Skull (つな*)
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アルコバレーノ以前
skullの生誕


俺はスカルだ。


俺の名前はスカル。

イタリアの小さな村で生まれた。

俺は生まれた時から少し、いや…結構変わっていた。

前世……というものなのかもしれない……生後数秒で全く見知らぬ人物の記憶を持っていた。

朧気だが、確か日本人だったハズだ……多分大学生。

前世の記憶を持って生まれた俺は、人格が形成し切れていないうちに知識を詰め込まれたような奇妙な感覚のまま育った。

全く違う言語、風習、生活…全てが異なっていて常識を塗り替えるのは手間取った。

他の赤子とは違い全く泣こうとも、(わめ)こうともしない俺に両親は終始心配していた。

オムツの取り換えやお風呂の補助と、地獄の生活を3年ほど過ごしていたらある程度喋れるようになった。

それと比例して、周りからは気味悪がられた。

そりゃそうだ、まだ3歳というお子ちゃまが両親を気遣うとか、空気読むとか今思えばヤバかった。

あとはそうだな、子供の頃出来るだけ泣かないように我慢していたら声帯に異常を来していて、声を出し辛くなったことくらいか。

7歳の頃、自身の状態が気になった俺はオカルト分野に手を出した。

この時ぐらいから周りの子供に避けられたりした、まぁ子供に群がられても嬉しくはないんだが。

どれだけ探しても憑依経験や前世、今世とかの記述は一切なかった。

これで2ちゃんねるとかあったなら書き込んでいただろうが、残念なことにここはイタリアだった上に俺の家にはパソコンがなかった。

10歳の頃、ついに両親からは白い目で見られ始めたけれど当時の俺にとって些細なことだった。

というのも前世では両親とは超が付くほど仲が悪かったからだ。

それもあって親というものに良い感情はなくて、前世のあいつらとは別物だという理解が出来ていなかった。

今世の両親が亡くなった時に漸く自分の親不孝っぷりを自覚したがそれはまた今度語る。

15歳の時に両親が亡くなって、それと同時に地元を離れた。

両親の遺産と父親のバイクを無免許で運転して、取り合えず何か生き甲斐を探そうと思った。

無免許で運転してただけあって、何度か公道でスリップしたり立ちゴケしたりと色々恥かいた。

ちくしょおと思った俺は誰も入ってこれなさそうな山奥のような場所で一人淡々と練習した。

正直教習所に行けばよかったと思ったが、免許は16歳からしか取れないので仕方なく自力でなんとかする。

ボロくなっていた道が崩れて山の崖からバイクごと落ちた時は本気で死ぬかと思った。

あの時無意識でバイクを庇って自分を下敷きにしたのは自殺願望の気を疑った。

だがなんというか、俺は人間やめちゃってもおかしくない程頑丈で、何度死ぬ思いしていても無傷のままだった。

最近は慣れて、道から外れて高所から落ちそうになったら自分の身よりもバイクを庇うようになった。

そして16歳になる前に俺は山をバイクで制し、これからどうしようかと考えた。

バイクに乗れた達成感だけで燃え尽きた俺は仕事なんてしたくなくて、超安い家賃の賃貸を探してそこに住むことにした。

両親の遺産から見るに最低でも5年は何しなくても大丈夫だなと完全にニート生活する気満々だった。

それからは軽いドライブという名の自殺ルートの走行と、家でのんびりパソコンの前にいるだけの生活を送っていた。

最近はぬこ同好会に参加している。

初めてオフ会に誘われて、勇気出して赤の他人に会ってみた。

ここで俺には試練が待っていた。

地元を出て田舎に引き籠ってニート生活をしていた俺は数年も誰とも喋っていなかったのだ。

そう、完全なるコミュ障となっていた。

ご職業は?と聞いてきそうな相手の目に怯えて声が出なくなる。

っく、これがニートの弊害かよ。

もうどうにでもなぁれ、と思った俺は一言二言だけ何とか喉から声を絞り出して挨拶した。

その後は部屋の片隅でぬこ達と戯れるだけ戯れて帰った。

その後普通にニート生活をしていた俺が16歳になった頃だった。

 

「君のライディングテクニックは凄いな」

 

いつもみたく山の中走っていたら全く知らない男に声掛けられた。

 

「ああ、怪しいものではないよ…私はこういうものだ」

 

そう言って男が俺に差し出してきたのは名刺。

ふむふむ、〇〇企業って俺でも聞いたことあるな、多分大企業だな。

つーかこのおっさん社長かよ!

あと髪に蚊が止まってるよ。

 

「自社で配達員をメインにしたCMを作るつもりだったんだが君にはそのモデルになって欲しいんだ。勿論最初は配達の仕事だけで慣れたらモデルとして撮影させてもらう、君がその気であれば直ぐに雇用したい」

 

まさかの勧誘。

ふざけんな誰が仕事なんてするかってーの、名刺返すわ。

つーか蚊がうぜえ…さっきから俺の顔の周りを飛び回ってんじゃねーよ。

おっさんが顔つき変わった。

やべぇ、名刺をその場で即行返したのはあまりにも失礼だったかな。

ちょっと今日の所は退散…と。

 

「ま、待て!いくらだ、いくら欲しい?」

 

はぁ?お前の会社そこまで人手不足なのかよ!?

それもモデルって………俺が無免許なのバレるわ!

つーか俺はニート生活満喫したいんだよ……

ちくしょう、このおっさんいきなり怖い顔しやがって、俺の豆腐メンタルがやべぇよ。

ヘルメット被っててよかった、コレ絶対に目なんか合わせられるか。

にしてもどうやって断ろうか…配達のバイトって時給制だっけ…?

な、なら時給40ユーロ(5千円前後)ぐらいで引いてくれるかな。

俺は指を4本立てた。

 

「っな……いや、分かった、だがちゃんと渡し終えるのを確認するまで払うわけにはいかないぞ」

 

はい!?

お前時給40ユーロで承諾したの!?アホじゃねーの!?

いやそれよりもどうしよう!承諾されちゃったよ!

くっそ、俺のニートライフがぁ!

 

「指定の場所は後日改めて教える、連絡先を教えてくれ」

 

………おふぅ。

こんな怖いおっさんから逃げるとか無理だったんだ!

目を付けられたが最後だったんだ!

俺は項垂れながらメールアドレスをおっさんの名刺に書いて渡した。

も、もう帰るぅうう!

俺は泣きべそかきながらバイクを走らせて帰宅した。

3日後にメール来ていてテンションが下がりまくった。

受け取り場所…これは多分あのおっさんの会社かな、受け渡し場所…相手の会社か、なるほど。

若干遠いけどまあ数時間で終わりそうだな。

早く終わらせて家帰って休もうか。

当日に俺は指定された場所に行ってみると、黒スーツ着たいかにも怪しい男が立っていた。

ひぇっ、怖い、なにあれ怖い。

目が合った、死にたい。

 

「例のもんだ、指示通りの場所へ」

 

小さな箱渡された。

取り合えずこれを指定の場所に送り届ければいいのね。

にしてももうちょっと社員の人相は選んだ方がいいと思う。

箱をシートの下のトラックに収納した俺はバイクを走らせた。

指定場所は検索してめっちゃ確認したから大丈夫だとは思うけど。

た、多分この道を右だったかな…あれ、もう一個奥だったかも。

わばばばば、何だか山道に入っちゃった…これ完全に道間違えたわ。

取り合えず出れそうな場所見つけて……んー、凸凹な道が多いな。

荷物大丈夫だろうか…すげぇがったんがったん言ってるけど。

うげ、吊り橋…すごいボロいし、何だか看板にも崩壊注意って書かれてる。

でもまたUターンするのも嫌だし…突っ切るか。

ひょえ、ギシリって音鳴った!

これ絶対壊れるわ、やっべ早く突っ切ろう。

吊り橋渡り切ったら、後ろでベキバキって鳴り始めて吊り橋が落ちた。

もう一度言う、落ちた。

ひぃぃいいいい、セェェェェェェフ!

またバイクの下敷きになるところだったぜ。

結構走らせてるけど全く出口も分かれ道も見えねー。

あ、分かれ道!多分あれ左行ったら出れそうな気がする。

出れた!しかも目的地前!やったね!

目的地は港の倉庫街だった。

えーと、3番倉庫…3番倉庫…あ、あの人かな。

おいおい顔面にでっかい傷とかあるんですけど怖いんですけど!

マの付く人たちじゃなかろうな!?

 

「おめぇか、指定時間より少し早ぇが、早ぇに越したことはねぇな」

 

この人かな?

周りに誰もいないから多分この人だろうね。

トランクから箱を取り出して男性に渡すと、ちょっと待っとけって言われた、何故に。

箱の中身を確認中らしい。

 

「よし、数は揃ってるな、もういいぞ」

 

帰るか。

再び家に向かってバイクを走らせて帰宅。

所要時間6時間…これで時給40ユーロだろ?えーと…240ユーロ!

おお、お小遣い稼ぎとしては最高だな、ドライブ感覚だし。

翌日、事前に指定した口座に入金したというメールが来たので確認してみた。

……?あれ、俺目が可笑しくなったのかな?

ひーふーみー…ご、5000ユーロ!?

う、嘘だろ、桁間違ってるぞおい!

いやいやいや、だがここで間違ってますよなんて確認とったら金額引かれる。

………黙っておこう、うん。

全ては俺のニート生活の為だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルカッサファミリーside

 

「ボス、少し小耳に入れたい話が」

「何だ」

「どうやら最近、近くの山の中で謎のドライバーが出没するようで」

「それが何だと言うんだ」

「そ、それが…その者のライディングテクニックが逸脱しているとの話を聞きまして、フリーであれば我らの専属運び屋にすることも吝かではないかと…」

「ふむ………なるほど、どれほどの腕前だ」

「は、こちらにその動画を」

 

最初は部下が耳に入れたくだらない話だと思っていたが、動画を見てその考えを撤回した。

崖を物怖じせず降りていく姿や、道なき道を走る姿、中でも衝撃的だったものは峡谷(きょうこく)(また)いだものだ。

この者の技術は素晴らしいの一言では片づけられなかった。

死の隣をまるでドライブ感覚のように走るこの男に興味が沸く。

 

 

「私が直々に声を掛ける」

 

先ほどの動画を見て、私自身がこの男と話をしたいと思ったのだ。

男の出没頻度を考えると運び屋として働いている者ではない。

だがここまでの腕を持つ者がただの一般人として埋もれていたという話も(にわ)かに信じがたかった。

思考を重ねた結果、最初は一般人として接した方が良さそうだという結論に達した。

自社での配達員のモデルとでも言って勧誘するのがいいか。

カルカッサファミリーの表の顔は大企業、就職先としては申し分ないだろう。

ゆっくりとこちら側に引き込めばいいのだ。

数週間後、部下たちには近くに潜ませて私はその男がよくいる場所へと向かう。

数分待機していると、遠くの方からエンジン音が聞こえてくる。

そして段々近づいてくる音を耳で辿り上方を目を凝らして見ると、何かがこちらに落ちてくるではないか。

それがバイクだと理解すると私は焦ってその場から離れた。

空から降って来たバイクは綺麗に着地し、弧を描くように前輪を軸に一周回ると、ドライバーが地面に足を付ける。

私はその一連の動作に目を奪われていた。

魅せられたのだ。

心の奥から湧き立つ興奮を抑え、私はその男に声を掛けた。

 

 

 

「君のライディングテクニックは凄いな」

 

心の底からそう思った。

なんとしてでもこの男を我がファミリーに欲しい!

そう決意した私を見定めているのか沈黙する男はヘルメットを外す気配がない。

ふむ、警戒されているのか?

 

「ああ、怪しい者ではないよ…私はこういうものだ」

 

表の顔としての名刺を渡すと、男は名刺を数秒見つめる。

 

「自社で配達員をメインにしたCMを作るつもりだったんだが君にはそのモデルになって欲しいんだ。勿論最初は配達の仕事だけで慣れたらモデルとして撮影させてもらう、君がその気であれば直ぐに雇用したい」

 

男は私の言葉を聞くと、名刺を返してきた。

何故、と口を開こうとしたその時だった。

男が数か所の方角を見回した。

その方向は部下を潜ませている方角だと分かった私は、この男への警戒を高めた。

距離の離れた場所にいる気配にも気付くだと!?この男一般人ではなかったか!

この男は銃口を向けられると分かっていた上でこの私に名刺を返したのか。

肝の据わっている奴だ。

これはますます我がファミリーに欲しくなった。

 

「ま、待て!いくらだ、いくら欲しい?」

 

帰る仕草を見せた男に私は慌てて引き留める。

ここで逃がしてなるものか。

この男の実力はカルカッサファミリーの勢力を拡大するには必要だ。

そう思うほど、私はこの男に魅せられたのだ。

男は右手の親指を曲げ、指を4本立てた。

 

「っな…」

 

400…いや4000ユーロか、なるほど……自身は安くないということか。

 

「いや、分かった、だがちゃんと渡し終えるのを確認するまで払うわけにはいかないぞ」

 

だから貴様の実力を私に見せつけてみろ、と暗に告げた。

私の期待以上の働きをするのなら金額の上乗せも(やぶさ)かではない。

 

「指定の場所は後日改めて教える、連絡先を教えてくれ」

 

私は名刺とペンを彼に渡すと、彼はスラスラと書き終えて差し出してくる。

ふむ、メールアドレスか。

その後何も言わずに男はその場を去った。

 

「ああ、名を聞くのを忘れていたな………」

 

遠くなるエンジン音を聞きながら、名前を聞き忘れていたことに気付く。

顔はおろか声すらも聞くことが出来なかったな。

それほど警戒しているのか。

私は口角を上げてその場を去った。

 

数日後、あの男の指定した連絡先へ仕事内容を送るよう部下に命令する。

 

「仕事内容はどうされますか?」

「××ファミリーとの取引がある、例のものを運ばせろ」

「あれを運ばせるんですか!?そのまま姿を消したらどうするんすか…」

「その時は奴ごと見つけ出して殺せばいいさ」

 

アレは、あの過激でマッドサイエンティストなエストラーネオファミリーでさえも喉から手が出るほどの薬品、恐らく奴等は何かしらの手段を用いて取引を妨害するつもりだ。

ここであの男の実力を図るのもまた一興。

ブツに発信機を付けて、あの男に渡す。

そして衛星にハッキングして上空からも動向を探った。

男がブツをシートのトランクに入れてバイクを走らせた。

私が男の動向を見ていると、部下から連絡があった。

 

『どうやらエストラーネオファミリーが待ち伏せをしているようです、どうしますか』

「ブツを奪われると判断した時点で運び屋諸共爆撃して殺せ」

『了解しました』

 

やはり来たか、やつらめ。

エストラーネオファミリーが待ち伏せしているであろう場所を通るというとこで男はいきなり右に曲がり出した。

 

「待ち伏せに気付いていただと!?」

 

私は思わず声を上げて食い付くように画面を凝視する。

男はどんどん山道に入り、エストラーネオファミリーの追跡を振り切った。

障害を避け道とも言えぬ道をバイクで駆ける姿はまさにプロの運び屋。

ああ、期待以上ではないか!

数時間後、男は取引場所である倉庫街に着き、ブツを渡してその場を去っていった。

思いもよらぬ掘り出し物をした気分になり、元々の料金である4000ユーロに1000ユーロを追加して、指定の銀行に振り込んだ。

それと同時に男の個人情報を探らせていた部下が報告してきた。

 

「ボス、あの男に関してですが…その、個人情報という情報が何もかもなくて」

「何だと?」

「唯一割り出せたのは、あの男の名前のみです」

「彼の名前は何という」

「……スカルです」

 

 

スカル…スカルか。

 

「運び屋スカル…聞いたことあるか?」

「いえ、ありません」

「あの技量、1~2年で身に付くものではない…スカルという男は謎に包まれているな」

「どうしましょうか」

「まぁいい、他のファミリーに取られる前に我がファミリーに引き込むぞ!」

「はい!」

 

 

 

あの男はカルカッサファミリーを強大にするにはもってこいの男だ。

何よりも私に魅せつけた実力は、他のファミリーへの抑止にもなりそうだ。

 

 

「運び屋……スカル…」

 

 

 

その後、運び屋スカルをカルカッサファミリーの専属運び屋として雇うまでに半年という月日と労力を費やすことになるとはこの時の私は思いもしなかったのだ。

 

 

 

 

 

 




無自覚で罪を重ねまくるスカル君と恐怖するその周りのお話かもしれない。

5000ユーロ≒65万円


なんとなく浮かんだネタを投下。
現在エタ率40%…。
多忙な毎日が半年くらい続く為不定期更新だが、一応2週間に1回は更新したい。




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skullの所業

俺は悲しかった。


頻繁にPCメールの方にあのおっさんから仕事のスカウトがすっごい来てウザイこの頃、俺は今日もニート生活を満喫している。

そしてこの前ゴミ出ししようと部屋を出たら大家さんがゴミ出し場の曲がり角で他の住居者とお話している姿を発見した。

挨拶しようか過ぎ去るか、はたまたいなくなるまで部屋に戻って待つか迷ってたけど、もう一度戻るのも面倒だと思い通り過ぎることを選んでゴミ捨て場に向かった。

顔出しが恥ずかしい俺はいつも外に出る時はマスクかヘルメットを着用してる。

すると大家さんが俺の存在に気付き声を掛けてきた。

ぐぬぬ……無視して欲しかった。

 

「スカルさん、あんたちゃんと分別してるんだね」

「……」

「これから学校かい?」

 

ぐっふ、俺のガラスのハートに深々と突き刺してくるぜコイツ。

少しだけ首を横に振って、大家さんの横を通りゴミを捨てに行く。

家に帰ろうと大家さんに軽く会釈して横を通り過ぎる。

少し離れて、もう声掛けられないだろと息を吐いた時だった。

 

「マスクして目もあんまり合わせない…まるで不審者ね」

「これ、彼に聞こえるでしょ」

「確かスカル君だったかしら?あの子何をしているの?」

「さぁね…確か16歳だからまだ学生じゃないかね、得体のしれない子だよ」

「ふぅん、親は何してんのか」

 

あああいつらぁぁぁぁぁぁああ、俺の豆腐メンタルに容赦ねえ!

っていうかマスクしてんだから風邪って思えや。

ちくしょう、もう暫くは籠ってやる。

ニートはそこまで罪かよ、泣きたい。

あれから二日に一度の頻度で社長さんからメール来る。

俺就職する気ないですから全部蹴ってるけど。

でもあれから一か月経つからなぁ小遣い欲しい。

…………す、少しくらいならアルバイトしてやらないこともない。

また数日後に勧誘もとい依頼が来たので承諾の返信をすると、即行返事返って来た。

今度も前回と同様ただの配達。

いつも通りの場所に行ってみると、前回と同じ怖い男性が立っていた。

前も思ったけどもう少し従業員の人相には気を遣おうよ。

ん?ちょっと待て、何だその大きな箱は……。

なんか臭い…なんだろう…この、鼻にツンとくる匂いは。

 

「これを指定の場所に」

 

バイクに匂いが付かなきゃいいんだけどなぁ。

いつも通りびゅんびゅん飛ばしてたらまた道間違った。

ここ治安が悪いから怖い。

早めにこの地域を抜け出せるように速度あげて走っていると、曲がり角でドラム缶に足が当たってしまった。

あちゃー、ドラム缶倒しちゃったけど俺バイク乗ってるし追いかけてこないよね、うん。

少し走っていると後ろの方から小さく爆発音が届いた。

ひぇ、やっぱりこの地域治安悪すぎだろ、日常茶飯事で爆発沙汰とか…

内心ガクブルのまま地域を抜け出すことだけを考えていると、大通りに出れた。

確か、ここは………ああ、指定場所の隣町か。

無事届けた。

商品の確認してもらって、大丈夫だったので帰ることに。

家に帰るとPCメールで受け渡し確認メールと一緒に振り込んだとの通知が来てた。

仕事早いなぁ…

今回も5000ユーロ……やっぱりおかしいよなぁ。

こんな簡単な作業でこんなに貰えるとか、これ絶対にあっちが桁間違って入力したまま気付いてな…いや、忘れよう、これは全て俺の金だ。

あれから月1で配達アルバイトをしているが、正直このバイトだけで生計が成り立っているという。

基本働きたくない俺は家でぐーたらしてるか、PC弄ってるか、ドライブするかだ。

そろそろペットでも買おうかと思っているがこの賃貸はペット禁止であることを思い出して引っ越しを考えている。

あれから数か月後、俺はというと陸上バイクそっちのけで水上ジェットスキーに嵌まっていたりする。

勿論無免許。

正直免許いちいち取ってたらキリがないと思って、免許取得すっ飛ばして実践からした。

購入自体免許いらないし直ぐ買えたはいいけど、高性能な分俺の半年分のアルバイト代がパーになった。

ちくしょう。

誰もいないことを確認してジェットスキーで遊ぶ日々を送っているとあることに気付く。

か、金がない。

親の遺産がまだあったハズと通帳を見ると残り300ユーロしかなかった。

辛み。

何に使ったんだろうと思い出して見ると、そういえばこの前バイクの部品買って勝手にバイク改造したわと思い返した。

いくつか高性能エンジン購入したからかぁ…

悩みに悩んだ末、未だに続くアルバイト先の社長さんの勧誘に返事をして正規雇用にしてもらった。

とはいっても月一が週一になっただけだけど。

これで貯金が安定したらまた月一に変えてもらう。

ついに俺も脱ニートか。

さらばだ愛しのニート生活、再び戻ってくるまで暫しの別れだ。

一回につき5000ユーロって凄くね?

これなら直ぐに貯金溜まりそうですな、うん。

それからまぁ数か月はアルバイトしてた。

中にはリアルを忠実に再現した武器類の玩具とかあった。

お金の匂いがするアタッシュケースとかあったけど、これは俺が正規雇用になったからか?

一応若干は信用されてんのか。

そういえば会社の方から拳銃を支給された。

最近の配達地域は治安悪いからって理由でだと思うけど、イタリアだもんな…多分普通のことなんだろう。

俺的に拳銃は怖いからスタンガン常備してる。

一応拳銃も持ってはいるけど使う機会は一生来ないだろう。

最近会社の同僚と仲良くなった。

飲み物とかお菓子を持って来たりしてくれてとっても気の利く子だ。

仕事帰りに飲み物をくれた彼にはすごく感動した。

いつも銃の練習してるけど一体何を目指しているのやら。

この前俺にも撃ってみるよう言って来たな、だけど俺は銃なんぞ撃ったことないぞ。

正直銃は人を殺す為の道具だから持ちたくもないんだが、治安悪いし会社の方針だから仕方なく持ってるだけだ。

従業員の安全を考慮してくれる会社で良かったけど。

撃ってみたはいいけど十発中一発しか当たらなかった。

ふ、見たか俺の射撃のセンスを。

ねぇ無言にならないでよ、俺が可哀そうになるじゃん。

別にいいじゃん!

俺にはライディングテクニックがあるんだから!

っていうか俺配達員だよ!?銃の狙撃技術なんかいらないじゃん!

始終無言だった同僚を置いて帰って家で泣いた。

そんな生活を数か月、明日で俺の17歳の誕生日だ。

別に誕生日なんか祝ってくれる人がいないからどうでもいいんだけどさ。

たまたまケーキ食べたかったんだよ、うん、きっとそうだ。

 

「ハッピー…バースデー……トゥー…ミー………」

 

ふと思い出したように呟いたら予想以上に心に刺さった。

泣いてねぇし、これ汗だから!

ちくしょう…ニートでもないのにこの世は俺に厳しい。

二度とケーキなんて買うかと思いながら全部平らげた。

17歳になった俺だが、貯金も結構溜まって来たので今日やる仕事終えたら辞職しようと思う。

ニートライフに戻りたい。

いつも通り待ち合わせ場所に行くと、USB渡された。

多分今日はこれ持ってくんだろうなと思ったらまた別のもの渡された。

 

「それと、これはボスからだ…今回の相手は一筋縄では行かないだろうと配慮して下さった」

 

…社長から?今回の相手って何ぞや。

取引先が一筋縄ではって…ああ、クレーマーってことね。

大方これはその時に一緒に渡して機嫌でも取っとけってことね、ハイハイ、分かりましたよ。

ってなわけで行ってきます。

今日の行先は…と、ちょっと遠いな。

近道…近道…ああ、あの山そのまま越えれば1時間は短縮出来そう。

どうせUSBだし結構険しい道行っても大丈夫だよな。

と思った俺は険しい山道を上がっては下りての繰り返しで走る。

何だかたまに通った直ぐ後で土砂崩れ起きるとこあったけど、ここ地盤緩いのかな。

山道を抜けて、公道を走ってるけど田舎だからか全く人も車もいない。

右見ても左見ても牛と牛とたまに羊しかいない。

ふと速度見てみると余裕で時速200㎞超えてた、わぁすげー。

田舎を抜けてまた人通りのある場所通って、漸く目的地まで1時間ってとこで俺はやっちまった。

社長から渡された奴を落としてしまったのだ。

さっき落としたことに気付いたけど、どこで落としたかサッパリ分からない。

小さい箱だからってポッケに入れたのは間違いだったか。

給料から引かれるなこりゃ、ちくしょう。

気を落としていると反対車線に救急車が何台も見えた。

何か事故でもあったのかな、それよりもあんなに救急車が並んでるの初めて見た。

その後無事本来の商品を渡す。

相手全然クレーム付けてこなかった。

多分ルート短縮して配達時間をおもっくそ削ったからかな…よかった。

さっき救急車が沢山走ってたから多分どっかで大事故あったんだろうなぁ。

渋滞していそうだったので別の道から帰った。

ふわぁ…つっかれたぁ…

あ、ヘルメット外すの忘れた……

 

「やはり君が適任だな、運び屋スカル」

 

!?

 

仕事から帰ってきたら仮面付けてコート着た不審者が不法侵入していたなう。

一瞬俺の脳裏には【不法侵入者 撃退 警察】検索、の文字が浮かび上がった。

あわばばばば、不審者だ…。

それも何気に俺の使ってる若干高かった椅子に足組んで堂々と座ってやがる。

 

 

 

 

「私は今、世界最高の❝選ばれし7人❞を集めている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルカッサファミリーモブside

 

 

「最近ボスが目を付けてる運び屋知ってるか?」

「ああ、あの運び屋ね」

「俺この前見たんだけど、ずっとヘルメット被って無言だったぜ」

「特定されると困る人物…か」

 

そんな会話をしている仲間の隣で俺はただボスが使うであろう銃を磨いていた。

俺はカルカッサファミリーの下っ端だ。

ハッキリ言って雑魚だ。

高校時代に少しやんちゃしてて、そのままマフィアに片足突っ込んでしまっただけの雑魚。

今思えばあの時の自分は馬鹿だった。

マフィアがカッコいいとか思ってた当時は、ただ上に上がりたくて命令されるがまま一般市民を恐喝して金を徴収していたけど、今になってこのままでいいのかと思い始めた。

収入と言っていいのか分からない程の微々たる月給。

下っ端は全員生きていくだけで精いっぱいな生活を送っていた。

それでも逃げたら殺されるだろうし、足抜けに必要な金すらない。

泥沼にどっぷりと嵌まる人生に溜め息しか出ない毎日だった。

そんな毎日を過ごしていると、ある日、ボスが偉く気に入った人物がいるという噂を聞いた。

ライディングテクニックや人の気配を読む鋭敏さ、そして度胸、それら全てにボスが魅せられたのだと。

その男の名はスカル。

ついにはスカルを専属の運び屋として、いや、カルカッサファミリーの一員として欲しいと言い出したボスの命令で俺達はスカルを捜索し出した。

だがスカルの足取りは全く掴めない。

約一か月に一回の頻度でボスの依頼を受けるスカルを何度尾行しようとしても直ぐに振り切られる。

あんな速度出しておいて、あいつ絶対人間じゃねぇって思った。

追跡中にスカルが山道を走っている最中、峡谷(きょうこく)をバイクで助走をつけて越えたのをこの目で見た時思ったね。

こいつは狂人だ、と。

一歩間違えれば死、それを楽しんでやがる狂人だと。

そりゃボスも気に入るはずだ。

俺にはそんな度胸も技量もないし、いつまで経っても下っ端な理由がなんとなく分かった。

そして少しだけ、スカルという男に憧れと嫉妬を持つようになった。

あれから半年が経過し、漸くボスがスカルと専属契約を結ぶことが出来たと聞いた。

その時のボスの喜びようは尋常じゃなかった。

だが分かる、その喜びを。

この半年で彼がボスの依頼を受け取った回数は6回のみ、だがそれだけでも彼の実力を思い知らされたのだ。

邪魔する者には死を。

それを見せつけられたのは3度目の依頼の時だった。

名を広めていた中堅どころの敵ファミリーのボスを暗殺した際に、そのボスの遺体を俺のボスは持ち帰った。

そしてボスを殺されたファミリーと敵対関係にあるファミリーに殺した証拠として死体を送り付け、同盟を組んだ後ボスのいないそのファミリーを潰そうと考えたのだ。

影武者で何とか部下と敵対ファミリーを騙し切っているそのファミリーは勿論自分たちのボスの遺体を血眼になって捜索していた。

そんな遺体を運ぶという大役をスカルに任せたのだ。

スカルは何の不満も見せずにバイクの後ろに死体の入っている箱を括りつけてバイクを走らせた。

そこからが目まぐるしかった。

まず死体の移送を聞きつけた敵ファミリーが妨害しようと画策していると、スカルが走行ルートを急に変更し、街中へと入っていったのだ。

そして狭い道路を障害を避け続けながら通り過ぎていく。

だがそれでも離せなかった尾行にスカルは漸く非道な行動へ移したのだ。

曲がり角で灯油の入ったドラム缶を足で蹴り倒した。

そしてドラム缶から漏れた灯油で尾行車の一台がスリップを起こした。

スリップした車は民家へ激突の際、ガソリンと地面に広がる灯油に引火し大規模な爆発を起こした。

市民の死者は出なかったが数百人におよぶ重軽傷者が出た上、尾行していたファミリーの一員は全員死亡した。

その後スカルは何事もなかったかのように死体を運び終えた。

あれほどの大惨事を起こした本人は無言で闇に消えていった。

この事件を機に、イタリアンマフィアの大頭であるボンゴレが、スカルを危険視し始めたのだ。

元々ボンゴレとは敵対関係だったカルカッサファミリーは、スカルを喉から手が出るほど欲しがった。

全てのファミリーに対して抑止となる存在が直ぐ近くにいるのだから、その渇望は何ら不思議ではなかった。

この時点で俺の中では、スカルさんへの恐怖と憧れと崇拝が綯い交ぜになっていた。

だから、7回目の依頼の際スカルさんがボスの勧誘を受け入れたという事実を聞いた時の喜びは計り知れなかった。

それからは週一で本部にスカルさんが訪れ、俺は彼の姿をこの目に収めることが出来た。

顔も声も何も明かさない彼を憧れる者は少なくなかった。

専属契約した後も彼は忠実に依頼を遂行していた。

そして彼の影響力は大きかった。

邪魔をする者には死を、彼の座右の銘とすら思えるこの言葉は一時期マフィア界を恐怖に陥れた程だ。

そんな中で自然とついていった彼の二つ名…それは、狂人の運び屋。

まさに彼を表しているではないかと俺はその二つ名を気に入っていた。

彼は狂人であるが故に畏敬され恐怖され、そして人を魅了する。

ああ、一度でもいいから彼の声を聞いてみたい、と誰もが思うようになっていた。

 

 

 

 

ある日雑用をしていた俺は、休憩がてら飲み物を数本買って先輩たちに渡そうとしていた。

そんな時、廊下を歩いていると向こう側からヘルメット被ったライダースーツの男が現れたのだ。

そう、スカルさんだ。

俺はいきなりのことで体が固まるも、彼を間近で見た事実に歓喜した。

そして俺は勇気を出して声を掛けたのだ。

 

「あ、あの……お仕事、お疲れ様です」

「…」

「こ、これ!良ければ!」

 

そう言って持っていた数本の飲み物を彼に差し出した。

本当は先輩にあげようと思っていたけれど、だなんて全く気にしなかった。

ただ今は目の前の彼の姿を脳裏に焼き付けていたかったのだ。

彼は無言のままじっと俺の持っていた飲み物を見つめていた。

やはり他人からのものは警戒しているのだろうか、と諦めようとした時だった。

 

 

「……ありがとう

 

 

ポツリと呟いたソレを幻聴かとすら思った。

 

声が、あの、スカルさんの、声が…

 

目を見開いて固まっている俺を他所に、彼は差し出した飲み物の中から一本だけ取ってそのまま出口に向かって行った。

彼の背中が見えなくなった後、俺はその場で座り込んだ。

頭から離れない彼の声に漸く我に返ったのは、いつになっても帰ってこない俺を探した先輩に声を掛けられた時だった。

俺はその時渇望した。

 

あの人の為に生きたい、と。

 

ボスの為でもなく、ファミリーの為でもない……スカルさんの為に死にたいのだ。

齢21歳にして俺は漸く自身の生きる意味を見つけた気がしたのだ。

それからスカルさんには積極的に声を掛けていくようにした。

少しでも俺の顔を、声を覚えてもらうために。

いつの日だったか、俺は彼に射的を教わろうと思った。

射的場へと連れてきた時にふと思った。

彼の射的レベルを俺は知らない…否、誰も知らない…と。

スカルさんは無言のまま懐から銃を取り出しては、構えずにじっと的を見つめていた。

一瞬だった。

彼が構え無しで的に向かって10発撃ち込んだのだ。

隣にいた俺も、周りいた仲間も全員がスカルさんの動作に固まっていた。

何故なら、スカルさんが撃った10発の弾丸は全て1㎜も違わずに同じ場所を貫いていたからだ。

あの位置にある的を数㎜も違わず同じ場所へ打ち込んだスカルさんに誰もが絶句した。

そして(おもむろ)にスカルさんは銃を仕舞い込み、射撃場を出ていった。

この話は逸話としてマフィア界に瞬く間に広がったのは言うまでもない。

着実に、そして恐ろしい程マフィア界に恐怖を植え付けていく彼が、俺にとって全てだった。

 

「ふん、あのボンゴレが手を出しかねている様は滑稽だな」

 

肩を震わせて笑っていたボスの姿を見て、俺はそれもそうだと思った。

カルカッサファミリーはここ一年で凄まじく巨大になった。

九代目ボスが温厚であるボンゴレを思えば、非道で恐怖の対象と言うのならカルカッサファミリーの名が先立つのではないだろうか。

カルカッサファミリーの規模拡大もあるが、何よりもスカルさんの実力と思想と所業が最もたる理由だろう。

虎の威を借りる狐とカルカッサファミリーを嘲笑えるほど誰も自身の命が惜しくない者はいなかった。

そんな巨大化した組織の中で劇的に変化したのは金回りだろう。

俺の給料も多少増え、生活に困ることはなくなったが、それでも余裕があるわけでもなかった。

だがそれでもいいと思った。

彼を敬愛するだけのこの毎日が酷く幸せなのだ。

 

 

そんな中、ボンゴレが遂にスカルさんに手を出した。

いや正確にはボンゴレの傘下であるファミリーが、である。

極秘情報を運んでいたスカルさんを捕縛または殺害しようと企てたのだ。

結果、何十年先も語り継がれる程の大惨事となった。

ボスが密かに渡したとされる爆弾を爆破させたとのことだった。

重軽傷者は市民を合わせて数百人、死者を百人近く出した。

今回はボンゴレ関連の機密とあってボスも十分警戒していたようで、スカルさんには十分殺傷能力のある爆弾を渡していた。

だがそれだけだったならここまで大惨事になることはなかっただろう。

問題はスカルさんが爆破させた場所だ。

エネルギー開発局の支部である水素保管庫の直ぐ近くで爆発を起こしたのだ。

爆発の衝撃で保管庫は破損、そして空気中に散乱した水素が爆発し、最悪の事態を引き起こした。

そして今回の被害を主に被ったファミリーは全滅。

この所業に漸く重い腰をあげたボンゴレだが、未だボンゴレには敵が多い。

現在、四方へと戦力を分散出来ないボンゴレとカルカッサファミリーは睨み合いのまま膠着状態となっている。

 

ああ、やはりスカルさんは凄い。

なんたって弱小だったカルカッサファミリーをボンゴレさえもが手をこまねくほどの大組織にしてくれたのだから。

そして、やはりあなたは狂人だ。

幾人もの命を何のためらいもなく葬るのだから。

 

 

だけど 狂っている あなたに

 

俺は 狂おしいほど 

 

 

心酔しているんだ。

 

 

 




スカル:無自覚に罪状を重くしていく、狂人()。
モブ:スカル信者1号
カルカッサファミリー:虎()の威を借りる狐、彼らはハリボテの城を前にして威張り散らしていることに気付いていない。




現在エタ率40%…
一番書きたい所までが頑張ります。


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skullの印象

俺は怖くて仕方がなかった。


そこはとある一室、7名の人間が集められた場所である。

7名はとある一人の男によって選ばれ集められた。

そして集められた彼らは、男の持ってくる依頼をチームとして遂行することを前提に雇われたのだ。

 

「私はルーチェよ」

 

最初に若い青緑がかった黒髪の女性が自身の名を口にした。

 

「ジッリョネロファミリーのボスを務めています、どうかあなた方の素性を軽く教えて下さい」

「そうだな、これからチームとして依頼を任される身…最低限の自己紹介はしておこう」

 

インテリそうな雰囲気を持った白衣の青年がルーチェという女性に賛同した。

 

「私の名前はヴェルデ、科学者だ」

「ほう、あのダ・ヴィンチの再来と謳われた天才科学者か…興味深いな」

「私を知っているか、まぁその道の者ならば一度は耳にする名だろうがな」

 

次に黒い帽子を被っている黒スーツの男性がヴェルデという科学者の名に反応した。

 

「俺の名前はリボーン、ただの殺し屋だ」

「お前の名は聞いたことがあるぞ、最強の殺し屋」

 

リボーンという男に喋りかけたのはルーチェとは別の女性だ。

 

「俺はラル・ミルチ、イタリア海軍兵士だ」

「君のことは知っているよ、同じイタリアで活動している者ならば皆知っているんじゃないかい?」

「そういうお前は何者だ」

 

ラルが自身の名を知っていると口にしたフードの人物に問いかける。

 

「僕はバイパー、情報屋さ」

「あなたの名前は私の耳にも届いていますよ、情報屋バイパー」

「ふぅん、そういう君は僕の情報リストに載っているよ」

 

バイパーが目線を移した先にはチャイナ服を着た男性が涼やかな表情で佇んでいた。

 

「私の名前は風、中国の武道家です」

「お前は俺も知っているぞ、中国武道大会で優勝していた奴だな」

「ええ」

 

リボーンが風に喋りかけ、観察している。

数秒の間、皆がとある一人の男へと目線を移した。

未だ自己紹介をしていない最後の一人だが、その人物はヘルメットを被っていて顔が視認出来ていなかった。

ルーチェが腕を組みながら黙っているその男に優しく問いかけた。

 

「あなたで最後です」

 

静かな空間の中で、その男は影と同化しそうなほど闇を背負っていた。

この場にいる者ならば誰もがそれに気付くほどである。

この男は危険であると頭が警報を鳴らしていた。

 

この男からは死の匂いがする。

 

幾多の命を葬り、死がこの男にこびりついている。

ヘルメットで顔が見えずともこの威圧感…こいつは危険だ。

その場に居た者がその時、同じ緊張を、警戒を、その男に向けていた。

そんな中、ついに男が一言、呟いた。

 

 

「…スカルだ」

 

 

 

たった一言、されど一言。

その一言にどれ程の闇を垣間見ただろうか。

僅か1秒の時がその場に居る者を縛り付けるかのように殺意で威圧する。

誰もがその男から目が離せなかった。

離せば、そこで、自身の命の終わりを感じたからだ。

深淵を覗いているような、いや覗かされているような感覚に吐き気が襲う。

そんな中最初に我に返ったのはヴェルデだった。

 

 

「……スカル、君はあの狂人の運び屋、スカルか!」

「何だって!?」

 

ヴェルデの言葉にバイパーが驚きの声を上げる。

狂人の運び屋・スカル。

狂人の運び屋と呼ばれる彼の逸話は数知れず、裏の者であれば誰しもが知っている男だ。

彼の運び屋としての仕事の遂行率は100%、つまり今まで失敗したことがないのだ。

麻薬、武器、金、情報、死体、何でも運ぶこの男に失敗という文字はない。

時には色々な組織がこぞってスカルの殺害を企てたが敢え無く失敗、その上大損害を被ったという。

この男に容赦の二文字は存在しないのだ。

邪魔をする者には死を、それを貫く姿はまさに悪。

ただ奴の姿を見ることは珍しく、根城を突き止めた者はいない。

それは一重にスカルの逃走技術、いわば身体能力と判断能力、そして狂った行動力が理由だ。

誰がビルの屋上から飛び降りようなどと考えるだろうか、誰が目の前に向かってくる車にバイクで突っ込もうと思うだろうか、誰が氷湖に飛び込もうと思うだろうか。

狂った野郎だと鼻で笑うには、スカルは成果を上げ過ぎていたのだ。

死を恐れるどころか自らが死に急いでいるような彼の行動に誰もがこう呼んだのだ。

 

狂人の運び屋、スカルと――――――

 

 

現在カルカッサファミリーに雇われて専属の運び屋をしているようだ。

そのせいでカルカッサファミリーが段々と勢力を伸ばしつつあり、ボンゴレも彼らの動向には注意を向けている現状だ。

つい先日に、ボンゴレ傘下のファミリーがスカルによって滅ぼされたのだ。

スカルの持っていた情報があまりにも極秘で、最大警戒の下スカルを捕縛、又は殺害しようとした為に起こった大惨事だった。

死者は百人近くにも上り、重軽傷者は数百人を出した。

ボンゴレ九代目と懇意であるリボーンにとっては、忌避すべき存在でもあった。

腕組みをしたまま微動だにしないスカルを睨みつけ警戒を露わにするリボーンとその周りに一人の声が響き渡る。

 

 

「やぁ、諸君」

「「「「「「!」」」」」」

 

スカル以外の全員が声のする方へと視線を向ける。

そこには仮面をつけスーツを着た男が現れた。

 

「チェッカーフェイス…」

「そろそろ仕事の時間だ、君たちにはこの仕事を遂行してもらいたい」

「待て、それは必ずしもチームでなのか」

「何か不満でも…?」

 

チェッカーフェイスと呼ばれる男の言葉に口を挟んだのはリボーンだ。

 

「百歩譲ってチームはいい、だが狂人スカルがいるとは聞いてねぇ…この件下りさせてもらうぜ」

「私情を挟むとは…最強の殺し屋が聞いて呆れる」

「……てめぇ」

「私はこのメンバーで構わない、チェッカーフェイス」

「!」

 

椅子から立ち上がるリボーンとチェッカーフェイスの睨み合いの中、ヴェルデがそう言い放った。

他は目を見開く。

 

「運び屋と相見えるなど早々ない機会だ…是非とも彼のデータを取りたいものだ」

「このマッドサイエンティストが」

「おや褒められているのかな」

 

自身の安全よりも好奇心を選んだヴェルデに毒を吐くリボーン。

 

「私もこの者達に不満はありません」

「私もです」

 

ルーチェと風がヴェルデに次ぎ、その後にバイパーとラルが渋々と頷く。

私情とプライドの葛藤の末、舌打ちをしながらリボーンまで椅子から上げた腰を下ろす。

 

「全会一致のようで嬉しいよ、では今回の仕事だ」

 

チェッカーフェイスは涼しい顔でそう言い放ち、彼らに資料を渡したのだ。

不穏な雰囲気の中、スカルはただその場で腕組みをしながら話し合いの行方をじっと、黙ったまま眺めているだけだった。

狂人の運び屋スカル、彼がこの場で口にしたのは自身の名前のみだったが、それで良かったと安堵するものは一体幾人いたことだろうか。

話を進める中、リボーンの射殺す様な視線を浴びながらもスカルは沈黙を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

 

 

「やはり君が適任だな、運び屋スカル」

 

 

ドライブから帰ってきたら仮面付けてスーツ着た不審者が不法侵入していたなう。

え、え、何この人、警察案件?警察案件?

あれ、警察って何番だっけ。

 

「私は今、世界最高の❝選ばれし7人❞を集めている」

 

うぼあ、何か喋った。

ビックリし過ぎて聞き取れなかった。

え、何?何を集めてるの?

何か話勝手に進んでいってるけど、警察呼んで早くお帰り頂きたい。

ひょえ、たたたた立ちやがった。

警察に通報しようと思ってすみません!

あれ?もう帰るの?良かった。

不審者が勝手に喋って勝手に帰っていった。

変な奴だな、にしてもいつ俺の居場所が割れたんだろうか。

ふむ、この家とはおさらばだぜベイベー。

三日後、必要最低限の荷物を纏めて愛車に跨り今まで住んでいた家をおさらばする。

行先は未定。

てきとーに不動産屋見っけたらそこで物件見て決めるか。

バイクに跨って道路とは言えない様な道を走っているが、道路だと直ぐに速度制限引っ掛かるからだ。

その後直ぐに不動産屋見つけて物件を見回って、中々見つかりにくい場所があったのでそちらに住むことに。

隣家との距離がおよそ2㎞という遠さのド田舎だけど、自然の中での生活もいいかもしれない。

そんな俺は庭で生ごみと格闘していた。

結構前に作ったべったら漬けを腐らせてしまい、既に腐りかけのイカ焼きと一緒に捨てようとしてるんだが、これまた強烈な匂いでヤバい。

めっちゃ離れてる隣家のおばあさんが死臭!?って駆け付けてきたくらいだ。

おばあさんも捨てるの手伝ってくれた、凄く助かった。

ああ、めっちゃ体に匂いが付いてる。

風呂入ろうとしたら、再びあの不審者が家の中に現れた。

ストーカー並みに気味悪いんだけど。

 

「君がいつまで経っても動きそうになかったのでね、もう一度交渉しようじゃないか」

「…」

「既に他の6名は指定場所に向かっている…後は君だけだ」

 

ん?何だか集まりに来いとのことだけど…何のこと。

因みにどこ行けばいいのかと聞こうとしたら向こうからペラペラと喋ってくれた。

今から…だと?

ていうか何の集まりなのか分かんないけど…。

あー、もしかしてネットで知り合ったぬこぬこ同好会のオフ会かな?

受付した覚えないんだけど、誰かが俺の名前入れちゃったかもしれない。

俺結構古参だし、前回のオフ会も参加したし…

まぁ別に用事もないし、行くだけ行ってぬこ見て癒されよう。

い、今の俺はまだニートじゃねぇし!

まだ辞職届出してねーからニートじゃねし、世間の目なんて怖くねーし!

ってなわけでシャワーをサッと浴びてライダースーツに着替えて集合場所に向かった。

あ!スタンガン充電中で今持ってなかったんだった。

慌ててバイクのシート下のトランク確認すると結構昔に買った催涙スプレーがあった。

少し心もとないけどこれでいいかと懐に仕舞って再びアクセル全開にする。

走行中に若干焼きイカとべったら漬けの腐った匂いが落ちていないことに気付いた

おげえ、何だろう鼻がツーンてする。

ぬこ逃げるかもしれない…。

帰ろうか迷ったけどここまで来ちゃったし一応行ってみるか。

着いたんだけど、何ここ……ぬこがどこにもいないでおまんがな。

取り合えず案内にあった部屋に行くと暗い部屋に俺以外の3人がテーブルに座ってた。

何だろう、皆すごく怖い顔してらっしゃるんだけど。

絶対人殺してそうな奴いるし、マッドサイエンティストみたいな感じの奴いるし、フード被ってる魔導士みたいなやつもいるぅぅぅ。

何ここ、こわ、絶対ぬこぬこ同好会のオフ会場じゃねえわ。

そんなこと思ってたら次々と人が入って来た。

チャイナ服とさばさば系女子と巨乳の妊婦さん。

これ一体何の集まりなんだろうかと考えていたらいきなり妊婦さんが喋り始めた。

 

「私はルーチェよ、ジッリョネロファミリーのボスを務めています、どうかあなた方の素性を軽く教えて下さい」

「そうだな、これからチームとして依頼を任される身…最低限の自己紹介はしておこう」

 

んんん?チーム?依頼?

あるえ?

 

「私の名前はヴェルデ、科学者だ」

「ほう、あのダ・ヴィンチの再来と謳われた天才科学者か…興味深いな」

「私を知っているか、まぁその道の者ならば一度は耳にする名だろうがな」

 

すみません、初耳です。

 

「俺の名前はリボーン、ただの殺し屋だ」

「お前の名は聞いたことがあるぞ、最強の殺し屋」

 

……ごめん今何て?

ころ、殺し……殺し屋?

 

「俺はラル・ミルチ、イタリア海軍兵士だ」

「君のことは知っているよ、同じイタリアで活動している者ならば皆知っているんじゃないかい?」

「そういうお前は何者だ」

 

海軍!?これ一体何の集まりなの?

何の共通点があるの?

あと俺イタリアに住んでるけど聞いたことないんですけど!?

 

「僕はバイパー、情報屋さ」

「あなたの名前は私の耳にも届いていますよ、情報屋バイパー」

「ふぅん、そういう君は僕の情報リストに載っているよ」

 

ひぇぇ…何だか怖い集会に紛れ込んでしまった。

しかも皆の役職がヤバイ、裏の世界を感じる。

 

「私の名前は風、中国の武道家です」

「お前は俺も知っているぞ、中国武道大会で優勝していた奴だな」

「ええ」

 

やべぇ、これ俺めっちゃ無関係じゃね?

あ、すいませーん、人違いでーす、って言ったが最後殺されそうだ。

何だろう、皆が俺の方を見ている。

あ、自己紹介?

俺ニートっていうか……いや今はちゃんと仕事してるけど……

基本ニート志望っていうか。

 

「あなたで最後です」

 

っていうか……っていうか…………………

 

 

「…スカルだ」

 

 

帰ってもいいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 




スカル:人違いされてる泣きたい、だが人違いではない。
チェッカーフェイス:不法侵入してきた不審者と思われていることを知らない。
その他:スカル警戒中、生ごみの匂いを死臭と間違って認識しちゃった、死の匂い()。

死臭で検索してみると、イカ焼きとべったら漬けの腐った匂いとあったので出してみました。


少しづつ全体の話の流れが出来つつあるこの頃…


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skullの狂行

俺は怖かった。


「こんなものでしょう、不満や意見のある者はいますか?」

 

ルーチェの言葉に誰も声をあげる者はおらず、各自割り当てられた仕事を確認する。

依頼内容はイタリアで規模を拡大している宗教団体の宣教者の暗殺及び宗教団体の壊滅だ。

宗教団体と称しているがそれは表の顔であり、裏の顔は麻薬取引を仕切っている組織だ。

税金の免除やら布教と称しての麻薬売買などかなりイタリアの市民が毒されている状況である。

政府が治安維持部隊を導入しているが改善の様子は見られなかったという。

チェッカーフェイスから資料を見てルーチェが采配を取った。

風、リボーン、バイパーは現場へ、ルーチェは司令塔、そしてラルは離れた場所で援護、ヴェルデとスカルは逃走手段の確保とその補助となった。

囮は風で、バイパーが幻術を駆使しながらリボーンをターゲットまで誘導する手筈だ。

 

「逃走手段なら私が用意しよう、丁度試作したかったものがあったんだ」

「では三人の準備が整い次第、実行しましょう」

 

ヴェルデの言葉にルーチェがそう返し、いざ依頼内容を遂行する為現場へと足を向ける。

その時リボーンがスカルへと視線を移す。

 

「俺はお前を信用も、信頼もしてねぇ」

「…」

「変な真似してみろ…おめーの頭に風穴を開けてやる」

 

リボーンの射殺す様な目線にスカルは何の反応もせず、リボーンは風に宥められながらその場を去っていった。

 

 

 

『では、突入して下さい』

 

突入組は既に指示通りの配置に待機し、ラルも狙撃場所を確保したところでルーチェから合図が下りた。

すると最初に風が玄関にいた見張りへと向かって行き、バイパーとリボーンが建物の裏側から侵入する。

 

『次を左に曲がれ、10秒後相手と鉢合わせする』

『了解だよ』

『了解』

 

ヴェルデは敵の情報をいち早く把握し、建物の構造を見ながら別行動をしているバイパーとリボーンへと指示を出していく。

ラルが風を援護しながら遠距離射撃をしている。

バイパーは建物内の殺し漏れを消していく。

数分後、リボーンはヴェルデの指示通り建物を進んでいくと、奥の部屋に辿り着いた。

 

「き、貴様ら何者だ!ここがどこか分かって————」

 

部屋の中に突入すると、一人の小太りの男性と両サイドに2人のボディーガードがいたが、リボーンがすぐさまボディーガードを射殺する。

 

「殺さないでくれぇ!助けてく」

 

小太りの男が最後まで言葉を言い切ることはなく、リボーンの銃口からは煙が漂っていた。

 

『暗殺完了、建物に爆弾を設置していく』

『了解、逃走用のヘリで屋上に向かう』

 

リボーンの報告にヴェルデが応答し、風、バイパー、リボーンの三人は屋上へと撤退する。

すると上空からプロペラの回る音が屋上に響き渡った。

そこには一機のヘリが屋上へと着地する。

 

「早く乗れ、爆破まで残り1分だ」

 

ヘリを操縦していたヴェルデの言葉と共に屋上に集まった三人はヘリに乗り込む。

ヘリの中にはスカルが既に待機していて、リボーンが一瞬足を止めるがすぐにスカルの横へと詰めて座る。

そんな時だった。

 

『ぐっ、敵襲!』

 

通信機越しでラルの言葉が響き渡りその場に緊張が走る。

 

「敵襲、増援か…迎えに行く、先ほどの場所か?」

『いやそちらから数百m東に離れている場所だ、見えるか?』

「確認した、直ぐに向かう」

 

ヴェルデがラルの位置を確認し、そちらへとヘリを向ける。

ラルが視認出来たと同時にヴェルデがあることに気付く。

 

「ヘリを近づけるには地形が危険すぎる…」

 

ヘリから見えるラルは増援と対峙していて、こちらの指示に従える余裕はなかった。

ヴェルデが何度かラルに近寄ろうとするも、プロペラがどうしても崖に引っ掛かってしまいそうになる。

 

「なんとかはしごが届くところまで移動する、右の扉のロックを外すから開けてくれ」

 

ヴェルデがヘリの右側の扉のロックを外すと、一番近かったスカルが扉を開けた。

するとはしごが下に垂れていく。

 

「ラル!はしごを降ろした!届くか!?」

『相手からの攻撃が止まない…先に撤退しろ、後で合流する』

 

その言葉にヴェルデが増援の数を見る。

ざっと数えて三十人はいることを確認して再びラルの状況を考える。

ラルの実力なら勝てないことはないが、今のラルの残弾は多いわけではない。

 

「分かった、後で合流しよう」

 

数秒考えたヴェルデがそう判断した瞬間、後ろからガタリと音がした。

 

「なっ」

「「スカル!?」」

 

リボーンと風、バイパーの声に反応しヴェルデも後ろを見ると、開いていた右側の扉からスカルが飛び降りたのだ。

これにはリボーンも驚愕し、扉から真下を覗く。

そこにはスカルがはしごの先端に足を掛けて逆さまにぶら下がっていた。

そんなスカルに視認した増援達はスカルに向けて発砲し始める。

 

「何をしている!スカ——――――」

 

ヴェルデが最後まで言い切る前に、直ぐ側で何かが爆発した。

ヴェルデは一体なんだと周囲と敵勢を見渡す。

爆発の被害で慌てふためいている様子に、先ほどの爆発はスカルがやったのだと悟る。

そして今ならばと、ヘリをラルへと近づけた。

バックミラー越しにスカルが崖から飛び下りたラルを抱きとめているのを視認すると、ヴェルデはすぐにヘリを陸から離し合流地点へと向かった。

数秒後、後方で大きな爆発音が聞こえる。

どうやらバイパーとリボーンが設置した時限爆弾が作動したようだ。

その後、ラルがはしごを登って上がって来た。

 

「危ないところだったな」

「別に俺一人でもどうにかなった」

 

リボーンがラルを揶揄うように声を掛けたがラルは眉を顰めて一蹴する。

 

「スカルはどうしたんですか?」

 

風の言葉にラルが指で扉の外を指す。

 

「上がるつもりはないらしい」

 

ラルの指の先には、スカルがはしごの先端で佇んでいた。

上がってくる様子はなく、それはまるでスカルの警戒心の顕れのようだった。

流石に初対面であれだけ警戒されれば、無理もないのかもしれないと風は密かに思う。

だがあの警戒心は当然でもあった。

濃密な死の匂いを誰もが敏感に感じ取った。

そして誰もが本能的に危険だと感じたハズだ。

 

だが少し…あからさま過ぎたか……

 

風はヘリのはしごの先端で静かに海を眺める彼を見つめながらバツの悪そうな顔をした。

集合場所へと到着するとルーチェが出迎えていていた。

 

「皆お疲れ様です」

 

その言葉に数名が返す中、スカルが他の者とは反対方向へと歩き出した。

 

「おい!お前どこ行くんだ」

 

ラルがチェッカーフェイスからの報酬がまだだと暗に言っていたが、スカルがそれに応えることはなくその場から去ってしまった。

 

「ッチ、いけ好かない野郎だ」

 

舌打ちをしながらリボーンはルーチェと共に指定場所へと戻っていき、他の者もそれに続いて戻っていった。

これが選ばれし最強の7人が集められた最初の依頼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

 

変な集団にチームの一員だと間違われた挙句、何だか裏のある仕事を押し付けられた。

そのままこっそり帰ろうかと思ったのにリボーンって奴がめっちゃこっち睨んできて逃げられなかった。

極めつけはあの言葉。

 

「変な真似してみろ…おめーの頭に風穴を開けてやる」

 

これもう本物の殺し屋じゃん!

裏の世界の人じゃん。

俺が何したって言うんだよぉぉぉおおお。

俺の様な善良な一般市民巻き込んでおいて警察が黙ってないんだからな!

………俺ごと全部消される気がして通報出来ない。

涙目だけどヘルメット被ってるから目が擦れない。

そのまま目的地だけ教えられた。

そこ行けってか?

ヴェルデって人と行動しろとか言われたからビビリながらついて行く。

妊婦のルーチェさんはお留守番みたいだ。

 

「これは私の試作品でね、中には6人乗れる」

 

そう言ってヴェルデが紹介したのはヘリコプター。

うぉおお、ヘリだ…この時代じゃまだヘリは発明されて数年しか経ってないハズなのに、この人もしかしてヤバいくらい頭良いのかもしれない。

 

「今回は試運転も兼ねて私が操縦する」

 

!?

試運転?だ、大丈夫なのか…

ヴェルデがPCを取り出しては通信機でなんか話している間、俺はどうやって逃げようか考えていた。

だってこれどうみても人違い以外のなにものでもねぇよ。

おおお俺何も出来ねーし…

唯一持ってるのって催涙スプレーだけだぞ…何をすれと?

何だか通信機越しから不穏な音が聞こえるんですが。

銃声じゃないよね…爆発音じゃないよね。

 

『殺さないでくれぇ!助けてく』

 

あー!アカンって、これヤバイ場面じゃねーか!

うわあああ逃げたいヤバイ怖い。

泣きたい、いやもう泣いてるわ。

ヘルメット被ってるから首元に涙が溜まってヒリヒリする。

 

『暗殺完了、建物に爆弾を設置していく』

『了解、逃走用のヘリで屋上に向かう』

 

「君も早く乗れ、行くぞ」

 

へ?

俺も乗るの!?

やべ、怖すぎて鼻水出てきた。

逆らえずにヘリに乗って飛行すること数分後、何だか所々から煙が立ち込めてる建物が見えた。

うわぁ……うわぁ…………地獄絵図。

ヴェルデがその建物の屋上にヘリ止めたら、リボーンと風とバイパーの三人が一斉に入って来た。

なんでよりによってリボーンが隣なんだよ!

この人すっげー睨んでくるし、銃持ってるし、怖いんだけど。

隣に暗殺者とか俺の心臓がもたない。

うぷ、やばい緊張で吐きそう

 

『ぐっ、敵襲!』

 

ヴェルデの通信機越しから不穏な単語がががががが。

どうやらラルって人のところに敵の増援が来たようだ。

苦戦してるの悪いんだけど早く帰りたい。

こんな場所に一秒でも長くいるだけ俺の寿命が少しずつ削れていくんだけど。

さっきから手や顔から汗という汗が出まくってんだからな。

グローブの中がびっしょびしょだよ。

うええ、銃声が聞こえるぅ。

いくら丈夫な俺でも流石に銃弾とか耐えきれませんって、多分。

ヴェルデに命令されて震える手足でなんとかヘリの扉を開けた。

はしごを垂らしてみたはいいけど長さが若干足りない気がする。

風が強くて落ちそう、早く閉めたい。

 

「ラル!はしごを降ろした!届くか!?」

『相手からの攻撃が止まない…先に撤退しろ、後で合流する』

 

え、じゃあ扉閉めるよ!?

これ以上開けててもいつ弾丸が飛んでくるか分かんなくて危ないもんね!

ラルの言葉に俺は即座に反応してヘリの扉を閉めようとした時だった。

腰を若干上げたせいで扉から入ってくる風で上体が前のめりになり、そのまま扉から落ちてしまった。

その時俺はあまりの出来事に一瞬意識を飛ばした。

次に目を覚ますと目の前で何かが爆発。

再び意識を手放しそうになったけど何とか意地で堪える。

そして自分の状態を確認してみて絶句した。

いやぁ、人間って本気でびっくりしたときは声が出ないって本当だったんだね、と後の俺は語る。

ささささ、さ、逆さま!?

慌てて足をバタつかせようとしてふと気が付いた。

はしごの先端に足が引っ掛かってる…

つまり足を動かせば落ちる。

落ちる即ち敵からハチの巣。

=死。

あああああああああああああああああああああ!

死ぬ!し、ししし、し、死ぬぅぅぅぅううううう!

涙も鼻水も涎も全部垂れ流しながら俺の身体は万歳の体勢のまま硬直する。

 

「スカル!」

 

俺の名前が聞こえて直ぐだった。

反応する間もなく、俺の首元に柔らかい何かがズッシリと当たる。

俺は状況を把握出来ずにいて、取り合えず恐怖から目の前の何かにしがみ付いた。

数秒程すると後ろの方で爆音が聞こえて我に返った。

ッハ、俺は一体何を……を、を、おぎゃあああああああああ!

ちょま、高い高い高い、逆さまって怖い、待って、ああああああああああああ!

内心パニックになりながら何かにしがみ付いていた腕の力を強める。

こわ…こ、ん?…………ん?

俺は何にしがみ付いているんだ……?

Q:首元に柔らかい何かが触れてるがこれは何ですか。

 

「スカル、もう離してもらって大丈夫だ」

 

A:ラルの胸

ぶふっ……

鼻血と共に一瞬意識が遠のき、腕の力が一気に緩まる。

それに乗じてラルが俺から離れてはしごに足を掛けて登り始めた。

俺は離れていったラルに焦って、上体を起こした。

今まで怖くて忘れてたけどこれ以上は足がヤバイ。

ずっと足を直角に保つとか俺の貧弱な筋肉が死ぬ。

う、唸れ俺の腹筋んんんんんん!

んがあああああああああ!

あ、なんとか上体を起こせた。

何か一週間分の運動量を一気に消費したぞ、おい。

漸くはしごの二段目に腕を絡めて体勢が安定したところで一息つく。

暫くボーっと足元の地形を眺めていると上の方から声がした。

 

「おい!お前は登らないのか!?」

 

ラル姉さん…

あのね、上に登りたいのは山々なんだが、さきほどの恐怖を再び思い出して腰が抜けて足に力が入らないの。

今も落ちないようにはしごに腕引っ掛けてなかったら落ちてるからね、俺。

恐怖で竦んでいる足同様に声も出ず、ラル姉さんの方さえ見ることが出来ない。

誰か助けてぇ…

ただ体を縮こまらせてはしごにしがみ付くことしか出来ずに、陸地に下りたいと切実に願っていた俺氏。

穴という穴から色々垂れ流していたお陰でヘルメットの中がナウ〇カの腐海みたいになってる。

早くお家に帰ってお風呂入りたい。

その後ヘリは数十分という地獄の旅の末に着陸を果たした。

大地だ!地面だ!足が着く!

漸く命の危機から脱出した俺は半ば放心状態のままバイクのある場所まで向かった。

あ、そういえば催涙スプレーなくなってる……どっかで落としちゃったのかな。

催涙スプレーを探す気力もない俺は一刻も早く家に帰りたかった。

呆然としながらアクセル全開だったお陰でいくつか信号無視した挙句山道に入って近道で帰った。

マイホームに帰るとふらふらしながらもお風呂に入ってベッドにダイブする。

上質とは言い難いベッドの上で今日会ったことを思い返していた。

 

「怖かったぁ……」

 

俺は誰もいない部屋で、いつものように一人寂しく毛布に包まりながら泣いた。

そして泣き疲れて重たくなった瞼をそっと閉じた。

 

 

 

 

 

PCメールの方で『今回の依頼料、次の依頼』と書かれた内容を見るまであと10時間…

再び地獄に突き落とされることをスカルはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 




スカル:善良な市民()、ラッキースケベ
ラル:リボーンキャラでのツンデレ代表、スカルに助けられたのでスカルへの警戒心が半減
風:スカルに対しての警戒心は低め、リボーンの宥め役
ヴェルデ・バイパー:スカルの奇行に本気で引いていた
リボーン:スカルへの警戒心max
ルーチェ:スカルへの警戒度は一番低いけど、声を掛けあぐねている。
催涙スプレー:彼は犠牲になったのだ…

催涙スプレーって引火すると小規模の爆発を起こすらしいです。
海外でのニュースで偶然見つけて思いつきました。


スカルのヘリの場面は、久しぶりに鑑賞したラピ〇タを参考にしました。
あのシ〇タを助け出すシーンってカッコ良すぎると思うこの頃。


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skullの切望

俺は困惑した。


睡眠をたっぷりと取った俺は知らぬうちに送られてきたメールの内容に絶賛絶望中です。

メアド教えてないのにメール来てる、泣きたい。

何なの、一体俺が何したって言うの?

絶対に人違いだよ、コレ。

おい誰だよ!運び屋やってるスカルって!

PCの前で愕然(がくぜん)と項垂れる俺氏。

依頼料振り込んだってあるけど、口座もバレバレってことですかオワタ。

ていうか口座に振り込まれてる金額が半端ないんだけど…。

いやあんなに命張った…ていうか張らされたんだからこんくらいないと本当に絶望するけどさ。

まだ会社の方に退職届も出してないのに別の奴からロックオンされてるとか…

それも人違いで。

ふざけんなってーの。

あ、そうだよ、退職届出すの忘れてた。

取り合えず退職届を書いて本社に向かう。

 

「ス、スカルさん!?事前に連絡がありませんでしたがどういった御用で…」

「スカルさんだ…」

 

エエエエエ!?

お前らどうしたの!?

皆ライダースーツにヘルメット被ってるんですけど。

え、これ正規の制服になっちゃったってか?

俺も一応ライダースーツにヘルメット被ってるけど、これ結構中が蒸れるぞ。

いやぁ、社長の考えは分かんねーな。

にしても皆ライダースーツにヘルメット被ってるから見分けがつかねー!

流石に男女の見分けは付くけど個人の特定は無理だ。

であるからして、俺に声を掛けてきた奴の名前が分からないという。

…誰だよコイツ。

まぁいいや、どのみち今まで人の名前なんか覚えたことも呼んだこともないし。

取り合えず目の前のコイツをヘルメット一号と名付けておこう。

一号がおれを社長室に通してくれた。

 

「スカル、今日はいきなりどうしたんだ」

「いや言わずとも分かる、カルカッサファミリーの今後のことだろう」

 

え。

違う、違います。

退職届………

 

「君のお陰で巨大組織へと成り上がったカルカッサファミリーだが、そろそろボンゴレに対抗する決定打となる脅威がなければいけないとは常々思っていたんだ」

 

俺のお陰とかなにそれ初耳、いやただの社交辞令か。

つーかボンゴレって何。

あれか、敵対企業か。

俺全く詳しくないから知らないけど…多分大企業なんだろうな。

 

「やはり技術力が決定的な差になると思うんだが…こちらも技術開発班の者達を集めるべきだろうか」

 

今後の方針をいきなり振られた。

待って、俺はただ退職届を出したかっただけなのに。

待って待って、ちょっと話を勝手に進めるでない。

手で待ての形を見せると、社長さんの顔色が変わる。

ひえっ、話遮ってごめんなさい。

 

「ふむ、だがやはり時期尚早かもしれないのも一理…今はただ勢力を拡大するだけでいいな」

「それと、今回の依頼を前倒しではあるが頼まれてくれないか…君が本部に現れるのは珍しいからな」

 

何だろう、俺のせいで機嫌が悪くなったっぽい…

だってさっきまで上機嫌な顔で俺に話しかけていたのに、今めっちゃ眉間に皺寄せてるんだもん。

やっぱり俺に社会人としてのマナーなんてないから就職なんて無理だったんだ。

じゃなくて退職届……

懐から退職届出そうと思ったら社長さんが手で制した。

え、受け付けませんってか?

これブラック案件?ブラック案件かな?

 

「依頼内容はこれだ、それじゃあ頼むよスカル…君を信頼している」

 

あー、これブラックな奴だ。

プレッシャーでやめられないようにしてるんだ。

俺に封筒を渡しながら微笑む社長の顔が閻魔大王に見えたよ。

俺の退職希望を揉み消してこれからも下っ端としてこき使っていくつもりだったんだ!

どうしてこうなった。

泣きたい。

怖くて何も言えなくなった俺は無言のまま社長室を出ていった。

あのクソ社長め、本性を表しやがったな。

今度警察にしょっ引いてやる。

 

「ス、スカルさん…あの、これ……」

 

女性の方が俺にスタンガンをくれた。

何でスタンガン?

 

「技術開発班で開発しているもので、試作段階ではありますが出力は一般のものとは比べ物にならない程強いです」

 

え、なにそれ怖い。

スタンガンって一般で売ってるやつも結構痛いのにそれ以上痛いの用意してどうするの。

 

「最近あなたの依頼は危険が増すばかりなので…心配は要らないと思うかもしれませんがどうぞ護身用に」

 

う、嬉しい………

俺の身を心配してくれるとか女神かよ。

誰も俺の心配とか一切してくれねーし。

こんなブラック企業にいるには勿体ないほどの女神じゃねーか。

もじもじとしてて一見可愛く見える動作なのだろうが、ライダースーツにヘルメットという姿が致命的だな。

全然萌えもしないし、ときめきもしない。

強力なスタンガンとか正直使いたくないけど、試作段階って言ってるしちょっと使用した感想とか言った方がいいよな。

にしてもこの会社スタンガンや銃とか色々社員の安全面の考慮はピカイチの癖に何で退職面でブラックなんだろう。

お前に金掛けてんだから元取れるまで働けってことか?

なにそれ怖い。

取り合えず貰ったスタンガンを腰に付けて渡された依頼の封筒を読みながら駐輪場まで歩く。

ふむふむ、どうやら少し海を渡るらしい。

待て、海渡るってどういう……

少し離れた離島まで持ってけと!?

これ俺がジェットスキー持ってんのバレてるじゃん。

ちくしょう、配達地域が日に日に広がっていく。

これ往復で半日かかる奴じゃん、最悪だ。

溜息を吐きながらバイクで取り合えず家に帰ってジェットスキーの鍵を取る。

配達物は封筒と一緒に入っていた金と何だろうコレ…白い…粉……

麻薬……なわけないか、ブラックな優良企業だし。

防水加工の箱に入れて厳重にロックする。

俺はジェットスキーに跨り、最近導入したナビに従って海を走る。

乗り始めの頃ジェットスキーで時速160㎞出してそのままコントロール失って海に叩き下ろされたのを教訓に、足場と腕、胴体を固定して走行するようになった。

結構スリルがあって楽しいけど、ここら辺鮫の生息地だから振り落とされたら死ぬわ。

数時間の末漸く離島が見えた。

ジェットスキーを降りて、人影を探していたら建物を見つけた。

取引場所ってここかな?

 

「誰だ」

 

ジャキ、という金属音と共に頭に何かが突きつけられた。

…………か、傘かな?

決して銃とかそういうものじゃないことを祈りたい。

 

「お前、カルカッサファミリーの!」

 

あ、ちゃんと人相は伝えてたのね、社長。

つーかここの警備怖いんだけど。

さっきから驚いているところ悪いんだけど、早く取引物を渡して帰りたいんですが。

 

「…ボスの所まで案内する、ついてこい」

 

警備の男は早足で建物の中に入っていってしまった。

俺もついていく。

建物の中は何かの研究所みたいな場所だった。

すげぇ、試験管とかめっちゃ並べられてる。

何の研究をしてるのやら。

奥の部屋に通されると、指とか首にゴールドをびっしり装着したおばさんがいた。

 

「お前さんがスカルか…その名は聞いているよ」

 

いや逆に聞いていなかったらどうしてたの。

普通取引先の人は教えるでしょ…多分。

それよりも早く商品を渡そう。

 

「確かに受け取ったよ」

 

ってなわけで帰ります。

ジェットスキーで帰りも飛ばして無事帰宅。

ふぅ、ヘルメットを外してライダースーツを脱ぐとある違和感が。

ぬめぬめした感触が…何だコレ。

脱いだライダースーツを広げてみると、背中の方にタコがくっついていた。

タコ……らしき何か……いやコレはタコか?

つーかいつくっついたんだ?

タコは鰓呼吸のくせに全然もがき苦しむ様子はない。

じゃあこれはタコじゃぁないのかな…?

取り合えずライダースーツから引っぺがして庭に置いてあったバケツの中に放り込む。

後日海に還してあげるか。

生きてたらの話だが。

正直気持ち悪いから触りたくない。

風呂を入ってサッパリした俺は疲れたのでそのまま眠った。

次の日朝起きたら、昨日のタコがベッドのサイドテーブルにへばり付いていた件について。

起きて直ぐに変な声が出てしまった。

昨日から水をあげてないが死ぬ様子はない。

やっぱりタコじゃなかったのかもしれない。

仕方なくバケツに入れたまま海に還してあげた。

数時間後、家の玄関に海に放り投げたばかりのタコがへばり付いていた。

……………飼えってか?

でもタコだぞ?

猫みたいに可愛いわけでも犬みたいに癒されるわけでもない、タコだぞ?

暫く考えたけど追い返す方法もなかったので放置してみることにした。

すごく…住み着いてます。

もう諦めて俺の食べ残しをあげれば物凄い勢いで食べきりやがった。

この前みたいに食材腐らせることもないかもしれないと少しタコに有用性を見出したこの頃。

あ、コイツの名前考えてない。

ポルポとかでいいか。

 

「よろしくポルポ」

 

足にへばり付いてきやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルカッサファミリーボスside

 

何の連絡もなくいきなり本部に訪れたスカルに本部内の者はざわめき立った。

かくいう私もそうだ。

何故という二文字が頭を反芻(はんすう)するが、すぐさま思考を切り替える。

数分後部屋に入って来たスカルはいつも通りヘルメットにライダースーツの恰好をしていた。

未だにスカルの個人情報は何も分かっていない。

だがそれでもいいと私は思っている。

彼の表の顔がどんなものであろうとも、カルカッサファミリーをここまで伸し上げたことは揺るぎない事実なのだ。

彼は私の恩人であり、カルカッサファミリーにとっての指標のようなものなのだ。

最近では部下たちがスカルを敬愛するあまりに恰好を真似する者が出てきた。

ボスの形無しではあるが、それ以上に私もまた彼に魅了された者の一人。

誰か彼を妬むものか。

 

「スカル、今日はいきなりどうしたんだ」

「いや言わずとも分かる、カルカッサファミリーの今後のことだろう」

 

私としたことが、依頼時以外本部に立ち寄ったことすらないスカルの訪問に少し急いてしまっていたようだ。

まぁスカルが私用で訪れるとすればカルカッサファミリーの現状において何かが不満なのだろう。

 

「君のお陰で巨大組織へと成り上がったカルカッサファミリーだが、そろそろボンゴレに対抗する決定打となる脅威がなければいけないとは常々思っていたんだ」

 

そう、それなのだ。

今のボンゴレは温厚な九代目の影響で反発が強いにも関わらず、その勢力は今も尚イタリアを統べる程だ。

カルカッサファミリーもその名がマフィア界に影響を及ぼす程度には広まっている。

勢力は勿論のことだが、やはりボンゴレとは圧倒的な差が存在する。

 

「やはり技術力が決定的な差になると思うんだが…こちらも技術開発班の者達を集めるべきだろうか」

 

スカルにそう投げかけると、スカルは徐に手を前に出してきた。

待て、と聞こえもしない声が脳内再生される。

そして私は瞬時のその動作の意味を理解した。

 

盗聴を、されている。

 

一気に周囲へと警戒をしながら、怪しまれないよう話を繋げる。

 

「ふむ、だがやはり時期尚早かもしれないのも一理…今はただ勢力を拡大するだけでいいな」

 

これが本当に盗聴されているのならば誤った情報を与えることを優先した方がいいと思った私は正反対の判断を下す。

そして今この場では、私は盗聴されていることに気付いていないと相手は思っている。

下手にスカルをそのまま帰すのは愚策。

 

「それと、今回の依頼を前倒しではあるが頼まれてくれないか…君が本部に現れるのは珍しいからな」

 

盗聴を気にしながら眉を顰めていると、スカルが片手を懐に入れた。

どうやら盗聴が煩わしく壊そうとしているのだろう。

だがここで発砲するのは避けたいので、私は手で制するとスカルは大人しく手を引いた。

私は来週あたりに頼むつもりだった依頼内容の入った封筒を引き出しから取り出す。

内容はもっぱら非合法な取引ばかりで、危険度が高いものばかりだ。

 

「依頼内容はこれだ、それじゃあ頼むよスカル…君を信頼している」

 

スカルは何も言わずに依頼を引き受け、部屋から出ていった。

今回の依頼はさしものスカルですら時間が掛かるだろう。

なんたって取引所はここから数百km離れた離島だ。

これもまたスカルの移動手段を知るにはいい機会だと思った。

盗聴器に関してはもう少し放置して、嘘の情報を流しておこう。

どこのファミリーが仕掛けたのか、また誰がスパイなのか洗い出さねばならない。

その数日後、敵対していたファミリーのスパイが見つかった。

 

 

 

 

 

 

■■■■■ファミリーside

 

「ボス、運び屋が到着しました」

「通しな」

 

私は■■■■■ファミリーのボスだ。

主に生物兵器を開発している組織であり、弱小ではあるものの専門分野で名を広めていた。

今日はカルカッサファミリーとの取引があり、さきほどカルカッサファミリー専属の運び屋が到着したとの報告を受けた。

狂人の運び屋スカル。

裏を知る者ならば誰もが一度は耳にするであろう史上最凶最悪の運び屋であり、カルカッサファミリー最大の脅威。

奴の存在がマフィア界を緊張状態に陥れた。

邪魔をする者には死を、彼の名と共に伝わるその言葉に誰もが震えあがった。

私もその名には警戒を表していたが、カルカッサファミリーとの取引が上手くいけば、奴の牙がこちらに向かうことはない。

コツコツと、ブーツの靴音が響く。

それと同時に扉越しでも伝わる威圧感。

私の頬に冷や汗が伝う。

扉が開き、ライダースーツを着てヘルメットを被ってる男が入って来た。

奴がスカル…

噂に勝るとも劣らない威圧感、本物だ。

 

「お前さんがスカルか…その名は聞いているよ」

 

私の言葉にスカルは何も返さずに手元にある箱を渡してきた。

中を確認すると、粉状の毒薬が入っていた。

これは今実験中の生物に投与し、毒性の強い生物を開発する為だ。

私は箱を閉め、側のテーブルに置く。

 

「確かに受け取ったよ」

 

私がそういうと、スカルは無言で部屋を出ていく。

噂通り、何も喋らずに消えていく…か。

あのカルカッサファミリーのボスでさえスカルの正体は掴めていないとか。

警戒心の顕れなのか、はたまた表の顔がバレたらマズいのか。

謎の多い狂人のことなんて私に分かるわけもないか。

ただ彼の牙がこちらに向かないようにやり切るのが現状での最善なのだ。

 

 

数時間後、一匹の生物兵器が逃げ出したと報告があった。

一匹くらいならどうってことないと思っていたが、逃げ出した生物を確認してそうは言ってられなかった。

 

「あのバケモノを解き放っちまったってことかい…」

 

私は冷や汗が止まらなかった。

私のファミリーは生物兵器の開発をしている。

だがそれ以外にもう一つ、危険な実験をしていた。

それは、古代生物の復元だ。

海底の地層から発見される死骸を元に何度も研究を重ねて、数体の古代生物が蘇った。

しかし蘇った古代生物の中で、一体だけ直ぐに凍結された生物がいたのだ。

その古代生物の名はクラーケン。

数多くの神話で出てくるあのバケモノだ。

当初は発見したチームはただの頭足類の死骸化石だと思いながらも回収していたが、復元成功時にその推測は大きく裏切られた。

蘇った姿は、一見タコのように見えるが、外套膜(がいとうまく)と思われた表皮には細かい鱗があったのだ。

その上鱗は驚異的な硬さであり、銃弾すらもはじき返した。

そしてその生物の口には鋭い牙があり、瞳孔は夜行性の蛇のように縦長のものであった。

そんな特徴など神話とも謳われた空想の産物、クラーケンしかいないのではと嘆かれ、その生物の名をクラーケンと名付けた。

ただそれだけならば、その生物は研究に貢献していただろうが、凍結した一番の要因は毒性だ。

その生物が保有していた毒は発見されていない元素が摘出された。

タコやイカのように墨を吐く習性があり、その墨に毒が含まれていた上に気化するのだ。

毒性は非常に強く、また範囲も広い為、第一級危険生物と判断しその生物の研究を凍結した。

強化ガラスの中で仮死状態にしていたその生物が、逃げ出したのだ。

それが何を意味するか分からない馬鹿ではない。

ファミリーを総動員させ、逃げ出した生物の足取りを追うも捜索は難航した。

あれが海で成長すれば、悪夢の神話の再現となるだろう。

 

「くそ……どうすれば…」

 

この時の私は知らなかったのだ。

クラーケンが水陸両用の生物であることを。

 

 

 

 

 

 

 

 




スカル:タコ()に懐かれて微妙な心境のこの頃、会社()に退職届を出したい。
カルカッサファミリーボス:スカルのことを結構信頼していて、10年後くらいには声も聞ける程の親友とかになりたいなと密かに目標を立てている。
ポルポ:自力解凍した古代生物、俺の運命のご主人様を見つけたー!とスカルにべったりと張り付いている(愛情表現)、自我も知能もある、セコム1。

どっかでポルポside書くと思う。

▶原作通りスカルにタコ()のペットが出来ました!


線画↓

【挿絵表示】



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skullの譫言

俺は疲れた。


ポルポお前…なんかいきなりでかくなったような……

最初は全長50cmもなかったポルポが今では1mを余裕で超えている。

こいつ一体どこまで成長するんだろうか。

いやまぁコイツ自分のご飯は自力で狩ってるから食費が苦しいわけではないんだが。

現在、家から数十㎞離れている町のホテルでポルポと一緒に宿泊している。

今日こそはと張り切っている俺だが、何を張り切っているのかといわれれば、身を隠すのが今の俺の最優先事項なのだ。

何故かって?

 

 

「スカル、時間だ…指定場所へ向かってくれ」

 

ホテルの客室の中にいつの間にか佇んでいた男が言い放った。

 

何度も遠くまで逃げてんのにあの仮面野郎が目の前に現れるからで……

ちょっと待って本気でストーカーじゃねぇか!

いや俺そっちの気ないんだけど。

また連れていかれた場所もやっぱり胡散臭いっていうか、危険そうっていうか…

切実に帰りたい。

その後も危険なことやらされるしもう嫌なんだけど。

俺の寿命が半分くらいに減ったんだけど。

ハッキリ言ってあいつらやべぇよ。

風とかいう中国人も優しそうな顔して平気で殴り倒しに行ってるからな。

 

「ッチ」

 

もぉおおおおお!

リボーンって人が毎度毎度俺を睨んでは舌打ちしてくるよぉおおおおお!

俺の!豆腐メンタルがもたないよ!

豆腐は豆腐でも絹ごしだからね!?

 

「おいリボーン、いい加減依頼に集中しろ」

 

ラル姉さんに怒られるリボーン、ざまぁ。

指差して笑いたいけどそれしたら一瞬であの世逝きだよな、うん。

にしてもいつまで俺のことを人違いしてるんだろうか。

あの仮面野郎もそうだけど、俺を危ない世界に強制連行するのやめてもらえないかな。

選ばれし最強の7人とかそんな厨二ごっこはこの人たちと勝手にやっててどうぞ。

って言えたらこんなとこにいないわけで。

ちくしょう…帰りたい。

 

「スカル」

 

ひゃい!?

ルーチェさんに話しかけられた。

この人だけ他の人達より怖くないからなんとなく一緒にいるならこの人がいいんだけど…

っていうか裏の仕事…?なのに何で妊婦が選ばれてんだ?

人選が謎すぎる。

あとルーチェさんって巨乳すぎて目のやり場に困る。

俺ってほら…まだ17歳だから、思春期だから、仕方ないよね、うん。

ヘルメットという最強の盾がある限り俺の目線は誰にも分からないってとこは有難いよなぁ。

じゃない、何の話をしてたんだっけ?この人たち。

 

「というわけですが、あなたには私の付き添いをお願いしたいのです」

 

で、どういうわけですか。

なんて聞けるわけないなじゃないですかヤダー。

ごめん、本当に何の話?

でも流石に妊婦さんを危険な死地には送り込まないだろうし。

ルーチェさんの隣って安全圏だよなぁ…

そんな考えもあって頷いたはいいけど不安だ。

 

「彼の了承も得ました、他の者も先ほどの配置で何か不満はある者はいませんか?」

 

ルーチェさんって小学校の先生みたいだな。

こんなに危ない奴等相手にまとめ上げてるわけだし。

いや俺は危なくないけど、無害だけど。

正直俺以外は皆問題児しかいない中、ルーチェ先生は本当にすごいと思う。

皆が椅子から立ち上がったけど、これ移動する感じか。

俺はルーチェ先生の後についていけばいいわけね?

 

「では行きましょうか、スカル」

 

ハーイ。

これでリボーンから離れることが出来るぜ!

 

「スカル、あなたのバイクで目的地へ行きたいのですが」

 

ん?俺のバイクで行くの?マジで?

大丈夫かなぁ…振り落とされないといいけど一応予備のヘルメット渡しとくか。

ルーチェ先生の指示通りの場所に向かう。

安全運転で走らせてる途中でふいに背中の柔らかい感触に気付いた。

これ…ルーチェ先生のおっ…

ヤバイ、また鼻血出しそう。

なんとか鼻血を堪えながら目的地へと到着する。

普通のビルだけど、ここで何するんだよ。

ビルの中にルーチェ先生が入っていくからついて行った。

あ、待ってそんな大きなカバン持ってどうするの。

っていうか妊婦が重いもの持っちゃダメでしょ。

そ、そんくらいの常識は俺にもあるから。

ルーチェ先生からボストンバックを奪い取り、肩に掛ける。

思ってたより重かったー!

やべぇ肩脱臼するって、コレ。

よく持てたなあの人!

早くバックを降ろしたくてルーチェ先生について行ったら、エレベーターに乗るらしい。

やった、エレベーターの中では下ろしておこうと思って乗ってたらいきなりエレベーターが揺れた。

!?

な、何事!?

わばばばばば、結構揺れてる!

なに、何なの!?えええええ!?

 

「地震!?」

 

地震!?嘘だろオイ!

エレベーターの中でそれとか死亡フラグビンビンじゃねぇか!

一気にエレベーターが数m落ちるから、あ、コレ死んだわって悟ったね。

ポルポごめん、後は自力で生きろよ…

すっげー大きな衝撃の後、俺はビックリして頭を庇おうとして気が付いた。

ヘルメット被ってるから大丈夫じゃん、と。

その後体勢崩して盛大に腰を地面に打って激痛に悶えた。

数分後漸く揺れが収まった。

いやぁなんとかなるもんだな。

でもエレベーターだから、少しでも動くと落ちる気がしてならない。

と、取り合えずルーチェ先生に助けを求め……気絶してるー!

ど、どどどどどどうしよう。

え、これ死んで…ない、息してたよかった!

とにかく死亡フラグ万歳のエレベーターから出たい。

どうやって出ようか。

やっぱりエレベーターの扉どうにかしないといけないのかなぁ。

電気が通っていないせいか、直ぐに扉は開いたけれどあるのは壁のみ。

階と階の間か。

………下どうなってんだコレ。

確認したくてエレベーターの天井から上に出て、下を覗いてみた。

真っ暗で確認し辛いけど、多分あんまり高さないよな。

だって4階に行く途中だったから、3階付近だと思うし…さっきの揺れで数m落ちたから2階くらいの高さだと思うんだよ。

なら多分降りられる高さだと…思うけど……怖いなー

俺一人ならなんとか降りられるけど、これルーチェ先生も一緒に下りた方がいいよなぁ。

さっきから肩揺すってるけど起きる気配ないし、頭打ってたりしたら早めに処置しないといけないだろうし。

ここで妊婦放っておくとか、それこそあいつらに殺されかねない。

ふええぇぇ。

泣きたいけど怖くてそれどころじゃない。

取り合えず死亡フラグを折りたい俺は、ルーチェ先生に括りつけられる縄かワイヤーを探す為にエレベーターの上から周囲を見渡していると、余震でエレベーターが揺れ始めた。

ひょえええええ、ゆ、揺れてる!

あっぶねぇぇぇぇぇえええええ!

バランス取ろうとエレベーターに繋がっているワイヤーを握ると、また数m落ちた。

何度も寿命縮んでるんですけど。

泣きたいのは山々なんだけど、今ここで泣いたって視界がボヤけるだけだから泣けない。

でも今の落ちた距離考えると、扉の方から出られそう。

エレベーターの中に戻ると、扉の方が2階の扉と重なっていた。

よ、よっしゃあ!

2階の扉をなんとか抉じ開けると、外が見える。

おうふ、結構大きな地震だったのか。

ものが全部壊れてるし、窓も割れてらぁ。

取り合えずルーチェ先生外に出して、と。

重い。

妊婦重い。

ナメてたわ、女性って軽いイメージあったけどナメてた。

俺の方が軽いわ、コレ絶対。

ぐぬぬぬ、ファイトー!いっぱあああああつ!

の掛け声で漸くエレベーターからルーチェ先生を出すことが出来た。

肩で息してる俺はというと、怖さと安堵から腰が抜けて地べたに座り込む。

もう、無理、もう動けん。

体力全部出し切ったわ…主にルーチェ先生引き摺るのに。

ヘルメット被ってたから若干酸欠状態になってる。

あー…ヘルメット外さな……きゃ……

 

 

俺はあまりの疲労感にその場でブラックアウトした。

 

 

 

 

「スカル!」

 

んー…もう少し眠らせてぇ……

んう、眩しい。

目を若干開けると、目の前にルーチェ先生がいた。

思わず名前呼んじゃったぜ。

めっちゃピンピンしてそうなルーチェ先生。

無事だったのかー、よかった、これであいつらに殺されずに済んだ。

 

「どこか……痛い箇所はありますか……スカル…」

「…死んだと………思ったんだ………」

 

本当に、これ、本当に、そう思った。

あなたが死んだら俺って強制的に死亡ルートだから。

俺は死亡フラグを折った現実を噛み締めた。

 

「……生きてた……」

 

もう帰ったら思う存分ニートしたい…

 

「――――でいい―――――い———けない————ですか———」

「あな———――でよかった——————どこ——ない——————―スカル—」

 

 

何て言ってるの…

っていうかまだ眠いん、ぶふぉ

いきなり起こされた。

寝るなってか!?鬼畜だなおいいいいいい!

くっそ、腕を頭に回されて固定されてて地味に痛い。

いだだだだだ、やめろや。

ルーチェ先生が相手だから少しだけ強く出てしまった俺氏、ルーチェ先生を引き剥がす。

首折る気か。

もういいよ、帰る。

帰って寝たい。

出口…あ、非常口あった。

っていうかヘルメット取れてるし、いつ取ったっけ。

 

「スカル!」

 

後ろからルーチェ先生に呼ばれた。

さっき生意気に引きはがしてすみません。

だから許して下さいお願いします。

 

「助けて下さってありがとうございます」

 

……?

お礼…だと!?

この人…やっぱり他の人達とは違う。

めっちゃ常識人じゃん。

いや、あんな危ない奴等と絡んでる時点で常識人ではないか。

にしてもまだ少し眠いなぁ。

うわ、ガラス踏んだ。

 

そのままバイクで元居た場所に戻って、ルーチェ先生だけ置いて俺は帰った。

翌日、テレビで昨日の地震が流されていた。

 

「あー…マグニチュード8…そりゃでかいわけだ」

 

テレビ見ながら飯食ってると、ポルポが机を這って来た。

 

「正直お前は一匹でも生きていけそうだよなー…」

 

はぁ…俺のニートライフは何処(いずこ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーチェside

 

最初の依頼から二か月が経った。

数度に渡り私達は集められ、依頼を熟していた。

そして再びあの部屋へと皆が集められた。

チェッカーフェイスはいつものように私達に言葉を掛けては姿を消す。

皆が椅子に座り顔を見合わせると、リボーンの視線がスカルに向けられていた。

 

「ッチ」

 

舌打ちするリボーンの行為は毎度のことで、私がそれを咎めようとする前にラルが口を開いた。

 

「おいリボーン、いい加減依頼に集中しろ」

 

ラルの言葉にリボーンも眉を顰めながらもスカルから視線を逸らす。

今回の依頼は、いつもと大差ない内容だった。

ただ今回は隠密に行動しなければならない為、派手に戦うであろうスカルは除外される形となったのだ。

元々暗殺を本業をしていないあたり、今回の任務は不向きだった。

そういう理由もあり、彼には私と共にとある目的地まで同行することになり、彼もそれに承諾したのだ。

そこは私とスカル以外の者達が行くであろう場所とは真逆の位置にあり、今回のターゲットと密接に関係している場所だった。

ヴェルデから渡されたものをその場所に置いてくるだけという簡単な作業だったので、当初は一人で行こうとしたがスカルが同行する形で収まった。

各自が移動し始めると共に私はスカルの名を呼んだ。

 

「では行きましょうか、スカル」

 

スカルは相も変わらず何も言うことはなく、私の後ろを着いてきた。

そういえばいつもスカルはバイクに乗って颯爽(さっそう)と現れる。

私はバイクに乗ったことがなかったので、少し気になりスカルに尋ねてみた。

 

「スカル、あなたのバイクで目的地へ行きたいのですが」

 

スカルは何も喋らず、バイクの座席下のトランクからヘルメットを取り出して、私の方に投げる。

一応乗せてくれるようなので私はスカルの後ろに乗った。

後ろの人はどこを掴めばいいのか分からず、スカルの腹部に腕を回してみたが、スカルは無言だったので多分当たっているのだろう。

 

「では目的地までお願いします」

 

私の言葉と同時にスカルがバイクを走らせた。

車とは違う感覚に目を丸くしている私は暫く辺りをキョロキョロと見渡していた。

そしてスカルにしがみ付いている体勢の今だからこそ気が付くことがあった。

彼の体型は思っていたよりも細かったのだ。

いつもライダースーツとヘルメット、そして威圧感などがあり大きく見えた彼だが本当は細身な男性だったのだ。

勿論それはバイクの速度を上げるために少しでも軽い方がいいだろうという理由だとは思ったが、少し…いや結構意外だった。

暫くすると目的地に着き、スカルと共にバイクから降りた。

目の前には高くそびえ立つビルがあり、そこの4階にあるであろうサーバー室の付近にヴェルデから貰った装置の入ったボストンバックを置けばそれで終わりだ。

爆発物ではなく、ただの電波妨害装置なだけなので危険はないと彼は言っていたが。

私とスカルは建物内に入り、エレベーターに乗り込む。

その時だった。

 

「!?」

 

地面が大きく揺れたのだ。

エレベーターの故障かとすら思ったが、揺れが尋常ではなかったのだ。

私達の計画がバレて……いや、これは爆発の類ではない。

 

「地震!?」

 

次の瞬間、一際大きく揺れたエレベーターがガクンと数m程下に落ちるような感覚に襲われ、私は体勢を崩し倒れる。

そんな中お腹の子だけはと両腕でお腹を抱きしめるように丸まった。

恐怖の中、大きな衝撃と共に私は意識を飛ばした。

 

 

 

 

「………ぅ…」

 

眩しさから目を覚ました。

眉を顰め、眩しさに顔を覆うところで地震を思い出した。

直ぐに起き上がろうとしたが、自身の現状に気付く。

エレベーター……ではない。

私は横になっている体勢ではなく、何故か壁に凭れ掛かっている体勢のまま気を失っていたのだ。

 

「どうなって……!」

 

直ぐとなりに視線を移すと、スカルが横たわっていたのだ。

 

「スカル!?」

 

私は直ぐにスカルの側に駆け寄り、首に手を当てる。

脈はある…死んではいない。

より詳しく彼の状態を確認する為に、スカルのヘルメットを外す。

 

「スカ—————」

 

そして私は驚愕した。

 

「…………う、そ………」

 

 

 

子供だった。

 

…紫色の乱雑な髪の毛をした子供だったのだ。

私は驚きに震える手でスカルの頬を触れば、肌にはハリが十分にあり、とても20を過ぎているとは思えなかった。

体温は暖かく、まさに子供のそれのようで。

どう見ても15~18の子供だった。

 

 

狂人と呼ばれていたのは、まだ年端も行かぬ、子供だった。

 

 

私はショックと困惑で言葉を失う。

正常に呼吸をしている彼はただ眠っている子供のようで。

 

ヘルメットの下の幼いその顔に私は二の句が言えず、何とも言い難い激情が込み上げて唇を噛み締めた。

細身の体格ではなく、未発達の身体であることに気付いた。

未だ出来上がっていない体で、今までの依頼を熟していたというのか。

あの奇行を、狂行を。

彼の名が広がったのは確か、一年程前だ。

幼いと言える歳で、既に狂ってしまったとでもいうのか。

耐えきれなかった涙が一粒落ちて、スカルの眉間を伝う。

すると、閉じられていた目が薄っすらと開いた。

まるでアメジストのような美しい瞳が私を捉える。

 

「………ルーチェ…」

 

掠れた声で呟いた私の名前に、言葉を絞り出す。

 

「どこか……痛い箇所はありますか……スカル…」

「…死んだと………思ったんだ………」

 

初めてとすら思えるスカルの声に私はただ聞き逃すまいと耳を澄ませた。

どうやら意識があやふやで、寝起きのようにうわ言を呟いている。

 

「でも…………生きてる……」

 

彼のアメジストの瞳から一筋の涙が零れた。

 

 

「……生きてた……」

 

 

 

 

『まるで死に急いでいるような狂った野郎さ』

 

バイパーの言葉が脳裏を()ぎった。

彼の言葉が怖ろしくなった私は横たわる彼を抱きしめた。

 

「……死んでいい人など…いるわけないじゃないですか……」

 

 

『彼は一体、何でああも死にたがっているんだろうね…僕には分からないよ』

 

 

 

「あなたも…死んでよかった理由などどこにもないのですよ……スカルっ…」

 

 

 

だからどうか生きて下さいと言うには彼は命を葬り過ぎたのだ。

 

 

いきなり体を引き離された。

目の前にはスカルの顔があり、目を丸くしている。

まるでどこにでもいる子供のようなあどけない表情に私は胸が強く痛んだ。

スカルは暫く無言で周りを見渡し、ヘルメットを手に取り被ると出口へと歩き出した。

 

「スカル!」

 

私はスカルの名前を呼んだ。

 

「助けて下さってありがとうございます」

 

彼がいなければ私とお腹の子は危なかったかもしれない。

スカルは命の恩人でもあるのだ。

スカルは何も言わず歩き出す。

私は彼の後をついて行く。

 

それから時間も掛けずに外に出ることが出来た。

外から建物を見ればどれ程の地震だったかが分かった。

音信不通になってしまったから、早く皆に無事であることを知らせねばと思い帰路を急いだ。

スカルがバイクを走らせている中、私はただ彼の背中を見つめていた。

 

 

子供だった。

子供である彼が何故この世界に来たのだろうか。

何故そこまで死に急ぐのか。

一体何があったのか。

考えればキリがない程彼は謎に満ちていた。

 

『……生きてた……』

 

落胆したような、くたびれたような掠れた声は、まるで…死を望んでいたかのようで…

 

 

 

 

 

 

死んでいい人などいない

 

 

死んでよかったと思う人間はいたとしても

 

 

死んでよかった命などないのだ

 

 

 

 

私はただ流れる風に揺らされながら、彼の体温に温かさを感じていた。

 

 

 




スカル:今回のMVP、お前にしては頑張った、自分>>ポルポ>>その他の優先順位、ルーチェ助けたのは普通に倫理観とリボーン達が怖かっただけ。
ルーチェ先生:スカルが子供だと知ってSAN値がががが、この事実は誰にも言うつもりはない。
その他:この後五体満足で無傷なルーチェを見て安堵する。
ポルポ:自力で近場にいる熊や鹿を狩って食べてる。

今回はルーチェに顔がバレるって内容だけです。
そろそろアルコバレーノ化ですねぇ。

一昔前のエレベーターって手動で扉開けられたらしいですね。

はぁ…最近疲労が溜まりまくって小説どころじゃなかったです。
ちょっと投稿速度緩めます。




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skullの懐柔

俺は辛かった。


「スカル」

 

あの地震以来ルーチェ先生がよく声を掛けてくる。

この前は焼き立てのパイをくれた。

誰もいない場所でひっそりと渡されるのは何故だ。

あれか、俺なんかみたいなやつと交流あると思われたくないパターンか。

泣ける。

でもパイは美味しかった。

半分以上ポルポに食われけど。

今日もストーカー仮面野郎に言われて来た場所に行けば、ルーチェ先生だけが名前呼んでくれた。

既に俺以外皆集まってるんだけど、皆仲良さそうだよね…俺以外。

何だろう、俺のこのハブられ感。

ルーチェ先生も、俺がハブられてんの同情して声掛けてきてんのか?

やべぇ、目から汁が…

どうせ俺はいつもぼっちですよ、ぼっち万歳、悲しくなんてねーし。

……ねーし。

いつも通り、誰かと組まされて監視されるかと思ったけど今日は単独行動らしい。

隙を見計らって逃げても死亡フラグビンビンなんですね分かります。

皆椅子から立ち上がってどっかに行ってしまった。

俺も言われた場所に行けば、でかい立派な建物があった。

多分あれの中に入って、言われた通り探し物見つけて持って帰ればいいわけね。

楽勝楽勝。

 

と思ってた時期が俺にもありましたまる

 

「おいあいつだ!殺せ!少しの犠牲は構わん!絶対に奴を殺すんだ!」

 

うわあああああああああああん!

ニート特有の影の薄さを利用して建物の中進んでたら途中で見つかった。

そこから地獄のリアル鬼ごっこですよ。

さっきから背後をパンパンと銃声が聞こえるし、壁が削れていってる。

ハッキリ言おう、チビりそう。

きゃんっ、ヘルメットに掠った!

角を曲がれば行き止まりで泣いた。

うっそだろぉぉぉぉおおお!

くそ、こんなことならPCの中身全部消しておけばよかった‼

唯一の逃走手段は窓だけだったが、俺がいるのは5階。

無理ぽ。

楽し…くない人生だっだよこなくそー!

……………窓の外に向かってそう叫ぼうとした俺だったが、寸でのとこで止まる。

そして俺の目線の先には蛇口と、蛇口に巻かれているホース。

人って水掛けられたら一瞬怯む…よな?

そのうちに逃げ……られる…よな?

よし、どのみち死亡フラグ乱立してるし、やるだけやって派手に死にますか。

蛇口にホースを差し込み、蛇口を捻るとホースの先端から水が溢れ出す。

中々の水圧だ。

 

「そこの角だ!そこだっうわあっ!」

 

数人の足音がしたので角を曲がった瞬間にホースの口を親指で摘まみ、野郎どもに掛けまくってやった。

案の定一瞬怯んだ野郎どもの側をそっと抜け出ようとして一歩踏み出した時だった。

腰に差していたスタンガンを思い出した。

Q:いつ使うの?

A:今でしょ!

スタンガンを引き抜き濡れた顔を拭う奴等に向けてスタンガンを向けた。

まさかそれがあんなことになるなんて……………

 

「ぎゃああああ、俺の腕がっ」

「あ、足が焼けて、あああああっ」

 

俺は呆然と突っ立って、悲鳴を上げている奴等を見ていた。

結果を言えば、建物が燃えた。

 

数分前に遡ろう。

スタンガン向けたと思ったらそのまま滑って地面に落とすという失態に本気で泣きたかった。

んでもって水浸しの地面にスタンガン落ちて、その場の全員に感電するというね。

いやいやスタンガンだよ?

そこまで威力なんてな………モブ子ぉぉぉおおおおお!

確か俺の持ってるスタンガンってモブ子が渡してきた奴だよな!?

あいつか!真犯人は!

つーか俺も感電したんだけど!?

痛くて声も出なかったわ!

あれはダメだ、粗悪品だ。

感電に悲鳴をあげたり気絶してた野郎どもの隣で、今だ!と思って逃げようと足を一歩引こうとした瞬間に隣の壁が爆発。

そして爆発の衝撃で扉やら窓やらが破壊して俺まで外にふっ飛ばされたわけで。

まさか5階から命綱なしバンジージャンプするとはな。

爆風で建物から放り出された時お空が見えて、とっても綺麗だと思いましたまる

…ふざけんなよ、この野郎。

そのまま地面に腰を強打してのた打ち回ること数十秒。

漸く立ち上がって周りを見ると、地獄絵図。

ていうか何で爆発したんだよ。

味方を巻き込んでまで俺を殺したかったのかよ!

外道だなおい。

 

「痛ぇ、痛ぇよぉおおおお」

「うぐあぁ、目が…」

 

ご愁傷様で。

 

「腕が折れたぁぁ…誰か、助けてくれぇ…!」

「ぅぅ……頭が…い、てぇ……」

 

じ、自業自得だろ…

 

「あうぅ……」

「おい、起きてくれよ…目を、覚ませっ……」

 

助けてなんか………やらな…

 

ヴェルデやルーチェ先生の話聞いてる限りじゃコイツらも一応犯罪者っぽい何かだろうけど、その前に人間だもん。

ニート志望だなんて社会の底辺だと自覚している。

だけど……目の前で苦しんでる人助けないと…人として終わる気がするんだ。

怖いけど……でも助けなきゃ、いけない気がする。

直ぐ近くの片足が折れてる男に近寄り、傷の具合を見ようとした。

 

「待ってくれ!」

 

手を伸ばしたところで別方向から呼び止められて、そちらを振り向けば比較的軽症の男がアタッシュケースを片手に凄まじい形相でよろよろと近寄って来た。

 

「あ、あんたが欲しいのはこれだろ!?」

 

そう言ってアタッシュケースを投げ渡された。

なぁに?コレ。

頭の中疑問符だらけのままアタッシュケースを開ければ、中にはヴェルデから探し出せと言われた品物が入っていた。

ああ!これか、そうそうこれが欲しかったの。

じゃねぇ、何だよ渡してくれんなら何で追いかけて殺そうと…いや最初に不法侵入したの俺だけど!

これなら普通に正面から入っていけばよかったじゃん……ヴェルデも説明不足なんだよ。

 

「もういいだろ!?ソレ渡したんだから俺達の前から消えてくれよ!頼むよ!」

 

なにこれ辛い。

本気で嫌がられてる。

いやまぁそれもそうか、不法侵入者撃退しようとして爆発に巻き込まされた身としては堪ったもんじゃない…のか?

いやそれただ単に身内が外道なだけじゃね?

正直俺も爆発に大いに巻き込まれたわけで、腰痛持ちになったらどうしてくれようか。

アタッシュケースを閉じて鍵をかけたのを確認すると、俺はそのまま早足でその場を逃げた。

これ以上いたら後ろからパーンされそう。

こいつら後で身内争いするパティーンだな。

そのまま集合場所に行ったら誰もいなかった。

あれ?もしかして俺待たずに帰った的な?

いじめかな。

大方首謀者はリボーンだろうな。

あいつ俺のこと嫌ってるし。

何故だ。

いや別に野郎に好かれても嬉しくないが。

ショックを受けつつも取り合えず最初の集合場所に戻るとルーチェ先生がいた。

担任は高みの見物ですか、そうですか。

 

「スカル?早かったですね、他の者は…………待たずに先に帰ってきたのね?」

 

なんと、あいつら来てないの?

どっかで寄り道してんのか。

全く酷い奴らだ。

怒る気力も度胸もないし、ルーチェ先生に荷物渡して帰ろうかな。

 

「少しお話をしませんか?」

 

二者面談の文字が一瞬浮かんだ。

本気でルーチェ先生が小学校の先生に見えてきた。

 

「あ!そういえば玄関の方にクロユリが咲いていましたよ、見に行きましょう!」

 

クロユリ?……ああ、あの真っ黒い花か。

ルーチェ先生が俺の手を掴んで玄関まで引っ張っていく。

腕が捥げるかというほどこの人握力強いんだけど、本当に女性?

女性の姿をしたゴリラとかじゃなくて?

 

「ほら、とても綺麗でしょ?」

 

って言われても俺美的センスないし。

正直花なんてどうでもいい。

数十分ほどルーチェ先生がクロユリガン見している間、俺はいつも集まる建物を眺めていた。

何でこんな辺境の地に集めるんだ?

やっぱりあれか、裏の世界の話だから内密的な?

これ警察にチクったらどうなるんだろう。

あ、すっげーでかい蜘蛛が窓に張り付いてる。

 

「スカル、一輪落ちていたのでどうぞ」

 

落ちたの渡すなよアホー!

悪気のない笑顔が余計腹立つなオイ。

断るのもアレだから貰うけどさ。

ルーチェ先生から手渡しで貰おうとして、グローブを付けた指先が茎に触れようとした時だった。

 

茎に小さな芋虫がいた。

 

おんぎゃあああああああ!

思わず花をルーチェ先生の手ごと叩き落としてしまった。

ボトリと地面に落ちた茎からうぞうぞと小さな芋虫が地面を這って行くのを見て鳥肌が立った。

きもい、果てしなくキモイ。

 

「おい、何してんだ」

「リボーン!帰って来たのね、他の皆は?」

「今から来る、おい、てめぇも先に行ってんなら連絡くらい常識だろうが」

 

俺を待たずに置いてったのはどこの誰だよ!

ルーチェ先生の前だからって恰好付けやがって。

ッハ、まさかコイツルーチェ先生が……

人妻好きとかもう末期だな、戻れねーとこまで来てらぁ…人として。

リボーンの後ろにヴェルデ見えたから、そっちに行って荷物渡して帰った。

家に帰ったらポルポがめっちゃへばり付いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

ルーチェside

 

彼が子供だと分かってから私の中で、スカルという男に対しての印象が180度変わった。

最初は得体のしれない仲間だったが、今では生き方を知らない可哀そうな子と思うようになっていたのだ。

 

『……生きてた……』

 

あんなにも悲しい声を聞いたことがない。

あんなにも苦し気な瞳を見たことがない。

 

可哀そうな子だった。

私にはあなたが狂人だと思えない、思いたくない。

 

『………ルーチェ…』

 

酷く掠れた声を今でも鮮明に覚えている。

何も、知らないだけなのだ。

この世界の美しさを素晴らしさを。

残酷な世界だけを見てきたあの子供に、私は一体何をしてやれるだろうか。

 

それから私はスカルに積極的に話しかけることにしたのだ。

彼の鉄の様な警戒心を緩めようと努力した。

分かったことは、スカルは一度も私を拒んだことはなかった。

焼いたパイも、クッキーも全部受け取ってくれた。

いつも何かを渡した時の彼の戸惑っている様子は、見ていて辛いものがあった。

まるで今まで何かを貰ったことがないかのように、彼はいつも自身の手のひらの上に存在するプレゼントを無言で眺めていた。

 

 

スカルは愛を知らない

 

 

そう確信するまで、そう時間はかからなかった。

ある時の依頼で、私は皆の帰りを待っているとスカルが早めに帰ってきていたのだ。

 

「スカル?早かったですね、他の者は…………待たずに先に帰ってきたのね?」

 

相も変わらず無口な彼だが、前よりも距離が近くなったと思っている。

彼の警戒心の顕れは逆を言えば、無警戒である環境下を知らないということ。

 

「少しお話をしませんか?」

 

私の隣は大丈夫だと知って欲しかった。

 

「あ!そういえば玄関の方にクロユリが咲いていましたよ、見に行きましょう!」

 

私は玄関先にクロユリが咲いていたのを思い出した。

スカルの手を引いたが、本人に嫌がる素振りはなかった。

むしろ戸惑っているようですらあった。

ああ、やはり彼は人の温もりを知らないのだ。

グローブから伝わる彼の体温は確かに温かかった。

 

「ほら、とても綺麗でしょ?」

 

数十本のクロユリを指差し、スカルに同意を求めるように声を掛けた。

スカルはうんともすんとも言わなかったが、それでもよかった。

何かに触れることを知って欲しかっただけのなのだから。

数十分程クロユリを眺めていると一輪だけ地面に落ちていた。

風で折れてしまったのか、真新しい花弁でそのまま放っておくのは勿体ないと思ったのだ。

 

「スカル、一輪落ちていたのでどうぞ」

 

そのクロユリを手に取り、スカルの方へ差し出す。

クロユリの花言葉は「愛」。

愛をあなたへ。

少しでもあなたに愛が届くように…

 

 

パンッ

 

ハラリと私の前で花弁が散る。

地面にかさついた音を立てて落ちたクロユリが視界に入った瞬間、叩き落とされた手の甲がじんっと痛んだ。

スカルの指は震えていて、私は叩かれた手よりも心がズキリと痛んだのだ。

そんな時スカルの後ろからリボーンが現れた。

 

「おい、何してんだ」

「リボーン!帰って来たのね、他の皆は?」

「今から来る、おい、てめぇも先に行ってんなら連絡くらい常識だろうが」

 

リボーンがスカルを一睨みし、私とスカル、そして地面に落ちていたクロユリを見た。

スカルはそのままリボーンの横を過ぎ去り、ヴェルデの下へ行き今回の目的のものを渡すと何も言わず姿を消した。

 

「ッチ、女からの花を払い落とすなんぞ男のすることか」

 

リボーンは舌打ちをしながらクロユリを拾い、私に手渡した。

 

「ありがとうございます…」

「あんま落ち込むんじゃねぇぞ………それと、あいつに何かを期待するのはやめておけ」

 

それだけ言うとリボーンは中に入っていった。

 

「ルーチェ、右手が腫れているようだが大丈夫か」

「え、はい…何でもありません」

「それならいいが…」

 

ラルの言葉で私は自身の手の甲を見た。

そこはほんのりと赤くなっいた。

私はラルと共に中へ入り、皆の報告を待った。

するとヴェルデがスカルから手渡されたものをテーブルの上に置いて、険しい顔をしていた。

 

「スカルめ、事を大きくしたな……やはり奴に隠密行動は無理だったか」

「どういうことですか?」

「これを見てみろ」

 

そう言ってヴェルデが取り出したのは小さな手のひらサイズの機器だった。

 

「それは…」

「これは小型ラジオだ、よく聞いてくれ」

 

ラジオは雑音混じりではあったが、確かにその場の誰もがしかと耳にした。

 

 

 

『××地区にある〇〇通りの建物がアークフラッシュで崩壊しました。死者17人、重軽傷者49人と規模が大きく、現在原因を調査中で—————』

 

「スカルに頼んだ場所だ、探すのが面倒で手っ取り早く建物ごと潰して先方の戦力を削いだ後に例のものの場所を聞き出した…というところか」

「確かそこは■■ファミリーと繋がっていた場所じゃないか?」

「奴にとって関係ないのだろう…なんせ邪魔するものには死を、なんて大層な言葉があるのだからな」

 

ヴェルデは呆れたようにそう言っていたが、誰もが軽く受け止めていなかったのだ。

私は先ほど叩かれた手の甲を見た。

 

 

そこはうっすらと赤みを帯びていて

 

私はそれを見るたびに胸にズキリ、と言い様もない不安と痛みを覚えた。

 

ああ、早くあの子に愛を……

 

 

もう、残された時間は僅かだ

 

 

 

あの日が近い

 

 

 

 

 




スカル:新たに伝説()をマフィア界に刻んだ、最近ポルポが急成長しているのが気になる模様、モブ子許さん。
ルーチェ:スカルを我が子のように思っている。
芋虫:いい仕事したぜ。
リボーン達:スカルがルーチェの手を叩き落としているのを目撃し、好感度が急激に降下+今回のスカルの起こした凶行にさらに好感度を降下させる。
リボーンに至っては既に零地点突破済み。
スタンガン:100mA(死亡する可能性が極めて高い電流の大きさ)を垂れ流した兵器、なおスカルはピンピンしている。
ポルポ:ご主人様ー!と帰って来るスカルに毎回張り付いている、最近は牛も食べてる。



建物に関してトラッキング現象からのショート発火、んでもって隣のサーバー室でアークフラッシュ(電気事故)。
用語が分からないくても別に大丈夫です、私も理解していません。

取り合えず大体スカルのせいです。


……取り合えず大体スカルのせいです。




どうでもいい絶望話↓

寒くてタイピングする指が震えるこの頃……
さてスカルの8話がそろそろ半ぶ……あ"あ"あ"あ"あああああああああああっ

_人人人人人人_
> 突然の死 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄


PCがフリーズしてスカルの8話が3000文字のところで吹っ飛んだ、泣きたい。




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アルコバレーノ以後
skullの歓喜


俺は喜んだ。


最近ポルポが2m超えた。

これ以上大きくなられても……

ある程度大きくなったら自然に帰そうかな。

今日もまた仮面野郎が直々に声掛けてきた。

そろそろ本気で人違いであることを言った方がいいと思うこの頃。

どう切り出そうか迷っていたら仮面野郎から声を掛けられた。

 

「なに、直ぐに依頼を済ませてくれればいい」

 

君なら簡単だろう?じゃねーよ!

こっちとら痛い思いしてんだけど?

こいつの鼻にこのツーフィンガーをぶっ刺してやろうか。

…………ポルポが。

 

「今日の依頼もいつも通り簡単なものさ」

つけ

 

やっべ本音が少し漏れてしまった。

仮面野郎を覗き見ると無言で俺を見てる。

やっべー、怒らせた。

土下座するビジョンまで見えたところで怖くなって、仮面野郎の隣を通り抜けて、バイクの鍵を取りに行く。

今日も憂鬱な日だ。

後ろを振り返ると仮面野郎がどこにもいなくて、本当に毎度ながらあいつどうなってんだと思う。

バイクに乗ろうとしたらポルポが背中にへばり付いてた件について。

剥がそうとしても頑なにへばり付いてる。

非力体質なめんなよコラ。

諦めてポルポを背負った…というか張り付かせたまま集合場所へ向かうことに。

まぁヴェルデなんてワニ連れてきてるし、大丈夫か。

遠い道のりを走って漸くいつもの指定場所に到着した。

ポルポにはバイクで待っててもらった。

中に入ると全員座ってた。

毎回思うけど俺の疎外感。

いや別に怪しい職業のお前らと仲良くするつもりないけど。

今回は財宝探しらしい。

なんか一気に盗賊っぽくなったぞオイ。

いやでもまぁ、人殺しよか断然マシか。

役割を振り分けられた。

どうやら俺は財宝を運ぶだけらしい、ヤッタネ。

取り合えず財宝が隠されてるのはこの山付近ということで皆で山に来たわけだが。

俺だけ運ぶことも視野に入れてバイクで来たけど皆は歩きらしい。

ルーチェ先生に至っては妊婦なのに逞しいことよ。

道中暗号やらなんやらを解いていく皆と、それを眺める俺氏。

一度風に暗号を見せてもらったけど、全く分からんかったわ。

何もすることないから景色を眺めていたら、地上から見える山頂付近に一匹のカラスが見えた。

山頂にカラス?コンドルとかじゃなくて?

興味深く目を細めてたらカラスがこっち向かって飛んできた。

ひぃっ

避けようとしたところでバイクに乗せてたポルポが丸呑みしてしまった。

ポルポお前……案外ワイルドに食べるんだな。

するとポルポが何かを吐き出した。

地面にコロンと落ちたそれを拾い上げると、それは宝石だった。

いや比喩とかじゃなくて……え、これ本物?

手の平にある宝石を眺めてはポルポを見る。

カラスの口の中に入ってたのかな?

待てよ…このカラス……山の山頂から出てきたよな…………

俺はじーっと山頂を眺めてたけど、皆が動き出したからそっちについていった。

数時間の末漸く財宝の在処が分かったらしい。

 

「宝は山頂だ」

 

んんん?

それさっき俺が見た所じゃね?

カラスが出ていったところ…

うわぁ、これなら最初に言えばよかったや。

リボーンと風が先に洞窟に入っていって中を調べていくらしい。

洞窟の中に財宝があったとのこと。

つってもこれが俺らのになるわけでもねーし…

さっきからポルポが異常に引っ張ってくる。

ポルポの触手が俺の首に張り付き、グリンと180度くらい回された。

いっだ!何すんだこのクソダコ!

今ゴキンって鳴ったぞオイ!

遊びたいのは分かるけど後にしてくれ。

頭撫でたら大人しくなった。

ポルポ、お前もうバイクのトランクの中にいとけ。

ポルポ仕舞い込んで皆の下に行った瞬間だった。

 

皆の身体がちっさくなった。

もう一度言う、皆の身体が小さくなった。

ええええええ!?

何があったのか分からず困惑していると、自分の目線も変わっていることに気付く。

んでもって自分の両手を見ると、小さなもみじがそこにはあって……

俺まで小さくなってる………?

ええええええええええ!?

どういうこっちゃ!

 

「ち、小さくなってる!」

「な、何故だ!?」

 

他の皆も俺同様に驚いて自分の身体を見つめてる。

待て、一人知らん奴がいる。

誰だアイツ。

あれ?何でルーチェ先生だけそのままなんだ?

いやそれよりもどういうことだよ、コレ……

あれか、頭脳は大人、体は子供って奴か。

どこぞの名探偵を思い出すが、あんなレベルじゃねーぞコレ。

いやだってコレどう見ても子供っていうか赤ちゃんじゃん。

バブみ感じてる頃の身体じゃん。

いや俺の場合は地獄だったけど。

にしても本当に何があったし。

こんな小さな身体じゃ碌に運転も……ハッ

 

 

……赤ちゃんだから合法ニートじゃね?

 

ニートに違法もクソもないが、赤ちゃんなら別に働かなくて当たり前だよな。

っていうか働いたらある意味違法じゃね?

やべぇ、これは……まさか…ついに俺のニートライフが出来るということか!

 

「コロネロ!何でお前がここにいる!」

「き、気になってついてきたんだよ!」

「クソッ、この馬鹿が!」

 

あ、ラル姉さんの彼氏か、そうですか。

リア充爆は……いや、ラル姉さんだから生き残りそうだな。

にしてもどうやって帰ろうかな。

これじゃバイクに跨ることだって出来やしねーよ。

って思ってたらいきなり俺の足が地面を離れて宙に浮かんだ。

いきなりのことで叫ぼうとしたらお腹を締め付ける何かに既視感が。

あ、これポルポだ。

赤ちゃんの身長じゃポルポの顔が見えないんだよ。

おいちょっと待てリボーン、その手に持ってる拳銃仕舞え。

ポルポは俺のペットだこの野郎。

ポルポ、ちょっとバイクの場所まで連れてってと指で指示してみるとポルポは理解したようでバイクまでズルズルとそのでかい巨体を引き摺っていく。

バイクの椅子に乗っけてくれるかと思ったら、ポルポがバイクを持ちあげた。

…………え。

はい?おま、バイク何kgあると……え?

そのまま山を下り始めたポルポだが、8本の触手の内1本を俺、3本でバイク、残りの4本で歩いている。

色々とペットが規格外な件について。

まぁ困ったことないけど。

むしろ今大助かりしてるけど。

後ろから戸惑う声が聞こえるけど無視。

正直あいつらと関わって碌なことがなかったが、今回だけは心の底から喜んだね。

なんせこれからニートライフが俺を待っているからな!

俺はそのままポルポに抱えられて山を下りて行った。

家に帰るとポルポにお礼を言った。

するとへばりついてきた。

待って、今の俺にそれやるとマジでシャレにならん!

お前今2m以上あんだろうが!

やめっ、ぎゃあああああああああああああああ

 

あ、辞職届…出さなきゃ……

ふとそう考えたのが、ポルポとのじゃれ合いが終わった数時間後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

チェッカーフェイスside

 

 

 

「私は今、世界最高の❝選ばれし7人❞を集めている」

 

私は今目の前の男にそう言い放った。

目の前の男は何も言うことはなく、ただ無言で私を見返すのみ。

ヘルメットを被っているせいか、その表情は分からぬがこちらを警戒していることだけは分かる。

彼の前に最強の殺し屋に声をかけたが、彼の比ではない程の殺気を私に放っている。

これまで出会ったどのアルコバレーノ候補でもここまで濃密な殺気を放つ者は果たしていただろうか。

なるほど、流石マフィア界でも恐れられるだけある。

 

狂人の運び屋スカル。

 

彼の名前を耳にしたのはつい最近だ。

そろそろアルコバレーノの代替えの時期だと思い、次期アルコバレーノ候補を探している時に、彼はいきなりその名をマフィア界に広めたのだ。

数多の命を葬った運び屋で、冷徹無情の残忍な男だと知られている。

彼の行動を把握しようと探ってみれば、カルカッサファミリーの専属で動いているようだった。

そして彼の行動にはこの私でさえ目を見張るものがあった。

強い、というわけではなく…ただ通常の感性は持っていないであろう印象を受けた。

周りの状況を理解し、どれだけ多く殺せるかを理解して動いているようにも感じ取れた。

数多の者から恨みを買っている者をアルコバレーノにするにはリスクがあったが、この男は心配ないだろう。

なんせ、不死身とすら思えるほどの生命力と耐久力をもっているのだから。

高さ1000mの地点から落ちて死なない人間など見たことがなかったが、この男は平然と立ち上がっていた。

人柱にするに値する者であると判断し、私は彼の前に現れた。

彼から私に届くのは警戒と殺気のみ。

恐らく自身の領域(テリトリー)に侵入してしまったのが悪かったらしい、

直ぐに説明をして帰ろうと思い、依頼の大まかな内容とその報酬を教える。

報酬は普通に考えて乗らない手はないとすら思うが目の前のスカルは、一度として首を縦に振ることはなかった。

さて、参ったな。

彼は何かを目標に動いているわけではない。

だから釣れるものがないのだ。

次期アルコバレーノ候補に教えた指定の日時になる1時間前、唯一承諾を得ていないスカルの様子を見れば、案の定というか彼は全く行く気がなかった。

再び彼に声を掛けると、警戒と殺気がこの身に放たれた。

報酬の上乗せの条件で指定日時を伝えると、渋々と動き出した。

彼の原動力は分からないので、一番手こずるなとは思うがこれもトゥリニテッセの為だと思い込む。

結果から言えば彼らは私の期待通りの成果を挙げた。

思考が一般とかけ離れているスカルがチームで動けるか少々気にしていたが、杞憂だったようだ。

報酬を渡しに行くが、その場にスカルはいなかった。

私自ら出向けということか。

だが彼は自分の領域(テリトリー)に侵入されるのを嫌う。

私はスカルの口座を調べ、勝手ながらそちらに振り込む。

さて、もう少しの間本当にこの者達で大丈夫なのかを見定めなければ。

まさかこれから何度も依頼の度に、スカルを呼ぶことになるとは思わなかったが。

それから2か月が経った頃に、ルーチェがスカルと接触を図ったようで、少しスカルと彼女の距離が縮まったように思う。

今だにスカルの思考が私には理解出来ないので、これを機に何か分かればと考えていた。

 

ある日、私は彼らの前に姿を現さず、幻術で気配と姿を消して彼らを観察していた。

依頼からいち早く帰って来たスカルがルーチェと外に出ていくのが建物から見えた。

私はその様子を眺めていると、いきなりスカルの目線が私を捉えた。

 

「!」

 

私は自身の指を覗けば、そこには確かにリングが嵌められていた。

だがスカルの視線が私から外れることはない。

馬鹿な、ヘルリングを付けている今の私の気配を読み取ることは出来ないハズだ。

ヘルメット越しのスカルがこちらを覗き込んでいる。

まるで、私が見えるというかのように。

数十分ほどスカルはこちらを見つめていたが、ルーチェが声を掛けたことで視線が逸れた。

私は自身の頬に冷や汗が一筋伝っているのに気付く。

 

私は未だに彼の素顔を見ていない。

いつもヘルメットをしているわけではないだろうが、私が彼の前に現れると、彼は決まってヘルメットをしていた。

まるで私が来るのが分かっていたかのような様子で。

ああ、やはり彼は私には理解しかねる。

いや…だからこそ、彼は狂人なのだ。

スカルのお陰で見定める期間が大分長引いてしまった。

そろそろ、彼らには人柱になってもらわねば。

 

呪いを彼らに与えるその日も一向に指定場所に向かおうとしないスカルに声を掛ける。

いつものように軽く一言二言声を掛けて、その場を去ろうとしていた。

 

「なに、直ぐに依頼を済ませてくれればいい」

「今日の依頼もいつも通り簡単なものさ」

 

 

 

嘘……

 

 

酷く掠れた小さな言葉は確かに私の耳に届いた。

私は一瞬彼が何を言っているのか分からず、彼を凝視した。

初めてのスカルの声に驚く以上に、彼の発した言葉が無視出来なかった。

『嘘』と、彼は呟いた。

何が、などと言わずとも分かるだろう?と言っているかのように私をヘルメット越しで見つめる。

一体どこでそれを知った。

誰にも言ってはいないハズなのに。

そう聞こうとした直前に、スカルは一歩踏み出し私の隣を過ぎ去っていく。

私は開きかけた口を閉ざし、彼の前から姿を消した。

なんとか動揺を押隠す。

今までも奴の思考が理解出来なかったが、彼も人間に過ぎないと油断していた。

あの男が分からない。

何を知っていて、何をしたいのか、これから何をするのか…全てが分からない。

やはり彼は危険過ぎたか?

だが今からまた探すとなれば時間が…

既にスカルは彼らの下へ向かってしまった。

何を思って向かったのか、これから何が起こるかなど分かり切っているのに。

自らこの星の(いしづえ)になろうとでもいうのか。

 

「ああ、そうか………そうだ」

 

漸く私は理解した。

 

「彼は狂っている」

 

だから私に理解出来ない

 

否、誰にも理解されることはない

 

 

そう、私は()()()()のだ。

 

 

 

 

そして彼らは星の(いしづえ)となった。

 

 

「どういうことだ!?」

「な、何故…っ!?」

「体が小さくなっている!?」

「皆落ち着いてっ」

「おしゃぶり…?」

 

 

ああ、ルーチェの呪いは腹に宿った子にも受け継がれてしまったか。

全く……彼女と面影が似ているせいで余計心苦しいよ

 

 

いつだって

 

呪いを授かった者らが見せる絶望は

 

心苦しいものだ

 

だが星の為だ

 

必要な犠牲だった

 

その言葉を免罪符に今日もまた、(いしづえ)を生み出した

 

 

彼のように狂った者ならば或いは

 

 

こんなにも苦しむことは

 

 

 

なかったのだろうか…

 

 

 

「今なら君が少し…羨ましいよ……スカル」

 

 

 

私は仄暗い処で 一人呟いた

 




スカル:唯一赤ちゃんになって喜んだ奴、俺の待ちに待ったニートライフゥ!
チェッカーフェイス:何気にスカルが理解出来ず困惑中
ポルポ:ご主人様が小さくなっても匂いで一発だぜ、カラス(゚д゚)ウマー

今回原作?と乖離点をば
・ルーチェは小さくならなかった。これに限る。
正直赤ちゃんの姿でどうやって出産するの?ってなわけで、大人のままにしました。
でも呪いのせいで短命に。
あとお腹の子アリアに呪いが分散して赤子にならなかったでも通せる気がする。


次回予告

ニートライフ「アデュー!」


スカル(レーシングスーツver)

【挿絵表示】




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skullの絶望

スカルは絶望する。


ついに来たね、俺の待ちに待ったニートライフ!

寝て起きて食べての繰り返し!

働かない!働きたくない!

これが俺の人生だあ!

と世迷言を宣っていた時期が俺にもありましたまる。

どうやら俺の会社はブラック中のブラックだったようだ。

取り合えず、「体が小さくなる呪いを受けて、仕事出来ない」という内容のメールを送ると、直ぐに会社に来るよう言われた。

まぁ証明として本人見るのが尤もだけどな。

一緒に縮んでしまったライダースーツとヘルメットを付けて、ポルポに跨って仕事場に向かう。

バイクが乗れないのは辛いがニートライフの代償だと思えば堪えられなくもない。

あとポルポ有能すぎる。

陸上を時速100㎞で走るタコってもはやタコじゃねえ。

水中ではこれの数倍にもなるんだから恐ろしい。

コイツもしかして珍獣では?

売れば一生困らないくらいの値段付きそうだが、生憎俺の移動手段なので売る気はない。

とまぁ俺は会社に顔出したんだよ。

すると出てくる出てくる珍種を見たような反応。

 

「スカル……さん、ですか?」

 

え、お前らよく分かったな。

だって赤ちゃんになってんだぜ?

でもってコイツら今会社の制服がライダースーツとヘルメット着用だぜ?

やっぱり俺から影の薄さが出てんのかなー。

取り合えず頷いたらいきなり騒がしくなった。

おい俺を取り囲むのやめろ。

赤ちゃんの身長だからお前ら巨人に見えて仕方ないんだよ。

怖ぇーよ!

 

「スカルさん!一体その姿は何があったんですか!?」

「呪いは本当だったのか!?」

「いやそれよりも早く技術班を呼んで調査しなければっ」

 

技術班?調査…?

待って俺を何かの研究材料にする気かコイツら!

あ、ヤバイ、囲まれてる、死んだ。

固まって動けない俺を抱きかかえて、研究室みたいな場所に連れていかれた。

やぁぁぁぁあだぁぁぁぁぁあああ!

誰かぁアアアアアアア!ポルポぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!

おいポルポお前何ゆっくりお菓子貰いながらこっち来てんだよ!?

助けろよ!お菓子で釣られんなドアホ!

主人の一大事って時だろうがあああ!

俺の心の叫びはあのアホダコには届かず、俺は実験台に乗せられた。

 

「すみません、血液採取します」

 

謝るくらいならすんな。

マジで。

俺痛いの嫌なんだけど。

 

「おしゃぶりが取れない…?何だコレは……」

 

あ、それは俺もちょっと気になってた。

このおしゃぶり取れねーなーって。

ヘルメット以外外されたけど、赤ちゃんだからか真っ裸でも恥ずかしくないんだが。

いやちゃんとトランクスは付けてるや。

何されるか分からずビビリまくってた結果、何もされなかった。

強いて言うなら血液採取が痛かったことだけだな。

貴重な実験体だから丁重に的な?

でもさ、赤ちゃんの身体をさ…数時間も拘束するとかこいつらの中に罪悪感ってないのかな。

 

「検査の結果、異常はありませんでした……一体何が原因でこうなったのか全く見当も付かなくて…」

 

誰かが喋ってる声が聞こえる。

赤ちゃんとして俺は全くもって健康体らしい。

わーヨカッター。

じゃねぇ、戻されてたまるか。

俺は絶対に大人になんてならねーからな!

つーか呪いウェルカムだよ。

どうせなら生涯呪われたいね。

俺は実験室から出されると、またどこかに連れていかれた。

次はどこだよ…とげんなりしてたらボスの部屋だった。

 

「ああ、スカル!呪いは本当だったのだな…」

 

深刻そうな顔してるけど、お前それただ社員が一人減って会社の利益が減ったからだろ。

っくー、本当にブラックだなこの会社。

 

「赤子の身体になってしまっては……運びは難しいか…」

 

当たり前だろ!

まだ諦めてねーのかコイツ。

赤ちゃんに配達させようと一瞬でも考えるとか鬼畜だな。

もうこのブラックな社長怖い。

 

「ならば、カルカッサファミリーの軍師をしないか?」

 

ぐんし?ぐんしって何。

 

「君の洞察力ならば的確な指示なども出来るだろう」

 

指揮官ってこと?

いやいやいやいや、だから赤ちゃんに働かせるなって。

お前外道だな。

ここは、呪いを受けて辛かっただろう、後はゆっくり休めって言うところだろ!?

まだまだ働けるよな?じゃねーだろ!?

何考えてんだコイツ。

 

「君ならば私も安心して背中を任せられる…君のお陰でカルカッサは巨大な組織に成り上がったのだから」

 

ヨイショすんなやー!

どう見ても骨の髄を絞り尽くすまで会社に縛り付けようとしてるやつじゃないですかー!

グレートブラックカンパニーじゃん、めっちゃブラックじゃん。

断りたいけど、さっきから社長のスーツからちらちら見える拳銃の端っこが気になって仕方ない。

途轍もなく怖い。

断ったら天国の片道切符渡される。

 

「君の意思を優先させるがな…どうだ、私と共にカルカッサをより強く、巨大にしてくれ」

 

ああああ、笑ってやがるコイツ。

俺が赤ちゃんだからって舐め切ってる!

せめて拳銃を仕舞って言って欲しかった!

断らせる気ゼロじゃねぇか。

ふぇぇぇぇぇぇえええええん

 

「さぁ…この手を…取ってくれ」

 

笑顔が怖いよぉおおおおお

ブラックな社長がどす黒い笑みで手を差し伸べてきてるぅぅぅうううう

 

手を握った俺はこのあとめちゃくちゃ泣いた。

 

帰り道にポルポに海に落とされた。

泣きたい。

 

 

 

 

 

 

 

カルカッサファミリーボスside

 

 

『呪いで身体を小さくされた、契約を切りたい』

 

最初、その文字を見た時私は自身の目を疑った。

そして次の行動は早かった。

直ぐにスカルを呼び出し、真偽を確かめようとした。

いや彼が冗談を言うような奴ではないことくらい私も知っている。

知っているがどうしても信じたくなかった。

だがそれも、訪れたスカルの姿を見て脆くも崩れ去った。

 

「ああ、スカル!呪いは本当だったのだな…」

 

それは赤子の姿で、こちらを覗き見ていた。

何者も寄せ付けぬ雰囲気はいつもの彼と変わらず、背負った闇は薄まる程度のものではなかった。

滲み出る狂気に、目の前の赤子がスカルだと確信する。

私は何故という言葉を飲み込んで、今後のことを話しだす。

彼が自身のことを語ったことなどないのだから。

 

「赤子の身体になってしまっては……運びは難しいか…」

 

スカルはカルカッサの最高戦力であり、脅威の象徴だ。

今スカル無しでは折角巨大になったカルカッサの脅威が地に落ちてしまう。

それはダメだ。

スカルの体面をどうにか守らねば。

どうやってもスカルを手放してはならない。

ファミリーの利益は勿論のことだが、彼はカルカッサの恩人だ。

彼を疎ましく思う者はカルカッサには存在しない。

 

「ならば、カルカッサファミリーの軍師をしないか?」

 

君ならばきっと、今よりも強く大きな組織に出来るだろう。

君ならばきっと、今のマフィア界を覆すことが出来るだろう。

君ならばきっと…これから新たな時代へと導いてくれるだろう。

 

「君の洞察力ならば的確な指示なども出来るだろう」

 

私は君を信じよう。

 

「君ならば私も安心して背中を任せられる…君のお陰でカルカッサは巨大な組織に成り上がったのだから」

 

私は君に背中を預けよう。

 

「君の意思を優先させるがな…どうだ、私と共にカルカッサをより強く、巨大にしてくれ」

 

だからどうか……この手を取ってくれないだろうか

 

「さぁ…この手を…取ってくれ」

 

 

また君に魅せられる日を待ちわびているのだ。

 

狂気を

 

君の狂気を

 

怨嗟を背負った君の狂気はなんと美しいものか。

 

 

 

小さな手のひらが私の手のひらに触れたその瞬間

 

狂おしい程の恐怖と悦楽が背筋を駆け巡った。

 

 

ああ ここからは 未知の領域だ

恐怖はある

畏怖(いふ)はある

だがそれ以上に

 

彼が手を取るに値する者であるという信頼にこれ以上なく歓喜したのだ

 

 

スカルがカルカッサファミリーの軍師に任命された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

 

ゴポ……ゴポ…

 

薄暗い溶液の中でそれは息を吹き返した。

 

「やった!復元に成功したぞ!見ろ、No.3を!」

「ああ、やっと俺達の研究の成果がっ」

 

数百年…(いな)、数千年…(いな)、数万年…(いな)(いな)

遥か(いにしえ)息衝(いきづ)いていたソレが今この時永い眠りから目覚めた。

 

ゴポリ……

 

「何だ…これは………頭足類…だよな?」

「だと…思うが…タコ類ではないのか?」

「いやだが…外套膜(がいとうまく)に鱗のようなものが…」

「何?」

 

 

神話は覚醒する。

 

 

赤子のように知識も理性も言語も、何もかもないソレは情報を欲した。

水槽越しに耳にする音を脳内に取り込み、知識として構築する。

数か月という時を経て、ソレは幼稚ながらも言語を理解した。

 

「今日はNo.3の粘膜…それと毒の有無を確認する」

 

防護服を十全に着用した彼らはソレに近付いた。

 

「頼むから暴れないでくれよ…」

 

ソレは“動かないで欲しい”という意図を理解する。

だが何もせずにただ沈黙するほどの理性を身に付けてはいなかったのだ。

自らを触れたソレは自己防衛で、身体の奥底に存在する毒袋から目一杯毒を吐く。

 

「うわっ、墨か!?」

「おい、待て、迂闊に動くな!」

「毒を含んでいる可能性がある…一旦空気中・水中の成分解析と解毒剤をこの実験室に散布する」

「わ、分かった…」

 

ソレは再び瞳を閉じた。

 

「これといって毒性が検出されたわけではなかったか…」

「解毒剤散布終わりました」

「よし、粘膜の分析を始めよう…さて、と…」

 

彼らが念入りに空気中の毒素を確認し、防護服を脱いだその時だった。

脅威は牙をむく。

 

「うっ、うぐ…が!?」

「どうし、うっ……息が…」

 

一人、また一人と倒れていく様を、水槽のソレはひたすら眺めていた。

誰もが息を引き取ったその時、(ようや)くソレはゴポリと息を吐く。

水槽の中の気泡に、黒い液体が混じり、水面に到達したところで薄れて消えていった。

彼らはソレを恐れ、凍結することを決断する。

ソレは緩やかに凍らされていった。

 

 

 

 

 

ねむい……ねむい……

 

うごけない……

 

うごけ……な………ぃ…

 

いやだ、いやだ……いやだ…

 

おきろ、おきろ、おきろ、おきろ

 

 

おきろ

 

 

…ビキ……

 

おきろ

 

ピシッ………

 

おきろ

 

————————————パリンッ!

 

 

でられた  でられた

みず じゃない どこ ここ どこ

だれもいない 

 

「お前、カルカッサファミリーの!」

 

おと こえ する どこ

 

いた 

 

あれだ あれだ あれだ

 

「…ボスの所まで案内する、ついてこい」

 

あれだ あのひとだ 

あれは つよい つよい

 

 

ああ いってしまった

まだ おきたばっかで あまり うごけない

また くるかな 

 

きた あのひと きた

いってしまう だめだ いかないで

ぼくも ぼくも つれていって

 

やった やった

あそこ でられた やった

ぼくは このひと ついていく

ああ はやく きづいて

 

 

「うお、何だコイツ…タコか?」

 

きづいた やった やった

そと つれていかれた

はこ はこ はこ に いれられた

おうち?

ぼくのおうち

あのひと いなくなった

どこ どこにいるの どこ

 

いた いた ねむってる 

 

「ふわぁ……あ?………あqwせdrftgyふじこlp‼」

 

? ?

なんていったの わからない

しらない おと わからない

 

「なななん……!?庭に出したハズなのに…」

 

にわ? にわ なに

わからない しらない おと わからない

 

「…コイツ、タコじゃねぇのか?……海に帰すか、えーとバケツ、バケツ…」

 

おうち いれられた おうち

はこばれてる どこ どこいくの

 

「せーのっソイ!」

 

うわぁ うみ うみ うれしい

ひろい たのしい

あれ? あのひと どこ いない

どこ?

におい こっちから あのひと こっち

 

「ゲッ、戻ってきてる……何でだ」

 

あのひと いた いた

いっしょ いる あのひと

 

「住みついてやがる……マジか……」

「………やべぇ、またべったら漬けが腐りかけてる…」

「………おいタコ、食べるか?つーかタコの主食ってなんだよ」

 

なに それ なに 

おいしい おいしい これ おいしい

 

「全部食った……生ごみ減るな…」

 

かんがえる あのひと かんがえる

こっちくる 

 

「ポルポとかそんなんでいいか、よろしくポルポ」

 

ぽるぽ ぽるぽ なに それ なに

 

「にしてもポルポってタコなのか?タコのような何か…?」

 

ぽるぽ ぼく? ぼく ぽるぽ?

ぼくはポルポなの?

 

 

 

「ポルポ、留守番よろしく」

 

あれから ことば もっと わかった

すかる これから しごと

ぼく てれび みて ことば おぼえる

 

おなか すいた ごはん

おうちの そと よわいの たべる

でも るすばん すかる たのんだ

かえるまで おうち でない

 

「ただいま」

 

すかる てれび みる

 

「うわ、最近この辺りに猛獣出るのかよ……熊も食べられてるって…やべー」

 

くま くま きのう たべた あれ くま

おいしかった

 

「お前もあんま外出るなよ、食われるかもしれねーぞ」

 

だいじょうぶ ぼく が たべる そいつ みつけたら

すかる は ぼく が まもる

 

 

「お、お前最近でかすぎね…?」

 

たくさん たべたから おおきく なった

もっと すかる まもれる

 

「2m50㎝ってマジかよ…どれだけ成長すんだ?」

 

もっと もっと おおきくなって すかる まもる

 

 

「留守番よろしく」

 

すかる が しごと いく

まって まって きょうは だめ

いっちゃ だめ あぶない あぶない

 

「おい、待ってろって、へばりつくな…あーもう…そのままくっついてろ」

 

ぼく が まもらなきゃ 

すかる ぼくが まもらなきゃ

もり の なか なにするの

たから きらきら さがす

すかる うしろ だれか いる

すかる! こっち! だれか いる!

 

「いっ…」

 

すかる の くび を うしろ に むける

そこに だれか いるよ 

すかる あたま なでた

うれしい うれしい 

すかる どこか いった

 

 

あぶない あぶない

いやな いやな きもち あぶない

すかる あぶない

いっちゃ だめ!

 

「ち、小さくなってる!」

「な、何故だ!?」

 

ほかの ひと ちいさく なってる

すかる も ちいさく なってる

すかる すかる だいじょうぶ?

 

「何だ!ソイツ!」

「た、タコ!?」

 

すかる だいじょうぶ?

かえる 

ここ あぶない あぶないよ

 

ばいく はこぶ ぼく おおきいから

はこべる

 

おうち かえった 

すかる ちいさい まま

 

「…なんか色々ありがとう、ポルポ……お前のお陰で帰れた」

 

ほめられた! ほめられた!

うれしい うれしい うれしい

すかる だいすき 

 

「え、ちょまっ」

 

すかる は ぼく が まもる

まもるよ

 

 

「ポルポ、また俺を運んでくれー」

 

すかる しごとば はこぶ

すかる ちいさい かるい

しごとば すかる つれていった

すかる と おなじ かっこう の ひと おかし くれた

やさしい 

すかる の こと しんぱい してる

いい ひと

 

 

すかる かえる

 

「くそ、泣きたい」

 

すかる かなしいの?

ちいさくなって かなしいの?

あそぼう かなしいの なくなる

うみ! うみ! うみ いこう!

たくさん あそんだ! あそんだ!

すかる つかれて ねた!

たのしかった!

すかる げんき なったら うれしいな!

 

 




スカル:やったね、軍師に昇格だよ。ポルポに海に引き摺り込まれて気絶した。
カルカッサボス:スカルに認められたと思って舞い上がっている。ブラック社長()
ポルポ:スカルLOVE。TVで報じられていた化け物にあったら必ず殺そうと息巻いてるが果たしてポルポがそいつにあるのだろうか、いやない。森の中でポルポが草陰の方に見えた人物は軍服を着て上官の後をストーキングしていたあの人(今度出すので大っぴらには言いません)、知能指数4歳程度。スカルと海で遊んで満足している。

ポルポside見づらっ……
すみません、動物(それも生後数か月)視点なので漢字はマズいなぁと思っての苦肉の策です。
いまいちポルポの視点で描写が分からなければ5~9話を見ていただければ…。今までのものをポルポ視点にしただけで、状況は他視点で分かると思います。


↓ポルポのフィルター越しスカル。

【挿絵表示】

※実際のスカルは絶望しています。白目向いてます。






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skullの惰性

俺は望んでいない。


ブラック社長から今の身体に合ったバイクを貰った。

わーい。

移動手段がなければ困るだろう?ってプレゼントしてきた。

バイクよりも辞職させてくれればこの上なく嬉しいんですけどね。

会社に泊まり込みするのはどうだろうか、って言われた時は本気で断った。

ふざけんな、俺は働きたくないでござる。

いつも通り週一出勤制だけはどうしても譲る気はない。

社長も俺の剣幕に諦めてくれた。

俺ってばやればできる子。

だがしかし、俺の最終目標は脱ブラック会社かつニートだ。

仕事も指揮官になってから誰かと接する時間が増えて死にそう。

仕事で……えーと…モブB、モブBが資料片手に近寄って来た。

 

「スカルさん、このチームの配置はどうしましょう…」

「……」

 

こ、このチームAって何。

まずどれくらいチームがあるのかが分からないんですが。

ねぇ、あとこの地図読めない。

これ絶対にイタリアじゃねーじゃん!

え、この会社全国じゃ飽き足らず国外進出しちゃった感じ?

マジかよ、俺イタリアの周りと日本しか分かんないんだけど。

取り合えずこの国はどこだろう。

聞いてみようとモブBの方に視線を移す。

 

「なるほど、了解しました!」

 

は?え、ちょ……俺何も言ってないんだけど!?

俺要らないってか!?

俺飾りってか!?マスコットってか!?

いや働きたくないからそれでいいんだけど!いいんだけど!

 

「あのスカルさん……これに目を通してもらえますか?」

 

また声を掛けられた。

コイツは確か……モブC、モブCだ。

資料渡された。

えーと……ボ、ボンゴレへのスパイ計画…?

ボンゴレって何だっけ、アサリ?

どっかで聞いたような………あ、競い合ってる企業の名前か。

そういえば社長がずっと前にそんなこと漏らしてたわ。

相手企業にスパイ潜り込ませて、企画とか全部盗んでいこうぜ!て感じか。

社長も悪よのぉ。

まぁ別にこれくらい大きな会社になるとそういうの普通にありそうだからなぁ。

あとでボンゴレに関して調べてみよう。

流石に相手企業のこと分からなきゃやってられないよな。

あー働きたくないでござる。

ボンゴレについて調べるからこれちょっと保留ってことで。

モブCに資料を返した。

 

「あ、あの!すみません!もう一度作り直します!」

 

え?

ちょっと待って、作り直すって…え?

どこか印刷ミスでもあったの?

あ……引き留める前にいってしまった。

最近俺が声を掛ける前に皆が凄い勢いで離れてく。

なにこれイジメ?

泣きたい。

そういえば隣の一人暮らしのおばあちゃんがいなくなってた。

いつ引っ越したんだろう。

最近町がとても静かだ。

まぁ周りの視線を気にしなくていい点では良かったんだけど。

 

 

 

 

あれから数年経った。

俺はいつも通り辞職を考える日々を送っている。

職場ではいつもボッチ飯ですよハイ。

死にたい。

ニートになりたい。

働きたくないでござる。

そういえばポルポがついに5m超えてしまった。

でかい…でかいよ俺のペット。

どこまででかくなるんだポルポよ。

でも足を体の中に収納可能なようで、一見1~2m弱のタコなんだけどなぁ。

あ、そろそろポルポの散歩の時間だ。

ポルポは家にいることの方が多い。

っていうのも俺が仕事以外ずっと家に籠り切ってるのが原因でもあるんだが。

一応運動不足を心配してポルポの散歩を週一で心掛けている。

俺はバイクに乗り、それをポルポが追いかけまくるだけの散歩だ。

ポルポと危ない場所を避けながら散歩していると、いつの間にか後ろを追いかけてきていたポルポがいなくなっていた。

あるぇ?

さっきまで確かにいたハズなんだが。

どっかではぐれただろうか。

探すか。

ポルポとはぐれたであろう場所をぐるぐる回ってると、ポルポがいた。

 

「おい」

 

声を掛けて、ポルポ、と名前を呼ぼうとして止めた。

ポルポの隣に少年がいた。

この少年と遊んでいたのだろうか…

にしても古びた服……スラム街の子か。

っていうかここスラム街だ。

ポルポ探してるうちに入っちゃったか。

早く帰ろ、スラム怖い。

ポルポの頭を撫でて、バイクを帰りの方向に向けて走らせる。

ちゃんと後ろを見るとポルポがついてきていた。

今度ははぐれないように首輪でも付けようかな。

ん?ポルポに首あるのか?

ポルポの8本ある足の3本が火傷みたいに少し赤くなってた。

お前何かしたか?

どっかに擦っちゃったのかな…

軟膏塗ってあげるか。

いや、ポルポに軟膏って効くのか…?

