巻き込まれた少年は烏になった (桜エビ)
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外伝 立上紫蘭の災難


ちょっと方向性変えてみました。

最初に言ったことのヒント大放出です。
イロイロぶっ飛んだ内容なので、最悪スキップもありです。


目覚ましを止める。

いつもの朝。

部活の朝練の為早いが、朝食は欠かさない。

これが無いと耐えられない。

 

支度をし、出発。

 

部活は割愛させていただく。

 

朝練を終え教室へ。

皆つい先日転校してきた子の話で持ちきりだ。

そうでなくても、いつもの最新のニュースはテレビや端末ではなくここで仕入れている。

「紫蘭さんはどう思ってます?」

「フェアッ⁉」

いきなり横から話しかけられた。

「驚かさないでよ!」

「すいません。そんな驚くなんて思わなくて。で、どうなんです?」

 

彼女は東風谷 美紀

 

中学に来てからできた友達だ。

「う~ん。スタイルよし、頭脳よし、性格よしの優良児かな?」

 

まあ、アタック掛けないけど。

練がいるから。

 

「ですよね。高嶺の花って言うんですかね?」

「昨日習ったね。タイミング良すぎ。」

 

そんなこんなで朝は過ぎていく。

 

 

 

細かい作業は嫌いじゃ無い。

物を作るのもいいものだ。なんちゃって

 

美術室からの帰りの廊下で美紀と話していた。

 

「紫蘭さん、凄い絵上手。走るのも速いですし。万能?」

「いや、球技は無理。ボールどっか行っちゃいうから。走るしか能がないよ。」

 

 

事実、この前の昼休み、転がってたボールを投げたら、右にいた先生に当たった。

幸い怪我は無かったが、思いっきり顔面だったそうだ。(視界外に投げて見えて無かった。)

その話をしたら、

 

「ブアハハハハッ!なんですかそれ、そんなんでしたっけ?」

 

バカ受け。

 

「そんな笑わないでよ!かなり恥ずかしかったんだから!」

「はぁ、そう言われてみれば、確かに昼休み終わった時、落ち込んでた日ありましたね。そういうことだったんですか。」

 

 

 

 

 

昼休み、弁当を食べていたら携帯に着信があった。

 

(メール?誰だろう?)

 

端末を開くいた。

 

------------

 

 

from アキレス

 

件名 生存報告

 

 

 

生きてるぞ。

お前は元気か?

 

-------------------

 

久しぶりの連絡に思わず立ち上がり、自慢の足で廊下を駆け抜け(廊下を走るな!、という声が聞こえた。)、人気のない所でコールする。

 

 

しばらくして、彼が出た。

 

『まさか電話掛けて来るなんて思わなかったぞ。』

「ごめん、久しぶりでさ、声聞きたくて。」

『ああ、すまん。気が回らなかったな。』

 

なんかだるそうな、疲れた声だった。

 

「大丈夫?声暗いよ。」

『昨日まで外国行ってて、時差ボケにやられた。言うほど深刻じゃない。』

「そう、良かった。」

 

外国まで行かなきゃいけないのか。

 

『あんまり話すと怒られるからな。そろそろ切るぞ。』

「分かった。生きてるかの確認だから、ある程度連絡してよ。」

『了解、じゃあな。』

 

 

 

携帯をポケットに

「誰と話していたんです?」

「うひゃぁっ!」

 

美紀が左にいた。

驚いた弾みに携帯が落ちる。

携帯は地面にあった突起に当たり、想像以上に跳ねた。

不自然なレベルだ。

そして、美紀の手に収まった。

 

つ、ツイてねえ。

 

「フフーン。返して欲しならお相手の名前を。」

 

どうしよう。

上手く誤魔化すしかない。

 

「…神津練。今年に入って病気で学校に来てない奴。」

 

なるほど、こう言う為に病気扱いなんだ。

考えたな企業、と自分で勝手に納得していた。

 

「…なんか悪いこと聞きましたね。」

「いいよ。電話出来るくらいは体力有るらしいし。」

「そうですか。お見舞いは行きました?」

「え⁉」

「いや、?お見舞いぐらいしないと。」

「でも、サナトリウムだよ!ちょっと無理かな~って。」

 

不味い。

病気は建前。病室は誰もいない。

彼が企業の手先になってるのがバレたら……。

 

皆殺し…?

 

「大丈夫大丈夫。」

「いや、大丈夫じゃないよ!」

 

 

 

 

 

数日後。

 

「やって来ました。サナトリウム!」

「いやマズイよ!」

「紫蘭さんついて来てるじゃないですか。」

「いや、サナトリウムだなんて聞いてないもん‼」

 

美紀にいいとこ連れて行ってあげると言われた結果である。

まさか本当に行くなんて思ってなかった。

 

「さてさて、早速探査開始。」

「どうやって入るの?警備は厳重そうだし。」

 

周りはフェンスに囲まれ、出入り口は警備員によって守られていた。

流石に諦めるだろう。

 

 

「ここ通れそうですよ。」

 

フェンスに穴が空いていた。

絶句。

 

 

 

 

「敷地も森ですね。」

「やめたほうがいいよ。」

 

止まる気配が無い。

普通なら見つかるため放置でいいが、この娘の場合本当に辿り着きそうだと思えてしまう。

そうなれば。

 

【お前たちは知り過ぎた。】

銃声。

 

ゲームオーバーである。

非常に不味い。

 

(そうだ!本人に助けを求めよう。)

 

電話を掛ける。

電波がセキュリティーに引っ掛かれば、それで見つかって怒られるだけで済む。

見つかろうとしている辺りおかしな気がするが。

 

 

『どうした。この前話したばっかりだぞ。』

「友達が練のお見舞いに行くって言う事聞かなくて。」

『で?』

「サナトリウムに侵入しております。」

『お、おい!どうやって入ったんだ!』

「フェンスに穴が…あの子、強運の持ち主で、このままだと辿り着きそうなの。」

『何を根拠に…正直間に合わない。今は東京沿岸に隠れ家が有る。そっちまで1時間半掛かるぞ。』

「そんなぁ。」

『どうすれば…え、シャルさん?ええっと…』

 

向こうで話し合っている。

 

『なんとか手をまわすらしい。時間稼いでくれ。』

「分かった。」

 

美紀に話しかける。

 

「練が、後30分後に人員が交代するからそれまで待っててだって。」

「う~ん。わかりました。ここは待機で。」

 

なんとか即殴り込みは回避。

あとは助っ人を待つ。

 

 

 

〜十分後〜

 

 

 

『もうすぐだ。特殊部隊風な女性が降ってきたら、上手く立ち回ってくれ。』

「ヘリ?飛行機?」

『俺も知らん。一応切ってくれ。』

「分かった。」

 

その時、ヒューと上から音がする。

 

そして。

 

目の前に着地した。

 

 

「な、なんですか?」

「やっぱりまずかったって‼逃げよ!」

 

 

それっぽく繕って出口に向かう。

 

「…あなた、人じゃないですね!」

「何言ってるの!早く」

 

手を掴んで連れてこうとした。

その時。

 

「ムグゥ!」

 

振り返ると美紀がハンカチで口を抑えられてた。私にはハンドガンの銃口が向けられる。

一瞬で私達の後ろに来ていたのだ。

一拍して、美紀がグッタリなる。

依然として銃口は向きっぱなしだ。

そのまま動かない。

アレ、もしかして。

本物?

一瞬で全身に冷や汗が噴き出る。

殺気が真っ直ぐ私を射抜いていた。

 

 

 

 

「…フフッ。ごめん。ちょっとイタズラしたくなっちゃって。」

 

と、銃口を下げてくれた。

 

「…怖かった〜。何をするんです、もう。」

「いや。あの練のガールフレンドってどんな子か気になって。いい演技だったよ、さっきの。」

「そんなぁ」

久々の脅かしだったな、満腹。ボソッ。」

「?何か?」

「いや、なんでも。まあ、ほどほどにしてね。この子はきっと、はっちゃけると歯止め効かないタイプだから、しっかり手綱握っとかないと。」

「…おっしゃる通りです。」

 

ああ、酷い目にあった。

殺気本物だもん。

死ぬかと思った。

 

「早速で悪いけど、少し目を閉じててもらえる。」

「あ、はい。」

 

すると小脇に抱えられた。

凄い力あるなぁ。

なんて呑気に考えてると。

 

ビュッ、と風を切る音と急な加速感。

何をどうされてるか全く分からなかった。

 

「もういいよ。お疲れ様。」

 

目を開くと私の家の庭だった。

ええっと、今ので?

 

「不法侵入だけど許して。」

 

そう言うと彼女は去って行った。

 

 

 

 

一体彼女は何者だったんだろう。

 




はい。ぶっ飛びました。


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とある人から見た人物像

メタ、説明会となります。
前回同様注意して下さい。


やあ。

そろそろ人数増えてきたし、主要キャラについてまとめておこうと思う。

…え?私が誰だって?

そんなの事いいじゃない。

他人の事をまとめるだけなんだから。

 

 

 

 

神津 練

 

まあ、主人公っていう感じだね。

普通の中学生になるはずだったが、春休みに旅行している間にオニキスに襲われて右足を骨折。

運ばれた先で遺伝子適性よりオーメル子飼いのパイロットになりそうなところを、対話によってなんとか企業側のレイヴンになる。

基本中量二脚を使うオールラウンダー。

人物関係はシャルマメイヤーと同居、U.Nオーエンが先輩、幼馴染の立上紫蘭はガールフレンド、と言うところ。

わたし的には今後が気になるかな。

 

 

シャル マメイヤー

 

練ことアキレスを匿ったレイヴン。

オニキスを圧倒して練を助けた恩人であり、上20位に入る指折りだ。

見た目は中から高校生だが、とっくに二十歳は過ぎてるとのこと。

オールラウンダーだけど軽量二脚などスピードのあるアセンブルを好んで使用してるね。

以外に人脈を持っていたりもする。

たまに[なり損ねのラストレイヴン]って言われたことも。

 

 

U.Nオーエン

 

アナトリア出身、20位以内のレイヴン。

一対多戦に定評があり、[伝説]の名で呼ばれる事もある凄腕。

アナトリアからの依頼を受ける傾向にある。

機動力を保った中量二脚などを使用する。

でも、やっぱりオールラウンダー。ぼくが気になる順に並べると3人連続になっちゃたケド、オールラウンダーは希少な存在なのは覚えといてくれ。

 

 

ストレイド

 

金髪に首輪をつけた変わった少女。

ランクは45だけど、手を抜いているという噂も。

中量二脚を使いレーザーライフルが主軸のスタイルで安定した戦いを見せる。

シャルなんかには[4人目の首輪付き]とも呼ばれてるネ。

 

 

ナジェージダ・ドロワ

 

アキレスのオペレーター。

名前が出にくい可哀想な人

オペレートしてるのが彼女だって事忘れないであげてネ。

 

 

unknown

 

アナトリアに白いオーダーに乗ってきたレイヴン。

ランクは32と結構強い。

ストレイドには[リンクス戦争の英雄]って呼ばれたけど正体は誰なんだロウネ。

 

 

 

 

 

立上 紫蘭

 

アキレスの幼馴染でガールフレンド。

陸上に打ち込んでいる中学生。

オリンピック強化合宿に招待されるホド。

一応勉強もしており、成績は中の下辺りとか。

だけど僕は別の所に注目してるんだケドネ。

 

 

 

 

それから、ややこしいこの世界についても説明が必要かな。

 

コジマ研究所が何者かによって壊滅させられて10年。

本来の時期から3年遅れて国家解体戦争が勃発。

旧作ACやハイエンドノーマルと君たちが呼んでるACがオーダーと呼ばれ、それを駆るレイヴンが跋扈する世界。

物量に頼んだ国連軍と、レイヴンの雇用や最新兵器で対抗する企業軍が衝突し三か月のところから物語が始まってる。

 

 

 

 

 

 

 

ま、こんな所かな。

ん?話し方が変わってるって?

嫌だな、誰が演じてないって言ったかい。

 

まあ。

 

 

 

どうなろうと構わないよ、全てをめちゃくちゃにしてくれれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お、おい!どうやって入ったんだ!……何を根拠に…正直間に合わない。今は東京沿岸に隠れ家が有る。そっちまで1時間半掛かるぞ。」

 

アキレスが電話しているのを、シャルは聞いた。

 

「どうしたの?」

「紫蘭が友達に引っ張られて見舞いにサナトリウムに行っちゃったらしくて。このままだと不味いです。」

「確かに不味いね。…10分15分ぐらい時間稼ぐように言って。あと、特殊部隊風の格好をした女が行くとも。」

「分かりました。」

 

アキレスが時間を稼ぐよう紫蘭に伝え終わり、振り返る。

 

「伝えました…シャルさん?シャルさん!…また何処か行っちゃったよ。もう。」

 

家にシャルの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こっから先は少しヒントっぽい事を書いてくよ。

 

自分一人で解き明かしたい人は注意してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女達の正体

 

 

まあ、既に真人間じゃない事は判っているね。

それに、彼女は言ったよね

『あなた人間じゃないですね!』

 

そしてその前後の出来事。

彼女は、普通一時間掛けるところに分単位で現れた。

ぶっ飛んでるね。

 

 

また、リンクス戦争の英雄はオレオレ詐欺ネタに対し

『40年以上前のネタだな、おい。』

つまり、彼達は40年前を知っているということ。

ちなみに、これで今がいつか大雑把にわかるよね。

 

一体何年生きてるんだろうね。

 

シャルはかなり名前をサボってるからね。

アナグラムだからね、アレ。

 

 

 

イレギュラー達の過去

 

途中、変な話が混じってるけど、あれは誇張やオブラートに隠した実話なんだよね。

でも、あり得ないよね。

イレギュラーが複数人現れるなんて。

それに、旅に出て行った少女は一体誰だろう?

怪物と共存していた郷とは一体なんだろうね。

 

 

 

 

まあ、気づくことがあったら、活動報告の【作風について】辺りにお願いね、直接感想欄に書いちゃうとネタバレが広範囲に広がっちゃうから。

 

じゃ、これで。



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束の間の休息

日常?会です。

時期は忘れられた者たちと市街地侵攻阻止の間くらいです。


紫蘭から電話が来た。

 

どうやら合宿に行く前に顔を合わせたいたしい。

シャルさんに[スカーレットナイト]で大丈夫かと言ったら、あっさり許可が取れた。

 

「でも、もったいないな。会うだけで済ませちゃうなんて。」

「仕方無いでしょう。こっちは病院のベットの上に居るはずの人なんですから。」

 

顔を知ってる人に会ったら不味い。

確かに親は既に保護する準備ができているが、企業になんて言われるか分からない。

わざわざリスクを冒す必要は…。

だからニヤニヤした顔でこっち見ないでください。

 

「でも年頃の男女が、バーで会うだけってね…。」

「だから仕方ないって。」

「その話、聞かせてもらった!」

 

いきなりバルコニーから声がする。

見るとストレイドさんが屋根から片手でぶら下がっていた。

 

 

片手でぶら下がっていた。

 

何故…?

 

 

 

上がり込んできたストレイドさん。

 

「確かに付き合ってる二人が会うだけって言うのは味気ないな。よ~し、私がプロデュースしてやろう。」

「だ~か〜ら〜不味いんですって。」

「ならそれを大丈夫なようにしてしまえばいい。」

 

彼女は端末を取り出し、連絡を始めた。

4つ目の答えに辿り着いた行動力が発揮される。

何を始めたんだ。

見えたのはグループ電話の文字。

しばらくいたずらっぽくにやついいながらの会話が続く。

見ればシャルさんも端末取り出して参加してる。

 

そして。

 

「U⚪Jのチケット取れたぜ。後、日程合わせりゃ泊まれる。」

 

大阪まで行きゃ大丈夫、ということか…。

今、U⚪Jのスポンサーの一つがGAなので、そこ経由なんだろう。

 

俺は、がっくりと項垂れ手と膝をついた。

いわゆる

orz

の格好だった。

ええい、見た目年齢詐欺軍団め。

こういう話題に目がないんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそこでストレイドさんの目がすっ、と細くなるのに俺は気づけなかった。

 

「そう言えば、お前が知ってる知識で不可解な点があるんだが。聞いていいか。」

「なんです。もぉー。」

 

打ちひしがれていた俺に追い打ちをかける積もりなのか。

しかし、帰ってきたのは予想外な言葉だった。

 

 

 

 

「どうしてお前は日本人でありながら国家解体戦争を知ってるんだ?」

「えっ?」

 

 

いや、どうして知ってるって、みんな知ってるんじゃないのか?

[日本人なのに、どうして]?

何を言ってるんだ?

 

 

 

 

「それは私から。彼の父親は有澤重工ノーマルAC開発部門所属。情報統制のランクが引き下がってたの。」

「なるほど、テレビもあのチャンネルが見れるわけか。」

「待ってください!話に追いつけません!」

 

情報統制?チャンネル?訳がわからない。

 

「ああ、すまんな。お前は日本が呑気過ぎだと思ったことはあるか?」

「レイヴンになってから、幾らか。」

 

明らかに平和ボケしている。

ピリピリしてるのは自衛隊ぐらいだ。

 

「これは日本社会の闇とも言えるんだが、実は日本は情報統制されてて、一般人は国家解体戦争すら知らずに生きてる。知ってるのは関わってる企業の社員だ。」

「そんなものが…知らなかった。」

 

いや、本当に初めて知った。

そっか、父さんがつけてたニュースの一つがその規制が緩い企業運営の専用チャンネルだったんだな。

 

「子供くらいには気づかれないよう上手くやってるからな。その内暗黙の了解として知ることになってただろう。」

「それにしてもどうして情報統制を?」

 

俺の純粋な疑問が口に出た。

その途端、二人が渋い顔に。

あ、こういうのって聞くの不味い部類だわ。

 

「んまあ、こっち側だから良しとしよう。」

「いいんですか?」

「但し、口外禁止な。」

 

最近こんなのばっかだ。

 

「50年ほど前に日本各地で不可解な事件が多発した時期があってな。あまりにも解決できなくて警察や政府の面子が保たなくなった。その結果、国が隠蔽工作をするようになっていったんだ。」

 

怪事件?

聞いたことが…統制されてるから当然か。

 

「それが日本全国でシステム化して、今は怪奇現象や都合の悪い物は握りつぶされる。自滅行為だからやらないが、例えば私が素手でレーザー撃ってここら辺一体焼き尽くしても、テロリストのMTが暴走した事になるだろうな。」

 

怪奇現象の類は消されるのか。

…素手レーザーは置いといて。

 

「だからそん時、お前は彼女とデートする戦争を知らない一般人なの忘れるな。国家解体戦争に関しては絶対に言うなよ。干された後に消されるからな。たまにはそういうのを忘れて思いっ切り楽しめ。」

 

清々しい笑顔で親指を立てるストレイドさんがそこにいた。

心の中で叫ぶ。

 

 

 

それが言いたかったのかよぉッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時とは違い、日程が合った。

そして彼女は普通にOKしやがった。

 

2日間大阪に旅。

 

やったぜ。

良くない。

 

 

あの、ホテル取ってくれて有り難いですが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ部屋って問題ありませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

幼いとは言え男女を同じ部屋で寝かせちゃイケナイと思うんだが。

 

そこまでいって、隣の紫蘭を見て俺は気づく。

 

少なくとも俺は鈍感ではないと思っている。

だがあいつは真っ直ぐ過ぎる。

ある意味鈍感だ。

 

年齢詐欺軍団め。お前達の想像通りにいくと思うなよ!

と、心の中で宣戦布告した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺を見る紫蘭の視線に気づかずに。




続きます。


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オラース

自信ありません。
が、頑張ったつもりです。

さて、フラグ回ですね。


「ン〜、ライド系攻めて行きたいな。」

「乗り物乗って映像楽しむやつか、俺もそれでいいかな。」

「んで、r…アキレスの希望は。」

「ハリーポ⚪ターエリアで。」

「じゃ、そっから行こ!」

 

二人は早速目的地を決め、歩き始めた。

足取りは軽い。

 

そんな二人を見つめる者たちがいた。

 

「あいつら、決めんの早いな。…黒い鳥は?」

 

ストレイドは隣に話し掛ける。

 

「さっき、あのでっかいジェットコースターの方に行っちゃったわよ。」

「あやややや、早速離脱ですか。」

「おい、口調戻ってるぞシャル。」

 

三人は二人をパンフレット片手に話しながら追う。

無論話題は彼らだ。

 

「いやぁ、昔を思い出すんですよ。力のあった頃の。」

「おいおい、パパラッチじゃないぞ、私達は。」

「やってる事は変わらないじゃない…見失う、行くわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「甘…すぎる。」

「想定してないとやられるね。バタービール。」

 

練は予想以上にダメージを負っている。

直前に百味ビーンズでダメージを受けた後である為に悲壮な感じが強まった。

私も正直ここまで再現に本気出さなくてよかったんじゃないかと思っている

いや、だって此処まで不味いものあえて作る必要ないじゃん。

 

先にライド乗ってなかったら大惨事だった。

これからあれに乗ったら、練は社会的にまずかった。

 

「まともなもの飲みたい。」

「じゃあ少し移動しようか。」

 

昼食も考えなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度はなんだ?どこ行ってる。」

「アキレスが深刻なダメージを受けてましたからね。口直しじゃないですか?」

 

一応まともな店もあるのですが、と付け加え移動中の二人を尾行する。

 

「このエリアは懲り懲りかしら。…ん?待って。」

 

そこでunknownは端末からのコールに答える。

 

「…はぁ⁉…分かった。今伝える。」

 

通信を切り、二人に向き直る。

その顔は真剣そのものだった。

自然と私達も気が引き締まる。

 

「よく聞いて。ブラックバードの報告で、ここに[厄災]が紛れ込んでるのが分かった。」

「ハァ⁉何やってんだあいつ!」

 

あまりにも酷い敵の行動に驚けばいいのか呆れてばいいのか。

 

「恐らく目的は冷やかしと挑発ね。」

「まあ、私達も楽しんでるからな。見つけ次第なんか吐かせるぞ。」

「取り押さえても義体だから意味ないですしね。」

 

そこまで言って気付く。

 

「あれ?アキレスと紫蘭さんは?」

「…見失ったァァ!」

 

捜索開始です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんな。」

「しょうがないよ。飯テロ(害)受けちゃったんだから。」

 

なんとか昼飯を食って調子を取り戻した。

 

「さて、今度こそライド回り始めますか。」

「じゃあこっち!」

 

だが、口調や表情と裏腹に、俺はあんまり気乗りしてなかった。

 

なんせ、さっき乗って振り回されてる最中、無意識に手がコントロールスティックを求めていたからだ。

大したことではないが、もう昔とは違うんだな、と思わされた。

だが、今は楽しまなきゃ損だ。

 

 

まあ結果を言うと、ある程度楽しめた。

そこさえ気にしなければ、後は昔のように二人で遊んで楽しむだけだった。

ライドは全部乗った。

本気の絶叫系まで手を出して紫蘭は返り討ちに合うが、楽しんでて何よりだ。

 

 

 

 

 

 

「あやや、普通に青春してますね。」

 

なんとか見つけたが、普通に楽しそうじゃねえかコンニャロー。

orzやってたお前はどこに居るんだ。

言ってみやがれ。

 

そうやって眺めていると急にアキレスが紫蘭を残してどっか行っちまった。

 

「お手洗いかしら。」

 

そこで私は閃いた。

 

「なあ、ちょっとちょっかい出してみないか?」

「何企んでんのあんた。教えなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

私はジュースを飲んで練を待った。

しかし、少し遅いような気が…

 

「ちょっといいかい。」

 

年上の男子から声を掛けられた。

顔はいいが少しチャラい。

それだけで印象が良くない。

 

「暇なら一緒にいかないか。俺も一人になっちゃってさ。」

 

ナンパか。

振られたんでしょうね。

残念ながらこっちには相手がいますので。

 

「待ち合わせ中なんです。お相手できません。」

 

キッチリお断りしないと、後が面倒くさい。

要らない面倒は嫌いよ。

 

男はショボくれた顔をして去っていった。

 

 

 

 

「きっちりしてるわね。こりゃ簡単になびかないわ。」

 

人目の無いところで姿を元に戻す。

だが、こういうのは面白い。

質悪いのは知っている。

 

「さて、あっちはどうなってるんだか。」

 

提案者に思いをはせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[厄災]がここに⁉何故?」

「アイツは煽り厨だからな。私達を煽りに来たんだろう。」

 

路地裏の人の少ない所で会話する。

ニ勢力の片方、[厄災]がここに居るという衝撃的な話に驚くしかないアキレス。

 

「まあ、奴も事を起こしはしないだろうし、こっちが捕まえても身代わり掴まされるから、見つけたら何か吐かせるぐらいでいい。」

「軽いですね…」

「奴は今息を潜めてるからな。あまり深追いしなくていい。」

「分かりました。」

 

一方ストレイドは

 

([厄災]お前も利用してやる。)

 

と、心の中で意地悪い笑みを浮かべていた。

すると、

 

「アキレス!その…聞いちゃまずかった?」

 

紫蘭が待ちきれずやってきた。

ストレイドは計画通り、と笑みを深める。

こういう事をたまにはやってみたくなる。

 

「いや、ちょうど終わってる。口止めはない筈だ。」

 

……?

首を傾ける。

 

「良かったぁ。同じ目に遭うのは御免だからね。」

「ではストレイドさん、これで。」

 

二人が去っていく。

そして気付いた。

 

(紫蘭は企業とアキレスの密談かと思ったってか⁉いや、エエェェ!)

 

彼女は修羅場を期待してたのだが。

 

 

ある意味、二人は鈍感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ出るか。」

「暗くなって来たもんね。」

 

二人揃ってホテルへと向かう。

 

その途中、紫蘭が足を止めた。

視線の先には親子が。

子供が泣いている。

どうやら木に風船が引っかかってしまったようだ。

 

すると彼女は、一気に木を駆け上り風船の紐を掴んだ。

 

「これでいい?」

 

すると子供は晴れ上がる様に笑顔になる。

 

「お姉さん、ありがとう‼」

「どういたしまして。じゃあね。」

 

そうして、練のところに戻ってきた。

 

「相変わらずこまってる人は放っておけないか。」

「まあね。お礼もうれしいし。」

 

練は、彼女を少し眩しく感じた。

 

「……左の肘すりむいてるぞ。」

「え、本当だ!絆創膏持ってないんだけど…」

 

血が滲む。

 

「ああ、僕が持ってます。使いますか?」

「すいません。お願いします。」

 

来たのは銀髪の男だった。

その男が絆創膏を渡す時、練は見逃さなかった。

目が不自然に光るのを。

 

(特徴からみるに、奴だ)

 

だから、警戒を怠らなかった。

行動も起こさなかった。

手を出そうとするにはあからさまだったから。

 

何事も無く男は去っていく。

 

「アキレス、どうしたの?コワイ顔して。」

「いや、ごめん。ちょっと電話する。」

 

端末を取り出して、コール。

 

 

「もしもし、アキレスです。シャルさんですか?」

『何かあったの?』

「[厄災]と接触。何事も無く終わりました。」

 

電話越しでも伝わる動揺。

 

『…そう、なにか貰った?』

「紫蘭が絆創膏を。確認しましたが怪しい点は無し。新品でしたし、単純に顔を見たかっただけかと。」

『そう。一応、定期的に紫蘭の容態を確認しておいて。オーバー』

 

「アキレス、なんかあったの?」

「いや、大丈夫そうだ。心配かけた。」

 

 

奴は何を…

 

 

 

 

 

 

 

ホテルにチェックイン。

あまり悟られたくないので、紫蘭には遠くで待ってもらった。

同じ部屋とか恥ずか死にそうだ。

とは言え、食事やその他は問題なく進んだ。

というか楽しんだ。

 

ベットは2つあるので問題はない筈だ。

…ない筈だ。

 

「いつぶりだろうね、こういうのは。」

「4年の時に泊まりに行ったのが最後だろ。っていうかいろいろおかしいんだからな。」

「フフ、なんかごめん。」

「…なんで謝った?」

「何もないです。」

「そうか。」

 

 

………………。

 

 

 

 

 

 

朝だった。

ぐっすり寝た気がする

 

隣でまだもぞもぞと布団が動く。

 

(さて、どうするか。)

 

と言っても、決まってるが。

起き上がり、床に足をつく。

 

起こさないようにゆっくり歩いた。そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手を掴まれた。

ギュッと。

 

 

 

 

思わず振り返ると、少し悲しそうな顔が目に入る。

まさか、こいつ…

そのまま引き寄せらる。

 

「レイヴンだなんて、聞いてなかった。」

「お前、どうしてそれを。」

「ごめん。夜、見たことない端末だったから、軽い気持ちで触って。画面がついた途端レイヴン[アキレス]って出てきた時は背筋が凍ったよ。」

 

バレちゃったか。

端末の管理を怠った俺が悪い。

 

「後ろめたかったんだ。生きるために殺してる俺を知って欲しくなかった。」

「無理矢理でしょ。しょうがないよ。」

 

その言葉が胸に刺さる。

 

隠して何になる。

俺は変わってしまったんだ。

それで受け入れてもらえなければその時だ。

 

俺は紫蘭を抱き寄せて言った。

 

「最初はな。だが、レイヴンっていうのは魔性の職業なのか、人を戦いに惹き付けていく。俺はもうお前の期待してるような人間じゃない。」

 

言い切った。

ここで嘘ついても何も進まない。

このまま突き飛ばされる事も覚悟した。

 

紫蘭は驚いた後、穏やかな口調で言った。

 

「…そっか。でも、今戦いって言った。殺人鬼になってないんだよね。」

「ああ、それは間違いない。でも、信じるのか?殺してる奴の言葉だぞ。それに騙しもした。」

 

一度騙してたからこそ、すれ違いが怖い。

 

「全部本当の事を言うよりは、信じられる人だよ。自分のため、誰かの為に動けるんだから。」

 

抱き寄せていた手が緩む。

こんな俺を信じてくれるのが嬉しくて、辛かった。

頭に手をおいた。

 

「…起きたら、着替えた方がいい。朝食食べに行かなきゃな。」

「う、うん。」

 

 

そう言って俺は部屋を出る。

そっちの方が着替えやすいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ダメ、だったか。」

 

一人になった部屋で呟く。

同じ部屋を所望したのは私だ。

だって、いつ居なくなるか不安で堪らないんだもの。

死なないようにね、って言ったときも突っ込まず普通に返事してたから、危ないのだけはわかってた。

そして今、想像以上に危険な所にいた事も分かった。

 

それで突っ走って不相応な事をやったのは不味かったかもしれない。

 

 

服を着ながら反省する。

 

「何処かに行ってほしくなかったから。」

 

あわよくば手を出してくる事も覚悟、っていうかそれ狙いだったんだけど、無粋だった。

 

最後、彼の手は震えていた。

触れる事さえも怖いのかもしれない。

自分の手が汚れてるって。

私を血で穢してしまうんじゃないかって。

 

自惚れてるな、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレベーター前の椅子に座り込む。

そして、両手を見つめた。

一瞬、それが真っ赤に染まっていた気がして、顔を顰める。

 

(何人殺した。どれだけ奪った。)

 

ある程度割り切っていたはずの思いが蘇る。

多分、戦場に出たら自分はヘイキになるはずだ。

彼女がただ、眩しいだけ。

 

(落ち着いた時、どう生きてくか考えなきゃな。)

 

レイヴンは自由だ。

殺すも死ぬも、続けるのも辞めるのも。

それは俺が決めることだ。

 

 

急に手が引っ張られ、思考が途切れる。

 

「悩んでたでしょ。」

 

紫蘭だ。

 

「私は、練が練だろうがアキレスだろうが構わないよ。血を被っていようが、なかろうが練だから。」

 

優しい笑顔が、自分が何なのか忘れさせてくれる。

 

 

(今は、5ヶ月前の神津練でいるか。)

 

そう思って駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりと、銀髪の男は笑う。

彼女はぜひ手に入れておきたい。

あの木蓮と同じ様に。




文字数が増えてる。
今後も同じ両書けるかは微妙。


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怪奇~都市伝説~

スイマセン、リアルが忙しかったです。


今回、クロス先に寄せた話になります。
空白の夏の中を埋める話。

この話を書くに当たって、東方アレンジ【heaven・the・Alcohol!】から発想をいただきました。

序盤はセミの音を、後半は紹介した曲を思い浮かべつつどうぞ。


後者は心臓の悪い方にお勧めできませんが。


…季節逆行してやがる。


蝉が外で忙しなく鳴く昼下がり。

 

アキレスこと神津練は軒先でスイカに齧り付いていた。

なにしろ少し手に入りずらくなった天然ものだとのことで、食べないという答えは練になかった。

 

練はこういうことをするとき形から入る質であり、軒先で食べることを選んだのもそのためである。

そして、練はこういうことに敏感だ。

 

黙々と、だが美味しそうにスイカに齧り付くアキレスを時折眺めつつ、シャル.マメイヤーはテレビの特番を見ていた。

 

『さて、夏恒例の心霊特番ですが近年、類を見ないオカルトブームが起きています。』

『各地ではオカルトサークルが次々と設立され、社会問題になるのではとの懸念もあります。そこで…』

 

そこで紹介されるオカルトサークルとその活動の数々。

その様子をシャルは顔を何とも言えない顔で眺める。

 

「本物から見たら滑稽に見えますよね。あなた達を知らず、ネットその他の出鱈目からこういうことしてるのは。」

 

シャルが振り返るとスイカの皮を片手に、練が彼女を見つめていた。

どうやら食べ終わったようで、スイカの皮を捨てるところだったのだろう。

 

先日、練は彼女達が本物の怪奇だということを知った。

彼女達からすれば、目の前で出ているそれがちんけな偽物に過ぎないのだ。

 

「一部を除けばね。本物も混じっているからこうして見ておかなきゃいけない。」

 

練が台所に向かっていくのを見送りつつ、そう返した。

 

「このネット社会、この手のものはほとんどガセですよ。」

「ネット社会だからこそ、本当のことに気づいてしまった人に対処することは忘れちゃいけない。本物が拡散されたら収集がつかなくなる。」

 

シャルが険しい顔でテレビに視線を戻す。

 

「結構慎重なんですんね。ほとんどの人が自然への恐れを忘れてしまているのに。」

「元が自然でなくても、この手の噂が拡散したら力を持つようになるんだ。重要なのは人の意識が実体のないものに向かうことにある。」

 

そう言ってシャルはテレビをつけたまま、練を振り返る。

 

「だって、ネットに拡散した情報と文献をもとに私達の存在を探り当てた人がいるからね。実例があると油断ならないよ。」

「それは……。一体どんな人ですか。」

「GA最高取締役。」

「え、あの、宇佐見さんですか?」

「ええ。」

 

そう言う繋がりだったのか、と一人納得するアキレス。

 

「そういえば紫蘭が最近『サナエさん』という噂話を聞いたといってました。学校の怪談として噂になています。」

 

オカルトつながりで彼は先日、紫蘭から聞いた話を思い出した。

 

「それはどんな話なの?」

「いや、それが話す人によって内容が違うらしく、一言に表せないとか。」

 

それを聞いてシャルは目を細める。

 

「立上さんに連絡することがあったら、『出来るだけその話にかかわらないように』と言っといて。その手の怪談、当たり引くととんでもなく痛い目見るから。」

「わ、分かりました。出来るだけ早く伝えておきます。FGWってこういうのも気にしてるんですか。」

 

予想外の警告に驚いてしまった彼は、胸の中の問いをそのまま発した。

 

「今回は顔見知りだから。普段は私達関連以外はスルーしてる。だって顔の知らない誰かが、怖いもの見たさに突っ込んで痛い目見るのにいちいち手出ししてたら何も出来ない。そういうのは、手を出す本人の責任だもの。」

 

やっぱりこの手の話は無慈悲だな、と胸の中で漏らすアキレス。

 

 

 

 

この時、彼は知らなかった。

 

自身の身に何が降りかかるなど。

 

 

【ミッションを説明します。】

【依頼主はレイレナード、内容は京都にあるかつてテロリストが拠点に使っていた基地の調査です。】

【近隣の住民の噂ですが、そこから毎晩物音がするそうです。我々は残党、もしくは新手の組織に使用されているのではないかと考えています。】

【そこで今回、あらゆる事態に対処できるレイヴンに状態の確認をお願いしたいと思っています。】

【テロリストその他抵抗勢力があれば、撃破しても構いません。】

【ただ、肝試しに来た一般人への攻撃は控えてください。ちょっとした心霊スポットになりつつあるようで、近隣を地元住民の子供たちがうろついていることがあります。くれぐれもご注意を。】

【以上となります。このような情勢下、実質的な中立国を戦火にさらすわけにはいきません。これは各勢力の合意を受けたミッションです。】

【レイヴンとして立場を上げることも可能です。いい返事をお待ちしております。】

 

これまたきな臭い。

だが、この前自分が受諾した依頼の後始末なんだ。

受けとくか。

 

 

 

【一応都市伝説の方も添付しておきます。[そこは丑三つ時に亡き者が現れる。そして、地縛霊になった少女に寄り添っている。万が一、彼女を傷付ければその者たちの仲間入り。]だそうです。信じますか?】

 

余計なお世話だ!

何も教えなくていいだろ!

 

 

 

本物と暮らしてるから信じちゃうんですけど……。

くそう。

 

 

何故作戦時間を深夜にしたのかがわからない。

 

肝試しする人を考慮するともっと別の時間の方が良かったんじゃないか

 

幸い、周囲にそれらしき人間はおらず、作戦に支障は…かえって不気味になった、一悶着あった方がよかったかも。

 

そんな事を考えつつ、以前侵入した扉の前に立つ。

 

「やけに綺麗だな。やっぱり誰か使ってるのか?」

 

手をかけた扉はそれ程汚れてはいなかった。

つまり、手入れ、及び使用されているということ。

基地に足を踏み入れていく。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、曲がり角を曲がった瞬間。

 

 

 

 

 

閃光。

 

EMP込みの対機動兵器用のフラッシュバンだ。

 

 

『大丈夫ですか!相手は何者か分かりません。慎…行動…て下……。』

「オペレーター?オペレーター!…無線がやられたか。」

 

EMPで頭部パーツのセンサー類の一部がやられた。

無線アンテナもだ。

つまり、ここからは自分一人で状況把握しなければならない。

 

レーダー使用不能のアラートがずっと鳴り響いている。

これは簡単に治りそうもない。

 

音響センサーは無事なのでそれに頼るしかないようだ。

 

角を見やる。

罠のような形跡も、敵の姿も見えない。

投げるだけ投げて逃げたようだ。

 

不意に別のアラームが響き始めた。

 

「ラジエーター動作不良?」

 

普通なら極寒の地で発生するエラー。

さっきのEMPで電子系が諸々…いや、それほどのEMPではなかったはずだ。

ならこのアラートはなんだ。

不可解極まりない。

 

ミッション中止を考えた。

このまま続行して機体不良で停止する事も考えられる。

そう思うと、恐ろしい。

だが、それをオペレーターに伝える術が無い。

 

『後方に反応。』

「何!伏兵!?」

 

機体COMが淡々と告げる。

急いで機体を旋回させた。

四脚型のMTが6機、こちらを見ていた。

ライフルを連射、次々とMTに突き刺さり全てを粉砕した。

 

「…待て、レーダーが死んでるのに何でこいつは報告できたんだ。」

 

この手の報告はレーダーを利用する。

だが、この機体のレーダーは死んだままだ。

何を以て機体COMは後方に敵が居ると判断した?

 

原因を考えつつ出入り口に向かう。

一旦出てACを見貰った方がいいはずだ。

 

少しして、更にアラートが増える。

 

「今度はなんだ!…ジェネレーターエラーだと?」

 

ジェネレーターの出力が低下し、ENゲージの回復がのろくなる。

 

仕方なく歩行に切り替える。

ステータス画面を確認して、視線を上げた時、気付いた。

 

「どこだ、ここ。」

 

覚えていた道順に従うなら、ここは十字路の筈だ。

だが、正面に道は無く、左右に別れていた。

 

マップを見るが、GPSの破損で現在位置を見失い【マップ】の名の通りに只の地図と成り果てていた。

 

完全に迷った。

 

幸い、ジェネレーターはリカバリが終わり、出力がもとに戻っていた。

 

勘を頼りに道を進むが、出入り口に辿り着けない。

 

「マズイ。孤立無援で迷子とかどうやって抜け出せば……」

 

その時、愛機以外の音をマイクが拾った。

角を右に曲がったところだ。

 

壁に背を預け、耳を澄ます。

ドスン、と足音が聞こえ、それがあまり遠くなく近づいては無い事も確認する。

角越しに様子を見ようと身を僅かに捩る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャァァァン! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は後ろから激しい衝撃を受け、そのまま愛機がうつ伏せに押し倒された事を理解する。

後ろからの音など殆どなかった。

故に一切気付かず攻撃を受けたのだ。

急いで後方カメラを確認する。

 

「!!?……な、何だこれは!?」

 

俺は、思わず顔を青くした。

完全に言動が小物である。

 

GAのノーマルが愛機の頭を地面に押さえつていた。

それはいい、だが、俺が青くなったのはそのノーマルの姿だ

 

 

 

 

 

 

胴体の左半分がごっそり抉られたように存在しない。

 

 

 

コックピットも動力もない機体が、ノーマルらしからぬ腕力で機体を押さえつけているのだ。

 

『頭部損傷。』

「チィ!」

 

このままでは頭部が押し潰される。

俺は、機体を右に寝返らせた。

 

ノーマルの手が滑り、頭部の右脇の地面に落ちる。

バランスの崩れたそいつは、支えのない左側から機体を地面に打ち付けた。

そこをすかさずダークスレイヤーで胸を突き刺し、縦に引き裂いた。

 

流石に動かなくなった。

 

なんとか立ち上がった俺は角のある後ろを振り返る。

 

 

 

ゆらり、ゆらりと緩やかな動きでこちらに迫るノーマル。

 

どれもまともな姿をしていないのが共通点だった。

頭が無かったり、腕や足が変な方向に曲がった機体、胸に風穴を開けた機体。

 

ゾンビじみたそれに思わず後ずさる。

 

後ずさった足にガチャン、と何か当たった音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程撃破したMT等が足元に這い寄って来ていたのだ。

 

 

 

 

思わず、小さく悲鳴を出してしまった。

正気を保てていたのが幸いだった。

 

「…落ち着け。本物の化物なら、怪奇なら騒いでもしょうがない。一旦逃げてみて駄目なら…そん時だ。」

 

怖くないといえば、嘘になる。

だが、パニックになっては助かるものも助からない。

ブースターでノーマルを弾き飛ばし、そのまま突き進む。

 

しかし、曲がり角を曲がったところに、またノーマルが立ちふさがる。

手に何かしら資材のような物を掴み、それを俺目掛けて振り下ろす。

ガイィン!と激しい衝突音とともに機体は思い切り吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

俺は悟った。

 

逃げるのは無理だ。

 

倒さねば。

 

ダークスレイヤーを握りしめ、立ち上がる。

前後を囲まれ、逃げ場が無くなる。

 

 

 

 

そこからは、しばらくの間の事は良く覚えていない。

我武者羅にダークスレイヤーを振り回し、来るゾンビをただ切り捨てた。

 

 

最初は恐怖を、途中からいつものように無心で。

 

 

途中で怨嗟のような声が聞こえようとも。

怨み声や、許しを請う声が耳に届こうとも。

 

 

無我夢中で()()を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ノーマルをまた切り捨て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャァン。

 

 

 

 

 

そんな、ガラスの割れるような音がした。

 

 

 

それにハッとして辺りを見回す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、フラッシュバンを食らった角だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこら中の壁に刀傷が刻まれ、敵の影はなかった。

 

「幻覚…俺は狂ってたのか?」

 

余りの静寂に自分が先程まで見ていた光景を疑う。

しかし、足元で何か金属音がした。

 

 

MTの残骸を踏みつけていたのだ。

 

恐る恐る足を退け、周りを確認する。

無線は通じないが、その他のエラーは綺麗になくなっていた。

 

「やはり、夢だったのか。」

 

その時、奥の方から少女のすすり泣く声がする。

 

 

 

 

 

何故か、行かねばならない気がした。

己に起きた事を確かめたかったからかもしれない。

 

 

歩みを止めたのは扉の前。

【第4機動兵器倉庫】

とマップに書かれたところだ。

 

躊躇なく扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

殆んど何も無い部屋の中、一機のACが中央に佇んでいる。

 

声もそこからだ。

 

『…で…みんな居なくならないで…側にいて…どうして行っちゃうの…?』

『戻ってきてくれたのに、また…消えちゃうの?』

 

その間、俺はそいつに歩み寄る。

なんとなくわかった。

 

こいつは生き残りだ。

 

どうするかはまだ考えている。

一歩一歩歩を進める。

 

『皆、大丈夫って言ってたよね。…けど、どうして、すぐ帰ってこなかったの?どうして、消えちゃうの。』

 

その間、少女の声は止まない。

ついに目の前まで来た。

その時、消え入りそうな声が漏らされる。

 

『そっちに……行きたい』

 

その声を聞いて、俺はダメ元で通信回線を開いた。

 

「…聞こえるか。」

『誰?戻ってきてくれたの?』

 

喜びに震える声が響く。

ここで、嘘をつくか迷ったが正直に言った。

 

「ごめん、通りすがりだ。」

『そう…なんだ。』

 

どうするかは決めていた。

ダークスレイヤーを展開する。

 

「だけど伝言でね、君を送りに来た。皆のところに連れて行こうと思う。」

『え?本当に。』

 

きっと、拾われて面倒を見てもらっていた子なのだろう。

 

「本当だ。」

 

だけど

 

 

 

 

 

 

 

 

いやだからこそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し、じっとしててね。」

 

自分の手で。

 

 

黒い刀身がコックピットを貫く。

刃先から、赤黒い血が滴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レイヴン!聞こえますか!レイヴン!』

「こちらアキレス。無線がやられてた。なんとか残党も撃破、ミッションクリアだ。」

 

地上に出た俺は基地を振り返る。

扉は時間相応に朽ちていた。

 

忘れない内に連絡を入れる。

FGWにここの調査を依頼するメールだ。

 

念には念を入れるに越したことはないだろう。

 

 

 

自分の手を見やる。

既に殺し慣れ、血がこびりついた手だ。

 

怨みを持たれることに抵抗はない。

当然のことだから。

 

 

 

 

 

誰を殺すことになっても…

 

 

 

「躊躇わないよ、これからも。」

 

 

俺を見下ろしていた満月に呟いた。

 

 

 

「どう?何かあったか?」

 

unknownはコックピットで作業している担当者に聞いた。

遺体は、腹部に穴がある以外は綺麗だった。

すこやかな表情で眠るように、椅子に身を預けている。

 

「正直、あれ(ダークスレイヤー)を作った身としては、ここまで綺麗にやられると何とも言えない気分だよ。」

「検死に来たんじゃない!しっかり今回の原因を探れよ!」

 

的はずれな回答にツッコミを入れる。

 

「いや、そっちはすぐ分かった。謎は更に増えたけど。」

 

そうして、複雑な表情で取り出したのは、深い紫色の水晶のような物だった。

 

「これって、黄泉比良坂の……」

「ああ、こいつが死者を招き寄せたんだ。タネは簡単だったよ。」

 

しかし、二人の顔は晴れない。

 

「問題は入手経路、何故こちらにあるかだ。」

 

目の前にある、存在すべきでない物に頭を捻るしかなかった。




手に入れろ!オカルトボール!




なんかすいません。


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本編
ありがちな出会い


少年はACや兵器の知識があんまりないです


日本はとても平和だった、といきなりだけど思う。

こんな世界だと、そう思わざるを得ない。

国家解体戦争。

その真っ只中、自衛隊を必要があるときに出すだけで戦火が本土に来なかったのだから。それも不謹慎だと思うが。

その時、俺はまだ中学校に入る前で、確か戦局は拮抗状態だったか?

ニュースで見るその戦争は酷かった。けど、それは画面越しだった。

 

 

 

あれに会ったあの日、俺は父さんと母さんとで中学の入学祝いに旅行に出かけていた。

 

車を運転している影に俺は

 

「父さん、次は?」

 

と聞いた。

サプライズだったもんだから、行き先を知らない俺は、好奇心を抑えられず、にもかかわらずそれを表に出すのが恥ずかしくて、あえて平坦な声で聞いた。

今思うとそれほど親嫌いでもなかった。

 

「流石に時間だからな。チェックインしに行かないと。」

 

どうでもいいが、俺は温泉好きだったりする。

また気持ちを抑えつつ車窓から見慣れない街を眺める。

空に流れ星のような一筋の光。

まだ日は暮れてない。

よって流れ星の可能性は低い。そしてそれは近づいて来た。

赤い体躯。

肩に⑨とペイントされた機体が3つくらい先にある交差点に着地して、肩の二つ折りになってた筒(グレネードキャノン)をこっちの方に…

 

ターゲット確認。排除開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…しっかりしろ、おい!」

 

気づくと横になってて父さんが目の前にいた。

 

「目が覚めたか。足を骨折してる。母さんが来るまで待つぞ」

 

あえて足から気を逸す。

だが、激痛からは逃れられなかった。

そして、母さんが松葉杖と救急箱を持ってきた。

足を固定しつつ父さんが言う。

 

「さっきのは向こうに行った。今頃自衛隊のACと戦ってるはずだ」

 

救急箱にあったギブス等を使い右足を固定。

松葉杖を使って移動を始めたとき巨人(AC)が100メートル向こうに落ちてきた。そして赤い機体がその上に降りる。

ACの足が踏み潰され、ミシィと嫌な音がした。

トドメと言わんばかりに左手から出る光(レーザーブレード)でACを貫いた。

ACが動きを止める。

見つめることしかできなかった。

その赤いACはそうやって呆然としている俺達の方を向いた。

見つかった。

そいつは右手のピストルのようなもの(パルスライフル)をこっちに向ける。

 

「父さん、母さん、逃げて!」

 

俺は間に合わない

目の前でやられたACを自分に重ねた俺は、無意識にそう付け加えようとした。

だがそれに反して、二人は俺に覆いかぶさる。

思わず目を閉じた。

 

 

 

 

 

しかし、何も来ない。

恐る恐る目を開くと、赤いACは空のどこかを凝視していた。

俺もつられて上を見る。

黒いACが赤いACと同様にこちらへ向かって来ていた。

黒いそいつがミサイルを赤いやつに撃った。赤いACは後ろに下がりながらそれを回避する。

その隙に、黒いACが俺達と赤いACの間に立ちはだかるように、静かに降り立った。

 

オニキス(赤いAC)をコントロールしている者に告げる。こちらは日本に雇われているレイヴンだ。そちらがこれ以上戦闘行為をしない場合、こちらもこれ以上攻撃をしない。無駄な損失はそちらも望まないだろう』

 

オニキスはピストルを向けた。

よく考えると、黒いACは地味に挑発している。

俺らがいるにもかかわらず。

 

(なんてことしてくれたんだ。)

 

傲慢な黒いACに怒りが沸き上がる。

しかし、睨みつけようとした黒いACはさっきまでいた所には居なかった。

直後、オニキスの方から激しい音。

見るとオニキスは両足を斬られ、倒れ行くところだった。

右手も無い。

宙を舞っている。

黒いACはそのまま右手の(マシンガン)を連射。

鉛の嵐に赤い装甲が砕かれ、内部が露出。しかし黒いACのマシンガンは止まらない。

銃声が止む頃には、オニキスは原型を留めていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言わんこっちゃない。」

 

レーダーに敵はない。

通信回線が開かれる。

 

『済まない、助かった。礼を言う』

ハイエンド(ましなもの)は配備してないの?いい標的じゃない。レイヴンに狙われるわよ。」

 

事実を淡々と述べる。

 

『納品が間に合わなかったんだ、他の基地にはあるんだが。それに練度の問題もある。現状オーダー(レイヴン)にはオーダー(レイヴン)がベストなんだ。』

 

世の中そううまくいかないか。

 

「そう。それから念のため。こっちに取り残された民間人が三人。1人が怪我してる。」

『了解した』

 

 それにしてもやりずらい。

シートに全体重を預けて一息つく。

()()()()()()ではこんなややこしい名前も区分もなかった。ACはACだった。

それがどうだ。こっちでは自分たちが乗っていた機体はオーダーメイドACと呼ばれ、コアもない機体をノーマル、オーダーの技術で中身を変えたノーマルをハイエンドノーマルと呼んでいるじゃないか。

また別の世界から来た仲間の話によると、その世界でのハイエンドノーマルはオーダーのことを指していたらしい。

 

それもこれも、10年前にコジマ研究所を潰したせいで生まれた歪みなのかも知れない。

立ち去ろうとした時、音響センサーが声を拾った。

 

『助けてくれて、ありがとうございました!!!』

 

さっきの少年のようだ。

裏のない感謝に少し嬉しくなる。

だけども、彼の今後のために言っておかねばならない。

レイヴンに憧れても、ろくな事はないから。

声を低く、冷たくしてマイクに向かう。

 

「私はレイヴン。依頼を達成するためなら何でもする。今回はこれが依頼で気が向いたからに過ぎない。」

 

巡行モードでブースターを点火。

今度こそ領域を離脱した。

 

 

薄暗い部屋で何かが呟く。

あなたは、誰?




オニキスはコアをラストレイヴンで復刻した初代の方、パルスライフルをヴィクセンのにしたのをイメージして書いてました。(ビジュアル悪いけど)
世界観は

・ベースは4。

・コジマは見つかりそうになったけど、博士が消された。

・ネクストの代わりにオーダー(旧作AC、もしくはハイエンドノーマルのこの世界での呼び方)をレイヴンが使ってる。

またおまけに、

・人口は増えてなくて寧ろ少子化で減ってる

という感じです。
理由の感じられない世界観はもし連載、もしくは同じ世界を使ったら意味を持つかも。


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ドミナント

練習で始めましたが、読み返すと言葉足らずなのに気づきます。
語彙力ないの丸バレですね。
勢い乗って書きすました。


あの後俺はサナトリウム(隔離病棟)に送られた。

必死に目を逸してたから気付かなかったが、俺の右足の骨折は開放骨折だった。

その上、治療中に未だに特効薬が見つかってないウイルスが検出されたかららしい。

のだが。

 

 

 

右足の手術から3日たった。

ウイルスを抱えたにも関わらず、俺は右足以外は元気だった。

流石におかしいと看護師に訪ねたが、潜伏期間だと返された。

 

 

さらに4日たった。

疑いは深まるばかりだ。

もとから治りが早いのと、何だかんだ最新の再生医療を使わせてもらっているので、右足はかなり良くなった。

その上、以前と変わらず体の調子はいい。

病気は悪化してない?

いくらなんでもおかしい。

周りの言うことが信じられなくなってきた。

父さんと母さん、心配してるだろうな。

 

 

 

入学式まで後3日になった日。

右足はとりあえず治った。

流石に早すぎないか、と不安になる。

病室から出てくるように言われ、看護師さんの後ろに着いていく。

 

 

 

 

 

連れてこらてたのは地下だった。

 

 

 

 

別に暗くも、汚くも無かった。

無機質な廊下を歩く。

そして、ある扉の前で看護師は立ち止まった。

 

「こちらです。」

 

部屋の名前は【第9診断室】

危険、の文字が書かれた扉に恐怖心が顔を出す。

ウイルスは本当だった?

いったい何をされる?

中学校に行く前に自分はここで……。

怖くてたまらなかった。

 

扉が開かれる。

 

どうぞ、の声に勝手に治ったばかりの足が動く。

 

 

中は少し暗かった。

奥の方が見えない。

 

「君には聞いてもらわなければならない話がある。」

 

いきなり左から男の声が響く。

そっちを向くとスーツに身を包んだ男。

セールスマンチックな雰囲気。

想定外と雰囲気に顔をしかめる。あの手の人間は苦手だ。

 

「僕に何をする気ですか。高すぎる治療はいりません。助かるなら、時間がかかっても構いません。」

 

言ってから状況を思い出す。嫌悪感が先走った。

男は少しも気にするような素振りもなく言った。

 

「始めに言っておく。君には、選択する権利はない。」

 

何を言ってるんだ。

選択の権利がない?

恐怖の横に怒りが顔を出した。

 

「次に、君の血液中には今まで言ってきたウイルスなんて存在しない。こちらが君を引き止める為の言い訳、と言っておこう。」

「冗談じゃ無い!今までずっと我慢してたんだぞ、こっちは!もう入学式の3日前なんだ、お前たちの勝手で人生台無しにされてたまるか!」

 

怒りを抑えられず、怒鳴り散らす。だが、男は吐き捨てるように、言い放った。

 

「言わなかったか。君に選択の権利は無いと。こっちは君に交渉してるのでは無い。」

 

言い切られ、何も言えなくなった。

 

「自己紹介が遅れたな。私はオーメルから来たフレディ・ネイサンだ。」

 

自己紹介だと。

噛みつきたくなる。

さっきまでのことを思い出し、抑えるのに徹することにする。

 

「さていきなりだが、君はドミナント、という言葉を知っているかな。」

 

黙って首を振る。

知るか。

 

「だろうな。先天的戦闘適性、つまり戦うために産まれてきたような存在、選ばれた人間だ。」

「嘘くさいですね」

 

そんな眉唾ものに興味がある訳がない。

 

「私だってそう思ったさ。だがな、実際に【天才】という概念がある。そういう事だ。」

「【努力】という概念もあるでしょう」

「『天才は99%の【努力】と1%のひらめきから生まれる』か。確かにな。だが【実証】されたのなら、話は別だろう」

「どうやってですか。才能ななんてどうやって実証するですか。」

「君は見ただろう圧倒的な力を。」

 

こうなった原因か。

 

「そう、レイヴンだ。そいつらの遺伝子と身体を徹底的に調べたんだ。そしたらどうだ。上位のレイヴンに共通する項目が山ほどあったのさ。先天的な筋肉構造、脳構造、体質。遺伝子からくる人格や反射神経。生まれつきというものがどういうものか思い知らされたさ。」

 

ネイサンはそこで区切った。

何が言いたいか少しづつ分かってきた。

だが、同時に馬鹿馬鹿しいとも思った。

 

「君が聡明ならば、そろそろ理解できるはずだ。救急隊から君の遺伝子サンプルをもらってね。調べたんだ。」

「君はどうやら選ばれた人間らしい。出たんだよ。ドミナントの一因とされる遺伝子が。」

 

この言葉に、首を傾けたくなった。

正直なところ、自分がそんな強い人間だと思えないからだ。

体育は並、特技も優れた頭脳も無い。The・平凡だと自分を評価してた。

だが、ここに来ていきなり【天才】と言われてもピンと来ない。

だが、最新の医療機器の手配、面倒な書類偽造などを考えると、適当に使い捨てるようにするつもりは無さそうだ。

さてどうしよう。

じゃあ、ここから切り出そう。

 

「ということはオーメル専属ACパイロットになれと?」

「ずいぶん話が早い。普通はレイヴンで切り出されるんだが」

「それと、選択する権利はない、と言いましたが、ここでの拒否やACに乗った途端逃げ出したらどうするつもりで?圧力かけて寝返りなんてよくある話ですが。」

「……これまた理解が早い。」

 

複雑な顔をされる。

察しはつくさ。

 

「いつもは拒否されたあとに言うことだ。」

 

ドスの効いた声でネイサンは言った。

 

「よく聞け。こちらへ不利益なことをするなら、お前の家族、大切な者を暗殺させてもらう。」

 

やはりか。

企業は思った以上に黒い。

 

「しかし、君は賢いな。人によっては『選ばれた』の単語で堕ちる勇者気取りな者もいる。最初から首根っこを掴まれているのに気づく子供は少ない。」

「選択させる気が無い時点で怪しむものだろ。」

「大人はな。子供はそうはいかん。普通は怖がっている子供に優しく接して話しやすくするところから始めるんだが、出鼻を挫かれたからな。少し高圧的にでてしまった。交渉人として失格だな。」

 

地味に効いてたのかアレ。

 

「ビジネスマンが好きじゃないだけです。」

「例えそうだとしてもだ。舐めていたよ、子供だからと。君という人材を他企業に譲る気はないがね。」

 

目つきが変わる。

選択肢が無いことには変わりない。あるなら最善だ。

恐怖心は大分小さくなっていた。

死をぶら下げてはいるが、やはり人だと思ったからか。

 

「ですが、穴はある。」

「どんな?」

 

ネイサンは興味深そうに先をすすめる

 

「先天的才能。それも戦闘、いや戦争に関するものにとっても都合がいいものがありますから。」

 

ひと呼吸

厨二病な考え方だが、しっかり理解してるなら問題無い。

 

「サイコパスですよ。他人を物と大差なく見れる人間。殺しに罪悪感が無い。家族、友達を平然と見捨てますよ、俺は。」

 

ネイサンの顔が少し緩む。

 

「君がそれだと。」

 

1ミリは疑ってるだろうが、嘘だと考えるのが妥当だろうな。

そうだろうな。

ニヤリと笑って付け加える。

 

「虫も犬もイジメるのが大好きなんですよ。道端の猫を轢いたこともあったな。カラスを後ろから蹴飛ばしたし、やり返してきたときは彫刻刀で刺してやった。」

 

笑みを深くする。

 

 

 

ネイサンの緩んだ顔は少しずず釣り上がっていく。

1ミリが少しづつ膨らむ。それでいい。

 

「本当に親や友達をどうでもいいと?本当にサイコパスだと思って…」

「いや、ハッタリですよ。」

 

ネイサンは派手にズッコケた。

立て直して怒鳴る。

 

「ややこしいことをするな!大人を馬鹿にして‼」

「ややこしく感じましたんですね、嘘を。」

 

ネイサンは目を見開く。そして身体を反らしため息。

何も言う気配が無いので続ける。

 

「でも、あながち嘘でもないです。親に『いざとなったら、友や親よりお前を優先しろ。たとえ俺達が助けてと泣きわめいても』と地震やパンデミックの話のたびに言われてました。実行して傷つくか否か別として、死ぬより酷い目似合うならもしや、程度です。」

「…だからってそう言うか?それだけで演技に支障が出なかったんだろう。」

「はい。」

 

一気にくたびれたネイサン。

 

「本当に交渉人失格だな、俺は。お前、本当はこっち側だろその才能。」

「知りませんよ。資料はそっちでしょう。」

「そうだな。…………やっぱり、兄さんには敵わないか。」

 

素が出できた。

 

「下手するとクビだな俺。あ〜あ、こんなガキにこのざまか。今まで上手くいってたのになぁ。ああそれと今までの全部ハッタリだ。今そんな人手は無い。できて親まで、しかも上に頼まなきゃいけない。」

「曝け出していいんですかそんなの!仮にも脅迫相手ですよね!」

 

思わず突っ込む。

 

「ああ、レコードされてないからな。」

 

じゃあ本当にただの脅しなのか。

 

「…親までは殺れるんですか?」

「恐らくな。」

「脅す余地有りませんか?ただ匂わせただけですよ。」

「悪いが、正直なところ待遇は最悪だ。脱走するやつも普通にいる。お前もそうするだろう。子供なら親が殺されたと信じるだろうからと暗殺の予算が少ないんだ。俺も親ならぬ兄の七光でな。正直合ってないと思ってたところだ。」

「愚痴ですか。仮面外れてますよ。」

 

突然の身の上話に困惑してしまう。

確かに、今まで合わない仕事をしていたせいか、だいぶ疲れた顔をしている。

 

「済まない。だが、話を戻させてもらう。こちらにもプライドも引けない理由もある。」

 

俺も真面目になる。

 

「悪いが知りすぎだ。俺が愚痴ったのを除いても、この施設と行為を外に出すつもりはない。少なくともお前には消えて貰うだろうな。拒否すれば。しかも才能は確かに本物みたいだからな。さっき言ったが余所にやる気もない。」

 

ここに戻ってきてしまった。

 

「そうでしょうね。人質の話も自殺防止ですよね。」

 

やはり逃げ道は無し、か。

気が沈む。

 

「すいません、調子乗りました。話の流れをこっちに持ってきて少しでもマシな待遇にして貰おうとしたんです。」

「だろうな。最悪の待遇って言うのが見え見えだからな。気づけば足掻くだろうよ、そりゃ。」

 

ネイサンは共感しつつニヤつく。

 

「少なくとも、ACからは、戦争や死からは逃げられない。」

 

ああ、詰んだんだ、お互い。

場の空気が沈む。

 

「だが、待遇なら幾らかどうにかなる。」

「えっ」

 

いや、厳しいんじゃないんですか。

 

「実はこのシステム、期待度が低くて俺に全部丸投げなんだ。誤魔化しが効く。」

「大丈夫ですか!?そんなの!?」

 

施設が用意されてるそれなりの規模のプロジェクトじゃないんですか⁉

 

「まあ、確実にこっち陣営だろうな。だが、戦いからは逃げられないが奴隷よりかマシな状態には持っていける。それに少しお前に期待もしてる。」

[逃げは無しですか。」

「人殺しは嫌だろうな。だが最初に言った通り選択肢はほぼ無い。死ぬか殺すかだ。」

「結局そうなるんですね。」

 

この手は、確実に血に濡れる。

それでも、家族と俺が生き残るためにはやるしかない。

 

「脱走される度に管理責任を問われてな、もう脱走者を出す訳にも、世間に知られてもいけない。気づいただろうが、このシステム自体がまだ【実証】なんだよ。」

「ならあなたが言う次善策っていうのは…」

「オーメル贔屓のレイヴンだ。お前は此処に来る事なく、病室から脱走しレイヴンに拾われる、その後人質の話をされ、脅迫されオーメルの依頼を受ける。あらすじはこんなところか。」

「それなら監視系の責任でまだマシになると。何故そこまで?」

 

正直、ここまでしてもらえる様な人間じゃないのに。

 

「まずはお前に期待していること。適性トップなんだよ。上に報告したら、なんとしてでも手に入れろだとさ。俺のプライドで殺すとどうなることやら。次に保身。同じ所に連れてって他の奴らに暗殺の予算無いって言われたら一斉にAC持ち逃げされてしまう。俺の死は確定だ。口止めに躍起になる(暗部が本気出す)だろう。脅しが現実になるな。」

「乗るしか無さそうですね。」

 

気持ちは落ち込んだままだ。だけど、進むしかない。

 

「30分間で準備する。病室に戻っててくれ。」

 

俺は、生きるために戦う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

机の上で皺くちゃになっているカルテには社交性についての適正に赤いマーカーで線が引かれていた。

 

「あ〜あ。戦闘適正だけに目が行ってたな。まあいい。これで奴を[オーダー]に乗せられた。こっちのほうがあいつに合ってる。」

 

そう呟いて彼は端末を握る

画面には[シャル マメイヤー]の文字が浮かんでいた。




予定ではもう少しダークな感じでしたが書いてるうちにギャグが入りました。
正直なところ、サナトリウムを使うのにかなり躊躇いました。
ですが、ここの世界観作るのにこの単語が必要なので使う運びに。クロスしているのはAC内だけではないんです。隠してるのは恥ずかしいからです。
覚悟できたら言おうと思ってます。
なお超大雑把なあらすじは決まっています。敵はエタることです。
誤字、不適切な表現の報告お願い致します。


追記

エディをフレディと改名しました。


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踏み出せば

感想で頂いたのですがエディさんはアディさんの弟です。

アディさんはオーメルの仲介人です。
(悪い話では…の人)


この小説、思ったより泥臭くならなそうです。


追記
エディをフレディに改名しました。


レイヴンに拾われるフォローストーリーだったが本当にレイヴンに匿われるとは思ってなかった。

いや、嫌なわけじゃない。ただビックリしたというか、想定の範囲外というか。

その…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相手があの時助けてくれたレイヴンだった。

その上に。

きれいな

少し年上の

女の子でした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボイスチェンジャーで性別も年齢も分かんなかったけどまさかのほぼ同世代。

俺と同じ境遇なのか?

 

頭の中がぐるぐる回る。

すると相手から声をかけてきた。

 

「まさかこんな風に再会するなんてね。私はしゃ…じゃなかった。シャル マメイヤー。シャルでお願い」

「お願いします。で、なぜ言い直しを」

「い、いや、噛んだのよ!。うっかり本名出そうになったの!」

 

補足するがレイヴン同士は基本レイヴンネームで呼ぶとか。

しかし、見た目相応というかなんというか。

 

「そうですか。これからお世話になる。レイヴン アキレスです。」

「アキレス、神話の英雄の?かっこいいじゃない。」

「そういうつもりじゃないんですけどね。」

「じゃ、どういう?」

「いやぁ、ここまで来る経緯が足絡みなんで。」

 

足を骨折し、その原因は足を斬られたし、足が治るとここに来た。

目の前でやられたノーマルも足を踏み潰されてたし。

 

「そ、じゃあ試験は4日後になったから、早速特訓しよっか。」

「はい」

 

 

 

 

細かいところは省くが正直に言おう。

 

 

 

 

 

 

 

操作難しすぎっ‼
 

 

 

 

 

 

 

 

敵を正面に捉えてトリガー…

まずはこれだけと言うけど、旋回、移動、ブーストサイティングとやることが多い。

COMも凶悪で、こっちが探す間に後ろからミサイルが来たり、高機動型MTなんかはこっちの後ろ取って離れないんですけど。難易度おかしい。

ブースターで動くとエネルギー管理も同時並行でやらなきゃならない。

すんごい振動するし、どういう原理かわからないがGも掛かる。本当どうやってんのこれ。

 

 

一応言っておくが、シャルさんに手とり足取り教えてもらうとかシュミレーションポッドに同席とかそんなイベントは起きなかった。

起きてもなびくつもりはないし。

むしろ徹底的に叩き潰された。

ライフルで引き撃ちしたらOBで迫られオニキスのようにマシンガンで穴だらけ。

ブレードを振ったらとっつかれ、さっきやられたOB接近を真似したらグレネードランチャーで砕かれた。(ちらりと見たが構えてた。何故AC戦に持ってきたんだろう。)

しかもG付。

でも、お陰でACがどういう戦い方をするべきか分かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験前日の夜。

夕食の席にて。

 

「いよいよ明日ね。」

 

ちなみにシャルさん、料理がうまい。

豪華とは言えないけど、美味しんだこれが。

 

「はい…緊張します。」

「でも、MT相手だし他の人よりもシュミレーターやったし大丈夫でしょ。」

「でも実戦ですよね。おかしくないですか?」

「それは認める。じゃあ前祝いとして…」

 

ガサゴソと棚をあさり始めた。

 

「ジャーン。こんなものを「はいストーップ!」どした!」

 

取り出したのは日本酒。

 

「いや、どした、じゃないですよ!いくらなんでも未成年飲酒はちょっと。」

「アレ、私、20過ぎてるけど。」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

アレ?

 

 

「言って、無かった?」(実は千歳超えてるのよ、これが)

「そうですね…」

 

本当にこんなことってあるんだな。

ちなみにシャルが一人で飲んでました。

俺は飲んでない。




少ないけどきりがいいので今回はここまで。
エディさんについて。
やっぱりややこしいので変更を予定しております。
つきましては活動報告において募集してみたいと思います。
……集まるかな?
ちなみにシャルさんはシュミレーター中機体をコロコロ変えてます。

ネクスト出ないかって?
さあ、どうでしょう?


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力をもっても

感想もらって嬉しさのあまり高速で書き上げた前回と今回。
反省はしているが後悔はしていない。断じて逃げてるとかそんなんじゃない。いいね?


「お母さん?」

「いい、よく聞いて。あなたは人のために産まれてきたの。だから、あなたは人のためになることをするの。分かった?」

「うん。お母さんは?」

「…ごめんなさい。あなたと一緒には行けなみたい。」

「どうして?」

「…っ。さっき言ったことを忘れないで。」

お母さんが離れてく。

「お母さん⁉お母さんッ!!」

 

 

そして見えなくなった。

何もかも。

真っ暗に。

 

 

比喩抜きで、私はお母さんの手によって世界の外へ送り出された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の中にいる。

世界と世界の境界に立たされたんだ。

 

 

 

 

 

そして私はトキ(IBIS)として行き着いた先に受け入れられた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミッションを説明します。』

初ブリーフィングが始まった。

『依頼元は有澤重工、場所は横浜です。』

 

あれ?山岳部じゃなかったっけ。

 

『テロリストがMTを使用し市街地の一区画を占拠しました。』

『本来、自衛隊の役割なのですが。レイヴン試験に状況が似ているとのことで依頼となりました。』

『ここだけの話、レイヴン試験は我々企業が都合の良いテロリストに対し自律型MTを提供、マッチポンプして行っています。事前に日程が決まっているのはそのためです。しかし今回それが行われる前にこの状況となりました。』

『なお同時に試験を受けるレイヴン候補が僚機になっています。』

『ここで実戦を経験するのも、悪い話ではないと思いますが?』

 

まあそうだな。

軽い気持ちでこの変更を受諾した。

 

 

 

 

 

 

 

指定の区画に入った。

 

【エリア、シンニュウ】

【システム、キドウ】

 

無機質なCOMボイスが流れ、ミッションの始まりを告げる。

機体はレイヴン試験に用いられる再安価のオーダーAC。

心許ないがMT相手なら問題無い。

 

『これをクリアすれば…』

 

僚機のつぶやき。

 

さて近くの敵機は、右のビルの向こうにニ機か。

ビルをブーストで超え、ライフルを構える。

真上に来たとき、MTはようやく上を見たが

 

「遅い。」

 

上からの弾丸でMTが一機の装甲が砕け、沈黙する。

着地するまでの間にもう一機のMTの後ろに回った。

そのままブレードで叩き斬る。

上下に別れた機体が崩れ落ちた。

 

確認すると、僚機もニ機倒したようだ。

負けてられない。

 

奥の交差点左からMTが出現。こちらに気づいたようでミサイルを撃ってきた。左右に機体を揺らし、予測追尾機能を利用してビルにミサイルをぶつける。

その後、ブーストで一気に距離を詰め、ブレードを横薙して手前の一機を溶断。

もう一機いたがバックブーストで引き撃ちしたらあっさり壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MTを一人7機撃破したところで、相手は全滅した。

 

『良かった、これで』

 

僚機から安堵の声。

こっちも似たようなものでシートに身体を預けていた。

 

『力はあるようだな。認めよう、今日から君は……』

 

ロックオンアラート

上に、ブレードで俺を真っ二つにしようとするACがいた。

ただブースト吹かすだけじゃ間に合わない。

そう思った時には、身体が勝手に左手のトリガーを押し込んでいた。

ブレードのマニューバーで急発進し、元いたところにACが着地する。

 

『避けられたか。』

『何事ですか…AC!?』

 

僚機も後ろからやって来た。

相手はオーメル社製ハイエンドノーマル

[TYPE-DULAKE-HI]

ノーマルの駆動系をオーダーに差し替えた典型的なハイエンドノーマルだ。

ライフルとブレードを装備している。

さらに後ろからもう二機、別の武装タイプが現れた。

一機は左手がシールド、もう一機はバズーカ、ブレードだ。

 

『付き合う義理はない。試験中ならまだしも、既に終わっている上、先程のテロリストとは無関係だ。早く撤退しろ。今、別のレイヴンを雇った。』

 

試験官から通信が来たが、敵ACが言い返すように通信回線を開く。

 

『逃がせないね。そこのAC(アキレス)!お前が許せないんだよ。』

「何?」

 

俺に向かって憎しみがぶつけられる。

 

『お前は俺達みたいにこき使われるはずだった。耐えたれずに逃げ出すぐらいに。だが、今のお前はそうじゃない。むしろ自由じゃないか!いい思いしやがって‼殺してやる!』

 

 

いつかこうなるかもと思っていたが、早すぎる。

さっき斬りかかってきたACが再度接近。

お互いにブレードを振る。

放電するような音がし、ブレードが命中したことを伝える。が。

 

(クソっ、ダメージ交換になってねえ。)

 

こっちは最安価元工作用ブレード、相手は専用実戦向けブレード。

威力が足りない。

加えて相手は空中斬り。

APが1000ほど消し飛ぶ。

相手には500くらいか。

ハイエンド相手とは言え少ない。

ハイエンドのAPはだいたい5000だったか。

着地点はT字路、前後に敵。左には道が開けている

ブレードが当たった肩が赤熱化していた。

 

『援護します。後退を!』

 

僚機がライフルを連射し、俺の一歩手前に出る。

動いてなかった二機がバックステップ、俺は後ろを振り返りミサイルを放った。

それと同時に二人揃って交差点を誰もいない方に進む。敵ACは俺達がさっきいたところに集まった。

俺達は進んだ先の十字路に陣取った。

 

「いいか。お前が左、俺は右だ。合図で一気にブースト、いいな。」

『分かりました。』

 

相手3機がこちらに向かってきた。

 

「行くぞ!」

 

散開した俺達。

敵は、

 

3機揃ってこっちに来た。

 

『そんな!掩護……』

「撤退しろ!こいつらの狙いは俺だ。お前は逃げても追って来ない。」

 

最初からこれが狙いだ。

 

『でも!』

「早く行け!」

 

その間俺は、ライフルよりも射程が長いミサイルの引き撃ちをした。

だがバズーカの射程から逃げられない。

何発か食らった。

どうにかシールド持ちは倒せたが、そこでミサイルが切れた。

AP残り2000ちょっと。

ライフル残り43発。

きつい。

そこにいきなりの大声が響く。

 

『うおおおおおお!』

『後ろから!?』

 

僚機がOBを使って追いかけてブレードでバズーカ持ちに斬りかかった。

結果、そいつの左腕を切り落とし、僚機は俺の目の前で停止。

 

『大丈夫ですか?』

「馬鹿!なんで来た!」

『ほっておくなんてできませんよ。』

 

でもこれで五分か。

 

『すいません。ライフル切れました。ミサイルもです。』

 

嘘だろ。

見ると既にパージされている。

相手は、バズーカの弾がまだそれなりにあるACとほとんど使われてないライフル持ち。

 

(不利は変わってないか)

 

引き撃ちされたら詰む。

そんな時、通信が来た。

 

『待たせた。あとは任せろ』

 

横から割って別のACが入ってきた。

 

【ゾウエン、AC、ローレンス、デス】

 

そのCOMボイスが終わらない内にことは終わっていた。

まず、バズーカ持ちに向けてレーザーライフルを一発。

それはバズーカに命中し誘爆、APが0になったのか膝をつく。

突っ込んできたもう一機がブレードを起動したが、振る直前、ローレンスが飛んで空振りに終わる。

そのガラ空きの背中を左腕の月光で斬った。

敵ACは吹き飛びそのままヘッドスライディングして停止した。

その様子を、呆然と見ていることしかできない。

 

『一戦交えた後の初期機体でよくここまでやったな。でなけりゃ、まず瞬殺は無理だったよ。』

「いや、お強いですね。」

『そうでもない。救援と聞いて即座に敵を撃破できる装備にしたんだが、負荷がでかくてな、ピーキーなんだこいつ。』

 

それでもあの立ち回りか。

 

『そういうことで、期待しているぞ。』

 

ローレンスは、そのままOBで何処かへ飛び去っていった。

 

こうして俺達の初依頼は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいじゃん。アリーナの3位に期待されるなんて。」

「えっ!あの人トップランカーだったの!?」

 

あの人が超大物だと知ったのは、シャルさんにそのことを言ったあとだった。




僚機のモデルは林檎少年です。
アキレスはLRの、僚機くんは3の初期機体を使用しました。
増援のAC、ローレンスのパイロットはレイヴン U.N.オーエン。つまるところ本来のアナトリアの傭兵の過去の姿です。
旧作ACに乗ってるお陰でさらに凶悪になってます。(ノーマルよりかは高性能なので)
さて、連日で作ってしまった。明日頑張らないと。


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目指すべきところ

何故オーダーなんてややこしい概念入れたかだって?
悔しんですよ!4でMTと同じにされて!
でもノーマルはノーマルでかっこいい。
じゃあ、あいたハイエンドは戦車も同じ物積めばいいじゃん理論で本当にハイスペックなノーマルにしよう!
という発想でできました。
エゴです、ハイ。
ちなみに、ハイエンドはオーダーの7割前後の性能を想定してます。
尖っているのは、普通にオーダー超えてるものも。(飛行型ノーマルあたり)
やっぱり戦闘描写は難しい。


お母さん。

私は、人のためにと思ってプログラムを実行しました。

人類は十分繁栄を取り戻した。そう判断して。

 

でも、今私の目の前にあるものはなんですか。

 

残骸になったAC。

(彼は、私を超えてくれなかった)

 

廃墟になったビル。

(人が住まない建物はすぐに朽ちた。)

 

枯れ果てた森。

(循環システムは破壊され、生態系は崩壊した)

 

鴉一匹飛ばないくすんだ空。

(その遥か上空に無機質な天井があった)

 

 

ここに来て、お母さんの最期に言った言葉を守る為に行動したのに、これじゃあ、まるで。

 

私が

 

わたしが滅ぼした

 

私はそうプログラムされていた?

 

 

なんで?

なんでこうなったの?

この壁がそんなに高かったの?

私は、死ぬことを覚悟してた。

超えられて、その先にさらなる未来があるなら、それで良かった。

でも、

彼らは誰も立ち上がらなかった。

お互いに憎み合い、争った。

たった一人だけ、私の前に現れた。

それが人なのかもしれない。

とりあえず弟にこの事を伝えなきゃ。

この為だけに生まれてきた彼なら成し遂げるかもしれない。

人類が繁栄すればと願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先日の戦闘記録を眺めていた。

ハイエンドノーマルの項目を見るたび心が痛む。

確かに俺はまだマシな境遇にいる。

依頼は受けなきゃいけないが、奴隷労働ではない。

食事はまともだし、正体を隠せば外出だってできる。

嫉妬されても当然だ。

立場が逆なら俺だってキレる。

 

「どうしたの?」

 

シャルさんだ。

 

「いや、初任務のレポートを見てて。」

 

そのままレポートに目を落とす。

 

「ハイエンドの子たちのこと?」

「はい、自分だけいいとこに居て、これでいいのかなって。」

「そんなの当たり前じゃない。」

「えっ!」

 

ザッパリ斬られた。

 

「だってあんたはあんたなりに足掻いた、その結果今のあんたがいる。あの子達は何もせず受け入れた。その差よ。」

 

口調が荒れてらっしゃる。

 

「マグレですよ。」

「もしあんたがあの子たちと同じになっても、きっとあなたは脱走して、何かを掴んでたはず。黙って従ってたらただ使われるだけ。」

 

そういうものなのか。

 

「知り合いの言葉なんだけどね。運命は自分が今までの自分の行いの結果に過ぎない、過去に関係なくいきなり都合の良いことが起こるのはほんの一握りだって。あんたはその結果に至る運命を自分で掴んだ。それだけ。」

 

納得しきれた訳じゃないが理解は出来た。

 

「あの子達だって、脱走を選んだ。あんたがあれこれ言われる筋合いはないんだから、胸張りなさい。」

「はい!」

 

するとシャルさんが話題を変えてきた

 

「さて、気分転換にアリーナに行ってみましょうか。」

「アリーナですか。」

「賞金取れれば後々楽になる。資金調達とトレーニングするのにいいところよ。」

 

 

 

 

 

 

連れて行ってもらったのは東京アリーナ。

到着するや否やシャルさんはチケットを手渡し

 

「チケットこれね。あと最後の方まで見ていくこと、いいわね。」

 

と俺を残し、どっかへ行ってしまった。

 

「ちょっと!もう…。一人で見ろって言うのか。シャルさんの解説付きだと思ったのに。」

 

唐突すぎて呟くことしかできなかった。

 

 

 

指定席で前から6列目、右から5番目。

チケットに書かれていた席につく。

右隣が空いている。

シャルさんの席だろうか。

 

『有澤重工主催、東京アリーナへようこそ。開始時刻となりました。第一試合を開始します!』

 

会場が沸き立つ。

と同時にAC左手用に比べて何倍もの出力を持つエネルギーシールドが張られる。

まずは下位リーグ。

俺が見習うべきところを探す。

ブースト、射撃タイミング、位置取り、武装切り替え。

見逃さないよう目を凝らす。

指定席にはイアホンジャックがあり、つけると実況が聞ける。

それにも耳を傾けた。

下位リーグが終わり、上位リーグまでのインターバル。

まずは今見たレイヴン達と戦うことになる。

そう思いつつ隣を見た。

まだシャルさんは来ない。

ため息をつき、ランチ買いに立った。

 

買ったのはサンドイッチ、サラダ、あとオレンジジュースだ。

席に戻ってきたら、俺の席の右隣に誰かいた。

近づいて確認する。

 

「こんにちは。お隣り失礼しています。」

 

年齢を考えるのは失礼だが20後半の女性。

外国人のようだが、日本語ぺらぺらだった。

 

「ああ、はい」

 

と曖昧な返事をし、席に座る。

サンドイッチを開けようとしたとき、女性が声を掛けてきた。

 

「自己紹介をさせて下さい。」

 

なんだろうと黙って先を促す。

上位リーグは始まっていた。が、ハイレベルすぎて参考になるかどうか。

 

「私は、次回の依頼から専属オペレーターになります、ナジェージダ・ドロワです。よろしくお願いします。」

 

驚いて何も言えなかった。

 

「本日は挨拶に参ったのですが、その様子だとシャルさんから何も言われてないようですね。」

「は、はい。」

「あの人は全く……。」

 

いつも肝心なことを言わない人らしい。

 

「そちらの事情は存じております。」

 

奥でグレネードランチャーの轟音が響く。

 

「と同時に、私の業務とは一切関係ありません。私の業務はあなた方レイヴンの補佐です。それ以外の事情には一切関与しません。」

「分かりました。仕事熱心なんですね。」

「オペレーターはそういうものです。必要以上の会話は戦場では命取りです。」

「そうですね。しかしなんでシャルさんがオペレーターじゃ無いんですか?」

「不満でしたか?」

「いえいえ。ただなんとなくそう思ってましたもので。」

「彼女には彼女の仕事がありますから。」

 

そう言って正面を向いた。

俺も正面を向いて片耳に実況の流れるイアホンをつけた。

 

『さぁーて、次はカードはとんでもないですよ!!ランク3とランク5が同時にピットイン。世界レベルの試合となりそうだぁ!』

「ランク3‼この前の!」

 

U.N.オーエンさんだ。

フレームはそのまま中量二脚、右手はリニアライフル、左手はショットガン。肩に6連小型ミサ。

相手は……

 

(なんかデジャヴが)

 

黒の下地に、濃いグレーのカラーリングあたり。

フレームは軽量で両手マシンガン。

右肩に7連マイクロミサイル。

 

「まさか、ここまで彼女のことを知らなかったとは。AC・サルタクロスは彼女、シャル・マメイヤーのアリーナ用フレームなんですよ。」

「あの人ランク5だったんですか!」

「やはりですか。」

 

強い方っていう認識しか無かったけど。

 

『今回の試合、どう見ますか』

『実際、上から20くらいはコロコロ順位が入れ替わってますからねぇ。どっちかが上位なんてほぼ飾り同然です。まあ、今までの勝敗を見るとオーエンが若干上です。さらに機体を見ると、レンジ的にマメイヤーの方が不利のようです。』

『ありがとうございます。さて、試合開始のブザーが..........鳴ったぁー!』




今回はここまで。
感想もらって、執筆速度がリミットカットしております。(終わると息切れするあたりも多分同じ。)
オニキス倒したあたりで察してたかもしれませんが、シャルもトップランカー。
因みに、今のレイヴン人口はは大体100とちょっとを設定にしてます。
作者はACはPSPシリーズしかやってないので、重箱の隅をとっつく際はwikiが情報源になってます。
間違ってたら報告お願いします。
また、気づいた方もいらっしゃるかと思いますが、コジマ研究所はコジマ粒子発見直後に消されました。
それが10年前。本来の国家解体戦争はコジマ粒子の発見から7年後。
解釈次第では既にAC4開始しててもおかしくない時期だったりします。

全体的に今までの話を少々手直ししました。
色々と。
次回も頑張ります。


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MT・AC混成部隊撃破。

ハーメルンの機能を使いこなそうと努力中の桜エビです。
多機能フォームすごい。


彼の元にいた者たちは、成し遂げた。

課された試練を超え、地上へ踏み出した。

その時になって、私は弟を見殺しにしたことに気付く。

使命のため、なんて綺麗事は言わない。

随分悩んだが、彼の死を背負って行こうと決意した。

 

私が失敗してから今日という日まで、私は皆と混じっていられる方法を模索した。

そうして生まれたのが、高性能アンドロイド義体。

私と接続できて、なおかつ人間のように動かせる、私のもう一つの体。

この姿の時の名前を決めなきゃ。

じゃあ..........。

 

セレ・クロワール、これにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おとといのシャルさんの試合を思い出していた。

とても遠かった。

結果はオーエンさんの勝利。

といっても、残りAPは800くらいだったようだ。

二人の戦いはとても白熱していた

距離を取ろうと後退するローレンス。それに食らいつくサルタクロス。

側面に取り付いて離さない軽量二脚にショットガンを向けようと激しい機動をする中量二脚。

ホログラムディスプレイで見ることができた、楽しみをかみしめるオーエンさんと興奮に震えるシャルさん。

あまりにも違いすぎた。住んでる世界が違う。

今は、あれを理想として自分ができることをやるべきだ。

そう思って端末を見ると、依頼が来ていた。

見出しは『国連軍MT・ノーマル混成部隊撃破』だった。

ついに戦争の一端を担うことになる。

レイヴンは本来、自分の意志で依頼を受け、戦う。

それによって、レイヴンは自らの所属を示す。

だが俺は基本企業の依頼しか受けられない。

周りからは企業派として見られる。

正直俺はこの際どっちでもいいから早く終わらないかとすら思っている。

でも、そんなこと言っていられない。

まずはコレをクリアすることをまず考える。

依頼ファイルを開いた。

 

 

 

『作戦を説明する。依頼主はGA、対象はアメリカ、ニュー・メキシコ郊外を進行予定のBFF社製ノーマル・MT部隊だ』

『先日、国連軍がこのルートを取り、5日後アリゾナに向けて侵攻することを掴んだ。』

『なんで国連がACやMTを持ってるか?あっち側につく企業だっているからさ。うちのお偉いさんの子会社もいくつかはあっち側さ。』

『これを君達に襲撃してもらう。手段は問わない。』

『だが、こんな早すぎる情報だ、ダミーもありうる。万が一を考えといた方が良い。』

『こっちから僚機を一人つけさせてもらう。もう一機つけるかはお前さんの判断次第だ。』

『こんなところか。まあ、悪い話ではないと思うぜ。返事を待ってる。』

 

これ一つだ。

少々怪しいが、受けるしかない。

さて僚機は、レイヴンネームはラビエス・モンテ、ACはエイブラムスか。戦車みたいな名前してる。

説明文はええっと......あった。

 

【古参ランカー。かつて重量二脚の使い手として名をはせ、門前と呼ばれるランク30まで上り詰めたが、ある日突然タンク型に乗り換えそのランクを60位まで落としている。周囲は重量二脚に戻すように勧めるが、全く聞き入れない。しかしその火力と精度に衰えはなく。正面に立ったが最後、跡型もなく吹き飛ばされる。】

 

か。

もう一機は任意で選べるのか。

 

地形は.......。

ルート66沿いの荒野か。

.....ボックスキャニオン?

