警察本部 零課 (もののあはれ)
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零章
プロローグ


(さる)(とび)水鯨(すいげい)麒麟(きりん)(ほむら)……」

 呼ばれた者たちが、声の主の方を見た。ビルの屋上では、夜風が冷たく頬に当たり、顎髭を長く伸ばした声の主は、髭をなびかせながら、彼らにこう言った。

 「君達は、日本の“大黒柱”になりなさい」

 それが(ほむら)の好きな言葉だった。そう思いながら、焔は静かに目を閉じた。

 

 二○二〇年、今、日本は世界トップクラスの力を持っていた。かつての日本は“戦争をしない国”と称されていたが、他国から攻撃を受け、日本の滅びかけていた。

 日本はこの困難を乗り越えよう、さらに軍を強くしようと、日本政府は、囚人などを使い、ある実験を行った。

 二〇〇〇年、その実験は、P3(ピースリー{Perfect Power People})と名付けられ、ある二人の学者が作ったP3菌を使い実験をした。その実験のために数多くの人々が犠牲になったが、そのお陰もあり、日本は、無事実験が成功したのであった。

 生まれてしまった失敗作は、日本が所有する島へ隔離、処分しようとした。しかし、失敗作殲滅部隊「ヘラクレス」が向かうと、返り討ちにされてしまった。

 やがて、失敗作は、段々と日本へと上陸してしまった。

 

 そこで、現内閣総理大臣、國崎敏正(くにさきとしまさ)は、より多くのP3の成功作を使って、失敗作を抹殺していった。事態は、急速に解決されるとされたが、それでもなお、日本政府の手から免れた失敗作がいた。奴らは陰に住み、日本政府に復讐の機会を伺っているに違いない。

 そこで國崎敏正は、成功作の中でもエリートを寄せ集めた特殊部隊を結成した。それが、警察本部 零課である。そこには、未成年ながらも超人的な能力を持った者が集まっていた。零課の監視により、失敗作は、日中には姿を現さなくなった。しかし、夜になると、少なからず失敗作は現れる。零課は、そこを活動時間と定め、抹殺してきた。

 

 今や、国民の九割以上がP3の成功作である日本は、他国に威圧をかけた。瞬く間に、他国からの威圧は減っていき、日本は、底辺から、トップクラスへと上り詰めた。

 しかし、そんな世の中に、一つの組織が立ち上がる。その組織は、全員が失敗作であり、国から見捨てられた者ばかりだった。

 彼らは、日本政府に復讐をするために集まったのではない。日本を救うために結成された組織である。

 「大丈夫か……?焔」

 焔は、静かに首を縦に振った。

 「これから始まるのか……」

 焔は、声を掛けた。

 「怖いのか……?」

 「いや、怖いというか、なんて言うか……、戻れないっていうか……」

 「戻る必要はないんじゃ、儂らは、将来のため、未来を救うんじゃ……」

 その言葉と同時に、太陽が平行線から顔を出した。



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一章
一 全ての始まり


 桜が華麗に咲いている頃、憾咲夢(うらさきゆめ)は、とある学校に向かっていた。夢はは、“ある任務”のために学校へ向かっていた。

 今の日本は、P3による超人化現象にあった。このP3のおかげで日本は飛躍的な成長を遂げた。しかし実権には多くの犠牲が生まれた。その失敗作達は人に害を加えるということで、殺処分された。

 しかし未だに殺されず闇に生きていることがここ最近わかった。そこで現総理大臣 國崎敏正(くにさきとしまさ)は、成功作を使い、日本に潜んでいる失敗作を探すという最重要任務を任されたのだ。

 夢は、東京にある私立高校へ向かった。ここ東京には失敗作の他にも、違う噂が流れていた。

 それは、謎の組織「徒陰(とかげ)」である。ここ最近で、仮面を被った未成年と思われる者がに失敗作を次々と誘拐される事件が発生している。国としては失敗作が消えて良いのだが、国はその徒陰という名の集団を指名手配。今でも追っているが尻尾が掴めない。

 

 そこで結成されたのは、 警察本部 零課だった。零課は厳正な審査を通過した完璧に近い人たちで結成された特殊部隊だ。IQ平均三百以上、数々の体力測定測定不能、特殊任務までこなす超エリートだ。

 夢は特にIQ千を優に超していた。武道は主に、柔道、剣道、キックボクシングの三種を完璧にマスターしたいた。夢はこの力で総理の力になると決めていた。夢は必ず徒陰を捕まえられると思った。

 夢は校舎内へ向かった。まず校長室に向かい校長先生に挨拶をした後に、担任の元に促された。担任の先生はとてもがたいの良い先生だった。どうせ、P3のお陰だろうと、心の中で思っていた。

 夢は先生と共に教室に入った。教室の中では夢のことで持ちきりだった。夢を見てコソコソ話をしている。先生が一通り説明をしてくれたので夢はよろしくお願いします、と頭を下げるだけで充分だった。先生は、

 「とりあえずあっちの、神木君の隣に座って」

 夢は先生に一瞥して、その神木という人の隣の席に座った。隣の神木は、赤い髪に、赤い瞳と、周りとは違うオーラを醸し出していた。

 「俺は、神木炎司(かみきえんじ)だ。よろしく」

 炎司は無愛想に答え、勉強をしていた。炎司はクラスの中で一切私に興味の無い分類の人だった。

 (私、可愛いと思うんだけどな……)

 それから炎司は、夢を一切見ず授業を受けていた。ここまで興味が無いと夢もさすがに気になってしまった。そこで夢は、

 「私に興味ないの?」

 と聞いてみた。すると炎司は、

 「……興味無い」

 と言い、ノートに目を戻した。夢は行き場の無い気持ちに襲われたが、こっちにも興味が無かったので気にしなかった。

 それから、授業の休み時間にある一人の男子に話し掛けられた。その男子とは、このクラスの学級委員の 狐火火叢(くらまほむら)だった。

 「憾咲さんを歓迎という形で皆でカラオケに行こうと思うのだが、どうかな?」

 私は面倒と思ったが、そっちの方が色々メリットがあったので私はその提案にのった。

 放課後、約束したとおり皆でカラオケに行った。クラスの(ほとん)どがカラオケに来ていて、思った以上に盛り上がれそうだった。炎司はカラオケには来ていなかった。カラオケ中も狐火の配慮で充分に楽しむことができた。

 私は狐火が徒陰の一人、狐のお面の(ほむら)だと推測した。狐火はとてもがたいが良い。そのことについて聞いてみたら、趣味でトレーニングをしているそうだった。

 どことなく怪しい。これは、狐火に集中を向け調査した方が良さそうだと思った。このままいけば、早期逮捕が望める。私は欲望に浸っていた。

 

 パトカーのサイレンと共に犬が吠えている。どっかで事件があったのだろう。

 とあるビルの屋上で、二つの影があった。

 「あの女どう思う?」

 (とび)のお面をつけた男が狐のお面をつけた男、焔に話し掛けている。

 「さあな」

 焔はビルの下を歩く夢を見ながら、鳶のお面の男と共に夜の街へと消えていった。



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二 徒陰

 真っ暗な空間にうっすらと蛍光灯の光が灯っており、異様な空気を醸し出していた。あるマンホールから少し歩いた所にあるビニールシートをめくると、今警察が死ぬ気で捕まえようとしている「徒陰」のアジトがある。

 炎司は、狐の仮面を外し、黒のパーカーのポケットにお面と片手を突っ込んで、目の前にあるドアの前に立った。

 ドアを開けると、そこには失敗作と言われている人たちが(かくま)われている。この人たちは、元は政府に殺されるはずだったが、炎司たちが保護した。炎司たちも元は失敗作として殺されるはずだった。しかし、師匠と呼ばれる大道寺政宗(だいどうじまさむね)に助けられていた。

 師匠は、P3実験最初の成功作だそうだ。成功作の中には、特殊能力を持っている人がいる。各部分に特殊能力が発現させることができる。彼らの特殊能力は例えば巨人化するといった強力なものばかりだ。しかし失敗作の中にも特殊能力を持った人たちがいる。彼らは、人の原形を留めず動物や、幻獣になることができる。

 「失敗作こそ本当の成功作なのだ」

 大道寺の口癖だった。今では、炎司の一番好きな言葉だった。大道寺の言葉は予言だ。大道寺は近い将来不吉なことが起きると言っていた。それを思い出した炎司は、その記憶を振り払うようにドアを開けた。

 アジトに入った直後、スピーカーから、

 「二丁目で失敗作を2名確認。至急保護せよ。なお、零課の憾咲夢も確認。保護の場合には十分に気を付けるように」

 それを聞いた瞬間、炎司はお面を付けアジトを飛び出した。徒陰にはより多くの人材が必要だ。炎司、もう一人の徒陰の柱に連絡をした。

 「鳶。行けるか?」

 「ああ、もちろん」

 俺はアジトを飛び出し、失敗作の元へと向かった。

 

 一方その頃、夢は失敗作を捕まえようとしていた。

 「大人しくしなさい!」

 失敗作の二人は、夢を睨んでいる。しかし彼女は至って冷静だ。それどころか捕まえる自信しかないのか微笑んでいた。すると失敗作は犬のように遠吠えをした。すると野良犬たちが集まってきた。

 「なるほど。これがあなた達、犬の能力ね。これで新しい情報が得られたわ」

 二人は再び、犬のように吠えると、野良犬たちが目掛けて、襲いかかってきた。

 すると彼女は、目を見開き全ての野良犬たち全てを避け、野良犬を蹴り飛ばし、野良犬たちを怯ませた。失敗作はビビりながらも夢に向かって四つん這いになって飛びかかった。しかし、夢には当たらない。攻撃が当たる寸前に避けていた。失敗作はかなり戸惑っている。すると彼女は、物凄い勢いで失敗作に近づき、蹴り飛ばした。失敗作は吹っ飛び、吐血して倒れた。

 「すげえな。あれが憾咲夢の能力“ハイスペック”か。あいつの脳ミソは、尋常じゃないな……」

 シューと水鯨がガスマスクから息を吐きながら言った。

 「そんなことより、早くあいつらを助けねえと」

 鳶が今にも飛びそうになった。

 「止めとけ。あいつの力を侮ったら痛い目に遭うぞ……?奴はの動きを予測して動いている。しかも、ほぼ間違っていない」

 「じゃあ、どうするんだ?」

 「俺が行く」

 「良いのか焔……?お前だって十分危険だぞ?」

 水鯨は心配したが、炎司は、微笑み、

 「俺が負けるとも……?」

 水鯨は、微笑みながら

 「わかった。必ず戻れよ」

 と言った。焔は頷いてビルから飛び降りた。

 「所詮、失敗作ね。こんなザコ、私じゃなくても、余裕ね」

 「お嬢さん、その二人俺にくれねえか?」

 夢は、内心とても驚いていた。彼女の能力を持っても予想すら出来なかった。それほど、焔が前触れなく自分の背後に現れたことにショックを受けていた。

 夢は担いでいる二人を上に高く投げ、焔に回し蹴りを喰らわせた。手応えはあったが、焔は揺れ消えてしまった。

 夢はキックボクシングの基本スタイルで彼に何発もキックを浴びせる。しかし、焔には攻撃が当たらない。

 「何でよ!私の能力で当たるはずなのに!」

 「お前が予測できるのは獣の単純な動きや柔道や空手とか世界の格闘技ぐらいだろ?……お前には無理だよ」

 「どういうこと?教えなさい!」

 「それは自分の目で確かめろ」

 そう言い、焔は体に力を込めた。すると体中から毛を生やし、九尾の尻尾も生やした。

 「私の能力では、攻撃は不可能よ!」

 「お前の脳ミソの予想と俺のスピードではどっちが早いと思う?」

 そう言い、焔はさっきとは比べものにならないぐらいのスピードで突進し夢に強烈な体当たりを喰らわせた。彼女の予測は追いつけずもろに入り、そのまま派手に吹っ飛んだ。

 「じゃあな」

 「ま、待ちなさい」

 「嫌だよ」

 焔は二人を担ぎ、去っていった。

 「おいおい、殺さなくて良かったのか?」

 鳶が、炎司に問いただした。

 「師匠の約束忘れたのか?」

 「そうだったな」

 そう言って焔は裏路地の闇へと消えた。

 

 憾咲夢(うらさきゆめ)能力“ハイスペック”

 ・とても頭が良い。高性能コンピュータをはるかに上回る頭脳。

 IQはおよそ、千を超えている。




 憾咲 夢能力“ハイスペック”
 ・とても頭が良い。高性能コンピュータをはるかに上回る頭脳。
 IQはおよそ、千を超えている。


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三 体育祭

 夢は悩んでいた。それは今週末に行われる体育祭の参加不参加どちらにしようか迷っていた。今の時代、体育祭をやっているのはこの学校しかない。

 今の時代はP3により、体育祭が過激になり(ほとん)どの学校が体育祭を断念した。だがこの学校は保険の先生の能力により、体育祭を行うことが出来る。保健の先生、堀田恵子(ほったけいこ)先生の能力“治癒”は、回復力を活性化させることが出来る。堀田先生は、この学校だけではなくあらゆる病院に引っ張りだこだ。

 「体育祭について悩んでいるのかい?」

 学級委員の狐火君が話し掛けてきた。

 「うん。私、あんまり力には自信ないから」

 「そうなの?憾咲さんは、武闘派だと思ったんだけどな」

 「そうー?」

 「まあ、なんとなくだけどね!」

 やっぱり狐火君は怪しい。

 (私が武闘派だと言ったのは、昨日私と戦ったから言えることなの……?もう少し探ってみようかしら……?)

 「そう言えば、炎司はやるのかー?」

 狐火が、炎司に話し掛けた。炎司は、読んでいた本から顔を出し、

 「俺はパス。そもそも俺能力ないし……」

 「やっぱりなー」

 私は決めた。私は参加することにした。参加者の中に徒陰がいる可能性が高いからだ。だが、あまり目立たない行動がしたいので、一回零課に持ち帰ることにした。

 零課には私を入れて、三人の高校生がいる。その三人は零課では「國崎の懐刀」の呼ばれている。何でも、この三人は國崎首相直々に手ほどきを受けた子供で能力は折り紙付きだ。

 男子総合格闘技無差別XXX(トリプルエックス)級絶対王者“キングカズヤ”横田一哉(おうだかずや)に、アーチェリー世界選手権絶対王者“トゥワイス”國崎義正(くにさきよしまさ)。そして、全世界数学オリンピック絶対女王“頭脳女王”憾咲夢、この私だ。

 零課に行くと、一哉は筋トレ、義正は勉強をしていた。私は、他にいる零課の人達も集めて、体育祭について話し合った。

 「一哉どう思う?」

 「俺は行った方が良いと思うぜ!闘うの好きだし!」

 「あんたね……。まあいいや。義正は?」

 「僕は反対だ。もしも徒陰がいなくて、奴らに夢の能力を研究してたら?奴らにとって良い機会になってしまう」

 「その事なんだけどね………」

 夢は以前起こった焔との戦いを説明した。

 「え、夢が負けた?」

 「奴の力は計り知れないわ。早急に始末しないと、いずれ巨悪になるに違いないわ」

 「それはそうと、体育祭出るのか?」

 「出るわ。学校内の生徒の能力把握にも丁度良いし」

 そうして、私は体育祭に参加することになった。体育祭前だからと言って特にやることのなく当日を迎えた。

 

 生徒たちは会場の第二グランド兼総合競技場のβ(ベータ)へと向かった。βはとても広くただでさえ広い学校と同じようなの大きさだ。

 この体育祭では、クラスの中から男子四名女子四名計八名の出場権が与えられる。(最低でも男女一名ずつ出場が強制されている)私達の学年は二クラスしかなく、最大でも八名しか出場しない。(奇数などの人数の場合はシードが生じる)

 最初に三キロの持久走兼障害物競走があり、そこから、上位六名をトーナメント形式で戦う。

 夢たちのクラスからは、男子からは伝田雷希(でんでんらいき)能力“帯電”。女子は夢がエントリーした。夢のクラスは能力を持つ人が少ないらしい。一方隣のクラスのB組は、男子が町田望(まちだぼう)能力“マッチ棒”。阿瀬操操(あせそうそう)能力“操汗”。草木茂(くさきしげる)能力“ツル”。蝶田羽(ちょうだはね)能力“羽”。鏡崎未来(きょうざきみらい)能力“鏡”。草木華子(くさきはなこ)能力“花”と言った六人が出場した。

 皆この日を楽しみにしているかのような顔つきだ。私は、徒陰つまり失敗作の能力を持った人を捜していた。だがしかし、そのような能力の人はいなかった。私は読みが甘かったと後悔しながら、グランドに整列した。朝礼台の上では校長先生が話をしていた。どうでもいい話だったので聞き流していた。校長先生の話が終わると、堀田先生から諸注意等をうけ十分後に開始すると言われた。

 私はとりあえず選手控え室に休んでいた。あっという間に十分が経ち、放送で選手が呼ばれた。選手はスタートラインについた。

 『間もなく、三キロメートル障害物競走が開始致します』

 すると、客席から声が消えた。一応陸上の礼儀はあるようだ。校長先生はピストルを手にした。そして、校長先生はピストルを鳴らした。

 その瞬間、一斉に飛び出した。数名は能力を使って移動している。(ほとん)どがスピード向きの能力ではないらしい。でも全員速い。このために努力をしてきたことがわかった。

 『現在トップは、蝶田さん!』

 蝶田は羽を使い、物凄いスピードで飛んでいる。すると急に目の前から、ロボットが出てきた。蝶田さんは思いっきり頭にロボットがぶつかった。

 『最初の難関ロボット軍団です』

 皆が苦戦している間に夢はどんどんロボットを破壊していく。

 『ここで憾咲さん、軽やかな足取りでロボットをどんどんなぎ倒していきます』

 私は周りを見渡した。余裕の表情なのは、伝田に町田、それに草木だ。彼らは能力を使っている。私は辺りの敵を倒し、先へ進んだ。私が独走していると、目の前には壁があった。

 『第二の難関、無の壁です』

 壁に手を掛けるものがない。だが私は関係ない。私は壁に指で穴を開けそれで登っていった。これに司会も驚いている。私に続いておりますどんどん登っていく。

 残りわずかだと言うときに、

 『最後の難関、地雷と落とし穴の三途です』

 (名前、適当だわ……)

 夢はあえてそこに触れず走り続けた。後ろの人達は殆どがバテてきている。このコースはよく見てば地雷がわかるようになっているので余裕だった。夢は、一位でゴールした。その後にどんどんとゴールしていった。夢は余裕表情だった。

 (こんなのボスの特訓よりも楽すぎよ……)

 夢は電光掲示板を見た。そこには順位が堂々と載っていた。

 一位 憾咲夢 二位 蝶田羽 三位 草木茂 四位 阿瀬操操 五位 鏡崎未来 六位 伝田雷希 となった。私はトーナメントを早くやって帰りたかった。こんな体育祭無意味。徒陰のいない体育祭なんか無意味。そう思っていたからだ。

 夢は何も言わずに控え室に向かった。途中で狐火君に会って、

 「お疲れさま」

 と言われたので会釈だけした。

 次はトーナメント戦だ。私は特に焦ることが無かった。




 
 堀田 恵子能力“治癒”
 ・人の治癒力を活性化させ、急速な回復が出来る。
 しかし、疲労が大きく、やり過ぎると死に至る。


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四 体育祭決勝

 体育祭は只今、午後に入り掛かろうとしていた。夢は現状を義正に報告した。義正は溜め息をしていた。

 午後の部は、トーナメント戦。トーナメントの配分は、

 憾咲夢vs鏡崎未来 蝶田羽vs阿瀬操操 草木茂vs伝田雷希 という感じだった。

 夢は初戦だった。間もなく選手が登場するという放送が流れている。夢は勝っても負けてもどっちでも良いと思っていた。

 そう思っていると、自分の名前を呼ぶ声が聞こえたにで、なんとなくステージへと上がった。相手は鏡崎未来。能力は鏡にまつわる能力らしい。私は、手首を回しながら準備体操をした。相手は目を閉じて深呼吸をしている。

 「間もなく、トーナメント初戦が開始します。まずは、憾咲夢さん。転校生ながらにも予選トップです。

 続いて、鏡崎未来さん。前大会同様頑張って下さい……。それでは第一回戦……。スタート」

 鏡崎はコングと同時に夢目掛けて走ってきた。夢は走ってくる鏡崎に思いっ切り殴った。しかし夢のパンチの威力は自分自身に返ってきた。

 (なるほどこれが彼女の能力か。だが、私の能力の前では無意味!)

 私はあらゆる武術の攻撃をした。彼女は戸惑いながら、避けている。が、一つの技がかすり、彼女が倒れてしまった。その拍子に手から鏡が落ちて割れてしまった。彼女の顔が青ざめていくのが見ててわかった。彼女の隙を見つけ私は彼女を押さえ込んだ。すると、彼女の口から

 「ま、参ったわ……」

 その声を聞いた審判が私の方に手を挙げた。私は勝ったらしい。何とも普通な闘いだった。

 そう思いながら、入り口へ戻った。五分後、次の試合が始まっていた。私は興味が無かったので、休憩も兼ねて睡眠を摂っていた。起きると、決勝間近だった。

 決勝は三人でのバトルロワイヤル。水の上に浮いている競技場の上でバトルを行い、一番最後に残っている人が優勝だそうだ。決勝に残ったのは、蝶田羽、草木茂。

 どちらでも優勝して貰って構わないが、一応こっちにも零課としてのプライドがある。なので本気を出せて貰う。

 「いよいよ本大会も終盤、決勝です。

 改めて、選手を紹介します。まずは、憾咲夢さん。圧倒的な実力を見せつけ、転校生ながら、決勝出場です。続いては、蝶田羽さん。得意の飛行で頑張って下さい。そして、最後の出場者は草木茂くん。三年連続優勝を目指して頑張って下さい。それでは、決勝。スタートです」

 夢は何だか緊張していた。相手の能力を見ずにここまで来てしまったので、障害物走で見たぐらいしかわからないのだ。なので詳しくは分からない。

 だが、焦る心配はない。

 始まりのゴングが鳴った。

 私は予測出来なかった。決勝メンバーの中に鬼才がいることを。

 私は本当に負けてしまったのかと思った。

 気付いたときには、私の体にはツルが巻かれている。私は草木茂の事を舐めていたようだ。彼はかなり強い。強すぎる。私は零課としてのプライドが傷つけられた気がした。

 「今回も優勝は、草木茂です。おめでとうございます」

 拍手と歓声が耳障りでしかなかった。

 体育祭の結果は、一位が草木茂。同時に勝敗が決まったため私と、蝶田羽は同率二位だった。夢は表彰の時ずっと下を向いていた。夢は立ち直ることが出来なかった。最悪な体育祭は幕を閉じた。その後は、振休があり学校が休みだった。

 夢は義正や一哉にいじられ吹っ飛ばした。が、二人はそんなには飛ばなかった。夢を見かねた二人は何かを思い出したように、言った。

 「ボスが呼んでいる」

 と。




 草木 茂能力“ツル”
 ・自身の体をツルに変えることが出来る。また、本当のツルと一緒に使うことでより頑丈になる。鉄分、野菜、日光を浴びることで硬くなる。天気が悪いと、体調を壊す。


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五 殲滅

「失礼します」

 夢は、ドアをノックし部屋に入った。そこには、歴代の総理大臣の写真が飾られており、机には、小さな国旗が刺さっていた。

 「呼び出して悪いな」

 そこには、現内閣総理大臣、國崎敏正(くにさきとしまさ)が座っていた。

 「いいえ。ところでご用件とは……?」

 國崎は、一呼吸置いてから話し始めた。

 「君は以前、徒陰の焔との戦闘を経験したと言っていたね。その時に君が焔に付けたGPS発信機の情報から彼が埼玉の森の奥にある廃坑に潜伏している事が判明した。そこで明日、我らは敵名焔及び、徒陰の殲滅作戦を決行しようと思っている。そこで君を、この作戦の司令官に任命をしたいのだが?どうだ……?やるか?」

 まさか、徒陰を殺すと思っていなかったので、口がポカンと開いてしまった。

 「わ、私がですが……?」

 「君が相応しい。私からお願いしたい」

 「ボスのご命令ならば、喜んで!」

 すると、ボスは微笑んで、

 「君なら、そう言うと思ったよ。そう言えば、かれこれ夢は、卒業後はどうするつもりだ?」

 「ここに就きたいと思っています」

 「そうか…。じゃあ、明日頼むよ」

 夢は、頭を下げ部屋を後にした。國崎は、何かを言おうとしていた。

 (ボスはいったい何を言おうとしていたのだろう……?)

 夢は、そのことに関して歯痒い思いを抱きながら、国会議事堂を後にした。

 私は、二百キロのダンベルで筋トレをした。

 このままじゃダメだ。こんなんじゃ、奴に勝てない。あんな奴がまだいるのと思うと、体が震えた。

 (声格好良かったな……。あれ……?なに言ってんだ私!)

 気付けば、自問自答していたことに気付いた夢は、筋トレに集中した。

 そして、当日。

 夢は、防弾チョッキに拳銃、警察手帳を持ち、警察車両に乗り込んだ。そして、三時間かけ埼玉の森の奥にある廃坑に向かった。

 廃坑は、廃坑という割りには綺麗だったが中から入るなとオーラを出していた。

 この作戦には、私の他に、能力“ネット”の捕間(とるま) みかと、能力“檻”の捕間(とるま) おりが参加しており、彼女らも、零課の所属だった。

 「司令官、ご命令を」

 「良いか、正義の者達よ。今こそ徒陰を捕まえるぞ……!」

 そう言うと、特殊部隊の人達は雄叫びをあげ廃坑へ向かって走って行った。私を含めて、三人は歩んでいった。廃坑内はもぬけの殻であった。

 「どこに行ったの?」

 私のハイスペックですら、わからなかった。

 「ここにいますが?」

 私は、前を見た。暗くてよく見えないので特殊部隊の人達はライトの光を向けた。そこには、狐の半面をつけフードを被り、ポケットに手を入れた徒陰の焔が立っていた。

 「久しぶりだな、憾咲夢」

 「何で私の名前を!?」

 「俺らの情報力を舐めるなよ」

 「俺らって、もちろん俺も入ってるよな?」

 横から、ペストマスクをした男が現れた。

 「鳶……!」

 「あ、夢ちゃん、俺の名前知ってんの!俺も有名人か!」

 鳶は、甲高く声を上げ笑っていた。

 「お前ら、情報は全て俺が扱ってるから俺が一番凄いからな」

 横から、ガスマスクをした男が現れた。

 「水鯨……!」

 「ほほう、俺の名も知っているのか」

 「まさか、“柱”が三人もいるとはね。想定外だったわ」

 「お前の能力を持ってすれば、想定内だろ」

 「あなた達を殺せば、昇格間違いなしね」

 「負けるの間違いじゃないの?」

 特殊部隊の人達は銃を構えていた。

 「おいおい、こっちに向けんなよ」

 鳶は冗談っぽく、両手を上げた。

 「司令官、いつでも」

 二人は、準備が出来ていた。

 「貴方達に任せるわ。貴方達はあくまで捕獲係、無理はしないで」

 「了解」

 そう言いと彼女たちは、焔たちに向かって、攻撃を仕掛けた。まず、ネットで奴らの動きを止めた。

 「何だこれ、べとべとしてる。あんた能力“蜘蛛”か?」

 水鯨がそう言うと、鳶が吹き出して、笑った。

 「失礼だわ。私は“ネット”だ!姉ちゃん任せたよ!」

 そして、捕間おりは生成した檻で奴らの体を拘束した。

 「ほほう、俺らを捕まえるか」

 「私達姉妹の前で捕まんなかったのは、この世にいないわ!」

 この発言に関して、異議は無い。事実、あの二人から逃れた人を見たことがない。

 「ちーっと、本気を出そうかな……!」

 「やめとけ、鳶。ここは、僕一人で十分だ」

 「無理よ。まあ、協力したとしても同じ事だけどね!」

 違う。奴らはやりかねない。だが、奴らの悪足掻きを止めるつもりは無い。それがボスの命令だから。この作戦の目的は徒陰の捕獲兼殲滅であるが、もう一つ彼らの能力の調査も含まれている。

 「お前らは、僕を舐めすぎだ。徒陰を舐めすぎだ」

 そう言うと、水鯨はぐんぐん大きくなり、みるみるうちに大きな鯨になった。

 「大きくなったぐらいで、私達のネット、檻を止める事は出来ないわ!」

 すると、水鯨は水鯨になった。水鯨になったことで。檻は体内へと沈み込んでしまった。

 「液体は、捕まえたこと無かったわ……!」

 「なるほどね、水鯨は水鯨になることができる、ま、当然ね」

 夢は、小さく言ったつもりなのに水鯨には聞こえたらしい。夢は、水鯨を見上げた

 る。特殊部隊の人たちは銃を撃っているが、当たっても体内から弾が抜けていくばかりでダメージを与えることは出来ない。

 「お前らを流してやる」

 そう言い、水鯨は完全に液体になった。私達は出口へと走った。しかし、液体のスピードには勝てず、流されてしまった。

 (息が出来ない。苦しい……!)

 夢たりは気絶してしまった。

 目が覚めると、そこはさっきいた廃坑の入口だった。入り口は、瓦礫で塞がり、入りようが無かった。そして、夢の眼鏡はボキボキになっており、データも見れなかった。

 夢たちは完全に負けた。たった一人の柱に。

 夢たちはひとまず、戻った。夢は、ボスにこの事を全て報告した。

 「やはり、一哉と、義正も参加させるべきだった……。まあ、君が無事だったから良しとしよう。戻って良いぞ」

 ボスはこう言っているが、内心かなり失望しているように思えた。

 夢は、悔しくてしょうが無かった。

 悔しさと、徒陰への復讐心が増していった。




 捕間みか能力“ネット”
 ・自身の掌から、粘着性のアミを出すことが出来る。
 納豆や、オクラなどを食べた後は、粘着力が強くなる。
 
 捕間おり能力“檻”
 ・自身を檻を発生させることが出来る。
 鉄分を摂ることで、強度が増す。


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六 目的

 (くそくそくそ。何でこの私があんな奴らに……!)

 夢は、一哉の筋トレ器具を使って筋トレをしていた。

 (私には何が足りないの……?力……?頭脳……?)

 奴らの顔を思い出すだけで、血管が(うず)いてきた。夢は、二百キロのダンベルを壁に投げつけ部屋を出た。

 夢は、今、徒陰の捜査から離れている。夢は、徒陰と聞いただけで、怒りに震えてしまっていた。なのでボスは、夢を任務から外した。夢は、徒陰までとはいかないが、ボスにも怒りを覚えた。私は何度もボスに任務に参加したいと申し出たが、(ことごと)く断られた。

 夢は自分の力を認めて貰いたくて、今日単独潜入を決意したのであった。

 

 そして、満月が輝く深夜十二時。夢は、前に仕掛けた発信機を使って、奴らの行動を見たが、マンホールの上でGPSの信号がが切れてしまう。

 (ん?マンホール?そうか!奴らのアジトはマンホールの中、つまり、下水道だ!)

 夢はマンホールを開け下水道に潜入した。

 (私は二度とあんなヘマはしない!)

 そう思い細心の注意を払い、奴らのアジトを探した。意外とすぐに見つかった。そこはブルーシートで隠されているだけで、何とも簡易なものだった。人の気配は無く、暗く悪臭に満ちたそこは夢たちのアジトと真反対だった。

 夢はそこでヤバいものを見てしまった。それは筒状の容器の中に青色の液体が入った物だった。

 「何……これ?」

 「見ちまったか……」

 夢は振り向き攻撃をしようと思ったが、遅かった。首元の痛みと共に気を失った。

 気がつくと、私は椅子に縛り付けられていた。

 「起きたか?」

 焔は夢を見ずに話し掛けた。夢は唐突に、

 「あの液体は何なの?」

 「聞いても、信じねえだろ」

 「良いから言いなさい」

 「良いかな?師匠」

 「ああ良いとも」

 そこには、まさに師匠と呼ばれるにふさわしい強者の風格がある人物が立っていた。

 「じゃあ、話すけどあの液体は俺らの希望なんだ」

 「希望……?どういうこと?」

 「順を追って話すよ。まずはこの国の首相にしてお前のボス、國崎敏正の本当の狙いからだ。奴はまずこの国を自分の手で完全に支配したがってる」

 「え?」

 (どういうこと。ボスが、この国を支配する……?)

 「ボスはもう国を支配してるじゃない」

 「支配といってもあくまで国の行政権を握ってるってだけだ。奴がしようとしているのはそんなものじゃない。自分の手による全国民の武力的支配。つまり、奴に忠実なロボットの様な軍隊を創って国民を思うがままに動かすという事だ」

 「そんなの無理に決まっているじゃない!」

 「それが無理じゃないんだ」

 「え?どういうこと?」

 「二〇〇〇年に始まったP3。ここで生まれたのは、失敗作と成功作。奴が起こそうとしているのは、成功作による世界の支配。ここから先は何が言いたいかわかるだろ?」

 「……まさか!そのためにボスは失敗作を殺そうと?」

 「ご名答」

 「でもいくら集めたことで成功作には勝てないじゃない。人員だって失敗作が圧倒的に不利」

 「そのために、この液体。この液体は、俺たちのP3細胞を殺すことができる。はずだ」

 「はず?」

 「あと一歩何だけどな。その一歩がわからねえ」

 夢は、考えた。

 (何で私にこんなことを言うの。罠?でもどうも嘘に聞こえない……)

 「お前、振ってこないから言わなかったけどよ、服を脱がせたのは、手荷物検査だ。気にするな」

 「気づかなかった……。興奮しないの?」

 気づいたら私は変な事を言っていた。

 (何言ってんのよ私……)

 「興味ない」

 「この谷間見ても!?これでもEカップあるのよ!」

 「どうでもいい」

 (何なのよ、あいつ……!)

 「なんか言いたいことは?」

 「私に興味……」

 「違う。そっちじゃない。液体についてだ」

 「あ、わかった。私の能力で作って欲しいのね?」

 「簡単に言えばな」

 「敵にこんなこと言うなんて、自白しているようなもんじゃない!」

 「そうだよな、わかった」

 そう言って、焔は縄をほどいていた。

 「え?」

 「だったら、あんたに用はない。ここをチクってもここは使わねぇから、意味ないから」

 そう言って、背中を押された。

 「敵が目の前にいるのに帰るわけ……」

 「去れ」

 焔の言ったその声は、威圧感に満ちあふれていた。夢は振り向かずにここを後にした。

 なんなのあいつ。声を聞くだけで私は本能的にあいつを恐れた。それだけあいつは人を超えた獣の様に思えた。

 夢は本部へ戻ろうとした。が曲がり角で急に首を掴まれた。そして、壁に叩きつけられた。壁は軽くヒビが入った。

 「何してんだぁ、夢ぇ?」

 そこには一哉と義正がいた。

 「これは…」

 「父上に報告だな」

 その言葉を聞いた瞬間に腹に痛みを感じ意識がプツリと途切れた。

 

 目覚めると、目の前にボスがいた。

 「すいません」

 「何故謝る?」

 「お前は密かに計画していた作戦を台無ししたが、何か情報は?」

 「情報……」

 私の頭の中にあの液体が浮かんだ。でも、何故だか言う気は無かった。

 「…ない……のか、じゃあお前を一生言うことを聞くようにしてやっても良いんだぞ?何なら、お前の学校の生徒を全員殺しても良いんだぞ?」

 「見ました!奴の顔を!」

 私の嘘はこれが限界だった。

 「ほほう、知ってる顔か?」

 「同じクラスの狐火火叢です」

 頼む。違ってくれ、狐火君には申し訳ないが、付き合って貰おう。

 「だそうだ、義正」

 え?

 「実はな、もう学校の生徒達を殺しているんだ。君が言ってくれて、犠牲が減った」

 「父上、こいつも焔と名乗っています」

 携帯越しに義正の声が聞こえた。

 「やめてやめてやめて!!これ以上友達を傷つけないで!」

 そう言って私はボスに殴りかかった。だがその拳は軽々しく止められていた。無数の手で。

 「これは、私、いや国への反発と見受けるが?」

 「違う、違います!」

 「こいつも独房『Never』に連れていけ!」

 私は再び気を失ったのであった。



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七 孫悟空

「ここから出しなさい!」

 夢は、警察本部、秘密の地下独房「Never」に入れられた。ここは、テレビですら放送できないほどに残虐的な囚人が入る場所であって、世界一硬くて丈夫な金属「叢雲鉄」で作られ、破壊することはほぼ不可能。夢は、徒陰の焔とされる狐火火叢と共に独房に入れられた。

 「すげ、この壁の金属、叢雲鉄じゃんか」

 彼は壁を叩いていた。何だか狐火の喋り方が変だったが気にしなかった。

 「三十ミリか……。内側からの解除も可能……と」

 「良くそんな呑気ね。ここから出られると思っているの?」

 夢は、八つ当たり気味な言葉を放った。

 「焔ならやってくれるさ」

 「え?狐火君って、焔じゃないの!?」

 私は、狐火の元に歩み寄った。

 「まぁな。一応徒陰ではあるんだけどな」

 狐火は、笑っていた。

 「貴方誰なの?」

 「俺か?」

 急に彼の一人称が“僕”から“俺”に、変わっていた。

 「俺はな徒陰の岩柱の猿飛戯介(さるとびぎすけ)だ」

 「貴方が猿!?」

 徒陰の猿は、主にスパイや隠密行動を得意とし、変装のエキスパートと言われている。能力は未知数。噂では、焔並みと言われている。

 「何で貴方が、あの学校に……?」

 「それはな、お前を殺すためだった」

 「私を?どういう事……?」

 「実はな、お前があの学校に来ることはだいぶ前から知っていた。師匠と水鯨の情報収集でな。あの人たちの情報収集能力は、人工衛星並だよ」

 「そこで俺は得意の変装で、あの学校に入学した」

 「じゃあ、何で私を殺さなかったの?」

 こんな話は私の能力を使ったって理解出来なかった。

 「それは、勿論あんたの能力だよ」

 「私の能力?」

 「お前、前に俺らのアジトに行ったよな?そこで話聞いたんじゃないか?」

 私は、焔の言っていた事が鮮明に蘇ってきた。

 「じゃあ、貴方達は私が徒陰に入ると思って殺さなかったの?」

 「おう」

 (馬鹿じゃないの……?)

 「馬鹿じゃないの?……か」

 「え?」

 猿は、間違いなく私の心を読んだ。

 (猿にはこんな力があるの?)

 「俺だって、最初は馬鹿じゃないのって思ったさ、でも、それが師匠の予言だった」

 「師匠って、大黒柱の?」

 「そうさ、師匠の能力は“千里眼”地球の反対側だったり、未来だったり、何だって見えるのさ!」

 (なるほど、だから徒陰は強いのか。トップがこんなにも慕われているということは、トップの人が信頼してるから、そのグループは強くなる。私は、ボスを信じていた。ボスは私の事を信頼してくれたかな……)

 「貴方は……」

 夢は、無性に徒陰について知りたくなった。

 「ん……?」

 「貴方は何で……徒陰に入ったの?貴方が失敗作だったから?」

 「……聞きたいか?俺が徒陰に入った理由」

 私は、首を縦に振った。

 「じゃあ、走りながら喋るか?」

 そう言って彼は舌を出した。舌の上には先この「Never」の鍵があった。

 「何で口から鍵が!?」

 「俺さっき、転んだだろ?その時に奪った」

 確かに、あの時彼は転んでいた。まさかあの時に奪うとは、かなりの腕だ。

 「じゃあ、行くか」

 そう言って彼は、ドアを開けた。

 「あれは、徒陰で覚えたの?」

 「手癖の悪さか?じゃあ、さっきの質問の答えな。俺の生まれた街はすげぇ、ビンボーな街でよ、それには理由があって俺らの街じゃ人間は大きく分けて三つに分けられてるんだよ。それが貴族と平民と下民だ。この街は、貴族が有利な立場だったから、生活は厳しく犯罪なんか日常茶飯事だったよ。そのときに目覚めたのが能力だった。そのせいで、俺は、闘うことになってな。

 そこで出会ったある人のおかげで俺は、故郷を出ることができたんだけどな。何もなくては死にそうだった。そこで出逢ったのが師匠だった。師匠は俺を見ても何とも言わず俺を介抱してくれた。俺は師匠にあの時の恩を返しているだけだ。徒陰が出来たのは師匠が俺達を救うためだ」

 夢は眼から涙が出ていた。そんな現実があったなんて信じられなかった。

 「もうすぐ地上だぞ」

 猿の声に目が覚めた夢は涙を拭った。

 「私も戦う。徒陰と共に!」

 「……ありがとうな」

 地上に出ると、警官が待ち構えていた。

 「やっぱし、いるよな。憾咲は、先に外に出ててくれ」

 「こんな数、どうするの?」

 ざっと三十はいる。

 「伸びろ!如意棒!」

 すると、急に二メートル位の棒が出てきた。

 「先手必勝!“猿神乱舞(えんじんらんぶ)”!」

 すると、棒はしなりを増し、二十メートル程までに伸び、警官を薙ぎ倒していった。

 「凄い…」

 「待たせたな。さぁ、行くか!」

 「え?どうやって?」

 すると猿は指笛を吹いた。すると遠くの方から金色の雲が現れた。

 「これってまさか!觔斗雲(きんとうん)!?」

 「さぁ、乗れ!」

 「貴方の能力ってまさか…」

 「そうだ。俺の能力は“孫悟空”だ」

 「今から、アジトに向かう。良いな?」

 私は首を縦に振った。




 
 猿/猿飛戯介能力“孫悟空”
 ・伝説の孫悟空になることが出きる。如意棒を使ったり、觔斗雲に乗ったり、毛で分身作ったり、できる。かなりの強者。猿と喋れる。


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八 大黒柱

 觔斗雲に乗って三十秒、およそ一キロ離れた「徒陰」のアジトへついた夢と戯介は、徒陰の鳶に出迎えられた。

 「遅かったじゃねぇか、猿」

 「うるせぇ、叢雲鉄やべーかんな?」

 「知らないわ」

 鳶が戯介にツッコんでる。

 「お、夢ちゃんじゃん。おひさ!」

 「え?どちら様ですか?」

 「おいおいキツいぜ、夢ちゃん!」

 そう言って鳶にペストマスクを外した。外すと鳶は、同じクラスの服部佐助(はっとりさすけ)だった。

 「これでわかる?」

 「まさか貴方が鳶だったとはね」

 「まぁな。そんなことより、クラスメイトの顔見に行くか?」

 私は、迷った。私のせいで死んでしまったクラスメイトに会う権利などない。私は悩んでいると、

 「早く行ってやれよ!みんな待ってるぜ?」

 私は鳶に腕を掴まれ、強引につれてかれた。

 大きな鉄扉の向こうには、私のクラスメイト含め学校の生徒がそこにいた。

 (な、なんで……?)

