とか言っちゃうんだ……。と言うか、俺年齢的に未成年なのだが。まあいいけど。

 

「これでジミー殿もアウギュステ知り尽くしの満足コースであります!」

「ほう」

 

 大人かどうかは別として、それはジッとしてられないな。ワクワクが押し寄せてくるぜ。

 

「まずは、ミザレア観光であります。一日じっくりとミザレアを見て回りましょう。ジミー殿は、そもそも水上都市が珍しいのではないのですか?」

「確かにそうですね。でかい湖すら驚くのに、海とくればもうね。しかもその上に都市建てるってんだから、昔の人は大したもんですよ」

 

 建物を縫うように巡らされた水路。そこには、廻船の船や観光用の小舟が行き来している。ザンクティンゼルでは勿論、他の島でもそうそう見れない水の島特有の光景だ。

 

「そうでありますな。自分も最初に来た時は、驚いたものです」

「何時頃来たんです?」

「まだ見習い時代に、任務の一環だったはずです。自分は生まれが一年通して雪に埋もれ囲まれた島でしたので、驚きも一入でありました」

「俺もっすよ。なんせド田舎でしたからねえ。と言うか、俺雪って言うのも見たことないなあ」

「そう面白い物でもありませんが、観た事が無い方にすれば珍しいのでありますなあ」

 

 しかし、ジータもこの島に来てはしゃいだんだろうなあ。その時の事を聞いてみたいもんだ。

 

「船を利用した店も多くあります。一定の場所で商うも良し、要望があればそのまま船で移動も出来るので、都市の特徴をよく活用した商売が確立してるであります。アウギュステの特徴の一つでありますな」

 

 通路に寄せられた船には、主に日用雑貨が積まれている。食料品も加工品や調理済みの物ではない、殆どが素材をそのまま売っている。観光客よりここの住民向けの商売のようだ。

 

「時間はありますゆえ、一つじっくりと街を見て回りましょう。入り組む水路に沿って進むのもまた面白いであります」

「確かに」

 

 ここは、ブラブラのんびりするか。B・ビィに言われてしまったが、気負いすぎると空回りしかねない。女性と二人っきりのデートみたいだと思って緊張してしまったが、幸いシャルロッテさんを目の前にして、逆に何故か緊張しなくなったからな。何故かは……まあ、考えないでおこう。決して保護者気分になったとかではないはずだ。そう信じたい、互いの名誉のために。

 

 ■

 

 五 増える騒動の種

 

 ■

 

「まいどおおきにー!またきてやー!」

 

 商品を手渡して快活な声を上げる一人のエルーン。アウギュステの名所”願いの橋”の傍で店を出すカルテイラの声。人通り多く賑わうその場所に彼女は、一時店を構えていた。

 団長達星晶戦隊(以下略)一行と別れてから直ぐに宣言通り商売を開始。既に目標とする売り上げに向かいガンガンと売上を伸ばしていっている。主にアウギュステでとれた貝類の貝殻やサンゴなどを使用したアクセサリーやお守りを商品にしている。色とりどりのアクセサリーを売りに売りまくっている。

 アウギュステでの商売は、初めてではない。こなれた様子で店を切り盛りするカルテイラの頭には、商売仲間でありライバルでもあるシェロカルテの事が浮かんでいた。少し前にアウギュステの幾つかあるビーチの中でも、特にリゾート地として知られるであるベネーラビーチに新しいよろず屋の店舗を建てたと言っていたのだ。

 新店舗開店を祝うのと同時に自分も負けてられないと俄然商売への熱意が燃えた。シェロカルテと違いカルテイラは、一定の場所に店を持たないがそれゆえの強みを持つ。自分は、自分の商売でシェロカルテをアッと言わせようと奮闘していた。

 

「カルテイラ、儲かってるなあ」

「お?おっちゃん、待っとったわ」

 

 大きな荷物を抱えたドラフの男がカルテイラの店を訪ねて来た。荷物の中身は、全てアウギュステで作られたアクセサリー、即ちカルテイラの商品であった。

 

「持ってきたぜ、希望通りの奴だ」

「おおきに!」

 

 貝にサンゴ、ヒトデなどの物が入っている。カルテイラは、それを物色するが、その最中一つのアクセサリーを手に取って動きが止まる。

 

「おっちゃん、コレはアカンわ、角が欠けとる。あ、あとコレもや」

「ありゃ?運んでる時ぶつかったか?すまん、後で別の持ってくるわ」

「ん~……珍しいなあ、アウギュステで採れたのなら、かなり丈夫やから、そうは欠けへんのに」

「ああ、たぶん前に採れたの使ったな。覚えてるだろ?帝国が悪さして海が汚れてた時」

「あー、あれなぁ」

 

 男の言う事にカルテイラは、覚えがあった。彼女だけではない、アウギュステに住む者は、誰もが覚えている。

 数か月前に、帝国がアウギュステを自らの支配下に置こうと活動した事があり、その際に島の海を汚した事件があった。更に星晶獣リヴァイアサンを暴走させたが、あの【ジータと愉快な仲間たち団】のジータが物理的に解決させて、事件は終息した。それでも事件の影響は、後々まで残った。

 海が汚された影響を受けた貝やサンゴは、脆くなっていたのだ。アクセサリーやお守りにするには、強度が足りなかった。それだけでなく、海産物全体が打撃を受けていた。徐々にその影響も落ち着きを取り戻しているが、全くなくなったわけでは無い。

 

「ほんっま帝国は、碌な事せーへんなあ……」

「ああそうそう、その帝国だけどな、なーんかまたアウギュステに来てるらしいぜ」

「またかいな……」

 

 男の言葉を聞いてカルテイラは、酷くげんなりした。それ程までに帝国の悪名は、高いと言える。

 

「具体的に何してるのかってのは知らねえけど、十数人の帝国兵が来ては帰ってを繰り返してるとか……俺ぁどうも嫌な予感がするよ」

「うちもや……態々商売し始めた時にこんでもええのに、んもー」

「全くだな。まあ、また物騒な事が起きる前に島離れた方が良いかもしれねえな。ちょっと考えときな」

「教えてくれてどーも。取り合えず入荷分は、売り切ってから考えるわ」

「はは、相変わらず商魂逞しいな、じゃあな」

「ん、ほなさいならー」

 

 去って行く男へヒラヒラと手を振って軽く挨拶をするカルテイラだが、内心は帝国の暗躍に関しての不安があった。

 

(帝国、か……団長達がいるうちに、話しとった方がええかもしれへんな)

 

 それは、呑気にバカンスで来ている少年への警告もあるが、それ以上にもし何かがあった時彼等なら割と問題なく解決してしまいそうな気がしたからだ。

 

(休み潰すようで気が引けるわぁ……)

 

 カルテイラの中では、もう少年達は休日満喫中である。帝国の事を話す事は、その休日を場合によっては失くしてしまう事になる。だからこそ後ろめたさもありつつ、話さぬわけにもいかないと思った。

 だが彼女は知らない、この時少年は、あのリュミエール聖騎士団の現団長にアウギュステ観光案内をさせながら気の休まらぬ休暇を過ごしつつ、更に彼女も彼も知らぬ帝国以上の騒動の種がアウギュステに近づいている事を。

 

「どこまで行っても苦労人、か」

 

 せめて彼の借金が増えない事ぐらいは、願ってあげようとカルテイラは空を仰ぎつつ思った。

 

 

 ―――星晶戦隊(以下略)、ギュステバカンス二日目。【ジータと愉快な仲間たち団】アウギュステ到着まで、あと三日。

 

 




多分アウギュステ&シャルロッテ篇は、長くなる。閘門の存在については、ここだけの設定で、アウギュステにあるかは不明です。その他、シャルロッテ関係の設定も原作と違う点が出てくると思いますが、なるべく違和感なく進めていきたいです。

追記12/5
団長の容姿ですが、別にグランではないです。グランと言う名前が、あの空の世界で普通(太郎的な)の名前と聞いたために出しました。本人は、かっこいいと思ってますが、別にそんな事ないです。。

ひよこ班がカワイイです。是非うちの団長に「強さの秘訣」を聞いて「星晶獣(マグナ)6体と同時に戦っても、その日ちゃんと飯食える余裕が出るまで体鍛えて、B・ビィ(マチョビィ)とジ・オーダー・グランデを連戦できるようになる」とか死んだ目で言われてドン引きするひよこ班を書きたい。強さとは……。

そして、最近カイラナの水着が、背中全部見えててかなり色っぽい事に気がついた。

はよ、【OH MYリュミエ~ル】篇書きたい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騒動の”目”、団長君

全ては、彼に集まるのだ。人も、星晶獣も、騒動も。

12.11 ザニス高地への移動に関して修正。詳しくは、あとがきにあります。


 ■

 

 一 ブラギュステ

 

 ■

 

 ただアウギュステの街をブラブラ歩く、ブラギュステ。つまらないと思う人は思うだろうが俺は面白いと思う。街の造りと建物の立地から地形の特徴を読み取ったり、先人が何を思ってここに建物を建てたのかを知ったりとできる。多分アウギュステで橋の痕跡とか、アウギュステ建築を見たり、暗渠探して回ったのは、俺とシャルロッテさんぐらいだろう。

 

「お前、もっと……もっとさあ……お前」

 

 と言う俺の報告を聞いたB・ビィの反応がこれだ。文句あっか?

 

「とても十代と二十代の男女がアウギュステを巡った一日と思えねえ……」

「あの騎士団長も中々渋いな……」

 

 どうも俺達のアウギュステ巡りは、団員達には不評のようだ。悪かったな。

 

「まあ、二人がどう言った趣向で街を巡るかは、自由として……首尾の方は?」

「初日ですからねえ……世間話する程度でした」

「いやそれでいいのだ。徐々に聞き出すのも諜報だよ」

 

 そう言ってくれると助かるなあ。

 だがシャルロッテさんは、騎士団の事を話すのが嫌と言う雰囲気は無かった。

 

「自ら騎士団長と名乗った以上、話を振って問題は無かったですね。実際幾つか騎士団での事聞いたら誇らしげに話してましたよ」

「誇らしげに、か」

「自分の事と言うよりも、自慢の仲間達の話が多かったですが」

「そうか……」

 

 気持ち嬉しそうなコーデリアさん、そして一緒に聞いていたブリジールさんの二人。

 

「残り数日でまあ何とか聞いてみます。ただコーデリアさんの方でも例の仕事をして問題ないと思ったら自由にどうぞ」

「そうするよ。だが今は、推移を見守るとしよう」

「明日は、どこ行くのかにゃ?」

「えっと……ザニス高地だって」

「列島を一望できる場所だったな。ってこたぁ、そこで雄大な景色を見るのか」

「うん、立体的に列島の形を見て、島の成り立ちを考えてくる」

「お前アウギュステに何しに来たの?」

 

 これも不評であった。え~楽しいと思うのになぁ、アウギュステってくり貫かれた様な面白い形してて気にならない?島の成り立ち……あ、ならない、そうですか。

 しかし残り五日、この調子なら無事終わってくれるんじゃないだろうか。うん、街歩きも思ったより楽しかったし、大丈夫そうかな。そんなに不安になる事無かったかなー。

 

 ■

 

 二 THE・神出鬼没

 

 ■

 

「いやぁ~本当に助かります~」

「いえいえ、これも騎士の使命であります」

 

 そんなに不安になる事無かったと言ったな?あれは嘘だった。

 

「助かります~」

 

 俺を挟むようにして歩くハーヴィン二人。一人は言うまでも無くシャルロッテさん。もう一人は、なんで居るのか我らがよろず屋シェロさん。何で居るの?

 ザニス高地への行き方は、主に二通り。陸路か船である。陸路の場合美しい珊瑚礁も見れるラヤの水辺を歩いて行く方法だが、一番手っ取り早いのは、小回りの利く船である程度移動する方法だ。ラヤの水辺は、また別の時にゆっくり見ようと言う事で、ここはパパッとザニス高地に行ってしまおうと言う事になった。てなもんで、移動は船である。が、ここで主に観光用の船に乗ろうと渡し場へ行くと、何故かシェロさんが居た。「あ、マズイ」と思った途端俺と目が合う。その時のシェロさんの笑顔ときたらね。トコトコ近づいて来て、直ぐに傍に居たシャルロッテさんにも気がついた。

 

「おやおや~これは奇遇ですね~」

「む?ジミー殿は、よろず屋殿とお知り合いでしたか?」

「ジミー?」

 

 ジミーと言う俺の偽名を聞き、顔を強張らせている俺と対照的なシャルロッテさんを交互に見たシェロさんは、俺の状況を察したのか更に笑顔になった。

 

「ええ~“ジミーさん”は、何かとお世話していますので~うぷぷ~」

「うん?何かおかしかったでありますか?」

「いえ~少し意外な組み合わせでしたので~うぷぷ~」

 

 俺氏、シェロさんに新たな借りを作る。

 

「シャ、シャルロッテさんも、シェロさんと知り合いだったんすね」

「はい、よろず屋殿には、リュミエール聖騎士団でもお世話になっております」

 

 なんら不思議な事では無い。コーデリアさんもシェロさんを頼っていたのだから。

 

「あー……シェロさんは、何をしてたんですかね?」

「えっと~実は、今からザニス高地へ行こうと思っていたのですが~私の行く所は、特に魔物が多い所なので~誰か護衛を頼める人は居ないかと探していたんですよ~」

「護衛、でありますか」

 

 シャルロッテさんがソワソワしだす。

 

「急な事ですので~本当は、知り合いの騎空士の方に頼もうかと思ってたんですが~どうもその方は、「急な用事で無理」と仲間の方が言っておりまして~」

 

 チラッと俺を見るシェロさん。誰だろうね~その騎空士って~?

 

「あうあう……」

「うふふ~」

 

 シャルロッテさんは、ウズウズしてる。シェロさんは、ニコニコしてる。俺は、シブシブしてる。

 

「……俺等ザニス行きますけど手伝いましょうか?」

「ジ、ジミー殿?」

「え~しかしお休みの最中のようですが~よろしいんですか~?」

「はっはっは……隣の騎士団長がお助けしたくてたまらないようですし」

 

 何をしたいか見抜かれたのか、シャルロッテさんが慌てておられる。

 

「じ、自分はその……と言うか、ジミー殿の方こそよろしいのですか?それに危険では……」

「俺実は、徒手空拳で武者修行をしていた事があり……」

「唐突な設定でありますな……」

 

 あながち嘘ではないがね。修行はしてたから。

 

「いやいや~ジミーさんは、こう見えてお強いので~シャルロッテさんが心配する様な事は、無いと思いますよ~」

「そうなのでありますか?」

「はい~」

 

 本当だろうか?と言う視線を受ける。まあ、気絶寸前の荒くれ者を殴り倒したぐらいだからね、実力なんて分からんでしょ。

 

「騎士団団長と比べては、流石にあれですがまあ魔物程度には、遅れは取りませんよ」

「うふふ~」

「……あと、シェロさんをほっとくなんて、できないなーおれー」

「そうですか、そうですか~」

 

 笑顔の視線がなんか怖いッ!!

 

「そ、そうでありますか……いや、義を見てせざるは勇無きなりとも言いますし、しかしジミー殿の案内もありましたから、けれどジミー殿が共にとあればここは、リュミエール聖騎士団団長として、よろず屋殿を助けぬ訳にはいかないであります」

 

 と言う事である。

 結局さっきから俺とシャルロッテさんは、シェロさんが何かしている間中、現れる魔物共をボコボコにしていた。

 

「いやはや、ジミー殿本当にお強いでありますな」

「いやいや、シャルロッテさんに比べたら」

「謙遜なさらず……と言うか、強すぎる様な気がするでありますが、本当にただ武者修行しただけなのでありますか?」

 

 本当にそうなんだなこれが。修行相手が人間か怪しいばあさんと、星晶獣と言う事を除けばだが。

 

「なんなら、即戦力としてリュミエール聖騎士団に来ても問題ないであります」

「いや、勘弁」

「そうでありますか、ちょっと残念でありますな」

 

 騎士団って柄じゃないし。

 

「お二人とも~ありがとうございました~」

 

 そんなところで用が済んだのかシェロさんがヒョコヒョコと現れた。

 

「お二人のおかげで~無事用事も済みました~」

「なんだったんです?色々と見てましたけど」

「うふふふ~実はですね~本当は秘密なのですが~……シェロちゃんのよろず屋ザニス高地支店を開店する事が決まりましてですね~」

「支店増やすんっすか?アウギュステだけでも、もう既に幾つかあるだろうに。しかも魔物が出る場所なのに……」

「シェロちゃんのよろず屋は、コンビニエンスですから~必要とあらば、どんどん展開しますよ~」

 

 流石カルテイラさんもライバルと言うだけある。この人も商魂逞しいな。

 

「それでは、自分は念の為魔物がいないか、周辺を見ておくであります」

「お願いします~私は、ジミーさんと少しお話していますので~」

 

 帰りの事も考えてか、シェロさんの護衛を俺に任せてシャルロッテさんが辺りの警戒に向かう。

 

「さてと~……うふふ~?団長さん、面白い事になってますね~?」

「疲れるだけっすよ」

 

 今の俺はジミーではない、星晶戦隊(以下略)の団長へと戻る。

 

「シャルロッテさんが居ると言う事は~コーデリアさんには既にお伝えしたんですね~?」

「当然ですよ」

「でしたら~私の方からも幾つかお耳に入れておきたい事があるんですよ~」

 

 ……あんまり聞きたくないような。

 

「まあ、聞きましょう」

「実は、リュミエール聖騎士団のある部隊が明後日任務のため、アウギュステへ一時滞在するらしく~シャルロッテさんの事は、知らないとは思いますが~少し気にしておいた方がいいかもしれませんね~」

「……引き合わせないほうがいいですか?」

「それは団長さんやコーデリアさんのご判断にお任せします~。今の彼女は、名目上は各国での騎士団活動査察中ではありますけど~本人は、進んで騎士団の方と会おうとは思わないでしょうね~」

「理由って知ってます?」

「そこまでは~、少なくとも正義への忠義は、あるままですからね~きっと個人的な事かと~」

 

 個人的な事か……団長と言う立場でありながら、理由でっち上げてまで騎士団休む程の理由って何だ?考えても分からない、ヒントが無さ過ぎる。

 

「了解です。情報感謝します」

「いえいえ~これもよろず屋のお仕事ですからね~うふふ~」

 

 ああ、笑顔が怖い、笑顔が怖い。

 

 ■

 

 三 秘密のシャルロッテちゃん

 

 ■

 

 シェロさんの用事も済み、ザニス高地もまあまあ満喫したのでミザレアへ戻ると、もうお昼を過ぎていた。俺とシャルロッテさんは、二人ミザレアのシャルロッテさん曰く「大人な、オシャレなカフェ」へと足を運んだ。が、ここで問題が起きる。

 ミザレアでは、水路での移動が多いのであらゆる店舗に言える事だが、低い位置にある店ほど良い店になる。そこら辺は、シェロさんにも聞いたことがある。シャルロッテさんの連れてきたカフェも、開けた水路に面した場所にあり確かにオシャレなカフェだ。その入り口にあるメニューの張られているたて看板を見る。

 

(……たっか)

 

 ランチメニュー2600ルピって高くない?そもそもドリンク一杯辺りの値段が高いよ、グラス小さいのに5~600ルピ以上すんの?そんなもんなのこれ?いやだわ、都会怖いわ~。

 などと、俺がメニューの中でも比較的安い物を探していると、隣のシャルロッテさんが、ぼそり、と一言。

 

「……お子様ランチが無いであります」

 

 そりゃねーよ。カフェの狙う層じゃねーもん、お子様ランチ食うやつ。と言うか、食うんかいお子様ランチ。

 

「……結構店混んでますね」

「え、ああ……そうでありますな」

「別のとこに、良さげな喫茶店あったんでそこ行きます?メニュー多そうですし」

「そ、そうですか……確かに、並んでいても時間がかかりそうですから、他の店のメニューを見て決めるのもいいであります」

「じゃあ、そう言うことで」

 

 そいで移動して、如何にも普通だが悪くない喫茶店。財布に易しいメニューの中には、輝かんばかりのお子様ランチがっ!

 

「ここにしましょう!」

「そうでありますな!」

 

 満場一致であった。

 結局店は混んでいるが、メニューが決め手である。オシャレなカフェ、またの機会に会おう。

 

「具詰め込みまくったミックスサンドうま」

「おお……見てくださいジミー殿、このお子様ランチの旗は、中々雄々しいと思いませんか」

「クリームコーヒーのソフトクリームの割合がデケェ」

「実質ソフトクリームであります」

「パフェ、パフェ食いましょう。俺チョコバナナにクリーム多目にしちゃうもんね」

「なななっ!ならば自分は、フルーツ多目で!」

 

 この時俺達の頭からは、オシャレなカフェは消し飛んでいる。こう言うのは、駄弁りながら食べるのが良いんだ。勿論行儀は悪い、悪いがしかし許してくれ。これがいいんだ。まあ、当然回りに迷惑かけるほどの事はしないが。

 

「けぷっ……フルーツ多目は、失敗でした」

「無茶しやがって」

「うぅ、しかし自ら多目にしたのに残すのは……」

「ほら、俺が余ったの食いますからよこして」

「め、面目ないであります……」

 

 ちょっと昔のまだ落ち着きのあった頃のジータを思い出す。胃が小さいような頃は、よく食べ切れないくせに粋がって飯大盛りにしては、食べきれないと泣いて俺とビィが食ってやったものだ。まあ、そう経たずして運動量の増加に伴って俺以上に食うようになったが。

 

「あらあら、仲の良い御兄妹ねぇ」

「面倒見のいいお兄さんだこと」

(ハッ!?)

 

 ついつい昔の頃を懐かしみ、面倒を見てしまったが、その時聞こえる喫茶店に居るおばあちゃん達の声。と言うか他の客もなんとなく俺達を見てる……微笑ましい視線で!!

 

(お、落ち着け……そう、兄妹と思われてるなら、まだいい……。そうだ、これで事案とか言われて通報されるとヤバいが、大丈夫だ。ロリコンとか言われて少し疑心暗鬼になってるな……)

 

 幸いにもいかにも憤慨してしまいそうなシャルロッテさんには、聞こえてなかったようだ。他人の噂を気にしすぎてもいい事は無いな。だが噂をそのままと言うわけにもいかないし……困ったものである。

 

「どうかされたでありますか、ジミー殿?変な顔をして」

「……嫌な噂されるといやだなーって事思い出しましてね」

「噂、でありますか……」

 

 噂について言うと、途端にシャルロッテさんの顔が曇り出す。ここで俺は、直感でこの話題に彼女の失踪について鍵があると感じた。

 

「シャルロッテさんも、なんか言われたんすか?」

「うぅ……まあ、色々と」

 

 少し押せば聞けるなこれ。今こそ彼女の秘密を探る一歩、押しに弱いだけが俺じゃない、押す事だって出来ると照明してやる。

 

「誰に聞いたんだか……酷いもんですよ、噂ってのは。あること無い事ばかり。言った覚えも無いのに、俺の女性の好みとか趣味趣向とか……」

「皆誰しもが何かを噂されるのでありますな……ジミー殿」

「はい?」

「ジミー殿は、小さな女性をどう思いますか」

 

 空気が死んだ。

 

 ■

 

 四 黒い謎生物「迂闊に話題振って、ロリコン疑惑自ら広めた男がいたんだってよ~」某風星晶獣「ナ~〜二ィ〜~!? ヤッチマッタナwww」

 

 ■

 

(その聞き方は、まずいですよシャルロッテさんん゛ん゛っ゛!?)

「ハーヴィン族は、小さいことを理由に、色々と言われる事は少なくないであります。ジミー殿は、小さいのは、ダメとお思いでありますか」

(その言い方もまずいですよお゛お゛ーーーーっ!?)

 

 さっきまでの微笑ましい視線が、俺一点に集中、冷えた視線に変わった。死にたい。

 

「そ、それはぁ……ど、どういう意味でですかー?」

「……前お話したように自分は、リュミエール聖騎士団の団長であります。けれど、騎士団の団長がハーヴィンである事に不満を持つ者が、騎士団内外に居る事をしりました」

「あ、仕事の話ね!ハーヴィン、そうねー他に比べて小柄な種族だから、うん!言われるよねー!!」

「……?何故声を大きくするでありますか?」

「ちょっと必要だったんで……」

 

 何とか俺への視線が和らいだが、まだ疑念が晴れきった気がしない。だがこれ以上の弁明は、露骨でむしろ悪手かもしれん。シャルロッテさんに対しても不信感を与えてしまう。畜生。

 

「ま、ままあ……なんだ、そのー言いたい事は、分かりました。何をどう言われたかは、聞く気は無いですけど、ほっときゃいいんじゃないですかね。噂なんて、根も葉もない事。有名税なんて言葉ありますけど、騎士団トップともなりゃそんなもんですよ。嫌ですけどね、そりゃ勿論」

 

 これね、同時に自分に言い聞かせてるのね。

 

「それは、確かに最初はそうも思いました……けれど誇り高き騎士団と仲間達までもが嘲笑されるのは、自分耐え切れないのでありあます!」

「はあ……まあ、確かに仲間とかまで色々言われちゃあねえ」

「ハーヴィンである事を怨みこそしませんが、やはりそのような事を言われてしまえば、見返したいと思ってしまうであります。自分が、ヒューマンやエルーンのようにスラリとした身長に、ドラフの様なメリハリある肉体には、憧れがあります……」

 

 一般的女性やドラフのようなシャルロッテさん……いや、なんか違うな。ダメじゃないが、なんか違う。

 

「まあ、そのままの良さと言うのもありますし……」

「しかし自分は、もう24の大人の女性であります!なのに子ども扱いされるのは、やはり我慢なりません!」

 

 24が大人かと言われれば、まあ成人女性だけど成人してたかだが4年の人じゃあ、まだまだ若いと言われそうにも思えますがねえ。

 

「……ジミー殿は、ハーヴィンでも身長を伸ばせると思いますか」

「物理的にですか?」

「言い方がなんか怖いであります!違うであります、もっとこう身長が伸びる薬とか、魔法的なのも込みで聞いてるであります!」

 

 背骨増やすとかじゃないのか。薬ねえ……まあ買わんし頼りたくないな、怖いわ、それこそ、身長が伸びる薬とか。あと魔法はなあ……こっちありそうだけど、なんか対価払わされそうでやっぱ怖い。

 

「どっちもあっても、なんか怖いんでやです俺」

「むう」

 

 ちょっと不満だったのか、頬を膨らましながらオレンジジュースを飲むシャルロッテさん。多分そう言う仕草が子供っぽく見られるかと……だが言わない、あとカワイイ。

 

「……ふふふ~しかし実は、自分密かに身長を伸ばす秘薬や魔法の存在を調べたのであります!」

「調べたんすか……」

「し、信憑性は高いでありますよ?薬に至っては、実際に背が伸びたと言う評判も各島で聞いたでありますし」

 

 俺の中でそれはなお更信憑性が下がるがそれは……。

 

「……え、と言うかまさかそれ手に入れに行くんすか?」

「まあ、ええ」

「場所の目星は……」

「薬の方は、一応……あと自分の姿を変えれる泉とか、そう言うのはまだ具体的には」

 

 この空には、そんなに見た目に関しての薬や伝説があるのか……俺知らなかったよ。けど自分の姿変えれるなら、イケメンとは言わないがもうちょっと覚えてもらえる姿にしたいかもしれない。いや、信じてないけどね?あったらまあ、いいな的な?

 

「けど騎士団の仕事あるんじゃあ……」

「あ、いや……ああ、心配無用であります。ちゃんと休みをとっているであります」

 

 今目が少し泳いだね?……待って待って……俺の情報じゃシャルロッテさんは、現在【騎士団査察】を理由に国を出て以来突如姿を消し失踪とコーデリアさんから聞いた。その本当の理由は、って言う話だけども……えっ!?これっ!?リュミエール聖騎士団現騎士団長失踪理由これもしかして!?俺コーデリアさんに言うのこれ?「シャルロッテ団長、背伸ばしたいってよ」って言うの!?

 

「どうしたでありますか?また突然顔色が悪いですが」

「いや、ふと知人に伝えるべき事を思い出して……ちょっと伝えづらい事だから気が重いなぁと……」

「なるほど、そう言った事は自分も身に覚えがあるであります。仕事柄部下には、厳しくとも心を鬼にしても言わねばならない事もあるゆえ」

 

 正に貴女の事だけどね言い辛いこと。と言うか、正に貴女の部下に言わないとダメな案件なんだよ、心を鬼にして貴女の事言わないといけないんだよ、言い辛いけど!!