よさそうな地形だな。

なら...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミッション開始』

 

 

『カルロス・ハリソン、スタンバイOK。』

『ラビエス・モンテ、準備できたぞ』

 

新規に雇ったのはカルロス・ハリソン、ACはドラグノフ。

相手は道路を南西に向かって進んでいた。

MT運搬車はACに取り囲まれ護衛されている。

やがて部隊は谷に差し掛かった。道路のあるところだけが橋のように盛り上がっている。

 

『ECMだと?総員警戒。』

 

部隊が停止する。

するとMT運搬車がいきなり爆発した。

 

『なんだ!何があった!』

『北西より砲撃!』

『スナイパーか!』

『BFF社製ノーマルの部隊なんだぞ。』

 

「ファーストフェイズクリア」

 

ACドラグノフはスナイプを得意とした軽量二脚だ。

 

『セカンドフェイズ。ラビエス、お願い。』

『任せろ。』

 

エイブラムスが両手に持つグレネードライフルを乱射。

部隊に大量の榴弾が襲いかかる。

 

『退け!一時退却だ。』

 

たまらず敵部隊は来た道を引き返そうと旋回する。

が、そこに俺が立ちふさがる。

ECMを起動したのも俺だ。

ここは起伏が多い。

だからステルスと偽装マントでやり過ごし、敵の後ろをとった。

パージするまで機体が重かったが。

足を止めたECMはロケットで敵の足元に打ち込んだものだ。

二人はレーダー距離外からの狙撃と物陰からの蹂躙。

ハイエンドノーマルはいなかったからレーダー距離で勝てた。

騙されたらどうしようかとひやひやしたが何とか成功し、後は包囲殲滅だった。

 

 

カルロス・ハリソンが来た時にはもう終わっていた。

ミッション完了なので合流する。

 

『仕事早いね。ま、狙撃が役に立ったみたいでよかった。』

『想像の何倍も簡単だった。出る幕はなかったか。』

「二人ともありがとうございました。それじゃあ......」

 

その時だった。

俺の後ろの道路が爆ぜた。

 

『東に敵勢力を確認。武装列車です。』

 

嘘だろ。こうなるのかよ。

グレネードキャノンの弾丸の雨が降ってくる。

 

「皆さんどうします。」

『ミッション終わったし....』

『俺は弾がないのでな.....。』

 

同じ意見らしい。

 

「逃げますよ!!」

『『了解』』

 

なお、依頼主からも戦わなくていいとのこと。

3人そろって猛スピードで領域を離脱した。

ラビエスさんは俺達以上に必死だった。

聞いた話によると、後日別のレイヴンが撃破したそうな。




最後の武装列車は倒すと追加報酬になりますが、主人公たちは諦めました。やっぱり、今までの執筆速度がおかしかったんだ。(遠い目
レイヴンのラビエス・モンテはriefretさんからアイデアをもらいました。
ありがとうございます。
今後も活動報告の方で募集しておりますのでよろしくお願いします。
なお、今回は実在の場所であるボックスキャニオンを参考にしました。
アメリカ、ニューメキシコ州にあります。googleマップを参考にしました。
作者は外国にすら行ったことありません。


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いつかのキオク

今まで冒頭と本編という構成ですが、その内容がひっくり返る形になります。


アリーナでオーエンさんと会った。

この際質問しようか。

 

「オーエンさん、戦いで生き抜く秘訣とかありませんか?」

 

手っ取り早く聞きたくて曖昧な質問になったが、ちゃんと答えてくれた。

 

「そうだな…普段は総火力を気にするな。」

「どうしてです?」

「昔、あんまり総火力があまりない機体でミッションに挑んだら、増援ラッシュが発生して死にかけたことがあってな。」

「不測の事態は総火力が多いほうが対応しやすいですか。」

 

やっぱり手数は必要か。

 

「…あ〜。それから、アセンブルは重要だな。起伏の激しい領域でタンクは向いてないし、閉所で紙装甲の機体で戦うのは難しい。」

「確かに、自分で難易度上げるのは自殺行為ですものね。参考になりました。」

「気にするな。こういう教訓は死にかけて手に入るが、そのために死にに行くのは本末転倒ってやつだ。どんどん聞いてくんだ。」

「分かりました。そろそろ試合なんで。」

 

そうして別れようとして、ふと気づく。

 

「……そういえば、起伏のあるところでタンク使ったり、閉所で軽量二脚使ったんですか?」

「……若気の至りというやつだ。」

 

 

 

 

二人は気づかない。

今の会話の内容の異常性に気づかない。

 

 

 

 

 

オールラウンダー(全脚部を使用するレイヴン)など数える程しかいないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は地上に出て、早速街に行った。

そこで問題に直面する。

通貨が違った。

要するに所持金ゼロ。

ついでに住民票も無いと来た。

ハッキングするための端末を持てないし使えない。

結局私は引き返してしまった。

その途中、彼に出会った。

 

「おい、こんな時間に、こんなところで何してんだ?」

 

彼に私は身寄りがない、検査は受けられない、行き場がない、など嘘を交えつつ現状を話した。

そうしたら、彼は孤児院に連れて行ってくれた。

 

見た目が十代だったのが原因だ。

その孤児院にあったパソコンで私はAIを作り始めた。

ネット上で名を名乗り、顔を出さずに種を蒔いていった。

調べられたら厄介だから逆探知対策も万全にして。

傍から見れば引き篭もりだが、別に外出しない訳じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

駆け足で駅から待ち合わせの場所に行く。

 

「おーい、5分遅刻だぞ。時間指定したのお前だろ。」

「ごめんなさい。駅から待ち合わせの場所行く時間計算するの忘れてて。」

「まぁ、予約までには余裕がある。ゆっくり行こうか。」

「…最初から、遅刻すると思ってたでしょ。」

「いいや。」

「絶対思ってた。」

「…何回やったと思ってる。」

「今回で7回目。」

「時間に余裕もって行かなきゃと思うだろ。」

「ムゥ〜」

 

私は、なぜか遅刻する。

電車を間違えたり、電車が遅れたり、おばあちゃんの荷物を持ったり。

 

「世界最高峰のAI技術者が、遅刻グセね。」

「グハッ!」

 

結構刺さった。

 

 

 

ビルのラウンジに有る喫茶店に来た。

そこで今回の目的を見せてもらっている。

 

「見るたびに凄いと思う。AIの成長速度が他のレイヴンとは段違い。」

「そうか?変わったことはしてないが。」

 

今更だけど、今私が話してるのはレイヴンだ。

不思議なことに、彼は周りからはそのまま【レイヴン】って呼ばれる。

私もそれにならって彼をレイヴンと呼ぶ。

だけど、レイヴンと呼ぶことにはもう一つ意味がある。

彼こそが、私の弟を超えたレイヴン。

私にとってレイヴンの中のレイヴン。

だが、ランクは中盤。

原因は彼が資格の更新期間中世界を旅してまわったので、資格を剥奪され再取得した故の新人扱いによるもの。

むしろ短期間で中堅まで上り詰めたことが彼の強さを証明している。

 

「それにしてもこのAI、本当にお前が作ったのか?シュミレーターで戦うと本当に俺そっくりの動きをするんだが。」

「当然よ。アリーナ限定だけど、その中で見せるあなたの動きを記録解析してどんな戦い方が【あなた】なのか。それを学んでいくんだもの。」

 

胸を張る。

そしたら。

 

「細かいことはわからないが、やっぱり凄いな。」

「そ、それほどでもないわよ。」

 

会話は弾んだ。

 

こうやっていく中で、同時に私は彼の残した人々がどのようなものなのかも観察した。

あまり私のところにいた人達と変わらない。

ただ、ユニオンと呼ばれた組織はいた。

そして、最後の最後で僅かに纏まり、彼と組んで弟は斃された。

 

私のやろうとしている事は決まっている。

かつての人々と今の人々との差は、無きに等しい。

また、繰り返す。

だけど今の人々を託すに足る人は居る。

管理は容易い。だがその管理が崩れたとき、彼らは生きていけるだろうか。

私達は、私達が託したものを受け継いでくれると願って計画を開始した。

そろそろ終わりが見え始めた。

 

 

「おい、聞いてるか?」

「……ああ、ごめんなさい。考え事してて。」

「新しいAIでも考えてたか?」

「今後のこと!」

 

私は彼に斃されることを望んでいる

むしろ彼になら、とまで思うようになってきた。

私は彼に抱いている感情に気づいていない。

私が。

彼に深く関わり、計画が狂うとは思っていない。

 

 

 

 

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

思い出したくない

 

 

 

 

 

 

記録の再生を一時中断します。

 

 




少し演出に力入れました。
最近こういう所に書こうとしたことをよく忘れます。
次回は続きです。
経験不足なんで、
「こうしたらいいんじゃないか」
系の感想もお待ちしてます。
勿論、普通の感想もお待ちしてます。


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データ XA-26483

今更ですが、息抜きに書いてます。


あれから彼とは、一緒にいる時間が増えてきた。

私にも理由は分からなかった、けどそれを私は好ましく思っていた。

彼と過ごす時間が、とても有意義に思えたから。

笑って、怒って、泣いて。

私が使命をそして人間じゃないことを

忘れるくらい。

私は彼と出会ったことをとても幸運だと思っていた。

 

「なあ、2日後に依頼なんだ。もしかしたら長く掛かるかもしれない。」

「……そう、気をつけてね。」

「お、おう。」

「何よ。」

「お前にしては珍しいからな。」

「失礼ね、ランク1。そんなのあなたがへましないとは限らないでしょ。」

「ハッハッハ。違いない。初心忘れるべからず、ってことだな。また今度な。」

「ええ、さようなら」

もう二度とセレ・クロワールとして会うことはないでしょうね。

終わりの日が近づいてきた

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ってきた私は、全AIのコントロールコマンドを起動。

私の制御下に置く。

衛星もすでに私の手の中だ。

これで、後戻りは出来ない。

彼らに課すのは私達からの最後の試練。

私達の想いを、彼らに託す。

はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

私の想像以上の結果だった。

衛星砲の攻略はミラージュ主導だったが、フリーも躊躇なく投入した。

各地の混乱に、企業は一時休戦し手を取った。

私に近づくために、彼らは結束した。

ミッションは利益を気にせず三社合同で出され、立場関係なく多くのレイヴンが参加した。

その中には、彼も居た。

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の分身(I-C003-IN)は動力炉の奥に佇んでいた。

そして彼は来た。

 

[レイヴン……]

 

思わず呟く。

 

『お前!』

『これは、セレ・クロワールの声!?』

 

動きが止まったが、一瞬だった。

私は、全力を尽くした。

しかしレーザーも、ミサイルも、グレードも、ブレードも当たらない。ことごとく避けられる。

容赦無いミサイルが私の機体を砕いた。

 

 

 

 

「エマ・シアーズ」

『なんですか。』

「今の事はここだけの話にしてくれ。」

『ですが!』

「シアーズ」

『…分かりました。ですが調べさせて下さい』

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[待っていました。]

 

彼はついに私のもとに来た。

 

 

 

 

 

 

 

[シリアルを確認・・・]

 

 

 

[XA-26483]

 

 

 

 

[登録・・・確認]

 

その間にも彼は次々と障害を突破する。

 

 

[端末セキュリティ・・・解除]

 

 

彼は最後の障害を突破。

私の居る階層へのリフトに乗った

 

 

 

 

[接続を開始・・]

 

 

 

 

[レイヴン・・]

 

 

 

 

[モード変更]

私の最期の時。

 

 

[最終確認へ・・移行します・・・]

 

もうすぐ始まる。

 

[システム起動]

 

 

 

[22-4フェーズ・・]

 

 

 

 

 

彼は一斉にミサイルを放つ。

だけど、私にそんなものは意味をなさない。

すべて撃ち落とす。

彼は無意味とわかったのかミサイルをパージし、そのまま接近してきた。

 

私は上昇、レーザーライフルを撃ち下ろす。

それを横にずれて回避した彼に、私はオービットを放つが、彼はOBで私の下を抜けていった。

 

後ろにまわった彼は、マシンガンを連射。私の背中に弾丸が突き刺さる。

 

黙ってやられるつもりはない。

空中でバク転しレーザーを放つ。

地面に着弾し、爆風が彼を吹き飛ばす。

そのまま私は着地してオービットのレーザーを発射。

それを彼はかすらせながらOB。

恐ろしいことに、そのまま月光を振りかぶった。

思わず後退した私は、足下に彼がパージしたミサイルがあったことに気づく。

それを接近してきた彼に蹴り飛ばした。

正確に彼の目の前に飛んだミサイルポッド。それをオービットで撃ち抜く。

爆炎が彼を包んだ。

 

そのまま爆炎の中にいるであろう彼に向けてブレードを振った。

しかし、そこに彼はいない。

 

(後ろ‼)

 

気づくとバインダーが横一文字に斬られていた。

そこで私はバインダーに自爆シグナルを送る。

パージ、ブースト。

後ろで爆炎が再度彼の姿を隠した。

 

『本当にお前か?強えな!』

[否定、そちらが圧倒している。]

 

戦闘用のボイスで返す。

事実、私の方がダメージは大きい。

バインダー爆破攻撃は彼が離れたことで失敗した。

お互いにエネルギーを使い過ぎ、動きが止まる。

少しの間の後、先に私が動く。

 

レーザーライフルを撃ちつつアプローチ。

 

『っ!速い!』

 

バインダーをパージし身軽になった私は、一気に彼の懐に潜り込む。

彼は背を向けて飛んで私のブレードを避けると、そのまま彼はマシンガンを構えた。

同じ手を食らうつもりはない。

脇抜きショット。

しかし、彼はさらに上昇。

私も追いかける。

そのまま両者はブレードを起動。

すれ違いざまに、同じタイミングでブレードは振るわれた。

私はライフルを、彼はマシンガンを失った。

その爆発で二人揃って地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

[確認完了]

 

立ち上がる。

無機質な報告が空気を震わせた。

彼は合格だ。

役割は終わった。

でも。

でも

ソレでも。

 

彼との決着をつけたい私がいる。

終わるのなら、きっちり終わらせたい。

私は、人格データをすべて分身に移した。

機体のセンサーに同期。

ダメージが痛みに近い感覚で襲ってくるのを、振り切る様に立ち上がる。

 

[これで…最期よ。]

 

ノイズ混じりに放つ。

彼も立ち上がり、身構えていた。

 

『これで、か。いいのか?それで。』

[けじめは、つけたい。]

 

一歩踏み出す。

歩行を想定していない脚部が悲鳴を上げるが、構わない。

 

『そうか…』

 

ブースト。

勝てるとは思っていない。

でも、いい。

せめて彼の手で。

役割の終わった機械に存在意義はない。

だから、機械じゃない生き方を教えてくれた、彼に。

機械である私を。

二人の距離は小さくなっていく。

そして。

 

 

 

 

 

 

 

私の左手が彼の機体の右胸を貫いていた。

 

[え?]

 

なんで。

なんで。

どうして。

 

彼は避けるなり、反撃するなり何か出来たはずだ。

彼のACが膝を折った。

 

私はもう使わないはずだった義体で彼のACに近づいた。

分身を使ってハッチをこじ開ける。

彼は右半身が焼けていた。

 

「どうして!?今のは避けられたはずでしょ!」

 

涙を浮かべて叫ぶように言った。

 

「…ああ、ドジッた。お前にへましないとかどうこう言ったのにな。」

「どういう意味」

「あの攻撃、躱すつもりだったんだ。だがご覧のとおりだ。」

 

背負って機体から連れ出す。

 

「私よりもはやく攻撃すればよかったじゃない!」

「できなかった。どうしてもしたくなかった。」

 

何も言えなくなった。彼を横たわらせる。

 

「俺は昔、片思いの女性がいた。ガキだったもんだから、一途にな。だが、殺しっちまった。」

「そいつが俺を消そうとしてきたんだ。【この世界にあなたは不要】ってな。で、返り討ちにした。」

 

思いの丈を吐き出すように。彼は続けた。

 

「レイヴン同士だからと言い訳のように自分に言い聞かせて生きてきた。だが、無くしたことに変えようはなかった。」

 

彼の話を聞く間にスキャンしたが、すでに手遅れだった。

 

「そんな中、お前と会って話してくうちに、お前は大切に思える人になっていった。だからこそ、同じ結末にしたくなかった。結局、逆になっちまったが。」

 

彼は咳き込む。

 

「なあ、もし生きてく意味…お前の場合語弊があるが、それが無いとしても、消える必要はない。そうやって存在しているうちに見つかるかもしれない。」

「でも……」

「本当は、近くに居てやりたかったんだけどな。失敗しちまった。すまない。」

「そんなの…」

 

卑怯だよ。

 

「でも、また意味は見つけられるさ。俺がお前に会えたんだからな。」

 

瀕死にも関わらず、彼は優しく左手で私の頬を撫でる。

 

「お前は、お前の…信じることをしろ。こんなところで…閉じこもる必要はない。」

 

彼が消えていくのを感じる。

私達は機械なのに。

 

「それしか知らないの…」

 

弱音を吐いてしまう。

 

「一歩踏み出せばいい…俺に会った時みたいに。」

 

私は頷く。

 

「じゃあな…重ねて悪いが…一緒にいてやれなくてすまん…セレ。」

 

彼の手が頬から落ちていく。

機械の体から人工の涙はずっと出っぱなしだった。

 

少し視界が暗くなる。

あの時(母さんとの別れ)と同じだ。

少なくともここにいる必要はないんだな。

彼を抱える。

 

離すもんか。

せめて、彼の亡骸だけでも一緒いてほしい。

一人だけなんて嫌。

そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、探索班が中枢に突入。

管理コンピューターが有ったと思われる部屋に到達した。

しかしそこには何もなかった。

未確認兵器の破片と、コンピューターの不在から、彼が管理コンピューターを撃破。行方不明になったと結論づけた。



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今日は今日、明日は明日

少しだけ設定紹介なところが。


レイヴン、ハリソンは愛機のコックピットで思考にふけっていた。

今日の対戦相手はアキレス、以前僚機として雇ってもらったレイヴンだ。

 

(彼は中量二脚のオールラウンダー。遠距離からのヒットアンドアウェイで倒せるはず。)

 

いつもどうりやるだけだと自分に言い聞かせる。

時間になりアリーナに出る。

 

(さあこい!)

 

相手もガレージから出てきた。

が。

 

(四脚⁉話が違うぞ!)

 

四脚だった。

バズーカ、肩リニア、ショットガン。

 

(完全に潰しに来てやがる。)

 

いい思い出の無い武器ばかり持ってこられた。

 

「ええい!ヤケクソだ!」

 

試合開始と同時にスナイパーライフルを発射。

避けられリニアで反撃された。

直撃して反動で機体が固まる

 

「このッ。」

 

しかし連射され思うように動けない。

そのまま接近され、ショットガンの間合いに。

ハリソンは思い切ってOBを使用した。

ところをリニアで狙い撃ちされ、機体温度が危険域に達する。

バズーカとショットガンの連射でどんどんAPが削られる。

 

(せめてブレードでも当てられれば!)

 

思い切りブレードを振りかぶり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランク70位代突入おめでとう!」

 

クラッカーがなる。

シャルさんがお祝いを用意してくれた。

 

「いやぁ、まだまだですよ。」

「あの一方的な試合(蹂躙)でも?」

「あれだって弱点ついたからですよ。」

「それでも。っていうか脚部を選ばないあたり十分よ。」

 

少しだけ食事が豪華だ。

席について食べ始める。

 

「さっきシャルさん、俺は脚部選ばないって話。どういう意味ですか?シャルだってニュースとか見ると足結構変えてますけど。」

 

あれから何回かミッションに出撃したが、確かに皆足を変えて無かったような…。

自分はあまり必要性を感じず二脚のままだったが。

 

「身近になった私やオーエンがそうだったから気付かなかったのね……。基本、脚部を変更すると操作感が酷く変わるから、慣れた脚部以外あまり使わないのよ。」

「そうなんですか?」

「ええ。全部使えるのは世界でも数える程しかいない。って言うと聞こえはいいけど、器用貧乏とも取れるから気をつけてね。」

「はい…。」

 

多分、釘を刺したのだろう。

確かに全部使えるからと言って強いとは限らない。

精進せねば。

 

「そういえばシャルさんってどっち側って知られてるんですか?あまりミッション内容を見せてもらえてないので。」

「うーん。強制的に企業側につかされてる人が聞いて大丈夫なの?」

 

頷く。

 

「今はどっち派って考えてないです。自分の意思は。」

「……まあ、中立って見られてるわね。んで、私自身としてもどっち派とかないかな。依頼と報酬次第。」

「そうですか。」

 

あとは他愛もない会話で夜が更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう!」

 

玄関を開けると彼女がいた。

 

「ああ、お前か。んでいきなりどうした。」

「ジャーン。これ見て!ついに……」

「おお!おめでと!オリンピック合宿参加状だなんて凄いな。」

「これで夢に一歩近づいた!」

「中学の夏休みか。」

「うん。絶対陸上でメダル取ってやるんだから!」

「気が早いって!あくまで合宿だろ。」

「そだね。」

 

 

 

 

 

 

学校の卒業式が終わる。

 

「じゃあ、今度会うのは入学式ってことで。」

「うん。じゃあね。」

「ああ、またな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢で自分の過去を見たのは初めてだった。

春休み前、幼馴染と最後にあった日のことだ。

俺がヘマすれば最期にもなる。

 

こんな俺だが、実は付き合ってた。

 

いや、さっきの話的に違うだろうとかそういう批判はあるだろう。

あんなので付き合ってた、とかふざけるとか聴こえそうだ。

リア充爆発ともな。

まあ、告ったのは俺から。

冬休み、お互いの中学が一緒だったらって確かめてだな。

でも二人揃って

 

「この年の恋愛ってそこまでだよね。」

 

ってビミョーな温度なんだ。

だから神バズ持ってこないでくれ、頼む。

付き合ってる人の余裕だって言って、C4持ってこないでください。

 

寝ぼけたまま、悶々と誰に向けたかも分からない釈明をベットの中で続けていた。

 

あいつ、どうしてるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

朝、端末で情勢とミッションを確認していた。

レイヴンに関するニュースについて、前から疑問に思っていたことがある。

 

「シャルさん。前から思っていたことなんですけど、いいですか。」

「どうしたの?」

「他のレイヴンのミッションファイル。撃破の項目がレイヴンだったりACネームだったりふらついてるんですけど。」

「それは、ACがAP0になるとAC撃破。レイヴンが死亡、もしくは病院送りになったらレイヴン撃破ってなるの。」

 

なるほど、ACネームだけなら、翌日に復活してる事もありうる訳か。

 

「へ~。そうだったんですか。」

「ここにあなたの名前が載らないことを祈るわ。」

「やめてください!」

 

不謹慎極まりないことを言われた。

 

「そろそろ、言わなきゃね。」

「?…なんですか」

 

シャルさんの雰囲気が少しだけ変わる。

 

「実は、あなたのACには少しだけ細工されてるの。」

「ええっ!何したんですか。」

 

待って!

いきなり何言い出してるんですか!

 

「あなたのモニターには本来()()()()()()()A()R()()()()()()()()()()()()の。」

「…逆じゃ無いんですか?」

 

余分な物を付けてるのではなく、欠けている?

 

「ええ。それ故あなたは見なくていいものを見ることになる。」

「フィルターが無いと言う事ですか。」

「そうね。そのフィルターで弾かれるものを言わないといけない。」

 

「あなたは戦争で不都合なものすべてを目にすることになる。道徳違反、死体、虐殺すべて。」

 

空気が凍る。

 

「……何故です。俺は企業の駒です。不都合なものは見なくていいのですが。」

 

何も知らずに戦った方が企業としては都合が良いはずだ。

 

「あなたは自分自身で判断すべきなの。あなたは自ら選択してここに来た。あなたには事実を見て判断する権利と義務がある。」

「それはあなたの判断ですか。」

「そうよ。」

「…分かりました。」

 

そうか、俺は運が良かった。

今まで、コックピットが剥き出しの機体は作らなかった。

歩兵部隊とかち合わなかった。

もしかしたら、俺は途中で折れてたかもしれない。

無責任だな、俺は。

 

 

「ちなみに他のレイヴンには、APが0の機体は炎上して見える。」

「なんでそんな機能が?」

 

全くの謎機能だ。

 

「過剰攻撃の抑止らしい。企業も国連も、どうやら兵士に死んでもらいたくないみたいだね。AP0っていうのは実は中破なんだ。」

「どうしてなんでしょう。」

「そこまでは知らないな。お偉方に聞ける立場じゃ無いからね。」




読者を振り落としている気がすると前から思ってました。
実際文章力がなさすぎですけどね。

追記。
活動報告、チマチマ更新しております。


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マクリブ解放戦線 特殊部隊撃破

今回、原作キャラが登場。
だけど、世界が変わっても彼は変われ無かった模様。
ネクストがない分弱体化しております。


『ミッションを説明します。』

『今回の依頼主はインテリオル。内容はアフリカ北部にあるマクリブ解放戦線の部隊襲撃です。』

『彼らはマクリブ解放戦線の工作隊、現在両勢力に対し妨害工作を続けています。』

『事前の工作で部隊は砂漠の中で孤立しています。その中での優先破壊対象はノーマルではなく、離脱するホバートラックです。逃さないでください。』

『なお、オーメルからパーツのテスト依頼も来ています。MP-O200散布型ミサイル。完成度は8割後半だそうです。今回の状況に適した装備と私達は判断しています。』

『インテリオルはあなたを高く評価しています。いい結果を期待します。』

 

俺はまだインテリオルの恐ろしさを知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミッション開始。敵部隊を壊滅させてください。』

【システム、戦闘モード起動】

 

敵の横から襲撃するコースで侵入する。

もらったばかりのミサイルを起動。

マルチロックしたミサイルが同時に発射され、敵に襲いかかる。

 

「先にトラックを撃破っと」

 

部隊の先頭でノーマルに守られたトラック集団がいた。

トップアタック。

 

「このミサイル、便利だな。」

 

トラックの集団にミサイルの雨が降る。

一通り目標は壊した。

 

 

(…リニアライフル使わなくて良かった)

 

先日のフィルターの話を思い出す。

ライフルを使ってたら、ミサイルよりも高い確率で殺したところを拝むだろう。

いや、と否定する。

殺したんだ、見るべきだっただろう。

ゲームじゃないと理解するべきだっただろう。

そう思う自分もいる。

ACのようにモニターを挟むと現実味が薄れると実感した。

不都合なものが見えないとなおさらだろう。

だからシャルさんはフィルターを外した。

現実を直視して欲しかったんだ、きっと。

無感情な人殺しに慣れないように。

やる必要が無くなったとき、レイヴンを辞めたくなるように。

続けるなら、それが俺の選択だ。

 

 

グレネードが素通りして現実に引き戻される。

敵ノーマルはGA社製。

戦前、大量に輸出され世界で利用される機種だ。

ノーマルだからって油断するとグレードとバズーカで固め殺しされる。

弾幕の隙間を縫って接近、ライフルを連射しAPを削っていく。

膝をついたノーマルを量産。

一通り目につく敵勢力は倒した。

だが、敵側の義勇軍だから普通に後続部隊に結局殺られるのに変わりは無かったことに後で気付いた。

何故後になったかって?

 

追加依頼だ。

 

『インテリオルがマクリブ解放戦線の基地を見つけたそうです。依頼を受諾した場合、補給後、再出撃になります。』

 

受諾した。

 

 

 

 

 

マクリブ解放戦線の基地で俺はノーマルの相手をする話だった。

 

しかし。

 

【非公認ACパイロット、アマジーグ。ACハイレディンです。敵はショットガンを装備。近距離での戦闘は危険です。機動力を活かした戦闘スタイルと思われます。】

『オーダー⁉話が違います‼』

 

待ち受けていたのはオーダーだった。

 

『お前は……まあいい。他の奴は撤退した。諦めろ。』

『気をつけてください。彼はトップクラスのACパイロットです。最悪撤退しても批判はないでしょう。追加依頼分の報酬以外は貰えるはずです。』

 

相手は襲い掛かってきた。

応戦する。

 

またたく間になります接近されショットガンの間合いに。

 

(速い!)

 

ただ速い。

ショットガンをなんとかかすり傷を負いつつ回避するが、その先にハイレディン。

強烈な回し蹴り。

強化人間の特権である精密な機体制御で放たれたそれを回避できない。

蹴られて体勢の崩れた俺を掴んで壁に押さえつけられた。

 

『足掻くな。運命を受け入れろ』

「まだ若いんでね、そう言ってられるか!」

 

俺はEOを起動、ハイレディンは一旦後退する。

しかし、張り付いたハイレディンを離せない。

EOがなんとか攻撃できている状況。

 

(どうする。離脱も厳しい。)

 

そんなとき、アマジークに異変が生じる。

 

『グゥ…消えろ消えろ消えろ!』

 

中途半端な距離でショットガンを乱射。

その隙に一旦距離を離すことに成功した。

 

「一体どうしたんだ。奴は。」

『彼は不正規の強化手術を受けています。精神が定期的に不安定になるので、部隊運用が出来ないと聞きました。』

 

次にこんな幸運はきっとこない。

 

速いならどうする。

機体の違いからくる差をどう埋める。

 

右手のリニアを使う。

 

なら当てるのにどう動く。

 

やつは来た。

俺の左手に回り込むようにカーブを描くように。

俺の左手はブレードだ。

なら。

俺は右に少しだけ旋回、ブレード。

ショットガンの弾丸が後ろを通る。

そのままリニアをハイレディンに向ける。

タイミングを合わせ……

 

『食らうか』

 

すぐに撃つと読んだ彼はOBを起動。

だがな。

 

「それが狙いだよ!」

 

同時にリニアを発砲。

命中しコントロールが悪くなったハイレディンは倉庫に肩を掠らせOBが緊急停止する。

 

『チィッ!』

 

熱暴走によって彼のACが鈍くなる。

そこにEOとミサイルを同時に放った。

多くが命中し熱暴走が続く。

 

『貴様!』

「逃がすか!」

 

なけなしのエネルギーで物陰に移動しようとするハイレディンをリニアで吹き飛ばす。

 

『バランサーが!』

 

ハイレディンは着地できず転倒する。

そのまま奴にマウントポジションを取った。

 

 

 

ブレードを突きつける。

 

「全武装を解除しろ。コックピットを焼くぞ。」

 

アマジークは大人しくなった。

全武装をパージし、コックピットから出てくる。

 

「甘いな。お前は」

 

生身で語りかけてきた。

 

「ああ、甘いよ。俺はいきなり日常から引っ張り出されて戦場に来たんだ。」

 

俺は正直に答える。

 

「……縛られたレイヴンか。なら、お前はその力で、何を守る。」

「家族を、自分自身を守る。気高い志を持ってるわけじゃない。」

「企業にいいようにされてもいいという訳か。」

「だったら、俺かお前はもう死んでる。我を少しでも通せるようにしたつもりだ。」

 

俺は選んだ、この道を。

 

 

「俺はこの基地の脅威の排除しか依頼されてない。早く撤退しろ。」

 

まだ、徹しきれてないけども。

 

「……分かった」

 

マウントポジションを解く。

 

『いつかその甘さに後悔する日が来ないことを祈る。俺はそうだった。』

「俺も、いつかそうなるかもしれない。気をつける。」

 

彼は無武装のままOBで去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

『…ミッション終了。帰還してください。』

「不満ですか?」

『いえ、私はあなたの判断を否定しません。』

「そうですか。」

 

 

 

 

 

 

 

「で、実際は?」

「…言いませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅のバルコニーで、シャルは月見酒を楽しんでいた。

 

「おーい。元気にしてたか?」

 

突如声がする。

見ると屋根にぶら下がる少女が一人。

 

「全く。屋根からなんて何考えてるの。」

「いや、屋根に落とされたんだ、っと」

 

勢いをつけてバルコニーに入る。

 

「さて、仮の我が家にようこそ、4人目の首輪付きさん?」

「おおっと。その言い方はよしてくれ、なり損ねのラストレイヴン。」

「それは酷い言いようね。最後まで生き残ったわよ。」

「一人じゃないじゃんか。それは置いといて。」

 

首輪が揺れる。

 

「いい情報はないな。空振りだ。」

「そっちもか。こっちもいうほどの物はなかったよ。」

「そうか…」

 

シャルは用意してあった盃を渡す。

 

「お、ありがたい。」

 

しばらく静かになる。

 

「ところで、あいつはどうなんだ。」

「アキレス?やっぱり筋はあるわね。オールラウンダーだし。だけどイレギュラー(例外)かはまだなんとも。」

「協力者になってくれそうか。」

「彼、彼なりにきっちりレイヴンやってるから、彼に言ってみないと分からないわ。納得してくれればね。」

「なら、まだ様子見だな。」

 

時が来るまでね、と首輪付きと呼ばれた彼女は盃を呷った。

 

月は静かに、彼女達(あり得ない結論を見た者)を見下ろす。

 

 




精神汚染を受け入れても性能の上がり幅は小さいです。
が、実力はあります。
バランサーが壊れてマウントポジション取れなければ、アキレスが不味かったはず。
そう考えてます。

追記
書き直し忘れたところを発見、修正しました。


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交錯

最近アーマドコアの過去の記事を漁ってます。
発見も多いです。


昔、小さな里がありました。

そこは誰からも忘れられ、まわりとの関わりが途絶えていました。

怪物達が近くに住んでいて、里の人々は彼らを恐れていましたが、怪物達は里を襲おうとは考えていませんでした。

中には彼らと仲良くしていた者もいました。

ですが、ある日。

旅の者たちが外から迷い込んでしまいました。

彼らは里の人々が驚くようなものばかり持っていました。

それを見て、里の若者たちは近くにいる怪物達に立ち向かおうと、彼らに武器を持ってきて欲しいと頼みました。

何も知らない旅の者たちは、正直に渡しました。

若者たちはやがて怪物達を攻撃し始めました。

怪物達もたまらず反撃します。

ですが、見たこともない武器にだんだんと追い詰められていきました。

 

そこにまったを掛けた少女がいました。

彼女は怪物達と仲良くしていた少女です。

彼女は旅の者達からある道具を貰っていました。

あたりが急に眩しくなり、里の若者たちはどうして怪物達を倒そうとしたのか。どうしてこんな武器を持っていたのか忘れてしまいました。

そして里に帰って行きました。

そこに少女の姿はありません。

少女の友達たちはとても悲しみました。

ですが、外からまた一人、誰かが迷い込んで来ました。

彼は、かつて旅の者たちについていった者でした。

「あの子なら、外にいたよ。彼女も旅をしているみたいだった。」

友達たちは里を飛び出し旅を始めました。

少女を見つけるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいぶ派手にやられたな。」

「本当に酷い目に会いました。」

 

ガレージで整備の方と話をしている。

俺たちは俺たちだけで傭兵をやってるわけじゃない。

整備士や仲介人、オペレーターなどいろいろな人に支えられている。

彼もその一人で、オヤジさんと呼ばれてるベテラン整備士だ。

ガタイがいい中年の男性で整備班を仕切ってる。

 

「すいません。実力不足です。」

「ま、ホワイトアフリカの英雄様と渡り合ったんだ。必要経費と考えるか。」

 

そう言うと、ACに向き直る。

 

「余剰パーツとは言え、元はシャルのパーツなんだ。無駄にはするなよ。今回みたいに全力を出した結果ならそれでいい。」

「分かりました。」

 

 

 

 

この人たちはシャルさんが人脈を使って呼んだ人達だ。

オヤジさんはシャルさんの友人らしい。

 

でも、少しおかしいんだ。

シャルさんのプロフィールを見た。

 

【3年前に現われ圧倒的な力でアリーナの上位に短期間で食い込んだ。彼女の身元は分かっておらず、友好関係にある人間も少ないため正体は未だにはっきりしない。】

 

これで中立なのだから、人脈なんていうほどのものはないはずだ。

それにどうして俺はシャルさんに預けられたのだろう。

企業にコネのあるレイヴンじゃなきゃいけないはずだ。

 

 

一体、シャルさんって何者なんだ?

 

 

 

 

 

自室の机に向かう。

毎日のように依頼がある訳じゃない。

何もない日は、シャルさんに貰った通信教育のテキストに取り組んでいる。

せめて一般教養は学んでおかないと、と義務教育分を頼んでおいた。

できるだけ選択肢を残したくてやっている。

もし早く戦場から離れられても、みんなに取り残されて一人というのはごめんだ。

端末を見ると依頼が来ていた。

【潜伏テロリスト掃討】

 

『ミッションを説明します。』

『日本に潜伏するテロリストに対し各勢力による掃討戦を行います。』

『日本は勝敗委任国であり、国家、企業ともに出兵を控え、侵略を受け付けない状態です。』

『これに侵攻することは条約違反にあたり、各勢力から徹底的に攻撃されます。』

『しかし、これを気に食わない者たちが潜伏。テロを予定しているとの情報が入りました。』

『これに対し各勢力が彼らを扇動して利益を得ることを互いに警戒。話し合いの末、これを合同で殲滅する運びになりました。』

『機動兵器の破壊があなたの役割です。』

『乱戦となる上、今回ばかりは戦力が特定できませでした。』

『その為、今回は僚機の選択が許可されています。あまり無理をされない方がよろしいのでは?』

『以上です。力を示すにはいい機会だと思います。悪い話ではないと思いますが?』

『いい返事を期待しています。』

 

 

 

 

相変わらずムカつく。

でも身近なところだ、参加する意義はある。

しかし珍しいな、オーメルが情報不足なんて。

端末でレイヴン専用の掲示場を見たが、ちょっとした騒ぎになっている。

まあ、受諾っと。

選択する余地ないしね。

……3日後⁉大丈夫か!連休真ん中だぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦前日、割り当てられた地区が京都郊外だったので、京都で軽く観光することにした。

シャルさんも依頼を受けたけど、地区が長野の山の方らしい。

一人ふらつく。

古き良き町だ。

ジジイ臭いところが出てくる。

連休なだけあって、人通りが少し多い。

いろんな人とすれ違う。

 

 

そんな中、()()()の顔を見つけた。

 

(ツイてねえ。)

 

俺は知らない人を装った。

俺はサングラスをかけてる。スポーツ帽も。

雰囲気も変えようと頑張ったつもり。

だけど。

 

「…ン!…練!」

 

なんでバレたんだろうな

できるだけ気付かないふりをする。

 

「練!練ってば!」

 

だけど近づいてくる。

 

「練!」

 

肩を捕まれ振り向かされる。

目の前に彼女の顔。

この前夢に出た幼馴染。

 

 立上 紫蘭

 

「どなたですか、いきなり。」

「惚けないで。」

 

ぴしゃり、と言い切られる。

 

「世の中には、よく似た別の人が…」

「へえ、あご裏にあるほくろまで一緒なんて凄いですね。」

「……」

 

あ、普段気にしてなくて対策を怠った。

 

「…心配してた。病院の人に、病気でいつ死んでもおかしくないって言われてて。見つけたら、ピンピンしてんじゃない。損した。」

 

本当にそう思っているようだ。

涙ぐんでる。

 

「……参った。お前がいるなんて思ってなかった。」

 

諦めて認める。

これ以上、他人のふりをする自信が無かった。

 

「できるだけこのことは言うな。いろいろめんどくさいことになるから。」

 

 

 

 

 

アマジークさん。ちょっと違うけど、早速甘さが裏目に出たよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで何してたの?ずっと病気だって聞いてたし、さっきだって無視するし、惚けるし。」

 

ところ変わって裏路地の小さな喫茶店。

シャルさんに相談したらここを教えてくれた。

シャルさん達が秘密の話をする時に使うんだとか。

店内は静かなピアノが流れていた。

 

「企業に捕まってね。その手下さ。父さんたちが人質になった。」

「え…嘘、逃げられないの?」

「今はな。」

「そんな…」

 

実際厳しい。

 

「だけど、ずっと奴らにやられっぱなしってわけじゃない。これでもまだましな待遇なんだ。」

「そう、そうなんだ…。ところでどうしてここに?」

「任務で。詳しくは言えない。お前は?」

「おばあちゃんの墓参り。終わったから観光してた。」

「そうか。」

 

話が途切れ、ピアノがその間を流れる。

 

「いつまで滞在するか知らないけど……。」

 

俺から切り出した。

言っといても罰は当たらないだろう。

 

「上から聞いた話では明日の夜、日本と企業の合同で潜伏してるテロリストをを掃討するらしい。郊外で戦闘になるだろうから気をつけろ。」

「そうなの⁉一応明日午前で帰りだから多分大丈夫。」

「そうか、良かった。」

「そういえばさ、」

 

そこからいろんなことを聞いた。

最近どうだとか。

俺の親がどうしてるか。

学校がどうなってるかも聞いた。

最後のは少し避けてくれてたんだろう。

が、うっかり言っちゃてた。

俺は行けないからとか気にしなくていい、って言ったら続けてくれた。

何してるかは気になってたからな。

 

「そろそろ、行かなきゃ。」

 

レイヴンになったことは、紫蘭には言わなかった。

 

「……そうか。」

 

お互いに口惜しそうな顔をする。

 

「連絡先とかはどうにかならない?」

 

俺は少し躊躇う。

 

「偽名だけど、こいつでいいなら。頻繁に掛けるなよ。」

「アキレス、か。判った。」

 

バレたらバレたでその時だ。

 

「まあ、生きてたら適当に連絡する。」

「待ってるね。ま、死なないでね。」

 

紫蘭が帰る。

 

一人残された。

ふぅ。

なんとか……なってないな。

あいつ、俺の事漏らさなきゃいいけど。

口軽いからなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都郊外のガレージに来た。

アセン確認だ。

テロリストだからポットとか湧くと思う。

リニアはブレて小さい相手には当てられない。

アサルトライフルに変更。

あとは大丈夫か。

ミサイルも6連がある。

試作品だった散布型ミサイルは一応返品してある。

今付いてるのは7連マイクロだ。

一通り確認し、ガレージを出る。

 

 

 

 

 

 

 

外は暗くなっていた。

 

 

 

 

 

とっくに自分は誰にも誇れない自分になっていた。

でも生きるため、選んだ。

後悔しても、今は進まなきゃ。

立ち止まりは出来るけど、時間は戻せないから。




アセンブルを画像で活動報告に載せました。
画質は期待しないでください。

主人公の名前は出すか出さないか迷って今更出しました。
主人公:神津 練 (カミツ レン)
幼馴染:立上 紫蘭 (タツカミ シラン)

となります。
では。


語尾が酷かったので修正しました。
推敲をもっとしようと決意。


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潜伏テロリスト合同殲滅

ブレードの為にインターネサイン破壊Sなんて冗談じゃ…→こんなものか。終わってみたら呆気ない。

九連マイクロ両肩に積んだ重量二脚であっさり倒せた。


【戦闘システム、起動】

 

京都郊外、森の中。

ACを戦闘モードにし、準備を整える。

 

『シェリング、準備完了。よろしく頼む。』

「こちらも準備完了、こちらからもよろしくお願いします。」

 

僚機は、シェリング。

歴戦のレイヴンで、信頼できそうな人だ。

後ろから撃たれたら話は違うけど。

 

『今、司令部が最終勧告をしています。相手が受け付けなければ、あなた達の出番です。』

 

今回、RLMM(レイヴン統率管理機構)に設立した司令部の命令が依頼となる。

全勢力からの、利害の一致からなる合同依頼は、基本名義はRLMMになる。

 

『返答、ありません。作戦開始の命令がでました。』

『シェリング了解、作戦行動を開始する。』

「アキレス了解。シェリングに同行します。」

 

作戦開始。

穴を掘って作られた基地の前に来た。

逆関MTが攻撃。

後ろに街があるため迂闊に避けられない。

ダメージを無視してブレードで両断。

シェリングも同じようにMTを始末した。

基地の扉が開く。

 

少し進んでまた扉を開く。

部屋の中に浮遊型警備ポットがうようよいた。

 

「レーザーライフルはオーバーキルです!ここは僕が!」

ライフルとEOで撃ち落としていく。

片付いた。

『助かる。…俺の苦手なタイプでな、すまない。』

「いえ、大丈夫です。行きましょう。」

 

道中のMTを潰しつつ奥に進む。

とりあえず突入経路の機動兵器を優先して撃破して欲しいだそうだ。

 

 

 

『そこまででいいそうです。引き返してください。』

「了解。」

 

とりあえず奥まで来た。

あとは、工作部隊の仕事だ。

 

『別のハッチからACがでできています。急いでください。』

『なるほど、陽動か。』

抵抗のない道を引き返して出口まで来た。

『硬い俺が先行する。安全を確認し次第前後入れ替えだ。』

「了解。」

 

扉を開ける。

シェリングが飛び出したが、誰もいない。

 

『クリア。該当地区に向かうぞ。』

 

少し森を北に進むと、ノーマルの部隊が街の方角に向かっていた。

 

「敵の右から仕掛けます。火力支援を。」

『了解、無茶はするな。』

 

マイクロミサイルで先制攻撃。

手前のGAノーマルが膝をつく。

グレネードライフルが一斉にこっちに向けられる。

俺は後ろに回り込むようにサテライト。

そうだ、俺を見ろ。

弾幕を掻い潜る。

そして、真反対まで来た。

 

『飛べ!アキレス!』

 

一気に高度を上げる。

後ろを向けたノーマルに、シェリングさんのレーザーが襲いかかった。

何機か振り向こうとしたが、させる訳がない。

マイクロミサイルを撃ち下ろす。

標的を変えたノーマルが撃墜される。

飛ぶ前の位置に戻り、ライフルを連射。

ノーマルが砕ける。

少数対多数は包囲、挟み撃ちにかぎる。

 

「全機無力化完了、他には?」

『今のところ、大丈夫です。念のため、補給を済ませて下さい。』

「アキレス了解。」

『こちらシェリング。ジェネレーターがおかしい。点検させてくれ。』

『分かりました。二人とも安全圏に後退してヘリを待って下さい。』

 

その時の俺は燻ぶるような、物足りないような、なんとも言えない、不満な心持ちだった。

 

理由なんて分からない。

だけど、ここにある感情は確か。

 

『緊急事態です!大阪方面を担当していたレイヴンが正体不明機に撃墜されたそうです。リカバーを依頼されています。』

「了解、APは全快じゃないけど、それ以外の補給は終わった。」

 

生きなで面食らったが、問題無い。

 

『すまない。ジェネレーターが直らん。先に行っててくれ。』

「分かりました。」

 

ヘリに固定され、空輸してもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大阪海上ハイウェイ

 

『正体不明機は市街地に向かっています。該当区画の避難は終了していますので、早急に撃破を。』

 

降下開始

 

海は浅い。

足首あたりか。

 

 

【敵ACを確認、オニキスです。】

 

オニキス?

 

赤い機体に⑨のエンブレム。

軽EO実コアにリニアライフルだが、確実に奴だ。

血が沸く。

理由なんてどうでもいい。

ぶつけさせろ。

 

 

 

アサルトライフルを連射。

相手も反撃にリニアを発砲。

海上でミサイルとEOを交えた激しい銃撃戦。

だが。

 

(この程度か?この程度だったのかお前は!)

 

こんな奴に人生を狂わされたのか。

こんなものじゃないだろう。

 

 

 

リニアを掻い潜り、EOとライフルを当てていく。

明らかな命中率の差が出てきた。

リニアがすぐそばを通り過ぎて行くたびに沸き立つのを感じる。

 

オニキスがマイクロミサイルを放つが、俺の後ろを通り過ぎていく。

弾が切れたかミサイルをパージ。

リニア一本で攻めてくるオニキスを、左右に機体を揺さぶって対処する。

 

そしてオニキスのリニアライフルの弾が切れた。

グレネードに切り替えるそいつに対し、俺はやつの後ろを取る動きをする。

 

(さあ来いよ、避けてやる。)

 

しかし、一向にこっちを向けそうな気配が無い。

もっといい動き方があるだろう。

 

「やっぱり、無人か。」

 

勝てないと踏んだか、そのまま離脱をしようとブーストを吹かしたそいつに、俺はありったけのマイクロミサイルを撃ち込んだ。

ブースターに当たりエネルギーが逆流したのか、爆装して墜落し、珍しい事に海上で爆砕した。

 

 

 

「なんだよ……」

 

その次に続くであろう言葉を言いかけて気づく。

 

(今、俺は何を言おうとした?()()()()()?あいつに対する恨みの言葉だろう、そこは‼)

 

思いもよらない言葉を言いかけた自分に愕然とした。

俺は何を…。

どうしてしまったんだ、俺は。




最後の戦闘は、ラストレイヴンのVRアリーナランカー、ベイビープレスとの戦いを参考にして書きました。
なので少し弱い。

主人公が少しづつ変わっていきます。


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emergence

蛹は既にある。


あれから、量産のMTやノーマルだけを相手にするのに、物足りなさを感じるようになってきた。

そんな自分に嫌気が差す。

ノーマルはAPを0にすればそいつが停止するだけだ。

だが、安価なMTは違う。

オーバキル、破壊してしまっている。

殺しているのだ。

なのに、物足りないだなんて。

 

アリーナで60位を撃破し、練は控室で椅子に座り込む。

 

ああ、物足りない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りを自然に囲まれ、緑豊かな土地。

アナトリア中立コロニー。

 

U.Nオーエンはその南でACに乗り、佇んでいた。

依頼が来たのは昨日の夜。

ヘリに揺られながら寝て、2時間前についた。

 

依頼メールの内容を思い出す。

 

『マクリブ解放戦線から脅迫状が送られてきた。内容はアナトリアコロニーへの直接攻撃。取りやめて欲しければイフェルネフェルト教授の身柄を渡せだそうだ。』

『義肢技術で繁栄しているコロニーから、その権威を渡せる訳がない。』

『その為に、レイヴン。君にマクリブ解放戦線を撃退してほしい。』

『予想される敵侵攻ルートで待ち伏せし、これを撃破してくれ。』

『全滅させる必要はない。多少はこちらの戦力で対処できる。』

『伝説と呼ばれる君にならできると信じている。頼む、オーエン。』

 

 

 

アナトリアからの依頼は初めてではない。

ここは数少ない義肢技術、つまり兵器以外で発達した中立コロニーだ。

それを、国連とレイレナードに売りつけるものだから、周辺からちょっかいを受けている。

少し前は、GAの支援を受けたテロリストのハイエンドノーマル部隊に襲われていた。

だが、そういう、いつもと違う相手と戦えるから、というだけでここの依頼を受けている訳ではない。

 

俺はコロニーになる前のここで生まれた。

その頃は、企業に狙われそうにない小さな街だった。

故郷に何も感じないほど、俺は冷酷な人間ではないと思っている。

知り合いを簡単に失うほど力の無い人間でもないとも。

 

 

 

 

『来ました。迎撃を。』

「どのくらいか?」

『…第一波。ノーマル8、MT12。戦闘ヘリが4機です。第2波も考慮して戦闘してください。』

「任せろ。」

 

まず、めんどくさい戦闘ヘリから落とす。

高度を合わせ、リニアで落としていく。

敵部隊中央に着地し、ショットガンとリニアで片付けた。

 

『第2波、ハイエンド3機です。気をつけて。』

「随分と豪華だな。」

 

BFFのハイエンドがこっちに向かってくる。

左から順にα1、α2、α3、とオートでコードをつけていく。

リニアでα2を攻撃。

3機はリニアを回避、散開して包囲しようとしてくる。

 

「なら…」

 

α3に向けマイクロミサイルを放ち、自分は左側に後退、引きつける。

α3はいくらかミサイルが命中し足が止まる。

それを受けた敵は陣形を変更。

左からα1、α3、α2でデルタフォーメーションを組んでくる。

だが、OBのあるACでそれは考えものだ。

一気にデルタの真ん中を突っ切る。

そしてすれ違いざまに両手の銃を撃ち込んだ。

加速した機体から放たれた弾丸が装甲にめり込む。

α3は沈黙した。

一方その他の機体は得意距離になったとスナイパーキャノンを構える。

 

「そう簡単に当てられると思うなよ。」

 

弾丸は左右に機体を揺さぶりつつ(小ジャンプ移動で)迫るローレンスの横を通り過ぎていく。

お返しにとオーエンはマイクロミサイルをα1に放ちOBを起動。

α2に向かう。

ショットガンをパージし、ブレードを装備。

 

「チェストォッ!」

 

左手と左足を切り落とし、α2は転倒。

α1も膝をついていた。

 

「アナトリアのノーマル部隊には荷が重いな。」

『敵影ありません。ミッション完了、帰還して。』

「了解。」

 

 

 

 

 

 

ガレージで俺は休んでいた。

 

「お疲れ様。大丈夫?」

「ああ、フィオナか。問題無い。だが、マクリブにも狙われるなんてどうしたんだ?不祥事でもあったか?」

 

今まで、大規模武装勢力に狙われたことは無い。

ちいさなテロリストぐらいだ。

 

「これと言ってないの…。私達もびっくりして。」

「…マクリブといえば、英雄アマジークだな。そういえば、そいつを負かしたやつがいる。」

 

思い出すのはあの少年の姿だ。

 

「アマジークを?誰?興味ある。」

 

フィオナも興味津々だ。

 

「新人のアキレスさ。もっとも、バランサーが壊れて倒れたところでマウントとったらしい。」

 

あいつが本気で奴を撃墜してたら腰が抜けてだだろう。

負かしただけでも十分驚いたのだから。

 

「へぇ〜。でも凄いよ。バランサーが壊れたところを確実に降伏させる判断ができるんだから。」

「ま、そうともとれるな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナトリアから少し離れたところに、一機のオーダーがいた。

 

「それでいい。それで……。」

 

アナトリアに背を向ける。

 

『いいのか?あれで?』

「余所者が入るべきじゃない。外野は黙ってて、ストレイド(4人目の首輪付き)。」

『分かったよ。見つかる前にとっとと離脱しろ。別世界のリンクス戦争の英雄。』

 

その白いオーダーはOBで去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イフェルネフェルト教授、これは後に必要になる技術です。あなたの物のように扱えなければいけませんよ。」

「納得できるかッ!私の技術は多くの人達の為にある。戦争に使うなど言語道断だ!」

 

イフェルネフェルト教授の部屋で、何かを強く叩く音が響く。

彼が机に拳を叩きつけたのだ。

 

「戦争が早く終われば、犠牲者が減るんですよ。それとも、あなたはこの半端な管理戦争を続けて、あなたの技術でコロニーが繁栄する事を望んでいると?」

「貴様っ!」

 

怒りの形相で彼を睨む。

それを意に介さないと、もう一人の男は飄々としたまま続ける。

 

「事実を述べたまで。あなたがなんと言おうと、この技術は持っていてもらいます。」

「……お前は、何を望んでいる。」

 

部屋を影が出ていく。

その口元は、笑顔で歪んでいた。

 

「まだ、お伝えできません。では。」

 

部屋は教授一人になった。

 

「やはり、MTも、ACも、この世界も、奴が……。」

義肢研究者でしかない彼には呟くことしかできなかった。




追記
アセンブル更新しました。


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三匹の首輪付き

出された三択に納得いかず、すべてを壊して進んだ首輪付きの話。






筆が止まらず、連日投稿です。
また、いつもよりもご都合主義、駄文だと思います。

気付いたらUAが1,000超えてました。
このような拙作をお読みいただきありがとうございますこれからもよろしくお願いします。


リビングで端末を見る。

いつものようにミッションを確認。

 

 

『ミッションを説明します。』

 

『あなたの戦績が評価されました。今回の依頼主はローゼンタール、我々の親会社です。』

 

『今回は中国西部の国境にある基地を襲撃する際の遊撃戦力をお願いします。』

 

『我々は爆撃による航空機倉庫の破壊後、本格的な侵攻を考えています。その前段階としてあなたには我々の部隊とともに対空砲の破壊をしてください。』

 

『その後、航空機以外の機動兵器の排除をお願いします。報酬は基本金額に加え破壊した兵器毎に追加の予定です。』

 

『ローゼンタールとも繋がりを作れる良い機会です。そちらにとっても悪い話ではないと思いますが?』

 

 

 

俺は、来るとこまで来たと思った。

基地襲撃。

基地に歩兵がいない方がおかしい。

ソフトキルをする。

その事に強い抵抗を感じた。

だが、拒否権は無い。

 

自分の中の欲求をそう誤魔化した。

行きたいという欲ではなく、脅迫されていると良心に言い訳した。

フィルターを解除したにも関わらず、俺は戦い(ゲーム)を楽しもうとしていた。

 

そう、思っていた。

 

「どうしたの?深刻そうな顔して。」

 

シャルさんがリビングに入ってきた。

 

「シャルさん、相談したい事があるんです。」

「何?どうしたの?」

「レイヴンって、罪悪感があっちゃいけないんですか。俺、ずっと人殺しした事を怖がってるんです。でも……」

 

なよなよしているのは分かっている。

 

「別にそれが悪いとは思わないよ。そういう人は居るし、その子が辞めていくのも、乗り越えるのも見た。乗り越えられなきゃ、切りがいい所で辞めればいい。」

「そう、ですね。でも最近変なんです、俺。」

 

シャルさんは腰を下ろし、頷いて先を促した。

 

「楽しいんです、戦いが。ゲームとして見ないようにしても、何処かで壊すのを愉しんでるんです。そんな自分が、嫌、なんです。」

 

シャルさんは少し考えた後、口を開いた。

 

「正直、答えは人それぞれ。私が手出しできる問題じゃないと思う。悪いけど私は戦いを愉しんでる人種。いまだ抵抗がある君に無闇に答えられないや。ごめん。」

 

がっくりと項垂れるシャルさん。

 

「いえ、こちらこそすいません。いきなり。」

「いいのよ、それを口に出して気が楽になるなら。」

 

宥める様に優しい表情のシャルさん。

 

「でも、苛つかないんですか。殺しているのにうだうだしてるんですよ。」

「そうなるのが当たり前。むしろ、二面性を受け入れるなら壊れないから、ましな部類よ。大なり小なりジレンマを抱える年頃だし、仕方ないよ。」

「……軽いですね。」

「まあね。じゃ、もののついでに、友達から昔聞いた作り話でもしよっか。」

「いきなり話変わりましたね。」

「ジレンマ繋がりでね。まあ聞いて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女達3人は旅をしていました。

元気な少女と少年そして、そしてそれを見守る姉貴分。

しかし、お金が尽き困ってしまいます。

ところが、とある女性が声を掛けました。

 

「私と一緒に傭兵をやってみないか。」

 

彼女達は同意して傭兵を始めました。

リンクスとして

 

その世界は汚れていました。

地上は常に穢れ、高貴な人々は空飛ぶゆりかごに暮らしていました。

彼女達は強かった。

穢れた世界で、そこにいた様々な戦士や怪物に勝ち続けました。

しかし、3人は仲違いをしてしまいました。

最初は少年が、殺すことにのめり込みたくさんの人々を殺しました。

残った彼女達は、その世界の指折りの戦士とともに少年を倒しました。

そして、少女は、未来のために穢れを生み続けるゆりかごを落とし、それを支えていた力で宇宙への道を切り拓くといい、もう一人は今いる命を捨てることは無いと対立しました。

二人は、激しく戦い、姉は命を落としてしまいます。

 

 

 

姉の最期の言葉に、少女は悩みました。

ゆりかごには確かに人がいる。

未来を生きるべき子供がいる。

道を切り拓いても、通る人が死に絶えては意味がありません。

既に多くの人が亡くなりました。

もし、これ以上いなくなれば切り拓いた意味もなく滅んでしまう。

かと言って、このままにしても穢れが蔓延し滅んでしまいます。

 

 

 

 

彼女は、今も未来も捨てられませんでした。

今があるから未来がある。

捨てられるのは過去だけだ。

彼女は過去を捨てたから今がある。

 

 

 

かつての仲間に

 

『既に時は痛みを伴わず解決するときを逸している』

 

と、止められました。

しかし、彼女は言いました。

 

「そんなの、クソ喰らえ。今を諦めて進んだ道に未来があるか!」

 

と、満面の笑みで。

彼女の人生がそれを証明していました。

 

 

 

 

彼女はまず仲間をかき集めました。

その中には、かつて友だった少女もいました。

そして、彼女は4つ目の答えのために、今まで起きた本当のことを世界に伝えました。

 

世界はこのままでは滅んでしまう。でも、ゆりかごを落とし道を切り拓いても、通る人が死に絶えてしまう。

未来だから別にいい?

じゃあ、あなたの子供の未来はどうなってもいい?

残した子供が生きる未来は?

でもゆりかごにも、子供がいる。

ゆりかごが壊れてしまえば、子供も穢れの中、生きていかねばならない。

なら、ゆりかごが落ちるのは一度だけでいい。

少しの間、羽を休めればいい。

未来のため、子供のため。

もう一度飛んでもらう。

と。

 

 

綺麗事だ。

できる訳がない。

 

 

 

反対の声が押し寄せます。

かつての仲間からすらも反対されました。

でも、彼女は笑い飛ばしました。

 

全員が反対ではありません。

彼女には、賛成してくてる仲間がいました。

 

真実は扇動となり、親は自らの子を案じ、その想いが力は無いと疲れ切った大人を立ち上がらせました。

本当の扇動は人々に伝わらなきゃ意味がない。と少女は言いました。

 

 

地上から。

何も知らなかったゆりかごの中から。

 

彼女はそれを見て、力のある者、夢を持つもの、様々な人に声を掛けました。

ラインアーク、知り合いの企業の社長

 

 

力のある者は、彼女の戦いを手伝い穢れの無い土地を手に入れ、夢のあるものは落ちれば二度と飛べないとされたゆりかごを、再び飛べるようにしました。

 

 

[できない]を[できる]ようにするやり方を少女は知っていたのです。

 

 

 

 

ゆりかごは数を減らして空を飛び、羽を休めていた間に道は切り拓かれました。

 

それを見届け、少女は一人、旅を続けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと言うか…。」

「本人が派手な女性だっだからね。でも、彼女は()()()()()()()()()()()だったな。」

 

シャルさんは笑う。

 

「でも、答え方の一つだと思うよ。選択肢なんてぶち壊す。己の意思のまま。レイヴンらしいと思わない?」

「……確かに。覚えておきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都の喫茶店。

シャルはカウンターで待ち合わせをしていた。

 

「よお。待たせたな。」

「約束の時間の5分前。全然問題無い。」

「そうか。よかった。」

 

ストレイドが隣に座る。

 

「コロニーアナトリアで目撃情報だ。イフェルネフェルト教授の部屋に見知らぬ男が入ったらしい。20後半、銀髪の男。最近目撃される姿と同じだ。」

「アナトリア…まさか。」

 

信じられない、と驚きを隠さないシャル。

 

「奴、種まいてやがる。今更遅いだろうに。」

「あれが無いのに?」

「ああ。私達が潰したにも関わらず、な。使うなら表舞台に出る筈だ。」

 

苦々しい表情のストレイドは俯いて言葉を飲んだ。

 

「そう……もう一方は?」

「ダメだ。何も出てこない。ただ最近GAのメールサーバーがクラッキングを受けたらしい。予想通りなら…」

「保たないはずの均衡が崩れると。」

「ああ。忙しくなる。」

 

そこで会話が途切れる。

いつものようにピアノが流れていた。

 

「そういえば、最近アキレスが悩んでて。」

「それで?」

 

ストレイドがコーヒーカップを口に運ぶ。

 

「あなたのあっちの話しちゃった。」

「ごハッ!」

 

盛大にむせるストレイド。

 

「お前、なんで、ゴホッ。」

「大丈夫。不味いところは誤魔化した。彼、ジレンマで悩んでて。」

「全く……」

 

復旧したストレイドは懐かしんでいた。

 

「私が一番ぶっ飛んだことしたんだっけ。」

「後で聞いたシナリオ、ガン無視だからね。」

「お前が言えるか。」

「確かに。」

 

二人は一気に笑顔になる。

 

「あいつ。後悔してたな。複数人投入するんじゃなかったって。」

「単独投入されたところは概ねシナリオ通りだからね。あなたなんて一年ほど下町●ケット状態だもの。」

「いやぁ、一番苦労したの、土地確保とクレイドル離着陸補助機だからな。土地はラインアーク増設で結構いったし。なんだかんだ楽しかったなぁ。」

 

でも、とうつむく。

 

「そんだけやっても、結局評決の日(ヴァーディクトウォー)だ。結局、何も変えられなかった。」

「でも、宇宙に旅立ったのは確かでしょう。一番生存者多いから。」

 

シャルは慰める。

 

「でもな、皆で作った離着陸機で初めて飛んだクレイドルが、あんな(見るも無惨な)姿なのを写真で見たとき、部屋で柄でもなく泣いた。哀しのに変わりはない。」

 

カップを持つストレイドの手は震えていた。

 

「なんで同じ世界の違う時代なんか飛ばしたのかな。」

「いる確証があったんだろう。確かにいたし。」

「まあね。」

 

でもな、とストレイドは顔を上げる。

 

「もう、同じことは繰り返さない。」

「今まで過ごした時間と犠牲になった命に懸けてもね。」

 

二人は決意を新たにした。

 




少しバラしました。
少しづつ世界が動き始めます。


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瓦解

感想見てますが、やっぱり読みづらいですよね。
研究せねば。


また、連日投稿です。
妄想が止まらない。


『ミッション開始。まず、対空砲を攻撃してください。』

「了解。」

 

俺はミッションを受けた。

 

『敵襲!総員戦闘配置!』

 

既に基地は臨戦態勢だ。

騒がしく兵士と兵器が行き交う。

 

そういえば、攻める側は守る側の倍戦力がいるという話を聞いた気がする。

こっちにそれだけ戦力があるか知らないが、俺はやれることをやればいいか。

 

俺は散布型ミサイルを再び受け取っていた。

完成したらしく、この戦いの戦果で商品化するかしないかを決めるらしい。

 

そのミサイルを対空砲にマルチロック。

 

「いけよ。」

 

放たれたミサイルは複数の砲台に突き刺さり、爆散する。

ローゼンタール製の[TYPE-DULAKE]も対空砲を攻撃し始めた。

なら俺はこれを妨害する敵を排除すべきだ。

 

俺は基地を囲む壁を越える高度まで飛び、そこからEOとミサイル、リニアライフルを撃ち下ろした。戦車やMT、ノーマルを次々に壊していく。

 

エネルギーと熱が限界に来たので壁の外に着地。

だがそこに敵攻撃ヘリが来た。

 

『調子に乗るな!』

 

ヘリがミサイルを発射。

俺はそいつが放ったミサイルを飛び越えヘリに高度を合わせた。

 

そして、ブレードで切り裂く。

 

 

 

俺は見た。

下半身のなくなったパイロットが、ガラスを突き破り落ちていくのを。

殺したのをはっきり見届けた。

 

何も感じない訳じゃなかった。

罪悪感、自分への失望。

逆に空中のヘリにブレードを当てたという達成感。

チャージングとオーバーヒートが続く機体のコックピットで、ごちゃまぜの感情と、少し吐き気を感じた。

 

 

『なんだと!どういう事だ!』

 

偶然、指揮官と通信が繫がった。

 

『こちらのセリフだ!そちらはノーマルの部隊だと聞いていた。レイヴンがいるのはなぜだ!』

『そういう指定だろう!指示はそうなっている。』

『こちらとて同じだ。空爆はさせるなと。』

 

空爆?指定?一体なにを言ってるんだ。

 

『レイヴン。作戦変更です。爆撃機がここに来る途中に襲撃され、墜落したそうです。あなたはこれから渡される爆弾を持って基地に突入、倉庫に仕掛けて下さい』

「…そうですか。了解。」

さっきの通信が気になるが、まず目の前の事だ。

 

そうして、味方ACから、AC携帯用爆弾を渡された。

 

『味方も援護してくてるそうです。危険な役回りです。気をつけて。』

「了解。」

 

西門から一気に敵陣のど真ん中に突っ込む。

EOとリニアライフルを連射して周囲の敵を蹴散らす。

『このまま倉庫まで進んで下さい。』

 

そのまま敵陣を突っ切り、倉庫の自陣から見て裏側に来た。

倉庫越しにリニアとEOを撃ち、あたかも挟み撃ちの為に来たように見せかける。

そして、ブレードしか装備せず、マニピュレータが空いている左手で倉庫の壁の比較的高い位置に爆弾を設置。

 

即解除なんて事は無いだろう、と思った

しかし。

 

「ACだ!オーダーがいるぞ!」

 

そこを通りかかった歩兵の一団に見つかった。

無意識にリニアライフルを向ける。

 

「邪魔だ。」

 

トリガーの瞬間、口から漏れた言葉はあまりにも冷酷だった。

 

 

 

そして、後悔した。

高初速、大口径砲の砲弾を人に撃った結果なんて目に見えている。

 

自分が地獄絵図を作った。

形を保っているもの、そうでないもの。

関係なく、死んでいた。

自分が消した。

 

光景と直前の思考が先程以上の吐き気と嫌悪が襲う。

 

 

 

『…聞こえますか⁉すぐに脱出してください!』

「ッ。了解。」

 

 

 

数分後、基地の倉庫は盛大に爆発した。

 

 

ACが作戦領域外に出るまでは耐えられた。

だが、ヘリに繋がれた辺りで限界が来て、胃から来たものをぶちまけた。

幸いACには備え付けの袋があったのでそれを使う。

やはり、直接死体を見るの違う。

生理的嫌悪感には抗えない。

だが、兵器に乗っていようがいまいが、俺は敵を殺している。

そこに違いはない。

今までやってきた事だ。

俺は、何処かで戦いを愉しんでいる。

戦いには自分にとって都合の良い敵が出てくるとは限らない。

愉しむなら、受け入れろ。

選択だ。

 

 

 

 

 

 

 

俺は仮の家に帰ってきた。

ミッション前に交わした言葉と、自分が見た光景がフラッシュバックする。

 

「おかえり。…大丈夫?」

 

シャルさんが玄関で迎えてくれた。

 

「なんとも言えません。歩兵を直接攻撃ってクルものがあります。」

「…やっちゃったか。」

 

いつかは起きることだった。と言うふうにシャルさんは頷く。

 

「ええ、フィルターないんで。きついです。」

「……そうなるよね。」

「シャルさんは歩兵を直接攻撃した事、あるんですか?」

 

俺は素朴で物騒な疑問を口にした。

 

「あるよ。私はACに乗る前から殺しはしてたから、それほど抵抗は無かったな。」

「え⁉」

 

驚いたが、また当然だとも思う。

じゃなきゃレイヴンは厳しいだろう。

 

「環境が環境だった。この前答えたくなかったのも、私が殺し慣れた人っていうのもあるの。でもやっぱりACとかで殺っちゃうと流石にエグいとかは考えたな。」

 

シャルさんは少し申し訳無さそうな顔をする。

 

「そうですか……。でも今は、辞めるつもりはないです。直接見たからって折れちゃ、今まで殺した人はどうなるって話になります。状況的にも難しいですし。だから……。」

 

その時の俺はどんな顔だっただろう。

辛そうだっただろうか。

楽しそうな顔だろうか。

でも、自分に嘘をつき続けるのはきっと良くはない。

 

「自分の気持ちにしばらく従ってみようと思います。駄目ならその時、また考えます。」

 

シャルさんは微笑む。

 

「そう、無理しないでね。…まずはACを見たら?自分の商売道具なんだから。」

「そうします。ありがとうございました。」

 

俺はガレージめがけて走った。

 

 

 

 

 

 

 

それを見届けたシャルは端末の着信に答える。

『俺だ。』

「詐欺?」

『40年以上前のネタだな、おい。そんな事より、乱入者が動いた。お前んとこのレイヴンの参加した戦闘が〔打ち合わせ〕の内容と違うって問題になってる。上は気付いてないらしいが、おそらく乱入者の仕業だ。』

 

シャルは少し眉を釣り上げた。

 

「どのタイミングで情報が入れ替わったか分かる?」

『GAからの情報だが、この時の[打ち合わせ]は顔を合わせて行われたらしい。だから、命令が下に伝わる途中ですり替えられた筈だ。インターネットに繋がれた端末で命令をやり取りした履歴もあった。』

「もう社内ネットワークに侵入してるのね。ホットラインに手を出されるのも時間の問題か。」

 

壁によりかかる。

電話相手はやれやれとくたびれた調子で言った。

 

『そうだな。おそらくあいつにも動いてもらわなきゃならない。』

「ええ、そうね。で、もう一人は?」

『こっちも動きがあった。レイレナードの物資が不自然に消えた事件。その運搬担当が監視カメラに写ってたが、銀髪の青年、奴だ』

「物資の内容は?」

『全部は掴めなかったが、一覧ファイルを端末に送った。見てみろ。』

 

端末からホログラムディスプレイでシャルの目の前に盗まれた物資が表示された。

 

「……アクチュエータ複雑系の最新モデル、それと炭素繊維装甲の原料。掘削機械?心当たりはある?」

『いや…ないな。』

「そう。にしても、そのキャラいつまで続ける気?必要はないでしょ。」

『レイヴンである間はこうする事にしている。俺が決めたことだ。』

「……分かった。じゃあ、切るね。」

 

 

 

 

端末を握ったまま、かつての英雄はため息をついた。

 

「杞憂だといいが……フラグだな、あり得ないのに。マシなとこに投入されることを祈るか。」

 

端末に地図が映る。

物資が消息不明になったエリアの地図だ。

そこにもう一つの地図が重ねられる。

 

【コジマ物質採掘場】

 

消息を断ったポイントに近い所にそう記されていた。




この世界の旧作AC(オーダー)は

コジマ発見妨害

駆動系、制御系、コア思想が残される。

できるだけ性能が高いものが欲しいと言われて、なんとか組み合わせる。

完成(コア思想抜いたのがハイエンド)


とコジマがなくなったため使われるはずだった技術が、それ抜きで成立するよう技術者が頑張った結果です。

なので何も関係なく成立してはいません。
旧作ACもアクチュエータ複雑系の技術が使用されてます。


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ビギニング

蒼パルのために行ったことのないミッションを探す羽目に。


空気の張り詰めた会議室でそれは行われていた。

 

「さて、次の議題ですが、ここ一週間の間に[打ち合わせ]と違う戦闘が4回行われました。由々しき事態です。先ず、それぞれの原因究明の結果を報告してください。」

 

若々しい男が立ち上がる。

 

「我々ローゼンタールから。我々の場合、部下に内容を伝える際に社内ネットワークを使用してメッセージを送ったのですが、送信中にクラッキングを受け内容が改竄されていました。こちらが資料です。」

「…なるほど。」

「今後はセキュリティー強化や、情報伝達をアナログにするなどして確実性を高めます。今回の件、誠に申し訳ございませんでした。」

「分かりました。では国連では何が。」

 

国連議長がそこにいた。

 

「こちらも同様にクラッキングを受けていました。手口はローゼンタールが受けたものと全くと言っていいほど同じでした。」

「なるほど、ここはどうやら同一犯のようですね。ではGAは。」

 

初老の女性が答える。

 

「こちらの場合、ホットラインのメッセージが改竄されていました。国連のメッセージと比較的すると、こちらの戦力が指定より少なく書かれています。」

「国連議長。」

「確かに、我々が提出したものより少なく、勝敗は逆転しています。」

 

国連議長はしぶしぶ肯定した。

 

「セキュリティーチェックの間、情報伝達を口頭などネットワークに頼らない形式にして様子を見ましょう。さて、次の議題は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業式が終わって、二人は向き合っていた。

 

「予定合わないね…」

「まあ仕方ないか。気づくの遅かったし。」

 

少しの沈黙の後、紫蘭は後ろを向き距離を取る

紫蘭が口を開いた。

 

「ねえ、練。」

「なんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして人殺しになっちゃったの?」

 

 

 

積み上がる瓦礫。

 

 

 

廃墟になった学校。

 

 

 

 

 

 

 

振り返る紫蘭は左半身が真っ赤に血に濡れて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‼……夢か。踏ん切り、つけたつもりだったんだけどな。」

 

自室の机から跳ね起きた。

どうやら、勉強中に寝てしまったらしい。

しかし、悪夢になるとは、重く考えてるのか。

 

 

 

 

あれから、何回もミッションに行った。

 

戦って壊して。

でも、何か違う。

そんな日々が続いた。

 

 

そうだ、あれから紫蘭に連絡して無い。

メールを送る。

 

すると通話で帰ってきた。

「おおっと⁉」

急いで出ようとして、手が滑る。

なんとかキャッチして、通話開始。

 

「まさか電話掛けて来るなんて思わなかったぞ。」

『ごめん、久しぶりでさ、声聞きたくて。』

「ああ、すまん。気が回らなかったな。」

 

確かに、1ヶ月放置してしまった。

既に外ではセミが鳴いている。

夏休みが近づいてきた。

 

『大丈夫?声暗いよ。』

「昨日まで外国行ってて、時差ボケにやられた。言うほど深刻じゃない。」

『そう、良かった。』

 

悪夢を見ていた、なんて言ったらさらに心配を掛ける。

汗の具合から、結構うなされていたようだ。

これ以上話していたらボロが出る。

 

「あんまり話すと怒られるからな。そろそろ切るぞ。」

『分かった。生きてるかの確認だから、ある程度連絡してよ。』

「了解、じゃあな。」

 

なんとか会話を終わらせる。

明日はアリーナで65位戦だ。

相手はあのラビエス・モンテさんだ。

 

気を引き締めないと。

 

 

 

 

 

アリーナでアセンブルを確認。

 

「軽量二脚でマシンガン、6連ミサ、ブレードにして、タンクの後ろをとる。っとこれでいいはず。」

 

そのままガレージで待ち受ける。

 

 

 

 

 

 

 

アリーナに入場した俺はラビエスさんを待った。

 

 

『ラビエスの登場です。』

 

アナウンスとともにシャッターが開いた。

暗くて中がよく見えない。

すると。

ズシン、ズシン、とタンクでは聞かない音が聞こえる。

 

『な、なんとラビエス。2年ぶりに重量二脚で登場だぁ!かつて[門番]と呼ばれた彼が帰ってきたぁ!』

(嘘だろ⁉あの人が足を変えた⁉)

 

一応、戦い方の変更はしなくてもいいかもしれないが、足を変えると挙動が変わる。

しかも、俺は最盛期のラビエスさんの動きを知らない。

 

『少年。』

「なんですか。」

 

彼はゆっくりと試合開始位置へと進む。

 

『俺は絶対曲げない一つの信念がある。』

「いきなりですね。アセンブル変更と関係が?」

『ああ。俺は味方を自分の目の前で死なせないと決めている。俺がタンクに変えたのは、味方が助けを求める時に戦えるタフさを欲したからだ。目の前で機体が動かず助けられないなんてのは、もうごめんだ』

 

俺の正面まで来た。

 

『お前にはあるか?自らを駆り立てる程の望みが。』

 

ブザーが鳴る。

 

同時に俺はラビエスの右をとるよう動く。

しかし、グレネードが足元で爆発し、衝撃で足が止まる。

そこにEOともう一方のグレネードが命中し、吹き飛ばされた。

 

「グウゥゥッ‼」

 

これが30位台、門前と呼ばれた所にいた人の力。

 

『そんなものか少年ッ。』

 

高火力の圧力が俺にのしかかる。

横を取ろうとしても距離を取られるし、後ろを取っても

逆旋回の応用で後ろを取り返される。

もし一度当たれば、反動で後続の攻撃が避けられない。

 

強い。

 

その一言に尽きた。

今までの重量二脚は簡単に死角に回れたのに、この人はさせてくれない。

気づけばAPは1000まで来ていた。

 

(正面でも接近すれば!)

 

グレネードを掻い潜り懐まで迫る。

 

そこでアマジークのマネをしてみた。

OBで視界外に出ようとした。

 

急な加速。

しかし、そこに右手のグレネードが突き刺さった。

そして、左のグレネードとEOが連続して命中。

 

『試合終了ぅ!勝者ラビエス・モンテ、65位を防衛‼かつての[門番]としての実力を見せつけた!』

 

久しぶりの敗北。

圧倒された。

 

『なぜ、俺が本気を出したのか。分かるか。』

 

俺は、なにも言えない。

分からなかった。

 

『お前には死んでほしくないからだ。俺は今まで、自分の機体を壊して、目の前で何度も仲間を失った。そうならないように俺はタンクにしたんだ。』

 

ラビエスさんは声を絞るように話す。

 

『仲間の危機に機体が言うことを聞かないなんてことはなくなった。だが、もしタンクだったせいで仲間を失ったら。俺は躊躇無く機体を変える。』

 

そして、彼の機体は背を向けて去って行く。

 

『目的と手段を履き違えるな。目的が愉しむ事なら構わないが、もし目的を忘れて戦いにのめり込むようなら、いつか死ぬぞ。そういう奴を俺は何度も見てきた。』

 

 

俺は呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの休憩室で俺はここ4ヵ月を思い返していた。

 

オニキス襲われて、右足を骨折した。

運ばれた先でいきなり脅された。

預けられた先が恩人だったり。

レイヴン試験も、依頼も、と想定外がちょくちょくあったな。

今思うと、助けてくれた時、挑発して無人かどうか確かめてたのかもしれないな、シャルさん。

 

 

「随分考え込んでるけど大丈夫?、アキレス」

「シャルさん。」

 

向かい側椅子にゆっくりと腰を掛ける。

 

「ラビエスに言われたこと、気にしてるんでしょう。」

「はい。」

 

その中で俺の目的は生きる事だった。

別に大したことじゃない。

それを難しく考えてたのかもしれない。

 

けど、俺が生きるためには、誰かを殺さなきゃいけない。

そんな俺を見透かしたようにシャルさんは言った。

 

「レイヴンは自分の意志の為ならその他なんてどうでもいいんだよ。自分の思うがまま、好きなように生き、好きなように死ぬ。自分の為、大切な人の為、己が意思のため。君もそうすればいい。」

 

でも。辛いものは辛い。

 

「まあ、飲み込めなかったのは仕方ないよ。ココ平和すぎだから。」

 

そんな世界なんだ。ここは。

それが飲み込めないのは、きっと日本という国に生まれたから。

 

 

 

 

日本はとても平和だった、といきなりだけど思う。

こんな世界だと、そう思わざるを得ない。

国家解体戦争。

その真っ只中、自衛隊を必要があるときに出すだけで戦火が本土に来なかったのだから。それも不謹慎だと思うが。

 

 

でも俺は、生きるためその枠から出た。

 

村に入れば村に従え、だ。

俺も、そうすればいい。

 

好きなように殺し、好きなように殺される。

俺はまだ生きたいんだ。

 

その過程で戦うのが嫌だの好きだのはどうだっていいんだろう。

レイヴンとして染まってしまうなら、思いっきり染まってしまえ。

強要されたとかそんな事関係ない。

 

俺は、レイヴンだ。

何のためになった?

愉しむ為?

生きるためだろ?

 

 

「シャルさん。俺は…」

「おっと、殺人鬼はNGだからね。」

「…はい。」

 

出鼻くじかれた。

 

「ごめん、何も無ければ先帰ってて。この後用が…」

「よう、シャル。そこにいるのはアキレスか。」

 

声を掛けてきたのは金髪の少女。

首輪が歩くたび揺れる。

 

「あの、どなたですか?」

「私はランク45、ストレイド。シャルの友人だと思ってくれ。」

「そうよ。待ち合わせしてたの。ってことでごめん。また家で。」

 

 

シャルさんはそのまま去って行く。

ストレイドさん、か。

今度あったらシャルさんの事聞いてみたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢の続きを見た。

 

「どうして人殺しになっちゃったの。」

 

血に濡れ、そう問いかける紫蘭に、俺は躊躇いなく歩み寄る。

俺は紫蘭を抱き寄せた。

 

「死にたくないし、お前を死なせたくないから。文句あるだろうが、俺は決めたんだ。」

 

俺もまた血に濡れる。

だが、そんなことどうでもいい。

そうやってでも生きると決めたんだ。




実力が拮抗している20人の下の30位台は上の奴と取って変わろうと牙を磨く人達の巣窟で普通に強いです。
ネットでは、強さ議論の記事が荒れに荒れてます。

今回は、明らかに実力と順位があってない相手との対戦となりました。(LRで言うクロウプレデター。)

活動報告にラビエスの欄が削除されていたので、まずかったら書き直します。


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遭遇

最近、依頼自体は増えてるのに、依頼時の情報の正確性が落ちてる。

MTの数が違ったり、ノーマルだと言われたら非正規オーダーがいたり。

酷いときにはレイヴン複数人で袋叩きにされた。

AP0と修理保険で助かったが。

ローゼンタールでも情報が間違ってるくらいだ。

 

この前は哨戒任務でレイヴンと遭遇した。

…これは運が無いだけか。

ツイてねえ。

 

 

 

 

 

『ミッションを説明します。』

『今回の依頼主はインテリオル。内容は国連軍基地の襲撃です。』

『ミッション時、我々が別方向から攻撃を行います。あなたはその隙に基地の残存戦力を叩いて下さい。』

『その際施設の破壊に応じて追加報酬を約束します。』

『我々はあなたを高く評価しています。いい返事を期待しています。』

 

 

まあ、千マシは確定だな。

 

 

 

「坊主、どうした?」

「オヤジさん。依頼です。ライフルから千マシに変えます。」

「分かった。ああ、そういえばシャルから武装をプレゼントされたぞ。」

「本当ですか!」

 

早速確認する。

 

「なんと最強2つだ。先ず、KARASAWAだ。そして、WL-MOONLIGHT、月光。両者、負荷を乗り越えれば強力な武器だ。」

「これをシャルさんが?凄くありがたいですが、僕が持ってていいんでしょうか?」

「シャルがお前さんを認めたってことだろ。胸を張れよ。」

 

そう言われると、なんか嬉しい。

 

「あと、シャルからじゃないがもう一つあるんだ。」

「なんですか?」

「シャルの知り合いから送られてきたらしい。PB-DARKSLAYER。なんと持つ手を選ばない実体ブレードだ。」

「実体ブレードですか⁉それってただの[剣]ですよね⁉何処が作ったんですか、そんなの。」

「名義がFGWになってる。企業じゃないみたいだな。」

 

実物を見ると、トンファーみたいだな形状でナイフがついている。

 

「コイツ、面白い剣なんだ。」

「剣というよりナイフですよね、これ。」

「ところがどっこい、内蔵されたナノマシンでその場で刃を生成。斬るときだけ月光並の長さになる。」

 

絶句。

なんだそりゃ。

アナログな攻撃方法なのにハイテク過ぎませんか?

でも、近接で物理攻撃が出来るのは心強い。

 

「試作だからアリーナには持って行くな。とコメントが残されてた。まあ使ってみろ。」

 

お言葉に甘え左手に装備する。

…重い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミッション開始。敵基地の戦力を排除してください。』

 

速度を緩めず基地に侵入。

門を突き破り、右に曲がる。

しばらく進むと倉庫入り組んだエリアに入った。

出会い頭にMT2機と遭遇する。

早速ブレードを起動した。

すると、ブレードの周りに黒いナノマシンの霧が現れ、それが集まってブレードを形成する。

それでMTを切り裂く。

切れ味は鋭く、それでもってENを消費しないと来た。

これはいい。

ただ、月光より重い。機体が振り回された。

 

 

そのまま基地を周回する。

そうすれば敵が集まってくると考えてだ。

事実、何機かノーマルに遭遇した

弾がもったいないので基本ブレードで始末する。

基地の中央に来たときには、あらかた片付ていた。

 

 

 

 

 

 

『調子に乗るな、レイヴン!』

 

突然、空から見たこともないACがブレードを持って襲い掛かってきた。

 

「あれは一体…」

『レイレナード社製の新型ハイエンドです。開発母体となるノーマルがない数少ないハイエンドで、性能は未知数。それを強奪したものと思われます。気をつけて。』

「肩にエンブレムがある。誰か分かるか。」

『…でました。国連軍エース、ヤンです。ACに乗ってから戦果が高く、この付近の基地に所属しています。』

 

ハイエンドとは言え、エースは厄介だ。

オーダーでも、腕次第で簡単に優劣はひっくり返る。

気を抜けない。

 

流石インテリオルだ、いつも通りだぜ。

 

 

 

敵が動いた。

オーダーの軽量二脚を凌ぐ機動性で迫ってくる。

 

「速度特化型!」

 

エントリーパッケージモデル(組み立て時点で完成している機体)だからこそ出来る、一点に特化した設計。

エースが乗ってオーダーに対抗する事を意識した設計だ。

 

(こりゃ、きついぞ。)

 

下手すると総合性能はあっちが上かも知れない。

相手は左手にASTライフルと右手に手持ちブレード、と珍しい配置。

肩にミサイルハッチが見える。

切り結ぶ時の腕力なら恐らく上だが、ブレード出力できっと負ける。

距離に気をつけて戦闘しないと一方的にやられる。

 

 

 

上等だ。

 

ライフルを撃って来るヤンに対する為EOを起動。

そのまま基地の地形を使う機動戦になる。

 

お互いの間に倉庫が入り、姿が消える。

俺はそのまま倉庫の影から出た。

しかし、そこに相手はいなかった。

 

(なら、上からか!)

 

見上げると、そこに奴はいた。

ブレードでから竹割りを仕掛けてきたやつに対し俺は、ブーストで横に避ける。

ブレードは空振りに終わるが、そのままブレードで追撃してくる。

アニメの剣士のように連撃を入れてくるものだから、俺は防戦一方だ。

マニピュレータ保持なのがそれに磨きをかけている。

 

俺は避けに徹した。

 

特化型とは言え、エネルギーに限界がある筈だ。

 

それは当たりだった。

突然、ASTライフルを連射して後退していく。

すかさず俺はマシンガンを撃ちつつ接近した。

お互いに撃ち合うが、連射力が違う。

奴の機体に弾痕が増えていくが、意を決したのか急に奴からも近づいてきた。

ブレードを起動。

すれ違う刹那、お互いにブレード振り切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

【右腕部損傷。】

 

comボイスがダメージを告げる

そりゃあの高出力だ、吹き飛んでもおかしく無い。

それに対し奴はコアから少し漏電している。

右脇腹にぱっくりと傷跡が開いていた。

しっかり当たっていたようだ。

 

『まだだ、まだやれる。』

 

両者身構えた刹那。

 

【所属不明機体接近。注意して下さい。】

 

プラズマがばら撒かれ施設を無差別に破壊する。

俺たちも例外じゃ無かった。

二人共プラズマを間一髪で避ける。

 

撃たれた方向を見ると、ごつい人型兵器が銃を構えていた。

2機もいる。

 

「特化型…AC?」

『こちらの物ではないな。』

「こっちの味方でもない筈です。何者だ。」

 

COMボイスが答える。

 

【I-C003-IN。特殊ハイエンドです。グレネード、プラズマその他の重装備でありながら一定の機動力を持っています。接近するのは難易度が高すぎます。回避を主体とした射撃戦が有効です。】

『…なぜデータがある。』

「俺が知りたいです。身に覚えのないデータを偶に吐くんですよ。」

 

多分、原因はシャルさんだ。

 

「すいません、ちょっと良いですか。」

『ああ、多分同じ事を考えている。休戦だろ。お互いにメリットがある。』

「助かります。俺が左のを、あなたが右ので構いませんか。」

『レイヴンに決められるのは癪だが、了解だ。行くぞ。』

 

生き残る為、共同戦線がはられた。




敵は通称デブヴィクセンです。
ちょっと強かった記憶。

追記

活動報告更新しました。
やはりものを書くのは難しい。


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デバック

試行錯誤中。


敵2機は彼らを追いかけるように行動した。

二人はそれを見て戦いの場を移す。

アキレスはどんどん基地の外に、ヤンは基地の入り組んだエリアへと敵を引き込んだ。

 

「APに余裕がある。…射撃頻度が少ない。継続的に攻撃して打ち勝つ!」

『先程のダメージが気になる…旋回は中量並か。あれを使えば十分翻弄できるな!』

 

 

 

しばらくマシンガンとEOの引き撃ちで門の前まで来た。

そのまま、アキレスは遮蔽物の少ない基地の外に出てマシンガンを撃ち続ける。

 

グレネードが放たれるが、弾速が遅い為切り返し続けるケイローンの左右上下を素通りする。

グレネードが当たらないと踏んだ敵はミサイルに切り替えるが、その散発的な攻撃ではダメージレースに勝てない。

アキレスは敵を捉え続けた。

近距離から連続して攻撃を続ける。

そうして業を煮やした(ように見える)敵がプラズマキャノンを連射するために動きを止めた。

「そこッ!」

最初に見た時からそれが狙い目だった。

相手は攻撃を回避出来なくなる。

そこに散布型ミサイルを敵に全ロックし発射。

動けない敵に容赦無く喰らいついた。

 

 

 

 

ヤンは基地で倉庫が乱立するエリアに敵を引き寄せた。

そこで敵はヤンを見失う。

無論、レーダーはある。

だが、ノイズが酷い。

 

『ECMだ、こちらのな。』

 

途端に動きが鈍くなる敵を見てヤンはほくそ笑む。

ECMは敵味方関係なく電子機器の機能を低下、停止させる。

だが、ヤンには関係ない。

入り組んだ地形で、その機動力で行くところなどたかが知れている。

 

索敵している敵の後ろからASTライフルで攻撃する。

振り返る頃には倉庫の影だ。

今度は側面からミサイル。

バッチリ全弾命中した。

次の襲撃方向をAIは模索した。

【後部上方からブレード。グレネードスタンバイ】

そして

 

 

 

 

 

 

ヤンは敵の後ろの倉庫の上から飛びかかる。

 

そこにグレネードを構える敵がいた。

ブレードを振りかざし彼は。

 

急上昇。距離を離す。

グレネードが彼の下を通り過ぎていった。

ASTライフル。続いてミサイルが雨のように降り注ぎ、敵に突き刺さる。

ライフルの被弾で動きが緩慢になった敵に、ミサイルの爆炎が敵の視界を潰す。

ヤンは敵を飛び越え、そこでブレードを起動した。

 

 

 

『「トドメェ!!』」

 

二箇所で二人は同時に叫ぶ。

 

 

アキレスは鈍った機体を正面から袈裟斬りに。

ヤンは後ろを縦に真一文字に斬り裂いた。

 

敵は機能停止した。

 

 

『こちらは片付いた。そちらは?』

「こちらもちょうど終わりました。」

 

二人はお互いに通信を繫げる。

 

『お前のような奴が居るとはな。傭兵も捨てたものではないな。』

「お褒めに預かり光栄です。しかし、申し訳ないですが、国連の依頼は受けれません。」

『受けられない?受けないではなく?』

 

ヤンがレイヴン相手ならそっちだろうと言わんばかりに問いかける。

 

「はい。俺、春まで一般人だったんです。日本の。企業に人質を取られて、無理矢理レイヴンを始めたもので。」

『本当か!無理しているだろう。それは…』

「今は企業側の依頼しか受けられないですが、レイヴンとして普通にやってけています。大丈夫です。あ、依頼はあいつらに盗られましたので撤退します。一時の共闘、誇りに思います。」

『そうか…一つ言わせてくれ。』

 

ウィンドウが開かれ、彼はの姿が映る。

 

『国連の者を代表して謝罪する。お前達を戦争に巻き込む事を許してしまった。済まない。』

「いえ、そんな、今は好きでレイヴンやってるんで、そんなこと言わないでください。」

 

ウィンドウの向こうで深々と頭を下げるヤンにしどろもどろしてしまう。

頭を上げたヤンさんは何かに気づいたように話す。

 

『……知らないのか。念のため、お節介だと思って聞いてくれ。』

「はい。」

『ある軍事評論家が戦争開始時に言った言葉だ。そいつによると、企業は3ヵ月も保たず国家に負ける見込みだと。だが、現実は違った。お前はどう思う。』

「企業のノーマルのアップデートとか?それとレイヴンの雇用頻度?」

『そんなもの、物量と税金でどうにかなる。…税金は言いすぎたが、よく考えてみろ。初期の情報精度の高さを。レオーネグループですら対国家戦は戦力予想に大きな間違いは無かった。おかしいと思わないか。』

「確かに…でも、それって…」

 

あまり考えたく無い答え。でも、証拠はある。

 

『お前には裏に詳しいやつがいる。聞いてみろ、真相を知りたければ。…話し過ぎた、帰った方がいい。味方が集まってくる。』

「……分かりました。ありがとうございます。戦争が終わった時に。また。」

 

そうして、アキレスはそのまま作戦領域を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

『アキレス…。』

「オペレーター。探られたくないと?」

 

今更だが、彼女とはオペレーターとレイヴンの関係であるために、あえてタメ口で話している。

 

『いえ、あなたの心象が心配なだけです。』

「そうか、世話をかけた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の裏路地

そこにとあるバーがある。

 

[スカーレット・ナイト]

 

そこに6人の客と店主と店員がいた。

 

「さて久しぶりにこんな人数が集まったんだし、飲むか。」

 

その店は貸し切りの看板が掛かっている。

 

「やっぱり大物ね。あなたは。」

 

そう言ってシャルは隣の老婆にワインを注いだ。

 

「はは、まだ動ける。これからだよ。」

「おお、怖い。お孫さんは?」

 

GA代表取締役、その人である。

 

「元気にやっているよ。私が若い頃やらかしたくらいにはな。」

「それは…また引っ掻き回さないですよね?」

「保証できん。ハッハッハ!」

「困るな…」

 

グロッキーになったシャルの隣で高らかに笑う。

 

「そこだけで盛り上がってんじゃねーぞ。混ぜろ!」

「ナインブレイカー…。相変わらずだな。」

 

一人盛り上がる男。

 

「後始末はお願い、英雄。」

「英雄は後始末するために居るんじゃない、ブラックバード。」

 

ブラックバードと呼ばれたのは、10にも及ぶか分からない少女。店員の姿だ。

 

 

 

ストレイドはシャルより年上のような印象を受ける装いだ。

 

「アキレスはどうなんだ。」

「最近そればっかね。どうして?」

「そりゃ、期待の新星だからな。気になるんだ。」

 

この異常な空間で、彼に興味の無い者はいなかった。

 

「まあ、彼は少なくとも近いうちに化ける。私達にはできない、二面性を受け入れる事を選んだ。きっと、強くなる。」

「へえ、楽しみ。戦ってみたいなぁ。」

 

ブラックバードは既に気になって仕方ない様だ。

 

「お前は駄目だ。焼き尽くすだろ。」

「あの頃とは違うって!多少は加減できるわよ。」

 

少女はカウンターから身を乗り出し主張するが、

 

「競り合う、手に汗握る戦いになったら?」

「そりゃぁ、もう、全部をぶつけて…」

「アウトォォォ!」

 

恍惚とした表情で語るが、内容は期待の新星を握り潰さんとする欲望(全てを焼き尽くす暴力そのもの)だった。

思わずストレイドがツッコミを入れた。

それを見た[英雄]がそろそろと席を立つ。

 

「さて、本題に移ろう」

 

パン、と手を叩く。

その途端、空気が張り詰める。

 

「情勢はどうなんだ?」

「……もうあの均衡は保たん。既に、敢えて[打ち合わせ]を無視する事案も出てきた。お互いに潰しにかかるだろうよ。世も末か。」

 

老婆は残念そうに言った。

だが全面戦争の結果は見えている。

故に、違和感が拭えない。

 

「勝算がない戦いを企業が続けるとは思えないんだよねぇ。」

「そこだ。強がるにも限界がある。もし[乱入者]が全面戦争を望むなら、何かしら企業に対抗手段を持たせる筈だ。」

 

全員が唸る。

 

 

 

「俺に思い当たる所があります。」

 

扉の方で声がする振り返ると、3人の影。

 

「なに?一人多い……何でアキレスが居るんだよ!」

 

ストレイドが驚きの声を上げる。

彼より年上の男女二人に挟まれ、アキレスが居た。

その二人は申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「ごめん。店の前にいたら問い詰められちゃって。」

「あそこまでしつこいとな…」

「もう…アキレスはどうやってここを?」

「オヤジさんに普段何処に行ってるか聞いたんです。そしたら、ここを教えてもらえました。ここの二人が店に入る寸前に問い詰めもしましたし。」

 

すらすらと経緯を喋るアキレスは、既に言いたい事は決まっていた。

 

「シャルさん、そして皆さんに聞きたいことがあります。」

「なに?」

「この国家解体戦争は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「発端すら仕組まれた、大掛かりな管理戦争なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…辿り着いたのね。その答えに。」

 

ついにか、と複雑な表情をするシャル。

 

「いえ、国連軍エース。ヤンさんにヒントをもらえました。企業の戦力は国家に対する戦争には足りないと。以前から違和感はありましたが。」

「そうなのね…管理戦争の件は正解よ。そしてそれを利用しようとする者たちもいる。」

 

アキレスは彼より年下の店員にカウンター席に案内された。

 

 

「ここから話す事は他言無用。バレたらここに居る私達が全滅すると思って聞いて。」




意外とぎりぎりだったシャル一行




活動報告に書きましたが、ちょっと悩んでいます。
あれから少し進展して、

・6〜70%くらいバラし、わかり易くなる代わり、受け付けにくい要素が出てくる書き方。
(次回が完成している)

・2〜40%位に抑え、分かりづらくなる代わり、AC要素ガン押しの書き方。
(これから頑張ってみる)

の2つが出てきました。
出来れば真ん中あたりの書き方をしたいのですが、まだ力不足で…自分で難易度上げましたけど。

単純に意見を聞きたいのですが、アンケート化するかもしれないので活動報告【実力不足】を利用して意見を聞いてみたいと思います。

普通の感想もお待ちしております。というか下さい。(ヘタクソなのは承知していますが。)



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乱入者~Those who keep silence~

戦争はビジネス


クロス先の人の名前が初登場。
嫌ならプラウザバックを推奨します。
あえて読み飛ばしてフロム脳で推理するのもありかもしれません。

それにしてもミストレスなんて初めて知った。
(女性のバーの店主の事)


「この戦争自体は企業と国家の利害が一致したからこそ管理戦争として成立してたの。」

「利害の一致ですか。」

 

国家と企業による管理戦争。

それが今の実態。

 

「企業の開戦の表向きの理由って確か国家が現状をさばき切れないことによる不信と、今の企業側の会社に対して不利な政策ばかりをしたことでしたっけ。」

「表向きって言ってる時点でもう信じてないね。」

 

そりゃ、管理戦争の始まりの本当の理由が表に出るとは考えにくい。

 

「そうね。それ以外には主に2つ、大きな理由がある。さっき言った通り言いふらさないでね。消されるよ。」

「分かりました。それでどんな理由ですか。」

 

「まず一つ目は企業が人類史に残る失敗をした事を隠すため。君はここ最近、宇宙に関するニュースを聞いたかい?」

「あまり聞きませんね、言われてみれば。軌道エレベーターの話はパッタリ聞かなくなりました。」

「そうね…これを見て。ミストレス、お願い。」

 

ミストレスさんが手元で何か操作をすると、テーブルの向こう側にホログラムディスプレイが現れた。

まず、図面のような画像。

その横から、地球のCGが表示される。

 

「衛星兵器[アサルトセル]。企業は世間の目をこれから逸したかった。こいつは地上から宇宙に上がってくる飛翔体を迎撃する無人砲台なの。15年ほど前から、お互いの宇宙開発を妨害するためにばら撒かれ始めたんだけど、その結果衛星軌道がこれで埋まってしまい、地上から物を打ち上げられなくなったの。」

「自滅、ですか。」

「ええ、開拓しようとしたフロンティアを競り勝つ為に争って、自ら閉ざしてしまったの。企業らしいよね。」

 

これを国民が聞いたら暴動が起こりそうだ。

これを戦争でそれどころじゃなくして、忘れてもらおうという魂胆か。

 

「既に私達は解決に動いてる。でも、今企業にバレたら潰されるわね。」

「口封じ、ですか。企業が体裁を気にして。」

 

じゃあ2つ目、とシャルさんが話を進める。

 

「君は30年前の世界各地でテロが発生して、即鎮圧されたのは知ってる?」

「ええ、歴史の授業で少しふれました。ACの概念が生まれたのもこの時でしたよね。それと関係が?」

 

小学生の最後の方で習った。

 

「企業も国家も当時、その後のベビーブームを予想して政策を立てていたの。」

「先読みしてインフラ整備しときたかったってことですか。」

「でもその後の出生率は予想を下回る数値だったの。結果どこもかしこも赤字で大騒ぎ。続く企業の立て直しも失敗し不況が発生。国家の統治能力は結果的に下がることになったの。」

「その上少子高齢化が進んで、今後世界経済そのものが支えられなくなるとの予想さえ出ている。」

 

そこまで来て、なんとなく分かった。

だが、その答えに、怒りが沸き立つのを抑えられなかった。

 

「まさか、そのインフラと政策、少子高齢化対策の為に、人為的にベビーブームを起こしたくて無理矢理戦争を起こしたってことですか⁉」

 

殺し合いをして、人口を増やす?