 そこには、徒陰の龍と焔がいた。

 「あぁ、憾咲か」

 「何で皆生きているの?」

 「それは、俺たちの能力だ」

 「なにそれ……」

 「俺と龍には、回復能力がある。特に龍の能力は……」

 話をしている途中に、徒陰のボスと思われる人が話し掛けてきた。

 「やはり来てくれたか、憾咲さんよ」

 (やはりこの人は強い。何なのよこの人……)

 「歓迎しよう、炎司。今日は楽しくやろう」

 「そうですね、師匠」

 「え……炎司って……」

 「そういや、自己紹介がまだだったな。俺の名前は焔。またの名前を神木炎司だ。よろしく」

 「焔って、貴方だったの!?」

 「気づかなかったのか?」

 彼は、学校の時とは見せなかった笑顔を見せた。

 (何私はドキッとしているの!冷静を保たなくちゃ!)

 「ちょっと良いかしら?」

 「なんじゃ?」

 「貴方は何者……?」

 「わしはこの徒陰の大黒柱、大道寺政宗(だいどうじまさむね)じゃ。日本で初めての実験成功者だ」

 「え、え?じゃあ、貴方が一番最初の成功者?」

 「そうじゃ。わしの能力は“千里眼”あらゆるものが見える。勿論未来もじゃ」

 「じゃあ、予言って貴方の能力って事?」

 「そうじゃ、わしの予言は絶対必ず当たる」

 (凄い……。これが徒陰の強さ)

 大黒柱と話していると、隣のクラスの草木茂が話し掛けてきた。

 「まさか憾咲が警察官だったとはな」

 「ま、まぁね。でも、私は警察官っていう感じじゃないんだけどね」

 「どういう事だ?」

 彼は首をかしげた。

 「“憲法第零条”は知っているでしょ?」

 「あぁ、このP3が出来てから生まれた新しい憲法だって授業でやった。たしか『一 生まれた子どもは一ヶ月以内に能力を役所に申請する。二 個性型の能力発動による暴力は厳重に処罰する。三 原則個性型の能力発動を禁ずる。』って感じだったよな?」

 「よく覚えてるわね。そう。それで、私たちは警察官の上層部ぐらいしか知らない組織零課に配属されている。零課の名前の由来も憲法第零条から来ているわ」

 「つまりは暗部って事だな」

 「そういうこと」

 私たちが話していると、大道寺さんの声が聞こえた。

 「君たちはこれからしばらくここで安静にして貰う。だから今日から君達は徒陰だ。私達は君達を歓迎しよう。仲間内の秘密はなしにしよう。今から徒陰がどのようにできたのか話す。これから先に密接に関わってくる」

 私は、さっきより真剣な大道寺さんに冷や汗をかいてしまった。

 「今から明かそう。徒陰の秘密を」




 大道寺政宗能力“千里眼”
 ・鳥や動物の目を借りてどこまでも見える事が出来る。未来すらも見ることができる。「徒陰」の大黒柱。P3の最初の成功者。実は凄い人。


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九 P3

 「今から明かそう。徒陰の秘密を」

大道寺政宗は目を閉じ、語り始めた。

 

 それは二〇〇〇年のまだまだ世界が僅かに均衡を保っていた頃、大道寺は国からある命令を授かった。それがP3。日本は強くなって他国を屈伏させたいそうだ。昔の日本の富国強兵の思想のように。

 大道寺には唯一無二の親友がいた。それが國﨑敏正だった。彼とは家が近くほぼ毎日のように一緒にいた。共に理系へも進んだ。

 十五歳のときに経験した第二次世界大戦で使用された原子爆弾の恐ろしさは今でも憶えている。大道寺はこのP3の実験に反対だった。またあの時のようなことをするのか、そう思った。

 しかし、敏正は違った。敏正は、原爆で恋人と弟を失っていた。大道寺は敏正の熱意に負け、やむを得なく実験を行った。

 しかし、当時は人間の遺伝子組み換えなど神の領域だと思われていたので実験は困難を極めた。現七十歳の私達でも、到底かなわなかった。

 だが私がふと見つけた菌を調べると、ある過程にたどり着いた。

 「この菌なら人を人ではなくすることができる」

 この菌は、人の脳に寄生し脳に信号を送る機能を我が物にし、寄生した体を活性化させる菌、所謂(いわゆる)寄生菌だった。

 大道寺はこれをリーパ菌と呼ぶことにした。大道寺はこのことを敏正に話すと、敏正は大道寺の考えに心底驚いていた。

 「これなら、最強の人間を創ることが出来るぞ!」

 どうやら、敏正にも試したいことがあったようだった。

 それから大道寺たちは実験を重ねた。

 敏正は菌と菌を合わせ、新しい菌を作ることだった。敏正が発見したのは、アナゲンニシ菌と言って、菌を複製することができ、遺伝子として子孫を作ることができる菌だった。それを合わせて、できた菌をP3菌と呼び、人間の細胞と合わせながら、数多くの子孫を作っていくことで、人間の体に適した菌を作ることができた。

 しかし、自身が持っている動物の遺伝子が強調されてしまう作用が発現してしまう実験体が多く、自我はあるものの、凶暴性が増しており、(ほとん)どが危険な存在だった。

 ある日、大道寺自身が実験体に名乗り出た。

 試作品のP3を投与すると、体が燃えていると勘違いするほど熱くなり、骨がミシミシと太くなっている実感があった。筋肉がモリモリと(うごめ)き、気付けば、体が一回りも二回りも大きく丈夫になっていた。

 ここで二人は、実験に成功したと実感した。

 「敏正、やっと出来たな……!」

 「まさか、政宗が最初の成功者とはな!」

 それから国はこの菌を汎用化、国民に投与するように義務付けた。だが、生まれてしまった失敗作は離島に隔離された。

 自分に菌を投与してから一週間程経った時のこと、私はあることに気づいた。それは未来が見えるようになったことだ。

 これはどうやらP3の副作用で、自身がなりたいことをイメージしたときの記憶が具現化したものだとわかった。

 私は、この能力を千里眼と呼んだ。どうやら敏正にも能力があったらしく彼はそれを複製と言っていた。

 しかし、P3成功からしばらくして離島から失敗作が抜け出すという事件が起きた。その頃に出来た国の直属精鋭部隊「ヘラクレス」による殲滅が始まった。ヘラクレスとは、強力な能力を持つ連中を集めた部隊である。数は五人。当時は人間戦車とも呼ばれていた。

 しかし、帰ってきたのは僅か三人。その三人もかなりの重傷だった。

 

 大道寺は、それから独自で失敗作を研究する事にした。勿論、敏正にも国にも秘密で。

 P3成功の二〇〇五年から二年後の二〇〇七年、ある山奥で大道寺はある一人の少年に会った。その少年は酷くやつれていた。大道寺は自身の飲み物を与え、自分が住んでいる空き家に寝かした。十分後その少年は目を覚ました。

 「やぁ、やっと起きたか!いやぁ、生きてて良かった!」

 「おじさん、だれ……?」

 「私は大道寺政宗だ。坊やは?」

 「名前なんか覚えてない……」

 「そかそか。じゃあ、私が名前をつけてあげよう……」

 「待って!」

 大道寺は少年の声に反応した。

 「こんな姿でも、優しくしてくれる……?」

 そう言って少年は、急に炎に包まれた。

 「おい!坊や!大丈夫か!?」

 炎の中から現れたのは狐だった。しかも尻尾が九尾ある狐だった。

 「坊や、まさか失敗作なのか……?しかも古典型……」

 「どう?おれを国に差し出す?」

 少年の声はひどく冷たく少年が今までどのように生きてきたか、身に染みて分かるようだった。

 「大丈夫だ。私は君を殺したりなんかしないし、国に差し出したりなんかしない!」

 「ほんと……?」

 少年は瞳に涙を浮かべていた。

 「それよりお腹、空いたろ?飯にしよう!さ、早く戻りなさい」

 そう言うと、少年は人の姿へと戻った。

 「パンで良いかい?」

 少年は静かに頷いた。

 大道寺と少年は椅子に座りパンを食べた。大道寺は急に激痛を感じ椅子から倒れた。

 「おじさん!」

 どうやら、散策中に木で切ったところに人体に有害な樹液が入った。そう思った。

 「おじさん、動かないでね!」

 そう言って、大道寺のすねに手を当てた。すると、大道寺のすねが燃えだした。

 「おい!いくら壊死を防ごうとして燃やそうとしたって、それはやばいぞ!」

 しかし、少年の炎は私のすねを燃やすことなく温かった。そして、みるみるうちに私のすねは回復していった。

 「凄い……。これも君の能力なのか……。凄いな、炎司!」

 「えんじ……?」

 少年は首を傾げている。

 「そうだ!今日から神木炎司だ!お前は、神のように凄いからな!」

 「……んふふ、良い名前だね!」

 「だろ?」

 大道寺と炎司は微笑んだ。

 翌年、大道寺は炎司を小学校に入学させようとしたが、苦労した。まず役所への能力通達。

 大道寺は、昔の功績を武器に何とか炎司を申請した。次に、炎司が誤って能力を発動しないように教え込んだ。炎司は覚えがよく、難なく約束を守ってくれた。

 そして炎司が四年生の頃、大道寺の家に二人の子どもを担いで帰ってきた。

 「どうしたんだ炎司!」

 「山中で見つけた。多分俺と同い年で、幻獣種だ」

 「ひとまず寝かせよう」

 間もなくして二人は目覚めた。

 「おぉ!起きたか!」

 「ここは……?」

 「大丈夫だ。君達にとって一番安全な場所だ」

 「ありがとうございます」

 「それより君達、名前は?」

 二人とも首を横に振った。

 「お前ら、今までどうやって生きてきたんだ?」

 「僕の親は、僕たちを使ってドロボウさせてるんです。でも今日は、人が見つかんなくて、森で虫とか食べてました」

 「よく生きててくれた。君達はこの世界の希望だ」

 「お前らの能力は?」

 「俺は超大型鳶です」

 「僕は孫悟空です」

 「すげぇな」

 「確かに。君達大分凄いよ」

 「オヤジ」

 いつからか炎司は大道寺のことをオヤジと呼ぶようになっていた。

 「名前どうする?」

 「そうだった!何が良い?」

 「俺ずっと服部半蔵が好きで……」

 「僕はずっと猿飛佐助が好きで……」

 「じゃあ、今日から君は服部佐助で、君が猿飛戯介だ!」

 「オヤジ、雑」

 そうして、新たに二人の息子ができた。

 そして、その四年後、炎司達が中学に入学の年と同年に敏正が総理大臣となった。



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十 徒陰の結成

 「頼みって何だ?」

 大道寺は窓の外の景色を見ながら、言った。

 「お前が総理大臣だから言えることを言う」

 大道寺は一拍おいてから

 「失敗作を解放して欲しい」

 「そう言うと思ったよ。政宗、お前最近失敗作と共に過ごしてるらしいな。巷でちょっとした噂になってるぞ」

 「構わない。なあ、敏正。良いじゃないか、失敗作とて人間だ。彼等にも心はあるのだぞ!?」

 「成功作でなければ意味は無いのだ!」

 敏正は大道寺の顔を見て言った。大道寺は彼の気に怖じけついてしまった。

 「何故じゃ……?」

 「そうか、お前には言ってなかったな。私がP3実験に参加した本当の理由を」

 「え…?」

 「私はな日本政府が憎いんだよ。あいつらがおかしいから日本に核爆弾が落とされたんだ。あいつらが戦争なんかしなければ、弟や清美は助かったんだよ」

 彼の気持ちに気付いてやれなかった己に腹がたった。まさかここまでとは。

 「なあ、敏正?」

 「何だ?」

 「人はいずれ死ぬぞ?」

 「何が言いたい……?」

 「あの日、あれが落とされなくとも人はいずれ死ぬ。ただ、運が悪かっただけだ。運が悪かっただけなんだ。あの時誰も悪くは無かったんだ!だからと言って今、敏正がやっていることは、前の日本同様、良いことではない!」

 「私は、大日本帝国を復活させる」

 「は……?」

 「私は皇国を復活させ、あの戦争の続きをする。それが本当の目的だ。そして全世界を日本の配下にする!」

 「お前は、何を……言っているんだ……?」

 「私が発見したアナゲンニシ菌は、実は私が生みだしたのだよ」

 敏正は不気味に微笑み

 「アナゲンニシ菌は、ある程度成長すると親に忠実になる性質がある。勿論、親とはこの私だ。しかし、例外があってな」

 「それが、失敗作……」

 「ご名答。だから私は、失敗作を殲滅している。国に頼んだのも私だ。失敗作は意味がないから殺してくれと。な」

 「一体、彼らに何の罪があるというのだ!」

 「彼らは所詮人間のクズだ。死んで悲しむもんはいないだろう。むしろ社会に貢献して称賛されるだろう」

 大道寺は思い切り彼を殴った。敏正は勢いよく吹っ飛んだ。

 「お前の言っていることは理解出来ん!わしは自分で何とかする!」

 それからもう二度とあの場所へ行かなかった。

 その後、大道寺を含め四人で「徒陰」を創った。徒党、つまり敏正の目的を世に暴くため、陰で野望を防ぐ為にこの名にした。その後、水鯨の水嶋海人に麒麟の雷電弁慶などを加え、今や五十を越えるグループとなった。

 徒陰は、大きく分けて三グループに分けられる。大道寺は大黒柱として、ボスとして君臨している。次に柱と呼ばれる大黒柱を補佐する役目を持った者が五人いる。それぞれ、火、水、岩、雷、風に徒と呼ばれる失敗作が集っている。

 しかし、五十を越えたとしても日本政府には敵うはずがなかった。大道寺は指名手配され、瞬く間に一億の懸賞金をかけられた。

 大道寺たちの家は燃やされ、衛星から位置がバレ、危うく殺されることがあった。なので大道寺たちは、地下で過ごし、唯一バレていない柱達を地上で情報収集させている。

 そして、大道寺の息子達の中の、炎司、佐助、戯介が同じ高校へと行った。勿論、大道寺の能力“千里眼”によって見えた日本を救う救世主を待って。

 千里眼通り、現れた。憾咲夢が。



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十一 草木茂

 「これが徒陰の全てじゃ」

 「まさか本当の悪が日本政府とはな…」

 草木茂が口を開いた。

 「なぁ、大道寺さん。俺らに出来ることはないのかよ?」

 「あるとすれば…」

 大道寺は口を開いたが、肝心の言葉が出ていなかった。

 「君達には、危険すぎる」

 すると、座っていた草木が立ち上がり、

 「いいや、俺は大道寺さんの願い叶えてやりたい。一度は失ったこの命。だが、俺は救われた。この救われた命、今使わないでいつ使う?」

 「……君には参ったよ」

 大道寺は溜め息を吐き、こう言った。

 「実は今日儂が言っていたことがおきる」

 「さっきって……、まさか!」

 「そうじゃ。成功作の洗脳じゃ」

 「でも、日本がどんだけでかいと思ってるんだ?一気に洗脳するなんて」

 「いや可能じゃ」

 話していた途中の草木の口が閉じてしまった。

 「じゃが、阻止する方法はある」

 「方法……?」

 「奴の菌はある一定の電波を受信すると、活動が始まってしまう……。じゃがしかし、その電波塔を破壊すれば良いのじゃ」

 「じゃあ、俺たちは電波塔を破壊すれば……?」

 大道寺は、頷いた。

 「じゃあ、私が薬を完成させれば…」

 「そういうことじゃ」

 「よし、今すぐ行こう!もちろん炎司も行くよな?」

 「当たり前だ」

 「しかし、ここから電波塔までの距離が遠いのだ」

 「ねぇ、おじさん?」

 声をかけたのは、鏡崎未来だった。

 「あそこの近くに鏡ってあるの?」

 「なるほど、君の能力なら…!」

 「行くメンバーは決まったか、炎司!」

 「俺と、戯介、草木で行く」

 「よし!」

 「おじさん、行けるの?」

 「炎司たちが電波塔に行っている場面を見た!つまり行ける!急げ、時間は刻一刻と過ぎているぞ!」

 「出してくれ鏡崎!」

 草木が叫ぶ。

 「絶対に帰ってきてね!」

 炎司たちは鏡の向こうへと行った。入ったと同時に発電所の近くのトイレの鏡から出てきた。

 「なるほどな」

 「行こう!」

 高さは五十メートルを優に超しているであろう街で一番大きな電波塔についた。炎司たちは入ろうとしたが、行く手に二人のスーツ姿の男が立っていた。恐らく、國﨑の回し者だろう。

 「戯介、觔斗雲に乗って先に行け」

 「でも……」

 「こっちは大丈夫だ。何せ、学校ナンバーワンがいるからな」

戯介は微笑み、

 「死ぬなよ」

 と言って、觔斗雲に乗って行った。

 「どこへ行くんだ!」

 「何よそ見してんだよ」

 男たちは、燃え、ツルに巻かれている。

 「こっちの相手しろよ」

 すると、二人はたやすくツルを違った。

 「何の能力だ?」

 「おおまか、増強型だろう」

 すると、二人の腕は鋭利な刃と化した。

 「おい、なんで、能力を“二つ”も持ってるんだ?」

 「俺に聞くな!」

 「俺の名は、桐山哲太(きりやまてった)だ。入江の兄貴に認められ、能力を“得た”」

 「俺の名は、桐山剣(きりやまつるぎ)だ。入江の兄貴に認められ、能力を“得た”」

 「お前ら、入江って誰だ。教えろ」

 「教えることはできない。まぁ、どうせ教えたところでお前らは……」

 二人は走ってきた。

 「死ぬ!」

 哲太が金属のような肌に変わった。炎司は軽やかに避けた。哲太が殴ったところにかなり大きなヒビが入った。

 「くっ……!」

 草木が剣の攻撃をツルで防いでいた。

 「こいつ、俺のツルをいとも簡単に……」

 「こいつら、強い」

 炎司たちが苦戦をしていると、水鯨の海人から連絡が来た。

 『苦戦しているようだな。そいつらの分析が終わったぞ』

 「それで?」

 『そいつら、桐山哲太は能力“クラッシャー”、桐山剣は能力“剣”が元々の能力だ。それに加え、入江と呼ばれる奴に桐山哲太は“ダイヤモンド”、桐山剣は“チタン合金”を持っている。つまり、能力が二つあると言うことだ!気を付けろよ、炎司』

 「ありがとう!」

 「奴らの性分は分かった。行けるか、草木?」

 「くそ、こんな奴ら朝だったら、余裕なのに」

 「俺の能力は太陽が出てないと力が半減してしまうんだ」

 「……つまり光があれば良いんだな?」

 「何をする気だ、炎司?」

 炎司は微笑みながら、

 「離れていろ、火傷するぞ」

 炎司は右手を天に掲げた。すると、手のひらに小さな火の玉が出てきた。

 「なんだその小さい火は?花火でもするのかぁ?」

 桐山たちは笑っていた。

 「ばーか、花火よりもでけぇのつくるんだよ」

 すると、小さな火の玉だったものがどんどん大きくなり、遂には電波塔くらい大きくなった。

 「“小太陽(アトミックフレア)”!!」

  すると、辺りは一面光に包まれまるで朝のように明るくなった。

 「すげぇ……、炎司すげぇ……」

 「行くぞ、“茂”!」

 炎司に初めて名前で呼ばれた。何だかとても嬉しかった。炎司のお陰で力が湧いてきた。

 「俺は、剣の野郎を、炎司は殴る方を頼めるか?」

 「分かった…!」

 俺は、桐山剣の目の前に立った。

 「こんな光ごときで何ができる?」

 「お前は、俺の恐ろしさを知らない!」

 俺は、手のひらを重ねた。

 「“十乱茎(テンタクル)”!!」

 十本の指は、ツルに変わり剣に巻き付いた。

 「こんな……ツル……!くっ……!強い……!」

 「光を浴びて丈夫になったからな」

 「だがこれしき……」

 剣は金属のような色になり、草木のツルを切った。

 「やっぱり、切るよな……」

 剣は、高笑いをした。

 「もう、お前が負けると決まったな」

 「どうかな?」

 草木は又もやツルを剣に伸ばした。しかし、これも剣は切った。

 「どうした!そんなもの……、か……」

 剣は膝をついた。

 「なんだこれ……?体に力が……!」

 「今なお前が切ったのは、モロヘイヤの茎だ。その茎にはストロファンチジンと言う猛毒が含まれててな、普通は直接摂取しないと意味ないんだけどな、俺のツルは毛穴からそいつを入れられる。……安心しろ、弱めにしておいた」

 「強い……」

 そう言って桐山剣は倒れた。




 桐山剣能力“剣”,“チタン合金”
 ・剣…腕を剣に変えることができる。やる気があれば指も剣にできるぞ。
 ・チタン合金…自身をチタン合金に変えることができる。あくまで合金。純粋じゃないぞ。


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十二 火柱

 「やっぱり強ぇや、茂は……」

 「何か言ったか?」

 「こっちもすぐに終わらせてやるよ」

 そう言って炎司は全身に炎を纏った。

 「俺のクラッシャーで何分持つかな?」

 炎司と桐山哲太は真っ正面から殴り合った。炎司の炎はどんどん散って消えていく。

 「ほれほれどうした!お前はそんなもんか!?」

 「加勢する!」

 桐山剣を倒した草木は加勢しようとした。

 「俺に構うな!」

 すかさず炎司は止めた。

 「俺より戯介の援護を頼む!」

 「でも……」

 「俺がこんな奴に負けるようなタマじゃねぇよ」

 「死ぬなよ」

 草木は電波塔へ急いだ。

 「それがお前の最後の言葉だ!」

 桐山哲太のクラッシャーはどんどんと威力を増し、更にダイヤモンドで炎司の体は擦り傷が増えてく。しかし、炎司はすぐさま傷を癒やしていく。

 「お前、回復もできるのか。まさか攻撃と回復を同時に行うとは……!」

 「そろそろ、ケリをつけるか」

 炎司は桐山哲太に微笑みかけた。

 「その意見に賛成だ」

 炎司たちは一歩ずつ後ずさり再び構え直した。

 「見せてやるよ。私の限界を!」

 すると、桐山哲太は全身をダイヤモンドに変えた。今までとはまるで違う。見た目は変わらずともすぐに分かった。

 「“安全圏最大硬度(シールドオブキング)”!!」

 「この硬度はあらゆる攻撃を防ぐことができる。この意味分かるよな?」

 「“至極破壊拳(ファイナルクラッシュ)”!!」

 すると桐山哲太はシャドーボクシングを始め瞬く間に拳の周りが気が纏っていた。奴はこの一撃に全てを懸けるつもりのようだ。

 「“幻獣化(オリジン)”」

 炎司は炎に包まれ瞬く間に巨大な火柱になった。やがて炎が弱まると、そこには尾が九尾ある三メートル程の狐になっていた。

 「何だこの大きさは…」

 炎司は口を大きく開いた。口の中にできた炎の玉はどんどん大きくなった。そして炎司は炎を放った。その炎は眩い光を放ち、地面を焦がしながら物凄い勢いを持ち、桐山哲太に当たった。

 「焔玉(ほむらだま)”!!」

 桐山哲太は丸焦げになりながらも、意識は保っていた。

 「安心しろ、こけ落としだ。死にはしない」

 桐山哲太は口から煙を出しながら

 「お前、誰かに言われたことはないか?その甘さはやがて、自分の周りの人を傷つけてしまうってな……!」

 桐山哲太は薄ら笑いを浮かべていた。

 炎司は桐山哲太の顔を思いっきり蹴った。

 「だから、その分俺は強くなければいけないんだよ……」

 炎司は電波塔へと歩き始めた。

 

 <~桐山兄弟の戦闘の二分後~>

 「そこをどいて貰っても…?」

 「それはできない相談だね」

 そこには、壁が歪な形をした部屋があった。




 桐山哲太能力“クラッシャー”,“ダイヤモンド”
 ・クラッシャー…拳に力を込めることで、何でも破壊することが出来る。鉄や骨など。
 ・ダイヤモンド…自身をダイヤモンドにすることが出来る。


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十三 圧倒的格差

  「そこをどいて貰っても……?」

 「それはできない相談だね」

 すると、壁から無数の棘が出てきて猿飛戯介を刺そうとした。

 (なんって速度だ……!だがまだ反応圏内……。能力は棘関係か……?)

 「“毛分身(けぶんしん)”」

 戯介は自身の髪の毛を抜いて、息を吹きかけた。息を吹きかけると毛は戯介が二、三人ほどに増えた。戯介を含め四人の戯介は、一斉に謎の男に襲いかかったが、一瞬に分身は消えた。

 (何だこいつ……?どんな能力なんだ?)

 そこで、海人から通信がきた。「能力が二つある」と。

 (こいつもそうなのか……?だが何かが違う気がする…)

 「如意棒!」

 耳たぶの後ろから出した西瓜の種程の棒は大きくなり、普通の棒になった。

 すると謎の男もそこら辺にある石ころを拾い上げた。その石ころは瞬く間に如意棒と同じ棒になった。

 (能力が三つ……!?)

 「“猿神乱舞(えんじんらんぶ)”!!」

 如意棒の伸縮を活かしたこの技は、如意棒は三メートル程にまで伸び異様なしなりを持った如意棒は謎の男に襲いかかった。

 「“物真似(コピー)”」

 謎の男の棒も異様なしなりを持ち、如意棒と対等の威力を放っていた。

 「何だこいつ!」

 「友人に頼まれてね……、ここを通す訳には行かないんだ」

 「友人って…、もしかして…?」

 「國﨑敏正だよ」

 戯介は目を疑った。そこにいる謎の男はまだ二十歳のような肌をしていて、國﨑敏正のようなしわはない。

 「君が思ったのは歳と比例していない肌だろう?……それは、“自身刻変動(チェンジオールド)”を使っているからだよ」

 「あんた……、何者?」

 「私かい?私は、入江與(いりえあたえ)。「ヘラクレス」のメンバーの内の一人だよ。宜しく」

 「ヘラクレス……」

 オヤジから聞いたことがある。P3が出来た当時に結成された国の直属精鋭部隊。以前は、五人いたそうだが、今は三人に減ってしまったらしい。遂に国は、ここまで出してきたか。

 「私が今、君と闘って分析した結果、君が私に勝つ確率は一%程度だ」

 「それは、能力で出たんですか…?」

 「いや、私は以前から予測が得意でね。しかも、よく当たるんだよ……」

 その言葉を言い終えたと同時に、入江の体にツルが巻かれた。

 (私の反応速度を上回っただと…?)

 そこには、草木茂が立っていた。

 「間に合った…!」

 「そいつの能力は“ギブアンドテイク”。能力を奪うことが出来る厄介な能力だ!」

 (だから色んな種類の技を使っていたのか……)

 「すぐに炎司が来る。先に片付けとくか?」

 茂は微笑みかけた。

 「賛成だ」

 「やれやれ、二対一か。厳しいな……」

 

 炎司は怒りに震えていた。そこには、横になった戯介、茂の姿があった。

 「俺の友達に何をした?」

 「何をって……、君達が襲って来たんじゃないか……。正当防衛だよ、正当防衛!」

 「殺す……!」




 入江與能力“ギブアンドテイク”
 ・能力を奪い、相手に能力を与えることが出来る。また、奪った能力は自身が使うことが出来る。


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十四 火柱VS入江與

 「殺す……!」

 炎司の目は、怒りに満ちあふれていた。それは炎司が来る数分前……

 

 入江は無茶苦茶だった。茂のツルは燃やす。戯介の攻撃も対等に張り合い、入江の方が余裕だった。二人は苦戦するも何とか入江を拘束することができた。はずだった。気付いていたら、二人は殴られていた。

 「何だこいつ……」

 「“刻止(クロック)”」

 聞こえたのは、その言葉だった。

 

 「こいつらは強いんだぞ。一体どんなタネがあるんだ?」

 「簡単な事だよ。刻を止めたんだ。ただそれだけの事だよ」

 「そんな能力まであるのか……!」

 「そうだな…。私も驚いたよ。そもそも何故能力が生まれたのか知ってるかい?」

 炎司は敵の言葉に聞き入ろうとしていた。

 「色々な仮説はあるが……、人は夢を見る。その夢が形になると言われている。それが能力だそうだ。一方、君のような動物、幻獣になる君は遺伝子の隅にその動物の遺伝子があるそうだ。だが、人間の中に幻獣の遺伝子はないはずだ。だから、敏正は悩んだ。やはり、実験体がいないとなあ……。」

 次の瞬間、一瞬にして殴られた。炎司は血を吐いた。

 (これがクロックか……見えなかった……!)

 「この攻撃で立っているとは……、君はやはり、強いよ!」

 炎司は自身を回復しつつ、入江の様子を伺っていた。数秒後、またもや、見えない攻撃に襲われた。

 「ぐふっ……」

 (痛ぇ……、でも、分かった!刻を止めているのは、およそ十秒程度…?その後、数分のインターバルを有している!その証拠に数を重ねて、攻撃をしている!)

 炎司は考えた。そして、一つの結論にたどり着いた。

 (あれしか、ないな……)

 炎司は構えた。入江もそれに対して構えたが、炎司は何もしなかった。

 (何をしているんだ?隙だらけじゃないか!)

 入江は刻を止め、好きなだけ攻撃をした。

 数秒後、炎司は血を吐きながらも、構えていた。その後も、何十発もの攻撃を受けながらも、炎司は構えていた。

 (そろそろかな……)

 炎司は微笑んだ。

 「何故笑っている?お前の勝率は一%にも満たないぞ?」

 「それは……、どう……かな……?」

 すると、炎司の右腕が急に燃えだした。

 「何だその炎は……!?」

 「俺が構えたときから受けた攻撃を溜めておいた……」

 「何と!そんな事まで出来るのか!」

 炎司は腰を落とし、右腕に力を溜め放った。

 「“反撃炎(リベンジファイヤ)”!!」

 出した拳は、太陽の如く燃え上がり入江を炎に包んだ。電波塔の装置を破壊した。

 炎司は入江に勝ったと思っていた。しかし、入江は死んではいなかった。

 「まさか……、ここまでとは……。私の“盾”を破り、“ショック吸収”をも越える威力とは……。やはり、君は凄いよ!」

 「クソ……」

 「だが私達はもう闘う理由がないようだ」

 炎司の攻撃は電波塔の装置を破壊したので、もう機能は停止していた。

 「君とは又逢える気がするよ……」

 そう言って入江は消えてった。

 入江は、何かを思い出したように顔だけを出して、

 「早く戻った方が良いよ」

 入江は不気味に笑っていた。



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十五 思ゐ出

 炎司は何とか目的を果たしたので、炎司の能力を使って二人を回復させた。

 「あいつは!?」

 戯介は急に起き上がり、炎司に聞いた。

 「目的は果たした。あいつは消えた」

 「まぁ、めでたしめでたしか……?」

 「とりあえず茂を担いで基地に戻るか」

 炎司たちは重傷だった茂を担ぎ、開いたままの鏡の世界へと戻った。

 基地に戻ると、すぐに佐助が迎えてくれた。

 「どうだった!?」

 「何とかなったよ……」

 奥から大道寺が来た。

 「まさか入江がいたとは……。君達をもっと見ておくべきだった……」

 「大丈夫」

 大道寺と話していると、奥から物凄い勢いで憾咲夢が走ってきた。

 「無事で良かった!」

 そう言って憾咲は抱きついてきた。

 「何してんだ……」

 「ごめん、つい……」

 憾咲は照れていた。

 (何なんだあいつは……)

 ひとまず、國﨑敏正の計画の一部を防いだことに安堵した炎司たちは少しだけ平和になると思っていた。だが、日本はまだ平和の欠片もなかった。

 

 次の日の朝、炎司はいち早く起きた。嫌な夢を見たからだった。それは、大道寺が殺される夢だった。最近炎司は夢が現実になることがあった。

 「やめろ……。師匠……、死なないで……」

 「どうした炎司……?」

 そこにいたのは大道寺だった。大道寺もうなされていたようだった。額に汗をかいていた。

 「師匠、夢ですか?」

 「炎司、わしの夢は予知夢であると前に言ったよな?」

 炎司は首を縦に振った。

 「最近儂は、儂が殺される夢を見るんじゃ」

 炎司の目が見開いた。

 (俺と同じ夢……?)

 「じゃあ、師匠……」

 「あぁ、儂はもう死ぬ」

 師匠が死ぬ……?そんなわけ無い。

 師匠は強いんだぞ?

 世の中で一番正義感が強いって本気で思う。

 なのに。

 なのに。どうして。

 「嫌だ……」

 絞まる喉から出てきた言葉はそれだけだった。

 「運命じゃ。人間は運命に逆らっちゃいかんのだ」

 「でも……!」

 「儂はな、もう十分生きた。もう後悔は無いんじゃ」

 大道寺の目は落ち着いていた。

 「俺は、嫌だ!師匠がいなくなったら、誰が徒陰をまとめるんですか!?」

 「お前だよ、炎司」

 「そんなのダメだ!」

 「良いかよく聞け炎司よ。子というものはいずれ、独り立ちをする。遅かれ早かれその日は必ずくる。でもな…」

 大道寺は炎司の頭を撫で

 「お前は若すぎる……」

 「オヤジ……」

 (ああ。そう呼ばれていたのはいつまでだったかな……)

 大道寺は炎司が大きくなると徹底的に鍛えさせた。大道寺の能力上鍛えるのは簡単だった……。

 

 それは、大道寺と炎司がまだまだ若かった頃。

 敏正率いる軍との戦闘に向け、炎司や戯介を鍛えていた。

 大道寺の家系は、代々大道寺拳の使い手であり、格闘技業界では有名だった。大道寺拳は、日本の空手、柔道を始め、歌舞伎の足取りまでも使われている。それに加え、大道寺の能力千里眼によって、敵の攻撃を判断することができる。要するには、相手の行動をよく見て次の攻撃を予測する力が鍛えられた。

 「判断が遅いぞ!炎司!」

 「だって、オヤジの能力じゃ無理ゲーだよ」

 「甘ったるいこと言うな!」

 「相変わらず鬼畜だな」

 戯介は、二人を見ながら呆れ顔で言った。

 「お前らはいずれ巨悪に立ち向かうことになる……。私がいなくなっても、巨悪は生きているかも知れない……」

 「死なないでよ、オヤジ」

 炎司は涙目で私を見た。大道寺は炎司の頭を撫で

 「馬鹿、死ぬわけないだろ!私を誰だと思ってるんだ」

 大道寺は炎司に微笑みかけた。炎司も大道寺に微笑みかけた。

 

 夜は明け、みんなは大道寺に呼ばれた。

 「君達を呼んだのは他でもない」

 みんなに緊張が走る。

 「儂たちは今から國﨑敏正率いる日本政府に決戦を挑む!このままでは新たな犠牲を生む。儂らでそれを食い止める。良いか?」

 みんなが頷いた。

 「よし、じゃあ、メンバーの振り分けを行う。徒陰は全員で本拠地に攻め込む。草木君は安静に。他のみんなは憾咲君と協力して薬の開発を。決行は明日の夜明けと共に。良いか?」

 みんなは静かに頷くだけだった。

 そして、決戦の夜明けの十分前、午前四時五十分、炎司たちは準備をしていた。

 「炎司……!」

 炎司は後ろから名前を呼ばれたので振り向いた。そこには憾咲夢がいた。

 「絶対に帰ってきてね」

 炎司は大道寺のように憾咲の頭を撫で

 「俺は死なねぇよ、夢」

 夢は顔を赤くし下を向いてしまった。炎司はその姿に背を向け歩いていった。



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十六 決戦

 「準備は良いか?」

 大道寺に聞かれ、炎司は頷いた。横には、柱が全員立っていた。

 「みんなで戦うって、これが初じゃね?」

 「確かに」

 佐助の問いに戯介が反応した。

 「見えた……!」

 大道寺が目を見開き言った。

 「儂が勝っておる。……良いか?お前達。どんなことになろうと我々が勝つ。この結末は変わることはない。自分を信じて行け。良いな?」

 炎司たちは自分用のお面やマスクをした。

 國﨑敏正の野望に勝つ。その戦いが今、始まる。

 

 「総理!」

 国会の総理室のドアが勢い良く開き、役人が中へ入って行った。

 「総理が予測していたとおり、徒陰が国会へと歩みを寄せています!後三分程でここへ到着すると見舞われます!」

 「やはり来たか、政宗……!至急、準備だ」

 「はっ!」

 (やっと来たか、政宗!随分遅かったな)

 

 ~三分後~

 

 「良いか?お前らは、三下を拘束していけ!お前ら柱は、儂の援護兼國﨑の懐刀とヘラクレスの無力化。それでは皆、武運を祈る!」

 大道寺と柱は物凄い勢いで門をくぐった。徒たちのスタンスナイパーライフルによって、門番たちは気絶していた。国会に入ると、役人と警察官が待ち構えていた。

 「みんな走れ!俺が道を作る」

 そう言った佐助は、自身の両腕を翼に変えた。

 「“風道(ウインドロード)”」

 風でできた道は、役人や警察官をはねのけドアの向こうへの道を作った。

 みんなが行った後、佐助も行こうとしたが、後ろからの弾丸が佐助の肩を掠めて飛んでいった。

 (何だこの弾丸……!速ぇし、でけぇ!)

 「ほほぉ!まさか避けるとはね!」

 「てめぇは……!」

 そこにいたのは、トゥワイス、國﨑義正(くにさきよしまさ)だった。

 「厄介な奴に捕まったな……」

 「佐助!」

 「構わず行け!敏正は何をするか分からねぇ!時間を無駄にするな!」

 佐助は微笑んだ。

 「死ぬなよ!」

 「あいよ!」

 炎司たちは静かに走っていた。

 「良いの?助けを必要としなくて?」

 「鳶は一人で飛んでんだよ……!」

 

 総理室へ続く道を走る炎司たちは道で待ち構えている人をはねのけどんどん進んだ。異変に気づいたのは、海人だった。

 「まっすぐ行くな!」

 炎司たちはすぐに横の通路へと曲がった。

 「“水壁(みずかべ)”!!」

 水でできた壁は氷を止めた。

 「よく気づいたな!水鯨……!冷気を出さない氷だったんだけどな」

 「ずっと、超音波出してたからな。少しでも形が変われば気付く」

 「だが、相性的には不利ではないのか?」

 「不利な方が逆に燃える……!」

 「……気に入った!このヘラクレスの郡谷凍斗が相手になろう!」

 

 「この先が総理室だ!」

 ドアを開けるとそこは、コンクリートの打ちっぱなしの薄暗い部屋だった。

 「何だここ!?」

 「すまないね。少々、部屋をいじってしまった」

 声のする方へと目を向けると、そこには入江が立っていた。

 「入江ぇ!!」

物凄い勢いで殴ろうとした戯介は誰かのガードで防がれた。

 「お前は横田一哉(おうだかずや)!!流石、硬ぇな!」

 後ずさった戯介はすぐに避けた。

 (こいつヤベぇ……!)

 後ろにいたのは、ヘラクレスの心田操太朗(こころだそうたろう)だった。

 「総動員だな」

 「この先には行かせたくないもん」

 「オヤジは先に行って!」

 大道寺は何も言わず、ドアへ向かった。

 「俺らを無視するなぁ!」

 一哉が殴ろうとすると、戯介の如意棒で吹っ飛んだ。

 「どこ見てんだ?お前らの相手は、俺らだよ。“キングカズヤ”?」

 「面白ぇぇ!!」

 「行くぞ二人とも」

 炎司が言った。



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十七 風柱VS國﨑義正

 <国会へ行ってから、五分経過>

 

 【服部佐助サイド】

 五分にも及ぶ戦いは、両者を酷く疲労させていた。

 (思っていた以上にしぶとい…)

 両者の戦いに巻き込まれた役人や警察官は誰一人も立ってはいなかった。

 両者疲労困憊の中、攻撃を仕掛けたのは、國﨑義正だった。

 「“自身二倍(マインドトゥワイス)”!!」

 義正の体は、みるみるうちに大きくなり、腕や胸のところの服はビリビリに破けた。軽く殴ると、突風が起き、壁に穴が開く。

 「速ぇし、重ぇ……!だがまだ反応圏内……!奴のこの技は、持続約四十秒。その後は、一分程度の能力が発動できなくなる……!」

 すると、義正は不気味に笑った。

 「時間切れまで持ちこたえる気か?……甘いな……!」

 そう言うと、ポケットから出したのは、注射器のような物だった。

 (何だあれ……ん?)

