僕の名前は
親が半ば突き放すような形で僕は高度育成高等学校というところに入学させられた。
ここが普通の学校だったなら、普通のクラスだったら普通に人付き合いをして無難な生活を過ごせたはずなのに。
しかし、この学校は普通の学校と違ったのだ。
「俺に従え。文句のある奴はかかってこい」
何だか怖そうな奴がいきなりそんなことを言い出した。
馬鹿なことを...いきなりそんな訳のわからないことを言っても浮くだけだ。
そう、思っていたんだ。
なのに、
「龍園さん、お茶買って来ました」
「ああ」
何でクラスの支配者になっちゃってんのさ。
初めは龍園とかいうやつに対抗していたガタイのいい外国人もいつのまにか傘下に加わってるし、もう龍園に勝てる奴はいないだろう。
終わりだ。
「おい、端橋」
「な、なにかな龍園...君」
「なぁに、ちょっと頼みたいことがあってなァ」
嫌な予感がする。特に目立ったこともしていない僕がなにをやらされるのが怖くて震えが止まらない。
膝が笑っている。
・・・
その後、龍園に頼まれたのは普通におつかいだった。
焼きそばパンとかベタだな。
あーよかった。
入学式の後、10万プライベートポイント(お金の代わりになるポイント)が配布され、クラスの奴らは豪遊した。
かくいう僕もそのつもりだったのだが、消費は最小限に抑えて友達に誘われた時や服を買うぐらいにしかお金を使わなかった。
学校では野菜が好きなんだと友達に言って山菜定食(無料)を食べ続け、生活必需品はすべて無料のもので買い揃えた。
『今月、10万プライベートポイントが諸君に配布されているはずだ。このポイントは学園敷地内のものなら何でも買うことができる』
担任のメガネをかけた悪そうな先生が言っていた言葉を思い出す。
【今月は】という所を強調して言っていた様に聞こえた。
では来月は?0だったらどうする?
臆病者でチキンな僕は出しゃばって先生に質問して目立つことを嫌い、後で一人で聞きに行こうと思ったが、龍園が担任と話し込んでいた。
時折先生が笑っている所を見ると仲良くなってしまったらしい。
ここで僕が先生に質問すれば、僕のことを龍園に伝えてしまうかもしれない。
誰かが質問するか、次の月初めまで待つしかない。
うまくいかないなぁ...
取り敢えず、上級生との関わりを作りたい僕は部活動説明会なる物には友達と参加することにした。
○○○
「じゃあ、今日の放課後みんなでカラオケ行こうぜ!」
現在クラス内のグループの一つの中の一人が、話の流れからカラオケに行こうと言い出した。
次配られるプライベートポイントの量がわからない今、あまり消費したくないのだが...
「それいいね。折角だし、他にも誘おうよ!」
「いいねいいね〜じゃあ・・・」
なんて感じで乗っかってしまう。ここで僕はちょっと用事が...なんて言ってしまったら浮いてしまう。
ああ、何でこんなこと気にしてしまうんだろう。もう今月は付き合いだけで10000ポイントは使った気がするよ。
これでも抑えてるはずなんだけどなぁ...
「端橋君もそれでいいよね?」
「うん、いいよ」
笑顔で返事をする。周りの人は僕が臆病者だってことは知らないだろう。
僕は筋金入りの隠れビビりだ。
小学校も中学校もずっとそうだった。仲間外れにされるのが嫌で、蚊帳の外にされるのが嫌で、でも一人の方が気楽で僕の頭の中はいつもぐちゃぐちゃだ。
それでもなにも問題が起きたことはない。
家族には取り繕う必要がないのでいつからか忘れたが、一切口を聞いていないが。
というか、気付いた時には一人暮らしになっていた。
っと、僕の過去の話はどうでもいいや。今はこのカラオケで歌うメジャーで普通に盛り上がれる曲を考えなくては。
チョイスにさえ失敗しなければ歌が得意な僕にとってカラオケの点数調整なんてお手の物。
一人でどれだけ練習したと思っている。
当然友達には、
「端橋君ってカラオケ結構いく?」
と聞かれたら
「僕は、友達に誘われて何度か行ったことある程度だよ」
と一人で行ったことはないアピールをする。
この日もカラオケは無難な曲の選曲に成功し、普通に盛り上がって普通に解散して終わった。
一安心だ。
○○○
僕はファー付き黒フードジャケットにGパンという格好で外に出ていた。
「さて、始めるか」
僕の輝かしい未来のために行動を開始した。
まず僕の計画に顔バレはご法度。
初めての顧客との待ち合わせ場所に向かう。
既に深夜0時だ。こんな時間に外出している人は限りなく少ない。
フードを深くかぶって顔がばれないようにもう一度確認して僕は客の前に姿を現した。
「初めまして。この学園で安心安全の銀行コワード銀行をご利用いただきありがとうございます。早速ですが、いくら入金されますか?」
まず僕がターゲットにしたのは、端末のパスワードがバレてお金を寝ている間に勝手に奪われた事がある先輩方だった。
友達関係を壊したくないが、お金を奪われるかと不安でその友達と遊んでいても心から楽しめないと信頼できる友達に相談していたのを盗み聞きした時に銀行を作ろうと思い立った。
月々100プライベートポイントで安心安全にお客様のクラスポイントを預かる事で無駄遣いや盗難を防ぐというのがキャッチコピーだ。
勿論信じられない人もいると思うので、ダミーの顧客を何十人も用意して客に見せた。
1.口外禁止、
2.連絡はメールのみで順番を待ってもらう時もある。
3.残高確認はメールで連絡する。
4.月々100プライベートポイントの支払い
5.4の条件が満たされない時、連絡もつかず支払いもない場合は預金額全額を回収する事がある。
6.口座を消した後は3ヶ月間新たな口座を作る事ができない。
と行った条件でとりあえずやってみる。
穴があるかもしれないがそれは後々対処すればいい。それこそ稼いだプライベートポイントで黙らせれば良いのだ。
「こいつも、こいつも預金してたってのか...全然気づかなかった。だからアイツらはパスワードがバレていても気楽で入れるのか」
この交友関係の狭い(調べた)先輩が相談していた信頼できる友こそが泥棒の犯人だと言うのは分かりきっていたのだが、敢えて口出しはしない。
せっかくのカモなのだ。いい感じに勘違いしてくれているようだし、このまま行こう。
「そうですね、この話を持ちかけた時彼らもすぐにのってきましたね。よっぽど不安だったんでしょうねぇ。」
「そうか...」
「彼らもはじめは訝しがっていましたが、徐々に貯金額を増やして行って今では使わない金の殆どをコワード銀行に預けていただいております」
勿論嘘だが。
「わかった。取り敢えず俺も1000ポイント預けさせてもらう」
「ありがとうございます。今月の支払いは結構ですので、次の月初めに預金からもしくは手渡しで100ポイントを回収させていただきます。」
後々、自動引き下ろしと行った形で毎月勝手に100ポイントを引いてくれと言われるようになったら、こっちのものだ。
「今後ともよろしくお願いします」
「ああ、また預ける時は連絡するよ」
そう言って先輩とは別れた。
あとをつけられていないことを確認してトイレに入り、フードを持ってきていたカバンの中にしまう。
徐々に顧客を増やして行き、最終的には...