町に戻るとふと気付いたことがある。

以前よりも町の人口が少なくなっている。

まぁ今は都市に出稼ぎで家を離れる若者が増えてるからなぁ…それのせいもあるんだろうか。

コミュ障の俺にとっちゃラッキーだが。

 

 

 

 

 

 

カルカッサファミリーモブside

 

私は親が元々カルカッサファミリーに所属していて、そのまま私も所属した。

子供のころから人殺しの親の下で育ち、倫理観なんて小指の爪先ほどもない私にとって、マフィアは天職だったと言えよう。

人を殺し、金を奪い、薬を売る。

弱者を葬ることが私の悦楽だった。

だがそれがチンケなことであったと突きつけられたのは、あの人と出会ったあの瞬間だ。

狂人の運び屋、スカル。

人の狂った成れの果て、死を超越した狂人、死神に嫌われた男、元々色んな噂があったのだ。

耳にはしていたが、目にするまでは興味もなく、ただ誰かの誇張だろうと高を括っていた。

だがその予想は大いに裏切られたのだ。

偶然、立ち会ってしまったのだ。

彼が数多の生命を一瞬で消したあの光景に。

ボンゴレ傘下のファミリーを一瞬で潰したこの事件は後にマフィア界で最大規模の大惨事として語り継がれることは誰の目から見ても明らかだった。

死肉が腐る匂いと焼き焦げる匂いに、咽そうになる自身を押さえつけその地獄を垣間見た。

美しかった。

これが彼の見ていた地獄か。

ああ、なんて、恐ろしいんだ。

胸の内からせり上がる言い難い感情に、私は目を輝かせた。

 

「ああ、ああ、これが……これがっ」

 

 

恋か。

 

 

 

その日、私はスカルさんに魅了され、崇拝した。

それから私は低能な犯罪をやめ、知識を付けることに専念した。

毒薬、爆薬、武器、あらゆる全ての殺傷能力を保有する兵器を生み出そうとした。

そしてスカルさんに献上したかったのだ。

私の造った兵器で数多の人間を、彼の手で葬って欲しかったのだ。

試作段階の殺害用スタンガンを彼にダメ元で渡してみれば、彼は受け取ってくれた。

なんと至高極まりないのだろうか。

私は彼の為にカルカッサに尽くそうと心の底から意気込んだのだ。

 

そんな彼が、ある日突然呪われた身体になった。

スカルさんの身体は幼児に変わり果てていた。

あまりの姿に目の前が暗くなる。

ああ、それでは…あなたの狂おしいあの光景が見れなくなる。

スカルさんがカルカッサを辞めるという噂さえ立った。

呪いを貰ったあの身体では碌に運びも出来ないであろうと誰もが分かっていたのだ。

だが、私は彼がカルカッサを離れることを断固として認めてはいなかった。

私が彼を元の身体に戻さなければ。

それだけを考え、スカルさんの呪われた体のデータを取り続けた。

だが何も分からなかった。

何度データを照合しても、何の変化も異変もなかった。

私は再び絶望する。

彼がここを去る姿を想像しては頭を掻きむしりたくなる衝動に駆られる。

デスクの上でデータの文字列を眺めながら拳を握りしめた。

 

「スカル…さん……」

「おい!聞いたか!?さっきボスが—————」

「え?」

 

スカルさんがカルカッサの軍師に任命された。

その事実に、私は嬉しさのあまりその日は潰れるまで同僚と飲み明かした。

同僚もスカルさんが好きだ。

いや、カルカッサファミリーは全体的にスカルさんを崇めている。

恐怖し、尊敬し、魅了されている。

スカルさんはカルカッサの軍師として、未だその身をカルカッサに置くらしいが、それはボスの説得もあってだろう。

またいつ彼の気が変わるか分からない。

だから私は、いち早く彼を元の身体に戻そうと決意した。

それからスカルさんが本部にいる間、彼を観察するようにした。

軍師としての特別な地位に、彼がつけあがることはなく、ただひたすらカルカッサの先を見据えていた。

ある日、誰かがスカルさんの下に資料を持って近づいていく。

 

「スカルさん、このチームの配置はどうしましょう…」

 

どうやら今度の暗殺に関しての相談と認可を彼に聞きに行っているようだ。

だがスカルさんは資料に目を通していると、頻りにある一点の国を指でトントンと叩いていた。

まるで何かを伝えているかのようで、資料を持ってきた者も、スカルさんの意図に気付いたらしい。

 

「なるほど、了解しました!」

 

そう言って、清々しい顔で指令室を出ていく。

私は彼を引き留め、何を話していたのか聞いてみた。

 

「ああ、結構上手く配置したと思ってたんですけど、この国の…■■ファミリーの所だけ手薄だったんです」

「へぇ…」

「ただあまり警戒していないファミリーだったので手薄にしてたんですけど、流石はスカルさんですね」

「どういうこと?」

「この■■ファミリーって一見すると立地も良くないし、ハッキリ言ってカルカッサの傘下にするメリットないんですけど、周りから隠れるにはここが一番打ってつけじゃないですか…それにここはボンゴレ傘下の隣…まさか自分たちの最大の敵の支部が直ぐ隣だった…なんて誰も考えないと思いません?」

「なるほど、灯台下暗し…ていうわけね、でもこれ気付かれたら相当危ないんじゃ?」

「その為の目暗ましとしての■■ファミリーですよ、彼らはカルカッサの傘下にはしませんよ…表面上、ね」

「なるほど、彼らを全部まとめて暗殺して、分からないように全てを挿げ替えるってわけね」

「そうですね、本当にスカルさんはえげつないッスね」

「ふふふ、そんな彼に惚れ込んでるのは皆同じよ」

「じゃあ、僕はこれから一から配置し直しますんで」

「ええ、頑張って」

 

やはりスカルさんは怖いわ。

■■ファミリーはおよそ1000名…いわゆる中堅ファミリーであるにも関わらず、さも当たり前のように潰そうと踏み切るのだから。

まあ今の強大なカルカッサにとって、簡単に始末出来るファミリーではあるけれど、ね。

さて、大きな暗殺計画になるわ。

私の方も沢山化学兵器を作らなければ。

実験室に行けば、同僚が何やら話をしている。

 

「何の話をしているの?」

「ああ、●●がスカルさんにボンゴレへのスパイ案出したらしいんだけどバツ喰らって落ち込んでたんだよ」

「そもそもスカルさんが一発でオッケー出したことないでしょう」

「そうだよなぁ…怒鳴られるよりもなんかこう、静かに返却される方がダメージ大きいよな」

「ほんとそうだよなぁ…スカルさんは怒鳴りもしなければ喋りもしねーから、偶に何考えてるのか分かんねーし」

「でもそのお陰で私達は考える能力が上がったとは思わない?」

「それも見通してのことなら、ほんと恐ろしいなあの人は…」

「でも、それでいて…美しいわ…なんたって———」

「あーあー、始まったよ…コイツのスカルさん演説…」

「ちょっと聞いてる!?スカルさんはね、とっても—————」

 

今日も私はスカルさんに恋をしている。

 

 

 

 

 

???side

 

 

そこはローマのスラム街。

極貧層が居住する過密化した地区であり、イタリアで一番の無法地帯だ。

少年は今日も生きることに必死だった。

硬いパンと、薄くし過ぎた味のないスープを腹に入れる。

食べ盛りの子供の腹が、僅かばかりの食事で満たされるハズもなく、少年は空腹のまま路地を歩いている。

今日も、誰かを殴り倒して財布を盗もうかと考えていた。

幸い少年には、スラム街で生きていく為の力があった。

母親は毎日朝早く最低賃金以下の出稼ぎに行き、夜遅くに帰って来る。

その間、少年は自分が生き残る為に必死だ。

食べるものを探す為に家を出て、スラム街を歩き回る。

 

ああ、いた。

金を持っていそうな男がいた。

あいつを殴って、気絶させて、金を奪い取れば…今日も生きていける。

 

そう考えた少年は男が路地裏に入るのを待ちながら後をつける。

そして男が路地裏に入り、少年がその後に続き路地裏に入った時だった。

 

ゴキン…

 

鈍い、何かが潰される音が聞こえ、少年の頬に何かの液体が飛び散る。

少年は路地裏の暗さでそれが何か分からず、頬についている液体を拭っていると、路地裏の奥で先ほどの何かが潰れる音が断続して聞こえた。

 

ゴキャ…バキ……ゴキ…

 

少年は本能で危険を感じ取り、足を一歩引く。

すると路地裏に僅かな日差しが差し込んだ。

 

そこには (あか) (あか) (あか)

 

鮮やかな 赤が 飛び散っていた

 

ズルズルと何かが這い寄って来る音と共に、段々とソレが姿を現した。

少年は目を見開く。

ぎらつく牙と、蛇を思い出させる鋭い目、強大な触手、そして触手の表面の微細な鱗が光を反射する。

まさにそれはこの世のものではないバケモノ。

バケモノの牙に繊維のようなものが絡まっている。

繊維からは、鮮やかな赤が滴り落ちる。

それが人間の何かであることを少年は理解する。

否、してしまった。

そのバケモノの直ぐ横に人であったハズの肉片が転がっていたからだ。

 

「ぁ……あ"…」

 

少年は目の前の光景に開いた口が塞がらぬまま、恐怖でその場に尻もちをつく。 

本能が逃げろと最大の警告を発しているにも関わらず、少年の身体は硬直し、動けないでいた。

バケモノは転がっていた肉片を跡形もなく綺麗に平らげると、赤く染まった地面を舐めとる。

そして、バケモノの瞳は少年を映すと、ズルズルと少年へ這い寄る。

少年の中にあるのは、今この時訪れる死、のみ。

 

「来るなっ……来る、な……」

 

虚勢を張ろうとするも虚しく、少年の脳内は恐怖で埋め尽くされていた。

自身よりも圧倒的に巨大な脅威に、為す術もなく死を迎えるであろう少年の目には恐怖で覆い尽くされる。

 

「いやだっ、来んじゃ………来んじゃねぇっ」

 

死ぬ 死ぬ こんなところで 俺は死ぬのか?

嫌だ ふざけんな 嫌だ 怖い ふざけんな ふざけんな

死にたくない 死にたくない ふざけんな

 

 

その時、少年の中に新たな感情が芽生えた。

 

生への渇望でも、死への恐怖でもない

 

 

「ふ、ざけんな……」

 

それは

 

理不尽への憤怒

 

 

「来んじゃねぇよ!バケモノ‼」

 

 

突如として少年の身体の奥底から息を吹き返したかのように、何かが呼応した。

煮えたぎるソレに少年は身を任せ、体の奥底から濁流のように押し寄せるソレを解き放った。

眩い光と共に、自身を焦がすソレはまさに憤怒。

 

「ぁぁぁぁあああああああああああああっ」

 

少年は暴れ狂うソレに身を委ね、身体から力が零れていく感覚に歯を食いしばった。

炎のように揺らめきながら光を放つソレは、バケモノに降り掛かる。

バケモノが少年の耳を(つんざ)くような咆哮をあげ、その触手をバタつかせる。

数m程バケモノは少年から距離を取り、少年の様子を見ていた。

一方、倦怠感(けんたいかん)に意識を離しそうな少年だったが唇を噛み千切りなんとか意識を繋ぎとめる。

バケモノは一歩、また一歩と少年に這い寄ろうとしたその時だった。

 

 

「おい」

 

 

決して低くはない声だった。

だが、少年の心臓を鷲掴むほど重苦しい威圧を放っていた。

少年は咄嗟のことに息が出来ず、額には冷や汗が噴き出る。

地面に押し潰されそうなほどの重圧に、少年の体力は大幅に削られていく。

そんな時、少年に這い寄っていたバケモノは挙動を止め、声のする方へと視線を移した。

そしてバケモノはその声の主へと緩やかに近寄る。

体力を消耗しすぎて意識が朧げであった少年は、ぼやけた視界の中バケモノがその声の主の方に這い寄っていくのを眺めていた。

次にバイクのエンジン音が聞こえたと思ったらその音は遠ざかり、バケモノの這いずる音も同様に遠ざかっていく。

極度の緊張状態に陥っていた少年は、プツリと糸が切れたように気を失いその場に崩れ落ちた。

夜、少年を探し回っていた少年の母親に見つかるまで、少年は意識を失っていた。

少年はあの日のことを誰にも語ることはなかった。

 

 

「母さん」

「なぁに?どこか痛いところでもあるの?」

「違う……手から…炎が出るんだ」

「……え?」

 

「これはっ……そんな、まさか!いえ、きっとそうなんだわ!」

「母さん?」

「お前はきっとあの人の血を受け継いでいるのよ!」

「…あの人…?」

「ええ!だって手から炎が出るんだもの!ああ、今すぐあの人の下に行かなくては!」

「母さん…さっきから何言ってんだよ」

「お前はあの人の跡を継ぐんだよ!この炎がその証拠よ!」

 

「ああ、名前…名前はどうしましょう……今の名前じゃダメよ」

「なぁ母さん、あの人って誰だよ…」

「お前はきっと10代目になれる、いやなるんだよ!」

「10…代目?」

「ああ、そうだ!お前は今からXANXUSよ!」

 

 

「XANXUS………?」

 

「ええ、ええ!お前はきっと10代目になるんだ!その身にはブラッド・オブ・ボンゴレが流れているのだから!」

 

「ボン…ゴレ………」

 

 

 

そして少年は名を捨てられた。

 

 

 

 

 




スカル:通常運転、仕事内容が何も分かっていないが取り合えずマスコット扱いなんだろうなと思ってる、着々とカルカッサ内の崇拝度を上げている。
ポルポ:人間って美味しいよね、知能指数10歳レベル。
モブ子:スカルに恋()をしている乙女。
少年:皆が知ってる後の暴君、ポルポによって覚醒。

現在、原作の18年前くらいですね。




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skullの寂寞

俺は寂しくなった。


最近町の人を見かけることすら無くなったこの頃、ポルポが6m超えた。

こいつどこまで伸びるんだろうなーと思っている俺だが、未だにブラック会社を辞められないでいた。

いや辞めたいよ?

すごく辞めたいよ?

でも社長が辞めさせてくれないんだもん。

主に銃をちらつかせて。

この前も、銃の手入れをしながら俺に話し掛けてきたからな。

あれあからさますぎるだろ、オイ。

あと漸く仲良くなった同僚がパタリと来なくなった。

名簿にもそいつの名前はどこにもなかったので、クビになったか、はたまた会社を辞めたのか。

俺に何も言わずに辞められたことは何気にショックだ。

 

「流石スカルさん、あいつがトロイであることを最初から知ってたんですね」

 

ってなこと言われたんだけど、あいつそんなにとろい奴だったかな…

はきはきした喋り方してたけど、仕事はどんくさかったとか?

何だよ仕事遅くてクビになるんだったら俺も手抜きすればよかった。

今からやろうと思っても、今実際やる仕事なんてないし。

俺マスコットだし。

あー、詰んだ。

何で俺働いてるんだろう。

いや、まぁ週一でただ座ってるだけの俺がそんなこと言ったって、世間様から冷たい視線を浴びせられることだって分かってるけど。

でも今は赤ちゃんなわけじゃん。

やっぱ仕事はさせるべきじゃないと思うんだよね、うん。

俺のニートライフは何処。

 

 

ポルポの散歩で家から数十㎞離れた公園内をバイク押しながら歩いていたら、ポルポが鳥に夢中になってはぐれた。

またか。

バイクで追いかけようにも、今は公園の中。

流石に公園内でバイクを走らせてはいけないことくらい常識は持ってる。

ポルポを追いかける気力もないし、直ぐに戻ってくることを願って俺は公園のベンチで待機する。

公園の砂場や遊具で子供たちが遊んでいるのを見て和む。

子供の相手は面倒だが、見ているだけなら天使だよな。

 

「何する?」

「俺何でもいいぜー!」

「あ、あの!僕も遊びにいれて…ほしいんだけど……」

「あー………じゃあサッカーしようぜ!お前ボールな!」

「え……」

 

前言撤回、めっちゃ怖い。

なにあれ悪魔やん。

イジメだよな?怖っ

子供怖い。

あ、ボール役の男の子が逃げてった。

いやそれが最善の判断だ。

にしてもポルポどこ行ったんだろ。

やっぱり探しに行った方がいいかもしれない。

 

「スカル…?」

 

ベンチから立ち上がろうとしていたら、横から名前を呼ばれた。

 

「スカル!」

 

この声は、ルーチェ先生!

視線を声のする方に向ければ懐かしき聖母マリアの如き笑みを浮かべるルーチェ先生がいた。

数年振りくらいに見たけど、痩せたね。

って違う、出産したのか。

俺の方に向かってくるルーチェ先生の隣に幼女がいることに気付く。

ルーチェ先生の子供かな?

 

「久しぶりね、スカル…」

「…」

「ああ、この子はアリア…私の娘よ、この前5歳になったばかりなの」

 

やっぱりルーチェ先生の子供だったんだ。

にしても5歳か、時の流れってすげーな。

まだお腹の中にいた子が5年でこんなに育つのか。

ルーチェ先生は俺の隣に座ると、娘のアリアもルーチェ先生の隣に座り出す。

 

「アルコバレーノの呪いを貰ってから姿を消したあなたを心配していたわ……何か不便はない?」

 

アルコ…なんだって?

呪い…ああ、赤ちゃんになったことか。

不便っていうか、ブラック会社を辞められない悩みっていうか。

正直俺のことを心配してくれるルーチェ先生、マジ聖母。

ほら、俺あのチームの中じゃ一番影薄かったし…ハブられてたし……

か、悲しくねーし。

 

「お母さん、この赤ちゃん誰?お母さんの友達?」

「え、ああ、彼はスカル…仲間よ」

 

娘のアリアちゃんが話に入って来た。

中々可愛い幼女だ。

いや俺はロリコンではないから、普通に微笑ましいと思うだけだが。

にしてもルーチェ先生が俺のことを仲間と言った件について。

俺は断じてあの殺人集団の仲間ではない。

人違いなだけだから。

 

「何でヘルメット被ってるの?」

「シャイなのよ、きっと」

「ねぇヘルメット取ってよ、顔が見えないわ」

 

アリアちゃんがベンチから下りて、俺の目の前に来た。

俺よりも若干大きな身体で俺のヘルメットを取ろうとしてくる。

ら、らめぇぇぇぇえええ!

これないと俺人と目も合わせられないコミュ障だから!

赤ちゃんの俺の腕力と、5歳児のアリアちゃんの握力とじゃ結果は一目瞭然で。

 

「えい!」

 

努力も虚しくヘルメットを強奪された。

外でヘルメットを脱ぐのが久しぶり…っていうか、人前で脱ぐのが久しぶりすぎて固まる俺氏。

寝ぐせ直さずにそのままヘルメット被って来たから、すげー髪がボサボサだった。

 

「ア、アリア!勝手に取るのは失礼よ」

「はーい、ごめんなさーい」

 

ルーチェ先生のお叱りの末、素直に謝ってきたアリアちゃんは俺にヘルメットを返して来る。

子供を怒る気にもなれないし、その前にコミュ障の俺に誰かを怒れる程の勇気はない。

目を泳がせているとルーチェ先生が声を掛けてくる。

苦痛ながらも一言二言喋った。

何で俺の声が小さいのかってアリアちゃんが聞いてきた。

悪かったな、ちっさくて。

これでも頑張って喋ってんだよ。

 

「スカル、あなたはっ、ごほっ…」

 

帰りたいなーって思ってるとルーチェ先生がいきなり咳込み出した。

何か病気なのかな。

とっても辛そうだ。

 

「お母さん!」

「ごほ……アリァ、だいじょ…ぶ……ごほっ、うぐ……」

「あ、あたし!誰か呼んでくる!」

 

アリアちゃんが走ってどこかに行ってしまった。

俺、どうしたらいいの。

ひえ、血吐いた。

これヤバくね?

結構重い病気でも患ってんの?

 

ルーチェ…

 

名前を呼んでみたら反応した。

よかった、一応反応は出来るのか。

応急処置の前に人に触ること自体久しぶり過ぎるから何していいか分からない。

…取り合えずルーチェ先生の背中でも摩っておけばいいかな。

背中を摩ろうとすると、ルーチェ先生が喋った。

 

「スカル……私は、だいじょ…ぶ…だから」

「お願い……はやく、ここから……はなれ、て…」

 

!?

え、何で。

俺いたら迷惑的な?

 

「皆が、来てしまう…まえに……はやく……」

 

俺と仲良くしてると思われるのが嫌ってか。

地味に傷付いた。

確かに赤ちゃんの俺が何か出来るわけでもないけど。

いても迷惑なだけだし帰ろうかな。

いや帰れって言われたし帰ろう。

バイクに乗って公園出たら、いつの間にかポルポが後ろをついてきてた。

そういえばお前探すの忘れてた。

 

後日ルーチェ先生の様子が気になって、あの公園の近くの病院を探してみた。

2つ目の病院でルーチェ先生を見つけたけど、周りに黒服の人達ばかりで怖くて近寄れない。

諦めて帰ろうとしていたら、丁度看護師がルーチェ先生の病室から出てきた。

その看護師にルーチェ先生の容態を聞こうと後を付けていたら、出くわした同僚の看護師と喋り始めた。

 

「あの人どう?」

「ああ、ルーチェさん?もう長くないと思うわ」

「とっても優しい方なのに…」

「本当にそうよね…原因不明だし、手の施しようがないって辛いわね」

 

ルーチェ先生が思ってた以上にヤバかった。

血を吐くくらいだから重病かなと思ってたけど、悪い意味で予想が裏切られたな。

あの人まだ30いくかいかないかくらいだろうに。

そこまで思い入れがある人かと言われれば、そうでもないけど。

実際一緒に何かしてたの何年も前だし…

でもまぁあのヤバイ面子の中での唯一のオアシスだったのは事実だしなぁ。

花を贈るくらいしよう。

そういえば庭先に綺麗な花が咲いていた。

あれを送ろう。

家に帰って庭を見るとお目当ての花があったので、数本摘んでみた。

おいポルポ、これ食べる奴じゃねーから。

食べるなアホ。

ポルポに数本食われて、一本だけしか残らなかった。

辛い。

テキトーに家にあるものでラッピングしてみたら、贈り物としてなんとか許容できる見た目になった。

それとこの花を調べてみたんだけど、スノードロップらしいね。

花言葉は…えーと…「希望」か。

うむ、いい言葉だ。

諦めずに生きて下さい的な意味合いで捉えてくれるだろ。

さて、どうやってこの花送ろうか。

あの病院に送っても意味ないし、ルーチェ先生の家分かんないし、その前にあの人ずっと病院にいそうだし。

あれ?これ直接届けるしか出来なくね?

マジか。

でも病室の前には見張りみたいな怖い人いるし。

うーん…………あ。

 

「ポルポ」

「?」

 

お前がいたじゃないか!

次の日の夜中、ポルポと一緒にこの前いった病院に向かう。

何故夜中かというと、まぁ病院に入る手段がアレだから、その、バレないように夜中にした。

率直に言えばポルポに壁よじ登ってもらう。

あいつの吸盤は何の為にあると思ってんだよ。

この為だよ、うん。

病院に着いたので、ルーチェ先生の部屋の位置を確認してポルポに壁登らせてみた。

確か4階だったっけ。

ポルポの触手に巻かれてるからか、めっちゃ安定感ある。

あ、ルーチェ先生みっけ。

起きてるラッキー。

ポルポ、ストップ。

ルーチェ先生の病室の窓の上でポルポ待機されて、壁ノックしたら中のルーチェ先生と目が合った。

ルーチェ先生めっちゃ驚いてる。

うん、俺も知り合いが窓からこんばんわしてきたら絶叫する。

 

「スカル!?どうやって…」

 

窓が開き、ルーチェ先生の声が聞こえた。

その前に中入らせて、いくらポルポの触手の安心感あっても4階は流石に怖い。

ポルポは頑なに中に入ろうとしなかったので、そのまま外に待機させた。

無事病室に入れたところで、ルーチェ先生に花を差し出した。

 

「これ……私に…?」

 

頷いたらルーチェ先生は受け取ってくれた。

 

「とても……嬉しいわ…スカル、ありがとう」

 

めっちゃ笑顔でお礼いってくるので、余程気に入ったと見える。

よかった、よかった。

 

「スノードロップかしら?花言葉までは覚えてないけど…」

 

花の名前は知ってるのか。

すげーな、俺ひまわりとタンポポとチューリップとバラと桜しか知らんぞ。

流石に花言葉は知らないらしいから教えてあげるけど。

 

希望……

 

そう言うと、ルーチェ先生は俺の意図に気付いたのか泣き出した。

病気と闘っている人の中には、直接頑張ってねと言われるのはイラつく人もいるらしい。

まぁそうだよな、誰よりも辛いのに周りから頑張ってとか言われたらそりゃ腹立つわ。

だからまぁ遠回しではあるけれど、こういうのが一番励ますにはいいんじゃないかなと思いましたまる

まだルーチェ先生には娘いるし、もっともっと生きて欲しい。

何よりも善人ってオーラやばいもん、この人。

死ぬには惜しいよ。

代わりにリボーンが死ねばいいのに。

 

「ありがとう……ありがとう、スカル……」

 

泣きながらお礼を言ってくるルーチェ先生は思いの外心にぐっとくるものがあった。

残りの時間が少ない人はいつ見てもこんなに悲しいものなのかな。

 

「あなたの顔、見せて欲しいわ…お願い……」

 

結構ヘビーな要求きたな。

まぁ、病人相手だし少しくらいは我慢しよう。

俺はヘルメットに手を掛けて、ソレを外す。

一気に広がる視界と共に、目の前のルーチェ先生に視線を移す。

 

「やっぱり、綺麗な…瞳ね」

 

瞳?気にしたことなかった。

俺の目の色って紫なのかな…

 

「最後に、いいものが見れたわ…ありがとうスカル」

 

寝る前だったのかな。

結構遅い時間だし、こんな時間帯にきてごめんね。

じゃあもう眠るらしいし、俺帰りますわ。

外で待ってもらったポルポを呼んで、行きと同じように壁を這いずって降りる。

地面に着くと、そのままバイクに乗って家に帰った。

ああ、この身体になってから夜更かしがきつくなってる。

眠い。

危うく事故りそうになること数回、無事家に着いたと同時に爆睡した。

朝起きたらちゃんとベッドの上だったからポルポが運んでくれたらしい。

俺のペットまじ有能。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーチェside

 

 

 

 

それは偶然だった。

 

「スカル…?」

 

公園をまだ5歳になったばかりのアリアと歩いていると、小さくなってしまったあの子の姿を目にした。

皆がアルコバレーノの呪いを貰ったあの日から、誰にも語らずに姿を消してしまった哀れな子供。

何度も探そうと試みたが、他の者がそれを渋っていた上に私自身出産が近かった為に何も出来ずに会うことすらもうないのだろうと思っていた、呪いを押し付けられた子供。

私は自身の目が可笑しくなってしまったのかと瞬きを繰り返すが、そこには黒いライダースーツとヘルメットを被った赤子が確かにベンチに座っていた。

 

「スカル!」

 

私はアリアの手を軽く引きながら、スカルの下へ早歩きをした。

スカルはこちらに気付いたのか、ヘルメットが私の方へ傾く。

 

「久しぶりね、スカル…」

「…」

「ああ、この子はアリア…私の娘よ、この前5歳になったばかりなの」

 

いつものように彼は何も喋らない。

私はアリアと共にスカルの側に座る。

 

「アルコバレーノの呪いを貰ってから姿を消したあなたを心配していたわ……何か不便はない?」

 

私の問いにスカルは何も言わず、じっとヘルメット越しで私の方を見ている。

すると、後ろにいたアリアがベンチから下りてスカルの前に立った。

 

「お母さん、この赤ちゃん誰?お母さんの友達?」

「え、ああ、彼はスカル…仲間よ」

「何でヘルメット被ってるの?」

「シャイなのよ、きっと」

「ねぇヘルメット取ってよ、顔が見えないわ」

 

アリアのスカルにずけずけと言い放つ様に、私は内心ひやひやしていた。

スカルはこちらが何かをしない限り、何も危害を加えては来ないと分かっているものの、彼が起こした数多の大虐殺を思い返すと娘の行動に気が休まらないのだ。

女子供に対しても容赦の文字など彼にありはしないし、実際民間人を数百名ほど爆発に巻き込み殺している。

彼を冷酷で、残虐な奴だと誰もが口を揃えてそう言うのだ。

けれど私はそう思ったことはない。

彼は残酷でも、冷酷でも、非情でもない。

何も知らないだけだ。

命の大切さも、愛も、全て知らないだけだ。

愛しいという感情も、悲しいという感情も、恐ろしいという感情も、怒るという感情も何もかも知らないのだ。

だから誰にも理解されず、自身をも理解していない。

無知は罪だと誰かは断罪するだろう。

けれど、間違いであることを教えてくれる大人が周りにいなかっただけだ。

彼はただ生きていただけだ。

何も知らず、何も教わらず、何も与えられず、何も分からないまま生きていた。

怒られたことも、愛されたことも、喜ばれたことも、悲しまれたこともないであろう目の前の彼は、ただあるがままに生きている。

大人によって人生を狂わされた目の前の子供が、私にはただ訳もなく生きているだけの哀れな迷い子にしか見えなかった。

 

「えい!」

 

アリアの陽気な声に我に返ると、目の前でアリアがスカルのヘルメットを奪い取っていた。

そして私の視界に美しいアメジストが現れた。

風に晒される乱雑な髪が靡き、アメジストの瞳をこれでもかというほど見開いていた。

 

「ア、アリア!勝手に取るのは失礼よ」

「はーい、ごめんなさーい」

 

アリアは直ぐにヘルメットをスカルに返すが、スカルはアリアの奇行に始終驚いている様子だった。

驚く…というよりも困惑しているように見える。

子供という存在に間近で接するのは初めてなのだろうか。

 

「スカル…?子供が珍しいの?」

あ……いや…………違う

「?」

 

スカルの声を聞くのはこれで3度目だ。

一度目は初対面の時の自己紹介、二度目は地震の時、そして今。

アルコバレーノの呪いで幼くなった彼の声は以前よりも数段高くなり、威圧感も前程ではなかった。

それでもまだ誰かを威圧する程度には周りを警戒しているようだけれど。

 

人と…話すのは………久しぶり…だ……

 

か細く小さな声だったが、確かに聞こえた彼の本当の声。

私は目を見開いた。

人と話すことが滅多にない、なんて…そんな悲しいことを言わないで。

何度だって私はあなたを受け入れるわ、と抱きしめたかった。

小さな小さなその体で、精一杯立ち上がるその背中が、とても悲しく見えた。

 

「ねぇ何で声が小さいの?」

 

アリアが気になったようにスカルにそう聞いた。

そういえば、と私はふと思い返す。

いつだってスカルの声は聞こえるか聞こえないかのギリギリの声量だった。

元々沈黙な性格なのだろうと思っていたが、何か理由でもあるのか…

 

…………元々…声があまり、出ない……

 

元々…?生まれつきか、はたまた発達障害か…

喋らない子だとは思っていたが、喋れなかったのね。

スカルの周りを渦巻く謎が解ければ解けるほど、彼を知れば知るほど、噂とかけ離れていく。

全ての(もや)を取り払えば、皆の偏見も消えるだろう。

彼に人らしい感情さえ芽生えれば、きっと、これ以上…無益な虐殺なんて———…

 

「スカル、あなたはっ、ごほっ…」

「お母さん!」

「ごほ……アリァ、だいじょ…ぶ……ごほっ、うぐ……」

「あ、あたし!誰か呼んでくる!」

 

急に息苦しさに襲われ、咳と胸の痛みに顔を(しか)めた。

視界の中でアリアがどこかへ駆けていくのが見える。

私はそれを止めようと手を伸ばしたが、息が詰まる苦しさでそれどころではなかった。

苦しい…

心臓が縮んでいくような苦しさに、固く閉じた瞼から涙が零れ落ちる。

ベンチから崩れ落ちそうになるのを必死に(こら)え、そのまま横になって荒い息を繰り返す。

 

「はぁ……はっ、ごふっ…」

 

何かが胃からせり上がり、口から零れ落ちる。

そして鉄の匂いが鼻を掠め、吐血したのだと気付いた。

ああ、苦しい。

 

ルーチェ…

 

か細い声が耳に伝わる。

震える瞼を開くと、目の前に小さな紅葉のような手が見える。

どうしていいか分からず途方に暮れる手を見て、私は苦しさの中無性に嬉しかった。

 

「スカル……私は、だいじょ…ぶ…だから」

 

先ほどアリアが部下を呼びに行ってしまった。

この世界で最悪といってもいい印象を持たれているスカルが今ここいることはマズい。

最悪部下がスカルに危害を加えようとして、彼に殺されてしまう。

あらぬ疑いを持たれて欲しくない。

それ以上に、彼を、心が芽生え始めている彼を、失望させたくない。

この子を孤独にさせては駄目だ。

私は精一杯の笑顔を作り、彼を安心させたかった。

 

「お願い……はやく、ここから……はなれ、て…」

 

今はただ彼を遠ざけることしか出来ない。

 

「皆が、来てしまう…まえに……はやく……」

「…………」

 

自身の立場を思い返したのか、スカルは宙を彷徨っていた手を下げ、ベンチから離れ始める。

鉄の匂いの充満する中、ボヤける視界で遠ざかる彼の背中を見つめていた。

スカル……愛しい哀れな子供……

彼がヘルメットを被り、バイクに跨るまでを見ると、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

次に意識を取り戻した時は病室だった。

どうやらアリアが部下を呼んできて、病院に運ばれたらしい。

既に私の寿命は残り僅かであることは知っている。

アルコバレーノの呪いを受けたあの時から、自身の死期は悟っていたのだから。

漸く体が思考に追いついたのだと、そう理解したのだ。

医者には原因不明の衰弱だと言われたし、アリアや部下には心配をかけた。

挙句にはリボーンやラル、コロネロに風、バイパー、ヴェルデまでもが顔を出してきてくれた。

皆私の死期をなんとなく気付いているように思えた。

それでも、誰もがそれを口にすることはなかったが。

いつ死んでも、それが運命であることは既に受け入れている。

だけど、やはり、心残りはあるのだ。

アリアはちゃんと真っ直ぐ育ってくれるだろうか。

アルコバレーノの皆は大丈夫だろうか。

 

哀れで、愛しい、あの子は…これから先自身の理解者に会えるだろうか。

 

 

いつまた発作のようなものが起こるか分からない今、下手に動くのは(かえ)って皆の不安を招くので私は入院することにし、この身に迫る死に段々と気落ちする日々を過ごしていた。

ああ、次の朝日は拝めまいと病室の中一人で今までを想い耽っていた時だった。

 

 

コンコン

 

窓からノックのような音がして、小鳥だろうかとそちらを振り向くとスカルが窓に手を付けていた。

私は一瞬、状況が把握出来ずに固まった後、慌てて立ち上がって窓を開ける。

 

「スカル!?どうやって…」

 

そう言おうとした矢先に、スカルの胴体に巻き付いている触手に目がいった。

それは、アルコバレーノの呪いを受けたあの日に見た、あのバケモノの触手と同じで私は一瞬身体を強張らせた。

スカルは謎の生命体の触手を引っ張っていたが、入ろうとしない生命体に外で待つようジェスチャーしていた。

知能指数が高いのか、生命体もそれを理解した素振りで窓の上で待機し出す。

病室の中に入って来たスカルは、私に一輪の花を差し出した。

 

「これ……私に…?」

 

そう尋ねると、彼は頷いた。

純粋に、私は嬉しかったのだ。

彼がくれた一輪の花を眺める。

白い花弁がとても綺麗で、私は心が温まるようだった。

 

「とても……嬉しいわ…スカル、ありがとう」

 

スカルにお礼を言うと、一輪の花を見つめる。

 

「スノードロップかしら?花言葉までは覚えてないけど…」

 

花の特徴で名前を思い出してはみたが、花言葉までは思い出せず、その花の美しさだけでもと目に焼き付けようとした時だった。

 

希望……

 

小さな、とても小さな声で紡がれたその言葉に目を見開いた。

心臓に湧き上がった名前のない感情に目からは涙が零れ落ちた。

小さな口から紡がれた、たった一言の、言の葉。

それだけで十分だった。

 

      希望

 

ああ、そうだ……私は怖いのだ

死が、すぐそこまで来ている死が怖いのだ

受け入れてなどいない…運命を受け入れてなどいなかった

 

生きたい…

 

私は生きたい

死にたくなんてない

 

誰もが口にする在り来たりな言葉よりも、彼の、たった一言が、あの言葉こそが、私に突き刺さった

命の尊さを知らなかった、その子が…今まさに

 

私に生きろと

 

言ったような気がしたのだ

 

 

「ありがとう……ありがとう、スカル……」

 

涙で前が見えず、片方の指で涙を拭う。

 

「あなたの顔、見せて欲しいわ…お願い……」

 

スカルは少し考えた後、ゆっくりとヘルメットを脱いだ。

アメジストの瞳がこちらを捉えていて、その透き通る美しさに息が詰まった。

 

「やっぱり、綺麗な…瞳ね」

 

生命が満ち溢れているその瞳が、今の私を突き放す。

 

「最期に、いいものが見れたわ…ありがとうスカル」

 

スカルは再びヘルメットを被ると窓から出ていく。

彼が地面に無事着くまで私は見守り、彼の姿が見えなくなってからベッドの上に戻る。

 

既に日を跨いでいて、私の死は確定されるところまで来ている。

 

希望を貰った今なら、この未来に抗えるだろうか…

 

ああ、だけど…

心残りがあったはずなのに

今は酷く、満たされている

きっとそれはあの子の言葉のお陰だ

 

 

 

 

 

眩しい生命よ

愛を知ったあなたは きっと輝くだろう

命の尊さを 知る日が来たのだ

酷な運命を彼に強いるけれど それでも 彼に 知って欲しい

命ある喜びを 尊さを 儚さを…

私の死はきっと彼を突き動かすだろう

 

それでも 愛を 願えたなら

 

きっと  きっと

 

私の命に その意味は あったと——————

 

 

 

 

 

 

 

希望を胸に抱き寄せ、ゆっくりと重い瞼を閉じる。

 

 

私が朝日を見ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風side

 

ルーチェが亡くなったという報せを聞いたのは、彼女を見舞って直ぐだった。

昼頃に彼女と他愛もない会話をして、その夜に彼女の訃報(ふほう)を耳にした。

私は動揺が隠せず、すぐさま彼女のいる病院へと駆け付けた。

するとリボーンとラルが既にいた。

ルーチェは霊安室に運ばれていて、その表情はとても穏やかだった。

 

「とても…穏やかな顔をしていますね」

「ああ、こんな顔されちゃ、嘆こうにも無理な話じゃねぇか」

「確かに…ルーチェの手に花がありますが、誰かが持たせたのですか?」

「いや、それは見つけた時からルーチェが握っていた」

 

ルーチェの手には一輪の白い花があり、誰かが持たせたのか疑問に思いリボーンに聞いてみると、隣のラルが答えてくれた。

 

「スノードロップ……確かそんな名前だったハズだ」

「綺麗な花ですね」

「だがちと不思議なことがあんだ…」

 

花の名前と共にリボーンが手を顎に持っていき、何かを考える仕草をしていた。

 

「不思議とは?」

「ルーチェの病室の外は交代で見張りが付いていた…そして誰もこの花を見た者はいないそうだ」

「それは……まさか」

「そう、誰かが病室に侵入した…そう捉えてもおかしくはねぇ」

「病室にはそのような痕跡はあったんですか?」

「痕跡なら病室の窓枠に何かの粘液があった、今ジッリョネロファミリーが解析している」

 

これは少し、雲行きが怪しくなってきたと思った。

そんな時、後ろから足音が聞こえた。

 

「何だ、お前たちも来ていたのか」

「ヴェルデ…あなたも訃報(ふほう)を聞いて来たのですか」

「ふん、偶々近くにいただけだ」

 

久しく見ていなかったが、あの日と変わらぬ姿でヴェルデはルーチェの方へと歩く。

 

「む、この花はスノードロップ…これまた根っからのお人好しなルーチェを嫌うひねくれ者がいたものだな」

「?」

「どういうことだ、ヴェルデ」

 

ヴェルデの言葉にリボーンが問いただす。

 

「スノードロップの花言葉を知らんのか?」

「花言葉だと?」

「ああ、私の記憶が正しければ…」

 

 

私はこの時、ヴェルデの言葉が酷く明瞭に耳に響いた。

 

 

 

「あなたの死を望みます」

 

 

 

一人、一人だけ、ふと浮かび上がった人物に、私は直ぐにその思考を否定する。

我ながら安直な考えをしてしまった。

そんなハズはない。

 

「こんな酔狂なことをするような奴には見えなかったが…人間、何をするか分からんな」

「ヴェルデ、何を言って…」

「何だ、お前たちも同じ人物が脳裏に浮かび上がっただろう?」

 

私は直ぐにヴェルデを諫めようとしたが、視界に映るリボーンに口が開かなかった。

 

「ま、なんせ奴は狂ってる…奴の思考など私に分かる、ハズ、も……」

 

ヴェルデもリボーンの表情に気づき、口を噤む。

リボーンは無言で霊安室を出ていった。

皆重苦しい雰囲気の中、ラルもヴェルデも出ていく。

私も、これ以上ここにいてもとルーチェの顔をもう一度眺めてからここを出ようとした。

 

彼女の顔は、酷く穏やかで、幸せなまま眠っているようにしか見えなかった。

まるで、明日が待ち遠しいというかのように

 

 

「ルーチェ………何故、そんなにも幸せそうに眠っているのですか…」

 

 

誰もその問いに応える者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 




スカル:どこぞの機関からのスパイを直ぐに見抜いたと思われている最高の軍師()

ポルポ:ご主人様、何それ僕にくれるの?(ムシャムシャ、沢山咲いていた希望(の花)をまぐまぐした、そろそろコイツは喋ってもいいかなと思っている。

ルーチェ:( ˘ω˘)スヤァ…、安楽死?出来てよかったね。

アルコバレーノ:バイパーとコロネロも一応あの後顔を出した、風はなんとなく踏みとどまってる、おや?リボーンの様子が…

トロイ:諜報員を指す隠語、語源はトロイの木馬、何かの洋画でスパイに対して使われていたなーと思って入れてみました。

とろい:鈍い、にぶいさま、地域差で使わないところもあるようなのでここで明記。

スノードロップ:「希望」と「慰め」の反対に「あなたの死を望む」という意味も兼ね備えている。

まさかの!1万字越え!読みづらくてスミマセン。
いつもは5~6千字に収めよるようにしてたんですが、今回は無理でした。




ルーチェ↓

【挿絵表示】





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skullの勧誘

俺は考える。


過疎化で町がすっかり(すた)れてしまったこの頃、俺はとても驚いていることがある。

 

「…スカル……」

 

ポルポが、喋った。

 

「……スカル…」

 

若干覚束ないけれど、ちゃんと俺の名前を発音し始めている。

あれ?タコって喋れたっけ?

いやまずコイツ絶対にタコじゃねぇよな。

だって人間の言葉発してるし。

どうなってんだ。

 

「おなか…す、いた」

 

わあ…これは、マジで…人間の言葉を理解してらっしゃる。

迂闊にポルポの前で下手なこと言えねーな。

取り合えずお腹が空いているようなので消費期限が過ぎそうなやつからポルポにあげていく。

こ、こいつ…マーガリンをパックごと食いやがった。

胃腸どうなってやがる。

まだお腹が空いているようだったので、仕方なく森の方に行かせた。

自力で狩って食べるだろ。

森は最近物騒だから行かせたくないんだよね。

謎の巨大生物の話で持ち切りだし、最近じゃ被害が拡大してるって聞くし。

警察隊が謎の巨大生物の捕獲で出動したが失敗してますます警戒態勢が敷かれている。

あー、明日出勤したくねー。

 

 

 

「やっと、会えましたね…狂人の運び屋スカル」

 

現在俺は嫌な嫌な長い一日の仕事を終えて、帰ろうとしていたところ変な人に声を掛けられた。

何だコイツ…髪型がパイナップルだし、ていうかその運び屋の異名マジで人違いなんだけど。

これ本気で間違って伝わってる感じか…そんな中二臭い名前は死んでも嫌だ。

それよりも目の前のパイナップルさんは何で小さくなった俺がその人違いのスカルの方だと思ったのか。

 

「いえ、今はカルカッサの軍師でしたね」

 

完全に俺を別人のスカルさんだと思ってる。

マジでその狂人のスカルとやらに会ってみたいわ。

 

「私は初代ボンゴレ霧の守護者、D(デイモン)・スペード…一度は聞いたことがあるのでは?」

 

誰だ。

でいもん……閣下とお呼びした方がいいのかな。

って、待てよ、ボンゴレ?コイツ今ボンゴレって言わなかった?

競争相手の企業が俺に何の用だ?

それもコイツ今初代っつってたから、多分結構古参メンバーってことだろうし。

 

「ここ数年、弱小カルカッサは今やボンゴレに次ぐ巨大なファミリーとなり、あなたのその手腕にはこの私でさえ目を見張るものがあります」

 

いや俺何もしてねーから。

 

「あなたのその手腕、ボンゴレに生かしてもらえたら…とね」

 

なるほど、引き抜きか。

企業間の引き抜きって本当にあるんだなぁ。

ドラマの世界だけかと思ってた。

 

「立ち話もなんですし、どこか座れる場所へ行きませんか?」

 

これはブラック企業の脱出ワンチャンあるか?

なんにせよ、まだボンゴレがブラックかそうじゃないか分からない時点で決めるのは失策、じっくり見極めねば。

っていうかこれどっちにしろニートになれねーじゃん。

なにコレ悲しい。

一応パイナップル閣下の後をついて行くとこじんまりした人があまりいないカフェに入る。

 

「あなたのことだ、金をいくら積んだところで容易にこちら側に回ってくれるとは思っていませんよ」

 

ボンゴレがブラックだったら本末転倒だしな。

 

「まず私の身の上から話しましょうか」

 

これ長くなるパターンだわ。

かれこれ十数分、ナッポー閣下の長ったらしいお話を聞いてて思ったことがある。

あなた今いくつ?

確実に3桁いってるだろおい。

あれか、どっかの黒っぽい組織が開発した若返る薬でも飲んでんのか。

 

「今のボンゴレはぬる過ぎる…このままでは弱体化するだけ…そう思いませんか?」

 

生産縮小とかそういう意味?

なるほどもっと手を広げるべきだと思っているけど、今の社長は保身的ってことなのか。

俺んとこの社長少し前に海外進出しちゃったし、ライバル企業の生産拡大に焦ったのかな?

それでライバル企業の従業員引っこ抜こうと。

 

「九代目になってからというもの、ボンゴレの間に漂うあのぬるい空気に嫌気が差します」

 

この人めっちゃ野心家だな。

いやまぁ大企業だし当たり前か。

 

「私はボンゴレを正しい在り方へと戻さなければいけない…そこで必要になってくるのがあなたです」

 

俺?マジで何もやってないんだけど。

 

「ボンゴレのボスに相応しい者をその座に()えた暁に、軍師としてあなたにはボンゴレに尽くしてもらいたい」

 

ここでも軍師かい。

待て、いきなり出てきた新顔に指揮官面されるとか、俺恨まれない?

っていうかこの人もしかして下克上狙ってる感じ?

こわ、ボンゴレこわ。

 

「それと、あなたの実力を見込んでボンゴレを正しき在り方に戻す為の下準備を手伝ってもらいたいのです」

 

下準備?いやその前に俺の、姿、赤ちゃんだよ!?

何も出来ない赤子に何やらせようとしてんだコイツ。

 

「勿論報酬は十分な額を払いますし、成功した後の地位も確保します…どうです?不満がありますか?」

 

不満って言うか、赤ちゃんの俺に何かをさせようとしている時点で社長と同じ人種の匂いが…

それに今の企業勝手に辞めたら後ろから刺されそう。

 

「まぁボンゴレの軍師の件はその時にもう一度あなたに聞きますので今すぐに決断しろとはいいません…ただ、下準備の方は依頼という形で受けて欲しいのです」

 

うぼあ

待って待って、何か嫌な予感が…依頼、って言葉が怖すぎる。

っていうか良かったこと一度もねーし。

 

「あなたは今のその地位で物足りる程の男ではないでしょう?なに、ボンゴレが今以上に強くなればあなたの求めるものが必ずや手に入る」

「では、連絡用としてこちらの端末を預けておきます」

 

ナッポー閣下は小さな端末をテーブルに置いたまま、立ち上がってレジの方へ向かう。

にしても引き抜きかぁ…

ボンゴレって企業も中々ブラックそうだけど、どうなんだろう。

相手も別に気長に待ってくれる感じだし、じっくり考えようかな。

まぁ一番の望みはニートライフなんだけどな。

家に帰ると、留守番をしていたポルポがソファに座りながらテレビを見ていた。

コイツ段々と人間臭くなってきたなぁ…

 

「お…かえ、り…スカル…」

「ただいま」

 

ポルポは一体何を見ていたのやら…

 

『見て下さい!この子供のライオン!とーっても可愛いですよ~』

 

動物ふれあい番組か。

やっぱり一匹だけじゃ寂しいのかな。

近いうちに海に遊びに行くか

 

 

 

 

 

 

 

D・スペードside

 

 

最近、弱小であったハズのカルカッサファミリーが勢力を拡大しているという情報を耳にした。

私はというと、ボンゴレの者に憑依しながらボンゴレをより強大になるよう画策していた。

今は穏健派の九代目のお陰で目立った動きが出来ないのがとても腹立たしかった。

ボンゴレに穏健などいらない。

より強大に、強力に、脅威として全世界に君臨しなければ。

そんな中で名を広めていくカルカッサに、少々興味を持つ。

あの、弱小ファミリーが如何にして中堅どころになったというのか。

カルカッサファミリーを調べてみれば理由を突き止めるのは容易かった。

狂人の運び屋スカル、今現在マフィア界に恐怖の対象として名を広めている男がカルカッサの専属として動いていたのだ。

カルカッサファミリーからしたら、強力な武器を手に入れることが出来たと言えよう。

そしてその武器はあまりにも強すぎて、あまりにも凶悪すぎたのだ。

スカルの手で葬られた命は数え切れず、ボンゴレでさえ手を出しかねている。

その事実に私はスカルという男に興味を持った。

あの残虐性は敵にしたならば果てしなく脅威ではあるが、味方となればこれ以上とない武器だ。

ボンゴレに欲しい、と純粋に思う。

それから何度か彼とコンタクトを取ろうとしたが、如何せんスカルの用心深さと警戒心は私の想像以上であったのだ。

まず彼の声、そして顔を知らない。

それは私だけに限ったことではないものの、スカルは自身を特定出来るような情報を一切与えようとしない。

雇い主であるカルカッサのボスですら、スカルの名前しか知らないだとか。

そして、彼は姿を見せることが少ない。

殆ど本部にはいないし、いるとしても依頼をカルカッサのボスから受け取ると直ぐに出ていく為見かけることすら珍しいというほどだ。

彼の後をつけようとしたが敢え無く失敗する。

彼が速過ぎて追えないのだ。

仕方なく、彼とのコンタクトは機会を狙うしか出来ず、私は手をこまねいていた。

そんな中、カルカッサの勢いは段々と加速し、遂にはイタリアンマフィアの一角を担うほどとなっていた。

だがそれだけでは終わらず、ある日、スカルは運び屋を退きカルカッサの軍師となった。

私は理由が分からずすぐさまカルカッサに潜入すると一目瞭然だった。

彼は呪いを受け体が縮んでいたのだ。

運びは難しいであろうその体で軍師に落ち着くのは自然な流れと言えよう。

カルカッサの脅威がなくなった、と、この時の私はそう思ってしまったのだ。

だがそれが大きな間違いであることに気付かされるのは直ぐのことだった。

カルカッサの勢力拡大は緩まることを知らず、今までの比にならない程急速に世界へと広まっていった。

その事実に、漸くボンゴレの頭の固い上層部が動き出すほどだ。

私も、ボンゴレとの差を縮めてくるカルカッサに焦りを見せ始めた。

何十年、いや、百年余りの年月をかけて強大にしてきたボンゴレに僅か十年弱で追いつくなどと、そんな事実があってたまるかと、もはや意地でもあったのだ。

そして意地と共に私の中では、狂おしい程の脅威への渇望があった。

 

 

あの男が、欲しい

 

 

そうすればボンゴレは、今よりも、きっと、さらに、強大に——————…

 

 

決意した私は直ぐに行動に移す。

まず別人の皮を被りカルカッサに潜入し、軍師として前よりも比較的本部にいるであろうスカルと接触を図った。

彼が本部に訪れるのは週に一回のみで、全ての戦略はその日で大方決まる。

スカルの軍師としての姿を見た私は、素直に関心した。

沈黙な性分であるにも関わらず、誰もが彼の意図を理解し行動していた。

周りは彼の意図を必死に理解しようとして、彼もただ単に指示するだけでなく彼らに考える猶予を与えている。

故にカルカッサは全体的に思考力、理解力、計画力が高い。

これも全てスカルの思い通りなのだとすれば、彼は極めて頭の切れる軍師だ。

これではますますボンゴレに欲しくなってしまった。

私は進んで彼に話しかける。

 

「スカルさん、この計画はどうしましょうか」

「スカルさん、狙撃訓練に足を運んでみてはどうですか」

「スカルさん、これお飲み物です」

「スカルさん、———————」

 

演技ではあったが、我ながら驚くほど献身的に彼に接していた。

何度か昼食を誘ってはみたが、彼がその首を縦に振ることはなかった。

やはり顔を見せることはないか。

余程特定されると困る人物なのか、はたまた別の理由があるのか。

このままいけば彼の情報の一つ二つくらいはと思っていた矢先だった。

 

「この前、警察からのスパイをスカルさんが見つけたってよ、そのまま殺されたらしいけど」

「ああ、聞いた聞いた、殺されたっつうか自殺っつうか……まぁスカルさんらしいよな」

「スパイ…?すみません、その話、詳しく聞いても?」

 

下っ端の者達の話を聞くと、スカルが警察側のスパイを見つけたらしい。

スパイは機密情報を手に本部から逃げることは不可能ではなかったが、手にしている自身の組織の情報を無理な脱出でカルカッサに漏らすことを懸念し、その日が穏便に終わるまで待つつもりだったのだろう。

だがスカルはその人物をスパイと分かっていて泳がせ、バレていることを匂わせながらも、逃げられないように彼自らがスパイの近くにいることによってカルカッサに縛り付けた。

その間僅か半日だ。

たった半日で、スパイは発狂し、自ら命を絶った。

何故捕まえて拷問しなかったのか、誰もがそう思ったが、誰もが彼を理解することは出来ないと知っていた。

いたぶるように、じわじわと、相手の精神を削っていき、果ては狂わせた。

まるでそれを楽しんでいるかのような様子だ。

スパイの遺体は、無残なものだと誰もが口にした。

苦しさからか、恐怖からか、首を掻きむしり肉が抉れており、眼球は自身でくりぬかれていてぽっかりと空洞となっていた。

スカルは一体何がしたかったのか。

殺人を快楽と捉えているのか?そんな馬鹿な。

ただの悦楽であそこまで人間が狂うものか。

謎めいた狂人に、私の興味が尽きることはなかった。

そして、組織内で、裏切りに対しての処罰を知らしめるという点で、今回の彼の行動は凄まじいほど影響を与えただろう。

なるほど、とても参考になる。

理解出来ないという、やや危険な思考を持ってはいるものの、やはり彼はボンゴレに必要だろう。

だが、これ以上彼の側にいたとしても何かを得ることは出来ないと思い、私はカルカッサへの潜入をやめる。

そして対等な交渉をして、スカルをボンゴレへ引き入れようと考えた。

ボンゴレが強くあれさえすれば、狂っていたって構わないのだから。

 

 

「やっと、会えましたね…狂人の運び屋スカル」

 

彼がカルカッサ本部から帰るタイミングを狙い、声を掛けた。

彼は相も変わらず無言でこちらを見つめる。

 

「いえ、今はカルカッサの軍師でしたね」

「私は初代ボンゴレ霧の守護者、D・スペード…一度は聞いたことがあるのでは?」

「ここ数年、弱小カルカッサは今やボンゴレに並ぶ程の巨大なファミリーとなり、あなたのその手腕にはこの私でさえ目を見張るものがあります」

 

彼の興味が消えうせる前に、私は本題を切り出した。

 

「あなたのその手腕、ボンゴレに生かしてもらえたら…とね」

 

普通に勧誘したところで彼がこちらに乗り換える可能性はない。

ただでさえカルカッサは今勢力を拡大しているのだから、そのままあの組織にいた方が保身的でもある。

だが彼が保身などと人間味のある感情を持ち合わせているなんてこれっぽっちも思ってはいない。

要は、どちらが退屈をしないか、それだけだ。

それを彼に説かなければ。

 

「立ち話もなんですし、どこか座れる場所へ行きませんか?」

 

近場のカフェに誘い、私達は移動する。

何か頼むか聞いてみたが、彼があのヘルメットを脱ぐとは思えなかったし、彼も首を横に振っていた。

 

「あなたのことだ、金をいくら積んだところで容易にこちら側に回ってくれるとは思っていませんよ」

 

私はコーヒーを口にする。

 

「まず私の身の上から話しましょうか」

 

エレナのことは隠しながら大まかの流れだけ話した。

ジョットがこれ以上は過剰戦力と、ボンゴレの規模を縮小し、そのせいでエレナが死んだことはいつまでも忘れることはない。

ボンゴレは強くあらねばならない。

誰もが名を聞いただけで震えあがるほどのボンゴレを。

だからこそ一世の時代からボンゴレを見ていて、九代目で保守派になったことは実に残念でならなかった。

九代目はジョットと同じとまではいかぬが、穏健派だ。

あの老いぼれが死ぬまでにどれだけボンゴレが弱体化するのやら。

それに、あの九代目が選ぶ後継者に一抹の不安があるのもまた事実。

憤怒の炎の使い手であるザンザスならば申し分ないが、彼らは血が繋がっていない。

正直他のボス候補は誰一人として過激派ではない上にどちらかと言えば九代目のように穏やかな性格だ。

それはあってはならない。

今の内に腐り切ったボンゴレを立て直さねば。

 

「今のボンゴレはぬる過ぎる…このままでは弱体化するだけ…そう思いませんか?」

 

私の言葉に、目の前のスカルはただ無言で耳を傾けている。

 

「九代目になってからというもの、ボンゴレの間に漂うあのぬるい空気に嫌気が差します」

「私はボンゴレを正しい在り方へと戻さなければいけない…そこで必要になってくるのがあなたです」

 

あなたの的確な指示、そして教育、戦略で再びボンゴレは恐れられるだろう。

何よりも再びボンゴレに鋭さを取り戻させたかった。

 

「ボンゴレのボスに相応しい者をその座に据えた暁に、軍師としてあなたにはボンゴレに尽くしてもらいたい」

 

ボンゴレの闇は深い。

あなたの好む死が、狂気が、血が、蔓延っている場所だ。

 

「それと、あなたの実力を見込んでボンゴレを正しき在り方に戻す為の下準備を手伝ってもらいたいのです」

 

そう、今のうちに布石をと、既に目星は付けていた。

使い捨て出来るファミリーを私は知っている。

そして、使い捨てるには一番打ってつけであることも。

 

「勿論報酬は十分な額を払いますし、成功した後の地位も確保します…どうです?不満がありますか?」

「まぁボンゴレの軍師の件はその時にもう一度あなたに聞きますので今すぐに決断しろとはいいません…ただ、下準備の方は依頼という形で受けて欲しいのです」

 

あのファミリーを使うまでにいくつかやらねばならないことがありますからね。

こればかりは、彼が一番適任だと思うので依頼という形で雇うと決めていた。

 

 

「あなたは今のその地位で物足りる程の男ではないでしょう?なに、ボンゴレが今以上に強くなればあなたの求めるものが必ずや手に入る」

 

あなたが求める喜劇が見れるでしょうよ。

その後、彼には通信手段である端末を渡して、私はその場を立ち去った。

 

ああ、エレナ 待っていておくれ

 

もうすぐボンゴレは狂気を手に入れる

 

 

そして誰もが震えあがるほどのボンゴレを

 

 

 




スカル:ボンゴレかカルカッサか迷い中、なおスパイに関しては打算で親しくしてくれたモブ(D憑依)に懐いてしまい、間違ってモブ(スパイ)の後をつけていただけ、仕方ない社内制服がヘルメットとライダースーツだもん見分けつかねーって。

ポルポ:遂に喋り出した、食欲旺盛の時期

パイナップル閣下:ヌフフフフフフフフ。


ここでもフラグを乱立中のスカルに平穏は来るのか。


↓↓ここから危険地帯










※Dに夢見てる方、Dが推しキャラな方は絶対に見ないで下さい。

パイナップル閣下↓

【挿絵表示】


ごめんなさい、本当に、ちょっとした出来心っていうか……疲れてたんです。


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skullの困惑

俺は戸惑った。


「主…」

「スカル」

「主」

「……スカル…」

「主」

「…」

「主よ、先から何故(みずか)らの名を呟いている…」

「………何でもない」

「ふむ、ならばよいが…」

 

ポルポはスカルの横で再び瞼を閉じた。

俺は手に持っていたココアを震える手でテーブルに置き、読んでいた漫画を膝に置く。

そして息を深く吸って、吐いた。

 

 

 

ポルポが中二病になってしまった。

 

 

 

俺は信じたくない現実に頭を抱えた。

 

 

 

ポルポと共に博物館に遊びに行ったのが事の発端なのかもしれない。

 

ポルポと共に誰もいなくなってしまった町の無人博物館に遊びに行き、色々な化石を眺めていた。

すると、ポルポがある一点を見てはずっと視線を固定させていたので、俺は気になりポルポの見ているものを覗き込んだ。

そこにはタコの足ような形の化石があり、その隣には何かの牙の化石が展示されていた。

隣の説明板にはデボン紀と言って約4億年前の生物と記載されている。

 

「頭足類の化石…?お前の先祖か」

 

ポルポに話しかけてみるが、反応はない。

真剣にその化石を見ては触手をガラスにベタベタと張り付けている。

何か思うことがあるのだろうと、多感な年頃のポルポをそのままにして俺は別の展示物を見ていた。

にしてもこんな立派な博物館なのに何で町の人はこの地域から出ていったんだろうか。

ああ、財政難だからか。

このくらい立派な博物館だと維持費ヤバそうだよな。

おお、ティラノサウルスの模型だ、すげぇ…

 

「スカル…」

「あ、ポルポ」

 

ポルポが見終わったのか、俺の所に戻って来た。

 

「自分の起源を知ることが出来た…連れてきてくれてありがとう」

「よかったな」

「うむ、幼稚ながらも自身を自覚出来たことは喜ばしいことよ」

「……?」

 

何だかいつもより口調が…やっぱり知識を身に付けて行ってるから段々賢くなってるのかな。

やべ、これ俺よりも賢くなるの遠くないかも。

それから博物館を出て、家に帰るまでポルポは何も喋らなかったし、俺も何も喋らなかった。

ここで明記しておくならば、俺は普段喋らない。

人前でなくとも、だ。

ポルポは人間ではないからコミュ障の対象にはならないが、それでも元々一人で過ごす時間が多かったので喋ることはあまりない。

ポルポでさえ一日に数度、会話を交えるだけである。

まぁポルポの場合スキンシップ過剰な部分もあるから別に言葉を交わさなくても平気らしいけど。

どちらもそれに不満を持っているわけもないので、現状を変えようとは思っていないし変えるつもりもない。

あまり言葉を交わしていた方ではなかったので、今回のポルポの異変に気付くのが遅れたのだが。

明らかな変化に気付き首を傾げたのはついこの間である。

 

 

それは、漸く世界の科学技術が俺の知っている時代の科学技術の原型を垣間見せた頃だった。

コンピューターネットワークを利用したオンラインゲームが誕生したのだ。

ゲームはもっぱらガンシューティング系であり、ファンタジー要素のゲームも着々と数を増やしている。

俺は早速趣味を増やそうと、そのゲームをインストールしてプレイしていた。

時代が漸く追いついたと喜び、俺は手あたり次第遊び始めた。

その中でも俺が一番気に入っていたのはストラテジーゲームだ。

いわゆる戦略シミュレーションゲームで、長期的な目標に向かって複数の要素を取捨選択しながら最終勝利を目指すものだ。

俺のプレイしているゲームは世界統一であり、自身の領土を持ち、各地に領土拡大として戦争を吹っ掛けたり、同盟を組んだりしながら戦略を練っていく。

正直リアルでビビリな分こういうところで少しくらいは背伸びをしたいのが本心だ。

そんなゲームにはまり込んでいると、ポルポもこのゲームに興味を持ち始めた。

 

「スカル…何をしている…」

「んー………戦ってる…」

「相手は?」

 

結構興味深々な模様だったけど、俺はちょっと画面に集中し過ぎて何を喋ったかはあまり覚えていない。

だって今隣国から攻撃されて…ああああああ、ヤバイヤバイ、盾兵作らなきゃ!

このまま侵入されたら俺殺されちゃうわ。

 

それから元々多くはなかったポルポと喋る時間がさらに減っていき、そういえば最近ポルポと喋っていないと気付いて久々にポルポと散歩に行こうと誘った。

 

「ポルポ、散歩するか?」

「スカルがそう望むのであれば…」

 

何だこのよそよそしい態度はと思いもしたが、ゲームばかりしていてあまり構っていなかったから拗ねたのかと思っていた。

 

「お前の好きな海に行こう」

 

ポルポは機嫌を直したのか普通についてきた。

そういえば俺がゲームをしている間、ポルポは何をしていたのか気になって聞いてみた。

 

(いにしえ)の記憶に想い(ふけ)っていた」

 

?…………?ごめん、今なんて?

俺の思考がフリーズしている間もポルポは喋り続ける。

漸く我に返ったもののポルポの言ってることが分からない。

 

太古(たいこ)より蘇りし我が身はなんと小さきものか」

 

たいこ?よ、よみがえりし?

 

「我が毒牙を恐れ(おのの)き我を()てらせき愚かな人間共はなんと浅はかなものか」

 

ポ、ポルポ…?おーい、どうしちゃったのお前。

 

「移ろいあり()く世はなんと汚らわしく、なんと麗しきものか」

 

 

この時俺は悟った。

ポルポの身に起こった…いや、起こってしまったものの正体を。

 

 

「スカル……否、主よ……我が身は盾となり我が牙は矛となろう……故に我が命はそこな命と共にあり」

 

 

 

ポルポが中二病になってしまった。

 

 

 

この時の俺は、あまりにポルポが真剣に言い放つものだから、引き攣った声でお礼を言った。

 

「あ、りがとう…ポルポ」

 

 

内心頭を抱えるも時既に遅しとはこのことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

 

僕は一体なんだろう。

タコ科の生物でも頭足類でもなかった。

僕の見た目はタコだけど、外殻があるし、毒袋もある、エラ呼吸と肺呼吸のどちらも有している。

どこにもそんな生物はいなかった。

じゃあ僕は一体なんなんだろう。

分からない。

僕は、自分が分からない。

スカルは気にしていないけれど、やっぱり僕は気になる。

悶々と自分自身に対して自問自答を続けていた日々だった。

そんな時スカルと散歩に行こうとしていたら、スカルが考え込んでいた。

 

「ポルポ、博物館行かないか?」

「はくぶつかん?」

「ああ、まぁ暇にはならないと思う」

「行く」

 

今日はスカルと一緒にはくぶつかんに行くらしい。

はくぶつかんって何だろう。

まだ知らない単語がたくさんある。

僕はスカルのバイクを追い駆ける。

数十分で大きな建物の前に到着した。

ここがはくぶつかん?僕ここ来たことあるよ。

ここは僕の狩場であり、テリトリーだ。

たくさん人がいて、とってもお腹一杯になれる場所だ。

今じゃ誰もいないけど前みたいにまた人が来てくれたらな。

最近じゃ隣町に行かなきゃいけないから一苦労だ。

それにしてもはくぶつかんって何するところなんだろう?

 

「あ、化石のコーナーあったぞ」

 

かせき…化石?

まだ文字はあまり読めないから何が書かれてるのか分からない。

あ、海にたくさんいる星の形をした生き物に似てる。

あれも、化石。

あれも………あれも……

 

ふと視界の内にはいったものに視線が固定された。

それは石の中に大きな牙が化石となって埋められていた。

核の心臓がどくりと鼓動した。

 

 

 

……?

なんだ あれは

僕はあれを知っている

思い出せ

 

僕は ぼくは ぼくは————————

  

 

 

瞬間、ポルポの脳内にある光景が過ぎる。

 

 

 

暗い、暗い、深淵で、ひっそりと息を潜めて時を待つ

目の前には(おぞ)ましく強大な強者が(たたず)んでいる

しかし、目の前の強者のぎらついた牙など己が毒牙に比べれば赤子同然

我が眼は今開かれた

 

その命…ここで散れ

 

我が牙が強者の目玉へと食い込み、頭ごと噛み切る

口の中に広がる赤い鮮血は己が命の糧となる

汝の命は我を生き永らえさせる

 

生きとし生ける全ての命は

我が牙を逃れられぬと知れ

我が血肉を喰らいつくすものはこの世に居らぬ

 

故に我が王者なり

 

故に我が統べる者なり

 

 

 

 

 

そこで場面は途切れ、ポルポは我に返る。

 

 

……今のは…ああ、ああ、そうか

あれは 僕だ

時が過ぎて、終わりを迎え、永遠の眠りについた、過ぎ去った過去の残骸

 

それが 僕だ

 

僕は蘇った

人間が、残骸と成り果てた僕の死屍(しし)を見つけ、挙句の果てには蘇らせたんだ

永い永い眠りから解き放たれた

僕は 大昔に滅びた生き物だったんだ

 

漸く謎が解けた

 

 

僕は直ぐにスカルの下へと向かう。

 

「スカル…」

「あ、ポルポ」

 

スカルがここに連れてこなかったならば、僕が自身を思い出すことはなかっただろう。

僕が大昔に滅びたはずの種族であることに今までの疑問が解消され、脳内は澄み切っていた。

 

「自分の起源を知ることが出来た…連れてきてくれてありがとう」

「よかったな」

「うむ、幼稚ながらも自身を自覚出来たことは喜ばしいことよ」

 

少しだけ昔の記憶が混ざった口調が確立されつつあるけれど、僕は僕だ。

全ての頂点に立っていた時代のプライドはあるけれど、それよりも今までずっと一緒にいてくれたスカルの側にいたいのだ。

僕はスカルが好きだ。

小さな僕を恐れずに接していたスカルが好きだ。

太古の昔に孤独であった僕は死んだ。

僕はポルポだ。

スカルが名付けてくれた名前がある。

それでいい。

 

 

「ポルポ、帰るぞ」

 

 

それがいい。

 

 

 

 

 

ある日、スカルは部屋に(こも)るようになった。

中を覗き見ても、僕に気付かずひたすらパソコンの前で真剣な顔をしている。

カルカッサにはちゃんといってるけど、それ以外はずっとパソコンを見てる。

あまりに真剣そうに見るから僕は邪魔にならないようにスカルの部屋には入らず、リビングで昔の記憶を思い出していた。

昔の記憶、というよりもどちらかと言えば、細胞が覚えている記憶なんだと思う。

でもどの記憶も海の中で過ごしていて、陸の上での記憶はどこにもないから多分一度も陸に上がったことはなかったんだろう。

段々と脳内にある記憶のパズルが埋まっていくような気がする。

数日、スカルが部屋から出てこなくて僕は心配でスカルに声を掛けてみた。

 

「スカル…何をしている…」

 

数秒の間が開き、スカルは応えた。

 

「………戦ってる…」

 

僕は何と戦っているのか分からずに、更に問い詰めた。

 

「相手は?」

 

 

 

 

「………世界…」

 

 

僕は一瞬スカルが何を言ってるか分からず、その言葉をゆっくりと咀嚼(そしゃく)する。

スカルは今大きな何かと戦っている。

彼は世界だと言う。

スカルは世界と戦っている。

 

「どうして……?」

「…………俺の領域(テリトリー)に…土足で、入ってくるんだ……」

 

スカルの声はくぐもっていてとても苦しそうだった。

でも僕はどうすることも出来なくて、自分が嫌になる。

 

「このまま(あら)されたら……俺が……死ぬ………」

 

それはダメだ、嫌だ、嫌だ

スカルが死ぬのは嫌だ!

僕の家族はスカルだけなのに!

スカルは僕の大切な人なのに!

 

 

スカルは無言で画面を睨みつけていて、僕はその剣幕に声が出せず部屋を出た。

部屋を出てリビングに戻ったはいいけれど、内心穏やかじゃなくて、僕の感情に呼応してか足の表面の外殻にあった鱗が段々と棘状になっていく。

 

どうしよう、このままだとスカルが死んでしまう

僕が守らなきゃ

僕が守らなきゃ

 

でも世界が相手じゃ今の僕じゃ守り切れないかもしれない

 

じゃあどうすれば…どうすればいいの?

 

分からない………

 

僕はずっと考えていた。

どうすればいいのか、どうしたらいいのか

ただスカルを守りたくて、ひたすら考えていた。

 

何も分からずに落ち込んでいると、スカルが部屋から久々に出てきた。

 

「ポルポ、散歩するか?」

 

スカルに僕を構ってる余裕なんてないのに…

スカルは自分の死よりも僕を優先するの?

そんなの嫌だよ。

でも、断ればスカルは悲しむ。

悲しむから、僕に与えられた選択肢は一つしかないんだ。

スカルの意地悪……

 

「スカルがそう望むのであれば…」

 

逃げ道、苦し紛れな逃げ道を彼に与えたけれど、スカルは少し目を見開いて驚いただけで、直ぐに穏やかな顔でゆるりと笑みを作る。

困ったように、でもそれが嬉しいかのような目で僕を見るんだ。

 

 

「お前の好きな海に行こう」

 

 

僕には人間と違って涙腺がない。

今じゃそれがとても有難かった。

 

だって、泣いたりしたら、もっとスカルは困るから

 

 

スカルを 大切な家族を 世界から 全てから 守りたい

 

守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい

 

どうすれば——————————

 

 

 

 

  生きとし生ける全ての命は

  我が牙を逃れられぬと知れ

  我が血肉を喰らいつくすものはこの世に居らぬ

 

  故に我が王者なり

 

  故に我が統べる者なり

 

                        

 

 

「ポルポ、お前最近何をしてたんだ…?」

 

僕は……ぼくは……………ぼく、は……

 

❝我❞は————————

 

 

神話が目を覚ます。

 

 

 

(いにしえ)の記憶に想い耽っていた」

 

我はそなたを守ろう

全ての厄災から

 

太古(たいこ)より蘇りし我が身はなんと小さきものか」

 

我はそなたに寄り添おう

全ての年月を

 

「我が毒牙を恐れ(おのの)き我を()てらせき愚かな人間共はなんと浅はかなものか」

 

我はそなたを護ろう

全ての孤独と悲しみから

 

「移ろいあり()く世はなんと汚らわしく、なんと麗しきものか」

 

我はそなたと共に生きよう

全てが朽ち果てるその時まで

 

 

 

「スカル……否、主よ……我が身は盾となり我が牙は矛となろう……故に我が命はそこな命と共にあり」

 

 

主よ、悲しき顔をするな

哀しき眼をするな

我は己が選んだ道を 悔いてはいない 

だから 己を責めるな

 

そなたは 真っ直ぐと 生きてさえいれば

 

それでいいのだ

 

 

「あ、りがとう…ポルポ」

 

 

それがいいのだ

 

 

 

掠れた声がいつになく哀しみを帯びていた。

 

 

 

 

 

 




スカル:うちの子が中二病にぃぃぃぃぃいいい(´;ω;`)、世界と戦ってる狂人()

ポルポ:デボン紀の記憶を取り戻したはいいけど昔とは決別し今を楽しく生きようとした矢先にスカルのアホに翻弄されて、昔の人格を引っ張り出して統合しちゃった被害者、最強のセコム。

町:そして誰もいなくなった


▶スカル の 理解者(候補) が いなくなった !

えぐい感じに成長させることが出来て良かった(満面な笑み)
んーでも幼いポルポも好きだったので、今後初期ポルポの再登場も考えてます。

因みに現在は、原作の8年前くらい


ps:ポルポを描いてみたはいいけれど、あまりにもえぐかったので後書きに貼るのを断念しました。
一応私の小説ページ?の左側画像一覧で見れるかと思います。
※私の描いたポルポは個人的なイメージです、本編のポルポは各自の想像に任せてます。



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skullの勇気

俺はどうにかしようと思ったんだ。


ポルポが中二病になってかれこれ一年が過ぎ、ポルポが10m超えた。

今だにポルポの病気は治らない。

 

「主、外は危ない…あまり出られるな」

「主、まだ我は信ずるに(あた)わぬか?」

「主—————————」

 

主、主うるせー…

あるじ、じゃなくてスカルな。

ポルポが俺の名前を頑なに呼んでくれなくてつらい。

俺の名前を呼びながら山道を時速200㎞で駆けていた可愛いポルポは何処(いずこ)

この前名前を呼んで欲しいと言ってみると以下の内容で返された。

 

「その呼び名は雑念で志が鈍る故」

家人(いえびと)のように接しろと…?」

 

遠回しにお前家族じゃねーから発言が深く心にグサッときた。

その後いじけて数日部屋に閉じこもった。

嘘です、泣いてました。

だってあの可愛かったポルポがこんな病に侵されるとは思わなかったんだ!

なんだよあの可愛いポルポって!タコじゃねぇか!

いや厳密にいえばタコのような何かだけど。

それでも外見タコに対して可愛いだなんて俺も頭がイカれてきたのかもしれない。

いやいやいやいやもう一度ポルポ見てみろ?

前よりも牙が鋭くなってるし、偶に床が溶ける墨吐くし、目がヤバイし。

あ、これ可愛くない。

よし正常な思考に戻れた。

それでも子供の頃が恋しい。

ハッ、これが親心ってやつか…

ポルポは俺の子供じゃねーけど、ペットだしな。

 

「主よ、そこで何かが灯っている」

「…?」

 

灯る?

ポルポの目線を追うと、そこには色々乱雑に置かれているテーブルがある。

よく見ると、本やら何やらの山の中で何かが点滅しているのが見えた。

俺は椅子から立ち上がりテーブルの上の山を掻き分けていく。

漸く発光源を見つけたと思ったらただの端末だった。

俺はその見覚えのない端末に首を傾げる。

 

はて、こんなもの買ったっけ?

 

画面を見れば新着一件と表示されている。

俺がそのメールを開くとFrom:Dと書かれていた。

D…って誰だ。

D……でぃー?イニシャル?でもDから始まる奴なんて俺の周りには…っていうか俺の周り誰もいねぇ。

別に悲しくねーし。

それよかこのでぃーさんって奴のことだ。

でぃー……あ!デイモン閣下!

ボンゴレの幹部のパイナップル閣下か。

そういえば閣下に連絡用の端末渡されたな。

にしても数年も放置した今更何の用だこの人。

引き抜きは諦めたのかと思ってたけど、まだあの人下克上考えていたのか。

ふむふむ、なになに。

 

『To:スカル

 今度ボンゴレの同盟ファミリーのボスに奇襲をかけるので、あなたにはCEDEFの者達の注意を引きつけ、そしてその数日後にはシモンファミリー周辺の人避けを頼みます、詳細に関しては後ほど送ります』

 

 

要約したんだが…………ナニコレ。

え、ナニコレ。

奇襲ってなぁに?

ファミリーって会社ってことだろ?

取引先の企業に対しての奇襲ってなんだ。

CEDEFってなんぞ、公正取引委員会か何かかな?

シモンファミリーってなんぞ、聞いたこともないわ。

つーか注意を逸らすとか、人避けとかなんか物騒なんだけど。

これ犯罪とかじゃあるまいな…

取り合えず、詳細送るって言ってるしそれまで待ってみよう。

犯罪の匂いがしたら直ぐに警察に突き出せばいいし。

 

数日後、閣下の依頼の件をすっかりと忘れてた俺はふと視界に入った端末で思い出す。

あわばばばばばば、やっべぇ忘れてた!

慌てて端末を確認すると、既にメールが来ていて頭を抱えた。

期日が過ぎてないことを祈りながら俺はメールを開き、内容に目を通した。

メールには、CEDEFとやらの構成員リストらしきものが書かれている。

期日は丁度今日のこれから数時間後になっていて一応ギリギリ事前に気付けたと安心したかったが、メールの最後の一文がそれを許さなかった。

 

『目障りであれば殺してもらっても構わない』

 

これだ。

明らかに犯罪臭…っていうかこれ犯罪じゃね?

これ奇襲=殺害かな?

閣下は下克上で人を殺すほど過激な思考をしているらしい。

俺はそんな閣下を……そんな閣下を……

 

 

 

警察に通報することにした。

 

正直迷う暇なんてなかったね。

だって決行日が今日の時点で直ぐに通報しなきゃヤバイだろ。

ポルポがお腹を空かせて外に出た頃を見計らって警察に電話してみる。

 

『はい、こちら〇〇〇警察署です』

「…………」

 

そういえば俺コミュ障だった。

もももももちつけ、どうしたら…

ええと、あれだ、そうだ、取り合えず人が殺されるかもしれないことだけ言えばいいんだ!

 

『もしもし…?』

「人が…死ぬ」

 

つ、伝わったかな?

 

『……え?あの、どういう状況———』

 

ひょえ、伝わんない。

取り合えず詳細言えばいいの!?

詳細は…どうしよう……警察署にメールで送ればいいかな。

 

『あの、もしもし?』

「詳細を送る」

『え、名前を——』

「健闘を祈る」

 

相手の静止を聞かずにそのまま電話を切る。

あれ以上どう喋れと!?

下手に個人情報漏らせば俺の家がバレる。

長く電話しすぎても逆探知で住所バレる。

赤ちゃんだし直ぐに施設に連れてかれるから身バレだけはしたくない。

閣下からもらったメールの内容をコピーして警察署の問い合わせのページに添付する。

おっと、閣下と俺の名前は消しておこう。

んじゃ送信、と。

やり遂げた感のある俺はそのままゲームを起動した。

一年くらい前にやっていたストラテジーゲームは自身の国が侵略されて、王様である俺が処刑endで何回か殺されてから放置気味である。

今ではMMORPG(オンラインロールプレイングゲーム)をしているわけだが。

前回は籠っていたばかりにポルポには心配かけたし、中二病を初期段階で気付けなかったのもあり反省して廃人になるほどのめり込んではいない。

 

翌日、テレビを付けながら朝食を食べていた。

ニュースには昨夜数人が射殺されるという事件が流されていたが、俺は他人事のように聞いていた。

そういえばあの後閣下捕まったのかな…と思っていると端末に一件のメール着信が入る。

あれ?これ閣下から貰ったやつだよな……メール来るってことは閣下捕まってないのかな?

俺は緊張しながらメールの内容みると、目を見開いた。

 

『今回の依頼料は口座に振り込んでおきます。次の依頼は別途で送ります。』

 

あるえ?

もしかして:いたずら電話だと思われて警察動かなかった

嘘だろオイ。

ってことはさっきニュースでやってた射殺事件ってまさか…?

いやいやいやいやただの偶然って線も………

冷や汗だらだらで送られてきたメールを確認すると、そこにはシモンファミリーという会社の住所と、指定時刻にその会社の周りの人避けを依頼する内容だった。

最後の一文にはお馴染みの、『目障りであれば殺してもらっても構わない』がある。

………これバリバリ殺す気満々なのでは。

シモンさん逃げて、超逃げて!

あわばばばば、やばいじゃん、これやばいじゃん。

警察に通報してもいたずらだと思われて何もしてくれないし!

うわあ、関わりたくないけど人の命がかかってるしなぁ

指定時刻は明日の夜か…

その前にどうにかして警察に信じてもらわないといけないのか。

もう直接警察署行ってやろうか?

アカン、俺が施設行きになる。

俺は悩んだ…数秒、数分、数時間と悩んだ結果

 

オンラインゲームのギルドマスターにチャットで相談することにした。

 

『―――ってなことがあって、どうしたらいいのかな』

『ばっかお前そんなん直接言うしかねーだろ!ゲームしてる暇ねーよ!』

『でもさ、でもさ、俺疑われない?何でそんなこと知ってるのか!って…』

『確かに…っていうか何でお前そんな物騒な計画知ってるんだよ』

『成り行きっていうか…不可抗力で』

『別にお前自身調べられても痛くも痒くもないなら行くべきだね』

『いや俺保証人なし、身分証明なしの未成年で一人暮らししてるから、バレたら施設に連れてかれる』

『は!?お前今までよく一人で過ごせてこれたな!』

『ってなけで四方八方塞がれてるわけなんですが…』

『諦めて施設に…』

『だからそれが嫌なんだって』

『ならバレずに警察署じゃなくて警察個人にコンタクトとるとか?』

『いやそれもいたずらで処理されるんじゃ、っていうかどうやって警察官個人の連絡先なんてゲット出来るんだよ、期限明日だぞ』

『あ、日付変わった』

『え』

 

ただ無駄に時間を浪費しただけだった。

正直ギルドマスターに相談したはいいが、如何せんギルマスはニートだ。

あまり充てにするんじゃなかった。

くっそ、チャット上でしか喋れない俺にとってこの世はルナティックモードだ。

にしても警察個人ね……うーん、無理だとは思うけど。

あ!そうか、警察をシモン会社の所に誘導すればいいんだ!

そうすれば閣下も捕まってくれるだろ。

捕まらずに俺が通報したことバレたら俺が死んじゃうけど、その時は腹括って警察に助けてもらおう。

そうと決まれば明日指定場所の近くの警察署に行きますか。

 

眩い日差しが目に差し込み俺は起きる。

隣を見ればいつものようにポルポが寝ていて、壁に掛けられている時計を見る。

そこには正午一歩手前になっていて、一瞬の静寂の後俺はベットから起き上がった。

寝坊…というか寝過ごした。

あ、ごめんポルポ、起こしちゃったか。

田舎であるここから指定場所まで約5時間…ギリギリ間に合うかなー…

取り合えずてきとーにご飯を腹に詰めて家を出ようとすると、ポルポに捕まった。

 

「主よ、急いでどこへ(おもむ)くというのだ」

「………」

「我はそなたの身を案じているだけだ」

 

おえ、ポ、ポルポ…締め付けすぎ……

ちょ、出る!さっき食べたスクランブルエッグ出る!

お腹に回される触手が一層強くなる。

うぷ、吐きそうっ…

 

「なら、お前も…来い」

 

色々吐きそうだった俺はそれを言うだけで精いっぱいだった。

ポルポは俺のお腹に回していた触手を解き、何事もなかったようにバイクの隣に移動していた。

おい、ご主人を殺そうとしてしれっとすんなや。

焼きだこにすんぞコノヤロー。

これ以上何か喋っても患っているかまってちゃんには無駄だと思い、バイクの後ろをついてくるタコは無視する形で家を出た。

数時間のドライブの末、漸く首都ローマに着く。

久々の首都は数年前とは変わっていて道に迷いながらも指定場所に向かおうとしていたら、再びポルポが俺のお腹に触手を巻いてきた。

今度はなんだよ!もう!

 

「主、血の匂いがするぞ……それも近い…」

 

あーあーそういう中二ごっこは他所(よそ)でやってくれませんかね!?

なにその風が俺を呼んでるみたいな!?血がお前を呼んでたりすんの!?

 

「おいポルポ…って…ん?」

 

ポルポを呼び止めようとしたら、目の前にパトカーが通り過ぎ去っていく。

そして直ぐ側のホテルに止めて、中に入っていった。

何か事件だろうか……いや待てよ、このまま警察に犯人こっちに逃げたよ!とか言ってシモン本社に連れて行けばワンチャンいける…?

職務妨害になるけど逃げれば大丈夫だよね。

 

「ポルポ、あのホテルに入っていった男を追ってくれ」

 

正直タコ連れて正面突っ切っていくのには無理があるので、下水道から潜ってホテルの配管室のような場所を通っていく。

するとポルポがまたもや血がなんとか言い出して勝手に動き出す。

 

「近い……」

 

近い……じゃねぇよ!マジで!警察官追えって言ってんだろ!?

なんなのお前さっきから血の匂いばかり追うなよ。

ポルポが俺を巻き込みながら配管を伝っていく姿はまさに謎の生物が赤ちゃんを捕食しようと巣に持ち帰っているようである。

やべぇ、これ見つかったらどうなるんだろう。

エレベーターがあるであろう空間に辿り着くとポルポは迷わず上へと這っていく。

いつも思うんだけどポルポが何気にヤバイ。

いきなり登るのをやめたかと思えば、エレベーターの外に出るなりその階にいた男性に体当たりし出した。

ちょちょちょちょストップ、ポルポ!

ステイ!ポルポ!

ポルポの頭をばんばん叩くが全く聞こえて無さそうだったので仕方なく声に出してポルポを呼んでみたら止まってくれた。

 

「何故だ主、こやつはそなたの敵だ…何を恐れることがあるというのだ……」

「取り合えずその人を離してやれ」

「……」

「ポルポ」

 

強めに名前を呼ぶとポルポはその男の人を離した。

俺はポルポから降りて男性が死んでないかを確認すると、息を吐いた。

あー、ペットが人殺しそうになったとかマジ笑えんわ。

今度ポルポには道徳の授業を受けさせよう。

………ん?つかこの人さっきホテルに入っていった警察官じゃね?

警察の制服を着ている、気絶した男の胸ポケットを探ると警察手帳があった。

やっぱり警察だったのか。

ん?待てよ、これ身元バレず警察官とコンタクト取れるんじゃね…

思い立ったが吉日って言うよね。

俺はその警察官のズボンのポケットに手を突っ込むと、中には財布と携帯が入っていた。

携帯にはロックが掛かっておらず、その携帯のメールアドレスを表示して俺の持っている携帯に転送する。

これで一応今後コンタクト取れる…ハズ。

ごめんなさい、勝手に携帯見て。

携帯を返すついでに財布を覗けば、家族写真が入っていた。

リア充か。

べ、別に羨ましくねーし。

俺一人で大丈夫だし、ポルポいるから平気だし………平気だもん。

半ば自棄になって写真を財布に戻し、その男性のポケットに戻した。

 

「ポルポ、行こう……これ以上ここにいるのは危ない」

「殺さないのか?」

 

リア充爆ぜろとは思うけど、本気で殺そうとしてどうすんだよ!

 

「その人には家族が…いるだろう………」

「家人?それがどうしたというのだ」

 

やっぱりポルポは動物だから倫理感ないのか?

これマジで道徳の授業させなきゃ。

 

「………その人が死んだら…残された家族は……多分、悲しい……と、そう思うから」

 

DV野郎じゃない限り悲しむだろ、うん。

 

「…これ以上自らを追い込むのはやめよ、見ていて痛ましい」

 

ぐふっ、的確な毒舌だなおい。

ニート志望コミュ障のゲーマーがいっちょ前に道徳説こうとして悪かったな!

ちくしょう、マジでポルポが俺に対して容赦なさ過ぎて辛い。

っていうかここなんか鉄臭い。

特にエレベーターの方につれて臭い。

多分この鉄の匂いをポルポが血の匂いだと勘違いしたんだと思うけど…このホテル古いのかな。

 

「行こう…ポルポ……」

 

ポルポともと来た道を引き返しホテルを出て、先ほどの警官の携帯に閣下から送られて来た依頼内容をコピペして送った。

一応、激励の言葉と、いきなりあんなの送られたら警戒しちゃうと思ったので家族のことを褒めて、顔文字まで付けたから多分大丈夫だと思う。

俺は時計を確認した。

指定時刻まで残り4時間ほど…あの警官が起きたら多分直ぐに誰かを呼んだりするから、メールには気付くだろう。

よし、俺の出来ることはもうない。

パトカーの音を聞きながら地下水道から人気のない場所に出て、家に帰った。

 

翌日ニュースでは数人が射殺される事件があり、これまた端末に新着メールが一件きていて、俺は頭を抱えながら恐る恐るメールを開く。

 

『依頼料はあなたの口座に振り込んでおきますので』

 

俺は無言でメールを閉じ、パソコンを付けてゲームを起動する。

そしてログインするなりチャットのボタンを押してキーボートに手を置く。

 

『おはようニート廃人のマスター!』

『おはよう、息をするように俺をディスるのはやめろや』

『警察がいたずらだと思って相手にしてくれなかったよぉぉおおおおお(´;ω;`)』

『マジかwwww乙www』

 

 

真面目に労わってくれないギルマスに俺は泣いた。

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

 

 

テレビ番組で最近僕のおやつになってる、犬と猫が映ってた。

僕はじっと画面を見つめていたら、犬の父親が子供をビックリさせて怖がらせたのを母親が怒っている場面が流れる。

僕はふと気になったことを隣で一緒に見ていたスカルに聞いてみた。

 

「スカルのお母さんとお父さんはどこにいるの?」

 

スカルは僕の問いに少しだけ目を見開いて、困ったように笑い口を開く。

 

「………とっくの昔に————」

 

 

 

 

 

そこで我は目を覚ました。

目の前にあるのは見慣れた部屋で、視界の内には主がベッドの上で寝入っていた。

大人しい寝息が聞こえる中、我は外へ出て自身の糧となる生き物を狩りに森へ入る。

陽が完全に上った頃を見計らって家に帰れば、既に主は起きていて朝餉の準備をしていた。

 

「主よ、帰った」

「……ああ、おかえりポルポ」

 

朝餉を食べ始める主の目の前に座る。

すると主が(おもむろ)に喋りかけてきた。

 

「なぁポルポ……」

「どうした主よ」

「………今までみたいにスカルって呼ばないのか?」

「その呼び名は雑念で志が鈍る故」

 

そうだ、我はそなたを守る矛であり、盾だ

(うつつ)を抜かし怠慢に生きてなるものか

それともなんだ、テレビに映るどこにいるかも分からぬあの世帯のように振る舞えというのか。

偽りの面でそなたに接しろと言うのか。

 

「家人のように接しろと…?」

 

そう聞けば、主は悲しそうに目を伏せるだけで何も言い返しては来なかった。

違う、そなたを傷付ける為にいったのではないのだ。

 

「すまぬ、口が過ぎた」

 

主は群れることを極端に嫌う。

それは主自身の中にある一線を越えて欲しくないがため。

大切なものを失うことを忌避していることも知っている。

だから、これ以上そなたに重荷を背負わせたくないだけだ。

ただの矛であり盾として、我を側に置いてさえくれれば、それでいいのだ。

それが、主にとって気の休まる距離となろう。

主自身もそれを分かっているからか、それ以上何かを言ってくることはなかった。

 

 

 

 

ある日の昼時だった。

 

「主よ、そこで何かが灯っている」

「…?」

 

我の視界の端に何かが小さく灯っていて、それを主に教えると主は机の上を片付け光の源を探し出す。

主はそのまま見つけ出した物体を覗きだしたかと思えば直ぐに机の上に置いたので、我もそこまで気に留めはしなかった。

それから数日後、主は何かを思い出したかのように机の上に置いていたあの物体を手に取っていた。

あまりに真剣な表情をしていたが外に出る様子は見られなかった為、我は糧を探しに森へと向かいだした。

 

次の日、主は朝から何やら真剣に考え事をしている。

昨日の事案が解決していないのだと一目見て分かり、我は主に進言した。

 

「主、何やら悩んでいるようだが…如何(いかが)したか」

「あ、いや……なんでもない…」

 

だが主は我に話してはくれなかった。

未だ主は我を頼ろうとはしない。

今まで独りで何もかも背負い込んでいたからか、はたまた我が信ずるに能わぬか。

遣る瀬無い……

日を跨いでいるにもかかわらず(とこ)に入ろうとしない主を案じ、我は声を掛けた。

 

「主、そろそろ床に就かねば体に障るぞ…今の主は赤子の身ゆえ…」

「……分かった」

 

主も眠たかったのか、床に入ると直ぐに寝息が聞こえる。

我も主の側に佇み、瞼を閉じた。

我が次に目を覚ましたのは一際大きな物音が耳に入った時だった。

視界に映る主はどこか焦りを見せ、急いでいる。

家を出ようとしている主を我は無意識に引き留めた。

 

「主よ、急いでどこへ赴くというのだ」

「………」

 

語らぬ主に我は哀愁を覚える。

独りで何もかも背負おうとするな

我はそなたを守るために側に在るのだから…

 

「我はそなたの身を案じているだけだ」

 

言い聞かせるようにそう云えば主は少し考える素振りを見せ、口を開いた。

 

「なら、お前も…来い」

 

 

その言葉を待っていたとも。

我が側にいることを認めるその言葉を…

我はバイクを走らせる主の後ろを、周囲に気を配りながら追う。

数刻したところで、僅かだが風に乗って漂う匂いに気付く。

人気の少ない道を選びながら進む主を押しとどめ、我は辺りを警戒する。

 

「主、血の匂いがするぞ……それも近い…」

「おいポルポ…って…」

 

匂いのもとを辿れば建物があり、我がそこを睨みつけていると主が我の視線の先の建物を指差した。

 

「ポルポ、あのホテルに入っていった男を追ってくれ」

 

どうやら、この血の匂いと主の目的は関わっているようだ。

しかし血の匂いが濃い…

一人二人ではないな………もっと多い上に死の匂いが鼻につく。

あの建物に入っていった人間を追う為に、人目につかない処から入り込む。

地下水道からその建物に侵入して直ぐに我は最大限の警戒を露わにした。

暗くてヒトには見えぬが、壁一面に鮮やかな赤が流れている。

しかも匂いが上の方に行くほど濃くなる。

 

「近い……」

 

相手は人間だ、我が毒牙の前では赤子同然。

慢心を許してはならぬ、主の敵は全て我が牙で貫こうぞ!

我は壁を這いながら血の匂いを辿っていき、血が途切れた処から外に出ると視界の中に一人の人間が入る。

その人間が先ほど主の指さした人間だと分かるや否や、その人間の足を掴み宙へと投げ飛ばした。

壁にぶつかりその場に倒れ込んだ人間の手には、人の使う銃とやらが握られていた。

その武器が人間の命を容易く奪うものであることを我は知っている。

この人間、敵か。

敵は…殺す。

人間を絞め殺してこの牙で跡形もなく噛み砕いてやろうと、人間の首に足を巻き付けていたら主の呼び止める声が聞こえた。

 

「ポルポ、やめろ」

「何故だ主、こやつはそなたの敵だ…何を恐れることがあるというのだ……」

 

人間など我が牙を逃れられぬ。

直ぐに噛み砕き殺してくれようぞ。

 

「取り合えずその人を離してやれ」

「……」

「ポルポ」

 

主の剣幕に我は人間の首に巻いた足を解き引き下がる。

主は気を失っている人間が生きているかを確認して、考える素振りを見せた後その人間から何かを取り出した。

その人間の持っているソレが目的だったのか…?

いやそれならば殺して奪った方が遥かに容易い。

何故、主はその人間を殺さない……

ふと主が手を止めたことに気付き主を覗き込めば、一枚の写真を主が見つめていた。

そこには女と男と子が並んでいて、我は世帯であると分かった。

主は直ぐにその写真を戻し、人間から取り出したものを元の位置に戻していく。

 

一瞬だけ、短かったが我はしかとこの目で捉えた。

 

写真を覗き込んだ主の指に力が入ったのを。

 

「ポルポ、行こう……これ以上ここにいるのは危ない」

 

我はその言葉に疑問をぶつける。

 

「殺さないのか?」

 

今ここで殺した方がいい。

こやつは敵だ。

そなたの敵だ。

何故、何故主はこの人間を殺さない…

主は間をおいて、応えた。

 

「その人には家族が…いるだろう………」

「家人?それがどうしたというのだ」

 

この人間の世帯とそなたは関係がなかろう…?

何故だ、我には理解し難い。

 

「………その人が死んだら…残された家族は……多分、悲しい……と、そう思うから」

 

その言葉に我は言葉を失った。

 

敵にまで情けを掛けるというのか…?

何がそこまでそなたを駆り立てる。

何をそこまで恐れている。

その時、まだ僕が我として目覚めていない頃に主が我に呟いた言葉を思い出した。

 

 

 

『スカルのお母さんとお父さんはどこにいるの?』

『………とっくの昔に死んだよ』

 

 

 

我は悟った。

 

 

主は囚われているのだ

世帯を羨み、妬み、それでも恨むことの出来ない自身が憎くて

世を拒み 世に囚われた 

 

哀しき 我が主

 

人を嫌い、憎み、遠ざけるにも関わらず

人を望み、求め、恐怖する

 

 

「…これ以上自らを追い込むのはやめよ、見ていて痛ましい…」

 

そなたが魅入るものは()()世界にはない。

そなたが妬むものは()()世界にはない。

そなたが羨むものは()()世界にはない。

そなたが拒むものは()()世界にはない。

 

 

そなたを縛るのは世界ではなく死人(しびと)か。

 

 

 

 

 

『可哀そうな人達だよ……………俺なんか産んでさ…』

 

 

 

そなたが望んでいるのは死か

 

 

 




スカル:何もせずにむしろDの計画を警察に通報したにも関わらずお金だけ振り込まれた、警察ェ…、今後ポルポには道徳の時間が必要だと思っている、チャット上ではよく喋る。

ギルドマスター:略してギルマス、日本のMMOなので日本語を使い、日本版の顔文字を使うスカルを日本人だと思っている、またスカルに相談を受けるが日本でそんな事件ないので冗談だと思い流している、元営業マンの現ニート。

ポルポ:スカルをややこしく捉え過ぎたアホの子、警官をグチャペロしようとしてたけどスカルに止められた。

正直、ポルポ視点がややこしくて自分でも混乱しました。
取り合えず分かりにくい最期だけ説明しときます。
ポルポはスカルの親が亡くなったという事実だけを知っていて、いわゆるホームシック状態なんだなーということをややこしく捉えているだけ。


そなたが魅入るもの(スカルの家族)はこの世界(今)にはない。
→既にスカルの家族は死んでいるから
そなたが妬むもの(他人の家族)はその世界(過去)にはない。
→昔はちゃんと家族がいたから
そなたが羨む(家族という)ものはこの世界(現世)にはない。
→家族皆死んじゃったから
そなたが拒む(家族という)ものはその世界(死後)にはない。
→死後の世界にいるのはスカルの家族だから、逆を言えば生きてるうちは要らないと思っている


あれ…書いてて私の頭がこんがらがってきた……
衝動で書いて、後で内容整理してるせいか何でこう書いたのか思い出すのが難しい場面がちらほらと…(´;ω;`)
でも一応、今話のポルポsideはおまけ程度なので、あまり気にしないで下さい。
あと他視点がまだあるので、次話と今話は繋がってます。
ていうか次の他視点が今後も大切になってくる話なので。


ps:更新遅くなってごめんなさい(笑)



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skullの怨恨

俺は恨まれる。


とあるAside

 

 

「行ってくる」

「いってらっしゃい」

「いってらっしゃい!パパ!」

 

今日もまた仕事に出かける俺は妻と子供に声を掛けて家を出た。

俺の名前はアラン、地元の警察官だ。

ベテラン、とまではいかずともそれなりに経験を積んでいる方だと思う。

今度の昇格試験で上手くいけば警部になれる。

妻と子にも恵まれて順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な生活だった。

 

 

そんな日々は、あの一通の通報で消え去ることになろうとは、この時の俺は思いもしなかった。

 

 

晴れた日の夕方頃、同僚の一人の下に通報が入った。

同僚が何も言葉を発しない電話の向こう側を怪しく思い、眉を顰めている様子を俺は視界に入れる。

 

「もしもし?」

『人が…死ぬ』

 

偶然そいつの近くにいた俺はその声を耳にした。

無機質で簡素な一言。

 

❝人が死ぬ❞

 

殺人予告とも取れるその言葉に、俺も電話に出ていた同僚も顔を強張らせる。

ただ、爆発物などを見つけてしまった一般人であるという可能性もあったので、慎重に対応する必要があった。

同僚も直ぐに冷静に対処し始めようとしていたが、電話の向こうの人物は同僚の質疑を無視し言葉を被せてきたのだ。

 

「詳細を送る」

『え、名前を——』

 

「健闘を祈る」

 

それだけで通話は切れ、同僚も俺も、緊張を露わにした。

❝詳細❞ということは、少なくともこれから起こるかもしれない殺人に関与している人物であるということ。

そして何よりも最後の言葉で声の主が警察を試しているのは明らかだった。

つまり、犯罪予告だ。

だが未だいたずらの線が消えない以上、上司への報告は戸惑われる。

俺はすぐさま同僚に声を掛け、メールボックスやFAXなど伝達手段を調べ始めた。

すると、警察署の問い合わせの方で新着が一件のみ来ていた。

そのメールを開いてみると、送られてきたのは数秒前、送信者は不明だった。

内容をざっと確認する。

そこには、十数名の人物の名前と顔が載っているリストだ。

一体これが何のかが分からぬまま読み進めていると最後の一文で固まる。

 

『目障りであれば殺してもらっても構わない』

 

これだ。

この一文から見るに、リストに載っている人物たちは殺害のターゲットというわけではなさそうだ。

目障りであれば、ということは恐らく使い捨ての仲間か駒だろう。

仲間割れか?

殺してもらっても構わない、とあるからに警察側が発砲するであろう事態になりかねないということか?

となるとリストの人物達が銃を所持している可能性が高い。

そして何よりも俺を焦らせたのは時間だ。

メールに記載している予告時間まで既に二時間を切っている。

ただ事ではないと判断した俺は同僚と共に上司の下へ報告しに行く。

この事態に上司もすぐさま動き出す。

俺は同僚たちと共に武装しながらリストの者達を探し始めた。

町中を無線機片手に車で周っていると、頬に冷や汗が伝っていることに気付く。

それもそうだ、なんせ時間がない。

 

❝健闘を祈る❞

 

ふと電話の向こう側のあの声が脳裏を反芻する。

自身に襲い来る焦燥と緊張で、その声が警察の反応を楽しんでいるかのように思えた。

まさに愉快犯のようで…いや実際電話の人物は愉快犯ではないのだろうか。

仲間と思われる人物を駒としか思っていないような内容、あくまで傍観しているような態度を思わせる言動…

非情な犯罪者めと、俺は歯を食いしばりながら無線機に耳を傾ける。

いたずらであって欲しいと願う反面、心のどこかであれは本気の声だったと思った。

 

結果、警察の努力は虚しく、各地で数名が同じ銃で殺害された。

どれも裕福な家の者で、家主が殺されているところもあれば付き添いが庇って射殺されたところもある。

これであの電話がいたずらではないことが証明された。

警察は集団での殺人とみなし、広範囲を捜索し出す。

容疑者ではないけれど最重要参考人として、リストの人物らの捜索から始めることとなった。

それから2日経つが、リストの人物達を見つけることは出来ず捜査は難航した。

俺は今回の殺人が大事(おおごと)になるだろうと思いながら、リストの人物を捜索していると、リストに該当する人物を発見する。

すぐさま報告し追跡を開始した。

その人物がホテルに入っていくのを視界に捉え、俺もそれに続く。

距離を縮めれば気付かれる恐れもあり、適度な距離を空けバレぬように後ろをついていくと、目標がエレベーターに乗り、俺はエレベーターがどの階で止まったのかを確認する。

最上階に近い場所で止まったエレベーターを確認し、隣のエレベーターでその階まで登る。

目的の階まで登ると俺は隣のエレベーターの位置を確認する。

エレベーターの階数は変わっておらず、目標がこの階から降りていないことを表していた。

であればこの階のどこかに目標がいるハズだ。

増援もくる、後は待機するだけだ。

とはいえ肩の息を抜くにはまだ早いと適度な緊張の中その階の廊下を注視していると、ふと耳に奇妙な音が入って来た。

まるで空洞を何かが物凄い勢いで這ってくるような……背筋に悪感が襲う音は次第に大きくなっていく。

俺は直ぐに銃を構え辺りを見渡す。

音源は未だ俺のいる階で止まるエレベーターだった。

眉間には冷や汗が伝い、拳銃を握る手は震えだす中、音は段々と大きくなっていく。

エレベーターの中で反響していた音が急に止む。

俺は深く息を吸い、一歩踏み出そうとしたその時だった。

 

いきなり足が強い力で引き摺られる。

 

「うわあ!?」

 

急な状況について行けず、驚愕と恐怖で心臓が震えあがる感覚の中俺はそのまま壁に背中から投げ飛ばされた。

大きな衝撃に息が上手くできず意識が朦朧とするもなんとか(こら)え、視界に自身を引き摺った何かを捉えて俺は固まった。

 

そこには大きな、大きな、目が二つ。

 

死を悟った。

強大な脅威の前に、怯えることも出来ず、泣くことも出来ず、震えることも出来ない。

粘液を纏う触手が俺の首元へとへばり付くが、体は硬直し動くことはない。

ゆるりと首を巻いている触手に力が入り、緩やかに迫る死に目を閉じることしか出来なかった。

最後に思い浮かべるは妻と子の姿。

 

俺の記憶はここで途切れた。

 

 

 

 

「――ン!――ラン!しっかりしろ、アラン!」

 

誰かが、俺を、呼ぶ声が…

 

「アラン!起きろ、大丈夫か!?アラン!」

 

俺の名前……ああ、眩しい

うっすらと開いた瞼に最初に入って来たのは光だった。

咄嗟に目を閉じ、眉を顰めた。

 

「アラン!やっと気が付いたか…」

「………―――――?」

「ああ、そうだともお前の親友の—————だ!」

「俺は……死ななかったのか…?」

「何を言ってやがるまだ幽霊になるのは早いぞ!」

 

数分後、意識がはっきりとし自身の現状を理解した。

どうやら俺は生き延びたらしい。

あの、強大で、狂おしいほどの死を目の前にして、何故俺は生き延びたのだろうか。

分からない、分からないけれど…俺は生きているのか。

まるで現実味のない感覚に未だ頭が働いていないのか?と思いさえする。

少しして俺は倒れた場所とは離れたところに寝かされていたことに気付き、隣にいた親友に事の経緯を聞いてみた。

目標は逃してしまっただろうか。

それが気になって仕方なかった。

 

「…目標はいた」

「そうか、逃げられたかと思った」

「いや…いたにはいたが…その」

「?」

「殺されていた」

 

俺は親友の言葉が理解出来ず思考が空ぶる。

 

「エレベーター内でリストに載っていた中の12名がすし詰め状態の惨い殺され方だった…直ぐ外にお前が倒れていたから肝が冷えたぜ」

「え…」

 

エレベーターの中……俺のいた目の前の…………

俺はどこか呆然としながら鈍い思考回路を必死に手繰(たぐ)り寄せる。

瞬間、あの二つの眼が脳裏を過ぎる。

瞬く間に体の芯から冷え切り、まるで死がすぐそこまできているかのようで、俺の身体は恐怖で震えだす。

 

「お、おい!大丈夫か!?くそ、もう少しで救急車が来るハズだ、頑張れよ!」

 

頭部を強打したような形跡があったから何かしら異常をきたしているのだろうと推測していた親友を他所に、俺は恐怖で震える身体を必死に押さえつけていた。

あの時麻痺していた防衛本能が今になってぶり返し、身体と思考がズレていたのだ。

制御出来ない身体に反して思考は冴え渡っていた。

 

きっとエレベーターの12名を殺したのはあのバケモノだ。

あの力ならば…常人では目で追えないあのスピードならば、さして難しくもないだろう。

じゃあ何故俺は殺されなかったんだ?

あのリストに載っていなかったから?

 

『目障りであれば殺してもらっても構わない』

 

犯人のあの一文は一体どういう意図があったんだ。

元々殺すつもりだったのか?

あまりにも俺達警察がリストの人物らを見つけ出さないことに痺れを切らし行動を起こしたのか。

分からない、分からないけれど…まだ、事件は終わらない気がする。

その後俺は救急車で病院に運び込まれ精密検査を受けたが特に異常はなかった。

強いて言うなら背中と頭部を強打しているから一日は様子見をするようにと言われる。

俺は疲れた身体を引き摺って一旦警察署に戻り着替えを済ませようとした。

着替える際にふと気付いたことがあった。

財布に入れている家族写真が半分飛び出していたのだ。

 

「………まさか…な」

 

俺はあのバケモノに飛ばされた時に財布から半分出てしまったのだと思っていた。

そういえば明日は報告書の提出があるハズだけどあのバケモノのことを書くべきだろうか。

誰も信じなさそうだし、正直俺も幻覚とかだと思ってる節がある。

でもあの恐怖は本物で、突きつけられた死を今でも覚えている。

 

「…あー…どうすればいいんだか…」

 

一人で頭を掻きながら警察署の玄関に向かう途中に、携帯が鳴った。

妻からだろうかと思い携帯を開けば新着メールが一件あり、見知らぬアドレスに首を傾げながらそれを開く。

開けばそこにはシモンファミリーという組織のアジト、そしてその場所の近辺の人避け、その指定時刻が示されていた。

シモンファミリー…聞いたことはないが、ファミリーという表記はマフィア特有であったような…

メールの内容に警戒し始めた俺はそのまま読み進めていると、またあの言葉が入っていた。

 

『目障りであれば殺してもらっても構わない』

 

これもまた、奴の狙いなのだろうか。

いやそれよりもどうやって俺のメールアドレスを……?

文の内容からして殺して欲しい、いや、殺させようとしているのか。

このシモンファミリーという組織がこれから何かを起こすのか、それとも今回の射殺事件の関連組織なのか。

指定時刻まで一時間もないこともあり、直ぐにこのメールを上司に報告しようとした俺は、次の文章で凍り付くことになった。

 

 

『綺麗な奥さんと可愛いお子さんがいるようですね(^ω^)』

 

 

こいつ……俺の家族をっ

そうか、先ほどの財布から飛び出していた写真は、俺の家族の顔を確認したのか!

俺の財布を確認出来るであろう機会は今日俺が気絶していたあのホテルでのみ。

じゃああのエレベーター大量殺人事件はバケモノではなくコイツの仕業…?

俺はすぐさま妻に電話を掛けるがいくら待てど繋がらない。

脳裏に過ぎるのは愛しい妻と子の笑顔。

くそ、どうすれば……どうすればいいんだよ!

悩む時間などない俺は焦りながらメールをもう一度読み返す。

他の文章から何か手がかりになるものは………まず(^ω^)はどういう意味だ。

^(キャレット)は位置を表す文字、ω(オメガ)はギリシャ文字…恐らくωが何かの位置を示しているんだ。

確かωは……ギリシャ文字の一番最後だから24番目……24行目ということか!?

24行目を数えた俺の頬には汗が伝う。

 

 

『目障りであれば殺してもらっても構わない』

 

 

この文字を強調する暗号、これではまるで俺に人を殺せと、そう指示しているようにしか思えなかった。

俺に………人の命を守るべき、俺に……殺せと、言うのか…?

早まるな!

俺の深読みのし過ぎかもしれないじゃないか!

とにかくこのメールのことは誰にも言えない。

妻と子の命がかかっている。

俺一人でなんとかしなければいけないんだ。

俺は深呼吸をして、誰にも気付かれず拳銃を懐に入れて、帰宅すると言い警察署を出た。

目的地は指定の場所である。

このメールからして、要は指定された場所に人を近づけさせなければいいだけの話だ。

だが目障りであれば殺せということは、この場に近付く者は武装している可能性が高いということ。

何人相手取るのか分からない今、緊張と恐怖でどうにかなってしまいそうだった。

職を失うかもしれないけれど、何よりも家族の方が大切なんだと自分に言い聞かせ、時間が過ぎるのをただただ待っていた。

指定場所へ行き建物に身を隠す。

指定時刻が来る前に一人の男性が指定場所の建物へと入っていくのが見えた。

あれが……俺にあのメールを送った犯人なのか?

 

すると数秒後、建物内から断末魔が聞こえた。

 

「!?」

 

悲鳴の中には男性、女性…あまつさえ子供の声も混ざっていて俺は思考が停止しそうになった。

直ぐに駆け付けたい衝動に駆られるが、理性がそれを(はば)む。

妻子と…他人を天秤に乗せてどちらに傾くかなんて容易に分かるはずで、俺はあらんばかりの力で歯を食いしばる。

唇が切れ血が(したた)る中、いきなり遠くから足音が聞こえた。

拳銃を片手に構えた二人の男が視界に入り、俺は侵入を許してはダメだと瞬時に判断する。

二人の男たちが建物のドアノブに触れるというところで俺は銃の標準を彼らに合わせていた。

 

『殺してもらっても構わない』

 

この時既に俺の中で葛藤などなかった

ただ、脳内を占めるのは恐怖のみ

家族を失う恐怖、死への恐怖

 

瞬きと共に俺は引き金を引いた。

立て続けにもう一発撃ち込み、夜の街に銃声が響き渡る。

 

頭部を貫通し、即死だった。

二つの死体が倒れ伏していて、俺は止めていた息をゆっくり吐く。

瞳からは止めどなく涙が溢れ、震える指が引き金から離れない。

漸く自身が人を殺めたという自覚が追いついてきた途端心臓が鷲掴みされたかのように軋んだ。

俺はその場を逃げた。

無我夢中に走っている中、ふと気付いたことがあった。

何故、周りの住人はこの断末魔に気付いて出てこないのかったのか。

よく周りに目を凝らせば、どの部屋も明かりが付いていない。

辺りには誰もいないのだ。

元々人避けはしていた………?

なら何故俺を脅迫してまで…

 

❝まさに愉快犯のようで❞

 

俺は足を止める。

そのまま壁に肩から(もた)れ、崩れ落ちる。

俺は目を見開いたまま手の中にある拳銃を見つめた。

 

「は……はは……ははははははは」

 

何故か心底おかしく思えた。

腹の底から笑いが止まらず、涙が零れるのも構わずただ笑い続ける。

 

「あはははははは、はははははははっ」

 

人を殺めたにも関わらず俺は可笑しくて堪らなかった。

誰かが俺の姿を見れば全員が揃ってこう言うだろう。

 

狂っている、と。

 

そうだ、俺の人生は狂わされた。

これが笑わずにいられるか。

 

「はははは、あはははは……は、は…はは」

 

笑いが収まり次に沸々と怒りと憎しみが腹の底から湧き上がって来た。

笑みを浮かべたまま俺は携帯を取り出す。

画面にあるのは、あの一件のメール。

先ほど建物に入っていった男が本人かは分からないが、少なくともこのメールの送り主と関りがあるだろう。

 

「殺す…」

 

俺の人生を狂わせたコイツを。

俺が人殺しであるという事実を唯一知っているコイツを。

 

「地獄の果てまで追いかけてでも、殺してやる…」

 

自首する気はなかった。

俺には守るものがあるんだと、家族を免罪符にして自分に言い聞かせた。

銃を仕舞い込み、帰路に着いた俺は脳裏で先ほど建物に入っていった人物を思い出していた。

金髪で……黒いスーツ、がっしりとした体型、年齢は30前後ってところか。

あの男を見つけ出すことからか………

家に着いた俺を笑顔で出迎えてくれた妻と子供の無事な姿を見て、俺はより一層自身に誓った。

 

一刻も早く殺そう

 

 

翌日、殺された家族の名前がニュースに挙げられる中、俺が目を付けたのは生き残った一人の少年だった。

少年は妹が目の前で殺されて精神的に参っていたが、日に日に膨れ上がる犯人への憎悪を募らせている様子に、俺はこの少年を利用しようと考えた。

少年が退院したと聞き、俺は事情聴取と偽り少年の下へ(おもむ)く。

 

 

 

「やぁ、君が古里炎真君…だね?」

「おじさん……警察の人、ですか……」

 

「まぁ警察ではあるけれど、今日は君に話があって来たんだ……少し話を聞いてはくれないかい?」

 

 

はやく……早く殺さなければ———…

 

俺は狂気に囚われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

D・スペードside

 

 

一年前、ボンゴレ内で九代目の息子であるザンザスがクーデターを起こした。

だが九代目はザンザスを殺さずに、凍らせた彼を別塔の地下へと幽閉する。

この時、私の中では九代目の甘さに嫌気が差していた。

何よりも九代目が目を掛けている、CEDEFに属する沢田家光の息子沢田綱吉の容姿が気に食わなかった。

あの子供にはあの男の面影があった。

ああ、腹立たしい…

その子供が野心を持ち冷徹非道であったならばボンゴレ十代目の座に据えることも(やぶさ)かではなかったが、平和ボケした日本で生まれ、一般人の下で育てられたその子供に期待など出来るものではなかった。

自身よりも小柄な犬にさえ怯える者がボンゴレを継げるはずがないと一蹴し、私は遂に計画を進める。

 

腐ったボンゴレを正す為に

さらなる高みへとボンゴレを強くする為に

 

そして 忌まわしいあの男の子孫を葬り去る為に

 

 

「ああ、彼にも一働きしてもいましょうか…ヌフフ」

 

私は口元に弧を描き、狂気へと触れた。

 

 

私はまずシモンファミリーの古里真(こざとまこと)へ疑いの目を向けさせる為に、ボンゴレに関係のあるファミリーの襲撃を企てた。

襲撃当日、幻覚で作った他人の姿で目的地へと足を運ぶ。

各ファミリーのボスを奇襲するのは容易く、数人を射殺し終えると姿を眩ませた。

その後、予想通りCEDEFが動き出したが、あの狂人はどう動くのやら。

そんな私の思考を嘲笑うかのように、予想外の勢力が介入してきた。

警察だ。

国家の名のもとに動く彼らは、表の人間に分類される者らだ。

裏の世界であるマフィア間の事件に警察が関わることは珍しい。

否、ボンゴレでと限定したならば初めてじゃないだろうか。

だが私はすぐさまこの警察の介入の元凶に気付いた。

あの男だ。

あの男が警察の介入を許した。

一体何故?なんて疑問は野暮というものだ。

あの男の考えは誰にも分からず、誰にも理解されない。

それはただ単にあの男が狂っているから、の一言で済ませられる程異色を放っているのも事実。

まぁ大方一般人を巻き込んでド派手に殺すつもりだろう。

その狂った思考回路は理解できかねないが、見る分にはとても愉快だ。

無駄な犠牲もまたあの男の好むものだろうと思いながら、警察の介入で思い通りに動けないCEDEFの様子を見ながら私はほくそ笑んでいた。

そのままCEDEFの数名を殺して古里真へ注意を集めてさっさと殺そうとしたがただ何もしないままだと、狂った彼もまたつまらないと感じ興味を失うだろう……そう考えた私は彼にショーを見せてあげることにした。

彼も、ただ私の依頼を受けているわけがなく私の行動を監視しているに違いない。

その日とあるホテルで、私は集まっていたCEDEFを計12名殺し、エレベーターに詰め込んだ。

原型を留めない肉片もある中、エレベーターのボタンを押し扉を閉め私はその場を去る。

少しは面白いと感じてくれればボンゴレへ引き込むことが楽になるんだが…

裏の世界に表の勢力を介入させたことで起こる混乱をどこかで眺めて笑っているであろう男を思い浮かべては、私は夜を待った。

 

月が現れ、静寂が訪れた時刻。

あの男が敢えて人避けをしそうにないと思った私は、あらかじめ野次馬を避ける為辺り一帯に幻術を掛け、自身の姿を沢田家光に模し、計画を実行した。

響き渡る悲鳴、もがき苦しむ断末魔、飛び散る鮮血、そして絶望に染まったその顔。

無情にも手を休めることはなく、ただ惨たらしく命を奪い取る。

コザァートの面影のある子供、古里炎真に妹の亡骸を見せつけながら嬲り、肉片と化した人間であったものに背中を向け建物を出た。

勿論、沢田家光の後ろ姿を古里炎真にわざと見せつけるようにゆっくりとだ。

玄関を開けた私の目の前にはシモンファミリーの一員が鮮血と脳漿を垂らしながら倒れていて、私は不覚にも目を見開き納得する。

 

古里一家を殺している間、銃声が二発聞こえたがこれだったか…

 

周りを見渡したが誰も見当たらず、至近距離で撃ったものではないと判断する。

気配もない…既に引き上げたか。

ヌフフ、少し呆気ない殺し方ではあるものの、彼の狙撃の腕前が知れたので良しとしますか。

それから数日後、生き残った古里炎真は絶望のどん底に落とされながら、沸々と禍々しい感情を煮えたぎらせていた。

 

まだだ……もっと、憎め、恨め……

 

「ヌフフ……全ては、ボンゴレの為に」

 

 

復讐の歯車が動き出した。

 

 

その腐ったボンゴレを一掃するのもそう遠くはない

 

 

 

「待っていておくれ…エレナ……」

 

 

裏切りは復讐を生み出した。

 

 

 




アラン:SAN値直葬、オリキャラ、善良な警察官、人生狂わされた被害者、家光になりすましたDを古里炎真を利用して探そうとしている、(^ω^)を変な方向へと解釈してしまったアホ。
D閣下:血の洪水事件の主犯、スカルをどうやってボンゴレに引き入れようか思案中
古里炎真:今話最大の被害者、ハートフルボッコだどん!


あまりにも長くなってしまい二話に分けてしまいました。
アランは今後…というかシモン編で再登場…の予定。

そろそろ原作開始させたい。
っていうか、虹の代理戦争が書きたい。



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原作開始後
skullの切実


俺はやめて欲しかった。


あの事件騒動から早数年、ついにポルポが全長20m超えてしまい、俺はどうしていいか分からないのが最近の悩みである。

ポルポは以前にも増して中二病が顕著になっている。

毎度聞いていてとても、すごく、痛いです。

早く治したいんだけどポルポは絶賛反抗期らしく、俺の名前も呼んでくれない。

っていうか反抗期なげーなぁ…

そういえば、ヘルメットとライダースーツを着た同僚の見分けが若干つくようになった。

モブAはよく俺に飲み物をくれる人で、モブB、Cは資料を持ってくる奴等、モブDは気付けば隣にいる奴、因みにモブ子は研究室に籠っている奴だ。

俺にも仲の良い同僚がいたんだな、って偶に自分でも驚いている。

俺の自意識過剰でないことを切に願う。

 

と、前置きはここまでにしよう。

本題は、今日出勤したらいきなりモブ子に研究室に連れていかれたことから始まるんだが、正直俺もあまり分かっていない。

今日もまたてきとーに書類仕事しておけばいいのかなと思ってたら朝一にモブ子に声を掛けられた。

 

「おはようございますスカルさん!少しいいですか!?」

 

と、本人の意思を聞かずに研究室に連れて行ったモブ子だが、一体今度は何を発明したんだ?

殺人スタンガン、爆弾、レーザーガン、ミニ核兵器、色々開発してたけどまた危ないものなら破棄させよう。

いくらカルカッサ企業がブラックだとしてもそんな過剰戦力兵器要らないからね。

ていうか警察に一発で捕まるわ。

 

「今からある放射線を当てますので、体に変化があれば直ぐに教えて下さい」

 

………今何て?

待て待て待て、待って!

今!放射線って言ったこの子!?

え、そんな人体に悪影響なもん浴びさせようとすんなや!

モブ子が何か装置の様なものを取り出し、俺に向かって光る粒のような何かを浴びせる。

 

「何か変化はありませんか…?」

 

うーん……ん?

少し体が動かし辛い………困るほどじゃないけれど。

待って、これ放射線のせいじゃね?

やめてストップ、ストップ!

暴れようとした矢先に、何かの画面を見ていたモブ子が画面に表示されているグラフの変化に気付いた。

 

「あ、少し神経伝達に異常が見られたので右腕動かしてもらってもいいですか?」

 

異常が見られたじゃねぇよ!外せ。

なにこれ、同僚に人体実験されてるんですが。

これ泣いていい?泣いちゃってもいい?

マジで右腕が動かなくなってきたし、ヤバイ怖くて涙出てきた。

 

「グラフの変化を見るに、段々と体の所々が動かし辛くなってると思うんですが…」

 

思うんですが…じゃねえって、マジで。

俺死んじゃう。

 

「これは通常人体に影響を及ぼす放射線ではないんです」

 

…え?本当?

でも俺動けないよ、おもっくそ影響受けてるよ。

 

「恐らく、スカルさんに掛けられたアルコバレーノの呪いが関係しているのではと思っているのですが……」

 

え、待って、もしかしてお前俺の呪いについて調べてたりしてたの?

俺を心配してくれて嬉しいけど有難迷惑………

俺元の姿に戻る気一切ないよ?

だって元に戻ったらまた配達の仕事押し付けられるじゃん。

 

「この放射性物質が見つけられたのはついこの間で、スカルさんがカルカッサにいる間発光することから、呪いと関係あるのでは…と推測していたんです」

 

それから専門語をばんばん放つモブ子を無視して俺は空中に舞う光を眺めた。

あー、ダメだ……なんか眠く………

授業中に襲い来る眠気に似ていると頭の隅で思いながら俺はそのまま眠気に身を任せる。

 

「――――で、―――――です」

「ああ、―――――――では?」

「いや、――――――――――――だと思われ————」

 

それから誰かの声でふと目を覚ます。

何だろう、深く眠ったせいか、すごく頭がスッキリしている。

身体も動くようになっていたから、起き上がってそこでここがどこだか気付く。

あー…そっか、研究室でモブ子に人体実験に付き合わされて、呪文を聞いてたら眠くなってたんだ。

 

「あ、スカルさん!すみません、体に異常はありませんか?」

 

モブ子が俺が起きたことに気が付いて近寄って俺の体調を聞いて来た。

別になんともなかったので、首を横に振るとモブ子は安心したように手に持っていたカルテに何かを書き込む。

 

「あの放射線は比較的弱いものですが、それでも神経伝達の妨害、筋組織の弛緩、睡眠促進の効果がありました」

 

ひょえ、そんなもん俺に浴びせてたの?

この子怖い。

 

「この程度の放射線レベルでは基本的にスカルさんの身体に影響を及ぼしません……が、これよりも数段強ければ悪影響になると思います」

 

なるほど、分からん。

取り合えずあの放射線は俺にとって危ないものってことね。

にしても同僚がマッドサイエンティストに見えてきた件について。

 

「至急技術開発チームが総出でこの放射線に対しての耐性スーツを作っているので安心して下さい」

 

そう言ったモブ子はカルテを片手に他の人の方に向かって行く。

正直俺にとって悪影響な放射線の対策を練ってくれたことには感謝してるけど、呪いに関してはノータッチでお願いしたい。

俺はまだニートライフを手にしていない。

そして大人に戻ったらもっとニートライフ出来なくなる。

それだけはやめて欲しいです、切実に。

モブ子の実験から解放された俺はいつものように自分のオフィスに向かう。

オフィスに行けばなにやら皆が騒がしい。

何かあったのだろうか。

俺の存在に気付いていない彼らの近くに行き会話を盗み聞きしてみた。

 

「おい、あの六道骸が脱獄したって本当か?」

「ああ、間違いない…今も虐殺を続けてるらしいぜ」

「…復讐者(ヴィンディチェ)も何やってんだか…」

 

脱獄…?極悪犯が脱獄したらしい。

にしてもロクドウムクロか、おもっくそアジアだな。

これ下手したら日本人の可能性が……しかし何故にムクロなんだろう。

漢字にしたら骸になるけど親のネーミングセンスェ……

あとヴィンディチェってなんぞ、話しの流れからして警察かな。

 

「あ、スカルさん!おはようございます!」

「え、あ!おはようございます!」

 

俺の存在に気付いた二人はデスクワークに戻り、近くにいたモブ………Cが声を掛けてきた。

 

「スカルさん、これ次の作戦なんですが…」

 

モブCは何かの資料を片手に近付いてくると、デスクの上に資料と地図を並べ始めた。

地図に色々文字が書かれていて、俺は内心首を傾げながらその地図をじっと眺める。

 

「ボンゴレは今穏健派で勢力が停滞しています、潰すなら今の内かと…」

 

なるほど、あれだ、寡占(かせん)企業となっている今の現状を打破してどうにか独占企業にしたいのか。

独占企業か………何かカルカッサ企業が突飛している分野の特許があれば簡単なんだが、一応申請だけは出しとくか。

にしてもこの地図に書いている…この…マフィアランドってなんだ。

如何にも怪しい感じの名前だけど資料を見た限りじゃただのリゾート地だ。

それもそのリゾート地の所有者はボンゴレ企業……ボンゴレェ…

何故にリゾート地にマフィアと名付けたし。

この土地を買収するか…?いやボンゴレがそんな簡単にライバル企業に売り渡すわけもないし…

 

「マフィアランドに何か気になることでも……ハッ、そういうことですか!」

 

ん?ごめん、どういうこと?

 

「至急部隊編成を考えて来ます」

 

あ、ちょっとまっ……行ってしまった。

モブCは慌てて部屋を出ていき、オフィスには戻ってこなかった。

…まあいいや、それよりも今のカルカッサ企業を独占企業にする為にも何らかの特許は必要だし、今のうちに申請しておいた方がいいよな、うん。

モブDに特許申請を頼んでみると、喜んで頼まれてくれた。

なんていい奴なんだお前…

さて、もうこんな時間だ。

遅くなるとポルポが会社まで突撃してくるので帰ることにする。

 

「スカルさん、お疲れ様です」

 

帰り際に声を掛けられた。

モブ……………………誰だコイツ。

俺はA~Dまでしか覚えてないからこいつ知らないわ。

やっぱり社内服にヘルメットとライダースーツはアカンよ。

まじまじ眺めても誰だか判断付かないので諦めて帰った。

帰路の途中ポルポがいて、どうやら俺の会社に突撃しようとしてたらしい、あっぶねぇ。

 

「主、どうやらそなたの周りにコバエが飛び交っているようだが…」

 

うそ、全然気付かなかった。

ぉ、俺別に臭くねーよ!?

なんかポルポがハエを食べそうな勢いなのでなんとかして止めたい。

 

「………放っておけ、所詮コバエだ」

「ならばよいが、煩わしければ云え……我自ら葬ってくれる」

 

葬り去る=食す、でFA?

うちのペットが怖い。

その後家に帰ってマフィアランドについて少し調べてみた。

遊園地があるらしい、めっちゃ行きたいと思いましたまる

 

 

 

 

 

 

 

モブ子side

 

 

 

それは核兵器を製造している時だった。

 

「―――さん、新たな放射性反応が…」

「何…?」

 

仲間の一人がそう呟き、私はすぐさま画面上のグラフを確認する。

確かに一つだけ全く異なる放射性反応がある。

何度か調べたがデータに一致するものはなく、新たな放射線であることが確認された。

マウスや人、その他諸々での実験でその放射線には生物への悪影響はなく、一体どういう原理で生成されたのかも分からなかった。

だがそれから数日経った頃、放射性物質から出る放射線が肉眼で捉えることが出来るほど発光し出した。

何が起因したのか全く分からずいくつか方法を試してみたが敢え無く失敗に終わる。

二度目の発光はその一週間後だった。

夕方になると再びもとに戻り、その後同じ環境下を作り出したが反応はしなかった。

だが数週間ほど経つと、流石に気付くことがあったのだ。

一週間に毎回同じ時間帯に発光し続ける放射性物質は、いつもスカルさんがカルカッサに滞在している時間と一致しているのだ。

最初はまさかと思ったが、スカルさんは呪いを受けている身、何も不思議ではなかった。

推測が建ったところで、私はスカルさんを研究室へと招いた。

一体この放射線がスカルさんとどんな関係があるのか、何の影響があるのかは分からなかったが手遅れな状況になる前に解明しておきたかった。

 

「今からある放射線を当てますので、体に変化があれば直ぐに教えて下さい」

 

そう言い、私は未知の放射線をスカルさんに浴びせた。

人体に影響がないことは分かっているが、それはあくまで呪いを受けていない者たちだ。

スカルさんがどうなるか分からなず、もしもの場合を警戒して研究室の中には医療班も待機していた。

数秒浴びせていると、近くの機器が警音をあげた。

私は直ぐに画面に表示されているグラフを見ると、そこには神経伝達速度が段々と右肩下がりになっていることが表示されている。

確認の為にスカルさんには右腕を動かせるか聞いてみたが、右腕が動く気配はない。

すると別の機器にも警音が鳴りそちらも確認すると、色々な異常が見られ始める。

そして私は、この放射線は呪いと関係していると確信した。

直ぐに実験を止め、スカルさんの意識があるかを確認しながら放射線について簡単に説明した。

 

「―――さん、意識レベルが下がっています」

 

仲間の言葉に私は医療班を呼んだが、数分の検査の結果、ただ眠っているだけという診断だった。

一応他の身体的異常がないかを念入りに調べるが、これといって後遺症はなく、神経伝達速度も通常の数値に戻っている。

カルテに今回の実験結果を書きながら、放射線について考えていた。

あの放射線はまだ数値は低い方だったがこれ以上数値が上がれば人体に悪影響を及ぼすだろうと考え、その推測を技術開発班の班長に伝えれば、今からでも耐放射性のスーツを作るよう言い渡された。

それもそうだ。

この放射線が誰かの手に渡り、尚且つアルコバレーノに有効であると知れ渡れば…真っ先に世界中から狙われるのはスカルさんだ。

彼は世界中のマフィアから恨みを買っているお方だから……まぁ本人はどうにも思って無さそうだけれど。

 

先ほどのデータをカルテに書き写していると、スカルさんが起き上がり辺りを見渡していた。

 

「あ、スカルさん!すみません、体に異常はありませんか?」

 

彼に体の異常はないかを聞き、もう一度軽い検査だけして終わる。

 

「あの放射線は比較的弱いものですが、それでも神経伝達の妨害、筋組織の弛緩、睡眠促進の効果がありました」

「この程度の放射線レベルでは基本的にスカルさんの身体に影響を及ぼしません……が、これよりも数段強ければ悪影響になると思います」

 

これ以上実験を続けてもスカルさんの身体にどのような影響が起こるか分からないので、今はあの放射線に対する耐久性スーツを作ることに全力を注ぐことしか出来ない。

少しでも彼への脅威を無くさなければ。

 

「至急技術開発チームが総出でこの放射線に対しての耐性スーツを作っているので安心して下さい」

 

一段落済めば、あなたの呪いを、その呪縛を解き明かし、元の姿に戻してあげます。

待っていて下さい、スカルさん………

血を浴びるあなたをもう一度見るまで、私は絶対に諦めない。

 

 

私はずっと昔にそう誓ったのだから

 

 

 

 

 

 

 

モブDside

 

僕はスカルさんの右腕だ。

その肩書を誇りにスカルさんに全てを惜しみなく捧げてきた。

いついかなる時も側にお仕えし、あの方を御支えしている。

周囲も僕をスカルさんの右腕、軍師補佐であると認めていることに耐えがたい優越感を感じていた。

恐らく僕が誰よりも彼の近くにいるのだ、と。

そんな僕はいつも通りスカルさんに尽くす日々を送ってるが、最近マフィア界は不穏だ。

六道骸が脱獄したという噂が流れ始め、もっぱら仲間たちの間はその話で持ち切りとなっている。

スカルさん程には及ばないが、それなりに悪名高い所業をやってのけた六道骸に、部下が恐れるのは普通の反応かと思っていた。

まぁ僕は六道骸よりもスカルさんのことで頭が一杯なんだが。

最近技術開発班が新たな放射性を発見し、スカルさんの呪いに関係があるという事実を、幹部の者だけに伝えられた。

そして今朝、技術開発班がスカルさんと新たな放射線の関係を研究し始める為の検査が行われた。

僕はそういう難しいことは分からないから立ち会ってはいなかったが、どうやらスカルさんには毒のようだ。

現在、耐放射線用のスーツを開発しているようだが、早く出来て欲しいものだ。

 

 

 

そんなことを考えていた僕の視界の内に一人の男が入る。

あいつは確か…スカルさんからマフィアランドの襲撃を任された奴か。

何故マフィアランドに…だなんて誰もが聞かずとも理解している。

あのマフィアランドには他のボンゴレ同盟ファミリーもいる…そいつらを一般人ごと殺してこい、と。

スカルさんは一般人を巻き込んで、ボンゴレの体面を汚すつもりなのだ。

まぁ一般人の方はおまけ程度だとは思うが。

それにしても今週末に決行する手筈だが、目の前の男は資料片手に唸っている。

僕は彼に声を掛け、マフィアランドの件を聞き出した。

 

「ああ、今編成に少し悩んでいて…」

「お前が悩むなんて、一体どうしたんだ」

「少し気になる情報が入ってまして…」

「気になる情報?」

「ええ、このマフィアランド…裏の責任者はアルコバレーノだという噂が…」

「何…?どいつだ」

「コロネロですね…実力はありますし、CEDEFとも交友関係があるとか」

「ふむ、厄介だな……」

「最初は戦艦から砲弾を打つ計画でしたが、大幅に変え、マフィアランドに潜入した後爆弾を仕掛けるという案を今考えています…ね」

「そうだな、隠密行動ならば編成は全て変えた方がいい…特にBチームはFチームに—————」

「そうですよね、ですが————―」

 

それから数時間かけて、マフィアランド襲撃計画の練り直しを手伝った。

新たな作戦は残虐であるものの、どこか物足りなさもあった。

 

「これがスカルさんなら、もっとえげつない作戦思いつくんでしょうねぇ…」

「そうだな、まぁ別にこの作戦でも問題ないだろう…スカルさんには僕から話を通しておく」

「ありがとうございます」

 

僕は新しい作戦内容の資料を手にその場を去る。

本部からの帰り際、資料を思い返しながら帰路を歩く。

先ほどの作戦はスカルさんの思想には遠く及ばなくとも、僕なりに残酷な作戦だと思っている。

 

スカルさんは何も語らない。

何も語らないからこそ、僕は彼の一つ一つの挙動を見逃さぬよう注視する。

何を伝えたいのか、何を考えているのか…

未だ全てを理解することは出来ない。

けれど、確かに実感することがある。

先日もカルカッサの表の顔である企業経営の規模拡大を任された。

ボスが他のファミリーとの対談で忙しなく動いている今、ボスに次いで指揮権を持っているスカルさんが現在のカルカッサをまとめているといえよう。

そのスカルさんから、重要な任務を頂いた。

彼が僕を頼っているように思えて、内心満ち足りている。

最初など隣に立たせてくれるだけで、それだけで満足だったのに…

スカルさんの右腕なんて、僕には勿体ないほど名誉な立場だ。

彼にとって僕が有象無象の一人であることは分かっている、いや彼の視界に入っていることだけでもありがたいと思うべきだ。

それでも彼に尽くすだけの価値はあるのだと、強く思う。

彼は人から狂っていると言われている。

確かに、狂っているのかもしれない。

冷酷で、残虐で、非情なお方……そして何をしでかすか分からない未知さ…

彼への恐怖の念は史上類見ない程マフィア界に緊張を走らせた。

一貫性のない行動、目的も理由も何もない狂人は、それだけで異質だった。

僕はその未知な恐怖と畏敬に魅せられ、彼に全てを捧げた。

彼の右腕を名乗るだけの実力は付けたし、覚悟も決めた。

誰にも反対などさせない程の執念が僕にはあった。

 

僕は代弁者だ

 

狂人の代弁者だ

 

彼の手となり足となり狂ったように見せるだけ

 

 

スカルさんは何も語らない

 

 

顔も声も素性すらも分からない

 

それでもいい

 

それでもあなたについて行きたいと

 

 

心から そう願っているのだ

 

 

 

全ては狂気に魅せられたが故に。

 

 

 




モブ子:信者1、スカルに恋する乙女()
モブD:信者2、スカルの右腕()、いわゆる初期獄寺ポジ、スカルの伝説()は大体コイツが原因
ポルポ:セコム、ハエが煩わしそうなので今度ペロムシャする予定
スカル:取り合えず何もしていない、カルカッサを独占企業にしようと一人で奮闘するバカ、マフィアランドへ行きたい、ポルポの中二病が一向に治る様子がなく寂しいらしい

今回は、アニメ版未来編でヴェルデが発見した対アルコバレーノのノントリニテッセみたいなものを早めに出しました。放射線か電磁波かで迷ったんですが今回は放射線物質ということにします…(原作に電磁波、またそれ以外で書いてあれば教えて下さい)
モブ子は確かに技術開発の才能はありますがヴェルデには及びません、ただ今回弱ノントリニテッセを見つけられたのは運が良かっただけです。


やっと原作時期突入ですね。
今回スカルはずっとイタリアにいるので、原作開始の合図である半裸告白事件やらは全部日本なのでカットします(笑)
取り合えずマフィアランド→黒曜→ヴァリアー→未来編→シモン→代理戦争の順で書いていきます。
ここからはシナリオに沿ってスカルが色々やらかすだけなので、書きやすいっちゃ書きやすいのかなー…




『ぼくのかんがえた さいきょうの かるかっさふぁみりー』

を、画像一覧に貼っておきましたので暇な方はどうぞご覧ください。
正直書いてた私が言うのもなんですが、一言で言い表すならば…
「なんだ、これ…………いやマジでなんだコレ…」
ってなりました(笑)
全員がヘルメットってシュールですね(棒)


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skullの困難

俺はおかしいと思った。


晴天下、響き渡る悲鳴と叫びに耳を傾けながらリゾート地マフィアランドの遊園地を回っていた。

 

「あらあらとっても賑やかねぇ、何か乗りたいものはあったかしら?スカル君」

 

何故か見知らぬ女性に抱えられながら。

 

 

 

 

「ポルポ、遊園地行こう」

 

今思えば全てはこの言葉から始まった。

 

数日前に同僚が持ってきた資料にあったリゾート地マフィアランドが気になって仕方なかった俺はポルポを連れてマフィアランドに行くことにした。

旅行費は入園料と少しのお小遣いのみで宿泊はしない。

ポルポを船替わりにしてマフィアランドに向かえば小一時間で着くからだ。

その為に通販で酸素ボンベを購入する。

日帰りプランを立てていざマフィアランドの遊園地へと足を向けたはいいが、並ぶは並ぶ人の列。

まさかの予約がないと入園が出来ないという事実に打ちのめされていた俺は入園ゲートの近くにあるベンチで頭を抱えていた。

ペット枠でなんとか許容できる大きさまで縮んでもらったポルポに申し訳ないことしたなと思いながら土産だけでも買って帰ろうと思っていたら、一人の女性に声を掛けられた。

 

「あら、この子迷子かしら……ねぇ君お母さんとお父さんは?」

 

セミロングの茶よりの黒髪をしたアジア女性が目の前にいた。

日本語で話しかけられたから日本人だと思うも、いきなり声を掛けられたことに驚いて固まる俺氏。

 

(はぐ)れたのしから?どうしましょう…ねえ、僕、お名前は?」

 

迷子だと思われてる。

わばばば、どうしよう。

ポルポヘルプ!

ポルポの足を引っ張ると、ポルポは俺と女性を交互に見て女性に言い放つ。

 

「主を生みし者は手の届かぬ極楽浄土故、相見(あいまみ)えることはない」

 

ポルポーーーー!

初対面の人でもその口調なのお前!?

嘘だろ、俺ならガチで引くぞ。

っていうか両親が死んでる赤ちゃんとかめちゃくちゃ疑われるじゃねーか!

何言ってんだよぉぉおおおおお

 

「あら、最近のタコって喋るのねぇ…」

 

いやツッコむとこそこじゃねぇよ!?

待て、本気でこの人大丈夫か?

 

「極楽浄土……?ああ、園内のことかしら、間違って外に出ちゃって中に入れなかったのね!」

 

嘘だろ、この人。

確かに遊園地には某ネズミがうろついてる夢の国とかあるけど、極楽浄土を遊園地だと思うか普通!?

普通に考えて天国だろ。

いやそうじゃなくて、まず俺が迷子ではないことを説明しなきゃだな…

 

「その光るおしゃぶりは中で買ったものかしら?可愛いわねー」

 

光る?

女性の言葉に俺はおしゃぶりを見れば光っていた。

何でだ。

おしゃぶりが反応したのは十年振りくらいだ…なにこれどうなってんの?

 

「よし、おばさんと一緒に園内に入って中であなたのお母さんとお父さんを一緒に探しましょう!」

 

ん?

 

「ほら行きましょう!」

 

んん?

 

「そうだ…君の名前はなんて言うのかしら?」

 

んんん?

女性は俺を抱き上げ、入園ゲートに歩き出すと、歩きながら質問責めしてくる。

と、取り合えず…

 

「…ス…スカル……」

「スカル君っていうのね!とっても良い名前ね」

 

 

 

急募ツッコミ。

 

こうして遊園地に入園出来た俺は、現在沢田奈々という女性と共に園内を歩き回っている。

どうやら日本人の奈々さんは何かの懸賞でこのリゾートに来ていたらしい。

見るからに強運を持ってそうな人だ。

息子は友達と園内を回って、一緒に来た子供達も息子の友人らと遊びまわってるらしく、アトラクションに向かった子供達が乗り終わるのを待っていた時に一人でベンチに座っている赤ん坊の俺を見つけたと。

なんだこの巻き込まれ感……

まぁ園内に入れたから運が良かったのか…な?

ポルポも何気に俺らの後ろをついてきながら周りを見渡しているから、楽しんではいるみたいだ。

にしても俺の両親を探すと意気込んでいる彼女には悪いが、そんな存在いない。

言おうか迷ったが、正直遊園地に赤子一人だと何かと周りの視線がヤバイ。

主に迷子センターに連れて行こうとする輩が。

なので現状に甘えて、奈々さんの腕の中に納まっているんですが…

 

「うーん、スカル君の親見つからないわね…あ、そうだ…あれに乗れば園内全体を見渡せるわよ?」

 

そう言って奈々さんが指差したのは、360度回転が何回もあるジェットコースター。

ヘルメットの中で俺の顔色がざっと青くなったのは気のせいではないハズだ。

 

「早速乗ってみましょう!」

 

待って!待って!

どう考えてもこれ周り見る余裕ないでしょ!

時速何㎞で動くと思ってんの。

ふと悲鳴と叫び声が聞こえる方へと視線を動かせば、そこには今しがた奈々さんが指差したジェットコースターが通り過ぎ去っていく。

あまりの速さに周りの人々が風圧に耐えるように身を屈めている。

一人子供が耐えきれず飛ばされそうなところ隣にいた大人に掴まれて事なきを得た。

周りが吹き飛びそうになるジェットコースターって何それ…

その光景への驚愕で固まっている俺を他所にジェットコースターへと進む奈々さん。

漸く我に返ったのはジェットコースターの行列の先頭に到達した時だった。

 

「ようやく次ね!ああ、とっても楽しみだわ!」

 

いやいやいやいやいや、もう当初の目的忘れてますよね!

これ完全に楽しもうとしてますよね!?

あんたやっぱおかしいよ。

従業員が次乗る人数を数えているとふと目が合った気がした。

 

「あのお客様…」

 

従業員は気まずそうに俺と奈々さんに近寄る。

あ、そっか、赤ちゃんだから身長制限に引っ掛かるんだ!

やったぜ、俺は奈々さんが乗り終わるのをただ待つだけ———

 

「そのぬいぐるみは大きすぎるので、一旦こちらに預けてもらえますか?」

「あ、これはこの子のペットですよ!可愛いタコでしょ~?」

「あ、ペットでしたか、なら大丈夫です、次にお進みください」

「よかったわねポルポちゃんも一緒に乗れるわよ」

 

従業員んんんんんんんん!?

おかしいよ!おかしいって!

何でぬいぐるみは駄目で、赤ちゃんがオッケーなの!?

つーかポルポはお前明らかにジェットコースター乗っちゃダメだろ!

何でペットがおっけーなんだよ、そんな遊園地聞いたことないわ。

 

「主よ、案ずるな…何かあれば我が身を(てい)してそなたを守る」

 

ならこの状況から脱出する手助けをして欲しいんだけど。

何で自ら死地に(おもむ)かなきゃいけないの?

 

「では次の方は順に奥から詰めていって下さい」

 

いやああああああああああああああああ!

奈々さんは俺を隣に座らせ、俺の安全バーを下げると、自分の安全バーを下げていた。

ポルポを見れば、あいつも何気に安全バーを自分で下げてやがった。

ここまで来たら既に引き返すことは不可能……

終わった。

ガタン、と大きな音と共にジェットコースターが動き出す。

俺は吐きそうなほど緊張していて、正直ここからの記憶は曖昧である。

高速で移り変わる目の前の景色に俺が感じたことはただ一つだけ。

 

ああ、空が青いなぁ…

 

 

「ありがとうございましたー!またの搭乗をお待ちしていまーす!」

 

陽気な男性の声が何だか遠くに聞こえる。

口から涎を垂らして白目むいているであろう俺は奈々さんに抱き上げられながらその場を後にした。

 

「あそこの店のパフェとても美味しそうだわー」

「あ、あっちにマスコットキャラが!」

「休憩がてらティーカップに乗りましょう!」

 

散々奈々さんに付き合わされた俺は今にも死にそうな顔をしているだろうが、残念ながらヘルメットを被っているので誰も知ることはない。

ポルポもポルポで何気に楽しんでやがる。

何でこの人こんなに体力あるんだよ…

いや俺が引き籠り過ぎてるのか、悲しっ。

 

「ハッ、スカル君の両親探すの忘れてたわ!」

 

遅-よ、今更かよ。

っていうか俺に親はいねーよ。

 

「スカル君…何だか元気なさそうだし…やっぱり親と別れて寂しいのね…」

 

あんたに付き合わされて疲れてんだよ!察しろよぉおおおお!

この天然人が。

疲労感と倦怠感に襲われる中、奈々さんがいきなり方向転換して進みだす。

今度はどこ行く気だよぉ…

 

「あれならちゃんと園内を見渡せると思うの」

 

そう言って向かったのは大きな観覧者。

そうきたか……でもまあジェットコースターよりもマシか。

 

 

この時俺は疲れていたあまりに見ていなかった……

 

『所要時間45分!世界最長!』という看板が観覧者の列の前に置かれているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

リボーンの策略でマフィアランドという如何にも怪しい島に連れていかれ、到着したのが数分前だった。

島に来る前の豪華客船ではえらい目にあったと思いながら、ヘトヘトになりながらテーマパークへと足を進める。

もうこんなのこりごりだぁ!と思っても相手はリボーン、俺が敵うわけもなく渋々ついて行かなければいけない。

皆がテーマパークに入る中、俺だけが別室に連れていかれ困惑する。

リボーン曰く、島に入る為にはマフィア審査という審査をしなければ入れないらしい。

いやマフィア審査ってなんだよ!

何でそんなものがあるんだよ、おかしいだろ!

っていうか何で俺が代表で行かなきゃいけないんだよ……リボーンの奴…後で覚えてろ…

知らない部屋に通され、中には全く知らない男の人が椅子に座っていた。

すると受付の女の人が、札束を用意してマフィア審査について説明し出す。

 

「では、彼に正しいやり方で賄賂(わいろ)を渡してください」

「何じゃそりゃああ!?」

 

本当に、なんだそれ。

賄賂…ってあれだよな、不正なお金のことだよな…何でそれの渡し方が審査基準なんだよ!?

そんな賄賂の渡し方なんて分かるわけもなく、女の人にそう言えば笑顔でこう返された。

 

「審査を放棄すると、お連れの方々共々海に放り出されますよ」

「笑顔で何言ってんの!?」

「では始めて下さい」

 

えええええ……

げ、外道だ…いやマフィアだから外道なのは当たり前か……

にしてもどうしよう。

と、取り合えず賄賂だからそう大っぴらにあげちゃダメだよな。

こうかな?

俺は男の人の近くに来て、そっと誰にも見えない位置で札束を渡そうとするが、男の人は反応しない。

すると女の人が試験の終了を知らせる。

 

「このお金は賄賂です、と言わなければ何のお金か分かりませんよ?」

「それ露骨すぎない!?」

 

何故か賄賂の渡し方が間違っていたようで、俺は不法侵入と見なされて警備員にその場から引き摺られていった。

助けてと叫ぶが山本も獄寺君も離れていて、俺はそのまま電車に乗せられる。

何が何だか分からず困惑していると、リボーンがいつの前にか電車の中にいて、これから行くところは裏マフィアランドであると教えられた。

いや裏マフィアランドってなんだよ!

その後、俺は島の裏側に連れていかれた。

そこでも奇妙な赤ん坊に出会うと、赤ん坊はいきなりリボーンに向かって銃口を向けて発砲した。

俺は驚いて固まっていると、リボーンもその赤ん坊に反撃する。

 

「こいつが裏マフィアランドの責任者、コロネロだ」

 

そう説明するリボーンにツッコミを入れると、コロネロと呼ばれる赤ん坊が平然と起き上がる。

するとコロネロはリボーンと言い合いを始め、俺はその様子を見て首を傾げる。

同じ変な赤ん坊同士友達なのか聞いてみると、本人たちは即否定し腐れ縁だと訂正した。

生まれが同じの幼馴染だったらしい。

道理で変な奴なわけだ…

そう思っていると、コロネロが何で来たのかを訪ねるとリボーンが俺の修行を見学しに来たと言い出した。

待て、修行ってなんだ!