 義正は腕にその注射器をうつと、もがき苦しみだした。次の瞬間、義正の体は更に大きくなった。

 「何だこいつ……」

 「この薬はね……、能力をブーストさせる薬なんだ……!僕はもう二倍なんかじゃない!」

 佐助は殴られた。受け身はとれたものの、かなりの重傷だった。

 「速すぎる……!重さもヤベぇ……!」

 「僕は、もう四倍だ!」

 「“幻獣化(オリジン)”」

 佐助はの体から羽毛が生えていき、鳶になった。

 「僕思ったんだけどさ、鳶って強いの?」

 そう言った瞬間に殴られたが、ギリギリ避けた。

 「やっぱり、目良いね!」

 「鳶だからな」

 それから、佐助は義正の攻撃をギリギリで避け続けた。息遣いが荒くなってきた義正を見た佐助は、薬が切れることを予想し勝利を確信していた。

 (いける……!)

 「いける!って思っただろ?僕ももう限界だからね、全力出すわ!」

 義正は笑い出した。

 「あっはっはっは!!皮膚がはち切れそうだ!」

 笑う義正に寒気がした。

 「“限界十六倍(クリティカルシックスティーン)”!!」

 義正は、天井を突き破り佐助を見下した。

 「ははは!いくら、超大型鳶のお前でもこの僕には……」

 「助かったよ、天井破壊してくれて。羽伸ばせそうだ」

 「は……?」

 佐助は遥か上空へと飛びたった。

 「いくら、高く飛んでも勝てねぇぞ?」

 義正は笑っていたが、佐助の意図が分かった途端に顔をしかめた。次の瞬間、義正は佐助に潰された。

 「重っ……!」

 「今まで見せてきた姿は、超大型じゃない。ただの大型だ」

 「こんな足、僕の力で何とか……?くっ……!何だ重すぎる!」

 「これは足じゃねぇよ。爪先だよ……!」

 「どんだけでかいんだよ……!」

 佐助の姿を見た義正は唖然とした。

 佐助の顔は雲で見えず、足だけで国会を潰せそうだった。

 義正は気絶した。

 (薬の効果切れか……?くっ……!俺も疲労がヤベぇ……)

 佐助は人型に戻った。

 

 佐助との戦いの二分後、義正はゆっくりと目を開けた。

 「ここはどこなんだ!くっ……!体が動かない!」

 「やっと目ぇ覚ましたか……」

 (この声は……!)

 「何でお前が……!」

 「覚えていないのか?」

 「あぁ、確かヘラクレスの心田操太朗という奴に会ってから記憶がない……!」

 (これは思った以上にヤバそうだな)

 この佐助の嫌な予感は的中しようとしていた。




 服部佐助能力“超大型鳶”
 ・自身を鳶に変えることができる。大きさも調整できる。大きさは、普通、大型、超大型。よくカラスに襲われる。
 
 國﨑義正能力“二倍”
 ・あらゆる物を二倍することができる。速さも力も人も。二倍するものは三個が限界。


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十八 水柱VS郡谷凍斗

  <国会へ行ってから、七分経過>

 

 【水嶋海人サイド】

 佐助と分かれてたった二分後。通路に突然現れた氷から皆を守った海人は、ヘラクレスの郡谷凍斗と戦って、間もなく三分経過。

 (やっぱり、相性悪いな…!それ以前に奴の能力が高い!)

 「やはり、辛いのか?だから言ったのだ。応援呼んだ方が良いと」

 「僕たちはな、勝つんだよ…!経過がどうあれ僕たちは勝つんだよ……!」

 「儚き夢の先に何を見る」

 「夢じゃねぇ……!現実だ!」

 「一度私の氷で頭を冷やせ。さすれば、未来が見えるようになるかもしれん」

 「“全体冷凍(フィールドアイス)”!!」

 辺り一面が凍り、海人は何とか飛んで避けたが、ギリギリだった。

 (能力が洗練されている……!こいつやっぱり強ぇ!)

 「“超音波舞(ちょうおんぱれーど)”」

 辺り一面の氷が振動で割れた。

 「流石、徒陰の柱なだけある。そうでもして貰わんと、戦いが楽しめん」

 (こいつ、戦いを楽しんでやがる……!余裕過ぎる!まだ全力も出してないのか!?)

 「これ以上は無意味と判断した。終わらせる」

 郡谷凍斗は腰を落とし構えた。

 「死んだらご免、先に謝っとく」

 (さっきより格段に寒い……。何をする気だ……?)

 「“大氷柱(おおつらら)”!!」

 壁や天井から無数に出てきた氷柱は、海人の体に突き刺さった。その前に水鯨になった海人は血は出なかったが、体がみるみるうちに凍り始めた。

 (ヤバい……、意識が……!)

 (“水蒸気化(すいじょうきか)”!!)

 海人の完全冷凍は免れた海人だが、体の半分以上を凍らされ体は半分の大きさになってしまった。

 (これじゃ、勝ち目が……!)

 郡谷凍斗は、まだまだ余裕そうだった。

 「手応えがないな。まぁ、あやつは弱かった。だが、仕方あるまい。大道寺たる者が弱きなり」

 「待て」

 「ん?生きておったか。だが、以前よりも小さくなったの」

 「今なんて言った?」

 「は?」

 「なんて言ったか聞いてるんだよ!!」

 次の瞬間、氷は割れ液体になった。

 (なんだと!?この氷は普通の超音波では破壊できないはず!しかも、沸騰している……?まさか感情で温度が変えられるというのか!?)

 「面白い!そなたの温度と、私の温度でどちらが勝つか、いざ勝負!」

 海人は普通の大きさに戻り、右腕だけが水鯨化した。

 (私の最低気温をぶつける!)

 「“絶対零度(ぜったいれいど)”!!」

 海人は右腕が振った。すると、一瞬にして氷が融けた。

 「なん、だと……?」

 海人は構えた。

 「くっ……!最高硬度“氷壁(ひょうへき)”!!」

 「“水鯨の大激怒(クジラアングリー)”!!」

 郡谷凍斗の氷壁は簡単に融け、直撃した。

 (熱い……!骨が……!焼ける……!)

 「うわぁぁぁ!!!」

 郡谷凍斗の体は全身が火傷を負っていた。

 「今度オヤジをけなしてみろ、溶かしてやる」

 海人は倒れた。

 (怒りすぎた……)




 水嶋海人能力“水鯨”
 ・自身を水鯨に変えることができる。感情によって温度が変えられる。
 
 郡谷凍斗能力“氷結”
 ・氷を発生させることができる。自身を氷にすることは不可能。


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十九 あの男再び

 <国会へ行ってから、十分経過>

 

 【神木炎司&猿飛戯介&雷電弁慶サイド】

 国会に入ってから、十分経過した四時十分。太陽の光が当たりきらず、冷えた地面と裏腹に国会では熱い戦いが繰り広げられていた。力の差は政府側が少し優勢。

 「やっぱり……、強ぇな……!」

 戯介は息切れしながら、言った。

 「そうだ、相手はヘラクレス二人に國﨑の懐刀のキングカズヤだぞ……?」

 「そうだな……、僕が回復をしながら、心田って奴をやる」

 「随分余裕だな」

 一哉は笑いながら言った。

 「弱い奴ほどよく吠えるってやつだね、操太朗」

 入江は心田に話し掛けたが、心田は頷くだけだった。

 「そろそろ終わらせよーぜ」

 その発言と共に、相手は一斉に飛び出した。

 その瞬間に相手の目の前に動物の化身が現れた。

 「お前は何匹動物を殺した……?」

 「やっぱり、“麒麟”はやっかいだ!殴っても切っても、意味がねぇ!心田!頼む!」

 心田は頷き、自身の頭に手をあてた。すると、動物の化身は消えた。

 「あいつもやっかいだな、僕が心田って奴を引き受ける……!」

 「俺は、キングカズヤをやる!肉弾戦なら、俺の方が良いだろ?」

 「任せる…!」

 

 一人一人が戦うなか、炎司は入江と闘っていた。

 「久しぶりだね」

 「……どけ。俺は、オヤジを助けに行く」

 「私もね、できれば敏正を助けたいんだよね……」

 「俺の能力上、反撃炎は何回でも打てる。勝ちは目に見えてるはずだろ……?」

 すると、入江は不気味に笑った。

 「まさか君はあの時の能力が全部だって思ってないよね……?」

 入江は、空中に浮き出した。そして、入江の腕は歪な形になっていく。

 「“膂力増強(りょりょくぞうきょう)”×四に“ショック吸収(きゅうしゅう)”に“巨大手(きょだいしゅ)”に“瞬発力(しゅんぱつりょく)”×三に“金剛(ダイヤモンド)”…。君を確実に殺せる能力をかき集めた……!さあ、()ろう!」

 入江は、構えた。そして、笑った。

 「“刻止め”……!」

 その瞬間、世界が止まった。…はずだった。

 (な……!何故動ける!?)

 炎司は首を鳴らしていた。

 「僕たちは、幻獣だ。幻だ。幻は“刻”を刻まない」

 「じゃあ、最初は!?何故攻撃を受けた!?」

 「まぁ、分析って感じかな」

 入江は、下を向いた。と同時に、刻が進み始めた。入江は、肩は上下に動いていた。

 「……ふはは……!やはり君達、面白いよ!しかし潰した方が良いな!」

 「断念だが、お前を倒すのは、俺じゃない」

 炎司は、右方向に指を指した。そこには、鏡があった。次の瞬間、鏡から、十のツルが伸びてきた。そのツルは、棘を持ち、相手に伸びていった。横田や入江はかわしたが、心田は捕まってしまった。

 (誰だ……!?放せ……!)

 心田は念じたが、ツルは緩まなかった。

 「お前の能力には弱点があるんだよな。それは、頭にかぶり物があると、洗脳ができないってな!」

 鏡から出てきたのは、包帯をぐるぐる巻きにされた草木茂だった。

 「遅くなっちまったな!待たせた!」

 「やっぱり、ここにくるか」

 「おう!どうして倒したい奴がいるからな!」

 「それがお前の判断か……。気に入った!後は任せる!よろしくな、茂」

 「おうよ!」

 「ザコが一人増えたからって調子に乗るなよ……?」

 炎司は、ドアの向こうへ行った。

 「無視かぁぁぁ!!!」

 殴ろうとした入江を、逆に炎司は軽く殴った。入江は物凄い勢いで吹っ飛んだ。

 「幸運を祈る!“再生炎(フェニックスフレア)”」

 戯介や弁慶、茂たちは炎に包まれた。戯介や弁慶、茂はどんどん回復していく。

 (温かい……!)

 「ありがとう!炎司!」

 炎司は走って行った。



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二十 真実とは

 <国会へ行ってから、十五分経過>

 

 炎司は通路を全力で走っていた。

 (オヤジ……!待ってて……!)

 炎司はドアを開けた。ドアの向こうには、オヤジがいた。そこには、國﨑敏正もいた。大道寺の胸には、國﨑の腕が刺さっていた。

 「オヤジぃ!」

 「遅かったじゃないか、焔ぁ?貴様のせいで政宗はこんな大傷をおってしまったぞ?」

 「オヤジから離れろ!」

 炎司は、國﨑を殴ろうと飛びかかった。しかし、炎司は殴られていた。

 (速ぇ……!こいつ、速すぎる……!)

 「君は遅いな!」

 「え、えん……じ……!」

 「オヤジぃ!」

 「お、お前じゃ…、こい、つは……、さ、ば、け……ない」

 「そんな関係ねぇ!俺はオヤジを助ける!」

 炎司は構えた。それから、たった三十秒で千発以上もの攻撃を受けた炎司は、立つのもままならない状態だった。しかし、彼が溜めた攻撃は以前の入江戦の約三十倍にも及ぶ威力だった。

 「“反撃炎(リベンジファイヤ)”!!」

 この攻撃に当たり外れ一面が煙りに覆われた。いけた。そう思っていた。しかし、國﨑は立っていた。

 「まさかここまでの威力とは……!面白いな!」

 (しぶといな……)

 すると、國﨑は何かを思い出したのか、炎司に向かって

 「そうだ!君に言いたいことがある!お前の家族についての事だ!」

 「お前の家族についてだ!」

 炎司は動きが止まった。

 家族?何だそれ。俺にそんなものいんのか…?

 「お前の本当の名前は神楽灯(かぐらともる)。そしてお前の父親の名は、神楽大輝(かぐらだいき)。お前と“夢”の本当の親だ……!」

 「……は?」

 あまりに突然に言われたので、反応に遅れてしまった。俺と夢が家族?

 「と言っても、お前の父親は、もうこの世にいないがな」

 「……さっきから何を言ってるんだ?」

 突然過ぎるこの発言に混乱が止まらなかった。

 「一から説明してやるよ」

 「やめてくれぇ!」

 大道寺が残りの命を使い削るように言った。

 「これ以上は、この子に必要の無い過去だ!」

 「だが、知る権利はある……!」

 國﨑は一拍おいてから、話し始めた。

 「教えてやるよ。お前の全部をな!」

 

 今から、約十八年前。ある一人の男の子が生まれた。その名は、神楽灯(かぐらともる)。赤毛で紅い瞳をした可愛いらしい男の子だった。灯と呼ばれた子には、成功作ではなかった。日本では珍しい古典型の子どもだった。しかも幻獣種。それを隠そうとした父親は国から逃げることを計画したが、あと一歩のところで捕まってしまった。

 その男の名は、ヘラクレスの一員、神楽大輝(かぐらだいき)だった。



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二十一 回想 神楽

 P3ができてから、すぐの日本では、警察、軍の機能は停止していたに等しかった。そこで結成されたのは、「ヘラクレス」だった。当時未成年だけで結成されたこのグループは、個性型の中でも、群を抜いて強力な能力を持った人が集まっていた。

 その中に、神楽大輝(かぐらだいき)もいた。彼の能力は、“炎”。シンプルな能力だが、とても強力だった。

 彼はとても優秀で、正義感の強い男だった。しかし、持病で昔から体が弱かった。そのせいでいつも学校は休みがちで、いじめをやめさせようとしても返り討ちに遭うのは日常茶飯事だった。弱い自分が嫌いだった。

 だが、そんな彼にも転機が訪れた。それがP3だった。当時、大学生だった大輝は迷いなく受けた。そして、彼は力を得た。更には、当時珍しかった個性型の発現。そして、ヘラクレスの勧誘。彼の人生は幸せだった。

 そもそもヘラクレスができた理由は、失敗作の中の幻獣を狩るために結成された。彼は、どんどん失敗作を狩っていった。当時のヘラクレスのメンバーの中では、最強に最も近く、メンバーの武田器一(たけだきいち)と仲が良く、一緒に失敗作を狩っていた。

 武田器一は能力“武器化”を持っており、彼自身ではそれほど力を発揮しないが、使われることで彼は力を発揮する。彼らは、巷で有名になっていた。

 「過去とは大違いだよ。いち」

 いちは、武田器一の一からとった大輝だけが器一を呼ぶあだ名だった。

 「久しぶりに酔ってるな!だいき…」

 「ああ…、そりゃ飲むさ…。だって、百人記念だからな!」

 百人は、大輝たちが殺してきた失敗作の数だった。

 「明日も仕事なんだぞ……?」

 「大丈夫だよっ!っひっく!」

 (ダメだこりゃ……)

 「飲み過ぎじゃない……?」

 カウンターから、店の店主の、西景子(にしけいこ)が話し掛けてきた。西は、大輝いわく、幼馴染みだそうだ。

 「うるせー!酒が飲めればそれで良いんだぁ!」

 「それは良いんだけど……、もう帰ってくんないかな?あんたら以外客はいないから」

 気づけば、客は自分たちだけだった。

 「しゃあねぇな、帰るか!」

 僕たちはお会計を済まし、店を出た。と、同時に西さんも店を出た。

 「家まで送ってやるよ」

 「結構です!」

 そう言って西さんは帰って行った。

 「クソっ!何でだよ!」

 大輝は昔から、西のことが好きだった。貧弱だった自分をいつも支えてくれたといつも言っていた。だから恩返しがしたいとも言っていた。

 ふと、焦げ臭い臭いがし、振り向くと火事が起きていた。

 「おい……!だいき!あのマンションって……!」

 「…!行くぞ!」

 大輝たちが着いたころには、高層マンションが炎に包まれていた。

 「助けるぞ!いちは俺の援護を!」

 器一は頷いた。

 (人の体温を感知したのは、約十箇所。短時間じゃ無理だ……!こうなったら……!)

 すると大輝は燃えているマンションに手をついた。次の瞬間、大輝の燃える手にマンションの炎が吸われていった。

 (流石にこの量は……!)

 大輝の頭には走馬灯が走っていた。走馬灯の映像全てに西が映っていた。

 (俺、死ぬのかな…?)

 だが、その走馬灯の中で西が「死なないで」と言っていた。

 その言葉に反応した大輝は、気合いを入れて再び吸収し始めた。そして、マンション全ての炎を吸収した後、大輝は雄叫びをあげ、天に向かって吸収した炎を打ち上げた。

 その後、救急車が来て怪我人が運ばれた。

 「ありがとう……!」

 意識朦朧とした西が言った。

 その後、大輝と西は結婚した。




 神楽大輝能力“炎”
 ・炎を放出することができる。自身を炎にすることも可能。
 
 武田器一能力“武力化”
 ・自身を武器に変えることができる。武器を見ることでを記憶して、武器化できる。


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二十二 回想 救出

 大輝と西が結婚して、ある一人の子どもが生まれた。それが神楽灯(かぐらともる)だ。しかし、その子は能力は発現したが「古典型」だった。しかも、世にも珍しい幻獣種だった。

 子どもは、幼いときは能力のコントロールが悪く、下手したら、人を殺めてしまうこともある。だが、大輝たちはこのことを隠し、能力を“炎”として生活をしてきた。

 だが、灯が二歳のとき、誤って幻獣化してしまった。それが国にバレ、大輝たちはやむを得なく灯を政府に差し出した。

 そして、その三日後、政府が失敗作の殲滅をヘラクレスに命じた。もちろん、大輝は降りようとした。しかし、この作戦を逆に利用しようと考えた。

 (灯は、俺が守る…!)

 そして、殲滅作戦当日、大輝たちヘラクレスは離島へ向かった。そこで見たのは、おびただしい数の失敗作だった。全般が未成年で、成人は既に処分されている。こちらを見ると、威嚇をしてくる失敗作に大輝は胸を痛めていた。

 「必ず助けるぞ…!だいき…!」

 大輝は静かに頷くだけだった。

 島に着いた瞬間、殲滅作戦が始まった。入江や、郡谷は、目の前の失敗作を勢い良く吹っ飛ばしている。大輝は、周りの目を見計らって道を外れた。大輝の目的は一つ。灯を助けること。

 

 灯を探して、五分経過。度々失敗作に出会うが、どれも灯ではなかった。出会った失敗作は、殺す気も無く気絶だけさせた。

 もしかしたら、他のメンバーが殺してしまった?いや、こんな速さで行動してるわけがない。

 すると、無線から器一の声が聞こえてきた。

 『だいき!!』

 「見つかったのか!?」

 『早く来てくれ!灯くんが…!』

 大輝は、器一に言われた場所へと急いだ。

 

 そこには、灯と器一、更にはヘラクレスのメンバー、心田操太朗がいた。灯は炎をあげ、雄叫びをあげていた。

 「大丈夫か!」

 大輝は、炎で加勢した。

 「灯くん、こんなに強く…!」

 「子どもはある意味、加減を知らないからな…!」

 横から、心田が割って話してきた。

 「何で操太朗が…?」

 「心を読まれてしまった…!でも、操太朗も同意してくれた!」

 「私も元々は、この計画に反対だった。“大道寺博士との約束”もある…。だが、私は捕まるわけにはいかない…!」

 大輝たちは深くは聞かなかった。心田操太朗の考えは確実であることがわかっていたからである。

 心田操太朗は元科学者で、P3の実験にも参加していた。そして、大道寺の才能に惚れ、尊敬していた。P3が成功すると、強力すぎる能力が目覚め、ヘラクレスに勧誘された。

 「神楽君!この子を行動不能にすることは可能か!?」

 「多分できる!」

 「頼む!」

 大輝は、胸の辺りに丸い炎の球を作った。大輝はそれを灯に向かって投げた。投げた球は灯に当たり、灯はその炎に吸い込まれた。

 「後は、何とかやり過ごすぞ…!」

 「何をやってるんだ…!?」

 声がした方に振り向くと、そこには、入江與と郡谷凍斗がいた。



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二十三 回想 真実の結末

 「何をやってるんだ…!?」

 こいつらが現れなければ、灯は助かっていたはずだ。あと。あともう少しだったのに。

 「お前達、悪いことしようとしてないよね?」

 「そんなはずないだろ。さぁ、殺しに行くぞ?」

 心田のアシストにより、その場を逃れた大輝たちは失敗作を殺していった。と言っても、先に入江や郡谷が殺してしまうが。

 そして、失敗作を一通り殺した後、入江たちは止まった。

 「私はね、思ったんだよ。私や凍斗、操太朗は気が合うのに、君達二人とは全然合わない。…だからね。今、殺す…!」

 入江の腕はガトリングガンに変わり、大輝たちを襲った。

 「神楽や武田の能力は貴重だ!みすみす殺すなよ?」

 そう言うと、郡谷は不気味に微笑み、足から氷を発生させた。その氷は、大輝が相殺させた。

 「クソっ!操太朗!お前も殺せ!」

 心田は俯いていた。ブツブツと何かを言っていた。

 「解け!神楽君!あれを!」

 大輝は何も言わず、炎の球を解放した。炎の球から解放された灯は、雄叫びをあげた。その雄叫びで周りの木々が燃えた。

 「何だこいつ…!凍斗!」

 郡谷は、氷で灯を覆った。しかし、一瞬にして氷は溶けてしまった。灯は九本の尻尾を伸ばした。すると、灯の周りの木々は溶けてしまうほどの炎が舞った。

 辺り一面が平地になった中、立っていたのは大輝だけだった。そして、その近くにいた武田と心田が無傷だった。大輝は、口から煙を吐き、手は焦げていた。あの時、大輝は咄嗟に自分の周りの炎を瞬時に吸収した。

 渾身の一撃だったのか、灯は人の姿に戻っていた。

 「灯!」

 大輝は、灯の元へ駆け寄った。

 「パパ…!ごめんなさい…」

 「泣くなよ、灯!良いか?お前の炎じゃ、俺は死なねぇ!」

 「パパ…」

 「なるほど…!その子は君の子どもだね…?」

 振り向くと、大輝と灯は宙に浮いていた。

 「いち!」

 大輝の着地と共に灯は武田によって、抱えられていた。しかし、遅かった。入江によって、刻を止められていた。悠々と入江は歩き、大輝と武田の能力を奪った。心田の能力を奪おうとしたとき、炎が舞った。

 (クソっ!こいつ動けるのか!?)

 そのとき、刻が動き始めた。

 「能力が使えない…!?」

 その後、入江や郡谷に死寸前までに追いやられた。

 (これはヤバい…!)

 そう思った心田は灯以外の者の脳を洗脳させ、五感を停止させた。

 「いいかい?灯くん、今から言う通りに動いてくれ。」

 心田は耳打ちをした。

 「この作戦は、キミの行動力がカギになる。キミは神楽大輝君の子どもだからできることだ。…良いね?」

 灯は泣きながら頷いた。心田は灯の頭を撫でた。

 (僕から離れないでね…)

 (“不可視(ロストアイ)”)

 そして、心田は、入江や郡谷の記憶をすり替えた。

 入江たちの火傷痕は、大輝との戦闘によるもの。

 入江は大輝に勝ったということ。

 入江は能力を確認した。もちろん、“炎”も“武器化”もある。入江は心田に何も言わず、船へ戻っていった。

 

 船で東京に戻ると、心田は、政府の人を押しのけてどこかへ行った。

 「どちらへ…?」

 「用事を済ます…!」

 裏路地へ向かった心田は人目が気にならなくなると、“不可視(ロストアイ)”を解除した。すると、灯が光のように現れた。

 「よくついて来れた…!よし、次は、キミは遠くへ行ってくれ。できるだけ人目がつかないところへ行ってくれ、そこで隠れていてくれ。必ず迎えに行く。良いかい?」

 灯は静かに頷いた。

 「すまない…」

 そして再び心田は、灯に“不可視(ロストアイ)”をかけた。

 心田は、静かに歩く灯の見えるはずの無い背中を見て泣いた。

 しかし、心田は、灯の元へと行けなかった。



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二十四 真実を知る者の決意

 「俺が父さんを殺した…?」

 「多分な。あくまで予想だが。ヘラクレスのあの火傷痕は、能力による炎だと見て分かる。かぐらは仲間を打つようなそんなヘマはしない。だったら君しかいなくなるんだよ!焔ァ!」

 (俺が殺した…?)

 「違う!」

 炎司は声のする方へと振り向いた。そこのは心田操太朗が立っていた。

 「おぉ!操太朗!お前がここにいるということは、片付いたって事か?」

 「お前の言っていることは違う!」

 心田は間髪入れずに言った。

 「ヘラクレスの火傷は神楽君がやった!灯くんは誰も傷付けていない!」

 炎司はその言葉に対して、瞳に涙を浮かべた。

 「何を言っているんだ!操太朗!」

 「裏切り者ォ!」

 國﨑は、心田に殴りかかろうとした。

 「“対象不可視(ノットアイ)”!」

 國﨑の視界から、心田や炎司、大道寺が消えた。

 「どこだァ!?操太朗ォ!」

 (こっちだ!灯くん!)

 脳に話し掛けられた炎司は一瞬肩をあげ、心田の方へと向かった。

 「大道寺博士!気をしっかり…!灯くん、回復はできるのかい?」

 炎司は、頷く。

 「じゃあ、頼む!」

 「あの…」

 心田は振り向くと、首をかしげた。

 「何で俺の本当の名を…?」

 「あぁ…、そうだったね。キミの記憶を消したんだった」

 心田は、過去にできた出来事を全て話した。

 「お父さん…!」

 「キミは誰も傷付けていなかった…!」

 「でも何で記憶を?」

 「キミには生きてて欲しかった。だけど、あの時の記憶があるとキミは復讐にはしる。キミは神楽君に似ているからね…」

 「…ありがとうございます」

 「うぅ…」

 「大道寺博士!」

 「操太朗か…?それに炎司も…」

 大道寺は急にハッと目を見開き、辺りを見回した。

 「敏正は…!?」

 心田は國﨑の方へ指を指した。

 「見えておらんのか…?」

 心田は、頷いた。

 「相変わらず、操太朗の能力は強力じゃな」

 「國﨑にどんな技をかけたんですか?」

 「これは“対象不可視(ノットアイ)”と言ってね、かけた人の視界に映る人を何から何まで消すことができるんだ。時間制限はないから、安心して」

 (強ェ)

 大道寺の傷口が塞ぎ始めた頃。

 「オヤジ…」

 「なんじゃ…?」

 「俺のお父さんのこと、知ってたの?」

 大道寺は、下を向き、

 「あぁ」

 と、答えた。

 「わしと炎司のお父さん、大輝とは操太朗を通じて、知り合ってな。君もすぐに知り合ったが、記憶にはなかっただろう?まだ炎司が小さかったからの…」

 「炎司は珍しい幻獣種だったから調べさせてもらったんじゃ。そしたら…」

 大道寺は、炎司の目を見て、

 「炎司。君は日本を救う力を持っている…!」

 「俺にそんな力が…?」

 「その力はな…」

 大道寺が、話し掛けているときだった。

 「見つけたぞォ!操太朗ォ!」

 「なぜだ!私の能力を…!?」

 「簡単なことだったよ!能力を“分解”すれば良かっただなんてな!」

 國﨑は、高らかに笑っていた。




 心田操太朗能力“テレパシー”
 ・相手を洗脳することができる。ただし、頭に帽子やヘルメットなどの遮蔽物があると洗脳ができない。


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二十五 草木茂VS入江與

 <国会へ行ってから、十七分経過>

 

 炎司が戯介たちと別れて、二分が経過。

 

 <猿飛戯介&雷電弁慶&草木茂サイド>

 三人の戦いは白熱していた。

 「クソっ!強ェ!入江が厄介だが、それ以上に心田って奴が厄介だ!」

 「草木って言ったか?」

 入江が言った言葉に茂は反応した。

 「君は「古典型」の幻獣種じゃない…。君はいらない…!」

 そして、刻が止まった。その0.5秒前に茂は、技を出していた。

 自身の三倍近くもの大きなツルを。

 (刻を止めれば、全てが無意味…!)

 草木が技で出したツルに入り、攻撃しようとした。しかし、出てきたのはツルの外であって、草木のところではなかった。

 (何だと…?)

 入江は、自身の腕を鎌に変えツルを切ろうとしたが、切れなかった。そのまま、刻は動き始めた。

 「何だこのツルは?」

 「このツルは、俺が作った。“ゼリー”って言ってな、人喰い草の一種で、異常な繁殖力に、人を迷わせるために迷路のように生えるんだ。それに茎全部が、ジェル状になっていて、切れないんだ」

 「少し見直したよ…!」

 そう言って、入江は右手から炎を出した。

 さすがに、ゼリーも焼けてしまった。

 「炎も出せるのか…!」

 「この能力はね、焔の父親から奪ったものなんだよ…!」

 「炎司の…、父親…?」

 「あいつは、ヘラクレスのメンバーだった。正義感が人一倍強い奴だったよ。だから、よく私と対立した」

 「だから、奪ったのか…?」

 「ああ。どうやって奪ったか覚えていなかったが、気付いたら私は、あいつの能力を奪っていた!」

 次の瞬間、入江は、ツルに締め付けられていた。

 「辛かったよな…、炎司…。いないと思っていた父親がいてよ、既に死んでるしよ、能力奪われたしよ、一番恨んでるのは、炎司、お前のはずなのによ…。…許さないよなァ…!」

 ツルの締まりが強くなる。

 「俺、炎司の分も仇、うってやる…!」

 入江が苦しさに我慢できず、腕を鎌に変え、ツルを切った。

 「死ぬかと思ったよ…!」

 「そろそろ、ケリをつけよう…!」

 「あぁ…!」

 「さっきのように全力でいかせて貰う。骨すら残らない威力だが、葬式の時は勘弁してくれ」

 入江は空中に浮き、以前のように腕が歪な形になった。入江は横に軽く腕を振ると、打ちっぱなしのコンクリートの壁が容易く砕け散った。

 「行くぞォ!」

 茂は、腕を胸の前に組み、防御の姿勢をとった。

 「“装甲草(そうこうそう)”」

 そう言った後に、入江の攻撃により、茂の後ろが砕け散った。

 「茂!」

 戯介が叫ぶ。

 「無理だ。この攻撃で立つ…いや、生きてるものすら見た事無いからな…!」

 次の瞬間、入江は殴られた。辛うじて左腕で防御したが、左腕の骨は、はボロボロに砕けた。

 「ショック吸収をしたはずだぞ!?どういうことだ!」

 「あんな攻撃びくともしねぇよ…!」

 そこにいたのは、殴ったはずの草木茂だった。死ぬはずの攻撃をしたはずなのに。入江はそう思っていた。

 すると、草木は血を吐いた。

 「やはり、私の攻撃は通じているのか!」

 「違ぇよ…!」

 草木の発言に、背筋が凍った。入江は、腕をピクピクさせていた。

 「この茎も俺が作った。“装甲草”って言ってな。この茎は、人間に寄生し人間の栄養を奪い取る。そのかわり、奪った栄養分をタンパク質に変え宿主に異常な筋力を得ることができる…!リーパ菌と同じようなものさ」

 「そんな馬鹿な…!私の全力が、こんなボツ能力に負けるなど…!許さん!」

 入江は、両腕を歪な形に変え、草木に殴ろうとした。

 「お前は、持ちすぎたんだよ…。能力も欲も!」

 「キェェェェ!」

 「“十乱茎大暴走(テンタクルスペクタクル)”!!」

 入江は天高く吹っ飛び、草木は血を吐き、(ひざまず)いた。

 「炎司の恨み、受け取ったか…!」



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二十六 岩柱VS横田一哉

 <国会へ行ってから、二十分が経過>

 

 草木が入江を倒した後、戯介は“キングカズヤ”こと横田一哉との肉弾戦を繰り広げていた。

 その数およそ二千発。戯介は、息を切らし拳が赤くなっていた。一方横田は、息切れ一つも無しに余裕の表情を醸し出していた。

 (こいつ…、やっぱり硬ェ…!それ以上に何だこの体力は。無限なのか…?)

 「どうした!威力、スピードが落ちているぞ!もっと、俺を楽しませろ!」

 戯介は、防御の甘かった場所に拳が入り、打ちっぱなしのコンクリートに吹っ飛んだ。

 (痛ゥ…!)

 戯介は髪の毛をむしり、息を吹きかけた。息で舞った毛は、瞬く間に自分そっくりな分身へと化した。十以上いるであろう分身は、横田へ襲いかかった。

 毛分身は、本体の強さを五とすると、毛分身は三程度。一定のダメージを受けると煙と化すが、それほどやわじゃない。そんなはずなのに、横田が一回攻撃するだけで毛分身は消えてしまう。

 「俺を誰だと思ってやがる!男子総合格闘技無差別 XXX(トリプルエックス)級絶対王者だぞ!?知らねぇわけではあるまいし」

 

 男子総合格闘技無差別級XXXとは、このP3が生まれてできた試合である。

 X、XX、XXXと別れており、国の軍隊をも参加する試合であり、その中で、高校生が優勝するのは異例であった。横田は、この試合まで平凡な生活をおくってきたが、急に戦闘に目覚めたらしい。

 

 「強ェな…」

 「もっと楽しもーぜ!」

 「いや、もうケリをつけよう…!」

 戯介は、胸の前に拳をぶつけた。

 「“幻獣化(オリジン)”」

 戯介の体は、みるみるうちに大きくなり毛深くなった。

 「それが、本当の姿か!」

 横田は構えた。

 「行くぞ!」

 戯介の拳は、横田に放たれた。しかし、横田は華麗に避けた。その威力は向こうの壁にヒビを入れた。

 「“Ⅶ(セブン)”」

 横田は、右ストレートを戯介に当てた。真正面に受けた戯介だったが、ビクともしなかった。

 「ほほう…!Ⅶ(セブン)でもビクともしないのか!」

 次の瞬間、横田の腕が見たことない形になった。

 「本気でいく!」

 横田のパンチをくらった戯介は、二メートル程吹っ飛んだ。

 (重ェ…。何より、硬ェ…!)

 「これが、俺の最高硬度“Ⅹ(テン)”だ!」

 これが、こいつの本気か。やはり「國﨑の懐刀」だけある。

 「俺も、もう少し本気を出そうかな…!」

 「何を言っているんだ!下らん!」

 しかし、次の瞬間横田は、足が震えだした。

 「何だこの感じ…。経験したことねぇ…!」

 戯介は、牙を剥き出し、着ていたパーカーはビリビリに破け、毛が生えてても分かるぐらいの筋肉が出ていた。

 (これは、人だけで味わえる恐怖じゃねぇ…!)

 「どっちを選ぶ…?逃走か、敗北…」

 横田は構えたが、足がガクガクに震えていた。

 「い、いやだ…」

 「“王猿(キングコング)”」

 戯介の一振りは横田の天高く打ちつけ、天井ごと無くなった。

 「情けねぇ…」

 

 横田一哉(おうだかずや)能力“硬質化”

 ・自身を硬くすることができる。Ⅰ(ワン)からⅩ(テン)までもの硬さを持っている。ちなみにⅩはダイヤモンドぐらい。



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二十七 雷柱VS心田操太朗

 <国会へ行ってから、二十分経過>

 

 周りが物凄い闘いをしている中、弁慶は、心田と闘っていた。

 闘うと言っても、大半が拳を交わさず殆どが心理戦だった。予測しては打ち破り、予測しては打ち破る。それの繰り返しをしていた。

 (困難じゃ、終わりが見えない……)

 すると、頭から

 (頼む…!話を聞いてくれないか……?)

 声が入ってきた。

 (私を洗脳から解いてくれ!)

 (何を言っているんだ……?)

 (実はな、ヘラクレスや國﨑の懐刀は洗脳されている!)

 (どういうことだ……?)

 (説明は省く、これは一刻を争う)

 何なんだこいつ。こいつを信じて良いか、弁慶は悩んでいた。

 

 弁慶は、昔から判断力が人より鈍くそのせいでいつも出遅れていた。そのとき発現したのは、麒麟の能力。その能力のお陰で、弁慶は多くの人を救うことができた。しかし、古典型の弁慶はいつも警察に追われていた。

 いつもいたのは森の奥。人がいないと思っていた。しかし、そこには人がいた。それが大道寺や炎司たちだった。

 温かく迎えてくれた大道寺たちに戸惑う弁慶だったが、徐々に打ち明けていった。弁慶は昔から、夢があった。それは、「自分の居場所を作ること」だった。その夢は、大道寺たちによって叶った。そんな大道寺たちに恩を感じた弁慶は、恩返しをするべく、今までついてきた。

 

 弁慶は、目を閉じ構えた。

 「少し苦しいが我慢してくれ……!」

 そこに現れたのは、人間や動物の霊だった。

 「“招来霊(しょうらいれい)”」

 霊がどんどんと現れた。

 「お前は一体何人殺した?」

 心田の体に霊がまとわりついた。

 霊に触れられたところは赤く燃え上がっていた。

 「“鬼火(おにび)”」

 「熱い、熱いぃぃ!!」

 そのまま心田は、気を失って倒れてしまった。

 

 「気づいたか……?」

 「ありがとう……!少し強引だったけど!!」

 最後の方が少し口調が強かった。

 「あなた、何者?」

 「私は、心田操太朗。國﨑に脅され、みんなを洗脳したら、まさか自分も洗脳されるとは……」

 (バカかよ)

 「大道寺博士が危ない!」

 心田は立ち上がった。心田は周りを見回した。

 「みんな、君達がやったのか……?」

 「あぁ……」

 「君達やっぱり凄いや……。やはり君達は、日本の希望だ……!」

 「それより良いのか……?オヤジのとこいかなくて」

 「ありがとう!じゃ、行ってくる!」

 

 心田は、総理室へと急いだ。

 「博士、流石あなたが教え込んだだけある。強かった……!」

 心田は目の前にあるドアを開けたのだった。




 龍/雷電弁慶能力“麒麟”
 ・麒麟になることができる。全ての動物の長。動物は従わなければならない。(幻獣種は除く)任意で動物を殺したら、同じ刻を刻むことになる。


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二十八 狐の覚醒

 「能力を分解だと…?」

 炎司は、眉間にしわをよせ言った。すると心田が

 「國﨑は昨日、入江によって能力を二つ得た。その一つが“分解”。触れた対象物を分解することができる。そして、もう一つは…」

 「知る必要無いだろ…?」

 次の瞬間、床がボロボロに崩れ落ちた。

 「何だこれ!?」

 國﨑が手をかざすと、ボロボロだった床がみるみるうちに棘に変わり、炎司たちを襲った。

 「心田さん、これ本当に“修復”ですか…?」

 「國﨑は、“分解”と“修復”を合わせ持つ新しい能力“オーバーホール”…」

 「心田さんは、下がってて下さい。俺がやります…!」

 「頼む」

 炎司は、國﨑の前に立った。

 「せいぜい、私を楽しませてくれよ…!」

 炎司は構えた。

 「ここじゃあ、手狭だな…」

 そう言って、國﨑は右手をかざした。その瞬間、総理室の壁がボロボロと崩れ落ち、そのかわり、床がどんどんと広がっていった。

 「どうだ、少しは動きやすくなったか」

 國﨑がまばたきをした瞬間、炎司は國﨑の背後を獲り、首筋にチョップをした。しかし、チョップをしたはずの炎司が吹っ飛んだ。

 「痛ゥ…」

 國﨑の背中には、腕が四本生えていた。

 「“複製”も面倒だな…!」

 國﨑の能力は、“複製”。自身や周りのものを複製することができる。

 「能力を複数持つということを教えてやろう!」

 國﨑の六本の腕が全て地面についた瞬間、地面が崩れた。それと同時に地面がくっついた。地面はこれを繰り返し、龍のような形になった。

 「“分解修復(オーバーホール)”…!」

 國﨑の作った龍は、炎司を襲った。炎司は幻獣化したが、敵わず炎司は人型に戻り吹っ飛んだ。炎司は、地面に強く体を打ちつけ、立つのもままならない状態だった。

 (何だあの精密さは…!昨日得た力でこんな操作できんのか…!)

 「お前は、弱いな…。だから、大切な人を守ることができないんだよ!」

 國﨑の龍は、遠くにいた大道寺と心田を吹っ飛ばした。大道寺と心田は、別々の方向に吹っ飛ぶ。大道寺は、運悪く國﨑の目の前に倒れ込む。

 「良いか焔、弱いとこうなることを教えてやる!」

 國﨑は、大道寺に手を当てた。次の瞬間、大道寺の上半身が吹っ飛んだ。至る所に血は吹っ飛び、内臓はそこら中に落ちていった。

 「オヤジィ!」

 炎司は、大道寺のもとへ駆け寄り大道寺を回復しようと試みた。しかし、大道寺は回復する気配がなかった。

 「一度分解したものは、修復でないと戻らない…!これで思い知ったか…!焔ァ!」

 「黙れ」

 炎司の一振りで、國﨑が飛んでいく。國﨑も防御はしたが、骨が折れた。

 (何だ今のは…!?)

