BARグラズヘイムへようこそ (taisa01)
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第一話

1940年 ドイツ

 第一次大戦の負債に苦しみながらも持ち前の勤勉さで、ドイツは成長を続けていた。しかし時代はブロック経済が主流となり、植民地を持たない国家の多くはその成長に大きな足かせを掛けられていた。

 挫折する国。百年の計のため伏せる国。そしてあらがう国。

 歴史を俯瞰して見ることができれば、愚かな選択と言わざるを得ない蛮行。だが当事者達にとっては不満の発露であり、まさしく闘争という原罪を拭えぬ人類の象徴だったのかもしれない。

 さて、戦火はまだ遠く、史実通りに進めば数年後には戦場となるこの地「ベルリン」。メインストリートから一本入った場所に一軒の小さなBARがある。一階は店舗、二階は住居、地下には保管庫といったさして珍しくもない作り。

 しかし古びた扉を押し開ければ、そこは外界と切り離された落ち着いた空間が広がっていた。

 マホガニーと思われる年季の入ったカウンターに、四人掛けのテーブルが二セット。奥には小さなピアノと大きな壁掛けの時計が一つ。目を引くのは空間を仕切る様に置かれた数多くの鑑賞樹と、窓際に所狭しと置かれたハーブのプランター。石と鉄に覆われた市街では、公園などを一部を省くとこれほど緑を身近に感じる空間は少ないだろう。

 そんな店を一人のバーテンダーが切り盛りしていた。年齢は三十代。職業柄か落ち着いた物腰のため老齢の印象を受ける。そして料理の腕は一流。ここで出される酒とつまみは他のどこよりも旨いと評判だ。しかし、店が狭いことから常連は口をつぐみ、いわゆる知られざる名店として静かに存在している。

 そんな店に一人、新しい客が訪れた。


 ****** 


「いらっしゃいませ」

 カランカランとドアに取り付けた小さな鐘が鳴る。

 私は先程までいた常連達の後片付けを一端止め、顔を出入り口に向ける。そこには白い男性が立っていた。 

「お一人様ですか? でしたらカウンターにどうぞ」

 別に白髪……いや薄い銀髪? の男というのは珍しくはない。それに服装も含めて白一色ということもない。黒い軍服に白髪、赤い瞳、しかしその雰囲気が白を感じさせた。 

 白い男性は促されるままカウンターの席にドカっと座ると、若干不機嫌そうに声をあげる。

「なんでもいい。酒と腹にたまるものをよこしな」

 私は軽くお客様を観察する。ある程度細身ではあるが、しっかりした体をお持ちのようだ。血色も悪くない。ということは、それなりに体を酷使する部署なのだろう。
 
 そこで私はまずよく冷えた黒ビールをジョッキに注ぐ。もっともこれは私の能力で生み出すため、注ぐ瞬間を人に見られるのは不味い。一度厨房に入りジョッキを取出すのと同時に注いでしまう。

 そしてジョッキをカウンターに置く。

「お客様。こんな時間ではございますが、肉でよろしいでしょうか? それとも別のものにしましょうか」
「肉でいいぜ」
「かしこまりました。先日良い鴨のジビエが手に入りましたので、少々お待ちください」

 そう言うと厨房から鴨のジビエを持ってくる。先週末に仕留めて六日、熟成が進んだものを引っ張り出したばかりのものだ。そのモモ肉の部分を少し厚めにスライスし、オイルを引いたフライパンに落とす。片面に軽く焼き目がつく頃、店内には独特の香りが広がる。

 もちろん火を通したジビエはそれだけでも十二分に美味しいツマミとなるが、その上から黒胡椒と自家製のハーブを軽く振り皿に盛る。

 続いてジビエの油を吸ったオイリーブオイルに、えのきをはじめとした数種のスライスしたきのこを放り込む。きのこはすぐにオイルを吸い取り、黄金色に変わる。そして十分に熱が通れば完成である。

「ジビエとキノコのソテーにございます」

 白い男性は若干驚いたように料理を見ている。実際片手には三分の一程飲まれたジョッキ。時間にして数分で、まるでコースの肉料理で出てくるようなものがでてきたのだ。

 男性はフォークを取り、ジビエを一切れ口に運ぶ。火を通しオリーブオイルをからめたジビエは、ひと噛みするごとに肉本来の味を口の中に広がる。そして黒胡椒は舌の上で踊りアクセントとなり、ハーブはくどくなりがちの後味を消しスッキリと喉を通っていく。

 添えられたきのこのソテーも悪くない。口の中に変化を与えてくれる。

 なにより最初に出されたビールも思えばえらく上等な味をしていたことに気がつく。まず冷えたビール自体は珍しい。そのへんの酒場で出されるのは大抵温いままだ。裏に河があるような立地なら、引き込み冷やすなんて裏技じみたことをしてい店もあるが、冷えたビールを出そうとすると、まだまだ普及中の冷蔵庫を持っている高級店しか無い。