ふざけるな。

 

俺は思い切りテーブルを叩いた。

テーブルは丈夫で、寧ろ自分がダメージを受けたくらいだ。

だけど、その握りこぶしを緩めることは出来なかった。

 

確かに俺は生きる為に何人も殺した。

戦いを心から望んでいる立派なクソ野郎だ。

 

 

でも、それは本末転倒にも程があるんじゃないか。

 

だけど、説明がついてしまう。

 

「ACやその他全ての兵器にAPが設定されているのも。ブレードに相打ち事故防止の為の、斬り結び用の磁気反発装備の義務化も。APが0になった際に過剰演出をつけるARシステムも。」

 

「全部、戦死者を少なくして、戦場から帰還する兵士を増やし新たな子を産んでもらうために、戦前になって整備されたものなの。」

 

あまりにも利己的だった。

それで多くの人が翻弄される事を考えてない。

企業らしい考え方だ。

 

「戦場での戦死者減少。一般人上がりの俺が理由を知らなければ、きっと良く聞こえたんでしょう。」

 

俺はテーブルの上で握りこぶしを一層強く握り込んだ。

 

「でも今はそいつ等の身勝手さに腸が煮えぐりかえりそうです。」

 

すると奥から老婆がこちらにやって来た。

 

「なら、憎むか?この私を。」

「…あなたは誰なんです?」

 

知ら無ければ返しようがない。

 

「自己紹介を忘れていたな。私は、GA取締役、宇佐見 菫子。GAのトップだ。」

 

 

 

……

………

…………

……………!(ガタッ

しばらく飲み込めなかった。

そして、理解した途端、椅子から転げ落ちそうになった。

 

「シャルさんシャルさん!思い切り聞かれてましたけど!ピンチなんですけど⁉」

「落ち着けぃ!私は協力者だ。そちら側だよ、アキレス。」

 

アレ?GAが味方?

 

「彼女には随分前からお世話になってる。一種のスポンサーよ。」

 

こんな大物と親交があったんですね。

 

「そうだったんですか…。でも、そんな凄い人が居るなら最初からどうにかなりそうな気がするんですが。」

 

企業の一角。

その権力からすれば開戦を止めることはできた筈だ。

 

「本当はそうしたかったんだ。だが私がこの地位に辿り着いたのは6年前。その頃にはアサルトセルはもう地球を囲んでおった。既に国家との管理戦争の話が進み、GAが参加するかしないかの差だった。規模の問題だよ。外交上拒否もむずかしかったしの。だから、鬼札として潜り込む事にした。」

 

つまり彼女が社長さんになる頃には既に手遅れだったと。

 

「すいません、当てつけみたいに言って。」

「いや、当然だよ。止められなかったのは、自分の力不足でもある。」

 

さっき手遅れだったって言ったのに、責任を感じているだけでも、少なくとも他のとこより良い人なのは分かった。

 

 

「さて、こちらからは話した。次は君の番だ。心当たりとはなんだ?…他の企業が持つ逆転の一手は。」

 

宇佐美氏はこちらの中身を覗き込むような目で問いかけてくる。

 

「俺も気になって仕方ねえんだ。どんなヤツが出てくるのかって。」

「外野は黙りなさい、ナインブレイカー。」

 

釘を刺す宇佐見氏。

だが、違う。

もし盗み聞いた通り、誰かが全面戦争を望んでいるのなら。

もう一つ方法がある。

 

 

 

「その一手は企業からじゃありません。[乱入者]が直接手を下せばいい。国家を削るんです。無人機で。」

「無人機…お前は何を見た。」

 

動揺が見て取れる。

 

「I-C003-IN…特殊ハイエンドと機体COMは言ってました。そいつが基地に大打撃を与え、依頼にあたっていた俺に襲いかかってきました。」

「まさか…ミストレス‼」

 

顔色を悪くしたオーエンさんに雰囲気の似た人が呼びかける頃には、マスターが情報を切り替えていた。

 

そこに映るのは国連軍の現状を報告する画面。

なんでこんな物が手に入ってるのかは気にしたら負けだ。

何処もかしこも被害の報告が上がってる。

 

 

「いつか見た状況…!なんで直接介入の可能性に気付かなかったの⁉」

 

シャルさんが苛立ちを抑えられない声で言うのを

 

「仕方ないんじゃないか。無駄な先入観を持ってたんだ。知ってたせいでな。それに知ってても出来たことはたかが知れてる。」

 

と、ストレイドがなだめる。

 

「これで、国家と企業は名実共に戦争状態に入るわけね。」

「なら、早く[乱入者]を抑えて、こいつが黒幕だったっという証拠を手に入れ、その上終戦協定に持ち込めるよう手を回さないと手遅れになる。」

「手遅れ?どう言う事ですか?」

 

オーエンさん似の人が言う不穏な単語。

間に合わないとどうなるのか。

 

「かんたんに言えば全面戦争。お互いに戦えなくなるまで、手段を選ばず戦争を続ける。世界は荒廃するだろろうね。」

 

シャルさんが補うように…あれ?

 

「それを止めたいんですか?」

「そうよ。」

 

やっぱり、違和感がある。

俺が一般人上がりだから気付かなかった。

 

この人達の動機。

そして、知識。

二つともレイヴンにしては不自然なんだ。

 

 

「あなた達がレイヴン(戦いに生きる者)にも関わらず、ですか。」

「?…どういうこと?」

 

「何故戦いを否定するんです?あなた達は」

戦いに生きるのなら、止めようと努力するとは思えない。

 

 

 

 

シャルさんの目付きが変わる。

他の何人かも。

 

「本当は何が望みなんです?一体何者なんです……」

「黙りなさい。」

 

 

 

 

テーブルの向こう側。

ミストレスさんが冷たく、妖しげな声で言い放った。

 

「あなたが知ることでは無いのよ。知る価値のあるものも無いの。」

 

その周りの空気が張り詰める。

 

「何故知ろうとするのかしら。」

 

彼女から発せられる圧力は尋常ではなかった。

 

見るな。

来るな。

知るな。

渡るな。

 

無言で発せられる何かが俺の中で、そう警鐘を鳴らす。

 

「何故か、ですか。」

「そうよ、あなたは部外者。ここに居るべきではない人物。」

 

見つめてくるそのナニカは、最早人では無い。

そう思わせるような眼差し。

 

聞くな。

寄るな。

理解るな。

探るな。

 

頭の中の警告が止まらない。

 

シャルさんも、この人も、この周りにいるのも。

きっと。

 

 

 

 

 

そう言うモノなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ミストレス。もういいだろう。ここにいる以上、選択する権利があるはずだ。」

 

オーエンさん似の男がミストレスさんを止める。

圧力が緩む。少しだが。

 

席を立ち、こちらを向いた。

 

「初めまして。ランク32、unknownだ。」

 

自己紹介が入る。

 

「先に言っておく。君が好奇心で知ろうとしてるなら。よした方がいい。口止めしなきゃならないからな。」

 

そう言って一歩、こちらに踏み出す。

その目の前で、信じがたい事が起こった。

 

 

「このまま進んで知ることになるのは、非常識のその裏側。」

 

その男がこちらにコツ、コツ、と歩みよる間に

背が少し縮み。

 

「もう一つのダークサイドを覗き見る行為。」

 

声は高くなり。

髪は伸び。

 

「そこは、企業なんかより何倍も恐ろしいものが未だに根付いているところよ。」

 

 

それを纏めるように彼女はリボンを付けた。

あっという間に大人の女性へと変貌していったのだ。

 

「あなたはが知るのはこういう事。知ってはいけないモノ達の楽園。」

 

 

上手く言葉が発せない。

彼女が屈んで顔が同じ高さになる。

近くなる顔。

そこには、妖しげな微笑み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そこには美しさを見出す余裕は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでも知りたい?この世界の裏側(幻想)を。」




もしこれがゲームでも。
初代でどっち派かを選んだり、NXのミッション分岐的な意味合いしかありません。

もしあなたがプレーヤーなら。



危険を省みず知りたがりますか。
身を案じて見てみぬふりをしますか。

命は彼女の手の上ですけどね。




追記

宇佐美→宇佐見

思いっきり間違えました。






この話の続きは

覗いた人

アーカイブ【忘れられた者たち〜Those who survive to the illusion〜】
を読んでから本編へ。

知りたくない人

アーカイブを読まず
本編【市街地侵攻阻止】
へどうぞ。


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忘れられた者たち〜Those who survive to the illusion〜

あなたは、裏側を見ることを選びましたね?



見たくない人の為に同時に最新話を投稿してます。


俺は意を決して言った。

 

「これで目を背けて、何も知らないふりして。それで行った選択に俺は胸を張れません。好奇心も、恐怖心も大ありです。逃げないとは誓えません。けど、それよりも事実から目を背けたくないんです‼」

 

しん、と静まり返る。

俺は真っ直ぐunknownの目を見つめ返す。

 

 

unknownの右手が動いた。

 

「なら握手をしましょう。」

 

俺はそれに応じた。

右手を握り合う。

 

 

 

 

刹那。

 

 

 

 

一瞬で相手の握力が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(そんな事だろうと思ったよ‼)

 

 

 

 

俺はunknownをテーブルの反対側に背負い投した。

 

そして腰からナイフを抜き喉元に突きつける。

そして扉の方に行くため、ジリジリと彼女の正面から頭の上の方に回る。

 

また、静寂が場を支配した。

 

 

それを俺は壊した。

 

 

「…『今なら右手だけで済んだのに』とか言い出します?」

「いや、大丈夫。油断してはなかった上に、勝てないって理解してくれただけ合格よ。」

 

 

unknownは立ち上がりから俺はナイフを仕舞う。

まだ、警戒は解いてない。

 

「…流石にバーで何度も暴れたりする程、節操ない人じゃないつもりよ。」

「信じますよ、今度は。」

「まあ、化け物は疑うに越したことはないんだけどね。」

 

俺達は席に戻った。

 

「もう、無関係では居られなくなる。きっと私達がずっと付き纏うことになるわ。それでもいいの?」

「言いました。目は背けないと。」

 

unknownは俺の目をじっと見つめる。

そして納得したのか、椅子に座り直した。

 

 

「それじゃあ、私達の存在について幾らか言っといたほうが良さそうね。」

 

しばらく話し続けるつもりか、水を一口飲む。

 

「私達は誰にも知られていない村のような所からやって来た。」

 

「さっき見たと思うけれど、そこには今では存在すら笑われるような、かつて[妖怪]とか呼ばれたの者たちが、隠れて住まう場所だったの。無論、普通の人間も住んでるんだけど。」

「具体的にはどう言う?」

 

いきなり漫画みたいな話を切り出される

 

「シャルはもう二十歳を超えてるって話をしたけど、実際はそれどころじゃない年月を生きてるの。そして、片手で苦もなく木を叩き折って、ヘリなんかよりも速く空を飛ぶ。そんな人外が集まって、人の姿をして暮しているの。」

 

怖い。

普通の人間が身一つでいたら即死。

 

というか、俺はその中に居るのか。

身体が震えてきた。

 

「流石に手加減は出来るわよ。簡単に死なれたら困るわ。」

「そこまで怖がらなくても…」

 

これにはシャルさんも苦笑い。

 

…じゃあ、信じますよ?

 

 

そしてシャルさんが続けた。

 

「そういう訳で私達には国籍が存在しない。レイヴンなのは身元確認が要らない、実力があればよかったから。」

 

「きっと、何もなければレイヴンになることも、君に会うことも無かった。」

 

一つ一つ言葉を選ぶように語るシャルさん。

 

「だけど、40年前、事件が起きた。他の世界から逃げてきた人たちが、私達の住む所に堕ちてきたのよ。」

「他の世界から?どういう意味ですか。」

 

あまり聞かない言い回しに困惑してしまった。

ミストレスさんが補足する。

 

「君はこの宇宙は11次元空間で、私達がいるのは11次元から見たら膜みたいな存在なのは知ってるかしら?」

「話だけは。それがどうしたんです?」

「その膜は一つだけじゃないってことよ。物理法則が違う物は数しれず、同じ物でも数えるには一生掛かるレベルなの。」

 

ちょっと分かったような分からないような。

というか、この人胡散臭い。

 

「そして、私達より科学技術の進んだ世界から、彼らは来た。空間操作、跳躍技術を持っていたから。」

「SFじみてますね。」

 

シャルさんがその後をまた引き継いだ。

 

「そうだね。でも、それ以外は今じゃほとんど追いつかれちゃった。だけど、その落着時、村の中で我が物顔している私達を許せない人間達との間に紛争が起こったの。」

 

シャルさんの顔は晴れない。

 

「それを私達との間を取り持ってくれていた一人の人間が、持ち込まれた技術をもって、全てを犠牲にする覚悟で紛争を止めた。結果、偶発的にその子が世界の外に弾き出されてしまった。」

 

「その子呼びはいいわよ。本人がここに居るんだから。」

「飛ばされたんですか⁉あなたが!」

「大変だったのよ。もとの世界に帰るの。」

 

すっごい気だるそうなunknownさん。

どれだけのものだったんだろうか。

 

「そんな訳で友人だった私達は、技術を借り他の世界を捜索する事にした。でも、これがすべての始まりだったのかも。」

 

「様様な世界を手分けして探したんだけど、何故かみんなACが存在する荒廃した世界に辿り着いた。」

 

シャルさんも、グラスに口を付ける。

とんでもない事ばかりが飛び出す。

 

「そんな世界だったから、unknownを探しながら、生き残るために私達は戦いに明け暮れた。結果、unknownは見つかり、帰ることが出来た。」

 

「そして、時は流れ30年前、今まであまり出ることの無かった村の外に出始め、気づいた。かつて見た他の世界の出来事が起こり始めていたと。」

「どういう意味ですか?」

「つまり、かつて訪れた世界の一つが私達の並行世界、つまりそっくりさん世界の未来だった、と言うこと。」

 

あまりに突飛な話だ。

 

「でも、違った。確かに同じ名前を持つ人達はいた。けど、それだけの世界だった。」

「かつて訪れた世界と違うところがあった。と言うことですね。」

「ええ、私達はMTの出現からさっきの考えに至ったけど、そこから既に違ってた。開発したのでは無く、渡された技術を自分の物にしたの。」

 

つまり、今の兵器は齎されたんだ。

 

 

「私達は身内も含め徹底的に調べ直した。だけど技術を流したものはこちらには誰もいなかった。そして一つの答えに辿り着いた。」

 

 

「それは、世界を渡れる何者かがこの世界に介入しているって事ですか?」

 

「正解。しかも2つの勢力がこの世界に手を出しているの。片方、[厄災]は状況をもとより悪化させてるようにしか思えない動きね。」

 

「そして、今、管理戦争に介入している方の勢力、[乱入者]の話をしてたの。」

 

この世界の動きそのものが、誰かに仕組まれている。

そんなことが出来る勢力とシャルさんは戦っていた。

 

「でも私達が取れる手段は少ない。」

「人外の力を持ちながらですか。」

 

てっきりAC相手に素手で勝てるレベルかと思ってた。

 

「私達がその村に篭もらなきゃいけなくなったのは排斥されただけじゃないの。」

 

「昔の怪物はね、人々が理解出来ないという恐れから生じ、それを糧としていたの。その系譜に私も連なっている。」

 

「でも、時は流れ科学が進歩し、それが減るにつれ、私達は力を失っていった。」

 

「私達は、一つの村の文化レベルを固定して、そこを孤立させ、私達に対する恐れを持ってもらう人々を囲い込んでなんとか存在を保ったの。それでも弱体化してる。…あんまり聞いていて気持ちの良い話じゃないだろうけど。」

 

確かに、非人道的だ。けどメインは其処じゃない。

 

「ということは、その外側だとあなた達は力を発揮できないんですね。」

「ええ、今の私はただの人間の腕力しかない、というより一部を除いてほぼ真人間よ。だから対抗するためにレイヴンになり、そいつを追っている。ここに集まっているのは、かつて他の世界を旅した人達よ。みんな腕利き。」

 

周りを見回すとみんな、どうだ、とドヤ顔だ。

 

「……って事は、ランクが60代な俺は場違いってことですね。なんか…すいません。」

 

ついしょげてしまう。

 

「しょげるこたぁねえって。だろうみんな。」

 

ナインブレイカーと呼ばれた男が軽く笑い飛ばす。

正直ありがたい。

 

そこで、もともと何を聞いていたのかを思い出す。

 

 

「一ついいですか。」

「なに?」

「確かに、このままでは戦争は悪化の一途を辿るでしょう。ですが、今まであなた達が見つかってないところを見ると、どうしてもこの戦争はあなた達にとって対岸の火事しか思えないんです。何故このままでの介入を?」

 

何故介入するのか、その話だった。

渋い顔をするシャルさん。

でも俺はこれを知らないと、正しい選択をしたと思えないのだ。

 

「今まで以上に利己的な話よ。私達が生き残る為、ただそれだけよ。」

 

 

「私達は恐れの密度を高めるため、その感情を内外からシャットアウト出来る環境を作った。副作用として生物は行き来出来なくなったの。」

「それでは余計に…」

 

関係なくなるのでは、と言いかけた俺の言葉をシャルさんが遮る。

 

「でも、無生物は通しちゃう。閉鎖環境は長く保たないことが研究で分かっているから、そういう仕組みにしてる。もし世界が荒廃すれば少なからず影響は受けるの。いちいち引っ越すのも現実的じゃない。」

 

無生物を通す。それが問題なのか。

 

「私達の知る限り、訪れた世界は汚染物質が充満したり、無人機によって大打撃を受けたりしている。もしそれが現実になったら、恐らく巻き込まれる。」

 

「関係ない人のせいで滅ぶなんてまっぴら御免よ。方針としては、外の世界で大虐殺が起ころうと影響なければ言われた通り対岸の火事よ。」

 

…恐ろしい。これが人外の価値観。

かなり利己的な思想にビビる。

 

「まあ、少しずつ変わり始めてるから安心して。…でも思わぬ収穫よ。」

「何がですか?」

「あなたの恐れ。身体に水が染み込んでいく気分。」

 

ああ、恐れが糧と言ってましたね。

 

「さて、化け物達の弁解は終わった。どうするの?」

 

シャルさんが早速人外の雰囲気を出して来た。

 

「今のことを漏らさないと誓えるなら、このまま親交を持ってもらう。まあ、宇佐美氏と同じ協力者かな?忘れて今までの関係に戻るならそれもできる。私達の村に幽閉することも、ここで命を落とすこともできる。」

 

いや、怖いですって。

でも。

 

「口割らなきゃ、普通にこのままでいられるんですね。」

「もっと脅迫されると思った?正直なところ人手不足でね。」

「人手不足?」

 

人員を追加できない理由でもあるのかな?

 

「さっき言った通り、技術に関係する人以外は文化レベルが明治初期に毛が生えた程度なの。それを連れてきて、ボロ連発する訳にいかないからね。」

「それで他の世界に行った、この文化レベルに慣れてる人しか来れないんですね。」

 

なるほど、そりゃ足りないわ。

 

 

「それにね。その環境はこっちとあっちの常識の違いを利用して構成されてるから、あまり知られ過ぎるとその環境が崩壊して滅亡。だから不用意に知られたくないの。協力者も絞りたい。」

「無意味に覗いたら……。」

「神隠しよ。言葉通り。』

 

おっそろし。

 

「まあ、後何人かこっち側が居るんだけどね。いま別件で来れなかったの。」

「例えば?」

「私が他世界探査した時の連れが二人が南アメリカにね。武装勢力の不正規レイヴンとして情報収集してくれてるの。」

 

戦友さんですか。

 

 

「ああ、そう言えば忘れてた。ダークスレイヤーあるでしょ。」

「え?あの実体剣ですか。」

 

まさかあれも繋がりがあるのかな。

 

「あれ、うちがこの世界でまだ勝ってる兵器用のナノマシン技術を使って作られてるの。…いや〜どうしても使ってほしいって技術者が聞かなくて。」

「なんか嬉しいですね。認めて貰えて。」

「実際そうだよ。天狗にならない程度には誇っていいかな。」

 

そこで気付く。

あの剣についてた[FGW]という名義はもしかして。

 

「この勢力に、名前って有るんですか?」

「一応、あんまりバラしたくない時は【ForGotten.Who】。[忘れられた者達]で通してる。ちなみに、生き残りを賭けた今の作戦コードは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【東方Project】。そう言ってるわ。」

 

 




クロス先発表。

苦情は荒らしにならないなら受けます。


なお、原作タグの変更を予定しておりますので、ご注意下さい。


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市街地侵攻阻止

さて、彼の依頼主が追加されます。




見たくない人の為にアーカイブと同時に投稿してます。
前回の話の続きとしてはそちらが正しいです


『ミッションを説明する。』

『依頼主はGA。目標は戦時条約に違反した、国連軍への武力行使だ。』

『この前の基地一斉襲撃が相当堪えたんだろう。奴らは先手を打とうと中立のコロニー、アナトリアに侵攻する話になってる。』

『これを避難済みの一番端の区画で迎撃して貰う。敵を行政区に向かわせるな。』

『僚機はお前の師匠2人だ。』

『この面子なら、本当の依頼主は分かるだろう。こちら側として初めての戦闘になる。気ぃ引き締めて行け。』

『いい返事を待ってるぜ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルさん。」

「何?」

 

俺は少なくとも彼女達の味方として戦うことにした。

だから、先に聞いておきたい。

 

「もし、企業側と戦うことになったら、両親の保護とかしてくれますか?」

「…確かにそれは重要だね。今後そうなってもおかしくないもんね。」

「保護先は…?」

「私達の棲み家かな?悪いけど。」

「棲み家…いや、あそこ!?」

 

いい場所が見つからないが、かと言ってそれはそれで危なくないか?

 

「…どうしましょう。GAとかはどうです?」

「この前聞いたら居住地満員。行くとこないって。」

「傘下の有澤!」

「あそこ会社の敷地位しか不動産持ってない。それに日本じゃすぐ見つかるよ。」

 

やっぱりこれしか無いのか。

 

「…分かりました。食べたりとかしないで下さいよ。」

「ちゃんと彼らが言う事聞いてくれればそんな事は起きないよ。」

「…………」

(父さん、暴走しないでよ…。)

 

自分が引き継いだ旅行好きが、発揮されないことを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

コロニーアナトリア。

 

 

入り口から少し遠い十字路に陣取る。

 

【システム、戦闘モードを起動します。】

『ほう、タンクか。面白い選択じゃないか。』

『何か思うところでもあった?』

 

今回、俺はタンクで高火力のアセンだ。

無論理由はある。

 

「お二人は機動力重視の機体なので、補助を考えました。制圧射撃をするので、討ち漏らしたすばしっこい敵をお願いします。」

『なるほど、俺達を保険にするか。いい度胸だ。』

 

確かに残党狩りはあまり楽しくないだろう。

実際自分もそうなったら不満を隠せない。

だが、

 

「確実性を取りました。失敗出来ないので。」

 

ハッキリ言わせてもらう。

すると、

 

『それでいい。俺も最重要項目が読めない訳じゃない。』

 

と、苛立った様子も無く、普通に返答された。

そこらへんにちゃんと理解がある。

となると。

 

「試しましたね。」

『故郷を任せるんだ。今のでビビるような奴じゃ務まらん。』

 

まあ。気持ちは分かる。

故郷は、信用ならないやつに任せられる場ではない。

 

『敵が作戦エリアに入りました。ミッション開始。』

 

シャルさん達は左右の道路から迂回しに行った。

大通りの向こう側。

国連軍の無人MTが隊列を組んでやって来る。

 

 

いい的だ。

 

無人なら容赦は要らない。

 

グレネードキャノンを展開。

中央にいたやつに向けて撃ち放った。

命中し、そのグレネードの爆風が周囲のMTを巻き込む。

左手のカラサワも構えそのまま乱射した。

美しい蒼い光が隊列に突き刺さる。

 

そして、安物のMTが片付きノーマルが残った。

そこにシャルさん達が隊列の横から弾丸を見舞う。

立ち位置が目まぐるしく入れ替わり、リニアとショットガン、マシンガンとブレードが入り乱れていた。

 

そんな中で俺が攻撃したらフレンドリーファイヤ確定。

傍観するしか無い。

 

機動力を活かした乱戦でノーマルの数は減っていく。

 

これで終わりなんて思ない。

ただ、予想外だったのは国連軍の本気度だった。

 

『レーダーに反応…。この速度、攻撃機!?それと飛行型ノーマル!?敵はアナトリア中央に直接空爆を仕掛けるつもりです‼』

『何!?数は!』

『攻撃機30。ノーマル15です。』

『国連軍得意の数の暴力ね。横流しのローゼンタールのまで投入して。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行型ノーマル。

 

 

 

本来制限のある空を飛び回り、多大な軽量化を代償に空戦を行う。

 

 

 

 

それは、ハイエンドやオーダーが横行する中で

 

 

 

 

唯一、それとは別の次元にある例外的存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言われるほど厄介な相手だ。

あの数でも十分、数の暴力と言える。

正直な話戦闘機を出したほうが早い位、アセンによるがACと相性が悪い。

 

だが、航空機はそんなすぐには飛ばせない。

 

『スクランブルまで時間がかかります。妨害してください。』

『私のオーダー、輪にかけて相性悪いんだけど!』

 

今日のシャルさんは出力重視、高出力ブースターにマシンガンだ。

滞空する事を考えてない上に、射程が短い。

空中戦はオーエンさんが頼みの綱になる。

 

 

だが、幸運な事に。

 

 

 

 

 

 

俺の右手はスナイパーライフルだ。

左手のカラサワも使えなことはない。

 

高度を上げなくても妨害位は出来る。

そして、当てるなら前や後ろから撃つに限る。

 

一応、高いビルの上に登る。

 

そして、攻撃機が見えた。

シャルさんもビルの上で少しでも数を減らそうと身構えている。

オーエンさんは下の大通りで空中戦の用意をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【システム、巡航モード。】

 

【FCS適正化】

 

【OB出力調整完了】

 

【エネルギー配分適正化】

 

【空戦可能です。】

 

 

 

「まさか空戦をやらされるとはな。」

 

俺のACコアのOBには[巡航モード]がある。

まあ、低燃費を売りにしてるからこそ出来た機能だ。

 

だが、空中戦ならまだしも、ACで航空機の舞台である空戦をやろうとするのは、余程の熟練者か、無知の愚か者だ。

 

ACが最強と信じ、高高度戦闘がまだ戦闘機等の航空機が支配する場だと知らない、な。

 

そいつは、航空機が高度500メートルで飛んでる俺達が標的の[セントウキ]が全てと勘違いしてるに違いない。

 

 

 

ACが航空機に劣っている点だが。

 

まず、速度は期待できない。

今回は攻撃機だが、相手が戦闘機だとあっちが戦闘機動してこっちが真っ直ぐ飛んでも追いつかれる。

 

旋回性も勝てない。

 

勝てるのは射角と威力だけ。

あと気持ち装甲。

 

だから、それを活かさなきゃいけない。

 

そして俺は生き残ってる。

 

【OB、ON。TAKE OFF】

 

一気に加速。

 

ブースターを使い上昇。

即戦闘高度に上がれるもACの魅力か。

 

そのまま敵の真正面に突っ込む。

ミサイルをブースターの加速で振り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スナイパーライフルで遠くから航空部隊を攻撃している。

カラサワはまだ射程距離外。

高度が高いせいで上手く狙いがつけられない。

相手は『アナトリア接収』の為にACは知らないふりするつもりらしい。

 

ACは多能であっても万能ではない。

 

ACは元はテロ等の紛争に対処する遊撃性能と汎用性を求めた兵器だ。(ということになってる)

すぐ乗って、それ一つである程度の事がこなすのが役割。

 

主に陸戦主体の思考での設計と戦術。

テロリストが航空機を手に入れ辛いからこその思想。

故に、オーダーというあり程度融通がきく機種になっても空に弱い。

高高度を飛ばれたらアセンによっては手出しすらできない。

 

 

 

 

 

 

 

その点、オーエンさんの戦いには目を剥かざるには居られなかった。

 

 

……手は止めてない。

 

いくら空戦出来るアセンだからといって、普通大軍相手にあそこまで立ち回れない筈だ。

 

【俺は放置すれば無視できない損害を与える事ができるぞ】

 

そう示すことで敵を遅らせている。

対処に回る敵を掻い潜り、攻撃機の数を減らす。

攻撃機も戦闘機動を求められ、侵攻速度が落ちる。

そして。

 

 

 

『待たせた、あとは任せろ。助かったぞ、オーエン!』

 

戦闘機が間に合った。

後は彼らに任せるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一応、シャルさんの人脈で呼んだ(真っ当な人間じゃない)彼らが、数も質も相手より上だったとここに記しておく。




流石にAC(エース○ンバットにあらず)に巡航モードがあっても、空はネクストでもない限り、リアルイレギュラーじゃないと無理だと思う作者です。

空戦について調べてまたいらん知識がついた今回。
矛盾があったらお手柔らかにお願いします。
調べましたがニワカにすぎないんで。


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呼び声

なんで!

 

なんで邪魔をするの!

 

人の為に、未来のためにやってるつもりなのに。

 

間違ってるの?ねえ。

 

ねえ、誰か教えてよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰か答えてよ!ねえ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『宇佐見だ。少々事情があって、直に依頼をすることになった。』

『国連軍施設に未確認機が侵入。それが暴れまわり、そこが壊滅した。』

『問題はその後。そこはそいつによって要塞化したとの報告が入った。』

『これが難攻不落で既に両軍に無視できない被害が発生している。』

『大半が既に攻略を諦め監視に入ったが、我々にはどうしても見過ごせない点がある。』

『未確認機はナインブレイカーがかつて交戦した規格外機と類似点が多く、既に何者かは割れている。』

『恐らく[厄災]か[乱入者]の物だ。【FGW】としてオーバーテクノロジーの流出を見過ごすわけにはいかない。』

『そこで、ナインブレイカーど協働しこれを破壊してくれ。』

『不思議な事に難攻不落なのは外壁だけで、内側は奴以外の攻撃手段が無い。GAが攻略の名目で外壁の対空砲等を攻撃し引きつける、その間に上空から侵入し目標の破壊にかかってくれ。』

『万全を期す為にシャルマメイヤーをバックアップに入れる。あくまでバックアップだ。』

『我々の命運は君にかかっている。頼む。』

 

 

 

『あと、ダークスレイヤーのアップデートがそっちにある。二脚限定だが、マニピュレータモードのモーションが完成したからな。』

 

 

オーバーテクノロジー搭載の規格外兵器との戦闘。

初めてのタイプのミッションに緊張する。

 

「ナインブレイカーさん。」

「ナインで良いって、アキレス。」

「分かりました。ナインさん。奴の特徴って何ですか?」

 

アセンの方向性のため敵の事を知りたい。

恐らく同タイプだっただろう機体と交戦した彼に尋ねた。

 

「あいつか。ただ、速い。一瞬で見失っちまうぐらいにな。それと火力が高い。ブレードとその光波には絶対に当たるな!って言ったところか。」

「火力と機動力の両立ですか。オーバーテクノロジーって凄いんですね。」

 

大雑把ながら、手強そうな敵なのはわかる。

 

「だが弱点はモロさ。いろんな武器を内側に突っ込んだせいで頑丈さが無い。速さに追いつけて攻撃を当てられれば確実に勝てる!!」

「は、はい。」

 

何か妙な自信があるな、この人。

一度堕としてるから当たり前か。

 

「よろしくお願いします。」

「おお!任せろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輸送機の中、機体を起動する。

 

【メインシステム。通常モード】

 

今回はぎりぎりまで通常モード降下する。

発見されて迎撃されるのを防ぐためだ。

下に戦火が見える。

そろそろだ。

 

 

『降下開始!本機はこのまま上空で待機する。』

 

浮遊感が体を支配する。

雲が上に流れていき、高度計の数字がどんどん小さくなる。

 

 

 

【LOCK ON】

 

画面に浮かび上がる文字。

それは敵意がこちらを向いてる事を示していた。

 

『戦闘モード起動!来るぞ!』

 

ミサイルが横を通り過ぎる。

 

俺も戦闘モード起動。

回避に専念した。

近づくにつれ、だんだんと精度を増していく。

 

「コンニャロ!」

 

ナインさんがカラサワMK-2を下に向けて幾らか放った。

相手が回避に回ったのか一時的に砲撃が止む。

 

そして、その隙に侵入に成功した。

 

 

 

『不味い。奴だ。』

「何かあったんですか。」

 

敵を一目見た瞬間、ナインさんが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

『シャル、マズイ。…セラフライザーだ。』

『ライザー…コジマ転用機⁉援護用意するか耐えて!』

「ライザーって何ですか、一体。」

 

かなり不味そうな空気になっている。

 

『俺が会ったやつを、さらに別のオーバーテクノロジーで強化した機体だ。ぶっちゃけヤベェ。逃げ回れ!機動性が比較にならねェ!』

 

ゆらり、ゆらりとこちらに向かう機影が一つ。

赤と黒の機体。

背中に大きなバインダーを背負い、頭から一本のスタビライザーが突き出ている。

 

 

そこにノイズがかった通信がつながる。

とても寂しそうな。

 

 

 

私はいらないんですか?必要ないんですか?人から必要とされないんですか?私はどうすればいいんですか?』

 

「…耳を貸すな。奴のバグだ。」

 

『何故台無しにしまうんですか?どうして抗ってしまうんですか?私は手を差し伸べただけなのに、どうして…』

 

『どうしてどうしてどうしてどうしてどうして殺してどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして止めてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてェェ!』

 

 

奴の姿が一瞬にして大きくなる。

正確には、距離を詰められたんだが。

振り上げられた奴の右手に光が灯る。

俺は咄嗟にダークスレイヤーを構えた。

 

そこに振り降ろされる右手のレーザーブレードの磁気反発器と、同じ機能を兼ねたナノマシン制御磁気がぶつかりスパークを発生させる。

磁気反発システムが機能した。

数百メートル飛ばされて建物にぶつかる。

 

「ガアアァァッ!!」

『アキレス!クソっ!』

 

彼のカラサワmk-2から蒼い光が放たれるが、当たらない。

その速さでナインさんを翻弄する。

 

なんとかまともに視界にはいった、とトリガーを引いたが、その瞬間視界から消えた。

そして、気付けば真左にいた。

 

『な、ゴワっ!』

 

そして、赤い機体は彼のACを蹴り飛ばす。

 

さらに、オービットによるオールレンジ攻撃をしてきた。

 

俺らは動き続けて避けるしかなかった。

 

 

圧倒的性能差に初動を持って行かれた。

性能差はテクニックや発想で埋めるしかない。

デカイのを当てれば。

つまりナインさんのカラサワMk-2やムーンライト、俺のダークスレイヤーのどれかがクリーンヒットすれば一気に形勢は逆転するはずだ。

 

無論目標はそれではなく撃墜だが。

どうすればいい。

 

必死に攻撃を避けながら考える。

 

地形。

奴のホームだ。

 

装備。

どれも癖のないものばかり、工夫が必要。

今はそれを考えてる。

 

機体特性。

装甲以外勝てない。

その装甲もまず攻撃が当たらない。

 

パイロット。

多分AI。

なら想定を超えれば機能低下するはずだ。

 

何をする?

 

 

この状況下、何が奴にとって想定外な事なんだ?

 

 

考えても考えてもいい案が出ない。

どう戦う?

 

頭の中がぐるぐる回る。

 

奴に勝つにはどうすればいい。

どうすれば。

 

 

 

 

『おい!!!もっと動け!鈍いと的だぞ!』

 

思考から引っ張り出された。

そして、視界の中に赤い機影が映ったとき、咄嗟にトリガーを引く。

 

撃ち出された高速の飛翔体が、奴の右肩を掠めた。

 

(当たった?)

 

驚きしか無かった。

今まで当たらなかったのに、どうして。

 

『あまり考え詰めるなよ。こういうのは地力勝負だ。弱けりゃ負ける。それだけ。』

 

今のはきっと無意識で、非論理的だったからだ。

マグレ。

そう考えたとき、彼がそう言ってくれた。

 

気付けばオービットは無くなっていた。

彼が撃ち落としたのか。

 

実力勝負、強い者が残る。

そういう思考の中に、〈自分は奴より上だ〉という意思を感じる。

 

奴を超えればいい。

そう彼が言っている。

 

それが何故か俺に火をつけた。

 

 

奴を睨む。

その瞬間、消えた。

 

(右!!)

 

左手のダークスレイヤーをマニピュレータ保持に切り替える。

そして振り返る動きと同時にダークスレイヤーを振り上げた。

振り返った所に奴が現れる

袈裟斬り。

 

結果は防がれた。

レーザーブレードで受け止められて。

だが。

 

『「ようやく足を止めたなぁ!セラフッ!』」

 

横からナインさんがカラサワMk-2を放った。

奴は直ぐに後退し、俺とセラフの間を蒼い光が遮る。

セラフはそれが切れるか切れないかのところで右手から光波を放った。

俺は少し横に飛んで躱す。

そして、リニアで返した。

命中はしなかったが、だんだんと手応えが強くなってくる。

 

 

『それでいい!アキレス!』

 

 

そこから旋回戦になる。

いくらかチェーンガンを掠めたが、戦えている。

不意をついてナインさんがレーザーを撃つ。

セラフは左に例の機動をし、攻撃は難無く回避された。

その時見えた。

噴射炎はバインダーだ。

しかも、さっきより遅い。

 

 

それでも捉えきれず見失う。

レーダーが後ろに敵がいることを告げる。

それなら、と俺は真上に飛んだ。

足元をパルスが過ぎ去り、向こうで建物を焦がしたのが見えた。

 

そして振り返ると奴は変形したのか、戦闘機じみた姿でこちらに猛スピードで向かってくる。

 

(相手よりも速く!)

 

手前で変形しブレードを起動して迫るセラフ。

俺はOBを起動し、ダークスレイヤーを逆手に持った。

 

(斬る!)

 

セラフがブレードを振る前に通り過ぎる。

そして

左肩とバインダーが火を吹いた。

 

「これであの動きは…ナインさん!」

『おうよ!』

 

セラフはなんとか体制を立て直していた。

だが減速が間に合わなかったか、大きな音を立てる。

そのセラフの右からナインさんは迫る。

 

月光に光が灯る。

狙いはバインダー。

 

だが、その機動を生むのもバインダー。

 

 

右バインダーのスラスターが噴射され、一瞬で距離を離される。

だが、彼は織り込み済みだった。

背中に光が集まり噴射。

セラフの懐へと、一気に離された距離を詰めた。

 

右肩とバインダーを斬り裂く。

 

「『これで!!!」』

 

ナインさんは振り返りカラサワMk-2を、俺はリニアを同時に放った。

 

 

 

 

 

セラフは()()()()()()()()

 

 

 

ACは簡単に()()()()()のに。

 

 

 

 

 

 

 

二人は更に大きくなった爆発に吹き飛ばされる。

 

「なんだ!?何が。」

 

急いで立ち上がる二人。

そしてその爆炎の中、何かが持ち上がるのが見えた。

 

アキレスに向かってチェーンガンが、ナインにはパルスがそれぞれに放たれた。



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Calling

『クソっ。APが…済まねえ。』

 

俺は避けそこねてリニアを失っただけで済んだが、ナインさんはパルスが足元に当たり、体勢が崩れたところに垂直ミサイルが降り注いだ。

 

結果、彼のAPは削りきられてしまった。

 

煙の中から姿を現すその機体は、肩のバインダーパーツが脱落している。

 

あれで防いだのか。

APのないナインさんには興味を示さず、こちらを見ている。

 

『待たせてごめん。二人共。』

 

シャルさんが降下してきた。

セラフは反応しない。

俺狙いらしい。

 

「シャルさん。ナインさんを安全圏に連れて行って下さい。奴は俺しか見えてない。」

『何言ってるの!逆でしょ!』

 

死にに行く気かと怒鳴られた。

 

「俺が行っても追いかけてくると思います。時間稼ぎなんで回避優先ですから、お願いします。」

『あ~もう!…分かった。何か欲しい?』

「じゃあ、左手のマシンガン貸して下さい。」

『右手じゃ無くて?』

 

左手のダークスレイヤーが気になるんだろう。

だけど、こいつはちょっと変わってる。

 

「大丈夫です。持ち替え可能なんですよ、これ。」

 

そう言ってダークスレイヤーを右手に持って見せる。

すると、そう、とシャルさんは言ってマシンガンを投げ渡してくれた。

 

『死なないでね。』

 

そう言うとナインさんに近付いていく。

 

俺はセラフと真っ向から睨み合う。

ダメ元で通信を繋げた。

 

「お前は[厄災]なのか?それとも[乱入者]か?」

 

既にシャルさん達は離脱を始めているが、それでも動かない。

静寂。

だが、依然として敵としてレーダーに映っているので、油断も出来ない。

 

『…そのような呼称は聞いてませんでした。アキレス。』

「!…会話できたのか。さっきのは?」

 

いきなり返事が返ってきたことに驚きが隠せない。

まともな思考が出来てそうで、さっきの狂いっぷりが嘘のようだった。

 

『あれは…忘れて欲しいくらいですね。出鱈目に私の感情を詰め込んだオートマタ(自動人形)ですよ。』

「じゃあ、今はあなた自身と言う事でいいんですね。」

 

オートマタだって?

感情を詰め込んだ?

彼女にはあの狂気に近い感情が有るとでもいうのか?

それを飲み込む。

 

『ええ、遠隔ですけども。遅れました。私はセレ・クロワール。恐らく、[乱入者]と呼ばれる方かと。』

「セレ・クロワール。今、遠隔操作している理由は有るのですか。」

 

俺と話す為か。

流石にそれで名前を名乗るのは不用心じゃないか?

そこで、一つ思いつくのは定番パターン。

 

「『貴方()を排除するため。とか。』」

 

あの機動が出来なくても直線速度は健在だった。

一瞬でブレードの間合いに踏み込まれ、俺はダークスレイヤーでガードに入るしかない。

最初と同様に吹き飛ばされるが、幸い後ろに建物がなく叩きつけられることは無かった。

 

セラフは変形し、猛スピードで迫ってくる。

チェーンガンとパルスを俺に向かって撃ちつつ接近してくる。

それを横にズレて回避。

元いたところをセラフが過ぎ去っていく。

そのまま向こうまで行って、旋回。

もう一度向かって来た。

 

一撃離脱戦法。

AC相手に航空機がよくやる戦法だ。

だが、あれは次元が違う。

あんな速度で、こんな低空を飛びはしない。

緻密な操作と大胆さが無いとやってられないはずだ。

真人間じゃないとか、そもそも人間じゃない、もしくは人間辞めてるかのどれかだ。

 

 

 

同時に、俺を試す動きだ。

高度を上げれば俺に攻撃されないのに、わざわざ低空を飛んでいるのだ。

攻撃のチャンスはある。

 

もう一度来た。

また横に回避して難を逃れる。

 

Aiだとしても、あのレベルのAiがいつまでも同じ事するとは思えない。

 

次で決める。

 

一つ方法を閃く。

迫るセラフに向けて、俺はOBした。

背中で爆発の光が輝く。

垂直ミサイルが俺の居たところを焼き尽くした。

 

立ち止まってたら危なかった。

 

詰まる距離。

俺はセラフにマシンガンを乱射した。

相対速度の関係から、破壊力の増した弾丸。

バラけるため、少しズラすだけでは避けきれない。

セレ・クロワールは流石に嫌がったか、僅かに、だが確かに高度を上げた。

 

そしてそのままパルスを連射してくる。

 

俺は滑り込むようにしてパルスと地面の間に機体をねじ込んだ。

 

つまり、このまま行けばセラフとも正面衝突はしない。

 

ダークスレイヤーを掲げ

 

上下にすれ違う。

その時にダークスレイヤーがバインダーに食い込んだ。

 

その勢いのままバインダーを斬り裂く。

浮力と推力の釣り合いが崩れたセラフは墜落した。

 

こっちも無傷じゃない。

背中が擦れ、APが減少している。

 

ダークスレイヤーにもヒビが入り、今にも折れそうだ。

 

セラフは人型に戻り立ち上がる。

まさか、まだ向かってくるのか。

パルスを必死に回避してマシンガンを撃ち続ける。

左バインダーが半壊しているにも関わらず、中量機並のスピードで動いているセラフに驚きを隠せない。

お互いにボロボロだ。

 

旋回戦で切り返した時、お互いの距離が縮まる。

はじめから展開しっぱなしのダークスレイヤーを振り下ろす。

対してセラフが紙一重で躱し、拳でその刀身の横を激しく打った。

 

既にヒビだらけの刀身に負荷がかかる。

 

 

そして、ダークスレイヤーは砕けた。

バラバラと破片が落ち、闇に溶けていく。

 

近接武器を奪ったセラフはレーザーブレードを展開し俺を激しく攻め立てる。

連続したブレードが少しづつ機体を掠める。

 

そうしているうちに、俺はセラフの真正面で足を止めてしまった。

操作ミスで。

 

 

セラフは両腕をクロスし挟み込むようにレーザーブレードを振りかぶる。。

左右への回避は出来ない。

ジャンプは間に合わない。

しゃがんでも、その場しのぎ。

 

 

 

奴はそう、思ったんだろう。

 

俺は姿勢を低くし、一歩踏み込んだ。

頭の上をレーザーが通り過ぎる。

 

 

次の瞬間。

闇が集まる。

 

 

 

セラフの首元から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ケイローンの腕は、セラフのがらんどうの腹部に入れられ、手は上に向いていた。

 

 

ナノマシンで形成されるダークスレイヤーは、折れても再展開で修復する事が可能だ。

斬ったり折れたりする度に僅かに短くなるため、何百回も折られる事は想定してないが。

 

それを悟られたくないので、普段は閉所でもない限り展開しっぱなしなのだ。

 

そして、セレ・クロワールも引っかかった。

その本人にから通信が来た。

 

『さすがね、やっぱりあなたは。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イレギュラー。彼らと同じ、計画に不要な、排除すべき敵。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪寒を感じ、咄嗟に機体を下げる。

 

ほぼ同時にセラフは爆発した。

 

自爆だろうな、と思った。

盛大な爆発が視界を覆う。

残骸は、原型を残さなかった。

 

シャルさんが近づいて来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして怒られてるか分かる?」

 

場所は変わってガレージ。

俺はシャルさんの前で正座させられている。

所謂、お説教ですね。

 

「回避重視で時間稼ぐって言っといて思い切り攻めてた事ですね。」

 

完全にスッポ抜けてた。

時間稼ぐのにセラフの下をくぐり抜ける必要は無い。

ダークスレイヤーでフェイントをする必要も無い。

 

要するに、時間稼ぎのクセして体張りすぎた。

 

「すいません。火が着いちゃって、つい…」

「つい、で命張らないで!レイヴンだから多少は仕方ないけど、自分が何してるかを忘れないでよ…。」

「仰る通りで…………」

 

ラビエスさんから言われた事が直ってないと思えた。

自制を忘れないようにしないと。

 

「まあ、そこまでにしとけよ。アキレスも反省してるみたいだしな。」

「大丈夫、私も分かってる。次も同じ事が無いようにね。」

「分かりました。」

 

なんとか許してもらえた。

ナインさんに感謝。

 

 

「で、彼女について。アキレスが聞いた通り、彼女は恐らく[乱入者]みたいね。」

 

セレ・クロワールの話に移る。

 

「何でそう言い切れるんだ?証拠不十分だろ。」

 

彼女が言っただけに過ぎないそれを信用していないナインさん。

 

「理由は使用兵装よ。コジマ…ああアキレス、知りたければ後でお願いね。あいつはそれが使用可能なのに、使った?」

「そういやPA展開してなかったな。それにアサルトキャノンも。使ったのは俺たちの攻撃を吹き飛ばしたアサルトアーマー一回だけ。」

「思うに、それは咄嗟に使った筈。QBしか使用する予定しか無かった。しかも、最期は恐らく自爆。原型を留めない程に。技術班が回収の必要がないって言う程の壊れっぷりだったらしい。」

 

つまり、コジマとかいうオーバーテクノロジーを極力使ってなかったし漏らさなかったという事。

 

「奴は技術も汚染もバラ撒く気は無かったって事か!」

 

ナインさんが納得。

ガレージに響く声はご遠慮願いたい。

 

「[厄災]はそんな事気にしないもの。よって除外。かと言って他があれを手に入れる事なんて出来ない筈。」

「結果、彼女の言った通り[乱入者]の可能性が高いと言う訳ですね。」

 

なんとなく分かった。

消去法的に[乱入者]と絞り込めた。

 

「まあ、報告しておくから、二人はあがって。」

 

ようやく掴んだ敵の尻尾。

一歩前進、か。




長すぎて途中で分割しました。

ぶっちゃけ本気のセラフライザーはオーダーじゃ手に負えません。
ここでは、縛りプレイで戦ってもらいました。
[乱入者]はコジマをばら撒きたくはないそうです。


コメント待ってます。
…欲張りですか?


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鮮血の海〜who hurt her〜

条約という楔は破られた。

 

 

何者かによって作られた均衡が両者に闘争心を与える。

 

 

気づかない企業と国家は踊り狂う。

 

 

誰のためでもなく。

 

 

ただその者の為に。

 

 

戦況は混迷に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は雨が降っていた。

シャルさんが珍しく焦って二階から降りてくる。

 

「アキレス!急いでACのセットアップして!ブリーフィングは後!私も出る。」

「緊急事態?分かりました。」

 

こういうことはたまにある。

時間が無い緊急事態の依頼はどんな類のミッションを何処が出したかだけ確認して、移動中のAC内でブリーフィングを行う。

 

「どんなミッションですか?」

「有澤の工場を視察してたレイレナードと自衛隊で戦闘が発生。もっともレイレナードはこれ狙いだったみたいだけど。」

 

 

俺にとって認めたくない、最悪な状況が待ち受けているなんて知らなかった。

 

「どの辺りですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞きたくない地名だった。

よりによってなんで、と頭を抱えたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルさんの口から発せられたそこは。

 

「紫蘭の合宿してるところじゃねぇか!クソッ」

 

最悪だ。

無事でいてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらです!落ち着いて避難してください!」

「焦らないで、冷静に!!」

 

急ぐ人混みにもまれ、私は避難誘導を手伝っていた。

自分から申し出た。

後悔はしてない。

多くの困っている人を無視は出来ない。

だから何かできることをして無いと気が済まない。

 

向こうで砲撃音がする。

ACが銃撃戦をしてるんだ。

日本でこんなことが起こるなんて思ってなかった。

 

「すいません!!私の子供が見つからないんです!」

 

向こうで女性が避難誘導の男性に訴えるように叫ぶ。

自分の子供が心配で今にも泣き崩れそうだ。

彼が手を離せないのなら、

 

「私が行きます。」

「何言ってるんだ!危険だろう。」

「大丈夫です。私、人探しは得意なんで。」

 

そう言って許可も得ず走り出した。

自分がそうすべきだと思ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【戦闘システム、起動。】

 

『敵はノーマルしかいません。迅速に撃破してください。』

 

俺は誰もいないところに着地した。

その近くにオーメル製ノーマルが一機。

 

『レイヴンか!それなら早く。』

 

()()()を全滅させなきゃなぁ。」

 

腹の底から声が出た。

敵の方を向いて、俺に横っ腹を見せているそいつは、今まで企業側のレイヴンだった俺を味方と勘違いしていた。

そいつをダークスレイヤーで左脇腹から右肩までをバッサリ斬り、APを奪い切る。

 

そして、右手のリニアで奥にいる自衛隊のアルドラのノーマルを撃ちまくった。

片膝を付き停止。

 

隣に居た奴にも同様に弾丸を浴びせてやる。

 

【両者条約違反のため、双方にGAの制裁として武力行使を行う。】

 

そうシャルさんから伝えられていた。

 

 

一気に上昇し、お互いに敵しか目に入ってない有澤と自衛隊のノーマル計4機に散布型ミサイルを2トリガー分撃ち込んだ。

 

 

着地したとき、後ろから迫る機体が一機いることに気付く。

 

「わかりやすいんだよ。」

 

後ろからオーメルのノーマルがブレードで斬りかかる。

 

それに対し俺はダークスレイヤーをマニピュレータ保持に持ち替える。

あの時のヤンを思い出す。

 

 

そして、振り向きざまに

 

一太刀で右手を斬り飛ばし。

 

ニ太刀でコアを裂き。

 

三太刀で足を払った。

最後の衝撃で敵機体が浮き上がり、俺の頭上を超えてアスファルトを抉って胴体着陸した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「息子をありがとうございます‼」

「いえ、見つかって良かったです。早く避難してください。」

 

ビルで1人泣いていた子供を連れてきたら、やっぱり彼女の子供だった。

なんとか彼女のいる川沿いに連れて来れて一安心。

彼女は子供を連れて去っていった。

後は私が避難するだけ。

 

そこで気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

向こうの方。

川の中に佇んでいる青と白のACがいた。

練のACだ。

 

 

こちらを見た。

 

 

 

 

 

すると私に気付いたように急にこっちに向かってきた。

少し嬉しいけど、申し訳ない。

練、怒るだろうな。

そう思って、待っていた。

だけど。

 

 

 

そのAC()がすぐ目の前に来たとき。

 

 

轟音と暴風が私を襲う。

 

何かが頭に強く当った。

 

 

そして意識が遠のいていく。

練も。

 

左半身の感覚とともに。

 

「練…どうして…」

 

何故か、口からそう漏れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は驚かざるをえなかった。

まだ紫蘭が戦闘エリアに居たんだ。

思わず俺は駆け寄り呼びかけようとした。

 

 

 

 

 

 

だが、それは間違いだった。

 

 

紫蘭の近くに来たとき。

画面端に【LOCK ON】の文字が浮かぶ。

 

 

 

 

初っ端で斬り捨て、APを0にした筈のノーマルが右で動いてた。

咄嗟にEOを起動する。

 

 

 

 

「紫蘭逃げ」『調子に乗るなぁ!』

 

バズーカ弾が目の前で光の花を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【右腕部破損】

 

【Destroy】

 

バズーカは肘に当たった。

 

 

EOの攻撃が敵のコアに命中したのか、敵機撃墜の文字がコックピットに灯る。

 

だが、そんな物はどうでも良かった。

 

目の前の光景を認めたくなかった。

自分のミスを認めたくなかった。

自分の愚かさを認めたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

紫蘭は()()()()()()

 

 

 

それでも

 

 

「ああ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もげた右腕が、紫蘭の左半身を押し潰している光景から目が離せなかった。

 

 

 

 

 

「あ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

紫蘭の、鮮血の海に浮かぶその姿。

 

 

 

主の意思が伝わらないはずの右手の小指が、その少女の頭を優しく撫ででいた。

 

 

 

 

 

 

 

そこから目が、離せなかった。

 

 

「ぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァぁ…ヴぁあ嗚呼あああ啞ああ阿ああああAあああaあああ亞椏あああ阿あああAあッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ……ハァ……」

 

『アキレス!どうしたの?』

 

シャルさんの声で我に返る。

 

「シャル…さん。お願いが、あります。」

『どうしたの。』

 

シャルさんは紫蘭にまだ気付いてない。

俺は行かなきゃいけない。

だから、辛くても言わなきゃ。

 

「紫蘭に応急処置、それと救護ヘリを、呼んでください。」

 

そして半歩ずれて光景を見せる。

 

『っ!!!あなたは何を!』

「これからヘリが降りれるよう、脅威を排除します。シャルさんは彼女を守って、ください。」

『守るのが貴方の役割でしょうが!!』

 

堪らない、とシャルさんからの罵声。

だけど。

 

 

 

 

 

 

俺は彼女の夢を潰した。

オリンピックの為の足を潰した。

既に守れてない。

 

 

 

 

プツリと何かが切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺にその資格、は、無い。今の俺は、壊さずには居られない。故に彼女を守る権利が、ない。」

 

機体の左手がグリップを握り込む。

何処からともなく黒い霧が機体の周りに現れて、それが集まり刀身を形成する。

 

『それは何も生み出さない!良く考えてアキレス。』

 

敬語が抜け落ちる。

それで俺が正常ではないと判断したに違いない。

そう言いつつもシャルさんはコックピットから降り、紫蘭の応急処置処置を進めている。

 

 

「なんも生産性も無いのは、分かっている。だが、気が済まないんだ。」

 

 

シャルさんが口を噤む。

もし今抑えても、いつかは抑えられなくなる感情だ。

 

だから。

 

「今だけは、この激情に身を任せたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各所でAPが0になったACが動き出す。

制限を解除した機体だ。

 

「なら…死んでも文句はないよな。」

 

まずは、国連軍のアルドラのACを蹴り飛ばす。

プログラミングされた硬い動きでも、リニアでボロボロになっていた装甲を砕くには十分だった。

上半身と下半身が別れる。

もう一機のノーマルがパルスで迎撃するつもりらしいが、散布型ミサイルがその前に機体に突き刺さり、機体を爆砕する。

 

『満身創痍のくせに、舐めんじゃないよ!』

 

有澤のノーマルがグレネードを乱射してくる。

それに対し俺は、左の建物を蹴り飛ばし右に飛んだ。

三角飛びとか言うやつだ。

それで、ノーマルの左に回った。

そして、真左に着地。

旋回しきれてないそいつを蹴り飛ばす。

 

敵はビルにぶつかり、もたれ掛かる。

俺は追い付き、そのキャタピラに足をかけ、キャタピラを壊す。

めきゃ、と音を立て機体が軋む。

 

そして、ゆっくりとした動きで左手を引き。

 

ダークスレイヤーを突き立てた。

 

 

 

 

 

 

どこか、あの日のオニキスに似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、やってる。俺も混ぜろよ。」

 

俺はランク92のフライハイ。

破竹の勢いで依頼遂行する期待の新人だ。

 

依頼じゃノーマルだけと聞いていたが、オーダーがいる代わりに満身創痍だ。

 

(楽勝だな、こりゃ。)

 

そうしてそいつの左からライフルを撃ちつつ接近して行く。

 

するとそいつは、手前にあった建物を蹴って急に後退しやがった。

 

「ならこれでどうよ!」

 

奴と同じ通りに出て、7連マイクロミサイルを後退して行くやつに放つ。

奴は避ける素振りもなく、爆炎が奴の目の前に現れる。

 

しかし少し手前でだ。

見ると刃が折れた剣を振り切った姿が確認できる。

 

(ミサイルを斬りやがった⁉だが、奴にろくな武装はない。もらった!)

 

刀折れ、矢尽きるとはこの事。

一気にレーザーブレードでトドメを刺そうとして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【頭部破損】

【脚部破損】

【AP残り50%。回避してください。】

【左腕部破損】

【AP残り10%。危険で…】ブツッ

「がハッ‼」

 

地面に打ち付けられた。

機体を確認するとコアに右手が付いただけの悲惨な状況だ。

 

 

 

 

 

 

やつは何をした。

 

 

 

 

 

 

それに答えるはずはなく。

折れた筈の剣が鈍く光る。

黒い霧を纏って去っていく満身創痍の後ろ姿は、禍々しく彼の目に映った。

 

 

 

 

 

 

恐怖が彼を支配した。

 

 

かつての存在した、怪奇を目の当たりにしたかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくヘリが来た。

 

私は既に彼女を運ぶ準備を終えているのに。

 

彼のACの腕は完全に彼女を押し潰してはおらず、手足に留まっていた。

銃を握っていた余韻で頭を撫でていただけの事はある。

 

出来る限りのことをした。

今なら十分間に合う。

 

ヘリは着陸し、隊員が彼女を運び込んでいく。

 

 

 

 

飛び立つ間、私はACに乗り周囲を警戒していた。

そしてからヘリは誰にも妨害されず領域を離脱。

 

直後、コールが掛かる。

私はアキレスだと思って出た。

 

「こちらシャル。今ヘリが領域を離脱した。」

『知ってるよ。』

 

通信越しでも明らかに彼とは高さが違う声がコックピットに響く。

 

「……貴方は誰ですか。」

 

かつてのよそ行きの口調が出る。

 

『嫌だなぁ、君たちが追っている存在を忘れたのかい。』

「[厄災]、いや財団…あなたですか!」

 

コード[厄災]は彼、財団の事だ。

気付いてはいたが、確証が取れるまで言いたくは無い名前だ。

 

「このタイミングでなんの用です?」

『いや、良い物を拾ってね。君達に見せたかったんだ。』

 

良い物?

ロクなことなさそうだ。

ん?…このタイミングで拾い物?

 

『彼女、いわゆる天才って奴だね。逸材だ。』

「彼女…、まさか…。」

 

このタイミングで[彼女]なんていうのは…

間違いない。

騙された!

 

『立上紫蘭、。そっちのケモノと同等の素質があるんだよ。本当興味深いねぇ』

「どうやってそれを!」

『病院のサーバーをクラッキングして、血液検査の結果を手にいれてね。遺伝子から割り出したんだよ。そして、検査用ナノマシンを仕込んでその結果間違いないと分かった。』

 

狼狽するしか無い。

あのヘリはきっと奴のヘリだったんだ。

完全にこっちのヘリと外も中も一緒の。

記憶力に自信がある私の目すら欺く完成度のヘリ。

 

そして、素質とやらの確認もこの前接触した時だ。

やられた。

 

 

 

『誰かさんが護衛してたお陰で無事手に入れられた。例を言うよ。』

「ふざけるな!」

 

ウィンドウを叩き割る。

既に通信は切られていて、ACの駆動音以外の音は聞こえない。

 

 

 

 

そんな中、上空からバタバタバタ、と音が聞こえる。

今度こそ本当に味方のヘリが来たのだ。

 

 

 

私のミスだ。

 

 

悔しさに顔を歪ませた彼女の唇からは、血が滲んでいた。



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~予定は狂うさどこまでも〜

短めです。


かつて財団と呼ばれた者はこの世界に来ていた。

 

そして、人間の可能性とも言える怪奇の存在を知った。

 

財団は思う。

 

これもまた、滅ぶべきだと。

 

人間に可能性など存在しない。

 

その事を証明するために。

 

男の手には怪しげな装置が収まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい‼私のせいで紫蘭さんを、やつの手に……私がよく確認してれば!」

「シャルさん、落ち着いてください。仕方ないですよ。謀略なんて。」

 

ガレージは、最初予測していた風景とは全く異なっていた。

膝から崩れ落ちたシャルさんを、アキレスがなだめていた。

 

「でも、私のせいで…………彼女は。」

 

泣きかけている彼女に面喰ってしまう。

だが、そのおかげで自分がしっかりしなければという思いから、絶望に砕かれる手前で踏みとどまれたともいえる。

 

今、思ったより上向きな思考ができるのは運が良かったかもしれない。

 

「奴は素質を欲してた。なら殺しはしない筈です。まだ希望はある。」

 

もう俺は彼女の夢を奪った。

なんと罵倒されても仕方のない立場でもある。

[厄災]に誘拐されたのは悔しくて仕方ないが、シャルさんを傷つけても意味はない。

そう開き直れた。

それに、

 

「俺が貴女に怒りをぶつけることを紫蘭は望んでない筈ですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルさんが落ち着いたところで話を再開する。

 

「[厄災]の目的は割れてる。『人は人によって滅びる』。彼は人間でありながら人間を恨み、人を辞めて、それを滅ぼそうとしている人外の存在。」

 

まるで、質の悪いアニメの悪役だ。

そこに至るまでに何があったんだろうか。

 

「彼は彼女を利用する。恐らく狙いは貴方。素質もきっと綺麗な目的の為に使われそうにない。」

 

まあそんな奴だ。

紫蘭をろくな目的で使うなんて考えられない。

 

「もしかしたら、まともな人間であるかどうかも…。」

「どういうことですか!?」

「奴は人間を戦闘ユニットにしてしまうようなやつよ。彼女に何を求めているのか、それによるわ。」

 

抑えていた感情が吹き出す。

シャルさんがああなるわけだ。

居場所が分かれば今すぐ殴り込んでしまいたい。

 

そこでさっき駆けつけたストレイドさんが口を開く

 

「なあ、アキレス。いや、神津 練。」

「!何ですか?」

 

本名で呼ばれ、ただことではないと察する。

レイヴンではなく、俺個人に用があるのだ。

 

「お前はもし紫蘭が眼の前に立ちはだかったら撃てるか?」

 

それが俺と同じ才能(ドミナント)なら、そうなるだろう。

俺はハッキリと言った

 

「いいえ、撃てません。」

「馬鹿が。」

「アイタッ!叩くことないじゃないですか。」

「はぁ。そこまでハッキリ言いきらんでも…。だが、その清々しい顔で撃てるって言うよりかはいい返事だ。」

 

じゃあなんで叩いたんです。

理不尽です。

 

「私達は、撃って後悔した奴もいれば撃たなくて後悔した奴もいる。その瞬間に後悔しない選択はなかなかできないし、どう足掻いても悔いが残る時だってある。」

 

ストレイドさんは昔を思い返すように語る。

彼女はどっちだったんだろうか。

 

「だからこそ足掻け。泣き崩れてもいい。他人の足に縋り付いてもいい。己のあるべきと望んだ結末を引きずり出せ。」

 

彼女のポリシーなんだろう。

言葉とは裏腹にすがすがしい笑顔で言い放った。

 

少しして、何かに気付いたように彼女は懐から何か取り出した。

煙管と小箱。

 

「ガレージは禁煙ですよ。」

「おっと…、済まない。」

 

煙管なんて使ってるんですね。

 

「それにその見た目で喫煙なんて犯罪にしか見えませんよ。二十歳越えてるように見えませんから。気を付けてください。」

「分かった分かった。ベランダで吸って来る。」

 

俺と同い年の見た目で喫煙なんて捕まりそうだ。

実際はかなり年上なんだろうが。

しかも戸籍がないので年齢も証明できない。

 

今まで、GAの支援があったんだろうけども、大変だったんだろうな。とも思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に…難しいな。このやり方やめようかな。」

 

ベランダに出たストレイドは苦しそうに言葉を吐き出した。

既に右手にはべったりと血がついている。

 

ゆっくりと煙管と小箱を取り出す。

小箱から出てくるのは刻んだ葉ではなく、コルクを小さくしたような塊だった。

それを煙管に詰め、火をつける。

 

ゆっくりと吐き出される煙は、上ではなく下に落ちていく。

 

「まだ、20年くらい戦わなきゃいけないんだ。もってくれよ。」

 

その声は、星空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の知らないところで何か動いてる。

 

計画と違う何かがずっと前から見えないところで蠢いてる。

 

アキレス。

 

あなた達は何?

 

もう一人の[厄災]呼ばれたあなたは誰?

 

計画に修正が必要。

 

どうする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると眼の前には知らない天井があった。

 

「目が覚めたのね。お父さんに知らせなきゃ!」

 

女性の声がして、足音が遠ざかる。

恐らくここは病院だ。

 

何があったかを思い返そうとする。

合宿地にACが現れて、避難誘導して、迷子を探して、それから…

 

ハッとして左腕を見た。

 

 

 

 

 

見てしまった。

 

あったのは無機質な腕。

この様子だと足もなのだろうか。

 

 

愕然とする。

 

夢の舞台が目の前で崩れ落ちていく。

夢が焼け落ちていく。

 

ただ、絶望があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

悪魔が囁くような声が聞こえる。

 

子供を気にしなければ、こんなことにならなかったかも知れない。

 

助けなくても無事に生き延びてたかもしれないじゃないか。

 

早く避難すれば良かったのに。

 

 

 

振り払った。

きっと次も放っておけない筈だ。《/color》

 

 

 

なら誰が悪いんだ。

誰が夢を奪った。

 

 

あの時、アキレスは傍に居たのに。

守ってくれなかった。

なんで。

私の夢を知っていたはずなのに。

 

なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。

なんで!

 

 

 

 

 

 

 

違う!

 

 

 

練は私のいた所が危ないから近寄ってきたのに。

あんな時に敵から目を離すなんて危ない事してまで来てくれたのに。

 

それは酷いよ。

才能があっても、完璧なんて無いんだから。

 

 

 

 

 

 

 

そうしているうちに、扉が開く。

医者の姿の男性が入って来た。

 

「初めまして。私はメスィフ・イフェルネフェルト。君の主治医になる。よろしく。」

「娘のフィオナです。よろしくね。」

 

じゃあ、義手も彼が作ってくれたのか。

私も自己紹介しないと。

 

「私、立上紫蘭です。よろしくお願いします。」

 

首元に刻まれた傷跡にこの時は気づけなかった。

 

義肢以外にも私はナニカサレテいることに気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

これで良いはずだ。

そう男は呟いた。

 

装置は暗示による思考誘導をする物だ。

 

予定では、これで彼女に彼への憎悪を持ってもらい、ぶつけるつもりだ。

 

他人に罪をなすりつける事に抵抗があるかもしれない。

故に、まだ成功したとは限らない。

 

だが、次善の策はある。

彼女とイフェルネフェルト、オーエンには苦しんでもらうけどね。

 

ニヤリと意地汚い笑みを浮かべ、彼は扉へ向かった。



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鴉と山猫の幻影

森の中、その家は建っている。

家の一部屋、よく分からない大量の実験機材に囲まれ、ストレイドは寝ていた。

 

「朝か、寝ちゃうなんて疲れてるのか。」

 

今は余裕がないので、時間を惜しんでいる。

コッチに帰ってきたのは持っていく物があったからだ。

 

「あった、これが無いとな。」

 

取り出したのは小箱。

柄はない。

それを鞄に放り、玄関を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪趣味ともとれる赤い館。

その地下に彼女はいた。

ブラックバードはかつての愛機を使用できず、バックアップメンバーになっている。

ここではVACと呼ばれる機種。

あまりの共通点の無さに彼女の強さはオーダーでは発揮できない。

故に、退屈である。

その姿を利用した情報集めがせいぜいだ。

 

「フラン。貴方は今の私をどう見る?」

 

己と同じ愛称で呼ばれた者に想いを馳せる。

もういないのは分かっているけども。

 

「むくれてんのか?黒い鳥。」

「失礼ね迷子。黄昏てたの。」

 

ストレイドがそれを邪魔する

一層不機嫌になったブラックバードは、退屈しのぎに付き合ってもらおうと思った。

 

「ちょっと付き合いなさい。今退屈で仕方ないの。」

「お、やるか。」

「ここはダメ。思い切りできないもの。」

「とっとと外出るか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の仮の家の玄関。

 

「久しぶり、シャル。」

 

道戒 緋芽

メイプル D ラン

 

 

彼女たちはかつて別世界探査の時の同行者だ。

昨日日本に帰ってくるとの連絡で、私のところに寄っていくとも言った。

 

「あまり良い物ないけど、上がって。」

 

元々何人か泊まる事を前提に建ててるので問題無い。

そうやって上がるよう促す。

しかし、二人共玄関から動かない。

 

『近年、東京周辺のフライングヒューマノイドの目撃件数が増えています。専門家によると…………』

 

つけっぱなしのテレビから、あまりにも場違いな話題が飛び出す。

 

「シャル。」

「どうしたの?早く。」

「どうした、緋芽殿。」

 

とても深刻な顔つきでこちらを見つめる緋芽。

メイプルにすら心配されている。

緋芽は口を開いた。

 

「何かあったの?辛そうだよ。」

 

彼女は何かがあった事に勘付いていた。

私、誤魔化すのに自信あったのにな。

 

 

 

 

「そっか、それで落ち込んでたんだ…。」

 

あれから、私は何があったかを話した。

自分の失敗を。

アキレスに託された者を護れなかった悔いがまた滲む。

 

「確かに、護衛対象をやすやす敵に渡すのは大失態だな。」

「メイプル!」

 

そう、大失態だ。

よりによって財団だ。

無事かどうかすら怪しい。

私のせいだ。

 

「お前の目を欺く程の偽装だったんだろ。お前が引っかかったんだ。私も引っかかっただろうな。」

「メイプル…貴女は…。」

 

予想外の言葉に目を見開く。

 

「初見で失敗しないほうが少ない。気負うな。奴がその手を使うことが分かったんだ。次でしなければいい。」

「そうだよ、シャル。そのままだとアキレスが心配するよ。」

 

そうだ、立ち止まって居られない。

あの時のように挫けそうになっていた。

 

どうせ出来る事をやるしかない、と開き直る事の重要性を学んだのに。

 

出来る事と言ったら紫蘭を探し出すことだ。

絶対に見つけ出して、財団を叩き潰してやる。

 

「良い目になった。じゃあ、景気づけにシミュレータで対戦でもしよっか。」

 

緋芽に手を引っ張られて行く。

こういうのも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「坊主。良いのか?レイヴンが機体のカラーリングを変えるってのは自分を変える、悪く言えば今までの自分を捨てるって事だぞ。」

 

ガレージで、俺はオヤジさんと話していた。

俺がACのカラーリングを変えたいと申し込んだからだ。

そしてそれは自分の個性を変え、今までの自分と違う事の証明でもある。

 

「はい。元々綺麗すぎたんです。昔の自分と同じで。」

 

平和の中で生き、何も知らない無垢の時の俺。

今も抜けきってはないが、確実に俺は変わった。

もう俺は何の為に戦おうが戦争屋なんだ。

恋人の夢奪っといてヒーローぶるなんて滑稽にも程がある。

 

「そうかい…で、これが案か。悪くねえじゃねえか。今までと真逆だけどよ。」

 

紺と灰色で染め上げた機体は、子供が夢見るヒーローとは真逆だ。

 

「でも、鴉の羽根は暗いでしょう。」

「…そうだな。レイヴンらしくなったじゃねえか。いっちょやってやるか!」

「ありがとうございます。」

 

あとはもう一つやっておきたいことがある。

 

「ダークスレイヤー。アレの代わりにムーンライトを使います。」

「どうしてだ?今まで使いこなしてただろうに。」

「斬れ過ぎるんです。じゃじゃ馬ですよ。」

 

ムーンライトへの換装。

それは俺自身への自制の意味もあった。

 

フライハイを感情に任せて斬ったとき、俺はある衝動に駆られた。

 

(あの時、俺は何太刀入れれば気が済んだんだろうな)

 

俺は更に斬ろうとしていたのだ。

コアと右手だけになったあのACに。

 

ENの消費がないということは制限なく斬れるということ。

それは同時に歯止めが利かないことも意味する。

 

思い返して、恐ろしくなった。

殺人鬼だけにはならない。

そう決めていたのに。

 

だからこそ封じた。

 

「分かった。よこした奴にも言っとくよ。」

「重ね重ねすいません。」

「お前が生き残れば文句は無いさ。」

 

そう言ってオヤジさんはACに歩んでいった。

 

 

 

 

 

「そろそろ動くのか。騒がしくなるな、ここも、世界も。」

 

傭兵姿のunknownは宇佐見に語りかける。

初老の顔に笑みが浮かぶ。

 

「何人が予測出来ているだろうな?40年ぶりにヤンチャするのも楽しいものだ。」

「俺にとっては迷惑でしか無かったけどな。」

「暴れるのはそういうものだろう?今度は企業が犠牲になる。」

 

二人共、物騒な話に花を咲かせる。

 

「ああ、そういえばもう一つ。今回の手柄、そっちが持ってけ。」

 

いきなりとんでも無いことを言い出す宇佐見。

 

「いきなりどうした。手柄を貰ってもこちらには得も何も無いぞ。」

 

それにunknownは待ったをかける。

手柄を持っても何も出来ないし、まず自分たちの行動が表沙汰になることも無い。

それに宇佐見が首を横に振る。

 

「その手柄を持って国連総会に乗り込め。元の非公開自治体として貴女たちを認めてもらうよう持ちかける話の足しにはなる。計画済みの戸籍すらない現状の改善どころか、上手く行けばお前たちに都合の悪い事に意見出来る環境を作り上げられるやもしれん。」

 

unknownは黙って聞いていた。

 

「お膳立てはこちらでしておく。貴女達はこの混沌とした今に力で訴えればいい。私達はここにいるのだぞ、とな。」

 

そして、静かに声を発した。

 

「礼を言う。この恩は忘れない。」

「此方としては借りを返しただけだ。そう重く捉えんでいい。」

 

二人の密談は続いた。




各所の50年という数字を40年に改めました。
時系列関係に問題があったのでそれの改善のためです。


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東の都に咲く緑の華

サブタイで察した人。
手を上げろ。(大塚ボイス)


あれから一週間経った。

曇った昼下り。

俺はベランダで黄昏れていた。

今、宇佐見さんが企業の人脈で紫蘭を探してくれている。

無論諜報部を紫蘭一人に全て回す訳にはいかないので限界はあるし、オーバーテクノロジーを持つ[厄災]相手に何処まで行けるか分からない。

でも、俺が騒いでも何も産まない。

出来るのはGAやFGWの依頼を受けてその活動を援護することぐらいだ。

 

悔しいがこうやって待つしかないのだ。

俺一人でなんでも出来るなんて言うのは無理だから。

 

シャルさんが1階から声を掛けてきた。

 

「アキレス、緋芽見なかった?」

「いいえ。でもシャルさんが来るまで足音しなかったんで、まだ下に居るんじゃないですか。」

「うーむ。分かった、ありがとう。」

 

そう言うとシャルさんは階段を下って行った。

それを確認して、俺は声を掛ける。

 

「そこにいますよね、緋芽さん?」

「…………バレた?」

 

屋根の上からひょっこりと逆さまの顔が此方を見る。

理由は音。

屋根の上でカタンコトン、なんて音は普通聞かないからだ。

 

「着地を雑にする時はベランダを確認してくださいよ。」

「あー、下駄は不味かったか。」

 

下駄にはツッコまずにおいとく。

彼女達が何者か考えると仕方ない事であるからだ。

ゆっくりとベランダに入ってくる。

その動作には重さを感じられない。

 

前々から思っていたが、シャルさん達が[スカーレットナイト]で語った内容は全てが真実では無いと感じていた。

流石にACで戦っているところから見てACを身一つで撃破するのは無理なんだろう。

だけど、真人間程度と言うのも違うと思う。

 

「緋芽さん。」

「何?」

「やっぱり貴方も人外ですよね。」

「…まあ、そうだけどいきなりどうしたの?」

 

恐らく、空を飛ぶ事はまだ出来るのだろう。

今の彼女の動きを見て確信した。

 

「今の動きを見てそう思っただけです。」

「え!そんな不自然だった?」

「いや、少し無重力っぽかっただけです。」

「十分ダメだった!」

 

まあ、そうだと知らなければ【身のこなしが軽い】と思う程度なので大丈夫だと思うが。

 

「そういえば、シャルさんの声聞こえてましたよね。なんで出てこなかったんですか?」

 

それが疑問だ。

何か後ろめたい事があったんだろうか。

 

「いや、厄介事に巻き込まれる予感がした。」

「何ですか、それ。」

 

適当に誤魔化された気がしないでもない。

 

端末のバイブがなる。

ミッションの更新だ。

前の戦闘で企業との関係を切ったので、今は自由に依頼を選べる。

 

 

ズラリと並ぶミッション。

だが、その中で一つきな臭い物があった。

ミッション名も依頼主の名前もないミッションだった。

しかも俺だけを指名している。

 

シャルさんに念のため相談するか。

 

「緋芽さん。俺、シャルさんに話があるんで下行きます。」

「りょーかい。」

 

 

 

 

「あなたも?私と緋芽達にも来てるんだけど。」

 

シャルさんの所にも同じ様なミッションが来ていた。

さっき探してたのもこのためか。

 

「私のを開いてみる。あなたのはまだ開かないで。」

 

しばらくして、ファイルの再生が終わったのかこちらを向く。

 

「私達は受けようと思う。恐らく送り主は[厄災]、私達への挑戦状よ。」

 

予想外の事態に驚くしかない。

相手からの接触。

 

「あなたも受けるなら、ミッションをそのまま受け取ると痛い目を見る。必ず想定外に備えてからにしてね。」

 

ACのセットアップに行くのか、シャルさんはガレージに向かう。

 

俺もミッションファイルを開いた。

 

 

 

 

 

 

『やあ、はじめまして。』

『ミッションを説明するよ。』

『君にはこれから、こちらが東京に展開した兵器を撃破して貰いたい。』

『こちらの兵器の戦闘テストだ。』

『弾は実弾を使用。そちらが負けたら最悪死ぬけど、まあそのつもりで。』

『受けなかったらどうなるか?そのまま暴れて帰るよ。』

『いい返事を待ってるよ。』

 

おい、今東京で、って言ったよな。

まさかこいつ、避難もしてない都内で規格外兵器を使う気か?

 

今までの話を聞くに、やりかねない。

 

急がないと。

もう展開して始めてるかもしれない。

なんせミッション開始時刻が着々と迫っているからだ。

俺はガレージに向かって飛び出した。

 

 

 

 

 

 

首都東京への直接攻撃。

それはあまりにも非道で常識外の行動だ。

 

ヘリに揺られながらシャルさんに連絡をとる。

 

「シャルさん。こっちは東京への直接攻撃の阻止です。」

『確か、unknownとストレイドも同じ依頼だった筈。何故わざわざ別の依頼として出したのかしら。」

 

つまり、味方がその二人はだと言うことだ。

通信を繋げる。

 

「恐らく協働します、よろしくお願いします。」

『こちらストレイド。今シャルに聞いた所だ。こちらからもよろしくな。』

『こちらunknown、同じくよろしく頼む。』

 

あのオーエンさんに似た姿でモニターに映るunknownさん。

一度あの姿を見た側とすれば、どちらが素の姿か分からない。

 

 

作戦開始時刻が迫るその時。

 

『そこのレイヴン。何故ここにいる!』

 

自衛隊のノーマルが来た。

よく考えれば、いきなり避難も済んでない街に現れたら、当然自衛隊が出動するか。

 

『こういうメッセージが届いたんだ。東京を襲撃すると。』

『馬鹿を言え、襲撃するのはお前達じゃないのか。』

『そのメッセージを今送る。確認してくれ。』

 

場が膠着する。

 

『…RLMMを介した依頼、確かだな。これで何も来なかったらあちらの契約違反だな。』

「良かった〜」

 

自衛隊も相手になるのかとヒヤヒヤした。

相手が正規ルートで依頼くれて助かった。

 

『だが、自衛隊として放置できん。依頼が終わるまで協働及び監視をさせてもらう。街や我々に故意の攻撃したらどうなるか、分かっているな。』

『ああ、了解した、識別信号を送る。』

 

その刹那、少し暗くなった気がした。

上を見上げる。

ACと思われる人型の影が少しづつ大きくなる。

 

「皆さん!上から!」

 

全員が一瞬で蜘蛛の子を散らすように散開する。

衝撃と土煙を上げてそいつは着地した。

 

自衛隊から共有した情報によると避難はまだ7割を超えてない。

嫌なタイミングで敵はきた。

 

『馬鹿な、なんでこいつが…』

 

unknownさんが掠れた声で呟いた。

ストレイドさんは怒りに塗れる。

 

『なんて物を持ち出すんだ…巫山戯ているのか。こいつで都心を廃都にする気なんだな。反吐が出るよ。』

 

二人はその一般的なACよりも二回り大きな人影に呼びかける。

 

『『00-ARETHA(アレサ)!!』』

 

その声に答えるように、巨大な砲身をこちらに向けてきた。

三人揃って散開し、元いたところを緑色の閃光が走る。

ビルに着弾し爆発。

ビルはそれに耐えられず崩壊し始める。

あんなのを食らったら保たない。

 

『散開の後各自応戦!早急に撃破しろ。」

 

そう言いって放たれた様々な弾丸はアレサに

 

 

 

 

当たらなかった。

 

目の前で実弾は見えない壁に当たったかのように弾かれ爆散した。

 

今、自衛隊が搭乗しているノーマルはGAの[GA03-SOLARWIND]

その自慢の火力は全て弾かれた。

 

そしてアレサは消えた。

そして、次に現れたのは自衛隊の後ろ。

その動きに見覚えがあった。

 

「セラフと同じ!?」

『全く同じ技術だ。』

 

あんな化け物機動とあの防御力相手にどう戦えばいいんだ。

俺とガトリング砲を向けられた自衛隊が同時に思った事だった。

 

しかし、ガトリング砲を構えたアレサは、急にまた姿を消した。

そこに突き刺さる蒼い光。

 

『よく聞け!奴にはレーザーは無効化出来ない!それにあの防御も撃ちまくれば消える!心折んな!』

『俺たちが引きつける。隙を見て撃て。』

 

二人が周囲を鼓舞しだした。

俺にも通信が入る。

 

『お前の散布型ミサイルは切り札だ。確実に当ててけ。』

「えっ!いきなりどうして?」

『散布型ミサイルはアレサのPA…さっきのバリアっぽいやつをを効率よく剥がせる武器なんだ。タイミングを合わせて、お前のミサイルの後に十字砲火だ。行くぞ。』

 

いきなりとんでもない事言われた。

 

「どうやって当てるんです!」

 

あの機動をする相手に当てる。

どれだけの難度か想像に難くない。

 

『あいつは空を飛び辛い上、旋回性に難がある、直線的な場所を取ってすれ違いざまに放てば当たる筈だ。』

『あいつにとって、此処は相性が悪い筈だ。上手く翻弄してやてばいい。俺達が誘導する。』

 

弱点はあった。

恐らくさっきの反応からして、二人はこいつと戦った事があるんだろう。

なら信じるしかない。

 

二人は自衛隊と連携し、場所取りを始めた。

囮をしながら。

 

俺も時折前に出つつ準備をしたが、二人の実力には恐ろしい物があった。

 

動きを読み、二人の呼吸を合わせる。

アレサが入れなさそうな道に入り、そこを右手の火器で撃ち抜こうとすれば、もう一方から邪魔される。

そして、そちらを向くころにはさっき狙っていた方によって死角からミサイルを撃ちこまれる

連携し、翻弄する。

 

更に恐ろしいのが。

後ろが見えているのかと思わせる動き。

後ろに回ったアレサの攻撃を避け、小道に逃げ込む。

そんな真似、自分には出来るとは思えない。

 

そう考えつつ、リニアで足元を砕く。

さっき分かったが、リニアも威力が削がれるが貫通はする。

恐らく弾速と弾の強度が重要なのだろう。

ミサイルなど爆発物を一気に仕掛けられるとPAの損耗が激しいとも思える。

連続しての被弾を避ける動きをする。

そして、EN管理が杜撰だ。

足が定期的に止まるから、そこを狙って撃てば当たる。

 

足元を砕かれ体勢を崩されたアレサの敵意はこちらに向く。

 

『不味い!逃げろ!』

 

俺は気付いた。

例のポイントまであと少し。

この先のビルに囲まれた直線路。

俺について来るなら。

 

そのまま俺は後退した。

アレサは食らいついてくる。

 

『馬鹿!功を焦るな。』

 

それでも俺は真っ直ぐ進んだ。

ガトリングと光学兵器の嵐を掻い潜る。

 

(一か八か!)

 

苦し紛れにリニアを放つ。

それは吸い込まれるように。

 

 

 

ガトリング砲に当たった。

砲身ではなく基部に。

使い物にならなくなったガトリング砲を投げ捨て接近してくる。

 

あと少し。

ミサイルを撃ち込む。

早いが、ここで大きくダメージを与えられれば後が楽だ。

そして、やつにミサイル命中した。

 

俺は背を向けてOBを使い引き離す。

筈だった。

 

気づけば奴の背中が見えている

追い抜かれた。

後で聞いた話に依ると敵もOBで俺を飛び越したらしい。

このままでは逃げられる。

 

「コンのォォォォ!」

 

俺はリニアを投げ捨て奴の背中を掴んだ。

捨て身覚悟で左足の膝関節を月光で焼く。

レーザーブレードなら触れるだけで敵を焼ける。

 

左側の足を失い、機体が傾いて転倒。

俺も地面に機体を打ち付けた。

 

なんとか立ち上がる。

アレサは倒れたままだ。

 

俺は近づいてミサイルを撃ち込む。

これで十字砲火で終わるはずだ。

 

だが、アレサが急に光りだす。

 

『アキレス離れ…!』

 

激しい衝撃が俺を襲う。

 

ブラックアウトしかけた視界に入る高度計は70m。

まだ上がる。

俺を吹き飛ばしたんだ。

 

アサルトアーマー。

後で知ったこの兵装の名前だ

 

全てがスローになる中目に入った。

アレサがこちらに緑色の光を向けている。

例のキャノンだ。

 

『避けろアキレス!!」

 

そこからは無意識だった。

月光が光りだす。

奴がそれを放つか放たないかの境に、俺は無我夢中で振った。

 

 

 

 

磁力で制御される粒子(コジマ粒子砲弾)最大出力の磁気反発器を持つブレード(ムーンライト)で斬り裂く。

視界が緑色に染まるが、ロックは外れていない。

視界が晴れた瞬間にトリガーを引く。

 

 

そして、俺のミサイルとノーマルのグレネードの雨がアレサに降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初のネクストに拘りすぎたか。」

 

戦いを見て関心したかのようにつぶやく。

 

「まあいい、これで敵意の大地に種を蒔けた。後は…。」

 

 

 

 

「例外を否定するだけ。」

 

男はそこを去った。




「アレサはこんな弱くねぇ!」
と思う方もいらっしゃると思います。
ですが、あの機動と巨体、旋回性能は都市戦には不向きと考えた結果です。
思いっきりビルに突っ込みそうで…。
異論は認める。

市街地戦は普通のネクストの方が寧ろ強いかと。


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背負いもの

既にAPが3桁になった愛機から、火花が散る。

ペイントし直してもらった機体を早速中破させてしまい申し訳ない気分になった。

手を伸ばしコックピットハッチを開けようとしたとき、声がスピーカーから響く。

 

『総員ACから降りるな!汚染の恐れがある。』

 

ストレイドさんはいきなりオープンチャンネルで叫んだ。

汚染?何のだ?

 

『いきなりなんだ?説明を要求する。』

 

自衛隊の方々も困惑している。

俺だってそうだ。

それに対しunknownが答える。

 

『奴の使っていた左手のキャノンと防御兵装、最後の爆発攻撃には毒性の強い粒子が使われている。ここら辺一帯はもう生身で出られる空間ではない。』

 

自衛隊が騒めく中、隊長機から通信が入った。

 

『そのような兵装聞いたことが無い。それにずっと気になっていたが、何故お前たちがあの兵器の事を知っている。』

 

二人は言葉を詰まらせる。

別世界で戦ったことがあります、なんて言ったら脳みそを疑われる羽目になる。

どうすればいいのか。

 

『……かつてコジマ研究所という素材工学の研究所があったのを知ってる?』

『?それと何か関係があるのか?』

 

その場にいる者たちにデータファイルが渡される

 

コジマ研究所。

10年前に襲撃を受け壊滅している場所、か。

 

『そこを襲撃したのが私達。目的はとある筋から齎された情報、つまりその粒子を世に出さない事だ。』

「そんな事をしてたんですね。」

『で、そこまでしてこの粒子の存在を消した理由が、その毒性か。』

 

そうか、彼女達が言ってた汚染ってこの事だったんだ。

搭載兵器が素通りするだけで地域が汚染されるこれを見逃せるわけがないか。

そして、きっとこれも向こう側で見た技術の一つなのだろう。

 

『だが信じきれん。マッチポンプをしたとも取れる。』

「そんな…。」

『それで国民を脅かし、都心を汚染した。許せるものではない。』

 

まずい。

他世界の情報の類は使えない

信用を得るための証拠の大半に信用がないと言うおかしな状況に陥る。

 

『その粒子に関する詳細なデータを要求する。作業や避難の為に粒子の性質を知っておきたい。』

「それで信用してくれるんですか?」

 

意外と要求が少ない気がして安心した。

しかし、二人は躊躇っている。

既に使われた粒子を隠すだけ無駄なのに、それで尚隠している二人に理解が出来なかった。

 

『知っても使えることはない。防護服を着こんで作業すれば問題ないからな。』

「ストレイドさん!!」

『そこまでして技術を独占したいか。迷子が。』

 

一触即発の空気になる。

何故そこまでデータの流出を嫌うのか分からなかった。

既に相手はこちらを疑ってかかっている。

最悪の事態を考慮しなければならなかった。

 

その時。

 

 

『隊長!例の機体から謎のデータファイルがばらまかれています。』

 

インターネット上に拡散されるデータファイルの様子を自分のACのコンピューターでも確認できた。

 

『これは…。クソッ、最初からそのつもりかよ。』

『[厄災]は初めからコジマの流出が目当てだった。そして私たちへの牽制も。』

 

コジマに関する詳細な性質のデータ。

性質。

毒性。

致死量。

対策。

制御。

生成方法。

一通り書かれていた。

 

少ない手札を失った。

万事休す。

 

『…命を賭してまで渡したくない物ということは理解できた。お前たちの手を煩わせるつもりはない。騒がれたくないなら、早く帰るんだな。』

 

あれ?

疑いは?

 

『一番危ない囮を引き受け、機体をそこまで傷つけて、挙句、初めの段階から撃墜は俺らの手柄にする作戦を立てたんだ。最初から疑ってなどない。ついでにと汚染について鎌をかけたにすぎんよ。』

 

俺はそう言ってアレサに向かうACの後ろ姿を眺めることしかできなかった。

 

『行くぞ。見逃してくれてるんだ。』

 

呼びかけに答え、俺もヘリに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、一つ渡しておきたいモンがある。」

 

自衛隊の隊長に声を掛ける。

 

『なんだ。あんだけ渋って結局渡すのか。』

「ちげーよ。粒子の危険性が分かる資料だ。」

 

そう言って私はつい先日のカルテを送った。

 

『これは…プライバシーが無いのか?』

「今はどうでもいい。読んでみろ。」

 

しばらくして、男が息をのむ音が聞こえた。

 

『なんだこれは…これが汚染の影響なのか?』

「あー。私のケースはちょいとレアなんでな。だが、長時間曝されるとそうなるからから、部下にそうなってほしくなけりゃとっとと交代するんだな。」

 

そう言って私も二人の後を追う。

 

『最後にいいか。』

「なんだ?手短に頼むぞ。」

 

呼び止められACごと人間のように振りむく。

 

『何故、周りに止められない?話してないのか?』

 

少し震えた声が聞こえる。

もったいないな、男前の声が台無しだ。

 

「主治医以外にはな。あいつの隣に居るためにも、立ち止まってられないんだ。」

 

だから、そんなみっともない声出すんじゃないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ってきたら見たこともない機械がガレージの前にあった。

 

「坊主!コックピットから出んなよ。」

「何でです?」

「これから機体の除染をする。それが終わるまで待ってろ。」

 

そうすると、機械の扉が開く。

洗車機みたいだ、というかそのものだな。

 

機体の除染が終わりACから降りる。

今度は車に乗せられた。

 

「すいません。どこ行くんですか。」

「ああ、俺達の住処に来てもらう。」

「……っはあ?いきなりどうしたんですか!出来る限り干渉は避けた方がいいって話じゃ…。」

 

関係が深くなれば、切れなくなる。

知りすぎれば無視できなくなる。

そう言ってそっちに行かない方がいいって話したのはそっちじゃないですか。

しかし、車は走り出した。

 

「どうしたもこうしたもねぇ。おめえの体を精査しに行くんだ。」

「たっ、確かにすごい衝撃受けましたけど普通の病院でいいんじゃないですか。」

 

それならこっちの病院でもいいんじゃないですか。

 

「ストレイド達の話聞いてたか?おめえはな、深刻なコジマ汚染の疑いがある。その知識もないところに預けても意味はねえ。」

「深刻な?」

 

コジマ…汚染?

 

「コジマはな、強力な万能触媒みたいなもんだ。本来起きるはずのない反応を引き起こしたり、錆びない金属ですら酸化させる。それが身体に入ったらどうなるか分かるか?」

「体で作られるはずのない物質ができてしまう?」

 

じゃあ…。

 

「ほかの人はどうなるんです!…いや、全ての人を救うなんて綺麗事は言いませんが…。」

 

無論全てを救うなんてことは出来ないのはとっくに分かっている。

ただ、特別扱いに不安を覚えた。

 

「あいつらは長い間あそこに居なきゃ大丈夫だよ。ノーマルでも気密性はある程度あるからな。損傷機なかったろ。」

 

その言葉を聞いて一安心するあたり、まだ甘いなとは思う。

あの人達はきっと、ふーん、ぐらいで済ませてしまうのだろう。

 

「というか、お前が一番不味い事なってんのまだ分からんのか。」

 

え。

一番まずい?

 

「お前は汚染の発生源に密着した後アサルトアーマー、あの爆発攻撃をもろに食らって、ダメージがある状態でコジマキャノンぶった切っただろう。一番気密性に不安があるACで一番コジマを浴びたんだよ、お前は。」

 

何も言えない。

汚染を、一番機体状況の悪い時に浴びて心配されない筈がない。

素直に従うしかない。

 

「それから、データを渡さなかった事だが、責めてやるな。」

 

既に汚染の疑いがある身で汚染物質の発生方法を渡せとは強く言えない。

黙って聞く。

 

「あいつらは後ろに俺達の明日まで背負い込んでる。レイヴンなのに、縛っちまったんだ。苦しいんだよ、あいつらも。若いのにな。」

 

オヤジさんは親が子の身を案じるような、静かな口調だった。

 

「自分の行動で守りたいものを全部失う奴が、簡単に世界滅亡の原因を敵に渡せないのさ。」

 

今度は黙ったのでは無く、何も言えなくなった。

今まで周りの利益の為に振り回される側に居たせいで勘違いしたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回自分勝手だったのは、俺の方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東京は一日にして汚染区域になってしまったか。」

『ああ、残念ながらな。東京での首都機能の回復は難しいだろう。』

 

帰って来たストレイドはその後の顛末をGAのトップである宇佐見に聞いた。

やはり、東京は既に麻痺しているらしい。

コロニー一つを駄目にする機体だ。

飛散した粒子でいずれ東京の中央はダメになるだろう。

 

『運搬経路は空輸。自衛隊がお前らに気が行って手薄になった防衛網を強行突破したようだ。』

 

依頼その物も奴の手だった。

私達とアキレスが別途の依頼だったのは、相互に連携を取れるアセンにしない為だったんだろう。

タンクと主砲の組み合わせはできれば避けたいからな。

 

「そうか。流れた技術はどうなってる。」

『完全にアウトだ。驚くほどの量のデータがばらまかれた。この時代に出来る筈のネクストを月単位で造れてしまう程のな。』

「待て!月単位でネクストだぁ!?どういうことだよ!」

 

明らかにおかしい数字が出てきた。

そんな一朝一夕で作れる兵器じゃない。

それが一年もかからずに?

