異世界の片隅で君と (琥珀色)
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異世界の片隅で君と

自己満SSです。
あとオリ主って何?


振り返ると君がいた。

 そして君は笑いながら僕をからかっている。

 あの頃の時間は、今や薄れゆくものになりつつある。

 

またいつか、あいつに会えるんだろうか

「…あの祠、まだあるのかな」

 

 僕は幼い頃、栃木の田舎の街はずれに住んでいた。

 そこそこ大きい集落でなかなか空気も美味しいところで、僕の家はちょっと古臭いところだったけど、そこで僕は育ったんだ。

 

ある日僕は山に出かけた。

 単に興味本位で遊びに行った、長い石段は疲れたけど、やっとのことで山頂まで辿り着いたところでそれをみつけた。

それはただ静かな雰囲気だったけど、その存在を主張するように佇む祠を。

 

「なんだろう、これ…向こう側が透けてるような…」

 

 祠の中には別の景色が広がっていた。向こう側に見える景色はこことは全く違う。

見たことのない黄金色の草が風で緩やかになびいている

 僕は一時向こう側の景色を眺めるだけで我慢していたが、遂に堪えきれなくなり祠の中へ片足を突っ込んだ。

 向こう側の世界?のようなところへと完全に入り気がつく。時空の切れ目のようになっていたあの祠、こちらにも同じ祠が建っていた。しかもかなり古ぼけている。

 しばらく辺りを眺めていると一人の少女、なのだろうか?

 

まるでネットで見かけるケモノ娘のような子がいた。

 

 「や、やあ君。僕あの祠から来たんだけど、ここって一体どこなの?」

 

 すると彼女は僕に話しかけられたのだと理解するや否や逃げ出してしまった。

「あ!ねぇ!まってよ!」

 僕は必死に彼女のあとを追いかける。

 しばらく追いかけていると村のようなところが見えた。

 

◇-------------------------------------------------◇

 

 「はい…という訳で追いかけました…」

 「ううむ。大体の事情は理解した。しかしよいか?この世界は君たちのいう妖怪や、怪物、異形の者が住む世界なんだ。」

 「…はい」

 「それにだね、君はここの常識、ルールといったものをまるで知らない、のは仕方ないとして。君はこの世界のことを知らなすぎる」

 「でも僕、あの子と友達になりたかったんです。それにここきれいだったし…」

 「はぁぁぁ……」

 と、あの子の父親が深いため息をついた。ちょうど同じタイミングで向こうからもうひとり大人の女の人が来た。多分お母さんだろう。

 「こらお父さんも固くなりすぎよ。」

 そしておばさんが僕の隣に座り優しく撫でてくれた。

 「…ごめんなさい、迷惑かけてしまって。僕、僕…」

 当時僕は幼かったせいか、周囲の状況も掴めず不安になってしまいには泣いてしまった。

 気まづくなったのかおじさんはすまなかったと、村の人に話を通してくると言って家を出て行った。

 

 

 「怖がらなくていいのよ?私はあなたを歓迎するわ。 村の人も私の娘も、きっとあなたのこと好きになってくれるわよ」

 そしておばさんは僕を優しく抱き寄せてくれた。

「またいつでもおいでなさいな」

 おばさんの香りは人とは全く違う匂いだったけれど、とても優しい匂いだった。

 そうして身を寄せていたぼくは、急激な眠気に襲われ目蓋を閉じた。

 

 

 

 

目が覚めるとそこは山の頂上の祠の隅にいた。

 藁の布団を被っていて風邪はひかなかった。

おばさんがかけていってくれたのだろう

 

 「…明日もまた来よう」

 

 夕暮れで薄暗い石段をひたすらに駆け下りた。

 

 そして僕は家に戻り諸々を済ませて床についた。

 

 翌日僕はまたあちらの世界に行った。

 彼の地の名は翠月。

 翠月という地名なのだそうで、右隣の領地は吾通馬、左隣は楼郷、上は鬼蛇千、下は神寧。

 

 隣と言えど、僕達でいうところの県境というのは曖昧というか、なんというか、どの県にも所属していない荒地、山々に海とかが領地間に必ずあるらしい。

 

 どの領地にも属さない地域の事を浅霧というらしい、ちなみに浅霧でも商売しているところや居住区もある。

 

 この世界には妖気という、僕達でいう魔力、魔法のたぐいの気が空気中に堆積している。妖技師は空気中の妖気を体内に集約させて妖具と呼ばれる道具を使い、家やら何やらを色々作っている、そういう人達を妖技師と呼ぶらしい。

 

 妖術師は妖技師と違い、詠唱または集約された妖気を意識させた部位に送り、体術として繰り出したり、身体能力を飛躍させたりと、様々なことが出来る人が、一部いたりするようだ。

 ただ、妖術師は領主の護衛や、暗殺部隊などに集約されている。

 

 

 人間との関係は五百年前に断絶されたらしいけど、最近になってちょくちょく僕らの世界に様子を伺いに出てくる者達がごく僅かだがいるらしい。

 

 そんな最中に僕がこの緑久という歓楽街から随分と離れたこの村に辿り着いたのだという。

 幸い、僕の存在はみんなに受け入れられて楽しい時を過ごすようになった。

 

 僕が追いかけたあの子の名前は美火、みほの母親の名は麻里、父親は鳳大という。

 僕の名前も教えた。

 

 そして毎日翠月へ通うようになった。

 美火とも仲良くなり毎日が楽しかったが、ある日都会へ引越しになり朝一で出なくてはならなく、泣く泣く集落をあとにした。

 それから数年、僕は高学生になった。

 そして春休みを使い僕は彼女に、美火に会いに行こうと決めた。

 

 

そして今に至る。

 

 

「…あった」

しかし、向こう側の景色は見えなかった。

 「……そうだよな…そりゃ何年も経てば…」

「…あの時……無理やりにでも…会いに行くべきだった…美火…」

後悔と悔しさと情けなさで涙が溢れる。

 僕は祠の前で泣き崩れた

 しかし、その刹那に信じられないようなことが起こった。

 「…!? か、体が…光って…」

 

 僕の体が光を帯び、其の光は雪のようにはらはらと祠へ向かって落ちてゆく。

 幻想的なその光に気を取られてしまった。

そしてその光は宝石のような輝きを放った後、その祠には懐かしいあの景色が広がっていた。

 

 僕は祠を潜り、記憶をたどって走った

 覚えていてくれることを願いながらただひたすら足を動かし続けた。

 

 走って走ってようやく美火の家の前に辿り着いた。

僕は深呼吸してから、大きく息を吸い、叫ぶように彼女の名を呼ぶ。

 「美火ー!いるかーー?!」

しかし返事がない。僕はあの時のことを思い出して泣きそうになっていると、後ろで物を落とす音が聞こえた。

 僕が振り返ろうとするより早く、それは僕を後ろから強く抱き締めた。

…あぁ。この温もり 、匂い…間違いない、美火だ。

僕は力が抜けてその場に座り込んでしまった。

 彼女の手は震えていて、なおも強く僕を確かめるように胸やら腹やらをさすったかと思うと、さらに強く抱き締めてきた。

 僕は言い知れない感情の濁流に呑まれて大粒の涙をボロボロと流した。

 彼女の温もりに、あの時間が幻じゃなかったことに。

 嬉しいのに胸を締め付けるような痛みが僕を襲う、あの日の後悔と共に。

 「あ…ああ…美火…ぼくは…」

 必死に言葉を紡ごうとする僕に美火も涙ながらに訴えた。

 「…なにも…言わなくていい…優樹…会いたかった…ずっとずっと…会いたかったんだから…!」

 その後も美火は僕を抱きしめ続けて、僕も美火も声を上げて泣いていた。

 麻里さんに鳳大さんも家からでて泣きじゃくる僕らを家に入れてくれて、僕らが泣き止むまで、別の部屋で待っていてくれた。

 

◇----------------------------------------------------◇

 

 

 あれから一晩。

僕が名を叫んでも出てこなかったのは寝ていたからだとか。

そして美火の両親から美火と僕とでみんなに挨拶ついでに出かけてきなさいと言われ、

「ねえ、美火」

 「何?優樹」

 「そんなにベッタリくっつかれると、気恥しいっていうか…」

 「良いじゃない、こうしていると心地いいんだもの」

 「うぅ…」

そんなこんなで一通り挨拶も済ませて帰宅。

 鳳大さんがいない。聞くと少し出かけるとか言って出てったらしい。

昨日は風呂には入ってなくて、麻里さんに風呂に入りなさいと半ば無理矢理、二人して脱衣所に押し込まれた。

 そしてなんだかんだで服を脱いだところで僕は気づいた

 美火の体がなんだかすごいことになっていることに。

 「ん?私の体になにかついてる?」

 「あ、いや…あはは…なんでもないよ、うん」

 (胸とか腰とかなんか色々育ってるねなんて言えるかああああああ!!!!!)

 あの時とは本当に見違えるほど変わっている。

 とりあえず隠れ巨乳というやつだと心の中で唱えたら気は紛れた。

 「私洗ってあげるよ、ほらここすわって?」

 「え、えぇーいいよそんなしなくたって」

 「いいからいいから、ほーらっ」

 そういうなり僕を腰掛に半ば無理やり座らせて、僕の意見なんて梅雨知らずといった風に頭を洗い出した。

 「でも、なんだか悪い気はしないかな」

 「ん~?なんの話?」

 「ほら、あの時もこうやって僕の頭洗ってくれたでしょ?」

 「ふふ、だって優くんったら泥まみれだったじゃない?泡が茶色くて、何度洗っても汚れが取れなかったりして、ふたりして笑ったよね」

たはー、と締りのなさそうな笑い声。

 「それ言うなら美火だって泥まみれだったじゃないか!」

彼女の色っぽくなった体など気にもしないほど僕らは笑いながら何年かぶりの流しっこをした。

 そして一緒に湯に浸かる。

 あの時はプールかなにかと感じてた風呂場は、狭く感じるようになった。狭く感じるとはいえ、僕の家のよりは断然広い。

 「美火?」

 「ん?」

 「美火はさ、俺がいなくなった後…ううん。なんでもない」

 「…」

 「ごめんね、なんか」

 言ってて気まずくなり、とりあえず謝る。

 「…正直私ね、嫌われちゃったのかなって思ってたの」

 「…うん」

 「でもね、こうして戻ってきてくれたじゃない?」

 「うん」

 「すごく。本当にすっごく嬉しかった」

 「…僕も後悔してたんだ」

 あの時

 「あの時さ、無理矢理にでも言いに行けばよかったって」

 「…うん」

 本当に後悔したんだ。

 「ここに来るまでにね、外の祠が閉じてたんだ。いつもはあの草原が見えてたんだけど、見えなくてさ」

 怖かった。

 「じゃあ、どうやってここに?」

僕は首を横に振りながら答える。

 「わからない。僕そこで泣いてたんだよ。繋がってなくて、もう会えないんだなって思って。」

 「うん…」

「でもね、なんか、分からないけど繋がったんだよ」

 あかないとばかり思ってた。

 「…へ?」

 「だから、僕の所の祠とこっちの祠が繋がったの。理由はわからないけどさ」

 「…ふふっ」

 なんか笑われた。

 真面目な話をしているっていうのに、美火は愉快そうに。

 「でもさ」

 「ん?」

 美火を見やると、彼女は僕の首に腕を回してきた。

 「なっ…」

 動揺する僕をよそに彼女は俯きながら続ける。

 「こうして…、こうしてさ?また抱き合えるし、話し合えるんだよ?こんなに嬉しいことはないよ。だからね、あの時、優くんを見つけた時、気がついたら優くんのこと抱きしめてたの」

 僕は、美火の腕に力がこもるのを感じながら、耳を傾ける。

 「うん」

 「だってさ、もう会えないって思ってた人がまた、私の目の前に現れてさ、これって奇跡なのかなって」

 「…僕も、祠が空いた時は奇跡だって思った。」

 「それでね、抱きしめた時、優くんの匂いが私の中に入ってきて、夢じゃないんだなって、そう思ったの」

 「そしたらなんか、涙止まらなくなっちゃった」

 そうやって話す美火の腕は微かに震えていた。

 「美火?」

 「…なに?」

 「また泣いてるでしょ」

 「うるさい、ばか優」

 丸くなる美火をかばうように、僕は優しく抱きしめた。




面白かったら評価と感想よろしくです!


