魔法のお城で幸せを (劇団員A)
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ワクワクの一年生
一意専心


もう一度人生をやり直したい、もしくは別の人生を今の記憶を保ったまま歩んでみたい。そんなことを思ったことはないだろうか。

他の人よりも一歩二歩先に進み、誰よりも賢くなんでもできるようになりたい。

俺はある。例えば中学生の時にみんなの前で恥をかいたときや、高校のときに彼女に振られたとき。はたまた大学受験に失敗したとき……エトセトラ。なんか思い出して凹んできた。それはさておき

 

 

俺がある日、目を覚ましたらなんと生まれ変わってイギリス人だった。

 

 

何を言っているかわからないと思うが、何が起こっているか俺にも分からない。

前世は日本で明るく楽しくやっていたはずなのに、気がついたらどうやら二歳児になっていた。

そして黒髪黒目を捨てて、くるんとした栗色の髪の毛に茶色のお目々。客観的にもなかなか可愛いんじゃないか。

 

だが、生まれた国はイギリスである。俺英語喋れないし!!

 

 

 

* * * * *

 

 

 

『どうしましょう?あなた、アイクはまだ一言も喋らないわ。他の子たちはもうそろそろ話始めているのに』

『まぁまぁ、個人差というものもあるし、心配しすぎじゃないか』

『そうかしら、病院に連れて行った方がいいと思うんだけど。喋らないと思ったら実は耳が聞こえなかったっていう話を聞いたの』

 

お腹の膨らんだ女性が心配そうに言っており、そんな女性の様子を安心させるように肩をさする男性。彼らが俺の現世の父さんと母さん、両親である。

 

そして俺の名前はアイザック、アイクというのは愛称である。まさか海外ドラマのように愛称で呼ばれることになるとは思ってもいなかった。

 

辛うじて俺の名前はわかるが未だに話される言葉が早いとよくわからない。

俺は両親の視線を受けて、クレヨンで絵を描いていたのを止めて二人の方を向く。

発音が怖いので本場の人たちが話す英語同様に喋れる気がしなくてまだ喋ったことはなかった。

 

 

意識を持って数ヶ月経ち、少しずつ英語も聞き取れるようになり、語彙も増えていった。ある日家で母さんと遊んでいると、急にうずくまり呻き始めた。どうしたんだと思い母さんの顔を伺うと、とても苦しそうな表情をしている。

 

「アイク、お父さん呼んできてくれる?『陣痛』が来たみたい」

 

母さんがなにかを言った。お父さんを呼ぶことはわかったが、何が来たかはわからなかった。

俺は急いで父を呼ぶためにリビングへと向かい、大声を出す。

 

「パパ!!」

「な!?初めて喋ってくれたじゃないか!!どうしたんだいアイク?」

「ママが!!」

「どうした!?」

 

俺がそう言うと血相を変えて父さんが俺を抱きかかえて母さんの方へと走り出し、俺の部屋へと向かう。

 

「どうした?大丈夫か?!」

「あなた、『陣痛』が来たみたい……」

 

それからはばたばたとしており、父さんが車で母さんと俺を乗せて病院へと向かった。俺を預ける余裕などなくて慌ただしくしていた。

それから母は分娩室に移動して、俺と父さんは二人で落ち着きなく動いていた。

 

二人でわたわたとしていると俺は気づいたら父さんの膝を枕にして眠っていたようで、一方目を覚まして見た父さんは眠っていないようでひどく不安そうな表情をしていた。

陣痛からかなり時間が経って、ようやく壁を隔てた先からオギャーと赤ちゃんの声が聞こえた。俺の弟か妹が生まれたのだ。

 

 

その後、母が個室で眠っており、父さんが俺を連れて赤ちゃんをガラス越しに眺めていると抱き抱えられて声をかけられた。

 

「アイク、あれがお前の妹のハーマイオニーだよ」

 

そのとき俺に衝撃が走った。俺の苗字はグレンジャーである。ということは俺の妹のフルネームはハーマイオニー・グレンジャーである。

なんということだ、ハリー・ポッターの主要人物じゃないか?!

世界的なベストセラーの児童文学のメインの人物の三人のうちの一人である。

俺はあまり本は読まずマンガやアニメのほうが好きだったので内容までは覚えていないが、確か魔法使いの話であったはずだ。

ということはこの世界には魔法があるのだろうか?いや単なる同姓同名かもしれない。

何はともあれ前世には俺には兄弟、姉妹がいなかったのだ。とても愛しい俺の唯一の妹なのだ。

彼女が『彼女』であろうがなかろうが大事にしよう。

俺は生まれたばかりの小さな命を見ながらそう思った。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

速報!!この世界には魔法があって俺も魔法が使えるのだ!!!

 

すくすく俺とハーミー(ハーマイオニーの愛称、今はちゃんとハーマイオニーと呼べるけど最初は発音が難しくて呼べなかったから愛称で呼んでいて定着した)は成長していき、俺は半ばこの妹ハーマイオニーがあの『ハーマイオニー・グレンジャー』であると確信していた。

なぜならハーマイオニーは頭が良すぎなのである。

受験生も真っ青なとんでもない記憶力をもち、そして学習意欲の化け物であった。そういう勤勉なところも可愛い。

俺が英語の勉強のために本を読んでいるとそれを横から眺めてきて感想を言ったり、父さんが俺に問題やクイズを出すと先にハーマイオニーが答えを言ったりと同年代の子供に比べると圧倒的に賢いのである。

そしてそれが分かると俺は焦った。今はまだ妹に尊敬されて頼りにされているがハーマイオニーはいずれ魔法使いになってしまう。ならば俺も使えないといずれ頼りにされなくなってしまう。

 

「魔法を使えるようになろう!」

「あら、アイク急に大きい声出してどうしたの?魔法使いになりたいのかしら」

「私も使いたい!!」

「ハーマイオニーも?何かの絵本に魔法使いでも出てきたのかしらね」

 

 

俺が魔法を使えるようになるために必死に祈った。そして毎晩毎晩魔法が使えるイメージを練習していたのだ。

そしてある日、気づいたら布団が燃えた。

魔法といえば色とりどりの光線をイメージしていた俺は両手を広げてひたすら手の間に光が出る想像をしていた。

するとある日赤い火花を出せたのだ!

だがしかし、予想していたのはパチパチとした線香花火のようなものだったのが、最初はパチパチと最後はバチバチと火花が点滅して爆発した。

 

その結果布団は燃え上がり、部屋が若干焦げた。

 

親には嘘をつかずに魔法が使えたと言ったが、火薬を使って悪戯したものと勘違いされ、普通に叱られた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

そしてある日、俺の元に手紙が届いた。

手紙には切手もなく、四色で彩られた四匹の動物が描かれた紋章が描かれていた。封を切り、中を開けるとそこには、

 

『親愛なるグレンジャー殿

このたびホグワーツ魔法魔術学校に入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

新学期は9月1日に始まります。7月31日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。

 

敬具

副校長ミネルヴァ・マグゴナガル』

 

両親は首を傾げていたが、俺は歓喜してハーマイオニーと喜んだ。俺は魔法使いなのだと!!

 

 

 

* * * * *

 

 

 

その手紙が来てからしばらくして俺の元にはマグゴナガル先生が来て魔法世界について、魔法使いについて、魔法について、ホグワーツについての説明を両親にしに来た。

両親は最初渋っていたが、俺と、そしてハーマイオニーの説得により俺はホグワーツに入学することになった。

 

そして説明をされた後日、俺はダイアゴン横丁に行き、魔法世界の教材や杖を入手することとなった。

ダイアゴン横丁には俺と同じく家系に魔法使いのいない、つまりマグルの新入生が集められて、一緒に教科書の購入や杖を買うことになったのだ。

マグゴナガル先生の引率で教材を買ったりして、続いて制服の採寸となった。

制服を仕立てるお店で動くメジャーや一人でに布を切るハサミを見て感動していると同様に採寸している子供に会った。

他の子供達にも言えることだが前世の周囲の人間とは遠く離れた容姿をしており、不思議な感じがする。

一緒に採寸をしていた少年はどうやらマグル出身ではないらしく、親が近くにいるようだった。その少年は茶髪で灰色の目をしている。

 

「やぁ、元気かい」

 

俺がそう話しかけるとびっくりしたような顔をする少年。たしかに前世の日本では馴れ馴れしく映るかもしれないが、イギリスなら普通だろう。いや偏見かもしれないが。

おどおどと返事をされて若干傷つきながらも採寸を終えて、マグル出身の子たちと一緒にマグゴナガル先生に連れられて杖を貰いに行った。杖はなんとかの木になんとかの尾とか色々言っていたが正直細かくて難しかったのでほとんど覚えていない。

 

その後先生から今後の学校生活についてや、ホグワーツへの向かい方などを習い、解散となった。

俺は今後、待ち受ける学校生活がとても楽しみだった。

 

俺が魔法使いの学校に通うとなり、俺よりもハーマイオニーが魔法についての本に興味を持った。

ホグワーツについての歴史や変身術の初級理論などの本を読み漁り、ハーマイオニーがホグワーツを話題に出さない日はなかったと言っても過言ではないだろう。

 

 

「アイク、ホグワーツに入ってから最初に寮の組み分けがあるらしいわ。どんな方法や儀式でわかるかわからないけど、アイクならきっとグリフィンドールかレイブンクローね。勇敢だし、勉強も好きだもの」

 

ハーマイオニーはそう言うが、俺は勇敢であることに特に思い当たる節はないし、勉強が好きなのは英語の勉強の延長だっただけなんだよな。お兄ちゃんは秀才な妹の期待が重いです……。

でも実際入るならその二つがいいと俺は思ってる。愛しいハーマイオニーと同じ寮か尊敬される寮だ。できればどちらかに入りたい。

 

そして入学初日。俺は家族に見送られてホグワーツ特急に乗り込む直前であった。

にしても本当に壁をすり抜けた時は感動した。まさか映画で見たことを実際できるとは!いや、今後もこういう機会が多いのだろうけど。

 

「ねぇ、学校が始まったら必ず手紙ちょうだいね」

「分かってるよハーミー」

「どの寮に入るかとか、どんな授業だったとか、どんな道具があったとか私知りたいわ。……あぁ、私にも入学許可証が来てくれればいいのに」

「大丈夫だよ。ハーミーにも来るから」

「本当に?!絶対!?」

「あぁ、絶対だよ」

 

そういうとぱぁと花が咲いたような笑顔を見せて俺に抱きついてくるハーマイオニー。あぁ可愛い、天使だ、天使が地上に舞い降りているよ……。

 

「ほら、ハーマイオニー、アイクを離しなさい。もうそろそろ出発よ」

 

母さんにそう言われて俺からハーマイオニーは離れていった。もう少し抱きしめてくれてもいいのよ。

 

「気をつけてね、アイク」

「分かってるよ、母さん」

「一人でも大丈夫か?不安になったらいつでも手紙を送るんだぞ」

「うん、ありがとう、父さん。タラリアにお願いするよ」

 

そういって籠に入っているフクロウを見つめる。俺の入学祝いに両親が買ってくれた雄のフクロウである。三人とそれぞれハグをして頬にキスをする。

 

「それじゃ、いって来ます」

 

俺は笑顔でそう言ってから列車へと乗り込んだ。

 

 

 

 



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一陽来復

ホグワーツ特急に乗った俺は空いているコンパートメントを探したが正直見当たらなかったので、適当に一人で座っている子がいるコンパートメントに入った。

 

「ここいいかい?」

「え、うん」

 

許可をもらってから入り、コンパートメントにいた少年のほうをよく見ると、ダイアゴン横丁で採寸が一緒だった子である。茶髪で灰色の目をした将来イケメンになりそうな美少年である。座っているため正確にはわからないが俺よりも背が高いだろう。どこか俺に対しては遠慮気味であるが。

 

「こんにちは。俺はアイク。アイザック・グレンジャーです。ダイアゴン横丁で会ったよね、君も一年生?」

 

そう俺が話しかけると目を丸くして驚いた少年。何だ変なこと言ったか。名前と学年しか言ってないぞ。別に年上に見られる容姿はしてないし。威圧するような雰囲気もしていない。

 

「はじめまして、アイク。僕はセドリック・ディゴリー。君と同じ一年生だよ」

「よろしく」

「こちらこそ」

 

そうやって自己紹介を互いにした後、汽笛がなり出発目前となった。俺は窓を開けて家族の方へと手を振った。

そしてホグワーツ特急は俺たちを乗せてゆったりと出発した。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「ねぇ、セドリック。組み分けの儀式ってどんなのか知ってる?」

「ごめん、わからないんだ。父さんがホグワーツ出身なんだけど教えてくれないんだ。どうにも伝統らしくて」

「へぇ。君の家族は魔法使いなんだ。俺の家族はみんな違うんだ。マグルだっけ?そういうやつ」

「そうなんだ」

 

流れる景色を楽しみながら俺たちは談笑を楽しんだ。そうしてホグワーツについてや魔法について、逆にマグルの生活や道具について話す。

しばらく話しているとふと最初に疑問に思ったことを思い出した。

 

「そういえばさ、なんか最初よそよそしかったけどなんで?いや、答えにくかったらいいんだけどね」

「あー、いや、言いづらいんだけど、最初君が名乗るまで女の子かと思って」

 

そういわれて窓ガラスに反射して映る自分の姿を見た。栗色の長い髪をお団子にしている瞳の大きく、色白で、丸顔の華奢な小さな子供が映った。

ふむ、確かに女性的に映るかもしれない。ただでさえ性差の少ない幼少期に髪を長くしているしな。この長髪は最初はくるりんとした髪だったのだが成長するにつれて大人しくなり、それをハーマイオニーが羨ましがったり褒めてくれたりして髪型を弄ってくれるので嬉しくてそのまま伸ばしているのである。

また自分で言うのもアレなんだが、なかなか整った顔立ちではあるのでそれも更に助長しているのだろう。今の容姿と前世の容姿では雲泥の差である。

 

「こんなんでもちゃんと男だからな、よろしく」

「うん、もう分かっているよ。よろしくねアイク」

 

話していても良いやつという印象を受けた。今後の学校生活でももし他の寮になったとしても仲良くしようと思った。

 

それにしても寮分けが不安である。

俺にはハーマイオニーには言わなかったが、グリフィンドールにもレイブンクローも入れる自信はあまりない。

そもそもどこかに入れるだろうか?勇敢でもないし、頭も良くないし、人に対する好き嫌いもあるし、狡猾になれるような非情さも持ち合わせていない。

まさかどこにも入らないなんてことはないよな。一人で悶々としながらホグワーツ特急は学校へと進んで行った。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

寮の組み分けは古びれた帽子を頭に乗せて行うらしい。喋る帽子とは魔法っぽいな。心の中やその人の資質を見抜いて行うようであった。

アルファベット順にマグゴナガル副校長先生に呼ばれていき、だだっ広い大広間で一人座り、次々と帽子を被せられていく。あ、セドリックが呼ばれた。どうやら彼はハッフルパフに入るらしい。

そうして待っているととうとう俺の名前が呼ばれた。

 

「グレンジャー・アイザック!!」

 

席を立って前へと進み、真ん中にポツンとある椅子に座る。心臓がバクバクいっているのが感じられる。俺が緊張したまま固まっているとマグゴナガル副校長先生が帽子を俺に被せた。

 

「ふむふむ、なるほど。君は度胸はあるが、勇敢ではない。知恵はあるが、意欲はない。狡猾ではあるが、野心はない」

「俺、グリフィンドールかレイブンクローに入りたいんだけどそれは無理かな?」

「無理ではない。だが最適ではない。君は心が優しく、争いごとよりも調和や安寧を求めているように感じられる。そんな君には……ハッフルパフ!!!」

 

そう帽子に高らかに宣言される。

ハッフルパフ、ハッフルパフかぁ。いや別にハッフルパフが悪いわけではいんだ。だが、心のどこかでグリフィンドールかレイブンクローに自分が入れることを期待していた。

トボトボと黄色い集団が座るテーブルに座ると俺の真正面には先に呼ばれたセドリックが座っていた。

 

「アイク、君と同じ寮になれて嬉しいよ。これからもよろしくね」

「……うん、よろしく。セドリック」

 

差し出された手を掴み俺たちは握手をした。

その後順調に次々と名前を呼ばれて組み分けの儀式は終わり、ヒゲの立派なダンブルドア校長先生の話も終えて、生徒たちは一斉に魔法により現れた豪華な食事に飛びついた。

人間とは単純なもので(俺が単純なだけかもしれんが)美味しい料理と楽しい会話で若干憂鬱な気分は吹き飛んで行った。

 

「ほれもひょれもおいひいね、ひぇどひぃっく」

「なんとなく言ってることはわかるけど食べてから喋りなよ、アイク」

 

イギリス料理は美味しくないというイメージが覆る味である。量もあって美味しい。ばくばくと食べる俺を見て周りの生徒たちも面白がっていた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

宴も終わり、俺たち新入生は監督生に連れられてハッフルパフの寮へと向かうことになった。

 

ハッフルパフ寮の入口は、ホグワーツの厨房の入口と同じ廊下にある。玄関ホールに続く大理石の階段を一番下まで下り、左に曲がったところにあるドアを開けると、石段があった。石段を下りると明々と松明に照らされた広い石の廊下にたどり着き、厨房の入口である果物皿の絵の前を通り過ぎると、廊下の右手にある石造りのくぼみに大きな樽が山積みになっている。

 

山積みになった樽の、二列目の真ん中にある下から二つ目の樽をリズムよく監督生が叩くと樽が開いた。

 

寮の中に入ると、広い円形の暖かい部屋で、黄色と黒色の掛け布がぶらさがっていて、中央には大きなふかふかのソファがあり、その回りにたくさんのロッキングチェアがある。全体的に柔らかい印象で温かく歓迎してくれているようだった。

 

監督生の説明によると寮監の魔法薬草学担当のスプラウト先生が、多種多様な植物を持ち込んでいるので、暖かで快適な感じにますます磨きがかかっているらしい。植物の中には歌うものがあったり、踊ったりするものもある。

 

また壁の上のほうに円形の窓があり、そこから暖かい日の光が差し込んでいる。なんでも窓の外は薬草園になっており、四季の景観を楽しめるのだとか。こうやって植物に触れる機会が多いせいか、ハッフルパフ寮には薬草学に秀でる生徒がとても多いらしい。

 

この寮は厨房と繋がっている扉があり、そこから屋敷しもべ妖精が料理や軽食を持ってきてくれることがあるんだ、と嬉しそうに監督生の一人が話していた。

 

談話室の壁にはかわいい感じの木製の丸いドアから入るらしく、このドアは寝室へと続くトンネルの入り口である。寝室は二人一部屋で使うらしい。

 

新入生たちは各々の部屋を紹介され、そこから部屋の交換などみんなでやっていた。といってもたまに希望があれば部屋替えなども行うらしい。俺はその結果セドリックと同室となった。

 

「良かった。アイクと一緒になれてうれしいよ」

 

そういってまばゆい笑顔を見せてくる。人見知りだから純粋に知り合いと同じで嬉しいと思ってくれているのはわかるがストレートな言い方に照れる。

 

「……セドリック、あんまり他の女の子とかにその笑顔見せんなよ。そのうち刺されるぞ、お前」

「?うん」

 

いやわかってないだろ、そのリアクション。くっ、天然系ピュアイケメンめっ!!

同室になったもの同士、みんな喋っていると監督生が大きく手を叩き、その音は談話室に響き、一年生の視線を集めた。

 

「さぁ、新入生諸君。我々ハッフルパフはヘルガ・ハッフルパフの意思を引き継ぎ誰であろうと歓迎するよ。これから俺たちが君たちに見せるのは歓迎の意思さ!!」

 

監督生がそう言うと、杖を開くと寮のドアが勢いよく開かれた。楽しげな音楽と共に、丸い扉から次々と生徒たちが楽器を片手に現れる。

 

彼らが手にしている各々の様々な楽器から様々な音が鳴り響き、旋律を奏でる。高い音、低い音、響く音、透き通る音、長い音、短い音。それらが紡がれ一つの音楽となる。

 

その芸術的な音楽に合わせて数名の生徒による綺麗な声で歌われ、リズムに乗って植物も踊り、花を開かせる。他の生徒たちが杖を振るうと大小様々な穴熊のぬいぐるみが現れて音楽に合わせてダンスを踊る。

 

その幻想的で楽しげな様子に新入生は引き込まれ、ひたすら感動していたのだった。

俺もそんな光景に目を奪われて、ハッフルパフに入ったことを純粋に喜んでいたのであった。

 

 

 

 



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学校初日

「アイク、もう朝よ。起きて」

 

そんな愛する妹の声が聞こえて一瞬で目が覚めた。え、なんで?ハーマイオニーがここに?入学したの?飛び級?

ベッドから跳ね起きて辺りを見回すがもちろんハーマイオニーの影も形もない。

しばらく唖然としていたがくすくすと笑うセドリックの声でようやく現実を認識した。

 

「すごいな、その目覚まし時計。えっと名前は……」

「『変声目覚まし』だよ。そんな飛び起きるなんて一体誰の声が聞こえたんだい?」

 

『変声目覚まし』セドリックが持ってきた魔法の目覚まし時計である。機能としては時間になるとジリリリリといった音ではなく、聞く人間が最も目が覚める、または最も聞きたい人物の声で起こされるというものである。それ以外にも様々な設定ができるらしいが。

 

「妹だよ、すっごく可愛い。彼女は地上に舞い降りた天使だ」

「家族思いなんだね」

 

俺が真顔でそう言うと若干引かれながら苦笑していた。シスコンとでもなんとでも呼ぶがいいさ。

正直朝弱い俺にとってはとても助かる目覚まし時計である。

 

「余裕持って目覚まし設定したから、髪整えてきなよ。すごいボサボサだよ」

「うー、めんどくさいなぁ」

 

俺はどうやら寝相が悪いらしく朝起きると大抵髪はボサボサになっているのだ。いつもは大体ハーマイオニーが「仕方ないわね」とか言いながら嬉しそうに、楽しそうに櫛を通してくれるんだがな。

 

「セドリック〜髪に櫛を通してくれないか」

「いいよ」

「ありがとう、はいこれ」

 

俺は櫛を手渡してセドリックの方に頭を向ける。セドリックが櫛を髪にゆっくり通していく。それがとても気持ちよくて寝そうである。

 

「寝そう」

「整え終わったら起きてくれれば良いよ」

「おー、ありがとうー」

 

こうして再度俺は眠りについたのだった。二度寝は至福だよね!