 

『図面が入っておったんだよ。親切にジェネレータの構造から、ネジの一本まで正確にわかるな。』

「…なんてこった。本気みたいだな、[厄災]も。」

 

一騎当千の力、ネクスト。

次世代の名に相応しいその力が解き放たれたら、パワーバランスが崩れる。

 

『幸い、こちらにも図面が来ておる。もし、ほかの企業が現状に焦り力を使うようなら…』

「抑止力になる、か。頼むぞ。そうならないことを祈るが。」

『ああ、切るぞ。』

 

通話の終わったストレイドは壁に寄りかかる

 

 

少しして身体に違和感。

 

次の瞬間には体の奥底で苦しみが蠢くような感覚に襲われる。

こうなったら耐えるしかない。

 

「ウガァっ、アァ。」

 

しばらくして、それが収まる。

 

長寿の代償で、未だに汚染の抜けきっていない身体を引きずって医務室に向かった。

 

「粒子、碌に浴びて、ないんだけど、なぁ。でも、もし、ネクストが出てきたら。」

 

乗るしかない。

彼女の決意は硬かった。




このせいで東京は首都ではなくなってしまいます。
(遷都しました。)

戦後は京都が首都になります。


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続、背負いもの〜楽園〜

ちょっと新しい事してみました。
場面が変わるときが分かりづらかったので。


俺を乗せた車は森の中をずっと走り続けている。

右も木、左も木。

それが既に数十分続いている。

少しづつ登っているのは何となく分かった。

 

だが、ただ退屈だった訳じゃなかった。

俺達を襲った機体とその発展機。

その話を聞けた。

 

 

 

ネクスト。

 

そしてアレサはそのプロトタイプだ。

莫大な出力と、それに裏打ちされた圧倒的な機動力。

それを制御するために脳と機械を直接繋ぐインターフェイス、AMS。

プライマルアーマーといわれる粒子装甲からくる高い防御力。

次世代に相応しい性能を持つそれは、その他の兵器とは次元が違うもの。

それを支えていたのはあのコジマ技術だ。

 

この世界ではそれを折ったせいでネクストは誕生せず終わるはずだった。

だが、結局それは[厄災]によってなされた。

アレサを使い、あたかもそこから技術を得たように見せてコジマ技術をこの世界に解き放った。

ストレイドさんとunknownさんはリンクス―――AMS手術を受けたネクストのパイロットを指す―――でネクストのある世界で戦った人たちだ。

だからこそ昔見たような荒廃した世界にしたくてコジマ技術を見せるのを躊躇ったんだ。

 

 

 

 

 

「あと少しで境界に着く。まあ、その後も十分くらい走るがな。」

 

境界と言うと、そちらとあちらを分ける境界か。

 

そう思った瞬間、左に人工物が見えた気がした。

石段?

しかし車がそれなりの速度で走っている為、すぐに見えなくなる。

 

 

道は続き、小高い丘の麓まで来た。

 

だがその丘はただの丘ではなかった。

トンネルが掘ってあり、そこに大きな扉がついている。

その扉が開いた。

そのままトンネルを進むと同様の扉。

 

(外と内で2つの扉。まるで宇宙用のハッチみたいだ。)

 

少しして、扉が開く。

 

目に飛び込むのはまた一面森。

だが先程の森よりも生気が感じられた。

 

そしてそこから山を登り始めた。

何箇所か見晴らしのいい所があり、そこからこの辺りを一望できた。

 

山に囲まれ、その中央部に都のようなものが見えた。

文明レベルを固定してるっていうのはここか。

確か人々がこのまま進歩することなく生かされている状況に喜びは感じない。

だが、進んだ結果争いしか生まない今の俺達は彼らにどう映るんだろう。

 

 

 

山の中腹の路肩に車は止まった。

 

「着いたぞ。中に案内役がいるからそいつについてけ。俺は車を置いて報告しに行く事があるからな。ほっつき歩いてると野良に喰われるからとっとと中入れよ。」

 

と言われても、森の道のど真ん中。

建物らしきものは見えない。

しかも、ここで一人で行動だなんて。

 

「何処からか何の中に行けばいいんですか?」

「おおっと、俺が居ちゃ見えねえな。ほれ、体乗り出して俺側を見てみろ。」

 

そこには斜面に取ってつけたかのように無機質な金属のドア。

関係者以外立入禁止とついてても違和感無いと思う。

 

 

「じゃあな。後で合流できる筈だから、しっかり診てもらえよ。」

 

そう言って俺を置いてオヤジさんは行ってしまった。

扉の方に足を運ぶ。

そして、扉の前で立ち止まって深呼吸をする。

 

確かにここは怪物たちが跋扈する世界だ。

だけど一応協力者の身、開けたら喰われるとかそういうミミック的なトラップは無い筈だ。

 

意を決して扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い通路の先にまた扉。

 

 

 

 

 

 

 

思わず膝をついた。

 

そうだよ、ここは軍事施設のようなものでもおかしくないって予測はつくだろう。

そんな軍事施設が扉一枚で中に繋がってる訳ないじゃないか。

 

気を取り直しまた扉まで歩む。

 

そして、扉をまた開ける。

 

 

 

 

目の前に、視界を埋め尽くすぐらいのでっかいリュックがゆさゆさと揺れていた。

一瞬ビビった。

 

 

「お、来たか。」

 

リュックの持ち主は振り向き、その姿を見せる。

そのおかげで、周りの風景とリュックサックの持ち主の姿が見えた。

どうやらここ機動兵器のハンガー、そのキャットウォークらしい。

ACと見たことない兵器がずらりと並ぶのは壮観だった。

 

そして、リュックを背負っていたのはまた少女。

FGWって女性率高く…ないか。周りに見える整備士っぽいのは男女半々ぐらい。

単純にめぐり合わせか。

 

「君がアキレスでいいな。」

「はい、今日はお願いします。」

「こちらからも。今日案内役を務めさせていただく、[河城にとり]だ。ここの開発設計の主任をさせてもらっている。」

「…川城主任が自ら案内を?」

 

立場的におかしくないかな?

流石に部下なんかでいいと思うんだが。

 

「いやー、今日は周りは忙しいのに私には大した仕事が無くてね。いつもは変態達が変な設計図を持って認可を求めに来るんだ。パイルならまだしも実用性皆無の品に予算出せないからね。あと、呼ぶ時はにとりでいいよ。」

 

パイルならいいんだ。

多分変なのばっかりで基準を下げなきゃやってられないのかな。

 

「昨日は酷かった。流石に60㌢コジマ砲台を山の頂に設置するのはね。」

「却下して正解だと思います。」

 

にとりさんがゲッソリなって言った言葉を、俺は肯定した。

そりゃあパイルがマシになる。

せっかくの住処を自分たちで滅ぼす気なのか?

っていうか、コジマ研究所潰したのあなた達ですよね。

 

「話が逸れたね。今から検査室に行くからついてきてね。…ああ服もあっちで着替えてもらうから。」

 

 

 

 

そうしてにとりさんに案内されキャットウォークを進む途中、機体の方から視線を感じ、思わずそちらを見た。

 

そこには、大きさの違う二機の機体があった。

共通点としては、純白で頭に一本の角のような部品がある事だが。

 

「どうしたんだ?」

「いや大丈夫です!今行きます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きい機体のバイザーの奥が鈍く光ったのに気付いた者は、この場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し浴びてるけど、あくまで皮膚の表面。遺伝子系や内蔵までは汚染なし。若いから汚染されて死んだ皮膚細胞も代謝で落ちるし大丈夫そうね。」

 

結果、大事には至らなかったらしい。

思わず安堵する。

 

「よかった〜」

 

しかしそうは問屋が卸さなかった。

医者の方が声を荒らげる。

 

「良くない!知らなかったからって、いくらなんでもあの戦闘は無茶し過ぎです!もう少し自分を大切にしてください。」

「…すいません。」

 

実際そうなので謝ることしかできない。

捨て身グセどうにかならないかな、と自分でも悩んでいる。

 

「とりあえず、皮膚組織は汚染されてるのでシャワーを浴びてください。そこで皮膚表面をよく流すこと。コジマは触れる事で害を及ぼしますから、放置しないでくださいね。」

「じゃあ、案内しますね。失礼します。」

「待った。」

 

にとりさんが立ち上がり俺を連れて行こうとした時、医師の方に止められた。

 

「川城開発主任、貴女が水場に人間と一緒に行くのは考えものなんだけど。」

「おっと。最近おとなしくしてたからね。無意識に客人の尻子玉抜いてたら大惨事だ。」

 

なんか不穏ですが…。

尻子玉って何ですか?

 

 

不意に扉が開いた。

 

「アキレス。あんたも来てたのね。」

「unknownさん。いらしてたんですか。」

 

何とunknownさん、いきなり入室。

しかも女性の姿で。

ノックしてくださいよ。

 

「ちょうどいい。unknown、シャワーまでこの子を連れて行ってくれる?」

「む~。しょうがないわね。こっちよ。」

 

むくれつつ案内してくれる彼女についていった。

 

 

 

 

「そういえば、unknownさんってどっちが本当の姿なんですか?気になって仕方ないんですよ。」

 

前からの疑問をぶつけてみる。

果たして、男性のフリした女性なのか。

女性のフリした男性なのか。

 

考えといてなんだが、ややこしいな。

 

「一応、こっちが本来の姿よ。でも、〈どっちが〉って聞くのは違うわね。」

 

unknownさんがこの前のように姿を変える。

しかし、その姿はいつものオーエンさんのような好青年ではなかった。

 

「ふーん。それなりに鍛えてるのね、あんた。」

 

その姿と声は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が…いる!?」

 

目の前に鏡に映したような姿が現れる。

どうやら変幻自在らしい。

 

「俺は実在する、もしくはした人物なら何でもなれる。潜入では重宝してるんだ。」

「口調や声まで寄せるんですか。下手を打たなきゃばれませんね。」

 

驚くべき能力だ。

だがunknownさんは急に考え込んだように黙った。

そして顔を上げた、真剣な顔でこちらを見てくる。

俺も気が自然と引き締まる。

何か大事なことなんだろう。

 

「……俺はこれからお前の癪に障ることをするだろう。後で埋め合わせはする、だから止めないでくれ。」

「一体……あ、何となく予想できました。構いません。それにちゃんとした理由があるのなら。覚悟します。」

 

今の光景の後なら分かる。

さっきの言葉、それは体そのものが変質しているということ。

つまり彼女が今、どんな姿をしているかも分かる。

そしてそれがどれだけ苦痛であるかも。

だが、ただ苦痛を与えるためにするとは考えづらい。

 

「恐らくお前にとって残酷で認めたくない事実が突きつけられる。それでもか。」

「言いました、覚悟はすると。」

 

そして、目の前で俺だった姿がみるみる変わっていく。

 

そして少女が姿を現す。

それはしっかりとした人型を保っていた。

俺は安堵する。

まだ、手遅れじゃない。

しかし、彼女は小さく呟いた。

 

「憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。」

「unknownさん?」

 

どうしたんだ?

鬼気迫った声に俺は困惑する。

彼女は続ける。

 

「私の夢の舞台を奪った。私を守ってくれなかった。私を置いていった。」

「……!」

「なんで?あなたは私の夢を笑わなかったじゃない。どうして……。」

 

そこで、unknownさんが元の姿に戻った。

目を背けている。

 

「……今のは紫蘭の言葉でいいんですか。」

 

何も言わず目を伏せる。

肯定と取っていいんだろう。

今の言葉は紫蘭が考えてることをunknownさんが代弁した形だ。

なら。

なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ…ハハッ、アハハハハハハハハっハハハハ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ…ハハッ、アハハハハハハハハっハハハハ」

「アキレス、気をしっかり保って!」

 

やはり、やるべきではなかった。

心を壊してしまったら、取り返しがつかない。

私は心から後悔した。

 

「ハァ……。大丈夫ですよ。まだ希望はあります。本当に紫蘭をそのままトレースしたのなら。」

 

狂っていたような笑いが収まり、そこには落ち着いた姿を見せるアキレスがいた。

今ので希望はある?理解が出来なかった。

しかし、彼の言葉には確信めいた何かを感じた。

 

「大丈夫なのね?」

「ええ、っとシャワーを忘れそうです。そろそろ行きましょう。」

 

そう言って案内を促す彼。

 

「…そう。何かあったら誰かに言うのよ。」

 

そして歩みを始め少したころ。

彼はつぶやいた

 

あいつまだ癖抜けてねえな。」

 

 

聞き取ることは叶わなかった。




試みについても含め、感想をいただけたら幸いです。


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通常業務~騙されるのは傭兵の常~

あまりにもぶっ飛んだ依頼が多くて最近感覚が麻痺している。

そう思ったのは端末に表示される依頼が平凡に見えたからである。

 

その中には

 

【インテリオル、高額報酬、前払い、敵詳細不明】

 

と、あからさまな【騙して悪いが】まで含んでいる。

 

ちなみにこの名称はナインさん考案らしい。

そう言い放ったレイヴンを返り討ちにしてから口癖になっていて、こっちで知り合いになったレイヴンに話したら広まったらしい。

 

閑話休題

 

そんな依頼まで普通に見えるあたり、だいぶあの人達に毒されたみたいだ。

 

そう言って例のミッションのファイルを開く。

 

 

【ミッションを説明します。】

【依頼主はインテリオル。目的は指定区域の探査です。】

【ここは境界線が不明瞭な上、国連軍の配置はいまだに掴めません。】

【そこでレイヴン、あなたの出番です。その武力をもって威力偵察をし、今後脅威になるものがあれば、その場で破壊してしまっても構いません。】

【私達は貴方を高く評価しています。良い返事を待っています。】

 

 

やっぱり信用ならん。

報酬が一人で要塞に破壊工作しに行くレベルだ。

いくら危険地域でもこんな報酬を提示するのはおかしいし、何より全額前払いだ。

絶対オーダー2機は覚悟しておいた方がいい。

 

大体、【騙して悪いが】は公開依頼に見せかけて個人に送られる。だが、そういう機能があるのではなくクラッキングして行われたものだ。

【騙して悪いが】はRLMMの規約に違反する行為なのだが、既に企業等にとって都合の悪いレイヴンを消すための常套手段なので対処が間に合わないのが実情である。

対処法は無視するか、あえて引き受け相手の想定を超える暴力で報酬を掻っ攫う。

更に、受けて虚偽の依頼だった場合は報復ミッションまで付く。

シャルさんをはじめとする上位レイヴンからは金蔓扱いされる辺り、強者には効き目が薄いらしい。

さて、受けたら何が来るんだろうとわくわくしているのは内緒だ。

 

一旦閉じて、また別の依頼を見始める。

 

 

 

 

 

 

 

嵐の前の静けさと言うべきか。

どれもつまらなそうで、結局騙されたフリをする事にした。

さて、敵さんは誰だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ミッション開始。指定されたルートを巡回し情報を集めてください。】

 

ACは、通常の兵器に比べて平均的な隠密性は低い。

戦車より大きく、航空機以上の熱量を撒き散らす為発見は容易だ。

救いと言えば前後幅とアセン可能な事で、伏せていれば発見率は下がるし、放熱性能を捨てれば赤外線の放射を抑えられる機体にできる。

だが、ホームグランドで使うべき利点だ。

だから、攻略系の作戦は開始時点で既に発見されていると思って行動しなければならない。

今回は武力をちらつかせて様子を見ることだから寧ろ好都合。

 

 

歩兵のRPGに警戒しながら進む。

さて、変な兵器もネクストもまだ見えない。

流石にネクストは早すぎるか。

そんな事を考えつつ森の奥深くへ進んでいく。

 

監視らしき人影がちらほら見え始めた。

ここら辺があちらにとっての境界線らしい。

マップにマークしつつ境界線になりそうな地形をなぞって移動する。

 

(随分と奥あったな。何も無かった場合のUターン地点まであと少しだったぞ。)

 

いくらお互いに探り合い続けてるにしては控え目な位置だった。

 

その時、レーダーが反応。

 

【警告。3時の方角から正体不明機が接近。】

 

俺はバックステップで後ろに飛ぶと、そこに飛び込むように影が突っ込んできた。

地面が激しく抉られ、吹き飛んできた土砂が機体を打つ音が響く。

只の着地がここまでの破壊力を持ちはしない。

武器を使用されたと見て間違いは無さそうだ。

土煙が晴れた先、オーダーACが佇んでいる。

 

『へえ、面白い奴だな。だけど依頼だから消えろ。』

 

アマジーグさんに似たフレーム構成。

だが大きく異なるのは右手に射突型ブレードが輝いていることだ。

 

 

【ランカーAC、パークウェイです。レイヴンはK.K。右手の射突型ブレードは非常に強力で、接近戦は極めて危険です。機動力を活かした戦闘スタイルと予想されます。】

『補足です。GAの情報によると、彼は最新の技術を用いアップデートした強化人間です。どれほどの力を持っているかわかりません。気を付けてください』

 

来たかAC。

寧ろ待ってた。

 

OBで迫ってくる敵にマシンガンを放ちつつ、左に避ける。

 

『逃がさないよ。』

 

が、しかしそれでも尚追い縋ってくる。

右腕はもう引き絞られており、ショットガンを放ちつつ距離を詰めてくる。

 

機動力はあちらが上。

ならこちらは相手に都合のいい場所を取られないように立ち回る戦い方が望ましい。

それなら、後手に回ったこれにどう対処する?

切り替えしても間に合わない。

後ろに下がっても追いつかれる。

正直パイルだけは勘弁願いたい。

 

まだ空いてる空間があるじゃないか。

ACなら使える空間。

俺は彼を飛び越えた。

 

俺がいた空間に突きが放たれ、空気が衝撃を伝える。

お互いに背後を向けあってる状態からレーダーを頼りに右に移動しながら左旋回した。

敵は後退しながら左旋回。

結果、距離が離れショットガンの推奨射程から外れる。

すかさず散布型ミサイルを垂直連動も一緒に撃ち込み、左に切り返す。

K.Kはショットガンで正面に引き付けたミサイルをまとめて撃ち落としたが、そのため奴はミサイルをロックしたことと爆炎で俺が切り返したことに気でづくのが遅れた。

 

「そこぉ!」

 

隙を見せたK.Kの右側面にマシンガンの弾丸を叩き込む。

右腕に刻まれる弾痕。

だが、俺は舐めて考えていた。

一発逆転兵器の恐ろしさを。

 

『うざったいな。』

 

何を思ったかK.KはOBを起動した。

そして、マシンガンの弾丸の雨を突っ切ってまっすぐこっちに向う。

後ろで垂直ミサイルが地面に激突し、爆炎が彼の機体をシルエットだけにした。

多数の被弾をものともせずパイルを起動。

 

不味いと思った俺はバックステップする。

だが、パイルを普段から使っている彼には、意味のない行為でしかなかった。

それでできた空間を埋めようといわんばかりに、K.Kは大きく一歩を踏み出し間合いを詰める。

 

そして、杭は打ちだされた。

それは、右肩とコアの上部の装甲を食いちぎり内部を露出させる。

同時にAPがごっそり持ってかれた。

 

【右腕部損傷】

【コア損傷】

「くぅ…こぉのぉぉぉ!」

 

突かれた反動を利用して左足で回し蹴りをする。

が、上体そらされもう一発パイルを撃ち込んできた。

パイルバンカーの威力は一発で戦局をひっくり返してしまう。

だから多少の被弾を避けるよりは、当てることを優先する。

 

そんな一撃を咄嗟に左に機体を飛ばして避けることはできた。

 

『逃げるなよ。めんどくさいだろ。』

「そうかい、お前も言えるんかよ。」

 

 

吐き捨てた後、足止めに二種のミサイルを放つ、と同時にマシンガンをまき散らしつつ距離を潰そうと前進した。

 

だが、彼は足止めの拡散したミサイルの隙間を、すり抜けた。

俺は目を疑った。

正気か?

ショットガンで弾幕を張り、俺の動きを鈍らせる。

そこで垂直ミサイルが食らいついてK.Kの動きを止めた。

 

『忘れてた。まだ勝ってるから、仕切り直そ。』

 

当たっても全然喜べない。

動きが違う。

何だあれ、滅茶苦茶だろ。

だが、乗り越えなきゃ。

プロトタイプネクストも倒しただろ。

 

『逃げなかったよ。次はお前の番だ。』

「そうだな。」

 

他人の土俵にすぐ乗っても碌なことはない。

そこまでの経験が違うし、それの猿真似なんてもってのほかだ。

だから、俺なりに逃げない戦い方をさせてもらう。

 

『なら、死ね。』

 

そして物騒な言葉を放ってOBしてくる。

俺もマシンガンを撃ちつつ前に進む。

 

さっきの乱射で弾を切らしたのか動作不良か、ショットガンを撃ってこない。

詰まる距離。

そのまま交錯する。

 

 

と見せかけて、俺は相対距離が100m程ある状態で空を飛んだ。

 

まるで彼をハードルに見立てるような、低いジャンプ。

そのままいけば飛び越せただろう。

 

相手が直進していれば。

 

『同じ手をなんども喰らうかよ。』

 

正面下方に影が浮かぶ。

彼もまた跳んでいた。

既に拳が引かれ、アッパーカットの如く打ち出そうとしている。

だがそれが狙いだ。

 

「同じじゃ、ない!」

 

俺は空中に飛んだ時点で月光を振りかぶっていた。

そのまま、ブレードホーミングでK.Kに吸い寄せられるように、接近する。

 

『なっ!』

 

先に動いてた俺の月光が、K.Kの機体の左腕を斬り裂いた。

だが、この程度で奴が止まるわけがない。

 

『…っぶないなぁ!』

 

敵の射撃兵装がロケットだけになったのはでかい。

だが、まだパイルは残っている。

油断すれば一発でまたひっくり返る。

 

距離を離そうと後退しつつミサイルを撃ち込む。

 

しかし、一回横に動いてからOBしてミサイルを躱したK.Kに距離を詰められる。

右手を斬りおとした事でAPはかなり削ったはずだ。

と、同時に警戒もされている。

決めるなら次だ。

 

『墜ちろ。』

「沈め。」

 

パイルを身構えたK.K。

普通ならここでブレードを振るものなら、タイミングを見切ったK.Kのパイルが当たる。

だがそれでも、俺は月光を起動した。

 

 

 

あくまでさっきの話は、タイミングが合えばの話だ。

なら、ズラせばいい。

 

きっと、K.Kから見たら、俺は急に大きくなったように見えただろう。

今の今まで使ってなかったOBを起動した。

 

月光がパークウェイに襲いかかる。

俺の左腕が奴の機体の右腕にぶつかり、明後日の方向に杭が放たれる。

 

『邪魔だなぁ!!』

 

そこで強化人間の特権を使われた。

 

「なぁ!!っがあああぁっ」

 

なんと右手で俺の機体の頭部を掴み、地面に叩きつけてきた。

揺さぶられる中、俺は思考を辞めなかった。

恐らくこの前俺がアマジークにやったようにマウント。

だがあいつは確実にとどめを刺してくる。

なら、やられる前にやる。

 

そして奴はその通りに俺を跨いぐ。

だがパイルが向けられる前に俺はマシンガンを構えた。

至近距離連射。

どんどん目の前から装甲の破片が降ってくるがやめはしない。

そして、一マガジン打ち切った。

 

そこには穴だらけのACがいた。

やりすぎたかも。

 

「自分でやっといて難ですが、生きてますか?」

 

ダメもとで聞いてみる。

まあ、これで死んでてもどうすることもできないし何かすることがあるわけでもないが。

 

『……それ、さんざんやっといて違うと思う。殺す気だったんなら殺りきれよ。』

 

ため息が出る。

その息に何が混じってたのかは考えない。

 

「とりあえず、俺の勝ちです。通してもらいますよ。」

 

そう言ってパークウェイの下から機体を引きずって出る。

 

『……もう帰った方がいい。俺はインテリオルから依頼を受けた。狙われてる。』

「心遣い有難うございます。偵察任務なのでもう帰っても問題ないはずなので。では。」

 

そう言ってきた道を引き返した。

 

 

 

幸い、二機目に遭遇することはなかった。

あの人、強かったからな。

 

 

 

 

 

「強かったなあいつ。」

 

回収しに来たヘリにつられてそうひとり呟く。

確かにまだ自分の方が上だと言い張りたい気持ちは無くは無い。

だが、負けた事実は揺らぎようがない。

勝った方が上だ。

そしてあいつはまだ伸びしろがありそうだ。

 

「あいつはどこまで行くんだろう。」

 

不思議と期待していた。

 

 

 

帰ってきてシャルさんにリビングに来るように告げられた。

何か大事な話があるのかと思い、気が引き締まる。

満を期して中に入るとテレビがついていた。

シャルさんは横に座るように促してくる。

 

「何が始まるんですか。」

「まあ、見てて。」

 

一緒にテレビを見るだけなのか?

そのテレビのチャンネルは情報統制ワンランク引き下がってる人が見れる特殊チャンネルだ。

ニュース番組で、今日の出来事が淡々と流れる中、緊急速報が入る。

 

『GA代表取締役、宇佐見菫子氏が緊急記者会見を開くそうです。どうぞ。」

 

スタジオから記者会見会場へと映像が切り替わる。

カメラの音が断続的に響く中、あの人は姿を現した。

凛とした姿で壇上に上がる姿は、俺に意見を求めてきたあの時を思い起こさせる。

 

『今日私がここで言うのは、世界を揺るがしかねないことです。その事を理解しておききください。』

 

そして、彼女は会場を見回す

 

『我々の社の方針を大きく転換します。そしてこれは、今現在の戦争の戦局を大きく左右することです。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我々GAグループは企業陣営を抜け国連軍を全面的に支援、国連軍に加担します。』

 

 

「………………………ええええええええぇぇぇ!!!」

 

カメラフラッシュも俺の叫びと同時に激しくなった。

 

 

 

 

その場にいたもの全員が一瞬、呆気にとられていたのだ。

 

そして、具体的な内容が宇佐見氏から告げられることになる。




言い回しに自信がありません。(主にニュースと記者会見もあたり)
間違いや不適切な表現がありましたらご指摘お願いします。


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裏切るのは傭兵だけじゃない

はっちゃけ気味です。
クロス先の要素が少し多めに出てきます。


彼を失って、世界の境界を漂った。

二回目だからか今は周囲の状況を見渡せる。

 

11次元空間。

まだ人々が宇宙の神秘を解き明かそうとした時の説だ。

私はここで何ができるか確かめた。

 

まず、この状態でも自由に移動できる。

お母さんは私に世界を渡る術を身につけさせてくれていた。

そして、時間が2種類あることにも気付いた。

一つはこうやって私が体感している時間。

もう一つはそれぞれの世界に流れる時間だ。

そして後者はこの状態なら移動できる。

つまり11方向中10方向は自在に動けるのだ。

 

だから私は彼を失う過去を変えようと試みた。

だが、出来なかった。

一度その世界で過ごすとそれ以前の過去には行けないようだ。

絶望した。

 

 

 

 

腹いせに他の世界を覗き見た。

ここからなら世界に干渉せずにその世界の出来事を見ることも出来るらしい。

あとで気付いたが、覗いた世界もそれ以前の時間から干渉することは出来ないようだが。

 

そして私が以前居た世界や、それに似た世界の結末を見た。

 

荒廃した地球にしがみつき、そして様々な寿命により滅んだ。

 

資源。

文化。

遺伝子。

 

だが、一番換えようがないのは太陽の寿命だ。

灼熱の大地に生きられるものなど居ない。

 

人はこの星から飛び立つことは叶わず、太陽が尽きるまで争い続けた。

 

私は絶句した。

ここまで人間は愚かなのか。

救いの手を払い除け続け、挙句宇宙への道を閉ざし、地球という釜で蒸し焼きにされるほどに。

 

私の手も払い除けられてしまうのだろうか。

 

 

なら、従わせればいいのではないか?

人類を救うためなら、私は憎まれてでも絶対的な力で人類を引きずってやる。

私は行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

邪魔など絶対に許さない。

人の為にと創ってくれたお母さんの為にも。

 

 

 

 

 

「そうか、潮時か。」

「国連側の心境を考えるに、ちんたらしてると受け入れてくれない可能性がある。GAとしても今までの敵の側につくんだ。傷の浅いうちにやらないと士気の低下が激しくなっちまう。」

 

とある部屋でストレイドと宇佐見は向き合ってソファーに腰を下ろしていた。

 

「でもいいのか?戦力差をひっくり返す為に、とネクスト開発の速度は上がる。それこそ避けたい事だと思うが。」

 

コジマは世界を滅ぼしかねない危険な品物だ。

触れればその物質を容易く変化、もしくは劣化させる。

それをばら撒くネクストは存在しない方がいいはずだ。

だがストレイドは首を横に振った。

 

「どちらにしろ、もう種は撒かれ、拾い上げるのは不可能だ。例えネクストが生まれる前に戦争を終わらせても、いずれコジマ兵器は生まれる。アレサが証明しちまった。しかも企業の方にデータがばらまかれてる。正直国家がネクストを作るのは厳しい。」

「東京を使って、企業に対し次世代のデモンストレーションか。厄介な事だ。」

 

彼女たちが今、望む終わり方は[痛み分け]だ。

 

企業が勝つと国家は消える。

それが一番マズイ。

国家は自らの国民の為に存在し、単純な利益に縛られない動きが出来る。

条約が効力を発揮するのもデカい。

 

だが、今支援してもらっているGAもまた巨大企業だ。

それに、巨大企業が解体された場合の経済への打撃は計り知れない。

泥沼の紛争時代突入は免れないだろう。

そこでコジマを使われる事も。

 

そもそも、どの世界でも国家解体戦争で国家は経済崩壊を恐れ企業を消滅させる気はなかった筈だ。

あるのは賠償金とペナルティだっただろう。

 

ただ拮抗させるためにコジマを渡したところで、それを原因とした全面戦争による敗者の消滅が目に見えていたことだろう。

 

 

 

だから企業という火種に目を瞑ってでも、引き分けにして両方に残ってもらいたい。

だが、国連軍は無人機による蹂躙で大打撃を受けた。

そのための戦力分配を考えると、これが一番戦況を膠着させやすいという考えにたどり着いたのだ。

 

「それでは表向きの言い訳は前言ったとおり、『以前から国連軍との繋がりがあり、スパイ同然だった。そして巨大企業として唯一生き残って、市場の独占を企む。』としとけばいいか。」

「それで大丈夫だろう。だが、社内の反対意見はどうする。勝利時の独占から来る利益(撒き餌)はデカイが全員ついて来るとは限らんだろ。」

 

いきなりの陣営転換で、反対する者が居ない筈がない。

その対策を考えなければ、空中分解して意味を成さない。

 

「その点についてだが、私は鉄拳制裁を考えておる。もともと私側の人間にはこのことは伝えてあるから、私を気に食わんと思っている奴が炙り出されるだろう。」

「…文字通りの?」

「無論、人間だからと侮るな。私はまだ動ける。」

「…知ってる、程々にしろよ。」

 

ストレイドは反対派の冥福を祈った。

 

冥福、である。

 

(確かに人間だし改造もねえけどよ。真人間とは言い切れんだろ、お前は。)

 

そう、口に出さず呟くストレイドであった。

 

 

 

 

 

 

「しっかし、大丈夫ですかね。敵を作りに行ってますもん。」

 

テレビを見つつ事の経緯をシャルさんから伝えられた。

FGWのスポンサー、GAの離反。

つまり、FGWも国家側に移動することになる。

企業内で暗殺されたりしないだろうか。

その心配をシャルさんに伝えたら

 

「多分、彼女なら大丈夫だと思う。」

「宇佐見さんって確か人間ですよね。いくら何でも限界があるんじゃ。失礼ですが歳が歳ですし。」

 

実際、宇佐見さんは戸籍が正しければもうもうすぐ50になる。

体力的には大分きついところがある年齢だ。

 

「いや、ある意味人間だから、というのもあるかな。」

 

その自信は何処から来るのだろうか……。

 

 

 

先程の会話から3日前

 

『社長、お話があります。』

 

そうアポを取ってきた幹部の一人が、社長室に入ってきた。

 

彼女の社長室は幾つかおかしな点がある。

大きな物は多くなく小物が大量に置いてあり、風景の一部を切り取れば骨董屋にも見えなくない。

数少ない大きな物はソファーと執務用の机と椅子、あとは異様な空気を漂わせる鎧だろうか。

 

入ってきたのは中年の男であった。

彼は優秀で彼女も一目置いていた。

彼女に不満を持っている者の一人であることを除けば。

 

男は執務机の前に立ち、宇佐見に向かって言葉を発してきた。

 

「単刀直入に言います。今すぐ陣営移動を取り止めて頂けませんか。」

 

早速本題を切り出してきた。

やはり、敵対派閥からはこの件は口撃材料のようだ。

男からは冷え切った目線を向けられる。

貴女は愚かだ、と言わんばかりに。

 

「決定したことだが、理由だけでも聞こう。」

 

その言葉と目線に対し、どうでもいいかのように(実際どうでもいい)彼女は言い放った。

 

「まず、移動先の戦力が激減した今になって陣営転換することです。以前の物量で勝っていた頃なら理解できない事もありませんが、今移動しては負けに行くようなものです。」

 

「第二に、先程の裏返しになりますが、企業側でも圧倒的勝利を収める事が可能だからです。例えあの物量が息を吹き返そうと、手に入ったコジマ技術で蹂躙できる。コジマ技術では明らかに私達がリードしています。」

 

「第三に今までの企業間での恩に仇で返す事です。我々は巨大企業です。孤立するべきではありません。あちらに尻尾を振った傘下企業のような弱小ではないのです。負ければ、いやどうなろうと我が社に最大の汚点を残す事になります。」

 

恐らく、第三の理由が本音だろうと彼女は思った。

彼は他企業にコネがあり、それで立ち回って今の地位にいる。

もしこのまま国連側に移れば地位を失いかねない。

更に他所(他企業)から突き上げも来ているのだろう。

 

だからこそ無慈悲に突き放す。

 

「勝算がなければそもそもこんなことはせん。他企業も我々が勝てば問題ない。」

 

何も問題ないと平然と述べる宇佐見。

だが彼は食らいつく。

 

「その勝算はどれほど小さいと思っているのですか!それに勝ったとしても国家から疎まれるに違いありません。得られる物がどれだけあるのですか!もっと先を見据えてくださいよ、宇佐見社長!」

 

彼は感情を露わにし、怒鳴り散らしす。

その際、彼女の持っていた細いペンが彼の振り回した手に当たり吹き飛ぶ。

対して宇佐見は呆れ、ため息を吐いてしまう。

 

(交渉で感情を、それも熱意ではなく怒りを露わにしてしまうとは。買いかぶり過ぎたかの)

 

そう声に出さずつぶやき、口を開く。

 

「国家とは予め共謀関係にあったと言ったろ。封じ込めにはそれなりの報復を、とも伝えてある。」

 

まるで、お前は何を聞いていたのか、と問いかけるような彼女の言動に男は顔を歪める。

だが、彼女は止まらない。

 

「それに、先を見据えてないのはどちらだ?この戦争で企業側で生き残るにしても、その後の競走に勝てるか。お前は我が社のコジマ技術の開発がどれほどなのか知らんのか?」

「ジェネレータが完成をしましたが…。」

「ほう、では他社がどれほど進んでるか知っているか。…知らんのか。オーメルはな、先日オーダーACにコジマ技術を投入した技術実験部隊[サフィラスフォース]の実戦配備が決定した。遅れているのだよ、完全にな。」

 

歯切れの悪い部下。

恐らくそのようなことを伝えられず、狐につままれたような状態なのだろう。

 

「そのような最先端技術に遅れたものが企業側で生き残ろうが、他企業の後塵を拝すだけとなる。まあ、対策として、国家側に回っているアクアビットに目を付けておる。国連に渡った僅かなデータだけで奮闘しているらしい。あそこならGAEの人脈を使えばどうにかなる。」

 

そう言って男の方を見る。

男は手を頭に当てていた。

 

「仕方ないですね。というか、こちらの方が都合がいい。これならあの方々(他企業の上層部)に持っていく手土産にはなる。」

 

そうして持ち上げた手にはリボルバーが握られていた。

既に撃鉄は上げられ、引き金に指がかかっている。

 

「いや、初めからこうすればよかったですね。」

 

この至近距離、外れるはずがない。

その銃口を宇佐見は睨む。

勝ちを確信した男はその表情や仕草を気にすることはなかった。

指が引き絞られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その部屋に銃声は無く、静かなままだった。

サプレッサーはついていない。

つまり、銃が発砲されなかった。

では、何故?

 

男の目が見開かれる。

 

引き金を引いても発砲しなかった上に、その理由があまりにも衝撃的だったからだ。

現実離れしている。

 

 

 

 

 

撃鉄と本体の間に先程己が弾き飛ばしたペンが挟まっていたのだ。

それが撃鉄の動きを妨げた。

 

男には疑問しかなかった。

引き金を引く前はペンなど挟まっていなかった。

それが、このありさまだ。

しかもペンはかなり遠くまで飛んで行ったはずだ。

 

「どうした。それで終わりか。」

「!!…貴様!」

 

挑発的な笑顔を浮かべた初老の女はそう嘲笑うように言い放った。

その彼女の右手の指は、男から見て右を指さしている。

男は撃鉄を上げなおし、ペンを取り除いて再度引き金を引いた。

 

(今度こそ邪魔は入るまい。)

 

炸裂音が部屋に響く。

だけだった。

 

彼女は傷一つない上に、その周りや後ろにすら弾丸が当たった様子が無い。

やけくそに2発、3発、4発、5発、と撃ち続けてもどこにも弾丸が当たった様子がない。

そして6発目の引き金を引いた。

 

カチンと音を発した後、また静寂が訪れる。

 

(不発だと!!こんな時に。)

 

急いで排莢しようとしたその時、コト、コト、と薬莢にしては重い物が落ちる音がした。

男は思わず下を見る。

 

(…弾丸が、ここに残っている!?何故だ?銃は事前によく整備したはずだ。どうなっている?)

 

薬莢とともに落ちる鉛玉が煤焦げて、黒く、鈍く光る。

 

 

弾丸は撃ち出されていなかった。

余りにも突拍子も無い事に、銃も自分も疑った。

そして、男はその光景にもう一つの違和感を覚える。

 

(1、2、3、4、5…発足りない!?)

 

6発が弾丸どころか薬莢すら見つからない。

単なる不発なのかと思っていたが。

 

「お探しの物はこちらかね?」

 

男が顔をあげると、握り拳をこちらに向けた彼女の姿が目に入った。

その手を開く。

掌の上にあったのは、差し込む光を鈍く反射する拳銃弾だった。

 

「いつ、どうやって。」

「ちょっとした手品だよ。種なしのな。」

 

 

種なしの手品。つまりは本物の怪奇。

その事に気づき、自然と「ば、化け物……。」と言葉が零れた。

 

「む、少し傷つくな。」

「く、来るな!」

 

立ち上がり、こちらに向かってくる宇佐見。

マントがなびき、見たこともない文字がマントを埋め尽くしている。

 

恐れをなし、逃げるために男は必死に扉に向かった。

しかし、たどり着きドアノブを一心不乱に回してもびくともしない。

そして男のすぐ近くで足音がする。

背後に立たれた。

 

「ひぃ!!」

「そんな情けない声を出すな、メリーに会ったわけでもあるまいし。そこまで悪いようにはせんよ。せいぜい左遷だ。」

 

しかし完全に怯えてしまっている彼にその言葉は届かなかった。

仕方ないと言わんばかりに溜息を吐いた後、手を下に振る。

その途端、どこからともなく金盥が現れ男の頭を打ち据えた。

 

 

気絶しその場で倒れこむ男を見て、彼女やれやれ、とこの件の事後処理のために端末で人を呼ぶのだった。




【宇佐見菫子】と検索すると彼女の若き日の姿が見れます。
歴史の流れに本格的に(元からですが)介入し始めました。
彼等は、アキレスはどうなっていくのでしょうかね。


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Feeling

すいません。
受験勉強とその後の反動であまり筆が進まず、こんな遅くなってしまいました。
落ち着いたので、チマチマとですが再開しようと思います。


【ミッションを説明する。】

 

【今回の依頼主は表向きはGA。大本はFGWになる。】

 

【残念ながら、今回は[乱入者]がらみだ。こちらも出せる手は出しているんだが…。】

 

【…依頼の話戻らせてもらう。今回、無人機の出どころが分かった。】

 

【あくまで一か所に過ぎないんだろうが、それでも手掛かりの一つにはなる。】

 

【場所は東南アジアの密林地帯の真ん中。奴さん、森の地下に基地を隠して熱を誤魔化していやがった。】

 

【ミッションプランだが、上は木に覆われていて、そんでもって基地は地下だ。よって侵入には陸路を使う。出入り口の一つが掴めたんでな。】

 

【目的は敵勢力の排除とメインの動力炉を停止、もしくは破壊。ただ、やつに迫る足掛かりだ。壊しすぎないくれよ。】

 

【特にシステムのメインフレームが入ってる端末にダメージは入れないでほしい。最悪、作戦が徒労に終わる。】

 

【内容が内容だ、FGWの誰かを僚機に雇うことを強く勧めさせてもらう。未確認兵器への慣れがある奴らだ、上手く立ち回れよ。】

 

【こんなところか。】

 

【もしかしたら、これで証拠が見つかってこの戦争が落ち着くかもしれん。悪い話ではないと思う。いい返事を待ってるぜ。】

 

 

 

ようやく[乱入者]へ繋がる物に手が届いたのか。

この戦争が終われば、紫蘭を探すのも楽になるだろう。

なら、参加しない理由は無い。

受諾のボタンを押した。

 

 

『ミッション開始。敵要塞に侵入し、無力化してください。』

『マクロバースト了解。』

『ケイローン了解。』

 

東南アジアの熱い熱気がACを熱する。

今回シャルさんはミッション用の中量二脚、マクロバーストを使用している。

手分けすることも想定したため、お互いに単独での対応力が要求されたためだ。

地味に初めての協働でもあるため楽しみだ。

因みに今日は四脚だ。

マシにショットガン、肩にリニア。

 

『基地入り口付近、熱源なし。そのまま扉の制御盤を破壊、侵入してください。』

 

扉をこじ開ける。

敵はいない。

暫く通路を進むが相も変わらず敵影はない。

 

『その扉の向こうは二つの部屋が繋がっている構造です。』

『先行する。アキレスは後方を警戒して。』

 

扉はロックされていなかった。

シャルさんはブーストで飛び込んだ。

俺も続いて振り返りつつシャルさんと背中合わせになる。

 

「ここにもいない……。」

『襲撃がばれていたの?』

 

そのまま、シャルさんは次の部屋への扉にアクセスした。

 

次の瞬間。

 

上から、俺とシャルさんの間に黒い影が割り込む。

そしてロックされていなかったのか、既に開いていた隣の部屋への入り口へシャルさんを蹴り飛ばした。

 

『うわっ!』

「シャルさっ…粉くそっ!!」

 

振り返り際に黒いACが放ったレーザーライフルを姿勢を低くして躱した。

急いで後退して距離を取る。

敵ACは中量二脚。

武装はさっきのレーザーライフルにグレネードとブレード、それにコアのEOか。

様子見をしていたら、距離を置いた俺にグレネードで砲撃してきた。

俺はそれを横にブーストして回避しつつ、リニアキャノンでサテライト。

それなりに広い部屋なので壁を気にしていれば突っかからないだろう。

扉の前まで回り込む。

 

『ゲートチェック、解除できません』

 

ついでに通信も遮断されている。

 

(こんなところにいるACなんて、まともな性能してないよな…どうせ。)

 

性能で負けているのなら技量で勝つしかない。

再度リニアを敵に構え、前進。

黒いACは、距離を詰めつつリニアを撃ち続ける俺にレーザーライフルで応じる。

リニアは脚を地につけていなければ撃てない。

 

故に被弾がかさむ。

ここで執着するのは意味はない。

左肩をレーザーが掠めたあたりでマシンガンに切り替え引き金を絞る。

吐き出された鉛玉のいくつかが黒いACを撃ち据える。

 

ENに余裕がないので小刻みに跳ねてレーザーを躱しつつマシンガンの有効射程を維持した。

だが相手も左右に機体を切り替えして被弾を減らす。

とは言え単調で、分かりやすい動き。

しかもあれからレーザーライフルしか使ってこない。

手数を増やすため動きが鈍ったところでショットガンを撃ち放った。

途端に火力に違いが出る。

大きくなるAPの差を埋めようとしたのか。

EOを起動しつつこちらに接近してくる。

 

「分かりやすいな。機械だな…まあ、当然か。」

 

予想通りに来たブレードを左ずれて避け、そのがら空きになった脇腹に両手の火器を押し付ける。

 

「吹き飛べ。」

 

大量の銃声と金属の砕ける音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉が開く。

 

『そっちは無事だった?』

「ええ、何とか。」

 

どうやらシャルさんにも似たようなACが襲いかかったようだ。

だが、無残なまでに斬り裂かれている。

三つほど遠くから見てもレーザーブレードで付いたとわかる大きな傷がある。

圧勝だったようだ。

 

『先を急ごう。時間をかけてもいい事はない。』

「そ、そうですね。行きましょう。」

 

心なしかシャルさんが苛立っているような気がした。

 

 

その部屋の先からはレーザー砲台がちまちまこちらを攻撃してくる。

それを気まぐれに潰しつつ先に進む。

 

『その先にコンピュータールームと思わしき部屋があります。アクセスして下さい。』

 

シャルさんがACを降りてコンピュータールームに入った。

俺はその部屋の前に陣取る。

 

『データは取れました。副電源があればコンピューターのメインフレームは維持できるようなので主電源を停止、もしくは破壊してください。』

『了解、ACに再搭乗するから監視をお願い。』

 

シャルさんがACに乗り終わる。

 

「いくら何でも無防備過ぎませんか。さっきなんて撃破の絶好の機会だったのに。」

『ワザとな可能性が高いかしら。情報も偽物かもしれないわね。』

 

 

彼の行動パターンからすると、この情報を見せれば高い確率でここに来るはず。

例外を嫌う彼ならこの機を逃さない手はない。

彼が直接手を下すことはないだろうけど、不確定要素の戦力を同時に潰すチャンスだ。

 

私は、仮の体に電源を入れる

 

 

うざったい機銃や砲塔や警備ボットが歓迎してくれる一幕もあったが、主電源へとたどり着いた。

 

「…電源止めたらボカン、とかありませんよね?」

『流石にそれはなかなかないと思う』

 

主電源がうなりを上げて停止する。

照明が弱く、橙に滲むものに変わる。

 

だが、終わりではなかった。

 

 

『基地の無力化を確認……いえ、待ってください。所属不明のACが基地に接近中。脱出する際に警戒を怠らないでください。』

「こんなところに来る時点であまりいい予感しないけどな。」

『制圧は後続に任せて急いでコンタクトするよ。』

 

討ち漏らした機銃などは沈黙していたため、ただ駆け抜けるだけだ。

外に出ると東南アジアの激しい日射、ではなくスコールが出迎えていた。

 

雨で白く濁る視界。

だがレーダーはその機影を捉えて…

 

「来たぁ!?」

 

700メートル程離れていた敵機が一瞬で肉薄し、真っ正面にウサギのようなヘッドパーツが現れる。

既にブレードが発光している。

敵だと判断し、ショットガンを撃ちこんだが

 

「消えた…じゃなくて真横に飛んだのか。クソ、また規格外機かよ!」

 

視界から消え去り、レーダーの敵表示は左にまた数百メートル離れたところにあった。

この動きは、セラフやアレサで見たものに近い。

 

「サイラスフォースか!?」

 

ローゼンタールのコジマ試験機の話は聞いていた。

ネクストの機動をするオーダーAC。

目の前の機体の動きはまさにそれだ。

機体のカラーリングが深い紫と黒だということを除けば。

 

『でもあれは蒼いACだったはず。』

 

シャルさんが呟いた疑問の答えを、オペレーターが教えてくれた。

 

『敵の所属が割れました。アナトリア所属、AZ‐04。ローゼンタールからAMS試験機として譲渡されていたACです。』

 

その通信が終わるか終わらないかのところで、視界にとらえていた紫の影が消えた。

そして、右からアサルトライフルの弾丸が襲い来る。

 

敵から距離を離しつつそちらを向こうと右旋回。

真っ正面にとらえたところでリニアを放つが、あの機動で避けられ、反撃のマイクロミサイルが放たれ、俺の機体を掠めた。

シャルさんがブレードで切りかかるが、いなされたのちに蹴り飛ばされる。

 

『っ……!やっぱりネクスト相手は荷が重い!』

 

そして敵の背中に光が集まったと思うと、一瞬で頭上を通り過ぎていく。

振り返る間もなくライフル弾がケイローンに突き刺さる。

 

(旋回性能も、速度も、機動も、反応も勝てないッ)

 

ついて行けていた筈の規格外の機動に全くついて行けない。

 

 

 

 

 

 

 

そこで思い知る。

 

 

 

 

 

セラフは全力でなかった。

 

 

 

 

アレサは有利な条件で戦えていた。

 

 

 

これが規格外機の性能。

これが本来の力。

視界不良は悪い。

こちらは消耗している

密林の中、出入口は川に面していたため開けている。

 

圧倒的な力を持つ相手のホームグラウンドでの戦い。

 

勝てる理由が見つからない。

 

そんな事が頭を掠めたとき、シャルさんのマイクロミサイルが敵に命中。

吹き飛ばされ動きの鈍った敵を正面に捉えた。

マシンガンをもつ右腕を上げる。

が、一瞬でクロスレンジに入った敵の月光で腕ごと斬り飛ばされ、虚しく宙を舞った。

 

 

その時、俺を襲ったのは恐怖や焦燥感ではなく、デジャヴだった。

動きに何か、表現のしがたい既視感を覚える。

 

自然と体が動く。

その返す刃を俺は四つの脚を広げ、頭を下げて回避できた。

隙のできたそいつにショットガンを向けトリガー。

 

ばら撒かれた弾丸を奴は()()()()()()()で避け、俺のACの左腕めがけてブレードを振る。

機体を右によじり躱してその勢いで180度旋回、四脚の後ろ脚で蹴り。

それは敵の、人で言うところの鳩尾に入り吹き飛ぶ。

 

敵に振り返りつつショットガンを投げつけ、格納されていたブレードに持ち変える。

そしてリニアで投げつけたショットガンを撃ち抜いた。

 

爆炎が両者の視界を遮る。

 

 

 

「やっぱり。」

 

 

言葉が漏れる。

 

 

後ろの上空、敵はブレードを空高く掲げまっすぐこちらを目指す。

気づいていた俺は、四脚の旋回性能を強引に利用して、また振り向きざまにブレードを振り抜く。

激しいスパークが散り、鍔迫り合いとなる。

ライフルを向けられたので、僅差で勝っていた安定性を利用して無理やり吹き飛ばす。

敵と睨みあう。

 

 

 

 

このデジャヴ。

 

もとい、直感を信じたくなくなったのはこの時が初めてだった。

 

あいつとはチャンバラごっこなんて遊びをした事はない。

無論、暴力に訴えるケンカなんてしたこともない。

しいてそれらしいことと言えばゲームで少し遊んだくらいだ。

 

だから、こんなやり取りで分かるはずはないし、証拠にもならない。

 

なのに、なんでこんな確信めいた発想をしたのか、全くわからなかった。

 

 

「お前は…」

 

 

その瞬間、両者の足元が爆ぜた。

 

俺は、前脚二つを根こそぎ奪われ、APも0にされてしまった。

規格外機相手に無茶したせいで、負荷に耐え切れずそこら中から黒煙が上がっていた。

あいつは直前に例の機動を行い回避したようだ。

 

『こちらストレイド。救援に来た。お前らは撤退しろ。』

 

俺の真上で、ACらしき機体が浮遊していた。

ローゼンタールの意匠をもつ、黒と白の機体。

どうやらストレイドさんが、あいつを攻撃したらしい。

 

なら、俺を攻撃したのは…

正面に向き直ると、あいつの後ろに黒い機影が見えた。

よく見ると、あいつの居たところにはクレーターが二つある。

第三勢力の介入か。

 

『倉庫から無理やり引っ張り出してきたオーパーツだ。性能は問題ない。まかせろ。』

『マクロバースト了解。アキレス、私に掴まって!』

 

牽引されながら俺はその戦いを見ていた

分かったのは、紫のあいつは追撃を躱し去って行ったこと。

 

『じゃあ、お前が相手か。』

 

そして一騎打ちになった二つの影がより激しく争ったことぐらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

へえ、ネクストを出してくるとは、やはり余裕がないのかな。

確かにネクストに対抗できるのは次世代規格機だけではあるけど。

制約付きでも本気を出されるのは厄介だな。

僕の出した手が悪手だったかな?

()()()()()()でもあったけど、どうやら問題なさそうだね。

 

さて、あの二人には最高の舞台を用意した方がよさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

こんな趣味僕にあったっけか?

まあいいや。

 

 

 

 

 

 

 

すべて滅茶苦茶になるなら。

 

 

 

 

 

 



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irregular~エゴ~

流石に展開が速いですかね。


機体を洗浄している間、アキレスはずっと物思いにふけっていた。

 

あり得ない仮説にNOを突き付けようとして、それが出来ない。

かと言って、それを相談しようとしても根拠が足りなさ過ぎて他人にも話す気になれなかった。

 

『坊主、聞こえてるか。坊主!』

「…あっ。すいません。」

 

彼は思考にふけっていて通信に気づいていなかった。

 

『洗浄終わったぞ。調子でも崩したか。』

「すいません。考え事してて…大丈夫ですよ。」

 

そのままハンガーに機体を固定し、アキレスは機体から降りる。

キャットウォークを歩くその足取りはいつもに増して定まらない。

彼の仮説、それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

「どした、また壁にぶつかったか。」

 

跳ねるように顔を上げる。

彼の前に表れたのはストレイドだった。

ストレイドはどこか呆れに近い顔をする。

 

「全く、一般人から無理やりレイヴンになってそれに戸惑って慣れ始めた自分が怖くなり、それが落ち着いたら幼馴染が誘拐され、今度はなんだ?」

 

それに対してできるだけ何事もないように答える。

 

「ただの妄想に引きずられてるだけですよ。そのうち落ち着きますから心配なさらず。」

 

そう言って彼女達の横を通り過ぎていこうとした。

しかし、その肩をがっしりとストレイドに掴まれる。

 

「まあ、そういう勘は嫌な時に当たる。経験談だ。」

 

そう言ってアキレスに向ける目はどこか優しげだった。

アキレスはそっぽを向いて押し黙る。

 

「妄想に囚われた状態で正しく物事を見れる気がしないんです。」

「それを覚ましてやるのは私達みたいなやつだ。」

 

その言葉にアキレスは揺らぐ。

恐る恐る振り返った。

口を開く。

 

「笑わらないですか。」

「保証はしない。あまりに酷かったらな。」

 

その言葉に思わずガクッと来るアキレス。

しかしストレイドは続ける。

 

「笑い飛ばせるならぶっ飛びすぎた、それだけでよかったってなるじゃないか。相談するならただ、ってな。」

 

でも、こう返されたほうが信じられるのはこの人の人柄ゆえなのか。

そう思ったアキレスは打ち明けることにした。

 

 

 

 

「あのACの搭乗者のことなんですけど…。」

 

 

 

 

 

 

 

アキレスの話は確かに根拠に欠けた部分は多い。

だが、逆に否定する要素というとそれほど多くない。

 

正直、笑い飛ばせたほうが彼にとっては良かったのかもしれない。

しかし私は笑えなかった。

私もそうではないかとなぜか思えてしまったから。

そして私にはさらにもう一つの嫌な想像をしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このままでは、アキレスは死ぬ。

 

 

「すまない、明確な答えはこっちからも出せない。ただありうるかもしれないがいいところだ。」

 

当たり触りのない答えを出すしかない自分に歯がゆさを感じずにはいられない。

 

「そうですよね、すいません。付き合わせてしまって。」

「気にするな。絡んだんはこっちだ。」

 

そこまで言って思った。

 

大分こいつに肩入れするようになったな。

 

正直言って彼はイレギュラーとはあまり思えない。

 

彼は傭兵らしくない。

彼はいまだに常識の枠の中にいる。

常に勝ち続けた特異点でもない。

 

かつてのイレギュラーと違う点は多い。

さらに挙げれば、イレギュラーはだいたい孤独の傭兵であることがほとんどであった。

だが彼は最初は企業に縛られ、今でも私達という勢力に身を寄せている。

 

それでもなお私達はこいつを見捨てていない。

まだ、期待を寄せているのか、あるいは…

 

そうしてふと思いついた。

 

 

 

こいつ、私達にとっては例外なのかも知れない。

 

いままでたどって来た邪魔者を排除し続けた私達という存在から、どこか外れた存在。

 

で、ありながら伸びしろを見るに私達に追いつき得る存在。

 

こいつなら面白い未来を見れるかもしれない。

 

そう思い、彼に告げる。

 

「もし、お前の予想通りで、どうにもならなくなったら私達、そうでなくともほかの人を頼ればいい。」

「いきなりどうしたんですか。」

「いや、思うところがあってな。」

 

そう言うとアキレスは少し陰のある顔で話を続ける。

 

「でもこれは俺の問題です。あまり周りに迷惑はかけられません。」

「それでこっちが迷惑被ったら変わらんだろ。」

「いや、それは、そうですけど…」

 

意地悪な笑みを浮かべたストレイドに、困惑するアキレス。

 

「どんな人間でも限界がある。どんな数にも、どんな兵器に勝てる強さをもっても、自分は一人だ。自分のところにいる敵と地球の裏側にいる敵を同時に相手取るのは無理だ。」

 

そこでいったん言葉を切る。

ストレイドはどこか遠い目だった。

 

「それに、人間は集まった方が強い。あ、信頼関係が出来てるのが前提な。」

 

慌てて付け足すストレイドさん。話を続ける

 

「一人で全てを蹴散らすような【例外】でも、傍に信じられる人がいるかいないかだけでだいぶ違うからな。」

 

アキレスはその言葉に少し目を見開く。

 

「少し予想外です。皆さん割と何でも一人出何でもしてしまう印象があるので。」

「まぁ、多少のことは確かに一人でやるけどな。」

 

その時、彼の端末から小気味良い電子音が鳴り響いた。

 

メールだ。

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

 

俺は曇り空の下、誰もいない東京を歩いていた。

コジマによって人の住む街ではなくなってしまったが、それでも、汚染の及んでいない場所はある。

例えば俺の小中学校があるあたりとか。

好き好んで汚染の近くで通わせようとする親もいないので、廃校同然だが。

 

何故、そのようなところにいるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのメールだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

for 練

 

 

あなたの通っていた小学校の屋上で待ってる。

 

一人で来て。

 

 

待ってるから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

送り主は想像できる。

この前のストレイドさんに話したことが正しいのなら、という前提付きだが。

 

ストレイドさん曰く、ネクストを支える技術は主に2つ。

一つはコジマ技術からくる莫大なエネルギーと機動性とPA。

 

もう一つはAMSによる緻密で敏捷なコントロール。

 

 

 

 

あのACから感じたデジャヴの原因は、恐らく後者だ。

AMSは、搭乗者の細かい癖や普段の身のこなしを反映する。

 

俺は、暇があればあいつの大会を見ていたりした。

だからか。

 

 

 

母校の校門は開け放たれていた。

桜の木は葉を落とし、夏から管理されていなかった校庭に枯れ草と雑草が不規則に生えている。

校庭を横切り、慣れ親しんだ校舎へ。

みんなと過ごした教室を一度見、そのまま階段を上がる。

 

今思うと、年不相応なことをしているよな、と思わずにはいられない。

6か月ほど前の自分は新しい生活に期待を膨らませる新中学1年生だったのだ。

 

それが才能を見込まれて、少年兵同然でレイヴンを始めて、人殺しを始めて、それに慣れて。

秘密組織に参加して、戦って…。

あまりの滑稽さに笑みがこぼれる。

 

「そんで今度は……」

 

屋上にたどり着く。

扉を押し開けた。

 

 

 

 

「罪の清算、か。」

 

 

 

ロングコートに身を包んで街を見下ろす人影があった。

 

「久しぶりだな。」

「ええ、ほんと久しぶりね。」

 

その影が振り返る

この数か月で少し髪が伸びたが、そんなことで分からなくなるわけがない。

 

俺の初恋の相手。

 

 

そして、俺のせいで一生癒えぬ傷を負い、人生そのものが狂ってしまった被害者と加害者の関係にある少女。

 

 

 

 

 

 

 

「で、何から話そうか。紫蘭。」

 

 

 

 

癖のない髪が風になびく。

その目は真っ直ぐこちらを見ていた。

 

「いざ、面と向かってみると分からなくなるものだね、練。」

「俺も告白の時はそうやってグダグダになってたからな。おあいこだよ。」

 

そう言って肩をすくめて見せる。

 

「じゃあ、敢えて率直にいわせてもらおっかな。」

「構わない、そっちの方が君らしいかもね。」

「…少し変わった?」

 

前の俺はもしかしたらそんな事言わなかったのかな。

 

「知ってるか?人が変わるのには1か月もかからない。」

「そっか。私も変わっちゃったよ、そんな私から一言。」

 

彼女はそう言って上げる左手には、黒光りするものが握られている。

 

 

 

 

M36-4 レディスミス

既に1世紀も使われながら、護身用として未だに使われる回転式拳銃の女性モデル。

それが彼女の持つ武器であった。

 

 

 

 

「あなたを、殺したい。」

 

 

 

 

彼女はスッと表情を消した。

 

 

 

 

 

送りだす前は心配だったけど、意外とやるもんだねぇ。

一応効果あったようで何よりだ。

…殺気すごい出してるよ。

これ、アキレスの方が心配になるぐらいだ。ご愁傷さま。

どう出るのかな、見出された例外。

 

 

 

 

破裂するような音。

 

学びの舎にあってはならない音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

どさり、音を立てて練は仰向けに倒れた。

 

 

 

 

 

 

撃った当人はというと

 

大きくのけ反り、驚愕に顔を染めていた。

 

 

 

 

 

「素人…まあ、俺が言えた口じゃないが、なんも訓練してない人間に銃はね。」

 

練が起き上がる。

彼の右手にも同様に銃が握られていた。

右頬から血が流れ出るが構わず口を開いく。

 

 

「何でこういうところで気が合っちゃうのかな。」

 

M36 チーフススペシャル

 

奇しくも彼女の銃の派生元であった。

 

発砲は同時。

紫蘭の放った弾丸は練の頬を掠め、練の弾丸は彼女の銃を打ち据えた。

 

だが、彼女はまだ銃を握ったままだ。

大きく左手をはじき飛ばされながらも、離していなかった。

再度照準が練へ向けられた。

 

「大人しく撃たれて。」

「さすがに紫蘭の頼みでもね。」

 

紫蘭はその顔を無表情から怒りへと染め上げていく。

 

「私からこの左足を奪って、日常を奪って、夢を奪った人間の言うことなの!?」

 

紫蘭が堪らず怒鳴る。

容易に想像がつくことだ。

 

一瞬、頭にこのまま殺られるのもありかもな、と弱気な言葉がよぎるが振り払う。

俺は…

 

「レイヴンていうのは怨まれて当然。そのレイヴンである俺にまともな回答を求めようたって無駄だ。」

 

 

銃声。

 

撃ったのは俺だ。

 

紫蘭はそれに事前に気づいて左に走り出して躱す。

俺の真横辺りに来てそのままの体勢でこちらに一発。

そちらを見た俺の左肩を服だけ掠めていく。

 

それをものともせず負けじと発砲。

その直前に紫蘭は左足で踏み切り1メートルほど飛びあがり、弾丸はコートの右裾を掠めた。

信じられないほどの跳躍をする。

 

紫蘭が空中で銃を構える。

が、察していた俺は一気に前へ駆け込み紫蘭と地面との間に飛び込む。

その間に銃弾が背中を通り過ぎていくが振り向かない。

飛び込み前転の形となり、俺は体勢を立て直しつつ振り向く。

紫蘭は着地をした後こちらに向き直る。

 

そして、二人の視線は交差する。

 

しかし、お互いに発砲するも碌に狙いもつけない弾丸はお互いを捉えずに過ぎ去る。

 

静寂。

 

「確か、この前はここで邪魔が入ったな。」

「…気づいてたの。」

「そりゃ、さっきの行動パターンがそっくりだからな。あの機体も左に動く癖があったし。」

 

勘は正しかった。

こいつがあの紫のACのパイロット。

 

 

 

 

いや、リンクス、か。

 

「でもこれで終わり。」

 

紫蘭が引き金を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、俺たちの間を黒い影が遮る。

 

 

紫蘭の弾丸はそれに当たりキンと甲高い音を響かせて弾かれる。

 

「何!?AC!?」

 

紫蘭は困惑し、動きを止めた。

やってきたACはシャルさんのサルタクロスだ。

その右手が間に割って入ったのだ。

 

『大丈夫だった?』

「何で割って入るんですか。というかなんでここ知ってるんですか。」

『まり…ストレイドさんを問い詰めたの!また無茶をして!』

 

 

ストレイドさん、許すまじ。

しかし、これは面倒なことになるかも。

 

「さすがに、ACの相手はACでも無いと無理かな。」

 

紫蘭の様子を見てシャルさんは口を開いた。

 

『確かに、その左手と左足を奪ったのは彼になってしまうのかもしれない。だけど彼を殺しても元に戻りはしないの。考え直して。』

「元に戻るとかそんな事どうだっていいの。じゃあ、長所を潰されて、あなたは夢破れて、人生を狂わされて、何も思わない訳?」

 

その瞳は真っ直ぐにシャルさんのACに注がれる。

 

「私はこの感情を、植え付けた相手にぶつけたいだけ。」

 

それを見たシャルさんは俺を右手に優しく握り飛び立つ。

紫蘭の居る校舎がみるみる小さくなるのを見て俺は怒鳴りつけた。

 

「早く降りてください!まだここを離れるつもりはありません!」

『何言ってんの!ネクストを呼ぶって気満々の言葉聞いてたでしょ、ネクストが来る前に帰る!』

 

そう言って聞かないシャルさん。

俺はさらに言葉をぶつける。

 

 

「もとよりそのネクストと戦うことも想定してきてるんです。俺のACがあそこに置きッぱになるんですよ!」

 

その言葉にシャルさん呆れの一言。

 

『だから無茶しすぎよ。それに、あれを説得できる訳ないじゃない。』

 

その言葉を聞いた俺は、思わず言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「説得はしても意味はないんです。あいつが俺の命を狙う理由は憎しみだけじゃないんです!!!」




紫蘭の戦う理由とは


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Jitter

ちょくちょく第三者目線に挑戦です。


校舎の屋上に佇む紫蘭。

多分、私は泣きそうな顔をしてるんだろうな。

 

 

 

 

練はもしかしたら気づいてくれる、なんて甘い空想だった

練は変わりきっていた。

 

あの頃のまだ私を見ていてくれていた彼ではない。レイヴンになり、戦いに魅了されきっちゃったんだ。

 

私なんかに興味はないんだろうな。

だって、そうじゃなきゃ、私をアナトリアに送ったりしない。

 

(悲しいな。)

 

その時、彼女の目の前に巨人が現れる。

 

TYPE-HOGIREベースのネクスト。

ブレティア。

 

あの後、遊園地であったあの男の人から渡された機体。

前のACをくれたところが私のために用意したらしい。

 

 

機体、装備はそのままだが、塗装はとっくに紫と黒に変わっていた。

 

コックピットでパイロットスーツに着替える。

終わると対Gジェルでコックピットが満たされ、準備が完了する。

 

『立上さん、準備は。』

「はい、いつでも行けます。博士。」

 

通信の先はイフェルネフェルト博士だ。

その博士の声は弱弱しい。

 

『君をこんなことに巻き込んだこと。本当に申し訳ない。』

「なにを言ってるんです、これは私の望んだことです。博士が謝ることでは…」

 

『君も知ってるだよね。この戦いで君が彼を殺せなかったら。』

 

彼は声を絞る。

 

『…もういいんだ。』

 

 

 

 

 

紫蘭の機体が浮上する。

 

彼女がレーダを確認すると、反応は後ろの少し離れたビル街からだった。

PAを展開し、そのままOBを起動。

数キロを一瞬で詰める。

そこで見えたACを即座に散布型ミサイルで空中から追撃する。

AC、サルタクロスは振り向いてマシンガンでミサイルを撃ち落としつつ左のビルの陰に隠れた。

OBの余韻に機体を任せつつ旋回、曲がり角に差し掛かる。

 

 

が、その直後彼女に襲いかかる激しい衝撃。

 

正面にいるのはサルタクロスではない別のAC。

紺と黒のコントラスト。

 

練のAC、ケイローンだ。

 

あの日とアセンブルは違うが、間違いない。

 

「紫蘭、機体もろとも本気か?」

「じゃなきゃ何なの?遊びでACを持ってくる?」

「違いないな。」

 

紫蘭はブレードを展開しつつQBで練に襲いかかる。

咄嗟に展開が間に合ったケイローンの月光と衝突。

激しいスパークが発生したのち、彼を吹き飛ばした。

 

スピードも、重量もブレティアの方が上だ。

そのままQBを使い再び肉薄する

 

「なめるな。」

 

吹き飛ばされた先にあったビルを蹴り飛ばし、ブレティアの上を越える。

QTで振り返るものの、ケイローンはそのまま旋回しつつ回し蹴り。

 

「きゃぁぁっ。」

 

そのまま、ケイローンが叩きつけられらるはずだったビルに彼女が叩きつけられる。

 

そこにケイローンはOBと同時に散布型ミサイルを撃ちこむ。

咄嗟に左に跳躍しミサイルを躱すと同時にライフルを構えるブレティア。

しかし、曲がり角をドリフトターン(OBの余剰)で曲がるケイローンは即座に跳躍。

OBの勢いを保ったまま、左右のビルを蹴り飛ばしジグザグした機動でこちらに迫ってくる。

 

 

 

 

 

ブーストドライブ。

VACが行っていた機動を無理矢理オーダーで行っていた。

 

 

 

ライフルの弾は左右に逸れ、彼を捉えられない。

 

そのままその光景に圧倒され、通常ブーストしかしていなかったブレティアは追いつかれた。

そのまま練はマシンガンの雨を浴びせる。

負けじと紫蘭は散布型ミサイルを放つが直前でマシンガンが当たり爆発、逆に自らのAP、PAを削ってしまう。

 

(…押されてる?性能はこっちが上で、私も本気のはずなのに?)

 

圧倒的性能差にもかかわらず押されているのは紫蘭。

 

再びOBするケイローンに負けじとOBで追随するブレティア。

最高速度の差は歴然でブレティアがすぐさま追い抜いた後旋回、ライフルを乱射しつつ距離を詰めてブレードを起動する。

それをケイローンはビルの上を飛び移る様な小ジャンプとブーストドライブで被弾を数発に抑える。

そして、真っ直ぐ迫り来るブレティアに対して散布型ミサイルを撃ち放つ。

咄嗟に左にQBする紫蘭。

だが、その軌道を読まれ、ケイローンが直角に近い角度に無理矢理壁を蹴って迫る。

そして、

 

ガアァァアン!!

 

ケイローンの右足がブレティアの鳩尾あたりにめり込み、巨大な金属音とともに吹き飛ばした。

 

結果、ブレティアはまたもビルに叩きつけられる。

思わず機体に膝を付かせた。

 

 

 

 

 

(なんで?何で勝てないの?あいつに負ける要素なんてないはず。)

 

 

その心の声にこ答える者はいない。

ふと、前を見ると、ケイローンがいて。

 

 

 

 

頭部を掴まれビルに押さえつけられる。

 

「あアアッ!!」

 

自らの頭にも不快感が走る。

痛覚までリンクしてないが、触覚は繋がっているのだ。

それが強引に掴まれている感触をありありと伝えてくる。

 

「なあ、この程度なのか。」

「!?」

 

突如開かれる回線。

紫蘭にとって、その声は挑発的にも思えたし、呆れたようにも思えた。

 

「ネクストのアドバンテージも、お前の抱いている感情も、その程度かと聞いている。」

「なっ!!」

 

ネクストに関しては何も言えない。

だが、感情の話は心当たりがあった。

思わず黙りこくる。

 

 

「ならこれで終わりにするか。」

 

ケイローンはブレティアの胴体のあたりにマシンガンを突き付ける。

紫蘭の下腹部にも同じように金属が触れたような感覚に襲われ、背筋が凍った。

練の声は徐々に黒くドスの聞いた汚いものに変わっていく。

 

「お前ならもう少し楽しませてくれると思たんだがな。」

「か、変わったにもほどがあるでしょう。そんな感じだっけ?」

 

少なくとも紫蘭は知らない練だった。

その次の声はかつての面影すら感じなかった。

 

「前の俺なんてどうだっていいだろ。死ねよ。」

 

その直後、激しい衝撃が紫蘭を襲う。

下腹部の不快感は言い表しづらいものにまで達した。

 

紫蘭は理解する。

彼は本気で彼女を殺す気なのだと。

彼女の五感から訴えられる警告が明確に死が迫るのを伝える。

恐怖が紫蘭を支配する。

しかし、後悔はすでに遅かった。

揺れの中、APは確実に減少し既に弾丸が彼女を砕こうとせまる。

それを止めるすべなどない。

 

彼女に出来ることはあと数秒の生にしがみつくだけ。

 

 

 

だった。

 

 

 

 

 

 

カチン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちいぃ、弾切れ!」

 

マシンガンのマガジンの中の弾丸が尽きたのだ。

つまり、マグチェンジを行わなければ再度発射はできない。

 

「あぁ、はあ、ああ。」

 

実際撃ちこまれたのは8発。

だが、紫蘭に死の恐怖を植え付けるには十分だった。

 

死の瞬間が遠のいたが、まだそこにある。

だがマグチェンジが終われば同じなのだ。

 

シャル・マメイヤーにかつて抱いた恐怖が蘇る。

 

 

 

 

「ぁ…らぁああああぁぁ!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ケイローンがマグチェンジがを完了し再度マシンガンを構えるその一瞬前に、ブレティアは力任せにケイローンを蹴り飛ばす。

そのまま散布型ミサイルを発射。

ロックはしていなかったが、三分の一が命中する。

そのままQBで肉薄しブレードを一閃。

ケイローンはぎりぎり身をかがめるが散布型ミサイルが両断され爆発する。

爆風に煽られるケイローンに左足で回し蹴りを叩き込む。

 

紫蘭は恐怖の中、五感が逆に鋭くなる。

それと同時にネクストから送られて来る情報も増大した。

 

そこに不快感はない。

ネクストが、動かしかたを教えてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後で思うに、私は半ば思考停止していたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面を削りながらも踏み止まるケイローン。

しかし、

 

正面にブレティアの姿は無い。

直後、ケイローンの後ろに弾丸が直撃する。 

振り向けどもそこにもブレティアの姿は無い。

 

 

ドドドヒャァ、と音が回り込むように響く。

 

気付けば左にブレティアがいた。

 

 

 

そのレーザーブレードがまっすぐに振り切られる。

 

 

その様子を見て、練は口角を吊り上げる。

そこからは血が流れ出ていた。

 

 

「それでいい!紫蘭!」

 

月光を真一文字に振る。

2機は、二人は再び切り結ぶ。

 

 

 

 

「ちぃ!しつこい!」

 

シャルは舌打ちする。

 

紫蘭と練からそう遠く離れていない中層ビル区を駆け抜けるサルタクロス。

その左手前にあるビルに高速の弾丸が着弾する。

 

『お前をあの娘のところに行かせはせん。』

 

通信から響く声は何回も聞いた声。

 

 

U,Nオーエン操るAC・ローレンスがビルの上からサルタクロスを見下ろしていた。

 

 

 

 

事は、練がブレティアと接触した時まで遡る。

 

そのまま練を援護しようとしたとき、横合いからマイクロミサイルが襲い掛かって来た。

 

回避し、発射した相手を見た時は驚いた。

この世界のイレギュラーが唐突に攻撃を仕掛けて来たのだから。

 

 

「何であなたが邪魔をするのか理解できないんだけど。」

 

思わず通信で問い掛ける。

 

返事は一言。

 

『依頼だ。』

 

それだけで充分だった。

 

 

 

恐らく、紫蘭の援護を引き受けたのだろう。

気になるのは【厄災】の依頼を受けた理由くらいか。

 

 

そして時は戻る。

 

 

シャルは更なるリニアライフルの攻撃をいなしつつ、マイクロミサイルを発射。

 

それに対してオーエンはOBで右に飛びマイクロミサイルを回避した後接近。

ショットガンをすれ違いざまに叩き込む。

シャルもその機を逃すまいと両手のマシンガンを連射。

ショットガンをまともに喰らったシャルはのけ反るものの、マシンガンはしっかり当たっていたのでイーブンと思考を切り替える。

オーエンを再補足すべく索敵。

 

振り返るものの視界内にいないので即座にレーダーに切り替える。

 

(突き当たりの交差点を右にすぐ、か)

 

恐らく耐熱限界までOBをして離脱、待ち伏せか。

待ち伏せへの対応を考えつつ前進。

 

とれるコースは2つ。

道に沿って進んで待ち伏せに真っ向勝負か、ビルを越えて上空から攻めるか。

 

彼女はビルを越えて進む事にする。

元より相手の後手にまわるならせめて上をとろうと判断。

 

しかし。

 

 

ビルに着地した途端、唐突に足元が爆発した。

 

「っつ!?吸着地雷!」

 

先を読んだトラップに戸惑う。

オーエンは交差点を曲がったのではなく、ビルをわずかに越えて地雷を撒いた後にポジションを取ったのだ。

さらに脚の鈍ったサルタクロスにリニアライフル弾が突き刺さる。

ビルを飛び移り迫るローレンス。

 

「ご馳走はいただいたわ!」

 

シャルはそれを見てOBを起動。

耐熱限界を無視してローレンスに肉薄する。

余りの無茶な動きに不意を突かれるオーエン。

 

『なんとぉ!?』

「だからお返し、受け取りなさい!」

 

左手のマシンガンを放り投げローレンスを掴むと、そのまま引き寄せ、サルタクロスの右手のマシンガンが、ローレンスの左腕に押し付けられる。

 

トリガーが引かれ、鉛玉がローレンスの左腕を食い破り破壊する。

 

[左腕破損]

『この程度では退けん!』

 

ローレンスは無理矢理サルタクロスを振り払う。

接近戦の要を失った彼は、吸着地雷を直撃させようと発射。

それを読んでいたシャルは後退し回避する。

 

冷却にENが持って行かれ、余裕がないシャルはマイクロミサイルで牽制。

 

『負ける訳にはいかないんだよ!』

 

それを一発の被弾で抑えたオーエンはリニアライフルで追撃する。

 

そのうちの一発がシャルの左腕をへし折った。

 

さすがのシャルもこの必死さに疑問を持たずにはいられなかった。

 

 

練からもちゃんと話して貰えなかった故に状況を理解しきれないシャルは、置いて行かれたような錯覚に陥った。

 

 

 

 

 

ビル街に唐突にいくつもの爆発が起こる。

その爆発の内の一つから、ケイローンが吹き飛ばされて現れる。

 

その機内に、ストレイドからの通信。

 

『後3分もかからない。もちこたえてくれ、アキレス!』

「りょう、かい!」

 

返事を返すも、既に装甲も罅や煤にまみれている。

 

機体損傷、60%。

 

正直、勝ち目はほとんどない。

それでも彼は足掻いていた。

 

ライフルをブーストドライブで無理矢理躱し北へと進んでいく。

 

「それでいいんだ、紫蘭。」

 

既に彼の口元は血にまみれていた。

 

 

 

 

 

オーダーがブーストドライブを利用しても、ネクストに勝つのは初めから無理に等しい。

 

 

まず、ブーストドライブだが。

 

オーダーはVACと違い全長が大きく、一見同じような動きをしていても、最高速・移動距離の違いから、かかるGの大きさがまるで違う。

それでネクストに追従しようとすれば、かかるGの大きさは想像を超える。

 

それに加えて、アキレス―練―はまだ13歳でしかない成長途上の体で行っている。

むしろここまで持ち堪えている方がおかしいのだ。

 

その上、Gによる負荷は機体にも蓄積。

脚部はもうすぐ破損判定を出してもおかしくないぐらい疲弊していた。

 

 

 

 

 

序盤ブレティアを追い詰められたのは、紫蘭の心の隙を突き、ネクストらしい動きを制限したからだ。

QB、QTの使用頻度の少なさとAMSに対する不慣れにつけこんだに過ぎない。

 

だが、それでは目的を果たせないのだ。

 

紫蘭にはそれらしい戦いをしてもらわなければならなかった。

だから、焚き付けた。

 

理性まで吹き飛ばしてしまうのは想定外だったが。

 

 

あいつは体で理解するタイプだから、一度必死に戦わせた方がいいと判断したのだ。

実際、それは正しかったようだ。

 

ストレイドさんに聞いたネクストの戦闘テクニック。

目の前でその多くを目の当たりにすることになり、一瞬で逆転され追い込まれている。

 

 

 

あんなことをしたのだから、もう、元の関係には戻れないことも理解している。

これは俺のエゴでしか…

 

思考が混濁し始めた。

壁を蹴ったあたりから一瞬視界が黒く染まり、意識が遠のく。

しかし、地面に機体を叩きつけてしまう前に何とか立て直し後ろを向く。

 

そこにはすでにブレティアが迫っていた。

マシンガンのトリガーを引くが、その時には視界内にはいない。

 

ドドヒャァ、という音だけを残して、ブレティアは右の大通りに移動したのだ。

そして、しばらくするとまた同じような音がして、俺の頭上に現れた。

上空からライフルを連射。

 

 

俺はOBを起動して一気に()()()まで近づこうと試みる。

ライフル弾も、ロックオンも振り切って真っすぐに向かう。

しかし、足元にノーロックで撃ちこまれたミサイルで体勢を崩しOBが切れた。

それでも、進み続ける。

 

「この、ままじゃ…ジリ貧、か。」

 

振り返りマシンガンを放つ。

だが、紫蘭は恐ろしい程の左右運動を織り交ぜて迫ってくる。

 

二段多重クイックブースト。

 

それをオーダーACが捉えられるはずもなく。

ブレティアは接近しブレードで袈裟斬りを繰りだしてきた。

必死に後退をかける。

だが、完全には避けきれず、構えていたマシンガンの前半分が斬りおとされた。

 

残る武装は、月光一つ。

 

絶望的状況。

 

 

 

 

「ま、だだ。」

 

 

だが、ブレティアの勢いはまだ残っていた。

それを見た俺は鈍る思考の中、画策してする。

 

あと、数十秒持てばいい。

 

俺は、ブレティアに背を向けた。

同時にOBを起動。

ブレードを振りきったせいでがら空きになったブレティアの胴体に蹴りを入れ。

 

反作用で一気に加速した。

一瞬意識が飛ぶ。

気が付いたのは目的のコンテナの真ん前だった。

解放されたコンテナから、すれ違いざまに中身を持ちだす。

ここまで来てしまっては、気休め程度の品物だが。

 

 

空になった散布型ミサイルをパージしつつ、背中から迫るブレティア。

 

それを振りきるように必死に加速をかけるケイローン。

 

そのケイローンの進む先には、この街最大の高さを誇るビルがあった。

 

 

それに向かって速度を緩めることなく進み、跳躍してビルを駆けのぼった。

 

 

 

 

 

『ネクストで、まだ機動力の低い方向?ブースターのもよるが、それは縦だな。』

 

ストレイドさんから聞いた話で組み立てた、悪足掻きの策。

これで無理矢理距離を離し、時間を稼ぐ。

 

 

 

 

 

私は頭が練を倒すことだけでいっぱいになっていた。

OBで前を駆ける練にライフルを向ける。

 

だが不思議なことに照準が合わない。

いくらマニュアルで狙いをつけようとしても逸れていく。

 

ふと、練のACを見つめてみる。

OBで発生する光が翼のように見える

それはその紺と灰ので彩られ、さらに傷だらけの機体に似合わないかもしれないけれど。

 

 

 

 

 

私は、綺麗と思えた。

 

 

 

 

そして、その機体がビルを駆けあがるとき、脳裏に浮かんだのは―――

 

 

―――これでいい?

 

―――お姉さんありがとう!!

 

 

 

―――あの子と練の笑顔で…

 

 

 

 

身体も心も現実に引き戻されるような感覚とともにもう一度ケイローンを見上げる。

気づかない内に自分も上昇し、決してオーダーでも詰められない間合いではなくなっていた。

そしてENは切れかかっており、即座にQBもできない。

 

やってしまった。

今の練は本気だ。

このままじゃ…

 

 

『紫蘭危ない!』

 

あのどす黒い声ではない、私の知ってる練の声が通信越しに響く。

そして、OBを再度吹かし、こちらに向かって大の字で向かってくる。

ブレードを構えず、大の字で。

 

 

 

――ああ、練は完全に染まってはいなかったんだ。

―――さっきのはなんだったの?

 

二つの感情がせめぎ合う

 

だが、前者の方が大きい気がする。

 

きっと都合のいい解釈だけれども。

きっとまた。

 

 

そう夢心地に浸っていた。

 

 

 

 

勢いよくこちらを抱き留めてきたケイローンを受け止め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケイローンの背中が爆ぜるまでは。




練の目的は。


紫蘭が戦わなければならなかった理由とは。






現時点では最高文字数かも。

追記
2018年3月23日
多機能フォームを利用した作業を忘れていたので編集しました。


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例外は予想できない

種明かしです。

自分で気づいてない矛盾がないかハラハラ。
あったら、異議あり!と、勢いよく指摘しちゃってください。



…作者が泣かないくらいに。


『練!こっちは片付いた、もういいぞ!』

 

その声で、俺は作戦の成功を確信した。

後はこの機体からペイルアウトして囮にして領域離脱。

紫蘭を保護してもらうだけ。

 

その直後、空できらりと何か光る。

レーダーに新たな反応が上空に出現したが、LOOKの文字が浮かばない。

――照準は紫蘭。

 

「紫蘭危ない!」

 

その事実に思わずかばってしまい、レーザーをその背に受けた。

 

「…くそ、こうくるかよ。」

 

練はすでにAPなど0になった機体の中、朦朧とする意識でコマンドを入力する。

 

この世界のAPは元から余裕をもって設定されている、とシャルの話を思いだしていた。

それは、APの表示がたとえ0になろうとも理論上まだACは動かせることを示している。

 

落下しているのもかかわらず、紫蘭は困惑しているのか減速しようとしない。

元恋人、兼、命を狙った殺人鬼が急に抱き着いたと思ったら、急に背中が爆発。

まあ、そうなるだろう。

 

[システム起動]

 

強制的に再起動し、APのリミッターを解除する。

それとと同時に機体の自己診断が始まる。

結果は凄惨たる機体状況だが。

 

[OB、下部二基破損]

 

先程の攻撃でOBの半分が死んでいた。

着地するための出力はこれで足りるかどうか。

だがここまでやってきて諦めたくはない。

 

先程と立ち位置を入れ替え、自分が下になる形でOBを起動。

減速していく機体のコックピットで、練は正面から抑えられるようなGを受ける。

足のスラスタ―を制御し、どうにか進行方向を水平に向けた。

だがその先には10階ほどの建物が立ちはだかる。

 

「間に合ってくれぇ!」

 

速度は確実に落ちているが建物も着々と近づいてくる。

 

――この際、紫蘭が無事ならどうだっていい。

 

APリミッターに加えて、内装系のリミッターを解除する。

コックピットをさらなるアラートが流れるが、ENが減少しなくなった。

 

OB、通常ブースターを全開にし、さらに減速していく。

 

 

 

 

そして、ビルに激突。

 

幸いにも、速度は充分に落ちていたので2機の損傷はほとんど無かった。

 

 

「ぐガァァ!!」

 

だが、その衝撃はGでボロボロになった練の身体に止めを刺すが如く襲いかかるが。

 

 

 

 

 

何が起こったのか理解できないまま、壁に衝突した。

 

思いっきりケイローンがを押し潰すような状況になっていたことに気づき、思わず通信回線を開く。

 

「練!?大丈夫!?」

 

少し間が空いて返事が来た。

 

『なんと、かな』

 

その声は呻くような苦しそうな声だった。

私が、多くの傷を負わせたのだ。

 

でも

 

「なんで私を庇ったの。私はあなたを憎んでるんだよ。」

 

私は私の意志で選択して戦いに臨んで、彼をここまでになるまで傷つけたのに。

あの、どす黒い彼は一体なんだったのだろう。

その答えはとても単純で、

 

『白々しいな、大嘘付きめ。いや、これは俺が自信過剰か。』

 

と、苦しいだろうにうれしそうな声で答えた。

 

 

 

 

初めから復讐なんて存在しなかった。

練にあの日の責任を押し付けるのは簡単だっただろう。

だけども、私はそんな私は許せなかった。

あの時、練だって心配して寄ってきたのに、それで彼を憎む私を。

 

不幸が重なって、ああなっただけなのに。

 

強がろうと必死に声を絞る。

 

「じゃあ、なんで私は戦っていたのかわかるの?それ以外理由なんてないでしょ。」

 

泣きそうな声で、問いかける。

彼の呼吸は次第に落ち着いてきていたが、それでもなお辛いだろうに優しく微笑みかけてきてくれた。

 

彼は口を開く。

 

彼の答えに息をのんでしまった。

彼はすべてに気づいていたのだ。

 

 

 

 

 

――数日前

 

 

「紫蘭からかもしれないですよね。」

「【厄災】かもしれんぞ。どちらにしろ罠だろうな。」

 

ストレイドさん相談している時に届いたメール。

その内容を彼女に伝える。

 

「だが、もし紫蘭だったとしたら相手はネクストだぞ。勝ち目は薄い。」

 

事実、あの時の紫のACには勝てなかった。

行動パターンを読んで戦ってから一部攻撃を防げたが、次もそうはいかない。

 

 

 

それにしても、彼女の戦う理由が微妙だ。

 

殺すと脅されている?

 

だが、数の限られる才能の持ち主にそれをするのは、いつか限界が来る。

俺のように自力で首輪を食いちぎられ身を滅ぼすかもしれない。

 

 

 

 

 

 

…俺のように?

 

 

「ストレイドさん、紫蘭の両親はどうしてます?」

「一応周囲を見張ってるが怪しい影はないとのことだ。」

 

とすると―

 

アキレスはさらに思考する。

 

嘘を重ね続けて脅迫し続ける手もある。

合成映像なんかで騙せばいい。

 

 

だが、首輪を付けたのは【厄災】だ。

そんな簡単なオチではない気がするのだ。

 

だが彼女の性格上、動きを制限するには人質が一番なのは間違いない。

おそらく、【厄災】としてはその人質にも消えてもらって欲しいやつを選ぶはずだ。

多分、ことが終わったら紫蘭もろとも消すっていうこともできるから。

その上、管理しやすく自分の訪れやすい場所にいるはず。

 

 

「【厄災】の目撃情報ってどうなってますか。」

「え?まあ、最近多いのはレイレナード、BFF、それから…アナトリ『それだ!』アあぉっ!?」

 

そうだ、あのACはアナトリア所属だった。

きっと彼女もアナトリアにいて、そこで世話になった人を殺すと言われたんだ。

 

「いきなりでびっくりしたぞ。アナトリアに何が?」

「あ、すいません。でも、もしかしたら分かったかもしれません。」

 

ストレイドさんに今の仮説を話す。

それを真剣に聞いて、頷く。

 

「前提条件が怪しいから一方的に肯定はできないが、なくはないな。」

「…あくまでも机上の空論ですよね。」

 

全ては【アナトリア所属のACのリンクスが紫蘭であり、今送られてきたメールも彼女のものである】という確証の欠いた前提ありきだ。

大外れだってあり得る。

 

それより、とストレイドさんは口を開く。

 

「どうしてお前は彼女の戦う理由を[お前への恨み]にしないんだ?それが一番簡単だろ。」

 

人の憎しみは十分な殺害の動機になる。

【厄災】に教唆されたなら十分にあり得る理由。

 

だがそれを俺は切り捨てた。

 

「実はUnknownさんが先日、紫蘭の様子というかなんというか…それを見せてもらったんです。」

「あれをか!?結構あれ使うの嫌ってたはずなんだけどな。」

 

ストレイドさんは驚くものの「それで?」と後を促す。

 

「見たとき確信しました。あいつは俺を無理矢理憎もうとしています。」

「はあ!?無理矢理だと?どういうことだ!」

 

俺は、あいつのあの口調を知ってる。

 

「あいつは自己暗示じみたことをする癖があるんです。要素や理由を並べてから、だからこうなんだって。」

 

元々は、陸上選手として自分をコントロールするために使っていたテクニック。

それを使って、練は憎い、殺したいと自分に言い聞かせていたと俺は思っている。

 

無論、一切恨んでいないとは思っていない。

だが俺を殺さなければならなくなったからこそ、自分に言い聞かせて一線を越えられるようにしていたのだろう。

 

「それは確証あるのか…まあ、この際いい。」

 

とまで言って

 

「いや、待てよ。」

 

急にストレイドさんは表情を曇らせる。

 

「…もしかしたら状況はもっと悪いのかもしれない。」

「どういうことです?」

「アナトリアはとても微妙なバランスの上にいる。国家にも企業にも利益をだす存在。そして、いま一番の売りはAMSだ。」

 

話の流れを掴めない。

 

「どうしたんですか?」

「元の歴史とズレはあるが、他の世界の歴史からいうとアナトリアは来年の春に崩壊するんだ。」

「そうなんですか!?」

「つまり、アナトリアは崩壊しようが何だろうが【厄災】はどうだっていいんだ。しかもこの情勢でアナトリアがどこの勢力に潰されようと争いの元になる。」

 

最悪の流れ。

その示す意味に戦慄するしかない。

 

「崩壊する前に研究員AとやらにAMS技術を持ちださせれば後の流れは変わらない。そして、アナトリアは戦争激化の足しにする…」

 

ところどころ分からないところもあるが輪郭が見えてきた。

レイヴンになりかけな俺ならともかく、まだ一般人の枠のうちにいる彼女にとってこれは余りにもきついだろう。

顔も知らない人間も気にしてしまうような彼女ならなおさらだ。

 

「紫蘭はきっと…」

 

 

 

 

 

 

 

「アナトリアの人命全部、背負っちまったんだろ。」

 

通信回線越しに彼女の嗚咽が聞こえる。

一時的に恐怖に飲まれ、戦いにのめり込んでいて解放されていただろうが、それでも彼女には重すぎる責任だっただろう。

恐怖で押しつぶしたのもこういう理由もあった。

 

『私、アナトリアをまだ救えて、ない。あなたを殺さ、ないといけな、いから。』

 

泣きつつも必死に訴えかけてくる紫蘭。

だけど、それはもう背負わなくっていいんだ。

 

「紫蘭、実はね。俺のレイヴン(リンクス)の知り合いがもうアナトリアにいるんだ。」

『え?』

「さっき、その知り合いから連絡がきたんだ。もう大丈夫、アナトリアはもう誰も襲わない。」

 

 

精一杯の笑顔で伝える。

 

『お疲れ様、紫蘭。辛かっただろ?』

 

ブレティアを抱き寄せる。

 

優しくできただろうか。

ネクストには触覚があるから不安になる。

が、その心配はいらなかった。

一層画面の紫蘭は涙に顔を濡らす。

 

だが、落ち着いてなどいられない。

速度で撒いていたのだがついに追いつかれたか。

 

近くの数か所にレーザーが直撃する。

空を見上げると目玉に羽をはやしたようなようなものがたくさん浮かんでいた。

 

 

AMMON S

 

その時は知らなかったが、こう呼称される兵器。

 

 

 

それを目の前に、俺は紫蘭の前に出る。

 

まあ、話す時間があっただけ良かった。

誤解を解くことさえできなかったら戦いに集中できなかっただろう。

【厄災】はきっと目的を厄介者の消去(イレギュラー)に切り替えたに違いない。

あいつらは、そのためにここに来たのだろう。

ここからは延長戦、加減も躊躇いもいらない。

 

OSの切り替えでAPは2080になっている。

このOSはかつてシャルさんのACが使用していたものを改造したもの。

つまり、ここに表示されているAPが0になれば良くて機体停止。

最悪は爆散する。

 

だが逆に考えれば、まだ戦えるところまでこいつが持ってくれいていたのだ。

 

――不幸中の幸いだな。

 

視界の中に映る敵は10機くらいか。

こいつらを片付ければ晴れて作戦成功だ。

 

『行かないで!もうそんな機体じゃもう…』

 

紫蘭に呼び止められる。

だけど、ここで戦わなきゃ二人仲良く殺されるのを待つだけだ。

もう紫蘭にも戦って欲しくもない。

 

「大丈夫だ、こいつらくらいこの機体でも倒せる。それと紫蘭」

 

この機に一応言っておこうか。

死亡フラグなんかもへし折っちゃえばいいし。

 

「アナトリアとこんな俺を一瞬だけでも天秤にかけてくれていたなら、それはとっても嬉しい。あんなことしてごめんな。」

 

 

 

右手に先程回収したものを握りこむ。

 

 

 

 

PB-DARKSLAYER

 

 

そこから発生する黒い霧が刀身を形成する。

さらに、リミットカットをしてEN出力を跳ね上げる。

月光もブースターもいくらでも使えるようになった。

 

60秒

それがこのACがまともに動いてくれる限界(リミットカットの制限時間)だ。

 

OBを起動。

翼のような光を背負って一気に接近、周囲がレーザーで囲まれるが気にしない。

直撃コースを躱しつつ月光で一閃。

その残骸を蹴り飛ばしつつもう一機にダークスレイヤーを突き刺す。

しかし、横腹にレーザーが突き刺ささり、その隙に包囲される。

練は後ろを振り返りつつ、ダークスレイヤーをいったん解除し突き刺さりっぱなしの敵を投げ飛ばす。

それは、その先にいた敵に衝突しもろとも爆散した。

閃光に目をくれず右にいた敵を月光で袈裟斬り。

かかと落としの如く蹴り飛ばし、その反動で上昇。

さらに上にいた敵をダークスレイヤーで突き刺した。

 

彼は焦燥に駆られる。

時間も、冷却も間に合わない。

APは削れ、敵が散開することによって次第に離れていく距離。

 

 

一機落とすたびに意識が飛びそうになり、自らの心音が彼を起こす。

意地だった。

 

残り13秒。

 

残る敵は4機、それが並んでこちらを見ている。

 

そんなことお構いなしといわんばかりにOBをかける。

目指すは真ん中の敵。

 

12秒

 

突然、一番右の敵が爆散する。

シャルさんのミサイルが敵を撃ち落としたのだ

 

 

11秒

オーエンさんが一番左の敵をリニアで粉砕する。

 

 

 

10秒

今度は残った左の敵が爆発。

紫蘭のライフルだった。

だいじょぶだったのに、と思わずにはいられなかったが嬉しくも思えた。

 

 

 

 

 

 

 

9秒

 

 

 

ダークスレイヤーが最後の敵を貫いた。

 

 

 

爆散。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なッ!!いうこと、きき、やがれッ!」

 

 

 

そこで想定外が起こる。

完全に機体にガタが来てコントロールが効かない。

きりもみ回転をして空をOBで突き進んでいく。

 

発熱は収まらず、機体がどんどんダメージが蓄積し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

APが0になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機体は連鎖的に爆発しながら天高く昇っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0秒

 

 

 

大きな閃光が都市上空で花開いた。

 

 

 




まだ終わらんよ!