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溶けた時間~神梛祭へ~

特に理由のない倦怠感が執筆主を襲う


前話の続きですねー。
うん。前話見返したけど誤字とかすごかったよね。
適当に変換してったのが間違いだった。
ということで今回も色々とおかしいとこもあるかとおもうけど、まあそこは愛嬌ってことで許してください。
_○/|_ 土下座


風呂から上がった僕はやたら強引に美火の部屋に連れていかれた。

 「ね、ねえ美火」

 「ん?」

 「んーん、やっぱなんでもない」

 美火は平然としているが僕にとってはこの寝巻、やたらエロく感じる。

 胸の部分はパツパツで下着なんかつけてないし、ボタンとボタンの間の布の隙間なんかが、よくアニメで見かけるあんな感じになってたり、下はなんかTバックっぽい感じの細い下着だったりしてるし、やっぱり色々変わったのかなって思う。

 「…美火、やっぱり結構変わったよね」

 「え?」

 「あんなぺったんこだった胸なんて今じゃそんなだし、それに下着だってなんか…えろいし」

 「ぁ…」

 美火は自分の格好を再確認し、直後には鬼灯の如く顔を真っ赤に染めていた。

 「これは!その…そう!こういうのが最近はやってるの!み、みんなこれくらい普通だよ!」

 「そ、そう…なんだ…あはは…はは…」

 「引かないでよおおおお!!」

 「引いてない引いてない!嘘じゃないって痛い!」

 バシバシと叩かれる。

 こんな会話もどこか懐かしい。

 楽しい。

 これだけでも戻ってこれて良かったと思う。

 

 

◇----------------------------------------------------◇

 

 

 

 あの頃は、雪の日も、雨の日も晴れの日も、いつだって一緒に野を走り回って遊んでた。

 

 「うわぁ!雷だ!美火!こっちだ!」

 「うわあああああん!ゆうちゃん怖いよぉ!」

 美火は泣きながら僕の手を握って必死でついてくる。

 ドォォン、と。近くで雷が落ちた

 「ひっ」

 「嫌ぁぁぁぁぁ!!」

 雨粒が大きくなる、激しい雨音や雷鳴。

 そして雨粒が痛いと感じるほどに激しくなる。

 「怖いよぉぉお!!!ゆうちゃぁぁん!」

 「あのお堂に隠れよう!もうすぐだから!走れ!」

 僕らは死にものぐるいでお堂をめがけて走った。

 「ほら、もう大丈夫だからな」

 僕は美火を抱き寄せてお堂の中へ入った。

 雷の音は相変わらず大きいが外にいる時よりはマシだった。

 「藁がある」

 「…ふぇ?」

 お堂の中は暗かったが、目を凝らして見れば何があるかはわかる。

 「待ってて」

 僕は奥の束をありったけかき集めて寝床を作った。

 「ここに二人一緒に入って、残りのわらを被せれば、多分、大丈夫だと思う」

 「…うん」

 外の天候は暗くなった後もなおも強く振り続けた。

 「雨、止まないね…」

 「大丈夫、僕が守るから」

 「…うん」

 そうして僕らは抱き合い互いの体温を温め合って一夜を凌いだ。

 

 「懐かしいねーそれ、あの時は本当に怖かったんだよ?」

 「僕だって本当は怖かったよ」

 野を散歩しながら僕らは昔話に興じていた。

 「そういえばさ、優樹」

 「ん?」

 「二週間後くらいにここから少行ったところ…って言ってもあの刈られた場所がそうなんだけど」

 「?」

 「お祭りやるんだよ〜、すっごくおっきいお祭り」

 「おぉ、お祭りかー、楽しみだな〜」

 聞けば翠月で開かれる祭りだそうで、全ての領地の人々が翠月の御鳴地に集まり、皆娯楽を心から楽しむらしい。

 村の人たちも領土間で友人などが多くいるようで、祭りとなると各々家で宴会をするらしい。

 馬鹿騒ぎにうんざりする子もいるそうで、祭りの期間、自分たちで外の落ち着ける場所に簡単な小屋を立てて難を凌ぐのだそう。

 「そんなにうるさいんだね」

 僕は苦笑いしながら美火に問いかける。

 すると美火はあははと元気なく笑いながら

 「とてもじゃないけど寝てられないよ」

 と、やつれたように返すのだった。

 

 

 

 あの後僕らは会場になるという場所を一回りしてから祠へ行くことになった。

 「ねえ、優樹?」

 「なに?」

 「優樹の世界って、どんなところ?」

 僕は地面の小石を軽く蹴飛ばしながら答える

 「んーとね、神寧みたいなとこが沢山あるよ」

 「へぇー!」

 目を輝かせながら僕を見ている美火はなんだか子供っぽかった。

 「そうだなぁ、スマホとか、タブレットとか、PCなんかがあってね」

 「すまほ?たぶ…ぴーしー?」

 「また今度教えるよ」

 僕は笑いながら美火の頭を撫でた。

 美火は嬉しそうにそれを受けている。

 傍から見たら恋人同士に見えるんじゃなかろうか、と

ふと考えて顔が赤くなるのを感じる夏の夕焼け道。

 日の照りが僕らの顔を淡い朱色に染め上げる。

 あの日から失った時間を、今の僕らは埋めようとしているのかもしれない。

 でも、それでもいい。

 今は少しでも長く、近くで美火と接していたい。

 無邪気に笑う彼女の姿を見れば、向こうの生活そのものがまやかしだったんじゃないかとすら、思えるくらい、ここでの暮らしは僕にとって大切なものになっている。

 

 「あら、おかえり〜」

 「お母さんただいまー!」

 「ただいま」

 手洗いを済ませて食卓へ向かうと、鳳大さんが妖具を見つめながら呟いた

 「明日あたりから、空が紫色に染まり始めるが怖がらなくていいぞ優樹君」

 「ありがとう、父さん」

 「…照れくさいな。そう呼ばれると」

 「ごめんなさい、鳳大さん」

 僕は笑いながら言い直すと、名前呼びの方がしっくりくるらしく、うむうむと頷いていた。

 「今日の晩ご飯は焼き鮭と沢庵とわかめとお豆腐のお味噌汁よ〜」

 「美味そう…戴きます!」

 「いっただっきまぁーす」

 麻里さんの手料理はいつも美味しい。

 鮭の焼き加減なんかそこらの主婦顔負けってくらいのレベルなんじゃないかってくらい、中がフワフワホクホクになっている。

 塩加減も抜群で本当に美味い

 「麻里さんすごく美味いよこれ」

 「あらあら、ありがと」

 うふふ、と片手を頬にあてにんまりと笑った。

 その後も食べることに夢中になっていて、気がつけば皿は綺麗さっぱり食べ物がなくなっていた。

 「もうだめ…もう食べられないよ」

 「もー、優樹ったら食べ過ぎ〜」

 「いやぁー、美味しかったものだから、つい食べすぎちゃった」

 はははと笑いながら言う。

 「ちょっと二階に行ってくるね」

 そう言って席を外し、二階の広縁へ行き腰を下ろす。

 「ここの夜は本当に綺麗だな… 星の輝きがすごく大きく見える。まるで…」

 「…陽の光を浴びて輝く宝石箱みたいに」

 「美火!?いつの間にいたんだね」

 「ふふ、まあね」

 「でも僕はそんな詩人じみた言葉は思いつかないよ」

 「あははっ、そう?」

 「うん」

 いつの間にそんな吟遊詩人みたいな言葉を覚えたのか、僕は少し気になった。

 「でも」

 「でも?」

 「僕が言いたかったのは、まるで誰かさんの笑顔のようで、かもね」

 「…それって、えっと、私のこと?」

 「かもね」

 ふっ、と笑いかける。

 すると美火は上気したように顔を赤く染めバシバシと叩いてくる。

 「痛いって」

 僕は笑いながらそう言った。

 「もう、優樹ったらほんとに恥ずかしいこと言うんだから!」

 「…こっち、きて」

 「…うん」

 そして僕ら二人は、広縁から覗く星々を、肩を寄せ合い見上げた。

 「綺麗だね」

 「うん」

 見上げる星の輝きは不思議なものだった。

 紫や黄色、青色や白色。

 それはまるで、宝石を沢山詰め込んだ宝石箱の様な、独特で美しい虹彩を放ちながら僕らを見下ろしている。

 こんな光景、アニメでしか見たことがなかった。

 ここまで凄い星空を目の当たりにできる日が来るなんて、そう思うほどにここの空は、美しいものだった。

 

◇---------------------------------------------------------◇

 

 気がつくと僕と美火にタオルケットがかけられていた。

 「んぅ…すぅ…」

 体を起こそうとしたら何かに引っかかった。

 「美火…まだ寝て…」

 まずい。これは大変まずい。

 美火の胸が、胸が僕の右腕を呑み込んでいるだとぉっ!?

 (やばいやばいこれはやばいですどうにかしないと…いやもうどうにも出来ないこれ…)

 タオルケットの中を覗くと胸に気を取られて気が付かなかった箇所に気づく

 足を絡められていた。

 「こうなったらもう動けないな…よし、二度寝しよう」

 起きる時間を間違えたんだと自分に言い聞かせて目蓋を閉じた。

 

 「…ふぁぁ…優くん?」

 (って近い近い近い近い!!!)

 よく見ると彼は私の腕に抱きついて、静かな寝息を立てて眠っている。

 (よく見たら可愛いかも…)

 ちゅっ と彼の額にこっそりキスして一通り照れたあと私はまた目蓋を閉じた。

 

 そして数時間後、僕は目を覚ました。

 大きな欠伸を一つして、身体を伸ばして辺りを見回す。

 「あれ、美火?」

 「下かなぁ 」

 僕はふらふらと一階へ降りた

 「あ、優くん起きたんだね ほらご飯できたから一緒に食べよ~」

 どことなくいい香りがする。

 魚焼いたのかなこれ。

 「あれ、麻里さんと鳳大さんは?」

 「お父さんとお母さんはお祭りの委員会の偉いほうなんだって、だから今年も準備期間はあまり家にいないの。でも開催されると時々家に戻ってきたりするのよ~。こう、行ったり来たりみたいな」

 「へぇー、委員会のえらい人なのに、祭りの場にいなくて大丈夫なの?」

 「わからないけど、多分大丈夫なんじゃないかな?」

 たはーと笑いながらご飯ができているよと僕の手を引いて茶の間へ向かう。

 「おー、いただきます」

 「召し上がれー」

 美火の手料理もなかなか美味しいけど、やっぱり麻里さんにはななわないなと思いながら箸を進めた。

 「ごちそうさま」

 「お粗末様ー」

 朝ごはんを食べ終わり、美火と片付けをした。

 家の掃除もあらかた終わり、茶の間でだらけていると戸をノックする音が聞こえた。

 「美火ちゃーん?いるー?」

 大人っぽくて優しい声色が美火を呼んでいる。

 「ちょっと行ってくるねー」

 「うん」

 眠たげに目を擦りながら玄関へトコトコと向かっていった。

 美火にも友達ができたんだなぁ、そう思いつつ僕はお茶を啜っていると、足音が一人分増えてこちらにやって来た。

 「優くん、紹介するね」

 「初めまして、私は狗井美静、よろしくね」

 現れたのは美火より胸が大きくて背の高い女性だった。

 「僕は優樹、葦原優樹です」

 「それよりも外見てよ!ほら!」

 宜しくお願いしますと言う前に美火は僕の腕を強引に引っ張り、縁側へ連れ出した。

 「ほら、綺麗でしょ?」

 「凄い…これは…」

 僕が目にしたのは日中なのに青紫に染まる空だった。

 それに加え星も瞬いている。

 赤色に、黄色、白に翠に碧に。いろんな色がひしめき合っているようで、ただただその美しさに目を奪われていた。

 「どう?綺麗よね、この空の輝き」

 「すごく綺麗だね」

 「私達の間では、この空を宝石箱って呼んでいるのよ」

 「えー、そんな詩人チックな名前を?」

 「そう!みんなそう言ってるんだよー」

 くるりとその場で一回転してドヤ顔を決める美火、そしてその隣でクスクスと笑う美静。

「そうよ、そろそろ櫓も建て始める頃じゃないかしら?」

 「んー、多分ねー」

 「じゃあ行ってみましょうか、優樹君も付いておいで」

 「はい」

 「れっつごー!」

 美火は僕に後ろから抱きついて前方を指さす。

 そして僕らはお祭りの開催場所へ行くのだった。

 

