【未完】フェバル 〜剣聖プロトタイプ〜 (暴虐の納豆菌)
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登場人物紹介


作者が忘れないようにする為のメモのようなモノ。
※プリシラの外見年齢を修正しました。
(2018/2/26)
※各キャラの解説に、容姿の簡単な説明を追加しました。ついでにエネミアの解説を加筆修正しました。
(2018/2/26)


 

 

【エネミア・マテリム】

この二次創作の主人公。獣人の少女。

【概要】

惑星マテリムジアイヤで過酷な環境を生き抜き、剣聖とまで言われた存在だが、剣の腕はそれほどでもないらしい。また、割と脳筋。

作中で最も命の価値観がしっかりしているキャラでもある。世界の果てに身投げして自殺しようとした所をフェバルであるエーナさんに話しかけられ、その莫大な力の奔流に狂戦士の血が騒いだ結果、フェバルになって不老不死になってしまったため、自殺ができなくなった。

しかも、〝気力ゼロ〟〝魔力ゼロ〟に赤子に劣る身体能力のオマケ付きで。

故郷の星では、惑星規模の迫害対象の獣人であり、寿命は30年も無い短命である。人より優れた能力を持ち、人より儚い命を持つ種族として生を受けた。

その生誕には、人と獣が交じり合う事で生まれるとされるが、他の星でそんな事したってまず獣人が生まれる事は無い。生命の許容値が高く、また、過酷な環境故に原生生物の生存本能が極まっているマテリムジアイヤ固有の種族で、他の星にいる獣人とも全く違う新たな人類である。

 

彼女を一言で表すなら、恐れる事が無い少女、である。

何があっても受け入れて立ち向かうだけの強い精神を持っているが、それは自分がいつ死んでも構わない為の達観と諦めに満ちたモノである。

他人とは違う命の価値観を持っており、彼女にとっての『命』とはお金などの通貨と同じ、〝消費するもの〟でしかない。そのため、人の命の価値を立場や能力などで客観的に分析し、総合を取って価値を査定する、ある意味恐れ知らずな行為を常にしている。

その意味では、剣聖という立場、人類最強という能力、全てをとっても最高の価値を持っていた自分の命を簡単に投げ捨てる様な行動をプロローグでとったのは、本人曰く「使い尽くしたから」らしい。

彼女にとって、〝消費するもの〟である命は何かを為すごとに常に消費されている。立場を上げ、能力を磨き、価値を上げる事はあっても、その度に消費してしまえば意味は無い。その点、故郷では既に頂点の一角に存在していた彼女の命の価値はもう上がる事はなく、消費されるのみ。

彼女が自殺を試みるのは、自分の命の価値を文字通り「使い尽くした」からだと思われる。

また彼女は、命の価値に対して〝まるでお金の取引の様に〟考えているため、命が消費される際に何かを得るものと考えている節があり、命の価値は上がらずとも、それを消費して手に入れた『何か』は結構大事にしている。だが、それも自分には「重すぎる」として、彼女は今まで命を消費して手に入れたモノを一人で抱え込めなくなった為に、フェバルとなり死ねなくなった今も、死ぬ手段を考えている。

基本的に脳筋で、思考して行動するという事を知らない。エネミアの剣が『速度と瞬発力に任せて滅多斬りにする』といった雑な戦い方なのは、本人が考える事が苦手だからである。術理をもって剣を扱う事ができるだけの思考回路を持たない為、剣の腕はかなり下位にあたる。

【容姿】

身長:136㎝

体重:25kg

黒髪に金色の瞳をした童顔の幼女の様な外見。大衆が思い描く獣人とは違い、人にとって耳がある所に猫耳がある。頭の上に耳があるのは人の形ではないので、あくまで獣人が新人類ではなく、獣と人の混血に過ぎないマテリムジアイヤでは最も妥当でオーソドックスな獣人の形をしている。

服装は完全に浮浪児のそれだったが、アミカのプロデュースによりシンプルだがマシなものになった。だが、マントは外さないあたり、旅を続ける意志が伺える。

とても15歳だったとは思えない体格の持ち主で、本人曰く、もともと小動物であったネコとの間に生まれた獣人である事と、何より遺伝子的に体格に恵まれなかった事が、とても種族的寿命の半分を生きた存在とは思えない幼さを持つ理由だとか。体重も軽く、剣に関係する肉体的要素が壊滅的である為、フェバルになってからかなり苦労している。

因みに、もう成長しない事だけが、過酷な環境を生き抜き剣聖とまで言われた彼女が唯一悔やむべき事らしい。

 

 

 

 

【プリシラ・マテリム】

エネミアにマテリムの名を与えた張本人。

【概要】

着々と変態化していく予定。

フェバルすら退ける星消滅級の異常生命体で、原生住民からは『魔神』と呼ばれている。惑星マテリムジアイヤそのものに寄生しており、星と同化している。元は人間で、『世界の果て』と呼ばれる大峡谷の底の底にその遺体はあるらしい。

まさに『深淵に棲まいしモノ』と呼べる存在。14〜17歳くらいの桜色の髪をした黒い神官服を着込んだ少女の姿をしているが、それが本当の姿なのかは不明。ーーーー本人曰く「いつまでもピチピチ(2000歳)、アナタのお母さん!魔神ちゃんです☆」とのこと。

実際惑星の感覚器に接続してまで、星で生まれた生命に祝福の言葉を与えたり、孤児に対しては一定の年齢になるまで育てたりもする為、マテリムジアイヤにおいては『全生命の母親』と呼んでもいい存在であり、『孤児の守り神』として信仰されている。

何故、『魔神』と呼ばれているのかは不明。本人も「自分は醜悪な魔神で充分だ」との結論を出している。

【容姿】

身長:161㎝

体重:41kg

桜色のロングヘアーに金色の瞳の少女の外見をしている。黒い神官服を着込んでおり、『神』を名乗るに相応しいオーラを放っている………らしいが、エネミアの前ではかなりふわふわした態度を貫く。

そもそも、この少女の姿が本当の姿なのかは不明。

もしかしたら、本当は『魔神』の名の通り、醜悪な悪魔の様な外見をしているのかも知れない。

 

 

【アミカ・オーメス】

エネミアがフェバルになって初めて関係を持った人間であり、初めての家族であり、初めてのライバル。

【概要】

赤い髪が綺麗な少女で、実家は飲食店を経営していて、そこでウェイトレスとして働いている。

ウェイトレスとしてはあり得ない戦闘能力を持つが、それは出自に関係しているらしい。

お人好しでありながら、命に対して冷酷なエネミアと話が合う時も多い。しかし、エネミアとの対抗心バリバリで二人して色々問題を起こした事も数知れず、エネミアと出会って数週間後には二人の鍛錬で一つの観光名所を無人にした。

【容姿】

身長:155㎝

体重:41kg

綺麗な赤色をしたサイドテールに翡翠色の瞳を持つ活発な少女。ウェイトレス業の為の給仕服はミニスカメイド服を少し改造したようなデザイン。

私服は黒い袖に、白いワンピースと黒ニーソックスを組み合わせたかなりシンプルな服装。本人曰く、動き回る事が多いから、あまりデザインの凝った服は着たくない、との事。



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プロローグ
プロローグ:前編


※ちょっと誤字修正ついでに文章を追加しました。あまり違いはないので気にしないでもいいかも知れません。


プロローグ

舞台《炎熱と闘争の崩壊の星〝マテリムジアイヤ〟》

・大まかな許容性
気力許容性:やや低い
魔力許容性:なし
生命許容性:極めて高い
理許容性:非常に低い
フェバル能力許容性:低い

・特筆すべき理許容性
物理法則許容性:非常に高い


 

 

ーーー惑星マテリムジアイヤ。

 

 

永遠と荒廃した大地が広がる決して裕福とは言えない大地に、体に悪そうな灰色の空。そして、それらを照らす巨大な太陽が空を見上げれば目と鼻の先にある星。

 

地球における太陽とも言うべき星が大気圏を隔てた直ぐそこに存在する為、生命の許容性が高いにも関わらず凡ゆる命が死滅した世界。

 

 

この世界は空にある太陽のお陰で、深刻な資源不足状態にあり、一滴の水、一欠片のパン屑が人の命以上の価値があると言えるこの星で、人々は生きる為に生まれた時から限られた資源を奪い合う闘争に晒され続ける事になる過酷な環境で生きる事となる為、5歳児の子供ですら世界的強者を出し抜く事すらあり得る闘争と強奪、成り上がりが常に成立し、存在し続けるその星で彼女は生まれた。

 

 

 

ーーーー剣聖エネミア。

 

 

この世界の人々特有の、いつ死ぬかわからぬ命の価値が低い世界だからこその優性遺伝子に、この過酷な環境で生き残れる獣の因子を埋め込んだ事が原点となり生まれた生物。

人より強い生存本能と人より短い寿命、そして獣の身体的特徴を持ち、その生まれる過程が《人と獣が混ざり合う》という事情故に『堕ちた人』の象徴とされ、迫害の対象となる『獣人』として生まれながら過酷な生存競争を生き抜き、人類の頂点にまで至った齢15歳の少女。

 

ーーー彼女は今、死のうとしていた。

 

 

 

「ーーーーあなたがエネミア?」

 

 

そんな時に背後から響いて来た女性の声。

 

今まさに大峡谷に身投げする所であった剣聖という少女はその声に振り返る。

そこにはこのご時世、王族ですら見かけることのない上質な衣装に身を包んだ女性が居た。

 

 

「…………………」

 

 

エネミアは、それに対して思う所はない。

多少、自殺の邪魔をされて不満だったり、そんな上質な素材の癖に魔女風にデザインするという遊びができる程目の前の存在は裕福なのだろうかという疑問はあったものの、呼び止められて応えない彼女ではない。

 

 

実際、剣聖打倒という名声はこの生きる事すら辛い世界では一種の抑止力たり得る事実となる。

唯、そこに居るだけで最強の力を振り撒き、一瞥しただけで魔神すら逃げ出すとまで言われる彼女を打倒するという事はどんな搦め手を使ったとしても容易に手を出せぬ強者である証明になってしまう。

 

故に目の前の魔女風の女性の様に挑戦目的で声を掛けられる事もある。まぁ流石に真正面から搦め手を使わず声をかけて来たのは数えるほどしか居ないが。この世界では正々堂々などという飾り言では生きていけないなのだから、この女性を殊勝な心構えだなと思う事はあってもその心に賞賛する事はない。

 

 

そんな気持ちのいい奴ほど早く死ぬのがこの世界だ。

殊勝にも正面から剣聖であるエネミアに挑んで来たこの女性も直ぐ死ぬ類だ。だから彼女の中では〝殊勝な人〟で終わる。いい人だったと惜しまれる事はあれど死ぬのは当然の帰結として悲しまれる事はない。もし、他の世界なんかがあれば、そこがこんな世界の様に過酷な環境でなければそれなりに多くから必要とされる善性がこの世界では〝ただの敵〟を出し抜く為の〝判断材料〟に成り下がる。

 

ーーーそれがこの世界だ。

 

 

故に、衣装の上質さから純粋培養された箱入りお嬢様だったりするのかなとか想像しながら。エネミアはいつもの様に、背中に抱えているボロボロの剣に手を掛けて女性の目を見た。

 

 

ーーーーその瞬間に今までの思考の一切を撤回した。

 

 

その全身に漲る強者のオーラ。

その瞳に宿す〝乗り越えて来た〟覇者のソレ。

 

 

まさか死に際に、これ程の強者に会えるとは思わなかった。

 

 

「私はエーナと言う者よ。ーーー早速だけど貴女には死んで欲しい」

 

「………やれるなら」

 

 

私を殺すのが目的か。

常なら無謀な挑戦者で終わる所だが、彼女の力なら十分に可能だろう。

寧ろ自分が小物に見える程の力を持ち得ながら態々自分を狙う理由が判然としない。それ程までに目の前の存在は圧倒的だったのだから。

 

 

エネミアはそんな事を思いながらも、挑戦に応える為に剣を抜く。

身投げする予定だったのだがどうせなら戦いの中で死ぬのも一興である。

エネミアは目の前の超越者を見て、そんな何時もの自分からしたららしくもない気持ちを抱きながら鍛冶屋から盗み出した人生で初めて手にした盗品であり、凡そ10年もの付き合いになる愛剣を構える。

 

 

「勘違いしないで欲しいのだけど此方は貴女のために貴女を殺す。恨むならそれも仕方がないけど、できるなら抵抗しないで頂戴」

 

「…………御託はいい、さっさと来る」

 

 

目の前の女性の口から出る言葉に、いきなり出鼻を挫かれる。

そんなに強者のオーラを漂わせて私に挑戦しておきながら今更言い訳か?

 

今も自分で殺すと言っていながら訳がわからん。命だって例え価値が少なくとも無いわけでは無いのだ。

価値ある物を奪うのならその価値と同価、もしくは上等な価値を示す物と交換するか、持ち主から奪う以外に無い。

そんな当たり前の事は彼女も知っているだろうに。

 

だが、彼女は至って真剣だった。真剣に〝私の為に〟私を殺すと言っていた。

 

 

どんな意図があるかは知らないが、もとより己の命の価値に押し潰されそうになって身投げしようとした身なのだ。死ぬならそれも良いだろうと思いはするが、流石にこの状況で無抵抗は無理だ。

 

 

「………後悔するわよ」

 

「………やってみないとわからない」

 

 

地獄の底からやって来る亡者の姿を幻視した。

 

幻視したのは強者や覇者では無く、亡者。

 

それは彼女の言う後悔という物が、真実として私にすら耐えられぬ絶望を見て来た者の実感を伴った忠告だからだろう。

だが、それが何だ。寧ろ上等だ。

そんな強者と戦って死ねるなら一興どころでは無い、最早本望と言える。

 

 

体格に恵まれず、能力に恵まれず、出自に恵まれなかった彼女が生き残り、剣聖という頂点に至ったのは、強い生への執着でも完璧な師の教えでもない。

 

 

ーーーただ、死に場所を求め続けたからだ。

 

 

誰もが価値を見出さず切り捨てていきながら、自らの物だけは何があろうと手離すことは無いだろう、この世界でも特殊な形の価値を持つ〝己が命〟を使い潰し、消費し続けたのが私だ。

 

もとより、こんな過酷な環境で永く生きれるとは思っていなかったエネミアはただ今まで消費した自身の命に釣り合う結果を求めて戦い続けて来た。

 

結果、いつの間にか消費した命の価値に釣り合う結末(死に場所)が見つからないまま、命を消費し続けていつの間にか釣り合いが取れるものが無くなってしまった。

 

 

だって頂点にまで来てしまった。

それまでに積み上げて(消費し続けて)来た、命の価値がこの世界にいる者たちでは払えない高みに来てしまった。

 

 

だからこそ、エネミアはこの遥か昔に『魔神』によって穿たれたという逸話を持つ『世界の果て』と言われる大峡谷に来てまで身投げしようとした。

 

この世界にいる存在に払えないのなら、せめて過去にいる『魔神』と呼ばれた『究極』にこの命を捧げる位で無くては釣り合わない。

この星の断面にあけられた穴に身を投げ死ぬ事で星を砕いた『究極』の一片を見ることで自身の命に釣り合いを取ろうとした。

せめて、覇者としての深淵で死のうとした。

 

 

だが、目の前の女性から溢れる威圧感は何だ?

こんなたかが大峡谷程度、目じゃ無い位の濃密な殺意の深み。

多くを乗り越えて来た超越者への挑戦という極み。

どれをとっても私の命を使い潰すのに相応しい………いや、寧ろお釣りがくるのでは無いか。

 

 

「その目。………はぁ、これだから戦闘狂ってのは嫌だわ」

 

《バルシエル》

 

 

目の前の女性が口から何か力ある言葉を紡いだ。

見たことのない技術だ。

一体どんな攻撃なのかと身を固め、防御の姿勢をとるが、一向に何も起きない。

 

 

 

 

…………………一向に、何も起きない。

 

 

「……………」

 

「…………なんか、前にもこんな事があった気がするわ」

 

 

おい、失敗したのか。

よりにもよって失敗したのか、お前。

 

こっちは一体何が来るのかと身構えていたというのに、蓋を開けてみれば恥ずかしい事に何も無い。

 

 

バカにしているのだろうか?

いや、剣聖と呼ばれようが目の前の存在にしてみればちっぽけな者だろう。

だが、流石に戦闘でコケにされれば私だって怒るぞ?

