ハイスクールD×D 駒王町の三ノ輪銀 (玄武の使者)
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序章 原作開始前
プロローグ1


あの日のことは鮮明に覚えてる。

 

 

アタシは父ちゃんに無理を言って、一族に伝わる秘術を教えて貰ってた。

あの日は特別で、父ちゃんから免許皆伝を貰えるかの試験が行われる日。

そして、父ちゃんから試験の結果が発表される寸前に、悲劇は起きたんだ。

 

 

緊急事態を報せる鐘が荒々しく鳴り響いて、里に火の手が上がった。

そして、あの時に見た光景は今でも鮮明に覚えている。

 

 

里を焼いて行く紅蓮の炎と高笑いするヒトではない者たち。

大人たちはヒトでない者らに立ち向かい、次々に殺されていく。

だけど、ヒトではない者らが駒のような物を死体に入れると、殺された者が生き返る。

 

 

そして、ヒトでない者たちは口を揃えて、生き返った者に言うのだ。

 

 

「里の奴らを皆殺しにしろ。」

 

 

当然、生き返った人たちは拒否した。

だけど、ヒトでない者たちが命令すると、意志に反して生き返った者の身体は里の仲間を手に掛ける。

泣きながら仲間や家族を手に掛ける光景をヒトでない者たちは演劇でも見ているかのように見ていた。彼らにとって、里で繰り広げられている地獄絵図は人形劇なのだ。

 

 

アタシは、アイツらに立ち向かおうとしたけど、父ちゃんに止められた。

そして、両親から里の秘宝を託された私は里の子供たちを引き連れて、里を脱出した。

大人たちは子供が居なくなった事に気づくのを遅れさせるために里に残った。

 

 

アタシたちは東に向かって、逃走した。

森をかき分けて、野草や果物を食糧にしながら私たちは東に向かった。

みんなで協力して、励まし合いながらアタシたちは進んだ。

 

 

だけど、限界が訪れた。

里を脱出した子供の中には、まだ歩けないくらいに幼い子も居た。

そんな子供を抱えたまま逃げることはできない。だから、切り捨てようと考えても生まれ始めた。

 

 

そんな時、高天原の使者を名乗る者が現れた。

結果、アタシたち空狐族の生き残りは高天原の神仏に保護されることになった。

 

 

そして、保護されてから数年が経過した…………。

 

 

________________________________________

 

 

上下左右を頑丈な岩壁に囲われた空間で幾たびも響く金属音。

広々とした空間では、金属のような甲殻に覆われた蛇型の化け物と赤と黒の衣装に身を包んだ灰緑色の少女が戦闘を繰り広げている。

自分の背丈の何倍も大きい化け物に恐れず、少女は得物を携えて突撃していく。

彼女の得物は2丁の斧。しかし、その形は独特で斧というよりも剣に近い形状だ。

 

「ああもう!! 固いなっ!!」

 

ボヤキながら斧を振り下ろす。しかし、蛇の甲殻には少し傷が入るだけ。

蛇は牛くらいなら丸呑みできそうな口を大きく開いて、噛み付いてくる。

 

「おっと!! そう簡単には食われないぜ!!」

 

蛇の動きをじっくり観察しながら少女は噛みつき攻撃を避ける。

さらにすれ違い際に口角に向かって斧を振るうが、またしても刃は弾かれてしまった。

 

「そこも固いのかよ!!」

 

休憩する暇もなく、蛇は少女を丸呑みせんと襲いかかってくる。

 

「それなら、口はどうだ!!」

 

大口を開けて迫る敵に向かって、少女は斧を投擲する。

投擲された斧はチャクラムのように蛇の口内を切り裂き、蛇は叫び声をあげる。

 

「おっ、そこが弱点か!! デュプリケイト!!」

 

《Duplicate!!》

 

刹那、投擲した筈の斧が少女の手に現れる。

 

「ほらほら!! これも持っていけぇ!!」

 

再度、斧をチャクラムのように投擲する。

投擲された斧は先ほどのように蛇の柔らかい口内に入り、内側から肉を切り裂く。

そして、少女はその口内の突き刺さった斧を掴む。

 

「これで終わりだぁ!! “弾けろ、電”!!」

 

少女の身体から放出された雷撃が金属を通じて、蛇の体内に叩きこまれる。

内側から放たれた雷撃は蛇の化け物の全身を駆けまわり、組織を破壊していく。やがて、雷光が途切れると、絶命したそれは靄となって消滅し、宝石だけが残される。

そして、残されたくすんだ青色の宝石も少女の手によって砕かれた。

 

「はぁ、はぁ……今回の魔物は手ごわかったなぁ。」

 

化け物の消滅を見届けた少女は、ひんやりとした床に寝転がる。

 

『物理も効かない、魔法も効かない。とんでもない強敵でしたわね。』

 

少女の脳内に透き通った声が響き渡る。

その声は少女にしか聞こえていないが、彼女にとってそれは自然なことだった。

 

「さすが、裏ボスだよな~。口が大きくて助かった」

 

『見事な判断だったわ。やはり、前世での経験かしら?』

 

「いや、今回はマンガさまさまって感じだな。思い付きでやってみるもんだ。」

 

『思い付きだったのね……。さっさと回収して地上に戻らないと、鑑定所が閉まるわよ?』

 

「はいはい、分かってるよ。」

 

少女は姿の見えない相棒に従って、奥の部屋へと向かう。

守り手である化け物を倒したことで隠し部屋の入室が可能になったのだ。

但し、隠し部屋と言っても宝箱がポツンと置いてあるだけの殺風景な部屋だが。

 

「さてさて、どんなお宝ちゃんが眠ってるのかな~?」

 

宝箱の中身は、クリアブルーの液体で満たされた小瓶だった。

 

「何だ、これ? リヴァイアサン。これ、何か知ってる?」

 

『皆目見当も付かないわ。何かの薬品だと思うけど……』

 

「まあ、黒歌さんに見てもらえば分かるか。」

 

『試しに使ってみる訳にはいかないものね。』

 

「それじゃあ、神足通・鑑定所!!」

 

刹那、洞窟のような部屋が木造の部屋へと一変する。

正確には少女が先ほどの隠し部屋から別の部屋で転移したのだ。

 

 

 

 

 

 

六神通の1つ、神足通。それが少女が持つ異能である。

思いのままに行きたい所に一瞬で転移することができるテレポート系の能力だが、少女はまだ未熟ゆえに一度行ったことがある場所にしか転移することができない。

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

少女が神足通でやってきたのは、鑑定所と呼ばれる施設。

ここで働く者は不思議な目を持っており、見ただけでアイテムの効果や名称を知ることが出来る。今日は黒い猫耳と尻尾を生やした着物姿の妖艶な女性が店番をしていた。

 

「黒歌さ~ん。鑑定お願いします!!」

 

「んにゃ? 銀じゃない。また『ダンジョン』に潜ってたのかにゃ?」

 

「その通りッス!! それで、このアイテムを見て欲しいんです。」

 

「見た所、薬品みたいだけど……どれどれ」

 

黒歌と呼ばれた女性は琥珀色の瞳を紺碧に変え、少女が持ち込んだアイテムを見詰める。

 

「名前は【偽典・アムリタ】。効果は時間遡行による傷の治療。肉体から魂魄が離れていない限り、死者を生き返らせることもできる。こんなところかにゃ。」

 

『死者蘇生の秘薬……とんでもない一品ね。』

 

「こんなアイテム、何処で見つけたにゃ?」

 

「えっと……ダンジョンの25階層の蛇みたいな魔物が居る部屋ッス。」

 

「………ああ、あの部屋ね。下の階層に降りるのに無関係な。」

 

黒歌は分厚い冊子のページを捲りながら呟いた。

 

少女がついさっきまで潜っていた場所は、『ダンジョン』と呼ばれる地下迷宮。

『ダンジョン』の真上には塔が建設され、『ダンジョン』に潜る探検者のための施設が設けられており、鑑定所もその施設群の1つである。

鑑定所の役割は、未知のアイテムの鑑定の他に探検者の口伝から『ダンジョン』の内装を記録すること。そのため、鑑定所には先駆者から得られた『ダンジョン』の情報が集約されている。

 

少女が訪れた部屋も先駆者が見つけたが、下の階層に降りるのに関係がなかったので今まで無視されていたのだ。

 

「副作用とかもなさそうだし、良いアイテム手に入れたわね。」

 

「ありがとございます!! じゃあ、アタシは帰りますね。」

 

「またよろしくにゃ~」

 

秘薬を回収し、少女は鑑定所から出る。

外には紫色の空が広がっており、疑似的に作られた太陽も今は顔を隠している。

 

「今日の奴は強かったな~。アイツらが居たら、こんなに苦戦することもなかっただろうに。」

 

少女は表情を曇らせながら呟いた。

 

『銀がそんなこと言うなんて、彼女たちが羨ましいわ。ちょっと妬けちゃうわね。』

 

「リヴァイアサンもアタシの大切な相棒だぞ? 」

 

『ふふ、ありがと。』

 

「須美も園子も戦い続けてるのかな……」

 

空を見上げながら少女は呟く。

 

『会いたい?』

 

「そうだな。会えるものなら、もう一度会いたいな。

 でも、今は未熟な族長について来てくれる皆が居るから寂しくない。」

 

『そう……じゃあ、未熟な族長から一人前の族長になるために勉学に励みましょうか♪』

 

「うえっ!? やぶへびだった……」

 

『さぁ、早く帰るわよ。そうしないと、ひなたが心配するわよ。』

 

「分かってるよ。神足通・駒王稲荷神社!!」

 

少女は再び【神足通】を使い、自宅へと帰還するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

少女の名前は、三ノ輪 銀。

 

 

 

 

 

かつて国津神に選ばれ、人類を守る防人――勇者の使命を負った少女。

 

 

 

 

 

 

そして、現在は空狐族の長を務める若きリーダーである。

 



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プロローグ2

 

 

アタシ、三ノ輪 銀の意識がはっきりしたのはこの世界で2歳になった頃。

 

 

それまでも意識があったんだけど、夢見てるような、まどろんでるような感じだった。

2歳になってようやく意識がはっきりしたんだけど、それからは驚きの連続。

 

 

鏡を見たらアタシの頭には耳が生えてるし、おまけに尻尾も生えてる。

しかも、神樹さまは居なくて、未知のウィルスも蔓延していない。だから、バーテックスも居ない。その代わりにアタシのような空狐な存在がいっぱい居る。

 

 

本当に衝撃の事実ばかりでビックリしたね。

 

 

でも、一番驚いたのは父ちゃんがアタシが転生者だというのを知ってたこと。

何でも、父ちゃんは六神通の1つ、天眼通を持ってるから分かったらしい。

天眼通はヒトの前世を見ることができるから、生まれた時からアタシが異世界からの転生者だということを知っていたらしい。

 

 

何とか隠し通そうとしていたアタシがバカみたい思えたね。

まあ、そのおかげで色々自由に動き回れるようになったのはラッキーかな?

 

 

最初の頃は色々苦労したな~。

この身体、ものすごくハイスペックだから前世と同じ感覚で動けないんだ。簡単に言えば、常時勇者システムを起動させてるような感じでさ。他にも聴覚とか視覚とかも強化されてるから、慣れるまで大変だったよ。

 

 

身体に慣れた後は、父ちゃんから秘術を教えて貰って……あの日がやって来た。

世界が変わってもアタシは戦う運命からは逃れられないみたいだ。

 

 

________________________________________

 

 

 

~駒王稲荷神社~

 

 

「う~……リヴァイアサン、そろそろ終わりにしないか?」

 

『まだよ。ほら、あとは確認だけだから、頑張りなさい。』

 

「は~い……」

 

駒王町の森の中にひっそりと佇む駒王稲荷神社。

銀を筆頭とする空狐族の生き残りは、管理者不在のその神社を自宅にしている。

そして、その一室では族長である銀が相棒のリヴァイアサン監視の許に勉学に励んでいた。

 

『では、聖書に記された3大勢力は?』

 

「悪魔、堕天使、天使の3種族だろ? 最初は悪魔と堕天使が冥界の覇権を争ってて、そこに天使が介入したんだよな?」

 

『正解。じゃあ、その三つ巴の大戦に乱入して3勢力共闘のきっかけを作ったのは?』

 

「ドライグとアルビオン。通称、二天龍。」

 

『またまた正解。ちなみに、私も〈外典の天龍〉って呼ばれてたよ?』

 

「何回も聞いたよ、それ。」

 

実体があったら、胸を張っているだろう相棒の言葉に銀は苦笑い。

 

銀の相棒――リヴァイアサンは、彼女の身体に精神を相乗りしている。

かつて聖書に記される最強の怪物であり、〈海龍帝〉と称された彼女は生みの親である神様によって殺された。しかし、彼女は己の魂を左目に移し、生きながらえていた。

銀の左目はそのリヴァイアサンの瞳であり、空狐族の間で秘匿されていた秘宝でもある。秘宝が里の襲撃者の手に渡ることを恐れた銀の父親は、精神が共存する可能性に賭けて、娘に託した。結果、三ノ輪銀という肉体に二つの精神が存在する形になったのだ。

 

ちなみに、彼女らの仲は極めて良好である。

 

「あっ。そういえば、リヴァイアサン。」

 

『ん?』

 

「リヴァイアサンと二天龍って知り合いなんだよな?」

 

『ええ、そうよ。』

 

「二天龍が三つ巴の戦いに乱入したのは、ケンカの邪魔されたからって言ってたけど、そもそもケンカの理由って何なんだ?」

 

『さあね。昔からあの2匹はケンカばかりしてたから、何が理由なのかよく分からないわ。ああ、でも……乱入してきた時、あの2人はいつも以上に怒ってたわね。』

 

「そのケンカが今も尚、続いてるって本当に何があったんだろうな。」

 

『本人に会った時に聞いてみれば? 空狐の寿命は長いんだから、出会うこともあるでしょう』

 

空狐族の寿命は長く、少なくても3000年以上は生きることができる。

もっとも、この世界では長命な種族が多数存在するため、特段長い訳ではないが。

 

「お二人とも、ちょっといいですか?」

 

銀が勉学に励んでいると、襖を開けて1人の少女が入って来た。

 

黒い髪をストレートに伸ばし、赤と白の巫女装束の上に千早。

身長は銀よりも高く、年上に見える。頭頂部には黒い狐耳が生えており、7本の尻尾が顔を覗かせていることから、彼女も銀の同類であることが窺える。

 

彼女の名前は上里 ひなた。

類い稀ない霊媒資質を有する空狐族の一員であり、銀のサポートをしている少女である。

 

「おっ、ひなた。どうかしたのか?」

 

「高天原からの呼び出しです。至急来て欲しいそうです。」

 

「高天原から? 何かあったのか?」

 

「そこまでは聞かされていません。直接、伝えたいそうです。」

 

「オッケー、分かった。じゃあ、勉強はここまでにして……ひなた。」

 

「はい。」

 

勉強道具を片付け、銀はひなたの手を握る。

銀が持つ神通力――【神足通】は、直接触れている相手と一緒に転移することができる。

しかし、無制限という訳ではなく、一度に転移できる人数は限られている。ちなみに、銀の力量で一緒に転移できる人数は2人までだ。

 

「神足通・日輪の社!!」

 

風景が一変して、屋内から屋外になる。

2人の目の前には大きな神社の本殿が威風堂々と聳え立っている。

 

 

ここ、高天原はいくつもの島が浮遊している。

無数にある島1つ1つに社が建てられ、それぞれ日本神話体系に所属する神霊が住んでいる。そして、2人が居る〈日輪の社〉には高天原の指導者――天照大御神が住んでいる。

 

「空狐族、三ノ輪銀及び上里ひなた、参りました。」

 

「ご苦労様です。突然お呼びして申し訳ありません。」

 

本殿から現れたのは、白と赤の豪奢な着物に身を包んだ黒髪の女性。

頭には太陽をモチーフにしたヘッドアクセサリーを身に付けており、首飾りとして勾玉を掛けている。

 

彼女こそ、高天原の最高指導者にして太陽を司る主神、天照大神その人。

銀たち空狐族を保護してくれた恩人であり、生活の援助してくれている後援者である。

 

「元気そうでなりよりですね。」

 

「この度の召喚の理由をお聞かせ願えないでしょうか?」

 

「ひなたは相変わらず素っ気ないですね~」

 

素っ気ないひなたの態度に天照大御神は苦笑いを浮かべる。

 

「では、さっそくですが、本題に入りましょう。実は先日、事代主神から託宣がありました。」

 

「どんな内容なんですか?」

 

「駒王の地にて、赤き龍覚醒の兆しあり。つまり、駒王町に赤き龍の力を宿した者が居ることが判明しました。」

 

「「!!」」

 

事代主神から齎された託宣の内容に2人は驚愕する。

 

〈赤き龍〉という称号を冠する生き物はこの世界において一匹のみ。

ウェールズの伝承に登場し、国旗にもその姿が描かれる赤いドラゴン――〈赤龍帝〉ドライグ。

つまり、大戦時に聖書の3勢力共闘のきっかけを作った二天龍の片割れだ。

 

「さらに言えば、駒王町に堕天使の集団が侵入したという報告もあります。」

 

「……あれ? でも、駒王町って悪魔の土地でしたよね?」

 

「はい。ですが、管理者であるリアス・グレモリーはまったく動いていません。」

 

天照大御神はため息を溢した。

 

駒王町は表向きリアス・グレモリーという悪魔の少女が管理者を務めている。

管理者は領土への不法侵入者の対処を担当するのだが、堕天使の一団が不法侵入しているにも関わらず、動く気配を見せていない。

 

「おそらくですが、堕天使も赤き龍の存在に気付いたと思われます。」

 

「……それで、私たちはどうすればいいのでしょうか?」

 

「特に何も? 今回、呼び出したのは注意喚起だけですから。

 但し、侵入した堕天使の行動次第ではお二人に討伐をお願いするかもしれません。」

 

態度を変えないひなたに対しても、天照大御神は笑顔を向ける。

 

「あっ、天照様!! 子供たちは元気ですか?」

 

「はい。お預かりした子供は咲耶姫がしっかり面倒見ています。すくすく成長してますから、安心してください。」

 

「それなら良かったです。」

 

あの惨劇の日を生き延びた空狐族全員が神社で暮らしてる訳ではない。

駒王稲荷神社に住んでいるのは、銀やひなたを含めて総勢10人。俗に年長組と言われる子供たちだけが駒王町に住んでいる。

それより年下の子供については、子育ての神様――木花咲耶姫が自分の領土で育てている。時折、年長組も育児所を訪れて木花咲耶姫の手伝いをしている。

 

「それでは、私はこれで。良かったら子供たちに会ってきてくださいね。」

 

そう言い残すと、天照大御神は社の中へと戻っていった。

 

「ひなた~、まだ心の整理はつかないのか~?」

 

「ごめんなさい、銀ちゃん。」

 

「まあ、あの人も気にしてる様子はないし、別に良いけどさ……その過去についてはまだ話してくれないのか?」

 

ひなたが恩人である天照大御神に対して、素っ気ない態度をとる理由は彼女の過去に生じた因縁が関係しているらしい。

ただし、彼女はその過去の因縁を幼馴染の銀にすら話そうとしない。

 

「ごめんなさい。心の整理がついたら、話しますから。」

 

「ん~……わかった。ひなたを信じて待つよ。」

 

銀とひなたは再び神足通を使い、人間界に戻るのだった。

 

 




プロローグを読んでいただいて、ありがとうございます。


しばらく小説執筆から離れていたため、リハビリとして書きました。
完全な自己満足作品なので、正直のところクオリティは今一だと思いますが、これからも読んで頂けると嬉しいです。

リアルでどれだけ時間を確保できるか分からないので、不定期更新になります。何とかエタらないようにしたい(とか言いつつエタってる作品がいくつもあるのは気にしない方向で)


ちなみに、銀ちゃんを主人公にしたのは私の好きなキャラだからです。
(他には、郡ちゃんと歌野ちゃん、園子ちゃん)


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第1章 銀と放課後のグレモリー
第1話 「始まり」


~駒王町商店街~

 

 

「砂糖、塩、しょう油、みそ……他に必要なモノはあったかね~」

 

おやつ時の午後3時。

駒王町にある商店街の通りを大きな買い物袋を携えた銀が歩いていた。

大量の調味料が入った袋は重そうに見えるが、見た目小学生ぐらいの銀はそれを軽々を持ちあげている。

 

「うーん、ちょっと本屋に寄りたいけど、お金は……」

 

サイフを開けて残金を確認すると、銀の手持ちは513円だけ。

 

ちなみに、銀が持っている買い物の品は高天原から支給される生活費から出ている。

それとは別に空狐族の面々は余った生活費や報酬金から得た個人資金を有している。

 

「そういえば、この前マンガを大人買いしたなー。まあ、今月は新刊とか出てなかった筈だし、大丈夫だろ。」

 

そう言いながら銀は商店街にある本屋の方に足を向ける

そして、本屋の新刊コーナーの赴いた銀が見つけたのは、お気に入りの漫画の新刊。

 

「くぅ……半年に一回しか出ないから油断してた。ギリギリお金が足りない。」

 

銀が見つけた新刊を買うにはお金が200円ほど不足している。

悔しがる銀の視界にもう1つのサイフが映る。高天原から支給される生活費が入ってるため、そこそこ潤沢なお金が入っている。

 

(砂糖とか安く買えたし、200円ぐらい使ってもバレないバレない。)

 

『そうは問屋が下ろさないわよ~』

 

(ゲッ!?)

 

共用のサイフから小銭を抜き取ろうとした時、相棒の声が聞こえてくる。

精神を相乗りしているため、銀の感覚の一部はリヴァイアサンも共有している。なので、銀の悪だくみは基本的に筒抜けなのだ。

 

(見逃してもらえませんかねぇ?)

 

『ダ・メ♪ ひなたに怒られたくなかったら、その手を戻しなさい。』

 

(ちぇ……)

 

リヴァイアサンに諌められ、小銭を戻す銀。

結局、銀は何も買わずに本屋を後にした。

 

「ん? アイツは…………」

 

大人しく帰ろうとした銀の視界に2人組のカップルが映った。

 

この商店街には、アクセサリー店も軒を連ねているのでカップルが居るのは珍しくない。

しかし、そのカップルの中に普通の人間ではない存在が混じっているのなら、話は別だ。

 

(ねえ、リヴァイアサン。あの女性の方…………)

 

銀が見つけたのは、高校生ぐらいの青年と睦まじい様子の女性。

少しスレンダーで長い黒髪はストレートに伸ばしているのが特徴な彼女だが、その程度の変装では銀の目を欺くことはできない。

 

『間違いなく堕天使ね。大御神の話にあった堕天使でしょうか?』

 

(はぐれ堕天使、ね。まったく、ここの悪魔は何をしてるんだか)

 

銀は心の中で、駒王町の管理代行者に毒づく。

 

(まあ、ちょうどいいか。リヴァイアサン、行動次第では狩るよ。)

 

『了解よ。』

 

銀は商店街の人通りのない路地に入ると、荷物だけを転移させる。もちろん手紙を添えるのを忘れない。

さらに、普段着から前世で慣れ親しんだ赤と黒を基調にした戦闘用の衣装へと衣装チェンジすると、今まで隠していた空狐族の特徴である耳と尻尾を表に出す。

 

「ん~やっぱり自然体が一番だな!!」

 

『はぐれの討伐って、いつ以来?』

 

「先月ぶりぐらいかな? おかげで、金欠だよ。」

 

銀の個人資金の収入源には、はぐれ勢力の討伐報酬金が存在する。

 

悪魔や堕天使などの大規模勢力の中には、指導者に反目したはぐれ者が大なり小なり存在する。そういった者たちは自分勝手に動き、時には何も知らない人間を手に掛ける。

銀たち空狐族は高天原より悪質なはぐれ者の討伐を任されており、討伐した場合には報酬金が支給される。もちろん、無意味に殺すことは禁止されているが。

 

ちなみに、駒王町に侵入したはぐれ者の討伐は本来、表向きの管理者リアス・グレモリーという悪魔の仕事だったりする。

 

 

閑話休題

 

 

「さて、と。追跡を開始しますかね。」

 

銀が取りだしたのは、単なる布切れ。

 

「デュプリケイト!!」

 

《Deplicate!!》

 

銀の左目の力を行使すると、単なる布切れが立派なマントに変化する。

それを上から被ると、銀の姿が見えなくなってしまった。

 

銀の相棒、リヴァイアサンは【複写】という能力を持っている。

【複写】はすでに存在する物を複製することもできるが、物質を変質させて自分の思い描いた通りに作り替えることもできる汎用性の高い能力である。

 

銀が被っているマントもこの能力によって布切れを変質させた物であり、透明化の能力を付与されている。もっとも気配や声を殺すことはできないので、気付かれる時は気付かれるが。

 

「おっ、居た居た。」

 

路地から出た銀は人を避けながら堕天使の少女を追跡する。

 

『銀は声は出さないように。声まで消せないんだから』

 

(おっと。そうだった。)

 

『それにしても、私の能力って使う人が使えば、こんなに強力になるのね。』

 

(同感。アタシも蓄えたマンガ知識がこんな所で役に立つと思わなかったよ。)

 

リヴァイアサンの【複写】は空想の物を作り上げることができる。

しかし、その本領を発揮するにはイメージ力が必要になるので、センスが要求される。銀の場合は、今まで読んだ漫画を参考にして、多種多様なアイテムを作り上げることができる。

 

『そういえば、あのカップル見て、彼と同じようなことしたいと思わないの?』

 

(うーん……アイツはどちらかと言うと、友達感覚の方が強いからなー)

 

『彼も可哀そうね。』

 

(いや、本人も今の関係を楽しんでるみたいだし、良いんじゃないか?)

 

脳内で世間話を続けながら、銀は堕天使と人間のカップルの追跡を続けるのだった。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

そして、時間は過ぎて、気が付けば夜になっていた。

カップルは噴水のある公園にやって来て、銀は茂みから様子を見ている。

常人なら距離的に聞こえない声も空狐族で高い聴力を有する彼女には問題なく聞こえている。

 

「今日は楽しかったわ、イッセーくん」

 

「お、俺も楽しかったぜ、夕麻ちゃん。」

 

「…………本当に、楽しかったわ。最後の思い出には勿体ないくらいに。」

 

「え……?」

 

少年が口を開くよりも早く夕麻と呼ばれた少女は動いた。

彼の背後に回り込み、口元に白い布を押し付ける。やがて、少年の全身から力が抜けてその場に崩れ落ちる。

 

「イッセーくん。私に、最高の思い出をありがとう。」

 

堕天使の少女――夕麻の目尻からポロポロと涙が零れ落ちる。

そして、決意を固めて涙を拭うと、夕麻は立ち上がる。

 

「居るんでしょ? グレモリーの眷族。」

 

「………気付いていたんですね。」

 

夜の公園に現れたのは、駒王学園の制服に身を包んだ白髪の少女。

高校生の割には小柄な体で、身長は肉体年齢12歳の銀よりも低い。

 

「堕天使の私がこんなのことをお願いするのも変だけど、イッセーくんをお願い。」

 

「………何をするつもりなんですか?」

 

「こうするのよ。」

 

すると、夕麻は変身して、少年の姿と瓜二つになる。

 

「うちの上司は単純だからな。こうやって、身代わりを立てれば簡単に騙されてくれるぜ。」

 

夕麻は見た目や衣服だけでなく、口調や声色までも一緒になっていた。

彼のことをよく知らない人ならあっさりと騙されるだろう。

 

「イッセーのことは任せたぜ。」

 

そう言い残して、夕麻は公園から出て行った。

 

『どうする?』

 

(追い掛ける!!)