 

◇-----------------------------------------------------------------------◇

 

 

 「結構出来上がってるね」

 「ふふ、妖力をつかって荷物を軽くしたりして運んだりするからね」

 「妖力…便利なんだね」

 「割と身近なんだよー妖術って」

 荷を軽くする妖術があるんだな、これを元の世界で使えば引越しとか、模様替えとかが捗りそうだなどと考えながら、僕は二人の数歩後を歩く。

 二人の髪は微風を受け艶やかになびいて、少しあとから甘い香りが僕の頬を撫でるように通り抜けていった。

 「どんな出店があるの?」

 「んーとねー、たこ焼きと〜、綿飴とー、たい焼きでしょー?それからー、それからぁ〜…」

 「あんず飴にりんご飴、チョコバナナ、焼きそばにイカ飯、かき氷、牛丼天丼、蕎麦やうどん何かもあるし、射的、輪投げ、金魚すくい、お楽しみ箱とか、色々とあるわよ」

 「チョコバナナとかイカ飯とか、かき氷なんかは聞いたことはあるけど、牛丼とか、天丼に蕎麦うどんなんて始めて聞いたよ」

 「そう?ふふっ、祭りに出てる食べ物は全部美味しいから、楽しみにしているといいわ」

 「想像しただけでお腹がすいてきましたよ」

 僕は益々神梛祭が楽しみになった。

 「ふふ、」

 「?」

 「お楽しみはまだあるわよ?」

 「へぇ!教えてよ!どんなのがあるの?」

 「始まってからのお楽しみよ」

 美静はやたら艶めかしく笑って僕をつついた。

 「楽しみがふえたね、優くん」

 「うん、すごく楽しみだよ」

 「ねえ、優樹君、美火

向こうに綺麗な川があるの、知ってた?」

 「いいや?僕は知らないなー、美火は?」

 「知ってるよー」

 「じゃあ行きましょ?」

 「えー?なんでー?」

「いいから、ほら、行くわよ」

 言うなりスタスタと美静と美火は先に行ってしまった。

 僕は慌てて付いて行こうとする。

 背の高い草木をかき分けながらしばらく付いていくと、まるでト〇ロに出てくるメイちゃんが草のトンネルで寝ていたあの場所に似た所に出た。

 「わぁ、すごい…トト〇みたいだ」

 「〇トロ?」

 「うん、ジ〇リの映画」

 「んぅ…わからないよぉ~」

 「ほーらあなた達早くこっちに来ちゃいなさいよ」

 「いまい…く…!?」

 美静に向き直った僕はあまりの衝撃で一瞬動けなくなってしまった。

 「なぜ全裸!?」

 「いや…なぜも何も、ねぇ」

 「へ?」

 彼女は僕の言っている意味が理解できないとばかりに首をかしげ

 「裸にならないと、服が濡れちゃうじゃない」

 これには僕はもう言葉が出なかった。

 「大丈夫?ほら優くんも脱ご?」

 「ええ!?」

 まるで肝試しが怖くていけない子供を諭すかの如く、ごく自然な形で僕を脱がそうとしてきた。

 そして美火も全裸である。

 「あ、、あのさ…ここってさ、素っ裸で男と水遊びする文化でもあるの…?」 

 「ないよ?」

 何を馬鹿なことをおっしゃるとでと言いたげな表情をしながら僕を見ている

 「ああ、別に優樹君になら見られてもいいかなってね、ほかの男の子には見せはしないから安心して?」

 「いやいやいや、僕だって一応男ですから、あんまり刺激が強いのは…」

 「あー敬語ー」

 「へ?」

 彼女は不機嫌そうな顔をしながら僕の目の前まで歩み寄る。

 「優樹君?」

 「は、はい?」

 目の前で弾むおおきな胸はなるべく見ないように美静の額を見るように心がけた。

 「そーれ」

 むにゅん。

 「むぐ…」

 その胸で顔を挟まれてしまった。

胸で顔をこねくり回されている

これ以上に恥ずかしいことは無い。

たまらず僕は止めろと叫んで状況の整理ができないまま彼女を振り払い来た道を全速力で走った。

 後ろから聞こえるふたりの声も聞こえくなるほど全力で。

 (あんなの刺激が強すぎる…逃げるに決まってる!)

 僕は祭りの会場へと全力で走った。

 

 

◇----------------------------------------------------------------------------◇

 

 

 会場へたどり着いた僕は鳳大さんたちに1度帰るとだけ告げて逃げるように祠に駆け込んだ。

 「…」

 家に着き、自室へ駆け込んでドアを閉じる。

 「なんか訳が分からなくなってきた」

 「そうだよ、きっとあれは何かの間違いなんだ…」

 僕は疲れ果ててベッドに倒れ伏した。

 気がついたのは午後9時過ぎ頃だった。

 「…神梛祭、は…行くだけ行ってみよう」

 

 

 「私、何か悪いことしちゃったかしら…」

 「…恥ずかしがらせてみよっていうの、バチが当たったんだよ、私たち」

 「そうかもねぇ…」

 

 暫く俯いていた私たちはにそれぞれ帰路についた。

 

 「あのなぁ」

 家について両親に問い詰められて白状した私は、案の定説教された。

 「優樹だって一端の男の子なんだぞ?それを寄って集って裸を見せつけるなんて…恥を知れ!恥を!」

 「…ごめんなさい」

 「それに、もうこっちに来なくなるかもしれないからな」

 「へ!?なんで!?」

 驚きのあまり身を乗り出したが母に座れと諭された。

 「そりゃそうだろ。やっと再会できて、また昔みたいな関係になりかけてた矢先に、あんな破廉恥なことされてみろ」

 「ああ、コイツは誰にでも裸を見せるような奴になってたんだと思われても仕方ないだろ」

 そう言われた瞬間私は自らの行いを呪った。

 そこまで深く考えてなかった。

 嫌われた、もう会えないの?

 そう考えたら頭の中パンクしそうになった。

 私は泣きじゃくりながらごめんなさいを繰り返した。

 

 神梛祭まであと1週間、彼はもう来ないと泣いた。

 最悪な形で開催を待つことになった。

 

 




面白かったら感想と評価お願いしますん。
あまり自信はないんですがそれでも楽しんでもらえたなら書いててよかったなとは思います。
よろです


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神梛祭開催 -視千切り岩の不穏-

前回の続きだよん
主人公優樹は全裸イベのせいで実家の方に逃げ帰りました。
目に焼き付いたあのボディをかき消そうと躍起になっているうちに神梛祭が始まるのでした。
そして会場へ足を運ぶのだが…


あの後僕はあの光景の記憶を消そうと躍起になっていた。

 「んぐあああ!だめだ…く、くそお」

 どう足掻いても蘇る、感触と身体。

その度に顔を赤らめ悶絶していた。

 「…あ」

 ふとカレンダーに目をやると、今日が神梛祭の日、それも既に始まっている。

 僕が記憶を消そうと躍起になっていてすっかり忘れていた。

 「…行かないと」

 そしてヨタヨタとベットから起き上がり、着替えを始めたのだった。

 

 「ねぇ、お父さん…今日、優くん…来るかな…」

 あの時、叱られてから優くんにどれだけ迷惑をかけたのか思い知らされて、すっかり自信もなくなってしまった。

 「さあね、それは優樹が決めることだから父さんにはわからないな。」

 「…だよね」

 「ああ。」

 「…じゃあ、私そろそろ行くね」

 「怪我しないようにな」

 「うん」

 いつもなら行ってきますと言って祭りへ走って行ったけど、そんな元気も出なかった。

 そして美静と合流して、会話のない屋台巡りをしていた。

 

 「…バックよし、タオルよし、スマホよし、スマホのバッテリーよし、携帯充電器よし、乾電池よし、財布よし、着替えよし。こんだけあれば大丈夫だよな」

 そして荷物をまとめて家を出て祠を抜けた。

 草原は暗かったけど、祭りの光とかが反射して少しは道が見える。

 あの日はいきなり逃げ出したけど、何か、謝っておかないといけない気がする。

 次第に早足になった。

 空は祭りの光で照らされたような紫色をしている。

 「鳳大さん、あいつはどこに?」

 「美静ちゃんと祭り行くって言ってたよ、あんまり元気がなかったけどな、きつく叱りすぎたのかもしれない。」

 「そうですか…それじゃ僕探してきます」

 「おう」

 早足だった僕の歩みは、次第に駆け足になり、いつしか全力で走っていた。

 早く見つけて謝らないとという、焦燥を孕みながら。

 

 「やっぱり、あの時のこと、優樹くんに謝らないとだよね。」

 と、重い口を開いたのは美静だった。

 「あのこと、ちゃんと謝ろ」

 「うん」

 「流石にやりすぎちゃった、美火にも無理強いさせちゃったところもあるし…美火ごめんね、あたし」

 祭り会場の近くのベンチに腰を下ろしていた私達の空気は暗闇のそのまた影にぽんと投げたされたかように暗く湿ったものになっていた。

 「…ううん、私もあんな堂々と裸見せて、あんなこと…やって。私も悪いんだよ、美静だけの責任じゃない」

 「でも…」

 「でもじゃないよ、ホントのことだもん」

 「…優樹くんきてるかな」

 「きっと来てるよ、一緒に探そ?」

 「…そうだね、行こう」

 そうして、私たちは露天屋台を探すことにした。

 

 祭り会場に向けて走っていた僕は道中気味の悪い石像を目にした。

 楕円を半分に割った様な形をしていて、不気味に、ニタァと笑うような苔むした石像。大きさこそ大きくはないが、膝丈くらいはあった。

 その石像の横を走り抜けた途端少し気分が悪くなり始めたが、構わず走り続けた。

 「…着いた」

 ようやく会場へ到着した。普段ならこんなに息が切れるほどの距離はなかったはずなのに。不思議と息を限界まで切らしていた。

 そこから彼女らと合流するまでに時間はかからなかった。

 

 ◇-------------------------------------------------------------------◇

 

 

 「ごめん、あたし…あんなことして」

 「私も、ごめんね」

 酷く落ち込んだ雰囲気で深々と頭を下げてきた二人。

 僕は焦って顔を上げるように言った。

 「僕の方こそ、なんかごめん」

 「優樹くんが謝ることなんてないよ、全部私のせいだから」

 どんどんと空気が悪くなるのを感じた僕はさっき見たものを二人に話した。

 「あのさ、さっきここに向かってる途中で見たんだけど」

 「?」

 「気味の悪い石像、こう、ニタァって気味の悪い笑みを浮かべてる、膝丈くらいの石像」

 「え…それって…」

 「…冗談、だよね?」

 二人はひどく怯えた様子でこちらをのぞき込んでくる。

 「え、え、何?どうしたの?」

 「優樹くんの見たっていう石像、ここら辺で結構前から怪談話とかで語られてる怖い話でね、その石像、優樹くんのこと見てた?」

 「うん、何か通り過ぎた後もこっちの方を見てた気がする、すごく気味悪くて、その後、急に気分が悪くなり始めて」

 二人は顔を見合わせてさらに表情を曇らせた。

 「ねえ、あれ一体なんて言うやつなの?」

 「…うん、それはね、視千切り岩って言われてて、その岩に見られた人をどこまでも追いかけられて、終いには四肢を千切られてしまうっていう、そういう怪談に出てくる岩なの」