 

 

『……ぷっ、あははははははは!!』

 

「なっ!?誰!?」

 

 

途端に何処からか笑い声が響き、目の前の魔女っ子(笑)エーナさんが驚いて辺りを見渡すが、慣れている私は特に驚いたりはしない。

 

 

「………この声は」

 

「心配しなくても、無害な魔神さんだよ。偶に地の底から声かけて来るけど」

 

「………?貴女の世界の常識なのかしら?」

 

「……………常識も何も、皆が生まれた時に聞く声だし」

 

 

そう、先ほどの声は『魔神』の声だ。

この星の果ての大峡谷の底に今も魔神は存在していると言われている。

しかも、魔神とは名ばかりで、私の後ろにある大峡谷を作り出した星を穿った逸話はあれど他には特に暴れたとかの話は無い。

 

魔神さんが暴れる程この星に価値あるモノなど無いだけかもしれないが…………その魔神さんが、この星に子供が生まれる度に祝福し、生まれた命の幸せを願う声を必ず生まれたばかりの人の耳元で囁くのだから、割とガチでこの世界では親しまれてる存在だ。

 

 

身近に感じる事も多いからか下手な宗教よりも魔神さんは信じられているし、信頼されている。

そんな事も知らないのかこの魔女っ子(笑)は?

 

 

『ドーモドーモ、星脈の奴隷さん。私は魔神だよ。先ほどそこの子が言った通りこの世界に根付いて、観察しては偶にちょっかい出したりしているよ』

 

「魔神……?まさか世界に寄生している!?」

 

『寄生とは人聞きの悪い。…………まぁ、二回も同じミスでフェバルを逃したその滑稽さに免じて許してあげるけど』

 

「ちょっ!?いつから………!!」

 

 

なんか魔神さんと魔女っ子(笑)が楽しげに話してる。魔神さんがここまで介入するのは珍しい。

 

 

『んー、ウィルの気配が変な所にあったからさ、ちょっと観察してたんだけど………。いやー、流石は新人教育係!まるでコントかと思ったよ!!まさか先程も失敗したのに魔力許容値の確認すらせずに魔法発動を行使できるとは!』

 

「…ぬぐぐ〜!!……あなた何者よ!」

 

『だから無害な魔神さんだって。……まぁ、君たち風に言うなら異常生命体?まぁ、肉体とか既に無いけどー』

 

「まさか!?星と同化する程のキャパシティを持つなんて!?」

 

『そんな事もあるんじゃ無いですかねー?異常だから異常生命体なんて呼ばれてるんだし。…………と、そろそろ巣立ちの時間だ』

 

「……………すだち?」

 

 

暫く呆然と目の前で交わされる会話の応酬を眺めていたが、最後の魔神さんの呟きは明らかに私に向けられた物だった。

 

 

『そ、巣立ちー。そろそろ君はこの星から離れる事になるのさ』

 

「え、まさか!?まだ早い!」

 

『新人教育係が何のこと言ってるのか知らないけど、星脈に介入するくらいわけないさー』

 

「そんな軽い口調でスケールのデカい事してんじゃないわよ!!」

 

 

色々、論争(?)している2人だが、私にとっては見過ごせない疑問が一つあった。

 

 

「…………えっと、死ねないの?」

 

『そだねー。君の求める死はちょっと許容できないからねー』

 

「………じゃあ」

『だからって拒否権もありませんわ〜、ってねー。

折角見守ってきた我が子の巣立ちだもの。おねーさん奮発しちゃうからね!』

 

 

凄く嫌な予感はしていたが、残念、拒否権は無かった。

魔神さんは本気でその『巣立ち』とやらを私にさせる気のようだ。あと、魔神さんって女の人だったのね…。

 

 

「え?ちょっと、貴女、死のうとしてたの?じゃあ私のやった事って?」

 

『その子、巣立ち前に身投げしそうになってハラハラしてたから助かったよ〜』

「ーーーーーー」

 

 

そして、衝撃の事実に言葉を失う魔女っ子(笑)エーナさん。

話の流れからしてどうやらエーナさんは、この〝巣立ち〟とやらを阻止しようとしてたみたいだ。

 

 

…………変な欲張らずにそのまま死んどけばよかったかも。

エーナさん言うこと聞かなくてゴメン。『やらなきゃわからない(キリッ』とか言っときながら、やったらもう後が無い類の物だったら意味ないじゃんね。

 

 

魔神さんが介入して来たってことはもう何もかも遅いんだろうな。

この人はそう言う人だ。

生まれた頃からこの世界の人たちはよく知ってる。

 

 

『いやー、私の世界から超越者が出てくるのは凄く久し振りだからね〜。星脈の奴隷なのが少し不満だけれど、巣立ちに変わりは無い。おねーさんがんばって応援してるからね〜!』

 

「…えっ、ちょっ、まっ!」

 

 

魔神さんが話を切り上げると同時に私の体が光始める。

 

エーナさんの慌てた声が聞こえる。

………そうか、これが魔神さん曰く〝巣立ち〟か。

 

 

『いってらっしゃ〜い』

 

 

………これは、巣立ちした後で死ねばいいとか、そう言う問題じゃ無いんだろうなー。

 

 

私は自分の体が何か別の物に変わって行く様な不思議な感覚の中で、何処か憎めない魔神さんの声を聞きながら〝巣立ち〟を終えたのだった。

 

 

 

 

 

「………………私って、一体」

 

 

その時聞こえたエーナさんの言葉にめっちゃ申し訳なくなる。

いや、貴女のいった通りでしたわ。私、今もの凄く後悔してます。

 

 

 

 

……………今度エーナさんに会えたら何かお詫びしよう。

 

 

ーーーーー私はそう硬く誓ったのだった。

 




書いてたら筆が勝手にエーナさん登場させてた……。
やはり新人教育係は格が違ったw

後、魔神さんは異常生命体ですがキャパシティに関してはフェバル以上です。元人間、現神様みたいな人。
二千年以上前から主人公の故郷の星に居着いてます。因みに実力派で文句無しの星消滅級です。
異常生命体としては最上級以上の武闘派。
まぁ、やるのは観察位で自由に動く事は無いと言うかできないんですけどね。
設定的にも作者の事情的にも。………強いキャラって何となく動かし難くありません?


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プロローグ:後編

 

 

 

目を覚ますとそこは知らない空間だった。

 

 

爛々と輝く星々と暗い宇宙。

少し視線を傾ければ、そこには何処か見慣れた感じがする荒廃した大地を宿し、星の表面の6割が大峡谷となって砕け散っている星。

近くには凡そ3倍の大きさの太陽が大地を焼くレベルで近い場所に置かれているその星の姿はどこの終末世界だと言いたい。

 

 

感覚的に分かるが、どうやら私は自分の育った星から外に出ているらしい。

 

流石魔神さんだ。巣立ちの規模が他と全く違う。

 

 

不思議な事だが、自分は教養も無い上に故郷に宇宙に関する理論とか全く発表されて無かった筈なのだが周りの広大な宇宙空間をちゃんと実感を持って捉えきれているようだ。

 

 

『やほ〜!ハロハロ、魔神さんだよ。巣立ちの前にちょっとだけ、会いに来ちゃいましたー!』

 

 

あっ、体が動くな。じゃ、早速。

 

ほい、ざしゅっとな。

 

 

『首がー!?君、躊躇い無いな!!中々居ないよ!?そこまで躊躇無く自分の首掻き切れる人!』

 

「…………試しただけ」

 

『いやいや、それでも凄いよ?ま、結局無意味なのはわかってくれた様だけど』

 

 

いや、体が動くなら死ねるかな、と。

 

斬首で自殺を図った訳だけど、やっぱり私は死ねない体になった様だ。

 

 

「………再生のオマケ付きとは思わなかった」

 

『いや、再生は私の力だけど。態々星脈に干渉してまで数分だけの会話タイムを都合したのに、死亡して別の星に再生とかしたら話せないじゃん』

 

「………一空間で、一度だけ?」

 

『一つの世界で回数限定の再生って訳じゃ無いよー?ぶっちゃけるとそんな高度な回復機能は無い。どちらかと言うと転生に近いシステムはあるけど、死んだら別の世界で蘇るんだよね』

 

「……厄介な」

 

 

本当に、厄介だ。

死ぬ事が許されないのでは無くて、生きる事を強要されてる感じか。

慣れなかったら精神がやばそうだな。慣れたくも無いけど。

 

何が悲しくて、これから何回も死ぬ事を想定しなきゃならんのか。

 

 

『ところで、エネミアちゃん!初めて見た私の姿に何か物申すことは?』

 

「…………可愛いよ?」

 

『ありがとーぅ!私も君可愛いと思うよー!!』

 

 

うるさいな。

 

でもまぁ、言ったことは事実だ。魔神さんは自分の姿に意見を要求して来た訳だけど、結構可愛らしい。

 

ピンク色のロングヘアに黒い上質な神官服を着た身長160㎝位の体格の細身の少女の外見で何処と無く幼い感じのする声もあって綺麗というより可愛らしい印象のする少女だ。

 

これが2000年も前に故郷の星の地表約6割を抉り取った魔神さんとはとても思えない。

 

 

「………結構若い?」

 

『あ、わかります?私の溢れ出るピチピチオーラがわかっちゃいます?』

 

「……………ピチピチ」

 

 

意味は分からんけど何となく死語な気がする。

最初は若いとか思ったりしたけど、さっきのでわかった。

この人結構歳だ。

 

 

『……何気に酷いこと思ってません?2000年って超越者の中では案外若いと思いませんか?まぁ、他の超越者の歳とか知りませんけど』

 

「……いつまで本題に行かないつもりなの?」

 

『そうなんですけどねぇ!?今逸らされると私は凄く不安になると言いますか!!』

 

「………いいから、本題」

 

『あれ?キレてます?わかりましたよ。本題ちゃんと言いますから。

最後に一つ、キレてますよね?』

 

 

キレてない。

 

 

「………とも、言い切れない」

 

『言い切って欲しかった!!

…………まぁ、いいんですけどね?じゃあ、本題ですけど貴女はこれからこの宇宙を永遠に彷徨う事になりました!拒否権も途中辞退も無し!ついでに言うとかなり悲惨な未来が確約されたデットコースです!……以上!!』

 

 

ーーーいや、以上!!じゃないから。

 

 

拒否権も無いし死ねないのは分かっていたが、永遠に彷徨うとか悲惨な未来確定とか聞いてないよ。

 

 

「………詳しく」

 

『ぶっちゃけあんまり知らないです』

 

 

…………お前何のために来たんや。

 

 

『だって私、フェバル嫌いなんですもん!散々人の土地荒らし回って修復もせずに勝手に消えていった上に、完全駆除不可能の武闘派害虫集団とか面倒臭くてしょうがないんだもん!!』

 

「取り敢えずフェバルっていうんだね……」

 

『そうだよー。人によっては簡単に星を消しとばす力を持ってる癖に完全に殺す事が出来ないからぶっちゃけ超めんどい害虫さん。

うちの星が太陽の位置がおかしいのも、6割砕けてるのも、フェバルの訳わからん行動の結果だったり』

 

 

………マジかよヒデェ奴だなフェバル。

 

あれ魔神さんのせいじゃ無かったのか。

 

 

『まぁ、そんな事実無くても、私不老不死とか苦手なんで嫌ってたと思いますけど』

 

 

………マジかよヒデェ奴だな魔神さん。

 

別に共感する必要とか無かったかもしれん。

 

自分が問答無用で嫌ってる様な存在に本人の意向無視で強制的にならせた癖に、最低限の説明義務も果たさず愚痴を吐いたのか。

 

………マジで、お前何のために来たのさ?

 

 

『……心なしか冷たい視線を感じる。でもいいよ!私、子供には寛容だから!私の星で生まれた人は私の我が子も同然だからね!遠慮なくビシバシ意見してくれていいからね!!』

 

「…………正直、魔神さん最低だと思いました」

 

『容赦ない!!!』

 

 

私がズバリと言い放つと、何故か荒い息を吐いて左手で胸を押さえて悶える魔神さん。

でも、疲れてるという感じじゃない。というか何処となく気持ち悪い感じがする。

 

 

何だっけこの感じ?

 

あ、そうそう。

確か8年前に自称〝ろりこん〟さんとかいう黒髪の変な人が私を見て荒い息をしてた時と同じ感じの…………。

 

 

 

私の中で過去のとある記憶が蘇る。

 

 

ーーー僕はね?12歳以下の幼児しか愛せない体質なんだ………。

 

 

あっ、こいつ唯のきもい奴だ。

何で覚えてるの、私。

 

 

僕は〝ろりこん〟だけど、人には色んなのが居るんだ。例えば弄られる事に快感を覚える〝まぞさん〟とかーーーー

 

 

「……ダメだ、これ以上思い出すな、私!!」

 

『…おおぅ、今日一番の大声。いきなりどうしたの?』

 

「…………誰のせいだと」

 

『もしかして、あの黒髪のフェバルの事思い出してた?8年前の』

 

「あの人も……フェバルなんだ」

 

『……地球から来たとか何とか言ってたよ?私はあまり知らない所だけど』

 

 

………マジかよ。私、これ程現実に絶望した事は無いよ。

 

 

『そう言えば8年前の地球産フェバルとは何だかんだで意気投合したなぁ。

あの人のお陰でフェバルの苦手意識もある程度薄れたし、知らない知識も多くくれたし』

 

「…………どーりで」

 

 

こいつの節々から感じ取れるおふざけの精神と、チラリと顔を覗かせる変態性は、あの黒髪のフェバル譲りのモノだったか。

 

…………絶望感が半端無い。

 

既にフェバルとしてやっていく自身が無い。

何より目の前の未来の変態が怖い。

 

 

『そろそろ時間だねー。言うことも言ったし、それなりに楽しかったし。ここら辺でお別れかな?

さぁ、今度こそ巣立ちの時間だよ!エネミアちゃん!!』

 

「…………既に帰りたい」

 

 

いや、目の前の人から早く離れないと何処と無く危ない気はするのだが、まだ顔を覗かせた程度の変態性で倒れる程、8年前の〝ろりこん〟の所業はぬるくは無かった。だからこそ覚えてる訳なんだけど。

 

 

それよりもフェバルへの悪印象がやばすぎて、絶望感が凄い。

やっていける自信が無い。

 

 

『最期におねーさんから特別なプレゼントだよ!

私こと魔神ちゃんの名前は『プリシラ・マテリム』!エネミアちゃんには私の名前である『マテリム』の姓をプレゼントするよ!

この姓は私の星生まれの『超越者』特有の名前だから、これからもしかしたら出会うかもしれない故郷の人への証明になるね!』

 

「……………凄く微妙なプレゼント。お金とか食べ物の方がいい」

 

『そんなっ!世界が違えば常識も違うんだよ!?セカンドネーム持ってて当たり前の世界も有るんだから、貰っときなよ!

それに『マテリム』を名乗っておけば、私の知り合いである証にもなるから色々融通も利くところがあるから!!』

 

 

………まぁ、その言はわかるけど。

 

セカンドネームがあるのが当たり前の世界もあれば無いのが当たり前の世界もあるだろうけど、それならそれで名乗らなければいいだけの話だしね。

 

 

「…………そこまで言うなら貰っとこうかな?」

 

『うんうんっ!しつこい位に言うよ!!私は名実共にエネミアちゃんの家族になりたい!!』

 

「………やっぱりやめる」

 

『えぇ!?何で!!?』

 

 

…………逆に、何故驚くのか。

 

取り敢えず、その後の魔神ちゃんの必死過ぎるお願いに軽く引きながら、渋々……本っ当に渋々『マテリム』の名を受け取り、私のフェバルとしての旅が始まった。

 

 

………あれ?

結局、魔神ちゃんあまりフェバルの事について話してないような………。

 

 




元から魔神ちゃんは『身内贔屓な性格』という設定が薄っすらとあったのですが、いざ形にして書いてみるといつの間にか8年前に変態さんと意気投合してました(笑)。

という訳で、軽度ではあるものの将来有望な変態の卵となっていた魔神ちゃん、もといプリシラちゃんの名前発覚。
主人公のエネミアにも姓ができて、案外他のフェバルからすれば平和な幸先のいいスタートを切った訳ですが、主人公の他のフェバルの人への印象は最悪に近くなりました。

魔神ちゃんのバカぁ!!何で書いてると勝手に動くのぉ!?