 

 

 

* * * * *

 

 

 

その後俺はセドリックや他の一年生になかなか起きないので担がれるようにして食堂へ連れられて行き、食べ物の匂いで意識が覚醒した。

ちょっとセドリックたちが疲れた様子だったので正直すまないと思っている。

そうして俺は美味しい朝ごはんを食べてから、家族に手紙を出すためにフクロウ小屋へと向かった。だが、

 

「うーん、ここはこう言い直したほうがいいかな?いや、でもハッフルパフになったのは俺の資質がそうだったってことだしなぁ」

 

ハーマイオニー宛の手紙でグリフィンドールでもレイブンクローでもなく、ハッフルパフになったことを伝えてガッカリされないだろうかとか考えてタラリアに手紙を渡すかどうか悩んでいた。

 

「もうさっさと送っちゃいなよ」

「いやでも、これでハーマイオニーが傷つくような返事送ってきたら耐えられない……」

 

ああだ、こうだと悩んでいると、そんな俺の様子に痺れを切らしたのか俺のペットである愛フクロウ、タラリアは俺の頭を突いて手紙を奪い去っていった。

 

「痛っ!?あ、こら、タラリア!タラリア?待って行かないで、大人しく飼い主の元に帰って来て、タラリア〜!!」

 

あぁ、行ってしまった。ご主人様から手紙を勝手に奪っていくとはなんてフクロウだ。

俺が項垂れているとセドリック以外の笑い声が聞こえた。

振り向くと俺たちと同じハッフルパフの女子生徒とスリザリンの女子生徒がいた。少なくともハッフルパフの方は一年生だと思う、見たことあるから。

ハッフルパフの方は柔らかそうな金髪がふんわりと巻かれておりタレ目でゆったりとした所作の可愛いらしい女の子と、対照的にスリザリンのほうは艶のある長い黒髪を流した目力のある強気そうな綺麗な女の子だ。

ふんわりしたほうが俺たちの方を見て話しかけてきた。

 

「ごめんなさい。馬鹿にしたわけじゃなくてあなたの様子がとても面白かったので自然と笑いがこみ上げてしまいました」

「ステフ、それ結局遠回しに馬鹿にしてると思うんだけど」

 

そう言ってくすくす笑う二人。セドリックは人見知りモードを発動して若干強張っている。仕方ない、俺が話しかけるか。

 

「やぁ、恥ずかしいとこ見られちゃったね。俺はアイク。それでそっちの背の高い方はセドリック。人見知りなんだ」

「はじめまして、アイク、セドリック。わたくしはステファニー・ペンテシレイア。貴方たちと同じくハッフルパフの一年生ですよ。ステフ、と呼んで下さい」

 

ゆっくりとした所作で自己紹介をするステフ。なんというかまるで良いとこのお嬢様である。

 

「あれ?ペンテシレイアって確か有名なブランドなかったっけ?」

「え?僕は知らないよ。マグルの服?」

「えぇ、私の母がデザイナーをしています」

 

確か滅茶滅茶大金持ちの家だった気がする。うちも両親が共に歯科医のため一般家庭よりも裕福ではあるが、そんなの歯牙にも掛けないような大富豪である。たしか始まりは金持ちの道楽とか揶揄されていたが最近流行しているんだとか。ハーマイオニーが言っていた。服に興味を持つのが早い気がする?良いことを教えてあげよう、女は生まれたときから女なのである。

それにしても確かに話し方といい、ゆっくりとした動作といい、お金持ちのご令嬢っぽい雰囲気である。

 

「そんなお嬢様はホグワーツになんで来たの?」

「お嬢様ではなく、ステフ、と呼んで下さいね」

「ええっと、ステフはなんでここに通うことにしたの?」

 

有無を言わさぬ迫力を感じた。俺が言い直すと満足そうに頷きステフは答えた。

 

「私、五人きょうだいでして、姉の様子を見てお嬢様学校に通うのは嫌でしたの。そう考えていたらここへの通学許可証が来まして通うことにしました」

 

甘い雰囲気に見合った可愛らしい声でステフはそう言った。

金持ちは金持ちで大変らしい。

 

「それに魔法ですよ。なんて甘美な響きでしょう。私魔法が使える才能があるいうのなら是非とも使って見たいです。それに」

 

そう歌うように滑らかにステフは続けた。彼女はチラリと隣を見た。

 

「わたくし、エリスと同じ学校に通いたかったですし」

「同じ寮にはならなかったけどね。あ、私は、エリス・グリーングラス。スリザリンだけどよろしくね」

 

スリザリンの少女、エリスが名乗ると驚いたような顔をセドリックはした。といっても俺にはピンと来ないということは魔法世界関連なのだろう。

 

「あら、本当にエリスの家は有名なんですね」

「信じてなかったの?それに有名っていっても悪名のほうよ」

「えっと、セドリックどういうこと?」

 

チラリとセドリックの方を見ると困惑した様子であった。

 

「えっとね、アイク。グリーングラス家っていうのは魔法使いの中でも有名な家で、間違いなく純血と言われている『聖28族』の一つの家なんだ」

「純血?」

「血縁に非魔法使い、マグルがいないってことよ。私の家はそれに拘ってる純血主義の人しかいないことで有名なの。セドリックは多分そんな家の私がなんでマグルの子と仲良いか疑問に思ってるんじゃないの?」

 

そう遮るようにエリスが話すと、肯定するようにセドリックは首を動かした。エリスはそれに満足したように鷹揚に頷いた。

 

「私、純血主義って嫌いなの。馬鹿みたいだわ、生まれだけで人の優劣を決めるなんて」

「エリスとわたくしは入学する前からの知り合いなんですよ」

「へぇ、そうなんだぁ」

 

生まれや態度、雰囲気も対照的ではあるが良い友達らしい。

 

「それじゃ、授業もはじまりそうだし私は行くわね。またねアイク、セドリック。遅刻しちゃダメよステフ」

「バイバイ〜」

「はい。またあとでエリス」

 

俺たちは去って行くエリスに手を振った。だが見送った後に気づいた、エリスがもう授業が始まるということは俺たちもそうだと。

 

「やばいセドリック。最初の授業ってなんだっけ?」

「魔法史だよ、急がないと間に合わないと思う」

「あ、待ってください。わたくしまだフクロウさんに手紙を出していないので」

「なんでステフはそんなゆっくりしてんの?急がないと!」

 

そのあと俺たちは騒ぎながらもフクロウ小屋を出発して、動く階段やらゴーストやらに翻弄されながらもなんとか授業開始までに着くことができた。

 

 

 



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悪戯反撃

俺は激怒した。必ず、かの悪戯小僧どもに何らかの仕返しをしなければならぬと決意した。俺には悪戯がよくわからぬ。俺は、ごくごく真面目な人間であった。通知表には真面目で明るく素直な生徒と書かれていた。だが何らかの形でやり返したいのだ。

 

「それで昨日から部屋に篭って作業してるのかい?」

「うむ!!」

「わざわざ上級生にまで手伝ってもらって何をしているのですか?」

「ヒ・ミ・ツ」

 

授業を終えて制服から着替えて、俺は反撃の準備をして部屋で作業しているとステフが部屋に訪れてセドリックと二人で質問してくる。ちなみ我がハッフルパフの寮は男女の部屋の行き来が性別問わず自由である。

俺がステフの質問にそう答えてウインクすると、無言で顔を引っ張ったいてきた。しかも笑顔で。このお嬢様ドSである。

 

「いたっ!ちょ、お嬢様。ビンタはっ!あ、ごめ、もう一回はやめ」

「ステフ、そう呼んでくださいね」

「まぁまぁステフ、落ち着きなよ」

「うー、ありがとう。セド」

 

どう叩いているかわからないが、音と見た目は派手だが大して痛くはない。ちなみにここ数日一緒に過ごして俺とステフ、エリスはセドリックをセドと呼ぶことになった。

 

俺がこうやって準備している発端はグリフィンドールと授業が一緒になった帰りに赤毛の双子にお菓子が入っていると言われ、大きな箱が渡されたことである。俺が期待して開けてみると箱が大爆発した。

何が起こったかわからない俺は目を丸くして呆然としていると、赤毛の双子が愉快そうに笑って楽しげに去っていった。

他のグリフィンドールの子たちに説明を聞くと、どうやらフレッドとジョージというらしく、よく愉快犯のようにいたずらを仕掛けているらしい。

セドやステフ、他のハッフルパフの子たちは笑っていたが、おれはお菓子と思いきや、まさかの大爆発で普通に激怒した。

そして、俺は何らかの形で反撃を企画したのだ。

 

「とりあえずもう寝ようか。これ以上やると明日に支障が出るよ」

「えー」

「私ももう寝ますね。おやすみなさい、アイク、セド」

「「おやすみ、ステフ」」

「セド、アイクが寝ないようだったらあとで生ける屍の水薬でも飲ませてください」

「よし、セド。もう寝よう。目覚まし頼むぞ」

「あははははは……」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

そして次の日、いつも通り目覚まし時計のおかげで目を覚まして、寝ぼけ眼をこする。その後にセドリックが俺の髪に櫛を通すのは最早日常となっている。それから談話室に行ってステフが俺の髪型を自由にいじる。ここまでが一連の流れとなっていた。ステフによる今日の俺の髪型は一本の三つ編みである。

 

「はい、できましたよ」

「毎朝ありがとう、ステフ」

「いえいえ、わたくしも楽しいので。実家ではこういうことは従者の方々にしかやらせていませんでしたので、自分にも妹にもできませんでしたから」

「へぇ、そうなんだ。金持ちってすごいなぁ。それとステフ、妹いるんだね」

「えぇ、兄、姉、妹、弟がいますよ。わたくしはちょうど真ん中です」

「そういえばステフ、その髪型をどうセットしているのかい?似合っていて素敵だよ」

「まぁ!ありがとうございます、セド。これは上級生の方々に髪をいじる呪文を教えてもらいまして」

 

セドリックがまたさらりと褒める。こういうとこ紳士であり、尊敬するなぁ。なんて思いながら俺たちは話し続けて朝ごはんへと向かった。

 

 

今日の授業では一番楽しみにしていた物がある。箒による飛行訓練である。グリフィンドールと合同であり、各々寮ごとに分かれて授業が始まった。箒で空を飛ぶとはつくづく魔法らしい。

 

「良いですか、箒に向かって右手をだして『上がれ』と言うのです」

 

先生にそう言われて右手を箒に向けて、みんな口々に「上がれ」と言う。セドリックなどは一発で成功しており、ステフは二、三度上がれと言うと手に収まった。次々とみんなが成功していく中で、俺はというと

 

「上がれ!上がれ!」

 

全くピクリとも箒はしてくれなかった。なんだこれは。というか無機物に永遠と叫んでいる姿痛くない?大丈夫?

もしや今度は先生に悪戯されて、ただの箒を渡されているのかもしれない。

隣にいるセドリックに囁く。

 

「セド、セド。大変だ。今度は先生までも俺を騙そうとしている」

「また変なこと言い始めたね、アイク」

「本当なんだよ、多分この箒は空飛ぶやつじゃなくて普通のなんだ」

「はぁ……」

 

呆れたようにため息をついてセドリックは自身の箒を地面に置き、次に俺の箒に右手を上げて上がれと一言。すると、すんなり浮かび上がり大人しくセドリックの右手に収まった。

…………。

気まずそうにセドリックが俺に箒を渡してきた。俺はその箒を受け取った瞬間ぶん投げる。

 

「ちくしょう!セドの言うことはすんなり聞きやがって!!面食いかこの箒!」

 

投げられた箒は大地をリバウンドして転がる。するとそれから柄の部分から俺目掛けて飛んできた。それをすんでのところで避ける。

 

「このやろう!やりやがったな!!」

 

それから俺と箒の取っ組み合いが始まった。

 

 

その後、先生に見つかって怒られるを通り越して、呆れられた。いわく、「箒と喧嘩するような人間は初めて見ました」とのこと。ごめんなさい……。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

飛行訓練以外の授業も終えて、迎えた放課後俺は中庭にて大きな袋を抱えて準備していた。さて、派手に仕返ししてやろう!

とそう思ったものの、あれ?あの二人いつ来るんだろうか?呼び出しも特に何もしてないということに準備を終えてから気がついた。

 

「………呼び出すの忘れてた」

「そんな意気揚々と準備してるからてっきり万端かと思ってたよ」

「あらあら、まぁまぁ」

 

うむむ、まさか計画の一番最初の部分で躓くとは……。でもここまで準備して何もしないというのはなぁ。

 

「ちなみに何をしようとしていましたの?」

「えっとね、この袋の中には砕いたチョークの粉が入っててだね、それを津波のようにしてあの双子を流そうとしてた」

「随分と派手だね」

「水には流さんが粉には流してやろうと」

 

そういってぽんぽんと袋を叩く。こんなに用意したんだけどなぁ。無駄になっちゃうのもなぁ。

 

「それでどうするんですか?あの二人が通るのでも待ちますか?」

「もしそうするなら多少待つのには付き合うよ」

 

そう二人が言ってくれる。本当にハッフルパフの人はいい人ばっかりだな。たが流石にいつ来るかわからないまま待つのはなぁ……。

袋の口を開けて杖を振って少し白い粉を取り出す。なんか出来ないかな。

くるくると動かして人の形を作ったり、うさぎにして見たりして遊ぶ。こういう細かいことは得意なのだ。図工と美術なら必ず5だったからな。ふと我が愛する妹、ハーマイオニーに自身の英語上達のためも兼ねて、絵本を読んで上げたことを思い出した。

そして閃いた。

 

「ねぇねぇ、二人とも昔話とか絵本とかって好きかい?」

 

 

* * * * *

 

 

 

中庭のベンチの近くに移動して、二人には座ってもらってから俺は袋を大きく開けて、準備を始める。

 

「何を始めるんだい、アイク?」

「とりあえず楽しみです」

「まぁまぁちょっと待ってね」

 

杖を振り、狐や人の形にしたり家の形にしてみたり、それを複数個作ってみたりする。

おお、いけそうだ。

 

「お待たせ、準備できたよ」

「それで何をしてくれるだい?」

「昔話さ」

「マグルのですか?三びきの子豚のような」

「違うよ、多分二人とも知らない話」

 

俺はそう言って話を打ち切ると杖を振るい、サラサラと粉がまるで液体のように蠢きながら出る。

 

「むかし、むかし、あるところに子狐のノアがいました」

 

言葉に合わせて粉が動いて、小さな狐の姿になる。それをステフやセドリックが座るベンチの近くにまるで生きているように動かしてみせる。二人が目を見開いて驚いている。

 

「両親のいないノアは人里に降りては悪戯をして、里のみんなを困らせていました」

 

粉が今度は街並みと人々に変わり、狐が物を盗んだり人にちょっかいをかけては逃げていく。

 

「ある日、ノアは山の中で魚を捕まえようしている一人の青年、ダニエルを見つけました」

 

風景が川と山に変わり、青年が一人とそれを遠くから見ている子狐へとシーンが変わる。

 

 

さて、元々日本人ならば分かるであろうイギリス版ごんぎつねだ。流石に教科書の物語のことなら記憶しているし、感動的な内容だったので、俺はよく覚えているのだ。果たしてイギリス人にも感動的に思えるのだろうかね。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

杖を振るい、場面は最後のシーンへと移る。銃を持ったダニエルが遠くからノアを撃ち、ノアは衝撃で吹き飛び、転がった。

周りから悲鳴やショックを受けたような声が聞こえた。

 

「ノア、お前だったのか。ダニエルがそう呼びかけるとノアは静かに頷いて息を引き取りました。おしまい」

 

さあっと溶けるようにしてノアの姿が薄れていく。誰かのすすり泣くような声が聞こえた。続いて蹲っていたダニエルの姿も空に溶けるようにして消えていった。

 

ふぅ、めっちゃ疲れた。汗だくだわ。魔法を長時間使い続けること舐めてたわ。

汗を拭いながら正面を見ると気がついたら人だかりが出来ていた。

寮を問わず大勢の人間がどうやら見てたらしい。かなり感動したようで涙を流している人もいた。

おお、まさかここまで大盛況になっているとは思わなかった。集中してたからこんなに大勢の人が見てることに気がつかなかった。

使っていた粉を全て袋に戻し終えて一息つくと、セドリックとステフが駆け寄ってきた。二人の目尻にはきらりと光るものが見える。

 

「アイク、とっても良かったよ」

「ありがとう、セドリック」

「アイク!!」

 

がしりと、手をステフに掴まれじっと顔を覗き込まれる。顔が近いです、お嬢様!!

 

「わたくし、とっても感動しましたわ!!あなたの魔法も語り口も素晴らしくとても心動かされました!!」

「ええっと、ありがとうステフ」

「アイク、よろしければ他のお話などありませんか?差し出がましいですが、もっと色々なお話が聞きたくなりました」

「ええ?!」

「私も聞きたい!」

「俺も!!」

「今度は冒険物が聞きたい!」

「恋愛ものがいいな!」

 

ステフのお願いに同調したように周りの人々からも一斉に催促され始める。うお、マジか、こんな人気になるとは思ってもいなかったぞ。

 

「ええっと来週の放課後またここでいい?ステフ」

「ええ、もちろん。ありがとうございます、アイク」

 

そう笑顔で言われてむぎゅーとステフに抱きしめられた。

 

どうやらこのホグワーツ城というのは、遊びもそんなに多くなく、外界との連絡手段も乏しいため娯楽に飢えている人々が多いらしい。そのせいか俺の思いつきで行なわれた紙芝居ならぬ粉芝居は大盛況であり、毎週行う恒例行事となっていった。

 

ちなみにスリザリンを除く寮監の先生方も見ていたらしく、10点ずつハッフルパフに追加されていた。

 

 

 

 

 

 



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休日謳歌

キャラが大勢出ますが、基本モブです。



学校が始まってから数ヶ月経った。

今日は休日である土曜日で、俺たち三人だけでなく一年生数名で談話室でまったりお茶を飲んでいた。マグル出身の子でお茶が好きな子がいて、それを振舞ってもらった。そこそこの人数がいるのでなかなか賑やかである。

 

「あ、これ美味しい」

「一口ちょうだい」

「ねぇ、それミルク入れ過ぎじゃない?」

「えぇ?あぁ、ほんとだぁ」

「何飲んでんだそれ?」

「それとこれ混ぜてみたー」

「ちょっと私のお茶で実験しないでくれる?」

「誰か僕のお茶に砂糖入れたのかい?無糖がいいんだけど」

「そういえば最近、マクゴナガル先生がね……」

「知ってる?レイブンクローのフレデリカに彼氏が出来たみたいよ」

「えっ?!」

「なんでケビンがショック受けてんのー?」

 

お茶の感想や最近の出来事、みんなが口々に話し合う。お茶以外にもお菓子を持ってきており、マグルのものも魔法世界のものも味わっている。あ、蛙チョコが逃げた。だが、誰もこの場から追いかけようとはせず、蛙チョコは自然に帰っていった。みんな完全にリラックスしており、席から離れる様子はない。

 

「そういえば、アイク。今度はどんな演目やるのー?」

「えー、先に聞いちゃうの?分からないほうが楽しくない?」

「でもどんなジャンルなのかぐらいかは知りたくない?」

「それは確かに」

「前回って何だっけ?」

「魔女に呪いをかけられ、獣になったマグルの王子と器物になった彼に仕えた人々が、実は半純血の女の子に呪いを解いてもらう恋愛物でしたよ。私感動しました」

「面白かったなぁ、あれ」

「俺はその前の冒険譚の方が好きだったかな」

「えっとーそれって確かー」

「トロール退治に剣を片手に勇者が行く話だよ。途中で三匹の使い魔を手に入れてね」

 

それぞれ美女と野獣と桃太郎のオマージュである。両方とも別方面にしんどかった。美女と野獣は一人で二種類の声音を演じることが大変だし、恋愛の盛り上げ方には苦労した。桃太郎は盛り上げようとしてアクションを派手にしたら動かす量が多くなり、普段よりも汗だくになった。

 

「いや、実を言うとまだ決めてないんだよね。どうしよっかな」

「あれってアイクのオリジナルなんですか?」

「んー、いや完全なオリジナルってわけじゃないんだ。ステフ聞いたことのあるのない?」

「いえ、私、あんまり絵本は詳しくなくて……」

「ステフはマグルのお嬢様だもんねぇ」

「まさかあのペンテレイシアのご令嬢とホグワーツで会うとは思わなかったよー」

「それはさておき、今更だけどアイク、よくあんなに動かせるよな」

「え?」

「いや、簡単な魔法だけどあんなに長い間、連続して使うのって大変だろ?」

 

まぁ実際大変ではあるが、人に喜んでもらうことは嬉しいのでつい張り切ってしまっているのだ。

 

「そもそも動かすこと自体大変じゃないのか?」

「んー、そうかな?」

 

俺はそういってポッケから粉を取り出して、杖を振って人の形にする。口笛を吹いて音楽に合わせて軽く踊らせてみる。どうだこのブレイクダンス、見たことない動きだろう!踊らせ終わるとみんなから拍手された。いやー、それほどでも。

 

「私もやってみたいです」

「いいよ、やってみなよ。ステフ」

「次俺もやりてぇ」

「あたしもぉ!」

「えーじゃあー、僕もやってみようかなー」

「アイク、僕もやってみていいかい?」

 

おう、大人気だな。だけどこんなに人が多いんじゃもういっそのこと普通に袋もってきたほうがいいかもしれない。俺はみんなに待ってもらって、部屋に取りに行った。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

談話室に戻るとそれぞれのカップは別の机に移しており、みんな準備万端と杖を抜いていた。

 

「よし、じゃあ、やってみようか」

 

机の中心に袋を置いて、袋の口を開く。一斉にみんなが杖を振って、白い筋が何本も袋から伸びて行く。そしてそれぞれ人の形をとった。と言っても、みんな顔の形が歪だったり、体のバランスがおかしかったりするけど。

 

「意外と難しいな」

「足が滅茶滅茶長くなっちゃった」

「手が短いね、ケビンの」

「そういうフローラもバランスおかしいだろ」

「じゃあ、次に動かしてみようか。とりあえず右に歩かせてみよう」

 

俺の指示に従って、みんながそれぞれの人影を動かしてみる。だが、途中で粒子に戻ったり、足を出す順番がおかしかったり、なんというかゾンビの行進のようである。あ、でも流石セドリックは上手いな。

 

「アイクが簡単そうにやるけど、これかなり難しいね」

「でもセドリックもできてんじゃないの」

「見た目ほど容易ではないのですね」

「うぇ、気を抜くとすぐ粉に戻っちゃうよぉ」

「えーい」

「あ、こら俺の人型を蹴るなよキース」

「おりゃー」

「やったな、この!」

 

なんというか趣旨が変わってキースとケビンがお互いの人型を使って喧嘩を始める。お互い操作がイマイチなのでなんかゆったりとしたロボット対戦を見ているようで面白い。

みんなも観戦モードに入って二人のやり取りをみている。

 

「行けぇキース!」

「ケビン。キックが来るよ!」

 

趣旨は変わったがこれはこれで面白そうである。格闘すること数十秒、キースの人型の回し蹴りがケビンの人型に綺麗に決まり、粉へと戻った。あぁ、とケビンが悲鳴をあげた。

エドワードの人型が楽しげに踊っている。

 

「わーい、勝ったー!!!」

「なんだかまるでゾンビ同士の喧嘩のようでした」

「でも結構面白かったわよね」

「次、私とやってみようよフローラ」

 

この日からハッフルパフでは粉で出来た人形を操るバトル、ファイトオブチョーク(ネーミングセンスないとか言うな)、略してFOCが流行した。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

そして翌日、箒が貸し出しが認められてほとんどの一年生は箒片手に外へと遊びに行ってしまった。俺は相変わらず箒から嫌われているので、大人しく談話室でまったりしていた。俺と同じく箒に乗らなかった生徒たちと魔法の紅茶の番付をお茶菓子片手にしていた。

 

「ナタリアとしてはどの紅茶が一番なんですか?」

「んー、そうね、そこの花柄のカップのと、青いカップのかしら」

「どんな味だっけそれ?」

「ねぇえ、ナタリア、このお菓子もっとちょうだぁい」

「それないわよ、あんた食べたのが最後よ」

 

わちゃわちゃとしているが、こういった会話は割と昨日済ましてしまったので本格的に暇なのである。あとステフが俺の髪をさっきから結んでは解き、別の髪型へというサイクルをかれこれ十回はしている。

 

「ステフ、いい加減髪型固定してほしい」

「あら、そうですか。なら結ぶ代わりにお願いがあるのですが」

「お願い?」

「はい。私がデザインした洋服を着てみてほしいんですの。最近上級生に絵柄を動かす魔法を教わりまして、実際試してみたんです」

 

実家が衣服系ということもあり、魔法での服に関して興味があるとか確かに言っていたことを思い出した。まぁ別に服を着ることぐらいいいだろう。

 

「いいよ、それぐらい。お安い御用さ」

「はい、それでは私の部屋について来てくださいね」

 

ステフはそういうと俺の頭に編み込みをしてから、俺の手を引いて部屋へと向かった。生まれ直して初めての女子部屋である。なんだか、ちょっぴりドキドキする。

 

「どうぞ」

 

そう言って開かれたドアを通って中に入ると、なんだかいい匂いがした。壁にはおそらくルームメイトの子のであろう動く写真が飾ってあり、棚には色とりどりの布が置いてあった。開いたクローゼットの中には様々なデザインの服が見える。机の上には教材と画用紙、画材が広げられていた。

 

「それじゃ、こちら、お願いしますね」

 

俺に着せたいらしい服を手に取って、ステフがすごくいい笑顔でそういった。

 

 

俺は差し出された服に大人しく着替え、ステフと共に談話室に戻りお茶を楽しんでいた。しばらくみんなで話していると、外に出ていたセドリックたちが戻って来た。

 

「ただいま」

「おかえり、セド。楽しかった?」

「うん、楽しかったよ、アイ……ク?」

「なんだよ、セドリック。急に固まっ……誰だお前」

「ただいま〜アイク。似合ってるよ〜」

 

帰って来た人たちはほとんどぽかんとしたり、固まったりしてしまった。そりゃそうだ、俺もセドリックが同じ格好をしてたら同じリアクションしていた自信がある。

今俺が身に纏っているのは白い柔らかく温かそうなニットに丈の長い淡いピンクのフレアスカートである。スカートの柄には濃いピンクの花びらが上から降るようにして動いている。

なんというか言われた通り客観的に見ても似合ってる気がする。流石いずれかなりの美人となるハーマイオニーの兄である。今は美人じゃないのかって?今は可愛いんだよ、馬鹿野郎。

 

「ありがとう、キース」

「あ〜、声も高いね〜。魔法?」

「うん、通りすがりの先輩が面白がってかけてくれた」

 

クルンとその場で一回転してみると、スカートがふわりとゆるく広がる。その動きに合わせて花びらが風に吹かれたように布の上で揺れる。おぉ、手が込んでいるなぁ。

 

「その服はどうしたんだい、アイク?君の私物?」

「んなわけあるか」

 

否定するとぱしりと額を叩かれた。

 

「その格好でそんな口調だめだよぉ。この服はねぇ、ステフがデザインして作ったんだってぇ」

「へぇ、綺麗な服だねステフ」

「ありがとうございます、セド」

「あれ、綺麗なのは服だけかしら、もう嫌になっちゃうわ、ねぇケビン。いっつもセドったらこうなのよ」

 

からかってやろうと男子生徒の一人に腕を絡めるとセドリックはいつも通りの笑顔、対照的に男子生徒のほうは顔を赤らめて無言になってしまった。

セドリックは俺の髪をやんわりと撫でた。

 

「君も綺麗だよ、アイク」

「あらやだ、聞いた今の。やだわ、最初からそう言ってくれれば良いのに。素直じゃないんだから。ってあれケビン?」

「アイクのあのキャラは何なのですかね、腹立たしいのですが」

「やめたげなよーアイク、ケビン女の子に耐性ないんだよー」

「うるさい!!」

 

あはははとみんなで笑いあって休日は楽しく過ぎていった。

 

 

 

 

 

 




以下モブのどうでもよい補足

ナタリア 紅茶好き、マグル
フローラ マイペースな女子
ケビン  不憫
キース  マイペースな男子


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意気軒昂

結局オリキャラが思ったよりも自由に動いてます


俺たちはクリスマスを迎えた。パーティーを盛大に派手に過ごし、それが終わるとクリスマス休暇である。あぁ、久しぶりにハーマイオニーに会える。待っていてくれ、我が天使よ。

特急に乗り込む間、嬉しさのあまりくるくると踊っているとセドリックに苦笑される。

 

「本当に妹さんが好きなんだね、アイク」

「いや、好きではない」

「え?」

「愛してる!!」

「あぁ、そうかい」

 

わははは、と高笑いしているとエリスにドン引きしていた。

 

「アイクってシスコンなのね」

「シスコンってどういう意味ですか?」

「姉や妹が大好きってことよ」

「じゃあ、私もそうですね。私も姉さんや妹が大好きですから」

「訂正するわ、好きの度合いが一般的な水準を大きく上回っていることよ」

「僕はもう慣れたよ。家族思いなのは良いとこだよね」

「セド、あんたは人が良すぎるわよ」

 

三人がそんな会話をしていたが、俺には気にならなかった。待っていてくれ、今、お兄ちゃんが会いに行くぞ!!