 「…ヤ、ヤダナージョウダンキツスギルヨーハハハハ」

 「優くんこれ、嘘じゃないよ。お父さんのところに一緒に行こう?早くしないと危ないよ」

 「う、うん…い、行こうか」

 と、不意に会場に来た方を見た時、心臓が止まりそうになった。

 「…っ!!」

 人混みの隙間から遠く覗いたそれは、たしかにあの石像だった。

 そしてそれは、振り返って僕を見つけたように見えた。

 「…来た…来たっ…!」

 僕は腰を抜かして後ずさった

 「優ちゃんまさか来たって…」

 「…」

 「せ…石、像…が……」

 「優ちゃん早く起き上がって!早くお父さんのところに!」

 「早く!掴まって!」

 素早く二人に掴まって全力で逃げた。

 鳳大さんのいる仕切り所へ走った。他のことは何も考えずに

 

 「そうか…そんな事が」

 「ねえお父さんどうしよう…このままじゃ優くん死んじゃうよぉ!」

 「し、死ぬとか言うなよ…」

 「こればかりは…ほんとに死ぬかもしれない…」

 美静が素で弱気になっている。

 「鳳大さん、何とかならないんですかこれは」

 「何とかならないこともないんだけど、あれをやるのはリスクがあるからな…どうしたものか…」

 「…そのリスクって?」

 「私達の世界の者に、半分ほど成るって手段があるんだ。そうでなければあれは人間の君では持つことは出来ない。」

 「あれ…って?」

 「妖力を持った剣さ、私たちの間でさえ、持つ者を選ぶほどの蛇腹剣」

 蛇腹?聞きなれない単語を耳にし、はたと首を傾げる。

 「蛇腹ってなんですか?」

 「ああ、蛇のようにしなる剣さ」

 「へぇ、そんな剣があるんですか」

 その剣はここの土地の大狗様が厳重保管しているそうで、主に悪いものに侵されそうになったものや、侵されてしまった者を斬るのに使われている。

 非常に強い妖力が憑いているため、時よりその妖力が実体化する、とか持ち主を試すとか噂が立っているらしい。

 現在大狗様は大病を患っており、斬る役を負えないそうだ。

 「僕がやります。僕がその剣使ってあの気持ち悪い石像壊します。」

 「優樹君。この剣は持ち主を選ぶ。認められなければ。失敗すれば死ぬかもしれない。それでもやるか?」

 「どの道やられるんなら抗った方がいいです。やります。」

 「優くん…」

 「…優樹くん…」

 「大丈夫、たぶん。」

 「分かった。大狗様の所に行こう」

 ふと振り向くとさっきの場所からさらに近づいてきていた。

 「また近づいてきてる」

 「私の背中に」

 「へ?」

「背負おう、君を背負う方が早い」

 「分かりました」

 僕は鳳大さんに背負われて物凄い勢いで大狗様がいるという神社へ向かった。

 「あの岩、なにか弱点とかないんですか?」

 「あ、そういえばまだ説明語りてなかった」

 「?」

 「視千切り岩は単に壊せばいいというものじゃなくてな、順を追って破壊していって、札を貼り付けて燃やすんだ」

 「順?あんなただの楕円を半分にしたような岩を?」

 「なぜ千切るって名がついてるかわかるか?あれは、追い詰めた人を千切るために、人の形をとるんだ。そうして四肢を千切っていく」

 「じゃ、その順は?」

 「まず足を壊すんだ。その次は腕だ、そうしたら今度は頭を壊してから残った胴体に札を貼り付け狗火を放って焼くのさ。あれは悪いものだから見た目がどうあれ、材質がどうあれ、何だろうと燃えてしまうんだ。」

 「足、腕、頭を壊して胴に札を貼り付けて燃やす…」

 「狗火でね」

 「わかってますよ」

 そうこうしていると石段が見えてきた、と思ったらその階段を上っている

 「あれ?石段、今さっき結構遠かったのに」

 「妖力を使うと、こういう移動もできたりするんだ。ほら、着いた」

 スタッと背中から降りてみると不思議な雰囲気に包まれた境内が見えた。

 「早くしましょう、早くあれを倒さないと俺がやられる」

 「そのためには君が半妖にならないといけないからね、少し待っててくれるかな」

 言うなり走って本殿の中へ消えていった。

 待つこと数分、数珠やら大幣やらをもってきた。

 「それで半妖に?」

「いいかい?ここからは口を利くんじゃないぞ?目を閉じて意識を保つことに集中するんだ」

 「わかりました」

 「では、ゴホン!」

 ジャラッと数珠を鳴らし、大幣を大きく一つ振り、何やらブツブツと始まった。

 途端に体が重くなり、跪いた。

 「ぐ…」

 苦しさに加えて憎しみのような負の感情に包まれそうになる

 「ぐ…が…ァァアッ…!」

 苦しいなんてもんじゃない、これ。

 身体中、しかも内側から何かがのたうち回るような感覚がひっきりなしに…。

 「…憎い…憎イ…にくイ…にクい…ニくイ…」

 意識を憎悪の塊に乗っ取られそうになる。

 視界が黒いヘドロのようなもので覆われていくのを感じた野とほぼ同時に

 「意識を保て!」

 と、鳳大さんの喝の念が入り何とか正気を取り戻した。

 しばらくして呪文のような言葉は消え、身体中の重苦しさは消えていった。

 「とりあえず終わったよ」

 「カハッ…ハァ、ハァ…俺、僕は…?」

 「半妖になったよ。半分向こう側、半分こちら側の存在になったってことだね」

 「じゃあ例の剣を、早くあれを倒さないと…」

 「そう慌てるな、この社にはここ一帯を統べる土地神を祀ってるから、視千切り岩程度のものなら近づくことも出来ないだろうよ」

 「は、はぁ」

 「とにかく、さっきも話したとおり、あの剣の妖力は大きいんだ。他にも代わりになる武器はあるが少々使い方が難しくてね、失敗しやすい欠点があるんだ。その点、あの剣は使い勝手がいい。相手を縛って叩きつけたり、移動する時なんかにも遠くのものに刺して、縮めれば高速で移動、なんかもできる…かも」

 「欠点は強すぎる妖力…か」

 「そうなんだよなぁ」

 「一度やるって言ったんです、やりますよ」

 声色を変えてはっきりと伝えた。

 「わかった。じゃあ持ってくるから、待っててくれ」

 そう言って本殿へ戻っていった。




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軽い説明回

結構遅めの説明回


僕は優樹。葦原優樹(あしはらゆうき)

そんでこいつは僕の昔からの友達の美火。穂咲美火(ほさきみほ)

あとこの人、先の全裸事件の首謀者こと狗井美静(いぬいみちか)

美静さんは僕達の姉的立場にあって、劇中では言って無いけど、姉と呼べって言ってる。

そろそろ折れようかなとも思ってる。

僕の身長は178cm、体重は平均並かな?

帰宅部だから目立った能力もないけど、不良に殴られることが多かったからか、相手の動きを先読みできるっていうことくらいしか今のところ目立つ能力はないかな、どうせこんな能力があってもリアルじゃ喧嘩なんて出来ないしね、倒せるわけないもの(笑)

 

はいはーい、次私のプロフィールー

身長は169cm~まだ成長期だから伸びるからね?

Eカップだよ?どう?魅力的でしょ!?

体重?教えないよそんなの!恥ずかしいもん!

 

じゃあ次は美静さん、お願いね

 

姉さんって呼んでっていつも言ってるのに…

あたしのプロフィールは、身長174cmウエストも平均くらいかしらね、胸はGよ。

あたしほどの獣人になると胸もしっかりついてくるのよ。フフフフ…チラッ

 

なんでこっち見てくるんですか挟んでこないでくださいよ?

 

チッ

 

ちょ、舌打ちとかさらにひでぇ!?

ま、まぁこんな感じですね僕らの説明は。

後は住むところですかね

 

翠月(あづき)神寧(こうねい)鬼蛇千(きだち)吾通馬(あづま)楼郷(ろうきょう)

翠月は僕達のいる領土です。神寧は、僕の世界でいう都会です。鬼蛇千は鬼や蛇の者が住んでいて、吾通馬には蜘蛛や狸が、楼郷には狐が住んでいます。

領地の間には山や海が必ず存在しますが、領地間の距離は遠くて5km、近くて2kmあります。何故か津波のような波は来ないらしいです。不思議パワーのようなものですね。

視千切り岩(みちぎりいわ)

これは前の物語でありましたね。

ああいう怪異は付近の悪い気が吹き溜まりのように集まる場所があって、そこに何かがあるか、誤って踏み入れたりすると取り憑き、視千切り岩のように人を襲うようになります。

吹き溜まりなんてところは本当に滅多に存在しませんが、廃れて長い年月を経た廃村や廃神社などが吹き溜まりになります。

いろんなことが巻き起こるこの世界では何が起こるかわかりません。先を急いだり、のんびりしたり。

着の身着のままふらふらと。

あっちへ行ったりこっちへ行ったり

僕は僕でこの世界を見ていきたいですし、

隣にはいつも美火がいてくれるので今のところ不安はありません。

こんな僕ですが、どうかよろしくお願いします。

 




後付け設定なんかもあってちょっとおかしくなったかもですけど、まあ初めてなんでそこには目を瞑っていただけると幸いです


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怪異 視千切り岩

本殿から大きく長い木箱をもって鳳大さんが出てきた。

 「ほら、これだよ」

 「な、なんじゃこりゃ…すごい形してるんですね鎌みたい」

 「大鎌型蛇腹刀零式(おおがまがたじゃばらとうぜろしき)

 その剣はゲームとかイラストとかで見たことのあるような大鎌に似た剣で、見たところ柄が長い。

 「ほら、早く構えなさい」

 「は、はい」

 そして僕はそれを掴んだ。

 刹那、とんでもない力が内から沸いてきた。

 「 なんだこれ……力が無限に出てくるみたいで…」

 「耐えられそうか?」

 「は、はい…でも…集中してないとちょっとした動きですごいことになりそうな気しかしませんねこれ…」

 「ふむ、とりあえず落ち着いて1振りしてみなさい」

 「わかりました …せいっ」

縦に一振り、振ってみた。

衝撃波だろうか、三日月型になって前方に飛んで行く。そして結界にぶち当たりとんでもなくでかい音と共に消えた。

 「っっ!!?うるさっ…」

 そしてその衝撃波の道筋には禍々しい抉り痕が残った

 この剣は自らの意思で伸縮させられる。

 伸ばせる距離は最長30m、どんだけ伸びるんだよ。

 「優樹君、これも持っていきなさい」

 手渡されたのは剣だった

 「一応、さっき言ってた蛇腹剣ってそれの事でな、お前が順応できたその剣はこれよりワンランク上の代物なんだ」

 「いやなんつー危ないことしてんですかあなた」

 「いやぁアハハ、なんていうか、ノリで」

 「ノリでヘヴィなことしないでくださいよ!!いつか殺されるぞ俺!…あれ?俺?…??」

 「多分、半妖になったから何かが変わったのかもな」

 「何かが変わったとかすごい曖昧で腑に落ちないんですけど…

でもこれで口悪くなったって、責めないでくださいよ?」

 「わかってるよ、ほら行ってきなさい」

 「…わかりました、行ってきます」

 (それにしても、半妖になったからって一人称って変わるのかな…?)