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第1章 《次元連結世界〝クルシュマナ〟》
第1話 始まりは即死から


なんか一人称視点なのか三人称視点なのか分からない文章になってしまった……。
駄文ですいませんがよろしくお願いします。


第1章


舞台《次元連結世界〝クルシュマナ〟》

・大まかな許容性
気力許容性:非常に高い
魔力許容性:非常に高い
生命許容性:高い
理許容性:やや高い
フェバル能力許容性:極めて高い

・特筆すべき理許容性
時空間法則許容性:極めて高い


 

 

魔神ちゃんことプリシラに見送られて、目が醒めるとそこは見知らぬ森だった。

 

目を擦りながら、起きあがり周りを見渡す。

 

 

「………これがそういう」

 

 

そこは、湿気の多いジャングルの様な場所だった。

 

プリシラが言っていた、フェバルになると宇宙を永遠に彷徨う事になるというのは、成る程こういう事か。

フェバルの旅とはどうやら星と星を移動する形になるようだ。

 

宇宙に放り出されて、そのまま宇宙空間を彷徨う訳じゃなくて安心したと言うべきか。

そもそもフェバルにならなければ大人しく死ねたのでそうとも言えないだろうか。

 

 

「………サバイバルは得意」

 

 

とりあえず、現状の打開が優先だろう。

 

食料は勿論、まともな生活に使う道具すら持っていない。持っているのは背中に背負うこの愛剣だけだ。

 

女性としてどうかと思うかもしれないが、私は、あまりそういうのは興味ないので、差し当たっての必要なのは雨風をしのげる場所くらいか。

私の故郷(マテリムジアイヤ)では雨風をしのげる屋根ですら贅沢なものだったのだから、女としての手入れがどうとかは二の次、三の次だ。

 

 

他の星に来てまで屋根の無い拠点で暮らさないといけないとか悲しいし。故郷では見れない緑豊かな場所に来たんだから、どうせなら満喫したいじゃん。

幸い、サバイバルの技術には大体手を付けてある。

 

 

サバイバル技術はあの荒廃した大地では必須技能と言えるだろう。

10年以上もしているのだから孤独感や緊張感、不安感にも慣れている。

 

私が生き残る上で必要な技術の習得を怠る筈がない。

まぁ、その生存能力の高さ故に、死にたい時に死ねなくなってるんだから、私としては人生複雑だなとしか。

 

 

幸い周りの森には緑が多く、自然が生い茂っている。故郷には無い多くの恵みがそこにはあった。以前よりも贅沢な食べ物も一杯あるかもしれない。

生存に特化した獣の嗅覚は毒の有無も見分けられる。私の中にもその獣の遺伝子があるので、大丈夫だろう。

他にも慣れない足場でも直ぐに立て直せるなどの身体的メリットが多いのは獣人の特徴だ。

 

 

「………とりあえず、食べもの」

 

 

次の方針を声に出して呟くのは癖だ。

私にとっては、孤独感を紛らわせる為に身についた一種の生存技能と言える。

 

ーーー瞬間、視界の端から明確な殺気が放たれる。

 

 

「ーーーっ!」

 

 

それに思考するよりも体が先に動いて迎撃態勢を整える。

 

視界に入ったそれは、樹木から飛び出してきた枝だった。

その太い枝がまるで鞭の様にしなり、他を圧倒する速度で迫ってくる。

 

 

(………遅い)

 

 

だがエネミアには通じない。

 

あの世界で生き残る為には、少ない資源でやり繰りする為のサバイバル技能に加えて、脅威に対応する為の思考能力も必須だった。

 

 

その技術の一つである『思考加速』。

達人にもなれば、その思考加速能力が体感時間にまで作用し、あたかも時の流れが遅くなったかのように感じる。

エネミアの思考加速は常人の何十倍にも昇華され、その加速空間は音速の攻撃にすら対応できるほどだ。

 

 

殺意を感じたら既に完璧以上の迎撃態勢ができている。

 

思考できればそれはほぼ確実。

 

視認できればもはや取るに足らぬ敵でしかない。

 

 

反射レベルにまで昇華され、思考より先に迎撃ができるエネミアに攻撃を加えようとすれば、彼女の思考空間ですら認識不可能な速度ーーー光速に至る攻撃を完璧な不意打ちで打ち込んでやっと五分五分といったところか。

 

 

(………この程度)

 

 

背中の剣に手を掛け、抜刀。眼前に迫る脅威に対抗しようとする。

 

 

(………あれっ?)

 

 

ーーー遅い。

 

音速に至る思考加速空間で、酷くゆっくりに見える敵の攻撃。

本来なら認識できた時点で取るに足らない敵に過ぎない。

 

 

(………からだがっ!?)

 

 

だというのに、腕が動かない。

 

いや、動いてはいる。

ただ、自分の加速した思考に体がついて行けていないだけだ。

 

その速度は酷く怠慢で、信じられない話だが、少なくとも自分の身体能力が通常の幼児にすら劣る程に弱体化している、という結論を加速した思考空間の中で計算し導き出した。

 

 

迎撃はーーー無理だ。

 

剣を抜刀する程の時間がない。

いつもなら噛み合っていた思考速度と身体能力が、今はまるで噛み合っていない。

 

なら剣の代わりにと、腕で迎撃するのも駄目だ。

身体能力が弱体化しているという事は例え手で受け流そうとしても力の強弱の感覚がいつもと違うのでまともな防御になり得ないだろう。

 

何より、速度的に素手だろうと追いつかない。

 

そんな思考を重ねているうちに、正に枝の槍とも言うべき脅威が迫る。

 

 

確実な死を連想した。

 

この程度の死線なら、鍛えた力で何度も潜り抜けてきた。

だが、今はその力もない。

 

常なら取るに足らぬ敵に為すすべがない。

 

 

(………なんか、悔しいな)

 

 

その事を悔しく思いながらーーーーエネミアは心臓を貫かれて、呆気なく死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『お願い……■■■■』

 

 

『ほんとに、それでいいの?』

 

 

『うん、ごめんね?……こんな逃避に付き合わせちゃって』

 

 

『そんな事を聞いたんじゃない!…………だって私、何もできてない!……させて貰ってない!!』

 

 

『いいの。その気持ちだけで充分だから』

 

 

『………でもっ!』

 

 

『だから、お願い。私をーーーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー殺して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「………夢見悪すぎ」

 

 

最悪の寝起きに、ため息を吐いてから起きあがる。

 

目醒めると、そこはまたもや見知らぬ森の中だった。

プリシラが言っていた、フェバルは宇宙を永遠に彷徨うという話、星と星の間を移動するのだろうという推測は既に確実だ。

 

 

ついでに言うと、プリシラが言っていたもう一つの事実も証明された。

死んでも別の世界で復活する。どうやらこれは本当らしい。

 

あの時、変な樹木に心臓を貫かれて、確かに私は死んだ。

だが、今こうして生きている。そしてまた見知らぬ土地に居る。

 

事実証拠だけでは不十分かも知れない。それに推測に過ぎない。

だが、少なくとも確定に限りなく近いだろう判断ができる程度には十分な体験だった。

 

 

問題は体の再生だが、これも大丈夫だ。

貫かれた心臓だけでなく、血液の一滴に至るまで全て修復済みだと思われる。

衣服もちゃんと修復されて………無いな。

 

正直、心臓貫かれて血塗れなこの格好は…………どうしよう、割と好きかもしれない。

 

なんて言うのかな?死を身近に感じるというか、何というか。

いや、実際死んだんだからそれが原因か?

 

 

実は、『死』という概念は戦士をやってると必然と付いて回るモノで、私にとっては『殺すための武器』である『剣』と同じくらい大事な概念だ。

 

常在戦場というが、あの世界ではそれが末期になってくると、常に死を近くに感じなければ落ち着かないという訳わからん人種が現れる。

 

 

私は、別にそこまで狂ってる訳じゃないが、それでも血を見ると気分が良くなる程度には毒されていたようだ。

感覚的には、おやつを貰って喜んでる時に近いかもしれない。

死の感覚がおやつとは、狂ってる自覚はあるが。

 

まぁ、この血塗れの状態で人里に降りたりすると面倒だからどうにか服を調達する必要がありそうだけど。

 

 

 

「…………頭痛い」

 

 

頭痛がして思わず頭を抱える。

 

それにしても夢見が悪すぎる。

星間移動の際に見たあの夢。どんな意味があるのか分からない。

 

何かを諦めるかの様にも、何かを決意するかの様にも見える死を請う少女と、殺風景な白い部屋で二人。

泣きながら親友の少女の胸に剣を突き立てるもう一人の少女の夢。

二人の少女の外見は酷く曖昧で、既に私の記憶では輪郭くらいしか分からなくなっている。

 

 

夢に過ぎないと切り捨てるのは容易だがフェバルとかいう訳分からん摩訶不思議な生命体になってしまった以上、どんな事態も考えてやり過ぎって事はないだろう。

 

最悪のパターンとして、私のフェバルとしての能力が『未来予知』で星間移動の際にそれを見たとか言うのだった可能性もある。

まぁ、そんなピンポイントな話はそうそう無いだろうから可能性から除外してもいい。

 

 

他者からの干渉で夢を見させられるという可能性も考えたが、エーナさんとプリシラの会話で星脈に干渉するのは容易ではないという事が分かっている。

エーナさんが『スケールのでかい話』と言っていたので少なくとも普通の超越者が出来ることではないのだろう。

だから星脈に乗って星間移動中の私に夢を見させられる人物など限られているし、そんな人物が新人フェバルに過ぎない私に干渉してくるとは思えない。

 

まぁ、フェバル自体あんまり知らないので何とも言えないのが現状だが。

 

 

ただ、あの状態で『星脈に干渉できる』存在で、新人フェバルに過ぎない私に『用がありそう』な存在が一人だけいる事にはいる。

 

魔神ちゃん、つまりプリシラだ。

彼女だけが星間移動中の私に干渉でき、そして干渉する理由が最もありそうな存在だ。

 

と言っても肝心の干渉の理由が分からないし、その行動が悪意のある行動かも分からない。

あの身内贔屓のポンコツが私にそんな回りくどい罠を仕掛けるとも思えないし、やったとしても純粋な手助けかもしれない。

 

どちらにしろ確定事項では無い上に、どちらも突飛な話だ。

 

 

そこまで考えて思考の坩堝に嵌りそうだったので、頭をブンブンと振って思考を切り上げる。

 

 

「…………とりあえず現状確認」

 

 

頭の中の思考を追いやり、気分を変えるつもりで方針を決めてから辺りを見回してみる。

 

 

私が降り立ったそこは、またもや森だった。

 

でも、前と違って随分綺麗な森だ。

前の森が湿気の多いジャングルで毒々しい色合いの果物が多かったのに対し、こっちの森は木々の間を木漏れ日が差す神秘的な森で、木の上には色とりどりの果物が多く実っている。

若干だが、誰かが定期的に手入れしている気配もある。

 

 

「……綺麗」

 

 

その森の姿に思わず呟いてしまう。

 

故郷ではここまでの実りはそうそう無かった。

私達の星では、果てのない広大な荒野しかない為、あの場所で生き残る為に生物はあらゆる進化を遂げて来た。

 

 

進化の方向性は『生存』。その一点に尽きる。

 

それは人が、少しでも種を残すために進化し、例え獣と交わろうとも人の子を残せる程度の優性遺伝子を得るにまで至ったし、獣だって、保護も無く食料も無い世界で生き残る為に最低3ヶ月は何も食べずに生活できる程度には進化した。

 

その二つの進化体系が混ざった様な存在である『獣人』だって1ヶ月は飲まず食わずで生きて行ける。

 

 

何が言いたいかというと、この森の実りは視界に入る範囲の食料資源だけでも一種族を最低2、3年は養える程に多くの資源で溢れている。

しかもそれは、あくまで視界に入る物だけでそれなのだから、後はお察しだ。

 

 

正直故郷にこんな土地があったらそれだけで世界大戦が起こる位には食料資源が豊富だ。

 

私の星は多くの外的要因(主にフェバルとか)のおかげで随分と大地が摩耗しているとプリシラが言っていたので、もしかしたら、他の星ではこの資源の豊富さが普通なのだろうか。

 

だとしたら凄く楽しみだ。

 

まぁ、これからの旅をこんなに楽しみにおきながら、まだ死への執着を捨てきれない私は、本当に筋金入りだなとも思うが。

 

 

これからの事に思いを馳せながら、私は森の中で気配を殺し、一歩一歩確実に進む。

警戒はし過ぎて損になる事は無いだろう。私自身の弱体化の件もある。

自然の中にいつまでも居るのは愚策かもしれない。

 

 

「………そろそろ人里をーーーー」

 

ーーーぐうぅぅぅ〜。

 

探さないと、と言おうとした所でなんだか腹部の辺りで音がした。

 

この感覚は知っている。何度も経験したから何となくわかる。

そういや最近何も食ってなかったなぁ…と思い至り、でもここ最近は死に場所探しのデットツアーで忙しかったし、道中食べれるものとか何も無かったしとか、言い訳してみる。

 

 

はい、言わなくてもわかると思いますが空腹です。腹の虫は絶好調で鳴いてます。

まぁ、幸い食料はそこかしこにあるんだから心配しなくてもいいだろう。

 

 

「………これなんか良さそう」

 

 

周りをキョロキョロと見回していると、赤くて丸い果物が見つかる。

程よく熟したいい果実だ。美味しそう。

 

果物なんて、故郷には無かったので知識もないが毒がない事は匂いでわかる。

私の獣としての側面。片親の存在は猫という古い昔の愛玩動物が、生存の為に身体能力や嗅覚、察知能力を高め続けた先に至った魔獣だ。

 

猫は嗅ぎ分けることに関しては犬に負けるが、それでも通常の人よりは何倍もいい。

 

それこそ進化した私の故郷の猫なら、物体が自身にとって有害な物質を含んでいるか嗅ぎ分けることなど、造作も無い。

それは、人と交わった獣人である私も同じだ。

 

 

その嗅覚で、有害物質を含んでないことを確認すると手近な葉っぱで簡易な皿を作り、同じ赤い実を乗せて目の前に並べる。

 

 

「……いただきます」

 

 

手を合わせ、8年前から習慣化してきた食前の挨拶をして赤い果物を食べる。

 

マテリムジアイヤには食前の挨拶とかしてる余裕すら無い。周りが全部敵という環境で安心して食事ができるはずも無いので、食前の挨拶とかはそれができる余裕を持ってる強者の証だったりする。

敵の目の前で食事に集中できる余裕。命の糧となる食を、敵の目の前で奪い去る事のできる特権とでも言うべきか……要は『何をしてきても、お前らに俺はどうにもできない』という意味のわかりやすいアピールだ。

 

因みに、察しのいい人は気づいたかもしれないがこの食前の挨拶は8年前の〝ろりこん〟さんから教えてもらったものだ。

 

 

あの時は純粋に、糧となる命に感謝するという思想の挨拶に共感したものだし、今も分かることには分かるのだが、教えてくれた人があの〝ろりこん〟さんなのでちょっと複雑だ。

 

まぁ、8年も使い続けて習慣化しているので直せるものでもないし、問題なのは教えてくれた人であって、行為自体を否定する気もないので、直す気もあまり無いが。

 

 

「……ごちそうさま」

 

 

そんなことを考えながら食べていると食事が終わる。またもや複雑な気分になりながらも習慣化した〝ろりこん〟さんの故郷の食後の挨拶をして締め括る。

 

 

 

「………さて、もう行こーーー」

 

ーーープピャイっ!

 

そうして立ち上がり、そろそろ行こうかという所で、なんだか笛を吹こうとして力み過ぎて失敗したような、そんな間抜けな音が響き渡る。

 

咄嗟に音の発生源を目を向ける。

 

そこには綺麗な赤色の長髪を背中に流し、少しだけサイドで縛る髪型をした、恐らく私と同い年の15歳位の少女がホイッスルを構えて立っていた。

 

その顔は羞恥に赤く染まっている。

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

……………………………。

 

 

………えーと、見なかった事にするから仕切り直してもいいよ?

 

 

「………その変な同情の視線はやめて!」

 

 

赤髪の少女は真っ赤に染まった顔で力強くホイッスルを握りながら叫んだ。

 




主人公はフェバルに必須なサバイバル技術を既に持っていると言ってましたが、そもそもが何の資源もない世界の生まれなので他の星で通用するかは不明です。

少なくとも草木があるだけマシって感じの世界で生きてたので、森とかでサバイバルとかは割と出来なかったりします。どちらかというと少ない資源でやり繰りするのに慣れてる感じですね。
そういう意味ではサバイバル技術というより節約術の範疇かもしれません。

あと、最後に出てきた赤髪の子は、この小説のメインキャラの一人です。紹介は次回にて。

※ yuukiさんのコメントによりフェバルの衣服機能に関して修正しました。代わりと言っては何ですが、主人公の『死』の捉え方に対して少しだけ話す文章を付け足しました。本当に少しだけ。


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第2話 ご飯は何より大事

投稿遅くなった。すまん。
言い訳はしない。ゲーム楽しかったです。

ついでに言うと、今回短いです。


 

 

 

「………で、貴女は誰なの?四界条約で神獣種は人界に立ち入りしない筈だけど?」

 

 

目の前の赤髪の少女が私に問いかけてくる。

 

しかいじょうやく?しんじゅうしゅ?