 「まさかここで、覚醒するなんて…!」

 心田がそう呟いた。

 「何だその力は…!」

 「よくも、よくもオヤジを…!」

 炎司は雄叫びをあげた。その雄叫びと共に、炎司の周りにヒビが入り、気が辺りのものを吹っ飛ばした。

 「あんな能力、見た事がない…」

 「実はね…」

 横から心田が、割って入ってきた。

 「実はね灯くんには、もう一つの能力があるんだ…!父親に神楽大輝から受け継がれた正義の心…!その名は“正義感(ジャスティス)”…!」

 「何だと…!」

 彼の背中には、炎のマントがかかっていた。



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二十九 國﨑の暴走

 <国会へ行ってから、二十五分経過>

 

  「ジャスティスだと…?」

 炎司は、炎のマントをなびかせ、拳を構えた。

 「彼にはもう一つ能力があってね…!それがこの正義感(ジャスティス)だったんだ!」

 「馬鹿な!普通の人間が能力を二つ持っているなど…!」

 「言ってなかったか…?能力は言わば、その人のなりたいと一瞬でも思ったものが実物として現れたようなものだと!灯くんは少し例外だが…」

 「許さん許さん!最強はこの私で良いのだ!」

 國﨑は、体が震えていた。

 「今ならはっきり言えるよ!お前は今ここで!灯に負けるんだ!」

 「うるさい!この私がこんなガキに負けるだと!?」

 「敏正!」

 ここで入江がやってきた。

 「すまない、敏正!こいつら強すぎる!私ですら、歩くのでやっとだ!」

 入江が来た瞬間に炎司は、入江の懐に入り、入江が構えるスピードより速く入江の顎を突いた。入江は胃液を吐き、宙に舞った。

 このとき、ピンチなはずなのに笑みを浮かべていた國﨑に気づいた炎司は、一瞬にして國﨑の間合いに入ったが、間に合わなかった。國﨑の周りの地面が柱のように飛び出し、炎司たちを襲った。

 まるで生きているかのような(うごめ)く地面は、入江の巻きつけ國﨑の方へ放り出された。

 炎司が見たときには、國﨑の足元に入江がうずくまっていた。炎司の攻撃は、即殺性は無かったものの、入江はかなりのダメージを負っていた。

 「何で、何でいつも私の計画は上手くいかない!何故私の計画にお前らがいるんだ!?」

 國﨑は、左手を入江の顔に近づけ、右手を自身の顔に近づけた。

 「なあ、與…。お前は私の計画成功して欲しいよなァ?」

 次の瞬間、入江と國﨑の上半身が吹っ飛んだ。と同時に、吹っ飛んだものが一点に集中していった。

 そこにいたのは、國﨑でも入江でも無かった。そこにいたのは、複製とは違う、二本の腕が増えた、禍々しい姿をした國﨑だった。

 (あいつ…、入江と自分を分解して、まとめて修復しやがった…!)

 「さあ、続きをしようかァ!」

 

 炎司は構えた。

 増えた二本腕が、ミニガンへと変わった。

 「まさか、奪った人間の能力を使えるのか…?」

 ミニガンは物凄いスピードで炎司たちを襲う。

 「これは、器一君の能力…!」

 炎司は弾丸を指で弾いていく。

 「凄い…!」

 ミニガンの発砲が止まった。國﨑の腕はミニガンから、普通の手に戻っていた。

 戻しに集中していた國﨑の隙に炎司は、國﨑に向かってパンチをした。そのパンチは、物凄い勢いで國﨑を捉えた。吹っ飛ばされていく國﨑しかし、國﨑が止まる。國﨑は血を吐く。國﨑は胸に手を抑え苦しそうだった。しかし、すぐに起き上がる。

 (まさか、怪我や疲労を修復したのか…!?國﨑は無敵なのか!?)

 「さぁ、再開だ…!」

 それから、三十分にも及ぶ死闘を繰り広げた炎司と國﨑。國﨑の豊富な能力を始め、尽きることのない体力。炎司は次第に勢いを失い、遂には(ひざまず)こうとしていた。

 (ヤバい…!このままじゃ死ぬ…!)

 「負けるな!」

 炎司はこの声にハッとする。

 (夢…?)

 「何負けてるのよ…、炎司!」

 炎司は夢を捜す。しかし、夢は見つからない。

 「特効薬は出来たから!後はあいつに勝つだけよ!柱のみんなは勝った!後はあなただけよ!」

 「夢!どこにいるんだ!?」

 「総理室にある鏡から!」

 炎司は、目に入った鏡を見る。そこには、柱のみんなや國﨑の懐刀の二人もいた。

 「心田って言う人も助けた!後はあなただけよ!お願い!勝って!」

 夢は涙を浮かべていた。夢が最後に何かを言おうとした。しかし、國﨑が鏡を割ってしまった。

 「何だあいつ。生きていたのか。まあ良い。どうせ全員死ぬんだ」

 「俺がお前を倒す。そしたら、全てが終わる!」

 「何を勘違いをしている…?」

 炎司は戸惑う。

 「主軸は私ではない!」

 炎司はまだ國﨑の本当の目的を知らなかった。



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三十 最期

 「本当の目的って…?この日本全てを洗脳させて世界を植民地にすることだろ?」

 「私もね、そう思ってたんだけどね、プランBがあったんだよ…!」

 「何だと…?」

 「私には、孫の國﨑笑里(くにさきえり)という子がいてね…。君達より少し若くてね、まだ中学生なんだ」

 「何が言いたい…?」

 思わず眉間にしわが寄ってしまった。

 「えりの能力はね、“ウラン”と言ってね、対外に放出した水分がウランになるんだ」

 「まさか…!」

 「予想できただろう?その水分であっと言う間に核兵器の出来上がりだ」

 そのときの國﨑の笑顔は、狂っていた。

 「しかし、まだ幼く威力が弱いというか、薄いんだ。だから…」

 「えりごと、ロケットに入れて飛ばすんだ…!」

 炎司は耳を塞ぎたくなるように苦しかった。何故こんな惨事に巻き込まれるのだろう。まだ中学生の子どもを簡単に殺そうとする。そんな國﨑の思考に、より怒りが湧いた。

 「ここにボタンがある…。このボタンを押せば、米国にいる人間が全ていなくなる!」

 「こんなことして何が面白い!?」

 「面白い…?」

 國﨑の顔が真顔に戻った。

 「面白くなんかないさ!これは復讐だ!あの日、核爆弾が落ちなければ、こんなことにはならなかった!」

 「だからって、仕返しをするのか…!」

 「はは!私がしなくても、誰かが必ずするだろう!人間はそういうものだ…」

 國﨑はボタンを押そうとした。すかさず、炎司が止めようとする。しかし、止めようとする前に國﨑がボタンを押した。

 警告音と共にアナウンスが発せられている。

 『ロケット発射まで残り三分…。ロケット発射まで残り二分五六秒…』

 アナウンスは、一定のリズムを刻んで、放送されている。

 「このボタンをもう一回押せば、発射は止まる。が…」

 國﨑はボタンを分解してしまった。

 「後は、待つのみ。君は何もできずに嘆け!おっと、ロケットを破壊しようなんか考えるなよ!?外気に触れた瞬間、爆発する設計だがらな!」

 炎司は雄叫びをあげた。と同時に、衝撃波が発生した。その衝撃波に吹っ飛ぶ國﨑。

 「残りの時間で全てにケリをつける…!」

 そう言って、炎司は國﨑向かって襲いかかった。

 

 炎司は國﨑に修復させる暇なく、攻撃を重ねた。自身の体がボロボロになろうとも、止めずに闘い続けた。國﨑を増えた二本腕は炎司によって、吹っ飛ばされ、新たに複製した腕は、入江の能力を失っていた。

 「クソがァ!」

 「ここでお前を倒す!お前がこの世にいる限り、この日本に平和など、生まれしない!憎しみは、また新たな憎しみを生むだけだ!」

 炎司は高く飛び上がった。そして、腕を天高く伸ばした。その拳は燃え上がった。

 「お前をなんか、この炎で燃やし尽くしてやる!」

 國﨑は、口を開き、目を見開いた。

 「焔ァァァァ!!!」

 炎司は、再び雄叫びをあげた。

 「“聖火鉄拳(インフレアカイザー)”!!」

 炎司の鉄拳は、國﨑を捉える。地面には亀裂が入り、あまりの威力に、一キロ先の高層ビルの最上階近くが崩壊した。

 炎司はその場に(ひざまず)く。しかし、まだ炎司の役目は、終わってなかった。

 ロケットは発射まで、一分を切ろうとしていた。

 

 炎司は発射場へと急いだ。発射場に着いたときには残り三十秒を切っていた。炎司は止める方法を考えたが、いくら考えても方法が思い浮かばなかった。

 炎司は耳元の無線に語りかけた。話すことを止めた炎司は、ロケットを見上げる。遂にロケットが発射してしまった。しかし、炎司は諦めたわけでは無かった。炎司はロケットしがみついた。ロケットは、天高く飛んでいく。

 

 「何だあれ…!」

 早番のサラリーマンたちが上空を見上げる。皆、口を開けている。その中に夢や、徒陰の人たちも上を見ていた。

 「炎司…!」

 「大丈夫さ!炎司ならきっと!」

 戯介が言った。その言葉に、夢は涙を流した。

 炎司を乗せたロケットはもう遥か上空へ向かっていた。向きは、米国。やはり、米国に飛ばすように設定されている。方向を変えることすらできないのか。

 だが、既に炎司は決めていた。炎司はロケットを、炎で包んだ。

 ロケットは爆発をした。しかし、音はしない。炎によって、全てがせき止められた。

 「えりちゃん!」

 炎司が呼び掛ける。笑里はうっすらと目を開ける。

 「誰…?死にたくない!」

 「大丈夫だ…!君を絶対に助ける…!一つだけ、お願い、できる…?」

 さすがに炎司でも核の熱には負けてしまう。徐々に炎司が焼けていく。

 「夢って、言う人、に渡して、欲しい…」

 笑里は静かに頷く。

 「よし…!」

 「“焔玉(ほむらだま)”」

 笑里は人が入るサイズの炎に包まれた。

 「よろしく、頼むよ…!」

 そう言って、炎司は炎の外に笑里を飛ばした。ゆらゆらと炎は地に落ちていく。

 (さすがに爆発は防げねぇ…。せめて最小限に…!)

 このとき、炎司は、脳に思い出が蘇っていく。

 (これが走馬灯か…)

 オヤジ。

 佐助。

 海人。

 戯介。

 弁慶。

 茂。

 夢。

 みんな好きだったぜ。

 焔玉が地に着いたと同時に、炎が爆発した。

 「炎司ィィ!」

 夢が叫んだ。

 

 夢は、泣き叫んだ。声が枯れるほど。

 ふと見ると、そこには炎の玉があった。徐々に炎が消えてゆく。まるで、炎司が死んでいくかのように、消えてゆく。

 その中から出てきたのは、一人の女の子だった。

 「誰…?」

 女の子は泣いていた。

 「神木さんが…!」

 神木…?神木って、炎司…!?

 「もしかして、夢さんですか…?」

 私の名前が呼ばれ、ハッとする。

 「神木さんに渡してくれって…」

 彼女が差し出したのは、無線だった。横から、戯介が

 「この無線はな、録音もできんだ」

 夢は、無線の再生ボタンを押した。

 『今ァ、忙しいから、雑だけど許してくれ…』

 炎司だ。間違いない。

 『これを録音したのは、まぁ、なんだ?俺が死ぬかもって思ったからだな…。さすがに俺も、核には敵わねぇよ。だから、今言っておく。みんなありがとう!みんな好きだ。本当は直接言いたかった。まぁ、無理だと思うけど…。みんなに言いたいことは沢山あるよ。でも時間がねぇ。これだけは言いたいことがある。夢。好きだ…』

 そこで録音は、終わっていた。夢は、膝を落とし涙を流した。悲しさと、嬉しさが混ざり合い、体から溢れ出そうになった。




 
 國﨑敏正能力“複製”,“オーバーホール”
 ・複製…複製をすることができる。複製するものは限るがある。
 ・オーバーホール…能力“分解”と“修復”が合わさってできた能力。
 
 國﨑笑里能力“ウラン”
 ・対外に放出した汗や涙をウランに変えることができる。任意で爆破することも可能。
 
 神木炎司/神楽灯能力“九尾の狐”,“正義感”
 ・九尾の狐…自身を九尾の狐にすることが可能。炎も使うことができる。
 ・正義感…自身の正義感が形になってできた能力。尋常じゃない力を得る。


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三十一 全ての終わり

 あの大事件が終わり、残ったのは、歪な形の国会議事堂だけだった。

 事件後、すぐに警察が駆けつけた。事件の主犯の國﨑敏正は、警察によって逮捕された。國﨑の懐刀やヘラクレス、政府の役人は、半ば強制的だったため、見送られた。

 警察によって平静を保った日本は、夢の特効薬のお陰で、日本人はP3の能力を失った。日本国民は、戸惑いで選挙もできないまま、内閣総理大臣は、二年もの間、欠番のままだった。

 

 そして、事件発生から二年が経った二〇二二年。夢たちは二十歳になり、成人式を迎えていた。二年前は歪な形の国会議事堂も、半年前に再建していた。長々しい市長の話を聞きおわり、腕を伸ばす夢は、久しぶりに会う高校の同期を見つけた。

 「戯介!」

 「夢か?」

 「綺麗になっちまってェ!」

 夢は、振袖に化粧で二十歳には見えないほど妖美で綺麗だった。

 「くっそぉ!もう一回告ってやる!」

 戯介は、夢に恋をしていた。去年戯介は、夢に何回も告白をして、(ことごと)くフラれたいた。

 「もう、諦めて!」

 夢は、戯介に目くばせをした。

 「またやってるよ…!」

 後ろから、佐助に海人、弁慶がやって来た。

 「みんな!」

 「俺ら学校行ってないけどな…。英雄(ヒーロー)として呼ばれてよ…」

 海人が言った。

 「夢!」

 遠くの方から茂が、叫んできた。

 みんなだ。みんな元気だ。茂なんか(ひげ)を生やしている。

 「懐かしいね!このメンバーで会うの!」

 まだ二年しか経っていないのに、そう感じる。

 「皆さん、お揃いで…」

 そこに現れたのは、國﨑義正と横田一哉、國﨑笑里だった。

 國﨑は持ち前の冷静さとリーダーシップで二十歳になったと同時に異例の総理大臣に任命された。横田も、ボクシング選手となり、三冠にも輝いた。

 前々のメンバーが顔を揃えたのは二年ぶりだった。しかし、まだ一人いる。

 「俺たちのこと、炎司は見ててくれてるかな…!」

 「見てるよ、絶対に!」

 暗くなった場面を明るくしたのは、戯介だった。

 「よぉし、これから、飲みいくか!」

 みんながそれに賛同する。そして、みんなは歩き出す。

 

 「俺を殺したことにすんなや!」

 そうツッコミたがったが、それでは気づかれると思い止めた。その男は、夢たちを見ると、笑顔になり、夢たちとは逆の方向に向いて歩き出した。

 「まさか、夢にあんな勘違いさせるとはなぁ」

 炎司は、録音の時間制限があんなに短いと思わず、変なところで切れてしまった。

 あそこは“好き”ではなく、“隙”何だよな。本当は「夢、隙だらけだよお前は…!気を付けろよ」だったのにな。まあ。とにかく、無事ならそれで良い。

 「幸せになれよ、夢…!」

 炎司は、行く宛てなく、適当に歩いて行った。



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番外編 零、一の登場人物

 憾咲夢(うらさきゆめ)能力“ハイスペック”

 ・十八歳。3-A組。警察本部 零課の一人。「國崎の懐刀」として、役務を全うしていた。

 

 (ほむら)/神木炎司(かみきえんじ)/神楽灯(かぐらともる)能力“九尾の狐”,“正義感(ジャスティス)

 ・十八歳。3-A組。徒陰の火柱。徒陰のNo.2。

 

 (さる)/狐火火叢(くらまほむら)/猿飛戯介(さるとびぎすけ)能力“孫悟空”

 ・十八歳。3-A組。徒陰の岩柱。スパイの能力が高い。

 

 (とび)/服部佐助(はっとりさすけ)能力“超大型鳶”

 ・十八歳。3-A組。徒陰の風柱。チャラい。

 

 水鯨(すいげい)/水嶋海人(みずしまかいと)能力“水鯨”

 ・十八歳。徒陰の水柱。徒陰のツッコミ役。

 

 堀田恵子(ほったけいこ)能力“治癒”

 ・夢たちが通う学校の保健の先生。妖美。

 

 伝田雷希(でんでんらいき)能力“帯電”

 ・十八歳。3-A組。こちらもチャラい。

 

 町田望(まちだぼう)能力“マッチ棒”

 ・十八歳。3-B組。おとなしい性格。以前に自分のせいで家が火事になりかけた。

 

 阿瀬操操(あせそうそう)能力“操汗(そうかん)

 ・十八歳。3-B組。クラスの体育員。この能力なのに、汗をかきにくい体質。

 

 草木茂(くさきしげる)能力“ツル”

 ・十八歳。3-B組。クラスの学級委員。判断力、戦闘能力が高い。

 

 蝶田羽(ちょうだはね)能力“羽”

 ・十八歳。3-B組。クラスでトップの美しさを持つ。

 

 鏡崎未来(きょうざきみらい)能力“鏡”

 ・十八歳。3-B組。実は家は金持ち。

 

 草木華子(くさきはなこ)能力“花”

 ・十八歳。3-B組。草木茂の妹。緑化委員。

 

 捕間(とるま)みか能力“ネット”

 ・十七歳。背が小さい。みかは双子の妹。

 

 捕間(とるま)おり能力“檻”

 ・十七歳。こちらも背が小さい。おりは双子の姉。

 

 大道寺政宗(だいどうじまさむね)能力“千里眼”

 ・九十歳。徒陰の大黒柱。P3の第一人者。歳をとっても強い。

 

 國崎敏正(くにさきとしまさ)能力“複製”,“オーバーホール”※

 ※オーバーホールは能力“分解”と“修復”が融合した能力。

 ・九十歳。現総理大臣。P3の第一人者。

 

 桐山哲太(きりやまてった)能力“クラッシャー”,“ダイヤモンド”

 ・三十歳。桐山兄弟長男。零課の一員。

 

 桐山剣(きりやまつるぎ)能力“(つるぎ)”,“チタン合金”

 ・二十九歳。桐山兄弟次男。零課の一員。

 

 入江與(いりえあたえ)能力“ギブアンドテイク”

 ・四十歳。ヘラクレスの一員。國崎敏正とは友達。

 

 國崎義正(くにさきよしまさ)能力“二倍”

 ・十八歳。警察本部 零課の一人。「國崎の懐刀」として、正義感がとても強い。

 

 郡谷凍斗(こおりやとうと)能力“氷結”

 ・三十九歳。ヘラクレスの一員。喋り方が独特。入江與と仲が良い。

 

 横田一哉(おうだかずや)能力“硬質化”

 ・十八歳。警察本部 零課の一人。「國崎の懐刀」として、武力的解決をよくしている。元気。ちょっと天然。

 

 心田操太朗(こころだそうたろう)能力“テレパシー”

 ・三十六歳。人を君付けする癖がある。

 

 龍/雷電弁慶(らいでんべんけい)能力“麒麟(キリン)

 ・十八歳。徒陰の雷柱。物静か。怒ると怖い。

 

 國崎笑里(くにさきえり)能力“ウラン”

 ・十二歳。國崎敏正のひぃ孫。能力のせいで友達ができなかった。

 

 <回想>

 神楽大輝(かぐらだいき)能力“炎”

 ・三十七歳。故人。ヘラクレスの一員。神木炎司の父親。正義感がとても強い。

 

 武田器一(たけだきいち)能力“武器化”

 ・三十七歳。故人。ヘラクレスの一員。神楽大輝の親友。

 

 西景子(にしけいこ)/神楽景子(かぐらけいこ)

 ・三十七歳。故人。神木炎司、憾咲夢の母親。



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二章
三十二 回想 猿飛戯介


 宴会はもう三時間も経っていた。みんなベロンベロンに酔っている中、夢は戯介の思い出話をしていた。

 「俺が炎司と出会ったのは…」

 

 炎司と戯介が出会ったのは、炎司が四年生、九歳のとき。炎司が戯介と佐助を助けたときだった。

 戯介と佐助は、元々別の街で育ち、たまたま森で出会ったのである。

 戯介が生まれた街は、P3のせいで能力値で身分が貴族、平民、下民と、はっきり別れてしまった。

 戯介の本名は、猿谷晴泰(さるたにせいだい)。今となっては意味が無い。

 戯介は下民で、ただでさえ貧困な平民から、金品や食料を奪っていた。

 そんなある日、戯介に能力が目覚めた。それが“孫悟空”だった。そのとき貴族の間で流行っていたものがあり、それが無法戦闘競技大会、通称ヘルが流行っていた。この闘いは数少ない失敗作だけを使い、殺し合いをして勝者を賭けて競い合うゲームである。

 戯介の親は、よく貴族と商売をしていたため面識があり、戯介の親は戯介を専属戦士として、長年の間、闘わせた。戯介は、“孫悟空”という幻獣種と恵まれた能力のお陰で、六歳のときにはヘルの最強戦士となり、周りからサルと呼ばれるようになっていた。

 

 「お前は、人間のクズだ!」

 今日戯介と同じ牢屋に入った男が言ってきた。戯介にとっては慣れっこだ。

 「お前に弟を殺されたんだ!」

 男はどうやら、戯介に弟に殺されたそうだ。男は、見た感じ二十代ってとこだろう。

 「殺してやる…!」

 「良いか?俺も殺したくて殺してはいない…!」

 戯介はその男の胸ぐらを掴んだ。

 「いくらお前と共闘するからって、お前なんかとしてくねぇよ!」

 ヘルはこのとき、新しく共闘ルールが生まれた。その男に名前はなく、役員にはシャチと呼ばれていた。大方、能力は“シャチ”だろう。

 戯介とシャチは、幾度となく共闘を続けた。最初は、戯介ばかり狙うシャチだったが、日が経っていくとシャチも段々戯介の心を開いていき、半年が経つ頃には最高の相棒のような関係になっていた。連携技は完璧だった。

 そんなある日、戯介が九歳のときだった。突然シャチが戯介にある提案をさせた。それは、このヘルを抜け出すということだった。ここ、ヘルは、地下牢獄となっており、抜け出すには、一つしかない出口を目指すことになる。その出口は、厳重に監視されており、脱出を図ったものはいたが、脱出ができたものはいなかった。

 「出れるわけがないよ」

 「いや、行ける!」

 シャチが冗談を言っているようには見えなかった。

 「詳しく聞かせて…?」

 「俺の超音波で調べたんだけどな、出口とある場所だけ返りが違ったんだ!」

 「ある場所って…?」

 「そこはな、昔、戦士の死体を処理する場所だったんだけどな、死体が多くて埋められなくなって、今は焼却処分となったらしい。その場所は、今は、この町一番の貴族“モアービー家”が奴隷を捨てる穴になっている。そこからなら脱出できるはすだ!」

 「決行は…?」

 「明日!」

 戯介はシャチの目を見た。迷い無きその目。戯介はその目に引き寄せられた。戯介は、シャチとハイタッチを交わした。

 

 そして、決行の翌日。戯介たちは、戯介たちは牢屋を容易く壊した。戯介は咄嗟に、周りの牢屋も壊していった。牢屋の囚人たちは、牢屋が壊れると、暴れ牛のように暴れた。勿論、監視員は大勢来る。そのかわり、あの場所が手薄になる。そういう考えだった。そして、あの場所に着いた。戯介が如意棒で、壁を破壊すると、そこは暗い暗い通路が繋がっていた。

 「先に行っててくれ」

 シャチが言った。戯介は何も言わなかった。

 「必ず来いよ!」

 戯介は走って行った。戯介が処理所につくと、そこは、異様な所だった。

 人間が山積みになっていた。それよりゾッとしたのが、山積みになっている人たちが息をしていること。

 (まだ生きているのか?)

 「久しぶりに人だな…」

 壁に横たわっている人が話してきた。

 「おじさんは…?」

 「儂の名前は、郷田寿朗(ごうだとしろう)。儂たちは、モアービー家の元使用人じゃったんじゃよ…」

 (やっぱり…!)

 戯介はある提案をした。

 「おじさんたち、ここから出てみる?」

 おじさんの目が見開いた。

 「出れるのか…?」

 戯介は頷いた。

 すると、処理所にいた人たちがどんどんと起き上がる。戯介は、驚いた。まだこんなにも体力があるのかと。

 「頼む…!」

 戯介は、觔斗雲を使って、上にある穴を指さした。おじさんたちは頷いた。

 「ありがとう…!坊や!名前は?」

 「サルって呼ばれてる…」

 「このご恩は必ず…!」

 戯介は、微笑み、全員を見送った。

 全員を見送った後、戯介も行こうと思った。それにしてもシャチは遅い。

 戯介は、觔斗雲を置いていき、シャチが来たら出れるようにしておいた。そして戯介は、穴の外へと出ていった。

 

 戯介は、久しぶりに外へ出た。昔とそんなに変わらなかった。

 戯介は觔斗雲を使って、遠くの方へ向かおうとすると、後ろから、誰かの言っていた声に反応した。

 「罪状!脱獄を図った及び、監視員の殺人により、厳正に処罰する!罪人シャチ!」

 戯介は咄嗟に振り向く。そこには、牢獄で暴れていた囚人数名とシャチが死刑台の上に立っていた。

 (何で、捕まってんだよ…!シャチ!)

 そのとき、戯介はシャチと目が合った。すると、シャチは微笑んだ。戯介はそれがお別れの合図だと気が気でなかった。

 戯介はシャチの方へ向かった。

 「最期に言い残す言葉はあるか!」

 監視員はシャチに言った。すると、シャチは口を開いた。

 「生きろ!」

 その言葉を聞いた瞬間、戯介は止まった。瞳から涙がボロボロ出てきた。

 次の瞬間、シャチたちは足場が落とされた。

 

 戯介は走り続けた。觔斗雲を使わなかったのは、足を使いたかったからだ。

 戯介はとにかく走り続けた。気付けば、田舎のような風景から、都会のようなビルが立ち並ぶ風景と変わった。人混みをかき分けながら戯介は走った。気付けば雨が降っていた。辺りも緑が生い茂っていた。そこでようやく空腹を感じた。

 戯介は仕方なく行く宛てなく歩き出した。途中、逃げ出してきた男の子と一緒に歩いたが、遂には倒れてしまった。

 そのとき助けてくれたのは、炎司という少年だった。

 目が覚めると、大道寺という人もいた。戯介という新しい名前もくれた。戯介は運命を感じた。それは、助けて貰ったからではない。炎司という少年がシャチと容姿が瓜二つだったのだ。

 戯介は、炎司に一生ついていくと決めたのだった。




 シャチ能力“シャチ”
 ・シャチができることができる。超音波出したり、物凄いスピードで泳いだり。


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三十三 回想 服部佐助

「炎司は俺らにとって、恩人だもんな!」

 戯介が佐助の肩を叩きながら言った。

 「そうだな!」

 

 佐助が炎司に出会ったのは、戯介と同じ炎司が四年生のときだった。

 佐助は、 三兄弟の一番下だった。能力の“超大型鳶”が目覚めて、佐助は国に出さない代わりにスリを繰り返してきた。佐助の町も身分がはっきりしていて、貴族と平民が普通だった。

 佐助の本当の名前は、鳥田隼人(ちょうだはやと)。この名前は、もう佐助の記憶にはない。

 そんなある日、佐助はヘマをして、町の簡易収容所へ入ってしまった。そこにいたのは、同じくスリで捕まったタカと名乗る男だった。

 ぎゅるるるる。

 佐助のお腹が鳴った。

 「食べるか…?」

 タカが佐助に食べ物を渡す。

 佐助は貪るように食べる。

 「スゲぇな!お前、名前は…?」

 「言わない…!」

 「じゃあ、ナナシだな!」

 これが運命だった。

 

 家に帰ると、家族が待っていた。

 「何で何も持っていないんだ…?」

 父親の拳が佐助のお腹に直撃する。佐助は思わず、戻してしまった。佐助は戻してしまったものを食い始めた。

 「お前、汚ぇ!」

 佐助の兄が、思わず舌を出す。

 「外でやって!」

 佐助の母親が言った。父親が外へ佐助投げ出した。

 佐助は、行く宛てなく歩き出した。他の家は、夕飯を楽しそうに食べている。

 「何であんな家庭に…」

 すると、後ろから何かで叩かれた。佐助は気を失ってしまった。

 目が覚めると、樽のようなものの中にいた。佐助は大型のなり樽から出ると、ちょうどタカが金品を奪っていた。

 「ナナシ…?」

 そこから再びタカと一緒にご飯を食べた。

 「うめぇか?ナナシ!」

 佐助は頷く。

 「ねぇ、タカ!」

 タカは佐助の方を向く。

 「おれにスリを教えて」

 「良いのか?スリをすると戻れなくなるぞ?」

 佐助はタカの目一点だけを見ていた。

 「…わかったよ」

 それから、タカとの特訓が始まった。

 最初は、下手くそだった佐助も日が経つごとに上達していき、半年もすれば、かなり腕が上がっていた。

 しかし、そんな日常も一瞬にして崩れてしまう。

 国からの視察。「古典型」がいるという情報を手にしたのだろう。

 タカと佐助は逃げた。遠くへ遠くへ逃げた。しかし、挟まれてしまった。佐助は鳶になって上空へ逃げようよした。

 「バカ!上に行くな」

 タカが鷹になり、佐助より上へ飛んだ。次の瞬間、タカに電気が走り、口から煙を出しながら、落ちていく。

 「タカ!」

 佐助がタカの方へ戻る。

 「来るな!」

 視察団に拘束されながら、タカが叫ぶ。

 「お前は逃げろ!ナナシ!」

 佐助は迷っている。

 「俺の分まで生きろ!」

 佐助はその言葉を聞いて、覚悟を決めた。佐助は脱げる。

 (そうだ、それで良い…!ナナシ!愛してるぜ…!)

 佐助は、飛び続けた。そして叫んだ。無能な自分を殺したくなった。佐助は遠くの森で羽を休めた。

 佐助は、国を恨んだ。何もできない自分を恨んだ。

 ふと顔を上げると、佐助と同じような歳の男の子がいた。その後は、共に過ごしたが、既に限界を迎えていた。そこで出会ったのは、炎司だった。

 まさかと思ったが、タカと容姿が瓜二つだったのだ。

 これもなんかの縁。

 佐助は、炎司に一生ついていくと決めた。




 タカ能力“鷹”
 ・鷹になることができる。飛ぶの速い。力強い。


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三十四 回想 水嶋海人

 「タカって言う人、とってもいい人だったね…」

 「あぁ…」

 佐助は、頷いた。

 「海人ってどうやって、炎司と出会ったの…?」

 「僕が炎司と出会ったのは、中学生のときだった。弁慶もその頃だよな?」

 弁慶は静かに頷く。

 「もう七年前か…」

 

 海人が炎司と出会ったのは、炎司が中学生のときだった。

 海人は、三歳で能力に目覚めるが、類い希なる才能を発揮し、政府の監視のもと、海人は研究室に入り浸っていた。

 海人は、生まれてすぐ親が国に受け渡していたので、名前など存在しなかった。そのため研究室では、名前で呼ばれることはなく、(ほとん)どが“おい”とか“お前”とかだった。

 そんなある日、研究室の主任が話し掛けてきた。それは、ヘラクレスの心田操太朗だった。心田は、研究員の実績は勿論、戦闘経験も計り知れず、それが故に今の地位を獲得した。

 心田は、海人に歩み寄りこう言った。

 「これが終わったら、私の部屋に来なさい」

 語尾が少し強めだったのは、気のせいだろう。

 すっかり日は暮れ、研究も終わり、海人は自分の部屋に戻ろうとしたが、あの言葉を思い出し、海人は、心田の部屋に行くことにした。

 ドアを開けると、心田が座っていた。

 「やあ」

 海人は、心田の挨拶を無視して、ソファに腰掛けた。

 「話って何ですか?」

 海人が心田に問い質した。心田は、静かに口を開けた。

 「単刀直入に言う。君は殺される」

 海人はあまりにも突然過ぎて、拍子抜けしてしまった。

 「何でですか?」

 唇が震えてしまった。

 「理由は言えない。今すぐここから逃げてくれ…!」

 そのとき、研究室から警報音がなった。

 「まずい。ここが全封鎖されてしまう!」

 「僕なら、大丈夫ですよ、排水溝から出れば…」

 「聞いてなかったのか?全封鎖だぞ、排水溝も封鎖だ」

 海人は、慌ててここから出ようとする。

 「待ってくれ!」

 「何なんですか!行かせたり、止めたり…!」

 「もしも出られたら、大道寺という人を探せ!その人なら、君を助けてくれる」

 海人は頷き、外に向かって走りだした。

 「“不可視(ロストアイ)”」

 海人の存在は消えた。

 (君が追われているのは、「古典型」で幻獣種だからじゃない。君があの薬を作ってしまうと危険視されたからだ。逃げろよ)

 

 海人は走り、何とか外へ出た。そこには、警察、ヘラクレスもいた。

 海人は、研究所の近くの川に逃げ込んだ。

 逃げているときに考えたのは、大道寺という人は予想だが、「古典型」を匿っている可能性。もしそうならば、人目につかないところ。つまり、森林。

 海人は、森林に繋がる水路を泳いだ。サイレンの音は、もう聞こえてこない。

 (久しぶりに動いたから、腹減ったな…)

 海人は陸に上がり、木に寄りかかった。海人は目を閉じた。そのまま海人は眠りについた。

 気付くと夜が明けていた。空腹も増していた。動ける気がしない。海人は辺りを見渡した。すると、そこに芋虫がいた。海人はそれが、とても美味しそうな何かに見えた。思わず芋虫に手が伸びる。

 しかし、その手は止まった。誰かが海人の腕を握っている。逆光で顔は見えない。しかし、その黒い顔を見ると、なぜだが安心できた。そのまま海人は、気絶してしまった。

 

 目が覚めると、天井があった。横を見ると、一人の男が居眠りをしていた。きっとこの人が、僕を助けたのだろう。そう思った。

 すると、「起きたか」と、向こうの方から男の声が聞こえた。

 「あなたは、もしかして、大道寺さんですか?」

 その男は、何度を頷き、

 「わしが大道寺だが?」

 「良かった…!実は…」

 僕は、これまでのことを全て話した。大道寺は何回も頷いた。

 「操太朗がか…。よく、生きててくれた…!」

 なぜだか知らないが、ここが僕の居場所だと本能が僕に語りかけていた。



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三十五 回想 雷電弁慶

 「炎司は俺らにとって、恩人だもんな!」

 戯介が弁慶の肩を叩きながら言った。

 「あぁ……。恩人だった」

 

 弁慶が炎司に出会ったのは、海人と同じ中年生のときだった。

 弁慶は、森で生まれた。というのは、自我が芽生えたときには、森にいた。食べ物は、何と動物が与えていた。それは弁慶の能力の“麒麟”がお陰で、能力上、全動物の長ということになる。弁慶の能力は、自身の任意で人を殺した者の生命を奪うことができる。

 弁慶は言葉が話せる。それは、森に度々やって来る作業着を着た複数の男たちと、重機と呼ばれる動く鉄の塊。弁慶はその人たちが話す言葉を真似て、言葉を覚えた。

 その人たちは、木々を薙ぎ倒し、コンクリートを流し込む。弁慶と動物は、心を痛め、悲しみ、人間を憎んだ。

 そんなある日、一匹のリスが人間の前に立ちはだかった。人間はチェーンソーでリスを切りつけた。首と、体が分裂したリスは、別々に転がっていった。

 その瞬間、弁慶は憤りを感じた。リスを切った人は白目を向いて、倒れた。

 弁慶は、この能力で、人間に復讐をしようと考えた。弁慶は回復もすることができるので、分裂したリスを回復させた。

 次の日、弁慶は、人間たちの目の前に立った。

 「“招来霊(しょうらいれい)”!」

 すると、人間から、動物の霊が続々と現れた。

 「それは、全て、あなたたちが殺した動物の霊だ!」

 人間たちは精気を奪われて、どんどん倒れていく。

 これは、のちに“森の怒り”として、作業員の間で語り継がれた。

 

 弁慶が十四歳になった頃、森は、焼かれてしまった。やむなく森を去った弁慶は、隣町の森へ行った。

 その森が、炎司たちのいる森だった。

 弁慶が来た森は、動物はいなくとてつもなく静かだった。なのに森に活力を感じた。弁慶は、木の実などで空腹を(しの)いできたが、とうとう限界が来て倒れてしまった。

 (まぶた)すら開ける力が湧かず、そのまま弁慶は目を閉じた。

 弁慶は夢を見ていた。温かい炎が身体を包み込んでいるような、夢だった。

 弁慶は目が覚めた。弁慶は、誰かの家の中にいた。

 「大丈夫か……?」

 赤毛の少年が話し掛けてきた。

 「ここは……?」

 弁慶は、赤毛の少年に問いかけた。

 「お前の居場所だ」

 それを聞いた瞬間、涙が流れた。

 今まで何か足りないと思っていた心をその言葉が埋めたような感覚だった。何で今まで人を恨んだのか、過去の自分を恨んだ。

 「名前は……?」

 赤毛の少年が言う。

 「ない……」

 「じゃあ、今日から、弁慶だ!雷電弁慶。うん、良い名前だな」

 一人で自問自答している少年を見て、思わず笑みがこぼれる。

 「君の名前は……?」

 勇気を出して振り絞った言葉は、

 「神木炎司」

 という簡単な返事で済んでしまったので、また微笑む。

 弁慶は、炎司に誓い、人殺しはせずに大切な人を守るためにこの力を使うと決めた。



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三章
三十六 氷の脅威


 「みんな、炎司との思い出たくさんあるのね!」

 夢は、みんなに微笑みかける。

 「何だか、炎司に会いてぇな……!」

 「やめろよ……!炎司はもう……!」

 みんな、酒のせいか涙もろくなっていた。夢はふとテレビに目をやった。

 『速報です。日本の南極探知機しぐれが、超巨大軍事基地のようなものを発見したという情報です。日本政府を含め、世界政府も認識が無いという正体不明の基地は……』

 夢はそんなニュースを見て、どうでも良いと思っていた。

 (もっと良いニュースはないの?例えば、日本を救った英雄、死んではいなかった!?みたいなの無いの!?)