 

 

* * * * *

 

 

 

久々に両親やハーマイオニーに会い、家で夕飯を楽しむと質問の嵐だった。

 

「動く階段とは面白いな」

「本当に魔法の学校なのね」

 

などと両親は俺の話を聞いて、楽しく感想を言っていったが、ハーマイオニーのリアクションはそんなものではなかった。一つ俺が話すと必ず疑問を投げかけてくるので、ただその学習意欲に感動していた。

 

「魔法史の授業ってどれくらい前のことから取り扱ってるの?」

「組み分けの儀式って何やったの?」

「魔法薬学って手順通り行えば本当に不思議な魔法の薬ができるの?」

「クィディッチって実際どんな感じだった?」

「箒ってどれくらい速かったのかしら?」

 

などなど疑問に思ったことが矢継ぎ早に質問される。これはハーマイオニーはレイブンクローかなと思いつつ、一つずつ質問に答えていった。だけど愛する妹よ、箒関連の質問は俺は答えられぬのだよ。すまんね。

 

家では法律上、魔法が使えないため、持ってきた魔法のお菓子や動く写真などを見せてやると、めちゃめちゃ喜んでいた。父さんと母さんは目を丸くしていたが……。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

そして休みも終わり、授業も再開された。俺はそこそこ成績も良くそこまで授業に苦労していなかった。がしかし、悲しいかな、我らがハッフルパフには少し成績に不安が残る人々もいるのだ。

自室にて俺が次の演目の原稿を書いて、セドリックがクィディッチの本を読んでいると急にドアが開かれた。

 

「セドリック、アイク、勉強教えて〜」

「うおっ?!」

「良いけどノックはちゃんとしようね、キース」

「はーい」

 

成績不振者その1、キースである。マイペースな間延びした口調と同じく生活もマイペースで、対照的にしっかりしている同室のケビンが面倒みている。ちなみにその2は意外とナタリアである。

 

「ケビンには聞かなかったのかい?」

「匙投げられちゃった〜」

セドリックが質問すると、良い笑顔でキースが答えた。……ケビンって結構真面目だし、根気よく教えてくれる方だと思うんだけど……。

セドリックが呆れたように苦笑いして、キースに近づいた。

 

「いいよ、僕が教えてあげるよ。アイクは成績が良いけど天才肌で人に教えるには向いてないからね」

「ぐぬぬぬ」

 

まぁ、実際その通りなんだけどね。自惚れではないが、俺はハッフルパフの一年生の中では五本の指に入る成績だと思う。一位はセドリックであろう。見た目良し、性格良しに続いて成績良しとは自慢の友達である。

あとはステフも成績が良い。何事にも丁寧であまり早くはないが、間違いが少ない。ついでに本人自身が勤勉である。この前の服にかけられた魔法も実際教わって試してみたが、かなり高度であることがわかった。

 

「じゃあ、僕はキースに談話室で教えてくるね」

「おー」

「アイクばいばい〜」

 

そう言ってセドリックとキースは部屋を出て行った。

 

 

* * * * *

 

 

さて、俺の方はというと最近チョークの物語にある計画を練っていた。

それは俺以外の生徒にも協力してもらうことだ。他の人に登場キャラクターに声を当てて貰ったり、背景や人型などを動かしてもらうことだ。

最近物語のネタも尽きてきて、まだあるとしても自分一人でやるには壮大すぎて手に負えないのだ。

そこで思いついた。俺以外にもやってもらえば良いじゃないかと。それ以外にも、今は色をあまり区別できていないので、より複雑な色をつくって操ったりも出来るのではないかと考えた。

 

最近、我らがハッフルパフではFOC(チョークで作った人形の闘い)がちょっと流行っており、そのおかげでみんな、特に俺と親しい一年生は上手なのだ。

そこで俺はある日みんなに一回だけ大規模な物語をやりたいので協力してくれるように提案をした。

 

そうしたらみんな喜んで俺の提案に参加してくれたのだ。むしろ率先して手伝いたいという子もいた。放課後や休日を使って二週間の準備期間を設けて俺たちは空き教室で練習した。セドリックがずば抜けて操作が上手くて、続いてステフ、ケビンと上手だった。脚本を書いたり練習期間努力して、一つの演目をニヶ月、計八回に分けて週一ですることとなった。

 

 

* * * * *

 

 

 

「フローラ何してんのよ?!」

「うわぁ、色混ざっちゃったぁ」

「ステフ上手になってきたね〜」

「ありがとうございます。キースは背景の方はどうですかね」

「あんまり細かく動かさないから楽だよ〜」

「ケビン、大丈夫かい?ガチガチに緊張してるけど」

「お、俺、こういうの上がり症で……。なんでアイクのやつは俺を主人公にしたんだよ……」

「声がいいし操作も上手いからね、ケビンは」

「ナタリア、台詞確かめてくれないか?」

「ええ、いいわよ。でもその前にフローラのミスを取り返さなきゃ」

「えへへ、ごめーん」

 

と、まぁこんな感じで賑やかに楽しく練習は過ぎていった。ちなみに、ケビンとステフが主役。ナタリアとセドリックがサブメイン。フローラとキースが背景。俺は全体の補助となっている。

 

意外と監督の仕事みたいなのが楽しい。

台本書いたり、ラフ画を書いたり、デザインを描いたりととんでもなく大変であったが、とても面白い。だが図工や美術の成績が良かったのに対して、国語と英語の成績は残念だったのでとても脚本作りには苦労した。

 

 

そして、迎えた当日、俺たちの第一幕が上がった。

演目の内容としては、マグルの世界でのお話で、幼い頃に死んだ幼馴染の少女がなぜか幽霊となって主人公の元にある日現れる。彼女を成仏させるために、仲違いした他の幼馴染と再び関わり始めたり、前向きに努力するお話である。

もちろん、これはオリジナルではなく、前世の大人気アニメを真似たものである。でも尺の都合上、ストーリーの展開上、キャラや設定を削ったり変えたりしている。初日ということもあり、まずまずの出来であったが、いつもよりも派手で複雑な劇に興奮していたのでよしとしよう。

 

 

* * * * *

 

 

その後俺たちの努力は報われて二ヶ月かけた全ての演目は大成功して、ホグワーツ城ではブームとなった。あとストーリーに出てきた隠れんぼやおやつなども。レシピをホグワーツ城の屋敷しもべの妖精たちに渡すと喜んでつくってくれた。

この演目で俺のチョーク演劇はひとまずおしまいとした。といっても来年には代わりになるようなものすると宣言したので、考えはあるのだ。実現は難しそうだけど……。

 

そして今日はちょうど二ヶ月が経ち演目を全て終わらせ、大団円として打ち上げをしていた。

こっそり先輩たちがバタービールを持ってきてくれたり、お菓子やごちそうを厨房から持ってくれた。

 

「「「かんぱーい」」」

「いやぁ、楽しかったねぇ!」

「ケビンが台詞を飛ばしたときは冷や汗が出ましたわ。アイクの焦った顔も初めて見ました」

「ステフはノーミスだったもんねー。流石ー」

「上がり症って言ったろ!!しかもそうなったのは最初の一回、二回だけだし!!!」

「ケビンは頑張ってたわよ、あんまりいじめないであげなさい」

「ナタリアが優しいぞぉ、なんだナタリア、ケビンに気があるのかぁ?」

「ねぇ、フローラ酔っ払ってないかい?」

「バタービールで?!」

 

てんやわんやとみんな大声で楽しんでいる。俺はというと先輩たちにもみくちゃにされていた。

 

「アイク、お前すごいな!」

「めちゃめちゃ面白かったよ!!アイク」

「来年も何かしらやるんでしょ!とっても楽しみにしてるよ!!」

「女々しい見た目した気に食わんやつとか思ってすまなかったな!」

「感動した、とっても美しかったよ」

「粉が綺麗に舞ってたよね〜」

「すごい幻想的だったよ」

「ありがとうございます!先輩方!!あと俺の容姿は妹似なんで!妹はめっちゃ綺麗で可愛いですからね!!」

「またそれかよ!」

 

ぎゃーぎゃーと騒がしく、賑やかに夜は更けていき宴はますます盛り上がりをみせる。

しばらく色んな人々と話しているとこっそりとステフが近づいて来た。

 

「こんばんは、アイク。今日はとても素晴らしい演目になりましたね」

「うん!ステフやセド、ケビンたちのお陰だよ。俺、一人じゃここまで大掛かりだったり、色鮮やかだったりしたものは作れないしね」

「ご謙遜を。みなさん、貴方の手腕を買っていますのよ。素晴らしい筋書きに心が動かされるキャラクター。それだけでなく、どう魅力的に見せるかなどの演出に凝っていましたしね。私たちみんな貴方を尊敬していますよ、アイク」

「…………」

 

なんというか、こういうとこがハッフルパフの生徒の良いところだと思う。根が素直でみんな善人であるし、他人の良いところを嫌味なくストレートに褒めれるところとか。

自然と顔に熱が集まっているのを感じた。

 

「あら、アイク。浮かれすぎたのですか?顔が赤いですよ?」

「あー……。しばらく放っておいてもらえると嬉しいかな」

「?はい。わかりました」

「ちょっと外に顔を冷やしに行くね」

「はい、行ってらっしゃい」

 

なんだか今日だけで前世一生分褒められた気がする。顔が赤くなるし、とても照れる。

 

「あ、そういえばアイク」

「ん?なに、ステフ」

 

談話室から寮の外へひっそりと出ようとしていたらステフに引き止められる。

 

「エリスが貴方に会ってお話がしたいと行っていましたよ」

「エリスが?」

「はい。おそらく感想だと思いますよ。純血の名家のお嬢様であるエリスは私や貴方のようなマグル生まれに会いづらいですからね。取り巻きを遠ざけてゆっくりと話がしたいと言っていましたよ」

「あー、なるほどね。わかったよ。あとなんだかステフが他の人をお嬢様呼びしているとなんだか可笑しく聞こえるよ」

 

そう笑って言うと、拗ねたようにステフはむくれてしまった。

 

「失礼ですね、私も今はただの一介の生徒ですよ」

「あはは、ごめん」

「全く、もう。あ、そういえば場所は八階の階段前だそうですよ」

「八階?また遠いね。なんでまたそんなとこなんだろ」

「さぁ?私にはわかりませんわ。取り巻きから徹底的に避けるためとか、人目につかないようにでは?」

「まぁ、行ってくるよ」

「ええ、行ってらっしゃい」

 

俺は楽しい気分のまま、寮を出て階段を上っていった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

俺が階段を上がり終えるとすでにエリスはもう着いていた。普段は結んだりしていない艶のある黒髪をツインテールにしている。バレないようにするためだろうか。彼女は俺に気づいたようで笑顔を浮かべる。

 

「こんばんは、アイク」

「こんばんは、エリス。普段とは違ってツインテールなんだね。可愛いし似合っているよ」

 

俺がそういうと笑みを深くするエリス。たまに授業で一緒になったりして見かける彼女はいつも冷ややかな雰囲気を身に纏っており今目の前にいる優しげな雰囲気とは異なっている。そのギャップにちょっとどきりと心臓が跳ねた。

 

「それでエリス、話ってなんだい?」

「もちろん、貴方の素晴らしい演目についての感想とかよ。とても面白かったわ」

「そうかい、喜んでもらえて嬉しいよ」

 

俺がそういうとエリスはくるりと背を向けて歩き出してしまった。

 

「歩きながら話しましょ、今日はそういう気分なの」

「いいよ、行こっか」

 

エリスに先導される形で俺たちは八階を実にゆったりとしたペースで歩いた。その間の話題は今日行った演目やそれ以外の前の話について語っていた。

どのシーンが良かったとか、幻想的であったり美しかったり、他にはどのキャラの台詞などに共感したなど、様々な事を語り合った。

 

「そういえば、アイク。今日まで演っていたお話では死んだ幼馴染の女の子が出てくるけど、私たちは死んだらどうなるかしらね」

「俺たちが死んだら?んー、どうなんだろうね?天国や地獄に行ったり、はたまたピーブスとかみたいに幽霊になってこの世に留まったりするのかも知れないね。あるいは……」

「あるいは?」

「もしかしたら、もう一度生まれ変わって別の人生を歩むかもね。他の国や他の人種になったり、もしかしたら全く知らない世界に生まれ変わるかもしれないよ」

 

俺が茶目っ気まじりにエリスにウインクをしながらそう言うと、エリスは一瞬目をパチクリとすると笑みを深くした。

 

「百点満点の花丸な答えだわ。とっても素敵な考えだもの」

「そうかな?前にセドに話したら『不思議な考え方だね、アイクらしいよ』とか言われたんだけど」

 

そういうとクスクスと楽しそうにエリスは笑った。俺たちが八階を三周くらいしたかと思うと、見たことのない扉が現れた。

 

「あれ、こんな部屋八階にあったっけ?」

「ええ、あるのよ。基本は無かったりするけれど」

「どういうこと?また魔法ってことかい?動く階段といい不思議だよね」

「ここはホグワーツでもっとも不思議な部屋だと私は思うわ。入ってみましょう」

 

そう言うや否や、エリスは扉に手をかけて開いて、入ってしまった。慌てて俺も追いかけて部屋に入るとそこにはシンプルな木製の机や椅子たちに教壇。それと前世で見たような黒板やカーテンがあり窓は無いものの、まるで()()()()()のようであった。なんだろうか、ここは?

 

迷いのない足取りで進んだツカツカと前に進むエリスは教壇の前に立ち、チョークを取って黒板に文字を書き始める。俺はそんなエリスの様子を尻目に懐かしむようにあたりを見回した。

 

「不思議な場所だね、エリス。俺の知ってるある風景にそっくりなんだ。なんだか懐かしくかんじるよ、黒板に落書きとかもした……こと……」

 

俺はそれ以上言葉を口に出すことはできなかった。なぜなら黒板に白いチョークで大きく

 

 

 

『賢者の石』『秘密の部屋』『アズカバンの囚人』『炎のゴブレット』『不死鳥の騎士団』『半純血のプリンス』『死の秘宝』

 

 

 

これらの文字が綺麗な()()()で書かれていたのだ。

目を丸くしている俺を見てにっこりとエリスは微笑みいつもより柔らかい口調で言った。

 

「やっぱり、そうなのね。()()()()()()()のハーマイオニー・グレンジャーのお兄さん」

 

そう言ってこちらを見たエリスの笑顔は今までのどんな表情よりも魅力的に映った。

 

 

 

 




なんだか急にお気に入りが増えてビビっている作者です。これからもこの拙作をよろしくお願いします。


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ゆったりした三年生
愛妹入学


一気に飛びます


俺のホグワーツでの一年生と二年生の時間は想定外のことも起きたが、賑やかに楽しく過ぎていった。そして迎える三年目、やはり俺の妹ハーマイオニーにも入学許可証が届き、ホグワーツへの登校が決定したのだ。

 

そして訪れた三年生としての登校日。喜んでハーマイオニーと一緒のコンパートメントに入ろうと思っていたら、断られてしまった。なんでも「いつまでもアイクに甘えてられないもの。もう私だって十一歳だわ。兄離れしなくちゃね」とのこと。

 

「うー、兄離れとかしなくていいのに」

「なるほど、そう言われたから凹んでるんだね」

「残念でしたね。妹さんが入学決まったときにはあんなに手紙からでも伝わるほど喜んでいらしたのに」

「これを機にアイクも妹離れしなさいよ」

「エリスが冷たい……。セド、慰めて」

「はいはい」

 

寮は別になる可能性が高いから、せめてホグワーツ特急の中では仲良くしたかったというのに。

ちなみにセドリックの背はぐんぐん伸びて、顔も幼さが抜けてハンサムになった。

ステフも背が伸びて可愛らしい雰囲気も残しつつ美しいといった印象である。

エリスは相変わらずクールビューティといった要素が強く背も伸びて更に前よりも威圧感が増した気がする。

ちなみに俺は去年の春休み開けから長髪をやめて、顔も昔よりも凛々しくなっている。がしかし背はあまり伸びていない。何故だ?!神は理不尽である。

背の順的にはセドリック、エリス、俺、ステフである。あまり言いたいことではないが、俺とステフの差はほとんどない。髪も切ったというのに未だに可愛い可愛い言われるのが腹立たしい。

 

「そういえばアイク、今年もチョークの劇やるんだよね」

「えー、うん、やるやる」

「そんなぐでっとしてないで、ちゃんとしなさい」

「なんだか溶けたアイスのようですね」

「去年、ホグワーツで大人気だった人間とは思えないわね」

 

完全に脱力しきっており、やる気が出てこない。いや、ちゃんと演目やるけどね。休みの間に原稿書いたし。

 

「はぁ……そこの溶けたアイスは放っといて、セド、今年もクディッチ頑張ってね」

「あら、エリス。他の寮の応援していいんですか?」

「私、クディッチそんなに興味ないもの。単純に友達を応援してるだけだよ」

「ありがとう、エリス。みんなの応援に応えれるように頑張るよ」

「二年生でスタメンですものね、流石ですよ」

「ありがとう、ステフ。あとキースもだけどね」

「……彼がキーパーとしてあんなに俊敏に動けるとは考えていませんでしたよ」

 

脱力している俺を放置して、三人は楽しく会話していた。薄情め!

 

「そういえばアイク今年はどんな演目にするつもりなの?」

「何個か書いたけど基本的に有名な作品か前やったやつの再構成かな、人も増えたし」

「そういえば今年、FOCの大会やるって本当かい?」

「あ、うん。各寮から五名ずつ代表だしてやろうと思ってる。寮対抗のトーナメント戦にしようと思って」

 

チョーク劇が有名になったので、それと同時にFOCも有名になったのだ。

というのも劇に参加した人たちがどうやって細かい動きを練習したか聞かれて、「対決させていた」とか話すと途端に人気になった。余談だがこの影響で色んな教室からチョークが取られたので校長直々にお小言があったのは良い思い出である。

 

FOCの主なルールとしては

・白いチョークで人型を作る

・赤いチョークは武器、剣や槍などの作成用

・青いチョークを鎧や盾、もしくは飛び道具など補助として使う

・赤と青のチョークにはチョークで作られたものを脆くする効果がある

・使えるチョークの量は各色ごとに決まっている

・核として緑の球をどこかに埋め込む必要がある

・核が壊されるか白い人型が完全に崩れ落ちるかすると敗北である。

 

ちなみにこの核はあのウィーズリー双子作成である。魔法でうまく人型を作れない人に対して人型形成を補助してくれるものである。

色々な人型タイプがあるらしく下級生を中心になかなか売上が良いららしい。

この核を双子に提案されたときに「そういえば最初は悪戯に対する復讐だったなぁ」なんてことを思い出した。

 

「その大会、アイクは出るんですか?」

「迷ってるんだよね、ほら自惚れているわけじゃないけど俺、粉操ることに関しては断トツに上手いから。多分大会の審査員になるかな」

「セドは出ますか?」

「出ないよ、クディッチの練習があるからね。去年と同じように劇も観客かな」

「そうですか、残念です」

「私は出るつもりよ、大会」

「エリスが?」

「なんだか意外だね、というか周りがうるさそうだけど」

「彼女たちは去年でもう改心してるわよ」

「ならエリスと対決することになりそうですね」

「ステフも出るつもりなのね、楽しみだわ」

 

今年はどういった年になるのか、など思いを馳せながら俺たちは話していた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

私の名前はハーマイオニー・グレンジャー。今年、ホグワーツ魔法学校に入学する一年生。

私にはホグワーツに通う兄、アイクがいる。幼少期からアイクはよく本を読んでいたし、いじめられっ子を助けたりなどしており、勤勉で勇敢な兄である。

 

私はそんなアイクを慕っていたし、尊敬していた。学校の先生にはいっぱい質問すると嫌な顔をされたりしたけど、アイクはそんな素振りも見せずなんでも答えてくれたし、わからないときは一緒に調べてくれた。

 

だからアイクはホグワーツにある四つの寮のうち、グリフィンドールかレイブンクローだと思っていた。

だけど私の予想に反して、届いたアイクからの手紙にはハッフルパフに割り振られたとのこと。ちょっと驚いたけど、よくよく考えたら納得のできることだった。

 

アイクは勤勉だし、あまりの怒ることもなかったし友達も多かった。いじめを止めたときも気づいたらみんなの輪の中心にいて円満に解決していたし、私と同じくらい本を読んでいるのに、私よりも圧倒的に友達が多かった。

 

長期の休みにはアイクは帰ってきていたけど、少し忙しそうだった。ペンを片手によく文章を書いている。何を書いているかわからなくてアイクに直接聞いたけど、「ハーミーが入学したらわかるよ」と珍しくはぐらかされてしまった。

 

でも私は正直不安があった。本当に私もホグワーツに入れるのかどうか……これが私の抱えていた不安である。

アイクは昔私に火花の魔法を見せてくれた。とても鮮やかでパチパチと輝いており、感動したことを覚えている。だけど私にはそんなことはできなかったし、不思議なことがおきていた自覚はなかった。(後でパパたちに聞いたら実はアイクよりも私の方が不思議なことが起きていたらしい)

 

そんな中、ある日一通の手紙が届いた。ホグワーツへの入学許可証である!!

私は喜んだ。そしてそれ以上にアイクは喜んでいた気がする。二回目となれば両親も慌てずにいたし、私が行きたいと行ってもとくに嫌な顔はしなかった。

 

私たち家族はアイクに連れられてダイアゴン横丁へと向かった。私は初めて目にした魔法の世界に目を丸くしていたし、パパもママも同じ顔をしていたと思う。

 

アイクはそんな様子をニコニコ笑って、みんなで色んなお店を見て回り、学校に必要なものを購入した。教材や杖、はたまた鍋など、まじまじと見たことがないものも買った。あとは制服の採寸をした。動くメジャーやひとりでに布を切るハサミなど、目を見開くものが多い。

 

そして迎えた入学初日、アイクと私は家族に見送られてホグワーツ特急へと乗り込んだ。そこで私と同じコンパートメントに入ろうとしたアイクに私は思っていたこと告げる。

 

「アイク」

「ん?なんだい、ハーミー?」

「あのね、私、思ってることがあってね」

「うん」

「あのね、ホグワーツに入ってからあまりアイクに頼らないようにしようと思っているの」

「え……」

 

私がそういうと傷ついたような顔をするアイク。その様子を見て慌てて説明する。

 

「あ、えっとアイクが嫌いになったとかじゃなくてね、私ももう十一歳だし、いつまでも甘えてられないなと思ったの」

「…………そっか」

 

しょんぼりとしたようだけどアイクは納得してくれたようなので、私たちは別のコンパートメントへ行った。私はホグワーツで自分の才能がどんなものか知りたいし、その才能を磨いてみたい。でもその為にももっと自立しなくては。私はそう思い決心したのだ。

 

 

私が覗いたコンパートメントには気の弱そうな男の子とアジア系の綺麗な女の子がいた。

 

「ここ入っていいかしら?」

「ええ、どうぞ」

「う、うん」

 

今後私の学校生活に胸をときめかせながら私はコンパートメントに足を踏み入れた。

 

 

 




この章ではハーマイオニーとハリー視点を含みます

アイクとエリスとのやりとりもこの章で書く予定です


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才学非凡

ハーマイオニー視点です


ホグワーツ特急が停車して、生徒たちが次々と降りていく。

私たち一年生は大男に誘導されてひたすら歩き続け、最後に角を曲がると大きな黒い湖のほとりに出た。

目に入ってきたのは物語の世界でしか見たことがないような、いや、もしくはそれ以上に壮大かもしれない城が、堂々とそびえたっていた。本で読んで知っていたけどやっぱり実物は壮大だわ。

案内に従って大広間に入ると星や月の光を映し出した満点の夜空を彩る天井が目に入った、あまりの景色に思わずため息が零れた。本当に来たんだ、アイクが楽しそうに話していたホグワーツ、お伽話のような魔法の学校に。私の胸にはゆっくりと、実感が湧き上がってくるようだった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

一年生は大広間にて次々と名前を呼ばれ帽子を被される。アイクも教えてくれなかったし、テストでもあって組み分けされると思っていた私はすこし安心した。……予習も散々したのに無駄になった気がしてそれは残念だったけど。あの帽子はおそらく被せられた人間の資質や才能を見抜く魔法道具なのだろう。そう推測をたてる。魔法道具は不思議なものがいっぱいあるし、用途も多種多様だとアイクは言っていた。ドキドキしながら待っていると、私の名前が呼ばれた。

 

「グレンジャー・ハーマイオニー!!」

 

心臓の鼓動がいっそう高まり、ワクワクしながら前へと歩く。用意された椅子にちょこんと座ると帽子が被せられた。思い込みだと思うけど、周りの視線が自身に集中しているような気がする。

 

「ふむふむ、ほう。君は聡明で、知識に対する好奇心も強いな。だが一方で勇敢で挑戦する心も満ち溢れている」

「レイブンクローかグリフィンドールかということかしら?」

「さよう。どうしたものかね。どちらに対しても資質が十分にある」「それで私はどっちになるのかしら」

「少し待ってくれ。うーむ、ほうほう。君は周りと付き合うのがあまり上手くないな。君は良き友人を望むかい?それとも知識の探求を望むかい?」

 

帽子によって出された提案に対して、私は迷った。友をとるか、知恵をとるか……。

今まで私には友達が少なかった。勉強のほうが楽しかったし、そんな私は稀有な存在であったから、あまり関わろうとする子はいなかったのだ。その少ない友達もアイクが仲介してくれた子が多かった。だから

 

「知識も欲しいけど、それよりも私は友達が欲しいわ」

「わかった。ならば君が入るべきは、グリフィンドール!!」

 

わぁっと拍手が起きて寮が発表される。ちらりとハッフルパフの方を見ても当然アイクは見つけられない。私は楽しい気分で赤い人々がいるテーブルへと向かった。席に着くと上級生たちが歓迎してくれる。

 

「おめでとう、ようこそ!私たちのグリフィンドールへ!」

「ありがとう!私、グリフィンドールかレイブンクローに入りたかったの!とっても嬉しいわ!」

 

にこにことした女子生徒が話しかけてくれた。

 

「とっても賑やかな寮よ。退屈しないと思うわ。レイブンクローは真面目な子が多いけど、ちょっと個人主義が強かったり仲間意識が弱いのよね」

「そう、それならグリフィンドールで良かったわ。私、お友達が欲しいもの!」

「そうよね。学校生活は楽しくなきゃ!」

「ええ、とっても楽しみだわ」

「ふふ。……ねぇ、ところであなた苗字ってグレンジャーよね?」

「?はい」

「ハッフルパフのアイザック・グレンジャーってお兄さん?」

「はい、そうですよ」

 

なぜアイクの名前が出てくるのだろう。アイクは有名人なんだろうか。だとしたら良い方向か悪い方向どっちに有名なのだろう。アイクはよくホグワーツについて話してくれたが、よくよく考えたら私が質問したのは授業や魔法、道具や薬についてとかであんまりアイク自身の話は聞いていない。

 