………何言ってるのか、全くわかんねー。

 

………えっ?現在の状況を説明しろ?結構、簡単な話だよ?

 

 

実は、私がご飯を拝借した森は彼女の家族の私有地だったらしくて、その私有地の資源を勝手に食べた不審者な私を彼女が問い詰めていると言う状況だ。

 

 

「………それにしても、私有地……なんて贅沢な響き」

 

「いや、確かに珍しいけど少ない訳じゃないし、そんな驚かなくても………いや、だから貴女誰なのって!」

 

 

なんだ何言ってんだコイツは。

こんな人ひとり遊んで暮らせる様な食べ物が豊富な私有地が少なくないとか、私をどうにかするつもりか!?

 

 

「………話を逸らしても無駄。………私有地の詳細求む」

 

「普通に逸らされてるじゃない!?………て言うかそもそも話逸らしてないし、貴女誰って言ってる方が本題だから!!」

 

「……往生際が悪い。ご飯よこせ」

 

「直球過ぎる!!貴女ほんと何なの!?」

 

 

なんか変な方向に話が飛んでる気がするが私は至って正気だ。だから飯をくれ。

 

…………はっ!いや、そうか!

 

 

「なんか嫌な予感が……って、何剣を構えてるの貴女は」

 

「弱肉強食。適者生存」

 

 

私とした事が豊富な資源(たべもの)を前に正気を失っていたらしい。

他人のものを奪うには同価値の等価交換か、死者から強奪するしかないというのは、常識だろうに。

 

 

「怖いから!その思想怖いから!」

 

「………問答無用!」

 

 

剣を構えて、走り出す。これでも剣聖。

弱肉強食の頂点に立った存在だ。こんな小娘程度っ!

 

 

「………むぎゃっ!」

 

 

ーーーしかし、私は剣を振り下ろそうとした重心の移動だけで簡単にすっ転び、地面に身体を盛大に打ち付けた。

 

 

「……えっ、弱っ。

結局、何がしたかったのよ貴女?そこまで強くもないのに弱肉強食とか言ってたし」

 

 

頭の上から赤髪の少女の呆れた声が虚しく響く。向こうも私のあまりの醜態に冷静さを取り戻した様だ。

 

 

「……弱体化、忘れてた。……不覚っ」

そして、屈辱っ!

 

 

そう言って、私の意識は飛んだ。

 

転んだ程度の衝撃で意識飛ばすとかどこまで弱体化したのだろうか?

とか、頭の片隅で考えながら私の視界は黒く塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

視界が晴れる。

 

どうやらベットで寝かされている様だ。

羽毛布団とか高級なもの使った事ないけど、ベット自体は一度だけ剣聖の権限(というか、力で脅しただけ)で使った事があるからわかる。

 

なんか、フェバルになってから醜態しか晒してない気がするのだけど、考えたら泣きそうになるからやめよう。

 

 

それよりここは何処だろう。何処かの部屋のようだが随分綺麗だ。人の部屋とか、私の普通(もう、既に自分の常識で測れない事は承知している為『私の(・・)普通』らしい。そんな所は容量が良いのだ)では、ここまで綺麗じゃない。

 

 

取り敢えず、ベットから出て地に足をつける。

だが、直ぐによろけた。どうやら、気を失った時の衝撃が抜けてないようだ。

 

直ぐに、よろけてベットに倒れる。だが、お陰でどうやら今回は死んでない事がわかった。

 

 

フェバルになって初日で即死したし、私有地の食べ物を勝手に食った賊とか殺されても不思議じゃないと思うのだが、あの赤髪の少女は私を殺さなかったらしい。

 

もし、また死んでたら転んだ時の衝撃も無くなってた筈だ。死に至る程の致命傷を修復する程なのだから少しよろける程度なんとでもなるだろう。

そうなってないという事は、そもそも死んでないという事だ。

 

まだ、頭がクラクラするが、もう大丈夫だ。ちゃんと歩ける。

 

お尻に当たる素晴らしいもふもふ感は、物凄く名残惜しいが、何とかベットから出て部屋の唯一の出口ーー扉の前に立つ。

 

と、その瞬間に扉が開き、誰かが部屋に入ってくる。

咄嗟に構えるが背中に剣がない。オロオロしていると、扉が開き、その先から二十代後半に見える女性が現れた。

 

 

「あら、起きてたのね。ご飯あるけど、食べる?」

 

「たべるっ!!」

 

 

その時、私はある意味この世界に来て一番大きな声を出した。

 

ああ、勝手に私有地に入った賊を無償で泊めた挙句、ご飯までくれるとか貴女は女神ですか?

 

神は神でもあの魔神とは大違いだ。

 

 

『ちょっ!酷くない!?』

 

 

なんか聞こえた気がするが、無視してるんるん気分で私は一目であの少女の親類だとわかる赤髪の女性について行った。

 



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第3話 〝対等な関係〟

待たせたな!(待ってない

エタったかと思った?
実は原作者が長期休載宣言したので、再開を待つまでの間、「作者が今書けないなら、私達二次創作者達が書けばいいじゃない!」という思考に至り、久しぶりに書くという事態に。

駄文な上に特に面白くも無いだろうけど、私なりに敬愛している原作者様の為にフェバルの世界を広げようという魂胆で行きます。

いつか、レスト様が復活する日まで、ちょくちょく書いていくので、これからもウチのエネミアちゃんをよろしくしてやってくれると嬉しいです。


最後に今回の話に対して一言。


急展開注意!



「………申し訳ない」

 

「いいのよー、人手が足りなかったから良かった部分もあるし」

 

 

はい、久しぶりですね。エネミアです。

あの後、知らなかったとはいえ、食料泥棒という死刑宣告されてもおかしくない事態(あくまでエネミアの故郷基準)をやらかした私を、あの赤髪の家族は逆にもてなしてくれるという、女神と見紛うばかりの慈悲を見せ、許してくれた。

 

ただ、私が食べたあの果実は種自体が大分入手しづらい上に、三年間でたった一つしか実らないという希少な果実だったらしく、流石にタダという訳にもいかなかった為、家族が経営している飲食店の手伝いをする事になったのだが、それでもかなり優しい沙汰である。感謝しかない。

 

そして私は現在、その飲食店の〝うぇいとれす〟とかいうーー所謂もてなしの相手をする人の事らしいーーの制服を着せて貰っていた。客の前に出るからには、今までのボロ切れ同然の旅装ではダメらしい。想像してはいたが、服の生地は未だ嘗て見たことない程上質なものだった。肌に張り付かない、ざらつかない服とか初めて着たよ。

 

 

「ふん、馬子にも衣装ってこういう事を言うのね。……まぁ、似合ってるんじゃない?」

 

 

因みに、このド下手な〝つんでれ〟をかましてる15歳くらいの少女ーーー笛吹きをミスったあいつであるーーーは一家の一人娘、アミカちゃんである。

 

三年に一度の貴重な楽しみであったらしい果実を取られた為、先日まで大分不機嫌だったのだが、最近やっと機嫌を直してくれた。

後で聞いた話だと、私がこの家に滞在するのを許可されたのは、この子のお陰だとか。理由は知らんが物凄く感謝してる。でも、その優しさの出所がわからないから現状一番警戒してる。ついでに私怨も少しある。

ーーそんな感じの〝つんでれ〟娘である。

 

 

「おい、今思考した事を隠さず話せ」

 

「ド下手な〝つんでれ〟っ娘………ーーー痛い」

 

正直に言ったら拳が返ってきたでござる。

まぁ、全力でやったら弱体化した今の状態だと気絶じゃ済まないと思うので手加減してくれてはいるようだが、それでも視界が霞む程度には痛い。

 

 

「早速、仲が良くなったみたいで安心したわ〜」

 

「………どこが」

「ほんとよ」

 

 

因みに、このおっとりとした感じで訳の分からない世迷言を呟いた女性は、私にご飯を振舞ってくれたあの女神である。アミカの母親らしいが、全然似てない。断言する。

 

因みにこの家庭の最終的な決定権は全てこの人にあるらしく、アミカが私の滞在を許してくれたとか言うが、ただ単に母親に直談判しただけである。『何らかの権利が欲しいなら命を差し出せ。もしくは奪いとって見せろ』が基本だったマテリムジアイヤとは違い、家庭内で賊の沙汰が決まるのは驚いた。とりあえず、私が助かったのはこの人のお陰と思っている。

断じてアミカのお陰とか思ってはいけない。

 

 

「そろそろ、開店するぞ。急げー」

「はーい、今行くわ」

「あ、うん。今行くわ、お父さん」

「………借りは稼いで返す」

 

 

開店の挨拶をしたのはこの家族の大黒柱である父様である。特に特徴も無い人である。強いて言うなら料理が上手い。それだけ。

でも、いつも美味しい料理を振舞ってくれるので、私の中では一番心を許している相手でもある。

 

とりあえず、これまで散々世話になっているので、接客とやらで私の有能さを示し、借りを返すとしよう。稼ぐのが仕事なら、私に考えがあるのだ。

少なくとも、アミカにだけは負けられない。

 

 

 

因みに私がアミカの事をここまで嫌っているのは、単純にライバル意識である。

 

理由は数日前まで遡る。

 

 

ーーーという感じで、私の華々しい接客デビューの前に少し回想をしてやろう。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

あれは、私がフェバルになってから三日が経った頃だった。

何をしても普通以下の実力しか出せないのに流石に疑問を感じた(というか、疑問を感じるのが遅すぎる気がするが、それは言いっこ無しである)私は、フェバルとなったのが、私の弱体化の原因なのではないかと考えた。

 

 

まぁ、タイミング的に考えてそれしか思い浮かばないし。

 

でも、魔神ちゃん、つまりプリシラはフェバルの事を『超越者』と称した。

実際、フェバルになる直前に出会った魔女っ子(笑)は『超越者』と呼ぶに相応しい底の見えない力を宿していたから間違いとかではないだろう。

フェバルが不老不死と聞いたから、寿命のある人ではあり得ない程の長い年月の修練の果てに『超越者』となるフェバルがいるだけだ、という仮説も建てたのだが、それではフェバルになったばかりの私がプリシラに『超越者』扱いされた事の説明がつかない。

 

つまり、プリシラと魔女っ子(笑)ことエーナさんの会話から、フェバルとはそれそのものが『超越者』の証であり、そして『超越者』と呼ばれるに相応しい力を持っている存在であるとわかる。

 

つまり、フェバルになる事と『超越者』になる事は同義なのだ。だとすると、修練を積んで『超越者』になった訳ではないフェバルが相応の力を手に入れられる方法は一つ。

 

何らかの外的要因から突発的に力を得る事である。

 

外的要因に関しては散々存在を匂わせてくれたので簡単に想像がついた。恐らく、星脈とやらがフェバルの力の源なのだろう。

星脈の詳細は知らないが、フェバルが複数いる存在である事はプリシラの『武闘派害虫集団』という散々な言い草から理解できる。つまり、複数の『超越者』を簡単に量産できる程度には恐ろしい力の塊ーー星〝脈〟と言うからには塊というより力の〝流れ〟なのかも知れないが、つまりはそれ程強大な存在なのだろう。

 

プリシラが『悲惨な未来確定のデットコース』と発言した事から運命にすら作用する恐ろしい力だと言うこともわかる。

 

 

そして、そんなーープリシラ風に言うなら『星脈の奴隷』であるフェバルとなった私にも、何かしらの力が与えられていると考えた。

弱体化の事をその力の〝代償〟か何かかと推測したのだ。

 

そのため、アミカの家ーーオーメスという姓らしいーーに滞在する数日は能力の検証をしていたのだ。

結果は散々だった。意識して感じ取ろうとすると、まるで自分そのものが内側から抑え込まれているかの様な不快感を感じることができた。

その感覚は全身を鎖で雁字搦めにされた挙句、楔を両手両足に打ち込み、小さな箱に押し込められる様な………とても耐えられそうに無い不快な感覚だった。

何とかその拘束感を解こうと苦闘した数日は、特に成果も無い酷い毎日で、仕方なく弱体化した結果、持ち上げる事すら困難になった愛剣を素振りするしかできなかった。

そこに、剣聖と呼ばれた頃の栄光など無く、何かもわからないものに縛られている日々は屈辱でしか無い。

 

 

そんな、焦りと屈辱と縛られる不快感でどうにかなりそうな日々だ。その一言を聞いたのは。

それは私が、アミカと初めて全力でぶつかり合った日で、今の関係を作り上げた原因となった日。

 

ーーーある意味、記念の日かも知れない。

 

 

「ーーーうわ、不細工な剣術ねぇ……」

 

 

それは、色々と追い詰められていた私にとって許容できない言葉だった。

 

 

「………何が、言いたいの?」

 

「正直言ってアンタに剣は向いてないって思ってる」

 

 

その言葉の主ーーーアミカは私に正面からその言葉を堂々と言い放った。

 

 

「うるさいな」

 

「何で、そんなに剣に執着してるのよ?力も無い、体つきに恵まれてもいない、ちょっと小突いただけで倒れちゃうような弱い貴女に、それは無用なものでしょ?」

 

 

当然、アミカの言葉は認められなかった。

 

ーーー認めたく、なかった。

 

 

「……私の剣は、こんなものじゃ無い」

 

 

出てきた言葉はかなり言い訳じみた言葉だった。

 

実際、私の剣は我流だ。突き詰めれば、高い反射神経に任せて滅多斬りにしてるだけの単純な剣術。その辺り詳しい剣術家からすれば唾棄すべきものだろう。

 

 

「そう、でも私も戦闘の心得を少しばかり齧っているから分かるけど、貴女、落第点なんてものじゃ無いわよ?」

 

「ッ!………貴女に言われる事じゃない」

 

 

だが、そんな剣でも私の人生を共に駆けてきたものだ。

 

今まで、この剣で全て乗り越えて来たんだ。

 

過酷な環境も、獣人の迫害も、ーーー死の恐怖も。

 

 

「あっそう。なら何も言わないわ」

 

「……………」

 

 

「でもさ、〝死にたくて〟振るう剣なんて、侮辱なんてものじゃないわよ?」

 

 

その言葉は私の最後の砦を簡単に砕いた。

 

 

「お前に……」

「…………?」

 

 

思わず口から漏れた言葉は、一度出たら止まらなかった。

 

 

「お前に何が分かるッ!!!」

 

 

いつの間にか、私は私の言葉に振り向いたアミカを押し倒していた。服の襟を引っ張って馬乗りになり、剣先を向けてその激情をぶつけてしまっていた。

 

 

「っ!……っイッたいなぁ!!」

 

「……貴女に分かるわけない!!生きるだけの事すら絶望に塗れた悲しさも!最強に登りつめた後の虚無感も!誰もが認めても、ずっと誰とも対等になれなかった悔しさも!ーーー分かるわけがない!!」

 

「分かりたくも無いよ!そんな死にたがりの剣なんて!!」

 

 

そのままぶつけた激情の言葉は止まらず、口から酷い暴言として吐き出され続けた。

その言葉は私の理性を抑えて、本能のままに飛び出すだけで。

 

ーーー他人との〝対等な関係〟なんて私は求めていたのか、と今さらながらに自分の本音に気づいたのだった。

 

確かに私は、獣人として迫害され続けた。剣聖として認められても、今度は賞賛されるばかりで、孤独感は拭えなかった。

悔しかった。悔しかったのだ。

 

意図せず漏れた本音は本人すら気づかない深層にある願望だった。

 

そんな言葉すら、彼女は一蹴して、『弱くなった私』の弱々しい拘束を振り払って立ち上がった。

 

 

「分かって欲しいなら喚くな!叫ぶだけじゃなくて、努力しろ!!走り続けて、走り続けてもうこれ以上ない高みですら手に入らない何かがあるならーーーーこんな下らない事で怒ってる暇なんか無いんだよ!!」

 

「知ったような口を、聞くなぁあああ!!!」

 

 

そして、私は激情のままに剣を振った。

その後の事はあまり覚えてない。なんで、あそこまでアミカの言葉が感に障ったのかも知らない。

 

ただ、いつの間にかフェバルになってから私を縛っていた見えない鎖は消えていて、何故か故郷で剣聖と呼ばれていた時と同じ力を取り戻していた。

でも、その一つの生存世界で最強と呼ばれた私の力を、アミカは全て受け切ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………全力、出したでしょ」

 

「………うん」

 

 

意識が正常に作動するようになってから、はじめに見たのは青い空だった。

 

いつの間にか、私達は二人とも仰向けに倒れていたのだ。気力は底をついていて、周りには台風でも起きたのかと思う程の惨状が広がっていた。

 

 

「………私、生きてるよ」

 

「………うん」

 

 