 

再び透明マントを上から被って、銀は堕天使を追いかける。

しかし、銀が追い付く前に夕麻は夜空から降り注いだ流星によって心臓を貫かれた。

 

心臓を貫いたのは、堕天使がよく使う光の槍。

飛んできた方向を見上げると、2人組の堕天使が上空に佇んでいた。

 

「ふん、レイナーレの奴はうまくやったようだな。」

 

「どうするの? あのガキに手を出さないっていう約束は?」

 

「守るわけがないだろう。レイナーレには、スケープゴートになってもらう。

 そして、あのガキは計画通り、神器(セイクリッド・ギア)を回収し、廃棄だ。」

 

「了解っすよ、カラワーナ。」

 

堕天使2人は死体を放置し、その場から立ち去った。

そして、誰も居なくなった所で銀は透明マントを脱ぎ、堕天使の容態を確認する。

 

まだ辛うじて息があるが、意識は朦朧としている。

現在も心臓に空いた穴から大量の血液が流れだし、変身も解けてしまっている。

 

「何か……誰かが仕組んだじゃないかって思うような展開だな。」

 

そう呟きながら銀は以前、〈ダンジョン〉で入手して秘薬を取り出す。

 

正式名称、【偽典・アムリタ】。

時間を巻き戻すことでありとあらゆる傷を癒すことができる秘薬だ。

 

「うーんと……これぐらいで良いのかな?」

 

小瓶の中身の半分を瀕死状態の夕麻の体に注ぐ。

すると、身体の時間が巻き戻り、傷口が修復されていく。数分も経たない内に傷口は完全に塞がるが、時間遡行が終わる気配はない。

 

「えっと……これってどうやって止めるんだ?」

 

『………さあ?』

 

止める方法が分からず、銀は見守ることしかできない。

 

「わぁぁ!! いい加減止まってくれ!!」

 

巻き戻り続ける肉体の時間に銀は慌てる。

しかし、薬の効果は止まらず、時間遡行が終わったのは夕麻の身体が見るも無残な姿になったときだった。

 

「………これ、どうする?」

 

『取り合えず、神社まで運びましょう。このまま放置する訳にはいかないわ。』

 

「だよなー、よっ……と。さすがに軽いな。」

 

銀は夕麻を背負うと、神足通を使って駒王稲荷神社に帰還するのだった。

 

 

 

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~駒王稲荷神社~

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい、銀ちゃん。」

 

神足通で帰って来た銀をひなたが出迎える。

 

「……銀ちゃんの背中で眠ってる子は何方ですか? 」

 

「えっとだな。実はかくかくしかじかなんだよ。」

 

「ふむふむ。話には聞いていましたが、とんでもない効果の薬ですね。まさか肉体を若返らせてしまうとは……」

 

ひなたは銀の背中で眠っている夕麻の頬をツンツンと突く。

 

高校生らしい体つきだった堕天使の少女、夕麻。

貫かれた心臓も完治し、外傷は綺麗になくなった。しかし、【偽典・アムリタ】の影響で彼女の身体は何と小学生ぐらいまで若返ってしまった。おまけに、身長も銀より低い。

 

「この子、どうします?」

 

「とりあえず、起きたら事情を聞いて、その後は本人に任せるよ。」

 

「良いんですか? 空狐族のことが外部に漏れるかもしれませんよ?」

 

「元々隠し通せるとは思ってなかったさ。一度、子供が誘拐されてるし、一部の悪魔には知られてる可能性が高い。」

 

空狐族は裏の世界では、絶滅したと思われている。

日本全土を領土とする天津神・国津神及び妖魔連合――通称、高天原がそのように宣言したからだ。しかし、実際には空狐族は銀を族長として生き残っている。

 

「大丈夫だって。何かあっても、アタシが居るんだから。」

 

「分かりました。今回は族長の意志を尊重しましょう。(私の方で対策を打っておきましょうか。)」

 

ひなたは頭の中で思考を巡らせる。

 

「さあ、お堅い話は終わりにして、晩御飯にしましょうか。」

 

「じゃあ、アタシはこの子を布団に寝かせてくる。」

 

「はい。」

 

2人は仲良く神社の中に入っていくのだった。

 

 




本作ではレイナーレ生存ルートです。

あと、ロリ化したのは私の趣味です。



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第2話 「はぐれ悪魔討伐」

~駒王稲荷神社 裏庭~

 

レイナーレが銀に保護されてから数日後。

 

駒王町に住む空狐族の拠点である神社の裏庭に銀たちは集結していた。

裏庭には、木々を切り拓いて作られた畑が一面に広がっており、一族総出で育てた春の野菜が収穫の時を迎えていた。

 

「収穫の時間だー!!」

 

――――おおーッ!!!

 

銀の号令に一族の皆が鎌やスコップを掲げて答える。

そして、全員一斉に丹精込めて育てた野菜を収穫に取り掛かる。

 

小さい頃から農作業をしていた彼らにとって、収穫作業は慣れたモノだ。

ある者はスコップを持って土の下にある野菜を掘り起こし、ある者は鎌を持って野菜を一つ一つ丁寧に刈り取っていく。

 

「今年も豊作ですね、銀ちゃん。」

 

「高天原特製の肥料使ってるからな。毎年豊作な上に味も良し。

 その代わり、虫が付きやすいのが欠点だけどな。」

 

ひなたと銀は話しながら自分の作業を続ける。

 

ひなたは収穫された野菜を段ボールに詰め、銀はスコップを手に野菜を掘り起こす。

他の子どもたちもわいわい騒ぎながらも自分の作業を着々と進めていく。

そして、収穫作業が終わったのは正午を少し過ぎた所だった。

 

「じゃあ、アタシはこの野菜を届けてくるよ。」

 

お昼ご飯を済ませ、数時間程休憩した後、銀はリアカーに段ボールを積んである場所に向かおうとしていた。

 

「お願いします。彼女のことは任せてください。」

 

「任せた。」

 

ひなたの言う『彼女』とは、先日保護したレイナーレのことだ。

銀が冥界のダンジョンより持ち帰った秘薬のおかげで、瀕死状態を抜け出した彼女はいまだに目を覚ましていない。

 

「あっ、銀ちゃん。そろそろお米がなくなりそうなので、買ってきてもらえませんか?」

 

「ん、分かった。」

 

銀は段ボールが一杯積まれたリアカーを引いて、町の方に向かう。

神足通を使えば一瞬で到着するのだが、今回の目的地は一般の人が出入りする場所。

そのため、自分の足で向かうしかない。

 

「~♪~♪~♪」

 

鼻歌を歌いながら、森の中を進む銀。

人一人ぐらいしか通れない道を進み続け、森を抜けると栄えた街並みが彼女を出迎える。

尻尾と耳を見えなくして街の中を更に進むと、ようやく目的地が目に見えた。

 

古風な民家を思わせる外観の建物。その前に並ぶのは色とりどりの野菜や果物。

『現在、準備中』の立て札の向こう側では、2人の少女がせっせと商品の陳列を行っている。

瓦屋根には大きく〈白鳥農園〉という文字が掛かれた看板が取り付けられている。

 

銀は作業中の少女2人に声を掛けた。

 

「歌野さーん、藤森さーん!! 持ってきましたよー」

 

「おっ、ジャストタイミング!! こんにちは、銀ちゃん。」

 

「こんにちは。」

 

作業の手を止めて、出てきたのはこのお店―〈白鳥農園〉を経営する2人組の少女。

黒髪ショートヘアーの少女――白鳥 歌野と茶髪のショートヘアーの少女――藤森水都。

 

「今日も持ってきましたよ。ウチで採れた新鮮な野菜!!」

 

「グレイト!! 相変わらず、良い野菜ね。前に持ってきてくれた野菜もあっという間に売り切れたし、今回も期待大ね。」

 

「うたのん、あんまり時間がないから手短にね。」

 

「あっ、ソーリー、みーちゃん。」

 

「何かあったんですか?」

 

「うん。今日売りに出す商品の到着が遅れてね。それで今、うたのんと大慌てで準備してるの。」

 

銀の質問に水都が答える。

 

彼女らが営む〈白鳥農園〉は、駒王町ではそれなりに名が知られている青果店だ。

店主である歌野が育てた野菜や他の農家から委託された農作物を取り扱っている店で、銀も神社の裏庭で育てた野菜や果物を卸している。

 

予定なら他の農家から販売を委託された農作物がもっと早く到着する筈が、交通渋滞の影響で予定より遅刻。搬入物の受け取りを終えたのがついさっきらしい。

 

「なんてハプニング。今日は特に売りに出す商品が多いのに……」

 

「歌野さん。アタシで良ければ手伝いますよ!!」

 

「本当!?」

 

「はい!! 歌野さんにはお世話になってますから!!」

 

「それは助かるわ!! みーちゃん、頼もしい援軍よ!!」

 

「うん!! 急ごう!!」

 

3人は開店時間に向けて、一致団結するのだった。

 

 

・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「いや~、銀ちゃんのおかげで間に合ったよ。」

 

「本当。一時はどうなるかと思ったよ。」

 

数時間後。銀は歌野と水都の2人と夕飯のご同伴に預かっていた。

品出しの手伝いの後、そのままお店の手伝いをしていたため、帰る時間が遅くなってしまった。そして、帰ろうとした時、夕飯を一緒に食べようと誘われて今に至る。

 

「んー♪ この蕎麦おいしい♪」

 

「そうでしょそうでしょ。何せ、本場の製法をきちんと学んできた上に使ってる素材はわたしが天塩掛けて育てた逸品よ。」

 

「でも、アタシはやっぱりうどんの方が好きだなー」

 

「おっと。蕎麦派のわたしにケンカを売るとはいい度胸ね。」

 

「負けませんよ?」

 

「二人とも、ご飯の時は落ち着いて食べないとダメだよ。」

 

「「はーい」」

 

水都に注意されて、2人は大人しく歌野特製の信州そばをすする。

 

「…………そういえば、昔うどん派の友達と蕎麦とうどん、どちらが優れてるかで争ったわね。」

 

蕎麦をすすっていた歌野がふと思い出したように呟いた。

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。結局、決着は付かなかったけどね。もう一度、語り合いたいわね」

 

そう言って、歌野はそばをすする手を再開させる。

 

「あっ、そうだ。これ、渡しておくね。」

 

話題を変える材料として、水都が取りだしたのは茶色の封筒。

中身はお金。しかも、少額ではなく、それなりに纏まったお金が入っている。

 

「ありがとございます、水都さん!!」

 

箸を止めて、中身の金額を確認する銀。

そして、入っていた金額に彼女は驚愕した。

 

「み、水都さん……こんなに貰っちゃっていいんですか!?」

 

「うん。ちゃんと貰うべき分は貰ってるから安心して良いよ?」

 

銀が貰ったお金は、白鳥農園に代理販売を頼んだ農作物の売上金。

空狐族は一番年上の銀で12歳なので、独力で農作物を売り捌くのは難しい。そこで、民間経営の白鳥農園に代理販売をお願いしている。もちろん、手数料などは支払っている。

 

「安心して。身内贔屓で高めに値段設定してるとかじゃないから。」

 

「うたのん、そこら辺は平等だからね。」

 

「美味しい野菜を適切な価格で売る。それがわたしのモットーですから。」

 

歌野がふふんと自慢げに笑う。

 

「うーん、歌野さんがそう言うなら…………」

 

思わぬ収入に戸惑いながら金一封を鞄に入れる銀。

その時、食卓に軽快な音楽が鳴り響いた。音の発生源は高天原より支給されている銀のスマートフォン。

 

「ひなた、どうかしたのか?」

 

『先ほど、結界に転移反応がありました。場所を送りますから、見てきてもらえませんか?』

 

「ん、分かった。帰りに寄っていくよ。」

 

『お願いします。それから、あまり遅くならないように。』

 

「分かってるよ。じゃあ、切るぞ。」

 

通話を切り、銀は再び食事に戻った。

 

 

________________________________________

 

 

白鳥家で晩御飯を終えた銀は、ひなたに言われた通り町はずれの廃屋を訪れた。

周囲を森に囲まれた廃屋は住民の記憶からも忘れ去られ、手つかずの状態で放置されている。ひなたの結界は、この廃屋に何者かが転移したことを感知した。

 

「さぁて、この街に侵入してきた不届き者は誰かねぇ。」

 

『はぐれ悪魔に1票。』

 

「それはそれで有難いな。臨時収入ゲットだ。」

 

敵が居るかもしれないのに、無警戒で廃屋に入っていく。

建物の中に入った彼女を待っていたのは、異形の怪物だった。

 

上半身は裸の女性そのものだが、下半身は異形の姿をしていた。

足は4本あり、その全てが太い。さらに伸びる爪も鋭く、尾は蛇のようになっている。

その巨体は5m以上あり、尻尾は独立しているのか、うねうねと動いている。

 

「はぐれ悪魔、だな。相変わらず、気味の悪い外見だ。」

 

「ケタケタケタ、上手そうな餌が来てくれるとはな。」

 

『コイツ、典型的なはぐれ悪魔ね。』

 

(だな。さっさと倒して帰るか。)

 

はぐれ悪魔とは、主である爵位持ちの悪魔に逆らった眷族のことである。

反逆する理由は様々だが、一番多いのが自分の力に溺れて理性のタカが外れること。

そう言ったはぐれ悪魔に理性の欠片もなく、自分の欲求を満たすために行動する。

 

目の前に居る異形の姿をしたはぐれ悪魔も、その典型的な例のようだ。

 

(リヴァイアサン、アタシの勇者装束を)

 

『了解。』

 

「お前の血肉を喰わせろぉ!!」

 

その手に握られた槍の先端が銀の目前に迫る。

しかし、その先端が彼女の身体を貫くことはなく、空中に縫い止められていた。

よく見ると渦巻いた風が盾となって、槍を食い止めているのだ。

 

「“疾風は我が剣となり、我が眼前の敵を切り裂く”」

 

銀が詠唱すると、盾なった風が破裂して、はぐれ悪魔を切り裂く。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

風は銀のイメージに従って、はぐれ悪魔の両腕を切り落とす。

敵が痛みに悶えている間に銀は地面を蹴り、両手の斧で足を切り落としていく。

さらに、攻撃できそうな蛇の尾っぽも排除して抵抗する手段を奪い去る。

 

「き、貴様ぁ!! 普通の人間ではないのか!?」

 

「誰が普通の人間だって言ったよ?」

 

手足を切り落とされ、抵抗することができなくなったはぐれ悪魔。

銀はその首筋に斧の刃を当てる。

 

「あの世でエンマさまの裁きを受けるんだな!!」

 

躊躇なく振り下ろされる刃によって、とうとう胴体と首が分かれる。

いくら悪魔の生命力が強くても首と胴体が離れてしまうと、再生は不可能だ。

 

「討伐完了、と。証拠は頭だけ持って帰ればいいか。」

 

銀ははぐれ悪魔の頭部だけを回収すると、胴体は燃やしてしまった。

燃え盛る炎が真っ暗な廃屋の中を照らす中、炎が鎮火するまで待っていると廃屋の扉が勢いよく開け放たれた。

 

「はぐれ悪魔バイザー!! あなたを討伐しに……来た……わ……」

 

(あっちゃぁ……自称管理者が来ちゃったかぁ)

 

この日、運悪く駒王町の実質の管理者と表向きの管理者が邂逅を果たした。

 




銀は神社の外では耳と尻尾は隠しています。
戦闘中も基本的に隠していますが、全力を出す場合は隠匿を解除します。

あと、「そんな時間に市場やってねえだろ」というツッコミは受け付けません。こうしないと、上手く展開を作れなかったんです。


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第3話 「邂逅の後」

駒王町には、2人の管理者が存在している。

 

 

1人は日本を領土とする高天原に公認された管理者、三ノ輪 銀。

駒王町が管理者不在状態だった時期から管理を任され、侵入者を感知する結界を管理は空狐族が引き受けている。はぐれ悪魔などのはぐれ勢力の討伐の他にも駒王町を流れる霊力の流れ――霊脈の管理も担当している。

 

 

もう1人は悪魔の名門貴族の令嬢、リアス・グレモリーである。

本人は駒王町の管理者を名乗っているが、実際には自称管理者でしかない。何故なら、土地の所有権を持っている高天原から管理者として認められていないからだ。

さらに言えば、リアスの場合は悪魔上層部から指示されたはぐれ悪魔を討伐しているだけ。つまり、無関係な人間に大きな被害が出てから討伐しているため、人間界に大きな被害が出ている。

 

 

銀はリアスに関わらないようにするため、秘密裏に動いていた。

そのため、リアスも銀の存在を知らない

 

 

しかし、この日。銀とリアスは初めて邂逅した。

 

 

 

「これは、貴女がやったの?」

 

燃え盛る炎に包まれたはぐれ悪魔の死体と廃屋に飛び散った血痕を見ながらリアスが呟く。

 

「そうだよ。コイツを野放しにしておくと、無関係なヒトに被害がでるからな。」

 

「此処は私、リアス・グレモリーが管理する土地よ。勝手なことしないで頂戴。」

 

「アンタたちが動くのを待ってると、無関係なヒトに被害が出る。その命令には従えないな。」

 

「そう……こちらの命令に従わないなら仕方ないわ。」

 

リアスの言葉を合図に彼女の眷族3人が戦闘態勢に移行する。

約一名だけは状況について行けずオロオロとしているだけだったが……

 

「おいおい、そうやってすぐに暴力を振るうのはどうかと思うぜ?」

 

「私が管理する町に不確定要素を残しておく訳にはいかないわ。祐斗!! 小猫!!」

 

主の命令に従って、小柄な白髪の少女と金髪のイケメンが飛びかかってくる。

銀はすぐさま【神足通】を発動させ、2人の攻撃を避ける。

 

「戦うのは面倒だから、トンズラさせてもらうぜ。」

 

「逃げられると思ってるの?」

 

「思ってるさ。神足通!!」

 

銀はもう一度【神足通】を発動させ、廃屋から姿を消す。

まるで初めからそこに居なかったかのように姿を消してしまった銀にリアスたちは驚きを隠せなかった。

 

転移の術自体は珍しくないのだが、それらは大なり小なり痕跡や予兆がある。

例えば、悪魔が使う転移の術は魔法陣が現れる予兆が存在し、使用者の魔力が僅かに残る。

 

これに対し、銀の【神足通】は転移の痕跡や予兆がまったくなかった。

リアスたちからすれば、彼女は忽然と消失したようにしか見えなかった。

 

「幻覚……ではないわよね?」

 

「その筈です。きちんと匂いがありました。」

 

「予兆も痕跡も出さずに転移した……? そんなことが……」

 

「もしかすると、転移系の神器(セイクリッド・ギア)を持ってるのかもしれないわね。それなら、今の転移術も説明できるわ。」

 

「どうしますか、部長。」

 

「今日は帰りましょう。追跡ができない以上、此処に居る意味はないわ。」

 

そう言って、リアスとその眷族たちは早々に現場から立ち去った。

 

 

________________________________________

 

 

一方、【神足通】で逃亡した銀ははぐれ悪魔討伐の報告を高天原に挙げた後で神社に帰還した。

 

 

「ただいま~」

 

「おかえりなさい。首尾はどうでしたか?」

 

「侵入したはぐれ悪魔は討伐。だけど、グレモリーに遭遇して、戦闘になったよ。」

 

銀の報告にひなたは険しい表情を浮かべる。

 

「手札は何を晒しましたか?」

 

「神足通だけだよ。言われた通り、戦闘は避けたしな。」

 

「それなら良かったです。神足通ぐらいなら、大丈夫でしょう。」

 

ひなたは安堵した。

 

ひなたが心配していたのは、リアスを通じて銀の手札が悪魔に知られること。

銀の相棒であるリヴァイアサンは肉体を失っているが、裏世界の勢力図を一変させる程の力を持っている。そのことが知られると、その力を狙う悪魔が出てくるのは確定。

もちろん、銀がそうそうやられることはないが、親しい者が人質に取られればその限りではない。

ちなみに、あらゆる場所に出現することができる【神足通】は銀の持つ手札の中で、外部に漏れても問題がないレベルの能力だったりする。

 

「そうそう。銀ちゃんが保護した堕天使、目が覚めましたよ。」

 

「おっ、ようやくかぁ。」

 

「はい。それで、銀ちゃんに話があるそうなんです。」

 

「ん、分かった。」

 

銀はひなたに先導される形で堕天使の少女に宛がわれた部屋に向かう。

少女が目を覚ましたのは、ちょうど銀が〈白鳥農園〉の手伝いをしている時間帯で現在に至るまでの経緯等はすでに説明を済ませたらしい。

 

「よっ、気分はどうだ?」

 

部屋の襖を開けると、黒と白の和装に身を包んだ幼女が自分の翼を手入れしていた。

 

「悪くない気分です。このような身体になったのは予想外でしたが。」

 

「それはどうしようもなかった。」

 

「別に気にしてませんよ。その気になれば、いくらでも姿を変えれますから。」

 

翼の手入れを止めて、黒髪の幼女――レイナーレは銀と向き合う。

 

「それで、アタシに話があるって言ってたけど……」

 

「短期間で強くなる方法を教えてもらいたいのです。」

 

レイナーレは胡坐をかく銀の背後――正確には、ゆらゆらと動く尻尾を見ながら言う。

 

「私はグレゴリに居た頃、様々な伝承を読み漁りました。もちろん、その中には空狐族に関する記述も存在しました。空狐族は9本の尾を持って生まれ、力を増す度に尻尾が減る。」

 

空狐族の実力は、実体化している尻尾の数によって判断できる。

生きている時間に比例して力を増すと、9本の尻尾が1本ずつ霊体化して“霊視”という特殊な能力を持たないと見えなくなる。そして、最終的には全ての尻尾が霊体化する。

しかし、全ての尻尾が霊体化して真の空狐になるには3000年という長い長い月日が必要になる。

 

つまり、空狐族というのは空狐になる可能性を秘めた種族なのである。

 

「空狐族は尻尾が1本減るぐらいに力を増すのにもとんでもなく長い時間が掛ります。それなのに、お二人の尻尾はすでに複数減っている。」

 

ちなみに、尻尾の数は銀が6本、ひなたが7本である。

 

「だから思ったのです。もしかしたら、短期間で強くなる方法を持っているのではないか、と。」

 

「うーん……あるにはあるけど、それを聞いて何をしたいんだ?」

 

「ある少女を守るために。」

 

「どういうことですか?」

 

「駒王町に侵入した堕天使の目的は、神器(セイクリッド・ギア)を集めること。以前、拠点にしていた場所はグレゴリの諜報部にバレて破棄したから、この場所を選びました。」

 

「おいおい、ちょっと待ってくれ。アタシの記憶が確かなら、神器を抜かれたヒトは……」

 

「お察しの通り、彼らは無関係なヒトの命を奪い、いくつもの神器を収集しています。」

 

聖書の神が人間たちにもたらした異能、神器(セイクリッド・ギア)

十人十色な能力を持つソレは持ち主が亡くなると、次の所有者に転生する特性を持っている。そのため、抜き取るには特別な儀式を行う必要がある。

しかし、神器は所有者の魂と密接に結びついているため、無理に抜き出すと所有者は亡くなってしまう。今までにも複数の神器(セイクリッド・ギア)を無理矢理回収しているらしい。

 

「そのことを知ったのは最近。ずっと、命を奪わずに抜き出す手段を手に入れたって、騙されてたから…………」

 

「ん? じゃあ、何でアイツの神器は取らなかったんだ?」

 

銀が言うアイツとは、レイナーレが身代わりになった少年のこと。

どうやら今はグレモリーに身を寄せているようだ。

 

「彼……イッセーくんが持ってるのは、神滅具(ロンギヌス)かもしれないからです。どんなことが起こるか分からないから、処分したんだと思います。」

 

(あの時の男が天照さんが言ってた神滅具(ロンギヌス)所有者の可能性があるのか……世の中狭いな~)

 

神滅具(ロンギヌス)とは、神器(セイクリッド・ギア)の中でもひと際強力な能力を持つ12種の武具のことを指す。

その力は字が現しているように神様すらも屠る力を発揮すると言われている。

 

「銀ちゃんから貴女は自殺未遂を起こしたと聞いてますが、守りたいヒトが居るのなら生き続けるべきなのでは?」

 

「当初の予定では、私が死ぬと同時に守りの秘術が彼女に発動する筈だったんです。悪意あるモノを寄せ付けない堅牢な守りであの子は守られる。」

 

『ひなた。今までの話にウソが交じってるか?』

 

『いいえ。ウソを感知する結界を張らせていますが、反応はないみたいですね。』

 

『―――ってことは今までの話は全部本当ってことか……』

 

『どうしますか?』

 

『ここで拒否するのは、アタシの性分じゃないからな』

 

思念通話でレイナーレの話していた内容に一字一句ウソが紛れ込んでいないことを確認した銀は、レイナーレの要求に応えることにした。

 

「冥界の一角に〈ダンジョン〉っていう地下迷宮があるんだ。理由は分かんないけど、そこに住む魔物を倒せば、格段に早く成長できる。」

 

そう言って、銀は一枚の書類をレイナーレに渡す。

 

それは〈ダンジョン〉に潜るための許可書である。

そもそも〈ダンジョン〉は、とある悪魔が秘密裏に所有していた施設であり、現在は前所有者の悪魔と繋がりがある銀が引き継いでいる。

そのため、〈ダンジョン〉を利用するためには銀が発行する許可書が必要になる。ちなみに、無理に侵入すると、とある神様がお仕置きにやってくることに……

 

閑話休題

 

「ありがとうございます。」

 

「その代わり、今回侵入してきた堕天使の規模とか教えてくれないか?」

 

「構いません。まず、今回の活動はグレゴリとは無関係です。そして、堕天使の数もそう多くはありません。私が知る限り堕天使は3人で、町に居るのは2人です。」

 

「あら、案外少ないですね。10人ぐらい居ると思ってました。」

 

「但し、大勢のはぐれ神父が居ます。正確な数は分かりませんが、30は越えると思います。」

 

「なるほどな。じゃあ、アイツらは何処を拠点にしてるんだ?」

 

「駒王町にある教会です。今は廃墟になっていると聞いていますが……」

 

「ああ、あの教会か。確かに、あそこならヒトも寄りつかないし、良い場所だな。」

 

レイナーレが話す拠点に銀は心当たりがあった。

 

駒王稲荷神社周辺にある教会は、何年も前に廃墟になった教会のみ。

町の郊外にあるため、今はヒトも寄りつかなくなっているので、はぐれ勢力が身を隠すには都合が良い。

 

「聞きたいことはそれぐらいかな? ひなたは何かあるか?」

 

「そうですね……ダンジョンのことで1つ。ダンジョンに潜る前に必ず運営に寄ってくださいね? いろいろ手続きがあるので。」

 

「分かりました。」

 

「じゃあ、今日はゆっくり休めよ。」

 

「それでは、ご厚意に甘えさせていただきます。」

 

「おう。」

 

レイナーレを部屋に残して、銀とひなたは立ち去る。

 

「さてと。拠点の場所も聞き出せたし、明日にでも殴り込み掛けるかな。」

 

「そのことなんですが、その前に銀ちゃんに受け取って来て欲しい物があります。」

 

「受け取って来て欲しい物?」

 

「はい。実は、大国主さまに“ある物”の開発をお願いしていたんです。銀ちゃんには、それを受け取って来て欲しいんです。」

 

「別に良いけど……一体、何を頼んだんだ?」

 

「ふふふ♪ それはもらってからのお楽しみです♪」

 

「本当に何を頼んだんだ…………?」

 

銀の疑問にひなたが答えることはなかった。

 

 

________________________________________

 

 

そして、同時刻。

駒王町に2つの人影が近づいていた。

それは建物の屋根から屋根へと音もなく飛び移り、駒王町の方を目指す。

やがて、駒王町と隣町の境界線近くに立つビルの屋上で2つの人影は足を止めた。

 

「これ……霊力の結界? こんな大規模な?」

 

「杏、何かあるのか?」

 

「うん。かなり大規模な霊力の結界が張られてる。これは……転移に反応するみたい。」

 

「じゃあ、タマたちには関係ないな。杏、行くぞ!!」

 

「ああ!! 待ってよ、タマっち先輩!!」

 

この日。駒王町に新たな来訪者が現れた。

しかし、この2人の来訪者に気付く者は誰も居なかった。

 




物語の展開が早いかもしれませんが、これくらい早く進めないと完結にどれだけ時間が掛るか分からないので………


今回出て来た『ダンジョン』は、当然オリジナルの施設になります。


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第4話 「勇者、再臨」

 

 

 

~高天原~

 

翌日。

 

銀はひなたに言われた通り、国津神のトップ――大国主の領土を訪れていた。

浮き島には初期の出雲大社をモチーフにした建物が建てられており、長い長い階段の上にこじんまりした社が建てられている。

 

 

社の大広間に通された銀は、胡坐をかく壮年の男性と面会していた。

黒い髪にきちんと整えられたアゴ髭、少し日に焼けた肌を持つ彼こそ、日本神話2大勢力の片翼、国津神のトップを務める大国主である。

 

 

「待っておったぞ、銀。要件はわかっておる。儂に依頼されていた物を取りに来たのだな?」

 

「はい。」

 

銀は背筋をピンッと伸ばして、応える。

 

「何度も言うが、もう少し楽にしても構わんぞ? 儂は気にせんからな。」

 

「そう言う訳には……」

 

大国主の要求に銀は苦笑いを浮かべる。

かの神は礼儀にとやかく言うタイプではないが、その身に纏う雰囲気がフレンドリーに接することを許さない。

 

「ふぅ……まあ良い。おい、“アレ”を持ってまいれ。」

 

大国主の命令に従い、彼の眷族である白兎が三方と呼ばれる神具を持ってくる。

銀の目の前に置かれた三方には和紙が敷かれて、その上には一台のスマートフォンが置かれている。

 

「それがお主の副官に依頼されて作った物だ。」

 

「見た目は普通のスマートフォンですね。これなら、天照大御神様から賜った物が……」

 

「確かに見た目は普通だ。だが、その端末にはあるシステムが搭載されておる。」

 

「あるシステム、ですか?」

 

「うむ。発案はお主の副官だが、中々興味深い案だった。これを他の神々に話したら、ノリノリで協力してくれてな。挙句の果てには、天照も乗って来た。」

 

(ひなた……お前、一体どんな物を発案したんだ?)