「あなたのお兄さんには毎年楽しませてもらってるわ」

「え?どういうことですか?」

「あら、知らないの、えっとね」

「「なぁ、アンジェリーナ」」

「俺たちの悪戯は楽しくないのかい?」

「いつも賑やかになるだろう」

「うるさいわね、あんたらのそれは私自身が巻き込まれたら腹立たしいからプラマイゼロよ」

「「ちぇっ」」

 

そっくりな二人の赤毛の男子生徒が私たちの会話に割って入ってきて、それから私はアイクについての質問するタイミングを失い、そのまま話は流れてしまった。アイクがどうしたのかしら。聞きたかったわ。

その後、ホグワーツ特急でも会ったハリーポッターがグリフィンドールに入り、大広間が沸いたりして、宴は過ぎていった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

それから私のホグワーツでの学校生活は始まった。色々な授業を受けたけど、予習や理論を叩き込んでいた私には死角はなかった。

色んな授業では先生から褒められたし、たまには加点してもらったこともあった。

このように私は明るく学校生活を送っていた。……学業面は。

 

友達の方はあんまり、というよりも全くできていなかった。同室の女の子ともあんまり喋らなかったし、そもそもその子は別の子たちと仲が良いみたいでよく遅くまで話していたりしていた。それ以外にも私が完璧に答えたり理解している横で、「あの問題難しかったね」「私もわかんなかった」とか話しており彼女たちとの差を感じた。

 

そんな少し心苦しい学校生活を送っていたある日、ホグワーツ全体の色々な廊下や教室に配られていたポスターに突然イラストが現れた。今まで真っ黒なポスターであり、疑問に思っていたがどうやら魔法で書かれているようである。暗い背景に真っ白なホグワーツ城と月が描いてある。全体的に朧げな輪郭であり、たまに流れ星が流れていた。そのポスターには文字が書いてあった。

 

『来週の土曜日、中庭にて今年も儚くも美しい夢の世界へと誘います 劇団エリュシオン

時間はこのポスターにて後日発表します』

なんだろうかこれは。確かエリュシオンとは神話に出てくる理想郷だったはず。劇団ということはホグワーツで劇でもやるんだろうか。私が読んだ本にはどこにもそんなことは書いていなかった。

疑問に思いつつ周りを見ると寮を問わず賑わっていた。

 

「やっぱり今年もやるんだね〜」

「楽しみだわ」

「どんな演目だろうな」

「冒険譚がいいな」

「いやいや、恋物語でしょ。儚い雰囲気にぴったりでしょう」

「そうかな、戦闘で崩れていくのも圧巻だよね」

 

がやがやと口々にみんなが感想を述べていた。そんなに有名なのだろうか、ちらりと他の一年生を見ると同様に疑問符が頭に浮かんでいた。そんな私たちの様子に気がついたの上級生たちが解説をしてくれた。

 

「二年前にあるハッフルパフの生徒がはじめたことでね、チョークの粉を使って背景や人物を描いて、物語を描くものなの。幻想的でとっても感動するわよ」

「しかも始めたのは一年生だしなぁ。そのこと知ったときびっくりしたわ」

「去年のホグワーツ特別功労賞を授与されてたてよね」

「そうだったね」

「だから去年は我らがハッフルパフは二位だったのだ!!」

「結局スリザリンには負けてるじゃないの」

「うるせぇ!」

 

賞を授与?どれだけ素晴らしいものだったのかしら。どうやら私と同じ疑問を持った人が居たらしく、質問する。

 

「賞を授与ってそんなにすごい劇だったんですか?」

「あぁ、それはそれは素晴らしいものだったよ」

「馬鹿ね、劇自体が良かったから贈られたわけじゃないわよ」

「え?」

 

劇に贈られた賞じゃない?じゃあ一体何が原因でその生徒に賞は贈られたのだろうか。

 

「あれ、違ったの?」

「ぶっちゃけその理由でも問題ないような出来だったけどね」

「違うわよ、彼が賞を授与したのはね、ホグワーツでも数少ないことに()()()()()()()()からよ」

 

四寮を結束?そんなにすごいことだろうか。聞いた感じ賞が授与されるほどの偉業には思えない。そんな私の考えが顔に出ていたのか、話していた生徒に目をつけられた。

 

「な、なんでしょうか。私別に何も言ってないですよ」

「いえ、あなたマグル出身かしら?」

「は、はい。そうですけど……」

 

ぐいっと詰め寄られておずおずと頷く。一体どうしたんだろうか。

 

「なら、分からなくても仕方ないわね。これがどれだけ難しいことか。劇という一つの建前があったとしても、掲げている物が異なる四つの寮が協力するなんて滅多にありえないことなの!例えばどことも対立してないハッフルパフがレイブンクローとかグリフィンドールと協力することならあり得ると思うし、個人主義のレイブンクローがグリフィンドールやスリザリンと手を組むことは考えることくらいはできるわ。二つの寮や三つの寮が助け合うことならあり得るでしょう。でもね、犬猿の仲のグリフィンドールとスリザリンまでも巻き込んで四つの寮が一つになるなんて起こりえないもの!!」

 

凄い熱を持って演説するようにレイブンクローの人が話す。それに賛同するように拍手がわき起こった。なんだろうかこの熱意。というか良いように演説のダシに使われただけな気がしてきた。

 

でも実際私は興味を持った。これだけの人々に楽しみにされる物が一体どんなものなんだろうか。是非とも土曜日観に行こう。私はそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 



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怪獣決戦

アイク視点です


三年生も始まり、新たな学校生活にも慣れてきた。授業も全て終えて五階へと向かう。五階ではあまり授業に使われることもない教室が多く、そんな教室の一室に俺たちの劇団の部屋がある。俺がホグワーツ功労賞に選ばれたとき、ダンブルドア校長先生と交渉して手に入れたのだ。かなりの我儘だった自覚はある。

 

そもそも周りはやたら俺を持ち上げてくれるんだが、俺自身そんなすごいことをやったという風には思ってないのだ。せいぜいちょっと仲違いした友達同士を仲直りさせたくらいの感覚である。

あと別に俺は計画的に四寮を結束させた訳ではない。元々はハッフルパフの寮内だけで俺が一年生のときから割と事は足りていたのだ。

 

ところが一年生のある日、俺とエリスはお互いに前世についてカミングアウトしてより親密になった。そこでエリスはなんというか、今まで薄っすら見せていた壁を取っ払い、俺たちはより親しくなり本音を語るようになった。そうなってから、一年生の終わりの頃、エリスがある我儘を言った、「私もチョークの劇やりたい」と。別にやればいいじゃんと答えたが、なんでも俺の劇や俺たちの劇は特別視されているらしく他の生徒が真似る事はあんまり良い顔をされていないらしいし、純血のエリスがマグル出身の俺の真似をするのも快く思われないらしい。まぁ真似に関してはパクリをして人気出そうとしてる、とでも見れられているんのだろうか。

 

そこでエリスが出した提案はスリザリンに募集をかけるということだった。もちろん、断ったしスリザリンの生徒が来るとは思っていなかったし、そもそも一つの寮を誘うぐらいなら全部の寮誘うよと言ったら思いのほか人が集まったのだ。

 

最初はレイブンクロー数人、なんでもどうやっているか、気になるとかもっと効率を良くしたいとか、流動体の操作は研究に役立つとか。とやかく言っていたが、結局のところはやってみたかったらしい。「プライドの高い人たちだから言い出せなかっただけで、元々興味がある人は多かったですよ」とステフは言っていた。

他にはグリフィンドールからはウィーズリーの双子が参加してきた。二人は元々面白いと思っていた上、金になる気配がするとかなんとか。まぁ実際大道具のための開発費用などは渡している。横領は絶対に許さないとエリスが目を光らせているが。

そしてスリザリンからエリスとその取り巻きの女子何人か。エリスだけじゃなかったことに驚いたが、参加することに文句言われたり抗議されたのでむしろ巻き込んで一緒に参加させたほうが早かったというのがエリスの弁。「ハッフルパフの、しかもマグル出身の一年生に負けるわけないわよね?」みたいなこと言って煽ったら着いてきたらしい。

 

そんなこんなで今劇団エリュシオンには総勢24名在籍している。ハッフルパフから10人、レイブンクローは4人、グリフィンドールは5人、スリザリンからは5人。

さすがにハッフルパフが多いのは仕方ない。というかもしグリフィンドールとスリザリンが多かったら大変だったかもしれない。基本的に不仲かつ嫌悪しているこの二寮の間を取り持つことが最初はしんどかった。まぁ、今ではマグルだとか純血とか、どこの寮とか関係なく仲が良くなったのだ。

 

ちなみに前に外で練習をしてるときに冷やかしにきたスリザリン生が俺やステフのことを穢れた血と呼んだことがあったのだが、意味がわからずぽかんとしている俺たちと対照的に魔法世界出身の人たちが激怒していた。特に凄まじかったのは意外なことにフローラである。チョークが波打ち巨大な拳を作り上げ、「ぶっ殺す」とか言って普段の間延びした口調ではなく冷たいトーンで圧殺しかけていたので流石に止めたのだが、まさかあのザ・マイペースみたいなフローラが切れるとは。

意味を聞いてショックではあったが、やはり魔法世界にも差別はあるのだな。と実感した出来事でもある。

 

さて、そんなことを思いながらも歩いていると教室、というか我が劇団の会室についた。扉には赤い獅子、青い鷲、黄色い穴熊、緑の蛇が描かれており、それぞれが動き回り仲良さそうにじゃれあったり遊んだりして過ごしている。

これはステフのデザインで校長に許可を得てステフが魔法で描いたものである。みんなが仲良くしようという意味が込めたものだそうだ。

この部屋を貰って喜んだのは俺の次にステフだった気がする。俺は普通に高校生とかで学校に自分たちのための部室があることが嬉しかっただけだが、ステフにとっては劇のお陰でエリスの取り巻きの差別意識は若干和らいだし、ここでなら周りも文句は言わないし、出身も寮も関係なく仲良くできる場所が欲しかったようだった。

 

そんなことを思いながら部屋のドアを開けると、巨大な赤い獅子とそれに負けないくらい大きな緑の蛇、素早く動き回る青い大鷲が粉塵を撒き散らしながら喧嘩していた。もちろんチョークでできたものであるが、また今回も起きてしまったのか怪獣対戦……。ぼんやりと見ると獅子が蛇に巻きつかれて暴れている。その隙を突き蛇を狙うようにして鷲が滑空し爪で胴を削いだ。

 

そんな様子を横目にしながら部屋に入り、自身のロッカーを開けて白い白衣のようなローブととんがり帽子を出して被る。これはエリュシオンに所属していることを示すもので、チョークを弾く魔法をかけているためこの部屋にいる時や劇をするときには必須なアイテムである。これはエリスと俺で考えたものでお揃いの物って格好良いよね、という安直な考えにステフやレイブンクローの子達の意見でできたものである。

 

怪獣大決戦を眺めていると、ふと部屋の隅に黄色と黒で作られた穴熊モチーフのドームが不可侵地帯と看板を掲げていた。チョークでできたドームの中に入ると何人かの生徒が紅茶とお菓子を片手にまどろんでいた。

 

「おかえりなさいアイク。紅茶飲みますか?」

「ナタリアが分けてくれてやつだからおいしいよぉ」

「あ、団長だ。やっほー」

「ちはー」

「え、うん、ちょうだい」

 

コポコポとポットから紅茶がカップに注がれる。その間、テーブルに置いてあるお菓子をつまむ。厨房からもらった普通のお菓子であり、おいしい。というか、魔法世界のお菓子はスリルを求めすぎている気がする。動くチョコといい、アホみたいな味のあるビーンズといい最初は楽しかったが、今はもうシンプルにおいしいものが食べたい。

 

「はい、どーぞぉ」

「ありがと、フローラ。……あ、おいしい。流石はナタリアのチョイスだな」

「よく平然とお茶が飲めますね、先輩方……」

「おう、君はレイブンクローの一年生、否、もう今年は二年生か。月日が経つのは早いなぁ」

「早いねぇ。あぁ、そういえば数占いは面白かったぁ?」

「私たちは占い学ですものね」

「ではなくて!!あれです、あれ!なんですかあの怪獣大決戦!?」

 

ぎゃーぎゃーとレイブンクロー生が喚く。まぁまぁ落ち着きたまえ。あ、このお菓子結構紅茶に合うな。

 

「毎度派手ですよね、あれ。賑やかでいいと思いますよ」

「あれはねぇ、演目決めるために議論をやめて実力行使に出てるんだよぉ」

 

フローラがのほほんと答える。彼女の言う通り今回何をするかを自分たちの代理として怪獣を作り、勝ったチームの演目をするというものである。恋愛モノがやりたいのは蛇チーム。バトルモノがやりたいのが獅子チーム。サスペンスやミステリーがやりたいのが大鷲チームである。別に寮で分けているのではない。

 

「昨日演目について候補と内容伝えただろう」

 

そう俺は言いながら、一枚の巻物をだす。この巻物、『お喋りな巻物』もローブと同じく劇団用のものである。普段は白紙なのだが巻物に文字を書くと他の巻物にも浮かぶというものであり、チャットなどができるようになっている。エリスとレイブンクロー、ウィーズリーの双子による合作である。もともと携帯電話、というかメールがない時代に連絡手段を考えたエリスの発案であり、最近はフレッドとジョージが商売道具にしたがっているが未だに許可は取れていないようだ。

 

この巻物に昨日、俺とエリス、ステフの3人で話し合って候補を絞り、三つの演目について書き上げた。その後お昼までに多数決方式で決める。別に何でもいいよという中立派もいるので基本的にはこれで決まるのだが、偶に投票が同数となり議論となる。

この議論が完全に平行線であり、全く進まなかったため、FOCで決めることになっているのだ。提案したのはグリフィンドールだが、これにノリノリだったのがエリスで、どうせならチームで協力して大きいものを作り対決することになった。劇で使う怪物用の核を改造して怪獣を一チーム一つ作り最後まで残ったものが勝ちである。

 

余談だが怪獣用の核は勇者が囚われの姫を助けるためにドラゴンを倒すというベタな物語に使用するために作ったものである。複数人が核に呪文をかけられるようにした特別製で、開発に難航していた。この劇は下級生を中心にウケて、それ以外にもグリフィンドールに馬鹿ウケした。

 

去年は怪獣大決戦に巻き込むのは可哀想と思って一年生には知らせていなかったのである。

 

「アイク、もうそろそろ決着みたいだよぉ」

 

そうこう解説していると獅子が蛇を噛みちぎり、鷲を潰して二体の核が崩れたようで崩壊していくのが見えた。サラサラとチョークの粉へと戻っていく。

 

「まぁ、今年一発目は初めて見る一年生もいるわけだし派手なほうがいいか。ほら、決着ついたろ、片付けるぞぉー!!」

 

俺が大声を出しながら指示を出すと床一面に散らばった粉が逆巻き、それぞれの袋へと戻っていった。

 

 

 

負けたチームは悔しそうに、勝ったチームは喜んでいる。エリスはどうやら鷲のチームに参加していたようで悔しそうにしていた。

 

「ほーい。それじゃ今年、最初の演目はバトルモノで」

 

全員揃ったので、みんなが各々ソファや椅子に座っており、俺はその前に立ち指示を出す。この部屋にはくつろげるようにソファやクッションが結構な数置いてある。一応団長である俺の方針として過ごしやすい部屋にしている。ちなみに副団長はエリスとステフだ。

 

書いてきた台本を配って回す。この台本はネタバレ防止のために予め設定しておいた人間以外には見えないように魔法がかけてある。

 

「はい、んじゃ、各自その台本読んでやりたい役とか決めといてください。それ以外にもここの演出はどうしたいとか、セリフが変だとかあったらお喋りな巻物にでも書いていってください。以上。なんか質問ある人?」

 

一人のグリフィンドールの生徒が手をあげる。

 

「はい、どうぞ」

「FOCの大会って今年やんの?」

 

あ、そうだ。そういえば伝え忘れてた。

 

「正直やるつもりだったけど、ちょっと微妙になったわ。三年生思ったより忙しいからなぁ。劇もあるし。なので来年には必ずやるから今年は許してくれ」

 

各所からえぇーという声が聞こえた。特にフレッドとジョージは大会用に核を量産するつもりだったらしくめっちゃ文句を言われた。ごめんね、いや来年はやるからさ、ハーマイオニーとの交流がしたいし、劇も楽しみたいから下準備を今年やって来年にはやるからさ。

 

「他に質問は?ない?なら解散。今日は特にすることもないから」

 

そう俺が言いながらパンと手を叩くとみんなそれぞれお喋りを始め、誰も帰ろうとはしなかった。この部室は第二の談話室みたいなものであり、ここも大分まったりできるのだ。スリザリンの生徒なんか自室より居心地いいなんて言う生徒もいる。

 

俺たちは夕食の時間までまったりと部室で過ごしていた。

 

 

 

 




びっくりするくらい話が進まない……
書きたいことの量に対して執筆速度が遅すぎる……


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方針会談

アイク視点です


俺とエリスは夕食を終えて、二人で必要の部屋へと来ていた。まわりの内装は最初にこの部屋を知ったときと同じように前世の学校そっくりである。

俺たちは机を向かい合わせにくっつけて、俺は持ってきた食後のデザートとコーヒーを片手に、エリスはいつも持っている赤い本を読んでいた。なんだか前世の学校のようだが、座っている人間の見た目が完全な外人というちぐはぐなこの状況が少し面白い。

 

知り合って少し経ってからわかったのだがエリスはいつも必ず赤い本を持っていて、その本は何でも母の形見なんだとか。エリスのお母さんは早くに亡くなっており、二人いる妹はもし肖像画がなければ顔も覚えていなかったと思うとエリスは言っていた。その本の内容は俺やセドリックが読もうとしても白紙であり何も書いていないように見える。なんでも所有者にしか見えないものらしくステフも知らないらしい。エリスはその本を大切にしており、楽しそうに読んでいる。そして彼女はパンと本を閉じて顔を上げた。

 

「それじゃ今年の方針について話そうか」

「おー。といっても知ってるのはエリスだからエリスに教えてもらうだけだけどね」

 

俺とエリスはお互いに前世の記憶を持っているが、俺とエリスでは覚えているものがかなり違う。俺は全体的に前世でどう過ごしたか覚えている。対照的にエリスはほとんど覚えておらず、読んだ本についてはかなり覚えているらしい。エリスの前世はかなり病弱で闘病生活が長かったらしく、ほとんど本を読んで過ごしていたらしい。そのせいか印象的なのは本についてばかりで他は朧げらしい。その読んでいた本の中でのお気に入りがハリーポッターシリーズらしく、詳細に覚えているようだ。

俺はあんまり読書はしないし、アニメや漫画ばっかりだった上にハリーポッターの映画はあんまり見てないし、見たとしてもほぼ覚えていないため、ハリーポッターについては映画のタイトルとメインの人が二人いて、ヒロイン?の人がかなり美人だったことやシリーズがめっちゃ有名であることしか知らない。

セドリックが原作で結構活躍するらしいとか今年から事件が起こりまくるとか全く知らなかった。エリスはこれから起こる悲劇を可能な限り回避したいらしく、俺はそれに協力することを承諾した。

 

「今年はすることないわよ」

「え?今年から事件起こりまくるんじゃないの?」

「ええ、起こりまくるわ。このお城呪われたんじゃないかしらと考えるレベルでね。でもそのほとんどがその年にならないと起きないし、今年対策できるものは少ないのよ」

 

はぁと溜息をついて紅茶を一口飲むエリス。こんな感じで限定的にしかエリスは未来を語らない。俺が余計なことを知り何か行動をして未来が変わったら困るとか言っていた。未来についてはエリスにしかわからないので疑ったりすることはしないように決めているので彼女がないと言うならないのだろう。

 

「でも覚えておきたい呪文はあるわ」

「またかー」

 

軟体動物のようにぐでんと椅子の上で脱力してだらける。だらしないと叱咤されるが新しく覚える魔法があると言われたらこうなるわ、というのが正直な感想である。

 

「エリスが必要ってことは必ず後で使える魔法なんだけど一つ教えて。今回のと去年の動物もどきとどっちが難しいの?」

「動物もどきじゃないかしら。原作でも使えるのは数人だし、歴史上でも数少ないもの」

「ならまだマシか」

「それでもかなり難易度の高い呪文だけどね」

 

また学校では教わらないような高難易度の魔法を覚えるのか……。

俺とエリスは一年生から二年間、猛練習して動物もどきとなっている(ただし非公認。これバレたらまずいやつだよね)。メリットは少ないけど覚えておいて損はないとのことで必死に練習した。だって動物に変身するってすごく魔法っぽいし。幸いエリスが図書館で見つけた変身術の本の中に一冊すごい書き込みがされている本があって、それのおかげでなんとか習得できた。どこのどなたかは知らないけど、ありがとう、ワームテール、パッドフット、プロングズ。

 

「どんな呪文なの?」

「守護霊の呪文よ、杖から守護霊を出すの。守護霊は人によって様々な形になるのよ。例えばハリーポッターなら雄鹿だし、ダンブルドアなら不死鳥、ジニーなら馬よ」

「そのジニーって人は知らないけど、主人公が使う魔法ってことは確かに使う機会がありそうだね」

「今度用意してくるから、そうなったらステフやセドも誘いましょう」

「あれ、二人も誘うの?前の動物もどきの時は誘わなかったのに」

「動物もどきは秘匿性が大事なの、変身ができても変身した動物の特徴を相手が知っていたら逃げたり隠密に活動することもできないもの」

「なるほど」

 

エリスは賢いな、流石レイブンクローと迷われただけある。結局野心家であるのとグリーングラス家であることでスリザリンになったらしいが。

 

「それじゃあ、今日はもう帰りましょうか」

「そうだね。寮に戻ろう」

「あ、そういえば図書室の近くの部屋にね、鏡が置いてあるの」

「鏡?それがどうしたの?」

「まぁホグワーツに置いてある鏡ってことはもちろん普通の鏡じゃないんだけどね。その鏡はね、人の望みを写すの。名前は『みぞの鏡』。興味があったら行ってみると楽しいかもね」

 

そう言ってエリスは部屋から出て行った。望みを写す鏡か、面白そうだな。そう考えながら俺はハッフルパフの寮へと帰っていった。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

さて俺たちはチョークの劇をやってはいるが、あくまで部活のようなものであり、学生の本分は勉強。俺や宿題の終わっていない生徒は談話室に集まり協力して取り組んでいた。

 

「うわー、終わらない。あと15センチもレポートは書けない。魔法史しんどい」

「あらアイク。そこスペルと文法間違えてますよ」

「嘘だろ!?お願いステフ、嘘と言って」

「こことそこと、あぁ、あとここもだね」

「うわーセドまで!増えた!もうやだー」

「いつも変なミスしてるよね、アイク」

 

ぐでーとテーブルの上に体を預ける。もうやだ、英語嫌い……。元々日本人である俺にとっても文法は地獄である。こっちの人にとってはよくわからないミスをしているらしい。日本語が良いよう……。ただし日本語でも書けない自信がある。

 

「ナタリア、インクが袖についてるよぉ」

「わかってるわよ!急いでるの!そんなの気にならないくらいに!」

「でも後で騒ぐよねぇ」

「それとこれとは別よ!」

「お前はもう少し急げよ、キース」

「え〜、大丈夫だよ〜きっと〜」

「いや、そのペースだと朝までかけても間に合わねぇよ」

 

別のテーブルでは成績やばい組が悲鳴をあげている。まぁ彼らは別に今回に限ったことではないので見慣れたものである。

 

「ねぇねぇ、セドくんやい。もし良かったら参考に君のレポートを出してくれないかい?」

「良いけど、コピーは禁止だからね」

「くっ、ステフ、俺に」

「ダメです」

 

食い気味に拒否られた。残念だ。全く筆が進まない。台本を書くときのスピードが欲しい。なぜあのスピードが魔法史のレポートで出さないのだ。

 

「興味の差ではないですか?」

「あれ、口に出してた?!」

「良いから集中してください。これ以上集中しないでふざけている余裕があるなら新しい洋服を着てみますか?」

 

ステフを見ると笑顔だった。顔に真剣と書いてマジと読む字が出ていた。ちくしょう、心の中で悲鳴を上げながら黙々と書き続けた。後ろで楽しそうにセドリックやケビンが話しているのが聞こえる。羨ましい。あ、そういえば

 

「セド、クィディッチでまたレギュラーになれそう?」

「あぁ、うん。今年もシーカーになりそうかな」

「へぇ、すげぇな流石セドリックだな」

「ありがとう、ケビン。君は今回も主役やるのかい」

「いや、今回はグリフィンドールのやつがやることになった。まぁ劇にはサブメインとして出るけどな」

「アイクのキャスティングかい?」

「いや、今回は俺じゃなくて本人の希望と多数決だから」

「あいつ張り切ってたもんなぁ」

「そうなんだ。ところでアイク」

「ん?」

「ステフが部屋に戻って行ったけど良いの?」

「え?」

 

パッと隣を見るとさっきまで座っていたステフがいない。あれ、いつの間に?そう思ったらステフが服を持ってきいた。今回はテイストをだいぶ変えて黄色いチャイナ服である。スリットがあり、美脚な人間が履けばだいぶ映えそうである。

 

「ちょ、やめてお嬢様!?流石にそれは際どいです!」

「ス・テ・フ、そうお呼びください。それと大丈夫ですよ、アイク。あなたの足はほっそりして綺麗ですから。似合うと思いますよ」

「違、そういう問題じゃ、あ、そうだ、キース、キースの方が似合うはず」

「もう着てますよ」

「え?」

 

ちらりと別のテーブルを見ると赤いチャイナ服に身を包んだキースが目に入った。元々幼い男児のような容姿をしているので子供がコスプレしているようで可愛らしい。彼はその格好のままおもむろに立ち上がり、脚をケビンに振り下ろした。

 

「あちょー!!」

「あだ?!足急に振りあげんなよキース!」

「え〜。なんていうか、こう、拳法って感じがしない〜?」

「どうでもいいけどパンツ見えてるからやめてほしいんだけど」

「可愛いよぉ、キース」

 

適応していた。というか楽しんでいた。服をよく見るとデザインの細かいところが異なり、ステフの洋服に関するこだわりが見えた。

 

「くっ!だが俺は屈しな、あれ、ちょ、待っ」

 

その後書き終わるまで俺とキース、ついでにナタリアはチャイナ服で過ごしていた。ナタリアの脚が綺麗なこととステフが衣類関連の魔法に関して鬼強いことを知りました。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