「バーテンダー。えらくいい肉と酒じゃねえか」
「お褒めに預かり光栄です。しかし、お客様に喜んでいただけるよう基本に則って商いをさせていただいているだけでございます」
「はっ、じゃあ他の店が手ぇ抜いてるってことになっちまうなぁ」

 お客様は、にやりと笑いながらそう言うとビールを飲み干す。そしてジビエやきのこを口に運ぶ。

 私はメニューを手に取り質問をする。

「次のお飲み物はいかがですか、よろしければメニューをどうぞ」
「メニューはいらねえよ。ウィスキーのいいのをロックで。この店ならどの酒を頼んでも旨いんだろ」
「かしこまりました。ではとっておきの一品をお出しさせていただきます」

 よく磨いたグラスを一つ。そして大ぶりの氷を取り出し、手早くアイスピックで球体にカット。そしてグラスに放り込むと、カウンターの背に所狭しと並べられたボトルからラベルの無いものを取り出し、黄金の液体を注ぐ。
 
 氷はカラカラと回り、グラスの中で万華鏡のように輝く。

 お客様は、受け取ったグラスをゆっくりと傾け、香りと味をゆっくりと楽しみ飲み干す。その仕草は夜に慣れた男の色気を感じさせるには十分なものであった。

 なにより香りを楽しむ余裕があるのだ。
 
 旨い料理と酒を出したとき、お客様の反応は大きく二パターンに別れるもの。一つは、ただ無心に食を楽しむ人。もう一つは……。

「お客様は良い夜を重ねてらっしゃったんですね」 
 
 私は片付けに取り掛かりながら、お客様の仕草を見てこんな風に表現をしてみた。その評価に驚いたのか、それともよほどツボに入ったのか声を上げて豪快に笑う。

「カカカッ。そんな風に言われたのは初めてだ。なに、夜ってもんにはちょいと拘りがあってな、なかなか嬉しい事を言ってくれる」

 そういうとお客様はウィスキーを飲み干しグラスをカウンターに置くと、静かに立ち上がる。気が付けば開いたグラスの横に飲み代には十分な額の紙幣がおかれていた。

「足りなけりゃ言ってくれ。残りはチップだ取っときな」

 私は深く一礼すると、皿やグラスを下げる。だがお客様はドアノブに手を掛けた時、ふと思いついたように振り返る。
 
「さっきのウィスキー。どんな銘柄なんだ?」

 あれは私の能力で生み出した二〇〇〇年代の日本、山崎の二十五年ものだ。というより、この店でラベルの無いボトルの中身は、大抵そんな感じでとても名前を言えないものばかり。

 そこで決まって言う言葉はこれである。

「申し訳ございません、自家製のブレンドにございます」
「そっか。じゃあ、またここに飲みに来るしかねえな」
「はい。またのお越しをお待ちしております」
「ああ、俺はエーレンブルグとでも覚えくれ。またくる」

 エーレンブルグ様はそう言うと夜の町への帰っていくのでした。



   ******


拝啓 アインズ様

 届かぬ手紙をこのように書くのは不毛かと思われるかもしれませんが、縁とはわからぬもの。2130年頃でしたでしょうか? その頃の日本にこの手紙が届くかもしれません。それこそ何らかの方法でアインズ様の手に届くかもしれません。

 それは素敵なことか、残酷なことか不明ではありますが筆を取らせていただきます。

 今は1940年、ドイツのベルリン。

 世界の列強がブロック経済を推進する中、輸出入が大きく制限された今生の祖国であるドイツは着実に経済的疲弊。それに反発するように民衆の声は次第に過激になり、戦争の火蓋が切っておとされました。
 
 2000年代の日本で70年近く。さらに魔導国で数百年。すでに記憶は風化していますが、たぶんこれは第二次世界大戦の幕開けなのでしょう。

 とはいえ、安全のためという理由でこの地を離れる気にはなれません。 

 今は亡き今生の親から継いだ小さなBARがあります。気持ちの良い隣人やお客様がいます。たとえ、ここが戦火に飲まれようとも、食を楽しみたい、楽しませたいという気持ちは変わりません。

 もっとも、二度の転生経験からか死に対する恐怖が無いのも理由かもしれません。

 色即是空空即是色

 ではありませんが、今ある生で精一杯、楽しみ楽しませたいと思います。

 あと何点かお伝えしたいことがございます。

 一つ目はアインズ・ウール・ゴウンにお仕えしていた当時の能力を引き継いでいることです。特に例の液体を作る能力は、二000年代のみならず、魔導国絶頂期の酒類やスープ、出汁まで再現することができました。くわえれば前と同じようにレシピなど料理関係の知識だけは消えずに残っております。

 二つ目はユリとの結婚式の時、長年の貢献という名目で結婚指輪代わりに下賜されたリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが気が付いたら手元にあったことです。具体的には、子供の頃、気が付けばこの手にありました。

 この二つが私がバーテンダー()である証明であり、今も続く存在であると認識し確信させるものです。もし記憶だけであれば、ただの誇大妄想と切って捨てたでしょう。指輪だけならその価値を理解できなかったでしょう。

 まさしく世の中不思議なことだらけです。

 それと、本日ですが懐かしい気配を感じました。

 血と闇の香り。

 真祖のヴァンパイアであるシャルティア様ほどではないが、常連のヴァンパイアに似た気配。本人は知ってか知らずなのかわかりませんが、すでに人外に一歩踏み込んでいるような気配でした。

 この世界にも魔法や人外が存在するのでしょうか? 