 

高天原の神々がノリノリで作り上げたシステムと聞かされて、銀も興味が湧いた。

 

「ここで儂が説明しても良いが、全部を説明すると時間が掛る。詳細はアプリに書いてあるから、そっちを読んでくれ。」

 

「分かりました。」

 

「うむ。それと、天照から貰ったスマートフォンは儂が返しておこう。」

 

「お願いします。」

 

新しいスマートフォンを受け取り、以前天照大御神から支給されたスマートフォンを三方の上に置く。

早速スマートフォンの電源を入れ、ひなたが提案したというシステムを確認する。

インストールされているアプリは以前のモノとほとんど同じだが、アプリが1つ増えていた。それこそ、ひなたが提案したシステムを使うアプリ。

 

「…………大国主様。ひなたはこのシステムを何と呼んでいましたか?」

 

喰い居るようにスマートフォンの画面を見つめる銀。

画面に映っているアプリは灰色の円の上に若葉が描かれてたアイコン。

 

そのアイコンのアプリを銀はよく知っている。

しかし、それは銀の前世に関係があるアプリなので、幼馴染のひなたが知っている筈がない。

 

「確か……“勇者システム”と呼んでいたぞ?」

 

 

 

________________________________________

 

 

 

「偶然の一致、とは考えられないな」

 

高天原から戻った銀はとある建物の上でスマートフォンの画面と睨めっこしていた。

画面に表示されているのは ひなたが発案し、日本神話の神々が作り上げた戦闘システム――【勇者システム】の詳細情報である。

 

「でも、システムの中身はちょっと違うな。」

 

『そうなの?』

 

「ああ。この精霊とかはアタシが使ってたシステムになかったしな。」

 

この世界の勇者システムは、龍脈を流れる霊力をエネルギー源にしている。

龍脈の霊力を使用して、神々の恩恵を再現してシステムの使用者に与えるのが本システムとなっている。過程は違えど、もたらされる結果は銀の知るシステムとまったく同じ。

 

「直接聞いてみるか…………」

 

新しいスマートフォンを操作して、神社に居る筈のひなたに通信を繋げる。

 

『もしもし、銀ちゃん。何かありましたか?』

 

「大国主様からちゃんと受け取ったよ。ひなたが考案したアプリがインストールされたスマートフォンを。」

 

『そうですか。では、これから堕天使の討伐ですか?』

 

「その前にひなたに聞きたいことがあるんだ。」

 

『何ですか?』

 

「ひなた、どうして勇者システムのことを知ってるんだ?」

 

銀は胸に抱いた疑問を素直にぶつけた。

 

『その口ぶりですと、やっぱり私の予想は当たっていたようですね。

 銀ちゃん、貴女は神世紀……バーテックスが現れた世界からの転生者ですね?』

 

「今更隠す必要もないかな。ひなたの予想通りさ。アタシは神世紀の世界から転生した元勇者さ。ひなたは?」

 

『私も銀ちゃんと同一の世界からの転生者ですよ。ただし、私は銀ちゃんの時代から300年近く前の人間ですが。』

 

「300年前!? それって、死のウィルスが蔓延し出した時代じゃないか!?」

 

銀は驚いた。

 

彼女の前世の世界は人類は蔓延した死のウィルスの影響で生存圏を大幅に縮小した。

どれくらい縮小したかと言うと、日本の四国地方のみが生存圏となっている。

300年前とはそんな人類のとっての歴史の転換期が起こった時代なのだ。

 

『ああ、未来ではそのような話になっているんですね。』

 

「ん?」

 

『いえ、こっちの話です。それについては、戻ってから話します。』

 

「ん、分かった。アタシは拠点を潰してから帰るよ。」

 

通信を切り、銀は立ち上がる。

時刻は深夜。新しい勇者システムの調子を確かめている内にすっかり日が暮れてしまった。

そして、レイナーレから聞きだした拠点に向かおうとした時、スマートフォンが軽快なメロディが流れる。

 

「何だよ、こんな時に。」

 

画面をタップして、アプリを起動すると地図に赤い目印が立っている。

 

勇者アプリには空狐族が管理する結界と連動して、転移反応を感知した場所を表示する機能が実装されている。これによって、いちいち管理代表であるひなたを介する必要がなくなった。

 

「近いな……先にこっちから片付けるか。」

 

銀は足場を蹴り、大空を跳ぶ。

アプリに指し示された場所は現在位置から近く、彼女の足なら1分も掛らない距離だ。

 

「あれだな。神足通!!」

 

目的の建物を視界に収めた瞬間、【神足通】で建物の前に転移する。

そして、不用心に開けられたままになっている扉から侵入し、僅かな灯りが漏れる部屋の扉を思いっきり開ける。

 

「んぁ?」

 

「えっ?」

 

「お、お前は!?」

 

「あ、貴女は!?」

 

その部屋に居た者が三者三様の反応を浮かべる。

一部、知っている顔があったが、銀と入れ替わるように転移してしまった。

しかし、それに気づかない程に銀の視線は部屋に居た者ではなく、部屋にあった死体に向けられていた。

 

十字架に張りつけられた遺体は臓物がはみ出ており、四肢には釘が打ち付けられている。

普通じゃない殺し方をされた遺体は見るに耐えない状態で放置されていた。

 

「………おい、これをやったのはお前か?」

 

「イエスイエス。この質問も二回目だねぇ。先に来た悪魔くんは、ママに連れて帰られましたねぇ。この欲求、アンタで晴らさせてもらいますよ!!」

 

「に、逃げてください!!」

 

光の剣を振りあげて襲いかかってくる銀髪の少年。

銀は剣筋を見切り、最低限の動きで避けて鳩尾に思いっきり力を込めた拳骨を打ち込む。

 

「どういう理由でこのヒトを手に掛けた?」

 

「ゲホッ、ゴホッ。ああん? そんなのソイツが悪魔を呼び出す常習犯だからに決まってるじゃありませんか。悪魔に頼るのは人間として終わった証拠ですからねぇ。」

 

「そうか……お前、覚悟はできてるんだろうな!?」

 

「おうおう、強気だねぇ。でも、この人数が相手でも同じことが言えるかなぁ!?」

 

現れたのは1人の堕天使とはぐれ神父が十数名。

 

「フリード、こんな所で何をしてる。」

 

「すいませんねぇ、天使さま。アイツが邪魔してくるもんで。」

 

フリードと呼ばれた少年神父は銀を指差す。

 

「アンタがそいつらの親玉か?」

 

「いや、違うな。私はカラワーナ。そして、今からお前を殺す者だ。」

 

敵側全員が武器を抜き、中級堕天使カラワーナも光の槍を召喚する。

 

「堕天使も一緒に現れるなんて、ちょうど良い。」

 

銀は不敵な笑みを浮かべて、スマートフォンを取り出す。

 

「あまつちに きゆらかすは さゆらかす」

 

「何のつもりだ?」

 

「かみわがも かみこそは きねきこゆ きゆらかす」

 

カラワーナの問いかけを無視して、銀は呪文を唱え続ける。

日本の神事のことを知らない彼らは知らないが、銀が唱えているのは“阿知女作法”という神楽歌の1つをモチーフにした呪文である。

 

「みたまがり たまがりまししかみは いまぞきませる」

 

「何をしているのか分からないが、無防備だぞ!!」

 

「みたまみに いまししかみは いまぞきませる!!」

 

勇者アプリのアイコンが代わり、若葉からボタンの花へと変化する。

神父たちの攻撃が届く前に画面をタップし、銀は勇者システムを起動させる。

 

全身を覆うインナースーツの上に形成される牡丹の赤を基調にした衣装。

今までも同じ衣装を戦闘用の装束にしていたが、今回のはリヴァイアサンの【複写】で再現したレプリカではなく、神様の恩恵が施された真の勇者装束だ。

 

「覚悟しろよ、堕天使に神父ども。大橋の勇者、三ノ輪 銀が相手だ!!」

 

使いなれた2丁の斧を握りしめ、銀は戦闘に突入するのだった。

 




やっぱり、勇者であるシリーズなら勇者システムがないとね。
そういう訳で、序章も序章だと言うのに勇者システム登場。

残念ながら「結城友奈は勇者である」の勇者システムの劣化版なので、満開は存在しません。
さらに言うと、ベースは「乃木若葉は勇者である」のシステムなので、「鷲尾須美は勇者である」のシステムよりも弱体化。その代わり、精霊は実装されています(次話登場)



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第5話 「西暦の勇者」

 

~駒王町のとある民家~

 

 

日本神話の神々によって作り上げられた勇者装束を身に纏った三ノ輪 銀。

この段階でも防御力強化や攻撃力強化、回復力強化などの様々な恩恵を受けているが、それだけで終わらない。

 

「来い、鈴鹿御前!!」

 

銀の呼びかけに応じて、勇者をサポートする存在が降臨する。

 

現れたのは古風な和服を纏い、紫色の烏帽子を被った精霊。

精霊は高天原のデータベースに蓄積された伝承、逸話の存在を特殊な術によって現世に再現した存在であり、勇者のサポートする役割を与えられている。

外見はマスコットキャラクターのようだが、語り継がれた伝承・逸話になぞった能力も再現されているので、非常に頼もしい存在だ。

 

 

銀に宛がわれた精霊は、『田村麻呂伝説』に登場する女性――鈴鹿御前。

三明の剣という三振りの剣を所有し、盗賊や天女など様々な姿で描かれている女傑である。

その伝承は、銀の周囲に浮かぶ3機の遠隔操作ユニットとして現れている。

 

「何かすると思えば、衣装を変えただけか。」

 

「さあて。それはどうかな?」

 

銀は不敵な笑みを浮かべて、斧を肩に担ぐ。

 

「撃て。」

 

堕天使の指示に従って、はぐれエクソシストが光の弾を放つ。

悪魔にとっては毒を塗られた銃弾だが、音もなく放たれた弾丸は銀の勇者装束に無効化される。

 

「効かないね。(説明書に書いてあったけど、本当に効かないんだな)」

 

『神々が編んだ術式による防御は通常の兵装ごとき寄せ付けない。あの神々、とんでもないモノを作り出したわね。』

 

(それは同感。問題は制限時間か……)

 

銀はチラリとスマートフォンを確認する。

そこには3ケタの数字が表示されており、みるみる数字が減っている。

 

 

銀に与えられた勇者システムは強力な武器だが、ある制限が設けられている。

 

 

その制限とは勇者システムの使用時間。

勇者システムは駒王町に流れる龍脈の霊力を引っ張り出すことで成立している。そのため、長時間使用すると地上に影響が出てしまう。それを危惧した神々は、システムに制限時間を設けることで地上に影響が出ないようにしているのだ。

 

(まあ、この程度の相手なら大丈夫だろ)

 

銀は地面を蹴り、堕天使カラワーナに向かっていく。

はぐれエクソシストが彼女を守るように立ちはだかるが、人間の域を出ない者に銀は倒せない。

 

「邪魔だぁ!!」

 

強化された腕力で振るわれた戦斧は、敵をバターをように切り裂く。

はぐれエクソシストも光の剣や光の弾といういった悪魔祓い用の装備で応戦するが、はやり神々の恩恵を突破することはできない。

 

「ちっ、人間風情に何を手こずっている!! 」

 

女軍人のような口調で話す堕天使が業を煮やして、光の槍を召喚する。

エクソシストが使う悪魔祓い用の装備よりも強力な槍は、上級悪魔にすら大きなダメージを与えることができる。

 

(さすがにアレは不味いかなー?)

 

『避ける方が賢明でしょうね。』

 

(だよなー、鈴鹿御前!!)

 

銀は光の槍を避けつつ、鈴鹿御前に命令を下す。

鈴鹿御前は銀の意志を汲み取り、クリアレッドの刀身が生えた遠隔操作ユニットを堕天使へ差し向ける。

 

銀に新しく与えられた武装は、鈴鹿御前が操作のサポートをしている。

もちろん、銀はマニュアルで操ることもできるが、鈴鹿御前が操作することもできる。

 

「邪魔だ!!」

 

遠隔操作ユニット――ソードビットは執拗に堕天使を狙う。

 

「ちょこまかと……まとめて死に晒せ!!」

 

堕天使は10本の光の槍を召喚して、一斉に放つ。

銀は身の丈を越える戦斧を盾代わりにして、光の槍を防ぐ。

 

「このまま押し切る!!」

 

戦斧を盾にして堕天使との距離を詰める銀。

逆の手に握りしめていた戦斧の射程範囲に入った瞬間、素早く防御を解除して戦斧を振るう。堕天使は避けるが、間に合わず右腕を切り落とされてしまう。

 

「くそっ!! こんな奴が居るなんて想定外だ!! お前たち、コイツを足止めしろ!!」

 

そして、堕天使がとった行動は、はぐれエクソシストを足止めに利用して逃亡すること。

部下に「死ね」と言っているようなモノだが、彼らはその命令に従い、銀を足止めするために立ちふさがる。

 

「邪魔するな!!」

 

向かってくるはぐれエクソシストを戦斧で薙ぎ払う銀。

しかし、攻撃の後に生じた一瞬の隙を利用してはぐれエクソシストたちは銀よりも大きな身体を活かして、抑え込む。

大人顔負けの馬鹿力を持つ銀でも十数人の大人相手では力負けしてしまう。

 

こうやって、足止めしている間に堕天使は壁をぶち破って飛んで行ってしまった。

 

「このっ!! 邪魔、する、なぁ…………!!」

 

四肢を全体重を使って抑え込まれているため、身体はまったく動かない。

それでも何とか脱け出そうとする銀の耳に聞き覚えのない声が聞こえた。

 

 

 

 

――――いたいけな少女を大人数で押し倒すのは、タマが許さん!!――――

 

 

 

 

刹那、銀の上に乗り掛っていたはぐれエクソシストたちが吹き飛ばされた。

 

「無事か?」

 

「は、はい!! えっと、助けてくれてありがとうございます」

 

「礼儀正しいな。タマはそういう奴は嫌いではないぞ。」

 

銀の手助けをしたのは、自身とそう背丈が変わらない小柄な少女。

茶色の前髪の一部は後頭部で結われて、左腕には旋刃盤と呼ばれる武器を装着している。その盾を使って、はぐれエクソシストを吹き飛ばしたのだろう。

 

「あっ、堕天使を追い掛けないと!!」

 

「ああ、さっき逃げた堕天使なら大丈夫だ。杏が仕留めてるからな。」

 

「杏?」

 

「タマの大切な仲間だ。そろそろ合流する筈なんだが……」

 

「タマっち先輩、仕留めたよ。」

 

壊された壁を潜って現れたのは、少しウェーブが掛ったクリーム色の髪の少女。

その手にはボウガンがあり、身に纏う衣装は珠子と同様、銀の勇者装束と何処か似ている。

そして、彼女の傍らには4枚の翼を失った堕天使が倒れていた。

 

先ほど銀が取り逃がした堕天使――カラワーナ。

堕天使の象徴と言える翼を失ってしまっているが、まだ生きているようだ。

 

「おお、流石だな、杏。」

 

「うん。タマっち先輩も大丈夫だった?」

 

「ああ。まあ、はぐれ神父を吹き飛ばしただけだけどな。」

 

「助かりました。あのままだと取り逃がす所でした。

 えっと、いろいろと聞きたいことはありますけど、一先ずはぐれ神父と堕天使の処理をしてもいいですか?」

 

「ああ、いいぞ。タマたちはあっちの遺体を処理しよう。あのまま放置しておくのは忍びない。」

 

珠子は痛々しい姿で放置されている遺体に目を向ける。

 

「わ、私も手伝います!!」

 

今まで蚊帳の外状態だったシスターが立候補する。

はぐれエクソシストの仲間だが、彼女の感性は正常なようだ。

 

「すみません、そっちの遺体がお願いします。」

 

「おう、タマに任せタマえ。」

 

3人に遺体の処理を任せ、銀は捕らえたはぐれエクソシストと堕天使の処理を始めるのだった。なお、銀髪の少年神父の姿は捕らえた者の中にはなかった。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

そして、約1時間後。

 

戦闘現場の後処理を終えた4人は公園でジュースを飲みながら自己紹介をしていた。

 

「そっか……アーシアさんはそれで駒王町に」

 

「はい。すみません、あの人たちの凶行を止めることができませんでした。」

 

保護したシスターの少女は名前をアーシア・アルジェントと言った。

 

元は教会のシスターだったが、傷付いた悪魔を治療したために破門され、堕天使に保護された。その後、堕天使から日本に来るよう指示が来たらしい。

頭のネジが吹っ飛んだ人たちに囲まれていたが、彼女は至って正常で前々からはぐれ神父の行動に心を痛めていたそうだ。

 

「アーシアさんはこれからどうするんですか?」

 

「そうですね……私のお友達を探したいです。」

 

「友達?」

 

「はい!! レイナーレという堕天使のお友達です。先にこの町に来ているそうなんですが、数日前から行方不明になってて……」

 

(あれ? レイナーレって、前に保護した堕天使の名前だよな?)

 

『ええ。多分、彼女が言ってた“守りたい女の子”って彼女のことじゃない?』

 

(こんな偶然ってあるものなんかな……)

 

ちなみに、現在レイナーレは冥界にあるダンジョンに潜り続けている。

ダンジョンで鑑定屋を営む黒歌によると、物凄い勢いでレベルアップしているそうだ。

 

「えっと、アーシアさん。その人ならアタシの家で保護してるよ。」

 

「本当ですか!?」

 

アーシアは顔を輝かせた。

反応から察するに2人はかなり親密な関係なのだろう。

 

「後で案内しますね。それで、球子さんと杏さんはどうして駒王町に?」

 

銀を助けてくれた猫又の2人組の名前は土居 球子と伊予島 杏と言った。

 

茶色の短髪と旋刃盤という武器を扱う小柄な少女が土居 球子。

クリーム色の長髪とボウガンを扱う少女が伊予島 杏である。

 

「タマたちは人探しだ。杏の占いをあてにして、やってきたが……今回は当たりのようだな。」

 

「長かったね。ようやく一人目だよ。」

 

「?」

 

球子と杏の視線を受ける銀は首を傾げる。

そして、球子は銀に小声で問う。

 

「お前、バーテックスが居た世界からの転生者だろ?」

 

「っ!?」

 

「安心しろ。タマも杏も銀と同じ転生者だ。」

 

「じゃあ、人探しっていうのは……」

 

「ああ。銀やタマたちのような転生者を探して旅をしてるのだ。」

 

「それだったら、アタシにもう一人心当たりがありますよ。」

 

「本当か!? 一度に2人も見つかるとは思わなかった」

 

こうして確認した結果、3人とも銀の周りの人(?)に関係がある人物だったので、銀は3人を連れて自宅になっている駒王稲荷神社に移動することになった。

さすがに一度に3人を連れて転移することはできないので、アーシアは銀がお姫様抱っこで運び、球子と杏は自前の身体能力で追随することになった。

 

「怖くないですか?」

 

「ちょっと怖いですけど、大丈夫です。」

 

「そんなに時間は掛からないけど、ちょっと我慢してください」

 

夜空を跳び、銀たちは神社を目指す。

 

銀を含めた4人が神社に到着したのは、公園を出発してから5分後。

道中、特に堕天使の仕返しを受けることもなく、4人は神社に足を踏み入れた。

 

「ただいまー。ひなた、帰ったぞ。」

 

「随分、遅かったですね。」

 

玄関から入ると、ひなたが出迎えるために廊下の奥から出てきた。

 

「あらあら、随分と大人数ですね――――え?」

 

銀が連れ帰ってきた面々を見たひなたが驚愕で固まった。

 

「土居さん、それに杏さん?」

 

「ひなた、さん?」

 

「ひなた、なのか?」

 

「「????」」

 

 

 




珠子、杏合流。

さそり座の被害者なので、出来るだけ早い時期に合流させたかったので一章の段階から登場。

ちなみに、本編中だと描写してませんが、杏と珠子の種族は猫又。


また、精霊が実装されているので精霊バリアも存在しますが、最新版勇者システムほど強力なモノではありません。
一定威力以下の攻撃を無力化する程度なので、中級堕天使の攻撃は軽減されますが、貫通してしまいます。


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第6話 「再会」

~駒王稲荷神社~

 

 

「久しぶりだな、ひなた。」

 

「はい。お久しぶりです、珠子さんに杏さん」

 

「まさか、もう一度会えるとは思ってもみませんでした。」

 

「………」

 

神社に戻った後、銀、ひなた、球子、杏の4人は居間に集まった。

4人の共通点は、全員が“バーテックス”と呼ばれる異形の生物が存在する世界から転生したこと。その中でも球子・杏・ひなたは互いに面識があるようだ。

 

「ひなた、そろそろ説明してくれないか?」

 

「ああ、そうでしたね。ごめんなさい、銀ちゃん。ついでに、銀ちゃんのことも話しておきましょうか。」

 

ひなたがコホンと咳払いしてから口を開く。

 

「まず、私たち3人と銀ちゃんは同じ世界からの転生者です。ですが、その時代に大きな開きがあります。銀ちゃんは確か神世紀298年ですよね?」

 

銀は頷くが、球子と杏の2人は頭の上に「?」を浮かべている。

 

「お2人が亡くなった後、紆余曲折がありまして、元号が西暦から神世紀に変わったんです。なので、銀ちゃんは私たちから300年ほど未来の勇者になります。」

 

「300年……バーテックスとの闘いはそんなに長く続いてるんですね。」

 

「私たち3人は神世紀元年……つまり、西暦の時代の勇者と巫女になります。」

 

「じゃあ、球子さんと杏さんはアタシの大先輩ってことですね!!」

 

「そうなりますね。それにしても、この現状を考えると他にも居そうですね。」

 

「私たちもそう思って、旅をしていたんです。でも、会えたのはひなたさんと銀ちゃんが初めてです。」

 

「まあ、砂場から砂金を見つけるようなモノですからね。仕方ありませんよ。

 しかも、転生先がヒト以外の可能性もありますから、もっと確率は低いですね。」

 

ひなたと銀は善狐に転生し、球子と杏は猫又に転生している。

このことから、転生先が前世と同じヒトに絞られないのは確定であり、全世界のヒト以外の知能ある存在の合計数はかなり多いので、数少ない同胞を見つけるのは不可能に近い。

こうやって4人が一堂に会しているのは、奇跡的な状況だろう。

 

「おっと、話が脱線しましたね。西暦の時代にも銀ちゃんが使っていたシステムの元になった勇者システムが存在しました。」

 

「それをひなたが大国主様に頼んで、再現してもらったのか?」

 

「うーん……半分当たりで半分ハズレですね。西暦の勇者システムにはいくつかの問題点もありましたから、そのまま再現する訳にはいきません。」

 

「それは分かる。じゃあ、提案したのはその問題点を取っ払った改修版ってことか?」

 

「はい。私も大国主様があそこまで乗り気なるとは思いませんでしたが……」

 

「ちょ、ちょっと待て!! さっきから凄い名前が出ているが、どういうことなんだ?」

 

「大国主様って、国津神のトップですよね……?」

 

「私たち空狐族は高天原に保護されていますから。里が襲撃されて、皆で逃げてる時に大国主様の眷族を助けたことがあったんです。その縁で、保護されたんです。」

 

「あれはビックリしたなぁ。」

 

銀は当時のことを思い返した。

 

度重なる悪魔たちの追撃に全員が疲弊し、意見の対立が生じ始めた頃。

銀が怪我をした白兎を見つけたのが転機だった。ほっとけない性分の彼女は、そのウサギを手厚く治療し、自然に帰した。

その数日後、助けたウサギは一向の前に現れた。自分の主である大国主を連れて。

これが切っ掛けになって、空狐族は高天原の保護下に入ることとなったのだ。

 

ちなみに、この時助けたウサギから幸運のお守りを貰っており、それが銀の巻き込まれ体質に歯止めを掛けている。

 

「保護された後、いろんな神様に会ったよな。天照大御神さまとか」

 

「「っ!?」」

 

銀から天津神のトップの名前が出た瞬間、球子と杏の顔が強張った。

その反応に銀はキョトンとしているが、ひなたから見れば予想通りの反応だった。

 

「銀ちゃん。銀ちゃんの時代では、バーテックスはどのような扱いになってるんですか?」

 

「ん? アタシの時代だと、世界中の蔓延した死のウィルスから生まれた人類の天敵ってことになってるけど、それがどうかしたか?」

 

「………実は、バーテックスというのは天の神、つまりは天津神が人類を根絶するために遣わした存在なんです。」

 

「えっ………?」

 

今度は銀が驚愕する番だった。

 

「で、でも、天照大御神様がそんなことするようには………」

 

「それは私も同感です。あの神様は、本当にこの地に生きる者たちを大切にしています。これが世界の違いですかね。」

 

(ああ、ひなたが天照大御神様に素っ気ない態度だったのって……)

 

『心の整理ができてないからね。』

 

「さて、お話はここまでにしましょうか。もう遅いですし。」

 

ちなみに、現在の時刻はちょうど丑三つ時。

一緒に連れてきたアーシアは、すでに別室で睡眠に入っている。

 

「球子さんと杏さんはこの部屋を使ってください。今、布団を持ってきますね。」

 

「あ、私も手伝います。」

 

「大丈夫ですよ。お二人は客人なんですから、そのまま待っててください」

 

「そうですよ。それに、ここはアタシたちの家ですから。」

 

そう言って、銀とひなたは予備の布団を取りに向かうのだった。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

次の日。

 

「レイナーレさん……ご無事で何よりです。」

 

「身体はこんなになっちゃったけどね。アーシアもアイツらに何もされてない?」

 

「はい!! この通り、元気一杯です!!」

 

駒王稲荷神社の客間でアーシアとレイナーレは再会を喜んだ。

今日までダンジョンに潜り続けた彼女の翼は2枚から6枚まで増えて、下級堕天使から上級堕天使にクラスアップしたことを物語っている。

 

『1週間足らずで上級堕天使まで成長するって……』

 

(かなり無茶したいみたいだぞ。黒歌さん曰く、眠気を取り除く薬で四六時中ダンジョンに潜り続けたらしいからな。)

 

本来、下級堕天使が上級堕天使にクラスアップには9尾の善狐が空狐に至るまでに掛る時間よりは短いとは言え、それなりに長い時間が必要になる。

ダンジョンに潜って魔物を狩ることでその時間は短縮できるとは言え、数日程度まで縮めるには不可能に近い。レイナーレは、その不可能を精神力で可能にしてしまったのだ。

 

『とんでもない精神力ね。それだけ、あの子が大事ってことか。』

 

(そんな無茶して、後で変な弊害しないと良いけどな。)

 

「それで、お2人はこれからどうするおつもりですか?」

 

「アザゼル様の所に逃げ込むつもりです。そうすれば、安全ですから。」

 

『アザゼルか……彼なら確かに彼女らを無下にしないでしょうね。』

 

(どういう人……というか、どういう堕天使なんだ?)