また良からぬことだろうなと焦ってリボーンに聞いてみると、

 

「この島では、審査に失格した者にも一度だけチャンスが与えられるんだ、その為に鍛える場所がこの裏マフィアランドだぞ」

 

その修行で鍛える指導員が元海軍のコロネロだ、と簡潔に説明したリボーンにツッコミどころしかない俺はあまりの理不尽に吠えるが、その努力も虚しく俺は崖の下の渦巻きに蹴り落とされた。

その後、死に物狂いでもがいてなんとか助かることが出来たが、それがただの序の口であることが直ぐに分かった。

蹴られるわ、岩を空から落とされるわ、穴に落とされるわ、殴られるわで地獄を見た気がした。

二人の気が済んだのか、ようやく地獄の修行という名のいじめから解放されるというところで電車が再びやってきた。

中から出てきたのは山本と獄寺君で、俺は驚きながら二人と合流する。

二人がコロネロの餌食になる前にこの場を離れなきゃと思い、一緒にここから離れようと伝えようとした時だった。

コロネロの無線機に一つの報告が入った。

 

『非常事態です!爆発物がジェットコースターのレーンで発見されました!』

「何だとコラ!」

 

コロネロは無線機越しの状況を聞き出している間、山本がそれをイベントか何かと勘違いしていた。

一方獄寺君は険しい顔でリボーンに声を掛けようとして、喉に出かかった言葉を飲み込んだ。

いや、飲み込むしか出来なかった。

リボーンの纏う雰囲気…っていうかオーラが…さっきとは別物に変わっていたからだ。

リボーンは険しい顔をして、今にも誰かを殺さんばかりの表情をしていた。

俺もこんなリボーンは初めてで唾を飲み込む。

今までふざけた家庭教師だったのにいきなり見せる怖い顔に言葉が出なかった。

 

「リボーン、これは…」

「ああ…間違いねぇ…カルカッサだ」

「カルカッサ!?」

 

リボーンとコロネロの会話に出てきたカルカッサという単語に隣にいた獄寺君が目を見開き驚きを表した。

 

「獄寺君、カルカッサ…って?」

「カルカッサファミリー…ボンゴレに次ぎ勢力が強いファミリーです」

「あれ?でも何でファミリーがマフィアランドを襲うんだ?ここはファミリーでお金を出し合って作ったんだろ?」

「ここを作ったのはボンゴレを中心とする同盟に参加したファミリーだけだ…カルカッサは敵対勢力だ」

「ボンゴレの次に強いファミリーが攻めてくるってこと!?危ないじゃんか!」

「攻めてくると決まった訳じゃねぇぞコラ!ただのいやがらせでマフィアランドに爆弾を設置しただけっていう可能性もある」

「ええええ!?いやがらせで!?」

「にしても爆弾が一つであるハズがねぇ…絶対に他にも爆弾を設置しているハズだ、今すぐに俺らも駆け付けねーと手遅れになるぞコラ!」

「そうだな…」

 

コロネロとリボーンが電車に駆け込む姿を見て、俺らもそれを追う。

電車の中で獄寺君がカルカッサファミリーについて教えてくれた。

 

「カルカッサは、20年ほど前にいきなり勢力を拡大し、今も尚拡大し続けているファミリーだと聞いています…またカルカッサの特徴はその急成長とは別に彼らの特性と裏世界で語り継がれている恐ろしい事件があるんです」

「特性?」

「ええ、ボンゴレは九代目が穏健なことから現在のボンゴレ勢力、その同盟ファミリーでも穏健派が目立っています…ですがカルカッサはその真逆、極めて危険な過激派です」

「な、何だか怖いなぁ…」

「まず勢力拡大の為ならば犠牲も厭わず、一般市民の被害も多数出しており、何よりも………彼らの行いはえげつない、というか……残酷というか……俺もあまり詳しいことは知りませんが、幼少期からカルカッサの脅威は周知の事実として知れ渡ってたんです」

「そんな怖いファミリーが敵なの!?どうしよう、俺そんな怖い奴等に狙われたりするの!?」

「だ、大丈夫です!必ずや俺がお守り致しますので!」

「ええええ、それでも怖いものは怖いよぉぉぉおおお」

 

頭を抱える俺の隣で、未だにイベントだと思っている山本が獄寺に話しかける。

 

「なぁ恐ろしい事件ってなんだよ?」

「俺も人伝てでしか知らねーが…カルカッサには恐ろしく悪逆非道な男がいるんだ」

「悪逆非道って……」

「その名はスカル…そいつはボンゴレ傘下のファミリーを一般人を巻き込みながら潰したことで有名で、その事件は血の海事件と呼ばれてる……事件現場は数百人にも上る死体と負傷者の血で赤い海のようだったという理由からつけられている」

「そ、っそそその事件を起こした人が、い、今もカルカッサにいるっていうの!?」

「俺もそこまで分かっていません…ただカルカッサが過激であるのはその男の思想を受け継いだからと言われています……今では生きているのかさえ分かっていませんけど…」

「ひぃぃいいいい!お願いします!死んでてくださいぃいいいいい!」

「あ、因みにスカルという名前を出すことはマフィア界でもタブーなんです」

「そこまで危ない人だったってことでしょ!?」

「ええ、彼はマフィア界で狂人の運び屋と言われていて、今では狂人という言葉は奴の代名詞として使われています……まぁ俺らの世代じゃ噂程度の昔話ですけど」

「昔話ってことはもう死んでる可能性の方が大きいってことだよね!?」

「ええ、まぁ……多分………」

 

俺はあまりにも怖くて恐ろしい話を聞いて、僅かな可能性を祈ることで自分の平常心を保とうとしたが、それはリボーンの言葉で無残にも壊された。

 

「あいつは生きてるぞ」

 

「ぇ…」

 

「それだけは分かる……」

「リボーンさんは奴について何か知っているんですか?」

 

短く、生きているとそう言い放つリボーンの声はいつもよりも低くて、俺は背中に嫌な汗が伝った。

リボーンの言葉に獄寺が疑問に感じて質問を投げかけるがそれをリボーンは切り捨てた。

 

「俺の前で奴の話はするな」

「え、何で……」

「あのクソ野郎を思い出すだけで……はら、わたが……むにゃむにゃ……スピー」

 

「えええええ!?この状況で寝るのぉおおおお!?」

「リ、リボーンさん!」

 

いきなり眠りだしたリボーンにツッコんでいると、コロネロが溜息を吐いた。

 

「リボーンは奴を誰よりも嫌っているからな、苛立って仕方ないんだろ」

「コロネロはスカルのことは知ってるの?」

「まあ噂…というかあいつの数多の虐殺事件はよく耳にしていた…ただ直に会ったのは一度だけだがな」

「ど、どんな奴なの!?」

「さぁ、あいつはいつも顔を隠しているらしいし、その時も顔を隠して………むにゃ、むにゃ……スピー」

 

「お前もかよ‼何でこんな時に寝ちゃうんだよー!」

 

重要な所で眠りだした赤ん坊二人に今度こそ頭を抱える。

これからマフィアランドの各所に仕掛けられた爆弾を探し出すってのに何で二人とも眠っちゃうんだよ!

ど、どうしたらいいのー!?

困惑しながらリボーンを起こそうとしようとした時だった。

 

 

俺達の乗っていた電車が爆音と共に大きく揺れた。

 

 

 

 




スカル:奈々と一緒に観覧車待ち、勿論だが爆弾について何も知らない。
ポルポ:ペット兼セコム
沢田綱吉:スカルの伝説()を聞かされてビビりまくる。
獄寺:カルカッサに関して噂程度でしか知らない、スカルに関しては過去の人物だと思っている節がある
リボーン:スカルを嫌っている、アルコバレーノ同士近づいていたらおしゃぶりが光るがコロネロが近くにいた為スカルの存在にまだ気付いていない

アニメでここ確認してるので、アニメに沿って進めてると思って下さい。
アニメでは途中リボーンとコロネロが眠ってしまったのでその部分も入れてみました。
安心して下さい、スカルとリボーンの再会を後回しになんてそんな外道なことは今回はしません(笑)

原作では、リボーンとコロネロが近くにいた時にスカルが遠くから近づいてきたのでおしゃぶりが光りスカルの存在は分かりましたが、今回スカルと彼らはほぼ同じ時間帯にマフィアランドに到着している為おしゃぶりで互いの存在を知ることが出来なかった。
リボーンはコロネロがいるから光っていると思っているが、スカルはまずおしゃぶりが何で光るのか知らない。




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skullの難儀

俺はどうして嫌われているのか分からなかった。


「そういえばこの観覧車、所要時間が45分なんですって、一杯景色が見えるわね」

 

長い待ち時間の末(ようや)く観覧車に乗ることが出来た俺は、奈々さんの一言で絶句した。

45分も何を見ろとおっしゃるんだこのお方は。

景色なんて普通5分かそこらで飽きるだろう。

ポルポは俺の隣でまったりと窓の外を覗いてるけど、正直俺は全然楽しくない。

……でもまぁポルポが楽しんでいるならそれでいいんだけど。

俺的にはパレードとかが見たかったなぁ…

 

「主…何やら人が動いているぞ」

 

ん?…本当だ、皆城の方に向かってる。

下の方でイベントでもあるのかな?

 

「イベントかしら?観覧車降りたらお城の方に行ってみましょう」

 

奈々さんもイベントだと思っているから、俺はあまり気にせず別の方へと視線を移す。

すると視線の移した方角に見覚えのあるバルーンが浮かべられていた。

黒いハット、渦巻く揉み上げ、そして俺と同じ赤ん坊の風貌……そう、俺の大嫌いなリボーンの顔のバルーンが数個ほど浮かんでいたのだ。

俺は十数年ぶりに見る懐かしいソレに苦々しい顔をしながら何であいつの顔があるのか思考を巡らす。

ここあいつの所有地なのか?

いやここは確かボンゴレの……もしやあいつはボンゴレの関係者?

あいつ確か殺し屋だったよな………ボンゴレってそういう危ない奴ともつるんでるのか。

リボーンが殺し屋とは気付かずにだなんて可能性はかなり低い。

なんせこのリゾート地の名前はマフィアランドだ。

これはボンゴレが汚職している事実に繋がる。

ふむ、でも決定的証拠がないから警察に突き出すわけにもいかんか。

帰ったらボンゴレをもう一回調べてみよう。

そんな時だった。

ガコン、と観覧者がいきなり停止する。

いきなりのことで上体がぐらついたがポルポがすかさず支えてくれたお陰で転ばずに済む。

何故いきなり停止したのかが分からず園内を見渡していると、どこも明かりが消えていて、一目でそれが停電だと分かった。

地震…?ただの配線の故障?ブレーカーが落ちたとか…?

 

「あら、何か故障したのかしら…」

 

奈々さんも不安そうに外を眺めていると、いきなり視界の端で火柱が上がる。

俺は目を見開いて、火柱の上がった場所に視線を固定した。

確かあそこは入場ゲート……

 

「パレードかしら、ほら、人が沢山お城に集まってたみたいだったし、きっとそうね」

 

奈々さんの言葉に、俺は少しだけ違和感を持つ。

確かにリボーンのような殺し屋がこのマフィアランドの重役なら、こんな過激なイベントもありえるかと思うも、火柱が上がる場所から必死で逃げている人達は必死の形相をしていた。

演出なのか事故なのか分からず戸惑っていると、再び観覧車が揺れる。

俺はここで漸く演出ではないと思い、どうやって出ようと思っているとポルポが言い放つ。

 

「主!落ちる、ここから出るぞ」

 

え。

ポルポの声に反応する暇もなく、いきなり腰に足を巻きつけられ、ポルポは観覧車の窓を割る。

 

「ポルポちゃん、危ないからやめなさ——」

 

奈々さんの言葉を無視して窓を全て割り切ったポルポは、俺ごと観覧者の外に脱出しようとするが、俺は我に返って口を開く。

 

「ポルポ、奈々さんも…っ」

「捨て置け」

「っ……ポルポ!」

「そこな女が死したところでそなたに関わりはあるまい……何故生かす」

 

俺はショックで言葉が出なかった。

ここ数年道徳の授業として、親子愛や命を大切にすることを教える為の映画を見せてたけどコイツ全く倫理観持ってない。

むしろ冷酷になっているような……

やっぱり人じゃないからかな、種族が違うとここまで無関心になれるものか…?

数秒の沈黙の後ポルポは表情を顰め、奈々さんも捕まえ外に出る。

 

「主は……愚かだ」

 

ついには俺を歯に衣着せずディスり始めたポルポ君、俺の心にクリティカルヒット。

奈々さんもビックリしながら何か言ってるけど、正直今聞いてる余裕はない。

色々な場所から火柱が立ち上がり始めている。

さっき見た感じじゃゲートが塞がれてるから正規ルートから脱出出来ないのか。

思考中にポルポが観覧車の骨組みを伝って、地面まで降りると俺達を下ろした。

 

「もう、ビックリしたじゃない」

 

ビックリだけで済ませる奈々さんェ……

この人の家族は苦労人だと思う。

 

「あら?ポルポ君さっきより大きくなってる気が……気のせいかしら」

 

気のせいじゃないよ、どう見ても大きくなってるでしょ。

本来の大きさとまではいかずとも、常識はずれの大きさだと思う。

まぁ奈々さんは頭のネジがいくつか外れてるからこれを異常だと気付いていないんだろうなぁ…

 

「主、ここも危うい」

「え、あ…ああ」

「スカル君、ポルポちゃん!」

 

ポルポが帰ろうと海の方に進みだすのを慌てて追いかけ、後ろで奈々さんが引き留めようとついてくる。

これ以上奈々さんといても帰り辛くなるだけだと思い、そのまま撒きながらポルポの上に乗りテーマパークを囲む壁へと向かいだす。

テーマパークを囲む壁には(くさび)と高圧電流が仕掛けられているのに気付き、登ろうとしていたポルポを止める。

…め、めっちゃバチバチいってるんですけど。

停電状態に陥っている園内のブレーカーとは別なのか、電流が流れているから容易に脱出出来ないと分かると、俺は辺りを見渡す。

すると視界の端に関係者立ち入り禁止というプレートが嵌められているドアを見つけ、ポルポに壊してもらい中に入る。

中には掃除用があり、園内の業務員用の地図が壁に貼られていた。

思った通り電気設備室は二つあり、俺は一番近い場所をポルポに指差すとポルポも位置を把握したようでその場所へと向かいだす。

数分も掛からず到着した場所にはまだ火の手が迫っていなくて、俺は室内に侵入する。

すると中には複数倒れている人たちがいた。

何があったし……

全員目立った傷はないから放置してもいいかなぁ。

それよりもあの高圧電流をどうにかしたいんだよ、うん。

画面を見て外壁の電流を切ろうと奮闘していると、画面の真ん中に緊急用発電システムと表示された。

緊急用発電システム………これ絶対に今やるべきものだよな。

ジェットコースターとか観覧車に至っては途中で止まってるから降りられないだろうし。

ていうか発電システムって普通自動切換えするもんじゃないの?

まさかの手動ってか。

まぁいいや、取り合えずシステムを作動しておいて…っと。

OKを押して、俺は再び高圧電流を解除しようとシステムを探る。

 

「あった…これか」

 

なるほど、区間で電力源を分けてたのか。

俺は外壁の電流を解除するとポルポと共にその場を出る。

数十分ぶりに見た園内は火の手が広範囲に広がっていて、被害は大きい。

絶対に負傷者たくさん出るわコレ……ボンゴレもこの一件で負債抱えまくって倒産するかもな。

それよりも早く脱出しようと、ポルポに声を掛けようとしたら遠くの方から雄叫びが聞こえた。

ん…?聞き間違いかな………

どこからだろうかと周りを見渡した瞬間、大きな轟音と共に観覧車が崩壊した。

うえええええ!?あれ乗客大丈夫か!?

あまりの光景に驚いて食い入るように観覧車が崩壊していく様を眺めていると、ゴンドラの中には誰もいないことに気付く。

あ、皆救出されたのかな?良かった…

っていうかよく見るとジェットコースターもレーンが壊れとる。

あぶねー……こりゃ早く帰ろう。

 

「ポルポ、」

 

行こう、と言おうとする前に雄叫びが段々こちらに近付いてくることに気が付く。

 

「うおおおおおおおお!死ぬ気で助けるっ!」

 

ええぇぇぇぇえええええええええ!?

髪を盛大に炎上させながらパンツ一丁で俺の方まで全力疾走している男子を視界の中に入れた俺の思考は固まった。

待って髪が燃えてる、っていうか何でパンツ一丁!?っていうか何で俺の方に走ってくるんだよぉおおお!

少年のあまりの剣幕に逃げ腰になっていた俺に近付く少年をポルポが(はば)む。

 

「主に害なす者は、(ほふ)る」

 

8本の足をくねらせ少年へと攻撃し始めるポルポ、それを避けようとする少年。

この時俺はポルポを止めるべきなんだろうけど、少年の髪が炎上していることに意識が行き過ぎてポルポの行動が全く頭に入ってこなかった。

少年がポルポによって吹き飛ばされたところで我に返り、ポルポを止めようとした時聞き覚えのある声が耳に入る。

 

 

「下がってろ…ツナ、お前にはまだ無理な相手だ」

 

 

その懐かしい声に顔から嫌な汗が吹き出し、全身に鳥肌が立った。

パンツ一丁の男の子の髪が鎮火したのを眺めながら現実逃避を図るが、努力は虚しくそいつを見ざるを得なかった。

 

「久しぶりにてめぇの顔が見れて嬉しいぜ…狂人野郎」

 

銃口をこちらに向けながら真顔で言い放つソイツがあまりにも見覚えがあって、俺はもう死んだ気分になった。

いや実際死を覚悟した。

 

 

 

何でリボーンがここにいるんだよ……

 

 

 

お巡りさん、こっちです。

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

 

「うわぁ!?」

「十代目!」

「うわ、何だ!?」

 

電車がいきなり揺れ始め、俺が頭を抱えると獄寺君が庇うように俺の頭に腕を回す。

視界の中では眠っていたリボーンとコロネロが電車の席から床へと落ちるが、二人が起きた様子はない。

揺れが段々と収まると、電車は完全に止まっていた。

 

「俺が様子を見てくるので、十代目はここで待っていて下さい」

 

そう言った獄寺君は電車の外に出て、辺りを見渡しては帰って来た。

未だ眠っているリボーンとコロネロを抱えている俺に獄寺君が声を掛けてくる。

 

「どうやら線路が爆破されたみたいですね…破壊されていました」

「そ、そんなっ」

「なら線路を歩けば辿り着けるんじゃねぇか?」

 

山本の言葉に賛成して、俺達はリボーンとコロネロを抱えながら電車から降りて線路の上を歩くことにした。

線路を歩くこと数分で出口が見えた。

 

「あ、ここに繋がってたんだ!」

 

トンネルを出ると、そこはテーマパークの城の手前だった。

 

「あ!ツナさん!」

「ハル!ランボにイーピン、フゥ太!」

「ツナ~!お前どこいってたんだよ~」

「色々あったんだよ!それよりも何でここに?」

「さっき園内放送で、トラブルがあったからここに避難するよう指示があったんです」

「そうなんだ…」

 

爆発物がある限り、早くこのテーマパークから出した方がいいと思うけど、何て説明しようかな。

四人の無事な姿を見て俺はふともう一人いないことに気付く。

 

「母さんは?」

「それがゲートに入る途中から逸れてしまって、今もどこにいるか分からないんです」

 

ハルが困ったようにそう言った。

母さんも避難してるなら近くにいるかもしれないけど、如何せん人が多すぎる。

 

「ハル、俺は母さんを探してくるから従業員の指示に従って先に避難してて!」

「あ、ツナさん!」

 

ハルに寝ているリボーンとコロネロを任せて、獄寺君と山本と一緒に俺は母さんを探し始める。

すると山本が何かに気付いたようで足を止めた。

 

「おい、ツナ!あれ!」

「え?あ!」

 

山本の指さした方を見ると、観覧車やジェットコースターのアトラクションが全て止まっていた。

昼だったから直ぐに気付かなかったけど、よく見れば園内は停電していた。

 

「電気設備室をやられましたね……」

「ど、どうするのぉおおお!?ジェットコースターなんて逆さまのまま止まってるよ!」

「なぁ、あっちで何か言い合いしてるぞ」

「え!?」

 

山本の言葉で再び別の場所を見れば、大人数名が険しい顔をしながら言い合いをしていた。

 

「今回の事態、アジアを率いるリーフォンファミリーが指揮を執るぜ!」

「待ちたまえ、伝統と格式あるこのベッチオファミリーこそ相応しい」

「おいおい冗談じゃねぇぞ俺達ヌーボファミリーを差し置いて何を言ってやがる」

「「「やんのかオラァ!」」」

 

えええええ!やっぱりマフィア怖ぇぇええええ!

怖い集団を通り越して母さんを探そうとしたら獄寺君が声を張って言い放つ。

 

「おい!指揮なら十代目が相応しいに決まってんだろ!」

「「「あ"ぁ!?」」」

「ひぃっ」

「てめぇどこのファミリーだぁ!?あ"あ!?」

「ボンゴレで文句あっか!?」

 

啖呵を切る獄寺君、驚愕する周り、未だ状況を把握していない山本、青褪める俺。

何故か周囲のファミリーの人達から頭を下げられた上に指揮を任され涙目の俺は早く母さんを探し出したかった。

 

「と、取り合えず…爆弾を探すにも全員をテーマパークから出すべきだと……思い……ま、す………

 

最後に至っては弱弱しい口調で聞こえるか聞こえないかくらい小声になっていた。

 

「流石十代目!賢明なご判断ですね!」

「おいおめぇら!ボンゴレ十代目がそう言っているんだ!早急に園内にいる全員避難させるぞ!」

 

なんとか皆動いてくれて、俺は今にも寿命が縮まりそうだった。

俺はマフィアになんてなりたくないのに……

ハッ、じゃない、母さんを探さなきゃ————―

 

その時だった。

 

 

盛大な爆発音と共に入場ゲートに火柱が立つ。

熱風で瞼を閉じ、腕で顔を庇う。

薄く開けると少し遠くにある入場ゲートが燃えていた。

 

「入場ゲートが!」

「くそ!そういうことか!」

「え、ご、獄寺君どういうこと!?」

「入場ゲートは出口でもあります、だから誰も逃がさないために最初に爆破したんですよ!」

「ええ!?」

「この調子だと人が集まっている場所に爆弾を仕掛けてる可能性がっ」

 

獄寺君が全部言い終わる前に別の場所からも爆発音が立て続けに聞こえた。

 

「爆弾の処理は無理です、避難優先に動くほかありません十代目!」

「お、俺…母さん探さなきゃ!」

 

所々に立っている火柱を見て、俺は焦りながらその場を走りだす。

ただ闇雲に探していると、また爆発が近くでありそちらに視線を移す。

するとそこにはジャットコースターのレーンが途中で崩れていたのだ。

 

「ジェットコースターのレーンが爆発で!」

「ジェットコースター自体止まってるから今のうちに助けようぜ」

 

そう言ってジェットコースターまで走りだす山本を追う瞬間だった。

ガコン、という嫌な音が聞こえ、何かが鉄の上を滑る音が耳に入る。

ジェットコースターがいきなり動き出したのだ。

 

「な、何で!?さっきまで止まってたのに!」

「そのままいけば乗っている奴等全員脱線して落ちちまう!」

 

獄寺君の言葉に俺は焦り過ぎて思考回路がパンクしそうだった。

そんな時に、いつもの凛とした声がその場に響いた。

 

 

「なら、死ぬ気で助けてこい」

 

 

次に頭への衝撃。

そして体の底から溢れ出る力にさっきまでの焦りは全て消え去っていた。

頭にあるのはただ一つだけ。

 

 

「死ぬ気で、助ける‼」

 

 

体中に(みなぎ)るエネルギーでジェットコースターのレーンを支える柱に登り、レーンの上を走りだす。

ジェットコースターは頂上へ上る途中で緩やかに動いていて、レーンが壊れているのは急降下する直ぐ先だ。

俺はレーンを走り上昇するジェットコースターの先端に追いつくと、車輪を乗せるレーンに両足を開くように乗せ、ジェットコースターの先端に両手を付け、雄叫びを上げながら足に力を入れる。

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

ギギギギと金属の擦れる歪な音が響き渡る。

死ぬ気で、死ぬ気で、死ぬ気で助けるんだ!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

数m押し負けながらも、段々と速度を落とすジェットコースターにもうひと踏ん張りだと、死ぬ気で押し返す。

レーンと車輪の擦れる音が止む。

 

「十代目!お見事です!」

「ツナお前すげーのな!」

 

下の方で山本と獄寺君の声が聞こえて、ジェットコースターが逆方向へと移動し始める。

最初は逆方向に動き始めたジェットコースターに驚いたが、どうやら電気が通った操縦室から乗り降り場までジェットコースターを移動させているだけだと山本が大声で説明してくれた。

俺はレーンから降りて地面に足を着けると、先ほどまで(みなぎ)っていた力が段々と抜けていく感覚に襲われた。

そして我に返ったように思考がクリアになり、体に疲労感が襲う。

その場にへたり込むと同時に目の前にいるお昼寝から目を覚ました赤ん坊を睨む。

 

「リボーン!お前撃つなら先にそう言えよ!」

「だって時間がなかったんだもん」

「っていうかお前何であのタイミングで寝るんだよ!」

「仕方ねーだろ、睡魔はいつもいきなりやってくるんだ」

 

俺の不満を全く意にも介さないリボーンを睨みながらも、リボーンは辺りを見渡す。

するとリボーンの携帯が鳴り、電話に出るとリボーンは誰かと話し数秒で通話は切れる。

 

「既にコロネロが増援を呼んでいる、増援が来るまで俺達でなんとか被害を食い止めるぞ」

「食い止めるったって……」

「見ろ、色んな場所で爆発されている上に出入り口は使えねー…その上壁には高圧電流が流れている」

「何で電流なんか流すんだよ!」

「侵入者防止だぞ、それよりもやべー状況だな」

「そうだ、これも全部カルカッサファミリーって奴等がやったことなの!?」

「そうだろうな…一般人もマフィアも関係なく巻き込むのはあいつらのやり方だ、胸糞悪ぃーぜ」

「そ、そんな…」

「それに奴等は思慮深い、全ては予め念入りに計画しているハズだ、既にマフィアランドに奴等はいないと思え」

 

俺は死ぬ気モードだったさっきとは違い、恐怖のあまり身震いする。

リボーンがいつものように笑ってなくて、ただ真剣に、忌々しそうに言葉を吐くから、それほどボンゴレと因縁の深いファミリーだと思った。

 

「十代目!他のファミリーがアトラクションに乗っている客を避難させました!」

「本当!?良かった!……じゃない、母さん探さなきゃ!」

「十代目のお母様なら先ほど別のファミリーが保護したそうですよ!」

「よ、よかった!」

 

母さんの無事が分かって肩の力を抜いた矢先のリボーンが銃口を俺に向けてきた。

 

「んじゃ、あとは避難し切れていない客を探すだけだな」

「おいリボーン、何でそれを俺に向けて…」

「ちっと園内回って逃げ遅れた奴を死ぬ気で探してこい」

「ちょ、待っ」

 

俺が最後まで言い終えることはなくリボーンは引き金を引き、俺の頭部に再び衝撃が走る。

 

 

「死ぬ気で探して助ける‼」

 

 

また体の底から湧き上がるパワーに身を任せながら園内をくまなく探し始める。

数人の逃げ遅れを避難させながら園内を走り回っていると、ヘルメットを被っている赤ちゃんが視界に入った。

 

 

「うおおおおおおおお!死ぬ気で助けるっ!」

 

 

赤ちゃんに向かって走り出し、そのまま抱きかかえようとした時だった。

何かが物凄い速さで横から現れ、俺に向かって振り下ろされる。

俺はそれを躱す為に後ろへ下がった。

そして俺は阻んだ謎の正体を目にして驚愕した。

それは大きな、大きなタコだった。

足が何mあるか分からない程大きいタコが赤ちゃんの前に立ち(はばか)っていた。

俺はそのタコが赤ちゃんを食べてしまうと思い、赤ちゃんを助けるためにタコを死ぬ気で倒すという目的に変わった。

 

「死ぬ気でタコを倒す!」

 

何度かタコに突撃するが、タコは足を高速で動かせ回避しては反撃してくる。

重い一撃を何度も喰らうが死ぬ気モードである今の俺には痛覚が若干麻痺していて、そのまま突撃するのを止めない。

一際重い一撃をお腹に喰らうと、そのまま数m吹き飛ばされた。

流石に体が負荷に耐えられなくなったのか、身体から力が抜けていき起き上がることが出来なくなる。

すると耳にいつもとは違う、凛としていながらも一段と低い声が響いた。

 

 

「下がってろ…ツナ、お前にはまだ無理な相手だ」

 

 

俺の家庭教師であるリボーンの姿を視界に捉えると、死ぬ気モードが解除され、思考がクリアになっていく。

それと同時に体中に激痛が走り、悲鳴を上げそうになったが声を出す体力さえ残っていなかったことに気付く。

そんな……死ぬ気モードでも勝てないなんて……

内心焦りながら首を動かしてタコを見る。

するとリボーンが一歩、二歩と歩き出す。

 

 

銃口を、ヘルメットを被っている赤子に向けたリボーンの表情は、真顔だった。

 

だけど、リボーンの纏う雰囲気が何よりもあいつの感情を物語っているようで刺々しくて、俺の肌に突き刺さる。

 

 

 

「久しぶりにてめぇの顔が見れて嬉しいぜ…狂人野郎」

 

 

 

 

そして銃声がその場に響いた。

 

 

 




スカル:遊園地行ったら最悪の奴に出くわしたと思っている、リボーンは自分を何故か毛嫌いしているから苦手で怖くて嫌い、こいつが緊急用発電システムをONにしたばかりに止まっていたジェットコースターが動いたのはいうまでもない、無自覚加害者、お巡りさんを呼べば捕まるのはコイツ。

ポルポ:主絶対主義のセコム、初期死ぬ気モードのツナなんて足元にも及ばない。

沢田綱吉:遊園地に来てもマフィアの揉め事に巻き込まれる被害者、死ぬ気でもポルポに勝てなかったことでスカルに対して今まで以上に恐怖を抱く。

リボーン:やっと会えたなこのクソ野郎状態、ルーチェのことと今までボンゴレにやってきたこと、あとは元々馬が合わないこともありスカルを憎いレベルで嫌っている、好感度零地点突破とかそんなレベルじゃなかった、スカル絶対殺すマン一歩手前。

マフィアランドの襲撃ってアニメでおちゃらけた様子で流されてるけど、あれ結構被害尋常じゃないですよね。
なのでもっとえげつなくしてみました。




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skullの対峙

俺は恐ろしかった。


「久しぶりにてめぇの顔が見れて嬉しいぜ…狂人野郎」

 

出会い頭にいきなりディスられたとショックを受ける前に耳が破裂しそうな音がその場に響いた。

幸い俺はヘルメットでいくらか防音していたから大丈夫だったが、俺はそれが発砲音だと直ぐに分かった。

隣にいるパンツ一丁の男の子が顔を青くしながらリボーンを見ている。

っていうか発砲音なのは分かったけど、着弾音が聞こえない。

もしやその銃は玩具なのでは…?

そうだよな、だってリボーン今赤ちゃんだし、銃を扱うには無理だよな。

あー、ビックリした。

 

「てめーに聞きてーことがある」

 

俺はお前に用はないんだけど帰っていいかな、っていうか切実に帰りたい。

 

「ルーチェが死ぬ直前に、てめーあいつに何をした」

 

すごく、低い声で怒ってるように質問してくるリボーンに漏らしそうになった。

頑張れ俺の尿道括約筋。

っていうかそれよりも今何て?

ルーチェ先生死んじゃったの?マジで?

いや看護師が彼女はもう長くはないっていってたけど…リボーンの言葉からして俺と会った後に直ぐ死んだように聞こえる。

生きてるとは思っていなかったけど、いざ死んだと聞くと悲しいなぁ。

 

「答えろ!」

 

何だかリボーンが怖いんだけど。

いや最初からこいつは怖かったけど、何で俺に対してコイツはこんなに塩対応なんですかね。

俺何もしてない善良な市民なのに…

 

………花を、送った…

「っ、てめぇ‼」

 

リボーンが怖くて素直に答えたら、めっちゃ怒って来た。

何で。

病人に花送って何で怒られてるのだろうか…

リボーンが威嚇でか分からないが数発撃ってくる。

それ玩具なの知ってるから、もう驚かせねーから。

俺がビビらないと分かったのか舌打ちして睨みつけてくるリボーン。

赤ちゃんが強がったって、こ、ここ、怖くないんだぞ!

リボーンをヘルメット越しに睨み返していると、ポルポが前に出る。

 

「下がれ主、今すぐこ奴等を(なぶ)り殺してくれようぞ」

 

ヒエッ、ポルポが怖い。

嬲るって一体どこで知ったの君…

いやそれよりもリボーンはともかく、少年に危害をくわえちゃアカンって。

 

「リ…リボーン……もしかしてこの赤ちゃん……」

「…ああ、コイツがスカルだ」

「そんなっ」

 

おいおい少年、何で俺を見て怯えてるの。

俺何も害のない善良な市民よ?

リボーンになんて言われたか知らないけど、そいつ殺し屋だからな。

ていうか少年は今すぐ病院言った方がいいのでは。

さっき頭燃えてたじゃん…どんな原理で収まったか知らないけどあれ絶対頭火傷してるよ。

じーっと少年の方を見ているとリボーンが少年を庇うように少年の前に立つ。

さも俺が悪役みたいな演出してんじゃねーよ。

 

「もうすぐボンゴレの増援が来る、いくらお前でも生きて帰れねーぞ」

 

……ん?

やっぱりボンゴレってマフィアと繋がってたのか。

リボーンみたいな殺し屋雇ってるような企業だからマフィアと繋がっててもおかしくない、か。

っていうか俺殺す気満々じゃないですかヤダー。

やべぇ本格的に漏らす。

そんな腹黒い企業とか何それ絶対働きたくねー…

だから部下にクーデター企てられるんだよお前んとこの企業。

あれ?そういえばパイナップル閣下はクーデター出来たのか?

あれから音沙汰ないから多分失敗してると思うけど。

パイナップル閣下も犯罪者だから失敗してくれて安心したけど、あのまま出来てたら俺ボンゴレ企業に引き抜かれてたかもしれないんだろ、おっそろしい。

内部抗争激しかったら経営もまともに拡大出来ないの知らないの?馬鹿なの死ぬの?

こんなんで何故大企業になれたのか。

これじゃカルカッサが特許を取って独占企業にならずとも、あっちが自滅しそう。

クーデターが起こる時点で経営方針と汚職を見直せよ、お前ら。

 

身内のクーデターでは足りない……のか…

 

もういっそのこと警察にチクってやろうか…?

呆れて声に出てしまった言葉をリボーンの地獄耳が拾ってしまった。

 

「!、何でそれを知ってやがる!?」

 

あ、待って、ごめん、今の無し、だから俺をそれ以上睨まないで。

今にも殺さんばかりに睨みつけてくるリボーンがめちゃくちゃ怖い。

これ以上ここにいても俺殺されるだけだしここら辺で逃げよう。

なんだかマフィアにまで目を付けられてしまったが、一体何でそうなったんだろう。

俺何も悪いことしてないのに…

ポルポの足を軽く叩いて帰ろうと指示したつもりだが、何をとち狂ったのかポルポがリボーンに攻撃した。

ポルポぉぉぉぉおおおおおおお

お前何やってんの?

マジで何やってんの?

リボーンも玩具の銃で相手したって全然格好よくないからな、むしろお前の精神年齢考えると恥ずかしいわ。

ポルポに数十m投げ飛ばされたリボーンを見て、いい気味だと思いながらもこれ以上はポルポが犯罪生物になるので止めようと思う。

何よりもリボーンの報復が怖い。

 

「ポルポ」

 

名前を呼べば大人しく戻ってきて、俺を掴みながら壁を軽々と乗り越えた。

ちゃんと高圧電流が解除されていてよかった。

視界の端で少年が呆然と俺の方を見ていて、俺は直ぐに視線を逸らした。

ヘルメットを被っているから視線が合うことはないと分かっているけど恥ずかしいものは恥ずかしい。

ポルポと逃げ始めて直ぐに海岸に出る。

俺は持っていたバックからボンベを取り出した。

俺が酸素ボンベを装着したのを確認したポルポが海に足を入れて泳ぎ出す。

陸上でも速いポルポだが水中ではその何倍も速くなるので一瞬にして島が遠くに見えるほど距離が離れる。

一時間の末、漸くイタリアに帰ってくることが出来た俺は、家へと足を向ける。

やっとの思いで家に帰ると直ぐにシャワーを浴び、ベッドにダイブする。

 

散々な目にあった……

もう二度とマフィアランドにはいかない、絶対にだ

リボーンのクソ野郎、人殺し、外道……

本当に今日は厄日だ

 

 

「もう………嫌だ……」

 

 

毛布を被り、眠気に瞼が閉じかかりつつも天井を見上げた。

 

 

『ルーチェが死ぬ直前に、てめーあいつに何をした』

 

 

『最後に、いいものが見れたわ…ありがとうスカル』

 

 

リボーンの言葉と、別れ際のルーチェ先生の表情が脳裏を反芻(はんすう)する。

 

 

 

生きてて……欲しかったんだけどなぁ……

 

 

 

今度こそ俺は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

リボーンside

 

 

 

目を覚ますとハルの腕の中にいた。

電車の中で眠ってしまった俺を、ハルに預けたのかと直ぐに現状を把握する。

 

「水色のおしゃぶりの子は先に起きてどこかに行ってしまいましたよ?」

 

コロネロは既にここにはいないと分かると、俺はすぐさまツナ達を探し出した。

直ぐに見つけたあいつらは、焦った様子である方向を見ていた。

俺は直ぐにその視線を移すと、そこにはゆっくりと上へ登っていくジェットコースターとその先にある壊れたレーンが視界に映った。

 

「な、何で!?さっきまで止まってたのに!」

「くそ!そのままいけば乗っている奴等全員脱線して落ちちまう!」

 

既に考える時間は残されていないと瞬時に判断した俺はレオンを銃へと変化させる。

 

 

「なら、死ぬ気で助けてこい」

 

銃口をツナの額へと焦点を定め、ツナの脳天目掛けて死ぬ気弾を撃ち込んだ。

するとツナは衝撃でその場に倒れ、次の瞬間物凄い勢いで起き上がる。

その額には死ぬ気の炎が大量に溢れ出し、ツナの表情は勇ましいものへと変わっていた。

 

 

「死ぬ気で、助ける‼」

 

 

 

腹に力を入れたようなツナの言葉と共に、あいつはジェットコースターのレーンを登り始める。

そしてレーンを走りジェットコースターの先端へ追いつくと、力技でジェットコースターの勢いを失くした。

ジェットコースターを止めようとする最中、ツナの雄叫びが響き渡る。

数十秒の格闘の末、ジェットコースターは止まり、その間に操縦室へと移動した獄寺達の手によって乗客は全て無事避難させることが出来た。

そろそろ5分か…と思っていると、地面に降り立ったツナの額の炎が(しぼ)み消えていく。

そして思考が正常になったのか俺の方を見て睨んで来やがった。

 

「リボーン!お前撃つなら先にそう言えよ!」

「だって時間がなかったんだもん」

「っていうかお前何であのタイミングで寝るんだよ!」

「仕方ねーだろ、睡魔はいつもいきなりやってくるんだ」

 

俺に不満をまき散らすツナを一蹴して辺りを見渡していると、携帯が鳴る。

電話に出てみれば相手はコロネロで、どうやらボンゴレに増援を頼んだらしい。

 

「既にコロネロが増援を呼んでいる、増援が来るまで俺達でなんとか被害を食い止めるぞ」

「食い止めるったって……」

「見ろ、色んな場所で爆発されている上に出入り口は使えねー…その上壁には高圧電流が流れている」

「何で電流なんか流すんだよ!」

「侵入者防止だぞ、それよりもやべー状況だな」

「そうだ、これも全部カルカッサファミリーって奴等がやったことなの!?」

「そうだろうな…一般人もマフィアも関係なく巻き込むのはあいつらのやり方だ、反吐が出るぜ」

「そ、そんな…」

「それに奴等は思慮深い、全ては余め念入りに計画しているハズだ、既にマフィアランドに奴等はいないと考えた方がいい」

 

そう、あいつは関係のない者達さえ地獄に堕とすクソ野郎…

どれだけボンゴレが被害を被り、どれだけ罪のない人々が葬られた来たことか。

獄寺が他のファミリーからの報告をツナに伝える。

ほぼ全員が避難したと思うが、まだ気を抜いてもらっちゃ困る。

未だ取り残されている奴がいるかもしれない上に、死者を出すとボンゴレの沽券に関わるからと、まだツナには動いてもらおうと考えた俺は銃をツナに向ける。

 

「んじゃ、あとは避難し切れていない客を探すだけだな」

「おいリボーン、何でそれを俺に向けて…」

「ちっと園内回って逃げ遅れた奴を探してこい」

「ちょ、待っ」

 

ツナが最後まで言い終える前に俺は引き金を引き、ツナの額に向け死ぬ気弾を撃つ。

死ぬ気弾は本来立て続けに使うもんじゃねぇが、今は時間がねぇからな。

 

「死ぬ気で探して助ける‼」

 

死ぬ気弾を撃たれたツナは素早く起き上がり、園内を走り回り始めた。

数名の逃げ遅れを助けたツナはある一点へと走りだした。

俺もその様子を眺めようとして、目を見開いた。

 

「あいつは……!」

 

 

ツナの向かう先には、忘れもしないあの黒いヘルメットとレーシングスーツを着た赤ん坊、そして隣にそびえ立つ巨大なタコ。

俺はすぐさまツナの下へと走りだした。

 

何故あいつがここにっ!

 

爆弾は既に設置されて、爆発させたにも関わらず何故まだこの場にいるのかが分からず警戒する。

考えられる理由があるとすれば、逃げ惑う人々を間近で見たいかったから……か?

ダメだ、十数年もあいつとは対峙していなかったせいかあいつの思考が完全に読めねー!

いや、最初からあいつの思考が読めたことなんてなかった…

あいつは最初から狂っていた。

あの残虐な男はまだツナには早すぎると分かり切っていて、俺は焦り出す。

 

「くそっ、間に合えよ…」

 

 

 

息を乱しながら駆け付けたそこには、ツナがタコを相手取っていた。

予想通り死ぬ気モードのツナでさえ奴のタコには手も足も出ない有り様だった。

間に割って入ろうと体を動かそうとした瞬間、ツナが一際重い攻撃を喰らい数m吹き飛ばされる。

俺はすぐさまタコと、あのクソ野郎に殺気を放つ。

 

「下がってろ…ツナ、お前にはまだ無理な相手だ」

 

死ぬ気モードが解け、倒れて動けなくなっていたツナにそう告げ俺は奴を見据える。

そして銃を構え、奴の脳天へと焦点を定める。

 

 

ああ、ずっとてめぇに会いたかったさ…

 

 

今までボンゴレにしてきた数々の虐殺

 

一般人さえも巻き込んだ大惨事

 

ルーチェへの死の花

 

全てが気に食わなかった

全てが憎たらしかった

全てが忌々しかった

 

 

全てが 嫌いだった

 

 

「久しぶりにてめぇの顔が見れて嬉しいぜ…狂人野郎」

 

 

お前の脳天目掛けて引き金を引く瞬間を俺は何年も待ちわびていたんだからよ

 

 

 

 

俺は迷いなく引き金を引いた。

弾丸が奴のヘルメットを突き抜け、脳を貫き、死ぬ至らせるビジョンが脳内で再生される。

 

一瞬の間、発砲音だけが虚しくその場に響いた。

 

 

流される鮮血はなく、聞こえるであろう悲痛な声はなく

あるのはこちらを睨みつける大きな、大きな、二つの目。

俺は瞬時に理解した。

あのタコが己の銃弾を全て弾いたのだと。

そんなことがあってたまるかと、怒り出そうとする感情を抑え、冷静になろうと努める。

一息、たった一息深く深呼吸し、俺は目の前の狂人へと何年も疑問だった問いを投げかけた。

 

「てめーに聞きてことがある…」

 

未だ銃口は奴の頭へと固定されている。

 

 

「ルーチェが死ぬ直前に、てめーあいつに何をした」

 

無言。

ただ沈黙がその場を支配する。

俺は腹の底から沸々と怒りが沸き上がるのを必死で抑え、地を這うような声を張り上げる。

 

「答えろ!」

 

奴はゆっくりと視線を上げ、ヘルメットが俺の目線と一直線上となる。

その動作に初めて目が合ったと理解する。

そして奴は、一言、呟いた。

 

花を送った

 

 

『あなたの死を望みます』

 

やはりあの花はお前が!

 

「てめぇ‼」

 

目の前が赤くなり、銃の引き金を引く。

だがそれもスカルに届くというところでタコが阻んだ。

どういう動体視力してやがる…このタコ野郎……

俺はあまりにも分が悪い今の状況に舌打ちせざるを得なかった。

タコはスカルの前に出て、俺とツナを睨みつける。

 

「下がれ主、今すぐこ奴等を(なぶ)り殺してくれようぞ」

 

俺とタコの殺気のぶつかり合いとなり、一歩も下がれない状況になった時、足元で倒れているツナが浅い呼吸を繰り返しながら声を絞り出す。

 

「リ…リボーン……もしかしてこの赤ちゃん……」

「…ああ、コイツがスカルだ」

「そんなっ」

 

ツナの声は震え、目の前のスカルに対して明確な恐怖を表していた。

いくら現状を嘆いたところで既に手遅れであることは分かっているが、そう思わずにはいられなかった。

元の姿の俺ならまだしも、今の俺ではあのタコは手こずる……しかも今は動けねーツナまでいる…

現状を打破出来る可能性はゼロに近く、俺はどうにかしてこいつらがこの場を去る状況を作り出そうとした。

 

「もうすぐボンゴレの増援が来る、いくらお前でも生きて帰れねーぞ」

 

そんな脅しが死に急ぐコイツに効くわけもないとは思っているが、これが今できる最大限の威嚇だった。

分が…悪すぎる………

背中に嫌な汗が伝うと共に、奴がぼそりと聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で呟いた。

 

 

身内のクーデターでは足りない……か…

 

 

身内………クーデター……

俺の脳裏には8年前の過去最悪のクーデターが過ぎる。

コイツ、ゆりかごを知っている!?

 

「!、何でそれを知ってやがる!?」

 

俺の問いに奴は何も答えない。

沈黙を破ったのは奴だった。

奴はタコの足を軽く叩くと、タコは俺の方にその巨大な足を振り下ろしてきた。

俺はすかさずそれを避けるが、タコは二本目、三本目と複数の足を振り回し始める。

銃でなんとか応戦しようとするが、如何せん数の多さ、速さを考えればジリ貧だ。

タコの足の一つがツナに向かって振るわれるのを視界に捉え、俺はツナを庇おうと駆け寄ろうとした。

劣勢な上教え子を庇いながらというハンデを強いられた俺は柄にもなく焦っていた。

だから、それが奴の罠であることに気付くのに遅れたのだ。

ツナに向かって振るわれる直前のタコの足は、俺の方へいきなり方向を変える。

俺は足を止めるが時既に遅く、自身の腕がタコに捕まりその場で勢いよく投げ飛ばされる。

そして数十m遠くの壁に背中から強打し、その場に(うずくま)る。

くそ…元の身体ならこのくらいわけないのに……

痛みの走る赤ん坊の身体を無視し、直ぐに立ち上がり奴のいる方向へと走りだす。

遠くに見えるスカルはツナに視線を移し、再び俺を見ればタコを呼び寄せた。

タコはスカルを抱え壁を登り始め、高圧電流が流れているであろう柵すらも悠々と越えていった。

スカルは一度も俺を見向きもせずその場から姿を消す。

ただ炎が燃え上がる音と、色々なものが焼け焦げた匂いがその場に立ち込め、俺は呆然と自身の荒い息を聞いていた。

 

 

 

 

 

大勢の足音と声で我に返り、俺はツナの下へと向かおうとすると、後ろから名を呼ばれた。

 

「リボーン!」

「……コロネロか」

「増援が今しがた到着したぜコラ!」

「そうか、あとは消火活動だけだがな」

「後のことは雇われてる俺らの領分だ、お前は手を出すなよ」

「………把握している被害状況はどうなってる?監視カメラはどうした」

「電気設備室には毒ガスが撒かれていて、監視カメラでは数時間の録画が消去されていた」

「中にいた警備員は…」

「手遅れだった…苦しまずにって点では不幸中の幸いだったのかもな」

「そうか…」

「ふん、お前がここまでボロボロになるなんて明日には槍が降るかもな」

「さっきから回りくどいんだよ、言いたいことがあるなら言え」

「………あいつが現れたって聞いたが、本当か?」

「ああ、相変わらず気に食わねー野郎だった」

「あいつの仕業であることは間違いないが、何故まだ園内にいたんだ?」

 

コロネロの疑問に、俺は思い当たる節があった。

 

「あいつ、俺とツナを殺さなかった……殺せる状況だったにも関わらずだ」

「何だと?」

「あいつの目的は殺害や虐殺じゃねぇ……あくまでそれらは過程だ」

「過程…?なら本当の目的は…」

「眺めてんだよ……人が怯えて逃げ惑う姿を…痛がり苦しむ姿を……」

 

沸々と腹の底から言い知れぬ感情が沸き上がるのが自分でも感じられた。

俺と奴はまさにボンゴレとカルカッサの敵対関係の縮図じゃないかとすら思う。

秩序を守るボンゴレと、それを崩すカルカッサ…

 

「救助班が来たぜ、治療受けてこいよ」

「これくらいただの掠り傷だ」

 

駆け付けた救助班を手で制止し、ツナの倒れている場所まで歩き出す。

獄寺と山本に支えられながら立ち上がるツナを視界に入れた俺は走りだした。

そして助走をつけた蹴りをツナの頭に食わらせ、体勢を整えて着地する。

 

「いってー!あ、リボーン!お前何でいきなり蹴るんだよ!」

 

頭を押さえたツナは俺の姿を見ては怒りながら立ち上がる。

 

「っていうか身体は大丈夫なの?」

 

いきなり不安そうな顔を出したツナに俺はいつものように余裕のある声を出す。

 

「もう大丈夫だぞ、ただの掠り傷だしな」

「ええええええ!あれで掠り傷!?お前の身体どうなってんの!?」

「リボーンさん被害はどうなってるんですか?」

「死傷者は出てねーぞ、まあテーマパークは多大な損害を(こうむ)ったがな」

「死んだ人でなくて良かったー…」

 

俺は嘘をついた。

数名、警備員が亡くなっている。

だがまだ未熟過ぎるこいつに教えるには早いと判断し、敢えて教えなかった。

そのままママンやハル達と合流する。

そんなとき、ふとママンが不安そうに周りを見渡しているのが気になり声を掛けた。

 

「どうしたんだママン、何か落とし物でもしたか?」

「リボーン君、無事だったのね、良かったわ………さっき園内で一緒にいた赤ちゃんが見当たらなくて…ちゃんと親御さんの下に帰れたかな、って」

「赤ん坊?」

「可愛らしいペットを連れたヘルメットをしてる赤ちゃんよ、スカル君って言うんだけど」

「「「!?」」」

 

獄寺、ツナ、俺は目を見開いて驚愕する。

 

「観覧車を降りた後いきなりどこかに消えちゃって…探したんだけど見つからなかったの」

 

ママンは頬に手を当て不安そうにあたりを見渡している。

 

「安心しろママン、そいつなら親の所にちゃんと帰れたぞ」

「本当?良かったわ」

 

俺の嘘に安心したママンを他所にツナが俺の所へ近寄り耳打ちした。

 

「おいリボーン、スカルってさっきの…」

「ああ、ママンは何もされてねーみたいだ、気にするな」

 

観覧車ってことは…やはり爆発を間近で見るために態々(わざわざ)潜んでいたのか。

やっぱあいつはクソ野郎だな。

にしても何であいつがゆりかごのことを知っていたんだ?

これも九代目に報告しなくちゃな。

 

「リボーン何立ち止まってんだよ…やっぱり身体痛いのか?」

 

ツナの声で我に返った俺は、ツナの肩に乗る。

 

「お前のこれからの修行内容を考えてたんだぞ」

「ええ!?俺は絶対に修行なんかしないからな!」

「今日は他のファミリーもいる中お前が指揮を取ったそうじゃねぇか」

「ち、ちが…あれは無理やり!」

「この調子でボスに相応しいスキルを身に付けろよ」

「だから俺は絶対にマフィアになんてならないからな‼」

「決定事項だ」

「人の話を聞けぇぇぇえええええ‼」

 

 

 




スカル:善良な一般市民()、ボンゴレが裏でマフィアと繋がっていると思っている、
「身内(古参幹部)のクーデターでは(反省が)足りない……のか…」、ルーチェの死を知ってセンチメンタル。

ポルポ:そろそろ成体、主の敵は殺す!、スカルが殺生を好まないと知ってからはスカルの前では殺すのを極端に抑えている、赤ん坊リボーンなら圧勝。

リボーン:ポルポに敗北、ツナがいなけりゃ互角かもしれない、元の姿なら優勢かもしれない、スカル絶許、負けた屈辱でスカルへの憎悪↑↑。


犬猿の仲な二人だけど、これ虹の代理戦争ヤベーなおい…
とことんスカルにはヘイト高めていって欲しいですね。


ストック切れたので次の投稿までまたちょいと空きます(笑)


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skullの夢現

俺は気に食わなかった。


マフィアランドでの一件の後、暫く部屋に籠っていた俺はポルポと一緒に映画を見続けていた。

内容は親子の愛情、普通の純情ラブストーリー、などのドラマ・ファミリー系のものだ。

前回の奈々さん捨て置け発言は多大なショックを俺に与えた。

倫理観というか道徳感というか…そういうものがポルポは著しく欠如していると判断した俺は、ポルポに今まで以上に映画を見せようと思った。

種族が違う時点で何かと感性が違うことは理解しているが、やはりポルポも人間の言葉を理解する個体だ。

人との会話が成立している以上コイツには人間のような思考力と感性を持って欲しいと思う。

それに俺が飼っているペットという認識があるわけで、正直コイツがいつか一般人に攻撃してしまったら全ては俺の責任になってしまうので切実に道徳を学んで欲しい所存である。

見た目が赤ちゃんだからと現状に甘えていれば、いつか呪いが解けてしまった時に痛い目見るの俺なんだよなぁ。

クッ、これも飼い主の義務か。

にしてもあれだ、正直こんなのほほんとした映画見るのって結構辛い。

俺自身アクションやサスペンスとかが好きなわけで……決してリア充を眺めていたい願望なんて米粒ほどもない。

正直爆ぜろとすら思うね。

ポルポの教育の為に我慢して一緒に見ているが、つまらん。

漸く主人公が彼女を間男から取り戻すシーンへ突入する今、俺は退屈していた。

何で好きな女性の為にここまでする男がいるんだろうか?

意味が分からない。

主人公の思考回路が短絡的すぎて正直つまらない、もっと知恵を絞れよ。

ていうか一時は自分を裏切った女だぞ、見切りを付けて別れれば一発解決じゃね。

なんていうか……流石B級映画というか…

もう少し趣向を変えるくらいした方がいいのでは、とさえ思えるほどリア充映画の流れがパターン化している。

もう愛してるとか聞き飽きたよ、うん。

 

「主……」

 

ずっと黙って見ていたポルポが話しかけてきた。

 

「主は…形なき愛とやらを……欲しているのか?」

 

ん?………んん?

あ、これ俺が恋人欲しいけどこの身体だから無理、ならリア充映画見て妄想で妥協していると思われている?

そんなわけないやん。

ぼっち万歳、ニートライフカモンだよ。

 

「ちがっ………」

 

待てよ、ここで否定するのはポルポの道徳心構築の妨げになるのでは?

ならもう少しこうオブラートにそうだよって言った方がいいのか?

いやでも……うーん、あ。

 

「欲しいというよりも………知りたいんだ……愛を」

 

こうすればポルポは愛が何なのかを考えてくれるのでは?

うわ、俺って天才?

 

「俺には理解出来ないから……知りたいんだ」

 

だからお前が分かったら俺に教えてくれよ、と遠回しに言ってみればポルポはまた画面に視線を戻した。

うんうん、俺ってばマジで天才的な返し方だと思いましたまる

数十分後、漸く恋愛ものが終わる。

今日はこれだけにしようと思ったが夕飯まであと2時間あることに気付き、ラスト一本何か見てから今日の道徳の映画鑑賞は終わろうと思った。

題名を見ずに流した俺は冒頭部分を聞き流していた。

 

「時に主…」

「?」

「いや…………少し、狩りに出る」

 

え、ちょ、このタイミングで?

ポルポを引き留めようとしたがずっと座っていたせいで上手く立てず、ポルポの後ろ姿を見送った。

一人取り残された俺は渋々映画をそのまま見続け、ポルポが帰って来るのを待っていた。

映画の内容はもっぱら家族でピクニックって感じで正直眠い。

何度も欠伸をし、眠気がピークに達してしまった俺はポルポの帰りも待てず意識を手放した。

 

 

 

 

ふと気付けば俺は雪の中で一人佇んでいた。

自身の手を見れば赤子の手ではなく、もう少し大きくなった少年の手だ。

雪が手のひらに落ちるのにも関わらず冷たさはなく、首を傾げるも直ぐにその違和感も薄れていく。

声がして視線を上げれば知らない人たちが遠くに見えた。

辺りにはモミの木が飾り付けられ、子供がプレゼントを手に持っている。

遠くの人達は、まさにクリスマスを祝い、(うた)い、微笑んでいる。

その光景を見た俺は目を細め、こう思った。

 

 

リア充爆発しろ、マジで。

死ね、氏ねじゃなくて死ね。

 

 

腹底から湧き上がる怒りと嫉妬に地団駄を踏みたい衝動に駆られながらも、あることに気付き振り返る。

俺の後ろには昔住んでいた家があって、中には今世の母親と父親がいた。

でも彼らの俺を見る目は冷たくて、俺は眉を顰めた。

それなりに彼らにした仕打ちは自覚しているつもりなので、俺が怒る資格はないなーと彼らの視線を流し再び前を向く。

 

シャン シャン シャン シャン

 

ベルの音がうるさい。

子供の、大人の、笑い声が、(しゃく)(さわ)る。

 

羨ましいなんて思ってないし、別に一人でも寂しくない

リア充()ぜろ。

あー、マジでクリスマス作った奴死ね。

子供の甲高い声が耳に響き煩わしいと感じ、ベルの音に意識を逸らす。

 

 

後ろの方で何かが燃える

 

 

        気にするな

 

 

音がするけど

 

 

 

        気のせいだ

 

 

 

 

 

 

「主」

 

「…!」

 

ふと現実に引き摺られるように覚醒した俺の目の前には大きな目が二つ、言わずもがなポルポである。

ヤベ、熟睡してた。

目を擦って背伸びをすると、関節からボキボキと音が鳴る。

テレビの画面を見れば、既に映画は終わっていて窓の外を見れば暗くなっていた。

結構眠っていたようだ。

 

「ポルポ、いつ帰って来た…?」

「小一時間程前…」

「そうか……」

 

椅子から立ち上がると同時に腹部から空腹の音が鳴る。

何かパパっと作るか。

冷蔵庫にあるものでてきとーに作った夕飯を頬張ろうとしたら、ポルポが声を掛けてきた。

 

「主」

「ん?」

「何か…夢でも見ていたか?」

 

ん?えーと…

あれ…何見てたんだっけ。

確かクリスマスを過ごしてるリア充をギリイしてたような………うわぁ思い出して悲しくなってきた。

 

「……さぁ、見てた気がするけど内容忘れた」

 

リア充見てギリイしてましたなんて言いたかねーわな。

幻滅される…っていうか引かれる。

ポルポの無言の圧力を無視して皿の上の食事を頬張る。

 

…………まずい。

なにこれ、カニの食べられないところの味がする。

え、マジでまずい。

 

 

俺は無言でフォークを皿の上に乗せ、そのまま洗い場に持って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

 

もう………嫌だ……

 

遊園地とやらから帰った主が部屋の中でポツリとそう呟いたのを聞き逃しはしなかった。

か細い声で思い出すのは主が見合ったあの女だろうか…それともあの忌々しい赤子の言葉だろうか。

あの赤子の発言の中に出てきていた、ルーチェ、という人間の名前。

十数年前に主が見舞った女の名前だったか…

主が心を開いているように思えたが、曖昧な記憶となった今では確かめる術はない。

何せあの女は死したと云う。

ときに、遊園地で見合ったあの女も、あ奴に面影が似ていた……

 

 

 

『スカル、それは何…?』

『…花』

『おいしい?』

『さぁ…あ、これは食べるな……』

『何で?』

『送る』

『……誰に?』

『……知り合い』

『どうして?』

 

 

『……あの人なら…受け取ってくれると………思う…から』

 

 

 

主は、あの女を通して何を見ていたのか。

何かを見出す価値があるとでも思っているのか?

捨て置けばいいものを……

 

捨て置けば苦しまずに 悲しまずに 痛まずにすむものを

 

 

 

我は目を閉じ、静寂な夜をただ主の側で過ごした。

 

 

 

 

近頃主はやたらテレビを眺めている。

何故、と聞けぬまま数日が経った。

我は遂に主に問いかける。

 

「主……」

 

主は画面の向こうの人間に何を見出そうとしているのだ…

親が子を愛でるものも

(をのこ)()を愛でるものも

全てはそなたが忌避(きひ)したものではないか

 

 

「主は…形なき愛とやらを……欲しているのか?」

 

我の言葉に主は僅かに目を見開く。

 

「ちがっ………」

 

途中で口を(つぐ)み、考え込んだと思いきや(おもむろ)に口を開いた。

 

 

「欲しいというよりも………知りたいんだ……愛を」

 

 

言い淀む姿はまさに迷い子のようで

 

 

「俺には理解出来ないから……」

 

 

そう云った主の顔は、今までにないほど穏やかであった。

自らを嘲笑うこともなく

ただただ 愚直なまでに 

 

 

「知りたいんだ」

 

 

そんな主の瞳には何も映ってはいなかった

 

 

 

 

主は再び映画を見始め、我もまた主の側に佇んでいた。

日が暮れ始めるのを横目に主に声を掛けようとする。

 

「時に主――――」

 

刹那、濃密な殺気をこの身に浴びた。

即座に周りの気配を探り出す。

 

「?」

「いや…………少し、狩りに出る」

 

主に悟られぬよう外へ出れば、殺気の元へと赴く。

主に害成すものは、消す。

 

 

「クフフ、釣れたのは獣でしたか…」

 

耳障りな声と共に目前に現れた人間に、目を細める。

そしてその気配に覚えがあった。

あたかもそこに在るかのように思える、だがここには在りはしないという矛盾な(うつつ)

 

「主の周りをうろついていたコバエは貴様か…人間」

 

人間は眉を顰めると、槍を我へと向けた。

 

「たかが獣如きが僕に張り合えるとでも?今すぐ巡らせてあげますよ」

「紛い物の分際で吠えるなよ」

 

僅かながら目を見開いた人間は、口元を(いびつ)に歪め槍を突き出した。

我はそれを容易く()なしては奴の頭目掛けて攻め入る。

たかが人間に後れを取るつもりはなく、すぐさま奴の胴体へと鋭い一撃を叩きこむ。

骨が折れる鈍い音と共に、そ奴は吹き飛ばされ口元から鮮血を吐き出し、片膝を地に着ける。

 

「げほ……ごほっ、ック………クフフ、ただの獣かと思ってい「死ね」

 

辞世の句すら聞き届けず我はそいつの首を()ねる。

地面には(おびただ)しい量の鮮血が飛び散り、首の無い体は地面に倒れ伏した。

屍を覆っていた言い知れぬ不快感が紛散すると共に屍の姿形が変わる。

先ほどの青鈍(あおにび)色の稀有(けう)な髪をした男ではなく、全く異なる人間の姿になっていた。

 

「ふん、小賢しいコバエだ」

 

辺りを覆っていた歪な気配が散っていくのを感じ取りながら、地面に転がる屍を咀嚼し飲み込む。

血肉が己が糧と変わりゆく感覚を受け入れ、徐々に表皮に薄い膜が浮かび上がる。

それは半透明さを保ったまま我が身から剥がれ落ちる。

半刻ほど経てば、真新しさを誇張する表皮は禍々しさを纏い、光沢のある(うろこ)は硬質な堅牢(けんろう)のように様変わりした。

新たに生まれ変わる我が身に満ち足り、帰路へ着く。

 

 

「主、帰った」

 

我の言葉に返って来る声はなく、主がいるであろう居間へ行けば小さな寝息が聞こえる。

眠ってしまわれたか……

寒くはない時期ではあるものの、既に陽が落ちている。

我は被せるものを寝間から取り出し、主に被せようとして漸く気付いた。

主の頬には涙が伝っていた。

ほぼ乾ききるそれに我は目を細める。

 

 

そなたは何を見ている

 

 

『欲しいというよりも………知りたいんだ……愛を』

 

何故手に入らないと知りながらも手を伸ばし、求め、傷つく

 

『俺には理解出来ないから……知りたいんだ』

 

何故遠ざけるとしりながら近づき、拒み、苦しむ

 

 

自らの悲鳴を 嘆きを 叫びを

 

気が付かず 理解せず

抉り (なぶ)り 引き裂き 

涙する

 

 

全て捨て置けばいいものを

全て投げ出せばいいものを

 

ああ、そなたは愚かだ

 

 

愚かで 哀れな 愛しい 我が主よ

 

 

願わくば そなたが涙することのない 世を 願おう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六道骸side

 

 

復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄から逃亡した僕は再びマフィアを潰そうと動いていた。

全てのマフィアを潰そうと考えていた僕には気になる存在がいた。

この世界で知らぬものはいないであろう、最恐最悪の男。

カルカッサ軍師、狂人スカル。

まだ僕が実験体であった頃、よく研究員が口にしていた名前だ。

奴等はその名前の男を恐れていた。

 

 

実験が止まった時期があった。

心身共に疲弊していた僕らには気にする余裕も思考もなかったが、ただ檻の外から時折聞こえる会話の中にはよくあの男の名前が聞き取れた。

 

「おい、また支部がひとつやられたぞ!」

「ここもいつバレるか分からねぇ、俺は嫌だぞ!?あんな痛い死に方は!」

「ボンゴレか!?」

「違う、カルカッサだ」

「くそ…スカルだ、あの狂人以外にありえねぇ‼」

「きっとスカルがカルカッサを乗っ取ったんだ!」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない、俺はまだ死にたくない!」

「うるさいぞ!死にたくないならさっさと実験を成功させ、奴等よりも強い兵器を作り出せ!」

「無理だ……出来っこない、奴らは…ボンゴレに次ぐほど大きくなってる…ああ、死ぬしかないんだ」

 

怯えた声、嘆く声は実験体であった僕らにも聞こえていた。

擦り減る思考の中、ただ僕は恐怖に震えるしか出来ずいつも目を固く閉じるだけしか出来なかった。

 

ああ、早く……早く見つかればいいのに

そしたら皆殺されて、僕らは助かる……

 

薬の投与が開始され、再び痛み泣き叫ぶ日々が始まろうとした頃だった。

遂に、遂にここが敵にバレたらしい。

研究員たちは一心不乱に逃げ惑い、実験体であった僕らも解放されると、そう思っていた。

だが予想は裏切られた。

死への恐怖で思考回路がおかしくなった者達に僕は腕を掴まれ、実験台へと乗せられ拘束された。

 

「も、もう助かる道は実験体(コイツら)に賭けるしかない」

 

僕が聞き取れた言葉はそれだけだった。

抵抗する直前に僕に襲ったのは、激痛だ。

まるで地獄の業火で焼かれ続けるほどの痛みが右目を襲う。

あまりの痛みに平衡感覚を失い、拘束された四肢は痙攣を起こす。

 

「あ"あ"あ"ぁぁああああああああ」

 

背が弓のように張りつめるが痛みからの解放はなく、発狂しそうだった。

 

そして輪廻を垣間見た。

脳内を焼き切らんばかりの痛みに襲われる中、夥しい量の知が詰め込まれる。

 

 

天を 人間を 修羅を 畜生を 餓鬼を 地獄を

 

 

巡れ 巡れ 輪廻を 

 

 

その眼に六道を

 

 

 

 

全てを殺し尽くしたあの忌々しい記憶を思い返し、眉を顰める。

あの頃の記憶が未だ残っている中、最後の時期は特に鮮明に覚えている。

だからだろうか、いつだってあの男の名前が頭の片隅にこびり付いて離れないでいた。

 

「骸様、これからどうしますか?」

「次はどこを潰すんだびょん!?」

 

犬と千種の言葉に僕は考え込む。

思考の端にあるのは、最後まで姿を見ることはなかったスカルという名の男。

気にならない、と言えば嘘になる。

だがその者もまたマフィアであることに偽りはない。

なら潰すついでに奴の顔をこの目で見るのも悪くはないと、そう思い至った。

 

「少し…探らねばならない相手がいるようです」

 

カルカッサを標的にした僕は、今までとは勢力が桁違いであることから慎重になった。

カルカッサの下っ端に憑依した僕は、早速あの男を探し始める。

数日経てども男は現れず、既にカルカッサを去っていたならばとんだ無駄足だ…と思い始めている時、漸く男の名前を耳にする。

他の者らの会話からして、奴は滅多に本部に訪れないようだ。

なるほど、と納得していた僕がカルカッサに侵入して一週間程過ぎた頃、漸く奴が現れた。

僕がまず目を見開いたのは彼の容姿だ。

胸についているおしゃぶりを見て、彼はアルコバレーノであると確信する。

だから極力姿を見せなかったのかと思いながら、彼の行動を眺めていた。

内部を観察し、カルカッサをどうやって潰そうかと考え始める。

ファミリーの結束が強ければ僕の憑依や幻術で同士討ちさせるのが最も有効だが、カルカッサはこれといって仲間意識が強いわけではない。

盲目的にスカルという男を崇拝しているからに、あの男を殺しさえすればそのまま自滅するのではと考えた。

だが男は小さいがアルコバレーノの称号を持つ者、一筋縄ではいかないことくらい分かる。

奴の精神世界に侵入し、弱みを探りつけ込めば……そこまで思い至った僕は彼の(ねぐら)を突き止めるべく動いた。

 

「スカルさん、お疲れ様です」

 

憑依した人間で彼に近付き、声を掛けると共に盗聴器を仕掛けた。

彼は僕の顔に視線を固定し、無言で見つめ続ける。

まるで中身まで覗き込まれているような錯覚に陥りそうになるが、彼はふと視線を外し去っていく。

まさかバレたか…?いや、僕の憑依は完璧だ、分かるはずがない。

そう思い込んだ僕はアジトへと帰ると、数分後盗聴器越しで声が入る。

誰だ…?向こう側で誰かと喋っているあの男の声が聞こえる。

音量を上げようとしたその時だった。

 

『主、どうやらそなたの周りにコバエが飛び交っているようだが…』

 

低く、警戒と殺意を纏った声が耳に届いた。

一瞬背筋に寒気が走るような感覚に襲われ、口元に描いた笑みが引き攣る。

 

 

 

『………放っておけ、所詮コバエだ』

 

 

 

何でもないかのように放った言葉に眉を顰める。

明らかに盗聴器の存在がバレていると分かり、すぐさま盗聴器の電源を落とす。

これ以上やれば逆探知される恐れがあるからだ。

電源の落された機器を見下ろしながら口を覆う。

 

最初から気付いて泳がされていた…か。

僕の憑依さえ見破る観察眼…流石アルコバレーノ、といったところでしょうか。

なるほど、侮れない。

 

僕は抹殺対象の優先順位を変更することにした。

あの男はもう少し準備が必要ですからね…

 

 

「さて、日本へ行きましょうか」

 

そう呟いた僕の目の前にあるテーブルの上には一枚の写真があり、そこには茶髪でアジア系の顔をした中学生男子が写っていた。

 

 

ボンゴレ10代目を殺すべく日本へ赴いた僕がまずしたことは、情報屋であるフータという少年を幻術に嵌め、並盛中学生の実力ランキングを把握することだった。

他の者がランキング上位者を襲撃し、ジリジリと追い詰めていく頃、僕はと言えば精神をイタリアへと飛ばしていた。

気の弱い者に乗り移り、前日把握したあの男の居所へと足を向ける。

盗聴器を切った後に盗聴器の位置を確認し、奴が留まった場所は知っていた。

今回はただの小手調べ程度であって、本気で殺そうとは思っていない。

いや、思ったところで容易く殺られる男でもないが。

目的地へと着けば、槍を幻術で作り出し周りに殺気を放った。

わざわざ殺気まで出して誘い出したのだ、来なければ拍子抜けもいいところだ。

だが僕の前の前に現れたのは予想外の生き物だった。

ズルリと地面を這いながら近づく濃密な殺気に笑みを浮かべ視線を移し、目を見開いた。

タコ…というにはあまりにも巨大で、禍々しい何かがそこにいたのだ。

二つの射殺すようなギラつく瞳、人間の胴並みに太い八本の触手、硬質な鱗に今にも死を招き寄せるような大きな刺々しい牙。

 

 

「クフフ、釣れたのは獣でしたか…」

 

僕の言葉に目の前のバケモノは目を細める。

 

「主の周りをうろついていたコバエは貴様か…人間」

 

バケモノが喋ったことよりも、その内容に眉を顰める。

なるほど、このバケモノがあの男のペットということか。

であれば戦力は今のうちに削るに越したことはない。

それ以上に、僕をコバエと称した畜生に怒りを覚えた。

 

「たかが獣如きが僕に張り合えるとでも?今すぐ巡らせてあげますよ」

「紛い物の分際で吠えるなよ」

 

槍をバケモノに向けそう言い放てば、返って来た言葉に僅かに驚きを表す。

紛い物、僕が憑依していることを理解しているような言葉に笑みを作る。

面白い、このバケモノもあの男も…余程僕に殺されたいと見える。

 

次の瞬間、僕は槍をバケモノに向かって突き出した。

だがそれも容易に躱され攻めに転じられる。

何度かバケモノの触手と僕の槍が交差するが、一向に致命傷となる攻撃を出せないでいた。

それはバケモノの身体能力もあるが、何よりもこの身体は憑依しているだけであってそこらにいる一般男性の身体だ。

六道が十全に使えないこの状況で勝敗を決するのは早かった。

触手の内の一本が憑依体の腹に入り、衝撃で骨と内臓が破壊される。

憑依体故に痛みはないが、この身体は既に限界であると悟る。

骨が他の内臓に突き破ったのか、血が喉をせり上がってきて、口から吐き出される。

身体が生命機能を停止し始め、僕は膝を地面に着ける。

一撃で…致命傷か………

見た目通りバケモノだ、と思いながら口を開く。

 

「げほ……ごほっ、ック………クフフ、ただの獣かと思ってい「死ね」

 

最後まで言い切ることはなく、僕は憑依を解く。

先ほど憑いていた身体は首と胴が離れていて、夥しい量の鮮血をまき散らしている。

すぐさま日本に置いている体へと戻ろうとした時、直ぐ近くに眠っている誰かの精神世界を見つけた。

ここは確か数年前に廃れた町だったハズだ……こんな場所に住んでる者などあの男しかいない。

そう思い至った僕はその精神世界へと侵入した。

暗転。

 

 

 

瞼を開けばそこは真白な一面だった。

僕は周りを見渡し怪訝な面持ちで目を凝らす。

白い景色をよく見ればそれは雪で、はらはらと静かに雪が降っていた。

ベルの音が四方から聞こえる中、精神世界の主を探そうと一歩踏み出す。

歩くにつれてベルの音が大きくなっていき、顔を顰める。

 

 

シャン シャン シャン シャン 

 

 

どこからともなく聞こえる笑い声

 

 

「子供の笑い、声…?」

 

 

ベルの音、誰かの笑い声、響き渡る祝唄

 

 

―――――――――――――し…

 

 

掠れた男の子の小さな声が耳に届くが、直ぐに他の音で掻き消える

 

 

「…?」

 

 

僕は耳を澄ませて、先ほどの小さな声の主を探す

 

 

シャン シャン シャン シャン

 

 

――――――――死ね

 

 

 

ハッキリと聞こえたその声を辿れば、少し離れたところにポツリと佇んでいる男の子が視界に入る。

紫色の髪をした少年は雪の中であるにも関わらず半袖で、目を瞑ったままこちらを向いていた。

だが男の子の存在以上に僕を驚かせた光景がその子供の後ろにあった。

 

 

子供の後ろで一軒家が炎上していた。

火柱は天高く(そび)え、空を覆い尽くすかのように広がっていく。

 

 

男の子の後ろの方で焼けただれた人間が二人、原形を留めぬ体で炎に包まれながら叫びもがいている。

だが男の子がその声に反応する素振りはない。

 

 

ふと、目を閉じていた男の子の瞼がゆっくりと開く

 

 

 

垣間見たアメジストを最後に僕の精神はその世界から弾き飛ばされた。

 

 

「――――――っ」

 

体に掛かる重力に瞼を開けば、日本にあるアジトの天井だった。

上体を起こし、先ほどの精神世界を思い出す。

 

あの精神世界はあの男の……?

確かに異常な光景ではあったが。

もしあれが彼の精神世界であったとして、得られるものはなかったか。

 

「骸様、今日の襲撃が終わりました」

 

僕の思考を他所に、部屋に千種が入ってきた。

あの男のことは一旦置いといて、取り合えずボンゴレ10代目を殺すことだけを考えよう。

そう思考を切り替えた僕は、テーブルの上に置いていたチョコレートを齧った。

今現在の状況を千種の報告を聞きながら脳内で整理し、口角を上げる。

 

 

「さて、そろそろあの男が釣れる頃ですね……クフフ」

 

 

薄暗い部屋の奥で僕はそう呟いた。

 

 

 

 




ナッポー:この後沢田綱吉によってフルボッコにされた挙句復讐者に捕まった、ポルポにコバエと言われてカチンと来たけど首ちょんぱされた、ぐぬぬ。

スカル:リア充滅べ、クリスマスの夢を見て魘されていた、メリー苦しみます、着々とフラグを立てていくスタイル、欠伸のお陰で涙出てただけ。

ポルポ:いい具合に勘違いしているセコム、憑依中の骸をムシャペロした、脱皮して漸く成体へ、Bボタンなんてなかったんや…。


原作通りなので黒曜編は全カット。
骸がスカルの居場所を知っちゃったけど、多分それに関して出てくるのは未来編かな?


皆さんクリスマス楽しんでください、私は一人で寂しく手作りのブッシュドノエルを食べる予定です。


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skullの疑惑

俺は辛かった。


「スカルさん、これ例の資料です」

 

今日もいつも通りにカルカッサに勤める俺氏、今日も資料を読んでは判子を押す。

モブBが持ってきた数枚の資料に目を通していると、首を傾げる単語があった。

ゴーラ・モスカ……?

なんだコレ。

ロボットの構造図とその説明文が書かれていて、?だらけの脳内で読み進める。

指からレーザーが出て、背中に爆弾積めて、中には人が乗れる、と……

まんまアイア〇マンじゃねーか。

社長め、今度はロボットも作る気か?

これ以上事業拡大するよりも、何か一つのものを極めた方がいいんじゃないだろうか。

まぁあの社長に何言おうが無駄な気もするけど。

それよりもロボット製造たって、これ一体何に使うの?

この…動力源って書いてる……なんて読むんだろう……生命エネルギー?なんぞそれ。

見てる限りじゃ結構物騒だけど、社長は一体何を目指しているんだよ。

まさか軍事企業にしたいだなんて言わないよね?

軍事企業は何かと政府からの圧力もあるし、何かあった時に民間からの誹謗(ひぼう)が凄まじそうなイメージがあるから、正直なってほしくない。

でもイタリアって一応世界的に見て軍事費が高い国でもあるから、政府からの補助金を考えれば軍事企業への転換も悪くないのかもしれない。

いやしかしそんなことしたらモブ子とか一部頭のねじ外れてるうちのマッドサイエンティストらがまた変なもの造り出しそうだよなぁ。

この前も何か作ってたな…何だっけ、えーと…

 

「スカルさん、何を見て……ああ、モスカの資料ですか」

 

モブCが俺の後ろから顔を出してきた。

背後からの声に口から心臓吐きそうになった、あぶねぇ。

 

「カルカッサが数年前に軍から構造図を買い取ったプロトタイプであるヴェッキオ・モスカの改良版ですね」

 

え。

数年前からモスカってうちにあったの?

聞いたことないんだけど…

 

「ただ、軍にこれを扱えるものは少数だった上に生産費も維持費も莫大…その為カルカッサに破格の値段で売られたいわば粗悪品です。現在技術開発班が改良に尽力していますが、現段階でスカルさんに見せるべきものではなかったですね」

 

すみませんと謝ったモブCはテーブルに置いてたモスカの資料を取って自分のテーブルに持って行ってしまった。

何故謝るのかは分かんないけど、既に社長が軍事企業に片足突っ込んでるのは分かった。

会社の展開方針を全く聞かされていない俺は軍師とは名ばかりの役職名だということを思い出して、地味に傷付いた。

どうせ俺はマスコットですよ。

一人で拗ねる俺を他所に他の皆は忙しそうである。

その日は、資料に判子を押すだけで仕事を終えた。

 

 

一週間後、出勤すればなにやら周りが騒がしかった

何があったんだろうかと思っているとモブAが俺に気付いて声を掛けてくる。

 

「スカルさん、おはようございます…どうやら昨日、人工島マレ・ディアボラが襲撃を受けたようです」

 

へぇ、え、そのマレなんとかっていう島って有名なの?

聞いたことないなぁ、と思ってパソコンで調べてみれば元軍用施設って書いているだけでそれ以外は何もでなかった。

ニュースにも取り上げられてないし、小さな事件だったんだろう。

いつも通り誰かが持ってくる資料に目を通して判子を押していれば、モブ子がオフィスに入って来た。

 

「スカルさん!この前話していた耐放射線スーツが出来上がりました!」

 

嬉しそうにモブ子が両手で小さな赤ん坊サイズのライダースーツを広げる。

おおおお、早いな。

モブ子に渡されたスーツに着替えてみたけど、前のものと変わった点はあまりない。

少し伸縮性に優れてるなぁと思ったぐらいか。

 

「放射性への耐性の他、耐熱、耐寒、耐圧…様々な機能性に優れた現段階におけるカルカッサの技術を最大限に用いました」

 

モブ子すげぇぇぇえええ

膝を曲げて俺の目線に合わせているモブ子にお礼を言いたかったけど恥ずかしかったので頭を撫でてみた。

調子乗ってんじゃねぇよと思われないように、2秒くらい撫でて手を頭から離す。

結果モブ子が五体投地して、飛び起きたと思えば一目散にオフィスから出ていった。

何があったし。

え、嫌われて……ないよね?

周りのみんなも固まってるけど、何で。

落ち込んでると、遠くからモブ子らしき声の雄叫びに等しい絶叫が聞こえた。

叫ぶ程嫌だったのか、泣きたい。

帰ろうとした廊下の途中でモブ子に会ったけどそそくさと逃げられた、死にたい。

なに、俺って雑菌扱い?

つらぁ…

帰ったらポルポに慰めてもら……いや、中二言葉で言われても痛いだけだ。

会社を出て帰路に着く頃には夕陽が既に落ちるところだった。

ああ、視界がボヤケて夕陽が見えねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

ザンザスside

 

 

凍える冷たさの中、意識が浮上し、俺は8年という長い時を経て目を覚ました。

8年振りに見た部下の姿は大きく変わっていた。

面影はあるものの、目線が大分異なっていて、8年という時を改めて突き付けられる。

伸ばされたカス鮫の髪を見ては奴の立てた誓いと共にクソジジイが脳裏をちらつく。

それに苛立ち、気付けば手が出ていた。

自身を抑制するものは8年前のあの時に全て捨ててきた。

自らの手にあるのは憤怒のみ。

復讐を果たせと怒り狂った咆哮が脳内を反芻(はんすう)する。

今はまだことに及ぶ時期ではないと、やり場のない怒りを散らす為にアルコールを口にしたところで喉の渇きすら潤せず、満たされぬ何かがしこりとなって(わだかま)りを生む。

飲み過ぎたか…そう気付く頃には思考にフィルターが掛かっているようで、定まらない目線は目の前の酒の名柄を何度も右往左往する。

 

 

ああ、イラつく。

 

あの老いぼれも、カス鮫の伸びきった髪も、全てが、イラつく

 

 

浮き沈みを繰り返す意識の中、ざわりと、何か背中を這い寄って来る

 

黒い(もや)が視界を遮った

 

 

苛立った俺は右手で炎をまき散らしながらその黒い靄を蹴散らす

 

蹴散らした先には  

 

 

大きな 目が  二つ

 

こちらを見据えている

 

俺はそれを知っている

 

どこかで 見た 気が――――――

 

 

 

 

肌を切り裂き、肉を突き破り、骨を砕く殺気に内臓が浮遊したような感覚に陥り、俺は飛び起きた。

 

 

ふと、そこで気付く。

よく見れば先ほどの黒い靄も曖昧な景色もなく、あるのはテーブルと床に転がる酒瓶。

いつの間にか眠ってしまっていたのだと理解し、窓から差し込む日差しに眉を顰める。

体が重く気だるいのは、浴びるほど飲み干した酒のせいか、それともあの夢のせいか。

否、既に夢の内容はあやふやだ。

眉間を指で抑えていると、大きな音を立てて扉が開いた。

 

「う"ぉ"ぉおい、ボス!今日はマレ・ディアボラに襲撃する日だぜ!」

「るせぇ、カス」

 

視界に入る銀色に苛立ち、手元にある酒瓶を投げようとしたところ、カス鮫が目を丸くした。

 

「な"んだぁ、二日酔いか?ひでぇ面してらぁ」

「あ"?」

 

カス鮫の言葉に機嫌が急降下するのが分かるが、口から出かかる暴言を飲み込む。

ああ、イラつく。

全てが気に食わない。

 

目の前の銀色も あの二つの目も 平和ボケした老いぼれも 全部 全部

 

俺の苛立ちを助長させる

 

 

 

『ええ、ええ!お前はきっと10代目になるんだ!その身にはブラッド・オブ・ボンゴレが流れているのだから』

 

 

無意識に力んでしまった右手の中に納まっていたグラスが音を立てて割れる。

透明なアルコールが指先を伝うのを眺め、椅子から立ち上がった。

カス鮫の横を通り過ぎ、長い廊下を歩く。

 

 

全て ぶっ壊してやる

 

怒りのまま咆哮する声が 脳裏を反芻する

 

腹底から煮え滾るこの憤怒が まるで

 

 

 

俺の根源であるかのように

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁあぁ‼」

 

 

指先からの拒絶と共に体の中から血が逆流しているかのような痛みに襲われる。

ボンゴレリングは俺を拒んだ。

それは(ひとえ)に俺がボンゴレの血を受け継いでいないからだ。

頭では理解していても納得のいくものではなかった。

あのチビよりも俺の方がボスに相応しいハズなのに、何故、血に縛られねばならない!?

日本という平和ボケした国に生まれ、馬鹿馬鹿しいほど平穏な日常で育った、目の前のチビに何故俺が押しのけられるというのだ。

ふざけるな、ふざけるな!

軋む身体と、全身を駆け巡る激痛に声が喉を通らない。

 

「九代目は誰よりもお前を認めていたハズだよ…九代目は、お前を本当の子供のように」

 

カスの声が、ただただ不快で仕方なかった。

 

「気色の悪い無償の愛などクソの役にも立つか‼」

 

ああ 憎い 恨めしい

全部 全部 全部 全部 煩わしい

 

 

視界の端でリングが指から抜け落ち、地面に転がる。

別部隊を呼び寄せたが、カスに邪魔をされ結局俺は力尽きた。

カス共の勝利を宣言するチェルベッロの声がひどく遠い。

 

既に動ける体力は残っていない。

ボヤける視界に意識が遠のいていくのが分かる。

手放そうかと、瞼を閉じようとした時、小さな足音を拾った。

 

「ザンザス、おめーに聞きてーことがある」

 

アルコバレーノか…

カス側のアルコバレーノが直ぐ側まで来ていた。

 

「狂人スカルと会ったことがあるか?」

 

小言でもくれるかと思っていたが、予想に反して全く無関係の問いを投げかけれられた。

狂人スカル、裏の世界じゃ誰もが耳にしたことがある名前だ。

ボンゴレの情報網を駆使しても得られた情報は、奴がカルカッサの軍師であることのみ。

名前しか聞いたことのない男と、俺に何の関係性があるのか。

回らない頭で思考を手繰り寄せるが、一向に答えは見つからない。

 

「黒いヘルメットにレーシングスーツ、巨大なタコのようなバケモノを飼っている野郎だ、奴がゆりかごのことを知っていたからおめーと接触したのかと思っていたんだが――」

 

 

巨大なタコのようなバケモノ

 

 

その時、俺は思い出した。

 

暗闇に潜む蛇のような、鋭く (おぞ)ましい あの目を

脳裏を駆け巡り 縛り付け、支配する 殺気を

漠然とした すぐ目の前に佇む 死を 

 

この身の内から湧き上がるものは何だ

 

生への渇望か 死への恐怖か

 

それとも――――――

 

 

 

 

「う"お"お"ぁ"ぁぁぁあああああああっ」

 

雄叫びと共に体を巡る血が沸騰するような何かが沸き上がる。

力尽きたハズの悲鳴を上げる身体が、まるで炎に押し上げられるかのように引き摺り動く。

地面から弾き飛ばされるように立ち上がり、目の前の横たえるチビを見据えた。

疲労も痛みもなく、熱を持った身体とは間逆に頭は冷え切っている。

久しく感じなかったこの感覚を まるでそれが本来あるべきものであるかのような

 

 

 

ああ これが

 

真の憤怒だ

 

 

 

身体の中を暴れまわる炎を解き放とうと右手を広げる。

 

血液ごと流れ出るような今までにない感覚に襲われ

 

 

そこで俺の意識は弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リボーンside

 

 

『ボンゴレの時期後継者となるのは、沢田綱吉氏とその守護者六名です』

 

チェルベッロの宣言で漸く肩の力が抜けたような顔をした教え子に無意識に口角が上がる。

よくやったな、と言えばツナは安心したように気を失った。

そんなツナの次にザンザスの方へと視線を移す。

まだ僅かに意識があるザンザスの元へと足を向け、確認したかったことを問いただす。

 

「ザンザス、おめーに聞きてーことがある」

 

足元に横たわるザンザスの眉間に皺が寄り、閉じかけた瞼が震える。

既に意識を繋ぎとめるのも一苦労だろうと思い、単刀直入に聞く。

 

「狂人スカルと会ったことがあるか?」

 

マフィアランドでの奴の言葉に思うところがあり、九代目には一応報告していた。

だが九代目も、ゆりかごについて外に漏れた痕跡がないにも関わらず情報が筒抜けであることに唸っていた。

 

『もし、だ…九代目、情報がボンゴレから漏れたわけじゃなかったら…』

『…それはまさか』

『ゆりかごの一件に奴が絡んでいた可能性もなくはねぇんだ』

『確かにそうだが…ふむ、この件についてはこちらでも探ってみよう、報告ありがとうリボーン』

 

九代目との会話を思い出しながらザンザスに問いただすが、ザンザスにこれといった反応はない。

そういえばあいつは喋らねー奴だったなと思い出し、もしやザンザスはスカルの名前と姿が一致していないのではと思い至った。

 

「黒いヘルメットにレーシングスーツ、巨大なタコのようなバケモノを飼っている野郎だ、奴がゆりかごのことを知っていたからおめーと接触したのかと思っていたんだが――」

 

より詳しく奴の特徴をあげればザンザスの目が大きく見開いた。

明確な反応に、やはり奴と何かしら顔を合わせていると確信した俺がさらに問いただそうとした時だった。

ザンザスが雄叫びを上げながらいきなり立ち上がったのだ。

既に体力は使い切ったと油断していた俺は反応に遅れる。

ザンザスは先ほど体力が尽きて倒れていたとは思えないほどの威圧感で立っていた。

だが俺を驚かせたのは奴の状態だった。

 

何だ……この炎圧は…

 

まるで今までが何かに塞き止められていたと思える程の炎圧がザンザスを覆っていた。

ザンザスの瞳は今までとは明らかに違った。

まるで、ツナの零地点突破の時のような……

ザンザスが右手を倒れているツナへと向け、俺はそれが何を意味するか理解した瞬間レオンを変形させザンザスの右手へと標準を定めた。

引き金を引く瞬間と、ザンザスの右手から夥しい憤怒の炎が溢れ出た瞬間が重なる。

俺の弾丸がザンザスの右腕に当たり、ザンザスの右腕が大きく軌道を外す。

瞬間、暴風がその場を支配し、俺は吹き飛ばされた。

遅れて何か大きなものが崩壊する騒音と砂嵐、行き場を失った憤怒の炎が紛散したのが視界に入る。

 

「おい!皆無事か!?」

 

シャマルの声に数人が応える。

俺は体勢を立て直しすぐさま立ち込める砂埃を払い、ツナを探す。

少し離れた場所に獄寺を下敷きにしたツナが倒れていた。

どうやらあの一瞬で、獄寺がツナを庇ったらしい。

コロネロ、バジル、守護者達も目立った怪我はしておらず、瓦礫の破片で小さく切るくらいだった。

砂埃が収まり、視界が鮮明になると、俺は目を見開く。

 

「う…嘘、だろ…?」

 

その言葉は誰のものだったか。

だがその場にいる者全員がそう思ったのだ。

 

「校舎が……!」

 

そう、俺達の目の前には、校舎の残骸があるだけだった。

唯一原型を留めていたのが離れた場所にある体育館のみで、他はまさに全壊といっても差し支えないほどの惨状だ。

俺は我に返り、この現状の元凶であるザンザスへと視線を移せば、少し離れている場所で横たわっていた。

恐らく今度こそ意識を手放したのだろう。

先ほどの炎圧を、あのボロボロの身体から絞り出したのだ、奴も唯じゃすまないハズだ。

いや下手したら生命エネルギーの枯渇で死ぬかもしれないのだ。

ザンザスの元にベルフェゴール、レヴィ、マーモンが駆け寄り様子を見ている。

 

「あいつ、まだこんだけの力を隠してたのか!?コラ!」

「ちげぇ……」

「っ、リボーン!どういうことだ!」

 

コロネロの焦った言葉に俺は否定する。

確かにザンザスの体力は尽きていた、それは確かだ。

だが俺の問いに目を見開いたザンザスの様子が一変し、そこから明らかに異様だった。

奴の目は今までのそれとはまるで異なっていた。

 

「まさか……」

 

まるで栓が外れたような奴の様子、今迄とは全く異なる炎圧。

何よりもあの目だ。

冷ややかでいて、熱を持った、射抜くような眼光。

 

「厄介なもんを目覚めさせちまったってことか……」

 

 

だが、何故今になって…?

スカルが何か関係してしていることは間違いないハズだ。

いよいよスカルがザンザスを(けしか)けた可能性が否定できなくなってきたな。

九代目の意識が回復次第報告しなくちゃいけねぇ案件だ。

それに、ザンザスにも聞かねーと…

ま、それは俺のやることじゃねーけどな。

視界の端では獄寺と山本が、校舎を全壊させられ怒りのあまり暴れる寸前の雲雀を押さえつけているのが見える。

ツナがボンゴレリングの継承を勝ち取ったことは喜ばしいことだ。

だが今回もリング争奪戦もそうだが、8年前のゆりかごも何か裏がある気がしてならねぇ。

ただの考えすぎかと思うには、不可解なことが多すぎた。

俺は騒がしい奴等の元へと歩き出しながら、ハットを深く被る。

 

 

チッ、あいつの影がチラついて喜ぶ気になれねー

 

 

 




スカル:知らないところでゆりかごの首謀者疑惑を立てられていることに気が付いていない、モスカを見ては完全にガン〇ムとかを想像している、社長の思惑が分からず困惑中。

モブ子:憧れであり崇拝すべきスカルに頭を撫でられて頭から地面に衝突した、自分のオフィスに戻るとあまりの喜びと尊さでゴリラのような雄叫びをあげたことから仲間内で暫くの間ゴリラ・ゴリラ・ゴリラと呼ばれる。

ザンザス:意外や意外、若干ポルポが無意識化のトラウマっぽい、仕方ないね。ツナにとっての死ぬ気の零地点突破のような状態に辿り着いた。

リボーン:ザンザスのトラウマスイッチ(覚醒ver)を押してしまった、スカル首謀者疑惑浮上中。


やっと!未来編!行くよー!



ps:メリークリスマス!


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未来編
skullの覚悟


俺は運命を感じた。


マフィアランドでのリボーンとの会遇から数年、俺は未だカルカッサにいる。

ポルポに道徳を教えることに諦めを覚え始めたこの頃…

 

「スカルさん…これを、私の努力の結晶です!」

 

モブ子が俺に真剣な眼差しで渡してきたのは、ゴツイ紫色の指輪。

え、これいわゆるプロポー…

 

「カルカッサリングです!既に幹部数名には渡していたんですが、スカルさんのリングを作成するまでに時間を掛けてしまって…先日漸く完成したんです」

 

アッハイ。

秘密裏に指輪作ってて、ついで感覚で俺が最後に渡された、と。

にしても何で指輪?

それもこんなゴツイやつ……

どこかの冒険者が女神やNPCから貰うようなファンタジーな柄をしている。

ポケットに入れようとしたらモブ子の視線に気付いた。

俺が指に嵌めるのを待っているかのような待望の眼差しに口元が引き攣る。

俺にこの中二病っぽいリングをつけろと?

え、マジで?

もう少しコンパクトでシンプルを所望したい。

指輪を見て、モブ子を見て、再び指輪を見る。

なんたる羞恥プレイ………

ぼくのかんがえたさいきょうのそうび!を体現したかのような指輪を嵌めるにも覚悟が必要だろ、コレ。

羞恥に耐え決死の思いで指輪を中指に嵌めてみた。

グローブしているにも関わらずジャストフィットした。

するといきなり指輪から紫色の炎が出て、俺は一瞬頭の中が真白になる。

すぐさま指輪を外そうとしてふと気付く。

全く熱くない……っていうか熱気さえない。

あ、そういえばこのグローブ、スーツ同様に耐熱性だった。

 

「流石スカルさん!いきなり炎を灯せるなんて!」

 

モブ子の様子からして、この指輪に何か仕掛けられてるんだろうなと分かった。

だがしかしどれだけ見つめても、ただの指輪である。

一体どこに発火する要素があったのか。

俺は科学方面に全く知識がないので、科学技術が進歩したのかという程度にしか思わなかった。

正直この世界の科学技術の発展は凄まじい。

スマホが開発されたかと思えばホログラム技術が直ぐに到来してきた。

前世と今世が同じ世界線だと思っていたが、もしかして違う可能性もあるのだろうか。

並行世界という単語が浮上したが、これ以上何かを知りたいというわけでもないので頭の片隅に追いやる。

 

(ヴィオーラ)…雲属性ですね」

 

ん?色で何か名称でもあるのかな?

設定凝ってるところがこれまた痛いが、聞かなかったことにしよう。

モブ子が何やらカルテらしきものにペンを走らせて、書き終わったかと思えば喋り始める。

 

「それとスカルさんの(ボックス)兵器ですが…試験体を数体用意したので選んでもらってもいいですか?」

 

ボックス兵器?何それ。

何が何だか分からずモブ子の後をついていけば、数本の大きな水槽が並ぶ研究室に辿り着く。

いつこんな施設作ったんだ。

ラベルに属性・名称が書かれて水槽の下の方に貼られている。

水槽の中には色々な生物がいて、ライオンを見た時本気でビビった。

 

「スカルさんは雲属性なので、増殖、絶対的遮断力の性質を帯びている匣兵器がいいかと」

 

痛い痛い痛い痛い、誰かぁ!絆創膏もってきてェェ‼できるだけ大きな人一人包み込めるくらいの‼

目の前をモブ子が直視出来なくなったが、視線を逸らしながら水槽を眺める。

ふと、奥の水槽のつぶらな瞳と目が合う。

 

 

目と目が逢う~

 

 

 

俺の視線は一点に釘付けとなった。

モブ子の説明を無視して、そのつぶらな瞳へと足を進めると、漸く全体像を捉えることが出来た。

それは、プックリとした小さな身体、触れば刺さりそうなトゲ、なによりもそのつぶらな瞳。

モブ子が後ろから追いついてきて、息を飲んだ音が聞こえた。

 

雲毒針魚(ヴェレーノ・アーゴ・ペーシェ)、フグとハリセンボンの交配種…………ですね、その匣兵器に目を付けるとはやはりスカルさんは素晴らしい」

 

フグ…可愛い……

なにこいつ、可愛い。

ポルポの友人になってくれればなお良し。

 

「では今すぐ匣に入れますのでリングとの接続、相性を確認してください」

 

モブ子が何やらフグのいる水槽の隣のモニターに指を置いて操作している。

するとフグが一瞬で水槽から消える。

俺は目を見開いてモブ子に視線を移せば、モブ子の手には小さな手のひらサイズの箱があった。

 

「どうぞ、炎を注入してみてください」

 

モブ子から渡された箱をまじまじとみれば、先ほど貰った指輪の表面が入る穴があることに気付く。

この穴は何だろうと思ったが、モブ子の言葉からして先ほど発火した炎をこの穴に突っ込めばいいのかな?

っていうかどうやって炎出すの。

……なんか俺の思考回路が段々と厨二になっていってるような気が……

アイタタタタタ、痛い、心が痛い。

指輪と箱、技術の進んだ研究室……そういう思考が蘇りそうだが、年齢的にアウトだ。

羞恥に耐えてると再び指輪が発火した。

一体何をしたら発火するのか分からないが、取り合えず箱にある穴に炎を入れてみた。

すると目の前で有り得ない…というか常識を凌駕する光景が広がった。

 

箱が開口されたかと思えば中からフグが出てきたのだ。

紫色の炎に包まれて現れた、つぶらな瞳をしたフグに俺は目を見開く。

フグは辺りを飛び回ると俺の目の前の宙を浮遊する。

俺の周りを一周すれば膨らませていた身体が萎み始める。

 

「威嚇を解いた証拠です、スカルさんを主と認識したようですね」

 

モブ子の言葉に納得し、手を伸ばせばフグが指先を齧り始める。

グローブ越しで噛まれている感覚は鈍いが、まるでじゃれているような様子に和む俺氏。

なにコイツ可愛い。

にしてもどうやって箱にこのサイズの生き物を閉じ込めていたんだろうか。

生物を生命活動を維持させたまま分子レベルに分解する技術でもあるのかな。

俺には分からないけれど今の科学技術はヤバイってことだな、うん。

モブ子曰くコイツはこれといって餌を与える必要はないらしい。

なるほど、これからの時代こういうのがペットになるのか。

まだ試作段階って言ってるから、一般公開はもう少し先だろう。

フグを貰ってご機嫌な俺は帰り道、フグを出しながら帰路に着いた。

 

「主、その横にいる小物は何奴か」

 

ポルポが物凄い眼力でフグを睨んでる件について。

やべぇよ、めっちゃフグ睨んでる。

え、フグ嫌いだった?

フグが怯えてらっしゃる。

 

「………貰った」

「そこな弱者にそなたは守ることすら出来ぬ」

 

ポルポの言葉にフグは怒ったような、でも怯えたような態度で抗議し始める。

三割増しで睨んできたポルポに白旗を上げたフグが可哀そうになり二匹の間に割って入った。

 

「ポルポ、そこまでにしてやれ…」

「……そなたが側に置くに値すると判断したならば、それに従おう」

 

静かにそう言ったポルポはフグから目線を外し、その場を離れる。

やきもちでも焼いたのかな?

ポルポからフグへと視線を移せば、かなり震えているフグがそこにいて、俺はあることに気付く。

名前決めてない……

 

「お前の名前…何にしようか………」

 

つぶらな瞳を覗き込みながら考え込む。

 

「よし、決めた」

 

お前の名前は

 

 

「フグ男、フグ男だ」

 

それが名前であると理解したのか嬉しそうに宙を飛び回るフグに和む。

何故魚類が空中を浮遊しているのかという疑問は、癒しに駆逐された。

その後、紫の炎が消えたと思えば箱の中に戻ってしまったフグ男をもう一度出そうとしてみたがポルポの視線が痛くてやめた。

何故かポルポの機嫌が悪いので、一緒にいさせないほうが良いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

フグ男とポルポが喧嘩をし始めて数年、今のところポルポの全勝であるこの頃…

 

 

 

「やぁ初めましてかな、君に興味があってね…一度話したいと思ってたんだ♪」

 

買い物途中、ペド野郎に出くわした件について。

 

おまわりさん、こっちです。

 

 

 

俺の目の前には白いウニみたいな頭してて、目の下にタトゥーを入れてるヒャッハー系の若者がいるわけだが、赤ちゃんの姿をしている俺に向かって聞き捨てならぬ言葉を言い放った。

まさにペド野郎。

おまわりさーん、ここに不審者いるよー

 

「トゥリニテッセを覚醒させる為にはアルコバレーノのおしゃぶりが必要でね、君のおしゃぶりも必要なんだけど、それよりも君自身に何か見出すものがありそうな予感がするんだ」

 

トゥリニテッセが何か知らんけど、おしゃぶりが欲しいだなんてコイツ相当の上級者と見た。

バブみを欲するあまりおしゃぶりを求めて、ついには赤ちゃんにまで目を付けてしまったペド野郎に救いはない。

これは通報案件ですわ。

 

「君は最後って決めてるからそんな警戒しないで欲しいな♪」

 

言動がとても不審者なこのペド野郎、まさに幼女に飴ちゃんあげるからついてきてーを実行しているつもりなんだろうなぁ。

俺の中身が大人であることなど知らずに。

バイクで逃げようと思い至り、ポケットの中にある鍵を確認する為右手を動かそうとしたらペド野郎が両手を上にあげて、降参のポーズをとってきた。

 

「待ってよ、僕君とお話したいだけで傷つける気なんてこれっぽっちもないよ?だからそれ、仕舞ってくれない?」

 

俺のポケットの中身まで把握されてた、何それ怖い。

俺の隙を伺っているのか始終ニコニコニコニコ、逆に気味悪いわ。

 

「ああ、僕は白蘭っていうんだ」

 

白いに(あららぎ)と書いて白蘭、と紹介してくるが、お前の様なアジア人がいてたまるかと思った。

取り合えず逃げよう。

一気に駆け出そうとした瞬間、女性の叫び声が聞こえた。

 

「キャー!ひったくりー!」

 

ひったくり犯らしき男が俺とペド野郎の間に割り込むように入ってきたことをいいように、俺はペド野郎の死角から逃げた。

駐車場に停めていたバイクに跨り一目散にスーパーを出て帰宅する。

もう不審者に会いたくないので、あの近辺にはいかないようにしよう。

 

 

 

 

 

あれから数か月、モブ子が興奮して俺を研究室に招いた。

何ごとかと思えば、研究室にあるのは大きな装置と、黒いレーシングスーツ。

新しい性能のレーシングスーツなのかと思えば、サイズが今までとは異なっていた。

大人サイズなので俺用のスーツではないと一目瞭然だった。

はて、何をするつもりなのだろうか。

 

「スカルさん!これが我がカルカッサの技術開発力の最先端を駆使した装置です!」

 

そう言ったモブ子が取り出したのはボタン。

そして俺の背中をぐいぐいと押して大きな装置についている照明の下に立たせる。

いつものおかしな研究だろうなと諦め半分だった俺にモブ子言い放った。

 

「百聞は一見に如かず、ですよ!」

 

その言葉に首を傾げようとしたその時、モブ子がボタンを押して照明が明るくなる。

俺は眩しさにヘルメット越しに目を細めた。

すると景色が少しづつ変わるのが分かる。

 

あれ……皆が小さく、なって………

いや、これは…

 

巨大化光線(グロッサ・ラッジョ)です!」

 

モブ子の言葉で、漸く俺は理解した。

俺の身体が大きくなったのだ、と。

モブ子の興奮も、俺の驚愕も、取り合えず横に置いといて……

一つ、いいですか。

 

 

これどこのビッグライ〇ぉぉぉぉぉぉおおおお!?

 

 

心の底でそう叫んだ。

 

落ち着くまで数分を要したが、無事冷静になりなんとかモブ子の説明を聞いていた。

曰く、呪いの手がかりが一向に見つからなかったので強硬手段に出てしまっただとか。

曰く、呪い解けずとも体を元にすれば万事解決だと思ってしまっただとか。

問いただしたいことはいくつかあるけど、俺が絶望する事態であることに変わりはなかったとだけ明記しておこう。

要らぬ世話をぉぉお!

YESニートNO社畜がモットーな俺には完全に迷惑以外のなにものでもない。

ていうか大人用のバイクとか何年も触ってないから錆びてるぞ絶対。

 

「取り合えず身体検査しますね」

 

笑顔なモブ子にギリイしながら色々検査して分かったことといえば、身体能力が赤ちゃんの時のままってことぐらいだった。

大きくなっても意味ないじゃん。

どっちかっていうとマイナス面のがでかいじゃんコレ。

見た目が大きくなっただけで中身はそのままとかなにそれ辛い。

まさかこんな弊害が…って様子を醸し出して落ち込んでるモブ子には悪いけど、赤ちゃんの姿に戻して欲しい。

改良頑張りますと張り切っているモブ子を他所に別の人に姿を戻してもらった。

あまり頑張らないで欲しいが…

 

 

 

 

 

 

あれから数週間後、家の中でぐーたらしているとポルポとフグ男が喧嘩し始めた。

喧嘩…というかまぁじゃれ合いだろうなと思っているので仲裁はしない。

ポルポが放つ墨が床を溶かしたり、庭の雑草を枯れさせたりするけどもう慣れっこだ。

フグ男も中々多芸のようで、表面のトゲを発射したりする。

トゲの数が底をついたりしないのだろうかという疑問は発射と同時に生えてくるトゲを見て解決した。

びっくりアニマルに驚かなくなった最近、珍しく驚いたことと言えば指輪から出る炎に直接触れても熱くないと気付いたことだろうか。

紫色だから、赤色の炎よりも熱くないのかな?と自己完結した次第である。

 

 

 

 

 

 

「ミルフィオーレファミリーの勢力が日に日に拡大していく今、我らカルカッサはボンゴレと不可侵を締結した」

 

社長から呼び出されたと思ったら、なにやら真剣な顔でそう言われた。

ミルフィオーレ………ああ、最近皆が噂している企業か。

どんな企業か知らないけど相当脅威であることだけは分かった。

ボンゴレと争ってる場合じゃねぇってなるほどヤバイんだろうな。

にしてもその…なんだっけ……ミルフィーユファミリーはどんな企業なんだろうか、少し気になる。

 

と思っていた数か月後、再び社長に呼び出された俺氏。

 

「ミルフィオーレの勢いは増すばかりだ……既にアルコバレーノはスカル、君のみだ」

 

これまた深刻そうな顔をしている社長がいた。

アルコバレーノ……とは。

 

「ミルフィオーレのボスがアルコバレーノを狙っているのは周知の事実、君にはここイタリアから遠く離れた日本へ避難して欲しい……」

 

あ、そういうことね。

異動願い出されてるってことね、ハイ。

でも異動先日本って…まぁ逆に嬉しいかも?

俺の知ってる日本とは別物になってそうで少し気になる。

 

「すぐに向かってくれ、カルカッサ日本支部には既に言い伝えている」

 

とのことで、俺は日本へ向かうことになった。

飛行機の手続き以前にパスポートすら持っていたなかった俺は、社長の自家用ジェットに乗って日本に行くことに。

ポルポとフグ男も連れて日本に着いた。

 

さてと、まずは秋葉原行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルカッサファミリーボスside

 

 

ほんの少し前から頭角を現していたミルフィオーレファミリーがついに行動に移ったのがつい最近だった。

ボンゴレ重役を片っ端から殺していき、今やボンゴレは壊滅状態へと追いやられている。

つい先日、ボンゴレボスである10代目、沢田綱吉が暗殺されたという情報を手に入れ、ボンゴレもここまでかと悟った。

だが、ボンゴレが消えるのはそう遠くない未来であるという事実に楽観視出来るほど私は軽い頭をしていなかった。

私はすぐさまボンゴレと不可侵を確約し、ミルフィオーレの魔の手から避け続けた。

ミルフィオーレのボスである白蘭がアルコバレーノの命を狙っていることは知っている。

そして奴が、ノントリニテッセというアルコバレーノに有害な物質を大気中に放ったことも。

幸い、カルカッサの技術開発班が数年前に発見したノントリニテッセ物質から作り上げた、耐ノントリニテッセスーツがあったお陰でスカルは今もなお生き永らえている。

スカルはカルカッサの象徴だ。

なんとしてでも生き延びて欲しい。

それが、カルカッサの繁栄に繋がるのだから。

つい先日、イタリアでミルフィオーレが動き出すという情報を掴んだ。

恐らくボンゴレを殲滅させる大規模な作戦を実行する気だろう。

だがボンゴレも最後の砦である最強暗殺部隊ヴァリアーがいる、そう易々と潰されないことくらい分かっている。

万一のことを考えてスカルを日本支部へと避難させようと思い至った。

あちらはミルフィオーレの大きな戦力が固まっているものの、周りへの捜索範囲は限りなく狭い。

ヨーロッパ圏内は既にミルフィオーレの捜索範囲内だ。

灯台下暗しとは確か日本のことわざだっただろうか、まさにそれだと言わんばかりに私はスカルを日本へと向かわせる。

少しでも奴らの目を欺くために…

自らに迫る死期を感じながら、私は目を細める。

 

 

 

 

我らが狂気を

 

 

ここで絶やしてはならない

 

 

 

 

 




スカル:目と目が合う~をリアル体験、雲属性、羞恥から来る覚悟()で死ぬ気の炎を灯した、ポルポとフグ男がよく喧嘩するのをのほほんと見ている、フグ男を撫でると指が痺れることに首を傾げているこの頃。

フグ男:セコム2、|毒針魚《ヴェレーノ・ペーシェ・パッラ・イステリチェ》、フグとハリセンボンの雑種、スカルの発音がよく聞き取れず自分の名前をフーゴだと思っている、ポルポにビビっていたが今では良き師匠、勿論有毒なテトロドトキシンを含んでいるので超危険生物。

ポルポ:セコム1、スカルがいきなりつれてきたフグ男に警戒心Maxだったものの一緒に過ごすうちにスカル絶対主義を擦り込むことにした、多分毒性はコイツの方がヤバイ。

白蘭:スカルをロックオン

モブ子:ビックラ〇トを開発した、今後改良の余地あり

カルカッサボス:暗君でもなければ賢君でもない、スカルを日本へと向かわせた


時間軸は、イタリア殲滅戦だっけ…あの少し前だから、丁度主人公勢が未来に飛ばされたころ。
フグ男に関して、悩んだ末リング普及される時代だからやっぱり匣兵器の一つくらい支給されるよなと思って新たなセコムとして登場させました。
毒を持っているので殺傷能力はクソ高いです。
たまたまフグ食べてて思いつきました。


㎰:あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。

【挿絵表示】




※リアルが忙しすぎて本分内容を変更するのが遅くなりました。
設定の変更内容:フグ男はハリセンボンとフグの雑種

こっちに詳しい知り合いに聞いてみればフグにもトゲのある種類がいるようなのですが、正直フグとハリセンボンの違いもあまり分かっていない私からしたら特徴的にどっちにも見当するからどっちでもいいやという認識です。

ただどっちもフグ目な上に、名前にフグ男って付けちゃってるんで今後も表記はフグにします。


生物系は本当に一般知識すらないので、今後もこういった投稿後の設定変更はあると思いますが何卒ご了承ください。



知識が偏ってるのも反省してます。
ご指摘ありがとうございます!








軽い事前調査で出た検索結果に対して…………Google先生ェ


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skullの約束

俺は辛かった


日本に来て大体一週間が経った。

社長から支給されたホテルを利用して、支部を行き来している。

やっぱりというか、俺の知っている日本とは少し違うようだ。

まず並盛や黒曜という聞いたことのない地名があった。

あと並盛という町に至っては警察の権力はほぼなくて、あるのは並盛風紀財団という組織勢力だけ。

中々物騒だなと思い、街中を歩けば溢れる溢れるリーゼント集団。

一体どうなってんだこの街。

取り合えず日本にいてもやることはあまり変わらず、ただ部下から貰う資料に目を通して判子を押す作業をするだけ。

たまにイタリアからスカイプでモブ子やモブABCDが連絡してくる。

モブ子はあの後ビックライ〇の改良に取り組んだが挫折したらしい。

今の技術では到底無理だったと悟ったとかなんとか、まぁ俺が安心したことに変わりはない。

ただ、まさかあんな発想になるとは思わなかっただけで……

 

『スカルさん!これ身体能力増強スーツです!日本に送ったので是非とも使って下さい!』

 

これで実質元の身体に戻ったも同然です、と後付けしてくるモブ子を殴りたくなった。

身体がでかくなっても身体能力は赤ちゃんのままなら、赤ちゃんのままの身体能力をあげればいいんだという発想に、どうしてそうなったとツッコみたい。

要らぬ世話をぉぉぉおお!

どれほど巨大化が維持できるのかを実験する為に、何回かに分けてあの光を浴びさせられる俺氏。

まだスーツは改良中で出来るのは一週間後くらいらしい。

 

 

日本へ来て数日経つが、何やら同僚達が騒がしい。

近くにいた人の会話に聞き耳を立てていたら、ボンゴレがミルフィーユに乗り込んだっていう単語だけ聞き取れた。

あれ?ミルフィーユって確か社長の言ってた警戒してる企業で、ボンゴレは一時停戦中の企業だよな。

なるほどボンゴレと停戦するまで三つ巴だったのか。

同僚の話を聞くからしてボンゴレとミルフィーユが本格的に商売競争始めたってことだな。

これからどうなっていくのやら………

ああ、早くホテルに帰ってフグ男とポルポに会いたい。

 

 

あれから数日、今日は仕事もないので外に出て観光しようと思う。

俺の知っている日本ではないことは明らかになった今、並盛という町に興味がある。

一体どんな町なのか、そして俺の記憶にある日本とどう違うのか。

というわけで外出してみた。

ポルポ連れて歩くと目立つから一人で出てきたんだが、正直観光スポットなんてただの町にあるわけもなく、ふらふらとそこらへんを歩いていた。

図書館に行ってみて日本の歴史について調べてみたところ、概ね同じものだったけどやっぱり別の事柄も史実として記されていた。

やっぱり少し変わってるところがあるんだと思いながら再び外に出る。

商店街、住宅街、色々見回っても俺の記憶にある街並みと大差なくて、正直世界線が違う実感がなかった。

いやもしかしたら俺の前世という記憶自体が妄想だったのかもしれない。

でも訪れたことのない日本という国の言語も風習も知っているのはやっぱりおかしいから、前世は確かにあったんだろう。

ダメだ、これ以上考えたって頭が良いわけでもない俺に理解出来ることなんてないし、ここらで切り替えた方がいい。

にしても視界の端で度々ちらつくリーゼントが気になってしょうがないんですけど。

腕章に風紀って書かれてるけど、どう見ても風紀を気にしてる風貌ではない。

リーゼントを意図的に視界から排除しながら歩いていると、川岸で女性とぶつかってしまった。

全く前を見ていなかったから、ぶつかった俺は尻もちをついてしまい、ぶつかった女性も転んだ俺に慌てていた。

 

「ご、ごめんね!大丈夫!?痛いところはない!?」

 

まだまだ成長途中の高い声に視線を上げれば女性の顔が見え、まだ中学生くらいの少女であることに気付く。

 

「本当にごめんね、あれ?僕、お母さんかお父さんと一緒じゃないの?」

 

どうやら一人で歩いている俺を不思議に思ったのか首を傾げて質問してくる。

確かに赤ちゃんが一人で歩いてるのもおかしな話だよな。

だがしかし何て言えばいいのか分からず、無言を貫いていたら何かを察したような顔をした少女が俺を抱き上げた。

 

「きっと迷子なのね……大丈夫だよ、私がちゃんとお家まで送ってあげるからね」

 

あれ?デジャヴ………

何を勘違いしたのか少女は俺を抱えて落ち着いて話せる場所に連れて行こうとしたのか場所を移し出す。

 

「私は笹川京子、君の名前は?」

…………………スカル

 

ベンチまで移動して座る俺に名前を聞いて来たので取り合えず答える。

 

「スカル君か、カッコいい名前だね!近くに住んでるの?」

迷子……違う…

「え?」

 

どうにか振り絞って出した言葉に笹川さんは目を見開いている。

俺としては結構勇気を振り絞ったのでもうそのまま放っておいて欲しいところである。

 

「そっか、でも一人じゃ危ないからお姉さんが家まで一緒についていってあげるね」

 

現実は非情なり。

ちくせう、体がこんなんじゃなけりゃ……

いやだがこの身体はこの身体で色々と恩恵があるからそのままでいい。

笹川さんはどうやら赤ちゃんの俺を逃がすつもりはないらしく、これは手強いと思った。

どうやってこの少女から離れることが出来るだろうかと考えていれば、笹川さんが質問を続けてくる。

 

「スカル君、どうして一人でこんなところにいるの?お母さんやお父さんは?」

 

ぐいぐい聞いてくるなー。

こちとら早くこの場から抜け出したいのに。

 

………いない

 

少しぶっきらぼうに答えたら目の前の笹川さんは一瞬固まった後、頭を撫でてきた。

何でだ、やめろ恥ずかしい。

 

「じゃあお友達と一緒に?」

 

コイツ、分かってて質問してないよな?

俺に友達なんて高尚な関係を持つ人いるわけないだろう。

 

いない

 

多分俺今血涙流してるわ。

で、でも一応フレンドはいるもん!…………画面の向こうに。

あれ?何だか胸が痛くなってきた。

 

「じゃあ私がスカル君の友達一号だね!」

 

何気ない気遣いがくそ痛い。

心に突き刺さる。

あれだ、無垢な幼児に「おじさん何でいつも一人なの?お友達いないの?」って純粋な眼で質問されるのと同ダメージだ。

俺は今あくまでも赤ちゃんであって、この子は本気で純粋に俺を気遣ってくれてるんだろうけど、心に多大なダメージを負った。

周りに誰もいなかったら五体投地してた。

 

友達………

 

なんかもう虚しくて、脳裏を反芻(はんすう)していた言葉がポロリと口から零れる。

 

「そうお友達、だからスカル君は一人じゃないよ」

 

ダメだ、こんな年下にそんなこと言われたらマジで立ち直れない。

不甲斐ない自分があまりにも情けなさ過ぎて川に身を投げ出したい。

………ポルポが直ぐに駆け付けてくれそうだけど。

そんなこと考えていたら笹川さんの付けていた腕時計の3時を指す針が目に入る。

もうそんな時間か、そろそろ帰ろうかな。

 

帰る

「じゃあ手を繋いで…」

一人で、帰れる

 

これじゃ意地になってる子供のようじゃないか。

いや見た目は子供だけど。

ああ、やめて、その微笑ましいものを見るかのような純粋な眼で俺を見るのはやめろぉぉおおお。

その視線から逃げようとベンチを降りようとしたら、遠くから京子ちゃん!と誰かがこの少女の名前を呼んでいるのが聞こえた。

視線をそこへ向ければ、いつぞや会ったことがある気がする少年がこちらへと走って来てた。

はて、どこで会ったのやら。

茶色のツンツン頭に、洒落たヘッドフォン、いかにも中学生ですという風貌に過去の記憶が蘇る。

 

あ、コイツ10年くらい前のマフィアランドで会ったリボーンの隣にいた少年だ。

 

そう思い至ったと同時に少年が俺を視界に捉えたのか目を見開いて顔を青くする。

待て、お前何でそんな老けてないん?

あれ10年前ぞ?

 

「ス、スカル!?何でこんなところに!?」

 

少年は身体をわなわなと震わせ、まさに絶望といったような表情をしていた。

怯え方が尋常じゃないんですが、リボーンはこの少年に一体何を吹き込んだのか。

小一時間程問い詰めたいが、豆腐メンタルの俺にリボーンを問い詰める度胸はない。

笹川さんがキョトンとして俺と少年を見比べて、疑問を口にする。

 

「ツナ君、スカル君と知り合い?」

「え!?えっと、あの、その……いや、ソイツ……」

 

しどろもどろになる少年は、少女の問いに応えられず怯えたように、だけど睨みつけるかのように俺を見ている。

俺が何をしたというんだ。

でも確かに俺とこの少年の関係は、ただの擦れ違い…とは言い難い、のか?

昔遊園地で俺のポルポにフルボッコにされたから怯えてるのかな。

あれは悪いことをしたと思っているが、怯えすぎだろ。

 

えええ、でも、何で、どうしよう……助けてリボーン…

 

何やらぶつぶつと独り言を喋っている少年だが、最後の一言は見逃せない。

あの外道を呼び出そうものなら、お前を痛車のボンネットに括りつけて町中を走ってやる。

勿論法定速度を守りながら、だ。

取り合えずリボーン呼ばれても困るので、この場は離れた方が良さそうだ。

無言で二人から離れようとすると、少女に名前を呼ばれる。

 

「スカル君、ちゃんと家まで帰るんだよ?大丈夫?」

 

「一人で帰れるもん!」と内心反論して、これはない、と自己嫌悪に陥った。

おっさんが子供のように振る舞うことがどれほど辛いことか…、いや俺はしてないけど。

これじゃ某探偵漫画の、真実はいつも一つと宣う少年はさぞかし辛かっただろうに。

俺じゃ絶対にあれれ~?なんて出来ない。

ってそんなこと思ってないで帰ろう。

 

「あ、スカル君…寄り道しないで直ぐに帰るって約束、ね?」

 

小指を差し出す少女に首を傾げる。

俺がその意図を理解していないと気付いたのか、クスリと笑う少女と、それをあわあわと顔を青ざめながら見ている少年。

 

「指きりげんまんっていってね、約束ごとをするときに使うんだよ」

 

笑顔でそう言った少女に、漸くその小指の意味を理解する。

そういえばそんなもんあったな。

確か、指きりげんまん嘘ついたら…何だっけ。

取り合えず自分の小指と相手の小指を見比べて、漸く小指を差し出す。

それに満足げに分らう少女が小指を絡め、言葉を口にする。

 

「指きりげんまん 嘘ついたら 針千本呑ーます」

 

指切った、という言葉と共に離れる小指を見ながら、俺が思ったことを一言。

 

針千本呑ますとか…なにそれ怖い…

 

「気を付けて帰ってね」

 

少女の笑顔がめっちゃ怖くなって俺は早足でその場を去った。

 

 

 

 

「ただいま」

「主、帰られたか」

 

ホテルに帰ればポルポとフグ男がまた喧嘩をしていた。

そんなポルポの空いている足を枕替わりにして寝転べば、その足だけ動かさずに他の足でフグ男の相手をし出すポルポが俺に話しかけてくる。

 

「主はこの国が安全だと言っていたな」

「…ああ、ここは戦争自体憲法で放棄している国だからイタリアよりも安全だと思う」

 

この世界が第二次世界大戦があったことは先ほど図書館で確認したから確かだ。

 

「比較的、というだけで安全圏ではないようだ…そなたはあまり外に出られるな」

「…そうだな、もう外出は控えるよ」

 

またあんな少女と出くわすのも嫌だし。

小指を見て先ほどの、針千本呑ます、という言葉が脳裏を駆け巡り身震いする。

 

「何かあったか?」

「いや……なんでも」

 

どうせこの日本支部への移動も数か月しかないのだ。

イタリアに戻ればあの少女と会うこともないな。

あ、フグ男がポルポに吹き飛ばされた衝撃で箱に戻った。

箱がガタガタと揺れるのは多分フグ男が外に出たいと思ってるからだろうか。

 

また炎灯すのもだるいと思い、俺はそのままポルポの足を枕にして昼寝しようと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

 

「ハル達は家事もしませんし」

「共同生活もボイコットします!」

 

ミルフィオーレ基地へ乗り込み、敵だと思っていた入江正一が味方だったことが分かった俺達は次の戦いへと準備を進めようとしていた時だった。

いつまで経っても最低限の現状だけ教えていたハルと京子ちゃんがボイコット宣言をしてきた。

京子ちゃんのお兄さんが説得しようとしたが敢え無く失敗して、彼女達は女性陣をボイコット派に付けて共同生活を拒否し始める。

俺は何でこんなタイミングで…って最初は頭を抱えたけど、彼女達の言い分も分かるから余計悩んだ。

いきなり未来に飛ばされて、事情も最低限しか教えてもらえず、ただ協力してくれって家事頼まれて……そりゃ我慢の限界ってものがあるかなって。

何よりも彼女たちにここまで行動に出すほど不安にさせてたのは俺達だ。

何も教えないよりも、理解を得る方がいいかもしれないって案も出たけれど、獄寺君達は教えない方がいいって言うし、正直俺も出来るなら教えたくない。

彼女達を巻き込みたくないし、怖い思いをさせたくない。

女性陣の考えを把握できるクロームやビアンキ、リボーンまでもがあちら側についてしまっている今、俺達に一体何ができるんだろう。

取り合えず俺達も彼女達には教えない方向へと決まり、彼女達が折れるのを待とうという話に落ち着いた。

まあそれからが苦難の相次ぎだったんだけど。

まず家事そのものが出来ない男たちで何ができるかって言われると何も出来ないわけで…料理も掃除も洗濯も、何も出来ずに疲労だけが溜まっていくばかりだった。

皆修行が上手くいかずストレスも溜まってるのに…こんなんじゃ白蘭に勝つどころか空腹で戦うことすら出来ない。

修行が滞ってる現状を打破したい気持ちと、大切な人を巻き込みたくない気持ちと、そんな今も彼女達を不安にさせている気持ちが()い交ぜになって、ああ…俺はやっぱりダメツナだなって思うんだ。

一体いつまでこんな状況が続くんだろう…って漠然とした不安に襲われるけど、ただ時間は過ぎてくばかりで虚しさだけが心に(わだかま)りを残していく。

 

 

そんなことばかり思い詰めてた時だった。

ビアンキが焦った様子で俺を呼び止め、京子ちゃんがアジトを抜け出したことを伝えられる。

俺は驚きながらもアジトを出て、京子ちゃんを探しに外へと出る。

何も教えてくれない、こんなところにいられない…か。

走りながら、ビアンキが教えてくれた京子ちゃんの思いに気持ちが沈む。

 

どうしよう、京子ちゃんに何かあったら俺のせいだ。

きちんと今の状況を話していれば、こんな状況にはならなかったんだ…

 

焦る気持ちと、彼女の安否と、それから…それから………

ぐちゃぐちゃになった気持ちに、何を伝えたいのかも、今俺が何を感じているのかも分からなくなる。

取り合えず京子ちゃんを見つけ出さなきゃって、俺は川岸を走っていた。

すると、見知った髪形が視界に入る。

ベンチに座っているその後ろ姿に、俺は思わず大声を張り上げた。

 

「京子ちゃん‼」

 

後ろ姿しか見えなかった女の子が後ろを振り向き、その顔が自分の思い描いていた人と同じであることに心の底から安堵した。

そしてその横にいる小さな体を見ては思考が停止した。

黒いヘルメット、黒いレーシングスーツ、小さな身体…それは確かにあの男の姿だった。

 

「ス、スカル!?何でこんなところに!?」

 

走っていた足が急に動かなくなり、まるで金縛りにあったかのように苦しくなる。

 

狂人……スカル……

 

あのリボーンがおちゃらけた雰囲気をかなぐり捨ててまで警戒した、カルカッサファミリーの超危険人物。

何でそんな男が日本に…いや、それよりも何で京子ちゃんの隣にいるんだ!?

今までの不安が嘘のように、恐怖に塗りつぶされる。

すぐさま周りを確認すれば、マフィアランドで連れてきていたタコの姿は見当たらなかった。

それでも安心出来る状況じゃない。

 

「ツナ君、スカル君と知り合い?」

「え!?えっと、あの、その……いや、ソイツ……」

 

京子ちゃんの言葉や態度からしてスカルに何されたとかそういうのはないって気付いた。

多分本当に偶然出会っただけなんだと、何故か確信めいたようにそう思った。

それでも一度は死ぬ気の俺をボッコボコにした相手に恐怖しないわけがなくて、今にも逃げ出しそうな足を京子ちゃんを想いながらその場に縛り付ける。

 

えええ、でも、何で、どうしよう……助けてリボーン…

 

リボーンに助けを求めるも、俺の心の声が届くわけもなく、絶体絶命にも等しい今の状況に絶望する。

直ぐに応援を呼ぶ?

ダメだ、絶対にバれる。

頭を抱える状況に、京子ちゃんの声が降ってくる。

 

「スカル君、ちゃんと家まで帰るんだよ?大丈夫?」

 

何も知らない京子ちゃんはスカルを本当の赤ちゃんだと思ってるのか、心配している素振りを見せる。

 

「あ、スカル君…寄り道しないで直ぐに帰るって約束、ね?」

 

京子ちゃん、そいつ極悪人…めっちゃ極悪人だからぁ!

裏世界で名を馳せるほどのことを平気でやってのける怖い奴だよ‼

どうか何事もなく帰ってくれますようにと思いながら眺めていれば、京子ちゃんは小指をスカルに差し出した。

日本の風習を知らないのか、スカルはそれに首を傾げる。

それに対して、京子ちゃんはクスリと笑う。

 

「指きりげんまんっていってね、約束ごとをするときに使うんだよ」

 

スカルは自分の小指を見て、京子ちゃんを見れば、小指を差し出した。

 

それはまるで友情の証であるかのように――――――

 

…………あれ?

 

 

「指きりげんまん 嘘ついたら 針千本呑ーます」

 

 

京子ちゃんの声が少し遠く聞こえた。

目の前の光景に胸の中で(わだかま)りが残る。

 

 

「指きった」

 

 

上下に揺れた二つの小指が離れる、現実味を帯びない光景を、ただ俺は眺めていた。

 

何だろう……この、違和感……

 

 

「気を付けて帰ってね」

 

その声でハッと我に返り、京子ちゃんとスカルを見れば、スカルは既に早歩きで去っていった。

スカルの後ろ姿を眺めていると、京子ちゃんが俺の方に視線を向けずに口を開く。

 

「さっきお友達になったの」

 

おと…お友達!?

京子ちゃんとスカルが!?

一体何でそうなったの!?

 

「…さっき?」

「うん、一人で歩いてたらぶつかってね…なんだかその姿がとっても…悲し気だったから迷子かと思ったらただの散歩だったみたい」

 

そう呟いた京子ちゃんの横顔は寂しそうで、本当にスカルを心配しているのが分かる。

でも、あいつは、沢山人を殺した…極悪人で…………あれ?

俺はふと気付く。

先ほど俺の不安を塗り潰す様な莫大な恐怖が、跡形もなく消えていた。

不思議と恐怖はなく、でもそれがおかしいと思えない違和感に首を傾げる。

この10年でカルカッサファミリーってどうなったんだろう、あとでジャンニーニに聞いてみよう。

 

「そういえばツナ君もどこかに出かけるところなの?」

 

あ、そうだ、俺は京子ちゃんを探しに来たんだった。

それから京子ちゃんと少し喋っていると、俺がビアンキに騙されたことが分かり、脱力する。

京子ちゃんはもうボイコットせずに俺達を信じるって言ったけど、やっぱり事情を話した方がいいって思って、京子ちゃんに全てを話そうと思った。

全てを話すのには時間がかかり、既に夕陽が姿を現している。

 

 

今の状況、ミルフィオーレのこと、白蘭のこと、奴らがマフィアで、俺もボンゴレマフィアの十代目候補であること、今までの戦い……

 

夕陽の光の具合なのか、京子ちゃんの瞳が潤んでいたように見えたけど、京子ちゃんは黙って頷いていた。

 

 

その後、京子ちゃんの言葉で修行に関してヒントを貰った気がして、俺の中にあったどうしようもない虚しさが薄らいでいくのが分かった。

アジトへ戻れば、ハルにも同じ説明をして、それを皆に報告して、京子ちゃんのお兄さんに殴られて、山本がスクアーロに拉致紛いに連れていかれて、沢山のことがあった。

なによりも白蘭からコンタクトがあったことが今一番に考えなきゃいけないことだろう。

 

六日後のお昼の12時に並盛神社へ集合

 

チョイスの日が分かった俺達は皆緊張した面持ちで修行に励み始めた。

そんな中俺はふとスカルのことを思い出し、ジャンニーニにカルカッサファミリーについて聞いてみることにした。

 

「ジャンニーニ、いる?」

「ああ、ボンゴレ…どうかしましたか?」

 

作戦室にはジャンニーニだけがいて、リボーンもフゥ太もその場にはいなかった。

 

「チョイスとは関係ないんだけど、カルカッサファミリーについて少し聞きたいんだ」

「カルカッサ…ですか」

「うん、未来で彼らとボンゴレがどんな関係か気になって」

「確かにそうですね……ボンゴレはミルフィオーレとの対立に手一杯で、カルカッサとは一か月ほど前に不可侵を締結したハズです」

「不可侵…同盟ではないんだよね」

「ええ、あちらも、私達も…関わらぬよう不可侵を締結しました」

 

ジャンニーニの言葉で、何故スカルがこちらへ危害を加えなかったのかが漸く納得出来た。

ん?待てよ…

 

「ねぇ、アルコバレーノってラル以外皆死んだんじゃなかったの?」

「いえ、一人…死亡が確認されていない人物がいます」

「それって…もしかして」

「ボンゴレが思い浮かべた人物で間違いありません、スカルです」

 

やっぱり…っていうか思いっきり生きてたし。

でも何でノントリニテッセが充満している外に出れるんだろうか。

あ、もしかしてあのレーシングスーツって耐ノントリニテッセだったとか!?

 

「にしても何故カルカッサに関して?」

「いやぁ、こんな忙しい時期に第三勢力の参入とか嫌なこと考えちゃって…あはは……」

「カルカッサは非情ではありますが、今ここでボンゴレを攻撃することに何のメリットもありませんので大丈夫でしょう」

 

むしろ今この状況に乗じてミルフィオーレに仕掛けてくる気配すらありますよ、というジャンニーニの言葉に口元が引き攣る。

これ以上ややこしくならないでー!

でも何でスカルが日本にいるんだろう。

ジャンニーニの言葉の信憑性が高まり、俺は本格的に笑えなくなる。

 

このことリボーンに言った方がいいかな……

だけどあいつ、スカルのこと目の敵にしてる感じだったし、会った瞬間ドンパチしそうだ。

 

 

リボーンに教えるのはもう少し先でいいかもしれない。

 

 

でも何でだろう……

 

 

結ばれた小指と小指が上下に揺れるあの光景が 未だに頭から離れないんだ

 

 

 

 

 

 

 




スカル:着々と女性陣を網羅していく、色々フラグを立てているがそれを回収するのはまだまだ先だ

ポルポ:日本が安全だと聞いたけどめっちゃ武装してるやつが町中にいるのでスカルの周囲に目を配らせている、フグ男強化中

笹川京子:スカルの友達一号、スカルのことを両親がいなくて友達もいない孤児だと思っている

超直感:出番だと思ったけどそんなことなかった




あ、そういえばアニメ版の未来編だとアルコバレーノの試練ありましたね。
あれ必要ですか?
本当は書こうとしてたんですけど、時間軸勘違いしててボイコットの後だと思ってたんですよ。
ボイコットの前に試練があるの分かったの、今話書いた後だったのでアチャーってなったんですが、あれなくてもシナリオ上そのまま進めますよね。
あったらあったで伏線?入れることもできるので、書こうか悩みどころです。
時間軸的に少し戻りますが書けないこともないので、取り合えず要望があれば書こうかと思います。
活動報告にアンケート出しておきますね。
アンケートの回答は、感想欄には書かないで下さい。
活動報告の返信に回答お願いします。






※忙しすぎて本分内容を変更するのが遅くなりました。
設定の変更内容:(22話)フグ男はハリセンボンとフグの雑種
ただ名前にフグ男って付けちゃってるんで今後も表記はフグにします。



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skullの焦燥

俺は焦った。


「スカルさん、スーツ出来ました‼」

 

そう言ったモブ子を殴りたくなった俺氏。

出来てしまったのだ…身体強化レーシングスーツが。

一週間で出来る予定が思ったよりも伸びていたことに希望を乗せていたところ、見事に挫かれた俺は、日本支部の同僚にビッ〇ライトを浴びせられた後、大人用のレーシングスーツを渡された。

レーシングスーツをよく見れば、所々金属反射のような光が見える。

太陽に(かざ)せば、まるで神経のように端から端まで伸びていて、正直キモかった。

モブ子曰く、スーツの裏地に埋めているナノマシンが肌から侵入し、直接神経へと繋がるらしい。

何それ怖い。

操作は慣れですよ、と言ったモブ子を日本海に沈めたい。

首にスイッチがあって、それでオンオフが出来ると言っていた。

まぁちょっと使って直ぐに返却すればいいかな。

オンにしてみたら全身くすぐったかったが、数秒経てば収まり、正常に機能しているのかが分からなかった。

っていうかスーツだけで何をしろと…そんなこと思ってた時期が俺にもありました。

用意されてたんです、バイクが。

乗ってみろってか。

俺が赤ちゃんになってしまってから数十年経っているが、あの頃よりもさらに技術発達したバイクはそれはそれは想像以上だった。

まず壁を走れる時点で興奮しなかったといえば嘘だが、それ以上に壁を走る機会があるのかが疑問だ。

あんまりにもバイクを興味津々に覗いていたもんだから、モブ子のスーツへの操作解説をほぼ聞いていなかった。

バイクの説明書はないのだろうかと思っていたら、ナビが内蔵されているらしい。

やべぇ、このバイクやべぇ。

試しに乗ってみれば、『エンジン起動、エネルギー出力0%』と音声ナビが流れた時は興奮し過ぎて鼻血出た。

早速乗り回そうとしたら日本支部の同僚に新しいヘルメットを渡された。

弾丸さえ弾くほどの頑丈なヘルメットをしなければ、転倒した時に頭蓋骨複雑骨折になりかねないらしい。

そこまで速度が出るバイクは法律的にアウトじゃないんだろうかという疑問もあったが、俺が数十年前に乗ってたバイクも数百㎞も出る改造バイクだったので何も言えなかった。

頑丈さを追求し過ぎてその他の機能があまりないらしいこのヘルメットだが、頭を保護する以外に必要な機能なんてヘルメットにあっただろうか。

音声が明瞭に聞こえるようにとイヤホンを内蔵されてる他、ズーム機能まで付けたと言っている同僚に、現在の技術が半端ないことだけは分かった。

今してるヘルメットを外そうとしたら焦ったように制止され、同僚達はそそくさと部屋を出る。

どうぞ!ヘルメット交換お願いします、とドア越しに言われたけど何故なのか。

俺の顔がそこまで見たくないのかと地味に傷付いた。

ヘルメットを被った俺は、音声ナビを待つ。

 

『シフトペダルを踏み、アクセルを開けて下さい』

 

あー、基本操作までナビがあるのか。

これは要らないかな…どうやって切るんだろう。

あ、あった…けどまだ初回だし。あとで音声案内切ればいいか。

徐々に速度を出しながら法定速度で並盛町を回り始める。

大きくなった身体での運転はひやひやするものがあったけれど、小さい身体でも乗ってたのでなんの問題もなく進んだ。

正直赤ちゃんの頃となんら変わらぬドライブに、やっぱり赤ちゃんのままでよかったなと再確認する。

そういえばこれ、どれくらい速度出るんだろうか。

昔俺が改造してたバイクは200㎞以上出していたが、科学技術が進歩した今の時代では一体どれほど出るのか。

赤ちゃんの腕力じゃ精々100㎞が限界で、100㎞超えるとなればポルポに跨ってる時ぐらいだった。

ギアを上げようとしてふと気付く。

ギアの隣にある「超加速」という文字の入ったボタンだ。

 

……………ポチ

 

『超加速モードへ移行します、エネルギー出力110%』

 

!?

急に大きな音と共に熱気のようなものがバイクの後ろから噴き出したのが分かった。

 

『障害物を感知しました、オートモードへ移行しますか』

 

あれ、やばい、ミスったかもしれない。

一旦エンジン止めようと思うが時すでに遅し。

 

「!?」

 

ぐん、と速度が一気に30㎞ほど上がったのか体に掛かる圧力が増し、速度メーターを見ればそこには100㎞と表示されている。

だがメーターは止まることを知らず、段々と上がり、それに比例して俺は焦り出す。

アクセルを戻そうとすれば音声案内で「ギアを通常モードへ移行して下さい」が聞こえ、通常モードへの戻し方を模索する。

だがどこにそれがあるのか分からず再び「超加速」を押せば戻るのだろうか?と考えボタンを押す。

 

『超加速モード及び垂直走行モードに移ります』

 

あるぇ?ミスった。

既に速度は160㎞、街中で走るにはぶっ飛びすぎている速度だ。

あわばばばばばば

久々…というよりも何十年ぶりかの100㎞超えに余裕のない俺は、取り合えず障害物に当たらぬよう細心の注意を払う。

ととと取り合えず市街地から離れないとヤバイ。

速度が200㎞を超えた辺りで、既に車やら人やらを避けるのが難しくなってくる。

…そういえばコイツさっき垂直走行モード…って言ってたよな。

ってことは壁走れるってことか?

道路で走ることが難しくなってきた俺はイチかバチかで直ぐ横にあるビルへと方向転換する。

これぶつかったらどうしよう、怖気づいて道路に戻ろうとすれば音声案内が流れた。

 

『正面に障害物を感知、回避します』

 

ん?

次の瞬間、バイクがビルの壁に並行に方向転換し登り始めた。

おお、おおおお…

あまりにも非現実的な光景に反応が遅くなるが、我に返って次の進路を探り始める。

いくつか建物の壁を跨いでいると、それはいきなりだった。

 

「!」

 

目の前に黒い布のようなものが現れ、回避のしようもなかった俺はそれを思い切り轢いてしまった。

次に衝撃がこの身に襲い掛かり、俺はハンドルを手離してしまい、バイクから放り出される。

うん十mもの高さから街並みを目にした。

 

 

 

あ、やば―――――――

 

い、と文字が頭の中を過ぎったその瞬間、視界一面に広がる白に目を見開いた。

白い……布…?

 

 

 

だが俺の思考とは別に本能が生に縋ったのか、俺の腕はその白へと伸ばされる。

 

 

ふわり

 

腕の中に納まる白は柔らかく

 

でもどこか重く

 

まるで生命を抱いているかのようで

 

 

 

 

『ハンドル、操縦者共に感知不能、オートドライブモードに移行します』

 

 

そして耳に届く機械的な声に我に返った。

状況が分からず腕の中にある温度を強く握りしめる。

 

『ペアリング機器の位置情報検索中、追跡します』

 

ふと音声のする方へと視線を向ければ、落下中の真下にさきほど乗っていたバイクがまるで「待ってたぜあんちゃん、はやく乗りな」と言っているように佇んでいた。

幸い俺の今の体勢は、足が地面へと向かっている。

左腕の中にある何かを取り落とさぬよう、左半身に重心を落とし、右足からバイクのペダルへと着地する。

重い音と共に足の痺れを感じ、右へと傾くバイクのハンドルを握りながら、左へと体重をかける。

重心を整える微細な作業に集中しつつ、バランスが取れたところで周りを見回そうとした。

先ほどの黒い布のようなものはなんだったのか。

バイクから放り出される程の衝撃があったのだからきっと質量の大きい何かだったに違いない、人でないことを祈りながら後ろを振り向こうとした瞬間、再びあの機械的な声が耳に入る。

 

『ハンドル、操縦者共に感知、マニュアルモードに移行します』

 

その前にこのバイクをどうにか止めねば。

街中を抜けて人気のあまりない道に入り、少し余裕が出来たところでボタンを探り出す。

ふと脇に抱えてる白い何かの存在を思い出し、横目でちらりと見た時だった。

 

「んん…………」

「!?」

「……んーっ」

 

声!?

子供特有の高い声が聞こえ、俺は今まで以上に困惑した。

ちょっと待て、あれ人間だったのか!?

いやでも確かにあの感触は今思い出せば、人の身体みたいだったけど。

脇に抱えていた白い何かはもぞもぞと動き出し、腕の中からスポンと抜けるような音と共に白くて楕円形のクッションが出てきた。

何だこれ。

そう思わずには言られなかったが、その白いクッションがぐるりと回り、二つの瞳とかち合った。

青いような緑のような澄み切った瞳、左目の下にあるオレンジ色の花型の痣…それらはすべてとある人物を彷彿(ほうふつ)させた。

有り得ない、と俺の思考は固まる。

 

「あ、あの………あなたは一体…?」

 

困惑、といった顔している少女の顔があまりにもあの人に似ていた。

周りの音が遠くに感じて、ハンドルを握る感覚がないような気さえした。

 

ドン、と後ろの方で大きな音が聞こえ、我に返った俺は後ろを振り向く。

次にスーツから守られていない、露出した僅か数㎜の首元に熱風を感じる。

何かが爆発したのだといち早く理解すれば、上空に飛んでいるハエのようなものが段々と遠ざかっていくことに気付いた。

それはハエではなく、人のような気がするが如何せん遠すぎる上に空飛ぶ人間は見たことがないので、その選択肢は排除する。

直ぐ隣で息を飲む声が聞こえれば、少女が爆発に怯えているような表情をしていた。

いや、掴んでいた腕の力が強まったから、多分怯えてるんだと思う。

……にしてもさっきの爆発は一体何だったのか。

爆発は一回きりでそれ以降何もない。

 

『エネルギー出力150%、前方にカーブが続きます』

 

音声ナビの言葉で前を見れば、段々と森に近付いているようで、道が急カーブを描いている。

慌ててハンドルを右へときり、あなたは誰ですか、という質問を投げかける少女を他所に速度を落とすボタンを模索する。

このままでは俺はロリ誘拐罪でしょっ引かれる。

俺は断じてロリコンではない。

直ぐにバイク停めて、この少女をさっきの場所に返してこないと……

数分の奮闘の末、漸く速度を落とすボタンを見つけた俺は、すっかり森の中へ入っていることに気付く。

いきなり誘拐されたうえに、森の中……アカン、これはギルティ。

前科者になりたくなんですけど、マジでこの子はよ返さねば。

バイクを森の中で止めれば、少女を下ろした。

少女は目をパチクリさせながら俺の方を向いて、周りを見ては再び俺を見る。

 

「あ、あの……ここアジトの近く…ですよね…」

 

アジト?ああ、子供の頃秘密基地作って遊ぶようなあれか。

 

「えっと、多分、ここから行けると思うんですけど……あなたは一体…!」

 

何かを言いかけて目を見開いた少女に、あ、誘拐されたと思われてる、と俺は絶望した。

ここで泣き叫ばれても森の中だし、誰も人が来ないのはある意味救いかもしれない。

 

「紫のおしゃぶり………あなた、もしかして……スカル…ですか?」

 

アウトー!

名前バレちゃったよ!何で!?

紫のおしゃぶりって…え、これ、いや確かに取り外せないけど……何でこの子がこのおしゃぶりのこと知ってんの!?

いや、ちょっと待て、クールになれ俺。

この少女はルーチェ先生に似てるっていうか本人って言われたら納得するレベルでそっくりさんだ。

普通ならルーチェ先生の孫とか、まぁ血縁者だと分かるけど、問題は少女の胸にあるオレンジ色のおしゃぶりだ。

俺のおしゃぶりは絶対に取れない、だからルーチェ先生のおしゃぶりも絶対に取れないハズだ。

でもっておしゃぶり持ってる奴等って呪い貰ったからであって、全員小さくなってるハズで……でもルーチェ先生は大人のままで……今目の前にいる少女は俺の名前を知っていて、ルーチェ先生のミニチュア版みたいな感じで………あれ?やっぱこの少女ルーチェ先生の本人じゃね?ってなる俺はおかしくないと思います!

だけどリボーンの言葉が本当ならあの人死んでるよな。

でもリボーンの証言だし……出鱈目だった可能性もなくはない、よなぁ…

いやもうこの際、本人に直接聞いた方が早いよ、うん。

 

 

「ルーチェ………」

「え…」

「ルーチェ…なのか……」

 

少女は目を丸くする。

 

「私はユニ、ルーチェは私の祖母です……やはりあなたは最後のアルコバレーノ…スカルなんですね」

 

そ、祖母!?

待て待て、ってこたあやっぱこの子ルーチェの孫かよ。

本気で本人だと思ってた、うわ、恥ずかしい。

ああ、そんな澄んでる瞳で俺を見ないで、恥ずか死ぬ。

 

「あなたのことは母から、少しだけ聞いていました…」

 

少女の言葉に、孫の母親…ってことはルーチェの娘?

ああ、確か…いたな、名前なんだっけ、えーと……

 

「10年前、母が他界する少し前に…あなたの名前を呟いていました」

 

そうだ、アリアだ……って、え?

たかい……他界……え、死んだの?ルーチェの娘死んだん?

アリアってあいつだよね、初対面にずけずけと俺のヘルメットぶんどった女の子だよね。

10年前っつったらまだ20代か……ルーチェもそうだけど、何でそんな短命なの。

父子家庭とか…年頃の娘には辛いな。

 

「母はあなたのことを――――」

 

少女がそこまで呟くと、遠くの方から声が聞こえた。

ユニ、と複数人がこの子の名前を呼ぶ声に、俺は焦り出した。

この場面を見られたら確実にしょっ引かれる。

ユニが沢田さん…って呟いてたから知り合いだろ、なら俺はこの子をここに放置してこの場から離れても大丈夫だよな!?

ってなわけでアデュー!