 この液体(主に酒など)を生成する能力も、分類すれば魔法でしょうから、案外ヴァンパイアも存在するのかもしれませんね。

 さて、長くなってしまいましたが、また機会がありましたら筆を取らせていただきます。
 
バーテンダー
かしこ


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第二話

あのシュピーネさんが紳士に見えるって?!

オバロのナザリック基準なら、人間らしい人間って評価ですよ!
(比較対象がアンデッドやヴァンパイア、悪魔など異形種)

それにしても1940年代。まだシュピーネさん黒円卓入りしてないはず……まあ、それでもシュピーネと名乗っていたことにしましょう(ねつ造)


1940年 ドイツ ベルリン

 小さな店とは、地域に密着することで成り立つもの。特にうちのように酔っ払いを相手にする店は、騒音などでいろいろとご迷惑をおかけすることもあります。

「昨晩の余り物ですが、皆さんでどうぞ」

 てな感じで、お隣さん達や裏のラジオ屋親子におすそ分けをしております。週に数回、程よく食卓に一・二品増える程度ですが、効果はバカにはなりません。食材調達などで店を開けることも多く空き巣の絶好の的、だったらしく、根こそぎ捕まえていただいた……なんて事もありました。本当に近所付き合いとは、馬鹿になりません。

 さてナザリック時代は、つねに新鮮な食材が入手できる大鍋に、時間停止の冷蔵庫、通常の冷蔵に冷凍庫。考えうる限り全ての料理が可能なほど充実した調理機器。じつに恵まれた環境で料理をしておりました。

 しかしこの時代の料理事情はまさしく黎明期といえましょう。戦争開始と同時に始まった配給制。鉄道を中心とした輸送技術、冷蔵技術が飛躍的に向上するも、一般家庭ではまだ手に届かない。

 もっとも店ともなれば話は違うので、冷やすという工程を利用できるようになったので、戦時中という厳しい現実の中様々な試行錯誤が続くのは料理人の業でしょうか。

 とはいえ魚は酢漬けや塩漬け。肉は燻製など常温保存が可能なものが主流。そうなってくると重要なのは、ハーブや香辛料を如何に使うかが腕の見せどころとなります。うちもハーブの消費量が多いので、ミントなどすぐ育つものを、窓辺で自家製栽培しております。マーレ様に基礎の基礎とはいえ、土質改善、植物成長促進、発火の魔法を教えて頂いたのはいまでも役立っています。覚えるのに十年ぐらいかかりましたが。

 またお酒も同じように常温で飲むことが前提です。もちろん、常温で飲んで美味しいお酒なのですが、最近になり冷やして飲むことも研究されているようです。とはいえ質でいえばピンキリの差がすごく大きい。そして一般家庭に流通するものの質はあまり良くない。魔導国絶頂期に一流ブランドに上り詰めた上で大量生産に踏み切ったことで、北部ドワーフ部族の火酒に喧嘩を売ったカルネ村名物ゴブリンウィスキー(ロック)には、質・量ともにおよびません。

 そんなことをつらつらと考えなら、本日も開店となります。

******

 土曜日。開店してしばらくすると、一人の男性が友を連れずに来店される。

「いらっしゃいませ。シュピーネ様」

 シュピーネ様は軽く頷くと、上着と脱いで玄関口で軽く払う。そしてカウンター席に座ると、隣の席に、軽く畳んで置く。

 痩身で蛇のようなという形容が似合う風貌。若干芝居ががった喋り口。一般的な美醜の判断基準でいえば個性的な男性。話してみれば血統、特に人種に強いプライドを持たれ、同時に仕事も有能でなくてはならないという強迫観念を持たれている方です。
 
 褒めているようには見えない?
 