 

『そうね……人間に恋をした元天使で堕天使たちの総督。かなり気さくな性格で命を大事する奴よ。』

 

(ふ~ん……そんな人の所なら、2人も大丈夫だな。)

 

「あの……レイナーレさん、実は出発する前に挨拶しておきたいヒトが居るんです。」

 

「私は構わないけど…………」

 

レイナーレがチラッと銀の反応を伺う。

 

「別に構わないよ。アタシの方も済ませておきたい用事があるからな。」

 

実は、事前の打ち合わせで2人は神足通で安全な場所まで送ることになっている。

徒歩で移動するよりも神足通を使って転移する方がアーシアを狙う堕天使たちに気付かれることなく、町を脱出することができる。

 

神足通は純血の空狐族に発現する6つの神通力の1つである。

しかし、神足通を発現したのは銀だけなので、2人を安全な場所まで送り届ける役目は彼女が請け負うことになった。

 

「そうですね……それでは、夕暮れまで自由に行動してください。

 それくらいなら、銀ちゃんの方の用事も終わってると思いますので。」

 

「ごめんなさい。何から何まで貴女方の世話になってしまって……」

 

「気にすんな。せっかく助けたのに死なれる方が目覚めに悪い。

 じゃあ、ひなた。アタシは先に出るから、町までの道案内は任せた。」

 

「はい。銀ちゃんもお役目をしっかり果たしてきてください。」

 

後のことをひなたに任せ、銀は目的のため、一足先に部屋を出る。

そして、神社を出ると、昨晩神社に泊まった客人――球子と杏が待ち構えていた。

 

「あれ? 球子さんに杏さん、朝早くからどうしたんですか?」

 

「ひなたから聞いたぞ。これから堕天使の巣窟にカチコミを仕掛けるのだろ?」

 

「私たちにもお手伝いをさせてください。」

 

「でも、これはアタシのお役目ですから、2人に手伝わせる訳には……」

 

「気にするな。銀やひなたには一宿の恩義があるからな。」

 

「それに、私もあんなことをする人たちをほっておけません。」

 

杏の脳裏の横切るのは、昨夜の悲惨な光景。

同じ人間の所業とは思えない残酷な方法で殺された男性の姿は杏の記憶に残っている。

かつて人々を守る立場に居た彼女にとって、そんな凶行を行う存在は放置しておけないのだろう。

 

「……分かりました。すみませんが、手伝ってもらえますか?」

 

「おう!! タマに任せタマえ!!」

 

「行きましょう。」

 

銀は杏、球子の先輩勇者たちと共に堕天使の拠点へと向かうのだった。

 

 

 

 




さそり座被害者の会会員集合。

勇者であるシリーズに登場していた勇者は、転生者という形で以降も登場します。(転生者多数のタグが付いているのはこのため)
但し、「結城友奈は勇者である」「楠芽吹は勇者である」のメンバーは登場しません(確定事項)。ゆゆゆいで登場した2名は保留中。



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第7話 「殴り込み」

駒王町にある児童公園。

学校が始まっている時間にも関わらず、駒王学園の男子制服に身を包んだ少年がベンチに座り、大きなため息を吐いていた。

 

何か頭の中で考えを巡らせているのか、視線は下を向いたまま。

ゆえに、近づいてくる人影にはまったく気付かない。

 

「よしっ!!」

 

考えがまとまったのか、顔を上げる少年。

そして、前を向いた視線がついさっき公園にやって来た少女と交差し、驚愕した。

 

「あ、アーシア!?」

 

「はい。また、お会い出来ましたね、イッセーさん。」

 

ニコッとほほ笑むアーシアに対して、少年――兵藤 一誠は戸惑っていた。

昨夜、自分の無力さのせいで助けることができなかった少女が目の前に居ることに彼の思考回路は一時停止状態に陥っている。

 

「どうして、此処に…………」

 

「ある方々が助けてくださったのです。それで、この町を出る前に最後にイッセーさんにお会いしておきたくて。」

 

「それって、俺と入れ違いに入って来た」

 

「はい。訳合って詳しくお話することはできませんが、私はこうして元気で居られています。」

 

「そっかぁ……ごめんな、アーシア。昨日は見捨てる形になっちまって」

 

謝罪する一誠に対して、アーシアは首を横に振る。

 

「私は見捨てられたなんて思ってませんよ。イッセーさんは精一杯助けようとしてくれていました。」

 

「だけど……」

 

「大丈夫です。私は何ともありませんし、レイナーレさんにも再会できました。」

 

「レイナーレ?」

 

「はい。私の後ろに居るんですけど……えっと、どうしてさっきから隠れてるんですか?」

 

「???」

 

アーシアが呼びかけると、その背中からレイナーレが顔を出す。

その姿を見た一誠の脳裏に初恋の少女の姿が浮かんだ。

 

「夕麻、ちゃん?」

 

思わず口から出た初恋の少女の名前に、レイナーレは頷いた。

そして、申し訳なさそうな表情を浮かべながら、こう言った。

 

「また会ったね、イッセーくん。」

 

この日、兵藤 一誠は死別したと思っていた初恋の少女――天野 夕麻に再会を果たしたのだった。

 

 

________________________________________

 

 

一方、その頃。

 

神社を発った3人は、駒王町の郊外の山中に放置された教会にやって来た。

数年前まできちんと機能していた教会だが、ある一件で〈教会〉勢力が撤退したことで放置され、現在では誰も近寄らない廃墟となっている。

それに目を付けた堕天使たちが拠点として利用しているらしい。

 

銀、杏、球子の3人は真昼間から襲撃を仕掛けようとしていた。

 

「ここが拠点か……」

 

「連中が場所を移してなかったら、ですけど。」

 

銀は勇者システムを起動し、勇者装束と得物を装備する。

球子も腕に旋刃盤を装着し、杏はケースからボウガンを取り出す。

 

「そういえば、お2人の武器ってどうやって手に入れたんですか?

 もの凄い霊力が宿ってるから、ただの武器じゃないように見えるんですけど……」

 

「愛媛にある神社で見つけたのさ。神屋楯比売っていう武器だ。」

 

「私もタマっち先輩と同じです。名前は金弓箭。」

 

西暦の勇者、土居 珠子と伊予島 杏が持つ武器は神話に由縁がある。

例えば、金弓箭は岩屋を撃ち抜いたという逸話が残る弓であり、神屋楯比売は古事記に名前が記されている神様である。

何の因果か、彼女らは前の世界で所有していた武器を再び手に入れている。

 

「銀のは何かないのか? 逸話とか」

 

「アタシのは何の変哲もない斧ですよ。その代わり、アタシにはこれがあります。」

 

そう言って、銀は自分の左目を指差す。

 

銀の右目は普通の瞳だが、左目はは虫類のように縦長の瞳孔をしている。

さらには薄らとだが、青いドラゴンの紋様が浮かび上がっている。

 

「不思議な目だね。」

 

「昔、聖書の神様に討伐されたドラゴンの左目なんです。名前は〈海龍帝〉リヴァイアサン。」

 

「〈海龍帝〉リヴァイアサン!? あの二天龍に並び立つ古のドラゴン!?」

 

博識な杏は銀の口から出た名前に驚いた。

 

悪魔、堕天使、天使の3勢力による大戦が勃発するよりも前に存在したと言われているドラゴンこと、〈海龍帝〉リヴァイアサン。

その実力はかの二天龍にも匹敵すると言われているが、詳細な記述は残っていない。そのため、かのドラゴンがどのような力を持っていたのかも不明だ。

最後は運命に従って聖書の神に討伐され、一説にはその魂は二天龍と同様に神器(セイクリッド・ギア)に封じられたとも考えられている。

 

「じゃあ、銀ちゃんの瞳は神器(セイクリッド・ギア)?」

 

「うーん……厳密には違うんですけど、その話は後にしましょう。」

 

そう言って、銀は廃教会の扉を切り裂く。

しかし、聖堂の中に人影はなく、壊された聖人の彫像と椅子が置かれているだけ。

 

「拠点の割には警備が薄いな」

 

「でも、拠点なのは間違いないみたい。地下からたくさんの気配がする。」

 

「不用心だな。地下の入り口をそのまま放置しておくなんて。」

 

地下への入り口はついさっき誰かが使ったのか、そのままになっていた。

本来なら教会の祭壇で地下への階段を隠していたのだろう。

 

一応、罠の可能性も考慮しながら3人は地下への階段を降りて行く。

地下は1本の大きな道が通って、その両側に扉が設けらている。彼女たちはそれらの扉に目もくれずに一番多くの気配する場所へ向かう。

そして、気配を辿った先にあったのは、他の扉に比べてひと際大きな扉だった。

 

「珠子さん、杏さん。準備はいいですか?」

 

「いつでも大丈夫だぞ。」

 

「私も大丈夫です。」

 

銀は空狐族の象徴である耳と尻尾を消したまま斧を振り下ろした。

切り裂かれた扉の向こう側には、大勢のはぐれエクソシストと金髪の堕天使が待ち構えていた。

 

「ん? 今日は来客の予定はなかった筈なんですがね……何か用ッスか?」

 

「悪いことをしてる堕天使のお仕置きさ。」

 

「きゃははは♪ 人間風情がアタシを? これはとんだ笑い話ッスね。」

 

「そうやって甘く見てると、痛い目をみるぞ。」

 

「その強気がどこまで続くッスかね!! お前たち、やるッスよ!!」

 

エクソシストたちは一斉に剣や銃を手に取り、3人に襲いかかってくる。

刹那、金弓箭に霊力の矢を装填した杏が飛び出し、エクソシストたちに向かって放った。

 

「ワザリングハイツ!!」

 

霊力の矢は空中で無数に分裂し、雨のように降り注ぐ。

命を奪わない程度に加減はされているが、二の足を踏ませるには十分だった。

 

「“雷は地を這い、翼なき者に襲いかかる!!”」

 

銀が地面に手を着けると、青い電が地面を這ってエクソシストたちに襲いかかる。

その電気を受けた者は全身が痺れ、力なく固い地面に崩れ落ちた。

しかし、杏と銀の攻撃を免れた神父が聖なる力を帯びた銃弾を放つ。

 

「タマが居る限り攻撃は通さんぞ。」

 

旋刃盤を装着した珠子が2人の前に立ち、銃弾を防いでいた。

そのお返しに金弓箭の矢が銃弾を放った神父の肩を撃ち抜いた。

 

「“雷は鎖となり、戒めとなる!!”」

 

さらに、地面から電気が鎖となって顕現し、神父たちを拘束する。

これで部下たちは全員無力化され、残ったのは中級堕天使だけになった。

 

(流石に龍脈の霊力で術を使うと、制限時間も短くなるな。)

 

『当然でしょ。制限時間は要するに使用できる霊力の量なんだから。

 まあ、減少量は微々たるものだから、あんまり気にすることは必要はないわ』

 

(それもそっか。)

 

「使えない奴ばかりッスね。1人くらい倒して欲しいものッス。」

 

部下が全員倒した所で金髪の中級堕天使が2対4枚の翼を広げて立ち塞がる。

 

「なあ、堕天使。今までも同じことをしてたのか?」

 

「同じこと? ああ、もしかして神器(セイクリッド・ギア)集めのことッスか?」

 

神器(セイクリッド・ギア)を抜かれたらどうなるか分かってやってるのか?」

 

「知ってるッスよ。」

 

「何とも思わないのか? 人が死ぬことに」

 

神器(セイクリッド・ギア)の特徴は、所有者の魂と密接に繋がっていること。

そのため、無理に抜き取ってしまうと所有者は死んでしまう。しかし、安全に抜き出す方法はどの勢力も編み出すことができていない。

 

人の命を奪うことに抵抗はないのか、という銀の問いに対し、金髪の堕天使はあっけらかんとした表情で答えた。

 

「思わないッスよ? 人間風情の命なんてどうでもいいもん。蟻んこと同じですッス」

 

「…………そうかい。」

 

銀の双斧が紅蓮の炎を纏う。

 

「じゃあ、お前を倒すのは勇者であるアタシの仕事だ。」

 

「何ほざいてやがるッスか!!」

 

両手に光力で編みあげた槍を握り、銀に襲いかかる敵堕天使。

それに対し、銀は炎を纏った双斧を槍にぶつける。

 

両者の得物の拮抗は一瞬で、堕天使の光の槍はあっさりと砕かれた。

それなりの力を込めて作った槍を簡単に砕かれて驚愕する堕天使だが、間一髪身を翻すことで斬撃の直撃を避ける。しかし、斧の炎が翼を焼く。

 

「あああぁぁぁぁ!?!?」

 

翼を焼かれて悶える堕天使。

 

「このっ……よくもアタシの翼を!!」

 

堕天使の周囲に光の槍が形成され、投擲される。

しかし、その全てがソードビットによって破壊される。

 

「な、何なんッスか!? 極東にこんな奴が居るなんて聞いてねえッスよ!!」

 

闇雲に光の槍を投擲する堕天使。

銀はそれらをすべて切り裂き、ゆっくりと堕天使に近づいて行く。

 

「ひっ、ひぃぃぃぃ!!」

 

自分の攻撃が通用しない銀に恐怖する堕天使。

 

「闘魂星砕き!!」

 

双斧が×の字に振るわれ、紅蓮の炎が堕天使を包み込んだ。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「さてと。これで後始末は終わりだな。」

 

数十分後。戦闘が行われた聖堂地下には何も残っていなかった。

戦闘が終了した後、捕縛された神父たちは高天原に引き渡され、堕天使たちが以前に抜き取ったと思われる神器(セイクリッド・ギア)も回収された。

 

「それで、杏さんは何をしてるんですか?」

 

「神器《セイクリッド・ギア》を抜き出す術式を写してるの。何かの役に立つかもしれないから。」

 

「うーん……タマにはまったく分からんぞ。」

 

「アタシも同じですよ。術式の解説とかはひなたに任せっきりだから」

 

「改良すれば、画期的な術になりそうだけど……今すぐは無理かな。」

 

そう呟きながら杏は術式を書き写し終わったのか、メモ帳を閉じる。

その時、銀のスマートフォンにひなたからの電話がかかってきた。

 

「ひなた? どうかしたのか?」

 

『銀ちゃん、そっちは終わりましたか?』

 

「ついさっき終わったよ。それがどうかしたか?」

 

『お2人の送迎は中止です。事態が変わりました。』

 

「何かあったのか?」

 

『実は――――――――』

 

 

 

 

 

 

 




フリードはどうなったかって?

彼は民家での遭遇以降、すぐさま逃亡しています。


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第8話 「戦闘終了後」

~廃教会 礼拝堂~

 

「そっか……完全にアタシの失態だったな。」

 

『すみません。私も高天原に居たので気づくことができませんでした。』

 

「それで、その堕天使はどうなったんだ?」

 

『後から駆け付けたリアス・グレモリーによって消滅しました。』

 

戦闘の後処理を終えた銀に告げられたのは、街中で起きた出来事。

 

当初、レイナーレの密告では駒王町に居る堕天使は2人だった。

しかし、銀が拠点潰しをしている間に増援の中級堕天使――ドーナシークが駒王町に侵入し、アーシアたちに襲い掛かった。

レイナーレは無茶なレベルアップの反動で昏睡状態だったため、対処することができず、結局は土壇場で神滅具(ロンギヌス)を覚醒させた兵藤 一誠が彼を撃退した。

 

「アーシアはどうなった?」

 

アーシアはドーナシークの攻撃から一誠を庇い、命を落とした。

彼女の死が引き金となって、一誠の神滅具(ロンギヌス)が覚醒したのだ。

 

『彼女は悪魔に転生しました。レイナーレさんもこのまま町に留まるそうです。』

 

「そっか。はぁ、まさか悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に尻拭いされることになるなんてな。」

 

ひなたの報告に銀は微妙な表情を浮かべる。

 

上級悪魔に支給されるアイテム、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』。

チェスの駒を模したソレは悪魔以外の種族を悪魔に転生させることができる。また、死後間もない者も転生させることができるので、疑似的な死者蘇生が可能だ。

しかし、銀やひなたにとっては空狐族の悲劇を生みだした原因なので、それに尻拭いされた事実は素直に喜びずらい。

 

「どうする? レイナーレやアーシアを通じて、アタシたちの拠点がバレる可能性もあるぞ?」

 

『その点は大丈夫です。彼女たちには呪いを掛けておきましたから。』

 

「おいおい、物騒なことするなよ。」

 

『危険な呪いは掛けてませんよ。私たちに繋がる情報を口にすることができないだけの呪いです。』

 

「まあ、その程度なら……」

 

ひなたは親しい者が危険に晒される要因は容赦なく排除する。

彼女は前世において1つの組織の上役を務めていた経験からか、今回のように口封じとして呪いを行使することも躊躇わない。そのため、銀と意見が対立することもあった。

ちなみに、ひなたは呪いの類を使えないので実際に呪いを掛けているのは神社に住む空狐族の1人である。

 

閑話休題

 

 

 

『あっ、もう1つ報告することがありました。今代の〈赤龍帝〉は兵藤 一誠で間違いないみたいです。紋章も確認しました。』

 

「―――ってことは、今代の〈赤龍帝〉は悪魔側か。いつの間にか、悪魔に転生してたし。」

 

『そうですね。その辺りも報告しておきます。銀ちゃんは先に戻っててください。』

 

「オッケー。報告の方は任せた。」

 

『任されました。』

 

「話は終わったのか?」

 

「はい、お待たせしました。すみません、お2人に手伝ってもらって。」

 

「気にしないで。それに、ほとんど銀ちゃんが倒しちゃったから、手伝った感覚がないよ。」

 

「あっ、そうだ!! 銀が使ってたあの不思議な術はなんだ? あれも新しい勇者システムの力なのか!?」

 

「あれは【霊術】っていう空狐族に伝わる秘術ッス。」

 

聞きなれない単語に首を傾げる珠子と杏。

すると、3人の頭の中に若い女性のような声が響き渡る。

 

『私が説明してあげましょう!!』

 

「うおっ!? 誰だ!?」「これって思念通話……?」

 

『私は〈海龍帝〉リヴァイアサン。銀の相棒よ。』

 

話しかけて来たのは、銀の肉体に宿るリヴァイアサンだった

 

通常、リヴァイアサンの声は肉体を共有している銀にしか聞こえない。

しかし、思念通話という術を使えば、他の人にも話しかけることができる。

 

『【霊術】は昔、私が発明した術でね。霊力で悪魔が使う魔力を再現した術よ。身体の何処かに刻み込んだ紋章と言霊、イメージを使って様々な現象を起こすことができるわ。』

 

「ちなみに、アタシは背中に紋章を刻んでる。ひなたは太ももだな。」

 

なお、刻まれた紋章は霊術を行使する時にのみ現れるだけで普段は見えない。

紋章は開発者であるリヴァイアサンだけが刻む方法を知っており、紋章は本人の特性によって形が変化する特徴が存在する。

 

『魔法使いが使う魔法と違って、霊術は知識とか必要ないの。必要なのは、霊力と紋章、想像力だけ。まあ、個人の特性も関わってくるけど』

 

この世界には、悪魔が使う力(魔力)と神がもたらす奇跡を解析して、人間に扱えるようにした技術として“魔法”が存在する。

しかし、魔法の使用には術式を扱う知識、頭の回転と計算力が要求される上に未解明な現象を再現することはできない欠点がある。その点、リヴァイアサンが作り上げた【霊術】は必要な要素を整えれば簡単に使うことができる。

 

但し、霊術は使う人によって起こしやすい現象の差があり、リヴァイアサンはこの個人差を“霊術特性”と呼称している。

例えば、銀の霊術特性は【放射】であり、霊力を電気に変えて放出したり、炎に変えて放出することを得意とするなど確認されている霊力特性の中で一番汎用性が高い。

 

閑話休題

 

 

『以上、説明終わり!! 何か質問はある?』

 

「あの……銀ちゃんの左目って、神器(セイクリッド・ギア)なんですか?」

 

『ハズレ。一般的には、〈海龍帝〉リヴァイアサンは聖書の神に討伐されたことになってるけど、事実はちょっと違う。』

 

「違う?」

 

『聖書の神が討伐したのは私の抜け殻。討伐される前に私は魂を自分の左目に移して、当時の空狐族の族長に託したの。だから、厳密には討伐されてないのよ。』

 

「その目が今のアタシの左目です。」

 

そう言って、銀は自分の左目を指さす。

 

普段は両目とも同じだが、リヴァイアサンの力を使うと左目は金色になり、瞳孔も縦長になる。さらには、〈海龍帝〉の紋様も浮かび上がる。

リヴァイアサンの瞳は代々空狐族の族長が引き継いでいく形になっており、彼女が【霊術】を開発したのも何代目かの族長の要望に応えた結果だったりする。

 

「ただ、討伐されてないって言ってもリヴァイアサンは全盛期の力は出せないそうです。」

 

『能力は持って来たけど、力の源までは持って来れなかったからね。全盛期の半分以下も出せないわ。』

 

「アタシからすれば、今のままでも十分だけどな。」

 

『私は不満だわ。まあ、銀のおかげで全盛期の力を振るう目途が立ったけど。』

 

「ああ、冗談半分で提案したアレか。確か、術自体は完成してるんだったか?」

 

『ええ。あとはエネルギーだけね。それも目途が立ったから、あとは時間だけね。』

 

「な、何かとんでもないことを聞いちゃってる気がする……」

 

「なぁ~、難しい話はそれくらいにして神社に戻らないか? タマお腹が減ったぞ」

 

『オヤツにはちょうど良い時間ね』

 

「あっ、それならこの近くに美味しいうどん屋さんがあるんです。一緒に行きませんか?

 手伝ってくれたお礼にごちそうします!!」

 

「それは良いことを聞いた。杏、行くぞ。」

 

「うん。それじゃあ、銀ちゃん、案内してくれる?」

 

「はい!! こっちです」

 

元勇者の肩書を持つ3人は、最年少勇者の案内の下、好物のうどんを食べに向かうのだった。

 

 




今回はちょっと短めです。

これでも増量した方なんですが、良い展開が思い浮かばなかったので妥協。本来だったら、1章最終話と番外編の2つに分けるつもりだったのですが、片方だけだとあまりにも文章が短いので合併した経緯があります。

ゆゆゆは新日常系アニメだから、もう少し日常風景とかも入れて行きたいけど、そのネタが思い浮かばない……


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第2章 銀とレーティングゲーム
第9話 「フェニックス家」


 

 

 

駒王町に侵入したはぐれ堕天使の討伐から数週間後。

 

人里離れた自然の中に佇む駒王稲荷神社は楽しそうな子供たちの声で埋め尽くされていた。

共用スペースとして設けられている大広間には、神社に住む空狐族の子供たちが大画面テレビに食いついている。

 

その中には族長である銀の姿もあった。

 

「ふわぁ~、おはようございますぅ。」

 

「あっ、おはようございます、杏さん。もうお昼前ですよ」

 

「すみません、昨日遅くまで本を読んでいたので……」

 

大広間に顔を出したのは寝間着姿の杏。

 

はぐれ堕天使討伐に協力してくれた伊予島 杏と土居 珠子の両名は今もこの神社に滞在している。

2人はそのまま旅を続けるのかと思いきや、しばらく駒王町に定住することを決定。

空狐族が担当している仕事を手伝う代わりに神社に住めるようになった。

 

「ふふ、季節外れのサンタさんからの贈り物に皆興奮してるんです。」

 

「季節外れのサンタ?」

 

杏は銀たちが夢中になっているモノを確認する。

 

子供たちが夢中になっているモノ―――その正体は最新のゲーム機だった。

つい1週間前に発売されたゲームで、世間ではブームを巻き起こしている。おまけにコントローラーも追加で購入されている。

現在は銀を含めた4人が楽しそうにプレイしている。よく見ると、珠子も子供たちの輪に交じって観戦している。

 

ちなみに、プレイしているゲームは古くから続くレーシングゲームの最新版だ。

 

「どうしたんですか、あのゲーム。昨日までなかったと思うけど……」

 

「銀ちゃんの婚約者が持って来たんですよ。」

 

「へぇ、婚約者が…………婚約者!?」

 

一拍の間の後、思わず杏は聞き返した。

 

「こ、婚約者ってアレですよね!? その、将来を誓い合ったとか言う!! そんな小説みたいな設定が存在しているんですか!?」

 

「お、落ち着いてください、杏さん」

 

興奮する杏をなだめるひなた。

 

「す、すみません。つい興奮してしまいました。」

 

「ビックリするのは仕方ないと思いますよ? さっき珠子さんも驚いていましたから。」

 

「そうですよね……あれ? でも、銀ちゃんってまだ小学生ですよね?」

 

「肉体年齢はそうですね。」

 

「その婚約者って、もしかして…………」

 

「大丈夫ですよ。私も何度かお会いしましたけど、人柄の良い方でしたよ。」

 

「へえ~……どんな方なんですか?」

 

「お名前はシャルナ・フェネクス。〈72柱〉の1つ、フェニックス家の一員ですよ。」

 

「え……?」

 

杏は自分の耳を疑った。

 

 

〈72柱〉とは、大戦以前に存在した純血の上級悪魔が連なる名門の家系のこと。

その多くは三つ巴の大戦において断絶してしまっているが、中には他種族との混血という形で存続している家系も存在している。

 

フェニックス家は大戦を生き延びた〈72柱〉の1家系であり、純血の上級悪魔の家系では珍しく子沢山の家系である。

 

 

「フェニックス家とは縁がありまして、懇意にさせてもらっているんです。冥界の情報とかもフェニックス家から入手しているんですよ?」

 

「初耳です……てっきり高天原経由で手に入れてると思ってました。」

 

「そこから仕入れてるモノもありますが、大部分はフェニックス家経由です。今日もそのフェニックス家の人が来るんですよ。」

 

その時、神社全体に透き通るような風鈴の音が聞こえてくる。

 

何者かが神社周辺に展開されている結界を越えた時に森の至るところに設置された風鈴が鳴るようになっており、来客や侵入者を報せるインターフォン代わりになっている。

ちなみに、来客と侵入者では風鈴の音が違うので、瞬時に見分けることができる。

 

今回は来客の方だ。

 

「銀ちゃん。お客さんですよ。」

 

「はいよー。」

 

銀はコントローラーを他の子に渡すと、子供たちの輪から外れる。

 

「じゃあ、行くか。」

 