 

「まあそう気に病まず、後でまた美味しい物を食べるであります」

「はい……ありがとうございます」

 

 どう言やいいのさこれ……。

 

 ■

 

 五 その頃の、空

 

 ■

 

「明後日の昼頃には、アウギュステか」

「羽を伸ばすには、丁度いいぜ」

「お前には、文字通り羽があるしな」

「まあな!」

 

 蒼き騎空艇グランサイファーの甲板で、ビィと語り合う一人の男。舵を取る姿が様になる彼はラカム、グランサイファーの操舵士であり【ジータと愉快な仲間たち団】の一員でルリア達と空に旅立ってから最初に仲間になった一人であった。

 

「よろず屋には、ビーチで開いた新しい店にも招待されたしな、たまには帝国だとか星晶獣だとかの事忘れてのんびりしたいぜ」

「オイラも最近戦ってばっかで疲れちまったよ」

「お前は、別に戦っては無いだろ?」

「馬鹿言うなよラカム!オイラだってな、立派な騎空団の一員だぜ!オイラがいなきゃ、誰がジータの暴走とジータの暴走と、あとジータの暴走を……」

「あ、悪かった……だから戻ってこいハイライト」

 

 自分でジータの事しか出てこない事と、その時の事を思い出したのか目がどんどん死んでいったビィを見て、ラカムは途端真顔で謝罪した。

 

「まあ、そう言うのから逃げるために休むんだけどな」

「あ、ああ!そうだよな!オイラ、アウギュステに着いたらよろず屋に兄貴の事も聞くんだ!」

「ああ、例の故郷で世話になったって言う奴か……星晶戦隊(以下略)の団長って話だが、それだけの男なのか?」

 

 ラカムも最近噂の星晶戦隊(以下略)の事は、聞いている。星晶獣6体だとかそれよりも多いとか、それに負けない濃い面子を従える騎空団、それを率いる男の事を、一騎空士としても気になった。

 

「うーん、ザンクティンゼルにいた頃は、そんな強いとか気にしなかったなあ。けど……」

「けど?」

「考えてみれば、オイラ以上にジータに付き添って色々巻き込まれてたから、何時の間にか鍛えられてたって事は、あったかもしれねえなあ」

「俺、お前の兄貴が一気に気の毒に思えて来たぜ……」

「オイラは、当時から気の毒に思えてたよ……」

 

 脳裏に浮かぶ満身創痍の少年の姿に涙するビィ。まだ顔も知らぬ少年があのジータに振り回される姿を想像し思わず黙祷するラカム。だが、別に死んでいない。

 

「もし会えたら、そいつに何か奢ってやるか……」

「そうしてやってくれよ。きっと喜ぶから」

 

 金銭面的に彼は、奢ってもらうと本気で喜ぶがその事をまだ彼らは知らない。そしてアウギュステにその少年が居る事も知らず、帝国がまた何かやらかそうとしている事も知らない。

 皆、何もまだ知らないのだ。

 

 

 ―――星晶戦隊(以下略)、ギュステバカンス三日目。【ジータと愉快な仲間たち団】アウギュステ到着まで、あと二日。

 




今回のイベントも楽しいですね。ところで多くの騎空団には、巨人をうなじ事吹き飛ばせそうな方が結構いるんですが、それは。

ジータは、病んでるのか。もうちょっとしたら判明。

本当は、カリおっさん出したいんだけど、うちおっさん居てもクラリスいないのね。おっさん出す以上、クラリス出さないとってのもある。まあ、取り合えず出すかもしれないのねん。

12.11 
ザニス高地への移動法を、改めてゲームを確認してたら、アウギュステの11章の場所を選択した説明がザニス高地なのですが、10章を選択した時のラヤの水辺の説明に「ザニス高地に至る砂浜」とあり自分の考えた場所が全く違うと判明。やっちまったぜ。
詳しい地理がわからないので、ラヤの水辺と大瀑布の中間をザニス高地として考えて修正しました。ただし、11章の場所が、ザニス高地である場合もあるので、また修正するかもしれません。
ここ独自の設定なので、ご注意ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

団長=爆弾、その他=火種

あと2~3話でアウギュステ終わる感じ 

【追記 2018/01/26】 2~3話じゃ終わらなかったよ……


 ■

 

 一 告げれぬ真実

 

 ■

 

 結局、俺はコーデリアさんにシャルロッテさんの「身長伸ばすから、騎士団休んじゃった(テヘペロ)」を伝えれずにいた。取り合えず何か個人的に思う所あっての失踪、とだけは伝えておいたが全部を話す気には、まだなれなかった。

 俺は、シャルロッテさんの言う理由を呆れてしまう一方で、騎士団と慕ってくれる仲間のためにと言う言葉も真実でもあるとわかってしまい、責められないと思ってる。あとは、ただ単純に高身長に憧れもあるようだ。

 それに、すぐにリュミエール聖騎士団の部隊がアウギュステに立寄るとシェロさんから聞いている。色々と面倒な事が重なりそうで早めに決着をつけるべきなのだが、かと言ってシャルロッテさんの話を聞いてしまった俺は、コーデリアさんにとっとと正義審問とやらをしてくれと頼みにくくなってしまった。

 上手く全部丸く収めたいものだが、俺にはそんな力も知恵も無く、宿の窓から夜のアウギュステを眺めているだけしかできない。なお同室のフェザー君はもう寝てるし、B・ビィは、ハレゼナの抱き枕と化したので別室だ。合掌。だが静かで考え事をするにはちょうどいい。

 

「か、語り合おうぜ……っ!」

「ぉおうっ!?」

「こ、拳で、語りあぉ……むにゃむにゃ」

 

 いや、フェザー君は寝てても煩かった。起きているよりはいいけども。寝相悪いなあ、ほらもう布団落ちちゃってるじゃんかー風邪ひくぞ、んもー。

 ……よしよし、フェザー君は大人しくなったね。これでもう一度考え事に集中して……。

 

「ヨォーシッ!夜ノギュステデ飲ムゾォーッ!!」

「今いないリヴァイアサンの分飲めるからなっ!!」

「あたし今日いいお店みつけたにゃ~!」

「オオ、行コウ行コウッ!!」

 

 ……宿の玄関から出ていく見慣れた(笑)二人とドラフ一人。もう日が沈んでると言うのに、煩い奴らめが。

 まあ、各々でアウギュステを楽しんでると言う事か。リヴァイアサンは故郷の海を満喫して、ゾーイもコロッサス達と食べ歩きをして毎日ホクホクしてるし、フィラソピラもクリュプトンの回転がいい具合だからまあ楽しんでるのだろう。セレストもルナールさんと色々本を見つけて楽しそうだ。コーデリアさん達もまあ、それなりにやっているようだし、ルドさんは……まあ、アレで上手くやってる方だろう。ハレゼナはB・ビィと言う犠牲のおかげで実に楽しそうだ。

 俺は……どうなんだろう。楽しいと言えば楽しいのかもしれないが、リュミエール聖騎士団の問題を抱えてしまった以上気が抜けない。明日含めあと四日か……なーんか、嫌な予感するんだよなー。大丈夫かな、俺……。

 

 ■

 

 二 赤と青の二人

 

 ■

 

 団長が頭を悩ませ宿の窓辺でウゴウゴしている。その姿を、夜の闇に紛れて覗き見る二つの影があった。

 

「あれか、例の騎空団の団長って言うのは……」

「そーそー、あのジータちゃんの幼馴染って言う少年ね」

 

 二人の男女。彼等は、一見ただの少年にしか見えない団長を星晶戦隊(以下略)の団長と知って見ていた。

 

「……あたしには、頭抱えて窓辺で項垂れてる気の毒な奴にしかみえんが……」

「僕にもそう見えてるよ。あはは~きっと苦労してるんだろうね~。結構気が会うかもな~」

「お前が何に苦労してるって言うんだ」

「いやいや~?僕かなり苦労してるよ?日々依頼をこなし暗躍し、それにちょ~っとふざけるとお尻刺してくる相棒の相手をし……」

「……」

 

 男の軽口が気に障ったのか、女の方が腰の剣を引き抜き血が出ない程度に男の尻に剣先を突き刺した。

 

「いってぇ!?ご、ごめん!じょ、冗談です、じょーだん!だから無言で刺すのやめてっ!?」

「じゃあ、刺すからな」

「いってぇえ!?よ、予告すればいいってもんじゃないと思うんだ僕っ!?」

「うるさい……それで、どうする。特にあいつに関しては、依頼は受けていないぞ」

 

 女の冷えた視線に多少の不満を覚えつつもまた刺されてはかなわないと男は、大人しくなった。

 

「切り替え早いな~……うーん、まあ確かにそうなんだけど~ただ僕としては、一度ぐらいはちょっかいかけとこうかな~って思うよ」

「なんでだ、態々相手するのか?」

「別に戦うわけじゃないよ?尤も本当にジータちゃんの幼馴染とかならどーせ戦う事になりそうだけどね~」

「まあな」

「あと最終的にそっちの方が良い方に転びそうな感じがするだよね~」

「なんだそれは……」

「んふふ?始めは敵対してて後々仲間なんて展開面白いと思わない?」

「……」

 

 女がまた剣を抜く。

 

「あ、まって刺さないで!」

「お前がふざけた事言うからだ」

「まあまあ……それにさ、単純に気にならない?」

「何が」

「星晶獣をただの騎空団の一員として率いてる少年の力……そうそういるもんじゃないよ。あのジータちゃんと同じでさ」

 

 男に言われ、女がもう一度窓辺の少年を見た。相変わらずウゴウゴしている少年、だが確かに「噂通りとしたら……」と彼の存在が気になった。

 

「……確かにな」

 

 そして直ぐに二人は、夜の闇に消えて行った。

 

 ■

 

 三 珊瑚を見に行こう

 

 ■

 

 今日はね、昨日ザニス高地へ行く過程で通り過ぎたラヤの水辺をのんびりブラブラすると言う予定でした。

 予定でした。はい、過去形です。

 

「シャルロッテさん、こっちは異常なしでーす」

「了解であります、ジミー殿!」

「次の巡回ルートは……あっちっすね」

「それでは行きましょう」

 

 俺らが今何してるかって?観光?違うんだなぁ~これが(諦め)。

 今朝方俺とシャルロッテさんが、ラヤの水辺を見て回ろうかって話をしながら待ち歩いてたら出たんですよ、ええ、よろず屋シェロさんが。またねえ、カワイイ笑顔でニコニコ来るの、俺の方向に真っ直ぐ、ええ、ええもう一直線。可愛くても怖いです。

 

「おやおや~また、奇遇ですね~」

「……本当に偶然ですかい?」

「勿論偶然ですよ~?そして、ちょうどお二人にぴったりな依頼があるのも偶然です~うふふ~」

 

 嘘つけいっ!

 

「依頼でありますか?」

「実はですね~ここ最近珊瑚の密猟をする密猟者が現れるそうでして~。珊瑚は、アウギュステの重要な観光資源ですから~許可無く獲るのは、勿論違法ですし~生態系が崩れてしまうと、今後の珊瑚礁への影響が懸念されてまして~」

「むむ、不埒な輩でありますな」

「複数犯では無いようなので~腕利きの誰かに依頼を出そうと言う事になりましてですね~ちょうどラヤの水辺方面へ行く方を探してたんです~」

 

 貴女昨日俺達またラヤの水辺行くって話し聞いてたよね?ねえ?

 

「ジミー殿、ここは一つよろず屋殿の頼みを聞こうではありませんか」

 

 ほら、この騎士道精神の塊。昨日俺が「いいよ」したから遠慮がないぞう。

 

「まあ、依頼受けるのはいいとして何すりゃいいんです?」

「珊瑚礁の巡回と怪しい人間が居た場合の対処ですね~ようは、捕まえて欲しいわけです~」

 

 軍とかの仕事ではないんだね。組織的犯罪ならまだしも、一人二人の犯罪者なら騎空団とかに依頼を出すわけか。

 

「珊瑚礁見て回れるなら……ついでって事でいいか」

「ありがとうございます~」

 

 と言う事で俺とシャルロッテさんは、ラヤの水辺周辺に広がる珊瑚礁で巡回作業をしているわけで……しかしここは珊瑚礁が迷路の様になっているので、ただ巡回すれば良いと言う訳でもなく更に魔物も出る。

 

「オラァ!!」

 

 まあ雑魚なのでここ最近の鬱憤を晴らさせてもらう。すまんな魔物達、俺の諸々のストレス源を怨みたまえ。本来休日なので、俺達は武器を宿においてきてる。精々護身用の短剣があるぐらいだ。なのでシェロさん提供の実に安価な武器を使っているがまったく問題ねーなこれ。

 

「うむむ……やはり強い」

 

 あと魔物と戦う俺を見て目を細めながら唸るシャルロッテさん。

 

「武者修行とは言いましたが、どう言った方々に師事されたのでありますか?」

 

 どういった方々と言っても……田舎に居るばあさんと星晶獣ですが。だがそれをそのまま言うわけにもいかない。下手すると星晶戦隊(以下略)とバレる。

 

「まあ……武芸の達人とか言われた化け物みたいな人とか、6属性のプロフェッショナルとか……」

 

 うん、嘘ではない。

 

「ほお~それは、自分も一度手合わせ願いたいでありますな」

「止めた方がいいっすよ、マジ殺しにかかってくるんで。真空波で切り刻もうとしたり、熱波で焼き殺そうとしたり、濁流で押し流そうとしたり……」

「それ本当に修行でありますか」

 

 一方的な虐殺とも言います。思い出すだけで眩暈がしてきた。修行の時ばかりは癒し組すら鬼と化すからな。優しい顔したユグドラシルでもえげつない戦法とる時あるし。全方位土壁で囲って押しつぶすとか。

 

「正直俺は、もう修行なんてしたくないです」

「何故でありますか?鍛錬は心身を鍛えるでありますよ」

「いや、俺さっき言った化け物みたいな人に強制されたんで……本当は、もっと気ままに生きたいのです」

「はあ、実にもったいないであります……」

 

 そう惜しまれましても……。

 

「騎士団の部隊長でも申し分ない……いや、それ以上……」

「だから俺その気無いですって」

「うむむぅ……しかし、自分達リュミエール聖騎士団はいつでもその門を開いているであります。気が変わったらいつでもどうぞであります!」

「はいはい……」

 

 シャルロッテさんの視線が徐々にシェロさんっぽい視線になってるんだよなぁ。俺、狙われてる?騎士団強制入団とかないよね?いやいや……そんなまさかね。

 

「……あ、シャルロッテさん待った」

「はい?」

 

 シャルロッテさんを俺の後ろに下げる。直ぐに(一応)元ハンターであるルドさん手製の魔物威嚇用の癇癪玉を取り出す。それをそのまま俺達の後方にあるデカイ珊瑚の影に放り投げる。投げてから数秒で破裂、すると……。

 

「わ、わわわっ!?」

「ちっ!!」

 

 ドンパチドンパチ破裂する癇癪玉に驚いて二人の人間が飛び出してきた。

 

「む?曲者でありますか」

「ええ、気のせいと思ったけど……なんすか、あんたら。俺等の後つけて」

 

 エルーンの男とドラフの女、魔術師と剣士っぽいな。二人組みで特に腕章も勲章も無し……騎空士って感じでもない、傭兵かな。

 

「たはは~まいったねえ、まさか気づかれるとは」

「お前がうろちょろするからだ」

「えぇ~!?僕の所為なの~!スツルム殿のデカイ部分がはみ出してたんじゃないの~?」

「……」

「いってええ!?ご、ごめんって!!ごめん、スツルム殿ごめ、いったああ!?」

「流れの夫婦漫才師だろうか……」

「単に愉快な二人組みかもしれません」

「違うッ!!おいドランク、お前が余計なこと言うからだッ!!」

「ええ、また僕っ!?ってっ!?ごめ、はいスミマセン!!僕が悪いですごめんなさい!!」

 

 何なんだこいつら……。

 

 ■

 

 四 夫婦漫才 【スツルムドランク】

 

 ■

 

 俺達の後をつけていた二人組。ドラフの女はスツルム、エルーンの男はドランクと名乗った。つけていた理由は「おもしろそうだから」だそうだ。舐めてんの?

 

「いやいや、真面目な話しさ~お兄さん達強いよね~迫る魔物をバッタバッタ倒していって見てるこっちが気持ち良いぐらいだよ!」

 

 ドランクさんとやらがヘラヘラと話すがまるで真意が見えない。

 

「流石に“おもしろそう”なんて理由でつけられちゃ堪らないよ」

「いやごめんね~あんまりにも強いから見たくなっちゃってさぁ~」

「子供かあんた」

「子供のままでかくなったんだ、コイツは」

「酷くないスツルム殿!?」

 

 力関係はスツルムさんが上か。

 

「貴女も物見遊山気分でつけたでありますか?」

「あたしは無理やり……ただの付き添いだ」

「止めてくださいよ保護者」

「誰が保護者だ。こんなヤツの保護者なんてごめんだ」

「まあ気持ちは分かるけども、軽薄そうだし」

「それにいい加減なんだ」

「あと破廉恥そうであります」

「あれあれ~?僕もしかして盛大にディスられてる?」

 

 第一印象でここまで言われるとは、中々やるなドランクさん。

 

「まま、後つけたのは悪かったよ。興味本位って怖いね~」

「これ本当に反省してるヤツですか?」

「話半分でいいのでは?」

「半分以下でいい」

「あ、スツルム殿基本そっち側なんだね~僕ショック~」

 

 これ普段から辟易してるやつだ。俺スツルムさんの気持ちちょっとわかるぞ。

 

「それで?進めてどうぞ」

「投げやり……うーん、あ!じゃあこうしようか~!!お詫びに君達手伝ってあげる!なにかのお仕事中なんでしょ?役に立つよぉ僕達~?」

 

 唐突ぅ~。これ最初からこの展開狙ってたんじゃないのコイツ?

 

「これは、どうするでありますか?」

「多分首縦に振らないと、ズルズルくっついてくるパターンですよ」

「よくわかったな、お前の方が保護者向きだ。欲しいならやるぞ」

「謹んでリリース」

「アンド、リリースだ」

「再リリース」

「ねえ、僕泣いていい?」

 

 男に泣かれても鬱陶しいだけだよ。見たくもないし。

 

「スツルムさんは、まあ大丈夫そうですけど、ドランクさん戦えるですか?」

「やるやる、僕こう見えて強いんだから~」

「こいつはこれで魔法の腕は立つ。足手まといにはならない」

 

 さてどうするか……。

 

「作戦かーいぎ」

「どうぞ~」

 

 ドランクさんから許可得たのでシャルロッテさんとしゃがみ込んでコソコソ会議。

 

「さっきも言ったけど、断っても来ますよこいつら。と言うか、ドランクさん」

「自分もそう思うでありますが、どうも信用なら無い気がして……」

「信用なんて出来ませんよそりゃ、ただもしも不審な動きみせたら、即座に麻痺かけて縛って満潮まで魔物の巣に放置しましょう」

「ジミー殿時折怖いであります……」

 

 俺は、基本俺の胃に優しくないヤツには容赦ないのです。

 

「はい、それじゃあついて来ていいですよ」

「やったねえ!ありがとうお兄さ~ん」

「ただ変な事したら即座に麻痺かけて縛って満潮まで魔物の巣に放置して、樽に二人とも詰め込んで空の底にさよならです」

「もっと凶悪になったであります!?」

「君容赦なさ過ぎないっ!?」

「樽は二つにしろ、こいつと最期まで一緒なんて想像したくない」

「スツルム殿ほんっと酷いな~!?」

 

 こうして何故か俺とシャルロッテさんとの依頼に二人同行者が追加した。そもそも休暇中に何故俺は、依頼なんて受けてるのか甚だ疑問である。

 

 ■

 

 五 火種

 

 ■

 

「いたいたいた……あっち!ねえ!あっち行ったよ、あっちぃー!」

「ちくしょう、バレたかっ!?」

「あ、この野郎逃げるな!!」

「チョロチョロと……ネズミみたいなヤツだ」

「待つであります!」

 

 あの後直ぐに密猟者が現れた。別に現れるとは限らなかったが、姿を見せた以上捕らえるのが今日の仕事である。

 

「修行で蹂躙と言う名の鬼ごっこを経験した俺から簡単に逃げられると思うなよ……」

「ジミー殿本当にどう言う修行を……」

 

 マグナ6体から追われてみてください、気持ち分かるから絶対。

 

「んで、どうするの?パパっと派手に倒しちゃう?」

「珊瑚に影響がある事出来ないんで追い詰めて拘束!」

「追い詰めるのはいいが、相手の方が道を知っている。このままでは逃げられるぞ」

「そこは、任せて」

 

 走りながら懐から羊皮紙を取り出し広げる。

 

「マッピングは、基本だよねっと」

 

 迷路のように入り組んでいると聞いて、ここで仕事を始めた時点でちゃんと地図を作りながら進んでいた。帰り困るからね。ここ周辺の地図なら既に出来ている。

 

「この先三叉路は、どっちに曲がっても、最終的に開けた場所に出ますから、そこで挟み撃ちにしましょう」

「ジミー殿流石であります」

「マメだね~」

「お前も見習え」

「俺とシャルロッテさんは右へ行きます。二人は左から。途中また三叉路が幾つかありますが、全部右に曲がってください」

「わかった、右だな」

「じゃ、またあとで~!」

 

 三叉路で一旦別れ俺とシャルロッテさんも走り密猟者を追いかける。三叉路を曲がると、遠くに密猟者の後姿が見えた。まだまだ追いつける距離だ。しかし道は覚えているが、流石に慣れているヤツの走りには迷いが無い。追いつけないと困るから速度上げるか……。

 

「シャルロッテさん、ちょっとペース上げ……」

 

 俺の後方を走るシャルロッテさんを見て気がつく。体力にはまだ余裕がありそうだがハーヴィンの彼女では、どうしても俺との歩幅が違いすぎる。同じぐらいの速度で走っても追いつけないだろう。どうしようかな……。

 

「なんでありますか?」

 

 俺の困った視線に気がついたシャルロッテさん。

 

「……その、走るスピード上げようと思ったんすけど」

「え、あ……」

 

 何で俺が困ってるのか察したようで、何となく気まずい感じになる。きっと騎士になる前からこんな事で悩まされたんだろうなこの人。しかたが無いので、何時かのルナールスタイルで行く事にする。

 

「失礼!」

「うわあ!?」

 

 THE・山賊担ぎ。ただし今回は、脇に抱える形にする。

 

「突然なんでありますか!?」

「多分あのままだと面倒なやり取りになって、話がややこしくなるんで」

「だとしても担ぎ方はなんとかならないでありますか!?これじゃ人攫いであります!?」

「全ては依頼達成のため……正義のため」

「それらしい理由言えばいいわけじゃないでありますよ!?」

 

 色々言われているがその甲斐あってスピードアップ、ドンドン距離を詰める。仲間が居る様子がないし、シェロさんの言うとおり単独犯のようだ。アイツ一人捕まえれば終わりだな。

 とか考えている間に入り組んだ道を抜けて、開けた場所へ出る。

 

「はいは~い!さっきぶり!」

「げっ!?」

「追い詰めたぞ珊瑚泥棒、この野郎」

 

 反対方向から現れたドランクさん達と俺達に挟まれて密猟者が動揺している。ふふふ、見たか袋の鼠だぜ。

 

「ち、ちくしょう……捕まってたまるかよっ!」

「あ、コラ!!」

 

 往生際の悪い事に密猟者は、積み重なった珊瑚の壁をよじ登り出してまだ逃げようとする。ある意味小物犯罪者の鑑だな。だが逃がさん。

 

「シャルロッテさん、投げるんで頼みます」

「了解であります!……ん?投げ……」

「犯罪者め、シャルロッテ砲をくらえい!」

「あ、ちょま……っ!?」

 

 小脇に抱えていたシャルロッテさんを、砲丸投げのように密猟者へと投げ飛ばす。

 

「わああぁぁーーーーっ!?」

「は?あ、お、うおおぉぉーーーっ!?」

 

 結構な速度で投げたので、シャルロッテさんの悲鳴が上がり、また自分に向かって飛んでくるハーヴィンに驚く密猟者。

 

「も、もうやけくそでありますぅーーーーっ!!」

「ぐえっ!?」

 

 弾丸のように飛んでいったシャルロッテさんは、見事密猟者の頭に激突。がっちりとしがみついた。しかしパッと見おんぶだなあれ。

 

「捕まえたでありますよ、素直に投降するでありあます!」

「ふ、ふざけんな……こ、この……離しやがれ、ガキッ!」

「ガ、ガキ……ふんっ!」

「ぉぐえ……っ!?」

 

 ガキと言われてカチンと来たのだろう、シャルロッテさんは相手の片腕だけを持ち上げ、これを首に沿わせて両手足で固定。そのまま一気に閉め落とした。ハーヴィン流間接技(サブミッション)だろうか。いや、ちと違うか?まあいいけど。

 

「うーむ、流石騎士団長、剣が無くとも強い」

「君酷い事するね~」

「緊急時ゆえ致し方なし」

「そう言う問題か……」

「そうであります、酷いであります!」

 

 皆から不満を買ってしまった。特にシャルロッテさん。まあそうだろうね。ごめんなさいでした。だがのびた密猟者をズルズル引きずる姿を見ると、まあいいかってなる。そんでもって……はいまあ、密漁者はこれで確保。そのまま縛り上げてギュステの軍にでも引き渡せば終わりだ。

 ……ところで、今日って俺休日のはずだよね?

 

「貴様ら、そこで何をしてるっ!!」

「は?」

 

 突如大きな声が響く。

 

「貴様ら傭兵か?アウギュステの軍かっ!!」

「バカな、今ここで軍の動きは無いはず……」

 

 何かと思うと俺達の周りを武装した兵達に囲まれた。鎧が統一されており、アウギュステの傭兵ではない事が一目で分かる。

 

「帝国兵……」

 

 俺達を包囲した兵を見てシャルロッテさんが緊張した様子で呟いた。

 ……もう一回。俺、休暇のはずだよね?

 

 ■

 

 六 帝国はいつでも悪いやつ

 

 ■

 

「全員動くな、大人しくしろ!」

 

 銃を構えた兵が俺達を包囲し相手の指揮官が叫ぶ。帝国兵、実際には初めてみるな。ザンクティンゼルでの暴挙から俺の旅先での騒動の原因だったりと、ろくな事をしない奴等と言うイメージだが……。

 

「あらら~これは、まいったねえ」

「そこのエルーン、大人しくしてろ!!」

「ドランク、黙ってろ」

 

 ああ、撃つなこれは……変な事したら間違いなく。一先ず両手を挙げておく。

 

「ふむ……おいその男、ここで何をしていたか答えろ」

「……あー」

 

 チラリと視線だけでシャルロッテさんを見る。彼女は俺の視線に気がつき、僅かに頷いた。応えて良いって事だよね?

 

「何というか、ただ依頼を受けまして……」

「依頼?」

「珊瑚の密猟者が出るってんで……コイツね、コイツ」

 

 シャルロッテさんが気絶させた密漁者を足で軽く蹴って教える。

 

「それだけか?隠し事はしない方が身の為だぞ」

「そこの少年の言ってる事は間違いないであります」

 

 ここでシャルロッテさんがインターセプト。

 

「なんだ貴様?」

「自分は、リュミエール聖国はリュミエール聖騎士団の団長シャルロッテ・フェニヤであります」

「何……」

 

 シャルロッテさんの名を聞くと、帝国兵の間に動揺が走る。

 

「シャルロッテ・フェニヤ……確かに、リュミエール聖騎士団の団長が女のハーヴィンに成ったとは聞いているが……何故ここに」

「騎士団の任務ゆえ細部は話す事はできないであります。ただここに居るのは、密漁に困る方を助けるためにそこの少年と依頼を受けたからであります。傭兵の二人は、ここの巡回中に知り合って、依頼のために自分が個人的に雇った二人であります」

「そーそー、ほんとだよ?」

「ドランク、いいから黙ってろ……」

「うーむ……」

 

 相手の指揮官は、判断しかねる様子であった。よくわからんが、シャルロッテさんの存在がかなりいい感じに動いてるぞ。

 

「依頼発注者は、アウギュステの軍とよろず屋シェロカルテ、確認を取ればすぐにわかる事であります」

「むう……」

「逆に帝国兵がここでなにをしているでありますか?以前アウギュステでの暴挙はリュミエール聖国でも聞き及んでいるであります。またよからぬ事を企んでいるのでありますか?」

「こちらも任務だ。細部を語る事は出来ん」

 

 暫し、にらみ合いが続く。上げてる両手が疲れるんだが……。

 

「……いいだろう、おい」

「はっ!」

 

 指揮官の男が手で銃を下げるよう仕草で伝えると、直ぐに銃を構えていた兵達が銃を下げた。

 

「今は、互いに追及は無しとしようか、騎士団長殿」

「……致し方なし、でありますな」

「うむ。おい、戻るぞ!」

「はっ!」

「ではな、騎士団長殿。なるべく、もう会わぬ事を願う」

「ええ、自分もであります」

 

 帝国兵達は、ズラズラと隊列を組んでどこかへと去って行った。割と話の通じる隊長だったな。完全に居なくなるのを確認してから両手を下ろす。

 

「いっや~スリリングだったね~」

「冗談じゃないっすよ、こんなスリル」

「まったくだ……」

 

 別にあれぐらいなら負けるとは思わないけど、いらん騒動はお呼びではない。帝国と喧嘩するつもりはないぞ俺。

 

「……突っ立ててもしょうがない。一先ずコイツ引渡しに戻りましょう」

「そうでありますな。自分も少しやる事が出来たので……」

「あそっか~リュミエール聖国って帝国と友好関係なんだっけ?」

 

 ドランクさんが割りととんでも無い事言ったぞ。え、え?そうなの?

 

「……マジっすかシャルロッテさん」

「ええ、事実であります」

「ヤバイじゃないっすか。これ、国際問題的な……」

「いえ、ジミー殿が心配する事ではありません。それに、先ほどの男も衝突は避けたいようでした。いきなり国家間での問題にはならないであります」

 

 ああ、ちょっとほっとした。したけど安心できない。

 

「帝国、来てるのか……アウギュステに」

「バカンスって感じじゃないよね~」

 

 ドランクさんの軽口が炸裂、そりゃそうだ。だがジータの事もある。帝国には、思う所がありすぎだ。会ったら色々と確かめたい事があったが、しかしこれは……嫌な感じがするなあ。

 

 ■

 

 七 帝国過激団

 

 ■

 

「よろしかったのですか隊長。奴等をあのままにして」

 

 彼ら帝国兵は、現在極秘の任務を受けて行動していた。ゆえに部隊の隊長が作戦行動中、偶然出くわした二組の男女をそのままにした事に不安を感じる者が居た。

 

「もし奴等が我々の行動を調べてたとしたら――」

「わかっている。だがあのハーヴィン……シャルロッテ・フェニヤが本物だとすると、迂闊な行動はとれん」

 

 隊長の男は、リュミエール聖騎士団の団長シャルロッテ・フェニヤを直接見た事は無い。ただ小柄なハーヴィン種にして歴代最強と言われる者だとだけ聞いていた。

 帝国――エルステ帝国――は、現在ファータ・グランデ空域での勢力を一気に伸ばしている。その為に多くの国との争いは絶えない。だが、シャルロッテの所属するリュミエール聖騎士団本拠地リュミエール聖国とは、現在も友好関係にある。その事を勿論シャルロッテは知っており、この男も承知している。ここで無駄な小競り合いを起こしてしまえば、自分達の受けた任務の遂行に障害が出る可能性があった。シャルロッテが本物か否かを確かめる術が今無い以上は、危険な賭けをする気にはならなかった。

 一つ気になる点は、リュミエール聖騎士団の団長が持つと言う蒼の聖剣【クラウソラス】、それを彼女が持っていなかった事。理由は色々考えられるが、その事が彼にとって彼女が本物であるかわからない要因となった。

 

「だが、このままと言うわけにもいかんな……ユーリ!」

「はっ!!」

 

 隊長にユーリと呼ばれた兵がその場で敬礼し声を上げた。

 

「往来の激しいアウギュステとて、商人以外のハーヴィンは比較的珍しい。聞き込めば場所の特定は難しくないはずだ」

「では……」

「シャルロッテ・フェニヤと思われるあのハーヴィンの動向を探れ。我々の行動に支障が無いかを調べればいい」

「しかし、もしも我々の邪魔をするようであるなら……」

「いや、迂闊に手は出すな。お前では勝てん」

「そ、それは……」

「不満か?」

「い、いえ……」

「誤魔化すな、わかっている」

 

 実にきっぱりと「勝てん」と言われショックを受けるユーリを見て、カラカラと笑う隊長。兜で見え無いが、ユーリは酷く赤面した。

 

「お前も何度も強い者と戦えばわかる。何もしていない時ですら、その者の強さを感じるのだ……」

「うっ……」

「だが、本当にシャルロッテ・フェニヤであるなら、そう迂闊な事はしないとは思うが……だが我らに正義がある様に、奴等の正義もある。その時が来ねばわからんか……」

「しかし、帝国の正義が負ける事などあるはずがありません」

「……ふっ、ああその通りだ」

 

 強く真っ直ぐなユーリの答えに、これもまた隊長は笑う。だがこの笑いには、苦笑がある。

 

「隊長?」

「だがユーリ、これも覚えておけ。己の正義を信じる者は強いとな」

「己の、正義ですか?」

「自分の正義を信じるのは、間違いではない。だが相手も同じだ。だからこそ、正義を武器にするな。正義とは、掲げ背負う物だ。それが同じなら全ては対等、差を分けるのは、己自身の強さ、それが真の武器だ。忘れるな」

 

 ユーリの前に歩み寄った隊長は、握った拳をユーリの胸に数度軽く押した。鎧越しにユーリは、自分達をまとめ上げる隊長の男としての熱さを感じた。

 

「了解です、胸に刻みます!」

「よし、ならば今より行動を開始せよ!」

「はっ!!」

 

 再度敬礼し、ユーリは颯爽とミザレアへと向かった。それを見送り残った部隊は、そのまま本来の任務を続ける事となる。

 

「引き続き我々は、周辺の魔物の分布を調査する!海とは言え、遊びではない!気を抜くなよ!!」

 

 隊長の声に応えた部隊の兵達は一斉に散り、各々の任務へと走った。それを見て自分の部隊の練度と士気の高さに満足している隊長だが、未だ気がかなりな事があった。

 

(何もしていない時ですら、その者の強さを感じる、か。我ながらなんとも……シャルロッテ・フェニヤは、当然としてあの場にいた傭兵二人も相当の手練れだった……だが、あの男)

 

 脳裏に浮かぶのは、まるで顔がぼやけた様に印象の薄い少年。

 

(奴は何者だ……?底知れぬ強さ、シャルロッテ・フェニヤのモノと思ったが、あれは……)

 

 もしも、あの少年が星晶戦隊(以下略)の団長だとわかっていたのなら、彼の対応は少し変化し、ユーリに対して『シャルロッテ・フェニヤと共にあの少年も監視しろ』と言ったかも知れない。だとしても、大した違いは無いのだろう。この時点であのジータが来ているのだから。

 ”たられば”に意味無し。全ては、後の祭りだ。

 

 

 ――星晶戦隊(以下略)、ギュステバカンス四日目。帝国、アウギュステにて活動開始。【ジータと愉快な仲間たち団】アウギュステ到着まで、あと一日。

 




Sザンクティンゼルク人書き始めた当初から、若き義勇篇は考えてて、ユーリ君がメインでは無いにしても出そうと思ってました。なんか性格違ったり感じたらごめんなさい。ドランク、スツルム殿もしかり。
帝国兵全員がドランク達を知ってるわけでは無いと思うので、ユーリ達は黒騎士との関係は、あまり気がついてないと言う感じで。
あと本来の流れとは、もうすっかり違うので、そこら辺もご注意ください。

なんかシリアスな感じありますが、まあ団長君はいつも通りひどい目に遭うので大丈夫です。大丈夫?大丈夫。

正直団長君動かしやすすぎて、他にオリ主物考えてもコイツになる。

シャルロッテ団長、こんな「ありますあります」言ってただろうか……いや言ってる?