 そう考え事をしながら剣の方を抜刀しながら高速移動をしていた。

 「すごいよなこれ、ほんと。夢にまで見たソニック走りが出来る…!」

 そう言いながら会場の方へ戻った。

 道中視千切り岩に遭遇することはなく、難なく着いた。

 「やあ美火、美静」

 「優くん!?どうしたのその格好!」

 「邪を斬る時の正装みたい、なんか中二病感が否めないんだけどね、それよりも半妖になれたから、ほらこの通りこの剣も使えるようになったって訳だよ」

 「すごいじゃん!」

 「倒せそう…なの?」

 「…やってみないとわからないけど、何とかやってみるよ。後は視千切り岩が出てくれれば手っ取り早い」

 「さっさと終わらせてお前らと祭りの続き、楽しみたいからさ」 

 「う、うん…?」

 「さぁ出てこい俺はここだぞ」

 辺りを見回せど見当たらない。

 「人がいるからかな…さっきはお構い無しだったのに。

場所を変えれば出てくるかな」

 そして俺は視千切り岩に最初に遭遇した通りに向かった。

 次第に空気が変わり、視線を感じるようになった。

 (いるな、後ろに)

 「そこッ!」

 後ろに向けて石を投げる。

 ゴツっと硬い音が跳ね返り、その姿を確認して蛇腹剣を抜刀し怪異に向けてその切先を伸ばし、その刀身を巻き付け捕縛した。

 「行ぃくぞおおあ!!」

 そして天高く跳躍し回転をかけ怪異を地に叩き落とし、着地とともに一撃、斬りこんだ。

 「斬れた…斬れたか…?刃こぼれとかしてないよな…??あ、全然欠けてねぇ」

 怪異は薄気味悪い笑みを浮かべその姿を大きな人形へと変えた。

 「グルォオオオオオ」

 耳障りな咆哮を上げ突進してくる。

 「だったらコイツはどうだ!!」

 大鎌型を引っ張り出し、怪異の首へその剣先を引っ掛け、一気に引き切り裂いた。

 「まず足!」

 一気に距離を詰め近くの木に剣先の鎌を突き刺して剣を伸ばし、怪異の足へ引っ掛ける様に絡ませ、そのまま切り落とした。

 怪異は絶叫しながら体勢を大きく崩す。

 「もう片足も置いてけ!」

 体勢を崩し倒れた所に斬りかかり、難なく両足を奪った。

 「腕!」

 今度は蛇腹剣をしならせ、跳躍しながら右腕を斬り飛ばしもう片腕も同じ要領で切り落とした。

 「ォォオオオルアアアアア!!!」

 半妖の力を存分に振るい、猛スピードで距離を詰め、真上の木に跳躍し身を反転させ枝を駆り、怪異の首に渾身の力を込め、蹴りを繰り出した。

 そしてその首は鈍い音を立てて千切れ落ちた。

 後は札を胴体に貼り付け燃やすだけだ。

 「そんでこれをここに貼ってと」

 ぺたりと貼り付けて剥がれないようにゴシゴシと。

 「よぉぉしこれでトドメじゃアアアア…決め台詞欲しいな…ハッ!」

 おもむろに片手で顔を覆うポーズをとり

 「地獄の業火で燃え尽きろ!インパクトカ〇ザー!」

 指先に灯った赤紫の焔を怪異に向け放った。

 そしてそれは大きな火柱となって消えた。

 「…お、おお…倒せた…やったぁ~…決まった…ぜ」

 全身の力と緊張が解けて、しばらくその場に大の字で寝転がっていた。

 帰りは足が軽かった。

 半妖とは便利なものなのだなとしみじみ思った。

 その後祭りを一通り楽しみ、美火家へ帰宅そして鳳大さんに半妖になっても元の姿に戻すことが出来ると教わった。

 ヘトヘトだったので戻すより先に風呂へ入ることにした。

 そして流し場の鏡を見て驚いた。

 「け、獣耳に…尻尾。あれ、目も猫みたいな感じになってる…すげえ…ケモっ子になった…興奮するぜッ…」

 一通り体を見終わって体を流した。

 「あ〜…あったけぇ…」

 体も洗い終わり広い浴槽に身を放り投げる。

 すると横から美火がでてきた

 「あれ?お母さんさっきお風呂はまだだって…って優くん!?な、何でここに!?」

 「うわっ美火!?なんで!?」

 「こっちのセリフだよ!脱衣所に美火って書いてあったでしょ!?」

 「いやいや、自分の部屋の前に表札のように名前の書かれた板を貼るような感覚で貼るなよ!つかお前俺が初めてここ来た時一緒に入ったじゃねぇか!」

 「ううう…」

 「……その、なんだ…体洗うんなら洗っちゃえよ」

 「…うん」

 美火がワシャワシャと体を洗っている。お互い無言で、しんとした風呂場に響くのは体を洗う音と湯で流す音だけだった。

 そして美火は浴槽へ浸かると静かに口を開いた。

 「…ねぇ、優くん」

 「ん?」

 「脱衣所に服とかなかったけど、脱いだものどこやったの?」

 「え、俺の部屋に」

 「じゃあそのバスタオル腰にまいてきたってこと?」

 「まあなー」

 「着替えは?」

 「部屋の前でもいいかなーってね。あそこ夜風が当たって気持ちいいんだ」

 「デリカシーないんだから、もう」

 「それに、」

 「ん?」

 「今の優ちゃん、半妖になっちゃったのに、不安じゃないの?」

 「…さぁ、どうだろうかねぇ、まだ先のことなんて考えたってわからないし、考えるのめんどいし」

 「…どうして?」

 「それは…」

 「…それは、今こうしてお前と一緒にいることが出来るから、かな。あいつを倒して、美火のところにちゃんと戻ってこれたし。」

 「…」

 「…美火?」

 隣にいる美火を見やると顔を上気させて石のように固まっていた。

 「お、おい大丈夫-」

 言い切る前に柔らかく甘い香りが俺の体を包んだ。

 「優くん…!」

 「ど、どうした?」

 「そんな…そんな事言うのはっ、反則だよ…」

 抱きついた美火の体はあの時のように震えていた

 「…優くんはいつも、いつも私を助けてくれて…私が泣いてたら変な顔して笑わせて、引きこもった時もずっと…ずっと側に居てくれて…」

 そう言う美火の腕に力が入るのを感じながら、俺は頷き続けた。

  ◇---------------------------------------------------------◇

 

 「…落ち着いたか?」

 「うん…」

 「全く、照れて固まってたと思ったぜ俺は」

 「ぅぅ」

 あれからしばらく俺にしがみつくようにして泣きじゃくっていた。

 まるで子供のように、その顔をクシャクシャにして。

 「ごめんね、私…」

 「気にすんなよ、俺のお節介だ」

 そう言って俺は美火を抱き寄せる

 「…うん」

 美火も俺に体を預けている。

 「この風呂、露天でよかったな。

 お前と見る星もまた乙なもんだな」

 「もうっ…そんな恥ずかしいことばっかり言ってぇ…」

 そんなことは言いつつも顔は真っ赤にして照れている。

 「こんなキザなことしても、やっぱ慣れてないと緊張するもんだな」

 「優くんも恥ずかしいの?」

 「うっせ。気にすんな」

 「うんっ」

 その後しばらく2人は肩を寄せ合って星を眺めたのだった。




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世界巡り-楼郷-

書き溜め最後です。次は一から書くんでかなり時間かかります。なにせ色々とあれしたいこれしたいでまともにかくじかんがなくて…笑 すみません


翌朝目覚めた俺は元の姿に戻っていた。

 自由に半妖の姿になれるらしいがこれはどうも疲れがたまる感じがして、不要な時は半妖にはなりたくないと思っている。

 「なぁ、おじさん」

 朝飯の鮭の塩焼きをつつきながら呟いた。

 「ん?どうした?」

 「楼郷ってところに行ってみようと思う。世界巡り的な感じで」

 「あらあら、優樹は旅人さん思考ねぇ~」

 うふふふと意味ありげに麻里さんが笑う

 「まあそんな感じかなー、楼郷とか、いろんなところに行けばいろんな種族がいるんだろ?だからそれをこの目で見ておきたくてね。ついでに写メ撮りたい」

 「写メ?」

 麻里さんが食いついた。

 「そうそう、ほらこれで」

 「優くんなに?それ」

 「長方形の、金属?」

 「不思議な板ねぇ~」

 物珍しそうに身を乗り出してスマホを見ている

 「カメラモードに切り替えて、ほら、なんかポーズとってよ美火」

 「へっ?う、うん…こ、こうかな?えへへ」

 照れくさそうにピースサインをして笑っている美火を撮った。

 ちなみにフラッシュは使わない主義なのでOFFに設定している。

 「ほら出来た」

 「よく出来たものねぇ~」

 

 そんなこんなで飯も済ませて出立しようとすると美火が駄々っ子の如く着いて行くとごねた。

 「うーん、鳳大さんどうするこれ」

 「…はぁぁ…」

 鳳大さんは大きなため息を深々と付いて一言

 「行ってきなさい」

 と言った。

 そしてまりさんが急遽もう一人分の弁当を用意してくれた。

 弁当は俺の持参したリュックに詰めた。

 そして美火宅にしばしの別れを告げ、美火と世界巡りに旅立つのだった。

 ◇--------------------------------------------------------------------------------◇

 

 とりあえず俺自身の実家の方にも伝えるために美火と一緒に祠を抜け俺の世界へ戻ってきた。

 「へぇ~、ここが優くん達が暮らす世界なんだね~!」

 「あんまはしゃぎすぎんなよ?車とか通ってるとこもあんだし、ここじゃお前が見つかるのは避けたい」

 「えぇー、バレずに行けるの?」

 「ああもちろん。半妖の力さえありゃジャンプだってすげーんだから。お前もそのくらいはできるよな?」

 「うん、まあ、それなりには…」

 「それじゃ、静かに俺の後付いてきてな、んじゃ走るぜ」

 そういうなり俺達は朝の村へ駆け出した。

 いつもなら十五分かかる道が三分程度で辿り着けた。

さすが半妖。

 「おばあちゃん、僕しばらく遠出するからよろしくね」

 居間の襖を開け祖母が顔を覗かせる。

 「どこさいくんだい?」

 「ちょっと、色々だよ」

 「そうけそうけ、怪我ぁしないように気をつけるんだよ?」

 「うん。それとさ、もし帰りが遅くなったりしても心配しないで?その辺のことはここの友人に頼みに行くつもりだから」

 「はいよ、いってらっしゃい」

 「行ってきます」

 引き戸を閉めて道路に出る。

 俺の後に美火が続く。

 「ねえねえ、友人って言ってたけど、その人のおうちどこ?」

 「すぐそこだよ」

 そう言って山なりに続く家々の上の方を指さす

 「美火はここの植え込みの後ろで隠れてて、すぐ戻るから」

 「え?うん、わかった」

 俺は石畳を抜け、門の前で振り返り、美火に帽子は深めにかぶって耳を隠せと伝え友人(翔太)宅へ走った。

 「半妖って便利だよな、結構動いてんのに息切れもしないし上がりもしない」

 そんなことを言いつつ少し考えていたら翔太家を少し通り過ぎてしまった。早朝のおかげか人はいなかった。そして友人のいる部屋の前に伸びている太枝に飛び乗り、蛇腹剣もとい迦具土神(かぐつち)で窓をノックした。

 しばらくノックしていたら

 うるさいなと目を擦りながら翔太が窓を開けたが

 「!?」

 声にならない悲鳴を上げてひっくり返ったので、半妖化を解き再度呼びかけた。

 「おーい翔太?俺だぞー俺。優樹」

 翔太は驚きの目でこちらを三度覗き込んだ。

 「そんなジロジロ見るなよぉ恥ずかしいだろぉ?」

 とふざけて照れる仕草をしたが

 「気持ち悪いわ!アホ!」

 と、怒られた。

 そして翠月やあの祠のことは伏せて適当に話を作り俺の学校の休みがすぎても帰らなかったら学校のホームページから学校に電話して諸事情にて遅れていると伝えてくれと頼んだ。