そう、全力でも倒せなかった。本人は齧っただけとか言っていたが、アミカの力は剣聖()にも劣らない力だった。

 

 

「………最強なんて言ってたけどさ」

 

「………うん」

 

「私みたいな小娘一人倒せなくて、最強とかあり得ないよね」

 

「………そう、だね」

 

 

言い聞かせるような言葉だった。

まるで、姉が出来たかのような気分だった。

そんな、気分にされたのが心地良くて、そして、負けたくないと思った。

 

 

「ほら、貴女がさっきまで言ってた事が全部解決した」

 

「………?」

 

「だって、貴女は最強じゃないから、対等な人なんて一杯いるよ」

 

「…………」

 

「だって、貴女は強くなんかないから、登りつめた虚無感とか、そんな変なもん抱えてなんかいない」

 

「……………っ」

 

 

不思議と涙が溢れたのを覚えてる。

理由はわかる。

 

確信があったんだ。

 

こいつなら、私と対等に接してくれると。

こいつなら、私を絶望に堕としたりしないと。

 

こいつならーーー

 

 

「生きるのに辛かったら、家に帰ればいい。だって、ここが今日から貴女の家なんだもん。

その為に、私がママに説得したんだもん」

 

「うっ……ううぅ……」

 

「あんたは弱いよ。すっごく弱い。だからーーーしばらくは、私達が守らないと、ね?」

 

 

ーーーー私を独りにしないと、確信してしまったんだ。

 

 

「ーーー孤独を語るなら、私達が居なくなってからにしなよ、生意気」

 

「……うあああぁぁぁあっ!!!」

 

 

その日は人生で初めてだ、ってくらい泣いた。

 

なんで会って数日の、それもただの泥棒にしか見えない私にこんなに良くしてくれるのか意味不明で、訳がわからない。

 

ぶっちゃけると、殴りあってわかり合うというシュチュエーションも青臭くて、微妙だ。

 

急展開すぎてよく分からないし、慰めているのか、貶しているのかも良く分からない。

 

 

 

なんで、こいつらはこんなに赤の他人に親身になるんだろう。

 

その答えは、案外直ぐに分かった。

 

 

ああ、そうか。こいつらはバカなんだ。

どうしようもなくお人好しなんだ。だってそうとしか思えない。

 

打算とか関係なくて、自分の事情とか勘定に入れてすらいない。

異世界にいって初めて会ったのが、こんなバカな家族だなんて、本当に呆れてしまう。

 

 

完全に他人でしかない私を簡単に懐に入れて、そんで家族面したーーーーそして、その事が心底嬉しい私の心がムカつく。

 

 

だから、私は泣き止むと同時に言うべき事を言った。

 

これからも彼女ーーーアミカと付き合うなら、ただ、好意に甘えるだけじゃダメだと思った。

何よりそれじゃあ、私の求めた〝対等な関係〟じゃないんだ。

 

半分意地の様なものだけど、私は決意する。

 

これは、アミカと対等になる為の宣戦布告(第一歩)

 

 

「………私、アミカ嫌い」

 

「………分かってたけど、直球だね」

 

 

そうだ。私は対等になるんだ。

 

でも、今まで、孤独だった私には、家族としての〝対等〟なんてよく分からないから。

 

私が一番、分かりやすい〝対等〟な関係をアミカに押し付ける事にした。

 

 

「………アミカは、私のライバル」

 

「………へぇ」

 

 

私の言葉に、アミカは面白そうに口角を上げる。

 

 

「……何度だって挑む。何度だって諦めない」

 

「………ええ、それでいいのよ」

 

「……お互い、逃げるのは無し」

 

「……当然ね」

 

 

 

 

「「どっちかが勝つまで、何度だって挑んでやる」」

 

 

二人で宣言したのは、所謂ライバル宣言というものだ。

 

家族の振る舞いなんて知らない、私が一番身近で分かりやすい〝対等な関係〟。

 

 

 

 

そう、私はーーーアミカが嫌いだ。

 

他人の心にづけづけと踏み込んできて。

勝手に悩みを晴らした挙句、自慢の剣を全て受け切ってみせた。

そんな、図々しいアミカが嫌いだ。

 

 

でも、それ以上にーーーーこの上ない程、この出会いに感謝している。

 

 

私の初めてのライバルにして、初めての家族。

 

きっとフェバルとして、いつか別れる時が来るとしても、この出会いだけは忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全力でぶつかり合った疲労か、なんだか意識が薄れてきた。

 

でも、その瞬間。

 

私の意識が落ちる直前に、どこか特徴的な桃色の髪の少女がほんの少しだけーーーー嬉しそうに笑っている様に見えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、アミカに全力をぶつけ合った時は剣聖としての力を完全に取り戻していたのだが、朝起きたら、またいつもの貧弱な体に戻っていて軽く泣いたのは、完全に余談である。




いや、展開早すぎるとか、いきなりすぎて意味わからんとか思う人多いと思うけど、話の構成とかまだ勉強中の作者なのでご勘弁を。

基本この二次創作はストーリーに細かい小ネタとか挟まれないので、巻きで行くと思います。

なので、多分合わない人が多いと思いますが、ちゃんとした小説を書けるようになったら全話修正も視野に入れているので容赦ください。

今は、兎に角投稿して、話の骨組みが十分出来上がったら、話の違和感が無いように極力修正する予定です。

私だって急展開しか無くて読者置いてけぼりの訳がわからない小説を書きたい訳じゃ無いですし。

多分、ある程度話の骨格が出来たら肉付けみたいな感じで割り込み投稿とか活用して整合性を取る予定。

なので暫くはこの作品の展開に期待はしないで下さい。


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第4話 うぇいとれすとは戦士である

 

 

 

「あ、このパフェください」

 

「パフェってなんですか?」

 

 

 

「オムライス一つで」

 

「ごめんなさい。卵は貴重で……」

 

 

 

「ハンバーグ」

 

「はい、獲って来ま「なにを!?」」

 

「お肉…………(´・×・`)」

 

 

 

「アイスクリーム頂戴」

 

「ああああああああ!!「うるせぇ!!」」

 

「I scream(私は叫ぶ)って言ったのに………」

 

 

 

これが私の現在の戦績である。セリフだけで分かると思うが、予想外にうぇいとれすは難しい。

 

 

「いや、あんた位だからね?こんなミスするの」

 

「私もこれは予想外だわ〜」

 

 

なん………だと……!?

 

 

「そこまで驚くか」

 

「メニュー暗記してないし〜(パフェとアイスクリームの件)、卵は別に貴重でも無いし〜(オムライスの件)、いきなり狩猟に行くし〜(ハンバーグの件)、かと思えばいきなり叫んで営業妨害するし〜(I screamの件)。ちょっと困っちゃうわ〜」

 

「め、めんぼくない………」

 

「ほんとよ」

 

 

見て分かると思うが、私は現在オーメス親子から説教中である。

 

言い訳させて貰うと、私は生涯剣しか扱った事も無ければ考えた事もないので、メニュー暗記とか無理くさい。

卵は故郷では一部の卵生獣が子孫を残す為の大事なものだったので獲る為には命懸けで襲ってくる親を迎え撃たなければならない。

そして、彼らの求める卵は鳥の卵だ。鳥といえば、マテリムジアイヤでは空の災害の様なモノも多く、その卵となれば実際至宝レベルの希少さのモノも少なくない。

肉(人間や獣)なら故郷でも何処にでも居たので、できるかもと思い、狩に行くと止められた。

アイスクリームの件はフェバルの翻訳された言葉を私が間違えただけである。あの変態フェバルが無駄に外国語とか教えやがったから………。

まぁ、今思うと翻訳に母国語以外が適用されるとは思えないので、これに関しては完全に私のミスだが………。

 

 

おっと、頭の中で言い訳していたら、いつのまにか結構な話を聞き流していた。あまり、不真面目なのは良くない。せめて最後の言葉くらいは聞いておこう。

 

 

「いい?接客業っていうのはねーーー戦場なのよ!」

 

「!!!?」

 

 

なん………だと……!?

 

接客業が、戦場?

ということは、今までの私がしていた事は………。

 

なんという、なんという甘えだ。おもてなしに戦場の価値観など不要と勝手に切り捨てていた私は馬鹿なのか?

他でもない、幼少の頃から接客業をしていたオーメス親子が言うのだから、その言葉を今更疑ったりしない。という事は、私は戦場に甘ったれた陽気な考えで挑んでいたのか!?

剣聖とまで呼ばれていながら、なんと甘い。

我が事ながら反吐が出そうだ。

 

 

「そ、その感じだと、一応わかってくれたみたいね」

 

「…………これからは、甘えない」

 

「その調子よ!さぁ行くわよ〜!」

 

 

ーーーそして、私は再度うぇいとれすという名の戦士の戦場に足を踏み入れた。

 

 

 

「あ、俺チーズケーキで!」

 

「金を出せ」

 

「ヒィィ!!!?」

 

「何抜刀してんの、エネミアちゃん!?」

 

 

戦場だと言ったからその通りに戦士として対応したのに、なんか怒られた。

 

その後、オーメス家では私の前で軽々しく戦場とか言ってはダメという取り決めがなされ、私は接客中の帯剣禁止が言い渡されたのであった。

 

 

解せぬ。

 

 




脳筋なエネミアちゃんの中の戦士=弱肉強食、適者生存の世界を生き抜いた猛者。
そして、マテリムジアイヤでは戦士同士の一対一の対話は抜刀から始まる。

こんなのを、一般人に求めるとかいう鬼畜。


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第5話 間抜け

 

 

「起きなさーい。そろそろ時間よ」

 

「………んゆ。わかった」

 

 

私がオーメス一家に世話になり始めてから一ヶ月が経った。心地いい日差しが窓から差してくる。ポカポカとした陽気が今日も良い一日を約束してくれる。

起き抜けにアミカの声を聞くのはなんだか釈然としないものがあるが……。

私を起こすのは、いつもアミカの母親だった筈だが。

 

 

「かーさ………クルシュさんは?」

 

「さっきママの事、母さんって言いそうになったでしょ。別に訂正しなくてもいいのに。………ママは手続きに行ってるわ。多分直ぐに戻って来るから私が代わりにエネミアを起こしに来たって訳」

 

 

手続きって何の?……いや、それよりもーーー

 

 

「余計なお世話を………」

 

「起こして貰ってる身で随分と偉そうね?今度の訓練の時には川に落としてやろうかしら」

 

「………やったら滝壺に突き落とす」

 

「なら私は深海に叩き落とす事にするわ」

 

 

止まらない負のループ。ライバル宣言以降からは、こんな感じでアミカと私で対抗心を燃やし続けている。

仕返しは倍返しが基本。コレはどこに行っても同じだと思う。でも流石にループが20を超えた辺りでどちらとも無く舌戦を辞めた。

 

仕返しプランに倍返しプランを返し続けていると、仕返しの規模が当然の様に倍々になっていくのでボキャブラリーが足りない現象が起こるのだ。

 

因みに今回の倍返しプランは『高空から火山の火口に蹴り落とす』という〝飛行〟や〝空中摩擦軽減〟に〝姿勢制御〟と〝落下物角度調整〟などの、実に風魔法の訓練が捗りそうな技能が要る仕返し案が出てから二人の口は止まった。

これ以上となるとブラックホールとか言い出しそうだが、流石にそれは私達の力量では無理があるのだ。有言実行できない罰など何も怖くない。自然と自分の成し得ない領域になる前に二人とも口を噤むのがいつものパターン。

 

一言言っておくと、この場で発言したプランは訓練時には必ず実行されている。いつも互いに耐えるか躱すので、有言実行したとしても仕留めるには至らない。

まぁ、だからこそ安心して叩き落とす事ができるのだが……。

 

 

「手続きって何?」

 

「あんたの気力と魔力を測るの。昨日言ったと思うんだけど」

 

「………あぁ、そういえば、そんなのあった。……クルシュさんには迷惑かける」

 

「私にも迷惑かけてるわよ?」

 

「お礼は剣で返す」

 

「ちっ、そう来たか」

 

 

話が脱線しまくってたので初心に返って、クルシュさんが何の手続きに行ったのか聞いた。

その後のは、まぁ、微笑ましいコミュニケーションの範囲だろう。

 

 

「そろそろ朝ごはんもできるし、早く降りて来なさいよー」

 

「………ん」

 

 

そう言って部屋を出ようとするアミカを追う様に寝惚けた頭で目を擦りながらベットの横に立て掛けてある愛剣を掴み、足を踏み出したのだがーーーー

 

 

「へぶっ!!」

 

 

何故か剣はビクともしなかった。

私はその、一気に重さを増した愛剣を掴んだまま、自分の足の進む勢いを殺すことが出来ずに前につんのめり、転倒する。

 

 

「………何してんの?」

 

「………身体強化、忘れてた」

 

 

アミカの冷めた目が痛い。ライバルにこんな醜態晒すとか黒歴史過ぎるからできるならスルーして欲しかった。だが、そんな事を配慮してくれるなら日頃から口論に発展する筈もなく。

普通にバッチリ見られましたとも。えぇ。

 

実は、ぶっちゃけると今の私の素の身体能力では剣なんていう鋼の塊を持てる程の筋力がある訳が無いので、いつもは気力による身体強化を常に身体に施していたのだ。

 

気力操作を無意識レベルで発動できるのは私の強みの一つだが、そのお陰で私は普段あまり気力の操作に意識を割かないのだ。いつもは考えるより先に身体が実行してる習慣行為だからか普段の生活ではあまり意識して無い。

 

これが戦闘ならば少しは気力の配分に気を使うのだが、故郷と違って日常で気を張り詰める必要の無いこの場所では無意識に行使できるのだから充分だと思っていたのだが、それが仇となった。

 

つまり、寝惚けて気力強化を忘れて素の身体能力で愛剣を持ってしまった為、鋼鉄の重さを私の幼児にすら劣る筋力では持ち上げる事が出来なかったという事だ。そして、持ち上がらなかったのなら一度手を離せばいいものを、寝惚けた私の頭はその事にすら気づかず、そのまま剣を掴んだまま扉に向かって行ってしまった為に勢いよく転んだという何とも無様な顛末である。

 

 

「なんたる、無様…!」

 

 

しかも、アミカの前で。

そう言って床を拳で叩くが、身体強化されていない私の拳ではペチリとも言わない木製のフローリングが憎い。あと、悲しい。

 

あぁ、転んだ拍子で意識が遠のいて………ーーーあれ?視界の端にこちらの後頭部目掛けて落ちてくる私の愛剣が見えるぞ?

 

待って。マジで死ぬから。今、床におでこぶつけた衝撃でまともに対処できないから。真面目に死ぬから。………だから、お願いだから落ちてくるな。そこは私の後頭部ーーーー!!!

 

 

「間抜け」

 

ーーー返す言葉もありません。

 

私は屈辱な事にライバルのその言葉に何も言えず、そのまま視界は暗転した。

 

あとで聞いた話だと、結局私はこの後、後頭部に我が愛剣による無慈悲の鉄拳を打ち込まれ、その強烈な衝撃に私は3時間程意識を手放していたのだとか。

 

獣人の強い生存本能の為せる業か、咄嗟に後頭部を強力な気力強化で守った為にこの程度で終わったらしいが、アレを生身で受けていたら今の貧弱な私では間違いなく死んでいたと思う。

私は〝死にたがりの剣士〟だし、今も死に場所を探している馬鹿だけど、流石にこんな無様な死に方は嫌なので助かった。

自殺志願者にもーーーいや自殺志願者だからこそ納得のつく死に方で死にたいのだ。分かって欲しい、私の繊細な自殺願望(おとめごころ)である。

 




無意識レベルで発動できる身体強化とかは、割とありがちな設定ですよね。


骨組み状態のストーリーではキャラの掘り下げができる日常回も少なくなると思うので、時折出てくるエネミアの突拍子の無い言動に対してカバーできる作中の会話があまり出せないんですよね。

今回も、〝火山の火口に蹴り落とす〟の倍返しの一例にいきなり〝ブラックホール〟とかいう経緯も規模もかなり飛躍した一例を出してみせたエネミアちゃんでした。
………叩き落とすにしても限度があるでしょうに。
火山火口ならキャラによっては耐えられそう(実際フェバルなら耐えそう)ですが、ブラックホールはダメでしょう………。
本編でもブラックホールに耐えるキャラとか、一人それらしいフェバルの名前を聞いた位ですし。


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第6話 気力ゼロ、魔力ゼロの剣聖

前話の最後らへんにちょっとだけ表現の追加、文章の修正を加えました。
まぁ、あっても無くてもいいような変化なので別に読まなくてもイイです。


 

 

 

「気力ゼロ、魔力ゼロです」

 

 

What?