サプチケ、クラリス


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヤバイ奴等×アウギュステ×全員集合

あけましておめでとうございます。


 

一 ジータ100%

 

 

 アウギュステへと近づく一隻の騎空艇グランサイファー。【ジータと愉快な仲間たち団】は、正にアウギュステへと向かう中、幾つもの困難に直面していた。

 

「ぐおおぉぉーーーーっ!?な、なんつー風だっ!?」

 

 アウギュステへ残り僅かとなった時、グランサイファーに突如襲い掛かる突風。それもただの突風ではない。並みの騎空艇ならば、容易く吹き飛ばしてしまうような突風が右から左、前から後ろへと何度も何度も吹き荒れる。

 

「ラカムッ!?大丈夫なのかっ!?」

「大丈夫も何もやるしかねえ!!あぶねえから、お前らは中入ってろっ!!」

 

操舵士であるラカムが、必死に舵を握り離すまいとする。心配になって駆け寄ろうとするカタリナだったが突風の中では、まともに動く事もできない。それでも卓越した操舵技術を持つラカムのおかげでこの突風を抜けることが出来た。

そして、またある時――。

 

「ぬわあぁぁーーーーっ!?な、なんだぁ!?」

 

 頭上より降り注ぐ弾丸の如き雹の嵐が彼らを襲う。

 

「ひえええっ!?天井貫通してきやがったぞ!!」

「ビィ君危ない!こっちに来るんだ!!」

 

 拳ほどの大きさの雹は、幾つかがグランサイファーに激突し痛々しい傷跡を残すが何とかこれも抜け出す。

 そして、またある時――。

 

「ぐわわあああああああああっ!!」

「ラカムゥゥゥ!」

 

 突如の落雷により、ラカムが携帯する火気が爆発しラカムだけが吹き飛ぶ。

 こんな出来事が、数時間の間に連続して起きている。

 

「いや、明らかにおかしいだろっ!?なんだこの天候は!!」

 

 ボロボロになりながらも割と元気なラカムが誰に対してか怒りの声を上げた。

 

「なんだってんだ!?またヘンテコな星晶獣でも出たって言うのかよ!!」

「ち、違うぜ……」

 

 一人、この異常事態の原因に思い当たったビィが怯えた様子で声を上げた。

 

「……お兄ちゃん分不足現象だぁ」

「は?お兄ちゃん分不足?」

 

 ビィの呟きにラカムは、わけが分からないと言う表情であったが、一人カタリナの表情が強張った。

 

「ま、まさかビィ君……以前言っていたあの……」

「そうだぜ姉さん、あのお兄ちゃん分不足だ……まさか、もうここまで深刻な事になってたなんて……」

「オイオイ、待ってくれ俺にもわかるよう説明してくれ」

「あ、ああ……お兄ちゃん分不足とはな――」

 

 カタリナは、以前ビィからジータが無自覚に抱える異常な性質【お兄ちゃん分不足による偶発的トラブルの発生と天候悪化現象】の事を聞いていた。ジータが“お兄ちゃん”と慕うあの【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長と長い間会わない事で起こる無自覚の能力とも言える。

 効果は、様々でこの状態の彼女が移動すれば必ずトラブルが起き、あるいは今の様に異常な天候悪化をみせる。この事をラカムに説明すると彼は、呆然として天を仰いだ。

 

「オイオイ……あいつ、まだそんな滅茶苦茶な設定持ってたってのか」

「設定とか言うなよ……まあ気持ちは、分かるけどよう」

 

 そのジータだがボロボロになったグランサイファーの修繕を他の仲間と共に進んで行っていた。自分の所為であんな天気になったなど考えてもいない。純粋な分、文句も言いづらい。

 

「しかし実際問題このままでは、我々もグランサイファーも持たないぞ……ラカム、アウギュステまでは、後どれくらいだ?」

「本当ならもう着いても良かったんだけどな……今までのでかなりロスしちまった。到着は、夕方になるだろうな」

「まあ、ジータがいるからグランサイファーが沈むって事は、ねえと思うけどよ……」

 

 吹き荒れる突風、降り注ぐ雹、鳴り響く雷雨。全て最後は、ジータが先頭に立ち奥義で突風を相殺し、雹を全部吹き飛ばし、雷雨を生み出す雲を消し去った。

 

「逆にジータがいるからこんな事態になってるけどな……」

 

 ジータがいる以上は、彼らの命の保障はある。だがそれは、死なないだけでトラブルには遭う事を意味した。ラカムの指摘に一同ため息。果たして無事にアウギュステに辿り着けるのか?主に精神的に心配になってしまった。

 

 

二 何も知らぬ俺達

 

 

 今日、決めないといけない。

 と、シャルロッテさんとの待ち合わせ場所で気合を入れている。この状況でこんな言い方だと、まるで告白だが勿論違う。今日シャルロッテさんにコーデリアさんから【正義審問】を受けてもらう。

 昨日帝国兵と出会った事でアウギュステでの優雅なバカンス計画は、完璧に消え去った。シャルロッテさんに出会った時点で既に計画は壊れ出してたが、やつらが動いている以上なにかやらかすに違いないと俺の勘が告げる。そうなるともうリュミエール聖騎士団問題ものんびりしてられない。

 コーデリアさん達には、帝国の事は当然伝えている。休暇中で申し訳無いが動けるメンバーは、既に帝国の思惑を探るように指示を出し動いてもらった。マジでなんかアホな事する気なら後手に回る気は無いからな。その間俺は、シャルロッテさんの相手をしておく。そして日が沈む頃、シャルロッテさんを連れてコーデリアさんが待つ宿で落ち合う。そこでリュミエール聖騎士団関係とは、決着をつける。

 

「ジミー殿、お待たせしました」

「おお?」

 

 とか意気込んでいたら、突然腹が喋った。と思ったら、いつの間にかシャルロッテさんが現れていた。位置的に傍でシャルロッテさんが話すと腹が喋ったかと思うな。

 

「……今、お腹から声がしたとか思いませんでしたか?」

「ナンノコトヤラ」

「図星であります!?」

 

 なんと言う事だ、俺の巧妙なポーカーフェイスが見破られてしまったぞ。

 

「まったくもう、自分ジミー殿の考える事何となく分かって来たであります……」

 

 むむむ、そうは言ってもほんの四日程度、全てを見透かされるわけではないはずだ。

 

「ほんの四日程度じゃ分からないだろう、とか考えてるでありますな?」

「Oh……」

「顔に出てるであります」

 

 俺の顔正直すぎだよ!!ポーカーフェイスなんて無かった!!なんか、前もティアマトとかに似た事言われたなあ……そんなに分かりやすいかな俺。

 

「あー……そう言えば、シャルロッテさんは昨日大丈夫でした?その、帝国関係」

「そちらは問題ありません。少なくとも彼らが大きな問題を起さない限り自分が動く事は、無いであります」

 

 彼女が問題ないと言う以上追求は、出来ない。するとしたらそれこそコーデリアさんの仕事だ。

 まあしかし今は、ただ残り僅かでも二人でアウギュステを楽しむとする。シェロさんは、もうアウギュステに俺達がいる間は、依頼を出さないと言っていたので今日は、依頼も戦いも無い時間でアウギュステの街を楽しむ日なのだ。

 切り替え大事、これ本当。

 

「で、今日はどうしますか?」

「前は主に街並みを見て歩きましたが今日は、色んなお店を見て歩きましょう」

う」

「それってつまり」

「そう、ウィンドウショッピングであります!」

 

 うーむ、声高らか。妙に嬉しそうだな。

 

「ウィンドウショッピング、ふふふ、なんとも大人な休日の過ごし方では、ありませんか?」

りませんか?」

 

 あ、それで嬉しそうなのね。確かにミザレアは、見てるだけでも楽しいショーウィンドウがある商店が多いから如何にもなウィンドウショッピングできるね。他の島の商店じゃ、露店とかだから別にウィンドウショッピングじゃないし。ただそれを態々“大人の”とか言わなくて良いと思うんだ俺。

 しかしウィンドウショッピングと言うがそう言うのは、大体女物の服屋とかになるだろう。俺見てて楽しいかな?とは、流石に言葉には出せないがちょっと思っちゃう。

 

「商業都市ミザレアは、空中の珍しい品が集まる場所です。職人が手間暇かけて作った逸品に、最新のファッションが見られる……と言うのは、言うまでもないでしょう」

「そりゃま、前の街歩きでもある程度は、店を観ましたしね」

「ならば!今日は、更にじっくりお店を見て回ろうではありませんか!」

 

 ……これは、きっと自分が楽しみなんだな。シャルロッテさんの熱意が高

い。たぶん前もうちょっと店見たかったんだろうなあ。ブラギュステ、あれはあれ

でお互い楽しかったが。

 

「そんじゃ、まあ……行きますか」

「はい!」

 

 

三 何色チェイサー

 

 

「そんじゃ、まあ……行きますか」

「はい!」

 

 街角で待ち合わせをする二人の男女。その二人を気が疲れないようにひっそりと除き込む人影が一つ。

 

(やはり、シャルロッテ・フェニヤ。最近街中で見かけるという情報は、本当だったか)

 

 黒髪の少年、帝国軍兵士ユーリ。帝国軍の鎧兜を脱ぎ私服へと着替えた彼は、街の人混みへ見事溶け込んでいた。

 

(だがまさか今日直ぐに見つかるとは……)

 

 昨日隊長から指令を受けシャルロッテを探していたユーリだが、ミザレアで「蒼い鎧を着た金髪のハーヴィン女性」だけの情報で直ぐに足取りが掴めるとは、流石に思わなかったらしい。その上得た情報がどれもこれも可笑しなものが多かった。

 

「パツキンのハーヴィン?ああ、いるねえ最近一人」

「あの前お兄さんと歩いてた子でしょ?微笑ましくって覚えてるわよ」

「お兄さん?私ロリコンの犯罪者予備軍って聞いたわよ?」

「ああ、あのロリコン兄ちゃん?」

「けどハーヴィンだから、一応年上って聞いたけど?」

「合法ロリ狙った変態って話よね?いやだわぁ」

「お互い合意って聞いたけど?」

「それはそれでなんか、ねえ?」

 

 だんだんシャルロッテの情報でなく、共にいる男の情報になってしまったがともかく彼女の居場所が分かったので一応その点は良しとしたユーリであったが、ロリコン疑惑のある男が見た目幼いシャルロッテと共に歩いている姿を見ているとどうもハラハラしてしまう。

 

(そもそもあの男は、何者だ?何故シャルロッテ・フェニヤと行動を共にしている……昨日の件といい傭兵か騎空士かのどちらかだろうが……)

 

 歳若く青い帝国兵ユーリは、純粋に悪を許せぬ男だ。その点を見込まれ今の隊長からも若くして信頼を得ている。反面若さゆえの思慮の浅さがある。よく言えば真直ぐな男、悪く言うなら猪突猛進。

 

(うぅむ……推定無罪だが、あの男がシャルロッテ・フェニヤを狙った不埒な男と言う事もありえるのか?)

 

 どこか親しげな二人を見てその関係が分からないユーリ。

 

(帝国とリュミエール聖国は、友好関係……いや、それ以前にもしあの男が彼女を騙す破廉恥な男だとすると……捨て置くわけには行かないっ!)

 

 そんな事は、命令に受けてないぞ、あと飛躍しすぎ。と、誰か冷静なツッコミを入れればいいが、残念ながらここに彼の心情を知りツッコミを入れれる様な者はいなかった。

 

 

四 もう大体街でもロリコン認定

 

 

 ちがぁうっ!!と、唐突に叫びたくなった。何故かは知らないが。思わず周りを見渡す。

 

「どうかしましたか?」

「いや……誰かに噂されたか、見られてる様な」

「またスツルム殿達でありますか」

「そう言う感じでは……」

 

 一度覚えた気配は、基本忘れないようにばあさんに叩き込まれた。特にドランクさんは、独特の雰囲気があるからここまで気配感じたらドランクさんとわかる。あの流れの夫婦漫才師、では無く傭兵のスツルムさんとドランクさん。結局シェロさんに依頼達成報告をする前にそそくさと帰っていった。思えば帝国と出会った辺りから少し様子が変ではあったなあ。それでもドランクさんは、変わらぬ調子で「そんじゃ、また会おうね~」とヘラヘラ笑いながら手を振って、スツルムさんは「帝国には、精々用心する事だな」と忠告を貰った。全くもって謎の二人である。また会おうとは、単なる社交辞令か?どうも本当にまた会いそうな気がしてならないなあ……

 

「……いや、多分気のせいですね」

 

 流石にもう知らん、気にしてたら何も出来なくなる。きっと自意識過剰なんだ今、気にしすぎなんだ。そうに違いない。

 

「そうですか……まあ、そう何度も後をつけられる事はないでしょう」

「そうでそうです。まさかそんなねえ」

 

 あっはっは。と二人で笑う。

 しかしじっくり店を見て回ると前とは、やはり違う楽しさがあるな。俺が楽しめるかどうかなんて憂いだったな。楽しいです。

 まあ、ショーウインドーに並ぶ服なんて大体が女物で男物あっても、値段の方がわっはっはっは。

 

(まるで買う気が起きねえ)

 

 服にあんな値段出す気にならん。これは、ちょっと不満だ。俺には、普段の私服数着にジョブ用装備があればいいのだ。ティアマトのように服を何着も買いまくるような事をしない。

……ティアマトの事考えると途端不安になるなあ。やだやだ。

 まあ、なので俺は、並ぶ商品の出来栄えとか素材に注目して楽しむ。どこ産の布を使っただの、どんな有名な職人が手掛けただの、要はそんな所。

 だがシャルロッテさんは、俺とは別の要因でちょっと不満げな時がある。

 

「サイズが無いであります……」

 

 無いよね、サイズ……。ハーヴィン故の根本的過ぎる問題に直面する彼女を見てるといたたまれない。まあ、あるっちゃあるんだけどね、ハーヴィンサイズ。ただ、如何にも普段着って奴があるのと、それ以外だと自ずとね……子供っぽいデザインになる傾向があるようだ。サイズの関係だなあ。そしてそれは、シャルロッテさんの趣味ではない。彼女は、大人のレディな服が欲しいのだ。ただ実際ハーヴィンの体系で大人の雰囲気が出る服って言うのは、中々難しいだろう。

 

「ハーヴィンの衣類専門店とか無いんすかね?」

「中々そう言うのは……服飾関係でハーヴィンの専門店は、あまり聞かないであります……」

 

 需要の関係だろうなあ。ハーヴィン族が多く住む島に行けばあるだろうが、だがそんな事は、元よりハーヴィンであるシャルロッテさんが知らぬはずは無い。今までも色々見た上で気に入った服が中々無いのだろう。

 

「オーダーメイドとかしないですか?」

「そうなると採寸から何まで時間がかかってしまいます。騎士団の任務も忙しい故中々難しいであります」

 

 あんた背を伸ばしたいだけで騎士団ズル休みしとるじゃろうが。服作るより背を伸ばす方が早いとでも思ったか。

 

「ああ、これも中々シックで憧れるでありますぅ」

 

 ショーウインドーの中で輝く蒼が基調の洒落た服に憧れの眼差しを向けるシャルロッテさん。それを見て思わず苦笑する。リュミエール聖騎士団のイメージカラーっぽいのもポイント高いのだろうか。

 そんな感じのウィンドウショッピング。得る物があるようで無いような、ただ憧れを募らせるそんなブラブラ。だがウィンドウショッピングってそんなもんなんだろうなあ。

 思えばブラブラこんな大きな都市を見て回るのだって今回が初めてだ。ザンクティンゼルなんか基本が物々交換、金銭でのやり取りをする店なんて物好きの親父が趣味でやってる申し訳程度の雑貨屋兼宿屋がある程度。しかも宿屋なんて稀に立ち寄る商人が休憩で利用するぐらいで、俺が生まれてから使われた回数なんて両手で足りる。

 最初、ポート・ブリーズを見た時、空ってのはこんなに広いんだと思った。人がこんなに生きているんだと思った。ジータは、もうそれを知っていた。

 あいつは、今どこでどんな騒ぎを起こしているのだろうか。もう少し色んな島を見てまた会えたら、あいつが見て来たものを聞きたい。そして俺が見て来たものを教えてやりたい。島々を巡る度にそんな思いが増す。

 

「ジミー殿?どうかしたでありますか?」

「んあ?」

 

 と、唐突に物思いにふけってしまった。

 

「いや、誰かとこんな風に街を見て回るのって楽しいんだなって……」

「では、今まで誰かとこう言った事は?」

「前話しましたけど、田舎でしたからね。まあ、騎くう……っ」

「きく?」

「ああいや、そのぉ~きく~……、そうそう!人からそう言う話聞くだけなら何度かあったなあと。あはは」

 

 危ない危ない、思わず「騎空団の仲間ともあまりしない」とか言いそうになった。俺、今はまだ一般人ダヨー。

 

「そうでありますか。自分も故郷でよく出稼ぎ等で出かけ帰って来た大人達から外の話を聞いては、外の世界を見てみたいと憧れました」

「シャルロッテさんもっすか」

 

 そんな人は、きっとごまんと居るのだろう。俺もそうだった。だが彼女は、憧れをそのままにせず本当に外に出た。しかも有名な騎士団の騎士団長になるんだから凄いなこの人も。

 一方で俺は、外に出はしたが団の仲間に頭を悩ませ、財政難に頭を悩ませ、シェロさんへの借金に頭を悩ませ……悩んでばっかりじゃねーか。何と言うか世の中女性って強いんだなって思う。ジータは極端だが団員の女性、まあ殆ど女性だが皆何かと逞しいからなあ。

 

「……じゃ、どっかで飯食ったら他の服屋も見て回りましょうか。なんかいい感じの奴あるかもしれませんよ」

「ええ、ミザレアはまだまだ広いであります!」

 

 何はともあれ、きっとあっという間の今日を、まだ楽しもうと思う。

 

 

五 包囲網形成中

 

 

「バウタオーダ隊長!点呼完了致しました!」

「はい、どうもご苦労様です」

 

 アウギュステへと寄港した一隻の中型騎空艇。ある一国の紋章が刻まれ、蒼を基調としたその船は、あのリュミエール聖騎士団の所有する高速艇である。主に少数の部隊が移動する際に使用される。

 その船の上で乗って来た騎士団の部隊が集まり部隊の点呼を行っていた。その部隊を取り仕切る一人の大男、その体躯に加えて頭部から生えた雄々しい角が彼がドラフである事を物語る。

 リュミエール聖騎士団、部隊長バウタオーダ。騎士団の中でも「清く、正しく、高潔に」のモットーを強く体現する男。彼は、騎士団の任務でリュミエール聖国と繋がりのある幾つかの島へ書簡を届ける任務の最中であった。アウギュステへは、一日の休息のために立寄った。

 

「予定通り明日の朝にはここを発ちます。貴方達は、補充すべき積み荷を確認しなさい」

「はっ!!」

「さて……」

「バウタオーダ隊長!」

 

 バウタオーダが一息置いたタイミングを狙い、一人の団員が前に出て声を上げた。

 

「なにか?」

「補充すべき積み荷に関しては、すでにリストアップが完了しております!また数もそう多くなく、揃えるのにも時間はかからないかと!」

「ほう、それは関心ですね」

「それで、あの……」

 

 ハキハキと話していた団員だが、途端声が小さくなり、バウタオーダの様子を伺う。また他の団員もどこか「隊長察して、俺達の言いたい事」と言いたげだった。

 

「どうしました?続けなさい」

「え!あいやあのっ」

「おや、言えないような事なのですか?」

「そのような!ただ、その……おそらく、かなり空き時間が出来てしまうと思い、その時間は、その……」

「確かにそうですね……」

 

 もう一押し!と団員の誰かが小さく呟いたが前に出た団員は、馬鹿言うな!と言う意志を込めてバウタオーダに見えないように軽く手をパタパタと振って応えた。

 

「ふむ、最近は船の上で体も鈍っているでしょうから、鍛錬をするのも良いですね」

 

 瞬間、団員達が石の様に固まった。だがバウタオーダは、その様子を見て微笑みを返す。

 

「なに、冗談ですよ」

「と、と言うと……」

「任務が終わったわけではありませんが、今日は休息のために来たのです。空いた時間は、各々好きに過ごしなさい」

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、わっと団員達が声を上げた。せっかくの商業の島アウギュステへ来たのに何も出来ないでは、普段は生真面目な騎士団もたまらないようだ。

 

「ただし、あくまで任務中での休息です。わかっていますね?」

「はっ!!我ら栄えあるリュミエール聖騎士団ッ!!常に――」

「清くっ!」

「正しくっ!」

「高潔にっ!」

「よろしい」

 

 団員達が一斉にリュミエール聖騎士団のモットーを声に出した。それを見てバウタオーダは、深く頷いた。

 

「とは言え、まず食事にしましょう。せっかくアウギュステへ来たのですから」

「では、自分が以前友人から聞いた海鮮料理が素晴らしいと評判の店などどうでしょうか!」

「おやおや、リサーチは十分でしたか?初めから行く気だったようですね」

「あ、これは……いや、あはは」

 

 船の上で騎士達の笑い声が響いた。

 この時点で、まさかいつの間にか居なくなっていた自分達の騎士団長とひょこり出会ってしまうとは、思いもしなかったバウタオーダ達であった。

 

 

六 商売!商売!

 

 

 午後、食事を終えた俺達は、ウィンドウショッピングから屋台などの店を見て回る事にした。水路や道路で店を出している屋台は、食べ物なら地元で採れた海鮮焼き。雑貨でもやはりアウギュステで採れた珊瑚や貝などを利用した物を主に観光客向きに販売している。もう服を見てもサイズは無い、あと値段高いとあって俺達は、色々諦めていた。

 だが切り替え大事、これ本当(二回目)。

 

「イカ焼きうめえ」

「あちち、であります……」

 

 二人並んで香ばしく焼かれたイカを食う。飯は食ったが別腹だ。良い匂いで誘うイカ焼きが悪いのだ。食べ歩くから消化も直ぐだ。気にしない。

 

「一気に食うと中熱々だから火傷しますよ」

「ふぇぇ……」

 

 そしてイカ焼き本体とその中に籠った熱い空気をもろに口に受けてしまい涙目になるシャルロッテさん。舌をペロリと出して、あちあち言ってるがそう言う可愛い仕草自然にしないでくれ、俺に効く。

 

「あーもう、ほら俺のジュース飲んで、氷も一個口入れといて」

「あう~面目無いでありますぅ」

 

 一緒に買った冷えたジュースを手渡すと何度かコクリコクリと飲み、氷を一つ口に含んで舌を冷やした。昔ジータが同じ事何度かやって毎度水や氷で冷やす羽目になったもんだ。俺もビィも笑ってたなあ。

 

「ふはぁ……落ち着いたであります。ありがとうございました」

「いえいえ」

 

 きっと騎士団の人達ってこう言う所がツボなんだろうなぁ、シャルロッテさんの仕草と言うか言動と言うか歩く癒しと言うか。そりゃマスコット扱い受けるわ。きっと俺もそうする。

 そんな風に俺は、今までのストレスをシャルロッテさんに癒され、今後受けるであろうストレスもなるべくダメージを軽減しようと癒し成分を溜めていた。

 

「おお、ここでは雑貨などが多くあります!」

「貝殻とかのアクセサリーか……」

 

 飲食系の屋台通りを抜けると毛色が変わって今度は、雑貨系の屋台が多くなった。観光客へ向けての屋台だろう。どの店も色とりどりのアクセサリーを並べている。その多くがアウギュステで採れたであろう貝や珊瑚の加工品である。女性には、特に人気に違いない。

 せっかくだ、日ごろ頭を悩ませる要因でもあるが、何かと助けられている……うん、助けられてるうちの女性陣にでも買ってやるか。無論コーデリアさんとブリジールさんは、純粋に感謝を込めてである。それに値段は、そう高い物ではないし、それに大きい物でも無いから貰っても要らないならどっかしまえるだろ。

 あとフェザー君は、こう言うのよりどうせ「語り合おう!!」の方が嬉しいだろうし、コロッサスは、何でも喜びそうだ。まだ海にいるリヴァイアサンはちょっと良い酒でもあげればいいや。B・ビィは……リンゴでいいや。

 さて、そうなるとどの店で買うか。どこも似たような物だが値段が少し違ったり、セットで売っていたりと工夫している。それに自然の物の加工品だから形は、僅かに違う。気に入ったものを見つけねば。

 

「知り合いのお土産に買いたいんで、見ていいですか?」

「勿論大丈夫であります」

 

 シャルロッテさんの了承を得たのでじっくり見て回る事にする。まあ妥当なのは、ヘアピンかネックレスあたりだろうが……今更だが女性への贈り物で男からアクセサリーって色々重いか?ようわからん。

 

「うーむ……」

「お悩みですか?」

「ええ、どうしようかなって……知り合いの女性で何人かいるんすけど、考えたらアクセサリーって重いですかね」

「ああ~……まあ、勘繰る人はいるかも知れませんが、高価で無いなら気にしないのでは?とは言え、自分もそう言った事には、いささか疎いので何とも言えませんが」

 

 ですよね。うむむ、うちの女性陣が俺からアクセサリー貰った時の反応は、どんな風だろうか……。ティアマトはどうだろう?

 

『ダサッ。センス悪イ、買イナオセ』

 

 ……言われそうだ。次、ユグドラシルは?

 

『~~~~♪』

 

 うん、まあ純粋に喜ぶだろう、問題ない。では、シュヴァリエは……。

 

『ネックレス……つまり首輪ッ!!つ、ついにその気になったのか主殿ッ!?』

 

 うむ少なくともネックレスはやめておこう。セレストならどうだ?

 

『ふ、ふへ……あ、ありがとう……』

 

 よーし、大丈夫だ。いや、しかし彼女の普段着では、どう合わせる?ちょっと明るすぎるなここの品では……。いや、とにかく次にゾーイは……。

 

『綺麗だな団長、ありがとう』

 

 まあ、こんな所か?だが彼女の場合、食い気が強そうだな。

 他のメンバーも結局普段通りの反応をしそうだ。ラムレッダは、渡すタイミングを素面の時にしないと訳が分からなくなる。酔ってるとテンション上がって最悪吐く。アイツ昨日も飲み歩いて朝帰りでヤバかったからな。ティアマトも割とヤバかったが。

 フィラソピラさんは、感謝と一緒に変な問いを投げかけられそうだ。あとあの人は、甘味の方が嬉しいかもしれない。

 コーデリアさんは、眩しい微笑みと共に受け取り、イケメン返しを俺が食らいそうだ。

 ブリジールさんは、きっと真面目に感謝してくるに違いない。

 ルドさんは、ラムレッダと並んでもうわけわからんな、笑いで全部消える。

 ハレゼナは、うん多分「クレ~ジ~」で「ラブリィ」ぐらいがハイテンションで返ってくるだろう。

 ルナールさんは……仲間になりたてで一番反応がわからん。基本クールと言うか、反応薄い感じだし……まあ、普通にありがとうぐらいを言うんだろう。

 だめだ、考えたら余計全然わからんくなった。

 

「お?お客さんお悩みでっかぁ~?」

「ええ、知り合いに土産を買いたいんだけどね」

「うんうん、ほならアドバイスするさかい、ウチの商品見てってや~にしししし~」

「……うん?」

 

 商品覗き込んでて声かけられたが、この声めっちゃ聞き覚えあるんだけど。

 

「あ」

「あ」

 

 パッと顔あげて互いに間抜けな声を出してしまう。やはりカルテイラさんだった。

 

「なんや、あんたやったんか。下向いとってわからんかったわ」

「そっちこそ、店ここだったんですね」

「言うたやろ願いの橋近くで店出すって」

 

 そう言われれば船から降りた時言っていたな。しかし俺は、ここの地理に詳しくはないからあんま考えてなかった。

 

「あと来るの遅いわ」

「いや行くつもりでしたって」

「ジミー殿お知り合いですか?」

「うん?あんた連れがおったんか」

 

 ……しまった。やばいよ、このパターン。

 

「う~ん、誰やあ……って、その鎧リュミエールんとこの」

「はい、自分は栄えあるリュミエール聖騎士団の団長シャルロッテ・フェニヤであります!」

 

 ……思ったけど、シャルロッテさんって結構ホイホイ名乗るよね。それいいの?

 

「ほぉ~あんたが団長はんやったか……と言うか、あんたジミーって」

 

 訝しみ俺を見るカルテイラさんに対して俺は、シャルロッテさんに見えない角度で顔を強張らせながら「シーーーーッ!!」と指で黙っているようジェスチャーを送った。それを見て一瞬ポカンとしてすぐさま何時もの様にニンマリと笑った。わっはっは、商人って本当人の気持ち表情だけで読み取るの巧いね。二日前ぐらいに同じ状況ありましたけどね、ちくしょう!!

 

「にしししし、あっとそう言えば挨拶まだやったわ、リュミエールの団長はん。ウチ風読みの相場師カルテイラ言います」

「なんと!あの風読み殿でありましたか」

「にしししし、リュミエール聖国では、何度か商売させてもらいましたわ」

「はい、自分は直接お会いできませんでしたがお噂はかねがねお聞きしていました。しかし、まさかジミー殿とお知り合いとは」

「そうそう、ウチとジミーはんめっちゃ仲良いんですわ~、もう良いお客さんでな~」

 

 すんごい笑み。すっごく笑ってるよこの人。

 

「ジミー殿はシェロカルテ殿と言い商人のお知り合いが多いのですね」

「うん、まあ色々入り用な事があったりしたりなんかしちゃったりして」

「どっちでありますか」

 

 まさか一時俺の船に居たなんて言えんから誤魔化すほかない。せめてもう半日後会えてたら良かったんだか、おのれ。

 

「んで、あんた何悩んどったん?」

「今言った通り、”知り合いの女性陣”に土産でも買おうと思ってですね」

「なるほどそれでか……どーせ、アクセサリーじゃ色々重いかなとか思っとったんちゃうんか?」

「すげえ、よくわかりましたね」

「顔に出とるわ」

 

 またかよっ!!何なんだよ俺の顔はっ!!お気持ち伝言板でもついてるのか!!

 

「別に気にせんでええと思うけどな、あんたの”知り合い”ウチも知っとるけど、そう気にせえへんやろ」

「そう言われりゃそうなんだけども……」

「よっぽど悩むんやったら適当な銘菓人数分買った方が無難やって。後にも残らず食って腹ん中に消えて終わりや」

 

 むむ、確かにそうだ。食い物か……いや、しかし今俺達同じ場所にいるのにアウギュステの銘菓買って喜ばれるのか?

 

「それでも悩むんやったら、もう全部買いなはれや」

「うーん……」

 

 俺って優柔不断の時あるなあ……どうしようか。

 

「うごうごと、よう悩むやっちゃ……ああ、せやった」

「どうかしましたか?」

「あっと……団長はん、ちょっとジミーはんと個人的な商売の話したいさかい、ちょっとコイツお借りします」

「え?ああ、別にいいですが」

「ほな!」

「あ、ちょっと!?」

 

 突然カルテイラさんが俺の腕を引っ張り、そのまま強引に店の裏に連れていかれた。

 

「なんすか、なんなんすか?」

「今、ジミーにゃ用無いねん」

「おっと?……なんかありましたか?」

「あんた、帝国がアウギュステに来とるって知っとるか?」

 

 おっとその話かあ~まさかここでその話出るとは……。シャルロッテさんは、特に聞き耳を立てる様子も無かった。話しても大丈夫だろう。

 

「その事なら、丁度昨日帝国の部隊とかち合いました」

「あっちゃあ~あんたまた」

 

 何が”また”なんですかねえ?