 「それにしてもその姿さ」

 「なんだ?」

 「すげぇモフりたくなるんだが」

 実に突拍子もないことを言われた。

 まあ別に触られるくらいなら減るもんじゃないしとモフらせてやった。

 「すげぇモフモフしてるやばっ」

 「だろー?さすがは俺だな」

 「なんか顔立ちも変わって動物地味てるもんな、まさにケモっ子…オスケモだったわ」

 「だったらこれなんかどうだ?」

 誇らしげに胸を張りながら妖力を集中させてみる。

 「…ヤベェ胸できた」

 「おお?おおおお?おおおお!!!メスケモじゃねぇか!!」

 「やっぱり俺って天才だぜさすが俺。天下一だな」

 「いただきます」

 言い終わらないうちから翔太は俺の胸を揉んできた。

 「ちょっ、おいコラてめっやめろっつのコラ斬るぞ」

 迦具土神で頭をひっぱたいた。

 「しかしスゲーな見せかけかと思ったら本当についてんだもん。下は?なくなってんの?」

 とか言いつつ今度は股ぐらをまさぐられたので蹴り飛ばした。

 「俺急いでるからもう行くぞ?」

 女体化を解いて太枝に飛び乗る。

 「おういってこい、帰ってこなかったら伝えとくからさ」

 「んじゃ頼むわ」

 そして足に力を込めて俺の家に向かって飛んだ。

 

 そして無事に隠れていた美火を担いで祠へ向かった。

 「優くん優くん私担がれるんじゃなくてお姫様抱っこされたいなって思うんだけど?流石に雑すぎないかい?」

 「おおすまん」

 美火を下ろして祠に潜らせる。

 「少し隠しときたいなこの祠」

 近くの蔦やらを集めて祠の入口にぶら下げた。

 「なかなかイイじゃん、よし行こ」

 祠を潜って出てくると美火はすこしムスッとしていた。

 「どした?」

 「べーつに?」

 なお、顔はムスッとしたまま。

 キスしたらこいつはどう反応するんだろうか、さらに怒るか?よしやろうこれは冒険だ、と美火の頬に軽くキスをしてみた

「~!?」

 みるみるうちに真っ赤になった。

 「アホォー!」

 バシッと一発もらってしまった。

 その後しばらくムスッとしていた。

 「なぁー、ごめんってばさ~、なぁってば」

 「ふん」

 「…ごめん」

 そして鳳大さんからもらった地図を見ては美火に方向を示しながらとぼとぼと歩くことになった

 (余計なことしなきゃよかった…)

 日が完全に暮れ、夜の星が輝き始めた。

 「休むところないかなぁ…地図も暗くて見え…見えるわ。あ、ここ道なりです」

 美火は無言で先を歩いている。

 そろそろ許してくれてもいいのに。

 「ここら辺なら私心当たりあるの、ほらあそこ」

 急に振り返って遠方を指さした。

 「え、ほんと?」

 「うん、ほら。 」

 「あー、あぁ、本当だ…」

 目を凝らして見ると寺か神社か、屋根が見えた。

 「あそこ廃れてたりしないよな?大丈夫なんだよな?」

 「大丈夫よ、なに?私を疑うの?」

 「い、いやそういう訳じゃないけどさ」

 「それじゃ行きますかっ、ほら優くんも早くしなさい」

 「あ…?はぁ…?は、うん…」

 そうして僕らはその建物へと向かうのだった。




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世界巡り-楼郷- 中

今回はちょっとしたネタギャグ回です


近くで見るとそこそこの大きさの寺だった。

 「ほら、ここ。この中よ」

 「見た感じ人いないけど、お化けとか出てこないよな?」

 「何よその年になってまだ幽霊ごときでビビっちゃってるの?まったく、優くんったらお子様ね~」

 と、美火が腰に手を当ててふんぞり返った瞬間だった

 「ァァ…」

 「!?」

 「アアアア…」

 廊下の暗がり、済の方から聞こえてきた。人のうめき声のような音が。

 「な、なぁ…今のってその、幽霊?」

 ガッチガチに硬直したまま首を美火に向けると彼女も同じく硬直したまま涙を流してビビっていた。

 「お前その年でビビるとかおこちゃまみたいなこと言ってた癖に何泣いてんだよコルァア!!」

 「だってだってだってだってほんとにいるなんて思わなかったんだもん助けて優くん!ニギァアアア!!!!また声があああああ!!ああああああ!!!」

 「ちょ、落ち着けって何パにくってん…」

 美火の真横からこちらをのぞき込む顔が見えた。

 「アイエェェェェェエエエ!!顔面!?顔面ナンデェェ!!?」

 刹那首をレロォっとねっとり舐めるような感覚が俺を襲った。

 「アイエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!?!!?!!!!」

 南無三!ここで終わってしまうのか、ニンジャ〇レイヤー

 「いやニンジャス〇イヤーじゃねぇから!!!!」

「ああああえええええとどうすれば…( ゚д゚)ハッ! 迦具土神!!」

 アワアワしながら抜刀してあたりをガンガン殴り回した。

 「美火おおおお逃げるぞおおああああ!!食らえ狗火!!100%ジャァァァァァンプ!!」

 ここを出ることだけ頭に浮かべてとりあえず思いっきり飛び去った。

 「あああああああ高すぎるううううう!!!!!」

 「…」

 「アアアアアアアアア美火オオオオオ!!!!気絶してるううう!!!」

 大パニックを起こしながら美火を抱き寄せてそのまま落下。

 想像してた激痛ほど痛くはなかったが、それでも痛いものは痛かった。

 

 ◇--------------------------------------------------------------------------------◇

 

 

 「…ん…ぅん…ここは…?」

 「やっと目ぇさめたか」

 虚ろな目を瞬かせつつもこちらを見ている美火を撫でながら続けた。

 「いい感じに基地っぽいだろ?あの後頑張って寺ん中入ってさ、狗火放ったし、火事になってないかの確認も兼ねてさ、どーやら邪を祓うもん専用みたいで、火遁(かとん)みたいな感じのじゃないみたいだった。相変わらず怪奇現象がすごくて半べそかきながらなんとかこの布とかを持ってきたってわけさ」

 「へぇ~、それはまた凄いね、頑張ってくれたんだ」

 「そりゃそうさ。めちゃくちゃ怖かったんだから」

 「私のためにわざわざありがとね」

 「そりゃ、お前の為ならな」

 「…もう」

 そう言う美火の顔はほのかに赤くなっていた。

 「さて、そろそろ行くか」

 「もう行くの?」

 美火はもう少し休んでいたいと言いたげな顔をして見上げてくる。

 「そりゃあんなおっかない所の近くでのんびりなんてできるかって」

 「…ま、まぁ、そりゃあ、ね」

 「でしょ。んじゃほれ、走るぞ」

 「うん」

 地図を見ながらただひたすら走る。

 とりあえず休めそうな場所はないか、周囲を時々見回しながら。

 ◇------------------------------------------------------------------------◇

 

結局休めそうなところは見当たらず、楼郷のすぐ側まで来ていた。

 「眠い」

 「右に同じく」

 「寝たい」

 「同じく」

 「ぁ〜…」

 「…zzz」

 「おいこら寝るな」

 「(。-ω-)zzz. . . (。゚ω゚) ハッ!」

 「とりあえず…着いた。山キツい…もう登らんあんな山」

 「やすもうよ…」

 「宿屋探さないと」

 お金は長旅になるということで20万も貰ってしまっている。

 鳳大さんはぶり良すぎて神様杉ワロリンヌ。

 「なあ、あれ宿屋だよな?」

 「ぅー…?あー…そうかもー…zz」

 「コラ寝るな」

 「(。-ω-)zzz. . . (。゚ω゚) ハッ! 眠すぎるんだもん…」

 「…背負ってやるから、ほれ」

 「ありゃとぉ…zzz」

 美火は俺の背中に身を預けるや否や即寝落ちした。

 「ったくコイツは…」

 そして宿屋らしき店の前についた。

 「すみませーん、ここ宿屋ですかー?」

 する遠くから狐の女の人が出てきた。

 「左様でございます、当宿屋は1泊3食で5千円でございます」

 「あら安い。泊まっちゃおうかしら」

 「ふふふ、面白いお方ですね」

 「いやぁ、何しろ昨日の夕方からずっと走ってきたもので、こいつも俺もクタクタを通り越して死にかけてまして…」

 「あらあら、ではご案内いたしますので、着いてきてください。軽食の用意もさせましょう」

 「あぁそれすごく助かります」

 そして案内されたのは2階の端の方の部屋だった。

 そこそこ広くて、大きな窓からは中庭の日本庭園のような庭園が良く見える。端の方なのに気にならない景色だった。

 風呂は露天で、どうやら(ひのき)の風呂らしい。植物とか同じなんだなぁと思ったが、昔はこちらの側とも交流があったと思い出して納得した。

 「取り敢えず布団敷かなきゃだよな」

 「おーい、下ろすぞー」

 人声かけて揺さぶるが起きる気配がないので適当に下ろして布団を敷いた後にたたき起こして移動させた。

 しばらく窓側の椅子に腰掛けて外を眺めていると先ほどとは違う狐が入ってきた。

 「失礼します、軽食のご用意ができましたので運んで参りました」

 「あー、ありがとうございます。今こいつ起こすんで-」

 「ご飯の匂い!!」

 ものすごい勢いで飛び起きてきた。

 「では、失礼致します」

 コトコトと食器が置かれる度に食欲が増す。

 「おぉ、軽食なのに結構数があるんだ」

 「はい、一品の量は少ないですが、その分品数を増やしてより多くの食材を味わって頂きたいということでこのような方式を取らせてもらっております」

 「ほぇー」

 「ねぇねぇ食べていいの!?ねぇねぇ!」

 「うん。じゃ頂くか」

 「いただきます!」

 「いただきます」

 目の前の食べ物をただひたすら黙々と食べ進める。

 数分足らずですべて平らげてシメのお茶を啜る。

 「はぁ~、美味かった!」

 「同じく」

 膳を下げてもらってから再度布団を敷き直す。

 もちろん俺の分も。

 「美味しかったねー」

 「だなー、これで五千円とは思えん」

 「そう?」

 「え」

 「?」

 「俺のところとかだと、こういう品のある食べ物とか宿屋って宿泊費だけで二万くらいか、それ以上取られるんだけど」

 「 」

 美火がぽかんと口を開けて固まってしまった。

 「そんな固まるほどじゃなくないか?」

 「…ぁー…、その、なんて言うか…高いよ凄く」

 「そ、そうか?」

 「ここじゃ一泊二万なんて本当にえらい人じゃないと」

 「そんなにか」

 「うん」

 恐ろしく安いんだな、ここ。

 そう思った。というか不思議にもなってきた。

 なぜここまで安いのか。

 「取り敢えずそういうことにしておこう。うん。」

 まだ日が出てはいるけど眠気と疲れがひどいので体を流して寝ることにした。

 ◇------------------------------------------------------------------------◇

 

 ふと目が覚めて周りを見回した。

 「ああ、そういえば宿屋に泊まってたんだっけか。美火は…いるな、よし。」

戸を開けると涼しい夜風が心地よく流れてくる。

 「いいもんですなぁー、こういうのも」

 一頻り夜風に当たってから俺は再び床に就いた。

 

 朝になると俺がまだ眠いのにも関わらず美火がバシバシと叩き起こそうとしてくる。

 「起~き~て~!」

 地味に痛い。

 たまに鳩尾にヒットするから洒落にならない。

 「痛い…痛いから。起きるから殴るのやめて」

 「とりゃあー!」

 「ゴフッ…」

 一番強烈なのが鳩尾に入った。

 死ぬ。無理死ぬ死んじゃう。

 「…い…た…い……」

 「だって起きないんだもん」

 「起きるからって言ったじゃないか…まあいいや、今日は楼郷を散策しよう」

 そうして美火と共に宿代を払って街に繰り出した。

 割と森モリした所が目立つ。

 森の吹き抜け的な開けたところに家々が並んでたりしてる。

 「結構街って言っても森と共生してるって感じなんだなー、ほらあそこ。すごい大きい巨木にくっつくように家が建ってるし」

 「そだよー、普通に地面に建ってるのはちょっとしたお店とか、あっちの方は割と都会じみてるでしょ?」

 「あー、たしかに。」

 「楼郷全体ではないけど、ああいったところで働く人もいるんだー」

 「お前って割と物知りなのな」

 「そりゃそうだよ、前に来たことあるもん」

 「そうなのか?」

 「うん、結構あの建物増えてて驚いたけどね」

 「へぇー」

 割と物知りな美火だった。

 雑談しながら歩いていると少し先にあまりよろしくないものが見えた。

 「なあ美火、あれやばいんじゃないか?」

 「どれ?…ぁー、やばいね」

 「どうする?あれ。助けた方がいいとかあるのか?」

 指を指しながら話している俺たちに気がついたのかあたりを見てたヤツがこそこそし始めた。

 するとよく見るシチュの《女の子を脅しまくってるやばい男達》はこちらに気が付きこっちへ向かって歩いてきた。

 もちろん女の子の髪を引っ張るという…なんと定番なシーンだろう。

 「おいテメェら何ジロジロ見てんだコラ」

 「いやべつに、なんか定番なことしてる定番のヤツらが定番な反応をしてるなぁと」

 「あ?殺されてぇのかお前」

 「えーっと、その、あー…」

 (変身みたいなことして驚かせて、怯んだ隙に一発蹴って女の子奪還して猛烈に逃げる…よしこれだ!変身とかもうあれだ!うん、あれだ、電〇で行こう!)