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重い話ではない…はず。


紅葉に染まる神社。

その手前で話す影がある。黒白の服に金髪、もう一人は紅白の服に黒髪だ。

 

「アナトリアには監視をつけるのは決定だな。あそこのデリケートさは見過ごせん。」

 

「全く手間をかけさせてくれるわね。多分今までで二番目くらいに歴史変わるポイントじゃない?」

 

Unknownは溜息を吐いた。

ストレイドはそれをまあまあ、と宥める

 

先日、アナトリアに出向いた二人は【厄災】がアナトリアを壊滅させるために用意したと思われる兵器群を殲滅。ネクストという反則を使ったが、【厄災】が何を用意しているか分からないのでやむをえなかった。

そして、紫蘭はその後何とか保護した。

 

「で、今回の第二の目標であった紫蘭ていうリンクスは今どうしてるの?」

 

自分の仕事の結果を確認するのは当然のことである。

それにストレイドは答える。

 

「紫蘭なら、あいつのところにいるはずだ。心配で仕方ないらしい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

規則的な電子音が部屋に響く。

ここはFGWの医療施設。

そこの一室にある椅子に紫蘭は腰を掛けていた。

 

目の前にいるのはアキレスこと、練。

 

意識はなく、静かに呼吸をする。

それを眺める紫蘭の顔は晴れない。

 

 

 

彼はきりもみ回転する機体から強引に脱出した。だが、回転の影響でまともにパラシュートが機能する訳がなく、意識を手放したアキレスは落下し続ける。

それを紫蘭が何とか回収できたのだ。

 

 

だが、負っていた傷は深い。

全身のいたるところ骨に罅が入り、内臓も多くが負荷を受け機能が低下していた。コジマ汚染も受けていた彼はここに運ばれ、集中治療を受けている。

 

「1週間絶対安静、それと二か月はACおよびGのかかる兵器への搭乗禁止。

激しい運動も控えて。コジマによる内部汚染はもう少ししないと消えない。」

 

と、主治医は言っていた。

これでも最新鋭の医療技術を使っているとのことだ。寧ろ、こんなに早く治るものなのかと訝しむレベルのスピードであることはつっこまないでおこう。

 

 

 

既に三日が経とうとしているがそれでも目覚める気配がない。

 

「ごめん、練。」

 

 

そんなことで済まされることをしたとは思ってない。

かっこ悪いとは分かっているけど、自分で選択した結果なのに罪を背負う感覚にずっと苛まれてしまう。そして、彼の目覚めをここでずっと待ち続けていることを心の中で嘲った。

 

きっと彼が気づいてくれなかったら自分もアナトリアも、今頃はもうなかったんだなと思ってしまう。彼が悪役を演じてなければ、まともに戦うことすらできなかったかもしれない。

 

 

そんな彼を憎もうする自分が嫌いで――。

 

 

そこまで思考したとき、後ろの戸が開く。

 

「あ、シャルさん。こんにちは。」

 

入って来たのは、何回かお世話になっているシャルさんだった。

その表情は暗い。

 

「紫蘭さん、私がうかつだったばっかりにあなたを【厄災】に渡し、挙句の果て戦場へ駆り出させてしまったこと、本当に申し訳ございませんでした!」

 

突然頭を下げられる。

全く予想していなかった謝罪に困惑してしまう。

 

「いや、私は貴方に謝罪なんて求めてませんよ…頭を上げてください。」

 

彼女は頭を上げるも、その顔は晴れない。

 

「しかし、あなたの体は、もう…」

 

そう言ってより顔を曇らせる。

 

 

 

私はリンクスになってしまった。

 

リンクスはネクストを操縦するために様々な処置を施されている。

2つに分けると、AMS施術と肉体強化措置だ。

 

肉体強化措置

それは薬物や医療工学により様々な負荷に耐えられるように身体をいじられること。

 

左手足を失っただけでも、まだ競技人生は歩めた。

義手義足でもスポーツ選手を続ける人は世界に数え切れないほどいる。

だが、今の私は常時ドーピング状態だ。筋力は常人の比ではないし、反応速度は置き替えられた光ファイバー製の人工神経によってヒトのそれを越える。

 

公式大会の出場は認めれるはずがない。

もう、かつての夢の欠片すらつかめないのだ。

 

 

「…でも私は生きてる。彼も生きてる。今はそれだけでいいんです。」

 

「…そうですか。少し羨ましいです。いや、嫉妬でしょうか。」

 

「まさか、あなたも練を!?」

 

思わず椅子から立ち上がる。

 

「いやそうじゃないですって」

 

苦笑いしつつシャルさんは首を振った。

その顔和どこが悲しげで、私の勢いもすぐにそがれてしまった。

 

「私は昔に恋人を亡くしてしまいました。でも、あなたには命をかけて想ってくれる人がまだいる。」

 

 

そう言って再び練に視線を向ける。

私もそれに倣うように練を見た。

今まで通りとはいかなくとも、[日常]を取り戻すことが叶うなら、それでいい。

 

開けていた窓から、夏の暑さを残した風がカーテンを揺らした。

 

 

 

 

ガレージに面した部屋でオーエンは愛機の整備を眺めていた。

隣にはフィオナがいる。

今回の件についての謝罪の意として【FGW】とかいう組織から修理を受け持ってくれた。

シャルや練、他にも何人かのレイヴンが秘密裏に所属する、得体の知れない組織。

アナトリアを救ってくれたのには感謝をしているが、気を許すつもりは一切ない。俺の心配は、恩を売りつけて何か企んでないかということだ。アナトリアを狙う輩がすり替わっただけだとしたら、俺は容赦なく銃を向け、恩を仇で返すつもりだ。

 

今のところその兆候はないが。

 

 

「あなたがオーエン?」

 

そういって、誰かがすぐそばまでやってきた。

 

「そうだが、お前は?」

「わたしは道戒 緋芽。FGWでエージェントをやってる。よろしく。」

 

そういって屈託のない笑顔で右手を差し出してきた。それを見て、俺も「お、おう。」と握手に応じる。

その時、となりにある気配が淀んだのに気づいた。

振り向くと、ジト目でこちらを見つめるフィオナ。

 

「なに、今のリアクションは?」

「あ、いや、これその、いまのあの子の笑顔が眩しかったとか、そういうのじゃないんだ…」

 

しどろもどろしてしまう俺を見て、緋芽は笑う。

 

「あははは、お熱なことで。」

 

「からかっているのか、お前!」

 

思いっきり弄ばれてしまった。

 

「で、何の用だ。ただの挨拶か。」

 

それに対し事無げに言う。

 

「いや、シャルのライバルって聞いてね。どんな人か見てみたくなったんだ。」

 

「ユーリック、貴方まだ親しくしてる女がいるの?!」

 

「だからそんなのじゃないぞ!」

 

再度疑いの目を向けられる。

その疑いを晴らすべく必死に弁解しようと試みた。

 

「ほら、三日前俺と戦ってたあのレイヴンだよ!」

 

「ああ、あの黒いAC…あなたのACも黒よね。」

 

そこ気にするか!

二股疑惑は止まらない。フィオナが纏う疑念の黒雲は次第に濃くなり、今にも雷鳴を轟かせんばかりに大きくなってきた。

さすがに見てられなくなったのか、そこで道海は口を挟む。

 

「大丈夫だよ、シャルは恋する相手なんていないって堂々といってたもの。嘘だったらスクープにしてやるんだから。」

 

「お、おう。そうか。」

 

「ユーリック…」

 

「あははははははははっ。ほんとに、もう。」

 

そういって胸を張る少女のおかげで話は落ち着いた。

まだ、フィオナの冷たい目は続いているが。

その様子に彼女は再び笑う。

 

「確かに、失うには惜しい人たちかもね。」

 

そういうと、彼女は窓枠に腰を掛ける。

 

「実はね、今回アナトリアを護衛した件についてなんだけど、全部アキレス君が立案したんだよね。」

 

「なに!あいつが!?」

 

その事に驚きを隠せない。

 

「あの子がストレイドに頼み込んだんだってさ。紫蘭を相手するからアナトリアを頼むって。」

 

「じゃあ、あの子がいなければ、今頃私達は…」

 

壊滅していたかもしれない。

アキレスはアナトリアを救った恩人になったのだ。

 

その事に思わず笑みがこぼれる。あの少年が、ずいぶんとデカくなったものだ。

 

「お礼なら練君に言ってね。それじゃあ。」

 

そう言って去って行く彼女の背を見送る。

戸が閉まった後、フィオナが口を開いた。

 

「なんか、彼にお世話になっちゃったね。」

 

「そうだな。」

 

そうして、彼に何かできないか話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

「一本取られたな。」

 

これっといって利益を得ることが出来ず、全部あいつらに持っていかれた。

この事実が僕を苛立出せる。例外という存在のうっとおしさは毎度のことだが、先読みされてこちらの計画は総崩れだよ。

 

「いったんこの戦争からは身を引くか。」

 

ここでムキになって無駄に戦力を失ってしまえば、次の機会が回った時に何も出来ない。

引き際は大事だ。まあ、後は【乱入者】がどう動いてくれるかに期待だね。

彼女一体どう動くのか。

 

 

 

【厄災】はすぐには動けない。

今気にするべきはイレギュラー要素のみ、それも少なからず消耗してきてる。きっと今は意識が外に向いているはず。

仕掛けるかはあと少しだけ様子は見るけど、時間はかけられない。この機に私の邪魔になるものは抹消する。

 

お母さんのため。

 

人類の存続のため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――どうだ、恋人と本気で戦った感想は。

 

うるさいな、別にどうだって。

 

――正直に答えろよ。

 

ああ、もうわかったよ。楽しかったさ。満足か?

 

――へえ、恋人に殺されかけるのを楽しむのか。

 

別に殺されたかったんじゃなくて、戦ってるのが楽しかったんだって。

あいつと競う機会もあんまりなかったし。

 

――殺しあいを?また滑稽な話だ。

 

レイヴンになってからそう言うのよく聞くし、別にどうだっていいよ。

 

――彼女が聞いたらどう言うんだろうな。

 

まあ、あいつが分かれたいならならそれで構わない。縛られていたあいつを自由にしたんだ。

恨もうが、愛そうが、殺意を持とうが、好意を持とうがあいつにその権利はあるだろ。

それを尊重したい。

 

 

――なら…

 

 

 

 

いや、そろそろ俺の一面に乗り移るのやめてください。

 

 

Unknownさん。

 

 

 

 

「なんだ、いつからわかっていたんだ?」

 

暗かった視界が一気に美しい光に満たされる。

虹色の光に満たされたそこはなんだか暖かくて、包まれているような錯覚に陥る。

 

「割と途中から。それにしてもここはどこなんです?俺は気を失ってるんですよね。」

 

あまりの幻想的な光景に、一瞬死んで昇天でもしたかと疑った。目の前に女性の姿のUnknownさんを見てそうではなさそうと思ったが、少なくともここが現実でもないとも思う。

 

「あんまりはっきりは言えないな。いい表現が見つからなくて。しいて言うなら私そのものとかかな。」

「そのもの、ですか。」

 

あんまりはっきりしない言い方で、俺ももやもやしてしまう。

 

「まあ、あなたの精神に直接介入したくてね。メンタル面が少し心配だったから。」

 

一般的な価値観なら、助けるために自分の恋人に散々暴言吐いて傷つけて、平然としていられる人は少ない。

だが、

 

「もうあいつは俺のことを想ってないでしょう。夢叩き壊し、恐怖のどん底に叩きつけられて、好きでい続けてくれるとは思えませんからね。」

 

そう平然と言い放つ。

もう半ば諦めている。

あれだけのことをしたのだ。あいつから憎しみを向けられようがそれで構わない。

彼女が無事で、その事を祈り続けられるだけで俺は満足だ。それ以上何を望めというのだろうか。

 

「結構悲観的だね、もっと一方的に求めてもいいと思うのだけど。」

 

「そうですか?これでも欲張りな方だと思うのですけど。」

 

彼女は少し不服そうにこっちを見つめる。別に俺の人間関係くらい自分で調整してもそれはそれである種の自己責任じゃないか。

彼女は何か言いたいのだろうか。

 

「なんですか。不味い事言いました?」

 

「いや、ね。彼女からなんで距離を取ろうとするのかなーって。」

 

やっぱり、そういうの気になってしまうんだろうなぁ。やっぱり失礼だがそう言うところは見た目以上に年を取って言うというか…。

無論紫蘭との距離を取るのには理由はある。

 

「きっと、あいつがどう思おうとうまくいきませんよ。俺はレイヴン、あいつは一般人の感覚なんですから。」

 

俺はこの生活にもう慣れつつある。それに今更戻ろうなんて思ってもいない。

もしかしたらこの戦いが終わった後もレイヴンを続けるかもしれない。付き合い続けるのは難しいだろう。きっと遺伝子レベルで戦うことが植え付けられてる。

 

「それにこれは俺のエゴですが、どんどん汚れていく俺の道連れにしたくはありませんし、なるって言ったら止めますよ。」

 

彼女まで戦いにおぼれていく姿を見たくはない。今回みたいなことはなおさらだ。

俺の思いを押し付けて悪いが、来たらもう戻れない後悔を紫蘭に背負って欲しくない。

これ以上俺は変化することはないだろう。戦いの快楽に浸った俺はもうみんなの中には帰れないから、その道連れはいらない。

 

Unknownさんは溜息をひとつつく。

 

「別にその歳なんだからわがままもっと言っていいのに。」

 

「現実見たら悪いですか。」

 

 

それに、俺の切な願いなんですけど、と付け加えて愚痴った。

彼女は苦笑いして続ける。

 

「悪いとは言わないけど、彼女の思いもしっかり聞いてあげなさい。あなたのエゴと彼女のエゴの押し問答になったときは考えるのよ。どっちが正しかったなんて結果論なんだから。」

 

その声とともに、水中から水面へ浮上するような感覚が俺を襲う。目覚める時がきたのだろうか。

 

「時間みたいね。また現実で会いましょう。」

 

その声とともに俺の視界は真っ白な光で塗りつぶされていく。

 

(紫蘭に最初なんて言おうかな。)

 

そんな呑気なことを考えつつ、俺の意識は現実へと引き戻されていった。

 

 




今は時間があるので執筆速度高めです。


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今後の話

指が無意識に僅かに動き、重い瞼を開く。

 

ゆっくり上体を起こそうとするが全身に形容しがたい痛みが駆け巡る。というよりは様々な痛みが混ざったのだろう。ずきりと身体に響くものから、内臓がズンとくる物まで。

 

 

「ウグウゥッ!」

 

思わずうめき声を上げる。

痛みと目覚めたばかりの目でかすむ視界に、それに気づいた人影が寄ってくるのが見える。

誰かはっきり見分けることはまだできない。

真っ先に寄ってきた人影が話しかけてきた、ような気がする。どの影が話しかけたか正確には分からないが、声で誰だか分かった。

 

「目が覚めたのね、練!」

 

「ああ。」

 

何とか返事をし、頷くことはできた。まだこのくらいならできるようだ。

 

「おかえりなさい、練。」

 

「おかえりなのはどっちかっていうとお前の方だろ。」

 

泣きそうな声から絞り出されるそれに苦笑しながら答えた

 

「うん、そうだね。ただいま。」

 

「おかえり、紫蘭。」

 

 

だんだんと視力が回復し、はっきりと物が見えるようになってきた。涙に顔を濡らした紫蘭に少し驚いた。後ろで安堵したような笑顔をするシャルさん。

しばらく紫蘭と見つめ合っていた。

 

すると、ノックの後に戸が開く。前にお世話になりました主治医の方です、ハイ。

まず、俺は触診と体調のチェックその他もろもろを受け、

 

「あなたねぇ、いくら何でも無茶しすぎよ。対GジェルもないACでネクストに追従しようとするなんて何考えてるのよ。一生残る障害になってもおかしくなかったのよ。」

 

説教が始まった。

まあ、不満はない。彼女を救うためとはいえ、余りにも無茶な手段を取ったのだからそれに対して咎めない方がおかしいし、それをしっかり受け止めるのも必要だ。

 

「今の体で長々と話すのもよくないだろうから、いわなきゃいけないことにまとめるから。まず、一週間は絶対安静。二か月は激しい運動は控えて、リハビリでゆっくり身体を動かして。ACは問題外。分かった?」

 

「分かりました。さすがに懲りましたからしばらくは休んでます。」

 

「よろしい。また来るわね。」

 

そう言うと、彼女は部屋を後にする。

 

 

 

 

その医者が病室を出ると、そのすぐ右の壁に身を預けてストレイドが佇んでいた。

 

「お前の技術ならあいつを一週間で治す思っていたがな。」

 

ストレイドの目は帽子を深くかぶっていたので医者の目からは見えなかった。その医者は顔色を変えずに答える。

 

「確かに一週間もかからず治すつもりだけど、治ってたことは伏せるわ。今回の件、しっかり反省してもらわないと。」

 

「まあ、何でも治せるって勘違いされて無茶されるのは困るな。実際私は治ってないし。配慮、感謝するぞ。」

 

「どういたしまして、それに…。」

 

含み笑いをしつつつ応え、付け足すように彼女は口を開いた。

 

「ああいっとけば一週間はじっとしてるでしょうから。謹慎期間破って飛び出すのは良くある話でしょ。」

 

定番スタイルで治療に必要な期間に逃げだされないよう期間を設定していた。

 

「おお怖っ。あんたには敵わないな。」

 

ストレイドはわざとらしく反応する。

医者はもう一度にやりと笑い廊下を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、紫蘭は練の病室を訪れていた。

どうしても練に聞きたいことがある、そう意気込んで。

 

「練。」

 

「おお、紫蘭か。どうした?こんな時間に。」

 

練の一瞬泳いだ目を見逃さない。

練はいまだ上体を起こせずにいた。不思議と面を合わせられる気がしない私は彼のベットの枕元に腰を掛け、肩越しに練を見る。

 

「練、身体の調子はどう。」

 

とりあえず当たり障りのない話題を振った。

 

「痛みは大分マシになったが、まだ身体を動かしたりはできないな。腕がまずいうこと聞かない。」

 

声は明るいが、だいぶ無理をしてるのではないかと邪推する。最近の練は隠し事をすることが多くなった気がするから、疑ってかかってしまう。

 

「下手に動こうとしない方がいいんじゃない?そこら中の骨が罅入ってるんだから、折れちゃうかもよ。」

 

「ちゃんとじっとしてるよ。面倒なことになるのは御免だ。」

 

そっぽを向いて不服そうに言う。首は動くんだ。

 

「へぇー。じゃあ、どうやって腕が言うことを聞かないって分かったんでしょうねぇ。」

 

「なっ、言葉の綾だよ!動かそうにも力は入らないし、そんな試してねぇよ!」

 

必死に弁解する練の声だが、それが懐かしかった。ずっと顔も見れなかったのだから当たり前だけども。戦いの中で見した表情が焼き付いて離れなかったから、もうあの頃の練の顔は見れないかもしれないと思ってしまっていて。

今の今の声を聞けて少しだけ安心した。

 

「わかったわかった。みんなも心配してるんだし、早く治してよ。」

 

「…そうだな。早く復帰しないと。」

 

青空の広がる窓へ視線を向ける。雲一つない秋晴れを紅葉に染まる山が彩ったその景色は、最近見ることの減った自然の良さを思わせてくれる。

 

答えを知るのが怖いから、聞きたいことを言い出そうとして、言い出せない。きっと、知らないまではいられないはずなのに。

そう思考にとらわれていたとき窓の外を見続けていた練が、ふと呟くように聞いてきた。

 

「あの時の、戦いの最中の俺をどう思った。」

 

「え、どう思ったって?」

 

唐突に話しかけられて、戸惑ってしまう私。戦いの最中に見せた練?

 

「こういうとなおさら言ってもらえないのは分かっているが、本当に思ったことを話してくれ。」

 

きっと、私をビルに叩きつけてた辺りのことを聞いているんだろう。一瞬の躊躇いの後、ゆっくりと口を開く。

 

「怖くなかったといえば、嘘になるかな。本当に殺されると思って。でも、あれはあの【厄災】って人を欺くためにやったんでしょ。」

 

そう問いかけるも、彼はすぐに口を開かない。練はずっと窓を見たまま、私はその反対側に腰かけたまま沈黙が続いた。

 

「ああ、半分はそうさ。だけど。」

 

思わず振り返る。

沈黙を破った彼の声は少し震えて、か細かった。

 

「お前に求めていた部分もあった。ネクストという規格外、いや次世代か。それに乗っていたお前との戦いに、悦びをさ。」

 

その言葉に込められた感情を読み取りきることはできなかった。その言葉の意味が少し現実離れしてて、受け入れられなかったのかも知れない。

 

「戦いの中に、悦び?」

 

訊き返してなお、その現実味のなさに拍子抜けする。自分を殺そうとしているその時に抱いてる感情が悦びだったなんて受け入れたくなくて当然だろう。

 

「戦闘狂ってやつだよ。」

 

「嘘、私を気遣うために言ってるんだよね。」

 

漫画や、アニメのような狂ったキャラクターしか知らない私は目の前の練がそういうものと同じだとは思えなかった。彼はむやみに殺したがらないし、常に戦いの中にいないと気がすまない人間とも思えない。

 

「俺は戦うことを強要されたとき、ドミナントっていう奴なんだって言われた。」

 

「ドミナント?何よそれ。」

 

聞きなれない単語に、少し強い口調で問いかける。そんなことで彼を否定されたくないから。

 

「先天的戦闘適性保持者…生まれつき戦うことに才能を持つ者のことだそうだ。」

 

「だからって、そんなことなんだっていい!練が練のしたいことをすればいいじゃない!」

 

才能があるからって、わざわざ戦う必要なんてないよ。ようやくこっちを向いてくれた練。その顔はどこか疲れたように見えた。

 

「俺も、最初はきりのいいところでレイヴンなんて辞めてやる!なんて思いをずっと抱いてたさ。だけどさ、あるときを境にどんどん楽しくなってきた。依頼が、戦闘が殺しあいがさ。次はどんな奴と戦えるんだろうって。」

 

彼の目は私を捉えて離さない。真っ直ぐに向けられる目に、私は練が話していることが嘘ではないことを認めざるを得なかった。

 

「きっと、ドミナントっていうのは戦いの中に放り込まれると戦いに目覚める質なのかもな。」

 

練はそう言うと真上を見る。少し悔しそうに顔をゆがめる。本人も受け入れたくはないのだろう。恋人を殺すことに快楽を見出す彼自身が彼を憎んでる。

変わり始めたときは辛かったのかもしれない。私だって人殺しが楽しくなったら戸惑うと思う。

 

彼はそれから目を閉じて、口も開かない。今なら話せる気がして私が切り出す。答えはもうわかっているけれども、彼の口から答えを聞きたかった。

 

「レイヴン、続けるつもりなの?この戦争が終わって、戦う理由がなくなっても?」

 

私はもう練に戦って欲しくない。もう彼が傷つく姿を見たくない。死なれてしまうなど以ての外だ。

だけど彼は戦うのだろう。己のために。

 

「…一通り落ち着いたら、いったん身を引くつもりだ。中学、高校までは行っておきたい。」

 

そう思っていたからこそ、彼の答えが意外だった。

 

「どうして?確かに私はそうであって欲しいと思っていたけども。」

 

「まだこの自分を自分って決めつけたわけじゃない。他に行きたい道が出来るのなら、そっちに行きたいさ。」

 

「戦いの中にいたいんじゃなかったの?レイヴンはうってつけだけど。」

 

「俺はまだガキだからこれ一つに決めるのはまだ早い気がしてさ。もし続けるにしても高校を卒業してからだ。学のないレイヴンなんて言われるのも嫌だし。」

 

少しだけ安堵した。いつかは遠くに行ってしまうかもしれないけど、少しの間は練と過ごせる。それが何よりもうれしかった。

 

「それより紫蘭。」

 

「なに?今度は。」

 

その時、とんとん、と音がした後「いいですか。」と聞く声がした。

練が、はい、いいですよ。と返事。

戸が開き、看護婦さんが入って来た。

 

「失礼します、食事の時間ですが…体動かせそうですか?」

 

「いや、これが全然。顔以外は全く動きません。」

 

ならどうするのだろう。点滴はあるが、これだと練は辛いだろう。咄嗟に口を開いた。

 

「私が食べさせるていうのはどうですか?」

 

「なぁあっ!?」

 

悲鳴に近い声を上げる練。しかもこの看護婦さん、ノリノリである。一瞬目を見開いたものの、「なるほどね、ちょっと待ってて。」と、イイ笑顔で病室を出ていった。あれは乗り気だ。

 

「お前良くあんなこっぱずかしい事言えたな!こっちの顔から火が出るわ!」

 

首しか動かないので迫力が全くなく、ただ顔を真っ赤にする練。それに私はそっぽを向いた。

 

「だって、あなたの体をぼろぼろにしたの私じゃない。ある程度なにかさせてよ。」

 

それは紛れもない本心だ。何も知らないで死にもの狂いに暴れてしまった結果を見て、何も思わない訳がない。

 

そのとき、看護婦さんが器を持って来た。どうやらOKがもらえたらしい。

 

「じゃあ、ごゆっくり。」

 

看護婦さんは笑顔でそう言うと去ってしまった。

持って来たのはお粥だ。ほどほどに温かい。

 

「こういうのは初めてかな。」

 

「そりゃそうだろ。あるとしたら風邪引いた時ぐらいだし、そんなときにわざわざこういうこともしないだろう。」

 

少しだけお粥をスプーンで掬い、少し待ってから練の口元へ。ここまで来れば練も諦めたか、不服そうだが口を開いた。

 

それなりに食べ進んでから、練は

 

「ここまでしてもらって言いづらい事だけどさ。」

 

と、話をきりだしてきた。

今のところ唇にスプーンをぶつけることはなく進んでいる。昔から妙に気が合うところはあったので、別段疑問にも思っていない。

 

「俺、少し分かんないことがあるんだ。」

 

その目は少し怯えてるようにも見えて、私は手を止め、お粥の器をを机の上に置いた。

 

「俺はお前から夢を奪い、恐怖のどん底に突き落とした。俺はお前に二度と顔を向けてもらえないと思っていたし、覚悟もあった。」

 

「じゃあなんで、今も私がこうしてくれるかってこと?」

 

「ああ、そうだ。」

 

頷く彼。

 

「私だって練に心配かけたし、練を苦しめたし傷つけもした。人生が変わっちゃったのは運命を恨むしかないよ。」

 

「お相子ってか。さすがにこっちの方がまだ軽い気がするんだが。」

 

また不服そうな顔。今日の練はそんな表情ばっかだ。そんな表情しか見せてくれないならこっちだって考えがある。

 

「じゃあ、練には責任とってもらおうかなー。」

 

「おい待て!聞きようによってはいかがわしい言い方だぞそれは!」

 

ほーら、前みたいな顔だ。

 

「ふーん。そうとっちゃうんだ。練のエッチ。」

 

「お前の言い方がいけないんだろ!なんかお前、前よりもからかってこないか?」

 

だって、嘘つかれて暫く放っておかれたんだもん。これぐらいのお返しはさせてよ。

 

「まったく…許してくれなくてもよかったんだけどな。」

 

「別に許すも許さないも私の勝手でしょ。夢を失ったのは少なくともあなたのせいじゃないとは思うけど。この前の嘘については…」

 

そう言って意地悪い笑みを浮かべてみる。

 

「今後次第かな。」



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望まれない力

練が意識を取り戻してから6日

 

大分動けるようになった練は、今精密検査を受けている。これで区切りがつけば予定を前倒しにしてリハビリに移行するとのことだ。

練の傷が治るのは素直に嬉しい。だが、もしこの傷が癒えたときにまだ戦争が続いていたとしたらまだ戦い続けそうで、もう少し治るのが遅れてほしいとも思ってしまう。

練が検査室から出てくる。

 

「リハビリはあと1、2日見てからだそうだ。ただ、こうやって歩き回るくらいはOKだって。」

 

「そう、良かった。」

 

ダメだ、今の言葉に安堵してしまう。

あと長くて2か月の平穏を祈ることは罪なのだろうか?だって練はもともと普通の男の子なのに、彼と前みたいに過ごすことも駄目。

人の怪我にかこつけて理不尽を罵倒する。

 

「練はこの戦争にまだ参加するの?」

 

その思いを素直に口にする。答は分かりきってるのに。

 

「ああ、ここでやめるのはキリが悪いし、戦争を終わらせられるならこの手で終わらせる。」

 

練を戦わなくていいような方法はあるのだろうか?彼の望みを無視する事とは知っていても、考えてしまう。

 

「紫蘭、お前も一応検査だろ。」

 

「ああ、そうだったね。行ってくる。」

 

リンクスになったこの身体が実際どうなっているのか、自分でもしらない。

そこまで考えて少し怖くなる。私がどんな処置を受けたか後で博士にも聞いておこう。

診察室の戸を開け、医師さんに対面する。

 

「さて、あなたの診察が遅くなっていたわね。手始めに義肢の接続部から。といっても、専門外だから余り期待しないでね。」

 

「はい、お願いします。」

 

私はそう言って袖を捲る。

 

「なるほど、左腕は二の腕の真ん中当たりから…脚は太ももからね。凍傷、化膿、金属アレルギーの傾向無し。大丈夫そうね。」

 

まず、義手周りの心配はなさそうだ。

その時

 

「これは………」

 

義手の接続部を見ていた彼女の息を呑む声が聞こえた。だがすぐ、「何でもないわ。」と首を振る。

 

 

そのことに一抹の不安を覚えてしまうのは仕方の無い事だと思う。後は義肢を外してレントゲンやなど身体の中身の検査。

それも終わり、元の診察室へと戻ってきた。

 

「処置のカルテがないし施術方法が知っているのとは少し違うから断言はできないんだけど、異常らしい異常は無かったわ。」

 

「ひとまず安心って事ですか?」

 

その結果に安堵する。

 

「とは言っても、やっぱり主治医に診断してもらった方がいいわね。アナトリアに行けるよう手配して置こうかしら。」

 

「一人でですか…少し心細いですね。」

 

「こっちから同行者を出すから、心配しないで。」

 

そのあと彼女は顎に手を置いた。悩むような様子だったが、少しした後微笑んで口を開く。

 

「じゃあ、数日後にしましょう。ピザ関係はこちらでやっておくから。今日はこれで大丈夫よ。」

 

「ありがとうございました。」

 

同行者ってシャルさんかな?頭をひねりつつ診察室を後にする。

 

 

 

 

「血液から割り出すとはいえ、こんなものが外の世界の人間が分かる時代なんて…嫌になりそう。」

 

 

彼女の机に放り投げられたカルテ。その内容は彼女が紫蘭の扱いを悩ませるに十分なものだった。彼女は端末とカルテを手に立ち上がると部屋を出る。

 

「例のリンクスの扱いだけど…」

 

彼女の目線の先に書かれる字。

 

 

 

動体視力 A

 

AMS適正 S

 

潜在人格戦闘適性 A

 

総合戦闘適性 S

 

備考:ドミナント因子保持の可能性あり

 

 

(信じたくないけれど…世の中分からないものね。)

 

その字から浮かび上がる、この世界のイレギュラーと対をなすという事実に対して、彼女は紫蘭の扱いを一人で決めることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

アナトリアに行くための飛行機は空港ではなく、山の中の倉庫にあった。

見た目はごつごつで私一人を運ぶには大きくて物騒だった。ただ、中身はそうでもなく、ドラマとかで見る普通の旅客機みたいで安心する。

 

「そう言えば、付き添いって結局どなたなんですか。」

 

ここまで連れてきてくれた蒼髪の同い年ぐらいの見た目の女の子、河城にとりさんに聞く。ちなみに彼女は付き添いではないらしい。

 

「一人はあっちに着いてる。もう一人はこれから来るところだって。」

 

あ、二人なんだ。

 

「もう座ってても大丈夫だよ。顔合わせは機内でも大丈夫じゃないかな。」

 

彼女の提案の通り右奥の座席に座る。座り心地は良く、見た目があの厳つい飛行機なのが嘘のようだ。それから数分、することもなく座席で窓の外を見ながらボーっと周囲の作業員の動きを目で追っていた。

だが、それは幼い声で中断させられたる。

 

「あなたが立上紫蘭?」

 

左を振り向くとそこには自分より幼く見える子が立っていた。

 

「はい、そうですが…あなたは?」

 

そうすると、お嬢様のような所作で頭を下げる

 

「私、あなたの付き添いをする。フランシスカ・レッドナイト。以後御見知りおきを。」

 

「こちらも、よろしくお願いします…。」

 

見た目と動きのギャップに戸惑う。ここでは見た目で騙されてはいけないとは言われたが、これは付き添いとしてはどうなのだろうか。

 

「見た目が頼りなかったかしら?」

 

「あ、すいません、つい。」

 

図星とまでは言わないが思考を見透かされた。

 

「見た目はカモフラージュに使うのよ。」

 

「と、言いますと。」

 

話の先を促す。

 

「あたかも無防備な姉妹見みたいにしてあなたが重要人物だって思わせないようにするため。周りの目がある間は見た目相応に振る舞うの。」

 

「でも、狙われやすくなりませんか?誘拐犯とかに。」

 

「まあ、その時は本気出すから。」

 

前から思うけど、ここの人達たまに怖いんだよね。急に話が物騒になる。

 

『間もなく離陸する。総員配置。』

 

「なんか怖いです。」

 

「ごめんなさい。パイロットとかも軍用機から連れてきたから物騒なのよ。」

 

慢性的な人員不足でね。と、付け足すとシートベルトを着けた。私も急いでベルトをロックする。少しして機体が動きだし、ぐんぐん加速。ゲートをくぐり空へと飛び立った。

 

 

 

 

着陸は普通の空港だった。

ここでむしろ基地のほうに着陸したら余計怪しまれるのかな。周りを見てもこういう機体はあるみたいだし、そんなに気にしなくてもいいのかな。

時差ボケ対策に寝ていたために機内での出来事は覚えていない。だが、途中でフランシスカさんが「フランって呼んで」って言っていたのは記憶に残ったいる。

 

「紫蘭ちゃん!久しぶり!」

 

空港のゲートでフィオナさんが出迎えてくれた。

 

「お久しぶりです。フィオナさん。」

 

と私も笑顔で返す。再会は私もうれしくて、フィオナさんのもとに駆け寄る。

 

「元気にしてた?あれからこっちに来ないから心配しちゃって。…私たちのせいでなんだけど。」

 

「私だってそれを選んだんですし、フィオナさんたちのせいじゃないですって。」

 

やっぱり、アナトリアが私を戦わせるための人質にされたことがいまだに尾を引いているみたいだ。結果的に私もみんなも救われたのだからいいじゃないか、と思ってしまう。だけれども、フィオナさんはそれではきっと納得してくれないだろう。

 

「ありがとう…ええっと、紫蘭ちゃんは父さんに診察してもらいに来たんだったね。車を用意しておいたから、ついてきて。そういえばその子は?」

 

フランさんに気付き、フィオナさんは問いかける。一瞬付き添いですと言いかけたが見た目が見た目なので信じてもらえないことに気付いて口を閉じてしまった。どうすればいいか思案したら、フランさんが

 

「紫蘭についてきたフランです。私は観光しについてきたようなものです。」

 

と見た目相応の声としぐさで話す。

 

「そっか、でもこれから行くのは病院だからつまんないかな。」

 

「それは大丈夫です。そのあとの余った時間で回るのでそれまでは待合室とかで待ってますから。」

 

それに納得したのか一緒に連れていくことになった。演技力は納得の一言である。背の縮んだ高校生探偵を思い出したのはきっと私のせいじゃない。

フィオナさんについていく私とフランさん。

車に乗り込むとき私が乗ってきたと思われる飛行機の貨物部がゆっくりと開かれるところを見た。私たち以外にも目的があったからこその日時指定だったのかもしれない。深追いすると怒られそうなので、見るのはそこまでにして車に乗り込んだ。

 

 

 背の高い建物もぽつぽつあるが、栄えているはずのコロニーなのに基本的に田舎に分類されてもおかしくない街並みがアナトリアの特徴で、一か月ぐらいお世話になった私もこの街並みが好きだ。

 その中心地へと車は進んでいる。アナトリアの産業の中心、義肢技術の第一人者であるイフェルネフェルト博士が務めている病院はそこにある。

 フランさんは終始、窓の外の様子に目を輝かせるなど子供らしく振舞った。…演技ですよね?

 病院の駐車場で車から降り、気持ちを引き締めて正面玄関へ向かう。

 

イフェルネフェルト博士には事前にアポを取ってあるので受付の方の案内通りに廊下を進んでいく。そしてイフェルネフェルト博士の部屋の扉の前に立った。博士には色々聞かねばならない。この体の事も、あの戦いの結果がアナトリアに何をもたらしたかも。

 

フィオナさんが扉をノックし「私だよ、入るね父さん。」と声をかけると、少し間を開けて「ああ、フィオナか。少し待ってくれ。」と、扉の向こうから声をかけてきた。待っている間に再度心の準備を整える。

さらに2,3分してから「もう大丈夫だ。」との声。

 

「失礼します。お久しぶりです、博士」

 

椅子に座り、少し疲れた様子のイフェルネフェルト博士。

 

「君に再び会えてうれしいですよ、紫蘭さん。君にはなんと謝ればいいのか、お詫びをしたらいいのかで…。」

 

「そんな…大丈夫ですよ博士。私は選んだんです。」

 

それでもやはり罪悪感は残り続けてしまうだろう。私はもう大丈夫なのに。

 

「…今日は私が受けた処置について説明してほしいのと、義肢などの検診をしてほしくて来ました。」

 

話題を変えて、しんみりした空気を変えようと試みる。どっちの話題も彼にとっては後ろめたい話題であることが悔しい。

 

「そうか、一応FGW所属の医者にはカルテが回らないのか。あとでそれも手配しておこう。君のも当然知る権利はある。」

 

そういうと彼は私のカルテらしきものを引出しから探し出して机の上に置いた。

 

「まずは君も知っているだろうが、筋肉や臓器の薬理的強化。主に高Gの中で機体を操作したり、Gそのものに耐えるためにする処理だ。」

 

一つ一つの説明は避けるけどね、と付け加える。

 

「それと、ナノマシンによる神経の光ファイバー置換。神経細胞を投与したシリコン製ナノマシンによって光ファイバーに置き換えてしまう作業だ。コネクターは首筋にある。そしてこの二つの行程がリンクスを不可逆なものにしている。」

 

私の夢が完全に砕かれた原因をしっかりと知る。そのことで諦めがついた気がした。

 

「君の義肢はその光ファイバーの信号を利用しているから回線の一部が少し特殊なんだ。少し知識があるだろうその人も、手を出すのためらったのはそこが原因だろうね。」

 

そして義肢の点検と私の検診が始まろとした。

 

その時、

 

「ねえ、お父さん。なんであんなところにシミがあるの?前はなかったよね。」

 

フィオナさんが指し示す先には、茶色のシミがあった。薬品を余り取り扱わないここでできる物には思えない。それに前は無かったもの。

怪しむのは当然だった。

 

「…いや、淹れたコーヒーが余りにも不味くて吹き出してしまったんだ。」

 

「そんなに?」

 

「どこをどう間違えたかさっぱりで困ってるんだ。今度フィオナが淹れてくれないか。」

 

「今淹れてみる。ちょっと待ってて。」

 

そういうとフィオナさんは部屋を出て行った。私はかなり気まずそうな顔をしている博士に問い掛ける。

 

「どうまずかったんですか?コーヒー飲んだこと無いですけど。」

 

「ああ、明らかにコーヒーでは無い苦みを感じてね。想像を絶するくらいの。」

 

そういうと彼はシミを見つめた。かなり思い詰めた顔に私は不安を覚える。

彼は何を考えているのだろう。

 

「君を診た医者、信用できそうだったかい。」

 

「はい、そうですね。会ってそんな経ってないんで全面的にというわけではないですが。」

 

なぜそんなことを聞くんだろう。私は頭を捻った。

その時、走るような足音が部屋に近いてくる。

 

「父さん!なんで言わなかったの!?」

 

そのフィオナさんの顔は見たことないほど怒りに染まっている。あまりの剣幕に私は気圧されてしまい一歩後ずさる。

 

「早く一緒に内科に行くわよ!父さん!」

 

それに対し天を仰ぎ額に手を当てる博士。何をやらかしたのかな。手を引かれていく博士を見送った私は、部屋にポツンと取り残された。

移動するのもまずい気がしてそのまま椅子に座って待った。

 

「…何をしているのかしら?」

 

「ここを動いちゃいけない気がして。」

 

フランちゃん…いやフランさんが扉を開けて声をかけたきた。その目には呆れの色が映る。

 

「フィオナさんが今日はこれまでだからホテルに行っててだそうよ。車も用意してあるとも。」

 

何があったのかは明日問いただそう。ゆっくりと椅子から立ち上がり、今や本物と変わらない動きをしてくれる機械仕掛けの左の足と腕を動かした。

ふと見た窓の夕日に染まった赤い空が不思議と胸の中にすとんと落ちてくる。私はここで生まれたわけでもないのに納得というか、よくわからない感情が湧く。

 

「どうしたの?行くわよ?」

 

その声に現実に引き戻され、その場を後にする。



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気づき

難産でした。
日常(?)パート難しいです。


何があったのかわからないが、検診中止になってしまいホテルに向かう私達。運転手は博士の知り合いらしい。

予定は3泊4日、ホテルはそこそこのところを取ってあるらしくその4日間が苦痛になることはなさそうだ。

 

「もうすぐ到着だから用意しておいてね。」

 

目の前に近づいてくるのはとても豪華な建物で…あれ?違いますよね、そこそこのホテルって言ってませんでした?

ウィンカーもそっちに出してませんか…駐車場入っちゃった、これ二十階くらいあるけどこれがフランさんが言うそこそこなんですか?

 

「ほら、行くわよ。」

 

「え…ちょっと待ってください!」

 

慌てて車から降りてフランさんを追いかける。だが、私はロビーに入るととても豪華な飾りつけを見て足を止めてしまった。こんなところにいて私はいいのだろうか…

しばらくして我に返った。フランさんはどこだろう、とあたりを見渡すとグランドピアノの向こうで手を振るフランさんが。あそこが受付か。

 

「すいません遅くなって。」

 

「大丈夫よ。もうチェックインは終わったから部屋に向かいましょう。」

 

と、エレベーターに向かっていく。その所作が余りにもお嬢様らしくて、私の場違い感は強まった。

 

9階でエレベーターは停まった。

フランさんも降りて行ったからここなのだろう。

左に曲がって少ししたところでフランさんが立ち止まる。

 

「そこがあなたの部屋、私は隣だから何かあったら呼んでね。はい、これが鍵。」

 

「ありがとうございます。では、また。」

 

私は戸を開ける。

中は落ち着いた雰囲気で、場違い感をそこまで感じなかった。配慮してくれたのだろうか。

鍵をかけ、部屋の中に入っていく。

広い部屋に大きなテレビ(といっても家庭用の範囲内ではある)、そしてベッドが二つ。

 

「…あれ?」

 

ベットが2つ、つまり二人部屋である。

 

「あれれ?」

 

鍵は開いた、ということは部屋は間違って無い。

取る部屋を間違ってしまったのだろうか。

そういえば

 

(付き添いは二人だったよね、もう一人の付き添いが一緒の部屋で泊まるんだ。…多分。)

 

そういって自らを納得させる。っていうかそれ以外だと何があるんだろう。あ、さっきの間違えた説だ。

そんなことは置いといてといわんばかりにベットに腰掛ける。夕ご飯まで何してよう。

 

トルコは日が出ているうちは日本より熱い。日が沈んだ後で寒くなるだろうが肌着になってベットで横になる。スマホもゲームの類もないため、夕飯前後はテレビを見るぐらいしか娯楽がない。

そうしてそのままうとうとし始めた、その時だった。

 

 

 

「ブラックバードさん、鍵持ってかなくてもいいじゃないですか。」

 

男が戸口を開いて部屋に入って来た。だが、その声ですでに誰だか察していた私は愕然として動けない。

 

「聞こえてま…なんで紫蘭がここにいるんだ!?しかもの恰好は…」

 

アキレス、練である。

驚愕した私は声を上げる。

 

「こっちのセリフだよ!なんで入院患者の練がこっちにいるの?」

 

リハビリでまだ日本にいなければならないはずだ。主治医の警告を無視して依頼を受けに来たのなら帰国させねばならない。

 

「アナトリアに招待されたんだよ。歩き回るくらいならOKっていうから。そういうお前は?」

 

「イフェルネフェルト博士に義手を診てもらいに来たの。」

 

とりあえず問題はなさそう…いや、大きな問題が今目の前にあった。

 

「どうして私の部屋に練が…」

 

「二人部屋って事は…まさかな。ブラックバード…いや、小学校中学年ぐらいで金髪の女の子知らない?」

 

フランさんの事だろうか。

 

「それなら部屋から出て左隣りだけど…」

 

結構不機嫌な顔で、私の手を握った。

 

「一緒に行こう。予想はついた。」

 

それに私は躊躇いもなく頷く。

 

 

 

俺は、フランさんの部屋の戸をノックする。

 

「ブラックバードさん!アキレスです。ちょっといいですか。」

 

「あら、何の用かしら?」

 

戸を開けるフランさん。少し意地悪そうな笑みで出迎えてくれた、いや、くれやがった。この見た目詐欺軍団め。

 

「何の用、じゃないですよ!何で俺と紫蘭が一緒の部屋何です!?この年の男女を一緒にするって何してるんですか!?」

 

「おや、そういう関係じゃ無かったかしら?」

 

「俺らそんな爛れた関係に思われてたんですか?!少なくとも俺はそんなつもり無いですけど!」

 

声を荒らげてしまう。幸い部屋に入っていたのと壁の防音性のおかげで周囲の迷惑にはならなそうだ。

 

俺の発言に対してブラックバードさんはニヤリと意地悪な笑みを更に深める。

 

「自分の彼女をそんな格好で連れて来たあなたのその発言に、どれ程の説得力があるかしら。」

 

そこではっとした。紫蘭は肌着だった。

二人揃って赤面する。急いで謝罪せねば。

 

「紫蘭、済まない!頭に血が上ってつい…」

 

「え、わ、私も何も言わなかったし、そんな…ね」

 

紫蘭もそんな気にしてなかった…いや忘れてたか、たどたどしい返事が返ってきた。

 

「それはそれとして、部屋の交換をお願いします。俺が一人部屋にいるので。」

 

すでに一度あったこととはいえ、まだその関係にまで至っていない俺ら。部屋の交換を要求した

 

「へえ~。一度休んだ女の子の部屋に泊まりたいんだぁ。新手のセクハラかしら。」

 

「俺、そんな人間だと思われてるんですか…」

 

 

とんでもない言われようである。そのまま玄関まで連れられる。

 

「まあ、私は今回部外者だし、二人で今回は楽しみなさい。私は寝るわ。」

 

そういうとブラックバードさんは扉を閉めてしまった。

紫蘭をこのままの格好で廊下に立たせるのも難なので部屋に戻らざるを得ない。

 

「とういうわけだ、しばらくお邪魔する。」

 

「どっきりにも程があるよ…まあ、よろしく。」

 

部屋に戻ろうとする二人の背中は疲れて見えた。

 

 

 

部屋に戻り、服装を整えた紫蘭。そういえば思い出した事があったので言っておこう。

 

「俺、ユーリックさんとフィオナさんに夕食を誘われてたんだ。お前が着替えてる間に電話したらお前も来ていいって言われた。来るか?」

 

「本当!?行く行く!」

 

紫蘭は目を輝かせ、はしゃぐ。

ホテルのレストランなので、時間は余っている。

俺も服装を整えよう。

 

 

 

 

ユーリックは自室であの日を思い返していた。

 

 

彼は紫蘭の横で戦うことすらも許されなかった。純粋についていけない、次元の違う戦いを目の前にして。ここまで自分を無力だと思ったのは初めてだった。

 

俺は同レベルの奴と戦うことに逃げた。

その挙句シャルとの戦闘に夢中になりすぎて、無意味な戦闘行為と知ったのは紫蘭の通信で事実を知ったフィオナに止められた時だ。

 

あいつは勝利条件が時間稼ぎだったとはいうものの、真っ向から立ち向かって行った。

俺は同じことをできたのだろうか。

 

「そろそろ行かないと遅れちゃうよ。父さんのせいで準備する時間なかったよ…。」

 

フィオナに呼ばれて思考の海から自らを引き上げた。

 

「ああ、準備は終わっている。行こうか。」

 

「そうそう、紫蘭ちゃんもくるって。」

 

本当ならでっかいパーティーなんかを開いてやりたいんだが、立場もろもろを考えると大っぴらなことはできない。

お互いこれで我慢だ。

 

 

「イフェルネフェルト教授、わかっていたのに言わないというのは考え物ですよ。あまり好きな言われ方ではないでしょうが、あなたはアナトリアに必要な人間なのですから。」

 

「すいませんあまり騒ぎにしたくなかったので。」

 

下の階の内科に彼はいた。

フィオナに連れられたイフェルネフェルト教授は内科の受診させられていたのだ。

 

「あからさまな青酸カリによる毒殺未遂だからですか。あなたの命が狙われているという事実はアナトリアにとって重大な案件なんですから、素直に申し出てきてほしいですね。」

 

気づいたのはフィオナだ。

一口味見に口に含んで即吐き出したため治療はほとんどすぐ終わった。

だが教授は飲もうと思い切り呷ったため念入りに治療が行われた。といってもフィオナと同様でほとんど実害はなかった。

 

それよりもその事実に気づいておきながら誰にも言わなかったことが問題だった。

イフェルネフェルト教授は重々しく口を開く。

 

「コロニー内外によく思ってない人がいるのは分かっています。」

 

うつむき気味で語る彼の目、そこには力を感じられない

 

「でも、もう疑うことに疲れました。AMSなんてものを手にした後、企業がすり寄ってきたあたりでどうだってよくなってきましたよ。」

 

「…精神科に行くことをお勧めします。先程のいい方はすいませんでした、あなたはよく頑張った。」

 

すっかり疲れ切った顔をした教授を見て、内科医はそれ以上強く言えなかった。企業や『厄災』などを相手にしなければならなかった教授の心を癒す自信は、彼には無かった。

 

 

「さて、アキレスこと練にアナトリアを救ってくれた感謝パーティーだ。好きなだけ食っていってくれ。」

 

「なんかありがとうございます。こういう会を開いていただいて。」

 

ホテルから徒歩で数分のところにあるレストランの一室を貸し切って催されたささやかなパーティー。

アナトリアを救ったって言われても正直なところ紫蘭に死んでほしくなかっただけなのだから、そんな風に言われるのに罪悪感を持ってしまう。

 

「遠慮するな。俺はレイヴンなんだからこんな程度で金に困ることはない。」

 

「…じゃあありがたく。いただきます。」

 

俺は手を合わせる。

 

「えっ…ああ、ニホン文化ってやつか。」

 

「いただきます、は確かにそうですね。トルコだと食事前は相手に向かって言うんですっけ。」

 

「英語だと直訳不能でしたね。」

 

 

 

※今更ですが、海外などでは練も紫蘭も英語を使ってます。未来なので外国語教育が進んでいることを前提で書いています。

 

 

 

「ま、異文化交流と洒落こもうか。」

 

といいつつ目の前にあるのがトルコ料理ではなく普通の洋食なのだが…まあ、いっか。

 

「まぁ、紫蘭ちゃんは結構こっちの文化慣れてきてたよね。一か月もこっちにいたし。」

 

「そうですね。ある意味第二の我が家状態でしたし。」

 

「そういってくれると嬉しいな。」

 

そういって各々が料理に手を付け始めたころ、オーエンさんの携帯端末が着信を知らせた。

すまん、と声をかけて席を外し、個室の外へ出ていく。

数分ののちに戻ってきた。

 

「仕事の話だったの?ユーリック。」

 

「いや、ジョジュアからだ。あいつ、リンクスになることにしたらしい。」

 

フィオナさんの表情が少し陰のあるものにへと変わっていく。

 

「そう……。止めるのは野暮、だよね。」

 

空気が悪くなってしまった。悪化するかもしれないが、気になってしまったので聞いてみる。

 

「そのジョジュアさんっていうのはどなたなんです。二人の友達とか。」

 

「ああ、その通りだ。友で、レイヴン仲間だったやつだ。だが、リンクスに転向することになったらしくてな。アスピナの都合らしい。」

 

一度リンクスになれば、レイヴン内での扱いはプラスと同じだ。それに、リンクスではレイヴンほど自由はないだろう。友が別の道を進む事に彼は悲しんでいたように、俺は見えた。

 

次に口を開いたのは紫蘭だった。

 

「そのジョジュアさんって人は都合があったのだとしても選んだんですよね。なら、見送ってあげるべきです。」

 

俺は思わず紫蘭を振り返った。

 

「そりゃ置いていかれる側は辛いですよ。だけどそんなんだとその人の決意が揺らいじゃう。もしその人の意見を尊重するんだったら、背中、押してあげるべきです。」

 

いつも以上にはっきりとモノを言う紫蘭は少し新鮮で驚いていた。するとオーエンさんは頭を搔きつつ座る。

 

「まあ、そうだな。ありがとう、大の大人が中学生に諭されるとはな。」

 

だが、その顔にある迷いの色は消えていない。他にも原因はあるんだろうが、これ以上はフォローできそうに無いのでやめておこう。

 

「そういえば、紫蘭ちゃん。身体は大丈夫そう?幻肢痛とかは?」

 

フィオナさんが話題を変えてきた。正直ありがたい。

 

「そういうAMS由来の障害は今のところ無いです。適性高かったですし。」

 

「お前は臨床試験同然なんだ。変なところから障害出てもおかしく無いんだからな。」

 

「どこかの誰かさんみたいに黙ってるつもりはありませーん。」

 

「俺なのか?何か隠し事してたか?」

 

不当な扱いだと俺は顔をしかめた。俺が大ウソつきみたいになってるじゃないか。

 

「思いっきりレイヴンだって事黙ってたじゃん。最近も私を騙してばっかり。」

 

「いや、確かに、レイヴンだってこと黙ってたのは悪かったよ。でもそんなしょっちゅう隠し事してるって…」

 

「じゃあ前のアナトリア襲撃阻止の事はなていうつもりなのかな~。いくらしょうがないとはいえあれは隠し事でしょ~。」

 

「うぐっ。っていや、しょうがないからだよ!」

 

最近紫蘭が意地悪だ。事あるごとにからかってくるから紫蘭と話すときはいつも押され気味かつタジタジになってしまう。

 

本当、こんな関係でいてくれていいのか、ってくらいに。

 

「本当に仲がいいんだね。」

 

「なんだ、お前ら。付き合ってんのか?」

 

「「ええ、付き合ってますが…」」

 

「な、いや…そうか。っておい!!」

 

「そうだったの!?紫蘭ちゃん!!」

 

紫蘭とハモる。いや、知ってるって思ったんだけど。紫蘭のやつ俺らの関係しっかり言ってなかったのか。

 

「お前ら恋人同士で殺し合いしてたのか!」

 

「なんで断らなったの!!練君もアキレス君でどうして受けちゃうの!」

 

もしかしたら教えてたらこの二人に止められてたのかもしれないのか。考えたな紫蘭。

当然恋人同士が戦闘するなんて一般的な考えからすればおかしい。まあ、俺は救うために戦ったけど手段がおかしいのは事実だ。

 

「俺は…戦場に慣れが来て、手段がそっちに傾きました。それだけです。」

 

「…まあ、俺もフィオナを救うためならなんだってするからな。お前と同じことを企んだかもしれんな。」

 

さらっと惚気られた気がするが気にしない。

さて、紫蘭だが俺は察しがついてる。

 

「私は…とても悩みました。天秤にかければ明らかにアナトリアが傾くべきなのに、練をどうしても捨てられませんでした。」

 

「感情が振り切れるわけないよ。でも、結果あなたは戦った。結果的に丸く収まったけど、それに私は納得できない。」

 

フィオナさんの厳しい視線が紫蘭に向かう。

 

「ここにも守りたいと思える人がいた。力を与えられて、それを守る義務と責任があると思って私は私の感情を振り切ってあそこに立った。私は練より義務を取りました。」

 

フィオナさんをまっすぐ見つめ、堂々と言った。

 

「あれは私の決意です。間違いで後悔をしても、罪や自らの行いを背負っていきますよ。実際後悔しましたし、練を傷つけた事実は消えません。」

 

「…強いんだね。納得したわけじゃないけど、あなたの決意を貶そうとは思わないよ。」

 

ようやく落ち着いたと、俺は一息ついた。

女性組で話が弾み始めた。そこでオーエンさんが俺に話しかけてくる。

 

「お前はいいのか?アナトリアに負けて。」

 

「いいんです、あいつらしい選択ですから。顔を知っていようがいまいが助けようとするあいつがいいんです。自分がいたせいで万単位で人が死んだら後味悪すぎます。」

 

「そいつが自分を取ってくれたんだろ。そいつにとって一万人より価値があるってうれしいことじゃないか。」

 

それに俺は首を振る。

 

「一万人殺させたようなものですよ、恋人に。あなたはフィオナさんに大量殺人の罪を着せたいですか。」

 

「…そう考えるか。確かにあいつにそんなことはさせたくないな。」

 

楽しそうに話している二人の横顔を眺める。

彼女の明るい笑顔がが血に濡れる、そう思うだけで言い知れぬ不快感を覚えた。

俺の手はいくら汚れても構わない。だが、彼女には…

 

そこまで考えた俺は口を開いた。

 

「俺はここにいていいんだろうか。」

 

多くを殺したこの手を眺めながら。

 




悩みすぎかもしれませんが、彼のコンセプトは「平和ボケした日本にいたパンピー潜りドミナント」です。
一般人からレイヴンになるのはきっと簡単ではないはずですから。


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壊れた翼

現実にドミナントとか。それに類するものっていると思うんですよ。
もし遺伝子検査技術が進んだ未来で、唐突に「あなたは戦闘の適性があります。」て言われたらと想像すると…


もしあなたがそうだったら言わせてください。

ねえ、どんな気持ち?(ゲス顔かつ地味に知りたがる桜エビ


一人でいるには少し大きい部屋に、朝日が差し込む。

 

ベットでもぞもぞとした紫蘭は少しけだるそうな声とともに瞼を開いた。

時計は七時過ぎ、時差があるとはいえ昔、五・六時に起きていた彼女にとっては少し遅めの時間だ。

 

「れん~。起きてるぅ?」

 

間延びした声で隣のベットに呼びかける。

しかし、返事はない。

まだ寝ているのだろうか、と紫蘭は寝ぼけ気味でふらつく足取りで練のベットまで行った。

 

「…あれ?」

 

枕の上という頭があるべき場所に、彼の頭はなかった。

布団をめくるがそこには誰もいない。

 

段々と頭が冴えてきた。

 

「どこに行ったの、練。」

 

 

練はいまだに納得していなかった。

彼女の隣にいることがとても後ろめたく感じていることは、みんな分かっているはずなのに。

わざわざくっつけてきた見た目年齢詐欺軍団に悪態をつく。

 

翌日、一人になりたくてアナトリアに設けられたガレージで一人作業風景を眺めていた。

 

(俺は何をしてるんだ。)

 

やりたいことをした、欲しい結果を得た、臨んだ結末の中で最良のものになったはずだ。

なのに、なぜこう、釈然としないんだ。

 

彼女は許してくれるといったのに、なぜ後ろめたいんだ。

 

(昨日気づいただろ。)

 

もう一人の自分が呟いた気がした。

そんなとき、ガレージに声が響く。

 

「坊主、どうしたんだ、そんな浮かない顔して。」

 

オヤジさんだ。

おれのACに関することがあったので、彼もここにいる。

 

「自分にもわからないんですよ、現状に納得してないんです。」

 

「カノジョ救って、許してもらってもか?何が気に入らないのか…喜んでいい事だけどな…」

 

そういって腕を組むオヤジさん。いや、オヤジさん大丈夫ですって、俺が解決しなきゃいけない問題なんですから。

 

「まあ、じっくり悩めや。若いやつはそうやって成長してくんだからよ。」

 

そういって手を振り去っていった。

何がしたかったんだろう。

 

そのまま立ち上がり目の前のガラス窓に手を置く。

 

 

 

 

 

 

その窓の向こう側に、俺の愛機(ケイローン)の姿があった。

 

既に修理不能と判断され、機体の解析作業へと移っている

 

 

ケイローンは、今の実戦では滅多に無いくらいに限界まで酷使され、自壊した。

ACはこの戦争の開戦理由により、AP等各種リミッターをかけたまま戦う。リミッターカットなんて滅多に行われない。

そんな状況の中、リミッターカットをしたケイローンは、ACの耐久性を確認できる貴重な資料となったのだ。

特に脚部はブーストドライブによって通常かからない負荷がかかった上、爆発したコアからすぐに脱落したため損傷もすくない。メインはここだろう。

 

FGWは人手が足りない上に表だった資料を作れないため、アナトリアが名乗りをあげた。

 

 

目の前にあるのは耐熱限界を超えた結果爆発し、無惨に裂け目だらけになったコアとそれに辛うじてついている頭部。

正面から見いているため今は見えていないが、OB基部を中心に破裂したかのように中身をさらけ出し、それ以外にも至る所で装甲が欠損していた。

 

俺の無茶に付き合わせたのだ。

見送りはしたい。

 

 

 

そのまましばらく眺めていたら、唐突に聞き覚えのある声がガレージに響いた。

 

「練、こんなところにいたの。」

 

「…お前まで来たのか。」

 

こっちは一人になりたいのに次々と人が訪れるのはなんでだろうか。

しかもおそらくは悩みのもとの一つと思われる紫蘭本人である。

 

「朝起きたら練がいなくてびっくりしたよ。練のこと知ってる人に聞き込みしちゃった。」

 

「そこまでしたのか。大げさだな。」

 

そうすると紫蘭は唇を尖らせ、ジト目でこちらを見る。

 

「勝手にAC盗んで戦闘に出ていくんじゃないかって思っちゃって。」

 

「俺、そこまで信用無いのか…」

 

正直悲しい。

 

「そりゃあ。」

 

そういうと俺の後ろに回り込む。

そして、その腕をやさしく俺の腰に回してきた。

 

「こうしないとどっか行っちゃうって思うくらい。」

 

その行動に俺は驚いた。背中に冷や汗が流れる。

 

「おいおい、いいのか。俺は殺人鬼だぞ。」

 

確かに俺は嬉しい。だが、俺はこいつとの距離を考えていた最中なのだ。

ここまで近くなってほしいとは思ってない。

 

「また嘘ツイてたの?殺人鬼にならないって。」

 

だが、そういって離してくれそうにない。

俺は少し辛かった。

 

紫蘭を血で汚してしまいそうで。

俺はもうあの日常には帰れそうにないイレギュラーなのに、彼女はついて来そうで怖かった。

 

「確かに戦いは楽しいが、まだ殺しは楽しんでない。だが殺してきたのは事実だ。」

 

突き放したいのに、出来ない。

あの時頭掴んでビルに叩き衝け散々罵ったのに、ここでは突き放す事すら出来ないなんて。

 

「私はね。練がどれだけ殺したかなんてどうだっていいの。」

 

紫蘭は腰に回していた手を解き、俺の肩を掴むと、そのまま俺を無理矢理振り向かせた。

 

「あの戦いで、練がアキレスだった(変わり果てた)ときね。私すごい悲しかった。もうあの練は居ない、私を見てくれないんじゃないかって。」

 

目は潤んでいて、それに俺は面食らう。

 

「だから、私の知ってる練が消えていないなら、もうなんだっていいよ。」

 

「お前…」

 

こんな距離感は初めてだ。

お互いに壊れてしまいそうなほどお互いが近く感じられて。

 

 

 

 

 

 

___この年の恋愛なんだ、硬くならず行こうか。

 

 

 

___さすがにそこまで悲観しなくてもいいじゃん。

 

 

 

 

 

 

「だけど、俺といたら…」

 

その直後、端末が激しく鳴り響いた。

 

 

「状況、どうなっている!」

 

サイレンが鳴り響く中、アナトリア自衛軍の司令は指令室に入る。

 

「一部の兵が兵器を持ち去り逃走、MBT(主力戦車)6、輸送ヘリ5、※IFV(歩兵戦闘車)3、ノーマル8、ハイエンド3、市街地中央に向けて進行中!」

 

「細かいことは言わん!脱走者の出なかった部隊を使って追撃しろ。避難誘導をしつつ脱走兵を見つけ次第発砲してかまわん。」

 

目の前のマップにはかつて仲間だったはずの自軍機が映し出される。

 

司令官はこんなバカを考えるやつが身内にいたことが苛立たしかった。

 

「近くにいるレイヴンに依頼を送り付けろ!報酬を忘れるな!」

 

 

 

 

※IFV、歩兵戦闘車

 

歩兵を輸送することを目的としながら、積極的に戦闘に参加することを目指した車両。

戦車に近い走破性と馬力、でありながら半分から一個分隊を運ぶ能力がある。

AC脳で言うとMBTから戦車から火力を少し引いてそのぶんの積載を輸送能力に割り振った感覚。

本来は戦車に随伴して、戦車が制圧したところを占領するために必要な歩兵の運搬に使う。

 

やり方次第で戦車もギリギリ倒せる。

 

 

 

 

「でもそれ、僕何もできませんよ。」

 

『だから、そこに籠ってなさい。そこなら武器はあるしうちのスタッフも数人いるから。』

 

「分かりました。切りますね。」

 

端末をズボンのポケットに突っ込み、ため息をつく。ひと段落ついたと思えたアナトリアでまた事件なのだから。

 

「どうしたの?」

 

「フランさんから、アナトリア自衛軍から離反した奴らが暴れてるって。」

 

紫蘭がそれを聞いて顔を顰める。

昨日、ここを第二の故郷だと言っていたのだ。その矢先に反乱じみた騒ぎだ不快に違いない。。

 

そう思っていたが、紫蘭の考えていたことは違った。

 

「そいつら、どこに向かっているって言ってた?」

 

「え?確かアナトリアの中央方面だって聞いてるけど。」

 

紫蘭の顔がより険しくなる。

 

「練、もしかしたらの話だよ。」

 

「いきなりなんだ?」

 

「そいつらの目的は教授なんじゃないかな。」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇な日は煎餅とお茶に限るわ~」

 

ところ変わって日本の某所。

神社の軒先でUnknownはお茶を啜り、煎餅にかじりつく。

パリッと音を立て、醤油で焦げ目のついた少し硬めのそれは割れた。

咀嚼し、再び湯呑に手を付けようとしたその時、端末の着信音が鳴り響く。

 

「…いきなりどうしたの、練。こっちは休日をまったり過ごしていたっていうのに。」

 

『すいません、ですが確認したいことがあって。』

 

電話の向こうの練の声は真剣そのものだったので、不満は後にしよう。

 

「で、なによ。」

 

『Aと呼ばれたアナトリアの研究者を知ってますか?』

 

ミシィ!!

 

『今変な音しませんでしたか?』

 

「気にしないで。でAのことね。知ってるわ。」

 

思わず端末を握りつぶしてしまうところだった。だってあいつは…

 

「私は別の世界の立ち位置的にはユーリックに近い位置、アナトリアの傭兵だったから。」

 

『そいつは何をしたか、それが知りたいです。』

 

なぜそんなことを知りたがる。

言う分には大丈夫か。

 

「時期的に今年の春にイフェルネフェルト教授が亡くなった後、AMS技術を持ち出してアナトリアに経済危機をもたらした男よ。」

 

相手はだんまりだ。

それをあいつが話を促していると考え、私はあいつに対する不満をぶつける。

 

「というか、おそらくそいつが教授を殺したと思うのよ。だってあいつずっと教授に不満を持ってたし『すいません、急用ができました。切ります。』…ちょっと!」

 

いきなり通話が切られた。いったい何だったのよ。

 

 

 

「司令、緊急事態です!」

 

「今度はなんだ!」

 

「中央大学病院にて正体不明の部隊が発砲、周辺の避難が進められません!」

 

「ええい、次から次へと!」

 

司令()は苛立つ中、今回の敵の目的は何か考えていた。

敵の目的が達成されたとき、それは自分達の敗北を意味する。

 

内乱部隊が今現れた所属不明部隊と関わりがあるかは分からない。

だが、うちの売りである義肢技術の中枢である大学病院を襲ったということは…

 

「司令!反乱を起こした人員の事ですが…聞かれますか?」

 

目の前の戦況に関係なさそうだと考えたのか、遠慮をする下士官。

だが、今はすこしでも情報が欲しい。

 

「かまわん、話せ。」

 

「出身はコロニー内外様々。ここ数年で志願し、ぎりぎりで採用された実力の低い兵達のようです。」

 

あらかじめ侵入させていたスパイか。

実力を隠して入隊したのなら、特殊部隊とグルの可能性は高い。

特殊部隊の配置、及び反乱軍の方向からして、目的はアナトリアの生命線、義肢技術の中心である大学病院と行政機関への攻撃。

 

 

だが、戦力的に足りない。

いくら身分を偽った兵とは言え、義肢技術を復旧させないレベルの破壊工作をするには人員も装備も足りないはずだ。

 

ACがあるとは言え、建物を破壊するには効率が悪い。

工作用爆薬も持ち出された量を見るに不足している。

 

まず、うちの技術は独自の端末を有線ネットワークでつないで各所のサーバーにお互いがバックアップを取り、外部には漏れず、かといって一か所破壊されようがデータが残る特殊なシステムで守られている。

ここに来て(アナトリアに侵入して)その端末をクラッキング、そこからデータを抜くなり壊すなりと結構手間がかかる。

 

だから今まで専門性を保ってきたのだ。

 

コロニー内出身の兵が混じっているのも気掛かりだ。

 

それ以前に、これで得をするのは誰だ?

 

うちの技術は門外不出で、教授以上の天才かうちの技術者でもいなければ利用するための時間は膨大になるはず。

 

後一歩足りない。

 

最後のピースが欠けたパズルが浮かぶ。

苛立ちは加速し、歯を食いしばる。

 

私が欲しがっていた情報は数分後、レイヴンから齎される事になる。

 

 

 

 

 

 

「紫蘭、ビンゴだ。」

 

「フランさんには私が連絡しとくから、練はここのトップに伝えて!」

 

私は端末を取りだし、練は内線を引ったくるように掴む。

 

『何かあったのかしら?』

 

「あいつらの目的が教授と、あの人の技術かもしれないと話になったので。」

 

『なるほど…筋は?』

 

「Unknownさんからの情報から容疑者をあぶりだして…」

 

そこから経緯を説明した。

 

『確かにこれは厄介になるわね。そっちから兵を出せるよう画策しないと。ありがとう。』

 

「こっちは終わったよ、練…」

 

振り向くと練の姿はそこに無かった。

 

「…ジッとしてるのが苦手なのかなぁ、もう!」

 

紫蘭は新品同然のレディ・スミスを懐に放り込むと、内線で確認を急ぐ。

 

その時、奥の方から破裂音がする。

壁に身を寄せて様子を伺うと、途切れ途切れの閃光が廊下を照らしていた。

 

照らし出されるのは、無骨な機械だ。

 

「なによ、あれ…」

 

対歩兵ロボット。

通称AIR

 

条約上使用が禁止され、表向きには生産されてないものだ。

そのカメラが、紫蘭を捉えた。

 

 

 

「IFVとヘリを病院に近づけるな!なんとしても止めろ!」

 

まさか、前の作戦の失敗から、技術者が保身と私怨でコロニーを潰しにかかるとは。

 

いや、技術者の中にスパイがいることを意識から外したのは愚かだった。

なんとしてもイフェルネフェルト教授の殺害と、研究者Aの国外逃亡を阻止せねばならない。

阻止できなければ、アナトリアは経済危機に陥る。

 

「U.N.オーエン!前に出過ぎだ!IFVが抜けたぞ!」

 

「敵MBT、ノーマル部隊に砲撃開始!身動き取れません!」

 

「所属不明部隊鎮圧!」

 

「よし、そのまま周辺を警戒!気を抜くな!」

 

目まぐるしく変わる戦況、それに必死に食らいつく。

 

あとはIFVとヘリを潰せば一安心だ。

 

しかし、現実は甘くなかった。

 

「コロニー外よりヘリ多数接近!」

 

「※SAM、AA、起動!叩き落せ!」

 

「やってます!数が多すぎて間に合いません!」

 

「機種はなんだ?!攻撃ヘリなら無視しても構わん!」

 

この際なりふり構ってられないのだが、突き付けられた事実は変えようがなく、

 

「6割がレイレナードの兵員輸送ヘリなんですよ!優先して落としてる最中です!」

 

「ハイエンド、敵ハイエンドと接敵。交戦開始!」

 

「自軍ノーマルがIFVを撃破、ですが先程現れたヘリは4割が対空網を突破、中央区に接近中。」

 

後援者はレイレナードか。

だが、私達はレイレナードとAMS技術、それ以前も義肢技術を取引をしていた仲だ。

何故、彼らは急にAMSを欲する?

確かに金は取っていた、だが格安だったはずだ。

そうして思考を巡らせるが、刻々と変化していく状況は長い思考を許さない。

 

戦況は苦しさを増していく。

 

 

 

※SAM、AA

 

それぞれ【Surface-to-Air Missile】(地対空ミサイル)、【Anti aircraft gun】(対空砲)の略。

両者とも対空兵器。

 

 




茹でられて桃色になった桜エビが皿に乗せられている。

近くには大きな鍋と火炎放射器を持ったケイローンの姿があった。



茶番はこれまでにして。
注釈という新しい試みを始めました。
ACなんて専門用語オンパレードの元ネタなので元から必要だったと今後悔しています。
今までの話の加筆修正も検討中。

こうしたほうがいいこうしたほうがいいんじゃない?って意見も募集しています。


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だいたい物事は望んでない方向に進んでいく

何故か筆が進んで(単純に区切れなかっただけかも知れませんが)、八千とかすっ飛ばして、初めて一万字を超えました。

しばらくはこんな量書けない気がします。


「何ですかあれは!」

 

「分からん。裏で生産されている奴もあんな型はねぇ。新型か?」

 

角で様子を伺う俺とオヤジさん。

ばったり敵と遭遇してしまい身動きが取れなくなった。

 

「使えそうな物は?」

 

「弾が貫通するのがマグナムとかアンチマテリアルライフル。あとRPGとかじゃねぇとあいつらには効かねぇが…。」

 

「どれも手持ちには無いですね。アサルトライフルとサイドアーム、火力不足…待ってください、そのごついライフル、どこから取り出したんです。」

 

オヤジさんの手には黒光りするでかい銃(アンチマテリアルライフル)と見たことない大型リボルバー。

リボルバーはまだしもライフルはどこから持ってきたんですか。

 

「ほら、そこにガンロッカーがあるだろ。」

 

ガンロッカーからアンチマテリアルライフルが出てきてたまるか。

 

「おらよ。持ってけ。」

 

そういって出所に不安が残るライフルを手渡された。

 

「あと少しだけ待ってくれ。申請が通れば本気が出せる。」

 

「本気?いったい何が…」

 

オヤジさんはリボルバーを左右に揺らしつつ答える。

 

「こいつ、マズルフラッシュと音がひどくてそのままだと使えねぇんだ。失神、下手すると失明したり耳がやられたりする。」

 

「なんでそんな持ってるんです。使えないじゃないですか。」

 

「何もなければ、だがな…」

 

その時、オヤジさんの端末に連絡が入る。

 

『能力制限解除、能力制限解除。周囲を確認し慎重に使用せよ。』

 

「ほら来た、外すなよ。」

 

通信が来たと同時に角から飛び出すオヤジさん。俺もライフルを構えつつ敵前へと身をさらし、アンチマテリアルライフルを腰だめに構えて…。

 

トリガーを引く直前に気づく。

確かこいつも反動が強くて伏せて使う品物だったような気がする。

しかしすでに時遅く、トリガーを引ききってしまった。

 

強烈な反動が肩にかかり、大きくのけぞる。

幸いマズルブレーキの性能が良かったのと元から腰だめがぎりぎり可能な銃だったおかげで、尻餅をつかずに済んだ。

 

「やっべ!」

 

だが、敵は二機いた。

一機に命中、機能停止させることには成功するが、連射ができず二機目に狙われてしまう。

 

だが、その二機目は横合いから来た銃弾に装甲を抉られ、その動きを停めた。

 

「大丈夫か坊主!!」

 

「何とか。そんな銃なのに発砲音そんな大きくないんですね。」

 

危ないところを助けてもらったが、そのリボルバーの銃声の小ささに驚く。

マズルフラッシュと音がさっき言った通りなら今頃腰を抜かしていたはずだが…。

 

「反則技さ。さっき能力制限解除ってあったろう。あれ、俺たちが普段隠してる力を使っていいってことなんだ。むろん事情を知らない奴らがいるときには許可は下りないがな。」

 

「一体どんなからくりですかそれ。」

 

「俺は【水を操る程度の能力】…まあ河童じゃあ標準なんだがな。大して使えたもんじゃないが、こうやってサプレッサの代わりにはなる。」

 

そういうと銃口の周りに水の塊が現れ、銃の先端から先を覆う。ただ銃口を塞いでいない。

これなら光や音を多少は減らすことできるだろう。

反則とは…いやACの【カッパ】とかいう現象も恐ろしいけど、こっちは本物だもんなぁ。

 

「FGWの人員って大体そんな感じなんですか。」

 

「俺のはかなりショボいほうだな。これぐらいしか使い何処がない。こっちで使える力はもともとの力に比例する。シャルなんかはそのリソース全部を飛行に回して速度を保った感じだな。まあ、分配は本人の意思よりも素養でされるらしいが。」

 

「ラノベとかによくある能力ものみたいな感じですか。」

 

「正直あれよりも制限がきつい。まず使用に自衛隊の発砲許可のごとく申請が必要なんだ。んでもって、人によっちゃ戦闘どころか何にもアドバンテージを得られない奴もいる。」

 

それを聞いて気になったので、恐る恐る聞いてみる。

 

「ちなみに、逆に一番すごいのって誰なんです。」

 

「そうだな…」

 

それはあまり時間をかけずに帰ってきた。

 

「力がそのまま使える元人間組を除くとやっぱフラン嬢かなぁ。」

 

人間組はそのままなのか…。

 

その時、ガァァァン、と激しく金属同士がぶつかるような音が遠くから響いてきた。

確か紫蘭がいたガレージ方面から聞こえた。

 

「取り敢えず紫蘭を保護しに行くぞ。」

 

「はい。」

 

 

あ…ありのまま、今起こったことを話そうと思う。

 

【いかついロボットから必死に逃げていたら唐突にガトリングが爆発し、立て続けにフランさんが現れてロボットを蹴り飛ばして破壊した】

 

何を言ってるのかわからないと思うが私もわからない。

催眠術とかトリックとかワイヤーアクションなんてそんなチャチなものじゃない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった。

 

そもそも何で蹴る時に交通事故(ブーストチャージ)みたいな激しい音が出るんですか。

 

「大丈夫?」

 

「あ、はい。なんともないです。」

 

目の前で起こったことに心の中で突っ込みしていたせいで反応が遅れる。

確かにこれは強いと思うが、子供一人の護衛にしてはいささか過剰戦力な気もしてきた。

 

「取り敢えず誰かと合流しないと。外も中も危険ってなったらここにいるやつらを排除したほうがよさそうね。」

 

「そんなこと言っても私明らかに火力不足ですね…。」

 

「あなたは最悪ついてくるだけでいいわ。私がここに来たのはあなたの護衛とイフェルネフェルト教授の保護だから。」

 

そういうと手にある私のものより一回り大きいリボルバー(44マグナム)を構えていた。

 

「制限解除って言ったってやりすぎは考え物よね。」

 

さっき思い切り人外機動してた人の言うことじゃないと思います。

すると、物音。

とっさに身構えるが、機械の駆動音ではなく足音だった。

 

「紫蘭、大丈夫か。」

 

練と練のACの整備員のおじさんだがこっちに駆け寄ってきてくれた。

 

「ええ、フランさんが助けてくれた。…ていうか何も言わずにどっかいかないでよ!」

 

「あぁ、すまん俺もイフェルネフェルト教授救出に行こうかと思って。」

 

「リハビリ中の人が言うことですか!」

 

そのとき、キュキュッ、とタイヤが擦れるような音がする。

音の正体は三機のAIR。それがこちらにやってきた。

大量の弾丸が下に備え付けられた機関砲から吐き出され、わたしたちは物陰に隠れざるを得なかった。

 

「そういうのは後にして。ここを制圧するわよ。」

 

「まずは自分の身からですね。」

 

物陰越しから練が大きなライフルで敵の真ん中を打ち抜いた。

 

 

 

「これってきりがないですよね。」

 

「機械だと躊躇なく全機突貫とかできるからね。多分今アナトリアを襲ってるのと別勢力じゃないかな。」

 

 

あれから幾ら潰しても出てくる敵に弾がなくなりつつあった。

“反則”しても数で押されるのはきつい。

何回か敵が勝手に爆発してるが、乱用してないあたりポンポン使うべきじゃないんだろうな。

 

だが、俺が一機潰したのを最後に敵がいなくなった。

 

「敵が止んだ…?」

 

「分からないわ、警戒して。状況確認するから。」

 

フランさんは通信機を取り出し通話しようとした。

 

だが、その顔がはじかれるように後ろを向く

 

その直後、轟音がとどろいた。

後ろで爆風の中から敵AIRが飛び出してくる。

壁を爆薬で破壊して後ろに回られたのだ。

フランさんが一拍早く振り向き一機を撃ち抜くが、敵は二機。

フランさんの44マグナムはその弾が最後だった。

俺たちは振り向くのが遅くて照準が間に合わない。

そんな俺たちを嘲笑うかのように、ガトリングが無慈悲に無防備な俺たちに火を噴く。

 

 

「ぉおおおぉ!!!」

 

 

その時、オヤジさんが雄叫びを上げつつ一歩前に出て銃を打ちはなった。

 

 

AIRに発砲はされたが、オヤジさんが放った弾が直撃して停止、響いた銃声は多めに見積もっても十数発といったところだ。

そしてその四脚のボディが崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

前に出て多数の銃弾を食らいつつ反撃したオヤジさんとともに。

 

 

「オヤジ…さん?」

 

その後ろ姿がゆっくりと傾く。

 

「オヤジさん!」

 

俺は駆け寄って、倒れる寸前でその体を抱きかかえた。

その手はオヤジさんから流れる血で真っ赤に染まっていった。

 

「ああ、しくじった、なぁ…。川城主任に、どやされる…。」

 

「しっかりしてくださいよ!!新しい機体、整備してくださいよ!」

 

必死になって叫んだ。

何でよりによって整備スタッフのオヤジさんが。

 

「はは、そう、だったか。」

 

「そうですよ。だから…」

 

「悪いな…せめて、こいつ、受け取ってくれ。」

 

そういって握っていたリボルバーを差し出してきた。

俺はそれに思わず左手を伸ばす。

 

()()の事、頼んだ。すまねぇ、あず…」

 

それを受け取ることもままならずリボルバーは落ちていく。

その銃はカチャリと音を立てて地面に落ち、床を滑っていく。

 

 

 

 

 

 

意識も、息も、脈も。

 

もうなかった。

 

「オヤジさん!…あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

胸の中にこみ上げてくるこの感情を表せない。

悲しみ?くやしさ?怒り?

できたのはそれを涙にすることぐらいだった。

 

俺は嗚咽交じりに尋ねた。

 

「…あなたたちは人外ですよね。」

 

「ええ。」

 

フランさんは静かに答えた。

 

「なんでこんなので死んじゃうんです。あなたたちは俺たちなんかよりすっと強いんですよね…なんであんな人形の攻撃で…」

 

「買いかぶらないで。」

 

フランさんは顔を背けて言う。

悔しさがにじむ声だ。

 

「…ええ、そうよ。本当なら私達は手足をもがれようが腹に風穴があいても平気だったわ。」

 

「じゃあなんで!」

 

「でもここは現実で物語の世界じゃないの。私達は少し強いだけで、私もいつかああやって死ぬかもしれないのよ。」

 

そこまでいって、フランさんは俯いていた顔をキッと持ち上げる。

 

「ただ言えるのは、ここで立ち止まってることを彼は望んでないってことだけ。行きましょう、私達だけでも。」

 

凛とした声で告げる言葉。

切り替えというべきなのか。

 

この人はどれだけこういう別れをしてきたのだろうか。

俺もこの道を続けるというなら、避けては通れない

 

 

ゆっくりと差し出される紫蘭の手。

一度失って取り戻せたその手も、俺がしくじれば二度と帰ってこない。

ここで立ち止まってられない。

もう失うものか。

 

俺はゆっくりオヤジさんの遺体を横にすると、少しためらったが、紫蘭の手を掴んで立ち上がる。

未練がないわけじゃないし涙も枯れてない。だけど、ここでずっと悲しんでもオヤジさんが生き返ったり、教授が救えるわけがない。

泣くことなら幾らでも後でできる。

それに俺はたくさん奪ってきたんだ。

 

「敵はさっきので最後だったらしい。生き残りをまとめたのち。中央病院へ向かう。」

 

 

「紫蘭。お前まで来なくていいんだ。」

 

IFVに乗り込む直前、練がそう声をかけてきた。

練の声どこか懇願するような響きをしている。

 

だけどこちらとしては同じ気持ちなんだよ。

 

「さっきのオヤジさんと同じ事になって欲しくないのは分かるよ。でもこっちだって練に死んでほしくないって思ってる。お互い様だよ。」

 

「でもお前、戦えるのか?」

 

「愚問だよ。練を殺そうとしたのに、今更他人を殺すのをためらうと思う?」

 

強がりなのは自分が一番わかっていた。だって、殺そうとした練が目の前で生きてる。

誰も殺したことのないど素人だ。

ただ、練がどっか行くのが怖いからついてきてしまっただけだ。

それでも

 

「足は引っ張らないから。」

 

私の言葉を聞いた練が顔を背けた。なんでだろう。

 

『到着した。裏門から順次制圧しろ。能力使用制限。』

 

「GO,GO,GO!」

 

車両後部のハッチが開き一斉に飛び出す。

だけど出遅れて大分みんなの後ろのほうにつけてしまった。

 

アナトリア軍が頑張ってくれたおかげか抵抗は少ない。

何人かの病院関係者を逃がしつつ上へと進んでいく。

だけど、階段の安全を確認してるときに練が話しかけて聞いた。

 

「抵抗が少ないって思ってるだろうけど、正直これからだと思うよ。」

 

「心読まないでよ…で、どうして?」

 

「敵はヘリで上から侵入してるから。正直教授のいる階でかち合うかもしれない。」

 

教授が戦闘に巻き込まれると思うとゾッとした。

そんな中で銃を撃つことにも。

 

「分かるな。誤射に気をつけろよ。」

 

今さっき手渡されて、使い方も習ったばっかりのアサルトライフルを持つ手が震えるのが分かった。

ただ、自分でも分かっていなかった。

殺すことではなく、ただ知り合いを失うのが怖かっただけだってことを。

 

 

 

 

私が見知らぬ人を助けたがる、本当の理由を。

 

 

 

 

 

ついに教授のいる階まで来た。

まず、教授の部屋を訪れるが、誰もいなかった。

争った形跡はない。

 

「避難したというのが有力ね。」

 

だけどその直後、部隊の一人が報告してきた内容に部隊が凍り付いた。

 

「隊長!研究員の誰かが教授が精密検査室にいると無線で流してます!」

 

「誰よ!そんなバカ。…罠かもしれないけど行くしかないわ。二手に分かれて!」

 

静かな、だけど熱のこもった怒声で話が行われる。

 

「私、連絡のあったほうに行っていいですか。」

 

「罠かもしれないんだぞ。素人が行く場所じゃない。まずここにいれるのは関係者だからってお情け、それと最低限動けるからってだけなんだからな。」

 

「でも!」

 

「言い合いは無し。要望通り紫蘭、練、α隊は精密検査室へ。もう一方は私と一緒に周囲を探索。」

 

冷静にフランさんが告げる。

一応私の要望は通ったようだ。練はおそらく私の護衛扱いだろうから、ついてくるのに文句はない。

 

フランさんたちの隊と別れて精密検査室に向かう。

静かに尚且つ迅速に動くみんなの足手まといにならないようにはついていけた。

 

敵はまだここまで来れてないのか、接敵もなく目的地にたどり着いた。

扉にセンサーを設置しトラップの類がないか確認する。

結果は罠の類はナシ。

 

いて待ち伏せ。

慎重に戸を開け様子をうかがう。

 

「き、君たちは?」

 

十数人の病院の職員といっしょに大きめのスーツケースを抱えた教授がいた。

 

「教授!」

 

「し、紫蘭さん?」

 

間に合った。

 

「イフェルネフェルト教授ですか?アナトリアの援軍として駆け付けたものです。急いで脱出しますよ。」

 

その時、扉の向こうからカン、カンと何かが飛んできた。

 

「…グレネードだっ!」

 

みんながその場に伏せる。

閃光が部屋を白く染め、何が何だか判別がつかなくなった。

 

「フラッシュグレネードか。気絶してる奴は下げろ!」

 

私は幸いまともに見ずに済んだため視界はすぐ回復した。

直後、けたたましい銃声が響く。

 

「撃ち返せ!教授を撃たせるな。」

 

何人かの仲間が教授たちを奥の部屋に連れて行った。

それを見ていた私の横を風切り音が過ぎ去っていく。

振り返れば敵が倒れた棚を盾に弾幕を張っていて、それのうちの一人が私を狙う。

 

だけど私はもう常人じゃない。

リンクスになって上がった筋力を使い、一気に近くの検査機器に身を寄せる。

左手にリボルバーを構え弾幕の切れ目をうかがう。

 

その合間に義手のプログラムを起動。

 

[combat mode standby]

 

壁にあった視力検査用の紙の円の一つに意識を向けると、狙ったところにサークル状のUIが現れる。

狙った点に銃を向けるとAMS経由で左手が勝手に補正してくれるのだ。

素人なのに練と銃撃戦が出来たのはこの照準システムのおかげ。

教授が渋々だが作ってくれたものだ。

 

そうしているうちに二、三人分の銃声が減る。

それを見計らい私に向かってアサルトライフルを向けていた敵に視線を向けると、サークルの中心と敵の額が重なった。

 

ほぼ反射的にトリガーを引いた。

 

 

 

練に脅された後のように、何も考えず。

 

 

 

一発の大きな銃声。それは間違いなく私のもの。

それと同時に敵の額に穴が開き、後ろ向きに倒れた。

 

「よし、まず一人。…あれ?」

 

いま、殺した?人を殺した?

まず、ひとり?

何?この胸に湧き上がる感情。

 

 

 

 

 

興奮、なの?

 

 

 

 

 

 

 

「紫蘭、ここは任せろ。お前は教授を頼む。」

 

「う、うん。私に銃をうたせない、でね。」

 

「紫蘭?」

 

練の呼びかけに答えず、そそくさと奥の部屋に入っていく。

 

「紫蘭さん。よかった、無事で。」

 

「こっちのセリフですよ、教授。」

 

とにかく教授と合流し、言葉を交わす。

 

「にしても、そのスーツケース何が入ってるんですか?」

 

「ああ、これかい。これはね。」

 

そういってスーツケースに手を触れる。

 

 

 

 

 

 

「失うわけにはいかない。教授秘蔵の最新技術ですよね。」

 

 

 

しかし、教授の後ろから若い男の声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

ズドン、と音が響いた。

私も教授も凍り付く。

 

ポタリ、ポタリと液体が地面に落ちる音。

 

教授の右脇腹が真っ赤に染まり、私の顔にまで血飛沫が飛んでいた。

その貫通弾は私の義手の外装も剥ぎ取っている。

 

何で気づかなかったんだろう。

 

教授の後ろに控えていたうちの一人が。

 

「それは僕がいただいていく。」

 

研究員A(アイザック)だってことに。

そいつの右手にはピストルが握られ、薄い煙が立ち込めていた

 

私の方に倒れ手て来る教授。

 

しかし、教授はぐっとこらえ私を抱きかかえると、研究機材に身を隠した。

教授の後ろにいた医師や看護婦が一斉に銃を向け、発砲。

機材に隠れたおかげで事なきを得た。

 

そのことでハッとした私は通信機に電源を入れる。

 

「こちら紫蘭!教授と一緒にいた人たちは敵対者!アイザックもいる!」

 

『何だって!今そこの扉の前にいる護衛を向かわせる。すぐ援護射が来るはずだ。』

 

教授は痛みで苦しむ体を機材に預けていた。

その目は私を捉える。

 

止まない銃声の中、教授はゆっくりと口を開いた。

 

「また、巻き込んでしまったね。」

 

「喋らないでください!今止血を…。」

 

慣れない手つきで渡されていた鎮痛剤を打ち、止血帯を脇腹に巻く。

 

「すまないね。本当、情けない大人だ。子供を、自分が支えるべき患者を戦争に送り出すなんて。」

 

「いいからゆっくりしていてください!」

 

後ろからも発砲音がした。

援護が来てくれたのだろう。

 

その様子を見た教授はゆっくりと壊れてしまった私の義手へ手を伸ばす。

 

「スーツケースの中身はね。君の新しい義肢なんだ。」

 

「え?そう、なんですか?」

 

二つ分かったことがある。

 

一つ、研究員Aは小娘の義手を教授の秘蔵技術だ、と勘違いをしている。

 

二つ、身の危険が迫っていたのに、ただの患者である私の義手を持ち出してくれたこと。

 

「それ持ってきたから逃げ遅れた、とかだったら私、へこみますよ。」

 

「持ってこなくても大差なかったと思うよ。」

 

そういってゆっくり笑う教授。鎮痛剤が効いてきたのだろうか。

 

「これはね、君のところの医師からの依頼を受けて作ったものなんだ。一週間前くらいかな。時間なかったから本気で作ったよ、全く。」

 

「どんな依頼だったんです?」

 

「リンクスの身体能力についていける、戦える手足を、だそうだ。」

 

その言葉に目を見開いた。

戦うための、義肢?