 

「そう言う反応やめて下さいよ、別に戦ったわけでもないですし」

「甘いっ!そう言う考えが後々面倒な事を余計呼び寄せる事になるんやで!」

「うぐっ!」

 

 言わないでくれ、わかってる。俺にもわかってるし自覚はあるんだ。けど、希望を持ちたいのです。

 

「休暇中この話しするんも悪いかな思ったけど、意味無かったな。リュミエール関係だけでも既にトラブルに巻き込まれたみたいやし。な、苦労人の団長はん?」

 

 うるせいやい。

 

「ともかく、帝国の兵隊さんらなんぞ面倒な事しよるらしいから気を付けた方がええで?知ってるやろうけど、あいつら前もアウギュステで碌でも無い事やらかしたさかい」

「勿論、なんせ当事者のリヴァイアサンから聞いてますからね……まあ忠告ありがとうございます。一先ず今日中に面倒事は済ませれるはずなんで、そのあと様子見て行動します」

「島は離れんの?」

「そりゃあ、離れれるなら離れますけどね、なんかヤバそうなら適当にお節介でもしますよ」

 

 そう言うとカルテイラさんは、また一段と明るい笑みを浮かべた。

 

「人のええやっちゃ」

「別に、海とか荒らされるとバカンス出来ないからですよ」

「そかそか~にしししし」

 

 私はわかってるよ、って顔して笑うんだから、んもー、調子狂うなー。

 だが帝国が来てる事は、もう街で噂になっていると言う事だ。これは、今頃奔走してもらっている皆も何か情報を掴んでるだろう。確かに一騒動……いや、もっと何か面倒な予感がするな。

 

「ちょっと土産買うの後にします。バタバタしそうだし、別の準備した方がよさそうですから」

「ん、なら買う時はウチんとこで頼むで。アウギュステ銘菓も仕入れたるさかい」

「……買わないと?」

「ちょこ~っとウチの口が軽くなるかもしれへんな~丁度今、にしししし」

 

 この野郎!

 

 

七 降臨

 

 

 団長がカルテイラと出会う少し前、アウギュステへと一隻の騎空艇が近づいていた。所々がボロボロになっているがそれでも悠然と空を飛ぶその姿は、間違いなくジータ達が乗るグランサイファーであった。

 

「な、なんとかここまで来れたぜ……」

 

 操舵士であるラカムが、舵を握りながらも疲れ果てた様子で呟いた。

 

「ああ、全くだぜ……」

 

 それに答えたのは、傍に立つ眼帯を付けた一人の騎空士。名をオイゲン、歳は50とラカム達と比べると上だが、騎空士としての腕に衰えを見せる事は無い。以前起きたアウギュステでの事件を切欠に、事件を解決してくれた彼女への礼と己の目的のためにジータの騎空団へと加わった。

 ベテラン騎空士の彼には、凄まじい強さを誇るジータも助けられている。彼女も騎空士としては、未だ素人。島を巡る中で必要な多くの事を教えられ日々成長している。

 

「あの、なんだぁ……お兄ちゃん分不足か?まさか、嬢ちゃんの無意識の力ってのがここまでヤバイもんだとはなあ……」

 

 そんな彼も、この日起きたあの【お兄ちゃん分不足による偶発的トラブルの発生と天候悪化現象】には、驚きと恐怖を感じた。

 

「結局あの後も上に何もないのに滝の様な水が降り、砂も無いのに砂嵐、魔物の群れが壁の様に襲来……あとは」

「何処かの島の破片が高速で横切ったよ……」

「あれな……あんな破片、そもそもあの大きさで浮力を失わずあんな高速で動ける破片なんて俺も長い事空にいたが見た事ねえぜ」

「あれは、マジでヤバかった……まともにぶつかりゃグランサイファーの横っ腹に大穴開いちまったよ」

「ああ、だがそこはお前と嬢ちゃんのおかげで乗り切れたな」

 

 何故か現れた高速移動する破片、それを巧みに巨体のグランサイファーを動かしかわすラカム、そして避けきれない破片を吹き飛ばすジータの二人で全ての危機を乗り切る事が出来た。

 

「ビィの話じゃ、とりあえず島で落ち着いて飯でも食えば多少は良くなるらしいとさ」

「多少でしかもらしい、なのか」

「気持ちの問題だそうだから、とにかくリラックスさせる必要があるらしいぜ?ホームシック的な奴らしいからな」

「わかるような、わからないような……」

 

 つまりそれは、今までの災難がジータの心象風景であるようなもの、一見穏やかそうに見えるジータだが今彼女の心は、無意識に荒れていると言う事なのだろうか。そこまで”お兄ちゃん”に会いたいのか、とオイゲンは思った。

 

(……だが、家族の様なものなら、そうなのかもな。あいつも、心ん中じゃあそうだったのかもしれねえ……)

 

 一方で何か思う所があったのか、空のどこかを見つめるオイゲン。

 

「どうしたオイゲン?」

「いやなに、ちょいとお嬢ちゃんの気持ちが分かるようなきがしてな……」

「へー?なら何すりゃあいつを落ち着けられるかわかるか?」

「決まってるだろ、家族……お兄ちゃんに会わせないとな」

「そりゃわかってるんだって……」

 

 ビィから聞いた唯一と言える解決策、お兄ちゃんに会わせる。それがすぐ無理だから頭を悩ませているのだとラカムは訴えるが、オイゲンは妙に神妙であった。

 

「ん?オイゲン」

「ああ、見えて来たな」

 

 暗くなりそうであった雰囲気を消したのは、視界に見え始めた青い島。それを確認するとオイゲンは、ラカムの傍を離れ船内への入り口を開けた。

 

「おーい、お前等!!アウギュステが見えて来たぜえ!!」

 

 そのまま大きく声を上げて船内に居る乗員へ向かい叫んだ。彼の良く通る逞しい声は、グランサイファーの中を巡りそして彼女の耳へと届く。

 

「はーーーーいっ!!」

 

 オイゲンに負けぬ一際大きな返事が船の奥から聞こえて来ると同時にドタバタ騒がしい音と共に誰かが駆けて来る音がした。オイゲンは、その音を聞いて思わず苦笑した。そして、直ぐに自分の横を金髪の少女が素早く横切って行く。

 

「んもーっ!!ジータ待ちなさいってえっ!!まだ部屋の片づけ済んで無いでしょおーっ!!」

「たくよう……さっきの騒動で船内荒れ放題だってのに……」

「はわわ……ま、待ってくださぁーい……」

 

 遅れて聞こえて来る仲間の声。結局どんな事があってもいつも通りなのだと思うと、オイゲンはこの騎空団の仲間、そしてその団長が頼もしく感じられた。

 

「見えたっ!!」

「おいっ!!前も言ったが航行中は、あぶねえからそこ登んなっ!!」

「あ、ごめーんっ!!」

 

 グランサイファーの船首へ上り遠くに見えるアウギュステを見てはしゃぐ少女を怒鳴るラカム。彼女は、謝りながら船首を降りると今度は、オイゲンの元へ駆け寄った。

 

「ねね!オイゲンさん!前はあんまりゆっくり出来なかったから、ミザレアの街案内して!」

「おおいいぜ!知り合いがやってる美味い飯屋紹介してやるよ!」

「やったあ!!」

 

 どんな事でも感情を一杯に表す少女を見てオイゲンは、どんなに強かろうが、どんな風に思われようが彼女は、兄と慕う者と離れれば寂しくなり、どんな事でも一生懸命な年相応の少女なのだと実感した。

 

(こんな風に、あいつと過ごしてやればよかったんだよなあ……)

 

 誰を思ってか、自分が自ら手放してしまった可能性を考える。そんなオイゲンの思いを知る事も無い少女は、今度はいつの間にかラカムの隣にまで来ていた。

 

「早く着かないかなー」

「おいおい、あんな事があってグランサイファーも本調子じゃねえんだ。島が見えたとは言え、焦らせないでくれよ?」

「えへへ、ごめんね」

「はっ!なんだぁ?えらい上機嫌だな?」

 

 ラカムに言われると少女は、はにかみつつ明るく答えた。

 

「なんかね、すっごい良い事ありそうな予感するの!だから、なんだか楽しみなんだ!」

 

 【ジータと愉快な仲間たち団】、団長ジータ。

 アウギュステ上陸まで、あとわずか。

 

 






一 投稿後思い付き、急遽追加した2018/01/01/15:53頃の『番外の空』



 謹賀新年。我ら騎空団も、新年を無事迎える事が出来ました。ええ、ええ……

「……なあ」
「何だよ?」

 隣に浮かぶB・ビィ。ちゃっかり着物を来て新年モードかよ。

「なんか、俺ちょっと感覚が狂ったのかな……さっきまでアウギュステに居た気がしたんだけど……」
「何言ってんだよ?」

 いや、俺もおかしいとは思うんだけど、何なんだこの感覚……まるで読みかけの絵物語がいつの間にか2~3巻飛ばされたような……。

「なんかこれからって時のタイミングで、このやり取りをしてる感じがしてたまらないんだよ」
「いや記憶違いだろ? 人間の脳にはよくあることさ」 
「そ、そうかな?」

 ……いや、待て待て?

「お前……今、一瞬姿変わんなかった?」
「おいおい、お前さっきから何言ってんだよ」
「だ、だよな……疲れてんのかな、お前の姿がビィと同じに見えて」
「いや記憶違いだろ? 人間の脳にはよくあることさ」
「ッ!?い、今ッ!!」
「今度は何だよ?」

 た、確かにB・ビィの姿が一瞬変わったような気がしたが……。

「な、なんか俺やっぱ疲れてるみたいだ……」
「ああ、まあ無理ねえぜ。あんだけの団員達を率いてるんだからな」

 その中にお前も入ってるんだよB・ビィ?

「団員が集まってオセチ食べるのももう少し後だし、ちょっと寝てろよ」
「そうだな……」
「午後になればジータ達も来るんだろ?体休ませとかないとな!」

 うん、うんそうだね……。

「まあ、改めて明けましておめでとうB・ビィ。今年は、大人しくしろよ」
「何言ってんだよ俺は、いつだって大人しいもんだぜ!」
「いや、そんな事」
「いや記憶違いだろ? 人間の脳にはよくあることさ」
「ッ!?」

THE END”LESS”



二 後書



結局投稿が年を跨いでしまいました。初詣は秘丹弥虚羅多尊像。今年も今までの通り頑張ります。
キャラが一気に増えてきてますが、例によってここ独自の二次設定もありますので、ご注意ください。

そして以下、例によって後書と言う名の羅列達。

カルテイラ、あれなに……その、やばい。新年あいさつ。実質告白じゃん、もう騎空団辞めて商人に成ろう。イスタルシア?なにそれおいしいの?カルバもSR来たし、ドヤ顔クッソ可愛い。団長君の騎空団来る?トラブルしかないぜ。そして、星晶戦隊追加戦士候補が増えていく一方である。まあ、まだ手に入って無いけど<D・エンジェル。そんでクリスマスと言い年始挨拶にコンスタンツィアが無いのはどういうこったですか運営。あとバルルガンの季節行事挨拶、どんどん可愛く成ってると思うの俺だけ?そして団長きゅんには、生ごみを見るような目で見られるラムレッダ。

クリスマスウェルダーで年始挨拶をすると、矛盾の塊になる。

今更ながら、うちのセレストの話し方、自分としてはモバマス星輝子を参考にしてたのですが、どっちかと言うとグラブル的にアンナだった。もう少し差別化を図るかも知れません。

ジータの無意識化でのトラブル多発現象は、要は田中ロミオ先生著『人類は衰退しました』の妖精さんと同じです。ジータが居ると言う事は、15f相当かそれ以上の「妖精さんだらけ妖精さんまみれ妖精さんだく状態」であるので、仲間達は大丈夫(?)です

機神のオービタルフレームかメタルギアRAY感めっちゃんこ大好き。あっち召喚石にしてほしかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

逃走経路無し

知らぬ間に団長君は追い詰められます。


 ■

 

 一 橋に願いを

 

 ■

 

「せっかくやし願いの橋ぐらい見てったらどうや?丁度もう少しで日没やから」

 

 カルテイラさんに自分の店での商品購入をほぼ無理やり約束させられた俺は、去り際にこのように言われた。

 アウギュステでの移動は、主に船で行われるのは、もうわかり切った事である。そしてここを訪れる人の中には、水の上を進む船を珍しがる者もおり、観光用の船もまたミザレアの観光資源である事もシャルロッテさんとの街巡りで良く知った。そう言った水路を跨ぐ橋は、この街に幾つもあるがそれらの中に通称“願いの橋”と呼ばれる橋がある。ここの橋は位置の関係から日没時、他の橋よりもその姿が美しく照らされ「その時に橋の下をくぐれば、願いが叶う」と言われている。

 勧められては、興味が湧く。俺もシャルロッテさんも二人その橋へと向かった。

 

「これであります」

 

 どの橋の事か分からぬ俺がキョロキョロとしているとシャルロッテさんが指さして教えてくれる。そこには、建物を繋ぎ他の橋に比べて特に観光客が集まる橋があった。

 

「これが、願いの橋ですか」

 

 似た橋は、その奥にまだいくつか続いている。だがこの橋は、ここにある事が重要だった。

 

「特に造りや装飾が目立つわけでは無く、この場所にある事で沈みゆく日がこの橋を美しくし、願いの橋と呼ばれる所以。何ともロマンチックでありますな」

 

 この街が建てられる中でここが観光名所として有名に成ると誰も考えはしなかったろう。ただ偶然にこの日没の日が綺麗に当たる場所に一つの橋が出来た。ただそれだけだったはずだ。

 それが今では、誰がそう言ったのか願いの橋と呼ばれ多く人間を魅了していた。恋人が出来ますようにとか、病気が治りますようにとか、大金が手に入りますようにとか、そう言った願い全てをこの橋は、多くの人間から願われたろう。それが叶ったのかは、本人しか知らないが。

 

「せっかくだから願い事しますよね?」

「それは勿論」

 

 願いを叶えるには、日没に合わせて下を通るらしい。また橋の下には、水路を跨ぐ別の小さな橋があるのでそこを通ればいいのか?けどもう多くの人がそのタイミングを狙ってかその場所に集まっていた。行けなくもないが中々の混雑だ。

 

「さて、並んでもいいけど……お?」

 

 水路を見るとゴンドラが何隻かあった。なるほど、観光用のゴンドラ、しかも丁度空きの一隻が見えた。

 

「こりゃいいや、シャルロッテさん船で潜りましょうよ。後一隻とられる前に!」

「うわっ!?」

 

 バッとシャルロッテさんを抱き上げ走る。今度は、山賊担ぎでは無くただの抱っこで抱えゴンドラへと走った。幸い他の人達は、日没のタイミングを気にして橋の方を見ているか、そもそも観光船はもう無いだろうと思ったようだ。俺は、飛び乗る様にゴンドラへ乗った。勢いが出たせいで、ゴンドラが少し揺れて船頭のおっちゃんが驚いてしまった。

 

「おいおい、もっとゆっくり乗りなよ兄ちゃん」

「ごめんねおっちゃん、この船空き?」

「ああ、二人かい?」

「そ、頼むよ」

「あいよ、そこ座んな」

 

 しかし慣れた様子でおっちゃんは、俺達をゴンドラの腰掛けの木に座る様に言って舵を握り立ち上がった。

 

「はい、シャルロッテさんはこっちね」

「おとと……!」

 

 抱えたままのシャルロッテさんを、隣に下す。だが急に抱き上げたせいで彼女も驚いてしまったようだ。ごめんね。

 

「ジミー殿!前もそうでしたがもう少し抱き上げ方と言うものを考えるであります!」

「いや、急がないとと思って」

 

 抱えやすかったし。言わんけど。

 

「確かに前の抱え方よりはマシでありますが今のは、まるで子供の様ではありませんか!」

「すんません、咄嗟だったんです」

 

 体格的に一番ベストの抱え方だったんです。言わんけど。

 

「そもそも、女性を軽々しく抱き上げると言うのは、いかがなものかと思います。デリカシーと言うものを知るべきであります!」

「はい、以後気を付けます!」

 

 本当すみません、子供抱える気持ちでした。

 

「まったく、まったくもう」

「ハハハッ!なんだい兄ちゃん、そっちの嬢ちゃんは妹かい?」

「んなぁ!?」

 

 プンスコしているシャルロットさんだが、今までのやり取りを見ていたおっちゃんが、ゲラゲラと笑いながら聞くとシャルロッテさんがよりプンスコした。

 

「妹ではありません!」

「おっと、そうなのかい?」

「おっちゃん、この人ハーヴィンだよ」

「ん?ああっ!!こりゃすまねえ!!」

 

 俺がシャルロッテさんの種族名を言うと、直ぐに合点がいったらしく頭を手でパチリと叩きながら謝罪した。

 

「ハーヴィンとはな、ってことたぁ姉ちゃんの方が上だったか」

「そうであります……まったく」

「すまねえ、すまねえ。ハーヴィンは、商人でなら見かけはするが、客となるとあんまり来なくってな。しかも女の方は、特に見ねえから直ぐわからねえんだ。悪かった」

 

 なるほどだ。おっちゃんの言う事も確かだろう。それにハーヴィンだと言われただけで直ぐ理解するだけ良い方かも知れない。シャルロッテさんに聞いた話だと、同じ状況でそう言う種族だと言ってもただの子供と信じて疑わない者もいるそうだからな。

 

「お詫びってわけじゃねえが、丁度もう少しで願いの橋が特に輝く時だ。一番良いタイミングで潜ってやるよ。それが目当てだろ?」

「もち、頼むね」

「任せな!」

 

 何とも豪快な船頭だ。袖を巻くって見える二の腕も長い事舵を扱ったために筋肉がみっちりしてる。嵐が来ても船を動かせそうな男だ。

 さて、船頭への頼もしさを感じた所で、俺はシャルロッテさんの機嫌を取るとしよう。

 

「妹って……娘とかよりはマシですが……」

「ほら、シャルロッテさんって。俺が悪かったから機嫌直してくださいよ」

「むむむ、しかし納得いかないであります」

「まあまあ、ここはそんな事がもう無くなるよう願掛けしましょうって。お願いするんでしょ?」

「むう……確かに、お願いのタイミングを逃しては、面白くありません」

「そうそう」

 

 多少気持ちも落ち着いたようだ。ホッとしたのでゴンドラに揺られ周りの街を見る。水路をゴンドラで進むのは、初めてだ。

 

「おや、橋の上にも人が大勢いる」

「おおっ!本当であります」

 

 いつの間にか願いの橋には、大勢の人が並んで沈む夕日の方向を見ていた。そこに収まらない人は、別の所からも夕日を見ている。

 

「凄い人だなあ」

「団体客なんて珍しくねえからな。それに普段は、別の名所に行く客もこの時間を狙って集まるのさ。この水路は、特に日の光を遮るものが少ないからな。橋の上から夕日を見るのにもうってつけってわけさ」

 

 ゆっくりと船を進めながら、おっちゃんが説明してくれる。この人にとっては、見慣れた光景なのだろう。

 

「ほれ、カップルが多いだろ?」

「あー……確かに」

 

 言われてみると、集まる人達の殆どは、若い男女のペアで行動してる。種族も様々に、肩を寄せ合い手を繋ぎ互いに離れようとしない。

 

「まあ、こう言う所だからな。一生一緒に居ようとか結婚しようとかなんて告白の場所でもある訳よ。見てるこっちが痒くなるぜ」

 

 とか言いながら楽しそうなおっちゃんである。年取ると若いカップル見て楽しそうにするものなのだろうか?カップルを見ていて微笑ましいと思う事は、無くは無いのでそう言う事かなあ。

 

「そして……見てみな。これがミザレアで一番綺麗な夕日だぜ」

 

 言われ後ろを振り向くと、今まさに太陽が沈もうとしていた。その光景に思わず息を呑む。

 

「確かに、これは夕日だけでも見に来るわけだわ……」

「ええ、美しいであります……」

 

 遮蔽物の無い街中から見える夕焼け。赤く染まる空の中で揺れる太陽が、沈み消えていく。ザンクティンゼルでも見ていた太陽と同じ太陽なのに、何故こんなにも違うのだろう。どちらが良いと言うわけでは無い、ただザンクティンゼルと違う夕日の美しさが確かにあった。

 

「さあそろそろだ。夕日に見惚れて橋を潜り終わる前に願い事は決まったかい?」

 

 願いの橋の下、その目前へと近づくとおっちゃんが妙にニコニコ笑いながら聞いて来る。さて願い事であるが、願うだけならタダだ。一個だけなんて誰が言った?

 第一に、借金返済。これは俺の努力次第でもあるが、偶然大金が舞い込むとかそう言うのをちょっと期待する。

 第二に、団員達が真面目になる事。と言うか、ティアマト達(笑)レンジャーと、ラムレッダ筆頭年上のくせにダメダメな女性達が心入れ替える事を願う。

 第三に、今後出会う仲間がいるなら素敵な出会いでありますように、そしてその人が常識癒し枠である事だ。

 さて、シャルロッテさんの方の願い事は、聞くまでも無いだろう。身長の事、これ以外ある?

 

「じゃ、お願いしますか?」

「はい、お願いするであります」

「あいよ、そいじゃしっかり祈りな」

 

 おっちゃんが一段と強く舵を漕ぐとゴンドラがぐんと進んだ。俺とシャルロッテさんは、夕日を見ながら自分の願いを願い祈った。祈りの作法なんてのも無いので、ただ強く念じる。そして、早過ぎず遅過ぎ無い速度でゴンドラは、願いの橋の下へと入り、ほんの数秒で潜り抜けて行った。

 橋を潜り終わり、横を見ると手を合わせて目を強くつむって願い続けるシャルロッテさんがいる。どれだけ願ってるんだと思いつつそれを見守ると、ゴンドラが橋から数メートル離れた所でやっと目を開けて俺と顔を合わせた。

 

「えらい熱心でしたね」

「むう、どうせジミー殿は自分の願い事をわかってるでしょう。からかわないでほしいであります」

 

 そう上目使い+ふくれっ面で睨まないでください。可愛いだけだから、俺にクリティカルだから。

 

「からかっちゃいませんよ。ただそんだけ強く願うなら願い事の一つや二つ、叶うだろうなって思っただけです」

「……そう思うでありますか?」

「思いますよ。叶わないと困る願い事、俺もしましたし」

「なんでありますか、それは?」

「秘密です」

「あ、ズルいであります!」

「シャルロッテさんは、自分から悩み打ち明けましたからねー、俺は態々自分でいいませーん」

「……ジミー殿は、ジミー殿はまったく!!」

「あがっ!?わき、脇腹は、やめっ!おうっ!?」

 

 結局からかってしまい起こったシャルロッテさんが俺の脇腹を小突いて来る。小突くってか、連打してる……あと普通に痛いっ!?騎士団長だよ、貴方普段鍛えてる騎士団長、あいたたたたたっ!?

 

「ふんっ!ふんっ!」

「がっ!?そ、そこ、肋骨です、ろご、肋骨が……あわあぁーーーーっ!?」

 

 俺の悲鳴がミザレアに響き、日は沈み夜が来た。

 

 ■

 

 二 「ジータが迫り」「リュミエール騎士団が迫る」つまり(団長達が)ハサミ討ちの形になるな…

 

 ■

 

 『神の怒りか悪戯か!?突如、アウギュステに降り注ぐ大豪雨ッ!!』

 

 これは、アウギュステ史に残る局地的大雨に関して書かれたある広報誌の一文である。アウギュステでの雨は、比較的珍しいと言えまして歴史に残るような大雨は、滅多にない事であった。

 某年某月某日、雨が降る様子など一切感じさせない晴天であった。だが夕日が沈み夜を迎えた数十分後の事、突如として凄まじい水量の雨が降り注いだのだ。時間にして約1時間半。更に降り続けば水路で水が流れ滞る筈の無いミザレアであっても街の一部は、浸水したであろう程の猛烈な大雨であった。

 大急ぎで外で店を開いている商人達は、商品を雨から護ろうと騒ぎ出し観光客達も大慌てであった。

 そして、この雨が降る前にアウギュステには、一隻の騎空艇が到着していた。

 

「なんでだああああっ!?」

 

 雨の中、ミザレアの街を走る団体がある。先頭を金髪の少女が走り、その後ろを複数の男女が色々と叫びながら走っている。

 間違いなく、ジータ達であった。

 

「街に入った途端降ったぞっ!?前見えないぐらいの雨がぶええっ!?」

「ラ、ラカムあまり喋るな……っ!雨が、口に入って……っ!!」

 

 ジータ達一行は、何とかアウギュステへとたどり着きグランサイファーを海へと無事着水させた。そして予定より遅れたものの、夜のミザレアでまずは、食事でもしようかと話しながら街の中へと入った。その瞬間にこの雨が降り出したのだ。

 

「って言うか、こりゃやっぱ……お嬢ちゃんのあれだろ」

「だ、だろうぜぇ……うう、オイラ目を開けれねえよう……」

「ビィ君、私のマントに……」

 

 小さな体のビィには、この猛烈な雨は、飛行するのに相当負担があるらしくカタリナに抱かれマントで護られていた。

 

「あーんっ!せっかく髪の毛もセットしたのにー!!」

「やれやれ、何処かで乾かさないとね」

 

 悲鳴を上げる小さな少女と弱った様子の女性。薄い褐色と金色のツインテールの少女は、ジータにとってずっと一緒であったビィを除きルリア、カタリナ、ラカムに続いて仲間となった少女イオ。ジータがバルツ公国へと立寄り初めての依頼を解決、そしてまた帝国の暗躍を砕きイオの師匠を助けそれが切欠であった。

 もう一人の黒髪の女性は、ユグドラシル本体がいるルーマシー群島でジータが出会った謎多き女性ロゼッタ。ユグドラシルと帝国がらみのいざこざの末に一行の仲間になった。

 

「あはは、雨すごーい!」

「笑ってる場合じゃありませんよおっ!」

 

 そして一行の先頭を笑いながら走り雨を楽しむ少女、それを必死に追いかける青色の少女二人。【ジータと愉快な仲間たち団】団長ジータと彼女がザンクティンゼルで助けた少女ルリアの二人であった。

 

「うぅ~どこも雨宿りの人でいっぱいですぅ……」

「急な事だからな、皆も一斉に屋根のある所へ走ったのだろう……っ!」

 

 先程から一行は、雨を防げる場所を探しているがどこもかしこも既に人で溢れてしまっている。船に戻るにも既に距離がありどうしようもない状況が続いていた。

 

「しかたねえ、俺の知ってる宿に行くぞ。あそこなら入れるはずだ」

「だが、宿でそんな簡単に入れるのか?」

「有名ホテルでもねえし、街の奥の方だからな。観光客もそういねえさ。まあちと遠いがもうこんだけ濡れちまうともう大して関係ねえだろ」

「確かにね。それに仮に途中で止んでも宿ならタオルとか貸して貰えるかもしれないわ」

「決まりだな、ついて来な!」

「よーし、レッツゴー!」

「ジータそっちじゃねえ!!」

 

 この中で一番ミザレアの地理に詳しいのは、出身者であるオイゲンである。皆は、オイゲンの言う宿へと向かい駆け出した。

 また、一方で――。

 

「これは、凄い雨ですね……」

 

 街の中を歩く鎧の集団、この日アウギュステへと着いたリュミエール聖騎士団の団員達である。鎧姿の集団だが物々しい雰囲気は無くましてこの雨とあって誰も気にしてはいなかった。

 

「まさか、こんな雨がアウギュステで降るとは……」

「通り雨とは思いますが、それにこう混んでは雨宿りも出来ないですね」

 

 鎧の隙間から中に入り込む水に参った様子の隊員達だがバウタオーダは、ただ一人涼しい顔をしていた。

 

「いえ、必要ありません。仮に空いていても他の方達に譲りなさい」

「それは、勿論」

 

 我先に雨を除けようと軒先に逃げる考えなど浮かぶ事も無くバウタオーダは、ズンズンと足を進めていた。他の団員達も同様の考えであるがしかし彼ほど忍耐強くは無かったようだ。

 

「ここではなく、街の奥の安い宿街でなら体を休めれるかもしれませんが……」

「ふむ……」

 

 部下の一人の言葉を聞いて少し考えるバウタオーダ。自分達の騎空艇がある場所からは、もう既に離れてしまった事とその宿街は、丁度帰り道に近い事を思い出す。

 

「……そうですね、船に戻るついでに行って見ましょうか」

 

 鎧の隙間から進入する滝の様な水が彼らの体温と気力を奪った。これもまた鍛錬だと割り切れるバウタオーダだが、団員達の疲れを感じ取り船へと戻る前に濡れた体を乾かせる場所を探すぐらいはするべきかと考えた。

 

「各々雨で視界が悪いですから、住民の方達にぶつからないよう注意しなさい。困っている方が居たら助けるように」

「了解です!」

 

 突然の雨の中慌て戸惑う人々の中には、足を滑らせこける者、人とぶつかり転倒するものが後を絶たない。彼らはそんな人達を助けながら進んでいった。

 

 ■

 

 三 二人のアウギュステ

 

 ■

 

 ゴンドラのおっちゃんは、俺達を希望の場所で降ろしてくれると言うので混雑している願いの橋から離れた場所で降ろしてもらった。去り際おっちゃんに「あんたらお似合いだぜ、大変だろうが頑張れよ」と言われる。何の事か分からず二人揃って首をかしげた。

 日は落ち綺麗な夕日ももう見えず夜が訪れる中、後はコーデリアさん達の待ち合わせ場所で向かうだけになる。いよいよ正念場だと意気込む俺だった。だがしかし――。

 

「なんじゃあ、こりゃああぁぁーーーーっ!?」

 

 突如の大雨っ!!凄まじき豪雨、何これ本当どうなってるのっ!?