空に浮かぶ満月を見ながら、僕は計画の成功を祈った。
○○○
翌月になった。あれから何人か銀行の利用者ができて顧客がようやく二桁になった。特に問題になるようなことはしていないので、騒ぎになったりはしていない。
引き出したいという連絡も何度かきているが、いつもしっかり対応しているため今のところ順調だ。最終的には一学年ぐらいの人数を顧客にしたいと考えている。
顧客は1日にクラスポイントが入るので100プライベートポイントぐらいなら問題ないのか普通に支払いに来た、もしくは引き落とさせてもらえた。
そして、うちのCクラスでは...
「10万ポイントもらえるんじゃなかったのかよ!」
「どういう事!?わけわかんないんだけど!」
とんでもない騒ぎになっていた。
龍園は何やら笑っていたが、関わりたくない。
隣の席に座る女子に「端橋君もそう思うよね!」と同意を求めて来たので適当に「そうだね」と表向きとても同意しているように合わせる。
内心こんなことになる可能性を予知していたので他の人より動揺していなかったが、このままではなかなかポイントの貯金ができない。
どうしたものか、と考えていると急に静まり返った。
龍園が立ち上がったのだ。
「落ち着けお前ら、先生の話の続きを聞こうぜ」
そういうと、着席した。
ほー、すごい。さすがこのクラスのリーダー様だ。
「どうせポイントを増やす方法もあるんだろ?」
と龍園が言った。
それはそうだろうな。じゃないと困る。
「今龍園が言ったように、試験で良い点を採るなどクラスポイントを上げるチャンスはある。クラスポイントに関する詳しいことは教えられないが、これだけは断言できる」
Aクラスよりもクラスポイントを高くできればCクラスはAクラスになれる、と。
そう言うシステムなのかー、と一人感心していると一人の生徒が立ち上がって吠えた。
「そんなのAクラスに試験で勝てるわけねぇだろ!いい加減にしろ」
そーだそーだとクラス中がまた騒がしくなる。
うるさくなったクラスに嫌気がさしたのか担任はクラスから出て行ってしまった。
自由だな。
出て行く前に龍園の方を見たことから、「なんとかしろ龍園」という言葉が聞こえる。
その後、龍園がクラスにクラスポイントを上げるのは勉強だけじゃねぇ。
みたいなことを言ってみんなを焚きつけていた。
「俺についてくれば、勝てる」
自信を持って言う龍園にクラスのみんなは黙るしかなかった。
カリスマ性だけでなく、龍園は頭も切れる。
なんだかとんでもない方法でクラスポイントを増やして行きそうだ...
僕はクラスの友達と普通に過ごすので頑張ってください。
心から僕は祈った。
○○○
案の定事件が起きた。
暴力事件だ。
生徒会が裁判官みたいな感じで判決を下す学級裁判のようなものが開かれるぐらい事態は発展した。
一方的にうちのクラスの三人がDクラスの須藤とやらにボコボコにされたらしい。
弱すぎんだろうちのクラスの男...
というのは冗談で、どうやらこの時間は龍園が仕組んだ事件らしい。
Dクラスを潰すために企んだ計画らしい。
何故Dクラスなのかはわからないが、おそらくD、B、Aと潰して行くつもりなんだろう。
その気持ちは僕もわかる。一から十まで全て制圧しないと気が済まないという気持ちはゲームでよく起こる。
例えば、戦国時代の無双系ゲームで敵の大将以外は全部味方の兵士になるまで敵兵を殲滅するとかね。
よくやったよ僕も。龍園がこの例えに共感してくれるかはわからないけど。
その後、何故か龍園の須藤の退学計画が失敗し、いつのまにか怪我させられたことに対する訴えは取り下げられていた。
誰だよ取り下げたのは。そんなことしたら龍園の怒りに触れるに決まってるじゃないか。
どうやって言いくるめられたのか知らないけど愚かすぎる。
やれやれだ。
これで龍園の機嫌が悪くなってこっちに当たられたらどうするんだよまったく。
奇跡的に僕のグループに飛び火することなく、小テストが実施された。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
2
小テストでは、僕は当然目立たない平均点ぐらいの点数だった。
平均点ぐらいに調整するために、既に教科書は読み尽くして全範囲解けるようにしてある。
よし、クラスの足を引っ張ることなく引っ張り上げることもない人間味あふれた素晴らしい点数だ。
何故かウチのCクラスの平均がDクラスに負けていたのが気にかかる。
前回のクラスポイント発表でてっきり僕は成績順に振り分けられているんだと思っていたがどうやら頭の良さだけで振り分けられているわけではなさそうだ。
「っと、メールだ」
今回も預かりいれ額増額のメールだ。今日の夜会いたいというメールが来ている。
着々と様々な学年から預金された僕の端末には400万弱のポイントが表示されていた。
まだまだ増え続ける。そしていずれは...しかし、この計画はあくまでも保険だ。
こんな事いつまでもアイアに隠しながらやって行くことなんかできるはずがない。
だから、僕は奴に話を通すことにした。
「龍園君、ちょっといいかな」
僕が龍園に話しかけたことでクラス中がざわざわしている、に違いない。
それはそうだろう。僕は今まで意図的に避けて来たといってもいいぐらい龍園を避けていたのだから。
それが急に自分から話しかけにいったら不思議に思うに決まっている。
だからこそぼくは、先程の言をメールで龍園の端末に送ったのだ。(え?)