何言っているんだ、このヒトは。

 

 

「これは……」

 

「流石に予想外だな……」

 

 

ほら、オーメス夫妻も言ってるじゃないか。ありえんて。

 

あぁ、いきなり読者置いてきぼりな展開ですみません。

読者?

まぁ、私が謎の電波を受信したとかは置いといて、今私は自分の持つ気力と魔力を測定しているところだ。……因みに今のが測定結果。

つまり、私はアミカとの戦いであんなにバリバリ気力強化を使って戦っていながら、魔力どころか気力すら皆無という診断結果を突き付けられた訳だ。

これには流石の私も唖然とするしかない。

 

 

「ちょ、ちょっと!おかしいでしょ!?」

 

 

しかし、これに抗議を出したのがまさかのアミカである。態々、机を叩いて身を乗り出すという、窓口係を威圧するのにかなり効果的な体勢で。

 

 

「この子、ちゃんと気力強化ができるのよ?!朝だって身体強化してるとこ確認したし、魔力はともかく、気力が無いなんてコト………」

 

「ですが、診断結果は正常なんです……」

 

 

アミカの証言には証拠など無いが、こんなところで偽る様な話でも無い。

それに、診断結果を報告した人もこの結果が半信半疑なのか、苦い顔をして対応している。

 

 

「その結果は本当なのかい?気力も魔力も無いということは、生命力が無いということ。

それが冗談で無いなら、この娘が生物でないと言っているのと同じだよ?」

 

「そうですが……。私どもとしても、この結果は予想外でして………」

 

 

何故だ?何故私に魔力は兎も角、気力が無いんだ?

今だって使おうと思えば気力は使えるのに。というか、今、使ってるのに。

私はフェバルになってから、かなり弱体化していて、日常的に身体強化を施さなければまともに生活すらできない。

元々の能力が、アミカと喧嘩する時以外に戻る事が無いから必然的に私は常に微量の気力を纏ってる状態だ。なのに何故、計機は気力ゼロなんて結果を叩き出したのか。

少なくとも故郷では、魔力なんて無かったが、気力を測定する技術はあった。この測定機の様に数値で測定できる程優秀では無かったが、少なくともいくつかのランクに分けて測定する事はできた。

その故郷の測定では、私の気力はCランク。

かなり微妙なランクではあるが、間違ってもゼローー皆無という訳では無かった。

まぁ、色々考えるのは後にして今は……ーーー

 

 

「そんな話があり得るか!!再測定を希望する!」

「ひっ!は、はい!今すぐ準備しまーーー」

 

「大丈夫」

 

 

ーーー激昂したパパさんを宥めなくては。

私は、生来の無表情に喝をいれて精一杯の笑顔を見せて大丈夫と告げた。………どこかおかしくないだろうか?

 

 

「っ………しかしだね」

 

「……シムリさん。ここは抑えて」

 

「む、確かに、穏やかでは無かったが………」

 

「だけど、エネミア!……これは!」

 

「………知ってる」

 

 

アミカの父親のシムリさんが、やるせなさそうに口を噤んだ。

しかし、アミカが思わずといった感じで叫ぶ。

 

ーーー知っている。

魔力ゼロ、気力ゼロという事実の異常さも、その意味も。………そしてそれが生み出すだろう未来も。

有能者ならまだ救いもある。だが、無能者の未来など、想像なんかじゃなく、知識でもなくーーー経験として私は知っているのだ。

 

だからこそ抑えてほしい。私は大丈夫だから。私だけならいい。だが、だからこそ三人がそれだけ私の為に怒ってくれると、私すら我慢できなくなる。

先の未来に不安になってしまう。だからお願いだ。と、拙い言葉でなんとか伝える。

 

 

「………っ!」

 

「アミカ?」

 

「追いかけてこないでね。…………それと、後でいつものところに来なさい」

 

 

最後は小声だったが、確かに私に言った言葉だった。いつもの所とはよく二人で使うあの場所だろうか?

アミカは、怒りを隠しきれない顔で一人で外に出て行った。何か怒らせただろうか?

 

 

「アミカは、頭を冷やしたら直ぐに帰ってくるだろう。今は一人にしてやってくれ」

 

「私たちも、帰りましょうか……」

 

「ん……」

 

 

言われなくても、追いかける事など出来なかった。

彼女は私のライバルだから、何よりその姿を知っている。何に怒っているかは知らずとも怒っている事はわかる。

私たちは暗い気分になりながらも、帰路についた。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

帰路の途中、探しても出て行ったアミカは見つからず、仕方なくクルシュさんとシムリさんと一緒に歩いて帰っている途中。

私は少し考え事をしていた。自分の気力と魔力の測定結果についてだ。

だって、いくらなんでもゼロというのはないだろう。実際、今でも気力強化は使用できているのだし。というか、してるし。

 

 

なら、あの測定結果はどういう意味なのか。

 

測定機の故障ーーーでは無いだろう。

私の故郷では測定結果を真実以上の能力があると騙して金を巻き上げた挙句、増長したバカを袋叩きにする一種の詐欺がよく流行っていたが、この世界の様に一つの事業として確立しているのならそれは、あり得ない。

測定機がそこまで普及してない故郷なら個人の商売だったが、この世界では真っ当な会社が営む集団の商売だ。

色んな意味で顧客を騙す事は難しい環境だろう。特にオーメスパパの突っかかりに異様にビビっていた所を見ると、オーメス親子はそれなりに相手をどうにかできる存在、もしくは常連などの客商売として蔑ろにできない存在なのだろう。

 

だとするならば、計機の故障でも結果を騙した訳でも無く、確かな事実という事だ。

 

 

だが、それだと今私が使っている力はなんだ?

魔力でも、気力でもない力?ーーーあり得ないだろう。

魔力と気力は世界の法則にすら組み込まれる力の絶対基準にして大原則だ。他のエネルギーがあるとは思えない。

 

だとすれば、私自身の力が測定機では測れない程弱いのか?ーーーこれは、あるかもしれない。

測定機の数値が何を基準にしているか判らない以上、測定基準の穴を抜けて、或いは測定する基準に満たなかった場合、という可能性がある。

評価規格外というヤツだ。規格外とはそもそも、指定した規格では測れないという意味の為、〝弱すぎる〟という意味でも使えるだろう。

 

だが、こうして気力を使用できる以上、皆無などという診断を下されるとは思えない。

やはりこれもボツか。

 

しかし、弱すぎて評価できないとは、今の私の身体能力を評価できるなら、そんな数値も納得できるのだが…………ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーん?待てよ。

 

そういえば、私はなんで弱体化したんだ?

考えるのは苦手だから、今まであまり考えて来なかったが、身体能力とは違い、気力は明確に〝使える〟ものだ。

使える筈のものが使えないと評価されたなら話は別だろう。

 

そもそも、なんで弱体化したか。弱体化したのは、明らかにフェバルになってからだ。

しかし、フェバルになってから弱体化するというのは理由としては、あり得ないだろう。だって、魔神ちゃんーーープリシラはフェバルの事をなんと言った?

 

武闘派害虫集団ーーーそう、武闘派だ。その言葉から読み取るに、害虫はともかく、少なくともフェバルとは強者の事なのだろう。私はこの言葉をフェバルはフェバルになったから強いのではなく、不老不死として旅する長年の修行が実を結ぶからこそフェバルは強いのだと思っていた。

 

だが、そんな事はあり得るだろうか?

ーーー当然、あり得ない。例え、不老不死で持て余す程の時間があり、法則も文明も生物も常識も全く違う世界に何度も行くとは言え、努力では辿り着けない境地というのはある。

それに、今まで考えてなかったから指摘してなかったが、故郷のマテリムジアイヤの太陽の異様な近さと無数の大地の亀裂はフェバルの所為だと、プリシラは語っていた。

その異常な破壊痕からわかる通りフェバルは努力では辿り着けない境地にいる。

 

それに、コツコツと修行して強くなるならフェバルは星そのものである魔神プリシラから強者として扱われないだろうし、あんな嫌悪感も抱かれないだろう。

 

あまり話した訳ではないが、プリシラが努力で勝ち取った力を嗤う程外道では無いのは知っている。もし、全てのフェバルが努力によって強者の地位を築いたのなら、プリシラは寧ろフェバルを賞賛していた筈だ。

プリシラ自体があまりフェバルの事を知らないとは言え、彼女はわからない事を無条件に嫌悪するような人では無いように思える。

だとすれば、プリシラはフェバルの力の起源を知っているからこそ、嫌悪しているのだろう。プリシラが嫌悪する力の取得方法………ーーー誰かから与えられた力?

確かにフェバルに自由意思が無いとは言え、与えられた力を誇示する存在には嫌悪するだろう。

あのポンコツ魔女ーーエーナさんと言ったかーーとの会話にちょくちょく『星脈』という単語が出てきていた。

そして、会話から察するに星脈とは膨大な力の流れであり、フェバルに関係が深いものだと推測できる。

 

 

つまり、全て憶測でしか無いが、フェバルは覚醒した後、必ず何か超常的な力に目覚めるという事と、それに『星脈』が関わっている事。

そして、それが私の弱体化と何か関係があるのではないかと推測してみた。

 

 

ーーーそして、私のフェバルとしてのそれは、気力や魔力に代わる生命エネルギーとしても使えるのではないかと。

 

 

そこまで考えたところで私は足を止めた。

 

 

「………ごめん。クルシュさん、シムリさん、ちょっと行ってくるっ!」

 

「エネミアちゃん!?」

「エネミアくん!?」

 

 

二人の驚いた声を背に私は駆け抜ける。

 

迷いなどない。真っ直ぐに、頭の中に思い描いたルートを走った。

 

 

 

そして、辿り着く。いつもの場所。

 

この世界に来た時から、三日後にアミカとぶつかった場所であり、初めて私が家族の温もりを知った場所であり、初めて私がライバルを得た場所。

 

 

視界一面に広大な凪の湖が広がる綺麗な砂浜。

恐らく、上から見ればその広大な湖が実は滝である事がわかるだろう。滝の下は雲海になっていて、もしかしたら今立ってる地面は空に浮かんでるのかもしれない。………そんな景色のいい場所だ。

あの時の私はとにかく苛立っていたので、そんな状態で暗い場所やジメジメした場所にいては気分が悪くなる一方だった。

しょうがなく、お世話になってるアミカの家から近い所で、景色のいい場所を探していると見つけたのがここだ。ここはアミカのお気に入りの場所で、あの日の話を簡単に言うとそのお気に入りの場所にいた私に声をかけたアミカと盛大に喧嘩してライバルになったという訳だ。うん、わけわからんな。

 

 

そんな感じで、もう、一ヶ月以上前になる思い出に浸りながら進んでいると、目の前に探し続けた気配を感じ取った。

 

 

「…………来たね」

 

「……うん。約束通り」

 

 

目の前にいるのはアミカだ。約束した以上、ここにいるのがアミカ以外なんてあり得ないだろう。

私の気配を感じ取ると、背中を向けていた体勢を解き、こちらに顔を向けるアミカ。

 

 

「私、思ったんだよ。エネミアに魔力も気力も無いなら、それに代わる何かがあるんだって。パパとママは見てないし知らないけど、私は何度もエネミアが気力を使ってるところを見てるし知ってるからね」

 

「………うん」

 

 

穏やかな顔でそう切り出すアミカ。でも、次の瞬間、その顔は好戦的な顔に変わる。

 

 

「つまりさ、私が言いたいのはね?

ーーーーエネミア、全力じゃ(・・・・)なかったでしょ(・・・・・・・)?」

 

 

アミカは、どこからともなくその手に大剣を出す。白く発光する光の剣は、私の故郷では無かったが、『気剣』と呼ばれる一種の気力運用技術らしい。気力を剣の形に固定化し武器とする力だ。

刀鍛冶も真っ青の武器要らずだが、剣などのイメージが必要な為、まだまだ鍛治師が廃業するのは先かもしれない。

まぁ、それは置いといて、アミカの問いに答える。

 

 

「全力だったよ。ーーーあくまで私の認識では(・・・・・・)

 

「そう……」

 

 

そう、確かに全力だった。だが、それはフェバルになる前の話。私は一度もフェバルの力を使っていない。

ーーーいや、こうして自分の内面に深く沈んで集中してみれば直ぐに気づく。私は確かにフェバルの力は使っていた。だが、それは無意識の発露であり、副産物に過ぎない。戦闘に使った事など自分の力を(・・・・・)返して貰った程度だ(・・・・・・・・・)

 

 

「なら、全力でぶつかって来なよ!私も、そうすれば、全力を出せるからーーーッ!!」

 

「いわれなくてもッ!!」

 

 

そうして、二人は地を蹴った。

 

こうして、いつもの姉妹喧嘩と言うには激しすぎる殺し合いが始まった。



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第7話 《封縛》

 

 

 

「ーーーやあぁっ!!」

 

 

瞬間の内に8合。

それが、たった数瞬の間に剣を交わした数だ。

 

エネミアのたっぷりと殺意の乗った20の剣閃は8の剣閃を防がれ、10の剣閃を躱され、2の剣閃をアミカの体に打ち込んだ。

 

当然、こんな結果がアミカの痛手に至る筈がない。

この瞬間のほぼ全ての攻撃を防ぎ、躱され、やっと入った2つの斬撃はアミカの強固な気力強化された身体にまともな傷をつけることは叶わなかった。

 

 

「ーーーぜああぁっ!!」

 

 

放たれる剛撃。

 

数瞬の20の剣閃に及ぶべくもないたった1つの斬撃ではあれども、その威力はそのたった一撃で目の前のエネミアを致死に至らしめる破壊力を持つ。

 

 

衝撃の余波で凪の湖は荒れ狂い、砂浜は爆撃地と見間違いそうな程の様相を見せる。

 

 

「ちっ、相変わらずちょこまかとっ!」

 

「そっちこそ。まるで大砲だよ……」

 

 

前にも言ったと思うが、エネミアの剣は自身の反射神経と身軽な身体を活かした手数の多さが長所だ。

その瞬間の内に無数の斬撃に切り刻まれるその剣技は、我流と言えど余程の剣豪でも勘弁願いたい程の攻撃だ。

 

だが、エネミアの剣は軽い。

生来の体格や身体能力に恵まれなかった事もあり、一撃一撃ではそれ程相手にダメージを与えられないのだ。加えて防御力も無い。

まさに重ねてダメージを与えるからこそ意味のある、乱撃を重視した速度特化の剣技であり、当たらなければ意味は無いの精神を体現した剣である。

 

 

対して、アミカの剣技はその真逆。

一振り一振りが一撃必殺。堅牢な防御は生半な攻撃では物ともせず、取り敢えず相手の攻撃を受け止めてから返すカウンターを重視した重戦士の戦い方だ。アミカの得物である大剣は限定的な盾としても優秀な為、カウンター戦法はこの上なく有効と言える。というか、大剣使いの殆どがカウンターを利用した戦い方を使うだろう。

 

アミカの凄いところは女の細腕、柔肌でそれを極めた所だ。

足りない筋力(もの)を気力で補完し、防げない攻撃を魔力で逸らしているとはいえ、その要塞の如き防御力と、一度でも当たれば瀕死は免れない一撃はエネミアと相性が悪い。

 

 

だが、それはアミカも同じ。彼女は強力な防御と攻撃力を持つが、エネミアの十八番である速度が無い。

鈍重なアミカの攻撃は、エネミアが見切るには簡単すぎる。

 

かと言って、エネミアが優位だと言うとまったく違うと言わざるおえない。

前述した通りエネミアの剣は一撃毎の威力がかなり軽いのだ。

どれだけ剣戟を重ねようともその多くを堅牢な防御力で防がれ、まともに入った攻撃も十分なダメージは与えられない。

必然的に攻撃力の低さから、アミカよりも剣を振るう回数の多いエネミアには次第に疲労が溜まっていく。

アミカの攻撃は一撃一撃がエネミアにとって致死の威力ともなれば躱す際の一切のミスも許されない精神的威圧も手伝ってかなりまずいだろう。

 

しかし、エネミアの攻撃がまったく効いてないという訳では無い以上、アミカにもダメージは着々と蓄積されていく。

 

 

「早く、モノにしなよっ!そのチカラ!!」

 

「言われるまでも、ないっ!!」

 

 

轟ッ!!