 

「雨ってレベルじゃねーぞっ!?滝だよ、滝ぃっ!!」

「んぐぐぅっ!?ま、前が見えないでありますぅ……っ!!」

 

 叩きつける雨でジッとしてられないが雨から逃げるために動くと余計に雨がきつい。どうしろと言うのか。雨宿りをしたいが軒下は、もう満員。俺達が入る余地は無い。結局逃げ場を求めて走り回る。

 

「い、今どこを走ってるかもわからねえ……っ!?」

「なんだか、入り組んだ場所へ来てしまったようであります……っ!」

 

 走り回っている内にまったく道がわからない所へと出てしまった。自分の宿に向かっていた筈だがどこかで道を間違えたようだ。そのせいでどんどん俺達は、見知らぬ道へと迷い込んだ。店や建物の軒先は無理だ。商店の中もほぼ埋まりきってる。流石に民家に無理言って入る気も無いので、走っている場所が宿街周辺と信じて入り口が空いている場所を必死に探す。

 ちなみにシャルロッテさんは、今俺に抱えられている。突然の激しい雨に俺達以外の人も慌てて走っているので人混みに飲まれ逸れると不味いためしょうがなく抱えさせてもらった。本日二度目であるがこうしないとマジで逸れたり走るとシャルロッテさんが追いつけなくなるのでしかたない。

 

「……あ、ああ!あったっ!」

 

 雨で遮られる視界の中ぼんやりと見えるピンク系の明かりが見える建物。だいぶ入り組んだ場所に来たからか逃げ込む人も居ない。もうあそこしかないだろう。雨で脚を取られながらも建物の軒先へ滑り込む。一先ずこれで雨からは、逃げられた。

 

「あ~あ~……助かった……」

「うぐぅ……あ、頭が重いであります……な、何故……」

 

 抱えていたシャルロッテさんを床に降ろすとフラフラと足取りが悪い。まさか移動中に酔ったかと思ったが直ぐに原因がわかった。

 

「冠に水溜まってますよ」

「なんとおっ!?」

 

 水で濡れてすっかり髪との間に隙間の無くなった冠内にタップリと水が溜まっている。

 

「水を捨てなくては……」

「あ、急に持ち上げると――」

「ふぎゃっ!?」

 

 俺が制止する前に“そのまま”冠を上に持ち上げたシャルロッテさん。当然溜まっていた水は、垂直に落下。2~3リットル程の水が頭上から思いっきりぶちまけられた。元からびしょ濡れだが、更に濡れてしまい服全部が水を吸っちまったなこれは。

 

「ふ、ふえぇ~……」

「焦るからですよ」

「ふ、不甲斐無い……自分が情けないであります……」

 

 長い髪も水を吸ってしまいさぞ重い事だろう。それに俺もだが体中濡れてしまって酷く寒い。体を乾かして暖めたいなあ……。

 

「……宿だよね、ここって?」

 

 録に確認せずに飛び込んだが確か宿らしき看板だったはずだ。ずっと軒先で立っているわけにもいかないので入り口から中を覗く。するとそんなに広くは無いフロントで一人座るばあさんと目が合った。

 

「お客さんかい?」

「あ、はい。雨降ってきちゃって……」

「知ってるよ……なら休憩だね。ただ生憎うちは、今改装中でね。使えるのは、一部屋だけさ」

 

 改装中?雨のせいか、そう言った説明のある看板も見当たらなかったのだが。

 

「入ってよかったの?」

「かまわないよ、今日の工事終わって暇で扉開けてただけだよ。部屋も問題ないからね」

 

ふむ、どうしようかと思ったがそう言う事なら……宿の主人が良いって言うんだし。

 

「シャルロッテさん、一部屋開いてるらしいんで取り合えず入ります?俺と一緒で申し訳ないですけど」

「い、いえ自分は、気にしません……それに、うぅ、髪を乾かしたいので、あう、顔に張り付くであります」

 

 真上から一気に濡れたせいで均等に長い髪が広がり顔に張り付いてしまい、パッと見どっちが前か分からない事になってるシャルロッテさん。シュールだ。

 

「……んっふ」

「ジミー殿、今笑いませんでしたかっ!?」

「わらってないっすよ、っふぅっ」

「笑ってるでありますっ!?顔見えませんが絶対笑ってるでありますっ!?」

 

 わはは、と誤魔化し笑いを上げながらフロントに行く。

 

「一人いくら?」

「いらないよ」

 

 4000ルピぐらいと予想して財布を取りだしたのだが思わぬ言葉に二人揃ってずっこけた。

 

「おいおい、そうはいかないでしょ。休憩ったって部屋使うんだぜ」

「こんな雨で困ってる小僧と小娘から金とりゃしないよ」

 

 小僧と小娘って……。

 

「自分は小娘では……いえ、その前にお金を払わないわけにはいかないであります」

「いいんだよ別に。明日には、内装全部引っぺがしちまう部屋なんだから、好きに使いな」

 

 こういう時の”ばあさん”って生き物は、頑固なものだ。なんでこういう時は、大人しくその厚意を受け取って置く方がいいだろう。実際事情が事情だ。明日工事で壊す部屋なら、確かに勝手に使えと言う気にもなるだろう。結局厚意に甘えさせてもらう。

 

「んじゃ、鍵貰います」

「はいよ。タオルとかは、備え付けのまだ残ってるから勝手に使いな。雨止むまで好きなだけ居ていいからね」

「どもっす」

 

 階段を上り廊下に出ると確かに部屋の殆どは、扉も外され改装中である事がよくわかる。二階の一番端の部屋、鍵の番号を確認して部屋を開けた。だがその先に、信じられない光景が俺達を待ち受けていた。

 

「……え?」

「……え?」

 

 超蛍光の極彩色、気が休まらない部屋が俺たちを迎えた。……要は全体的に“どちゃくそピンク”だったのだ。

 

「ド、ドドッドッ!?」

「ドッピンクッ!?」

 

 俺達二人の驚きの声が部屋に響いた。

 

 ■

 

 四 包囲完了

 

 ■

 

「オヤジいるかぁ!」

「うおっ!?」

 

 飛び込むように入ってくる団体にある宿屋のオヤジは、驚き声を上げた。突然の雨で予約客も無いこの日、中心街や有名ホテルの並ぶ表通りに比べ観光客が多くない裏通りにある自分の宿に突然の雨とは言え行き成り駆け込んでくる者が居ると思わなかった。

 

「あーやっと雨から逃げれたわ」

「煙草が湿気ちまったぜ……」

 

 だが飛び込んできた団体と先頭にいる男を見て思わず笑った。

 

「なんだオイゲン、帰って来たのかよ?」

「おう、久しぶりだなっ!」

 

 以前起きたアウギュステでの騒動の際騎空団へと入団、アウギュステを発った馴染みの男オイゲンが現れオヤジは、驚きつつも喜んだ。

 

「今日はどうしたよ?あん時の騎空団も全員引き連れて」

「どうしたもねえぜ、この雨でよ!何処もかしこも満員だからここなら閑古鳥鳴いてると思って駆け込んだのさ」

「余計な事言うなって!」

 

 確かにこの宿は、客がいない。宿街と言うがその中でも格安の古い宿が集まる宿街でミザレアの観光地としての場所からは、外れた場所にあり立地が悪いため、大抵暇なのだ。それでも宿を続ける者がいるのは、なんだかんだで安い値段目当ての客が定期的に来るからだろう。

 

「どうせ部屋空いてるだろ、雨止むまで使わせてくれねえか?」

「まあかまわねえよ、7人か?好きな部屋使え」

 

 オヤジは、適当に握った部屋の鍵を受付に置いた。

 

「おじさん、お金いくら?」

「別にいらねえよ」

 

 ジータが料金を払おうとするがそれをオヤジは、すっぱりと断った。

 

「ええ、悪いよおじさん」

「いいんだよ。あんたらには、前のアウギュステでの騒動で助けられたんだ。このぐらいの礼はさせてくれ」

 

 帝国によるアウギュステの水神にして星晶獣リヴァイアサンが暴走させられた時、島崩壊の危機を防いだのは、他ならぬジータである。島で起きた異変が星晶獣リヴァイアサンの暴走に原因があるとルリアが感じ取ってすぐさま行動を起こし最悪の事態になる前に暴走を治めた事は、アウギュステの住民も聞き及んでいた。

 

「おじさん……ありがとうございますっ!」

 

 その事を理由にされては、無理に料金を払う事もはばかられジータは、深々とお辞儀をして礼を言った。

 

「それじゃ、部屋へ行きましょうか。イオちゃんは、私とね。髪乾かさないとね?」

「うん、ありがとロゼッタ」

「それじゃあビィ君は私と……」

「いや、普通にジータと一緒だよ……と言うか、ジータとルリアは一緒の部屋使うから3人でいいじゃねーか」

「む、それは確かに……」

 

 各々部屋の鍵を受け取り移動していく。唯一の男性陣ラカム、オイゲンは、必然的に同室になった。

 

「それじゃあオイゲン、俺ぁ先部屋行ってるぜ」

「ああ……ところでオヤジ、ばあさんの宿なんか感じ変わってたが、ばあさんなんかあったのか?」

 

 ラカムを先に行かせると、オイゲンはこの宿の隣に立つ全体的にピンク色の宿の外装が剥がされている事が気になり聞いた。そこで働く老婆とは、昔からの知り合いのため心配にもなったのだ。

 

「いや、ただ改装するってだけだ。普通の宿にするってよ。もうあのまま続ける気も無いってさ」

「ははっ、そりゃそうだ。あんな宿使うような奴、もうここいらじゃいねえしな」

「アウギュステが今ほど栄えて無いぐらいだったからな、あそこ出来たのは」

「寧ろよく今まで営業できたと思うぜ……それじゃな」

「ああ、ゆっくりしてきな」

 

 知り合いの老婆の事も聞けたので、オイゲンも部屋に向かった。

 ――また、同時に。

 

「親切な方が居て助かりましたね隊長……」

「ええ、本当に」

 

 そのジータ達が入った宿、改装中の宿を挟みさらに隣の小さな宿に騎士団の団体が入っていた。大雨から逃れられて彼等もまたホッと息をつきつつ、雨で濡れてしまい、中は蒸れる兜を脱ぐ。

 

「騎士の皆様もこの雨で大変でしたでしょうに」

「ええ、アウギュステでは珍しい規模の雨ですから我々も驚きました」

「本当にねえ」

 

 小さな宿の主人であるおっとりとした婦人が突然の客人バウタオーダ率いるリュミエール聖騎士団の部隊の面々を宿に入れて雨宿りをさせていた。店の表を歩いていた。ずぶ濡れの騎士団を見て声をかけて宿の中に招いたのだ。

 

「雨が止むまでどうぞごゆっくりしていってくださいね。今スープを温めてますから」

「これは……何から何まで、真にかたじけない」

 

 優しい女主人の心遣いに感謝しつつ体を休めるバウタオーダ達。このようにして、見事団長とシャルロッテの二人を囲う包囲網は、完成されたのだ。

 

 ■

 

 誤

 

 ■

 

(な、何と言う事だ……っ!?)

 

 この大雨の中、一人の少年が雨に濡れる事も気にせず路地の影から、はっきりと団長とシャルロッテの二名が一つの宿へと消えて行くのを見た。他ならぬ若き帝国兵ユーリである。そしてユーリは、もう一つはっきりと見たのだ。二人が入って行った宿、その宿の名を。ペンキも剥げ落ち読みづらくなっているがじっと見ればその名が【ホテル メイク・ラブ・ギュステ】である事がわかった

 

(う、噂に聞いたが……これはいわゆるラブホテ……つ、つまりあの二人は、あの中で……ば、馬鹿野郎、俺っ!?)

 

 一瞬不埒な考えが浮かび、ユーリは雑念を払うため降り続ける雨で頭を冷やした。

 

(だ、だがあの中に入って行ったのは、間違いない……騙す様子も無く、シャルロッテ・フェニヤも普通に入って行った……だ、だとすると、まさかっ!?)

 

 ”雨宿りのため”、”間違えて入った”。それぞれの可能性を考えるよりも若きユーリは、ちょっぴりHな妄想が頭の隅にちらつき冷静さを奪う。そして最後には。

 

(あの二人……デキているのかっ!?)

 

 本人達、特に団長が聞いたら雄たけびと共に否定しそうだが残念ながらこの誤解を解く人間は、この場にはいなかった。

 このようにして、新たな誤解と面倒事が帝国の部隊へと情報として持ち帰られたのである。

 

 




間が開きましたが投稿。自分では、切りの良い話の区切り方が分からない時があります。

次回今度こそ、二人再開です。どうなるアウギュステと団長の未来。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今がどん底なら、あとは上がるだけだ

安易な展開、団長苦労の連続


 ■

 

 一 待ち人来ず

 

 ■

 

 アウギュステを襲う激しい雨。住民達が慌てる中この事態に頭を悩ませる者達がある宿にいた。

 

「来ねえなあ、相棒のやつ」

 

 宿の談話室で既にここに居る筈の二名の人物。【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長と彼が連れてくる手はずであるシャルロッテ騎士団長、その二人が未だ現れぬ事に星晶戦隊(以下略)の面々は、ある種の不安を覚えていた。

 

「この様な大雨であるから遅れていても不思議ではないが……」

「彼の場合、そこからのトラブルコンボが考えられるねえ」

 

 突然の嵐の様な大雨が二人の到着が遅れている理由である事は、ほぼ間違いないと考えているコーデリアだがフィラソピラは、そこからのトラブル発生に懸念を抱いていた。

 

「帝国の事もある。主殿がトラブルに巻き込まれるとなると更に厄介な事態に発展しかねんぞ」

「フアンダナァ・・・(´・ω・`)」

「団長は、一度巻き込まれるとそこから加速度的に状況が悪化するからなあ」

「マ、何時モノ事ダナ」

 

 団長のトラブルと苦労体質を心配する星晶戦隊の面々。一方で一人ティアマトは、のんびりと購入したワインを飲みながら外を眺めていた。

 

「ティアマト、お前は緊張感と言うのをだな……」

「心配シタ所デ状況ハ変ワランダロ。コノ雨ハ、多分モウスグ止ム。ソシタラ何人カデ、アイツヲ探シニ行ケバイイ」

 

 窓から見える天気の様子から風を司る星晶獣の彼女は、それとなくこの天気の変化を読み取っていた。

 

(明ラカニ不自然ナ天候ナノガ気ニナルガ……)

 

 またこの雨があまりにも突発的であり何者かによる魔術か何かを利用したものではないかと疑う。だがアウギュステ全域で特殊な術が使われた気配は感じない。あるいは、星晶獣の仕業であるかも疑った。

 

(微カニ星晶ノ力ヲ感ジルガ……海カラカ?リヴァイアサン、デハナイナ。ナンダ、コレハ)

 

 押さえ込められた様な気配。星晶の力には違いなかったが現状この様な雨を起こせるほどの力は、感じられなかった。

 

「……ナンダ?」

 

 そしてそんな事を考えていたティアマトを周りの面子が意外そうな顔で見ていた。

 

「にゃ、ティアマトが真面目な顔してるにゃ~と思って……」

「珍しいな……俺が団に入ってから見たことが無い様な表情だ」

「雨でも降るんじゃねえのかァ~?」

「もう降ってるわよ……」

 

 ボロクソ、異常な天候について考えただけでこれである。

 

「オ前等ナァ……」

「それとも腹痛かい?」

「やっぱり、おへそを出す服は、冷えると思うです」

「違ウッ!!」

 

 しかしこれも普段の行いの所為である。(笑)筆頭星晶獣の名は伊達ではない。

 

「まあ、実際の所彼女の言うとおりか。彼も宿には、向かっていたはずだ。この周辺にいるかもしれない、雨が弱まったら私とブリジールで彼を探しに行こう」

「ふ、二人で……いいの?」

「入れ違いでも困るからね。二人でも見つからないようなら一度戻り人数を増やすよ」

 

 ティアマトの言うとおり雨が直ぐ止む事を願いながらコーデリアは、外を眺めた。

 

 ■

 

 二 ピンクの空間

 

 ■

 

「ここは、元はラブホテルでね。もう普通の宿屋にしようと思って改装中なのさ」

 

 現在改装中、その名を【ホテル メイク・ラブ・ギュステ】と言う宿で俺とシャルロッテさんは、ドッピンクな部屋に通され慌てて引き返して主人のばあさんに詰め寄った。その際に帰ってきた答えがこれである。

 いや通すなよ、未成年を。と、思わないでもないがもうラブホとしては、営業を終えているのと説明のとおり改装中なので未成年が見たり使っても問題の無い物しか残ってないので、「大丈夫だよ」だそうだ。

 大丈夫じゃない、大問題だ。

 

「後言い忘れてたけど、給湯器は止めて無いから一応風呂使えるよ。好きにしな」

 

 風呂まであったんかい。と言うかつかわねえよ。シャルロッテさんいるんだぞ。

 しかし依然として外は大雨、心なしか勢いが増している気さえする。今更ここを出るというわけにも行かないか。 

 

「シャルロッテさん、この部屋なんだけど」

「お、おお……これは、なんとも大きな……あっ!」

 

 フロントから戻ると、ポインポイ~ン、とベッドの上を軽く跳ねてる子供、と言うかシャルロッテさんがいた。

 

「何してんすか……」

「あ、いやその……お、大きなベッドだったので、つい」

 

 そうですか、ついですか。なら仕方ないね。ただ今の光景を俺は、心の癒し宝箱へとしまいこんだ。

 

「そ、それでジミー殿この宿ですが」

「ああ、うん。その事だけど、実はその……ラブホテルだったらしくて」

「ラブ、ホテ……?」

「ええ、だからどうしようかと思っ――」

「ラブホテル、愛の宿とは、またロマンチックですね。自分こう言う所は、初めてであります!」

「……え?」

「ベッドの天井なんて鏡であります。変な装飾ですね」

「あー……」

「しかし殆どがピンク色とは、気が休まりませんが宿としてどうなのでしょうか?それともこう言うのが主流だったりするのでありますか?」

 

 そ、そうきたかぁ~ッ。

 待ってくれよ、シャルロッテさんって確か今歳が24だろ?知らないのか、ラブホッ!?ザンクティンゼルのド田舎にいた俺でも何となく知ってるぞ、その存在と利用目的。いや、使った事はねーけどさ。と言うか部屋の雰囲気と語感でわからないのか。

 

「それにしても大きいベッドであります……シーツもピンク、不思議です」

「あはは、そうっすね……んはは」

 

 こ、これは言うべきなのか?いやだがここで説明すると俺の立場が……女性にラブホテルについて説明する男……いやいや、ちょっとこれは。

 

「おっと、そうでした。タオルで髪を拭かねば」

「あ、ああ……そうですね。タオルあるはずですけど」

 

 出入り口の傍に【バスルーム】と書かれた扉がある。タオルがあるとすればここか。何となく嫌な予感を感じつつ扉を開ける。

 

「ほらやっぱりー」

「どうしましたか……おお、これは!?」

 

 少し広めのバスルーム。そこは、ピンクの空間と打って変わって浅い蒼の光が空間を満たし浴槽まで蒼色に光っていた。力の入れどころおぉっ!!

 

「ああこれは……ジミー殿っ!!」

「はい?」

「あ、あわあわのヤツですっ!!」

 

 シャルロッテさんが浴槽の隣にある説明書きを見つけ興奮しながら指差した。そこには【本浴槽は、噴流式の切り替え可。ご自由にお楽しみください】とあった。丁度浴槽に入ると腰辺りに程よい勢いのあるジェット噴流があたるマッサージ風呂である。また凝った風呂を作ったもんである。結構いいやつだし多分改装後もこれは残すだろうな。

 

「こ、これが噂の……」

 

 えらい興味ありげだなこの人。使いたいの?いやいや、こんな状況で、しかも男である俺がいてそんな事思えど口に出したりなんてすまい。

 

「は、入ってみたい……」

「言うのかよっ!?」

「はっ!?」

 

 しまった声に出してしまったっ!!

 

「じ、自分声に出てましたか?」

「え、ええまあ割とハッキリ……」

「わわ、うわあ……は、はずかしいでありますぅ~っ!」

 

 その場で顔を両手で覆って屈みこむシャルロッテさん。耳まで真っ赤である。ただこう言っちゃなんだが自分の事を割と独り言で言うきらいがある気がしますぜ。

 

「そんなに憧れてるんですか……」

「えっとその、重ねてお恥ずかしいのですが……以前大人の女性としての魅せ方を少し本で調べた事がありまして」

 

 んな事調べてたんかい。騎士団の仕事どうしたあんた……と言うのは、最早いまさらか。

 

「それで、こう言った風呂の事が書かれておりまして……大人の女性としては、憧れが」

 

 大人の女性としては、なんて事自分で言うと尚更大人の女性から遠ざかる気がしますよ俺は。大人の女性への憧れの像が10代前半で止まってないかこの人。って言うかステレオタイプ?

 さてさて、しかしどうすればいいの?俺さっきからどうすればいいのかしか考えて……いや、日頃からそんな事ばっかり考えてる気がする。いやいや、それよりも今の事だが入りたいんだろうなあ、この人は……。

 

「そんな入りたいならちょっと入りますか?部屋いると気まずいだろうから、俺フロントにでも行ってばあさんと適当に時間つぶしますよ」

「い、いえいえっ!そのような、自分のわがままでジミー殿にご迷惑を」

「はは、ご迷惑だって。別に構いやしませんよ。迷惑も何も今更だし、俺も散々迷惑かけましたからね」

「いや、そのような事は……」

「無くはないでしょ?」

「……そう言われると、そんな気が」

 

 片手に担いだりからかったり、片手で担いだり、からかったり、片手で担いで放り投げたり。よくよく考えると俺は、出会って五日の間に豪い事しまくってるな、名のある騎士団長に。

 

「まあ雨で冷えたろうし、入らないかはともかくシャワーぐらいはしたらいいですよ」

「それは、確かに冷えましたが」

「鍵も掛けといていいですよ、適当に戻るんで開けてくれればいいんで」

 

 俺がいるとまた押し問答になる。迷惑だの、そうじゃないだの、時間の無駄で面倒くさい。とっとと部屋をでてばあさんと世間話でもしようと思った。だがしかし。

 

「お、お待ちくださいっ!」

「グエッ!?」

 

 服の裾をつかまれグエッてなった。

 

「なぐっ、なんすかぁっ!?」

「た、確かに入りたいかと問われれば自分は、この憧れのあわあわのマッサージのお風呂に入りたいであります」

「じゃ、じゃあやっぱ俺は外に」

「しかし、私と同様に雨に濡れたジミー殿を部屋の外に出そうなんて思いません」

「いや、それだと」

「だから別に……部屋を出る事はありません。居ていいであります」

 

 ええー……、今回、そう言う展開なんすか神様……。

 

 ■

 

 三 火消要因

 

 ■

 

 現在改装中のラブホテルの左右には、今それぞれ【ジータと愉快な仲間たち団】とバウタオーダ率いるリュミエール聖騎士団の部隊が休憩している。もちろんそんな事を団長も、シャルロッテも、ましてジータとバウタオーダも知らない。それぞれが突然の大雨に濡れて冷えた体をそれぞれの宿で乾かし温めていた。

 

「温かい……スープ、ごちそうさまでした。大変美味でした」

「ほほほ、ただのスープに大袈裟ですよ」

「いえいえ、本当に助かりました」

 

 宿の談話室で談笑を楽しみ、差し出された暖かなスープを飲むバウタオーダ達。具も少ない薄味のスープであったが、雨で冷えた体には、この上ない温かさであった。

 

「隊長、雨の勢いが収まってきました」

 

 天気の様子を見ていた部下の一人がバウタオーダの元へと来て報告する。言われてみると雨音がだいぶ収まってきた事にバウタオーダも気がついた。程なくしてこの雨は、止むだろう。

 

「そのようですね。各々何時でも出れるように準備をしておきなさい」

「はっ!」

「ご婦人、これは少ないですが今回のお礼です」

 

 バウタオーダは、おもむろにルピ硬貨を手渡した。少ないと言うがそれなりの量である。それを見た婦人は、少し驚くと微笑みと共にそれをバウタオーダへと返した。

 

「お礼を貰うためにやったのではありませんので」

「いえ本当に助かりました。どうか受け取ってください」

「私は、宿の商売以外でお金を取る気はありませんよ。何時かまたアウギュステに来たら泊まって行って下さい。そのお金は、その時にでも」

 

 やんわりと手に戻された硬貨を見てバウタオーダは、困ったように笑いながらそれを懐へとしまった。

 

「わかりました。必ずまた来ます」

「そうしてください、お待ちしていますよ」

 

 二人の会話が終ると共に雨脚が更に弱まっていった。それは、平穏の訪れと思えながら、しかし新たなる騒動が始まる“嵐の前の静けさ”の訪れなのであった。

 

 ■

 

 四 核弾頭

 

 ■

 

「さっぱりしたあっ!!」

 

 上下インナーのみで妙に元気な少女、ジータが宿の部屋で声を上げていた。

 

「コラ、ジータはしたないぞ」

「えへへ、ごめーん」

 

 女として如何なものかと思える格好のジータをカタリナが注意する。他の仲間と部屋を別れたジータ、ビィ、ルリア、カタリナの三人と一匹。濡れた体を宿の小さいながらもお湯の出るシャワーで洗い温め気分がだいぶすっきりした様子であった。

 

「あ、見てください!雨の様子が」

 

 カタリナに頭を拭いてもらっているルリアが窓の外を指さす。ジータ達が外を見ると先ほどに比べてだいぶ雨の勢いが弱まっていた。それを見てジータとルリアは、純粋に喜んでいるが一方でビィとカタリナは、心底ホッとし同時に不安であった。

 

「ビィ君、これは……」

「多分だけど、シャワーして気持ちすっきりしたから落ち着きが出てきたってことだと思うぜ」

 

 誰の気持ちがすっきりしたかは、言うまでもなくジータの事であった。そもそもが雨の原因もジータである事は間違いない。表に現れない気持ちの変化がこの天気に現れていた。

 

「このまましばらく落ち着いてくれるといいのだが」

「どうだろうなぁ……オイラも正直どうすればいいのかわからねえし」

「一先ず外を歩ける程度に雨が収まるか止むかしたら美味しいものを食べよう。それでも気持ちは多少変化するはずだ」

「それがいいな、一気に感情を変化させるような事すると何が起こるかわからねえし……っても、そもそもそんな方法今あるわけないけどな」

 

 キャイキャイと窓の外を眺めながら、ギュステで何を食べるか、どこで遊ぼうか等を語り合うジータとルリアを見る。今ばかりは、年相応の二人の様子に癒されつつも、謎の不安を覚えるカタリナであった。

 

 ■

 

 五 火薬庫および着火要因

 

 ■

 

 ……俺は、何してんだろう。

 

「お湯張りましたよ」

「で、では……いざっ!」

 

 シャルロッテさんが、湯のたっぷり張った浴槽にあるジェット噴流を生み出すスイッチを押した。すると浴槽内に勢い良く噴流が起き水中がキメ細かい泡で溢れていった。

 

「す、すごいであります!ブクブクであります!」

「そっすね」

 

 もう一度言う、俺は何してんだろう。

 はしゃぐシャルロッテさん、もう何を考えればいいかわからない俺。なんでこうなった?いんや、わかってるさ、俺がシャルロッテさんの部屋に居ていい発言を聞いて断り切れなかったのが悪いんだ。

 

「じゃあ、俺部屋で休んでますから」

「あ、わかりました。その……申し訳ありません」

「いいっすよ。バスローブもこっちの籠にありますよね?ごゆっくりどうぞ……」

 

 とっとと浴室から出ていく。そしてちゃんと浴室の鍵を閉めてもらった。お互いのためにである。それを確認すると、俺は一人では大きすぎるベッドに横たわった。

 もう一度だけ言う、俺何やってんだろう。

 本来ならコーデリアさん達と合流して【正義審問】も終わっていてもおかしくない時間だ。それなのに俺ときたら間違ったとは言え改装前のラブホでリュミエール聖騎士団の騎士団長のバスタイムが終るのを待っている。

 馬鹿なの?どうすりゃこんな事態になるのさ。ルナールさんの好きな絵物語でもそうそうねえよこんな展開。

 ……考えても無駄だよね、知ってる知ってる。まあボオ~っとして休むとするよ俺は。

 

「お、おおっ!?」

「……」

「うわ、す、水流が腰に……うひゃあっ!?」

「…………」

「んひいっ!?け、結構くすぐった……うわあ、あは、あはははっ!?」

 

 あの人はもおおぉぉっ!!聞こえてるっつーの!!気まずいわ、気まずすぎるわ!!

 声が収まるまでマジ気まずかったわ。延々と続いた気がしたわこの野郎畜生め。だがやっとシャルロッテさんが噴流の勢いにも慣れたのか声も聞こえなくなると、俺のほうも多少落ち着くことができた。

 色々と、この間に宿から出ての事を考える。もちろんコーデリアさん達との合流が最優先であるが間違ってもこの宿から出て行くところを誰かに見られるわけにはいかない。もう既に俺達がとってる宿で集合しているはずだからありえないがティアマトにでも見られた日には、死ぬまでからかわれる。見知らぬ誰かに見られたとしても恥ずかしいのに冗談ではない。

 それにシャルロッテさん、彼女のような高名な騎士団長がラブホへの出入りなんて見られちゃとんでもない事になる。ちゃんとラブホの事を説明出来なかった俺も悪いが……。

 やはり理想的退出は、人目に付かぬタイミングを狙う他ない。幸いにもすでに外は、夜。暗がりに紛れればわからないはずだ。この雨も降りだし方からして長く続く雨では、ないと思う。狙え絶妙な逃げ時を、俺っ!!

 などと勝手に一人決心していた俺であったが、気合と共に顔を上げた瞬間に浴室とベッドルームを仕切っている壁――それが一瞬にして奇麗な透明ガラスへと変化し、ありのままの姿のシャルロッテさんと目と目が合う展開は、本当に予想できるはずは、無かったのである。

 

「きゃああああああああああああっ!?」

「ぎゃああああああああああああっ!?」

 

 俺が、俺が何をしたっていうんだよっ!?

 

 ■

 

 六 「そういや、ガラスの事言うの忘れてたね」

 

 ■

 

「殺してください」

「ジミー殿、顔を上げてくださいっ!」

「殺してください」

「ジミー殿、じ、自分はその……気にしてないであります。だから顔を」

「殺して奉り候……」

「ジミー殿、言葉使いが変でありますっ!?」

 

 殺して……もう表を歩けない俺を誰か、殺してくれ……。

 

「お願いですから、もうそんなに謝らず……」

「それ以外に俺に出来る事は、無い」

 

 全空一申し訳ない気持ちの表れ、土下座。俺は、今土下座以外するべき事は無い。あるわけがない。婦女子の裸を偶然とは言え見てしまう。しかも入浴直後の、シャルロッテさんの……。

 被告人俺氏、有罪確定、満場一致。

 

「そもそも、ジミー殿を部屋に居て良いと言ったのは自分ですし、それにあの事も自分が……」

 

 シャルロッテさんは、未だ赤みの抜けきれぬ顔で俺を土下座の体勢から戻そうとする。

 突如の壁の透明化、と言うより実はガラスだったのだが……。ようは、ラブホ特有のサービスであった。ガラスと特殊な加工がされた魔法結晶を組み合わせた世にも不思議な【一押しですっきりクリアガラス(いやぁ~んエッティ⤴.Ver)】、工業の島バルツで物好きな職人が開発した色々と用途が限られてくる阿呆な発明であった。

 浴室に設置されたそれは、浴室内からのみ壁モードと透明ガラスモードの切り替えが出来る頭悪い仕様である。誰に聞いたって?ばあさんだよ。「言うの忘れてたよ、ごめんね」だって。この野郎。俺の知ってるばあさんってのは、こんな人ばっかか……。

 それでそのスイッチを見つけたシャルロッテさんが、興味本位で押してみたらあんな事になってしまった。と言うしだい。

 そしてこの事で必然的にラブホの事が結局シャルロッテさんにもバレた。と言うか、説明せざるをえなくなった。透明になるガラス壁とか、誤魔化し切れないから。そんでラブホの説明を聞いた時、暫し何の事かわかっていなかったようだったが、「つまり男女のですね――」と露骨な説明をしたあたりで顔が爆発したように赤くなりベッドに潜り込んでしまった。

 俺が潜りたいよ、もう穴があったら入りたいよ。何が悲しくて年上の女性にラブホの使用目的の説明をせねばならんと言うのか。拷問だよ、辱めだよ、地獄だよ。

 そしてその後は、今に至る、怒涛の土下座だよ。

 

「俺は、こんな事をして、どう詫びれば……」

「だ、だからもういいであります……気にしてないですから。と言うか、あまり謝られると、自分としても複雑と言うか……」

 

 だ、だってそれ以外に俺どうすればいいのか、わからないし……。

 

「ジミー殿、確かにその……自分も見られてしまった事は、恥ずかしいでありますが今も言った通りジミー殿を部屋に居て良いと言ったのも、勝手にあのガラスのスイッチを入れたのも自分ですから……そう、事故!これは、事故であります!」

「事故、ですか……」

「そうです、不運な事故です。だからどうかもう顔を上げてください」

 

 床に擦り付けていた俺の頭を、シャルロッテさんが優しくその小さな手で持ち上げる。その時、俺を許し微笑みを浮かべるシャルロッテさんの顔から後光が見えたような気がする。

 

「ありがてえ……ありがてえ……」

「泣くほどでありますかっ!?」

 

 泣くほどだよっ!人生終ったと思ったんだからな俺はっ!?衛兵に突き出されて前科付く覚悟もしたんだぞ!!