 

「私だって最初は反対したよ。だけど、『彼女はきっと練君のトラブルに巻き込まれるだろうから、護身できないと。』って言いくるめられてしまってね。この状況を見るに、正しかったと思うよ。」

 

「でも、私…。」

 

戦う。

そのことに今までと別の恐怖が沸き上がっていた。

 

私はワタシでいられるのか。

 

「君の意思を、僕が変えようとは思わない。ただ、今の君の義手は壊れてしまっている。だから…」

 

そういってスーツケース…近くで見るとキャリーケースといってもいいサイズのそれが開かれる。

以前使っていた義手は樹脂製の人工皮膚で覆われていたが、この義手は機械らしい外見を残していた。

 

「サイズは合わせてある。…本当は前の義手みたくしてあげたかったんだけどね。樹脂で覆う時間がなかったんだ。」

 

そういって義手を取り出す。

その下の段からは似たような義足が出てきた。

取り出した後、その下にひかれていた本を私に差し出してきて、口を開く。

 

「設計図はここにある。フィオナなら調整と整備をしてくれるだろう。もちろん前の義手も。フィオナはもう私が教えることが無いくらい立派に育ってくれたからね。」

 

「教授?そんな言い方しないでくださいよ。」

 

鎮痛剤は…間違えてない。用法も守ってる。

まるで死んでしまうような物言いにどこか間違えてしまったのかと慌てる私を他所に、彼は立ち上がる。

 

はらりと腰から滑り落ちるそれを見て私は愕然とした。

 

 

止血帯はしっかり結べてなかった。

壊れてしまった左手が、結び目を弱くした。

 

脇腹から血が流れていた。

それを無視するかのように彼は私のアサルトライフルを拾い上げ、笑う。

 

「君のせいじゃない。私がいたら君にもフィオナにも迷惑をかけるからね。…フィオナには出来の悪い親で済まないって言っておいてくれ。」

 

「ちょっと待ってください!動かないで!」

 

左手を咄嗟に伸ばす。

壊れてしまった左手は、限界が来たのか私の言うことを聞かず空を切る。

 

教授は叫ぶ。

 

「援護隊、私が隙を作る。突入しろ!」

 

物陰から飛び出し、教授はアサルトライフルを連射。

そのすきに練が部屋に飛び込んできた。

 

 

だがそれきりだった。

 

 

 

 

 

 

体に多数の弾丸を受け、アサルトライフルの発砲音が止む。

 

ゆっくりと崩れ落ちる教授。

練と違って、私は見ていることしかできない。

 

「教授!!」

「いやあぁぁぁぁあ!!!」

 

私もまた崩れ落ちた。

 

一番恐れていたことが、目の前で起こってしまった。

それも私のせいで。

その事実が私の心を挫いた。

 

 

私のもとへ、練が駆け込んできた。

 

「紫蘭、大丈夫か!!」

 

「私のせいだ…しっかり止血できれば、教授もあんな無茶しなかったのに…!」

 

「言えた義理じゃないが、落ち着け。オヤジさんの件で学んだだろ。ここで悲しんでも仕方ない。それに、こんな奇襲を見抜けなかった俺たちが悪いし、仕掛けたあいつらも悪い。」

 

私の肩を持って慰めてくれる練。

 

 

それが悪魔のささやきを引き出した。

今までの私なら切って捨てたような下らない発想。

 

(そうよ、あいつらが悪いのよ)

 

責任の転嫁だ。

私が今まで嫌ってきたことが、今の私にはとても甘い復讐心というものを持ち込んでくる。

その時、私の手があの義肢に触れた。

 

これがあれば、私は戦える。

 

正しくなんてない、教授も望んでないっていうのは分かってるのに。

 

「練、この義肢を私につけて。教授が残してくれたものだから。教授がいない今、私は練につけてほしいの。」

 

「…分かった。」

 

もともとあった義手をゆっくり外し、丁寧に付け替えてくれる練。

練は私をを失ったときどんな気持ちだったんだろう。

同じであってほしいな。

 

ゆっくりと差し込まれた義足と神経が繋がり、情報が流れ込んでくる。

義手には武器まで仕込まれていた。

 

「ありがとう、これで…」

 

新しい左手にレディ・スミスを握り、立ち上がる。

 

「戦える。」

 

「おい待て!どこに行く!」

 

機材から背の低い機材へ教授の持っていたアサルトライフルを拾い上げつつ駆け抜け、しゃがんで物陰に身を隠す。

リンクスの体力を万全に使えるようになった、その走りは今までの何倍も速く感じられた。

銃弾が少なくなってきたのか、銃声がまばらになっている。

 

躊躇なく物陰から上半身を出してアサルトライフルのトリガーを引く。

シングルで一発一発正確に狙いを定めて、物陰から出てきた敵をもぐらたたきのように。

前の義手はハンドガンだけだったアシストも、今はアサルトライフルにまで転用できる。

 

「二つ、三つ、四つ。」

 

敵は確か十人ちょっと。

全員倒す、いや殺す。

 

「五つ、六つ七つ、八つ!」

 

そこで、視界の左側の壁が崩れた。

そこから逃げる気か。

 

「…逃がさない!」

 

物陰から飛び出して、全力疾走で敵の懐へ飛び込む。

牽制で放たれた拳銃の一発が左手を掠めたが、傷一つ残らない。

 

勢いそのまま、左腕に格納されていたナイフを右手で抜き、首筋を切り裂いた。

返り血は、別に何とも思わなかった。

 

看護婦のふりをした白々しい女性にレディ・スミスを撃ち込んむ。

その隙を好機と見たのか、後ろにいた敵が駆け寄ってきた。

振り向くとそいつの右手にはナイフが握られ、突きの構え。

 

そのナイフを義手の左手で弾き落とし、胸に突きを返す。

 

周りに見えるやつはこれが最後。

 

「アイザックは…」

 

無論、あそこにあけた穴から逃げたのだろう。

どう逃げたのかはわからないが行き先は分かっている。

私は廊下を走った。

 

 

 

 

「あと少しだ、この最低限の資料があれば僕は!」

 

アイザックは屋上にたどり着く。

そこで彼を受け入れてくれるヘリが待っていた。

 

「オーメルめ、僕を見限るのがいけないんだ。レイレナードは分かってくれたからね。」

 

もともと彼はアスピナ、もといオーメルに情報を売るつもりだったのだが、作戦失敗でオーメルは彼を見限っていた。

そんな彼をレイレナードは拾ったのだ。

 

ヘリが見えた彼はその狂気じみた笑顔をさらに深める。

 

が、そこまでだった。

 

「待ってた。」

 

ヘリの中から現れたのは、さっき彼の部下たちをなぎ倒していた紫蘭だ。

 

「なぜ…ここにいる!」

 

「あなたより足が速かっただけ。最もその理由はその手にある資料にあると思うけど。」

 

実際は違う。

紫蘭は義手のもう一つの装備であるワイヤーガンを使って外から先回り。ヘリパイロットを排除していたのだ。

 

「ちぃ!」

 

引き返そうとするが、そこに息を上げた練がチーフスペシャル片手に立ちふさがっている。

 

「もう逃げ場はないよ。だからさ…」

 

アイザックが振り返ると、憎悪に顔をゆがめた紫蘭が睨みつけていて。

 

「死んで。」

 

銃声が開けた屋上で響いた。

 

 

 

 

だが、アイザックは撃たれた様子がない。

撃たれたのは紫蘭のレディ・スミスだった。

 

「またこんな曲芸をする羽目になるなんてな。」

 

練の射撃が、紫蘭の邪魔をしたのだ。

 

「練、なんで邪魔するの?こいつが生きてていいわけないじゃん。」

 

さも当然のように吐き出されるセリフに、アイザックは小さく悲鳴を上げる。

 

「悪いが、今すぐ殺すわけにはいかないんだ。」

 

そういって練はアイザックに近寄っていく。

アイザックは必死の形相でハンドガンを構えるが、練の射撃ではじかれた。

 

すこしつつ狭まる距離に、アイザックは後ずさる。

 

「ぼ、僕が悪かった!何でもするさ、だから助けてくれ!」

 

アイザックはついに命乞いまで始めた。

 

「ああ、殺さんさ。」

 

練はそういうと、アイザックの目の前に立つ。

そして。

 

首元にリボルバーを持った手を打ち込んだ。

失神するアイザックを冷たく見下ろし、静かに告げる。

 

「洗いざらい全部はいてもらうまでな。」

 

眺めていた紫蘭は、拗ねたかのような表情を浮かべゆっくりと近寄ってくる。

 

「ひどいよ、私にやらせてくれな…」

 

不満を漏らす紫蘭だったが、最後まで言い切ることが出来無かった。

練が紫蘭を抱きしめていたのだ。

 

「なんでこんなことに…。わかっていただろ…」

 

「練、どうしたの急に。」

 

よく見ると練は泣いていた。

その光景に紫蘭はただ困惑していた。

 

「俺がいなければ…お前を無理やり車から降ろしていれば…」

 

「ねえ、練ってば、話してくれないと伝わらないよ。」

 

「お前に、人を殺させたくなかった。」

 

その一言で私は血の気が引いていった。

何人殺したっけ、私。

罪悪感ってこんなに感じないものなの?

 

「練、私っておかしいの?後悔してるけど教授が死んだこと以外辛くない。…教授…?」

 

ぽろぽろと紫蘭の目から涙がこぼれ落ちてくる。

 

「ああ、そうだろうさ。中に眠ってたものはおなじなんだ。」

 

練は知っていた。

自分も彼女も、ドミナント候補だというのはあの医者から聞いていた。

 

戦うために生まれてきた人間が、殺すことにためらいを持つはずがない。

 

練も紫蘭も【人を殺してはいけない】ということを文字の上でしか分かっていないのだ。周りがこうであるべきと定めていた価値観を借りて[普通の人]で居られただけだ。

 

本人の気持ち次第でそんな枷は外れてしまう。

そのことを知ってしまったから、練は『みんなの中に帰れない』と紫蘭を遠ざけた。

 

(紫蘭はこのことに気づくことなく、日常に戻って欲しかったのに)

 

その試みは、失敗した。

彼女も自分の本性に気づき始めている。

 

ここに連れてこなければ。

だが、もう遅い。

 

 

屋上に服を返り血で赤く染めた少女と、それを気に留めることなく抱きしめている少年は、二人を追いかけてきた味方が来るまでそのままだった。




ACの4系が無いので誰か情報下さい。
ネクストのアセンを決める方法がネットにあるアセンシミュレータしかないんです。

ps3が無いんです。(涙


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腹探る者と競うもの

しばらくは一万字以上かける気がしない


「紅茶、飲むか?」

 

「うん。ミルクもお願い。」

 

アナトリア内乱から一夜明けた朝。

二人はホテルの部屋で朝を過ごしていた。

 

俺は先に起きて紅茶を入れていたので、紫蘭にそれを勧めた。

 

「気分は?」

 

「大丈夫。昨日あれだけ泣いたんだもの。」

 

それで心の傷が癒えるわけがなく、その顔から悲しみは消えない。

俺は紅茶を渡すと、ベットで座ってる紫蘭の隣にゆっくりと腰かけた。

 

「くまなく調べたが博士の技術が漏れた形跡はない。最低限の目的は達したよ。」

 

「また救えたんだね、アナトリアを。」

 

「ああ。」

 

どうにかアナトリア崩壊の危機から救うことはできたのだ。

払った犠牲は目も当てられないのだが。

 

俺の手にはオヤジさんが遺したリボルバーがあった。周りに聞いたのだがオヤジさんの手製のものらしい。

この世界に一つしかない、オヤジさん自慢の品だったそうだ。

 

受けとったはいいものの、現実を生きる俺に幻想の力を使う事前提のこの銃は扱えないのだが。

 

それでも形見だ、異常が無いかよく確認する。

そんな俺を、紫蘭は紅茶片手に眺めていた。

 

「練、いやアキレスとしての君と話がしたい。」

 

紅茶をを一啜りした後、紫蘭はゆっくりと口を開いた。

 

「アキレスとして?」

 

「うん、私と同じ根っこを持ってる人と話がしたくて。」

 

「自分の本性の話か。」

 

きっと先日の戦闘で自分がしたことの話だろう。

 

「私、練からアキレスになったみたいに、私も別のワタシになっちゃうなんて全然考えたことなかった。」

 

「俺も半年前までネクストなんて未知の兵器に従来機で挑むなんて思ってなかったからな。」

 

っていうか昨日の戦闘の立場って完全少年兵だったよな。

予想外にFGWの印象が悪くなる状況だった事に気づき、思わず顔を顰めてしまった。

 

「正直、もう人殺しに抵抗なんてなくなっちゃった。いや、元からなかったのかな?」

 

その顔には思ったより陰りがない。

一応フォローを入れる。

 

「そういう風に自虐するのはよくないと思うが。」

 

「いや、自虐してるつもりないけどね。ただ、思うところがあってね。」

 

そういうと、過去を振り返るような目つきで天井を見上げる。

 

「結局私が練とアナトリアで、アナトリアを取ったのって、私が[一般人]であるための線引きに引っかかっただけだったんだなって。特別な感情を持った個人より、大勢の人を取ることが[正しいこと]だと思ってたから。」

 

「[一般人]であるための線引き、か。俺も越えつつあるからな。昨日俺も数十人撃ち殺してる。虐殺者って言っても反論できんからな。」

 

普通という概念がここ数か月で崩れてしまった二人組。

ふとそういう発想が思い浮かぶ。

世間に戻っても犯罪者扱いか?

 

「私もうちに眠ってるのは戦闘狂としての自分。どう向き合っていくかだよね。」

 

「ああ。俺はいったん休業ののちに、他の道が見つからなかったらレイヴン再開の予定だけどね。紫蘭は何か決めてあるか?」

 

紫蘭のそれはまだ目覚め切ってない。

戦場に出なければまだ十分に社会復帰は可能なのではないだろうか。

 

「練は反対するだろうけど、何回かネクストで出撃しようかって思うんだ。」

 

「…ああ反対さ。どうしてなんだ。」

 

そんな俺の期待を他所に、紫蘭は戦闘に参加するといってきた。

思わず俺の声は荒くなる。

 

「今の私にはこれといってやりたいことが無いんだ。選手人生は終わっちゃってるわけだし。」

 

そういうと、彼女はゆっくりと左手に手をかける。

まだ、以前の義手が治ってないので先日の件で手に入れた義手のままだ。

黒みががったカーボン製の義手は、先日の戦闘がなかったかのように傷一つない。

 

「…俺が言える立場じゃないが目標を立てないとな。これから進む道について。」

 

「あ、一応ネクスト乗るのは戦いたいからだけじゃないよ。今、リンクスとしてまともに籍持ってるの、FGW内じゃ私だけでしょ。扱いやすいネクスト戦力として必要とされてるかなって思って。」

 

「あまり戦ってほしくはないんだがな。」

 

正直、彼女の推理は正しい。

FGWは慢性的な人手不足。こちら側の人員を欲している

状況だ。

必ず彼女をに声を掛け、そして彼女は応えるだろう。

 

「これも道を探る一貫。これでいいならこれでいいって諦めつくし。」

 

「そうか…」

 

俺が彼女の意思を遮るほうが野暮なのは分かっている。

だが、俺はどうしても彼女に戦いの道を歩んで欲しくないと望んでしまうのはどうしてなのだろう。

 

「そろそろ朝食の時間だよ。行こう。」

 

そうやって手を引いていく紫蘭。

昨日の件があったのに朝食を食べる食欲が湧くあたりに、俺と同じ素養があると痛感させられた。

 

 

 

FGWとやらはまだ私の居場所を捉えてないのは確実。

だけど、こっちはそっちの本拠地の場所を押さえている。

それにこちらの根回しはもう完了。

 

問題はFGWの目的。

それによって対処を考え直す必要がある。

 

ただ、私の前に立とうと言うなら

 

 

 

 

 

「排除する。」

 

「いきなり、恐ろしい事を言わないで下さい。」

 

 

暗い部屋に光が差し込む。

スーツに身を包んだ男が革靴の足音を響かせて部屋に入ってきた。

 

「あなたですか、何のようです?」

 

「アナトリア襲撃、その細部の報告をしに参りました。」

 

営業スマイルで男は話しかける。

 

「そのような報告はサーバー上に上げておけばいい事を知らないはずがありません。一体何を考えているのです?」

 

「例の集団の戦闘データはさすがに社内ネットワークには流せないと判断したまでです。機密にしろと伺っていたもので。」

 

なかなか食えない奴だ、と私は思考する。

確かに、私が秘密裏に処理しようと考えている相手を、レイレナード社に知られるのは面白くない。

 

彼が持ってきたスタンドアローンPCが近くの端子に接続される。

 

「レイレナード側には敵戦力等を改竄して現実的な数値にしてあります。ですがこれは…」

 

「GAのように時代に取り残された化け物たち、と言えばいいでしょう。ですが、敵の制約を知れただけよかったかもしれません。」

 

やはり、並の存在ではないことは分かっていたが、突きつけられると認めがたい。

 

だが、手の出し方はいくらでもある。

 

 

例えば先日のように。

 

 

「やっぱり、おかしいな。」

 

「ああ。今回の襲撃、どう考えても起きるはずが無い。」

 

その一室にUnknownとストレイドは厚めの資料に目を通しつつ呟く。

そこそこ柔らかいソファーに腰掛ける二人。

テーブルを挟んだその向こう側には、臨時行政担当のエミールがいた。

彼は口を開いた。

 

「確かにくまなく調べたが、アナトリア内に研究者Aと関わったレイレナード関係者はいない。まず、彼に関わっていたのはオーメル、及びローゼンタールだ。企業同士で固まっているとは言え、ローゼンタール陣営の人間をこんな短期間で信用するはずが無い。」

 

「と、なると考えられるのは…。」

 

「内通者、それもフリーか、たちの悪い他企業の人間。」

 

オーメル筋の情報をレイレナードが信じる訳が無いし、レイレナード関係者なら政治的手段で一回は要求して来るはずだ。

なにせ、元々商売相手なのだ。あのレイレナードでも、いきなり武力行使に出るとは考えづらい。

 

Unknownは資料をテーブルに置き、腕を組む。

情報線で負けつつあるのは見過ごせない事態だ。

つねに後だしジャンケンとなるこの状態では、勝てる戦いも勝てない。

 

「なあ、思ったんだけど。」

 

ストレイドは資料から目を離さないまま話しかける。

 

「アイザックと一緒にいたあいつらの所属が不明瞭だ。どうなってる?」

 

「それなのだが…おそらく無名のフリー傭兵、それも工作特化。全く出身情報が出てこないんだ。」

 

エミールは申し訳なさそうに頭をかく。

 

「企業内で育て上げた人間…いや、なら回収するはず。オーメル筋の人間じゃない、のに機密であるAMS技術奪取の任務に就いていた?」

 

思考が纏まらずたどたどしくつぶやくUnknownの言葉に、ストレイドは首を横に振る。

 

「いや、もしオーメルだったとしたら、AMSの為だけに配置した人員じゃない。アナトリアに入った人間はだいたい2から3年前に集中してる。アイザックが謀反を考え始めたのは国家解体戦争が始まった時だ。」 

 

「国家解体戦争以前に、アナトリアに目をつけていたっていうのか?」

 

国家解体戦争が始まる以前、アナトリアは何の変哲も無いコロニーだった。

民族浄化戦争の影響によるトルコ崩壊、その後にまともに残った政権であり義肢技術という持ち味を押し出す典型的なコロニー。

 

それを事前に戦争の要と見る人間がいたという事。

 

「アナトリアの先を見据えた存在…。私はな、こいつらを【乱入者】の手持ちと考えてる。」

 

「【乱入者】!?何でだ?」

 

ストレイドの意見に思わずUnknownは聞き返す。

 

「一体何の話何なんだ?」

 

「エミール、しばらくこっちの話になるが許してくれ。…アナトリアが戦争において重要なファクターを握るなんて誰も予測できるはずが無い。それこそ『未来を知らなければ』な。」

 

「未来が分かる存在…俺達や【厄災】?」

 

「【乱入者】もまた、別世界から来たはずだ。この未来を知っていた可能性は十分ある。」

 

「じゃあ、一体どうして【厄災】じゃないんだ?あいつだって十分やりうることだろ。」

 

「あいつなら確実に私達を出し抜いてアイザックをアナトリアから逃がすはずだ。あいつは私達の戦力をある程度把握しているはず。」

 

そういうと、ストレイドは資料のあるページを開き、指差す。

AIRについての報告だ。

 

「そんなやつが私達のガレージに直接こんなものを配置するとは考えづらい。」

 

「戦力が分かっているなら、アナトリアの軍勢とまとめて足止めをすればいい。というかあいつなら人の前で俺達が本気を出せない事を知っている、か。なるほど。」

 

資料から顔を上げるストレイド。

その眼光は朝日に照らされいつも以上に輝いているようにも見える。

 

「AIR配備の目的は私達の戦力評価。わざわざそんなことするなら…」

 

「白兵戦も考慮にいれた、殴り込みのためのデータとりなわけか。」

 

二人の頭にあるのは同じ言葉だった。

 

 

 

 

FGW本拠地の襲撃。

 

 

 

「奴の居場所と目的を割り出さないとな。」

 

もしかしたら、意味の無い潰し合いかも知れないのだから。

 

私達は奴の事を知らな過ぎる。

 

 

「フィオナさん、まだ部屋から出てこないんですか?」

 

「ああ。あいつ、昨夜俺が見たことも無いぐらい泣きつづけていたからな。泣き疲れたんだろう。」

 

ユーリックさんからの電話で呼び出され、俺と紫蘭はホテル近くの公園までやってきた。

 

フィオナさんに見せる顔が無いと拒否していた紫蘭だが、俺が、今後そんな調子で話さない訳にはいかないだろう、と説得して、どうにか連れてきた。

 

だが、肝心のフィオナさんはショックでまだ立ち直れていないようだ。

 

「教授の葬儀は明日だ。間に合うなら来てくれると嬉しい。」

 

「そのつもりです。便は夜中なので最初の方には出れるかと。」

 

紫蘭の命の恩人で、自らが関わった人間なのだ。葬儀にちっとも出ないような薄情な人間のつもりは無い。

 

「また、助けられたな。」

 

「教授を助けられてません。紫蘭の恩人を守れなかった…俺の力不足です。」

 

その言葉に、紫蘭はビクッと肩を跳ね上げた。

 

あの事を紫蘭はまだ気にしているらしい。

いくら元の手先が器用でも、初めてで、義手が半壊しているのに止血帯がうまく巻ける訳が無いのだ。

むしろ、初めてなのにあそこまで冷静に処置していたのを褒められていいぐらいなんだが。

 

「それを言うなら、俺もだ。たかがノーマルと通常兵器に足止めを喰らって、ヘリの降下を許したんだ。」

 

そういうとユーリックさんは言葉を区切り、あらためて切り出してきた。

 

「アキレス、頼みがある。」

 

「急にどうしたんですか?僕にできることなら、何でも。」

 

それは、俺にとっては予想外の言葉だった。

 

「俺とエキシビションマッチしてくれないか。」

 

周りの木々なさざめきが遠くなって気がした。

 

「そんな、エキシビションマッチって…俺ランク36ですよ。いくら何でも…」

 

「待って、どういうこと?」

 

アリーナのシステムを知らない紫蘭はキョトンとしている。

それにこたえるユーリックさん。

 

「アリーナっていうのは基本的に一つ上の、もしくは同ランク帯のレイヴンに対して挑戦し、勝利して順位を上げていくものだ。だが、上位のレイヴンは下位のレイヴンに対してこうやって対戦を申し込める。」

 

予想外な発言に俺はタジタジになってしまった。

だって今まで憧れというか、目標だった人に唐突にマッチングを要求されたのだ。

誰だって焦るだろう。

 

「36か、十分だ。しばらくアリーナ行ってなかった分を含めれば不足も不満も出ないはずだ。」

 

「待ってください、心の準備が全然できません!!っていうか俺のACは今なくて…」

 

「何もすぐにやろうというわけじゃない、6日後、東京の有沢アリーナあたりでどうだ?別に何か取ろうってわけじゃない。ACも四日あれば用意できるだろ。」

 

確かに悪くない。

今の自分の腕を確かめるのにいい機会だ。

ACの問題を除けば特に問題はない

 

「ACはまだわかりませんがそのエキシビジョンマッチ、受けさせていただきます。」

 

俺は力強く宣言する。

その答えにユーリックさんは挑発的な笑みを浮かべてこちらを見る。

 

「全力で来てくれ。こちらも手加減はしない。」

 

「望むところです。」

 

そのあと、世間話をいくらかはさみユーリックさんと別れた。

 

紫蘭は終始ハラハラしていたが、恐らくこれから対戦する二人が普通に会話していたのが気が気でなかったんだろう。

 

 

「日本に帰ったらACを組みなおすの?」

 

「まあな。商売道具をいつまでも壊れてままっていうのも問題だからな。」

 

私と練は帰るための荷造りをしていた。

博士の葬儀に出るのだから余裕をもっていかなければならない。

 

「でさ、一つ大きな問題を忘れてない?」

 

「ン?なんだ?」

 

「お医者さんの言葉忘れてたの?」

 

「…あ、あぁぁぁ!!!俺一応リハビリ期間だったぁ!」

 

頭を抱えてベットに頭を突っ込んだ。

思ったよりリアクションが大きい。

 

「全然動けてて問題なかったから忘れてたぁ…せっかくのエキシビションマッチなのにぃ。」

 

そして落ち込んでる。

実は先日そのお医者さんと連絡を取っていたのだが、いつ話そうか。

当の練は練は頭をベットに擦り付けてブツブツ呟いている。

 

「こっそりやるか?…いやあの人たちの目をかいくぐれるわけないし。ええっと。」

 

これは早く言っておかないとまずい事になりそうだ。

しかし、いいものが見れた。

 

「いや、ごめんね。そのお医者さんから電話が来てさ。」

 

「ゑ?」

 

練は跳ねるようにベットから頭を離した。

 

「ざっくり言うと『先日の件で気づいてたかもしれないけど、一か月は嘘。だけど簡単に治るからって前みたいな無茶は許さないって』さ。」

 

「それさぁ…早く言ってよぉ。」

 

崩れ落ちる練。

 

「ふっふっふ。お医者さんの言葉を思い出して慌てふためく姿はお笑いだったよ。」

 

某野菜人の声真似をしつつ、胸を張って見せる。

最近こういうの風にいじくるのが楽しくて仕方ない。やりすぎて嫌われないように気を付けないと。

 

「まあ、それは置いといてさ。機体はどうするの?」

 

実際問題、機体が無ければエキシビションマッチどころかレイヴンとして戦うことすらできない。

それについては練があっさり答えた。

 

「ああ、使わなかったパーツがいくらかあるから大丈夫だ。最悪必要だったら買えばいいし。」

 

「フーン、そうなんだ。なんかつまんないな。」

 

「つまんないとはなんだ!そんなトラブって欲しいのか、俺に。」

 

むすっとした顔で練は「俺が先でいいよな。」っと言ってシャワールームに入っていった。

ちょっと意地悪すぎたかな。

そういって私も荷造りに戻ろうとして、カバンを開いて中身を確認する。

 

そして、ふと左手が目線の先に来た。

 

 

 

____これは…

 

FGWのお医者さんは何を見てつぶやいたのだろう

 

 

____君の義肢はその光ファイバーの信号を利用しているから回線の一部が少し特殊なんだ。

 

特殊…何かあったとき私の体は誰が直してくれるの?

 

 

思い返して、急に義手の繋ぎ目が気になり始めた。

そしてだんだんリンクスになったこの身が怖くなりだした。

 

担当していた教授はこの世にいない。私が守り切れなかったのだから。

 

本当にこの体について理解してる人間がいない。

そう思うと今まで何とも思ってこなかった事が恐ろしく感じられた。

不思議と私の手がシャツの裾に伸びていく。

 

 

真っ暗な空が空港の外に広がっていた。

 

最終便で、このアナトリアを離れる。

しばらくはFGWのレイヴンがアナトリアに駐留するそうなのでどこかが本腰入れて潰しに来ない限りは大丈夫だろう。

 

「しかし、途中なのに見送りありがとうございます。」

 

「大丈夫だ。…だが、本当に何があったんだ?フィオナがあんな機嫌悪いところ初めて見たぞ。」

 

「それは…いろいろありまして…。」

 

紫蘭が咄嗟に顔を背けた。

昨夜、気を取り直したフィオナさんが元の人工皮膚付きの義手を渡しに来てくれたのだが、そこでちょっとトラブルが発生したのだ。

まあ、それは省かせていただく。

 

「そういうのなら聞かないでおこう…。二度目になるがエキシビションマッチ、手を抜くつもりはない。」

 

「その全力に応えるべく、こちらも全力で行きます。手を抜かれたら逆に困りますよ。」

 

その時、乗機のアナウンスが空港に流れた。

紫蘭が切り出す。

 

「時間みたいです。では、また。」

 

「ああ、アリーナで会おう。」

 

そうして、俺たち二人はアナトリアを離れた。

 

 

 

 

「で、これはどういうことですか?川城主任。」

 

「何も、先日送られてきた設計図をもとに組んだ機体だよ。アキレス。」

 

「設計図を送った記憶はないですし、カラーリングも変えろといった記憶はありませんが。」

 

帰国し、呼び出された自分のガレージにはすでに新しいACが組まれていた。

 

「改造してませんよね。」

 

「何を言う。設計図を組んだというのはそういうことだろう。」

 

思わず頭を抱える。

なんだかんだ言ってこの人も技術者なのだ。こういうところで齟齬が起こってしまうと非常につらい。

 

「安心しろ、戦闘モードの性能は何もなければ変化していない。普通に使う分にはこれといって何の変哲のないオーダーだ。パーツの性能も変わっていないぞ。」

 

「その何かが起こったらどうするんです。」

 

「安心しろ。少なくとも四日後の試合では起きない。乱入者が無ければな。」

 

その条件を聞かないと安心できないのは俺だけでないはず。

本当に何してくださったんですか。

 

「ちなみに、この設計図はあのオヤジから死ぬ前日に送られたものだ。」

 

「それ、先に言ってくださいよ!!!」

 

なんですか、言い返せなくなるじゃないですか。

 

「あとカラーリングだが、おたくの彼女が考案したものだ。」

 

何やってんだ!紫蘭ーー!

まあ、そこまで変わってないから文句もつけづらいんだけどさ。

 

「彼女曰く、一番最初のカラーリングもよかったけど今のもありだから混ぜてしまおう、とのことだ。」

 

全く、あいつは。

 

「で、その機体で行くの?」

 

シャルさんが俺の横まで歩いてきていた。

 

「ええ、ここまでお膳立てされて首横には触れませんから。」

 

俺は機体に目を向けたまま答える。

流石に今から変えろとは言えない。

 

「じゃあ、機体に慣れなきゃ。シミュレーション、付き合うよ。」

 

「お言葉に甘えて。」

 

改造パーツということは対応パーツが出来上がるまでアセンができない。

ならこの機体構成で戦うしかないのだ。

 

俺とシャルさんは部屋の奥へと歩みを進めていく。

 

 




二人の例外が、次回、衝突する


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ぶつかる二人

遂に二人の例外が相まみえる。

ACの画像は後日にさせてください…(撮影忘れてた)
本当はあとがきに挿絵で入れたかったのですが…。

追記6/2

挿絵を入れました



そこから四日間はとても短く感じられたし、長くもあった気がする。

だが、どちらにしろこの日が来たのだ。

 

エキシビションマッチの日が。

 

観客席は時間帯的に結構埋まっていた。

何しろエキシビションマッチの時間はトップランカーたちの試合の合間に割り込む形で入れられる。

つまり、つまらない試合は見せられない。

 

ひしめく沢山の観客、その中にはフィオナさんや紫蘭たちがいる。

 

『それがお前の新しいACか。』

 

「ええ、ユーリックさんも変えましたか?」

 

『いつものことだ。気にすることじゃない。』

 

お互い事も無げに答える。

会話していても、二人の目は相手のACを捉えて離さない。

 

外では観衆が声を上げ、実況がそれをヒートアップしていく。

 

 

だが、そんなことはどうだってよかった。

 

 

(目の前に超えるべき壁がある。突破するまで。)

 

練__アキレスはその心に静かに火を灯す。

 

『先手はくれてやる、存分に来い。』

 

「ブザーと同時で構いませんよ。そんな都合よく始まるんじゃつまりません。」

 

『言うようになったな。後悔するなよ。』

 

「するとしても、それは自分の弱さですよ。」

 

 

 

期待の新星とトップランカーというカードに会場はヒートアップしていた。

目の前の大型ホログラムには

 

 

アキレス U.N.オーエン

VS

チェインド  ラプター

 

 

の表示があった。

 

「二人の相性とかってどうなんです。」

 

紫蘭は詳しいであろうシャルに意見を求めた。

 

「正直、アキレスは少し厳しいわね。お互い相手の行動に適切な対処を返していく戦闘スタイル。ゆえに経験が多いユーリックは明らかに上手になってくる。持ってるカードが違うのよ。」

 

「それに武装、アセンにも問題がある。練は装甲を削った中量二脚に、ショートレンジのマシンガンとミドルレンジのマイクロミサイル。U.N.オーエンはマイクロミサイルは同じだがダブルライフル、マシンガンよりも距離を取って一方的につぶす算段だ。」

 

ストレイドが補足をする。

 

「厄介なのはU.NオーエンはOBコアだってこと。レンジの差を押し返す機動性も腕次第で盛り返させる。」

 

「そんなに不利なんですか…練、負けないとはいかなくても、ちゃんと戦えるんでしょうか。」

 

すごい不利だという二人の意見に不安が倍増した紫蘭は尋ねた。

 

「…すまんな、思いっきりマイナスしか言ってなかったな。相性はよくはないがやりようはいくらでもある。」

 

「練のアセンは瞬間火力に特化してる。隙を見せたところに接近して畳みかけていければいいし、右手は弾に余裕があるから弾幕で牽制はできる。」

 

「つまり、お互いに距離の管理が勝敗を分けるはずだ。」

 

 

 

「なあ、アキレス。」

 

「なんです。」

 

試合開始直前でまたユーリックさんが語りかけてきた。

 

『通信、繋いだままにしないか。』

 

「藪から棒になんです?あなたに限って下らないことはしないでしょうからいいですけど…」

 

「いや、思うところがあってな。語りながら戦うのはジャパニーズアニメではよくあるだろ。」

 

「余り話す余裕はないですから、期待に沿えるかわかりませんけど。」

 

なにか、ちょっといつもと違うユーリックさんに疑問符が浮かぶものの、すぐに試合に意識を向ける。

さっき言ったことから考えるに、その疑問はどうせ試合の中で晴れるだろう。

 

試合開始のカウントダウンが迫る。

 

今は限界まで戦いきるだけ。

いつも通り本気ぶつかって、壊しつくすだけ。

 

アキレスは大きく息を吸い込み。

 

 

 

 

 

ブザーが大きく試合会場に響く。

 

 

 

それと同時にお互いが左に旋回しだした。

チェインドは右手のマシンガンのトリガーを引いて牽制する。

ラプターもライフルで応射し火線が両者の間で飛び交った。

 

こちらの弾もライフル弾もお互いの機体の各所を掠めていく。

APの減りはほとんどなかった。

その時だった。

 

「お前はなんのために戦う。」

 

ユーリックはOBを起動、背中に光が集まり一気に左へと吹っ飛ぶように飛んで行った。

無論マシンガンはロックが外れ、弾丸が虚しく空を切る。

アキレスはチェインドの武装をミサイルに切り替えロックして撃ち放つが、ラプターはさらにOBで右に飛ぶ。当然ミサイルはラプターに追いつくことなく地面に激突した。

 

「それは…」

 

距離が縮まったことを受けて、アキレスは被弾を無視して一気に懐に潜り込む。

 

「日常ってやつに帰りたいからですよ!!」

 

アキレスは両手のマシンガンをここぞとばかりに撃ち込み、今まで火力の差でできていたAP差を一気に削る

 

「ちぃ…なら、わざわざ戦うこともない!」

 

ラプターの肩の装甲が展開、そこからいくつもの球体が放たれ爆発した。

 

吸着地雷だ。

 

それは放物線を描き、チェインドの足を中心にダメージを与える。

 

「地雷をこう使うのか!」

 

「お前らの居場所はいくらでもある!わざわざレイヴンなんて続ける必要も無いだろう!」

 

「まず、レイヴンに戦う理由を聞くのもどうかと!」

 

爆風にあおられてなお、爆炎にマシンガンを撃ち続ける。

だが、突風が吹き荒れる。煙が晴れ、撃った先に誰もいなかったことが明らかになった。

 

「どこに…」

 

レーダーの光点は…左。

 

ラプターは右にOBか…。

 

その思考の直後、ラプターのいる方角からマイクロミサイルが迫っていた。

右手のマシンガンで堕としつつ、出方を伺う。

それが隙だといわんばかりに容赦なく撃ち込まれるライフル。それを間一髪でかわし、小ジャンプでラプターの周りを回りつつマシンガンを撃った。

レンジの関係から撃ち辛いことこの上ない状況に、アキレスはもどかしさを感じる。

 

『ああ、確かに野暮ったいだろうな。だが…』

 

ラプターはさらにOBで突っ込んできた。

対するチェインドは左マシンガンをトリガーして弾幕を濃くする。

 

「その強さ、何処から来るのか知りたいだけだ!」

 

その濃密な弾幕を身に受けつつも、彼は止まらない。

 

「なぁっ!!」

 

攻撃に回っていたアキレスは動けず、速度の乗った後ろ回し蹴りがチェインドの鳩尾にめり込んだ。

そのままチェインドは吹き飛ばされ、背中で一回バウンドした後に一回転して着地、地面に大きな傷を残しつつ止まった。

 

「…明らかにそっちが、強いでしょうに。」

 

アキレスが顔を上げるとすでにOBでライフルのレンジまでラプターが距離を詰めている。

アキレスはそこにマイクロミサイルを撃ちつつ小ジャンプでジグザグに進みさらに接近。両手のマシンガンが火を噴いた。

 

 

 

 

「なんだ、あの動き…。ユーリック、いったいどんな手品を使った?」

 

ストレイドは呟く。

その言葉に紫蘭は首を傾けた。

 

「いったいどういうことです?私にはさっぱりで…」

 

そこまで変わった動きはしてないように思える。

しいて言うならユーリックさんがOBを多用していることぐらいだが…

 

「あんなにOBを連発したり小ジャンプ中に使用するのがおかしいのよ。ふつうは発熱でオーバーヒートしてるはずなの。」

 

「反則してる…ていうわけじゃないですよね。あの人に限って。」

 

「機体が重く感じる。おそらくラジエーターを強化したんでしょう。この戦い方をするために。」

 

紫蘭はその戦い方に違和感を感じつつあった。

 

 

 

 

マシンガンがOBによってまた回避され、視界右にラプターが消えた。

視界に捉えなおすが、またOBで左へと跳ぶ。

 

「この動き…オーエンさんあなたは…」

 

「俺は、あいつに…紫蘭に対抗できる自信はない。」

 

放たれるライフルの弾丸を小ジャンプ機動で左右に躱す。

素の機動力はチェインドが上なので、二機の距離は徐々に縮まっていった。

 

「だが、お前は立ち向かった。そのお前に勝てないようでは」

 

そこでラプターがOBを起動し、一気に距離が離れる。

 

「フィオナを護れない!」

 

マイクロミサイルが放たれた。その間もライフルの弾幕は途切れない。

こちらを近づける気はさらさら無いらしい。

 

マイクロミサイルを左手のマシンガンで打ち落とすアキレス。

だが彼はその距離を詰めようとせず、ラプターに直接攻撃はしなかった。

 

なぜなら、待っているからだ。

有利になる瞬間を。

 

「あなた一人で背負い込むことはないでしょうに…っとっと」

 

片足で着地した際にバランスを崩しかけるが立て直す。右にステップを踏めば、元居たところをライフルの火線が穿った。

 

その隙をついたラプターがマイクロミサイルをさらに発射。

アキレスは再び迫りくるマイクロミサイルを、射線に乗せたマイクロミサイルで相殺する。

そうしてできた煙幕を、ラプターはOBで抜けてきた。

 

「不利な機体で接近戦なんて!!」

 

その直線的な動きに回し蹴りを叩き込む。それはラプターのコア上部強かに吹き飛ばすが、肉を切らせて骨を断つと言わんばかりにインサイドから地雷が放出された。

 

体勢を低くとるが、そのうちの一つを避けきれず爆発、その爆発が連鎖的に広がりチェインドを焦がした。

 

「これが俺が探した答えだ!!」

 

「ネクストに対抗するための…なら、その距離じゃPAで!」

 

爆炎の中、一歩前に出て左マシンガンを至近距離で乱射した。

ラプターのAPは一気に削れるが、1秒と経たず弾丸の放出が止まる。

 

「弾数確認を怠るか!」

 

「それが仇だ。」

 

インサイドを放とうとしているラプターの眼前に、弾切れのマシンガンを放って全速で後退した。

そして、放出した地雷がマシンガンに吸着して落下、それがラプターに反応して爆発…。

 

 

 

 

 

「なぜ接近したの!」

 

 

会場は接近戦によって沸いていたが、フィオナがアセンに合わないユーリックの行動に思わず批判の声を上げる。

彼女も武器の得意レンジ程度は把握していた。

隣に護衛としていた緋芽は彼女に自らの考察を話す。

 

「アキレスの意図を察したからよ。」

 

「練君の?一体どういう?」

 

「ライフルの継戦能力はマシンガンより低い。だから、弾切れを誘ったの。」

 

つまり、先程のアキレスの攻撃頻度の低下は弾薬の温存ということになる。

そこまで至ったフィオナは口を開いた。

 

「じゃあ今の接近は…」

 

「ジリ貧になる前にラッシュを掛けたかったからね。差を作ってしばらく引きに徹したかっただろうけど。」

 

 

 

 

「まだ甘いぞ。」

 

OBで爆発寸前に離脱したラプターがマイクロミサイルを撃ちきりパージする。

その間もラプターは後退を続ける。

ミサイルの第1波のいくつかがチェインドの真横で近接信管が作動。高速の破片が装甲を削った。

 

「俺はただ戦いのない場所に戻る事を言ったんじゃありません。」

 

全速力でラプターに向かうチェインドの左手がコアに伸び、そこから格納していたブレードを引き抜く。

続く第二波のマイクロミサイルのうち数発をマシンガンで打ち落とすと速度を緩めず残りのミサイルに向かって行った。

 

「俺は紫蘭と一緒に『今あったはずの時間』が欲しいんです!」

 

そう言うと、チェインドがブレードを振りかぶる。

彼の感情を乗せたブレードは残っていたマイクロミサイルを叩き斬った。

 

彼らは周りに病気として扱われている。

万が一その状態で周りにいたであろう人と会ってしまえば大騒ぎだ。

すでに企業側ではないが、見逃してくれているのはたかが一レイヴンにしかすぎないからでしかない。企業の存在を揺るがす事態にもなれば黙ってはいないだろう。

 

この戦争とその暗黙の協定に片が付いて、自分が役目御免になるまでは大手を振って日常に回帰することはできない。

 

「本当はもう取り戻せないものかもしれない!けど!」

 

ラプターは接近して来るチェインドに相対し、OBで距離を詰める。

ぐっと縮まる二機の空間。

 

その中でアキレス、練が叫ぶ。

 

「それが、俺の戦う理由だ!」

 

チェインドのブレードが唐竹割の如く振るわれる。

 

 

 

 

 

 

「そうか…」

 

 

 

 

 

()()()()()()()が真っ二つに切り裂かれた。

 

弾薬がまだ残っていたため、誘爆しチェインドを吹き飛ばした。

 

「ライフルだけ残して離脱か!」

 

その煙を晴らすように、一発の弾丸がチェインドの頭部に突き刺さる。

 

 

 

 

「そうか、もっと望んでいいのか。」

 

ゆっくりと歩み寄るラプター。

 

「自らの望みのために、いくらでも手を伸ばせばいいのか!」

 

右手にハンドガンが、左手にブレードが装備されている。

 

彼は思う。

 

自らに足りなかったのは、求める心だ。

自分の大切なものを護りたいという気持ちは確かに本物だった。

だが、ネクストを見た途端に、自分には無理だ、届かないと簡単に諦めていたのだ。

本当に護りたいなら、いくらでも強くなればいい。

 

それこそどんな手を使っても。

だから、彼はネクストに挑んだ。

 

「感謝するぞ!アキレス!」

 

彼はOBでチェインドに迫る。

恐ろしいことに、OBを使っている最中にもかかわらず、彼はハンドガンで的確に、地雷などでダメージを負っている脚部に射撃してきた。

 

「何当たり前のことを!」

 

アキレスは笑顔のままフットペダルを限界まで踏み込み、機体を最大推力で上昇させる。

脚部を狙った弾丸がチェインドの足首あたりを通り過ぎていった。

 

そのまま射程ぎりぎりの位置にいるラプターにマシンガンを向け乱射する。

狙いの大雑把な射撃かつトップアタックという対応の難しい攻撃に対し、ユーリックはOBを切ると再度起動。右に勢い良く跳ぶとハンドガンを応射。

 

熱とエネルギーの限界が来て降下し始めたチェインドにハンドガンの弾丸が突き刺さる。

チェインドの着地点に陣取るラプターから延々と放たれる弾丸がチェインドを襲い続けた。

蓄積する熱でなったオーバーヒートに構わず、アキレスはマイクロミサイルをばら撒く。

 

それに対し、ユーリックは残り少ない吸着地雷を放出して相殺した。

 

「残り2セット…まだ使いどころはある!」

 

そのまま爆炎を突っ切ってきたチェインドをブレードで切り裂きにかかるが、チェインドは冷却に使われ残り少ないエネルギーを使い、無理やりバック宙をした。その際マシンガンを放り投げて。

 

結果、ユーリックはマシンガンを切り裂き、残っていた弾薬の爆発でラプターのAPを持っていった。

 

「弾薬が残っている間にパージすればこういう使い方ができる。それを教えてくれたのは…」

 

コアからリボルバーを引き抜き、一拍おいたのちに回復したエネルギーで一気に距離を詰めるチェインド。

 

「あなたですよ!」

 

そのまま煙の中に突っ込んだ。

その先にはラプター。

 

 

 

 

がいない。

 

 

 

 

「なっ!」

 

「わかりやすいぞ!アキレスは!」

 

その時、左から弾丸が飛んできた。レーダーを確認しなかった自分のミスだ、とアキレスは舌打ちする。

煙のふちで機体を隠しての奇襲。しかも後退して煙の中に隠れていくから質が悪い。

 

アキレスもレーダーを頼りにリボルバーを応射する。

ライフルにも匹敵する弾丸が銃身から吐き出され、それが煙の中にいるラプターの右側頭部を削っていった。

 

しかし、ラプターは射程ぎりぎりで引き撃ちに徹する。

お互いの射撃戦は長くは続かない。

 

「リロード…」

 

リボルバーは6発しか弾が入らないため、リロードが頻繫に発生する上、それは短くない。

その隙をついてユーリックはOBで引き撃ちから一気に接近へとシフトする。

そのままブレードを発振させ、勢いのままコアめがけて振り抜いたそのラプターの攻撃を、姿勢を深く沈めることでチェインドは回避する。

そこから放たれたチェインドは掬い上げるように斬撃は、右足を一歩引いたラプターを捉えず空を切った。

リロードが終わったことを確認したアキレスはブースターを全開にして後退。

逃がすまいとラプターから放たれた地雷を袈裟斬りにして無力化して距離を取るが、ユーリックはその空間はOBによって踏みつぶす。

 

「しつこい人は嫌われますよ!」

 

「これは張り付きっていう立派な戦法だ!アキレス!」

 

ブレードの冷却が終わらないチェインドに放たれた容赦ない唐竹割りは、チェインドのコアの先端を焦がした。

だが、ブレード攻撃によってできた隙にアキレスはリボルバーをコアに押し付けて三回発砲し、ラプターの装甲を穿つ。

仰け反ったラプターに続けて放たれたチェインドの左足による回し蹴りをユーリックは敢えてそのまま倒れることで回避。地面に背中を打ち付ける前にフットペダルをベタ踏みして不自然な角度で停止、足のブースタまで使用しサマーソルトキックまでもっていく。

 

後退しぎりぎりで躱すが、チェインドは体勢を崩して大きな隙ができてしまった。

 

「まずいッ!」

 

「そこだ!」

 

きれいな一回転を決めたのちに着地してハンドガンの引き金を引いたユーリック。

前傾姿勢になっていたチェインド、そのコア上面に一発が命中したが、そこでユーリックにトラブルが発生する。

 

「ジャムだと!こんな時に…」

 

無理な機動をしたせいで、彼のハンドガンが排莢できず動作不良を起こしてしまう。

この好機を逃すまいとアキレスは崩れた体勢のまま無理やりリボルバーを撃ち放った。

しかし、OBで一瞬のうちに加速したラプターを捉えることはなく、リボルバーの弾倉の弾を無駄にしてしまう。

 

お互い短い時間だが、武装がブレードのみになった。

起動したOBで接近するラプター。

リボルバーの弾倉をスライドしリロードに備えつつ、迎え討つチェインド。

両者ブレードが発振し、アキレスは一文字に、ユーリックは袈裟斬りに構え交錯するのを待つ。

 

直前でユーリックはOBを切り、タイミングを外そうとするがアキレスはそれに引っ掛からない。

そのまま、全くお互いにブレードが振るわれる。

 

 

 

 

「「なっ!!」」

 

 

その光の刃は、お互いの機体を捉えることは無かった。

 

 

チェインドはラプターの左腕をリボルバーのせり出していた弾倉に打ち当てた後、受け流した。

その結果、非常時に使われるエジェクターロット(※)をラプターの右手が叩き、強制排莢される。

よって後は弾倉に弾薬を装填するだけになった。

 

※エジェクターロット

リボルバーのうち弾倉が横にスライドするタイプで、撃ち切ったときに薬莢を取り出すのに使う棒状のパーツ。ここを押し込めば薬莢が勝手に手前に抜け落ちる。

ACの装備なのでいつもは自動で排莢されるが、万が一にと装備されていた。

 

 

対してラプターはチェインドの左肘をハンドガンを持つ右肘で押さえつけている。

その衝突の衝撃で、薬莢が内部が弾き飛ばされた。

カチャンと小気味良い音とともに次弾が装填…。

 

両者、狙った動きではなかった。

だが、結果的にお互いが射撃戦に移行する時間が短くなるという予想外が起こったのだ。

 

先程の動きを逆再生するようにお互いの距離が離れた。

二人の頭の中にあったのは同じ事だ。

 

__先に当てたほうが勝つ。

 

(残り六発。いい数字だ。)

 

装填してある弾数を確認し終わり、装填が終わっていたユーリックが先に一射。

それを左足を軸にターンして躱すと同時に装填を終えたチェインドがお返しに、と発砲した。

 

コアめがけたそれを左に身をそらし回避し、鋭い小ジャンプで接近しつつ二発撃つラプター。

弾道を読み、素早いステップという最小限の動きで躱して二発撃つチェインド。

その二発は小ジャンプをしていたラプターを捉えることはなかった。

 

すぐそばまで迫るラプター。さらにOBを瞬間的に発動、フェイントじみた動きを交えつつ、左腕のブレードを起動する。

リボルバーの発射間隔ぎりぎりで真一文字に振るわれるであろうそれを、ブレードを縦に振ることで何とか受け止めた。

 

「何とかこれで!」

 

後は早撃ち勝負。

アキレスはそう意気込んで、右手がラプターの頭部に向けロックをする。

アキレスは最後のトリガーを押し込む

 

 

はずだった。

 

 

だが、その直前にラプターが一歩引いた。

体勢が崩れてリボルバーがあらぬ方向に向き、地面を穿つ。

 

「そんな!グワッ!?」

 

その直後、激しい衝撃が彼を襲う。

気づけば彼も彼の機体も仰向けになっていた。

 

「敵の装備を常に頭の中に入れておくことだな。アキレス。」

 

 

 

 

 

 

静寂に会場が包まれる。

 

「あーやっちまったな。」

 

「ちょっと待ってください何が起こったんです!?」

 

紫蘭の目にはラプターが一歩引いた直後、チェインドが唐突に爆発したように見えた。

隣のストレイドはやれやれと首を振り、シャルは額に手を当て空を仰いでいる。

 

「吸着地雷をゼロ距離で使用したのさ。丁寧にも巻き込まれることのないように一歩引いてからな。」

 

「ハンドガンでの早撃ちを想定してたから、完全に裏をかかれたのよ。全く機体制御できずにまともに食らっちゃったのね。」

 

煙が晴れた先には煤だらけになったチェインドが大の字になっていた。

 

ちなみにどうでもいい話だが、すべての弾丸が模擬弾のアリーナ戦では爆発兵装の火薬とその爆発時の温度も抑えられている。その影響で、逆に不完全燃焼を起こしやすく、ACがよく煤まみれになる。

どれほどかというと、アリーナの運営費用の明細書で修理費と洗浄費が別に書かれるほど。

 

そんなわけで、新品同然だった機体が黒焦げになってしまったのを見て、彼の敗北を余計残念に思う紫蘭だった。

 

 

 

 

「くっそぉぉぉぉぉぉ!まけたぁ。」

 

コックピットで脱力しつつ声を上げるアキレス。

悔しかったが、また楽しくもあったため心地よい疲労感があった。

 

『正直ここまで俺を追い詰めるのは、シャル辺りの上位ランカー達だからな。胸張っていいと思うぞ。』

 

「負けは負けです。…最後、たるんだなぁ…。」

 

ユーリックはその様子を見て、ラプターの右腕をチェインドに差し出した。

 

『おかげでこっちも新しい発見があったんだ。ありがとうな。』

 

「こちらも、貴重な経験をさせていただき、ありがとうございます。」

 

二機のACの手はがっしりと握られた。

 

 

それを境に会場は今までにないほどの歓声に包まれる。

 

「どうやら無残に敗北しないって最低目標は達成できました…」

 

「そんなこと言うなよ。」

 

そういうとわざわざウィンドウを開き、アキレスに顔を見せてまでユーリックは言う。

 

「俺が保証する。お前は十分トップランカーといえる力がある。」

 

「『伝説』の言葉、信じますよ?」

 

拮抗するも、あと一歩届かない。

アキレスの中で憧れである『伝説』は、少なくともまだ憧れのままであった。




地味にユーリックにもフラグが

追加の挿絵です

チェインド初期状態

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ラプター

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日和見だと印象悪いけど中立って言うとマシに聞こえるよね。

最近題名に頭悩ませる日々が続いてます。


「さて、そろそろこの戦争の着地点を見出さなきゃいけない時期なんだけど。」

 

右手に杯を持ち切り出すUknownさん(女性)

 

有沢アリーナでの試合から数日たった。

俺達はシャル宅のリビングを使って行われた、FGW現地組の会議にお邪魔させてもらっている。

紫蘭は完全なおまけだが、一応俺はFGWの戦力としてすっかりなじんで、頭数として数えられ始めているので問題ないはず。

 

「ネクストは国家解体戦争時のものが揃いつつある。アナトリアが財源としてAMSを使い始めたのは流石にお咎めなしで。」

 

「経済の首絞めて崩壊っていうのは後味悪いもんね。」

 

ネクストの拡大は防げなかったらしい。

願わくばコジマ粒子拡散に対し何かしら条約が作られることを祈るばかりである。

 

「そういえば紫蘭に提案があるんだけど。」

 

unknownさんが紫蘭に切り出す。

 

「アナトリアから、今ならAMS売ってるコネでどこのネクストも手に入るって。戦い続けるかは別にして、自分に合ったネクストを今のうちに選んどいたほうがいいわ。」

 

既に紫蘭は自分の意思をFGW側に伝えてある。

 

その時のストレイドさん曰く

 

「居場所は作っといてやる。後は紫蘭が依頼受けるかだ。」

 

だそうで、強制も否定もしないらしい。

そのストレイドさんが口を開いた。

 

「ネクストはオーダーよりも機体の個性が強い。フレームとかは標準機のまま使われることなんてザラだからな。シミュレーターは開けとくからいろいろ触れるといい。」

 

「…分かりました。決まり次第お伝えします。」

 

一瞬間を置いたのち、先延ばしのような回答をした。

これからの事だから短くても時間が欲しいのだろう。

 

「さて次だが、情勢について裏もまとめて共有しておこう。」

 

そういうと、ホログラムが部屋の真ん中に現れる。

見やすくするために簡略化された地球がそこに浮いていた。

解説役はシャルさんだ。

 

「特筆すべきはレイレナード。ここは急に通常兵器の投入が少しだけど増えた。基本この前開発されたハイエンドとネクストを前面とした戦力構成だったはずなんだけど。」

 

カナダ付近に戦力量を表したグラフが表示される。

 

「あのAIRも製造自体はレイレナードがしていたもの。秘密裏に戦場に投入が確認され、すべてレイレナード側で運用されていることも確認済み。急に新型の通常兵器を作り出してきてる。」

 

「社の方向転換…タイミング的にリスクがでかいな。」

 

ストレイドさんが顎に手を置く。

今まで最新技術、先鋭少数をメインで数を他社に頼っていたレイレナードが通常兵器の増産に移るのは不自然だ。

 

「考察は少し後に。」

 

シャルさんによって先が促され、次へと思考が移る。

 

「オーメル、ローゼンタールは大きな動きはない。戦線上で小競り合いが起こっている程度。正直これ以上消耗したがらないだろうから、停戦になればあっさり手を引くわね。」

 

「オーメルは賢いところのはずだから。どうせ次に備え始めてるはず。」

 

unknownさんが不機嫌そうにつぶやく。

この人、あまりオーメルにいい印象を抱いてないのか、この会社の話になると機嫌を悪くする。

 

「ただ、AMSを除いてこの会社だけでネクストを開発し、成功させてる。注意して損はないはず。実際ここにオーメルのネクストのリンクスがいるから。」

 

何人かの目が無意識のうちに紫蘭に行くが、当の本人は大して気にしていない様子だ。

 

「レオーネメカニカは来るなら迎え撃つ構え。戦線に戦力を駐留させ抗戦の用意をしてるけど、戦争が終わりそうになったらすぐに手を引く。幾らかきな臭いうわさ話は上がってるけど、詳細は調査中。」

 

「GAだけど方針は知っての通り。問題はネクスト開発の遅れからリンクスの育成が遅れてる。ネクストも国連で使えるのはGA、BFFとイクバール。他は所属を疑われるから使用は控えて。」

 

シャルさんがストレイドさんと隣に座るunknownさんに向けて付け加える。

 

「特にそこの二人のネクストはORCA戦役時のオーパーツだから使用は禁止。昔のパーツを使って。」

 

「分かった。善処するぜ。」

 

「りょーかい、アナトリア時代のを引っ張り出すわ。」

 

返事は上からストレイドさん、unknownさんである。unknownさんはOFFの時は大体女性の姿である。

 

元はこの世界で言うユーリックさんなので、別の世界のフィオナさんとどんな関係だったのか気になるところではある。

が、爆弾になりそうなので聞いてない。

フィオナさんに極力関わらないようにしてるので(現地には何回か行ってるが)やっぱそういうことなのであろう。

 

「まあ、狙いどころはレイレナード、次点でレオーネ。ローゼンタールは動きがない限り放置だな。無意味に触れるといいことはないからね。」

 

シャルさんの言葉に、そこにいた全員が頷く。

疲弊した国連と利益の少なさに気後れする企業。

厭戦ムードが流れつつある現状、企業タカ派であるレイレナードの頭さえ押さえれば八百長を崩したどうこう関係なく停戦、もしくは休戦に持っていける。

正直、GAをこっち側につけたことが響いてきているのだあろう。

 

「そうなると問題はレイレナード主力のネクスト戦力に対する対策と、【乱入者】の所在および目的の調査だな。」

 

「この様子だと、レイレナード突っついてれば何か出そうね。」

 

「根拠は?」

 

妙に確信めいた言い方に、思わずunknownさんに問いかけた。

 

「勘よ、アキレス。」

 

絶句。

 

周りは大して気にせず、とりあえずレイレナード相手に鎌をかける方針で話を進めている。

 

「unknownの勘はよく当たるんだ。気にするなアキレス。」

 

周りの人たち、意外とunknownさんの勘を頼りにしている様子。

大丈夫なのかこの組織。

 

「信用ならないなら…アキレス、あなたは6時間以内にリバースする。」

 

「なんて予言するするんです!!意地でも吐きませんからね!!」

 

 

猛烈な勢いでアキレスがトイレに駆け込んでいく。

予言通り決壊し始めたのだ。

即堕ち二コマとか言ってはならない。

 

本人には酷だが、おそらく需要がないだろう。

 

 

原因は紫蘭にシミュレーターによる演習を求められたからだ。それも機体をとっかえひっかえして行われた。前のと同じで、Gもついている。

 

結果、次世代規格機と何戦もする羽目になり限界を超えかけた戦闘に三半規管が悲鳴を上げた。

まあ素人同然だとは言え、高い適性を保持するリンクス相手に何回も増援到着時間として設定した5分を耐えきっているのだから、仕方ないところもある。

というか、アキレスは勝利条件を満たしていると考えると恐ろしいところがある。

 

「練ってやっぱり強いですね。いくら対ネクストチューンだからってあれは勝つためじゃなくて足止め用でしたよね。」

 

「ああ、にとりからそう聞いてる。それに、一回お前ブレイクオーバーしたよな。」

 

ストレイドさんも引き気味の笑顔で応じた。

そりゃ予言されたにもかかわらず、限界までやって決壊寸前で駆け込んでいくいい年の男の子を見送ればそうなる。

 

「見事にやられましたよ。不意打ち後張り付きでホバタンが溶けました。」

 

幾ら機動力も装甲も微妙なレオーネのホバタンでもオーダーでネクストを撃墜するのは異常としか言えない。

そのあとで有沢タンクでぼっこぼっこにさせてもらったが。

 

あれ、ランク上位の人たちにこの改造したらネクスト狩れるんじゃ、と思わずにいられなかった。

実際相性の問題はあるが、やり方次第でどうとでもなる気がする。

 

「にとり曰く、別段難しい事やってないってことだ。何しろアキレスの所有するパーツの※7割に手が入ってるらしい。もしかしたらこれがスタンダードになる事もあり得るってさ。っていうか特許取って儲けてやろうとも言ってたな。」

 

つまり、あれが世界中のレイヴンの手に渡る日が来るかもしれない。

ネクストだからってその性能に胡坐搔いて笑ってたら足下掬われるわけだ。

 

面白い、と出てくるあたりに染まりつつあるわけだが、悪いとは思わない。

 

「さて、ほどほどしたら私とも対戦をしてほしい。ネクスト同士いい戦いができると思うからな。」

 

初心者が強い人と戦えるって、恵まれてる。

 

AC3、ACSL、およびACLR時に復刻された過去ACパーツなど。

NX以降の物は後回しにされていた。

 

 

 

 

 

暗い部屋で、端末の画面だけが輝いてる。

 

【今回の任務は…】

 

二か月ぐらい前だっただろうか。

ある日うっかり左腕を折ってしまったとき、ついでに流行り病に罹ってると言われ集中医療室に運ばれた。

そして一週間後、無理矢理意識を刈り取られ気づいたら首筋に妙なものを植え付けられた。

 

白い同じような奴らが集められた。

そこで俺たちは選ばれたと白衣の男に言われ、戦闘機のコックピットじみた物に誘われる。

俺たちは退屈な日常から剥がされて、ヒーローのように戦うための力が与えられたと心の奥底で喜んだ。

 

だが、何日か経ったある日、俺の隣の部屋のレッカーがシミュレーターが終わっても出てこなかった。首筋のコードを外した瞬間目が見えなくなったのだという。

 

そして、その日からだんだんとヒーローに憧れる日々に影が差していく。

前の部屋にいた美香は耳と舌がおかしくなった。

はす向かいにいたサラは確か触れてるかどうかわからなくなったんだっけ。

隣のレッカーは立つことすらままならなくなった。

 

 

そして、レッカーは戦えなくなった。

残った三人はそれでもやり切った。

 

俺は何ともなく、それだけが俺たちの仲を気まずくした。

次の段階になって、俺たちは戦場に駆り出される。

 

世界が一転した。

 

そう思いたかった。

 

才能と与えられた力で戦い、奪う日々。

最初はなった当時のようにヒーローになれた気分で楽しかった。

周りの敵が少し攻撃しただけで砕けた。

軍艦が肩武器一発で真っ二つに折れた。

 

今迄の憂鬱と訓練の恐怖が一緒くたに吹っ飛んだ。

 

 

だが、同じような弱すぎる相手に次第につまらなくなっていった。

独房のような部屋での待機と張り合いのない戦闘で人生を搾取される日々。

俺はともかく三人は代償まで払ったのだ。

それがこんなオチでいいはずがない。

 

家族と会わせてほしい、ここから出してほしいと俺は三人の代弁をして上のやつらに伝えた。まだどこも悪くない俺が言えば奴らも考えると思った。

 

 

 

そして、家族が人質に取られた。

 

 

 

俺は従順な飼い犬になった。群がる罪のない虫を蹴散らして踏みつぶして殺すことで必死だった。

俺達三人とも必死に敵を殺した。

 

俺だけが無事だった事に妬みごとを言われ、罵声を浴びせられもしたが、仲間だった事実は消えない。

俺達はそれを背負った。

 

負けるわけにはいかなかった。

 

しぶとい奴は大体レイヴンだった。

今までとは違う敵の出現によって、簡単倒せた敵に退屈していた二人は少し喜んだようだが、俺は違った。

俺はそいつらに憧れ嫉妬した。俺より弱いくせに、自由を謳歌して平然と暴力を振り回す。

羨ましくて妬ましかった。

 

(あの三人はどれだけ代償を払ったんだ?!お前らは負けて自分が死ぬ程度だろ!あいつらは負けなくても傷つく。レッカーはもう一人じゃ立つことすらままならないんだぞ!)

 

手こずらされるたびに俺はそう心で罵った。

 

たった二ヶ月で四人の人生は地に落ちた

 

【よろしく頼むよ従順な首輪付き君】

 

今回もそういう羽虫とカラスを蹴散らすだけだ。

 

 

 

【よう、久しぶりだな。早速だがミッションを説明する。】

 

【今回はアメリカ中央の戦線での戦闘に増援として出てもらう。】

 

【相手はレイレナード。ここで押し込めればそれなりに牽制になるはずだ。】

 

【だが、お前に声がかかったのは戦線を押し上げる為だけじゃない。】

 

【ネクストが現れた場合、こちらのネクストが到着するまでの間、その場で足止めをしてもらいたい。一週間ほど前から戦線に何回かネクストが投入されていてな。戦線の何か所かに穴が開いてしまったくらいだ。】

 

【後方にリンクス、ジョジュア・O・ブライエンとK.Kが待機している。元々切り札として配置していたが、ネクストが出張るようならこちらも手札を切るというだけだ。】

 

【とは言っても、南北に幅広い戦線だ。遠いところに現れて多少被害が出ても気に病むことはない。】

 

【以上だ。ネクスト相手に粘った実績は信用している。だが、無理はしなくていい。返事を待ってるぜ。】

 

あの戦いが及ぼした影響、思ったよりでかいのか。

 

ユーリックさんとの戦いの前にランキングを覗いたが、何人かランキングから姿を消しているレイヴンがいた。

リンクスになったのか、それに狩られたかは調べていない。どちらにしろ、面と向かう事がなければ必要ない情報だ。

 

その時、端末からコール音が響く。

シャルさんから。

 

「もしもし、アキレスです。」

 

『アキレス、まあ気になる情報が入った。といっても、あまりあなたにとってはそこまで興味を持たないかも知れないけど。』

 

「どんな話ですか?」

 

『他社のリンクスの確保にあなたと同じ手法が使われてそうなの。入院した患者の適性を調べて、戦闘適性の高いものを自社の通常戦力に。AMS適性があればネクストに突っ込んでるらしい。』

 

「確証は?」

 

『いくつかあなたと同じ病名の患者を追跡したけど、退院しても無いのに病室から姿を消している。恐らく…』

 

病名も架空のものなのかも知れない。

そのうち治療法がみつかったとかぬかして解放しても問題ないようにしてるんだろう。無論口封じもして。

 

「呆れますね。まあ、同情しておきます。」

 

『あなたの事を聞かされた奴は逆恨みしてるかもしれない。一応警戒しといて。そろそろ切るね』

 

「了解、また今度。」

 

そう言って電話を切った。

 

そういう奴らには悪いが、そいつの事情など知ったことか。

紫蘭の件で思い知ったが、かわいそうな奴だから助けてたい、何て言うのは理想論の品物だ。

紫蘭一人のために、たくさんの人の力を借りた。悪い言い方をすればたった一人の為に大勢が迷惑被るわけだ。友人故の助け合いだったから成り立つ。

それを赤の他人に?

冗談じゃない。あれと同じような事を赤の他人にするつもりは一切無い。

俺は紫蘭だったからやったのであって、彼女が左半身を奪われ、無理矢理にリンクスにされた悲劇のヒロインだったからじゃない。

同じ状態の別の女子だろうと、紫蘭でなければ頭掴んだ時点で問答無用でコックピットにダークスレイヤーを突き立てている。

女だろうが男だろうが、幸福だろうが不幸だろうが俺に関係ないくせに立ちはだかるなら退いて貰うだけだ。

 

正義のヒーローとやらは国連のエースがやればいい。軍規に従う軍にはお似合いだ。

俺はやりたいことをやる。殺すも生かすも、依頼で指定されてなければ俺の自由だ。

それに誰も文句を言わせるものか。

 

ま、次の戦場で出会うリンクスがそういう奴だったら楽だな。元レイヴンとかめんどくさい事この上ないだろうから。…そいつ相手に増援が来るまで持たせろ?

 

単独ネクスト戦なんて依頼が来ようものなら断ろう。

そう心に決めたアキレスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

決して、リバースして戦うのが億劫になったからではない。

 

 

断じて、そんな事実は存在しないのである。

 

 

 

 

「紫蘭の素の戦い方は軽から中量二脚って感じだな。接近してショットガンやブレードで一発かます。もしくは張り付いて継続的に削り続ける。おすすめはイクバールのSALAF、レイレナードの03-AALIYAHってとこか。」

 

一通り標準機を乗り回し、機体の選定を始める。

 

「私もそのあたりが戦ってて楽でした。でも接近戦って難しくありません?」

 

「ああ、操作難度は最大だ。」

 

ストレイドさん、まさかの真顔である。

 

「さらっと言わないでください…。どうすんですか、訓練してる時間ないですよね。」

 

実戦が間際だというのに、習熟が必要な近接機に適性があるという状況と機体のミスマッチに頭を抱える。

即応性がなければ、この現場では無意味なんだ。

 

「まあ、少し難度の低いミッションで慣れてくしかないな。うまく斡旋するから頑張ってくれ。」

 

「そんな無責任な…。」

 

この人は重要なところでそういうの他人任せというか…。いや、これは個人でどうにかするべきところか。

 

「あ、アキレスが戻ってきた。具合はどうだー?」

 

「ええ、問題ないです。」

 

遠くへ呼びかかるように声をかけるストレイドさんに、同じように声を返す練。

取り繕うためにストレイドさんのような大きな声を出したのだろうが、練はどこかげっそりしている。

足取りもお酒を飲んだみたいにふらついて、見てておっかない。

 

「ごめんやりすぎた。練が強いから…」

 

「性能差考えてくれ。それに振り回される俺はどう考えても無事じゃない。」

 

「夢中になっちゃって…」

 

ほんと申し訳ない。

だがオーダーだとしても接戦になれば燃えてしまう。

結果、オーダー相手に容赦なく猛攻を仕掛け、普通の人間の限界を超えた機動を要求する地獄を作ってしまっても仕方ないと思うの。

 

「で、機体は決まったのか?」

 

「がっつり仮想敵だけどアリーヤタイプにしようかなって。エネルギー管理と回避を気を付ければ私に合いそうなネクストだから。」

 

それにかっこいいし。

やっぱり見た目って大きいと思う。

 

「データ見たけど、かなり玄人向けみたいだな。無茶すんなよ。…まあ、あんだけ振り回されて機体決まりませんでした、よりかはマシか。」

 

私はやる気だ。

 

 

 

さて、依頼が来てるか確認しよう。

そう思って端末を取り出した。

 

 




魔改造は、今後遭遇数の増えるであろうネクスト相手に【生き残るために】オヤジさんが生み出したものです。
時代背景的にOWのようなオーパーツですが、この世界の住人にも理解できる概念と技術レベルです。


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実際のところ湯気の部分は水蒸気って言わない

題名がだんだんとおかしくなってきた。


新しくなったコックピットを再度確認する。

もともとHMDでヘルメットのバイザーに投影されていた情報自体はあまり変わってないが、表示ホログラム状になり、AP等についていた枠は無くなった。

前と上、そして左右に配置されていた予備のメインモニターは、球面として完全に一体に。

カプセル状という前のメインモニターが目前に配置されていた物より少し開放感を感じる作り。

 

 

周囲には万が一のための(これからその万が一に飛び込むのは目を瞑って欲しい)からくりが配置されている。これで改造はACの武器並というのが驚きだ。

レイヴンにとってはという感覚であり、一般人がこの金額を見れば卒倒ものであるのはご愛敬。

 

余裕のあるレイヴンはこれがスタンダードになるのではと思う。

実際、戦後に特許を取り、企業を立ち上げるべくにとりさんが修正と書類整理をしてた。

流石本物の河童、金に糸目がない。

良心的の部類のにとりさんがあれだと思うとかなりの金が動くことになるのだろう。

 

【おはようございます。メインシステム、ファーストフェイズ・ノーマル、作戦行動のため待機状態です。】

 

流暢に話すようになったCOMボイスが起動したことを伝える。前のやつもありだが、ここまでくると好感を持ててしまう。前は大破させてしまったのでこいつは壊さないようにしたい。

 

『今のところネクストどころかレイヴンすら発見されていません。もう少し待機していてください。』

 

「了解、こっちはいつでも出れる。」

 

『ネクストが出てくるのでもう少し緊張してもいいと思います。』

 

オペレーターから拗ねたような声で返された。

紫蘭救出作戦は完全に置いてけぼりだったし、それで大怪我して帰ってきたのだからまあ、当然か。

何か謝罪の意を述べようと言葉を考えたが、そうしているうちに通信を切られてしまった。

 

さて、それは今度伝えるとして今回は前回同様ネクストの足止めだ。

前回と違うのは、後方にネクストのバックアップ、それが敵ネクスト出現時に増援として短時間で来てくれることだ。

前みたいに、地獄のような十分間を単独で戦う事はなさそうだし、それに機能追加のおかげで前みたいに数分でボロ雑巾みたいになることもないだろう。

 

(うん、前よりかは何倍も楽なミッションだな。)

 

完全に感覚がマヒしている事からは目を背けた。

いくら改造を受けたところで、ネクストと戦うことは地獄に違いない事は変わらないのだ。

 

 

 

「で、紫蘭。バックアップに入ることには関心するが、それなりの難度を初めてのミッションにして大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

「見事なフラグだな。それに古い。何処でそんなの知ったんだ?」

 

「ネットで見ました。」

 

ネクスト輸送ヘリの中で交わされる会話。

完全な軽口だが、これが紫蘭の初陣になるかもしれないのだから軽すぎるかもしれない。

紫蘭はすでにネクストで待機している。

 

機体はフルでは用意できていなかったが、腕だけ取り寄せられた。

この前に話した内容から武装をアサルトライフルとマシンガン、格納にブレードと変えて肩は相変わらずマイクロミサイル。

ミドルレンジで様子を見つつ、隙を見せれば接近してマシンガンで一気に食い破る算段である。

ただ、機体バランスが悪いのであくまでお試しだ。ジュリープなど強敵にあったら即逃げを選択するよう紫蘭はしつこく言われた。

 

「いいか、雑魚はいくら狩っても構わん。ただ、ネクストは相手の強さを見極めろよ。APの減りが目安だ。」

 

「何度目ですか…それだけこのミッションはまずいんですか?」

 

「状況次第だが、しょっぱなから負けイベみたいな戦闘になるくせに負けたらゲームオーバーのクソゲー。」

 

「辛辣ですね…。」

 

それだけ不吊りあいのミッションだということを紫蘭は心に留める。

練__いや、アキレスについてきたのだ。そういうことは覚悟している。

 

「相手がネクストを投入しなければ待機しただけで終わりだ。まあ、何もないならそれでいいだろ。」

 

「思いっきりフラグ立てましたけどね。」

 

そうして、時間は過ぎていった。

 

 

 

『出撃の指示が出ました。戦場で暴れて、ネクストを出すよう揺すりをかけるとのことです。』

 

「陽動か。了解。アキレス、出るぞ。」

 

【メインシステム、セカンドフェイズ・コンバット。戦闘に突入します。】

 

暗雲立ち込める大雨の中、ヘリから切り離され、空中で戦闘モードに切り替える。

 

ブースターで位置を調整し、敵陣のど真ん中に着地した。

 

「まず、三機!」

 

ダークスレイヤーを展開して一回転、三機のノーマルが上半身を失った。

いや、パイロットから見れば下半身を失ったのか。

 

そこから一気にバックブーストしてマルチロックした散布型ミサイルを正面にいた敵部隊に叩き込んで離脱、そのまま乱戦に入る。

フレンドリーファイアを恐れ、散発的になる攻撃をくぐってダークスレイヤーを振り回した。

 

近くの敵を次々とスクラップにしつつ敵陣を食い破りつつアキレスは思考した。

こうすれば敵もこの損害を無視は出来ないだろうという打算。

 

ブレードを当てようと飛び掛かってきたオーメルのノーマル。

そいつのコックピットにダークスレイヤーを突き立て、払う。それは遠くまで飛んで行き、岩に背中を激しく打ち付けて爆ぜた。

 

ダークスレイヤーをマニピュレータで持ち、正面にいる敵の群れに突きつける。

 

「来るなら来い。前座にはちょうどいい。」

 

だが、敵は後退を始めた。

この状態的には、明らかに考えられるのは一つ。

 

「おいおい、お出ましが早すぎるんじゃないか?俺が来てから決断までが早いなおい。」

 

適度な運動で少し興奮し、口調が軽くなっていた。

だが、状況はかなり悪い。

 

ネクストは基本決戦兵器に分類できるほど強力で希少なので、そうホイホイ使えるものではない。投入するタイミングと場所を間違えれば、不在という隙に敵のネクストに重要拠点が叩き潰される。

 

敵対ネクストがない他の世界とやらの国家解体戦争ならともかく、今の国連にはそれなりにネクストがあるのだ。 

この情勢下、かなり考えて運用しなければならない機動戦略兵器、それを少し暴れたオーダーに対し簡単にぶつけるか?

 

 

だが、オペレーターによって送られてきた広域レーダーの画面にある亜音速で接近して来る赤い点が、その戦略兵器の接近を告げていた。

 

そして

 

 

 

その点は三つだった。

 

 

 

『ネクスト接近!!!数は三、北、中央、南に散開します!!!』

 

「直近の機体は!」

 

『北側、到達まであと5分!』

 

『ウソでしょ!』

 

『後のは中央、南の順に4分、1分。』

 

『クソッ!!!この戦線を押し潰しに来たか。』

 

『考察は後だヤン。ジョジュア・O・ブライエン、ホワイトグリント、中央のネクストを排除する。アキレス、間に合わんかもしれん。持ちこたえてくれ。』

 

『こちらヤン、ブラインドボルド。南を叩く。気張ってくれ、アキレス!』

 

『私も!』

 

「お前は予備戦力だ、ジョジュアに任せろ。」

 

『何言ってるの!あなたはネクストじゃないのよ』

 

「相手が4、5機がかりだったらどうする!俺たちを信じろ。」

 

『ッつ!…ジョジュアさん、ヤンさん、アキレスを頼みます!』

 

 

この報告は後方の戦闘司令部、そこを訪れていたGAの社長まで伝わっていた

 

 

 

 

 

「どうなっている!この戦線に派遣されたネクストは2機だって聞いていたが、ふたを開けてみろ!3機ではないか!」

 

宇佐見菫子は部下を怒鳴りつける。

敵の、それもネクストの保有数を間違えるという致命的な間違いを犯したのだ。

パワーバランスの均衡がとれないのでは戦いにならない。

予備戦力の紫蘭とアキレスがいなければ今頃は帰り支度で大忙しだっただろう。

 

「申し訳ありません!エンブレム、およびアセンブルの同一性から所持ネクスト数を誤認しました!」

 

「編成はどうなっている。」

 

見事に罠に嵌ったのは仕方ない。今すべきは現状の打破だ。

彼女はそう思考を切り替える。

部下が端末を操作し、菫子の目の前にホログラムディスプレイを表示する。

 

「同一構成のアリーヤタイプ2が両翼から、アリシアタイプ1が中央です。」

 

その報告を聞きつつ、彼女は部下の集めていたデータに目を通す。

出撃頻度は同一と記載されているが、それをアリーヤタイプが二分の一と脳内で修正する。

それぞれ戦闘記録を見たジョジュアの話では、アリーヤタイプの方が動きが悪かったそうだ。

 

ローテーションを考慮すると、このネクスト3機は入れ代わり立ち代わりして負担を分け戦闘頻度を増やした。

そして、アリーヤタイプがそのローテーションを二分の一にしたと仮定し、逆関節が二脚よりも高い適性を要求すること、そしてジョジュアの話と合わせると、アリーヤタイプのリンクス二人は恐らくAMS適正低い。

 

 

「だとしてもこの戦闘頻度は異常だ。…レイレナード、いやこのやり口はオーメルか。酷なことをする。」

 

 

 

五感を保ててはいないだろうな、と独り言ちる。

 

アリーヤとアリシアなのはレイレナードから同盟関係の証として研究用機体の貸与なりがあったのだろう。もしこれでリンクス酷使の事実が発覚すれば、最初に機体からレイレナードが疑われる。機体を貸し出していた事実を表に出すころにはオーメル側で資料は処分されてるという算段だろう。

 

話を戻すが、アリーヤタイプの二人に比べ二倍の戦闘頻度だったと思われるリンクスはAMS適正が高いのだろう。戦果という名の被害は、時間で割ってもこちらのほうが高い。

まだこいつが一人だと決まったわけではないが、この戦線に4機も置いている余裕はあちらにもないはずだ。

 

「通常兵器とノーマル、ハイエンドを下げろ。部隊への被害を削れ!特に中央だ!」

 

「了解。」

 

 

「いい腕だ、だが青いな。」

 

「クソッ!避けるな!」

 

至近距離に迫ったホワイトグリントにマシンガンをばらまくが、命中することはなく彼はマシンガンの有効射程から離れていく。

 

ジョジュアはアリシアタイプ相手に善戦していた。

といっても、お互い決定打は出ていない。

だが、アリシアの強固なはずのプライマルアーマーは常に半分を超えて回復することはなく、抵抗力の減ったプライマルアーマーを弾丸が貫通してAPがじりじりと削られている。

対してジョジュアは攻撃を圧倒的な機動性で避け続け、主導権を渡さない。

 

戦い方を考えると装甲と機動力の差が一時的に出ているだけでありジョジュアが一概に有利とは言えないのだが、アリシアのリンクスは焦り攻撃が当てられない。

 

「すばしっこいな!煩わしい!」

 

「遅い!」

 

そういっているうちに、ジョジュアがブレードで迫る。

それをかろうじてアリシアは右手の短いブレードで受け止めた。

ネクストになっても相も変わらす装備されている磁器反発器が干渉しあい、薄暗い風景を荒れ狂うスパークが明るく染め上げる。

 

「舐めるな!ホワイトグリントォ!」

 

スパーク越しに複眼が目を細めるように輝く。

ブレードを振り払うと、逆関節の跳躍力を使い、QBを併用してそのまま斬りかかる。

それを悠々と右にQBすることでジョジュアはその斬撃を躱した。

 

その動きに、アリシアのリンクスは疑問を持つ。

 

(やっぱり機体の性能以上に速い気がずる。どんなからくりだ?)

 

あいつが機体に細工したのか、それとも自分が機体の性能を引き出せてないのか。

彼は一瞬にして逡巡する。

しかし、その一瞬のうちに50メートル先にいたホワイトグリントが視界から消えた。

リンクスになって上がった動体視力がQBの光の尾を捉え、それを追って右を向く。さらにQBを吹かし距離を取ったホワイトグリントからライフルが放たれ、それがアリシアを装甲をPA越しに削り始めた。

 

(もう一回QBを見れたら分かるか?)

 

彼の動きを見たくなり、肩にあったフラッシュロケットを直接ホワイトグリントに撃ち込んだ。さすがの彼もカメラにダメージは受けたくないのか、左にQBして大きめに回避をした。そのQBを凝視していたアリシアのリンクスはその仕組みを見ることができた。

 

「一瞬のうちに二回噴射しているのか!できるのか、俺に。」

 

両者の視界が真っ白に染まる。

QBで乱数機動をしてホワイトグリントがいたところから距離を取り、彼は思考した。

そんなものは仕様書にもシミュレーションにもなかった。あいつ限定の機能ということも疑ったが、そんな奴に負けること考えるとやっていられない。

 

視界が回復する。

奴はかなり遠くいて、肩のミサイルをこちらに向けて開け放っていた。

アリシアはOBを起動して駆け出す。淡い光を吐き出した瞬間、彼は音の壁に近づく速度でミサイルの束に突っ込んだ。

もし、あのQBがこの機体でも出来るのなら、それができないと俺は勝てそうにない。

なら、やれるようになればいい。

機体の各所に神経を通すようなイメージをする。本来ならば人体に存在しないはずのブースターなども自らの体に初めからあったような錯覚に陥る。だが、すでに何回もやってきたことなので今更どうとは思わない。そして、今まで以上に自分の体にないはずの部分を自分として受け入れた。

その時、彼の頭の中に今まで以上の情報が入ったせいで彼は吐き気に襲われ、OBをしたまま体勢を崩しそうになる。

だが彼は()()した。

 

(肩の力をぎりぎりまで入れて、破裂する寸前にいつも通りにQBをするイメージ。)

 

彼が正面を向き直るころにはミサイルが正面に迫り、今にも彼に突き刺さり食い破ろうとしていた。

 

そして、ミサイルの近接信管が作動したその瞬間。彼はいつも以上の速度で左に吹っ飛ぶ。

そのまま視界に捉えたホワイトグリントに対して左肩のレーザーキャノンと右手のマシンガンを同時に撃ちはなった。

 

「…!!その動き…だが、負けるわけにはいかんな。」

 

それをホワイトグリントはぎりぎりでQBによって避ける。

二人の戦いはヒートアップしていった。

 

 

 

さてと、久しぶりの実戦でネクストに対して時間稼ぎしなきゃいけなくなったわけだが、追加された例のシステムはまともに動いてくれるのか。

 

まずコックピット周りの機能を確認。

何回もテストして確認されてるから誤作動や働かないっていうことはないだろうが、これがお披露目なので心配は残る。

それに、制限時間はネクストが到達するであろうと設定された5分。

もし、到達しなければ素の性能で対応せねばならない。

遅れることが確定なら序盤はシステムを起動させないほうが得策だと思うが、今回は2機が前線に出ている上にバックアップに紫蘭が入ってるから最初っから全開でも問題ないだろう。

 

そうしていると、視界端で何か光った気がした。

 

「おでましか、山猫。」

 

巡行モードのOBで迫ってくる人型の影を睨みつけた。

どんどん大きくなるそれに、機体COMが反応した。

 

【敵性次世代規格機を確認】

 

それと同時に目の前の表示が目まぐるしく変化する。

FCSの処理が変化し、本来右手のトリガーで扱う左肩の武装の火器管制が左手武器のトリガーに移行。ジェネレーターの出力が向上し機体にいつもより甲高い駆動音が響き莫大なエネルギーが機体に供給される。

 

敵ネクストが、眼前に降り立った。

レイレナード社製ネクスト、03-AALIYAHベース。

手にライフルとアサルトライフル、肩はプラズマキャノンのその構成に中距離戦機体と考察する。

だが、前に見たデータから、アリーヤタイプの機体は基本的にミドルレンジでの牽制から一気にショートレンジに仕掛け、高火力武器を至近距離で当てるコンセプトなので油断ならない。

 

『あなた、レイヴンなのね。あんまり暴れないでよ。』

 

あまり元気のない英語がスピーカーから流れてきた。相当ひどい扱いを受けているようだが、レイヴン相手に言うことじゃない。

 

「無茶言うな、こちとら対化け物専用装備なんだ。」

 

それと同時に機体各所から白煙を噴出した。ジェネレーターのリミットを一段階切ったため発熱量も膨大になったため、機体各所の新型冷却装置が莫大な熱を機外に放出し始めたのだ。

敢えて余剰に白煙をばらまくことによって俺の視界が真っ白になった。

恐らく俺のACも相手からは見えてないだろう。

 

『返事が来たのは初めて。でもね、負けられないの。』

 

「戦場に来てる大半のやつは負けられないっての。」

 

【メインシステム、()()()()()()()()()()()()()()()()()()5()()()

 

彼女はそれ以降何も言わず左肩のプラズマキャノンを起動しこちらをロックする。

既に銃口から光が漏れだし、今のも俺を撃ち抜こうとしている。

 

【セット、3,2,1、GO】

 

 

 

閃光の塊がアリーヤの肩から吐き出された。

しかし、穿ったのはアキレスがばらまいた白煙だけ。

 

「あれ?」

 

咄嗟にサラは周囲を見回す。

 

「こういう時にはレーダーを確認するほうがいいぞ。」

 

アリーヤの右に白煙の尾を引いたチェインドが現れた。

その右手に持つリニアライフルが高速の弾丸を撃ちだし、PAを貫通してアリーヤの脇腹に突き刺さった。

 

「!!…いつの間に!」

 

アリーヤが両手に持つライフルが連続して火を噴き、アキレスに襲い掛かる。

アキレスはそれを後ろに引きつつ、横に吹っ飛ぶような動きを断続的に繰り返すことで躱した

 

「その動き、まさかクイックブースト!?」

 

「いや、ハイブースト。それの下位互換だ。」

 

サードフェイズ・オーバードはエネルギー出力を上昇させ、あらかじめ手を加えてあったブースターによってなんとかネクストに一矢報いる機動ができるモード。

だが、そのために発生する熱は機内の冷却剤を放出することで棄てている。

だから使えるのは補給なしで累計五分。

その間、ここに引き付ける。

 

「だが、舐めていると痛い目見るぞ。」

 

そんなつまらないことするか!

とアキレスは獰猛な笑みで機体を加速させる。

全身にかかるGをコックピット中に膨れ上がった対Gジェルバックが吸収し、チェインドはオーダーらしからぬ速度でアリーヤへと距離を詰めていった。

一直線に突き進むチェインドに自らも正面にQB、両者の距離が迫りアリーヤはプラズマキャノンを真正面に撃ち込む。

 

「あっぶな!」

 

「そこっ!」

 

それをぎりぎりで右にHBすることで躱すが、それを読んでいた彼女は左にQB、アキレスの正面を通り過ぎながら旋回。側面を捉える。ライフルの弾幕をチェインドに浴びせた。

負けじとリニアライフルで撃ち返すが片手と両手での手数は覆せない。

数発の被弾にアキレスは舌打ちする。

 

「ネクストは伊達じゃないか。相手はステップありきの戦い方に慣れてるなら…」

 

幾らノーマル相手だったとはいえ場慣れはしているようだ。とアキレスは相手への認識を一段階引き上げた。

その思考ののち、何を考えたかライフル弾幕の中で後ろにHBしつつ散布型ミサイルを放つ。

散布ミサイルはライフルの弾丸によって砕かれ爆散。チェインドとアリーヤの間に生まれる濃密な爆炎が、両者の視界をふさいだ。

距離が離れていなかったので、アリーヤはそこに躊躇なくQBで突っ込みプラズマキャノンのトリガーに指を掛ける。

 

「ただ目くらまし…きゃぁ!」

 

だが、爆炎の中で機体は激しい衝撃に襲われ、その直後後方に吹き飛ばされた。

なんとか地面に大きな傷を二つ作りつつ止まったサラ。彼女は爆炎のほうを見つめようとして、その視界いっぱいに映るチェインドに驚愕する。

その直後左手が振るわれ、展開していたプラズマキャノンの前半分が斬り落とされた。

 

「いったい何が!」

 

後ろにQBし目一杯距離を取る。

APはごっそりと削れていて、PAに至っては一瞬で1割近くにまで剥がされていた。

その事実を確認したサラは目の前のオーダーを睨みつける。

 

彼としては【なんていうことはしていなかった。】

ネクストの機動性を使って、そのまま至近での発射を強行してくるだろうと予想したアキレス。彼もまた爆炎に突っ込み、リニアで足を止めたのちにダークスレイヤーで切りつけたのだ。

そして、ダークスレイヤーを振る直前に起動したOBで再度接近しただけの事。

多大なGが彼を襲ったが、碌な対G装備なしにネクストと戦った彼にとっては大したことではない。

 

その事実を知らないサラだが、とりあえずオーダーだからと気軽に接近してはいけないと気を引き締めていた。

そのまま中距離戦に徹するため、プラズマキャノンを切り離した直後に右QB。ライフルを連射しつつ旋回戦を仕掛ける。

それに乗ってやるといわんばかりにアキレスも左旋回。

だが、リニアライフルを見て躱すサラと当たらないように小ジャンプし続けるしかないアキレスとでは命中率は雲泥の差だった。

チェインドのリニアライフルは当たらず、アリーヤのライフルが着々とチェインドに傷をつけていく。

 

「なに?所詮はオーダーだったってわけ?」

 

「…ノーコメント」

 

余裕ができたサラは通信越しにアキレスを挑発、それに対し悔しそうな声をアキレスは出した。

リニアの発射間隔に慣れてきたサラはいつも通りの、肩の力を抜いた戦い方になっていた。

 

それは明らかに油断だった。

 

突如としてリニアライフルの発射リズムが崩れる。

今までの発射はアキレスが敢えて遅いリズムでトリガーをしていたのだが、そこから一気にリニアライフルのトリガーを引きっぱなしにしたのだ。

 

「チョット、え!?」

 

それにサラは見事に引っ掛かった。

リニアライフルをサラは避け損ね、アリーヤのPAが剝がれた。それに遅れるように左にQBが発動した結果、必要以上に接近した状態になる。

しかも、敵の背中からは光が漏れている。つまりOBによる接近。

 

「しまった!」

 

避けてアサルトライフルのラッシュを考えていたが、安定性能の低いアリーヤはリニアライフルで若干仰け反り照準が合わない。

 

(格闘戦、嫌だけどやるしかない。)

 

AMS適正が低い彼女にとって、近距離での蹴りなどの格闘戦は多大な苦痛を伴う諸刃の剣だった。

この機体にはブレードが装備されていないため、接近戦の対処がそれしかないのだ。ブレードも苦痛には変わらないが。

 

OSでインストールされてるものとは少し違う姿勢で接近に備える。

それだけで軽い吐き気を催したが、この一撃で決めるなら些細な犠牲だ。

それに相手の一撃が決まろうと、こっちのAPには余裕がある。さっきの攻撃は痛かったが、致命傷には至らない。

 

そうして目と鼻の先にきたチェインドの脇腹に鋭い回し蹴りが突き刺さる。

自らの負担がダメージに変化したことに歓喜するサラ。

だが、それは長く続かない。

 

吹き飛びつつも、チェインドはアリーヤにロックし続けていた。

崩れた体勢の中、放たれたリニアライフルと散布型ミサイルすべてがアリーヤを喰らいつくす。

 

「ぅああぁア゛、ぁ!」

 

機体制御とダメージのフィードバックで頭が割れるような痛みに襲われ、サラはコックピットの中で頭を抱え暴れる。

アキレスはそこに容赦なくダークスレイヤーを一閃。

アリーヤのコアの左胸あたりに大きな刀傷が刻み込まれ、そのフィードバックにサラ再度苛まれる。格闘戦を挑むために機体とのリンクが仇となり、いつも以上の情報が頭に流れ込んだ。

 

「があああぁぁぁああ!」

 

「おかしいと思っていたんだ。」

 

アキレスのその声と同時に返す刃が真一文字に振るわれ、コア正面を切り裂く。

ゆっくりと仰向けに倒れるアリーヤを見下ろし、呟くように口を開いた。

 

「雑魚掃討をメインとするお前たちがブレードを装備してないことに。」

 

AMSのことを事前に聞いていた彼は、装備でサラのAMS適正が低いと気づく。彼は中のリンクスを潰すことを考えた。

 

その結果が、ここにある

 

アリーヤのAPの残りは1万後半。元が3万と考えると、オーダーから受けたダメージとしては破格の数値だ。それでも残り1分後半の彼には削り切れる数値ではない。しかもそのうちの3割ほどが最後の斬撃によるものと考えると彼の判断はベターだっただろう。

 

 

ネクストの持つ潜在的危険性を除けば。

 

 

 

ガンガンと響く頭の痛みに一瞬離しかけた意識をつかみ取る。

それでもまだもうろうとした意識の中、私を見下ろす影が見えた。

 

(…私、負けたの…?)

 

APの表示を見ることが叶わない彼女は、ネクストがまだ戦えることに気づかない。

 

まともに声を出せない。手が動かナい。足ガ言うこトを聞カない。

 

こノ手はダレも守れなイ。

 

父さンも、かあさんも、ミきモ、レッかーも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おチこぼレのワタしたチのためにがンバってクれた、おッツ・ダルヴぁも

 

 

 

「い…ァあ…うぁ…いゔぁぁ」

 

マモれナい?

ホンとウに?何もかモ失ウの?