俺はバイクのエンジンを入れ、音声案内を聞きながら発進させようとした。

 

「あ、あの!」

 

ユニが慌てて俺の腕を掴むもんだから、発進する寸での所で止める。

 

「あなたに会えて良かったです!」

 

ユニは今世の別れのような表情で、そう言い放ち俺の腕を放した。

でも、多分もう会わないんだろうな…

俺なんて会社と家行き来するだけの人生ですし。

彼女からしたら俺は誘拐犯で、祖母と母親の知り合いなのか、なんて複雑なんだおい。

最後にとユニの頭を撫でようとしたけれど、遠くからの近づいてくる声に手を引っ込めて、バイクを走らせた。

 

「生きろよ」

 

去り際に呟いた俺の声が、エンジン音でユニという少女に聞こえていないのは百も承知だった。

短命であった祖母と母を持つ彼女だったからか、なんかすっげー早死にしそうな気がする。

ただの気のせいであればいいんだけど。

ああ、なんかフラグ立てた気が……

にしてもルーチェ一族の遺伝子やべえな。

帰りは絶対に超加速のボタンを押さないように、慎重に帰った。

途中で迷子になりかけたがナビが助けてくれた。

 

「ナノマシーン内臓のスーツの具合はどうでしたか?」

 

会社に戻ってから直ぐのモブ子の言葉で、そういえば…と思い返してみた。

使った自覚がないので何とも言えなかった。

最初だけくすぐったかったがそれ以降これといって変化がなかったからだ。

でもあんな速度が赤ちゃんの腕力でどうにか出来るものでもないし、多分ちゃんと起動していたと思う。

取り合えず首を縦に振ればモブ子が満足そうにして通信を切り、返却するの忘れたとあとで気付いた。

多分俺のニート生活もここまでか……

哀愁漂う背中でホテルに帰ったが、ポルポとフグ男で癒された。

 

 

 

 

 

 

 

ユニside

 

 

チョイスが行われた時、私の精神はこの世界軸へと戻った。

そして真っ先に感じたことは、今まで白蘭から逃げられたことへの安堵と、もう時間があまり残されていないという焦燥だ。

すぐさまチョイスを中断する為に向かう。

勿論白蘭がそれを断ることは知っているし、それを理由に私はミルフィオーレを脱退してボンゴレに助けを求めることが出来る。

あちらにはリボーンおじさまがいる上に、沢田綱吉さんは断わらないことを知っているからこその行動だ。

時間はない、早く行動に移さなければ。

 

結果を言えば、ことは上手く進んだ。

私はミルフィオーレを抜け、ボンゴレの庇護下に入り、白蘭の魔の手から逃げきれた。

いや、まだ逃げ切れたわけではないが、一時といえど彼と距離を放せたことは幸いだった。

γ(ガンマ)のいない今、私はボンゴレに頼るしかなく、無力さがこの身に突き付けられる。

けれど今ここで諦めてはいけない、嘆いてはいけない…最後の炎を絶やしてはならないのだ。

 

チョイスの会場から逃げた数時間後、白蘭の追手がアジトへと侵入してきた。

私はアジトから一足先に逃がされ、ハルさんの助言で向かった川平不動産という場所に逃げ込んだ。

川平不動産にいた男性は私達の事情を理解しながらも、匿ってくれて、追手のザクロを撒いてくれたのだ。

何者かは分からなかったが感謝を述べ、危険が過ぎ去るまで不動産で身を顰めようとしたが、それは予想外の形で裏切られた。

既に潜んでいた真・6弔花のトリカブトがランボ君の姿に化けていたのだ。

恐怖で動かない身体を黒い大きなマントが包み込み、私はトリカブトに捕まってしまう。

そしてそのまま川平不動産を飛び出し、上空へと連れていかれたその時だった。

 

「ユニ!」

 

沢田さんの声が遠く聞こえる中、小さなエンジンの音が聞こえ、次に大きな衝撃が私を襲った。

そしてカブトから放り出された私は宙を舞う。

 

空が、澄んだ空が、大空が

 

体が竦み、強張り、悲鳴すらもあげられぬまま、この身にかかる浮遊感に恐怖した。

ふわりと、背中に何かが当たり、それが地面だと思った私は目を固く瞑る。

だが予想した痛みは来ない。

その代わりに大きな衝撃が、それでいて優しく、どこか包み込むような衝撃が私に降り掛かった。

重力が身体に掛かり、ふいに安堵が広がる。

緊張していた身体が弛緩し、それにつられ意識が薄れていき、私はそれに抗うことが出来なかった。

 

 

風が  温かい  

 

瞼を  押し開く  風が  まるで  命の灯り火のように

 

 

眩しい生命よ

 

 

 

目を見開いた瞬間、自分がどこにいるかが分からなかった。

先ほど起こったことを思い返し、混乱、そして何かが私の頭の上で私を()き止めていると感じた。

上へ、上へ、腕を伸ばせば、一抹の光が差し込み、私は思わずそこへ頭を突き出した。

瞬間、視界が広がり、眩しさが目に染み、瞼を瞑った。

徐々に慣れていく光に、自身の状況を把握しようと頭を働かせる。

漸く落ち着いた私は、今自分が何か乗り物に乗っていることと、それがバイクであること、そしてお腹に回されている腕に気付く。

後ろへ振り向き、目にしたのは黒。

黒いヘルメットに、黒いレーシングスーツ…全身真っ黒なその人は、私が目を覚ましたことにも無反応で、ただ道を進む。

 

「あ、あの………あなたは一体…?」

 

そう私が問いかけた瞬間、私達の後ろの方で大きな爆発音が鳴り響いた。

すぐさま後ろへ視線を移せば、遠くに宙に浮く人影が二体…真・6弔花だ。

身体が強張り、先ほどの不安と恐怖が再びこの身を侵食する感覚に襲われるが、それも一瞬のことで、体を預けている黒い人の体温で何故か安心を覚えた。

余程バイクが速いのか、追ってくる彼らの姿が小さくなっていくのが分かり、徐々に強張っていた身体が弛緩する。

 

『エネルギー出力150%、前方にカーブが続きます』

 

機械じみた声、いや、まさに機械で作られた声に私は驚き、それがバイクから発せられたのだと理解した。

再び黒い人を眺める。

知らない、今まで会ったことがない人であることを、何故か私は分かってしまった。

それなのに彼の側が安全であることも同時に分かってしまったのだ。

分からない、分からないけれど、私は彼を知ってる気がした。

 

「あなたは誰ですか?」

 

声を聞けばその正体が分かるかもしれないと問いかけるが、その者は沈黙を貫いていた。

少しすると、私達は森の中に入っていく。

そこで私は、今走っている場所がボンゴレアジトの入り口付近であることを思い出したのだ。

彼らのアジトに赴き、複数ある脱出口を確認をした時に、森の中にある脱出口が確かにあったハズだ。

バイクが止まり、その者は私を地面へと下ろす。

私は周囲を見渡し、再び目の前の人を見る。

 

「あ、あの……ここアジトの近く…ですよね…」

 

沈黙。

早く行け、と言われているようで足が動きそうになるが、その前にこの者の正体が知りたかった。

 

「えっと、多分、ここから行けると思うんですけど……あなたは一体…!」

 

そこでやっと私は、彼の胸元にあるおしゃぶりに気付く。

紫色の…おしゃぶり………

 

「紫のおしゃぶり………あなた、もしかして……スカル…ですか?」

 

今、私の手元にない唯一のおしゃぶり。

死亡は確認されていなかった。

確かになかったが、まさか彼が元の姿に戻っていたことは予想外だったのだ。

どんな方法であれ、この呪いを解くことは不可能であるとなんとなく理解していたから。

彼の場合、呪いを解かずに元の姿に戻ったようであるが…

 

「ルーチェ………」

 

「え…」

 

ふいに聞こえた彼の声に目を見開く。

小さく、そしてどこか震えていた、か細い声…

彼は呟いた、ルーチェ、と。

 

「ルーチェ…なのか……」

 

 

眩しい生命よ

 

 

 

小さく震える彼の声に、急に脳裏を過ぎる言葉と共に心臓が苦しくなる。

まるで、まるでその声が母親を探す迷い子のようで……私の中の何かが泣き叫んだ。

分からない、彼に会ったのはこれが初めてであり、私は彼について何も知らない。

だけど、おばあちゃんと彼は親しい関係だったのだろうと、それだけは分かる。

だって、あれほど…縋るような声を聞いてしまったのだから。

 

 

「私はユニ、ルーチェは私の祖母です……やはりあなたは最後のアルコバレーノ…スカルなんですね」

 

ふと、お母さんが他界する少し前に呟いていたことを思い出した。

あの時は、ただ母の言葉を忘れまいとよく理解もせずに聞いていただけだった。

 

「あなたのことは母から、少しだけ聞いていました…」

 

 

『紫のおしゃぶりを持ったアルコバレーノってどんな人なの?』

『紫…雲ね………私もあまり知らないの、一度、子供の頃に会っただけだから…』

 

 

「10年前、母が他界する少し前に…あなたの名前を呟いていました」

 

『彼の名前はスカル…裏の世界では冷徹非道な男だと言われているけど、私はそう思わないわ』

『どうして?』

『それはね、』

 

「母はあなたのことを――――」

 

「ユニー!」

「!」

 

後方から私の名前を呼ぶ声が聞こえ、反射的に振り返る。

再び私の名前が森の中を木霊す。

 

「沢田さん……」

 

その声が沢田さんのものであると確信した私の横で、バイクのエンジン音が聞こえ、私は直ぐにスカルへと視線を戻す。

今にもこの場を去ろうとしている彼の腕を掴もうと手を伸ばす。

 

「あ、あの!」

 

既にこの場に用がなくなった彼をずっと引き留めるわけにもいかず、彼に送る言葉を探した。

でも頭に出かかった言葉よりも先に、口が勝手に呟いた。

 

 

「あなたに会えて良かったです!」

 

 

『とても綺麗だったの……彼の瞳が』

 

 

訳も分からないほど、彼を見送ることが悲しかった。

彼は私に手を伸ばしかけた。

グローブ越しの指先がびくりと震えるのが分かって、どうしようもなく苦しくなった。

何に怯えているのかが分からず、胸に込み上げる苦しさに涙が溢れそうになる。

伸ばしかけた手を戻した彼は、両手でハンドルを握り、今度こそ走りだした。

 

 

「生きろよ」

 

 

僅かに聞き取れた、エンジン音に紛れる小さな、小さな声

 

だがそのか細い言葉は私の心臓を鷲掴むほどの衝撃をもたらした

 

今にも(こぼ)れだしそうだった涙が、雫となって瞼から溢れる

 

 

ああ、運命の日はすぐそこだ

私の灯り火を全て使い果たすべき時が すぐそこにあるのだ

 

世界の為に 未来の為に 愛する者達の為に

 

なのに  それなのに

 

 

彼の言葉で すべてを投げ出したいなどと  そう思ってしまった

 

 

 

「怖いっ…」

 

 

死が  すぐそこまで這い寄る死が なんと恐ろしいことか

 

 

 

その場で崩れ落ちた私は、ただただ押し寄せる恐怖で竦み上がる我が身を、両手であらんばかりの力で抱きしめることしか出来なかった。

やっと体の震えが収まったのは、リボーンおじさまと、沢田さんが駆け付けてくれた時だった。

 

 

 

眩しい生命よ

 

 

 

彼と出会って、片時も離れず頭の中を駆け巡るその言葉の意味を、終ぞ理解することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




スカル:女性人を着々と網羅していく狂人()、ついにロリ誘拐が罪状に加わった、トリカブトを200㎞以上のスピードで思いっきり轢いた、ルーチェがアポトキシンでも飲んだのかと思ったけどただの孫だったようだ、フラグ乱立中

ユニ:誘拐された愛でるべきロリ、その笑顔を守りたい、アリアから聞いていたスカルの印象とルーチェの名前を出してきたスカルとトリカブトから助けてくれた現状にスカルへの好感度が初っ端からやや高め

トリカブト:思いっきり轢かれたお方、どのみちツナにやられる運命だったのが今回はスカルの渾身の一撃()で葬られた

ヒットマンなあの人:スカル絶対殺すマンは健在、多分カルカッサと不可侵である現状でも鉢合わせしたらガチで狩りに行く


沢田綱吉sideを入れたかったけれど、文字数が一万超えそうだったので断念、多分次話くらいで入れる。
あ、あとアンケート取った結果、別にアルコバレーノの試練入れなくてよくね?の意見が多く見られたので省きます。

一応、暇ではなかったんですが描きたかったので描いてみました。


【挿絵表示】




あ、あとこれから二週間くらいめっちゃ忙しくなる予定なので、投稿控えます。


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skullの偶然

俺は引いていない。


黒い何かを轢いてしまった日の翌日、ニュースを片っ端から確認したけれど、それらしいニュースはなかった。

あるとすれば空を飛ぶ人間が目撃されたことぐらいだろうか。

技術も進歩したね、うん。

今日はバイクの微調整の日らしく、俺は大人しくホテルの一室でのんびりフグ男と戯れている。

ポルポは何故か辺りを見渡してはそわそわしているみたいだけど、何かあったのだろうか。

ポルポに昨日は何をしていたか聞かれて、ルーチェの孫に会ったことだけ教えた。

一時的とはいえロリを誘拐紛いのことをしてしまったのだから、最悪監視カメラ駆使されて捕まりそう。

 

「主」

「ん?」

「そなたはその女の子孫を…どうするつもりだ」

「どうもこうも……もう二度と会うことはないし、会いたくないな」

 

だって次会ったらタイーホされる。

 

「それでいいのか」

「うん………それがいい」

「そなたがそう決めたのなら、もう何も言うまい」

 

ポルポ一体どうし……ハッ、そうか、俺があまりにも友達いないから気を遣ってるのか。

いやいやいや、いくら俺でも幼女は範囲外だから。

友達であろうとも下心満載と捉えられるからね、俺の場合。

っていうか友達いらねーし。

お前は俺のママンかよ!

ペットに友達事情を心配された飼い主の俺氏、中々ダメージ喰らったのでフグ男連れて寝室で寝ていたら数時間経過してた。

お腹空いた…

既に箱に戻っているフグ男を呼び出して、寝室から出るとポルポがソファに鎮座してた。

そして何故か床に転がる粘々した液体と、ライフルらしきもの。

俺は寝ぼけてるのかなと思ったけどそんなことなかった。

ポルポとライフルを見比べていると、ふいにポルポが鉛臭くて食べられんって言ってきた。

嘘だろおい。

お前ライフル…っていうか金属口に入れたんか。

馬鹿なの?死ぬの?

いやいやそれよりもこれ一体どこから持って来たんだよお前…

ライフルの先端を摘まみ上げ、ティッシュで粘液を拭いていく。

少しベタベタするけどいっか…取り合えずどこから取って来たのか聞けばあっちと触手をとある方向に向ける。

ベランダに出た俺が触手の指す方角を見れば、俺のいるホテルと大体同じ高さのビルがあった。

俺の寝てる間に勝手に外に出て人のものを盗ってきたようだ、マジでやめて。

日本でライフルとか何であるし…とは思ったけどカルカッサ日本支部にも護身用として拳銃があるから何も言えない。

ライフルが珍しいのかフグ男がすごい周りをうろちょろしている。

ああああ危ない、危ないから離れろ。

手で追い払おうとしたらフグ男から炎が溢れ出して、銃が暴発した。

もう一度言う、暴発した。

断じて俺は引き金を引いてないからな。

銃口の先を見れば、先ほどのビルの奥にある森に向けられていた。

誰にも当たっていませんように!

ライフルをそのままホテルに置いておくわけにもいかず、フロントに預けに行こうと思いましたまる

前の人がベランダに置き忘れていたとでも言い訳しておけば大丈夫かな?

うん、うん、だって赤ちゃんの俺が発砲出来るとか考えるわけないもんな。

というわけで、忘れ物と書いた紙をライフルに貼り付け、フロントに持って行けば受付の人が快く受け取ってくれた。

何でだ。

俺の前に住んでた人一体どんな人やったん。

森で誰か撃たれちゃったら明日か明後日にはニュースに上がってるだろうし、そうなってたら謝りに行かねば。

捕まる気はないから謝って全力で逃げるつもりだけど。

俺は再び部屋に戻り、フグ男に説教をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

白蘭side

 

「へえ、トリカブトがやられたんだ」

 

桔梗からの報告でショックを受けることがなかったのは、トリカブトくらいの実力なら彼らにやられてしまう可能性が十二分にあることを理解していたからだ。

真・6弔花もトリカブトとデイジーがやられて、既に3人だ。

一人は未だ牢獄の中であり、僕はすぐさま復讐者と交渉して彼を投入しようと考える。

真・6弔花など彼だけいてくれさえすれば後はどうとでもなる。

所詮、僕以外は全て駒でしかないのだから。

報告の後も何やら言い淀んている様子の桔梗が気になり、訪ねてみれば、トリカブトを倒したのはボンゴレではないらしい。

 

「黒いヘルメットを被ったレーシングスーツ姿の男……ねぇ…」

「はい、壁を伝っていきなり現れました……ボンゴレたちも相当驚いていた様子から見知った者の介入ではなかったかと」

「少し予想はついてるけど、おかしいなぁ……何で彼が元の姿になっているんだろうね」

「彼…とは?」

「君は知ってるか分かんないけど、彼はユニを除く最後のアルコバレーノだよ」

「!」

「にゅや?」

「?」

 

ブルーベルとザクロは首を傾げるが、桔梗だけが表情を変える。

 

「まさか…狂人スカルとでも言うのですか?あの男が…」

「そのまさかさ、特徴も一致してるわけだし…おしゃぶりとか見えなかったの?」

「すみません、あまりの速さに確認出来ませんでした」

「別にいいけど…それよりもタイミングがいいね、彼が日本にいるなんて」

「あの…白蘭様」

「何?」

 

おずおずと桔梗が僕に問いかけてきた。

 

「何故、アルコバレーノであるスカルをこの時期まで生かしていたのです?白蘭様の言い様だと、既に面識があったにも関わらず殺さなかったという印象を受けましたが…」

 

殺さなかった、ねぇ。

違うね、僕は彼を殺せなかったんだ。

今でも覚えているよ、彼との会遇を。

 

 

 

あれは数年前、まだミルフィオーレが表立った組織では無かった頃だ。

出会えたのは偶然に等しかった。

何故なら、この世界のスカルは異質であり、並行世界の知識がてんで役に立たないからだ。

彼の経歴はどの並行世界にもなかったことばかりだ。

裏の世界では、恐怖の代名詞として恐れられた狂人スカル。

そんなスカルはどの並行世界にも存在しなかったし、似ている者もいなかった。

彼が唯一の存在なのだ。

少なくとも、ボンゴレが存在し、ミルフィオーレが存在し、今のこの世界に類似しているという条件下でだが。

当時、僕は既に並行世界の知識を共有したお陰で実力も申し分なかったし、アルコバレーノに対して遅れは取らないと自負していた。

いや、まさしく相手ではなかったのだ、並行世界では。

この世界でも既に少量のノントリニテッセが大気中に存在し、彼らは本調子で戦うことは出来ない。

 

「やぁ初めましてかな、君に興味があってね…一度話したいと思ってたんだ♪」

 

開口一言目にそう伝え、彼の足を引き留める。

そして彼の姿を見て、噂通りであると思った。

血まみれになったところで目立たぬように全身黒で覆われているその男に、言葉を続ける。

 

「トゥリニテッセを覚醒させる為にはアルコバレーノのおしゃぶりが必要でね、君のおしゃぶりも必要なんだけど、それよりも君自身に何か見出すものがありそうな予感がするんだ」

 

その言葉は本心だ。

なんせ数少ない唯一の存在だから。

彼の中身を見たいという好奇心は久しく抱かなかったものであり、既視感を抱かせない彼はまさに探求心を(くすぐ)る魅力的な存在だったのだ。

そのヘルメットの下はどうなっているのか、他の並行世界の彼と同じ姿をしているのか、どうしてこうも人格が違うのか、君の脳内はどうなっているのか、同じホモサピエンスでありながら他と一線を画する何かが彼にはあった。

 

ピリ、と肌に刺激が伝わり、一瞬それが何であるかが分からなかった。

殺気…とまではいかないこれは、ああ、そうか…警戒されてるのか。

それにしても随分刺激的なものをその小さな身なりで送ってくれるものだね。

彼の覇気に呼応するかのように大気が震えている。

これがアルコバレーノ?

いいや違う、彼が異質なだけだ。

あの晴れのアルコバレーノならば納得いくものの、目の前にいるのは全くと言っていいほどの未知の領域だ。

 

イレギュラー

 

その忌々しい言葉が脳裏を過ぎる。

苦々しい思いを顔に出さず、警戒しないでほしいと僅かばかりの希望を乗せて彼に軽く伝えてみたが、案の定この重苦しいソレが緩まることはない。

僕でなければ泡吹いて卒倒するか、その場で無様に逃げ回っていただろうに。

会話もままならない状況に思考を巡らせていると、彼の右腕がポケットに移るのが視界に入り、柄にもなく焦った。

 

「待ってよ、僕君とお話したいだけで傷つける気なんてこれっぽっちもないよ?だからそれ、仕舞ってくれない?」

 

顔に笑顔が張り付いたまま固まったように表情が動かせない。

僕の実力は並行世界からかき集めた知識の共有で補完された部分が少なくない。

正直言って、精神的に戦闘慣れしていない今、彼とやり合ったところで勝機は薄い。

彼との面識は済んだ、実力が測れないのは惜しいが自身の命が優先だ。

 

「ああ、僕は白蘭っていうんだ」

 

何気ない会話を振って、隙を見て姿を消そうかなとそう思っていると、直ぐ側から女性の悲鳴が響く。

一瞬だけ気を逸らされ、再びスカルへと視線を戻せば、既にそこには誰もいなかった。

まるで最初から誰もいなかったかのように。

目を見開き周りを見渡すが、それらしい影はなく、既にこの辺りから姿を消したのだと悟ると、漸く緊張が解けた。

近くにあったベンチに腰掛ければ、深呼吸を一度、すると安堵が胸に広がる。

 

「この能力に頼り切ってると、イレギュラーに対処出来なくなるってことか…」

 

今がまさにそれだったのだ。

彼はイレギュラーであり、僕にとって天敵になりうる存在でもある。

僕の目的の障害になる前に殺してしまわなければと固く決意するも、彼の居所が掴めない上に後ろ盾のカルカッサはボンゴレに次ぐ勢力を保持している。

カルカッサを攻撃し、カルカッサがボンゴレと同盟を組もうとすれば、ボンゴレは首を縦に振る可能性が高い。

だが逆だと別だ。

ボンゴレが攻撃され、カルカッサに同盟を申し込んでもカルカッサは見捨てることを選択するだろう、よくて不可侵であり、決して同盟には至らない。

それを見越した僕は、まずボンゴレから潰すことを決意する。

一つずつ不安要素は潰していかなければ、イレギュラーは殺せない。

ボンゴレを殺すなんてどの並行世界でも成功してきた。

だから、大丈夫……イレギュラーは必ず殺せる。

なんせ僕は、創造主たりえる者なのだから。

 

 

 

 

 

「ま、スカルのことはノータッチでいいよ…別ルートで居場所を特定しておくから」

 

少し昔を想い耽っていたが、今はそんなことしている暇はないやと、現実に思考を戻す。

桔梗にはそう伝え、とにかくボンゴレから先に潰すことだけに専念しようとした。

 

「白蘭様、今後スカルが接触してきた場合…どうしますか?」

「んー…確実に殺せると判断したなら殺してくれると助かるけど…君等じゃ彼の相手になるかどうか」

「…それは、スカルが我らの実力を上回ると?」

「彼の実力は未知数だ……いや、だからこそ慎重にいかなきゃ、ね…」

「未知数…それは白蘭様のお力を用いても、という意味でしょうか?」

「そうだね、彼はイレギュラーであり、今現在も厄介な存在だ…何の方法を用いたか知らないけどアルコバレーノの呪いを解いてるみたいだし」

 

彼について少し考え込んでいると、高く唸る声が聞こえ、ブルーベルを見やり、どうしたの?と問いかければ、彼女は眉を八の字にして呟いた。

 

「白蘭の顔少し怖ーい、いつものニコニコしてる白蘭の方が好きなのにー!」

「ああ、ゴメンね?彼のこと考えてると自然に眉が寄っちゃうんだ♪」

「にゅにゅー、白蘭にそんな顔させる奴なんかブルーベルがけちょんけちょんにしてやるんだからねー!」

「とにかく、明日の決戦に備えて君たちも休んでいいよ」

 

僕の部屋から出ていく彼らを尻目に、牢獄に待機してるであろうアイリスに繋ぎ、彼を出すように伝えると、万全とは言い難い体を引き摺るようにベッドまで向かって行った。

既に別の者にスカルの動向を探ってもらっている。

居場所が割れたら連絡が入るハズだ、それまで出来るだけ体力を温存しなければ…

僕の意識はシーツの中に埋もれていった。

 

 

 

 

『白蘭様、スカルの居場所が特定できました』

 

部下の一人がそう報告した。

よく彼を見つけられたなぁって関心するけど、単に彼が今回隠れる気がなかったのかもしれないという可能性が頭を過ぎる。

既に姿を見せた彼のことだ、何か目的があると思うが、生憎今の僕は彼に割いている時間はない。

どうやら彼は遠くない場所にあるホテルにいたとか。

何もせずに待機と伝え、僕は綱吉クンやユニちゃんが逃げた森へと足を向ける。

彼はボンゴレを全て潰した後だ。

森のとある地点で、真・6弔花と別れた僕は彼らの戦いの行く末を眺めていた。

既に満身創痍に近しいボンゴレが、修羅開口した真・6弔花に勝てるはずもなく、段々と戦力を削がれていく。

ここまで面倒な展開になった世界はここと、あと二つ程度あったかな。

どれも僕がボンゴレを潰して終わったけれど、今回はユニの魂といい今までとはまた別の展開になりそうだ。

自然と口角が上がっていることに気付いたと共に、通信機に新たな報告が入った。

スカルだ。

彼を監視していた者達が消息を絶ったらしい。

スカルが潜伏しているホテルの向かい側のビルにいた監視していた数名の部下が跡形もなく消えていた、ほんの数分通信が途絶えたかと思えば、消えていた、そう報告された。

恐らく既に殺されているだろうな、そう思っていた柄の間、通信機越しの声が途絶え、不穏な音が微かに響いた。

 

 

ゴキリ……パキ…グチャ……ゴキュ…ズズ…

 

何かが折れるような、液体を啜るような、不気味極まりない不穏な音。

ああ、彼らは既に殺された

そう頭が理解するが、体が動かず僕はただその音を耳にしていた。

脳裏に響く音が、不気味な音が、今まさに自身の目の前まで迫ってきているような感覚が背筋を駆け上る。

先ほどまで上がっていた口角も、気分も急降下し、鳴りを潜めている。

砂嵐のように、通信機の電波が途切れだし、不快さを増していくのを、ただただ耳にしていた。

 

『ザザッ――――ザ…――――――()ね――――――』

 

瞬間、心臓が鷲掴(わしづか)まれたかのような衝撃に襲われた。

息を吸うことを忘れ、息苦しさがこの身を襲う。

ブツリ、通信機が切れる音がして、僕は我に返る。

自身の指が震えているのが見え、僅かに冷や汗が背中を伝うのが分かる。

 

何だ、あれは……

 

およそヒトではない何かが、そこにいた。

脳に酸素が回り切った今、極度に硬直していた身体が弛緩していく。

藪蛇(やぶへび)だったか…

いやあれが蛇なんて陳腐なものではない、言葉では表せぬ恐怖が確かにあった。

心臓を一撫でし息を整えば、思考は幾分か明瞭になる。

最終決戦の前に思わぬ事態に襲われたが、まだ桔梗たちが時間を稼いでいる。

早くいつもの万全な状態に戻らねば…

 

無理やり(つくろ)った笑みはかつてないほど、歪なものだった。

 

 

 

 

 

ユニside

 

 

スカルと別れた後、泣いていた私を見つけてくれた沢田さんとリボーンおじ様は暫く私を気遣ってくれていた。

二人は、いきなり乱入してきた男が誰か分からず警戒していた。

どうやら私がスカルに何かをされたのかと思っていたらしいが、私は首を振ってそれを否定した。

何もなかったのだ、と…

私の本当の目的をここで悟られるわけにもいかず、何でもないと頑なに彼と過ごした短くも奇異な時は誰にも教えることはなかった。

彼と出会えてよかったと、心の底から切実に思う。

自身の思いと向かい合うには時間が少なすぎるが、それでも、直前に突き付けられるよりも幾分か楽だというものだ。

私はこの恐怖に打ち勝ち、全てを守るための礎にならなければならない。

ありがとう、スカル…

出来れば、あなたの綺麗な瞳を一目見たかったけれど、もうあなたと会うことはないでしょう。

リボーンおじ様と沢田さんの心配を他所に、他の者達との合流を急かし、森の奥へと逃げる。

最後の夜を迎えた私の心はひどく穏やかだった。

皆満身創痍であるにも関わらず明るく、笑顔を絶やすことはない。

確かにそこに灯り火を垣間見た。

明日だ…全て明日で決まるのだ。

私の運命も、皆の運命も、世界の運命も――――

 

 

陽が顔を出し、朝となった。

皆の顔は覚悟を決めていて、沢田さん以外の戦闘員は皆その場から去っていった。

どうか無事で…

私にはちっぽけな祈りしか出来ないけれど、どうか、どうか…生きて帰ることが出来るよう願いましょう。

戦闘が激しくなり、爆音や地鳴りが辺りを覆い尽くす。

心の中に残るのは圧倒的な不安のみ、それは皆も同じで誰もが不安を隠せぬ顔をしていた。

新たな敵の出現に、沢田さんが前戦に向かって行った直ぐ後だった。

聞き慣れぬ音楽が辺りを満たした瞬間、急におしゃぶりが割れ謎の結界が私を包み込んだ。

リボーンおじ様!とあらん限りの声で叫ぶが、結界は強固なもので、私は無力にも前線へと導かれる。

何故、大空同士が共鳴して……ああ、ダメだ、恐れるな…運命はすぐそこだ。

刻々と近づく運命の時に、胸の中に不安と恐怖が広がっていく。

 

「ユニ!?」

 

白蘭と戦っていた沢田さんが私に気付き、驚愕していた。

そのまま私を覆っていた結界は、彼らの結界と重なり、私は白蘭と沢田さんが戦う結界の中に閉じ込められた。

外では皆が結界を壊そうと試みるが、罅一つ付けることが出来ない。

私は悟った。

 

 

ここが、私の墓場だ。

 

 

白蘭に怯えながらも、彼らの戦いを見守ることしか出来ない自身の無力さを嘆く。

沢田さんが追い詰められることをただ眺めることしか出来ず、飛び出していきそうな自身を体を必死に抑える。

既にあれの覚醒は始まっている。

あともう少しだけ、時間が……

服の中で動き回る彼らを抑えることが出来ずに、服の外に出てしまう。

それは4つのおしゃぶりだ。

死んでしまった、彼らを復活させるための唯一残された奥の手…

白蘭は私の意図に気付き、阻止しようと動くが沢田さんがそれを阻む。

だが白蘭の圧倒的な力の前にとうとう沢田さんが倒れてしまった。

リボーンおじさまの声で意識を取り戻す沢田さんのボロボロな姿が私の心をを突き刺していく。

もう、これ以上…傷付いて欲しくなくて、でも彼しかいないのだ。

これが最後の灯り火なのだ。

ごめんなさい、ごめんなさい…生きて……死なないで………生きて白蘭に勝って!

その時だ、ボンゴレリングから初代ボンゴレが投影された。

いや、彼だけではない、他のリングから初代守護者達が投影されていく。

初代ボンゴレは、ボンゴレリングの枷を外していく。

 

Ⅹ世(デーチモ)、マーレの小僧に一泡吹かせてこい」

 

そう呟いて彼らは消えていく。

枷を外されたボンゴレリングの威力は桁違いで、沢田さんが白蘭を押し始める。

このうちに私は本格的に生命力をおしゃぶりに注ぎ始める。

足から力が抜けていき、座り込む。

 

「本気なんだね、ユニ…本気でおしゃぶりに命を捧げて死ぬ気なんだね‼」

 

白蘭の言葉に沢田さんが困惑しているが、私は言葉を紡ぐ。

 

 

「これが私にできる唯一の賭け…そして避けることのできない私の運命(さだめ)

 

 

世界の為に 未来の為に 愛する者達の為に

 

段々体に力が入らくなっている。

既に運命は確定した。

 

 

お母さん…おばあちゃん…もうすぐそちらへ行きます…

 

 

恐怖はある

あるけれど、それ以上に皆を助けたい

 

ふいに聞こえた何かが割れる音に視線を上げる。

そこには黒い、ところどころ埃まみれのスーツを着た、愛しい彼がいた。

 

「俺の命も使っちゃくれねぇか?」

 

γ(ガンマ)…」

 

両目から溢れる涙で視界がボヤけている。

 

「あんたを一人にはさせない」

 

この胸の内から湧き上がる感情は、まさに歓喜だ

でもそれと同じくらい悲しさも湧いてくる

 

愛するものと共に逝ける歓び

愛するものの命を奪う哀しみ

 

綯い交ぜになる心を包み込むかのようにγが私を抱きしめる

大丈夫だ、俺がいる、安心しろと嘆くかのように優しく抱きしめられる

 

運命の時はすぐそこまで来ている

 

 

ユニ うれしい時こそ心から笑いなさい

 

 

ふいにお母さんの言葉が聞こえたような気がして、私は笑みを作る。

笑って逝けることにこれ以上の幸せがあるものか

愛しい体温に包まれた私はおしゃぶりに炎を注ぐ

 

灯せ 灯せ 残り火を すべて

 

体が消えていく感覚に瞼を閉じた

 

その時だった

 

 

          『生きろ』

 

 

 

 

脳裏を反芻(はんすう)するその声に、瞳を最大限に見開いた。

そして ふわりと 何かが私の頭に置かれる

 

懐かしような 悲しいような どこか晴れやかな

 

上を向くと 一面に広がる青空 そして

 

 

  

        眩しい生命よ

 

 

 

 

私の視界は真っ黒に塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     こえ

 

「―――――ニ、――――――で!」

 

       声が

 

「ユ―――!」

 

   声がする

 

 

 

 

機械音が反響する

酷く重たい瞼を開けば、視界には白一面

 

眩しさに目を細め、全身が重力に包まれる感覚に目を見開いた

 

 

生き、てる…?

 

 

「ぁ……」

 

 

掠れた声が喉を通る

 

「ああ…あああああっ」

 

 

乾いた唇に、喉に、痛みが広がる

 

肌を潤すように 溢れたソレは 頬を伝う

 

 

痛みが広がるのも無視し、私は泣き叫んだ

 

しわがれた声がただひたすら木霊(こだま)

 

 

 

思い出せるのは一面の青と 

 

 

白く 美しい  小さな花

 

 

 

私は涙と共に生を噛み締めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リボーンside

 

ユニの結界を破壊しようと、バジルの匣兵器に全員の炎を注いだ。

そして、匣兵器のコンビネーション技で結界に衝撃を与えるが、大きな罅が入るだけに留まり、それは徐々に治っていく。

 

「クソっ!炎が足りなかったか!」

「どうする、もう出せる炎もないぞ!」

 

獄寺と山本の言葉に舌打ちをしたくなった。

ユニ!

 

その瞬間だった。

 

 

予期せぬ方角から、何か大きな力が結界に衝突した。

それは罅へと直撃し、パリンとひと一人が通れる大きさに割れる。

誰もが目を見開く中、γがその穴へと飛び込み結界に侵入した。

俺は謎の攻撃が撃たれた方向を見るが、周りは森ばかりで、遠くに高さのある建物が見えるだけだ。

まさかあの建物からこれを狙撃したとでもいうのか!?

驚愕していると、結界の中が騒がしくなったのに気付き、そちらに視線を戻す。

白蘭が忌々し気に結界の穴を睨んでいたのだ。

 

 

「ほんっと、邪魔で、イラつくよ………君も、彼も…」

 

白蘭は手を額に当て、何かをぶつぶつ呟いている。

俺は読唇術でそれを読み取った。

 

あいつは  最初に 殺しておくべきだった

 

まるで白蘭と敵対している者が俺達以外にも誰かいるかのような発言に、俺は心臓がざわついた。

それも白蘭の次の言葉で明らかになる。

 

 

くそ  あの  忌々しい  狂人め

 

 

それだけで、俺は分かってしまった。

誰があの攻撃を仕掛けたのかを…

 

そんな白蘭を他所に、ユニが全ての炎を使い切りγと共にその場に倒れる。

 

「ユニー!」

 

ツナのショックは隠しきれず、その場の怒りが全て白蘭へと向かう。

二人は、最後の攻撃に備え構えだす。

白蘭とツナの炎が衝突し、大空の結界に罅が入っていく。

遂に結界が壊れ、俺は倒れているユニとγに駆け寄り、山本とバジルが彼らを離れた場所へと連れていく。

白蘭がツナに押し負けてツナの炎を喰らい搔き消される。

その場にはツナが肩で息をしながら立っていた。

 

俺はすぐさまユニの下へ行き、彼女の状態を確かめた。

 

「‼」

「リボーン!ユニは!?」

 

ユニの首に手を当てると、僅かに、動いていた。

 

「生きてるぞ、直ぐに処置しねぇとヤベぇ!γもだ!」

「い、今ボンゴレの医療班を呼びました!」

 

俺の言葉にジャンニーニが応える。

全ての炎を使ってなお生き残ったのは何故だ。

γの炎の分がユニを助けたのか!?

どれだけ仮説を立てたところで、現状がどうなるわけでもなく、俺はユニとγの状態に注視する。

ボンゴレの医療班が到着し、ユニとγが運ばれて行った直後、ツナがぶっ倒れる。

ツナはボロボロで一歩も動けそうになく、そんな時にユニの炎を注がれたアルコバレーノが復活した。

安堵したツナは直ぐに気絶したが、まぁあんだけやれば合格点だ、と俺は口角を上げる。

 

数時間後、医療班からの連絡で、ユニが一命を取り留めたことが分かった。

その場にいた全員が舞い上がる。

俺も心の底から安堵し、ユニを見舞いにでも行くかと考え、ふと思い出す。

 

にしてもあの野郎が何故…

憎い相手であれど、ユニを救った要因の一つであることには変わりない。

認めたくねぇが、な。

俺の知っている10年前のあいつはまだしも、俺はこの時代の奴を知らねぇ…

心変わりなどあいつにあるわけがないと思うが、何の目的でボンゴレに手を貸したのかが分からない。

それに加えて、ユニをトリカブトから奪い去ったあの男。

背丈や特徴はまるであいつだったが、有り得ない。

アルコバレーノの呪いを解いたとでも言うのか…

 

「くそ、てめぇは一体…何を考えてやがる」

 

ユニなら何かを知っている気がするが、目覚める気配はない。

ユニが目を覚ますまで時間がかかるらしく、心に(わだかま)りを残したまま俺達は過去へと帰った。

 

 

 

 

 




スカル:何もしてない、暴発したライフルの弾丸が結界に当たったらしい

フグ男:暴発の原因、雲の炎をライフルに注いでしまったための暴発

ポルポ:トラウマ製造機、ミルフィオーレの雑魚をもれなくモグモグした

白蘭:若干のトラウマ確定、スカルに対して苦手意識を持つ

ユニ:生存、しかしすぐに過去に戻るので彼女の生存にあまり意味はない、スカルへの好感度高め

??:ユニの中にある

ヒットマンなあの人:悶々している、大事なユニを助けてもらったけど感謝したくない…ぐぬぬ、


未来編終了、次シモンね。
まだリアルが忙しい、ぶっちゃけ小説書いてる暇ないよ!ってほど忙しいけど、執筆中毒になってる気がする、ヤバイ。
忘れないうちにこの内容を書きたかった、反省はしているが後悔はしていない。


誤字脱字を確かめる為に音読機能を使ってみたんですが、腹筋崩壊しました。


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シモン編
skullの外堀


俺は知らない。


D・スペードside

 

 

背後で崩れる瓦礫の音が遠く聞こえる。

痛みがじくじくと身体を(むしば)み、額から赤い鮮血が頬を伝う。

しかし、どれもこれも気にしている余裕など微塵たりともありはしない。

腕の中に力を失くした愛しい、愛しい彼女が今にも事切れようとしていた。

 

D(デイモン)…あなたなら出来るわ…」

「エレナ!エレナ!」

 

喉から絞り出た声がその場に反響する。

 

愛しい 愛しい 私のエレナ 

 どうか    どうか    死なないでおくれ

 

神にも縋る願いは無残にも見放され、そして冷徹なまでに温度を失くした現実だけが突きつけられた。

 

瞼を閉じた彼女の透き通る肌から溢れ出る鮮血が

彼女の頬を伝う透明な涙が

ぼやけた視界に映った、音を立てて崩れる瓦礫が

 

全てが鮮明に 己の瞼の裏に焼き付けられた

 

忘れてなるものか 忘れてなるものか

 

 

視界が明瞭になる頃には、腕の中の温もりは何一つ残ってはいなかった。

 

 

 

 

ふと、仄暗(ほのぐら)い水底から這いあがるように覚醒した私は瞼を薄く開く。

天井を呆然と眺め、ふいに自身の手を目の前に(かざ)す。

そこにあるのは見慣れた自身の手の平ではなく、他人の手の平である。

緩やかな動作で上体を起こし、窓に反射する顔を見やる。

幼さの残る顔に印象深い顎髭、本来の人物ならば決して映すことない絶望の色を垣間見せる瞳、一度溜め息吐き心身を切り替える。

戯曲(ぎきょく)は既に出来上がっている。

役に入り込むことこそが今の己に出来る、喜劇への膳立てである。

 

 

「今日も可愛い女の子、見つかるかなぁ」

 

今日もまた加藤ジュリーの仮面を被り、自室のドアを開く。

仮面の下では、歪んだ笑みが今か今かと仮面が剥がれ落ちるのを待ちわびていた。

 

 

 

「ジュリー!どこをほっつき歩いていたの!」

 

 

刺々しい口調と共に、アーデルハイトが少しだけ垂らしている前髪と、一纏めしている後ろ髪を揺らしながらこちらへ向かってくる。

眉間に皺が寄ってもなお端正な顔がより一層険しくなりながら、カツカツとヒールの音を引き立たせる。

 

「今日は初日なのよ、それを登校したかと思えば途中から堂々と怠けて!」

「あーあー、悪かったよアーデル…それよりもボンゴレはどうだった?」

 

彼女の小言は聞き飽きたとでもいうような態度で、話の軌道を変える。

 

「明日、雲の守護者に仕掛ける予定よ…あなたも明日からちゃんと授業も受けなさい」

「はいはい」

 

雲の守護者、雲雀恭弥か…今の時点の彼らの戦力を測るのも悪くはない手だが、まだ真の実力を発揮出来ない彼女が雲の守護者に勝てるかどうか…

私が演じているジュリーの態度で溜め息を吐きながら、眉間の皺を若干緩めた彼女は隣を歩き出す。

シモンファミリーが借り切った家に行けば、全員が揃っており既に夕食が準備されていた。

 

「ジュリー遅いよ」

「悪ぃ悪ぃ、遅くなっちまって」

「いただきます…」

 

らうじの小言を軽くいなし、端で炎真がぼそりと呟き夕食に手を付けていた。

アーデルがふいに思い出したのか、炎真に声を掛ける。

 

「炎真…アランさんからの連絡はあったの?」

「…来てないよ……並盛に来てからはまだ…」

「そう」

 

アーデルは再び夕食を口に運ぶ。

アラン…何かとシモンファミリーの金銭的な援助を率先しているイタリア警察官。

何故シモンファミリーの援助をしているのか、それには至って単純な理由があった。

それは、彼が狂人スカルに対して並みならぬ憎悪を抱いており、スカルとの接触があったでろう古里炎真に、スカルが再び接触する時を監視するには持ってこいの立ち位置が欲しかったからである。

実際炎真とスカルにこれと言って接点はない。

というよりも、私がD(デイモン)として彼に古里一家虐殺の日の人避けを依頼しただけであり、炎真自身スカルの存在すらも噂程度でしか知らないだろう。

アランも恐らく何らかの理由でスカルを追い、古里一家の虐殺にスカルが関わったことをどこからか嗅ぎつけたのだろう。

だがスカルと古里炎真の間に直接的関係性はないし、それは探ろうと思えば直ぐに分かる事実だ。

であれば何故今もまだ古里炎真をマークし続けているのか、それは単に私が彼を駒として利用したかったからにすぎない。

いうなれば保険だ。

Dという存在を使わずに裏でシモンを焚きつけ、そして利用する人物が欲しかったのだ。

二重三重と隠し通したDという名の存在を面に出さぬよう、アランという男の存在を利用した。

これによって、もし今回の計画が頓挫したとしてもそれを企てたのは私ではなくアランという男。

そしてアランの口から私の名が出ることはない、なんせ彼から見た私はただの幻術であり架空の人物なのだから。

にしても彼はよくやってくれている。

スカルについての偽情報と引き換えにボンゴレの情報を彼らに流すよう指示したりと、スカルに関することとなると目の色を変えて食い付くあの男があまりにも滑稽であり、その復讐心が愚直なまでに道化師のようだった。

スカルについての偽情報とは、スカルの存在をそのままボンゴレに()げ替えただけのものだ。

幸いアラン自身スカルの姿を見たことはなく、替わりに古里一家を殺した時に幻術で見せていた沢田家光の姿を目視している。

これによってアランはスカルと沢田家光が同一人物であると思い込んでいる。

彼に必要以上にマフィアの世界を知られスカルの正体に感づかれては困ると、幻術で情報操作をしている為、彼が本物のスカルを知ることはない。

スカルという男の望んでいるままを描いているのではないかとさえ思える程、()()()()()()()

私がそう仕向けたのにも関わらず、それもまた奴の巡りに巡らせた糸にまんまと引っ掛かっているようで癪に障る。

だが奴はまだカルカッサの人間だ、まだ今はボンゴレの不利益を願う者であることに変わりはない。

 

ああ、実に滑稽だ。

 

古里炎真はボンゴレを憎み、アランもスカルという名を通してボンゴレへと憎悪を膨らませている。

これも全ては腐った今のボンゴレを立て直す為のものであり、腐った部分を一掃し、新たなボスを据えたその時はどちらも捨てるだけだ。

そしてカルカッサお抱えの軍師であるスカルを、ボンゴレの軍師に据える。

まぁスカルに関しては望みが薄いが、彼の趣向を考えれば、今回の喜劇を気に入りボンゴレへの移動を思案してくれるのではと思っている。

黙々と食事をしながら思考に耽っていると、目の前に座っている炎真のスプーンが止まるのが視界に入り、現実へと思考を切り替える。

 

 

「アーデル、ボンゴレの情報は全てアランから聞いてるよ…これ以上彼らに近付く意味ないんじゃ…」

「だめよ、他人の情報を鵜呑みにしたまま何かを見逃して私たちの計画に支障を来たしたらどうするの」

「……」

 

炎真の言葉にアーデルが正論で返し、言葉に詰まる炎真はいつものように眉を八の字にする。

 

「ま、別に無理して関わらなくてもいーだろ…どうせあと一週間限りの組織だ」

 

炎真を擁護(ようご)するように、ジュリーの仮面でそう付け加えればアーデルから一睨み貰う。

というのも、必要以上に彼らと関わって情が移られては困る。

炎真はコザァートの血を受け継ぐ者であり、今の沢田綱吉を殺しうる可能性を持つ者。

それと同時に小心者な上にまだ年幅も行かぬガキ…故に流されやすい。

情に流されては困る、最後までボンゴレを悪と見なし徹底的になぎ倒していって欲しいのだ。

真の計画の為にも、だが。

冷めた食卓を終えれば後は寝るのみ。

シモンファミリーを監視する為、真の計画の為にも恐らくあと2週間以上この身体を借りなければならない。

睡眠とは何故こうも不便なのか…そう不満を漏らすことも出来ず体が欲している休息の為にベッドへと横になる。

仰向けになる私の目の前にあるのは、ただの天井と窓から差し込む一抹の光だけであり、静寂がその場を支配する。

 

    あと もう少し

 

 戯曲(ぎきょく)は既に出来ている

 

       (ロール)を演じるだけ

 

シモンファミリーは念願の復讐を果たし、それを踏み台に腐ったボンゴレ内部を一掃し、新たなボンゴレとしてより高みへと押し上げる。

これを喜劇と言わずして何と言う。

私に嗜虐趣向(サディズム)の気はないが、あるいは彼…スカルならば歓喜するのでしょうね。 

 

生ぬるいボンゴレなど、いつかのジョットが望んでいたとしても…私が認めない。

 

 

 

噎せ返るような鉄の匂いと

 

背後に響く瓦礫の崩れる音と

 

腕の中の冷めきった重さと

 

 

 

脳裏を過ぎ去る忌々しい記憶と共に意識は深淵(しんえん)へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

アランside

 

 

「シモンが動いたか」

 

片耳に入れていた機器を外し、何枚もの資料が重ねられているデスクの上に置く。

浮き上がった血管が目立ってきた若くない手の甲を眺めながら、誰もいないオフィスで一人深く息を吐く。

遂に、あと一歩のところまで追いつめた。

奴を見つけ出して殺す、それだけに何年という年月をかけたことだろうか。

シモンファミリーという若者のマフィア集団を利用して早数年、既に俺はいくつか昇進し、自身のオフィスを貰える程の地位を得ていた。

色々な人脈を駆使し、忌々しいあの男を探していた。

だがいつになっても名前どころか存在さえ掴むことが出来ずにいた。

奴と、奴が殺し損ねた少年に直接的関わりを見つけられず、少年から手を引こうとしていた時期だった。

少年が何故狙われていたのかが分かった。

少年の父親はマフィアであり、マフィア間の揉め事で命を狙われていたのだ。

そして殺したのはスカルという男であり、彼はボンゴレというマフィア組織に属している男だった。

そう、俺の人生を狂わせた男の名前…

様々な人脈の中の一人、目立たぬ容姿をした男からやっとのことで得た情報だ。

だがスカルの属するボンゴレという組織はかなり強大で、表の顔も持ち合わせており下手に手が出せない存在でもあった。

そこで俺が目を付けたのは家族を殺された少年と、その少年が属しているマフィア集団だった。

彼らはボンゴレという組織の傘下であると同時に、家族を殺したボンゴレに憎悪を抱いている。

目的は一緒…だが俺の立場上表立って動くことも出来ず、かといって人脈を手放すことは出来ない俺は、少年を利用した。

ボンゴレというマフィア組織を壊すべく、少年の復讐心を見事なまでに焚きつけた俺は、シモンファミリーというマフィア集団に一抹の希望を乗せた。

俺はボンゴレという組織に興味はないが、そこに所属しているスカルという男を殺したい。

シモンファミリーは家族を惨殺したスカルを筆頭としてボンゴレの全てに憎悪を向けている。

ズレながらも噛み合う利害にこれ以上何を求めるというのだろうか。

俺はシモンファミリーに全てを賭けることを決意し、金銭的援助や入手したボンゴレに関する情報を流していたりと、彼らの復讐を(たぎ)らせるよう仕向けた。

少年の人生にもっとマシな道はあっただろうが、俺がその未来を全て潰して復讐というドス黒い泥水を啜るような(レール)を歩ませた。

復讐心に満たされた心に残った僅かばかりの良心の嘆きに耳を傾けることはなく、シモンファミリーが着々と力を付けていく様を見守り続けてきた。

だがそれももうすぐだ。

時が、時が来た。

一週間後のボンゴレ継承式にシモンファミリーが謀反(むほん)を起こす。

そしてシモンファミリーが所有する無人島に彼らを誘い込み、ボンゴレの後継者を殺し、ボンゴレをあますことなく叩き潰す。

それに乗じて俺はスカルを見つけ出し、この手で殺すだけ。

一週間だ。

全てはその時に決まる。

 

俺は日差しが差し込む窓を眺め、再び盗聴器を手に取り、誰にも見つからぬようデスクの引き出しに置き、二重ロックを掛けてオフィスを出る。

既に今日中にやるべき仕事を終わっていたアランは帰路に着いた。

陽が沈んだ頃に帰った家には誰もおらず、あるのは寂れた空間と、今にも身震いしそうな寒さだけである。

くたびれたコートを椅子に掛け、いるはずのない妻と眠っていた寝室の扉を眺める。

最後に妻の顔を見たのは1か月前だ。

妻に逃げられる形で別居をした。

親権は妻にあり娘も妻もいなくなってしまった家の中は酷く寂しく思える。

妻と別居した原因を言うならば、俺の精神的な問題だ。

人を殺した挙句、それを隠蔽した。

その罪悪感は測り切れず、何も知らぬ妻と子を見ると、癒される一方何故自分の苦労を理解してくれないのだと理不尽な苛立ちを覚え始めた。

それからだろうか…俺の精神が本格的におかしくなっていったのは。

まず夢にあの男が出てきて、俺を殺そうとしたところ、命からがら逃げきった俺が男を殺す夢を見た。

目の下の濃くなる隈に妻が心配そうにしてくるが、何でもないと口を閉ざすばかりだった。

17回目の男を殺す夢を見る頃には、妻が俺を病院に連れていこうとしたが、何とか誤魔化し続けた。

妻の心配と疑心の浮かぶ二つの瞳が俺を射抜くたび、心臓が鷲掴まれたように苦しかった。

一か月、半年、一年、数年と、緩やかに家庭内は冷めきっていく。

24回目の男を殺す夢を見る頃には、妻と話す機会が少なくなっていた。

娘もまた、俺が無理をしているのが分かっていたのか、それとも気味悪がっていたのか、遊んでとせがむことがなくなっていた。

遂に、俺が38回目のあの忌々しい男を殺す夢を見て魘されながら目を覚ました時には既に妻が家を出ていった後だった。

妻も娘も、何も言わずに家を出ていってしまい、残された俺はただ茫然と額に浮かぶ汗を拭うことも出来ず、律儀に鍵まで閉められた玄関の扉を眺めることしか出来なかった。

妻に出ていかれることはなんとなく気付いていた。

もうずっと彼女と喋っていなかった俺が今更戻ってきてくれなんて言えるわけもなく、連絡しようと開いた携帯を仕舞い込み、復讐が終わってから…と後回しにしたのだ。

それほど、俺はあの男を殺したかったんだ。

家族の仲がどれだけ悪かろうと、あの男を殺した瞬間のことを想像すると、家族間の問題もちっぽけなものにしか思えなくなる。

 

ぐぅ、とお腹の音が寂しい空間に響き、俺はキッチンへと足を向ける。

確か一昨日の残りものが冷蔵庫になかっただろうか…

ああ、ちくしょう…変な匂いがする、多分腐ってるな。

今タッパーから出してゴミ箱に捨てれば、ゴミ出しの日まで家の中にこの匂いが充満してしまうのかと考えると、俺はタッパーのふたを閉め再び冷蔵庫の中に入れる。

ゴミ出しする直前に出せばいいだろうと安易に考え、他の食材に手を付ける。

男を殺す夢に出てくる、どの家庭にもあるような包丁を手に取り、野菜や肉を切り刻み、鍋に入れ、煮込んでいく。

食欲をそそる匂いが鼻を通り、ますます空腹感を覚える。

いつもの癖なのか、3人分作ってしまった俺は、その事実に溜め息を吐き残りを空いたタッパーの中に入れ、一人分を皿に盛っていく。

誰もいない食卓で一人夕飯を口に入れては、咀嚼し飲み込む。

食べ終わる頃に家の電話が鳴り響いた。

電話番号を確認すると、それは妻の実家の義母親からだった。

 

『はい、もしもし』

『あら、アランさん…シンディとまだ別居中なの?』

『ええ…一応……義母(おかあ)さんの方にシンディから連絡ないんですか?』

『まぁね、元々実家に帰りたがる子じゃなかったから……それよりもいつ復縁を?』

『今回の喧嘩…というよりも別居は俺が悪いんです、俺が仕事にかまけて家族を放っていたせいで……だからシンディが俺の話を聞いてくれるまで一応待ってみて、それからちゃんと頭下げて謝ろうと思います』

『あらそうなの?良かったわ…その様子だとシンディも許してあげそうだものね、ええ』

 

直接対峙していないにも関わらず、電話の向こうの義母さんの化粧の乗った顔が浮かんでくる。

次に香水、妻が付けているネーブルオレンジの香水は確か母から譲ってもらったものだとか…要らぬ記憶ばかりが蘇り眉を顰める。

赤い口紅をべっとり付けた義母さんの口付けを嫌がる娘の顔まで出かかったところで、チャリンと、金属が擦れる音が耳に入り我に返る。

ポケットに入れている家と車の鍵の摩擦した音だと直ぐに気付き、俺はポケットから鍵を取り出し、家の鍵のスペアが既に掛かっている鍵掛けのもう一方の突起に鍵を掛ける。

固定電話のすぐ近くに鍵かけを置いておいてよかった、と何気なくそう思っていると電話の向こうの声に現実へと引き戻される。

 

『アランさん?』

『ああ、えっと……取り合えず急ぎの仕事が一週間後まで詰まっているので、あまりこちらから連絡出来ないこともあってシンディとちゃんと会って謝るのはその後になるかもしれません』

『そうね、シンディに謝る時くらい仕事のこと考えながらなんて嫌よね…私は貴方たち夫婦のことにあまり口を出すつもりはないけれど、孫のことも考えると早く仲直りして欲しいのよ』

『本当に迷惑とご心配をおかけして申し訳ないです…』

『じゃあ、お仕事頑張って…』

『ええ…』

 

通話の切れる音を聞きながら、疲れと共に溜め息が零れる。

一週間後とは言ったものの、シンディに謝りに行くのはあの男を殺してからだ。

少し期間は伸びるかもしれないが、ちゃんとシンディに謝りに行く気持ちはある。

テーブルの上の一人分の皿の隣にある携帯電話を手に取り、着信履歴を見るがそこに妻の名前はなく、虚しさが込み上げてくる。

無駄に時間を過ごした後、盗聴器に触れる気力もなく、俺は寝室に足を運び、一か月近く変えていないシーツに身を沈める。

最後の哀れみだったのか、洗い立てのシーツに変えたその日に彼女が出ていき、案の定俺は最低限の洗濯しかしておらず、シーツはあの日のままだ。

少し前まであったであろう彼女の温もりを思い出しては瞼を閉じて掻き消す。

意識が朧げになる頃に鼻を掠めるのは、ネーブルオレンジの香でも、柔軟剤の香でもなく、少しばかりの汗臭さだけだった。

 

 

 

 

神よ、俺は…いや、俺こそが罰せられるべきなのは重々承知です。

否、だからこそ最後の審判であなたの下した決断に迷いを残さぬためにも、今私は自分の思い描く未来を進みましょう。

神であるあなたの存在さえも踏みにじり、手放し、(すが)ることを、祈ることを諦めた俺を……どうか、許さないで欲しいのです。

 

 

 

 

 

そして今日も俺は53回目の夢を見る。

 

 

 

 

 




スカル:今回はお休み
D:加藤ジュリーに絶賛憑依中、原作通りシモンとボンゴレを見つつニマニマしてる。
アラン:いい具合に狂ってきている、妻子とは別居中らしい。

今回はこれからの展開に必要な内容をザックリと入れただけの話です。
多分シモン編でスカルの登場はないかもしれない。
次炎真side入れたいです。



今回スカルお休みだったので絵を貼っておきます。

【挿絵表示】


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skullの敬遠

俺は何も知らない。


古里炎真side

 

 

「ボンゴレの継承式で我らシモンファミリーの罪を返してもらう…そして、後継者である沢田綱吉をこの手で…」

 

アーデルの覚悟の決まった真っ直ぐな眼を僕はずっと、ずっと忘れはしないだろう。

 

あれはまだ僕らが並盛中に転校手続きをしたばかりの時だった。

引っ越し作業をしていると、僕の携帯に一通の着信が来ていて、僕は皆に断って携帯を開く。

相手の名前を確認すると僕はおずおずと通話ボタンを押す。

 

「もしもし」

『炎真君?今大丈夫かい?』

「えっと…長い時間は無理…」

『分かった、じゃあ本題に入るとしよう』

 

電話の相手はアランさんだ。

身寄りのないシモンをここまで支えてくれた恩人であり、僕らと同じくボンゴレを憎む人。

僕らとはまた別の理由でボンゴレを憎み、ボンゴレに一矢報いるつもりでずっとずっと僕らを援助し続けている。

僕らにボンゴレを倒すかもしれない可能性を見出してくれた、唯一のシモンの理解者…

家族を亡くした時からなにかと僕を気に掛けてくれたアランさんは、僕としては気の許せる人だ。

何度も死にたくてしかたなかった日々に、アランさんが声を掛けてくれた。

それがボンゴレへの復讐を誘う言葉であっても、僕をその目的の為に利用していようとも、それでも、今僕が生きているのはアランさんが支えてくれていたからだ。

アーデルはアランさんを信用し過ぎてはいけないと言うけれど、彼はボンゴレを倒すまで僕らに不利なことはしないと思っている。

アランさんのボンゴレへの憎悪を僕が一番知っているから…

また、アランさんも力を持った人たちに傷つけられた人の一人なんだ。

 

「何かあったの?」

『ボンゴレ九代目が継承式の三日前にそちらに向かうという情報が入った』

「!……そう」

『どうした?声が浮かないが…』

「…僕、本当に出来るのかなって………確かにボンゴレは憎いけど、僕が今からやろうとすることってそこらの不良やボンゴレとなんら変わらないって思って……」

『………違うよ炎真君、シモンファミリーの罪を返してもらってボンゴレに過ちを認めさせることは、ただ力を誇示したくて権力と暴力を振るうことと同じではない』

「……」

『君は何年もずっと悩んで、苦しんで、傷つきながら生きてきた……だから、その心にある(わだかま)りを今こそボンゴレに伝えて欲しいんだ…俺の分もね』

「アラン、さん…」

『俺の職業柄、そちらに行けなくてすまない…君に掛ける言葉が携帯越しで遣る瀬無いよ』

「……僕が今ここで何もしなきゃボンゴレは僕らシモンファミリーにしたことを全て忘れてなかったことにするかもしれない、やっぱり僕がやらなきゃ……」

『どうか俺の努力を、君らの復讐の礎にしてくれ…健闘を祈る』

「情報ありがとう…アランさん」

 

先ほどと違って、今の僕の胸の内に揺らぎに揺らいだ不安はない。

やっぱり、僕は彼らに思い知らせてやらなきゃ……

お父さんの為に、お母さんの為に…妹の為に。

ああ、まただ…またアランさんに支えられた。

アーデルはアランさんを信用はしているけど信頼はしていない。

紅葉も、しとぴっちゃんも、ジュリーも、(かおる)も、らうじもアランさんを信用しているし、信頼してるのに…

やっぱりアーデルは警戒心が強すぎるんだよ。

彼は家族ではないけれど、外部からという意味では一番シモンファミリーを理解している恩人だ。

それが例え打算であったとしても、それで僕は…シモンファミリーは助けられている。

ああ、あと少し…あと少しすれば、アランさんの念願の復讐と共にシモンファミリーの誇りを取り戻すことが出来る。

僕なら出来る……僕なら出来る。

皆がついてきてくれてるんだ、僕ならきっと出来るさ。

携帯を仕舞い込み、皆が運送トラックに荷物を運んでいる場所に僕も戻った。

 

 

 

「僕も逃げだすこと、しょっちゅう考えるよ」

 

そう僕が呟いた先にいたのは、憎むべきボンゴレ十代目の沢田綱吉だ。

何故か行く先々よく顔を合わせてしまう綱吉君に、どこか僕と似通ってるところがあるような気がする。

十代目ともてはやされた彼は、実際会話してみて分かったが、かなりの小心者だった。

ボンゴレを継ぐことに対しても反対している様子の彼を見ていて、本当にこれが僕らの憎むべき相手なのか分からなくなった。

僕らが知っているボンゴレは何だった?

暴力的で、専制的で、自分達に不利なことがあれば直ぐに消し去って、追い出して、なかったことにして…そんな外道な奴等だ。

でも僕の目の前にいる同い年の男の子は何だ?

小心者で、優しくて、お人好しで…とても人を陥れることが出来るような人じゃない。

一体どっちが正しいんだろう。

アーデルはまだ僕が悩んでいるのを気にしてるし、皆も面には出さないけどそう思ってる。

やっぱり彼に近付かなけりゃよかった……

一日、一日と継承式が近づいてくる。

彼の家へと招かれた僕はずっと彼を見てた。

 

ボンゴレがシモンに犯した罪を忘れてはいない。

僕の苦しみを、一生分の苦しみを忘れたことはない。

彼らへの憎悪を絶やさなかったことはない。

ずっと、ずっと許すことなんてないって…

 

でも   でも…

 

「継承式のことがなくっても君達と知り合えて本当によかったって思うよ‼」

 

 

彼の言葉が嘘だと、思えないんだ…

 

 

 

最終的にツナ君と…ボンゴレと和解出来るんじゃないかと思って彼に手紙を書いて、彼の机に置いてきた。

工場跡地でただツナ君が来るのを待ってみたけど、携帯の表示が刻々と過ぎ去る文字だけしか見ることはなかった。

 

正午を過ぎる頃に、僕は工場跡地から離れた。

 

 

「沢田は今朝何事もなかったかのように登校したわ……炎真の書いた助けを求める手紙を無視したのよ」

 

アーデルの言葉で僕の中の黒い感情が(くすぶ)り出す。

やっぱりボンゴレは……

 

「これがボンゴレ…目を覚ましなさい炎真」

 

僕は漸く小心者の皮を剥いだ。

 

 

 

 

 

 

Dside

 

 

予想外の事が起こった。

水野薫の持っていたシモンリングをボンゴレ雨の守護者である山本武に見られ、動転した彼が山本武を重症へと追いやったのだ。

予想外の事態であって、別にシモンファミリーからすれば不利な状況に追い込まれたわけではない。

シモンでは何事もなかったかのような対応を取り、ボンゴレの動揺を直で感じ取る。

守護者達は皆一様に憤慨していて、直ぐ近くにその犯人が潜んでいる状況に1㎜も気付く素振りはない。

初代(プリーモ)から受け継いだ超直感はただのお飾りのようだ。

私も私で霧の守護者の動向を見なければいけないのだ。

何度かコンタクトを取ったが警戒心が強く、加藤ジュリーの仮面では逃げられるばかりだったが、あの霧の守護者は今後の私の計画に必要になる。

そう、私の計画に……

 

 

 

 

 

「”罪”は返してもらうよ…この血は僕らシモンファミリーのものだから」

 

「どうしても必要なものだったんだ…力をとり戻してボンゴレに復讐をするために」

 

「そしてこのリングを完全に覚醒させるために必要なのが“罪”と言われる初代シモンの血 」

 

「それは貴様達の先祖が自分たちの失態を隠すべく過去の真実を闇に葬り去ったためだ‼」

 

「古里炎真が10代目のシモンボスの座を継承しボンゴレへの復讐を果たすことを誓う」

 

「今こそ我々の本当の力を見るがいい」

 

 

「それこそが大空の7属性に対をなす大地の7属性」

 

 

継承式当日、シモンファミリーの計画通りにボンゴレの罪を奪うこと、私は霧の守護者を(さら)うことに成功した。

私の思い描いている通りに進んでいく物事に口元が歪み出そうとするのを抑える。

ああ、これが笑わずにいられるか。

コザァートの血を最も濃く受け継いだ古里炎真の力は予想以上に強かったのはありがたい。

早くボンゴレの腐った部分を削ぎ落して欲しいものだ。

隠れ島へ向かえば、以前訪れた時となんら変わっておらず、予め住むつもりだった建物へと向かう。

その道すがら視界の端に気になるものに気付くが、シモンファミリーと行動を共にしている今それに触れぬまま歩き出す。

拉致した霧の守護者を部屋に連れていき、ベッドに寝かせると私は懐から携帯を取り出した。

隠れ島とあって電波が飛ぶか分からなかったがちゃんと繋げたようだ。

 

『もしもし』

「アラン…俺だよジュリー」

『ああ、ジュリー君…どうしたんだい?』

「いやな、ちゃんと計画は順調だ…今漸く隠れ島に到着したんだけどな」

『それは良かった、それで、何で君から連絡を?連絡ならいつも炎真君かアーデルだろう』

「ちょっと聞きたいことがあってさ」

『?』

 

「島の所々に設置されてる爆弾…あれあんただよな?」

 

『ああ、それのことか…君たちが失敗する可能性を一応考慮しての結果だよ』

「ふぅん?俺らが失敗…ねぇ」

『別に君らが失敗した後に君らごと殺すわけで設置したわけではないよ…君らに投資した金銭的援助を思えば簡単に手放しはしないからね』

「んじゃボンゴレに対してってことか?」

『勿論、君らがボンゴレに勝てないようであれば裏道の地下に置いている小型ボートで脱出して、後は外部から島全体に設置している爆弾を爆発させるだけ…まぁそれで逃げ切れなかったボンゴレ達が死ぬかといわれれば疑問だがね』

「あの爆弾は島の周辺にも?」

『ああ、遠隔操作のものを数台設置している…援軍を呼ばれたくはないからね』

「なるほど……」

『アーデルには予め失敗した時に直ぐ報告するよう頼んでいる、君に何も教えていなかったのかい?』

「多分今日伝えるんだと思うぜ…にしても」

 

一際低い声で電話越しに呟く。

 

「ボンゴレ諸共シモンまで殺すのかと思ったぜ?アラン…ま、爆弾如きで死ぬような俺等じゃねーけどな」

『まさか俺が君らごと殺すと?』

「白々しーな、まぁ思い出してみろ?俺達シモンファミリーが復讐する者であることを」

 

 

その牙があんたに向かないことを祈ってるぜ

 

 

息を飲む音が聞こえ、私は通話を切る。

 

口元に笑みを作り、霧の守護者クローム髑髏の眠るベッドの横にあった椅子に座る。

先ほど幻術の使い魔で確認した爆弾の配置と量から島全体を海に沈める規模で設置されていた。

万一の場合を考えて、ボンゴレを殺し損ねたシモンファミリーから自身の痕跡を残さないために、シモンファミリーごと殺す算段だったのでしょうね。

復讐に囚われていると言っても保身を考える頭はあるようだ。

一応釘は刺した、奴もシモンファミリーの実力を知らない阿呆ではない。

まぁ私の計画が上手くいけばどのみちシモンファミリーは殺すつもりだ。

腐ったボンゴレを因縁のシモンと共に全て海に沈んでもらうのもまた乙なものじゃないか。

 

 

初代(プリーモ)…否、ジョット…あなたの築き上げた全てを今ここで壊してあげますよ…

 

 

過去の泥を払い二度と現れないように海に沈めて漸くボンゴレは最恐となりうる

 

私は懐から懐中時計を取り出した。

懐中時計の裏側に刻まれた忌々しい文字列をただ無機質な眼差しで眺める。

 

 

永久(とわ)の友情を誓う

 

 

 

いつまでも幻想を追いかけていた男の背中を思い出しては胸に言い様もない痛みが過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

アランside

 

 

 

『その牙があんたに向かないことを祈ってるぜ』

 

 

心臓が、縮むような痛みと苦しみに襲われた。

次の瞬間通話が切れ、俺は携帯を耳に傾けながら呆然と目の前の壁を眺める。

ふと我に返り、携帯を閉じる。

加藤ジュリー…シモンファミリーの中で一番陽気なおちゃらけた男子だが……なるほど、アーデルハイトとは違った洞察力というわけだ。

確かに俺は、今回ボンゴレを倒すことが出来なかった場合を考えてシモンファミリー諸共海に沈んでもらう予定だった。

そうすれば俺の関与はどこにも漏洩せず、俺はまたボンゴレへの復讐を練ることが出来る。

ジュリーは爆弾を見つけたらしいが、あれで全てではない。

地下部に埋め込まれた爆弾も合わせれば裕に千は超える。

彼らがボンゴレの継承者に勝てればそれで全て済むことだが、如何せん数が圧倒的に足りていない。

本当にこれでシモンファミリーがボンゴレに勝てるのか?

ああ、やはり島に爆弾を仕掛けて正解だった。

ジュリーには釘を刺されたが、復讐に犠牲はつきものだ。

だが彼らが勝てばいいだけの話…そう、彼らが勝てれば…な。

 

盗聴器越しにあちらの様子を確認すれば、ボンゴレが島に着いたようだ。

その時盗聴器にノイズが走り、眉を顰めていると漸く電波が安定したのか声が聞こえる。

 

『―――ザザ…――――――敗者とは誇りを砕かれたものだ』

 

「!」

 

なんだ今の……気味の悪い声は……

僅かな恐怖を抱いた盗聴器越しの、その声に耳を澄ませるも再びノイズが入り、一度完全に切れてしまう。

 

「くそっ!」

 

 

なんとか電波を捉え、再び盗聴し出した翌日だった。

既にあの不気味な声はなく、他の者の会話などを拾う。

なるほど一日で全て終わらず数日費やすのか。

既に紅葉がボンゴレの下に行っているらしいが、何故全員で行かない…

ルールを設けたのか?

先日のノイズ混じりの気味の悪い声が関係しているのかもしれないが、くそ、全体的に状況把握が出来ていない。

だが会話の流れからして勝敗が決するのは数日後か…

 

 

そんな時、既に出勤時間間近になっていることに気付いた俺は一旦盗聴器を外し、支度して家を出る。

職場に行けばそこは正しく日常に変わり、俺の中の狂気が鳴りを潜める。

 

「アランさんおはようございます」

「ああ、おはよう」

「アランさん、この資料どうしましょうか」

「そこに置いててくれるか?」

 

誰にも悟られず、誰にも理解されず、誰にも語らず、狂気が侵食していく。

心臓から溢れ出る黒い何かが神経を侵し、指先まで伝っていき、ついに俺は理性を失うのだ。

だが侵食した狂気は人前で鳴りを潜め、理性を表へと押し出していく。

毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日……

きっと きっと この理性が削られ 表にすら出てこれなくなった時

 

それはきっと 俺が 戻れなくなった時だ

 

 

 

『それよりもいつ復縁を?』

 

苛立たしいネーブルオレンジの匂いが鼻を掠め、真っ赤な口紅が電話口から溢れ出る。

驚いて電話を落とした俺は地面に広がる赤い流動体から一歩後ずさった。

すると背後の柔らかいものに当たり即座に振り向けば、そこには妻のシンディが立っている。

彼女の心配そうにしている顔は記憶に新しく、口が開く。

 

「あなた最近おかしいわ」

 

まただ…

その場にネーブルオレンジの匂いが充満し、充満し、充満し、充満し――――

 

だからこの匂いは嫌いなんだ――――!

 

我慢の限界で癇癪(かんしゃく)を起したように怒鳴り散らした。

 

 

『目障りであれば殺してもらっても構わない』

 

 

脳裏を過ぎる電子的な文字の羅列に目を見開く。

我に返れば、忌々しい匂いは跡形もなく消えていて、代わりに柔軟剤の(かす)かな香りがする。

足元の赤い液体は消えていて肩透かしを食らった気分だった。

 

 

 

チャリン、と音を立てて()()()()赤い地面に落ちて跳ねる。

 

律儀に鍵まで閉められた玄関の扉がゆっくりと開き、中から黒い(もや)が現れた。

その靄は徐々に人型を描き、その手には包丁を持っている。

 

お前はこの手で殺したハズだ!

 

あらん限りの声で叫び、その場を走りだすが、同時に靄が足音と共に追いかけてくる。

キッチンに置かれた包丁を探そうとしたがどこにも見当たらず、その靄が持っているものが包丁だと気付き、青褪めた。

靄は包丁を振りかざすが途中でスローモーションのように動きが鈍くなる。

その光景に俺は呆然としていたが直ぐに我に返り、その包丁を靄から奪い取り靄の心臓があるであろう部分に突き刺した。

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

 

息が荒く、腕が痙攣する頃には靄は跡形もなく消えていた。

 

 

『その牙があんたに向かないことを祈ってるぜ』

 

そら、まただ……

また俺の邪魔を!

ええい、くそったれ!()()()は全部全部俺が殺して―――――――

 

 

 

 

「アランさん!」

 

急な浮遊感と共に意識が急上昇する奇妙な感覚に襲われた。

額からこれでもかというほど冷や汗を流し、息が苦しい。

 

「アランさん、大丈夫ですか?凄く(うな)されてましたけど」

「あ………いや…、少し…気味の悪い夢を、見てたかもしれない……」

「体調悪いなら早退した方がいいのでは?」

「…そう、だね…少し休みたいから午前中だけ勤務するよ」

「分かりました、無理は禁物ですよ!」

 

女性警官はそう言うと、水持ってきますとだけ残してオフィスを出ていく。

一人になった空間で息を吐き、ポッケの中に入れているハンカチで汗を拭った。

時計を見れば正午までそう時間はない、30分~1時間ほど眠っていたのか。

まさか仕事中に寝てしまうとは…

にしても今日の夢は中々(おぞ)ましかったな。

あの黒い靄はいつだって俺を殺しにかかり、俺が返り討って殺す。

この前は確か殺した後に埋めて…その前は首を()いで……その前は……

 

「アランさん、お水です」

「あ、ありがとう…」

「もう若くないんですから体にお気をつけて…」

「ハハハ、まだ現役さ」

 

乾いた笑みを張り付け、その場をやり過ごす。

誰もいなくなったオフィスで盗聴器を確認すれば、既に紅葉君の勝負は相打ちで終わっていた。

次はらうじ君であると聞き取れたが、どうやら勝負自体数時間後のようだ。

俺は自身の体調が(かんば)しくないこともあり、一時間後に早退し帰路に着く。

 

玄関を開ければ、僅かに香るネーブルオレンジに眉を顰める。

 

その匂いが我慢ならず、俺は急いで洗濯機の場所に行き、柔軟剤を手に取る。

そのまま玄関に戻り、足元の地面へと柔軟剤を(こぼ)し始めた。

液体がタイルを濡らし、僅かな量が靴に跳ねるが、それも気にせず柔軟剤が空っぽになるまでずっと、ずっと溢し続けた。

 

 

『それよりもいつ復縁を?』

 

幻聴が絶え間なく脳内を行き来する中、ふいに電話の鳴る音が聞こえた。

電話を取ればいつもの化粧臭さと、ネーブルオレンジが鼻につく。

 

 

「今回の喧嘩…というよりも別居は俺が悪いんです、俺が仕事にかまけて家族を放っていたせいで……だからシンディが俺の話を聞いてくれるまで一応待ってみて、それからちゃんと頭下げて謝ろうと思います」

 

 

電話の向こう側の声が遠く聞こえる中、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 




スカル:出番なし
アラン:いい感じに狂ってる
D:知ってるか?こいつクロームにセクハラかましてんだぜ?ギルティ
炎真:何気にアランを慕っているが、その思いが報われることはない

正直、今回のシモン編!スカルの出番は最後の最後です!
んでもって次話でシモン編終了しそう(笑)


Q:アランに救いはありますか?
A:ない。



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skullの他所

俺は思い出せない。


Dside

 

山の守護者大山らうじが、ボンゴレ雷の守護者ランボに敗れた。

それを聞いて特別驚いたわけではないが、ここまでボンゴレが食い付いてくるのは意外ではあった。

だがどのみち炎真のシモンリングの覚醒が始まれば束になったところで勝てまい…

否、勝てたところで私の策略に気付いた頃には全てが終わるだろう。

私の目的はただ一つ、六道骸の身体を手に入れることだけ…

その為には早くあの女、霧の守護者クローム髑髏が覚醒しなければならない。

次の戦闘はSHITT・Pであると思い出した私は、恐らく彼女は負けると思っていた。

ならそれを利用しない手はないというものだ…そろそろこれを使う時か。

 

私は携帯を取り出し、予め用意していた写真と情報を表示する。

そこには沢田家光とCEDEFの過去の動向をデータにしたものだ。

7年前のあの日、古里(まこと)の銃を盗み、とあるビルの最上階でCEDEFに属する12名を惨殺した後その銃をその場に置いて去った。

そして古里真に疑いが掛かったと同時に、炎真以外の古里一家を惨殺した。

それはもう醜い惨状にして、だ。

その上数名のシモンファミリーはスカルが殺した。

あの一件を全て沢田家光に擦り付け、炎真の復讐心をボンゴレへと向けさせた。

そんな今、実行犯である沢田家光が沢田綱吉の実父であるとわかればどうなるか、一目瞭然だ。

これをSHITT・Pがやられる前に見せて、少し発破をかけてあげよう。

 

3日後の朝、復讐者に捕まった者達を除いて、朝食をとっている時だった。

 

「ジュリー、アランから何か情報は入ってないの?」

「ないない、まだあっちじゃ夜だ…(やっこ)さんまだ寝てんじゃね?」

 

アランはアランで初日の会話以降連絡を絶っている。

何を考えているのやら…

炎真とバルコニーで二人きりになった時に、俺は好機と思い携帯を取り出した。

 

「炎真、本当いうと例の件の真相がわかったぜ」

「!」

 

ジュリーの言葉に目を見開く炎真に口元に笑みを作る。

 

「やったのはボンゴレ門外顧問機関、通称CEDEFっつってな…表向きは独立組織だがボンゴレの息のかかった秘密機関と考えていい、んでもってたまげたのはそこで指揮をとる最高責任者だ……この男な」

「……?」

「沢田家光、沢田綱吉の親父だ」

「‼」

 

携帯を見せ、沢田家光の画像を見せれば炎真の目がこれでもかというほど見開く。

そして憎悪を宿した瞳が一際鋭くなり、今にも殺さんばかりの殺気を放っている。

 

「親子そろってゲスな血は争えねーってことだな」

 

炎真の中に宿す憎悪や復讐心を増すことが出来、復讐者から送られた記憶の欠片で揺らいでいた心が鳴りを潜めた。

そうだ、お前はまだやらねばならないことがある。

殺せ……腐りしボンゴレを全て…殺すんだ

 

SHITT・Pが嵐の守護者獄寺隼人に倒され、復讐者に連れていかれるというところで炎真が割り込んだ。

炎真の後ろにはアーデルハイトとジュリーもいるが、アーデルに至っては炎真を抑えようとしている。

だが先ほどの情報で怒りに囚われ我を忘れている炎真は沢田綱吉に攻撃を仕掛ける。

沢田綱吉が何かを言い放つが、それは古里炎真へは届かず。

 

「教えてやるよ沢田綱吉……君という人間は初代シモンを裏切ったボンゴレ初代の子孫というだけじゃない…僕の両親と妹を殺した沢田家光の息子なんだ‼」

「!?」

 

冷静さを失った炎真はそのまま沢田綱吉を殺しにかかるが、シモンリングの覚醒で身体への負荷が限界を超え、炎真は痛みを訴えた。

意識を失った炎真をアーデルハイトが抱え、私は後ろをついて行く。

既に沢田綱吉の戦意は喪失している…これ以上何もしなくても殺されてくれるだろう。

炎真を眠らせてくると言って寝室へ運ぶアーデルハイトと分かれ、私はクローム髑髏の眠る寝室へと足を運ぶ。

そこには逃げようと企てていたクローム髑髏がおり、私は彼女に自身の正体を明かし、体を明け渡すよう言い放つ。

 

「正確には君を入口にして君の主人たる六道骸の肉体をいただきたい」

 

頑なに拒む彼女に幻術を掛け、従順な付き添いにした後、アーデルハイトの勝負を観戦しに向かう。

アーデルハイトの相手は雲の守護者雲雀恭弥のようだ。

誰の注意も向いていない崖の上から彼らの勝負を眺めていた。

結果を言ってしまえばアーデルハイトは敗北した。

彼女に期待を乗せていた部分もあった為に落胆は隠せない。

所詮ガキ…どいつもこいつも使えぬ奴等だ。

まだアランの方が使い勝手がよかったものだ。

さて…私の思惑がほぼ可能となるのは間違いない今、アランという仲介は要らなくなった。

彼には最後にこの島を沈める役割でも与えてあげましょう…

側に佇みクローム髑髏の肩を引き寄せる。

雲雀恭弥によって居場所が割れてしまった私は潮時かと思い、その場に居る者を見渡す。

 

「ジュリー、炎真のことは…頼めるわね」

「ああ、まかせとけ…お前はよくやったさアーデル」

 

これで 漸く

 

「これで俺もキレイさっぱりシモンに見切りをつけられる」

 

  戯曲は完成した

 

      後は仮面を剥ぎ取るだけ

 

 

分厚い仮面に罅が入り、崩れ去っていく。

 

「挨拶をしたほうが良いですね……腐った若きボンゴレ達よ」

 

周りの驚愕の眼差しの中、アーデルハイトがシモンを利用したことに食い付いてくる。

 

「貴様……私達を利用したのか!?」

「私の目的はあくまで現ボンゴレの転覆…私の頭の中は次世代のボンゴレでいっぱいだ」

 

置き土産に私は彼女に本来のジュリーの精神がこの身に残っているのは微々たるものだと教えれば、彼女の涙腺は決壊した。

 

「見苦しい涙だ…所詮まだ青い子供にすぎない」

 

そんな時、水野薫が現れる。

シモンを利用していたことに怒りを露わにし、短絡的な攻撃をしかけてくる。

それを躱した私は、他の者達の攻撃をクローム髑髏を人質にして防ぐ。

その後、雨の守護者山本武の乱入と、予想外の事態に陥るが、事はうまく運び水野薫、アーデルハイトは復讐者に拘束された。

少し早いが、私の方もそろそろ準備を始めねばなりませんね。

内心ほくそ笑んでいた私を嘲笑うかのように、復讐者が渡してきた記憶の欠片に衝撃を受ける。

そう、私が殺したと思っていたコザァートは死んでいなかったのだ!

ジョットが私を騙し、コザァートを生かし、彼の存在を隠蔽した。

 

「おのれⅠ世(プリーモ)‼コザァートの死を偽装するとは‼」

 

己の中で言い様の無い怒りと屈辱が沸き上がるが、直ぐに冷静さを取り戻し、クローム髑髏を連れその場を後にした。

今はそれよりも、古里炎真の状態の確認と…六道骸の身体を手に入れねばならない。

シモンファミリーの洞窟内にある古城へと足を進めれば、古里炎真がそこにいた。

過ぎた力は身を亡ぼす…既にシモンリングに支配され古里炎真という自我があるのかすら怪しい状態になっている。

焦点はあっておらず、力が暴走し床に亀裂が走る。

被害が来ないよう注意を払いながら彼の覚醒状況に笑みを作る。

 

「ヌフフ…壊れた傀儡(くぐつ)にはお似合いの最期ですね」

 

 

 

海に沈め 海に沈め  全てはあの男の理想と共に海に沈め

 

 

 

私はクローム髑髏を拘束し、六道骸を引き出した。

 

「やはり来ましたね、六道骸…一目でわかります…まったくもって優れた術士だと」

「あなたこそ一目でわかります、僕の忌み嫌うもの全ての権化だと」

 

自身の手足を利用されたのが我慢ならないのか濃密な殺気を放ってくる彼に、笑みが零れる。

全力を出し切らずギリギリの手加減をしながら六道骸に敗北し、殺されたように見せかけた私は今か今かと待ちわびていたこの瞬間に胸を打ち震わせていた。

そう、復讐者の牢獄で拘束されている精神の入っていない六道骸を乗っ取り奪うこの時を。

 

ああ、ああ、この時を待っていた‼

水に浸る皮膚に目もくれず、拘束された瞼を無理やり開け、ほの暗い水底から這い上がる。

 

「感謝するぞ六道骸‼お前の肉体を頂いた‼」

 

最早今の私は人を超越した‼

第8属性の炎を手に入れた私は、彼らの下へと現れ、言い放った。

 

 

「さあ、終えましょう……君達の世代を」

 

 

愚かなあの男の理想を今ここで  潰す

              

 

 

 

 

 

 

 

アランside

 

 

『ええ、彼ら……CEDEFを、古里一家を殺し…シモンの憎しみをボンゴレに仕向けたのは私ですよ』

 

時が、止まった。

最初、何を言ってるか分からなかったんだ。

 

CEDEF……ってスカルが所属してる…?

古里一家を殺した?

…ならあの金髪の後ろ姿は………コイツ…D(デイモン)・スペードという奴の仕業、だった…のか?

なら、スカル…は…D(デイモン)・スペード……なのか……?

あ、頭が痛い、どうなっているんだ。

じゃあ俺が長年恨み続けていたのは別の男で、殺すべきはDと名乗る男だったというのか‼

ああ、わか、分からない…何もかも、分からない。

 

そうだ、俺に情報を流していたあの男を捕まえればっ

 

俺はすぐさま携帯を取り出し、情報屋を名乗る男に電話をかけるが、一向に取る気配はない。

舌打ちと共に上を仰ぐ。

まるで土台が壊されたような絶望がこの身を侵食する。

 

いや、考えろ……

 

スカルの正体が知れた今、俺は…このDという男を殺せばいいのだ。

でも、どうやって?

俺があの島につく頃には全てが終わっているだろうさ。

あの男を法で裁いてなるものか…俺がこの手で、死んだほうがマシというくらい痛めつけて、痛めつけて、痛めつけて、痛めつけて……

 

「あ…爆弾……」

 

そうだ、爆弾だ。

あの男ごと島を海に沈めればいいんだ。

そうすれば俺はもうあの(もや)に怯えて暮らさなくて済むんだ。

きっと、きっとそうだ…

俺は盗聴器を全て引き出しに詰め込むと、掛けていたコートを羽織る。

丁度その時、オフィスのドアが開き男性警察官が入ってくる。

 

 

「アランさん、この書類どうしま――――」

「すまない、急用が出来た」

 

彼の言葉を遮り、俺はオフィスを出て家に帰ろうと走りだした。

爆弾のスイッチは寝室の中だ。

今すぐ、今すぐ、今すぐ、あのボタンを押して、奴を殺すんだ‼

 

数十分後に肩で息をしながら、家の玄関へと辿り着く。

寂れた空間になだれ込むように入り、寝室へ急ぐ。

鼻を掠めるネーブルオレンジにも、鳴りっぱなしの電話にも目もくれず、寝室に駆け付け、ベッドサイドにある引き出しの中に入れている爆弾のスイッチを探す。

引き出しの三段目には拳銃が、二段目に爆弾のスイッチと盗聴器が入っている。

すぐさまスイッチを押したい衝動を、繋ぎ止めた理性でなんとか留め、盗聴器越しに彼らの状況を確認する。

そこにはD(デイモン)という男が過去を語っていた。

貴族なんて百何年前の話をしているんだと、抑えていた怒りが沸き上がりながらも耳を傾ける。

それはまさしくファンタジーな話であった。

愛する者の為に亡霊として、体を乗り換えながらも生き永らえていたという。

悲しみ?哀れ?ふざけるなよ!

ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!

 

俺の憎しみをお前は知らない。

俺の虚しさをお前は知らない。

俺の恐怖をお前は知らない。

 

幸せだった俺を、ここまでめちゃくちゃに潰してくれやがったお前を!お前を!

 

溢れ出る涙はとうに枯れた。

今はただ、全ての元凶であるあの男を殺すことだけがっ、俺の!俺の……っ…

 

強く握り過ぎて白くなる拳を開き、爆弾のスイッチを握る。

こんなふざけた世迷言に耳を貸すボンゴレ側もそうだ、皆、皆、皆、皆、死ねばっ…死ねばいいんだ!

 

 

『エレナ…お前を救えなかった私を…許してくれっ…』

 

 

一際悲し気で切なかった声は、今の俺の怒りを触発するには十分だった。

 

 

俺は震える指でスイッチを押した。

 

 

盗聴器越しに大きな爆発音が鳴り響き、俺の心の中には爽快感と、達成感が()い交ぜになる。

困惑する声を耳にしながら、俺の中にストンと嵌まった感情は、安堵だ。

電波がズレたのか、盗聴器が壊れたのか、聞こえなくなったそれを耳から取り外す。

呆然と寝室のベッドシーツを眺めた。

 

「お、終わった……?」

 

俺の長い、長い、復讐は終わったのだろうか……?

もし奴が生きていようが、あの孤島から何もなしで出られる保証は万一にない。

島の周辺に設置した爆弾も一緒に連鎖爆発を起こしている。

あの島は地図上から消え去ったんだ……

 

俺の復讐が成就(じょうじゅ)したのだ。

もう、怯えて生きていくことも、狂ってしまうこともない……俺は生きている。

妻も娘も生きているっ……!

ああ、終わった………やっと……地獄から解放されるんだ……

 

枯れた涙の代わりに漏れた吐息は、鉛が抜け落ちたように軽かった。

 

「シ、シンディ…………ルーナ…」

 

妻と娘の名前を呼びながら、俺は携帯を取り出した。

今ならばまだ間に合う。

まだ、彼女達と、やり直せる。

頼む、一生のお願いだ、出てくれ…!

俺は妻の携帯に電話を掛けた。

 

ワンコール…それが途轍も長く思える。

 

その時だった。

 

 

prrrrrrrr…

 

 

背後から着信音が鳴り出した。

 

「…え……………」

 

俺はゆっくりと振り向く。

そこには三段目と二段目が開かれた引き出しがあり、そのあたりから聞こえた。

恐る恐ると引き出しの一段目に手を掛ける。

 

何故ここまで俺は恐れている?

恐れる者は何もない、今しがた葬ったじゃないか。

 

自身を奮起させ、引き出しを引いた。

一際大きくなった着信音と、視界に映る小さな携帯に、俺の混乱し始める感情とは逆に思考は段々と冴えていく。

携帯を手に取って開いてみれば、アランと自身の名前が表示されている。

 

これは…妻の……シンディの携帯…

 

「何で……」

 

俺は電話を切ることも忘れて、寝室を抜け出し家の固定電話へと駆け付けた。

掛ける先は妻の実家だ。

 

『はい、もしもし』

 

濃い化粧の匂いと、ネーブルオレンジの匂いが鼻につくが、今の俺にはそんなことを気にする余裕はない。

 

「ああ、僕ですアランです」

『あら、アランさん…シンディとは仲直り出来たかしら?』

「あ、いえ…それなんですが、シンディがどこにいるか分かりませんか?」

『ええ?アランさんも分からないんですか?あの子なら一度もこっちに帰ってませんよ』

 

チャリン、とポケットの中で()()()()()が摩擦している。

その音があまりにも不快で、俺は苛立ちながらポケットから鍵を取り出し、固定電話のすぐ隣にある鍵かけの、()()()()()()()を掛けている逆の突起へと掛けようとして、手を止める。

 

「わ、かりました……あの、僕…シンディを探してきます、ご心配お掛けしてすみません」

『あ、あのアラ――――』

 

ブツリ

 

通話の切れる音と共に、心臓の鼓動が大きくなっていく。

息をするのが苦しくなっていくが、目の前の何かが頭の中で違和感を残している。

 

ああ、辿り着きそうであることが なんと恐ろしいことか

 

 

娘の部屋に駆け込み、辺りを見渡す。

まるでさっきまでいたかのように散らかっている。

ノートはあけっぱで、いつも娘が寝る時に俺が片付けているあの状態で部屋の中にあった。

 

「ルーナ!いるなら出ておいで!パパと遊ぼう‼」

 

きっと彼女達は、俺に内緒で帰ってきて隠れているに違いない。

 

「ルーナ!シンディ!出ておいで!かくれんぼはおしまいだ!」

 

沈黙と静寂だけがその場に残り、虚しさとやり場のない怒りが沸き上がる。

ああ、くそったれ!俺が出てこいと言ってるんだ!出て来やがれ!

お前らもあの男のように俺の邪魔をするつもりか!

どれだけ叫ぼうが、怒鳴り声が寂しい空間に木霊(こだま)すだけだ。

 

俺は再び寝室に駆け出し、汗と少しばかりの柔軟剤の匂いのするシーツを怒りのままに破き捨てた。

そして近くにあったベッドサイドテーブルを蹴り付け、怒りを鎮めようとベッドの上に乱暴に座り込む。

 

何を 何を忘れている!?

何を思い出そうとしている!?

頭の隅っこに引っ掛かってるコレは何だ!?

 

ふと、視界が正面を向き、全開したドアの先を映した。

そこには、閉じられた玄関があった。

 

 

――――()()()()()()()()()()()()()()()――――――

 

妻は何故鍵まで閉めて出ていった?

 

違う ()()じゃない

 

 

固定電話のすぐ隣にある鍵かけに、()()()()()()()を掛けている逆の突起へと掛けようとして

 

 

――――――――――――――スペアキーは家の中なのに、妻はどうやって鍵を掛けた?

 

 

 

パズルのピースが段々と嵌まっていく音がして、口が震え歯がぶつかる音が聞こえる。

 

妻が出ていってしまった日はいつだ―――――……

約一か月前だ。

そうだ、忌々しいあの男の夢を見ていたあの日に妻は出ていった!

最愛の娘を連れて出ていった!

 

憎たらしい奴に復讐を遂げたにも関わらず二人は帰ってこない‼

くそったれ!くそったれ!

ネーブルオレンジの香りが、香りが、

 

「あなた最近おかしいわ」

 

だからこの匂いは嫌いなんだ――――!

 

『それよりもいつ復縁を?』

 

お前はこの手で殺したハズだ!

 

包丁を靄から奪い取り靄の心臓があるであろう部分に突き刺した

 

 

男を殺す夢に出てくる、()()()()()()()()()()()()()

 

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

 

 

ええい、くそったれ!()()()は全部全部俺が殺して―――――――

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

『目障りであれば殺してもらっても構わない』

 

 

 

「あ………」

 

呆然と玄関を眺めていた俺は、ゆっくりと寝室のベッドサイドの引き出しの()()()に手を伸ばす。

心臓がうるさい、息が荒い、顔が熱い

 

「すまな……すまないシンディ、ルーナ………すまない、すまない」

 

 

 

誰にも悟られず、誰にも理解されず、誰にも語らず、狂気が侵食していく。

心臓から溢れ出る黒い何かが神経を侵し、指先まで伝っていき、ついに俺は理性を失うのだ。

だが侵食した狂気は人前で鳴りを潜め、理性を表へと押し出していく。

毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日……

きっと きっと この理性が削られ 表にすら出てこれなくなった時

 

それはきっと 俺が 戻れなくなった時だ

 

 

 

 

 

俺は瞼を閉じて、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

古里炎真side

 

 

シモンリングの覚醒によって理性を飲み込まれた僕をツナ君が見捨てずに助けてくれた。

シモンとボンゴレの間にある因縁は全て無くなったかと思えば、今度はD(デイモン)・スペードが六道骸の身体を乗っ取って復讐者の牢獄から脱獄してしまう。

守護者の命と引き換えにD・スペードを倒す取引を復讐者たちと交わし、僕とツナ君の二人でD・スペードに立ち向かった。

力の差は圧倒的で、僕らはDの前で負けるかと思ったが、シモンとボンゴレリングの覚醒のお陰で、Dを無事倒すことが出来た。

そして、もう戦う余力の残っていないDは地面に横たわり、残り少ない時間で自身の過去を語る。

貴族であったこと、エレナとの出会い、そしてエレナの死………

全ては愛しい者の為に。

 

 

「エレナ…お前を救えなかった私を…許してくれっ…」

 

 

涙の浮かぶ顔でそう呟いたDが薄れていくという時だった。

地響きが島全体を覆った。

 

「「「「!?」」」」

 

その場に居た全員が目を見開き困惑している。

 

「な、地震!?なんでこんなときにっ」

「いや、これは地震じゃ…」

「そうか、奴か……」

「D!お前何か知ってるのか!?」

 

困惑している状況で、一人だけ、D・スペードだけが納得している顔で自嘲的な笑みを見せる。

ツナ君とリボーンがDに問いただし、Dは僕へと視線を向ける。

 

「…………アラン、ですよ」

「!?そ、そんな馬鹿な!」

 

Dの言葉に間髪入れずに反対する。

 

「アラン?」

 

ツナ君が僕を見て、それは誰なのか?と聞いてくるような目を差し向ける。

でも僕はDの言葉で思考が混乱し、まともに話せる余裕はなかった。

 

「私が、シモンを利用するように…仕向けた…男の名前ですよ」

「え!?」

 

Dが苦し気に答えた。

 

「アランさんが、そんな、こんなことするはずがっ」

「いいえ、島の全体に爆弾を…仕掛けたのは、彼だ……」

「嘘だ!あの人は僕らの……シモンの唯一の理解者……で……」

「あなたと同じ…復讐者だ」

 

僕はそれだけで分かってしまった。

彼は、僕らと同じ復讐者で……ボンゴレを憎んでいた…

 

「彼の…標的を、ボンゴレに……挿げ替えていたが…恐らく盗聴器か何かで真実を、知って…しまった………私が黒幕である真実に…」

 

苦し気にそう呟くDにもはや何も言い返せなかった。

今のD・スペードは弱り切っていて死に体だ…アランの、騙された恨みと今まで積み重ねてきた復讐心の矛先なんて考えなくても分かる…

でも、まだ島に僕らがいるのに……いや、アランさんが打算で近づいてくることを頭のどこかで分かっていたのは僕じゃないか…っ……

 

「それでも…彼は………僕の支え、だった…のに…」

 

絞り出した声は今にも消えそうなほどか細くて、僕は瞳から涙が溢れ出る。

 

「彼はもう手遅れです………とうの昔に彼は()()()()()…」

「そのアランさんって、シモンを裏で操ってた一人なの!?」

「どうやらそうみてーだな…」

 

ツナ君とリボーンの言葉に何も言えず、拳を握り込み黙っていると、Dがいきなり笑い出した。

 

「ふ、ふははは…そう、いう…ことか……くく、そこまでっ…」

「どういうことだよ、D!」

 

問いただすツナ君にDは口角を上げ、眉を顰めた。

 

「…全てはあの7年前からずっと……私でさえも知らぬうちに彼の…傀儡(くぐつ)となっていた…とは、はは…恐れ入る」

「おい、どういうことだよ!?」

「彼はボンゴレに興味など鼻からなかった……彼にとってボンゴレは消すべき相手に……過ぎなかったというわけか…………私が…アランを上手く、利用することさえも分かった上で………奴を狂わせた、か…」

「おいD!答えろよ!彼って誰だよ!まるでお前以上の黒幕がいるみたいにっ…」

「彼は……まるで…狂気そのものだ……なる、ほど…彼は軍師で…収まりきるものではない……」

「おい!それはまさか!」

 

Dの言葉にリボーンが反応する。

僕は何が何だか分からず、Dの言葉に耳を傾けるだけしか出来ずにいて、ツナ君も同じ様子だった。

 

 

「エレナ……」

 

それがD(デイモン)の最期の言葉だった。

地響きが大きくなり、遠くからはボンゴレとシモンの守護者達が見える。

その光景に喜ぶには、Dの言葉は重すぎた。

アラン、さん……何で………

 

「おいやべえぞ!早く脱出しねーと島が海に沈む!」

「なっ」

 

リボーンの言葉にその場の全員が目を見開くが、そうこうしているうちに段々と島は傾いていく。

ボンゴレの救助船を期待したが、どうやら島の周辺にも爆弾が仕掛けられていて、近づくに近づけないらしい。

そんな時だった。

プロペラの、いくつかのプロペラの音が上空から聞こえてくる。

 

「あ、あれは!」

 

皆が上を向くと、そこには数台のヘリコプターが飛んでいて、ヘリの胴体にはボンゴレとキャッバローネの紋章が付いている。

 

「ツナー!無事かー!?」

「ディーノさん‼」

 

ヘリの中から金髪が現れ、ツナ君がその人物の名前を叫ぶ。

こうして僕らは無事、沈みゆく島を脱出することが出来た。

 

ヘリの中から見渡す光景は感傷深いものだった。

沈みゆく僕らの聖地………

 

海に飲まれゆく、シモンの歴史

そこにどれだけの苦悩と幸せがあっただろうか…

コザァートの記憶を垣間見た今となっては、ボンゴレを憎む気持ちはこれっぽっちもない

後ろ髪を引かれるような思いで沈む島を見渡す

 

「炎真君…」

「いいんだツナ君……また、僕の代から歴史を作っていけば…それでいい…」

 

 

正しい真実を知った僕らは、過去の初代達の思想を継がずとも自分達で道を切り開く力を持った。

 

 

「…それがいい………」

 

 

唯一無二の友は、未来永劫、変わりはしない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

「おはようポルポ…」

「主、朝餉(あさげ)は既に出来ている」

「お前ついに料理スキルまで持っちゃったか…」

 

何気にペットがえらい進化を遂げている件について。

起きたばかりの俺がテレビを付ければ、丁度ニュースが流れていた。

 

『○日の午前7時に、腐臭がするという近所の通報から――――――』

 

「自殺か…前よりも自殺増えたな、それも警察官かよ」

「自ら命を絶つとは愚かな…」

 

俺はトーストにスクランブルエッグとかりかりのベーコンを乗せて、その上にケチャップをかけて、口に入れる。

咀嚼(そしゃく)しながら、既に水が入ってるコップに手を伸ばす。

 

『――――の地下に埋められていた遺体が発見され、身元不明の遺体はどちらも女性ということが判明しており、遺体の腐敗進行状態から遺棄されたのはおよそ5週間前であることが判明、さらに自殺した容疑者の妻子が行方不明になっており、警察は――――』

 

「うえ、こいつ絶対奥さんと子供()っちゃってるわ…こわー」

「案ずるな主、主は我が守る故」

「いやそうじゃなくってだなー…」

 

『遺体には数十か所に及ぶ殺傷痕があり、凶器は家庭用の包丁であることが――――――』

 

サイコパスかよこいつ…と思い、チャンネルを変えて、俺は残っているパンの一切れを口に入れる。

よく噛んだあと水と一緒に流し込み、ぷは、と一息ついてコップを置く。

 

「ポルポはあんなアホな奴になるなよ」

「御意、我が使命は主の守護…その誓いを違えることはない」

 

くっ、それさえ治ってくれればなぁ…

 

 

「ああ、そういえば俺少し前におかしな夢見たんだけど…」

「ほう、夢とな…」

「10年後の世界みたいなやつで…なんかお前が今よりも大きくなってて…あとフグ男っていう―――――」

 

一通りの夢を話し終えた後、俺の頭におぼろげな人物が過ぎる。

 

「すごく……懐かしい人にあったような気がしたけど…気のせいかな」

 

 

多分気のせいだな。

 

 




スカル:今回何もしてないのに黒幕疑惑を吹っ掛けられている

ポルポ:ニュースに出た男性が昔会ったことがある奴であることを知っているが、スカルには教えていない

D:エレナ廃、クロームを抱き寄せたり拘束したり、挙句の果てにはナッポーの身体を乗っ取ってナスビに進化した、ギルティ、置き土産としてスカル黒幕フラグを立てて逝った

炎真:アランの所業に精神ダメージクリティカルヒット、信頼してた分後日流れるニュースで追撃される、その他のシモンも同様

ヒットマンなあの人:スカル黒幕疑惑浮上中…

アラン:もうこれ以上減るSAN値がない、別にこれといって恨みがなかったがフルボッコ対象、スカルのメールで人生が全て狂わされた、妻と子供を知らぬ間に殺していたことに気付き最後は拳銃自殺する


38回目の夢を見たアランが、夢と現実の区別がつかず、妻子共々殺し、遺体を埋める。その後血まみれのシーツを洗剤で洗い、再び眠る。
理性が戻った状態で起きたら妻も子供いない状況→逃げられちゃったーと解釈する。
律儀に閉められた鍵のかかった玄関はそもそも誰も開けていなかった。
狂った思考は遺体の腐敗臭をネーブルオレンジの香だと思い込み、家に帰る度匂う腐敗臭が嫌で柔軟剤を玄関に撒きつけた。
一か月近く使っていたキッチンの包丁は妻子を殺した時の凶器であり、夢に出てくる凶器と同一のもの。
一週間後とは言ったものの、シンディに謝りに()()のはあの男を殺してからだ。
復讐が成就したと共に正気に戻り、自殺する。


こんなもんか、

伏線全て回収できたか分かんないけど、とりま今回のアラン事件でシモン編の半分以上を占めてしまった(笑)
その上コメント欄のアランに対する非情さがwww

にしても漸く虹の代理戦争だー!早くラスト書きたーい(笑)
ぶっちゃけラストだけ想像してて、過程をすっ飛ばしてるから代理戦争の中身が空っぽすぎる…
代理戦争で、スカルで立てに立てまくったフラグを回収していきますね。




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代理戦争
skullの希望


俺は望んだ。


暗い空間に俺は一人、ぽつりと点在していた。

 

「ここへ行け、仲間に会える」

 

どこかで聞いたことがある声に振り返るが誰もいない。

はて、今俺は誰の声を聞いたんだろうか…

暗い空間の中、"ここ"がどこなのか分からないが取り合えず進むことにする。

少し歩くと、これまた見覚えのある扉が存在を誇張していて、俺はその扉をゆっくりと押し開く。

扉は錆び付いた音を立てながら開き、中には円形のテーブルと、スポットライトの当てられている7席の椅子が置いている。

7席……ふむ、とても見覚えがある…これが一体何だったのか思い出せず悶々としながらそれらを眺める。

すると、いきなり目の前の景色が揺らぎ、目を見開くと同時に椅子に各自誰かが座っている。

後ろ髪を三つ編みで纏めている赤子、眼鏡をかけた白衣の赤子、フードを着て頬に模様がある赤子、バンダナをつけて背中にライフルを抱えた赤子、そして黒いハットとスーツを付けた赤子。

とても身に覚えのある面子に俺は十何年前の記憶を掘り返す。

 

あーっ、思い出したわ、これ、あれだわ。

あの、ヤバい組織のっ…狂人のスカルと間違われて連れてこられてメンバーにされた時の奴だ。

何で今思い出すの?

それも大嫌いなリボーンまで忠実に再現しやがって、なんなの死ぬの?

あとバンダナの人お前誰だよ、そこラル姉さんの席じゃね?

そこでふと自分が寝間着ではなくヘルメットにレーシングスーツを着てることに気付く。

いつのまに…そう思っていると、部屋の奥からカツカツと足音が鳴り響き、変態仮面が顔を出した。

 

「懐かしい思い出を楽しんでもらえたかな…アルコバレーノ諸君、君達は今全員が一つの同じ夢を見ている」

 

懐かしい思い出……?さっきの部屋のこと?

誰もいなかったんですけど!?もぬけの殻だったんですけど‼

半目で変態仮面を見ていると、彼はこの場にいる人を見渡し一つ、わざとらしく咳ばらいをする。

 

「まずはとてもシンプルな確認だよ、君達をアルコバレーノに変えたその呪い…虹の呪いを解きたいか?」

 

その場に動揺が広まる。

かくいう俺も困惑した。

 

…………………なんで?

いや解かなくていいんだけど、ていうか解くな。

 

皆の反応は三者三様で、変態仮面の言葉にすぐさま反応する者もいれば、沈黙を貫く者、冷静に対処する者がいた。

 

「当たり前だコラ‼」

 

だからお前誰だってば。

 

「無論です」

「僕の長年の夢だ‼」

「興味本位でYES」

「…………」

 

上から風、多分バイパー、ヴェルデ、憎きリボーンの順で見やると、変態仮面は反応を示さない俺とリボーンに視線を移す。

 

「おや、リボーン君は?」

「オレは信用できねえ奴と話したくねえ…勝手に呪っといて呪いを解きたいかじゃねーぞ」

 

リボーンが切れ気味に変態仮面に言い放つ様子に、わーめっちゃ怒ってらっしゃる!と内心独り()ちた。

リボーンの返しに変態仮面は一人で納得し、俺に視線を向けたかと思えばいきなり喋り出す。

あれ?俺無視?

 

「アルコバレーノを 1人減らすつもりだ」

 

その言葉にまたもや皆困惑。

あ、全員解けるわけじゃないのね…

これなら6/7の確率で俺のこの身体は保留ってことか。

いや待て、まず俺は解きたくないし…提案自体蹴ればいい話か。

 

「しかし なぜまた急に?事情を話して頂こう、私達が知らないことが多すぎる」

「その1人は虹の呪いを解かれ一般人に戻ってもらう…今の任からも解放され晴れて元の姿、元の生活に戻れるというわけだ」

 

風の言葉に、確かに俺もこの呪いに関して分かってないなと内心頷く。

さっきから俺とヴェルデ除く全員が変態仮面に対して刺々しいけど、やっぱ呪われて怒るのが普通なのかな。

俺としては恩恵の方が大きかったからなんとも言えないけど。

あとバンダナ、お前マジで誰だ。

まさかラル姉さん性転換でもしたの?ラル兄さんになったの?いや外見違い過ぎるしこれはないな。

 

「お前に貢献しようと思ったことなど一度もないぜ‼コラ‼」

「君達の気持ちなど関係ない、大切なのは私がどう感じどう考えるかだよ」

 

理不尽な野郎だな…

俺の住所特定してくる特定厨だし、ストーカーって……見た目残念なのに、中身まで残念とかもう救いようねぇや。

 

「君達は自分の立場がわかっていないようだな……信じようが信じまいが自由だが、これを逃せば一生虹の呪いは解けないぞ」

 

虹の呪い……マジでそのままでいいです。

っていうか一生このままがいいです、マジで。

 

「待って!僕はやる‼」

 

焦りながら参加表明をするバイパーに続いてリボーンが小さくやる、と呟くと変態仮面はまたもや俺を無視してことを進めやがった。

 

「これで全員参加だな…戦いの開始は一週間後、場所は君達全員に縁のある土地日本とする、詳細は追って伝える」

 

待って、俺も参加することになってる。

やめて、俺やりたくない。

あと俺実質日本に縁もくそもねーから、確かに前世は日本人だったけど今世生粋のイタリア人だから。

ああ!そんなこと考えてるうちにまた目の前の景色が変わってるし。

再び誰もいないあの室内に変わると俺の目の前の窓側に立っていた変態仮面がこちらを眺めていた。

 

「さて、すまないね…君の意思を無視した形での参加となってしまって…君のことだ、あの場で辞退するつもりだったのだろう?」

 

分かってたんかい!

っていうかコイツもしや俺のニートライフの目標を知ってるのか?

 

「だがこの代理戦争は全員参加する必要があってね…特に君の肩書はこの戦いをより一層引き締めることが出来る」

 

その狂人という名のマフィア界に名だたる肩書きはね、じゃねーよ!

おいコラこいつマジで俺をその狂人と間違ってやがる。

お前特定厨だろうが、そろそろ人違いに気付けよ。

 

「だが君のやる気がゼロである今、代理戦争に参加させたところで意味はなさそうだ……ふむ、君が代理戦争に勝利すれば、呪いを解くほかに君の望むものを与えよう」

 

あー、俺知ってるわ、コレ悪の手先の台詞だわ。

なにこれ、この場合だと俺闇落ちサイドなの?

つーか呪いは解くなっての、マジで。

これ以上ニートライフから遠ざかってたまるか。

いや待てよ、考えろ俺!

呪いを解いて望みを叶えるんだろ?

それって大人に戻った状態でニートを望めば、俺は晴れて脱社会を実現できるのでは?

あ、これいいかも。

元の姿に戻った挙句、あの会社からおさらば出来るって何それ天国。

妙案を閃いた、という顔になっている俺は変態仮面へと視線を移す。

そして俺は一世一代の告白をする。

 

 

 

「自由………自由が欲しい」

 

 

 

社会から、人間から、全てからの自由。

それがニートの醍醐味(だいごみ)であるといわんばかりに、俺は言い放つ。

変態仮面の、呆然と言葉を失くしている様子に羞恥(しゅうち)が込み上げる。

ニートキングに俺はなる!って人前で暴露したようなもんだ、当然恥ずかしさが付きまとう。

ちょっと早く返事くれませんか?俺恥ずか死ぬんですけど。

 

「自由…とは、これまた意外だな……君は何のしがらみもなく生きている人間であると思っていたが…」

 

んなわけあるか、未だカルカッサで仕事してるんだ。

いい加減誰にも邪魔されない生活を送りたい。

え?今のままでも十分自由だろって?聞こえないな。

 

 

「俺を…自由にしてくれ……」

 

 

お金と、パソコンと、食料と、あと誰も来れないような場所だけ用意してくれれば後は何も要らないから。

強いて言うならばWi-Fi環境がめちゃくちゃ良い無人島ならなお良し。

 

 

「なるほど、分かった……代理戦争で君が勝利したならば、自由を与えると誓おう」

 

 

変態仮面の言質(げんち)はとった。

よし、代理戦争がんば………ん?代理……?

代理……俺代理頼めるような人周りにいねぇ。

終わった。

やっぱさっきのなしで、と言おうとする前に景色が変わり、気付けば部屋のベッドの上だった。

どんな内容の競技なのか分からんけど、参加の前に条件を満たせない俺はどうすれと?

いやその前に夢の中の出来事であることに気付け俺!

どーせそんなん俺の頭が勝手に作り出した設定だろ、そう思ってた時期が俺にもありましたまる

丁度ゲームでギルマスにPvPで負けて落ち込んでいた時に奴は現れた。

 

 

「私は”虹の代理戦争”を企画した者の使いで尾道(ヲノミチ)と申します…フフッ、虹の代理戦争をより具体的に説明しに参りました…ハハッ」

 

なにこいつ怖い。

いきなり玄関に現れたかと思えばアタッシュケースを開いて俺に差し出してきた。

中には時計があり、何だコレと思っていると尾道君が代理戦争のルールを説明し出す。

色々説明聞いたけど、取り合えず言いたいのは、なにこれ無理ゲー!

まず7人といわず1人も代理人いねーよ!

断ろうとしたら、餌狩りに出てたポルポが帰ってきて、尾道君に足を振り上げた。

 

「フヒ、危ない危ない、私の実力ではそこのタコに勝てそうにないので一先ず私は退散させてもらいます、ハハッ」

 

ポルポが追撃するが、俺がポルポを引き留め、尾道君が置いていったアタッシュケースを眺める。

取り合えず、この前の夢は本当にあったことであることは理解した。

しかし、俺がこのゲーム勝てるかと言えば正直に答える、無理。

 

「主、先ほどの男は何者だ…次こそあの男の首を取ってみせようぞ」

「待て、ポルポ…それよりもコレ……」

 

尾道君を殺る気満々のポルポを鎮めて、夢のこと、代理戦争のことを話した。

でも日本に行く気はなく、代理戦争も離脱するつもりであることを伝えるとポルポがボスウォッチと呼ばれる時計を取り出した。

 

「主、我がいるではないか」

「…え……」

「我がそなたの障害を薙ぎ払い、そなたの呪いを解いてみせる」

「ポルポ……俺は」

「そなたを生涯守り抜く、我はそう誓った」

 

ごめんね、正直なこと言うと、お前が人殺しそうで怖いんです。

無理、お前代理人にしたら、ニートと共に殺人の罪状が俺に付随してくる。

明るいニートライフが逃亡生活に早変わりする、やめて。

やる気満々のポルポがボスウォッチを8本ある足の内の一本に嵌める。

 

あ、コレ説得出来ないパターン……

 

俺がどうにかしてポルポのブレーキ役に徹しないとダメな奴。

 

「いやでも、飛行機がもう満席…」

「海を渡ればいい、そこらの鉄の塊よりも我の方が速いであろうな」

 

ソウデスネ…

もはや何もいうまい。

ポルポに話したが最後、俺が代理戦争とやらのゲームに参加することは決定事項だったんだ。

諦めてポルポが人を殺さないように見張ることに全力を注ごう。

 

 

「案ずるな主……そなたはただ我が傍を離れずにいるだけでいいのだ」

 

 

 

ポルポの謎の宣言と共に、俺の代理戦争参加が決定した瞬間だった。

このあとむしゃくしゃしたのでギルマスに石ころを送り続けたら返り討ちに会いめちゃくちゃ石投げられた。

 

 

 

 

 

 

 

チェッカーフェイスside

 

そろそろアルコバレーノの世代交代の時期だ、と私は重い腰を上げる。

代理戦争を行い、その中で次世代のアルコバレーノ候補を探し出さなければ。

 

さて、(いしずえ)を…

また新たな礎を ここに

 

アルコバレーノ達の精神を強制的に自身の支配下に置き、過去の夢を見せる。

かの者は7人が集まったあの部屋、かの者は呪いを貰った瞬間…様々な過去の幻影を眺める者らを時間を見て、一斉に呼び出す。

そこはかつての皆が集まったあの部屋だ。

以前と全く同じメンバーではないが、それでも皆が皆実力のある者ばかりだ。

 

「懐かしい思い出を楽しんでもらえたかな…アルコバレーノ諸君、君達は今全員が一つの同じ夢を見ている」

 

一言目にそう呟けば、まず私に向けられるのは明確な殺気。

殺気を除けば警戒、興味が少々というところか……

私は本題の前に、導入として解呪の意思があるかどうかを質問する。

すこし脅しを含めると、皆が参加の意思を見せる。

いや、ただ一人を除いて、だ。

彼、スカルに関しては別途で呼べばよかったと思うが、それだと他の者が怪しむ。

彼はただ私の言葉にうんともすんとも呟くことはなく、ただその場に一人だけ浮いていた。

自身の問題ではないと、この場を切り捨てるかのように彼はただそこに佇んでいる。

彼は今回の解呪する機会を拒むかもしれないという可能性が脳裏を過ぎる。

彼の思考は理解出来ない。

理解出来ないからこそ、彼は扱いづらい…

ひとまず彼の意思を無視したが、後ほど彼個人に意思を聞き、なんとか参加に持っていければいいと、そう考えた。

話すべきことは話し、詳細は後ほどということで、スカル以外の精神を解放する。

残ったのは、スカルの過去の幻想と、彼と、私だ。

 

彼にとって懐かしむ景色の一つなのか、かつてのアルコバレーノ達が集まったあの部屋が映る。

だが椅子には彼しか座っていない。

彼以外は誰も存在せず、ただ一人あの椅子に座っていた。

お前にとって、自分以外は視界に映らない…そういうことなのか?

彼の深層心理にも等しいこの空間に誰もいないということは、彼にとって他のアルコバレーノは記憶に残る対象にすらならないようだ。

彼の心理へ触れたところで私に理解で理解出来るわけでもないが。

 

「さて、すまないね…君の意思を無視した形での参加となってしまって…君のことだ、あの場で辞退するつもりだったのだろう?」

 

漸く言葉を発した私をただ覗き込むスカルに、言葉を続ける。

 

「だがこの代理戦争は全員参加する必要があってね…特に君の肩書はこの戦いをより一層引き締めることが出来る…その狂人という名のマフィア界に名だたる肩書きはね」

 

そうだ、お遊びで参加されては困る。

特に今回のアルコバレーノは大半がボンゴレファミリーを通して仲間意識を抱いている者達だ。

生ぬるい戦争では実力が見られない。

そこで最恐の敵とすら言われる彼を参加させることで、彼ら自身いついかなる時も緊張を手放さず戦いに挑むというものだ。

それに、彼の代理にも興味がある。

彼のその身に宿した狂気を分かち合える者が周りにいるとは思えない。

 

「だが君のやる気がゼロである今、代理戦争に参加させたところで意味はなさそうだ……ふむ、君が代理戦争に勝利すれば、呪いを解くほかに君の望むものを与えよう」

 

彼にとって魅力的となるか分からないが、私が今出来る最大限の誘惑でもある。

スカルが何を思い、行動してるのかが分からないが故の取引。

他の者よりも贔屓(ひいき)しているように見えるが、所詮代理戦争後には消える命だ。

ここで何をしてようが彼らの命は代理戦争が決まり次第終わりを迎える。

今までのように…

さて、彼がこれで釣られてくれるのか…そんな私の予想を遥かに超える言葉が待ち構えていた。

 

 

 

「自由………自由が欲しい」

 

 

 

小さく、掠れた声で呟かれた言葉に、驚かなかったと言えば嘘になる。

裏世界を恐怖で震撼させた、極悪非道な狂人が願ったのは、意外なものであった。

 

『自由』

 

何から自由になりたいのか、何から逃れたいのか、何に縛られているのか

彼の言葉には、計り知れぬほど重い何かが感じられた。

自由奔放に生き、人々を気まぐれで殺し尽くした者が求める自由とは一体何なのか。

 

「自由…とは、これまた意外だな……君は何のしがらみもなく生きている人間であると思っていたが…」

 

私は素直にそう返すが、彼はただ黙って私を覗き込む。

仮面をしているというのに、まるで瞳を覗き込まれているような錯覚に陥る。

彼にとって自由とは何だ?

頭の中を駆け巡る疑問に応えるかのように、彼は呼応した。

 

 

 

「俺を…自由にしてくれ……」

 

 

 

その言葉に、私は理解した。

彼が求めてやまぬ『自由』を。

 

 

彼が望んでいる自由は“死”か

 

 

 

もし、だ。

もし、彼が狂人でなければ…辻褄が合う。

 

 

その身に宿った呪いともいえる半不死性に、狂えぬ精神を持ったならば……

 

彼ほど不幸な者はいないのだろう。

 

 

そして、それが正しいのならば、彼の行動の一端が理解出来るというものだ。

確信めいた、確証のない憶測は、私の中にまるで元々そこにあったように当てはまった。

 

「なるほど、分かった……代理戦争で君が勝利したならば、自由を与えると誓おう」

 

狂人紛いを演じたところで、死ぬことも出来ず、狂うことも出来ず…ただ人の死を身近に感じることで“死”をその身に刻む。

 

 

彼の過去がどんなものだったのか分からぬが、きっと…狂いたくなるほど残酷な世界だったに違いない。

 

 

代理戦争が終われば、彼の望みは成就(じょうじゅ)するだろう。

それが彼にとって幸福なのかは分からないが……

 

私はそれが、彼にとっての幸せであって欲しいと願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

彼の精神を解放し、漸く私は自身のテリトリーへと帰る。

 

「チェッカーフェイス様、ウォッチと説明はいつしましょうか?ハハッ」

「…そうだな、戦闘開始の2日前でいいだろう、離れている者から順に説明してくるといい」

「分かりました、フヒッ」

「ああ、それと…」

「?」

「スカルの飼っている怪物には気を付けろ、気を抜けば食われるぞ」

「それはそれは…恐ろしい場所に私を向かわせるだなんて、チェッカーフェイス様も人が悪い、ヒヒッ」

 

心なしか顔色が若干青褪めている尾道は、そのままその場を去っていく。

あの生物が、スカルの最終兵器なのだろう。

だが、アレはあまりにも危険すぎる。

何故アレがこの時代に存在しているのか私にも理解しかねるが……アレは私すらも蹂躙するほどの可能性を秘めている。

あの生物の存在に気付くのが遅れ、気付いた頃には既に容易に手出し出来ぬ成体へと成っていた。

私の覚えている遥か昔の記憶では、かの種族は絶滅寸前であった。

海を支配した王者……私がかの王に相まみえたのは一度のみ………

 

 

生きとし生ける全ての命は

我が牙を逃れられぬと知れ

我が血肉を喰らいつくすものはこの世に居らぬ

 

故に我が王者なり

 

故に我が統べる者なり

 

 

 

「いくらあの時代よりも数倍小さいからといってもアレは…かなり、厄介だな」

 

 

 

 

溜息と共に、これからの人類の指針を慎重に考えていた。

 

 




スカル:代理戦争を嫌々ながら参加、ニートライフが手に入るなら…んー、でもポルポがうっかり人殺しちゃったらどうしようと心配になる、ギルマスに石ころを送っていたらに場所特定され放置中に石を投げつけられた、まさかモンスターが沸かない安全マップで殺されるとは夢にも思わない。

ギルマス:何故かいきなり石ころを送り付けられたので場所を特定し石を投げつけた、㏋3しか削ることが出来ない石でHP2万もあるスカルのキャラクターをキルした猛者、イン率が全然変化しないスカルをニートだと思っている。

チェッカーフェイス:スカルに変態仮面と思われてることを知らない、スカルの望みが死ぬことであると勘違いする残念な頭の持ち主、勘違い(第一層)を突破したが勘違い(第二層)に突入、昔のポルポと面識があるらしい

ポルポ:スカルにあだ名すものは全てモグモグしましょうねー、多分代理戦争中トップ戦力、ボスウォッチ所持者、戦力がこいつだけで足りる以前に過剰戦力になりそう

復讐者名あの人:誰からウォッチ奪い取ろうか……


漸く虹の代理戦争です。


さてと、なんか投稿遅れて申し訳ないです。
ディズニーランドとシー行ってて小説丸投げしてました。
めちゃくちゃ満足したので、暫くは小説に専念出来そうです。




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skullの翻意

俺は泣いた。


「主、ここが日本なる島か?」

「ん、多分…日本語がちらほらあるし、ここが日本だと思う」

 

突然ながら現在俺は日本にいる。

今生で初の日本である。

正直自分の前世と一緒か分からないので、ある意味外国に来た気分だ。

イタリアを出発したのは数時間前、社長から有休もぎ取って来たけど、急だったからかなすごい質問攻めにされた。

無事有休をもぎ取った俺は、ジェット機使う?と聞いて来た社長の誘いを断ってポルポに跨って海を横断した。

途中鮫がうようよいたり、ずっと掴む腕が疲れたりしたのでポルポの口の中に入っていたけど視界が墨で真っ暗だった。

日本に支部があるので、バイクと宿泊先を手配してくれた社長には頭が上がらない。

にしてもあまり記憶の中にある日本と変わったところはないなぁ…

イタリアよりも十何度か気温が上なので、体感温度は中々暑い。

首元に滲み出る汗を拭いながら町中を歩き出す。

 

懐かしく新鮮な心地で町を歩きながら、カルカッサ日本支部へと向かう。

日本支部にはこれまたヘルメット被った奴等がいた。

まさか社内制服が全国共通だったなんて…それもこんなダサい制服。

 

「スカルさん、お待ちしておりました!」

「何やらとある目的の為に日本へおいでなさったようですが、カルカッサ日本支部は協力を惜しみませんよ」

 

物凄い歓迎されとる。

なんてこった、バイク取りに来ただけやねん…

有休取ったのに何故か日本支部を案内される始末。

一通り支部を見回ったらバイク見せてもらって鍵渡されたので、もう帰ろうかな。

ポルポを連れて指定のホテルに行けば、最上階に連れていかれた。

あれ?このホテル……どこかで見たような…あ、夢に出てきた奴だ。

10年後の世界の夢に出てきたのと同じホテルがあったなんて。

凄い偶然だなーって思いながらシャワー浴びようとしたらポルポに呼び止められた。

 

「主、首が赤みを帯びている」

「首…?」

 

鏡で見てみるとポルポの言葉通り首の周りが赤くなっていた。

何で赤くなってるんだろう?

確かにさっきから少し痒いような…

………汗疹(あせも)

取り合えず明日まだ赤みが引かないようなら皮膚科行ってみようかな。

あ、俺パスポートもなけりゃ保険証もねぇわ。

イタリア帰るまで放置するしかねぇ…つら。

鏡から視線を外し、シャワーを浴びれば海水の匂いが段々と取れていくのが分かりシャンプーを手に乗せた。

浴槽に浸かり、鼻歌を口ずさみそうな心地よさの中のぼせる手前で風呂を出る。

ベッドに行けばポルポがボスウォッチを凝視していた。

ポルポは俺に気付き、ボスウォッチと俺を見比べるとふいに俺に話しかけてくる。

 

「主、そなたは呪いを解いたらどうするつもりだ」

「あー……」

 

ニートしたいです、って真正面から言うに言えなくて言葉を濁す。

 

「誰もいない場所で……休みたい、かな…」

「………それがそなたの望みか?」

「ああ」

「その意思は……変わらぬ、ものなのか……?」

 

あ、これニート志望バレてら。

ポルポにとって俺は親みたいなもんで、誰でも親が無職になりたい!なんて言ったらそりゃ考えなおせって言うわな。

でもさ、でもさ!

俺は誰もいない場所ひっそりと暮らしたいんだ。

もう口座の中の預金が凄い額なんだよ、節約しながら過ごせば百年は何もせずに暮らせる額なんだよ。

こんだけ溜めたんだからええやん、ニートええやん。

 

「俺の意思は…変わらない」

 

頭のねじ一本どころか数十本抜けてるマッドサイエンティストのモブ子とか、恐喝系ブラック社長とか、俺には荷が重いんだって。

だからそんな悲しい奴を見るような目で俺を見んといてポルポ。

俺に幻滅するならそのまま海にリリースしてあげるし、次の飼い主だって探すよ。

前世は頑張ったんだ、今世は何もせずにまったりとのんびりだらだら自堕落な生活を送らせておくれ。

 

 

「もう…疲れたんだ」

 

 

前世は頑張ったんだ、とっても頑張ったんだ。

人生報われる一歩手前で死んじゃって、結局報われずに終わった前世だったから、今世はもう何もやる気ないし何もしたくない。

今世も今世で初っ端からミスりまくって、気付けば親無し職なし学歴小卒中退のハードモードだし。

どーにでもなーれって投げ出したくなるに決まってんじゃん。

ってか呪い貰った時点でもう色々と社会復帰無理だし、復帰する意思さえ芽生えないし…色々と第二の人生詰みまくってる現実見たくないし、俺の最期なんて孤独死しか見えてこないし。

 

 

「疲れたんだよ……」

 

 

前世もあったんだ、きっと来世もある。

ならもう来世に期待するしかないだろ。

いわば休眠期だよ、休眠期。

やっぱこう考えると、ニートにならなきゃって思うね。

 

 

「…そなたの望みを否定するつもりはない、ただこれだけは忘れるな」

 

ポルポがめっちゃコッチガン見してきてる、怖い。

で、でもニートライフは絶対に譲らん。

 

「我は最後の時までそなたの側で共に生きよう、そなたが死するその時まで…そなたを独りにはしない」

 

そう言ったポルポにちょっと引いた俺氏。

いやいやいやでもまぁ嬉しいよ、孤独死は免れたから。

なんかポルポからの愛がものすごく重いです。

 

「主……そなたは……いや、何でもない」

 

何かを言いかけたポルポは、口を閉じホテルのソファに座り込んでしまった。

その様子が凄く不貞腐れているようなポーズだったので、思わず笑いそうになり口を塞ぐ。

俺が笑っていることがバレたらもっと拗ねると思って、ポルポに背中を向けてホテルの窓の外を見ながら笑いが収まるまで待つ。

丁度窓の外は一面夕焼けで、とても綺麗だった。

 

さて、これから外に出てもあれだし…ゲームでもして時間潰すか。

ふふふふ、ギルマスにこの前殺されたお礼をたっぷりとねちねち返してやる!

デスペナルティのお返しだぁぁぁぁァァああああ‼

 

 

『こんばんわ、死にやがれギルマスこの野郎』

『まぁ待て待て、デスペのことは謝るからメールボックスを見てみろ』

『あん?』

 

『デスペで失ったレア装備、取りに行ってあげたぞ…それも最高値』

 

『一生ついて行きますギルマス様‼』

『現金な奴だな、だが嫌いじゃないぜww』

 

 

こうして俺の復讐譚(ふくしゅうたん)は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

我がソレに気付いたのは日本という島国に着いてから直ぐだった。

主が日本へ来てからずっと首元に手を伸ばしては、首の皮膚に爪を立てていた。

無意識なのか、ずっと爪を立てられている首元は赤みを帯びている。

遂に腫れが目立ってくる主の首元を指摘したのは、ホテルに入ってからだった。

主が鏡で自身の首元を見て目を少し開いていた様子を視界の端で捉えて、やはり無意識だったかと目を伏せる。

 

近頃、主の精神は不安定だ。

日本へ訪れる前も、庭に捨て置かれていた石を視界に入れたかと思えば、拾い上げるなり近場の木に投げつけた。

幾度も繰り返す正気の沙汰とは思えぬ行動に、我は困惑し主を止めに入った。

肩で息をしていた主の腕を掴み、石を遠くに投げ飛ばした我は優しく問う。

 

「主、主……何故(なにゆえ)乱心している…」

「な、何でも…何でもなっ…」

「主、しっかりなされよ!」

 

思わずといったように息を飲んだ主の焦点は定まっておらず、その目からは止めどなく涙が溢れていた。

ひたすら地面を眺めながらぶつぶつと小さく呟いている主の言葉に耳を傾ければ、途切れ途切れで耳に届く。

 

「デスペナルティ……デ、デスペナルティがっ…」

 

デスペナルティ、“死の罰”と繰り返して呟いている主に、我は言葉を失った。

何があったのだと聞いても、返ってくるのは同じ言葉のみ。

漸く主が我に返ったのは、それから十数分後のことだった。

 

このことがあってから、我はずっと主を注意深く見てきた。

あの癇癪の様な行動は起こさないまでも、主は部屋に塞ぎこむようになったり、食事すらも抜くことさえあった。

事情を聴こうとしても毎度返ってくるのは同じ言葉。

 

「何でもない」

 

どれほど我が無力を嘆いたことか。

我は主の心を守ることすら出来ぬことに絶望さえ感じた。

この心の距離は一体なんだ、この壁は一体なんだ。

何が主を縛り、苦しめているというのだ。

 

主の苦し気な声がして、(うな)されていると気付き主を一旦起こそうとした時も、主はうわ言で呟いた。

 

「やめ、やめろっ………俺の、大事な………殺さな……で……」

 

もがき苦しんでいるように伸ばされた手は宙を空回り、額からは汗が滲み出ている。

デスペナルティ…と、そう呟けば主の宙を掻く腕はカクリ落ち、死んだように動かなくなった。

我は柄にもなく焦り、主の息を確かめたものだ。

 

 

 

水が地面を打ち付ける音が壁越しに届き、我は思考を現実に引き戻した。

主の赤みの帯びた首を見ては、焦る気持ちと同時に遣る瀬無さが込み上げる。

我は主を救うことが出来ない。

そう突きつけられた現実に歯噛みするしか出来ず、苦しむ主をただ眺めていた。

側にいたところで主の傷を癒すことは出来ず、主がもがき苦しみ、死を望む現状を変えられずにいる。

主は苦しみに身動きが取れぬまま、きっと、息さえ出来ず死に絶える…

現に首に爪を立てているが、次第には掻きむしり血が滴るまで爪を立て続けるだろう。

まるで主との間に目に見えぬ壁がそびえ立っているようで主の声が遠くに聞こえる。

 

水が地面に打ちつける音が止み、少し経ってから主が風呂から出てくる。

その首にはくっきりと赤く引っかき痕が見え、僅かに顔を(しか)めた。

今、我に出来る唯一は、主の苦しみを少しでも減らすことのみ。

その為に、必ず主の呪いを解かなければならぬ…

時計を眺め、もう一度主へと視線を向ければ目が合う。

我は心の奥底に隠しとどめていた問いを主に投げた。

 

 

「主、そなたは呪いを解いたらどうするつもりだ」

 

聞いてはならぬ禁句を我は自ら主に問うた。

 

「……誰もいない場所で……休みたい、かな…」

 

主は言葉を濁しながらそう答えた。

ああ、やはり……

我は目を閉じ、静かに現実を嘆く。

 

「………それがそなたの望みか?」

 

何度もそなたの苦しむ姿を、涙する姿を、悲しむ姿を目にした。

だから、分かっていたのだ。

そなたが望むものなど……最初から分かっていたのだ。

 

「ああ」

 

 

死こそが、主の救いなのだ。

それでも、そなたに生きて欲しいと…そう願わずにはいられない。

 

 

「その意思は……変わらぬ、ものなのか……?」

 

なけなしの救いを求めて問うても、返ってくる言葉など分かっているではないか。

ああ、主…言ってくれるな……主、あるじ……あるじ…

 

 

「俺の意思は…変わらない」

 

 

我に主を救うことは出来ない。

何度も突きつけられる現実は、残酷な世界の一面を垣間見た瞬間だった。

主の息を吐く声が届く。

 

 

「もう…疲れたんだ」

 

震えた声だった。

喉から絞り出したような、痛々しい声だった。

血を吐くような苦しみを、悲しみを、痛みを、吐き出したような声だった。

 

 

「疲れたんだよ……」

 

 

灯り火が消えるような主の瞳と、見えない壁が目の前に一瞬だけ現れたような気がした。

 

ああ、愛しい我が主

苦しむそなたを引き留めることが、どうして出来ようか

我に出来ることはそなたをこれ以上苦しむことがないよう寄り添うことのみ…

 

「…そなたの望みを否定するつもりはない、ただこれだけは忘れるな」

 

 

我はそなたに寄り添おう

全ての年月を

 

 

「我は最後の時までそなたの側で共に生きよう、そなたが死するその時まで…そなたを独りにはしない」

 

 

我はそなたと共に生きよう

全てが朽ち果てるその時まで

 

 

ああ 主 主 あるじ……

 

死を望むそなたのなんと哀しいことか

 

共に生きようとも 共に死ねとも言わぬ そなたはなんと酷いことか

 

主 どうか どうか

 

 

せめて、そなたの骸の隣で我も逝かせてくれないだろうか

 

 

 

窓の外を見やる主の肩は僅かに震えていた。

夕陽が差し込み、まるで橙色の炎が主を包んでいるようで、一抹の希望を拾い上げるような、穏やかなその色に…我は静かに目を閉じる。

 

 

「主……そなたは……いや、何でもない」

 

 

もし我が死なないでくれと、追い(すが)れば……そなたはきっと、きっと…笑って死を諦めるのであろうな

 

なんと甘美で残酷な希望なことか

 

 

死を   死を   死を    死を

 

 

       “救い()”を主に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

 

 

 

リボーンから代理戦争の代理人を頼まれて、尾道とかいう可笑しな奴に代理戦争のルールを説明されて、家帰れば親父が帰ってきたり…なんだか色々あり過ぎて混乱してきた。

その上白蘭と同盟組んじゃったし…

今回の代理戦争はこんなに戦力が集結してるんだ、とんでもない事態になりそう。

これから始まる戦いに気落ちしながら腕に着けられているウォッチを眺める。

リボーンからの頼み事、アルコバレーノの呪い…謎の鉄帽子の男チェッカーフェイス…ああ、一体何がどうなってんだよ。

まだハッキリと戦力が分かった訳じゃないけど、コロネロはCEDEFを代理に、ユニはγと白蘭を代理に、マーモンはヴァリアーを代理してたし他の所も油断出来ないよな。

 

特にスカルは………

一際表情を暗くした俺は、昼の会話を思い出す。

 

 

 

「でも組むんだけどな、白蘭と同盟」

「ええ!?何で!?」

「白蘭の危険性はユニが一番よく知っているはずだ…オレには呪いのためだけにユニが白蘭を代理にしたとはどーしても思えねえし…」

「…まだあるの?」

「単に戦力がある方がいいだろ」

「それはそうだけど…」

 

リボーンにもリボーンなりの考えがあってだと思うけど、ただ戦力が欲しいっていうよりも…なんだろう、この違和感…

 

「スカルだな」

 

俺とリボーンの隣からディーノさんの声が降って来た。

 

「狂人の運び屋、カルカッサの軍師、恐怖の代名詞……奴が何を考えてどう動くかが予測出来ないから、戦力に拘っているんだろう?リボーン」

「……まぁな、今回の代理戦争…どのチームも警戒すべきだとは思うが最も警戒すべきはそいつのチームだ」

 

ディーノさんの言葉に首を縦に振るリボーンはそう付け加える。

 

「俺もそう思うぜ、スカルがどれだけの戦力を持っているか分からない上にあいつは軍師として腕はピカイチだからな…作戦はお手の物だろうな」

「ああ、それに奴はユニに接触する可能性が大きい…いくら白蘭達が付いているといっても相手はスカルだ、慎重に動かなきゃならねー」

「ユ、ユニを狙ってる!?」

 

俺はその言葉に驚きリボーンに問い詰める。

 

「目的は知らねーよ、ただあいつが未来でユニを拉致したのも事実だ、何かしら接点を持っていてユニに関心がある証拠だ」

「待ってよ、え、未来でのあれスカルだったの!?」

「ま、確信ではねーが恐らく奴だ…姿形も同じだった上におしゃぶりもしていたからな」

「そ、そんな…じゃあ代理戦争始まったらユニのところに注意しなきゃいけないってこと?」

「ああ、だがお前らは別のチームに向けての警戒も怠るなよ」

「ああああ、なんかごっちゃごちゃになってきた!」

「それと最後にスカルについてお前らに言わなきゃいけねーことがある」

「…?」

 

俺と山本、獄寺君、ディーノさんはリボーンの表情を覗き込んだ。

 

 

「スカルの側に付き添うタコの化け物…戦闘中そいつに出くわした時、最低でも4人で対応しろ…3人以下の時は死ぬ気で逃げろ」

 

 

まるで鬼気迫るようなリボーンの表情に、俺は言い寄れぬ怖さが背筋を駆け上った。

だけど、俺は知ってる…そいつの怖さを。

忘れてなんかない…命を吸い込まれそうな二つの目に、内臓を抉られるような不快感を催す殺気を。

あれは、恐ろしいなんて言葉で表せるものじゃない。

リボーンの言葉に皆の息を飲み声が聞こえたけど、俺は別の意味で息を飲んだ。

 

俺はあの化け物を前にして、動けるだろうか……

 

力量も理解せずに突っ込んでいった昔の俺とは違う今、俺はあの恐怖に向き合えるだろうか。

身体が(すく)んで足が動かず、逃げることすら出来ないかもしれない。

そのまま俺は食べられて―――

 

 

「ツナ」

 

ハッと我に返った俺の目の前にはリボーンがいて、目が合う。

 

「お前には助け合える仲間がいるだろ、怖気づいてんじゃねーよ」

 

心を見透かされた上で投げ付けられた言葉に、心臓が激しくなる。

 

「奴は少数で立ち向かえば立ち向かうほど危ねーんだ、だから出来る限りお互いに注意が配れるフォーマンセルが妥当だと判断したんだぞ」

「そいつはどんな見た目してんだ?」

 

ディーノさんの問いにリボーンは俺の方を見て、ニヤリとニヒルな笑みを見せてこう言ったんだ。

 

 

「でっけーだけのタコだ」

 

 

俺を縛り付ける恐怖は薄らいでいくのが分かり、心の底から安堵の息を漏らした。

 

 

 

 

既に陽が落ちた窓の外を眺めながら、昼の会話を思い出して笑みをこぼす。

きっと、大丈夫…俺には仲間がいる。

スカルにだって勝ってリボーンの呪いを解かなきゃ…

 

 

『なんだかその姿がとっても…悲し気だったから』

 

 

何の前触れもなしに脳裏を過ぎる言葉に、窓を閉めようとした指が固まった。

その言葉が一体何だったのか分からず、俺の困惑する瞳は空を仰ぐ。

何だろう、胸が……痛いような……ああ、また違和感だ。

 

()()

 

前は一体どこで…?

思い出せない。

 

 

『指きりげんまん 嘘ついたら 針千本呑ーます』

 

 

幻想的な声と、夢現(ゆめうつつ)に揺れる小指

 

それはまるで――――――

 

 

 

「おい、ツナ、いつまでボーッ突っ立ってんだ!うぜぇ!」

 

いきなり背中を蹴られた俺は、痛みと衝撃に胸につっかえた息を吐きだした。

 

「いってぇ!ごほっ、ごほ」

「早く寝ろ、代理戦争にかまけて学校を遅刻してみろ…みっちりねっりょり修行させんぞ」

「ひぃぃ、お前の修行は痛いからやだよ!」

 

俺はため息と共にベッドに潜り込み目を閉じた。

 

ああ、さっき思い出せそうだったのに全部吹き飛んじゃったよ…

一体何を思い出そうとしていたのかすら忘れてしまった。

 

だけど 何だろう

 

 

とても大切な何かを 思い出そうとしてた

 

 

 

 




スカル:ベビーだもん汗疹くらいあるよね、ニートになりたい、ギルマスに殺された後デスペがあまりにも大きかったので泣いて錯乱状態になったがお詫びの品で直ぐに手のひら返したアホ、ゲームの廃人あるある。

ギルマス:画面越しでデスペに凄くショックを受けてるスカルに同情して頑張って装備取って来た優しい人、現金なスカルが気に入ってる、スカルをニートだと思い込んでいる。

ポルポ:スカルの自殺()を隣で見守ることにした被害者セコム、コイツはスカルを海に落として引きずり回しても許されると思う、心中を思考中。

ツナ:ポルポがトラウマになってるけど多分仲間がいれば大丈夫。

超直感:出番だと思ったけど違った。




私もデスペであげた経験値とドロップアイテムがごっそり持ってかれたことありますよ、ええ。


Q:ゲーム如きで錯乱するの?過剰描写では?
A:「母 ゲーム 消された」を検索すれば一発で出てきますよ。




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skullの会遇

俺は譲った。


日本に来て一泊して朝を迎えたんだが、首の腫れが一向に収まらない。

あるぇ?やっぱり汗疹かな。

無意識に引っ掻いたのかヒリヒリする。

にしても今日は代理戦争一日目かぁ。

どうせ時計がなるまでは暇ってことだろ、街中でも回ってみようかな。

ポルポに縮んでもらって、バイクの後ろに張り付いてもらう。

昨日の夜、並盛のことを調べたら、このホテルから少し離れたところにあるモールの中にゲーム売り場があったのでそちらに向かうことにした。

丁度30分ほどバイクを走らせるとモールが見えてきて、俺はゲーム売り場へと足を向ける。

開店直後とあって人が少なく、人混みが嫌いな俺には程よい静けさだった。

おお、欲しかったゲームソフトがラスト一個で売り切れるではないか!

これは買わねば。

シューティングとかそういう殺伐としたゲームではなく、どちらかというと全年齢向けの育成ゲームだ。

通販では品切れが殆どで、節制している俺はオークションは無理だと判断して入荷待ちだったんだが、なんて偶然なんだ。

既にギルマスはやっていて、金払う価値はあったというお墨付きだ。

俺はそのゲームソフトに手を伸ばし、レジに直行しようとした時だった。

 

 

「はひ!?売り切れ!?」

 

 

後ろの方で女性特有の高い声が聞こえて、俺は振り向く。

そこには女子中学生くらいの女の子が、ついさっき俺がいた場所で五体投地していた。

その子は、俺の手にしたゲームソフトの棚を何度も見返していて、もしやと思いずっと見ていると、なにやら店員さんと会話し始める。

 

「こ、ここにある人気の育成ゲーム〇〇はもう売り切れたんですか!?」

「そうですね、在庫はありませんので店頭に並べられているので売り切れということになりますね…申し訳ありません」

「そ、そんな~!にゅ、入荷はいつですか!?」

「ただいま大変入荷が遅れる予定で、早くとも2カ月後…くらいになるかと」

「はひぃぃいいい!?2カ月!?」

 

頑張ってお小遣い貯めてたのに、と崩れ落ちる女子中学生を見て、俺は本当にギリギリのラスト一個を手にしたのだと改めて実感した。

すっげーラッキーと意気揚々とレジに持って行くには、崩れ落ちる女子中学生があまりにも衝撃的すぎて、俺は少しだけ迷い始める。

俺は半ニートだから比較的買う機会はあるし、金銭的にも恵まれている方だ。

一方中学生はお小遣いしか金銭を得る機会はない上に、ゲームソフトを買うお金を貯めるのさえ一苦労だろう。

ここは大人として優しさを見せてあげるべきか、それとも無慈悲に他人だと切り捨て利己的に動くべきか。

ぬぐぐ、めっちゃゲーム欲しい。

 

「に、2カ月だなんて酷いですぅうう…」

 

あ、あれは他人…他人

 

「もうこれで7軒目なのにぃ…」

 

他人……

 

「京子ちゃんと…遊びたかったのに……ぅぅ……」

 

 

泣いてる女の子に、そんな無慈悲なこと出来るわけがなかった。

ほら、俺一応今世はジェントルマンなイタリア人だから。

ゲームは欲しいが泣いている中学生を優先しよう。

俺はその中学生の方に向かい、泣き崩れてるその子の服をちょいちょいと引っ張る。

 

「はひ……?」

 

涙を流しながら目線の低い俺を見た女の子は、一体何だろうという顔をしながら俺を捉えた。

俺はすっと先ほどのゲームソフトを女の子に差し出した。

 

「は、はひ!?これは〇〇!な、何でこれを!」

 

俺があんたより先に取ってしまったからだよ。

 

「ま、まさか……これを私にですか!?」

 

うんうん、と頷けば女の子は再三、本当にいいんですか!?と聞いてきたが俺はただうんと頷いた。

ヘルメットの下では歯噛みしてたけどな!

女の子は嬉し泣きでまた泣いて、泣きながらレジに行って店員がドン引きさせていた。

少しどころじゃない程惜しい思いをしたけど、元々このゲームソフトを買いに来たわけでもないし…とポジティブ思考で店を出ようとしたら、背後から声をかけられた。

 

「あ!待ってください!そこのクールな赤ちゃんさん!」

 

後ろを振り向くと同時に抱き上げられた。

めちゃくちゃビビっていると女の子の顔が目の前まで迫って来た。

 

「あなたは私の恩人です!何かお礼をしたいので少し付き合ってくれませんか!?」

 

お、俺が!?無理、無理無理。

首を横に振っていても食い下がってくる中学生に、折れたのは俺だった。

中々押しの強い中学生で、ペット同伴だからという俺の理由を、ぬいぐるみ扱いでごり押ししやがった。

いくらポルポが小さくなってるからと言って赤ちゃんの俺よりは数倍でかいからな。

 

「とっても美味しいお店をご紹介してあげます!」

 

そういって俺を抱き上げたまま、歩き始めた少女を後ろからポルポが無言でついてくる。

少し歩いたところでおしゃれで小さな店が、分かりにくい路地の中に存在していた。

本当に目立たないような店ではあるが、結構昔からあるらしい。

 

「今日のこの時間はレディースモーニングって時間で、女性限定でしか入店できないんです!」

 

え、待って俺男!

 

「あ、赤ちゃんさんはノーカンです!ノーカン!」

 

大丈夫なのかこいつ、いやその前に赤ちゃんに性別聞いたって全部同じにしか見えねーか。

てかポルポ大丈夫なの?