 外見も人間の枠に収まってますし、この程度の個性などナザリックでは当たり前です。個性について悩まれたセバス様が、どこから仕入れてきたのか、語尾に「にゃん」を付けた事件に比べれば何ら問題のない範囲です。

「いつものを」
「かしこまりました」

 私は、グラスに氷をいれると、冷蔵庫から取り出したコーヒーを注ぐ。

「どうぞ。水出しコーヒーです」

 グラスを一口。カランとなる氷の音が涼やかに店に広がる。

「ふむ。何度味わっても素晴らしい。時間をかけて抽出することで程よい甘味と柔らかな苦みを演出する。であってますかな?」
「はい。その通りにございます」
「国家の政策とはいえ、コーヒー豆の輸入に高関税をかけることは残念でなりません」
「代用コーヒーは、ホットで飲む分にはある程度いけますが、この飲み方はできませんからね」

 シュピーネ様は、私が初めて水出しコーヒーを出した時の解説をときどき引用して返してくるあたり、本当に気に入っていらっしゃるのでしょう。

 戦時下の食事においてドイツ流(という名の地産地消)という風潮に、国粋主義者であるからこそ満足していらっしゃるこの方が、食品輸入関税について愚痴をこぼされるあたり、本当に気に入っていらっしゃるのでしょう。

「本日はモーゼルワインのアダムがあります。いかがですか?」
「いいですね。ではいつものと、いっしょにいただきましょう」
「かしこまりました」

 そういうと、私は三枚におろしたメバルにレモン汁をかけて寝かせたものを取り出す。そしてニンニク・バジル・パセリなどのハーブを白ワインで混ぜる。油を塗ったプレートにメバルを一枚おき、塩・胡椒・そして先ほど混ぜたものを乗せアルミホイルで蓋をしたものをオーブンで10分ほど焼きます。

 香りがオーブンから漏れ出し、店内を漂い始めるころ、ワイングラスを取り、モーゼルワインのアダムを注ぐ。

「この極上の料理を待つ時間こそ至福、そうはおもいませんか?」
「では香りで一杯どうぞ」

 グラスをとると一口。
  
 火が通ったメバルを皿に盛り、残った汁を小鍋に落とし軽く煮詰める。最後に煮詰めたソースと生クリーム、パセリを一振り。

メバルのバター焼き バジルクリーム風味(Goldbarschfilet mit Basilikumsoβe)にございます」

 シュピーネ様は、メバルを一口一口、ゆっくりと味わいながらたのしまれる
 
「さっぱりとした味の上を彩るハーブの数々。同じ素材をつかっていようとも、日々の差異を楽しまずにはいられない一品。また腕をあげましたねぇ」
「ありがとうございます」

 しかし笑顔のシュピーネ様は、すっと表情を落とし静かに質問をなげかけてくる。

 空気が凍り付くというよりも、女郎蜘蛛の巣に迷い込んだような、どこか粘着質な気配。一度絡み取られれば、逃げることはできない雰囲気が漂う。

「しかし、このワインもそうですが、今では入手が困難なはず。良くのこっていましたね」

 そう。モーゼルワインの産地はまさしく西部戦線が展開されたライン川流域。もし今買おうと思えばそれなりに入手困難な品。

 それを普通に提供する帝都の店。

「地下の倉庫など複数個所に備蓄しております。手ごろな価格で手に入った時期のものです」
「ふむ。では話を変えましょう。例えばの話ですが、あるお店の入荷量と出荷量が大きく合わない場合は、その差分はどこから出てると考えられますか?」
「備蓄。市場を通さない独自ルート。という考察はいかがでしょう」

 私はシュピーネ様の質問にこう答える。もっとも何を聞きたいのかわかる話だ。

 なぜならこの店のことなのだから。とはいえ、生まれ持った魔法で、酒類・スープ類など量産できるとは言えません。実際に備蓄はかなりの量をしていますが、BARの売り上げは酒も含めてそれなりの額になるのですが、その多くを食材の仕入れに回している以上、収支のバランスなど取れるはずもありません。

 しかし、その質問で満足されたのだろう。雰囲気ががらりと変わり、いつもの柔らかいがどこか慇懃無礼な表情にもどる。

「っということにしておきましょう。贔屓の店がなくなってしまうのは困りますし。せっかく胃に優しい好物の料理と、うまいお酒を出してくれるのですから」

 そういうと、食事にもどられる。

 これはシュピーネ様なりの忠告なのでしょう。ある程度は庇えるが度を越してくれるなと。シュピーネ様は元は科学者とおっしゃっておりましたが、軍服で来られることもありますので、きっと今のお仕事関連で調べられたのかもしれません。

「そうですか。では、とっておきをお出ししましょう」

 そういうと、ワインをおつぎしたあと、一品料理に取り掛かる。

 ゆで栗とリンゴを一センチ角に切ったものを、レーズン、パン粉、パセリを生クリームと混ぜ合わせる。そして鳥の胸肉をとりだすと、薄く切り開き塩と胡椒を振り、混ぜ合わせたものを詰める。

 あとはホイルに包みオーブンで焼く。最後に塩・胡椒とあわせてクリームソースをかける。

チキンの胸肉のロースト リンゴと栗詰め(Gebratenen Huhnerbrust mit Apfel-Maronen-fullung)にございます。栗は虚弱を取り除き、リンゴは滋養強壮、蒸した胸肉は胃にやさしいものとなっております」