○○○
「俺を呼び出すなんてな、一体何のようだ端橋」
ぼくに呼び出された時点で勘付いているはずなのに敢えて聞いてくる龍園。
全く性格の悪い奴だ。
「実は僕は君に黙ってやっていたことがあるんだ」
それから僕は、コワード銀行のことを龍園に話した。
「なるほどな。で、俺にどうして欲しいんだ?」
「この銀行を続けることの許可だよ。特に助力してもらおうとは考えていないよ」
「おいおい、わざわざ俺に許可なんかいらねぇだろ?同じクラスメートなんだから秘密の一つや二つぐらいあって当然じゃねぇか」
全く白々しい。さっさと聞いて来てくれ。アレを。
「まあ、冗談はともかくとして。それで俺に何のメリットがある?テメェにポイントが流れたら俺にポイントが回ってこなくなるんだが?」
龍園はクラスの奴からポイントを月に一万ポイント徴収している。まさに王。Cクラスの王だ。なんて奴だ許せない。
「僕は君の計画に必要な資金を融資しよう。それこそが本来あるべき銀行の姿なんだから」
「なるほど。それで?」
これだけで満足してくれればよかったのだが、やはりそううまくはいかなかったか。
「...僕このクラスがAクラスに上がることができなかった時の保険のために動いている。この保険に龍園君も含めよう。必要な資金が倍になるけど、一人分ためられれば二人分貯めることだってできるはずだ」
「ある程度算段があるのか」
「一応は」
その内容は流石にいうつもりはない。それを龍園も理解しているのかそれ以上は突っ込んでこない。彼が目指しているものは単独のAクラス昇格ではなく、他クラスを踏み潰してクラスごとAクラスにのし上がることだからだ。
僕の計画は一人をAクラスに昇格させる、つまりはポイントでAクラスに行く権利を買うだけというつまらない計画だ。無論、保険はこれだけではないがそれを龍園に言う必要はない。
これ以降の僕の計画は全てこの銀行計画を隠れ蓑に進めていけるのだから。
「いいぜ。乗った。だが、融資はお前の判断でしろ。強制はしねぇ」
「?それはどういう...」
「そういうことだ。これ以上一人でいたら怪しまれる。じゃあな」
軽く手を振り僕の前から去って行く龍園。
ひとまず一つ目の難関はクリアすることができたようだ。
僕はもう一つの不安の種を潰すためにある場所に向かった。
○○○
まさか、あの端橋が裏で銀行なんか作り上げて既に400万のポイントを手に入れてるとは。
人は見かけにやらねぇってのはこのことをいうらしい。
初めは他の連中と同じパシリに使ってやろうと思っていたが、なかなかに面白い。
奴の意見も参考にして今後の計画を決めて行くのもありか。
あいつが融資しない計画は見直しで見るのも面白いかも知れん。
だが、直接あいつと二人で話してみてわかったのは恐怖だ。
あいつが怖いということじゃねぇ。あいつが自分以外の全てが怖いと、怯えている腑抜け野郎だってことだ。
だが、あいつはただの腑抜けじゃねぇ。
狡賢く、小賢しい。
頭が回って何重にも保険をかけることでしか安心できない。
そして何よりも、とんでもない矛盾を抱えてる奴だということに気づいた。
全く面白い。
まさかあんな事を考えてるなんてな。
あれは、俺があいつと初めて会った夜の日のことだった。
あれはまだ手下もおらず、反抗してくる奴を片っ端から片付けていた時のことだった。
夜の公園で一人、何もせずに海の向こうを見ている男子生徒がいた。
チャラチャラした明るい茶髪をしているくせに、身だしなみはきっちりしている奴でクラスでもそこそこ人気のあった人間だ。
少し気にくわねぇから、殴ってやろうとでも思っていた時だった。
まだ何メートルも離れているというのに、あいつはこっちを見やがった。
俺が殴ってやるかと考えた瞬間にだ。
少し驚いて、その場で固まっているといつのまにか目の前にあの男が立っていた。
「僕は怖いんだ。僕を害そうとする全ての物が...僕は臆病者なんだ。リスクのある賭けなんて絶対にしない。僕がするのは出来レースだけだ」
どこまでも卑屈で、どこまでも消極的で、そしてどこまでも臆病な男がそこにいた。
「ヤンキーに絡まれ喧嘩では相手に勝てないと思った僕は、逃げる為に足を鍛えた。陸上部にすら負けない俊足の足を手に入れた。すると今度は学力で貶められた。頭が悪過ぎるといじめられて優秀過ぎると白い目で見られる。だから僕は数週間で中学の教育課程全てを自習で理解し、あらゆる平均を計算して常にクラスの中間層にいることにした。今度は、大人しいだけで陰キャラだと責められた。何もしていないのにいじめられるのが嫌だった僕は程よく協調性のあるクラスでも中の上ぐらいのグループに所属して友達を作った。僕の人生は逃げの人生だ。苦しみから逃げる為に逃げて逃げて逃げ続けて、いつしか僕はヤンキーにも喧嘩で勝てて、陸上部相手に欠伸しながら勝てる、それに加えて勉強もでき、協調性もある完璧超人になっていた。・・・僕は本当に何がしたかったんだろうね...」
チューハイ片手に一方的に語った男子生徒は話し相手が欲しかったのか、話すだけ話すとどこかにふらふらと消えていった。
後に同じクラスの端橋と知って驚いたのは記憶に新しい。
そんな奴の考えだ。
そんな面白い奴の思考が一考する価値もないわけがないだろう。
今まで奴に大したことをさせていないのは自由にさせたら面白くなりそうだったからだ。
案の定銀行なんか作ってやがって、上の学年も巻き込んでいるときた。
俺に許可を求めてきたところを見るに俺が本格的にコワード銀行の正体を暴きに動き出そうとしたのを察知したんだろう。
「次の計画には奴も参加させるか」
少し、端橋という男を使って見たくなった。
○○○
龍園が言った言葉の意図がいまいちわからなかったが、気にしても仕方がない。
今はそれよりも、彼の事だ。
綾小路清隆。
名前を知ったのはつい最近だ。最近綾小路清隆という一年から過去の小テスト問題を譲って欲しいと言われた先輩がいた。
Dクラスの小テストの点数が上がったのは十中八九それが原因だろう。
このことを龍園に言うべきか悩んだが、龍園の能力を試す為にも今後の自分が取る行動を決める為にも今回は黙っておくことにした。
しかし、それはじっとしていることと同義ではない。しっかりと布石をうちに行く。
臆病者の僕としては彼には極力動いて欲しくない。純粋に堀北とやらと龍園には戦ってほしい。
そして懐柔してDクラスを支配下に置くのだ。
そうすれば僕も安心して上のクラスを潰す事に協力できる。
龍園が何かするときに立ちはだかって邪魔になるのは綾小路清隆ただ一人だ。
他にも彼にも比肩し得る存在があるかもしれないがそんなことを考え始めてばかりがないので、最近Cクラスに有益な情報を流してくれる彼女に頼んで監視してもらう事にした。
「ごめん、綾小路君っているかな?」
近くにいた女子グループ(顔見知り)に話しかけて彼の席を教えてもらう。
よっぽど面白い話をしていたのか僕のことに触れずに話を再開した。いい流れだ。
言い訳を10ほど用意していたけど余計な心配だったかな。
顔も知らない綾小路清隆とか言う人に僕は初めて会った。
そしてその瞬間、彼の目を見たときに僕は気づいてしまった。
自分さえ良ければいい、自己中の目だ。
他ならぬ僕が自己中なのだから余計に理解できる。
他人がどうなろうと自分が良ければそれでいいと言う思考の持ち主の目は周りに向ける目が死んでいるのだ。
最低限の情報収集は行なっているようだが、それ以外に興味はなさそうだ。
よく利用する駒には積極的に話しに行くようなタイプで余計な体力は消費しない主義の効率厨だ。
クラスのみんなと仲良くする。
そんな非効率的な事をしたくない、あるいは出来ない思考の人間は利用したい駒をそばに置き、いつでも使えるようにコンディションを整えているものだ。
かく言う僕もそうだった。
隠れ蓑にする生徒とは他の人たちよりも少しだけ仲良くしていた覚えがある。実際に高校でもそうやって生活して行くつもりだった。
普通の学校だったらの話だけど。
「君が綾小路君かな」
「ああ、そうだが。...多分初対面だと思うんだが」
「ああ、ごめんね。君のことは友達から教えてもらってね。僕の名前は端橋渡。よろしく」
「しってるようだが一応、綾小路清隆だ。よろしく」
目の前にしても何を考えているのか全く思考が読めない。表情の変化が乏しすぎる。判断材料が少なすぎる。
全く、僕の経験則から言って、
何を考えているのか分からないやつほど、思慮深くて狡猾なんだ。
本当、こんな奴がDクラスにいたんじゃ龍園も苦戦するだろうなぁ...