店に入ればポルポは少女の背中に張り付き中に入る。

 

「あの、ペットのご入店はご遠慮しておりまして…」

 

ほれみたことか!と、俺は少女を見れば、少女はとてもいい笑顔でこう言い放った。

 

「あ、これぬいぐるみです!とってもリアルですよね!」

「ぬいぐるみでしたか、どうぞゆっくりしていって下さい」

 

ちょ、おま。

マジか、ポルポまじでぬいぐるみで通ったのか。

あれ、なんかデジャヴ……

前にもあったような感覚に首を傾げる俺を他所に一番奥の個室のような場所に案内された俺達は、静かな場所でメニュー表を開く。

女性限定とあって、出されるメニューは女性向けでスイーツ系だった。

別に甘いのが嫌いではない俺は、チョコレートマシュマロピザとホットティーを頼んだ。

少女もメニューを決めたのか、店員を呼びそれぞれ注文する。

注文が来る間の手持ち無沙汰な待ち時間を、待ってましたと言わんばかりに少女はこちらを見つめてきた。

 

「さきほどは本当にありがとうございます!私は緑中学校二年の三浦ハルと言います!赤ちゃんさんのお名前は何ですか?」

 

ひえっ、この子めっちゃ社交性高い。

 

「え、えっと……スカル……」

「スカル君ですか!スカル君は何歳ですか!?因みにハルは14才です」

「……わ、分からない……」

「あ、じゃあ好きなものはありますか?ハルはモンブランが好きです」

「……………えっと…」

「好きなの多過ぎると迷いますよね、因みにゲームは好きなんですか?」

「うん」

 

もうこの子コミュニケーション力高すぎるよぉぉ…

俺がついてけないよ、コミュ障の俺にとってまさに鬼門じゃないか。

質問攻めの時間がとても長く感じた俺は、トレーを片手に向かってくる店員さんに一抹の希望を抱いた。

 

「ご注文のホットティーとホットチョコレート、チョコレートマシュマロピザとロットベリーホットケーキになります」

「わぁ、待ってましたぁ!」

 

漸く質問から解放された俺は目の前に出されたものに目を奪われた。

なにこれ、めっちゃ美味そう。

焼かれたマシュマロがほどよく(とろ)けていて、下地のチョコが溶けてピザの生地にとっぷりと乗っている。

俺はヘルメットをゆっくりと外し、隣の席に置いた。

そしてピザに手を伸ばそうとしたら、目の前のハルさんがめっちゃ目を見開いて俺をガン見していることに気付いた。

 

「ス、スカル君ご出身はどこですか!?」

 

出身?あ、そっか…紫なんて日本にいるわけないもんな。

いやイタリアにもいないけどさ。

 

「…イタリア……」

「はひ、外国人の方でしたか…通りで言葉に詰まってたわけです」

 

いやそれただのコミュ障なだけ……

 

「でもまぁ食事に言語は必要ありません!美味しく頂きましょう!」

 

そういったハルさんは手を合わせて、パンケーキを頬張り始める。

俺もゆっくりと熱いピザを千切り、息を吹きかけ覚ましてから口に入れる。

うまぁー…うまいよぉ……

スモアのパン生地バージョンだけど、めちゃくちゃうまい。

店員に隠れてポルポにも少しづつあげたけど、果たしてポルポに味覚はあるのだろうか。

砂糖の入っていないホットティーが甘さを軽減してくれて、次々と口の中に入っていく。

目の前のハルさんもホットケーキに色んなベリー系のソースを絡めて食べている。

ブルベリー、ストロベリー、ラズベリー、ブラックベリー…俺が知ってるのはそれくらいだけど、他にも色々混ざってるらしい。

多分あのめっちゃ黒い奴はブラックベリーだな。

 

「美味しいですねー!ハルはここのパンケーキが大好きで、よくこのレディースモーニングの時に食べに来るんです」

「……美味しい」

「そうです、美味しいです!イタリアでは何て言うんですか?」

「……buono(ヴォーノ)

「はひ、発音がヤバイです!すごくネイティブです!」

 

今世は純粋なイタリア人だからな。

何だろう、とっても年下の子と喋ってるみたいだ。

コミュ障の俺にとって、これくらいコミュ力高い人は良薬になるんだろうなぁ。

でもそんな人と会う機会なんて一生に一度で十分です。

俺はそう思いながら、再びピザを口に放り込む。

満足いくまで食べていると、そろそろレディースモーニングとやらの時間が終わるらしいので店を出た。

美味しいものも食べられた俺はハルさんとモールの出口まで一緒に歩いていた。

 

「今日はたまたま休校日でしたが、ハルは部活をしているのでそろそろ学校へ行きます」

 

休校日なのにわざわざ学校行くとか、えらいなこの子。

 

「スカル君は一人で帰れますか?」

 

その言葉に頷き、出口で別れた俺はふと時計に目がいき、そういえばまだ鳴ってないなと思った。

いつ鳴るのか分からないし、鳴ったところで何していいか分かんないし、ていうかポルポを遠ざけないといけないし。

ダメだ、沢山考えれば考えるほどこんがらがってきた。

 

 

「あら、スカル…君?」

 

名前を呼ばれた俺は視線を上にあげた。

 

「やっぱりそのヘルメット!スカル君じゃないの!」

 

あ…この人確か……マフィアランドでの…

 

「おばさんのこと覚えてるかしら?遊園地で会った沢田奈々よ?」

 

そう、奈々さんだ。

俺を迷子と勘違いしてマフィアランドに入れてくれた奈々さんじゃないですか。

まさか日本で偶然会うとは思いもしなかったけど。

 

「あらあらポルポちゃんも一緒なのね、また迷子かしら?」

「違う…」

「じゃあお遣い?」

 

もうお遣いでいいんじゃないだろうか。

この人とちゃんと会話しようとするだけ無駄な気がするし。

うん、と首を縦に振れば奈々さんは笑顔で何を買うの?って言って来た。

何買えばいいのやら、元々買うものなんてなかった俺はカレーの材料とだけ言っておいた。

どうせ生でもポルポが食べてくれるから、少しの出費だと思えばいいか。

 

何故か一緒に買い物に行くことになって、数時間の買い物の後、奈々さんと手を繋いでモールを出る。

そんな時時計を見れば、なんてこった朝からモールに来て既に夕暮れ時になっていた。

スーパーの袋を持ったまま、奈々さんに一人で帰ると言おうとした時だった。

 

時計から大きなアラーム音が鳴り響いた。

俺は心臓が飛び出そうなほど驚いていたし、隣の奈々さんも目を丸くしていた。

 

『バトル開始一分前』

 

あ、こういう感じなのね!

ビックリした!

 

「あら、カッコいい玩具ね」

 

そんなこと言ってくる奈々さんに構ってる暇はなくて、俺はさよならとだけ呟くと奈々さんから形振り構わず走り始めた。

向かうは駐輪場、俺のバイクが置かれている場所だ。

一分、間に合うか分からなかったが、ギリギリ間に合いバイクに跨る。

ちゃんとポルポがバイクに乗ったことを確認して発進させた時に再び時計が鳴る。

 

『バトル開始です 制限時間は10分』

 

短っ、え、短い。

こういうものなの?

マジでバトルロワイヤル的なやつだな。

ホテルへの道のりを速度を出しながら走っていると、丁度車の通りが少ない道路でポルポが叫んだ。

 

「主、右だ!」

 

ポルポの声にビックリしながらも、次の交差点を即座に右に曲がる。

すると後ろの方から何かが爆発するような大きい音が鳴った。

 

「主、迎え撃つ…止まってくれぬか」

 

迎え撃つ…って、まさか今の爆発ってアルコバレーノの仕業!?

え、いくらなんでも往来でそんな過激なバトルロワイヤルしちゃうってヤバくない!?

警察出てくるって。

いや待て、思い出せ俺……俺以外アルコバレーノが色々とヤバイ職業の奴等じゃなかったか?

殺し屋、武道家、情報屋、イタリア海軍、マッドサイエンティスト……アカン、これマジなやつだ。

俺の(たま)狙ってきてやがるやつだ。

お巡りさんコイツらですう!

ポルポの言う通りに止まるつもりは全然なく、そのまま危険地帯を突っ切ろうとしたら目の前に何かが着弾して、爆発する。

その場でブレーキをかけて、爆発に巻き込まれなかった俺はもう今にも吐きそうなほど怖かった。

モブ子特性のスーツのお陰で熱さとかは分からないけれど、これ一回でも当たればお陀仏なやつじゃないですかー。

泣きたい…ていうかもう泣いてる。

 

「主、案ずるな」

 

ポルポがこんなに頼もしい。

これもうポルポが人殺しても正当防衛を言い張れるんじゃなかろうか。

 

 

「ハハン、あなたが狂人スカルですか…未来ではよくも邪魔をしてくれましたね」

「コイツは俺の獲物だバーロー、てめぇらは下がってろ」

「にゅにゅ!ブルーベルもやるんだから!」

 

み、みらい?電波かな?

ちょっと何言ってるか分かりませんね。

あと何でお空飛んでるの。

 

「ッチ、てめぇら勝手な真似してんじゃねえぞ!」

「アハハハ、彼らが僕以外のいうこと聞くわけがないじゃないか」

 

うわばばばば、まだ変な奴らいるのかよ。

白い人と、金髪のいかついお兄さんとゴリラみたいな奴等がこれまたお空を飛びながら現れた。

なに、今タケ〇プターみたいなやつが流行ってんの?

どうしていいか分からない俺は取り合えずポルポの後ろに隠れていると、いつの間にか大きくなったポルポが足の一本を俺の胴体に巻き付けてくる。

吹き飛ばされないための安全策かな?

そんなこと考えてるうちにヒャッハー系緑頭と赤毛とゴリラが向かって来た。

あああああああああああ。

叫びたいけど、怖すぎて叫ぶ余裕すらないんですけど。

ポルポの足が何人かにヒットして吹き飛ばされてるけど、あれ死んでないよね?

 

「にゅにゅ~、化け物じゃないのアイツ!」

 

ちょ、人のペットを化け物呼ばわりとかなんて失礼な少女だ。

 

「一気に片付けちゃうんだから!修羅匣口‼」

 

少女がどこかでみたことあるような箱を取り出すと、これまたどこかで見たことあるような炎を出したリングを箱に向かってくっつけた。

するとどうだろうか、少女の身体がみるみる変わって…かわ………変わって!?

待てなんでマーメイドみたいになってんのあの子!?

 

「何をするかと思いきや…笑止」

 

ポルポもそんなこと言わずにあれ突っ込もう?

少女が空中飛行しながら俺とポルポに向かって来たと思えば、いきなり地面に膝をつき始めた。

少女の様子がおかしくなり、他の人も原因が分からないらしく困惑してる。

だがしかし、これはチャンスでは?

今のうちに逃げようと思って、ポルポの足から離れた俺はバイクに跨る。

俺の意図に気付いたのかポルポが俺の後を追い始めるが、俺は速度を落とさずバイクを走らせた。

ポルポがちゃんと追いかけてくるのをバックミラーで確認した俺は、時計を確認する。

まだ戦闘が始まって3分しか経ってないとかマジかよ。

後ろを一度も見ずに、走ったが道中に攻撃されることはなく無事10分が過ぎて時計が鳴る。

 

『戦闘終了です』

 

その合図に安堵の息を漏らした俺はそのまま宿泊しているホテルへと帰っていった。

今日は色んな事があった。

ゲームのこと、奈々さんのこと、誰か知らないアルコバレーノの代理人から吹っ掛けられた攻撃のこと。

取り合えず俺の頭にあるのはただ一つだけ。

 

 

代理戦争、辞退させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白蘭side

 

 

「スカルと出会っても、3人以下の場合は直ぐに退避して欲しいんだよね」

 

誰もが僕の言葉に目を見開く。

それもそうだ。

僕が、そう言ってるのだから。

 

「あの狂人はそこまで脅威なのですか?」

「僕は、最大限に警戒すべき脅威だと思っているよ」

 

いち早く反応する桔梗にそう答えれば、彼は表情を強張らせた。

 

「正直どっかのチームが倒してくれれば、願ったり叶ったりなんだけどね」

「白蘭…スカルってどんな奴なの?」

 

不安そうな顔をしたブルーベルに僕は答えた。

今回、デイジーを代理人として参加させようとしたが、スカルがいるのなら話は別だと、戦力を優先してブルーベルを導入した。

ザクロ、桔梗、ブルーベルは今回外付けではあるものの未来で使用した修羅開匣が出来る上に、彼らの修羅開匣時の実力は折り紙付きだ。

なんせ古代生物の細胞を使用して作った匣であることは未来と変わらないしね。

 

「んー、掴みどころがなくて何考えてるか分かんない…って感じかな」

「白蘭でも?」

「特にこの世界の彼…並行世界のどの彼よりも比べ物にならないくらい凶悪だし、僕の能力は正直彼には使えないんだ」

 

本当に、何故この世界の彼はこんなにも狂っているのだろうか。

どの世界の彼も小心者だったりするけれど、この世界だけ異彩を放っている。

 

「ま、とにかく初日で脱落なんてことないよう頑張らなきゃね」

 

重い空気の中で笑いながら言い放った僕の言葉に、強張っていた真六弔花のメンバーの表情が少し和らいだ。

このことをγ君にもいわなきゃなと思っていると、どうやら部屋の外で僕らの話を聞いていたみたいだ。

そんなに僕らと同じ空間が嫌なのか近づきもしない上に噛みついてくる。

全く彼も私情に囚われ過ぎじゃないだろうか。

ユニちゃんも苦労するね。

 

「にしても、スカルか……」

 

本当に彼とは会いたくはないかな。

彼、もそうだし…あの化け物も、だ。

この時代に()()がいるのかは分かっていないが、連れ添っているのなら最悪チームの全滅を視野に入れなきゃならない。

僕でさえ恐怖する化け物を、飼いならす彼が恐ろしいね…まったく。

ああ、やっぱり彼とは会いたくないや。

 

 

 

 

 

そんな僕の期待は(あざけ)り笑うかのように裏切られ、狂ったように泣き叫ぶ声が木霊(こだま)するその場に僕は佇んでいた。

 

 

 

時は少し(さかのぼ)り、代理戦争初日の戦闘開始一分前のことだ。

 

『バトル開始一分前』

 

バトルウォッチが鳴り出した直後、その場に居た全員が別荘の外へと出る。

それから上空から周りを見渡し、他のチームがいないかを確認しだした。

すると、確認している一人だった桔梗の顔がこれでもかというほど強張ったのを視界の端に入れる。

 

「白蘭様………もしや、あれが狂人スカル…なのですか?」

 

少しだけ上擦った声に、桔梗の視線を向ける方角へと僕の視線を移せば、そこには小さな影が二つ。

バイクに跨る赤ん坊と、その後ろにタコのような生物が張り付いていた。

間違いなくスカルだ、と僕は確信し、頷く。

 

「初日で彼と当たることになるなんて、ね……でも…」

 

あの化け物が思っていたよりも小さいことに内心安堵しなかったといえば嘘になる。

10年後の未来で凶暴になるのか、今この時代のあの化け物からあまり脅威に感じない。

 

「こっちも全員いることだし、先に潰しておくのもいいかな……流石に多勢に無勢だろうし」

 

僕の言葉で標的がスカルへとなったことを誰もが理解するが、僕が相手を決定したことが気に食わないのか後ろからγ君が吠えている。

じゃんけんで負けて今日の戦闘では彼がボスウォッチを持っているので、彼に従うのが道理だけど僕が誰かの下につくなんてそれこそありえないね。

僕は僕なりにこの代理戦争(殺し合い)を楽しむことにするよ。

 

「んじゃ、いこっか」

 

僕は白い翼を広げて、獲物に向けて飛び立った。

こちらは7名に対してあちらは1匹だ。

慢心も油断もしなければこちらが有利である状況は変わらない。

 

 

ただ、この時の僕の誤算はあの一匹の実力を正確に把握しきれていなかったことと、あの化け物が一体何であるのかを知らなかったことだ。

 

 

 

「ぁ……ぁあ……な、んで……?」

 

 

か細く、震えたブルーベルの声に僕は我に返り、今目の前で起こった事実を脳で処理しようと奮闘していた。

あの化け物が巨大化する能力を持っていたのは予想外だったが、それでも僕らの方が優位だったハズだ。

だけど、ブルーベルが修羅開匣した時に異変は起こった。

修羅開匣した姿のブルーベルが化け物へと攻撃を繰り出そうとした瞬間、いきなり崩れ落ちたのだ。

ブルーベルは明らかに戦意喪失していて、今にも地面に這いつくばりそうな様子だ。

あの化け物が何かをしたのだろうかと空気中の目に見えない毒を警戒していると、スカルがいきなり背を向けてその場を離れる。

化け物もそれに従いスカルの後を追っていき、僕らは呆然と彼らの背中を眺めることしか出来なかった。

 

「ブルーベル!」

 

桔梗の声で思考が現実に戻り、僕は倒れているブルーベルの下へと向かった。

 

「ぅ……ぶ……」

 

泡を噴いて焦点の定まらないブルーベルの様子は異常で、ますます毒の可能性を疑った。

γ君も離れていてそれに気付いたのか、距離を取ってこちらに声を掛けている。

どうやら後方から別のチームが近づいているらしく、一時撤退して戦況を整えるぞと怒鳴っていた。

僕もそれに同意で、ブルーベルを抱き上げた桔梗と共に立ち上がりこの場から離れる。

追手を撒けなかった僕らはヴェルデチーム、そしてコロネロチームと混戦となった。

途中太猿とトリカブトがウォッチを壊されたが被害はそれで収まり、戦闘が終了する。

二つウォッチを壊されたのは痛かったが、惜しがる暇はなく僕らは今後の話の為にユニの待つ別荘へと帰った。

気を失っているブルーベルをデイジーが介抱し、意識が回復するのを待ちながら今回のヴェルデチームの脅威を見直す話し合いを始めた。

色々と話していると、ブルーベルが目覚めたのか外の部屋から物音がした。

次の瞬間、高い悲鳴と共にデイジーの声が響く。

何があったのかと、悲鳴と物音を聞いた者達が全員そこへと集まる。

 

「いやぁ!いやぁぁあああああ、こ、来ないで!やだぁ‼」

 

そこには錯乱状態のブルーベルと、慌てるデイジーがいて、桔梗が暴れるブルーベルを抑え込む。

漸く暴れなくなったブルーベルは震える肩を両手で抱き、何かに心底怯えている様子で何もない場所を見つめてはうわ言の様に何かを呟いている。

 

「な、何であの化け物が………やだ、やだやだ…死にたくない……やだ…」

 

遂には泣き始めて、一体何があったのだろうかと、僕がブルーベルの目を見て優しく問いかけた。

 

「ブルーベル、こっちを見て」

「やだ、死にたくないよ……やだ、怖い…」

「ブルーベル」

 

僕は彼女の頬を両手で優しく挟み目線を合わせれば、ブルーベルの瞳に光が僅かに戻る。

 

「びゃ、白蘭…?」

「うん、僕だよ」

 

我に返ったのか錯乱状態から戻ったブルーベルが、今度は恐怖に満ちた表情で僕に抱き着いてきた。

 

「びゃ、白蘭!白蘭‼白蘭‼」

「うん、どうしたの…ブルーベル」

「ダ、ダメ!あいつはダメ‼あ、あいつに関わっちゃダメ!」

 

あいつ、とは…あの怪物のことだろうか。

一体あの瞬間に何があったのか、それが分からず僕はブルーベルにどうしてと聞く。

 

「あ、あれは……あれは…私達を喰らい尽くす……必ず、必ずっ……」

「ブルーベル…?」

「あ、ああ…ああああっ……し、死ぬのが怖い!死ぬのが怖いよ白蘭っ、助けて…」

 

ブルーベルの異常なまでの怯え方にその場の者は皆固まっていた。

まるで骨の髄にまでその恐怖を刻まれた被食者のように、彼女はずっと怯えたまま、あの化け物に近付いちゃダメだ、殺される、怖い、死にたくないと繰り返すばかりだった。

 

 

 

一体ブルーベルの()が、そこまであの化け物に恐怖しているのか…

僕は彼女の様子に、あの化け物に新たな恐怖を覚えた。

 

 

 

 

 

 




スカル:ゲームソフトをハルに譲ってあげた優しい人、早くも初日で辞退を希望した、女性陣を着々とコンプしていく。

ハル:スカルを恩人だと認識した、何気に現段階でスカルの素顔を知っている数少ない一人。

奈々:皆のママン。

白蘭:ブルーベルの怯え方に一抹の不安を覚える、やっぱあいつらと会いたくなかったと心底後悔してる、トラウマ克服ならず。

ブルーベル:修羅匣口が(あだ)となった、SAN値直葬からの発狂、ポルポトラウマ不可避。

ポルポ:ん?何が変わるかと思えばただの雑魚じゃんか!とブルーベルのSAN値を直葬したトラウマ生産機。

ポルポ=古代生物の王=全てに対して圧倒的()()()
修羅匣口時のブルーベル=ショニサウルス=ポルポに対して圧倒的()()()

の方程式が出来上がったので、ブルーベルは修羅匣口時に【戦意喪失→SAN値直葬】の状態異常を起こした。リスが飢えたライオンの目の前に放り投げられたレベル。


さて、あとはクロームだけか!だがもうスカルが他人と出会う機会がない、どうしよう!ちくしょう、クローム入れたい!クロぉぉぉおおおム!


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skullの怒気

俺は苛立った。


さて、現在代理戦争真っ只中なんだが、俺は辞退したい。

ということをポルポに告げてみた。

 

「何故だ、主」

 

まぁそうなるよね。

この代理戦争危険すぎるんだよ。

ポルポが相手を殺す前に俺が殺されそうな件について。

危ないから、と言ってもポルポがなら我が守るとか言いそうだし、流石の俺も少しは学んだ。

 

「今回の代理戦争……裏がある」

 

ぶっちゃけこれ本音でもある。

まずなんで代理戦争するんだっけ?

呪いが解きたいからであって、呪いを解くにあたって何で代理戦争?

一番強い奴を呪いから解放する意味が分からない上に、一番強い奴を選定する為に代理を使うとかもっとわけわからん。

普通本人同士をぶつけるだろ。

そうなったら俺即死だから直ぐに辞退するけどさ。

理由があやふやな上に俺だけ別条件出す程参加させようとするのは何で?

色々突っ込みたいことはあるんだけど、あの変態仮面は特定厨だし信じていい奴ではないよな、ってのが一番なんだけど。

確約されたニートライフにちょっと舞い上がり過ぎて条件飲んじゃったけど、あの変態仮面ほど信じちゃダメな奴いなくね?ってわけなんですよ。

因みにギルマスに、マスク付けてるおっさんがお金くれるって言ってくるんだけどこれ大丈夫かな?って聞いたら、アホかんなの猿でも引っ掛かんねーぞ。と一蹴された。

確かに。

俺以外のアルコバレーノはアホだから引っ掛かったのかな、いや…単に呪い解きたいだけか。

その点で俺は呪いを解きたいわけじゃないから、一抹の希望的な理由で参加する意味はない。

あれ?じゃあやっぱり参加しない方がいいのかな?

ニートライフが確約された怪しい取引と自分の命を天秤に掛けたら後者が大事なわけで、代理戦争にこれ以上頭突っ込む理由はない。

裏があるか分からんけど、あの特定厨は信用ならんのは確かだ。

 

「……俺達は誘導されてる」

 

気がする、と言えば憶測になってポルポの説得に少し欠けるから、いっそのこと明言しちゃった。

ポルポは俺の言葉に少し無言になったが、暫くしてボスウォッチを外してくれた。

 

「主に従おう」

 

ボスウォッチとアルコバレーノウォッチを持った俺は、ホテルから出て近場の川を探し始める。

これ壊そうとしたけど、壊したら尾道さん現れそうだし、川にでも流そうかな。

川を見つけた俺は、ポルポと共に川辺に近寄る。

 

「主、(まこと)にそれでいいのか?」

「……ああ、これがいい……」

 

どもみちあの社長がポックリ死ねば俺は自由だしな。

多分あと3~40年かかるだろうけど、不老のこの身体じゃ時間の流れはあまり苦にならないだろう。

俺はボスウォッチとアルコバレーノウォッチを握った腕を大きく構え、放り投げようとした。

その時だった。

 

 

「少し、待ってくれないか」

 

 

背後から聞こえた制止の声に、俺が振り返ればそこには背後に黒い(もや)(たずさ)えた顔面を包帯で覆いまくった赤ちゃんが浮いていた。

もう一度言う、浮いていた。

くぁwせdrftgyふじこlp…

 

「やはり君は他のアルコバレーノとは大きく異なっているとは思っていたが…疑い深いのは何よりだ」

「何奴、主…我の後ろへ」

「待ってくれ、君らと事を構えることは僕にとっても不本意だ」

何故(なにゆえ)我らの前に現れた…貴様、煩わしい視線を我らに向けていたコバエか」

 

ポルポが変わりに喋ってくれてるけど、俺ったらビックリして鼻水出ちゃった。

多分これヘルメットの内側に張り付いてますわ。

つーかコイツ誰だ。

透明のおしゃぶりが見えるけど、コイツもアルコバレーノ?

でも一度も見たことないなぁ。

新人さんか?それともハブられ系アルコバレーノかな?

 

「僕らのことを話す前に、そのウォッチを少し遠ざけてくれないか?盗聴されている可能性があるのだ」

 

待って、え?このウォッチ盗聴器ついてんの?

うっそーん。

流石特定厨!やっぱ辞退して正解だった!

てか盗聴したところで誰得?

俺は持ってるウォッチという名の盗聴器が気味悪くて、川の反対側の遠くに放り投げる。

草の上に落ちた音と共に、透明の赤ちゃんがウォッチへと視線を移し、また俺達に戻した。

まずこの赤ちゃんに目があるのか分からないけれど。

 

「前置きは無しに単刀直入に云おう、我が名はバミューダ・フォン・ヴェッケンシュタイン……チェッカーフェイスに復讐する者…此度の代理戦争でチェッカーフェイスを引き摺り出す為参戦したい……それ故にそのウォッチを譲渡して欲しい」

「復讐とな?その短小な(なり)でか?」

「……僕の手足は有り余るほどいる、あとは参加権のみ…君らが参加権を破棄するのならばこちらへ譲って欲しいのだ」

 

な、なるほど?

あの変態仮面…チェッカーフェイスとやらに何か恨みがあって、呪いを解く目的以外で代理戦争参加したい、と。

 

「勿論ただでとは言わない…アルコバレーノの真実と、ウォッチの対価を君たちに与えよう」

 

お?…お?真実の方は正直どうでもいいけど、対価とな。

 

「主次第だな、云え」

「ふむ…まず少し場所を移そう、見せたいものがある」

 

そう言ってバミューダはくるりと振り向き、背後にあった黒い(もや)の中に入っていく。

え、これに入れと?

大丈夫?ブラックホールとかそんなんじゃない?

恐る恐る腕を中に突っ込んだら何も感触がなく、ただ空いている空間がそこにあるような感覚だ。

取り合えずポルポに近寄りながら靄の中に入れば、そこは洞窟だった。

うっわ、すっげぇ…

転移する能力持ちとかやべえわこの赤ちゃん。

今世はファンタジーな世界だな。

洞窟の中を歩けば、壁画が彫られていてそれを眺めていた時だった。

 

 

「見ろ、アルコバレーノの歴史だ…」

 

いつの間にか目の前にいたバミューダは壁画に視線を固定したまま、語り始める。

俺には難しい話だったので、正直半分しか理解出来なかった、許せ。

元々アルコバレーノは今の7人だけではなくて、大昔から存在してたらしい。

んでもってアルコバレーノはずっと務められなくて、どのみち体が限界を迎えちゃうと。

今回の代理戦争は次期アルコバレーノ候補を選ぶためのものであって、今のアルコバレーノはお役目御免ってことか。

あの特定厨、中々ゲスかったでござる。

俺も皆も騙されてるのか。

ちくしょう、俺を甘い誘惑で誘いやがって!

特定厨許すまじ。

なによりも俺が頭にきてるのは、

 

「おしゃぶりを外された元アルコバレーノのほとんどは死ぬ」

 

これだ。

このままアルコバレーノしててもどのみち体調不良で死んで、外したらその場でTHE・ENDとかなにそれ詰んだ。

この頃お腹の調子悪いのそのせいじゃねぇよな。

きっと消費期限過ぎたヨーグルトばっか食べてたせいだよね…?

死にたくねーよ俺。

まだこの世界で50年も生きてないし、念願のニートライフなんて初っ端の1年ちょっとしか過ごせてない。

来世に期待?来世もニート志望ってか。

 

「仮に運良く生き残れたとしても、復讐という執念でしか生きられない」

 

とか言ってるんですが、それってバミューダの後ろにいる包帯で顔をぐるぐる巻いてる長身の男のこと?

やだよー、ニートしたいよー。

復讐とかふざけんな、そんなもんに費やす時間があったらレア装備狙うわ。

っていうかこいつらの話が本当なら、俺もう詰んでる。

どう頑張っても最長10年くらいしか生きられない感じ?

今回の代理戦争から逃げて、特定厨から逃げきってもどのみち呪いで死んじゃうわけだし。

あー、なんつーか……絶望すぎて何も言えない。

今世の俺の人生詰みすぎワロタwwwワロタ…

 

「これ以上悲劇を繰り返さないためにもウォッチを渡してくれ…頼むよ、スカル」

 

ん?ウォッチならお前にあげるよ、俺いらないし。

 

「対価として、君の望むものを出来るだけ叶えよう」

 

あれ?何かデジャヴ…

これまた騙されるパターンじゃん。

もう絶対嘘じゃん。

俺のこと猿以下だと馬鹿にしてんのか?コイツら。

あーもー、特定厨といいコイツらといいムカつく野郎どもだ。

一度お風呂入って、直ぐに日本を離れよう。

コイツらとこれ以上関わってたまるか。

 

「ない」

 

イライラしながらそう答えた俺は、先ほど通ったブラックホールがあった場所に戻り、そのままその黒い靄へと飛び込む。

すると、目の前には先ほどの川沿いがあり、後ろをついてくるポルポを確認したらホテルへと帰る。

何だか色んな事に怯えるよりもまず、間接的に殺されるという事実を突きつけられて苛立ちしか湧いてこない。

狂人スカルと間違われて?変な集団に属されて?挙句の果てには殺される、と。

マジで外道な奴だなあの特定厨。

俺って今世ハードモードだったな……

ホテルに戻れば、持っていた残りのウォッチをアタッシュケースごとホテルの窓から放り捨てる。

ちゃんと真下に人がいないか確認したから問題ない。

少し落ち着いた頃にポルポが漸く話しかけてきた。

 

「主………そなたは、これで真に良かったと……そう思っておられるのか?」

「………ああ…」

 

あいつらと関わると碌なことがない。

早くイタリアに帰って、またのんびりと暮らそう。

社長には一週間くらい有休貰ってるから、イタリアに帰ってもすぐに会社行かなくていいし、久々にどこか行こうかな。

僅かに開いた窓の隙間から夜風が入り、前髪を流す。

 

「なぁポルポ」

 

すっかり暗くなった夜景からポルポへと視線を移した。

 

「イタリアに帰ろう」

 

寿命のことも聞いてしまったし、傷心旅行でも行こうかな。

少し日本を観光するつもりもあったけど、長くここにいられないことに苦笑いしながら俺はポルポにそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バミューダside

 

 

 

漸くチェッカーフェイスが代理戦争を始めることを知り、僕は彼を今度こそ殺そうとずっとアルコバレーノ達を注視していた。

現代の技術に沿った今回の代理戦争では、各ウォッチを嵌めたバトルロワイヤルであり、いつものような代理戦争と共に、僕らも途中で介入すればいいと思い各チームにそれぞれ監視を付けていた。

そして僕自身、気になるアルコバレーノを監視していた。

どのアルコバレーノよりも異色を放っていて、僕が気になるアルコバレーノでもあるスカルは、付き従えた生物と共にただひたすらこの戦いに興味はないと言わんばかりに並盛を歩き回っていた。

ただ、何度か僕の気配に気付いた生物の方に威嚇で殺気を放たれたので、監視した時間はあまりなかったけれど。

 

代理戦争初日が終え、まだウォッチを一つも壊されていないマーモンチームを標的に、ウォッチを奪い取ろうとした時、離れた場所からスカルの監視を頼んでいた復讐者から連絡が入った。

スカルがウォッチを捨てて代理戦争の参加権を破棄しようとしている、と。

僕は驚愕したが、別の復讐者が幻術で盗聴していたスカルの言葉に、納得した。

俺達は誘導されてる、と。

チェッカーフェイスの言葉を鵜呑みにしなかった上に、これからどうなるかを理解しているような素振りさえ伺えた。

流石カルカッサの軍師といったところか。

本当に彼を復讐者として迎え入れたいところだが、狂った思考は全てを狂わせる。

ある意味狂気を含んだ僕らでさえ、彼の狂気は脅威だ。

彼の狂気に触れ、幾人の理性が毒されたことだろうか。

あれはきっと、僕たち死人をも侵食していく毒だ。

惜しい人材だ、と内心独り言ちた僕は、ワープホールから出てウォッチを放り投げようとするスカルへと声を掛けた。

 

 

「少し、待ってくれないか」

 

 

 

結果から言えば、成功なのだろう。

既にウォッチへの興味は皆無なのか見向きもせず去っていった彼は、その後道端に残りのウォッチを捨てていった。

僕はと言えば手のひらの上にあるアルコバレーノウォッチを眺めながら、先ほどの彼の去り際呟いた言葉を思い返した。

 

アルコバレーノの歴史やチェッカーフェイスの所業を語ったものの、彼の反応に全く変化はなく、ただの過去の出来事として聞いていた。

チェッカーフェイスへの憎悪を表してくれれば儲けものと思っていた僕は、彼の思考が読めず味方につけることを断念し、本題へと移った。

ウォッチの譲渡を求めれば、肯定とも拒否とも取れぬ沈黙だけが返ってくる。

その沈黙に、背後に立っていたイェーガー君が痺れを切らせそうにしている様子を感じ取り、僕は取引内容を提示した。

 

「対価として、君の望むものを出来るだけ叶えよう」

 

 

その時だった。

凄まじい密度の殺気をこの身に受けた。

長い年月の中、味わったことのない鋭く、濃密な殺気。

ヘルメットの奥から瞳を覗き込まれているような気味悪さに、僕は心臓が握られるような心地だった。

 

 

「ない」

 

 

ハッキリと、そして殺意の籠った短い言葉と共に彼は来た道を引き返し、ワープホールを抜け出た。

背後にあるイェーガー君の荒い息に我に返った僕は、スカルがいないことに気付くと真っ先に息を吐いてしまった。

何だ、あれは。

恐怖など、当の昔に失ったとばかり思っていたが……いや、あれは恐怖とはまた別の何かだ。

一体何が彼の怒りに触れたのかは理解出来ないが、きっと、彼の纏うあれは僕らすらも飲み込んでしまうだろう。

まだ数十年しか生きていないだけの人間が、何故ああも歪んでしまったのか…

ああ、やはり彼を復讐者に取り入れなくてよかった。

 

彼はきっと…僕たちを狂わせる毒だ。

 

 

 

僕はアルコバレーノウォッチを握りながら、彼の去っていった方角を眺めては身震いした。

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

 

「我々は第8のチームとして代理戦争に参加する」

 

今、俺らの前で一つの脅威が消え、新たな脅威が姿を現した。

 

 

代理戦争二日目、まだ戦闘が開始されていない頃、俺らはユニのいる別荘へと足を運んだ。

笑顔を浮かべて迎え入れてくれたユニに顔を(ほころ)ばせながら、昨日の一戦についてお互い情報を共有し始めた。

俺達のチームでは、笹川先輩が雲雀さんにウォッチを壊されてしまったけれど、ユニのチームは俺らより深刻だった。

まず、トリカブトと太猿さんがウォッチを壊された上に、ブルーベルが戦闘不能に陥ってしまっている。

どことぶつかったのかと言えば、少し白蘭は笑みを強張らせ、目を細めた。

 

「ヴェルデチームとコロネロチーム………そしてスカルチームだよ」

「「「「‼」」」」

 

その場にいた俺とリボーン、獄寺君、山本は目を見開いた。

 

「初っ端からスカルと当たってね…ブルーベルがやられて戦況が乱れたから一旦撤退を余儀なくされた時に運悪くヴェルデとコロネロチームに当たっちゃったって感じかな」

「そ、そんな……ブルーベルは…」

「命に別状はないよ」

「よ、よかった…」

 

白蘭の言葉で、まだ死者が出ていないことが分かり安堵の息を漏らす。

よりによってスカルと当たるなんて…

 

「おい白蘭、勿体ぶってねーで言いやがれ」

「え?ど、どういうこと?」

 

俺はリボーンの言葉が理解出来ず困惑していると、白蘭は目の色を変えた。

 

「ブルーベルは命に別状はないよ…命には、ね」

「え!?そ、それって」

「少し精神面やられちゃった、ってこと」

「そんなっ……!」

「今は大分落ち着いてるけど、代理戦争中に回復する見込みはゼロだ」

 

白蘭の言葉に顔を強張らせた俺らと、舌打ちするリボーンにスカルの脅威を改めて見せつけられた。

 

「でも彼の戦力はハッキリわかったよ」

「え!?」

「彼の戦力は一匹…あの化け物だけだ」

「やっぱりな、あの化け物を代理にしやがったか」

 

リボーンの忌々し気な言葉に、白蘭が反応する。

君はあの化け物を知っているのかい?という白蘭の問いに、リボーンはあの化け物の持つ能力までは分からねー、と返す。

白蘭は腕をテーブルに伸ばし、マシュマロを一つ摘まむと口の中に放り入れた。

 

「あの化け物、精神攻撃か…はたまた毒か……不可視系の攻撃を持っていることは確かだ」

「不可視?」

「僕らの目には何も見えなかった…いきなりブルーベルが倒れて発狂したって感じだし」

「そうか…」

 

その後、スカルへの警戒をぐんと高めた俺達は他のチームに対しても話し合った。

途中でスパナと正一君と会って、白蘭に連れて来られた!っていう正一君の言葉で、白蘭の身勝手ってこの時代でも健在なんだなと思った。

既に外は日が傾き始めていて、まだ戦闘時間にならないのかと内心焦る気持ちに押し潰されそうになっていたけど、山本と獄寺君と一緒にいたお陰でなんとか平静を取り戻すことが出来た。

 

 

『バトル開始、今回の制限時間は30分です』

 

 

その機械的な声と共に、俺は死ぬ気モードになり空へと飛び立つ。

それから怒涛の展開だった、としか言えない。

ヴェルデチームからの襲撃、コロネロチームからのユニチームへの奇襲、最終的にコロネロチームとの同盟を破棄した俺は父さんと戦うことになったり、途中で知らない人が助けてくれたり、色々あった。

30分が経ち、戦闘終了の合図が鳴ったと同時に緊張が解け、俺はその場にへたり込む。

父さんのことは許せないけど、今は白蘭達のことが気掛かりだ。

白蘭は俺を庇ったせいでボスウォッチを壊されてしまったけれど、俺は誰も倒せず終わったことに負い目を感じた。

ウォッチから響く、チェッカーフェイスの声に俺達の表情に緊張が走る。

 

『まずは2日目の戦績発表からだ』

 

そう言って出された二日目の戦績表に、誰もが目を見開いた。

そう、誰もが目を見張ったに違いない。

ユニチームの敗退でも、風チームの敗退でもない。

 

スカルチームの破棄があったのだから。

 

 

「破棄だと!?」

「どういうことだ!」

 

俺と同様に誰もが驚いていて、特にリボーンはあからさまに動揺していた。

正一君の治療を受けている白蘭も戦績表を見て目を見開いている。

何で破棄を…?そう思っていたのもつかの間、新たな脅威が俺達の前に現れた。

 

 

「彼の名はバミューダ・フォン・ヴェッケンシュタイン…かつて最も優秀な虹の赤ん坊だった男だ」

 

チェッカーフェイスの言葉に俺の思考が追いつかず、一体どうなっているのか分からなったけれど、このバミューダとかいう奴がⅠ世の過去の記憶に出てきたアルコバレーノであることを思い出す。

チェッカーフェイスは彼らの途中参加を快く受け入れ、参加させる。

それ以外のチームでは困惑が勝り、一体あれは誰なのか…それだけが思考を占めていた。

 

「なるほど、スカルはバミューダにウォッチを譲渡したのか…」

 

リボーンの言葉に皆が反応して、俺がリボーンに声を掛けた。

 

「どういうことだよリボーン!」

「あいつは元々呪いに関して我関せずみたいなスタンスだったからな、この代理戦争自体興味本位で参加したんだろ……そこにバミューダ率いる復讐者が加わるという状況に興味を持ち、傍観に移ったってとこだな」

「呪いに興味がない!?」

「俺から見たら、だ……あいつのことはそれほど詳しいわけじゃねーんだ」

 

スカルという大きな脅威は、復讐者という別の脅威へとすり替わっただけで、俺達の緊張が解けることはなかった。

そしてその夜、事態は大きく動いたのだ。

 

 

復讐者の奇襲によって。

 

 

 

 

 

 




スカル:代理戦争辞退します!アルコバレーノの呪いを貰った身体がどのみち長くないと知り傷心旅行を計画中、因みにスカルの体調不良の原因は消費期限が一ヶ月過ぎたヨーグルトのせい。

ポルポ:一生ついて行きます我が主、あとチェッカーフェイスおめーは絶対に許さない、スカルの希望を打ち砕いたチェッカーフェイスに対して憎悪をこの上なく滾らせている。

バミューダ:やったね!ウォッチゲットだぜ、スカルのムカつき()に当てられた。

ツナ:スカルがいなくなったのに復讐者出てきて安心出来ない人。

チェッカーフェイス:うっひょ、目的バレてーら…と盗聴越しに焦った人。

と、いうわけでスカルさん戦線を一時離脱。
イタリアでバカンスしておいで、それがおめーの最期の晩餐(ばんさん)だ。


多分あと数話で超愉悦展開になります。

コメント欄にあった、復讐者がスカル陣営につくことも考えてみたんですけど、どう見ても戦力過多すぎて主人公勢の難易度がルナティックすぎた。
ていうかポルポ要る時点でほぼ負け要素ないのに、そこに復讐者いれたらこれもう負ける可能性が全くなくなって1㎜も勝つ未来が見えないし、書けないということで却下ぁぁあ!
ってなりました。


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skullの包囲

俺はいなかった。


沢田綱吉side

 

 

「復讐者こそがアルコバレーノの果ての姿だ」

 

黒い貴族風のローブをはためかせたその黒い影は、淡々と俺達にとって最悪ともいうべき事実を言い放った。

チェッカーフェイスの真の目的、アルコバレーノの末路、そして役割…全てが語られた今、俺は自身の師に何を言えるのだろうか。

リボーンは、このまま代理戦争を進めれば高確率で死んでしまう、そう知ってしまったのだ。

バミューダが嘘をついている様子はなくて、俺はその事実に固まったまま会話を進める彼らを眺めていることしか出来なかった。

 

思えば復讐者が出てきたときから、少しづつこの代理戦争の核心がリボーンの言う"呪いを解く"だけの戦いではないことに気付いていたんだ。

復讐者が参戦してきた理由や、スカルが復讐者に代理戦争の参加権を譲渡した理由が分からず、違和感と困惑が残るまま代理戦争を続行していたけど、復讐者の奇襲でただ彼らが代理戦争に参加した理由は"呪いを解きたい"という事実から来るものじゃないと頭のどこかで分かっていた。

何らかの執念がありチェッカーフェイスと関りがある彼らが、どうして今、このタイミングで乱入してきたのかを考える暇もなく3日目の戦闘に突入し、3体の復讐者と当たってしまった俺は戦闘を始めた。

なんとか勝てた後もリボーンと共に俺は謎の空間に連れていかれるし、そこで衝撃の事実を聞かされるし、もう俺の思考は一杯一杯だ。

ただ隣のリボーンが冷静でいることが、唯一の救いだったのかもしれない。

 

目の前でリボーンとバミューダの会話が進んでいく。

チェッカーフェイスに復讐を果たしたいバミューダの勧誘に、リボーンは現状把握に努めている。

 

「じゃあこれが最後の質問だ…チェッカーフェイスを倒したらオレ達現アルコバレーノはどうなるんだ?」

「死ぬね」

 

俺は咄嗟(とっさ)にリボーンを見たけど、リボーンはユニとラルの心配をしていて勧誘に否定的だ。

俺としてもユニとかラル以前に誰にも死んでほしくないから、バミューダの案には反対だ。

なら他に考えでもあるのかって聞かれたら、答えようがないんだけど…それでも、俺はこんなの可笑しいって胸を張って言える。

 

「じゃあリボーン君はこれからもこんな不幸が繰り返されてもいいのか?」

 

バミューダの言葉に、リボーンよりも先に俺が食い付く。

多分バミューダにとって俺の言葉は綺麗ごとかもしれないけれど、俺はそれでも誰かが傷つくのも死ぬのも嫌だ。

絶望していい未来なんてないんだ。

 

「代理戦争でお前達には優勝させない‼他の道を探すんだ‼」

 

皆が助かる道があるのなら、俺は最後までその光に縋ってみせる…そして、自分で切り開くんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

リボーンside

 

ツナがバミューダに啖呵切って宣戦布告してから、ひと悶着あった後運よく無事に元の場所に帰ることが出来た。

だがイェーガーの戦闘力をこの目でみてから、今まで少しの可能性でも見通すことが出来たツナの勝利が全く見えない。

それほど、バミューダが俺達にとって脅威ってことか………

 

「オレ達虹の赤ん坊のために死ななくていい」

 

アルコバレーノ(俺達)の問題に教え子を巻き込むのは、俺としても避けたいのは事実で、わざとツナを突き放す。

3日目の戦闘があった現地に戻れば、誰もが事情を問いただしてくる。

俺はそれにアルコバレーノだけを集めるよう指示し、ツナには家に帰るよう促した。

これは、アルコバレーノの問題でありあいつらにこれ以上を望んじゃならねーっていう俺にとっての線引きでもあった。

 

 

「この代理戦争は次期虹の赤ん坊を探すための茶番だったのか‼」

 

スカルを除くアルコバレーノ同士で集まり、俺はアルコバレーノの役割、そして真実の全てを教えた。

真実にショックで固まっている中、一番に反応したのはヴェルデだった。

憤慨するヴェルデに続き、コロネロが愕然と呟く。

 

「ここ最近体調がいまいち優れない気はしていたが…」

「俺もだ…残された時間は意外と少ないのかもな」

 

今この場でも絶好調とは言えない程度で、僅かに不調が見え隠れしている。

恐らくこの場にいる者全員に当てはまるだろう。

まだショックの残るあいつらに俺は残酷な言葉を吐く。

 

「オレ達に残されたのは生きるか死ぬかではなく……何をして死ぬかっていう選択だけだ」

 

バミューダの案を蹴って代理戦争を勝ち残っても、バミューダと協力してチェッカーフェイスを倒しても、あるのは死のみ。

俺の言葉にマーモンが吠えた。

 

「僕は聖人じゃない‼アルコバレーノのシステムと心中して死ぬなんてゴメンだ!僕はもっと生きたいよ‼生きたいんだ‼」

 

その言葉は誰もが望んでいるものだった。

まだ、生きたいんだ。

次々とバミューダへの反感が募る中、風が何も言わず静観していて、俺は何を考えている、と声を掛ける。

すると風は、少し思ったのですが…と前置きをして言葉を放つ。

 

「スカルは…その真実を知り、チェッカーフェイスの手のひらで踊るのは癪に障ったから破棄したのでは、とふと思って」

「確かにな、大方バミューダから聞いて代理戦争自体に興味を失くした…というところか」

「狂人のことなんか放っておいて今は僕らのことを考えなよ!」

 

風とヴェルデの会話にマーモンが噛みつく。

アルコバレーノの中でも一番呪いを解きたがっていた上に、生への執着心があるマーモンは先ほどから平常心を放り出して焦っていた。

生きたい、と本心を曝け出してまで切羽詰まっている。

もう、出来ることはないと俺が強く言えば、マーモンは何も言えず押し黙り、その場に重い空気ばかりが残った。

 

 

アルコバレーノ同士の情報を共有したところで、俺達は一度各自チームの下へと戻る。

俺はツナに呼ばれ、共に人気(ひとけ)のない場所へと移動する。

今回の虹の代理戦争をツナに破棄してもらうことを言えば、ツナが激怒した。

ツナのここまで怒っている様子は珍しく、俺は面食らった。

 

「ろくな死に方を期待してないってなんなんだよ‼そんなふざけた事考えながらいつも隣にいたのかよ!みんなと笑い合ってる時も一人でそんな寂しい事考えてたのかよ‼お前なんか家庭教師失格だ‼」

 

全て言い切ったのか肩で息をしているツナに何も言えず、俺はただ教え子の成長に素直に驚く。

 

「オレ、お前を絶対に死なせないから」

 

俺は、ツナの言葉に何も返せず、寝たふりを決め込んだ。

俺が寝ていることに気付いて愕然としている様子のツナを他所に、俺はこれから大波乱を起こすであろう4日目の戦闘に不安を抱く。

ツナが何を言ったところで、俺はツナに戦わせるつもりはない。

戦ったところで、それがチェッカーフェイスの意の中であり、ツナは必ず次期アルコバレーノに選ばれる。

俺としてはバミューダの案もありなんじゃねーかって思うが、他のアルコバレーノが猛反対しているし、ツナの方も戦う気満々だ。

自分の代で終わらせないと、教え子に呪いを受け継がせてしまうことへの負い目があるのは、アルコバレーノの中でも師を(にな)った俺だけ。

個性的な奴等ばっか集まりやがって……全然意見が揃わねー…

こんな状況になるくらいなら、スカルみてーにどっか行ってれば楽だったのかもな。

ヴェルデの言葉を思い返す。

 

『確かにな、大方バミューダから聞いて代理戦争自体に興味を失くした…というところか』

 

あのスカルが興味を失ったからと言って、ウォッチを渡すなんてバミューダの狙い通りに動く馬鹿とは思えねー。

これ以上あいつを疑ったとしても、俺の死もあいつの死も揺るがねーんだ、時間を無駄にするだけ、か。

 

「チッ、最期まであいつのあのイラつくヘルメットぶっ壊せなかったってことか」

 

既にツナのいなくなったその場で、俺の舌打ちだけがやけに大きく響き渡った。

 

 

 

翌日になって、俺は再びツナと面と向かって言葉を交わす。

代理戦争を破棄することを訴えたところで、ツナは頑なに首を縦に振ることはないどころか、俺に向かって言い放つ。

 

「ボンゴレⅠ世(プリーモ)はこう言うはずだ、仲間を見捨てるような奴にボンゴレはまかせられない…仲間のために死ぬ気になれないやつはボンゴレ10代目失格だ‼って」

俺はその言葉にツナの成長を見出した。

ボンゴレ10代目になれるよう育てたつもりのツナが、俺が気付かない間に俺にここまで言ってのける程成長したことが、何よりも嬉しかった。

それと同時に、言うようになったじゃねぇかと、一抹の哀愁(あいしゅう)を覚える。

 

…そうだな、俺がコイツに仲間の大切さを教えた。

なら、コイツが食い下がるのも仕方ねぇ。

 

「いつ死んでも悔いはねえつもりだったが…もうちっとお前の成長を見てえって欲がでてきちまった…だから生かしてくれ、ツナ」

 

俺は、生きることを望んだ。

最後まで諦めねーで死ぬ気で生きろ、といつかのツナに放った自分の言葉をふいに思い出した。

 

 

 

「もっと………生きてえ」

 

 

 

俺もまだ諦めるには早ぇ、ってことか。

口角をあげた俺に、ツナはぎこちない笑みを浮かべた。

 

 

 

結果だけ言えば、俺達は復讐者に勝利した。

ただ、こちらの被害は凄まじく、死人こそ出なかったものの重傷者が続出する。

特に心臓を破壊されている白蘭とスクアーロ、片腕と両足を負傷したザンザス、胴体をバッサリと斬られたディーノ、その他にも数名軽傷とは言えないような傷を負った者がいる。

バミューダとイェーガーの実力は凄まじかったが、最終的には数で押し切ったようなものだった。

骸と雲雀が二人掛かりで拘束したイェーガーにツナが大ダメージを与えることができ、その後のツナとバミューダの決戦でもツナが辛勝した。

犠牲の上に成り立った勝利にツナは喜んじゃいなかったが、死人が出なかったことに安堵する。

誰もが俺達の勝利を見届け、チェッカーフェイスが姿を現すのを待つ。

バミューダのウォッチが破壊され、尾道が現れた。

ツナが尾道を威圧すれば、尾道の背後から声が降ってくる。

 

「彼を責めてはいかんよ、尾道は本当に何も知らぬのだ」

 

それは、俺達が憎んで仕方がない男で、今一番に問いただしたい人物だった。

奴に対してまず初めに感じたことは、気配がないことだった。

気配がない、それはそこに存在していないということ。

ホログラムか何かか?と思考を巡らせていると、ツナがチェッカーフェイスの登場に驚いている。

バミューダがチェッカーフェイスを警戒している中、チェッカーフェイスは自身の仮面に手を伸ばす。

 

「この顔に見覚えがあるだろう?」

 

そういって仮面を剥がした奴の顔に、見覚えがありその場の者達は皆驚愕する。

それは未来で俺達を(かくま)った川平不動産の男だった。

誰もが驚いている中、チェッカーフェイスはアルコバレーノ達の殺気を指摘し、奴自身の炎をその場にいた全員に当てる。

それは容易くその場を飲み込み、炎圧はツナの比ではなかった。

それを呼吸をするほど容易いと奴は言い放ったことに、真っ先にバミューダが絶望するような声をあげた。

チェッカーフェイスを倒して、ということが根本的に不可能である事実を突き付けられた俺達は、攻撃を加えることが出来ずチェッカーフェイスの一挙一動を睨みつける。

 

「話すつもりはなかったがたまにはいいだろう…気が変わったら君たちの意識か君達そのものの存在を消せばいいだけの話だしな…」

 

チェッカーフェイスの意味深な言葉にヴェルデが反応すると、チェッカーフェイスがトゥリニテッセについて語り始めた。

チェッカーフェイスが人類よりも前に存在していた種族であること、トゥリニテッセを守る使命のこと、トゥリニテッセは世界を安定させるためのものであることを、その口で語った。

 

「私が直接 姿を現すのはおしゃぶりの維持、すなわちアルコバレーノの世代交代と決めている……では現アルコバレーノのおしゃぶりを返してもらおうか?」

 

チェッカーフェイスのその言葉に、その場のアルコバレーノが身構える。

実力的に格が違うことは理解しているが、大人しくおしゃぶりを渡すのとはまた別だ。

生きてぇってツナに言ったばかりだ、こんなあっけなく死んでたまるか。

もはや意地でもおしゃぶりを渡すつもりはなかったが、ツナがチェッカーフェイスに食い付く。

 

「君は現アルコバレーノの心配ばかりしているが、次期アルコバレーノの筆頭候補だぞ」

「その覚悟はできてる」

「‼」

 

ツナの言葉に俺は目を見開いた。

このままでは俺が予測した最悪な状況になりかねない、と焦りを見せた時だった。

錬金術師のタルボが現れ、おしゃぶりの替えとなる器をその手に持っていた。

驚くチェッカーフェイスにタルボがその器の造りを教えると、バミューダの夜属性の炎が必要であることを告げた。

バミューダがそれに了承し、おしゃぶりをバミューダに任せることに対してユニがチェッカーフェイスを説得する。

ユニの予知能力を信じることにしたチェッカーフェイスは、バミューダにおしゃぶりを任せることを了承した。

 

だが、俺はそこでとある事実に気が付く。

それはチェッカーフェイスも同じだったのか、だが…と付け加えた後、同じタイミングで発言する。

 

 

「「スカルがいねぇ/いない」」

 

 

その言葉にツナもその場に居た全員もスカルの存在が必要であることに気付く。

俺は前々から疑問だった質問をバミューダに問う。

 

「おいバミューダ、お前はウォッチをスカルから貰ったのか?それとも奪ったのか?」

 

バミューダは殴られて腫れた頬を歪ませる。

 

「どちらも違う、僕は彼の捨てたウォッチを拾っただけに過ぎない…」

「捨てた?」

「ああ、彼はこの代理戦争で呪いを解く為のものではないと気付いていた…だから彼にウォッチを譲渡してもらえないだろうかと話を付けようとしたがその前に彼はウォッチを捨てようとして、予定よりも早い段階で交渉に持って行ったんだ」

 

だが、奴は交渉を蹴ってウォッチを捨てて姿を消した、とバミューダは苦虫を嚙み潰したような表情のままそう言い放つ。

バミューダの言葉に、チェッカーフェイスは手を顎に伸ばし、考え込む仕草をする。

 

「ふむ…スカルがこの代理戦争が私の誘導であることに気付いていたことは盗聴器越しでも分かっていたが、代理戦争をそのまま破棄することは少し予想外ではあったな」

「どういうことだ」

「彼は"呪いを解く"ことにさして興味はない……元々彼は代理戦争への参加意思すらなかった男だ」

「!?」

 

チェッカーフェイスの言葉に現アルコバレーノが驚く。

何故ならあの夢の中で、参加意思を確認した上でチェッカーフェイスは代理戦争の説明を始めた。

いや、あの場であいつは一度も言葉を発していないどころか、何の行動も起こさなかったな…

 

「私が彼と交渉したのだよ……代理戦争で勝利する代わりに君の望むものを、と」

「だがスカルを代理戦争に参加させることに意味はあったのか?」

「単に大きな脅威は慢心(まんしん)への(いましめ)めにもなるというだけの話だ…緩い気持ちで代理戦争をしてもらっては次期アルコバレーノの候補を絞れないのでな」

 

その言葉に一部が少し殺気を帯びるがチェッカーフェイスは知らぬふりをし、話を進める。

 

「それに彼の望みは、勝利してもしなくてもどのみち叶うものだった…」

「…?」

 

 

 

「彼の望みは死ぬ(殺される)ことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

 

「彼の望みは死ぬ(殺される)ことだ」

 

チェッカーフェイスの言葉に、俺は言葉を失う。

一先我に返ったリボーンが、どういうことだ、と問いただすがチェッカーフェイスも明確な動機は分からないと答える。

 

「彼は半不死性の体質を持っている…だから誰かに殺されたかった、と思っていたが、如何せん彼の思考回路は私にも読めないものでね」

「半不死性?」

「ふむ…失ったものを復元するという意味での不死性ではなく、単に人間の枠を超えた強靭さをその身に宿してしまった…というべきか」

 

俺の疑問にチェッカーフェイスは考える仕草をしながら、言葉を発する。

高所から落ちれば誰だって骨を折る、傷を作る、体を痛める、受け身を取ろうともそれなりの高さから落ちれば体のどこかに負荷がかかる。

だがスカルは違う。

数百m上から落ちたところで痛覚は痛みを訴えるが体のどこにも支障はない。

運悪く骨が折れたところで数時間でくっつく。

肌が焼けただれようが、内臓を傷付けても、動脈を切り裂いたとしても、脳に大きなダメージがなければ死ぬことは難しい。

その不死身の身体(アンデッド・ボディ)はまさしく呪いであるかのように、彼を生かしている。

彼の行動は、死にたがっているという自殺思考から来る自殺紛いのものであり、彼が狂っていようがいなかろうが、彼は自殺志願者だ。

彼の望みを聞いて私はそう結論付けた、とチェッカーフェイスは淡々と告げる。

 

死にたくても死ねない体…

 

俺の視界の端で、固まるリボーンと愕然としているアルコバレーノを捉える。

チェッカーフェイスの考えが本当なのだとしたら、スカルはずっと死にたいって思いながら生きてきたんだろうか。

 

「待て、なら何でスカルは代理戦争を破棄したんだ?そのまま参加していたら自ずと死ねたハズなのに」

「さて、ね…彼が私の手の上で転がされるのが癪に障ったのか、それともバミューダの言葉に思うところがあったのか、死に方に(こだわ)りがあったのか……言っただろう、私には彼の思考回路は測りかねる、と」

 

リボーンの疑問にどこ吹く風で答えるチェッカーフェイスの言葉に、俺は拳を固く握りしめる。

碌な死に方しないだなんて考えながら過ごしてたリボーンもそうだけど、ずっと死にたいって思いながら生きてたスカルも可笑しいよ。

 

「死にたいって思いながら生きるなんて…可笑(おか)しいよ……」

「おいツナ、あいつはマフィアの中でも飛びっきりの極悪人で、虐殺者だぞ…要らねー情は持つな」

 

絞り出したような俺の声にリボーンが反応する。

 

「チェッカーフェイスの考えはあくまで憶測だ、奴がただの狂人であるという可能性もあるんだぞ」

「でもリボーン…」

「死にてーなら一人で死んでりゃいいものを…死ねねーからって周りを巻き込む奴が正常な思考をしてるわけがねーだろ」

 

これからスカルと対峙するかもしれない時に下手な情を持つな、と言外言われている気がして、俺は押し黙る。

でも、それでも死にたがるには絶対に理由があると思うんだ。

狂ってるとか、狂ってないとか…そういうんじゃなくて、スカルが死にたいって思えるようなことがあったんだ。

リボーンの意見は尤もで、その可能性だってある。

でも、それでも……

 

『指きりげんまん 嘘ついたら 針千本呑ーます』

 

…え?

 

『指きった』

 

急に脳裏に過ぎる誰かの聞き覚えのある声に、俺は頭を抱える。

どこかで、どこかで俺はこれを聞いたはずなんだ。

一体どこで……

 

 

『なんだかその姿がとっても…悲し気だったから』

 

あ……

 

 

「リボーン」

「……何だツナ」

「お前の考えを否定するわけじゃないけど、俺はスカルが狂った極悪人じゃないと思うんだ」

「………おめーの甘ったれた考えからくるもんなら、そんな考え捨てろ」

「違う……」

「じゃあ何だってんだ」

 

僅かに苛立った声をあげるリボーンに、俺は小指を立てた。

思い出したんだ、上下に揺れた二つの小指が離れる現実味を帯びない光景を。

 

「思い出したんだ」

 

京子ちゃんの、微笑ましいものを見るような……暖かくて優しい笑顔を。

 

 

 

リボーンの訳が分からないというような顔から視線を逸らし、俺はチェッカーフェイスへと視線を移す。

 

「チェッカーフェイス、これからスカルを探し出して連れてくる…それまで待っていて欲しい」

「ふむ……こちらもずっと待てるほど時間があるわけではないのでね…そうだな、3日だ」

 

チェッカーフェイスが右手の指を三本立てて、俺の瞳を覗き込む。

 

 

「3日以内に、スカルをこの場に連れてくることだ…それを過ぎれば強制的に現アルコバレーノからおしゃぶりを返してもらおう」

 

 

 

俺は立てられた3本の指を見つめ、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

 

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 




スカル:今回お休み、今頃バカンス中。

ツナ:原作通りに進んだけど、最後にスカルを連れて来なきゃね、スカルの勘違い(第一層)を突破した。

リボーン:スカルの捜索(という名の捕縛)に取り掛かる、普通にスカルが狂人だと思ってる、半不死性と聞いたので手加減無しでスカルを追い詰めようと思っている人。

チェッカーフェイス:アルコバレーノにするまで手間かけた上に、代理戦争にやっとのこと参加させたと思えば途中で逃げられるし、スカルに振り回されている中の一人、スカルの勘違い(第二層)への到達者。

超直感:ニ段構えとか無理やん!………無理やん…



愉悦レベル:★★☆☆☆





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最終章
skullの過去


俺は後悔した。


イタリアに帰ってきましたよ、っと。

ずっと家の中にいるのも勿体なかったので、久々に長期のドライブに行くことにした。

ガソリンの量を確認した俺は、ポルポを後ろに乗せたバイクを走らせた。

速度が既に三桁を超えていても、この町は無人なので気にしない。

町が廃れて既に十年くらい経っているが、未だあの頃の面影がちらほらとある。

(つた)が這っている病院も、錆が目立っているレストランも、人気(ひとけ)は微塵たりともありはしない。

走り回る子供が、買い物へと足を向ける若者が、散歩をしている老夫婦が、赤ん坊を抱いている母親が、今じゃどこにもいない。

謎の巨大生物とやらが現れ始めて、この町から人が逃げていった。

まぁ俺はその巨大生物見たことねーからあんま信じてねーけど。

ラジオやテレビ、町内放送では避難勧告がずっと流れていた時期があったけれど、一か月も続かなかった。

多分あれは、俺が徹夜でゲームで嵌まっていた時だったか。

ずっと家の中に引き籠って、久々に家の外に出てみると避難勧告する町内放送もなければ、人っ子一人いなくなってたな。

現状にビックリして町の隅々までポルポを連れて回ったけど、最後まで人影を見るはなかった。

ポルポが市民会館を指差して、美味しい!美味しかった!と連呼していて、あれはレストランではないことを説明するのに手間がかかったのは懐かしい思い出だ。

その頃のポルポはテレビの影響もあって色々な場所に行きたがっていたし、特にレストランに行きたがっていた気がする。

僅かばかりの期待と共に市民会館の隣にあるレストランに行ってみたけど、どのみち人はいなかった。

その前にまずレストランにタコは連れていけねーなと思った。

あれからもう少しした頃だったっけ、ポルポが中二病を患ってしまったのは。

まだ幼かったポルポはあんなに可愛かったのに……一体何があったらここまで変貌してしまうのやら。

バイクの速度を落とし(すた)れた町を眺めながら、次の町へと向かう。

公道は交通規制があって、俺は直ぐに捕まってしまうから、公道ではなく誰にも見つからない裏道を通っていた。

少し危ない道で、崖から落ちたらペシャンコになったりする道もある。

まぁこの道、俺しか使わないから誰も知らないし通らないだろうけど。

一時間も掛からずに次の町に入り、少し標高の高い道から町の全体を走りながら見渡す。

この町も数十年前よりも確実に人減ってるよな。

過疎化ってすごい。

 

 

 

色んな町を超えて早数日、人里離れた山道を走っていると、途中熊が出てきてポルポが食べてしまった。

お前熊食べれんのかー、と口元を引き攣らせながら見なかったことにした。

ポルポの口からバリボリ聞こえるのはきっと気のせいだよな。

山道を抜け、人里に出ると俺は首を傾げた。

 

如何(いかが)した主よ」

「……この町見たことあるような……あ、俺の生まれ育った場所か」

「主の…?」

 

すごく覚えのある酒場の文字が目に入り、俺はここが故郷であることに漸く気付いた。

既に故郷での記憶は殆どない。

故郷といっていいのか分からないと思うほど愛着がないのは、多分記憶に残る思い出がなかったからだろう。

まだ俺が前世と今世に区別出来ず、ひたすら自分の状態が分からなかった頃だ。

図書館に籠っては訳の分からないオカルトチックな本を読んだり、どこまで前世を覚えているか分からずとにかく片っ端からノートに知っていることを写していたり、まぁ暇ではなかったな。

赤ちゃんの頃に羞恥心で泣くのを我慢していたせいで、声帯が発達しなかったのは思わぬ誤算ではあったが。

中身があれなのにおぎゃるわけねーだろ。

 

「ここが主の…」

「もう、あまり……覚えてないけど…多分もう少し北の方に俺の家の跡地があるかもな」

「跡地?」

「俺の家半焼してたし、もう壊されてるだろ」

 

そうだ、家半焼して両親死んじゃったから父親のバイクと両親の遺産を片手に、自分探しの旅に出るぜみたいな心境で出ていったんだ。

俺の自業自得すぎる思考のせいで最後まで両親の目を見て話すことはなかったけど、少しの後悔だけですぐに立ち直る俺のアホさ加減も呆れるよな。

あー、俺の親不孝さをここにきて思い出すとは。

傷心旅行のハズが、傷増やしてどうすんだ。

でも俺の家の跡地が気になって少しだけ覗いてみることにした。

北に数十㎞走れば、当時よりも人が減った区域がある。

何十年経っても外観が変わらない図書館があり、図書館にバイクを駐車した俺はそこから記憶を頼りに家までの道のりを歩く。

途中で教会がちらりと視界に入るが、正直あの場所で思い出せる記憶は全部嫌な思い出ばかりだ。

偽神父に悪魔が憑りついてるとか言われたり、魚臭い聖水ぶっかけられたり、色々思い出しては気分が急降下していく。

ただ、あの神父…俺が村を出て行こうとした時に、偽物であることがバレて失踪してたな。

あのまま社会的に抹殺されてればよかったのに……

もう少し歩けば視界の端に脇道があり、俺はそちらへ足を向ける。

あ、懐かしい……ここ、よく俺が来てた場所。

そこは(いびつ)に曲がった大きな樹木がそびえ立っていて、木の模様が人の顔に見えるからか、大昔に処刑台としてこの樹木が使われて来たという迷信からか、誰も近寄らなかった場所だ。

前世ノートとか痛い本を家に持って帰れるわけもなく、俺はよくここでノートを開いて書いていた。

ここは村人たちが呪われた場所だとか言って誰も立ち寄らなかったから、侵入し易かったな。

その場所を素通りした俺はここら辺にあるはずなんだが…と辺りを見渡せば焼け焦げて屋根が半分以上崩れている、寂れた家が視界に入った。

 

「あ……ここだ」

 

まさか取り壊されていなかったとは……

家を囲むレンガも半壊していて、蜘蛛の巣が張られまくっている。

取り壊す費用とか無視して俺が村を飛び出ちゃったから、片付けられなかったのだろうか。

全焼してなかったのが不思議なくらい凄い燃えてたな。

俺は既に原型を留めていないかつての家を眺めて、思い返す。

 

 

 

 

 

 

一言で言えば、光のようなものが見えた……それだけだった。

 

 

「お願い、泣いて……お願いスカル、泣いてちょうだいっ」

 

温かい水の中から引きずり出された感覚と、暗かった視界が瞬く間に光を帯びる。

目を細める程眩しいかといわれればそうではなくて、ただ明るいなと思っていたら誰かが泣きながら呟いている声を耳にした。

一体ここは、どこなのだろうか。

どうして目の前がずっとボヤけているようにハッキリと見えないんだろうか。

耳にする女性と男性の複数の声と、役に立たない視界では状況を判断するには難しかった。

そして俺は誰だ。

核を失った人格は自問自答するが、求める答えが見つかるのはそれから4か月後のことだった。

視力が段々と明瞭になっていき、目の前の状況を詳しく理解することが出来たからだ。

それまで聴力のみでここが病院であり、自分が赤ちゃんなのかもしれないということはなんとなく予想していたが、視覚が発達してから漸く確信に至る。

どうやら俺は赤ちゃんになってしまったらしい、と混乱の真っただ中に突き落とされた。

これが夢であればよかったのだが、体感的に4カ月たっている上、痛覚があるとくればもう信じる気持ちの方が大きかった。

スカル、と何度も俺を抱き上げる腕は俺の親のもので、俺の名前はスカルだと気付く。

絶対にそれ俺じゃねー、って思うのは多分今の俺が持っているこの知識からくるものだろうか。

段々と記憶を整理していった俺は、失った自己をかき集め、その結果日本人という情報を補完する。

だが目の前で繰り広げられる会話は日本語ではなく、どこかの国の言語であり…俺にとっては異世界にいるような気分だった。

輪廻転生、そんなものが本当にあったのだろうか。

そうでなければ俺の状況に説明がいかず、俺は自分が転生してしまったのだと結論付けた。

 

生後8か月ほどなる頃には、周囲の言語を僅かながら理解していた。

まだここがどの国なのか分かっていないが、年代は何故か俺がいた前世よりも前だ。

時間の直線上、一方通行で転生が起こりうると思っていた俺はまさかの時代に驚く。

前世はどうやって死んだのかは覚えてないが、並みならぬ努力の末に漸く安寧を得た直後に地獄へ突き落されたような絶望感が心を埋め尽くす。

きっと、(ろく)な人生ではなかったんだろう。

 

前述のとおり碌な人生じゃなかったでござる。

2歳になった俺は前世の記憶の欠損部分が少しずつ補完されていく中、幼少期がどのようなものだったのかを次第に思い出していた。

そして思い出したくなかったと激しく後悔する。

正直、親がクソだった。

バツイチの実の母親と再婚相手の父親が、物凄く前世の俺に冷たかった。

前の夫と別れた原因である俺を(うと)ましく思う母親と、おめーの席ねぇからぁぁあ!な父親…クソだわ。

特に母親は頭おかしかったのか、俺の父親譲りの顔を罵るかと思えば褒めたり、感情起伏が激しすぎるヒステリック女だ。

なるほど、だから俺は今の両親が苦手だったのか。

俺と両親の間にある心の壁はエッフェル塔並みに高く(そびえ)え立っている。

ひとえに俺が彼らと関わりたくないが為の措置であり、現実から目を逸らし続けた。

 

俺が7歳になる頃、既に同年代の子供達の間で孤立しまくってた。

しゃーない、だって精神年齢バグってる上にこちとら記憶の整理で忙しいのだから。

前世の記憶補完の為に覚えていることを片っ端からノートに(つづ)ることで、欠損部分を復元していた。

近所の子供が俺のノートを奪い取って中身を見て、泣き出した挙句逃げていった。

なんでだ。

確かに日本語で書いているから分からないだろうけど、国民的アニメの青いたぬきの絵も一緒に描いてるだろ、どこに泣く要素があったんだ。

分からない俺は、立ち入り禁止の通称呪われた木の場所でノートを書き始める。

途中でどこぞのシスターに怒られたけど、そんなもん知ったこっちゃない。

ここは人がこないから前世ノートを隠すにはもってこいの場所だ。

前世ノート(こんなん)見られたら首吊って死ねる。

最近、図書館に行っては前世や転生について文献がないか調べてたけど、これといって目ぼしいものはなかった。

今世どれだけこのような行いをすれば、来世でこんな素敵な人になれますよ、的な内容しかない。

宗教的な内容の本しかないのか、図書館のそれらしい本を読破しても欲しい知識はどこにもなかった。

 

俺が10歳になる頃には、両親との心の壁がスカイツリーに届く程高くなっていた。

哀しくもなかったし、辛くもなかったので放置していたのは、きっと前世での10年間以上にも渡る家族間での嫌な思い出のせいだ。

何度も病院や教会に連れて行った両親は、この頃からもうお手上げ状態です的な感じで話しかけなくなったから楽だ。

子供達が授業でよく訪れる教会の神父が、俺に悪魔が乗り移ってるって言ってたけどコイツペテン師じゃねーか。

何が悲して悪魔祓い体験せねばならないんだ。

聖水吹っ掛けられ…くさっ!ああ、もう魚くさい!

十字架とか投げつけられそうな勢いだったから拘束を振りほどいてその場から逃げ出した。

くそ、あのペテン師め……どうやって失脚させてやろうか。

あの神父のせいで町の人達がコソコソと陰口言ってる。

町の風習やらなんやら知らんが、悪魔は信じないし呪いも信じない。

俺が信じるのは幽霊だけだ……だって幽霊めっちゃ怖いもん。

 

14歳のクリスマス、とても雪が積もっていて車は通れず、町の所々にクリスマスを祝う装飾があちらこちらに飾られていた。

かくいう俺の家も、母親がクリスチャンだったからクリスマスは一応祝うらしい。

日本とは文化的な違いもあって、なんか思ってたんと違う…って印象だったけど心の中に押しとどめた。

七面鳥の丸焼き出てきて、思わず固まった。

だってそれ裏庭で飼ってたチャコじゃん。

え、待って…チャコお前そんな姿にされたんか………

食欲を失った今年のクリスマス、俺は独り寂しくチャコの死を嘆いた。

 

15歳の誕生日が過ぎて直ぐの頃、俺の家が燃えた。

ぐっすり眠っていたら焦げくさい匂いが鼻につき、目を覚ませば一面真っ赤。

焦った俺は一旦部屋の外に出れば、まだそこまで火の手が迫っていなくてほっとする。

家の外に出ても両親の姿はなく、あれ?もしかしてまだ中?と思った俺は、仕方なく家の中に再び入る。

俺の感情よりも人命を優先し、両親の寝室に行けば父親がぐっすり眠っていた。

火の出所が寝室だったのか、既にベッドが燃え上がっている中でスヤスヤ眠っている。

寝てる場合じゃねぇぞコラ。

怒りを感じながらも父親を揺すって起こそうとするが、一向に起きない。

何度もビンタしたけど起きなくて、もしや死んでるのでは?と思った俺は取り合えず一人じゃ支えきれないと思い母親を探し始める。

母親が台所で倒れていて、ビックリしながら駆け寄って揺さぶる。

すると少しだけ重い瞼を開けた母親と目が合う。

多分今世で初めて母親の瞳を見たけど、紫色してるのかって…場にそぐわないこと思ってた。

 

「起きろよ……眠んな、逃げるぞ」

 

やっと出た言葉に、久しぶりに声帯が震えたのを感じる。

小さすぎて声が聞こえなかったのか、母親の反応はなく、何度も強めに揺する。

煙たすぎて涙が出てきた。

煙吸い込み過ぎて動けないのかな、そう思った俺は母親の腕を肩に回してなんとか立たせようとしたけど、母親がそれを拒んだ。

一向に動こうとしない……いや、助かろうとしない母親にイラつきながら、一回殴って正気に戻してやろうかとすら思った。

 

「……スカル…」

 

母親の白い腕がゆっくりと、俺の頬へと伸ばされる。

何度も俺が拒んだ、白い腕が。

 

「…愛し、い…いとしい……スカル」

 

母親の手の平が俺の頬を優しく撫でる。

 

 

「しあわせに……生きて……」

 

 

初めて 彼女の笑顔を見たと思った

 

 

火の手がそこら中に広がり、子供一人くらいなら出られる隙間から這い出て外に出る。

外では火事に気付いた住人たちが騒いだり、水を家に掛けていて、家から出てきた俺を見るなり固まった。

その中で野次馬を掻き分けて現れた救命士が俺を抱き上げ救急車で怪我の状態を確認するが、無傷な俺を確認したのかタオルを掛けて救急車の段差に乗せる。

怖かったね、もう大丈夫だよと言ってくる他の救命士から水をもらい、ただ燃え盛る自分の家を眺めていた。

多分、両親は助からない。

俺の予想を裏切られることはなく、両親の焼死体が発見された。

 

俺は孤児院に入れられることになった後、両親の葬儀に出る。

孤児院のシスターが一度だけ俺に、辛ければ泣いてもいいのですよと言ってきた。

泣く程辛いわけではない。

ただ、あの言葉が脳裏を反芻(はんすう)するのだ。

 

『…愛し、い…いとしい……スカル』

 

あの人たちは、あのクソ野郎どもとは違っていた。

俺はずっとあの人たちを敬遠していたにも関わらず、死ぬ最後まで俺の幸せを願ってくれていた。

笑顔の裏に張り付けてある黒い感情なんてなかった。

もっと、歩み寄るべきだった…の、かもしれない……

 

 

「もっと……笑えばよかった………」

 

 

そうすれば、きっと……きっと、俺は幸せだったのに

 

 

俺はずっと、この後悔を背負って生きていくんだ…

 

 

 

土の中に還っていった両親を見送りながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

真夏の涼し気な夜に、()の子供はこの世に生まれ落ちた。

産声もあげず、ただ瞳を大きく、大きく開く赤子はまるで生まれ落ちたことに絶望しているかのようだった。

 

「お願い、泣いて……お願いスカル、泣いてちょうだいっ」

 

田舎の小さな村とあって、医師は村に一人…よくて二人だけで、私の出産に立ち会った医師は交代でこの町に駐在する者だ。

声も上げない赤子に不安になり、泣いてちょうだいと涙を流していたが、医師が赤子がちゃんと呼吸をしていることを確認すると、安心して下さいと私を落ち着かせる。

赤子は未だ目を丸くし固まっていて、看護師たちは次々と赤子に管を付けていき検査室へと連れていかれた。

 

「あなた、スカルは大丈夫かしら…」

「元気な男の子だよ…産んでくれてありがとう」

 

元気なお子さんですよ、と看護師が連れてきた赤子を腕に抱いた時、私はその小さな生命と共に幸せを噛み締める。

それが私の人生が狂った瞬間であることに気付くのは、ずっとずっと先だった。

 

 

スカルは泣かなかった。

全く、とまではいかないがその泣き声は一日に一度聞こえるか聞こえないかというほど少ない。

私は何かの病気ではと思い何度も医師に見せたが、検査結果は異状無し。

スカルが漸く1歳になり、周りの環境を理解し始めるころになっても、あの子の態度が変わることはない。

2歳3歳と…歳を重ねるごとに我が子との壁に悩まされる。

5歳になったあの子は、周りに興味を持てなかったり、ずっとノートに何かを書き込んでいたり、とにかく一人でいることを好んでいた。

スカルが7歳になる頃、あの子はよく呪われた木の場所に行くようになっていて、あの場所にはいってはいけないと何度も叱ったが、あの子は行くことをやめはしなかった。

周りの子は何度もあの子を忌避(きひ)し、近所の方々も私たちを除け者にし始める。

ずっとあの子が書き綴っているノートの中身が気にならないわけではなかったけれど、中身を知ってしまうのが怖かった私はずっと目を逸らし続けた。

あの子は図書館に行き始め、夜遅く閉館の時間まで居続けていた。

我が子とまともに会話出来ない自分が、まともな親に見えるわけもなく、相変わらずあの子との距離は離れていくばかりだ。

あの子が10歳になった頃、それは起こった。

 

「その子には悪魔が乗り移っています、今すぐ悪魔祓いをしましょう」

 

教会の神父がスカルを見て、私にそう言った。

我が子を悪魔呼ばわりされて、まず初めに湧き上がったのは怒りではなく安堵だった。

スカルが可笑しかった理由が分かったような気がして、まだ手の尽くしようがあると分かって、私は安堵したのだ。

もうこれが最後のチャンスかもしれないと、私は神父に(すが)りついた。

あの子を、あの子を悪魔から救ってください、と。

スカルは状況が分かっていなかったのか大人しく椅子に座らされ、聖書を見せられるなり顔を歪ませる。

ああ、やはりあの子には悪魔が乗り移っていたのだ。

私はハンカチを口に当て、涙を堪えながらあの子の悪魔祓いを見守る。

 

「名前を云え!スカルに憑りついているお前は誰だ!」

 

神父の怒声が聞こえるが、スカルの表情は至って変わらず、相手を見下しているような、嘲り笑っているような顔をしていた。

私は、早くあの子から悪魔を追い払ってと祈るばかりで、神父の怒声に目を(つむ)る。

遂に痺れを切らした神父が聖水をスカルに掛けると、スカルの表情が歪みだす。

 

「云え!貴様の名前を‼」

 

スカルが一際神父を睨むと、両隣にいる人たちの拘束を振り切り教会から逃げ出した。

額に汗を伝わせる神父は、逃げ出したスカルの背中を眺めて、追いかける者達を止める。

 

「やめなさい、これ以上は逆効果だ」

「どういうことですか神父様!?」

「思っていたよりもスカル君に憑りついている悪魔が強いのです……これ以上すればスカル君の身体が持ちません」

「そんなっ…」

「スカル君の身体がもう少し丈夫になってからじゃないと、命に関わります」

 

神父の言葉に私は涙を流し崩れ落ちる。

夫も憔悴(しょうすい)する私を気遣い、いつもと変わらず帰ってくるあの子を心配していた。

スカルは変わらず、呪われた木の下でノートを開いている。

私は一度だけスカルが学校に行っている間、あの呪われた木の下に隠されているであろうノートを探したことがある。

見つけたのだ、どこにでもある変哲な赤いノートを。

使い古されたノートが何冊かあり、一番上のノートを開いて、私は絶句した。

青い……化け物のような……悪魔のような生き物が描かれていたのだ。

目から血を流し、全身青く塗りつぶされた…化け物が。

私はノートを元の場所に戻し、直ぐにその場から去った。

 

怖かったのだ…

もし、あの場に私が行っていたことがスカルに乗り移った悪魔にバレてしまうことが。

恐ろしかったのだ…

訳の分からない文字を書き綴るあの子が。

 

神父がもう少しすればあの子の本格的な悪魔祓いを行うと言っていて、私はそれまであの(おぞ)ましいノートのことを誰にも言うつもりはなかった。

 

スカルが15歳になった頃、私は我が子を殺す決心をした。

もう5年も経つのに神父はスカルの悪魔祓いをしてはくれなかった。

もう少し、もう少しと何度もその言葉で機会を伸ばされていて、既に私は限界だった。

村の者達はスカルのことを指差して、悪魔だと、イカれた奴だと、狂った奴だと笑い、遠ざけ、(ののし)る。

違う、違う、スカルは悪魔に憑りつかれているだけだ!

でももう私も夫も、スカルに声を掛けることを諦め、遠ざけ、顔すら見ない。

これ以上惨めな思いをするくらいならば、独房の中で産んだことを後悔した方がいいと、本気でそう思ったのだ。

でも、夫に愛想を尽かされた私に未来はあるのだろうか。

 

皆、皆、皆、皆、一緒に死ねば……死ねばいい。

そうすれば、きっと…楽になれる。

 

ある日私は夕食に睡眠薬を盛り、夜皆が寝静まった頃、自ら睡眠薬を大量に飲み込み自宅に火をつけた。

寝室に火をつけ、クローゼットが燃え上がる。

隣で寝ている夫に口づけをして一言謝ると、寝室を出た。

私は寝室から一番遠いキッチンに向かい、睡眠薬による深い眠りをただ待ち続け、瞼を閉じる。

 

既に意識は半分以上夢の中で、火の手が直ぐ近くまで来ていることを耳で感じ取っていた。

暗いような、明るいような…そんな不思議な視界の中体がいきなり揺さぶられる。

何度も何度も……誰かが火事に気付き助けに来たのだろうかと思い、重い重い瞼をゆっくりと開く。

すると、目の前には私と同じアメジストの瞳が現れた。

もう数年も見ていなかった瞳と、声の出ない口が大きく開かれていた。

 

 

「起きろよ……眠んな、逃げるぞ」

 

 

幻聴だと思った。

もう、何年も聞かなかったあの子の声に私は夢かとすら思ったのだ。

起きろ、逃げろ、眠るな、と何度も掠れた声が耳に届く。

 

あの子の頬を伝う涙に、私は自らの過ちに気付いた。

 

「……スカル…」

 

死に逝く私を泣きながら揺すってくるこの子が 悪魔であるはずがない

きっと 悪魔のような恐ろしい我が子は 愚かな私が見た 幻影だったのだ

 

 

「…愛し、い…いとしい……スカル」

 

 

息子は狂ってなどいない 

 

私の為に涙を流せる 立派な 愛しい子

 

ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい

 

こんな愚かな母を許さないで

 

 

最後の力を振り絞って腕をあの子の頬に伸ばした私は、(かす)れた声で呟いた。

 

 

 

「しあわせに……生きて……」

 

 

 

早く逃げなさい、と呟く前に私は力尽きた。

 

 

 

 

 




スカル:傷心旅行中に故郷発見。
スカル(小):前世ノートという痛々しいノートは村を出ると共に焼き払った。
チャコ:スカルに可愛がられていた七面鳥、聖なる夜に食卓に並べられた。
【挿絵表示】

ママン:家族心中図ったけど最期にやっぱ息子は悪魔ちゃうわと気付いて死んだ。
パパン:多分一番可哀そうな人。

スカルの痛々しい黒歴史、『THE・前世ノート』の一部↓
タイトル『青い悪魔』

【挿絵表示】


スカルが故郷に到着したのは、時間軸的にチェッカーフェイスの正体が露わになった後ですね。

次回から愉悦モード、入ります。


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skullの追求

俺はいなかった。


クロームside

 

「どうやってスカルを探し出せば…」

「僕なら、彼を見つけることが出来るかもしれませんよ」

「骸!?どういうことだ…!」

 

そう呟いたボスの言葉に私の側で休んでいた骸様が動き出し、まだ止血が十分じゃない骸様を心配した私は骸様の後ろをついていく。

骸様は血だらけの肩を抑えながら眉間に皺を寄せ、ボスに視線を固定する。

 

「僕は少し前に、彼の精神世界に訪れたことがある……今彼の精神世界を探し出し、入り込めば…」

「スカルの居場所が分かるかもしれない…ってことか」

「そういうことです」

 

私は骸様が誰かの精神世界を探し出すほど体力が回復していないことに気付き、骸様、と声を掛けた。

骸様は私の考えてることが分かっているかのように、流し目で私を捉える。

 

「クローム、お前が考えている通り…今の私に彼の精神世界を探し出す体力はない」

「骸様……」

「お前の力を僕に貸しなさい……お前がこの代理戦争で身に付けた技術は私をサポートするに不足はありません」

「!」

 

骸様が私を……私の力を、一人の戦士として求めてくれていることが、私にとって喜びであり、これ以上ない幸せ。

私は骸様の為に…骸様の全てを支えていたいっ…!

 

「はい、頑張ります!」

 

私の言葉に薄く笑みを見せ、片手に握っていた槍を構えた骸様をボスが心配をするけど、それを骸様が鼻で笑いながら一蹴した。

私は骸様の足りない炎を側で補い、精神体を安定させるために寄り添うように骸様に炎を(まと)わせる。

霧の炎が私と骸様を覆う中、骸様が私の名前を呼び、私は閉じていた瞼を開けて骸様へと視線を移す。

 

「恐らくお前も彼の精神世界を見ることになる…彼の精神世界に呑まれそうになれば、なりふり構わずお逃げなさい…分かりましたね?」

「骸様………分かりました」

「いきますよ、クローム」

 

骸様の言葉と共に、身体全体に浮遊感が襲う。

少しの間、骸様と共に精身体のまま空気中を流れるように浮遊する。

私は少し怖くなり、骸様に寄り添った。

体感時間でいえば20分くらいで、浮遊する感覚に慣れ始めたと思えば骸様の身体が止まり、つられて私も止まる。

 

「クローム、彼の精神世界だ……気をしっかり持ちなさい」

 

骸様の言葉をハッキリと聞いた私は胸の上で手を重ね、もう一度はいと呟き骸様と共に体がとある方向へと流されるまま身を委ねた。

 

 

 

気付けば、隣に骸様はいなくて…私は一人、見覚えのない風景の中立っていた。

その現状に目を丸くして驚いたのもつかの間、私は周りを見渡し現状把握に努める。

でも視界に入る情報はどれも新しく、一体ここがどこなのかすら分からない。

少し昔の雰囲気がある村…のような場所で、子供たちの声が耳に届く。

遊んでいるのか楽し気な子供達の声に周りを見渡していると、ふと視界の奥に大きな木が見えた。

大きな樹木の幹には、大きな(くぼ)みがあり、それはまるで人の顔みたいに模様を描いている。

その顔は、大きな歪んだ目と、叫んでいるような口元…そしてその口を縫い付けるかのように樹木の表面を垂直に削られている傷跡。

私はその顔に、云い寄れぬ怖さを感じた。

怖くて一歩、足を後ろへと引けば、途端先ほどまで聞こえていた子供の声が消え、不気味さを覚えた私は無意識にこの場にいない骸様の名前を呟く。

 

ガリ……ガリガリ……

 

何かを削るような音に驚いて、私はその音の元を探す。

すると、先ほど恐れていた樹木の真下に、子供が一人座り込んでいた。

子供は樹木に背を預け、膝を折って座り込み、ノートを膝の上に置いて何かを書いている。

先ほどから耳元で響き渡る音の正体が分かると、私は恐る恐るその子供に近付く。

 

「あ、あの……」

 

私が小さく声を掛ければ、子供は動かしていた手を止め、私の方へと顔を上げた。

その顔はボヤけてよく見えず、男の子であることだけ分かった。

紫色の髪を乱雑に(なび)かせた男の子は、周りを見渡すと再びノートに視線を戻し手を動かし始める。

まるで私が見えないような様子に私は何度か声を掛けるが男の子が再び反応することはなく、気付けば青空が澄み渡る空は赤く染まっていて夕方だと気付く。

暫くすると男の子はノートを閉じて、幹の窪みの中へとノートを放り入れる。

そしてそのまま男の子はその場を離れ、私はそれを追いかけようとした時だった。

 

 

「その子には悪魔が乗り移っています、今すぐ悪魔祓いをしましょう」

 

 

いきなり背後から聞こえた、男の人の声に私は驚いて振り向く。

先ほどまで誰もいなかったそこには神父姿の人と、数名の男の人が先ほどの男の子を掴んで何かを言っていた。

男の子は掴んでくる大人の手を払おうとするが、中々払えず苦戦している様子で、そのまま椅子に座らされ始める。

 

「名前を云え!■■■に憑りついているお前は誰だ!」

 

 

神父の怒鳴り声に私は段々と目の前の光景が怖くなり耳を塞ぐが、神父の声が耳に入ってくる。

 

「云え!貴様の名前を‼」

「神はすべての人が救われることを望まれておられる」

「貴様の名前を、云うんだ!」

 

何度も何度も、男の怒鳴り声がその場に響き、私は遂にその場から逃げ出す。

何故か分からなかったけれど、あの男の人の怒鳴り声や、男の子が抵抗する音が酷く恐ろしかった。

息を切らしながら辿り着いたのは、先ほどの樹木がある場所だった。

先ほどと同じで男の子が木の下で座ってノートを開いている。

 

 

「悪魔だ…」

 

どこからともなく聞こえてきた言葉に周りを見渡しても声の正体は掴めず、私は困惑する。

 

 

「あいつは悪魔だ…母さんや父さんが言ってた」

「先生も陰でそう言ってる…あいつは悪魔だって」

「だからあいつは呪われた木の下にいても平気なんだ」

「あいつがいつも持ってるノートには地獄の文字が書かれてる」

「俺は見たぜ、青い悪魔が描かれてたのを」

 

あちらこちらから複数の声が聞こえ、私は怖くて破裂しそうな胸を抑える。

四方八方から聞こえる声は、見下すように冷たくて、(さげす)むように苦しくて、とても怖かった。

恐怖から足が竦んでいると、ふと背後からくる熱気にビクリと身体を強張らせる。

恐る恐る後ろを振り向けば、そこには炎の魔の手がこちらへと向かって来ていて、突然のことに私の身体は動かなくなった。

そのまま炎に飲み込まれると瞼を固く閉じた時だった。

 

 

「クローム‼」

 

名前を呼ばれ、体が後ろへと引っ張られる。

背中に優しく当たる感触に、私は目を見開き声がする上方へと視線を上げた。

 

「骸様!」

「探しましたよ」

「む、骸様、ここ…」

「僕にも詳しいことは分かりませんが場所も特定出来たことですし、早いところ抜け出しますよ」

 

骸様の言われるがままに、今いる場所から外へ外へと押し出されるような感覚に目を見開く。

浮遊感がこの身を襲い、この空間から出される、と思っていると視界の端にふととある光景が映る。

 

先ほどの紫色の髪をした男の子が、黒い人の形をした何かを覗き込んでいた。

黒い人へと男の子が手を伸ばそうとして、隣にいた人に遮られる。

 

 

私が見ることが出来たのはここまでだった。

私の身体は物凄い速さで外に押し出され、肩を抱いてくれている骸様と共に体のある場所へと吸い込まれていく感覚に瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

 

 

「クローム‼」

 

二人を覆う霧の炎が紛散すると共に、クロームが力が抜けたようにガクリと崩れ落ちる。

俺が座り込んだクロームに呼びかければ、彼女の瞼がゆっくりと開く。

 

「いきなり崩れ落ちるからどうしたのかと思ったけど……無事でよかった」

「骸…様は?」

「骸も今隣で起きたぞ」

 

クロームの隣で骸は、立ったまま目をあけ、手を額に押し当てていた。

 

「イタリアの〇〇という小さな村……彼の精神世界はそこで固定されていた…恐らく彼の居場所への手がかりがあるはずです」

「‼」

「それと…チェッカーフェイスの彼が自殺志願者であるという言葉、信憑性が出てきましたよ」

「どういうことだ…?」

「僕が見せられたものはその村の図書館と乱雑に置かれた数冊の本……どれも来世の存在を示唆(しさ)し、死ぬことへの美徳とやらを延々と綴られていました」

「それって……」

「恐らく彼は死ぬことを一種の救い、自由であると認識しているはずです」

 

何故救いを求めるのかまでは測りかねますが、と言い残した骸の言葉に俺は驚く。

チェッカーフェイスの言葉が本当かもしれない事と、スカルの暗い部分を見たような気がして、眉を顰める。

隣のリボーンを横目でちらりと覗き見たけど、リボーンも他のアルコバレーノも決して軽くない雰囲気を放っている。

俺はスカルの居場所がイタリアであることを考え、バミューダの方へと歩き出し、座って皆の様子を眺めていたバミューダに声を掛けた。

 

「バミューダ……お前の力を、貸してくれないか?」

「……」

「お前の瞬間移動がないと時間的にスカルを探し出すのは厳しいんだ」

「ふん、今回だけだ……おしゃぶりをチェッカーフェイスの元に返すわけにはいかないのでな」

 

バミューダの妥協ともいえる承諾に俺は安堵し、リボーンへと視線を向ければリボーンが俺も行くぞと呟き、それに続き他のアルコバレーノ達がスカルの元へ行くと言い始めた。

獄寺君や山本もついていくと言い出したが、俺がハッキリと断った。

リボーンもそれには賛成で、獄寺君がどうしてですか、と俺に聞いてくるがそれに答えたのはリボーンだった。

 

「相手はスカルだ…対話を前提として奴とおしゃぶりの譲渡を交渉してみるが、あいつが実力行使で俺達を殺しにかからないという可能性がないわけじゃねーんだ」

「‼…しかし…」

「いいか、奴は数多の命を葬って来た虐殺者だ、奴が弄び殺した命がいくつあったと思ってんだ……今回も気まぐれに俺達を攻撃するかもしれねー」

「な、なら俺らも戦えばっ」

「傷を負ってるお前等じゃただの足手纏いだ」

 

獄寺君と山本の言葉をリボーンがバッサリと切り捨てた。

歯を食いしばる二人以外にも、名乗り上げようとしていた数名が押し黙る。

そんな中、今まで黙っていたチェッカーフェイスが俺達の会話に割り込んできたのだ。

 

「その話の流れだとアルコバレーノは全員彼の元に行く気のようだが、少し懸念事項がある」

「どういうことだ」

「少し、彼の側にいるあの巨大な生物について…語らねばならない」

 

そう呟いたチェッカーフェイスの表情は、先ほどとは違い険しかった。

 

 

あの生物は、遥か昔に存在していた古代生物の一種だ。

その古代生物は海を統べる王であり、両生類だったが故に陸上の生物の脅威にすらなった種族だ。

恐らくデボン紀があの種族が誕生し最も繁栄していた時期であり、彼らは古第三紀前半で絶滅した。

その後、移ろい()く環境下であの種族の遺伝子に最も類似している種族が、ヒトというホモサピエンスが誕生した時期に現れた。

ヒトは、その生き物をこう呼んだ………クラーケン、とね。

遺伝子が最も類似しているというだけで、古代生物との力は天地ほどの差があったわけだが。

私の種族は、君たちの目から見ても桁外れの生命力を宿していることは分かるだろうが、最も繁栄していた時期は今以上に生命力に満ち溢れていたのだ。

だが一族の中にも数名、あの古代生物に食い殺されたものがいた、というのが事実だ。

それほど脅威であり、恐怖であり、数多の生命をその身に宿した、最恐の古代生物なのだ。

そんな生物が何故この時代に蘇ったかは私にも理解しかねるが、一つ、分かると言えば…現代に蘇ったあの生物は全盛期であった古第三紀より数倍図体が小さいということだ。

全盛期では、あのサイズが生まれたての赤子の大きさなのだが、あの生物はあの大きさで既に成体が持つべき(うろこ)を身に(まと)い、牙が一際鋭くなっていることから、現代ではあの大きさで既に成体であることを意味している。

それでもその身に宿す力は本物だ。

もし、油断して掛かれば一瞬でその身を食い潰されるぞ。

さて、何故私がこの生物の話を語ったのかといえば、単にアルコバレーノ諸君がスカルの元へと自ら赴くと言ったからであり、万が一彼と戦闘になればあの生物が必ず君たちの前に現れるからだ。

あの生物の全盛期の実力は私が最も知っている…だから、どれだけ弱体化したあの古代生物であっても今の君たちでは勝てない、と言っておこう。

 

 

長ったらしい話を語ったものだ、と言うように俺達を見て言い放つチェッカーフェイスの表情は読めず、冷めた眼差しで俺達を捉えていた。

俺はチェッカーフェイスの言葉があまりにも衝撃で、暫く呆然と彼の言葉を繰り返していた。

あの巨大なタコのような生物が、古代生物で……海の王……

隣にいるリボーンを覗けば、リボーンも予想だに出来ない事実に表情を強張らせている。

チェッカーフェイスの言葉通りなら、俺達はあの生物に対して何も出来ないまま殺されるかもしれないということだ。

ならスカルとの戦闘は出来るだけ…いや、必ず避けなきゃいけない。

 

「待て」

 

思考がこんがらがってきた時、ふと落ち着くようなリボーンの声に我に返る。

 

「"今の"俺達だと勝てない……だと?」

「ああ、そうだ…まぁこれは保険の意味でだが、君たちを一時的にこの3日間だけ元の姿に戻そう」

「「「「「「‼」」」」」」

 

チェッカーフェイスの言葉にバミューダを含む現アルコバレーノが皆目を見開いた。

 

「トゥリニテッセは大丈夫なのか?」

「短い間であれば私一人で補えるが、あくまで君たちを元の姿に戻すのは万が一戦闘になった場合に保険であって、戦闘に仕向けるためのものではないことを覚えていてくれ……元の姿に戻った君たちならば、あの古代生物の足止めくらいは出来るだろう」

 

リボーンの問いにチェッカーフェイスがそう答えた瞬間、アルコバレーノ達のおしゃぶりが輝きだす。

皆その眩しさに驚き目を瞑っていると、段々と光が弱くなっていく。

俺は目を薄め、目を慣らしていると、ふいに隣にあった小さな気配がなくなっていることに気付く。

 

「リ、リボー…」

 

相棒の名前を呼ぼうとして、途中で途切れた。

何故ならそこには、大人のリボーンが自分の手を眺めながら目を見開いていたからだ。

ざわつく周りを見渡せば、他のアルコバレーノ達も呪解して大人の姿に戻っている。

バミューダまで戻っていたことから、チェッカーフェイスはバミューダを戦力として数えていたからなのだろうか。

バミューダも気になって、そこらへんをチェッカーフェイスに問いただしていた。

 

「おいチェッカーフェイス…何故僕まで戻した?」

「私がしたのは呪解ではない、一時的に全アルコバレーノのおしゃぶりを彼ら自身の中へ内蔵しただけだ」

「全、アルコバレーノ…?」

「勿論スカルもだがね、だからバミューダ…君も元の姿に戻す形となった」

「なるほど、通りでおしゃぶりが外れたような感覚がないわけだ」

 

 

おしゃぶりが割れては困るので君たちの中に隠した、と平然と言い放つチェッカーフェイスにアルコバレーノの顔が強張る。

俺達が死んだらどうするつもりだったんだ、とヴェルデが質問したが、アルコバレーノが死んだからといって中に隠したおしゃぶりが壊れるわけではない、とのことだ。

俺はチェッカーフェイスの言葉も驚いたが、呪解したアルコバレーノが一人を除いて全員揃っていることに圧倒されていた。

これが……世界最強の7人……

唾を飲み込んだ俺とリボーンの目が合う。

 

CHAOS(カオス)…だな」

 

ふん、と鼻で笑われたような気がして俺は頬を膨らますが、リボーンは俺を一蹴するとチェッカーフェイスへと向き合う。

 

「他にあの生物のことでいうことはあるか?」

「ああ、最後に2つほど…」

 

2つも?と突っ込みたくなった俺はその言葉を飲み込みチェッカーフェイスの言葉を待つ。

 

「1つ目は()の生物が持つ毒だな…致死性の極めて高い毒を持っていて血液は勿論、皮膚接触も毒の侵入経路だ」

「毒……」

「2つ目は…()の生物の逆鱗には触れぬことだ」

「どういうことだ」

「さて、私も直接見たことはないが…あの種族の逆鱗に触れると全てが闇に染まる、と言われていたのでな……」

 

 

闇に……そう呟いた俺に、チェッカーフェイスの険しい顔が、決して嘘ではないと超直感が訴えていた。

 

「何はともあれ、行くしかねぇだろ!コラ!」

「もう時間がないな…今からでも行けるかバミューダ」

 

コロネロとラルが武器を片手に、バミューダの元へと近寄る。

二人の言葉にバミューダは頷き、ワープホールを作り出した。

俺はもう行くの!?と思い、待ったを掛けようとしたら急に服の端を引っ張られる。

後ろを振り向けばクロームがいて、どうしたの、と優しく問いかければクロームは覚悟を決めたような顔をした。

 

「ボス、私も連れて行って…!」

「え、ええ!?」

「あ、沢田さん!私も行きますよ!」

「ユニまで!?」

 

疲労しているであろうクロームと、非戦闘員のユニが名乗り上げたことに俺は狼狽(うろた)える。

獄寺君や山本、他の人もクロームやユニを止めようと声を掛けるが、二人とも首を横に振った。

 

「骸様が動けない今、私がスカルの居場所を探すから…連れて行って、ボス!」

「クローム……」

 

確かに骸は今、軽くない怪我を負っているからこれ以上動くことは難しい。

クロームならまだ体力に余裕があるから、スカルを探すという点においてクローム以上に適任がいない…

答えに考え込む俺を他所に、リボーンが承諾してしまった。

俺は待て待て、とリボーンに口答えしようとするが、時間がないという理由だけで一蹴され、近くまで寄ってきていた風が私達が守りますので安心してください、とクロームに伝えていた。

もう行く気満々なクロームと、それに賛同する周りに脱力し、俺はクロームの同行を渋々認める。

だけどユニは……と、ユニの方に視線を向ければ、ユニが俺の視線に気付き見つめ返してきた。

 

「お願いします……どうしても、行かねばならないと……私の中で何かが訴えているのです」

 

ユニの瞳はどこまでも澄んでいて、でもどこか焦りが現れているようにも見えた。

ユニのこういう発言はその通りにした方がいいのは分かっているので、拒むことも出来ず渋々だがユニの同行も許してしまった。

ハッキリいって二人が傷つかないかがとても心配だ。

俺はユニがワープホールを通ったのを確認して、後ろを振り返り皆の顔を見渡した。

 

 

「いってきます!」

 

俺の言葉に目を見開いた仲間たちの目からは、不安が薄らいでいくのが見えて俺は思わず笑みが漏れた。

ご武運を‼十代目!、と獄寺君の声を最後に俺はワープホールの中へと足を入れた。

 

数日前に体感した、あの不思議な感覚に目を閉じる。

数秒すると肌寒い風が頬を撫で、指に嵌まっているボンゴレギアの擦れ合う音と共に俺は瞼を開いた。

 

 

そこには、骸の言っていた町の案内標識と、クローム…そして元の姿のアルコバレーノ達が佇んでいた。

 

 

 

 

 




スカル:出番なし、知らぬところでロックオンされている、さよなら束の間の平穏。
アルコバレーノ:スカルを総出で捜索中。
ヒットマンなあの人:スカルを生け捕りにしないといけないことに遺憾の意、スカル絶対殺すマン健在。
クローム:スカルの精神世界で見たものが気になり同行を希望した。
地獄の文字:日本語への熱い風評被害。

愉悦レベル:★★★☆☆




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skullの狂気

俺は知らない。


沢田綱吉side

 

「ここが…スカルの居場所への手掛かり…」

「ひとまず近隣住民にスカルを知っているか聞くぞコラ!」

 

コロネロが足を進め、皆がそれについていく。

瞬間移動出来たってことはこの町のことを知っているのかとリボーンがバミューダに聞くと、バミューダが一度だけ…と答える。

 

「十年ほど前に、血の掟(オメルタ)を破り復讐者から逃亡し、ここで神父の真似事をしていた奴がいたのだ」

 

牢獄で発狂し既に死んだがな、と後付けしたバミューダに俺は苦い顔になる。

前方を歩いているコロネロとラルが住民に聞き込みをしているが、皆首を傾げていた。

もっとその人の容姿が分かればなぁ、と呟く若い男の人の言葉に俺はリボーンに、スカルのヘルメットの下って見たことあるのか聞いてみる。

 

「ねぇな…奴は自分以外のアルコバレーノに一度も素顔を見せたことはない」

「じゃあずっとヘルメットを?」

「その上、スカルというのが本名かさえ疑わしいというのが事実だ」

 

ヴェルデが俺とリボーンの会話に入ってきて、俺はスカルの秘密主義がヴェルデ以上であることに内心舌を巻く。

何件か家を回ったところで、60代ぐらいのおばあさんが漸くスカルという名前に反応した。

既にこの村にはいないが、ずっと昔に…その名前と同じ子供がこの村で生まれ育ったと言っていた。

 

「私はその子のことは大して知らんよ…ただその子が村八分にされていたこと以外はね」

「村八分…?何故だ」

「だから私は詳しいことは知らないったら…ただ周りの人たちがその子に近付かない方がいいと言っていたんだ……もっと知りたいんなら少し行ったところに孤児院があるから、そこのシスターに聞きなよ」

「分かった、ありがとう」

 

村人から有力な情報を聞き出せたラルが俺達の方へ戻ってきて、先ほどの話をそのまま伝えられた。

村八分、という聞き慣れない言葉に俺とクローム、ユニが首を傾げていていると、風がその様子に気付いて言葉の意味を教えてくれた。

 

「村の掟や秩序を破った者に対しての制裁行為で、村全体で対象の者との交流を断ち切ることです」

 

分かりやすく言えば村全体で行われる仲間外れですねと付け加えた風に続き、法律で禁止されている事柄だがここみたいに田舎の地域じゃまだそういう風習が残ってたんだろ、と言ったリボーンに俺達三人の顔が強張る。

村全体でいじめてるようなもんだろそれ…と思っていたが、スカルの歪んでる価値観は恐らくそういったことが原因だったのかもしれない。

スカルの過去がこの村にあって、骸はスカルの精神世界がこの村で固定されていた、って言ってた。

それって、スカルがずっと過去から抜け出せないからじゃないのか?

俺はスカルの闇を垣間見たことに一抹の不安を覚え、さきほどのおばあさんの言葉通り、孤児院の方へと足を進める。

後ろの方をついてくるクロームの顔色が悪いような気がして、大丈夫?と聞いてみたが、クロームはうんと首を縦に振るだけだった。

少し歩けば古びた孤児院と図書館があり、ここで二手に分かれる。

何で図書館かと言うと、骸の言葉通りなら図書館での閲覧記録が残っているのではというヴェルデの言葉からだ。

そこから少しでもスカルの居場所を特定できるものが見つかるかもしれないと、二手に分かれることとなった。

孤児院には、俺とクローム、リボーンにバミューダ、風で、図書館にはコロネロ、ラル、ヴェルデ、マーモン、ユニで向かう。

孤児院に着けば、子供の笑い声が聞こえ庭でシスターと思わしきおばあさんが子供たちと会話をしていた。

シスターは俺達に気付き、子供達に何かを言うと、子供達から離れ俺達の方へと近寄ってくる。

 

「何か…用でもありましたか…?」

 

村の者ではないからか、少し不安げに聞いてくるシスターに俺がスカルを探していることを教えると目を見開いて視線を忙しなく泳がせている。

胸に下げている十字架を握りしめ、ああ、神よ…お許しくださいと呟き始めた。

シスターの不安げな態度に風が優しく(なだ)め、ただスカルのことを聞きに来ただけであることを言い聞かせた。

漸く落ち着いたシスターは、俺達を孤児院ではなく隣の教会の中の応接室へと通す。

5人で座るには少し狭いソファがあり、リボーンとバミューダがソファの後ろの壁へと背を預けながら立つ。

風はソファの隣で立ち、俺とクロームに座るよう施してきて、代理戦争からそのまま動き続けていて結構疲れていたので、風の言葉に甘えて座ることにした。

シスターは俺達の様子を見て、深く深呼吸をして恐る恐るといった様子で言葉を放つ。

 

「何故……スカルを探しているのか聞いても?」

「とっても大切な用事があって……それをスカルに伝えなきゃいけないんです」

「あの子は……スカルは今何をして……いえ、これを聞く資格は私にはありません…罪深い私には…」

「あ、あの!それってスカルが村八分にされたことと何か関係があるんですか?」

「………え、ええ…そう……ですね……」

 

ああ、神よ…と再び十字架を握りながら、シスターは震える声で語り始めた。

 

 

 

私がスカルのことを知ったのは、彼が7歳くらいの頃でした。

呪われた木の下に入っていく子供を見かけた、という噂がこの近くで流れ始めたので、私はその子供に注意をしようとしました。

呪われた木とは、昔からある大きな樹木で、数百年前にそこが罪人や悪魔落ちという悪魔に憑かれ魂を売ってしまった堕落者の処刑場となっていたのです。

そこで殺された者達の怨念が住みつき、樹木の表面には人の苦しみもがいたような模様が現れ、それ以来あの樹木は怨念の集まった呪われた木と呼ばれていました。

そこは村人たちに忌避(きひ)され、遠ざけられていた場所であり、村ではそこに立ち入ってはいけないという掟があったので、立ち入っている子供を直ぐに出さなければ罰せられると思った私は呪われた木の下へ向かいました。

そこで、私はスカルと出会ったのです。

ええ、呪われた木の下にいた子供が、スカルだったのです。

私はここへは立ち入ってはいけないと叱りましたが、彼は頑なに首を横に振ってはその場所から離れませんでした。

私や村人たちは呪われた木へ来ることを大層怖がって誰も近寄れないというのに、スカルは平然と、まるで近所の公園とでもいうかのように呪われた木へ通い続けました。

何度か注意を施しましたが、彼がそれに従うことはなく、何度かあの子を村八分しようという話に上がることもなかったとは言えないんです。

まだ彼は子供だから分かっていないだけ、という意見もありましたが、とあることがきっかけでスカルが10歳の頃彼は実質村八分にされました。

それは、この教会にいた神父の一言から始まったのです。

スカルには悪魔が憑いている、と……神父はスカルに向かってそう言い放ちました。

スカルの母方の方がクリスチャンだったので、神父の言葉を信じ、スカルの悪魔祓いを願い出たのです。

それがきっと、彼にとって……歪み始めた最初のきっかけだったのかもしれません。

抵抗するスカルを椅子に座らせ、悪魔祓いを始める神父は何時間にも渡ってスカルに聖水を掛けては悪魔の名を吐かせようとしました。

ですが隙を見て逃げ出したスカルを追いかけようとした者達を、神父はこれ以上はスカルの身体がもたないかもしれない、と言って止めました。

だからもう少しだけ体が大きくなり、スカル君の精神力が安定しさえすれば再び悪魔祓いをする、と母親に言ったのです。

それからスカルに悪魔が憑いているという神父の言葉が村全体に広がり、彼は実質村八分状態になってしまいました。

ただこの時には既に村八分は法律で禁止されていた上に、他の村から度々警察が来ていたので、露骨な迫害は出来ず彼は周りから忌避されながらも集団の中に居座り続けました。

この時村から遠く離れたところへと移っていれば、あの子はあれ以上傷付きはしなかったというのに……

ものを投げられている時もありました、暴言を吐かれている時もありました、それでもあの子はただひたすら口を(つぐ)み、あの木の下に通い続けたのです。

それが悪魔憑きであることに拍車を掛けていき、最後には両親からも見捨てられたのです。

私は、何度か神父にこう言ったのです。

早くあの子を悪魔払いしなければ、周りがあの子を悪魔そのものであると思い始めてしまう、と。

これ以上はあの子やあの子の両親の心が壊れてしまう、と。

ですが神父は首を縦には振らず、悪魔祓いをしないままスカルは15歳へとなってしまいました。

あの子が15歳になって直ぐの頃、あの子の母親が無理心中を図り家に火をつけたのです。

だがスカルは生き残り、両親は亡くなりました。

親も、帰る場所も失ったスカルをこの孤児院が引き取りました。

あの子の両親の葬儀に私も参列し、あの子の隣で土葬されるまで見届けましたとも…

私はただじっと両親の棺を眺めているスカルに、辛ければ泣いてもいいのですよ、と言ったのです。

そしたら彼はこう言いました。

もっと笑えばよかった、と……

この時、私は本当に彼に悪魔が憑りついていることを信じて疑いませんでした。

彼に憑りついている悪魔が、炎の中で苦しみながら死んで逝った彼らを嘲笑っていたのだと、そう思っていたのです。

だから、なんの感情も宿さない瞳で土に還る両親を眺める彼が、怖くて仕方ありませんでした。

私は怖さのあまり、あの葬儀からスカルに声を掛けることが出来ず…そんな時に神父が突然姿を消してしまったのです。

神父を探す為に町の中を大勢で探し回っている時、ふと気付きました……あの者は、神父ではないと。

この者が神父ではないということに何故今まで分からなかったのかが理解出来ない程それは明白でした。

今まで本当だと思い込んでいたことが全て嘘であるという確信のようなものが芽生え、あの神父の発した言葉が全て虚言であることを理解しました。

それはスカルに悪魔が憑りついていないことを意味していて、私はすぐに孤児院に戻りスカルを探しましたが…既に彼は村を去って行ったのです。

誰にも何も言わずに…夜明け前にこっそりと村を去ったのです。

数日後、本来この村の神父をしていたであろう男性は、白骨で教会の裏庭から発見されました。

私は自らの罪に気付いたのです。

あの子は……スカルには悪魔など憑いてなどいなかった……いなかったのです。

あれは全て神父の出まかせに過ぎなかったのに、私は悪魔という恐ろしい言葉を通してでしかあの子を見れなかった!

なんて罪深いことを……ああ、どうしよう……きっとスカルは、この世を憎しみながら、恨みながら、絶望しながらこの村を去ったに違いない。

この村が、あの子に業を押し付け、縛り、苦しめてしまった!

悪魔であれと……残酷であれと…彼を狂わせてしまった!

きっと、きっと、どこかで彼の本質に触れた時に気付けたはずなのに、私は彼を遠ざけ、恐れてしまった…

ああ、ああ、私のなんと罪深いことか………神よ、私はどうすれば…っ…

どうすればこの罪を償えるのですかっ………どうすれば彼は救われるというのですか!

 

 

 

 

錯乱してしまったシスターは十字架を握り、泣きはらして枯れてしまった喉で何度もごめんなさいと呟いていた。

これ以上はシスターの体調が悪くなると思いシスターを宥めていると、シスターのすすり泣く声を聞いた神父が応接室に入ってきて、彼女の繰り返す言葉に状況を察したのか彼女を応接室の外へと連れだしていく。

応接室に残された俺達は、語られたスカルの過去があまりにも重すぎて、言葉に詰まっていた。

俺は先ほどのシスターの話で気になることがあり、バミューダに向けて話しかける。

 

「な、なぁ…もしかして神父の真似事してた男って…」

血の掟(オメルタ)を破って復讐者から逃亡していたマフィアの者だ…この村一帯に幻術を掛けることが出来るほどの力量の持ち主だった」

 

やっぱり…、ああ、どうしよう…さっきのシスターの話から、スカルが精神的に歪んじゃったのってその下っ端の人の嘘がきっかけで、スカルの行動の元凶ってマフィアってことになるの!?

 

「なるほど、狂人の紛いものを世に解き放ったきっかけはこの村であり、周りの全てだったのか」

 

バミューダの言葉に風が険しい顔を一層歪ませ、俺はバミューダにどういうことだと聞き出す。

 

「人は誰もが自らの物語(ストーリー)を持っていて、それは周りの相互関係によって創られていく…これは人間の根本的な在り方として形成していて、自己(キャラ)が弱ければ物語(ストーリー)も歪みやすくなり、自身を形成する物語を失えばそれは思考の欠如…自我の喪失と同等である」

「な、何だよ急に…」

「先ほどの女が語っていたスカルの年齢は7歳弱…人格形成に最も重要視されている時期だ」

「……?」

 

バミューダの難しい言葉について行けない俺に気付いた風さんが、つまりと付け加える。

 

「彼の場合自分というものを失い、周りが押し付けた狂人(誰か)を自己と誤認識し演じている…と、彼は言っているんです」

他者(まわり)から押し付けられた物語(ストーリー)が、まさしく狂人であった……それだけのことだ」

「それっ…て、スカルが周りに狂わされたってことだろ?」

「僕が言いたいのはその先だ…スカルに狂人という自己を押し付けたのは村人であって、狂人であれという物語(ストーリー)を押し付けたのは奴の周りである、ということだ」

「待てよ、それって!」

 

「そう、奴を最悪最恐の狂人にしたのは、奴を狂人だと恐れ(おのの)いた村人であり、裏の世界の者達であり、僕たちってわけだ」

 

奴は少し頑丈なだけの、数万人の狂った恐怖が押し込まれた、哀れな偶像だ。

僕たちが奴を狂っていると認識すればするほど、奴は自身が狂人であるという人格形成をし続ける。

皮肉なものだね……僕たちが狂人を創っていただなんて…

 

 

バミューダの言葉に、俺はショックを隠し切れなかった。

言葉を失ったまま拳を握りつぶす俺に、リボーンが他の奴等と合流するぞと応接室を出ていき、俺は直ぐに追いかけようとしたけど立ち上がる前にクロームの異変に気付いた。

クロームの顔色が目に見えて悪くなっていて俺は慌てる。

 

「クローム、どうしたの?」

「ボス………わ、私…スカルの精神世界に行った時、見たの…」

「え?」

「神父みたいな恰好をした人がずっと男の子に怒鳴ってたり……炎が蔓延してる家の中を……」

「それって!」

「うん、私が見た男の子がスカルで……私と骸様はスカルの過去を見ていたの…」

 

クロームは涙目になりながら、あの時見た景色を教えてくれた。

燃え尽きた両親の死体を間近で見ていた男の子のことや、木の下でノートに何かを綴っていたこと…

 

「子供達の声が色んな所から聞こえて……あの子は悪魔だよ、って……ずっと、ずっと…」

「クローム、もういいよ…もう、思い出さなくていいよ」

 

顔色が悪くなるばかりのクロームを宥めた俺は、一旦外に出ようとクロームの手を取る。

既に風やリボーン、バミューダは外で待っていて、顔色の悪いクロームに風さんが声を掛けてきた。

クロームが過去視をしてしまったことを伝えれば、風さんは悲しげに大丈夫ですよと言いながらクロームの頭を撫でる。

少し歩いたところで図書館に行っていたメンバーと合流することになった俺達は、合流場所で待機していた。

数分後にコロネロたちの姿が見え、漸く合流を果たした。

ユニは直ぐにクロームの顔色の悪さに気付き、クロームと共に近くのベンチへと座る。

 

「こっちはこれといって得るものはなかったぜ」

「そうだな、殆ど六道骸が言っていたことと同じだった」

「興味深い文献があると思ったが、残念だよ」

「そっちは何か聞けたのかい?」

 

コロネロ、ラル、ヴェルデ、マーモンの順で口を開くが、少しばかりの沈黙が俺達の方に流れた。

俺が口を開いては閉じたりしていると、リボーンがハットを深く被りながら呟く。

 

「胸糞悪ぃ話しかなかったぞ」

「なるほど、往来で話すものではないか…ならあちらはどうだ?」

 

ヴェルデが親指を向けた先には、脇道がありそのまま森のような場所へと繋がっている。

図書館で見つけたこの町の地図で、村人の立ち入り禁止区域があったからそこがいいだろうと言うヴェルデの言葉に俺は嫌な予感が過ぎる。

 

「ああ、確かにあったな…確か…」

「呪われた木、だろう…僕らアルコバレーノには御(あつら)え向きじゃないか」

 

皮肉ってみせるマーモンの言葉に、俺らはやっぱり…と眉間に皺を寄せる。

呪われた木という単語に俺らが過剰に反応したと勘違いしたマーモンに風さんが首を振った。

 

「その場所がスカルの過去に大きく関係していた場所だったんです…ともかく見るだけ行ってみましょうか」

 

風さんの言葉に従い、皆歩き始める。

俺はベンチに座っていたクロームにまだ休んでいいよと言ったけれど、自分も行くと言って皆の後ろをついて行った。

フラフラなクロームを心配して、俺とユニが両側で支えながら歩き出す。

10分以上歩いたところに大きな樹木が(そび)え立っていて、近くには錆びついた立ち入り禁止の看板が地面に倒れていた。

シスターの言葉通り不気味な樹木に俺は怖がりながらも近寄れば、クロームが樹木を見て目を見開く。

 

「ボス……ここ…あの辺りに…スカルがずっと…いたの」

「やっぱり…ここがそうなんだね」

「それで、一体奴の過去に何があったんだ」

 

ラルの言葉に俺じゃ説明不足だと思った風さんが、俺の替わりシスターの話をそのまま語り始めた。

スカルの過去が段々と明らかになっていくにつれ皆の顔が険しくなっていく。

風さんがシスターの話とバミューダの推測を伝えれば、コロネロが舌打ちした。

 

「チッ、胸糞悪ぃな!コラ!」

「僕らが狂人を創っていたなんて…皮肉にも程があるよ」

 

マーモンがそう吐き捨て、結局奴の居場所を割り出せる情報はなかったかとヴェルデが零す。

先ほどから黙り込んでいるユニが心配で声を掛けようとしたら、クロームが俺の袖を引っ張って来た。

 

「ボス……私がもう一度スカルの精神世界に行ってみる」

「え!?」

「骸様が絞り出したスカルの居場所に行ってみて、スカルの精神世界を特定して居場所を探してみる」

「だ、だめだよ!骸がいない今クロームだけ行かせるなんて危ないし…!」

「でもこれ以外に見つける手段はないの…お願いボス」

 

クロームの言葉は尤もで手詰まりな今打開策はクロームに掛かってるが、クロームの状態も良くはないしその表情は疲労を感じさせた。

俺が迷っているとラルが休憩を入れた方がいいのではと提案し出した。

 

「どうせ今焦っても仕方ないしあと2日と半日もあるんだ、クローム…休めば出来そうか」

「は、はい」

「ならば一旦休んだ方がいい…俺達アルコバレーノはいいとして、沢田やクロームは戦いっぱなしだからな」

「そうだな、古代生物と戦うことになった時の為に色々準備もしたいところだ」

 

ラルの言葉にヴェルデが賛同し、俺とクロームは一度休息を取るために森の広場で横になる。

日本に戻ることも考えたが、今日本に戻ってしまえば緊張が切れて集中出来なくなりそうという理由でその場で休息を取ることになる。

周りにはアルコバレーノ達がいる世界中において一番安全そうな場所で、俺達は安心して眠りにつくことが出来た。

 

 

そう、安心しきって周囲を疎かにしていたから、ユニの変化に気付くことが出来なかったんだ。

 

 

 

 




スカル:狂人から一気に哀れな人間認定された、出番はまだない、過去を洗い出されていることなんて思いもよらない。

バミューダ:今までスカルを罵倒したり憎んだりと、向けていた負の感情がそのまま自分の良心に反射するという愉悦式ダメージ反射機能を考案しスカルに付与してしまった、なんてこったい。

リボーン:バミューダの推測が正しかったらスカルをより狂人たらしめたのは自分であると理解してしまって、今までの憎しみとか恨みが全部すっ飛んだ、バミューダ考案愉悦式ダメージ反射機能によって一番ダメージを食らうのはコイツ、多分これからスカルに対して罪悪感的なものを覚えてくれれば御の字、ある意味被害者。

愉悦:この展開、我々の勝利だ!

愉悦レベル:★★★★★(Max)



※以下蛇足


「人は誰もが自らの物語(ストーリー)を持っていて、それは周りの相互関係によって創られていく…これは人間の根本的な在り方として形成していて、自己(キャラ)が弱ければ物語(ストーリー)も歪みやすくなり、自身を形成する物語を失えばそれは思考の欠如…自我の喪失と同等である」


このバミューダの台詞に、「悪について」の参考文献を1~2冊読みました、疲れましたね。
悪論はまだまだ心理学分野や哲学分野において開拓途中の命題なので、以上の文は参考文献を読んだ私なりの解釈です。
一番分かりやすいのはミルグラム実験かアイヒマン実験かな…
正直スカルの今までの行動をどうやって勘違いさせようかで迷いに迷い続けて、遂に哲学分野に手を出したことには驚きを隠せません。いやぁ、愉悦が為にここまでするとは……(笑)


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skullの危機

俺は焦った。


リボーンside

 

ツナとクロームが眠り始めた様子を横目で確認した俺は、先ほどから黙り込んでいるユニが気になり声を掛けた。

 

「ユニ、さっきからやけに黙ってるが大丈夫か?」

「リボーンおじさま……私は大丈夫です」

 

ユニなりに気丈に振る舞っているつもりだろうが、顔色が僅かに悪い。

それを指摘してやればユニは苦笑し、リボーンおじさまに隠し事は無理のようですと胸に手を置きながら呟く。

 

「未来の記憶を受け継いだ時から…私の中で誰かの声が聞こえるんです」

「声…?」

「最初は何を言っているのか分からなかったんですが、代理戦争が終わりスカルの手掛かりを求めてここへ来てからその声がハッキリ聞き取れる程強くなっていて…」

「お前のシャーマンとしての能力なのか?」

「多分違うと思うんです………予知ではなくて、何と言ったらいいのか分からないんですが…こう……誰かが私に大切なことを訴えているような」

「……声は、何て言ってるか分かるか?」

「はい……眩しい生命よ…その一言だけを延々と」

 

温もりを持っていた声が段々と焦りと不安を帯びてきていることが怖くて、と告げるユニの言葉に嘘はなく俺は考え込む。

ユニがこのタイミングでそれを明かすということは、その声はスカルと関りがあるのかもしれない。

そういえばユニは未来でスカルと接触していたハズだ。

ユニ、と名前を呼べば視線が交差する。

 

「未来でトリカブトに(さら)われそうになった時、横やりを入れてきた奴を覚えているか?」

「スカル…のことですよね」

「ああ、お前あいつと何か話したか?」

「いいえ……あ、でも私を見て祖母の名前を呟いていました」

「ルーチェの名前を…?」

「はい、私と祖母はとても似ていると聞いたので、驚いたのだと思っていましたが」

「なるほど、それ以外は何か言われてねぇか?」

「ごめんなさい、所詮記憶の引継ぎなので、全部覚えているわけじゃないんです…」

 

それだけで十分だ、と俺はユニの頭を撫でる。

ルーチェはスカルに対してよく話しかけていたが、それが関係しているのか…?

木に背を預けるユニを見ながら、かつて大空のアルコバレーノであった女を思い出した。

一輪のクロユリがルーチェの手から零れ落ちる瞬間を、スノードロップを胸に飾りながら亡き人となったルーチェの安らかな笑みを…今でも覚えている。

 

『俺はお前を信用も、信頼もしてねぇ』

『変な真似してみろ…おめーの頭に風穴を開けてやる』

『久しぶりにてめぇの顔が見れて嬉しいぜ…狂人野郎』

 

思えば俺は、あいつの声を聞いたことは殆どない。

ボンゴレと懇意(こんい)にしていたあまり、噂や人伝(ひとづて)だけで奴を一方的に敵視していたのは俺の方か。

奴が招いた惨劇も忘れてはいけない事実であり、数多の命を葬った所業は許されるものではない……

だが、それが奴の意志ではなく、偶々多くの人間が恐怖を募らせ形どった偶像に奴が当てはまってしまっただけならば……

それを咎だと断罪するには俺は無知であり、加担者であり、加害者になりうる立場だ。

中身のない空っぽの人間に、狂った思考を押し付け狂わせたのはこの村の者達で、それを悪へと昇華させたのは俺だったんだ。

ああ、くそったれ……(たち)の悪い冗談の方がよっぽどマシだ。

ルーチェ……あんたはそれに気付いていたのか?

だからこそ、あいつに手を伸ばしていたのか?

 

『あなたの死を望みます』

 

あんたは一体……あの花に何を思って、安心したまま死んでいったんだ…

 

 

「リボーン」

「!」

 

風の呼びかけで我に返り、風へと視線を移す。

俺の内心を察しているような、曖昧な笑みを見せた風はヴェルデとバミューダのいる方向へと視線を投げた。

 

「ヴェルデが一旦自らの研究所に戻り、戦力になるものを準備してくると言っていますが、あなたも何か準備が必要であればバミューダと共に今行くべきですよ」

「いや、俺はいい」

「そうですか」

 

俺と風の会話を聞いていたバミューダは、こちらに目もくれずにヴェルデと共にワープホールを潜り姿を消す。

涼し気な風が俺の頬を撫でる中、ラルの隣にいたコロネロが沈黙を破った。

 

「俺はお前らのアルコバレーノになる前…スカルとの間で起こったいざこざなんて知らねーけどよ、さっきから辛気臭ぇ空気垂れ流してんじゃねぇぞコラ!」

「あ"?」

「バミューダの言う通り、狂人を気付かねぇ内に創ったのが俺らだとしても、まだあいつは死んでねぇ……まだこれからでもやりようはあんだろコラ!じめじめしてねぇで今後のこと考えやがれってんだ」

「そうですね……コロネロの言う通り、まだ私達にやれることがあるはずです…全てやってみましょう」

 

コロネロの言葉は尤もで、奴の言葉にユニと風、ラルが賛同し出す。

俺とマーモンはコロネロの意見だということが気に食わず鼻を鳴らしながら視線を外したが、僅かに険しかった雰囲気が少しだけ和らいだのも事実だ。

俺は視線を外した先に寝息を立てながらスヤスヤと眠っているツナを視界に入れ、あまりのアホ丸出しな姿に幾分か冷静さを取り戻した。

このまま考えても埒がねぇと、取り合えずスカルを日本へ連れていく方法を考え始める。

一時間ほどすればヴェルデとバミューダが戻り、スカルとその側にいるであろう古代生物をどうするか話し始めた。

 

 

数時間経てば、ツナが欠伸をしながら体を起こした。

体力を出来る限り回復した様子に疲労は見当たらず、横でほぼ同じ頃に目を覚ましたクロームも先ほどより数段と顔色が回復していた。

時間に余裕があるわけではなかったので、クロームには忙しいだろうがそのままスカルの精神世界を探してもらう。

クロームが槍を地面に突き立てると、死ぬ気の炎がクロームの周りを覆い、クロームの意識が薄れていくのが分かった。

クロームが完全に意識の外に出たことを確認したツナは、不安そうにクロームを見つめている。

クロームがスカルを探している間、俺達はスカルに持ちかける交渉の内容や万が一戦闘になった場合の戦闘配置を決めていった。

未だスカルに対して複雑な思いがあるのか、ツナは何度か眉を顰めながら作戦を練っている。

それが戦闘で集中を切らしてしまうことに直結しなけりゃいいんだが……

 

俺は陽が落ち切った曇天を眺めなら、内心舌打ちを零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

クロームside

 

 

私の親は、私に興味がなかった。

家の中では私はいない人間で、きっと煩わしかったんだ。

両親の瞳の中に私は映っていなくて……

だから、望まれて生まれてきたのではないとすぐ気づいてしまった。

何の為に生きているのか分からず過ごす日々は、何よりも苦痛で、何よりも悲しく、今にも心臓が潰れそうなほど辛かった。

好きの反対は無関心だ、という言葉の意味を、私はこの身で味わった。

誰にも必要とされない人間は、何の為に生きてるんだろう…

何で息をしていて、何で動いてて、何で生きてるんだろう、ってずっと思ってた。

私はきっとその時、絶望の底を確かに(のぞ)いていた。

内臓も右眼も失った私を見捨てた親には、やっぱり…といった感情しか持てなくて、怒りとか憎しみよりも悲しみや苦しさの方が上回った。

私の存在はあの人たちの瞳には映っていないと……ずっとずっと前から分かっていたのに、いざ捨てられた事実を突きつけられて、もっと悲しくなった。

何でまだ生き永らえてるんだろう……それだけを考える日々だった。

寝ても覚めてもずっと、ずっと、ずっと、ずっと。

そんな時に骸様と出会って、私は救われた。

私を必要としてくれる人が存在するという事実に、救われた。

 

私は…自分が分からず、己が何者であるかも理解出来ず、有耶無耶なまま生きていた。

だから、スカルの過去を聞いて、なんとなく彼の痛みが分かったような気がした。

自分が分からない苦しみを、私は知っていて、彼もその苦しみに囚われている。

死にたく、なるよね……

私も、死にたかった。

自分を失うことがどれほど怖いことか、私は分かる。

彼はそんな苦しみに何十年も囚われ続けている。

今も、これからも…ずっと、ずっと………

 

でも、私は知ってる。

この世に救いはあったんだって

希望はあったんだって

 

きっと、あなたを傷付けない世界が、人が、周りが、どこかにあるって、教えたい。

もう苦しまなくてもいいんだよ、って伝えたい。

 

 

だから、私は……あなたを探し出して見せる

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

クロームがスカルを探し出してから既に5時間が過ぎようとしていた頃、彼女の体が急に揺らいだ。

直ぐに俺は崩れ落ちようとしていた彼女の肩を支えると、クロームの閉じていた瞼がうっすらと開かれる。

 

「クローム!」

「……ボス…遅くなってごめんなさい…」

「大丈夫だよ!クロームが無事に戻れたことに安心したよ!」

 

俺はずっと立ちっぱなしだったクロームを座らせ話を聞くと、骸がいなかった分探すことに時間がかかったらしいがスカルのいる場所が見えたらしい。

 

「イタリアで……誰も人のいない町、山を挟んで海が広がってて……海とは反対側に森があった」

 

それとスカルの隣にタコみたいな生き物もいた、というクロームの言葉にその場にいる全員の顔が強張る。

 

「あ、錆びれて最初の文字しか読めなかったけど案内標識にAって書かれてた…」

「なるほど、絞り出せたぞ」

 

クロームの言葉の直ぐ後に、ヴェルデが片手に持っていたパソコンの画面をこちらに向ける。

そこには地図があり、クロームの言葉通り海と森の間に位置していた町があった。

 

「ほぼ10年前に人がいなくなった町……というよりギリギリ村だな」

「何で人がいなくなったの?」

「公開されている情報では、人を食らう害獣が出現し村人や警察隊では対応出来なかった為に住民は避難したらしい」

「それってまさか!」

「恐らくスカルの飼っている古代生物の仕業だろうな…」

 

ヴェルデの調べた情報に俺は怖くなる。

あの生物は人間を食べるんだ。

俺達も負ければ、村の人達のように食べられて……

 

「ツナ、お前はいらねぇことばっか考えてんじゃねぇよ」

「あでっ」

「そうだぜ、俺らを忘れてもらっちゃ困るぜコラ!」

「いっだ!もう叩くなよぉ!」

 

怖気づきそうになれば、リボーンとコロネロが俺の背中を思い切り引っ叩いてきた。

急な衝撃に痛みを訴え、俺は二人を睨み返す。

確かにここには頼りになる戦力しかいないけどさ。

 

「沢田さん…大丈夫ですよ、きっと」

「ユニ……」

 

…あれ?なんだかユニが気になる、ような……

何だろう、ユニに違和感を覚えるなんて…体調でも悪いのかな?

でも顔色に変化はないし…俺の思い過ごしかなぁ。

俺は逸れた思考を戻し、ヴェルデが特定してくれた位置へとバミューダが繋いだワープホールを見る。

 

「僕もその村には行ったことがないから、僕が覚えている中でその村に一番近い場所にワープホールを繋いだ」

「ワープホールは位置が正確でなければ繋げられないのか?」

「いいや、そういうわけではないが、今回のように全く分からない場所に行くとなれば空中に出ることがある上に、最悪土の中に埋もれたりするのだ」

「なるほど」

 

バミューダとヴェルデの会話を聞いて、俺は空中に放り出される場面まで思い浮かべてしまい、顔面蒼白になる。

瞬間移動ってすごく便利だなとは思ったけど、ある意味使いどころ間違えば死んじゃうこともあるのか。

ワープホールの中に入っていったバミューダに皆も続く。

長い間スカルを探し続けてくれたクロームの疲労を考えて、この村で待っててもいいよと言ったけれど、クロームが頑なにそれを拒んだ。

何だか今回の件でクロームがスカルに対してすごく意識してるような気がするけど何でだろうと、そんなこと考えながら俺はワープホールを潜った。

 

潜った先で、まず初めに潮の香りが鼻についた。

それが海だと分かったのは、目の前にある一面の海を視界に捉えたからだ。

そう、一面の海を。

一面の………海を…………え?

 

「は、え?うわあああああああ!?」

 

俺は咄嗟に地面を見れば、あと数㎜前へ進めば海に落ちるというような場所に立っていた。

 

「わわわわ、おち、落ちる!」

「るせぇぞツナ」

「ぐえっ」

 

後ろから軽く当たるそよ風にバランスを崩して、体が海の方へと傾き落ちそうになったところを、リボーンが襟元を掴んで後ろに引いてくれた。

俺はそのまま地面に尻もちをつき、顔を青くする。

 

「バ、バミューダ!お前知ってる場所なら大丈夫じゃなかったのかよ!?」

「知ってる場所といってもここらは地盤沈下が多くて数十年前とは地形が変わっているんでね、落ちなかったのだから騒ぐなうっとおしい」

「うっとおしいってお前…」

 

若干涙目の俺に、ユニとクロームが心配そうに声を掛けてくれる。

二人の優しさが心に沁み渡ったところで、現在の場所をヴェルデのパソコンに埋められているGPS機能で確認する。

 

「ふむ、西の方に40㎞…あの山を二つ越えた辺りが目的の村だな」

「結構距離あるね」

「ふん、視界に入る場所であれば瞬間移動は可能だ、そこまで歩く手間はない」

 

ヴェルデの言葉に俺が思ったことを言えば、バミューダが鼻を鳴らしながらワープホールを作り出す。

俺達がそのワープホールを潜れば、先ほど遠目に見えていた山の頂上へと出た。

こういう使い方が出来るんだと思いながら、山頂から辺りを見渡すが、あるのは海と山だけだった。

数回ワープホールを潜れば、クロームの見たという案内標識の場所まで来ることが出来た。

 

「ここからは歩きだ」

「え?何でだよ」

「無駄にワープを使って奴等の目の前に出てみろ…交渉以前に攻撃を仕掛けられるに決まっているだろう」

「た、確かに…」

 

ダメツナは健在か、と後ろの方で呟くリボーンの言葉にカチンと来たけど、今ここで大声をあげてもまた怒られそうだ。

案内に従って進めば、廃れた無人の村が見えた。

本当に人の気配がどこにもなく、店の中、家の中…どこも(つた)が伸びきっている。

 

「村の地図からして、今我々がいるのはこの辺りだ」

 

ヴェルデが地図を空中に映し出し、とある場所を指差す。

クロームがまじまじと地図を眺め、あ、と声を溢しては地図に指を向けた。

 

「ここ……えっと、中心の噴水から…山が後ろに見えた方向の逆に歩いていった」

「なるほど北の方に拠点があると考えていいわけだ」

 

クロームの言葉から的確に方角を割り出していくヴェルデが最短距離を指示し、割り出された道を俺達はただ進んでいった。

手分けして探すには古代生物が危険なので全員で行動することになっている。

周囲を見渡せば所々(こけ)蔓延(はびこ)り、金属はほぼ錆びついていた。

1㎞ほど歩き、クロームの言っていた噴水が見えたところで、コロネロとラルが足を止める。

二人は噴水の周りとその隣にある草むらを見つめていた。

 

「何かあったの?」

「何かタイヤのようなものを引きずった跡と……まだ新しい足跡が草むらにあった」

「じゃあやっぱりスカルはこの辺りで生活してたんだ…」

「だろうな…」

 

ラルが地面を見ながら俺に教えてくれた。

誰もいない場所で暮らすって何だか怖いし寂しそうだなぁ……

いや、スカルにとって……自分以外が一番怖いのかな。

そんなの絶対悲しいよ。

俺達が来たのは呪いを解く為だけど、このままスカルを放って置くのは…可笑しいと思うんだ。

アルコバレーノの呪いもそうだけど、スカルのことをどうにかしなきゃ…俺は絶対に後悔すると思う。

 

瞬間、俺の背筋を物凄い速さで悪感が駆け上った。

 

「‼」

 

心臓を握りつぶされたような重苦しさに、目を見開き一歩下がる。

俺だけじゃない、クロームとユニ以外の皆が腰を低く落としていた。

 

「これは、殺気か!」

「おっも……くっ」

 

風さんとマーモンの言葉でこの重苦しいものが殺気だと分かり、何が何だか分らずに膝をついて苦しそうにしているクロームとユニの元へと近寄る。

彼女達がこれ以上近づくのは危ないと感じた俺は、死ぬ気丸を飲み二人を離れた場所へと移動させた。

 

「二人ともここで休んでいろ」

「は、はい………」

「ボス、私…」

「クロームも休め、スカルを探し出したことで結構体力使い果たしてたんだ…ここからは二人を庇いながらどうこうできる相手じゃない」

 

俺の言葉に渋々頷いたクロームを確認し、俺は二人をベンチに座らせればそのまま他のアルコバレーノがいる場所へと戻る。

先ほどの場所にいたリボーンと風さんが近づいてくる俺に気付く。

 

「二人とも遠くで休ませた…にしてもなんて重い殺気なんだ…」

「この村に足を踏み入れた時から気付かれていたようですね」

 

風さんの言葉にマーモンとヴェルデの頬には冷や汗が一筋伝っていて、俺は唾を飲み込む。

バミューダとリボーン、コロネロや風は殺気に慣れれいるのか、涼やかとはいえないが幾分か余裕を持っていた。

 

領域(テリトリー)に入った時点で、交渉の余地は無さそうだな…」

 

バミューダの言葉にどういうことだと言おうとしたが、俺の言葉は喉を通ることはなかった。

目線の先に、いたのだ。

 

大きな、何かが。

 

 

(なぶ)るかのように 蹴散らすかのように 

 

蹂躙(じゅうりん)すべくこちらを見据えている

 

 

大きな 大きな 目が二つ

 

 

 

(なんじ)らの命 ここで散ると知れ」

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

傷心旅行中の俺氏、帰り道を走っているといきなり元の姿に戻ったでござる。

な…何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった…

いきなりおしゃぶりが光ったと思えば、体がでかくなって、エンジン掛けたままのバイクが一人でに明後日の方向へと暴走したと思えばそのまま崖から落ちていった。

え、なにこれ泣きたい。

バイクに跨ってたポルポが、崖からバイクごとよじ登って来た時は本気で泣いた。

にしても何で元の姿に戻っているんだろうか。

俺は何度も自分の体をぺたぺた触りまくるが何一つ状況が分からず、取り合えず家に帰ることにした。

子供用のバイクは今の俺では乗れないので、元の大きさに戻ってくれたポルポに(またが)って帰路に着く。

久しぶりに元の姿に戻ったはいいけど、これ社長になんて言えばいいんだよ。

また運ちゃんするのやだぞ俺。

家に着くと俺はすぐさま元の姿で乗っていたバイクを置いていた車庫へと向かう。

結構年数立ってるから動くか分からないバイクのエンジン部分を確認していると、ポルポがいきなりお外に飛び出していった。

どしたん…

 

「主、そなたはここで待っていろ」

 

と言われてバイクを弄りながら待つこと数分、急な轟音が聞こえたのでビックリした俺は車庫から飛び出した。

外に出れば少し離れた、森を超えた辺りで煙が漂っている。

はいぃ!?ポルポお前何したの。

屋根裏部屋に行き煙の出た場所を覗いてみれば、人らしき影が7つ…とポルポが何やら戦っているように見える。

しかも、だ。

人らしき影の大半が見覚えのある奴等ときた。

これはもしかしなくても:殺される

殺人鬼集団が俺ん家特定してきたオワタ……

今ポルポが足止めしてるからこれに乗じて逃げようかな?

いやいや待て待て、もしポルポがあいつらに殺されたらどうするんだよ。

っていうかあいつらまで元の姿に戻ってんのかよ!もっとポルポやばいじゃん!

ひえぇぇ、怖ぇぇえええ…

何で俺にヘイト集中してんの、俺何かしたっけ…?

それよりもポルポ救出してこの町から逃げねば。

俺は直ぐに車庫に戻り、バイクのエンジンが動くかを試す。

若干不穏な音が出ているけど、怖くて乗れないとか言ってる場合じゃねぇ!

家の中にあった最低限必要なものをバイクのトランクへと詰め込んでいく。

パソコンは諦めて、他には………あ。

家の中を見渡していると、護身用にと社長から渡された拳銃が視界に入る。

いくら俺でも死地に出向くのに手ぶらは怖い。

使わないことを祈りながら拳銃を腰に差して車庫へと急ぎ、バイクのエンジンをかけた俺はポルポがいるであろう森の向こう側へと走りだした。

 

ちくしょおおお、俺が何したって言うんだよぉぉぉおおおおおお

 

 

 

 




スカル:大体こいつのせい、訳も分からず命狙われてて涙目、ポルポ連れて逃げる算段を立てる。

不穏な音が出るバイク:なるほど俺の出番か。

クローム:スカルに共感するところがあったのか、誰よりもスカルに対して同情的。

リボーン:愉悦式ダメージ反射機能の影響をもろに受けている、もっとやれ。

ツナ:スカルを救い隊、今後の超直感に全てが掛かっている。

超直感:いっそ殺せ



愉悦レベル:★★★☆☆

~以下蛇足~

村と町の違い:()()では、色々と条件はあるのですが人口面でいえば町は8千人以上、それ以下は村というラインがあり、元々「町」だった場所がその後に人口や施設が減少しても、名称はそのまま「町」で固定されるので、めっちゃ村やんって場所でも昔町だったなら町のままで放置らしいです。
日本の「市町村」にあたるものはイタリアではすべて「Comune」なので明確な区切りはありません。ですが今作品では日本の感覚で名称分けして書いていたので、そのまま区分方法も日本のものと同じにしておきます。


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skullの失心

俺は逃げたかった。


沢田綱吉side

 

 

「汝らの命 ここで散ると知れ」

 

重く禍々しい声がその場に低く木霊した直後、悪寒ともいえぬ形容しがたい何かが俺の脳内を過ぎる。

咄嗟に腕を目の前にクロスさせた俺は、大きな衝撃と共に足が地面を離れ、全身にとてつもない圧力を感じながら肺が押さえつけられたかのような苦しさを覚えた。

吹き飛ばされた、と気付いた時には壁に叩きつけられる直前で体勢を立て直す暇もなく俺は背中を壁に打ち付ける。

 

「がっ……」

 

痛みよりも、肺に溜まる空気を外に出せない苦しさが上回った。

咳き込む形で漸く吸えた空気に、息苦しさが和らぎ痛覚が蘇る。

背中に激痛が走るが、なんとか立ち上がり目線を上げれば、目線の数十m先でリボーン達が戦いを繰り広げていた。

速過ぎる…初動を見切れなかった…

古代生物はその禍々しい8本もある触手を巧みに操りアルコバレーノ達と対峙している。

ヴェルデとマーモン、コロネロが後衛、ラルとリボーンが中衛、バミューダと風が前衛で交戦していて、前衛だった俺は直ぐ皆の場所へと戻る。

触手を潜り抜けた俺は、風を背後から攻撃しようとした触手を殴り飛ばす。

 

「ありがとうございますっ」

 

風が礼を述べるが、その表情に余裕はない。

バミューダがワープを使いながら古代生物の視界を攪乱(かくらん)させている上に、攻撃を本体へと加えているが、目立って効いた様子はなかった。

コロネロのマキシマムライフルを容易く弾き飛ばすなんて……触手を覆う鋼が硬すぎる!

よく見れば触手には雲属性の炎を纏っていて、俺は雲属性の炎の効果である絶対的遮断力を思い出した。

触手の表面の鱗に纏っている雲属性の炎が、俺達の攻撃を覆っている炎を全て遮断しているんだ!

だから中衛後衛の攻撃よりも物理威力のある前衛の攻撃の方がダメージ貫通力があったのか。

それでも前衛が与えられる物理威力も鋼の鱗でほぼダメージは通っていない…

俺の方に押し寄せる触手を、死ぬ気の炎のバリアで防ごうとするが、威力を相殺するだけで体力がガンガン削られていくのが分かり、俺は眉を(ひそ)める。

 

「前衛!下がれ!」

 

ヴェルデの言葉に、俺は足に力を入れ地面を蹴り、後方へと飛ぶ。

ラルの側へ着地すると同時に、背後からいくつものレーザーが通り過ぎる。

 

「ウロボロス‼」

「マキシマムライフル‼」

 

マーモンが発動した術で、古代生物の周りに尖った牙が並んだ口だけしかない触手が襲い掛かる。

加えてその触手の周りをコロネロのマキシマムライフルが螺旋状に覆い込んだことで、古代生物の炎を纏った固い鋼を僅かに砕いた。

漸く攻撃の糸口が見えてきた俺は、XBURNER(イクスバーナー)を構える。

イクスバーナーを構える俺以外の前衛二人が再び、攻撃を加えだした時だった。

手の平から発せられる炎の圧力が徐々に強くなるのを感じながら、背後からエンジン音にしては不規則な音が近づいてくることに気付く。

嫌な予感がした俺はイクスバーナーの動きを中止し、背後へ警戒強めると、視界の中に突然黒い影が見えた。

遠すぎてそれが何であるか分からなかった俺に、それが危険なものであることを超直感が告げていた。

皆避けろと叫ぼうとした瞬間、大きな爆発音と共に全身に熱風が襲い、俺はそのまま空中で顔を腕で守る。

頬をチリチリと焦がす熱気に視界を覆う腕をゆっくりと解けば、目の前はあちらこちら炎が漂っていた。

前衛の風とバミューダには爆発の影響はなく、中衛のリボーンとラルは少し火傷を負っていたが戦闘に支障を来たす程度ではなかった。

もろに爆発に巻き込まれた後衛は、受け身を取れたコロネロ以外が倒れている。

あまりの惨事に目を丸くする俺の背後で、誰かが着地する音を聞き、目線を古代生物へと戻す。

するとそこには、黒い影があった。

 

「お前…は……!」

 

俺達が探していた、本来の目的である人物…スカルが立っていた。

黒いスーツに黒いヘルメットを被った奴が、熱気を物ともせず涼し気に古代生物の隣に佇んでいたのだ。

俺はスカルの登場に驚くが、戦いに来たのではないということを伝えるために叫ぶ。

 

「スカル!俺達はお前と戦うために来たんじゃない!」

「アルコバレーノの呪いを解く為に同行して欲しいだけです!」

 

俺の言葉に被せるように風が目的を付け加えるが、スカルは無言のままこちらを見据えるだけだった。

 

「誰もお前を傷付けるつもりはないんだ!」

 

俺の叫びに耳を貸した様子のないスカルは、自身の背中に回る古代生物の触手を軽く三度ほど叩いた。

その合図に古代生物がスカルを背後に移動させ、俺達に向かって一気に黒い液体を吐き出す。

寸で所で瞬間移動を使って回避したバミューダとは別に、僅かに液体を被ってしまった風が後衛の位置まで後退していた。

液体を被った足を押さえている風を見て、チェッカーフェイスの言葉を思い出した。

 

『致死性の極めて高い毒を持っていて、血液は勿論、皮膚接触も毒の侵入経路だ』

 

「あの生物の毒…即効性ですよっ」

 

苦し紛れに伝えてくる風の頬には汗が伝っていく。

リボーンとラル、バミューダが古代生物の動向を注視しながら迎え撃っている。

 

「リボーン!後衛で応急処置をしてくれ!」

「チッ、ここは任せたぞ」

「ああ!」

 

晴属性の炎を持つリボーンを後ろに下がらせた俺は、前線で古代生物の毒を避けながら攻撃を繰り出す。

目の前にはこちらを零度の眼差しで睨みつける古代生物と、奴の後ろへと姿を半分隠しているスカルがいた。

何を言っても彼らに届く言葉はないと早々に悟ってしまった俺は、全力で倒す覚悟を決める。

ラルや俺の息は既に荒く、段々と疲労が見えてくるが、古代生物も明らかに疲労してきているのが分かる。

反応速度が遅くなっている古代生物に、バミューダの重い攻撃が当たった。

僅かに後退した古代生物にやった、と思ったのも束の間、バミューダがいきなり叫んだ。

 

「前衛中衛下がれ!奴の毒は気化するぞ!」

「な!?」

 

俺とラルは驚きながらも、指示通り距離を取る。

 

「なるほど、先ほどからやけに呼吸が乱れると思っていたが奴の毒を微量に吸い込んでいたのか」

「そういうことだ、何か策を講じねば奴に近付くことさえ出来んぞ」

 

今戦っている者達の中で一番動き回っているから毒が回るのが速いのか、バミューダの腕が僅かに震えていることに気付いた。

痙攣のような震えを、拳を握ることでどうにか抑え込んでいる様子のバミューダと、俺と同様に呼吸がし辛いラルを除けば、今動けるのはリボーンとコロネロのみ。

だが二人は中衛と後衛向けで、前衛の俺とバミューダが抜けるのは痛手だ。

くそ…どうすれば…!