「はい。皆さん、お客さんが来ますからゲームは静かにお願いします。」

 

子供たちが元気よく返事する。

そして、ひなたと銀は客人のお相手をするために応接間の方に向かうのだった。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

~駒王稲荷神社 応接間~

 

 

「ふぅ……ここに来るのも久しぶりのような気がするな。」

 

「レイヴェルがヤタガラスさまの神格の一部を継承してからだから……5か月ぐらいか?」

 

「そうですね。レイヴェルさんとは高天原で何度かお会いしてますが。」

 

「その節はお世話になりましたわ。」

 

応接間には、フェニックス家からの来客が通された。

 

赤いスーツを身に纏い、野性的な雰囲気を醸し出す男性――ライザー・フェニックス。

アメジスト色のドレスに纏った金髪の少女――レイヴェル・フェニックス。

 

以上の2名が神社を訪れた来客である。

 

「天照大御神さまから聞いたぞ。修行、頑張ってるんだってな。」

 

「ええ。ようやく次の段階に進めるようになりましたわ。」

 

ふふん、と胸を張るレイヴェル。

 

彼女はフェニックス家の末っ子であるが、悪魔の中でも異色な存在である。

空狐族とフェニックス家が巻き込まれた〈ある事件〉の影響でその身に霊力を宿したレイヴェルは、その素養を見込まれて神鳥・ヤタガラスの後継者に選ばれた。

すでに現ヤタガラスの神格の一部を継承しており、悪魔の弱点が消失するという変化が生じている。

 

なお、兄であるライザーは普通の悪魔である。

 

「そういえば、シャルナの奴は元気か?」

 

「元気にしてるみたいだぞ? 今日も此処に来てたし。」

 

「そうか。今度会ったら、家に顔を出すように言っておいてくれ。父上も母上も心配しているからな。」

 

「りょーかい。今度会えるのはいつになるか分からないけどな。」

 

「お兄様。私もお会いしたら伝えておきますわ。シャルナお兄様と修行場所は違いますが、もしかしら会う機会があるかもしれません。」

 

「ああ、頼む。」

 

「それで、ライザー。今日はどういう要件なんだ?」

 

世間話に区切りを着けて、銀が本題に入るように促す。

 

「少し人間界に用事があったから会いに来ただけさ。ただ、少し2人に頼みたいことができた。」

 

「頼みたいこと?」

 

「今度行われるレーティングゲームに助っ人として参加して欲しい。」

 

「レーティングゲームに? アタシらは悪魔じゃねえぞ?」

 

 

 

レーティングゲームとは、悪魔の間で人気を博しているゲームである。

爵位持ちの上級悪魔が自身を「王」として眷族をチェスの駒に見立て、対戦相手の駒と戦う遊戯であり、仲間を減らすことなく実戦経験を積める場。

参加できるのは基本的に成人した悪魔とその眷族なので、ライザーの眷族ではない上に悪魔ですらない銀とひなたが参加することはできない。

 

 

 

「その点は大丈夫だ。今回のゲームは非公式なゲームでな。立会人にも対戦相手にも助っ人の承認は貰っている。」

 

「対戦相手は何方なんですか?」

 

「グレモリー家の令嬢、リアス・グレモリーだ。知っての通り、俺と彼女は婚約者なのだが、本人がそれを拒否していてな。解決法としてレーティングゲームが提案された。」

 

「ん? ライザーはフルメンバーだし、アタシら必要なくねえか?」

 

銀が疑問を口にする。

 

レーティングゲームに参加できるのは、基本的に『王』の上級悪魔とその眷族だけ。

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)はチェスをモチーフにしているので、作れる眷族の最大数は15人まで。そのため、ゲームに参加できるのも1チーム最大16人までになる。

 

ライザーはすでに14人の眷族を持ち、レイヴェルも対外的には15人目の眷族である。

なので、普通なら銀やひなたに助っ人を頼む必要はない。

 

「少し事情があってな。俺の眷族は14人中8人が戦闘に参加できない。レイヴェルは父上から戦闘を禁止されているからな。」

 

「事情、ですか?」

 

「お恥ずかしい話ですが、私から漏れ出た神気にやられてしまったみたいですわ。」

 

「「ああ、なるほど……」」

 

銀とひなたは納得した。

 

ヤタガラスの神格の一部を継承したことでレイヴェルは半神半魔に至った。

そのため、彼女からは『神気』と呼ばれる神々の力の波動が放出されている。普段は冥界に住んでいるのでソレを抑え込むイヤリングが支給されているのだが、完全に抑え込むことができなかったらしい。

神気は悪魔にとっては毒であり、力の弱い悪魔では遠くに居ても身体を蝕まれる。

そのため、量は多くなくても少しずつ漏れ出していたレイヴェルの神気はライザーの眷族に蝕み、先日倒れてしまったらしい。

 

「悪魔には神気を除去する術がなくてな。自然に抜けて行くのを待つしかない。その最中にゲームが開催されることになってしまった訳だ。」

 

「それで、私たちに白羽の矢が立った訳ですね。」

 

ひなたの言葉にライザーとレイヴェルは頷く。

 

「アタシは構わないぞ。困ってる奴はほっとけないからな。ひなたはどうする?」

 

「そうですね…………今回は私も参加しましょう。」

 

「あら、ひなたさんは参加しないと思ってましたわ。」

 

「偶には身体を動かしたい時もあります。最近、出不精気味になってますからね」

 

『ひなたに銀が参加……対戦相手の方が可哀そうね。』

 

(そうだな。下手すると、アタシが出なくても片付くじゃないか?)

 

リヴァイアサンと銀は脳内でそんな会話を繰り広げる。

 

今でこそ、ひなたは裏方に回っているが、空狐族の里を襲撃した悪魔の追撃を受けていた頃は銀とひなたの2人が応戦していた過去がある。

そのことはライザーとレイヴェルの2人も知っているので、銀だけではなくひなたにも助っ人を要請したのだ。

 

「ゲームの日程は決まってるのか?」

 

「10日後、駒王学園で行われる。それと、ゲームは関係者以外には非公開にされるように手を回しておいた。」

 

「あら、用意がいいですね。」

 

「公開すると面倒な連中が騒ぎだしかねんからな。それくらいはさせてもらうさ。

 これでお前たちも思う存分、力を振るえるだろう?」

 

ライザーはニヤリと笑った。

 

 

 

それは10日後に控えたゲームへの絶対的な自信を含んでいた。

 




2章突入。
そして、キャラ改変(魔改造)第一号はレイヴェル。
原作より大幅に強化されて、この時点のグレモリー眷族では相手になりません。という訳で、レーティングゲームには不参加。

あと、本文中に出て来たシャルナ・フェネックスは当然ながらオリキャラです。2章で正式に登場するので、詳細はその時に。


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第10話 「勇者と吸血鬼(前編)」

~駒王稲荷神社 応接間~

 

 

翌日。

 

銀とひなたは泊まったライザー、レイヴェルを交えてレーティングゲームの相談をしていた。

 

「向こうの眷族って、何人なんだ?」

 

「『兵士』が1人、『騎士』が1人、『戦車』が1人、『僧侶』が2人、『女王』が1人の合計6人だな。」

 

「但し、出場する『僧侶』は1人だけになる筈です。その代わり、堕天使が参加します。」

 

ライザーの説明にレイヴェルが捕捉する。

 

 

上級悪魔が眷族集めに使う悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が人間界のチェスをモチーフにしているため、駒の種類や総数も同じになっている。但し、『王』の駒はない。

駒の種類は『兵士』、『騎士』、『戦車』、『僧侶』、『女王』の5種類で、それぞれに特徴がある。例えば、『戦車』の駒を持つ眷族はパワーや防御力が強化される。

 

また、必ずにも15人の眷族を作れる訳ではなく、主の力量と転生させる者の力量によっては転生させるのに複数の駒が必要になる場合も存在する。

対戦相手のグレモリー眷族の場合、『兵士』の駒8個を一誠1人に使ったので、『兵士』枠は1人しかいない。

 

 

「そういえば、堕天使ってどういう立ち位置なんだ?」

 

「『兵士』の使い魔という形で登録しているらしい。上級堕天使をどうやって引きこんだのか分からんがな。」

 

「今回、要注意なのはその堕天使ですわ。上級堕天使となればお兄様も歩が悪いです。」

 

「ああ。それを知っているからこそ、リアスもゲームに乗ったのだろう。」

 

 

フェニックス家の特徴として挙げられるのは、不死身の肉体。

いくら傷を負わせても回復するフェニックスを倒すためには、悪魔の弱点を突くしか倒す方法がない。なので、グレモリー側に居るレイナーレは目の上のタンコブだ。

 

 

「アタシかひなたが対処しようか?」

 

「普通ならそれが妥当だが、助っ人に頼り切りというのは世間的にも体裁が悪い。2人は堕天使を抑え込む程度にして欲しい。」

 

「まあ、私が参加する以上、抑え込むのは難しくないですが、勝算はあるのですか?」

 

「ああ。別に眷族をすべて倒す必要はない。」

 

ライザーはニヤリと笑った。

どうやら、彼には何か考えがあるようだ。

 

「戦闘フィールドは決まってないのですか?」

 

「それについてはゲーム当日にならないと分かりませんわ。分かればもっと綿密に作戦を練れるんですが…………」

 

「分からないならどうしようもないな。」

 

結局、大まかな方針を決めるだけで今回の作戦会議はお開きとなった。

ひなたが淹れた紅茶でくつろいでいると、銀があることを思い出した。

 

「そういえば、何でもう1人の『僧侶』は参加できないんだ?」

 

彼女が思い出したのは、リアスのもう1人の『僧侶』の存在。

 

アーシアよりも先に眷族にしたというもう1人の『僧侶』。

ライザーもレイヴェルもどのような人物なのか、詳細を知らない。しかし、どうして参加できないかは知ってるようだ。

 

「聞いた話だと、リアスの実力では制御ができないくらい強い力を持っているらしい。暴走の危険性も孕んでいることから、封印されているようだ。」

 

「確かにそれではゲームに出すことはできませんね。こちらとしては有難い話です。」

 

「うーん……でも、暴走するからって封印するのはかわいそうだと思うな。」

 

「それについては同感ですわ。暴走する危険があるなら、それを制御する訓練をしないと。」

 

銀の意見にレイヴェルが同調する。

 

「万が一、暴走した時に抑えきれないのが問題なんです。」

 

「暴走すれば手を着けらないからな。」

 

「まあ、他の人に預けるなり、方法はいろいろあったと思いますが。」

 

その後、ゲームにしばらく雑談が続き、お昼前にライザーとレイヴェルは冥界へと帰っていくのだった。

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 

レーティングゲーム開始前のある日の夜。

〈駒王学園〉から少し歩いた位置にあるコンビニから出てくる2人組の女子が居た。

 

「うたのん、わざわざ着いて来なくてもいいのに……」

 

「ダメよ、みーちゃん。こんな夜に可愛い子1人で出歩くのはベリーデンジャーよ!!」

 

「大丈夫だよ、うたのん。前の世界と違って、今の私は戦えるんだから。」

 

「それでも、よ。みーちゃんを守るのは私の役割なんだから。」

 

「うたのん…………」

 

夜道を歩いているのは、〈白鳥農園〉を営む2人組、水都と歌野だった。

夜食を買い出しに来たのか、2人の手には白いコンビニの袋がある。

 

「みーちゃんの神器(セイクリッド・ギア)はレアアイテムなんだから、それを狙ってくる虫が居るかもしれないのよ?」

 

「それを言ったら、うたのんもそれも同じだと思うよ?」

 

水都の視線の先には、歌野が腰に付けている愛用の鞭。

拷問に使われるような物ではなく、外見は植物のツルに見える彼女の得物である。

 

「大丈夫よ。これは私にしか使えないし。それに襲い掛かってきたら、逆に畑の肥料にしてあげるわ。」

 

「うたのんらしいなぁ…………」

 

そんな会話をしながら歩いていると、歌野が突然足を止めた。

 

「あら?」

 

「どうしたの、うたのん?」

 

自宅に帰ろうとした時、歌野はコンビニの敷地の端で何かを見つけた。

道を照らす街灯から離れているため、よく分からないので近づいて行くと、その正体が分かった。

 

「段ボール? 誰かが置いて行ったのかな?」

 

「こんなところにトラッシュを放置するなんて、悪い人が居るものね。」

 

歌野が見つけたのは、変哲もない段ボール。

荷物の配達に使われる物にしては少し大きく、小柄な人ぐらいなら隠れそうなサイズだ。

普通の人ならそのまま放置するかもしれないが、歌野は躊躇なく段ボールの蓋を開ける。

 

「あ、あら?」

 

段ボールの中身は歌野が予想しないモノだった。

 

「女の、子? でも、この耳…………」

 

後ろから覗きこんだ水都が呟く。

 

そう、歌野が開けた段ボールの中に入っていたのは小柄な人。

髪は薄い金髪で〈駒王学園〉の女子用制服を身に纏い、猫のように丸まって眠っている。

そして、セミロングの髪の隙間からはおとぎ話に出てくるエルフのように尖った耳が顔を覗かせていた。

 

「うたのん。この子、悪魔だよ。」

 

「悪魔? 噂には聞いていたけど、本当に居るのね。身なりはキレイだし、ホームレスって訳ではなさそうね。」

 

「でも、何でこんな所に居るんだろ? まさか、はぐれ悪魔? いや、それにしては無防備すぎるし、もしかして何かの罠?」

 

「よいっしょっと。」

 

水都がぶつぶつ呟いている間に、歌野は悪魔の子供を背負う。

 

「…………うたのん。念のために聞くけど、その子どうするの?」

 

「もちろん、ウチに連れて帰るのよ。このまま放置するのは可哀想だわ。」

 

「いいの? 妙なことに巻き来れるかもしれないよ。せっかく、バーテックスの居ない平和な世界なのに。」

 

そんなことを心配する水都に対し、歌野は胸を張って答えた。

 

「十分、平和をエンジョイできたわ。そろそろ、妙なことが起きる方がスリリングがあって楽しいわ。それに、女の子をこんな所に放置するのは私の性に合わないわ」

 

「うたのんらしいね。荷物、私が持つよ。」

 

「ありがと、みーちゃん♪」

 

歌野から荷物を受け取り、2人は仲良く家路に着いた。

 

 

■    ■    ■    ■    ■    ■

 

 

 

―――トントントン

 

(あれ、ボク……)

 

包丁で何かを切る音を聞きながら“彼”の意識がゆっくり浮上する。

 

(ああ、そうだ。いつもの配給が無いからお腹が空いて……)

 

直前の記憶を遡って行くと、忘れていた空腹感が蘇って来た。

同時に、覚醒した嗅覚が独特な香りを捉えて、さらに空腹感を刺激する。

 

(部長が見つけて連れて帰ってくれたのかな……?)

 

そんなことを考えながら、ゆっくりと目蓋を開ける“彼”。

ぼやけた視界に映ったのは見覚えのない天井なのだが、まだ意識がはっきりしていない“彼”は気付かない。

 

「あっ、起きたみたいね。」

 

「…………?」

 

“彼”の視線が本から視線を外した歌野をぶつかる。

やがて、朧気だった“彼”の意識がはっきりしていき…………

 

 

 

「ひゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

 

 

ご近所迷惑な程の大音量で叫び声をあげた。

幸いにも歌野たちの自宅は防音がしっかりしているので、外部に悲鳴が漏れることはなかったが。

 

「だ、誰なんですか!? ぼ、僕をどうするつもりなんですかぁぁぁ!?」

 

布団を蹴飛ばし、ザザザッと部屋の隅っこまで後退する“彼”。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて!! 別にどうもしないわよ!!」

 

そう言って、錯乱する“彼”をなだめようと近づく歌野。

しかし、その行為は逆効果になり、赤い瞳が一瞬だけ光った。

 

歌野は知らないが、“彼”は時間を止める力を持っていた。

しかし、その力を制御できないので感情が高ぶってしまうと、周囲の時間を無意識に止めてしまう厄介な特性があった。

赤い瞳が一瞬だけ光るのは、それ能力が発動する予兆である。

 

しかし、歌野の場合は…………

 

「ひぃぃぃぃぃ!! な、何で動けるんですかぁぁぁ!?」

 

「ん? 何かしたの?」

 

「ゴ、ゴメンなさいぃぃぃぃぃ!! 怒らないで!! ぶたないでぇぇぇぇ!!」

 

“彼”は頭を守るようにうずくまり、ぶるぶると体を震わせる。

その反応に歌野も少しばかり戸惑っていたが、やがて時が止まった空間の中を平然と動いて、“彼”を抱きしめた。

自分の能力が効かない上に、見知らぬ人にハグされることによって更にパニックになる。

 

「大丈夫よ。此処には貴女を傷つける人も、貴女を怒鳴る人も居ないわ。そんな人が居たら、私がやっつけてあげる。」

 

子供をあやすように背中を何度もポンポンと叩く歌野。

 

「あ…………」

 

「落ち着いた?」

 

「は、はい…………」

 

「なら良かったわ。急に知らない場所に連れてこられてサプライズしたでしょ?

 コンビニの近くで眠ってたから、危ないと思って連れて帰ってきたのよ。」

 

(コンビニ……ああ、そうだ。僕、何か買おうと近くまで行ったのはいいけど、結局人が怖くて……)

 

その時、“彼”のお腹がくぅ~と可愛らしい音を鳴らした。

 

「あら、お腹が空いてるのね。」

 

「は、はい……晩御飯、食べてなかったので」

 

「それはバッドね。ご飯は1日3食きちんと食べないと。」

 

そう言うと、歌野は一旦身体を離して、“彼”に目線を合わせる。

 

「私は白鳥 歌野。貴女は?」

 

「えっと……ギャスパー・ヴラディ、です。」

 

「ギャスパー君ね。ちょうど夜食作ってる所なの。一緒に食べましょ?」

 

そう言って、歌野は“彼”――ギャスパーの手を引いてリビングまで連れていくのだった。

 





Q 何でギャスパーが外に出てるの?

A お腹が空いたから。
  普段はリアスor朱乃のどちらが食事を配給

 修行中、2人は不在のため、食事なし
  ↓
  空腹を我慢できず意を決して外へ。


Q ギャスパー、あっさり歌野に心開いてない?

A うたのんのカリスマが為せる技。
  うたのんなら出来そうという私の独断と偏見の結果。(あと妄想)  


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第11話 「勇者と吸血鬼(後編)」

 

~駒王町 白鳥・藤森宅~

 

 

 

 

――――ズルズルズル……

 

 

 

 

「このお蕎麦美味しいです!!」

 

「ふふん♪ そうでしょそうでしょ。みーちゃんが作った蕎麦は世界一だもの!!」

 

「もう、うたのんたら……」

 

夜の帳が降りた頃。

歌野、水都の2人に加えてお客様のギャスパーの3人が水都特製の信州蕎麦を同じテーブルですすっていた。

 

「それより、うたのん。うたのんに言われた通りに作ったけど、いくらなんでも作り過ぎじゃないかな?」

 

まだ春先で夜は肌寒いため、作った蕎麦はかけ蕎麦という温かい蕎麦。

3人に対して、茹でた蕎麦はざっと5人前。昼食や夕食だったらまだしも、夜食として3人が食べるには少しばかり量が多い。

現に、水都のどんぶりを見てみると歌野、ギャスパーに比べて蕎麦の量が少ない。

 

「ノ―プログレムよ、みーちゃん。何故なら、私が2人前半食べるから!!

 ギャスパー君もまだまだ食べれるでしょ?」

 

「はい!! まだまだ食べられます!!」

 

そう言って、歌野とギャスパーは蕎麦をすする。

 

(この2人、すっかり仲良しだなぁ。ギャスパー君、人見知りみたいなのに……)

 

こうやって一緒に夜食を取る前、ギャスパーは水都と視線が合っただけで涙目になって、歌野の後ろに隠れたまま出て来ないという出来事が起こった。

歌野の存在に安心感を抱いているようで、ギャスパーの隣に歌野が座ることで水都とも普通に会話できるようになっている。

 

赤の他人のギャスパーがこうも簡単に心を許すのも歌野が高いカリスマ性を持つためだろう。

 

「ふぅ……ごちそうさま!!」

 

「ええっ!! うたのん、もう食べ終わったの!?」

 

どんぶりを覗いてみると、確かに歌野のどんぶりには蕎麦も薬味も残っていない。

ついさっき、宣言した通り、歌野は水都特製の信州蕎麦を2人半分完食していた。

 

「ふぅ……あっ、ギャスパー君も無理に合わせる必要ないわよ?」

 

「大丈夫です。無理はしてませんから。」

 

そう言って自分のペースでかけ蕎麦を食べ続けるギャスパー。

一方、歌野は箸を置いて、これまた自家製の蕎麦茶を手に食後の休憩に入る。

 

(それにしても、ギャスパー君ってこうして見ると女の子にしか見えないわね)

 

歌野はそば茶を飲みながらチラッと隣に座るギャスパーを見る。

 

薄い金髪は肩口ぐらいまでのセミロング、肌は色白で身体の線は細い。

おまけに女性服を着ているため、ギャスパーの見た目は10人中10人が「女の子」と答えてしまうような外見になっている。

 

しかしながら、ギャスパーはれっきとしたXY染色体の持ち主――つまり、男の子だ。

 

(うーん……みーちゃんの勘違いも解いておいた方がいいかなぁ? 私は仙術のおかげですぐに気づいたけど。)

 

水都は未だにギャスパーが女の子だと思っているが、歌野は初対面の段階で気づいていた。

 

歌野が気づいた理由は、ギャスパーが纏う陽の気である。

種族問わず男女はそれぞれ陰の気、陽の気を纏っており、それを誤魔化すのは非常に難しい。 通常、それを感じ取るのは不可能だが、仙術を会得した者は感じ取れる。

 

歌野も仙術を会得しており、気を感じ取ることができる。

 

「……? どうかしましたか?」

 

歌野の視線に気づいたのか、ギャスパーが箸を止めて尋ねる。

 

「いや、みーちゃんにギャスパー君が男だってこと、伝えておこうかどうか考えててね。」

 

「むぐっ!! けほっけほっ!! お、女の子じゃなかったの……?」

 

「私も最初はビックリしたわ。どうみても女の子にしか見えないもの。」

 

「な、何で女装してるの……?」

 

「だって、女の子の服の方が可愛いんだもん」

 

「それ、男の子としてどうなの…………?」

 

「良いじゃないの。個人の趣味嗜好なんて人それぞれだし。」

 

 

 

 

 

 

そんな一幕もあり、ギャスパーが蕎麦を食べ終えたのは、それから10分後。

食器の片付けを終えた3人はまた同じテーブルに着き、ギャスパーの身の上話を聞くことにした。

 

「「停止世界の邪眼(フォービドュン・バローンズ・ヴュー)?」」

 

「はい、それが僕の神器(セイクリッド・ギア)の名前です。えっと、能力は視界内の時間を止めることです。でも、うまく制御ができなくて…………」

 

「自分の意志とは関係なく発動する、って感じかしら?」

 

ギャスパーが頷く。

 

「強い力を持つ神器(セイクリッド・ギア)所有者には絶対に付きまとう問題ね。それが原因で命を落とす人も居るみたいだし。」

 

「そして、神器(セイクリッド・ギア)は大なり小なり所有者の運命を狂わせる。ギャスパーくんや私みたいに」

 

「僕は……こんな力なんて要らなかった!! この力のせいで、皆が止まっちゃう!! 怖がる!! 嫌がる!! 僕だって嫌だ!! 大切な友達が止まった姿なんて見たくない!!」

 

胸の奥に秘めていた心情を思いっきり吐露するギャスパー。その目尻には少し涙が溜まっている。

すると、水都がギャスパーを後ろから抱き締める。

 

「分かるよ、ギャスパーくんの気持ち。私も同じような経験があるから。」

 

「え……?」

 

そう言って、水都は右手のひらを広げる。

すると、彼女の手に黒いハードカバーの分厚い1冊の本が現れる。

 

「これは私の神器(セイクリッド・ギア)、【女神の魔導書(トリウィア・グリモワール)】。これを持ってたせいで私は腫れ物扱いされて、感情任せに村を焼け野原にしたこともあった。」

 

水都は前世の記憶を持っていたため、子供らしからぬ性格だった。

彼女の父親はそれだけでも気味悪がっていたのに、神器《セイクリッド・ギア》の存在がさらにそれを加速させた。

生まれた村はそれほど大きくない山村だったので、水都のことはあっという間に広まり、避けられるようになった。

 

それでも、彼女の母は自分の子を愛し、水都にとっても母親だけが唯一の陽だまりだった。

 

しかし、ある時。数年に渡って農作物の不作が続き、誰かが水都が原因だと言い始めた。それを否定する者は居らず、いつの間にか水都は不作の元凶とされてしまった。そして、村人は水都の排除に乗り出し、唯一の味方だった母親は娘を守るために命を落とした。

 

結果。水都の負の感情が爆発し、その感情に呼応した神器(セイクリッド・ギア)は村人丸ごと生まれ故郷である村を焼き払った。

 

「正気に戻った私が見たのは、焼け野原になった村。あの時ほど、自分の力に恐怖したことはなかったよ。」

 

当時のことを思い出しながら水都は語る。

 

「私もギャスパーくんみたいに制御ができなかったんだ。感情に反応して、神器(セイクリッド・ギア)が勝手に力を使う状況だった。だから、いつ私の感情が爆発して、同じことが起きるかと思うと怖かった。」

 

「水都さんは、どうやって乗り越えたんですか?」

 

「うたのんのおかげだよ。焼け野原になった村で1人閉じこもっていた私をうたのんが引っ張り出してくれた。」

 

「みーちゃんを説得するのはベリーディフィカルトだったわ。」

 

「それは謝ったでしょ? 」

 

「ふふ♪ まあ、それから一緒にトレーニングして、みーちゃんも無事に神器《セイクリッド・ギア》を操れるようになったの。だからね――――」

 

歌野はそこで一度言葉を区切って、ギャスパーに提案した。

 

「私たちと一緒に神器(セイクリッド・ギア)のトレーニングしない?」

 

「え……?」

 

「ほら、私たちってギャスパー君の力は効かないじゃない? こっちは1回経験してるし、いろいろアドバイスできると思うのよ。」

 

「でも、これ以上迷惑を掛ける訳には……」

 

「いいのいいの。困ってる人が居るなら、悪魔でも天使でも手を差し伸べる。それが私のポリシーだもの。むしろ、このまま放置する方が目覚めが悪いわ。」

 

「そうだよ、ギャスパーくん。それにね、この世界に迷惑を掛けることなく生きていける人は何処にも居ないよ。だから、頼ってくれても大丈夫だよ。」

 

「歌野さん、水都さん……」

 

すると、水都は【女神の魔導書(トリウィア・グリモワール)】のページを捲り、あるページに記されていた術を行使する。

 

「これでよし、と。これで勝手に発動することはない筈だよ。」

 

「え!? な、何をしたんですか!?」

 

「ギャスパーくんの神器(セイクリッド・ギア)に少し制限を掛けたの。ギャスパーくんの意志に反して、力が発揮されないようにしてあるよ。」

 

「い、今までどうやっても抑えつけられなかったのに…………」

 

「それがみーちゃんの魔導書の力なのよ。それがあれば、失われた神話時代の術を使えるようになるの。いや~、みーちゃんには色々手伝ってもらったよ。」

 

「ほとんど農作業関係だったけどね。いきなり雨降らせてって頼んできた時はビックリしたよ。他にも、雨続きだからしばらく天気を変えて、とか。」

 

「おかげで、去年はすくすく野菜が育ったわ。」

 

「せ、神器(セイクリッド・ギア)の力をそんなことに利用するなんて……」

 

「うたのんの頭の中は農業のことで一杯だからね。まあ、そんなうたのんのおかげで私も自分の力と前向きに向き合えるようになったんだけど」

 