僕は今はここにいないCクラスのボスを哀れんだ。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
3
綾小路清隆。
Dクラスのあまり目立たない男子生徒だ。
しかし、クラスのブレイン堀北鈴音と話している姿がしばしば見受けられると聞いたので堀北に何か吹き込む機会は十分にあると考えられる。
「昨日はごめんね。ウチのクラスの奴が須藤君を勘違いで訴えてしまったみたいで」
「ああ。別にいいぞ、気にしなくても。須藤ももう...気にしてないみたいだしな」
そう言って須藤の方を見ると堀北鈴音の方を向いてだらしない顔をしている。
なんともわかりやすいことだ。
「ありがとう。でも須藤君だけでなく君にも迷惑をかけたね」
その瞬間、綾小路清隆の顔がだるそうな真顔から緊張感をほのかに感じさせるキリッとした真顔に変わった...気がする。
「俺に迷惑?一体なんのことだ」
「いやいや、惚けなくてもいいよ。君のお陰で須藤君の退学は免れたんだから。」
「俺のお陰?須藤の潔白は堀北があの三人衆に証明したのであって、俺がやったわけじゃない」
「そうなのかい?」
「ああ」
どうやら彼自身はあまり目立ちたくないらしい。何が目的なのかは知らないが、退学者を出さないように立ち回った功績は褒められるべき事なのに、その役目を堀北鈴音に押し付けている。
わからない。全くもって綾小路清隆という男の考えがわからない。
「なるほど。勘違いしていてごめんね、はなしてくれてありがとう」
そう言って僕は軽く手を振り、Dクラスを後にした。
○○○
端橋渡。
Cクラスの生徒それも龍園に次ぐ副リーダーのような奴がまさか自分に話しかけに来るとは思ってもいなかった。
少なくとも、俺が端橋に一ノ瀬と話しているところやカメラを設置しているところを見られた覚えはない。
俺たちの姿を見た人間も時間帯的に限りなく少ないはずだ。
そんな情報を手に入れている奴だ。端橋には俺が監視カメラを用意した事はバレていると考えていい。更にそれに加えて、俺が堀北を隠れ蓑にしている事も気付かれただろう。
面倒だな。
一番の問題はこのことを龍園に言うのかと言う事だが、龍園に聞かれたら言うだろうな。
これは端橋が龍園の命令に従っていると言う点から考えればすぐにわかる。
明らかに龍園に怯えている。
龍園の配下とまではいかないが、頼まれた事は大概断らないだろう。
「龍園が聞かないことを祈るしかない、か。」
暫くは堀北を標的に据えてくれると思っていたのだが、誤算だった。
俺も早く
「面倒だが、自分のためだ」
俺が勝つ為に。最後に俺が勝っている為に行動しよう。
困ったときに頼りになるリーダーのもとに向かうべく、俺は席を立った。
○○○
龍園に報告すべきか否か。しかし、僕がDクラスに行っていたのは確実に知られているだろう。
龍園に告げ口した奴が必ず一人はいるはずだ。僕だったら龍園のご機嫌取りに少しでもなるなら迷わず報告する。
「よお、端橋。Dクラスはどうだった」
案の定知っていたか。
「いつも通りって感じだったよ。特に変わった事はないかな」
当たり障りのない答えだ。これで龍園が機嫌を損ねる事はない...はずだ。
「ほう、そうか。少し騒がせてしまったからなぁ、心配してたんだよ俺は」
そんな事毛ほども思っているように見えないぐらい、机に足を乗せてアルベルト(黒人外国人)に肩を揉ませてかなり寛いでいる。
「で、何か収穫はあったか」
さっさと聞いて来たことを言えと、そう言うことか。
「ああ、実は・・・」
僕は堀北鈴音を隠れ蓑にしてDクラスを操っている存在、綾小路清隆が厄介だと包み隠さず全て龍園に告げた。
もう少しすれば龍園も気付いたであろう綾小路清隆の存在を伝えたことで、今後彼の存在を把握していないことで生まれる損害は減少することだろう。
いくら龍園でも存在すら知らない相手に策を打つ事はできない。
「綾小路清隆、初めて聞く名前だな」
先程までのふざけた姿勢を正して思考する龍園。そう、僕はこの龍園も知らない情報を与えることで、逃げる隙を作ったのだ。
それじゃあ、僕はこれで。と小さい声で言ってその場から退散する。
「ちょっと待て」
え。
「な、なにかな?」
まさか呼び止められるとは思っておらず、動揺が思いっきり表に出てしまった。
「その綾小路清隆。得体が知れなくて怖いよなァ」
笑みを浮かべて僕にそう言ってくる龍園。そうだ、得体が知れなくてなにを考えているのかわからない。
ビビりの僕としては不安要素であり、なにをされるかわからないので夜もぐっすり眠れなくなるだろう。
今日以降は綾小路清隆の情報を重点的に集めることを決意するぐらいには警戒している。
つまり、龍園の言う通りだ。
「そうだね..,」
「そんな奴こんな学校にいて欲しくないよなァ」
...この学校からあの男がいなくなる。そうすれば、Dクラスも終わりだろう。Cクラスの支配下に置くことだって難しくない。
堀北は綾小路に操られている人形だ。龍園の敵ではない。
「...だとしたら、どうするつもりなんだい?」
「そんなの簡単だろ。いられなくなるようにしてやればいいんだよ」
三人衆で失敗した計画を綾小路にも仕掛けてやろうと言うことか。
「まさか、綾小路君を須藤と同じような暴力事件の犯人に仕立て上げるのかい?」
彼はそんな問題を起こすような人間ではないと思うのだが。
「そいつは綾小路がどんな奴か調べてからにするさ」
それよりも、と龍園が続けて言った。
「お前にも手伝ってもらいてぇな。端橋」
悪い笑顔だ。だが、今回に関しては不確定要素、不安要素を取り除くことのできる良い機会だ。
本気で手を貸して綾小路を消してしまうのも悪くない。
「そうだね。もちろん手伝わせてもらうよ」
龍園を敵に回しても何も良いことはない。Cクラスで3年間過ごすなら、絶対に敵に回しては行けない人物だ。
「そう言ってくれると思ったぜ。必要な時は呼ばせてもらうわ」
「ああ、いつでも力を貸すよ」
それまでは、各々手を打って置こう。
共同で綾小路を追い詰める時、それは綾小路清隆がこの学校を去ることになった時だ。
○○○
「どうした伊吹。怖え顔して」
話を終えた龍園が私の顔を見て言った。
「別に...何でもないわ」
龍園の事は気に食わないが実力だけは認めている。あっという間にクラスを纏め上げ、自分の配下にしてしまったそのカリスマ性。
目的のためならば手段を選ばない合理性。普通の人間に出来ない思考を平然とやってのける精神性が悪いところでもあり、良いところでもある。
だが、
「龍園、アイツは本当に大丈夫なの?」
私が同じクラスのあの男、端橋渡という人間に抱くイメージはあまり良くない。
チャラチャラした金髪の見た目に似合わない程優しい性格だ。基本、頼まれた事は断らない人間でクラス内でも人気の高い男子だ。
クラスメイトとしてからに抱くイメージはあまり悪くはない。というより、私も遊んだことがあるのでむしろ気遣いもできる良い感じの人だ。
だが、だからこそ龍園が気にかかる理由がわからない。
自己主張も強くなく、空気を読むことに特化した優しい人間が龍園のような非道な作戦でなくとも人一人を潰すことができるのか。
最後に日和って逃げ出すのではないかと危惧している。
私は龍園に正直にそう告げると、龍園は笑いだした。
「人一人潰せるか不安、か。なるほどなぁお前たちはそう思っているのか」