 

「はい、それじゃあ……もう今まで通りであります!」

「はい……はい……ありがてえ……」

「それはもういいであります」

 

 あ、はい。けど心の中では唱えときます、ありがてえ。

 結果的に、シャルロッテさんは、冷えた体を温めれた(事故によって羞恥心からも体が熱くなったが……)。その点は、せめて良かったと思いたい。一方で俺は、心底肝が冷えたが。

 さて、兎にも角にも場が落ち着いたところで新たな問題である。問題と言うか、試練と言うか、シャルロッテさんにラブホの事が知られた以上、さらに空気が気まずい事になった。さっきまでは、ただ大きいベッドという認識のベッドも、人間二人が入って動いても問題ない大きさと言う事を知ってしまったシャルロッテさんは、ずっと顔真っ赤です。だから俺らそろって部屋の隅にある大き目ソファーに並んで座ってる。なんだかなあ。

 

「……なんと言うか、申し訳ございませんでした」

「はい?」

 

 ふいにシャルロッテさんが謝りだした。なんでじゃい、俺の方がまだ謝り足りないぐらいだぞ。

 

「何がっすか?」

「今回と言いなんだか自分が案内する場所で次々とトラブルに巻き込まれたような気がして……申し訳ない」

 

 違います。

 違います。

 それ、違います。

 多分それ原因俺です。俺のほうがトラブル呼んでます。貴女じゃないです。そもそも俺がトラブルを呼んだ結果、貴女と出会ってます。

 

「それシャルロッテさん関係ないと思いますよ」

「けれど、自分がもっと冷静に対応できていたら、今回もこんな事には……」

 

 対応できるかあ?確かにラブホ知らんと言うのは、予想外だったが、知ってようが結果は、変わらなかったと思う。そもそもここに入った時点でダメだったはずだ。

 

「大人としてジミー殿よりもっと上手く対処するべき時、自分は慌ててしまいました。こんな事では、大人のレディを名乗る事は、出来ません……」

 

 あ、そこなのねショックなのは。

 

「はあ……いいですか、シャルロッテさん。そんな悩みは、不要です、いりません」

「え?」

「ポイしちゃいなさい」

「ポイって……」

 

 いいんだよ、ポイしちゃって。

 

「大人かどうかなんて、勝手に成ってるもんなんです。誰が決めるでも、自分が決めるでもなくいつの間にか成っとるのです。成りたくなくてもなるのです、考えても無駄です」

「し、しかし」

「それに、大人なら冷静に対処できるみたいなのは、妄想です」

「妄想っ!?」

「そうです、妄想、ファンタジーです。世の大人は、殆どが子供と変わりません。精々子供の時より大人しくなっただけで、基本的にみんな図体大きいだけの子供なんです」

「ジ、ジミー殿?」

「いい年して馬鹿みたいに酒飲んでは所かまわず吐く人がいます。人の困る顔を見たいがために無理難題を投げかける意地悪な人がいます。自制と言うものが無かったせいで四六時中笑い続ける人もいるし、しょっちゅう凶器を振り回してる人に、如何わしい妄想しかしない人もいます」

「ジミー殿、ちょっと」

「人の金を勝手に使い込む奴等に、悉く自分の尻を蹴ってくれと言ってくる阿呆に、笑顔で借金上乗せしてくる人もいて、死地へ笑顔で放り投げるクソババアも……」

「ジミー殿、しっかりっ!なんか目が変です!」

「ハッ!?」

 

 い、いかんいかん、ダメな大人の例を挙げてたらちょっと暴走した……。

 

「ジミー殿、なんだか苦労をされているようですが、大丈夫でありますか?」

「い、いや……俺の事はいいんですよ。要はですね、クソみたいな大人を見てきた俺に言わせればですね、シャルロッテさんはよっぽど大人です」

「そ、そうでしょうか」

「まあ、ぶっちゃけ面倒くさいんで、もうそんな事で悩むのやめてどうぞ」

「いっきにいい加減な答えになったであります……」

 

 仕方ないじゃん、本当に面倒なんだもん。

 

「だってしょうがないですよ。ラブホについて知らなかったのも、大人とか関係無しに知らなかっただけですし、大人だからって冷静な対応できないっても、自分の裸見られて冷静に対処できる人なんてそうそうおりゃしませんって」

「それは、まあそうかもしれませんが……」

「それに自分の悩みってのは、自分で答えを見つける事が難しいもんです」

「と言うと?」

「自分で同じ悩み延々悩んでて答えなんて見つかるわけ無いじゃないですか。一人で悩むって言うのは、宝探しで宝の場所を知ってる人が居るのにその人無視してたった一か所しか探さないのと一緒です。宝のない場所を掘り続けるだけっす」

「わかるような、わからないような……」

 

 仕方ないじゃん、俺こう言う例え苦手なんだから……。

 

「要は何一人でグダグダしてるのかって話ですよ。騎士団長としての立場や、大人だとか、身長の事込みで悩む事が有るなら尚更一緒に答えを探してくれる人探しましょうよ。シャルロッテさんの納得できる答えって言う宝を知ってる人はいますよ」

「……そんな人が、いるでしょうか」

「いますよ、幾らでも。騎士団の仲間にもいるだろうし。なんせ空は広いです、から……」

「ジミー殿?」

「いや、なんかすんません……今の忘れて下さい……」

 

 なんて言うか……何熱弁してんの俺。こんな偉そうな事言えるような人間じゃないじゃん、馬鹿かっ!!状況考えろよ、今さっき偶然で、許されたとは言え裸見てしまった様な人間だぞ俺は、急に恥ずかしくなってきた。

 

「偉そうなこと言いましたけど、たいして俺も分かってないんで、すんません」

「……いえ、忘れないであります」

「え?」

「ジミー殿の言葉、少し考えさせられました。自分は、一人で悩みすぎていたかもしれません」

 

 ええぇ~真に受けちゃったよ……やばいじゃん、クッソ恥ずかしいなあ、俺の馬鹿っ!!ほんとティアマトとかいなくてよかった、いたと思うとマジ寒気がするわ。

 ああ、てかもう無理間が持たない。早く部屋出たい、宿出たい、今日を終えたい!!

 そんな必死の願いが通じたのか、ずっと聞こえていた激しい雨の音が徐々に、徐々に小さく弱くなっていった。それに気が付いた時の俺ときたら嬉しくて勢い良く立ち上がってしまったね。

 

「雨弱まってきたみたいっすよ」

「あ、本当であります」

 

 大振りが小雨へと移り、窓に叩きつけられる雨粒もポツポツと数えれる程度になっていく。降るのも突然なら、止むのも突然だったな。

 

「……出ますか」

「そうでありますね」

 

 なんとも不思議な雰囲気の中、そそくさと宿を出る準備をして部屋を出ていく俺達。だが内心俺は、やっとこの空気から脱する事ができるとルンルン気分であった。

 フロントでばあさんに礼を言うと「改装したらまた来なよ」と言われる。ちょっとは考えておくがあの風呂の壁だけは、何とかしとけよマジで。

 さて、そして今日の本題。

 

「シャルロッテさん、実は来てほしい場所があるです」

「来てほしい?」

「ええ、ちょっと用事で……もう夜になってるのに申し訳ないですけど、ここの近くのはずなので」

「かまわないですが、どんな用事でありますか?」

「いきゃわかります」

「はあ、そうでありますか」

 

 流石にもう何も今日トラブルが起きることはあるまい。とっととコーデリアさん達の待つ俺らの宿に行ってしまおう。ひどいロスを食らったからな。帝国関係の事もあるから、もうのんびりしてられない。扉を開けて外へ出る。

 

「それじゃあ行きますか」

「我々も戻りますよ」

「行こうかみんな!」

 

 ……ん?

 なんか、宿から出たら声が重なった。両サイド?他の宿の客か?

 

「ん?」

「おや?」

「あれ?」

 

 …………ん゛?

 

「え?」

「え?」

「え?」

 

 え?

 

 

七 え?

 

 

 ちょちょ、ちょま……嘘だろ、嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろおおぉぉっ!?信じねえぞ、冗談じゃねえぞ、夢だ、これは夢、悪夢っ!?まってほんと、まってっ!?今左から聞こえた声ってめっちゃ聞き覚えある声だったよねっ!?いや、違いますよ、違うよ絶対!!そんな偶然……トラブルの極み、あるわけないっ!!

 

「ま、まさか、ババ、バウタオーダ殿」

「……シャルロッテ、団長?」

 

 あっはっはっはっ!!こっちはこっちでなんかあれだけど、まて深呼吸……落ち着こう、まだ顔は見てない、目は合わせてない。見なければ確率は二つ、アイツがいるかいないかの二つ。そうそしてきっといない、アイツが偶然俺が雨宿りで逃げ込んだラブホの隣の建物から現れるとかそんな事はないです、無いったらないっ!!

 

「……お兄ちゃん?」

「兄貴……?」

 

 聞き覚ええぇぇーーーーっ!!二つの声に聞き覚えぇっ!?覚えありすぎるっ!!

 

「ひ、人違い、じゃよ」

「うーん、お兄ちゃんっぽい幸薄オーラを感じるけど……」

「どこで判断してんだテメエっ!!……あ」

「ほーら、やっぱりっ!」

 

 思わず向いてしまった。顔を合わせてしまった。夏の太陽、満開の花とも思えるような、夜だと言うのに輝いて見えるその笑顔。傍らに寄り添うように飛んでいる小さなドラゴン。間違いようが無かった。

 

「よ、よう……ジータ、ビィ。おひさ」

 

 間違いなく、俺より先にザンクティンゼルを旅立った妹分で幼馴染であるジータとその相棒のビィだった。

 

「ほ、本当に兄貴なのか?」

「おう……元気そうだなビィ」

「あ、兄貴!本当に兄貴だっ!」

「嬢ちゃんどうした?えらい元気な声が聞こえたが……おっ?」

 

 ジータの後ろから見知らぬ男女がゾロゾロと現れた。ただ二人の少女と女性、確かカタリナと言う騎士とジータが助けたと言うルリアだったはず。

 

「んだあ、この事態は?」

「シャルロッテ団長……貴方は、このようなところで何を?」

「いや、それはその……」

「お兄ちゃん、すっごい偶然っ!!偶然?運命っ!?って言うか本当に空に出てたんだね!」

「兄貴ぃ、助かった……オイラほんと、今日なんかもうダメかと思って……っ!!」

「お、おうそうか……大変だな」

「いつの間にか姿を消したと思ったら、まさかアウギュステで出会うなんて」

「で、ですからそれは」

「本当に騎空団始めたの?いつ頃?その子って仲間なの?」

「兄貴、なんでもいいからジータに兄貴グッズを上げてくれよおっ!もう前のクッションとかじゃ無理なんだ」

「あ、うん……ちょっと、今はそのまずいって言うか」

「いや、ほんとどう言う事態だよっ!?」

 

 ジータの仲間と思われる髭の兄ちゃんが叫ぶ。お気持ちお察しします。俺もそう思うし、助けてほしい。

 

「てかこの小僧、この宿から出てきたのか?」

 

 そしてもう一人のおっさんが、わざわざ言わんでいい事言った。言わんでいい事言ったッ!!

 

「お兄ちゃん、隣の宿だったんだね?知ってれば呼んだのに~」

「あはは~そうだねえ、ところでジータ、ちょっと場所を移したいんだけど」

「ねえねえどんな部屋だった?私達雨宿りでね、この宿にお世話になったんだけど、そっちの、宿、は……」

 

 【ホテル メイク・ラブ・ギュステ】、ジータの瞳にバッチリ入る。他の皆もつられて見ちゃうね。まあ見るよね。

 

「こ、こここれって、あれよね」

「ええ、つまりそう言う宿ね」

 

 杖持った少女が顔真っ赤にしてて、隣の女性は微笑ましそうに俺とシャルロッテさんを見てる。

 

「シャルロッテ団長、まさか貴方……」

「誤解です、バウタオーダ殿!?」

 

 シャルロッテさんの方も大変そうだが、それどころじゃない。俺の第六感が告げている。「逃げろ」と。

 

 ■

 

 八 お年頃爆発

 

 ■

 

 ――この瞬間、極めて短期間の内ファータ・グランデ全域で歴史上今までに無い同時多発異常現象が発生した。

 ポート・ブリーズでは、ティアマト(真)の力を凌駕する突風が吹き荒れ、バルツでは、死火山と思われていた火山が突如噴火、アウギュステでは、ある筈の無い間欠泉が各所で吹き出しリヴァイアサンが火傷した。それ以外の島々でも地震、雷、雹、嵐と異常気象のオンパレードであった。だが奇跡的に死傷者は、全く居なかった。むしろそれ等の現象は、最終的に島にとってプラスに働いた。

 突風によって途中動力が故障し空の底へ落下しかけていた騎空艇数隻が奇跡的に島へと運ばれ助かり、バルツでは新しい火山の熱を使っての工場が作られた。アウギュステの間欠泉は、すぐにシェロカルテがその土地を買い取り、海と温泉が楽しめるリゾート地に改造。それ以外の場所でも同様の結果をもたらした。

 果たしてこの異常現象の原因は、なんであったのか後の学者達は、頭を悩ませた。ただの偶然か、それとも星晶獣の力か……あらゆる可能性を考えても答えが出る事はなかった。そして、この時。空の底へと通じる巨塔でも異変が起きていた事を、誰も知る由は無かったのである――。

 

 ■

 

 九 弱P・弱P・→・弱K・強P

 

 ■

 

 時間になっても現れない団長とシャルロッテ騎士団長を探しにブリジールとともに小雨になったのを見計らい外に二人を捜しに出た。おそらく二人は、近くまでに来ていると考えてあまり広い範囲を探さずにいると案の定覚えのある声が聞こえてきた。そして、同時に複数人の騒がしい声。

 やはり、トラブルに巻き込まれたのか……呆れながらも、彼らしい展開に思わず笑ってしまったが、声の聞こえる所に付いた瞬間には、その笑みは消えた。

 まずその状況、コーデリアからみて左からリュミエール聖騎士団の部隊が揃っていた。しかもその隊長は、コーデリアも知っている男バウタオーダだ。この時点でコーデリアも混乱してしまう事態だ。そして次に一番右に居た少女を中心とした集団。一見ただの少女と思えるが明らかに他の纏う空気が違う。何よりもその二つの団体に挟まれ心底困り切っている見知った二人。こうなった過程が想像できない構図であった。

 

「脱兎ッ!!」

「あっ!!兄貴っ!?」

 

 そして、唐突に彼が、団長が本気で逃げ出したのだ。一人の少女の元から、普段コーデリアが知る限り見た事がない本気で必死な表情であの団長が逃げ出していた。だがさらに驚くべきは、その団長に一瞬にして追いついたその少女であった。

 

「にがさない」

「あ」

 

 何時の間に移動したのか、目に追えぬ速度だった。団長が遅かったのではない、彼女が異常だった。そしてその声が聞こえた次の瞬間、瞬きする間もない時間で団長は見るも無残、ボロボロになって地に伏せていたのだ。

 そして その時、コーデリアがみたのは、修羅の後ろ姿であった。

 

「あ、兄貴いぃーーーーっ!?」

「……あ、いけないっ!!つい!?」

 

 一匹、団の仲間に居る黒いドラゴンもどきに少し似た子ドラゴン叫ぶ。他の者達も慌てて倒れ伏す団長の元に駆け寄った。

 

「ジミー殿おぉっ!?」

「つい、じゃねえよジータァッ!?」

「お嬢ちゃん、ついにヤッちまったのかっ!?」

「おい、あの坊主ヤバいんじゃないかっ!?」

「ヒ、ヒールッ!!誰かヒールできる人っ!!あ、私だっ!?」

「……あ?大きな羽が、ばっさばさしている……あっはは……あぁ、大きい!星晶獣かなぁ?いや、違う。違うな。星晶獣はもっとこう……ゆるキャラっぽいもんなっ」

「い、いけません!かなり意識が混濁していますっ!!誰か、医者をっ!!」

「……暑っ苦しいなぁ?ウリエル?うーん……星晶獣なのかな?……おーい、誰なんですか。ねえ!」

「しっかりするでありますジミー殿っ!!誰と会話してるでありますか!?」

「え?……これは、星晶獣の気配?」

「いえ、これは……まさか、天司達が干渉してきてると言うの……?」

「ルリア、ロゼッタ、何に関心しているんだっ!?」

「しっかりしてくれ、兄貴っ!!兄貴いぃーーーーっ!!」

 

 果たしてどう言う事があって、こんな事になったのか。コーデリアもブリジールも団長の元に駆け寄る事も忘れ呆然と立ち尽くし、わからずにいたのであった。

 

 




せっかくラブホにぶち込んだから、多少「いやぁ~んHっ」なイベントはしないといけないと思った。今は反省している。

今回のシャルロッテもかなりキャラ崩壊を起こしてしまい、ファンの方には申し訳ない。ジータの方に関しても、アニメ版を参考にはしておりますが、アニメ版そのものでは無いので、イメージと違うと思う事があるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騒動の夜が明け、騒動の朝が来る

力のジータ、技の団長


 

一 天司の誘惑

 

 

 ……うん?

 な、なんだ、ここ……俺は……。

 

「あ?なんだぁお前?」

 

 え?おお?なんだ、突然目の前に筋肉モリモリマッチョマンが……いや、あんたが誰だよ。

 

「人間か?っかしぃな……なんでただの人間が俺に干渉してるんだ?」

「知らんですよ、と言うか誰ですかあんた」

「ああ?知らねえで来たのかよ……いや、ちょっと待て、お前確か」

 

 マッチョマンが行き成り俺の顔をじっくりと観察し始めた。暑苦しいなあ、もうちょっと離れてくれよ。

 

「おおっ!?そうか、お前あの小僧じゃねえか!!」

「どの小僧ですかね」

「おお、おお……ほんと地味な顔してやがる。まじで気が付かなかったぜ、ハハッ!!」

 

 失礼だなこの筋肉。

 

「っんだよ、行き成り来るんじゃねえよ、もっと後に来ると思ってたのによ……ちょっと待ってろ、あいつら呼んでくるから」

「ねえ、ちょっと……話聞いて、聞い……てないね、行っちゃった……」

 

 マッチョマンは、俺を放置してまるで風に消えるようにして去っていった。俺はと言おうと、何故か体の自由が利かない。と言うか俺の体の感覚が薄い……どうなってるんだろうか。

 そもそも、俺は何をしていた?ここに来る前に、俺は……そういや……そうだ、ラブホから出てきてジータと再会してその後……。ああ、そうかジータにやられたんだ……。く、くそ……ジータあの野郎、状況が酷いからってあんなのあるか。一瞬で意識刈り取られたぞ。どう言う動きだよ、まるで気がつかなかった。

 

「よお、待たせたな!」

「わおっ!?」

 

 また急にあのマッチョマンが現れた。しかも今度は、人数増えてる。

 

「あら、本当に来てたのね?」

「なんと……人の身のままで我々へ干渉したと言うのか」

「ふむ……奇怪な」

「待て待て待て……勝手に話進めないで、あんたら何なの?ここは何処よ?」

 

 突然増えた男女、どうも雰囲気が星晶感あるのだが、ティアマト達と似た奴だろうか。

 

「この男、どうやら意図せず現れたようだ……肉体が一時的に休止し、その精神のみが我らの次元へと干渉したか」

「待って、俺どうなってんの?」

 

 それって死んでない?え?ここあの世なん?ジータに殺されちまったのか?ほぼ無実の罪で?

 

「安心していいわ、あなたは今眠っているようなもの。ただ偶然にその魂が私達の元に現れたの」

 

 安心できる気がしないんですが。召されてない?魂が分離してるって、それ召されてない?

 

「いや、そう言われても……そもそも、あんたらほんと誰?なんか羽生えてるし人じゃないでしょうけども」

「あたりめえだ、俺達は人じゃねえ」

「世を司る四大元素、それを司るのが私達」

「空を管理すべく生み出されたシステム、空の島々の浮力を生み出すのも我らが役目」

「我ら四大元素を司りし者、四大天司」

 

 急に何言ってんだこいつら、痛々しい……しかし、なるほど、大体わかった。

 

「つまり、めっちゃ凄い星晶獣って事ね。Ok、把握」

「ざっくりまとめやがったな」

「まあ大体あってるけどね」

 

 はいはい、またこう言う展開ね。もう星晶関係は、正直胃もたれ気味。飽きたよもう。気絶してても俺ってこんな事に巻き込まれちゃうんだね、こんちくしょう。

 

「しっかし、実際に間近で見てみっと、お前ホント地味だな」

「二度目だな。初対面でクソ失礼だよ、アンタ」

「ガハハッ!威勢良いじゃねえか坊主!いっちょ喧嘩すっか?」

「お断りします」

 

 この筋肉マンからフェザー臭を感じる。あれと似たタイプだ多分。

 

「……所でさっきから俺の事知ってる感じだけどなんで?」

 

 確かに初対面だよね?ああ、ゾーイの時もこんな風だった。相手側が一方的に俺の事知って妙に危険視したり敵対視するんだ。いつもそう。

 

「無論。貴様の異常性は、我ら天司も危険視していた。あの少女共々な」

「……あの少女って、まさか」

「貴方を気絶させたあの子よ」

「またジータか……」

 

 あいつ関わるとほんと碌な事にならねえな。

 

「何時かは干渉する必要があると我ら、いや天司長も考えていた」

「まだ天司いるんすか……」

「我々を束ねる天司の長だ。今もどこかでこの様子を見られている」

 

 つまり普段から俺達、ひいては空の住民達は、天司達に見られてるわけね。

 

「プライベートの侵害っすよ」

「そうレベルの話じゃないんだけど……」

「大体俺のどこが危険なんすかあー、ジータはともかく俺なんて人畜無害の少年ですよ」

「お前だけの問題ではない、お前が引き寄せる事象が危険なのだ」

 

 くっそ、一気に身に覚えのある話になりやがった。

 

「それに星晶獣8体殆ど一人で倒した上にそいつら全員仲間にしといてそんな言い訳通るかって」

「うぐぅ」

 

 本当に俺の事を見てたらしいなこいつ等、いやーんな感じ。

 

「と言うか貴方達の行動で空に異変が起き続けでちょっと私達でも困ってるんだけど。さっきもパンデモニウムの方で、何かの封印解かれたようだしちょっとは加減してね?」

「いや、知りませんよそんなの……なんすか、パンデモって」

「空と地を結ぶ塔よ、魔物と星晶獣が封印されてる場所でもある。詳しくはその内わかるわ」

「そらトンデモニウムですわ」

「……下らん」

 

 言わないでニヒルさん、言っといてなんだが俺も無いと思った。

 

「それだけでは無い。貴様と少女の行動によって、運命の流れが崩れ新たな可能性が生まれた。それによってあの島に今危機が迫っている」

 

 ”あの島”ってアウギュステの事か?やはりあの島で何かが起きてるのか。大凡帝国関係の事だろう。

 

「アウギュステが危険なんですか?」

「このままではね」

「……それを聞かされちゃ、寝てる場合じゃねえな……」

「ほお?急に闘志を溢れさせたな」

 

 当然である。このまま帝国の好き勝手させる気は無い。

 

「俺はまだアウギュステのビーチでバカンスしてないんだ」

「……所詮は、人間。俗物であったか」

 

 うるさいぞなんかニヒルな人。

 

「はっはっはっ!!いいではないか、戦う理由などそれぞれだ」

「この子のこう言う所が見てて飽きないのよね」

「やっぱ一発喧嘩してえな。良い喧嘩できそうだぜ」

 

 嫌だっつってんだろこの筋肉。

 

「駄目よ、そろそろ彼目が覚めるもの」

「そうだ。手合わせできるのならば、我とてそうしたいが今回は、時間が足りぬ」

「時間あったらする気だったんかい」

「無論、貴様とは良い戦いが期待できる」

 

 なるほどねー四大天司の内二人は、基本脳筋か。特に筋肉の方。

 

「これが俺達の空司ってるとか、ちょっとショックなんすけど。ただの喧嘩好きじゃん」

「まあまあ、普段はちゃんと仕事してるのよ」

「……あれと一緒にするな」

 

 星晶獣ってのは、こんなのばっかなんだな。天司(笑)。ははっ、わらっちゃう。

 

「さて、そろそろね」

 

 一番まともそうな天司の彼女がそう言うと、俺の意識がフワフワし始めた。

 

「貴方の肉体が目を覚ますわ。また会いましょう」

「なるべく会いたくないっす」

「そう言うなよ、俺はウリエル、土の天司だ。次こそ喧嘩しようぜ!」

「我はミカエル、火の天司。カオスを体現せし少年よ、次は手合わせ願おう」

「私はガブリエル、水の天司。もしかしたら、すぐ会うかもね」

「……ラファエル、風の天司。人の子よ、さらばだ」

 

 それぞれが妙に意味深な事をいいやがった。言いたい放題だな、天司。

 

「君と会える日を楽しみにしているよ」

 

 ……うん?今のは?四人とも違う声、あれ……だれ、だ……――。

 

 

二 死ぬかと思ったぜ!!

 

 

「……き、……あ、に……っ!」

「……ん、うぅ~ん?」

「……ちょう!だん、ちょ……っ!!」

 

 なんか、声が聞こえる。全部知った声だけど、あれ?

 

「意しき……が、もど……」

「きが……だん、ち……おい……っ!」

 

 うるさいな、分かったから、今目覚ますから……。何かわけわからん奴等に絡まれてて大変だったんだ、少し待て。

 

「イイ加減、起キロ」

「ぼはあっ!?」

 

 突如腹部への打撃ィっ!?て、てめえ!!今のは、ティアマトだなっ!?

 

「こ、こんのクソ星晶獣(笑)!!なんつう起こし方しやがるっ!?」

「私、団長ナラコノグライ平気ッテ信ジテタワー」

「ワザとらしい言い方するな気持ちわりいな!?」

「兄貴、目を覚まし――」

「お兄ちゃん起きたあっ!!」

「ぬごおほおおっ!?」

「兄貴ぃーっ!?」

 

 ま、また腹部への衝撃がっ!!

 

「兄貴しっかりしろおっ!!」

「ジータッ!?目を覚ましたばかりなのに、そんな腰の入ったタックルするヤツがあるかっ!!」

「あっ、ごめんっ!!」

「お、おおぉ……ごおぉ……うぼあぁ……」

「ほら見ろ、えらい疼き方しちまってる……落ち着け坊主、呼吸整えろ」

 

 髭の兄ちゃんが親切にしてくれる。ありがてえ、ありがてえ……。

 

「あ、ありがとうございます……」

「かまわねえよ、ジータが悪かったな」

「いえ、いいっす。慣れてるんで」

「そうか……お前が、本当にアイツの兄貴だったんだな」

 

 あれあれ?一気にこの人の俺を見る目が哀れみへと変わったんだけど何故かなあ~?いや、やっぱ言わなくていい。分かってる、ビィ辺りに聞いたか。そうか、初対面でも哀れまれるぐらいにジータは、この騎空団で無茶苦茶してるんだね。

 さて、周りを見渡すとコーデリアさんと星晶戦隊に、ジータとその仲間らしき人達が揃っている。ここは、エンゼラの俺の部屋か。何でここに……まあいいや、とりあえず今の状況が知りたい。

 

「それで?あの後何があったんすか?他のやつらは?」

「ああ、それは私から説明しよう」

 

 ああ、コーデリアさん。なんかこの人がいるとそれだけで安心できるな。もう全部任せてしまいたい。よっしゃ、聞こ聞こ。

 

「まず君が彼女の攻撃を受けてずっと気絶し眠っていた」

「ジータの攻撃を受けてって時点で、もうわけわかんないよね」

「ご、ごめんね?」

 

 おう、素直に謝れるのはいい事だぞ。

 

「その後意識が朦朧とし程なく完全に意識を失った君を、私達がエンゼラへと運んだ。外傷は、少なくほぼ全ての攻撃……と言っても、私は果たしてどれ程の連撃を入れられたのか分からなかったが、それらは全てが衝撃となって君の体内へ正確、的確に放たれた」

「大体千発ぐらいだったと思うけど……」

 

 一瞬で千撃か、鬼神かなにかかよ。流石ザンクティンゼルのリーサルウェポン、スーパーザンクティンゼル人。

 

「そうか、また強くなったなジータ」

「そ、そう?えへへ」

「ジータ、多分褒められてないぞ」

 

 お、カタリナさんだっけ?わかってるねえ、ただの皮肉だよ。

 

「急ぎ治療が必要だったが、イオ君……ジータ団長の仲間の少女がヒールをかけてくれて最悪の事態は、免れたよ」

「イオ?」

「私ね」

 

 杖を持ったツインテールの少女が軽く手を上げていた。

 

「そうか、君が助けてくれたか。ありがてえ」

「お礼なんていいわ、当然の事よ」

 

 あ、この子良い子だ。俺わかる、うちの団に欲しい。主に癒しとツッコミ要因で。

 

「その後直ぐに私達は、リュミエール聖騎士団とも合流を果たしたのだ」

「あ、そうだそうだ。シャルロッテさん、それになんか知り合いっぽかった人達いたな。あの人達は?」

「今君が目を覚ましたと知らせに――」

「ジミー殿っ!?」

 

 ばばんっと扉が開いて飛び込んできたのは、丁度話題に出したシャルロッテさん、そして後ろからは、体の大きなドラフの騎士が着いてきた。部屋の密度が狭くなる。

 

「ああ、本当に目を覚まされたのでありますね!」

「やあシャルロッテさん、ご心配おかけしました。うちの船にいたんすね」

「はい、ジミー殿の目が覚めるまではと。他の騎士団の皆は、バウタオーダ殿が乗って来た船に居ますが……う、うう……しかしあの後、ジミー殿がうわ言でわけのわからぬ事を呟き、呼吸まで止まりかけた時は、もうダメかと……」

「待って、俺呼吸止まってたの?」

「ちょっとクリティカルしちゃったみたいで……」

 

 ちょっとじゃねえよ、ジータ?天司との接触が、ほぼ天に召される5秒前じゃん。やっぱ魂召されかけてるじゃん。

 

「何とか無事なようですね。安心しました」

「貴方は?」

「自分は、リュミエール聖騎士団の部隊長をしておりますバウタオーダと申します。以後お見知りおきを」

 

 おお、丁寧な人だ。やはりリュミエール関係は、癖強くとも基本皆常識人だな。しかもうちの団に慣れた所為で男性の常識人は、珍しいと思ってしまうな。

 

「シャルロッテ団長も来たので、話を戻そうか。色々と確認したい事も山積みであったが、我々は、まず君の治療を優先してエンゼラへ運んだ。宿とも思ったが、エンゼラには、エリクシールもあったからね」

「何せ君とシャルロッテ殿がその……ああ言う宿から出て来たものだから、皆混乱していてな。尤も直後のジータの暴走である程度冷静になったのだが」

 

 皆が冷静になるために俺は、犠牲になったんですかね。

 

「すまなかった坊主。俺が余計な事言ったせいで嬢ちゃんを混乱させたみてえだ」

 

 髭のおっさんが申し訳なさそうに頭を下げる。ああ、あんただったな態々俺がラブホから出て来た事言ったの。まあいいや、誰でも気になるわあんな状況。仕方ない仕方ない。

 

「いいっすよ。ありゃしかたねえっすわ」

「そうか?すまねえな」

「まあその事は、シャルロッテさんとあなた達がお世話になった宿の主人が事情を説明してくれたから誤解は解けてるわ、安心して」

 

 ロンゲのお姉さんが説明してくれた。ところでこの人からユグドラシルと近い雰囲気を感じる。と言うか、星晶獣なんじゃないのあんた?なんて言いそうになるが、それを察したのかそっと人差し指が口に添えられた。意味深な微笑と共に。まだ言うなって事ね、はい了解です。

 

「船でエリクシールを君に飲ませたら、直ぐに容態が落ち着いた。流石は、秘薬と言うところか、それとも君の回復力によるものか……ともあれ、無事でよかった。気絶していたのは、1時間程度だと思うよ」

「1時間か、まああの攻撃受けて1時間の気絶ですんだと思うとします」

「結構本気で攻撃したんだけど、お兄ちゃん凄いね!前より丈夫になってる!」

 

 前より強くなってるとかじゃないんだね?丈夫になってなんだね?