 そんなことを思いながら飲んでいたら、閉店時間になっていた。みんなと別れた夢は、千鳥足になりながらも帰路を辿った。

 

 夢は歩いていると、周りの温度が急激に冷えていることに気付く。夢は、辺りを見回す。

 (ヘラクレスの郡谷凍斗か?いや、しかし、あいつは刑務所だし、能力は失っているはずだわ……)

 何かに気付いた夢は、咄嗟(とっさ)に振り返る。そこには、氷の物体があった。その物体は、ガチガチと音を立てながら、夢に近づいている。その物体が歩いた跡は、氷が張っていた。

 夢は、どんどん後ずさっていく。氷の物体もどんどん近づいていく。昔の夢だったら、一撃で破壊していたであろう。しかし、今の夢は能力を失った一般人だ。敵うはずがなかった。平和の為に失った能力がないせいで自分の平和が侵されるなんて考えもしなかった。

 氷の物体が右腕を振り上げた。思わず、夢は(まぶた)を閉じる。しかし、夢は攻撃されなかった。

 目の前に、“燃える刀”を持った人がいた。その人が氷の物体を斬っていた。氷の物体は融けて、気付いたら蒸発して無くなっていた。

 「お嬢さん、大丈夫かい?」

 その人は、夢に手を差し伸べた。夢は頷き、その手を握った。

 「私の名前は、風間雄太(かざまゆうた)。ちぃーっと、あいつらに関わりを持っていたな……。ここじゃあ、危険だ。とりあえず安全な場所へ」

 そう言って、夢は風間という人の家にあがった。そこは、まるでお城のような家だった。こんな広いのに、一人暮らしだそうだ。

 「とりあえず座って。温かいものの持ってくるから。紅茶で良い?」

 夢は頷いた。

 広すぎる広間に置かれた小さなソファ。そこに腰掛けた夢は、今まで起きた出来事を思い返していた。お酒のせいで記憶が曖昧なところはあったが、あの物体だけは鮮明に覚えていた。

 現実に戻ると、風間が紅茶を差し伸べていた。

 「憾咲夢さんだよね……?」

 「なぜ私の名前を?」

 「そりゃまぁ、有名人だからね。私達の救世主だからね」

 夢は、口元が緩んでしまった。

 「あの氷の物体って何なんですか……?」

 夢は、思い切って聞いてみた。風間は、一つ間を置いてから

 「君は、南極で軍事基地みたいなものが発見されたのは、知っているかい?」

 夢は頷く。

 「そこでは、日本はおろか、世界すら知らないことが行われている。それは、氷に生命を組み込ませる実験だ」

 「そんなこと、国のお金がなくても、出来るんですか……?」

 「私達にまだ能力があった時代、そういう類の能力があったんだと思うよ」

 「何で氷何でしょうか?」

 「別に何でも良かったんじゃないかな。たまたまそこに氷があっただけかも」

 少しの沈黙が生まれる。

 「私達は、こいつらをUMA(ユーマ)と呼んで、独自に研究をしている」

 「私たちはどうしたら、良いんでしょうか……」

 「UMAを倒すには、このような炎を帯びた特殊な武器が必要なんだ。ただの炎じゃ融けない。私はこれを、“最上業(さいじょうわざ)”と呼んでいる」

 「私も戦わせて下さい!」

 「君には危険すぎる」

 「でも、だって見てるなんて、できない!」

 風間は息を吐き、言った。

 「君ならそう言うと思ったよ。最上業は、剣だけじゃない。ほら」

 そう言って、腰から出てきたのは、炎のデザインが施されたリボルバーだった。

 「君はこれを使って。これなら、間合いを置きながら闘える」

 夢は、リボルバーを持った。他のに比べ軽い気がする。

 「そのリボルバーは弾が炎だから、弾は∞(むげん)だ。とりあえず、今日は帰って休んでくれ。細かいことは後日に」

 そう言って風間は、夢を家まで送ってくれた。

 

 風間が家に帰ると、そこには、炎司がいた。

 「起きていたのか、顔見せれば良かったのに」

 「ばーか。こんな顔見せられるかよ」

 そう言って、炎司たちは目を合わせて笑っていた。



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三十七 仕事

 謎の物体UMAに襲われてから、夜が明けた朝。夢は、二日酔いで頭がクラクラしていた。だが、あの時の出来事は今でも憶えている。風間に渡されたリボルバーだってある。夢は、顔を洗い仕事着に着替え、職場に向かった。

 夢が向かうのは、警察庁。夢は今は巡査として職務を全うしている。

 リボルバーを鞄に入れ、夢は出勤した。電車やバスを使って、二十分。夢は、警察庁の入り口をくぐり、受付を通り過ぎていく。途中、元零課だった部署を通り過ぎ、夢が勤めている組織犯罪対策部の薬物銃器対策課に向かった。

 「お早うございます!」

 綺麗な声が部署に響く。周りから「お早う」と声が返ってくる。

 夢は席に座ると、部長が夢の名前を呼んでいた。夢は、部長の席に向かうと、部長は夢に言った。

 「警視総監がお呼びだ。かなり重大なことらしい……」

 「…?わかりました」

 夢は、警視総監の部屋へ急いだ。

 

 「失礼します!」

 そう言って、警視総監の部屋を開けると、そこには警視総監の五十嵐大輔(いがらしだいすけ)がいた。

 「憾咲君か!ささ、そこに掛けてくれ」

 五十嵐の手招きで、夢はソファに腰掛けた。

 「二年ぶりだな、憾咲君……」

 夢は以前に、零課として度々警視総監にお世話になっていたため、顔見知りであった。

 「ご無沙汰しています」

 「早速本題に入るが……」

 五十嵐は、一つ間を開け、

 「君に頼みたい仕事があるんだ」

 「仕事とは……?」

 「憾咲君。君はUMAを知っているかい?」

 「はい。昨日襲われました」

 「じゃあ、風間先輩を知っているのか!?」

 (先輩……?)

 「は、はあ。一応ですかね……」

 「なら話は早い!憾咲君!」

 夢は、何だか背筋が伸びた。

 「君にUMAの正体を解明して欲しい!」

 「……?私が、ですか?」

 「君だから言っているんだ!何なら再び零課を結成して構わない!」

 夢は悩みながらも、

 「お話は有難いんですけど、私だけでやらせて下さい!義正は現総理大臣で忙しいし、一哉もボクシング忙しそうだったから……」

 「わかった。じゃあ、風間先輩に私がよろしくと言っといてくれ。こちらからも電話をしておくから」

 夢は、五十嵐と暑い握手を交わした。

 

 私は定時までに仕事を終わらせて、風間の家に寄った。

 「良く来たね」

 夢は、風間に手招きされ家に入った。

 「だいすけから、電話貰ったよ。遂に警察も動くのか……」

 「あの……」

 「ん?」

 「警視総監とは、どのようなご関係で……?」

 それを聞いた風間は笑いだし

 「友人だよ。古い」

 (友人って、どんだけ歳離れてるのよ!)

 「な、なるほど」

 「ま、そんなことはさておき、明日、やらなきゃいけないことがあるんだよ」

 「何ですか……?」

 「総理大臣暗殺阻止」

 「へ……?」

 夢は、口を開け立ち尽くしてしまった。



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三十八 総理大臣暗殺計画阻止 始動

 「総理大臣暗殺……?」

 「そうなんだ。それを私達は阻止しなければならない」

 「どうやってですか!」

 「殺される前に、暗殺者を殺すか、総理大臣を厳重に警備するかの、どっちかだ」

 「でも、明日総理任命のパレードじゃないですか!」

 「だから後者は無理だね」

 「だからって、暗殺者を探すなんて……!」

 思わず語尾に力が入る。

 「そうさ、パレードは東京周辺都市5kmの車でゆーっくり進むからね、いつでも狙える」

 「じゃあ、パレードを止めさせれば……!」

 「そんな簡単に言うな。パレードを中止したら、日本のどっかの原爆がドカンだ……だ」

 「そんな……!」

 「だから明日、新総理大臣をお護りするんだ」

 「すいません」

 夢は風間の話を割って入る。

 「UMAを作った人は何が目的なのでしょう……?」

 「簡単に言えば私的復讐だね。この国全体の」

 「国全体……?」

 「主犯の名は、入江真緒(いりえまお)。入江與の妹だ」

 「まさか私達に復讐を……?」

 「その可能性が高い」

 「だからUMAは私のこと……」

 俯いてしまった夢を見た風間は、

 「狙いは君だけじゃないはずだ。それより明日、私達二人だけじゃ総理をお護りすることは困難だ……。だから」

 そう言って風間は奥にある扉に目をやった。するとそこから四人のスーツ姿の男が現れた。

 「この子達は、私の教え子でね。右から、高橋裕太郎(たかはしゆうたろう)小山拓海(こやまたくみ)奈良一輝(ならかずき)大井舜平(おおいしゅんぺい)だ」

 四人は軽く夢に会釈した。

 「彼ら全員“最上業”を持っていてね、裕太郎が片手斧、拓海がメリケンサック、一輝がアサルトライフル、舜平が二丁拳銃だ」

 「風間さん!」

 「何だい?」

 「“最上業”っていくつあるんですか?」

 「“最上業”は作ることができるんだよ。“最上業”は本来、刀なんだ。それ以外は全て私達が作った」

 「なるほど」

 「それより、明日の作戦についてだが」

 夢に緊張が走る。

 「私と憾咲君は、車周辺の護衛兼暗殺者の捜索。残りの四人はパレード近辺を厳重に捜索。場所は君達が決めて良いよ。相手は、UMAを使うだろう。UMAには“最上業”しか効かないから、見つけたらすぐに撃て。良いね?」

 夢たちは頷いた。

 夢は心の中で安心していた。夢は昔から、見ず知らずの人と合わせるのは苦手だった。しかし、今回は、ほぼ単独行動のようなもの。

 「じゃあ、明日、総理が国会を出たら、ミッションスタートだ……!」

 夢は、風間の家を出た。そして、携帯を開く。夢は、國崎義正に電話をかけた。

 『どうした?』

 「急にごめんね。明日だね、パレード」

 『そうだな!いやー、まさか本当に総理大臣になれるとはな!二〇二一年の憲法改正で、総理大臣の許可年齢が二十歳になるとはな……』

 「そうだね」

 「でも、総理大臣になれたのは、夢たちのお陰だよ!ありがとう!」

 「ううん」

 『それで何かあったか?』

 「何か言おうとしたけど、忘れちゃった」

 『じゃあ、思い出したら言ってくれ。じゃあな!』

 ツーツーツーと電話の音は聞こえ続けた。

 もしかしたら、明日義正が死ぬ。

 そんな現実を受け入る覚悟ができないまま、明日を迎えた。



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三十九 護衛作戦①

 総理大臣任命式当日。

 

 夢は、一睡もできなかった。もしかしたら、今日、義正が殺される。そう思うと、いてもたってはいられなかった。

 「大丈夫かい?憾咲君」

 風間の声で夢は現実に戻された。

 「そんな緊張しなくて大丈夫だよ。必ず助かるよ」

 夢は頷いた。それと同時に無線から、小山の声が聞こえた。

 『総理が出発した』

 そう告げられた。夢は覚悟を決めた。

 「やるか」

 夢は力強く頷いた。

 

 パレードは今のところ、順調に進んでいる。民衆もこれといった行動はしていない。

 パレードも終盤に差し掛かり、このまま何もないと思っていたが、無線から声が聞こえた。

 『こちら、大井。上空に多数のUMA発見。直ちに排除に向かう。総理の周辺を注意せよ』

 夢は、上を見上げた。それに気付いた人も上を見上げ悲鳴をあげた。

 「なんて数なの……!」

 「気圧されるな!君にはリボルバーがあるんだ!」

 「拓海、裕太郎!総理の援護を頼む!」

 『了解』

 「ったく、どこが暗殺よ!」

 夢は、腰からリボルバーを引き出し、UMAに向かって撃った。

 見事、当たった。

 弾が当たったUMAは、魂が抜けたように地面に落ちた。そして瞬く間にUMAは、蒸発してしまった。

 夢は、次々にUMAを倒していく。しかし、一体が夢の攻撃から抜け出し、近くにいた子供に近づいた。UMAは液体となり、子供の口から入っていく。

 「おかあ……さん……!」

 子どもの体から、氷がどんどん現れていく。遂には、顔以外が氷で埋め尽くされていた。

 夢はUMAの左肩を狙って撃った。見事、弾は命中した。

 「痛い!」

 (子どもにまで、ダメージがあるの!?)

 「無理に撃つな!寄生者にまでダメージがある!憾咲君は、警察に危険区域の拡大を!その少年は私がやる!」

 夢は、警察無線で連絡をとった。

 風間は、剣を抜き出した。(さや)から出てくる刃は、炎のように赤く燃えていた。

 「“炎離(えんり)”」

 すると、UMAの周りに火柱が立った。

 「UMAが人に寄生した場合、人の皮膚を通して氷を作り出す。毛穴から氷を発生させ、人の体に(まと)わり付く。力で剥がすことは不可能。剥がすことができるのは、真の“最上業”のみ」

 UMAは、子どもから離れたところにいた。子どもは母親の元へ駆け寄る。母親は子どもの手を握り、さっさと逃げていった。

 UMAは、雄叫びをあげた。すると、複数のUMAたちが雄叫びをあげたUMAの元へ寄っていく。すると、UMAたちは液体となり周りのUMAたちと混ざり合っていった。

 氷に戻ると、UMAは、普段の三倍近くもの大きさになり、二足歩行だった足は、四足となり、腕が四本になっていた。

 「その体では、蒸発速度が早くなるんだよな。憾咲君!援護射撃を頼む!」

 「はい!」

 夢は構えたが、上空から、UMAがどんどん降りてくる。

 「憾咲君!やはり私が一気に片付ける。君は総理の元へ!」

 「はい!」

 夢は、走りだした。

 「……すぐに終わらしてやるよ……」

 風間は刀を構え直した。



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四十 護衛作戦②

 夢は、義正の元へ走った。途中、襲ってきたUMAを倒しながら走った。もう見えるところに、義正を乗せた車があった。SPたちが必死になって義正を守っていた。

 「義正!」

 「夢か!なんなんだこいつら!」

 「そいつらに銃は効かない!これを使って!」

 そう言って夢は、義正にリボルバーを投げた。

 それを受け取った義正は、UMAに狙いを定めて撃った。瞬く間にUMAたちは落ちていく。

 「まさか、零課の経験がここで活かされるとはな……」

 「早く逃げて!UMAは必ずボスがいて、そいつが死ぬまで、ターゲットを狙い続けるわ!」

 「……なあ夢、ボスってあれじゃねえか……?」

 そこにいたUMAは、明らかに普通のUMAとは違っていた。より人に近い体と、奴が近付くと、気温が一気に下がる。

 「こいつ、倒せるのか……?」

 「私じゃ無理……。私の武器は熟練度っていうものがあって、持ち主が使えば使うほど、武器の炎の温度が上がるんだって、最初は100度で、最終的には1000度近くになるらしいの。UMAのボスを、氷鬼(ひょうき)って言うんだけどね。氷鬼を倒すのは、300度以上なんだけどね……。でも、私まだ100度ちょいだと思うの」

 「じゃあ、どうすんだよ」

 「だから、逃げて!私が何とかする」

 「何とかって……!」

 「良いから!」

 義正は、頷き

 「死ぬなよ……!」

 「当たり前よ!行って……!」

 そう言って、義正は、車に戻った。氷鬼も義正を追いかけようとする。夢はすかさず、撃った。

 「あなたの相手は、私よ!」

 顔をあげた氷鬼の目が不気味に光った。

 

 「……すぐに終わらしてやるよ……」

 風間は、刀を構えながら言った。

 UMAたちは一気に風間に襲いかかろうとする。

 「“風間流、不知火(しらぬい)”!!」

 目にも止まらぬスピードで、UMAは斬られていく。

 「やはり、すぐ溶ける氷じゃあ、手応えがないな」

 そう言って、風間は、夢の元へと向かった。

 

 夢が氷鬼に出会って、一分が経過した頃。

 「強い……!リボルバーが全然効かない……!」

 弾を撃っても撃っても、歩みを止めない氷鬼に恐怖を感じていた。

 遂に氷鬼は、夢の目の前に立った。

 「あ゛ぁぁ……」

 氷鬼は、右腕を振り上げる。思わず夢は、目を閉じる。

 しかし、中々、氷鬼の攻撃が来ない。恐る恐る目を開けると、道の横に吹っ飛んでいた。

 「大丈夫ですか?憾咲さん」

 そこにいたのは、奈良だった。

 「奈良さん……。ありがとうございます……」

 奈良は微笑んで、

 「礼を言うのはまだ早いですよ」

 そう言って、氷鬼の方に目をやった。氷鬼は再び歩き始めている。

 「奈良さんの熟練度は……?」

 「約500度です。500度だと“強炎化(きょうえんか)”というものが出来ます」

 奈良は、氷鬼の方を向き構えた。

 すると、奈良の持つアサルトライフルがどんどん赤く燃えていく。

 「“強炎化、紅蓮(ぐれん)”……!」

 奈良が構えると、銃口から炎が燃え上がった。

 「すごい……!これが“強炎化”……!」

 奈良が撃った弾は、氷鬼に当たり、氷鬼の胸元には大きな穴が開き、鈍い音と共に倒れた。

 アサルトライフルの炎は上空へ舞っていき、奈良は(ひざまず)いた。

 「大丈夫ですか!」

 夢は、奈良の元へ駆け寄る。

 「まだ、“強炎化”は慣れてないものでしてね」

 奈良は、立ち上がり

 「ミッション……、完了……!」

 

 間もなくして、風間たちが集結して、無事、総理大臣暗殺計画を阻止することができた。

 この計画で、奈良と仲良くなることができ、そのお陰で他の三人にも仲が良くなった。最近気付いたのだが、どうやら、あの四人と私は、同い年らしい。それもあって、私たちは、タメで話すことができた。まだ平和だなんて思っていない。しかしなぜか、安心していた。

 だがしかし、私は、まだこの先も大事件が起きることに気付くことはできなかった。



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四十一 東祭連合会

 総理大臣暗殺計画を阻止して、三日が経ったある日。風間の家に見慣れない人がいた。

 「この人は……?」

 「新しい仲間だ!名前は、正木皓(まさきこう)。よろしく頼むよ。ちなみに“最上業”は、タガーだ」

 「よろしくお願いします!憾咲さん!」

 「……夢で良いよ。よろしくね!」

 その後、いつもの四人がやって来て、会議となった。

 「君達を呼んだのは、他ではない。UMAの件について有力なことがわかった」

 周りがざわついた。風間の咳払いで再び沈黙となった。

 「この件は、日本及び他国ですら支援のないということだが、さすがにそれは、金銭的に辛いと思う。能力があったとしてもだ」

 「政府外の組織が関わっているということですか?」

 「そのことなんだが、進展があった。以前から頼んでいた、あらゆる組織の金の動きを監視して貰った。そこで総理大臣暗殺の少し前ににある組織の金の動きに大きな変化があった」

 「その組織は……?」

 夢は、恐る恐る聞いた。

 「東祭連合会(とうさいれんごうかい)。東日本を牛耳っている極道ってやつだよ」

 「東祭連合会……。あの東連ですか!?」

 「そうだよ」

 「どうするんですか?」

 正木は、聞いた。

 「直接行くしかないね。それとも、麻薬の疑いで警察署に連れて行くとか?」

 「……そんな簡単に言わないで下さい」

 「とにかく、疑いがある以上、調べなければいけない。いいかい?」

 全員頷く。

 「でも、どうやって容疑を認めるんですか?」

 「認めるというか、お金は、直払いなんだよね。そこを突くって感じかな」

 「誰が行くんですか?」

 小山が聞いた。

 「できれば、隠密にこと済ませたい。憾咲君。君だけでも良いかな?」

 「私だけですか……?」

 「勿論私達もサポートする。お願いだ」

 「風間さんがそう言うなら……」

 「ありがとう、憾咲君!」

 

 と言われて来たものの、やはり極道の家に一人は辛い。死にに行くようなものだ。そうブツブツ言ってる間に着いてしまった。

 家は、無駄に広く和風な玄関に、黒服を来た二人の男が立っている。

 「あのー……」

 「あぁ?」

 「組長さんに会いたいのですが……?」

 「テメェ、何もんだ?鉄砲玉か?」

 「一応、警官です……」

 二人のヤクザは、夢の腰元にある拳銃を見て

 「マルボウか?」

 「ち、違います」

 ヤクザとちょっとしたいざこざをしていると、戸の向こうから、

 「どうした?さっきから、客か?」

 その人は、指にごつい指輪を沢山はめた男がいた。

 「何だお巡りさんがどうして、ここに?」

 「ちょっと組長さんに用事がありましてですね……」

 「……わかりました。できれば手短に。こちとら忙しいもんで」

 そう言われ、夢は門をくぐった。

 「あんた、名前は?」

 「憾咲夢です」

 「憾咲さんか、よろしく。俺の名前は、神宮政人(じんぐうまさと)と申します。参謀をやらさせて頂いてます」

 「は、はぁ」

 ヤクザの人に、敬語を使われると、なんか気まずい。

 「こちらの部屋に組長が居られます」

 夢は、恐る恐る扉を開けた。そこには、白い(はかま)を着た人がいた。おそらく、組長だろう。

 「こんにちは、東祭連合会会長兼大門組組長、大門繁郎(だいもんしげろう)さん」

 「ああ、どうも、お初にかかります。大門と申します。ささ、そこにお掛けになって」

 夢は、すぐそこにあるソファに腰掛けた。

 「ご用件は何でしょうか?」

 「この東祭連合会がUMAの開発に関わっているという疑いがあります」

 組長は首をかしげ、

 「ユーマ何ぞ知りませぬ。もしそんな噂があるのなら、錦林組でしょう」

 「錦林組……?」

 「昔から、金遣いが荒くてね、手を焼いてるんですよ」

 「組長さんは……?」

 「今は不在ですよ。場所は、知りませぬ」

 「そうですか……。ありがとうございました」

 そう言って、帰ろうとしたところだった。

 突然、扉が開いた。そこにいたのは、神宮さんだった。

 「神宮さん?」

 「おお、政人か。その人を送ってやれ」

 すると、神宮は、懐から拳銃を抜き出し、

 「すまねぇ、オヤジ」

 そう言って、大門の眉間に弾を当てた。

 「え……?」

 「ったく、変なことを警察に言わないで下さいよ。大門のオヤジ」

 神宮の後ろから出てきたのは、白いスーツを着た男だった。

 「初めまして。私は、東祭連合会直系錦林組組長の錦林凜造(にしきばやしりんぞう)と申します」

 夢は、足の震えが止まらなかった。それは、錦林がいたことではない。殺されると思ったからでもない。その横に、入江真緒がいたからだ。

 顔は知らない。しかし、本能がそう言っていた。

 「その女、どうするの?」

 女は、冷たい声で言った。

 「軽く東京湾に沈めるよ」

 「なら良いんだけど」

 そう言って、女は黙ってしまった。

 「さ、じゃあ行こっか」

 (ヤバい!このままじゃ、死んじゃう!誰か!助けて!)

 「ちょっと待ったぁぁぁ!」

 (あ、この声は……)

 「夢が心配で来たけど、なんじゃこりゃぁ!」

 「“与える命(ギブライフ)”」

 女がそういった瞬間に、壁が生き物のように動き、正木を捕まえた。

 「こいつも追加」

 

 「あなた、助けに来るって言ってたよね?」

 「はい!心配で!」

 「じゃあ、なんであんたも捕まってんのよ!」

 このときのゆめは、あまりの正木の馬鹿さに呆れていた。



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四十二 謎の男登場

 ゆめと正木は、黒いワゴンに乗せられていた。

 「何でこんなことに……!」

 「アッハッハ!」

 「何笑ってるのよ!」

 正木は、

 「いやー、何とかなる気がします」

 「何とかって……!」

 次の瞬間、車が金属が擦れる音と共に車が止まった。

 「どうしたんだ!?」

 「タイヤが、タイヤが何者かに斬られました!」

 「何ぃ!?」

 「夢!あれって!?」

 「“炎装化(えんそうか)”……?」

 「炎装化?」

 夢は続けた。

 「熟練度が800度以上の人ができる、炎を(まと)う技で、武器の威力も二倍以上に跳ね上がる技だわ……!」

 その人は、刀を構えた。夢は驚いた。構え方が風間と同じだったからである。

 「に、逃げるぞ!」

 錦林は、車から降り走りだした。

 「逃がすか」

 微かに聞こえた声がそう聞こえた。

 「“風間流、電光石火”」

 まばたきをした瞬間、その人は錦林の目の前にいた。

 「速い……!」

 夢は思わず、声が出ていた。

 「“風間流、烈火”」

 その人の一振りで、地面は割れ、炎が舞い上がった。

 「あ゛ぁ……」

 気付いたらそこには、UMAがいた。今まで見た事が無いUMAだった。

 「そのUMAは、現時点の最高傑作よ」

 そこには、入江真緒らしき人物がいた。

 「そいつの名は、大氷鬼魔(だいひょうきま)。そいつの吐息で、辺り一面南極よ?」

 その人は有無言わずに

 「“風間流、大噴火”」

 その人の一振りで、地面から、炎を纏った衝撃波が飛び出てきた。一瞬にして辺りは煙だらけになった。

 「まさか、たった一撃で……?」

 煙の中から大きな氷の腕が振りかぶってきた。その人は難なく避けたはずが、吹っ飛んだ。

 「何であの人、吹っ飛んだんだ?」

 正木は、訳が分からないと首をかしげた。

 「多分空気が膨張したんでしょうね。大氷鬼魔の周りは冷やされた空気でいっぱいだから、急に熱せられ空気が膨張したんでしょう」

 入江は、高笑いをしていた。

 「あなたの能力じゃ、この最高傑作には敵わない!まあ、足掻きなさい!」

 「少し本気だすか……!」

 「本気……?」

 夢は、口ずさんでしまった。その人は、再び構え始めた。構え始めると、地面が微かに揺れ始めた。

 「何?地震……?」

 入江は辺りを見回した。その人は、刀を抜き始めた。刀から、真紅の炎が巻き上がる。

 「“風間流奥義、十字火(じゅうじか)”!」

 十字の炎と共に放たれた一撃は、物凄い勢いで大氷鬼魔に当たり、天高く飛び上がった。辺りは、衝撃で窓や、塀が破壊されていた。

 「クソ!ここは一端計画を立て直す!」

 入江は大きく息を吸い、辺り一面に息を吐いた。その息は吹雪となり、視界が悪くなった。

 気が付くと、そこには、入江と謎の人がいなかった。夢と正木は、呆然と立ち尽くしていた。

 

 戻ると夢たちは、風間に一部始終を伝えた。

 「壮絶だったんだね……。でもまあ、無事で良かった!今日はとにかく家で休みなさい」

 夢たちは、風間に一つお辞儀して帰った。

 風間は夢たちが帰ったのを確認し、声を掛けた。

 「君だろ?炎司。あの二人を助けたのは。ってことは、収穫があったってことだね?」

 「ほら、見てみな」

 炎司が出したのは、神話に登場する“天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)”だった。

 「まさか、あんなすぐに“炎装化”できるとはね」

 「色々あったんだよ……!」

 風間は、炎司の左腕を指さして、

 「それの改良もかい?」

 炎司は、左腕を触りながら、

 「長くなるぞ?」

 と言った。すると、風間は

 「……お茶でも淹れようか」

 その部屋には、紅茶の香りが舞い上がった。



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四十三 回想 生存

 「……準備はできた。さあ、話してくれ」

 炎司は、一口お茶を飲んだ後に、

 「風間さんに“天叢雲剣”の調達頼まれた後に――」

 

 あの大爆発事故があったとき、炎司は、生きていた。

 それは二年も前に遡る。

 炎司自らロケットを破壊したことにより、核原子をもろに浴びた炎司は、ほぼ全身に重度の火傷を負い、瀕死の状態であった。

 そのときに、助けてくれたのが風間であった。

 風間は、全力で炎司の治療を続け、意識が戻るまでに回復させた。

 炎司は、ゆっくりと目を開ける。

 「ここはどこだ……?」

 「やっと起きたか……!」

 「お前は……?」

 「私は、風間雄大だ。君は、神木炎司君だね?」

 「俺はそこまで有名人に……。今何年だ!?」

 「落ち着け神木君!今は、二〇二壱年の十二月だ。そして、君の左腕は……!」

 炎司は、左腕を見た。そこには、あるはずの左腕がなかった。

 「え……?」

 「落ち着け……!今のままショックに陥ったら、死んでしまう!」

 「なんだ、ないんだ」

 風間は、スッ転んだ。

 「え?驚かないのか?」

 「まあ、過ぎたことだし」

 (なんたる器の大きさ……!)

 「でも、その腕じゃ不便だろう?……これを見てくれ」

 風間が見せたのは、義手だった。

 「君用に調整されている。これならきっと……」

 「いや、それより」

 炎司は、顔つきを変えて

 「目的はなんだ?」

 風間は、全てを話した。

 「俺は、どうすれば?」

 「私と一緒に闘ってくれば良いんだ」

 「……わかった。俺はまずは……?」

 「この刀を見てくれ」

 風間は、そう言って“最上業”を見せた。

 「これは最上業と言って、UMAを倒す武器だ。しかし、世界にそれは四つしかないんだ」

 「俺なら作れるのか?」

 「ああ」

 「わかった」

 「君にはもう一つ頼みたいことがある」

 炎司は、首をかしげた。

 「君に真の最上業をとってきて欲しい」

 「お使いかよ……」

 「いや、君に使って欲しい」

 炎司は、また首をかしげる。

 「君は、天叢雲剣を持つ器だ。君ならいける!……だが、思った以上に、UMAが強かった。だから君に風間流の全てを教える」

 「風間流……?」

 「風間流は、今から約四百五十年前、安土桃山時代にできた剣術だ。元々はある一つの型から生まれたんだが……。この剣術は、この真刀 夜桜と共に私に受け継がれてきた」

 「そんな大事なもん、俺が継いで良いのかよ?」

 「私は、あいにく諸事情があって、子どもがいないからな」

 「それなら、よろしく頼むよ」

 「じゃあ、これを」

 そう言って風間が渡したのは、木刀だった。

 「まずは気の使い方から……。と言っても、気を扱うのは早くても一週間必要なんだが……」

 風間は、炎司を見た。すると、炎司はいとも容易く木刀に気を(まと)わせていた。

 「こうか?」

 (まさか、これ程の才能とは……!)

 風間はこの瞬間、炎司に全てを託そうと確信したのであった。



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四十四 回想 天叢雲剣

 炎司は、たった三日で風間流全てを会得した。

 翌日、炎司は荷物を整え、風間に別れを告げた。

 「んじゃ、行って来るぜ」

 「くれぐれもUMAには気を付けてくれ」

 「分かってるって」

 「それと……」

 そう言って風間は、ある一つの刀を渡した。

 「夜桜には劣るが、なかなかの代物だ。使ってくれ」

 炎司は深くお辞儀をして、

 「ありがとう。じゃあ、行って来る」

 炎司は、風間に背を向けて、歩き始めた。

 

 炎司は、約半日かけて島根県の出雲へ向かった。炎司は村人の情報を頼りに出雲大社へ向かった。

 そもそも炎司が探している天叢雲剣は、遙か昔に素戔嗚尊(すさのおのみこと)八岐大蛇(やまたのおろち)の尻尾を斬った時に出てきた(つるぎ)である。素戔嗚尊は天照大神(あまてらすおおみかみ)に献上した後、ここ出雲大社へ納めた。

 炎司は、天叢雲剣の前に立った。すると遠くから声が聞こえた。

 「それは抜けないわよ」

 炎司は声がした方に、刀を向けた。

 「誰だ」

 「入江真緒よ。貴方の知ってる入江與の妹だわ」

 「俺に何のようだ?」

 入江は、囁くように

 「その刀、“最上業”だと思って来たでしょう?でも無理よ、今のところ抜いた人はいない。UMAでも、破壊できない」

 「何が言いたい?」

 「つまり、選ばれた人しか抜けないってこと。喚起はしたわよ?」

 入江の気配はなくなってしまった。

 炎司は方向を天叢雲剣の方へ向き直し、天叢雲剣に手をかけた。

 炎司は抜こうとした。しかし、ピクリとも動かない。

 (っんだこれ……!)

 それからも、二、三分奮闘したが、全然動かなかった。

 諦めかけた次の瞬間、どこからともなく

 『そこの者よ』

 そう呼び止められた。

 「誰だ!?」

 炎司は刀を抜き出し構えた。

 『まてまてい、我は怪しいものではない。我は素戔嗚尊なり』

 「素戔嗚尊……?何でこんなとこに」

 『我が質問に答えよ』

 急に言われたその言葉に戸惑いながらも、炎司は、頷いた。

 『この天叢雲剣に何臨む?』

 「全ての人を守る力」

 『誠にか?』

 炎司は頷く。

 『気に入った!お主に、天叢雲剣を授ける。それと共に、八岐大蛇の怨念を断ち切ってくれ!これで我も成仏できよう……。全力で抜け!さすれば抜けるだろう……』

 炎司は、再び頷き、天叢雲剣を握った。炎司は力を込めた。やがて、炎司の周りに大きな火柱が立った。炎司の尻からは九本の尻尾が生え、耳が立ち、長く凜々しいひげが生えてきた。

 炎司は、腕に力を込める。すると、天叢雲剣は動き始めた。天叢雲剣が抜き始まると、素戔嗚尊の思い出が脳に鮮明に浮かんできた。

 炎司は、涙を流しながら天叢雲剣を抜ききった。次の瞬間、ドス黒い気が抜き口から湧いてきた。炎司は断ち切ろうとする。しかし、目の前に、八体のUMAと、入江真緒が現れた。

 「素晴らしいわ!貴方!まさか、天叢雲剣を抜くとは!」

 「どけ!八岐大蛇がどっか行っちまう!」

 しかし、入江は笑った。

 「その心配はいらない!ほら!」

 炎司は、UMAの方を見た。八体のUMAは水蒸気となり、八岐大蛇の気を包み込んだ。ただの水色だった水蒸気は、やがて黒くなり、水蒸気の中から、八本の首が出てきた。

 「これが……!“UMA タイプ ヤマタノオロチ”よ!」

 八岐大蛇の気は、UMAの力によって氷の八岐大蛇となった。体長は、八雲山(415m)と殆ど同じ大きさだった。

 『頼む!そこの者よ!八岐大蛇を倒してくれ!』

 炎司は、天叢雲剣を構えた。



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四十五 回想 八岐大蛇

 炎司は、天叢雲剣を持って感じた。

 (見た目より重くない!)

 炎司は、八岐大蛇の攻撃をかわした。

 (風間さんに教えてもらった熟練度!基本は100から最大1000。今は、使いたてホヤホヤだ。さすがにすぐには威力が発揮できないだろう。だったら……!)

 炎司は、全身から炎を噴き出した。すると共鳴したように天叢雲剣が赤くなった。

 (何だこれ……?まさか、これが“強炎化”……?)

 天叢雲剣は鉄剣から、自身の身長程までに大きくなった。

 『我と同じ、一時的な急激な進化……!それは、天叢雲剣ではなく、“紅玉(こうぎょく) 天叢雲剣”……!』

 紅玉 天叢雲剣から、炎が湧いている。八岐大蛇も後ずさっている。

 「長年のお返し、してみるか?」

 炎司は微笑み、八岐大蛇の顔まで飛んだ。

 「まずは最初の顔」

 そう言って炎司は、構えた。炎司は瞬く間に一つの顔を斬った。八岐大蛇は、苦しみ叫んだ。

 「次は……。やっぱり面倒くさい。一気に決める」

 そう言ったときだった。八岐大蛇の様子が変だった。

 「やばい!UMAが八岐大蛇に飲まれてる!……なんて力なの?」

 すかさず入江は、UMAを使って八岐大蛇をコントロールする。

 しかし、入江のもがきもむなしく、八岐大蛇は解放されてしまった。氷にヒビが入り、割れ目から黒い体の姿を見せる。

 「これが八岐大蛇の本当の姿……!」

 『お主じゃ無理じゃ!勝てるのは、炎の(つるぎ)に炎の鎧……。お主には出来ぬ!』

 「だから、何だ!俺は、こいつを倒さなければならない!そうしないと、ここは地獄になっちまう!」

 『……お主に、我の力を貸す。必ず勝て!』

 次の瞬間、炎司の炎がより高く、より熱く燃え上がった。

 (すげぇ!今までの、五倍以上に膨れあがっている!)

 炎司は、紅玉 天叢雲剣を構えた。

 八岐大蛇の八つの頭が同時に遅い掛かってきた。

 「“風間流、不知火(しらぬい)”!」

 炎司の攻撃は、普段の威力とは比にならない程の威力になっていた。

 (すげぇ……!これが素戔嗚尊の力!)

 八岐大蛇の顔は、四つ切り落とされ、残りの四つの顔でもがき苦しんでいた。

 「待ってろ、すぐ終わらせる」

 炎司はそう言って、再び構えた。

 「“風間流、火柱”」

 八岐大蛇は、火柱に包まれた。八岐大蛇は叫びながら、黒い気となって、上空に舞っていった。

 『ありがとう、炎司殿』

 「お前、今名前で……?」

 『我も成仏のときが来たようだ』

 「もう一緒に闘えないのか……」

 『また会える。きっとな』

 そう言って素戔嗚尊は、光となって去っていった。

 

 「……長かっただろ?」

 「……うん」

 紅茶はすっかり空っぽになっていた。

 「今度は何すんだ?」

 炎司が、風間に問いかける。

 「もう一つの“最上業”を憾咲君と正木君に取りに行ってもらう。それは……、聖剣エクスカリバー」

 「それって、本当に存在するのか?」

 炎司は首をかしげた。



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四十六 証言

 夢は、今日も風間の家へ向かった。

 「お早う」

 「おはようございます!風間さん」

 「今日は君達に頼みたいことがある」

 「なんですか?」

 「正木君と聖剣エクスカリバーを取りに行って欲しい」

 「こうとですか!?場所は……?」

 「イギリスのスコットランドだ」

 「遠いですね……」

 「そんなに急かしはしない。だが、必ず取りに行く物だからね」

 「……わかりました」

 「ありがとう憾咲君。正木君には、私から言っておく」

 「ありがとうございます」

 そう言って、夢は帰っていった。と、同時に正木が風間の元へ来た。

 「風間さーん!」

 「正木君!丁度良かった。君に言いたいことがあってね――」

 

 翌日、夢と正木はイギリスへ向かった。

 同時刻、現総理大臣 國崎義正、警視総監 五十嵐大輔、国防長官 心田操太朗。

 豪華な顔ぶれが揃って向かったのは、警察本部にあった「Never」。それは二年前に埼玉県にある山奥に収容された。

 そこにいるのは、元総理大臣 國崎敏正。彼は、二年前の大事件の主犯として、無期懲役の刑に処されていた。

 「私に何を求めているのだ?」

 國崎敏正は微笑む。

 「ケリさ」

 心田は、國崎敏正を睨みつけた。

 「お前と、UMAや入江真緒とはどういう関係だ……?」

 「それより操太朗お前、出世したなぁ」

 「質問に答えろ」

 「おぉ、こわいこわい……。私にそんなこと聞いてどうする?與に聞いた方が良いだろう?」

 「お前が関与しているという情報があるんだ」

 義正は壁を叩きながら、言った。

 「息子に“お前”呼ばわりされるとはな……」

 「答えて下さい、國崎敏正」

 五十嵐が問いたてた。

 「久しぶりだね……。ああ。この三人には敵わないな」

 「早く言え」

 「まあそう慌てるな。まずは、入江真緒についてだが、あれは天才だ。彼女の能力は“(ライフ)”。物に命を与えることができる。与えられた物は服従される。UMAはその一種だろうね」

 「まあ、そんな類の能力だと思っていた」

 心田は言い放った。

 「それともう一つ、與から能力を受け取ったらしいよ。それが、“氷化”。だから、彼女は南極を選んだのだろうよ」

 「彼女の目的は……?」

 「そんなの知るわけないだろう?まあ、強いて言うなら、私的復讐だろうね」

 『そろそろお時間です』

 そうアナウンスが流れた。

 「最後にだが、入江真緒は気を付けた方が良い。彼女は何かを作っている気がするよ……」

 國崎敏正は微笑みながら戻って行った。

 「あれ全て本当なのか……?」

 五十嵐が首をかしげた。

 「冗談を言っているようには見えなかったですね……」

 「入江は、また申し込むから時間がかかる」

 「辛抱だね……」

 心田は、言った。

 

 「え……?聖剣エクスカリバーってないんですか……?」

 「誰に言われて来たんだが知らないが、そんなの存在しないよ」

 お先真っ暗。



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四十七 聖剣エクスカリバー

 イギリスに着いてから、早三時間。

 イギリスのカフェで、夢は溜め息をついていた。

 「何で全員に聞いても、“ない”しか答えないのよ……」

 「そもそも聖剣エクスカリバーって空想上の物ですもんね」

 「そうなの!?」

 夢は、正木を見た。

 「聖剣エクスカリバーは、アーサー王伝説に出てくる剣で、アーサー王以外抜けなかった剣だったそうです」

 「お嬢ちゃんたち、何かお探しかい?」

 店の店主が声を掛けてきた。

 「実はですね、剣を探しているんです」

 「剣……?名前は……?」

 店主は、首をかしげる。

 「……聖剣エクスカリバー……」

 「それなら、あるぞ……?」

 夢と、正木は、店主を見た。

 「見たいか……?」

 夢と正木は頷いた。

 夢と正木は店の地下倉庫へ向かった。

 「うちの先代が、アーサー王伝説が好きでよ。どっかの商人から買ったらしいぜ。何も岩ごとついてる」

 「欲しいのなら、あげるよ。あいにく俺は興味がないからな――」

 

 「そう言われて、ありがたくもらったけど、重すぎるよ!夢も持って!」

 正木は、夢に押し付けようとした。

 「私はか弱いの!ここは男のあんたが持ってよ」

 すると突然、悲鳴が聞こえた。

 「夢!あれって!」

 「UMA!?こんなとこにまで!?」

 「当然っちゃあ当然かもね……!」

 UMAはゆっくりこちらへ向かってきている。

 「いちにさん……。何体いるんだUMA!?」

 「見た感じ百はくだらないわ!」

 「クソっ!」

 「あんたは逃げなさい!」

 「この距離だったら、近距離より、長距離の方が武がある!多分UMAの狙いは、この聖剣エクスカリバーだと思う!だったらあんたは逃げなさい!」

 「でも、一人であんな数……!」

 「バーカ、私を誰だと思ってるのよ……?」

 そう言って夢は、UMAに発砲し始めた。

 「早く行きなさい!」

 正木は走りだした。

 (ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい……!)

 正木は、自身の過去を振り返っていた。

 正木は昔から気が弱く、いつもいじめられていた。そんな自分を変えたいと思って、自身を鍛え、風間の元へ来た。自分自身でも変われたと思っていた。しかし、そう簡単には変わることができなかった。結果がこれだ。

 夢の声が聞こえた。かなり苦しそうな声だった。正木は振り向いた。

 夢が、UMAに捕まっていた。

 「夢!」

 正木は走ろうとした。しかし、足が止まった。

 (僕が行ってどうする?どうせ捕まって終わりだ。……だからと言って、このまま逃げるか?逃げても、いつかは捕まる。……僕はどうすれば……!)