そして深夜。俺はセドリックを起こさないようにそぉっと起きて、エリスの話していた鏡のある教室へと向かっていた。

動物もどきの能力を得た俺は、動物、アナグマに変身して四本の脚をとことこ動かし静かに歩く。

黒と白の綺麗な毛並みである。たまにエリスがもふもふしたがるので二人きりのときにだけ変身している。

アナグマから人へと戻り、ドアを音を立てずに開けると埃っぽい空気を感じた。中に入りドアをそっと閉め部屋の中を見ると真ん中に鏡が鎮座している。なるほどこれがエリスの話していた鏡か。

 

『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』

 

この謎の言葉が書かれているがこの鏡は人の夢、理想つまりは『のぞみ』を写す鏡。それがなぜか『みぞの鏡』と呼ばれているのなら逆さから読んで

 

『わたしは あなたの かおではなく あなたの こころの のぞみ をうつす』

 

と文はなるのだろう。さて俺の『のぞみ』としてどんなものが写るのだろうか。鏡の正面に立ち何が写るかわくわくしていた。

映ったのは俺とハーマイオニーが仲よさそうに会話している様子だった。あぁ、確かに最近会話はおろか、会うことすらないからなぁ。せっかく同じ学校にいるんだからもっとおしゃべりがしたいなぁ。そんなことを考えているとハーマイオニーがこちらを見て微笑む。なんだか目があったような気がした。そう思っていると突然ハーマイオニーの体が泥のように崩れ落ちた。

 

「ハーミー?!え、どういうこと?俺そんな展開望んでないよ!?」

 

慌てふためく俺を他所に鏡の中の俺は冷静にこちらを向き、微笑んだ。いや、それは気がついたら俺ではなかった。滑らかな絹のような金髪を三つ編みにした一人の女性が写っている。落ち着いた雰囲気がどこかステフに似ているような気がした。しかし、写った女性には口以外の顔のパーツがなく前髪や暗さで顔の全貌がよく見えなくなっていた。驚いていると、唯一あるパーツ、唇を動かし口を開くと声が聞こえた。

 

「はじめまして、ハッフルパフの寮生よ。ヘルガ・ハッフルパフに作られた我が名は『みぞの鏡』。貴方の心を写す鏡です」

 

 

 

 

 




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溝鏡望鏡

「はじめまして、ハッフルパフの寮生よ。ヘルガ・ハッフルパフに作られた我が名は『みぞの鏡』。貴方の心を写す鏡です」

 

そう顔のない女性が俺に言う。落ち着いた声で人を安心させる声だった。口角が上がり、柔らかい笑みを浮かべている。俺はというと完全にキャパオーバーして頭が真っ白になっていた。え?ヘルガ・ハッフルパフってホグワーツの創設者の一人だよね?つか、千年前に作られた魔法道具が未だに実用できてるの?てか喋った!?エリスは何も言ってなかったんだけど?次々と疑問が浮かぶが何から聞いてよいかも分からず口をパクパクと開閉する。

 

「随分と困惑してますね」

 

そう困ったように微笑む女性。といっても口以外無いので雰囲気や声のトーンなどからそう思えるだけだ。

 

「会話はなんて何世紀ぶりでしょうかね。初対面ですし、ここは自己紹介しますか。私は『みぞの鏡』。私の機能と役目は写した人間の心を読み取り、その本人が抱える夢や理想の自分を映し出すものです。ヘルガ・ハッフルパフはあなたがご存知の通りです。ホグワーツの創設者の一人で、彼女は私を用いることで、本人の目標を認識もしくは再認識させて心を支えるために作成しました。ついでにおまけの機能としてもしハッフルパフの生徒を写した際に少し相談ができるように設定なさいました。まぁちょっとしたお茶目です。びっくりさせようと思ったくらいでしょうし、私にできるのはあくまで対話と心を読むだけですので。ですから昨日来たスリザリンの女子生徒、エリスと言うのですか、彼女と会ったときには私は出ませんでしたから」

 

ぺらぺらと喋る女性。随分と饒舌だな。というか俺が思ってることにまでに答えてなかった?いや、でも心を読み取りって言ってたから俺の心を読んだってことだろう。

 

「ええ、正解ですよ。私が表面に現れるのは実に数世紀ぶりですかね」

「久しぶりってハッフルパフの生徒が来たら出て来れるんじゃないの?というかヘルガ・ハッフルパフが作ったなんて話初めて聞いたよ」

 

考えていることが筒抜けなら思ったことを口に出した方が早いと考え、そのまま口にする。

 

「いえ、私は長らく放置されていましたから。過去の校長の一人が偉大なる創設者たちを越えようと、ヘルガ・ハッフルパフが作った私、のぞみの鏡に魔法をかけました。しかし、まぁ失敗しまして、本来なら本人の努力次第で叶う夢しか映さない私の機能は破綻してしまい、絶対に叶うことのない夢、というよりも幻想も映すようになり、本人が強く望んでいることしか映らなくなってしまいました。その結果、私はのぞみの鏡ではなく現実と理想の溝を映す、みぞの鏡と呼ばれるようになりました。私に魔法をかけた校長は自身の失敗を隠すために元々こういう機能と紹介したのです。結果私は放置されまして……そもそもこんな埃のかぶった部屋に誰も訪れませんし、来たとしてもグリフィンドールか図書館帰りのレイブンクローですので」

 

「なるほど、そんな経緯があったのか。それなら俺の望みはハーマイオニーとの対話かぁ。うん、確かにしたい。忙しいし寮も違うからなかなか会えないんだよなぁ」

 

「麗しき兄妹愛ですね。ところで、あなた不思議な記憶を持っていますね?」

 

「不思議な記憶?」

 

「ええ、言語化が難しいのですが、なんというか特定の記憶を覗こうとすると真っ暗になっているといいましょうか。特定の記憶だけ覗けないのですよ」

「え?あぁなるほど」

 

おそらく前世のことだろうか。世界が違うと記憶も覗けないらしい。

 

「あら、あなた前世の記憶があるのですか?珍しいですね」

 

「え、俺以外にもいるの?あ、エリスか」

 

「エリス、あぁ昨日の彼女ですか。彼女はあなたとは感じが違いましたね。魔法によるプロテクトによって記憶が覗かれるのを防いでいましたので。いえそうではなくてですね、前世の記憶を持って生まれてくる魔法使いは結構いるのですよ。前世がカエルだったからカエルと喋れるとか、蛇だったから蛇に変身できるようになったとか。あなたは前世何だったのですか?」

 

「え、人間だったよ」

 

俺がそういうと大袈裟に驚いたようなリアクションを全身でとる。おそらく顔が無いので体で表しているのだろう。お笑い芸人やタレントを見ているようでなんだか面白かった。

 

「人ですか、これは随分と珍しい。というよりも初めて聞きましたね。差し支えなければ少し教えていただけます?私、もうすぐ消えますので冥土の土産にでもお話しませんか?」

「いいけど、もうすぐ消えるってどういうこと」

「シンプルに私の存在が消えることですよ。そもそも私は千年前に作られた物です。千年も魔法が持続していること自体が奇跡のようなものですので。あ、ご安心を。望みを写す機能はもう少し長くかかりますよ。人格を作る魔法の方が複雑ですから」

 

たしかに千年前の魔法道具が未だに動いているのはすごいことな気がする。だけどその理屈でいうならおかしなことが少しある。

 

「じゃあ、城にかかってる魔法もいつか消えるの?それとあの組み分け帽子も」

 

「いえ、その二つは別ですね。この城が建てられている土地は霊脈という魔力の流れの上に立っていますのでそこから魔力を汲む、もしくは当人たちが気づかないほどにうっすらとですが、魔力を城内の人間から徴収してます。組み分け帽子も同様ですね。ホグワーツの校長か被った人間によって魔力が使用されますので」

 

「へぇ、創設者の人たちってやっぱり凄いんだなぁ」

 

「ええ、それはもちろん!!!」

 

声を一際大きくする鏡さん。口調に熱がこもり少し早口になっている。

 

「ええ、皆さんそれぞれ当時もっとも偉大なる魔法使いたちですので。

 

ゴドリック・グリフィンドールは当時戦闘において最強と言われていました。魔法もさることながら身体能力も凄まじく、だから剣なんて魔法使いとはかけ離れたものをホグワーツに遺したのですが他の方々から非難されまして帽子を作りました。

 

ロウェナ・レイブンクローは賢い魔女でした。新たな魔法理論や魔力の効率化などを見つけ、魔法の体系化なども彼女の功績です。まぁ教育者としては彼女自身を水準にするくせがありましたのであまり向いていませんでしたが。彼女は髪飾りを遺したらしいですが、なんでも娘に持ち逃げされたと風の噂で聞きましたよ。

 

サラザール・スリザリンは高貴な方でしたね。知略に富み、一見冷たいように思えましたが人一倍仲間を大事にしていました。そして彼は蛇と会話することができました。ですが悲しくも彼は入学者について他の創設者たちと意見が割れて去って行きましたが。なんでも秘密の部屋なるものを作ってそこに使い魔となるようなものを遺したのだとか。

 

そして、私を作ったヘルガ・ハッフルパフさま!!!彼女は精神や魂に関する魔法に長けておりまた彼女の料理は古今東西に通じておりとても美味でした。彼女は優しく!気高く!美しい!彼女だけでしたよ、誰にでも分け隔てなく教えようと考えたのは!!」

 

凄い語るなぁ。というかヘルガ・ハッフルパフ以外若干貶していなかったか。

それから俺たちは創設者についてや現代の魔法世界について、マグルの世界について話をした。結局前世についての話はしなかったがかなり満足したようだった。

 

「ふふふふ、楽しかったですよ。アイク」

「俺も楽しかったよ」

「最後に会えたハッフルパフの生徒があなたでよかったです。さようなら」

「うん……さようなら」

 

ドアを閉める間際に見た彼女の顔は最初に浮かべた安らかな笑みだった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

ドアが閉められたのを見届けると、みぞの鏡は笑みを消して部屋の一角の方へと顔を向ける。

 

「あなたも私と喋りたいですか?」

 

一見何もないように見えた空間がゆらぎ、一人の老人が姿を現わす。

 

「流石にバレていたようじゃな。鏡に人格があったとは驚いたのう」

 

ホグワーツ魔法魔術学校の現校長アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアである。

 

「私はハッフルパフの生徒以外には顔を出しませんので。あなたはグリフィンドールですよね。そもそも歪められた時点で私は壊れたと言っても過言ではないですし。それであなたは今日はどうしますか?もう二度と手に入らない幻想をゆったりと眺めますか?」

「いや、やめておこうかの。手に入らないものを求めても仕方ないとようやく学んだからの」

「賢明な判断です。それにしてもアイクは良い子ですね。ハッフルパフの寮生に相応しい人間ですよ。……ホグワーツの現校長よ、これから用心なさい。今後この学校、否、魔法世界に大いなる災いがもたらされます」

「……それは予言かの。あなたには未来を見る力がないと思うんじゃが」

「ええ、私にはありませんよ」

 

そう微笑んでみぞの鏡の姿は鏡に溶けるように消えていった。

 

「『私にはありません』か……」

 

ダンブルドアの呟きは埃まみれの部屋に消えた。

 

 



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光彩奪目

ハーマイオニー視点とアイク視点です


待ちに待った土曜日がやってきた。授業以外の時間はとても退屈で、チョーク劇について調べたりしていた。といっても一昨年できたばかりなので文献もなく、上級生に聞いたり写真を見せてもらったりしただけだけど。

 

会場と指定されたのはホグワーツ城から離れた屋外であった。昨日まではなかった特設ステージがある。なんでも最初は中庭でやっていたが、規模が大きくなり観客数も増えたことで即席のステージを作ることになったらしい。宿題も終えてやることも特になくなってしまった私は早めに行こうと開始一時間前に着いたが会場はすでに人だかりで賑わっていた。その様子に私は改めて劇の人気というものを再認識した。

 

がやがやと人の声で騒がしいあたりの中で私は一人で本を読んでいたが、騒がしさにあまり集中できずにいた。いや、集中出来ていないのは騒がしさだけではない。なんとなく寂しさとも苛つきとも取れるような感情が浮かんでいる。

 

大して集中もできないで文字をただ目で追う作業を続けていると、打楽器の音が大きくあたりに響いた。本から目を上げてステージの方を見ると一人の男子生徒が白い帽子に白いローブを身に纏っていた。

 

『レディースアンドジェントルメン!!!』

 

魔法で大きくされた声が会場に響く。私にはその声に聞き覚えがあった。これは、兄の、アイクの声だ。なんでアイクがこの場に。いや、確か初日にアイクに対して感想などもあった。もしかして……。疑問が次々浮かんでいき、氷解していく。

 

『皆さまにお集まりいただき感謝感激、恐悦至極でございます!さぁさぁこれより私たちがお見せ致しますのはひと時の夢物語。激しく、切なく、儚い。そんな幻想をお楽しみください……』

 

ばさりとローブを翻し、ステージの裏にアイクは消えていった。次に舞台裏からまるで生きているかのように粉が蠢き、瀑布のごとくステージに広がる。

 

《昔、昔ある所に一つの国がありました。そこにはとても綺麗なお姫様がいました。彼女にはとても仲の良い友達がいました。ですが、彼は平民でお姫様とは身分が違いました》

 

白い粉が蠢いていき、お姫様として人型と柔らかなドレスを型取り、少年として貧しそうな衣服を纏った人型が現れ、パステルカラーに色づいてく。

 

《少年とお姫様はひっそりと町の外れにあるお花畑で会っていました》

 

真っ白いチョークが泡立つようにして彩り豊かな花畑へと変わる。あたりにまるで本物の花畑がそこにあるかのようにステージから様々な花の香りが流れ出る。

二人はそこで鬼ごっこをしてみたり、花冠を作ったりして仲睦まじく遊んでいる。

 

《ふたりは成長したある日、一つの約束をしました》

 

花畑の上で二人がゆっくりと立ち上がる。体をあげると少し二人の背は伸びていた。

 

『もっとぼくが大きくなったら君を連れてどこかに行くよ』

『ありがとう。私、嬉しいわ。それじゃあ七年。七年後のここに来てね、私待っているわ。ずぅぅっと待っているから』

 

二人が体を寄せあうようにしてハグをすると、花畑から大量の花びらが逆巻き、二人の姿が空気に溶けるようにして消えていった。客席から口笛が聞こえる。

 

《ですが、この二人の約束の様子を見ていた人物がいました。悪い魔女です》

 

色とりどりの花畑とは対照的に黒一色の衣服を見に纏った顔の醜い魔女がいた。身の丈ほどの杖で腰の折れた体を支えている。

 

《彼女は昔国王に敗れて醜くなってしまいました。彼女は憎き王の娘と少年、幼い二人の約束を引き裂いてやろうと考えました》

 

花畑が消えてさぁっと動いてボロボロな家の形をつくり、少年が中で生活している。その家にひっそりと魔女が現れた。家の扉をこんこんとノックして少年に声をかける。

 

『もしもし誰かいませんか?美味しいパンを売り歩いています。今なら安く売りますよ』

『本当ですか?ならおひとつくださいな』

 

少年がドアをあけて老いた魔女に話しかける。すると魔女は醜い顔を更に歪めて笑みを浮かべる。すると何らかの呪文を唱え、杖を少年へと向けた。慌てて逃げる少年だったが間に合わず、淡い水色の光線が少年へと直撃する。

 

少年の体はメキメキと音を立てて変化していき、体は大きくなっていく。拡大された体に負けるようにして脆い家は崩れ落ちた。急成長が終わると少年の体は一匹の龍へと変化した。赤い鱗に大きな翼、大きく開かれた口に鋭く尖った牙。獰猛な目つき。少年が元々持っていた優しげな雰囲気は消え去り残ったのは一匹のドラゴンだった。急に発生した変化に対しておおっと大きなどよめきが起こる。

 

ばさりと翼を開いて空を飛んでみると家の残骸は宙に舞い、豪風があたりを襲った。まるで本物の風が吹いたかのように客席にまでも風が吹き溢れて短い悲鳴が上がる。

 

《少年は泣きました。ですがそれすらも咆哮に変わり、町の人は悲鳴をあげました。やがて国の騎士が彼を退治するために集まり、彼は泣く泣く町から逃げました》

 

屈強な騎士達が次々と集まり武器を片手にドラゴンを、少年を退治しようと襲いかかる。少年は怯えて口を開くと炎が口から溢れ出て来た。赤くきらめくような粉が口から吐き出されて、まるで本物の炎のようなリアリティである。彼はそんな自身と騎士達に恐怖して慌てて翼で空を掴み、大きく羽ばたいてどこかへと飛んでいく。

 

《少年、否、ドラゴンは二つ隣の町にある森へと向かい、一人で嘆いていました》

 

ナレーションの声が響き渡り、ドラゴンは森で静かに変化を嘆いた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

どんどん物語は次に進んでいった。勇ましい姫は側近の騎士達を連れて一人、少年を探すために旅に出る。ドラゴンとなってしまった少年は姫さまと交わした約束の為に呪いをとくための冒険をしていた。姫は次々と魔物を倒していき、少年は他の魔女や魔法使いを探すために色々な国を訪れる。

 

お伽話が触れたら崩れるような幻想的に映し出され、次々と場面は変わり、物語は進んでいく。

 

そして場面は最後、約束の花畑にドラゴンと姫は再会した。姫さまは変化した少年を一瞬で見抜き、また少年も全身に纏う鎧の上からでも姫だと気付いた。お互いに武器を放り投げてキスをする。それだけで少年の体は元に戻る。ふたりはお互いの体をぎゅっと抱きしめて沈む夕日と花吹雪の中でそっと手を繋いでキスをした。

 

 

拍手喝采の中で二人の姿は消えていき代わりにアイクが舞台に現れる。大勢の人が感動している中で私もその一人となっていた。優しい物語、儚い風景、命を吹き込むような声、劇を構成する全てに心奪われていた。

 

「さぁさぁ、皆様今回の物語はお楽しみいただけでしょうか?」

 

アイクが観客に呼びかけるとみんなが「面白かったよ!」「感動した!」「ドラゴンすげぇ!」など大声で感想を叫ぶ。そんなリアクションに対して満足したようにアイクは笑った。

 

「皆様に楽しんでいただけたようで、私たち劇団エリュシオンの団員全員が喜びで心がいっぱいでございます。さて、此度の物語はこれにてお終い。次の講演をお楽しみください」

 

そう言ってアイクはぺこりと綺麗にお辞儀をした。するとチョークの粉の波が後ろから流れ出て、登場したキャラクターが現れる。彼らもアイクの後に続いてぺこりとお辞儀をした。

 

そんなお伽話のような光景に感動しながら私は同時にとても落ち込んでいた。アイクはあんなにこの学校を楽しんでいるというのに、対照的に私はどうだ。友達もできず、成績が優秀なだけである。

 

兄への尊敬と嫉妬という感情が絡み合った複雑な心境の中、私はせめて近いうちに来るハロウィンパーティーまでに友達を一人でも作ろうと決心していた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

そんな妹の決心は露知らずに俺たちエリュシオンは部室にて大いに盛り上がっていた。厨房からハッフルパフ生が貰ってきたごちそうと共にバタービールや各々好きな飲み物を片手にワイワイ喋っていた。

 

「いやぁ、良かったなぁ!」

「ミスらしいミスもなく終えて良かったです!」

「楽しかったねぇ、相変わらずエリスは悪役が似合うねぇ」

「ありがとう、フローラ。私、悪い子だから」

「おぉ、今の笑顔悪役っぽい」

「それにしてもケビンたちがドラゴンを主役に使うのに苦労してた中で結果としてあそこまで上手くなるとは感動したよね」

「あれ、マジで大変だったんだぞ!!本当に!!」

「「俺たちの新発明の核のおかげだな」」

「お花畑綺麗に出来たよね」

「色付けにこだわったかいがあったよなぁ、あれ」

 

ぎゃあぎゃあと賑やかに劇の感想を述べてやれどこが良かった、今までどこに苦労したとか、あそこのシーンが綺麗だったとか楽しげに話し合う。がやがやと過ごしている。そんな様子を俺とステフは遠巻きにゆったりと見ていた。

 

「私、本番よりも劇の練習や今みたく劇の成功を祝うときのほうが好きかもしれません」

 

ぽつりとステフが溢れるようにそう言った。

 

「だってこんな光景、この学校の中でここ以外見れませんもの」

 

ステフの視線の先を見ると俺は同意した。グリフィンドールとスリザリンが肩を組んで一つのことを喜び、ハッフルパフとレイブンクローが一つの議題を論じる。確かにここ以外でやっていたら目を疑うような光景だ。

 

「最初ハッフルパフ以外の生徒を誘うってなったときに他の人たちは難色を示していましたが、私嬉しかったのですよ」

「あー、確かにあんまり良い顔してなかったよね。だけどみんな良い人だから仕方ないなぁって感じだったけど。にしても嬉しいってなんで?」

「だって寮が違うってだけで不仲になるのは悲しいことですから。寮ではなくて個人で、しがらみも無く仲良くできる場所が欲しかったのです」

 

そこで一息区切り、ステフは持っていたバタービールをごくりと飲み込む。ジョッキをテーブルに置くとわずかに赤みを帯びた顔で微笑んだ。

 

「だから、ありがとうございます、アイク。私に、いえ、私たちにそんな場所を与えてくれて」

「いや持ち上げすぎだよ、元はエリスの提案だしね」

「それでもエリスには出来なかったことですから。エリスは自身とその周囲を守るのに必死ですから。なので素直に受け取ってください。ありがとう、アイク」

「……どういたしまして」

「相変わらず褒められるのに弱いですね、顔が赤いですよ。いい加減慣れませんか?」

「イギリス人のストレートな褒め方に弱いことをここ数年で学んだよ」

「あなたもイギリス人でしょ」

 

はぁとステフが溜息をついた。それから俺たちは顔を見合わせて笑った。

 

「あ、団長と副団長が良い雰囲気になってるよ!!」

「何ぃ!野郎ども妨害だ!」

「あなた女性なんだからもう少し言葉遣いをちゃんとしなさいよ」

「野郎以外も出動だぁ!」

「団長、髪伸ばしてよ。前の方が可愛かった」

「ステフ!こっちに美味しいお菓子があるから食べに来な!」

「あ、ちょっとそれ私の!」

「一番、オズワルド歌います!」

「いーぞ、もっとやれぇ!!」

 

急に来た人の波に押し潰されながら確かにこんな風にみんなが仲良くできる団体が作ったのは良かった。俺はとても楽しんでいる。

 

 

 

 




ハロウィンパーティーは原作通りなので飛ばします。


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洗耳恭聴

ハリー視点です


僕とロン、ハーマイオニーはハロウィンパーティー以降仲良くなり、三人で行動していた。僕たちはスネイプが三頭犬が守っている四階にある部屋に隠された何かを盗もうとしていると疑っていた。

 

ハーマイオニーいわく、僕にクィディッチの試合中呪いをかけていたのもスネイプだと言う。ハグリッドに相談してみても「ダンブルドアが信用しているから大丈夫」の一点張りで何を隠しているかも教えてくれなかったけど、僕たちは一つヒントを得ることができた。なんでもニコラス・フラメルという人物が関係しているらしい。

 

それから僕たちは図書館でニコラス・フラメルについて調べたが一向に手がかりは見つからなかった。ロンのお兄さん、パーシーに聞いても「そんなことより勉強しろ」と言われただけだし、双子に聞いても「「知らない」」とだけしか返ってこなかった。

 

行き詰まってどうしようかと僕とロンが悩んでいると、ハーマイオニーが一つの提案をして来た。

 

「仕方ないわ、私の兄に聞きましょう」

「え、君、お兄さんいるの?」

「ええ、いるわ。成績も優秀だし多分知ってると思うわ」

 

僕とロンはハーマイオニーの兄について想像していた。ガリ勉のハーマイオニーの兄ということはおそらく相当なのだろう。メガネでボサボサの頭で猫背で暗そうな人間をイメージしていた。

 

「ねぇ、君のお兄さんってどこの寮なの?」

「レイブンクロー?」

「……ハッフルパフよ」

「「ハッフルパフ?!」」

 

意外すぎて僕たちは声を揃えて驚いた。言っては悪いがハッフルパフはあまり成績が良くなかったりマイペースでおっとりしている生徒の集まりなので、ハーマイオニーの兄というイメージからは程遠かった。唖然としている僕たちを他所にハーマイオニーはテキパキと荷物をまとめて談話室を出ようとしていた。僕たちは慌ててハーマイオニーを追いかける。

 

「意外だね、てっきり君のお兄さんなんだからレイブンクローかと」

「どういう意味よ、それ」

「それにしても君にも兄がいるならもっと先に言ってくれればいいのに」

 

ロンがそう声をかけるとスタスタと歩いていた足をピタリと止める。どうしたんだろうか。珍しいことにハーマイオニーが口をもごもごさせて言い淀んでいる。

 

「あのね、恥ずかしいから本当はこんなこと言いたくないんだけど、私、あんまり兄に頼らないようにしてるの。今まで勉強の仕方や友達と遊ぶこととか色んなことを兄から学んできてて、頼りっきりだったの。兄は私にとても甘いから今までは甘えてたけど、兄と同じホグワーツに入学することになって今年からは一人でなんでもしようと思っているのよ」

 

そう早口で言ったハーマイオニーの顔は羞恥で真っ赤だった。

 

「だから本当は頼りたくなかったんだけど仕方がないから。さぁ行きましょ」

 

そう言い終えるとまた早足でスタスタと歩いてしまった。

 

「……少なくとも友達は自分でできたもの」

 

小声でハーマイオニーが何かを言ったようだけど僕たちには聞こえなかった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

その後速度を落として三人で向かう。

 

「ハーマイオニー、君のお兄さんはどこにいるんだい?」

「五階にたぶんいると思うわ」

「五階ってとくに授業で使われる教室もなにもないと思うんだけど」

「あるのよ、普段から使っている部屋がね」

 

階段を登り終えて五階に着き、一つの扉の目の前でハーマイオニーは足を止めた。扉には赤い獅子、青い大鷲、緑の蛇、黄色の穴熊が描かれていた。四匹はそれぞれ仲良くじゃれ合っている。ハーマイオニーがドアノブに手をかけようとすると威嚇するように四匹が吠えたり、鳴き声をあげる。