 

「なんだろうな……俺、少し涙が……」

「オイラもだよ、ラカム……」

 

 泣くな泣くな、こんな事で。泣かれると、俺も泣きたくなる。

 

「宿に居た者達には、ブリジールに頼み既にこの事を伝えてある。この騎空団の事を説明するのに象徴であり、生き証人でもあるティアマト達には、先に来てもらったが、他の者達も、もう少ししたら来るだろう」

「状況がややこしくなるだけじゃないですかね?」

「とは言え、話さないわけにも行かないからね。今後の事もある」

 

 確かに。リュミエール案件だけでなく、まさかのジータとの再会は、ある意味非常事態だ。今後の展開がまるで読めなくなってしまった。しかも帝国関係の問題まで控えている。

 ああ、こんなはずじゃなかった。俺のアウギュステバカンス。

 

 

三 幼馴染三日会わざれば刮目して見よ

 

 

「あ、そうだ!私達の紹介遅れちゃったね!」

 

 不意にジータがパチンと両手を叩き、明るく話し出した。流れぶっちぎりやがったな。いいけどさ、どの道聞く事だから。

 

「ルリアとカタリナは、ザンクティンゼルでも会ったよね?」

「おう、よく覚えてるわ。怒涛の展開だったな」

「あの時は、何かと迷惑をかけた」

「す、すみませんでした」

「いいのいいの、全部帝国が悪いの」

 

 何時かそのツケ払わしてやるからな……。

 

「それでその後仲間になったのがこちらっ!!」

「なんだその紹介……たく。俺は、ラカム。お前の事は、ビィからよく聞いてるぜ」

「そりゃ、なんともお恥ずかしい」

「いや、お前が苦労して来たって言うのがよくわかったぜ……」

「ラカムは、特にジータの被害が多くてよ……それにオイラも助けられてるんだけども」

 

 そうか、多分この人が【ジータと愉快な仲間たち団】でのかなり重要なポジションと見た。押さえ役と何かしらのトラブル被害を受ける要因か……。

 

「で、次に仲間になったのがイオッ!」

「ま、さっき挨拶はしたけどね。よろしく」

「いや、改めてヒールありがとうございます」

「はいはい、もういいから」

 

 スカウトしたい、ぜひこの常識&癒し&ツッコミ要因をスカウトしたい。

 

「そして次がこちらっ!」

「おう、俺は、オイゲンってんだ。まあ、見た通りの爺だよ」

「爺ってか、老熟の騎空士って感じですね」

「ほう?分かるかい?」

「そう言う人間を知ってるんで」

 

 元気かなばあさん。まあ、間違い無く元気だろうけど。ジータも元気だぞ、ばあさん。俺を殺しかけるぐらいには。

 

「でっ!!」

「最後に私ね。私は、ロゼッタ。きっと今後もお世話になるわ、よろしくね」

「……ああ、確かにそんな気がします」

「ふふ、長いお付き合いになりそうね?」

 

 これは、間違いなく星晶獣だな。しかもユグドラシルの事知ってるなこれは。なんせ、部屋の隅にいるユグドラシルがメッチャニコニコだからな。

 

「……で、ジータは、何でそんなテンション高いわけ?」

「自慢の仲間を紹介したので!!」

「そうですか……」

 

 めっちゃ懐いてるな、ジータが仲間皆に。一つ保護者の様なポジションでも会った俺としては、改めて挨拶をせねばなるまい。

 

「俺の幼馴染が、大変ご迷惑をお掛けしていると思いますが、今後とも何卒よろしくお願いいたします」

「あーっ!!何その言い方っ!?私いっつも頑張ってるんだよ!?」

「頑張るから大変なんだよなぁ……」

 

 俺がそう言うと、ジータの後ろに居る【ジータと愉快な仲間たち団】の面々が激しく頷いていた。ほんと、いつもご苦労おかけします。ほんとすんません、俺の幼馴染が……。

 

「だが噂で聞いちゃいたが、お前の騎空団も無茶苦茶だぜ。何なんだその、このぉ……なんだあ……こいつ等は?」

 

 そう言ってラカムさんが俺の仲間達、と言うか(笑)共を指さした。

 

「ほんと、なんなんでしょうね?」

「いやいや!!お前がそれ言うのかよっ!!」

「エンゼラで待ってたら、ティアマト達が現れて最初びっくりしました!」

「宿デ待ッテタラ、エンゼラニ来イト言ワレタ。折角ワイン飲ンデタノニ」

「お前って、俺が大変な時本当に暢気してるよね」

「ショウガナイダロ、ソッチノ状況ナンテ知ランノダカラ」

 

 もう普段通りだし。お客来てんのに部屋のソファーで寝っ転がってんじゃないの、はしたない。

 

「星晶獣が居るとは、噂で聞いてはいたがまさかティアマト達だったとは思わなかったぞ」

「いや、予想できるわけないでしょこんな面子」

 

 イオちゃん、よくわかってるねえ。団長である俺ですら何でこうなったのかわからないんだから、他の人がわかるわけない。

 

「それで、こいつらって俺達の知ってるティアマトって事でいいのか?そこら辺は、まったく聞いてないんだけどよ」

「どうなんでしょうか……私達の出会って来たティアマトやコロッサスとは、少し雰囲気が違う気もします。シュヴァリエとセレストは、そもそも姿も違いますし」

「ほぼ同じ存在と思ってくれて構わん」

「わ、私達は……島々を守護したり……あと何か、色々してる本体から分かれた、断片みたいな存在だから……」

「ミンナ (*・ω・) オチャト、オカシイル?」

 

 コロッサスがなにやらお茶やお菓子を準備していたらしい。居ないと思ったらそんな事を……ティアマトも見習えこの野郎。

 

「このコロッサス見て、あのコロッサスと殆ど一緒の存在とか想像付かないんだけど」

「ナンカ(*´・ω・`)ゴメンネ」

「あ、別に責めてる訳じゃないのよ?」

 

 直ぐ打ち解けるコロッサス。流石癒し枠一号、見た目とのギャップが凄い。

 

「ところで、リヴァイアサンはいねえのか?流れ的に居てもおかしくねえけど」

「アイツ今この島のリヴァイアサンと海満喫してます」

「あいつ、そう言うタイプなのか……」

「本当なら、談話室か個室の生け簀に居るんですけどね」

「それ、本当にリヴァイアサンの事か?」

「残念ながら」

「マジかよ」

 

 聞けばオイゲンさんは、アウギュステに住んでいたらしい。更にラカムさんは、ポート・ブリーズ、イオちゃんは、バルツとマグナシックスの半分が【ジータと愉快な仲間たち団】の誰かが居た島の守護だったり何か関係のある奴らだ。そう思うと、このゆるキャラ化を見ると複雑だろう。

 

「ロゼッタさんは、あんまユグドラシル見ても驚きませんね」

「この子は、あんまりかわんないからね。元からこんな感じなのよ」

「――――!」

 

 元からか……確かルーマシー群島だったか、本体があるのって。つまり、そこにいけばもう一体のユグドラシルがいる……。おいおい、パラダイスやんけ。その内行こう。

 さて、全員を把握したところでいい加減状況を進めていかないといけない。色々滞ってる状態だからな。さあ、話を進め――。

 

「へいへい、へ~い~っ!!団長お無事かぁ~~っ!?」

「うわあっ!?突然何よ!」

 

 扉がまた突然開いたと思ったら、ハレゼナが突撃をかけてきた。イオちゃんが驚いてしまったが、その次からまた更に知った奴らが現れる。

 

「うぇっぷ……だ、だんちょうきゅん、死にかけたって、ほんとヴオッ!!……うぇぷ、うぇぇっ!?」

「お、おい大丈夫かこのねえちゃん!?って、酒くさっ!?」

「団長!!団長を一瞬で倒したって言う少女と語り合いたいんだがっ!!」

「み、皆さん行き成り部屋に入っては駄目です!慌てちゃ駄目です!まだ団長さんも、安静に……うわあっ!?」

「なははははっ!!だ、だんちょう、大丈ばふはははっ!!ひひ、ひひいひひぃーひひっ!!」

「おいおい、なんかやべえのが、何人かいるぞ……」

「おお、色んな人が集まってるねえ……ねえねえ、そこの貴方?お一つ問うね」

「え、私?何々?」

「ぜえ……あ、あんまり走らせ無いでよ……急な移動は、勘弁だわ……」

「こ、この者達は、一体……」

「団長、はむ……あの少女がいると、あむむ……聞いたが本当かい?均衡大丈夫?」

「な、なんだか一杯来たであります!」

「いよう、相棒目ぇ覚ましたな」

「うわあっ!?なんだあ、こいつっ!?」

「よう、オリジナル、ここで会う事になるとはな……」

 

 どったんばったん大騒ぎ。メンバー殆どが俺の部屋に入ってきやがった。一応は、団長室なので普通の個室より広いけど、限度がある。

ラムレッダ、吐くなら部屋出ろ。フェザー君、うるさい部屋出て。ルドさん、深呼吸して部屋出ようか。フィラソピラ、問うな問うな部屋出て。ルナールさん、無理しないで部屋出て。ゾーイ、均衡崩れてないからその片手の菓子パン食うかしまうかしろ、部屋出て。B・ビィ、表出ろ。

 

「お前ら一回部屋から出ろオオッ!!」

 

 狭あぁいっ!!

 

 

四 あーあ、出会っちまったか

 

 

 ぎゅうぎゅう詰め状態になった俺の部屋から、エンゼラで一番広い食堂に移動した。俺の部屋の大きさ考えろ、そもそもジータ達だけでも狭かったのに。

 とりあえずグループごとに座ってもらい、順々に話をつける事にする。もう夜も遅いのでとっとと今日の事を終わらせたい。

 人数も多いので、コロッサスとセレスト、ブリジールさん達がせっせとお茶とお茶菓子を用意してる。関心である。ティアマト?呑み損ねたとか言ってたワインを隅で一人優雅に飲んでる。あいつ……。

 

「兄貴、このオイラの偽者誰なんだよっ!?」

「偽者とは、言ってくれるぜ。お前とオイラは、光と影の様なもの。どちらも違い、どちらも同じだ」

「わ、わけのわからねえ事言いやがって……」

 

 さて、俺の目の前では、机の上に座ったビィとB・ビィが言い合っている。俺が恐れていた光景が今、目の前にある。

 

「ビィ、気持ちは察するが基本無視しておけ。黒いナマモノとでも思えば、気にならん」

「いやいや気になるって!?」

「黒いナマモノとは、ひでえな相棒。オイラはビィだぜ」

「それは無い」

「ねえよっ!!」

「うむ」

 

 俺とビィがB・ビィの台詞を否定していたら、ちゃっかりカタリナさんも頷いていた。

 

「まあ、真面目な話するとティアマトとかみたいな奴だ。勝手にお前の姿をモデルにしたらしいが、似ても似つかねえパチもんだよ」

「真面目な話なのにふざけた話だなそりゃあ」

 

 ラカムさんもすっかり呆れてしまっている。だが正しい反応だ。プロバハの話したってよくわからないだろうから、今回は省略する。

 

「オイラは、ブラック・ビィ、相棒や他のやつ等からは、B・ビィって呼ばれてる。よろしく頼むぜオリジナル」

「そのオリジナルって呼び方やめろぉ!!オイラは、ビィって名前があるんでい!!」

「そうか、そりゃ悪かったな。ほれ、詫びと言っちゃなんだがリンゴ食うか?」

「リンゴォ!?」

 

 ああ、ビィがリンゴであっさり買収された。チョロ過ぎだぞ、ビィ!!

 

「お前もリンゴ好きなのか?」

「そりゃお前をモデルにした存在だからな、リンゴも好きだし多少差異はあれど、共通点はあるさ。まあ、食えよ良いリンゴだぜ」

「な、なんだよ、お前結構良い奴だな……うめえ!!」

 

 くそ、B・ビィの奴あっという間にビィを手懐けやがった。やはり仮にもビィをモデルにしただけはある。相手の事をよくわかってやがる。

 

「けど結構可愛いよね、B・ビィ!」

「おっ?オイラの可愛さがわかるかいジータ」

「うん、なんか独特の良さがある!」

「むぎゅうおっ!?」

 

 ああ、ジータがB・ビィを抱きしめ……抱き潰したっ!!いいぞもっと潰せっ!!

 

「おおっ!!お前もトカゲがラブリィって思うかァ?」

「うんうん、なんか癖になる感じッ!」

「だよな、だよなっ!!クレ~ジ~でラブリィだよなあっ!!……う~ん?けど、そっちのトカゲも超ラブリィ!!」

「げっ!?」

「抱きしめていいよ?」

「マジでっ!?やったぜ~っ!!」

「ま、待てよ!オイラが良くねえよっ!?」

「きゃっはあっ!!」

「ぎゃああっ!?」

「私もぎゅうっ!!」

「ぐあわああっ!?」

「はわっ!?ビィさんとB・ビィさんが大変な事に!!」

 

 ……うん、よし。

 

「良い具合に状況を混乱させる奴が固まった所で、こっちは話を進めましょう」

「こいつ、相当場慣れしてるな……」

「あの状況をもう意にも介してねえ」

 

 ジータを相手にしてる貴方達も似た感じだと思うよ。

 

「本来ならうちの団の連中全員を紹介する所ですが面倒なので省略します」

「雑だぞ団長!?」

「ちゃ、ちゃんと……しょうか、うぇぷ……してほし、おぷっ!?」

 

 数名からブーイングが来るが無視する。大人しくしてろ、忙しいんだから。あとラムレッダは、いい加減トイレでも行って吐くもん吐け。

 

「と言うか、大体見たままの奴らなんで察してください」

「お、おう……ほんと、大変そうだな」

 

 ほんとにね、ははっ!!

 

「で、話を進めさせてもらいますが……ジータ関係の方ですが、島を発つ時に彼女に俺の使ってた毛布とクッションの新しいのをあげておきます」

「助かる……まさか、あんな事になるとは、思わなくてな」

「まあ、あれは知ってても防ぐのは無理です。俺もザンクティンゼルで初めて経験した時は、もう駄目だと思いました」

 

 お兄ちゃん分不足による突発性偶発的異常現象……発動するたび名称がパワーアップしてる気がするが、今は横に置いておく。あの現象が一人の人間が起したものと果たして誰が思うだろう。その原因のある意味一端である俺としては、責任感じちゃう。

 

「ジータに兄離れをさせようと思った事もありましたが……」

「あれは、もう無理だろ……お前さんとあった事も無い俺達にも、何かとお前さんの話をするからな」

「空に旅立ってるわけだから依存してる訳じゃないけど、相当よねあれって」

 

 曰く、最高のお兄ちゃん、最強のお兄ちゃん、全空一の主夫……そんな話を良くするらしい。恥ずかしいなもう。ただ、最後おかしいね?なんだよ主夫って。あと最強って言うけど、俺ジータに一瞬で気絶させられたんだが、それは。

 

「それと、俺のクッキーとかのレシピも教えるんで、たまに作ってあげてください」

「それは助かる。君の味とは違うかもしれないが、気休めにはなるだろう。私がしっかりと――」

「私が作るからっ!!」

「イ、 イオ?」

 

 かなり必死な形相でイオちゃんが身を乗り出してカタリナさんの言葉を遮ってきた。それ以外のラカムさん達メンバーも、戦慄の表情をしている。

 

「そう言うのは、私が作るから!」

「し、しかし私もたまには」

「いいから!!私がやるから!!」

 

 あ、これはアレですね……カタリナさん、つまりそう言う事ですね。

 

「……イオちゃん、後でレシピ書いた紙あげるね」

「うん……なんか、ごめん」

「いいよ……そっちも大変だね」

 

 言葉は少なく、それでも俺とイオちゃんは、何か通じ合えた気がした。一方で、カタリナさんは、一人わけがわからないと言う表情のままだった。ジータだけがこの団の問題と言うわけじゃなさそうだな。

 

「心なしか、ビィよりモチモチしてるね、B・ビィって!」

「あ、相棒……たすけ、たす……」

「こっちのトカゲは、ラブリィ!あっちは、クレ~ジ~!」

「あに、き……たす、た……」

 

 ……ほんと、どいつもこいつも……はあ。

 

 

五 アウギュステの今日は土砂降りだった

 

 

「で、次ね次。リュミエール案件」

「なんだか、蔑ろな扱いであります」

「しゃーないっすよ、事態が事態だから」

 

 いい加減ヤバイビィとB・ビィは、カタリナさん達に任せた。俺は、こっちのリュミエール案件を勧めないと駄目なので。

 

「俺の方の事情って何処まで聞きました?」

「……コーデリア殿からある程度。あの【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長であると言う事と、今回の事は」

「そっか……騙してごめんなさい」

「あ、いえ。そちらにも事情があるようでしたし、ジミー殿が謝る事では……あ、ジミーは偽名でしたか」

「まあそうですけど、好きにどうぞ」

「そ、そうでありますか?」

「そうそう。最初は気に入らなかったけど、シャルロッテさんなら悪い気しないからね。愛称みたいな感じでどうぞ」

「そ、そう言う事なら……実を言うなら、ほんの数日でしたがジミー殿の呼び方に慣れてしまって……」

「あはは、ところで本名ですがね――」

「……では、団長の呼び名も決まったところでいいかね?」

「え?あ、そっすね」

 

 あれ?なんかコーデリアさんからちょい不機嫌オーラを感じたが……気のせいか?あと、俺の名前、名前……まあ、あとでいいか。

 

「えっと、バウタオーダさんも今回お騒がせしてすみませんでした。なんでも任務の途中だとか」

「いえ、お気になさらず大丈夫です。運命の悪戯の様なものでしょう」

 

 良い人だなあ。本当に良い人だなああ!!

 

「それで、本題ですけど……まあ、これは俺の関われる事は無いけども、コーデリアさんの任務ですけどどうします?場所移してやりますか?」

「……」

「コーデリアちゃん……」

 

 本来ならもう終えている任務だ。【正義審問】、シャルロッテさんに正義を問い質し、リュミエール聖騎士団に恥じぬ人物かの判断。遊撃部としてのコーデリアさんの仕事。シャルロッテさんは、神妙な面持ちでコーデリアさんの言葉を待ち、ブリジールさん、バウタオーダさんも緊張した様子で見守る。

 

「……いや、今はよそう」

 

 コーデリアさんは、小さく首を振った。

 

「……コーデリアちゃん?」

「今日は、あまりに状況が混乱し過ぎている。我々には、休息が必要だ。明日、また改めて貴方に正義を問わせてもらう。リュミエール聖騎士団、遊撃部として」

「……わかりました。全ては、自分が起した事であります。逃げも隠れもしません。」

「その言葉、信じさせていただく。ならば明日改めてこの船で会いましょう」

「はい」

 

 ……終わった?終わったね。持ち越し、明日で解決です。ね、もう今日は休もう、みんな休みましょう!!終了、解散っ!! 

 ジータ達も落ち着いた?そっちどうなってるの?

 

 ――その瞬間、彼が目にしたものは、利き手を軸にして高速回転し、地面へと叩きつけられるフェザーの姿であった。それは、樽の机を使い繰り広げられていた小さな腕相撲大会。団長達の話し合いの間、せっかくだからとフェザーがジータとやりたいと申し出て行われたその催しであった。ただの腕相撲、その筈であった――

 

「ぐわああああ――ッ!!」

「フェザーくーんっ!?」

 

 ジータの方を見たらいつの間にか開かれていた腕相撲大会で、フェザー君が叫び声を上げながら床に沈んでいった。相手はジータでした。

 

「ジータやりすぎだっ!?」

「だ、だって彼が本気でやれって言うから……」

「加減しなさい、莫迦!」

「ひ、ひどいっ!?」

 

ほんの数分目を離した隙にどういう事態だっ!?フィラソピラさん、回復っ!!

 

「フェザー君しっかりしろ!!」

「だ、団長……へへ、本気でやったんだけどな……彼女、すごいぜ……」

「何と言う無茶をっ!!」

「け、けど……俺は、満足だ……次は、必ず俺が……勝って見せる、ぜ……」

「フェザー君っ!?フェザーくーんっ!?」

 

 腕相撲だよね!?普通に腕相撲してたんだよね!?なんで真っ白に燃え尽きてるのっ!?ちょっと、フェザー君っ!?しかっりしろおっ!!

 

「ジータっ!!俺以外と何か競う時は、力の加減上手くしろって言ったろっ!?」

「お、お兄ちゃんの丈夫さに慣れちゃって……てへ」

「つまり、団長の異常な打たれ強さは、ジータによって、さながら鉄を打つ様に鍛えられたんだね」

「むう、私は主殿に打たれたいが……主に鞭で」

 

 うるさいぞシュヴァリエ!!喜んじゃうからやりたくないが、ほんとぶった叩いてやりたいな、この野郎!!

 

「主にケツ狙いで頼むっ!!」

 

 うるせえ!

 

「だ、大丈夫かにゃ……フェザ、うぇ……うぶうっ!!」

 

 うわああっ!?ラムレッダ、なんで態々吐きそうなタイミングで俺に寄り掛かるっ!?

 

「てか、なんで一度スッキリしとかなかったラムレッダっ!?」

「い、一度スッキリはしたにゃ……けど、さっき腕相撲見ながら、また飲んで、ぼおっ!?」

「わあ、馬鹿馬鹿っ!?桶、だれか桶っ!!」

「オイ、団長」

 

 ええい、よりによってティアマトかっ!!

 

「なんだっ!?」

「モウ用事スンダナラ、私ハ部屋戻ルゾ」

「勝手に戻っとれえぇーーーーっ!!」

 

 今は、それよりも桶を……なに、もう桶じゃ無理!?どんだけ飲んでんだお前はっ!!トイレか、我慢できんのか!?良いか、吐くなよっ!?俺につかまるのは良いが吐くなよっ!!絶対だぞ!!

 

「なはっ!?なははっ!!ほひいぃひひっ!?あ、やば……いひっ!!あはーはははっ!!」

「お、おい!この姉ちゃん笑いが止まらなくなったぞ!?」

「~~~~!!」

「あらあら……どうやらユグドラシルが言うには、発作らしいわ」

「いや、どう言う発作だよっ!!」

 

 ラカムさんや、オイゲンさんの言う通りだわ。初見じゃわけわからんからなルドさんの発作。

 

「セレスト!【安楽】で軽く気絶させとけ!!」

「う、うん……」

「ぎゃああああっ!?」

 

 悲鳴!?今度はなんだっ!?

 

「なんだ、お前は体変形できねえのか?」

「で、出来るわけねえだろっ!!」

「B・ビィの体はどうなってるんだ……」

 

 マチョビィかよっ!?お前ジータから解放されたと思ったらなに勝手に変身してんだ!!

 

「それキモいからいきなり知らん人……てか、ビィやカタリナさんに見せるな馬鹿っ!!」

「キモイとか言うなよ傷つくな」

 

 勝手に傷ついてろ、そもそもダイヤモンドコーティングの心で掠り傷一つねえクセに!!

 

「あははははっ!!お兄ちゃんの仲間の人ってみんな楽しい人ばっかだね!」

「ああ、そうだな全く飽きないよ畜生めっ!!」

「ご、ごめんにゃ……だんちょ、きゅ……ヴぉえっ!?」

 

 ああ、待ってろ、ラムレッダ!!今トイレ連れてくから!! 

 

「……ジミー殿の騎空団は、いつもこうなのでありますか?」

「今回は、ジータ団長もいるせいもあるが……大凡こうです」

「団長は、いつも苦労してるです」

「……気の毒に」

 

 シャルロッテさん達に色々言われてるがそれどころじゃない、今は収集を、この場の収集を……桶、桶も一応くれええっ!!早くっ、ああーーーーっ!?

 

 

六 驚き!?正義の聖騎士団長に情夫の影?若い燕が、アウギュステの空に飛ぶ

 

 

 アウギュステ、普段人気の全く無いの某所。そこには、帝国の紋章が刻まれたテントが幾つか設営されていた。ここで活動し始めた帝国部隊の野営地である。その中にある指揮官用のテントに、二人の男がいた。

 

「……それは、本当か?」

「はいっ!この目で確かに」

 

 一日別行動を行っていた帝国の若き兵士ユーリ。彼は、降り続ける雨の中、ラブホテルへと消えていく調査対象であったリュミエール聖騎士団騎士団長であるシャルロッテ・フェニヤについての報告を行っていた。

 

「あのシャルロッテ・フェニヤが、そのようなホテルに……」

「自分も目を疑いましたが、雨の中とは言え互いに嫌がる素振りも見せないために……もしやと思い」

「ううむ」

 

 部下であるユーリの報告を聞いた隊長は、まさかこんな報告が来るとは思わず非常に悩んでしまった。一応は、ユーリの報告に間違いはない。確かに二人は、嫌がる素振りも見せずに宿の主人に勧められるがまま宿へと入った。その時点でどんな宿であるのかに気が付いていなかった点を除いてだが。

 しかしこんな報告、ともすれば一大スキャンダルである。自分一人でどうにか出来る内容でも無く、そもそも本国に報告するような事でも無い。とんでもない情報を手に入れてしまったと隊長は、頭を抱えた。

 

「……あの少年の身元は、わかるか?」

「いえ、それまでは……ただ、あまり良い噂は、聞きませんでした」

「……よし、わかった。この事は、一先ず俺とお前で止めておけ」

「よろしいのですか?」

「ああ、少なくともこの時点でシャルロッテ・フェニヤが我々の邪魔をする意思が無い事は確かと思う」

 

 100%とは言えないが、夜若い男とラブホテルに行くような状況で帝国の暗躍にいちゃもんを付けるような人間が居るとは、あまり思えない。だが、警戒も怠らないのがくせ者揃いの部隊を束ねるこの隊長である。

 

「万が一と言う事もある。明日本隊も到着し行動を起こす際、その後彼女が我々の邪魔をするようであれば、この情報が利用できるかもしれない」

「……まさか、人質として男を捕えるのですか!?」

「馬鹿を言うな!」

 

 ユーリの言葉に隊長は、強く一喝した。

 

「そんな外道の手は使わん。とは言え、正々堂々とも言い難いがな……」

「と、言うと」

「うむ、どう言う事情か知らぬが、宿へ入ったのは確かだ。しかもラブホテル、この事をちらつかせるだけで相手は、多少動揺するだろう。見られていたと言う事にな」

「な、なるほど」

「まあそんな事態にならぬ事が一番だがな。ユーリ、今日はご苦労だった。明日に備えてもう休んでおけ」

「はっ!!失礼いたしますっ!!」

 

 敬礼し挨拶を終えると、ユーリはテントから出て行き兵達の共有テントへと戻っていった。一人残った隊長はと言うと、一つ大きなため息を吐いた。

 

(まさかこの様な事態になるとはな……シャルロッテ・フェニヤも、どう言った事情か知らぬが、迂闊なものだ)

 

 だがそれもまだ年若い女の行動と思えば、不思議と可愛げのあるように思えた。とは言え一つの騎士団を率いる騎士団長としての立場を考えれば、まず”迂闊”と思ってしまってもしょうがないだろう。

 また、もう一つ。例の少年の事。

 

(彼がシャルロッテ・フェニヤのただの情夫と言う事は……いや、無いな。アレが情夫?馬鹿々々しい……)

 

 一度のみの邂逅、その時の少年の戦士としての片鱗をこの隊長は、僅かに感じ取っていた。今になって調査すべきは、シャルロッテ・フェニヤではなく、あの少年の方であったかもしれない……そう思わずにはいられなかった。

 

(……明日は、荒れるかも知れんな)

 

 今はまだ穏やかなアウギュステの海の音に耳を傾け、隊長は一人明日の混乱を予感していた。

 




流石に全キャラ喋らせる事が難しくなってきました。それでも自分なりに頑張りたいと思います。

何時も感想、また誤字報告ありがとうございます。励みになります。

些細な変更ですが、アウギュステ編が思った以上に長くなったので、一つの章として区切りました。

サプチケ、ラスティナ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アウギュステ大騒動開幕

ヒロインは、攫われる


 ■

 

 一 アウギュステの一番長い日

 

 ■

 

 この日、アウギュステには、多くの思惑が交差した。

 シェロカルテに新しく開いた店に招待されて来た【ジータと愉快な仲間たち団】。任務で偶然訪れたリュミエール聖騎士団の部隊。これもまた偶然にアウギュステへ自分の願いを叶えるための鍵を探しに来たリュミエール聖騎士団団長。自分達の任務を全うしようと暗躍する帝国軍。

 そして、ただ純粋に遊びに来ただけのはずだった【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】、その団長。

 始まる帝国軍の計画、迫る帝国本隊。正義が問われる時が近づく、リュミエール聖騎士団団長シャルロッテ・フェニヤ。表面上明るくふるまうも、兄と慕う男にまつわる不穏な噂についてどのタイミングで確認するか実際は、悩んでいたジータ。怒涛のトラブルの連続、不安と疲れと胃痛に悩む団長。

 そして、まだまだ彼を襲う異常事態は続く。それは、ジータとの再会から一夜明けての事、彼の下にシェロカルテが訪ねて来る事で始まる。

 

 ■

 

 二 帝国狩りの一日が始まる

 

 ■

 

「帝国が動き出した?」

「はい~、そうなんですよ~」

 

 今朝、シェロカルテさんによって俺の元に舞い込んできた報告に俺は眩暈を感じた。結局宿に戻らずそのままエンゼラで皆休んでいたが、朝になって行き成りエンゼラを訪ねて来たので何かと思ったら案の定面倒な報告であった。

 

「……それをなんで俺に?」

「うふふ~団長さんは、帝国の動向を気にされていたようだったので~」

「まあ、確かに気にしてましたけどね」

 

 あの謎空間での事、天司とか言う何時かまたトラブルの種になりそうな奴らの話から近々帝国が動くとは思っていたが昨日の今日でこれかい。コーデリアさん達の問題を解決するのが今日だって言うのに……せめてリュミエール案件解決してからにしてくれよ帝国の野郎。

 しかしそうなると、コーデリアさんとブリジールさんには、ちょっと話を通しておかないといけないな。リュミエール聖国って一応帝国との関係は、友好関係って事になってるらしいし。

 

 

「――と言う話が今朝あった」

「早速面倒ガ始マッタナ」

 

 うるさい(笑)。

 

「で、今日はどうするんだい団長?」

 

 さて、フィラソピラさんに言われて考える。しかし考えた所でどうすればいいのだ?帝国も動きを見せたとは言え大々的な行動に出たわけでもなく、奴らの部隊の居場所も分からない。その上この後エンゼラでは、シャルロッテさんと、バウタオーダさんとその部下達が来る事になってる。ジータは、ジータでまた会いに来ると昨日宣言して戻って行ったからその内顔を出しに来るだろう。俺も何かと忙しいのだ。

 

 

「……ゾーイ」

「何だい団長?」

「例の均衡センサー、だっけ?あれって反応してる?」

「……うむ、かなり来てる」

 

 そっかーかなり来てるかー……つまり何か起きる事は、間違いないと。

 

「ちなみに島崩壊レベルだ」

「ガチじゃねえか」

 

 知らぬ間にとんでもねえ事態になりかけてるじゃん。

 

「安心していい、あくまで予想であって当然回避可能だ。君やあの少女が動けばほぼ問題なく解決だろう」

「まるで安心できねえよ」

 

 どの道俺が苦労する未来しか見えねえのですがそれはどうなんですかね。

 

「……シャルロッテさんって、もう直ぐ来ますよね?」

「そのようになっているが」

「じゃあ、とにかくそれが終ってから考えましょう。そもそも俺が帝国について難しく考える必要も無いわけなんで。状況に合わせて行動します」

「つまり行き当たりばったりだにゃ~」

「結局いつも通りだなと言う事だな、主よ」

 

 うるさい二日酔いの酔っぱらいにドM(笑)め。俺に冴えた行動方針を求めるんじゃない。

 

「ただ宿には、もう戻れないだろうから引き払わんとなあ……残りの宿泊分もキャンセルしよう。各自宿に置いてきた荷物もあるだろうから、それだけ回収しに行こうか」

 

 島崩壊の可能性あるのに俺のやる事って結局こんないつも通りなんだな……くそ、シュバリエの言う事が否定できないじゃないか。

 

「……てか、妙に皆冷静だよね」

 

 ゾーイの島崩壊の可能性を聞いてもあんま皆焦った様子がない。

 

「いや、勿論驚いたにゃ」

「ただゾーイが安心していいとも言ってるしな!」

「それに、君がいるからね~」

 

 いやいや、暢気に言わないでよ。俺がいるからって何さ。

 

「いやいや、中々重要な事だよこれは」

「はい!団長さんが居ると、何となく大丈夫だと思うです!」

「んははっ!!た、たしかに、ひひっ!!君が居れば、問題も勝手に……あはははっ!解決してそ、うははっ!」

「団長ならよぉ?そんな問題ぶっ壊しちまうだろうしなぁ~!」

「ま、確かにそんな感じするわよね」

 

 ねえ、何このトラブルへ対する俺への妙な信頼の高さ?仲間になってあんま日にちも経って無いハレゼナとルナール先生まで……まるで誇れないんですが。俺に何を求めてるんですかね?