 そして覚悟を決めて深く深呼吸。

 「いいかテメェら、俺の変身、見せてやるからよく見とけ」

 主人公ご都合主義的スキルを発揮してベルトとライダーパスを出現させた。

 「変身! 俺、参上!」

 「んなっ!?」

 チンピラっぽいやばい奴らは一様に怯んだ。

 「俺は最初から最後までクライマックスだぜェ!!行くぜ行くぜ行くぜ行くぜぇぇええ!!!」

 剣はもう既に二本持ってるので迦具土神を抜刀して振り回しながら突っ込むと女の子を掴んでいた手を離したのでそこから加速して女の子に一番近いチンピラーズを蹴り飛ばして奪還

 「行くぞ美火!散策は中止!!」

 猛烈な速さでふたりを担いで逃走した。

 何故か追っかけては来なかった。

 「なぁ美火」

 「なにー?」

 俺達はまた宿屋の客間に来ていた。

 「なんであいつら追っかけられなかったんだ?」

 「それはほら、妖術師がどうのこうのって昔言ってたじゃない?そういう事よ」

 「いやわからん」

 「だからね?妖術師って言うのは…んー、前にお父さんが言ってたの覚えてる?」

 「ま、まぁ何となく」

 「その妖術師はなれる人となれない人がいるの私やお父さんはなれる人」

 「俺は?」

 「もちろんなれる人。半妖なのになれる人っていないと思ってた」

 「俺ってレアなケースなんだ」

 「そういうこと」

 「ふーん」

 「あの人たちはなれない人。妖術も使えないの」

 「じゃあ俺の敵じゃないの?」

 「まあ、そういう事かな」

 俺達が呑気に話してると連れてきた女の子が口を開いた。

 「あの!」

 「おおぅ!?」

 突然大きな声を出すもんだからビビったぜ…声裏返ってしまった。

 「さっきは助けてくれてありがとう」

 「いやーふつー助けるでしょー」

 「ううん、みんな見て見ぬふりだった…。私楓っていうの。桜坂楓」

 「おれは優樹」

 「私美火!」

  「…ねぇ、優樹、美火」

 「ん?」

 「どした?」

 「私を貴方達の傍に置かせてほしいの」

「えっ」




なんか疲れましたああああ…
次も時間かかりますけど書きます
面白かったら評価と感想よろしくです


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世界巡り-楼郷-下

すっごい久しぶりに投稿しました。
サボりまくってたから時間開きまくりました。
次もまたこのくらいの感覚か、あるいはもっとかかるかもw


【私を貴方達の傍に置かせてほしいの】

 

 [ まじやばくね。]

 

 「え」

 「?」

 いや、「?」じゃなくてさ

 「傍に置かせてほしいって?」

 「うん」

 「なんで」

 「あなた達の話聞いてたけど、なんだか強そうだったから」

 「だからついていくと?」

 「うん」

 「じゃあおっぱいを一揉みさせてくれたらいいよ」

 「ふぇ!?」

 「ち、ちょっと優くん!?」

 「さあ、選ぶのは君だぜ?」

 「ぅ…// くッ…す、すすす……好きに揉むといいわ!!!」

 バッと、まるで郷ひ〇みのように着ていた服をはだけさせ、その豊満な胸を俺の眼前へと突き出した。

 「……ごめん…ほんとごめん。冗談のつもりだったんだ…許せ」

 目の前に突き出された二つの果実に思わず赤面してしまった。

 だってなんか凄いんだもん。

 先っちょとか凄いんだもん。

 ムラっとくる前にこっちが恥ずかしくなる感じの凄いやつなんだもん。

 あと、すごくいい香りがしました。

 「〜〜ッ!!こんの大馬鹿ァァ!!!!」

 楓は顔を鬼灯の如く上気させ服を整えずに俺の腹部めがけて拳を振り抜く。

 「ゴフッ」

 衝撃で気を失う寸前に視界に入ったのは、たわわに弾み揺れる楓の胸であった。

 

◇----------------------------------------------------------------------◇

 

 「つまり楓ちゃんはここら辺じゃ裕福な家庭の出なのね?」

 「うん」

 「その割には服といい言葉遣いといい、なんだか」

 「ひとり暮らしで仕送りもらって生活してますが何か文句でも?」

 「はい、何もありません」

 「よろしい」

 うーん、この人なんだか気難しい感じがするんだけど

 「その、楓ちゃん」

 「なにかしら」

 「服、まだ直さないの?」

 「っ!ぃ、今直そうとしてたところなの!」

 そう言いながらも明らかに手つきが焦りまくっている。

 (なんか可愛いなぁこの子)

 そんなことを考えながらボーッと中庭を眺めた。

 その後私は気絶した優樹を敷いた布団に寝かせて、自分たちも仮眠をとることにした。

 

 「ん…ふぁぁ…もう夜、かぁ」

 隣では静かに寝息を立ててぐっすりと寝ている。

 壁にかけてある時計を見ると深夜1時を回っていた。

 「結構寝てたんだ…あれ?」

 優樹くんがいない

 「優樹くん?どこ?」

 私は起き上がって部屋中探した

 けど見つからなかった。

 不安になりつつも待つことにした。

 窓辺のソファに座り、机に肘をついて中庭から覗く夜の星を眺めた。

「優樹くん…まだ……かな…」

 急激に眠気が襲い、私は机に突っ伏すような形で眠ってしまった。

 

 「ぁ~…さっきはひどい目にあったぜ…。」

 腹パン決められてぶっ倒れてた俺が起きたのは夜中の12時。

 みんな寝てたから旅館を出てランニング中だ。もちろん変化してな。

 何にって?決まってんだろ、

ソ〇ックだ。

 そう。今俺はソニ〇クの姿になって夜の街をランニングしているのだ!

 「最っ高の気分だぜぇ!!」

 しばらく走り倒してから宿に戻った。

 美火が机に突っ伏して寝てる。

 何やってんだコイツ

 「ぉーぃ」

 軽く揺するが起きない。

 「そんな所で寝てっと風邪ひいちまうぜ?」

 頭をわしゃわしゃしてやったら起きた。

 「んぁ…?ゅーきくん…?」

 完全に寝ぼけてるなこれ。

 「お布団入っておねんねしましょーねー、ほら、抱っこしてあげるからおいでー」

 「ぁい…」

 返事が妙に可愛かった。

 美火はヨタヨタと俺の方にきてしがみついた。

 「ぃよっと」

 そうして美火を抱き抱え布団に入れてやった。

 布団に入ってすぐこいつはまた夢の世界に行ったようだ。

 俺は宿屋を暇つぶしに歩くことにした。

 「しっかしよく出来た宿だよなぁ〜これで飯がついて5000円とか神だろ。露天もついてんだぜ?普通なら安くても1万5千円くらいするんじゃないのか?」

 だって見た感じ重厚感のある漆塗りの木の柱とか、パッと見すげぇ高そうな照明とか…。

 すげーなー、異世界。

 すげーなー、俺。

 「さあて、あのプルンプルンおっぱいの楓様は連れていくべきかねぇー」

 ぶつくさ喋りながら探索を終え客間に戻り露天に入る。

 「ぁー、ひとっ走りして探索したあとの風呂はまたいいもんですなぁー」

 最近独り言が多くなってきた。歳だろうか?

 「···次はどこに行くかな。鬼蛇千あたりに行くとしようかな」

 その後、俺は風呂を出て床についた。

 

 

 「···めて·········た···けて!」

 「いやぁ!······樹ぃ!」

 「···うるさいなぁもう」

 あれ、体が動かない···どうなってんのこれ

 あたりを見渡すとがたいのいい狼みたいな奴らがいて···おい

 「美火と楓に何してんだ」

 「あ?見てわかんねーのか?襲ってんだよ」

 「イヤアアアアア!!!!離して!!」

 「やめっ···ひっ!?」

 そいつらは美火と楓に乱暴していた。

 「久々に上玉ゲットっすねぇ〜」

 離せよ。

 「よぉーしこいつらをアジトに持ってくぞー!お楽しみはそこで、な?」

 ドッと室内が盛り上がった。

 「いいっすねボス!よっしゃこいつら黙らせて連れてくぞ!」

 絶望に引きつった顔をして俺に助けを請うその声と瞳は、次の瞬間にはだらりと頭を垂レさせて連れていかれていた。

「お前らただで済むと思うなよ」

 「言ってろ言ってろ!どーせお前なんかじゃ俺らには敵わねーって」

 上機嫌で俺につばを吐きかけて嘲り笑ってそいつも出ていった。

 全員出ていった時に静かに怒りを内に溜めて、俺に付けられた拘束具を壊した。

 「迦具土神、大鎌。」

 「妖気解放」

 そしてそれらを帯刀し奴らに感づかれないように後をつけた。

 そして巨大樹のてっぺんをくり抜いて木の板で打ち付けられてある屋根に飛び乗り隙間から様子を伺った。もちろん怒りは猛スピードで臨界点を突破せんと突き上げてくる。

 

 「おら起きろ!」

 そんな大声と共に肌を張る音がした。

 「···っ!?ここはどこ!楓ちゃんは?!」

 「おぉ、あのパッツン楓って名前なのか〜。おらここだよ」

 指を指された方を覗くと

 全裸に剥かれ子種をぶちまけられた楓が気絶していた。

 「っ!!!あんたらなんてことしてくれるのよ!!絶対許さない!優樹くんだってすぐにここに来る、そうすればあんたらなんてみんなボコボコよ!」

 「わっかりやすい虚勢張っちゃってー、あいつにはきっちり拘束具をつけてきてんだよ。来るわけねーし、それに」

 その大柄な男は美火の服を引き裂き、その胸を鷲掴みにした。

 「!?離して!!」

 「そんなにぷるぷる震えてちゃたまんねーよなぁ」

 「いや···なによそれ···っ···こすりつけないでそんな汚いもの!」

ここまで気分の悪いもの見続けたらもう単純な怒りじゃ済まないよな。

 「こいつら殺そう」

 「神刀よ、俺の怒りを吸って、その力を解放しろ」

 すると武器は禍々しい妖気を纏い始めた。

ドン、と屋根を踏み鳴らした。

 「あ?おいそこに誰かいんのか!」

 「いるさ」

 屋根を踏み落としてこのわけのわからない集団のただ中に着地した。

 「お前ら、これからどうなるか、覚悟はできたんだろうな」

 「あ?なんでてめぇがいんだよ、まあいいや。これからお前の女、犯してやっから···」

 言い終わらないうちに俺はソイツの首を跳ねた。

 他の奴らが後ずさった。

 「おいお前ら。」

 「なっ···なんだゴラ!」

 「そこの楓、中に出してねぇだろうな」

 「ったりめェだろ!最初に中にぶち込むのはボスなんだからよ!」

 それを聞いて多少は安心した。

 「そうか、それでそのボスはどこだ」

 「そろそろここにつく頃だ。まあ、ボスの前にはお前なんてひとひねりだけどな」

 「そうか。じゃあその前にお前らをひとり残らず殺さないとな。」

 「は···」

 そいつの首をはねて鎌と迦具土神の二刀流で虐殺を始めた。

 「ほらほら、もっと悲鳴あげて死ね」

 辺りに聞こえるのは断末魔と血の飛び散る音、切りつける音、倒れる音。それだけだった。

 結局大した時間もかけずに皆殺しに出来た。

 「おーい帰っ···おいテメェ。こりゃ一体どういうことだ」

 「俺の大事な奴らにこんなことして、生きていられるとでも思ったか?」

 「てめぇこそ仲間を皆殺しにしておいて生きて帰れるわけねぇよな?」

 「神刀迦具土神、御霊を以て全てを燃やし無に返せ。」

 たちまち刀身は燃え盛り刀身そのものの姿も禍々しく変えていく。

 「怨みの炎は苦しいぞ」

一気に間合いを詰め正面から切りつける。

 そして切りつけた傷跡からは炎が燃え広がり、一瞬の内にボスの全身をその赤黒い炎が包んだ。

 「ぐ···ぁ···あああああ!!!!」

 「死ねよ早く」

 もう一度間合いを詰め蹴り飛ばし木の柵を越えて30mくらいの高さから落下していった。 

 