「何で笑う?そんなに不思議か」
むしろそう思う方が普通だと思っていた。
「まあ、心配する必要はねぇよ。なぜならーーー」
ーーーーーーアイツは既に
え、という声が漏れた。鳥肌が止まらない。この短期間で退学になった人は一人もいない。だが、文字通り
入学当初は五月蝿くて事あるごとに誰彼構わず絡んでいた奴。
それが今では、クラスの1番右後ろの席で気が狂ったように紙に何かを書き殴っている。
テストも書き殴って汚い字ではあるが回答している。点数はお察しだが。
私はてっきり龍園が潰したものだと思っていた。
「ああ、俺も鬱陶しいから潰そうとしたさ。だが、潰そうとした翌日には既にアイツはああなってたんだよ」
龍園は笑いながらそう言った。龍園は手始めに反抗的なやつを潰していったのだ。その中には勿論、私やアルベルトも入っている。
おかしいと思っていたのだ。龍園があそこまでするものなのか、と。龍園なら服従させて駒として使うとはずだと不思議に思っていたのだ。
「ああ、俺だったらそうするな。俺の事よくわかってるじゃねぇか伊吹」
コイツの事がわかっても嬉しくない。鬱陶しいだけだ。
「まあ、そういうわけで心配はいらねぇ」
別の意味で心配になって来たが、まあ龍園が言うのだ。問題ないのだろう。
しかし、この話を聞いた今でもあの男が悪どいことをする所が想像付かない。
何かの間違いじゃないのかと思ってしまう。
少し、モテる奴への嫉妬からか端橋によく突っかかっていたような気がするが、何かあの男の逆鱗に触れるようなことをした或いは、言ってしまったのだろうか。
「全く思いつかない」
あの優男が怒る所が全く想像できない。
龍園曰く、それもあの男の術中にはまっている証拠だと言っていたが最後まで私は疑問を抱かずにはいられなかった。
○○○
誰もいない放課後のCクラス。
「おでがわるがっだ...ゆるじでぐだざいぃぃ...」
「駄目だ。書き続けろ」
僕の安寧を、平和を、日常を、そして誇りを傷付けたゴミだ。もう僕の命令なしでは話すこともできない。
強力な暗示を掛けられあらゆる行為を規制される。
「お前が悪いんだ。お前が僕にあんなことを言うから...」
分かっていても言われたくなかった。
僕にとって最低の言葉。
僕は気が短い。しかしそれは人と違ってある一言がトリガーになってキレると言うもので、短気とは少し違う気がする。
その一言さえ言わなければ、僕はどれだけ何を言われようとも笑顔で流す事ができるだろう。
だから、
「その一言を言ってしまったお前が悪い」
こみ上げた怒りをぶつけるように髪を乱しながら何度も彼の頭を机に叩きつけた...
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
4
「クラス対抗のゲーム?」
「うん。Dクラスとは色々あったからね。3年間同じ学校で過ごすのに、 クラス間に蟠りがあったら嫌だなと思ってね。どうかな?」
「そうだね。僕もCクラスとも仲良くしていきたいと思ってるし、いいと思うよ」
クラスの中心人物である平田に話をつけることで、スムーズに事が進みそうだ。
クラス対抗のゲーム。
ゲームの内容はこうだ。
次に行われる小テストのクラス平均によって勝敗を競う。そして、一人1000ポイントを参加費として徴収する。
もちろんこのポイントはそれぞれのクラスのリーダーが所持しておくものとし、勝敗が決まった時点で買ったクラスのリーダーに負けたクラスのリーダーが集めていたポイントを譲渡する。
こんなゲームをやったら余計に蟠りができるに決まっている。当たり前だ。
だから、こちら側が提示する条件として、Cクラスが勝った場合は、手に入れたポイントを予め決めているみせを貸し切ってDクラスを招待し、Dクラスの分も含めた全ての会計をCクラスが持つパーティを開くのに使うものとする。
という条件をつけている。これが龍園が持ちかけた話だったとしたら確実にDクラスは乗ってこないが、僕が女子友達のつながりで軽井沢とは比較的良好な仲であり、平田とは定期的に遊びに行く仲だからこそできた提案だ。
この条件を聞けば、どんな馬鹿でもDクラスは勝つ必要がないということには気付くだろう。
Dクラスが勝った時のポイントの使用先を決める条件は今回のゲームに含まれていないので、Dクラスには得しかない提案というわけだ。
勝ったら約30000ポイントの臨時収入が入り、負けても1000ポイント以内では行けないようなそこそこのビュッフェに招待すると店名も明かして提示している。
元々小テストが終わったら貸し切ってクラスで行くつもりだったので、店を貸し切ることは確定している。
店に問い合わせれば分かる。
不安なら教師立ち会いのもとで宣言してもいいと言ったらそこまではいいと言われた。
そこまでしてもなにも問題はないが、僕の事を疑っていると平田の印象が悪くなるからか、断られた。
まあ、平田の場合は純粋にそこまでしなくてもいいと思っているのだろう。
そしてそれは正解だ。僕はこの契約を違えるつもりは一切ない。
勝てば店に招待し、負ければポイントを明け渡す。まあ、こちらのポイントは僕が全て立て替えているのだが、そんなのは些細な事だ。
「じゃあ、来週のテストお互いに頑張ろう」
爽やかな笑顔で平田が僕に握手を求めてきた。
「そうだね、お互い良い点数が取れるように頑張ろう」
そう言って、僕と平田は軽く握手を交わした。
○○○
さて、今回のゲームはDクラスとCクラスの蟠りを解消するとともに、競い合う事でテストの点数を上げようというのが表向きの狙いだ。
「みんな、先輩方から過去問をもらってきたんだ。よかったら勉強に使ってよ」
クラス全員に過去問の配布。前回の小テストでDクラスの平均が高かったロジックは分かっている。
過去問の存在だ。ポイント不足に悩んでいる先輩に、過去問をポイントで買い取りクラスに配布した事で点数を上げていた。
今回Cクラスは、僕がクラス全員分の食事を奢ってあげることを条件に真剣に勉強してもらっている。
正直かなり痛い出費だが、綾小路を追い詰める作戦の一つだ。仕方がない。
特に点数が低い生徒達を集めて僕がそこに入る事で、一緒に相談しているフリをして思考を誘導し、最短で答えに辿り着くようにした。
どう考えてもDクラスに勝てる自信しかなかった。当然Dクラスの情報も定期的に仕入れているが、一部の真面目な人や平田と特に仲のいいグループの人間は多少頑張っているようだが、クラスの大半が負けても良いやというムードになっている。
負けても損な事は特に無いので、やる気がないみたいだ。
赤点を取らない程度には頑張るだろう。
そして今回一番大変だったのはポイントに困っている先輩方に少し融資してあげて、Dクラスに過去問を売らない様にした事だ。
下手をすれば銀行運営を行なっている僕の正体がバレてしまうリスクもあったが、今の所それはない様だ。
口止め料も払っておいたのである程度は分かっていた事だが。
「少し、ポイントを使いすぎたな」
預かっているポイントは半分ぐらいになってしまっていた。
だが、今回の勝負に勝つことができればその損も回収可能だ。
僕の予想通りならDクラスはポイント不足に陥る。
そしてポイントに困った彼等を利用した稼げる計画を思いついているのだ。
全てが全て上手く行くとは思っていないが...