手詰まりかと焦っていると、ラルが後衛のコロネロを呼ぶ。

 

「コロネロ!俺とお前でここら一帯に雨の炎を張るぞ!」

「そういうことか…!」

 

援護射撃をしていたコロネロがラルと共に上空へと銃口を向け、何発か発砲する。

弾丸に纏っている雨の炎が辺り一面に広がると共に、俺は先ほどより幾分か息がし易くなったことに気付いた。

視界の端にいるバミューダの腕も震えが収まっていた。

 

「あの古代生物の毒は雲の炎を纏っている…体内に入ればその毒は即座に増殖していくから、その進行を雨の炎の鎮静で遅らせた」

「その鎮静で我々の攻撃力も下がるというデメリットも伴うがな」

「直ぐに死ぬよりはマシだろう」

 

ラルの言葉で漸く呼吸しやすくなった理由を理解したけど、バミューダの言う通り俺達の炎も雨の炎の鎮静で下がったのが分かる。

このタイミングでリボーンがやっと中衛に復帰出来たことで、戦況を仕切り直すことが出来た俺達は、攻撃力が下がらないコロネロとラルの攻撃を中心に古代生物へと挑む。

 

 

「いくら毒の進行を遅く出来たからと言っても、毒に侵されていることは事実だ……ここから時間勝負だ!」

 

 

 

ラルの言葉に気を引き締めた俺は、古代生物へと拳を振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

バイクが爆発してしまった。

いや、意図的にそうやろうとしたんではなくてだな……

確かにエンジンが変な音するなぁとは思ってたけど、まさか走って数㎞くらいで爆発すると思わなかった。

ポルポの元へと走っていたら、ポルポを視界に入れた瞬間バイクが爆発して、そのまま空高く吹き飛ばされてた俺は、死んだなーと思いながら空を眺めていたらポルポが俺をキャッチしてくれた。

そのまま地面に着地出来る程度に落下速度を緩めてくれたポルポの隣に、足を着けて目の前の大惨事に内心頭を抱える。

ところどころ木が燃えてるし、後ろの方でヴェルデとバイパーかな?が倒れてるし。

あれ絶対今の爆発でだよね?

やべえ、傷害罪で捕まる上に無免許運転バレる。

この町に人がいないから、このまま炎が木々に燃え移って山火事になったらそれこそヤベぇ。

 

「お前…は……!」

 

近くに空を飛びながら髪の毛や腕が大炎上してる子供が俺を見て驚いている。

あれ?この子供どこかで見たような………?

いやその前に頭!

大炎上してるよ君の頭と腕!

何で熱がらないの?頭おかしいの?

 

「スカル!俺達はお前と戦うために来たんじゃない!」

「アルコバレーノの呪いを解く為に同行して欲しいだけです!」

 

子供の声と一緒に近くにいた風が叫ぶ。

呪いを解く為に同行…ってもう呪い解けてるじゃん。

いや仮に呪いがまだ解けていないとして、解いたら即死ルートじゃん。

やっぱコイツら俺殺そうとしてるわ!

ていうかそんな重装備で戦うため以外に何で来たってんだよおい。

 

「誰もお前を傷付けるつもりはないんだ!」

 

取り合えず男の子の方はその頭と腕の炎をどうにかしろよぉぉぉおおおお!

大炎上してんじゃねぇかああああ!

何この光景…カオスすぎる。

ラル姉さんとリボーンがこっち睨みながら拳銃構えてる…

あと貴族風のハット被ってる人と、後ろの金髪のお兄さん誰ぇぇぇ…

こんな奴等の話無視して逃げようぜポルポー。

これ以上は俺らの命が危ねぇって。

俺の背中に回ってるポルポの足をタップしながら逃げようと声を掛けようとすれば、ポルポが俺の後ろへと退かせる。

 

「御意、主」

 

ん?

 

「そなたは我の後ろでコバエ共の消え逝く(ともしび)をゆるりと眺めよ」

 

んん?

いやポルポ逃げようって……

ポルポに腕を伸ばしかけたところで、ポルポが前方に墨を吐いた。

ポルポーーーー!?

ポルポが吐いた墨が地面に付着し、地面が溶けだす。

あの墨って後でめっちゃ痒くなるやつだ。

墨がもろにかかったのか風が後ろに移動して足を抑えてた。

地面一面はポルポの墨で真っ黒になっていたけど、地面が墨を吸収してるのか段々と黒さが薄くなっていく。

するとポルポの足が凄い速度で前方にいる人たちに襲い掛かった。

正直速過ぎて見えない。

俺は怖くてポルポの背後に隠れようとした時、ポルポの表皮が若干紫色になっていることに気付いた。

何ぞこれ。

待て、これどこかで………あ。

ずっと前に夢の中で見た紫色の炎だ。

あれ?じゃあこれ夢?

いやいやいやこんなリアルな夢があってたまるか。

ポルポの表皮を触ってみるが熱くなく、どちらかといえばあったかい。

じゃああの空飛ぶ男の子の髪の毛や腕に纏ってる炎ってこれと同じもの?

なら炎上の心配はないか…じゃない、それどこのファンタジー。

どうなってんだ…ワープホールみたいなものを作ったりできる奴はいるし、熱くない炎出す奴はいるし、何よりも空飛んでるやついるし。

んー……一体どうなって……いややっぱ関わらないのが一番だよな。

あとさっきから周りが水色の炎で充満してるんですがこれ何。

ポルポがずっとあいつらと戦ってくれてるけど、これポルポがやられたら俺殺されるんじゃね?

なにそれ怖い。

段々と戦闘が激しくなるのを感じて、俺はもう逃げたくて仕方なかった。

でも向こうも結構疲れてるし、このまま気絶に持っていければそのまま逃げれる…

今ここでポルポ止めても逃げる隙ないから決着つくまで見守るしか出来ない俺氏、めちゃくちゃ怖い。

だってさっきから耳元でビュンビュン鳴ってるんだもん!

ヘルメット越しでも聞こえる音に内心怯えていると、真横の森の奥から人影が見えた。

白いマントに白い帽子のようなクッションを被った…どこかで見たことのあるような幼女が、こちらへと走ってくる。

しかもそれに気付いてるの俺だけときた。

どこで会ったか全く覚えていないけれど、めちゃくちゃルーチェ先生に似ているその幼女と目が合ったような気した俺は、再び戦場を見渡す。

今来たら高確率で巻き込まれて死んでしまうであろう場所に幼女が乱入しようとしている現状に、俺は焦りまくる。

リボーンは死んでもいいとして、幼女はアカン。

ロリコンじゃないけど、幼女はアカン。

 

「来るなユニ‼」

「ユニ!?何でここにっ」

 

俺以外の周りも幼女の存在に気付き、幼女の名前を叫ぶ。

ユニ…?はて、どこかで聞いたことあるような……?

俺の思考を他所にポルポが幼女を認識して、足の一本を幼女へと伸ばした。

あ、ちょ……ポルポその子は駄目っ…

幼女へと伸ばされたポルポの足の軌道を逸らそうとして数歩足を出した時だった。

 

 

大きな衝撃が全身を襲うと共に急に体が重くなった。

一気に明るくなった視界を最後に俺の意識はそこで途切れる。

 

 

 

 

 

 

ユニside

 

 

 

それは突然起こった。

 

いきなり私たちを襲った殺気に動けなくなり、沢田さんに連れて来られた安全な場所で一息ついた時だった。

体の自由が効かなくなり、勝手に立ち上がった自分の体に驚き焦る。

 

「ユニ…ちゃん?」

 

隣に座っていたクロームさんが私の挙動に肩を跳ね上げ驚きながらも、こちらの様子を(うかが)っていた。

 

「あの、体が勝手に…!」

 

自分の状態が理解出来ず、困惑している私はクロームさんにそれを伝えようとした矢先に、足が勝手に走りだした。

後ろの方でクロームさんが私の名前を呼んでいるけれど、私はそれを気にする余裕はなく、勝手に動き出す自身の足に困惑する。

そして再び、あの声が脳裏を反芻(はんすう)する。

 

 

      眩しい生命よ

 

 

ああ、まただ…またあの声が……

私の意識の外で動く自分の体に恐怖はなく、困惑ばかりだったが、脳裏を過ぎる声があまりにも悲しくて…辛くて…苦しそうで、思わず涙が零れる。

 

「あなたは、一体、誰なんですかっ…」

 

走り続ける体に息が追いつかず、息を荒げながらも声を絞り出すが返答はなく、焦燥だけが募っていく。

どうして……どうしてこんなに悲しくなるの…

心臓が苦しい…哀しい……辛い…

 

 

      死んでいい人などいない

 

 

誰かが泣いている声がする

愛しているのだ、と何度も叫んでいるような声がする

 

 

     死んでよかった命などないのだ

 

 

ごめんなさい、と謝る声がする

それは暖かくて寂しくて哀しくて…まるでお母さんが死ぬ前に私に言った時のそれのようで

 

息を荒くした喉が渇いて痛い

胸が苦しい

でも、それでもこの足を止めてはならないという強い想いが心の底から湧き上がってくるのだ

 

私は頬を伝い口の中に入った涙を飲み込み、森の中を走り続けた。

 

 

十数分以上も走っただろうか、既に足が痙攣していて思うように動いてくれない。

何度も木の根元に足を引っかけては(つまづ)く。

土塗れの膝に目もくれず立ち上がっては、直感に任せて走り続ければ段々と激しい音が聞こえてきた。

視界の中に広範囲に渡る雨の炎を捉える。

あれだ……!

最後の力を振り絞り走りだした私は漸く木々の間から人影を捉えた。

それは黒いレーシングスーツとヘルメットを被った、私が探していた人で、未来での記憶が蘇る。

 

 

 

『生きろよ』

 

 

 

思い出した。

私が生きたい、と生に(すが)った彼の言葉を…

 

スカル、と叫ぼうとしても震える喉からは吐息しか零れず、私は彼へと手を伸ばした。

震える足で地面を蹴り、はち切れんばかりの心臓が激しく鼓動する。

 

「ユニ!?何でここにっ」

「来るなユニ‼」

 

沢田さんやリボーンおじさまの焦った声が聞こえるが、今の私に考える余裕はなくただ目の前のスカルへと走る。

目の前にいるスカルも私を捉えていて、体を傾けた。

 

 

刹那、私の視界に赤が飛び散った。

 

 

 

 

       

        眩しい生命よ

 

 

 

 

視界に飛び散る赤と共にノイズ混じりの声が、確かに私の奥底で震えた。

 

 

 

 

 




スカル:大規模な爆発を起こしてマーモンとヴェルデを倒しちゃったテヘペロ☆、ポルポの後ろでビビって隠れてた、幼女は人類の宝だと思っているがロリコンではないと本人は断言している。

ポルポ:スカルからいわゆる「やっちゃえ!バーサーカー!」の合図()を受け取り広範囲に渡り毒を撒く。

ユニ:おや?ユニの様子が…

アルコバレーノ+ツナ:マーモン・ヴェルデ・風が戦線離脱、ツナ・ラル・バミューダは毒状態、リボーン・コロネロは比較的軽症。





【挿絵表示】

「やっぱ二次創作バレは嫌だよねって話」


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skullの喪失

俺は何も知らない。


リボーンside

 

「応急処置をするから傷を見せろ」

 

スカルの起こした爆発で吹き飛ばされ意識を失い倒れ伏しているヴェルデとマーモンの状態を軽く確認した俺は、二人を戦場から遠ざけた場所に寝かせた後、古代生物の毒を足に浴びて後退した風の元へ駆け寄り傷を見る。

液体を被った部分の布は溶けたのか、露わになる足首からふくらはぎにかけて黒い染みが広がり、染みの周りは火傷したように炎症を起こしていた。

毒の進行を危惧して服の一部で太腿部分を強く縛り付けている風は、余程痛みがあるのかその表情に余裕はない。

 

「動かせるか」

「無理…です、ね……痛み以前に…麻痺している」

 

出血が酷いわけではないが、少しでも空気に触れれば骨にまで痛みが響くという風の言葉に毒の侵食が早いと判断した俺は患部に晴の炎を流し込む。

細胞の活性化を施したところで全治するわけでもないし、痛みがなくなるわけでもない。

いや、逆に細胞を活性化させることで神経が過敏になり先ほどよりも痛みは増しているハズで、その証拠に風の額に浮かぶ脂汗が頬を伝い服を湿らせていく。

俺の出来ることは一つだけ……毒によって細胞が死滅し、足が腐食するのを防ぐ為だけに最低限細胞を活性化させることだけだ。

激痛に耐えている風には悪いが、足が腐り落ちるよりはマシだといわんばかりに俺は炎を注いでいき、段々と毒の進行が遅くなっていくことに気付いた。

そしてふくらはぎから膝にまで炎症が広がる頃には、黒い染みの毒の侵食は止まっていた。

腐食が止まるほど細胞を活性化させることが出来た俺は炎を収め、スーツを脱ぎ患部を強く圧迫しながら縛る。

うめき声が聞こえるが手を休めず、一通りの応急処置が終わった俺は、シャツの袖を(ひじ)まで(まく)り上げ拳銃を右手に持ち直し戦線に戻った。

前線は雨の炎が充満し、晴の炎で身体能力を上げようとしても中々思うようにいかず内心舌打ちする。

戦力が落ちたのはあちらも同じであり、先ほどよりも攻撃が通りやすくなったし疲労が蓄積されていくのが見て分かる。

このままいけば押し通せるかと、この戦いに勝機を見出した。

触手を避けていく中一向に動こうとしないスカルに視線を向ければ、奴は全く別の方向を眺めている。

一体何を…と奴の視線の先を見れば、そこには今まさにここへ向かってくる白い影が視界に映った。

 

 

 

「来るなユニ‼」

 

 

俺の声にツナや他の奴もこちらに走ってくるユニの存在に気付き、驚愕の声をあげる。

何故このタイミングでユニが…!

ツナがユニの元へ近寄ろうとした時、俺は視界に捉えてしまった。

 

ユニへ手を伸ばしかけた、黒いグローブに包まれた手を、向けられた足を

 

 

そして

 

 

古代生物に躱され行き場を失ったコロネロの狙撃が、奴の頭と胸に吸い込まれていく瞬間を

 

 

 

小さく何かが割れる音が、宙を舞うヘルメットの破片が、地面に飛び散った血が、酷く脳裏に焼き付いた。

 

 

人ひとりが地面に横たえた音と共に我に返った俺は、古代生物へと視線を移す。

そこには血だまりをただ無言で覗き込み、微塵も動かぬ体を呆然と眺める巨体が佇んでいた。

 

「……ぁ…」

 

古代生物の鋭く生え揃った牙の隙間から音が零れ落ちた。

 

「あぁっ…………ある、じ……あるじ…」

 

じわじわと血溜まりが広がっていく。

 

「あるじ、主………ア、……アア、ある…ジ……」

 

ヘルメットの破片が散らばる地面を這いずる音が静かに響き渡り、まるですすり泣くような縋りつく声に側にいたツナは言葉を失い、遠くにいたユニはその場に崩れ落ち茫然自失になったいた。

 

(ようや)く……ようやく……………そなたの、望みが……叶ったのだなぁ…………」

 

その言葉は、やはりスカルは死ぬことを望んでいたのだと…確信するには十分だった。

 

 

「そなたの弔いを………会稽(かいけい)()げようぞ」

 

 

瞬間背筋に言い寄れぬ悪寒が走り、気付けば俺は声をあげていた。

 

「お前ら下がっ―――――――――――」

 

言い切る前に、重い衝撃が全身に走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

 

目の前に飛び散る鮮血に言葉を失くしていた俺がリボーンの声で我に返れば、視界の端で何かが吹き飛ぶのが見え、俺はそれを目で追う。

そこには数十m先まで飛ばされ、地面に膝をつき腹を抑えている俺の相棒の姿だった。

 

「リボーン!」

「沢田!前だ‼」

 

ラルの声に反応した俺は前を見ずに上空へと飛べば、足の下を何かが物凄い勢いで通過する。

俺は直ぐに体勢を整え地面に着地し視線を古代生物へと向ければ、そこには目を見張る光景が待ち構えていた。

黒い液体が奴の体から、目から、口から、赤黒かった触手の表面を覆う鱗の隙間から止めどなく溢れだしていたのだ。

 

「あルジ………ああ、………ワが主………」

 

うわ言の様に呟いている奴の周りの木々が段々と枯れていき、大きな木の幹さえも腐り果てていく。

奴を中心に段々と地面が黒ずんでいき、黒い液体が溢れ出す。

俺はあまりに(おぞ)ましい光景に体が竦み、心臓から足の指先まで凍ってしまったように動けなくなった。

そんな中、急に襟元を掴まれ後ろへと強い力で引っ張られ、俺は驚いて後ろを振り返る。

 

「沢田!しっかりしろ!」

「ラ、ラル…」

 

ラルの言葉で漸く体が動けば、自身の足のすぐそこまで黒い液体が迫っていたことに気付き青褪める。

すぐさま一歩後退し辺りを見渡せば、ユニをコロネロが抱えて後方の安全な場所まで移動させていた。

バミューダは古代生物に注視していて、リボーンは吹き飛ばされた場所で動けないでいる。

 

「これって…」

「チェッカーフェイスが言っていた逆鱗のことだろうな」

 

俺のつぶやきにバミューダが応え、俺はチェッカーフェイスの言葉を思い出す。

 

『あの種族の逆鱗に触れると全てが闇に染まる』

 

全てが闇に………

まるであの古代生物から溢れ出る全てを飲み込む黒い液体に闇を垣間見たような

死よりも怖い何かがドロドロと俺達に這い寄ってくるような

 

俺は(すく)みそうになる足を動かし後ろへ退こうした時、視界の端に黒い液体に飲まれるスカルを捉えた。

ヘルメットが割れたスカルの顔は血まみれで、紫色の髪が黒く染まっていく。

まだ生きてるかもしれない、と黒い液体に飲まれるスカルへと手を伸ばそうとして悪寒が走り、その場を飛び退く。

先ほどまで立っていた場所には黒く滲んだ触手が叩きつけられていて、俺は古代生物へと視線を戻した。

 

「まだスカルが生きてるかもしれない!助けられるかもしれないんだ!頼むからスカルを助けさせてくれ‼」

 

震える心臓を押さえつけ、俺は叫んだ。

今にも涙が出そうなほど怖いけれど、それでも今俺は逃げてはいけないと何かが訴えていた。

 

「怒りを収めてくれ!俺達はスカルを助けたいんだ‼」

「黙れ人間」

 

あまりにも静かで、低く、ざらついた声に俺の心臓は音を上げて震えあがった錯覚を覚える。

黒い液体を零す瞳は俺を捉え、その瞳には確かに怒りが滲み出ていた。

 

 

「貴様らの浅ましき身勝手さで我が主を生かすだと……?……助けるだと?」

「俺達はっ…」

「思い上がるなよ人間‼」

「っ…!」

 

 

俺を捉える二つの目はただただ憎々し気に、絶望と怨念を映し出す。

 

「我が主の不幸を貴様らが救えるものか………手を伸ばすことも出来ずに彷徨(さまよ)いもがき苦しみ続けた哀れな我が主の苦痛を……生き永らえた絶望を……貴様らが救えるものか‼今すぐ(ほふ)ってくれるわ!」

 

その言葉は俺の胸に突き刺さった。

そうだ、スカルを狂わせたのはマフィアで、村人で、俺らで……皆だ。

生きていることが苦痛で、でも死ねなくて、ずっとずっと死にたがって………

 

「だけど……」

 

痛くて辛くて怖くて、楽しいことが一度もないまま死ぬのは…

 

「やっぱり……助けたいんだ」

 

悲しすぎる

 

 

 

「俺は!スカルを‼助けたいんだ‼」

「世迷言を‼」

 

 

 

俺の叫びに怒りをより募らせた奴は、黒く染まった触手を振り上げてきて、俺はすぐさまその場を離れる。

次々襲い来る触手とまき散らす毒液を、毒が回りつつある俺は痺れる出す体に喝を入れながら避け続けた。

段々と周りが腐食していく中、俺とバミューダの前衛が毒で動きづらくなる。

XBURNER(イクスバーナー)を撃とうにも触手が素早く構えることすら出来ずにいた。

そんな時だった。

コロネロと対峙していた触手の一本が凍り出し、俺は目を見開いた。

 

 

「僕たちを忘れてもらっちゃ困るね」

「全くだ」

 

背後からの声に俺は思わず振り返り、二つの陰に目を見開いた。

 

「マーモン!ヴェルデ!」

「チッ、頭に響くから黙ってくれないかい」

「それには同意するな」

 

そこには頭から血を流していながらも、気丈に佇むマーモンとヴェルデがいたのだ。

スカルの起こした爆発で気絶していた二人の意識が戻ったようで、流血している頭を抑えながら前方の古代生物を睨みつけていた。

マーモンが(おもむろ)に手を上げると、俺達と古代生物の間に巨大な火柱が現れ、俺は数m後退する。

 

「俺達が目くらましをしている間にXXBURNER(ダブルイクスバーナー)の準備をしろ」

 

側から掛けられた声に視線をズラせば、帽子の飛ばされたリボーンが立っていた。

無事だったのかと言おうとしたが、リボーンの左手で抑えている腹部の血を見て言葉を飲み込む。

俺の視線に気付いたリボーンが舌打ちをしながら、致命傷じゃねぇと言いながら俺の前に立った。

リボーンの言葉を思い出した俺はすぐさま後ろへと後退し、XXBURNER(ダブルイクスバーナー)の構えを取る。

圧縮された炎がガントレットから噴射され、腕へと徐々に圧が加わる。

標的は古代生物であり周囲への被害を最大限に抑えるとしたら………奴の斜め下か。

目の前ではアルコバレーノ達がまさに死闘を繰り広げていて、皆徐々に気化する毒で身体が思うように動けなくなりながらも古代生物の注意を引き付けてくれていた。

遂に噴射口から放たれる炎の圧力が安定し、声をあげた。

 

「バミューダ‼俺を奴の目の前に連れて行ってくれ!」

 

俺の声に反応したバミューダが、俺の意図に気付き直ぐ側にワープしたかと思うと、次の瞬間俺の目の前には黒い液体で覆われた禍々しい鱗が視界に入った。

古代生物とふいに交差した視線に思わず息を飲むが、そのまま口を大きく開け雄叫びの如く全てを吐き出すように俺は炎を噴射した。

 

 

 

XXBURNER(ダブルイクスバーナー)‼‼」

 

 

 

代理戦争で威力の上がった俺の炎はD・スペードを倒した時よりも強大で腕が悲鳴を上げるのも構わず、俺はただ全てを吐き出す。

古代生物の触手の鱗に炎が触れ、次に体表を覆っていた黒い液体が飛び散り、地面が抉れ、全てが真っ白に変わりゆく光景に目を細めた。

 

『僕は、守れただろうか…』

 

ふとどこからともなく、聞こえたような小さな声に、自分の温かな大空の炎に包まれながら俺は目を見開く。

 

 

『大切な家族を』

 

それはまるで愛し気で

 

『全てから』

 

それでいて苦しそうに

 

 

 

 

『守れただろうか――――――――』

 

 

 

泣き出しそうな悲しい声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポルポside

 

 

我の(まなこ)が鮮血を捉える。

散りゆく赤と、そなたの薄く閉じかけた瞼の隙間から垣間見えた光のない瞳と、黒光りした破片と……

(あら)わになった紫の頭髪が日差しを浴び、乱雑に(なび)く薄紫色は陽だまりで眠っていたそなたを思い出した。

地面に横たえた主に近付けば、我が眼は胸に開く空洞と額から流れる夥しい鮮血を明瞭に映し出す。

その顔は血まみれだというにも関わらず、まるで眠っているように安らかだった。

苦痛に満ちた顔でも、悲壮に塗れた顔でもなく…ただいつものように瞼を閉じ寝息すら聞こえてくるほど穏やかであった。

主、と口が言葉をなぞるが声は出ず、ただ胸の内でごぽりと何かがせり上がる。

 

『可哀そうな人達だよ……………俺なんか産んでさ…』

 

「あぁっ…………ある、じ……あるじ…」

 

主の口元から零れる血が額から流れる血と混じり合う。

 

『もう…疲れたんだ』

 

「あるじ、主………ア、……アア、ある…ジ……」

 

『疲れたんだよ……』

 

 

もう二度と開かぬであろう瞼に、絶望や怒り、悲哀の中で一抹の安堵を覚えた。

もうこれ以上そなたの涙を見ずして済むのだと…これ以上苦しみもがく姿を見ずして済むのだと………安堵したのだ。

出来る限り声を穏やかに、我は主に優しく呟いた。

 

『誰もいない場所で……休みたい、かな…』

 

 

「漸く……ようやく……………そなたの、望みが……叶ったのだなぁ…………」

 

 

眠るように瞼を閉じる主に、目頭が熱く感じた。

何かが目から零れ落ち、それが毒液であることに気付く。

全てを解かすであろう毒液が主の頬へと滴り落ちるが、主の頬に何も起きずそのまま頬を伝い髪を黒く染めた。

 

「そなたの弔いを………会稽(かいけい)()げようぞ」

 

 

止めどなく溢れるソレは きっと 涙に似ていた。

 

 

我は視界に入る目障りな障害を端から退けようと足を振り回せば、主が最も嫌悪していたであろうハエの腹を貫いた。

遠くまで放り投げたがあの傷ではまだ生きているだろうと内心舌打ちをしながら、他の者を見渡す。

視界は明瞭ながらも目頭が、喉元が、全身が熱を帯びている。

胸の内側から溢れ出る怨嗟と共に毒液が表皮から滲み出てくる。

 

「あルジ………ああ、………ワが主………」

 

脳が沸騰しそうなほど熱く、しかし思考は明瞭で、闇へと染まる我が身がこれ以上となく心地よかった。

主…主………あるじ……

目の前でコバエが主へ近づこうとしたところを、我は足で払えば距離を取ってくる。

だがコバエはこちらを見ては怯えながら吠えてきた。

 

「まだスカルが生きてるかもしれないだろ!助けられるかもしれないんだ!頼むからスカルを助けさせてくれ‼」

 

なんと煩わしい耳障りな声だろうか。

 

「怒りを収めてくれ!俺達はスカルを助けたいんだ‼」

「黙れ人間」

 

我は静かに怒りを表した。

助けるだと?死が救いである主を生かすだと?

 

「貴様らの浅ましき身勝手さで我が主を生かすだと……?……助けるだと?」

「俺達はっ…」

「思い上がるなよ人間‼」

 

なんたる傲慢………!

主がどれだけ苦しみ、恐れ、涙したことか!

死ぬことを望み、求め、救いとする哀れで愛しい我が主よ。

 

「我が主の不幸を貴様らが救えるものか………手を伸ばすことも出来ずに彷徨さまよいもがき苦しみ続けた哀れな我が主の苦痛を……生き永らえた絶望を……貴様らが救えるものか‼今すぐ(ほふ)ってくれるわ!」

 

主を追い詰めた者を許しはしない

世界を 人間を 主に害成す全てを許しはしない

 

 

「俺は!スカルを‼助けたいんだ‼」

「世迷言を‼」

 

 

その戯言と共に貴様の首も全て葬ってくれる!

我はコバエに対して足を振りかざし、周りのコバエ共も殺しにかかる。

致命傷に至る傷を負わせることが出来ぬまま、ただ周りの木々が腐れ朽ちていく。

男の首を狙おうと毒液をまき散らしながら鱗をぎらつかせた足を振るおうとした時だった。

己が足が凍てつき、遠くの方で二つの影があることに気付いた。

チッ小賢しい!

毒液をまき散らし気化し続ければ目に見えて周りのコバエ共の動きが鈍くなっていく。

じわじわ嬲り殺そうと思ったがその気も失せ、そ奴等の首を狙って足を振るいだす。

徐々に熱が上がる我が身の欲するままに、体の内側からどろりと得体のしれぬ常闇(とこやみ)を吐き出した。

まるで本能に従うかのように闇を受け入れた我が身は、呪詛を吐くが如く毒を垂らし、牙を剥く。

 

その時だった。

 

 

目の前に二つの小さな眼が現れ、視線が交差した。

 

 

XXBURNER(ダブルイクスバーナー)‼‼」

 

 

雄叫びとも取れるようなその声と共に、我が身を焼き焦がすような炎が目の前に溢れ出た。

至近距離から放たれたその炎は我が体内へと流れ、身の内から我を焼き尽くすように燃え(たぎ)る。

炎の濁流で足の感覚は既に失い、全身に掛かる圧に既視感を覚えた。

 

それはまるで大海原で産声もなく生まれ落ちた我が身に襲い掛かった水のような…

 

 

『お前の好きな海に行こう』

 

ふと脳裏を()ぎるのは主の、悲し気な瞳だった。

まるでそれでよかったのか、と我に問いただしているようで困ったように笑っている。

 

主よ、悲しき顔をするな

哀しき眼をするな

我は己が選んだ道を 悔いてはいない

 

そなたと共に在れたことを 心の底から感謝している

 

 

 

主…………あるじ……我は…………僕は、守れただろうか…

 

 

スカルを  大切な家族を

 

 

  世界から 全てから 守れただろうか―――――――――

 

 

 

『あ、りがとう…ポルポ』

 

 

 

その言葉と共に思い出したスカルの顔は、炎の濁流に飲まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 




ポルポ:ビッグバンテラおこサンシャインヴィーナスバベルキレキレマスター、正真正銘の茹ダコになった。
リボーン:腹を貫かれて中傷、まだスカルの素顔を見ていない。
まぐろ:安定のダブルイクスバーナー。

顔バレだと思った?残念まだでした。


次回予告『穏やかな顔して死んでるみたいだろ…ウソみたいだろ……眠ってるんだぜ、それで…』

次回は文字数が桁違いで多くなるので来週に投稿します。



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skullの本心

俺は恐ろしかった


りんごの甘さと酸味、そしてパイ生地の食感を味わう中、アップルパイの入っていたパッケージを見つめる。

店の名前はなく、どこかの雑貨店で買えるであろう代物だということがパッと見で分かるそれは、今自身が口にしているアップルパイが手作りであることを意味していた。

身振り手振りで表現するほど美味しいというわけではないこのアップルパイだが、なかなかどうしてフォークが伸びてしまう。

キャラメル色のパイ生地は光沢を帯び、熱されたリンゴの黄色がパイ生地の間から見え隠れしているそれは少しばかり冷めているものの、僅かに温かさを帯びていて焼き立てだと分かった。

料理を得意としているわけではない自身の作る料理はどれも質素で、お世辞にも美味しいと言えるものではないことを自覚しているので、美味しいと素直に喜べる食べ物は久しぶりだったような気がした。

アップルパイのパッケージには手紙とまではいかない小さなメモ程度の紙が貼られていて、アップルパイの保存方法と期間が書かれていることに、差出人の気遣いが表れている。

最後に買い出しをしたのが一週間前とあって冷蔵庫は空っぽで、アップルパイを箱ごと入れるスペースがあったのを考えて、食べきれない分をパッケージへと戻した。

その際、仕舞ったまま忘れぬようパッケージに付いていたメモを冷蔵庫の扉に貼る。

翌日の朝、冷蔵庫に入れていたアップルパイを取り出し一切れだけ皿に装い口へ運ぶと、焼き立ての時とは異なり抑えられた甘さが口に広がった。

まだ半分以上あったなとは思ったけれどこれ以上甘いものを食べる気分にもなれず、少しずつ食べることにする。

その夜冷蔵庫を開けてみれば存在を主張していたハズのパッケージの姿はなく、首を傾げながらキッチンを見渡すと、ペットの口元からアップルパイの甘ったるい匂いがするではないか。

折角のおやつが…と落胆しながら名残惜しそうに別のおやつへと手を伸ばした。

 

数日後、仕事の都合で隣町へ訪れた時に鼻につく香ばしい匂いに足を止め、辺りを見渡す。

視界の端にはケーキ屋さんがあり、懐かしい匂いにその店へと入れば案の定アップルパイが陳列していた。

ペットが食べてしまったアップルパイを思い出し店員にアップルパイを数切れ注文すると、店員は一切れずつ切られたパイをパッケージに詰め、レジへと誘導する。

財布の中にある数枚のコインと引き換えに得た香ばしいアップルパイを腕の中に納め、ご満悦で帰路に着いた。

自宅に着けば早速と言わんばかりにフォークでつついたパイを口の中へ放れば、焼き立ての熱さと甘さが口の中に広がり、グラスに並々と注がれた水を飲み込む。

予想通りの美味しさに満足するが、何故か今一つ物足りない。

手作りと店で売られるものの違いだろうか…と首を傾げるも、冷蔵庫で冷ました後のパイも物足りなかった。

はて、過去の記憶は美化すると聞いたがまさにそれが原因だろうかと自己完結し、それ以来アップルパイを買うことはなくなった。

人並みに料理の知識があるかと言われればないと答えるのは、知ったところで覚えることが出来ない以前に覚える気すらないからだ。

 

にも関わらずアップルパイの保存方法と期間だけきちんと覚えているのは、きっと冷蔵庫の扉にマグネットで貼られているメモ用紙が、外されるのを忘れられてポツリとまだそこに在るからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生暖かい風が頬に(かす)め、前髪が後ろへと流れ額が露わになったのをぼんやりと感じた。

全身の感覚が覚束(おぼつか)なくて、長く眠っていた後の気怠さが覆いかぶさるように重く感じる瞼を通して

太陽を直視したような眩しい光が瞳へと差し込み眉を(しか)める。

うっすらと瞼を開ければ、辺り一面の眩いオレンジ色の光が視界一杯に映った。

驚くのも束の間、驚愕で眠気が冷めつつあった脳が危険信号を送るように頭と心臓に激痛を流し込み、俺は声にならない悲鳴を上げる。

そこで漸く額を流れる何かに気付き痺れる感覚の残る腕を動かし額を指でなぞれば、案の定赤い色がべっとりと付いている自分の指の腹に何とも言えぬ恐怖を抱く。

二日酔いさながらの頭痛を堪えながら心臓の場所へと手を伸ばせば、そこにはぽっかりと穴が一つ。

穴が……一つ。

 

 

 

あ、コレ死んだわ。

 

 

熱風に包まれた俺はそう悟ってしまった。

え、まずこんなにポッカリ空いときながら何で生きてんの?何で意識あんの?

俺の生命力に脱帽通り越してもう怖さしかねぇよ。

痛いまま死にたくないし、そのままスヤアって逝きたかった。

口の中に溜まる血で咳込み、地面が赤一面で覆われる光景に本格的に泣きたくなった。

痛いし怖いし苦しいし、なにこれ辛い。

痛みで眠れなくてこのまま苦しみながら死んで逝くのかと思うともうガクブル状態で、膝が笑い過ぎて立てない。

頭の痛みが吹っ飛んだ今とにかく心臓が痛い。

意識がこんだけハッキリしてるってことはもう少し起きたまま痛みに堪えなきゃいけないわけで……いっそ殺せよ。

あ、ポルポ……ポルポどこ。

頭のおかしなアルコバレーノ達にリンチされてたらどうしよう。

最期まで一緒にいてくれるって言ったのに、どこ行ってんのアイツ…

目に血が入って前が良く見えない。

あ、風が止んだ…

 

風に(なび)いていた前髪が額に降りてくると共に、何度か瞬きをしてると目の中に入ってしまっていた血がとれて視界が露わになっていく。

激痛に顔を歪ませながら仰向けで横たわる体を回し、うつ伏せの状態で肘を地面に着け上体を少しだけ持ちあげれば視線を前へと移した。

そこには抉られた地面と焼き尽くされた木々しかなく、一瞬にして思考が固まる。

そんな中で視界の端に黒い影が見え、目を凝らした俺は痛みも忘れて声を零す。

 

「ポ………ルポ……」

 

 

くたびれたように横たえ、黒い墨が辺り一面に血のように飛び散っていて、少し離れた場所に人の影があった。

人の影はまさしく先ほどポルポが戦っていた奴等で、俺を殺そうと活気になっていた殺人集団だ。

悲惨な光景に言葉を失った俺に湧き上がったのは恐怖と怒り、悔しさだった。

ポルポが死んだかもしれないという恐怖と、ポルポを傷付けたあいつらへの怒りと、何も出来ずに死ぬかもしれない自分への悔しさが入り乱れる中、鮮血で潤う喉を鳴らしながら震える指で拳を握り締める。

小さく咳き込んだ拍子に地面に零れ落ちる赤と、ゴトリと何かが地面へと落ちる音を聞き、腰に引っ掛かる感覚に視線をズらせば視界の端に映るのは黒光りしている金属光沢だった。

社長から渡された時は絶対に今後使う機会はないと思っていたお陰で何年も手入れをしていないソレは、正しく発砲出来るかなんて不確かだったけれど、もう天国への片道切符を渡された俺に怖いものはないと数十年前に握って以来触らなかった拳銃へと指を伸ばす。

ポルポから離れろと叫ぼうとしたが、口から洩れた声は喉からせり上がって吐き出された血で掻き消された。

流石にこの体勢で撃てないと思った俺は、地面に着けた手と震える膝を曲げながらふらりと起き上がる。

心臓から血が流れ出て全身から力が抜けていくような感覚に歯を食いしばり、絶え間なく血が流れる心臓を左手で押さえながら、ぼやけた視界で一番嫌いな人影を捉えた俺は銃の照準をそいつへと絞った。

ハッキリ言って初心者な俺の射撃センスは底辺で、当たる確率なんて何万分の一以下であることは分かり切っているし、仮に当たっても達成感や爽快感よりも罪悪感が上回ることくらい分かっているけれど、何か一つでも報いることが出来るならば………俺はきっと後悔することなく死ねると思ったんだ。

 

 

 

 

未だ立ち上がった俺に気付いていないあいつに向かって、俺は引き金を迷いなく引いた。

 

 

 

 

 

 

リボーンside

 

 

ツナのXXBURNER(ダブルイクスバーナー)が周りの森林を一掃し、その場を中心に暴風が荒れ狂った。

近くにいたアルコバレーノを横目で確認すれば各々衝撃波を凌いでいて、奥にいた風がユニを庇っているのが分かり一先ず味方への被害がないことに視線をツナのXXBURNER(ダブルイクスバーナー)へと戻す。

段々と威力が収まり死ぬ気の炎が鎮火していけば、ツナの目の前数m先に古代生物が横たわっていた。

あれを正面から喰らって尚まだ息があるのか巨体が上下に揺れていて、腹部に走る痛みに途切れそうになる警戒をその巨体へと向ける。

右手に拳銃を構えたまま、肩で息をしているツナの隣を通り過ぎ古代生物の息の根を止めようと引き金を引こうとした瞬間だった。

 

一発の発砲音と右腕に伝わる衝撃に目を見開き、自身の腕から飛び散る血飛沫と同時に激痛がこの身を襲う。

すぐさま銃で撃たれたことを理解した俺は、衝撃で右手から離れ地面に落ちた銃に目もくれず、発砲源へと視線を移せば驚愕を露わにした。

 

「あれで……生きてたのか!?」

 

俺の視界の先には、表情が見えぬほど夥しい量の血を額から流し紫色の髪を所々赤く染めながら左手で心臓を抑えているスカルの姿があった。

あの傷と出血量で死んでいないことに、チェッカーフェイスの半不死性という言葉を思い出しては口の中に広がる鉄の味を飲み込んだ。

いつ死んでも可笑しくない重症でこちらを見据えている奴の姿に、俺の側にいたツナが俺を庇うように目の前に出てきて、俺は驚くと共にスカルの指が僅かに動いたのを視認してツナをどけようと手を伸ばした。

 

刹那、その場に声が木霊(こだま)す。

 

 

「やめてスカル!」

 

 

ツナへと血まみれの腕を伸ばそうとした俺は、予想に反して聞こえた哀愁を覚えるその声にまず思い至ったのが幻聴だった。

声のする方へと目線をズラせば幻覚を疑う光景がそこにあったのだ。

俺よりも背丈の少し低い白い影がツナと俺の前に両手を広げて立ちはだかり、ネイビーの後ろ髪を揺らす。

 

 

俺は一度たりとも 忘れたことはなかった 

 

 

その大空のように広く温かな背中を

 

 

「ルー…………チェ……」

 

 

 

俺の零した名前に他のアルコバレーノ達がその名前を呟きだしたのを聞き、あれが俺の幻覚ではないことを理解し困惑する。

死んだハズの人間が目の前にいる現実に、問いただすべき言葉が見つからず喉を血生臭い吐息だけが通る。

動揺している俺の隣でツナがユニと呟いていて、俺は違うと零した。

 

「ユニじゃねぇ……あれはルーチェだ」

「ルーチェ?ユニのおばあさん…?その人は死んだハズじゃ……」

「ああ、ルーチェは死んだ………はずだ」

「ほ、本当は生きてたってことなのか!?」

 

違う、あの時ルーチェの亡骸を俺達はこの目に刻んだ。

あの花を胸に抱きながら安らかに眠った亡骸を、俺は一度たりとも忘れたことはない。

けれど、目の前の光景に僅かな期待を持ってしまった俺はツナの言葉に返すことが出来ずにいた。

俺はユニのいた場所へと視線を向けるが、風だけが呆然とそこに佇んでいるのが視界に映り、ユニを探そうと忙しなく視線を動かしているとふいにルーチェが歩き出した。

その場にいた誰もがルーチェへと視線を定めては唾を飲む中、俺はルーチェの向かう先を見て言葉を失う。

 

 

血まみれで表情が読めないはずのスカルの顔が………確かに恐怖で満ちていた。

 

 

 

 

 

 

ルーチェside

 

 

おしゃぶりに宿る私の残留思念が意思を持ったのは、娘の死を見届けた時からだった。

私の一族の宿命とすらいえる短命の呪いは娘を殺し、孫をも縛り付け、悲しい連鎖を延々と連ねていった。

何故私という残留思念が意思を持ったのかは分からないけれども、これも運命(さだめ)なのだと自分に言い聞かせ、アルコバレーノの生末をおしゃぶりを通して見守ることにしたのだ。

けれど、あの子の話を聞けば聞く程私の中に渦巻く言い知れぬ激情が沸き上がってしまう。

最期に垣間見たあの子の愛を知りながら祈ることしか出来ずに死んでしまった私の(とが)とでもいうように、あの子は今も尚苦しみ誰にも手を伸ばせず悪名だけを皆の心に残していく。

私が導かねばいけなかった……いけなかったハズなのに、彼の心を荒らしたまま私は彼を置いて逝ってしまった。

リボーンがあの子を忌み嫌っている姿に胸を痛ませながら、あの子の無事を祈ることしか出来ない自身の無力に嘆くばかりで、私の思念が現おしゃぶりの所有者であるユニへと流れ、ユニを不安にさせていることさえ気付かなかったのだ。

スカルの故郷へと足を運ぶ頃には私は気が気でなく、彼の過去を耳にした時は思わず涙した。

そしてクロユリを叩き落としたあの時の彼の心情を今になって漸く理解したのだ。

怖かったに違いない……辛かったに違いない……

村人から指を指され罵られ貶され傷付いた心の傷はそう容易く癒せるものではない。

村から逃げた彼が殺しへと手を染め、マフィアに関わり、裏世界で悪へと昇華したのはきっと私たちのせいだ。

あの子の本質を誰も見つることが出来ず、ただ狂った偶像を押し付け、助けを求めることすら知らぬ幼い子供に呪いを植え付けた。

きっと、きっと…愛などあの子にとって恐怖以外の何物にもなりはしないのだ。

触れたことすらない愛を彼に教え導こうとしたのは私のエゴで、彼がさらにもがき苦しむことなど容易に想像出来ておきながら愛を願って欲しいと中途半端に彼に情を与え置いて逝った。

私が死んでから20年以上…彼はずっとずっと、私の植え付けてしまった愛という名の呪いに苦しみ生きてきたのだ。

ああ、私の罪は一人の子供の狂った人生をさらに修羅の道へと落としたことだ。

自分だけ救われ、満たされた死を迎えるなど………なんて浅ましく愚かだっただろう…

それでも…自由()を願うあの子を救いたいなどと……

 

愛しいのだ 愛しいのだ 愛を知らぬ哀れなあの子が

 

どれほど身勝手なことかは理解していても、周りが彼という哀れな()()を理解してくれるのは今しかないと分かっているからこそ、私はあの子をこの世に繋ぎ止めたいと思うのだ。

だから、あの子が横たえる未来を垣間見た私はユニの体を借りてまで手を伸ばした。

 

死んでいい人などいない 死んでよかった命などないのだ

 

限界の近づく幼い体を酷使してまで森を走り続けた私に待っていたのは残酷な現実だけだった。

目の前で鮮血が飛び散る中、私の中で今までの思考が走馬灯のように脳裏を過ぎる。

今にも消えそうな命に、あるはずのない心臓が打ち震え涙が零れた。

 

 

「ユニ‼」

 

 

側から聞こえる張り上げた声に我に返ると、コロネロが私を抱き上げその場から離れる。

咄嗟のことに反応出来なかった私は、視界の端に映る横たえたあの子に手を伸ばすも虚しく空を切った。

風の隣へと連れて来られた私を置いて前線に戻ったコロネロに、すぐさま立ち上がろうとした私は側にいた風に押さえ付けられる。

 

「だめですユニ!危険だ!」

「あ………」

 

風の言葉に口から零れるのは私の言葉ではなく、ユニの恐怖に震えあがった悲鳴にもならない呟きだった。

どれだけ私の意志が強くてもこの身体はユニのものであり、ユニの意識はそのままなのだ。

まだ幼いユニにこの惨状は酷で、心を壊してしまうと気付いた私はこれ以上この子の体を身勝手に使うことはいけないと無意識に駆け出そうとする自身に言い聞かせた。

目の前の戦いよりも、その奥で横たえる血まみれのあの子が視界に映る度に、心臓が押し付けられるように苦しくなる。

今すぐにでも駆け付けて、抱きしめて、泣き出したかった。

 

「……ルーチェ、おばあさん……なのですね」

 

ふいにユニが口を開き、私の名前を呟く。

 

「ずっと……ずっと………スカルを助けようと…叫んで、いたのは………あなただったんですね…」

「ユニ?」

 

いきなり喋り出したユニに側で風が困惑しているのも関わらず、私は愛しい孫であるユニの涙を零す瞳を覗き込んだ。

敏いユニは今までの現象が私の思念故のものだということに気付いたのだ。

 

「私は……怖くて…動けません…だから…ルーチェおばあさんが、スカルを……私の代わりに……助けて下さい」

 

ユニはおしゃぶりの埋まっているであろう胸を震える両手で押さえ、私に語り掛けるようにそう呟いた。

瞬間、温かな炎と共におしゃぶりに宿った私の思念が膨れ上がる。

スカルを…彼を救いたいんです、と心の底から聞こえてくるユニの声に私の意志が共鳴し、既に失った生者としての温もりが私に蘇った。

閉じられた瞼をうっすら開けば、心臓の鼓動が、体を巡る血液が、口から漏れ出す吐息が…全てを物語っていた。

 

「ユニ、一体どうしたんですか」

 

その声に横を向けば風がこちらを心配そうに見つめていて、私は肩を押さえられていた彼の手を解くと立ち上がる。

走りだそうとすれば風が慌てて私を引き留め、声を荒げた。

 

「あちらへ行っては駄目だ!ユニ!」

「風、離して」

「!」

 

凛とした声が喉を通り、口から零れる。

 

「いや………そんな馬鹿なっ…」

「私はあの子に救われた」

 

風が驚きに目を見開いていて、私は掴まれた腕をやんわり解き、風の瞳を見つめた。

 

「あ、あなたは……」

「今度は私があの子を救うわ」

 

風の口が私の名前を形どるが、その震える喉から漏れた音はその場に響き渡った大きな騒音に掻き消された。

私が目の前を振り返れば大空の炎がその場を埋め尽くし、私は腕で顔を覆いながらスカルの倒れているであろう場所へと走りだす。

距離が離れている上に暴風が前方から進みを妨げる中、目を細め砂埃で見え辛い前へと視線を向ける。

漸く視界が晴れたと思った瞬間、一発の発砲音がその場に鳴り響き私は目を見開く。

先ほど重症を負わされ横たえていたスカルが、リボーンへ銃口を向けていたのだ。

リボーンの前に庇い立つボンゴレ10代目にスカルが引き金を引こうとした時、私は思わず地面を蹴って駆け出した。

 

 

「やめてスカル!」

 

 

喉が張り裂ける程大声で叫びあげた私は両手を広げてスカルの前に立ちはだかる。

私の後ろ髪が風に流される中、背後から聞こえるアルコバレーノ達の困惑した声に、生前と同じ容姿になっていることに気付いたが、それでも私の目線はスカルに注がれていた。

およそ20年ぶりに見るあの子の顔はあの時と変わっておらず、血で見え隠れした美しいアメジストの瞳は恐怖を描いていた。

私の存在に心底怯えているあの子の唇は僅かに震えていて、口元から血が垂れるのにも関わらずスカルは声を絞り出す。

 

 

な……で…あんたが………

 

 

掠れた小さな声が、ポツリと…零れる。

 

「スカル」

 

スカルの怯えた声に反して、私は穏やかな声で彼の名前を呟いた。

私が近付けばあの子が一歩ずつ後ろに下がり始め、その顔は恐怖で塗り潰されている。

あと数歩で触れるところまで来ると、スカルは銃口を私へと向け、後ろの方で誰かが何かを構える音が聞こえた。

 

「やめなさい…攻撃をしては駄目」

 

私の凛とした声が響き、背後で皆が動揺するのが気配越しで伝わる。

私が一歩歩いたと同時スカルが拳銃の引き金を引くが、発砲音と共に銃弾が私の頬の直ぐ側を通過した。

急な発砲音に誰もが焦りを見せるが、依然として私は怯えることなくスカルへと手を伸ばす。

 

触るな‼

 

乾いた音と共に私の伸ばしかけた手がスカルによって払われ、悲痛に塗れる掠れた声が私を断罪しているようで心臓を締め付けられるように苦しかった。

スカルは心臓を押さえていた左手で顔を覆うと、うつらうつらとか細い声で呟いていく。

 

ああ、あんた…は……死んだ……死んだんだ………

「…スカル、聞いて」

嫌だ…いやだ、いらない……来るな、きえろっ

「スカル、お願い…私の声を聞いて」

いやだっ……いやだ!

 

まるで子供の癇癪のようだった。

否、癇癪だったのだ。

愛を恐れた彼の精一杯の拒絶で、今まさにスカル(あの子)の領域へと踏み入れる瞬間に、私は立たされている。

私は出来る限り優しく彼の名前を呼びながら彼の顔を覆う左手へと触れれば、僅かに彼の肩が震えた。

 

「スカル……大丈夫、私はあなたを傷付けない」

うそだ……うそだ、うそだ……

「私はいつだってあなたの味方よ」

 

固く覆われている左手をゆるりと解いてやれば、それはいとも容易く剥がれ落ち、隠れたアメジストが露わになった。

いつか見た美しい瞳からは止めどなく涙が零れていて、額から流れる血と混ざりあって頬を伝う。

怯えた瞳を真っ直ぐと向けられた私は一瞬たじろぐも、両手でスカルの頬を包み込み視線を交わす。

 

「あなたを置いて逝ったことを…ずっと後悔していたわ…」

 

意地汚く生き延びていれば……きっと、あなたにここまで苦しい道を歩ませはしなかった。

 

「私しか……あなたの本質を知る者などいないと……分かっていたのに」

 

スカルの瞳から零れる涙を拭おうと指を動かそうとした時彼の体がガクリと傾き、崩れ落ちると思ってしまった私は彼を支えるように抱きしめる。

膝を地面に着いた私と彼の距離はゼロで、彼の体温がレーシングスーツ越しに伝わった。

腕の中で離れようと力の入らない体で暴れる彼を宥める様に背中に回した腕で彼の背を(さす)る。

私の白い服が彼の血で赤く染まる中、彼の体がずっと震えていることに気付き私は涙した。

 

「……ああ、哀れで…愛しい……スカル……泣かないで…」

 

もう、あなたを傷付ける者はここにいないのよ……と優しく語りかければ、(ようや)くスカルの抵抗が止まる。

耳元で聞こえる鼻を啜る音に、落ち着くまで背中を摩ろうとしたが、彼の零した言葉に私の手は空を彷徨った。

 

なんで………なんで…俺、だった…んだよ………

 

 

掠れて苦し気な声が  悲し気で哀れな声が  私の胸を突き刺す

 

 

何で………俺が………狂人に…ならなきゃ、いけなかったんだよ………

 

 

狂った偶像を押し付けられた哀れな子共は初めて自らの言葉を発するのだ

心の奥底に閉じ込められた彼自身の言葉を

 

いやだ………もう、いやだぁ"………

 

血だらけの喉を掻きむしりながら息をしていた彼の本心を

 

怖いのも……痛いのも…苦しいのもっ…つら、いのも………

 

傷だらけの心が 壊れかけの心が 今にも死んでしまいそうな心が叫んだ助けを

 

 

「もういやだぁぁあ"あ"っ…」

 

 

それは ひどく か細い 悲鳴だった

 

 

 

私はスカルを優しく零れ落ちぬよう抱きしめ嗚咽(おえつ)を漏らした。

怖かったね、悲しかったね、苦しかったね、辛かったね、痛かったね………頑張ったね…

 

「もう大丈夫……大丈夫だから…私が、あなたを傷付けさせやしない」

たす…けて……たすけてっ………たすけ、て……た…すけて……たすけて…っ……

 

一心不乱に漏らす悲鳴を、彼が精一杯叫んだであろう助けてを、救いを求めて必死に伸ばされた血濡れた手を、私は唇を噛み締めながら握りしめたのだ。

段々と温もりを失っていく彼の体温に、私は焦りながら言葉を投げかける。

これからあなたは自由になるのだと、好きな場所に住んで、好きなように生きて、好きなことを見つけて、好きなものを食べて、好きな人に出会えて……これから幸せに生きるのよと何度も言い聞かせるように声を掛け続けた。

スカルの反応が著しく低下したことに私は誰かを呼ぼうと視線をアルコバレーノ達へと移そうとしたが、耳元に届く小さな、小さな声に息を飲んだ。

 

アップ、ル………パイ…………手作り、の……あたた、かい…

 

……何十年も昔のソレを………覚えていた……

捨ててしまっててもいいと、自己満足のような形で渡したソレを…覚えてくれていた

 

 

「ああ、スカル………ありがとう……ありがとう…」

 

 

救われたのは私なのか

 

 

来世……では……普通に―――――――――

 

 

 

そう云い残してだらりと脱力したまま気を失ったあの子を、あらん限りの力で抱きしめた私は声に出してみっともなく泣いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

カチン、と軽い音と共に引き金が途中で止まり、俺は一瞬思考が止まった。

そして直ぐにとある単語が頭に浮かび、声もあげずに心の中で叫ぶ。

 

 

セイフティロックぅぅぅぅぅうううううう……‼

 

 

ここは普通に発砲する場面だろうが空気読めよお前‼

ちくしょう、セイフティってどうやって解除すんだよ。

銃の知識なんてゼロな俺が構造を知っているわけがなかった。

側面についてるそれらしい奴を血濡れの左手で弄ってみれば、カチンと何かが嵌まる音がなり、ほぼ同時に拳銃を握っていた右腕に大きな衝撃が襲う。

続いて聞こえた発砲音に目を見開いていると、視界の先で赤い液体が飛び散るのが分かり一気に我に返った。

そこには腕から多量に血を流しているリボーンのあんちくしょうがいて、俺は思わず自身の握る拳銃を見るが、引き金は引かれていない。

 

もしかして:暴発

 

嘘だろおい。

ここでまさかの暴発っておい………おい。

俺が、決死の覚悟で撃とうとしてからの暴発はないんじゃない!?

っていうかよく当たったな………ああ、あんなに血が出てる………

まさか当たると思わなかったんです…、とニュースで流れる犯罪者の供述が脳裏に過ぎりながら、血飛沫を散らしたリボーンの腕を眺めていた。

案の定罪悪感に良心を往復ビンタ並みに叱咤(しった)されている俺だが、冷静になった直後でぶり返してきた激痛で卒倒までのカウントダウンが遠くで聞こえる。

 

 

「やめてスカル!」

 

そんな時にやってきた死神もとい幽霊を間近で直視した俺氏、今度こそ白目向きそうになった。

ちょ、先生何やってんすか。

いや待てあれは先生じゃなくて人違い……そうだ、親族の可能性も…

 

「ユニじゃねぇ……あれはルーチェだ」

「ルーチェ?ユニのおばあさんなのか…?その人は死んだハズじゃ……」

 

デスヨネー。

リボーン達が驚いてるってことはやっぱりこの人はルーチェ本人であって、足のない幽霊とかなにそれ美味しいの?ってレベルで地面に足ついてる系幽霊のルーチェ先生が降臨された今、天国への片道切符渡されてる俺からしたら死神にしか見えない。

もう天国への片道切符を渡された俺に怖いものはない、とか内心決め顔で言いながら銃口向けといてあれなんですけど、俺幽霊だけはちょっとNGっていうか……正直に言って死ぬより幽霊の方が怖い。

 

な……で…あんたが………

 

激痛なんてなんのこっちゃ、あわばばばばばと内心慌てまくりながら目の前の近寄ってくる白い死神さんから数歩下がる。

俺の名前を呟きながら近寄るルーチェはもはやホラーで、泣き出したい俺はてんぱり過ぎて物理干渉出来るわけない幽霊に向かって銃口を向けるという奇行に走ってしまったんだが、流石幽霊…全然気にも留めない様子でまた一歩ずつ近づいてきた。

 

「やめなさい…攻撃をしては駄目」

 

そんなのどうせ無駄ですよ、って言ってることくらい理解してるけど恐怖で指が滑って発砲した俺オワタ。

しかも当たってねーし…

発砲したのをきっかけにルーチェはまるで、これで正当防衛の理由出来ましたよね?といわんばかりの穏やかな笑みで俺に手を伸ばしてきて、俺は思わず叫んでしまった。

 

触るな‼

 

伸ばされたルーチェの腕を払えば、動いた拍子で心臓に走る激痛に霊障やらなんやらを疑っては怖がるという悪循環に嵌まっていることすら気付かない俺は右手に拳銃を構えながら左手で顔を覆う。

これはきっと夢だと極論ぶちかますが、怖かったんだもん仕方ない。

覚めろ、覚めろ、覚めろ…と頭の中で連呼し夢オチ展開を希望したが、そうは問屋が卸さないのが現実の非情さである。

 

ああ、あんた…は……死んだ……死んだんだ………

「…スカル、聞いて」

嫌だ…いやだ、いらない……来るな、きえろっ

「スカル、お願い…私の声を聞いて」

いやだっ……いやだ!

 

幻聴だと自分に言い聞かせ、何度も消えるよう口に出してみたけど遂には左手に何かが触れる感覚があり、盛大に肩をビクつかせた。

やだもう泣きたい……

鼻水とまではいかないけれど目の奥が熱くなるのが分かった。

幻聴は段々と明確に聞こえ、すぐそこにいる気配まで伝われば後はもう泣くしかないと、堪えていた涙を盛大に流しまくるいい歳こいたおっさんだが、これは誰もが泣くと思う。

 

「スカル……大丈夫、私はあなたを傷付けない」

うそだ……うそだ、うそだ……

「私はいつだってあなたの味方よ」

 

出血多量で全身の力が抜けていく俺は、ゆっくりと顔から剥がされる左手を絶望した心地で眺めることしか出来なかった。

もう目の前にあるルーチェの顔が悪魔にしか見えない時点で、早く気を失いたかった。

 

「あなたを置いて逝ったことを…ずっと後悔していたわ…」

 

道連れルート一直線の台詞にやっぱこの人悪霊の方だと再確認した俺は本格的に泣くことになるが、もう体裁なんて構っていられるかというのが正直な心境である。

ルーチェの口が開いたり閉じたりしてるけど視界が涙でボヤけている上に、声が聞こえ辛くなっている。

これはきっと俺がそろそろ死にそうだからなの?

ふいに足の感覚がなくなって脱力してしまった下半身が崩れ落ち、ルーチェに抱きしめられる体勢になった。

よく見ればルーチェの服が真っ赤で、それが自分の血であることに全く気付いていない俺は悲鳴に上げそうになる。

ルーチェの豊満な胸に顔を突っ込むという一世一代のラッキースケベすら気にしてる余裕のない俺は恐怖に駆られてルーチェの腕の中から逃げ出そうともがき出したが、腕の感覚が痺れてきていることに再び絶望する。

なんとか首を動かしルーチェの肩から顔を出した俺は、視界一面に見えた空に目を見開いた。

 

まるで俺が今死ぬことさえも些細なことだと言わんばかりの晴天がひどく薄情に見える。

澄み切った青空には雲一つなくて、綺麗なのに怖かったのは何でだろうか……

 

 

 

大空は雄大なり

 

どんなに醜悪な言葉を感情を欲望を吐き出したところで空はいつもと変わらずそこに在るのだから

 

 

 

と、どこかの学者か空想家(ロマンチスト)(のたま)っていたであろう言葉を思い出した。

いつもであれば一蹴するか流すその言葉に、今人生を分ける境目を見た気がしたんだ。

 

 

 

俺のままならない人生が憎くて、辛くて、悔しかった

 

楽になりたくてもなれなくて

自由を手に入れようとしても邪魔が入って

逃げても追いかけられて

 

相手の顔を一度だって見やしなかった俺の自業自得なんだと納得できるほど大人でもなくて

 

 

なんで………なんで…俺、だった…んだよ………

 

狂人と呼ばれたその時に、声に出して違うと叫べばよかったのに

 

何で………俺が………狂人に…ならなきゃ、いけなかったんだよ………

 

怖くて(つぐ)んだ口で違うと言えばよかったのに

 

 

「いやだ………もう、いやだぁ"………怖いのも……痛いのも…苦しいのもっ…つら、いのも………もういやだぁぁあ"あ"っ…」

 

 

もう失うものなんて何もない俺の 辞世の句にもならない嘆きを 

 

些細なことだと 物ともしない目の前の大空が

 

ひどく憎たらしくて  

 

でも やっぱり澄んだ大空は 綺麗だった

 

 

 

悪あがきのつもりで俺は痺れて力の入らない腕をルーチェの背中に回し、精一杯の力で引き剥がそうとするが、ルーチェは微動だにするどころか俺をより一層抱きしめてくる。

 

「もう大丈夫……大丈夫だから…私が、あなたを傷付けさせやしないっ……」

 

うつらうつらとしていた意識の中で正しく機能していない脳にヤンデレエンドという文字が浮かび、恐怖のあまり脳内が助けての一言で埋め尽くされたわけだが。

ああ、寒気がしてきた……

氷のように冷たくなっていく自分の体に、震える喉がより一層に震えだした。

これは死ぬる……と目を閉じて寝るまでの間を待っていると、遠くの方で声が聞こえる。

 

 

「好きな場所に住んで、好きなように生きて、好きなことを見つけて、好きなものを食べて――――――」

 

 

そんな時、りんごの甘さと酸味、そしてパイ生地のサクサクとした食感を思い出した。

 

アップルパイ食べたい…………眠い……手作りの……寒い………あったかい……

 

もう何を考えてるのかすら分からないほど朦朧としていた俺が最後に自分の人生を振り返って気付いたことがあった。

 

 

 

今世の目標のニートライフは結局一年とちょっとだけだったなぁ

 

 

来世……では……普通に――――――――――

 

 

就職活動します、って言う前に口が動かなくなってしまった俺の意識はゆっくりと遠くなっていく。

 

 

既に血の味などしなくて、血で潤う喉は心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 




スカル:何も言うまい………何も言うまい(大事なことなので二度(ry)
ルーチェ:スカルにヤンデレ死神と認識されている、知らぬが仏とはまさにこのこと、スカルを守り隊創設者。
拳銃:見事なフラグ回収ありがとうございました。
顔バレ&花言葉:アップを始めました。


次回予告「SAN値の貯蔵は十分か…?」


一万字を軽く超えました(笑)
でも途中で切って分けるのは微妙だったのでそのまま繋げて投稿しました。
字数多くて申し訳ない……


以下蛇足。

書くよりも描く方にハマってしまってストックが溜まらないこの頃ですが、本編が4月中に完結するかなぁと思ったんですけど、今の進行状況だと五月の上旬…又は中旬…になるかなぁと予測してます。
原作外+最終章というのもあって展開がかなり遅めですが、最期まで何卒宜しくお願い致します。

↓つい先日までハマってた厚塗りイラストですが、既に飽きちゃったので未完成のまま貼っつけときます。

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skullの生死

俺は眠っていた。


リボーンside

 

 

そこには雲一つない快晴を主張する空があった。

最早脅威は去ったといわんばかりの晴天は、一人の人間の悲鳴すらも拾えぬままこの身に降り注ぐ。

太陽によって熱を帯びた脳が沸々と思考力を失う中、スカルと泣きながら名前を呼ぶルーチェの声が遠く聞こえていた。

 

 

 

 

「リボーン!」

 

ツナの声で我に返った俺は、すぐさま足を動かしルーチェの元へと駆け寄る。

何度も名前を呼びかけるルーチェの腕の中で死んでいるように目を閉じるスカルを地面に横にした俺は、傷を確認しようと奴のレーシングスーツの前チャックを心臓辺りまで下げれば、ぽっかりと空いた空洞が視界に入り眉を顰める。

これでよく動けたもんだと化け物じみた生命力に感嘆すると同時に焦りを覚えた俺は、出血を止めようと考えるが、重傷なだけに圧迫止血では無理だと悟り背後にいるであろうバミューダへと声を掛ける。

 

「バミューダ、今すぐワープをボンゴレ本部へ繋げろ!本部が一番医療機器が揃っている」

「そいつを助けるのか?……そのまま死なせてやるのも(やぶさ)かではないと僕は思うがな」

「だめだ!そんなの俺が許さない‼」

 

バミューダの言葉に俺が返す前に、ツナが叫んだ。

ツナとバミューダの視線が交差し、数秒の沈黙の後バミューダが溜息を吐く。

 

「まぁ僕は彼の生死にどうこういうつもりはない…トゥリニテッセのこともあるからな」

 

バミューダはそれだけ言えばワープホールを作り出し、一番軽傷だったコロネロがスカルを背負いながらワープホールへと入っていく。

俺達もそれに続くが、コロネロの次に動けるラルだけ、クロームのこともありその場に残った。

ワープホールをそのまま残しておくとだけ言い捨てたバミューダと共にボンゴレの本部の敷地内へ姿を現わせば、その場にいた警備の者や九代目の守護者が何事かと構えだし、俺達アルコバレーノの姿を捉えて素っ頓狂な声を出す。

 

「おいおい一体どうしたってんだよ!」

 

偶然その場に居合わせた九代目の雷の守護者、ガナッシュ・Ⅲが俺達のボロボロな姿に目を丸くしながら駆け付けるなり状況を悟ったのか医療班を呼び出した。

 

「色々あって今話せる状況じゃねぇが、取り合えず治療を頼む」

「分かりました、今しがた救護班を呼びましたが……他に何か必要な人員はありますか?」

「医療班とは別に…雨の炎を使える奴を…数人連れてきてくれ」

 

古代生物の毒が回って来たせいで呼吸器官は半分ほど機能せず、呼吸が思うように出来なくなった俺は息が途切れ途切れになる。

コロネロも毒の侵入を許してしまったらしく息が荒いが、一番重症なのはバミューダとツナだ。

接近戦をしていた二人は毒の回りが早く、コロネロやラルの炎の鎮静でどうにか毒の進行を抑えてはいたが、既に毒が全身に回り始めているのか膝を床についている他、直接の原液を浴びた風は額に汗を浮かばせながらルーチェに肩を借りながら立ってる。

少しすれば遠くから複数の足音が聞こえ、それが医療班であると分かったところで気が緩んだのかツナが気を失い倒れた。

 

「全員毒にやられてる、俺の血を抜き取って…解析班に回してくれ」

「分かりました」

 

重傷者から運ばれる際に、俺はガナッシュに後から数人がこちらに来るとだけ伝えて治療室へと運ばれた。

既に体が限界を迎えていた俺は治療中の数分間、完全に意識を飛ばしていて、今思えば最強の殺し屋(ヒットマン)と呼ばれてからの数少ない失態だったと思い至る。

ただボンゴレの治療班に全てを丸投げ出来る程事態は軽くなく、意識を取り戻した俺はすぐさま他の奴等の状態を聞けば案の定新種の毒だとなんだと慌ただしくなっていた。

出血箇所の止血が終わった俺は、麻酔と点滴を受ける間だけ毒の進行を早めないように安静にしていると病室にルーチェが現れる。

 

「あちらに残ったラルも無事到着し治療中に取り掛かりました」

「そうか……」

「あまり私に時間はないので、一方的に全てを話しますが……聞いて下さい」

「ああ」

 

ルーチェは窓の外を眺めながら、おしゃぶりに残った残留思念が意思を持ったもの…それが自分であると告げた。

ユニへ影響を与えてしまったことや、ユニが一時的に体の支配権を渡してくれていること……そして何故自身がそうまでして出てきたのかを語り出す。

 

 

「あの子が…スカルが……ずっと心配だったの……」

 

 

私はあの子の本質をずっと昔に…生前に既に知っていた。

死を望んでいることも、愛を知らないことも……あの子が過酷な現実を担っていることも……全て知っていながら誰にも教えることがなかったのは、それが私の私情であり仕事に持ち出すべきものではないと判断した……人生で最大の(あやま)ち。

ずっとあの子が心配で、気を掛けていたけれど……私の方があっけなく死んでしまい、死ぬに死にきれなかった私の残留思念がおしゃぶりに宿ってしまった。

あなた達の間に大きな(みぞ)があることをおしゃぶりを通して見て、いつも気が気じゃなかったわ。

あの子の過去を知ってしまった私は己の罪を……あの子に中途半端な愛を教え必要以上に苦しめていた現実を突きつけられた。

だから……ずっともがき苦しむあの子を守りたくて、愛していると伝えたくて…

全て私のエゴに過ぎないけれど…あの子の苦しむ姿はもう見たくなかったの。

あの子を茨の道へ突き落し、より狂気に束縛してしまったのは他でもなく私……私なのリボーン。

 

 

今にも零れ落ちそうな涙を溜めたルーチェの瞳に日差しが入り込み、溜まった涙が光を反射したことで(かす)んだルーチェの輪郭は、彼女の存在を曖昧にする。

俺は何故スカルがルーチェばかりに反応するのかが納得でき、一番疑問であり憎悪の根源ともいえるであろうあの光景を思い出し口を開いた。

 

「お前はあの花を貰い……何を思って死んだんだ」

「花………スノードロップのこと?」

「ああ…」

 

こちらを見たルーチェは目を丸くしたあと、目尻から一筋の涙を零しながら微笑んだ。

 

「生きろ…と言われて嬉しくないわけがないじゃない………」

「生きろ…だと?」

 

    輪郭が

 

「ええ、だってスノードロップの花言葉は——————」

 

 

   (かす)んでいく

 

 

日差しに反射するルーチェの涙が頬を伝い零れ落ちる様を脳裏に焼き付け、彼女の口から零れ落ちた言葉が心臓に突き刺さり、小さな痛みを訴えていた。

ルーチェが(おもむろ)に呟く。

 

「ああ、時間だわ……リボーン…スカルを、頼んでいいかしら?……ほんの少し、あの子が一人で歩けるまででいいの」

「……」

「お願い…」

「………それをあいつが許容するのなら」

「それでいいわ」

 

最期に、とルーチェは俺にスカルへの言伝を頼み、俺は快く了承した。

既にルーチェの影は薄くなりユニの気配が表に出始めている中、ルーチェの声にならない言葉を俺は確かに聞き届けた。

 

 

「—————————————」

 

 

その最後にルーチェの瞼は閉じられ、特有の気配が紛散したのを感じ取りながらぐらりと傾くユニの体へと腕を伸ばす。

眠っているユニをベッドに寝かせた俺は点滴が終わったのを確認した後、麻酔で痛みのない体を起こし病室を出て現状を聞きにツナの治療室へ足を向けた。

そこは人が(せわ)しなく走っていて、奥のベッドに見慣れた茶髪を捉えた俺はそこへと近寄る。

医療器具を運ぶ為に中途半端に開けっ放しにされたカーテンの隙間から見え隠れしていた椅子を引っ張り、教え子のベッドの隣へと座った俺は、人工呼吸器をつけたツナを見下ろした。

まだ抗毒素が生成出来ていない今、ただ毒の進行を抑える以外方法はなく病室の中は鎮静の性質を持つ雨の炎で充満している。

恐らくバミューダも同じ状態だろうと視界の端にあるもう一つの閉められたカーテンを横目で流し見た俺に、背後から声が降ってきた。

 

「リボーン、もう動いて大丈夫なのか?貴様も少なくない量の毒を吸い込んだだろう」

「ヴェルデか…既に毒の進行はある程度止まってるから動けない程ではねぇ」

「だがまぁチェッカーフェイスの期限まで一日を切っている…早く抗毒素を生成せねば全てが水の泡になるぞ」

「分かっている……マーモンは?」

「スカルの心臓を霧の守護者…クロームと共に幻術で補っている」

 

未だ手術中の表示が消えないであろう方向へ指を向けたヴェルデに、俺は本格的に抗毒素に関して考え出す。

古代生物の猛毒だ…直ぐに抗毒薬が作れるとは思ってねぇが、生憎残された時間はあまりない。

毒の専門知識のあるビアンキを呼びたいところだが奴は今イタリアにいない……万事休すかと思われたその時、俺とヴェルデに声が掛かり、そちらへと視線を移せば風が松葉杖をつきながらこちらへ歩いてきた。

 

「足はどうだった…」

「リボーンの応急処置のお陰で腐敗は免れていたようで、今は麻酔で痛みはありません」

 

ありがとうございます、と礼を述べる風に俺はふと古代生物の猛毒であるあの黒い毒液が風に降り掛かった時の毒の進行速度と、スカルを飲み込んだ光景を思い出した。

 

「おい…スカルは確か古代生物の猛毒を浴びたか?」

「え?ええ…私の記憶が正しければ沢田綱吉のXXBURNER(ダブルイクスバーナー)で彼を覆っていた毒は全て拭われてしまいましたが…確かに彼はあの猛毒を浴びていた」

「だが風、お前が直接あの毒を浴びた時、かなりの速度で毒が進行していたはずだ」

「……そういうことか!」

 

スカルは同じ原液を浴びたにもかかわらず腐敗した様子も、毒に侵された様子もなかったのは恐らく奴に抗体があったからだという推測を俺と風の会話でヴェルデも気付いたようで、俺は直ぐに医療班の一人を捕まえスカルが毒に対して抗体を持っているかもしれないことを教えれば、直ぐに確認すると言い慌てて手術中のランプが光っている手術室へと姿を消した。

暫くすれば、案の定抗体を持っていたことを確認した医療班の者が、ツナとバミューダに投与し始める。

投与から数十分後にツナとバミューダの容態が回復し、あの戦場にいた者全員に抗体を投与された。

 

「リボーン!」

 

聞き慣れた知古の声に、座っていた俺が視線をあげれば増えた皺と白髪を携えた九代目がこちらへと向かってきては俺の姿に驚き、俺の状態に眉を顰めた。

漸く呼吸が落ち着いた俺の腹と腕に見える白い包帯は、今回の戦いの過激さを察するには十分だった。

ツナとバミューダの意識の回復とスカルの手術を待つだけとなった俺は、九代目に今回のスカルの件を説明しようと場所を移す。

九代目の執務室へ行き、全て…とまではいかずとも代理戦争のことやスカルの過去、奴の精神状態を、そして古代生物との闘いを話し始め、数十分に渡る俺の話は九代目が顔を覆うに値する内容だった。

 

「なんということだ……狂人を創り悪たらしめたのは我々だったなどと………」

 

相当ショックを受けたのか声には覇気がなく、俺は数時間前の自分を突きつけられたような気分になった。

俺達は無知であり、加害者だった………それがどれほどの衝撃をもたらしたことだろうか。

 

一人の人間に狂気を押し込め、悪へと昇華させ、その存在を糾弾(きゅうだん)した

 

殺し屋をしている俺からしたら倫理もくそも言えた義理じゃねぇが、それでも殺し屋としてのプライドを誇示し秩序を築き上げていた。

それがどうした、直視出来ぬ汚れ全てを一人の人間に押し込め、それを憎むことで己の秩序を確立し続けていたなど……笑止千万と鼻で笑われたところで何も言えない程、惨めで虚しかった。

後ろ指を指されて笑われようとも俺達の仕出かした罪は色褪(いろあ)せることはなく、間接的に数多の命を奪い取ったという事実が突きつけられる。

偶然から出来上がった狂気は膨らみ破裂し消えたが、残された傷跡はあまりにも深く痛ましかった。

もう苦しいのはいやだとルーチェに縋りついたスカルの声は、人の声だった。

救いを求めて伸ばすことさえ知らない手を、ルーチェは握りしめ救いだしたにも関わらず俺がしたことは何だ…?

ボンゴレと懇意にしたあまりに奴を目の敵にし、警戒し憎悪し嫌悪し忌避した。

 

 

『お前もまた奴等(村人)と同じだったのさ』

 

 

黒く塗りつぶされた、年端も行かぬであろう背丈の小さな影が口を開けて嘲笑う。

影を前にして引き金に掛けた右手の人差し指が僅かに動くが、直ぐに指から力を抜けば地面へ銃口が(こうべ)を垂れる。

でも、だなんて口にする資格のない俺は未だ(いびつ)に笑う影を覗いた。

 

 

ああ 惨めだなと 

 

    誰かが笑えば 俺はきっと 

 

 

 

  気が楽になるだろうさ

 

 

 

我に返った俺の目の前に影の姿はなく視線を落とす。

目の前のテーブルに置かれるティーカップの中に注がれている、透明さを失わぬ紅茶の表面に映し出された俺の顔は今までで一番情けなかった。

 

 

 

「スカルのことは元凶の一端を担ってしまったボンゴレが総力をあげて何とかしよう…」

「ああ」

「綱吉君や他のアルコバレーノはどうしているんじゃ」

「一命は取り留めた…後はスカルの手術が終わるのを待つだけだ」

「そうか………これは直ぐに片付く問題ではない、取り合えず今は君たちアルコバレーノの呪いをどうにかすることを優先的に考えた方がいいだろう」

 

沈黙を破った九代目の言葉に淡々と返す俺は、麻酔で痛覚が麻痺しているはずの腕の傷がひどく痛みを訴えてはお前のせいだと子供のか細い声が脳裏を反芻(はんすう)していた。

その言葉を振り切るように瞼を閉じては立ち上がり、執務室の扉へと向かう。

 

「俺は書庫にいる……スカルの手術が終わるか、ツナの目が覚めた時に誰かを寄越してくれ」

「書庫…?」

「少し…気になることが出来ただけだ」

 

それだけを言い捨てた俺は執務室を出ると、書庫へと足を向けた。

数分程歩けば目的の場所に辿り着き、医療系の専門書が陳列している棚へと向かえば、数百数千とあるだろう本の題名に目を通す。

『発達障害の知識』という本を手に取り、パラパラと数ページ(めく)る。

 

少しだけ疑問に思っていたことがあった。

村で会ったシスターの話では、幼少期のスカルは何度も注意され村人たちから気味悪がられたはずなのに呪われた木に通い続けていた。

何故、同じ場所に通い続けるという思考に至ったのか。

子供の意地にしては度が過ぎているし、常に一人だったという状況にも引っ掛かる。

両親が死んだにも関わらず放った「笑えばよかった」という場違いな言葉。

精神的に追い詰められていた、又は両親に対して並みならぬ憎悪を抱いていた……どちらでもないとしても、スカルの異常性は多々見られる。

 

まず人格形成の妨げがあったからといって誰もが自己や自我を喪失するということは考えにくい。

ということは、喪失しやすい要因があったはずだ。

不十分なコミュニケーション能力、一つのものに固定される異常な執着心、そして周りに対しての無関心さ………

目立った異常をあげていく中、探していた内容が記載されているページで指が止まる。

そこには大きく、こう書かれていた。

 

 

『自閉症』

 

 

恐らく、スカルにはこの自閉症のきらいがある。

コミュニケーション能力の乏しさ、そして相手の感情を読み取る能力が著しく低いという病状が、奴を孤立させ狂人という名に拍車をかけた大きな原因の一つだ。

専門の知識があるわけではない俺は、本棚からそれらしい題名の本を数冊抜き取り近くのデスクに座って、紙切れの間へと指を指し込みページに記述されるその文字の羅列を目で追っていった。

書庫に足を入れてからどれほど経ったのか……既に片手で数えられない数の文献が側に乱雑に重ねられ、麻酔が切れてきてるのか腹部と腕にじわじわと痛みが広がっていくのを感じながらも指はページを捲るのをやめはしない。

 

 

スカルを、頼んでいいかしら?

 

 

ふとルーチェの声が過ぎり、忙しなく動いていた目線がピタリと止まった。

ルーチェの手前ではああ言ったが自分の感情に折り合いをつけ切れていないのが現状であり、そう容易いことではないと自覚しているだけに溜息を吐きたくなる。

目の前のページに並ぶ文字の羅列を指でなぞりながら、頬杖をつけば少し離れた場所で扉が開く音を聞き、そちらへ視線を流す。

 

「リボーンさん!ボンゴレ10代目が目を覚ましました!」

「ああ…今行く」

 

ここで漸く俺は壁に掛けられていた時計を見て、数時間経過していることに気付く。

そしてチェッカーフェイスの告げた期限まで一日を切っていることを思い出し、俺は内心舌打ちをしてツナのいるであろう病室へと足を向けた。

 

「ようやく起きたか」

「リボーン‼」

 

ベットの上で上体を起こしてこちらを見る包帯と管だらけのツナと、その横で座っている風とユニを視界に捉えた俺はツナに向かって皮肉交じりに二枚目になったじゃねぇかといえば、ツナは半目になり俺を睨んできて、隣の風が苦笑いを零す。

 

「も、もう傷は大丈夫なのか?」

「そこまで酷い怪我じゃなかったからな…」

 

嘘だ―!と喚くツナを無視して風へと視線を向ければ、俺の意図に気付いた風は現状を説明し始める。

 

「バミューダも意識が回復していますし、約束の期限までにはワープを使える体力は回復するだろうと本人が言っていました……他のアルコバレーノもある程度回復しているようです」

「ならあとはスカルだけか」

「そうなりますね…」

「あ!そうだ、スカル!なぁリボーン!スカルの今後ってどうなるんだよ!?」

 

俺に問いかけるツナの瞳には、明らかに焦燥と不安が表れていた。

奴の今後の扱いは九代目が追って伝えるからそれまで保留になっていると言えばツナが言葉に詰まっていて、スカルの事情は話したから九代目も酷い扱いはしないと付け加えれば、ツナとユニが目に見えて安心しだした。

その後、風はラルからの報告を口にした。

 

「あの古代生物…ラルがクロームと合流しワープホールのある場所へ戻った時には消えていたらしいのですが……恐らく生き延びている可能性が高いですね」

「ええ!?あれで生きてるの!?ど、どうしよう!」

「あれだけダメージを食らっているのだから当分は姿を現すことはないと思いますが……こればかりはスカル頼みになりますね」

 

先ほどとは一変して顔を青褪めたツナが頭を抱えてはまた倒すなんて無理だと喚き出し、俺は思わずといった様子のツナの頭を叩いた。

ツナの悲鳴が病室に響き渡ったと同時に病室の扉が開き、中からボンゴレの専属医師が入ってきて口を覆う血の付いたマスクを外しこちらへと歩み寄る。

 

「スカルの手術は成功し、一命を取り留めましたよ」

 

その言葉に、ツナとユニが声をあげて喜ぶ姿を視界の端に入れながら俺は胸の内に重々しく鎮座していた鉛が抜け落ちたように肩が軽くなった。

俺も知らぬうちに焦っていた内の一人だったかと気付きながら、奴の一命を取り留めた事実に安堵する。

よろめきながらもベッドから起き上がったツナがユニに支えられながらスカルの病室に向かおうとしていて、俺もそれについていこうとしたが重くなる足が動いてはくれず一歩二歩と足を引き摺っては立ち止まった。

脳裏に過ぎるのは助けてと懇願(こんがん)する小さな声で、俺の足をその場に縛り付ける。

 

 

『どの面下げて行くってんだよ』

 

 

背後から聞こえる黒い影の声に、腕と腹の痛みがじわじわと広がっていくのを感じながらただ立ち止まってツナとユニの後ろ姿を眺めた。

 

「リボーン」

 

ふと側から呼ばれた自身の名前に反応すれば、風がこちらを見つめていた。

 

「あなたが自責の念に駆られていることなど誰もが気付いています………ですが、あなたも私も……他のアルコバレーノも…スカルと本当の意味で向き合わなければ、前に進むことは愚か…悔恨に囚われたまま生きていくことになります」

 

かくいう私も(いささ)か緊張していて麻酔が効いているはずの足が疼きます、と言い捨てて俺の前を歩く風の背中を眺めては、鉛のように重い自身の足を引き摺るようにツナの病室を出た。

向き合うべき………か。

頭のどこかで気付いていた事実に目を背け、後から現実を突きつけられる方がよっぽど惨めになることなど…わかっていたはずだったのに。

 

 

 

「え………?子供……?」

 

 

ツナの声が響く中、俺は何を思って閉じられた瞼を眺めていただろうか。

額には包帯が巻かれ、腕と心臓は管に繋がれ、呼吸器を付けられているスカルの顔が、血を拭われ露わになっていた。

精悍(せいかん)な顔つきなどどこにも見当たらず、あるのは皺ひとつない幼い顔だけだ。

ツナと同じか少し上…少なくとも成人ではないことは明らかな程、未発達な幼い顔立ちだった。

シスターの話や、ルーチェの言葉からスカルの年齢が高くないことくらいは予想がついていたが、無意識に目を背けていた俺は今目の前の現実を突きつけられる。

よく観察すれば、スカルの体は子供特有の未発達な身体で、衰えを知らぬ肌がそれを物語っていた。

 

「スカルの本当の姿は……俺とそんなに変わらない子供だったっていうの!?」

「ああっ…スカル……」

 

ツナの悲壮めいた声とユニの切羽詰まった声は、まるで俺を責め立てるかのように突き刺さる。

ユニが泣きながらスカルに近寄り、管に繋がれている右腕をそっと握りしめながらスカルの血の気の無い顔を見つめていた。

 

「生きててくれて……ありがとう…ございますっ」

 

機械音が病室を満たす中、ユニの嗚咽(おえつ)だけが届いていた。

村人から忌避され狂わされ、数多の偶像に縛られその手を赤に染め上げ、呪を刻まれた子供の姿が今も変わらずそこに在るかのように俺の視線を奪う。

スカルの直ぐ側まで這い寄っていた黒い影が、俺を見つめながら歪な笑みを浮かべ眠っているスカルを指差す。

 

()()を造ったのは誰だ』

 

 

俺の中で(くす)ぶる黒い感情に呼応しているのか、影は段々と膨張し始める。

瞬き一つでクリアになった視界には、あの黒い影はまるで最初からいなかったかのように見当たらず、ツナとユニ…そして風だけがそこにいた。

 

 

「スカルは……大人になれないで、ずっと……ずっと子供のまま苦しんでたんだ……」

 

苦し気な声でそう呟くツナは、今にも泣き出しそうになりながらも気丈にスカルへと向き合っていた。

少し沈黙が続いていると医師が病室に入り、スカルの状態を診ながら俺達へと声を掛けてくる。

 

「状態は安定しているので意識が戻るのもそう掛からないかと…」

 

正直あれで手術が成功するとは思っていませんでしたと付け加えた医師にそらそうだと俺は共感した。

心臓が機能するしない以前に抉られていた上にあの出血量…普通であれば確実に死ぬ傷でありながらも生き永らえたのはスカルの半不死性の体質故だ。

多量出血のせいで顔色の悪いスカルの首元に視線を向けながら眉を顰める。

そこには爪の引っ掻き傷が数か所に渡って存在し、何度も爪を立てたと分かる程くっきりと赤みを帯びていた。

 

どれだけ死のうと試みたのか…、そしてどれだけ死ぬことが出来ずに絶望したのか……

想像し難い絶望を押し付けられ、一人で抱え、死に急いだその人生に……救いはきっとありはしなかっただろう。

ルーチェの存在がなければあいつの核にすら触れることが出来ない程壊れかけだった人格は、生を望むだろうか。

あのまま死なせた方がどれだけ楽だったか、それが分からぬ程焼きが回ったわけではないけれど………ルーチェに縋る子供の姿が、声が、涙が……頭の中に焼き付いて離れなかった。

 

 

『偽善者ぶってないで早くその狂人を殺しちまえよ、殺し屋(ヒットマン)

 

 

愉快そうに笑う声を振り切りるように瞼を閉じた俺の脳裏に過ぎるのはルーチェの言葉。

 

 

 

『スノードロップの花言葉は——————』

 

 

“償い”だなんて都合のいい言葉が欲しいわけではない。

 

 

ただ、コイツが俺を憎んでいるのなら

 

 

『希望よ』

 

 

 

 

俺は心の底から安堵するんだろうなと、ふと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニside

 

 

ルーチェおばあさんが私の身体から抜けていくような感覚の中、私の意識が段々と明瞭になっていく。

瞼を開ければ先ず目に入ったのは医療室の天井で、私は一人ベッドの上で横に寝かされていた。

ルーチェおばあさんの意識が表に出ている間の記憶は曖昧で、確か最後にリボーンおじさまと話していたような…と記憶を探りながら周りを見渡すがリボーンおじさまの姿はなく、恐らく私を寝かせてどこかに移動したのだろうと思い上体を起こす。

ベッドから起き上がった私はここがどこなのか分からず室外へと出てみると、白衣を着た人たちが忙しなくあちらこちらを走っていた。

それが、先の戦いで怪我をしたアルコバレーノ達の治療の為であると思った私は白衣の方々の後ろを着いて行けば、コロネロとラルが視界に入りあちらも私の存在に気付くと目を見開く。

 

「ラル、コロネロ!」

「ルーチェ……ではないな、ユニか」

「はい、既にルーチェおばあさんはおしゃぶりに還っていきました…二人とも怪我は大丈夫ですか?」

「心配ない、既に解毒している」

「ユニこそ擦り傷とかあったろ、大丈夫なのか?」

 

何ともありませんと告げ、今の状況を聞いてみれば沢田さんとバミューダ、スカル以外の治療は終わったとだけが返ってくる。

沢田さんの治療が終わるまで二人と共に彼の治療室で待っていると、ヴェルデと風が顔を見せた。

約束の時まで既に一日を切っているというヴェルデの言葉に、現状がどれだけ切羽詰まっているのかが分かる。

その上古代生物が生きている可能性があると推測しているラルの言葉で緊張が残る中、ヴェルデとコロネロ、ラルが治療の邪魔にならない別室で対策を講じると言って出て行った。

沢田さんの治療が終わりあとは意識の回復を待つだけになった今、治療室に残るのは私と風のみとなる。

私は風に先の戦いを全て聞いていた。

 

「――――、そしてボンゴレ本部に移動して今に至るわけです」

「そう、ですか……風の足は大丈夫ですか?」

「ええ…リボーンの応急処置とボンゴレの医療班の方々の懸命な治療のお陰で数日後には包帯も取れるだろうと言われました」

 

その言葉に安堵の息を漏らした直後、直ぐ側でうめき声が聞こえすぐさま振り返れば、沢田さんの瞼がゆっくりと開かれていた。

沢田さんと名前を呼べば、ユニと返ってきて意識はちゃんとあることに安心する。

ボンゴレ本部に来た時から全く記憶のない沢田さんに現状を教えていようとしたところで、リボーンおじさまが治療室に入って来た。

リボーンおじさまは目を覚ました沢田さんにちょっかいを出していたけれど、その目には確かに安堵の色が浮かんでいて、私は無意識に笑みが零れる。

スカルの今後のことをリボーンおじさまが沢田さんに伝えていると、医師が入室してきてスカルの手術が終わったことを告げた。

私はすぐさまスカルの顔を見に、ふらつく沢田さんの背中を支えながら治療室を出て彼の病室へと入る。

先ず見えたのは細い管が繋がっている青白い肌と、呼吸器越しでも分かる程明らかな彼の幼い素顔だった。

ルーチェおばあさんの言葉や心情から、スカルの年齢がそこまで高いわけではないことはなんとなく気付いていたけれど、いざ突きつけられる幼さに胸が締め付けられる程苦しかったのだ。

私の今の年よりもずっとずっと幼かった頃に受けた心の傷が、今もまだそこに在るのだというかのように包帯が巻かれた痛々しい心臓付近に、何を思えばいいのかすら分からない。

沢田さんの驚きに満ちた声と機器の音が入り混じり、遂に私の涙腺は決壊した。

彼の管の繋がった右腕をそっと握りしめ、心の底から彼に感謝する。

 

「生きててくれて……ありがとう…ございますっ」

 

これは一体誰の心情なのだろうか。

私であり、ルーチェおばあさんであり……きっと、どちらの心でもあるのだ。

γとは別の愛しさが込み上げてきて、溢れては涙として零れだす。

 

 

ありがとう

 

 

懐かしい声が脳裏を過ぎっては消える。

 

ああ 眩しいのだ

 

彼の命の(ともしび)が 途切れることのない炎が (まばゆ)いほど 美しいのだ

 

 

 

 

 

それから他のアルコバレーノ達がスカルの顔を覗きにきていたけれど、一向に起きる気配はなく時間は過ぎていく。

既にスカルの人工呼吸器は取り外され意識の回復を待つだけとなっている今、交代交代で人が変わる中私とリボーンおじさまだけはスカルの側にいた。

リボーンおじさまがスカルに対して何を思っているのかは定かでないけれど、きっと後悔しているのだろうと悟ってしまう。

リボーンおじさまがどれだけスカルを憎んでいたかを知っていただけ、彼の心の内側が荒れていることを分かってしまい心苦しかった。

少しでも彼の心が軽くなればと思っていると、あることを思いついた私はリボーンおじさまに声を掛ける。

 

「リボーンおじさま」

「何だユニ」

「花を……一輪欲しいのです………おばあさんが貰った…あの花を」

 

そう云えば、リボーンおじさまの瞳が僅かに揺れ、しばしの沈黙の後席を離れた。

おばあさんがスカルから貰った希望を、私がスカルに渡そうと…そう思ったのだ。

本当はリボーンおじさまに渡してもらいたかったけれど、おじさまのことだ、男に花をやる趣味はねぇとか言って断りそうだった。

だから私がスカルにあの花を渡した時に、リボーンおじさまがもってきてくれたことを教えてあげよう。

 

「スカル……早く目を覚まして………皆、あなたの目覚めを待っています」

 

私は優しく、そして愛おしく彼に言葉をかけた。

どれくらい経っただろうか……リボーンおじさまの帰りを待っている最中、握っていた彼の手がピクリと動き、私は目を見開く。

 

「スカル!?」

 

握っていた手を握り返された私が焦ったように彼の名を呼べば、病室の扉が開きリボーンおじさまが入ってくる。

 

「どうしたユニ」

「い、今…スカルが反応して…」

 

 

「……ん…………」

 

 

スカルの口から零れた僅かな声に、私とリボーンおじさまの視線がスカルへと固定される。

彼の瞼が一際震え、ゆっくりと開いたその時、私は母の言葉を思い出した。

 

 

『とても綺麗だったの……』

 

 

濁りを知らぬそのアメジストは美しく

 

 

『彼の瞳が』

 

 

(まばゆ)い命の灯が  確かにそこにあった

 

 

 

 

 

 

 

 




スカル:(˘ω˘)スヤア…………(゚д゚)ハッ!
ヒットマンなあの人:幻聴聞こえちゃうほどSAN値ピンチなもみあげ、愉悦式反射機能によってフルボッコなう、花言葉を知って瀕死状態のうえにスカル自閉症説をあげては自分で自分を追い詰めていくセルフフルボッコスタイル。
ツナ:スカルが未成年であることに驚きを隠せない、これからも罪悪感と正義感に往復ビンタされるが頑張れ。
風:リボーン程ではないが愉悦式反射機能によりダメージを食らう。
ユニたん:スカルを守り隊きっての精鋭。
ルーチェ:愉悦式反射機能でフルボッコなリボーンに追撃して逝っちゃった人。


死体蹴り?知らない言葉だなぁ(´∀`)




ps:
あ、因みに自閉症うんぬんは上辺だけ調べて書いてるだけです、本気で信じないで下さい。
専門の人いたらゴメンネ—



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skullの覚醒

俺は起きた。


ふと、遠くの方で聞こえる機械のような音に意識が浮上した俺が瞼を開けば、目の前には白い空が見えた。

そしてすぐ横にとっても優しそうな顔で俺の名前を呼んでいるミニサイズのルーチェ先生がいて、寝ぼけた頭で何で自分の隣に彼女がいるのかを考えていた。

脳内はやけにふわふわしていて、重力に勝てずに再び重い瞼が閉じかける。

そんな俺は頭上から降ってくるルーチェ先生の声に夢現なまま返す。

 

 

「スカル……ここにはもうあなたを傷付けるものは何もありません」

ほん、とう……に?

「はい、怖いことも苦しいことも…辛いこともない……安全な場所です」

 

……よかっ…た………

 

 

俺はきっと死んだんだ。

ここは天国で、目の前の子供ルーチェは俺の天使像かなんかで、天国なんだからやっぱ極楽浄土的なもので、次の転生までここで自由に暮らせるのかなー……

 

 

じゆう、だ…

「………いいえスカル、あなたはまだ生きています……生きて、幸せな人生を歩むのです」

 

なんて思っていた自分をぶん殴りたいと切に思ったのは、真っ白い空だと思っていたものがコンクリートの質感であることに気付いた挙句、視界の端に黒いハットを被り、ぐるりと一周するもみあげが特徴のリボーンを捉えてからだった。

冷水を浴びたように思考が鮮明になると共に、自分が生きていることに気付いた挙句心臓開けられたり頭からヤバイ量の出血をした記憶を思い出してしまい顔面蒼白になる。

天国から地獄に叩き落とされたルシファーってきっとこんな気持ちだったのかな、って今まさにそう思う光景が目の前にあるわけだが、俺は一体どうしたらいいんだろう。

思わず死にたい…と呟いてしまったら、直後リボーンの顔が般若のように歪められたので怖さのあまりに悲鳴が全部引っ込んだ。

もう何なの、俺死ぬの?もっと痛いことして苦しませてから殺すとかそういう……?

残像が見える程震えてる俺の指を子供ルーチェが握ってきて、一瞬そのまま逆方向にボキッと曲げられるかと思って身構えてしまった俺はついに涙腺が崩壊してしまった。

 

「泣かないでスカル…生きることは決して怖くありません!」

 

怖いんだよ!主にお前らの所為でぇぇぇぇ!

一体お前ら何がしたいの?何で俺にヘイトがこんなに集中してるのか全く身に覚えがないんですが。

いやそれよりも、どこぞのバーローさんみたいに黒ずくめの人達に何飲まされたのか知らないけど今目の前の子供ルーチェが結構気になる。

 

「ルーチェおばあさんはあなたを最後まで想っていました……死んでも尚ずっと……あなたの心配ばかりしていました…」

 

ひえっ、なにそれ怖い。

いやそれよりもおばあちゃん……?ってことはこの子ルーチェの孫?あれどっかで聞いたような……?

 

「お願いですスカル………ルーチェおばあさんの為にも…私達のためにも………生きて…くれませんか?」

 

もうあなたを傷付ける者はいない今の世界で、と付け加えたルーチェの孫をしげしげと見つめる。

ヒエラルキー最上位に君臨しながら他の遺伝子を蹴散らせて粉々に握りつぶしたレベルでルーチェと似てるけど、血って怖いね。

っていうかこれ今どういう状況……

困惑しているところにリボーンが俺の名前呼んできたので、思わずに俺の指を握ってる幼女の手を握り返してしまった。

 

「………悪かったな」

 

一瞬幻聴じゃないかと思ったけど、リボーンの口が開閉してたから現実っぽい気がする。

しかし何でコイツが俺に謝ってるのか分からず、更に困惑する俺氏…取り合えず黙っていようと思った。

決して怖くて口が動かないとかそんなんじゃないから。

謝罪するリボーンに、………何が?と思い当たることが沢山ある俺は一体どれに対してだと思い出そうとするが、いきなり渡されたものに思考が遮られ手の中にあるものをじっと見つめる。

手の中にあるのは新聞紙に包まれた一輪の白い花だ。

はて、何の意味で……え、お見舞い品のつもり?このどこかの道端から引っこ抜いてきましたーって感じの花をラッピングせずそのまま?謝る気ゼロ…ていうか悪びれもなく渡すその根性に脱帽だわ。

そのまま返品したいところだったけどそんな度胸俺には微塵たりともないので、この状況にどうすればいいのか分からず花を見つめ続ける。

 

「お前をより狂人たらしめたのは俺でありボンゴレだ、お前が水に流そうが九代目はそれを良しとはしないだろう……まぁ何だ……諦めろ」

 

そう言っては病室の扉に手を掛けたリボーンが、ふと足を止めた。

 

「あなたの幸せを祈っています」

 

ルーチェからの言伝(ことづて)だと言い捨てて病室を出ていくリボーンに俺氏愕然。

色々言いたいことはあるけど、取り合えずお前俺に謝る気ないだろ。

リボーンの台詞を思い返してみる。

狂人たらしめたってことは人違いだったことに漸く気付いたってことかな……?

んでもって水に流すってのはあれか、両成敗だからってこと?

確かに俺はリボーンの腕を撃っちゃったけど、俺はそれ以上に被害被こうむってますがこれ如何に。

あと九代目って誰……ボンゴレは確かカルカッサのライバル会社でマフィアと繋がってる系のブラック企業だった気がするけど、もしかしてボンゴレの九代目社長ってこと?

これって…………俺ボンゴレとかいう危ない企業から狙われてるってことでおk?

だって九代目はそれを良しとしないってことはあれだろ、水で流すわけねぇだろコラァ!ってことだろ。

アカン、死んだ………なにこれお先真っ暗すぎる。

怖くて思わず手の中にある白い花を握りしめれば、ルーチェの孫が俺の顔を覗いてきた。

 

「スカル…体の方は大丈夫ですか?」

 

思い返せば体中どこもかしこもバッキバキで、今更ながら痛いなぁって思う。

何であの怪我で生きてるんだろうって思ってたら声に出てたみたいで、ルーチェの孫が助かる見込みは限りなくありませんでした、と告げる。

 

「リボーンの応急処置と、バミューダの協力……そして何よりもあなた自身が、生きようともがいた結果です」

 

ちょっと待って、状況が分からなくなった。

何でリボーンが俺を助けるんだ?……仮に人違いがバレて急遽助ける羽目になったとしても、いつ人違いに気付いたんだ?

ルーチェの孫に聞いてみようとしたら、病室が勢いよく開かれた。

 

「スカルの目が覚めたって本当!?」

 

あ、頭大炎上してた子供だ。

少年と目が合えば気まずそうに目を逸らされた、辛い。

 

「ス、スカル……その、俺………お前をずっと怖い奴だと…勘違いしてたけど、本当はそうじゃなくって………えっと、……その…ごめん…なさい…」

 

あー…やっぱり俺の人違いの件は周知の事実ってことか、なるほど。

にしても俺が待ってたのは君みたいなちゃんと謝れる子なんだよ!

そこらに咲いてそうな花を一輪だけ持ってきて悪かったなの一言で済ますアホじゃあないんだよ。

 

「お前が無事で本当に良かったよ……多分これから他のアルコバレーノ達も来ると思うけど、皆お前のことちゃんと理解してるから安心してほしいんだ……」

 

その言葉を信じていいのだろうか………

疑心暗鬼になりつつも、取り合えず納得した俺は首を縦に振れば、少年はとても満足そうに笑った。

 

「あ、自己紹介がまだだった!お、俺沢田綱吉っていいます!えっと………中学二年生です!」

「そういえば私も…この時代で会うのは初めてでしたね……私はユニ、ルーチェは私の祖母で、母はアリアです」

 

ユニとな…はて、どこかで聞いたことがあるような…?

どこで聞いたのか思い出せず悶々としていると、再び病室の扉が勢いよく開く。

ああ、今度は誰だと思い視線を向ければ、ラル姉さんと金髪のお兄さんがこちらに近寄って来た。

 

「スカル、無事目が覚めて良かった……それと、今まで悪かったな」

 

何だか謝罪をしてるっぽいんだけど、隣の金髪のお兄さんの眼光が怖すぎて、ラル姉さんの言葉が耳に入ってこない。

怖すぎて声が喉を通らない俺が、口を開いては閉じてを繰り返していると、金髪のお兄さんが手を伸ばしてきて思わず身構えてしまった。

 

「ヘルメットの下がこんなガキとはな……おいスカルおめー呪いを貰った時いくつだったんだコラ!」

「…………」

「おいコロネロ、もう少し落ち着いた口調で話してやれ」

 

金髪のお兄さん……コロネロさんが俺の頭に手を置いたことにビクついてしまったことを気遣って注意してくれたラル姉さんに感激しながら、コロネロさんの問いに応えようと咄嗟に口を開いて俺はあることに気付いた。

 

 

俺今何歳?

 

 

やべぇ、ずっと赤子のままだったから全く歳数えてなかった。

自分で自分の誕生日祝う虚しさを思い知った日から祝うことをやめた俺が誕生日なんて覚えているわけがない。

ひーふーみー…と、両手を広げて指を順に折っていきながら自分の年齢を数えようとして、(おぼろ)げな記憶で数えれば15で指が止まる。

そうだよ、チャコが死んだのが14歳のクリパの時だったから……えっと………15で無免許運転…………16でバイト?

あれ?ってことは俺そろそろ40?いやもう既に……?前世合わせたらシニアに片足突っ込んでんじゃん。

全然精神的に成長してないのはこの身体のせいなのかなぁ……

 

じゅ……じゅうろく…………?

 

自信なさげに告げれば案の定というかなんというか……その場にいた人たちの顔が歪んだ。

自分の年齢くらい把握しろやってことですかごめんなさい。

いや普通二十歳過ぎてから自分の年齢なんて数えたくなくなるだろ……

 

「俺と二個違い……そんな年で…アルコバレーノの呪いを貰って……」

 

少年の眼差しが哀れみを帯びていてむず痒い……俺的にこの呪いはラッキーだったとしかいいようがないわけで、他の連中みたいに必死に解きたいとか思ってたわけじゃなかったからなぁ。

あとコロネロさん、俺の頭撫でないで貰えますか?一応そこ怪我してて地味に痛いんです。

そういえば何で元の姿に戻ってるんだろうか。

自分の手のひらをまじまじと眺めていたら綱吉君が俺の思考に気付いたのか、元の姿に戻った経緯を教えてくれた。

ちょっと専門用語多くて意味が分からなかったけれど大雑把にまとめると、今はまだ呪いが解けていない状態で、これから日本に行ってちゃんと呪いを解いてもらいにいくらしい。

 

「呪いが解けた後のことはまだ分からないけれど……スカルがやりたいことをすればいいんじゃないかな…」

 

正直元の姿に戻っている今、俺のやりたいことって叶わない気がする。

ダメ元で自由(ニート)になりたいと言ってみれば即却下された…つらい。

 

「ま、まだ…お前が知らないだけで世界は広いんだ……少しでもいいから世界を…本当の目で、感情で…見てみなよ」

 

少年に社会復帰を諭されるとかなにこれ拷問か何か?

綱吉君の言葉に言い淀む俺の頭から手を離したコロネロさんが口を開く。

 

「カルカッサなら問題ねぇぜ、さっきボンゴレがヘルメットと一緒にお前の死亡報告をしてきたからな」

「え」

「あいつらが狂人スカルを崇拝している限り、お前は一生縛られたままだと思った俺達の総意でありエゴだが……お前は一度自分の足で手で、目で…生きてみた方がいい」

 

きっと生きるための何かを見つけられるはずだ、と付け加えるラル姉さん。

しかしながら俺の頭の中にあるのは、死亡扱いではあるもののあのカルカッサ企業を退職出来たという事実だけである。

僅かばかりの愛着なんて退職出来た喜びの前ではちっぽけな存在であり、正直このままどこにも就職せずに貯めに貯めた貯金で一生ニートしていたいが、目の前の人間たちがそれを見逃す奴等ではないことくらい分かっているので、建前だけでも満足させればあとは放って置いてくれるかなと思った俺はそれとなく納得する素振りを見せようとした。

 

い、生きるための……何か………

「狂人スカルは死んだ、これからはお前だけの人生を、生きて、歩いてみろ」

 

コロネロさんの言葉に思わず固まる。

え、本物の方死んじゃった感じですか?そうですか。

だから俺が全く無関係の一般人スカルってことが今頃分かったのかぁ。

何だか急に安堵が胸の中に広がってきて、俺は漸く呼吸が出来たような感覚に陥った。

いやちょっと待て、まだ九代目とやらの怒りが残ってるわ、やっぱ俺死ぬかもしんない。

そんなこと思っていると、失礼すると声がして病室の扉がゆっくりと開いて、ヴァイパーとヴェルデが現れる。

二人の包帯がちらちら見える姿にその元凶が自分であることに気付いた俺は、非常に気まずいまま視線を落とす。

 

「ふぅん…盗み聞きするつもりはなかったけど君がそこまで若かったなんて予想外だね、ま、元の姿に戻ったところで君の利用価値なんてありはしないよ……どこか僕らの視界に入らないところへ行って欲しいね」

「全くだ、私よりも一回り以上も年下であるただのガキが選ばれる素質を持っていたことが癪に障る…もう会わないことを願いたいものだ」

 

予想以上にディスってくる二人に盛大にダメージ喰らった俺が意気消沈していると、横でラル姉さんが溜め息を吐く。

 

「お前たち……素直に励ますことも出来ないのか全く…」

「あいつらああ言ってるが、ちゃんとおめーのこと心配してたからな」

「「ち、違う!」」

「お前にこれまでとは別の、新しい人生歩んで欲しいと言いたいだけだからそう真摯(しんし)に捉えるな」

「「ラル‼」」

 

コロネロさんとラル姉さんの言葉に思いっきり異議ありとでもいうかのような不満を(かも)し出してる二人なんですが、普通に俺が嫌いなだけだよね。

二人の気遣いが胸に沁みるぜ………

そのあと風が顔を出してきたりと、人生で一番賑やかだった気がする。

日本にはあと一時間もしたら向かうと言ってはユニちゃん以外出て行き、静まり返った病室でユニちゃんが声を掛けてきた。

 

「スカル、水でも持ってきましょうか?」

 

あー……そういえば喉乾いてる、と気付いた俺は素直に頷けばユニちゃんが嬉しそうに病室を出ていく。

一人になった病室で一息ついた俺はふと思い出した。

 

 

 

あ、そういえばポルポ………

 

 

 

この数分後、ボンゴレ本部に謎の生物が襲撃してきたが今の俺に知る余地はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

リボーンside

 

鼻を掠める香りを目線で辿れば、色取り取りの花が己の花弁を主張して咲いている。

そこはボンゴレ本部から歩いてすぐのフローリストで、昔から建っていることから存在を知っていた。

店へ足を運べば、中から初老の女性が現れ声を掛けられる。

 

「あら、何をお求めで?」

「ああ………」

 

           『希望よ』

 

いざ口からその花の名前を呟こうとすれば、ルーチェの言葉が脳裏を過ぎて言葉が喉で突っかかった。

 

「あの…?」

「…スノー、ドロップを……」

「スノードロップ……恐れ入りますが、贈り物でしょうか?」

「いや……頼まれてな」

「そうですか、何本お持ちしましょうか」

「一本だけ」

「かしこまりました」

 

喉から絞り出したそれは、俺がずっと忌み嫌っていた名前だった。

少しでも調べればすぐに分かるであろう花言葉を、ずっと調べられずにいた俺への当てつけだとでもいうかのように頭を垂れている花弁が脳裏を過ぎる。

贈り物なのか聞いてきた初老に否と告げれば頭を下げて店の中を奥へと進んでいった。

初老の手にある記憶と違わぬ白い花に、先ほどの言葉に疑問が生まれる。

 

「マダム、少し聞きたいことがあるんだが…」

「何ですか?」

「スノードロップを贈り物かと聞いた時に顔が強張ってたが、何か不都合でもあるのかと思ってな」

「そうですねぇ…スノードロップは人に贈ってはいけない花でして……取り扱ってる店もここらじゃこの店だけですよ」

「贈ってはいけない?」

「ええ、スノードロップの花言葉は『希望』、『慰め』ですが、贈り物となると『あなたの死を望みます』となるんです…イギリスから来る古い言い伝えですけどね」

 

なるほど、ヴェルデの言葉が嘘であったわけでもなかった…ということか。

恐らく贈り物になれば意味が変わる花言葉をスカルが知らなかった……花言葉を気にしそうな(たち)じゃなさそうだしな。

新聞紙に巻かれた一本の花を見ながら、会計を済ませた俺は店を出てはボンゴレ本部へと向かう。

 

「希望………か…」

 

ユニが何故俺にこの花を頼んだかなんて気付いている分、本部へと向かう足が進まない。

確かにスカルに対して悔恨はある、同情も……ある、自分が仕出かしたことの尻拭いくらいはするつもりだが、何が悲しくて男に贈る花を買いに行かなきゃならねぇんだって話だ。

しかも未だに毛嫌いしてる花を、だ。

無意識に漏れた舌打ちが不満を語るが、胸の内に巣食う自責の念は消えることなく自身の腕と腹の痛みを助長する。

これ以上考えても無駄だと分かりつつも、目的の部屋まで近づくにつれ足が重い。

風の言う通り俺達はあいつとは向き合わなきゃならねぇってのに………無様なもんだ。

内心ため息をつきながらも病室の扉を開けようとしたところで、扉越しにユニの焦った声が聞こえ扉を開く。

 

「どうしたユニ」

「い、今…スカルが反応して…」

 

そうユニが告げると共に、スカルの眉が僅かに歪められた。

 

……ん…………

 

ゆるりと開かれた瞳が天井を見つめ、次にユニへと視線が移れば、ユニがスカルの右手を握り直し言い聞かせるように呟く。

 

「スカル……ここにはもうあなたを傷付けるものは何もありません」

ほん、とう……に?

 

夢現(ゆめうつつ)な様子のスカルから発せられた声は、掠れていて今にも掻き消えそうなほどか細い。

 

「はい、怖いことも苦しいことも…辛いこともない……安全な場所です」

……よかっ…た………じゆう、だ…

 

自由、それが奴にとって何を意味するかなんて分かり切っている身としては、眉を顰める他ない。

死んだと、思っているのだろうか……ユニもそう悟ったのか、ゆるりと首を横に振るう。

 

「………いいえスカル、あなたはまだ生きています……生きて、幸せな人生を歩むのです」

 

ユニのその言葉を皮切りに青白い顔色をさらに悪くするスカルの瞳に浮かんだのは、まさしく絶望だった。

生きていることへの絶望を突きつけられた奴の震える唇からぽつりと言葉が零れる。

 

 

死にたい……

 

 

それは心の底から願っていた本心だった。

思わず表情が崩れそうになり、取り繕った俺の今の顔は決して人に見せれるようなものではないだろう。

その紫色の瞳から零れ落ちる涙は何を思って流したのかなんて………身に付けた読心術がこれほど憎たらしくなったことなどない。

 

「泣かないでスカル…生きることは決して怖くありません!」

「ルーチェおばあさんはあなたを最後まで想っていました……死んでも尚ずっと……あなたの心配ばかりしていました…」

「お願いですスカル………ルーチェおばあさんの為にも…私達のためにも………生きて…くれませんか?」

 

今にも泣き出しそうなユニの言葉にスカルはひたすら困惑している様子で、死を願われて来た奴からしたら今のこの状況が理解出来ないのも無理はない。

これ以上生きたくないと涙するガキと、死んでほしくないと縋る大空は何よりも眩しく見えた。

俺は無意識に花を強く握りしめていた手から力を抜き、奴の名前を呼べば目線が交差する。

俺を捉えるその瞳が、紫色の瞳が、恐怖に満ちた瞳が、何よりも俺を惨めにしてくれる。

 

「………悪かったな」

 

この一言で目に見えて動揺を表したスカルに、今更本人の目の前でユニに渡しても露骨なだけかと思い手元にあった花を放り投げるように渡す。

一本の花を見つめるスカルがそれが何の花であるのか気付いたのか、何故とばかりに訴えくるその瞳に、俺は目を伏せて告げる。

 

「お前をより狂人たらしめたのは俺でありボンゴレだ、お前が水に流そうが九代目はそれを良しとはしないだろう……まぁ何だ……諦めろ」

 

お前に死ぬという選択肢はない、と遠回しに伝えれば目を見開くスカルを横目にそのまま退室しようとして足を止める。

 

「『あなたの幸せを祈っています』」

 

ルーチェの最期の言伝(ことづて)を伝えた俺は今度こそ病室を出て行った。

ツナや他の奴等にあいつが目を覚ましたことを知らせに本部の長い廊下を渡りながら思考に耽る。

あの九代目のことだ…コイツに対して過剰なほどの措置を取るに違いない。

いや、それだけのことを俺達はしたのだから、九代目の判断は間違っちゃいないだろうが。

それでコイツが平穏を手に入れられるかなんて誰にも分からないのだ。

過去に囚われ、狂気に縛られ続けたコイツが……今更陽だまりに戻って何を望むのかなんて、いや…何かを望むことすらももう分からないのだろうから。

他の奴等に知らせるだけ知らせ、九代目の執務室へ足を向ける。

 

「そうか……目が覚めたか」

 

ため息混じりにそう零した九代目の目じりに存在する小皺が心労を主張しているようだった。

 

「既に時間はない、一時間もすればあいつも日本へ連れて行くつもりだ」

「分かった…だが、呪解出来た後も完治するまではボンゴレが彼を預かろう…暫くカルカッサが荒れるじゃろうし」

「だろうな、他のファミリーには?」

「通達しておる、幸い狂人スカルの素顔を知るのは限られた者のみ…そのまま死亡扱いとすることにしたのじゃ」

「それが、本人にとっても都合いいだろう」

 

()()スカルは死んだ。

素顔すら分からぬ狂気は、誰にも見られることなく死んだのだ。

スカルという名前だけが残った中身が空洞のあいつを誰も()()スカルとは思わないだろう。

一人の人間に恐怖を押し込み、縛り、狂わせ…膨らんだソレは跡形もなく破裂し消えていく様を、あいつは何を思いながら眺めるのだろうか……

ボンゴレや世界への憎悪ならそれもまた責めることの出来ない事柄で、悲嘆に暮れるというのならばそれもまた受け入れるが、全てを投げ捨て死に急ぐのならば……それを俺はどうすればいいのか。

ツナなら必ず止めて説得しようと試みるが、今やあいつの中身は空っぽだ。

軸とすべきものがないアイツに、誰の言葉すらも届かないことなんて明白だ。

長期戦だな…と零した俺の独り言を九代目が拾う。

 

「お前も何やら考え込んでいるようじゃなリボーン」

「大空に頼まれてな、それよりも—————」

 

「九代目!謎の生物が本部に襲撃してきました!現在他の守護者が討伐に向かっているようですが戦況は劣勢です!」

「何!?」

 

急に執務室の扉が開き部下が現れては、焦った声で襲撃の報告を受けた。

最初はカルカッサかと思ったが、直ぐにその生物の正体に思い至る。

 

「おい!直ぐに全員退避させろ!奴は古代生物だ!」

「まさかスカルの使役しているっ…」

「くそっ、ラルの報告で生存の可能性は疑っていたが俺達の居場所を特定されたのは予想外だな」

 

バミューダの瞬間移動を使ってここへ来たので、俺達の痕跡は一切なかったはずだ。

油断した…!相手は常識なんぞ通用しない古代生物だというのに。

九代目も俺の言葉に危機感を覚え、前線で古代生物の足止めをしている彼らの元へ向かおうとした。

既にあの生物が猛毒を持っていることを九代目は知っているが、俺達アルコバレーノが全員で立ち向かって辛勝した相手に九代目が単独で挑むことの勝率がかなり低いことを分かりきっている俺は、報告に来た者に他のアルコバレーノ達にも知らせるよう頼んだ。

こんな短時間でスカルの居場所を特定し、襲撃出来るほど回復する古代生物に今度こそヤバイな…と嫌な汗が背中を伝う。

本部の正面に近付くにつれ、騒音が大きくなり、遂には俺のすぐ近くの壁が壊れた。

瓦礫が足元に散らばる最中、聞こえるのはこの世のものとは思えぬほど低く(おぞ)ましい雄叫び。

間違いなくあの古代生物だと確信した俺は目の前に舞う埃を片手で払えば、案の定目線の先には存在を主張する巨大があった。

 

「蟻は蟻らしく……潰れて死ね‼」

 

禍々しい8本の足が周りを破壊しながら地面を這う姿に、俺は咄嗟に声を張り上げる。

 

「止まれ!スカルは生きてる‼」

 

ぎょろりと二つの目が俺を捉え、挙動が止む。

赤黒い血を垂れ流す巨体から見え隠れするギラついた牙と、黒い炎に目を見開いた。

あれは……夜の炎……なるほど、だから俺達の居場所を特定し現れることが出来たのか。

 

「貴様か………主はどこだ……戯言を申せばその心臓、二度と動かぬと知れ」

「……スカルは今目を覚ました、お前がここで暴れないというのなら案内する」

「駆け引きを申すかコバエ………身の程知らずがっ」

 

奴の怒気が肌を突き刺し腕と腹の傷が一際痛みを発するが、それをおくびにも出さぬまま睨み返す。

憎悪が今にも己の体全てを侵食しようと這い寄ってくる奴の夜の炎は、バミューダの比ではない。

少しでも気が緩めばすぐさま俺を飲み込み、容易く命を奪うだろう。

今までにないほど重い空気が張りつめる中、悲鳴をあげる腕と腹を歯を食いしばることで耐える。

双方動かず睨み合いが続けば痺れを切らすのはあちらで…その前に早く事態を聞きつけたコロネロ達がスカルを連れてくればこの場を収められる。

背中を伝う汗が傷に沁みてじくじくと痛むが、そんなことに顔を歪めていられない程神経が麻痺しそうになる炎圧が俺と隣にいた九代目を襲う。

腰に差している拳銃を抜こうと指の神経に集中したその瞬間、今まで俺を押し潰そうとしていた炎圧が急に消え去り、いきなり消えた炎圧に驚いた俺が生理的な瞬きを一つ、一秒にも足らないその合間に目の前の古代生物が忽然と姿を消していた。

残ったのは夜の炎の僅かな残骸だけで、一体どこへと視線を周りに移そうとした時、背後から叫びが聞こえた。

 

 

「主‼」

 

 

焦ったようなその声と共に感じる夜の炎の気配に後ろを振り向けば、数百m先に古代生物が瞬間移動していた。

瞬時に、古代生物が瞬間移動した方角がスカルの治療室だったことに気が付くが、俺の視界に入った光景は予想の斜め上だった。

 

 

 

 

俺の目の前で、動くことさえままならないはずのスカルが、4階の治療室の窓から落ちたのだ。

 

 

 

 

 

 




スカル:ポルポがいないことに遅れて気付く、スノードロップについて綺麗サッパリ忘れている。
ポルポ:死んだと思った?残念生きてたよ!憎悪によって死ぬ気の到達点にいっちゃって瞬間移動でボンゴレ本部にまで押し掛けた有能なセコム。
リボーン:フルボッコなう、最後の光景で寿命が三年くらい縮まったかもしれない人。



【挿絵表示】

描いてて気に入ったのでこれあらすじに貼り付けます。

呪いを受けた時の年齢+アリアの寿命(ここでは23年と仮定)を前提として計算すれば以下の通りになります。

スカル:39歳(当時16歳)原作でも一番若そうに見えた…多分原作じゃ19~22くらいじゃないかな。

マーモン:推定48歳(当時25歳)アルコバレーノの中でスカルの次に若そうな印象だったから。

リボーン:推定49歳(当時26歳)最強の殺し屋とか言われてるし妥当かな…?

コロネロ:推定49歳(当時26歳)リボーンとコロネロは同郷だし同い年っぽい、間違ってもリボーンより年上ではない。

風:推定50歳(当時27歳)精神的に一個上っぽかっただけ。

ラル:推定52歳(当時29歳)コロネロの上官だから必然的に年上かなぁっと。

ルーチェ:推定52歳(当時29歳)なんか年上っぽそうだなぁと(※妊婦フィルター)。

ヴェルデ:推定53歳(当時30歳)顎鬚(あごひげ)で老けて見えたので取り合えず最年長組。


>何故アリアの寿命?
(アニメ版と原作を重ねたら)虹の代理戦争の手前でアリア死んじゃってることになってて、アルコバレーノの呪いを掛けられる時にルーチェは既に身籠っていたので、必然的にアリアの寿命がアルコバレーノ期間になります。
因みに私的にアリアの年齢は23~29くらいかなーと思ってます…
結論から言うと、どれだけ足掻いてもアルコバレーノ勢は45~60くらいの年齢(一部シニアに片足突っ込んでますね)。
※今作のスカルは年齢弄ってるのでギリ40手前なだけで、原作じゃ40超えてると思います。



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skullの感動

俺は泣いた。


ポルポside

 

 

意識が浮上した時には、既に人の気配はなかった。

敗北を(きっ)してしまった我は多くの血を失った重たい我が身を起こす。

目の前にあるのは更地のみで、視界に入る血だまりだけが残っていた。

己が無力を嘆く暇すら、今の我にはありはしなかったのだ。

 

喪失感 絶望 怨念 憤怒 悔恨

 

あげればきりがないほど、今の我には狂おしいほどの激情が暴れまわっていた。

我が思う唯一は、主の亡骸(なきがら)だ。

人間を全て滅ぼすことも考えはするが、その前に主の亡骸を見つけ出したかったのだ。

肉が腐敗し骨と化すその時まで我が見守ると心に決めていた。

 

主の 亡骸を

 

ただそれだけを想い、暴れ狂った激情が形どったのは怨嗟の闇だった。

体の奥底から溢れ出す怒りを、憎しみを、恨みを…すべてを詰め込んだその闇は我が身を包み込み、深淵へ(いざな)う。

その瞬間、炎が灯ったのを確かに我が(まなこ)は捉えた。

 

 

漆黒の全てを飲み込む  炎を

 

 

「ああ……主………待っていろ……我が……我が、そなたを……」

 

我が身を包む漆黒の炎は、この身に刻まれた傷を癒していく。

主の亡骸を求めるが為だけに、軋む身体を引き摺る。

 

 

「そなたの骨を(うず)めるのは………我だ……」

 

 

 

 

動けるほど傷が治るまでに時間を要したが、漆黒の炎が枯れる様子はなく、我は主の気配を探り出す。

漆黒の炎を灯した瞬間から冴えわたる我が鋭感を駆使し、はるか遠くに感じるあのコバエらの気配に反応した。

主の死した今、奴等が主の亡骸を移したに違いないと、我はすぐさまそこへと向かおうとする。

まるで慣れ親しんだような感覚の炎は、我を包み込めばその場と我を切り離す。

次に瞼を開けば、全く見知らぬ土地が視界に入ると同時に、奴等の気配を数か所に感じ取った我はすぐさま動き出した。

目の前には森林があり足で木々を薙ぎ払っていると、人間共が現れ喚き散らす。

 

「何だこの化け物は!?」

「どこのファミリーのもんだよ‼」

「取り合えず動けないように押さえつけるぞ!」

 

()く失せよ」

 

一振り、足を一本横に振れば目の前にいた煩わしい人間共が視界から消え去る。

その後もうじゃうじゃと、まるで蟻のように湧いて出る人間共に段々と煩わしさを覚えた。

 

「ええい死ね!貴様らに構っている暇など我にはない!」

 

早く、腐り落ちてしまう主の亡骸を取り戻したかったのだ。

我が身から溢れる血は木を腐らせ地面を溶かし、己を包む漆黒の炎は辺り一面を焼き尽くす。

毒を吐き、足で薙ぎ払っては溢れ出る人間共を蹴散らした。

 

「蟻は蟻らしく……潰れて死ね‼」

 

全方位に毒の雨を降らせようと口から毒を吐こうとしたその時だった。

 

 

「止まれ!スカルは生きてる‼」

 

その言葉に、一瞬思考を奪われる。

視線の先には、主が最も忌避していたコバエであり、我が最も嬲り殺すべき者。

主が生きていると吐いたこの男の首を今にでも刎ねたい衝動を抑え、冷静さを手繰り寄せる。

 

「貴様か………主はどこだ……戯言を申せばその心臓、二度と動かぬと知れ」

「……スカルは今目を覚ました、お前がここで暴れないというのなら案内する」

「駆け引きを申すかコバエ………身の程知らずがっ」

 

取引を持ち出すコバエに殺意が漏れ出し漆黒の炎が辺りを覆いだした。

我が毒が、血が、炎が、全てを腐らせ、溶かし、命を奪い取るその様はまさに地獄であり、命は等しく無に帰す。

殺意という言葉にすら当てはまらないであろうこの激情を、周りにぶつけ、今にもその場に居る全ての者を殺そうとした。

 

刹那、

 

 

「あっ」

 

——————————酷く小さな声が耳に届いた。

 

その声を 間違えるものか

幾年月を共にして 忘れたことなど 一度たりともありはしなかった その声を

 

 

視界の端、視線の奥で紫の絹糸が陽の光に照らされながら、重力に従って舞い落ちていく。

そこからは無意識だった。

 

瞬きをすれば既に足が届く距離にいて、我はすかさず叫ぶ。

 

 

「主‼」

 

 

足を主の胴体へと伸ばし、衝撃のないように注意を払いながら受け止めれば、主の固く閉じられた瞼が震えながらゆっくりと開く。

見慣れた紫色の、水晶のような、穢れを知らぬ瞳が我を射抜き、見開いた。

 

ポルポ……生きて……

「あ、あるじ……こそ…生きて…おられたか……」

 

我が存命に驚きを露わにする主の、心臓と頭部を隠す包帯姿は痛ましかった。

お世辞にも逞しいと云えぬ華奢な身体は血が通っていないのではと疑うほど青白く、今にも死んでしまいそうだった。

主を地面に降ろせば、急に膝から崩れ落ちる。

 

「主!どうなされた!」

 

どこか傷が悪化したのかと焦る我は、主の地面についている手の甲に落ちた雫を見て、涙しているのだと気付く。

主の震える肩をただ眺めることしか出来ない我に、追い打ちとでもいうかのように主の口から声が零れた。

 

「あは……は…は」

「主…?」

「死んだ…と、思った………」

 

 

何故助けた、と言外の言葉を突きつけられる。

確かにあのまま落ちていたなら、死んでいたかもしれない。

漸く望んだ死を前に、我が………妨げてしまったが故に失望している。

 

ならばあのまま主が死に逝く光景を眺めていれば、良かったというのか

血を流し冷たくなっていく主を見届ければ、良かったというのか

それが、主の幸せだと言い聞かせて…亡骸と成り果てるそなたを眺めていれば……そなたは救われたというのか

 

「あ、主……我は…我には……分からぬのだ……」

 

そなたの望みを、救いを叶えたい

けれど、叶って欲しくないと願ってしまう己がいる

 

「主が、自由になりたいと……切に願っていることは分かっていたが……我は………嫌だった」

 

それでも己を偽り、主の死を望もうとした

現にそなたが倒れ伏した時、安堵したのだ

もうこれ以上そなたが苦しまずにすむと思えば、安心してしまった……

悲哀から 苦痛から 恐怖から 全てから解放されたそなたに心の奥底から安堵し涙した 

 

    けれど

 

「けれど、そなたの存命が分かって………今までの苦悩と葛藤が全て馬鹿馬鹿しく思えた……」

 

 

そなたの生きた姿を見た時、そなたが倒れ伏した時以上に安堵している己がいた

ああ、我が愚かだったのだ

その美しい瞳に映った己を見て、思い出した

今まで恐ろしくて口に出来なかった、「死ぬな」というたったの一言を

 

「どんな主であれど………生きてくれさえすれば……いいと、今になって……気付いた」

 

生きてくれされ、すれば

 

我が………ぼく、が………

 

救い出してみせるから

 

「…独りは嫌だ……」

 

 

    死なないで

 

 

「一緒にいたいよ……スカル……」

 

 

  一緒に、生きたいよ

 

 

それは 家族として、スカルの生を望んだ僕の最初で最後のお願いだった。

 

 

お、俺………自由()に…あ、憧れてた………全てから逃げて…楽に、なれるから……

 

ふと呟いたスカルの言葉に、泣き出しそうなほど悲しくなった。

側にいながら、一度だって救えてなかったスカルの壊れかけの心が悲鳴をあげていた。

 

もう嫌だった…………嫌だったのに……

 

ずっと苦しんでいたのを、側で見ていた。

ずっと怯えていたのを、側で見ていた。

ずっと悲しんでいたのを、側で見ていた。

だから、スカルの悲鳴を…助けてをずっと聞いていた。

僕が僕でなくなり、我になった時から…スカルは目に見えて死に急いだ。

僕が僕を殺したことが、自分の所為だって思い詰めたスカルが僕を突き放すことで、僕を自身から解放されるよう願っていたことも、薄々気づいていた。

スカルが部屋に籠って、僕から距離を置こうとしていたこと…気付かないわけないじゃないか。

でも、家族(ぼく)に戻ることをしなかったのは……スカルが死を望んでいたから。

僕なら絶対に死なないでって言っては、ずっとずっとスカルを苦しませ続けただろうから。

それでもね、苦しかったんだ。

目に見えて無理をするスカルを見ていることが、苦しくて、苦しくて、僕も我も心を殺していた。

そんな僕に気付いたスカルが、もっと死にたがるの…目に見えてたのに。

ごめんねスカル、君の死を心から願えない僕を……きっと君が恨んじゃくれないこと、知ってるけど。

 

それでも僕は君に生きてほしい

 

何度も君が僕を突き放そうとしても、僕は絶対にスカルを見捨てたりなんかしない

 

 

お前………こんな、俺でも……見捨てないなんて………馬鹿だろ

 

 

だって 僕の 大切な 家族だから

 

 

「……馬鹿でも…いい、僕はっ………スカルと一緒に生きていたい」

 

 

弱弱しくも、確かに首を縦に降ろしたスカルは、か細い声を押し殺して涙を流していた。

 

ああ、この人を絶対に救わなければ

 

 

透き通る涙の粒を落とす綺麗な瞳を見つめながら、そう心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

綱吉side

 

 

「スカルの目が覚めたって本当!?」

 

リボーンにスカルの目が覚めたと聞かされた俺が急いで病室に駆け込み、勢いよく開いてしまった扉の先には、スカルの右手を握りしめるユニと、それを握り返すスカルの姿があった。

青白い肌に所々包帯やガーゼをしているスカルの表情はまるでこちらを怯えているようで、チクチクと針で突かれたような痛みが心臓に過ぎり、俺はスカルと交差する視線を逸らしながら謝罪を口にする。

 

「ス、スカル……その、俺………お前をずっと怖い奴だと…勘違いしてたけど、本当はそうじゃなくって………えっと、……その…ごめん…なさい…」

 

本当はもっと謝らなきゃいけないこと沢山あるんだけど、いざ本人の前に来てみれば思うように言葉が出て来ず、精一杯の謝罪だけを述べた俺は、スカルを安心させようと続けた。

 

「お前が無事で本当に良かったよ……多分これから他のアルコバレーノ達も来ると思うけど、皆お前のことちゃんと理解してるから安心してほしいんだ……」

 

ちらりとスカルの顔を見れば、こちらの真意を測りかねているようだった。

どうして、何故、と困惑が嫌でも伝わるも、数秒の末小さく頷いたスカルに俺は安堵のため息を漏らす。

そして一向に喋らろうとしないスカルと俺の間に沈黙が続き、慌てて何か話題でもと話しかけた。

 

「あ、自己紹介がまだだった!お、俺沢田綱吉っていいます!えっと………中学二年生です!」

「そういえば私も…この時代で会うのは初めてでしたね……私はユニ、ルーチェは私の祖母で、母はアリアです」

 

出来るだけ優しく声を掛けるけれど、スカルの表情から影が消える様子はなく、ユニも不安そうにスカルの左手を握ってる。

そんな時に病室のドアが開き、ラルとコロネロが入って来た。

 

「スカル、無事目が覚めて良かった……それと、今まで悪かったな」

 

ラルは室内に入るなりスカルへ声を掛け今までのことを謝れば、全く接点もないだろうコロネロがスカルへと手を伸ばす。

 

「ヘルメットの下がこんなガキとはな……おいスカルおめー呪いを貰った時いくつだったんだコラ!」

 

コロネロがスカルの頭を撫でようと伸ばした手に、スカルの体が一瞬(すく)んだのを見逃さなかった俺は、スカルの過去を思い出し悲しくなる。

コロネロの手が一瞬だけ止まるけど、そのまま優しくスカルの頭に置かれた。

 

「おいコロネロ、もう少し落ち着いた口調で話してやれ」

 

スカルが周りに対して明らかに恐怖を抱いていることはこの部屋にいる誰もが気付いていて、ラルの言葉にコロネロがバツが悪そうに眉を(しか)める。

当のスカルはコロネロの言葉に思うところがあったのか、(おもむろ)にユニの手を解き両手を目の前に持って行く。

右端の親指から順に折っていく姿に、まさか…と思わずにいられなかった。

自身に無頓着であることはなんとなく察することが出来ていたけれど、当時の年齢さえ覚えていない程自分自身に対して興味の欠片もない様子は、どれだけスカルが抑圧された日々を送っていたかが垣間見れ、見ているこちらが辛くなる。

指の数が15を過ぎた辺りから急に曖昧な動きになり、記憶が定かでないことが分かった。

シスターの話だと、スカルが家も家族も失ったのが15歳だった……多分、思い出したくない記憶だったのかもしれない。

もう一つ指が折られたところで完全に手が止まり、思考に(ふけ)ったスカルの瞳が段々と光を失っていく様子に俺が名前を呼ぼうとして、ふと我に返ったのかスカルの瞳に光が戻った。

 

「じゅ……じゅうろく…………?」

 

自信なさげに呟くスカルの声は掠れていて、中途半端に折られた両手の指の数が現実として突きつけられた。

その場にいた誰もが苦々しく顔を歪ませたのは正しい反応だ。

16歳……俺と二つしか変わらないのに、村人に(しいた)げられて、全部失って、自分すらも見失って、裏の世界に引きずり込まれて……挙句に呪いを貰ったなんて……

思わず声に出してもスカルはそれを全く気にしていない様子で、きっとそれが悲しいことだなんて思う思考さえ彼にはもう存在していないんだと思うと余計苦しくなった。

コロネロにしてはとっても優しく頭を撫でていたけど、スカルの体が始終強張っていたのを見逃さなかった俺は、少しでも話題を変えようと体が元の姿に戻った経緯を話し始める。

どこか上の空で俺の話を聞いていたスカルは、現実味を帯びていなくてまだ夢の中にいるような様子だった。

 

「呪いが解けた後のことはまだ分からないけれど……スカルがやりたいことをすればいいんじゃないかな…」

 

何を言っていいかも思いつかない俺の精一杯の励ましに、スカルが反応した。

考え込んでいるのか視線を彷徨わせて、必死に答えを探しているようなスカルが発した言葉にその場の誰もが凍り付く。

 

 

じゆう……に、

「だめだ!」

 

なりたい、と唇が形どる前に俺は思わず声を荒げてしまい、慌てて口を噤み落ち着きを払って再び言葉を掛ける。

 

「ま、まだ…お前が知らないだけで世界は広いんだ……少しでもいいから世界を…本当の目で、感情で…見てみなよ」

 

俺の言葉にあからさまに困惑し始めるスカルに、コロネロとラルが口を開く。

 

「カルカッサなら問題ねぇぜ、さっきヘルメットと一緒にお前の死亡報告をしてきたからな」

「あいつらが狂人を崇拝している限りお前は一生縛られたままだと思った俺達の総意でありエゴだが……お前は一度自分の足で手で、目で…生きてみた方がいい……きっと生きるための何かを見つけられるはずだ」

い、生きるための……何か………

「狂人スカルは死んだ、これからはお前だけの人生を、生きて、歩いてみろ」

 

カルカッサにスカルのヘルメットを送り付けることを提案したのはこの二人だ。

スカルが頑なに顔を見せなかったのは周知の事実だったので、カルカッサがその真偽に気付くのは至難の業だ。

暫くカルカッサは荒れるだろうが、軍師のいないあのファミリーがそう長く続きはしないとリボーンが言い、皆それに頷いていた。

カルカッサファミリーには悪いけど、これが一番平和な解決策だった。

スカルは新しい人生を生きることになるけれど、それが本人にとって一番幸せだったのかなんて誰にも分からない。

だってスカルが一番望んでいた救いは死ぬことだから。

それが幸せとは言い切れないけれど、本人とって確かに逃げ道であり、地獄ではなかった道だった。

俺達がしたことが正しいかなんて誰も分からないんだ。

 

でも、この選択をしたことを俺は絶対に後悔しない。

 

 

 

 

その後、ヴェルデやマーモン、風がスカルの顔を覗きに来てはそれぞれがスカルを気に掛けていた。

クロームは来たがっていたけれど、スカルの何時間にも渡る手術に付き添い疲労困憊だったので休むよう言えば、渋々ながら首を縦に振ってくれた。

バミューダは来なかったけれど、俺よりも重症だったからまだ休んでいるのかもしれない。

賑やかな病室の中でスカルの表情が一向に明るくなる様子はなかったけれど、これ以上居座って体調を悪化させるだけだと思いユニ以外が病室を出る。

 

「スカル…大丈夫かな……」

「まだ困惑している部分が多い上に、心の傷はそう容易く治りはしない……こればかりは長い時間が必要だろうな」

 

俺の言葉にラルがそう応え、不安が過ぎる。

何だろう………胸騒ぎがするような………

そんなことを考えながらボンゴレ本部の廊下を歩いていると、目の前から男の人が慌ただしく走ってきた。

 

「大変です!謎の生物の襲撃を受けました!」

「「「「「‼」」」」」

 

その人の言葉に、俺達全員に緊張が走った。

謎の生物という単語に先ず頭を過ぎるのは古代生物で、死亡を確認していなかった奴がスカルを追ってここまで来たのかと思い至る。

リボーンと九代目が前線に向かったと聞いて、俺はいてもたっても居られず走りだした。

まだリボーンは戦える程回復していないし、九代目だけじゃ古代生物には到底敵わない。

いや、俺達全員が挑んだところでもう一度勝てる確証なんてどこにもないんだ。

背中に伝う冷や汗に超直感が何かを訴えているけれど、一体それが何なのか分からず焦りだけが増えていく。

段々本部の正面に近付くにつれ、騒音が聞こえる。

ふと騒音が止み、どうなっていると気が気じゃなくなった俺がやっと前線だった場所へと辿り着けば、リボーンと九代目の姿だけがそこにあって古代生物の姿が見えない。

 

「リボーン!九代目!」

「綱吉君…!」

「こ、古代生物は一体どこに…っ」

 

俺の方へと視線を移した九代目とは別に、リボーンの目線がある方向へと向けられていて俺もそちらへ視線を移せば、衝撃の光景がそこにあった。

 

「……え、……っ……え!?」

 

言葉を失う俺の前には、地面に膝をつき両手で顔を覆っているスカルと、その隣でスカルを見つめている古代生物だった。

スカルは先ほど会った時と同じ病衣に裸足という恰好で、スカルのいる場所の上方を見れば窓からカーテンが風で枠の外に出て緩やかに(なび)いている。

そこまで見れば流石の俺でも、スカルが窓から落ちたことくらい分かり顔から一気に血の気が引いた。

窓から……自分から落ちたんだと、分かり切った現実に目の奥が熱を持つ。

そこまで生きるのが怖かったのかだなんて…分かり切ってる………

ずっと死ぬことを望んでいたスカルのとる行動なんて、誰もが予想ついていたのに。

それなりに距離のある俺に、スカルと古代生物の声は聞こえなかったけれど、なんとなく…古代生物が泣いているように見えた。

XX BURNER(ダブルイクスバーナー)を奴に撃った時聞こえた声がとても優し気だったことを思い出して、歩を進めようとした足を止める。

泣いているのか肩を震わせたスカルが首を縦に振るのを、俺はただ黙って眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

ポルポのことをすっかり忘れていた俺氏、ポルポの生死が気になり出してヤバイ。

死んでたらどうしよう…訴訟も辞さない。

心配していると、窓の外が何やら騒がしいことに気付いた。

何ごとかと病室の窓を開けようとベッドから出た俺は、腕についている管を支えに巻き付け、地面に垂れないように気を付けながら窓際へと歩き出す。

窓のガラス部分は俺の上半身ほどあり、開けばそれなりに風が入ってきて涼しかった。

重傷の体をいきなり冷やしたのがダメだったのか、一瞬意識がぐらつき窓の外に体の半分以上が出てしまうという事態に陥り、あっと声を出す前に上体が傾き足が浮き上がる。

これやばいと思ったのも束の間、点滴の支えが窓に引っ掛かり腕から針が勢いよく外れて、鋭い痛みに声が出た。

既に体は逆向きであとは落ちるだけというところだったが、足の先が窓枠に引っ掛かり俺は宙ぶらりんになる。

幸い麻酔が撃たれている為、心臓に痛みはなかったが無理やり引っ張られたように外れてしまった針の傷痕が痛みだす。

目線を頭上へ向ければあるのは地面で、しかも花壇の角が丁度真下にある。

数針縫ったであろう頭の傷に更にここから命綱無しバンジー決め込んだら次こそお陀仏だと思った俺は逆さまであるはずの顔から血の気が引いていくのが分かった。

起きかけで足に力が入らず段々とずり落ちていく体と、真下の地面が近づいていく怖さで遂に目の前がボヤけ出す。

 

「あっ」

 

体力の限界でずるりと足が窓枠から離れ、俺は真っ逆さまから落ちてしまう。

走馬燈はこれで何度目だろうと、お馴染みの現象に懐かしさを覚えながら近づく地面に目を固く閉じたその時だった。

 

「主‼」

 

懐かしい声が聞こえた俺は無意識のうちに安心感を覚え、体の力を抜いてしまう。

そして予想していた痛みや衝撃が何一つ来ない俺を、ずしりと懐かしい感触が包み込んだ。

恐る恐る瞼を開ければ、そこにはずっと慣れ親しんできた頼りになるペットの姿があった。

 

「ポルポ……生きて……」

「あ、あるじ……こそ…生きて…おられたか……」

 

ポルポもまた俺を見ては目を見開いてそう呟く。

俺の体を労わってか、ゆっくりと地面に降ろしてくれるペットの気遣いに感無量な俺は、地面という偉大な足場に先ほどの恐怖と緊張が解け足から崩れ落ちる。

 

「主!どうなされた!」

 

数十時間に渡って連続で死ぬ思いをしたからか、震えと涙が中々収まらず顔を伏せる。

ポルポの足がおろおろしているのが視界に入り、笑いが零れた。

 

「あは……は…は」

「主…?」

「死んだ…と、思った………」

 

本気で今のは死んだと思った。

ポルポが助けてくれなきゃお陀仏だった俺はありがとうと言おうとしたが、急に心臓が激痛を訴え開いた口を閉じる。

安静にしなきゃいけないのに起き上がった挙句窓から落ちるという暴挙をやらかして、傷が開いたのかもしれない。

 

 

「あ、主……我は…我には……分からぬのだ……」

 

激痛の走る心臓を手で押さえ痛みが治まるまで待っていると、ポルポの声が頭上から降ってくる。

けれど今の俺は涙やら鼻水やらをもろもろ垂れ流しているので、顔を上げる気はない。

 

「主が、自由になりたいと……切に願っていることは分かっていたが……我は………嫌だった」

 

そりゃそうだ。

ニートな飼い主とか見限るレベルだよな…

顔を上げるために垂れてる鼻水を全力で啜っていたら頭痛くなってきた。

 

「けれど、そなたの存命が分かって………今までの苦悩と葛藤が全て馬鹿馬鹿しく思えた……」

 

苦悩と葛藤って………え、見限るとかそんな感じの悩み?

俺そこまでヤバイレベルまで来てたの?

 

「どんな主であれど………生きてくれさえすれば……いいと、今になって……気付いた」

 

ポルポがええ子すぎて涙出る。

俺もしかして今回死にかけたお陰で、ペットに見限られるフラグ折った?

失いかけてやっと気づく大切なもの的な……?

放置気味で育ててすらいない俺にここまで言ってくれるとか…俺氏感激。

ある意味死にかけて良かった。

 

「…独りは嫌だ……」

 

あ、今コイツ素で喋った気がする。

 

「一緒にいたいよ……スカル……」

 

 

ポルポ!お前俺の名前!

名前‼何年ぶりだおいぃぃいいいい‼

ビックリしすぎて鼻水ちょっと出た。

感動しすぎてまた涙が出てきた………

この機に脱中二病してくくれば嬉しいけど、俺が反面教師(ニート予備軍)すぎてポルポまたグレそう。

これ俺がニートライフ諦めれば一件落着な気がするけど、そう易々と長年の夢を諦めるわけにもいかない。

仕事したくないでござる。

 

 

「お、俺………自由(ニート)に…あ、憧れてた………全て(社会の目)から逃げて…楽に、なれるから……」

 

前世で苦労しすぎるは今世はハードモードすぎるはで、燃え尽き症候群並みに何もしたくなかったしな。

 

「もう嫌だった…………嫌だったのに……」

 

ずっとずっとぐーたらして、アルバイト並みの週一労働だけで惰性に生きて、ゲームにのめり込んで部屋から出ないことなんてざらで………あれ?意外と俺満喫してた?

あれれ……?ちょっと振り返ってみようか。

呪いを貰ってかれこれ20年とちょっと……週一労働といっても出勤してやることは資料を読むだけで、ギルマスとゲームで遊んで……ドライブで色んなとこ走って、……でも俺の持ってるライセンスなんてゼロで……出来高制なにそれ美味しいの?ってレベルで高い給料もらって……あれれ…?

俺前世よりもめちゃくちゃ楽な人生送ってね?

ニート寸前の飼い主があの会社を辞職して家に引きこもるのはいつでも有り得るわけで、それを数十年も側で見てたポルポ君はさぞかし冷や冷やしただろうに。

たまに食べ残したご飯をあげるだけでそれ以外は自給自足してたから放置してたけど、俺結構ヤバイ飼い主?

動物愛護団体に通報案件?

今までを思い出して何だか逆に申し訳なくなった俺だが、取り合えず一言…ポルポに言っておきたい。

 

 

「お前………こんな、俺でも……見捨てないなんて………馬鹿だろ」

 

ほんとそれ。

確かに一緒に遊んだ記憶とかもあるけど、圧倒的に引き籠ってた記憶しかない俺はほぼポルポを放置してた。

これは見限るレベルですね、はい。

あまりにもひどい現状に涙が全部引っ込んだ。

 

 

「………馬鹿でも…いい、僕はっ………スカルと一緒に生きていたい」

 

 

んあああああああああああああああ、ポルポマジええ子。

何この子どうやったらこんなええ子育ったの?