 

「きゃっ」

 

短い悲鳴をハーマイオニーを上げて手を退ける。するとまた四匹は扉を自由に遊び始めた。ハーマイオニーはドアノブをつかんだ手をぷらぷらと振るう。

 

「多分、この扉には各寮と同じようにセキュリティがあるんだわ」

「じゃあ僕たちは入れないってこと?」

「ええ、おそらく。入るための手順があると思うんだけど私はそれを知らないしあなた達もわからないでしょ」

 

僕とロンは大人しく首を縦に振るう。ハーマイオニーもどうしたものかと悩んでいた。僕たちはみんなハッフルパフの寮の場所を知らないし、困っていた。

 

「そもそもこの部屋ってなんの部屋なんだ?四寮全ての動物が描いた扉があるって僕は初めて知ったんだけど」

「劇団エリュシオンの部屋よ」

 

それを聞いて僕は魔法の劇を思い出していた。 触れれば壊れてしまいそうなほど脆そうに見えたのに、炎やドラゴンには迫力があり、花や木々には夢のような美しさがあった。登場するキャラクターは命があるかのように動き、物語には切なさと心が熱くなるような感動があった。

 

「エリュシオンってあのチョーク劇のやつだよね?君のお兄さん所属してるんだ」

「あら、団員のだれかの妹さんですか?」

 

僕がハーマイオニーに聞くと後ろから声が聞こえた。振り返ると柔らかそうな金髪に優しげな眼差し、どこか上品な雰囲気の女性が立っていた。ネクタイを見ると黄色、つまりハッフルパフの生徒だ。優しげな声が続いて聞こえた。

 

「あなた、誰の妹ですか?あ、もしかしてあなたがハーマイオニーですか?」

「は、はい」

 

ゆったりとした動作でハーマイオニーの手をふんわりと掴むと、ハーマイオニーは雰囲気に圧倒されたようにどもりながら答えた。ハーマイオニーの返事に満面の笑みを浮かべる。

 

「なるほど、あなたがそうですか。それでアイクに何か用があるんですか?」

「えっと、はい、アイクに質問があって」

「そうですか、それはアイクが喜びますね。アイクは今寮の談話室に居ますから待つ間しばらく中にいませんか」

「お言葉に甘えさせてもらいます」

 

ハーマイオニーの手を放してローブの中から一つの巻物を取り出し、それを扉の動物達に掲げると動物達はピタリと動きを止める。そしてドアを開けて入っていった。

 

 

* * * * *

 

 

彼女のあとをついて部屋の中に入ると白いローブを身に纏った人々がチョークでできた動物達で戦っていたり、怪しげな色をした薬品で実験していたり、まったりとお茶とお菓子を楽しんでいたりと様々な様子だった。

 

金髪の彼女はロッカーの中から白いローブと白い帽子を取り出してかぶり、テーブルとソファに僕たちを引き連れて座った。

 

「さて、それではみなさん、紅茶はお好きですか?確かまだあったと思うので」

「あ、あの」

 

とんとんとマイペースで進んでいく彼女を遮るようにハーマイオニーが言葉を発する。

 

「はい?どうかしましたか?アイクの妹さん。いえ面倒ですし失礼ですね、ハーマイオニーと呼んでもいいですか?」

「ええ、良いですよ。あのそれで私たちにあなたの名前を教えてもらえませんか?」

 

ハーマイオニーがそういうと彼女は紅茶を用意し終えて振っていた杖をしまう。

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はハッフルパフの三年生。ステファニー・ペンテレイシアです。ステフとお呼びください。それでみなさんのお名前は?」

「私はハーマイオニー・グレンジャーです。えっと、アイク・グレンジャーの妹です」

「あなたの名前は度々聞いていますよ。あなたのお兄さんはあなたのことを相当溺愛していますから」

 

ハーマイオニーが照れたように顔を赤らめた。そんな様子をステフは微笑ましそうに見ている。続いてロンの方を向いて視線で促す。

 

「えっとロン・ウィーズリーです。本名はロナウドだけどロンってみんな呼んでる」

「あらウィーズリーってことはフレッドとジョージの弟ですか?」

「うん。二人を知ってるの?」

「ええ、彼らも劇団に所属してますし、そもそもホグワーツで彼らを知らない人はいないんじゃないですか?」

「あの二人も入ってるの?!」

「裏方メインですけど。というか今もいますよ」

 

そういって指差されたほうをみると白い帽子とローブを被った双子と他に女子生徒一人が何らかの悪戯グッズを作っていた。蛍光色の薬品がフラスコの中で揺れていてとても不気味で嫌な予感しかしない。

 

「それであなたのお名前はなんですか?」

 

視線を双子たちから戻すとステフが僕たちに紅茶を配り終えて、視線を最後に僕に持ってきていた。

 

「えっとハリー・ポッターです」

「あら、あなたがかの有名なハリー・ポッターですか」

 

ステフはびっくりしたような顔をした。そう言われても僕にはそんな偉大なことをしたという実感がわかない。周りに言われるほど僕自身がそんな凄い存在と感じていないのだ。そんなことを考えていたら顔に出ていたのか、くすくすとステフが笑う。

 

「少しあなたはアイクに似ていますね」

「僕がハーマイオニーのお兄さんに?」

「ええ、そうです。彼も自分のなしたことに対して評価が低いですから」

 

まぁ自覚の有無という差はありますけどね、そう笑顔で言うと紅茶を飲んで一息つく。ステフはカップを置くとぽんと思い出したように手を叩いた。

 

「そういえば、まだアイクに連絡していませんでしたね。彼は妹が来たと聞けばすぐに来るでしょう」

 

先ほど取り出した巻物を開いて紙に触れてからペンを取り出して何かを書き込む。その様子を不思議に思いながら僕たちは黙って差し出された紅茶を飲んだり、クッキーを食べていた。ドライフルーツが練りこまれたクッキーはとても美味しく、紅茶にも会う程よい甘さである。

 

「ステフ、その子たちって新しい入部希望者?」

 

そばに一人、すらりとした高身長の黒髪の女性がやって来た。ステフとは方向性が異なるが彼女もまた美人である。

 

「違いますよ、エリス。アイクの妹さんですよ。なんでもアイクに相談したいことがあるそうです」

「あら、あなたがアイクの妹。彼のあなたへの愛情は凄まじいわよ」

 

楽しげに笑いながらハーマイオニーに話しかける。ハーマイオニーは本日何度目か顔を真っ赤にしていた。彼女はステフの隣に座り、長い足を組む。

 

「はじめまして、エリス・グリーングラスよ。よろしくね」

 

彼女が自己紹介するとロンの体が強張るのを感じた。どうしたのだろうか?

 

「あなたたちの名前は?」

「右からハーマイオニー・グレンジャー、ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリーですよ」

「へぇ、アイクの妹に、悪戯双子の弟、それにハリーポッターね。みんなグリフィンドール?」

「ええ」

「そう、少し残念だわ。私のとこの子が入りたいって子も少ないしね。可愛い下級生が欲しいわ」

「スリザリンからは難しいですから」

 

その言葉に僕とハーマイオニーの体が固まった気がする。エリスはスリザリンなのか。ステフが少し悲しげな顔をして僕たちを見ていることに気がつかなかった。エリスは僕たちやステフが飲んでいる紅茶や出されたクッキーを見て驚いた表情を浮かべる。

 

「ステフ。これナタリアのオススメの紅茶よね。しかもこのクッキーあなたが焼いたものでしょ。歓迎してるのね」

「だって自分の寮でも劇団でもない下級生の面倒を見るのは初めてですし、みんな可愛いですもの」

「ステフらしいわね」

 

部屋のどこからかパンと破裂音が響いて悲鳴が聞こえる。僕たち三人が慌てていると、対照的に二人は落ち着いた様子である。

 

「何の音?!」

「また誰か何かしたんでしょ。双子かレイブンクローのどっちかか両方ね」

「毎度賑やかですね」

 

のんびりと紅茶を飲む二人に他の生徒が詰め寄ってきた。

 

「エリス、双子とフレデリカの悪戯でダーナの髪が蛍光ピンクになっちゃった」

「またあの三人が首謀者?フレデリカも外では大人しい癖に。それじゃ三人ともごゆっくり。多分これから何度か会うことになると思うから」

 

がたりと椅子から立ち上がりエリスは事件現場へと駆けていった。遠くから「逃げろ」という双子と女子の声と追いかけるエリスの声が聞こえた。

 

「ふふふふ、素敵でしょ」

 

エリスが双子を追いかけ回し、髪が蛍光ピンクになった女子生徒を治そうと他の生徒が何かの呪文をかけている。それ以外の生徒たちはいつものことと慣れた様子で傍観していた。そんな様子を見てステフが笑いながら僕たちの方に話しかける。

 

「こんな光景ホグワーツの他のどんなところで見れないと思いますよ。グリフィンドールとレイブンクローの生徒が共同開発した悪戯でスリザリンに魔法をかけること。それをグリフィンドールの他の生徒とハッフルパフの生徒が治してあげようとすること。スリザリンとグリフィンドールが同じテーブルを囲んでお茶を飲むこと。レイブンクローがハッフルパフの生徒の提案に耳を貸して試すこと。みんなが仲良くするってことは素晴らしいことだと思いませんか」

 

確かに他のどこにいても生徒たちがここまで寮を問わず仲良くしている風景はないだろう。……なぜか髪がさらに蛍光オレンジになったスリザリンの女子生徒が双子のどちらかにマウントポジションを取っているのは見なかったことにした。

 

「ここは寮関係なく仲良くできる場所ですよ。誰がどこ出身かだけで、どこの家に生まれたかだけで、どんな人か決めるなんて馬鹿らしいですもの」

 

そういって優雅な手つきでお茶を注ぐステフ。確かにスリザリンとグリフィンドールがじゃれあったり、心配したりなんてここで目にするまでは想像つかなかった。

 

「ですから貴方たちも寮だけで判断してはいけませんよ。仲良くしろとは言いませんがね」

 

そういってパチリとウィンクするステフはとても優しげだった。

 

 

 

 

 

 

 




質問するだけでどれだけ書いているのやら……


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質疑応答

 

しばらくステフを含めた四人で話をしていた。クィディッチのことや授業のこと、劇での裏話など聞いたことがないような話をたくさんしてもらっていた。談笑していると、突然部屋の扉が勢いよく開かれる。そして飛び出すように一人の男子生徒が入ってきて、その後遅れて一人の高身長な男子生徒が入ってきた。二人とも黄色のネクタイであり、つまりハッフルパフの生徒だ。小柄な方は辺りを見回すと、こちらを見つめて固まり、それから駆け出してきた。

 

「ハーマイオニー!!」

 

目にも留まらぬ速さでこちらへ走り、座っているハーマイオニーにハグをしてから手を握りしめる。

 

「ちょっと、アイクやめて!」

「久しぶりだね、ハーミー!まさかハーミーの方から来てくれるとは嬉しいよ!!」

「アイク、ハーマイオニーが嫌がってますよ、手を離しなさい」

 

ステフが少し強めの口調で言うとはっとしたような顔で大人しく手を離した。そしてまじまじと僕はハーマイオニーの兄、アイクを見る。彼は僕が最初に抱いていた印象とは全く異なる容姿をしていた。短く切られた栗色の髪に、メガネもかけておらず活発そうな目つき、小柄ながら健康的な体つき、少年らしさが抜けきっていない少し幼い印象を受けた。どうやらハーマイオニーは前に言っていた通り兄に頼らないようにしていたらしく、久々に会えたらしいアイクはとても喜んでいるようだった。

 

「いやいや、ハーマイオニーが来てくれるとは本当に今日は最高の日だよ!」

「先ほど談話室では魔法史のレポートが出るなんて最悪な日だ!とか言ってませんでした?終わりましたか?」

「うぐっ」

「セドに見てもらってさっさと終わらせるとか息巻いていたじゃないですか?」

「結局終わらなかったけど、妹が来たって知って部室でやるって言うからこっちに来たんだよ」

「あなたがここに来るのは珍しいわね、セド」

 

アイクの後ろから先ほどアイクに遅れて入って来た男子生徒が現れた。背が高くハンサムで、アイクには少年らしい可愛さがあったが、彼には落ち着いた雰囲気でかっこよかった。初対面のはずだが僕は彼をどこかで見たことがある気がする。

 

「普段はクィディッチで忙しいからね」

 

その言葉で思い出した。この人はハッフルパフのシーカーだ。確か名前は……。

 

「やぁはじめまして、ハリー。僕はセドリック・ディゴリー。ピッチ以外で会うのははじめてだね」

「よろしく、セドリック」

 

そう出された手を握る。プレイ中は集中してるため気がつかなかったが整った顔立ちをしている。それからセドリックはロンと自己紹介をして、ハーマイオニーとアイクを除いた四人で話をしていた。ハーマイオニーに対してアイクがかなり質問をしたり、嬉しそうに話をしていた。

 

「本当に妹、ハーマイオニーのことが好きだね、アイクは」

「そんなにアイクはハーマイオニーの話をしてたの?」

「ええ、いつも『俺の妹は賢いんだぞ』とか自慢してましたものね」

「確かに頭は良いよな」

 

そうこう話しているとエリスが戻って来た。首謀者と思われる双子とレイブンクローの生徒が正座させられているのが見えたので解決したのだろう。

 

「エリス解決したのですか?」

「ええ、何とか。全く面倒な魔法薬を作ったものだわ、スコージファイ使っても消えないどころか、更に色が派手になるんだもの」

「ここはいつも賑やかだよね」

「創作意欲が凄いですね、彼らは」

「勉強にもその熱意を向ければ良いのにね」

「少なくともあの双子には無理だわ」

 

コポコポとエリス用にステフがカップに紅茶を注ぐ。エリスはそれをため息まじりに飲み込み、一息ついた。それから僕とロンの方に視線を向ける。

 

「それで、あなたたちは何か質問があるんじゃないのかしら?それってアイクじゃないとマズイのかしら?」

「えっと……」

 

そう聞かれると僕とロンは言い淀んでしまった。別にアイクである必要はないが、これは大多数に話していいものか。それにエリスはスリザリンだ。もしスネイプに伝わってしまったら大変なことである。

 

「アイクは成績優秀だけど、私やセド、ステフもなかなか優秀なのよ」

「まぁアイクを含めた四人の中でもセドが一番優秀だと思いますけど」

「そうかな?わりとみんな得意分野別々だからみんな同じくらいだと思うけど」

「結局全てが高水準なセドが一番良いと私も思うけど」

 

答えあぐねている僕たちをよそに三人は会話を進める。どうしたものかと悩ませていると一段落ついたらしいハーマイオニーが僕たちを呼んだ。

 

「ロン、ハリー、こっちに来てくれるかしら」

 

その指示に従い、僕とロンは三人に挨拶をしてからアイクとハーマイオニーの元へ向かった。

 

「それでハーマイオニー。質問ってなんだい?」

「アイク、ニコラス・フラメルって知ってるかしら?」

「ニコラス・フラメル?ええっと確か錬金術で有名な人だよ」

「錬金術?」

「うん、なんでも賢者の石を作ったのだとか。その石を使えば永遠の命が手に入るとかなんとか」

 

なるほど!!たしかにハグリッドが金庫から持ち出したのも小さな小包みだった。石と考えても不自然じゃない大きさだ。永遠の命。スネイプの狙いはそれか!僕たちは顔を見合わせてアイクに感謝を言ってから部屋を後にした。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

去っていく三人の背を見ながら俺は不安に思っていた。今まで俺は純粋に魔法とこの学校を楽しんでいた。だってスリルはあっても危険はないし、劇をしたりして喜んだり苦労したりしていただけだったのだから。でもエリスの知識通りならこれからは危険なことが起こる。しかも命がかかるような事態が。エリスは今年は余計なことをしなくても誰も死なないと言っていた。しかし、それでも俺は妹と彼女の友達が心配なのだ。

 

「アイク、どうしたの?遠い目してたけど」

「妹に友達ができて嬉しさと寂しさが絡み合っているのではないですか?」

「なるほど」

「俺を差し置いて完結しないでよ!あってるけどさ!」

「本当にシスコンね」

「うるさいなぁ!家族なの!大事なの!!」

「はいはい」

 

エリスに軽くあしらわれる。ちくしょう、なんか悔しい。

 

「アイク、あとで話があるの。少し付き合ってくれる?」

「いいけど、今じゃダメなの?」

 

俺がそういうと俺の隣を指差す。視線を横にするとセドリックが笑顔だった。

 

「じゃあ、魔法史のレポートやろうか」

「うわぁー、忘れてたのに、うわぁー」

「下級生の前ですし、団長らしくしっかりしましょうね」

「さてはその意図もあったな、ステフ」

「何のことやら?」

「いいから早くペン持って書こうか」

「ちくしょう!」

 

 

* * * * *

 

 

魔法史のレポートを書き終えて場所を変えてエリスと二人で必要の部屋である。部屋の内装はいつもと同じく前世の学校だった。

 

「さてようやく二人きりね、アイク」

「色っぽく言われても……」

 

わざわざ髪を耳にかける仕草を間近でされるが、それよりも俺はエリスに聞きたいことがあった。

 

「ノリが悪いわね」

「それより今年起こることを教えて欲しいんだ。ハリー・ポッターが僕たちに訪ねるなんて原作にはなかったんでしょ」

「……ええなかったわ。だって原作には私たちいないもの。本当は教えなくても良いことしか今年は起こらないから別にいいかと思ってたんだけどね。今の貴方は教えなかったら勝手に行動するだろうし、そんなことされるよりは教えたほうがマシよね」

 

そう一息つくとエリスは赤い本をローブから取り出して、黒板にチョークで文字を書き始める。なんだか先生が板書しているようである。

一通り書き終えるとこちらを振り向いた。

 

「まずはなぜか今年進入禁止になった四階について話すわね」

「あぁ、知ってるよ。ケルベロスがいる場所でしょ」

 

グリフィンドールの悪戯双子とステフ、セドリックと共に一度行ってみたのだ。ステフは純粋に興味があって、セドリックはみんなのストッパーとして同行した。俺たちがそこで見たのは三つ頭がある巨大な番犬であり、その姿や獰猛性から俺たちは逃げ出した。が、しかしステフだけは違った。獰猛な番犬に対してまさかの「可愛い」と発言して、たまに餌として肉を与えているらしい。流石に今はもう俺とセドリックによる説得に応じてやめたが。

俺がこの話をエリスにすると目を丸くしていた。

 

「……なんというか、ステフはたまに想像もつかないようなことをするわね」

「あのときは犬とステフの両方が怖かった……」

「これからは危ないから絶対に近づかせないでね。本当に、絶対によ」

 

真剣な顔で忠告してくるエリス。いつになく真面目な顔である。それから俺に対して説明を始めた。

 

四階の部屋には賢者の石が隠されていること。それをスネイプが狙っていると三人は勘違いしてること。本当はクィレルが狙っており、クィレルはヴォルデモートをその身に宿していること。三人が守るために戦うこと。

 

そういったことを黒板を使ってわかりやすく説明された。危険はあるものの、命の危機があるわけではないという。

 

「初めて私の目的を言うけど、私の目的は可能な限り死者を無くしたいの。そのためにはまだ怪しまれるわけにはいかないし、アイクにも協力してもらいたいから今年は普通に過ごすこと、約束してね」

「わかった」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「それで、なんで君はここにいるのかのう」

 

ダンブルドアは虚空を見つめ、声をかける。彼の傍らには賢者の石を守り、意識を失ったハリーがいる。声をかけた方向には一見誰もいないように見える。がしかし、背景が歪み一人の少年が現れた。

 

「透明マント高かったんですけど、どうしてわかったんですか?」

 

アイザック・グレンジャーがマントを片手にそう愚痴る。顔には不満げな表情が浮かんでいた。

 

「おそらく君が買ったのは品質の良くない中古品じゃったのだろう。よく見ると君のいた位置の背景は歪んでいたからのう」

「くっ、飲み屋で知り合ったおっさん怪しげだったからな〜」

 

マントを自身の前に広げて睨みつける。ダンブルドアはそんなアイクの様子に好々爺とした笑みを浮かべるが、視線はまっすぐアイクから逸らさない。ダンブルドアは眼差しを鋭くして質問する。

 

「それで、ミスターグレンジャー。どうしてここにいるのかというわしの疑問には応えたくれぬのかな」

「あ、いや別に心配だったから着いてきただけっていうか、透明マントがあればバレずに手助けできるかなって思って来ただけです」

 

実際アイクはこっそりと手助けをしていた。悪魔の罠や羽の生えた鍵には動きが遅くなるように魔法をかけて、チェスではロンが重症を負わないように衝撃を緩和するようにしたり、ハーマイオニーとハリーがロンに駆け寄っている間先に行ってトロールを完全に動けないように拘束した。クィレルがハリーを襲うときも偶然を装って石に躓かせたり、不自然にならない程度にハリーの体を誘導したりとバレないように手助けしていたのだ。

 

「だって最近ハーマイオニーたちが何か調べ物してたのは知ってましたし、危険なことに首突っ込んでないか心配で心配で」

 

そう言ったアイクの顔には嘘をついてる様子が見られず、心底心配しているようであった。

 

「それに……妹が大切じゃない兄なんているわけないじゃないですか」

「…………そうじゃな」

 

アイクの台詞にダンブルドアは胸に込み上げてくるものを抑えてゆっくりとそう言った。それ以上アイクにダンブルドアは何も言うことはなく、ハリーを抱え上げる。

 

「じゃが、深夜に寮を抜け出した規則違反でハッフルパフから10点減点じゃ」

「うぐっ」

 

ダンブルドアが茶目っ気たっぷりに言うとアイクががっかりとうなだれる。その後ダンブルドアはアイクとハリーを連れて医務室へと姿現しをした。

 

 

 

 

 

 



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柳眉倒豎

今回短いです


必要の部屋にていつもの学校の風景の中、俺とエリスは会話していた。

 

「これはなにかしら、アイク?」

 

会話というか説教であった。

 

エリスは眉を釣り上げて、片手に古ぼけたマントを持ち仁王立ちしている。俺はそんなエリスの様子を美人がキレると迫力あるな、なんて明後日の方向へ現実逃避していた。ぽけーっとしていると目力がさらに強まる。

 

「え、えっとこの前酒場で知り合ったおっさんから買ったマントです」

「へぇ?どうしてこんな古ぼけたマントを買ったのかしらね」

「デ、デザインが気に入って」

「へぇ」

 

俺はだらだらと冷や汗をかきながら弁明する。エリスの口角が上がり一見笑っているように見えるが目は全く笑っていない。おもむろに杖を取り出して振ると、近くの椅子が動いた。それに軽くマントを放ると椅子全体が覆われて背景に消えた。まぁ実際背景に校長に言われた通り目を凝らすと歪んで見えるのだが。

 

「デザインが気に入って買った、ねぇ……」

 

エリスは見なくなった椅子から視線をこちらに戻す。

 

「ところで、アイク。こんな便利な魔法があるんだけど知ってるかしら?」

「えっと、どんな魔法?」

 

俺が訊ねると氷のような微笑をいっそう深めるエリス。杖をゆるゆると左右に振るう。

 

「開心術って言ってね、人の心や記憶を読み取る魔法よ」

「へ、へぇ、そんなプライバシーの侵害みたいな魔法があるんだね」

「ええ、あるのよ。それでね、アイク」

 

杖をゆったりと上げて肩の高さまで持ち上げる。そして杖先を俺の方に向けた。

 

「私に無理矢理記憶を読まれるのと自分から何をしたのか話すのどっちがいいかしら?」

「申し訳ありませんでした!」

 

即答。迷わず俺は頭を下げた。

 

「全く、何かするかもとは予感してたけど、まさかわざわざあの子達の手助けに透明マントを買ってまで見守りにいくとはね」

「だってハーミーが心配だったし……」

「何らかの魔法道具とかでも良かったでしょ。攻撃から身を守るとか」

「いや、最近双子とレイブンクローの人たちと盾の呪文を自動で発動する道具の開発してるんだけども間に合わなくて」

 

しどろもどろに説明する俺を見て呆れたようにため息をつくエリス。だって可愛い可愛い俺のハーミーとその友達が心配で心配で……。

 

「まぁ、いいわ。ところでアイク、私やあなたが未来を知っていることは教えてないわよね?」

「それはもちろん。そんなわざわざ怪しまれるようなことは言わないよ」

「わざわざ怪しまれるようなことはあなたしたんですけどね。まぁそれならいいわ。今回はこれ以上言わない。でも今後何か行動するなら私に一言言ってくれるかしら?もしくは巻物でメッセージ残すでもいいわ」

「……はい」

 

しょんぼりとうなだれる俺を見て、少し苦笑をするエリス。

 

「でも開心術を防ぐ練習は必要ね」

「あ〜確かに。俺たちの会話とか覗かれたら大変だしな」

 

 

* * * * *

 

 

帰りのコンパートメントの中、俺、エリス、セドリック、ステフは談笑していた。

 

「劇の脚本を他の人に任せるの楽しみだなぁ」

「アイクも思い切ったことするね」

「まぁでも下級生に良い経験になると思いますわ」

「そうね、いつまでもアイクに任せっきりはマズイし、後輩も育てなきゃいけないものね」

「アイクが今まで書いてた脚本が高いハードルにならないと良いけどね」

「いや俺もいい加減ネタ切れてきたから」

 

劇団の今後について期待と不安が入り混じった感想を述べる。

 

「そういえば私たち校外で会ったことがなかったと思うんですが、みんなでどこかに出かけるか、誰かの家に集まりませんか?」

「いいわね、それなら私の家はどう?」

「エリスの家かい?僕たちが行って大丈夫なのかな」

「セドはともかく俺らだよなぁ、問題は」

 

純血主義の家に果たしてマグル二人が行っても問題はないのだろうか。俺たち殺されないかな。

 

「大丈夫よ。当主の父が今病床だから、別にバレなきゃ問題ないわよ」

「初めて父が病気って知ったんだが」

「大丈夫かい、お父さん」

「ええ、最近ようやく楽になりそうよ」

 

そういってエリスはクッキーを食べる。最近ステフがお菓作り子にはまっていて、よく作ってくれるのだ。

 

「ステフ、本当に美味しいわ。いいお嫁さんになるわね」

「本当ですか?ありがとうございます」

「この前のドライフルーツが練りこんだのも美味しかったよね」

「そういえばさ、この前ナタリアがさ」

 