綾小路清隆が僕の策をどこまで見破って潰しに来れるのか見ることができる。
僕が提案したゲームは盛大な威力偵察というのが真の目的だ。
ついでに儲けたいというのが心情だ。
どうせ綾小路の事だ。
このゲームの裏に隠された事にも、僕の真の目的にも気付いているんだろう。
どんな手で打ってくるのか。その手段から今後の綾小路への対策を考える。
彼には幾つの予防策を巡らせれば安心できるのか、僕が知りたいのはそれだけだ。
○○○
「どうしたの、綾小路君。そんなに見つめられると気持ち悪いのだけれど」
「見てるだけで気持ち悪がられるのか、嫌われてるなー俺」
俺は堀北を見ていたわけではない。廊下で話す端橋を見ていた。
どうにも、嫌な予感がする。
「彼を警戒しているの?貴方が?あの男が何かをできる様には見えないけど」
「警戒している?なんでそう思ったんだ」
「顔が少しこわばっていたわよ。いつも無表情だから、とてもわかりやすかったわ。・・・別にわかりたくなかったけど」
たしかに、Cクラスには龍園というカリスマ的存在がいる。警戒するなら奴こそ警戒すべきだろう。
この前の須藤を退学させようとした計画もおそらく龍園が考えたものだろう。
「綾小路君。今の話ちゃんと聞いていたのかしら。」
「ん、ああ。Cクラス、Dクラスのクラス対抗のゲームの話か」
「一体何が目的なのかしらね。前の須藤君を退学させようとした犯人の計画だとは思えないけど」
「違うだろうな。このイベントを考えたのはおそらくさっき来ていた端橋だろ」
「そうなの?」
「多分な。Cクラスのリーダーがこんな平和的なイベントを計画するとは思えない」
「それは同感だわ」
「でも、だからと言ってなぜ彼なの」
不思議そうに堀北が聞いてくる。あの時隣にいなかった堀北には分からないのも仕方がない、か。
「それは、まあなんとなくだ」
平和的なイベント、一見そう見えるが多分違うだろうな。
俺が堀北を隠れ蓑に利用していたことを気付いて接触してきた数日後にこれだ。なんらかの思惑があると考えない方がおかしい。
「なんとなくって...最低ね。人を見た目で判断するなんて」
「あいつの見た目から腹黒そうなイメージしか湧かないんだ」
「醜い嫉妬ね綾小路君。ぼっちでコミュ障の綾小路君がそう思うのも仕方ないわね。彼はどうやら貴方にはないものを全て持っていそうだもの。もっとも、私は欲しいとは思わないけれど」
「俺は友達が欲しい。だからあいつが羨ましいと思っているのはたしかだ」
「本気で言っているの?なら行動で示しなさいよ。今から平田君のグループにでも行ってきたらどう?」
「俺には無理だ」
「でしょうね」
クラス間のゲーム。クラス対抗のゲーム。
このゲームの内容はおそらく学校も把握しているだろうな。だが、学校がこの程度のゲームに関与してくるとは思えない。
学力をあげる為の素晴らしい工夫だと評価してくれればいいが。提案したのは端橋達Cクラスだ。
この点で評価されるというのならCクラスに加点が入るだろう。
・・・なにか、何かおかしくないか。
Dクラスは絶対に不利にならない条件で、Cクラスは勝っても負けても多少損をする。
Dクラスには不真面目な生徒も多い、やらなければならないことなら渋々やるが、やらなくてもいいことならやらないやつの方が多い。
赤点は取らないだろうが、平均点はいいものにならないだろう。
Cクラスは一体何がしたいんだ...いや、違う。
不利に働かないのは生徒間だけでの話であって、
学力向上の為、クラス間の蟠りをなくす為、イベントを考案したCクラスが勝負でDクラスに勝ったとする。
その時、学校はDクラスをどう評価する?
十中八九、『クラス間の雰囲気改善に勤めず、学力を向上させる機会を不意にし、一つ上のCクラスに大差をつけて敗北した落ちこぼれのクラス。』
学校側は、"あ〜やっぱりDクラスはダメだな。"
そう、評価を下すのではないか。そしてそれはクラスポイントに多大な影響を及ぼすのではないか。
sシステムについての詳細は未だ明らかになっていない部分が多い、しかしそのシステムの中に生徒間で行われたゲーム、争いも考慮されると仮定するとDクラスはCクラスよりも圧倒的に不出来な落ちこぼれとして、クラスポイントが減るかもしれない。
その可能性はある。端橋がこのことを承知で理解していて見抜いていて、このゲームを持ちかけたのだとしたら...
次のポイント支給は悲惨な結果になるだろう。
やられた。
他のクラスの奴が過去問を先輩から貰おうとしても誰も相手にしてくれないという話を最近耳に挟んだことを思い出した。
この話を持ちかける前から準備していた...?
だとしたら、端橋は頭の切れる奴であるのに加えて用意周到な奴だということか。
龍園が爆弾だとしたら、端橋は遅効性の毒、トリカブトだ。
ターゲットが気づかない間に追い詰めていくタイプの人間、ゆっくり確実に事をなす慎重なタイプの人間であることがうかがえる。
今から勉強しようと言っても過去問を入手することはできない。だったら、Cクラスとの差を少しでも縮めることができれば被害を抑えられるかもしれない。
「堀北。何でいきなりこんなゲームを持ちかけてきたんだろうな」
「何を言ってるの綾小路君。さっき平田君が言ってくれていたでしょ?クラス間の蟠りを「本当にそうか?」・・・どういう意味よ」
「Cクラスには一切得がない。じゃあ、どうやってCクラスはモチベーションを保って勉強するんだ?」
「そんなの、何も考えてない...訳ないわよね」
「だろうな。」
「でも、一体何があるっていうの...」
・・・こういう時、自分で閃いてくれると楽なんだがな。
「・・・そういえば、学校はこの事を知ってると思うか堀北」
「学校側が?このイベントについて知っているかということ?」
「ああ」
「十中八九、把握しているわね。でないと生徒達の過ごし方等全てを考慮してクラスポイントに反映させる、なんて真似はできないわ」
「そうだよな」
「待って、学校側がこの事を把握していたとしたら...このイベントの勝敗が翌月のクラスポイントに影響する、なんて事にはならないかしら」
「あり得るかもしれないな。幾ら生徒間の勝負とはいえ、しっかりとした契約ありきの勝負だからな」
「だとしたら、いや、でも」
「過去問は買えない、か」
「ええ、クラスの人が貰えない、買えないと言っていたのを聞いたことがあるわ」
「盗み聞きか?」
「うるさいわね」
俺が知っていたのは盗み聞きしたからじゃない。須藤に聞いたからだ。
『先輩が過去問売ってくれねぇんだよ。なんでだと思う?綾小路』
『分からないな。嫌われてるんじゃないのか』
『んな訳ねぇだろ!ぶん殴るぞ綾小路ィィィ!!!』
なんて事があった。
「とにかく、クラスのみんなにさっきの考えを伝えてくるわ」
「ああ」
クラスに勉強を呼びかけたところで、大して人は集まらないだろうな。
というよりも、今回は基盤が出来上がりすぎている。堀北では対処が難しいだろう。
だが、堀北がギリギリ対処できない、正攻法ではもう対処できない領域まで用意しておいて、まだ隙がある。
非道な手段を取ればなんとかなる道筋があるのだが、堀北にできない以上俺がやるしかない。
しかし、どうにも納得がいかない。ここまで準備できる奴が、非道な手段を想定していなかったとは思えない。
もしかすると、このイベント自体、俺を動かせるための罠なんじゃないか...