 

「諦メロ、オ前ノ積ミ重ネタ信頼ノヨウナモノダ」

 

 こんな信頼いらん……。

 

 ■

 

 三 っす!

 

 ■

 

 結局宿への荷物回収班は、俺とコロッサスとゾーイにB・ビィとフィラソピラさんになった。フィラソピラさんは、いざと言う時クリュプトンで飛んで船まで連絡に行けるので来てもった。後の面子は、お留守番じゃ。

 

「しかしお前ら、買い込んだな……」

「ほっとんどがティアマトやラムレッダの荷物だぜ?」

「お前もリンゴ買い込んだくせに」

「そりゃ必需品ってやつだぜ相棒」

「嘘つけ嗜好品だろ、星晶獣だから飯食わなくても死なねえくせに」

「楽しみってのは、生きるのに必要なんだぜ」

 

 人数が居るのもあるが女性陣の荷物が多い。前のティアマト散財惨劇事件があって特に気をつけさせたので値段は抑えられたようだが買った物の物量は、結局多くなったようだ。

 

「ラムレッダがお酒を多く買っていたね。お酒ってそんなに美味しいのかい?」

 

 聞くな聞くな、未成年の俺に。それと興味があるようだが、そうそう飲むもんじゃないぞゾーイ。

 

「おやおや、また困った顔をしているねえ、団長さん」

「……フィラソピラさん、最近俺の困り顔見るの日課になってませんか?」

「いやあ、君の困った顔がかわいいからなあ~仕方ない、仕方ない」

「仕方なくないです」

「あはっ。その顔も可愛いね……おっと?」

 

 ふよふよ浮いていたクリュプトンが急に止まった。フィラソピラさんの興味が離れた所にある露店へと向いたようだ。

 

「どうしました?」

「うんちょっとね……」

「ああ、あそこの店お菓子屋ですか?欲しいんですか?」

「あーうん、いや別にどうしても欲しいとかじゃないんだよ?ただやっぱり頭使うと甘いものを求めるからねえ……船にあるお菓子も少なくなってきたなあって思ったから」

 

 この人お菓子が好きなのを子供っぽいと思うのか妙に否定する時があるな。

 

「買って来ていいですよ。待ってますから」

「……いいのかい?」

「露店のお菓子ならそう高いもんでもないでしょ。どうぞ、ここに居ますんで」

「そ、そうかい?じゃあ、ちょっと選んでくるね……あはっ」

 

 そしてフィラソピラさんは、嬉しそうにクリュプトンを回しながら店に向かっていった。犬の尻尾だな、クリュプトン。

 

「しかしコロッサスは、来てもらって正解だったわ」

「ニモツハ(o・ω´・b)マカセテ」

 

 片手でかなりの荷物を持てるコロッサス、両手を使えば俺達の荷物の殆どを運んでしまえる。仮にお菓子の荷物が増えても苦ではない。

 だが山のような荷物を両手で抱えて歩く星晶獣、難点があるとすれば街中で目立つ事なのだが不本意ながら俺は、徐々にこう言った状況に慣れつつある。少なくともロリコンだとか変態とか言われるよりマシと思ってしまうようになってしまった。

 

「けど前見え辛いだろうから気をつけ」

「(´゚ω゚`)ワァッ!?」

「っす!?」

「てぇ……って言おうと思ったんだけど」

 

 言い切る前に前から走ってきた誰かとぶつかってしまったらしい。

 

「あらら、やっちまった……」

「ワワ(;ω;*)ゴ、ゴメンナサイ!!」

「あいたた……い、いえ自分の方こそ申し訳な……うわあ!?なんすかあんたっ!?」

 

 まあ驚くよね。ぶつかった相手が巨大な黒鉄鎧の巨人なら。省エネモードでも3mちょいあるからなコロッサス。

 

「気にせんでいいよ。見た目怖いがめっちゃいい奴だから」

「いや、そう言う意味で驚いたわけじゃないっすけど」

「怪我は?」

「あ、はい大丈夫っす」

 

 埃を払いながら立ち上がるのは、鎧を纏った少女だった。まだ小さい、ジータより年下だろうか。しかし鎧は、中々に立派な物だ。一般人が着るような鎧じゃない。アウギュステの傭兵?こんな少女が……いや、しかしジータの様な例外も……ああ、いやアレは例外過ぎるな。例えで出すもんじゃない。

 

「人通り多い所で走るもんじゃないぜ」

「す、すみませんっす。人を探してたので」

「連れでもいるのかい?」

「いえ、自分はある騎空団を探してるっす。アウギュステに来るって言う話聞いたんで急いで追いかけて来たっす」

 

 なんだそりゃ。熱心なファンかなんかか?騎空団の追っかけなんて聞いたこともねえや。

 

「そうだ、お兄さん知らないっすか?【ジータと愉快な仲間たち団】って言う結構有名な騎空団なんっすけど」

 

 Oh……。

 

「相棒のやつ白目向きやがった」

「えっ!?ど、どうしたっすか!?」

「ふむ、ジータの名前が出て少しまいったようだね」

「連日だからな。相当きてるぜ」

 

 おいおいおい、何だってんだ。あいつは、こんな少女にまで追われるような事したのかよ。いやあいつ自身が追われるのは、まあいいとしても何で俺のとこに来るかなあぁ……。

 

「じ、自分なんか不味い事言ったっすか?」

「……いい、気にしないで。それでジータね、はいはい知ってるよ」

「マジっすか!?」

「マジっすよ。何君、関係者?」

「では無いっす……まだ」

 

 まだってなんだまだって。関係者になる気なのか、態々ジータと。正気の沙汰じゃないぞ。

 

「あの騎空団に、自分憧れてる人がいるっす!だからどうしても会いたくて追っかけて来たっす!」

「ジータでは無いのか……まあいいや。あとで会う事になってるからついて来ていいよ」

「いいっすか!?と言うか、お兄さん知り合いだったんすか!?」

「まあね……」

 

 知り合いどころの話ではないのだが……それを今話す気にもならん。

 

「自分、ファラって言うっす!お兄さん案内よろしくお願いしますっす!」

 

 元気な子だねえ。こんな鎧着てるより野原走り回ってる方が性に合ってそうなのに。

 

「ファラちゃんね、それじゃあ俺の船まで――」

「お前、ファラか?」

「え?」

 

 ……壮絶に嫌な予感がする。

 

「ファラ、やっぱりファラじゃないか!?」

 

 突然、一人の帝国兵が現れた。声からしてまだ若そうに思えるが、確かに帝国兵だ。

 

「だ、誰っすかあんた?」

「俺だよ……ほらっ!」

「え、ああっ!?あんたユーリじゃないっすかっ!!」

 

 突如現れた帝国兵が兜を取って見せた姿は、年若き少年であった。

 

 ■

 

 四 噂のツケ

 

 ■

 

「……コロッサス、B・ビィ、嫌な予感がする。何時でも逃げれるように」

「ウン(`・ω・´)」

「あいよ、相棒」

 

 突然の帝国兵の登場。念には念を、いざと言う時のために小声で指示を出しておく。

 

「ユーリ、あんたこんな所で何してるっすか?」

「それは、こっちの台詞だっ!お前居なくなったと思ったら脱走兵扱いになってて驚いたんだぞ!?」

「えっ!?だ、脱走兵っ!?」

 

 おいおい、なんだよこの不穏な会話はよう。ムクムク俺の目の前で帝国関係の面倒な問題が出来上がってってる様なきがすっぞ。

 

「あっれ~可笑しいっすねえ?確かに自分、辞表出して来たはずなんすけど」

「お前、ちゃんと書いて出したんだろうな?」

「勿論!先輩に会いに行くって書いて置いておいたっす!」

「お前馬鹿なんじゃないかっ!?」

 

 うん、馬鹿なんじゃないかな?

 

「そんな辞表通るわけないだろっ!?なんだ先輩に会いに行くって!?そもそも置いてきたって直接提出してこなかったのか!?」

「け、けど先輩に会いたいって思ったらもう居ても立っても居られなくなって、辞表出しに行ったら誰も居なかったし」

「お、お前ってやつは……普段は、真面目なのになんでこういう時は、ほんと……」

 

 ……これ、俺達に気づいてない?気づいてないね。よし、逃げよう。ファラちゃんには悪いが逃げよう。ヤバイヤバイ、これ以上ここに居るとほんと不味い気がする。総員、静かに速やかに、結構急いで退散だっ!!

 

「第一誰だこの男は?」

 

 ああーーーーっ!!駄目だったっ!!気づかれた。

 

「あ、あっしは、通りすがりの名も無き通行人でやんすよ……?」

「なんだその露骨な誤魔化し方は……いや、待てその顔見た事がある気が?」

 

 なんだと……?しまった、こいつあの場に居た奴、珊瑚礁に居た部隊の一人か!?や、やばい、何とか逃げなくては。突破口をっ。

 

「ああっ!?貴様、シャルロッテ・フェニヤとラブホテルに入った男っ!?」

「そっちかよっ!?」

 

 と言うか、見てたのかよっ!?何でじゃ!!くっそ怖いな、ストーカーかこいつはっ!?

 

「き、貴様シャルロッテ・フェニヤと言う女性がありながら、白昼堂々ファラにまで手を……」

「えっ!?自分今ピンチっすか!?」

「なわけあるかっ!?」

 

 何だよシャルロッテさんと言う女性がありながらって、そう言う関係じゃ無いよっ!!よしんば友達だよ!!あと真に受けるなよファラちゃん!!

 

「おのれ……帝国に刃向うのでなければ手出しはしないつもりだったが、貴様の様な外道捨て置くわけには行かない!!」

「捨て置けよっ!?何にもしてないぞ俺はっ!?」

「ユ、ユーリちょっと落ちつくっす。多分、このお兄さん普通のお兄さんっすよ?」

 

 そうだよ、何処にでもいる普通の男だよ、一般人だよ!!

 一般人だよっ!!

 

「いいや、ファラはあれを見てないからそう言えるんだっ!!何よりこの男、既にアウギュステでは、よからぬ噂が溢れているっ!!」

「溢れてんのっ!?」

 

 何時の間にだよっ!?誰だよ、噂の発信源はっ!!

 駄目だ、埒が明かない……気は進まないがこのユーリ少年を気絶させてでも逃げるしか無いぞ。

 

「ユーリ、急に走り出して何をやっているっ!!」

「あ、隊長!!」

 

 増えよったっ!?嘘だろ、何でこのタイミングでゾロゾロ帝国兵が集まって来るんだよ!!

 

「おうおう、相棒。えらい威勢の良いのが集まってきやがったぜ?」

「ああそうだね。団長周辺の均衡率が崩れてきてるから、トラブルが集約され始めてるようだ」

 

 ねえゾーイ?何その均衡率って?しかも俺周りの均衡率が崩れてるって何?

 

「昨日のジータとの再会で一気に崩れたらしいね。まあ、元から崩壊気味だったけど……うーん、驚いた」

 

 俺もだよ……。

 

「むっ!この男は……いや、それよりもこの集団は」

「隊長、こいつあのシャルロッテ・フェニヤと共に居た男です!」

「なにっ!?た、確かによく見るとあの時の小僧だ……うむ、確かこんな顔だったな」

 

 何だよ、確かって。はっきり覚えとけよ、割と一触即発のシーンだったろ。

 

「むむ、まさか我々が帝国軍の本隊が来るまでにアウギュステ市内での活動が円滑になるように作戦を開始した直後にこの様な場面に出くわすとは……」

「話すな話すな、そんな重要な事……」

 

 この隊長大丈夫かよ。結構しっかりしてると思ってたんだが。そして来るのか、帝国軍本隊。

 

「どうする相棒?すっかり囲まれたぜ?」

「……急な展開で対応が遅れちまったよ」

 

 とりあえずもう追加は無いね?来ない?だったら対応するよ?いいね?誰に聞くというわけじゃないが、もう余計な事は無いと信じる。

 

「……帝国の隊長さん、なんかこのユーリ君って方は、誤解してるらしいけど別に俺何かやましい事しようってわけじゃなくてね?ただこのファラって子が困ってるから手助けをだね」

「そ、そうっす。ただ偶然会っただけっす」

「そうか……だが小僧その娘は、脱走兵として手配されている。そして貴様は、我々の作戦中に出会うのは、二度目だな。偶然かどうかしっかりと確認せねばならん。あの時は、見逃したが今回は、我々と共に来てもらおうか」

「や、やっぱり自分脱走兵扱いなんっすね……」

「捕らえますか隊長?」

「まあ待て。小僧、聞くがその後ろにいる者達は、何者だ?」

 

 聞くよね、そりゃ聞くよね……。

 

「……俺の知り合いですが」

「お前の知り合いには、3m以上ある自律した鎧と空飛ぶ黒いトカゲもどきがいるのか?」

 

 お望みとあれば似たのをあと5体用意できるぜ。このやろう。

 

「いや、そうか……貴様、あの【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長だな?」

 

 げえええーーーーっ!?バレた!?

 

「本当ですか隊長!?」

「この小僧が、まさか!?」

「いんや、俺ぁ聞いた事があるべ……」

「知っているのか、ハーパーっ!?」

「んだぁ、あんの星晶戦隊(以下略)の団長ってのは、周りがおっそろしいほど強くって、星晶獣までいるってのに団長本人は、ビックリするほど地味な少年って話だぁ」

「そうだ。そこの鎧の巨人、ドラフと言うわけでもあるまい……そして、その妙な黒いナマモノ。女の方も怪しいものだ……最後に印象の薄い少年。最早間違いあるまい」

 

 間違いって言いたい……っ!!くそ、言いたいのに。

 

「お、お兄さん泣いてるっすか?」

「……泣いて、ないやい」

「気にするな少女よ、団長にとっては何時もどおりなんだ」

 

 ゾーイ、悲しい事実を告げなくていいです。ほら、ファラちゃんの顔が哀れみに満ちてきている。

 

「さて、尚更貴様達を逃がす事は、出来なくなったな」

「へえ?オイラ達相手にやる気かよ?」

 

 コロッサス、B・ビィ、ゾーイから殺気が出てくる。

 

「……俺、街中で暴れる気なんて無いんだけど」

「安心しろ、我々もそのつもりだ」

「じゃ、どうするんです?争い事は嫌いだけど、捕まる気も無いんですけど」

「いいや。お前は、自ら捕まってくれるだろう。そう、今我々の周りには、野次馬がそれなりの数集まっている。この意味がわかるか?」

「は?何言って……」

「大人しくしなければ貴様のよからぬ噂諸々と昨日のシャルロッテ・フェニヤとの事を大声で今広めさせてもらう!!」

「な、なにいいいっ!?」

 

 こ、この野郎!!とんでもねえ、とんでもねえ事を……っ!?

 

「き、きったねえ……」

「卑怯も承知の上、悪く思うな。我々の部隊だけでそこの星晶獣を相手に出来るとは思わん。まして貴様が噂どおりならば星晶獣を従える事が出来る男だ。正攻法で勝てるとは、到底思えん」

「うぐ……俺の自身の事ながら反論できん」

「一本取られたな相棒」

「馬鹿、感心してる場合かよ……」

 

 うぐぐ、街中じゃなくてしかも他の人が居なけりゃ大技で一網打尽なんだがなあ……。 これ以上変な噂流れさせるわけにいかないし……。

 

「……わかったよ。大人しくするよ」

 

 両手を挙げて降参のポーズ。

 

「(´・ω・`)イイノ?」

「いいわもう……それに今あの噂流されるとシャルロッテさんも困っちまうからな」

「な、なんかごめんなさいっす」

「いいよ、君の所為じゃないから」

「よし!では、こいつらを連れ一度砦へと戻るぞ!」

「サーッ!イエスッ!サーッ!」

 

 そして俺達は、暑苦しい帝国の部隊に拘束されてしまい連行されたのである。運んでいた荷物ごと。あんた達荷物も持ってくのはいいけど中身見るんじゃないよ?特にルナール先生の奴。後悔するから。

 

「あらら……これは……」

 

 ……後頼むよ、フィラソピラさん。

 

 ■

 

 五 主人公捕まる

 

 ■

 

「お兄ちゃん来たよーっ!!」

 

 エンゼラに乗り込みながら大声を上げジータ一行が現れた時、彼女を迎えるはずだった男の声は、無かった。

 

「む?来たなジータ団長」

「あれシュヴァリエ?お兄ちゃんいないの?」

「うむ実はな……だが丁度良い、少々面倒な事になっていてな」

「おいおい、お前らの少々って本当に少々レベルか?」

 

 ラカムの指摘にシュヴァリエから特に反論は無かった。

 

「それを判断するのは、お前達だ……昨日と同じ食堂に来てくれ。詳しく話す」

「おいおいこりゃ、ラカムの予想が当たりそうだぜ」

「みてえだな……」

 

 わけがわからぬままエンゼラの食堂に通されたジータ達。そこには、団長とコロッサス、B・ビィ、ゾーイを除いた星晶戦隊(以下略)のメンバー、そしてシャルロッテ・フェニヤとバウタオーダ達リュミエール聖騎士団メンバーが揃っていた。

 

「ジータ殿も来たでありますか?」

「シャルロッテさん、これどうかしたの?」

「それが、自分もバウタオーダ殿達も先ほど着いたばかりで……」

「どうも明るい話をしようと言う雰囲気ではないなこれは」

「は、はい……とってもピリピリしてます」

「みんな、集まったね」

 

 緊張した雰囲気の中カタリナとルリアだけでなく【ジータと愉快な仲間たち団】の面々は、冷や汗を垂らす。そんな中フヨフヨと現れたのは、クリュプトンに乗ったフィラソピラだった。

 

「あ、独楽の姉ちゃん……フィラソピラだっけ?どうしたんだよう、兄貴の姿もねえし」

「うーん……ちょっと困った事になってねえ。実は、団長なんだけどね……帝国に捕まっちゃって」

「……え?」

 

 ――この時、ほんの一瞬であったが全空で異常な浮力変動が起こった。異常に浮力が増えた島、減った島があり本来であれば島の危機であったものの1秒にも満たない時間での変化だったために「今ちょっと揺れた?」程度で収まり一部を除いて気がつかれる事は、殆ど無かった――

 

「落ち着いてジータ団長。彼普通に無事だから」

「あ……うん、落ち着いてるよ?」

(い、今なんかやばかったような)

(はわわ……ジータから、異常な気配がありましたぁ……)

 

 ビィやルリアがジータの不穏な気配に気がつきながらあえてその事は、追求しなかった。聞くのが怖かったからだ。

 

「私と団長が宿の荷物を回収しに行ってからなんだけど――」

 

 フィラソピラは、団長が連れて行かれた状況を話した。一人お菓子を買いに行っていたために難を逃れた彼女は、クリュプトンを大急ぎで飛ばしエンゼラへと戻りこの事を伝える事ができた。

 

「団長きゅん……とことん運が無いにゃあ……」

「既にロリコン、巨乳好きの変態の噂が流れてるわけよね。その上ハーヴィンを宿に連れ込んだなんて言われてちゃあねえ……」

「んふふ……め、名実共にロリコ、ははっ!!あはははははっ!?」

「主は、自分自身を人質にされたか……まあ主ならば捕まる方を選ぶだろうな」

 

 身内の何とも言えない評価を聞きながらジータ以外の【ジータと愉快な仲間たち団】達は、団長の安否を心配し同時に彼の運の悪さを哀れんだ。

 一方で彼が捕らえられる原因の一端となってしまったシャルロッテはと言うとショックで顔を青くしていた。

 

「ジミー殿が……自分の所為で……」

「シャ、シャルロッテ団長、お気を確かに」

「これは……また正義審問どころでは無くなってしまったな。フィラソピラ殿、それで団長は?」

「後をつけたかったけど……私じゃクリュプトンが目立つからね、どこかの基地か何かに連れてかれたようだけれど」

「状況から、直ぐに彼らに対して危害を加えると言うわけでもないでしょう……とは言えあまり時間をかける事もできませんね」

 

 バウタオーダの言う通り帝国兵達は、団長達が自分達の作戦を邪魔をしないために連れて行った面が強い。また偶然にもその場で出会った元帝国兵ファラの存在もあって精々形式通りの尋問を行う程度だろう。だが時間が経ってしまえばその保証もない。

 

「うぅ……誰か都合よくお兄さん達の行方知ってる人とかいないでしょうか……」

 

 都合のいい人物が現れる事を考えるルリアだがビィは、そんな人間が居るわけがないとため息を吐いた。

 

「そんな都合のいい奴いるわけ」

「いるでっ、ここに一人な!!」

「うわあっ!?だ、誰だあっ!?」

 

 扉を開けて入り込んできたのは、背中に太鼓を背負ったエルーン、商人カルテイラであった。

 

 ■

 

 六 うちが来るのがちょいと早すぎたかいな?自慢やないけど、うちは100mを5秒フラットで走れるんや

 

 ■

 

「あれ、カルテイラさんです?」

「まいど、風読みの相場師カルテイラちゃんの登場やで~」

 

 エンゼラに現れたエルーンの商人カルテイラ。彼女の登場にジータ達は、驚いた様子だが彼女を知る面々は、特に彼女が現れた事自体に驚く事は無かった。

 

「カルテイラ殿?そうか、ジミー殿の知り合いと言う事は、貴女もこの団の事をご存知だったのですね」

「せやせや。あん時は、どうも」

「しかしカルテイラ殿、ジミー殿の居場所をご存知なのでありますか?」

「勿論知っとるで。せやから来たわけやし……よっと!」

 

 不意に彼女は、下げた大袋から大きな地図を取り出した。図面は、アウギュステのものであった。

 

「仕入れであっちこっち行っとる時、なぁ~んか知った顔の奴らが帝国兵に連れてかれてるんの見かけて、こらどうせまた面倒事に巻き込まれたんやろなぁーって思ってちょっちょぉ~っと後つけといたわ。そっしたら案の定帝国の奴らの基地に連れてかれとるから、ああこりゃあんさん達にお知らせせんとなぁ~って事で現れた次第や!」

「す、すごいわね貴女、普通しないでしょ帝国兵見かけて後つけるって」

「あの団長には、助けてもろたさかい、当然のこっちゃ」

「へえ、そうだったのね」

「それになぁお嬢ちゃん……商人はな、度胸が必要やねん」

「いや商人関係ないでしょ今は」

 

 イオの指摘を無視してカルテイラは、取り出した地図のある部分を丸で囲った。

 

「おいおい……こりゃカルナ砦じゃねえか?」

「オイゲン知ってんのか?」

「ああ、ここは帝国軍の拠点なんだよ。嬢ちゃん達が前の戦争収めてくれたから使われなくなったと思ったが……今回また使い始めやがったみてえだな」

「アウギュステでの帝国の軍事拠点か……間違いなく彼らは、ここにいるな」

「行こうっ!!今すぐ!!」

「待った待ったっ!?ジータ、ステイッ!!」

「まだ話し終わってねえって!!」

 

 声を上げて今にも飛び出しそうなジータをイオとビィが抑える。

 

「けど早くしないとお兄ちゃんが危ないかもしれないよっ!?」

「落ち着けジータッ!お前の攻撃受けて1時間気絶しただけで済む奴がそうそう危険な事になるか!」

「それは……うーっ!うーっ!!」

「あ、言い返せなくて膨れてる」

 

 どうしようもない感情に振り回され頬を膨らませてしまうジータ。一人の人間が連れ去られたと言うのに最初の緊張感が四散して行っている。

 

「実際ソウ心配スル事ハ無イ。アイツハ、星晶獣ノ攻撃ヲ生身デ受ケテモ死ナン」

「何を根拠にそんな」

「いや主は、実際我々マグナシックスの合体攻撃【ファイナルダイナミックマグナスペシャル】を受けてもピンピンしてたからな」

「す、凄い嫌がってたから……さ、最後麻痺掛けられてたよね……」

「――――」

「……ユグドラシルが同意してるなら、本当のようね」

「兄貴……ザンクティンゼルで何やらされてたんだ……」

 

 自分の知らぬ所で地獄すら生ぬるい特訓で星晶獣6体の攻撃に嫌がりながらも曝された事をビィは知らないが、今はただこの場にいぬ彼のために涙を流した。

 

「……ところで、質問なんだけど」

 

 ここで今まで黙っていたルナールが手を上げた。

 

「フィラソピラ、貴方達が回収してたはずの私達の荷物だけど、どうしたの?」

「ああ、あれは帝国兵が団長達と一緒に運んでいったよ」

「ぜ、全部?」

「うん、全部」

 

 この事を聞いた時、ルナールを筆頭に、ラムレッダ、ティアマトに激震が走る。

 

「全部っ!?わ、私のお宝本もっ!?」

「わ、私のおしゃけもっ!?」

「私ノ服トアクセサリーモカッ!?」

 

 比較的危機感がなく温かった星晶戦隊(以下略)の面々であったがここに来てこの三名の熱い闘志が灯った。

 

「は、初めて他の島で買った耽美本を……おのれ、帝国っ!!」

「アウギュステ産の青い海を彷彿とさせる爽やかな飲み心地を表現したあの銘酒とあの銘酒、それにあの銘酒も……お、おにょれぇ~帝国ぅっ!!」

「小遣イ少ナクサレタカラ、何トカ考エテ買ッタ私ノ服ヲ……オノオォレエエッ!!帝国ウゥッ!!」

「あんた達……そう言う反応は、団長さん攫われた時に見せなさいよ」

 

 団長<自分の荷物、と言う現実。イオも他の面々も帝国に連れ去られた上にこんな扱いの団長に同情した。本人が知ったら泣きはしないが非常に複雑な表情を見せただろう。

 

「攻め込むわよ、貴方達っ!!私達の荷物を助けるわ!!」

「団長殿をだろう……」

「ぬおおおっ!!私のおしゃけ、待っててにゃあっ!!」

「待ってるのは、団長ね、団長」

「帝国ノ奴等……私ノ服ニ手出シシタラ許サンカラナッ!!」

「だからそう言うのは、あの坊主に対してだな……」

「そうかっ!!つまり帝国の奴等と語り合えばいいわけだなっ!!」

「お前は、今まで静かだったのに方針が戦う方向になったとたん元気になりやがったな……」

「ひゃっはーーっ!!盛り上がってきたなぁ~?壊天刃ぉもぉ~血に飢えてるぜぇ~~っ!!」

「うひゃあっ!?じょ、嬢ちゃんその物騒なもんしまってくれよぅ!」

「あははっ!!か、彼がいないと……うひひひ、ひひぃいっ!?いつも以上に収しゅ、うが、つか、つかつかないひひいーーっ!!ぶはあっ!!だははーあはははっ!!」

「ほんと、そうみたいね……」

 

 一気に興奮気味になった星晶戦隊(以下略)とジータ達。普段からジータ一人でもお手上げ状態のカタリナ達にとってこの事態は、最早ツッコミを入れる事が唯一とれる手段であった。

 

「各自武器を持ちなさいっ!!敵の場所はわかっているわっ!!準備出来次第出発よっ!!」

「ル、ルナール先生が……も、燃えている……」

「ええ……今の私は、“攻め”のルナールよっ!!」

「おお……っ!」

 

 さながらカチコミである。手には、いつの間にやら握りしめる愛用のペンを持ちルナールの封印されし魔眼がいつも以上に疼いた。

 

「ジータ団長、貴女も力を貸してちょうだいっ!!私の本、と団長を助けるために!!」

「最初に本って言ったぞこの姉ちゃんっ!?」

「やらいでかーっ!!私頑張って帝国ぶっ潰すっ!!」

「ジ、ジータ?あんまお前は頑張ん無くていいと思うぜオイラ」

「頑張るっ!!」

「はわわ、まったく聞いてません……」

 

 今ここに、一方の代表者不在のままに星晶戦隊(以下略)と【ジータと愉快な仲間たち団】の共同戦線が組まれた。最早アウギュステでの帝国の命運は、決まったようなものだがそんな事を帝国兵達は勿論知る事は無かった。そして捕まってしまった団長もフィラソピラがいるので「その内助けに来るだろうし大人しくしてっか」程度に考えていたのだが、流石にこんな集団がこんなテンションで押し寄せる事態までは、想定していなかっただろう。

 

 ■

 

 七 正義の選択

 

 ■

 

「はっ!?」

 

 そしてここで置いてけぼり状態であったシャルロッテが我に返る。

 

「じ、自分もジミー殿救出に向かうであります!!」

 

 団長が捕らえられた原因である【アウギュステラブホ事件】。当事者である本人として団長を放っておく事は、到底できなかった。

 

「いや、リュミエール聖騎士団の団長が来るんは、まずいんとちゃうか?」

 

 しかしここでカルテイラからシャルロッテ、およびリュミエール聖騎士団の団長救出作戦参加に疑問がでる。

 

「リュミエール聖国って帝国と友好関係やったろ。前の時は、小競り合い一歩手前で済んだみたいやけど今回本格的にシャルロッテ団長はんが出てくると帝国も無視でけへんで?」

「うん?ってことは、リュミエール聖騎士団のコーデリアにブリジールも不参加になるぜ?」

 

 フェザーの何気ない言葉にコーデリアとブリジールが怪訝な顏を見せた。

 

「待ちたまえ。確かにリュミエール聖国は、帝国と友好関係にあるが今回は、状況が状況だ」

「そ、そうです!団長さんのピンチにじっとなんてしてられないです!」

 

 団長(コロッサス、ゾーイ、B・ビィの星晶獣3体付属)が本当にピンチであるかは、実際の所団員達も疑問である。

 

「……一応、話シテオクガナ。アイツ、今回ノ事ガ終ッタラオ前等二人退団スルヨウニ言ウツモリダッタカラナ」

 

 先ほどの激しい怒りをいつの間にか消してティアマトが意外な事を告げた。その言葉にコーデリアとブリジールの二人は、思わず狼狽えた。

 

「それは、どう言う……」

「シャルロッテト出会ッタ次ノ日ダッタカ、アイツ一人デオ前達ニ退団ヲドウ告ゲルカッテ悩ンデタカラ相談ニノッタ」

「ティアマトに相談だと……主、悪い物でも食ったか……?」

「ウルサイ」

「ぐえ」

 

 驚愕した様子のシュヴァリエに不服そうなティアマトは、一発張り手を繰り出した。

 

「こう言うのは、主にやってほしいんだが……」

「ウルサイ……トモカク考エテミロ、ソモソモオ前達ハ、騎士団長ヲ探スタメニ入団シタダロウ。今回ノ件デ殆ド目的ハ達成サレテイルンダ。アイツガオ前達ノ今後ノ事ヲ考エルノモ当然ダロウ」

「それは、そうだが……」

「ソレニ今ココニハ、リュミエール聖騎士団団長ガイルンダ。オ前達ガ来ルカドウカハ、ソノ騎士団長ト話シ合エ。騎士団長本人ガ来ルカモ含メテナ」

 

 カルテイラ、そしてティアマトの言う事は、尤もであった。コーデリア達が本格的に帝国と争う事になると間違いなくリュミエール聖国へその事が帝国から知らされる。同時に帝国側からは、その事に関しての抗議が行われるのは間違いなく、まして騎士団長シャルロッテ・フェニヤがいたとなると一度の抗議だけでは、済まないかもしれない。

 コーデリア達の周りでは、重苦しい雰囲気が出てきた。今彼女達は、自分の気持ちと騎士団としての立場の板挟みになっているのだ。ただ一人、バウタオーダは、じっと彼女達を見つめ成り行きを見守っていた。

 

「私達ハ、準備ヲ終エタラ直グニ出ル。モウ一ツ言ッテオクト、オ前達二人トソコノ騎士団長ガ来ナクトモアイツ等ヲ助ケル分ニ問題ハ無イ。ジータノ団モイルカラナ。ソレヲ踏マエテ良ク考エテオクンダナ。行クゾ、オ前等」

「う、うん……ティ、ティアマトが、結構まともだぁ……」

「ウルサイ」