 蒸した鶏肉いっしょに、クリームベースのどこか甘さを感じる香り。一口食べれば、素朴な味が広がり、大戦より遥か昔の家庭料理を彷彿させる。

 それに加え何かお気遣いをさせてしまった申し訳なさもあって、この料理をチョイスさせていただきました。

「一度の敗戦で、多くのものが失われました。このような料理もまた、その一つなのでしょう」
 
 シュピーネ様はふと遠くを見るようにつぶやかれる。何を思い出されているのかは、わかりませんが思い出に触れることができたのかもしれません。

 その後しばらくお酒とお食事に集中されたのち、ふと思い出されたように上着から一枚の封書をとりだされました。

「渡し忘れておりましたが、グルーネヴァルト地区およびその西部の狩猟許可証です」
 
 グルーネヴァルト地区はベルリンからもほど近い風光明媚な自然に囲まれた高級保養地とされる場所。そこの狩猟許可証。先ほどの話もシュピーネ様なりの回答なのでしょう。

「ありがとうございます。では来週ご来店いただいた時には、よいジビエをお出しできるようにしましょう」
「ええ、楽しみにしておりますよ。ではまた来週」

 そういうと、上着を取り席を立たれる。

 私は、偏屈な常連客に深く頭を下げるのでした。



てな具合で1話1人から複数名、そのキャラがBARで酒のんで何を話すかを考えて書きます。
長編ではなく文章量も少ないですが、週1ぐらいのペースで更新します。


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第3話 BARグラズヘイムへようこそ

アニメ第0~2話をみて、自分は獣殿の爪牙であると認識。

しかし、本作品に獣殿が活躍するのは後半。愛するもの、気に入ったものを最後に回すのは世の常ということで。

作品への搭乗順位は時系列で、ありえそうな流れを意識してのこと。私の好感度順ではございません。もし好感度順なら、一番に獣殿がくるにきまってますから。

イメージでは、エレオノーレは、獣殿の部下になるにあたって中尉から大尉に昇進したと考えております。え? ベアトリスは准尉のままですがなにか?






1940年 ドイツ ベルリン

 この時代、新鮮な食材というものは限られている。

 例えば魚。川や海が近くにない場合、オイル漬けや酢漬け、塩漬けなど加工されたものがメインとなる。

 例えば肉。古来からの猟文化を色濃く残すジビエもある意味加工品。牛・豚・羊・鳥など酪農文化の恩恵ともいえる各種肉。町に近い場所から供給されるため、比較的新鮮なものとなる。もっとも新鮮なものを新鮮なまま調理し口に出来るのは、上流階級の人々ぐらいである。特に配給がメインとなっているの戦時下では、一般市民が口にできるのは最低限の保存処理をされたものが多くなり、加工食品が中心となる。

 このような状況に、料理人でもある私が我慢できるはずもなく、創造主である至高の方(プレイヤー)より与えられた戦闘スキルと強靭な体力を遺憾なく発揮し、子供のころからナイフ一本持って森に分け入り、鹿やイノシシ、ウサギといったものを捕らえていました。

 子供の頃、春口に冬眠明けの熊を倒したのはいい思い出。熊先生……。貴方との戦いで自然の厳しさを学ぶことができました。

 それはさておき、先日頂いた許可証のおかげでベルリンに一番近く獲物の豊富な森で狩りができるようになり、素材の質・量共に一気にあがりました。しかし肉はある程度熟成する期間が必要なので、肉屋の倉庫の借スペースを増やさざるえなかったのは誤算でした。

「お前さんが捕まえたヤツだと、今日はウサギかな。鹿はあと数日。鴨はもう1日はねかせたほうがいい」
「わかりました。ではウサギを5匹と、そこの牛のひき肉とソーセージをひと束もらいましょう」
「じゃあ待っててくれ。持ってくるから」

 そんなわけで、どうみても屈強の陸軍軍人? または裏社会のバウンサーと言ったほうが納得される、筋肉隆々の肉屋の店長と、こんな会話を店先でしております。

 ふと周りの見れば商店街の活気はだいぶ減ってしまったように感じます。開戦して約1年。義憤や愛国心に駆られ兵に志願した人、戦争の影響を恐れて国内の田舎や国外に疎開した人。いろいろな人が居なくなりました。
 
「ああ、三軒隣の香辛料やハーブ、チーズを扱ってる所。店を畳んで田舎に行くらしいぞ」
「それは残念です。あそこのチーズと香辛料の品揃えは、この辺りでは一番でしたのに」