 

駆ける疾風の蓮撃と、放たれる必殺のカウンター。

ここまで来ると最早我慢比べだ。

 

エネミアの精神が余裕を無くし、致死の一撃を喰らうのが先か。

アミカの受け止めたダメージが、肉体の限界を超えるのが先か。

 

剣を合わせる毎に苛烈さを増していく二人の戦いは、どちらかが負けを認めたが最後の根性比べ。

少なくとも彼女達にとっては、ライバルの勝負としてこれ以上ない程最適な競い合いだった。

 

 

「ーーーっ」

 

「余所見、すんなぁッ!!」

 

 

能力を行使しようと集中したところにアミカが一撃を放つ。辛うじて避けたが、その風圧に体が浮いた。

アミカの一撃で吹き飛ばされる感覚があるが、抵抗はせず、そのまま飛ばされ距離をとる。

 

フェバルとなった時から弱体化した原因。恐らく、自分のフェバルとしての特殊能力だろう、それを発動させる条件はわからない。だが、こうして今〝元の力を返して貰う〟という形で発動できている以上、何らかのトリガーがある筈だと思い、自己の内側に集中してそのトリガーを探そうとするエネミア。

トリガーが自分の精神に由来する何かである事は今までの事で分かっている。

瞑想は修行法としても、自己の精神状態を確認する意味でも有用だ。〝自己の内側に埋没する〟というのも、簡易だが瞑想法には入るのではないだろうか。……まぁ、瞑想とかに詳しくはないので推測だが。

とにかく、こうして自己の内側に集中して能力のトリガーが何なのか探ろうとしているのだが、それをアミカの猛攻が許してくれない。

 

 

取り敢えず、一旦冷静にーーー

 

 

「たぁあっ!!!」

 

「えっ」

 

 

ーーーは?

 

何が起こった?

 

私は今、まともにアミカの一撃を食らっていた。

恐らく、さっきのアミカの攻撃の威力で吹き飛ばされたのを利用して距離をとったところを着地狩りされたのはわかるが、そのアミカの攻撃にまったく対応できなかった。

 

着地狩りは比較的対処しづらい攻撃ではあるが、アミカと私の速度差では流石に私の方が速い。避けるくらいはわけないと思っていたのだが。ーーー結果は、まともな対応もできずに空を舞っている。明らかに致命傷だ。骨が何本かイカれていてもおかしくない。

この結果はアミカにも意外だったのか、血を吹き出して吹き飛ばされる私をアミカは驚愕の目で見つめていた。

 

 

何故だ?何で、対応できなかった?

目で追う事は出来ていた。ならば、避ける事は容易い筈だ。

全身に走る激痛に歯を食いしばりながらも思考を続ける。

そうして、やっと出せた結論は至極単純なモノだった。

 

ーーー身体が思考速度に追いつかなかった。

もっと言えば、私の速度がアミカの鈍重な一撃すら躱せない程に弱っていたのだ。

流石に平時の幼児にすら劣るレベルではないが、弱体化してるのは確かだ。

 

 

「っ、ーーーむうっ!!」

 

「くぅっ!」

 

 

まだ、体が痛むが、私がさっきの攻撃を受けたのが予想外だったのか、未だに隙だらけだったアミカにたっぷりと殺意の乗った攻撃を加える。

 

すると、さっきの弱体化など無かったかの様に身体は思い通りに動いてくれた。

 

 

 

ーーーあぁ、なるほど。そういう事か。

 

私の中で合点がいく。

確かに、私のフェバルとしての能力は私の性に合っている。

 

まさか、ーーーー殺意に反応して(・・・・・・・)力を取り戻すとは。

 

恐らく、あの時の私は冷静に集中しようとしすぎてアミカへ意識を割いていなかった。それが、必然的に殺意の減衰に繋がり、返して貰っていた力が半端とはいえ、戻ってしまったのだろう。

 

だとすれば、私の能力を発動させるトリガーは殺意、または殺気なのだろう。

ならば、それを限界まで高めればーーーー

 

 

「やばっ、スゴイよ。これが、あんたの本気ってワケ?」

 

「おかげさまで、扱い方は掴めたよ。ーーここからが、本番っ!」

 

 

全身に走る痛みを無視して地を蹴った。

瞬間、私の背後から無数の銀色の鎖が飛び出る。それは、狙い違わずアミカに向かって殺到した。

 

 

「鎖っ!?いや、それよりも、これは!」

 

 

そう、鎖がアミカに向かっていったのはどうでもいいのだ。問題はそれが、私の力であることと、無数の鎖を武器として鞭の様に使うという事は単純に私の手数が増えるという事。

 

さらに言うと、これは強力すぎたのか、それともただ単に能力として欠陥すぎたのか知らないが、持ち主の力すら封印していた縛鎖の具現。

私がフェバルになってからずっと体に巻きついていた、《封縛》の鎖だ。その拘束力はアミカですら捕まれば、一切の抵抗は無意味と化すーー!!!

 

 

「あぁああああ!!!」

 

「くっ、つぅ!あ、あああ!!」

 

 

怒涛の様に打ち込まれる、剣と鎖の鞭。それに、アミカは防戦一方にならざるおえない。

だが、戦場ならともかく、ただの姉妹喧嘩に限界以上の殺意を維持するなど私には不可能だ。

これは、恐らく長く続かない。長くもって、2分ーー酷い時は5秒と持たない可能性が高い。

 

だからこそ、限界が来る前に終わらせる。

 

そもそも、この能力のトリガーは相手を必ず殺すという覚悟ーーー殺意だ。

だから、殺す気の無いライバルとの競い合いで長く維持できる筈が無い。もし、出来たとしても私はやらない。だって〝殺す気で殺さない〟とか、戦士として、何より1つの命を奪い合う者にとって侮辱に等しい。

 

だから当然、この殺意が長引く筈も無くーーー

 

 

「いいでしょう!ここは、私も全力でっ」

 

「あっ、もう、限、界………です」

 

 

ーーー今まで、勇ましい雄叫びを挙げながら怒涛の連続攻撃をしていた私が、精神的な疲労からいきなり倒れ込んだのは当然だと思う。

 

 

「えっ?ちょっと待って?ここからが本番よね?私のこの振り上げた拳はどうすればいいの?」

 

「そこら辺にぶつけて下さい。私はもう限界なのです………」

 

「こんな時に敬語使うなー!!何なの?ここまでテンション上げさせてから、こんなのって無いよ!?やっと、私も全力出せると思ったのにぃーーー!!!」

 

 

意識が朦朧としてきた私は、殺意の維持だけで疲労だけでなく体力も奪うとは、殺意意外にも必要なコストがあるのかな?ーーなんて自分の能力の事を考察しながらアミカの心からの不満の声をBGMに意識を落とすのだった。

 

 

ーーーわかるよアミカ。全力だそうとする程高揚してる時に水さされるとかなり嫌な気分になるよね。だけど、その水さしたのが散々その戦闘狂魂を刺激した対戦相手本人だった場合の虚しさったらないよね。

わかるよ。

 




エネミアの《封縛》の力は、封印の概念そのものを鎖の形に現出させて扱う事もできるという設定。
因みにエネミアの場合は能力のトリガーは『殺意』だったけど、これは能力の持ち主の心に深く刻み込まれた戦いにおける絶対基準となる感情がトリガーとして適応されるので、つまりエネミアは戦いをする者に殺意は必要不可欠と思っている、或いは殺意は戦いのモチベーションを上げる、またまた或いは殺意が戦いの原動力である、と定義しているという事になります。どちらにしろ、狂戦士の思考ですね。


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第8話 『鎖』の考察

ユイちゃん復活ヤッタアアアアアアアアアア!!!


 

 

 

「まったく、反撃すらできないなんて……自分で自分が認められないわ。しかも、理由がただ相手の体力が尽きただけとか。なんともやりきれない……」

 

「…………ごめん」

 

 

現在、アミカの愚痴に付き合ってあげてるエネミアです。

みんな、元気にしてましたか?私は寝込んでました。

今、私はベッドの上で横になってアミカの話を聞いていた。

あの時、能力解放の反動で気絶した私をアミカが背負って帰ってくれたらしく、現在意識が戻ったため、アミカと先の能力解放について話していたのだ。話の内容に愚痴が多分に含まれていたとしても、私の所為だからという事で一応、納得している。でも、流石に長いと思う。

 

 

「コホン。……まぁ、愚痴はここら辺にしておいて、やっぱり貴女気力とも魔力とも違う力があるみたいね」

 

「…………そうなるね」

 

 

アミカは私の無言の不満を察したのか、愚痴が止まらなくなりそうな所で、空気を変える為か、わざとらしく咳を一つして話題を変える。あのまま愚痴を続けられると応えるので、私は話題に乗った。

 

 

「貴女の背後から鎖が現れた時はビックリしたわ。アレ何?異能?」

 

「………そんなもんかと。でも、ずっと巻きついて離れないんだよね」

 

「何それ?どういうことよ?」

 

「なんというか、あのね……ーーーーー」

 

 

アミカの疑問に自分の感じた所感を話すが、簡潔すぎてあまり通じなかったらしく、さらに細かく説明してみた。

 

 

「なるほどね…………。つまり、あの鎖が常に巻き付いてるから、いつもはあんなに弱いと。

タダの言い訳に聞こえなくもないけど、そうじゃないのはわかってるし。普段の貴女の貧弱っぷりは異常だからね」

 

「納得のされ方が、納得いかない」

 

「それにしても、魔力や気力を封じる鎖…………いや、身体能力も封じてるから、もしかしたら『力』と定義されるモノ全てを縛ってるのかな?」

 

 

『力』という概念を縛る鎖ーーーー

 

なるほど、私の中で微妙に納得のいかない感じがするが、的を射ているとは思う。

だとすると、筋力も一つの力。身体能力が縛られても当然か。

あれ?だとしたら、魔力、気力はゼロだったのになんで筋力は弱体化してるのはいえ残ってるんだ?

 

 

「魔力と気力はゼロだったのに筋力は残ってるのはどうして?」

 

「それを私に聞くか……?まぁ、考察はできるけど。

『力』を縛る鎖だって、貴女の『力』だから自分も縛っていて完全じゃないとか?」

 

「それじゃ、本末転倒」

 

「確かに、その意見だと鎖が鎖本体を縛っているようなモノだし。それじゃ意味ないし、鎖がある理由も無いからなぁ。

あくまで、〝縛るモノ〟であって、封印するモノじゃないからとか?」

 

「それだったら、魔力とかが説明つかない。………後、鎖は繋げるモノでもあるから、一概に縛るモノとは言い難い」

 

 

実際、縛るだけなら縄で事足りる。

 

鎖があるのは鉄の硬さから縛った存在が抵抗しづらいというのもあるが、実際その用途は、手枷や足枷に繋げて自由を奪うなどと言った、拘束というよりも、拘束具の一部品といった扱いが多い。その時、枷に繋げるのは効率良く動きを阻害する為に壁や地面に打ち付けられた棒などの固定されたモノが多く、鎖とは、その『固定されたもの』と枷などの『縛るもの』を〝繋げる〟ものなのだと思う。

と、今はそんな事考えても意味はないな。

 

そんな感じで何度か脱線しながらも、うんうんと唸って二人で考察をしてみるが、色々わからない所が多すぎる。

アミカだけではなく私も何個か意見を出してみるが、それはアミカに、時には自分自身の意見によって矛盾が見つかってしまう。

 

そうして、二人で何時間も頭を使い唸った頃。考えるのが苦手なアミカの限界が来た。

 

 

「ああ〜、もう!!わっかんないわよ!!そもそも、わかる筈が無いでしょ!情報も何もかも不十分なんだから!」

 

「………でも」

 

「もう、単純に鎖自体が手加減してる(・・・・・・)って事でいいじゃない!」

 

「ーーー!!」

 

 

あっ、そういうことか。

 

 

「あれ?どうしたの?エネミア」

 

「確かに、アミカの言う通り。鎖だって私の『力』。『力』は使われなくちゃ意味がない。筋力まで全て機能しなくなったら、声も出せないし、そもそも体を支えられない。そんな主人に『力』を使う事なんて無理だし、〝手加減してる〟っていう事はありえる………かも?」

 

 

実際、筋力を無くす事によるデメリットは計り知れない。だとすると、手加減するという結論が出せる程度の意思があの鎖には宿ってる事になるが、私の中の直感がそれは間違っていないと告げていた。

 

 

「えぇ……、私そこまで考えてなーーー」

 

「流石アミカ。私のライバル。荒削りではあるけど、土壇場で的を射た結論を出す」

 

「いや、待って。あのね?」

 

「私も負けてられない。ここから考察を発展させて、必ず全貌を突き止める」

 

「あのーーー」

 

 

やっぱり私のライバルは心技体共に最高である。

まぁ、私自身がそうだから当たり前だしそうじゃなきゃ張り合いが無いけど、だからといって褒めない訳じゃない。

そもそも、この鎖は私のフェバルとしての能力………だろう。多分。

つまり、フェバルに関係する事である以上、私がフェバルに対して無知である事は少なからず影響するだろう。実際、フェバルの能力といっても、現状本当にフェバルに固有能力があるかもわかってない状態なのだ。

フェバルの能力そのものに意識がある可能性もありえなくは無い。

もし、フェバル能力に意識が無いのが普通だとしても、能力によっては意識が生まれる事もあるのかも知れない。

 

そんな無限の可能性の中の一つでしか無い結論だけど、間違っていないと私が確信できるのなら今はそれでいいだろう。

 

 

「よし。全貌を掴む糸口を掴めた所でそろそろ、起きてお店に行こう。クルシュさん達が待ってる」

 

「ーーー……え?ああ、そうね……」

 

 

そう言って、私はベッドから出て部屋の入り口に向かって足を進める。

だが、部屋の入り口のドアに手をかけた時、何故かアミカが固まっている事に気がついた。

 

 

「アミカ、どうしたの?行くよ?」

 

「ああ、うん。先に行っといて……」

 

「………?わかった」

 

 

そうして、私は部屋から出て一階の食堂に戻り、大分体力も回復して来た事からクルシュさんに挨拶した後にお店のうぇいとれす業に戻る事にした。

 

 

(ヤケクソで言ったのに………)

 

 

尚、その後の部屋でアミカが自分のテキトーな発言に対して付けられた高い評価に戸惑っていたのを、エネミアは知らない。

 




鎖は縛るモノじゃなくて、繋げるモノ。これは、私の持論です。
あまり、大袈裟に捉えてはいけません(´・ω・`)


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とある悪夢の記憶 〜クルシュマナにて〜

 

 

 

ーーー忘レルナ

 

絶対に、忘れてはならない。

 

 

単純な価値観の選択。

鮮烈な修羅道の記憶。

確定された未来の記録。

 

何より、預けられた思いの欠片。

 

 

その全てから私は生まれた。

 

 

 

 

 

ーーー忘レルナ

 

 

真白(ましろ)の髪が風に舞う。

 

そこに、愛を残して。

 

 

翡翠色の腕輪が(きら)めく。

 

そこに、絆を残して。

 

 

煤けたマントがその背を大きく見せる。

 

そこに、誓いを残して。

 

 

鉄錆の剣が血を欲して叫び声を上げている。

 

そこに、涙を残して。

 

 

 

 

 

 

 

覇道を歩む少女は夢を見る。

 

己が未熟だった、その日々を。全てが、可能性に満ちたーーーー何より、かけがえのないモノを貰った出会いを。

 

 

 

 

ーーー忘レルナ

 

 

その(つるぎ)は罪の証。

 

凡ゆる願いを葬った先の地獄の具現であるという事を。

 

 

ーーー忘レルナ

 

 

その姿は願いの証。

 

受け取った〝大切〟を何よりも表した、誇り高き敗残者の姿である事を。

 

 

 

ーーー忘レルナ

 

 

ーーーどうか、忘れないでくれ

 

 

それすら忘れてしまったら、そこにはもう、『終わり』しか残っていないのだからーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「気味の悪い夢を見た………」

 

 

夢見は最悪の一言に尽きる。

思わず、顔を片手で覆ってため息をしてしまった。

 

その夢は嫌に鮮明に記憶に残った。

誰の話なのか分からないし、脈絡も何もない上に唐突に結論だけを残していった不思議な夢。

あれは、一体なんだったのだろう。ただの悪夢として片付けるには実感がありすぎる。

 

多くの疑問が残るが、ただ一つだけ確かな事がある。

それは、ただ一言のーーー『このままだとダメだ』という直感にも似た危機感を私の頭の中に残していった事。

 

 

「ん。今日もいい朝。………アミカを誘って軽く稽古でもするかな?」

 

 

ベッドから起き上がり、頭を振って気分を入れ替える。窓から見える日光が気持ちのいい朝を告げていた。

寝床の直ぐそばに置いてある愛剣を掴み、起き上がる。もう、こけたりするようなヘマはしない。

 

ーーーただ、今は無性にアミカに会いたかった。

 

 

その時の私の頭の中には、この星に来たばかりの頃に見た夢が脳裏に浮かんでいた。

 

私が、初めて死を経験した日。

私が、初めてアミカと出会った日。

 

登場人物の顔は曖昧で、全貌を掴めずともその夢は脳裏に焼き付いている。

片手の無い少女が、剣を掲げた少女に笑って〝あること〟を願う夢。

 

 

 

 

 

ああ、何故だか涙が止まらない。だってーーー

 

 

 

『だから、お願い。私をーーーー』

 

 

 

 

 

ーーー殺して、とその夢の少女は言ったのだから。

 

 

 

 

 

ーーーー忘レルナ

 

 

 

脳裏によぎったその悪夢を振り払った先で聞こえた、たった一言の言葉。

 

涙の意味がわからない。

何故、その夢を思い出したのかもわからない。

 

 

 

ただその言葉は、妙に私の頭に残ったのだった。

 



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第9話 うぇいとれす修行中!〜買い出し編〜

活動報告した人にはわかると思いますが、一時休止宣言した後にアレだけど、1話だけ投稿します。
まだ、番外編やエピソード集を読み込んでないので話は進められませんが、こんなかんじで何も進まない日常回なら時間を見つけて投稿できそうです。………これ、休止って言えんのかな?