ごめんねポルポ、俺が悪かった。

俺……もうニート諦める。

このままの週一勤務の生活でも充実してるから高望みしないことにしたよ。

感極まって涙腺崩壊してしまった俺は引っ込んだばかりの涙を垂れ流しながらその言葉に頷くが、この時すっかり忘れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

週一労働で高給料のカルカッサ企業に勝手に死亡届出されて退職させられていたという事実を。

 

 

 

 

 

 

 




スカル:このあとめちゃくちゃ前言撤回した、死んだと思ったけど死んでなかったら死にそうになった人、チャコの死を思い出して目が死んだけど直ぐに戻った。

ポルポ:ンアアアアルジイイイイイ、スカル死ん(だと思い込ん)で弔い合戦に負けてSAN値ピンチ状態から夜の炎を獲得しちゃった系セコム、既に傷は半分くらい癒えてるので出会いがしら再び戦闘になれば勝つのはコイツ、スカルの気配を察知してボンゴレ本部へ突撃からのポルポ君()復活。

ツナ+アルコバレーノ:スカルの年齢と自殺未遂にSAN値ピンチ

リボーン:スカルの年齢聞いていないのがせめてもの救いだが、多分これからどっかで聞いた時に再びSAN値ピンチに陥る

あとはそこまで愉悦要素あるわけではないですが、一応締めくくりのいいように終わらせてみます。


ps:多分もう話の流れは変わらないので、リク募集しようかなと思います。
活動報告にあげておきますので、リクエストは是非そちらにお願いします!
※感想欄にリクエストは書きこまないで下さい。


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skullの呪解

俺は戻らない。


リボーンside

 

「スカル!何でっ……!」

 

ツナの悲痛な声に我に返った俺は、視線の奥で泣いている子供と大きな図体の生物を見つめる。

裸足で病衣を着たまま腕から血を流すスカルは、芝生の上で嗚咽を零していた。

何故奴が病室の窓から落ちてきたのかなんて、聞かずとも皆分かっているのだ。

今しか死ぬことは出来ないと、悟っているからこそあのガキから目を離さないようにしなければならなかった。

スカルの死を誰よりも望んでいないのは、アルコバレーノの誰でもなく、ツナでもなく、ルーチェでもなく、あの古代生物なのかもしれない。

でなければ、あんなに愛おしそうに守ろうとはしないだろう。

 

「リ、リボー…!あ、あれ古代生物っ……っていうかスカル!」

「るせぇ、少し黙れ」

 

思考の途中で横からツナが慌てて俺に声を掛けるが、混乱しているツナはただ(やかま)しいだけで俺はツナの頭を軽く叩く。

小さく悲鳴が聞こえ頭を抑えているツナを横目で見ていると、スカルの病室の窓からユニが顔を出した。

ユニの顔は青白く、自殺しようと飛び降りたスカルにショックを受けている。

焦りを顔に貼り付けた風がユニの側から顔を出し、窓から下を覗き込んでいた。

ついにユニが泣き出して、スカルがその声に気付いたのか病室へと視線を移しては動揺している。

ルーチェに似ているユニに対してどこか心を許しているような様子を見せるスカルは、泣いているユニに驚いて固まっていた。

俺は溜め息をつきながら歩を進め、スカルと古代生物に対して声を掛ける。

 

「おい、お前の所為でユニが泣いてんだ……行ってこいよ」

 

俺の言葉にスカルは振り返り、視線がぶつかる。

一瞬スカルの瞳の奥に恐怖が過ぎるが、すぐに目を逸らされた俺は上を向いてユニを宥めている風と目を合わせた。

ユニを泣き止ましとけとそう目で告げれば、風は苦笑して頷く。

俺の言葉に何か思うところがあったのか、スカルはゆっくりと立ち上がり古代生物に支えられながら病室へと向かいだした。

暫くして上からユニの嗚咽が聞こえ、もう大丈夫だろうと思った俺は会話をしているツナと九代目の方へ歩き出す。

二人の会話が聞こえるであろう距離まで近づいたところで、ツナが九代目へ勢いよく頭を下げた。

 

「スカルの人生を狂わせた元凶はマフィアで…俺達が原因だったんです、だから……スカルを責めないで下さい、お願いします!」

「頭を上げなさい綱吉君……リボーンからも彼の事情は聞いているし、わしは彼を責めるつもりはないんじゃ」

「ほ、本当ですか!?」

「子供だった彼を狂人たらしめたのはわしらボンゴレでもある以上、責任も…ボンゴレが負うべきじゃ」

 

俺から見えない九代目の表情は、ツナの表情を見ていればなんとなく察しがつき歩を進める速度を落とす。

ツナが俺に気付き名前を呼べば、九代目もこちらを振り向く。

これから日本へ向かう準備をするとだけ言い残してツナをアルコバレーノ達の場所へ引き摺っていけば、視界の端にバミューダが立っていた。

 

「ワープホールは?」

「いつでも」

 

俺の問いに一言だけ返すバミューダを通り過ぎようとしたら、ツナが思い出したような声を零して立ち止まった。

 

「バミューダ!お、俺を一旦日本に連れてってくれないか?」

「何故だ」

「他の皆にスカルのこと教えなきゃ!多分皆警戒して呪解どころじゃなくなっちゃう!」

「確かにそうだな」

 

納得したバミューダがワープホールを作り出せば、ツナが俺へと振り向く。

スカルがまた自殺しないように見ててくれとだけ言い残して、俺の返事に耳もくれずワープホールに飛び込んでいったツナに舌打ちをした俺は、こちらを見てくるバミューダと視線が交差する。

 

「何だ」

「いやなに……最強の殺し屋(ヒットマン)でも罪悪感は持ち合わせているものだなと、意外に思っただけさ」

「あ"?てめぇこそスカルを牢にぶち込まないのを見るに、復讐者(ヴィンディチェ)ごっこは終わったか?」

「ふん、チェッカーフェイスからトゥリニセッテの主導権を奪い取れる今、復讐者(ヴィンディチェ)の存在理由などありはしない」

「チッ」

 

バミューダを一睨み奴に背中を向けた俺はその場を離れようと一歩踏み出せば、背後からバミューダが声を零す。

 

 

「どのみち、狂人はもうこの世にはいない」

 

 

狂人は死んだ。

もう、“狂気”という名の偶像を形どった何かは存在しない。

 

晴天を思い出す。

枯れた泣き声を拾い上げることなく無慈悲に捨て去った、眩しい程の快晴を

 

 

『あなたの幸せを祈っています』

 

 

もう相見(あいまみ)えることのないかつての大空の言葉を思い出しては、俺は足音が響く廊下を無言で歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

 

バミューダの夜の炎を使って戻って来た集合場所にはチェッカーフェイスを除くほぼ全員がそこで待っていた。

結構重症だろう白蘭やザンザスまでもが待っていて驚いたけれど、あっちも俺の姿を捉えて目を見開いている。

 

「十代目!」

「ツナ‼」

 

獄寺君と山本が俺の元へ駆け寄り、怪我は大丈夫かと何度も聞いてきて、生死を彷徨ってましたとは口が裂けても言えなかった。

 

「綱吉君が無事来れたってことは、スカルの方も解決したと受け取ってもいいのかい?」

 

深刻そうな顔をしていない俺に色々悟った白蘭の言葉に俺は頷くが、でも…と続ける。

皆には全て話しておかないといけないことがあると告げた。

俺の真剣みを帯びた顔に、吉報ではないことを悟った皆は無言で俺の言葉を待っていて、意を決めた俺は口を開く。

 

そして、俺はスカルの全てを話した。

スカルの原点となった故郷でのこと、そして迫害、それがマフィアが元凶であること、スカルの精神状態、俺達の罪、そしてこれからを。

骸の表情が段々と険しくなっていくのが見え、過程は違えどマフィアに人生を狂わされたスカルの過去と自身の過去を重ねているように感じた。

何度も自殺しようとしてたことや、さっきも自殺しようとしてたことを言えばあからさまに山本が傷ついた様な顔をする。

山本も自殺を考えるほど追い込まれたことあるから理解出来る部分があるのかなって思ったけど、今はその思いを顔に出さずスカルの今後の処遇を伝える。

 

「――――だから、スカルはボンゴレで保護すべき…って九代目と話し合いが決まって………その、一応本人の意思も聞いてみるけど、今スカル自身が考える余裕がないというかそういう以前に茫然自失っていうか……取り合えずスカルに対して危害を加えちゃダメってことは決定事項だから!」

 

何か言わなきゃいけないことが多すぎて綺麗に纏めきれない俺は、強引に説明を切り上げる。

正直スカルに手を出して古代生物がキレたら今度こそ俺達が終わる気がした。

一応、スカルに対して狂人という呼び方はタブーであることは教えたし、古代生物のことも簡単にだが教えておいた。

古代生物のくだりで白蘭が一人で納得していて、何納得してんだと聞けば白蘭が代理戦争一日目のことを話し始める。

 

「ブルーベルの修羅開口って、ほら…絶滅した魚竜の細胞を使ってるんだよ…だから、遺伝子レベルでその古代生物に対して拒絶反応が出ちゃったんだなーって納得しちゃってね」

 

その言葉に物凄く腑に落ちた気持ちになった俺は、古代生物の逆鱗に触れてしまった時を思い出して、あれを見たら恐竜とか魚竜の細胞うんぬん以前に皆足が竦んで動けない気がする…と、遠い目をしながら悟った。

あの(おぞ)ましい光景は二度と見たくないなぁ……

いけないいけないと思考を切換え、取り合えず皆に必要な説明は終わったのでまたイタリアに戻ろうと皆に一言断ってワープホールを潜る。

潜ればボンゴレ本部に繋がり、俺はスカルのいる病室へ向かった。

途中スカルの着替えをボンゴレの人に借りてきて病室の扉を開けば、そこにはスカルを睨みつけるリボーンと、スカルに縋りついて嗚咽を漏らすユニと、泣いているユニに困惑しているスカルがいた。

自殺を図らないように見ていてくれって頼んだけど誰も睨んでろって頼んでないだろと内心独り言ちる。

いやもしかしたらスカルを心配したい気持ちとそれを表に出すことを躊躇するプライドとの葛藤の渦にいるリボーンなりの精一杯の譲歩なのかもしれないけれど………その表情はハッキリ言って、ない。

なんだろう……リボーンって俺にとって超人完璧の鬼畜な家庭教師ってイメージあったけど、スカルが関わると一気に感情が読みやすくなるという意外な一面があったなんて。

スカルを睨みつけてるリボーンに呆れつつも声を掛ける。

 

「リボーン…準備出来たよ」

「分かった」

 

ここに来る途中他のアルコバレーノには正面玄関に集まってと伝えているから、後は俺達だけだった。

スカルには先ほど借りた服を渡し、泣き止んだユニと共に部屋の外に出る。

スカルがいつ自殺を図るか分からずはらはらしているけど、窓に張り付いてる古代生物がスカルから目を離そうとしないから多分大丈夫だと思う。

そういえば、古代生物から圧……というか殺気というか、重苦しい何かが消えたような気がするのは俺だけだろうか。

今となってはあの古代生物に対して恐怖という感情はだいぶ薄れている上に、スカルの安全に関しては信頼すべきだと超直感が告げている。

病室の扉が開き出てきたスカルに思考を切り上げて視線をあげれば、俺は言葉を失った。

スカルの右腕…具体的に点滴の針が刺さっていたであろう箇所から血が滲んでいて、スカルは左手でそれを拭っていたのだ。

慌てた俺は近くにあった医療キッドから絆創膏を取ってきて点滴痕に貼る。

乱暴に引き抜いたのか傷口が少しだけ広がっていて、もっと自分を大事にしろよと大声で怒鳴りたくなった。

それもスカルからすれば理解不能な怒りなんだろうなって分かってはいるものの、痛ましい現実に心が痛んで仕方ない。

そんな中スカルの左腕にユニがしがみ付き、まるでスカルの代わりに痛みを感じているように顔を歪めては気丈に振る舞う。

 

「スカルは…私が守ります」

「お、俺も守るから!」

 

ユニの言葉に俺もそう告げれば、スカルは何か言いたそうに口を開けようとしては閉じてと、自分の意思を外に出さないように押し込んでいく。

恐らく今までもそうやってきて、いつしかどれが自分の意思か分からなくなって皆の恐怖に自我も自己も塗り潰されていったのかと考えてしまう。

自分という支えの無い人間が、再び自分という心の支えを作ることにどれだけの長い時間が必要になるか分からないけれど、きっとスカルなら………まだ泣くことが出来るスカルならばまだ自分を取り戻すことが出来ると思う。

今のスカルは自失状態で何をするにしても誰かが手を引っ張って教えなきゃいけない程空っぽだ。

だからこそ、俺やユニ…周りの人たちがスカルの手を取らなきゃダメなんだと改めて思い知らされる。

俺達はスカルと共にバミューダ達のいる場所まで向かい、他のアルコバレーノ達と合流する。

 

「揃ったな、開くぞ」

 

その言葉を皮切りにバミューダがワープホールを作り出し、一人ずつ中へと入っていく。

俺達の順まで回れば、動く気配のないスカルに声を掛けてワープホールの中へと誘導した。

 

「大丈夫だよスカル……、あっちにいる皆にはお前のこと話してるから」

「私の手を離さないで下さいね」

 

出来るだけ安心させるように告げた俺は、スカルと共に暗いワープホールへと足を踏み入れた。

瞬きを一つ、それだけで変化する景色はいつ見ても慣れず、ぎこちなく集合場所へと降り立った俺の視界に獄寺君と山本が入る。

二人は俺に声を掛けた後、古代生物を見て一瞬固まるもスカルへと視線を移した。

皆には一応スカルの事情を話したけれど、それでも警戒が強く表れている獄寺君の表情とは逆に山本は好奇心といわんばかりの様子でスカルをまじまじと見つめている。

 

「そいつが………スカル…」

「思ってたよりも若いな、俺達よりも二個上だから先輩か!」

「この馬鹿!相手は狂じっ」

「獄寺君!」

「あ、す、すいません………失言でした」

 

獄寺君の放った言葉につい声を荒げてしまった俺に、彼はすぐに謝り出す。

横目でスカルを見れば、瞳に感情が全くなく虚ろな目をしていた。

狂人、という言葉が彼の心を殺し自己を奪っていく様を目の当たりにした俺は、慌ててスカルに声を掛けようとしたが、ふいにスカルの瞳に光が戻る。

すると急に視線が泳ぎ始め、息苦しいような表情をし始めた。

それが周りからの視線のせいだということに気付いた俺が、スカルを視線から守ろうとする前にリボーンが(おもむろ)にスカルの視界を遮るような位置に移動する。

リボーンなりにスカルのことをちゃんと気遣ってるんだなって思いながら、リボーンの視線の先にいるチェッカーフェイスへと身体を向けた。

 

「全員集まったぞ、チェッカーフェイス」

「どうやらそのようだ」

 

リボーンの言葉にチェッカーフェイスがそう返し、呪解の手順を話し始める。

俺の考案したトゥリニセッテ維持装置の周りを皆で囲み、死ぬ気の炎を注ぐというものだ。

それで呪解は本当に出来るのかというコロネロの問いにチェッカーフェイスは頷き、皆一様に円を囲み始めた。

呪解に対して興味がないのか意識が希薄なスカルを俺とユニの間に誘い、手を維持装置へと向ける。

一人、また一人と次々と炎が維持装置に注がれ始め、集った炎は火柱として聳え立つ。

急にスカルがふらつき始め、俺は慌てて片手でスカルを支えると、触れた背中が段々と小さくなっていくのに気が付き目を見開いた。

徐々に体が縮むスカルに、逆の方向へと振り返れば山本に支えられたリボーンの姿が映る。

の、呪いは解けるんじゃなかったのかよ!?

言葉を失った俺を他所に、死ぬ気の炎が十分に満たされた維持装置が一際眩しく光り出し、一気に俺達の炎を吸い取った。

力の抜けていく感覚が次第に小さくなっていき、最終的に眩しさと同時に維持装置に注がれていた炎が消える。

火柱が消えた広間にチェッカーフェイスの姿はなく、ラル以外のアルコバレーノ達も自分の体に困惑していた。

チェッカーフェイスの言葉に疑心暗鬼になっていると、ヴェルデが推測だが…と切り出す。

 

「つまり我々は普通の人間の赤ん坊と同じように、今から時間をかけて育つことになるのかもしれんぞ」

 

皆一様に納得している中コロネロがショックを受けていて、ラルとの関係を思い出した俺はなんともいえない微妙な気持ちになる。

そんな時、ユニが呪解に対して全く興味を示さなかったスカルを抱き上げて話しかけた。

 

「スカル……呪解出来た今、あなたは自由です」

「……」

「そこで提案なんですが、暫くの間…一緒に暮らしませんか?」

 

ユニの提案に周囲が驚いていて、特に白蘭が目を見開いている。

まぁ…ルーチェさんのこともあって、ユニはスカルに対して誰よりも気に掛けている。

正直γがこの場にいなくて本当に良かったと、入院中の彼には悪いけど切実にそう思った。

確かにユニの提案は、俺にとって驚くべきことではない。

元々スカルは他人と一緒に住んで、普通を、幸せを、愛情を知った方がいいのだ。

 

「新しい生活に戸惑うこともあるでしょうし、一緒に暮らして普通を知った方がいいと思いました」 

「それに…命を狙われかねないあなたを一人にするのは不安です」

 

まさに俺が思っていたことをユニが告げ、スカルの答えを待つ。

スカルはただ黙ってユニを見つめていた。

 

 

「―――――――――――――」

 

 

 

掠れたか細い声は、確かに傷だらけの喉を通って放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

男に二言はない、って言葉あるけどさ……あれまだ口にしてなかったらノーカンだよね。

 

そんなことを考えてる俺は今現在リボーンにガンつけられています、誰か助けて。

直ぐ隣でユニちゃんが泣いておりますが、何故(なにゆえ)泣いておられるのか……

ポルポの健気さに一瞬ニートライフを諦めかけた俺だが、勝手に職場をやめさせられ収入源がなくなってしまったことを思い出し絶望した。

あれリボーン達の悪戯なんだと説明してカルカッサに戻ることも出来たんだが、俺の死亡扱いには理由があって、狂人スカルという人違いの元凶と俺を同一人物だと思っている人がいるらしい今、噂が消えるまで大人しくいるようにとのことだった。

確かにいくら職場に復帰したとて命を狙われ続けるのは御免被りたい。

カルカッサには悪いけど、俺は相談なしに念願の辞職を果たした。

狂人スカルとやらの噂が消えるまでボンゴレ企業の扶養の下で大人しく隠れていろってことは引き籠れってことで、これはニートライフワンチャンあるなと期待で胸を膨らませている俺の目の前にリボーンが椅子を引き摺って座り出し俺を睨みつけてくるではないか。

人違いに気付いたにも関わらずリボーンが睨みつけてくる理由が本気で分からない俺は、点滴を打たれた右腕が痒くて左手で掻こうとしたらリボーンに一際鋭く睨まれて固まる。

怖くてガクブルしてると病室の扉が開き、綱吉君が入ってくるや否や俺を見ては同情するような目を向けてくるが、ほんとそれ傷付くんでやめてくれませんかね。

因みにポルポは病室の扉に張り付いて室内を(うかが)っているが、もはやホラーだよな。

綱吉君が泣き止まぬユニちゃんの頭を撫でて、リボーンへと声を掛ける。

 

「リボーン…準備出来たよ」

「分かった」

 

二人の会話に内心首を傾げていると、綱吉君に服を渡された。

 

「並盛…えーと日本はここより気温低いし、病衣だと寒いだろうから…」

 

ああ、日本に向かうのか。

にしても綱吉君の気遣いが身に染みるなぁ……

受け取った服を広げれば黒いTシャツに黒いダボダボのズボンで、着替えたら教えてねと残して全員出ていく。

もたつきながら着替えていると、ズボンの裾を踏んずけてしまい転がった拍子にまた点滴が外れてしまう。

痛みに悶絶していると窓の外に張り付いていたポルポが心配して中に入って来た。

ポルポを安心させようと大丈夫と苦笑いをして、病室を出れば綱吉君が俺の方に振り返り固まる。

右手の甲から垂れる血を左腕の袖で拭っていると、綱吉君が絆創膏を貼ってくれた。

ありがとうとお礼を言う前に綱吉君の側にいたユニちゃんが左腕にしがみついてなまけもののように引っ付いてきて驚く。

 

「スカルは…私が守ります」

「お、俺も守るから!」

 

な、何に対して守ってくれるのか怖くて聞けない俺は口を(つぐ)む。

狂人スカルとやらが色々やらかしてくれたのか、結構命を狙われているらしいことは分かっているので、人違いで俺を狙ってくる奴がどんな奴なのかは大体想像ついて正直口にしたくない。

こんな子供に守られて男の沽券に関わる?

沽券はとうの昔に捨てた俺は、二人の言葉に甘んじようと思う。

いざという時はポルポが助けてくれそうな気がする。

少しだけ歩けば屋外に出て、そこには俺が知っている限りでは全員が揃っていた。

バイパー、ヴェルデ、風、リボーン、コロネロさん、ラル姉さん、知らない黒い人、知らない女の子………ちょっと待て最後の女の子は初めて見るわ。

黒い人はあれだ、多分ポルポとガチンコ対決してた時いた奴だ。

 

「揃ったな、開くぞ」

 

それだけ呟いた黒い人が直ぐ隣にワープホールらしき黒い何かを作り出す。

はて、どこかでこれ見たことあるような………あ、透明のハブられてた赤ちゃん!

あいつの元の姿がこの黒い人だったのか、残念なことに名前は忘れてしまったがな。

皆がワープホールに入っていく中、俺の両隣りを陣取っている綱吉君とユニちゃんが声を掛けてきた。

 

「大丈夫だよスカル……、あっちにいる皆にはお前のこと話してるから」

「私の手を離さないで下さいね」

 

子供を両隣に設置するという、如何にも出会いがしら攻撃しにくいこの布陣は最強なのでは。

ワープホールへ足を入れた俺は、背後でポルポがついてきている気配を感じ取りながら歩を進める。

暗闇を数歩歩けば視界に広がる光に目を細めた。

 

 

「十代目‼」

 

まず最初に聞こえたのは若い男の声で、次にその言葉に意識が向かう。

十代目………?

思わず何の十代目なのかなーと思ったけど脳がこれ以上思考することは得策ではないと警報を発していたので聞かなかったことにした。

決して綱吉君に向けられた十代目とかいう言葉なんて聞いていないよ。

声のする方へ視線をちらりと移せば、銀髪の不良が俺の方を睨んでいてすぐさま視線を逸らした。

ユニちゃんの手を握っている右手に若干力が入ったけど、ユニちゃんも強く握り返してくれたお陰でなんとか冷静になる。

 

「そいつが………スカル…」

「思ってたよりも若いな、俺達よりも二個上だから先輩か!」

「この馬鹿!相手は狂じっ」

「獄寺君!」

「あ、す、すいません………失言でした」

 

意外な上下関係を見たような気がした、というのが率直な感想だった。

次に不良が云いかけた言葉に、まだ一般人の俺=狂人スカルという勘違いの名残りがあるのかなぁ……と遠い目をするが、まぁ人違いって理解されてるからマシか。

黒い髪の男の子は俺をまじまじと眺めていて、俺は顔を伏せて足元に視線をズラす。

ヘルメットもマスクもしていないから激しく落ち着かないってのもあって、視線を泳がせていると目の前に黒い影が視界の大体を妨げた。

それがリボーンの背中だと気付いた俺は有難いと思ったが、俺の視界を遮るためにわざと人の前に立ったリボーンの嫌がらせだと気付いて微妙な心境になる。

 

「全員集まったぞ、チェッカーフェイス」

「どうやらそのようだ」

 

声の先を見れば、そこには眼鏡をかけた和服の男性がいた。

まて、チェッカーフェイスって特定厨のことだよな…?

あいつこんな冴えない顔だったんかー!この丸メガネーーーー‼

 

「久しぶりだなスカル…この姿で会うのは初めてか」

 

元はと言えば全ての元凶は俺を人違いしたコイツなので、この特定厨に対して好感度はゼロに等しい俺は無視を決め込んでいると何やら話し始めた。

専門用語を連発していく皆の話に現状が掴めず、周りを飛び交う言葉が左耳から入って右耳から抜けていく。

すると、いきなり皆がぞろぞろと円陣を作り始めて戸惑う。

呪いを解くのに必要なのかなと思った俺はユニちゃんの手の引くままに配置に付き周りを見渡した。

全く知らない人達の視線が俺に突き刺さり、恥ずかしさで居た堪れなくなった俺は視線を足元に移していると、ユニちゃんが繋いでいた手を(おもむろ)に持ちあげ空に向ける。

一体何が、と思った瞬間目の前から突風のような衝撃が俺を襲い、目を見開いた。

 

 

炎だ

 

(おびただ)しい火柱が

 

(そび)え立っていた

 

 

視界に映る炎に驚愕していた俺は、体から力が抜けていくことに気付く。

急な脱力に足をふらつかせていると、隣にいた綱吉君が慌てて腕を掴んで支えてくれた。

段々と低くなる自分の目線に、もしやと思って周りを見れば案の定他のアルコバレーノも縮み始めている。

呪解しにきたはずだが何の手違いか赤ん坊の姿に戻ってしまった俺は、他人事のように困惑するアルコバレーノ達を眺めていた。

暫くして炎が治まれば、その場に困惑が広がる。

ラル姉さんだけが元の姿に戻っていて、他は全員赤ちゃんに逆戻りになっていた。

 

「つまり我々は普通の人間の赤ん坊と同じように、今から時間をかけて育つことになるのかもしれんぞ」

 

そう自分の推測を告げたヴェルデに皆が納得し一旦動揺は収まったが、コロネロさんが大層ショックを受けている。

そんなコロネロさんとは反して、俺はとても内心ハッピーだった。

そりゃそうだ、赤ちゃんからってことはあと10年以上は働かなくても大丈夫ってことだからな。

カルカッサのこともあるから、今度働かせようとした輩がいれば即座に労基に訴える所存だ。

脳内ハッピーな妄想をしていた俺をいきなり抱き上げたユニちゃんに驚いていると話しかけられる。

 

「スカル……呪解出来た今、あなたは自由です」

「……」

「そこで提案なんですが、暫くの間…一緒に暮らしませんか?」

 

笑顔でそう提案してくるユニちゃんにピタリと思考が固まる。

一緒に……暮らす……?

何を言ってるんだこの幼女は。

ユニちゃんの言葉に思考が追いついていない俺に、ユニちゃんの声が頭上から降ってくる。

 

「新しい生活に戸惑うこともあるでしょうし、一緒に暮らして普通を知った方がいいと思いました」

 

遠回しに俺が非常識な暮らしをしていると言われて地味に傷付いた。

それとも俺が引き籠らないための保険でルームシェアとか提案してんのかな……

 

「それに…命を狙われかねないあなたを一人にするのは不安です」

 

 

心配そうに見つめてくるユニの言葉に、俺が下した決断は―――――――――――………

 

 

 




スカル:思うだけならセフセフ、YESニートNOワークを再び掲げ直した見捨てるべき馬鹿。
ツナ:セコム予備軍と化している。
リボーン:スカルが自殺を試みたと思って割とSAN値ピンチ。
超直感:呼んだ?

本当は元の姿で呪解させようかと思ったんですけど、ちょっと番外編で書きたいことの展開的に赤ちゃんのままでの呪解が都合が良かったので、今回は原作よりの結末にしました。

取り合えず呪解出来ましたね。
次回、エピロ-グです。


リク募集を活動報告にあげていますので、リクエストのある方は是非そちらにお願いします。
※感想欄にリクエストは書きこまないで下さい。


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skullの日常

俺は諦めきれなかった。


「スカル!この本を読み聞かせてくれませんか?」

 

冬も過ぎ去り、過ごしやすい季節へと移り変わるこの頃、開けた窓から春風が潮の匂いを運び込む。

海開きまでまだ数か月を残している今日、俺の目の前には絵本を片手に溢れんばかりの笑顔で佇むユニの姿があった。

 

 

少し、時を遡ろう。

数か月前に俺は呪解の儀式という名の円陣に参加し、赤ちゃんの姿に逆戻りしてしまった。

当初は混乱が残ったが、数日後にちゃんと成長していることが判明して無事ことなきをえた俺はユニの提案を蹴り、イタリアでポルポと共に暮らしている。

ユニの提案を蹴ったのは、ひとえに俺が誰かと一緒に暮らすことが無理だったからだ。

その上ユニはまだ子供だったので、YESニートライフNOワークを掲げている俺は悪影響極まりない。

一にゲーム、二にゲーム、三、四飛ばして五に散歩、というダメダメっぷりである。

俺のことを心配してくるユニには申し訳ないが、俺の中では自分の命とニートライフを天秤にかけるとほぼ釣り合っていたのが悪い。

ただ、人がいなくなったあの町はダメと言われた上に最低限周りに人がいる場所にしてくれと、ユニと綱吉君に言われた。

引き下がらない二人に折れた俺は、また不動産屋行かなきゃなと思っていたら、ボンゴレの所有地がいくつかあるからそこに家建てればいいんじゃねーかというリボーンの野郎の提案が採用されてしまい、ローマの私有地に家が建てられてしまった。

家の完成まで治療を受けてたんだけど、殆ど一週間そこらで完治してしまった俺は一か月間日本で過ごしてイタリアに帰ることになった。

ポルポの巨体を考えられていたのか天井の高い一軒家で直ぐ側に海が見えるという優良物件具合に度肝を抜かれたが、そういえばボンゴレは大企業だったな…と、これくらいの出費は鼻くそなのだろうと自己完結する。

私有地というのもあり直ぐ横に住宅街というわけではないが、私有地を出ればすぐに都心が顔を出すこの利便さは脱帽した。

まぁ人混みが無理ぽな俺はずっと家に籠っているがな。

それを見越したかのように度々現れるアルコバレーノ達やユニに一種の絶望を味わったのは誰にも言わない。

コイツらはどうやっても俺を引き籠らせたくないらしい……これは辛い。

公園に連れて行こうとするユニや、家の外に引き摺り出していきなり日本に拉致するリボーンや、俺の前でいちゃつくラルとコロネロ、その他にも顔を出してくるけど正直ユニを除く皆は爆発すればいいのにと思う。

静かな場所を求めて一度家出らしいことをしたんだが、帰ってきてからが地獄だったので二度とやらないと心に決めた。

なんだかんだと一番訪問率の高いユニは、来るたび絵本やら学校の宿題やらを持ってきて長居することが多い。

世界中のロリコンに対して胸を張って自慢したならば二度と夜道を歩けないであろうこの幼女のお泊りだが、付き添いの兄ちゃんがいつも怖いから俺としてはあまり来てほしくないのが本心だ。

 

 

まぁ、色々あったけれど無事春を迎えて今に至る。

さて冒頭のユニの言葉だが、最近ユニのブームなのか知らんがよく俺に読み聞かせを強請ってきて割と困っていたりする。

それは何故か?俺が音読出来ないからだよチクショー。

子音単独の発音が壊滅的な俺は、滑舌悪い通り越して呂律が回っていないレベルで酷かった。

中々の羞恥プレイをご所望するこの幼女、狙ってやってたらかなり性格悪い。

元々人と会話する機会がない俺の声帯が一冊の絵本を音読出来るほど持たないのでゆっくり読んでるけど、よく飽きないなこの子。

俺なら数秒で寝落ちする程ゆったりペースだ。

金髪の兄ちゃんが偶に様子見で来るけれど、この時間が一番地獄だったりする。

いっそ殺せ。

 

「スカル!また来ますね!」

 

今日もまた地獄の音読時間を堪えて、ユニが笑顔で帰っていくのを見送る。

ユニの乗る車が見えなくなって家の中へ戻れば、テーブルにユニが持ってきた絵本が数冊置かれていた。

忘れていったのかと絵本へと手を伸ばしたところで、ポルポが窓から帰ってくるのが視界に入る。

未だに自給自足のポルポは最近海の中でお魚をもぐもぐしているらしい。

ニュースで偶に漁業大打撃というニュースがあるが俺は見ていないし聞いていない。

 

 

次の日は、とっても天気が良かったから庭に出てポルポと一緒にひなたぼっこをしていた。

庭に出る際にユニの置き忘れていった絵本に興味が沸いたのかポルポが俺と絵本を見比べるので、仕方ないなと絵本を手に取り、音読する為にポルポに(もた)れながら表紙を(めく)る。

ポルポが興味津々に絵本を見てくるもんだから、下手くそな発音で読んでみた。

内容が内容だけに何の面白みもないので、段々と瞼が重くなっていく。

 

「――――――――――『雨を降らせると……子供たちが嫌な顔をするんだ』と……雲は言いました」

「そんな雲に………太陽は、『でも君がいないと困っちゃうよ、ほら皆を見てごらん、干乾びそうで苦しんでる』と、言い…ました……ふわぁ……」

 

大きな欠伸をしながらページを(めく)る。

 

「『雲はとっても大切さ』……と、……たいよぉ…は………」

 

ひなたぼっこの効果もあり瞼は段々と閉じていき、俺は遂に睡魔に身を任せた。

 

 

 

温かく気持ちいい風が頬を撫でる。

ほのかに香る潮が海の存在を教え、遠くでさざ波が聞こえてきそうだった。

 

 

『…愛し、い…いとしい……スカル』

 

 

涙で反射している紫色の瞳は宝石みたいに綺麗で

 

 

『しあわせに……生きて……』

 

 

俺はまたどこかであの人の瞳を思い出すんだ

 

 

 

 

 

「スカル、起きて」

 

ポルポの声に目を覚ますと、既に陽は暮れ始めていて結構昼寝をしてたんだなと気付く。

 

「あれ?毛布……」

 

寝ぼけた頭で上体を起こせば、肩からずり落ちた薄い毛布に首を傾げる俺に、ポルポの声が頭上から降ってくる。

 

「綱吉とリボーンが来てたよ、その毛布も綱吉が掛けてくれた」

「え、来てたんだ…気付かず爆睡してたのか」

「もう帰ったけどね、よく眠れた?」

「これ夜眠れなくなるやつだ」

 

ポルポと会話をしながら背伸びをした俺は、膝の上に置かれている絵本を閉じて立ち上がった。

家の中に入り冷蔵庫を(あさ)っては、食べられそうなものを出して電子レンジに突っ込む。

 

「スカル、僕にんじん食べたい」

「生?」

「うん」

「すっかりベジタリアンになっちゃって…まぁ俺ニンジン嫌いだから助かるけど」

「嫌いなのに何で買うの?」

「ユニとかが勝手に買っては置いてくんだよ」

 

最近ベジタリアンなポルポに冷蔵庫の野菜事情を話しながらテレビを付けると、丁度ニュースが流れ始める。

 

『えー、今日午前5時頃、農家の畑が荒らされているという通報があり、これで既に15件目と被害が相次いでいますが—————…』

 

 

俺は無言でチャンネルを変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綱吉side

 

リボーンに拉致られてイタリアに連行された俺は、今現在九代目が用意した車に乗せられている。

どこに向かっているかは何となく察しはついていて、俺はリボーンにぐちぐちと文句を垂れていた。

 

「いきなり連れてくるのやめろよリボーン!」

「どうせ春休み入って何もせずにぐーたらするつもりだったんだろ、これを機にイタリアで短期修行だ」

「えー!?やだよ!俺春休みは山本や獄寺君、炎真君と遊ぶって決めてたんだぞ!?」

「おめーがそう言うと思って、シモンファミリーと守護者全員をイタリアに連れてきたから安心して一緒に修行してこいダメツナ」

「はぁ!?また勝手なことをー!」

 

その後も文句をぶつくさいってると、リボーンに蹴られたので諦めて静かに窓からの景色を眺め始める。

多分今向かってるのはスカルの家だ。

ボンゴレの私有地に一軒家を建てて暮らし始めたのはつい数か月前で、一度リボーンに連れて来られた俺は、一人と一匹では大きすぎる家に驚いた記憶がまだ新しい。

アルコバレーノの呪解の際、ユニが一緒に住むことを提案したけれどスカルは首を縦に振ることはなかった。

一人で暮らしたいという本人の強い主張と、リボーンのボンゴレ私有地に一軒家を建てるという提案に渋々承諾した俺は、スカルが普段どのように暮らしているのか把握していない。

リボーンに聞けばある程度教えてくれて、家から出ることなく殆ど引き籠っているらしい。

一人でのんびり暮らしてこれからを考える時間は必要だと言っていたリボーンも、まさかここまで引き籠るとは思わなかったと素直に認めてたくらい、スカルは自分から行動しないのだ。

出来るだけユニがスカルの元へ行っては会話をするようにしているけれど、やっぱりスカルが自分のことに関心を持つまでは時間がかかると言っていた。

スカルが精神的な傷やトラウマを回復することがどれだけ時間が掛かるか分からない上に、リボーン曰くスカルは自閉症っていう発達障害も患っているらしい。

これは精神的なものじゃなくて脳の病気だと言っていたリボーンの表情は暗く、今の医療技術じゃ明確な治療方法はないと言っていた。

それもあってか、少し心配していた頃を見計らったかのように、冬休みに入った瞬間学校から家に帰る暇もなくリボーンに飛行機に詰め込まれてイタリアに連れていかれた俺は、そのままスカルの家に押しかけるようにお邪魔してしまった。

大きく派手な家に反して中はひどく殺風景だったのを覚えている。

前よりも大人しくなったポルポからは威圧感らしいものはもうなくなっていたけど、やっぱり触手が動く度に体がびくついてしまうのはどうにかしたい。

 

「スカル、あれから何か変わったかな…」

「………見えてきたぞ」

 

景色を眺めながらリボーンに問いかけたが、リボーンは何も答えてくれはしない。

多分、まだ家の中で静かに息をするだけの生活してるのかなって想像すると悲しくなった。

玄関前で車から降り、ベルを鳴らせども出てくる気配は一向になく、俺は首を傾げる。

誰もいないのかなって言う前にリボーンがピッキングし始めて、止めに掛かる前に鍵が開き扉が開いた。

リボーンの凶行に呆れながら家の中に入るが、人の気配がせず家の中を見渡す。

 

「外出…してるのかな?」

「いや、そうでもねぇみたいだな」

 

リボーンの言葉に、俺はリボーンの視線の先を見ればベランダに大きな巨体と小さな影があった。

俺がガラス張りのドアを開ければ、ふと大きな目と視線が合う。

古代生物……じゃなくて、ポルポだっけ…?

ポルポはイタリア語で“タコ”の意味らしいけど、スカルのネーミングセンスの安直さには少しだけ苦笑いが零れたのは懐かしい。

 

「や、やぁ久しぶり……えっと、スカルお昼寝中…かな?」

「さっき寝た」

「そっか……」

 

ポルポに背中を預けながらスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てているスカルの姿はまんま子供で、俺は少しほっとした。

俺達が来たけど起きる気配がないってことは、ここが自分にとって安心する場所だと思ってくれている証拠だ。

カルカッサがスカルの死を疑い血眼になって探し回っている今、幾重にも幻術で覆われ隠されているこの場所はかなり安全だと九代目もリボーンも言っていた。

 

「ん?絵本…?」

「ユニが持ってきてるやつだな、声帯が未発達なコイツの為に音読させてるんだとよ」

「未発達?」

「コイツの声、いつも小さいし発音ひでーし掠れてんだろ?ありゃ声帯がちゃんと発達してない証拠だ」

「そう…だったんだ………」

 

俺達はスカルのことを何も知らない。

今、スカルが何を思って生きているのかも、何がしたいのかも、何を思っていたのかも……

村を出てから狂人と恐れられるようになった間の空白の一年弱は今も尚、スカルの口から語られることはないし、恐らくこの先もずっと語られることはないんだろう。

きっと、それは……地獄のような日々だっただろうから……

この間も、カルカッサファミリーの者が日本にいた俺と他の守護者へ恨みに任せて襲撃を仕掛けて捕まった。

彼らはスカルの死を信じるどころか、彼らの身勝手な理想を叫び続けていた。

 

 

彼は狂ったお人だ

 

彼は残酷で非道なお人だ

 

彼は孤高であり続けるお人だ

 

彼は死神に嫌われているお人だ

 

 

「ああ、ああ、なんて恐ろしく、美しいのだろうか!俺達の!俺達の崇拝すべき()のお方は、死など受け入れない!受け入れるなどあってはならない!あのお方は我々を御導き下さる唯一無二の——————」

 

 

聞くに堪えかねたリボーンがその男に向かって引き金を引いた光景を、今でも覚えている。

スカルが狂うしかなかった現実を目の当たりにしたような気分に、吐き気を催しその場に(うずくま)ったけれど誰もそれを責めようとはしなかった。

 

狂ったその人生に、意味はあったのだろうか…

 

 

 

 

 

潮風がスカルの足の上に置かれている絵本のページをパラパラと(めく)る。

何気なく捲られたページを覗いた俺は、クレヨンで書いたであろう雲と太陽と青空の絵に文字の羅列をなぞっていた視線が止まった。

 

もうスカルを傷付ける人達はいない

 

『雲はとっても大切さ』

 

一人の人間として 新しく生まれ変わった人間として

 

『本当に僕は嫌われていないの?』

 

自分の意思で、泣いて、怒って、笑えれば

 

『当たり前だよ、君がいないと青いだけのお空は寂しくてしょうがないんだ』

 

 

それでいいんだ

 

 

 

 

「へぷちゅっ」

 

 

くしゃみをしたスカルに目を見開いた俺は、隣にいたリボーンと顔を見合わせてはクスリと笑いが零れた。

毛布を掛けたスカルの寝顔がひどく穏やかで、訳も分からないほど泣きたくなった俺に潮風が当たる。

 

 

「はは、変なくしゃみ」

 

 

笑い合えるいつかが 待ち遠しく思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin.

 




スカル:やっぱりニートっていいよね!ユニから羞恥プレイを強要されて辛いこの頃、ボンゴレの私有地でのんびりまったり暮らしたかったけど突撃訪問する輩に迷惑している、数年後には数多のファミリーをセコムとして付ける最強のニートと化す。
ポルポ:偶々ベジタリアン思考になってくれた生物上最強のセコム、イタリアの一次産業壊滅の一途を辿る要因。
まぐろ:ポルポによってモグモグされていない方、スカルの立派なセコムになる日も近い。
カルカッサ:SAN値直葬からの発狂END、しゃーないね。
空白の一年弱:ニートライフ



ご愛読ありがとうございました!


【挿絵表示】


あとがき↓↓

御愛読ありがとうございました。
メインストーリー45話と最長記録更新出来たのも、皆さまのコメント・評価のお陰です。
誤字指摘してくれた方も、大変助かりました。
何かもう色々ありがとうございます……
最後らへんはほぼ一万字越えしてましたが、本当に切りどころに困りました(笑)
最初はルーチェの顔バレのシーン(6話)が書きたくて頑張っていましたが、その場面書いたら書いたで今度はルーチェがスカルを抱きしめる場面(40話)を書きたくなってしまい、結構続いてしまいましたこの作品ですが、実を言えば10話までエタ率80%でした。コメントと評価でなんとかモチベ維持し発想を捻りまくって完結出来ましたが、どうなるのやらと一人でうんうん唸っていたのが今では懐かしいですね。


本当に今作、完結まで付き合ってくれてありがとうございます!

まだ番外編を出そうと思っていますので、どうぞ番外編までよろしくお願いします。


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番外編
skull 番外編1


風とスカルのとある日


呪いが解かれてから数か月経った頃、体が徐々に成長していることに気付いた俺は調理中の手を止め両手を眺める。

右手に持っていた子供用の包丁は購入当初はまだ上手く持つことが出来なかったのに、今じゃ取っ手のところに指が回っていた。

成長しているにはしているが、やはり自分のこととなると気付きにくいものなのかとまじまじと目の前の紅葉のような白い手の平を眺めていたら、背後でドサリと何かが地面に落ちた音がして俺は振り向く。

するとそこにはスーパーの袋から飛び出た野菜や肉などの食材が地面に散乱していて、それらの真ん中にこちらを凝視して呆然と固まる風がいた。

散らばる食材は先ほど冷蔵庫にないからといって風が買い足しに行ったもので、まさにこれから作るであろう料理のメイン食材だろう。

何故拾わないのだろうか、そう聞こうとした俺の言葉は風によって遮られた。

 

「な、何をしているのですか……?」

 

風の質問の意図が分からないまま、首を傾げながらこう述べる。

 

「切ろうと……して…」

 

キャベツを切ろうとして包丁をもったところで、自分の手が大きくなっていることに気付いた丁度同じタイミングで風が戻って来たんだが、何故入口で固まっているのか。

あ、キャベツがまな板から転がって流し台に落ちてた。

拾おうと動こうとすれば、風に包丁を持っている手を力強く握られ、俺は驚いて包丁を手放す。

すかさず落ちた包丁が地面に着く前にキャッチする風は、何かを言いあぐねている様で口を開いては閉じてを繰り返し、眉間に指を置き呆れたように溜息を吐き出した。

 

「私がやるので、あなたは横でやり方を見ていてくれませんか?」

 

遠回しにお前下手くそだから何もするなと言われてしまい、地味に傷付いた俺は風にまな板の場所を譲り、風の包丁さばきを眺めていた。

料理は得意と豪語するだけあって手際のいい風の包丁さばきは滑らかで、あっという間にキャベツが千切りにされていく。

千切りにされたキャベツをひき肉と混ぜ合わせる役目を任され、ニラを切り始める風の横でボウルに手を突っ込み捏ね始める俺は無心に作業していた。

何故俺がこんなことを……と、いつもならばインスタントで済ませる俺は事の始まりを思い出す。

 

 

 

いつもと変わらぬ惰性で生きる日々を謳歌するつもりだった俺は、最近学校が忙しくて訪問してこないユニにほくそ笑み誰もいない家の中を見渡していた。

ぐちぐち私生活にいちゃもんつける輩がいない今、俺はとても生き生きしながらキッチンへと向かう。

手を伸ばすはコンロの上にある棚で、棚を開ければ奥の奥に見えにくいが確かにあるカップ麺を取り出した。

不健康の象徴といわんばかりの添加物の多さを誇るメーカーのカップ麺は、その健康さを代償として万人受けする味を確保したであろう濃厚なスープを誇示している。

かやくを容器に入れ、沸かしたお湯を並々と入れていった。

キッチンにカップ麺を常にいくつか隠している俺は、まだ誰にも気付かれていないことに胸を撫で下ろしながら、一昨日から続けているラーメン生活を満喫する。

ふたをあければ湯気と共にスープの濃厚な香り、麺本来の何とも言えない慣れ親しんだ香りが俺の鼻を燻ぶる。

こういう不健康な生活ほど安心するのは何故だろうか。

いや、俺の場合は今までの自堕落な生活を邪魔……というか更生させようとしてくる幼女とか殺し屋とかが押し寄せてくることへの過度なストレスが、こういうところで爆発してジャンクフードに安らぎを感じるという事態にまで発展しているのだ。

まさに監獄に入れられた囚人たちの抑圧された状況下での楽しみが食事のみとなっていく状況とそう大して変わりはしないのだろう。

ただ俺が何故抵抗しないのかというと、それはひとえに生活費を全てボンゴレ企業が負担しているからである。

流石にヒモになってまで我儘を通すのはゲスいなと俺の道徳心に反した。

だからといって今は狂人スカルとやらの噂が消えるまで外出は控えなきゃいけないし、就職も出来ない…いやしたくないけれど。

強制ヒモにされている俺がやることと言えば、ゲーム・PC・テレビ・読書・敷地内の散歩のみである。

物凄く満ち足りているはずのこの状況だが、数々の訪問者で色々と台無しになっているのは言うまでもない。

過度なストレスは段々と相手への不信感を募らせ、次第に嫌悪と姿を変えていくのが自分の中でハッキリと気付いていた。

ユニは幼女だから許せるけれど、ツナ君はただのお人好しのお節介焼きってだけでグレーゾーンかなぁ………だがリボーンお前は許さん。

毎度毎度突撃訪問したかと思えば、いきなり中学校の教科書開いて勉強を教えるのはやめろ。

確かに俺は中退だけれど、別に学無しで困ったことはないし、これからも学を活かすことなんて有り得ないと思ってんだ。

俺は必ずここを抜け出して、誰もいないところでニートライフを築くと心に決めている。

勉強なんてくそくらえ、何でこの年になってまでやらなきゃいけねーんだよ、死ね。

ラーメンをずるずると啜っている俺は敷地内に誰かが入って来た報せを耳にする。

毎度ながらアポなしで訪問してくる輩が多すぎると文句を言ったところ、この家の半径2㎞以内に足を踏み入れた途端玄関から音がするように設定してもらった。

誰かが来たことが分かり、朝ご飯を取りに行ったポルポかもしれないと玄関のカメラを確認すると、赤い影が見えた。

すぐにそれが誰なのか分かった俺はラーメンを口にかき入れ、ゴミをまとめ、誰にも気付かれない為にダストシュートに投げ入れる。

ご飯も作らずラーメンばっか食べてたことがユニや綱吉君、リボーンの耳に入るとしこたま面倒なのだ。

ブレスケアも室内消臭も完璧な俺がカップ麺を食べていたことを知っている者はいない、と証拠隠滅にご満悦で玄関の鍵を閉めた。

そう、閉めたのだ。

 

「久しぶりです、スカル」

 

まぁ鍵があまり意味ないって分かってるけど、来るなという言外の意思表明はとても大切だと思っている。

にこやかに不法侵入してきたのは風は俺の背後から丁寧な物腰で挨拶をしてきたのだった。

訪問者の中で破壊行動を取らない、外出を強要しないという点ではかなりマシな方である風は、家に入るなりキョロキョロと辺りを見渡している。

 

「最近はどうですか?健やかに暮らせていますか?」

 

お前は俺の何なの?

風の言葉に何も返さない俺を横目にキッチンへと歩き出す風に、ラーメンのことで少しドキっとした俺は風の挙動を見守る。

 

「おや、スカル……食事をしている形跡が一つもありませんが、きちんと食べていますか?」

 

おっと、そこに気付いたか。

これならフェイクとして食器とかを流し台に置いといたり、ゴミ袋を出しておけばよかったかもしれない。

さっきダストシュートに生ごみ諸共入れてしまったからキッチンのゴミ箱の中身はすっからかんだ。

風の言葉に詰まっていると、風が(おもむろ)に冷蔵庫を開ける。

 

「ふむ、食材が足りませんね……買い足しにスーパーに行ってきますがあなたも一緒にどうですか?」

 

何をする気だお前。

俺の疑問に気付いたのか、風が普段の笑顔と共に言い放つ。

 

「食生活が杜撰(ずさん)過ぎるあなたに、料理を覚えてもらおうと思いまして」

 

外出を頑なに拒んだ俺に諦めた風は買い出しにいくからその間キャベツを切っていて欲しいとだけ言い残して出て行き、俺は冒頭へと戻る。

包丁を取られてしまった俺が無心でひき肉とその他の色々な食材を混ぜて捏ねていると、風が次はこれに包み込みますといって白い円形の薄っぺらい皮を取り出してきた。

そこで俺は漸く風が何を作りたかったのかに気付く。

 

餃子(ジャオズ)です、食べたことはありますか?」

 

風の言葉にあると言おうとして止めた。

そういえば生まれ変わって一度も食べてないな………

もう何十年も食べてないからどんな味だったか忘れちゃったし、これはノーカンでいいだろ。

自己完結した俺は首を横に振っては、無いと意思表示をした。

そうですかと返って来た後、風から餃子の皮を渡されて巻き方を教わり、数十分の奮闘の末無事餃子を作ることが出来た俺は、それらを皿に盛り付けている風を横目に水を飲みながらリビングのソファに座り込む。

作ったはいいが先ほどカップラーメンを食べた俺は正直お腹が空いていない。

どうしようかなぁと考えているとリビングのテーブルに風が姿を見せ、皿を並べていくごとに鼻を掠めるにんにくの匂いに胃もたれを起こしそうになった。

そろそろポルポ帰ってきてくれないかなぁ………

 

「餃子と、残りもので作った肉野菜炒めです」

 

出された料理は店に出してもいいレベルの見た目で、本当にコイツは料理が得意なんだなと思い直しながら目の前に出された料理に口を噤む。

お腹が減っていないどころか満腹な俺は一体どうすればいいのか分からず、白米を出してきた風に今度こそ泣きたくなった。

 

「これは白米といって、日本で主食として食べられているんですが最近の私のブームなんです」

 

悠々と目の前に座り茶碗を片手に大量にある餃子と野菜炒めに手を伸ばす風を見ながら、俺は茶碗に盛られている白米とその横に鎮座するフォークとスプーンを見つめる。

俺がイタリア人であることを配慮して置かれているであろうそれらに風の気遣いが見え隠れするが、俺はどっちかっていうと箸の方が使い方は上手だと思う。

まぁ箸持って来いと言いづらかったのでそのままフォークを餃子に突き刺し、自分の白米の上に置く。

先ほどから餃子の食べ方をレクチャーしてくれている風の行動を反復するように、小皿に入っている餃子のタレをつけ口の中に放り込む。

普通に美味しかった。

っていうか餃子ってこんな味だっけ?

餃子の皮を歯で噛みちぎると溢れ出る肉汁とにんにくの香ばしさ、ほのかなニラの味がキャベツと肉の食感と共に口の中に広がっていく。

多分満腹でなければ二人分くらいペロリだと思う程度には美味しくて、それが顔に出ていたのか目の前の風が破顔していた。

 

「あなたの舌に合ったようで何よりです」

 

んー、これは美味しく頂いてしまったのは失敗だったかもしれない。

これで美味しくなかったから食べない、という手段は使えなくなったわけだが、俺はこれ以上入らない。

吐く覚悟で全部食べるべきだろうかと、ちびちびと時間をかけながら餃子を食べ進めていった俺は案の定というかなんというか…餃子4つ目に突入する頃にはフォークがピクリとも動かなくなった。

あれだ、お腹一杯過ぎて最早気持ち悪いレベルだ。

4つ目の餃子を気合で口の中に放り投げたが、噛む気力がなく口の中でもごもごしている俺に気付いたのか風が喋りかけてきた。

 

「スカル、大丈夫ですか?顔色が優れないようですが………」

 

口の中のものを半ば無理やり飲み込んだ俺は目を泳がせながらも正直に風に告げた。

 

「お、お腹が……いっぱいで……これ以上は……」

「え、ですがあなた全然食べてませんよ?」

「……えっと………」

 

ハイソウデスヨネ。

だって白米なんて三口で終わってますからね!

ででででででも、入らないのは入らないんだもん。

 

「スカル……まさか……」

 

風が次の言葉を告げようとした時、俺の胃袋が限界だったのか内容物がせり上がってくる感覚に血の気がサッと引いたのが分かった。

このままリバースしようと考えたけど、流石に食べ物の目の前では失礼すぎると思った俺は両手で口を塞ぐ。

俺の異常事態に困惑の色を隠せない風が立ち上がり、こちらへ手を伸ばしては名前を呼んでいる。

 

「スカル!どこか具合が悪いんですか!?」

 

背中を丸めてせり上がる内容物を食道で感じながらえずく俺の背中に風の手が被さる。

吐き気を催していると気付いた風がビニール袋を持ってきては俺の目の前に持ってきてくれたので、それに甘えてそのまま袋にリバースしようと思ったその時、俺は思い出した。

 

これ、ラーメンも一緒にリバースする感じ?

 

あ、アカン。

ラーメン食ったことバレる。

リバースするつもりで開いた口を即座に閉じ、喉元に溜まる胃酸臭に生理的な涙がじわりと目尻を濡らした。

我慢せず吐けと背中を(さす)ってくる風の追撃に、これもう無理とその場を勢いよく立ち上がりトイレへ駆けこんだ俺はトイレの鍵を掛け便器に向かって勢いよくリバースする。

トイレの向こうで風の声がするが、俺は落ち着くまで便器に手を付けえずいていた。

すっぱい匂いでさらに気持ち悪くなるというループに陥ってから数十分、漸く吐き気が治まり思考が冴えてくる。

便器の中には案の定先ほど食べていた餃子とラーメンの残骸があり、あの場面で吐かずに良かったと安堵しながら水を流した。

個室の中についている手洗いで口の中を(ゆす)ぎ、手を石鹸で洗い流しトイレの鍵を解き外に出る。

外では風が待っていて、出てきた俺に心配そうに駆け寄っては額へと手を伸ばす。

 

「熱は、ないですね……気分が優れませんでしたか?」

 

本気で気遣ってくれている風に、悪いことしたなと思い目を伏せながら首を横に振った。

水で濡れた口元を服の袖で吹きながら、体調が悪いわけではないことは弁明する。

 

「気分は…悪くない……」

「舌に合いませんでしたか?」

「ちがっ……美味しかった………けど、」

「…けど…?」

「お、お腹…一杯で………もう、入らなくて………ごめん…なさい…」

 

折角作ってくれたのに本人の前でえずいて挙句の果てに吐くって中々ひどいよな。

これ以上口を開けば胃酸臭でまた気持ち悪くなりそうだったので、口を(つぐ)み目を伏せながら生理的に溢れた涙と鼻水を拭おうと、口元を拭っていた袖を移動させ目元へ袖を押し付け鼻を啜った。

 

「無理をする必要はありませんよ、私も少し急かしました…すみません」

 

何故か謝る風に申し訳なさが残りながらも、そのまま寝室で休むことになった。

暴飲暴食の、いわゆる食あたりなので寝れば消化されてほぼ体調が治るであろう俺は、片付けは私がしますと告げた風に甘えてそのままベッドで眠ることにする。

吐いたりえずいたりした所為で体力を使った俺は気怠い体を丸めて毛布を肩まで被せては瞼をゆっくりと閉じた。

 

 

あれだ、ラーメンは暫く控えよう。

 

 

トイレの便器の中に浮かぶ消化し切れていない麺の残骸を思い出しては、暫くラーメンは食べれないなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風side

 

 

代理戦争から数か月、私は己の成長を感じながら修行を怠らず過ごしていた。

そんな中、私の罪であり咎であるスカルの様子が気になり数週間ぶりにイタリアへ足を運んだ。

ボンゴレの私有地である彼の家に訪れると鍵が掛かっていて、私は二階の窓を見て鍵が掛けられていないことに気付くとそちらから中へと入った。

リボーンならばピッキングで入るが生憎私にその技術はなく、窓から入り一回の玄関に立っていたスカルへと声を掛ける。

 

「久しぶりです、スカル」

 

眉を顰めるスカルに挨拶を告げながらも周りを見渡す。

最初に目に入ったキッチンに、私は違和感を覚えた。

 

「おや、スカル……食事をしている形跡が一つもありませんが、きちんと食べていますか?」

 

そう、食事した形跡が全くなかったのだ。

ゴミすらもない、食器すらも洗し台にない、キッチンのコンロは普段使用していないことが分かる程綺麗なままだ。

恐らくユニが来た時使うくらいだろうそのキッチンから生活感が見当たらず、私はスカルの食生活が気になった。

使われないキッチンで何を言うでもなく冷蔵庫を開ければ、中には空ではないものの食材がほぼない。

そんな中、存在を主張しているキャベツに目がいきある提案を思いついた。

だが…それをするには食材が足りなかったので私はスカルへ話しかける。

 

「ふむ、食材が足りませんね……買い足しにスーパーに行ってきますがあなたも一緒にどうですか?」

 

スカルの顔を見ればこちらを覗っている様子で、私は思いついた提案とやらを教えた。

 

「食生活が杜撰(ずさん)過ぎるあなたに、料理を覚えてもらおうと思いまして」

 

独り暮らしなのだから最低限の食生活は確保しなければと思った私の提案に案の定というかなんというか、スカルは少し不機嫌になりながらも無言でこちらを見ていた。

買い出しに誘ったが頑なに拒んでいたので、キャベツだけでも千切りにして欲しいとだけ言い残して彼の家を出た。

買い出しの道中、私はスカルのことを思い出す。

 

この数か月で彼の本性、というよりも本来の彼の性格がなんとなく分かって来た。

すぐにわかったことと言えば、彼はとても感情が顔に出やすいということだ。

嫌なことがあれば顔を(しか)め、驚いた時は目を丸くさせ、苛立った時は眉に(しわ)を作る。

特にリボーンが顔を出せば露骨に怯えたり怖がったり、挙句の果てには無表情になったりと、内心がダイレクトに伝わってくるお陰か、リボーンがその度ショックを受けていたりする。

しかし、恐怖は彼が初めて取り戻した感情の一つだ。

恐怖は人が生きて行く為に必要な自己防衛本能の一種であり、彼にとって恐怖はまさしく狂気を押し付けた周りの人々へ向いている。

それは、彼が狂人になりたくないという意志から来たものであり、今まさに自我を確立している最中という証拠だ。

その感情はまさしく彼を人間たらしめる為に必要不可欠なものだった。

だからこそマイナスであれど感情を抱きそれを表に出すことが今のスカルにとって一番重要であり、私たちはそれを受け入れ導かねばならない。

ただ少しばかりの懸念事項といえば、彼が嬉しかったり、楽しかったり、面白かったりとプラスな感情を顔に出すことがないことだ。

それは(ひとえ)に彼がまだその感情を知らないだけか、それらを感じることが出来ないかだ。

まだスカルが笑った顔を誰も見ていない。

直ぐに笑える程精神的に安定するとは思っていないけれど、本人が人との関わりを極端に嫌がるのもまた事実で、病院にすら行こうとしないのが現状だ。

精神科に見せようと提案はすれど家から出たがらず、無理強いをしようとすれば激しく抵抗する。

しまいには古代生物を盾にしようとして皆慌てて手を引いて事なきをえたが、本人は外へ出ることに並みならぬ忌避感を覚えているのは間違いない。

彼にとって外は地獄、か。

ただ、ひたすら籠っていて傷が癒えるかと言われれば限りなく可能性は低い。

出来るだけ多くの人と関わって欲しいが、急いては事を仕損じるだけだ。

スカルを信じ彼の側に寄り添うことが一番の近道なのかもしれない。

 

 

 

それが私の独りよがりであることに気付くのはすぐだった。

 

 

 

玄関を開きキッチンへと足を入れた私の目の前には、包丁を手首に添えて今にも切ろうとしていたスカルの姿があった。

視線は揺るぎなくか細い手首へと向けられている。

思わず手に込めていた力が緩み、重くなった買い物袋が床に落ちる大きな音が鳴り響く。

 

「な、何をしているのですか……?」

 

喉が渇いたように引き()り、上擦った声が出てしまうのにも構わず私は彼に向ってそう問いかけた。

今すぐ叫びをあげようとする心臓を抑え口を噤みながら目の前の紫色の瞳を捉える。

紫色の瞳を丸くしながら当たり前のように、そしてそれが不思議でならないような素振りで彼は答えた。

 

「切ろうと……して…」

 

掠れた小さな声は確かにそう呟いたにも関わらず、まな板にの上には何もありはしなかった。

何を切ろうとしたのか、私の中で直ぐに浮かんだのは彼の細く青白い腕に青々と透き通る血管だったのは仕方ないことだったのかもしれない。

彼が僅かに動いたその瞬間に包丁を持っていた彼の手を握りしめると、彼が肩を盛大に跳ね上げ包丁を手から落とした。

すかさずそれを拾い上げると共に、視界の端に洗面台に転がる野菜が入り、彼の言葉が脳裏を反芻(はんすう)する。

キャベツを、切ろうとしていた………だけなのか?

心臓が竦み上がったあの光景は見間違いだったとでもいうのか。

そんなはずがない、あれは確かに切り掛からんばかりの勢いだったのだ。

 

無意識…なのだとしたら………

 

予想外の事態にどう対処していいのか分からず深呼吸をして、スカルを包丁から遠ざけた。

横目で彼を見やれば、彼は何事もなかったように私の手元を見ていて、私は背中に嫌な汗が流れたのを感じながら笑みを作る。

 

「私がやるので、あなたは横でやり方を見ていてくれませんか?」

 

素直に頷く彼の側で野菜を次々に切っていきながらも、途中途中で料理の過程を手伝ってもらう。

これから作るのは餃子だが、スカルはそれを知っているだろうかという疑問がふいに浮かび、そのまま質問してみればスカルは首を横に振る。

餃子の皮に具を詰めていく手作業はぎこちないながらも確かに一生懸命に取り組んでいて、先ほどの光景がまるで嘘のようだった。

不格好な餃子を蒸す間に私は野菜炒めを作り出し、スカルにはリビングで待つよう言い渡せば彼は素直にソファに座る。

考え事をしているのかぼうっとしているスカルへ盛り付けを終えた皿を次々と出していく。

二人分には少し多いので、残ったものはタッパーなどに入れて後日食べるよう告げながら、炊きあがったばかりの白米を同時に出した。

恐らくユニが買って来ては置かれたままだったであろう白米は、高級そうなパッケージに見合うほど見栄えが良かった。

 

「これは白米といって、日本で主食として食べられているんですが最近の私のブームなんです」 

 

そういいながら餃子と白米を口に含み咀嚼(そしゃく)する。

我ながら美味しいなと思いながらスカルの方を見れば、私の行動を真似て餃子と白米を口にし分かりにくいながらも目を輝かせた。

やはり彼は感情が顔に出やすい。

私は思わず笑みが零れ、また餃子を作ってあげようと思った。

 

 

ああ、早く彼が笑顔になってくれれば——————————…

 

 

 

そんなことを思っていた私は、彼の表面に自己満足していただけに過ぎなかったのだと、直ぐに突き付けられることになった。

 

スカルが4つ目の餃子を口に入れた時に、その変化に気付いた。

輝いていたはずの瞳は濁りを見せ、額には僅かに汗が滲んでいることに気付いた私は口の中のものを飲み込み声を掛けた。

 

「スカル、大丈夫ですか?顔色が優れないようですが………」

 

スカルの喉元が一際大きく動き、飲み込んだ音と共に眉を(しか)めた彼は狼狽えたように口を小さく開く。

 

「お、お腹が……いっぱいで……これ以上は……」

「え、ですがあなた全然食べてませんよ?」

「……えっと………」

 

満腹だと彼は言うが、正直彼が食べたのは雀の涙ほどの量だけだ。

外食を行った様子も、内食していた様子もなかった彼が、これだけしか食べずに満腹を訴えた。

味が嫌いというわけではなさそうだったので、残るは体調面だろうかと思いついた私は彼に話しかける。

 

「スカル……まさか……」

 

その時だった。

スカルの顔から一気に血の気が引き、青白い顔のまま両手で口を塞いだのだ。

震える背中を丸めて何かを堪える様子に、えずいていると気付いた私はすぐさまキッチンからビニール袋を持っては彼の口元を前に広げたが、一向に彼は吐きたがらず何故我慢しているのか分からず背中を摩る。

するとスカルは勢いよく立ち上がり、トイレまで駆け込み鍵を掛けた。

 

「スカル、大丈夫ですか!?」

 

鍵が掛かっていて中に入ることが出来ない私は、壁越しに聞こえる苦し気なうめき声をただひたすら耳にしていた。

鼻を掠める胃酸の酸っぱい匂いに眉を顰めながら、壁の外から絶え間なく声を掛け続けるがその声に返される言葉はありはしない。

返事のない向こう側へと募る焦りは徐々に不安に変わり、私は拳を握りしめる。

今にもこの壁を蹴破って彼の震える背中を摩れば、胸の内に巣食う有耶無耶は晴れるだろうか。

 

ああ、きっとそれすらも私のエゴなのかもしれない………

 

数十分ほど待っていると、ゆるりと鍵が開きトイレの扉が音を立てて開かれた。

中から顔色が幾分かマシになったスカルが顔を出しこちらの様子を伺っているようだった。

そんな彼の額に私は手を伸ばし熱の有無を確かめる。

 

「熱は、ないですね……気分が優れませんでしたか?」

 

体温はほぼ平常だが、どこか具合が悪いのかもしれないと聞けど彼は首を横に振るだけだ。

 

「気分は…悪くない……」

「舌に合いませんでしたか?」

「ちがっ……美味しかった………けど、」

「…けど…?」

 

焦ったような、それでいて戸惑ったような彼の紫色の瞳には、疲労を隠しきれず頬を伝う額の汗と共に私を映し出す。

(おもむろ)にスカルが袖で彼自身の瞳を隠し遅緩(ちかん)な動作のまま汗を拭う中、ふるりと瞼が瞬きをしてまつ毛に溜まっていた極僅かな水溜まりが弾けた。

そして彼は目を伏せたまま、口を数度開閉した後喉から絞ったような声を零す。

 

 

「お、お腹…一杯で………もう、入らなくて………ごめん…なさい…」

 

 

鼻を啜る音が遠くに聞こえる中、その言葉と心臓が竦み上がったあの光景が脳裏で反芻(はんすう)した。

無意識で手首に向けられたナイフ、自殺願望、不安定な精神、無意識的な拒食、(しばら)く使われた形跡のないキッチン……

きっと今日だけではなかったはずだ。

変化を望む顕在意識に潜在意識がまだ追いついていないだけだと……そう思いたい。

表情を取り繕った私は、掠れた声で謝る彼に優しく言い聞かせる。

 

「無理をする必要はありませんよ、私も少し急かしました…すみません」

 

 

ダメだ、受け入れろ………受け入れるんだ…

 

 

これが私の罪なのだから。

 

 

彼の目尻に残った涙の跡を眺めながら、心に燻ぶる有耶無耶が色濃く鎮座したような…気持ち悪さだけが私に残った。

 

 

 




スカル:ラーメンと餃子をリバース、食あたりでダウン、起きたら元通りになる、拒食症()←NEW!

風:SAN値が削れた番外編被害者第一号、拒食症疑惑をリボーン達に報告しSAN値チェック拡散。

番外編が穏やかにいくと…いつから錯覚していた?(CV速水)



蛇足↓
今回の話をTRPG風にSAN値チェックシーンだけ抜粋して描いた漫画があったんですが、内容分からない人もいると思うので、画像一覧に貼るだけにしときます。


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skull 番外編2

俺の名前は、そうだな……モブとでも言っておこうか。

まぁ名前なんぞどうでもいい。

俺がこれから述べるのは、俺の奇妙な経験についてだ。

常識がひっくりかえる程の衝撃をもたらした奇妙な体験を。

 

 

始まりは何の変哲もないゲームがきっかけだった。

世界中にユーザーを持つこのゲーム、プレイ層は中々廃人寄りなところがある。

ゲームサービスを開始した当初からいる俺は、今現在では最古参メンバーの一角を担う精鋭ギルドのマスターという肩書きを得た。

ギルドメンバーは全て廃人か課金厨だが、その中で少し変わった奴が一人だけいた。

その名を「すかる」といい、ギルドのサブマスターに位置するこのプレイヤー、自称イタリア人だ。

名前に関してカタカナに変換する操作が分からなかった、というなんともお粗末な理由のこのプレイヤー、当時の俺は完璧に子供だと思っていた。

不登校の子供がゲームにのめり込む話は少なくないし、サブマスから漂う子供っぽさがそれに拍車を掛けていた様に思う。

自称イタリア人とあるが、これも子供特有の見栄を張りたいがための嘘だろうと思いながら、彼のイタリア人であるという主張を淡々とスルーしていた。

いやだって、普通に日本語でチャットしてるし顔文字とか日本独自のものだし……色々無理があるだろう。

一度だけ、まだ彼が中堅プレイヤーであった頃に彼は意味の分からないことをチャットで相談してきたことがある。

やれ殺害予告がメールで送られてきただの、割と本気の殺害予告だのと、中二病を患った子供特有の妄想をご丁寧に詳細まで語ってくれたが、案の定俺はそんなことが日本で起こるわけがないと内心一蹴しながら一応一つ一つ返事を返した。

割と真面目に対応したけれど、本人曰く身の上がバレると困るという人物設定まで出してきたので、ここらが引きどころかなぁと日付を教えて話をすり替え有耶無耶なまま妄想ごっこを終了させる。

身元がバレると施設に連れていかれるゲーマーってなんだよ。

まあ後で警察への通報は無駄だったと言っていたので、途中で尻込みして通報しなかったのかと思い、一応妄想と現実は区別ついていることに安堵した。

まぁ色々痛々しいこの子供プレイヤーだが、中々どうしてパーティーの立ち回りが上手いのだ。

それに子供プレイヤーということもあって、痛い発言は見ないふり…というか生温い目で見守ってかなきゃいけないという使命感が湧き上がってきたので、比較的仲良くゲームを楽しめたと思う。

年月が過ぎるごとに段々とプレイヤー数は減り、過疎化の一途を辿っていたギルドだったが少数精鋭に切り替えてからはギルド内の切り盛りがとても楽になった。

そんな頃に当時のサブマスが引退したので、すかるにサブマスを任せることにした。

本人は戸惑っていたけれど、これといって何かをしなければいけないとかはないと分かれば渋々ながら了承していた。

正直もう少し嬉しがって権限バンバン使っちゃうのかなぁと思っていたのは内緒である。

 

 

とまぁ平穏なゲームライフを送っていた俺はとうとう、リアルでニートになっていた。

営業マンだった俺はゲームに嵌まると同時に両親を交通事故で亡くし、どこに隠していたのかというほどの遺産で生活を続けている。

傷心期間とでもいうように数日仕事を休み、そのままずるずると引きずったまま退職してしまったのが事の始まりで、これといってお金に困っているわけでもなかったので就職を後回しにしていたら就職する気力も機会も失っちゃった系ニートが出来上がった。

そんなこんなで生活していたニートな俺に、思いもよらない衝撃な出来事が舞い降りた。

 

 

俺の生き甲斐とすらいえるであろうゲームのサービス終了の事前通知が送られてきたのだ。

 

 

俺は愕然と画面を見ながら絶望の眼差しで羅列した文字を読んでいく。

確かに最近は全体的なプレイヤー自体が減っていたけれど、それでもまだ続いていけるハズだったのに……

絶望の底に追い詰められた俺は、もう諦めるしかないのだとゆっくりと自分に言い聞かし力なくPCの画面を指で撫でる。

 

「最後に………すかると会って、みたいなぁ……」

 

 

それは無意識に漏れた言葉だったのかもしれない。

それからの俺の行動は早かった。

サービス終了まであと数か月しかないと思った俺はすかるに手紙を出したが、予想外にも彼は首を縦に振ろうとしなかった。

 

『無理、オフ会とか無理』

『何でだ?』

『いや、ほら……俺あれだから、えっと……』

『誰も見た目年齢気にしないぞ?あと性別も』

『いや見た目の問題は多いにあるけど…』

 

ずっと渋っている彼を最後のお願いとばかりに頭を下げ続けること数週間、漸く彼は了承してくれた。

ただ、見た目に関して何も言及しない、他人に見られない場所という条件を付けてだ。

何を恐れることがあるのだろうかと首を傾げながら理由を考えてみても、最悪中年のハゲでデブくらいしか出てこない。

それならまだ許容範囲内…というか、許容範囲外って一体何があるんだろうかと思いながら彼と約束をした一週間後を待ちわびた。

自称イタリア人の彼だが既に日本人であることは疑っていないし、年齢詐欺も全然気にしていない。

 

 

そんな俺の予想を斜め上以上に飛び越えたのは、子供の頃近所のお姉さんがショタコンで密かに俺を狙っていたという事実を知って驚いた時以来だったかもしれない。

 

 

「えーと………僕、どうしたの?」

 

日本人とは間違っても言えないほど澄んだ紫色の瞳が、自宅の前に鎮座しては俺を見上げているではないか。

それも待ち合わせ時間ピッタリに……

目の前の赤ん坊は、手にしている紙を何度も読み直しては俺を再び覗き込んでいる。

 

「ここ……ギルマスの家、ですか?」

「んんー?」

 

どういうことだ。

待て待て、何で赤ちゃんが俺のことを……いや、今ギルマスって…んんん?

 

「あ、なるほど…確かにギルマスの家だけど、お父さんと一緒に来たのかい?」

「違う、スカルだ……本人…」

「んんん?えっと……?え、息子の名前をキャラに付けてたってことか?あれ?」

「これだからオフ会は嫌だったんだよ!くそ、俺がスカルだ!ほ・ん・に・ん!」

 

赤ちゃんが何故流暢に喋っているかは置いといて、取り合えず俺はその言葉をゆっくりと咀嚼し、次の瞬間—————

 

 

「む、紫って………お前日本人じゃなかったのかよ!?」

「ツッコむとこそこじゃないからな!」

 

 

俺の中での痛々しい未成年の姿が盛大な音を立てて砕け散った。

 

 

「で、どういうことだ」

 

今俺はというと、テーブルを跨いで目の前に鎮座する赤ん坊に問いかけた。

否、言葉通りの外見ではあるものの、口から出る単語は赤ん坊のそれではない。

 

「歳を取らない病気に最近まで掛かっていた、以上」

「省略しすぎだろ、100文字以上で教えろ」

 

苦し紛れのように答えた目の前の赤ん坊の答えをバッサリと切り捨て、唸る本人を他所に手の中にあるお茶を一啜りする。

コイツは自分のことをスカルと名乗り、イタリア人であることを明言した。

が、正直さっきから頭の中が混乱しすぎて内容を整理できていない。

そいつの丁寧とはいえない説明で、病気で今までイタリアの田舎の方に隠れ潜んでいたらしいことは理解した。

というのもコイツが生まれた時代と場所では、ちょっとした差別があったらしく、怖くて田舎の誰とも交流がないであろう場所に移っていたようだ。

現実味がねぇ……こんなことが本当にあっていいのか?

 

「—————————とまぁ病気もあって、精神的な年齢は40くらいだな…ただ体はピチピチの2歳だ」

「なにそれえぐい」

「因みに俺みたいなやつがあと6人いて、全員俺より年上だ」

「えげつねぇ……」

 

だよなぁと同意して茶を啜っている目の前の赤ん坊に一つ、とても気になる疑問をぶつけた。

 

「スカル……って、何であんなに日本語に詳しいんだ?俺、普通にお前のこと日本人だとばかり…」

「あれほどイタリア人と………いや、もういいけど…色々あって日本語は完膚なきまで習得した、逆に母国語の方が危うい」

 

などと供述している赤ん坊に今世紀最大の謎がまた増えたがそれは横に置いておくとして、彼がイタリア人であるという俺の中で決めつけていた妄想設定が崩れた今、今までの話は本当だったのでは?と思い始めた。

 

「……じゃあ、殺人予告がメールで送られてきたことも本当だった、と?」

「それも信じてなかったのかよ!真面目に相談持ち掛けた俺が馬鹿みたいじゃねーか!」

「す、すみません」

 

いかにも傷付いたと顔に出たスカルに内心申し訳なくなり、咄嗟に敬語で謝ってしまった。

一応中身はあっちのが年上なんだよなぁ……俺まだ三十路だし。

 

「にしてもイタリアからよく来たなぁ……」

「うん、まぁ…色々あって直ぐ来れるんだよ」

 

色々とは一体……

取り合えず彼のことを根掘り葉掘り聞いても楽しくないだろうし、別の会話に移すか。

サービス終了ということもあって、ゲームの話やら何やらで盛り上がる。

途中飲み物が空になり、冷蔵庫にはお酒しかないことを思い出した俺はスカルにそれを告げて買い出しに向かう。

コンビニに行って子供用のジュースと、ペットボトル水を数本カゴに入れた俺はレジの方へ向かえば、既に二人ほどが並んでおり最後尾に足を進めた。

俺の前で並んでいる人は、中学生ぐらいの子供で茶髪でボサボサの男の子と活発そうな黒髪の男の子だ。

待つだけで暇だった俺は、目の前の二人の会話にカゴの中身を眺めながら聞き耳を立てる。

 

「リボーンは今日いねぇのか?」

「ああ、そういえば…リボーンが昨日スカルの様子を見にイタリアに行ってるんだった」

「そういえばスカルは最近どうしてんだ?」

 

スカル、という単語にピクリと眉間が動いたがそのままカゴの中身を覗き続ける。

どうせ人違いだろう。

 

「うーん、まだトラウマが残ってるみたい……この前も少し錯乱してたみたいだし」

「やっぱりそう簡単に元気にならねーってことか…」

「スカルは今まで沢山傷つけられてきたんだ……無理もないよ」

「俺も学校がなけりゃ様子見に行けるのによ」

 

やっぱり人違いだな、うん。

レジが二つ空き、俺の前にいた二組がそれぞれレジまでカゴを持って行く中、茶髪の方の男の子の携帯が鳴り出した。

男の子は携帯を開き、嫌な顔を一瞬だけ見せ携帯の通話ボタンを押しては耳を傾ける。

 

「リボーン、今度はどうした……え?」

「ツナ?」

 

茶髪の男の子は茫然といったように口を開けきり、今にも膝から崩れてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。

そのただならぬ雰囲気に流石の俺も目線を上げ男の子へと視線を固定する。

男の子は唇を震わせながらも数回返事を返し通話を切ったが、未だ愕然としていて焦点があっていない。

 

「ツナ、どうしたんだよ…?」

「ス、スカルが……っ…」

「え?スカルがどうしたんだ?」

「スカルがいなくなったって…っ!どこにも、どこにもいないってリボーンが!」

「なっ、それ結構やべーんじゃ!?」

「ど、どうしよう…また自殺なんか図っちゃったらどうしよう!?」

「お、落ち着けってツナ!取り合えず店出るぞ」

 

取り乱した茶髪の男の子を宥める様に黒髪の男の子は店の人に一言断り店から出て行った。

やり取りだけ聞いてしまった俺の脳内では、今俺の家にいる紫色の赤ん坊が過ぎる。

イタリア………スカル……いなくなった………トラウマ……村からの差別…

待てよ俺、冷静になれ俺、さっき話したスカルが自殺とかトラウマとか持ってるような奴には1㎜としても見えなかったじゃないか、うん。

そんな俺に追い打ちをかけるように、彼との会話の一部が脳内再生された。

 

『その病気は遺伝なのか?両親はなったりしなかったのか?』

『いや、遺伝ではないな……両親は俺が15くらいの頃にどちらも亡くなってる』

『あ、それはごめん……嫌なことを聞いた』

『別に…気にしてない、元々両親っつってもなぁ…そういえばギルマスの両親は何してるんだ?』

『いや俺の両親も—————……』

 

あああああああ、トラウマになるもん持っとる!普通に持っとる!

ここここここ、これはもしかしてやっべー奴家に招き入れた感じ!?

めっちゃ捜索されてる奴招き入れた感じ!?

俺は右手で握りしめたカゴをレジまで持って行きながら、混乱する頭で財布から野口を数枚取り出しては、おつりも貰わずに店を出るのだった。

家に帰った俺は焦った様子でスカルの両肩を掴みながら問いかける。

 

「スカル、お前ニート……だよな?トラウマとは無縁のニートだよな?」

「何だ藪から棒に、ニート以外の何だって言うんだよ…社会の目はトラウマだけど」

「だよな!あー良かった!」

「あんたもニートだろ」

 

やっぱりコイツはあの少年たちが言っていたスカルではないな。

俺は安堵の息を漏らしながらコンビニの袋からジュースを取り出してスカルに渡す。

俺も途中から酒を飲み始めて、悪ノリしたスカルまでもが酒を飲みだした。

赤ん坊の体に酒は大丈夫なのかと思いもしたけれど、まぁ中身40もあるなら大丈夫だろうと、アルコールに侵された思考回路じゃ正常は判断すら出来ずに二人して酒に溺れていった。

途中でリア充爆発しろ!と喚き散らしたり、あのもみあげぇぇぇえええ!と地を這うような声で唸ったり、幼女からの羞恥プレイ……と最後の方は泣き言だったがそんなことを言っては眠ってしまった小さな体を、ベッドの方に連れて行き俺は固い床にマットを敷いて眠りにつく。

久々に人のいる空間で眠った俺は、隣から聞こえてくる心地よさそうな寝息に心底安心したような気持ちになった。

 

朝起きると、そこには誰もおらず時計を見れば既に昼を過ぎていた。

あの赤ん坊は夢だったんだろうかと思ったけれど、テーブルに散乱しているジュースの空になったパックと少量の貨幣と置手紙で、あれが夢でないことを理解する。

ユーロなんぞいつ使うんだよ、と苦笑いが出た。

置手紙には『また会いにくる』と簡素な一文があるだけ。

俺はビールの缶を拾い集めゴミ袋に入れては、部屋のベランダに出て真上に登っている太陽を見上げた。

 

 

世の中、いろんな人がいると思っていたけど……中身がおっさんのニートな赤ちゃんを目にする日が来るとは思わなかったなぁ。

また、会えるといいんだが……今頃飛行機だろうか。

 

 

「別のゲームでも誘ってみようかなぁ」

 

 

俺は部屋の中に戻ると、すかさずPCの電源を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

俺の人生の半分を費やしたといっても過言ではないゲームが、サービス終了するらしい。

その時の俺の発狂具合といったらもう……ね。

ベッドは荒れてるし、枕は破れてるし、窓には罅が入ってる…極めつけは壁だな、血がこびり付いてるけどこれ多分頭突きでもしてたのかな?

発狂してる間の記憶が曖昧で覚えていないけれど、正気に戻った時頭痛かったから多分打ち付けてるなあれ。

泣いて喚いてPCをぶっ壊してポルポに止められるまで暴れてたらしいけどまったく覚えていないし、起きたらリボーンのあん畜生がいて更に機嫌が悪くなったのは言うまでもない。

流石にすぐ立ち直るわけにはいかなくて、数日はしょんぼりしていて、知らない間に新しく購入されていたPCを立ち上げサービス終了間近のゲームにログインすると一件のメッセージが入っていた。

ギルマスからの手紙で、内容はオフ会についてだった。

すぐに見なかったことにして残り僅かなゲームを遊んでいると、ギルマスからオフ会をチャットで誘われた俺は頑なに首を縦に振ることはない。

自分の身成りが子供のままであることが明らかにおかしいのは分かっているからだ。

しかしギルマスをしつこく食い下がっていて、ゲーム終了で落ち込んでいた俺は最後の一押しで了承してしまったのだ。

一日で帰ってこられるかなぁと遊びに行く日を考え込む。

そしてユニ達の突撃訪問の行動パターン表を綴っているノートを開いて、空いている曜日を探せば丁度一週間後が誰も来ないであろう日に被っていた。

この日ならばとギルマスに伝えて、俺は一週間後ポルポを連れて家を出る。

勿論足はポルポで、海を横断した。

数時間の移動の末着いた日本で、教えられた住所を元に町を歩けば、とあるマンションを見つける。

恐らくここだろうと思い、俺はポルポに遊んできていいよとだけ言ってマンションへと足を向けた。

まあ案の定というかなんというか、俺がスカル本人であるとは思わなかったらしく、スカルの子供として対応されついに怒り出す。

 

「これだからオフ会は嫌だったんだよ!くそ、俺がスカルだ!ほ・ん・に・ん!」

 

目の前の男性は目を点にして、一瞬俺が言った言葉が何であったかを咀嚼しているような仕草をしては次にこう言い放った。

 

「む、紫って………お前日本人じゃなかったのかよ!?」

「ツッコむとこそこじゃないからな!」

 

俺は生まれて初めて人並みの大きな声、というものを発したと思う。

というよりこいつ俺がイタリア人ってこと信じてなかったんかい!

一人暮らしとして何不自由のない簡素な部屋に招き入れられた俺は、自分の体のことをかいつまんで話すと詳しく教えろとバッサリ切り捨てられた。

ぐぬぬ……

呪いのことは話が長くなるので病気ということにして話せばある程度頷いてくれていたが、果たしてあれは信じたのだろうか。

色々ギルマスが俺の話を本気にしていなかった事実が出てきて軽く傷ついたが、今思えばあれは第三者視点から見て中二病に侵されている子供だと思われても仕方なかった。

ギルマスとの話は楽しかった。

同じニートだから、これ以上底辺はいないだろうと気兼ねなく話せた自分に少なからず驚いたのだ。

人見知りして喋ることすら出来ないかもしれないとすら思っていた数日前の自分がいい意味であっさりと裏切られた。

ちゃんと声は出てるし、声量も少し他と見劣りするだけで別に気にする程度ではないくらい自分で喋れていると、そう思う。

これもユニの羞恥プレイの賜物なのか、と見当違いなことを思いながらギルマスと今までゲームで馬鹿やって来たことを一緒に語り始めた。

ただやっぱり途中で喋りつかれて無言タイムに突入したけど、また回復したら喋り出すを繰り返していく。

デスペナルティで最高値の装備を失った悲しみや、ギルド内でマドンナの存在だった女性プレイヤーが引退間際にネカマだったと言い逃げしていった悲惨な事故を思い出しては涙した。

それでもやっぱりゲームを通して一緒に遊んだ数年間は確かにあったんだと、画面の向こうの生身の人間を今目の前にして悟った俺は、オフ会も悪いものではないのかもしれないと思う。

途中ギルマスは飲み物を買ってくると部屋を出て行った。

 

「スカル、お前ニート……だよな?トラウマとは無縁のニートだよな?」

「何だ藪から棒に、ニート以外の何だって言うんだよ…社会の目はトラウマだけど」

「だよな!あー良かった!」

「あんたもニートだろ」

 

数分後慌てて帰って来たギルマスは変なことを質問してきたが、一蹴した俺に安心したように緩やかにディスってくる。

再び飲みながら食べながら喋っては休憩をしている時間は楽しかった。

度重なる突撃訪問によるストレスだらけの日々を日本というとても遠い場所に逃げることで、一時の安寧(あんねい)を手に入れた俺は、アルコールに手を付けるのだった。

そこからあまり記憶はない。

ただ日頃の鬱憤をただただ晴らすように愚痴り倒した記憶だけはある。

そのまま寝てしまった俺は、慣れ親しんだ何かを引き摺る音でふと意識を浮上させた。

 

「ポルポ…?」

「スカル、起きた」

「……あれ?お前どうやって中に入って、」

「扉の鍵、開いてた……帰る?」

 

不用心だなと思わないでもないが、俺も前の家では閉めてなかったし人のこと言えないなと思った。

寝ぼけた頭でベッドから起き上がり、床で寝ているギルマスに気付いて欠伸をしようと開けた口を閉じる。

頭が痛い……飲み過ぎたな……

テーブルの上に置いていた水を口に含み、部屋を見渡してメモ帳を見つける。

一枚破り取り、メモと僅かばかりのお金だけ残して部屋を出た。

 

「スカル、お腹空いた……帰ろう?」

「家帰るか、途中で魚食えばいいんじゃね?」

「うん、うん、そうする」

「あ、俺が日本にいったことは内緒だぞポルポ」

「約束するよ」

 

飲み過ぎたせいで頭痛が治まらない俺は、水を掻き分けるポルポの口の中で爆睡したまま帰路についた。

酒は抜けても頭痛が治らずふらふらしながら家に帰れば、何故か家の中にリボーンがいたので不機嫌を隠さずに追い出そうと試みるが逆ギレされる。

 

「お前何処に行ってたんだ!?どれだけ周りを心配させれば…っ!」

「…う…るさ………頭に…ひび、く……」

「おい、どうした…?」

 

怒鳴り出したリボーンの声が頭に反響して、あまりの頭痛に数分だけ気絶してしまった。

少しして起きた俺はふかふかのオフトゥンの中だった。

帰路にたっぷり寝たこともあってこれ以上眠れないとベッドから出てキッチンへ向かえば、既に突撃訪問組が全員集合しているという地獄絵図に一歩引き下がる。

まだ寝ていろとラルとコロネロに寝室まで引きずられオフトゥンと再会。

でも全然眠気ないんだよなーとベッドから出ようとしても、ラル姉さんがめっちゃこっち見てた。

どうやっても俺を寝かせたいようだ、何故だ。

眠くない瞼を閉じて、取り合えずこいつらが全員帰りますようにと祈りながらオフトゥンに包まれた俺は、発散させたばかりのストレスが積み上がっていくのを感じながら心の中で叫ぶ。

 

 

ギルマス助けてぇぇぇぇぇええええええ!

 

 

 

 




ギルマス:子供の頃近所のお姉さんに目をつけられていた、ニート、紛うことなきニート、最初から最後までニート、勘違いフラグをへし折って叩き割った強者。

スカル:ゲームサービス終了のお知らせで発狂した、ギルマスに対してコミュ障は発動しない、ギルマスと同種の匂いでもプンプンするんですかねぇ

視点の無かったヒットマン:スカルが発狂した場面に偶然居合わせて抜き打ちSAN値チェック、勿論失敗、一旦日本に用事あって帰ったけど直ぐイタリアに戻ればスカル行方不明で再びSAN値チェック、勿論失敗、スカルが帰って来たと思えば体調不良を訴えていて気絶からのSAN値チェック、勿論失敗、どうあがいても絶望。





ギルマスのことについてリクエストや感想欄にも多数あったので投下しました。


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skull 番外編3 part1

沢田綱吉side

 

 

「うへへへへ、ここランボさんの秘密基地にするー!」

「おいランボ!勝手に中に入ったりするなよ!」

 

玄関を跨ぐ前に俺の目の前を白い影が通り過ぎ、快活な声をあげながら大きな足音を響かせた。

俺は今イタリアのスカルの家へと訪れている。

事の始まりは安定のリボーンの一言からだ。

 

「今日から一週間、イタリア行くぞおめーら」

「は?」

 

何故、と言う前に蹴りを後頭部に入れられそのまま意識を刈られた俺が次に目を覚ますと飛行機の中だった。

もう何も言うまい…、と脱力しながら飛行機の中を見渡す。

守護者をほぼ拉致ってきたのか、骸と雲雀さん以外は全員飛行機の中にいたのだ。

 

「あ、十代目!目が覚めましたか!」

「ご、獄寺君……これって…一体…」

「これからイタリアのスカルんとこに行く予定だとリボーンさんが言ってましたよ」

「くそ、あいつまた勝手に……いてて…」

 

ズキズキと痛む後頭部に手を当てながら獄寺君に現状説明を求めるやいなや、リボーンの凶行に頭を抱える。

スカルのとこにいくなら最初からそう言ってくれればいいのに、何で殴るかなぁ。

飛行機のアナウンスではあと20分程で到着すると流れ、俺は機内で走るランボを椅子に座るよう促した。

既にアルコバレーノの呪解から1年弱が経っていて、リボーンも見た目が少し変化してきている。

ほぼずっと一緒にいるリボーンの変化でさえ気付いているのだから、数カ月ぶりに会うだろうスカルの成長はもっと分かるかもしれないと期待しながら飛行機の窓の外を眺めながら着陸を待った。

そこからまた車に乗ってと色々ありながらも無事スカルのもとに着くことが出来た俺達はインターホーンを鳴らすが、何の反応もなく皆が首を傾げる。

 

「あれ?スカル外出中か?」

「外出なんて滅多にしないはずなんだけどなー…」

 

山本の問いに応えながらも、リボーンに何か知っているかと聞こうとしたところ、リボーンが門を蹴破ってそのまま強行突破した。

お前何やってんだよ!と叫んだ俺の悲鳴も聞こえないという様子で玄関へと歩く姿は暴君そのもので、スカルがいつもリボーンを見て嫌そうに嫌悪を浮かべるのってこれが原因じゃ…と思わないでもない。

単純にリボーンが苦手ってだけかもしれないが。

ピッキングを当然の如く終えたリボーンがそのまま扉を開けると、いつも通りあまり物が置いていない家の中が視界に入り、一抹の寂しさが胸を過ぎる。

前回来た時よりも若干物が増えて人が住んでいる最低限の雰囲気は保たれているが、それでもまだ寂しさが残る家へと足を入れた。

ランボが俺よりも先に入ってははしゃぎまくっていて、まだスカルに挨拶すらしていないのにこれじゃ不法侵入だよと慌ててランボを追いかける。

リビングまで追いかけると視界の端に紫が見え、目的の人物へと声をあげようとして俺は固まった。

俺の目の前を走るランボがソファに足をぶつけそのまま転び、ランボの頭から飛び出た何かバズーカーのようなものが紫色の影へと向かったのだ。

 

「スカル!危ない‼」

 

俺が声に出す頃にはそれがスカルの目の前まで迫っていて、何とか手を伸ばそうとしたがそれも虚しく空を切った。

視界一面の煙に腕で顔を覆い、目を細めながら煙の中へと声を掛ける。

 

「スカル!?おい、大丈夫なら返事を………」

「ん?」

「あ、スカル!無事だったんだね…ごめん、ランボがいきなり……どこか—————っ」

 

晴れた煙の合間から見え隠れする陰に、大きさからしてスカルだと踏んだ俺は彼に声を掛けるが、その煙が晴れた瞬間喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

ヘルメットを……していたのだ。

形やデザインこそ異なるもレーシングスーツとヘルメットをした小さなそれが、そこに佇んでいた。

 

「ス……スカル、お、前……もしかして………」

 

俺の脳裏に過ぎるのは、死を、自由を望み、もがき苦しんだ、大人になり切れず狂わされた子供の姿だった。

思わず震える喉から引き攣った声が出るがそれすらも気にせず、ゆるりと緩慢(かんまん)な動作で右手を目の前の小さな体へと伸ばしたその時だった。

 

 

「なななな、何だここは!?ど…どど、どうなってやがるーーー!?」

 

 

「……は?」

 

 

俺は頭が真っ白になった。

そして、超直感が俺に告げたのだ。

 

目の前のこいつは、スカルであり、スカルではないと。

 

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

「うへへへへ、ここランボさんの秘密基地にするー!」

「おいランボ!勝手に中に入ったりするなよ!」

 

家の中がドタバタとうるさくなったことに気付いた俺は、後ろから鳴り響く音が大きくなってくることに嫌な予感がしながらも振り向いた。

 

「スカル!危ない‼」

 

その声と共に俺の視界は真っ白に塗りつぶされた。

 

 

 

 

………ん…

 

強く目を(つむ)っていると自身を覆う煙が段々と消えていき、ゆっくりと目を開けた。

すると目の前には先ほど視界の端に一瞬だけ入った綱吉君がこっちを見ていて、その他に数名知っている顔と知らない顔がちらほらいる。

しかしそんなことがどうでもよくなるほど俺を驚かせたのは、今俺がいる場所だ。

全く記憶にない見知らぬ場所に忽然と瞬間移動したかのように景色だけが変化していた。

 

「あーーー!スカルに当たったじゃんかーー!ランボ!あれ何のバズーカーだよ!?」

「ふーんだ、俺っち知らないもんねー!」

「お前なぁ!」

 

いきなり大声をあげて叫び出した綱吉君にビックリしながらももう一度周りを見るけど、やっぱり知っている顔と知らない顔がちらほらといる。

あれが確かやま……山……山なんとか君で、隣の不良がゴクデラくんだっけ………ちっちゃいのが牛お君で、リボーンのあんちきしょうと、後は知らんなぁ……

いやそれよりもここどこだよ。

俺は確か自分の家のソファに座っていたはずなんだが…絶対に俺の家じゃないよなここ。

俺が周りをきょろきょろしていると、知らない男の子が声を掛けてくる。

 

「スカルのメイクしてない姿、初めて見た…案外普通だったんだね」

「確かに…いつもヘルメット被ってるかメイクしてるかなのに…」

 

その男の子の隣で綱吉君が同意しながら、牛お君から俺の方に視線を移した。

案外パニックになってたのか、俺の前で喋り続ける周りの奴等の言葉が日本語のはずなのに全く別の言語に聞こえ始める。

あ、とかえ、とか何も言えなくなっている俺の様子に山なんとか君が気付いたのか、目線を俺に固定してきた。

 

「おい、何だかスカルの様子が変だぞ」

「え?あ……本当だ固まってる」

「さっきバズーカー当たってましたけど、これ今現在のスカルなんすかね?」

「あ!そっか!未来や過去のスカルって可能性もあったんだ!ああああ、俺ランボ連れてくる!」

「俺も一緒に行きますよ十代目!」

 

そういって綱吉君とゴクデラ君がリビングのような場所から出ていくと、その場にいた知らない男の子が声を掛けてくる。

 

「えっと……僕のこと分かる?」

……し、らない………

「もしかしてさっきの10年バズーカーで、スカルは過去から来ちまったのか?」

 

10年バズーカー…?過去…?中二設定?馬鹿なの?死ぬの?

何話してるか分かんない、っていうか日本人だよね?日本語喋れよ。

 

「なぁスカル、お前俺を知ってるか?」

 

山なんとか君の問いに小さく頷くと、後ろの方で何も言わなかったリボーンが割り込んできた。

 

「おい、それはおかしいんじゃねぇか?」

「え?あ…そうか、俺達10年前だとまだ出会ってねーのか」

「スカル、てめぇ今が何年何月か言ってみろ」

 

なんだかリボーンの言葉がいつもより数割増しで刺々しくて、少し…というかかなり怖い。

おこなの?何なの…?

早くしろ、と急かされたので慌てて答えると、俺の言葉に驚いたのは知らない男の子と山なんとか君だった。

 

「年月日が同じ…?」

「どういうことだ…」

「どうやらさっきのバズーカー…ただのバズーカーじゃあねぇみたいだな」

 

さっきからリボーンが心なしかニヤニヤしてるのは気のせいか、気のせいだよな。

っつーかこの知らない男の子誰だよ!

そんな時リビングに綱吉君とゴクデラ君、そして彼らに確保された牛お君が入ってきては俺の所へ歩いてくる。

 

「あれ?5分経ってるのに戻ってない……?おかしいなぁ…」

「そうっすね、おいアホ牛!さっきのバズーカーは何だ!?」

「知らないもん!俺っち何も知らないもん!」

「てめぇ!」

「や、やめなよ獄寺君……それよりスカルは一体、ええと……」

「ツナ、どうやらこのスカル同じ時間軸のスカルらしいぜ?」

 

ぇえ!?とあからさまに驚いた様子の綱吉君は俺を見ては、山なんとか君の状況説明を聞いていた。

まず専門用語っぽい言葉が多すぎて俺には理解不能ですね、ハイ。

混乱するその場で窓際に座っていたリボーンが降りてきて、俺の方へと歩いてきた。

段々と近づく距離に俺は一歩と下がっていくが、残念なことに俺の後ろは壁だ。

リボーンが右手で拳を作り、大きく振りかぶる動作に、あ、これ殴られるわ……と、瞬時に悟った俺は目を瞑り両腕で頭を庇うように覆っては痛みが来ることを今か今かと待ち構える。

 

「なるほど、おめーこの世界のスカルじゃねーな」

 

何かリボーンが言ってるけど、全然返事出来る余裕ないのでそのままガードの姿勢で固まる俺氏。

何が何だかさっぱり分からない。

それは周りも同じようで、綱吉君の声が降って来た。

 

「え、どういうことだよリボーン?」

「こいつは恐らく並行世界のスカルだ」

「え!?並行世界!?」

「ああ、さっきからいちいち挙動がこっちのスカルとはかけ離れてやがる…勿論過去のスカルであってもだ」

 

全然二人の会話についていけない俺は、いつまでガードしとけばいいのだろうと思っていると、直ぐ側からさっきの知らない男の子が俺の背中に触れてきて、盛大に肩が跳ねあがった。

 

「スカル、大丈夫?何だかすごく具合が悪そう…」

え……あ、……誰……?

「そっか、僕のこと知らないんだったね……僕は炎真、古里炎真」

 

取り合えずコイツの後ろに隠れて、いざという時は盾にして逃げよう。

そう思うまでコンマ1秒くらいしかかからず、俺は強張る腕を解いて視界に炎真と名乗る男の子を映した。

やっとのことで身体の力を抜いた俺は、額に若干汗が浮かんでいることに気付いて袖の端で雑に汗を拭きとっていると、再びリボーンから声を掛けられ(ほつ)れた緊張が再び体を襲う。

何なのリボーンマジでしね、氏ねじゃなくて死ね。

 

「ちょいとてめーに確認することがあるだけだ、お互い今の状況が分かんねーと先に進めねーだろうが」

 

舌打ち混じりにそう言い捨てられた俺の内心は決して穏やかではなかった。

やっぱ何か刺々しいぞこのリボーン、なにこいつ怖い。

 

こうして俺の奇妙な体験は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

リボーンside

 

それはツナの家に炎真が遊びに来て、おまけでスカルまでついてきた日だった。

外は暑いからと、家の中で遊び始めたツナ達の元に獄寺と山本も合流することになり、ツナの部屋を野郎どもで埋め尽くされる。

狭いからリビングに行こうよというツナの言葉で、クーラーが効いているリビングに行けば、そこではスカルがランボやイーピンに対して威張っているような仕草で何かを話していた。

恐らく根も葉もないことを教え込んでるんだろうな。

果てしなくどうでもいい光景に呆れながら、スカルを一蹴りしてクーラーの風が当たる窓際へと移動しては窓の枠に座った。

 

「ランボさんがリーダーなんだもんねー!」

「うっせー!このスカル様がリーダーに決まってんだろ!」

「ケンカ!ダメ!」

 

何かとうるさいランボとスカルをもう一度ぶん殴ってやろうかとも思ったその時、ランボがいつもの癇癪を起して髪の中に入っている色んなものを取り出しては暴発させ始めた。

リビングの中がカオスになる中、ツナや炎真が色々と的にされている様を眺めながらコーヒーを啜る俺は、ランボが10年バズーカーに似ているバズーカーを頭から取り出したのを見て、誰に当たるんだろうなと内心ニヤニヤしながら眺める。

 

「うげー!何で俺様のところにー!?」

 

お粗末な悲鳴をあげたのは俺のパシリと名高いスカルだった。

奴はランボの暴発させたバズーカーに直撃し、その場一面に白い煙が立ち込める。

皆が一様に咳をしながら煙を散らしていくと、白い煙の中から紫色の小さな影が佇んでいた。

先ほどのものは10年バズーカーだったのか全く姿の変わらない紫色のチビを視界に納めるが、僅かばかりの差異に内心首を傾げる。

何かが違う…というよりも違和感が……

そう思うも何に対してそう思うのかもわからずその違和感を頭の隅に追いやり目の前の光景へと思考を戻す。

煙の晴れたそこに立っていたのは正真正銘スカルだが、その姿はハッキリいってこれまでとは似ても似つかなかった。

まずレーシングスーツもヘルメットもしていない上に、最大の特徴であるメイクすらしていなかったのだ。

 

「あーーー!スカルに当たったじゃんかーー!ランボ!あれ何のバズーカーだよ!?」

「ふーんだ、俺っち知らないもんねー!」

「お前なぁ!」

 

ツナ達の怒号を無視して、珍しい恰好のスカルを眺めてふと気付いたことがあった。

先ほどからスカルはあちらこちらを見渡しては周りの俺達に対して未知の領域だといわんばかりに挙動不審に陥っている。

普通に見知らぬ場所に対してパニックになってるだけだろうかと思いながら、10年前のあいつは果たしてあんなだっただろうかと思い返す。

あの耳障りな声で慌てふためくはずのスカルが、炎真とツナの会話に対して何も返さずに固まっている様子に俺は違和感を覚えた。

 

「おい、何だかスカルの様子が変だぞ」

「え?あ……本当だ固まってる」

「さっきバズーカー当たってましたけど、これ今現在のスカルなんすかね?」

「あ!そっか!未来や過去のスカルって可能性もあったんだ!ああああ、俺ランボ連れてくる!」

「俺も一緒に行きますよ十代目!」

 

俺の次にスカルの様子に気付いた山本が発言し、それに周りも漸くスカルのおかしな様子に気付き始めた。

ツナと獄寺はランボを探しにリビングを出て、その場に残っていた炎真がスカルへの声を掛ける。

僕を知っているか、という簡素な質問にスカルは間を置きながら首を横に振り、ぼそりと呟いた。

 

……し、らない………

 

それは俺の知っているあいつの声ではなく、今にも擦り潰れてしまいそうなほど乾ききったか細い声だった。

 

「なぁスカル、お前俺を知ってるか?」

 

予想外の声質に驚いていた俺を他所に山本の質問にスカルが首を縦に振り、矛盾に気付いた俺は思わず話に割り込む。

 

「おい、それはおかしいんじゃねぇか?」

「え?あ…そうか、俺達10年前だとまだ出会ってねーのか」

「スカル、てめぇ今が何年何月か言ってみろ」

 

俺の声に一瞬肩を震わせたスカルが、おどおどと小さな声で年月日を呟いた。

同じ年月日ってことは過去未来の時間軸が関係しているわけじゃねーみたいだな。

俺の声に怯える姿はいつものスカルと同じで、やっぱりコイツは今現在のスカルなのか?と判断を下せずにいる俺は、面白いものを見つけた内心ほくそ笑む。

ランボを捕まえたツナと獄寺が5分以上経ったにも関わらず未だ戻る様子のないスカルに首を傾げ、山本の説明に目を丸くしていた。

俺の中でこの目の前のスカルが今までのスカルと同一人物とは思えず、確認がてらいっちょ殴ってみるかと窓から飛び降り近づいていく。

スカルは俺の行動に気付き一歩後ろに下がるが、俺と奴の距離は段々と小さくなっている。

殴って不細工な悲鳴の一つでもあげれば今までのスカルと何ら変わらない気がするなと、拳を作り腕を高く振り上げた次の瞬間俺の思考は固まることとなった。

 

 

瞳の奥に垣間見えた恐怖が 

 

底知れぬ恐怖が 

 

俺を捉えていたのだ

 

 

違う。

こいつは俺の知っているスカルじゃない。

コイツは俺の拳に、存在に、心の底から本気で怯えているのだ。

顔を覆う両腕が緊張で張りつめ哀れなほど小刻みに震えては、今か今かと痛みを待ち構えている。

恐怖で身が竦み体が動かなくなった姿は、暴力に耐え続ける子供を彷彿させた。

無意識に拳に入れていた力が抜け、気持ち悪さだけが残った俺は確信めいたソレを告げる。

 

「なるほど、おめーこの世界のスカルじゃねーな」

 

俺の中での結論は出た。

並行世界でもパシリにされてるのかと思った数分前の自分を否定するには十分で、僅かばかりの罪悪感に侵される俺にツナ達が言い寄ってくる。

 

「え、どういうことだよリボーン?」

「こいつは恐らく並行世界のスカルだ」

「え!?並行世界!?」

「ああ、さっきからいちいち挙動がこっちのスカルとはかけ離れてやがる…勿論過去のスカルであってもだ」

 

先ほどから固まる続けるスカルに炎真が声を掛け、漸く腕をゆっくりと解いたスカルの顔には汗が浮かんでおり顔色は先ほどより数段悪くなっていた。

俺は状況把握の為に奴から色々聞くことがあるなと名前を呼べば、再び緊張を貼り付けた顔から一気に血の気が引いたのが分かった。

 

それで分かってしまった。

 

「ちょいとてめーに確認することがあるだけだ、お互い今の状況が分かんねーと先に進めねーだろうが」

 

気付いてしまったのだ。

 

コイツが心の底から恐怖し、怯えているものが、拳や暴力を振るう不特定多数の相手ではなく

 

 

(リボーン)という個人であることに。

 

 

 

ああ、胸糞悪いことになりそうだ…

 

 

思わず零れた舌打ちに、震えたのは誰だったか。

 

 




原作なスカル:Skullの方に来てしまった原作の方、多分身の安全的にいえば結構ヤバイ。

スカル(Skull):原作に飛んだ、本人は分かっていない、というよりも他世界の人物に対して違和感を持てるほど交流がないので並行世界という可能性に行きつくことが困難、リボーンには元々マイナス印象なのであれ?いつもより棘があるくらいしか感じていない。

リボーン(原作):スカル()の態度からしてパシリとかそんなん鼻くそレベルでやばいことされてるんじゃ?と思い至ってしまったヒットマン、自分がガチで怯えられていることに危うくSAN値チェックを掛けられるところだった。


安心安定のSAN値チェックマンなスカルは、原作ワールドでどれくらい地雷とフラグを立ててくれるのか。

全然続き書いてないです。
何か微妙な切り方してすみません、気力が足らなかった。
気力回復したら続き書くと思います。



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skull 番外編3 part2

綱吉(原作)side

 

あれからスカルのことについて話し合いが始まった。

まずどうして元の世界に戻れないのか、これに関しては専門分野である正一君に聞いてみたところ、これから調査してみるとだけ返事をもらったので待つしかない。

次に別世界からきたスカルは、俺達の世界のスカルとは結構違っていることだ。

決定的な所は、態度だ。

全くもって喋らない。

こちらが会話を振っても首を縦に振るか横に振るか、漸く喋ったと思っても一言二言呟いて直ぐに口を(つぐ)む。

その上異常なほど周りを気にしているし、目線も伏せがちだ。

いつもうるさい印象しかないスカルに反してこうも大人しくされると何だか調子が狂うような気さえする。

こちらの世界のスカルとの共通点というかなんというか、彼はリボーンが苦手なようだ。

ソファに座る時もそうだったが、俺と炎真君を挟んでリボーンと一番遠くになる位置を選ぶし、リボーンの問いかけに対して小さな声が一段と小さくなる。

ああ、リボーンが苦手なんだなと決定的に分かったのはリボーンが近づくと明らかに怯える様子を見せた時だった。

こっちのスカルもリボーンが苦手だけど、リボーンに対して虚勢を張ってる時点で一応まだ心の余裕はあるって分かる。

でも彼は明らかにリボーンを怖がっている節があるし、リボーンだけじゃなく周りに対して少し距離を置きたがっているように見えた。

どうしてこうも違うんだろう……

今も目の前で顔を伏せて無言を貫く姿は孤独を彷彿(ほうふつ)させ、か弱く見えた。

 

 

「スカルは……リボーンのこと嫌いなの?」

 

必要最低限の質疑が一通り終わったところで疲れを見せていたスカルを一休みさせるため、俺の部屋の隣の空き部屋へと案内した時にふと気になって聞いてみる。

今この場にはスカルと俺しかいないからか、少しだけ緊張を緩めた様子のスカルが俺を見ては眉に皺を作りながら再び顔を伏せた。

無言の頷きに俺は次の言葉を探そうとして、辛うじて出た言葉を告げる。

 

「えっと、二人の間で何かあったのかなーって……あはは……」

 

多分俺は今タブーな領域に足を踏み入れてしまったような気がする。

やらかした…と思っても出た言葉が戻るわけでもないので、頬を掻きながらスカルをじっと見つめた。

スカルは周りを一度見渡して誰もいないことを確認すると、小さな口を僅かに開きぽつりと呟く。

 

 

「あいつ………俺を殺そうとするから…」

 

 

だから嫌いだ、そう付け加えるともう話すことはないという様子で空き部屋に置かれたベッドに潜り、布団で全身を覆ってはまるで外界を拒絶するように塞ぎこんだ。

俺はスカルの口から放たれた言葉があまりにも衝撃的で、言葉を失っては呆然と布団を見つめていることしか出来なかった。

 

殺そうと…するから……?

リボーンがスカルを殺そうと?

 

何度もスカルの言葉が脳裏を反芻するがかける言葉が見つからず、俺はそのまま開ききった扉から一歩二歩と足を引き摺るように後ろへ下げた。

ゆっくりとドアを閉じ、そこで俺は手を口へと当てては先ほどの言葉をぽつりとつぶやく。

 

「リボーンがスカルを……殺す…?」

「どうやらあっちの俺らは殺伐としてるみたいだな」

「っ、リボーン…!」

 

直ぐ側から聞こえた声に振り返ると、そこにはハットで表情の見えないリボーンが壁に背中を預けて佇んでいた。

恐らく中での会話は全部聞かれているなと思った俺は、はぐらかすことを諦めて溜息を吐く。

部屋の中にいるスカルに聞こえない距離を取ろうと少しだけ歩き出した俺はリボーンに声を掛ける。

 

「少し、混乱してる」

「調子狂うぜ」

 

恐らくリボーンは俺よりも困惑してるんだろうなってポーカーフェイスを覗き込みながらふと思った。

こっちのスカルはうるさくて、馬鹿で、頑丈で、アルコバレーノのくせに弱いけど……それでもあんなに辛そうな、苦しそうな顔はしてなかった。

なのに、何があったらあんなに人に対して拒絶するようなことになるんだろう……

目の前を歩くリボーンから視線を外し、ズボンのポケットに入れている携帯を取り出してディスプレイを確認してみたけれど、入江君の名前が映ってはいなかった。

 

 

 

リボーンside

 

 

「お前どこにいた」

…イタリア

「イタリアのどこだっつってんだよ」

………ローマ、詳しくは知らない

 

か細い声がその喉を通って呟かれたと思えば思うほど、俺の眉間に皺が増えていくのが分かった。

小さな声を聞き取るのが億劫で舌打ちしようものなら、またスカルの態度が振り出しに戻り喋らなくなるのは目に見えている俺は舌打ちを飲み込み、次の質問へと移る。

質疑応答を始めてかれこれ30分経っているが、これといって関連性のある情報は得られていない。

今俺達がこのスカルに対して分かっているのは、奴は今死んでいることになっていること、カルカッサに所属していない、アルコバレーノであったこと、こちら同様虹の代理戦争に参加したこと。

一番衝撃的だったことは、常識を知らないことだった。

年月日を答える時もそうだったが、今日がいつで何曜日かすら直ぐに思い出せない、最近起きた出来事もあやふやでこちらの世界との相違点を出すのが思っていたよりも難航している。

今も自分の家の場所すら正確に把握していないという奴の瞳に嘘はなく、浮世離れが激しいことが見て取れる。

こいつ一体どうやって今まで生きてきたんだ?と思わなくもないが、それよりもコイツの常識の無さにあちらの世界に対してますます不気味さを感じた。

疲れた様子のスカルは眠たいのか瞼が少しずつおりかけていて、一旦休ませるために空き部屋があったはずだというツナに案内を任せる。

階段を上り辛そうにしていたスカルをツナが抱えて登る様子は本当の子供のようで、俺は少しだけ先ほどから感じていた違和感に漸く気付く。

そうだ、子供だ。

あいつの態度は一々子供の仕草を彷彿させる。

中身は俺らとそう変わらないだろうが、浮世離れが後押しして精神年齢が成人に至っていないのではと思わされるほど、成熟した大人とはかけ離れていた。

視界から消えたツナを追おうと階段に足を掛けた時、僅かだが確かにツナの声が耳に届く。

 

「スカルは……リボーンのこと嫌いなの?」

 

いらんことを…と思いながらも、階段を上っていけばまだツナの声がした。

 

「えっと、二人の間で何かあったのかなーって……あはは……」

 

あいつが俺を嫌っている…というよりも怯えていることに周りはなんとなく気が付いている。

俺と目線を合わせないし、声を掛けるたびにビクつくし、どこぞのスカルのように怯えながら泣きべそ掛かれた方が何十倍もマシだと何度思ったことか。

恐らくあっちの俺と相当邪険な関係…いや、一方的な蹂躙(じゅうりん)すらも垣間見える程度にはスカルの態度は異常だった。

流石に並行世界の自分のやらかした行いまで責任もてねー俺は調子が狂うばかりで、スカルが元に戻った暁には気が済むまで殴り倒してやると決意した。

そんなこと思っていると既に俺の目の前少し先には開けたままのドアがあり、すぐドアの裏側にはツナがいるであろう距離まで詰めている、そんな時だった。

 

薄いドアから 掠れて 今にも潰れてしまいそうな震えた声が 届いた

 

 

あいつ………俺を殺そうとするから…

 

だから 嫌いだ

 

たったそれだけ、どれだけの言葉が酷く重たげに俺の胸元に落ちてきた。

一体あちらの俺は何をしてるんだ…?

あらゆる可能性を持った並行世界という分岐世界で、俺は一体何をした?

俺が殺し屋で、アルコバレーノで、虹の代理戦争を経験したという過程は一緒であり、奴の今までの反応を見るからに、あまり俺に関して差異は見当たらないと思うが、何故あちらの俺がこいつを殺そうとしているのだろうか。

ただの子供にしか見えない、あちらのスカルを。

僅かな痛みを訴える淡い何かはすぐさま消えていき、俺は重たい胸を撫で下ろす。

 

「リボーンがスカルを……殺す…?」

「どうやらあっちの俺らは殺伐としてるみたいだな」

「っ、リボーン…!」

 

少し間を置いてからツナが出てきて外にいた俺に気付いては数歩部屋から遠ざかり声を掛けてきた。

 

「少し、混乱してる」

「調子狂うぜ」

 

思っていたよりも低い声が出たことにツナが心配するような顔をこちらに向けてきて、機嫌はさらに急降下していく。

並行世界でのことまで俺に関係ないと何度も言い聞かせているのに、アルコバレーノの呪いがまだ掛けられていなかったあの頃に見たアイツの馬鹿面を思い出しては一抹の不安が胸を過ぎった。

ああ、死んだ顔した奴の面なんぞいくら殴ったって、気が晴れやしねぇってんだ…

俺とツナは下の階に降りては今後のことを少しだけ話していた。

まだ帰っていない獄寺や山本もスカルのことが少なからず気になっていたようで、どこか空気が重くなっていた。

入江正一にランボのバズーカーを渡して見てもらっている間、俺達はあのスカルに対して関心をなくすことはない。

 

「リボーン」

「何だ…」

「俺、スカルのこと気になるんだ……」

 

ふいに言葉を発したツナの顔は真剣で、大方先ほどのスカルの言葉がツナの何かに触れたのだろうと思っていた俺はツナの言葉に驚くことは無かった。

 

「だってさ……あんなに周りを気にして、ずっと怯えてるような奴を見過ごせないし見過ごしたくない」

「お前なら言うと思ったがな」

「…正直リボーンにとって不快になるような案件だと思う……けど、何もせずに元の世界に戻しちゃうのはダメのような気がする」

「俺がやるなっつってやめる玉かよてめーは」

 

俺の言葉に軽く口角を上げるツナの表情は決意が決まったようで、周りの獄寺や山本、炎真もそれに気付いたのか降って湧いた問題と真摯に向き合い始めた。

当面はあちらの世界がどのようになっているかについて探ってみるという内容に落ち着いたが、それに対して適役としか言いようがない人物を思い浮かべてはツナが苦笑いしながら遠い目をしている。

ま、関わりたくねー相手であることは確かだが、今回の騒動に関してはアイツ以上の適役なんぞいねーだろうな。

平穏らしい平穏が訪れてから舞い降りた今回の騒動で、またツナの成長が見られるならそれも良いが……それだけじゃねーような気がしてならねぇ。

これからのことを一々考えるのも面倒になった俺は他のアルコバレーノに連絡を取ろうとその場を離れた。

携帯を取り出した時、ふと思い出す。

 

一つだけ、気になることをアイツは言っていた。

 

『何でお前は死んでることになってんだ?』

 

何気ない一言だった。

ただその一言は、内心困惑していた俺をさらに困惑させることとなったのだ。

 

 

『………狂人スカルが死んだから』

 

 

   狂人

 

 

何故か分からないが その言葉が 途轍もなく重く感じた

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

「取り合えず、ここに飛ばされる前の状況を教えてくれないか?」

 

そう話しかけてきた綱吉君の質問に、俺は考え込んだ。

いきなり不法侵入されて振り返ったらここにいた…なんて意味が分からないにも程がある。

取り合えずその場の状況的に日本にいることは分かったけれど、何で瞬間移動しちゃったのが全くわからない…

まぁ瞬間移動っぽいことできる奴知ってるから不可能な現象とは言えないし、多分そこらへんが関与してるんじゃなかろうか。

綱吉君の質問には、気付けばいたとだけ伝えて次の質問に移ることにした。

 

「スカルはえっと……今でもカルカッサにいるの?呪解されてるみたいだけど赤ん坊の姿ってことは一応アルコバレーノだったんだよね?」

 

次々と質問してくる綱吉君の言葉に、ソファに座りながら両手で持ったコップの中の水を眺めながら口を開く。

 

カルカッサは……やめた………呪いは、昔貰った

「やめた…?じゃあ今何してるんだ?」

 

綱吉君の質問にあれ?と首を傾げつつ、何で俺の現状を知らないのだろう…と思いながらも、そういえば綱吉君事体は俺の所に来る回数は片手で数えられる程度だったから分からないのか、と自己完結する。

この時、一年前の病院で俺が死亡扱いにされたことを告げた時その場に綱吉君もいたことなど、俺はすっかり忘れてたりする。

 

俺は死んだことになってるから、何もしてない

 

リボーンも隣にいるなら詳細教えてやれよ、俺の口からニートしてますなんて言えねーだろ。

その後もリボーンからの訳の分からない質問があったけどほぼ答えられなかった。

ほら、俺ゲームに勤しんでたから最近起きた出来事や自分の住所は愚か、正確な日付すら知らないんだよ。

曜日感覚狂うし、終いには昼夜逆転ならぬ昼夜スクランブル状態だった。

流石にヤバイと思ったのはポルポから「スカルと喋ったの三日ぶりー」と言われた時だった。

あ、そういえばここ日本だから俺ゲーム出来ないじゃん…死んだ。

これは死ねる。

ポルポもそのままイタリアに置いてきたし、本格的にヤバイな。

イタリアに帰りたいって言ってもパスポートないから無理だし…うわぁ……うわぁ……

一人で落ち込んでいたら綱吉君に心配されたけど正直返事する気力もない。

質問タイムが続いた後うんざりしながら眠気を感じていると、一旦休むかと言われ二階の空き部屋を案内された。

ベッド使ってもいいよと言われたのでそのまま一人でベッドの上に登っていると、綱吉君がふと質問してくる。

 

「スカルは……リボーンのこと嫌いなの?」

 

眉間に皺を寄せながら首を縦に振れば綱吉君は一拍置いて、少し遠慮したような口調で言い放つ。

 

「えっと、二人の間で何かあったのかなーって……あはは……」

 

何かあったのかって……あれ?綱吉君は俺が何度も殺され掛けてんの見てた気がするけどな。

あいつも俺もお互い嫌ってるし、多分死ねこの野郎くらいには思ってるだろう。

今更感が拭えないが簡素に述べた。

 

あいつ………俺を殺そうとするから…

 

いや正確に言えば、殺そうとしてた…だろうか。

もう勘違いも解けたし、本人から一応表面上の謝罪は貰った。

あれで許したかといわれれば全然許してないし、正直関わりたくないと思っている。

つーかストレス的に俺の胃を殺しにかかっている今の状況の方が質悪いよなぁ…

 

 

やっぱあいつは今も昔も俺を殺しにかかってる野郎だ、絶許。

 

 

俺は部屋を出て行った綱吉君の足音から意識を逸らし、布団の中で惰眠を貪った。

 




スカル:未だ並行世界であることに気付いていない、ニート出来る環境下ではないことに次第に憔悴していく予定のSAN値チェックマン。
原作リボーン:色々並行世界の自分がやらかしていて内心ヤバイ。
原作ツナ:色々自分から足突っ込んでいっていつかセルフSAN値チェックするかもしれない。
白いヤングな人<呼んだ?

今回は原作sideです。
次回辺りにSkullの方の視点入れようと思います。


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skull 番外編3 part3

「やぁ、初めまして」

 

語尾を弾ませながら笑みを浮かべている目の前の人物は、面白いことになったといわんばかりに目を輝かせていた。

 

俺が日本に来てから2日経った頃だった。

何ごともなくお客さんみたいな立ち位置で沢田家にお邪魔していた俺だが、イタリアに帰れる気配はない。

今まで突撃訪問者がいたにはいたが、一人暮らししていた俺にとって誰かと共同生活するのは中々堪えるわけで、正直静かな場所で一人になりたいのだ。

だが居候の分際でそんなこと言えるわけもなく、ストレスと不安だけが積もるばかりの俺の元に白いウニが冒頭の言葉と共に忽然(こつぜん)と現れた。

誰だコイツと思わないでもないが、白い髪をした男の後ろで綱吉君が慌てたように走ってきては部屋の中に突撃するような形で入ってくる。

 

「おい白蘭!勝手に家に上がるなよ!」

「別にいいじゃないか、それより彼にとっても興味があるんだけど」

「そんなことってお前なぁ!」

 

呆れた顔で溜め息を吐いた綱吉君の隣で息悠々とこちらを覗く白い男は一体誰なのか。

綱吉君の言葉からして、びゃくらん、という名前だろうけど、友達かな?

ベッドの上でぼーっと窓を眺めていた俺は突然の来訪者に目を丸くしていると、白い人がニコリと笑顔を浮かべて近づいてきた。

赤ちゃんのサイズから脱していない俺にとってシングルベッドであろうともかなり広く、白い人が俺の隣のかなり空いているスペースに座り込んだ。

 

「へぇ、君があの狂人のスカルかぁ…」

 

デジャヴ。

懐かしい名前を聞いた俺は、その言葉と共に繰り広げられた不毛な勘違いの連鎖と命がけの鬼ごっこの数々を思い出しては顔から血の気が一気に引いたのが分かった。

あれから一年弱経っているはずだがまだ俺の狂人説が消えていないんだなと思いながら、これは訂正した方がいいのではとなけなしのコミュ力を発揮する。

 

狂人、は……死んだ

「だが君は狂人だった」

 

あ、これアカン。

リングの上でレフリーが手を大きく振っている幻覚を見たところで俺は口を閉ざした。

まだ俺を狂人スカルと勘違いしている人がいるってことは、イタリアの家に籠っていたのは正解だったってことか。

ちょっと待て、これ一歩間違えたらまた命狙われるんじゃない?

 

「白蘭!ちょっと来い!」

 

悶々と身の安全を考えていると綱吉君が白い人の腕を掴んで部屋をそそくさと出て行った。

一体何がしたかったんだあいつら。

いやそれよりも今はどうやってイタリアに帰るか、だよな。

狂人スカル生存説浮上とかなにそれ笑えない。

いっそのこと改名したろかこの野郎。

まだ狂人スカルが死亡したことが完全に浸透していない現状だけど、俺が出来ることなど何もないので早くイタリアに帰りたい。

ゲームもないしパソコンもないこの狭い部屋でかなり暇な俺は正直参っていた。

ゲーム中毒症状で指が震える今、どうやってこの衝動を振り切ろうか画策しながら震える指を握りしめながら体育座りしながら膝の上に顔を埋める。

ああああああコントローラー握りてぇぇぇぇえええええええ

マウスクリックしてぇぇぇぇぇええええええ

ログイン画面見たいよぉおおおおおおおおおお

キーボードーぉぉおおおおおおおおおおおおお

シフトキーの感触を思い出しては半泣きになりながらオアシスだったイタリアの自室に想い()せる。

 

どれくらいたっただろうか、部屋のドアがゆっくりと開く音がしたけれど顔は膝の上に埋めたまま上げることはない。

足音が段々と近づいてきて、ふいに肩に何かが触れた気がして盛大にビクつく。

 

「スカル……俺はお前を狂人だなんて思ってないよ……」

 

綱吉君の声だ。

何やら真剣染みた声だが、白い人の勘違い正してくれたのかな…

いやそんなことよりもこの中毒症状をどうにかしなければ。

指が震えるってかなりヤバいんじゃね?

 

「気が向いたらリビングに来なよ、お菓子もあるし、少なくとも一人ぼっちにはならないから…」

 

もう一度優しく肩を叩かれた後綱吉君は部屋を出て行ったけれど、俺は絶対にこの部屋から出るつもりは、ない。

籠城作戦ばっちこいやぁと密かに思っていたりする俺は、中毒症状が治まるまで必死にコントローラーの感触を思い出していた。

 

 

 

「やぁ、さっきはゴメンネー、ちょっと僕とお喋りしようよ」

 

不貞寝しようとしたら再び部屋に押しかけてきたウニのような頭をして漂白剤をぶちまけられたような髪の色をしている白い人がこちらに笑顔で歩み寄ってきた。

先ほど同様にベッドに座り出すコイツからじっと見つめてくる視線をビシバシ感じている。

 

「君はどの世界にもいなかった、いわば亜種だ」

 

いきなり亜種と言われた俺氏、なんとなくだがコイツ患ってるのかもしれないと思い始めた。

 

「何故だ?君だけが異質で、君だけが可笑しい……たった一つの分岐点による可能性の範疇を大きく超えている」

 

ますます君という個体に興味が湧くね、とにんまりした顔で言い放つ姿はまさに変態。

あ、コイツ何かずっと前に夢で見た未来のペド野郎!

あいつだったのか。

んん?待てよ、何で夢で出てきた人物が現実に出てきて………?あれ?これ夢の可能性ある感じ?

 

「君という存在がかなり特殊にもかかわらず僕が滅ぼした数々の世界に君がいなかった」

「アルコバレーノはユニちゃん以外全て殺したはずだったのに…、君という個人を殺した世界がどこにもないのは何故なんだい?」

 

ひえええ、患ってる、患ってるよぉお……

 

「僕が敗北を喫した可能性が一つではなかったということか?でも何故?君の世界とこの世界の過程は君を除いて限りなく近い…かなり類似しているならば何故僕が可能性として見ることが出来なかったのか…それが大いに疑問でならないんだよ」

 

途中から何喋ってるか分かんないよこの人。

ポルポ化してやがる、末期だ。

 

「僕が可能性を見たその時にまだ分岐していない同一の世界線であったならば僕が見ることが出来なかったのは分かるが、君の世界の分岐は数十年とかなり前だ…ま、この問題に関しては僕でも分からないのなら誰にも理解することは不可能だ…考えるだけ無駄ってやつなのかもしれないね」

 

真面目な顔したりおちゃらけた顔したりと忙しい目の前の白い人がかなりの重症者であることは分かった。

ペドに加えて中二病とは手の施しようがないな、ご愁傷様です。

内心合掌していると部屋の外から階段を駆け上る慌ただしい音がしたが、そんなことどこ吹く風とでもいうような顔をしている白い人は俺に視線を固定している。

 

「それよりも僕が興味を持ったのが、殆ど同じ過程を持ちながらも明らかに差異が生じている…だが結果が同質のものだったということさ」

 

部屋に慌ただしい足音が近づいてきている。

 

「《不死身》であったならまだ救いはあったんだろうね」

 

白い人と目線が交差する。

 

 

「でも君は《狂人》だ」

 

 

薄い、曖昧な紫色の瞳の奥で、小馬鹿にされたような気がした。

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

 

「やぁ綱吉君」

「白蘭、お前一人で来たのか?」

「皆に内緒で来ちゃった」

 

語尾に音符が付くんじゃないだろうかと思うほど機嫌のいい白蘭が、俺の家の玄関に立っていた。

そう、俺達がスカルの件で先ず進展する為に呼んだのが白蘭だ。

白蘭は並行世界と情報を共有できる能力を持っているから並行世界から来てしまったスカルの世界のことも分かるんじゃないかということで呼んでみれば、面白そうという理由で首を縦に振ったのが先日で、イタリアにいたはずだったのでまだ日本に着くとは思っていなかった俺は予想外の訪問に目を丸くした。

まぁ白蘭の行動力ならこの早さも納得できるなと心のどこかで納得しながら家に招き入れようとする前に白蘭が勝手に家の中にずかずかと入っていき、階段を上っていく。

いきなりの暴挙に驚いて固まった俺が我に返り、白蘭の後ろ姿を追いかけようと階段から二階を見るが既に奴の姿はなく、俺は慌てて階段を駆け上がった。

スカルのいる部屋のドアを開けて中を見れば、スカルと挨拶を交わす白蘭の姿があった。

 

「おい白蘭!勝手に家に上がるなよ!」

「別にいいじゃないか、それより彼にとっても興味があるんだけど」

「そんなことってお前なぁ!」

 

俺の怒鳴り声すらもものともしない白蘭は始終スカルへと視線を固定していて、当のスカルは困惑しきっている。

そんなスカルの様子すらも興味深いというように、悠々と我が物顔でベッドに座りだした白蘭に呆れ果てた俺は、白蘭が次に放った言葉に固まることとなった。

 

 

「へぇ、君があの狂人のスカルかぁ…」

 

 

その言葉を放った瞬間、スカルの顔から明らかに血の気が引いていくのが見えた。

可愛そうなほど青白い顔で絶望を垣間見たような顔をしたスカルの異常な様子に俺は言葉を失う。

 

狂人、は……死んだ

 

震える口から掠れたか細い小さな声が今にも消えそうで、俺は無性にスカルを抱きしめたくなった。

怯えている。

狂人、という言葉がどういった意味を持つかなんて俺には分からなかったけど、スカルの痛ましいまでの姿に、それがきっと良くないものであったなんて分かり切っていた。

 

「だが君は狂人だった」

 

追い打ちだと言わんばかりにスカルの言葉を切り伏せる白蘭の顔に、笑みすら浮かんでおらず、その言葉が本気で重い意味を持っているのだと超直感が訴えている。

けれど、それよりも可哀そうなほど顔色を青白くさせて震えているスカルが口を閉じて絶望した目を向けたことが何よりも苦しくなって、俺は無意識に白蘭の腕を掴んで部屋から飛び出した。

 

「白蘭!ちょっと来い!」

 

行動に意味を付けるように言葉を吐いた俺は部屋を出ると、白蘭の眉間に皺が寄っていることに気が付き手を離した。

どうやらかなりの力で腕を握っていたらしく、握られた腕を摩っている。

 

「うん、確信したよ……彼、数多の並行世界の中でもかなり特殊な世界のスカルだよ」

「特殊って……」

「ここじゃ話し辛いし、一階で話そうか?君の部屋でもいいけど…」

「……下に行こう」

 

俺の部屋じゃ声が漏れる可能性があると思い至った俺は白蘭と一緒に一階のリビングへと向かった。

家には俺以外にリボーンしかおらず、決してスカルの事情が言い触らせる内容じゃないことを察している俺は無意識にリボーンと俺、白蘭しかいないリビングに胸を撫で下ろす。

白蘭は俺が用意したお茶に口をつけながらお菓子をつまんでいて、何から話そうかと考えている仕草をしていた。

 

「そうだなぁ、彼の世界は僕たちからする結果は同一であれど、彼の進んできた過程は百八十度も違う……ってとこかな」

「どういうことだ?」

「まぁ、彼の視点で語ることは出来ないから並行世界の僕の視点だけで彼の身の上話を語るよ」

 

まぁ、それも人伝(ひとづて)だけどね、と付け加えた白蘭の顔は至って真剣で、ふざけた雰囲気などなく詳細を語り始める。

頭の隅で超直感が何かを訴えているけれど、何に対してか検討も付かない今の状況では、目に見えぬ違和感に気持ち悪さだけを感じていた。

それから白蘭が語った内容は俺の想像以上に惨たらしかった。

スカルの生い立ちは酷いという言葉だけで言い表せるものではなく、聞いてるこっちが吐き気を覚える。

村人からの虐待、自我の喪失、狂人という偶像を押し付けられた大人になれなかった子供の話は、涙を誘うなんてものじゃない。

はっきり言って胸糞悪い。

 

『狂人、は……死んだ』

 

白蘭の言葉に対してスカルの放った言葉の重さに漸く気付かされた。

そして彼の消えてしまうような危うさを理解したのだ。

隣にいたリボーンの形相は直視出来ない程凄まじい。

その激情が一体誰に向けられているかなんてわかり切っていて、今になってリボーンを関わらせたことに少しばかりの後悔を覚えた。

多分、きっと……あっちのリボーン自身に対して怒ってる。

あちらの世界のリボーンとスカルの間に埋められない程の因縁があることは察せられるけれど、スカルの怯えようをみているとリボーンがどんな仕打ちをしたのか用意に想像出来た、出来てしまった。

白蘭の話を聞くからして、もう全て解決…というよりも傷付いて生きる気力を失っているスカルのリハビリという形で今までの行いを償おうとしているらしいけど、一年弱経っても尚スカルのあの怯えよう……あまり回復はしていないのだろう。

自殺未遂をしたらしい話まで聞いて俺は思わず立ち上がり、一人にしたスカルの部屋に走りだした。

さっき白蘭が掛けた言葉は、スカルがどの世界のスカルなのかを確認するためとはいえ、彼にとって酷なものだったに違いはない。

最悪の事態が浮かんでしまっては脳内をそればかりが支配し、漠然とした不安が押し寄せる。

俺は出来るだけ足音を立てずに部屋の中を覗いてみれば、中でスカルが膝を立てて頭を埋めては縮こまっていた。

まるで世界を拒絶しているような、排除されたがっているような………明確な孤独がそこにあった。

俺は肩を震わせるスカルの側に寄り、優しく包み込むように肩に手を置く。

ふるりと震わせた肩は必死に恐怖と戦っているようで、まだ、全然大丈夫じゃないんだって突きつけられた気分だった。

 

「スカル……俺はお前を狂人だなんて思ってないよ……」

 

返事はない。

でも膝を抱く腕が、手が、指が、確かに震えていたのだ。

ここで俺が必死になって慰めたところで、()()()()の声は届かないどころか恐怖の対象だ。

ずっと、そうやって恐怖をやり過ごしていたのだろうか……苦しくないのか、悲しくないのか…

沢山思い浮かぶけれど俺には分からない、だって俺には頼れる仲間がいたから。

 

   でも

 

「気が向いたらリビングに来なよ、お菓子もあるし、少なくとも一人ぼっちにはならないから…」

 

目の前のスカルには頼れるものなんてなかったんだ

 

俺が今ここで手を差し伸ばしてはいけないのだと、誰かが釘を刺したような気がして、胸にちくりと痛みが過ぎった。

下の階に降りると白蘭とリボーンが会話を続けている。

 

「僕はあくまで綱吉君やユニちゃんを通して彼のことを知っているにすぎないからね、近況とかは分かんないよ」

「なるほどな……だが、大体は分かったぜ」

「あ、綱吉君、彼どうだった?」

「もう少し……一人にした方がいいかもしれない」

「確認のためとはいえ、悪いことしちゃったなぁ」

 

本当に思ってんのかそれ、と言いそうになった言葉を飲み込んでソファに座る。

その後も白蘭はその世界での白蘭視点から見たスカルに関する時の俺達のことを喋っていた。

大体はユニの話で、比較的よく会ってるから間接的にユニからスカルの話が伝わってくるのだと本人は言っていて、そっちの世界ではユニがかなりスカルを気遣っていることが分かる。

白蘭と話している途中でリボーンがいないことに気付き、探そうと思ったけれど白蘭が多分外だよと教えてくれて、浮かせた腰をソファに沈める。

彼さっき人を殺して来ましたって言わんばかりの形相してたねーと笑いながら言い放つ白蘭に、額に汗を浮かばせながらドン引いた。

でもリボーンの機嫌が最高に悪いのは確かで、今は刺激しない方がいいなと思う。

その後少しだけ白蘭と話をして、トイレの為に席を外した。

手洗いから戻った俺は白蘭がいないことに気付き、あいつ…!と内心舌打ちをしながらスカルの部屋に早歩きで向かう。

部屋に近付くごとに壁越しのくぐもった声が聞こえる。

 

「それよりも僕が興味を持ったのが、殆ど同じ過程を持ちながらも明らかに差異が生じている…だが結果が同質のものだったということさ」

 

足は迷いなくスカルの部屋に向かっていて、速度を落とすことなく進んでいく。

 

「《不死身》であったならまだ救いはあったんだろうね」

 

ドアに手を掛けて、ピタリと時が止まったようにドアノブを(ひね)る手が動かなくなった。

 

ドア越しに聞こえた白蘭の声に

楽し気な色はこれっぽっちも含まれてなんかいなくて

それはとても 

 

 

「でも君は《狂人》だ」

 

 

とても

 

同情染みていて、酷く耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リボーン(Skull)side

 

「おお、俺はカルカッサの軍師!スカル様だぁ‼」

 

甲高い声が木霊す部屋で、一体何人が呆然とその異様な光景を見ていただろうか。

俺がツナ達を連れてイタリアのスカルの家に来訪したのは一時間も前で、現在俺達は開いた口が塞がらない程驚愕し、いっそ夢であってくれと頬を何度か抓ってたり頬内を噛んでいたりする。

 

事の始まりは、ランボのバズーカーのせいだ。

スカルの家に来たランボがはしゃいで家の中を走り回り出した時に、ツナがそれを止めに入るまではいつもの光景を思い描いて疑わなかったが現実はあまりにも予想斜め上を通過していく。

ランボのバズーカーがスカルに当たり白い煙をあげた光景を目のした瞬間、側にいたツナが煙の中央にいるであろうスカルの名前を何度か呼んでいて、俺も何かあったのかとそちらへ駆け寄る。

ランボのバズーカーということは未来のスカルが来るのだろうかと思い心のどこかで一抹の希望を抱いていた。

スカルの精神が安定する様子がなかったこの頃、本当にこれで大丈夫なのだろうかと思うことがあった。

長い目で見なければいけないことは重々承知だったが、それでも不安を隠しきることは出来ず、何度も情緒不安定になるあいつを見ては自分の無力さを突きつけられて遣る瀬無かったのだ。

10年の月日はあいつを変えることは出来ただろうか。

少しでもいいから、笑顔に出来ているだろうか、心から楽しむことが出来ているだろうか、生を謳歌出来ているだろうか…白い煙を眺めていた俺の中にはそれだけが脳裏を過ぎる。

煙が大方晴れて中からスカルらしき姿を確認した時、一瞬で俺の心臓が冷え切ったような感覚に陥った。

それほどまでに、ヘルメットとスーツという姿は最悪の記憶を呼び起こすには十分だった。

 

「ス……スカル、お、前……もしかして………」

 

ツナの震える声が、まるで恐怖に押し潰されていくかのようにか細くなっていく。

誰もが同じことを思い描いただろうさ。

 

また あの時に 戻ってしまったのではないかと――――――…

 

 

煙が晴れた。

 

 

「なななな、何だここは!?ど…どど、どうなってやがるーーー!?」

 

 

「……は?」

 

 

ツナの素っ頓狂な声は、まさにその場の全員の混乱を表現したかのようで、それから我に返るまで十数秒ほどかかったのは仕方ないことだと、あの時居合わせた全員がそう言い放つだろう。

 

 

 

「えー、じゃあ何だよ、お、お前は並行世界のスカルってことか?」

「へ、並行世界だとぉ!?何でそんなことになってんだー!?」

「俺達がそれ知りたいよ‼いや原因は大体分かるけど‼」

 

不毛な馬鹿な言い合いが交わされている光景に何度溜め息を吐いたことだろうか。

最初は夢か、または幻覚か…何度か自分の頬内を噛んでみたが、口の中に鉄の味が広がるだけだった。

5分経っても戻る様子のないスカルにまたパニックになったが、それも次第に収まり現状把握に努めだす。

目の前のスカルと名乗る奴は正真正銘スカルだろうが、世界線が違うということがつい先ほど発覚した。

何度も慌てふためいていつもじゃありえない声量で喋る奴にまず疑ったのが偽物という線だった。

取り合えずその場を収めるために慌てる奴をツナが宥めて、一息してからお前は誰だという尋問染みた質疑応答が始まったが、今思い出しただけでも頭痛がする。

馬鹿正直に答えていくコイツもコイツだが、意地っ張りで見栄っ張りな性格が表に出まくっていて偽物通り越して、警戒する俺が馬鹿なのかと自問自答するレベルだった。

年月日と所属を聞いて、直ぐに浮かんだ単語が並行世界だ。

白蘭の能力のこともあってか別に有り得ないわけじゃないと思った俺は直ぐに納得し、目の前の能天気な奴がスカルとは完全な別人だと認識することにした。

ただ、何を得て、ここまで差が出たのかが予想がつかない。

生い立ちからして全部違うのだろうか?と思い至った俺は、目の前で馬鹿な問答を繰り返している奴に話しかける。

 

「おいスカル、並行世界からお前が来たことは分かったが、ここの世界のお前と別人すぎて皆混乱しきってんだ」

「はぁ!?ここの俺はどんな奴なんだよおおお!?」

「その前にお前の話を聞かせろ、生い立ちから全部だな」

「何でそんなことしなきゃならねーんだよ!」

「………いいから喋れ」

「は、ハイっ‼」

 

生意気な態度からか、世界が変わればここまで性格が変わるのだと分かったからか、それともあいつにこれ程まで感情を表に出すことが出来る可能性があったという事実を突きつけられたからか、少しばかりイラついた俺は若干棘のある口調で目の前の奴に話を催促した。

あいつもこんな声出せるんだな…と不毛なことだけが頭の中を過ぎっては要らぬ思考ばかりが脳内を占領する。

ヘルメットを取ったあいつの顔はメイクが施されていて、そのことに関してもツナ達が若干パニックになっていたが、いつになっても埒が明かないとヘルメットを被らせて喋らせることになった。

 

何度も自分の過去を武勇伝のように話す奴の言葉の端々から恐怖の欠片すらも拾うことは出来ず、本当に何事もなく育ったんだなと実感する。

同じ町で、同じ両親のもとに生まれておきながら、何故こんなにも違ったんだろうか。

おかしな神父はいたかという質問に、行方不明になった神父はいた、とだけ返ってきて、周りの人物は大体同じことは分かった。

シスターはお菓子をくれる人だったとか、隣のお姉さんは綺麗だったとか、裏庭で飼っていた七面鳥がクリスマスで食卓に並べられて号泣したとか、まぁなんと幸せで平穏な暮らしだったんだと悪態すらつきたくなる。

両親は同じ年齢で亡くなっていたけれど原因は異なっていたり、バイクに乗り始めた時期は同じだったり、カルカッサに入った時期も大体被っていた。

だが、奴に付けられた名前は異なっている。

 

「俺様は不死身のスカルって呼ばれてたんだぜ!地獄から帰って来た男とか、なんかカッコいいだろ!最高のスタントマンだったんだ!」

 

胸を張って言い放つそいつの声が、言葉が、雰囲気が、とても眩しかった。

全身で感情を表現しているその様が、どうしても得られず、見ることすらも叶わない俺達への当てつけかというほど、眩しかったんだ。

 

少しでも……何か少しでも違っていたなら、あれほどの罪を造らずに済んでいただろうか。

狂った子供を造らずに済んだんじゃないだろうか。

 

ああ、不毛だ。

 

俺達があいつを狂わせたにも関わらず、今更過去を振り返って嘆くなんざ……

 

「俺様は最強のアルコバレーノだからな!」

 

高らかに宣言する快活な声は、一生聞くことはないのだろうと思っていた俺達の望む声と重なっては、心臓が抉り取られたように悲鳴をあげた。

 

「なぁ!ここの俺はどういう奴なんだ!?教えてくれ!」

 

 

『俺達が追い詰めて、狂わせて、自殺に追い込んでおきながら、エゴで生かした、空っぽの人間です』

 

なんて、口が裂けても言えなくて

 

鉛のように重たい唇をゆっくりと開いては、喉から絞り出すように吐き捨てたのだ。

 

 

「少し……内気な野郎だ……」

 

 

ずっと前に治り切っていた腕の傷が、小さく痛みを訴えたような気がした。

 

 

 

 




スカル:ゲーム中毒者、通常運転、白蘭を中二ペド野郎を認識した、無意識にSAN値チェックを掛けていく安定のSAN値チェックマン。

ツナ(原作):白蘭からスカルの生い立ちを把握からの壮絶()なスカルの実情に絶句している模様です、SAN値チェック失敗、スカルが恐怖()で震えていると勘違いした。

リボーン(原作):ツナ同様に壮絶()なスカルの過去にSAN値チェック→失敗、並行世界の自分に並みならぬ怒りを覚える。

白蘭(原作):興味の尽きない個体としてスカルに関心があるが、なけなしの良心で並行世界の狂人()なスカルに対して同情的な姿勢を取る、ポルポの存在を並行世界で情報共有時に知ったらもれなくSAN値チェック入るのでわりと危ない位置にいる。

リボーン:SAN値チェック→約束された安定の失敗、元気で馬鹿なスカルを見てこうなる可能性もあったという事実を突きつけられかなりヤバい、どれだけスカル(原作)が威張って生意気な態度を取ろうとも言葉だけで応戦して手は上げない。

スカル(原作):なんかリボーンの俺に対する態度が微妙によそよそしくて内心気持ち悪がっている、このあと物凄く調子に乗るけど一向に手を上げないリボーンに本格的に気持ち悪いと感じる予定、「(あ、あいつ…体調悪いのか……?)」。

比較的働く方の超直感(原作):ツナのSAN値ピンチを感じ取ったがツナに伝わらなかった、ドンマイ。


※この世界では心優しい人ほどひどい目に会います。


次回「簡単で確実なセコムの作り方~SAN値チェックを添えて~」




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skull 番外編3 part4

太陽の日差しがじりじりと肌を焦がし、今にも脳が沸騰しそうな気分だった。

暑さにやられた思考回路ではもはや顎を伝う汗すら拭うことを忘れさせ、俺は素知らぬ顔で降り注ぐ日差しに嫌気が差し、太陽を睨みながら目を細める。

太陽は西から登るんだっけ、東から登るんだっけ…東からだった気がするが引っ掛けを疑って敢えて西だと判断する俺は多分かなりヤバかった。

横から何かが視界に映り目線をそちらに移せば綱吉君がジュースを差し出してきている。

 

「スカル、何かかなり具合悪そうだけど大丈夫?」

「………」

 

頷く気力もない俺はひとつ瞬きをして、ゆるりとした動作でペットボトルのキャップを回す。

うんともすんとも言わぬ俺に綱吉君が心配した様子で伺ってきているのが視界の端に映った。

ペットボトルの口から流れ出す流動体が乾いた喉を潤し、冷たさが心地いい。

何故俺が外にいるかというと、残念ながら俺にも分かっていない。

いきなり外出すると言い出した綱吉君とその他の友達らしき人物達に部屋から連れ出された俺だが久々の日差しがかなりきつく、グロッキーになりつつあった。

日本の夏って何でこう……蒸し暑いんだろうか。

いやそれよりも人口密度による暑苦しさの方が体感温度を上げている気がする。

遊びに行こうと言われて綱吉君達に連れて来られた場所は海で、誰かがビーチパラソルを持ってくるまでの間日干しされている俺は、目の前の人混みを横目に苦々しく呟いた。

 

人……

「え?」

人が……多くて……

 

暑苦しい。

暑さのせいで掻いた汗のせいか首が痒くなっていく感覚に、またか…と思った。

日本に来ると毎回汗疹(あせも)になるけど一体なんだというんだコノヤロー。

帰りたいとか思う前に取り合えず一人になりたい、せめて人混みから離れたい。

元々人混みは嫌いだし、引き籠りに海はハードルが高いんじゃないだろうか。

気を抜けばあれこれ愚痴り出して綱吉君達の機嫌を下げそうで、口を噤みながら眉を顰める。

ああ、ポルポがいれば直ぐイタリアに帰るのに……くそ、何で俺がこんなとこにいなきゃいけないんだ…

俺の意図を組んでくれた綱吉君達が人混みから少し離れた場所へと移動するが、それでもまだ人がちらほらいたりする。

 

「ツナ、コイツは俺が見てるからおめーらはさっさと遊んでこい」

「え、でもリボーン…」

「いーから行け」

「う、うん…」

 

リボーンが綱吉君達を先に行かせ、俺は山………山なんとか君が持ってきてくれたビーチパラソルの陰に座り込み一息つく。

ぼんやりと海を眺めながら覚束ない思考回路でふと何故海が青いのか考え込む。

 

「人が怖ぇか?」

 

ふいに背後から掛けられたリボーンの言葉を理解するまで数秒を要した。

何でそんな質問をこいつが俺に投げかけるのか分からず、一向に後ろを振り向かない俺は自分の眉間に皺が増えていくのが分かる。

今ここで聞かなかったことにして無視したら拳銃突きつけられると考えたので、渋々…本当に渋々と、是、と吐き捨てた。

 

あぁ…怖い

 

今も少し離れた場所で休んでいる家族ですら、俺を見ているんじゃないかと思っては気が気じゃないのだから。

 

赤ちゃんになってから奇異な目を向けられることがあったけれど、呪いを受ける前は不審な目を向けられていた。

学校は?親は?子供が何で一人で住んでるの?仕事はしているの?

大家さんから向けられる疑いの眼差しは間違ってはいない。

都心でならそこまで疑われることはなかっただろうが、俺が住んでいた場所は田舎で、田舎は人との繋がりに重きを置くものだ。

だから両親の遺産とバイクだけで住みついた子供の俺はかなり不気味だっただろう。

第二の人生を混乱と共にスタートダッシュで(つまづ)いて、修復不可能な親子関係と同世代の輪からの排除、どれもこれも俺がショックを受けるほどの事柄ではなかったにせよ、自分が他人と交流する機会を完全に失ったのは確かだ。

陰口叩かれたってそれを教えてくれる奴もいないし、直接罵倒されたって当時の俺の母国語の理解力じゃ幼稚な罵倒しか分からなかったし、何よりも独りで考える時間が欲しかった。

やっと安定した自分の世界でふと我に返った時にはもう誰も周りにはいなくて、一人でいすぎたのだと気付くには他人との距離が遠すぎた。

両親や村の子供達、大家さんにアルコバレーノ達……今世では他人から向けられる感情はどれも良いものじゃあなかったわけで、塞ぎこむのは仕方ないことだと思いますまる

 

「お前はこれからどうやって生きるつもりだ」

 

リボーンの質問に思わず息を飲む。

社会的地位のない引き籠りな俺が、人々の軽蔑の眼差しを一心に受け入れることが出来るオリハルコン並みのメンタルなんて持ち合わせていない。

前世でニートという堕落者がかなり叩かれていた事実が、俺が対人恐怖症を若干患ってしまった原因の一部ではあるものの、最もな原因は俺の後ろで悠々と佇んでいるであろうリボーン及びアルコバレーノのせいだ。

人違いで狂人という真に遺憾なレッテルを貼られて、変な仕事強要するし、命狙ってくるし、殺されかけたし……何なのもう…言われようのない悪意は混乱と恐怖と不安しかなくて、正直リボーンを許せるかといわれて、ハイと軽く頷くことは出来ない。

人違いから始まったあの悲惨な事故をお互い水に流すことで新しく関係を築けるわけねぇだろ、視界の端にだって入れたくないのが本音だ。

言ったらキレて乱射してきそうだから言わないけど。

 

「なぁ、お前は……これからを生きる覚悟は……あるのか?」

 

社会で生きる覚悟ですねわかります。

そしてそんなものないと大声で宣言出来たらどれだけ俺が救われるだろうか。

それに外の世界は怖いが、出ることが出来ないわけじゃあないんだ。

 

何も………何も………したく、ない……

 

単に俺が仕事したくないというのが最大の理由だ。

まだ呪いを受けていない頃は渋々生きるためにバイトをしていたが、アルコバレーノになってから仕事というよりもマスコットに近いことをしてそれなりの金をもらっていたわけで、貯金自体もかなりあったし一生食うに困らない金額だったと自負する程だった。

元々仕事したくなかった俺が週一出勤ですら渋っていたのだから、天変地異が起ころうとも未来永劫真面目に働くことはない。

そんな俺に死体蹴りの如くやってくれたのがリボーン達だ。

狂人のスカルとかいう奴が死んだことで人違いであることが発覚したが、あろうことか死亡偽装する為に俺から絶好の職場を奪い、口座を凍結しやがったのだ。

これを何故許そうと思えるだろうか、いや、思えない。

ハローワーク?何それ美味しいの?