「考えすぎ、か」
俺は静かに席を立ち上がった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
5
やはりか。
ため息をつきながら、僕は綾小路の暗躍を見ていた。正確には聞いたのだが、そんなことはどうでもいい。
問題は綾小路の行動だ。何をどうやったのかは知らないが、クラスを焚きつけて全員が勉強に勤しんでいる。
これでは、敵に塩を送ってしまったようなものだ。当初の予定ではDクラスに大差をつけて勝つことでCクラスの株を上げると同時に、Dクラスの評価を叩き落としてやろうという作戦だったのだが、この調子では差がつくとしても大差ではないだろう。
どこからか、綾小路が過去問を手に入れていたみたいだし。
「うまくいかないなぁ...」
一番大きなメインの計画が潰れてしまった今、僕には綾小路を一気に追い詰めることはできない。
精々、次への布石となる程度の計画しか残っていない。
それも見破られてしまう可能性が高いのだが。
僕はこの時点で、半ば綾小路を追い詰めることを諦めた。あとは龍園に任せて、別の計画をメインに据えてDクラスを潰し、崩壊させる。
本来僕は、Dクラスを潰すつもりはなかったのだが仕方がない。僕の知り合いには悪いけどクラスごと潰させてもらおう。
綾小路に対して既に用意してしまったた策は全て足止めになるとポジティブに考えて、別の計画を進めることにした。
・・・
翌日僕がやってきたのは、ウチの高校の一年生に人気のあるカフェだ。流石に一人で行くと怪しまれるので近くにいた女子生徒をナンパする体でカフェに入った。
誘った女子生徒に適当に話を合わせながら、目的の人物がやってくるのを待つ。
そして、ついに目的の生徒がカフェに入って来た。
アポを取っているわけではないので、僕から話しかけにいかないといけない。僕に話しかけてくれればいいのに。
仕方ないので、女子生徒にまた会おうと言って別れ、僕は一人になった。
早速話しかけようと思っていると、幸運な事に向こうから話しかけて来てくれた。
「端橋君...だよね?」
「うん、そうだよ。君は確か...櫛田さんだったかな」
「そうだよ!はじめましてだね。」
櫛田桔梗。フレンドリーでクラス内外問わず友達が多いと聞く。というか、僕と知り合うのも時間の問題だっただろう。
Cクラスとの交友関係は龍園の目に触れないように注意して気づく必要があるから他のクラスよりも友達の輪を広げるのに苦戦しているのだろう。
まあ、僕と接触するぐらいだ。
Cクラスの生徒の大部分と友達になったのだろう。
その後、他愛もない話で僕と櫛田は盛り上がった。しかしこの櫛田という女、会話の端々から人脈の広さをちょこちょこアピールして来る。
僕が友達から 〜 と聞いたんだけどと言うと、
『それってA君の事だよね!私も聞いたよ!」
と言う感じだ。色々なクラスの人間から聞いたと言う話を態々クラスと名前まで言って教えてくれる。
よく覚えていられるなと感心したほどだ。
それが数回程度なら僕も気にならないが、全ての話題にクラスと名前がひっついて来るのだ。
流石に顔が広いアピールをしたいと勘違いされても、文句は言えないのではないだろうか。
だが、今櫛田個人に関する思考は必要ない。そんな物は知ろうと思えばいつでも知ることができる。
「そうなんだね。ところで櫛田さん、ちょっとした相談があるんだけど聞いてくれるかな」
「うん、何かな?」
さて、櫛田が表向きの提案に乗って来るかどうか...
○○○
私がカフェで友達と話していると、Bクラスの女子生徒と一緒にとある男子生徒が入って来た。
ここのカフェは男子が一人で入って来ることは滅多にないのでカップルで入って来る事自体に驚きはないのだが、問題はその男子生徒が学年でも人気の高い男子、端橋渡だった事だ。
付き合っている噂もなかった分かなり目立っていた。女子生徒はかなりご機嫌だ。会話も弾んで楽しそうだ。
かなり控えめな音だが、チッという舌打ちも聞こえる。
しばらくあの女子生徒はあの端橋君と二人でカフェに行ったと友達に自慢しまくるだろう。
女子生徒は話し足りないようだったが、端橋君が話を終わらせ今度また会おうと言うと若干女子生徒の方は寂しそうにしていたが、別れた。
端橋君が席を立ち上がり、帰ろうとしていたので私は慌てて声を掛けた。
「端橋君...だよね?」
周りからの視線が痛いが、友達作りのためだやむを得ない。
後で周囲にいる知り合いにはフォローするとして...
Cクラスのニ大巨党の一党の頭、端橋君と友達になるのが優先だ。
私はそんな軽い気持ちで彼に話し掛けた。
しかし、彼との話は初めの方こそありふれた世間話や最近の流行りものの話、噂など誰とでも話すことのできる内容だっのだが、もうそろそろいいだろうと思い、連絡先を交換して帰ろうと思い声をかけようと思ったその時、爆弾を投げかけて来たのだ。
『今のクラス、君はどう思う?』
その真意は分からない。分からなかったが、私は不安を煽られた。
堀北鈴音さえ居なければ、私は気兼ねなく交友関係を広げることができたはずだった。そう思ったことは一度やニ度ではない。
しかし、違うクラスで今日初めてあった人間にそんな自分の内心を見抜かされているとは到底思えない。
「どういう意味かな?」
良いクラスだよ。そういうのは簡単だ。しかし嘘はつけばつくほど、見抜かれやすくなってしまう。本当に騙したいのであれば、嘘をつく回数は最小限に抑えるべきだ。
私は疑問に疑問で返すことではぐらかした。
「櫛田さんは友達も多そうだし、Dクラスで支給されるポイントじゃ追いつかないんじゃないかと思ってさ」
にっこり笑顔でそう言ってくる。
「ん〜、確かに厳しいと感じることはあるかな〜」
「やっぱりそうだよね、そこで何だけど...」
『ちょっと協力してくれればお礼として.毎月五万ポイント渡そうと思うんだけど、どうかな』
5万ポイント..,cクラスの生徒にそこまでクラスポイントの余裕があるとは思えない。嘘かハッタリか、私の答えを聞きたいだけなのか...