 

 

「エネミアちゃん、二番テーブルにこれお願い」

「ん」

 

クルシュさんから手渡されたオムライスを言われた通りのテーブルに置く。

 

 

「えっ、あの?注文したものと違いませんか…?」

「クルシュさん、次」

 

「エネミア、待ちなさい」

 

 

手早く注文の品を届け、クルシュさんの所に行くといきなりアミカに呼び止められた。

何?まだ喧嘩はできないよ?

 

 

「ちょっと注文表を見せなさい?」

「…ん」

 

 

アミカがいきなりよくわからない事を言い出した。

だがまぁ、アミカの奇行は今に始まったことでもないので言う通りにする。

私は姉を尊重するいい妹なのだ。

 

 

「なんか変な誤解を現在進行形で受けてる気がするけど、今はいいわ。それよりも、二番テーブルの注文オムライスじゃなくて、パフェなんだけど?」

「でも、クルシュさんはOKくれた」

 

 

流石のアミカでもクルシュさんの決定には従うしかあるまい。これは、正当なものなのだ。決して私が間違えたとかでは無い。

 

 

「厨房は直接注文してるとこ見れないでしょ!私ちゃんと店全体の注文把握してるんだからね!?」

「無駄に凄いスキル…」

「感心してないで、早く取り替えて差し上げろ!!お客さん困ってるでしょうがー!!」

 

 

いつもの如く(・・・・・・)怒り出した、アミカに言われてスタコラと厨房に行きクルシュさんに謝罪と間違いを申告した後、パフェとお詫びのジュースを持ってお客さんの所に戻る。

 

 

「ごめん…間違えた」

「いや、いいよ。にしても、仲良いね」

 

 

仲良い?誰が?よくわからないが、許してくれたなら良かった。

 

後で聞いた話だと、私とアミカの口論が店の名物になってると聞いた。解せぬ。お前ら、私が怒られるのが一種のショーとでも思っておるのか。

 

 

 

 

「う〜ん、困ったわね〜」

「クルシュさん、何かあった?」

 

 

厨房に戻ると食料保管庫を見て悩ましげに唸るクルシュさんの姿が。取り敢えず声をかけてみる。

私、役立ちますよ!

 

 

「実は、発注してた材料が届かなくて…。エネミアちゃんが毎回間違えるから無駄に消費するし、そろそろ買い出しに行かなきゃまずいんだけど」

「はぅ…」

 

 

私、役立ちますよ!と言った矢先に余計な事してる的な事言われるとイタイ。

かと言っても、ここで終わらないのが私。そもそも原因の一翼を私が担っている以上解決に乗り出すのは当たり前だろう。そう思い

 

 

「私が行「ママ、エネミアには任せられないから私が行くよ」

「あら、助かるわ。お願いね、アミカ」

 

 

アミカよ。ここでも私の邪魔をするか。

いや、そもそも張り合った事はあっても邪魔された事は無いのだけど、雰囲気的に。

って、ええい!何を呆けておるか!クルシュさんが認めた以上アミカが付いてくるのは確実だろうが、それでも私が原因の一つなのだから!

 

 

「私も行く!」

 

 

そうだ!言えた!言ってやったぞ!

 

 

「いや、私が行くからいいよ」

「エネミアちゃんが居なくなると注文任せられる子がいなくなるから却下よ?」

 

 

儚い勇気だった………。

 

 

「エネミアちゃんが燃え尽きてる…」

「何にそんな体力使ったのよ……」

「勇気を振り絞ったんです…」

 

 

結局、その後はアミカが滞りなく買い物を済ませて帰ってきた。クルシュさんも嬉しそうだった。

注文もできるとは言い難く、買い出しも満足にできない私の存在意味とは……?

 

 

「そういえば、結局発注した材料来なかったわね〜」

「あぁ、それ。なんでも事故があったらしいよ?」

「……事故?」

 

 

何か役立てるかな?と自分の存在理由に悩んでいた私はここぞとばかりに話題に食いつく。

 

 

「そ。なんでも、車が空から降ってきたとか」

「それは、不思議な事もあったものね〜」

「………」

 

 

不思議な事すぎるわ!!

 

こんなの私の出番があるわけ無いじゃない!!いや、まぁ……こんな事で役立てる人物とか居たら逆に驚きだが。

 

そんな感じで、私たちのうぇいとれす修行は今日も穏やかに過ぎていった。



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第10話 いつもの帰り道

遅くなってすみません。……いや、まだフェバル外伝とか読破してないんですけどね?読む気力が……。まぁ、これ以上待たせるのも悪いと思い、ストーリーに影響のない話だけ投稿。

前々から構想してた、マテリムジアイヤと他の星の気力の使い方の違いがちょっとだけ描写されます。


 

 

「はああああ!!!」

 

 

「ちょ、ちょっと待っーー!!」

 

 

待たない。

 

 

ーーーその日、いつもの訓練場に悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、痛かった……。ちょっとエネ、容赦なさすぎよ」

 

 

「ん。『鎖』の制御も慣れてきた」

 

 

「それで縛られてワンサイドゲームになったら私の訓練にならないじゃない……」

 

 

「ん。動かない的に剣を叩き込むだけだから、私の訓練にもならない」

 

 

「……じゃあ、私のさっきまでの苦労はなんだったの?」

 

 

「………アミはいい肉壁だね」

 

 

「貴女、フォローしたことないでしょ。寧ろ貶してるわよ、それ」

 

 

会話から分かると思うが、剣の訓練の帰りである。私たちは定期的に戦闘訓練をしてからうぇいとれす業に入る日が存在する。今日はその日で、早朝から剣の訓練をしていたというわけだ。

 

だが、今回は意匠を凝らして『鎖』の訓練も並行してやってみることにしたのだ。ひょんなことから使えるようになったフェバルの能力と思われる【封縛】の『鎖』。それを戦闘中に上手く使えるか、試したのだ。

 

ーー結果は話の通り。

どうやら『鎖』は捕縛した存在の力を完全に封じるようで、まともに力も入れられず、アミカはエネミア相手に一方的に切り刻まれる事になった。

中々に凶悪な鎖である。普段、私の力を封じてるのもこの『鎖』なので、便利とも言いづらいが。

 

 

「…………」

 

 

「どうしたのよ?」

 

 

「……いや、慣れないな、って」

 

 

「…………ああっ、呼び方の事?貴女があまりにも慣れないって言うならやめても良いけど、エネ(・・)

 

 

「いや、だいじょうぶ。アミ(・・)

 

 

ちなみにこのオーメス家に居候になって既に数ヶ月が過ぎている。そんな時間の中、私とアミカの距離感もかなり縮まった。相変わらずライバルという立場は変わらないが、二人とも愛称で呼ぶくらいには仲良くなった。

 

 

「そんなことより、この数ヶ月気になってる事があるんだけど」

 

 

「何よ、そんなことって。ちょっと寂しいわね。……まぁ、いいわ。何?気になることって」

 

 

そんなある日、私は気づいたのである。

 

私はいつも訓練の後、汗だくになって全身に生傷作って帰ってオーメス家の母クルシュさんに怒られていたのだが………何故かアミカは怒られてない。あっちも相当生傷作ってたと思うのだが、理不尽だ。………とか思ってアミカを観察していたら、私は気づいたのである。

 

 

ーーーアミカ、戦闘後に傷一つ無い姿に身体が回復してるのだ。

 

 

「………その、いつも訓練後に傷が無くなってるのは、何?」

 

 

「…………」

 

 

だから、いっそのこと聞いてみることにした………んだが、どうやらアミカには予想外のことだったようで、間抜けにも口を開けてポカーンとしている。

 

 

「………?」

 

 

「あれほど気力が使えるのに、戦闘後に回復しないでママに怒られてるし、中々改善しないから、だんだんエネの事、私マゾかと思ってたんだけど……」

 

 

ム。かなり心外である。アミカもさっきの訓練では態々『鎖』に縛られたいとかかなりマゾな事言ってたのに。

 

 

「言ってない。そろそろ戦闘中に『鎖』を使いこなした方がいいんじゃない?って提案しただけよ。…………それにしても、アレね。貴女、『気力回復』知らなかったのね」

 

 

「『気力回復』?」

 

 

なんでも、それは気力を使って身体を治療する技で、『気剣』と同じ、気力運用の基本技らしい。

大きな傷となれば直ぐ回復、とはいかないらしいが、少なくとも簡単な模擬戦の後くらいの傷なら直ぐに治るとか。

いやはや、故郷と違って〝ここ〟は発見の連続だな。

 

 

「後で、教えてね」

 

 

「それは、いいけど。………まぁ、貴女もママに怒られたくないだろうしね。…………それにしても、エネのこの偏った戦闘知識は何なのかしら?」

 

 

最後らへんはよく聞こえなかったが、とりあえず気力回復の基本くらいは教えてくれるらしい。

深く知りたいならどっかの道場にでも行け、と言われた。どうやら教えてくれるのは本当に基本だけらしい。

変なとこでケチ臭い。

 

そろそろ、太陽も上がる頃、今回も平和な帰り道。そんな、なんでもない日常が今日も過ぎていった。

 

ーーーー何も変わらない、この日常が私にとってかなり眩しく見えたのは言うまでもない。




ちなみにエネミアの力は許容性の低いマテリムジアイヤの限界到達者程度なので、許容性の高い世界では普通に雑魚です。………今はね。


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第11話 冒険者の真似事

お久しぶりでぇーーーーす!!

最近、二次創作者の中で私が一番フェバルの事知らないんじゃないかな?と、不安になってる今日この頃。設定集は読み込んでるけど、どうしても、ありえない所が出てくるかもしれません。そんな時はやさしく指摘してください。できる限り修正します。

それはそうと、レストさん、設定集に星ごとの魔法の名前とか書いてくれませんかね?アレ、いちいち読み返して確認するの何気にめんどくさいでござる。


 

 

「ーーアミ!そっち行った!」

「わかってる!」

 

 

今、私たちは路地裏を疾走している。なぜかと言うと、それはーーーネズミを追っているからだ。

 

 

「しねぇえええ!!」

「ちぃ……!」

 

 

屋根から飛び降りながら大上段からの振り下ろし。アミカの気剣による攻撃は地面にクレーターを残す程の威力を見せたが、難なくネズミに避けられる。

 

 

「へっ、そんな大振りじゃ、当たらねぇよ!」

 

「ーーエネ!」

「ーー了解……!」

 

 

ネズミが挑発しながら逃げる。だが、そんな挑発痛くも痒くも無い。ーーそして、人通りの多い大通りに出ようとしたタイミングで、【封縛】を発動する。

 

 

「……へっ?」

 

 

虚空から鎖が伸びてくる光景にネズミが素っ頓狂な声を上げる。その隙を逃す理由は無い。【封縛】の鎖はネズミが大通りに出る一歩手前で、その体を縛り上げた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

次元連結世界(クルシュマナ)

 

ここは、四つの星が隣接して存在し、四つの大気層が融合している極めて特殊な星だ。加えて、『門』と呼ばれる、別々の星の空間に繋がった穴が偶発的に顕われる現象により、稀に人を攫う『神隠し』として星間同士を移動する出来事が起きるらしい。

 

そんな四つの星は、星ごとに違う生態系を築いており、其々が神を名乗っている。そのうち、私、獣人の姿は『神獣種』と呼ばれる連結世界の神たる種族の一人とかなり似ているらしく、初めてアミカに会った時、私が神獣種に間違えられたのはこれが原因だ。

 

そんな、四つの星の知的生命体各々が神を名乗る世界で、争いが無いはずもなく。

その昔400年に渡る星間戦争があったそうだが、落とし所を見失い泥沼化した辺りで、今まで不干渉を貫き、傍観に徹してきた四つの星全ての『長』がその星の『英雄』を人柱に強引な形で戦争を終結させた。

 

以来、四つの星での交流は無い。というか、交流を禁止されている。

だが、この星間戦争で一番被害が出た星『人族の星』は違う。彼らは別に神を名乗っていた訳でも無かったし、他の星の知的生命体の様に強大な力も持たなかった。

 

加えて、他の三つの星の戦争に地の利を持たせず公平性を持たせるためなのか、他の星が戦争の場として真っ先に選んだのが『人族の星』だった為、どちらかと言うと被害者側だ。

彼ら『人族』が戦争に参加したのも、『神』を名乗る『外敵』三勢力に抗う為でしか無い。

 

だが、素で強力な力を持つ他の勢力と違い、貧弱な人族は当然、被害が大きかった。中でも、『神』にあやかろうとしたのか裏切り者も多く、その損害の補填(というか、少しでも反撃したかったのかもしれない)のために各星の『門』を管理する役目を請け負い、他の星の星間流通を支配する地位についた。まぁ、交流が禁止されてる中で流通も何もないのだが、これはせめてもの抵抗の一つだろう。他の星の長も長い間、自分達の都合で戦場に巻き込んでしまった人族には頭が上がらなかったのか、快くその地位を授けてくれた。ーーーという歴史があるらしい。

 

 

尚、その戦争で一番人族から出たのが、所謂、裏切り者である。『神』の名は、些か人の身には眩しすぎたのだ。結果、今でも「神の御許に帰還する」という名目を掲げて『人族の星』ではしばしば裏切り者の子孫が問題を起こす。

そんな感じで星間戦争から200年経った今、その問題に対応するのも、冒険者の仕事の一つだ。

 

 

「うーん……やっぱ報酬安いなぁ……」

「小物だったし、当たり前」

 

 

そんな中、私たちは冒険者の真似事をアミカと一緒にしていた。

 

より実戦形式で修行したかったのと、私がこの世界の事を知らなすぎたからだ。依頼を通じてこの世界の事を戦闘経験のついでに教えてくれるらしいので、アミカに付いて冒険者ギルドに加入した。

 

さっきも、一人、ネズミーーー裏切り者の子孫の事。神獣種の中でも狡猾で裏切りの多い存在であるネズミの神獣にあやかって名付けられた通称。『神』に関係ある事とその種族特性がマッチして今では大体この通り名で呼ぶーーーを狩って来たところだ。

アミカと二人で追い立てると、ネズミは大体、撒く為に人通りの多い大通りに出て人混みに紛れようとする為、そこを不意をついて【封縛】の鎖で捕まえるのが、お約束となっている。勿論、経験を積んだネズミには効果はないが、今のところ失敗はしていない。

 

 

「まぁ、報酬は置いといても、最近食材がなんか高いのよね。そろそろ大規模な収入がないと店の在庫が足りなくなる……」

「その節は……」

「ああ、謝らなくていいから。貴女の注文間違えにも慣れたし」

 

 

そうだ。こうして、冒険者の真似事をしているのは、私が注文を間違えまくったお陰で店の食料が少なくなったから、という理由もある。

ーーー早い話が、今月ピンチだから働いてこい、という事だ。あの時のクルシュさんの笑顔は怖かった……。

 

 

「そろそろ冒険者業にも慣れたし、大きな討伐依頼でも行く?ヒュドラ討伐とか、流石に普通じゃできない依頼も、エネの【封縛】があれば、デカイ的でしかないしね」

「賛成。そろそろ手柄を立てなきゃ、クルシュさんに申し訳ない」

「決まりね。じゃあ、後で依頼申請に行きましょう」

 

 

そんな約束をして、帰る。その日は、イメトレを欠かさなかった。

でも、私たちならどんな敵も勝てる。そう、完全に信じきっていたから、不安は微塵もなかった。

アミカとも、いいパートナーになって来た。ライバルとしても、これほどの巡り合わせは早々ないだろう。

 

ーーーそうして、幸せの中で家に帰り、私は眠りについた。

 

 

 

ーーーそんな淡い幸せは、近いうちに砕かれる事になるとも知らずに。




そういえば、気剣があるって事はクルシュマナってジルフさんの影響がある星ってコトなんだよなぁ……。


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