 正木は、ある人から言われたことを思い出した。

 「あなたは強いわ……!なんてったって私が見込んだ男だもの!」

 正木は、聖剣エクスカリバーを手に掛けた。なぜだが、抜ける気がした。正木は、走り出す。と同時に、剣が岩からどんどん抜けていく。

 抜けた剣は()びていてボロボロだった。

 「何で!?何でこうが聖剣エクスカリバーを……!?」

 正木は、光に包まれる。数秒後、光から出てきた正木は別人だった。錆びだらけだった聖剣エクスカリバーは光のように輝き、正木は光る鎧を身に(まと)い、顔は自信に満ちあふれていた。

 「僕の名は……、正木皓だ!」

 正木は、夢の元へ駆け寄った。



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四十八 正木皓

 「まさか、こうがアーサー王……?」

 正木が夢の元へ駆け寄る。UMAは、四、五体で襲ってくる。

 「さすがにそんな数……!」

 正木は、剣を構え、UMAに向かって

 「“流星(シャイニングスター)”」

 流星のような斬撃は、UMAたちを真二つにしていく。

 「凄い……!あれが正木皓……!」

 正木は、どんどんUMAを倒していく。そして、夢の元へ着く寸前に、氷鬼が現れた。見たことのない氷鬼だった。

 「そいつは、“総理大臣暗殺”のときとは格が違うわよ?」

 声の元へ振り返ると、入江真緒がいた。

 「どこにもいるのね」

 夢がツッコんだ。入江はそれを無視して、

 「そいつは、東連のときの大氷鬼魔のクローンだけど、強さはそいつの方が上よ!」

 大氷鬼魔は、雄叫びをあげた。すると、周辺のガラスは粉々に砕け、辺りは凍り始めた。

 「そいつを倒すことはあなたたちには不可能!せいぜいあが……」

 「“王の一撃(キングスラッシュ)”」

 遮るように言い放ったその言葉で、大氷鬼魔は真二つになった。

 「え……?」

 入江は口を開け、呆然としていた。

 「こんなもんか?大氷鬼魔。退屈凌ぎになりやしない」

 「まさかここまでとは……!」

 冷気と共に入江は消えてしまった。

 正木は、(ひざまず)いた。夢は正木の元へ駆け寄る。

 「大丈夫!?」

 正木は、手を立て

 「大丈夫」

 と言った。

 やがて、町は温度を上げ元に戻った。

 

 「まさか聖剣エクスカリバーをこうが抜くとはね!ビックリしちゃった!」

 「僕も驚いちゃった!」

 それから夢たちは、すぐに日本に戻りった。日本行きの飛行機を待っているとき、夢の携帯に電話が掛かってきた。

 (ん?義正……?どうしたんだろう)

 夢は、少しの不安を抱きながら、電話に出た。

 「夢……」

 微かに震える声に益々不安が募る。

 「どうしたの……?」

 勇気を出して言った言葉が帰ってくるのに少し間があった。

 「茂が……!茂がUMAに殺された……」

 夢は、携帯を落とした。それに気付いた正木が夢を心配する。

 「大丈夫か?なんかあったのか……?」

 「茂が殺された……」

 夢は、空港にかかわらず大声で泣き喚いた。

 

 日本に着いた夢は、義正に言われた場所に向かった。

 そこには、義正を始め、茂に関わっていた人たちがいた。義正が夢に気付く。

 「夢……」

 「茂は……!?」

 義正は、棺に指を指す。夢は、おぼつかない足取りで棺へ向かう。

 そこには、顔が白くなった茂がいた。それを見た瞬間、夢は瞳から涙が溢れ出た。

 「……クソっ!仇討ちだ!」

 戯介が叫ぶ。

 「ダメ!」

 夢が戯介を止める。

 「どうしてだよ!俺は気が済まねえよ!みんなもそうだろう!?」

 「待ってくれ……!」

 そこに現れたのは、風間だった。

 「風間さん……!」

 「誰だよ、夢」

 「私は、UMAに詳しい人だよ」

 「そのUMAって何なんだよ!」

 海人が問いたてた。風間は、ここにいる全ての人に、これまでの出来事を全て話した。ある人は俯き、ある人は泣き出し、ある人は拳を壁に叩きつけた。

 「じゃあ俺たち、UMAと戦うことが出来ないのかよ……!」

 「だから私に任せて!私に守らせて!」

 「夢にばかり迷惑掛けられるかよ……!」

 「……もうこれ以上大切な人たちを死なせたくないの……!」

 そう言って、夢は待合室を飛び出した。そして、大声で泣き叫んだ。

 「憾咲君……!」

 振り返ると、そこにいたのは風間だった。

 「私はどうすれば良いんですか……?」

 「君は、強くなれば良い。強くなって、入江真緒を捕まえよう。良いかい?夢」

 夢は、頷いた。袖で涙を拭い立ち上がった。

 

 茂の葬式を済ませた夢は、風間の家へ向かった。

 「風間さん!今日は何を!?」

 「今日は夢、南極に行く」

 「え?」

 あまりに突然に言われて、夢は、固まってしまった。



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四十九 南極にて

 「南極にですか……?」

 「もうこれ以上犠牲を出すわけにはいかないんだよね。だったら、もうボス戦で良いんじゃないかって思うんだよね」

 「残り二つの“最上業”は……?」

 「一つは、こちら側にあるんだ。もう一つは、海底で探すのが困難なんだ。だから、向こう側に“最上業”が行っている確率は低いと思うよ」

 「メンバーは……?」

 「そんなの総動員に決まってるじゃないか」

 「寒さ対策は……?」

 「それは、水嶋君が何とかしてくれるそうだ」

 部屋に沈黙が訪れる。沈黙を破ったのは風間だった。

 「決行は、明後日。準備が出来次第、行こう」

 夢は頷いた。

 夢が帰った後、炎司と海人が出てきた。

 「帰ったのか?夢」

 海人が言った。

 「会う気にならねえのか?」

 炎司は、誤魔化すように

 「腕の調整頼む」

 「またかよ……」

 (どうして炎司は、夢に会いたくないんだ……?)

 風間は、少し考えたが、答えが見るからずすぐに諦めた。

 

 翌々日、いよいよ決戦が始まろうとしていた。

 風間たちは、海人が作った、飲めば最大一ヶ月寒さに耐えることの出来る液体を飲み、ダイバースーツに身を包み、船に乗った。

 船に乗ること、一週間。南極に着いた風間たちは、早速入江真緒のいるであろう基地に歩み始めた。歩くこと約一時間。以外と近くにあった。基地の全長は、吹雪で見ることが出来なかったが、かなり大きいことがわかる。

 大きな門を開けると、中は薄暗くなんだか不気味だった。中へ入っていくと、小山が何かを言い出した。

 「静かすぎる……。敵に入られたっていうのに、全然敵が現れない……?」

 「留守なんじゃね?」

 高橋が言った。

 「だったら、好都合。この基地ごと吹き飛ばそう」

 大井が冗談気味に言った。すると、突然物音がした。全員が足を止める。

 すると、壁からUMAがどんどん湧いてきた。

 「ようこそ!私の基地へ!歓迎するわ!」

 UMAがこちらに近づいてくる。夢たちは銃を構える。

 「私のショーを楽しんでね!」

 入江は不気味に微笑みながら消えていった。

 「入江!」

 「風間さん!今は目の前の敵に集中して下さい!」

 夢が叫ぶ。

 「……クソっ!」

 風間は、刀を構える。

 「“風間流、陽炎(かげろう)”」

 水中のワカメのようにゆらゆら揺れる斬撃がUMAを倒していく。それに続いて夢たちも撃ったり、殴ったりとUMAを倒していく。

 UMAが減ってきた頃、奥の方から物音が聞こえた。物音の方を見ると、そこには、氷鬼がいた。

 「氷鬼がこんなに……!」

 すると、奥の方から高橋の叫び声が聞こえた。夢は高橋の方を見る。

 高橋を腕を抑えて倒れていた。腕を斬っていたのは、なんと正木だった。

 一同は、時が止まったように動けなかった。



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五十 正木皓VS神木炎司

 正木が高橋を斬ったことにより、辺りに氷の寒さではない、寒気を感じた。

 「何を……、何をやっているんだ……?正木君!」

 風間の怒号が響く。

 「何って、見ればわかるじゃないですか!?僕は、あんたの仲間を斬ったんだ!この意味わかりますよね!?」

 「こう。まさかあなたがあっち側だったとはね……」

 夢が怒りと悲しみが混ざった口調で言った。

 「僕も申し訳ないと思ってるんですよ!でもね!風間さんは戦闘の師匠的存在だった。でも、入江さんは僕の命の恩人なんですよ!」

 正木は入江の元へ歩み寄った。

 「ってことは、君は、私達の敵ってことになるね……?」

 風間は、正木の元へと近づいてくる。

 「後は、頼むよ。皓」

 入江はそう言って、去っていった。

 「行かせるかあ!」

 小山が、入江を追いかける。しかし、小山も斬られてしまう。

 「痛ぇ!テメェ正木ィ!」

 「あ?どこ見てんだ?敵はこっちだぞ?」

 「やめて!あなたを傷付けたくない!」

 夢が叫ぶが、正木は聞く耳を持たない。

 「君達、先に行ってなさい。部下の責任は、上司の責任だ……!だから早く!」

 風間は、剣を構えながら言った。

 「でも……!」

 「風間さんのせいじゃねぇよ……!」

 入り口に人影が見えた。

 (この声、とても懐かしく感じるのはなぜ……?)

 その疑問はすぐ解決した。その男は、夢の元へ歩み寄る。その男は顔が光に当たり、顔が見え始める。黒いフードに狐のお面。本当に炎司だった。

 「炎司!」

 夢は炎司に抱きつく。

 「何で今頃なの!?炎司!」

 「言えなかったことがあるんだ……。それより、今見るのは、俺じゃねぇだろ?夢」

 「風間さん!先行ってて下さい!俺が何とかします。夢もだ」

 炎司は持っていた紅い玉を投げた。紅い玉は光だし、そこから、天叢雲剣が出てきた。

 落ちてきた天叢雲剣を持った炎司は天叢雲剣を構えた。

 「後は任せたよ、炎司」

 炎司は頷く。

 風間たちは奥の扉の方へ走りだした。

 「どこ見てるんだあ!」

 「俺だけ見てろよ、正木皓」

 正木は、後ろへ飛んだ。

 「その剣って、あのときですよね……?」

 「ああ、東連のときだな。あのときのお前とは大違いだ」

 「僕は、あなたの力に憧れた……。こうして力比べができるって、良い機会ですね!神木さん!」

 「おお!やろうか!」

 炎司は、炎の鎧を身に(まと)い、正木は、光の鎧を纏った。

 先に仕掛けたのは、正木だった。物凄いスピードで攻撃をしてきた正木を受け止めた炎司は、正木を跳ね返す。

 「なかなかやるな、正木皓」

 「あなたも全然本気じゃないですか!」

 「じゃあそろそろ本気出すか……!」

 炎司の鎧と剣が更に燃え上がった。

 「“風間流、火柱”」

 正木は炎に包まれた。しかし、火柱から光が溢れ出てきた。やがて光は、周り全てを照らした。

 「凄い光だな……」

 「僕も全力であなたを潰す」

 正木は剣先を天高く突き上げ口を大きく開けた。すると、UMAたちが水蒸気になり、正木の口にどんどん入っていった。正木の体は震えだし体から冷気が出てきていた。正木は全てのUMAを飲み込むと、こちらを見て、不気味に笑った。

 炎司は剣を構えた。はずなのに斬られていた。炎司の体から血が噴き出る。炎司はそのまま、倒れてしまった。

 (速ぇ……!俺はこんなとこで死ぬのか……)

 そのとき炎司は夢を見ていた。



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五十一 死後の世界

 炎司は、ゆっくりと目を開ける。覚ましたのは良いものの、そこは、先程いた基地の薄暗い場所ではなく、辺り一面花が咲いており、空は真っ白な場所だった。炎司はすぐに理解した。

 ここが死後の世界なんだと。

 炎司は何となく歩いてみた。するとすぐに大きな扉が現れた。炎司はその大きな扉を開けようとしたが、勝手に開いた。大きな扉を通ると、そこは、普段の町と何ら変わりなかった。ただ違うのは、街に色がないことだった。

 炎司は、再び歩き始めた。すると、そこには会えると思っていなかった人に出会った。

 草木茂と大道寺政宗だった。

 「茂……!オヤジ!」

 草木と大道寺は、振り返る。草木はすぐに駆け寄る。大道寺は涙を浮かべ、ゆっくりとこちらにやって来た。

 「炎司……?俺てっきり、炎司は二年前に死んでるかと……」

 「わしが来たときから今日まで、会ってなかったから、まさかとは思っていたが……」

 「俺は、殺された」

 草木と大道寺は、驚いた。

 「炎司が……?」

 「俺、まだ死ぬわけにはいかねえんだ……!俺がいないと何だがいけない気がする」

 大道寺は、炎司の肩を持ち

 「そうじゃ!炎司お前は、間違えなく人々の柱となっている……!だが、ここは死後の世界。折角じゃ。お前に会わせたい人がおる」

 そう言われて、炎司は、大道寺について行った。

 かなり歩いたとき、大道寺がある一人の男に指を指した。そこには、自分と同じ赤い毛で目元がそっくりな人がいた。炎司はその人が本当のお父さんだということが何となくわかった。

 気配で気づいたのか、その人がこちらを見る。その人も気づいたのだろう。物凄い勢いで、こちらに走ってきた。

 「灯!!」

 そう言われて、気づいたら思いっ切り抱きしめられていた。

 「大きくなりやがって……!」

 炎司は何だが笑みがこぼれてしまった。

 

 「話は、大道寺さんから聞いてたからな!スゲぇな、灯は!」

 「全部、オヤジのお陰だよ」

 「何だがわしも照れるな」

 みんなで笑い合っていた。

 「ねえ、お父さん?」

 大輝は、首をかしげた。

 「何だ?灯」

 炎司は、

 「元の世界に戻る方法は無い?」

 大輝は、手を顎にあてながら

 「ほぼ無いだろうな……」

 「ほぼってことは、あるかもしれないってこと……?」

 「まあ、これは噂だから知らないが、神様直々に許しを貰えれば、戻れるという噂を聞いたことがある……」

 「神様……?」

 炎司の頭の中に一人の神様が思い浮かんだ。

 (知り合いがいる気が……)

 すると奥から、人たちが(ひざまず)いていく。奥から長い髪をなびかせ、後光が輝く人が現れた。

 「久しぶりだな、炎司!」

 「もしかして、スサノオ?久しぶりだな!」

 「スサノオって、素戔嗚尊か!?」

 草木は、口をあわわして跪いた。

 「知り合いなのか……?」

 大道寺も大輝たちも驚いている。

 「炎司、お主は戻った方が良い!我が許す!」

 「ありがとう!スサノオ」

 「我の力も、くれてやる!存分に使うが良い!……ん?」

 素戔嗚尊が頭を掻きながら、炎司に言った。

 「炎司、お主の記憶内に忘れられている記憶があるぞ」

 「忘れられた記憶……?」

 「そうじゃ。八岐大蛇と闘った後に……。話すと長くなるな、蘇らしておこう!」

 素戔嗚尊の両手が炎司の頭に触れる。

 その瞬間、記憶が呼び起こされた。



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五十二 回想 老人強し

 炎司は、消された記憶が呼び起こされて、炎司は消された記憶を辿っていた。

 

 それは、八岐大蛇を倒した後に遡る。

 炎司は素戔嗚尊と別れた後、出雲大社を出ようとしたが、あまりの疲労で倒れてしまった。仕方なく炎司は、出雲大社の外れで夜を明かすことにした。

 深い眠りにつく前、草の激しく擦れる音に目を覚ました炎司は、周りの光景に呆然とした。

 そこには、人間ほどの大きさをした猿が、四、五匹程いた。

 「え……?何々!?」

 猿は、炎司めがけて襲い掛かる。

 (クソっ!疲労が溜まって動けねぇ!)

 そう思ったとき、赤く光る刀を持つ老人が前に現れた。

 「ったく、あんな八岐大蛇ごときでそんなになるとは、情けない!」

 その老人は、手に持つ刀で、猿をばったばった切り倒していく。猿は逃げ、難を逃れた炎司は息を吐いた。

 「そこの者。名前は……?」

 「神木炎司……」

 「ったく、人違いをしてしまったな、その赤毛は、神楽一族だと思ったんが……、近頃は、良くそういう色の若者がおるんじゃよな……」

 謎の老人が林の奥に戻ろうとした。

 「あ、俺、神楽です」

 「いやいや、そんな馬鹿な」

 謎の老人は、振り返った。

 「いや、俺、神楽灯です」

 「父の名は……?」

 「神楽大輝……」

 すると、謎の老人は炎司に向かって(ひざまず)いた。

 「お持ちしておりました!神楽殿!」

 「な、何なんだあなたは!急にかしこまって!」

 「申し遅れました!(わたくし)日野政人(ひのまさと)と申します!」

 「誰……?」

 「はい!私、以前に神楽大輝殿に命を救うて貰い、御恩をお返ししようと、お持ちしていました!……立ち話もなんです。私の家へ御案内します!」

 「別に、タメで良いよ?目上の人に敬語使われると、気まずいから」

 「じゃあ、一つ言わせて貰う」

 (急だな、オイ)

 「お主の動きには無駄がある。お主は風間流を使っているが、風間流はいちいち構える必要がある。だから、二手、三手が遅れてしまう。そもそも、風間流はある一つのものから派生した。それが、儂の使う“日ノ型”だ」

 「日ノ型……?」

 炎司は、首をかしげた。

 「元々あったのは、“日ノ型”。そこから派生したのは、“風間流”と“光の型”の二つだ」

 「何で、二つに派生したんですか?」

 「権力争いだな。一人は、力だ、もう一人は速さだとか、言っていたそうだ」

 「俺は、どうすれば……?」

 「気はどこまで使える?剣に(まと)わせてみろ」

 炎司は、言われたとおりに気を剣に纏わせた。

 「ほほう、中々やるな……。剣はいつから?」

 「三日ちょい」

 「は?」

 あまりの驚きに日野は、木に頭をぶつけていた。



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五十三 回想 消された記憶

 「たった三日じゃと……?」

 (やはり、神楽殿の力を受け継いだ子どもだ……!)

 それから、たった一週間で、“日ノ型”の全てを会得した炎司は帰省の準備をしていた。しかし、炎司は準備を止めた。背後に気配を感じたからである。

 「師匠……!」

 炎司は、日野を炎司と呼んでいた。

 「見るな、多分一人じゃ……!狙いは、天叢雲剣かも知れん。気を付けろ」

 すると、まるで海賊の船長のような身をした男が現れた。炎司たちは、身を構える。

 「初めまして、日野政人さんに、神木炎司さん」

 「お主は誰じゃ……?」

 「名乗りませんよ。どうせ忘れるんですから」

 その男の指パッチンをしたときから記憶が抜けていた。

 

 記憶を遡り終えた炎司は、目を覚ました。斬られた傷口が塞がっていた。炎司は、辺りを見回す。まず目に入ったのは、多くのUMAが炎司に襲い掛かろうとしていること。炎司は、天叢雲剣を手に取り、UMAを斬った。

 (俺の動きが速い……!“日ノ型”の感覚が戻ってる……!)

 炎司は、腕時計を確認した。それ程時間は経っていない。死後の世界では、数時間過ごしていた気がしたのだけれでも。力もいつもより湧いてくる。これは素戔嗚尊のお陰だろう。

 炎司は、気を引き締めて、再び走り始めた。

 一方、炎司が起きる数分前。

 風間や夢たちは、入江真緒のいる場所にいた。

 夢は入江に向かって、

 「入江真緒さん、あなたを逮捕します」

 「そっかぁ、あなた警察官だったわよね」

 「お前は、いずれ捕まるぞ!」

 大井が叫ぶ。

 「あらあら……。まさか総動員で来るとはね……!」

 入江は笑い出した。

 「何がおかしい!入江!」

 「実はね、今日本に、三千万のUMAや、氷鬼たちを日本へ行かせたの!」

 「な、なんだと……!」

 「今から行けば間に合うでしょうけどね!」

 風間は、

 「拓海、舜平、一輝、君達は、戻って、日本に行くUMAたちを食い止めてくれ!できれば裕太郎を連れていってくれるかい?」

 小山たちは頷く。そして、小山たちは戻るためにドアに向かう。

 しかし、そのドアから正木が現れる。

 「皓!」

 「何で正木君がここに……?まさか炎司が負けた……?」

 小山たちは、違うところのドアを目指した。

 しかし、そこから一人の男が現れた。

 「ねえ、風間。もう一つの“最上業”って何だか知ってる……?」

 「ああ、妖刀 ティーチだろ?……!まさか!?」

 「そう!その子は、妖刀 ティーチを持つ者よ!名前は、水口航平(みずぐちこうへい)。でも、すぐに名前は忘れるでしょうね……!

 入江は、不気味に笑っていた。」

 「なんだと、それは、厄介だな……!」

 「早くしないと遅れますよ?風間さん」

 そこに現れたのは、炎司だった。

 「何……!?お前は、僕の攻撃で死んだはず……!」

 炎司は、それを無視し

 「ああ!その海賊ハット!お前、俺の記憶消したやつだな!」

 「ええ!何で知ってるの!?」

 「ぶった斬る!」

 炎司は、紅玉を天叢雲剣にし、水口に斬り掛かる。

 「またこいつらの記憶消してやる!」

 「日ノ型“(ごく)・居合”!」

 気付いたら水口は斬られていた。

 (速過ぎる……!)

 炎司は、左手を水口に添えた。しかし、何も起きなかった。

 すぐに水口は起き上がった。ここぞと言わんばかりに、指を鳴らした。しかし、何も起きたような様子は無かった。

 「なぜだ……?なぜ記憶が消えない!」

 「俺の義手はな、能力を消すことができる。今の時代、そうそう使わねぇがまさかここで役に立つとはな!」

 ここにいる全員が思った。

 「反則級……」



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五十四 本音

 「さ、早く行ってくれ」

 炎司はみんなに言った。小山たちは頷き、走りだした。

 「行かせないわ!」

 「風間さんは入江真緒の相手を!夢は周りのUMAたちを!俺は正木をやる!水口はしばらく起きない!」

 炎司は、正木の元へ走った。

 「懲りないですね。また殺しますよ?」

 「もう死なねぇよ!」

 「お前、“光の型”を使ってんだろ?」

 「何ですかそれ?」

 (自覚無しか……)

 炎司は、正木に向かって

 「“日ノ型 ”」

 正木は押される。炎司の華麗な剣術で、正木はどんどん押されていく。

 (さっきより格段に強い……!動くごとに剣に重さが増えている気がする!)

 「お前が使っている剣術はな、威力が弱い分、“風間流”より動きが速い。威力が弱い分、聖剣エクスカリバーで威力を補っているんだ」

 正木の頭の上にハテナが湧いていた。

 「自覚はないと思うけどな!」

 正木は、叫びながら炎司に斬り掛かる。しかし、全て受け流されてしまう。

 「そろそろ決着をつける」

 炎司の髪がなびきだし、心なしか、体が大きくなっていた。

 「正木皓。お主は、この戦いに何臨む?」

 (口調が変わった……?)

 炎司は、腰を落とした。すると、地面がえぐれると同時に、正木が吹っ飛んだ。

 (速ぇ!肉眼じゃ追いつけねぇ!)

 壁にめり込んだ体を抜こうとする正木に、炎司はゆっくりと歩み寄る。

 「やめて!」

 炎司は足を止めた。正木の目の前に、夢が立ちはだかる。

 「二人ともやめてよ!こんなのおかしいって!」

 「でも、こいつをやらなきゃ、入江真緒だって倒せない!」

 「他に方法はないの!?」

 「夢、お前はどっちの味方なんだ?」

 「どっちも味方だよ!」

 すると、遠くの方から入江が叫んだ。

 「皓!その女を殺してしまいなさい!戦力を削るのよ!」

 夢は、咄嗟に正木を見るために振り返る。そのときには、正木は剣を振り上げていた。夢は瞼を閉じる。

 「うおぉぉぉ!!!」

 正木に声と共に、激しく壁が崩れた。

 夢は、少しずつ目を開けた。そこには、壁だけを斬りつけた正木がいた。

 「夢を殺すなんて……、好きな人を傷付けるなんて、できないよ……!」

 正木は、剣を投げ捨てる。

 「夢……。僕は、夢のこと好きだったよ……。でも、タイミングが分からなかった。そして、付き合えないって分かってたから……、言えなかったんだ」

 「そんなこと……!」

 夢が正木の元へ歩み寄る。がしかし、正木は、口から血が溢れて出てくる。

 「え……?皓……?」

 夢の体に寄りかかった正木の体は、胸から大量に血が出ていた。

 「よくも命令を背いたわね!皓!」

 入江は、今にも正木に襲い掛かろうとしていた。風間が入江を抑えているので、こちらに来ることはなかった。

 「こう!しっかりして!」

 「ゆめ……!ごめんな……、大切な人たちを傷付けてしまって……!」

 「喋るな、傷口が開く」

 炎司が、正木を介抱する。

 「炎司の炎で何とかできないの!?」

 炎司が首を横に振る。

 「俺はもう、誰も救えねぇ……!」

 「何でなの!」

 「二年前のあの事件で、俺はウランを大量に浴びて、能力因子が傷付いてな……」

 「能力因子……?」

 「後で説明する。俺は人を助けることなんてできない」

 「そんな……!」

 「炎司さん……!」

 「だから喋るなって!」

 正木は、炎司のパーカーを握る。

 「僕から、頼みごとが三つあります……!一つ目は、この聖剣エクスカリバーをあなたに託します。二つ目は、入江真緒を止めて下さい。三つ目は、ゆめやみんなを救って下さい……!」

 正木は、静かに目を閉じる。と同時に、握っていた聖剣エクスカリバーが落ち、金属音が響いた。

 「こう……?こう!起きてよ!……起きてってば!」

 夢は、必死に正木の肩を揺さぶる。現実を受け入れた炎司は静かに目を閉じた。やっと現実を受け入れた夢は、泣き叫んだ。



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五十五 最終決戦

 夢が泣き叫ぶ中、入江はこちらに来ようとしていた。風間は、うずくまっていた。

 「皓をこちらに……!」

 炎司は立ち上がり、聖剣エクスカリバーを入江に向けた。

 「お前が殺したんだろ……?お前にこいつは渡さない」

 「あんたじゃ聖剣エクスカリバーは操れない。理由にあんたが持っても光ってないじゃ……?何でなの?」

 聖剣エクスカリバーは、光り輝いていた。炎司は、聖剣エクスカリバーを振りかざす。

 「“与える命(ギブライフ)”!」

 入江が床を触ると、床が盛り上がり炎司の攻撃を防いだ。そのまま、壁は蛇のように動いていた。

 「やっぱり、叢雲鉄でできた基地は丈夫だわぁ……!」

 「次で決める……!」

 入江は不気味に微笑み、

 「調子に乗らないことね!私に勝てると思ってるの……!?」

 入江は、手を大きく広げた。すると、手から黄緑色のモヤモヤが壁に伸びていく。

 「行かせたUMAたちが殺されたら、嫌だからね。あなたたちを追い出すわ!」

 モヤモヤは、壁に伝わり、壁や床がうねうねと動き出す。

 「“寄生(パラサイト)”」

 壁や床は、人の手のような形が現れた。壁は所々、穴が開いた。

 「こいつらを追い出して」

 複数の手は、炎司たちを掴んで外へ投げ捨てた。

 投げ捨てられた炎司たちは、基地を見る。基地は、うにゃうにゃと動きだし、基地から、大きな足が生えてきていた。基地はゆっくりと動き出す。

 炎司たちは、ただ立ち尽くしていた。動こうにも止め方が思い浮かばない。

 風間が後ろから話し掛けてきた。

 「これは大変だ。止めないと……!」

 「でも、炎司でも斬れなかった叢雲鉄でできた基地ですよ!?」

 「風間さん…。ちょっと良いですか?」

 炎司は、風間に耳打ちをした。

 「そんなこと出来るのかい……!?」

 炎司は頷く。

 「猶予はない、早速やろう……!」

 風間は、炎司に少し離れたところに立った。炎司は両手を広げていた。風間は、炎司に攻撃し始めた。

 「!?何してるんですか!炎司が死んじゃう!」

 「キャハハハ!今頃、仲違い!?そのまま死んじゃえ!」

 夢は、風間を止めようとする。しかし、衝撃が強すぎて、近寄れない。

 炎司は血を吐き、今にも倒れそうだった。風間は手を止めない。

 「もう止めて下さい!炎司が何をしたって言うんですか!」

 炎司は遂に、床に膝をつけた。と同時に、風間の手が止んだ。

 「もう死にそうじゃない。最後は私が……!」

 入江が、炎司に襲い掛かろうとした瞬間だった。炎司の体が赤く燃え上がり、神々しく光り出した。

 「なによっ!……これ!」

 炎司はゆっくりと立ち上がる。

 「ったく……、再生が、出来ないと……、辛いな……!」

 炎司は、天叢雲剣と聖剣エクスカリバーを構えた。

 「何をする気……?まあ、叢雲鉄には敵わないでしょうね!」

 炎司は、飛び上がり、(うごめ)く基地に向かって、

 「“反撃炎(リベンジファイヤ)”!!!」

 炎司が出した二つの斬撃は、炎と光を放ち、基地を斬りつけた。あまりの威力に、入江は吹っ飛んでいった。同様に叢雲鉄も、四方八方に飛んでいき、溶けて(ほとん)ど無くなってしまった。炎司は、地面に落ちた。

 「炎司!」

 夢は炎司を抱きかかえる。

 「夢……!入江真緒は……?」

 「倒したよ!きっと!」

 「許さない……!」

 夢はぞっと鳥肌が立つ。あの衝撃を食らって生きているの……?

 「作戦変更よ……!今ここで、こいつらを潰す!UMAァ!」

 すると、遠くの空から、UMAが飛んできた。

 「嫌な予感がする!私が止める!」

 しかし、遅かった。入江の体にどんどんUMAが入っていく。

 『こちら小山!風間さん!UMAたちがどっかへ!……?風間さん?』

 「こちら風間。ここにいるよ」

 入江は、デカくなっていた。とてつもなく。



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五十六 再来

 「なんて、デカさ……だよ。八岐大蛇ぐらい……あんぞ……?」

 入江が、右手を振り落とした。氷は砕け、衝撃波に吹っ飛ばされそうになった。

 (なんて威力だ……!)

 炎司は、入江の腕に着地した。

 「ちゃんと……、ケリを……!付けないとな……!」

 炎司は剣を構えるが、入江が腕を振って炎司を落とした。

 床に叩きつけた炎司は、血を吐き、とても苦しそうだった。

 「“風間流、火柱”」

 風間がすかさずした火柱にも入江は無傷だった。

 「何だと……!?1200度だぞ?溶けないわけ……!」

 「私の体は、3000度ぐらいじゃないと溶けないわ……!」

 「さ、3000度!?そんなの倒せるわけ……!」

 「諦めるのは……!まだ……!早いぜ……!」

 炎司は、血を吐き捨て立ち上がっていた。

 「持ってくれよ……!体!」

 炎司は、天叢雲剣を両手で持ち、目を閉じた。すると炎司の髪の毛が徐々に伸びていく。

 「神聖なる神、素戔嗚尊よ……!我に力を……!」

 すると炎司の傷口は塞がっていき、体周りが一回り大きくなっていた。

 「“神武炎装化(しんぶえんそうか)”」

 炎司の体は、赤く光り輝き、煙を放っていた。

 「我が剣の熟練度は、3000度……!さあ行くぞ!入江!」

 炎司は、物凄い勢いで入江の腕を切り落とす。入江は、すぐに再生したが、切り離された腕は、瞬く間に溶けて無くなってしまった。

 「厄介ね……!“凍てつく息(アイスブレス)”」

 入江の吐いた息は、海を凍らせた。入江は、凍らせた海の一部を剥ぎ取り、炎司に投げつける。

 「氷山かよ……!」

 炎司は、天叢雲剣で氷を斬りつける。氷は、一瞬にして溶ける。入江は、これを数十回繰り返していた。

 「そろそろかしら……?」

 入江は、不気味に微笑んだ。

 「何のことだ……?」

 吐血しながらも炎司は、入江に問い掛ける。

 「私の目的はもう知っていると思うけど、兄さんを捕まえたことに対しての復讐。それともう一つ……。國崎敏正の復権よ!」

 「後者は叶うはずないだろ!」

 「もう叶うはずよ……?」

 風間の無線から焦った声が聞こえた。

 『風間先輩!……國崎敏正他、3名が脱獄した……!能力も戻ってる!』

 炎司の目の前に、宇宙のような空間が現れた。次の瞬間、炎司は吹っ飛んだ。

 「やっぱり與の“空間移動(ワープ)”は便利だな。……久しぶりの外だ。空気がうまいな、與」

 「そうだね、敏正」

 現れたのは、國崎敏正、入江與、郡谷凍斗だった。

 「お前たち……!」

 風間は、拳を握り締める。

 「久しぶりだな、風間……。何年ぶりだ……?」

 「國崎……!お前の頭の中でどんだけ殺したか!」

 風間は、國崎を斬り掛かる。しかし、刀は郡谷によって受け止められてしまった。

 「目指す相手が違うでしょう」

 風間は、郡谷と距離を置く。

 「なぜ能力が使える!」

 國崎は、嘲笑い

 「真緒ちゃん、君はやはり天才だな。君は能力を復元できる薬を作ったとは!」

 「何だと……?」

 「そもそも能力は、能力因子によって形成されている。例えば、空を飛ぶために翼を生やし動かすことができるのは、能力因子が翼を動かしているから。殆どの能力は、根拠はそれだ」

 「その能力因子を回復させる……?」

 「そうだ……。んー、真緒ちゃん、動きにくそうだね」

 國崎は、入江真緒に触れた。すると、入江真緒はボロボロと崩れた。と思ったら、人型に戻っていた。

 「“分解修復(オーバーホール)”……!」

 「さぁ、楽しいショーが始まりそうだ」

 國崎は、微笑んだ。



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五十七 闇なる覚醒

 「闘いは、何年ぶりかな……」

 國崎は、両手を床につける。氷は、ボロボロに砕け、手のような形になった。

 その手は、風間に襲い掛かる。

 「“風間流、不知火”」

 風間の放った攻撃は、氷の手を溶かし、國崎に命中した。しかし、國崎は腕を分解し、すぐに修復させた。

 「バケモンかよ……!」

 風間の背後に郡谷が現れた。風間は、振り返ろうとしたが、遅かった。

 「“氷衝撃(アイスバーン)”」

 風間は、吹っ飛ぶ。

 「風間さん!」

 「お前の復讐心はそんなものか!風間ァ!?」

 「……憎い……!憎い憎い憎い憎い憎いィ!!!」

 そのとき、彼方の方から剣が飛んできた。その剣は、風間の横に突き刺さる。

 「これは……!妖刀 ティーチ……?」

 「なぜなの!?剣が人に共鳴したってこと!?」

 入江真緒は、驚きを隠せなかった。

 「噂で聞いたことがあるが、妖刀 ティーチは人の復讐心に反応すると聞いたが……」

 「嘘でしょ!?私の復讐心よりもあいつの方が復讐心が強いってこと!?」

 「侮らない方が良いよ、真緒ちゃん。奴の復讐心は、“十七年”分だからね」

 (あいつらに勝つ方法はこの剣しかない!すまないな、夜桜……!)

 風間は、妖刀 ティーチを握った。すると、風間の体に黒いモヤモヤが(まと)わり付いていく。

 「ぐ……!くっ……!うわあぁぁぁ!!!」

 風間は黒いものに包まれた。その禍々しさは、ここにいる者に死をかきたたせた。

 やがて、黒いものは消え中から、風間が出て来た。

 しかし、風間は以前の風間ではなかった。人の原型は留めておらず、腕や足が歪な形となっていた。

 「風間さん……?」

 夢は風間に声を掛ける。風間は振り返ったが、その目には白目で、それだけで、もうダメなんだと確信した。

 風間は、剣を海に向けた。すると海から物凄いスピードで一隻の船が現れた。その船の帆は破け、船体は穴だらけだった。

 その船は、氷をかき分け國崎の元へ寄っていく。國崎は手をかざした。瞬く間に船は砂のように、サラサラと舞っていった。

 「まさか、あいつが呼んだのか……!」

 入江が振り向こうとした瞬間だった。そのときには、風間は真後ろにおり、思いっ切り入江は地面に叩きつけられていた。その衝撃波に近くにいた人たちも吹っ飛んでいった。

 風間の次の標的は、夢になっていた。風間は、夢に向かって斬り掛かる。思わず夢は目を閉じる。しかし、斬られた気配がない。恐る恐る目を開けると、炎司が剣を受け止めていた。

 「炎司……!」

 「逃げろ、夢……!こいつは風間さんじゃねえ……!早く逃げろ!」

 夢は、遠くへ逃げていく。

 「どうしたんですか風間さん、こんなのに呑まれちゃったんですか……?」

 風間は、ピクリとも反応しない。炎司は風間の剣を振り払い、距離を置く。

 「君の復讐心は凄いな。私も全力でいかせて貰う。凍斗、與」

 郡谷と入江は、何だろうと思い國崎に近づく。二人の頬に國崎の手が触れた。

 次の瞬間、二人を含め三人の体は飛び散った。國崎の体は歪に大きくなっていく。

 「マジかこいつ……!仲間を分解して、融合させやがった……!」

 國崎に体には、二本の腕と共に、四本の腕が付いていた。

 「さあ、始めようか」

 「お兄ちゃんをどうしたの!?」

 「安心しなさい。死んではいない。ただもう原型に戻すことはできないよ」

 「約束が違うじゃない!」

 「約束……?何のことかね……?」

 「許さない!國崎ィ!」

 入江真緒は手を巨大な氷の手に変え、襲い掛かる。

 「君も良い能力なんだけどね……。今の私には、いらない」

 そう言って入江は、ボロボロ皮膚が砕けていき、崩れていった。



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五十八 逮捕

 「國崎……!お前……!」

 「君達の仕事が省けて良かったじゃないか」

 「そういうことじゃねぇんだよ!」

 炎司は、國崎を斬りつけようとする。しかし、横から復讐心に堕ちた風間が炎司にぶつかる。

 「風間さん!目ェ覚ませ!あんたとやり合ってる場合じゃねぇ!」

 炎司は、風間を剣で吹き飛ばす。しかし、國崎によって炎司も飛ばされてしまう。

 「もう止めて……」

 夢が放った言葉は、虚しく誰にも聞こえない。

 「もう止めて!」

 やっと聞こえた夢の声に振り向く炎司と國崎。

 「夢……!その姿……!?」

 夢は、自身の体を見回す。夢の体は、炎のようなはたまた、光のような温かく輝かしく照らされていた。

 「何この体……!?」

 変化に一番驚いているのは夢、自分自身だった。やがて、炎のような光のようなものは、着物となり白い生地に、金の刺繍が施された。更に、金色の翼が生え、顔もさっきまで無かった化粧で艶美の顔となった。

 「ここまでの変化は……?まさか!“神武炎装化”……!?」

 「まさか!夢がそんな能力があるなんて……!」

 夢は、手にリボルバーを持つ。そのリボルバーは、形を変え、扇の形になっていた。

 「凄い……!力が湧いてくる!」

 夢の急激な変化に驚いている中、風間は有無言わずに夢に襲い掛かる。夢は思わず、扇で扇ぐ。風間の攻撃は当たるどころか、風間は飛ばされる。しかし、風間は飛ばされず、飛んだのは風間の復讐心だった。

 風間は、床に落ちる。

 「復讐心だけを抜き取った……?」

 炎司は風間の元へ駆け寄る。

 「大丈夫ですか!?」

 「ああ……」

 どうやら、記憶はあったようだ。

 「それより、夢のあの姿は本当に“神武炎装化”なんですか……?」

 「恐らくね……。兄妹(きょうだい)だね……」

 風間は、炎司を見て笑顔を見せる。

 「君に國崎を不利にする方法を教える。私の仮説が正しければ、いける!」

 風間は、炎司に耳打ちをする。

 「……分かりました。やってみます!」

 そう言って、炎司は夢の元へ駆ける。

 「夢ェ!」

 「炎司!?風間さんは!?」

 「大丈夫だ!それより……」

 炎司は、國崎に向きを変え

 「國崎に夢の扇を使って扇げ!」

 夢は、突然言われたその言葉に、一瞬戸惑いながらも、國崎に向かって扇ぐ。金の扇から発せられる風は、物凄い勢いで國崎にぶつかる。

 「こんな風、どうってこと……!?」

 「夢の扇の風は、あらゆるものを分ける。さっき、風間さんの復讐心を剥いだように!」

 國崎の体がミシミシと軋(きし)み出す。國崎の体から、入江與、郡谷凍斗が現れる。

 炎司は、左手で國崎敏正、入江與、郡谷凍斗に触れる。郡谷は反抗して、氷を発生させようとする。

 「能力が出ない!?」

 「俺の義手は、能力を消す!」

 「お手上げだね……」

 國崎は両手をあげる。それに続いて、入江與、郡谷凍斗も両手をあげる。

 風間は、國崎たちの元へ駆け寄る。夢は、地に足を付けた。しかし、すぐに倒れてしまう。それと同時に、金の翼は消えていき、着物も消えて、先程の服に戻った。

 闘いは終わったと全員思った。

 しかし、腰を下ろしている夢の目の前に、入江真緒が現れる。

 「君は分解したはずだぞ!?」

 「私は、言わば氷!分解されてもすぐくっつくわ!」

 入江真緒は、夢に氷の氷柱(つらら)を刺そうとしていた。炎司は、一瞬躊躇したが、入江真緒を斬りつける。燃える剣で斬ったため、勿論、入江真緒は血が出る。入江真緒はまっ二つになった。辺りは、騒然とした。氷の床は、血で赤く染まり、入江真緒の内臓が散乱していた。炎司は、肩を動かしながら、息をしていた。