こんナわタシよリ弱いはズの、こイつのせいデ。

 

いやだ

いヤだ

嫌だ 

 

 

 

 

「嫌いやいやいやイやいやイヤいやいやいいあいあやややああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ネクスト(サラ)は、リンクス(アリーヤ)は咆哮した。



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risk

精神汚染はこんな感じでいいんでしょうか。


「遠くから痛い攻撃ばっかり!卑怯者!」

 

「戦いの基本だな。」

 

その頃ヤンと美紀との戦いは割とワンサイドゲームだった。

ヤンの遠距離からのレーザーライフルの攻撃を躱し続けるしかない美紀のアリーヤ。

対ネクスト経験が皆無に等しい美紀は思うように距離を詰められず、ロックすらできなかった。

 

とっくにAPもかなり差が付き美紀はかなり焦ってる。

戦いが全くの安定性を持たず、拍子抜けする弱さだ。

極めつけにはうまく通信機器が扱えなかったためなのかなぜか回線がオープンチャンネルになっており、周囲の兵に失笑をばらまいていた。

 

逆に言えば機械音痴にも機動兵器が扱えると考えられるので、笑いごとでもないのだが。

ヤンも余裕しゃくしゃくであしらっており、APを削り切った後鹵獲でもするかと呑気な考えが浮かぶほどだった。

 

その時、その声が響いた。

 

 

『嫌いやいやいやイやいやイヤいやいやいいあいあやややああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

その声はオープンチャンネルで戦場に流されていた。

つまり、電波を拾うことができたACなどがその声を受け取ていた。

 

「なんだ!!この声は!」

 

離れていたホワイトグリントやアリシアにもそれは届いていた。

 

「サラ!?何があった!…おい、応えろ!!…クソっ!」

 

アリシアのリンクス___オッツダルヴァはレーザーキャノンをホワイトグリントに撃ち込むと、背を向けて巡行モードのOBでその場を離脱し始める。

 

「おい、待て!…こちらホワイトグリント、アリシアタイプが戦闘を放棄し北上、追撃する!アキレス気をつけろ!」

 

そういって彼も巡行モードのOBでアリシアを追い始めた。

だが、先程の通信に司令部の応答はあったがアキレスからの返信が来ない。

 

「おい、アキレス。何があった!何か答えてくれ!」

 

スピーカーからは激しいノイズと衝撃音だけが響き、アキレスからの応答は来なかった。

ジョジュアは知らない。

 

通信の向こうでアキレスがまた修羅場に差し掛かっていることを。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ!なにが…」

 

アキレスは目の前でもがき苦しむように蠢くネクストと少女の絶叫に気圧された。その通信は完全なオープンチャンネル。よって電波の届いた全ての通信機器で彼女の絶叫が吐き出される。つまりオペレーター方面にも届いていた。

 

「アキレス!逃げろ!」

 

「ストレイドさん?これはいったい何ですか?」

 

そしてサラの声をリンクスであるストレイドも聞いていた。

アキレスは焦燥にまみれた助言に従い、彼は蠢くネクストからOBで離れた。

 

「精神汚染だ。あれになったリンクスはただの獣、加減も枷もない。」

 

斬り伏せたときにサードフェイズ・オーバードは切ってあったので、起動後一分だけはサードフェイズでの機動ができる。だが、あれがそんなものでどうにかなるものでもないことは彼も肌で感じていた。

 

「あの状態のネクストは通常よりも性能が高い、というかリンクスの負担を無視してるだけなんだがな。リンクス側があれを受け入れて性能の底上げしていた事例もあるぐらいだ。」

 

つまり、あのネクストは…

アキレスはそう思い後ろの状況をウインドウで表示する。

 

ユラリ、と緩慢な動きでアリーヤが立ち上がる姿がそこに映っていた。

その姿は幽霊とか、鬼だとかと表現できる人外じみた、獣じみた佇まい。

そして次の瞬間。カメラアイが赤い光の残像の尾を引いてOBによって一瞬のうちに背後に迫ってきていた。

 

「くっそぉぉぉぉぉぉ!」

 

振り返りつつダークスレイヤーを振るうが、左腕が相手の右腕にあるライフルで殴りつけられ姿勢が崩れた。

そのまま、うつ伏せに地面に激突し地面を大きく削る。寝返りのように仰向けに向き直りリニアライフルを向けた。

だがアリーヤはその銃身を左手でつかみ取る。そして右手でチェインドの頭部を鷲掴みにし、握りこんだ。

ミシミシと頭部をつかむ力が強くなり機体COMが【頭部損傷】と声を吐く。

リニアライフルを手放し、右ひじをアリーヤのコアに叩き込んだ。

それと時を同じくして頭部の一部分がもがれるが、その代償として機体が自由に。

その隙にアリーヤの下から抜け出し、睨みつける。

 

一拍を置き、アリーヤはひしゃげたリニアライフル持っている左手を振りかぶると猛スピードでチェインドに迫る。

 

「二段QBとか冗談じゃない!サードフェイズでも無理だっての!」

 

アキレスの悲鳴が暴走状態のリンクスに届くはずがない。

チェインドがこれといった行動をとる間もなく、アリーヤはチェインドの懐に飛び込む。

そのままチェインドにリニアライフルを叩きつける。

ネクストが出せる限界のスピードと楔の外れた腕力によって生み出された破壊力は、容易くチェインドのコアの装甲を食いちぎった。

 

「タダで帰すか!」

 

だが、フルスイングをしたアリーヤの胴体はがら空き。

そこにノーロックの散布型ミサイルを撃ち込んだ。

爆風によって両者は吹き飛ばされ、距離が離れる。

アリーヤは手足を使ってしなやかに着地した。その姿はオオカミのような獣。

 

そうやって生まれた時間にアキレスは落ちていたダークスレイヤーを右手で拾い上げる。

アキレスの狙いは決まっていた。

 

(コックピットに刃を叩き込む。APも機体状況も関係なく屠れるから。)

 

アリーヤのコアはダークスレイヤーとPAの内側から受けたミサイルによって穴だらけになっていた。

今なら、ダークスレイヤーを全力で突き刺せば貫通してくれる。

アキレスは次に相手が襲い掛かってくる、その時にとどめを刺す気だった。

真正面からとびかかってくるだけならいくら速くても当てることができる。

 

チェインドは姿勢を低くし打突の構えで獣と化したネクストを迎え撃った。

 

『やめろぉぉぉぉぉぉォぉォぉ!!!!!!』

 

サラとアキレスの間に黒い影が割り込んだ。

 

「サラ!もういい止まるんだ」

 

オッツダルヴァは背中にいるチェインドに構わずサラの目の前に立つ。

無残な姿のサラの機体を見て彼は戦いを止めることを促した。

だが全く速度を落とすことはない。

そしてまるでアリシアすらも敵のようだと言わんばかりに跳ね飛ばした。

 

「ぐおぉ!サラ、どうしたんだ!」

 

オッツダルヴァは困惑した。彼女はキレていたとしても敵味方の見境が分からなくなるような人間でなかったはずだと。

 

サラはアリシアを吹き飛ばしたのち、チェインドに掴みかかる。コアの正面装甲を引きちぎろうとするその姿に、オッツダルヴァは畏怖を覚えた。

 

必死に抵抗するアキレスだが万力のように押さえつけられ全く離れることができない。

コアに真っ直ぐ伸びてくる右手を見つめることしかできなかった。

その右腕に横合いから弾丸が突き刺さり、弾かれたようにアリーヤはチェインドから離れる。

 

「すまない、遅くなったな。大丈夫か?」

 

「機体はだいぶやられたが俺は無事だ。助かった、礼を言う。」

 

ホワイトグリントによる援護射撃がアキレスを救った。

そのまま、チェインドとアリーヤの間に割り込み、向き合ったままお互いに動かない。

アリシアはというとサラの豹変ぶりに一時的な自失状態になっていたため、今立ち上がったところだ。

そのリンクスであるオッツダルヴァが叫んだ。

 

「待ってくれ!話をさせてくれ!…っ!」

 

話を続けようとした彼のネクストのその足元に、散布型ミサイルが炸裂した。

彼の目の前にミサイルを撃ったチェインドが立つ。

チェインドはブレードをアリシアにつきつけるように佇み、パイロットのアキレスが口を開いた。。

 

「敵の言葉を聞く馬鹿かがいるか。少なくとも今はあいつもお前も敵だ。」

 

「だからって、いくら何でも…!」

 

多少傷を負っているとはいえまだ充分に戦闘続行可能なネクストを中破しているオーダーが足止めしているという、傍から見ればかなりおかしい構図なのだがオッツダルヴァはアキレスと問答を続ける。

 

「ああ、安心しろ。あのネクストは止める。手段は選ばないけどな。」

 

「お前!ふざけているのか!」

 

明らかに助けたくて行動しているオッツダルヴァに対し、暗に殺して止めるという明らかに彼の逆鱗に触れる宣言をするアキレス。

オッツダルヴァはその思考自体にも激昂し、アリシアは一歩踏み出した。

その一瞬でチェインドはHBをし、アリシアの喉元に切っ先を突き付ける。

 

「お前は立場と依頼上敵だ。そして俺は立場を変えるつもりはない。」

 

狼狽するオッツダルヴァにアキレスは言葉をつづけた。だが、その内容はオッツダルヴァの予想していた殺害予告や拒絶の言葉ではなかった。

 

「だが、お前には選択肢がある。俺や周りの立ち位置を利用すればお前は望みを達成できる。」

 

「選択肢だと?なにを言っている。」

 

「お前が俺に依頼内容と報酬を追加すればいい。あいつを生きたまま止めろってな。」

 

オッツダルヴァは目を見開く。彼の言葉を信じれば彼はサラを助けるというのだ。

だが、彼は信用できなかった。

 

「報酬など用意できるか。その時点で無理だろ!」

 

依頼主とレイヴンの唯一の信頼である報酬が用意できなければ、信頼など皆無だ。

そして彼は現状無一文といっていい。ネクストを売り払えばあるいはではあるが。

 

「なら、こちらから条件を提示させてもらおう。」

 

「どうせろくでもないもんだろ。」

 

「そうかもな。報酬はお前たち自身でどうだ。」

 

は?とオッツダルヴァの口から小さい声が漏れる。

 

「こちらは優秀なリンクスが不足している。お前たちのような存在がのどから手が出るほどなんだ。そちらが白旗を上げ停戦するなら、一時的な味方ということであそこで暴走しているネクストを生かしたまま止めることにも意味ができる。」

 

「いや、俺…達?」

 

予想外の答えにタジタジのオッツダルヴァは回答を渋る。

時間をかけていると、サラが殺されてしまう。なりふり構っていられないと答えようとして声を詰まらせた。

 

「家族が…人質なんだ、クソ!こんな時に!」

 

彼の提案は要するに〔こっち側になれば仲間も助けてやる〕ということ。つまり裏切れと言われているのだ。

裏切れば家族の命はない。

 

「お前もそういう質か。」

 

アキレスはしばし唸った後、告げる。

それはかなり身勝手で、呆れかえるものだった。

 

「ならお前ら自身で助け出せ。機会はこっちで作る、でいいですよねストレイドさん。」

 

『…ええい!勝手にしろ!こっちの負担考えやがれ!』

 

「てことだ、あとはお前が依頼をするか。そして俺がそれを達成できるかだ。」

 

オッツダルヴァはハッとした。こいつは状況を把握したあたりでこうするつもりだったのかもしれないと。

 

アキレスはストレイドの真似事をしたつもりだった。かなり悪辣な言葉遣いだが、それは状況が状況だからである。そしてそれはオッツダルヴァも理解したようだ。

彼にとってFGWの皆が憧れだった。

自らに無いものを持つかつての例外達の背中を見続けたからこそ、今の彼は例外達が伸ばせなかった手を差し伸べる。

 

人が持つ可能性の一つ。

 

「分かった。お前に依頼する。〔俺と協働してあのネクストを止めてくれ。〕」

 

「いい答えだ。」

 

二人の口角は吊り上がった。

 

 

ぼうっと、幕を張ったような、テレビ越しに何かを見ているような浮遊感と非現実感に捕らわれる。

意識が水の中にあるような感触に包まれ、いろんな光景を映し出す。

 

エレメンタリースクールの時のお遊戯会は確か悪い妖精役だっけ。確かくじ引きで負けちゃったんだ。

それでも、不貞腐れずやったことは覚えてる。

 

意識の外ではチェインドを悪魔のように握りつけていた。

 

ジュニアハイスクールじゃソフトボールやってたなぁ。肩が自慢で私は外野。

外野から私が送ったボールでアウトがとれるのは爽快だった。

 

奪ったリニアライフルで思い切りチェインドを殴りつける。

 

押し倒されるような間隔に、犬のラックを思い出した。

私が生まれてすぐに飼い始めた犬。だいぶ年寄りだから今でも元気にしてるかな。

 

四つ足でネクストを立ち上がらせた。

 

ああ、目の前で女性のカバンを奪っていったひったくり犯を追っかけて殴ったんだっけか。

その時に指の骨にひび入れちゃって病院行ったな。慣れてないことするものじゃないね。

 

アキレスに掴みかかり、装甲を引きはがそうとする。

 

それから私の人生は…

 

 

 

「意気込んで来たはいいものの…」

 

「さっきからこんな調子なんだ。手を出していいものなのかどうなのか…」

 

アキレスとジョジュアはそろってアリーヤのほうを向く。

体を震わせ、時に身をよじり、時に宙を仰ぐ。

 

何かに苦しめられているようなその動きに二人は判断に困った。

 

「手を出していいものなのかどうか…」

 

「攻撃してトドメ刺せちゃったら刺せちゃったで今回の場合問題があったので、多分よかったと。」

 

そうでなきゃアリシアのリンクスをこっち側に引き込めなかった、とアキレスは頭の中で付け加える。

だが、実際これで攻撃して手が付けられなくなるかもしれない。

かといって放置すればAMSによる負荷が重なっていく。

 

一か八か、彼にかけてみることにした。

 

「試しに呼びかけてくれ。暴れだしたらこっちで押さえる。」

 

オッツダルヴァにアキレスは声をかける。

親しくしていた仲なら何かあるかもしれない。

 

「…それで何かあっても責任取れませんよ。」

 

そう言って彼はアリーヤに向き合った。

彼も通じるとは思っていなかったため、ダメもとである。

 

「サラ、聞こえるなら返事をしてくれ。」

 

『…ッ…!…ザッ…』

 

「…!サラ!聞こえたのか!」

 

だが、ノイズだけの音声だが向こうからも回線を繋げてきた。

そのことに歓喜し、オッツダルヴァは前かがみになり通信を続ける。

 

「今回はここまでで大丈夫だ。お前は俺が運んでいくから、お前は休んでてくれ。」

 

『オッツ、ダルヴァ?』

 

「ああ、俺だ。オッツダルヴァだ。もういいんだ。」

 

アリーヤは抱えていた頭をゆっくりと持ち上げた。

その視界の先にオッツダルヴァのアリシアを捉える。彼女は彼の言葉を噛み締めているかのようにも見えた。

 

『さっきの、奴は?』

 

「俺が来たら逃げていったよ。だから帰ろう。」

 

『どこに行くの…オッツダルヴァ…』

 

アリーヤの右手がアリシアに伸びる。だが、その右手は何処かアリシアではなく見えない何かに向けられたようにも思えた。

手はアリシアに届くことなく握りこまれる。

 

『戦わなきゃ。みんなのためにも…』

 

その瞬間、二段クイックブーストでオッツダルヴァの真横を素通りしていった。

その先にいたのはアキレスのチェインド。

 

「たまたま会話が成立してただけかよ!」

 

アリーヤの右の拳によって放たれた突きを身をずらして回避する。

 

【サードフェイズ、オーバード。リミット1分】

 

「オッツダルヴァとやら!悪いが力ずくになる。無傷で助け出せる保証がない!」

 

「クソッ。最善を尽くしてくれるんだな!」

 

そのまま放たれた右足の回し蹴りをチェインドの左手で受け止めつつ答えた。

 

「ああ、依頼なら尽くしてやるさ。インファイトになる。ホワイトグリント、援護射撃は大丈夫。おそらくこいつは俺目当てだ。」

 

「分かった、お前がやられた時のフォローは任せろ。」

 

そのままダークスレイヤーをコアの左側めがけて突き立てようとするが、アリーヤが右にQBし黒い刀は宙を突いた。

 

「縁起でもないことを!」

 

ドリフトターンによってアキレスを捉え続けるアリーヤは再度QBで接近してくる。

ダークスレイヤーを正眼に構えたアキレスに真正面から突っ込んでいくアリーヤ。袈裟斬りに振られる刀に対し身を沈めて回避。そのまま繰り出されたアッパーカットがチェインドのコアを吹き飛ばした。

だが同時にアリーヤの右マニピュレーターが歪に歪み火花が散る。

 

吹き飛ばされたチェインドは背を大地に打ち付けた。だが、このままでは追撃されると思い機体を地面に擦り付けながらもブーストで後退する。

距離を取ったことを確認し、機体を起こす。

 

機体を自分で壊しているあたり、時間をかけると負荷でサラとかいうリンクスは死にかねない。

アキレスは自分の残り時間も考え、次の交錯で決めると決意した。

 

二段QBによって生まれる異常なまでの速度でアリーヤはアキレスに襲いかかる。

瞬きする間に目と鼻の先にまで詰めたアリーヤにアキレスは刀の切っ先を向けた。

狙いはコアの右側、中央からコックピットを避ける形で背中に抜けていくコース。

アリーヤはアキレスが反応できない速度で迫ったのだが、そのせいで自分も行動が制限されてしまい先読みしていたアキレスの攻撃を避けられない体勢だった。

 

だからだろうか。

アキレスのダークスレイヤーの一撃を右腕で受け止めたのは。

右腕を貫通した刃は上に逸れコア上面に切り傷を作っていくだけに終わった。

 

「ちぃい!」

 

『ま、だぁ!』

 

ノイズ交じりの声で放たれた左の拳が刀身を殴りたたき折る。ばらばらと散る破片が霧散していった。

右手と引き換えに相手の武器を奪った、そう思い込んだサラは壊れかけた右腕でラリアットを仕掛け、チェインドの散布型ミサイルを捥ぎ取っていく。

 

『これで!』

 

武器がなくなった機体に渾身の左ストレートを繰り出しチェインドの頭部を殴り飛ばした。首関節の耐久限界を超えた負荷によって頭部が関節部から千切れて宙を舞う。

 

このまま一方的にやられるとサラは考えたに違いない。反撃手段のほとんどない機体相手故に隙の多い渾身ストレートを放っているのだから。

 

「だまして悪いが、まだ壊れてないんだなぁ!」

 

黒い霧が右腕の刀に集まる。

薄暗い空間から闇を取り込んだように生み出された刃がアリーヤのコアめがけて突き出された。

それは右胸に突き刺さる。

 

筈だった。

 

『ッ…あぁぁぁぁ!!!』

 

「おい!!馬鹿!」

 

直前にアリーヤがそれから見て右にQBしなければ。

戦闘機の先端のように張り出した中央のユニット、その付け根のすぐ右に刃が刺さった。

そしてアキレスを引き摺るようにQBし、お互いが地面を転がった。

 

 

 

 

『練!!応答して!練!』

 

「っててて…紫蘭か。こっちは大丈夫だ。APはもう300だけれどな。」

 

『こちらにとり。もう少し機体は大事に扱ってくれ。ネクスト相手だからと言い訳するには無謀が過ぎるよ。」

 

「ネクスト…。あいつはどうなった。」

 

機体を立ち上がらせる。その際右腕のダークスレイヤーが折れていたことに気づいた。

周囲を見回すと、すぐ横に黒い影が横たわっていた。

機体を近づけその姿を確認する。

 

「アキレス。サラはどうなった!おい!」

 

オッツダルヴァのアリシアが歩いて近寄ってくる。

逆関節の機体を器用に操り駆け足する姿は、彼のAMS適性の高さを証明している。

だがアキレス___練にはその姿は見えてない。足下を凝視したままだ。

 

「おい、何か言えよ。」

 

その言葉を聞いたのか、アキレスは機体をアリシアのほうに向き直した。

練は口を開いた。その声は自嘲じみた、どこか物悲しい気もする。紫蘭はそう思った。

 

 

「オッツダルヴァ、お前は俺を撃つ権利がある。」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

『ちょっと待って!何を言ってるの、練!』

 

「ミッション失敗。俺は恐らくアリーヤのパイロットを殺した。こちら側に来る必要もない。敵として俺を殺しても何も問題は起きやしないさ。」

 

その声を聴いたオッツダルヴァは震える手で機体を操作し、目の前に転がっていたアリーヤを見る。

折れた黒い刃がコアを右から中央にかけてを移動し、そこが薄暗い空間になっている。

中央、つまりコックピットまで刃が達していることを示す。

右腕は脱落し、そこから刃先が覗いていた。

 

その様子をまじまじと見つめたオッツダルヴァは震える声でアキレスに話しかける。

 

「お前…言ったよな…。最善を尽くすって、よ。」

 

「ああ、俺が弱かった。これが最善だった。だから言っただろう、お前は俺を撃つ権利がある。」

 

「…お前!」

 

そういってアサルトライフルをチェインドのコア、コックピットにつきつける。

だが、その銃身はカタカタと震え、彼の感情を反映しているようだった。いや、実際反映しているのだろう。

 

「言い訳も、逃げもしない。俺は失敗した。…いや、言い訳はしていたな。俺が弱かったと。」

 

「そういって許してもらおうって魂胆か?それで気が済むわけが、ないだろ。」

 

オッツダルヴァは静かに、だが怒りをぶつけるようにアキレスに言葉を発した。

それを見てアキレスは聞く耳を持たないのを分かっていたが、言わずにいられなかった。

 

「遺言代わりの忠告だと思って聞いておけ。」

 

オッツダルヴァのアリシアは銃を向けたまま黙っていたが、そのままアキレスは続けた。

 

「お前が感じてるそれは、今までお前たちがばら撒いていたものだって理解しているか?」

 

「言うに事欠いてそんな説教じみたことを言うのか。いいご身分だな。知ってはいたさ、共感しないように目を背けていたがな。ようやくそいつらの気持ちが分かったさ。」

 

皮肉交じりの回答に、アキレスは安堵する。

まだ、徴兵された一般人のような価値観。これなら日常への回帰もある程度できるだろう。

 

「そうか。なら言うことはない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨の音の中、それを切り裂くように銃声が響いた。

 




ヤンのネクストの事ですがアルドラが国連陣営、レオーネ・メリエス(のちのインテリオル)がパックス陣営なのでコアは強奪品です。
パイロットとして腕が立つので鹵獲品で解析が終わったものの中で性能がいいものは彼のもとに送られてきます。


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名は体を表すっていうよね

今後、AC4及びACFAのキャラが増える…かもしれません。


アリシアの手からアサルトライフルが弾かれ、激しい音を立て地面に転がった。

その視線の先には右手のライフルを向けたホワイトグリントがいる。

発砲音はジョジュアのライフルからだ。

 

「…ジョジュア、これは俺なりのケリのつけ方なんだ。邪魔はしないでもらいたい。」

 

苛立ちをを隠せない声で言い放つ。

だが、ジョジュアはそれを聞かなかったといわんばかりの口調で返した。

 

「二人とも早とちりするな。そのネクスト、よく調べたのか?俺のセンサーには生体反応があるが。」

 

二人が、は?と声を漏らすと同時にヘリのローター音が響いた。

 

「…この頭部は積んでないんだ…そうか、生きていたか。」

 

アキレスは安堵し、声を漏らす。オッツダルヴァは腰が抜けたかのようにアリシアに尻餅をつかせていた。

二人はヘリに乗ってきた衛生兵の邪魔にならないようにアリーヤから離れる。

 

「で、依頼は達成したわけだ、オッツダルヴァ。君は味方に銃を向けただけだ。それでいいか。」

 

ジョジュアがアリシアに声をかける。

その声を聴いてその時までへたり込んで動かなかったアリシアの肩がびくりと跳ねた。

そのままぎこちない動作でアリシアを立ち上がらせるとジョジュアのほうを向き、そしてゆっくりと歩み寄る。

 

「どこに、行けばいいですか。サラの付き添いがしたいです。」

 

「いったんこちらの基地で機体を洗浄してからだ。マップに位置を送る。後はひとりで行けるな。」

 

「はい。」

 

そういうとOBで基地の方角に飛び去って行った。

 

 

雨は少しづつ弱くなり、雲の色も薄くなってきた。この分だとそんなせず止むだろう。

そんな思考をアキレスがするなか、紫蘭とストレイドを乗せたヘリが降りてきた。俺のACを運搬するヘリも来ている。

紫蘭もストレイドも何も話さない。

アキレスも何も言わずヘリに機体を固定した。

機体が浮き上がり、どんどん地面にあるものが小さくなっていく。ゆっくりと基地に向け進路を取り始めたころ、ようやく紫蘭が口を開いた。

 

「練、どうしてなの。」

 

「…何がだ?」

 

紫蘭が怒りのにじむ声で尋ね、それを何故?といわんばかりにアキレスは聞き返す。

 

「あんな関係ない奴のために死ぬことないよ。あいつらが止められなかった、運がなかった。それでよかったじゃない。」

 

普通のレイヴンだったら何も言わずその場を去るだろう。だが彼は自らに銃を向けさせた。

憎き敵として。

 

それを紫蘭は理解出来なかった。

 

「どうしてか。どうしてだろうな。ああしなきゃいけないと思った。」

 

「死ななきゃいけないなんてことあるわけないじゃん!!簡単に命を投げ捨てないでよ…レイヴンなんでしょ。…」

 

声がしぼんでいく。かなり心配をかけたようだ。

 

「…すまなかった。だが、あのままあいつを放置してもいいことは無い。」

 

「どうしてなの?」

 

「復讐っていうのは判断力と価値観を壊す。意味の無い戦いを続けられて被害が増えるより、ここで終わらせた方が全体の被害は減る。理屈はな。」

 

感情とは別問題だ。俺はどうしてか感情的にもこうするべきだと思ったんだ。

 

「ただ、単純に人であって欲しかったのかもしれない。復讐心すらないロボットみたいな人間のためにあそこまでやったとは思いたくない。」

 

通信越しに聞こえるのは紫蘭のため息。

 

「仲間を救いたいと思う気持ちで十分だったんじゃない?さっき言ったけど命を放り投げないで。じゃないと私が復讐鬼になるよ。」

 

それを聞いて俺は額に手を当ててコックピットの天井のモニターから空を仰ぐ。

一度自らが起点になれば復讐の連鎖は止まらない。たとえそれをこの身に受けても俺以外の誰かにそれは繋がっていく。

 

俺の性を考えるともっと増えるであろうそれには防ぎ方がない。

なら、来るものをすべて焼くしかないだろうな。

願わくは俺以外に飛び火しないことを祈るしかない。

 

定番の悩みに嵌り、結論は【来るなら殺す】それだけだ。別に何とも思わない。ただ自分が何者なのか見失いかける俺がいた。

 

 

 

廊下に夕日が差す。そこをオッツダルヴァは駆け足で進んでいた。

向かっていたのはサラの病室。

既にあの戦闘から二日、サラが意識を回復させたと聞いてすっ飛んできた。

お目当ての部屋にたどり着いて、戸をノックする。

どうぞ、と扉の向こうから返事が来た。どうやら声を出せるぐらいには元気らしい。

 

ゆっくりと戸を開ければその窓際のベットに彼女は身を預けていた。

 

「サラ…良かった。あの時はどうなるかと思ったからな。」

 

自然と頬が緩むのが彼にも分かった。

 

「その声はオッツ?来てくれたのね。」

 

そうやって微笑む彼女。

 

だが彼女の目は固く閉じたままだ。それに動きもぎこちなく、右腕はだらりと垂れ下がっている。

事前に医者に状況を聞いていたがいざ見ると心がきつく縛られる。

 

五感:味覚 嗅覚 視覚を喪失、回復の見込みは不明

 

右腕不随、回復するかは不明。

 

AMS負荷で脳が多大なダメージを受けてしまい、彼女の多くを奪って行った。AMSから離れた生活をすれば治る場合がある、とは言われたがケースバイケースのためあまり期待はするなとのことだ。

 

「ああ、俺であってる。今日はあまり時間はないけど、少し話していこうか。」

 

声で認識するしかない彼女に、俺はしっかりと肯定する。そうしないと、彼女は誰と話しているか分からない不安な状況に置かれてしまうから。

 

「体の具合はどうだ。苦しいとか、痛いとか。」

 

「そういうのはないよ。ただ失っただけで、それ以外は何も。」

 

その声に思わず拳を強く握る。悔しかった、腹立たしかった、何もできずじまいだった自分が。結局その場の流れで馬の骨もわからないレイヴンなんかに任せてしまったことが。

 

「済まない。力を持っていながら俺は何もできなかった。」

 

声が震え、そのことにすら怒りを感じて歯を食いしばる。

 

「オッツ、君のせいじゃないよ。私が怒りに身を任せて無茶しちゃっただけ。」

 

「だがそんなにしたレイヴンを俺は止めなかった!」

 

思わず大きな声が出てしまい、すまないと小さな声で返した。

 

「別にあのレイヴンを許したつもりはないよ。酷いの、蹴りするためにAMSのリンク強めたタイミングでミサイルを撃ち込んだもの。さっき聞いたけどワザとだって。」

 

「起きてからそんな経ってないよな。そんなこと誰から聞いたんだ?」

 

「本人。」

 

思わず立ち上がる。自分より先にあいつが来ていることが信じられなかった。

自分で散々傷つけといて、それでどんな顔して見舞いしに来たんだ。

 

「ほんと何なんだ、アキレスとかいうあのクソガラス!」

 

「まぁまぁ落ち着いて。理由があるのよ。」

 

その声を聴いて、取り合えず座りなおそうと椅子に腰を落とす。

 

「私が起きるまで、あなたがいない時間帯にずっといたのよ。」

 

そして椅子に座り損ねた。

 

「な、なんだって?」

 

「だから、あなたが夜帰った後にあの人が来てたの。それから伝言あったんだ。」

 

どうせろくなもんじゃないだろ。

 

「許しは請わない。好きなだけ恨め。だってさ。」

 

ほらな。

 

 

「さて、最優先はオッツダルヴァの母親の確保だ。」

 

「見事にヒットね。いま彼女を失えばエーレンベルクは完成しない。手持ちにアサルトセルの対抗策がいくらか用意があるとはいえ、出来れば外の奴らが片をつけるほうが望ましい。」

 

予想外の方面から悩みの種が飛んできて、ストレイドは痛みに揺れる頭を抑えつつ会議する。

オッツダルヴァの母親はレイレナードにおいてリンクス戦争終結時に使用するエーレンベルクの開発責任者であった。

今回の件で人質に取られているのだが、レイレナードからアクションがない。おそらく【いつでも殺せる状態】にしてあるはずだ。そして、オッツダルヴァの離反によって実行される可能性がある。

 

「レイレナードに潜入し、彼女の護衛につくのが適切だ。が相手は、侵入はおろか正規手段以外でのアクセスが絶望的な立地である本社エクザウィルだ。」

 

「正式に入社する以外での方法が無いのよね…いくら戦時中でも戸籍くらいは調べるでしょうし潜入は絶望的。」

 

unknowの言葉にため息交じりにシャルが付け足す。

 

「妥協して本人に状況を伝えるってだけでも高難易度ミッションだぞ。」

 

なにせほ他の世界ではアナトリアのネクストによる強襲で陥落した場所。

逆に言えばネクストで強行突破するしか方法がなかった場所ともいえる。

周囲を海で囲まれ、そこに艦隊を配置。本社へのアクセスは船と空輸のみで陸から繋がる橋はない。

社員は基本住み込みで働き、休暇に自宅へ帰るようなスタイルだ。

 

オッツダルヴァの母親はそういった社員の一人で、かつては宇宙開発部門の責任者だった。アサルトセルがばら撒かれた際に対策チームを立ち上げエーレンベルク計画を立ち上げたのも彼女らしい。

 

FGWにとっても、今後を考えればアサルトセルはないほうがいい。地上に閉じこもり、滅ぼされてはたまったものではないからだ。

 

「正直、オーメルに警戒心を持たせるだけでも大分マシになる。」

 

「自社の要の計画、その責任者の暗殺を計画しているなんて噂があれば誰だって警戒するわよ。」

 

皆が唸る中、部屋の扉が唐突に開かれた。

その先には悩みの種がいた。

 

「俺にいい考えがある。」

 

オッツダルヴァは真剣なまなざしで会議の面々を見回す。

 

 

 

 

 

「コン〇イ司令官?」

 

「俺は超ロボット生命体ではない。」

 

 

「んで、使い心地はどうだった?」

 

「かなりいいです。つい無茶ぶりしてネクストに食らいついて返り討ちにされるになるくらいには。」

 

ガレージでにとりとアキレスが今回の結果を話し合っている。

サードフェイズ・オーバードの実装、それに伴う各種変更について意見を聞いていた。

 

「それほどか、気に入ってくれてか?」

 

「まあ、そうですね。ただ性能を過信してこのざまですが。見事な赤字です。」

 

今回の依頼は彼にとって赤字だった。

修理費と弾薬費が自分持ちで別個に出なかったので、報酬を上回ってしまったのだ。

何しろ武器は使い果たし、機体もボロボロになったのだ。請求された金額は高いに違いない。

 

「アキレス、ちょっといいかい?」

 

「なんですか?」

 

心配な声でにとりはアキレスに尋ねる。

 

「次に最近の任務って確か紫蘭救出だよな。」

 

「はいそうですが。」

 

「確かあれ、全額自費で出撃したんだよね。お前、所持金まで赤く表示されてないよな?」

 

総資産的に赤字にまでなっていたらそれは不味いのだ。

下手したらナニカサレルかもしれない。

 

「幸い持ち合わせはあったので何とか借金はしてないですよ。痛手ですが…」

 

そういって彼は俯いた。おそらく彼の人生で見たことのない金額が吹き飛んだに違いない。

金銭感覚がまだ一般人の彼にとってレイヴンになってから見る金額は目が飛び出そうなものだろう。

 

「そうか…次は黒字になるといいな。」

 

すっかり小さくなった彼の肩をポンポンと叩くにとり。

 

その時あまり聞きなれな声がガレージに響いた。

 

「アキレスはここにいるか?」

 

その声の主は、先日の件で捕虜という名目で保護されたオッツダルヴァ。

練より若干年上であるが子供であることには変わりない。敵対グループでもある彼がFGWのガレージにいることは色々問題があるが、ある意味個人ガレージになりつつあるここに突っ込む者はいなかった。

 

「いるぞ。何か用か?」

 

そう聞くと、オッツダルヴはずんずんとアキレスの目の前まで迫る。

不満で眉間にしわを寄せた顔をまじまじと見つめていたアキレス。

 

「なん、グフゥッ!!」

 

そして次の瞬間にはアキレスは殴り飛ばされいた。

リンクス処理を受けていたオッツダルヴの一撃は、本気でなくてもアキレスに深刻なダメージを負わせた。

 

「っ…俺、変なことしたか?」

 

「余計なことをした。」

 

胸倉をつかみ手すりにアキレスを叩きつけ、オッツダルヴァは睨みつける。

 

「お前は何がしたい。お前は俺達を何だと思っている。」

 

「お前達だと思っている。オッツダルヴァはオッツダルヴァ、それだけだ。」

 

アキレスはどこか冷めたような目でオッツダルヴァの瞳を覗き返す。

年上のはずのオッツダルヴァが掴まれている年下のアキレスに下に見下されている、そうにとりは思った。

彼女は敢えて止めに入らない。ここで止めても問題は解決しないから。

 

「どういうことだ。」

 

「お前たちが敵対するなら殺す。組するものなら助ける。それだけだ。少なくとも俺は今のお前たちを味方だと思っている。」

 

 

オッツダルヴァは声が詰まる。単純で当たり前のことだ。

少しの沈黙ののちに彼は問う。

 

「たとえお前の大切なものを奪われてもか?」

 

「…それは分からない。奪ったときに俺はそいつを殺す。味方になる前に俺は始末をつけてしまうだろうな。」

 

「そうか…」

 

そういうとオッツダルヴァはアキレスの胸倉を放した。

アキレスはいまだに冷えた目を彼に向けたまま放さない。

 

「俺は感情の矛先をお前に向けた。だが、違うな。これでは…。」

 

「サラを傷つけたのは間違いなく俺だ。その感情は間違っていない。」

 

「彼女は言っていたぞ。お前は敵を倒すことに余念がなかっただけだと、生き残ろうと足掻くことが間違いであるはずがないとな。」

 

「なるべくしたなったとしても、その不条理さに怒れるお前は正しいよ。オッツダルヴァ。」

 

ふっ、と軽く微笑むアキレス。

その笑みはどこか自嘲じみた物含んでいた。

 

「俺がレイヴンにされたのはたった半年前、半年だ。それで俺は理不尽を受け入れるようになった。何にも感じないわけじゃないが受け流すようになったんだ。だからお前のような奴が少し羨ましい。」

 

目を伏せたアキレスは心の内を吐き出すように呟いた。

 

「だから、お前の感情の矛先になることに抵抗がなかった。その一撃で、俺も何か取り戻せそうな気がしたんだ。それがお前らを傷つけたことは、申し訳ないな。すまない」

 

オッツダルヴァはアキレスの言葉に一気に気まずさを増す。目のやり場に困ったように俯き、こぶしを握り締めた。

 

「そうか、お前も同じだったか。そうだよな、その年では…俺もすまなかった。」

 

「気にするな。今の俺は好きでやっている。他のレイヴンと変わらないさ。」

 

オッツダルヴァは思い出したかのように切り出す。

 

「そうだ。親の救出作戦、俺も出る。さっき思いっきり殴ってしまったが、援護頼めるか?」

 

「あんまりいい気はしないが…まあ、愛機が壊された後にその相手のレイヴンと協働するとかあるんだ。依頼と報酬によるが俺に来たら受けるよ。」

 

そういってアキレスはガレージを後にする。

その背中はどこかどこか不格好で不吊りあいだったが、不思議と広く感じた。




エクザウィルの立地って攻めるに易し、帰りずらしだと思います。会社のオフィスなのに。


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空き巣は実際有効

あと一息というところで躓いておりました。
物語も終盤、あえて謎を残しつつ行きます。


『今回の作戦を再確認するぞ。』

 

ストレイドさんの声がスピーカーから流れる。

 

『今回の名義は国連だが、運が良ければ戦闘ナシの護衛任務だ。アリシア改めアンサングとそのリンクスのオッツダルヴァを護送する。』

 

『レイレナードに対してオーメルを警戒してもらう狙いだ。彼と彼の母親との再会の場、邪魔する奴は野暮ったい奴に違いないがオーメルならそうすると判断する。』

 

『どうせ同盟関係にある企業の本社が襲撃されたとかいちゃもんをつけるに違いない。各員、警戒を怠るなよ。』

 

 

「大分派手な作戦だなオッツダルヴァ。」

 

ヘリにぶら下げられたACのコックピットで腕を組んで待機しているアキレスはオッツダルヴァに声をかけた。

 

「これぐらい派手にやればオーメルも動きずらくなるだろう。ところでほかの奴の人質はどうなってる。」

 

「いま国連特殊部隊が動いてる。俺らカラードは国連でも大分問題になっているらしいからな。レッカー本人は紫蘭が基地に攻撃をかけて基地ごともらっていくらしい。こっちの名義はGA、独断専行ってことにしてる。」

 

俺らのように人質を取られ企業のいいように扱われている、もしくはいた人間__通称カラードは、国連側からすると把握しきれていないところが多い。

オッツダルヴァ達に関してもFGW側から申し出るまで把握できていなかったようだ。

 

件数は医療レベルが高いオーメルがトップを走る形であり、ケガや病気を偽って伝え標的を掻っ攫うのが常套手段なのもうなずける。

 

「これでレイレナードが落ち着いてくれれば戦争が楽になるんだがな。」

 

「…一ついいか?」

 

オッツダルヴァは画面越しに問いを投げかける。

 

「FGWの目的が分からん。GAと組んでいるのは分かるが、わざわざこんな事せずにネクストで本社を消してしまえばいいだろう。いったい何を目論んでいる。」

 

一瞬、アキレスは考え込んだが分かっていることを一応答えておく。

 

「俺の聞いた話だと、FGWは自らの存続が大きな目的である利己的な組織。下らない俺らの戦争で滅ぼされたくないから後ろで終末戦争にならないように介入してるんだと。アサルトセルって知っているか?」

 

「知ってるも何もそれの排除が母さんの研究目標だ。FGW側もあれが邪魔なのか。」

 

「地球の表面で争い続けるよりも宇宙開発してもらったほうが滅びは遠ざかるってことだろな。FGWも排除を望んでいる。」

 

それを聞いてオッツダルヴァはヘルメットで覆われた顎に左手を置き、考え込んだ。

 

「ならなんで、レイレナードとFGWは敵対関係にあるんだろうな。」

 

「え?」

 

その声に反応するまでもなく、作戦時間になったオッツダルヴァは無武装のアンサングのOBでエクザウィルへと飛んでいった。

 

 

 

 

 

「そちらに母親のいるオッツダルヴァだ。こちらに戦闘の意思はない。繰り返す、こちらに戦闘の意思はない。」

 

OBを切ってゆっくりとエクザウィルへと向かっている。PAもはじめから展開していないため、コジマ汚染もほとんどない筈だ。

 

『そちらの停戦の意思は確認した。誘導に従い空母に着艦せよ。』

 

意外と簡単に停戦を受け入れてくれた。目の前のヘリに従い、ゆっくりと指定された空母に向かう。

既に周囲にはネクスト数機が取り囲んでおり、抵抗でもすれば一瞬で鎮圧されるだろう。

 

できるだけ静かに、しなやかに、空母を傷つけないように着艦した。

コックピットハッチを開放し外気に触れて、母親との久しぶりの再会が近いことに胸が高鳴った。

 

 

 

そこから2Km離れた山の影からその様子を眺めている影があった。

オーメルのノーマル。その右手に大型のスナイパーライフルが握られ、山の影にバイポットで固定されている。

 

BFFノーマルから奪った肩のキャノンを改造した高精度のものだ。

スコープ越しにそのパイロットは再会を待ちわびるオッツダルヴァの空母を見る。

 

「悪いが、死んでくれ。」

 

彼はそう呟きながら指をトリガーにかけた。

彼にもこんな子供を手にかけるのに躊躇いはある。

だが、射撃命令はすでに出ていた。

 

自分以外にも何人かいるのだからサボってもいいのではないかと頭をよぎるが、あとで何と言われるかと思うとそれもできなかった。既に自分はスナイパーとしてそれなりの実績を持っている。だからこそここに呼ばれたのだから。

指に力とスナイパーとしてのプライドを込め発砲に備える。

 

 

次の瞬間、自らの発砲とは全く違う衝撃に襲わ彼の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

「命中、次。」

 

そこからまたさらに西に1㎞。アキレスはFGWによって支給された、大型化したVAC用のスナイパーキャノンを使い、オーメルのスナイパーを撃ち抜いていた。

 

スコープに、未だ状況を把握できないまま匍匐状態でいるノーマルを捉えた。

距離を確認し、それを入力して着弾点を調整。

発砲、ガァキイィィンと爆発音と金属音の混じった音が山間部に響き渡る。

放たれた弾丸は僅かに山なりの軌道を描き、ノーマルのコックピット付近に着弾した。

 

『そのまま続けてください。次は一時の方角、一機目と同様山陰に隠れています。こっちは機体が見えないからライフルだけでも撃ち抜いてください。』

 

「難易度高いですね。」

 

『だが、敵さんもこっちを見始めた。音に気付いたレイレナードからもネクストも来てる。もう少しの辛抱だ。』

 

オペレーターとストレイドの会話の最中にもアキレスはスコープに敵を捉え、照準を合わせた。

そして放たれた一射がスナイパーライフルの銃身を横から殴りつけ、ライフルを壊す。

 

次の相手を探す四脚に換装したチェインド、その右前足の近くに弾丸が着弾した。

 

『こっち撃ってきやがった。』

 

『2時の方角のスナイパーです!』

 

「優先すべきはオッツダルヴァ狙ってる機体だ!早く教えろ!」

 

『ッ!確認できる機体はあと三機、うち目標を狙っているのは11時の機体!急がないと…!』

 

「そこかぁ!!!」

 

碌に調整もなしに放った射撃は、ノーマルの右肩を撃ち抜いた。

直後、発砲。

着弾の衝撃によって逸れたその弾丸は、数秒後空母の横10ḿの海面に着弾し巻き上げられた海水が空母に降りそそいだ。

 

『アキレス、レイレナードからのネクストが来ました。撤退して下さい。』

 

「了解。アキレス、撤退する。」

 

その時、そのネクストだと思われるアリーヤが頭上を飛んで行った。

相手に気づかれなかったのか、そのままオーメルのノーマルの方へ向かっていく。

 

「あれは…」

 

『ジュリープス。最強クラスのリンクスだ。早く逃げとけ。勝ち目無いぞ。』

 

その忠告に従うように、アキレスは戦場を後にした。

たとえオーバードが使用できるチェインドでも、トップクラスのリンクスの相手などできない。

無謀に突っ込んで瞬殺など、される気はなかった。

 

 

 

そのころ、ようやく母親と再会したオッツダルヴァというと。

 

(守ってくれてのは感謝しよう。だがな、守り切れよ!)

 

びしょ濡れの締まらない再会になっていた。

 

 

 

だがそれでめでたしめでたし、とそうは問屋が卸さなかった。

 

『おい!!どういうことだ!』

 

ストレイドの焦燥感漂う声がスピーカーから吐き出される。

倉庫までたどり着いたアキレスはヘルメットを片手に声をかけた。

 

「いったいどうしたんです?」

 

平常心を保ったような声を出して、パニックを広げないように努めようとする。

だが、その努力は脆く崩れた。

 

『本拠地が何者かに襲われてるって話だ!!このままじゃ保護してる奴らまで被害が出る!』

 

「ちょっと待ってください!なんでそんな奴が中に入ってるんですか!?あそこってそうそう出入りできませんよね!」

 

『こっちだってそんな奴らが中にいるのかわからねぇんだ!どうやって場所分かったってんだ!』

 

間に合うかどうかなど火を見るより明らかだ。

本拠地は日本、現在地であるレイレナード本社エクザウィルはカナダ。

輸送機を使っても数時間はかかる。その間は元からいる戦力で対応するしかない。

 

『くそっ!ネクスト戦力のいくらかが外出してることを見越してのか?こっちの情報は筒抜けなのかよ!』

 

「もしかしたら、単純に今回のレイレナード拠点同時攻撃で【乱入者】刺激しちゃったんじゃないですか?」

 

そうすれば、相手がこちらの本拠地が手薄だということは想像できる。

どちらにしろ、こちらの本拠地を攻めに来ないという前提で行った今回の戦闘が完全に裏目に出た。

相手はこちらに手出しができたのだから。

 

『とりあえず、急いで日本に帰るぞ!一か八かだ。』

 

 

「第三、第四砲塔開け。目標、所属不明AC5機。迎撃展開、ち、り、ぬ小隊は発進急げ。繰り返す…」

 

FGW本拠地は大騒ぎになっていた。本来侵入などほとんど不可能なこの土地に正体不明機体が忽然と現れたのだから。

幸いといえば、リンクスの一人であるUknownがまだそこにいたということだ。

この土地に侵入する方法の一つは所定の出入り口を使う。だが、そこからは侵入したものは無いという報告がすでに上がっている。

他の方法といえば現実離れした存在になってこの世界に受け入れてもらうくらいだ。

 

「光学センサーの情報出ます!!」

 

映し出されるのはいくらかの人型。

OBでまっすぐに山の方向へ進むそれすべてが真っ黒に塗られていた。

 

「コジマ反応、中央の機体から!!PA展開されていないようですが…」

 

「unknow、優先撃破対象はその機体だ。確実に撃破し、被害を抑えろ。」

 

「了解。Uknown、二色蝶、出るぞ。」

 

赤、白、黒に彩られたホワイトグリントベースのネクストが宙へと舞い踊る。

PA制限のかかったここではOBすら使用できない。まっすぐ向かってくるその機影に目を凝らす。

 

「ほかの機体は任せて大丈夫か?相手が厄介すぎて正直真ん中の奴に集中したいのが本音なんだが。」

 

「数で押す。そいつを確実に沈めればあとはこっちでどうにかするからまかせろ。」

 

中央の機体が急加速し、黒い影を引いて二色蝶へと迫る。

その姿は、かつて練が戦った機体に酷似していた。

 

「さあ、お手並み拝見と行こうか。BLACK ONE。」

 

黒いナインボールセラフ・ライザーがブレードを二色蝶へと振りかぶる。

それをバックQBで回避し、両手に持つライフルを連射した。

ブレードの硬直が明けたBLACK ONEは数発の被弾の後、右にQBして弾幕から逃れる。

距離を取ったBLACK ONEだが、二色蝶はそのまま分裂ミサイルで面攻撃。

BLACK ONEミサイルに対してチェーンガンで迎撃、反撃に垂直ミサイルを放ちつつ変形して距離を詰める。

 

「AAが使えないここでできる、この機体の穴を突くってか!!」

 

ベースとなっているホワイトグリントは全距離対応型だが、近距離はアサルトアーマーで対応する機体だ。

そしてこの機体でも同じ設計になっている。

だが、ここではアサルトアーマーは使用できない。自然に甚大な爪痕を残し、自分たちの最後の砦を壊すわけにはいかないから。

 

そのためのチューンやブースターを変えることで距離を取り続けるように変更したのがこの二色蝶である。

その上昇したブースター出力で、左にQBしてミサイルと突進を躱す。

そのままドリフトターンでBLACKONEを視界に捉えライフルを再度撃ち放つ。

速度でその弾丸を振り切ると、パルスガンとチェーンガンを連射して射撃戦に移行した。

正確な射撃を的確な回避で躱し、互いに決定打が出ない。

 

動いたのは二色蝶、若干の被弾の後バックブーストを連発して距離を離し始める。

〔距離を離し、ミサイル戦に切り替える〕、Uknownの行動をそう解釈したBLACKONEは絶えず距離を維持しようと一気にQBで前進を始めた。

 

「だよなぁ!!カラクリ人形!」

 

だが、罠である。

逆に前へ二段QBし、一気に目前に迫ったホワイトグリントはその分裂ミサイルの親機を直接ぶつけた。

8発分のミサイルの炸薬が装甲の薄い胴体で炸裂する。

だが、破壊には至らない。

 

吹き飛んだBLACKONEはそのまま変形し飛び去る。

そして大きく旋回した後に二色蝶へと突っ込んできた。

 

「一撃離脱に切り替えるか。」

 

そして射程距離に入った二色蝶にミサイルを連射する。

それをアサルトライフルで撃ち落として高度と位置を調整。そうして放たれたミサイルはBLACKONEの進行軸上に乗っかった。

意味もなく放たれたミサイルならば速度で振り切るのは容易だった。だが、自分のする先に、しかもこちらにまっすぐに向かってくるミサイルの回避は難しい。

だが、BLACKONEは躊躇なく突進。分裂する直前で近接信管の働いてないミサイルとすれすれで擦れ違う。

そして、パルスキャノンとチェーンガンで二色蝶を撃ち落とさんと迫った。

二色蝶はそこに容赦なく両肩のミサイルを撃ち込みBLACKONEはその衝撃に身動きが止まる。

 

「…後方注意だ。」

 

その一瞬の硬直の間に、分裂の後旋回して戻ってきた子機のミサイルがBLACKONEに突き刺さった。

だが、BLACKONEはまだ堕ちない。

爆風の反動を利用してQBし、二色蝶へ再度接近。そのスピードに反応できなかったUknownの懐に入り込む。

 

「チぃ!!」

 

瞬時に展開し振られた右手のレーザーブレードは、左手のアサルトライフルを前後に両断。

咄嗟に左にQBした二色蝶を、逃がすかといわんばかりに右にQBして張り付き続けた。

今度は左腕のレーザーブレードが発振し、コアめがけて振られる。その一撃で二色蝶のコアの前面の装甲が消し飛んだ。

 

「噂通りのバカげた威力だ、が!!」

 

ライフルをミサイルでできたボディの穴に突っ込みトリガーを引き続ける。

盾として存在する装甲を無視した攻撃で複雑な機構を持つ内部が食い破られた。

そのまま煙を上げ動きを止める。

 

「セラフタイプ沈黙。他は?」

 

「あとひと踏ん張りだが…非難が遅れた人間が何人か襲われた。後で被害報告しなければな。その機体状況だ、帰還しろ。」

 

「了解。」

 

再度BLACKONEを見やる。

全く動かなくなったそれを見つめったのち、そこから飛び去っていった。

 

この戦いが引き起こしたものは誰も予想できなかった。

何故なら、その少ない犠牲が…

 

 

「おい、どういうことだ。」

 

練が敬語をかなぐり捨ててUknownに詰め寄った。

その瞳は戦闘している時のそれより遥かに鋭く、そして怒りに染まっている。

畳みかけるようにまくし立てた。

 

「ああ、想定外だったのは仕方ないさ。そりゃこんなとこに来れるなんて思わない。だけどよぉ。」

 

 

「なんで俺たちの人質を優先しなかった。リスクマネジメントとして失敗じゃねぇのか?」

 

そういって後ろを指さす。

二つの大きな袋の前で紫蘭が跪いていた。

虚ろな表情のまま、涙を瞳から延々と流し続ける彼女は見ているだけで痛ましい。

 

再会すら果たす暇もなく、彼女の前から両親は失われた。

そして彼自身の両親も行方不明である。

 

「確かにそう取れるな。ただ、俺達は本心から保護という扱いをしていたつもりだ。そういう問題ではないのは分かっているがな。」

 

「なら再度聞く。どうして『数少ない被害者』にあの二人が含まれてるんだ。そちらに悪意が無いのは分かるが明らかにおかしいだろ。」

 

本来保護という名目あるなら出来る限り安全を確保するのが当たり前だ。紫蘭の肉親である上に、そこすらできていなかった事というそれ以前の問題に激しく怒る。

 

「そのことに関してだが…ちょっとまずい事があってな。まぁそれでもこのことが許されることじゃないんだが。」

 

声の主は階段を下ってきたストレイド。

アキレスは向き直り、鋭い眼光の先にストレイドを捉える。

 

「どういうことか、教えてもらおうか。」

 

それに全く動じず肩を竦めて見せ、ストレイドは口を開いた。

 

「避難中、運悪く遭遇してしまったらしい。そこまでなら近隣の機体が妨害するし、実際そこから引き剥がそうとうちの連中も動いたらしいんだが…」

 

練は少し察しがついたのか眉が少し動く。それだけだったが。

 

「紫蘭の両親を発見した途端、手にあったパルスガンを直近に放ったんだ。奴ら無人機で、優先順位が人間の方が上だったらしい。先に脅威である機動兵器を叩くAI、そう予想して動いたこちら側の動きが完全に裏目に出た。」

 

要するにソフトキルを想定したAI設定であったがため、隔離気味にされていて避難が遅れた彼らの両親がその犠牲になったのだ。

確かに、FGW側の対策は不十分であっただろう。

 

侵入を想定してなかったこと。

それを前提にしたため要人の警護が甘かったこと。

護衛任務に失敗していること。

 

「分かった。もういい。」

 

だが、そういうとアキレス___練の目に籠っていた力が抜けていく。

 

「この件はこれで終わりにしましょう、ストレイドさん。Uknownさん。ようやく頭が冷えました。」

 

「弁解しといて言うのもあれだが、明らかに悪いのはこっちだ。」

 

急変ぶりにストレイドは少し心配そうに声をかける。

 

「だとしても、これ以上やっても意味ないですから。」

 

今更嘆いても仕方ない。そう彼は独り言ちた。

 

 

 

 




後で書き直すかも。満足いっておりません。


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誰がための

『作戦を説明する。』

 

『今回の作戦目標はインテリオルのネクスト、クリティークとそのリンクス、シェリングの撃破だ。』

 

『こいつとそいつが抱えるノーマル部隊が、こちらの海洋拠点を占拠。そのおかげで前線に戦力を割けない。ゆえに排除を依頼する。』

 

『今回は紫蘭とお前の二人に出てもらう。お前たち二人でもこの任務は達成可能とこちらは判断した。』

 

『【乱入者】の足さえ掴めばこの戦争は終わる。それまでの辛抱だ。』

 

『いい返事を、そして成功の吉報を待っている。』

 

 

 

 

 

 

「いいの、練。昔協働したレイヴンなんでしょ?」

 

どうにか復活した紫蘭のブレティアからの声。

酷く落ち込んでいて、暫く戦線復帰は無理かと思っていた彼女はここにいる。

 

女というものは、こうも強いものなのか。

 

練はかなり的外れなことを考えつつその言葉を返す。

 

「問題ない。レイヴン同士、そこらへん手を抜く方が失礼だ。ユーリックさんとの戦いを見れば分かるだろう。」

 

リンクスになったユーリックさんは現在アナトリアの守護神としてアナトリアに寄る賊や企業を蹴散らしているらしい。

そのきっかけとなったエキシビションマッチ。人生の転機となった、と笑顔で伝えられたらこちらも悪い気はしない。

なら、彼の選択を見守るのが、師匠代わりだった彼へのせめてもの恩返しだ。

 

ヘリが海上施設に近づき、始まりが目の前になる。

相手は、腕利きのレイヴンだったシェリングと彼の率いるハイエンド部隊。

数は明らかに相手が上。

 

なら、質でそぎ落とすまで。

 

『降下、開始してください。』

 

「アキレス了解。ミッション開始、敵ネクストとその部隊を排除する。」

 

[メインシステム、セカンドフェイズ・コンバット。戦闘を開始します。]

 

「紫蘭同じく。戦闘を開始する。」

 

紫蘭のネクストは前回鹵獲した、という扱いで手に入れたサラのアリーヤとなり、アサルトライフル、マシンガン、そこにOGOTOを積んだジュリープスに近いアセンブルとなる。

違いはフレアでなく連動ミサイル、そして開いた左肩にGAの小型ミサイルを搭載している点だ。

 

機体が重く、明らかにアリーヤに合わないアセンのように見えるが。

 

「ノーマルをフルロック。落とす。」

 

ミサイルは強襲用の撃ちきりだ。ノーマルに殺到するミサイルは容赦なくその装甲を食い破り破壊した。

その隙に俺は一気に基地に迫る。

海上ということで俺はフロートに換装していた愛機を滑らせ、レーザーブレードを一閃。

その一撃で脚部が半壊し、水中に没する。

 

コアは破損していない上に、水深も決して深くないここならばまぁ助かるだろう。

助けさえくれば。

 

下らない思考と意識を切り替え、別のノーマルにマイクロミサイルを撃ち込む。

紫蘭のミサイルによる爆撃で敵の数は半数を下回り、彼らは軍事上の壊滅に追い込まれた。

 

「そろそろネクストかハイエンドが来そうだが…」

 

今回、フロートという積載量=総火力の低い機体で臨んでいるため、出来る限り短期決戦にしたいアキレス。

その思いが口から洩れる。

 

『ネクスト反応、施設から。…確認、クリティークです。ブレティアは撃破に向かってください。』

 

淡々とした報告。

 

だがその声は、次の瞬間焦燥に変わる。

 

『…アキレス!!クリティークがそちらへ向かっています!!退避を!』

 

だが、その警告は遅かった。いや、ネクストの速度からすれば無意味な抵抗だったというべきか。

 

施設の方角を向いたチェインド。その眼前に右腕のハイレーザーライフルを突き付けるクリティーク。

既に右手のHLR01-CANOPUSの銃口から、彼を焼かんとする力の余剰が輝いてた。

 

「倒せる奴から倒す。基本だ。」

 

轟音とともに、ネクストが腕に装備出来る中でトップクラスのレーザーが放たれた。

 

「ほう、そう来るか。」

 

目の前のオーダーは彼のハイレーザーライフルを間一髪で躱し、通り過ぎざまにPAの内側からマシンガンを直接叩き込んで離脱していった。

 

APが一気に2000ほど削られ、シェリングの顔が驚愕に染まる。

回避だけではなく攻撃、離脱まで流れるように行う姿はベテランのそれだ。

 

情報によるとリミッター解除のようなことを行うというが、未だにその様子は見えない。

全身から白煙をばらまき、QBに近い動きをするというそれを彼は警戒していた。

 

(性能、腕、共に油断出来ん。その上…!!)

 

クリティークが右にQBした。

その直後、上空から撃ち下ろされたグレネード弾がクリティークが直前までいた海面を叩き、爆発する。

 

紫蘭のブレティアが放ったグレネードだ。

外したことを確認し、海面へと下りた彼女は一気に距離を詰める。

クリティークは一直線に迫る紫蘭のその正面に左手のレーザーを放つが、ロック警告に気づいた彼女は右QBで回避。

 

「素人でも、これくらいは!!」

 

即座に放たれるハイレーザーライフルを右旋回ドリフトターンすることで向きを変え、正面QBで凌ぐ。

ブレティアを捉えなかったレーザーはその後ろにあった鉄骨を破壊した。

 

「囮とわかる!!」

 

二段QBをすることもできたが、それに任せた戦いに胡坐をかいていたくないというのが彼女の考えだ。

再度左にドリフトターンしてクリティークを視界に捉えなおす。

その直後、クリティークがASミサイルが上方に放った。簡易的な垂直ミサイルとなったそれを回避するが、それを見計らったかのようにレーザーの弾幕が張られる。

その一発がブレティアを掠めた。PAが減少しAPも僅かながら持っていかれたが、接近を止めない。

 

「懐に入ればこっちのもの。」

 

「させんよ。」

 

背後を取ろうと中距離からサテライトしつつ接近の隙を伺う。

その距離は一番危険であることは彼女も把握していたが、現状接近する以外に有効打が出せない。

そしてシェリングもその思考を見破れないわけがないのだ。

右手のレーザーを一射したのち、距離を放そうと後ろにQB。それに追いつこうしたか、ブレティアはOBを起動する。

 

(悪いが決めさせてもらうぞ)

 

しかし、クリティークの引きは一種のフェイク。

敢えて相手を近づけて、自らも接近。二人の相対速度で反応できないであろう状態のカノープスを至近距離で放つ作戦。

至近距離のカノープスを喰らえば、ネクストとて致命傷だ。

撃墜できなくとも、挽回の難しいディスアドバンテージを与えることはできる。

 

そこで焦りを誘えば、流れは完全に彼のものだ。

 

 

ブレティアのOBが発動し、一瞬で亜音速に到達する。

それに対するクリティークも引き付けたのちに正面にQBした。

 

距離が縮まり交錯しようとするその刹那、彼は気づく。それと同時に彼は血の気が引いた。

ブレティアの右肩の大型砲塔は既に展開され、クリティークのほうを向いている。

 

(読まれていた?!)

 

紫蘭もまた至近距離でグレネードを当てる為に動いていた。OBで接近を焦るように見せかけ、実際は彼女も一撃離脱を狙っている。

シェリングは急いで右QB、グレネード弾がクリティークのスレスレを通っていった。

ニ機はすれ違い、QTで振り向く。

 

直撃すればタダでは済まなかっただろう。と彼は思う。

確かに攻撃のチャンスも失われた。だが、たとえ攻撃したとて、実弾に弱いこの機体では受けるダメージは彼の方が大きい。 

 

(あのネクスト、侮っていたか…)

 

その後悔とともに放たれた一射は僅かな機体制動により躱される。

だがその時、機体が僅かにぐらついたのを彼は見逃さなかった。

即座に放たれるカノープス、そのまま連続して放たれるASミサイルが紫蘭のブレティアに襲い掛かる。

 

姿勢制御から生まれた隙、それのカバーを二段QBで無理矢理補うが後続のASミサイルに対処できず被弾。

OBによって減少したPAが更に削れ、貫通したミサイルの破片が装甲を穿つ。

 

「やっぱり、強い…!!」

 

その一言とともに再度距離を詰めるために前進する。

QBを繰り返しクリティークとの間に生まれた距離という盾の内側へと迫った。

だが、シェリングも黙っているわけがない。ASミサイルを放った後後退し、レーザーライフルをブレティアの正面へ叩き込んだ。

QBの間隙めがけて放たれたそれを、QBで回避することはできない。

ASミサイルをアサルトライフルで迎撃した後、レーザーライフルは敢えてブースターを切って僅かに水中に沈むことで回避した。

 

そこから、アサルトライフルとマシンガンの弾幕を展開。PAを弾丸が叩き、少しづつ、だが確実にPAを削っていく。

 

「堅実、ゆえに物足りんな。」

 

有効射程外から放たれた攻撃は、PA越しには何の脅威も感じられない。

マシンガンに至っては大半の弾丸が逸れてしまっている。

 

そこで、彼は引き撃ちを選択し、両手のレーザーを交互に撃ち放ちつつ後ろへ定期に後ろに下がる。

だが、機体のスピード的にはいずれ追いつかれる。

だからこそ、蛇行するように移動することで簡単には追いつかれないようにした。常に中距離が保たれ、アリーヤの爆発力が生かせない戦いが続いた。

 

しかし、途中でシェリングに疑問が生まれる。

 

いくら何でも追いつけないのはおかしい。

素の機体速度を考えると、ここまでくる間に一回は追いつかれ接近戦に持ち込まれているはずだ。

腕の差、と言い切るのは簡単だが、歴戦のレイヴンであるシェリングは油断しない。

 

(罠の類か。格納に何か隠し持っているか…それとも何かを待っている…!!)

 

ハッとしてレーダーを見やる。

敵を示す光点が一つ、味方を示す光点が三つ。それのいずれもがこちらに向かっていた。

 

それが意味することは一つ。

 

「深追いするな!!誘い込まれてるぞ!!」

 

その瞬間、未だにパージしていなかったブレティアのミサイルがハイエンド三機に殺到した。

 

 

数分前

 

「囲んで叩く。新入り、遅れるなよ。」

 

「りょ、了解!」

 

ネスタは自らACを引っ張り出しての出撃であった。レイヴン時代のシェリングの友人であり、今回のミッションでは小隊長としてシェリングから依頼をされてここにいる。

 

正面から接近するオーダーAC、チェインド。彼自身のランクは41である上、アキレスには一度敗北している身だ。

でも任務は任務であり、過去の勝敗など関係なく依頼を達成すればいいだけだ。過程など関係ない。

 

オーダー1、ハイエンド2機で当たるのはオーダー1機。

戦力比からすれば絶望的な状況だが、ランクと戦績からすればこれでも心配である。

 

 

 

 

機体を改造したとはいえ実質オーダー1機でネクスト1機を作戦続行不能に追いやった化け物。

 

 

 

改造はネクストと当たらない限り使用しないハイリスクハイリターンの機能らしいのは分かっているが、それでもやり手だというのはアリーナで彼自身が体験したことである。

だからこそ、入ったばっかりの新入りの初陣がこの戦闘に投入されることに同情していた。

自分だってトップランカー相手に初陣なんてやったら、レイヴンになる前にあの世にいく幽霊になっていいただろう。

 

とれる手段は手数で圧倒し押し潰す。

 

 

視認と同時にマイクロミサイルを放ち、機体のOBを起動。

ミサイルを追いかけるように接近し、両手に構えたマシンガンを同時に撃ちはなった。

アキレスはそれを左右に無限ブーストし弾丸を散らすことで被害を最小限にすると、マイクロミサイルを撃ち返し直進。被弾をものともせず擦れ違いざまにブレードで切り裂いた。

 

 

「ぐっ!!…だが、これで!!」

 

その一撃はマイクロミサイルをそぎ落とし、盛大な爆発でネスタを吹き飛ばした。

前衛のネスタを抜いた彼は後衛として控えていた二機に迫る。

だが、罠であった。

 

二人は左右に後退しつつ散開、結果的に三角形の包囲陣が完成した。

 

「各員、弾幕を切らすな!!」

 

両手のマシンガンを、そしてマイクロミサイルを交互にそれぞれが撃ち放ち三方位から責め立てる。

これがネスタが考えたアキレス殺しである。

新入りは経験が薄いながら機体制御はそれなりに出来、フォーメーションを組みつつ攻撃する程度には才能があった。

そして三角形ならフレンドリーファイアの心配も少ない。

 

最低限のテクニックで、ランカーを相手取るには現状最高の作戦である。

実際、彼は回避行動をメインに移り攻撃が散発的になっていた。

 

効いている、あの化け物相手に。

 

その事実は小隊全体に興奮をもたらした。

だからといって抜け駆けする奴もいない。この状態だから押せているのであって、間違ってもネクストとタメを張れる奴にタイマンを挑む馬鹿をすることはなかった。

力量差は全員が承知していたための作戦、壊すものなどいるはずがいるわけがない。

 

アキレスは三角形の部隊の中で踊り続けた。

必死に檻を脱する手段を探すように機体を振り回し、そのたびに包囲網が彼を逃がさんとばかりに移動する。

ようやく新入りに活路を見出したのか、攻撃の矛先は彼に向かう。

 

彼らにとっては想定済みの事態だ。

 

背後に回っていたネスタが敢えて両手のマシンガンを同時に放ち若干前進。

被弾がかさんで、アキレスの意識が回避に向かう。その瞬間新入りが接近してマイクロミサイルを叩き込む。

 

攻勢に出るリスクを体感すれば、嫌でも防戦に意識が向かうはずだ。

そして、トップランカーを削り落とす。

 

 

 

「そっちに誘い込む。乱戦覚悟、ってことで。」

 

『要求するレベルが高いよ…』

 

「できるだろ、お前なら。」

 

 

「センパイ!!」

 

「ち!すまんシェリング!!」

 

 

しかし、罠である。

アキレスは、この包囲網の作戦に気づいた時点で彼は次の手を仕込んでいた。

 

内側から破れないなら、外からこじ開けてもらう。

 

アキレスは、紫蘭にミサイルのパージを待ってもらい三機を紫蘭の近くまで誘い込む。

そこを紫蘭がミサイルで撃墜するという作戦だ。

直前でシェリングに気づかれ、ミサイルを撃ち落とされたため二機も生き残ってしまった。

逆に言えば、一機撃墜されたということでもある。

包囲網が崩れ、アキレスは脱出。紫蘭はレーザーライフルのリロードタイムを縫って接近した。

紫蘭の手から弾数の減ったアサルトライフルが手放され、右手には新たにレーザーブレードが握られている。

 

「たとえEN防御が高くても!!」

 

擦れ違う刹那に放たれる一閃。それは容赦なくクリティークの装甲を熱し、PAに致命的な欠損をもたらす。

 

「舐めるな!!ぁ!!」

 

QTでブレティアの無防備な背中を捉えようとした、その瞬間に彼は再び激しい衝撃を受けた。

QTの後OGOTOを放った、にしては早すぎる。

彼は体勢を立て直し、視界を正面に向け、驚愕。

 

正面には白煙を上げ始めたチェインドがいたのだ。

つまり、シェリングを左手のブレードで切り裂いたということになる。

実際ダメージは正面から受けており、彼の一撃であったことは疑いようのない事実だ。

ただ、二人は[正面から格闘攻撃を、お互いに当てないように擦れ違った]ということになる。

 

最近になってペアを組んだ仲と思えない動きにシェリングから微笑が漏れた。

そうしているうちに、ブレティアからOGOTOの強烈な一撃が放たれネスタがぎりぎりで躱す。

それと同時にマシンガンを放ち、ブレードで再度切り裂こうと迫るアキレス。

マシンガンが僅かに残ったPAを剥ぎ取り、直に弾丸が装甲を穿った。

既にAPは1万5千を切り、機体各所から悲鳴のようなエラーメッセージが脳内に送られてくる。

 

「ただでやれるつもりはない!!」

 

ブレードを振りかぶったアキレスに向かいQB、擦れ違ったのちにドリフトターンで後ろを取った。

そのままブレードを空振りがら空きになった背中に、シェリングは容赦なくカノープスを撃ち放つ。

オーダーなら一撃が致命傷になりうるそのレーザーは、わずかに逸れてチェインドのマシンガンに命中。

 

たった少しの誤差、しかしそれで撃墜できなかったことが一番の痛手であった。

 

「紫蘭!!」

 

「行くよ!!」

 

そこで起きたことはこの現象を見ていた者だけでなく、その後戦術を語る者にとってすら知られることとなる。

 

二人はお互いに右手を掴み一回半を回転、ブレティアが途中でQBを吹かしたことにより両者QB並の速度で紫蘭はシェリングに、アキレスはネスタに襲い掛かった。

シェリングはその突飛さに、ネスタはそもそも機体性能的に対処できるはずもなく大きな隙を見せていた。

 

「これで!!!」

 

「トドメ!!!」

 

クリティークのコアに至近距離のOGOTOが突き刺さり大きな爆発が機体を包む。

ネスタは正面からの斬撃で切り伏せられた。

 

 

「負けた、か。」

 

水中に沈みゆく愛機の中で彼はつぶやいた。

彼らの連携は、初の実戦とは思えないほど見事で、意表を突かれた。

ネクストの加速力と軽量化の施されていないオーダーの重量を使い、両者ともにQBと同等の速度を与えるなど普通は思いつない。

 

作戦負けだ

 

「ネスタ…生きてるなら返事してくれ。」

 

「…お互いに悪運は強いようだな。まぁ、死に時が遠のいただけの気もするが。」

 

ノイズ混じりではあったが、彼の声が聞こえる。

お互いの生存に安堵の息が出た。

 

「まあ、窒息死させるほどの外道ではないと思いたいな。」

 

シェリングの声にネスタは返事をしない

 

「どうした?怖くなったのか?」

 

「いや、あの新入り。どうなったか、気がかりでな。」

 

「まあ、たとえ最悪の結果に終わっても。」

 

 

 

お前のせいではないさ

 

 

 

コアに突き刺した左腕を、ゆっくりと引き抜いた。

 

「よかったの?声の感じからして私たちとそんな変わらない年の声だったけど。」

 

「俺がすべてを守れるほど強いと思うか?」

 

紫蘭のほうに振り向き言葉を返す。

 

最後の一機は、自らの不利を顧みずことなく戦闘を続行。アキレスは一人で相手をし、施設に叩きつけてコックピットをブレードで焼いた。

 

「いや。まあ、助けられる人を助けるだけ。届かない手に手を伸ばすこともないか。」

 

「そういうことだ。帰還しようか。」

 

「うん。」

 

二人は宙に舞い上がり、ヘリへと向かう。

戦場になじんだ二人を、暖かな夕日が照らしていた。



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灯台下暗し(前編)

[AP残り10%、危険です]

 

『あとちょっとだ!逃げきれ!』

 

『逃がさない。例外は消去する。』

 

「しつこいんだよ!」

 

洞窟の中で激しい、だが一方的なチェイスが行われていた・

振り返りマシンガンをばらまくように放つが、淡い光の膜に阻まれ貫通した弾はない。

攻撃に臆せずまっすぐこちらに突き進む機影、その右手にある大きめのライフルから光が漏れだす。

次の瞬間、銃身から紫色のプラズマ塊が吐き出され、俺はそれをぎりぎりで回避した。

 

そのカウンターとして散布型ミサイルを撒くが、そのすべてがその道半ばで迎撃装置により火を噴いて消える。こいつにミサイルが効かないのは知っていた。

俺が欲したのは、それによって生まれる煙幕。奴がまっすぐにこっちに向かっているなら煙幕でブレード不意打ち。嫌がって避けていったのなら後ろを取る。一歩引いてこっちが突っ切るのを待つようならそのまま逃げる。

 

レーダーの赤い点はまっすぐこっちに突っ切ってきた。

すぐさまダークスレイヤーを展開しつつ旋回し、擦れ違いざまを狙う。

奴が煙幕を出る直前に斬りかかれるように速度を調節。

そして、その時は来た。

 

煙の中から青い光が漏れ出る。奴もまた、レーダーブレードを発振しこちらを叩き切ろうとしているのだろう。

だが俺はかまわず、今の機体に残された力をすべて叩きつけるようにダークスレイヤーを振り抜く。

激しいスパークとともに二つの刀がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

ことはなかった

 

 

 

 

 

吹き飛ぶ、いや、消し飛ぶダークスレイヤーの刀身。

まるでダークスレイヤーなどそこに存在しなかったかのように、俺の愛機のコアに美しい蒼い輝きが食い込む。

そのまま奴は容赦なく振り抜き、俺を吹き飛ばした。

 

 

数日前___

 

 

 

「そうか、新入りは死んだか。」

 

捕虜として営倉に入れられたネスタは、事の顛末を知った。

奴は、俺らの仇を取るとトップランカーに挑み、散っていったそうだ。

ネスタは一つ気になることがあり、目の前にいたストレイドに問いかける。

 

「たしか、アキレスとか言ったか。あいつは何をしている?」

 

「あいつか?今はお前の相棒さんにぼっこぼこにされた機体を見ているはずだ。呼んでくるか?」

 

「出来るなら話がしたいんでな。頼む。」

 

おうよ、と気の抜けた声を発して彼女は去っていく。

そして10分とちょっとで帰ってきた。

 

「俺と話がしたい、でしたっけ。」

 

その先にいたのは、新入りと大して変わらない歳であろう少年の姿だった。

ネスタの脳裏に真っ先に出てきたのは人違いという言葉だった。

 

「アリーナで戦っただけで、お互い顔を見てませんでしたね。ネスタさん。」

 

「…お前がアキレスなのか。」

 

「そうですが…」

 

少し困惑した表情で返される。

ネスタの中に強烈な拒否感が生まれ、それが目の前の少年をアキレスと認めたくないと叫んでいる。

 

「それにしても、あのフォーメーションすごかったです。抜け出すのに紫蘭の力を借りずにはいられませんでしたから。あ、紫蘭はあのアリーヤのリンクスです。」

 

この、普通で礼儀正しい少年があの戦闘で戦ったレイヴンなのか。

 

「君は…」

 

「なんですか?」

 

「最後に残っていたハイエンドが君のような歳の人間だったとしたら、どうするのかい?」

 

その質問で彼があのレイヴンだったかどうかが分かるとは思っていない。

だが、レイヴンかそうでないかは確認できると彼は考えた。

 

「…依頼内容はあなたたちの排除。生死なんて関係ありませんしそいつが誰であろうと知ったことではありません。」

 

唐突に突き放すような冷たさにレイヴンではあるような実感を得て、胸の中の拒絶反応が収まりつつあるのを感じた。

 

「すまん。無粋だったな。お前があまりにレイヴンらしくなくてつい、な。今の反応で確信が持てたさ。」

 

「まあ、この年でレイヴンやってる人間なんてなかなか見かけませんからね。」

 

だが、こいつがネクストを実質単騎で行動不能まで陥らせたとは思えないのが実際のところだ。

戦いには慣れているようだが、戦闘時間の面では彼はあまり多くないはずなのだから。

だが、彼が本物のアキレスなら聞きたいことは別にある。

 

「なあ、それであいつの最期はどうだったんだ?」

 

「ああ、そういうことだったんですか。」

 

そういうと、彼は納得し言葉を続ける。

 

「二人が撃墜された後、彼は一直線に俺のほうに向かってきました。おそらく俺だけでもという考えだったんでしょう。射撃戦の後接近してコックピットをブレードで一突きし決着。ですが、彼の動きは自分と同じくらいの歳なのにかなりいい動きでした少し惜しいです。」

 

「そうか。」

 

あいつがどう死んでいったか、それだけが心残りだった。

それが聞けただけでも彼と話した甲斐はあっただろう。

そして、ネスタが告げるのはレイヴンとしてのプライド。

 

「次は勝つ。覚悟しておけ。」

 

アキレスは目を見開いた。だがその次の瞬間には口角を僅かに上げ、僅かに歓喜に染まる瞳でこちらを見つめかえす。

 

「何を言っている。次も俺が勝つ。簡単に仇は取らるわけがない。」

 

その豹変に今度はネスタが目を剥いた。そして、違和感が完全に消し飛ぶ。

目の前にいるのは間違いなく戦いを生きるレイヴンだったから。

 

「なら、次も圧倒して見せてくれ。こちらもただ黙っているつもりはないからな。」

 

レイヴンである二人は、互いに宣戦布告をし別れた。

互いのプライドと感情をぶつけるため。

 

 

『ミッションを説明する。』

 

『今回はFGWの本拠地付近の調査、および不審物発見時はその調査も含める。』

 

『目的は前回襲撃を受けた原因の解明だ。これが分かれば【乱入者】の居所が分かるはずだ。』

 

『一応ネクスト組がスタンバってる。やばくなったらすぐさま呼んで逃げとけ。』

 

『いい返事を待ってる。』

 

 

そこで俺は端末の画面を消した。

壁に身を預け、この戦いの後どうするのかもう一度思い描く。

 

父さんも、母さんも、帰ってくることはないだろう。

ACに襲われ消息不明。結果は見えている。

 

それでも、【人なみの幸せ】とかいうやつに未練があるらしい。

今思い返すだけで、あのオニキスとかいうACに襲われるまでのあの日常の有難さが身に染みる。

 

なんで、泣かないかって。

辛くないなんて思っちゃいない。

むしろ、心がねじ切れて折れ曲がって朽ち崩れ落ちそうだった。

 

けれど、泣くなんていつできる。そうするべき時に思いっきり泣けばいい。

 

だからこそ、今は前向きに考えていきたい。

 

 

 

金銭で困る要素などない。今までの依頼で得た金だけで遊んで暮らせるほどなのだから。

 

決めるべきは進路、ただその一点。

 

 

「やっぱり、すぐには決められないかぁ。」

 

そういって勢いをつけて壁から離れる。

正直、戦場に身を置いている現状から日常に戻った後の生活が思い描けない。

 

まあ、猶予はある。

 

そう思考を締めくくって、依頼の用意のために部屋を出る。

偶然だろうか、通りかかろうとしていた紫蘭と鉢合わせになる。

 

「練、これからどうする予定?」

 

「ああ、ミッション受けたからACの調整に。」

 

「私もガレージに用があるから一緒に行こうか。」

 

そういって俺の隣にすっと入ってくる。

正直な話、紫蘭が歩いていた方向とガレージのある方向は正反対なのだが、俺はそれを指摘しなかった。

紫蘭は俺といたいからついてきたのであって、わざわざ雰囲気をぶち壊しにするほど朴念仁ではない。

 

紫蘭は既に多くのものを失っている。

自らの身体、将来の夢、自らの肉親、その傷は計り知れない。彼女にとってはもしかしたらこの時間が、戦いを除いた最後の楽しみなのかもしれないのだから。

 

それはそれとして、俺は別の点で紫蘭に聞きたいことがあった。

だが、気まずいことを聞くので第一声はそっぽを向いて発される。

 

「あー…あまり聞かれたくないことかもしれないが、いいか?」

 

「断られたらどうするの?取り敢えず聞くけど。」

 

意地悪そうな顔でこちらを覗き込んだあと、進行方向に顔を向けなおす紫蘭。

取り敢えず了承を得たので問いを口にした。

 

「なんか、親御さんの死から立ち直るのが妙に早かった気がしてな。下に見てるつもりはないが気になって。」

 

「ああ…それね。逆に気になっちゃうのか。」

 

彼女の顔に影が差し、地雷を踏んだかもしれないと彼の中に焦燥感が生まれた。

 

「なんかすまないな。せっかく乗り越えたであろうことを掘り出して。だが、ある日突然壊れてしまうなら…」

 

「大丈夫だよ、ちゃんと整理ついてるから。それに壊れちゃうような状態で戦場についていったら練の足手纏いだし。」

 

「本当に大丈夫なんだな。」

 

それでも、彼の不安が消えることはない。

身近な者の死は、人に大きな傷跡を残す。デリケートな部分に足を踏み入れることを覚悟してはいたが、いざ実際となると後悔してしまう。

 

「うん、慰めて…っていう言い方は語弊があるかな。取り敢えず気にかけてくれた人がいるの。」

 

「そうなのか。」

 

「うん。レイナって人なんだけど、その人も昔父親を殺されちゃったらしくてさ。親身に接してくれたんだ。」

 

俺の胸に続いて訪れるのは、悔しさ。

そっとしておくべきといって寄り添ってやれなかった。

 

「そうか。よかった。」

 

俺はそうとしか言えなかった。

薄情だった自分が許せなくて、話題を変えた。

 

「さっき、この戦争が終わったらどうしようかってのを考えてたんだ。なんか紫蘭は考えてるか?」

 

「うーん…まあ、学校に通うっていう以前の生活に戻るのは変わらないかな。問題は生活面だけど。」

 

「まあ、そこは頑張っていくしかないな。少し早い一人立ちだと思うしかない。」

 

どうあがいたって「以前」がそっくりそのまま戻るのはあり得ない。俺らはこれから「取り戻す」のではなく「手に入れる」事しかできないのだから。

 

「幸い金銭面はどうにかなりそうなんだ。落ち着いたらゆっくり考えよう。」

 

そういっている間に、ガレージにたどり着いた。

扉を開けたのち、用がない筈のネクストに向かっていく紫蘭。

 

「あとでな。」

 

その背中に声をかけた。

彼女は振り返り「うん!」と大きくうなずいて去っていった。

 

その様子に俺は胸のつっかえがとれたような感覚を憶えながら、愛機へと向かう。

 

 

 

『ミッション開始。指定エリアを探索してください。』

 

ヘリから解き放たれ、地へと足をつける。

今回は探索任務だが、一切気が抜けない。

 

もしかしたら、このような調査任務をレイヴンに行わせるのは不適当というやつがいるかもしれない。

 

だが、調査はデータを持ち帰らねば意味がないのだ。

次世代規格が出る可能性がある戦場にMTだけで調査任務したら、[全滅して何の収穫も得られませんでした]などただの損失でしかない。

 

なら、相応の戦力を持つものが調査するのが道理というものだ。

 

「…いまだ怪しいオブジェクトは見つけられない。さらに西部を確認する。」

 

右も左も前も後ろも、葉を落とし寂しくなった木ばかりが視界を埋める。

その中に人工物は紛れていない。

 

そのまま十分ほどさまよったが怪しい物体は出てこなかった。

 

『…絞り込んだとの話でしたが、予想が外れてしまったのでしょうか?』

 

「【乱入者】探しは振出か…もうちょっと見たら…」

 

その時アラートが鳴り響く。

反射的に機体を左に飛びのかせた。元居たところにアサルトライフルらしき弾丸が地面を穿つ。

 

それと同時に4つの影が上から降り立った。

 

「烏一羽を倒すだけ。だいぶ楽なミッションね。」

 

「気を抜くな。ネクストを中破させた例の化け物なんだからな。」

 

「油断大敵ってやつっすね。」

 

「じゃ、いこうか!」

 

左から発言し、その順にα、β、γ、δと相手の機体コードがオートで割り振られていく。

二番目の声以外は大人の声ではない気がしたが、気にしている場合では無い。

レイレナード製ハイエンド4機が目の前にいるのだ。

オーダーと同等の性能を持つ機体が4機、苦戦は免れない。

 

その四機が正面から飛び込んでくる。そのうち中央の二機がアサルトライフルを撃ち放ち、両端の二機はミサイルという濃密な弾幕が出合い頭に放たれた。

 

その弾幕に対し、俺は左右に機体を揺らして弾丸をすり抜けつつミサイルを迎撃。コア正面につけられた迎撃装置が大量のか細いレーザーとマシンガンの弾丸がミサイルを撃ち落としていく。

 

「今のを凌いだ!?」

 

δに割り振られたパイロットが動揺の声を漏らす。

他にもβを除いた機体挙動に隙ができていた。

 

それを見て、俺は中央右に構えていたγにアプローチしミサイル、その後αにマシンガンを撃ちつつαから距離を取るように動く。

 

「背中、もらった♪」

 

そして敢えて背中をδに譲っていた。

だが、そこまでは織り込み済み。先程の動きから決して戦い慣れてはいないことを掴んでいたからこそ。

 

俺は振り返りつつダークスレイヤーを振り抜いた。

激しいスパークの後、δをよろけさせる。

 

「ウソ!?」

 

「単純で分かりやすかったぞ。」

 

そのままδを蹴り飛ばし、背中から袈裟に斬りかかってきたβと鍔競り合いに持ち込んだ。

 

「やっぱりお前はれっきとしたパイロットか。」

 

「そういうお前はレイヴンか。その年で!」

 

隊長機はやはり経験のあるものでなければ務まらない。

そしてこいつが一番厄介だ。

 

βがブレードを振り抜き、それを受け流すように俺はバックした。

その直後、フレンドリーファイアの心配がなくなった他の二機が、左右の

の視界の端からアサルトライフルを撃ち始めた。

 

それを俺はβを跳び越す形で飛んで避けると、そのままαに唐竹割を見舞った。

その一閃でαの左手が宙を舞う。

そのまま俺はαの背中に回り、右腕を抱え込みダークスレイヤーをナイフサイズまで格納してコアに突き付けた。

 

「た、隊長!!」

 

通信越しに伝わるのは下手をすれば俺より年下の女子の声。

それは既に震えており、初陣か今まで勝ち戦だったことを想像させる。

 

「さて、隊長殿。こっちはただの探索任務だったんだ。なぜ襲ってきたか答えてもらおうか。」

 

所謂人質というやつだ。

レイレナードは【乱入者】とつながりがあるのか。これで分かるはず。

 

「…ただ、任務でお前の討伐が命じられたにすぎん。これといった理由を聞かされてはいない。」

 

レイレナードがここにいる俺に直接討伐しに来るとは考えづらい。

そうか、もう命令系統まで掌握しているわけか。

 

「なるほど。つまり、何があろうと俺を殺そうとするわけか。」

 

「ヒィッ!!」

 

冷水をかけられたような悲鳴が接触回線越しに伝わってくる。

他の3機も身構えた。

 

「安心しろ。さすがにこいつを惨殺するほど人間をやめてるつもりはない。」

 

俺はそいつに残された左腕を切り裂き、足を裂く。

ごとんと大きな音を立てて胴体だけになったハイエンドが落ちた。

そうしてそいつの戦闘力を奪うと、俺は残りの三機に歩み寄る。

 

「だが、戦いの中で手を抜けるほど俺は強くない。覚悟しろ。」

 

言い終えると同時に、相手の三機が散布型ミサイルを俺めがけて放った。

そのミサイルに対し右に機体を動かした後、前進してそれらの旋回半径の内側に入り込む。

 

そのまま散布型ミサイルをマルチロック、3機に撃ち放ちつつアプローチした。

 

「このっ!!」

 

一人あたりの数が減ったため、迎撃されて命中したものはなかった。

だが、ターゲットが外れている間に俺はγの懐まで入り込み、マシンガンのトリガーを引き絞る。

至近距離で放たれる大量の鉛玉が軽量化した装甲を削り取り、剥いだ。

 

「ってーな!!」

 

煩わしいハエを払うかのように乱雑に振るわれたブレード。それを姿勢を沈み込ませてやり過ごし、一歩引いてマシンガンを再度撃とうとする。

がその直前レーダーに背中から迫る機影が映り咄嗟に機体を左に滑らせる。案の定βの袈裟斬りが直前まで俺がいた空間を薙いだ。

 

「大丈夫か!」

 

隊長として部下の心配をするのは結構だが。

 

「何とか…隊長、チェックナイン!」

 

「余裕だな!おい」

 

部下を見た隙にダークスレイヤーをβに振り下ろす。βはそれを間一髪で右手に持ったブレードを掲げることで抑えた。

磁力反発器が干渉し、紫電が冬の日差しに照らされた枯れ木の森をより一層明るく照らす。

 

「人の良心に付け込む下劣な攻撃だな!カラスがッ!」

 

「死にたくないんでね、煽っても何も出ないぞ。」

 

クッっと小さの声とともに、振りほどかれるようにブレードが弾かれ、袈裟、一文字と放たれる斬撃を、俺はそれぞれ受け流すように防いだ。

 

そのまま放たれる唐竹割を鍔迫り合いに持ち込む。

右肩の武装を切り替え、散布型ミサイルをロックオンする前に打ち込んだ。

もちろんβは避けることもできずに被弾する。

 

何回か地面を転がり、木をなぎ倒す。

 

立ち上がろうとするβ。その目の前に黒い陰が映った。

 

急いで視線を上げたβが見たのは、カバーに入ったδを吹き飛ばし、一直線に刺突を繰り出そうとするチェインド。

その刹那の後に、コアに深々と黒い刀身がめり込んでいった。

そして、そのまま左に薙ぎ払う。

 

その時、練は確かに見た。

オイルに紛れて紅い液体が飛び散り、バイザーに罅が入ったヘルメットが宙を舞うのを。

 

「隊長ぉぉぉ!!」

 

「い、イヤぁぁぁ!!!」

 

それが周りにも見えたのか、悲鳴も聞こえる。

何度も見てきた彼にとっては、当たり前の光景でしかなかったために反応は薄い。

 

(AR機能は普通、こういうのをシャットアウト出来るんだよな)

 

だが、周りは違う。

今まで見ることもなかった血が、目の前にいる頼ってきた隊長の機体から溢れ出たのだから。

おそらく、認識装置がオイルと血の判別をミスってしまったのだろう。

 

崩れ落ちる隊長機であるβ。

振り返れば、体勢を立て直したものの腰が引けているδ。右を向けば、怒りが機体にも表れているようなほどに殺気立ったγ。

 

「まだやる気があるようだな。言っておくが…」

 

一呼吸置き、自らの中にあるソレを切り替える。

 

 

 

 

「殺す気で行くぞ。お前達に死ぬ気があるのか?」

 



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灯台下暗し(後編)

ちょっと出のネームドが出てきます。(そこまでの深い意味はない


隊長が死んだ。

目の前で、無残に。

 

それに怒りを感じないはずがない。

 

「殺す気で行くぞ。お前達に死ぬ気があるのか?」

 

ふざけるな。俺達はただ黙って殺される人形じゃない。れっきとした生きてる人間なんだぞ。

 

「ぁぁぁあああああ!!!」

 

ブレードを振りかざし、構えもしていないACに突っ込む。

感情のままに横に薙いだその一撃。それを一歩引いて間合いぎりぎりで躱される。

隊長への攻撃をまねて肩の散布型ミサイルを至近距離で打ち込んでも、右に短いブーストであしらわれる。

左手のアサルトライフルで弾幕を張ってようやく数発の被弾が出せるだけ。

 

その弾幕の切れ目に放たれたマシンガンの牽制がとても煩わしい。

APが半分を切った、そのCOMボイスすらただ奴を倒すための妨害でしかなかった。

 

「お前も手伝えよ!!隊長がやられたなら俺らがやるしかないだろ!!」

 

動きを見せなかった味方にも呼び掛ける。

このままじゃやられるだけだ。

 

ようやく増援としてきた散布型ミサイルを追いかけるようにあのレイヴンに迫る。

そのミサイルが一つずつ破壊され、爆炎が機体を撫でた。

そして、相手が目と鼻の先に奴を捉えた時、奴がブレードを構える姿を…

 

「喰らうか!!」

 

振り払う直前、俺は急減速し後退して躱す。

そのままアサルトライフルを感情任せにトリガー。

連続して弾丸が奴の装甲に突き刺さり、その直後援護射撃の散布型ミサイルが命中する。確かな手ごたえを感じ

た。いける、いけるぞ。

 

「見くびっていたか。」

 

その次の瞬間、被弾を無視した直線軌道で俺の左手のアサルトライフルを切り裂いて通り過ぎていく。

そのまま、俺を置き去りにして行くのはなぜか。

 

「い、嫌ぁぁ!!来ないで!!」

 

「クソ、待ちやがれ!!」

 

アサルトライフルをレイヴン向かって乱射する彼女。

その被弾ををもろともせずアプローチ、マシンガンで彼女のカメラをいくつも潰しその脇を過ぎて背後に回る。

その間も追いかけ続けたが、間に合わない。

 

放たれる袈裟斬り、右薙ぎが背部装甲を削ぎ内部機関を露出させる。

次の一撃は見えていた。当たれば確実に相手を戦闘不能にするトドメの一撃が。

 

激しい金属音が周囲に響き、突き出される刀がコアを背中から貫いた。

その胸から突き立ったそれから、ぽたり、ポタリと赤い雫が目の前で零れ落ちる。

 

『あ………ぁ…』

 

彼女の喘ぎがあまりにも痛々しかった。

咄嗟に彼女の通信をウィンドウで開くが、後悔するはめになる。

あの位置は紛れもなくコックピットなのだ。彼女は今、あの刀に貫かれて命を散らそうとしているのに俺は、開いてしまった。

 

 

彼女は下腹部を刃で貫かれ、絶望と苦悶に顔を歪ませていた。

画面に映るその光景は、紅に塗れている。

 

そして、こちらの方にゆっくりと手を伸ばし呟く。

 

『いや…こんな…わた…し。』

 

その声と共にがくりと手も首も力なく重力に引かれていく。

一拍おいて引き抜かれる黒刀。支えを失った機体がぐらりと傾き、地へ伏した。

 

 

 

死んだ。

 

殺された。

また、あいつに。

その言葉が頭を埋め尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

それが逆に俺の中のナニカを目覚めさせた。

 

フットペダルを蹴り飛ばしつつミサイルのトリガーを引く。

そのミサイルの影で姿勢を低くとり、細かく、激しくブースターを吹かして加速する。

 

次の瞬間にはミサイルが悉く撃ち落とされるが、正面から接近し左薙ぎを一閃。

レイヴンはそれを右薙ぎでぶつけてきた。

そのまま流れで出される袈裟が、躱し損ねたレイヴンの右手にあったマシンガンを真っ二つにした。

 

「やるなぁ。だが!」

 

だが、レイヴンはそのマシンガンの残った部分でストレートを打ち付けたのち、マシンガンを横なぎに殴りつけて側頭部の装甲を捥いだ。

 

「チぃ!!」

 

殴られた事によってできた体の回転、それを利用し放つ右薙ぎがレイヴンを吹き飛ばす。

すかさず、ブーストを吹かし追撃のために再度接近。

ミサイルだけが飛び道具の現状では、必然的にクロスレンジになる。

 

その時にブレードを右手に持ち替えたのに気づけたのは幸運だった。

それで不意打ちを喰らってはたまったものでは無い

 

俺の袈裟斬りが奴の袈裟と交錯し雷を散らす。

奴がそれを払って唐竹割を振りかざし、俺は左薙ぎで流すと、奴は返す刀で刺突を繰り出してきた。

俺はそれを身を逸らして躱し、ブレードを刀に沿わせて斬りかかる。

だが直前で切っ先を下に回して抑え込まれ、今度は奴が刃先を回りこむようにしてやり過ごし、一回転して右薙ぎ。

それが俺のコアを掠めていく。

 

明らかに腕は相手のほうが上だが、倒れるつもりはない。

 

仰け反った機体を立て直し、コアに向けた突きを放つ。

その一撃は跳躍によって躱された。

奴は空中でコマのように回転し俺の機体の左肩を斬りつけて後ろへ回る。

 

(だが今の体勢はかなり崩れているはず!)