 私の独り言に、感慨深そうに肉屋の店長も相槌をいれる。

 実際、この戦争は田舎にいったら安全ということはないでしょう。ただ私の風化した記憶には、ベルリンは連合軍に包囲され焼かれ、多くの命と財産が焼失されたはず。

 目の前の店主にしろ、この店にしろ、焼かれて消える運命かもしれない(・・・・・・)。しかしここは危ないと説得しようにも、根拠を示せないのであればただの狂言か妄想。

 なんとも、もどかしい。

「てなわけで、在庫一掃のセールやってるぜ」
「それは良い情報ですね」
「じゃあ、今度行ったら一杯おごってくれ」
「ええ。お待ちしております」

 終わりのない自責の念は腹の底に押し込め、いつも通りに言葉をかわす。

 肉屋の店主は大きく笑いながら見送ってくれる。私は今晩のおすすめメニューを考えながら、香辛料屋に足を向けるのであった。
 

***

 夜もふけ、第一陣のお客様が帰られるころ外がにわかに騒がしくなる。

 あるものは愛しい我が家に。

 あるものは、仲間たちと二軒目に。

「ここです。ここです。大尉」 

 ガス灯の柔らかい灯りに照らされた街に人の往来が出来上がる頃、若い女性の明るい声が開け放たれた扉の外から響き渡る。

「まったく。そんなに大声でなくても聞こえている」

 出入り口に顔を向けると、一組のお客様が来店される所でした。

 金髪のポニーテールに人懐っこい笑みを浮かべた女性。赤毛のセミロングにクールな面立ちの女性。そして、藍色のロングに何処か困ったような、それでいて優しい笑みを浮かべた女性。

 それぞれ特徴的で、三者三様の魅力を持ったお客様たちでした。

 もっとも一人は、ここ数日何回も来店された御方ですが。

「いらっしゃいませ、ベアトリス様。本日はテーブル席もカウンター席も開いております。どちらになさいますか?」
「バーテンダーさん、こんばんわ。カウンターで」
「では、こちらにどうぞ」

 私は、お客様たちをカウンター席にご案内すると、おしぼりを一人一人お渡しする。そして、塩を振ったミックスナッツを小皿にのせお配りする。

「メニューはこちらとなります。お飲み物はいかがなさいますか?」

 私は、自然と真ん中に座った立場が上と思われる赤毛の女性にメニューを渡しながら注文を伺う。しかし、女性はメニューも見ずに注文を口にされる。

「とりあえず、適当なにビールを人数分」
「かしこまりました」

 私は手近なメニュー立てに置くと、飲み物の準備にかかる。

「大尉。そんな男らしい注文の仕方じゃ、あの方とご一緒した時に幻滅されちゃいますよぉ」
「TPOぐらいわきまえている」

 大尉と呼ばれる赤毛の女性は、ベアトリス様を睨みつけながら反論する。しかし隣で藍色の髪の女性は、困ったように微笑んでいる。きっと、この方も同じ心配をされているのだろう。

 そこで、よく冷やした黒ビールのシュバルツを大きめのグラスに注ぎ、お配りしながら一言付け加えさせていただく。

「最近は、自分の意見をしっかり口にされる自立した女性を好まれる方も多いとか。深窓の令嬢がもてはやされる時代ではありませんよ」
「バーテンダーさんは優しいからそう言いますけど、世の男共なんてみんな自分の支配欲を満たしてくれるような、一歩引いた女がいいに決まってます!」

 ベアトリス様はそう言うと、シュバルツをグイッとあおるように半分ほど一気に飲み干す。対する二人はやれやれというビールを口にする。
 
「ほぅ」
「随分飲みやすいビールね」
「でしょ。せっかく同じ職場になってこうやって飲みに行く機会も増えたんだから、美味しい店をって探したかいがありました」

 ビールを感嘆の声を上げるお二人に鼻高々という感じのベアトリス様。私としては最初の表情だけでも十二分な賛辞であります。

「どうせお前が食べ歩きしたかった口実だろ」
「大尉。ひどいですよ」

 そんな風なやり取りをされておりますが、実際ベアトリス様がこの店に初めて来られた時も、いろんな店で評判を聞いて回り回って最終的にたどり着かれたとようでした。本当に喜んでほしく自分の足で探されるあたり、口調の軽さとは裏腹な律儀さがある御方です。

「しかし、ずいぶんと飲みやすいビールだな。冷やしたビールはあまり飲んだことがなかったが、他のもそうなのか?」
「そうね。すっと喉を流れるような。もしかして……」
「あ、そんなことないですよ」

 お二人が気にされたことにベアトリス様も気が付いたようで、メニューを取ると先程のビールの値段を指差す。まあ、一般的なビールの価格ではありますが、見たこと無い名前なのはご容赦いただきたい。

 シュバルツというドイツ風の名称がついていますが、実際は2000年代の日本、あるテーマパークの所在地の地ビールだったりするのですから。
 
「それにこの店、お酒だけじゃなくってカクテルや、おつまみも美味しいんですよ」
「なにかお作りいたしますか?」

 そういうと三人はメニューを見ながらあれこれ注文をいれる。中には見たこともないという理由で注文をされる。

「本当に皆様、仲がよろしいのですね」
「ん? ただ注文しているだけだが?」

 赤毛の女性が何故? という感じで質問をしてくる。まあ実際には、雰囲気や口調などを長年の経験と照らし合わせ、さらに元インキュバスとしての女性に対する脈拍、発汗、血色、香りなどなど、無駄に高い情報収集能力で裏付けただけなのですが。そんなこと言えるハズもなく。