 「夢……」

 炎司の顔は返り血を浴びていた。そして、炎司は、夢に両手を差し出した。

 「俺を逮捕しろよ、夢……?」

 「え……?」

 夢は、躊躇する。

 「確かに炎司は、人を殺したけどさ!私を救おうとして」

 「俺は、入江真緒を殺す気でやった」

 「嘘でしょ!」

 そこに風間がやって来た。

 「夢、君は警察官だろ……?君の行動は絶対に間違えてはいけない。悲しむべきことだ」

 夢は涙を浮かべながら、頷く。そして、手に手錠を持ち

 「神木炎司、殺人の容疑で逮捕します」

 炎司の手首には、手錠がはまった。



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五十九 風間雄太

 南極の戦いが終わり、風間たちは、日本へ戻った。

 帰国後、炎司は裁判に掛けられた。様々な情状酌量によって、禁錮五年だけですんだ。

 「夢……」

 「風間さん、ありがとうございます。炎司の情状酌量、風間さんですよね?」

 「私は何もしてないよ。やったのは、大輔と、心田くんだよ」

 「昔から気になってんですけど……、風間さんって何なんですか?」

 「何なんって……。まあ、いいや。君はもう気づいているんじゃないか……?」

 夢は、頷いた。

 「僕は、警察官だった。大輔は私の後輩だった」

 「でも、明らかに五十嵐総監の方が年上に思うんですけど……?」

 「私はここ最近まで、氷の中に眠っていたんだ」

 「え……?」

 「私は、以前にも南極に訪れたことがあるんだ」

 「え……?えぇぇ!!?」

 

 私が三十八歳のとき。私が警察官になり、十八年目。私は、突然ある課へ飛ばされた。

 それが、異形殺人捜査課。能力が発現した日本では、自身の能力を持て余す輩の出現により、犯罪が多発していた。犯罪課だけでは対応しきれず、この異形殺人捜査課ができた。

 課の人数は僅か二人。私と当時三十七歳の五十嵐大輔。たった二人だけだったが、苦ではなかった。二人の仲は、署内一と称される程、仲が良いことで有名だった。

 主に、五十嵐がブレーンとして、私が行動といった感じに捜査をしていた。

 そんなある日。私が、五十嵐の指示で現場に向かったとき、現場で氷の化け物を見た。それがUMAだった。拳銃が歯もたたないと思い、応援を呼ぼうとしたとき、父親から教えて貰った剣技を思い出した。それが“風間流”だった。たまたま道で押収した日本刀を使って、撃退した私は、氷の化け物をUMAと名付け、本格的にUMAについて調べるようになった。

 遂に私は、UMAの出所を突き止めた。それは南極であることが解り、私は、単独で南極に潜入。そこで入江真緒に会った。当時十八歳の入江真緒だったが頭脳も攻撃力も、桁外れだった。いとも簡単に倒された私は、氷づけにされ、海へ流された。

 私が“奇跡的”に日本へ流れ着いたときには、十七年の時が経っていた。私が目覚めると、五十嵐は警視総監になり、P3なんぞ無くなっていた。

 私は、名前も知らないあの女に憎しみを抱き始めた。そして、五十嵐のお陰で再び入江真緒に近づくことができた。

 

 「これが私の今までの人生だよ」

 「……だから、体が若いのですね」

 「ああ……」

 「ティーチはどうしたんですか?」

 「急だね」

 風間は、不意の質問に笑ってしまった。

 「あれからは、使ってないよ。そもそも使う場面がないし、勇気もない。もう犠牲を増やしたくない」

 「炎司……!」

 「でも、君達似てるよね。まぁ、兄妹だからそうか……」

 「え?炎司と私って、兄妹何ですか!?」

 「知らなかったのかい?炎司は、それを知ったから、会うのが気まずいとも言っていたような」

 「好きだったのに……!」

 「ま、まあ、ブラコンってことで良いじゃないか。それより、裕太郎の様子を見に行こう!」

 「そうですね……」

 そう言って、夢と風間は病院に向かって歩き出す。

 

 これで、やっと平和な世の中だ。後は、炎司を待とう。炎司が来れば、幸せな日々が。そう思っていた。でももう、新たな脅威は迫っていた。



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番外編 二、三の登場人物【追加】

 シャチ能力“シャチ”

 ・二十歳。本名、泳汰(えいた)。ちなみに、弟の名前は、衣瑠華(いるか)

 

 郷田寿朗(ごうだとしろう)能力“ツボ押し”

 ・八十三歳。能力のツボ押しは、ツボを押すことで色々な能力を発揮することができる。そのお陰で体が若々しい。モアービー家の元執事。

 

 タカ能力“タカ”

 ・二十歳。本名、鷹斗(たかと)。盗みの名人。

 

 風間雄太(かざまゆうた)

 ・|五十五歳(三十八歳)。十七年間氷づけだったため。“最上業”の『真刀 夜桜』『妖刀 ティーチ』を持っている。元警官。熟練度1200度。

 

 UMA(ユーマ)

 ・入江真緒の能力“(ライフ)”によって作り出された怪物。普通の炎じゃ溶けない。炎司の炎が特別なのです。

 

 五十嵐大輔(いがらしだいすけ)

 ・五十四歳。警視総監。風間の後輩。

 

 入江真緒(いりえまお)能力“(ライフ)”,“氷化(ひょうか)

 ・三十三歳。天才。元々の能力は命。入江與から氷化貰った。

 

 高橋祐太朗(たかはしゆうたろう)

 ・二十歳。“最上業”の片手斧を持つ。熟練度511度。

 

 小山拓海(こやまたくみ)

 ・二十歳。“最上業”のメリケンサックを持つ。熟練度623度。

 

 奈良一輝(ならかずき)

 ・二十歳。“最上業”のアサルトライフルを持つ。熟練度521度。

 

 大井舜平(おおいしゅんぺい)

 ・二十歳。“最上業”の二丁拳銃も持つ。熟練度635度。

 

 氷鬼(ひょうき)

 ・UMAが任務を受けるときのリーダー。UMA約三体分。熟練度300以上ではないと倒せない。

 

 正木皓(まさきこう)

 ・二十歳。“最上業”のタガーを持っていた。『聖剣エクスカリバー』を抜いた。熟練度398→1250度。

 

 神宮政人(じんぐうまさと)

 ・三十五歳。“東祭連合会”の参謀長。

 

 大門繁郎(だいもんしげろう)

 ・七十二歳。東祭連合会会長兼大門組組長。東日本の極道のトップ。

 

 錦林凜造(にしきばやしりんぞう)

 ・三十七歳。東祭連合会直系錦林組組長。

 

 大氷鬼魔(だいひょうきま)

 ・氷鬼の強化型。熟練度600度以上ではないと倒せない。

 

 素戔嗚尊(すさのおのみこと)

 ・?歳。日本の神様。八岐大蛇を倒した話で有名。

 

 天照大神(あまてらすおおみかみ)

 ・?歳。日本の神様。

 

 八岐大蛇(やまたのおろち)

 ・酒好き大蛇。首が八つに分かれている。

 

 日野政人(ひのまさと)

 ・七十五歳。“日ノ型”の使い手。強い。

 

 水口航平(みずぐちこうへい)能力“記憶消し”

 ・二十歳。『妖刀 ティーチ』を持っていた。海賊に憧れていた。泳げない。



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四章
六十 再結成


神木炎司の殺人から三年が経った二〇二五年、日本。
 その頃世界は、ベストロンという自動危険探知ロボットを警備にあてている国が殆どだった。そんなある日、一つのロボットが人を殺した。そのロボットはゼウスと名乗り、数多のロボットを従え、人間を服従させようとしていた。
 出所まで残り五年をきった神木炎司は、突然面会をしてきた風間雄太に、ベストロンの破壊を頼まれた。
 そこで再び、徒陰が再結成され、新たにEternalというチームになった炎司たちは数々の苦難を乗り越え、真相に向かう。
 炎司たちはゼウスを倒すことができるのか……?


 二〇二二年。アメリカを始めとする六カ国による共同プロジェクトが開始した。

 それは、機械に感情や五感を入れるプロジェクト、通称“BesTron(ベストロン)”。自動危険探知ロボットの開発だった。そのプロジェクトが完成したのは、三年後の二〇二五年。

 

 「三〇二五番、面会だ」

 不気味に開く鉄格子を潜り、神木炎司(かみきえんじ)は、廊下へ出た。

 薄暗く窓が一つも無い廊下を歩き、面会室へ入った炎司は椅子に腰掛けた。顔の所に無数の穴が空いたガラスの向こうでは、風間雄太(かざまゆうた)が座っていた。

 「お久しぶりです」

 「見ない内に大人になったな……」

 「もう三年ですからね、二十三ですよ……。何か用事ですか?」

 風間の顔が曇る。炎司は、黙り込む風間の顔を見ていた。

 「炎司に頼みたいことがある」

 「俺で良ければ……?」

 「世界を救って欲しい」

 「え……?」

 炎司は、突然言われて戸惑ってしまった。

 「何かあったんですか?」

 「“ベストロン”って知っているか?」

 「噂で聞いたことあります。それがどうしたんですか?」

 「ベストロンは、自動危険探知ロボットで、警備、警護は一流だ。世界の約九十パーセント近くの国々が、ベストロンの警備を認可している。瞬く間に、犯罪率は低下していった。そんなある日。ベストロンが人を殺した。それを境に、ロボットは人間に反発するようになった。ベストロンに統率者が出た。それが“ゼウス”と名乗る電気を操るロボットだった」

 「そのゼウスを倒せと……?でも、まだ刑務所からは……」

 「この仕事を受けてくれるなら、釈放してくれるそうだ」

 「え……?」

 「もう出て良いんだよ!炎司!来いよ!」

 「……わかりました」

 翌日、炎司は刑務所を出た。外では、風間が出迎えてくれた。

 「お帰り」

 「ただいまです……。夢は?」

 「あの事件から会ってないよ。今頃、警察署だろう」

 「そうですか……」

 「行こうか」

 炎司は頷いた。炎司は風間の運転するスポーツカーで、風間の自宅へ向かった。

 家に着くと、早速炎司は風間を問いただした。

 「……で俺はどうすれば?」

 「東京のある街がベストロンによって占領されている。それが原宿。奴らの完全なる住処になっている」

 「それを俺が住処を破壊する……?」

 「まあ、そうなんだけどね。その住処には、“エネマナ”という日本のベストロンの操作を補助している機械があるんだ。それを破壊すれば、ベストロンは自然に消滅する」

 「じゃあ、俺が行けば良いんですね」

 炎司は早速立ち上がる。

 「待ってくれ。能力もなしにベストロンに敵うはずがないよ」

 炎司は思い出した。刑務所に入る前に能力を自身の左手で消すように命令されたのであった。

 「じゃあ、どうすれば……!」

 「そんなことがあろうと……!」

 炎司は、後ろから聞こえた懐かしい声に反応し振り向く。そこには、水嶋海人(みずしまかいと)が現れた。

 「久しぶりだな、炎司!」

 「海人!老けたな!」

 「余計だ……!」

 海人のキレのあるツッコミが来る。ツッコミが劣っていないことを感じた。

 「でも何で海人が?」

 横から風間が質問に答えた。

 「海人もベストロンの開発に携わっていた。人類で一番ベストロンに詳しいのは海人だと思う」

 「製作者は……?」

 「ベストロン、いやゼウスに殺された」

 「ゼウスの目的は何なんだ?」

 「人類滅亡だろう。人類でも、地球を救うために人類を減らすという考えに奴らが少なくは無い」

 炎司はふと、自分の左腕を見た。錆びた義手から火花が舞い、動かなくなっていた。

 「もう三年も調整してないもんな、これを機に新型にするか?」

 炎司は目を輝かせ、頷いた。海人が出してきたのは、金属光沢で輝く叢雲鉄でできた義手だった。

 「へぇ、叢雲鉄ってこんな細かなこともできるようになったのか!」

 「ああ。ベストロンも叢雲鉄でできている。いや、正確には叢雲鉄が含まれている」

 「ベストロンは、あらゆる金属のハイブリッドだ。熱にも、傷にも打撃にも強い」

 「最強じゃんか……!」

 「だから、僕たちは強くならなければならない。だからこれ」

 そう言って、ポケットとから出したのは薬だった。

 「これで能力が戻る。炎司の能力因子を僕が治してあげる」

 炎司は、一つ間を開け頷く。

 「ありがとう!俺、ブランクあると思うから風間さん鍛え直してくれ!」

 「良いが、鍛え直すのは私ではないよ……」

 風間は、再び奥のドアを見る。そこには、猿飛戯介(さるとびぎすけ)服部佐助(はっとりさすけ)雷電弁慶(らいでんべんけい)がいた。

 「徒陰の再結成さ!」

 「また徒陰が復活するとはな……!」

 炎司は涙を浮かべながら言った。

 「これを機に新しい名前にしないか?名前の由来もなんだし……」

 戯介がみんなに問いかけた。みんなが頷く。

 「炎司なんかないか……?」

 戯介の急な無茶ぶりに戸惑う様子も無く、

 「Eternal(エターナル)で良いよ」

 このとき、全員がその名前にしっくりきていた。

 「Eternalか……!でも、何で永遠なんかの意味合いを……?」

 風間だけは、意味が分からないと言ったような顔だった。

 「俺らにとって徒陰は、永遠な存在だったからな……」

 「なるほどな。じゃあ、徒陰改めEternal!これから頼むよ!」

 このときはまだ呑気でいられていた。



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六十一 召集

 「なあ皆、こんなときだけど、乾杯しないか?」

 海人が皆に問い掛けた。

 「今か……?」

 佐助が困ったような顔をした。

 「こんなときだからだろ?」

 横から、炎司が言った。

 「別に良いだろ?何だかんだ、久しぶりに集まったんだし……。頼めるか?海人」

 海人は頷いた。

 三分後、海人は、人数分のコップに酒を入れて運んできた。海人が全員に渡すと、炎司が挨拶をした。

 「えー……、色んなことがあったな!海人は科学者、戯介はサラリーマン、弁慶は動物保護団体員に、佐助は極道の道に……。まあ色々あったけど、集まれて良かった!ってことで乾杯!」

 カンッっと、気持ちの良い音と共に炎司たちは酒を一気に飲んだ。

 「……なんか不味くないか?」

 海人は、頭を掻きながら、

 「悪ぃ、薬入れちまった!」

 「はぁぁぁ!!??」

 ふと炎司は気付いた。体の中から湧いてくる力の存在に。

 「“戻った”んだな……?」

 「うおぉ!(とび)になれる!」

 佐助の右手が羽になっており、驚いていた。

 「これでベストロンに対抗できる……!」

 「まだ、戻りたてだかんな……。慣れが必要だし、五年前以上に力を上げなければベストロンに勝てない。とりあえず、僕の研究所へ来てくれ」

 そう言って海人は、車に乗るように促した。

 

 車に乗ってから約10分後。

 海人の運転する、と言っても自動運転の車は一般道を走っていた。

 すると、近くのビルが急に爆発した。

 「何だ急に!」

 炎司は、空を見渡す。そこには、複数体のベストロンがいた。

 「海人!あれ何のビルだ?」

 「あれは、ベストロンに対抗するための武器を作っているビルだ!」

 「……あんなデカいビル、そりゃ狙われるわ!」

 炎司はそう言いながら、車のドアを開けた。

 「炎司!何する気だよ!?」

 「肩慣らし!」

 そう言って、炎司は道路に飛び出した。炎を巧みに使って、炎司は空を飛んだ。

 「あいつ、空飛べるのかよ……」

 佐助が唖然としていた。

 ベストロンは、炎司に気付いたらしく、こちらに腕に搭載されたキャノン砲を撃ってきた。炎司は、それを物凄い勢いで避けていく。そして、蹴りを一発一体に入れた。

 しかし、ベストロンは微動だにしなかった。

 (硬ぇな……!)

 ベストロンは、アームハンマーを炎司に入れた。物凄い勢いで落ちていく炎司は、地面ギリギリに止まった。

 「強いな……!」

 すると、後ろの方から海人が何かを投げてきた。

 「風間さんから預かってきた!使え!炎司!」

 炎司が受け取ったのは、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)だった。

 「ありがとう!海人!」

 炎司は、すぐさま気を(まと)わせた。

 (この感じ!懐かしいな……)

 ベストロンは炎司に向かって、襲い掛かる。

 「日ノ型“(きわみ)・居合”」

 閃光のような攻撃は、一瞬にしてベストロンを真二つにした。

 「すげぇ……」

 「やはり変わらんな、炎司は」

 しかし、炎司はまだいた複数のベストロンにキャノン砲に撃たれてしまう。炎司は、ギリギリで避けるが、一つが右腕を擦ってしまった。

 (クソっ!やっぱ、回復出来ねーや、能力因子は戻んねーのか)

 すかさず海人の水の腕が炎司に伸びる。海人は、炎司の体を持つと、ベストロンに離れていく。

 「放せ!海人!」

 「駄目だ炎司!これで分かっただろ!?僕たちは、まだまだベストロンに及ばないんだ!」

 「やっぱり、あいつらを召集した方が良いのかな……」

 炎司は、こうなることが想像していた。

 徒陰の召集を、各地に潜む柱の招集。

 「あの“濃い奴ら”を集めるのか……」

 炎司は溜め息をついていた。



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六十二 限界突破

 炎司たちは、海人の研究所に向かう途中に出くわしたベストロンに為す術なく行った。

 「あのビル、今頃崩壊してるぞ?」

 炎司がキレ気味で言った。

 「あのビルはな、本社じゃないから大丈夫だよ」

 「そういう問題じゃねえだろ!」

 「良いか炎司、お前が斬ったのはあのロボットが三下程度の力だからだ。少なくとも、今の炎司じゃベストロンは斬れない」

 炎司は、振り上げていた手を下ろし、静かに席に座った。

 「ほら、着いたよ」

 海人が指を指したのは、白い輝きを放つ、真新しいビルだった。

 「僕が勤める研究所だ」

 炎司たちは、車を降りて研究所に向かって歩き始めた。すると、炎司の後ろから誰かが抱きついてきた。

 「この感じ……!まさか!海人!」

 「そうだよ炎司、もう来て貰ってる」

 「ダーリン♡久しぶりぃ!」

 「あい!」

 そこに現れた褐色肌の黒髪ショートカットの謎の女は、沖縄の徒陰の海柱、塩﨑愛衣(しおざきあい)だった。

 「ってことはまさか、海人!魚柱(うおばしら)もか……?」

 「“も”ってなんじゃいぃ!」

 そこに現れたのは、ねじりハチマキををした謎の男は、北海道の徒陰の魚柱、関根崚八(せきねりょうや)だった。

 「まさか……!」

 「いや、もういない。現時点で来て貰ったのは、この二人だけだ」

 「何でなんだ!?」

 「炎司、分かってんだろ?この二人の能力の“人魚(マーメイド)”と、“魚介類(シーフード)”が強いことぐらい分かってんだろ?」

 「俺は、強さで言ってるんじゃない!クセが強ぇんだよ!」

 「何よ、ダーリン!」

 「ほらこれだ!」

 戯介たちは、呆れた顔をして研究所へ入っていった。

 

 「君たちを呼んだのは他でもない、ベストロンに対抗するためだ」

 「それは、良いんだよどぉ、何で特訓しなくちゃいけないのー?私、十分強いよわよぉ?」

 「今の炎司の強さ、どう思う……?」

 愛衣は、首を傾げながら

 「前よりは強いけど、それ程でもないかな?」

 「まあ、ムショで体訛ってたからな……」

 「ムショ!?何で炎司が?」

 「海人とかに聞いてなかったのか?」

 炎司は、出来事を全て話した。

 「なるほどな、その腕もかなり錆び付いてるが……?」

 「そうだ海人、この腕を……」

 「待て、炎司。それより今やることを言う」

 海人は、一拍おいてから、

 「能力の限界突破だ……!」

 「げ、限界突破……?そんなこと出来るのか?」

 戯介が、疑うように話し掛けた。

 「あぁ。能力も身体能力と同じだ。使えば、使うほど威力は上がる」

 「でも、どうやって……?」

 「この研究所は、日本いや、世界一丈夫な実験室がある。そこであることをする」

 「あること……?」

 なんだか嫌な予感。



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六十三 混沌

 炎司たちは、研究所の地下に向かった。

 そこは、全面真っ白で、とても広かった。

 「ここで何をするんだ……?」

 アンダーアーマーを着た炎司が海人に言った。

 「その部屋は、一万平方メートルあるから、そこでどんなことをしてもいいから、現れたものをどんどん倒してくれ」

 「おう、分かった」

 数秒後、真っ白だった空間が暗くなり、炎司は思わず目を閉じた。気付くと水の流れる音が聞こえた。炎司はゆっくりと目を開けた。

 そこには、今まで無かった草原に木々が生い茂っていた。

 「海人、ここは……?」

 「僕は、ある研究で、物に能力を組みことに成功したんだ。そこで生まれたのは、この“形成”を組み込んだ床や壁だ」

 (スゲぇな海人は……!)

 そこに現れたのは、ベストロンだった。炎司は、ベストロンの攻撃を避けながら、

 「こいつらは!?」

 「そいつらは、壁のもう一つの能力“量産”。これはベストロンのクローンだ。攻撃はするが、僕らは死にはしない」

 「なるほど……!」

 炎司は、ベストロンの顔を炎を(まと)わせた拳で殴る。ベストロンは宙に舞った。そのベストロンは、首が一回転して、火花を撒き散らしながら、ピクリとも動かなくなった。

 「こんなもんかよ……?」

 すると、四方八方から、ベストロンが湧いてきた。炎司は、ここで左腕が全く動かないことの気がついた。

 「ちっと本気出すか……!」

 炎司は、左腕の義手を外し、投げ捨てた。

 「起きてるか……?行くぞ!」

 炎司は、胸に手を当てた。

 「神聖なる神、素戔嗚尊(すさのおのみこと)よ……!我に力を……!」

 すると、炎司の体が急に炎を放ち、神々しく輝いた。やがて輝きが弱まると、そこには、赤い和服に黒い線が入り、耳が立ち、九尾の尾を持ち、束ねていた髪は更に伸びてなびいていた。

 「皆に見せるのこれが初めてだったよな……?“神武炎装化”と、俺の炎を合わせた技、“混沌(こんとん)”」

 ベストロンは、炎司の発する熱で、溶けてしまった。

 「凄いな、炎司……!」

 部屋は、以前の真っ白い部屋に戻ると、扉から海人が入ってきた。と同時に炎司は、倒れてしまった。

 「ハァ、ハァ……。やっぱり、出来たては持続しないな……」

 「いつから、こんな技を……?」

 「つい最近でよ……、かなりの集中力が必要で、数十秒しか()たないんだ」

 「だったら、この力を重点的に伸ばそう!それと、義手の改造も」

 「あぁ……」

 炎司たちが話しているところに、誰かが入ってきた。

 「貴方は……!?」

 炎司は、急にかしこまってしまった。

 「お久しぶりです。堀田先生!」

 五年前の姿と(ほとん)ど変わりない堀田の姿に、炎司は

 「お元気そうですね……!」

 「君のことは、色んな人から聞いてるからね……、まだ体力はある?」

 「このかすり傷だったら、残りの体力で回復できそうです」

 「じゃあ、見せて」

 炎司は、右腕を堀田に見せた。堀田は、炎司の右腕に手をかざす。眩い光と共に、炎司のかすり傷は、癒えてゆく。

 「……ありがとうございます」

 海人の無線から、二人の男女の声が聞こえた。

 「ダーリンの闘う姿見たら、私も闘いたくなっちゃった!」

 「ぉう!俺も闘わせろ!」

 「……。だったら、二人で入ってくれ……」

 するとすぐに、二人は出てきた。



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六十四 覚醒の手段

 「なあ、海柱。どっちが多く倒せるか、勝負しようぜ」

 「良いわよ、余裕で勝てるわ!」

 二人が喧嘩をしている間に、場面は、都会の街並みに変わっていた。瞬く間に、ベストロンが複数体現れる。愛衣は、有無言わずに超音波を発生させた。ベストロンは、火花を撒き散らしながら、バラバラに砕けていく。

 「“人魚の歌声(マーメイドボイス)”」

 「相変わらずお前の声は、地獄のようだな……」

 「うるさい!ほらよそ見しない!」

 崚八の後ろには、沢山のベストロンが襲い掛かろうとしていた。

 「“鰯狩り”」

 崚八の指は、蛸のような足に変わり、ベストロンたちを薙ぎ倒していく。

 「流石、柱たちだ……、ブランクがあると思えん」

 海人が舌を巻いた。

 「だが、まだ足りない。ゼウスを相手ではな……」

 崚八たちの前に現れたのは、ゼウスだった。

 『そいつは、ゼウスとほぼ強さが同じだ。電気は操らないが、試しに闘ってみろ』

 ゼウスは、腕のキャノン砲を二人に向けた。二人は、難なく避けたが、威力は、ベストロンと比べものにならなかった。

 「なんて威力なの……!」

 ゼウスは、愛衣に狙いを定め、襲い掛かる。

 「“人魚の歌声(マーメイドボイス)”」

 愛衣の超音波は、ゼウスに当たったがほぼ無傷だった。

 「なんて丈夫なの!」

 ゼウスの拳が、愛衣の腹に入る。愛衣は、血を吐きながら、吹っ飛んだ。

 「くはっ……!」

 「海柱!」

 崚八は、愛衣の元へ駆け寄るが、ゼウスが立ちはだかる。

 「“蛸足乱舞《たこあしらんぶ》”」

 両腕を触手に変えた崚八が、ゼウスを叩きつける。しかし、やはりゼウスは無傷だった。

 「何だよ、こいつ!」

 ゼウスは、崚八の触手を持った。そのままゼウスは、振り回し地面に思いっ切り叩きつけた。崚八は、骨が砕ける音と共に、血を吐きながら倒れた。

 海人は、強制終了させ、堀田が二人を回復させた。

 「あんなに強いの……?」

 「恐らく……」

 「ヤバすぎだろ……」

 「あんなのどうやって倒すんだよ、海人?」

 「僕は、能力の研究であることが判明した」

 炎司が首を傾げた。海人は、続けた。

 「能力因子は、覚醒する」

 「詳しく教えてくれ」

 「うん。能力因子はそもそも、能力を使ううえに必要なもので、それが精密な程能力も精密であることは知っているよね?」

 炎司たちは頷いた。

 「その中の能力因子には、覚醒という更に上の能力が発動できる因子があるという結果が出たんだ。しかも、失敗作の幻獣種にだけ」

 「だから、俺たちがベストロン対に選ばれた訳だな?」

 海人は頷く。

 「でも、どうやって、能力を覚醒させるんだよ?」

 「一つは、感情が今までにないほど、高ぶったとき、とかかな。炎司の“混沌”は、ほぼ覚醒だと思うよ」

 「じゃあ、俺たちがしなくちゃいけないことは、能力の覚醒が先ってことか……?」

 「うん。でも、ベストロンは僕たちを待たない。だから、実践形式で特訓していく」

 すると突然、アナウンスから声が聞こえる。

 『只今、◯◯ビルにベストロン複数体出現。付近の者は、非難して下さい』

 「行くか、炎司?」

 「ああ……」

 炎司たちは、ビルへと向かった。



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六十五 ゼウス襲来

 炎司たちはヘリでビルに向かった。ビルに着いた頃には、(むご)いことになっていた。

 「いたぞ!五、六体程いるぞ!ゼウスはいない!」

 「ここは、俺らに行かせてくれ」

 そう言ったのは、戯介だった。

 「俺も!」

 「僕も行かせてくれ」

 そう言ったのは、佐助と弁慶だった。

 「さっきから、みんなが闘っているところを見て、(うず)いて来ちまったよ」

 そう言って、ヘリから、戯介は飛び出した。それに続いて、佐助と弁慶が飛び降りる。

 「大丈夫かな……?」

 炎司は、三人を見て心配そうに言った。

 「大丈夫だろう、あいつらは強いし」

 「だな」

 佐助は腕を翼に変え、戯介と弁慶は觔斗雲に乗って、ベストロンの元へ向かった。

 「伸びろ!如意棒!」

 耳元から出した西瓜(すいか)の種のような粒を伸ばした。

 「弁慶、援護頼む」

 「うん」

 ベストロンは、觔斗雲目掛けてキャノン砲を放つ。戯介らは華麗に避ける。

 「如意棒柔軟硬化“神《しん》・猿神乱舞《えんじんらんぶ》”」

 如意棒は、四、五メートル程に伸びて、ベストロンたちを叩きつける。ベストロンは、地面に叩きつけられて火花を散らしながら、動かなくなった。

 戯介の背後に、ベストロンが忍び寄り、戯介は、殴られてしまう。

 「戯介!よくも、戯介を!」

 弁慶は、気を溜める。

 「“(ブラッド)”」

 ベストロンは、何者かに殴られた。

 「この技は、僕が血を見るときに発動できる技で、危害を加えた者に倍で反撃する技だ!」

 ベストロンは、吹っ飛んでいった。

 戯介は空を飛び、多くのベストロンを引き連れて、飛んでいた。やがて、佐助は上空に飛び立ち、物凄い勢いで滑空した。

 「重力舐めるなよ!“重力飛行(グラビティバード)”」

 あまりの風圧に、ベストロン対たちは吹っ飛び、その中の一体が地面に強く叩きつけられた。

 「みんな強いけど、技にゴリ押し感があるな……。洗練すれば、威力は飛躍するぞ、これは」

 すると、操縦士が

 「一マイル先に謎の飛行物体を確認。物凄い勢いでこちらに接近中!」

 すると、佐助が急に吹っ飛んだ。

 「あいつはまさか……!ゼウス!?」

 「よくも人間、我の仲間を殺したな……!」

 「逃げろ!みんな!」

 ゼウスの上には、大きな雷雲が出来ていた。

 「我に勝てると思うなよ……?」

 ゼウスは、腕を高く上げた。

 「“神の怒り(ゴッドアングリー)”」

 大きな雷が三人を襲う。三人は、口から煙を出している。

 「助けに行かないと!」

 しかし、海人が止めた。

 「危険すぎる!炎司よせ!」

 「僕たちは……!大丈夫だよ……!」

 そう言ったのは、弁慶だった。

 「僕たちが……、受けた痛みを……!お前に!“(ブラッド)”!」

 ゼウスは、雷を受ける。しかし、ゼウスは平然としていた。

 「何だと……!?三人分だぞ……!?」

 ゼウスは、更に自身が受けた雷を溜めだし、先程とは桁違いの雷を起こし始めた。

 「逃げろ!みんな!」

 しかし、三人は、ピクリとも動かない。

 「ヤバい!」

 ゼウスは、雷を三人に落とそうとしたときだった。ゼウスに幽霊船が突っ込んだ。

 「あの幽霊船って……!」

 そこにいたのは、風間雄太(かざまゆうた)だった。

 「私が奴の注意を引く!その内に逃げろ!」

 炎司らは、三人をヘリに乗せた。

 「風間さんも逃げて!」

 「私はここで食い止める!だから逃げろ!」

 ヘリは、ゼウスに背を向けて、飛び出す。

 「貴様は、私が止める!」

 そのとき、今日で一番大きな雷が鳴った。



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六十六 風間雄太VSゼウス

 「貴様如き人間に、我が殺されるとも?」

 「お前がやっていることは、おかしいんだよ」

 そう言って風間は、二つの剣を持った。

 「それは、“最上業”の真刀 夜桜に、妖刀 ティーチだな。銃刀法違反により厳重に処罰する」

 「こういうときだけロボットみたくなりやがって!」

 風間は、ティーチを天にかざした。天は暗くなり、黒いモヤモヤが風間に降り注ぐ。

 「行くぞ、ゼウス!」

 風間は、ゼウスを二つの剣で押し斬った。ゼウスは、近くにあったビルに派手に吹っ飛ぶ。ゼウスは、すぐにビルから出てくると、ゼウスは右手を空に上げた。すると、ゼウスの周りに雷雲が発生し、雷がゼウスの右手に当たった。

 『BT-00、外部からの大量の電気を確認。形態変化(フォルムチェンジ)し速やかに電圧を制御せよ』

 ゼウスの体内から聞こえたアナウンスが終わると、ゼウスは、背中から黒いボディが現れた。風間は、そんなことを気にせずゼウスに襲い掛かる。しかし、風間はゼウスの発する電磁波で吹っ飛ばされてしまう。

 やがて、ゼウスの全身は黒いボディに黄色いラインが入ったロボットに変わってしまった。周りでは、電気が放電されているのがわかった。

 「直ちに排除する」

 そう言ったと思ったら、風間は吹っ飛んだ。風間は、一瞬何が起きたか分からなかった。感じるのは、腹に感じる強い痛みと、体が痺れているということだった。

 (まさか、あいつが殴ったのか?)

 それからというもの、風間は、ゼウスに攻撃するもゼウスが速すぎて、攻撃が当たらない。

 (なんだこいつ、あの姿になってから、強さが桁違いだ……)

 「貯蓄された電力の約40%放出します」

 ゼウスがそう言うと、ゼウスの胸が開き、中から大砲が出てきた。

 「“電気砲”」

 ゼウスの胸から、とてつもない威力の電気が放出された。

 「風間流奥義、台風千火(たいふうせんか)!」

 風間が出した火柱はやがて台風のように大きくなり、電気を受け止める。がしかし、電気の威力が強すぎて、風間に直撃してしまった。風間が持っていた夜桜が手から落ち、地上に落ちていってしまった。風間は、すかさずティーチを右手に持ち替えた。しかし、その間にゼウスは、風間の懐に入り、手を風間の体に触れた。

 (ヤバい!)

 風間がティーチを振りかざしたところだった。

 「ジ・エンド」

 その瞬間、風間が眩い光と音が、遙か彼方に響いた。あまりの衝撃に、周辺のビルの窓ガラスが割れた。風間は、口から血と煙を吐き出し、ティーチと共に地面に落ちていった。

 「風間さぁぁぁん!!!」

 ヘリで見ていた炎司が叫び、思わず外に出ようとしていたのを、海人が止めてヘリは、ゼウスから離れていった。それと同時にゼウスは、遙か彼方へ去って行った。

 その数分後、風間が死んでいたことが炎司に伝わった。



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六十七 カウントダウン

 翌々日、風間の葬式が行われた。参列者には、警視総監の五十嵐大輔(いがらしだいすけ)を含む全警察官が参列していた。炎司はそこでやっと、夢に出会った。

 「まさかこんな形で再会するとはな……」

 夢は、俯いたままだった。

 「なあ夢、俺がベストロンを倒すからさ、待ってろよ」

 夢は、何も言わなかった。ただ涙を流していることは、わかった。

 帰り道、炎司は、スクランブル交差点を歩いた。会社員の帰宅時間の来たので、いつもより多くの人で賑わっていた。今、日本、いや世界でベストロンが暴れているのに呑気だと思っていた。

 すると突然スクランブル交差点にある大きな電光掲示板が急に砂嵐になった。次の瞬間、電光掲示板にデカデカとゼウスが映った。

 『愚かな人間共、我に刃向かう輩が増えているが、我の前にそんなことは無謀だ』

 スクランブル交差点を歩いていた人たちが、電光掲示板を見始める。車から降りて見る人もいた。

 『我は、今日の午後二四時、日本を滅ぼす』

 周りがざわつき始めた。

 『滅ぼす方法は簡単だ、今の日本は発電はエネマナで発電している。それを管理する場所を二四時丁度に破壊する』

 「ふざけんじゃねえぞ!」

 一人の男性が怒号をあげた。

 『黙れ』

 ゼウスがそう言うと、電光掲示板から電気が出てきて、その男性の心臓を貫いた。近くにいた人が悲鳴をあげる。

 『我に逆らうとこうなるぞ。タイムリミットは丁度、六時間。せいぜい足掻くと良い』

 そう言ってゼウスの映っていた電光掲示板は、元に戻った。

 炎司は、海人の元へ向かった。

 

 「それはヤバいな……」

 海人が腕を組みながら、悩み込んでしまった。

 「なぁ海人、あの“能力”でどうにかなるんじゃねえのか?」

 そう言って炎司は、海人に耳打ちする。

 「なるほどな!」

 海人たちは、柱を早急に召集したのであった。

 

 日本が滅ぼされるまで、後約一時間。

 警察や自衛隊は、覚悟を決めた。ゼウスたちと戦争をしようと。数は総勢三千万。対してベストロンたちは、三百。こちらは最新鋭の機械を使って立ち向かう。人間側が勝てると思っていた。

 しかし、現在二十三時三十分。ベストロンの数は、二百余り。対して人間側の数、僅か百。まさに絶体絶命だった。

 「こんなものか人間」

 ゼウスが、夢に言った。

 「うるさいわね、鉄屑……。あんたなんか……!」

 夢は、拳銃を構える。が、腕が上がらない。もう限界であった。

 「我はもう退屈だ」

 そう言ってゼウスは、電気を(まと)った腕を振り上げる。夢は、思わず目を閉じた。

 「夢!」

 夢は、恐る恐る目を開けた。そこには、盛大に吹っ飛んだゼウスと炎司たちだった。

 「炎司……!」

 みんな少し大人びていたのは気のせいだろうか、少し前とはまるで違っていた。

 「貴様!」

 ゼウスが、炎司の目の前に立っていた。ゼウスの顔は歪んでいた。

 「何だかな、お前が鉄屑にしか見えないぜ?」

 ゼウスが怒り、ゼウスの周りでは雷が鳴り出した。

 「本気出せよ?その姿じゃ全力出せねんんだろ?」

 ゼウスは何故だが、不気味に微笑む。

 「それはまず、我のクローンを倒してから言え」

 そう言うと、六体のゼウスと同様の機種が出てきた。

 「我が作った性能も全て我同様。人間共、終わったな!」

 「みんな、頼むぜ」

 そう言うと、ゼウスたちは四方八方に飛んでいった。ゼウスが目を見開く。

 「お前、自分に溺れすぎだぜ?なんせ、こちとら約九ヶ月特訓したんだからな!」

 「九ヶ月?」

 夢は、矛盾している炎司の発言の首をかしげたのであった。



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六十八 岩柱VSゼウス

 「九ヶ月って、矛盾しているぞ貴様」

 「まあ、矛盾だけどな、俺らは九ヶ月分周りより多く生きた」

 夢は一瞬意味が分からなかった。だがすぐ分かった。

 「能力……?」

 「おう。“遅延”っていう能力をある部屋に組み込めた。その能力はな、通常一時間を一秒に遅らせることができる。つまりは!タイムリミット六時間は、俺らにとって約九ヶ月だったってことだ!」

 「だからなんだ!たかが九ヶ月、そんな短期間で変われる訳ない!」

 そう言ってゼウスは、炎司に襲い掛かる。

 「“傲慢不遜(ごうまんふそん)”」

 炎司が右手を出すと、手から、炎を(まと)った獅子が現れる。ゼウスは辛うじて避けたが、左腕が風圧で吹っ飛んだ。

 「何だ、今の技は!?」

 「特訓の成果だよ。今頃みんなは、もう倒してるんじゃねえか?」

 

 ゼウスを吹っ飛ばした柱の一人、戯介。

 吹っ飛んだゼウスは、物凄い勢いで地面に叩きつけられた。

 「なんて力だ……!」

 「お前らにはわからねえよ。この力の源、守る力……」

 「だがお前は一回、我に負けてるではないか」

 「それは過去の話……。再戦と行こうや!」

 ゼウスは、キャノン砲を打つ。

 「“護れ”觔斗雲!」

 そこに現れたのは、黄色い雲、觔斗雲だった。しかし、以前と違う形だった。まるで縫いぐるみのように、二足で立っていた。觔斗雲は、モコモコな腕を使い、キャノン砲を受け止める。觔斗雲は、それをゼウスに投げ返した。ゼウスは避ける。