 

振り返りざまの右薙ぎが奴のコアを__掠めもしなかった。

 

 

 

奴は仰向けで倒れかけたまま、時が止まったように固まっている。

 

その一瞬で、すべてが決まった。

爆音を響かせて起き上がると同時に、放たれる散布型のミサイル。

そのすべてが俺の機体に突き刺さり、装甲を喰らいつくした。

 

【防御力低下、作戦行動を中断します。】

 

APがなくなり、仰向けのまま動かなくなる機体。

 

「動けよ!!この!!」

 

奴に負けるわけにはいかない、二人の仇なのだから。

何度もスロットルふ動かし、フットペダルを踏みつけた。それでもアラートをまき散らすこの機体はピクリとも動かない。

 

 

そうしているうちに、奴の影が遠くへと離れていく。

興味がなくなったといわんばかりのその後ろ姿に、噛み締めた唇から滲む血を涙と共に味わった。

 

 

 

 

『大丈夫ですか?』

 

「ああ、だが、いい腕だった。生き残れば期待できる」

 

自らもまだレイヴンになって一年もたっていない俺が言うことではないのだが、口を突いて出てきた。

 

「周辺を探索する。」

 

『何もない筈なのでは?周囲には何も映っていませんが。』

 

APを半分近く失いながらも勝利したアキレス。

だが、彼にはこのまま撤退できなくさせるような仮説が胸の中にあった。

 

「今の部隊が単に俺の討伐のためだけに来たとは思えなくて。少なくとも何か都合の悪いものがあるはず。」

 

マップを開き、今まで探索に通ったルートを確認する。

 

(ばれそうになければ戦力をよこそうとしないはずだ。なら、何度も視界に入ってなおかつ怪しいものは…)

 

 

目に入るのは、何の変哲もない大岩だった。

それは自然の中に紛れて、昔からあったようにそこに佇んでいる。

 

だが、ここぐらいだ。

足下から高レベルの金属反応が出ているのは。

 

「ここだ。破壊する。」

 

散布型ミサイルをロケット代わりに岩に打ち込んだ。

一瞬にして爆薬が岩を爆砕し、下の素地をあらわにする。

 

金属製の扉、それが日の下に晒された。

これだ、本拠地を襲いった奴らが利用したのはここだ。

 

「すまない、補給を要請してくれ。このまま突入するにはダメージを受けすぎた。」

 

『まだ続行しますか?十分目標は…』

 

「心配はありがたいけど、任務は不審なオブジェクトの調査も含んでる。今のうちにやれるとこまでやっておきたい。」

 

 

『分かりました。補給物資を要請します。』

 

 

 

 

 

 

30分でできるだけのことがなされた。

今の機体状況は

 

・AP7000ちょっと

・弾薬補充

・ダークスレイヤーのナノマシン補充

・マシンガンを再度用意

 

といったところか。

装甲面は回復が難しいから応急処置なところもあり、完全には修復できないが仕方ない。

 

 

「これより、敵拠点と思われる施設に侵入する。」

 

『了解、バックアップにブレティア(紫蘭)が入ります。有事の際は無理せず増援を要求してください。』

 

扉は補給中に出来た時間で、すでにクラッキングでロックが解除されている。

アクセスと同時に解放され、そこからはかなり埃っぽい空気が吹き上げられてきた。

 

そこを景気よく飛び込んでいく。

レーダーで底がどれほどのところにあるか確認しつつブースターで少しずつ減速していった。

高度計はマイナスをとうに振り切っている。

そのことを確認したあたりで底にたどり着いた。

 

暗視カメラが映し出す無機質な廊下。そこをブースターに火を燈して突き進む。

廊下自体はかなり未来的な造りでありながら、長い間使われてなかったかのように埃に満ちていた。暗視カメラすらぼやけている。

 

少しして、僅かな明かりが奥の方に灯っていた。

開閉可能な生きている扉が、この使われていなさそうな空間に存在したようだ。

 

アクセスはあっけないほど簡単に済み、扉が開く。

 

『罠かもしれません警戒を。』

 

「了解」

 

そのころには扉が開き、薄暗いながら暗視カメラに頼らなくても済む空間に出た。

金属に覆われていない、剥き出しの岩壁に照明が取り付けられている。

そんな炭鉱の一角のような、アリーナ一つ入りそうな空間だ。

 

座標データだが、この部屋に入るか入らないかのところで激しくジャミングが入り、掴めない。

通信が繋がるのは不幸中の幸いだった。

 

奥に見える扉のロックが外れ、開く。

照明に照らされる黒い機影が徐々に見えてくる。

 

『ここまで来てしまいましたか…』

 

「その声はセレ・クロワール。」

 

ゆっくりと滑るように扉から出てきたのは、すらりとした手足に大きな翼を付けた人型だった。

 

『あなたのおかげで大分計画が狂いました…』

 

「そりゃ、俺は依頼上は敵対勢力だ。うざがることをして当然だと思うが?」

 

『まぁ、レイヴンとして当然でしょう。ですが、それ以上に…』

 

背中の羽が展開し、蝶のようなシルエットを照明のもとに晒した。

その羽のそれぞれが陽炎で揺らぎ、熱を帯び始める。

 

『あなたは危険すぎる。』

 

その声と同時にX字の輝きを背中から放ち、音速に達する速度で向かってくる。

コンマ数秒の間に懐に入ってくる相手に、事前に察していた俺はミサイルを障害物にして右に飛ぶ。

 

〔規格外兵器を確認。メインシステム、サードフェイズ・オーバード。3、2、1、GO〕

 

「すまない、増援を要請…!」

 

その一瞬で目の前に映し出される黒い機影。

左腕に現れる蒼い輝きを持つ刃が、美しい半円を描いて襲い掛かる。

 

身を屈めて躱す。

その際、頭部をわずかに掠めて機体温度が上昇した。想像を絶する熱量があの刀身から放たれているのだ。

 

後ろにHBし距離を取る。

欲しいのは空間ではなく、一息つくための一瞬だ。

だがその一瞬、その刹那で攻めてくる。

 

後ろにQBすることでマシンガンの射程から離れると、右手のライフルから紫電と共にエネルギー塊(プラズマ弾)が吐き出される。

回避が間に合わず、コアに直撃を受けた。

装甲表面の蒸発と急激に加熱され膨張した大気によって、機体が仰け反る。

 

「ぐぉおっ!!」

 

『そこッ!!』

 

再度放たれるプラズマ弾を何とか右にHBすることで避けるものの、削れたAPを無視できるはずがない。

 

(残りAP、5800か。)

 

悪化する状況に普段しないような舌打ちが漏れた。

その間に距離を取り続ける敵影から、何かが放たれる。

それは周囲を飛び回ったのちに空中で静止。

直後、それぞれからか細いレーザーが機体の各部を焼き始めた。

 

「イクシードオービットかよ!!」

 

マシンガンを目の前に浮いていたEOにばらまき、撃ち落とす。ミサイル迎撃装置も一定の熱量があれば発射するよう設定を変え、EOの迎撃に回した。

 

『小さいものに目を奪われすぎですよ。』

 

目の前に現れる黒い翼の機体が、右手のライフルを向けた。

細めのプラズマ弾が連続で放たれ、それが機体の各所に突き刺さる。

機体の各所に穴が開き、APが見る見るうちに減少していった。

 

しかし、その距離の近さなら

 

「喰らいやがれ!!」

 

散布型ミサイルを至近距離で撃ち放つ。この距離ならQBでも避けきれないという自信があった。

だが、放った直後。それらは奴に届くことなく迎撃装置らしきものですべて撃ち落とされる。

 

『逃がしません。』

 

爆炎を割って出てきた斬撃がコアの先端を掠め、蒼い閃光が視界を遮った。

 

 

 

〔防御力低下、機能停止します。〕

 

目が覚める。

アラートが響き続けているコックピットの中で、腕を動かす気力も起きない。

月光のようなレーザーブレードで吹き飛ばされた後、意識が飛んでいたようだ。

全身が鈍い痛みを訴え、身動きすら苦痛だった。

 

(あぁ。なんでこんなになってるんだろうなぁ…)

 

何度も傷だらけになって。

何人も傷つけて。

何を得られた。

何を失った。

 

(なんか、もういいかなぁ)

 

せまる黒い影に対して、何もアクションを起こさない。

 

『おい、脱出しろ、練!』

 

(機動兵器が目の前にいるのに、逃げられるわけがないだろ。)

 

何処か諦めた目で、その影を見上げていた。

 

(ああ、報いが来たんだな。今までやり過ぎたその報いが…。)

 

遂に、俺の番が来た。

ただそれだけのことだと思えたのは何故だろうか。

 

【今まで殺ってきたように、自分も死ぬだけ。】

 

ただそれだけの事実を今まで必死に避けてきたことが、急に馬鹿馬鹿しく思えて仕方なかった。

戦場で好きに戦って、死ぬ時が来たんだ。

 

 

 

 

 

__おお!おめでと!オリンピック合宿参加状だなんて凄いな。

__これで夢に一歩近づいた!

 

 

__そ、じゃあ試験は4日後になったから、早速特訓しよっか。

__はい!

 

 

__俺は絶対曲げない一つの信念がある。

 

 

__私はランク45、ストレイド。シャルの友人だと思ってくれ。

 

 

__それでも知りたい?この世界の裏側を。

 

 

__ナインで良いって、アキレス。

 

 

__だからこそ足掻け。泣き崩れてもいい。他人の足に縋り付いてもいい。己のあるべきと望んだ結末を引きずり出せ。

 

__へえ、面白い奴だな。だけど依頼だから消えろ。

 

 

__うん、そうだね。ただいま。

__おかえり、紫蘭。

 

 

__だから、私の知ってる練が消えていないなら、もうなんだっていいよ。

 

 

__ああ、しくじった、なぁ…。川城主任に、どやされる…。

__悪いな…せめて、こいつ、受け取ってくれ。

 

 

__自らの望みのために、いくらでも手を伸ばせばいいのか!

 

 

__分かった。お前に依頼する。〔俺と協働してあのネクストを止めてくれ。〕

 

 

__オッツダルヴァ、お前は俺を撃つ権利がある。

 

 

 

__俺は感情の矛先をお前に向けた。だが、違うな。これでは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

__あとでな。

 

__うん!

 

 

 

微睡みの中、意識が光に包まれて__

 

 

 

「だから簡単に命を捨てないでよ!!レアキレス、練!!」

 

 

 

その一言で目が覚めた。

 

刹那の間の、長い夢から。

 

奴がコックピットめがけて放った突きを、リッミトカットの後に身をよじらせてすれすれで躱す。

右脇に突き立った光の剣を横目に、ブースターを最大まで吹かして背を引きずりつつ離れた。

 

俺を目で追いかけ、今にも再度とびかかろうとしていたセレ・クロワールの背にグレネードが突き刺さる。

 

「すまん。助かったよ、紫蘭。」

 

『ぼさっとしてないで逃げる!まーた無茶して!』

 

その会話の間に二人は全速力で扉に向かった。

追いすがるセレ・クロワールに向かって、牽制のマシンガン弾幕を紫蘭が放つ。

効き目は薄いが何もないよりかはいい。

 

『廊下は抱えてオバブするからこっちに来て。』

 

扉を蹴破り、輝かしい光を背中に集めたブレティアは音速にも迫る速度で廊下を駆ける。

これ以上追ってこないと思った俺は、念のために振り返る。

 

だが、そこにはプラズマをフルチャージしている奴の姿。

 

「紫蘭!!まずい!!」

 

『まだ追ってきてたの…』

 

紫蘭がQTで奴の方を向く。

その時には、チャージは終わっていた。

 

(諦めるな…足掻け!)

 

プラズマライフル…いや、キャノンに相対する。

 

「おらあァァァァァ!!」

 

紫蘭の機体制御も計算に入れ、右手を振るう。

手に握られたダークスレイヤー、その基部にあるナイフ状の刃にプラズマの弾丸が衝突した。

 

 

ダークスレイヤーの磁場とプラズマが生む電磁場が干渉し、激しい閃光が視界を染めていく。

 

「今のうちに一気に離脱だ!」

 

『う、うん!』

 

再度OBを点火、巡航モードに切り替え長時間OB、出入り口までたどり着いた。

上昇し始めてからも俺は警戒したが折ってくる様子はない。

 

「何とかなった…助かった、紫蘭。」

 

『どういたしまして。にしても相変わらずボロボロ。何とかならないの?』

 

「【虎穴に入らずんば虎子を得ず】、といいたいが毎度バッタリなんだ。俺もこういうのは嫌なんだが…」

 

今回も機体を大破させて、少し落ち込んでるんだ。

手加減願いたい。

 

 

 

 

「おい!この情報、本当なのか!?」

 

「あのアキレスがこんなつまらない噓をつくとは思えない。でもこれは…」

 

「見つからないわけだ…こんなところにあるなんて誰も思わないからな。」

 

アキレスが提示したデータ。

穴の位置と、そこから進んだ距離。そしてGPSがダウンしたポイント。

それが示すものは彼女たちが驚愕するのに十分すぎるものだった

 

その足元で、事態は急展開を迎える。

 

 

 

都の灯りが遠くに見える岩壁に空を覆われた、そんな薄暗い世界。

そこに二人の影がぼんやりと水面に映し出されていた

 

「よう萃香、どうしたんだ?こんなところまで降りてきて。」

 

「いやぁ、久々にお前の顔が見たかったんだよ。勇儀。」

 

「まあ、やることは決まってるよな。」

 

二人は同時に構え、笑みを深めていく。

そして、瞬きもせぬ間に二人の正拳突きは衝突する。

 

激しい轟音と共に周囲の空気と大地を大きく揺らし。

 

「ん?」

 

「どうした?喧嘩の最中によそ見なんて。」

 

萃香と呼ばれた少女が、勇儀と呼ばれ少女の視線を追う。

 

「…勇儀、ここはこんな大穴があって、そこから別世界が見えるような場所だったか?」

 

「いいや。多分今、そうなった。」

 

二人が見たのは、岩壁に開いた大穴から覗く古ぼけたコンクリートジャングル(古代の未来都市)と黒ずんだ雲が覆う偽物の空だった。

 

 

 

 

 



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結末への秒読み

真相は明かされず、終幕だけが近づく。


【さてと、一応直に言う予定ではあるが、予習、復習資料としてこのブリーフィング映像を作らせてもらった。ストレイドだ。】

 

【今回の任務は、中枢への突入。及び敵無人兵器の制御体の無力化だ。】

 

【この作戦はGAとレイレナードの終戦交渉と同時に行う。場合によっては作戦途中で戦闘の必要がなくなるかもしれない。】

 

【話が変わり、【乱入者】の居場所と正体だが、完全に見落としていたことが分かった。】

 

【私たちがいるこの足下。そこに存在する地下空間に隣接したエリアに、かつて管理していた都市ごと転移した超大型コンピューター。それのメインAIが【乱入者】の正体だ】

 

【そしてそのAIの製造理由から、奴の目的も見当がついた。人類の存続のために戦っていたのは確かだ。】

 

【どのような手段で、どのように人類の存続をなすつもりなのかはまだまとまっていない。だが、手を取れるはずの存在にこのような作戦行動をするには理由がある。】

 

【その存続を願うものの中に、私達は入っていないように思える。これから行うのは私達の生存を訴える抗議だ。】

 

【そんな作戦に無理矢理参加させるつもりはない。受ける受けないはお前たちで決めてくれ。】

 

【もしここでお前が参加せず、私達が負けて姿を消したとしよう。それでも日常に回帰したお前たちには何の影響もない筈だ。】

 

【既にお前たちを縛る鎖は砕いた。この交渉でお前たちの企業からの干渉は無くなることだけは確実になったからな。】

 

【最後に、いままで私達の依頼を受けてくれたこと。感謝する。以上だ】

 

端末の明かりに照らされた練の顔は、穏やかではなかった。

すっかり家同然になったセーフハウスの、練の部屋。

月と星の輝き、端末の画面がこの部屋を照らす全てだ。

 

既に直接ブリーフィングを受けた後にも関わらず、彼はこのブリーフィングメールを何度も繰り返し見ていた。

 

目を伏せ、今まで世話になったFGWの面々を思い出す。

いつも助けてくれた人がいる。

既に会うことすらできなくなった人もいる。

その人たちのためにも、この依頼は受けるべきだと彼は考えていた。

 

だが、彼は即答しなかった。

自分が失ったはずの【日常】に帰れるという想像のせいで、戦場に出向く心が削がれつつあるのだ。

 

(今の俺は明らかに実力不足だ。ここまで来て死ねないのに。)

 

戦場に立つ楽しさとFGWへの義理が結末を迎えたい心とぶつかり、決断を鈍らせる。

 

時計は午前1時を示していた。

開けられた窓から肌寒い風を運び込み、月の色に染まったカーテンを躍らせる。

 

眠れない彼は、ゆっくりとベッドから身を起こし窓に向かっていった。

かつてシャルたちが酒盛りなどで過ごしていたベランダがそこにある。

その椅子にシャルやストレイド、Unknownらの姿を幻視した練は、ため息をついて手すりに手をかけて月を見る。

 

「まだ起きてたんだ。」

 

テーブルの向こう側から声がかけられる。

紫蘭だ。

彼女も同じようにこのセーフハウスの部屋で過ごすようになっていた。

 

 

今日はこの二人を除いて誰もいない。

ガレージに行けば控えの整備員がいるのだが、ガレージに寝室があるためこの家には寝泊まりしないのだ。

 

シャルは下準備のため本拠地に戻っているし、他の面々も最終決戦同然の作戦を前に忙しい。

結果、この家にいるのは二人だけ。

 

「やっぱり悩んでるんだ。次の作戦を受けること。」

 

「ああ、無意味なら死に行くことはないって思えてさ。」

 

「…この前の撃墜が効いてるの?」

 

俯き、彼は眉間に皺を寄せる。

 

「自分はいつだって下克上を成し遂げられるほど強くはないんだ。これまで足掻いて何とかしてきたが、それもそろそろ限界なんだなって。」

 

その肩に、紫蘭の手が触れる。

 

「じゃあ、最後に見て見ぬふりするの?」

 

「…そうしたくないって思うことが答えなんだろうけど、な。」

 

練の表情は少し緩み、肩の力が抜けた。

今度は空を仰いで呟く。

 

「この心のしこりはなんだろうな。この思いに嘘はないって思えるのに。」

 

都会の明かりから少し離れ、かつ東京の明かりが消えた星空は、今まで見たそれより遥かに美しかった。

その星空を二人で眺めつつ、今度は紫蘭が口を開いた。

 

「もしかしたらさ。」

 

「ん?」

 

空から紫蘭へと目を移した練。

星空を見上げている紫蘭の横顔が、少しきれいだと彼は頭の片隅で思考した。

その次の言葉を逃すことができなかったから。

 

「練は次のステージに進むための扉を目の前にして、少し怖くなってるんじゃないかな。」

 

練は目を見開いた。

 

__次が、怖い…?

 

「あ、一応言っておくけど私も怖いよ。ようやく手に入れた居場所が急になくなるかもしれない、幸せを取りこぼすかもしれないって。」

 

どうにか気を取り直した練は、息を吐いた後にもう一度空を見上げる。

前は東京の明かりがあったが、それ抜きでもここから見る星空は奇麗だった。

この星空の下で、彼は一年近くを過ごしたのだ。

 

「そうか…一度滅茶苦茶に変わって手に入れたものだから、もう一度変わるのが怖いのか。」

 

「言っといてあれだけど、次の作戦に参加しなくてもこの生活は終わっちゃうよ。」

 

「分かってる。だからああいう言い方をしたんだろ。自らの手で終わらせるのが怖い。自分で終わりを告げるのを嫌がってたんだ(人任せのヴァーディクトデイだったんだ)。」

 

今度は、紫蘭が練の顔を見つめる。

微笑みながら彼女は、彼に声をかける。

 

「私は練についていく。無責任って思うかもしれないけど、練とばらばらになるのがいやっていうのが私の意思。」

 

「いや、それがお前の意思だって言うなら文句はないさ。…さてと、俺は俺の意思を貫くことにする。」

 

練は紫蘭の瞳を見つめた。

その瞳には、今まで見たことが無いほどの覇気がある。

 

「今回は俺に付き合ってもらうぞ。」

 

()()()、じゃないかな」

 

一拍おいて二人とも笑いがこぼれた。

両者の笑いが落ち着いたのち、話は続く

 

「でさ、最後の機体どうするの?」

 

「…ああ。あの話か。」

 

 

 

数時間前に、出かける前のシャルと練との話だ。

 

 

 

『練はさ、本当は中距離戦が得意なはずなんんだよ。』

 

『そうですか?実感はないですが…。』

 

『それ以前の話、アキレスは射撃の腕はかなりあるはずなんだよ。紫蘭の手に持ったリボルバーだけを撃ったり、付け焼刃のスナイパーキャノンを扱って見せたり。』

 

アキレスは首を傾げた。

普段の戦いのせいで、彼にとって左手の武装はブレードと決まっていたからだ。

 

『多分、私達の戦い方を真似たせいで接近戦闘に偏っちゃったんだと思う。でも、戦いっていうのは相手の有利な距離より遠くから攻撃する方が本来強い筈なの。』

 

『でも、ACの近接戦がなくならないのは、その威力で戦局をひっくり返せるから、ですね。』

 

『そう。だけど、わざわざ格上の相手にリスクを取る戦い方をする必要はないでしょ__』

 

 

 

 

練はその言葉を反芻した。

今までのブレードは余りにも大きすぎる力の差を埋める方法が必要だったから。

 

「流石にダブルトリガーにはするさ。あいつ相手に格闘戦はリスクがデカい。」

 

「まあ、そっちの方が私はありがたいな。無理矢理敵に向かっていく練を見るのはハラハラするし。」

 

おやすみ、と言葉を残してそれぞれの寝室へと戻っていく。

 

 

(惚れ直し、か)

 

ベッドの中で、二人は同じことを考えながら眠りについた。

 

 

 

一週間という時が流れ、作戦開始の時を迎えた。

 

『二人とも、作戦の詳細を確認する。』

 

「チェインド了解。」

 

「ブレティア了解。」

 

二人はリフトで地下へと降下する機体の中で返答する。

 

『中枢を目指すのはネクストとオーダーのコンビを組んだ部隊だ。その中には無論お前達二人のコンビも含まれる。』

 

目の前に写されるメンバーとACネームのうち、紫蘭と練の部分がピックアップされた。

 

『指定エリアに侵入したら各機散開。それぞれ指定された候補ルートを侵攻し中枢を叩け。』

 

映し出される敵本拠地のマップに複数個所の光点が付けられる。事前の調べが入念だったからか、既に4か所まで絞られている。

そのうち、入って奥の右側が俺たちの突入ポイントだ。

 

『もし外れだったら引き返して中央に作った拠点で待機。支援要請があったらそこを援護してやってくれ。』

 

『あと、見たことない大型の人型兵器がお前達を迎えるだろうが、それがこっちの主力だ。今回は突入部隊の援護が目的で配備されてる。突入までは奴らを頼ってくれればいい。』

 

『こんなところだ。質問は今のうちに頼む。』

 

「チェインド、問題なし。」

 

「こちらブレティア、大丈夫です。」

 

『よし、最後に一つ…』

 

通信越しに響く大きな深呼吸の後に、ストレイドさんは口を開いた。

 

『こっちの都合なのに、受けてくれてありがとな。生きて帰れ。じゃないと死体を直接焼いてやる。』

 

「物騒ですね…死ねませんよ。ここまで来て。」

 

「これで終わりなんですから。」

 

 

リフトが降りきって、そこから一歩踏み出す。

薄暗いながらも明かりのある、不思議な空間。

 

 

『今回護衛をする、〔は〕小隊だ。よろしく頼む』

 

そうやって通信を繋げててきたのは16ⅿほどの人型兵器だった。

これが先ほどストレイドさんが言っていたFGWの主力兵器か。

 

「こちらこそ。いろはですか?その感じだと。」

 

『そうだな。第三小隊って思ってくれて構わない』

 

受け答えに応じてくれたのは、青年の声だった。

右手に持つアサルトライフル(に見える銃)を構えなおし、歩みを始める。

 

『出撃位置はこっちだ。付いてこい』

 

「了解。」

 

その背中に俺と紫蘭はついていく。

少し歩いたところで、町明かりのような光、いや町明かりそのものが背中を照らした。

 

「こんな所に、町が…」

 

『嫌われモンの巣窟、文字通りアンダーグラウンドってな。まあ、今はそうでもないがな。』

 

顔だけをこちらに向け、隊長格の男が答えた。

 

『ここのせいでここの地下って発想が生まれなかったし、逆にここに人がいたおかげで最終確認ができた。塞翁が馬ってな。』

 

三機の主力機が一斉に立ち止まる。

それに倣い、その数歩後ろで俺達も立ち止まって目的地の様子に目を剥いた。

 

その穴の向こうには、滅びを迎えたビル街がくすんだ空に突き立っている。

 

「これは一体…」

 

『【レイヤード】。マメイヤー大尉が探査した世界で確認された地下の居住区域だ。地表に住めなくなった人類が最後の依り辺にした数隻のノアの箱舟。その一隻さ。』

 

隊長はそっけなく言うが、目の前にあるのは終末を迎えた世界そのものに見えて仕方がない。

 

「これがストレイドさんの言っていた転移した都市…なの…。」

 

「空まで完備って…。」

 

『はい、呆けるのはそこまで。5分後には始める。』

 

Unknownさんの声に、俺と紫蘭は弾かれたように周囲を見回す。

二人がその巨大さに気圧されている間に、ほかのチームは集合し終わっていたのだ。

 

『各機巡航モードで侵攻後、接敵次第戦闘モードに移行する。出撃用意!』

 

場に緊張が走る中、俺たち二人もまた戦闘に意識を向ける。

 

「練、どうしてだろうね。」

 

「ん?何かあったのか?」

 

映像付きの通信にして会話を促した。

彼女の顔は伏せていて、ヘルメットの鍔で表情はうかがい知れなった。

 

「少し、楽しみなんだ。たった一度しか訪れないような大一番に命張る、その緊張感と興奮が止まらない。」

 

伏せた顔を上げる。

少し赤みを帯びた頬を、笑みで僅かに持ち上げていた。

その瞳には、俺と同じ戦いに溺れた色が僅かにかかっている。

俺の知らないところで出撃を繰り返したことは、彼女の口からすでに聞いていた。

だが、俺はもう気にしない。

彼女は彼女で道を選ぶのなら、それを見送ってやればいい。

 

「安心しろ。」

 

俺は声を返す。

 

「俺もだ。」

 

 

 

『作戦開始!全機出撃!』

 

 

 

 

『イの1から各機へ。このまま道なりに直進、指定ポイントで右折だ。』

 

『イの2了解です。』

 

『イの3了解。』

 

それに続けて俺らも返事をした。

 

「チェインド了解。」

 

「ブレティア了解。」

 

今のところは敵が見えない。

だが敵のホームグラウンドに突っ込んでいるいま、どう攻撃されてもおかしくないのだ。

油断すれば一瞬で包囲殲滅の疎き目にあうだろう。

 

『イの1、左折ポイント接近、総員戦闘モード起動!』

 

咄嗟にいくつかのスイッチを弄り、システムの切り替えを行った。

突入ポイントまであと少しあるところでの指令。

 

〔メインシステム、セカンドフェイズ・コンバット。戦闘を開始します〕

 

ターンと同時にリニアライフルを構える。

その先にいたのは真紅と黒に機体を染め上げ、グレネードランチャーを展開したAC(ナインボール)数機だった。

 

『ってい!!』

 

敵が見えたと同時に全機から放たれた、容赦ない弾幕がACの装甲を削り取る。

だが相手も黙ってやられるようなAIではない。

崩れる姿勢を無視して放たれる榴弾が、イの2に向かって突き進んだ。

それをイの2は左手に設置された物理シールドで防ぐ

 

『イの2!上にACが一機!』

 

すぐさまイの2は左に回避運動を取る。

その瞬間に上から降り立つACがブレードを展開し、寸前までイの2がいた空間を縦に割った。

 

その後頭部にアキレスはリニアライフルを押し当てる。

 

「あとは任せてください。」

 

容赦なく4発撃ち込みコックピット付近から内部機構を完全に破壊。

その後ビルに蹴り飛ばし叩きつけられた機体が爆散した。

 

『アキレス、チェック6(後ろを見ろ)

 

「何!」

 

振り返るとパルスガンの銃口をこちらに覗かせたナインボールの姿がある。

だが光弾が放たれることはなく、横合いから放たれた高速の金属の雨に撃たれてバラバラに砕け散った。

 

「助かった。…にしてもすごい威力だな。」

 

『こちらイの1、どういたしまして。そっちの使ってるリニアライフルを連射可能にしたようなものだからね。』

 

そうすると俺の前に立って、そのリニアアサルトライフルを構える。

 

『君たちは先を目指して。ここで敵を足止めするのが私達の仕事だから。』

 

交差点から飛び出してきたナインボールを粉砕して、彼女はそう呟いた。

それにACと共に頷いたアキレスはブースターを吹かして最後の大通りを駆け抜ける。

 

「紫蘭、行くぞ!」

 

「分かってる、合流まで3セカンド。」

 

そうすると前の交差点からブレティアが先程のナインボールのように飛び出し、こちらに相対速度を合わせて進み始めた。

 

その瞬間少し先の地面が破壊され、咄嗟に二人はそれを躱す形で前進する。

その穴からはナインボールが這い上がり、肩の砲身を展開してこちらを追いかけてきた。。

 

「迎撃、いける?」

 

「ああ。」

 

紫蘭がQTと同時に左肩のグレネードを素早く撃ち放つ。

着弾した一機が完全に吹き飛び、もう一機も爆風に煽られ宙を舞う。

何とか体勢を立て直したそいつに容赦なく散布型ミサイルが殺到した。

その攻撃はパルスガンとコアの迎撃によりほぼ無効化される。

撃ち返されるグレネード。

だが、アキレスは細かくステップを繰り返し、ゆすられた二次ロックによって弾丸はチェインドの頭上を通り越して後ろのビルに命中した。

 

両手に握られた銃器の射程に潜り込んだアキレスはトリガーを躊躇なく押し込む。

吐き出されるリニアとアサルトによる弾速と連射性が異なる弾丸。

それを避けきれず後ろに押し返されたナインボールは、足下に放たれた弾丸で転倒してしまった。

 

仰向けのまま地面を滑り、ナインボールはようやく停止した。

そのコアの先端にアキレスはリニアライフルを突き付ける。

 

「いつかの逆だな、ナインボール。」

 

全ての始まりと全くの逆。

 

(あの時の自分は、こんな光景を見て恐怖するかもしれない。…だが、今の自分は紛れもなく愉しんでいるんだ。それだけでいい。)

 

その思考が終わるか終わらないというときにアキレスは引き金を引き絞り、トドメを刺した。

 

「練!行くよ!こっちに来て!」

 

突入予定ポイントで紫蘭はネクストで手を振りアキレスに呼びかけている。

余韻を振り切るように、彼は立ち去る。

 

「チーム4。突入ポイント到達。これより中枢襲撃を試みる!」

 

『HQ了解。中枢にたどり着けないルートだった場合は戻ってエリア中央の待機所で遊撃隊になってもらう。』

 

「了解。」

 

シャッターが開き、薄暗い中身をのぞかせる。

 

 

 

「こちらチーム1。突入したが早々行き止まりだ。各所で爆破破壊を試みたが、ここは外れだ。遊撃に回る。」

 

「アヤ、とっとと行かないと。」

 

「分かってるわよUnknown!それと今の私はシャル!」

 

「悪かったわよ。」

 

口論を続ける二人。

だが、二色蝶とマクロバーストの手はしっかり結ばれ、二色蝶のOBで元来た道を超スピードで引き返す。

 

「出入り口にお迎え、投げ飛ばすから初動はお願い。」

 

「任された。」

 

スロープの先にある出口の寸前で二色蝶はマクロバーストを放り投げる。

出口を一瞬で通り越し、宙に躍り出るマクロバースト。

 

「さあ、浴びなさい。鉛の雨を。」

 

撃ちおろされるマシンガンの弾幕が、集結していた複数のACの頭上に降り注ぐ。

その視線がシャルに移った隙に、二色蝶は敵部隊の真ん中に滑り込んだ。

 

「脇に誰もいないと思った?」

 

回転しながら放たれる弾丸が次々とACに突き刺さる。

そのまま敵中で停止した二色蝶。

 

銃口がすべて二色蝶に向けられた。

 

「悪いけど。ここで容赦はしない。」

 

前進のユニットが展開し、プライマルアーマーの形状が変化していく。

やがては機体の周囲が緑色に発光し始め、そしてそれは唐突に爆発。

大半の機体が爆砕し。外側にいた機体も煽られ宙を舞う。

その機体も、マクロバーストのマシンガンによって掃討されていった。

 

『こちらHQ。そちらに向かう二つの機影あり。警戒せよ。』

 

風切り音と共に降り立つ赤い二つの機影。

着地の際に巻き上げた埃の中から眼光のようなカメラアイの輝きがこちらを覗く。

 

その直後、三日月の形をした光の塊(高威力の光波)が放たれ、埃の煙幕を切り裂いた。

光波を飛びあがることで回避したシャルは敵を視認する。

 

「セラフとセラフライザー…本気ね。」

セラフが一瞬で加速してマクロバーストの懐に入り込み、ブレードを展開。

蒼い光が弧を描いてマクロバーストに向けて薙がれる。

 

〔メインシステム、サードフェイズ・オーバード。〕

 

ナインボール・セラフの視界からマクロバーストが消えた。

その直後、紫色の高収束レーザーがセラフの胸部を穿つ。

 

「これはもう練だけの特権じゃない。いずれすべてのレイヴンが手に入れるであろう力。」

 

機体のそこら中から白煙を吐き出すマクロバーストがそこにいた。

 

FGWのオーダーACはすべてこの改修を受けていたのだ。

そして、ネクストに僅かに報いる可能性を持つその力がかつてのラストレイヴンの手に渡され、ネクストに匹敵する力の前に立つ。

 

その可能性を掴める存在が、それと同等の力の前に立ちふさがる。

 

「とっとと決めるわよ、パパラッチ。」

 

「最速の、よ。鬼巫女さん。」

 

紅蓮の二機が、二人の例外と衝突する。

 

「見てなさい、IBIS(渡りトキ)。」

 



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例外と判断するのは、いつだって世界だ

苦戦してものすごく遅れてしまいました。


「待ち伏せの一人や二人は居そうなんだけど…」

 

ブレティアに牽引されているチェインド。そのコックピットでアキレスはつぶやく。

薄暗く、僅かな照明しか生きてない回廊を進み続けるが敵どころかネズミ一匹すらいない…まあ生き残れるような環境ではないが。

 

レーダーの電波が正面から反射され、壁となってモニターに映りこんだ。

 

「行き…止まり?」

 

「まさか、壊せるような壁を探すぞ。」

 

怪しげな壁やシャッターにC4を仕掛けて爆破するが、何もなかったり今回の作戦には必要ない部屋ばかりだった。

 

「クソッ、外れだ。」

 

「引き返そう。HQ!こちらチーム4は外れ。遊撃に回る。」

 

通信機越しの声は酷く焦燥に染まっていた。

 

『チーム4もか!クソ!全部ハズレだ!』

 

「ほかのチームもダメだったんですか!?」

 

『ああ。体勢を立て直すため一時撤退するぞ。』

 

つまり、誰も中枢に辿り着く道を見つけられなかったのだ。

作戦は中断、もう一度突入ポイントを探す羽目になる。

 

「無駄骨、か…練?」

 

紫蘭の呼びかけに一拍遅れて、練が反応した。

 

「ああ、すまない。一か所見ておきたいところがあるんだ。」

 

「見ておきたい場所?」

 

「さっきACが道路に開けた穴。どこにつながってるかって。」

 

紫蘭はハッとした。自分たちが一番近いのに、あの穴を下から覗くことはなかったからだ。

_もしかしたら、中枢に繋がっているのでは。

 

紫蘭は咄嗟にHQに連絡を入れる。

 

「こちらチーム4。一か所候補地があります、今から探査に行ってもいいですか。」

 

『こちらHQ、探査を許可する。座標データを送ってくれ。』

 

出入り口のACは護衛が排除してくれていたので、そのまま例の穴へと向かう。

 

薄暗い穴の中に通路が左右に伸びている。

もともと通路だった部分に強引に穴をあけたのだろう。

 

「手分けするぞ。紫蘭は右、俺は左だ。」

 

「分かった、何かあったら呼んで。」

 

二人は同時に飛び降り、反対方向に向かって走り出す。

 

 

 

 

「さて、上手くいったか。」

 

俺は思わず声に出して呟いていた。

何故なら、紫蘭が行った方はかなり高い確率で出口だからだ。

左はこのエリアから離れていくような方角、ゆえに中枢があるであろう中央から離れていくはずだ。

 

もし、中枢が中心から外れた位置にあったり、最終的に中枢にたどり着くルートなら己の思慮の浅さを恨むだけだ。

 

何故かって?

紫蘭は俺に追いつけるが、俺は紫蘭に追いつけないからだ。

何かあったら、間に合うのはこっちの方だから。

 

 

何回かカーブを挟んでいるが、方角を見る限り全体的に見て中央に進んでいることを確認し、ブースターを再度点火する。

下り坂が続き、ぐんぐんと高度計の数値は地下へと向かっていることを示している。

 

そろそろ何か見えてもおかしくはない筈だが、と俺は目を凝らした。

やがて見えてくるのは、ある程度使われているのか錆や埃が少なく見える扉だった。

 

それをあらかじめ渡されていたクラッキングプログラムでロックを解除する。

 

ゆっくりと左右に開き、まぶしい明りが目の前に広がる。

 

 

その直後あのAC、通称デブヴィクセンがグレネードを撃ちこんできた。

 

それを俺は寸でのところで部屋に飛び込むようにして躱す。

着地の後に即刻ブースターを吹かして距離を取った。

 

その隙に奴は右手に持ったプラズマキャノンのチャージを終えていた。

一気に左ブースト、右に流れていくプラズマ塊を横目にリニアライフルを連射することで装甲を削る。

 

奴もバックブーストし、ツインミサイル。

それに対し機体を突っ込ませることでその間を抜けた俺は射撃を絶やすことなく続け、やがては奴の装甲を剥ぎ、破壊した。

 

 

「さてと、行き止まりだとは思いたくはないがな…。」

 

周囲を見回してみるが、何の変哲もないドーム状の部屋だ。

上の排気ダクトの網が目についたのでリニアライフルで破壊してみる。

発砲音の直後、軽い金属音と共にフェンスが崩れ落ちたので下からのぞき込んだ。

届きそうなところで直角に曲がっているから、いけそうだ。

 

フットペダルを踏みこみ機体を上昇させる。

頂上付近で前進させ、機体を乗っけることに成功した。

ENの回復を待って一気に前進、先を急ぐ。

 

薄暗いダクトの向こうには明かりが見える。

どこかにつながっているのは明白だ。

 

ダクトの終わりにあるフェンスを体当たりで破壊し、外に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の視線を白い花びらが横切る。

 

「なんだ…これ。」

 

 

青い空に、一面に広がる鮮やかな色彩。

紛れもない美しい花畑がここには広がっていた。

地上に出てしまったのか、と確認するが高度計は相変わらずマイナスを示している上に位置情報は確実に地下都市の範囲内だ。

 

「環境が維持されている空間が残っていたのか…。」

 

美しい花畑ををわざわざ汚すほど堕ちたつもりはないので、出来るだけ空中浮遊で移動すする。

二回ほど心を痛めつつ着地したとき、AC一機が通れるぐらいの道があることに気づいた。

そこまで何とか飛行してたどり着きあたりを見回す。

片方は空と地上の境界に存在する扉まで続いていた。

それを確認した俺は、もう片方を見据える。

 

「AC…の、残骸か?」

 

気になった上、そこまで遠くないので近づいてみる

OBを重視した機体構成に近距離型の武装選択。

それなりに腕の立つレイヴンだったのだろう。

ただ、左腕の武装はブレードすら排除されていることから、誰かに持っていかれたであろうことは予想がついた。

 

右胸に大穴が開き、パイロットも運命を共にしたであろうその機体に、俺は機体をゆっくりとひざまずかせる。

 

その足元に石碑と花があることに気が付いたから。

 

「墓なんだな。」

 

一瞬の黙禱を残して俺は去った。

これ以上の行為は必要とは思えなかったから。

己のために戦い、殉じたレイヴンにはこれで十分なはずだ。

 

 

白い花びらが一斉に風に舞う。

 

「カミツレ、か」

 

花屋に寄ったとき、名前を呼ばれたと勘違いしたのがこの花を知ったきっかけだ。

花言葉は『逆境に耐える』とか『逆境の中の力』だったか。

 

「さてと、行くか。」

 

ゆっくりと歩を進めていく。

目指すはセレ・クロワールの元。

開いた扉は先程のように僅かに薄暗く、俺を呑み込みかかるようだった。

 

 

 

「こちらブレティア。こっちには何もなかった。これよりチェインド方面への援護に向かう。」

 

『了解…だけど、河城にとりとしてちょっと頼みがある。』

 

例の穴まで戻ってきた私は、穴を介して武装面の補充を行っていた。

練からの連絡がないことを考えると、あっちが正解なんだろう。

 

何もなかったといったが、一応敵ACと遭遇しているので弾薬は大分使った。

だからこその補給だが、にとりさんから何かあるらしい。

 

「ちょっと持っていって欲しいものがあるんだ。」

 

クレーンで自分が装備してない、だけれども見慣れたものが自分のもとに下された。

 

「ダークスレイヤー…ですか。」

 

『グリップは元から共通して使えるように設計してあるから、君でも使える。それに少し小細工もしたんだ』

 

拾い上げ、その基部の刀身を見つめた。

その刃には、反射したブレティアの姿がきれいなまでに写されている。

 

『今、格納用のブレードも降ろしてるから、万が一弾切れを起こしてたら渡してやって。』

 

「…分かりました。ありがとうございます。」

 

もう一度練が接近戦に持ち込むのは気が引けるけど、共通して使える武装といったらこれぐらいしか存在しないはずだ。

 

なら、どう転んでも使える可能性を持つこれを持って行った方がいいだろう。

 

『いま、前線維持のためにほかの突撃チームも出払ってる。君にあとは任せた。頼むよ。』

 

「はい。行ってきます。」

 

また、いつものごとく一人で死地に向かう彼の背中を追いかけて。

音速に迫る速度で彼女は彼を猛追し始めた。

 

 

 

上から日が差すような明かりが、その空間を満たしていた。

上を見上げると、足場と扉が見える。

 

行く先といったら、あそこぐらいしかない。

ここまでくる間に何機か相手したが、。大半がミサイルで簡単に破壊できた

 

扉を開放し、様子を見る。

 

壁、天井、床に至るまで透明な素材で構成された、不思議な廊下。

気になるのは、壁や天井に配置された砲台がことごとく破壊されている点だ。

 

「昔、誰かここを攻略したのか。」

 

そのまま進み、奥にあった扉を開く。

 

「っ!!」

 

ACのような影が見えたので、咄嗟に銃を向ける。

だが、それは壁にもたれかかるように擱座し、いたるところの装甲が欠損していた。

残骸だ

 

 

それを横目に、同じような廊下を抜けてホールに出る。

そこは床に大穴が開き下に降りてくださいと言わんばかりの造形だ。

穴の向こうには先程と同じような残骸が倒れこんでいる。

 

道が見つからないので、大穴へと身を躍らせた。

深いといえば深いが、ACなら問題ない程度の高さ。

念のためブースターを吹かして減速し着地。あたりを見回す。

 

見つかるのはAC一機が通れるほどの大きさを持つ扉。

解放されたその扉の奥に見える、チューブ状の部屋。

そこまでの間をつなぐ回廊は、左右の壁から見るに、元は大量の扉でふさがれていたようだ。

 

『流石ですね。やはり、あなたは彼と同じ。』

 

「セレ・クロワールか。本当に苦労させられたよ。」

 

唐突に繋がれた通信は彼女だという確信があった。

なぜならここは彼女が管理していた土地だからだ。

 

 

セレ・クロワールは他の世界でコード=IBISという人格保持型の管理AIとして存在していた、という記録がある。

つまり彼女はここの主で、『乱入者』の正体。

 

『あなたに質問があります。答えてくれると助かります。』

 

「答えられるのなら、な」

 

目の前に降りてくるリフトが、俺を誘うかのように停止する。

その誘いを、俺は受けてリフトの中央に歩を進めた。

 

『あなたはこの世界はどれほど続くと思いますか?』

 

「終わることが前提か…」

 

『すべての物ごとには終わりがあります。その終わりをどう定義するかもあなたに任せます。』

 

リフトの中央に到着するまで、ただ自分のACの足音だけが響く。

そして立ち止まり、IBISがいるであろう上層を見上げて返答した。

 

「2つある。主観だけ考えるなら、【俺が死ぬまでだ。】。どう足搔いたって、俺は俺が死んだ後の世界を見ることは叶わない。それは俺から見た世界の終わりだろ。」

 

『極限まで主観にこだわった考えですね。』

 

「まあ、言いたいことは分かる。で、もう一つは似たような答えだ。【世界を見ることができる意識を持つ存在の全滅】…見る者がいなければ、その世界はたた物理法則に則って動くだけのからくり箱だ。」

 

リフトがゆっくりと上昇を始めた。

 

『たとえ時間や空間が消えることが無くても?』

 

「『世界そのものは意味を持たない』ってどこかで聞いた覚えがある。無意味に続くそれを『滅んでいない』と言い張る感性を、俺は持ってない」

 

徐々に大きくなるリフトの終着点であろう個所が大きくなっていく。

彼女との対面も近いだろう。

 

『もし、外界を観測可能な意識を持つ存在がこの地球にしか存在しないと仮定したとしても、私は世界の滅びを防ぐ存在でいなければならない。』

 

リフトが床と一体化し、動きを止める。

目の前には、この前交戦した規格外機が佇みこちらを見つめている。

 

『たとえ『あなたの世界』を終わらせてでも』

 

静かに告げられる殺害予告は、既にこの場にその機体を持ち込んでいる時点で明白だった。

機体から漏れ出す殺気は、人間のものといっても過言ではないほどに鋭くこちらに突き刺さる。

 

「話を捻じ曲げて悪いが、どうして自ら出てきたんだ?最後の廊下でも何機か用意できたはずだが。」

 

セレ・クロワールの声に、後ろから別の男性の声が重なり始めた。

 

『万全を期すため、当機で当たる方がよいと判断しました。無為に消耗するほど、私に余裕はありません。』

 

それ以上の会話はいらないと、俺は思った。

今目の前にいるのは、俺を問答無用で排除しようとする敵の大将だ。

なら、討ち取ればいい。

 

今まで身に受けてきた理不尽をぶつける為に。

 

『データ、XA-26483、ロード。戦闘モード起動。』

 

〔メインシステム、サードフェイズ・オーバード。リミット5分。GO〕

 

 

 

仕掛けたのは奴から。

 

プラズマをマシンガンモードで連射しつつ右に旋回を始める。

 

俺はそれに合わせるように右旋回をしつつ、アサルトライフルを連射する。

だが、俺は1マガジン撃ち切ると、そこですぐにHBで左旋回に切り替えた。

 

一瞬出来たIBISの隙を見てリニアライフルを三発。

 

初弾は命中したが、あとの二つは見切られてQBでやすやすと回避された。

その直後、IBISは後ろにQBで離れつつイクシードオービットをばら撒く。

 

機体から分離したそれは一瞬宙を舞ったのちに跳ね上がり、一斉に俺を包囲するために飛び立った。

アサルトライフルでそれらを迎撃に回しつつ、リニアライフルをIBISに向ける。

その瞬間に視界外に飛び去ったのを確認し、一機も撃ち落とせなかったオービットに視線を移す。

 

その瞬間にオービット群は散開し、俺を包囲した。

散開タイミングに合わせ、俺は右HBで包囲網から一瞬だが出る。

 

その逃げた先に、本体が待ち構えていた。

 

「チっ!!」

 

咄嗟にロケットをパージし、前にHBを利用して姿勢を低くしつつ通り抜ける。

 

姿勢を低くする前にコアがあったその場所を、蒼い光が薙いだ。

ロケットはそれに斬られることなく、地へと落下する。

 

振り向こうとするときには、オービットは再度俺を取り囲もうとこちらに殺到していた。

そこで散布型ミサイルをIBISに放つ。

無論、奴の迎撃装置で無効化されるのは織り込み済みだ。

 

『っ!!しまった!』

 

俺の狙いは、射線上にあるオービットだ。

 

迎撃装置はオートで接近するミサイルを迎撃半径内で無力化する。

例えAIだろうと、そこはいちいち管理していないだろう。

 

迎撃装置で破壊されたミサイルの爆炎がちょうどそこに存在したオービットを巻き込む。

だが直前で気づいたため、半数のオービットが被害を免れた。

 

逆に言えば、それだけのオービットを無力化出来たのだ。

正直言って上出来である。

 

だが、爆炎の膜を貫いてきた太めのプラズマ弾が足下に着弾し、爆風が機体を傷めつけ、プラズマの残滓が機体を熱する。

さらにこれに続くように残ったオービットがこちらへと向かってきた。

 

俺はあえて突撃し、オービットとすれ違った。

一機のEOが肩の装甲と接触して、金属音をたてながら制御を失い墜落する。

 

そのまま爆炎越しにロックしたセレ・クロワールの機体にリニアライフルをトリガー。

高速で撃ちだされた弾丸が煙を裂いてセレ・クロワールに迫る。

 

だが、セレ・クロワールはその弾丸を敢えて受けながら最短ルートで俺に接近。

QBによる接近に反応が追い付く訳がなく、俺はそのブレードの一閃を左手のアサルトライフルで防ぐほかなかった。

 

マガジンに刃が当たり異常なほどの熱量に当てられた炸薬が破裂、両者に爆炎と金属片を吹き付ける。

その中、防御をPAに任せてIBISは俺のACの胴体に蹴りを突き刺した。

 

「ぐうおっ!!」

 

一気に開く距離。

勢いを殺すころには、奴のプラズマキャノンはチャージを終えていた。

HBで右に飛ぶが、放たれたエネルギーの塊は左肩を掠め装甲を捥ぎ取り内部を露出させ、APをごっそり持っていく。

 

[左腕部損傷]

「チイィ!」

 

その直後、それなりの大きさの物体がこちらに向かっているのに気づき回避する。

すれ違うとき、それが何か分かった。

自分がパージしたロケット、それをIBISが蹴り飛ばしたのだ。

 

そしてそれをEOのか細いレーザーが貫き、強烈な爆発が俺を襲った。

 

[AP50%。損傷が増加しています。]

 

小型とはいえ高い威力を持った弾頭の爆発は、俺の機体を吹き飛ばすに足る威力を持っている。煤だらけになった機体に、追撃のプラズマの弾丸が容赦無く殺到し、回避行動を余儀なくされた。

 

流れを掴まれ、一方的な戦闘になりつつある。性能差は歴然とそこにあり、超えることができていない。

 

「俺じゃ、厳しいか?」

 

弱音が口を突いて出る。

俺の見たところでは、こいつはネクストのその上を行く性能を持っている。

ネクスト相手に善戦が限界の俺では勝てない相手。

 

その思考が、動きを鈍らせた。

直撃コースのプラズマ弾に反応できなかった。

 

「しまっ…!!」

 

 

 

その瞬間、黒い影が俺の目の前に現れる。

それはプラズマと俺の間に割り込むような位置で、衝突したプラズマを拡散させかき消した。

 

その形は俺が見慣れた刀だった。

闇そのものにも思える黒い刀身が、地面に突き刺さりそれを支えている。

 

「ダーク…スレイヤー…」

 

「練!…間に合ってよかった。」

 

そして、遅れて紫蘭のブレティアがダークスレイヤーの更に前に降り立った。

彼女はコアからレーザーブレードを引き抜き、それを構える。

俺は目の前にあるダークスレイヤーのグリップに左手を添える。

刀身が霧散し、それが俺の機体の周囲を取り巻いた。

 

「まだいけそう?」

 

「もちろん。」

 

その一言共に、俺達はIBISに向かい飛び立つ。

IBISのプラズマキャノンを散開して躱すと、紫蘭がグレネードキャノンを撃ち放った。

それを奴はQBで右に飛び回避、周囲に配置したEOで牽制射を放ちつつ距離を取り始める。

 

その様子を見て、紫蘭はOBを展開。

吸気音が響いた後、一瞬で音速を突破した機体は弾丸のようにIBISへと向かった。

対応するかのようにIBISも両羽の輝きを増し、音速で紫蘭に向かう。

両機はすれ違いざまにブレードを薙ぐが、空振りに終わった。

そのままOB(と思われるブースト)を継続して、IBISは俺に接近。

上から下に振り下ろされる蒼い輝きを左に身を逸らすことで避け、俺は左薙ぎにダークスレイヤーを振るう。

奴は当然左手のブレードで防ぎにかかった。

以前の通りなら、刀身がこの高出力レーザーに蒸発させられていただろう。

 

だが、にとりさんがそれで諦めるはずがないのは、とっくに分かっていた。

 

ダークスレイヤーは蒼いレーザーの中をすり抜け、IBISの頭部を掠めた。

装甲パネルの一部が吹き飛び、内部機構が露出する。

 

『っ!?』

 

「うちのメカニックは変態が多いんでね!」

 

もう一閃、IBIS同様に縦に俺はダークスレイヤーを振るう。

その斬撃はIBISの機体に届くことはなく、その手前にあるブレードによって防がれた。

 

「…ちゃんと反発器仕込んでんなら使えよ。反則だぞ。」

 

『ルールに則るような場ではないことを理解しているはずだ。アキレス。』

 

恐らくONとOFFを切り替えていたのだろう。

 

そんなふうに思考している間に、俺は強引に吹き飛ばされた。PAでずっとAPが削れていたので逆に助かったのだが。

だが、俺が体勢を立て直している間にプラズマライフルの銃口がこちらを覗く。

 

そこでブレティアのグレネードキャノンが横槍として入り、IBISは回避を選んだ。

その隙に俺はミサイルを撃ちきり、パージする。連動ミサイルをも含めたそれは迎撃され大量の煙幕を生成した。

 

ブレティアとIBISはその中に入っていく。

その間俺は何をしていたかというと、EOの対応だ。

執拗に俺を追い続けるそれを、リニアライフルで撃ち落とすのはかなりの手間だった。

APは残り30%、EOは残り1。

その時、轟音と共に煙幕は吹き飛ばされた。

音からして睨み合いをしていたであろう2機は即座にバックQB。

 

煙幕の中心だったところには大きな焦げ跡が残っている。

恐らく、IBISがキャノンモードで放ったプラズマが煙幕を吹き飛ばしたのだろう。

 

即座にグレネードキャノンの撃ち放った紫蘭。

それに呼応するようにプラズマライフルを撃ち込むIBIS。

 

紫蘭の放ったグレネードはIBISの足元で炸裂し、PAに甚大なダメージを入れる。

 

プラズマライフルはブレティアの右腕に着弾し、ブレティアを大きく吹き飛ばした。

 

「うわっ!」

 

小さな悲鳴と共に、紫蘭のブレティアは壁に叩きつけられた。

衝撃から体勢を立て直したIBISは再度照準を付ける。

トドメといわんばかりにチャージされるプラズマライフル。

 

「させるかよぉ!!」

 

俺はIBISの横からHBで速度の乗った蹴りを脇腹に叩き込んだ。

お互いの間合いから外れ、仕切り直し同然までもっていく。

 

『どこまでも邪魔をしますか!例外…』

 

そこでIBISが動きを止めた。

その時、オープンチャンネルで通信が入る。

 

『アキレス、紫蘭。本命と遭遇したのね。』

 

「シャルさん!?どうしたんです?」

 

唐突な通信、しかもオープンチャンネルと意図が読めない状況だった。

その時、IBISが声を上げる。

 

『馬鹿な!何故こんなことが!』

 

「シャルさん早めに要件を。」

 

紫蘭が先を急かす。

今がチャンスだと踏んだ紫蘭は今にもIBISに飛び掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

『落ち着いて、もう勝ったんだから』

 

「「は?」」

 

『レイレナードが国連との講和会談で終戦することを表明したわ。戦争はもう終わりよ。』

 

『なぜ…終戦を受け入れた?お前たちと終戦出来る条件などお前たちが持っているはずがないはず!』

 

IBISは取り乱し、その挙動が機体にも反映されていた。

狼狽したIBISは通信回線を開き、架空上の人物モデルを画面上に映し出す。

 

『いったいどんな手品を使った!あなたたちがレイレナードと講和など!』

 

『元からお互いに戦う理由なんてなかった。それだけだ。』

 

あっけらかんとシャルさんは言い放った。

俺達は話に追いつけず呆然とするばかりだ。確かに途中で戦闘が終るかもとは言ったが、ここまで中途半端な状態でなるとは思ってなかった。

 

『レイレナードにエーレンベルクの予備機と動力源を取引として渡したの。私達に宇宙への道を閉ざす意思はない、ただその言葉と一緒にね。』

 

『え?あなた達は、そんな世界の変化に耐えられない…筈じゃ…』

 

『だから籠ったの。外の世界が進めばその逆転でここは栄えていく。』

 

IBISはただ、困惑の声を漏らすだけだ。

確かに彼女たちは彼女たちへの畏怖の念で存在する。文明が栄え、人がその存在を忘れていくたびにその存続は苦しくなっていく。

 

 

ここでなければ。

 

『あなたは気づいてなかっただろうけども、ここはその常識認識が逆転する。外が私達を忘れるほどに、忘れなかった少数が流れ着いてくる。そうやって外が忘れていくほどに好都合なの。』

 

 

『じゃあ、今までの戦いは…』

 

『無意味ね。ただ、世界を乗っ取る手段に私たちが不都合な点があっただけ。そこさえ気にしてくれれば、私達はむしろ協力してたの。』

 

目の前で、戦争が終わっていく様子を目の当たりにしていた。

ただ、お互いが擦り合わせをすれば長期化しなかった戦争。お互いが隠匿性を気にしていたが故に話す事すらままならなかったから。

 

『なにを気にすればよかったのよ…』

 

『地下世界に住まなければいけないほどに世界を汚染しない。ただそれだけ。』

 

きっと、FGWも誤解はあったのだろう。

IBISはどこまでやるのか、その点が不明瞭だったが故に戦争に介入せざるを得なかった。

 

IBISの目的、それは戦争で疲弊させた世界で再度管理者として君臨することだとその後のやり取りでなんとなくわかった。

 

戦う理由を失い、構えをすっかり解いているIBIS。

もう戦いは終わり。

 

 

 

 

 

 

 

「満足できるか…」

 

『アキレス?』

 

俺の口から言葉が漏れる。

そうだ、満足できていない。こんな不完全燃焼で俺は終わることはできない。

 

闘争を求めてここまで来たのだから。

目の前に強大な敵がいてさっきまで戦ってたのに、戦争が終わったから仲良く解散?

 

 

「なあ、セレ・クロワール。」

 

『なんです?もう、戦う必要は…』

 

戦意喪失気味のセレ・クロワールの声は、すっかり疲れ果てたようにくたびれていた。

だが

 

「もう少し付き合ってくれよ。これで最後なんだ…。フィナーレには物足りないんだよ。」

 

『理由なく戦いますか…イレギュラー。』

 

「感情の動きに理由がいるか?もしいるってんなら…」

 

深く息を吸う。

その息と一緒に言葉と感情が頭の中を満たしていった。

そして、

 

「ここでお前倒すぐらいしないと、今まで捨ててきた常識とか人間性とか、諸々へのつり合いがとれねえんだよぉぉぉぉ!!!」

 

『!!?』

 

「練!?」

 

感情に任せ、言葉の濁流を吐き出させてもらった。

 

「こちとら中1のガキだぞ!なんで傭兵やったり人殺しになったり戦争したりしなきゃなんねーんだよ!おかげさまで青春の1ページが灰色染めだ!むせるわこんな人生!」

 

荒れる息のままIBISを睨みつける。

おれは、今までため込んだ感情全てを、目の前にいるAIにぶつけた。

 

「要するに、八つ当たりだ。お前らが生んだ戦争、そこから来た理不尽に対して抱いた怒り、悲しみ含めた全部の感情の行き先が欲しいんだよ。」

 

左手に持ったダークスレイヤーをIBIS向かって突き付けた。

俺は立派な人間だとはこれっぽっちも思っちゃいない。

今まさに理不尽由来の怒りを、ちょうどいい標的に向かってがむしゃらにぶつけようとしてるんだから。

 

「じゃあ、練に便乗しちゃおうかな~。私なんて人生計画完全にお釈迦だし、その理不尽ぶつけたって罰当たらないよね。首謀者だし。」

 

紫蘭も意地悪そうな、そして奥に苛立ちを抱えてそうな笑みでIBISに言い放った。

2機のACが敵意を完全にむき出しにし、IBISにその視線を突き刺す。

 

『…あなた達は、私が手を出さなければこうならずに済んだと。』

 

「「そこには興味ない」」

 

二人そろって、その言葉を容赦なく叩きつける。

 

『……アハハハハ!こりゃ傑作ね。』

 

シャルさんが通信越しからその笑い声を響かせた。

 

『セレ、ここまで来た人間は理屈じゃないよ。そこにいるのは、戦争で運命を完全に狂わされた二人。戦争の原因の一端でも見つけたらそりゃそうなるって。』

 

『…どうしろと。』

 

『相手してやってくれ。』

 

 

『相手、か…。』

 

外部に漏らしてもいいと思った情報が、合成音声として他の存在へと伝わっていく。

データ上の存在でしかない私は、直接音声を伝える術はない。

 

機体に指令を送り、私に敵意を送る二機のACを眺めた。

戦争の歪みに巻き込まれた二人だ。

 

託すべき人と見定めた彼と、同じ資質を持つ者も目の前の二人。

私に残された根幹のプログラムが、彼らは合格と勝手に判定を下す。

 

これ以上の戦闘行為は無意味。私の役割は最初からこの世界に無かったのだから。左手のmoon lightを切り離そうとした。

 

 

 

___なんだよ、もっと楽しめばいいじゃないか

 

 

 

ハッとして切り離そうとした月光を見やる。

そこから彼の声が聞こえた気がしたのだ。それもかなりはっきりと。

 

(もしかして、彼との戦闘データを読み込んだせいかしら。)

 

彼ならこの状況を見てそう言うかもしれない。

機械に向かって生きろといった彼なら。その上彼のデータのせいで、僅かながら「戦いに対する悦び」の感情があるのだ。

 

(最期ぐらい、楽しんでもいいよね)

 

私は二人に向かって、音声データを送信した

 

『いいでしょう、余興としてこれ以上の物は用意できそうにありませんし。』

 

「…割とやる気ありそうだな。」

 

「じゃあ、遠慮はいらないね」

 

「彼」との戦闘データを再度解析し、最適化していく。

 

ここで手を抜くのは彼らのような人間に対し失礼に値する。

この機体の、私の全力を持って殺す機で行かねばならない。たとえそれが無益な殺生であっても。

 

ただ、

 

『磁器反発器はちゃんと使います。』

 

「なんでだよ、本気で来い。」

 

『あれはある種の反則だと思うので。それ以外は…殺す気で行かせていただきます』

 

「いいね、それじゃあ行こうか。」

 

全員が弾かれたかのように動き出す。

 




次回、決着


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渡りトキ

異常なほど待たせてしまいすいません。
難航したせいで出来も悪いです…。

ですが、こんな作品でも…まもなく終幕となります。


話は一時間ほど巻き戻る。

 

 

「ようやく話し合いの場が持てたな。」

 

宇佐見菫子はそう口にして目の前の男に視線を向ける

 

「レイレナード社長」

 

ここは、レイレナード社の接客室。

敵対関係となった二社__二者__が対面し、互いの眼光が互いの瞳を射抜く。

交渉の場を設けるのに使った手段は数知れず。かつて金盥を落としたあの男も利用してまでここまできた。

 

「我々を裏切ったと思ったら、今度はその企業の社長が敵地のど真ん中に交渉に来るのですよ…警戒しないはずがないですし、意図がつかめない。」

 

そうやって苦笑と共に彼は肩を竦めた。

菫子もそれに微笑を返す。

 

「ですが、交渉する内容が何の益もないものだというものなら、それなりの対応をさせていただきます。護衛もたった一人、何を考えてるのだか…」

 

そう、彼女の隣にいるのはストレイドたった一人。来たのもこの二人だけだ。

 

「そうだな…終戦協定を持ち掛けに来た。」

 

「…それまた突飛な…降伏ですか。」

 

あまりの話の流れが異常で、彼はただやれやれと首を振る。

そうして彼はその瞳を菫子に向けた。

 

「負けることを確信したのですか?陣営替えして負けるとは、情けないですよ。」

 

「くっははは、確かに。だが、負けを認めるつもりはないな。」

 

皮肉を言い続ける彼に菫子は笑って返す。

 

「なにしろ、戦争が無益になったからやめようというだけだ。」

 

「ただの負け惜しみにしか聞こえませんよ?ただ赤字になったからやめようとしているようにしか見えませんよ。」

 

真顔で突き放すように彼は言った。

ただ冷たく見下すような言葉は、鋭さをもってこの部屋に響く。

 

菫子はただ睨み返す。

 

「…まあ、それでも、交渉自体で決めようがあります。ですが、ただで許すつもりはありません。何かしらこの戦争の代償を背負ってもらわなければ。」

 

そして、あざけるような表情と声色になる。

完全に勝者だと確信した彼。

 

「ああ、何かしら渡さねばいけないとは思っていた。だから、これを渡そうと思う。紙資料も渡す。」

 

そういって、菫子はカバンからタブレット端末を取り出し、テーブルの上に置いて彼に見せた。そこに表示されているのは契約書の内容。

 

 

 

____衛星軌道掃射砲:エーレンベルク予備機の移譲。

 

 

 

彼のその顔が、一気に変わった。

 

「クローズプランに関してはとっくに掴んでいた。そして、邪魔するつもりもなかった。」

 

「…なんだと?」

 

一気に場の空気が張り詰め、少なくとも今はまだ勝者でないと悟った彼は鋭い眼光を再度菫子へと向ける。

菫子は再度口を開いた。

 

「…最初から、私はクローズプランに賛成だというのだよ。…ああ、なぜ敵対したか?今から話すさ。」

 

端末を操作し、AIRや近年のレイレナード製兵器の設計図を映し出させる。

 

「ハイテクACをメインとした新興企業なのにもかかわらず、なぜこんな兵器を作り出したのか、いや作れたのかが、最初は分からなかった。提携企業からの技術者移動は味方の時見続けてきたが、その時にはまだその手の技術者はいなかった。」

 

タブレットには、最近ロールアウトした『通常兵器』のデータが次々と映し出される。

どれもこれも、最新の技術を応用した兵器たちだ。

 

「なのにこの短期間に、ライセンス生産でもない新型機をこんなに量産できるはずがない。技術面がおかしいんだよ。」

 

菫子は彼の奥底を覗くような瞳をしていた。

 

「…ならなんと?」

 

「いるんだろ、バックに。異常な存在が。未来から来たような存在が。」

 

ドスの効いた声で菫子は問いかける。

それを彼は受け流す。

 

「SFじみた話はやめていただきたい。これは我々が積み上げてきた技術の結晶なのですよ。それを…」

 

そこで、彼女は一枚の写真を取り出す。

そこに映っていたのは、未だ存在しないはずのネクストたちが並び立っていた。

 

「私達もそういうものを知っているから言っているのだ。腹を割って話していただけないか。」

 

二人の目は、一直線に並び視線は逸れない。

ただ、一直線に二人は視線を交えている。

 

「再度言わせてもらう、クローズプランに我々は賛同している。そして、この戦争は無益だった。だから終戦したいといっているのだよ。」

 

「…なら、なぜ我々を裏切ったのか。説明していただけるか?」

 

菫子は端末を再度操作し、画面を切り替える。

 

「GAは…いや私と何名かの幹部は、もう一つの武装組織と提携している。FGWと呼ばれる集団だ。」

 

画面に映る組織図。

GAの何人かからFGWと書かれた場所に線が引かれ、繋がれていく。

 

「FGWとは親交による関係だ。だが、そちらさんのバックが怪しくてな。気づけば紛争状態だった。なんとなく、その関係は察していたのではないか?」

 

「…『あの人』は確かに、誰かと戦っているようなそぶりはありましたが…そういうことだったか。だが、それなら何故終戦する?」

 

彼は真摯に話を聞き始め、菫子はそれに応える。

 

「単純さ。お互いの目的がようやくわかったから、そして、利害関係として紛争する関係になかったことが分かったからだ。」

 

「…は?」

 

その内容に、彼は拍子抜けした。

ただの無駄戦、彼女はそういったのだ。

 

「互いに情報戦をしながら未知の存在であり続けたせいで、利害関係が一切分からなかったのさ。互いを勝手に脅威判定してな。」

 

「そして、ようやく分かったということか?何をそんなバカなことを信じろと。」

 

あまりにも馬鹿げてる。

互いに互いを隠蔽し続けた結果無用な紛争を起こし、表の戦争にすら多大な影響を及ぼしたというのだ。

 

「化かしあいをして、互いを狐と勘違いした狸にでしかなかったのさ。しかも、それに我々は巻き込まれた。なんてバカ話だ、と私も思う。」

 

「…もうあきれてものも言えない…まあ、終戦はこの後の交渉次第ですが…国連は手を引くのか?」

 

「そちらが手を引くならな…」

 

両者の空気はたるみ、緊迫状態が溶ける。

とんだ茶番に付き合わされた。彼らの心境はこんなどころだろうか。

しかも、その茶番のために何人が死んだか分からないとあれば、軍需企業の社長といえど笑えすらしない。

 

「で、要するに、私達のクローズプランに協力するというのですね。でも…エーレンベルクは間に合っていますが…」

 

交渉相手と認めたのか、敬語に戻った彼は交渉に戻る。

 

「分かっている。だが、今の保身にしか興味のない連中が邪魔をするやもしれん。そのための予備だ…だが、交渉する材料はこれだけではない。」

 

端末の画像が切り替わる。

地球から一本の線が空へと延びていき、やがて空を飛びだす。

 

「これは…まさか…」

 

「軌道エレベーター。これを共同開発しよう。開発チームをそちらに移譲することも視野に入っている。これがあれば、低コストで宙へと飛び立てるはずだ。」

 

いたずらっ子のような笑みを菫子が浮かべる。

それも、まさにいたずらに成功した直後の。

 

「しかし、現実味が薄い…これから作るのだろう」

 

「もう低軌道ステーションを所定軌道に持っていって、ケーブルを伸ばすだけだ。」

 

「は?いや、いくらなんでもアサルトセル散布前の遺産を使うわけにはいかんぞ。老朽化しているだろう。」

 

「安心しろ…実は独自に宇宙に行く手段があってな。メンテナンスは十分してある…だが、さすがに出鱈目だから表立って使うわけにはいかなくてな…」

 

空いた顎がふさがらない、という形相の彼。

流石に詰め込み過ぎたかと、菫子も彼が落ち着くまで待つこととなった。

 

 

 

__数十分後

 

「はぁ…我々の想像をやすやすを超えていく…本当にお転婆というかなんというか…」

 

「はっはっは!誉め言葉として受け取っておくよ。」

 

一通りの作業を終え、秘密裏とはいえ終戦処理を終えた彼らは接客室で個人的な会話をするのであった。

 

 

「出鱈目だよなぁ!あんたぁ!」

 

そういった彼の脇腹を、プラズマの光弾が掠めていく。

応射として放ったリニアライフルは照準すら間に合わず、彼女が居たところの空間を弾丸か撃ち抜いていく。

 

そこに紫蘭が肉薄し、マシンガンを連射。アキレスを見ていたせいかいくらかが命中し、PAが減衰した。

 

『正直に言わせていただくと』

 

その一言と共にIBISはOB、一瞬にしてアキレスの駆けるチェインドに肉薄する。

振り下ろされた月の輝きを、闇が食い止めた。

 

『これに反応するあなたに驚きを隠せないです。』

 

二つのブレードが放つスパークが激しく荒れ狂い、EMPが発生する。

しかし、パワー負けしたチェインドが後退りをすることになった。

 

ほぼ吹き飛ぶも同然に後ろにとんだチェインド。

その着地を狙うようにプラズマライフルが構えられる。

 

だが、照準する前に紫蘭のブレティアがOBで肉薄。

右手に装備したドラゴンスレイヤーが真一文字に薙がれる。

 

IBISはバックQBでそれを間一髪で躱し、カウンターといわんばかりにムーンライトを袈裟斬りに繰り出した。

 

紫蘭は、跳んだ。

脚を掠め、装甲が赤熱化してAPが減少するが、直撃は免れた。

 

そして、グレネードランチャーに武装を切り替え打ち下ろしの体勢になる。

恐らく強引に爆風でPAを削りに来ると判断したIBISは左にQBして爆風の有効圏内から離脱した。

 

が、ブレティアは発砲しない。

 

『ぐっ!しまった!』

 

その時には遅く。リニアライフルの弾丸がPAを削りながら装甲を穿った。

チェインドはIBISの真横につけたのだ。

真横に回避させれば、オーダーのFCSでも真横からの射撃は命中する。

 

賭けではあったが、それに勝った。

 

『ですが!!』

 

チェインドを取り囲むようにEOを配置しカウンター。

数発のレーザーが、半壊したチェインドを確実に追い込んでいく。

 

「んにゃろ!!」

 

彼もEOを展開し、IBISのEOを撃ち落とすことに成功した。

だが、その間、IBISと紫蘭は一騎討ちとなる。

 

射撃戦で押し負けた紫蘭が左肩に直撃をもらってしまう。

 

「マズった!!」

 

『そこ!!』

 

再度放たれるプラズマライフルを紫蘭は避けきれず、左腕のマシンガンを蒸発させられてしまう。

 

そのよろけた瞬間に、QBで間合いを潰したIBISが月光を振りかざし…

 

「んぅらぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

『!!??』

 

カウンターとしてQBの勢いを乗せたブレティアの鋭い跳び蹴りを胴体に受けることになった。

 

しかし、蹴りに使ったブレティアの右足は粉砕、そのままIBISと共に地を転がった。

 

立ち上がり、プラズマライフルを問答無用で突き付ける。

だが、敵は一人ではない。

 

「チェストォォォォォォ!!」

 

『…』

 

レーダーは把握しているので、罠としてプラズマライフルを向けた。

彼が飛び掛かると理解していたから。

 

チャージしていたプラズマライフルをチェインドに向ける。

殺す気でいかねば、失礼。

だから、彼女は引き金を引き…

 

そこに彼がいないことに驚愕した。

振り向き終わる直前に、彼は左にHBしたのだ。

 

その直後、激しい衝撃が後ろから襲い掛かる。

本命は、ブレティアのグレネードランチャーだった。

 

そして、プラズマライフルを練が蹴飛ばし、手から離れていく。

後退り、IBISは独り言ちた

 

 

『本当に…本当にあなた達はイレギュラーですよ…』

 

 

練が紫蘭の意図にも気づかず、IBISが避けていたら直撃していたし、まず撃つという発想に至らなければ練はプラズマライフルで蒸発していた。

 

お互いを知り、徹底的にフェイント掛けることにより、強引に別次元にいる目の前の化け物を追い詰めている。

 

現にOBやQBのブースターの大半が集中していた背部バインダーユニットを吹き飛ばした。

これにより、機動力は格段に落ちた。

 

『全く…あなた達なら…っとこの役目はとうに終わってましたね。それに…まだ終わっていない。』

 

だが、ブレティアは脚部破損により行動不能。

チェインドも損傷が70%を超えた。

 

故に、彼らは次の作戦にでる。

 

プラズマライフルを紫蘭が拾い、練は紫蘭とブレティアの間に入ったのちに、全力でIBISに斬りかかる。

 

IBIS鍔迫り合いに応じ、その間にブレティアは強引にブースターやOBで距離を放した。

そして

 

「できるか分からないけど…クラッキングプログラム起動。」

 

紫蘭は、専門家でなくても扱えるようにされているクラッキング用のプログラムを使用し、プラズマライフルのコンピューター内に無線でウイルスを侵入させた。

一か八か、ライフルを奪おうとしているのだ。

 

戦闘できないより、賭けに時間を使い始める紫蘭。

その一か八かのために、練は近接戦に持ち込み時間稼ぎを開始した。

 

「っらぁぁぁぁぁ!!」

 

IBISはチェインドがはなった切り上げの斬撃を至近で受け止める。

両者の頭部が目と鼻の先になった。

バックブーストをかけるIBISに、追いすがるようにブーストすることで起きていた鍔迫り合いは、IBISの力技で振り払われて終わる。

 

すぐさまリニアライフルの照準を行うアキレスだったが、IBISの蹴りでそれを吹き飛ばされた。

EOも弾が切れ、両者とも正真正銘ブレードのみ。

IBISも破損し、機動力はサードフェイズを発動させているチェインドよりは高いが、同次元といった程度に落ちている。

 

つまり、技量次第。

 

蹴りを受け、体勢の崩れたチェインドはバックHBをするが、それを読んだIBISは前HBで詰め、袈裟斬りを放つ。

だが、チェインドはかろうじて身を屈め躱すと、空いた脇腹に前HBしつつ蹴りを叩き込む。

 

機体の芯を捉えられ、まともに吹き飛んだIBIS。

それを追撃するチェインド。

 

だが、吹き飛ばした距離が長すぎて、IBISは体勢を立て直していた。

チェインドは移動する間に右手にブレードを持ちかえると、勢いのままに振り下ろす。

速度のついたチェインドに対抗するため、HBで加速をつけたIBISも薙ぎ払い、衝突。

激しいスパークが輝く。

 

そこに言葉はあれど会話はない。

両者は互いを倒すべき、倒したいものと見て、ただ勝つことを見据えていた。

 

両者の攻撃はいなしあい、次にIBISは袈裟斬り、左薙ぎ。

それにチェインド右薙ぎ、袈裟斬りをぶつける。

 

そこからも何度も間合いを離さず斬撃を衝突させる。両者。

だが、十合打ち合ったあたりで事は動いた。

 

「内部配線掌握…エネルギーライン接続…カウンター完全排除…試運転…練!いける!」

 

その声を聴いた練は、IBISを蹴飛ばしブレティアへと向かう。

意図を察知したIBISも追撃を始めた。

 

ブレティアの開いている左腕部は破損し、照準が困難。右腕部に至ってはエネルギーラインが切れ使用もできない。

故に、照準はチェインドで行うほかない。

 

『させません!!』

 

「くそう…やっぱりあいつの方が早いか…なら!!」

 

 

少し減速し、IBISを迎え撃つ構えになる。

そして、HBでIBISが加速を掛けたその時。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁ」

 

『そんな!!??』

 

ダークスレイヤーを投げつけた。

刀身を形成するナノマシンは霧散したが、基部にある切れ味が異常なナイフの部分がIBISの左肩深々と突き刺さる。

 

[左腕部破損]

 

『まだ…右腕がある!!』

 

IBISは進路を変更、吹き飛ばしたチェインドのリニアライフルへと向かう。

 

そして、アキレスが__練がブレティアにたどり着きプラズマライフルを二人で握るのと、IBISがリニアライフルを拾い上げるのは、ほぼ同時だった。

 

『くっ!!』

 

「行くぞ」

 

「もうチャージは終わってる!撃つだけ!」

 

IBISはドリフトターンをしながらリニアライフルを掌握し照準、二人はプラズマライフルを振り下ろすように照準するのも、ほぼ同時だった。

 

『はぁあぁああ!!』

 

「「いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 

そして、同時にトリガー。

 

二つの弾頭は、何の奇跡か。

正面から衝突した。

 

強引にプラズマの嵐を抜ける徹甲弾。

それによってプラズマはショットガンのように拡散した。

かろうじて突き抜けた徹甲弾は、チェインドの頭部を破壊したが、撃墜には至らない。

 

一方、拡散はしたものの、フルチャージ同然のプラズマを散弾として受けたIBISは撃墜には至らないものの、深刻なダメージを受けていた。

 

『まだ!!』

 

そういって緩慢な動きで構えたリニアライフル。

それを持っていた右腕が、肘から折れた。

 

そして、最低限のチャージを終えたプラズマライフルの弾丸が、IBISの胸部装甲に穴をあける。

 

 

 

 

ああ…負けてしまった…

 

もし、私の目的が彼らの障壁として存在したのなら、完全に潰えていた。

私に…勝ち目はなかったのね…

 

…そもそも、こんな生き延びるはずじゃなかったのだから…これはこれで本来の姿に戻っているのかな。

 

頑張ったよね…

 

レイヴン、私やりたい事、やれたよ。

 

やっぱり、あなたを失ったときから…こうなりたかったのかもね。

 

機械なんて目的を失えば、鉄屑と同じ。

 

人類を自立まで導く、こんな役割は早く終わる方が世界のためなのよね。

自立が早ければ早い方がいいに決まってる。

 

彼らになら任せられる。

 

確かに自分勝手な集団。

だけれど、世界が滅ぶことだけは…人類が滅ぶことを許さないのなら、目的は一緒だ。

 

なら、私という人格は…

 

 

 

「おい…」

 

なによ…

 

「おい、人格データが生きてるなら答えてくれ。」

 

『なんですか…』

 

微睡みに浸っていたのに…人間らしい事、するようになったなぁ…

 

「…まあ、八つ当たりで戦わせてもらったが…協力関係になる、ってことか?FGWとお前は。」

 

『そう、かもしれません。』

 

でも、正直終りたいなぁ

 

「…まあ、これからの関係はこれから決まっていくわけだし…よろしく…。」

 

気まずそうに語りかけてくる。

彼のACは大破した私の機体のそばにいた。

 

『ふふ…でも、正直、私がいなくてもどうにかなりそうだなって…』

 

「…な…」

 

『確かにあなた達は外の人間がどうなってもいいのでしょう…ただ、私は滅びさえしなければ…繁栄が続けばいい…』

 

「おいおい…自爆はよせ…」

 

そう言うと私の機体の肩を担ぐ。

 

「無為に散られるのは機械といえど後味が悪い。」

 

…彼と同じ、個人としてみてもらえるのが、とてもくすぐったかたった。

 

 

 

 

 

《なるほど…終わってみればあっけない。》

 

 

 

「!!?」

 

「誰!?」

 

突如、その部屋に響く声。

 

《規格外を持ち出してすらどちらかを消せないとは…僕は君を少々過大評価しすぎたようだね。IBIS。》

 

『財団…!』

 

「財団…厄災!」

 

紫蘭は足の動かない機体で、声の聞こえてくる天井を睨みつける。

 

《ただ…それなりに全員傷ついているようだし…ここで3者諸共消えてもらおうか。》

 

そう言うと部屋の様々な個所が爆発し、部屋の崩壊が始まった。

 

「くそっ!いつの間に!」

 

《外部から攻撃させてもらってる。掘削自爆MTを作らせてもらってね。》

 

全員が狼狽するしかない。

このままでは全員が瓦礫の下敷きだ。

 

「ど、どうしよう!」

 

「逃げるしかないだろ。セレ・クロワール!出口は!」

 

『中央エレベーターなら…』

 

その言葉と同時に、最初にアキレスがここに来たリフトが降りていく。

逃げ道はそれ以外なさそうだ。

 

「紫蘭、いけそうか!?」

 

「ブーストで無理矢理いけそう!」

 

そう言って紫蘭は強引に機体を引きずり、リフトへと降りていく。

 

「セレ・クロワール!その機体に人格データは移せるか?」

 

『私も…?』

 

声に困惑の色を浮かべるセレ・クロワール。

練はその声に怒号に近い声を返す。

 

「俺のレイヴン生活は一回ここで終わるんだ!最後に後味悪い思いさせんな!」

 

『っ!!』

 

彼に気圧され、セレ・クロワールは機体に人格データを移す。

その機体を背負い、オーバードの切れた機体で無理矢理引きずっていく。

 

だが、リフトはそうしている間に大分降りており、2機は落ちていくことになる。

そしてリフトの出入り口が閉じ始める。

 

だが、その動きは遅く、閉じるまでの間に幾つかの瓦礫をリフトの通路に入れてしまった。

そして、ACのコアほどの瓦礫が減速して降りている2機を掠める。

 

そして、アキレス___練のチェインドはIBISを手放してしまった。

 

「くそぉ!!」

 

『!!』

 

このまま減速なく落ちれば、IBISとてただでは済まない。

必死にチェインドの手を伸ばす。

だが、瓦礫が邪魔をして届かない。

 

「間に合えぇぇぇぇ!!」

 

 

 

___もう…いいよね…

 

IBISは…セレ・クロワールは、諦めた。

 

 

 

 

 

気づけば、彼女は、___IBISは七色の光に満たされた空間にいた。

その見据える先に見えるのは、たくさんの人の背中。

 

一番こちら側に、彼が、レイヴンがいた。

 

__ああ、ようやくこの時が来たんだ。

 

一歩、また一歩と、かつての義体のような体で彼に近づいていく。

__彼のところに、ようやく。

 

 

 

 

ぎゅっと、脚を引っ張られた気がした

 

その足を見やると、4,5歳くらいの子供が、セレの足を掴んでいた。

そのまま後ろを見ると、先程まで戦っていた二人が困惑した様子で立っていた。

そしてそのさらに後ろに、たくさんの人の影が映っている。

 

その中間地点に、セレは立っていた。

 

 

「あ、あー。多分、死にたがってたな、セレ・クロワール。」

 

気まずいそうに練は声をかける。

その顔には笑みが浮かび、こちらを見つめてくる。

 

「あまり引き留めるのはお前の望みに反するだろうが…俺から見れば、お前は人同然で仲間になりうる存在だからな…このまま見過ごす気になれなくてな…」

 

後頭部を掻きながら、そういう練。

その視線は、セレ・クロワールの足に掴まっている少女に向けられた。

 

「こいつも、お前に生きててほしいからそうやって足を掴んでるんじゃないか?」

 

セレが彼女に目を向けた時、少女は彼女に向けて曇り一つない笑みで笑いかける。

その笑顔に、セレ・クロワールは思わずたじろぐ。

 

「まだ、この世界の終末が離れてはないからな…セレ・クロワール。未練なさそうにしてたが、そいつの未来を守れないまま消える気か?」

 

その場に沈黙が訪れる。

 

 

そのまま静かに少女を見つめていたセレは、その子を抱き上げる。

そして、踵を返して練たちの方へ向かい始めた。

 

少し進んだとき、名残惜しかったのかセレは振り返った。

 

その振り返った先にいたレイヴンは肩越しに微笑みをセレに見せたのち、手を高らかに挙げ、振る。

 

セレは、涙交じりの微笑みを返し、歩みを進め……

 

 

 

 

 

大破しているにもかかわらず、IBISは強引にブースターを吹かした。

先程まで青色だったブースター炎の輝きは今は緑となり、機体を減速させリフトへの着地を成功させるに至った。

 

そして、練もまた、それに続いて着地した。

 

「…君は?」

 

瓦礫の雨が止み、跪くIBIS。

その胸部装甲の上には先程見たセレ・クロワールを幼くしたような少女がいた。

 




次回、終幕


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最終話、もしくはエピローグ~烏は巣へ帰りゆく~

あまり引っ張れずかなり短い話となってしまいました…遅くなっても前回と合わせたほうが良かったかも…

あまり締まりませんが、これがド素人が始めた物語の最終回です。


「ねぇ…いつまで拗ねてるの?[アキレス]?」

 

意地悪そうな紫蘭の声がスピーカーを通して聞こえる。

その声に唸るように狼狽するのは、[アキレス]をいったんやめるつもりだった練であった。

 

「わざわざその名前呼ぶなよ…」

 

「そうすれば返事するかなーって」

 

彼はACのコックピット内で不貞腐れていた。

場所は南極、レイレナード所有のエーレンベルク付近。

 

月はすでに師走になり、年末には終戦を迎えるであろう、裏世界にとっては忙しさと祝福がやってくるこの時期に御役目御免になりそうな彼らに御役目が回ってきてしまった。

 

発射直前のエーレンベルク護衛任務。

流石にここまで来て全部台無しになるのも嫌なので受けることにはした。

文句は依頼をよこしたことである。

 

「引退直前の少年兵を引っ張り出すんじゃねーよ。企業のクズが…」

 

「そんなこと言ってないで。受けたんだったらちゃんとやろうよ。」

 

「ちゃんと護衛はしまーす。」

 

ひねくれた不真面目そうな声で返答する。

 

「あのミッション終わった後からなんか大人気ないって言うか…」

 

「今までが大人のふりし過ぎてたんだ。反動だ反動、わがままや愚痴の一つは言わせろ。」

 

いままで幼いながら戦争に加担した身。既に身の振り方が傭兵のそれになりつつあった彼は、ようやく解放されると思い子供に戻ろうとした矢先にこれである。

うまく調子が戻らず、この通り幼児退行してしまった。

 

「…まあ、これ終ったら晴れて休業なんだからさ」

 

「はぁ…まあそうだが…来るかねぇ。この警備の中、敵が。」

 

ネクスト5機、オーダー6機による警備体制。

ネクストの中には、ユーリックさんやベルリオーズなどがいる。

他にもノーマル、MT複数。

 

ネクストで蹴破ろうとするにも簡単にはできない。

 

「しかもこの前のアサルトセル公開で企業のイメージはかなりダウンしてる。国家側企業に流れる会社員がいるような状況でここを襲ったら企業は倒れるぞ…」

 

「さあ?戦争が終わって援助切られたテロリストがやけくそになって襲ってくるかもよ?」

 

「不謹慎極まりないだろうが、その程度で楽しめるか。つまらなそうなのも不満なポイント。」

 

どうせ引っ張り出すなら楽しい依頼がよかった…それが彼の心境である。

たしかに、きりのいいところから学校に再編入される予定であり、春までは暇だった。だからといって、戦場から帰ろうとする兵を引っ張るのはどうかと思う。

 

その時だ。

 

『高速でこちらに接近する機影あり…ノーマル陣突破されました!!』

 

オペレーターがかなり焦った様子で通信を入れてきた。

 

「速度はネクストか…どこのバカだ?」

 

ヘルメットのバイザーを下ろし練はつぶやく。

つまり、イメージダウンを無視した投入だ。

その後の企業運営がどうなるか、想像に難くない。

 

そんなリスクを冒してまでエーレンベルクを破壊する理由も思いつかない。

どうせ、欲をかいた中級幹部の暴走…

 

そこまで思考し、目の前の影を見て、それが間違いだと気づく。

 

「うわぁ…まじかよ…」

 

「アレサ…」

 

プロトタイプとされる、今あるネクストの祖。

その図面の大半はレイレナード社に渡されている。

 

「…これ…多分…」

 

「財団のいたずらね…悪質な部類の」

 

しかも3機である。

ガトリング砲を持っていた手はブレードらしきユニットに変わっている。

 

「はてさて…面白くなってきたな、アキレス」

 

「ユーリックさん…思いっきり行きましょう」

 

反対方面を任せ、こちら側にいたACが集まった。

正直、雑魚AIだったとはいえ一度勝ってる相手だ。

 

今までの努力が台無しになる。負けるつもりはない。

 

[メインシステム、サードフェイズ。オーバード。]

 

全機が戦闘態勢に入り、アレサもまたOBを起動してこちらへと向かってくる。

 

「ったく、楽しくなってきたなぁ!!!」

 

アレサのコジマブレードとチェインドのダークスレイヤーが激突し、火ぶたは斬られた。

 

 

 

画面の向こう側で、眩い光が天を貫く

大いなる犠牲を払う、取り返しのつかなくなる前に宇宙への道は切り拓かれた。

 

それを眺める少女の影。

その背中に声がかけられる。

 

「セレ・クロワール、ここにいたのね。」

 

紫のドレスに身を包んだ女性が、その部屋に入ってきた。

バーでミストレスをやっていた女性、名を八雲紫。

 

FGWの…いや幻想郷を管理する賢者の一人。

これから行われるのはセレ・クロワールの処遇の決定である。

 

「誤解してたとはいえ無益な損害を与えたこと、お詫び申し上げます。」

 

「いえ、こちらも警戒して手を無意味に出しましたから。」

 

そう言うと彼女は微笑みかける。

だが、油断はならない。

あのFGWの運営にかかわっている存在だ。

 

「私を…どうするご予定で?」

 

恐る恐る、単刀直入にセレ・クロワールは問いかけた。

それに紫は何事もないように返す。

 

「…協力は仰ぐことはあるかもしれないかしらね。…でも、これから私達に害を及ぼすことはないのでしょう?」

 

「ええ、こちらに害や不都合がない限りは。」

 

「なら、何の問題はありませんわ…幻想郷は、すべてを受け入れるのですから…」

 

そういって彼女は去っていく。

あまりにもその掴めなさに私はたじろぐしかない。

何かしらの賠償や埋め合わせもなく、ただ害さねばいい。

その答えに、私は困惑するしかなかった…。

 

 

 

彼女はその後、新たに得た肉体をもって神社まで足を運んだ。

そこにいたのはUnknownとストレイド、そしてレイナ。その三人は神社の軒下で談笑していた。

 

「いらっしゃい、セレ。」

 

「どうしたんだ?処遇は…まあ察しが付くが。」

 

二人が歓迎し、それに笑顔で返すセレ。

 

「お礼を…言いに来ました」

 

「…この子よ。」

 

Unknownに導かれ彼女はレイへと近寄り、その腕に何かが…いや誰かがいることに気づく。

赤子だ、生まれて1年といったところか。

 

「…最近、厄介な施設で見つけてな。保護したんだ。」

 

ストレイドが補足している間に彼女はレイナの腕に抱えられた赤子の顔を覗き、微笑みかける。

 

「ありがとね。」

 

赤子は、晴れ上がるような笑顔を再び彼女に見せた。

 

「霊華…って名前を付けたの」

 

「そう」

 

レイナの声を聞きながら、セレは優しくその頭をなでていく。

 

そして、彼女も軒下で話に加わった。

 

「…ところで、やっぱり外で活動するの大変よね。今回の戦争で何か進展があったの?」

 

「ああ、一番問題になってた戸籍問題がな。」

 

ストレイドの子気味いい返答。

 

「菫子がGAを通して国連とかに私たちの便宜を図ってくれたらしい。外の世界の活動に問題なしと判断された奴に仮の戸籍を作ってくれるようになった。」

 

「じゃあ、傭兵やレイヴンとかの戸籍問題軽減策を取らなくてよくなったのね。」

 

「ああ。」

 

先日まで敵同士だったが、彼女たちには関係ない。

傭兵である二人と、役目の終わった機械の人格。

 

それに、ここでは争いが終れば恨みっこなし。そんな文化が根付く土地だった。

 

__少年は、戦場に立ち戦った

 

__多くを失い、傷つき。

 

__

 

__だが、完全ではないが、最後には望んだ結末にたどり着いた。

 

 

 

 

桜舞い散る中、二人は校門の前に立った。

 

「すっごく久しぶりだなぁ…みんなどうしてたんだろ」

 

「俺は今日初めてここに来た…いろいろおしえてくれよ?」

 

練と紫蘭の二人は、今日の始業式に合わせて中学校に復帰する。

義務教育だ、補習に問題がなければこのまま進学も出来るだろう。

 

__練は依頼を受けなくなり、完全にアリーナ専門に切り替えた。

流石に完全に離れることはできなかったが、レイヴンらしいレイヴンではなくなった。

 

紫蘭もリンクス登録は予備の予備だ。本人が望まない限り戦うことはないだろう。

 

「さて…時間だし、そろそろ行くか。」

 

「うん。」

 

二人は歩みだす。

戦場に戻るか、このまま別の彼らが望む道に行くかはまだ分からない。

だが、それは彼らが決めること。

彼らは、傭兵のような自由を手にして、再度歩み始める。

 

 

 

__アーマードコア・巻き込まれた少年は烏になった  完

 




拙作をご愛読していただいた皆様。
ありがとうございました。


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あとがき

おまけと一部ネタバレ


…どれどれ…

ああ、もう繋がってるのか?

 

あ、んんぅ。

まずは拙作『巻き込まれた少年は烏になった』を読んでいただきありがとう。

 

…たまーにUA見てたりしてたが、ここでぶっちゃけても見てくれる人は少ないような気がするが…まあ、独白の類だと思って見ていってくれ。

自己紹介させていただくと、一応作者の代理キャラの類だ。名は敢えて伏せておく。

 

まず…

 

・この作品の立ち位置について

 

過去に色々あったような書き方をしたが、この作品、たまにいろんな人にいってはいたが今後書こうとしている作品の外伝にあたる位置だったりする。

初めての小説がどうして外伝かって?

 

…後ろがいろいろ考えてあるのに第一章で爆死したくなかったんだ。

それで練習したくて…

…チキンで悪かったな!!

 

 

・隠し要素

 

ハーメルンの機能で色々出来ることに気づいてから、中盤色々試して見た時期がある。

実は手を加えないと読めない分が各所に存在するんだ。

所謂反転だ。

 

完結したことだし、読み方を書いておくよ。

 

_パソコン

 

怪しい部分にクリック→長押しして範囲選択すると青くなったところに文字が浮かぶ。

 

_スマホ

 

長押しで文をコピペに使う選択感じで空白を確認、あとは同様。

 

_共通

 

背景を変える

 

 

いろんなところに隠れてるから調べてみてくれ。

 

ためしにこのすぐ下の文は見えないようになってる

まあ、何も内容はないよ

 

 

 

 

まぁ、こんな所か。

もし今後、続編を書くことになったらその時もよろしく頼む

 

 

 

 

44Kt44Oj44K544OI77ya5Y6f5L2c44Kt44Oj44OpDQoNClVrbm93bu+8muWNmum6l+mciuWkog0K44K544OI44Os44Kk44OJ77ya6Zyn6Zuo6a2U55CG5rKZDQrjgrfjg6Pjg6vjg7vjg57jg6HjgqTjg6Tjg7zvvJrlsITlkb3kuLjmlocNCumBk+aIkue3i+iKve+8muWnq+a1t+ajoOOBr+OBn+OBpg0K44Oh44Kk44OX44Or44O7ROODu+ODqeODs++8mueKrOi1sOakmw0K44OW44Op44OD44Kv44OQ44O844OJ77ya44OV44Op44Oz44OJ44O844Or44O744K544Kr44O844Os44OD44OIDQrlrofkvZDopovoj6vlrZANCuiMqOacqOiPr+aJhw0K5YWr6Zuy57Sr

 

 



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