仲良く話しながら風景は過ぎていった。

 

 

* * * * *

 

 

そして家に着き、夕飯を食べながらお互いの学校生活について話していた。

 

「ホグワーツに実際に行って見てどうだったかしらハーマイオニー」

「すごく素敵なところだったわ!絵本や絵画のようだったし、幻想的な風景だったわ!!勉強もとても楽しかったわ。変身術とか呪文学とかで私、とても良い成績だったから先生から加点も貰ったもの!!」

 

ハーマイオニーの話は止まらず、ヒートアップして長々と続いてく。俺たちは慣れたものでそんなハーマイオニーの様子を微笑ましそうに見ていた。学校始まって当初、たまに見かけるハーマイオニーの顔はあまり学校生活が楽しくはなさそうだったけど結果的に楽しく過ごしたようでお兄ちゃん安心です。しばらく話は続いていてようやく一区切りがついた。そして俺の話へと移る。

 

「ねえ、ママ聞いて、アイクったら凄いのよ。去年ホグワーツで特別功労賞を貰ってたのよ」

「あらそうなのアイク。どうして教えてくれなかったの、素晴らしいじゃない」

「いや、なんか照れくさくてさ……」

「それで、どうして賞を取ったの?」

「こうチョークで劇をやって」

「チョークで劇?」

「えっと写真があった気が……」

 

ごそごそとカバンの中を漁る。

こうやって学校について話しながら夜は更けていった。

 

 

 



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人物紹介

今までに出たキャラの簡易紹介です


<ハッフルパフ>

 

アイザック・グレンジャー

 

愛称はアイク。ハーマイオニーの二歳年上の兄。転生者であるが、基本的に原作を知らない。天才肌でなんでも感覚で行なっているため説明が不得手。あまり怒らない。成績はいいけど結構アホの子。妹、ハーマイオニーが絡むと途端に過保護、ポンコツと化す。一年生の時に始めたチョーク劇は大人気であり、結成された劇団では団長である。栗色の髪に大きな瞳の少年らしい容姿をしている(本人的にはもっと男らしい容姿を望んでおり、下級生女子から可愛いと言われるのが苦手)また魔法史が苦手。

 

ステファニー・ペンテレイシア

 

愛称はステフ。マグル出身で名家出身のお嬢様。所作がゆったりとしており、立ち振る舞いに気品がある。柔らかそうな金髪に温かい雰囲気を持っている。アパレル系に興味があり、また手先が器用である。四寮が結束して劇団ができたことを心底喜んでいる。意外にも度胸があり、たまに周りの度肝を抜くような活動をする。動物好き。

 

セドリック・ディゴリー

 

瞳の色は灰色で背が高くハンサムである。温和で思慮深い性格。クィディッチでシーカーを務め、劇団エリュシオンにも所属している。同期のハッフルパフで首位の成績を誇り、人に教えることも上手。アイクとは同室。

 

ナタリア・オルグレン 

 

紅茶好き。マグル出身。成績がやばい人。美脚。

 

フローラ・ボスロイド

 

マイペースな女子。「〜だよぉ」といった間延びした口調。怒ると危険。

 

ケビン・カウリー  

 

不憫。真面目。劇団では主役を何度もこなしている。

 

キース・ダーウィン  

 

マイペースな男子。ハッフルパフのキーパー。成績やばい。

 

 

 

 

<スリザリン>

 

エリス・グリーングラス

 

綺麗な黒髪の美人であり、冷徹な印象を受ける。聖28一族の一つグリーングラス家の出身であり、ダフネ・グリーングラス、アステリア・グリーングラスの姉。強かな野心家で使えるものは何でも使うし、規則等も平気で破る。意外と我儘である。亡くなった母から譲り受けた赤い本を常に持ち歩いている。

 

 

<レイブンクロー>

 

フレデリカ・フォーガス

 

劇団所属。研究馬鹿で双子と部室でよく開発してる。美人。

 

マーカス・ベルビィ

 

劇団所属。成績は優秀だがどこかツいてない。劇に感動して入ったが、内部のハチャメチャさに驚く。でも慣れてきた模様。

 

 

〈劇団エリュシオン〉

 

アイクが結成したチョークの劇のための劇団。団員は全寮から参加している。基本的に所属は非公開で、表立って動いているのはアイクのみ。

 

 

 




次回から秘密の部屋に入ります。


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捜査する四年生
ライラック


エリス視点とアイク視点です
花言葉は「思い出」「友情」「謙虚」



窓から朝日が差し込む部屋の中で自然に目を覚ました。ベットの中で体を伸ばしてから布団から体を出す。

今日、天気が良くてうれしい。みんなで久々に会うのだから晴れている方がいいもの。洗面所へと向かって顔を洗い、軽く寝癖のついた髪を梳かしてゆるく一つにまとめる。リビングへと向かうと下の妹、アステリアはいた。純血思想ではない彼女はとても話しやすく、素直な良い子である。わたしたち家族は彼女をテリーと呼んでいる。一方上の妹、ダフネの姿はなかった。全く、あの子はまた夜更かししたのね。美容に悪いのに。どうやら彼女はドラコ・マルフォイに夢中らしく、長い間手紙の返事を考えていたようだ。

 

「テリー、おはよう。よく眠れた?」

「おはようございます。エリス姉様」

 

席についてお互いに挨拶すると、我が家の屋敷しもべ妖精シンディーの用意した朝食を食べた。こんがり焼けたパンと新鮮なサラダ、簡単なスープ。慣れ親しんだものであり、私の舌に合うものである。大変美味なものだった。

 

「シンディー。お父様の食事をちょうだい。私が運ぶわ」

「わかりました。エリス様」

 

食べ終えた食器を下げて、代わりに父のための料理と薬を運んでくる。私に料理を運んできたシンディーの顔はどこか不満げである。

 

「本来でしたら私が運びますのに」

「そう言わないでよ、シンディー。愛する娘から手渡しされる方が父も喜ぶと思うわ」

 

そう微笑んでからトレイに乗せられた料理を運び、父の部屋へと向かった。豪華な装飾をされたドアを軽くノックすると、中から弱々しい返事が聞こえる。断りを入れてから部屋に入るとベッドの中には痩せた男性がいた。

 

「おはよう、エリス」

「おはようございます。体調はどうですか?お父様」

 

横たわった父の上半身を起こして、顔をあわせる。

 

「あぁ、まずまずだよ。いつもすまないな」

「いえ、お父様。家族ですから迷惑だなんて思いませんよ」

 

父に料理を食べさせながら、仲良くも歓談する。朗らかな天気もあり、父の様子は平時よりも良くなっていた。しばらく書斎で見つけた本や宿題の進捗などを話していると、一つ話題を切り出す。

 

「そういえばお父様」

「なんだいエリス?」

「頼みごとがあります。私とドラコ・マルフォイの婚約を破棄してください」

「………………」

 

私がそう告げると父は黙ってしまった。私とドラコ・マルフォイは生まれた頃から婚約者である。互いに純血の名家であり、互いの両親が旧知の仲であったので年も近くトントン拍子で話は決まったらしい。グリーングラス家はいずれ生まれると考えていた男の子に継がせるつもりが生まれることもなかった。このままもし父が亡くなると私はグリーングラス家の当主となる。するとグリーングラス家長女であり当主でもある私がマルフォイ家に嫁入りする訳にもいかず、逆にマルフォイ家の嫡男であるドラコをグリーングラス家に婿入りさせる訳にもいかない。男児がそのうち生まれると考えられていたため話はあったのだが、母が亡くなってからその問題は放置されていた。

 

「代わりにダフネかテリーのどちらかが婚約者になればよいと思いますがどうですかね?ダフネはドラコと同年齢ですし、テリーも愛嬌や可愛らしさもあって気に入られると思いますよ」

「………………。ふむ、わかった。ルシウスにはそのような旨の手紙を出そう」

「ありがとうございます。お父様。あ、こちらお薬と水です。苦いですけどきっちり飲んでくださいね」

 

苦い顔した父に微笑み、薬とカップを手渡す。この薬は私が調合した薬である。父の病は原因がわかっておらず、年々衰弱している。私が渡しているのは何の効果も無いがプラシーボ効果を望んで服薬させている。そして今日はそれ以外にも今日は別の薬も用意している。

 

「おや、今日は新しい薬もあるのかい?」

「快適に眠れるように用意したものですよ。最近うなされているとシンディーが言ってました。たまには薬の力を借りでもゆっくりお休みください」

「何でもお前にはお見通しだな、エリス」

「貴方の娘ですから」

 

私がそう言うと父は弱々しく笑ってから新しい薬を飲んだ。飲み終えるとゆったりと布団に潜り、まぶたが重そうに見える。

 

「おやすみ、エリス」

「おはようを言ったばかりですけどね。おやすみなさい、お父様」

 

まぶたを閉じた父から離れて部屋を出る。完全にドアが閉まったことを確認して杖を振って私は薬の瓶を消し飛ばした。

 

「おやすみなさい、お父様」

 

再度そっと呟いて私は父の部屋を後にした。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

ようやくリビングに現れたダフネに挨拶してから自室に戻り、服を着替える。それからカバンを手に取ってから自宅を出て近所の公園へと向かった。麗らかな日差しの中、帽子をかぶり緩いペースで歩く。ちらりと時計を見るとまだ待ち合わせには猶予があった。待ち合わせに指定した公園のベンチに座ってみんなの集合を本を読みながら待つ。私が読むのはいつも持ち歩いてる赤い本。すらすらと文字を目で追って待っていると、灰色の瞳の高身長のイケメンに声を掛けられた。

 

「こんにちはエリス」

「こんにちはセド。良い天気ね」

「そうだね、マグルの子供達が仲良くボールを蹴って遊んでたよ。サッカーって言うんだっけ?」

「ええ、人気のスポーツよ。それでセド。どうして貴方の背中にアイクがいるのよ?」

 

話しかけてきたときから疑問に思っていたのだがなぜかセドリックがアイクを背中におぶっていた。アイクは顔を赤くして気絶している。

 

「えっとちょっと不幸なことがあってね。エリス、ベンチにアイクを横たわらせていいかい?」

「どうぞ。今なら膝枕もしてあげるわ」

 

私がクスクスと笑うとセドリックはそっとアイクをベンチに下ろして体を横にする。アイクの頭は私の膝の上に来た。気を失っているアイクの顔をじっと見つめる。出会ったころは幼く性差も少なかったから女の子のように見えたが、最近は少しづつ男らしくなってきた気がする。顔つきや体つきが前よりも男っぽい。といっても身長はイマイチだが。それでも下級生からはモテている。内面が子供っぽく思えるのかマスコット的なモテ方ではあるけど。それにセドリックに比べたら歯牙にもかけないレベルのモテ方だし。かつては長かったが今は短くなってしまった髪を指でいじる。

 

「成長したわね、アイク」

「そりゃ僕たちまだ子供だもの。ふふ、髪を前は伸ばしてたのにね。今はもう短くなっちゃったし。ステフが残念がってたよ」

「ステフが?」

「うん。今までは僕が寝癖を直してからステフが髪を結んでたからね。それがなくなって寂しいみたいだよ」

「アイクは朝弱いのよね」

「未だにね。寝癖がひどいのも相変わらずだから結局僕は毎朝自分とアイクの分を治してるんだけどね」

 

セドリックはそういいながら優しい顔をしている。なんだか、まるで

 

「まるで恋人のようね?」

 

私がそう言うとびっくりしたような顔を見せるセドリック。目を数度パチクリして口を開く。

 

「んー、そうかな。どちらかというとエリスとアイクの方が恋人っぽいと思うんだけどな」

「私とアイクが?そう?」

「二人でよくこっそり話してることが多いし、一緒に行動していることも多いからね」

「なるほど。周りから見るとそう見えるのね。でも私とアイク別に付き合ってないわよ」

 

優しい手つきでアイクの頭を撫でながら、公園で遊んでいる子どもたちへと視線を移す。

 

「だって私、好きな人がいるもの。アイクよりも素晴らしい人がね」

 

笑みを浮かべながらそういうと、セドリックがびっくりしたような顔をする。セドリックが何かを私に尋ねようと口を開きかけると、最後の一人ステフが現れた。

 

「セド、エリス、こんにちは。すみません、遅くなってしまいまして」

「いいのよ、時間通りだし」

「僕たちが早く着いただけだしね」

「あの、アイクどうしたんですか?」

 

私たちに挨拶した後に、ステフは私の膝の上にいるアイクを見る。そういえば私も理由を聞いていなかった。

私たち二人の視線を受けて苦笑しながらセドリックは答えた。

 

「あはは。えっと、僕とアイクはこの公園に先に着いたんだけど結構早く来ちゃって。暇を持て余してたらボールが飛んできて、それからアイクはボールを飛ばしてきた男の子たちと仲良くサッカー始めてたんだ。それで遊んでたら途中で余所見してたアイクの顔にすごい勢いのパスが来て、当たりどころが悪かったみたいで気絶しちゃったみたい」

 

なんというか憐れである。でもアイクが男の子たちと遊んでいるのは容易く想像ができた。セドリックはアイクの顔をパチパチ叩いて起こそうてしている。

 

「それじゃあ、みんな揃ったし、私の家に行きましょう」

「アイクがまだ起きてませんよ?」

「セド、背負ってもらえる?」

「いいよ」

 

会ったときと同じように背中に軽く担ぐ。家についても目覚めなければ魔法薬飲ませて目を覚まさせればいいでしょう。私を先頭に三人で家に向かって歩く。

 

「そういえばエリス、私やアイクが家にお邪魔して本当によろしいのですか?」

「大丈夫よ。父は今日寝たきりだし、純血主義の妹は学校の友達と遊ぶって言ってたから」

「アイクも前より背が伸びたからか重くなったなぁ」

「なんだか父親みたいですよ、セド」

「恋人の次は父親かぁ」

「恋人?」

「あぁ、それはさっきセドがね……」

 

談笑しながら麗らかな日差しの中を歩く。いつまでもこうやって平和だったらいいのにと思いながら。

 

 

* * * * *

 

 

目を覚ますと知らない天井だった。え、どういうこと?今の時刻や待ち合わせは?というかここはどこだ?見たこともないし、俺が行ったことのあるどんな家とも違う。天井の模様がおしゃれである。

現実を認識できず逃避していると急に視界いっぱいに灰色の瞳の好青年の顔が現れる。ぎゃー!

 

「そんな露骨に顔をしかめなくても……。エリス、ステフ、アイクが起きたよ」

「ようやくですか」

「あら無駄になっちゃったわね、用意したのに」

 

体を起こすと上品な内装の部屋が目に入り、俺の隣でソファに座りクィディッチの本を読んでいるセドリック、紅茶を飲んでいるステフ、何かの薬品を片手に部屋に戻って来たと思われるエリスが視界に入った。……エリスさんやい、まさかその薬飲ませようとしていたんでしょうか?

 

俺が起きたということでお茶菓子を追加して、全員でやたら長いテーブルの一箇所に座る。話題は夏休みの課題や劇団についてである。課題のどこが難しかった、劇団の誰々が筋がいい、どういう役が似合うかなどを話して盛り上がっていた。そして話題は更に移りFOCの話になり、久々にやってみることになった。

 

「赤コーナー、冷徹な女王、エリス・グリーングラスぅ!!」

 

浮かび上がった核を中心にさらさらとチョークの粉が集まって人型を取る。細く長身な、やたら四肢が長くほっそりとしており、武器として赤い大鎌をもっており、補助用に青いマントをつけている。白いチョークは体、赤いチョークは武器、青いチョークは防御や補助用となっている。

 

「青コーナー、ドS天然お嬢様、ステファニー・ペンテレイシアぁ!!」

「アイク多分後で二人に怒られるよ」

「………………」

 

もう一つの核が浮かびチョークの粉が集まり人型をとる。こちらはエリスのとは対照的に小柄ながらがっしりしており、赤い西洋剣、青い大楯を持っている。

 

「それでは両者、レディ……ファッイ!!」

 

アイクが腕を下ろして合図すると二つの粉人形はぶつかり合った。エリスの鎌が遠心力を伴って勢いよく横に薙ぐ。それをステフの盾が防いで反撃に剣を振るうが、エリスの人型は回って踊るように避ける。剣は掠めたもののマントに邪魔をされて胴体には届かない。赤いチョークは攻撃が当たったもののチョークの結合を妨げるようになっており、青いチョークはそれをわずかに上回る防御力が設定されている。

くるくると回るようにして鎌が勢いよく振るわれていくがそれを的確に盾で防御していく。

 

「いやぁ〜、戦況が膠着してきましたね、ディゴリーさん」

「……え、解説とか実況とかやるのこれ」

「うん、盛り上がるかなって。さて解説のディゴリーさん、どちらが有利だと思いますか?」

「あ、僕が解説なんだ。んーそうだね、攻撃特化型のグリーングラス選手と耐久型のペンテレイシア選手の戦いですね。グリーングラス選手の方は扱いが難しいタイプですが、卓越した操作でうまく使いこなしていますね」

「結構ノリノリだね、セド。……それでは一方ペンテレイシア選手についてはどう思いますか?」

「そうですね、彼女は基本に忠実な戦い方ですね。防御をきっちりとして隙を窺い、カウンターを狙う。生半可な人間では彼女の防御は破れないでしょう。事実、グリーングラス選手も攻めあぐねています」

「どうやら完全に膠着していますね」

「はい。グリーングラス選手が果敢に攻めるがペンテレイシア選手は完全に守る。ペンテレイシア選手が反撃に出るが、グリーングラス選手はそれをひらりと避ける。はたしてこのまま試合は続くのでしょうか」

「さぁ少し距離を取りグリーングラスが先ほどよりも勢いよく鎌を振るったぁ!!」

 

エリスの人型がステフのカウンターをよけて距離をとる。そこから先ほどよりも大振りに鎌を使ってステフの盾を両断せんと迫る。がしかし。

 

「おおっと!!ステフ選手盾を捨てたぞ!これはどういう狙いだ!?」

 

ぽいと盾を放って両手で剣を持つ。そこを迫っていた鎌が弧を描いてステフの人型めがけて振るう。がしかし、大振りな軌道を見切りステフの人型が避けると鎌は空を切った。今までとは異なる感触にエリスは人型を操りきれずにバランスを崩す。その胴体めがけて、両手で持った剣が先ほどよりも勢いを増してエリスの人型を真っ二つに核ごと切り裂いた。

 

「ようやく決着がつきました!!正攻法なカウンターを行なっていたペンテレイシア選手によるまさかの奇策!勝者、ステファニー・ペンテレイシアぁ!!!!」

「思い切った作戦ですね」

「さすが腹黒ドS天然お嬢様でしたよ!!」

 

手を叩く俺めがけて飛んできた本に衝突した。……痛い。

 

 

* * * * *

 

 

「アイクの解説は若干腹立ちましたが楽しかったですね」

「そうね、久々にやってストレス発散になったわ」

「なぁなぁ、セド。俺の頭腫れてない?」

「大げさだね、アイクは。大丈夫だよ」

 

帰り道俺たちはエリスに連れられて、待ち合わせにしていた公園に向かって歩く。なかなかに楽しい一日だった。夏休みも半ばを過ぎてもうすぐ新学期である。

 

 

 



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スイートピー

アイクとエリス視点です
花言葉は「門出」「別離」「ほのかな喜び」「優しい思い出」


夏休みという生徒にとっても一番の安息の時間は過ぎ去り、学校が始まった。今日はホグワーツ初日である。俺たち四人はいつものように同じコンパートメントを使っている。窓際に俺とセドリック、それぞれの隣にステフとエリスという並びで座っている。

 

「この二つの脚本結構いいよね」

「そうね書いたのは誰?」

「確かシェルビーとリアムだと思いますよ」

「二人ってどこの寮だっけ?ハッフルパフじゃないよね?」

「えっと……あまり覚えてないです。劇団にいると誰がどこの寮かわからなくなりますね」

「シェルビーはレイブンクロー、リアムはグリフィンドールよ」

「あれ、シェルビーってレイブンクローなんだ。スリザリンかと思ってたよ」

「そういえばフレデリカとウィーズリーの双子って親戚らしいですよ」

「あの悪戯トリオって血筋なのかしらね?」

「でもウィーズリー家の上のお兄さんは成績いいって聞いたよ」

「たしかにフレッドとジョージの一つ上のお兄さんは主席と聞きましたよ」

 

夏休みの間に書いてきてもらった脚本に目を通しながら、どれがいいか議論したり、どうでもいいような話に花を咲かせる。……俺を除いて。ぐったりしながら呻く。

 

「夏休みの課題なんてなくなればいいのに……」

「そんなこと言っちゃダメですよ。きっと私たちを思って先生方は復習や予習のために出しているんですから」

 

そういいながら自作のタルトを頬張るステフ。そんなこというステフの横で俺はぐったりしていた。

 

「だから言ったじゃないか、先に魔法史だけは終わらせなって」

「また徹夜したの?学習しなさいよ」

「うう……姑が二人いるよ」

「父親の次は姑ですって、セド」

「あははは……」

 

寝不足でぼーっと流れる風景を眺めていると、ローブがそっとかけられた。木や大地を思わせるような優しい匂いが鼻をくすぐる。セドリックのローブか。

 

「しばらく寝てなよ。ひどい顔してるよ、アイク」

「ん。そうする」

「セドはアイクに甘いよね」

「まぁ仲良いことはいいことですよね」

「寝起き悪いっていうか、なかなか起きないから大変なんだよね」

「へぇ、そうなの。毎朝起こすの大変なんじゃない?」

「目覚ましの魔法道具使ってるんだ」

 

親友たちの優しい声を聞きながら俺は意識を手放した。

 

 

* * * * *

 

 

アイクが目を閉じてしばらくすると、静かに寝息をたてながら眠りに落ちた。随分と綺麗な寝方ね、寝息がないと死んでるようだわ。

 

「アイクも男の子らしくなりましたね」

「ははは、ステフもそう言うんだね、この前エリスと話してたよ」

「背は私とそれほど変わりませんが、顔つきや体格が少し男の子らしくなりましたよ」

「キースはそれでも変わんないけどね」

「あの人、去年一年生と一緒に授業受けてましたからね。しかも誰も先生が指摘するまで気づきませんでしたし」

「あれか。ケビンが怒ってたね。減点もされたし」

「キースの変化のなさは一種の病気を疑うわね。あのフローラですら成長してるのに」

「だるだるに制服着てるから分かりづらいですけどフローラはスタイルいいですよね」

 

他愛もない話をしてるとコンパートメントのドアがノックされる。どうぞと応えると、現れたのはハーマイオニーだった。

 

「あらハーマイオニー。こんにちは」

「こんにちは。ハーマイオニー」

「こんにちは。久しぶりね」

「こんにちは。ねぇロンとハリーを知らないかしら?」

 

ステフとセドリックはおおかたハーマイオニーはアイクに用があると思っていたのか少し驚いたような顔をする。私はもちろん知っているのだけども。ちなみに三人は調べ物をしに尋ねて以来、ちょこちょこ話をしたりお茶飲みに来たりする。といっても原則部員以外出入り禁止な部室ではなくて隣の部屋でステフがよく相手しているのだが。ステフは劇団以外の他寮の下級生と話すことが楽しいらしくよく嬉しそうにしていた。

 

「二人とも見かけてないよ」

「ハーマイオニーと一緒のコンパートメントにいると思ってましたよ」

「私も知らないわね。同じ寮の友達のところに行ってみたらどうかしら?」

「そうね、エリス。みんなありがとう、また後でね」

 

ひらひらと手を振って足早に出て行った。その背中に三人で手を振って見送る。ドアが完全に閉められてから二人は不思議そうな顔をする。てっきり仲良し三人組は一塊りになっていると思っていたのだろう。

 

「どうしたんだろうね」

「喧嘩でもしたんですかね?それでしたら相談に乗りますけど」

 

二人の態度に知っているのに伝えなかった私は少し罪悪感を抱きながら話題を変える。

 

「ねぇ、セド、今年はクィディッチと劇団どっちに参加するの?」

「え?あ、うーん。今年は劇団にしようかなって思ってるよ。ハッフルパフとハリーの練習には付き合うけどね」

「ハリーにって、グリフィンドールに塩を送っていいんですか?」

「僕一人っ子だからなんか弟ができたみたいで嬉しくて」

「へぇ、知らぬ間にすごく仲良くなってるのね」

 

それにしても順調に進んでいるということは今年も本当に事件が起きてしまうのか。今年は去年よりも危険だが、分霊箱破壊用にグリフィンドールの剣にはバジリスクの毒を吸わせなくてはいけないし、事前に止めても今後に支障が出てしまう。全く、面倒なものだわ……。二人にはバレないようにそっとため息をついた。

 

 

* * * * *

 

 

目が覚めてからちゃんと周りが認識できるようになってから、あたりを見るとどうやら大広間だった。うわ、なんかすごい時間が飛んだ気がする。あくびをしながら体を大きく伸ばす。

 

「おはよぉ、アイク」

「おはよう、フローラ。組み分け中?」

「うん、そうだよぉ。相変わらずすっと起きれないんだねぇ、セドリックに運ばれながら爆睡してたよぉ」

「うわ、マジか。劇団の人には見られてないといいな」

「なんでぇ?」

「いや団長の威厳がなくなる」

「元からないよぉそんなのぉ」

 

ゆるっとした声がぐさりと突き刺さる。しょんぼりしているとナタリアが新聞紙を片手にやってきた。

 

「ようやく起きたのね、お寝坊さん」

「やぁナタリア久しぶり」

「わたし面白い記事見つけたわ、見て」

 

そういってから机に新聞紙を広げる。周りの生徒は気になったようで俺同様覗き込んだ。なになに『白昼堂々、空飛ぶ車!!マグルの目撃者多数!?』と見出しは書いてあった。ほうほう、一体誰がそんなことを。

 

「あぁ、ハリーとロンがこんなことするとは考えてませんでしたわ」

「あ、ステフ。っていうかハリーとロンなの?てっきりどっかのバカな魔法使いだと思ったんだけど」

「なんでもハーマイオニー曰く二人はホグワーツ特急に乗れなかったみたいですよ」

「それまたなんで」

「さあ?」

 