どうせ今は赤ちゃんの姿だから働かなくても大丈夫だろうと自分に言い聞かせて家に籠っている毎日だが、まぁお金が必要になったらなったでその時考えようと思っている。

 

「………そうかよ」

 

リボーンの声が一段と低く、そして小さくなったことに一瞬焦ったが、何もしてくる様子がないことに安堵の息を漏らした。

青と白が組み込まれているパラソルの陰が目の前に現れ始め、太陽の傾きに気付いた俺は時計を探そうと空に手を彷徨わせては、持っていないことを思い出して再び地面に置く。

今頃冷房の効いた部屋でお菓子を摘まみながらゲームをしていたハズなのに、何故こんなことに……と嘆くのは何度目か。

海の水飛沫が遠くの方で音を立てては引いていく様子を見ながら、むず痒さの残る首に小さな爪を立てる。

爪の中に汗が溜まるのも気にせず皮膚を引っ掻いていると、リボーンにいちゃもんつけられて舌打ちされた。

ボリボリうるさいってか、この野郎。

 

イタリア帰りたい……

 

 

 

 

 

 

リボーンside

 

 

「元の世界に戻るまででもいいからさ……少しでも楽しい思い出とか作れたらなーって……」

 

そう言い放ったツナの言葉に山本は笑顔で返し、ツナは照れ臭そうに頭を掻いた。

それは学校の帰り道、山本が夏休みに遊びに行こうとツナを誘ったことがきっかけで、獄寺や炎真、他のシモンファミリーなどかなりの人数で遊びに行く予定を立てていた時、ふとツナがスカルのことを口ずさんだ。

スカルがこちら側に来てから既に5日経っているが、奴が外出する様子はなく、空き部屋のベッドの上でただ茫然と時間が過ぎることを待っているだけだった。

外に出ないのかとツナが聞いても奴は首を横に振るだけで、頑なに玄関からの一歩を踏みたがらない。

何故外が嫌なのかを聞いても黙りこくっているだけでそれきり聞くことはなかったが、やはり籠りっきりという現状にツナは納得していなかったようで、奴が引き籠っているのはまだ自分たちを警戒しているからではないのかと思っていた。

だから今回の夏休みの間で心を開いてくれるよう努力する方向で意思を固めたのか、山本にその旨を伝えれば山本はあっさりと首を縦に振っては賛同する。

その後獄寺にもこのことを伝えると、獄寺もなんだかんだでスカルのことが気になっていたのか反対する意思は欠片もなかった。

二人にはあちら側のスカルの過去を事細かく伝えていた訳じゃなかったが、大まかではあったもののスカルの過去が壮絶なものだったことは伝わっている。

生きる気力を失うほど、悲惨で残酷だったことを。

この世界のスカルとは正反対とすらいえる程異なる性格に狼狽えはしたものの、奴の態度を先に見ていた二人は何となくではあったが納得している様子だった。

 

「笑わないんだ……ずっと、塞ぎこんでて……顔すらまともに見ることもないし……心配だなぁ」

 

声も、物音も立てない小さな身体は、何かの陰に怯えているように布団の中で震えているのだ。

俺もツナも奴の過去を知っている、知っているからこそ何も言えずに立ち尽くすしか出来ないでいた。

奴にとって俺達は第三者であり、赤の他人であり、部外者だ。

あちらの世界の事情に干渉することはあまりにも無責任で、手を出したところでスカルはそれを良しとはしない。

今以上に距離を作るのは得策ではないと、なるべくあちら側の話を避けて、日常的な会話をしようとツナが努力しているものの、平穏で一般的な日常を知らないスカルにとってそれは理解しかねるものだった。

そんな様子に誰よりも心を痛めていたツナが、夏休みを利用して現状を打破しようと画策する。

入江の方にも進行状況を定期的に確認しているが、今のところスカルが元の世界に戻る目途は立っていない。

そんな中ずっと塞ぎこんでいられるのも胸糞悪い俺は、ツナの提案には賛成したし、それが奴にとって悪いことではないと思っていた。

 

そんなことがあった今、大人数は流石に無理だろうからと、ツナ、獄寺、山本、炎真、俺だけで海に行くことになり、砂浜でパラソルを取りに行った山本を待っていた。

 

「スカル、何かかなり具合悪そうだけど大丈夫?」

 

ふいにツナがスカルの不調に気付いたのか声を掛けていて、俺はスカルの方に視線を移す。

額から垂れた汗が頬を伝い顎を濡らしながら、虚ろな瞳の奥でアメジストが濁っていた。

元々青白かった顔色が今では真っ赤に染まり、明らかに体内の熱を放散出来ていないことが分かる様子にツナも気付いたのか冷えたペットボトルを渡している。

スカルの目線は焦点が合っていないのか数秒泳いだが、ツナからペットボトルを受け取り覚束ない動作で開けては唇を濡らしていた。

スカルは周りをちらりと見ては眉を顰めてぽつりと小さな声で呟く。

 

人……

「え?」

人が……多くて……

 

それきり口を噤んで何も言おうとしなかったが、人混みを忌避していることだけは分かり、俺達は少し人混みから離れた遊泳可能ギリギリの場所まで移ることとなった。

山本がパラソルを肩に担ぎながら戻ってきて設置し始める様子を眺めながら、横目でスカルを見れば案の定奴の眉間に皺が刻まれている。

不機嫌、というよりも居心地が悪いという方が合っているように、足元へと視線を落としていた。

 

「ツナ、コイツは俺が見てるからおめーらはさっさと遊んでこい」

「え、でもリボーン…」

「いーから行け」

「う、うん…」

 

そう言って海へと歩いていくツナを見ながら、パラソルの陰に座り込む。

数十㎝離れた場所に座るスカルの背中は、暗い影を背負っているように見えては無意識に口から言葉が零れ落ちた。

 

「人が怖ぇか?」

 

お前を苦しめた不特定多数の周囲の人間が、今もまだお前を指差して嘲笑っては憎悪を、恐怖を、殺意を向けているように見えるのだろうか。

狂人スカルは死んで、お前はもう…ただの……スカルなんだろうが……

 

あぁ…怖い

 

静かに、そして小さく呟かれた言葉に、俺は何を思えば良かったんだ。

悲痛に塗れた残酷な感情に、俺は何を言えば良かったんだ。

ここはお前を傷付ける世界じゃあねえのに、お前は自分の殻に閉じこもってこの先もずっと逃げ続けるつもりなのか。

お前、本当に生きたいと……思ってんのか?

 

「お前はこれからどうやって生きるつもりだ」

 

背中越しからも息を飲んだのが伝わった。

返ってくる言葉はなく、波の音と子供の笑い声だけが辺りを包んでいく。

 

「なぁ、お前は……これからを生きる覚悟は……あるのか?」

 

生きるつもりなんて……本当はないんじゃないかと、思う時がある。

布団の中で震えるお前を見て、忌々しく玄関の先の世界を見ているお前に気付いて、過去に囚われたお前の声にならない悲鳴を聞いて、お前の生きる意味を探す自分がいた。

白蘭から聞いたこいつの過去からして、死ぬのが怖いなんて言うような奴じゃないことくらい分かっているからこそ、不可解に思ってしまった。

何の為にお前は生きてるんだ、と。

何度も死を望んだ先に生きろと望まれた哀れな野郎だと一蹴したくなった。

でも、出来なかったのは……アメジストの奥に宿した恐怖を垣間見てしまったから。

 

何も………何も………したく、ない……

 

何かに(すが)るように、怒りを、悲しみを、苦しみを一身に受け止めたような掠れた声はさざ波で掻き消されそうなほど小さかった。

生きることも、死ぬことも諦めたのならば、それは一体何なのか。

摩耗しきった心が何物にも響かぬというのなら、お前は既に死んでいたんだろうな……取り返しのつかなくなったその時に。

どれだけ大切な奴だとしても、どれだけ屑な奴だとしても、どれだけ興味のなかった奴だとしても…そこに私情を挟んだところで頭の隅では命の価値は皆すべて同等なのだと思っているからこそ、あちらの世界の俺を今更ながら恨めしく思う。

今まで俺が殺してきた命と、これから殺す命を天秤に掛けたとして、どちらにも傾くことはないだろう。

そして、目の前で紫色の髪を(なび)かせ海をただただ眺めているそいつの命すらも、天秤を傾かせることは出来ないのだと分かって、虚しくて、遣る瀬無かった。

何度もお前の心を殺しておきながらも、あちらの世界の俺にとってお前の命は須らく同等で、いっそ殺してやればと思った。

こいつを殺して、こいつへの罪悪感から解放されたと清々して、一生後悔しながら生きればいい、そうすればお前もそいつ(あちらの俺)に一矢報いることが出来るだろうに。

まあ口に出しては言わないが、少しだけ、ほんの少しだけ口から漏れそうになった悪意を飲み込み、吐き出そうとした言葉に自分で驚いた。

コイツに会う前の俺ならば絶対に考え付かないだろう、明確で醜悪な悪意に…薄ら寒いものを覚えながら、俺は辛うじて会話の終止符を絞り出す。

 

「………そうかよ」

 

 

狂気が移る、と一瞬だけ本気でそう思ってしまった。

あのアメジストは危険だと。

何気ない感情さえも、それに触れれば惹き付けられて、溺れていく。

そんな錯覚さえも覚える程、思考回路があらゆる感情で綯い交ぜにされたことが衝撃的だった。

ガリ、と小さく何かを引っ掻く音に我に返った俺は目の前の小さな背中に視線を向けて、音の出所に気付き眉を顰める。

爪を立てられているスカルの首は、あと数回引っ掻けば血が滲みそうなほど赤みを帯びているにも関わらず、未だ立てる爪を下げようとはしていない。

無自覚なのか、あれだけ掻けば逆に痛みが勝るはずで、これ以上見ているわけにもいかず少しばかり強い口調で声をかけた。

 

「おい、それ以上引っ掻くな」

 

ふと指が止まり、宙を彷徨った後ゆるりと腕を下ろした様子に安堵の息を漏らそうとしては、誤魔化すように舌打ちを吐き出した。

緩やかなさざ波とは裏腹に穏やかではない内心では、言い知れぬ激情が鳴りを潜めてはこちらの隙を伺っているような感覚に陥る。

 

 

コイツは俺の知っているスカルじゃない。

 

 

その事実だけが俺の中で渦巻くどす黒い感情への免罪符になっているような気がした。

 

 

 




コイツは俺の知っているスカルじゃない。
(だから、コイツに抱く罪悪感と、あちら側の俺に抱く殺意は仕方のないものだと―――――)


スカル:ニート、狂人()、敏感肌、SAN値チェックマン、精神汚染スキル()←New!
リボーン:セコム予備軍、SAN値チェックを成功して精神汚染になんとか耐えた、さすが原作ヒットマン。

第二の狂人が出来るところでしたね、危ない危ない。
次回予告?あれは嘘だ。
番外編はこれといってプロット組んでないのでその場の思いつきで書いてます(笑)

そろそろ展開進めようかと思います。


※先週は投稿出来ずすみません。
いや別にこの作品不定期ではあるんですけど、大体土日に書いて月曜に添削して投稿の流れだったんです(火~金の投稿は絶望的だと思ってくれていいです)。
でも先週の土日があんまり時間が作れなかったのと、急いで執筆したらひどい出来のものになって即ボツになってしまいました。
更新待っていた読者様には本当にすみません。


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skull 番外編3 part5

 

 

ゴキリ……パキ…グチャ……ゴキュ…ズズ…

 

 

何かが折れるような音がする。

 

何かを(すす)るような音がする。

 

耳を澄ませても聞こえるのはこの不気味で不穏な音だけで、今にも耳を塞いでしまいたくなる衝動に襲われるのだ。

しかしながら己の指は筋一本すら動いてはくれず、額に浮かぶ汗が頬を伝い顎を濡らしていく。

今にも喚き叫びたい、そして解放されたい、と願わずにはいられなかった。

一体なんだというんだ、一体なんだというんだ!

コレは一体何なんだ!

頭が可笑しくなりそうなほど、恐ろしく、(おぞ)ましい音が、耳から侵入し次第に脳を侵していく。

ああ、誰でもいいから耳を塞いでくれ!

耳を侵すのは砂嵐のような雑音と、不快極まりない、あの、音―――――……

 

 

『ザザッ――――ザ…――――――()ね――――――』

 

 

急に心臓が動かなくなったように呼吸が不自然に止まった。

恐怖で動かなくなった体はついに内蔵までも緩やかに殺していく。

肺が空気を取り入れることを許さず、心臓が血液を循環させてはくれない。

 

死が 明確な死が すぐそこまで 忍び足で近づいてきている

 

酸素が足りなくなった視界が段々と霞んでいく瞬間、意識がいきなり引き摺り上げられたように浮上した。

ヒュッ・・・、と声か判断出来ない程乱れた呼吸音が聞こえ、それが自身のものであることに気付き、指先まで凍っていた神経が解凍していくように熱を帯びる。

体中どこもかしこも汗でぐっしょりと濡れていることにすら気付かず、息をしようと必死になる。

 

 

夢を、見ていたのだ。

 

 

その事実に辿り着くまでの間、恐怖と不安に押し潰されそうな自身の体を力強く抱きしめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこはイタリアのローマに位置する一軒家であり、広大な森である私有地の中に存在していた。

一般人はそこに家があること知らない、否、そこに森があることすら認識することはない。

そんな人知れぬ場所に、一台の黒のベンツが紛れ込む。

 

「スカル!」

「ユ、ユニ!?」

 

敷地に我が物顔で聳え立つ立派な一軒家の扉が盛大に開かれ、フローリングを滑る小さな足音が廊下に響き渡っていると、リビングに着くなり足音の主は小ぶりな唇を開き声帯を震わせる。

口から零れた少女の声は、今にも溢れんばかりの不安と困惑を押し込んだように震えていた。

そんな少女の呼び声に一目散に反応した紫色の髪の色を持つ小さな影、スカルが視線を声の主へ移し目を見開いて名前を呼ぶ。

 

「ほ、本当に…並行世界のスカル、なのですね……」

「お、おおう?お前何で来たんだ?」

「えっと……あなたが……スカルが心配で会いに来たんです、それにリボーンおじ様にも別件で呼ばれていたので…」

 

目の前に突然現れた人物を知っていれば誰しもが名前を呼び、何故ここにと続けるはずのその現実に、少女は困惑した表情を隠せずにいた。

口走りそうになった何かを誤魔化すように笑みを浮かべながら心配そうにスカルを見つめる少女ユニは、視線を交わしているスカルへと目線を合わせるように膝を折る。

 

「お、おい…何でそんな見つめてくるんだよ」

「あ、いえ、すみません……その、並行世界のスカルが新鮮で…」

 

まじまじ、と音が聞こえる程興味深そうに自身を見つめるユニにたじろいでいたスカルが一歩後退すると、ユニが慌てて視線を逸らす。

ユニの視線が途方に暮れている中、当の本人であるスカルはデジャヴを感じていたのだ。

 

こちらの世界で会ったどの人物も、俺と出会うと毎回驚いた表情をして、そのあとじろじろと見つめてくる。

 

何度同じ対応されても慣れないもので、並行世界であると認めざるを得ないと思うと同時に、こっちの世界の自分がどんな奴なのかが気になって仕方なかったスカルは思案顔でリボーンが呟いたヒントである『内気な野郎』という言葉を思い浮かべた。

この時スカルの頭で喋らない=沈黙の方程式が出来上がり、沈黙な俺…カッコいいかもしれない、と思ったりしていることを誰も知らないのだ。

決してそういうのじゃないから、とスカルの考えが見透かせるものがいたならばそう訴えるかもしれないが、残念ながら誰も彼の頭の中を覗けるような者はいなかった。

さて、お決まりの反応に困惑しているスカルだが、それよりも、本人の自覚外で重大な問題を二つほど抱えている。

一つはリボーンのよそよそしさに不気味を通り越して気持ち悪いことだ。

いつもならば蹴りや拳の何発か彼に向かって放たれているはずだが、どれだけ彼がいつも通りに過ごしたところで声を荒げることはあれど手を出すどころか近づきもしない。

いつもと違うよそよそしいリボーンの態度に、スカルの調子が狂う…………なんてことはなく、逆に海老ぞりになるほど虚勢やら見栄やらを張り倒していることには呆れ返すべきだが、これまた残念なことにそれを指摘してくる人物はいなかった。

リボーンの態度がかなり気になりながらも見栄っ張りな態度を貫き通しているスカルはもはや称賛に値すると、この状況を元の世界の彼を知る周りが見ていれば呆れ果て嘆くだろう。

そして二つ目はこの世界におけるスカルのペット、最強の名を冠する古代生物の王ポルポである。

ポルポを見たスカルが即座に気絶してしまった事件は置いといて、主の不在に不安を隠せないポルポは現在庭の方で荒れていたりする。

荒れている、と一言で片づけるには被害がかなり拡大しているが、沢田綱吉は勿論その守護者やリボーン、他のアルコバレーノによって市街地に被害が出ないように必死に食い止められている。

徹夜覚悟で止めに入った彼らの努力が功を成してか漸く落ち着きを取り戻したポルポは、暴れることをやめて家の外で待機していた。

並行世界であろうともスカルはスカル、とは流石に受け入れられなかったらしく、困惑しながら並行世界のスカルをある一種の可能性として観察することで思い止まっている。

それでも事あるごとに並行世界に飛ばされたこちらのスカルの身を案じては、アルコバレーノ総出で鎮められるという大掛かりな騒ぎを起こしていた。

因みに最初のポルポパニック騒動にて、半泣き状態でXX BURNER(ダブルイクスバーナー)をポルポに撃ち込んだ沢田綱吉は後にこう語る。

『ポルポの触手にふっ飛ばされた時、川の向こうで初代(プリーモ)が手を振ってた…』、と。

そんな沢田綱吉を近くで見ていたリボーン氏はこう語った。

『ツナの目が本気で死んでいた』と。

前回スカルを探す旅でポルポと戦ったトラウマがここで容赦なく抉られたのは言うまでもない。

因みにスカルは騒動のあった間始終気絶をしていたという体たらくぶりである。

色々と満身創痍な周りは、波乱万丈な経緯を辿りながらも落ち着いている現状に安堵の息を漏らす。

そんな周りの苦労を何も知らず呑気にイタリアの一軒家にて(くつろ)ぐスカルの元にユニが訪れたわけだが、当のスカルはそのことについてあまり深く考えてはいなかった。

他愛のない話をスカルと交わすユニの瞳には、悲哀や悔恨、憧憬(しょうけい)()い交ぜになった、言い知れぬ激情が渦巻いている。

それを知るのは壮絶な過去を持っているスカルが存在している世界の者達だけであり、蚊帳の外に放り出されていながらもそれに気付いていないスカルはユニの瞳の中に渦巻いている感情に気付くことはなく、理解することはない。

溌剌(はつらつ)でいて威勢のある声に、掠れた小さなか細い声を思い出しては、ユニは目の奥が熱くなるのを感じた。

思わず瞼をふるりと震わせながら瞬きをしようとした時、後方からユニの名前が呼ばれる。

 

「ユニ!来てたんだ」

「沢田さん!」

 

名前を呼ばれたユニが視線を後方へと向けるため振り返ると、そこにはところどころ包帯が見え隠れしている沢田綱吉の姿があった。

沢田綱吉の表情には疲労が見え隠れしていながらもユニに会えたことに喜んでいる。

 

「あちこち怪我をしているようですが大丈夫ですか?」

「ああ……うん、五体満足なだけマシだよ……」

 

一応騒動のことをリボーンから聞いているユニは事情を知っているが、何も知らないスカルの手前下手に言及出来ず、当たり障りのない会話を投げかける。

ユニの会話に違和感を覚えたツナはスカルの姿を視界に捉えて、この場で話せないことなのだと察した後、別で遊んでいるランボ達の部屋へと誘導した。

お気楽なスカルは飛ばされる直前も遊んでいた様に、ランボと似たり寄ったりな性格をしていた為、ツナの言葉にまんまと言いくるめられランボのいるであろう部屋へと向かって行く。

ユニとツナしかいない部屋で、ツナが漸く口を開いた。

 

「ごめんね、いきなり呼んで…しかも、頼み事まで聞いてもらって」

「いえ、気にしないで下さい…それよりリボーンおじ様は?」

「今シャマルの所で傷を見てもらってるからすぐ来ると思う」

「リボーンおじ様まで怪我を…!?」

「掠り傷だし、俺より全然マシだよ…流石最強のヒットマン……」

 

包帯の隙間から見える痛ましい青あざを覗かせながらげんなりと呟くツナに、ユニの曇っていた表情が和らぐことはなく、今回の騒動への不安と困惑を感じながら周りに対して心配していた。

数十分したところでリボーンが姿を現し、リビングでソファに腰を下ろし一息つく。

 

「昨夜もあの古代生物が暴れやがって鎮めるのに苦労したぜ、くそっ」

「スカルがいなくてずっと不安らしいんだ……並行世界に飛ばされたスカルの安全の保障なんて出来ないし気軽に云えるわけでもないし」

「そう、ですね………ですが、先ほどのスカルを見てる限りではあちらの世界で酷い扱いは受けていないと見受けられました」

「うん、それは伝えたんだけど、やっぱり直接安全を確認するまでは暴れそうかなぁ」

 

眉が八の字になったツナの表情に口を(つぐ)むユニ、そんな二人の姿に見兼ねたリボーンが話を逸らす。

 

「そういえばユニ、白蘭に聞いて来たか?」

「あ、はい」

 

何故ここで白蘭が出て来るのかというと、ユニが今回スカルの家に訪れた理由の一つであったからだ。

スカルが飛ばされたその日にリボーンは今回の騒動を探り始めていて、入江正一には原因の特定、白蘭にはこちらのスカルが飛ばされた並行世界の特定と、スカルの安否の確認を頼んでいたのだ。

入江正一の方も原因が分かりそうだという報告があり、後は白蘭が他の世界から引き出して得た情報の報告を待っていたが、白蘭がユニに伝達を頼みだした。

何故白蘭本人が来ないのかとツナが聞いてみたところ、あの化け物と同じ空間にいたくないと真剣染みた音色で返答され、包帯だらけのツナは口を(つぐ)むしかなかった。

確かに現時点で実力がトップクラスの沢田綱吉でさえここまでボロボロにされたのだ、無傷で済むはずがないと思った白蘭は決して悪くない。

余談だが、白蘭が古代生物であるポルポに会いたくないのは何もポルポが混乱して暴れ出した時矛先が自分に向かうからではなく、未来においてポルポが人間を喰らっている最中の音を聞いてしまいトラウマになってしまったからである。

哀れ白蘭。

そんな経緯もあってポルポと鉢合わせを避けた白蘭の代わりに訪問したのがユニだ。

 

「あちら側でスカルは何事もなく過ごしているようです、命の危険は全く持ってありません」

「よかった…!」

 

ユニの言葉に安堵の息を漏らしたツナとは対照に、安心したことを(おくび)にも出さないリボーンはユニの言葉を咀嚼し飲み込む。

 

「あちらでは察しの通りスカルは命を狙われていませんし、狂人ではありません……あの痛ましい過去もないのです、喜ぶべきでしょう」

「う、うん……スカルの態度見てたらなんとなく分かったし、スカル本人にも生い立ちを聞いて確証は取れたよ」

「そうですか、今のところあちらの世界の白蘭があちらの世界の方々に大まかなスカルの事情を教え、下手に無理強いをすることは控えさせてくれています……幾分かは安心できると思います」

「本当に良かった、今回ばかりは白蘭に助けられたよ」

 

疲れた顔を隠さず手で顔を覆うツナにユニが苦笑する。

ポルポの騒動での疲れもあったが、純粋にスカルを心配していた気持ちの方が大きかったツナの心情を察してか、そんなツナの様子を見ていたユニも釣られて安堵の息を小さく漏らした。

 

「入江の報告を待つしか出来ることはねぇが、古代生物の方も警戒しなきゃいけねーしな」

「お、俺もう嫌なんだけど……」

 

リボーンの言葉に顔を青くさせたツナは安堵とは反対の疲労と不安の溜め息を漏らしては唸った。

ツナがちらりと窓の外を覗き見れば、そこには大きな巨体が鎮座している。

昨夜のポルポの混乱と暴走も、元凶はこちらに飛ばされて来たスカルだ。

大きな巨体のポルポが気になったのか、皆が目を離したすきにポルポに近付きポルポの顔を見ては怯えて逃げ帰って来てしまい、それにショックを受けたポルポがパニックを起こして庭を半壊した。

あのポルポを宥めるのも一苦労で、イタリアに来てから何度目かのXX BURNER(ダブルイクスバーナー)を放ち、満身創痍で夜明けの日差しを全身に浴び生を噛み締めながら気絶するように眠ったのだ。

それからスカルとポルポの接触及び接近を禁止させ、誰か一人はスカルを監視することになったのは言うまでもない。

 

何が言いたいのかというと、まだまだ沢田綱吉の苦労は絶えないのだ。

 

 

 

ところ変わって同じイタリアのとある場所で、一人の男がマシュマロを片手に紅茶で唇を湿らせていた。

その男はかつて未来における全並行世界を征服しようと企て、(たくら)みごと沢田綱吉に木っ端みじんに消された男、イタリアンマフィアのミルフィオーレボス白蘭である。

そんな白蘭はある日リボーンから、スカルが並行世界間で入れ替わったことを教えられ、入れ替わった先の並行世界を特定して欲しいと頼まれた。

だが彼らへの訪問は必然的に古代生物と鉢合わせすることを意味し、彼はユニへと情報を渡し伝言を頼んだ。

未来で聞いたあの古代生物の人間を喰らう音と、全てを威圧し食い殺すような声が、苦手を通り越して恐怖の域に至っていることを自覚している彼は、切実に行きたくなかっただけである。

並行世界の自分と情報を最後に共有したのは昨晩で、まだ疲労が残っている体をソファに傾け横になりマシュマロをプレートから一つ摘まみだす。

今頃ユニが彼らの元へと訪れているだろうと予想していたその時、マシュマロを摘まんでいた指を口元でピタリと止めた。

ふと白蘭は思った。

並行世界の自分がこちらの世界の情報の開示、そして共有を望んでいることは既に知っている。

だからこそ必要な情報をあちらの世界の自分に渡しているのだが、はて、その情報の中身はスカルだけだっただろうか。

昨晩再びコンタクトを取られたが、如何せん深夜で彼はとても眠く、夢現(ゆめうつつ)にスカルに関する情報を放り投げるように渡してしまったのだ。

内容をちゃんと把握せずに渡したのは白蘭のミスだが、未来といえど並行世界の自分を無理やり連れだし現象化させたこの男に、並行世界の自分に対する罪悪感など微塵もなかったのが渡された側の運の尽きである。

 

そう、それが運の尽きなのである。

 

 

そして冒頭へ戻る。

 

 

 

 




スカル:壮絶な過去(コミュ障的な意味で)を持ってる方、ポルポパニック騒動の発火材1。

スカル(原作):ポルポパニック騒動の発火材2、基本ランボ達と遊ぶため無害。

白蘭(原作):ポルポ(半ばクトゥルフ)の存在を知りお待ちかねのSAN値チェック→失敗、今回の件に関わったが為に発狂の可能性と隣り合わせにいたけどフラグ回収お疲れ様です。

ユニ:ただ登場させたかった、ツナ達との合流が一日早ければポルポパニック騒動を拝んでSAN値チェックだった。

ツナ:トラウマなポルポとの戦闘する度にSAN値減少する人、宥める(物理)による連続SAN値チェックにて一時的発狂で目が死ぬ。

リボーン:ヘイトの高い彼への束の間の休息期間、精神分析→失敗なのでSAN値はそのまま、ダイスの女神に愛されてますね(笑)

「頑張れツナ、君に平穏はない」



さてさて、今回の話は他視点無しで書いてみましたがかなり新鮮でしたね、文章形式に関して一種の挑戦でした(笑)


【挿絵表示】

久々にスカルの落書き


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skull 番外編3 part6

沢田綱吉(Skull)side

 

『スカルが並行世界に飛んでしまった理由が判明したかもしれない』

 

電話越しに聞こえた正一君の声には疲労が見え隠れしていたけれど、俺はそれを気遣う余裕もなく彼の放った言葉に喰らい付く。

 

「え、本当!?」

 

騒動の糸口が漸く見つかったのは、包帯だらけの俺にとってかなり嬉しい吉報だった。

正一君は日本にいるのでイタリアには来れないが、代わりにスカイプで話すこととなり、俺は近くにいた人にだけ集合を掛ける。

皆も中々ぼろぼろになっていたから、今回の報告には眉間の皺を薄くしていた。

イタリアのスカルの家では一同がリビングに集まり、スカイプの接続を眺めている。

 

『あーあー、聞こえているかい?』

「聞こえてるよ、正一君」

『分かった、原因がまだ明確にこれとは言えないけれど…限りなく正解に近い推測だと思う』

 

 

『スカルが並行世界に行ってしまったのは、ランボ君の持っているバズーカー…ここでは時間干渉系の10年バズーカーかな?これを幾億のパラレルワールドにおいて同時刻同じ対象に使用することで、時系列という縦の干渉ではなく並行世界という横の干渉になってしまった…というのが僕の推測だ』

 

まさに偶然発覚した隠し機能のようなものだね…と眉間に皺を寄せながら正一君は顎に手を持って行く。

 

「同時刻で…同じ対象……?」

「うん、君に聞いたその時の現状、またそこにいるスカルの飛ばされた前後の状況……そしてバズーカーの性質、並行世界の移動の性質を考えてその答えに辿り着いたわけなんだけど…」

 

正一君は少し詳しくいうと、と前置きをして並行世界の移動における基本的なことを話し始めた。

俺理解出来るかなーって少し不安になりながらも、真剣な正一君を見ては何も言いだせず聞き入る。

 

 

並行世界へ飛ぶ時、その時の自分と飛ぶ先の並行世界の自分の性質がどれだけ近いかによって移動先の優先順位が決まるんだ。

例えば、僕が暴力的で素行の悪い人柄で家庭環境がかなり酷い所だったとして、移動する並行世界はその僕の現状と性格に近い状況の所へ飛ばされる。

だから白蘭さんの未来での闘いで僕が見てきた並行世界は、かなり今のこの世界の僕たちと状況が近かったところだった。

綱吉君がボンゴレにいて、アルコバレーノの顔ぶれが一緒で…とかそういう基本的な条件は一致してたってわけ。

今回スカルが飛ばされたのは、状況の一致だね・・・それも限りなく近く、限りなく同じ状況だ。

同時刻にランボ君がスカルに対してバズーカーを打つ、という状況と、バズーカーの時間軸の干渉力…いわば点在する個と個に対する隔たりへの干渉力が作用した結果かな。

時間と時間の隔たりと、並行世界の分岐に対する空間の隔たりへの干渉って、かなり類似していて、10年バズーカーは元々時間干渉を目的として作られていたけれど、工作過程が少しでも異なっていたなら並行世界への干渉という機能に辿り着いていたと思う。

話を戻すけど、ここまで僕の推測が正解なら、僕の予想する解決策はかなり面倒なことになる。

10年バズーカーって一応5分経てば戻るだろう?あれって時間干渉の副作用部分で、いわばデメリットの部分だ。

でもその部分って時間に干渉して個を入れ替えるための目的で作られて出来たデメリットであって、時間に対してでしか発生しないデメリットなんだ。

ええと、つまり…僕の言いたいことは、横の干渉…パラレルワールドという並行世界に対して発症するものではないんだ。

だからどれだけ時間が経っても彼が戻らない原因なんだと思う。

そこで、解決策なんだが……これ一つでも間違ったらかなり面倒になるというか……うん、とても危ないことになる。

さっきも言った通り、同じ状況下でバズーカーを同時刻に打てば高確率…っていうかもうほぼ元通りだと思う。

そこは白蘭さんの能力で時間とか調整して一斉に打てばいいんだけど、万が一ズレた時を想定すると二つの可能性が浮上してくる。

一つ、その世界で過去と未来が入れ替わる。

これは5分というタイムリミットがあるからまだマシだけど、デメリットとしてどちらの未来と過去が入れ替わるか分からない、って点かな。

並行と直線が入り組んで予想だにしない問題が新たに発生する可能性は十二分にある。

二つ、あちらの世界とこちらの世界が繋がらず、また別の新しい並行世界にスカル本人たちが飛ばされてしまうことだ。

これがかなり厄介かな……っていうのも、さっきも言った通り並行世界への移動先には優先順位があるって言ったよね?

同じ状況または性質をもつ、というのが優先順位で……こちらに飛ばされた明るい方のスカルが同じように明るい性格のスカルのいる世界へ飛ばされる・・・のは全然マシだしまだ解決の仕様があるけど、厄介なのが次の可能性だ。

こっちの……えっと…暗い過去を持つスカルの飛ばされた先の世界が、同様に壮絶だった、または今以上に厳しい状況下であった場合……スカルの命の保証が難しいってことなんだ。

飛ばされた先が、もしスカルが自殺を思い止まらなかった世界だったら?そのままカルカッサに属していた世界だったら?誰も助けることがなかった世界だったら?もう目も当てられないよ。

 

十数分開閉を繰り返した正一君の口が動かなくなった。

俺は正一君の説明が全て理解出来たわけじゃないけれど、一歩間違えれば最悪な事態を起こしかねないことだけは分かる。

 

「だが、これ以上先延ばしするわけにもいかねーだろ…古代生物の様子からして、な」

 

それに並行世界を跨いでいる二人にバタフライエフェクトが起こらないとは限らない、と言って締めくくったリボーンの表情はいつになく険しくて、俺は何も言えず不安だけが脳裏を過ぎっていく。

 

『取り合えず、白蘭さんの協力が大前提だから僕は彼の所へ行って詳しく話してくるよ』

「う、うん…正一君、ありがとう!」

 

スカイプを切ろうとしていた正一君に慌ててお礼を言えば彼は苦笑して一言またねと呟き、ディスプレイは黒く塗りつぶされた。

俺は自分の包帯だらけの腕が視界に入って、この前戦ったポルポのことを思いだす。

こちらも全力だったし、その場に居た守護者が全員加勢していたのに、まだポルポ自身はぴんぴんしてる上に疲れた様子はない。

ユニが俺達の中で一番スカルのメンタルケアに貢献してたからか、ユニの前ではポルポの荒々しい態度が鳴りを潜めている。

それでもいつまた暴れるか分からない状況で、本当に早く本人が戻ってこないとヤバイと内心泣き言ばかりが溜まっていく。

正一君の推測で合ってるなら、解決策も恐らくあれだけだ。

賭けに負けた時が恐ろしいけれど、それしかないなら…もう祈るしかない。

 

「リボーン」

「何だ?」

「上手く、いくかな?」

「さぁな、えらく弱気だな」

 

手に汗が滲む。

少し情けない声が漏れるが不安を飲み込むには包帯だらけの両腕が痛すぎて、瞼の裏に映る孤独を背負う小さな背中に伸ばした手が届かなくて、ここ数日で突きつけられた不毛な可能性が眩しすぎた。

 

「まだ……スカルの笑顔見てないんだ……」

 

嫌味なほど笑ってて

 

「声…よく、聞き取れてないんだ……」

 

沢山喋って、大きな声を張り上げて

 

「生きたい…って…・・・…思ってくれてるかも分かんないっ・・・」

 

何も悲しいことなんてありませんって顔で生きていた

生きていることが当たり前だと、信じて疑っていなかった

 

 

「ずるいよ……どうして世界が違うだけでっ・・・…」

 

スカルが無事で帰ってくるかとか、そういう不安よりも、胸を(くす)ぶる黒い感情が表へと滲み出る。

羨ましかった。

そうだ、俺は羨ましがってた。

どうしてこの世界のスカルはこんなに悲しい思いしてるのにってずっと考えていた。

俺がスカルを助けなきゃってずっと思ってたけどそう簡単にいかなくて…でも笑ってる並行世界のスカル見てたら、やっぱ俺に力が無いからとか、そういうことばっかり思い込んで……

 

「ツナ」

 

俺の鼓膜を震わせるリボーンの声は、いつものような凛とした声じゃなくて

 

「お前は前だけ見て進め」

 

どこか震えてるような…

 

「お前は確かにあいつの未来を救った」

 

何かを押し殺すような

 

「お前に振り返るアイツの過去の(あやま)ちなんざねぇ」

 

必死に押しとどめているような

 

()()は俺の役目だ」

 

ひどく 悲しい 声だった

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

 

日本に拉致られて数日だったが帰してもらえる様子はない。

ゲーム中毒症状がヤバイし、普通に暇だし退屈だし死にそう。

これはあれか、ずっとPCに向かって引き籠る俺に対して社会復帰施設に入れようとかそういう魂胆で日本に拉致ってきたんじゃなかろうか。

退屈?暇?なら外出があるじゃないか!とか馬鹿だろ、氏ね。

少しばかりの抵抗と思い、パーカー着ながらクーラーガンガンの部屋で一日を過ごしている。

そのまま電気代増えろ。

毎日読書ばかりで、心なしが頭が良くなった気がする。

同居人と起きてる時間が被らないように頑張って夜起きようとしてるけど、偶に気絶するように爆睡しちゃうときがあるから睡眠時間帯にかなり差がある。

この前部屋に鍵掛けたら窓からリボーンがコンニチワしてきて諦めた。

この家誰かしら絶対に家にいるから気が抜けない。

ストレスマッハすぎてゲロ吐きそう。

イタリア帰りたいよー。

ポルポー、俺の癒しのポルポー。

そんな俺は昨夜は頑張って夜更かししたから起きたのは昼過ぎだ。

これで誰も家にいなけりゃいいんだけどなーと期待はせずに、寝ぼけた頭で階段をゆっくりと降りれば、案の定綱吉君がいた。

それも初めてみるお友達までいるときた、うるさくなるな……と他の友達が来た時の騒がしさを思い出しては顔を顰める。

まぁ直ぐに部屋に戻ればいいかと思って洗面所の場所へとトボトボといった表現が合いそうな足取りで向かって行く。

俺以外にも子供がいるこの家では子供用の台があって、それに登らないと鏡が見えないので、俺はそれを設置して登りながら蛇口を捻り水を出す。

両手に掬った水を顔に何回か浴び、段々と目が冴えていく感覚と共に鏡を見てふと自分の首の周りに気付いた。

痒くて無意識に引っ掻いてできた引っ掻き傷が化膿していて、痛々しく赤くなっている。

うわあ…と痛みのないその赤みに指を伸ばして確認していると、皮膚が少し剥がれている個所に目がいく。

邪魔だなと思った俺はそれを引っ張るが、ささくれのように神経と繋がっているのか鋭い痛みが走り、引っ張る手を止めた。

だがしかし一度気になり出したらずっと邪魔に感じてしまった俺はどうにかしてこのちょっぴり出た皮膚を千切りたかった。

辺りを見渡すと、歯ブラシが置かれているところにカミソリを発見して、いっそのことこれでブッツリ切ってしまおうと考えた俺はカミソリに手を伸ばす。

皮の端っこを摘まみ、カミソリを恐る恐る当てて、後は引くだけという時だった。

 

「スカル?」

 

ガラリと大きくはない音を出しながら開かれたドアと綱吉君の声に、肩をびくつかせてしまった俺はカミソリをそのまま押し引いてしまった。

まあ血が出るよねって話で、一瞬小さな痛みが首に走ったが、俺はすぐさま声のする方へ視線を向ける。

 

「スカル!」

 

怒号のような悲鳴のような、どちらとも言えぬ叫び声が鼓膜を震わせる。

するとそこには目を見開いてこちらを凝視する綱吉君の顔があって、どことなく怒っているような顔にちょっと怖くなった。

あ、勝手に使ったこと怒ってるのか。

いやでも皮一枚切り離そうとしてただけでそこまで怒らなくても…?

脳内で咄嗟に考え始める言い訳を他所に、綱吉君が俺の手を握りしめ、持っていたカミソリを奪って放り投げた。

カミソリが視界外で地面に落ちて数度バウンドした音だけ聞こえた。

綱吉君が周りをきょろきょろしている様子に、あ、勢い余ってカミソリ手からずっぽ抜けたのかと納得する。

馬鹿だなと言うには綱吉君の顔が怖すぎるので口を閉じるが。

 

「おい、どうした…!」

「つ、綱吉君どうしたんだっ・・・!?」

 

リボーンとさっきの新しいお友達がドアから顔を出してきては固まっている。

そりゃ自分の友達が赤ちゃん相手に本気で怒ってるとかビックリ映像だよな、うん。

リボーンがティッシュを持ってきて綱吉君に渡すと、綱吉君がそのまま俺の首に当ててきた。

そこで俺は首から血が垂れてることに気付いたけど、痛みなんてヒリヒリするくらいだしあんま気にしていない。

というか綱吉君の顔が怖い。

 

「ス、スカル……何・・・してたんだよ…?」

 

いやそこまでカミソリ使われたのご立腹なのかよ。

いやまぁそっか、他人にカミソリで鼻毛とか剃られたら堪ったもんじゃないよな。

これは…一応首の皮を切り離そうとしたとだけは言い訳した方がいいのか。

そう思った俺は口を開き声を出そうとしたところで首に衝撃を受けた。

 

そこで俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

沢田綱吉(原作)side

 

 

「え、元の世界に戻る方法が見つかったの?」

 

それは正一君からの電話で、俺は目を丸くして持っていたコップをそのまま地面に落としてしまった。

 

『といっても僕が見つけたんじゃなくって、並行世界の僕が先に原因を特定して白蘭さんを通じて教えてくれたんだ』

「そうなんだ、それでどうやって戻すの?」

『それが……うーん、少し複雑っていうか単純っていうか、取り合えず綱吉君の家にお邪魔してもいいかい?』

「ああ、それなら全然大丈夫だよ」

 

じゃあ今からそっちに向かうね、とだけ残して通話が切れたところでコップを落としたことに気付き、俺は慌ててティッシュを数枚手に取り、僅かに塗れている床を拭く。

水を吸い込んだティッシュをゴミ箱に捨てた俺は、ふとスカルがいるであろう二階へと目線をズラす。

海に行ったきり外に出ようとしないスカルに悩んでいた俺は、そのままにしてやれと告げたリボーンの顔を思い出した。

何があったのか分からないけど、リボーンはなんだか複雑な表情をすることが多くなったように思う。

まあスカルが原因なんだろうなぁってなんとなく分かるんだけどさ。

それよりもやっと今回の騒動の解決が見えてきたけど、本当にこれでいいのかって考えてしまう俺がいる。

スカルの心の傷はとても深いし、これから治っていくって保証もない。

元の世界に帰してもただ息の詰まるだけの生活を送るんじゃないかって何度も考えては、ただ元の世界に帰すことが正しいのかが分からなくなる。

けれど、世界の違う俺達に心を開いてくれるかと言われれば、絶対にないんだろうなって、なんとなく分かってしまった。

だから元の世界に帰すのが一番彼にとって安心なんだって言い聞かせている。

 

正一君からの連絡の後、数十分後に本人が来て、今回の件の解決策を説明してくれた。

失敗した時の危険性もちゃんと説明されたが、現状これしか方法はないと言われた上に、あちらの世界では少し切羽詰まってる状況らしく新たな方法を探す時間はないらしい。

ずっと部屋に閉じこもっているスカルを思い出しては、これ以上ストレスを与えるのも悪いだろうと思いその方法に了承した。

ただ、リボーンは複雑な面持ちで俺達の会話を見ていて、最期までその口を開くことはなかった。

 

「一応白蘭さんを通して向こうの世界とコンタクトを取ってるんだけど…」

「だけど?」

「白蘭さんが乗り気じゃない…っていうか、何か怯えてるような……僕の勘違いかもしれないけど」

「怯える?白蘭が?」

「見間違いかもしれないから絶対とは言えないよ、でも…様子がおかしいことは確かだ」

 

少し心配だよ、と告げた正一君の言葉に嘘はなく、本当に白蘭を心配している。

白蘭が怯えている姿なんて想像できない俺は何も言えずにいると、ふと階段の方からフローリングが小さく軋む音が聞こえた。

あ、と声を漏らした俺の視線の先には、眠たげな顔を隠さず身の丈に合わない階段を下りているスカルがいた。

昼夜逆転といよりも睡眠が不安定という言葉がしっくりくるほど寝る時間がバラバラなスカルは、昨夜もかなり遅くまで起きていたのか今起きましたと言わんばかりに目を擦っている。

リボーン曰く赤ん坊の体だと時間が来たら自然と眠くなると言ってたけれど、やっぱり精神的なストレスで眠れないのかな……

夏なのにフード付きのパーカーを着ていて、体温調節大丈夫かなと心配するのはもはや日常茶飯事だ。

 

「おはようスカル、ちゃんと眠れた?」

 

スカルはちらりとこちらに視線を向けては、正一君を捉えた瞬間眉を顰めて洗面台へと歩いていった。

 

「警戒…されてるのかな?」

 

頬を掻いている正一君に誰にでもああだよと教えてると、本当にこちらのスカルとは別人だね、と苦笑していた。

馬鹿丸出しのスカルを思い出しては、そういえばあっちでは凄いことになっているんだろうなと思い至る。

情緒不安定だった無口なスカルがいきなり大声で騒ぎだしていたに違いない、ある意味怖い。

正一君と少し喋っていた俺は、顔を洗いにいったスカルがいつまで経っても洗面所から出てこないことに気付いて不審に思った。

正一君に少し見てくると告げて、洗面所へと足を向ける。

 

「スカル?」

 

水の流れる音がしていた。

()ねるような音じゃなくて、ただ流れているような……水を流しっぱなしにしている時の音だと気付いたのは洗面所のドアを開くのと同時で、俺は目を見開く。

 

「な、に……して……」

 

ドアを開けた俺の目に映ったのは、水流の音が響き渡る中、スカルがカミソリを首に当ている姿だった。

見たことのない引っ掻いたような、痛々しく赤みを帯びた首からプツリと赤い粒が溢れたと同時に俺は心臓が冷え切るような錯覚に襲われながら、無意識に腹の底から叫びあげる。

 

「スカル!」

 

俺は即座にスカルのカミソリを持つ手を握りしめ、カミソリを奪いあげ遠くへと放り投げた。

呆然と目を見開きながら俺を見つめるスカルを他所に、周りを見渡してティッシュを探していると、背後から忙しない足音が聞こえる。

 

「おい、どうした…!」

「つ、綱吉君どうしたんだっ・・・!?」

 

聞き慣れたリボーンの声と、先ほどまで喋っていた正一君の声に俺が振り返れば、二人にもスカルの首元の血液と地面に投げ捨てられたカミソリに気付いたのか顔を強張らせていた。

その中でもリボーンが我に返り、リボーンから近かったティッシュを手に取り数枚取り出して俺に渡してくる。

押さえてろ、と短く、そして的確な指示に俺はしどろもどろになりながらも、未だ呆然としているスカルの首にティッシュをあてた。

薄っぺらいティッシュが赤く染まり、俺の指を濡らす。

 

「ス、スカル……何・・・してたんだよ…?」

 

喉が引き攣り、絞り出した声は情けなく震えながらも、俺は怒りと驚愕と恐怖を隠さずに目の前のスカルに問いただした。

スカルの過去を記憶から引き摺りだしては聞きたくない、認めたくない言葉だけが脳裏を過ぎる。

 

どうして自殺なんて……と。

 

小さく息を漏らしたスカルの開いた口から吐き出される言葉が怖くて、咄嗟に耳を塞ごうとした時、スカルの瞳の奥が光を失い力を無くしたように体が傾き俺へと倒れた。

予想だにしていない事態が連続で起こったことに今度こそ頭がパンクしそうだった俺の鼓膜に、落ち着いた声が響く。

 

「ツナ、リビングにそいつ連れていけ」

 

そこで漸くスカルがリボーンによって気絶させられたことに気付いた。

俺の視界の端では正一君が息を飲んでいる姿があり、少しばかり冷静さを取り戻してからスカルを抱えだす。

洗面所を出てリビングに向かう際にフードで隠れていたスカルの首元を横目でちらりと覗き見た。

先ほどのカミソリの傷は見た感じでは深いわけではなく僅かに安堵の息を漏らしたものの、首に残る引っ掻いた様な傷痕に眉を(ひそ)める。

いつからあったのかすら分からないけれど、ここ数日で出来たような傷じゃないと分かるのは、何度も上塗りしたように爪の引っ掻き痕が重なっていたからだ。

痒いだけでここまで傷が出来るわけないよな……と、これが情緒不安定からくる自傷行為であることが紛れもない事実だと分かり、胸が締め付けられる程苦しかった。

顔は水で濡れ、いつもの顔色の悪さも相まって、まるで水死体だと思ってしまった自分が心底怖くなる。

それと同時にひどく悲しくなった。

海に行って、部屋で遊んで、なるべく一人ぼっちにしないように家にいるようにしていた。

少しでも安心してくれればと思って必要以上に気を遣っていた自覚があるからこそ、今回のことは自分の努力が全部水に流されたような気分にされた。

 

俺達の声はスカルに届くことはない。

 

超直感が告げているのだ。

スカルの領域には踏み込めないのだと。

 

「無駄だったのかなぁ…」

 

無意識に零れた言葉に正一君が心配そうに俺を見つめてくる。

早く元の世界に帰すべきなのは、こちらも同じなのかもしれない。

咄嗟の対応もままならない上に、俺達はスカルを知らないからこそ手が出せないのだ。

赤く染まるティッシュを一旦離して傷口を覗いてみれば、既に出血は止まっていて大きめの絆創膏を探してそこに貼ろうと考えたが、広範囲に渡る引っ掻き傷が傷付いたらどうしようと思い至り、リボーンが来るまで待っていた。

リボーンが洗面所から戻ってきて、スカルの傷の手当をした後部屋に連れて行かずリビングで起きるまで待つことになり、重苦しい空気の中俺は口を開く。

 

「リボーン、早くスカルを元の世界に帰した方がいいと思うんだ」

「ああ、分かってる…ここにいるのはコイツにとって良くないんだろうとは薄々気付いていたからな」

 

どうしてこの世界がスカルにとって良くないのかなんてちっともわからないけれど・・・一生分苦しんだあの世界に、スカルの居場所があることが心から喜べない自分がいた。

包帯に包まれているもがき苦しんだ首の傷痕が、喉を裂いてまで悲鳴を叫んでいるように見えては、心の奥底が冷えていく恐怖に身震いする。

 

俺達の声は彼に届かない

 

そして

 

彼の声も俺達に届くことはないんだと――――――…

 

 

 

彼の閉じている瞼の裏側にある紫色の瞳を思い出しては、どうしようもなく泣きたくなった。

 

 

 

 

 

 




ーSkullー

スカル:ささくれは爪切りで切り離すタイプのニート。
ユニ:色んな意味で天使、異論は受け付けない。
ツナ:折角解決策出てきたけどハイリスク過ぎてSAN値ピンチ!
リボーン:ツナ同様にSAN値ピンチ。

ー原作ー

ツナ:気遣いが全部裏目に出ている、スカルの自殺()でSAN値ピンチ。
リボーン:ツナ同様SAN値ピンチ、仕方ないね。
白蘭:SANピンチ、一時的発狂は治ったが完全にトラウマ化、なにあの世界怖い。


わぁい、大SAN事ですね♡



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skull 番外編3 part7

沢田綱吉(原作)side

 

 

 

「午後三時に綱吉君がスカルにバズーカーを打つ、相互確認は終えたよ」

 

正一君がパソコンに表示されている時刻を眺めながらそう呟き、俺は緊張を隠さず唾を飲み込む。

どちらの世界も今回の騒動に関して、時間に余裕がないと分かってから早かった。

白蘭の協力で日取りを決めて、細かい時間まで正一君の指示で決定し現在に至る。

バズーカーはランボから借りることになったが、またそこでもひと悶着あり、リボーンがランボを殴って気絶させたことで収まった。

スカルは自殺を試みたあの日から部屋に籠って外に出ていない。

流石に夕飯は顔を出すけれど、日に日にやつれていく様子に何て声を掛けていいのか分からず言葉に詰まる。

顔色が悪いけど大丈夫、なんて何度目か分からない言葉を繰り出しては、返ってこない言葉に遣る瀬無くなった。

小さな首に施された包帯が、あの(おぞ)ましい光景を思い出させる。

心臓に悪いどころじゃないと冗談交じりに笑い飛ばせればどれだけマシだったことか。

俺達だけじゃ対応の仕様がないこともあってあちらの世界に帰すけれど、戻った先がスカルにとって安心できる場所じゃないかもしれないとか、余計なことまで考えてしまう俺は少し精神的に参っていたのだと思う。

山本や獄寺君、それにスカルと仲の良かった炎真君がスカルを心配している素振りを見せてたけれど、スカル自身部屋から出ようとしないから、周りがもどかしい思いをしてたことだけはなんとなく分かってた。

なんの解決もしないまま時間だけは過ぎてスカルを元の世界に帰すことになってしまう。

部屋から呼び出されたスカルは周りを警戒しているように見渡していて、一度だって安心してはくれなかったことが悲しくなった。

俺は(こうべ)を垂れるバズーカーを片手に、口を結びながらスカルを見つめて口を開く。

 

「スカル、3時丁度にバズーカーを打って、あちらの世界に帰すよ」

 

スカルの汗が浮かんでいる小さな手は僅かに震えていて、心なしか顔色がいつもより酷い。

ふらつくスカルを咄嗟にリボーンが背中を支えることでなんとか踏みとどまり、スカルが覚束ない歩みで近寄ってくる。

 

俺が出来ることなんてなかった。

何もなかった。

どれだけ助けたいって思っても、助けられなかった。

声が、届かなかった。

遠すぎたんだ。

 

 

「スカル…」

 

バズーカーを傾けてぽつりと名前を呼べば、ふと目線が交差した。

時計の針がカチリと音を立てて90度を知らせる。

 

「あっちの世界でも元気でね」

 

引き金を引いた先に見えたのは

魅入るほど美しいアメジストではなく

ただただ 絶望し すべてを諦めきっていた 濁る瞳だけだった

 

俺はその目をこの先ずっと ずっと 忘れることはないと思った。

 

 

 

 

 

 

スカルside

 

「スカル、そろそろ時間だよ」

 

洗面所カミソリ事件の後、何だか皆が俺のことを凝視してくるので出来るだけ部屋に籠ってたんだが、やっぱり断りもなくカミソリ使ったこと怒ってんのかな。

あの一件から誰かと鉢合わせしないように過ごしていたが、今日、綱吉君が部屋まで入ってきてリビングに来るように言われた。

そろそろ時間だよ…って…何が?

え?ん?あ、昼飯ってことか?待てよ、もう3時だぞ?

いやまあ俺は昼まで寝てたからまだ食べてないけど、起きたんならはよ食えってことかな。

頭上に疑問符を浮かべながら恐る恐る階段を降りると何故か人が集まっているという珍事態。

どういうことなの。

綱吉君の周りに友達らしき男の子たちが数名いて、リボーンもいるという謎状況、その上集団の真ん中にいる綱吉君に至っては何か物騒な玩具を手にしている。

なにこれ怖い。

俺何されるの?

いつもへらへらしてる綱吉君が硬い表情してるから余計に怖いし、正直二階の部屋に逃げたい、切実に。

 

「スカル、3時丁度にバズーカーを打って、あちらの世界に帰すよ」

 

んんんんんん?

え?………はい?………ごめん何て?

バズーカー?綱吉君の持っているその物騒な玩具のことかな?

それを打つの?誰に?

 

………もしかして:俺

 

………?……………!?

嘘やん、そんなものぶっ放されたら死んでしまいます。

あ、あちらの世界ってそういうこと?

あの世的な……?そういうことなの?

え、なにこいつらめっちゃ怖い!

いやだあああああああああああああ!

咄嗟に後ろへ一歩下がろうと体を傾けると、背中からがっしりと押さえられた。

言わずもがなリボーンである。

コイツぅぅぅぅぅぅうううううう、マジで許さん。

逃げるんじゃねえよ、って感じで背中を押してくる。

死にたい。

違う、死にたくない。

何で?何で俺殺され掛けてんの?

ニートに慈悲はないってか、死ねってか、え、イタリアから拉致監禁してPCを取り上げた上、バズーカーで死ねと?

悪魔かコイツら。

綱吉君の周りにいる男の子たちがこの状況を静観してるってことは、コイツらグルかよ、オワタ。

怖すぎて顔から血の気が一気に引いた気分になった俺はひたすら背後で逃走経路を潰してくるリボーンに殺意が湧いた。

 

「スカル…」

 

ぽつりと綱吉君が呟いた俺の名前に顔を恐る恐る上げると、ふと目線が交差した。

綱吉君は苦笑しながらバズーカーを俺に向けてきて、俺はそこで初めて悟る。

あ、死んだ。

涙が出る余裕がない瞳は瞬きも忘れて、渇きを訴えている瞳の瞳孔が僅かに開いていく感覚だけが脳へと伝達される。

喉が張り付いていて、僅かに開かれた口からは音のない吐息だけが漏れた。

 

 

「あっちの世界でも元気でね」

 

綱吉君の引き金を引く指の動きがひどく遅く見えて、発射口から放たれた弾丸らしき何かが視界の真ん中に映った。

そして俺は漸く思考する。

元気もくそもねえだろ、って声に出して叫んで、逃げて、隠れて、やり過ごして……そこまで考えて目の前の現実から目を逸らそうとしたその時、俺の頭に三つの選択肢が浮かんだ。

 

 

➀頭の良いスカルは突如回避のアイデアがひらめく

ポルポ(唯一の味方)がきて助けてくれる

➂かわせない。現実は非情である。

 

 

➂ですね、わかります。

 

視界のすべてが真白に覆われ、いきなり体を襲う浮遊感に目を(つむ)り体を強張らせる。

 

 

死ぬときってこんな感覚なのか………まるで空中に放り出されたような――――――…

 

 

 

「スカル!」

 

ふと耳につんざくような声が届いて目を開けた。

視界は白い煙に覆われ目の前を何かが掻き分けている気配だけが伝わる。

にゅっと煙から這い出てきたのは、暫くぶりに見かけるペットの足で、俺は幻覚じゃないだろうかと咄嗟にそれを引っ掴んだ。

 

「ポルポ…?」

 

無意識に零れた名前に反応したのか、手の中の一本の足が小さく揺れ、次の瞬間体が軋むほど締め上げられた。

それが抱きしめられていると気付くまで数秒かかり、圧迫される内蔵が悲鳴をあげ意識が遠のきかけたところで漸く解放される。

 

「スカル、スカル……」

 

ゼーゼーと息が上げる俺にお構いなしのポルポは、泣きそうな声で俺の名前を呼んでいるが、俺は状況が分からず困惑するばかりだった。

あれ………?俺、死んだハズじゃ…………

でもポルポいるし、なんかイタリアの家に戻ってるし………あれ?

下を見て足があるか確認したが、ちゃんとついているということは死んでいるわけじゃないのか?

死んでないならさっきのは何だ?夢?

周りを見渡しても分かるのは、自分の家ということだけで、何故ポルポに抱きしめられているのかが分からない。

煙が完全に無くなったころには、その場に数名人がいることに気付く。

 

「スカル!良かった、戻ったんだね!」

「おー、心配したぜー」

 

その声の主は、先ほど俺にバズーカーを向けていた綱吉君と、その友達である黒い髪の男の子だ。

俺は殺されかけたことを思いだして咄嗟にポルポにしがみつきながら状況を整理しようと努める。

どうなってるんだ?

夢?まさかの夢オチ?

いや確かにいきなり日本にいたり、PCのない生活だったりと非現実すぎたけど、あれほどリアルな夢ってありえるのか?

確かに中学生が普通バズーカーで人殺すわけないよな。

夢か、夢だ、夢だったんだ。

じゃあ今が現実で…イタリアで、ポルポいて、PCあって、ゲーム出来て………

ゲーム!

俺はポルポの足から抜け出して、一目散に部屋に走り込み、部屋のドアを勢いよく開ける。

ドアは反対側の壁にぶつかるように乱暴な音をたてたが今の俺にはそれを気にする余裕はなく、すぐさまデスクの上に設置されているPCを起動し、ゲームのアイコンをクリックした。

するとどうだろう、ディスプレイにはログイン画面が表示され、IDとパスワード入力画面に切り替わる。

その光景に思わずほろりと頬に雫が伝い、止めどなく溢れた。

そのままキーボードに手を置くと、ぶわりと鳥肌が立つほど感動に打ち震え、今すぐにでも部屋の鍵を閉めろと本能が叫んでいるような気がした。

だが僅かばかりの理性で欲望を押しとどめ、取り合えずPCをスリーブモードにしてから、部屋の外から響く足音に耳を傾ける。

 

「スカル、どこか具合が悪いの?」

 

静かに、しかし気遣う音色を漂わせるポルポの声に、俺は乱暴に開かれたドアへと徐々に目線を上げる。

 

「どうして………泣いているの?」

 

そう言われて初めて自分が泣いていることに気付き、頬に指を滑らせ透明の雫で指を湿らせた。

すん、と鼻を啜りパーカーの袖で顔を強引に拭う。

なんでもない、と言おうとして喉が引き攣る。

ポルポの心配そうな気持を表しているように足が俺の周りを弱弱しく漂っていた。

そんなポルポを安心させてやりたいという思いも少なからずあったけれど、俺の中には確かな安心で埋め尽くされていて、周りを気遣う余裕すらないのだ。

 

「どこか…痛いの?」

 

ポルポの優し気な声も相まって、今まで溜まっていたストレスが全部吐き出されるようにみっともなく泣き出した。

引き攣った声しか出なくて、堪えることすら忘れた涙腺からはただただ透明な雫が溢れ出す。

恥も外聞もなく泣き出した俺に困惑しているポルポの、困ったように揺らついている足だけが、今の俺の波打つ心情を表現しているような気がした。

 

 

後日、当然のように連日ゲームする為に引き籠った俺は悪くない。

 

 

 

 

 

リボーンside

 

「こ、これで本当に戻れるのか~!?」

「うん、戻れると思う」

 

バズーカーをまじまじと見つめながら何度も確認してくる目の前のスカルは、能天気にジュースを飲んでいる。

3時まで残り5分を切っていて、ツナもどこかそわそわと落ち着きのない様子で時計を見ていた。

カチリと短針が傾いていく音が響き渡り、ついに一分を切るとツナがバズーカーを持ちスカルへと向ける。

 

「これ死なねーよなー!?」

「死なないよ、飛ばされる前も打たれたろ…」

「それもそうか!」

 

カチリ

 

90度の針が視界に入ると同時に、目の前にいたツナとスカルを中心に白い煙が巻きあがる。

山本達や獄寺がツナに駆け寄り煙を散らしていると、近くで様子を見守っていた古代生物が動き出した。

ツナがスカルの名前を短く呼ぶ最中、古代生物の触手が煙の中へと伸びていき何かを探るように揺れている。

そんな時、小さな声が、集中してなければ聞き逃したであろうか細い声が、僅かに俺の鼓膜を震わせた。

 

「ポルポ…?」

 

瞬間数本の触手が煙の中へと消えていき、一気に煙が散布する。

 

「スカル、スカル……」

 

愛おしい存在を確かめるように嘆かれた声と共に紫が(なび)いた。

煙を勢いよく吸ってしまったのか呼吸が安定していないそれは、胸を激しく上下させている。

皺を寄せている眉間と薄く開かれた瞼が見え、その奥に潜む瞳を視界に捉えた。

アメジストの奥に潜む困惑、恐怖、疲労を感じとった俺は妙に懐かし気な気分になる。

戻って来た、と瞬時にわかるほど俺はその瞳の奥の仄暗い感情に思い馳せていたのかもしれない。

次に視界に入ったのは奴の首に巻かれている白い包帯だった。

包帯を巻くようなことが起こった、という事実に眉を顰める。

胸を撫で下ろすというには穏やかではない俺の心情に応えるように、スカルの瞳の奥もまた緊張が波打った。

 

「スカル!良かった、戻ったんだね!」

「おー、心配したぜー」

 

ツナと山本の歓喜する声が響く中、当の本人は古代生物にしがみつきながら乱れる呼吸を繰り返している。

今日この時間に元の世界に戻ることは伝えられているハズだ。

にもかかわらず何故ここまで混乱しているのか、それが分からずスカルに声を掛けようと口を開いたその瞬間、スカルが古代生物から離れ俺達の合間を縫ってリビングから走り去っていった。

急なことに反応出来なかった俺達を他所に、古代生物が即座に追いかける。

 

「ど、どうしたんだろう…」

「追いかけるぞ、ツナ」

「うん!」

 

困惑するツナにそう告げれば返事が返ってきて、俺達はリビングを出てスカルが向かったであろう自室へ足を向けた。

段々と目的の場所へ近づいていくにつれ、小さな掠れた音を拾う。

鼻を啜るような音と、漏れ出した吐息のようなそれが、部屋に駆け込んだあいつが泣いていることだけを知らしめる。

 

「どこか…痛いの?」

 

気遣わし気に呟かれた、人ならざる者の問いに応える声はない。

ツナもそれに気付いたのか僅かに開いている扉の前から動こうとはしなかった。

 

「ぅ………う"っ…」

 

すん、と鼻を啜る音が部屋の外にも響いていた。

 

 

あの世界で何を見たんだ。

お前が泣く程、幸せな世界だったのか。

狂人のいない、自由(死ぬこと)を望まなくても幸せな世界だったのか。

罵倒も、殺意も、苦痛もない幸せな世界だったのか。

 

 

それだけ この世界(こちら側)は お前にとって 生きづらいか

 

なぁ そんなにあちらが 羨ましくて 辛くて 泣いているのなら

 

 

俺は一体お前に何をしてやれたんだ――――――――――…

 

 

 

壁越しに鼓膜を震わせる嗚咽(おえつ)が、責め立てるように俺の心臓を抉り取った。

 

 

 




ツナ(原作):このあと元のスカルが帰ってきて元気な姿を見て余計SAN値減った人。

スカル(原作):無意識SAN値チェックを仕掛けていった人、でも全部原因はSkullのせい。

スカル:ゲーム中毒症状でSAN値が減ってた人、しかし本人の周りはもっと被害が出ていた、元の世界に戻ったはいいけどそれから追い打ちSAN値チェックを周りに掛ける、さすがスカル!俺たちにできない事を平然とやってのけるッそこにシビれる!あこがれるゥ!

リボーン:このあと首の傷の理由を聞いてSAN値チェック掛けられる人、結果はお察しの通りである。

Skull側の皆:引き籠ったスカルに安心安定のSAN値チェック掛けられる予定。

これでトリップシリーズは終了です。
また通常の番外編に戻りますね。
まさか衝動で掻き始めてパート7まで書くとは思いもしませんでした(笑)



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skull 番外編4

「スカル、日記をつけてみてはいかがですか?」

「・・・…日記?」

「ええ、毎日を振り返って思ったことを書いて頭の中を整理することは悪いことじゃないと思います」

 

使って下さいといわんばかりに輝いているユニの瞳を直視して、断るという選択肢はなかった。

渋々日記という名のノートを受け取った俺は、まあ三日で飽きるんだろうなと思いながら白紙の上にペンを走らせる。

さて、最近の俺の日常を書くにしてもどんなことがあったのやら……ポルポがうざぎ食べてたことくらいか?

 

 

 

最近、俺のハマっているゲームの中で常に上位に入っている奴がいる。

昔やりこんでいたゲームがサービスを終了し、暫く落ち込んでいた俺にギルマスが新しいゲームを紹介してくれたのでそちらを遊ぶようになったこの頃、俺は既に廃人と呼ばれる程の腕を身に付けていた。

内容は普通のガンゲームなんだが、課金無しでも満足に遊べるという点でレビューがかなり高いことから一部のゲーマーには人気のゲームだった。

かくいう俺も無課金でなんとかのし上がっているわけで、ニートだと一発でバレるような成長率を見せている。

さて話を戻すが、週一で行われるイベントにて、参加プレイヤー全員がランキングに載るのだが、上位で安定している俺と一緒でもう一人いつも名前を並べる者がいた。

そのプレイヤー名を『me』といい、(ちまた)では「挑発がやたらと上手くて戦法がえげつないプレイヤー」と言われている。

ネットの掲示板にそう書かれていただけなので本当の性格は分からないが、信憑性の高いユーザーの発言だったのもありmeはかなり癖の強いプレイヤーだという噂が固定されていた。

こいつのスコアが俺に追いつけば追いつく程俺の夢に出てくるので、俺もムキになって追い越されまいと頑張っている。

因みに一人で遊ぶシングルプレイと複数で遊ぶマルチプレイというものがあるのだが、マルチプレイはボイスチャットという俺にとって高難易度のコミュニケーション方法のために一度もそちらを試したことはないのだ。

故にシングルプレイで極めた俺は、傍から見て「ぼっちザマアなコミュ障野郎」と思われているに違いない。

そこは置いといて、俺はこのmeというプレイヤーに大層ライバル心を燃やしているのである。

俺がスコアを追い越すときもあれば追い越される時もあった。

ただ二人の間にチャットも、メッセージも一切ない。

あるのは毎回のイベントで上位に鎮座するプレイヤー名とスコアだけ。

ギルマスも一緒に遊んではいるが正直ガンゲームは得意分野というわけではなく、どちらかというと下手くその類だったのでいつもスコアが下からかぞえた方が早い場所に表示されている。

ギルマスとのマルチプレイも考えはしたが、国が異なるのでタイムラグがえげつなく断念した。

ゲームに嵌まり出したこの頃に、珍しくヴェルデが訪問してきてたな。

ヴェルデは不法侵入しないし、こちらが最低限の対応さえすれば暴走しないので嫌いじゃない。

ヴェルデ曰く、ポルポを研究したいんだが貸してくれとのこと。

勿論ポルポが断っていたが。

さて話に戻ろう、このmeというプレイヤー、その日もまたスコアを俺の隣に並べていやがる。

ぐぬぬ、いつか絶対に大差付けて上から見下してやる。

猫の、この世の絶望を全てを詰め込んだような鳴き声で目を覚ましたとある日、俺は初めてmeとボイスチャットを試みた。

相手も断る理由がなかったのか、申請を許可しマルチプレイで協力して敵モブを倒していたが、何故かどちらも最後までワンマンプレイだけして喋らず終わってしまった。

何故だ。

いや俺はあっちが喋ってきたら返事くらいはしようと思っていたんだが、まさかあっちが挨拶含めて一言も喋らないとは思っていなかった。

何か気に障ることでもしたのだろうかと悶々とした日だったので、かなり鮮明に覚えている。

あと、朝の猫の悲鳴はポルポがその猫で遊んでいたことが原因だった。

また別の日にリボーンが不法侵入してきた。

そろそろあいつは起訴されるべきだ。

ほんと、あいつ死ねばいいのに。

一度でいいのであのもみあげを引き抜きたい。

あれから数日、いきなりパタリとmeが現れなくなった。

ランキングにも奴の名前が載ることはなくて、俺は少し驚いた。

リアルが忙しいのだろうか。

あれから3週間経ったけどmeは現れない。

俺は自分の中でのライバルがいきなり消えたことにショックを隠せなかった。

あそこまで廃人並みの遊び方をやっておきながら、いきなり姿を消したmeに僅かな失望を抱く。

あれからまた数週間経ったが、meは現れなかった。

脱ニートしたのだろうか・・・……

同胞を無くしたので寂しい。

ギルマスに不満を呟けば、逆に何十年もニートやってるお前がおかしいと言われた、解せぬ。

ちょっとガンゲームを離れて、元々やっていた別のゲームをしてみた。

強引に誘われて入ったボス戦のパーティ内でレアアイテム云々で喧嘩が始まってやばかった。

ずっと無言を貫いてた俺にまで火の粉が飛んできたくらいだ。

これなら連戦の最中にHPがなくなったあの時、そのまま死んで町の方で待ってればよかった……それかそのままパーティー抜ければよかった。

チャットで抜けますの一言だけ打ってログアウトした俺が、数時間後にもう一度ログインした時メールボックス欄が全部迷惑メールで埋め尽くされていたというホラー展開に少しビビった。

やっぱり戦闘中に死んで町に戻ってパーティー抜ければよかった。

この頃からポルポが空腹を訴えるようになったので、海の魚食べればいいんじゃないかとアドバイスしたら、翌日漁業大打撃のニュースが流れていた。

見なかったことにしたい。

meが現れなくなって3カ月、もうゲーム自体飽きてやめてしまったかもしれない。

ライバルのように思っていたので残念だが、まあ仕方ない…奴にも奴の生活があるのだから。

センチメンタルな俺はガンゲームから手を引いて、元々やっていたゲームへと戻ることにした。

 

何だかんだで日記を続けていることに驚いたけど、そろそろ飽きてきた。

その日のことを整理というか、思ったことをそのまま一文ずつ書く上に日本語とイタリア語がごちゃごちゃになっているところもあった。

これは誰かが読んだって分からねーな………

途中途中で日付に空きがあり、日付を追うごとにその空きは広がっていくのを見ると、あからさまに忘れられつつあることが分かる。

俺はペンを持ち、今日の日付を書いた。

 

今日は確か俺がいない間にリボーンのもみあげ野郎がまた不法侵入してきたんだった、マジであいつ許さん。

それもユニと綱吉君まで連れてきてからの放置してどっかいくとか……何なの、俺の家ってば託児所じゃあないんだぞ。

家に帰る前に敷地内の森の中でうさぎを見かけて、最近ポルポがうさぎを食べていたことを思い出して捕まえてあげようかなと考えて追いかけてみたのが運の尽きというかなんというか………

森のくまさんを脳内再生してたのが悪かったのか、本物のくまさんに出会ったよってわけで、あれはマジで死ぬかと思った。

驚きで死んだふりもする暇なくて立ち竦んでたら綱吉君がくまさんを殴って気絶させて、俺は綱吉君に下手なこと言わない方がいいなって切実に思ったね。

すごく俺のこと心配してくれる綱吉君の背後で倒れるくまさんを見て、ああ、俺死にかけたのかって後から気付いた。

五体満足で生きててよかったー。

あとから駆け付けたユニが泣いていたけれど、そりゃ後ろでくっそ怖いくまさんが倒れてたら怖いよな、わかる。

あのあとユニと綱吉君が夕飯作るって息巻いてたけど、正直キッチンが半壊しそうな勢いで騒音を立ててからうるさかった。

やっぱ綱吉君が来ると騒がしい。

泊まっていくとか勘弁してくれよ。

 

……取り合えずおおまかに書けたし、今日はこれでいいかな。

 

 

 

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

それを見つけたのは本当に偶然だった。

スカルの家に久々にユニと遊びに来たけれど、スカルが珍しく家にいないようで手持ち無沙汰になっている時、ガタン、と遠くの部屋から物音がして俺とユニが音の出所を探す為にスカルの自室へ入った。

一台のパソコンと数冊の本、ベッド、簡素な机と椅子だけがある素っ気無い部屋で、不自然に床に落ちている本に気付く。

自室の窓が開かれており、そこから入り込んだ風で机の上に置かれていた一冊のノートが落ちたのだと分かった俺は、その本を手に取り机の上へと戻す時、後ろにいたユニがふいに言葉を漏らした。

 

「あ…そのノートは…」

「知ってるの?」

「はい、それは私がスカルにさしあげたノートで……是非日記にと…数か月前……」

「へぇ、ちゃんと日記付けてたってことかな?」

 

俺は何気なしに1ページ目を捲ってみた。

ユニが人の日記を勝手に見るのは…と遠慮気味に咎めてきたけれど、イタリア語なんて読めない俺が見ても意味ないよと小さく告げる。

1ページ目を開けばそこにはお世辞にもうまいとは言えないイタリア語で文字が綴られていた。

しかし、途中から綴られいる文字に目を見開き、思わず声を零す。

 

「どうしましたか?」

「え……いや、ここ……このページ…こっからここまでイタリア語で何書いてるか分かんないんだけど、文章の途中でいきなり日本語になってる…それも漢字まで使われてるし」

「え?」

 

俺の言葉があまりにも意外だったのかユニが目を見開いてノートを覗き見る。

ノートにはイタリア語で今日の出来事を簡素に書かれていて、途中からひらがなと漢字が並列していた。

スカルがいつ日本語を覚えたのかを疑問に思い、俺は日本語の部分だけ読もうとした。

 

 

■月■日

 

―――――――――――,――――――――――――――――.

―――――――――――――――――――.

―――――――――,――――――――――――――――――――.

今日、ユニからノートを貰ったので、日記をつけ始める。

特に今日書くことはない。

 

 

日本語は、日本人である俺が読める程文章が成立していて、相当勉強したことが分かる。

でも何故スカルが日本語を…?

俺は文字の羅列に視線を流す。

 

 

■月■日

ポルポがうさぎを食べていた。

―――――――――――――――――――――――――――――.

―――――――――――,――――――――――――――――――.

―――――――――――――――――――.

meが近づいてくる。

 

 

「me?」

「どうしました?」

「ここ…meって書いてあるんだけどイタリア語かな?」

「me…は『私』という意味があります、目的格として使われているので文の最初に来るのは少し不自然ですが……」

「『自分』が近づいてくる…?自分って何だろう…」

俺はそのままページを捲る。

少しだけ日付が飛び、また日本語で書かれている個所に目を通す。

 

 

■月■日

――――――――――――――――――――――――――――――.

ユニが来て料理をして帰っていった、アップルパイは美味しかった。

最近奴が俺を追ってくる夢を見る。

―――――――――――――――――――――.

―――――――――――――――――――――――――.

 

■月■日

ヴェルデが顔を出した、ポルポを研究したいらしい。

奴はいつだって俺の隣にいる。

――――――――――――――――――――――――――――――.

―――――――――――――――――――.

―――――――――――――.

――――――――――――――――――――――――――――.

 

 

「どういうことだ?」

 

俺は文の内容が分からずユニにその前後を教えてもらうが、全く文脈が意味を成していなかった。

『奴』がスカルを追ってくる夢を見ていて、それは隣にいる…?

ユニに文の内容をそのまま教えると、ユニは少し考え込み始める。

 

「……奴、というのは最初に言っていた『me』という存在で、それはもしかしてスカル自身を指すのではないでしょうか?」

「スカル自身?」

「二重人格……というよりも、ええと………狂人……だった頃の人格のことではないかと…少し思ってしまって」

「あっ…」

 

そういわれて漸く腑に落ちたような気がした。

狂人であった人格に追いかけられる夢を見るということは、まだスカルが過去に囚われて苦しんでいるということなんじゃないだろうか?

そしてそれは常にスカルの隣にいる…隣というか心の中ってことなのか。

俺はそのまま日本語のある個所へと飛ぶ。

 

 

■月■日

ポルポが猫と遊んでいた、猫は本気で逃げようとしていた気がする。

―――――――――――――――,―――――――――――――――.

初めて奴と対話を選んだが、そこに言葉はなかった。

 

 

■月■日

勝手に俺のテリトリーに入ってきては荒らしていく。

死ねばいいのに。

―――――――――――――――――――――――――.

――――――――――――――――――――.

 

 

「スカルのテリトリー?…死ねばいいのにって…何があったんだ…」

俺の言葉に隣のユニが不安そうに顔を曇らせた。

ここから数日間程開き始め、俺はページを(めく)る。

 

■月■日

奴は現れない。

 

 

日本語のみで書かれたものがポツリとあり、俺はその文から視線を逸らせずにいた。

現れない……奴……自分……

繋がりそうで繋がらず、俺は違和感を覚える。

狂人であってもう一人の人格が現れなくなったことが、先ほどの「死ねばいいのに」と関係しているんだろうか…?

 

■月■日

もう数週間になる、奴は現れない。

ポルポが烏と遊んでいた、後で口の端から黒い羽根がはみ出していたので食べたのかもしれない。

―――――――――――――――――,―――――――――――――.

―――――――――――――.

――――――――――――――――――――――――.

 

 

■月■日

奴は現れない。

少し、寂しいのかもしれない。

―――――――――――――――――――――.

――――――――――.

 

 

■月■日

やっぱりあの時死ねばよかった。

そしたらきっと俺は嫌な思いをしなくても良かったのに。

――――――――――――――――――――――――.

 

 

その文字の羅列へと視線が流れ、ピタリと指が止まった。

嫌な汗が俺の背中を伝うような気がする中、じとりと汗を含んだ指で押さえていた文字が僅かに滲みだす。

 

「沢田さん、何て…書いてあるんですか?」

 

ユニが俺の様子に気付いて尋ねてくる。

俺はそのままをユニに教えると、ユニはこれでもかというほどの不安を露わにし唇を震わせた。

 

「あの時って……」

 

俺の中では、(おびただ)しい血が額から流れ出しぽっかり空いた胸元の風穴から命が零れ落ちるような、あの恐ろしい光景が脳裏を過ぎっていて、恐らくユニもそうなのだろうと分かるほど顔が青褪めていた。

死ねばよかった……なんて、何でまたそんなこと考えてんだよっ…

俺はくしゃりと顔を歪ませては、自分の不甲斐なさに唇を噛み締める。

今すぐ日記を閉じてスカルを探したい衝動に駆られるが、視界の端に少し後の日付の場所に日本語で書かれている個所が目に入り、文字を読む。

 

■月■日

もう奴を待つのはやめた。

 

 

日付はここ最近だ。

もう奴を待つのはやめた………?

嫌な予感がする。

何だか……取り返しのつかないような嫌な予感が……

 

me(自分)』が近づいてくる

追ってくる

いつも隣にいる

テリトリーへの侵入

死ねばいいのに

もう現れない

寂しい

あの時死ねばよかった

 

meというのが狂人だった頃の人格だったとしたら

今も尚地獄だった日々を忘れられず囚われているのだとしたら

その人格を拒絶して、でもそれもまたスカルの一部であったと気付いた…

だから寂しくて、死にたくなったのだとしたら

 

『もう奴を待つのはやめた』

 

待つ必要がなくなったのだとしたら――――……

 

 

「ユニ、スカルを探そう」

「さ、沢田さん!?」

 

最悪な事態に思い至ってしまった俺は日記を閉じて、ユニの返事も聞かずに部屋を飛び出した。

家の周辺を探したけれど姿は見つからず、俺は胸の内に広がる不安に焦り出す。

 

間違っていてくれ…

スカルがまた命を捨てようとしていると思っているなんて……何かの間違いであってくれ!

 

すると、少し先で獣の咆哮が聞こえた。

俺は直感的にそこにスカルがいるような気がして、直ぐに飛び立つ。

限界まで炎の出力を上げて向かった先には、背丈の大きな熊がいまにもスカルを殺そうと爪を振りかぶっていた。

 

「スカル!」

 

俺ははち切れんばかりに叫んだが、スカルはただ茫然と立っていた。

まるで、その爪が自身の体に深々と突き刺さるのを待ち望んでいるかのように、佇んでいた。

ダメだ、ダメだ!お前はここで死んじゃダメだ!

 

生きることを諦めちゃダメだ!

 

気付けば俺はスカルを抱きしめていた。

力の加減なんてそっちのけで精いっぱい抱きしめていた。

漸く我に返った俺は背後で気絶する熊を見て、自分が熊をぶん殴ったことをぼんやりと思い出す。

ぼんやりとしか思い出せない程俺は切羽詰まっていたんだと思うと、今になって心臓が動き出したかのように体中の血流が激しくなる。

呼吸が安定するまで待つことも出来ず、息が切れたまま俺はスカルに無我夢中で叫んだ。

 

「お前がっ…死んじゃうと思って………何よりも、怖かった!」

「なぁ!分かるかよこの気持ちが!………お前が死んじゃうことが……死ぬほど怖いんだよ‼」

「分かれよ!………分かって…くれ、よ……お前はもう一人じゃないんだよ!」

 

「お前が死んで、悲しむ人が……沢山いることくらいっ………分かれよ馬鹿野郎‼」

 

自分でも抑えきれなかったんだ。

みっともなく泣きたかった。

どんなに心配しても、自分の命がどれだけ重いのかこれっぽっちも分かってない目の前の小さな小さな子供に、俺は叫んだ。

 

「もう……これ以上心配させないでくれ………」

 

喉から絞り出した声は掠れていて、目の奥が熱くなっていくのが分かる。

腕の中にある体温が生きていることを証明していて、どうしようもなく嬉しくて、どうしようもなく苦しかった。

気付けばユニが嗚咽(おえつ)を漏らしながら直ぐ傍にいた。

あれからどうやって家まで帰ったかはぼんやりとしか思い出せない。

ユニの嗚咽と、温かい体温と、日差しと、それと………

時計の針が日を跨ぐ少し前を指している頃、ソファに座りながら今日の出来事を思い返していた。

あの後夕飯を作って、お風呂に入って、スカルから目を離すのが怖くて泊まることになって、何だか色々あり過ぎて疲れが一気に体にきたのかソファから動けずにいる。

指一本すら動かすことが辛い。

ユニは既に空き部屋で寝ていて、灯りが一つしかついていないリビングは仄暗く、静寂が漂う。

リボーンはボンゴレ本部で色々用事が出来たとか言ってまた出かけて行っちゃったし………

一つ大きなため息を吐いた俺は膝に力をこめてなんとか立ち上がり、ベッドのある空き部屋へと歩き出す。

途中でスカルの部屋の前を通り、少し気になった俺は部屋のドアを少しだけ開けば、中から小さな寝息だけが聞こえた。

ドアを開いた隙間から僅かに見えた机の上のノートにドアを閉めようとしていた手が止まる。

少しノートの位置が変わっていることに気付き、今日のことも書いたのかと思って、好奇心に負けた腕がノートへと伸びた。

最後の日付までパラパラとページを捲れば、今日の日付が付け加えられている。

文字の羅列に視線を流しては、目を見開いた。

目の奥が熱くなり、鼻の奥がツンとしてくる。

そして頬を伝う温かい液体がノートにつかないようにノートを閉じて机の上に置き、部屋から早足で出ていった。

 

 

俺はこの時、初めて報われたような気がした。

 

 

■月■日

―――――――――――――――――――――――――.

――――――――――――――――――――.

―――――――――――――――――――,―――――――――――――――――.

騒がしかった。

騒がしいしうるさい。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――.

――――――――――.

生きててよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Side

 

そこは薄暗い部屋の中、キーボートを押す音が響く最中錆びついたドアが気味の悪い音を立てて開く。

決して上質とはいえないソファに座り込んだ人物が、元々部屋にいた人物へと声を掛ける。

 

「おやおチビ、何をしているんです?」

「あ、ししょー、ゲームですー」

「この前ゲーム中毒になりかけてパソコン自体壊したのに…一体どこから……」

「ヴェル公から奪い取ってやりましたー」

「まぁそれなら壊しても構いませんね」

「横暴だー!」

 

三叉槍(さんさそう)で射られそうになるパソコンを抱えて逃げ回る子供の姿は微笑ましくあるべきだが現実は非情、中々物騒である。

槍から逃げ切った子供はパソコンを開き、画面を眺めた。

 

「あーあーこの前ししょーが壊したせいで折角のライバルがいなくなりましたー」

「ライバル?ゲームのですか?くだらない」

 

鼻で笑う青年に対して舌打ちをする子供は、画面に表示されるゲーム画面のとある部分を見る。

ランキングと書かれた表示欄の上位に探している名前はなく、数か月前のことだからいなくても不思議じゃないかと理解しながらも落胆を隠せない。

何故か日本語特有のひらがなの名前であったが国籍はイタリアという訳の分からないプレイヤーだったなと思い返す。

一度チャット申請が来たから許可したが、こちらのマイクが故障していて始終無言だったのは今でも覚えていた。

多分相手はコミュ障ニート野郎なんだろうと思っているが、憶測で決めつけるのもなぁ…と思いながら希望の薄い再会を望んでいる。

 

「気に入ってたんですけどねー……」

 

 

「すかる」というキャラ名のプレイヤーを探すことを諦めた少年、フランはパソコンを静かに机に置くと頬杖をつくのだった。

 

 

 

 




スカル:日記をつけた、しかしそれもSAN値チェックの元凶となる。

ポルポ:イタリアの漁業を壊滅へと追いやる元凶。

ツナ:日記でSAN値チェックされたが減少なし、その後熊に殺されかけるスカルを見てSAN値チェック失敗、残念でした、一応当日の日記でSAN値回復。

ユニ:日記でSAN値チェック失敗、その後熊に襲われたであろう光景を見てSAN値チェック失敗。

フラン:スカルの本性を間接的に見抜いてしまった少年、しかしスカルとの面識がないのでコミュ障ニート野郎(仮)である「すかる」=マフィア界を震撼させた狂人「スカル」の方程式が出来上がることはない。


スカルの愉悦日記の回でした。
日記の内容はほぼ最初のスカル視点に詳細が書いてます(笑)

■月■日
奴(のスコア)はいつだって(ランキング欄で)俺(のスコア)の隣にいる。
■月■日
初めて奴と対話(チャット)を選んだが、そこに言葉はなかった。
■月■日
(リボーンの野郎が)勝手に俺のテリトリー()に入ってきては荒らしていく。
(リボーンが)死ねばいいのに。
■月■日
やっぱり(連戦してHP無くなった)あの時(パーティー抜けるために)死ねばよかった。
そしたらきっと俺は(喧嘩のとばっちり食らうことなく)嫌な思いをしなくても良かったのに。
■月■日
もう奴を待つのはやめた(他のゲームしよ)。



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skull 番外編5

現在俺は日本にいる。

理由は至ってシンプル、気になっていたゲームソフトが日本限定でしか発売されていなかったからだ。

この時代にまだ通販という手段が世界的に普及していないので、現地に向かわざるをえなかった。

ポルポのお口の中で海を渡ること数時間、漸く日本列島の港に到着することが出来た俺は、目当てであるゲームソフトの在庫があると確認出来た並盛という場所へ向かっている。

以前日本に来た時も並盛という場所だった気がするなぁと(おぼろ)げに思い出しながらポルポと共に町中を歩いていて、少し先にある横断歩道の点滅する青信号を眺めながら立ち止まる為に歩幅を遅らせた。

赤信号へと変わったのを見送ると、数台の車が煙を吐き出しながら走り始める。

近くを歩く小学生に背負われた黒光りしているランドセルや、電柱に貼られている広告のチラシを見ては日本だな…と少し懐かし気に思った。

青信号になったところで、消えかかっている横断歩道の白線を踏むように大股で歩こうと試みては失敗しながら最後まで渡り切った俺は、目と鼻の先にあるモールを視界に入れる。

 

「あれ?スカル君……ですか?」

「え?スカル君?」

 

自分の目的地がこのモールのどこかにあることは確かなので、正面玄関付近に設置されている案内板を探そうと自動ドアを潜り抜けたその時、どこかで聞いたことがあるような快活な声とお(しと)やかそうな声が耳に届いた。

俺がそちらに目線を受けると目線の先にいるのは女の子二人で、どこかで見たことあるような顔ぶれだ。

………誰だ。

何となく目の前の女性二人に関する記憶が朧気ながら浮かんでくる。

ゲーム譲った子と公園…いや川岸かな、そこで喋った子だと思うんだけど…間違ってたらどうしよう。

 

「はひ!?京子ちゃんもスカル君のこと知ってるんですか!?」

「ハルちゃんも知ってたの?偶然ね」

 

二人が和気あいあいと喋っている間でポツンと取り残されてる俺の空気感……会話は俺のことなのに。

このまま何も言わなければこいつら立ちながら一時間は喋り続けるんじゃないだろうかという勢いで喋っているわけだが、この場から抜け出したい。

そう思っていると黒髪の……ハルという女の子が何故ここにいるのかを聞いて来たので短く買い物、とだけ呟いた。

 

「スカル君はショッピングというわけですね!ハルもご一緒したいです!」

「私達もついていっていいかな?スカル君」

 

あれれ?

何で?普通ここで手を振ってバイバイで終わらない?

まあ女性の誘いを断るのは申し訳ないし、何よりも断った後が気まずいので首を縦に振ったところ、二人は笑顔で質問攻めしてきた。

日本には旅行に来たのか、親御さんはどうしたのか、何を買いに来たのか、日本が好きなのか、終わりの見えない質問攻めに既に気力がごっそり削がれた俺は小さくなったポルポにひっつきながらモール内を歩き出す。

一応案内板からして二階にありそうだということは分かったので、上の階に行くことだけ教えると、女子二人はエスカレーターのある方角へと向かう。

エスカレーターで二階へ着くと、俺はゲーム関係の店を探し始めたが、途中でトイレに行きたくなり二人を椅子のある場所で待たせて一人男子トイレへと向かった。

ポルポを男子トイレの前に待たせて、さっさと済ませようと子供用の便器を使おうとした時、遠くの方で何かが破裂する音が聞こえる。

 

「スカル」

 

風船か何かが破裂したのだろうかと思いながら手を洗おうとしたら、ポルポがトイレに入ってきて俺に声を掛けてきた。

 

「どうした?」

「今の銃声、危ないから帰ろう」

 

……………ぱーどぅん?

 

一拍して、外の方から多くの悲鳴が聞こえたところで俺は漸くポルポの言葉を理解した。

あれ?日本ってこんなに物騒な国だったっけ?

銃声……立て籠もり?それとも無差別…?

悲しいかな、リボーンのせいで銃声を聞き慣れている俺は、瞬時に避難ルートを頭の中で叩き出し、んじゃ逃げますかと思い立ったところで足を止める。

京子ちゃんとハルちゃんを思い出して、一人で帰れないことを悟った。

二人とも今どうしてるんだろう、俺のことを探し始めてたら申し訳ないし……一応合流するのが妥当かなぁ。

バタバタと沢山の逃げる足音と、数名がトイレに駆け込んでくる様子におどおどしながら人混みを縫って外に出ようと試みたその時、再び大きな聞き慣れた破裂音…否、銃声が響いた。

 

「誰も動くんじゃねぇぞ‼逃げても無駄だ!階段は閉鎖してあんだからなぁ!」

 

男の人の野太い声が聞こえる中、トイレで騒いでいた人たちが一旦静まり、次に恐ろしくなったのか震えだす。

大人は無理だが子供である俺ならトイレの小さな扉から出ることは出来るんだよなぁ…あー、逃げてー。

 

「おい早くこっちに来いっつってんだろ!殺すぞ!」

 

野太い怒鳴り声と共に数発の銃声、そして大勢の悲鳴が聞こえる中、俺はトイレから少しだけ顔をだして近くにあった植木鉢の陰に隠れる。

観葉植物の隙間から銃声と犯人のいる方向を覗いてみると、案の定この階の買い物客や店員が一箇所に集められているところだった。

この様子じゃあトイレも見回りが来るんだろうなぁと思った俺は、隠れる場所を探す為に見える範囲で見渡す。

四階まであるモールは真ん中が吹き抜けで一階が見渡せるようになっていて、真ん中の吹き抜けを通り越した向かい側にファッションコーナーが広がっていた。

比較的隠れやすいと思った俺は忍び足でそちらへと走りだす。

背後からポルポがついてくるが、ポルポをどこに隠そうか……いやここはぬいぐるみとして振る舞ってもらえればなんとかなるか?

まあバレてもポルポなら大丈夫だろうとは思うが。

 

「!…ポルポ、こっち来い」

 

ブーツの駆ける音を聞いて、衣類が仕舞われている引き出しの中にポルポと共に隠れると、カツカツと足音が店内を彷徨っている。

隠れてる人を探してるのかな?

 

「トイレの方は全部調べたか?」

「ああ、にしてもこれから人質は全員地下のホールに連れて行くんだろ?」

「人数は三百ちょいか…まあまずまずだろ、どのみち全員殺すだけだ」

「さて、と……一応ここまで爆発の範囲内だし、行くか」

「ああ」

 

ん?今なんて?爆発の範囲内?

そそくさと足音が段々と遠ざかっていく中、俺は嫌な汗が背中からぶわりと浮かび上がり引き出しを開け外に出ようとした。

 

刹那、耳に衝撃が伝わる。

 

「!?」

 

いきなりクラッカーを耳元で当てられたような衝撃に驚くが、自身に何の衝撃もないこと気付き目線を上げれば、ポルポが俺を衝撃から庇ってくれたことが分かった。

俺のペットが有能すぎる件について。

ガラガラとコンクリートが崩れる様子から見るに、隣の店で爆弾が爆発でもしたのだろうか。

俺が隠れていた引き出しは位置がかなりズレていて、部屋の中央にあったはずなのにいざ外を見ると部屋の隅まで移動していた。

それほどの衝撃があったのか。

 

「ポルポ、近くに人いるか?」

「……人はいるけど、生きていない」

 

おおう、初っ端からヘヴィ。

今更ながら怖くなってきた、逃げたい。

でもあの子達が……マジでどこにいったんだろうあの子達。

取り合えず人質が連れていかれた地下のホールとやらに行って彼女達がいるかだけ確認しよう。

いなかったら悪いが帰ろう……命、大事に。

 

「ポ、ポルポ……地下のホールを探そう……あの子達がいるかもしれない」

「助けるの?」

「……」

「逃げようよ」

「………でも…」

 

警察に任せればいいじゃないか。

待て、警察に任せて済んだことが今までにあったか?

でもここは日本だ。

イタリアと違って警察は優秀かもしれない。

じゃあ警察に頼んで俺はイタリアに帰る……?

でも……

 

ん?待てよ。

京子ちゃんとやらは綱吉君の友人じゃあなかったか?

それってもしも俺が彼女達を見限って先に逃げることがあったとして、彼女達が運よく生き残ってそれが綱吉君にバレると仮定しよう。

綱吉君にバレる=リボーンにバレる=死

あ"あ"あ"あ"あ"あああァァァァァ

 

「助けなきゃ…」

 

じゃなきゃ俺が死"ぬぅぅぅぅううううううううう

涙目でポルポに縋れば、ポルポは何も言わずに頷いてくれた。

これは何としてでも助けなければ。

勿論ポルポがな!(集中線)

鉄の匂いと壊れた壁の埃っぽさが鼻を掠め眉を顰めた俺は、ファッションコーナーから出て吹き抜けから上の階と下の階を順に見ていく。

下の階の人は誰もいなく、既に連れていかれたのが分かる。

上の階は二階と同様爆発されたのかパラパラとコンクリートの破片が降って来た。

視界の範囲内で人は見えず、それなら階段か非常用階段で移動しているかもしれないと思い、二階の廊下にある案内板を見て地下のホールの位置を確認する。

地下のホールに行く階段は一つしかなく、エレベーターも一つのみ。

なるほど、警察の挟み撃ちを防ぐために出口の少ない地下を選んだのか。

現在位置は東側施設におり、地下への階段は西側階段だけであることに気付き、反対方向かよ…と独り言ちる。

 

「ポルポ、行こう……」

 

俺は煙たい廊下一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「ごぎゃっ…」

 

小さな虫を手の平で潰したらこういう悲鳴をあげるんだろうなと頭のどこかで思ってしまった俺は、遠い目をしている自覚がある。

何故なら目の前でポルポが銃を持った男たちを片っ端から投げ飛ばしたり腕をへし折ったり気絶させたりと暴れまわっているからである。

再起不能とまではいかずとも暫くは絶対に動けないなと思うほど犯人たちは地に伏せていた。

大きな音と共に壁に衝突した男性が地面に尻もちをつき意識を失ったのが分かると、俺はその場に立てる者が誰もいないことを確認する。

そしてなんとも思っていないであろう呑気に足をくねらせている自身のペットを見て、生態系としてどの位置にいるんだろうという疑問を浮かばせざるを得なかった。

因みに現在俺は西側階段の一階にいて、目の前には地下への階段がある。

途中途中で見張りがいたが、お察しの通りポルポが俺の視界に入る前に駆除してくれた。

最初は音がしたら人が倒れているという謎事態に困惑したが、流石にそれが何回も続けば慣れてくるというもので……そういえばこいつ俺とユニ除いたアルコバレーノ達に対して多対一でほぼ対等に戦ってたわーと思い出したりして納得する。

俺のペットまじ有能。

地下への入り口は爆発の影響で瓦礫によって塞がっていた。

ファッションコーナーでの男たちの会話を思い出して、ああ…生かして帰すつもりないんだったと一人納得しては瓦礫の隙間を潜って侵入していく。

赤ちゃんだからこそできる芸当だなぁと思わなくもないが、地下以外にいた見張りはどこに逃げる予定だったんだろうか。

正直地下にいる犯人たちは無理心中的な感じで人質諸共あの世逝きコースを選びそうな気がしてならない。

ああー怖いなー……でもリボーンの方が何十倍も怖いなー

なんせアイツ俺のこと十数年も忘れずに殺そうとしてたやつだからな。

少し歩けば分厚い壁があり、コンサートホールの防音式の扉だと分かった俺は、ここに皆が入れられていることになんとなく気付き、二階席に行く為の階段を探す。

階段をあがり右方向にぐるりと回っていけば途中で扉があり、勿論途中で出くわした見張りはポルポが張り倒していった。

扉をゆっくりと開けて入ると、俺の身長的にどこからも俺の姿が見えないことに気付く。

ポルポに頼んでそっと体を持ち上げてもらい下を覗けばステージに男性が二人、各所に6人、そしてざっと見た感じ三百人の人質がいた。

 

「スカル、いた……あっち、扉の近く」

 

ポルポの言葉に俺は視線をそちらへ向けると、探していた二人を見つけた。

あーあーやっぱり逃げられずに捕まってるよチクショー…

本格的に助けなきゃいけなくなったなぁ。

変な方向で落ち込む俺はもう一度ホールから出て、外に待機している見張りを片っ端から見つけてポルポに倒してもらう。

あと残っているのは中で待機している8人の犯人たちだけということを確認してから、警備室に向かった。

 

「照明といえばこっちかな…?」

 

勘で辿り着いた警備室に照明ボタンやらなんやらがあり、隣に鍵穴がある。

ボタンを連打しても作動しないことから多分この鍵穴に鍵突っ込まないと無理ってことになるな…

近くを見渡してもなかったので、テーブルの下に置かれていた工具入れを発見した俺は中からアイスピックを手に取り鍵穴に突き刺した。

どうせ犯人たちがやったと思われるので俺はノーカン、ノーカン!

鍵穴ごと装置カバーを引きはがし、露わになった中身をじーっと見つめること数秒、多分これかなという軽い気持ちで赤いランプの付いた細い突起を下に下げればランプが黄色に変わり、先ほどまでうんともすんとも言わなかった照明ボタンが黄色く点滅し始めた。

操作可能になったところで俺はポルポに声をかける。

 

「ポルポ、照明消すからそのうちに銃持ってる奴等倒せるか?」

「できる」

「分かった、じゃあこれから消すから二階席の方で待っててくれ」

「分かった、ここのドアの鍵…掛けて」

 

もし誰かが来た時スカルが危ないから、と言い残してその場を離れるポルポの言葉に従って施錠して、ポルポが二階席に行くまで待つことにする。

そんな時だった。

背後からドアノブが回るぎこちない音が聞こえた。

俺は今何が起こったのか分からず固まっていると、一拍した後背後のドアが何度か音を立てる。

我に返った俺は後ろを振り向いてみれば、ドアノブが左右にガチャガチャと軋んでいて、しまいには蹴られているのか鈍く大きな音が鳴り響く。

鍵を掛けといてよかったけど相手は銃を持っていると思い出して、冷や汗を浮かべる。

一歩後ろへ下がれば背中にひんやりとした壁が当たり、頭上には先ほどの照明ボタンが見えた。

警備室のガラス窓から見える二階席に見慣れた足が見えた瞬間すぐさまボタンを全部押して、自分は近くのロッカーに隠れようと試みたが、行動に移す前にドアの向こうから銃声が鳴り響き勢いよくドアが開く。

 

「くそがっ、そこにいやがるのは誰だ!」

 

凄まじい形相の男性が部屋に入ってきて、俺は隠れることも出来ないまま立ち竦んでしまった。

目の前の男と視線が交差すると、男の眉間は先ほどよりも深く皺を刻み俺を睨みつける。

 

「あぁ!?ガキだと!?ふざっけんなよ!おい、てめぇ!一緒にいた奴はどこいった!?」

 

銃口を頭部に突きつけられて固まる俺氏、何を言っていいのか分からない上に喉が引き攣って声が出せないでいる。

相手は俺が照明を消したことに気付いておらず、子供の俺を比較的安全かもしれないここに置いていったと思い至ったらしい。

 

「教えねーと殺す!今すぐ殺す!」

 

赤ちゃんが喋れるわけないだろ!という常識を、常識に当てはまらない俺が説こうにも喋った時点で常識ではなくなるから何も言えない。

あれ?これ俺詰んだ?

いまさらながらポルポと分かれたことを後悔した俺に迫るバッドエンドを幻視しては、これ何回死を覚悟せにゃならないんだと少し理不尽に思ってみる。

男が銃の引き金に指を掛けたその瞬間、俺は目を瞑った。

 

「…………?」

 

だが予想した衝撃は何一つ来ない。

しかし次の瞬間俺の顔に鉄臭い液体が大量に降り掛かって来た。

 

「ぷぇっ……」

 

変な声出た。

口と鼻の中に入った液体を吐き出しながら、目を擦って開いてみるとそこにはポルポが一匹がいた。

否、ポルポしかいなかったのだ。

 

「……ポルポ…?」

「うん、スカル…帰ろう」

「お、おう……?待て、さっきここに男がいただろ?」

「逃げた」

 

な、なるほど……?

ポルポって見た目だけ見れば怖いもんな…そりゃ逃げる、か?

なんか釈然としないまま警備室から出て、地下の廊下を歩いていると途中で小さな鏡が壁に取り付けられていて偶々鏡に映る自分気付き硬直する。

顔が全て真っ赤になっていて、髪も所々赤くなっていた。

あれ?俺どこか怪我したっけ?

体をあちこち探るが痛みはなく返り血だと判断するが、誰の?となった俺はふいに銃口を向けてきた男を思い出して、ポルポが男を怪我させた際にその血が俺の顔に当たったのかと思い至る。

だから逃げたのか……

 

「ポルポ、逃げた男…」

「さっき怪我させた、だから何も出来ない」

「なら帰るか」

 

多分両腕か両足折ったなこいつ…と思った俺はポルポと共に来た道を帰っていく。

こんな姿じゃ二人に会うことも出来ないなぁ……

血まみれの顔と髪を見られたら事情聴取まっしぐらな上、密入国がバレる為、誰にもバレずに帰らなければいけないのだ。

幸い警察はまだ到着していなくて、なんたるスピード解決!と自画自賛したが正直ほとんどがポルポの功績だと気付いて空笑いする。

モールの外は野次馬だらけだったが地下水道から出ていった俺は誰にも見られることなくそのまま海へと向かい、ポルポと共にイタリアに直帰した。

ポルポの口の中で海を渡っている最中、ふと本来の目的であるゲームソフトを思い出してはかなり落ち込み少し泣いた。

 

ああ、今日はとんだ厄日だった。

 

 

結局これ誰がやったとか分かっていないわけで、リボーンからしてみれば俺があの子たちを見捨てたように見えるだけじゃね?と思い至り、数日家のチャイムに怯えることを今の俺は知らない。

 

 

 

 

 

 

笹川京子Side

 

 

どうしてこんなことになったんだろう。

 

「おめぇら!動いたやつから殺していくからな!女子供関わらずだ!」

 

男性の怒鳴り声がするたびに震える自身の心を少しでも落ち着かせるために、両手を胸に添えて深呼吸する。

大丈夫……大丈夫……

何度も自分に言い聞かせるように呟きながら、隣で震えるハルちゃんと離れないように体を寄せあう。

怖い……けど、それよりも……スカル君が心配……

 

「何処に行ったのスカル君っ……」

 

 

 

 

銃声が聞こえたのは、スカル君がトイレに行って数分もしない内だった。

いきなり近くから何かが破裂するような音がして、私達は同時にどうしたのかと音の元へ視線を移しては目を見開いた。

そこには顔をマスクで隠した男性が銃を持っていて、その男性の足元には一人の女性が倒れていたのだから。

私は驚いて悲鳴をあげたけれど、それは周りも同じで、すぐさまそこは阿鼻叫喚となった。

倒れる女性に駆け寄ろうにも直ぐ側で直立している男性が怖くて近づけず、咄嗟にハルちゃんの手を握ってしまう。

ハルちゃんがいち早く我に返って、私の手を引いてその場を離れようとしたけど、再度銃声が鳴り響き男性の怒号が鼓膜を震わせた。

 

「誰も動くんじゃねぇぞ‼逃げても無駄だ!階段は閉鎖してあんだからなぁ!」

 

その言葉を飲み込むまで数秒掛かった私は、意味を理解して顔から一気に血の気が引いた感覚に襲われた。

足が震えてうまく動かないし、ハルちゃんが耳元で何か言ってるけどそれすら聞き取れない。

怖い……

沢山の人の悲鳴が、血しぶきが、銃声が、激しく鼓動して張り裂けそうな心臓をさらに叱咤するようで、苦しさのあまり目の奥が熱くなった。

ツナ君達のマフィア同士の戦いに巻き込まれた時も怖かったけれど、あの時はツナ君が隣にいた、側にいて守ってくれたから……だから信じてこれた。

でも、今ツナ君は側にいない。

 

「おい早くこっちに来いっつってんだろ!殺すぞ!」

 

銃口を突きつけられて怒鳴られたそれに従うように、人が集められている場所へ連れていかれる。

座れと命令されて座ったところで、ハルちゃんが不安そうに辺りを見渡していることに気付く。

 

「どうしましょう……スカル君いません…」

「‼」

 

そうだ、今この場には私やハルちゃんよりもひ弱な存在がいるのだ。

まだ赤ちゃんのスカル君がトイレで怯えているのかもしれないと思うと、自分が怖がっている場合ではないと悟る。

でもこの状況でスカル君を探すことも出来ないし、どうすれば……

そんな私の不安を他所に銃口を突きつけられた人たちは近くにあった階段を降りるように命令され、降りたところで長い廊下を歩かされた。

一体どこに向かっているんだろう。

モールの突き当りでさらに階段を降りるよう言われ、私達は地下へと降りた。

降りた先には大きな分厚い扉が見え、そういえば地下はコンサートホールになっていたんだっけ…と思い出しながら重たい扉を潜る。

中へ入ると他の階にいた人たちが集められていて、老若男女問わず皆泣きながら身を寄せ合っていた。

私達で最後だったのか、ステージに一人の男性が現れ銃口を天井へと向け一発撃つ込む。

銃声で悲鳴をあげる人たちに向かって銃口を向け、黙れと怒鳴り散らした。

 

「お前たちは人質だ、政府と交渉し政府が取引に応じたならばお前たちを逃がしてやる」

 

何だか映画の場面のように見えて、全然現実味がしなかった。

でも身の内を蝕む恐怖がそれは現実だと訴えているのだ。

何度か会場内を見渡し、目を凝らしてもスカル君の姿は見えない。

 

「あ、あの…」

 

私が近くにいた銃を持った男性に声を掛けると、すぐさま銃口を向けられた。

ハルちゃんが息を飲む音が背後から聞こえる。

 

「子供が……トイレに行ってたんです……せめて迎えにいってはダメですか?」

「子供…?無駄無駄、一階から四階まで今しがた爆弾を作動させた、生きちゃいねーだろうよ」

「そ、そんな!」

「それより早く元の場所に戻れ、その女と一緒に撃ち殺すぞ!」

 

そう言って男性はハルちゃんにも銃口を向けてきて、私はハルちゃんを庇うように両手を広げて唇を噛みながら座り込んだ。

 

「スカル君……どうしよう…」

「ぜ、絶対生きてますよ……ぜったい……」

 

ハルちゃんの覇気のない声だけが私の鼓膜を震わせた。

 

 

どれだけ時間が経ったのか分からないまま、私達は恐怖で震えていた。

怖いけど、スカル君の無事を祈るしかなくて、自分達では何も出来ないんだと悲しくなる。

早く警察が助けに来て、スカル君の無事を聞きたい……

だって、私はあの子の最初の友達なんだものっ

鼻の奥がツンとして、目の奥が熱くなった私はどうにか泣き出さないように唇を噛んで堪える。

 

「京子ちゃん」

 

落ち着かせてくれるような優しい声に顔をあげれば、ハルちゃんが今にも泣き出しそうな顔で私の手を握る。

 

「大丈夫…大丈夫ですよ、京子ちゃん」

 

まるで自分に言い聞かせているみたい…

そう思いながらも、確かに泣きたくなるほど重かった心が少しだけ軽くなった。

私は涙の溜まった瞼を人撫でして、湿った指で拳を作り握りしめる。

 

その時だった。

 

いきなり目の前が暗くなり、私は一瞬何が起こったのか分からず硬直してしまう。

次に聞こえたのは何かが風を切る音と、液体を床に零したような音だけが鼓膜を震わせた。

急な暗闇に何も出来ず、周りは密かに悲鳴を飲み込むことしか出来ないでいる。

子供や赤子の鳴き声がひしひしと伝わってきて、銃を持った人たちに撃たれてしまうと恐怖した。

しかしいつまで経っても銃声は聞こえず、男の人達の声も聞こえず、暗闇だけがその場を支配している。

 

「……どう、したんだろう…」

「な、なんだか……静かすぎません?」

「うん……」

 

可笑しな状況ではあったけれど、それよりも勝手に動いて撃たれてしまうことが怖くて動けなかった。

震える肩を必死に押さえ付け、ハルちゃんの右手を握りしめたまま闇が遠ざかるのを今か今かと待っていた。

どれくらい経っただろうか…

10分、いや…15分…私にとってとても長い時の中を暗闇で縮こまっていると、いきなり扉が勢いよく開くと共に眩い光が視界を一面真っ白にする。

 

 

その後の記憶は曖昧であまり覚えていないけれど、次に目を覚ました病院で私達は警察に助けられたのだと教えられた。

ただ、どうしてあの真っ白になった光景の先を覚えていないのかが思い出せず、私達は極度の緊張状態から抜け出したことでその時の記憶がすっぽり抜けてしまったのではないかと医者に言われて、そうなんだとしか言えなかった。

 

「ねぇ京子ちゃん…」

「どうしたのハルちゃん」

「私……あの日のことうろ覚えでしか思い出せないし、最後の方に至っては全然思い出せないんですけど」

「うん」

 

「何だか……凄く…怖かったと…感じてたんです」

 

私がハルちゃんの言葉に何も言い返せなかったのは、恐らく、私もそう感じたからだ。

何故かあの日のことは朧げにしか思い出せていない。

ハルちゃんと買い物にいって、誰かを待っていたような気がして……地下に閉じ込められて…、白い光景を見たところでブツリと途切れている。

白い光景の先にあったもの……

私達はあの時、何かを見たのだ。

 

「うん……私も…怖かった」

 

 

ただそれが何だったのかを知りたいとは…とても思えなかった。

 

 

 

 

 

 

―――Side

 

 

 

「その場の人間全員の記憶を消してくれたことは礼を言うぜ」

「今回だけですよ…にしても、随分派手にやったようですね…彼」

 

男が二人、赤いカーペットの上に佇んでいた。

片方が階段に敷かれたカーペットの上を一歩上へと進むと、ぐっしょりと雨に濡れた後のように、靴底に気持ち悪さを残す感覚が刻まれる。

何かを吸ってそこは濡れぼそっているのだ。

しかし赤いカーペットには何も見えはしない、否、表面にこびり付く僅かな赤黒い色はカーペットをはみ出し地面を侵食していく。

鉄臭さが鼻を掠めるも男は眉一つ顰めることなく、目の前の光景を見つめる。

 

()()()の記憶を見る限り、一人…足りませんね」

「……」

 

男はもう一歩上へと進む。

靴の裏はびっしょりと濡れていて、カーペットの乾いた箇所で液体を拭うように足裏を擦りつけながら引き()った。

もう一人は動かず、スポットライトがぽつりと一つだけ照らされている舞台上へと視線を移す。

スポットライトが照らしているのは勇敢なる主人公でも、悲劇を演じるヒロインでもなく、

 

 

物言わぬ首が二つ――――。

 

 

また視線を横に移せば、首、首、首、首、首。

胴体と別れを告げた物言わぬ五つの首だけがカーペットの上に転がっていた。

首といってもいくつかは脳が飛び出て、いくつかは鼻を境に右半分がない。

グロテスクという言葉で表現出来ぬほどの残酷な光景に、嘔吐感が込み上がらないのはその男がそれなりの場数を踏んでいたからだ。

 

「僕の幻術を行使している間に掃除お願いしますよ」

「分かっている」

 

階段を上っていた男は重苦しい防音の扉をゆっくりと音を立てて開けていく。

 

「ああ、残り一人……警備室だと思っていましたが当てが外れましたね……あと、これ以上の捜索は僕でも御免(こうむ)りますよ」

 

男は一歩踏み出し、その場を離れていく。

 

「流石にどこぞの化け物の腹の中を裂いて探し出すのは骨が折れますので」

 

 

扉がゆっくりと閉まり、まるでこれ以上立ち入ってはならないと警告するかのように、錆びついた音だけがその場に響き渡る。

中で佇む男もこれ以上ここにいても意味はないと思ったのか、(おもむろ)に懐から携帯を取り出すと共にその場を離れた。

 

「俺だ……ああ……掃除屋を送ってくれ……ああ、頼む」

 

通話が終わった男は警備室へ足を向け、鍵の掛けられていない警備室のドアを開いた。

警備室の真ん中には血だまりが一つ、そして血だまりから足跡が出口へと続いている。

男は警備室の監視カメラによる過去の録画を流し始め、ふと手を止めたかと思うと、消去と(デリート)いう文字を押してその日のデータを全て消していった。

ぽつりぽつりと次々画面が砂嵐を作っていく中、最後まで映っていた画面を見て男は初めて眉を(ひそ)める。

 

「何で……今になって……」

 

 

そこには紫色であったはずの髪を赤く染め、(いびつ)に口角を(ゆが)めている子供の姿があった。

 

 

「くそっ」

 

思わず右手で壁を強く殴り、鈍い音だけが密室の空間に響き渡る。

黒いハットを被った男の表情は誰にも見られることはなく、闇に消えていった。

 

 




スカル:笹川京子とは未来で会っている為こいつからしたら夢で会った人に入るが当然ながら本人はどこでどうやって会ったかなどほとんど覚えていないので笹川に対して不思議にすら思っていない、照明操作で鍵が必要だった警備室では試しに照明ボタンを押して本当に照明が消えたら待機している犯人が驚いて銃を乱射するという可能性を何も考えていなかった、単なるアホ。

ポルポ:MVP、正直こいつだけで良かったのでは……テロリストたちの胴体と首をバイバイさせた、スカルが見てなければかなりえぐいことをやっていくスタイルのクトゥルフ、因みにスカルを殺そうとした奴はポルポたんの胃の中。

笹川京子:生首を見たことでSAN値チェック→失敗、一時発狂による気絶のあと故意な部分的記憶喪失
三浦ハル:生首を見たことでSAN値チェック→失敗、一時発狂による気絶のあと故意な部分的記憶喪失

黒いハットを被った男:SAN値フルボッコ系ヒットマン、スカルが最後に空笑いしたところだけを録画で見てしまった不運な人、勿論SAN値チェックは失敗です。

クフフがなかった人:クフフがなかったのはSAN値チェックで発狂一歩手前まで削られちゃったから。

テロリスト:クトゥルフに出会ったのが運の尽き。


裏世界で狂人の再来とか言われたら面白いけど、この件に関してSAN値直葬系ヒットマンが頑張って隠滅すると思うので表にも裏にも出ることはない。


蛇足
最近体調不良が続いて投稿が遅れました。
連日に続く体調不良にむしゃくしゃして癒し系おにゃのこ達までSANチェックしたことは謝るが、後悔はしていない。
後悔はしていない。

あと多分明日から二週間ほどリアルが忙しくなるかもしれないので投稿が出来ないかもしれません、ご了承下さい。


↓↓落書き

【挿絵表示】


※上の落書きにヤンデレポルポを付け足したもの。

【挿絵表示】


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skull 番外編6

今日は久々にローマを散歩していた。

ほらやっぱずっと閉じこもってるのは体に悪いっていうか?

俺もそろそろ引き籠りは卒業しなきゃなって思ったりして……

嘘です。

リボーン達が正面玄関から来るのが見えた瞬間に裏口から逃げました、ごめんなさい。

もう条件反射の如くリボーンから逃げることが当たり前になった最近だが、久々に街に出た俺は見知らぬ道で迷子になっていたりする。

ポルポも置いてきてしまったが、頭と鼻の良いあの子のことだから俺のこと見つけてくれるって信じてる、うん。

それよりもえらい入り組んだ道に入ってしまったようで360度どこを見ても似たような住宅がある。

スラム街ではないけれど治安がとてもいいとは思えないその街路地で、(ようや)く開けた場所に出た俺は視界の端に小さな公園を捉えた。

申し訳なさ程度の砂場があるだけで、広さもない寂れた公園がポツリと住宅街の中に佇んでいる。

入口から整備されている芝生に足を踏み入れると、昨晩の雨水を吸った土が靴の裏で不快な音を立てたが、これといって気にしていない俺は赤いペンキが剥がれかけたベンチに座ろうと一歩踏み出した。

取っ手は錆びついており流石にそこに触りたくないと思い、比較的汚れていない場所に腰を下ろし公園を見渡す。

今頃家ではリボーン達が俺の行方を探っているのだろうかと思いはすれど申し訳なさは一切湧いてこない。

リボーン達というのは、他にちらっとだったが人影が見えたからで、恐らく綱吉君達ではないかと俺は思っている。

あいつらが来ると碌なことがないのは体験談からくるもので、毎回爆発やら破壊行動やら…挙句の果てに社会復帰支援という名の拉致で日本に連れていかれたことがある。

毎度綱吉君が謝っているのを見るとリボーンの独断で綱吉君も巻き込まれたんだろうが、何気に彼が満更じゃないことくらい俺は知ってるからな。

にしてもこの前の日本拉致事件から何故か皆が俺の所に押しかけてくる頻度が増えたような気がする。

正直うざいんだが、口にしたところであいつらが訪問回数を控えてくれる良心を持ち合わせていないことくらい分かっているので、不満は心の中で延々と呟くことにした。

日が傾いていくのが分かり、公園の中に時計がないことに気付く。

ポルえも~ん!

頭の中に頼りがいのあり過ぎるペットを思い浮かべてみるが、未だ迎えは来そうにない。

 

「スカル……さん?」

 

ふいに名前を呼ぶ声が耳に届き、俺は自分の泥が付着した靴に合わせていた視線を上げて、声のする方へと移した。

そこには黒のロングヘアの女性が立っていたのだ。

誰だ、コイツ。

そう思った俺は悪くない、だって微塵たりともこんな女性と知り合った記憶がないんだもの。

俺と目が合ったことで、俺=スカルの方程式が出来上がったのか知らんが女性はその場で呆然と突っ立っていること数十秒、ふと動いたかと思えば公園の中に入ってきて俺の座っているベンチの前で微動だにせず立ち尽くす。

なにこれ怖い。

目が死んでいるような気がしなくもない女性は目の下に色濃く残っている隈を(たず)えながら、どこか空虚な瞳で俺を覗き込んでいる。

 

「ああ、幻でも嬉しい……嬉しいんですスカルさん……私の前にあなたが現れたことがこの上なく幸せなんです」

 

恍惚(こうこつ)な表情で見つめる女性の両腕が俺に伸びてきたが、俺はそれが怖くて、というよりも不気味過ぎて顔を(しか)めて避けようとしたが、俺が動く前に女性は両手を一瞬で引きぐちゃりと音を立てて膝を雨水の残る地面に付けへたり込んだ。

何だコイツ…というのが俺の正直な感想で、マジもんの変人に恐怖を抱く。

 

「ああスカルさん違うんですあなたに触れたかっただけなんですあなたを不快にしたかったわけじゃあないんですスカルさん私はあなたの為を思いあなたの為に動きあなたの為に生きてきたんですそこに私の人生はあったんです信じて下さいお願いします私の忠誠は崇拝は愛慕はすべてすべてすべてあなたにあなただけに捧げてきた唯一なんです心からお慕いしていましたいえ今もなお心酔していますスカルさんスカルさん!」

 

ここまでノンブレスである。

怖い通り越して吐き気を(もよお)してきた俺氏。

何なのこの人、正気ではないのは確かだけど何だろうこの久々なデジャヴ。

両手で顔を覆いながら泣いているのか肩を震わせる女性をもう一度じっくり見つめるが、はやり見覚えはない。

完璧な他人の上この異常な反応といえばもう一つしか答えがない、というかこれしかない。

 

「スカルさん、私はあなたが死んでしまったなんて思えないんです」

 

で す よ ね 。

分かってたよ、うん。

これあれだ、狂人の方のスカルとやらの信者ですね、はい。

女性はしゃくりを上げて泣き出してはスカルさんと今は亡き俺にとって忌まわしき人違いの元凶を連呼している。

こんな立派な狂信者がいるなんて流石狂人スカルさん、マジぱねぇッスわ。

そこに痺れもしないし憧れもしないがな。

さて、気持ち悪いからといって目の前の女性を放って置くのはかなり後味が悪いので取り合えず座らせようかな。

 

「座れば?」

 

そういえば女性は即座に顔をあげて俺の顔を凝視してくる。

涙に濡れるやつれた頬と、色濃く残った隈、そして死んだ魚のような目…もう何から何までがアウトだった。

スリーアウト、チェンジお願いします。

凝視してくる目線はやがてゆるりと逸らされ、女性は俺の隣に腰掛けてくる。

なんかもうこの世の絶望をドブで煮詰めたような顔をしているんだが、そこまで狂人の方のスカルが好きだったのだろうか。

ん?待てよ。

狂信者まで俺をスカルと思ってるってことは、スカルは俺と同じ背丈ってこと?

いや姿を見せないミステリアスな人だったらまた別だけど、ここまで重度な信者に姿を見せないってあり得る?

つーかこれ背丈同じ別人だったらどうなのそれはそれで。

子供に現抜かしてやっべーレベルまで心酔するってなにそれ怖い。

俺の背丈って赤ちゃんじゃん!ベイビーじゃん!マジで怖い。

そんなこと考えているとふいに俺の腕に伸びてくる手に気付いて、じわじわと湧いていた恐怖が爆発したように俺はその手をはじいてしまった。

パン、と乾いた音と共にはじいた右手にじんわりと僅かな痛みが走る。

帰る、と言ってその場を離れようとした俺の腕をガシリと掴んできた目の前の女性に、声にならない悲鳴が喉の奥を通った。

 

「やはりあなたはスカルさんだ」

 

いやあんたさっき死んだって言ってたやん。

そうツッコめるほど軽い雰囲気ではなく、そこはかとなく漂う陰鬱(いんうつ)で息苦しい空気に()せ返りそうになるのを堪えていると目線が女性と交差した。

先ほどのように空虚な眼差しから一転し、涙を溜め輝かんばかりの生気が宿っている目をしている。

と同時に俺の腕を掴む力が僅かに強くなり、俺は少しだけ命の危機を感じ取ったりしてた。

 

「触れる現実だ本物だあなたはスカルさんだ死んでいなかった生きていた私のすべてスカルさんに触れたことは謝りますこの命を捧げてでもあなたへの非礼を詫びましょうしかしあなたが生きていることへの幸せに今私の心は満ち溢れているのですあなたの為にもう一度私をお使いくださいお願いします今度こそあなたを守ってみせます」

 

またもやノンブレス。

この人息してるの?大丈夫?

いや待て、その前に俺が狂人スカルとやらではないことを言わなければ。

 

「俺は狂人スカルじゃない」

「いえ、いえ!何を言いますか!あなたはっ」

 

おおっと、これは嫌な予感。

しかし俺も学習した。

ここで黙って諦めれば悪循環であることを!学習!したんだ!

 

「人違いだ、俺は狂人スカルじゃない、俺はお前を知らない……」

 

ゆっくりと、人違いの部分を強調して俺はベンチから腰を上げた。

そして伸ばされてくる手をそっと避けて公園を出て、人通りの多い道を目指して歩き出す。

フラフラと歩いていると案の定俺を見つけてくれたのは頼もしいポルポ君で、そのあと家に帰るとリボーン達が仁王立ちで待っていた。

このあとじっくりと叱られたが反省も後悔もしていない。

にしても、ああも人の人生を狂わせた狂人スカルって奴が何で俺なんかと人違いされたんだろうか。

一度でもいいから顔を拝んでみたかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

???Side

 

幸せだった。

あの方の為だけを思い、あの方の為だけに生きていた。

それが私の宿命であり、なによりの幸せだった。

狂おしいほど愛していた、愛していたのだ。

私の造った武器で人を殺し、嬲り、葬った時、私は認められた気がして堪らなかった。

あの方……狂人スカルに命すらも捧げることが何よりも誇らしかった。

生きてるということが実感出来ていた日々だった。

 

あの日が来るまでは。

 

ヘルメットと共にボンゴレの使者が報せたのは、スカルさんの死だった。

最初は何の冗談だと鼻で笑いながらヘルメットを分析したが、正真正銘カルカッサが開発したスカルさん専用のヘルメットだった。

その日カルカッサは混乱に陥った。

狂信すべき道標を失った者で自殺に走った者は少なくなかったし、ボンゴレを殺そうと血眼になって次期ボスである沢田綱吉の暗殺に躍起になっていた者もいた。

しかしそんな中私だけは呆然と研究室に引き籠っていた。

信じられなかったのだ。

スカルさんが死んでしまったことが…

あの方がこんなことで死ぬはずがないと、一週間以上経っても姿を現さないあの人の背中を思い出しては、殺戮用兵器を作り続けた。

一ヶ月が過ぎ、半年が過ぎた。

もうカルカッサに以前のような活気溢れた光景はない。

惰性で生きている者、食い扶持がないから留まっている者、狂ってしまった者、絶望している者、ボンゴレへの復讐に躍起になる者、あの人の死を受け入れられず以前のように働く者……誰一人として生きた目をしている者はいない。

かくいう私も死にたくてしょうがない。

スカルさんが生きているかもしれないという一筋の可能性だけに縋って生きているようなものだった。

気付けば私は外にいた。

最近、無意識に街の中をふらつく癖がついてしまった。

それも全て愛しいスカルさんを探す為の行動だと思えば嫌でもなかったし、少し思考を休ませるには丁度よかったのだ。

住宅街に入り、狭い道を歩き何の目的もなしに視界に入った者を目で追っては逸らすをひたすら繰り返す。

スカルさんの顔すら見たこともない私がしたところで見つかる可能性は万一にもないというのに、と理性が嘲笑っているけれど。

少しだけ開けた場所に公園があり、子供の声もない寂れたそこへ一瞬だけ視線を向けたその時だった。

赤子の影を見つけた。

ただそれだけなら直ぐに視線を逸らして、再び周りを見渡していたのに、その時だけ…目が離せなかったのだ。

足元に目線を落とす赤子を見て、無意識に声が出ていた。

 

「スカル……さん?」

 

別人だと分かっている。

あの方はもう少し小さい。

私の声にふと赤子が目線をあげ、私の方を見たのだ。

まるで自分の名前が呼ばれたと言いたげな目で、私を見たのだ。

これが幻覚でもいい、私の都合のいい様に脳内が作り出した幻想でもなんでもよかった。

ふらつく足取りで赤子の前に立ち竦み赤子を眺める。

今の私は傍から見て不気味だと思うだろうが、目の前の赤子は怯えを見せずただ私を見つめ返していた。

それがまた記憶の中のスカルさんに似ていて、私は耐えきれずに喉を震わせる。

 

「ああ、幻でも嬉しい……嬉しいんですスカルさん……私の前にあなたが現れたことがこの上なく幸せなんです」

 

そう呟いて目の前の彼に手を伸ばそうとした。

だが、一瞬彼の眉が僅かに顰められ彼の中にある嫌悪を垣間見た瞬間、私の中の禁忌に触れたのだ。

そして恐怖した。

彼に嫌われることだけはあってはならない。

あの人に見捨てられることは、嫌われることは……死ぬよりも恐ろしいっ!

私は泥に汚れる膝をも気にせずその場に膝をつき無我夢中で弁明を(まく)し立てた。

 

「ああスカルさん違うんですあなたに触れたかっただけなんですあなたを不快にしたかったわけじゃあないんですスカルさん私はあなたの為を思いあなたの為に動きあなたの為に生きてきたんですそこに私の人生はあったんです信じて下さいお願いします私の忠誠は崇拝は愛慕はすべてすべてすべてあなたにあなただけに捧げてきた唯一なんです心からお慕いしていましたいえ今もなお心酔していますスカルさんスカルさん!」

 

もう何を言っているのか自分で理解していなかったけれど、私は心の内を全て曝け出して信じてもらいたかった。

あなたを今でも崇拝していることを…愛していることを!

 

「スカルさん、私はあなたが死んでしまったなんて思えないんです」

 

でなきゃあなたの死を聞いてから私が生きてきた半年間は何の意味があるのだろうか。

あなたは生き続ける。

永遠に生き続けなければならない。

人々を絶望に陥れ、狂わせ、従わせるような…そんな存在であってほしいと……

 

「座れば?」

 

思考回路がバラバラになるような感覚の中、ふと耳に小さく、淡々とした声が届いた。

彼の声を聞いたのは初めてで、このような声をしていらっしゃったのかと思う反面、私の幻想であり妄想であると思えば納得する。

スカルさんは他人に基本無関心で、泣き喚き(すが)ったところで淡々と声をかけ、仕事を催促してくるようなお方だ。

私如きが慰められるなど…妄想であっても恐れ多い……

それでも、これが私の脳が見せる幻覚ならば……少しでもいい、少しでもいいから……彼に触れたいと…思ってもいいのだろうか。

(おもむろ)に伸ばした手が彼の腕へと触れそうになった時、予想だにもしていなかった衝撃が自身を襲った。

乾いた音とじんわりと広がる痛みに目を見開く。

手を、弾かれたのだ……否、それだけならばまだ妄想の域を出ない、出ないけれど……右手にじんわりと残る痛みがこれは現実だと意識を引き戻させる。

思わず再び腕を伸ばし目の前の彼に触れた。

触れてしまったという恐怖と、触れることが出来ることへの歓喜が()い交ぜになりながらも理性が言葉を介することを手放しはしなかった。

 

「やはりあなたはスカルさんだ」

 

確信を持った言葉が喉を通り、歓喜で震える。

今目の前が輝かんばかりに色づいたのが分かるほど、私の心臓は息を吹き返したのだ。

 

「触れる現実だ本物だあなたはスカルさんだ死んでいなかった生きていた私のすべてスカルさんに触れたことは謝りますこの命を捧げてでもあなたへの非礼を詫びましょうしかしあなたが生きていることへの幸せに今私の心は満ち溢れているのですあなたの為にもう一度私をお使いくださいお願いします今度こそあなたを守ってみせます」

 

あの人が……スカルさんが生きてる。

それだけが今の私を突き動かす言葉だった。

現実で触れて、見て、声を交わしている。

ああ、やはり私は信じていた!

彼が死んでいないということを!私はっ、私は信じていた!

涙を流していることすらも気にならず私はただ頭を垂れて、あなたにまた尽くすことを精一杯示したかった。

 

 

「俺は狂人スカルじゃない」

 

 

けれど、彼の口から出るのは私の予想とは違い、拒絶の色を伴って吐かれた。

 

「いえ、いえ!何を言いますか!あなたはっ」

「人違いだ、俺は狂人スカルじゃない、俺はお前を知らない……」

 

有無を言わせず続けられた言葉は私を突き放し、私の中の生きる希望に(もや)が掛かる。

違う、あなたはスカルさんだ。

私のお慕いするスカルさんだ。

私のすべてだ。

私の唯一だ。

私の生きる意味だ。

何故、何故…嘘をつくんですか、何故…

涙でぼやける視界で遠ざかる彼の背中へと手を伸ばしたが、それすらも不快だといわんばかりに避けられ空を切る。

気が付けば目の前には誰もおらず、一時的に意識が飛んでいたのだと思い至った。

既に陽は落ちていて、薄暗い公園で座り尽くす私は、先ほどの光景が全て幻想だったのではないかと疑ったが、靄が掛かってなお満ち溢れた心はスカルさんの存在を言い張っている。

少しの可能性にも縋る思いで一度研究室に戻り、再び公園に行くと、先ほどのベンチにある全ての指紋を採取した。

スカルさんと一致する指紋があれば、あの人は生きているに違いない。

私は検査結果を映し出す画面をただひたすら眺めた。

あと少しで結果が表示されるそのディスプレイを。

 

 

私の生き続けた意味は……きっと、きっと…あったと信じたいのだ。

 

 

「スカルさん……」

 

 

 

 

月が雲で覆い隠された日の夜、とある場所で機器が音をあげて文字を青白く光るディスプレイに映し出した。

 

 




指紋検査の結果は各自ご想像にお任せします(笑顔)

スカル:一度でいいから狂人スカルを見たいらしい、モブ子のことはヘルメット越しでしかしらないので気付かない、声?それをコイツが覚えているわけもなかった。
女性:誰と言わずもがなモブ子である、狂信者モブ子である(集中線)、もう色々と手遅れ。




投稿が大幅に遅れてすみません。
リアルな事情もろもろあったんですが一つだけ言わせてもらいます。


おのれ台風。





PS:大幅に遅れたのもあってか熱が冷めつつあるので次の番外出したら別の作品考えてみようかと思ってます。


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skull 番外編7

「つっくん!つっくん!」

 

まだ太陽が顔を出し切らない早朝に、慣れ親しんだ声で呼ばれた俺の名前に重たげな瞼をうっすらと上げた。

昔ならばまだ外が薄暗いこんな時間に起こしに来た母親に文句の一言や二言呟いているところだが、如何せん今は同じ部屋に鬼畜な家庭教師が狸寝入りを決め込んで耳を澄ませているので、言葉に気を付けなければならないということをこの一年弱で身に染みて学んだのだ。

 

「どうしたの母さん……」

「あのねつっくん!これ!今ポスト見たらこれがあったの!」

「……?」

 

布団から決して体を出しはしないが、腕だけをそろりと伸ばし母親の右手に持っている一切れの紙を受け取った。

寝起きでピントの合わない視界に四苦八苦しながら、漸く紙に印字されている文字を読む。

そこには大きな黒い文字で『イタリア旅行~5泊6日の旅~』とあり、俺は回らない思考回路でその文字の羅列を数回脳内で咀嚼する。

 

「かなり前なんだけどね、ネットで応募してたのよ~!まさか一等の旅行が当たるとは思わなかったわ!」

「……旅行…」

「ええ、イタリアですって!家族連れコースだから皆で行けるわよ~」

「イタリア……」

 

抑揚のある言葉が覚醒し切らない脳を揺さぶる中、小さく警報が脳内で木霊している。

ああ、嫌な予感が……

眠気と戦いながら頭の隅で感じた悪寒を今ここで母親に言うわけにもいかず、狸寝入りを決めているであろうリボーンに目線を映した。

 

「つっくん!いつ行こうかしら!?」

「………母さんに任せるよ」

 

寝起き早々に気疲れしてしまった俺は投げやりに母親へと言葉を放り投げ、再びベッドに潜る。

次起きたらこれが夢であってほしいと思わずにはいられなかったが、現実は非情で…二度目の覚醒の際に視界の端に映るリボーンのニヒルな笑みを見て先ほどのやり取りが夢ではないと直感的に悟ってしまった俺は重いため息をしたのだった。

 

「因みにその旅行にスカルも同行する予定だぞ」

 

その言葉に俺は咄嗟にベッドから起き上がったが、バランスを崩して床に落ちてしまい頭部を強打した。

何気ない平日の朝の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

スカルSide

 

リボーンからメールが届いた。

メール自体気付いたのは着信がきてすぐだったが、相手が相手だったので無視を決め込むこと一週間、偶々別の相手とのメールを開く際にリボーンのメールを開いてしまった。

そこには短く一文。

 

『明日午前〇〇時、迎えに行く。』

 

全く持って簡素なメールである。

しかしながらこのメールが来たのは一週間前であって、メールが届いた翌日にリボーンはこちらへ訪問していないのだ。

ならば間違いメールかと俺は納得し、間違いメールであったことを本人に教える…なんてことはせずそのメールをすかさず消去する。

リボーンのメールに疑心暗鬼するあまり開くことが出来なかったこの一週間は杞憂だったようで、明日も明後日も俺の平穏が保たれたと胸を撫で下ろした。

 

そんな昨日の俺に一言、あの場から逃げろと言いたい。

 

まさか俺がメールを一週間放置することも見透かしていたなんて誰が思うだろうかとインターホーンに映る憎っくきもみあげ野郎を睨みつけながら嘆く。

いつもアポ無しで突撃するリボーンが、強制であろうと事前予告をする時点で少しは俺の主張を聞き入れたのかと思いはすれど、それは逃げる時間があるかないかの違いなだけで訪問されること自体はどちらも願い下げである。

ガチャリと解錠される音と共にドアが開く。

不法侵入は当たり前、奴の中でこれは既に一般常識だろうが、俺は、絶対に、認めない。

 

「おう、行くぞスカル」

 

こうなったら俺の抵抗は意味を成さないのでポルポと共に拉致られることにした。

敷地内の森を少し歩けば車道があり、そこに黒のリムジンが止まっている。

リボーンの後ろを渋々歩いていた俺は、そのまま扉を開けられたリムジンの中を見て予想外の人物に目を丸くした。

 

「あら!スカル君じゃない!久しぶりねぇ」

 

セミロングの茶髪に、溌剌(はつらつ)とした雰囲気の女性、そう、奈々さんである。

俺の中で常識人ではないものの害のない人間としてインプットされている奈々さんである。

視界の端で俺に手を小さく振る綱吉君を見て、そういえば彼女は綱吉君の母親だったなと遠い記憶のように思い出す。

車内を見渡すがいるのは奈々さんと綱吉君、リボーンのみで、これ一体何の面子だろうかと首を傾げた。

 

「スカル…元気そうで良かった…」

 

心底安心したような顔をした綱吉君を横目に奈々さんから一席空けて隣に座り、ポルポを空けた席に座らせる。

さて、どこに向かうとか何も聞いてないが俺は一体どこに拉致られるんだろうか。

保険として帰る手段であるポルポを連れてきたわけだから一応安全ではあるものの、リボーンがいる時点でただで済むはずがないのが経験談だ。

車が発進し敷地外へ出るのを窓から眺めていると、奈々さんの何かを思い出したような声が降ってきて俺は視線を窓の外から逸らす。

 

「あらやだ、スカル君のご両親に挨拶もしてなかったわ!」

「そこんとこは大丈夫だぜママン、俺が済ませといてやった」

「そうなの…?でも一度は会ってみたいわあ」

 

手を頬に当てながらそう呟く奈々さんは俺へと視線を向けると、満面な笑みを浮かべながら俺の名前を呼ぶ。

 

「スカル君のお母さんはどんな人かな?私に教えてくれないかしら」

「……」

 

どんな人だっけ?

いや待て思い出せ……金髪だっけ?んんんん?

いやいやいや、だって最後に見たのずっと前じゃん、何十年も前じゃん、覚えてなくても仕方ないじゃん?

これ俺悪くないよね。

 

「か、母さん!外に綺麗な海があるよ!」

 

思考の渦に沈んでいると、ふと綱吉君の慌てたようないつもより大きい声が聞こえて意識が浮上する。

彼の言う通り車窓から見える景色は素晴らしい海で、晴天もあってとても美しく……綺麗で――――…

 

「あ…」

 

思わず、というように漏れた声に車内にいた誰もが俺の方へと振り向いた。

黙りこくった俺の言葉を待っているのかこちらを見つめ続ける奈々さんと視線が交差するが、何故か気恥しさを覚え目線を逸らす。

ただ、本当にただふと思い出しただけの記憶に、本当にそうであったかという疑念を持ちながら俺は閉め切った唇をおずおずと開いた。

 

「か、母さんの………目が…」

「目が?」

 

オウム返しに次の言葉を(うなが)される。

 

「目が……紫色だった……のを、思い出した……だけ…」

「紫色…じゃあスカル君と同じ色なのね!」

「……」

 

そういえば俺の瞳の色って母親譲りだったな。

そんなことを思っていると奈々さんが俺をにこやかに見つめて言い放った。

 

「とても綺麗な色だと思うわ」

「………うん…」

 

なんだかいたたまれなくなった俺は視線を車窓へと移し、外に広がる昼間の海を眺める。

奈々さんの質問から話を逸らすように綱吉君とリボーンが矢継ぎ早に奈々さんと会話を繰り広げ始めた。

そうですか、俺の話はそこまでつまらないものですか。

別にいいけど……なにこの疎外感……

ふてくされながらポルポと共に窓の外を眺めていると、いつのまにか目的地にたどり着いたのか車が止まる。

そこから始まる謎のイタリアツアー。

何も説明されていないけれど一体この状況は何なんだろうかと頭の中で何度も自問自答するが、ポルポを見て癒された俺は考えることをやめた。

観光名所を数か所渡り、翌日も同じような日程で色んな場所へ赴き美味しいごはんを食べて…途中ゲーム禁断症状で指が震えて一時はどうなるかと思ったが、なんとか5日目の朝を迎えることが出来た。

今日はどこに行くんだろうかと思いきや、着いたのは俺の家で、漸く可笑しなツアーが終わったのかと思ったが、綱吉君やリボーンの他に奈々さんも俺の家に入ってくるという始末。

どうやらあと一拍残っているらしく、俺の家に泊まる予定だったとかなんとか…

どうして住居者に何も言わないんだろうかこのもみあげ野郎は…そのもみあげ燃やすぞこの野郎。

紆余曲折の末に奈々さんが夕飯を作ってくれるということで俺の中の不平不満は一通り区切りをつけた。

一時期日本に拉致られたから分かることだが、奈々さんの料理の腕はかなりうまい。

 

「スカル君、何か食べたいものはある?」

「なんでもいい…」

「そう…じゃあデザートはどうしましょう?」

 

デザート、という言葉で本当に偶々テレビで流れていたCMを見て口から漏れた。

 

「アップルパイ……」

「アップルパイ?分かったわ!私が腕によりをかけて作るわね!」

 

訂正する前に張り切ってリビングに消えていった奈々さんを見て、追いかけるのを諦めた俺は再びテレビへと視線を落とした。

夜になり食卓に並べられた夕飯に少しだけ気分が良くなり、いつもよりも多めに食べたような気がする。

これでリボーンがいなければもっと食べたんだけどなあ…

食後に満面の笑みで現れた奈々さんの手にあるのは4ピースのアップルパイで、それを見た綱吉君は目を丸くしていた。

 

「母さんこれ作ったの?」

「ええ!スカル君のリクエストなの」

「スカルの…?」

 

そう言うと綱吉君が俺とアップルパイを交互に見つめてくる。

なんだよ俺がアップルパイ頼んだらそこまで変なのかよ…

鬱陶しい視線を無視してアップルパイを口に放り込み咀嚼する。

やっぱり奈々さんって料理うまいな…とフォークをアップルパイに差し込みながら思っていると、奈々さんからの視線を感じて顔をあげた。

 

「どう?私のアップルパイ」

「…………おいしい」

「よかった!」

 

奈々さんの笑顔を見ながらふと、アップルパイは暫くぶりではないだろうか。

最後に食べたのは十年以上も前だった気がするなと思いながらアップルパイを頬張る。

 

「スカル君、アップルパイ好き?」

 

好き……好き、なのだろうか…?

いやでも好きか嫌いかで言われれば好きだから、好きでいいのか。

 

 

「うん」

 

 

そういえば昔楽しみにしてたアップルパイをポルポに食べられたことがあったなぁ…

ちょっと思い出し笑いしそうだったので唇を噛んで堪えた。

食後のデザートも終わり各自自由に過ごしている中、流石にリボーンがいる間に部屋に籠ることは出来ないなと思った俺はポルポと共に庭の方でまったりと過ごしていた。

 

「ポルポ、冷蔵庫にアップルパイ残ってるから明日皆が帰ったら食べような」

「うん、うん、楽しみにしてる」

 

ポルポの言葉に耳を傾けながら椅子に座って夜空を一望する。

あー、ゲームしてぇ……

俺の心の内側を誰にも悟られることなく、無事奴等が帰っていった時は思わずガッツポーズをとってしまった。

そしてそれから何故かやたらとアップルパイを持ってくるリボーンとユニ、その他に首を傾げながら、食べきれない分をポルポに食べてもらう。

ユニの持ってくるアップルパイはルーチェ先生のアップルパイと似た味がして気に入ってるが、リボーンが持ってくるアップルパイは冷めてる上にコレジャナイ感が拭えないので、いつも一口食べた後はポルポに全てあげている。

やっぱ持ってくる奴の怨念とか影響してんのかなー……

 

俺はユニと一緒に作ったアップルパイを齧りながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

綱吉side

 

 

リボーンの企みで母さんと一緒にイタリア旅行に向かった俺だが、流石に母さんの前で派手にやる気はないリボーンは飛行機の中で大人しくしていた。

俺はずっと冷や冷やしていたけれど、それよりもスカルが今回のツアーに同行すると聞いて気が気じゃないのだ。

数時間の空の旅の後に真っ黒なボンゴレマークの付いているリムジンに乗せられた俺と母さんは、スカルの家があるであろう敷地へと向かう。

数十分で到着した場所でリボーンが車を降り、少ししてスカルとポルポを連れてやって来た。

スカルの顔は疑心暗鬼をこれでもかというほど表していて、もしかしてリボーンは説明なしで連れてきたのかなと思ったけど本人の手前じゃ恐ろしくて聞けなかった。

車が発進して敷地の中の森を走行しているとき、のほほんと肩の力を抜いて窓の外を眺めていた俺は油断していた。

 

「あらやだ、スカル君のご両親に挨拶もしてなかったわ!」

「そこんとこは大丈夫だぜママン、俺が済ませといてやった」

「そうなの…?でも一度は会ってみたいわあ」

 

一瞬うすら寒い何かが背筋を駆け上った。

地雷をいともたやすく踏み抜いた母さんを見て顔を覆いたくなった俺は、何とか耐えてスカルの方を見る。

あまり気にしていないような様子のスカルに胸を撫で下ろした俺に、

 

「スカル君のお母さんはどんな人かな?私に教えてくれないかしら」

 

母さんが追い打ちをかけてきた。

あまりにも重すぎる質問に胃液を吐きかけた俺は口を噤みリボーンを見ると、リボーンはいかにも言葉を失っているという表現が合うほど微動だにせず固まっている。

そりゃそうだ、スカルの母さんといえばスカルの子供の頃に家族での心中を試みて家を燃やした人だ。

その上スカルの幼少期は想像を絶するほど惨たらしい。

悲しい思い出はあれど楽しい思い出なんて一つもないと言われたらすかさず納得する程度には、今のスカルに昔の話は地雷だった。

俺は泣きたくなるのを抑え、話を逸らそうと母さんに声をかけた。

 

「か、母さん!外に綺麗な海があるよ!」

 

俺がそう言うと、母さんも窓の外を眺め始めて興奮し始める。

これでなんとか話を逸らせた、と思った矢先にスカルの口から声が漏れたのが俺の耳に届き、ふと視線をスカルに向けた。

向けられた先にはどこか所在なさげにあちらこちらと視線を泳がせたスカルがいて、隣にいた母さんがスカルの開閉を繰り返す口から告げられる言葉を待っている。

(ようや)くといったような形で、スカルが言葉を発した。

 

「か、母さんの………目が…」

「目が?」

 

まさかスカルから母親の話題が出てくるとは露ほども思わなかった俺とリボーンは再び固まり、スカルを凝視する。

 

「目が……紫色だった……のを、思い出した……だけ…」

「紫色…じゃあスカル君と同じ色なのね!とても綺麗な色だと思うわ」

 

母さんがにこやかにそう告げれば、スカルは複雑な表情でポツリと呟いた。

 

 

「………うん…」

 

 

悲しそうな声だと、俺は思った。

 

 

 

その後、順調に旅行は進み4日目まですぐに過ぎ去った。

リボーンの悪だくみを警戒していた俺だったが、スカルと母さんの前で目立つ行動は控えているのか、俺を言葉で弄る以外これといって行動を起こさなかった。

それに少し安心しながら5日目を迎えると、リボーンが最終日はホームステイのように一般人の家に宿泊すると言い出して、俺は大いに焦ったがまさかのスカルの家に肩透かしを食らったような気分になる。

でもスカルが途中震える指を隠していたことに気付いていたのでストレスをこれ以上かけさせないためにも妥当な判断だと思った。

そのあと、俺としては比較的訪れているイタリアで少しばかり土地勘があったので帰る前の羽休めとして少し外の町を散策してくることにした。

陽は沈む頃にスカルの家に戻れば、母さんが夕食を作っていた。

わざわざイタリアに来たのに最終日に家事をさせたことは悪かったなぁと思い、皿を出すことや盛り付けなどを手伝う。

母さんに俺、リボーンそしてスカルという謎のメンバーで食べるご飯は、陽気な母さんのお陰で上手くやり過ごせそうだった。

 

「じゃーん!食後のデザートでーす」

 

そう言った母さんがキッチンから運んできたのは焼き立てだと一目で分かるアップルパイだった。

 

「母さんこれ作ったの?」

「ええ!スカル君のリクエストなの」

「スカルの…?」

 

これは意外だった。

俺は思わずスカルを凝視してしまい、慌てて視線を逸らす。

スカルはアップルパイに何らかの思い出があることは、ユニから聞いていた。

ルーチェさんがよく焼いてスカルに渡していたらしい。

少なからずスカルにとって陽だまりのような生暖かくて、穏やかな思い出なんだと思う。

ユニに対して態度が軟化しているのも、(ひとえ)にルーチェさんと交流があったからで、彼女が恐怖の対象ではなかったからだ。

だからその孫で、しかもルーチェと瓜二つのユニに対してどこか安心を覚えてるんだ。

ルーチェさんがいなければ今この風景も見ることは出来なかったはずだ……そう思うと、あの人はスカルの人生に大き過ぎる影響を残していったんだなとしみじみながら感じた。

 

「どう?私のアップルパイ」

「…………おいしい」

「よかった!」

 

母さんとスカルの会話でふと我に返った俺は、目の前の光景が眩しく思えた。

俺にとって当たり前の光景が、日常が、スカルの知らない、知る術がなかった事柄だと思うと、胸の奥が悲鳴をあげる。

 

「スカル君、アップルパイ好き?」

 

母さんの何気ない問いかけに、スカルは数秒考え込み、アップルパイに視線を落としながら答えた。 

 

 

「うん」

 

 

母さんはスカルと正面に向き合っていて見えなかっただろうけれど、俺とリボーンからは確かに見えたんだ。

 

 

スカルが泣き出しそうな顔で唇を噛み締め、不格好な笑みをみせたことを。

 

幸せを確かに感じたような そんな笑みを。

 

 

俺はこの瞬間をずっと 忘れたくないと 心からそう思った

 

 

 

 

 

あれから日本に帰国し、そのことを興奮気味に周りに話した。

恐らくリボーンから聞きかじったであろうユニが俺の方に沢田さんだけスカルが笑った顔を見てズルい!と電話をしてくるほどだった。

またこれからもスカルを笑わせられたらなって思って、前よりもイタリアに通うようになった。

といっても学校もあるから数か月に一度ほどだが、それでも元気なスカルの姿を見ることが出来てひどく安心するんだ。

スカルの好物がアップルパイだと知って、リボーンが有名なケーキ屋さんのアップルパイをお土産として持って行く姿がしばしば見られたが、お土産としてアップルパイを持って行くこと数回目に、偶然スカルが一口食べた後すべてポルポにあげているのをみてしまい、俺は(しばら)くリボーンの顔が見れなくなったりした。

因みにユニの持ってくるアップルパイは食べるし、ユニと一緒に作ったアップルパイも食べるらしいので、アップルパイが嫌いではないことは確かである。

リボーンのどす黒いオーラの行先が俺にくるので、スカルには嫌でもリボーンから貰うアップルパイを食べて欲しいというのが俺の正直な気持ちなんだけど、当分は無理そうだ。

 

 

 




スカル:手作り焼き立てのアップルパイが好きというこだわりをもっているが本人は気付いていない。

奈々さん:穏やかな顔しながら地雷を踏み抜く系聖母。

まぐろ:このあと理不尽な攻撃をリボーンから貰う、奈々の質問にSAN値があやうく削られかけたが、リボーンのアップルパイをポルポに全てあげているのを目撃したときリボーンの八つ当たりが自分に回ってくることを予期しSAN値が減った。

リボーン:救いはない(断言)、このあとムキになっていろんな店のアップルパイを買ってくるという珍行動に移るがすべて手作りではないのでスカルがそれらを食べることはない(無慈悲)



というわけで前回言ったように、一旦Skullは〆ますね。
長々とお付き合いくださりありがとうございます!
まだ新作を考えているわけではないんですが、別原作も視野にいれながら考えてます。



PS:ちょっとゲームに浮気をしているので新作を書く場合も当分先かもしれません(笑)



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