「僕も…………そんな風になれるでしょうか。」

 

「オフコース!! 私たちと一緒にトレーニングすれば、絶対大丈夫よ!!」

 

「…………分かりました!! 歌野さん、僕に神器(セイクリッド・ギア)の制御法を教えてください!!」

 

「オーケイ。よろしくね。ギャスパー君!!」

 

「はい!!」

 

こうして、ギャスパー・ヴラディは歌野の下で神器(セイクリッド・ギア)のトレーニングをすることになった。

 

 

 

 

 

 

これがギャスパーの戦闘スタイルに大きな変革をもたらすことを歌野は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈おまけ〉

 

「そういえば、どうして歌野さんには効かなかったんでしょ?」

 

「コレが守ってくれたのよ。」

 

歌野が見せたのは、藤のツルで作られた鞭。

表面は黒い皮でコーティングされているため、植物が原料だと分からなくなっている。外見は普通の鞭だが、強力な聖なる力が込められているのがギャスパーには分かった。

 

「これは“藤蔓之鞭”っていう神具なの。ある神様が鉄輪の操る神様との闘いで使った藤蔓と同じ力を持ってるわ。」

 

「神具…………?」

 

聞きなれない単語に首を傾げるギャスパー。

 

「神具はこの国のトップシークレットだから話せないわ。とりあえず、ギャスパー君の能力はこの鞭で無効化されたの。」

 

「世の中には、そんなものもあるんですね……」

 

 




時間がない……これからもっと忙しくなるのに……


なんか、みーちゃんの過去が暗くなっちゃった……。
うたのんとの接点をどうやってもたせるか思考してる間にかなり酷い経歴になっちゃったよ。いや、銀とひなたの場合も結構ひどいか。



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第12話 「レーティングゲーム前日」

~駒王稲荷神社~

 

 

 

 

リアス・グレモリーとその眷族とのレーティングゲームを翌日に控えた日。

 

銀は神社の境内上空をまるで虚空を踏みしめるようにして、縦横無尽に跳び回っている。

怪我をしないように赤い勇者装束を纏い、その両足には濡れ羽色の翼が2枚生えた赤いブーツを生えている。

 

どんどんと高度を上げて、動きを複雑にしていく銀。

その真下にある拝殿では、ひなた、杏、珠子の転生者組が段差に腰かけて彼女が空中を走りまわる姿を見ている。

 

「なぁ、ひなた。銀の奴は何をしてるんだ?」

 

途中で合流した珠子は、銀が何をしているのか分からずひなたに尋ねる。

 

「飛行訓練ですよ。」

 

「リヴァイアサンの【複写】で空飛ぶ靴を作ったみたいだよ。」

 

「あ~……確か、イメージした物を自由自在に作れるんだっけか。」

 

「はい。ただ、物を複製するのと違って、一から作り上げるのは結構難しくて、あのブーツも結構前から試行錯誤してるんですよ?」

 

「そうなのか?」

 

 

リヴァイアサンが持つ能力の1つ、【複写】はモノの複製、変質など多岐に渡る。

この能力を行使するためには、力の源となる霊力の他にも“設計図”が必要になる。

但し、“設計図”と言っても、リヴァイアサンが便宜上そのように呼称しているだけで、図面などではない。どちらかというとプログラムコードに近い。

 

外観だけを真似るだけなら設計図も必要ないが、特殊な能力を宿している物を創造したり、複製するためには設計図が必要不可欠になる。

現物が存在する物は比較的簡単に設計図を入手することができるが、イメージから物質を創造する場合は設計図を一から作り上げる必要があるのでそれなりの手間がかかる。

 

以前、銀が使った透明マントも試行錯誤して設計図を完成させた一品である。

 

 

「名称は“鴉天狗の羽靴”。大気を足場にして、空を自由に走り回ることができるそうです。」

 

「それは便利だな!!」

 

「悪魔や天使、堕天使と違って妖怪は飛行手段を持ってる種は少ないからね。」

 

杏も珠子の意見に同意する。

 

この世界には多種多様な種族が存在しているが、有翼の種族は圧倒的に少ない。

特に、妖怪は有翼の種族が少なく、自由に大空を飛行することはできない。翼を持たない空狐族も同様で空を飛ぶことは不可能だ。

 

もちろん、何かしらの術で飛ぶことができる者も居るが…………

 

「そういえば、銀が今まで作った物ってどんなのがあるんだ?」

 

「うーん……私が知ってる限りだと、透明マントに勇者装束。他にも、弓や槍とかもあった筈ですよ。」

 

「あれ? 銀ちゃんの武器って、斧なんじゃ……」

 

「そうですね。メインは大きな斧ですが、弓も槍も扱えますよ? 銀ちゃん、1人で戦うことが多いですから、いろんな状況に対応できるように練習したそうです。」

 

「まさか銀にそんな一面があったとは………」

 

(あら? でも、銀ちゃん、里に居た頃から弓と槍の練習をしていたような…………)

 

「しかし、銀が羨ましいぞ。特に勇者装束!! タマと杏の勇者装束なんて、何の加護もない服だぞ!!」

 

「それは仕方ないよ、タマっち先輩」

 

 

 

杏と珠子が戦闘時、身に纏う勇者装束は銀のモノと違って何の変哲もない衣服である。

勇者システム起動時に纏う勇者装束ほどの防御力はないが、リヴァイアサンの能力で形成した銀の勇者装束は下級の堕天使や妖魔の攻撃なら、ビクともしない。

 

ちなみに、勇者システム起動時の勇者装束は中級の堕天使、妖魔の攻撃程度なら無力化できるらしい(開発者談)。

もちろん、衝撃等は貫通してしまうが……

 

 

 

「ふふ♪ そんな珠子さんと杏さんに朗報があります!! 実はですね――――」

 

 

ひなたが嬉しいお知らせを教えようとしたとき、広い神社の境内に紅蓮の炎が舞う。

 

杏と珠子は敵の襲撃だと判断し、金弓箭と神屋楯比売を構える。

一方、ひなたは何もせずに「あらあら、相変わらず派手な登場ですね~」と暢気に呟いている。

 

紅蓮の炎が鎮まると、そこには1人の少女が立っていた。

オレンジ色の髪は毛先の方が赤くなっており、燃え上がる炎を彷彿とさせる。

着ている服はブレザーに紺色のスカートと何処かの学生のように見える。

 

 

「誰だ、お前!?」

 

「私? 私はシャルナ・フェネクス。ひなたから聞いてると思ったんだけど……」

 

「シャルナ……確か、銀ちゃんの婚約者がそんな名前だったような……」

 

「そうそう。そのシャルナであってるよ。私が銀ちゃんの婚約者。」

 

「「…………ええええぇぇぇぇぇっ!?!?」」

 

駒王稲荷神社の境内に杏と珠子の絶叫が響き渡る。

 

「ぎ、銀に婚約者ぁぁ!?」

 

「お、女の子……? もしかして、同性愛者? でも、それはそれで……」

 

「杏!?」

 

「まあ、そんな反応になりますよね……」

 

「最近、この反応見るのが楽しくなってきたよ。」

 

「あんまりアタシの先輩方を驚かせんなよ、シャナ。」

 

「やっほー、銀。10日ぶり。」

 

空を飛ぶ練習をしていた銀が地上の騒ぎを聞き付けて降りてくる。

そして、自分の婚約者の格好を見て、ため息を溢す。

 

「お前、またそんな格好してるのか。」

 

「アルバイトでやってる間に癖になってね。やってみると楽しいもんだよ?」

 

「だから、女の子に間違われるんだろ……。ただでさえ、女の子っぽい顔立ちなのに」

 

「えっ? 間違われる……?」

 

「んん? 銀、そいつは女じゃないのか?」

 

「違いますよ、珠子さん。シャナ……シャルナは正真正銘の男です。」

 

銀から告げられた事実に、本日の2度目の絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「改めまして、私はシャルナ・フェネクス。銀の婚約者で、朱雀の後継者よ。」

 

珠子と杏が落ち着いた頃を見計らって、シャルナは自己紹介を始めた。

 

「こんな見た目だけど、性別は男。呼び名はシャナで良いよ。」

 

「捕捉しておくと、フェニックス家の三男坊でもあります。まあ、表向きは存在しないことになってますが。」

 

ひなたの捕捉に杏と珠子は首を傾げる。

 

「シャナは生まれながら神獣フェネクスの力を持ってたから、他の悪魔から命を狙われる可能性があったんだ。だから、厳重に秘匿されてるんだ。」

 

「私のことを知ってるのは、両親と兄弟。あとはその眷族たちだけ。かなり徹底していたから、あの魔王ですら私のことは知らないよ。」

 

「ん? そんな状態だったのに、どうやって銀と知り合ったんだ?」

 

「詳しく説明すると長くなるけど……簡単に言えば、私の妹と空狐族の子供が同じ悪魔に誘拐される事件が起こってね。その事件で銀と知り合ったんだよ。」

 

「一緒に解決して、しばらくするとシャナはアタシを探して、わざわざ人間界に来たんだ。それで、裏ルートで来たもんだから高天原に連行されたんだ。」

 

「いや~何せ、両親には内緒だったからね。今から考えれば、私もちょっと不注意だったわ。」

 

シャルナは当時のことを懐かしい思い出のように語る。

 

「何で、わざわざ銀ちゃんに会いに来たんですか?」

 

「私の妹、レイヴェルが事件の後、体調不良を起こしてね。それがずっと続くし、時間が経つにつれて症状が悪化するものだから、何か知ってるかと思ったのよ。」

 

「それでレイヴェルを治療する代わりに、シャナは朱雀の後継者に就任することになったんだ。」

 

 

ちなみに、レイヴェルの体調不良は誘拐犯の実験の影響で悪魔には存在しない霊力炉が形成されたことが原因だった。これがきっかけで八咫烏の後継者に選ばれるとはフェニックス家の人々は予想だにしなかっただろう。

 

 

「さて、思い出話はまた後日にして。シャルナさん、例の物を持ってきてくれたんですよね?」

 

「そうそう。はい、これ。」

 

シャルナは机の上に大きなバックを置き、それを開く。

 

バックの中に入っていたのは、外観がまったく同じ2台のスマートフォン。

それぞれのスマホには杏、球子の2人の名札が貼られている。

 

「これってもしかして……」

 

「そうだよ。銀ちゃんが使ってる勇者システムを内蔵したスマホ。」

 

「でも、なんでタマたちに勇者システムが支給されたんだ?」

 

「私から進言したんです。銀ちゃんだけでは手が足りなくなる可能性がありますから。」

 

実際に、アーシアの一件では人手不足が露見し、アーシアを守ることができなかった。

ひなたはそれを交渉材料にして、高天原の神々に勇者システムの増産を進言。同時に、球子、杏の2人を勇者に推薦したのだ。

〈浄玻璃の鏡〉を借り出し、2人の人格に問題はないことが証明されたので正式に勇者として高天原に登録されたのが2日前のことだったりする。

 

「それと、銀ちゃんのスマホ貸して。」

 

「? いいけど、何するんだ?」

 

「勇者システムのアップデートを、ね。」

 

そう言って。シャルナは銀のスマホにUSBメモリを接続し、勇者システムのアップデートを開始する。

 

「今回のアップデートで、勇者システムが龍脈の範囲外でも使えるようになったよ。まあ、使用者の霊力を使うから、そんなに長くは使えないけど。」

 

「ちなみに、銀ちゃんの場合だとどれくらいの時間使えるんですか?」

 

「開発部の試算だと、1時間が限度かな。機能を制限して使えば、長く維持できるよ。」

 

「アタシで1時間か……短いような長いような」

 

「精霊関係は結構な霊力を使うから、仕方ないと思うよ? ――――っと、終わったよ。」

 

会話している間にアップデートは完了し、銀の手元にスマホが戻ってきた。

試しにアプリを起動すると、いくつかのアイコンが追加されていた。

 

「アップデート内容はアプリの説明書に書いてあるから、目を通しておいてね。」

 

「分かった。ありがとうな、シャナ。」

 

「これくらいお安い御用さ。明日のレーティングゲーム、頑張ってね。」

 

「おう!!」

 

 

 




本来、神獣のフェニックスと悪魔のフェニックスが同時に出る際は区別する際に神獣の方をフェニックス、悪魔の方をフェネクスと呼称します。しかし、この作品では逆にしています。


ちなみに、勇者装束の防御性能ですが……
リヴァイアサンの能力で作った場合=のわゆ世代の性能
勇者システムを起動した場合=わすゆ世代の性能

―――という感じにしています。

ゆゆゆ世代だとチート性能すぎるので。


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第13話 「レーティングゲーム(前編)」

迎えたレーティングゲーム当日。

 

参加できるライザーの眷属一同と助っ人枠の銀、ひなたの2人は駒王学園の学長室に集結して、ゲーム開始の合図を待っていた。

今回、ゲームのために用意されたフィールドは現実世界にある駒王学園を模した疑似空間なので、フィールド内の物を壊しても現実世界には何の影響もない。

 

ルールはオーソドックスな物で、相手の「王」を倒したチームが勝利。

また、リアス側にはハンデとして、如何なる傷も瞬時に治癒できる〈フェニックスの涙〉というアイテムが1個支給されている。

 

「さて、作戦会議と行こうか。」

 

ライザーの「女王」が机の上に駒王学園の全体図を広げる。

リアスらは学園の旧校舎にある部室が本陣となっており、ライザーの本陣がある新校舎とは体育館を通して繋がっている。

 

「真っ先に優先すべきは、体育館ですね。」

 

ひなたが指さしたのは旧校舎と新校舎の両方と隣接している体育館。

この体育館以外で新校舎に向かうには、遮蔽物のない場所を通っていくしかない。

 

「だが、それはリアスの承知の上だろう。俺なら此処に堕天使を投入して、体育館を占拠するな。」

 

「ええ。なので、序盤から私も前線に出ます。」

 

「正気か? お前の能力はどちらかと言うと後衛向きだろ?」

 

ひなたの言葉に驚く一同を代表して、ライザーが発言する。

唯一、驚いていないのはひなたとの付き合いが長い銀だけだ。

 

「いえ。むしろ、前線に居る方が私の能力はフルパフォーマンスを発揮できます。」

 

「………分かった。では、俺の眷属と共に体育館に向かってくれ。」

 

「はい。銀は屋上から支援をお願いしてもいいですか? それから、〈赤龍帝〉の相手も。」

 

「ん、分かった。」

 

「それと、銀ちゃんはリヴァイアサンの力はなるべく使わないように。観戦者が最小限に抑えられてると言っても、あまり大っぴらにしたくはないですから。」

 

「分かってるよ。」

 

自身の力が世間に与える影響力は銀も十分承知している。

 

特に、銀の相棒の力はどの勢力も目を光らせている〈神滅具(ロンギヌス)〉に匹敵する力を秘めているので、フェニックス家以外の悪魔に知られるのは非常に不味い。

今回の観戦者経由で情報が漏れれば、多くの上級悪魔がこぞって自分の眷属しようとするのは目に見えている。最悪、強行手段に出る者も出てくる可能性がある。

 

「ふむ。とりあえずはこんなものか。」

 

「あっ、そういえばライザーさん。堕天使は抑え込むだけ良いと言ってましたが、どういうことですか?」

 

「簡単な話だ。今回のゲーム、勝利条件はなんだ?」

 

「敵の『王』のリタイアだろ?」

 

「………ああ、なるほどそういうことですか。」

 

ひなたはライザーが何を企んでいるのか、察した。

 

「リアスの眷属たちが本陣を離れた瞬間を狙って仕掛ける。」

 

「それなら、私の土壇場ですね。時間稼ぎなら任せてください。」

 

「信頼しているぞ、ひなた。それに、銀も」

 

『作戦タイムは終了です。ただいまより、ゲームを開始します。』

 

審判役の女性悪魔から告げられた開始の合図と同時にライザーの眷属らは行動を開始した。

ひなたも「兵士」3名、「戦車」1名を伴って、体育館の方に向かった。

 

「じゃあ、アタシは屋上で待機してるよ。」

 

そう言って、銀は学長室の窓から外に飛び出す。

いつもなら重力に引かれて落下するのだが、予め装備しておいた〈鴉天狗の羽靴〉を使って学園の屋上に上がっていく。

 

屋上に上がった銀はスマートフォンを取り出し、勇者システムの機能の一部を開放する。

 

「須美。お前の力、貸してもらうぜ。」

 

銀の手に現れたのは、いつもの大斧ではなかった。

 

その手に握りしめるのは、白と薄い青色を基調とした弓。

形状は洋弓の方に近く、金属で構成されている。大きさは自分の身長よりも少し短いぐらいの大弓だ。

 

『便利なものね。スマホに収納しておけば、いちいち【複写】を使う必要もない。』

 

「ああ。アップデートが間に合ってくれて助かったよ。」

 

昨日のアップデートで追加された機能の1つに格納機能がある。

これは特殊な術で物をスマートフォンに格納しておくことで、いつでも格納した物をいつでも呼び出すことができるアイテムポーチ機能である。

 

今、銀の手元にある弓は予め【複写】で創り出し、格納しておいた物である。

 

「しかし、こうやって待機してるのも暇だなぁ……」

 

『戦闘はまだ始まってないみたいね。向こうも闇雲に突進してこないか……』

 

「そこまで容易い相手じゃないってことだな。負けるつもりはないけど。」

 

『こちら、ひなた。体育館で敵の「兵士」1名、「戦車」1名と戦闘開始しました。』

 

『堕天使は出てきているか?』

 

『いいえ。どうやら、まだ温存する方針のようです。』

 

銀の耳に付けたイヤホンからひなたとライザーの声が聞こえる。

この会話は当然ながらゲームに参加している仲間全員に共有されている。

 

「ん?」

 

屋上で待機していた銀の瞳に1つの影が映った。

悪魔の翼を生やし、紅白の巫女装束を身にまとった女性が体育館上空で何か準備をしていた。

 

「ひなた、奴さんが何かしようとしてる。」

 

『…………』

 

銀が警戒を呼び掛けても、ひなたから返答が返ってこない。

 

「ひなた?」

 

『はっ!! す、すみません。ちょっと目の前に衝撃的な光景が繰り広げられたもので……』

 

「何があったんだよ……。――――っ!! ひなた、防御!!」

 

気が付けば、体育館上空には黒い雲が渦を巻いていた。

その雲から強力な雷撃が体育館に降り注いだのは、その直後のことだった。

 

 

________________________________________

 

 

撃破(テイク)、ですわ。」

 

体育館に雷撃を放ったのはリアス・グレモリーの「女王」、姫島 朱乃だった。

旧校舎と新校舎に隣接する体育館は跡形もなく、今も黒い煙が立ち上っている。

 

(これで4人。向こうは助っ人含めて8人ですから、戦況はこちらが圧倒的に有利ですわ。)

 

奇襲で体育館ごと中に居たライザーの眷属を戦闘不能にするのがリーダーであるリアスからの指示である。

重要拠点を囮にして、拠点確保に動いていたライザーの眷属を一網打尽。それによって、人数差を覆し、有利な状況を作るのが彼女の「王」が立てた作戦だった。

 

それは無事に完遂された筈なのに、朱乃は違和感を覚えた。

 

(……おかしいですわ。撃破したのに放送が入らない)

 

レーティングゲームでは、戦闘不能になった眷属が出る度に放送が入る。

だが、その放送が入っていないことに気付いたのだ。

 

(まさか!!)

 

刹那、朱乃の腕を一筋の閃光が掠めた。

 

閃光の正体は屋上で待機していた銀が放った霊力の矢だ

同時に地上では、倒したと思っていたライザーの眷属たちが黒い煙の中から現れ、兵藤 一誠と塔上 小猫に襲い掛かる。

 

「完全に不意を突いた筈なのに、どうやって!?」

 

「防いだだけですよ。あの場に居た全員に結界を張って、ね。」

 

朱乃の前に現れたのは、見えない何かを足場にして虚空に立つひなた。

ニコニコとほほ笑むひなたに対して、朱乃は険しい表情を浮かべている。

 

「貴女、何者ですの? 悪魔ではないようですが……」

 

「お初にお目にかかります。私はライザー・フェニックスの助っ人、上里 ひなたと申します。」

 

「あらあら、これはご丁寧に。(地上の方は不味いですわね。)」

 

表面上は穏やかな会話を交わしながら、朱乃は地上の様子を窺う。

ライザーの眷族4人によって、一誠と小猫が追い詰められている。人数差に加えて、定期的に降り注ぐ遠方から攻撃によって、2人は不利な状況に立たされている。

 

「残念ですが、援護などさせませんよ。」

 

「それなら、貴女を倒してから2人の援護に向かわせてもらいますわ!!」

 

ひなたに向かって放たれる朱乃の雷撃。

しかし、彼女の攻撃はひなたに当たる直前にかき消されてしまった。

 

「貴女の敗因は、私と遭遇したことです。」

 

ひなたが指パッチンすると、朱乃は半透明の球体に閉じ込められてしまった。

 

「これは、結界? だけど、こんなモノは……!!」

 

結界を壊すために強めの雷撃を放つ朱乃。

しかし、その雷撃はそのままの威力で朱乃に返って来た。

 

「こ、これは……ただの結界ではありませんわね。」

 

自分の雷撃で身体を焼かれた朱乃は、冷静に状況を分析する。

 

「正解です。私、こうみえても結界のエキスパートなんですよ。」

 

ひなたの霊術特性は【結界】。

結界を作ることに特化した特性であり、様々な効果を持つ結界の構築ができる。

一見、応用が難しいと思われる能力だが、ひなたは結界を盾にしたり、牢獄にしたり、いろいろと応用して使っている。

 

 

ちなみに、朱乃を閉じ込めたのは内部の攻撃をすべて反射する結界である。

さすがに物理攻撃には無力だが、閉じ込めた相手が後衛タイプなら無類の防御力を発揮する。

 

「結界で私の初撃から仲間を守ったのですね。」

 

「はい。平時ならいざ知らず、今回は人数が少ないですから。」

 

ひなたは地上での戦闘に目を向けながらも、結界を緩めない。

 

(残りは「騎士」、「僧侶」。そして、使い魔の堕天使。「僧侶」以外を引き付ければ、ライザーさん1人で十分勝てるでしょ。)

 

ひなたと銀の仕事は眷族と共に、リアスの眷族を抑え込むこと。

現在の戦闘地点に残りの「騎士」と堕天使が揃えば、ひなたの能力で眷族全員を切り離すことができる。

 

『ひなた、今からユーベルーナをそっちに向かわせる。この状況で「女王」を投入されれば、向こうも切り札を切るだろう。』

 

「分かりました。――――っ!!」

 

ライザーの作戦を聞いた瞬間、グラウンドに光の矢が降り注いた。

同時に、地上に居た「兵士」の3人、「戦士」の1人が矢に貫かれてリタイアし、フィールドから去ってしまった。

 

ひなたの方は間一髪、結界を盾として展開することで難を逃れた。

その代わり、朱乃を閉じ込めていた結界が破壊され、「女王」が舞い戻る。

 

「まさか、そんな所に潜んでいるとは思いませんでした。」

 

堕天使レイナーレは朱乃が作り出した雷雲に隠れていたのだ。

むしろ、最初のド派手な一撃は奇襲の意味もあったが、真の目的はレイナーレの存在を隠すためだったのである。

 

「これで形勢逆転ですわね。」

 

「複雑ですが、ここで倒させてもらいます。」

 

レイナーレは高度を下げて、光の槍を手に形成する。

空には朱乃とレイナーレ、地上には一誠と小猫が待ち構えている。

 

どうやら、ひなたを要注意人物に認定し、最優先で倒そうと考えているらしい。

 

「あらあら。いたいけな少女に向かって酷い仕打ちですね。」

 

「その余裕、いつまで続けられますか?」

 

ひなたと撃破せんと襲いかかってくる朱乃とレイナーレ。

一方、ひなたはほほ笑んだままその場を動こうとしない。

 

 

朱乃の雷撃とレイナーレの投擲攻撃がひなたに迫る。

 

 

 

 

 

――――神足通――――

 

 

 

 

 

「なっ!?」「消えた!?」

 

ひなたの姿は攻撃の射線上から消え、同時に地上で大きな爆発が起こる

 

『リアス・グレモリーさまの「戦車」1名、リタイア』

 

撃破(テイク)

 

「すみません、ユーベルーナさん。被害を出してしまいました。」

 

「構いませんわ。それよりも、役者が全員揃ったようですわ。」

 

射線上から消えたひなたは、いつの間にかグラウンド上空に居たライザーの「女王」――ユーベルーナの隣に居た。銀も一緒に居る。

 

そして、地上の方ではリアスの「騎士」が味方と合流を果たしていた。

 

「それは僥倖です。では、“結界師”上里 ひなたの力の一端をお見せしましょう。

 

 

 

 “彼方と此方は別れ、何人も通ることは叶わず、出ることも叶わず”」

 

 

パンッ、パンッ!! と柏手で打ち、トリガーとなる言霊を唱える。

霊術によって、グランド全体を覆うように半透明の結界が展開され、グラウンドに居た全員が閉じ込められてしまった。

 

「さぁ、此処からが本番だ!!」

 

斧を肩に担ぎ、銀が不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

~リアス・グレモリー本陣~

 

 

「戦況は五分と五分。いえ、アーシアとフェニックスの涙がある点を見ると、こちらの方が有利かしら。」

 

ゲーム開始以降、リアスは本陣から動かずに戦況を操作していた。

その対面にはアーシアも残っており、戦況を静かに見守っている。

 

「すみません、部長。私もコレ(・・)を使うことができたら……」

 

そう言って、アーシアは傍らにある自身の宝物に目を向けた。

今は使うことができないが、傍にあれば安心するという理由から持ち込んだ一品―――白塗りの鞘に入った日本刀がアーシアの傍らに立て掛けられている。

 

「ダメよ、アーシア。人間の時ならいざ知らず、悪魔の貴女がソレ(・・)を使うのはリスクが高すぎる。絶対に使っちゃだめよ?」

 

「でも…………」

 

「大丈夫よ。ソレ(・・)に頼らなくても、勝てるわ。仲間たちを信じましょう。」

 

「はい…………」

 

 

 



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第14話 「レーティングゲーム(後編)」

 

 

リアス・グレモリーとライザー・フェニックスによるゲームは佳境を迎えていた。

 

疑似空間に再現された〈駒王学園〉のグランドに展開された結界。

外部と内部を完全に隔絶された空間の中では、リアス陣営とライザー陣営による4vs4の戦闘が繰り広げられている。

 

その隔離結界の一角では、銀と一誠が戦闘を繰り広げていた。

 

「おりゃあ!!」

 

「うおっ!!」

 

身の丈に合わない重そうな二振りの斧を振り回す銀。

一方、一誠はその斧を避けるのに精一杯で反撃することができない。

 

「どうした、〈赤龍帝〉!! 逃げてるだけか!?」

 

「チビッ子がそんなもん振り回すんじゃねえよ!! 危ね!!」

 

銀の斧が一誠の頬を掠める。

同時に、彼の右腕の装着された赤いガントレット――〈赤龍帝の籠手〉の音声から『Boost!!』という音声が流れる。

 

(今ので6回目。これで64倍か)

 

『銀。今は勇者システムの防御機構は切ってるんだから、気を付けなさいよ?』

 

(分かってるよ。)

 

リヴァイアサンとそんな会話を交わしながらも銀は攻撃の手を緩めない。

 

アップデートによって、銀の勇者システムは龍脈の範囲外でも使えるようになった。

それ以外にもいくつかの機能を制限した状態でシステムを使えるようになっており、現在の銀は身体能力強化機能のみを起動させた状態で戦っている。

長期戦のために防御強化も切っているため、【倍化】の恩恵を受けた一誠の攻撃一発でリタイアになる可能性もある。

 

《Boost!!》

 

「よっしゃぁ!! こっからは俺のターンだ!!」

 

《Exprosion!!》

 

7回目の倍化が完了した途端、一誠は銀から離れて力を解放する。

 

「ドラゴン波ならぬ、ドラゴンショット!!」

 

「やべっ!!」

 

赤いオーラがまるで極太のビームとなって、銀に襲い掛かる。

128倍となった一撃を受ければ、確実にリタイアになる。しかし、避けて結界に当たれば、せっかく張った結界が破壊され、分断作戦が失敗してしまう。

 

「園子!! お前の力、借りるぜ!!」

 

勇者システムの格納機能で召喚されたのは、紫色の槍。

その穂先はいくつもの刃が重なるようになって構築されており、召喚されると同時に穂先が変化して、傘に似た形状を作る。

 

時間にして、1秒にも満たない時間で展開した傘で銀は攻撃を受け止める。

 

「なっ!! 7回も倍化した攻撃を受け止めた!?」

 

「へん!! これはアタシの親友が使って武器だ。そんな攻撃で潰れるかよ!!」

 

地面を蹴り、一誠に肉薄する銀。

傘のような形を取っていた槍は、元の姿に戻り、一誠の心臓目掛けて放たれる。

しかし、その穂先は彼の両手が挟み込むようにして食い止め、急所に刺さることはなかった。

 

「上手くできるかわかんなかったが、やってみるもんだな。」

 

「今のは入ったと思ったんだけどな……だが!!」

 

銀は片手を離して、一誠の〈赤龍帝の籠手〉に手を伸ばし、触れる。

同時に、リヴァイアサンの能力が発動する。

 

解析(Analyze)!! そして、回帰(Recursion)!!』

 

(よっしゃ!)