「皆様の雰囲気もそうですが、アイスバインやザワークラフトのように、もともと分け合うような大皿料理ではなく、一人一皿の料理を皆様で分け合うことも前提に選択されたり。それでいて、それぞれの好みを考慮して選ばれたりしておりましたから」
「あら、案外しっかり見られてたのね」
「お客様の気分に合わせたおもてなしをさせていただくのが、バーテンダーの職務と心得ておりますので」

 私は静かに一礼する。
 
 その言葉にお二人は感心されたような表情をされますが、一人だけまるでいたずらっ子が悪巧みを思いついたような表情をなさっています。

「じゃあ、いまの注文と合わせて私達にそれぞれ合うカクテルを出していただけます?」
「注文承りました。順番にお出しさせていただきますね」

 はい。ベアトリス様。そんな楽しそうに注文されなくてもわかっております。ほかのお二人も意図が伝わったらしく、好奇と期待の視線を送られてきました。

「まだビールがありますので、料理からはじめさせていただきましょう」
 
 取り出したのは先日の狩で捕まえたウサギ。捕まえたその場で血抜きを行い、その日のうちに熟成用の下処理をしたものです。これを今朝受け取ったあと解体、薄切りにしたモノに塩、コショウを練り込み、棒で叩き柔らかさが増した肉。

 それをボイルし、食べやすい大きさにカットしたものに赤ワインソースを掛ける。ウサギ独特の風味をそのまま、食感を変えた一品。
 
「野うさぎのロワイヤルにございます」

 一切れずつ口にすると、全員表情が変わる。しかし最初に感想を口にしたのは、ベアトリス様ではなく赤髪の女性でした。

「仕事柄訓練で野うさぎを口にしたこともあるが、弾力の強い食感だったのを覚えている。これは本当にうさぎか? いや味は確かにうさぎの味なのだが」
「あ~。あの時のサバイバル訓練は大変でしたね。必死に捕まえたうさぎの肉も、貴重なタンパク質と思って食べようと焼いたら、まるでゴムを噛み締めてるような歯ごたえになってしまって。最後は何を食べているのかわかりませんでした」
  
 赤髪の女性とベアトリス様は しみじみとつぶやかれる。

 よく最初の一品にトラウマ食材の料理を選択されましたね。いや、一人美味しそうに食べていらっしゃる方がおりますね。この方の好物ですか。

「狩りで仕留めた後その場で適切に処理し、くわえて調理に入る前に、塩コショウを揉み込んだ上から叩くことで対応しました。もし仕留めた直後に食べる必要があるなら、血抜き、筋切り、解体したあと綺麗な水で汚れを洗い流し、薄切りにしてから火を通すのがよいかもしれませんね」
「くわしいな。狩りをするのか?」
「はい。この店に出す食材の何割かは私が仕留めたものですので。そのため店の方は週に二日はおやすみをいただいてますが」
「なるほど。鴨はあるか?」
「本日はございませんが、明日には熟成が終わる予定です」
「そうか」

 そういうと、赤髪の女性は手を口元に置き思考の海に落ちられた。たぶん明日の予定を考えられているのだろう。

 そんな会話の間に料理の仕込みを進める。サーモンにレモン汁をかけ塩・胡椒を振ったものをバターを塗ったバットに乗せ、白ワインを入れて火にかけます。その後、オーブンに放り込む。

「店で好物を避ける理由はないからな。それにここなら、目の前で火入れをしてくれるようだし」

 こちらの考えも気がついているのだろう。若干言い訳っぽいことを口にされる。

「はい。目の前でお焼きすることもできますよ」
「大尉、鴨の炙り肉は好物ですからね。恋愛観は乙女なのに、各種好みはことごとく男らし…イタっ」

 どうやら見えないところでベアトリス様が赤髪の女性にはたかれたのだろう。

 それはさておき、ドイツのベックスビールを冷やしたものをゴブレットグラスに注ぐ。そしてクレーム・ド・ミントのグリーンを取り出し、10mlほど加え軽くステア。最後に自家製のミントを一枚。

 ビール特有の小麦色や黒ではない透明感のあるグリーンのグラスをベアトリス様にお出しする。
 
「あ、やっぱり顔にでてました?」
「ミント・ビアにございます。前回、美味しそうに飲まれておりましたので」
「ビールのカクテルって、あまり飲んだことなかったけど思った以上に美味しくって」