 「なんだそいつは。以前のようなただ飛ぶだけではなさそうだな」

 「俺は、この特訓で自身の技に磨きをかけた。その一つ、“守護神 觔斗雲”」

 觔斗雲は、ゼウスを圧倒する。

 「我が負けるとは……、ない!」

 ゼウスの背中から黒いボディが現れる。やがてゼウスは、全身黒くなった。

 「一分だ。一分でカタをつけてやる」

 ゼウスはそう宣言した。

 「じゃあ俺は、十秒だな」

 「何?無理に決まっているだろ!」

 そう言い、ゼウスは襲い掛かる。

 「“猿石(さるいし)”」

 ゼウスは、戯介を殴る寸前で動きが止まった。

 「う、動けない?」

 「猿石はな、かけた奴の動きを約十秒間、止めることができるんだ。ってことで……!」

 「“母猿断腸(ぼえんだんちょう)”」

 戯介は、伸びた如意棒を腕に巻き付けた。ギチギチと音が(きし)む腕をゼウスに目掛けて構える。

 「お前は、俺に敵わない」

 振り上げた腕は、ゼウスに直撃して、遙か上空に飛び上がり、勢い良く地面に叩きつけられた。

 ゼウスは、全身バラバラになり、動く様子も無かった。



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六十九 風柱VSゼウス

 ゼウスを吹っ飛ばした柱の、服部佐助。

 佐助もまた、瞬殺でゼウスを倒した。

 「貴様は、以前我に負けた者ではないか。また負けに来たか?」

 「寝言は寝て言え……、あー、そもそもロボットは、夢を見ないかぁ!」

 「殺す」

 ゼウスはキャノン砲を打つ。が佐助は、消えた。

 「消えただと?」

 「消えたんじゃない、避けたんだ」

 ゼウスの後ろに佐助がいた。

 「俺らはな、めっちゃ特訓したんだよ!」

 「速さだったら、我に敵う者などいない!」

 すると、背中から黒いボディが現れる。

 「良いね!そうでもして貰わないと、楽しめない!」

 ゼウスの体は、全身が黒くなった。

 「我に追いついてみよ」

 ゼウスは、四方八方に跳び回る。佐助はただ見ているだけであった。

 「遅いし無意味」

 ゼウスは、背後を襲う。しかし攻撃を受けたのは、ゼウスだった。黒いボディが凹んでいた。

 「良い速さだったんだけどなぁ……。もう飽きたわ、とっとと終わらせてやるよ」

 佐助は自身を鳶に変えていく。

 「“神鳥化(グリフォン)”」

 佐助の体は、白や金色(こんじき)に変わっていく。翼は二倍に、体も一回り大きくなっていく。

 「過去に無いデータ……。なんだその姿は?」

 「俺らは、絶え間ない特訓の元、能力の覚醒をしたんだ。俺は、“神鳥化(グリフォン)”は、元々あった鳶のスピードと力を上げることで、唯一無二のスピードを手に入れた」

 佐助は、翼を広げ、構えながら言った。

 「良いか?ゼウスくん。君の速度は、マッハ二程度だが、このときの俺は、マッハ十だ。この意味分かるな?」

 ゼウスは、感じたことも無い何かによって、逃げ出してしまう。

 「“花鳥風月(かちょうふうげつ)”」

 佐助は、ゼウス目掛けて飛び立つ。余りのスピードで、佐助の体が赤く燃え上がる。佐助はそのまま、空中のゼウスを貫く。ゼウスは地面に叩きつけられた。

 佐助は、勢いを弱めて目に留まった戯介の元へ向かった。

 「おお!佐助!……どうだった?」

 「……余裕だったよ」

 「まさかここまで強くなれるとはな!」

 「そうだな、それより弁慶が心配だ……」

 「確かに、ゼウスは何かを殺しても、意味ないからな、まぁ、大丈夫だろ」

 「だな」

 佐助たちが話していると、目の前のゼウスが落ちてきた。

 「怪我無いか!?悪ぃ」

 やって来たのは、海人だった。

 「これ、海人がやったのか?」

 「ああ。流動体だった昔の感覚が今でも残ってるよ……。それより、思って以上にゼウスは厄介だ。ゼウスはどうやら、バックデータを、国外へ放出している。日本は救えても、世界が危ない」

 「炎司に報告だな」

 そう言って、三人は炎司の元へ向かった。



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七十 雷柱VSゼウス

 一方その頃、弁慶がゼウスと決着をつけようとしていた。

 「お前の能力は、“麒麟(きりん)”は我らには敵わないはずだぞ?」

 「僕らは特訓したんだ。海人から教えて貰った“覚醒”だって僕は遂げたんだ」

 「そんなことをしても我に敵う訳が無い」

 そう言ってゼウスは、キャノン砲を打つ。

 「僕は、七匹の獣と契約した……」

 弁慶は手をかざす。

 「“|怠惰の罪(ベアーシン)”」

 弁慶の目の前の現れたのは、熊だった。熊は、攻撃を受け止め、ゼウスに投げ返す。ゼウスは避ける。

 「なんだそいつは?」

 「僕が契約した“憤怒の罪(ドラゴンシン)”、“嫉妬の罪(サーペントシン)”、“|強欲の罪(フォックスシン)”、“怠惰の罪(ベアーシン)”、“色欲の罪(ゴートシン)”、“暴食の罪(ピッグシン)”、“傲慢の罪(ライオンシン)”と契約したんだ。契約内容は、呪縛解放の代わりに僕と共闘するって契約した」

 「能力検知。測定不能。直ちに排除する」

 するとゼウスの背中から黒いボディが現れる。黒くなったゼウスは、手を天に掲げる。すると、瞬く間に雷雲が発生し雷が至る所に落ちていく。気付くと、弁慶の真上にとても大きな雷雲が発生していた。

 「焦げ死ね」

 ゼウスが手を振りかざす。すると弁慶に雷が落ちる。余りの大きさに周りを飛んでいた鳥は、放電し煙を吐きながら、燃え落ちていく。

 それが弁慶に落ちようとしていた。

 「“暴食の罪(ピッグシン)”」

 そこに現れたのは、大きな雷に相当する豚だった。豚は、口を大きく開け雷を飲み込んだ。

 「なんだと?」

 「ありがとうねー」

 『おう、またいつでも呼べやい』

 そう言って豚は消えていった。

 「決着をつけよう」

 弁慶は、手を合わした。

 「“合技(ごうぎ) 憤傲(ふんごう)”」

 弁慶の体は、赤く燃え上がる。弁慶の右腕には竜の模様が、左の腕には獅子の模様が黒く彫られていく。

 「湧き上がってくるよ、怒りや慢心が……!」

 弁慶は、髪をかき上げる。

 「償え。今までしてきたことを、謝れ」

 弁慶の足の周りがグツグツと煮えたぎっていた。

 「排除する!」

 ゼウスは、拳を数秒で数百発弁慶に当てる。しかし、弁慶はビクともしない。それどころか、ゼウスの手が熱で溶けていた。

 「なんだと?この叢雲鉄が?」

 「さぁ、選べ。命を乞うか、死を選ぶか……」

 「わからない、死とは何なんだ!」

 ゼウスは、弁慶に問う。

 「それだよゼウス。死とは……、恐怖だ」

 ゼウスは、体を振るわせ、やがて溶けていった。

 「ありがとうねー、竜さん、獅子さん」

 『おう。結局気迫だけで終わったな。動きたいぜ』

 そう言いながら、竜たちは消えていった。



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七十一 魚柱&海柱VSゼウス

 一方その頃、海柱の愛衣と魚柱の崚八は共に二体のゼウスと戦っていた。

 「何でお前がいるんだよ!」

 「良いでしょ!私の勝手でしょ?」

 あろうことか喧嘩を始めた二人は、近づくゼウスに気付かない。崚八は、思いっ切り顔面殴られる。が、崚八は、ビクともしなかった。

 「なんだその硬い殻は?」

 「蟹です」

 崚八は、蛸足をゼウスに巻き付ける。

 「蛸です」

 「こんな足、引き千切ってやる」

 ゼウスは、引き千切ろうとするが、引き千切れない。

 「俺らが行ったのは、能力の強化、覚醒だ」

 締め付けが強くなっていく。が、ゼウスは引き千切った。そのゼウスは、全身が黒くなっていた。

 「それが、お前の本気か?」

 そう言った途端だった。横を見ると、波が襲ってきていた。崚八もろとも流されてしまった。

 「俺まで流すこたぁねぇだろ!」

 「だってあんた、えら呼吸できるでしょ?なら良いでしょ」

 「そう言う問題じゃ……って、ゼウスは?」

 「私が流したわ。ったく手間を掛けて……」

 「これから本気出したっての。……!伏せろ!」

 水の中から出てきたのは、ゼウスだった。

 「あの水圧で……?」

 「我が呼んでいる。お前らに構っている場合じゃ無い」

 そう言ってゼウスは、炎司の方へ飛んでいってしまった。

 「追い掛けるぞ!」

 二人は、ゼウスの元へ向かった。

 

 一方その頃、炎司とゼウスは炎司の方が圧倒的有利だった。天叢雲剣を持った炎司は、黒いゼウスにとどめを刺そうとしていた。しかし、ゼウスは不気味に微笑んでいた。

 「何が可笑しい?」

 「数秒後、お前は死ぬ」

 「下らないな、負け惜しみか?」

 すると遠くの方から、金属片が続々と飛んで来る。

 「何をした!ゼウス!」

 「我が何故、雷を操れるか知っているか?

 我、ベストロンの開発第一人者、安藤比呂子先生は、教え子の水嶋海人と共にある偉業を成した。それが“物に能力を与える技術”だ。我が与えられた能力は、“雷神(ゼウス)”だ。我のクローンも、この能力で創ることができるのだ!」

 「一つ良いか?……何故お前は、安藤先生を殺した?」

 ゼウスが言った答えに炎司は、戸惑っていた。

 「安藤比呂子先生は、死んでなどいない」

 「どういうことだ!」

 「お前に教える必要ないだろ!どうせここで死ぬのだからな!」

 ゼウスにどんどん金属片がくっついていく。

 「我は、自分の意思でもう一つ能力を手に入れた!それが“|電磁石”だ」

 ゼウスは、大きくなっていく。何百体のベストロンを取り込んだゼウスには、腕が六本になり、まるで國崎敏正の様だった。

 「無駄にデカくなったな」

 「元は、ベストロンの破片だ。一つ一つが自分の意思で動くことができる。勿論我にも動かすことができるが」

 六本の腕の乱れ打ちが炎司を襲う。

 「“火鎌倉(ひがまくら)”」

 炎司は、難なくゼウスの攻撃を受け止める。

 「“日ノ型進火(しんか) 電光石火(電光石火)”」

 炎司の攻撃で、ゼウスの一本の腕が地面に落ちる。しかし、また動き出した。

 「まさか、こんな動きをするとはな……」

 四本の腕は、ゼウスによって、宙に浮いていた。

 「炎司!」

 そこにやって来たのは、柱たちだった。

 「みんな」

 「弁慶が溶かしたゼウス以外は、全部向こうへ行っちまった!すまない!」

 「炎司!」

 また名前を呼ばれた炎司は、声のする方へ振り返る。そこには、夢が立っていた。

 「負けないで!炎司!」

 「わかってるよ!」

 炎司は剣を収めて、目を閉じる。

 「頼むぜ、“九尾の狐”、“正義感(ジャスティス)”、素戔嗚尊!」

 炎司は、剣を構えた。



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七十二 火柱VSゼウス

 「みんなに頼みたいことがある。俺が、気を溜めているときは、少しの身動きがとれない。だから、溜まるまで、コイツを食い止めてくれ」

 みんなは頷く。

 「行くぞ!」

 戯介が、叫んだ。

 「無駄だ」

 そう言って、ゼウスは、四本の腕で襲う。

 「炎司を護れ!觔斗雲!」

 觔斗雲は、ゼウスの拳を受け止める。もう一つの拳が襲い掛かる。

 「“暴食の罪(ボアシン)”」

 弁慶が召喚した豚によって、拳が食べられる。また、もう一つの拳が襲い掛かる。

 「手再現!“シャコガイ”!」

 手がシャコガイになった崚八は、拳を受け止める。

 「合技!“海風の逆鱗”」

 もう一つの拳を、佐助と愛衣が受け止める。

 「舐められたものだな」

 全員が受け止めていた。拳は呆気なく破られる。柱全員が吹っ飛ぶ。

 「炎司に近寄るな!」

 しかし、拳は聞く耳を持たず、炎司の方に飛んで来る。

 夢は、頭を押さえ立ち止まる。

 『お願い!私の弟を助けてあげて!』

 「誰なの!」

 夢は叫んだ。

 『私は、天照大神(あまてらすおおみかみ)。素戔嗚尊の姉よ。お願い!素戔嗚尊を助けて!』

 「私には無理よ!」

 『思い出して!あの“異形の人間”を倒したときのことを!』

 「異形の人間……?もしかして、國崎敏正のこと!?ってことは、あのときのあの出来事は、貴女のお陰なの……?」

 夢は、あのときを思い出す。

 大きな扇を仰いだときに、國崎敏正は、分裂したことを。

 「もしかして、ゼウスにも出来るの?」

 『わからない……。けど、助けるのはそれしか無い!お願い!』

 夢は、胸に手を当て頷いた。

 「こちらこそ、お願い!」

 すると、夢は光に包まれる。そして以前の様に、(きら)びやかな着物姿になった。手には、大きな扇。

 そこで気付く。炎司が危ないことを。

 「炎司(おにいちゃん)!」

 夢は、扇を仰ぐ。起きた風は、腕に当たると死んだように、地面に落ちていく。

 「“神風(かみかぜ)”」

 「貴様!」

 「炎司(おにいちゃん)には、手を出させない!」

 ゼウスは、能力を駆使して四本の腕を一本の腕に変えた。

 「まずは、お前からだ!」

 「“光の壁(またたき)”」

 光の壁がゼウスの攻撃を止める。

 (私、強い!いける!もしかしたら、いける!私コイツに勝てる!)

 夢は、扇を構える。ゼウスは、再び腕を四本に戻し襲い掛かる。

 夢は、扇を振りかざそうとした。が、それが出来なかった。扇は消えて、着物姿もいつもの警察の制服に戻っていく。

 「時間、制限……?」

 夢は、(ひざまず)く。ゼウスの拳は、夢に向かう。夢は、死を覚悟し目を閉じる。

 「“日ノ型 奥義 炎華龍蘭(えんかりゅうらん)”」

 炎司の天叢雲剣を振りかざすと同時に、周りが暗くなり静かになる。天叢雲剣は、燃え上がり、暗闇の中に光り輝く雷の様に光り輝いた天叢雲剣は、ゼウスに直撃する。

 ゼウスは、金属片を落としていき、燃え出す。

 「神木……!炎司ィィィ!」

 ゼウスは、腕を伸ばす。が、ゼウスは、力尽きた。

 「風間さんの仇……!」

 炎司は、しばらくその場に立ち止まった。



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七十三 ロシア

 多くの犠牲を伴った戦いは、人間側の勝利。したのも束の間、炎司が聞いたのはゼウス以外のベストロンが世界にいること。炎司は、うかうかしていられなかった。

 夢の携帯から、現総理大臣 國崎義正(くにさきよしまさ)から電話が掛かってきてきた。

 「至急集合して欲しい」

 と。戦いの疲れが癒えぬまま、炎司たちは国会議事堂に向かった。

 「急に呼び出してすまなかった」

 「何で俺たちを集合させた?」

 ぼろぼろの炎司が問い掛けた。

 「ロシアの大統領から、メッセージが届いた」

 そう言って義正は、パソコンを炎司たちの方に向けた。そこには、ロシアの大統領が映っていた。

 「炎司たちにわかるように、翻訳しておいた」

 『Mr.ヨシマサ。久しぶりだね。急なんだが助けて欲しい。私らの共同プロジェクト、ベストロンのある一体が暴走している。奴は自分で“オーディン”と名乗り、各地で暴れている。私達では対処仕切れない。頼む!ヨシマサ』

 「“ゼウス”の次は“オーディン”か……」

 海人が溜め息交じりの声で言った。

 「頼む炎司!ロシアには、能力を持つ者はいない。あいつらに対抗するには君達しかいない!」

 「……わかった。今すぐ行く」

 「ありがとう」

 炎司たちは、服を着替え義正が準備した飛行機で、ロシアへ向かった。

 

 ロシアは寒く、炎司たちは厚着をしていても寒さを感じていた。

 「ざぶっ……」

 震えながら、炎司が言った。

 「初めまして!」

 そこにいたのは、当たりの良さそうな青年だった。

 「私は、大統領の専属秘書のトムです!よろしくお願いします!」

 「よろしく」

 そう言って、炎司はトムと握手を交わした。

 「ここじゃ寒いでしょう、ささ速く入って!」

 炎司たちは、言われるがままに中に入っていった。

 「トムは日本語上手いんだな」

 「まぁ……、大統領の秘書ですから……。多少の言語は」

 「なるほどな」

 他愛もない会話をしている間に、炎司たちは大統領室の前に着いた。大統領室に入ると、ロシア大統領が立っていた。

 「Приятно познакомиться.Вы спаситель в Японии!」

 「へ……?」

 トムは、急いである物を差し出した。

 「すいません!この小型翻訳機をつけて下さい!」

 炎司たちは、小型翻訳機を耳につけた。

 「私の秘書が失礼しました。初めまして」

 「よろしくお願いします、大統領」

 炎司は、大統領とも握手を交わした。

 「単刀直入に言います。私達の国をお助け下さい!」

 「一つ疑問なんですけど、俺が見た感じ街は平和だったぞ……?」

 「……それは、私達の街だけです。私達の国は大きいですからね」

 「それで、オーディンはいつ?」

 「明日の正午です……」

 「早いな……」

 海人が、(うな)る。

 「いやむしろ丁度良いぜ。休める」

 「よろしく頼むよ、英雄達!」

 炎司たちは、近くのホテルに泊まった。たまたま、炎司と夢は同じ部屋になった。

 「明日の正午、ここは戦場になるぞ」

 「私もう嫌だよ、何で戦うの?」

 「ベストロンの目的には、何か欠けてる気がするんだよなあ……」

 しかし、炎司は考えるのを止めて、眠りについた。



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七十四 ロシアVSオーディン

 翌日朝五時。

 一番早く起きた炎司は、ジョギングを始める。ロシアの朝は寒い。日本の朝とは訳が違う。炎司は、自身を燃やしながらジョギングを続けた。走ってから約十分経過したときだった。朝早くの公園にトムがいた。トムは、何故だか四つん這いになっていた。

 気付くとトムは、小さな犬になっていた。ふと、トムが炎司の方に振り返る。

 目が合った。

 「嫌ァァァァ!」

 公園の木に止まっていた鳥が羽ばたいた。

 「お前、能力持っているのか……?」

 「まさか見られるとは……!そうです。私は能力を持っています」

 「でも、何で?能力を持つのは日本人だけだろ?」

 「実は私、ハーフなんです、ロシアと日本の。私の本当の名前は、戌井富(いぬいとむ)なんです」

 「もしかして、駆け落ちか?」

 「はい。第二次世界大戦後に、父は日本にやって来ました。そこで出会った母に恋に落ち、結婚をしました。

 P3が出来た頃、日本は、外国人を一人の残さず、国外へ追放しました。勿論父も対象でした。しかし両親は中々帰郷せず、母がP3を摂取した後に、ロシアに二人で向かいました。その後、私が生まれて今、二〇二五年では、元気な二十一歳ということです」

 「なるほどな……。色々大変だったんだな」

 「そうでもないですよ?私が能力を皆見せなければ、少しがたいの良い男の子ですからね」

 「能力は何なんだ?」

 「わかりません。でも多分、“(ウルフ)”とかそこら辺でしょう」

 「今日の戦いに参加するのか?」

 「はい、一応。生まれ育った国ですから……!」

 「よろしく頼むぜ!」

 「はい!」

 

 そして時は経ち、正午数分前。トムを含め九人と、ロシアの軍隊。数はおよそ数百。

 「夢、大丈夫か?」

 炎司は、夢に話し掛ける。

 「うん……」

 「怖いのか?」

 「ううん。何だか胸騒ぎがするの。嫌な予感がするの」

 「心配性だな」

 そう言って炎司は、夢の頭をわしゃわしゃとかいた。

 (俺も、何だか嫌な予感がする……。的中しないと良いが)

 「炎司!」

 「どうした、海人」

 海人は、書類を炎司に見せる。

 「これ、オーディンの能力書だ。オーディンの能力は、“槍神(オーディン)”。所有する槍を自由自在に扱うことが出来る。呼び寄せたり、空中で操ったり……、用途は様々だ。それともう一つ、“背信(はいしん)”と言ってな、恐怖で背を向けた奴を自分の配下に置くっていうヤバい能力だ。下手したら、味方がいないくなる」

 「それだけは、避けたいな」

 「炎司、そろそろ……!」

 トムが、炎司に言った。

 「よし。これから、巨悪と立ち向かう。もしかしたら負けるかも知れない。だが、良いか?俺たちがついている」

 話を聞いていなかった人たちが静まり、炎司を見る。

 「俺たちEternalが何とかする。……背中は任せたぞ」

 軍隊は、Eternalに敬礼をしたのであった。



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七十五 背信

 オーディンがいるロシアのある廃墟。

 そこにあるのは、最新鋭のコンピュータと、大きな画面。

 『まさか、あのゼウスがやられるとは……!』

 『無理もない。所詮最高神の能力。我が能力の方が上に決まっている』

 「よせ、トール。貴様はただの筋肉馬鹿だろう」

 『うるさい、オーディン!』

 『止めとけ、お前ら。次来るのはフランスで良いだろう。そこで俺プロメテウスが、Eternalを潰す!』

 『楽しみにしているよ、私の息子達……』

 通信が切れるとオーディンは立ち上がった。

 「プロメテウスに手を煩わすなど……、私でEternalを止めてやる」

 オーディンは、口角を上げながら、廃墟を後にした。

 

 炎司は、オーディンの元へ歩み出す。

 「炎司、街の人たちを国外へ避難させないで良いんですか?」

 「バカ言え、日本以外に安全な場所はねぇし、オーディンがそれを許すとは思わねぇ」

 「炎司!もう見えた!行くか!?」

 「いや、ギリギリまで引き付けて今朝言った作戦を行ってくれ!」

 「わかった!」

 オーディンが率いるベストロンたちが、遂に来た。軍隊は、銃を構える。

 「お前ら、好きなように打て。前線で俺が暴れる」

 炎司は、そう言って空中に跳んだ。

 「海人!敵はもう入った!良いぞ!」

 海人は、そう言われると地面に手をつけた。

 「これ結構集中するから、邪魔すんなよ!」

 やがて地面から水が湧いてくる。ベストロンは、戸惑っている。その水は、天に昇っていき、どんどん伸びていく。水は、やがて、ベストロン全てを包み込んだ。

 「“水会場(ブルードーム)”」

 ベストロンたちは、水でできた壁を殴る。しかし、液体のはずの水は、ダイヤモンドの様に硬く、ベストロンの拳を破壊していく。

 「止めとけ、この水は、僕の能力の覚醒で硬くした。このまま上に上げれば……、あっという間に空中戦場に早変わりだ。これで民間人には、危害は加わらない」

 「では簡単な話……、貴様を殺す!」

 海人の目の前には、オーディンが槍を構えていた。

 「させるかよ」

 炎司は、オーディンの攻撃を天叢雲剣で受け止めた。

 「神木炎司か、貴様の能力はゼウスによってもう調査済みだ」

 「じゃあ、あのときより少し本気を出せば良いんだな?」

 「ふははは!面白い!」

 そう言って、オーディンは遠くの方へ飛んでいった。

 「何なんだあいつ、結局俺が怖いのか?」

 「かもな」

 そう言って、二人は笑っていた。

 

 戦いが始まって数十分経過。人間が優勢な今の状況で、トムは迷っていた。

 (ここまで皆は命を懸けて、戦っている!なのに私は、命令をしているだけ……。こんなんじゃだめだ!私も戦う!)

 トムは、

 「君たちはもう自分の意思で動きなさい。私は、炎司たちと戦ってくる!」

 トムは走り出す。しかし、目の前にオーディンが表れる。

 「お、オーディン!」

 「私に挑むか?」

 オーディンは、誰にでも聞こえるような声で叫んだ。

 「良いか、人間共!私に歯向かうなど、愚かだな!そうだ、今から一人一人の皮を剥ぎ取ろう!悲痛な叫びを聞きながら、仲間の死を見れば良い!」

 「嫌だァァァァ!お母ァァァァん!!」

 多くの兵士たちがオーディンから、逃げていく。トムは足の震えを必死に抑えていた。

 「トム負けるな!俺らがついている!」

 しかしトムは、オーディンに背を向けて走り出してしまった。

 「人間は、有利な方によく寝返る……。例え今まで生きてきた意義を失うとしてもな……!」

 「トム!!」

 トムや、兵士たちはオーディンに(ひざまず)いていた。

 「私は、オーディン様に仕えるもの……」

 トムたちは、オーディンの能力“背信”にかかってしまっていた。

 「“蛸足(たこあし)”」

 トムたちは、蛸足によって拘束される。

 「崚八!」

 「大丈夫だ、絞め殺したりしない。しかし、マダコの唾液に含まれる神経毒を投与させた。しばらくは動けないと思うぜ」

 トムは、このとき父との思い出を思い出していた。



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七十六 フェンリル

 「パパー!どこに行くの?」

 トムは、トムの父親の背中に問い掛けた。

 「ん?そうだな……、うん!正義のヒーローかな!」

 「えぇ!!パパすごーい!」

 「そうだな!でも良いか?(トム)?ヒーローは、誰にだって出来ることなんだよ。でも、必要なものがあるんだ。わかるか?」

 トムは、首を傾げる。

 「ハハッ、そうだな、必要なのは、勇気だ!じゃっ、行ってくるよ……」

 その後、父は二度と帰ってこなかった。大きくなって知ったことだけど、父は戦争に行っていた。生還兵から聞いた話だと、最期まで戦場にいた人たちを逃がしていたそうだ。トムは、それから心の中のヒーロー像を封印していたのかも知れない。なのに……。

 

 「折角の(しもべ)たちが」

 「どうせ捨て駒だろ?」

 「言っておくが、気絶していても命令は絶対。我が命に従え僕共。Eternalを殺せ」

 兵士たちは、蛸足を引き千切ろうとする。

 「嘘だろ?神経だぞ……?動けるなんて……!」

 しかし、兵士たちは蛸足を引き千切ることが出来ない。すると一人の兵士が、懐からサバイバルナイフを取り出し、体を切りつけ始めた。

 「おぉ、自身の体を切ってまっ二つにして抜けると言うことか!考えたな」

 「よせ!」

 「駄目だ!僕が何とかする!“強欲の罪(フォックスシン)”」

 弁慶は、兵士たちに手を向けた。

 「兵士からナイフを奪え」

 すると、兵士たちの持っていたナイフが、一瞬にして弁慶の足下に落ちた。

 「スゲぇ!」

 佐助が叫ぶ。

 「そんなもの……、こいつらは素手で胴体を引き千切ろうとしているぞ?」

 「させねぇ!」

 (炎司!ごめん!私が、オーディンに背を向けたばかりに!)

 「所詮人間は、弱い生き物だ!」

 「そうだよ!でもな、その分必死に生きようとしている!(ここ)にある“勇気”で、人間は!英雄(ヒーロー)になれるんだ!」

 どくん。トムの胸で何かが高鳴る。思い出したのは、父の言葉。トムはこのとき、動けるような気がした。

 「アオーーーン!!」

 「トム!」

 雄叫びを上げながらトムは、蛸足を引き千切る。体からは毛が伸び、みるみる内に体は大きくなる。

 「やっぱりトムは“(ウルフ)”なんかじゃねぇ!トムは“大口狼神(フェンリル)”……!」

 トムは、大きく口を開ける。トムの口は、雲を超す大きさだった。

 「クソッ!避けきれない!」

 オーディンは槍を構えたが、噛み潰されてしまった。

 「スゲぇ!」

 再び佐助が叫ぶ。

 トムは、口から鉄屑を吐き出す。鉄屑は、放電しながらドロドロ溶けていた。

 戦いが終わった。皆がそう思っていた。しかし、トムは人間に戻らない。それどころか、トムは、炎司に向かって大きな口を開ける。

 「ぉ、おいおいおいおいおいおいおい!」

 炎司は、トムに食べられる。炎司は、トムの上唇を押さえ必死に抵抗していた。

 「目ェ覚ませ!トム!」

 段々トムの口が落ちていく。そのとき海人が叫ぶ。

 「炎司!左手!」

 炎司は、左手を見てはっとする。炎司は、左手の義手でトムの能力を消した。その瞬間、トムは人型に戻った。

 「悪ぃなトム。助かったぜ」

 そう言って、炎司はトムを担いだ。



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七十七 フランス

 ロシアとオーディンの戦いは、トムの能力の進化によって幕を閉じた。

 翌日、炎司たちは、又もや國崎義正に呼ばれる。

 「また、ベストロンか……?」

 「あぁ……。次は、フランスから応援要請というか、大火事がフランスで起きている。エジプトにも、ベストロンの反応を確認しているが、未だ動き無し、だそうだ。いけるか?皆」

 「まあ、総理大臣の頼みは断れねえよな!」

 炎司は、微笑む。

 「ありがとう!炎司。フランスにも特別なベストロンがいてな……。名前は、“プロメテウス”。火を司る神の名が使われている。こちらで分かっているのは、能力“炎神(プロメテウス)”に加え、“充填(チャージ)放射(ファイア)”。熱量を吸収、充填し、放射することが出来る。この能力は炎司にとって天敵となるから気をつけて欲しい」

 「“充填(チャージ)放射(ファイア)”か……」

 電話を切った夢たちは、早速フランスに行く準備をしたのであった。

 

 『まさか、オーディンまでもがやられるとは……』

 画面の向こうから、ゴロゴロと雷が鳴っていた。

 『私達は、Eternalを舐めていたようですね……』

 深くフードを被ったその女性は、頭を抱えていた。

 「でも、俺がいますよ」

 そこに現れたのは、通常のベストロンよりも一回り大きなベストロン、プロメテウスだった。

 「こうして先生が、俺をメンテナンスしてくれるから、ここまで大きくなったんですよ!大型二足歩行を完成させたのは、偉大ですよ!だから俺に()させろ」

 『分かりました。行ってきなさい、プロメテウス』

 そう言って、画面は暗くなった。

 

 炎司たちは、フランスに着くと早速大統領のいるブルボン宮殿に向かった。

 炎司たちは、大統領室に入ると大統領が歓迎してくれた。

 「こんにちは、大統領!」

 「Salut!J'ai entendu tes rumeurs!」

 「……はい?」

 「あ、ごめんごめん。フランス語だったな」

 そう言って海人は、翻訳機を皆に渡した。

 「おいおい、お約束みたいになってんじゃんか」

 そう言って炎司たちは、耳に翻訳機をはめた。

 「いやいや、急に呼び出して済まないね。是非Eternalに協力して欲しくって」

 「今の状況はどうなんですか?」

 「火事が起こる場所はだいたい決まっていてね。こちらに近付くように火事が起きている。そう仮説を立てているよ」

 「そうですか……。ちなみに被害件数は?」

 「一万を越えてね、こちらとしては痺れを切らしていたところだったんだ。そんなときにこの動画が送られてきて……」

 そう言って大統領が見せたのは、とあるビデオだった。

 『やあ、愚かな人間共。俺がプロメテウスだ。明日、いやこれを送るのが明日だから今日か、今日、お前らの国の原子力発電所を破壊する。せいぜい足掻いてみろ』

 「大統領!これ!」

 「ああ、完璧な脅迫だ……。頼む!こいつらを倒してくれ!私達の国ではどうにも出来ない!」

 「もちろ……」

 炎司がそう言いかけたときだった。いきなり大統領室のドアが開いた。

 「大統領!とある一角の原子力発電所がベストロンによって破壊されました!」

 「何だと!」

 炎司たちは、有無言わずに急いでそこに向かった。



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七十八 フランスVSプロメテウス

 炎司たちがそこに向かうと、そこは火の海だった。

 「ヤバい。まだ内部までは火は行ってないようだけど、もう少しで内部に引火する!」

 そこに飛び出たのは、愛衣だった。

 「“眠れる波(ナギ)”」

 愛衣がそう言うと、遠くの方から穏やかな波がやって来る。

 「海人!後はお願い!私は、呼ぶだけで操れないから!」

 「おっけ」

 海人は、水に変えた腕を伸ばし、愛衣が呼んだ波に手を突っ込む。するとその波は、生きているかの様に動き出す。その水は、原子力発電所を包み、火を消した。

 「ありがとう!Eternal!」

 「礼を言うのはまだ早いですよ。奴らは今も原子力発電所の近くに身を潜めているかも知れない。そこで、海人!愛衣!お前たちが(かなめ)だ」

 海人らは、首を傾げる。

 「海人と愛衣の超音波で、プロメテウスを……」

 そう言おうとした瞬間だった。

 「“火達磨(ヒダルマ)”」

 そう聞こえた瞬間、炎司が炎に包まれる。

 「炎司!」

 「俺は大丈夫だ!」

 「ハッハッハッ!これで俺のエネルギー源が確保できた」

 「お前は……!プロメテウス!」

 「そうだ!早速だが、今からゲームをしよう!」

 プロメテウスは、指をパチンと鳴らすと、ものの数秒でベストロンが数え切れない程表れた。

 「今からこいつらを倒せ。全滅させれば、お前らのボスは解放してやる。さあ!()れ」

 物凄い数のベストロンがEternalを襲う。

 

 一方その頃。火達磨の中、炎司は、神経を研ぎ澄ませていた。

 「お前が神木炎司だな?」

 背後の気配を察知した炎司は振り返る。そこには、炎を(まと)ったプロメテウスがいた。

 「ここから出せ」

 「まあまあそう焦るな、なあ、これからゲームをしよう」

 「ゲーム……?」

 「そうだ!ルールは簡単。お前はここから出れば良い。どんな技を使ってもな」

 「俺が出れれば?」

 「お前に俺を()らしてやって良いぜ」

 「……分かった」

 そう言って、炎司は構えた。

 (ハッハッハッ!まんまと引っ掛かりやがったぜ!この俺が作った“火達磨”は、炎を吸収し対象の物に力を与える。力を与えるのは、Eternalのところにいるベストロン!

 それ則ち、仲間同士の殺し合いとなる!面白ェ!)

 Eternalは、どんどんベストロンを倒していく。

 崚八は、蛸足でベストロンを絞めていく。しかし、さっきまで容易に絞め潰せていたベストロンは、簡単に蛸足を引き千切ってしまう。

 「こいつら、何だか強くなってないか!?」

 崚八が叫ぶ。

 「おそらく、プロメテウスの能力だろう!でも、何だか違和感を感じる!」

 (せいぜい足掻いていろ!)

 しかし、Eternalの猛進は止まらなかった。

 「な、何故だ!明らかにベストロンは、強化されているはずだぞ!?」

 「……そういうことか!この炎は、俺の炎を吸収するんだな?どうせ殺し合いをさせたいだけだろ?あいつらを舐めるなよ?」

 プロメテウスは外を見ると、ベストロンは(ほとん)ど倒されていた。

 「残り一体だな……!」

 突然、その一体の様子が変わった。

 「僕の仮説が正しければ、こいつらは炎司の炎によって強化されている。つまり、こいつに炎司の炎全てが送られているってことか?」

 (正解だ!こいつはもうただのベストロンではない!神木炎司同様の力を得たベストロンだ!)

 「……馬鹿だな、耐えられるわけ無いだろうに、炎司を舐めるなよ」

 ベストロンは、体から炎を上げながら、溶けてしまった。

 「まさかここまでとは……!よし、俺に全部吸収させろや!」

 プロメテウスは、炎司の首を掴んだ。プロメテウスの手は赤くなると、炎司から熱を吸収し始めた。

 (ヤバい!このままじゃ、全部吸われちまう!……こうなったら一か八か!)

 炎司は、全身から大量の炎を上げた。その勢いにプロメテウスは宙に吹っ飛ばされてしまう。その拍子に“火達磨”は、プロメテウスによって破壊され、プロメテウスは外へ放り出された。

 「ぐ……はっ!こりゃあぁ、スゲぇ力だ!力が(みなぎ)りやがる!」

 プロメテウスは、一回りも二回りも大きくなっていた。

 「ここは俺がやる……!」

 そう言って現れたのは、関根崚八だった。



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七十九 魚住

 「ここは俺がやる……!」

 崚八は、そう言いながらプロメテウスの前に立つ。

 「お前は、関根崚八だったな……?お前の能力“魚介類”如きでこの俺を倒せるかな?」

 プロメテウスは、不気味に笑う。プロメテウスは、大きな拳を振り上げた。崚八は構える。

 「潰れて燃え尽きろ!」

 崚八は、拳を“アサリ”で受け止めた。

 「そのアサリ、硬いな!」

 「俺の能力の覚醒は、魚介類の特徴強化に、同時発動、サイズ可変。あらゆる能力において今日という今日まで強化を積み重ねてきた。俺のアサリは今はダイヤモンドレベルだぜ?」

 「今の俺だったら、ダイヤモンドだって砕いてやるぜ!」

 プロメテウスは、物凄い勢いで拳が崚八を襲う。しかし、潰れていたのは、プロメテウスの拳だった。

 「再現“シャコ”“(かに)”」

 「強いし硬い!でも、その蟹、蒸し焼きになってんじゃねぇか?」

 崚八の拳は火傷を負ったように真っ赤になっていた。周りは蟹を蒸したときに発する特有の香りが舞っていた。炎司たちは、よだれを垂らしている。

 「よだれを垂らすな!後で食わしてやるから!」

 「話は済んだか?」

 プロメテウスは、そう言いながら一軒家程の大きさの火の玉を崚八に投げつける。しかし、それも崚八は受け止める。

 「再現“(くじら)”」

 (てのひら)から出した潮は、プロメテウスの放った火の玉を打ち消した。

 「クソッ!神木炎司(コイツ)から吸収した炎が……!」

 (プロメテウスの能力は、吸収した炎を放出すること。自身の強化に用いることが出来るのは、“炎神(プロメテウス)”のお陰か?()(かく)、今やることは、プロメテウスの吸収した熱量を全て放出させること……!)

 「俺が吸収した炎を全部出させようとしているな?だったら今やってやるよ!」

 プロメテウスは、天に手を掲げた。そこから、小さな火の玉が現れた。やがて、その火の玉は太陽の様に巨大になった。その代わり、プロメテウスは、元の大きさに戻っていた。

 「これが俺の限界だ……!これを受けきれるかな……?」

 プロメテウスの腕が溶け始めていた。崚八は、腰を落とし構えた。

 「“太陽地獄(サン・ヘル)”」

 プロメテウスは、太陽の様に巨大な火の玉を崚八目掛けて投げ付ける。

 (思い出せ!今までやって来たことを!あの九ヶ月で俺の能力は覚醒した!)

 崚八は、腕を大きな蛸足に変えた。

 (まずは、腕を筋肉の塊、蛸に!)

 腕から赤い甲羅が現れる。

 (ロブスター、タカアシガニ、ズワイガニ……。あらゆる甲羅を!)

 拳を後ろに構えた。

 (関節を、時速80キロの速さと、720トンの重さの拳を兼ね備えたシャコを!)

 「“混成大過(こんせいたいか) ”」

 崚八の放った一発で、プロメテウスの火の玉は、遙か上空に飛んでいき、空で爆発した。

 「何……!だと……?」

 「右ストレートォォォ!!」

 崚八の右拳が、プロメテウスの顔に直撃する。プロメテウスの顔は吹っ飛び、余りの衝撃に体までもが吹っ飛ぶ。プロメテウスは、上空で爆発した。

 それはまるで、花火の様だった。



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八十 アメリカ

 崚八によるプロメテウスの破壊で、フランスは大火事を防ぐことが出来た。

 休息も束の間、夢に再び電話が掛かってくる。

 『大変だ!夢!』

 「あなた、世界はいつも大変なことになっているわよ……」

 『いや、アメリカが!特に!』

 「どういうこと……?」

 『また新たなベストロンが……!』

 「どんな奴だ?」

 炎司が横から、割って入ってくる。

 「名前は、“トール”。ゼウス同様雷を操ることが出来るが、ゼウスとは力が違う!」

 「また雷か……」

 炎司は、そう思いながら、空港へ向かった。

 

 「まさかプロメテウスまでもがやられるとは……」

 「先生、これでは“あれ”の完成前にEternalが我々を破壊するでしょう……。ここは我の改良よりも“あれ”の完成を急がせた方が良いかと……」

 「そうですね……、それでは私達の希望の完成を急がせましょう。彼等の足止めは宜しくお願いしましたよ、トール」

 謎の女性はそう言い残し、画面は暗くなった。

 「Eternalか……。楽しみだな」

 トールは、雷と共に姿を消したのであった。

 

 炎司たちは、アメリカに着くと早速、ホワイトハウスへ向かった。

 「はぁ、はぁ……、こんにちは……」

 「Are you okay ?You looks at a lot like tiring.」

 「はぁ……」

 炎司は、海人が言う前に翻訳機を海人から奪った。

 「急に呼び出して済まない。君達しか頼れる人はいないんだ!」

 「今、朝ですよね?何でこんなに暗いんですか?」

 「奴の能力で、雷雲が発生している。雷の音が聞こえなかったかい?」

 「確かに……」

 炎司は、頷いた。

 「トールは今どこに……?」

 「奴は、変電所を我が城と化した。奴は、電気を操ることが出来る。奴はすぐにこのアメリカを潰すつもりだ……!」

 大統領は、頭を抱えた。

 「落ち着いて下さい!俺たちがついてますから!」

 「ありがとう……!皆さん……」

 炎司たちは、大統領が紹介してくれたホテルに泊まった。

 「おかしいな……」

 炎司が、(あご)に手を当て、考え込んでいた

 「どうしたの?」

 夢が、炎司の様子を心配して話し掛けてきた。

 「人が通らない。それにこのホテルだって、俺らしかいないんだ」

 「貸し切りなんじゃない?」

 「それにトールの考えだって、謎が多すぎる。何でトールは俺たちを待っていたんだ?変電所にいるならとっくに、アメリカは既に墜ちているはずだ」

 「考えすぎじゃない?」

 「そうだと良いな」

 そう言って二人はそれぞれのベットに入り、眠りについた。

 

 ここは、アメリカの大半の電気を扱う変電所。そこにトールはいた。

 「お疲れ」

 トールの目の前には、アメリカの大統領が立っていた。

 「奴らは、明日にもここへ来るかと」

 「馬鹿な奴らさ」

 大統領は、自分で皮膚を剥がし始めた。皮膚を剥がすと、大統領だった人は、人間では無くベストロンだった。

 「さぁ、ここでEternalを食い止めようか」

 トールは、不気味に微笑んだ。



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