 

銀は槍を格納し、距離を取る。

 

《Reset》

 

「な、何で倍化が解除されたんだ……? まだ、時間はあった筈だろ⁉」

 

一誠は急に倍化が解除されたことに戸惑いを隠せなかった。

 

〈赤龍帝の籠手〉による能力の倍化は解放からある程度の時間続くようになっている。

行動によって継続時間は増減するものの、今回の継続の時間の短さは彼にとっては異常な事態だった。

 

(どうだ、リヴァイアサン。ちゃんと入手できたか?)

 

『ええ。これでいつでも【複写】できるわ。』

 

「こうなったら、もう一回時間を稼いで…………うぐっ!!」

 

「?」

 

突然、一誠が〈赤龍帝の籠手〉を押さえたまま蹲る。

 

「な、なんだ……神器(セイクリッド・ギア)が熱い!!」

 

《Dragon booster second Liberation!!》

 

赤いオーラが彼の左腕を包み込み、謎の音声と同時にはじけ飛ぶ。

蛹から蝶が羽化するように現れた〈赤龍帝の籠手〉は宝玉が1つ増え、全体的なフォルムにも変化が生じていた。

 

《懐かしい力を感じ、無理に出てきてみれば……中々興味深い状況だな》

 

「だ、誰だ!?」

 

《俺は赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)、ドライグ。兵藤一誠、お前の左腕に宿る物だ。》

 

「ウェルシュ・ドラゴン、ドライグ……」

 

《さて、聞こえているんだろ? 蒼海の覇龍(デュプリケイト・ドラゴン)、リヴァイアサン。》

 

(おーい、呼ばれてるぞ、相棒。)

 

『この状況で名乗り出れる訳ないでしょ……。』

 

《ふむ……意識が覚醒していないのか?》

 

「何だか知らねえけど、後にしてくれ。こっちは戦闘の真っ最中なんだ。」

 

《止めておけ。お前では、【回帰】の力を使うあの少女には勝てん。》

 

「そんなのやってみないと分かんねえだろ!!」

 

そう言いながら、一誠はチラッと他の仲間の様子を窺う。

 

リアスの「騎士」木場 祐斗はライザーの「騎士」カーラマインの相手に手一杯。

空中では、朱乃・レイナーレのコンビがひなた・ユーベルーナのコンビと戦闘を繰り広げているが、そちらも他の援護に回る余裕はなさそうだ。

 

(――――となると、コイツは俺が倒すしかねえか)

 

倍加を重ねながら、一誠は闘志を滾らせる。

 

《Reset》

 

「なっ!? どうしたんだよ、急に!?」

 

《それが【回帰】の能力さ。一度触れられた以上、もうパワーアップはできん。》

 

「あんまり、アタシの力についてバラさないでもらえます?」

 

《そっちの事情は知ったことじゃないんでな。どうやって、その能力を手に入れたのかは俺も興味があるがな。》

 

「それは企業秘密ってことで。」

 

「おい、どういうことだよ!?」

 

《【回帰】は触れた者のパワーアップ・パワーダウンをゼロにする力だ。要するに、お前の天敵ということだ。》

 

リヴァイアサンの能力の1つ、【回帰】。

それは自分や触れた者のバフ・デバフを無効化する能力で、【倍化】の力を持つ〈赤龍帝〉や【半減】の力を持つ〈白龍皇〉にとっては天敵と言える。

つまり、銀に触れられた以上、一誠は今回のゲーム中〈赤龍帝の籠手〉によるパワーアップは使えないのだ。

 

「さて、このまま倒してもいいけど……その前に決着がつきそうだな。」

 

隔離結界の外側に目を向けると、ちょうど紅蓮の炎が立ち上った。

 

「眷属を全員倒せなくても、敵の王を倒せばゲームは終了する。ライザーの方も上手くいってるみたいだな。」

 

「リアス部長⁉ それに、アーシアまで」

 

「ネタばらしすると、アタシたちは始めから眷属たちを分断するのが目的だったわけさ。こうやって援護できないようにすれば、〈フェニックスの涙〉なんて関係ない。」

 

『あとはライザーが向こうの王様を倒せば、ゲーム終了ね。』

 

(あの様子だと、魔力切れで終了だな。)

 

銀は脳内でリヴァイアサンと言葉を交わしながら結界の外で行われてる戦闘に目を向ける。

 

リアス・グレモリーの攻撃はライザーに当たってるものの、不死鳥の力を持つライザーはすぐに再生して、ダメージがゼロに戻る。

かなり魔力を使っているのか、リアスは肩で息をしている。アーシアの持つ神器(セイクリッド・ギア)で傷が治療できるものの、失った魔力までは戻らない。

 

(さて、あとはライザーに任せて、こっちは結界を破壊されないようにするか。)

 

『銀ちゃん。そっちが終わったなら、少しこちらを手伝ってもらえますか?』

 

(分かった。)

 

銀は結界の外の戦闘から視線を外して、一誠に視線を戻す。

左手の斧を一文字に振ると、炎の槍が彼女の周囲にいくつも展開される。

 

「じゃあな、〈赤龍帝〉。」

 

何とかパワーアップしようと模索している一誠に向かって、銀は炎の槍を一斉に発射した。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!!! こんなところで負けてたまるかぁぁ!!!!!」

 

一誠は左腕の籠手で炎の槍を打ち砕くが、用意された炎の槍は処理できる数を越えていた。

次々と射出される槍を彼の実力ではさばき切れず、体に突き刺さっていく。

 

「戦車」にプロモーションすれば耐えるのは難しくないだろうが、生憎と結界が張られた場所はプロモーション可能エリア外なので「兵士」の強みを活かすことができない。

 

それでも、一誠は根性で銀の攻撃を凌ぎきった。

 

 

《ほう、大したガッツだな。だが、ここまでだな。》

 

「タイラントブレイク!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、審判役からリアスの「兵士」のリタイヤが発表された。

 

 

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

一方、結界の外ではリアスがじわじわと追い詰められていた。

「僧侶」のアーシアはその様子を見ていることしかできなかった。

 

(このままじゃ…………)

 

アーシアはリアスに治癒を施しながら、結界の方に視線を移す。

結界を破壊できそうな仲間はライザーの眷族と助っ人に抑え込まれているため、今すぐの援護は期待できそうにない。

 

しかし、リアスの残り魔力も多い訳ではなく、そんなに長時間は戦えない。

一方のライザーはまだまだ余裕を残しているようだ。

 

「リザインしろ、リアス。もはや、お前に勝ち目はない。」

 

「黙りなさい、ライザー!! 私の可愛い下僕がまだ戦ってるのよ? 『王』である私が諦める訳にはいかないわ!!」

 

そう反抗して、魔力の弾を放つリアス。

ライザーに命中して顔を吹き飛ばすが、不死身であるライザーはすぐに元通りになる。

 

「まったく……頑固者だな、リアスは。」

 

「気安く呼ばないで!!」

 

リアスは魔力の弾を放つ。

 

 

ライザーの傷が回復する。

 

 

リアスは魔力の弾を放つ。

 

 

ライザーの傷が回復する。

 

 

そんな行動が何度も繰り返される。

打開策を見つけられず、繰り返されず不毛なルーチンはリアスを疲弊させるだけ。

アーシアの神器(セイクリッド・ギア)でも失った体力と魔力を回復させることはできない。

 

「仲間が結界を突破して、駆け付けるまでの時間稼ぎか? だとすれば、それは無駄なことだ。」

 

「随分と助っ人のことを信頼しているのね。」

 

「2人の実力はよく知っているからな。まあ、もっとも俺も彼女たちの全力を把握している訳ではないがね。」

 

『リアス・グレモリーさまの「騎士」一名、リタイア。』

 

「ふむ。これで、助けが間に合う可能性がゼロに近づいたな。」

 

「どうかしらね。貴方の「騎士」も満身創痍ではなくて? それにこっちにはまだ朱乃と夕麻、それに〈フェニックスの涙〉も残ってるのよ?」

 

「いいや。断言してやろう、リアス。いくら〈雷の巫女〉、上級堕天使、〈フェニックスの涙〉があってもあの2人は倒せんさ。俺の勝ちは確定だ。」

 

勝利を確信しているライザーとまだ勝利を諦めていないリアス。

しかし、銀の実力の一端を知っているアーシアはリアスの望んでいる展開が訪れる可能性は限りなく低いと予想していた。

 

(頼みの綱のレイナーレさんも居ない。それに、イッセーさんも……。今、この状況を何とかできるのは私だけ。)

 

アーシアはシスター服の下に隠している物を強く握りしめる。

それだけでピリピリした痛みが両手を蝕む。

 

「しかし、このまま助っ人に助けられたままというのも格好が悪い。ゲームの幕引きぐらいは俺がしよう。」

 

ボオッ!!という音を立てて、フェニックス家の特徴である炎の翼が広げられる。

 

「これで終わりだ、リアス!!」

 

放たれた炎撃は今までの比にならない程の火力を持っていた。

対するリアスは魔力障壁で防ぐのは難しいと判断し、残り少ない魔力を振り絞って相殺することを選んだ。

 

(リアス部長は私を助けてくださった。)

 

思い出すのは、悪魔として転生したあの日。

一誠を庇って死ぬ筈だったアーシアを助けたのは、他でもないリアスである。

その恩をアーシアは忘れたことがなかった。

 

――――何事にも報いを――――

 

アーシアの脳裏に以前世話になった“あるお方”の言葉がよぎる。

 

(私はリアス部長の恩に報いたい。だから、使わせてもらいます。)

 

覚悟を決めたアーシアは服の下に隠した物の封を解く。

 

布に包まれていた物の正体は白い日本刀だった。

鞘から柄まで白で染め上げられた刀はよく手入れされていることが分かる。

 

アーシアはそれを腰の辺りで支えて、いつでも攻撃に移れるような体勢でその瞬間を待つ。

 

 

そして、ライザーの強力な一撃を相殺し、リアスが地面に崩れ落ちると同時にアーシアは駆け出した。

 

 

「その身に秘められし力を以て、我が前の百鬼夜行を討ち払え!!」

 

「ほう、自らやられに来たか……その刀は⁉」

 

今まで余裕の表情を浮かべていたライザーが初めて動揺する。

しかし、次の行動を起こすまでの時間の猶予はすでになかった。

 

「切り裂いて、霊刀・緋那汰!!」

 

刹那、その場に居た3人の視界は白色の光に埋め尽くされた。

 

 

・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「今のは…………っ!! アーシア!!」

 

視力が回復したリアスが見たのは、一直線に抉れた地面。そして、膝を付きながらも刀を支えにして立っているアーシアの姿だった。

 

「アーシア、大丈夫!? ―――――っ!!」

 

リアスはすぐにアーシアに駆け寄り、絶句した。

 

両腕は真っ黒に炭化し、血を吐きだしたのか地面は真っ赤に染まっている。

辛うじて意識はあるようだが、焦点は合っておらず朦朧としているようだ。

 

「まったく……番狂わせにも程がある。」

 

「ライザー……まだ生きてたの⁉」

 

「五体満足とはいかなかったがな。その小娘のせいで左腕が持っていかれた。おまけに、再生も阻害されている。」

 

ライザーの左腕は肩から先が消失していた。

 

「さて、リアス。このまま続けるか?」

 

「ええ。まだ私の魔力は残っているもの。」

 

「リ、アス、ぶちょう…………ゲホッ!! ゴホッ!!」

 

リアスが戦闘を再開しようとしたその時、アーシアが血反吐を吐く。

 

「アーシア⁉」

 

「悪魔の身でそんな霊刀を使うからだ。しかも、込められているのは神霊の霊力。悪魔にとっては堕天使の光力以上に猛毒だ。このままだと、危険だぞ?」

 

「アーシア………」

 

「こんな状態の眷属をそのままにして、ゲームを続行するか? 俺はそれでもかまわんが。」

 

リアスはアーシアの安全と自分の将来を天秤に掛ける。

しかし、自分の大切な眷族の安全の方が圧倒的に重かった。

 

「………リザインよ、ライザー。その代わり、アーシアの治療を!!」

 

「良いだろう。すぐに用意させよう。」

 

 

 

 

 

こうして、レーティングゲームはライザーの勝利で終わった。

 




アーシアに近接戦闘用の武器を追加(但し、反動あり)

レーティングゲームの退場システムは、命に関わる怪我を負った場合に発動すると解釈しています。原作の一誠もそんな感じだったし。
霊刀・緋那汰を使った段階ではまだ命に別状はありませんが、放置しておくと霊力に体を蝕まれて、最終的に命を落とします。(遅行性の毒みたいな物)


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第15話 「レーティングゲーム後」

~駒王稲荷神社~

 

 

レーティングゲームから数日後。

 

 

ゲームはライザーの勝利に終わり、リアスがライザーの婚約者になる―――かと思いきや、残念ながらそうはならなかった。

 

「いや~ボコボコにされたな、ライザー。」

 

「良い薬ですわ。お兄様、少し調子に乗ってた部分がありますし。」

 

レーティングゲームの2日後に行われた婚約発表パーティ。

ライザーとリアスが正式に婚約者同士になったことを大々的に発表したお祝いの席に〈赤龍帝〉兵藤 一誠が乱入し、リアスを賭けてライザーに勝負を吹っ掛けた。

 

この勝負を快くライザーは承諾した。

〈赤龍帝〉を格下の下級悪魔と侮っていたため、余裕で勝てると判断した故の行動だったのだろう。しかし、見事に黒星を付けられ、リアスとの婚約は破棄された。

 

「まったく……格下と侮っているから、あんなことになるのですわ。」

 

「でも、いいものを見させてもらいました。囚われのお姫様を助けに来る王子様、みたいなシチュエーションで。」

 

「まあ、確かに向こうからするとお兄様はお姫様をさらった悪役ですわね。」

 

「それで、その悪役ライザーはどうしてるんだ?」

 

「格下に負けて、すっかり凹んでいますわ。」

 

「まあ、典型的なお坊ちゃんだからな。」

 

「さて、ライザーさんの話は置いておいて。レイヴェルさんは例の件、調べてきてくれましたか?」

 

「ええ。もちろんですわ。」

 

そう言って、レイヴェルは一枚の紙を広げる。

 

「材質自体は何の変哲もない日本刀ですわ。しかし、製造過程で大量の霊力を流し込んだため、霊刀へと変質しています。」

 

「製作者とかは?」

 

「それについてはまったく。本人に聞いても、話せないの一点張りですし。」

 

ひなたがレイヴェルに依頼したのは、アーシアが使った日本刀の調査である。

アーシアの治療に〈フェニックスの涙〉が提供されたために、レイヴェルはアーシアと直接接触する機会に恵まれた。それに目を着けたひなたが彼女に依頼したのだ。

 

「まあ、聖剣に匹敵する霊刀を生み出せる人物なんて迂闊に話せないよな。グレモリーのような悪魔ならまだしも、他の悪魔に知られたら…………」

 

「空狐族の悲劇、再来ですね。」

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)〉を持つ悪魔には、大まかに2つのタイプが居る。

 

グレモリー家やフェニックス家、シトリー家のように相手が同意した時、もしくは本人が生命の危機に晒されている時に駒を与えるタイプ。そして、自分の泊付のために相手の意志に関わらず、相手を眷族化させるタイプの2種類である。

 

後者のタイプが圧倒的多数派である現在、アーシアの霊刀の製作者のことが知られれば、多くの上級悪魔がその力を我が物にせんと過激な行動をすることは間違いない。

 

かつて、空狐族の里がそんな悪魔に襲撃された時のように…………

 

「ひなたさんは高天原から何か聞いておりませんの? これほどの霊刀、作れる人物は限られている筈ですわ。」

 

レイヴェルの質問に、ひなたは首を左右に振った。

 

霊刀とは、霊力を帯びた刀の総称であり、幽体の存在に直接攻撃ができる武器である。

刀に込められた霊力によってその特性が変化するため、対悪魔の霊刀は神霊に準ずる者の霊力が込められている場合が多い。

今回のアーシアの霊刀は聖剣に匹敵する対悪魔の力を持っているので、レイヴェルは高天原の神霊の関与を疑ったのだ。

 

「そういえば、あの刀の銘、ひなたと同じなんだよな。」

 

「そうみたいですわ。わたくしも本人から聞きましたし。」

 

「うーん……私の知り合いには、刀鍛冶できる知り合いは居ないのですが……」

 

「偶然の一致か?」

 

「その可能性が高いですわね。」

 

ここで、銀が思い出したように話題を変えた。

 

「レイヴェル。話は変わるけど、リアス・グレモリーの『戦車』について何かしらないか?

珠子さんと杏さんに聞かれたんだけど」

 

「残念ですが、生い立ちについてはまったく分かりませんわ。」

 

「そっか……。仕方ない、先輩方をダンジョンに案内するついでに情報屋に訊いてみるか。」

 

「わたくしはそろそろお暇させていただきますわ。」

 

「おう、ライザーによろしく言っておいてくれ。」

 

この時、銀もレイヴェルも気づかなかった。

 

 

 

霊刀・緋那汰の写真を見ながら、何か考え込んでいるひなたの存在に……。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

~冥界 〈ダンジョン〉~

 

 

「冥界にはこんな場所があるんですね」

 

「結構高いな。香川のゴールデンタワーより高いか?」

 

珠子は紫色の空に向かって伸びている乳白色の塔を見上げながら呟いた。

 

「ああ、それは幻でそう見えるだけですよ。実際は100mもないみたいです。」

 

「何で、そんなことを?」

 

「この〈ダンジョン〉の前管理者の趣味、らしいです。この塔の高く見せる以外にも前管理者は、〈ダンジョン〉の存在を隠すためにいろんな工夫をしてたみたいですから。」

 

そう言いながら、銀は〈ダンジョン〉の上に建てられた塔――〈ダンジョンズギルド〉の扉の前に立つ。

 

「目的地、鑑定所!!」

 

扉の前に立って目的地を告げると、ドアノブに付けられたダイヤルが勝手に回る。

そして、「チーンッ!!」という音と共にダイヤルが止まった。

 

「「???」」」

 

「この扉、目的地を言うと自動的にその施設の扉と繋がるんです。この塔、エレベーターとかないから、その代わりですね。」

 

そう説明しながら扉を開ける銀。

 

「ここが鑑定所です。〈ダンジョン〉に関する情報が集まってるんですよ?」

 

「本が一杯……これも全部?」

 

「はい。ここにある本は全部〈ダンジョン〉に関係する資料です。」

 

「ふわぁ~……何か騒がしいと思ったら、銀じゃない。何、また珍しい物でも見つけたのかにゃ?」

 

眠たそうな目を擦りながら、部屋の奥から出てきたのは鑑定所の一員――黒歌。

相変わらず黒い着物を着崩して、肌を晒すその姿は花魁を彷彿とさせる。

 

「今回はちょっと別件。」

 

「ん~? もしかして、後に居る2人に関する、こと、かにゃ…………」

 

「ああ。そうなんだけど、どうしたんだ? それに、杏さんと球子さんまで」

 

黒歌と先輩勇者2人はお互いに顔を見合わせたまま固まっていた。

 

「にゃああああああ!!!!! な、何で杏さんと珠子さんが此処にいるにゃあ!?」

 

フリーズした思考能力が正常に戻った瞬間、黒歌は鑑定所のカウンター裏に隠れた。

2人に対して後ろめたいことがあるのか、チラリと杏、珠子の2人の様子を窺う。

 

そして、ようやく正気に戻った珠子が怒鳴り声をあげた。

 

「くぉらぁぁぁ!! 黒歌ぁぁぁ!! 今まで何処をほつき歩いてたんだ!! タマと杏がどれだけ心配したと思ってる!!」

 

「ご、ごめんなさいにゃああああああ!!!!」

 

珠子の怒鳴り声を皮切りに黒歌と珠子、2匹の猫による追い駆けっこが開始される。

他に利用者が居ないことを良いことにそれほど広くない空間ぞ縦横無尽に駆け回る2人。

ちなみに、鑑定所にある物は特殊な術で壊れたり、汚れたりしないように保護されている。

 

「えっと、杏さん。黒歌とお知り合いなんですか?」

 

「知り合いというか……一時期、一緒に暮らしてたの。黒歌が銀ちゃんみたいな幼女だった時からね。銀ちゃんこそ、何処で黒歌ちゃんと出会ったの?」

 

「神社の敷地内ですよ。傷だらけで倒れてる所を保護したんです。それで、訳ありだったから、この〈ダンジョン〉を紹介したんです。」

 

「訳あり?」

 

「えっと…………」

 

「あ~、大丈夫にゃ。うちの口から直接話すにゃ。」

 

銀が話すべきか戸惑っていると、球子に捕まった黒歌がそう言った。

 

「そういう訳だから、球子さん。そろそろその手を放してほしいにゃ。いや、ホントに放してくれないと、わたしの胸がもげれちゃうにゃ。」

 

「もげろ。いや、むしろもいでやる!!」

 

「にゃああぁぁぁぁぁぁ!!!! 杏さん、助けて欲しいにゃあ!!」

 

黒歌に馬乗りになった球子はたわわに実った二つの果実を揉む。

揉む力はさらに強くなり、本気でもごうとしているように見える。

 

「ほら、タマっち先輩。話できないから、そろそろ放してあげて。」

 

「む~……仕方ない。」

 

杏に言われ、渋々という様子で黒歌から離れる球子。

 

「た、助かったにゃあ……」

 

「ほら、黒歌ちゃん。ちゃんと服を着る。」

 

「は~い」

 

杏に言われ、普段は着崩している黒い着物もちゃんと羽織る黒歌。

 

「さて、話してくれる? 今まで何をしていたのか、嘘偽りなく。」

 

「わかったにゃ…………始まりは、ある悪魔に出会ったときからにゃ。」

 

今から数年前。黒歌は妹の白音と一緒に杏、球子の下で暮らしていた。

ある時、杏・球子の2人が留守にしているタイミングで姉妹2人の前に両親の知り合いを名乗る悪魔が現れた。その悪魔は「君たちの母親の遺産を渡したいから、付いてきて欲しい。」と要請してきた。

普通なら警戒する所だが、自分の力を過信していた彼女はその悪魔の誘いに乗った。

 

「それで、冥界の屋敷に連れていかれて、眷属になれって要求してきたにゃん。」

 

当然ながら、黒歌はその要求を拒否。

すぐに屋敷を立ち去ろうとするが、そう簡単に返してもらえる筈もなく戦闘に突入。最初は有利に立ち回っていたが、一瞬の隙をつかれて白音を人質に取られた上に毒を盛られたために形勢は逆転。黒歌は妹の安全と引き換えに悪魔の眷属となった。

 

「さっさと白音を助けて、おさらばしたかったんだけど……眷属悪魔っていう立場は思ったより面倒だったにゃん」

 

「そうなのか?」

 

「眷属悪魔は逃げ出したりすると、はぐれ悪魔として指名手配されるんですよ。しかも、はぐれ悪魔になったら問答無用で討伐されます。いかなる理由でも。」

 

「だから、大人しく主の言うことを聞くことにしたにゃん。でも、アイツは約束を違えたにゃ。」

 

黒歌の主は約束を破って、妹の白音に手を出そうとした。

それに怒った黒歌は主を惨殺し、はぐれ悪魔として追われることになった。その後、追手から深い傷を負わされ、人間界をさまよっていた所を銀に助けられたのだ。

 

「それで、銀に〈ダンジョン(ここ)〉を紹介してもらって、今に至るにゃん。」

 

「そっか……私たちの知らない所で、そんな目にあってんだね。ごめんね、助けにいけなくて。」

 

そういって、杏は黒歌の頭を優しく撫でた。

 

「こうやって、杏さんに頭を撫でてもらうのも久しぶりだにゃん♪」

 

「むぅ……いろいろ言いたいことがあったのに、言えなくなったじゃんか。」

 

「まあまあ、タマっち先輩。黒歌ちゃんが無事だったんだから、今はそれを喜ぼうよ。」

 

「杏がそういうなら、仕方ない。タマたちを心配させたことは水に流してやる。」

 

「ありがとにゃん♪」

 

「それで、黒歌。逃げ出すとき、白音は一緒じゃなかったのか?」

 

「最初は一緒に逃げてたにゃん。でも、また人質に取られる危険があったから、信頼できる悪魔に預けたにゃん。」

 

「それはもしかして、グレモリー家か?」

 

球子がそう聞くと、黒歌は驚いた。

 

「この前、グレモリー家とフェニックス家でレーティングゲームが行われたの。その時に、白音ちゃんにそっくりな子が居たからもしかしてって思ったの。」

 

「その予想は大当たりにゃん。眷属悪魔だった時に何度か話したことがあったから、信頼できると思って預けたにゃん。」

 

「そこで、タマたちに預けるという選択肢がなかったのが納得いかんのだが」

 

「無茶言わないで欲しいにゃん。あの頃は、人間界に行く手立てがなかったから、預けようがないにゃん。それに、2人には迷惑を掛けたくなかったにゃん

 

「そういう理由があるなら仕方ないか。」

 

「何はともあれ、2人共見つかってよかったよ~」

 

「…………」

 

再会を喜ぶ3人の邪魔にならないように銀は静かに鑑定所から出るのだった。

 

 

 

ちなみに、杏と球子が帰ったきたのは、日が暮れた頃だったとさ。

 




一誠「おい、ちょっと待って!! 俺の大活躍は⁉」

原作とほとんど変わらないから、バッサリカットしたよ。
違うのはレイヴェルにフラグが立たなかったことぐらい。

一誠「しれっと俺のハーレム要員が減らされてる⁉」

大丈夫。レイヴェル以外を減らすつもりはない。今のところ。

一誠「―――というか、俺たち空気なんだけど」

本格的に絡んでくるのは次章になるからね。
それと、次章からあとがきで原作から変更点があるキャラクターの紹介をしていきたいと思います。但し、相変わらずストックがほとんどないので、亀更新になります。


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第3章 銀と堕天使の幹部
第16話 「襲撃」


~高天原 日輪の社~

 

八百万の神々が住まう異空間――高天原。

 

無数に存在する社の中で、太陽に一番近い位置に〈日輪の社〉は浮かんでいる。

言わずもがな、天津神のトップである天照大神が住む社であるが、今日は彼女の社に少しばかり珍しい面々が顔を合わせていた。

 