 ビールのほろ苦さと、クレーム・ド・ミントの程よい甘さとまろやかさが舌の上で踊る。そしてビールののど越しの後に残るのはミントのさっぱりとした香り。

 ベアトリス様は本当においしそうにお酒を飲まれる。

 では続いて二品目。

 ピルスナーグラスにボック・ビールを注ぎ、その上から静かに滑らせるようにシャンパンを半分ほど。注いだだけでは二色の境界線。ここでかるくまぜることで色が広がる。

 そして琥珀色のグラデーションが完成したこれを、赤毛の女性にお渡しする。

 大尉と呼ばれえる女性は受け取ると、軽く傾ける。

「ああ、小難しいことは分からんが旨いな」
「今回は北ドイツ、バイエルン地方のビールを使わせていただきました」 
「そういえば、エレオノーレって北部の出身だっけ?」
「ああ、そうだが」
「じゃあ出身地まで合わせてのレシピですか。なんで出身地までわかったんです?」
 
 ベアトリス様は興味津々に聞いてきますが、私は微笑みながらお茶を濁します。

 気が付けば一品目の料理がなくなり、皆様お通しでお出ししたミックスナッツに手をつけはじめる。そこで次の料理ができあがる。

 オーブンに放り込んだサーモンのワイン蒸しを取り出し皮と骨を取る。そしてバットに残った出汁と生クリーム。ディル、バジル、パセリなど香草をふんだんに加えソースを作る。

サーモンのワイン蒸し香草風味ソース(lachs mit Krautersobe)にございます。」 
「美味しいですね大尉。あっでも北出身なら、サーモンは生じゃないと許せないたちですか?」
「べつにそんなことないぞ。しかし、このサーモンも十二分に旨い。こっちだと塩かオイル漬けがほとんどだろうに、そんなことを感じさせない」
「そうよね」

 皆様がそれぞれ楽しまれているようなので、少しばかり潤滑油を。

「ありがとうございます。こっちに入ってくるものは塩漬けやオイル漬けは基本ですからね、身の部分は塩を洗い落として使ってますが、皮の部分をパリパリに炙って……ああ、食べますか?」

 こんなことを話をすると、赤髪の女性の視線が変わる。若干恥ずかしそうにして口にされませんが、視線は注文をされていたので、ささっと作ってしまう。

「そういえば、酒飲み達はこんなのを食ってたな」
「塩っけが強いパリパリのつまみ。これならビールも美味しそうですね」

 まあ、どこの世も酒飲みのつまみというのは共通点があるもの。海を越えても 、世界を超えても。

 最後にシェーカーを取り出し、クルボアジェルージュ、ブルガリエクストラドライ、ホワイトキュラソー。そしてフレッシュレモンジュースを1TSP。

 リズミカルにシェイカーを振る。

 もちろん振りすぎては泡立ち味を壊してしまうので、程よく、そしてショーのワンシーンと心得る。

 カクテルグラスを藍色の髪の女性の前に置き、シェイカーを傾けると、透明度の高いブラウンの酒が流れ落ちる。

ビトウィーン・ザ・シーツ(Between the sheets)にございます」 
「あら、誘ってくださるんですか?」
「え? リザさんどういう意味ですか?」
ビトウィーン・ザ・シーツ(Between the sheets)はベットに入ってという意味よ」
「なるほど。で、実際のところどうなんですか?」
「まずはご賞味ください」

 話題を振った本人を分かって言っているので、おかしげに微笑んでいらっしゃるが、生真面目そうな赤髪の女性はこちらを訝しむように見ている。ベアトリス様は純粋に興味本位ですね。

「あ。甘い」
「苦味が苦手のように思いましたので」

 そう。最初のビールもこのお方は進みが悪かったのだ。しかし他料理は何ら問題なかったので、もしかしてと推論を立てさせていただきました。

「度数は高めでナイトキャップ向きのカクテルですので、こんな名前が付いております」
「さながら甘い夢の世界に入り込んでいきたい。って感じかしら?」
「はい」

 私とリザと呼ばれる藍色の髪の女性は感想を重ね合わせる。さすがに大尉と呼ばれる女性も、言葉遊びとわかってか、カクテルを口にされている。

「バーテンダーさんすごいな~。これだけ出来るんだから、女の人にもモテモテでしょ」
「ばかもん。准尉。バーテンダーの手をよく見てみろ」
「その指輪」

 そこには左手の薬指にはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが輝いている。

 もし真面目に鑑定しようものなら、どんな材質が出てくるのか想像もできません。たぶん造形の段階ででるゆがみなどもゼロでまるで未知の金属の削りだしのような評価がでて、さらに見る角度次第で赤い宝石の中に浮かぶアインズ・ウール・ゴウンの紋章。

 うん。

 オーパーツですね。

「少なくとも今の私は独身ですよ。この指輪はとても大切なもの……というだけです。料理をする人間が指輪をするのはあまりよろしくは無いのですが。まあ私のわがままです」
「え~今は、ってことは昔はいたってことですか? ならどんな」
「まったく。この恋愛脳は」
「あら。でも、ちょっと気にならない?」
「ブレンナまで……まあ、多少は気にならんというわけではないがな」

 そんな感じで、酒の席の会話は続いていく。

 後日正式のお名前をいただき、気が付けば常連となっていた方々との出会い。

 こんな夜もあるのでしょう。



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