何にしても危険な誘いであらかたには違いない。ちょっとした協力と言っているが、覚悟のいる協力になることは想像に難くない。
「ううん、いいよ。私は今のクラスの人たちが大好きだから、皆が沢山ポイントを貰えるようになった方がいいと思うんだ。だから、私だけ得するようなことは出来ないよ」
正直毎月五万ポイントという条件にはかなり揺れたが、私の第一目標はポイントの獲得ではない。ポイントは目的の為の手段に過ぎないので目的と手段を履き違えるような真似はできない。
「・・・そっか。そうだね、やっぱり自分のクラスが一番だよね。僕のクラスは色々あるから、他のクラスの人もそう思っているのかと思って勘違いしちゃったよ」
龍園の事だろう。絶対王政のようなクラスになってしまっていると聞く。龍園の命令は絶対だ。
あの存在がいるからこそ、目の前の男と知り合い、或いは友達になることもできなかったのだから。
「そうなんだ...色々あると思うけど、頑張ってね」
「ああ、ちょっと待って。もう一つだけ聞いてもいいかな」
ついさっき思い出したかのように、ふと思いついたかのように、ごく自然に目の前の男は私にこう尋ねた。
「堀北鈴音って人の事教えて貰えないかな」
急いでるから、とでも言ってその場を立ち去ろうとしたがあの女の名前を出されたら、私が立ち止まらないわけがない。
「堀北さん?どうして?」
「龍園に聞いて来いって言われてね」
龍園が目を付けている。堀北鈴音を何らかの形で貶めようと画策していることがわかった私は、内面嬉々として、外面不思議そうに知っていることを全て話した。
「なるほどね。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
お礼を言いたいのはこっちの方だ。
龍園に脅されていると聞かされて、端橋君が酷い目にあってしまうかと思って話してしまったという言い訳が使える。
本人に私が堀北鈴音の情報を漏らした事がバレても言い逃れができる。
そんなことを考えていると、さっきまで何か書いていた紙を半分に折って私に差し出してきた。
連絡先だろう。話している内容は店内がそこそこ騒がしいのでバレることはないが、携帯を見合って何か打ち込んでいたら連絡先を交換している事がモロにバレてしまう。
だから紙に書いて渡してきたのだろう。
私は頷いてその紙を受け取ると、端橋渡は席を立ち上がった。
私はまだ頼んでいたコーヒーが残っていたので、飲み終わってから帰ろうと席に座ったまま何となく端橋渡の後ろ姿を見ていた。
彼が歩いて行く方を見るとレジがある。そのことに気付いた私は机の上にあったレシートを探す。
「ない...」
席を立って私も払うよと言いに行こうとした時にはもう彼は会計を済ませていた。
出口はこちら側にあるので私がすれ違った時に礼を言うと、
「ああ、気にしなくても良いよ。じゃあね」
あまりにも自然にレシートを持って言ったので気付かなかった。
彼が学年で人気の男子生徒である理由の一端を垣間見た気がした。
○○○
間違いない。カフェで少し櫛田と話したが、堀北鈴音の事をよく思っていないのは明らかだった。
彼女は使える。堀北鈴音を害し、排するためならばなんだかんだと理由をつけて手を貸すだろう。
龍園に聞いて来いと言われたと知った瞬間、櫛田の笑みが一層深くなったのを僕は見逃さなかった。
間違いなく、教え過ぎだというぐらいの堀北鈴音に関する情報量を得る事ができた。
銀行を利用している人達にも話を聞いて見るが、おそらく櫛田ほどの情報を持っている人間はいないだろう。
これほどの情報だ、ただ知っているというには不自然極まりない。何かに利用しようと思っていたのは間違いない。
「Dクラスには癖の強い人が多いな」
○○○
僕はとあるレストランに来ていた。
「久し振りだねー。いつ以来かな?」
「一週間ぐらい前に一回会ったんじゃないかな、みんなで」
今日は2人で会っている訳だが、カフェの時のように周囲からの視線にさらされる事はない。
個室のある高級レストランだ。
「最近Bクラスの調子はどう?」
「うん!それがね、皆頑張ってるから徐々にクラスポイントが増えて来てるんだよ!」
Bクラスは着実にクラスポイントを挙げているようだ。裏技とか賭けとかせず、順調に正々堂々とルールに則り増やしている。
僕らCクラスとは大違いだ。
龍園も僕も、いかに他クラスの評価を下げるか若しくはクラスポイントを一気に手に入れるか。
勉強して少しずつクラスポイントを上げて行こうなんて気は更々ない。少なくとも僕と龍園はそうだ。
大体学力に見合ったクラスに初めから配置されているのだから、上に追いつくほど勉強する、させるなんてのは骨の折れるどころの話ではない。
「cクラスのも勉強頑張って教え合えば、きっと上のクラスにもいけるよ!」
笑顔で言ってくる一ノ瀬。だが良いのか一ノ瀬よ、僕らのクラスの一つ上は君たちBクラスなんだが。
「あ、そう言えばそうだった!ごめんね」
男子にも女子にも好かれるとよく聞くが、この見た目と性格だ、人気ものにならないほうがおかしいだろう。
「そんな事ないよ、それに端橋君だってかなり人気ものだよ?」
全くなんの冗談だ。僕は目立たないように気を遣いながら、かと言ってボッチにもならないように気を付けて過ごしているというのに。
そんな事あるはずがない。
「え〜そうかなぁ」
クラスの子にも君の事が気になってる子は結構いるんだけどな〜とか言っていたが気のせいだろう。目立つ事など一つもしていない。
適当に話を合わせて、笑っているだけで何でそんな事になる。
「それで今日は何のようなのかな」
「ん?特に用は無いよ。ただ2人でゆっくり話がしたいなと思っていただけで」
一ノ瀬と仲良くなって損な事は一つもない。Bクラスのトップとは他の生徒よりも仲良くしておいたほうがいいだろうという考えのもとご飯に誘ったのだ。
何もおかしなところはない。
「・・・普通2人で行くって言ったら、大事な話があるかデート以外ないと思うんだけど...」
「え、そうなの?今までにも何回か2人で食事に行った女子は居るんだけど、そんなこと言ってなかった...」
「多分、意識してると思うよ〜」
・・・不味い。料理は美味いが状況が不味い。
中学の頃も女子と2人で出かけるなんて事は何度もあったから、別におかしい事じゃない友達付き合いの一環だと思っていたのに...
「顔色悪いけど、大丈夫?」
全然大丈夫ではない。もし2人で出かけた女子がそんなことを思っているのだとしたら..僕はプレイボーイとでも思われてるんじゃないか!?
最悪だ。
終わった。内心テンションガタ落ちの状態のまま、僕は一ノ瀬との食事を楽しんだ。
目次 感想へのリンク しおりを挟む