「こうやって、顔を合わせるのは久しぶりですね。」

 

「ああ。アイツの葬式以来になるのか?」

 

「そうですね。ちなみに、彩花は根の国で楽しくやっているようですよ? 最近では、母君の補佐になられたそうです。」

 

「ほう、さすがは俺が惚れこんだ女だ。」

 

他の面々そっちのけで思い出話に花を咲かせる天照大神とくすんだ金髪に黒いメッシュが掛かった短髪の男性。

そのまま思い出話がヒートアップする前に天照大神に招かれた大国主命が口を挟んだ。

 

「思い出話なら後にしてくれ。それだけのために俺を呼んだ訳じゃないだろ。」

 

「せっかちだな、お前は。」

 

「そうですよ。久しぶりに会った旧友との交流を温めて何がダメなのですか。」

 

「ダメとは言わんが、時と場合を考えろ。何のために俺を呼んだんだ。」

 

「仕方ねえ。思い出話は後にして、本題に入るか。」

 

ゴホンと咳払いして、話題を変える男性。

ほんわかしたムードからシリアスな雰囲気に変わり、姿勢を崩していた天照大神も姿勢を正す。

 

「少し前のことだ。グレゴリの幹部、コカビエルが教会を襲撃し、エクスカリバー3本を奪取して行方を眩ませた。」

 

「コカビエル……確か、グレゴリ幹部随一の武闘派だったか?」

 

「ああ。同時に大の戦争好きで、休戦には大反対していた。今回の騒動もおそらくは大戦の再開が目的だろう。」

 

〈二天竜〉の乱入によって、休戦となった三つ巴の大戦。

しかし、休戦に全員が賛成した訳ではなく、どの勢力も大なり小なり戦争の再開を望む者が存在している。グレゴリの幹部であり、聖書に記された堕天使コカビエルもその1人だ。

 

「目的地は駒王町か? あそこには現魔王の妹2人が居たはずだ。」

 

「俺はそう睨んでいる。だから、こうやって秘蔵っ子も連れてきた。あともう1人、後から合流する手はずになっている。」

 

男性に紹介され、黒い長髪の少女は2柱の神に向かって軽く頭を下げる。

 

「今回の騒動は俺の責任だ。できれば俺たちの手で決着をつけたい。」

 

「なるほど……分かりました。今回の件、アザゼルに一任しましょう。大国主もそれでいいですね?」

 

「構わん。だが、被害が大きくなる場合は介入させてもらうぞ。」

 

「ああ。」

 

「それでは、餞別といってはなんですが、これを。」

 

天照大神が指を振ると、三方に乗せられたスマホが浮かび上がり、少女の手に収まる。

それを受け取った少女の表情が少し強張った。

 

「貴女にとっては良い思い出がない物かもしれません。使うも使わないのも貴女次第です。」

 

「そうね。確かに、あまり良い思い出がないのも事実だわ。」

 

終始無言だった少女が初めて口を開いた。

スマホのタッチパネルを操作し、彼岸花のアイコンをタップする。

 

システムが起動し、少女は深紅の衣装をその身に纏った。

 

「でも、この力があったからこそ、得られたものもあった。」

 

そう言って、新たな勇者は笑った。

 

「私は、勇者 郡 千景。」

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 

高天原で新たな勇者が誕生している頃。

〈駒王稲荷神社〉では結界が構築され、内部では激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

「はぁ、はぁ……さすがに強いな。」

 

「くくく……それはこちらのセリフだ。まさか、極東の地にこれほどの強者たちが居るとは思わなかったぞ。」

 

駒王町とその周辺を流れる龍脈の制御施設〈駒王稲荷神社〉。

日本神話体系の管理下にあるその施設を襲撃したのは、12枚の漆黒の翼を生やした堕天使――コカビエル。

 

『エノク書』では、天使だった頃は全ての星や星座の配置・運行を司り、堕天した後は人類に占星術や星座について教えたとされている。

さらには、多くの〈神の子を見張る者(グリゴリ)〉幹部が亡くなった大戦を生き残った実力者であり、さすがの銀たちも苦戦を強いられていた。

 

さて、コカビエルがなぜ〈駒王稲荷神社〉を襲撃したかと言うと…………

 

「龍脈の占領など楽な仕事だと思ったが、こんな嬉しいことがあるとはな!!」

 

そう、彼の目的は龍脈を占領すること。

詳しい目的が分からないが、日本神話の神々から龍脈の管理を任されている以上、銀たちは引き下がる訳にはいかない。

 

「さぁ、もっと俺を楽しませろ!!」

 

コカビエルは光力で編んだ剣を両手に握り、突撃を仕掛ける。

 

「させない!!」

 

「この程度、片腹痛いわ!!」

 

杏は〈金弓箭〉から妖力の矢を幾重に放つ。

しかし、コカビエルはその全てを光剣を弾き、足止めにすらならない。

 

そこに銀が割込み、右手の斧で光剣を受け止める。

すぐさま左手の斧を振るうが、コカビエルは10枚の翼を広げて距離を取る。

 

「そこだ!!」

 

「そんな攻撃で俺を傷けられると思っているのか!!」

 

珠子の投げた旋刃盤とクロスボウガンから撃ち出された矢がほぼ同時に放たれる。

流れるような連携に対し、コカビエルが背中の翼を鋭利な刃物のように変化させて、2人の攻撃を無力化する。

 

「結!!」

 

「むっ、結界か。」

 

足を止めた瞬間を狙って、ひなたがコカビエルを結界の中に閉じ込める。

 

「なるほど、そこの娘は結界術師だったか。その年にして、これだけの結界を張れるか」

 

コカビエルは強度を確認するようにコンコンと結界を叩く。

結界は幾重にも重なっており、そうそう簡単には壊せそうにない。普通の上級堕天使なら出られないだろうが、歴戦の猛者であるコカビエルなら破壊することもできるだろう。

それでも、銀と杏が強者を倒すための大技を繰り出す準備を整えるには十分だ。

 

「結界を破壊した瞬間に一斉攻撃を仕掛けるつもりか……なら、その目論見ごと壊してやろう。」

 

コカビエルは両手を前に出し、光力を集束させる。

形成された光の槍は標準的なサイズだが、それに込められた光力が尋常ではない。

 

「さぁ、耐えれるか?」

 

「っ!!」

 

ひなたが更に結界の数を増やして、耐久力を上げる。

それでもコカビエルの一撃は結界を貫いて行き、地面に突き刺さる。

刹那、地面に刺さった光の槍は爆弾のように大爆発を起こして、爆心地周辺を薙ぎ払った。

 

「さすがに死んだか。 本気を出し過ぎたかもしれんな。」

 

爆発の影響で舞い上がった土煙で地上の様子が見えなくなってしまった。

 

 

先ほどの攻撃はコカビエルの全力の近い一撃だった。

かつての大戦では、幾度となく放った一撃であり、今のご時世では防げる者など片手で数える程しか居ない。それゆえに、彼は銀たちが死んだと考えた。

 

「さっさと龍脈を占拠するか。まあ、いい余興になった。」

 

そう呟いて、コカビエルは土煙が収まらない内に高度を下げる。

完全に臨戦態勢を解除し、戦闘はすでに終了していると考えているようだ。

 

 

 

――――来て、雪女郎!!――――

 

 

 

刹那、土煙を貫いて冷気と吹雪が一条のレーザーが放たれる。

 

「ぐおっ!!」

 

不意打ちに近い攻撃に反応したものの、完全に油断していたコカビエルはその攻撃を避けきることはできず、左腕を掠めてしまった。

しかし、掠めただけでコカビエルの左腕全体と左側に生えている5枚の翼が氷漬けにされ、強制的に地面にたたき落とされる。

 

「な、何だ今の攻撃は……この俺の一部を氷漬けにするなど魔王級でもないと不可能だぞ!?」

 

今まで余裕に満ちた態度を崩さなかったコカビエルが初めて動揺を見せた。

 

彼の分析では、彼女らの実力は最上級悪魔にも匹敵する程度。

1対4という人数的に不利な状況であっても苦戦することはあっても負けることはないと思っていた。しかし、そんな相手から放たれた一撃は最上級悪魔の上、魔王級に匹敵する。

 

その事実は彼の余裕と自信を崩すには十分だった。

そして、冷気を帯びた風が吹くと土煙が晴れて、4人の姿が露わになった。

 

「くくく……くはははは!!!! 本当にお前たちは俺を楽しませてくれるな!! そんな隠し玉があるとは予想だにしなかったぞ!!」

 

コカビエルは龍脈の制御機関でもある〈駒王稲荷神社〉も吹き飛ばすつもりで攻撃を放った。

 

その証拠に神社の鳥居や周囲の木々は吹き飛ばされ、爆心地には大きな穴が開いている。

しかし、本体である社は無傷で守り手である4人の少女も傷1つなく健在。

 

そして、〈金弓箭〉を携えた伊予島 杏の衣装に少しばかり変化が生じていた。

猫又の特徴である猫耳と二股に分かれた尻尾が生えているのはもちろん、白を基調にした勇者装束の上に白い頭巾と白い振りのある袖が追加されている。

 

「さぁ、第2ラウンド開始と行こうか!!」

 

コカビエルは左腕の氷を砕き、両手に槍を形成する。

 

「っ!!」

 

杏はクロスボウガンの照準をコカビエルに向けて、引き金を引く。

妖力の矢の代わりに、冷気と吹雪が一条のレーザーのように再度放たれた。

 

「やはり、さっきの攻撃は貴様だったか!!」

 

杏の攻撃を避けた後、光の槍を投擲するコカビエル。

 

「杏には指一本触れさせない!!」

 

すぐさま珠子が杏の前に立ち、旋刃盤で光の槍を防ぐ。

その間に、杏は再度コカビエルに向かって、冷気と吹雪を放つ。

妖力の矢よりも速度は遅いため、動き回るコカビエルには簡単には当たらない。

 

「さっきは不意をつかれたが、2度目はないぞ!!」

 

「いいえ、当たらなくても良いんです。」

 

「負け惜しみか!!」

 

再度コカビエルが光の槍を投擲する。

 

「珠子さん、私も手伝います!!」

 

ひなたが加勢し、珠子の〈神屋楯比売〉と結界の【霊術】の力で凌ぐ。

 

「さぁ、それで何時まで耐えられるかな!!」

 

同じ攻撃をひたすら繰り返すコカビエルだが、その単調な攻撃の威力は絶大。

気を抜いて当たったりすれば、無事では済まないのは間違いない。

 

「後ろの建物ごと貫いてやろう。」

 

再び光力を集中させて、自身の最大火力をぶつけようとするコカビエル。

しかし、彼女たちはその瞬間を待っていたかのように勝利を確信した笑みを浮かべた。

 

「「「銀(ちゃん)!!!!」」」

 

「待ってたぜ、この瞬間を!!」

 

いつの間にか銀はコカビエルの左側面に居た。

両手に握りしめた二振りの斧はすでに振り下ろされようとしており、光力の制御に集中していたコカビエルはその攻撃を甘んじて受け入れるしかなかった。

 

「貴様は…………!?」

 

「タイラント・ブレイク!!」

 

銀の斧がコカビエルの体に初めて傷を入れた。

コカビエルの胴体には×字型の傷が刻まれ、血が噴き出す。

やっとの思いで与えたダメージは大きいらしく、さすがのコカビエルもたたらを踏んで後ずさる。

 

「ここまでの傷を負わされるとはな……」

 

「アンタ、途中から杏さんの方にばかり視線が行ってたからな。不意打ちするのは簡単だったぜ。」

 

「確かに……どうやら俺も腕がすっかりさび付いていたようだな。危険人物に集中しすぎて、足元を掬われるなど大戦ではやらかさなかったヘマだ。」

 

コカビエルは自嘲的な笑みを浮かべた。

 

銀の奇襲が成功したのは、彼が杏の存在に意識を持っていかれたからだ。

魔王クラスの一撃を放てる彼女を警戒する余り、他のメンバーのことまで警戒が行かず、視界外に移動していた銀に気付かなかった。

 

結果、それが自分の首を絞めることになった。

 

「俺はお前たちを過小評価していたようだ。お前たちは―――――」

 

コカビエルの認識が切り替わる。

 

 

 

 

 

「俺が本気を出して、相手をするのに値する『敵』だ。」

 

 

 

 

 

銀たちが単なる『余興』から『敵』に変わる。

それなりに深いダメージを与えられたにも関わらず、戦意は衰えず、むしろ薪をくべた炎のように燃え上がる。

 

(アタシのはまだ調整が済んでないけど、使うしかないか!!)

 

コカビエルの全身から放たれるオーラに耐えながら、銀も覚悟を決める。

 

先ほど、杏が使った勇者システムの『切り札』。

当然ながら銀の勇者システムにも同様のモノが搭載されているが、彼女の場合には少しばかり念入りな調整が必要なため、〈高天原〉からなるべく使用しないように厳命されている。

 

しかし、本気を出したコカビエル相手に温存している余裕はない。

 

「来い、鈴鹿―――――」

 

 

 

――――――そこまでよ、コカビエル――――――

 

 

 

 

銀が『切り札』を発動させようとしたその時。

ひなたが張った結界の一部に穴が開き、そこから新たな堕天使が舞い降りた。

 

翼の数はコカビエルと同じ2対10枚。

彼岸花を彷彿させる深紅の衣装に身を包み、頭頂部にはヒガンバナの花飾り。

さらに後ろ腰には日本刀と思われる1本の剣が装備されている。

 

「郡 千景……!! アザゼルの差し金か!?」

 

「ええ、そうよ。貴方を無理やりにでも連れ戻すように言われたわ。」

 

「くっ……この状況で貴様とやり合うのは愚策か……ここは引かせてもらうぞ!!」

 

コカビエルは光の槍を地面に叩きつけ、土煙を起こす。

濃い土煙は5人の視界を塞ぎ、コカビエルが逃走する時間を作るには十分だった。

 

「逃げられたわね。まあ、あの傷ならしばらく動かないでしょ。」

 

千景はそう呟いて、すっかり荒れてしまった地面に降り立つ。

そして、銀たちの方を向いて、少しだけ笑みを浮かべて言葉を発した。

 

「久しぶりね。伊予島さん、土居さん、上里さん。」

 

この日、かつて勇者の力をはく奪された少女は再び勇者の力を手に入れ、かつての仲間たちと再会した。

 




ストックを溜めていたら、いつの間にか一か月。
(待っていた人はそんなに居ないと思いますが)お待たせしました。

宣言した通り、今回からあとがきで原作から変更が加えられたキャラクターの紹介をしていこうと思います。一応、登場した順番で掲載していく予定。


――――――――――――――――――――――――――――

三ノ輪 銀
種族:空狐(6本尾)
所属:高天原
武器:斧、槍、弓、霊術【放射】、空狐族の能力、リヴァイアサンの能力

空狐族の族長を務める12歳の少女。ひなたとは幼馴染の関係。
神世紀の世界から転生した元勇者であり、現在は駒王町を拠点に活動している。
性格は前世と変わらないが、ひなたや相棒の影響で頭が良くなっている。また、不幸体質も相変わらずであるものの、因幡の白兎から貰ったお守りのおかげで軽減されている。

前世と同じく、三ノ輪 銀と名乗っているが、今世での名前はまた別にある。
基本的な戦闘スタイルは双斧を使った近接格闘戦。他にも、槍や弓を使える。
相棒は〈蒼海の覇龍〉と呼ばれたリヴァイアサンで、彼女の能力を使うことができる。

勇者システムのサポート精霊は鈴鹿御前。
六神通の1つ、神足通を保有。


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第17話 「襲撃の翌日」

 

 

~駒王稲荷神社~

 

コカビエルの襲撃から一夜明けた翌日。

 

「結構、手ひどくやられましたね。」

 

コカビエルとの戦闘跡を見つめながら、ひなたは呟いた。

 

ひなたが全力の結界で防御したおかげで本殿やその後ろにある居住ブロックは無傷。

おまけに人的被害も皆無だったが、それ以外はひどい有様になっていた。

 

鳥居や周辺の木々は攻撃の余波で薙ぎ払われ、境内に敷かれていた石畳や砂利は根こそぎ吹き飛ばされている。むき出しになった地面に特大の大穴が開き、そこで大きな爆発が起こったことを証明している。

 

「ひなた、結界の方は?」

 

「そっちもズタボロです。神社周囲の結界はもちろん、駒王町全域に張っていた結界も一度解除しましたから。」

 

「そっか……」

 

駒王町全体を覆う結界は、ひなたが考案したモノである。

町の四方の起点に存在する術式が龍脈の霊力を組み上げて、結界を構築している。

管理自体は空狐族全員で行っているが、術式の維持には少なからずひなたの霊力が使われていた。

 

しかし、コカビエルとの戦闘において術式の維持に回していた霊力を回収したために、術式が消失し、結界も消えてしまっている。

なお、神社周辺に張られた侵入者感知用の結界はコカビエルの手によって破壊されている。

 

「うーん……これを機に結界の術式を見直した方がいいかもしれませんね。」

 

「それはひなたに任せるよ。結界のことに関しては、アタシはさっぱりだからな。」

 

「はい、銀ちゃんは力仕事をお願いします。杏さんも手伝ってもらえますか?」

 

「分かりました。」

 

「銀!! こっちを手伝ってくれ!!」

 

「分かりました!!」

 

銀はアルミのスコップを持って、大穴を埋めている球子の手伝いに入る。

本来は重機を使ってするような作業なのだが、使えない以上手作業で地道に埋めていくしかない。

 

「これ、どれくらいかかるかな…………」

 

『まあ、1日2日で終わる作業でないのは確かね。』

 

「だよなぁ。」

 

せっせと土を穴に投げ込みながら銀はぼやいた。

 

「なぁ、リヴァイアサン。一瞬で穴を埋める魔法とかないのか?」

 

『そんな限定的な魔法、ある訳ないでしょ。』

 

土をかき集めてくる者、土を埋める者に分かれて作業を続ける銀たち。

朝一から始めた作業はお昼になっても終わらなかったが、とりあえずお昼休憩を取ることになった。

 

「あ~疲れた~」

 

「お疲れ様です、銀ちゃん。どれくらい終わりましたか?」

 

「まだまだ全然。そっちは?」

 

「あまり進んでいません。やはり改良となると難しいですね。」

 

飲み物で喉を潤しながら、空狐族の2トップは現状を報告し合う。

 

「もう1回奇襲されたらヤバイな。」

 

「いえ。それなりの傷は負いましたし、2度も襲撃することはないでしょう。それに、すでに追手が駒王町に入ってることが分かった以上、そう表立った行動はしないでしょ。」

 

「だと良いけどな。」

 

銀はふと、自分の勇者システム端末を眺める。

 

思い出すのは昨日行われた堕天使の幹部、コカビエルとの戦闘。

銀にとっては自身の力不足を実感されられることになった戦闘だった。

先日の戦闘では何とか一太刀入れることができたが、それは仲間たちの援護があってこそ。銀1人では難しかっただろう。

 

(はぁ……アタシ、ちょっと天狗になってたかも)

 

『それは否定しないわ。でも、今回の一件で実感したでしょ? 世界の広さを』

 

(うん。それはもう、イヤと言うほどに。)

 

銀が今までに戦ったことがあるのは、格下の悪魔や知能の低い〈ダンジョン〉のモンスターが主。そのため、苦戦するような事態にならなかった。

コカビエル戦のような明確な敗北を味わうのは、実は初めてだったりする。

 

『――――というか、そろそろ使っても良いんじゃないの? 【狐火】とか【変幻自在】とか』

 

(……実を言うと、アタシ空狐族の術であんまり使えないんだよ。練習してないから。)

 

『いや、練習しなさいよ!! アイデンティティでしょ!!』

 

(いやぁ、霊術とか槍術とか弓術の鍛錬ばかりしてたからな。)

 

空狐族には、【六神通】以外にも【狐火】や【変幻自在】などなど種族特有の術が生まれながらに使える。もちろん、どれくらいの個人によって程度差があるが、まったく使えないという事例は非常に少ない。

銀も一通りの術は使えるが、主に使うのは【神足通】のみ。種族バレを防ぐために使用を控えていたのが理由だが、実戦で使えるほど練習していないのも理由だったりする。

 

「ほう、コカビエルと戦って人的被害なしで乗り切るとはな。」

 

「「っ!!」」

 

いつの間にか居住区画の庭に見慣れない男性が立っていた。

 

チョイワルオヤジというジャンルを体現したような容貌で、何故か着ているのは旅館などで貸し出される浴衣。外見は普通の人間のように見えるが、浴衣を着たまま森の奥にある神社に訪れる酔狂な人など居ない。

 

目の前の男性を要注意人物と判断して、2人はすぐにでも戦えるように構える。

 

「あらあら、今日は来客の予定はなかった筈ですが、どちら様ですか?」

 

「俺はアザゼル。堕天使の総督をやっている者だ。」

 

そう言って、常闇のように黒い翼を広げるアザゼル。

しかし、〈堕天使の総督〉という肩書が2人の警戒心をさらに高めることになった。

 

銀は勇者システムを起動し、ひなたはいつでも【霊術】を発動できるように構える。

 

「大丈夫よ、2人とも。私たちに敵対するつもりはないから。」

 

バサッ、という羽音と共に新たな来客が男女の間に割り込んだ。

 

「父さんもわざと警戒させるようなことしないで。」

 

「ははは、悪い悪い。」

 

「……ひなた。アタシの聞き間違いじゃなければ、千景さん総督のことを“父さん”って呼んでなかったか?」

 

「ええ。私も聞こえました。」

 

「なんだ、千景。そこまで紹介してなかったのか?」

 

アザゼルの質問に千景は頷く。

 

「じゃあ、改め自己紹介と行くか。

 

 

俺はアザゼル。〈神の子を見張る者(グリゴリ)〉の総督で、郡 千景の父親だ。」

 

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 

場所は変わって、神社の居住区画内にある応接間。

アザゼルと勇者関係者が集められた。当然ながら、杏と球子の姿もあった。

 

「昨日はウチの部下が迷惑を掛けたようだな、すまん。」

 

開口一番、アザゼルの口から告げられたのは謝罪の言葉だった。

 

「〈神の子を見張る者(グリゴリ)〉と日本神話体系が同盟を結んでいるなんて、初耳です。」

 

「公にすると、悪魔や天使の奴らに警戒されるからな。表向きは無関係を装っているが、裏ではいろいろと協力してるぞ? お前らの勇者システムとかな。」

 

アザゼルの口から告げられた事実に千景を除く面々は驚いた。

彼女らには、「勇者システムはひなたの原案を基に天津神、国津神が協力して作り上げた国防システム」と伝えられており、堕天使が関わっているという事実は初耳だった。

 

「そのおかげで私も同じ境遇の人が居ると分かったわ。あんなの、基となるシステムを知ってる人しか提案できない。」

 

「それで、天照の奴に確認を取ってみたらドンピシャだ。しかも、4人も集まっているきた。もはや、誰かが仕組んでるんじゃねえか? いや、呼び寄せる存在が居たな。」

 

そう言って、アザゼルは銀……正確には、銀の左目に視線を向ける。

 

「聞こえているんだろ? 〈蒼海の覇龍〉リヴァイアサン。」

 

「『っ!?』」

 

「私は少し変わった“目”を持っているのよ。まあ、こっちのお母さんの力が遺伝したのでしょうけど。」

 

そう言って、千景は鳶色の瞳をエメラルドグリーンへと変化させる。

 

「この目は魂の形を私に教えてくれるの。魂はその人本来の肉体的特徴を反映してるから、憑いていたり、変化していても簡単に見破ることができる。」

 

「まあ、一種の固有能力だ。発現する原因とかは一切分かってないけどな。だが、千景の能力は本物。嘘で誤魔化そうとしても無駄だぜ?」

 

『はぁ……まさか、そんな能力を持ってる子が居るなんて思わなかったわ。』

 

今まで沈黙していたリヴァイアサンがこの場に居る全員に向かって思念通話を発する。

 

『直接会ったことはなかったわね。』

 

「そうだな。お前の討伐隊が編成される頃には俺はもう堕天してたからな。」

 

『それで、わざわざ私の実在を確認して何がしたかったのよ。』

 

「ん? 興味本位というのもあるが、お前さんもかの〈二天龍〉に劣らず世界のバランスを崩すくらいの力は持ってるからな。そういった存在の監視も俺たちの仕事なのさ。」

 

『何言ってるのよ。ドライグやアルビオンに比べたら、私なんて月とスッポンよ。』

 

「そいつらを抑え込める奴が何を言ってるんだか。」

 

『能力の相性が良いだけよ。』

 

「まあ、そういうことにしておいてやるよ。本題に入るが、しばらくの間千景をこの神社に常駐させることになったんだ。」

 

「よろしく。」

 

アザゼルの報告はひなたと銀には寝耳に水だった。

 

「コカビエルの襲撃のせいで結界が機能しなくなっただろ? そのタイミングを狙って善からぬ奴らが龍脈を狙ってくるかもしれないからな。」

 

「そういう訳でしばらく滞在することになったのよ。」

 

「じゃあ、あの烏野郎はどうするんだ?」

 

「こっちから増援が来ることになってるから、安心しろ。千景、そっちは任せたぞ。」

 

「ええ。」

 

後のことを千景に任せ、アザゼルは神社から立ち去った。

 

「さて、と。じゃあ、改め自己紹介しておこうかしら。

 

 〈神の子を見張る者(グリゴリ)〉所属、郡 千景よ。

 母親は神社の巫女、父親はさっきのアザゼル。種族はハーフ堕天使になるわ」

 

「ついでに言うと、私たちの時代……つまり、西暦時代の勇者です。」

 

「これで若葉と友奈も転生していれば、西暦勇者勢ぞろいだな!!」

 

「その口ぶりだと、2人はまだ見つかっていないみたいね。」

 

「はい。千景さんの方は何か情報持ってないですか?」

 

ひなたの質問に千景は首を左右に振る。

そのことにひなたは落胆するが、「だけど……」と千景は話題を続ける。

 

「とある神滅具(ロンギヌス)を監視していた同僚が重傷を負って帰ってきたことがあるの。何でも、青い衣装に黄金色の髪をした少女にやられたって。」

 

「それって、もしかして………」

 

「特徴だけだから何とも言えないわ。でも、可能性はあるわ。もっとも堕天使の監視下から外れちゃったから、その後の消息は分からないけど。」

 

(む~……話に入れない。)

 

『仕方ないわよ。』

 

この中で唯一、西暦の後の時間軸――神世紀の時間軸よりやってきた銀。

少しばかり疎外感を感じている彼女を尻目にひなたたちは思い出話に話を弾ませるのだった。

 




いろいろリアルの仕事を終わらせて、ストックをため込んでいる間に無茶苦茶時間が経ってしまった……という訳でようやく更新再開です。

ストックがなくなるまでは更新ペースを早くします。
もっとも、さほどストックがある訳ではありませんが……


そして、千景ちゃんが銀ちゃんたちに合流。
この作品では千景はアザゼルとオリキャラ(故人)の子どもになっています。


以下、キャラクター設定

上里 ひなた
種族:空狐(7本尾)
所属:高天原
武器:霊術【結界】、空狐族の能力

空狐族をまとめる裏ボス。年は11歳で、銀とは幼馴染の少女。
銀と同様の世界から転生してきた元巫女であり、現在は駒王町で活動中。
性格は前世と変わらないが、時には非情になり、自分の大切な者を優先する。今世でも巫女としての素質を引き継いでいる他、霊媒体質なので霊的な存在に憑かれやすい。

前世と同じ名前を名乗っているが、銀と同様に別の名前がある。
戦闘スタイルは霊術【結界】という名の空間断絶能力を使った後衛タイプ。

勇者システムは保有しておらず、六神通は天耳通。


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