 「美火」

 「···優樹···くん······」

 楓にボロ布を巻いて抱き抱えた。

 「お前は、俺の服貸してやるから、宿に戻って体洗っとけ」

 「う···うん」

 美火は貸した服を着るや否や猛スピードで宿屋に走っていった。

 「···楓···おい、起きろよ楓」

 尻をパシパシ叩いて呼びかける

 「···助けてくれたの···?」

 「ああ。」

 「おっそいよ、もう入れられちゃったよ···気持ち悪かった」

 「すまない···お前達をやった奴らはひとり残らず殺した。もうお前らを狙う奴はいない」

 「···そっか···」

 「今から川に行ってお前のその汚いの流す。それから宿に戻って風呂に入れる」

 「···うん」

 

 その後は、あまり覚えていない。

 あの光景は覚えてる。

 ああいう奴らからも守らないといけない。そういえば、殺したやつの中に最初楓に詰め寄ってきた奴らと同じ顔の奴がいた。

 きっとそこの所の集団の片割れだったんだろう。

 とにかく、そんなことがあって今は宿を出て鬼蛇千に向けて移動している。

 あんなもんは二度と見たくない。

 

 




見てくれた人ありがとうです


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世界巡り―鬼蛇千― 上

遅れましたーすみせん
できれば感想などをお聞かせ願います


「······きて·········お···て···」

 「んん···」

 「おきて!」

 「なに!?」

 大声でゆすられて俺は飛び起きた

 「あ、あれ?ここは」

 「楼郷の宿屋、優樹くんたらもうぼけちゃったのー?」

 ···は?いやいやいや、だってお前ら犯されてたじゃん。

 「え、いや、お前らあいつらに捕まって服剥がされて無理やり犯されてたじゃないか」

 「···何気持ち悪いこと言ってるのかな?」

 「私達はそんな人知らないしそんな目にもあっていない」

 あれぇー?

···夢?夢なの?まさかの夢オチなの?いや別に犯されるのが良かったとかなんて思ってないしそんな事実なかったならほんと安心なんだけどさ。

 「そ、そうなの···うーん。正夢とかになったらホント堪ったもんじゃないよな···。」

 「何をゴニョゴニョ言ってるのよ」

 「うん、今すぐここ出よう、鬼蛇千行こう、ね?ほらいこう」

 手早く荷を纏めて支度する。

 そして会計を済ませて鬼蛇千へ向かう。

 「久々に元の姿にでも戻ってみるか」

 「元の姿?」

 「楓にはまだ言ってなかったな」

 「?」

 「俺は、元人間なんだ」

 「!」

 ピンと耳を立て手驚いてる楓すごく可愛いんだけど何この可愛い生き物。

 「この剣と鎌を抜刀して戦うにはこの姿じゃなきゃならねーからな、今は納刀してるけど、便利すぎてこっちのがいいなってさ。そんでこれが」

 妖体化を解き、くるっと1回りしながら続ける。

 「本当の僕だよ。」

 「僕?」

 「半妖になってると口調が変わるんだよ」

 「そうなの」

 「美火~、何むくれてんのさ」

 「べーつにー」 

 「···ふふっ」

 「どうしたの?楓」

 「ううん、なんか私、こっちの優樹もいいなって」

 「···??」

 「優樹くんたらにっぶーい」

 僕の数歩先をくるくると回りながらはしゃぐ美火。

 それに続くように僕の手をひいて走る楓。

 ···これが、モテ期ってやつなのかなぁ。

 「残金二十六万、かぁ。あんまり使いたくないなー」

 「鬼蛇千ってね、害獣駆除とか除霊依頼だとかを取り扱ってる施設があるんだってー。そこで少しお小遣い稼ぎしてみる?」

 「そんなのあるんだ」

 美火って意外と物知りなんだなー

 ···僕が知らなすぎるのか

 「鬼蛇千っていい感じの雑木林ってないの?」

 「いい感じって?」

 「多分あると思う。旅館街からちょっと歩いたところに森もあるよ」

 「ふむふむ···じゃあこいつが役に立ちそうだね」

 「?」

 僕はおもむろにバッグを漁り、派手に取り出して見せた。

 「野宿セットさ!」

 「「えっ」」

 秘密基地感あっていいかなって思ってたけどなんか、すごい引かれてしまった。

 だ、大丈夫だって居住性もいいんだしさ

 「ね?ね?いいでしょ?」

 「···しょうがないなぁ、あんまり野宿はしたくないよ?優樹くん」 

 「わ、、わかってるって」

 二人はむくれながらも承諾してくれた。

 そしてやっぱり半妖化して走って鬼蛇千へと向かった。

 

◇----------------------------------------------------------------------------------------◇

 

 「今度は船かー」

 八咫烏のような鳥が俺の頭上を飛んでる。

 「あと1時間って言ってた」

 「おぉ、ありがと楓」

 わしゃわしゃと撫でると、楓は気持ちよさそうにそれを受けていた。

 「あー!楓ちゃんだけずるーい 私もー」

 「はいはい」

 「んふふ〜」

 美火も気持ちよさそうn··· にやけすぎだよなんだよその顔芸。

 「···あ」

 「?」

 「どうした?」

 ふと思い出した。初めてあの剣を持った時に、繰り出した衝撃波のようなあれを最近出してないことを。

 「この鎌、あの岩以来使ってないような」

 「争い事がないだけいいじゃない」

 「うんうん」

 二人は楽観的にそう言った。

 「でもさ、夢で見たあの胸糞悪いことが起こった時、やっぱり抜刀しなきゃなんだよね」

 「「うわ···」」

 あからさまに引いた風にあしらわれた。

 「いやなんでそうなるのさ··· じゃなくてさ、そういうのもあるかもしれないから、刀、抜刀してちょっとだけ振り回してみようかなって」

 「んー、まあ、あんまりあたりを荒らさないでよ?」

 「そんなにすごいの?優樹の持ってる剣」

 「まあ見てみればわかるよ、ほら、あんまり近いと危ないからこっちおいで?」

 「うん」

 おっふ、これは可愛い。

 背の低い楓の後ろから手を回しているさまは、まるで萌の一種の頂点を彷彿とさせるものだった。

 「それじゃ、いくよ··· ハァァッ···!」

 いつもと違って赤黒い妖気が俺を包んだ

 「あれ···おかしいぞこれ···ぐッ」

 「優樹くん!?大丈夫!?」

 妖気が一瞬巨大な旋風のように渦をまいたかと思うと、以前とは違う姿になった。

 「美火、か、鏡持ってきて」

 鏡を受け取り自分の姿を見る。

 「わぁお。すげぇ。狼じゃねこれ」

 「優樹、優樹」

 「んぁ?なんだー?楓···んおっ!?」

 楓が俺に抱きついてきただとおお!?

 なんという、なんという神回!

 「こっちのがいい」

 ちょっと俺を否定された気が···

 「さ、さあ、ほれ離れてな よーっし、いっちょやりますか」

 大鎌剣を抜刀して一振してみた。

 「あれ?なんともなんねー。」

 「なんで?」

 「さぁ?」

 「もっと気合い入れなよ」

 「えぇ···」

 ぶつくさいいながらもう一度試してみる

 「集中集中···ふぅ、いくぞ···ォォオラァ!!」

 思い切り縦一線に斬りつける。

 刹那、雷鳴のような轟音とともにとんでもない衝撃波が前方に飛んでいき、爆散した。

 「ひっ!?」

 「ぉー」

 「おー出来た」

 楓はビビり、美火は感心したような声をだし、俺はできたことに対して若干驚いた。

 「すげーなんか前よりでかくね?これ」

 「う、うん 前よりも桁違いよ」

 「な、なんなのこれ」

 ビビりまくった楓さんがとてつもなく可愛いのです。頬擦りしたいのです。萌え死にそうですね。

 「わかんね、衝撃波って呼んでるけど どういう原理で出るのかはわからない高威力っぽい何か、みたいな?」

 「いやいや、あの廃屋消し飛んでるんだから高威力以外の何物でもないでしょうが」

 「廃屋ってわりと朽ちてんだぜ?んなモンぶっ壊して高威力ってちょっとなぁ」

 「ぇー」

 「ぇーじゃなくてだな···ちょっと壊したとこ見てくる」

 ピョンピョンと爆散したところに向かってまた驚いた。

 衝撃波の傷跡は建物の後ろ森の方へ放射的に伸びていた。

 「わぁ、、これ危ないから加減しないとダメだな。恐ろしいわ」

 その後すぐに二人の元に戻りどうなっていたかとかを伝えた。

 「それは危ないね」

 「うん」

 「だろ?だから加減しねーとなぁーって。とりあえずさ、鬼蛇千行こう。日が落ちそうなんだけど」

 「鬼蛇千に行くにはね、船に乗らないと行けないからそこに向かわないとね。夜は船出ないから船着場の近くに宿あるし、そこで待ちましょ?」

 中々物知りだな、、とは思いつつ美火の言う通りにすることにした。

 「にしても何ここ。部屋クッソ狭いじゃん。ダブル席のネットカフェかよ」

 「「?」」

 「あーいやなんでもねーよ、こっちの話」

 「狭いのは仕方ないじゃない。一人用なんだから」

 「私はここまで狭い人利用の個室は初めて見た」

 「楓もそう思うよな」

 「うむ」

 「うーむ···マットタイプか···仕方ない···。」

 とまあこの日はギュウギュウ詰めで一夜を過ごしたが、やたら甘い匂いが両側から香ってきて木っ端ずかしくなり眠れなかったこと以外は特に何もなかった。

 

 「···ぅーん···」

 いつもより体が重く、且つ息苦しいが、甘い匂いが鼻腔を駆け巡り、脳をピリピリと刺激したまらず目が覚めた。

 「ぅゎ···」

 美火と楓が俺を抱き枕にしている。

 しかも手足を俺の四肢に絡ませていて、身動きが取れない。

 いや、解こうと思えば解けるのだろうが、この場合動かすと。

 このとおり更にしがみついてくるから声をかけて起こさないといけない。

 「おーいお前ら、起きろよ」

 が、反応がない。

 「美火、起きないといたずらするぞ?いいのか?」

 今度は耳元へ声を投げる。

 「ぅぁ···ふぁあ〜···おはよお」

 耳元に声をかけると割とすぐ起きる。

 今度は空いた手を使って楓を揺さぶり、起こしてやった。

 「おはよう優樹」

 「おはよう楓」

 俺は楓の寝起きな頭を撫でてやると、楓は目をしぱつかせながら受けていた。

 「優樹くーんそろそろ最初の船くるよー」

 「おーう、割と早いなー」

 船の始発は8時半のようだった。

 そして俺達は乗船し、しばらく揺られて鬼蛇千へと到着した。

 「うぉー、紅葉すげぇな」

 「凄いねぇー···」

 「うん···」

 一面赤や黄に紅葉した樹木に出迎えられつつ今日の宿になりそうな所を探すのだった。

 




また次の話をのんびりと書いていきますから長い目で見てやってくださいまし


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