そうやって話していると、どうやらもう組み分けが終わったらしく豪華な食事が出てくる。いつもよりも少し遅れてダンブルドア校長が現れていつもより短く挨拶を済ませて、宴は始まった。

ステーキやらポテトサラダやら好きなものをよそってひたすら食べる。うむうむ、やはり美味しい。我が寮の創設者は偉大である。

 

会話と料理を楽しみながら宴は終わり、新入生は監督生に連れられて寮に行くことになった。新入生たちよりも俺たちは先回りして準備をしに行く。チョークの粉を入れた袋を運んだり、担当の楽器をそれぞれ持つ。こそこそと談話室近くの部屋に待機する。監督生が説明する声と一年生の賑やかで期待に満ちた、ワクワクしている声が聞こえてくる。俺たちもあんな感じだったのだろうなぁ。

 

「……さて、説明が長くなったけど、俺たちハッフルパフは君たちを歓迎するよ!我が寮は誰も拒まない!!さぁ歓迎会だ!!」

 

その声と同時にドアを勢いよく開けてチョークの粉が噴水のごとく袋から飛び出して行く。チョークの粉は談話室で人の姿や動物や魔法生物の姿を取り、演奏される音楽に合わせて踊るようにして動いていく。そんな様子に目を丸くして、感動している一年生。俺たちの歓迎会は魅せる側、見る側、双方楽しく過ぎていった。

 

 

* * * * *

 

そうして学校が数日経ってからある日、俺とエリスはいつも通りひっそりと二人で必要の部屋にいた。

 

「それでエリス、今年はどんなことが起きるの?」

「今年は危険な年よ、去年とは変わってね。なんで死者が出なかったのか不思議なくらいだもの」

「……そんなやばいのか……」

 

命の危機があると暗に告げられて背筋に冷たいものが走る。確かに学校生活を送っていて怪我するリスクなどはあるが流石に命の危機があったのは初めてな気がする。

 

「それで具体的には何が起きるんだ?」

「それを話す前に一つの魔法を覚えて欲しいの」

「またかぁ……」

 

動物もどき、守護霊の呪文に続いてまた新しい呪文。まったく大変なものだ。

 

「魔法の名前は閉心術。これが会得できたらより詳しい話はするわ」

 

 

 

 

 



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カモミール

アイク視点です。少し短いです。
花言葉は「逆境に耐える」「逆境で生まれる力」


新学年も始まり、緩むことなく時間は過ぎ去っていく。そんな中で俺は授業を終えて部室へと向かう。本来ならハロウィンパーティーよりも前のこの時期は実施する第一回目の劇の準備で忙しいのだが、今回は俺たちが卒業しても大丈夫なように俺たちより年下の学年だけで指揮を取らせており今大変暇なのである。慌ただしく動き回る下級生を尻目に部屋の一角でゆったりとお茶していた。というか俺は疲れてテーブルの上に伸びていた。口から思わずため息が出る。

 

「「はぁ〜」」

 

ため息が被ったと思いちらりと見ると、フレデリカがいた。レイブンクローで同い年、爆発したような赤いくせ毛に眠たそうな青い目、睡眠不足からか目の下には隈があり、覇気のない様子である。劇団の中でフレッドとジョージと同じくらい厄介なものを作ったり、はたまた役立つ開発をしてくれる裏方の女子である。ちなみにかなりの守銭奴でもある。

 

「……団長がため息なんて珍しい」

「それはフレデリカもそうだと思うんだけど」

 

基本的に彼女はマイペースであり、フローラやキースのが動のマイペースだとするなら彼女は静のマイペースである。いつもひっそり何かを試作しては双子に使い方を教えて実験、もとい悪戯させているのである。普段からテンションが低い、というよりは浮き沈みが全く見えない彼女がここまであからさまに疲労を見せるのは初めてである。

 

「……私とフレッドとジョージは今エリスに商品開発を頼まれて忙しい」

「商品開発?」

「……そう。……眼鏡型の魔法道具でレンズに魔物を投影してゲットするもの。……ホグワーツ城限定、更に時間限定でランダムに出現して集めたり育成するゲームのようなもの」

「エリスがそんなもの作ろうとするの珍しいね」

「……うん。……たんまりと開発費はもらった。……しかも余った費用は三人で山分けしたり、別の開発費にしても良いと言われた」

「そこまでオッケー出してると逆に怖いな」

「……でもその分本当に難しい。……専用の捕獲呪文しか使えないゴム製の杖やそもそもの投影する仕組みが大変。……変幻自在呪文の応用だけど、そもそも変幻自在呪文の難易度が高い。……そして、何よりも難しいのが対魔法防御をかけること」

「魔法に対する防御を眼鏡にかけるの?」

「……装着中に眼鏡に魔法をかけられて見えなくされたり、魔法で盗まれたりするのを防ぐためと言っていた。……それ自体は難易度は高いけど大変じゃない。……でもエリスが求める対魔法防御の効果が高すぎて難航してる」

 

彼女はボソボソと話し終えるとと再度ため息をこぼす。エリスが三人に劇団関連じゃない頼みごとをすることや余った開発費を使っても良いと言うことに違和感を覚えた。テーブルにうつ伏せになってからフレデリカはこちらを見る。

 

「……それで団長のため息の原因はなに?」

「俺は新しい魔法の練習で疲れた」

「……新しい魔法?……授業で習った呪文は全てできていたと思うんだけど」

「いや授業外で練習してる魔法があって……それがかなり精神的にクるんだよ」

 

閉心術の習得で俺はかなり疲弊していた。必要の部屋で練習できるようにしていたのだが、一定間隔で開心術を使ってくる人形が腹立たしかった。ピエロのような外見で、失敗すると煽ってくるのだ。「流石にプライバシーの侵害は嫌でしょ」とエリスが俺に呪文をかけるのではなくて、人形にやらせて彼女は傍でいつも通り赤い本を読んでいるだけである。

 

「……団長が苦労するなんて余程難しい呪文」

「しんどい」

 

はぁ、と再度二人でため息を吐き出す。あぁ、幸せが逃げていくようである。最近の愚痴を二人でこぼして時間は過ぎ去っていった。

 

 

* * * * *

 

 

 

そして俺にとって楽しい授業、というよりストレス発散の授業が今年出来た。闇の魔術に対する防衛術である。元々ギルデロイ・ロックハート先生が自身の物語の再現として相手役に俺が選ばれたのだが、どうせならリアリティを追求しようと思ってチョークを増やして粉砕して粉を用いて完全に場面を再現したのである。

 

「そう、ここで私は闇を切り裂くような光で撃ち抜いたのです!!アイク!!」

「はい!」

 

ロックハート先生に声をかけられてからロックハート先生の杖先に光を集めて、対峙していた吸血鬼へと放つ。その光を浴びた今まさに先生に襲いかかろうとした吸血鬼は光が当たった部分からサラサラとまるで灰になってしまったかのように崩れ始めていく(もちろんチョークで作られており、さぁーっと空気に溶けるように粉に戻っていく)。

 

「そう!流石アイクです!!それで私はこのようにして城に居座り続けた吸血鬼を退治したのです!!」

 

ロックハート先生が生徒たちにそう大声で言うと万雷のような拍手と賞賛する声が聞こえる。「流石ー!!」「うまいなアイク!」「リアリティがすごいわ!!」など大絶賛である。なぜか俺のほうが褒められている気がしないでもない。

 

「さてみなさん、今日の宿題は私の活躍を見てどう思ったか書いてきてください。以上で今日の授業は終わりです!」

 

俺は杖をしまってセドリックとステフに合流した。流石に一つの授業中ほぼぶっ通しで魔法を使うのは疲れた。

 

「お疲れ様です、アイク。はい、どうぞ」

「お、ドーナッツだ。美味しそう」

「よくやるね、アイク」

「え?なにが?」

「いやわざわざギルデロイ先生の演劇というか、寸劇に付き合わされて嫌じゃないの?」

「いや楽しいよ、結構」

 

俺がそういうと、二人は困ったように苦笑する。

 

「エリスは、『あの男には物語のような実力はなくてただの空想にすぎない』ってバッサリ言い切ってましたよ」

「ああ、やっぱりそうなんだ。僕も薄々そうなんじゃないかって思ってたよ」

「んー、それでも楽しいよ」

「お人好しですねぇ、本当に」

 

セドリックは納得がいったように頷き、ステフは微笑む。

 

「というかあの物語が創作だとしたらかなりクオリティ高いよ。なかなか読みごたえがあったし、起承転結もしっかりしてる。今度あれのオマージュを劇にしてもいいくらいだもん」

「ベタ褒めですね」

「でも絶対やめてね」

 

なんかそういう反感の声が多そうなのでやるつもりはあんまり無いが。それにしても遊ぶ時間(闇の魔術に対する防衛術)があって本当に良かったかもしれない。何せ今は俺たちの学年を主体にして劇を計画しなかったせいで、閉心術の練習に対するストレスのはけ口を求めていたのだ。物語として完成度の高いものの劇を即興とはいえ出来て楽しい。それにハーマイオニーも大ファンであるし、夏休みの間どハマりして二人でずっと話していた。どの本が一番か、どれが一番盛り上がるかなど議論して両親が呆れるくらいには話していた。

 

「ハーマイオニーも好きなんですね、その本」

「なんというか変に似てるよね君たち兄妹」

「ハーマイオニーに似てると言われるならそれがどんなことでも俺は嬉しい!」

「シスコンですねぇ」

「シスコンだねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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オトギリソウ

エリスとハリー視点です
花言葉は「迷信」「敵意」「秘密」「恨み」


下級生たちの公演も無事終えて(今年は純愛物語だった。演目決めでは獅子と鷲を蛇が絞殺していた)、部内でのパーティーも終わり、月日は流れてハロウィンパーティー当日である。魔法によって飛び交うパンプキンパイやお菓子を追いかけ回して食わんと捕獲しにかかる。私たちスリザリンの生徒たちも楽しそうに追いかけましている。

 

「エリス、ターニャがパンプキンパイ取り過ぎたみたいなの。食べるかしら?」

「えへへへ」

「ありがとう、シアン、ターニャ。いただくわ」

 

そういって私の派閥の子達から渡されたパンプキンパイを一切れとって食べる。かぼちゃの程よい甘さが口に広がる。そんな風にゆったりとスリザリンのテーブルで過ごしている中、大広間の一画に寮を問わずに大勢の人が集まっていた。そこにいる人々はみなメガネを掛けておりみんなファンシーな色をした杖を虚空めがけて振るっている。私主導でフレッド、ジョージ、フレデリカと共に作り上げたものである。といってもそれは最初だけで結局は暇を持て余した同学年たちの共同開発になったのだが。まぁ無事にバジリスクが活動を始める前に開発が終了したのは良かっただろう。この眼鏡には魔眼対策としての魔法をこれでもかというほどかけている。本当に防げるかどうかは賭けであるが。

 

眼鏡をかけて人集りのほうを見ると空中に蛍光ピンクと黄色のシマシマをした巨大なドラゴンが宙をかけていた。なかなかの出来である。満足しながら遊んでいる人々を眺めていた。……なんか中に知っている栗色の髪したハッフルパフの某団長が全体の指揮をとるようにして大声をだしていたのは見なかったことにした。どうやら根が素直なアイクにとっては閉心術の修行はかなり苦労しており、かなりのストレスがきているらしくこういった遊びごと、イベントごとには率先して参加している。それでもちゃんと習得してきてはいるんだけど。

 

ハロウィンパーティーは終盤へとなり、先ほどまで眼鏡をかけてゲームで遊んでいた生徒たちも疲れと満腹で椅子に座っていた。ダンブルドア校長の挨拶でパーティーは終わり、解散となった。

 

さて、これから事件が始まっていくのね。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

僕たちが絶命日パーティーから帰ると変な声が聞こえて(ハーマイオニーやロンには聞こえてないみたいだった)、声のするほうへと向かうと壁には真っ赤な文字が書かれている。

 

『秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ』

 

フィルチの猫、ミセスノリスがぶら下がっていた。僕たちは逃げようとするが、タイミングを逃してハロウィンパーティーを終えた生徒たちが大勢現れた。

 

ガヤガヤと騒いでいた生徒たちはこの状況を見ると一斉に沈黙した。僕たち三人はそんな中でポツンと廊下の真ん中にポツンと取り残されていた。

 

そのときマルフォイが前列まで人の波を押しのけて現れて叫んだ。

 

「継承者の敵よ、気をつけよ! 次はお前たちの番だぞ、穢れた血め!!」

 

ハーマイオニーの方を向きながらマルフォイが叫んだその声が辺りに木霊した瞬間、言葉にできないような怒号とともにマルフォイの体が吹き飛んだ。方々から悲鳴と驚きの声が響き渡る。おそらく誰かが魔法でマルフォイを吹き飛ばしたのだろう。一体誰がと思い、魔法を放ったと思われる方向を見ると僕たちは驚愕した。

 

「おい、今、誰を、なんて言った」

 

アイクが激怒していた。温厚そうな顔を怒りで歪めて、杖を折らんばかりの勢いで握りしめて壁にぶつかったマルフォイへと向けている。感情を押し殺したと思われるような嫌に静かな声が廊下に染み渡る。

 

「おい、お前。もう一度聞くぞ。今、誰を、なんて言った」

「ひぃっ」

 

マルフォイは短い悲鳴をあげる。杖を構えたままマルフォイへと迫ろうとするアイクを誰かが止める。金髪の髪を三つ編みにして、かぼちゃをイメージしたのかファンシーなドレスを着たステフだった。アイクの杖を構えていた腕にそっと手を添える。

 

「いけません、アイク。下級生相手に防げないような魔法を使うのは良くないと思いますよ。男の子同士でしたら拳で」

 

あ、違った。止めてるんだじゃなくてかなりステフも怒っている。ステフがいつものようにゆっくりとした動作で杖をアイクから取ると、対照的に慌てた様子でセドリックが飛び出してきた。

 

「ストップ、ストップ。アイクもステフも落ち着いて」

 

ガバリと後ろからアイクを羽交い締めしてマルフォイへと向かうのを止めた。体格差もあって体が地面から浮いているがそれでもバタバタ体を動かして、わけのわからない言語で叫んでいる。

そんな騒ぎを聞きつけたのか、次々とフィルチや先生たちが集まってきて猫が死んでいないことなどが判明してその場は解散となった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

それから数日が経ってハーマイオニーが魔法史の授業で質問したり学校では継承者や秘密の部屋についてなどの話題に満ち溢れていた。そんな中で僕たちグリフィンドールとスリザリンがクィディッチの試合が行われた。その試合で僕は執拗にブラッジャーに狙われてしまい、骨が折れたのだが更に不幸なことにロックハートのせいで僕の腕の骨は消え去った。

そして、その治療のためあまりの激痛に耐えているとドビーが現れて、ブラッジャーが彼の仕業だとわかった。肝心なことを隠しているドビーと話していると突然凍りついたようになり、バチッと消えた。廊下から話し声が聞こえ、保健室に複数の足音が聞こえて隣のベッドにどさりと何か重いものが置かれる音がした。それも三回も。

 

「まさか一夜にして3()()も被害者が出るとは……」

「私が見つけたのはコリン・クリービーだけでしたが……。まさか他にも被害者がいるとは……」

 

ダンブルドア先生とマクゴナガル先生の声だ。胃がひっくり返るような思いのなかそっと、ベッドの中の石像たちを視界に入った人物たちに息を呑んだ。そこにいたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

 

 



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ラベンダー

エリスとハリー視点です
花言葉は「沈黙」「私に答えてください」「期待」「不信感」「疑惑」


明るい団長と穏やかな副団長、アイクとステフが石化したせいで劇団のムードはすっかり暗くなってしまった。だがしかし、誰が言い出したのか、犯人を突き止めようとなり、劇団は一致団結して継承者探しに乗り出した。ロックハートが主催した馬鹿げた決闘クラブにも行かずに、手始めに『ホグワーツの歴史』を複数人で借りて、二週間ほど独占して秘密の部屋について徹底的に調べ上げたり、二人を石化させた原因はなんなのかを調査することになった。

 

「ねぇ、この記述って役に立つ?」

「それよりもこっちのページじゃないかしら」

「この魔法が石化させたんじゃねぇの?」

「それだったらわざわざマンドレイク使わなくてもダンブルドアなら呪文が解けるわよ」

「人を石化させるなんて魔法生物は数少ないはずなんですけど」

「新しい魔法薬とか?」

「いや、古い魔法かも」

「秘密の部屋についてスリザリン組は知らないの?」

「馬鹿ね、知ってたらとっくに全部話してるわよ」

「そうだ、そうだ。団長とステフが襲われてるんだぞ。そもそも秘密の部屋なんて眉唾もんだと大半が考えていたからな」

 

わかったことや調べていることを黒板にみんなで書き上げていく。どんどん白くなっていく黒板を尻目に私はそっとため息をつく。まさかアイクが石化してしまうなんて、完全に予想外だわ。その上まさかステフもそうなってしまうなんて。初めて聞いたときは耳を疑ったし、足元が崩れ落ちていくような感覚がした。ため息をついた私の様子を見て同じくスリザリンの子達が心配したように声をかけてくれる。

 

「大丈夫、エリス?」

「ええ、問題ないわよ」

「無理しないでね、今はアイクもステフもいないんだから私たちのリーダーは貴女なんだから、貴女にまで倒れられたら本当に劇団は終わりよ」

「あらそう?なら、私まで石になったら今度はセドが指揮を取るわよ」

「もう、そういうこと言ってるわけじゃないのよ!」

「冗談よ。ほらリアムが呼んでるわよ、シアン」

 

そう優しくいうと困ったように笑ってから彼女はリアムの元へとかけて行った。今『継承者』探しには私たちスリザリンの生徒たちも積極的に参加している。なぜなら彼、彼女たちが劇団に所属しており、団長に恩義を感じているから、だけではない。

 

それは理由の大部分であるが、他にも理由がある。私たちの派閥はスリザリンという純血主義の温床でもある寮なのにほとんどが純血ではなく、半純血もしくはマグル出身でもある。 もちろん純血の子も存在するが、その子達は私の下の妹、アステリアのように純血主義の思想に染まっていない子たちである。いくら純血主義のスリザリンといっても少なからずマグル出身や半純血の子も存在している。そんな子達が純血主義の人たちからハブられないようにするため私は派閥を作ったのだ。薄々感づいている人もいるかもしれないが、派閥の頂点に聖28一族の一家、グリーングラス家の長女、つまり私が君臨してることや少ないが純血の子もいるので他の派閥も手を出せないのだ。

 

「やっぱり『ホグワーツの歴史』を読んでも秘密の部屋にいるのは怪獣だよ、きっと」

「なら何がその怪獣なのよ、石化させるものは確かにいるけどそんなのホグワーツに置いておかないでしょ」

「いやサラザール・スリザリンが千年前から残してるってことは超長生きなんじゃね」

「なるほど、長寿で石化させる魔法生物か」

「多分蛇とかだと思うんだけど。ほらスリザリンのマークだし」

「誰かぁー図書館から本借りてきてぇー」

「俺行くわ」

「私も」

 

グリフィンドールのリアムとレイブンクローのシェルビーが部室から出ていき図書館に本を借りにいった。……多分シェルビーはリアムに本を任せるのが不安だったんでしょうね。二人が出て行ってから一段落ついたからか自然と休憩する流れになっていた。紅茶を淹れて、お茶菓子を用意する。それを各テーブルへと運び、みんながそれぞれ手を伸ばす。

 

「「疲れたー」」

「……普段からやってる研究よりはマシ」

「少しずつ分かってきたわね」

「そうだねぇ、あとは継承者が誰なのか探さなきゃだねぇ」

「それもわかってねぇんだよなぁ」

「検討があんまりつきませんよね」

「数々の現場の第一発見者だったハリー・ポッターたちが怪しいって意見が強いけどね」

「サラザール・スリザリンと同じくパーセルマウスだし」

「でもステフとは仲良いし、アイクとハーマイオニーは兄妹よ」

「……でも確たる証拠もないのに決めつけるのは愚の骨頂」

「わからないね、手がかりが少ないし」

「むー。ステフ、お菓子の追加取っ……あっ……」

「バカッ」

 

誰かの失言によって部室の空気は静かなものへ変わってしまった。静かになってしまった部室でわざとらしく私は大きくため息をつく。びくっと体をした子をまず見てから団員全員に目を向ける。

 

「まったく、そんな様子でどうするの。アイクやステフが起きたら全部解決させて『貴方たちこんなのにやられたのよ』って盛大にからかってやればいいのよ。特にアイク。さぁ、二人が本を借りてきたら調査再開よ」

 

パンと手を叩いて叱咤した。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

クリスマス休暇へと入り、学校に残る生徒は名前を書き込むこととなった。僕たち三人とマルフォイ、クラッブ、ゴイル。それと各寮の劇団の人達が数人。多分最近暗いホグワーツの雰囲気を一蹴するために何か劇をやるんじゃないかしらなんてハーマイオニーは言っていた。そんな中で僕たちが前々から作っていたポリジュース薬は完成して、僕たちはマルフォイを詰問する予定だった。僕たちはマルフォイが『継承者』なのではないかと睨んでいる。被害者は全員マグル出身でなにせ彼は純血主義者、その上アイクには魔法で吹っ飛ばされていたしステフはそんな彼に助長するようなことを言っていたのだ。動機として十分だろう。

 

ポリジュース薬は難しい魔法薬な上に手に入れる材料も貴重で手に入らないようなものが多い。だというのにハーマイオニーはやる気に満ち溢れており、ロンや僕よりも積極的にこの作戦には挑んでいた。仲の良いステフや兄であるアイクが襲われてかなり頭にきているらしい。相手の体の一部が必要ということでウスノロなクラッブとゴイルからは簡単に髪の毛を盗めたが、しかしハーマイオニーはどうするのだろうか。

 

「私はエリスに変身するわ。この前本を借りたときに髪の毛が挟まってたの」

「君はエリスで、僕たちはクラッブとゴイル?とっても素敵な提案だね」

「仕方ないのよ、ロン。それ以外の髪の毛は準備できなかったんだもの」

 

そういいながら三人で準備していく。僕が薬にゴイルの髪の毛を入れるとカーキ色へと変わり、ロンが薬にクラッブの髪の毛を入れると暗褐色に変じた。一方でハーマイオニーの方はというとエリスの髪の毛を薬に入れると僕たちのいかにも汚いといった色とは異なり、まるでエメラルドのように透き通った鮮やかな緑へと変わった。その様子を僕らは羨ましそうな視線で見つめる。

 

「何よ」

「……別に」

「それより別の小部屋に行こうよ、ここじゃエリスの体ならともかくクラッブやゴイルになったら収まりきらないよ」

 

僕の提案でそれぞれ三人別の小部屋にローブと着替えを持って入る。いち、にの、さんとみんなで同時のタイミングで薬を飲み込む。ひどい味が口の中を通り、焼けるようなよじれるような感覚が胃袋から広がり体が変身していく。奇妙な感覚とともに僕は自身よりも大柄なゴイルへと変化した。かけておいたローブや服に着替えて大きな靴を履いてドアを開けて外に出る。眼鏡を外しながら二人に呼びかけた。

 

「二人とも大丈夫?」

「ああ」

 

口から出たのはゴイルの低い声で、その声に返事をしたのもクラッブの低音だった。

 

「ハーマイオニーは?」

「ええ、問題ないわ」

 

そういって出てきたのは黒髪の美女、エリスの姿になったハーマイオニーである。

 

「なんだかハーマイオニーだけ得してる気がする」

「僕もそう思った」

「ちょっと貴方たち今はクラッブとゴイルの声と見た目なんだからそんなこと言わないで」

「……わかった。こんな感じ?」

「うん、そうね。それじゃ行きましょう。効果はきっかり一時間だし」

 

すたすたと足早に歩いていくハーマイオニーを追いかける。

 

「わ、ちょっと待ってよハーマイオニー。そもそもエリスはそんな風に足早に歩かないって」

「そもそもクラッブとゴイルとエリスってどういう組み合わせだよ」

「そうね……。私がマルフォイに用があるって体にしてクラッブとゴイルに案内を任せたってことにしましょうか」

 

くるりと振り向いてそう答えるハーマイオニー。ふわりと振り向いたときに広がった髪からいい匂いがした。先ほどよりも速度を落としたハーマイオニーの前をロンと僕が歩く。

 

「……絶対ハーマイオニーのやつ美女になってるからって楽しんでるぜ」

「いいから早くスリザリンの談話室へ行くわよ」

「っ痛」

 

僕にそっと声をかけたロンを殴って先に行くようハーマイオニーは促した。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

事前にどうやら談話室の場所を調べておいたらしいハーマイオニーの指示に従ってスリザリンの談話室へ向かい、マルフォイに声をかけらた。

 

「おい、クラッブとゴイル。どこにいってたんだ」

 

一瞬びくりと僕たちは体を震わせる。不自然にならないように注意しながら答えた。

 

「いや、ちょっと」

「だ、談話室への道に迷って」

「またか、全く」

 

ロンが吃りながら答えたが、どうやら不自然ではなかったようだ。……談話室への道に迷うって一体どんだけ馬鹿なんだろう。呆れている僕たちの後ろから咳払いする音が聞こえる。はっと顔を僕とロンは見合わせて(お互いクラッブとゴイルの顔だから少なからず心にダメージはきた)、ハーマイオニーを呼ぶ。

 

「エリスがドラコに会いたいと」

「なに?」

「こんにちは、ドラコ」

 

驚くマルフォイを他所に、にっこりとした笑みを浮かべながらエリスの見た目をしたハーマイオニーが現れる。そんなエリスを見てからマルフォイの顔は少し赤くなって返事をする声は上ずっていた。

 

「や、やぁエリス。久しぶりだね。サマーホリデーの社交界以来だ」

「そうね、久しぶり。私は劇団や勉強で忙しかったものね」

「あぁ、それで僕に用件があるのかい?」

「ええ、ちょっとした噂話についてよ」

「噂話?君がそんなものに興味をもつなんて珍しい」

「あ、あらそうかしら、たまにはそんな気分のときもあるのよ」

 

そうごまかすように微笑むとドラコの病的に白い顔はさらに赤くなる。

 

「『秘密の部屋』について何か知っていることってないかしら?」

「あぁ、あるとも!!といっても少しだけだがね。なんでも父上曰く五十年前に一度『秘密の部屋』は開かれて穢れた血が一人死んだらしい」

「へぇ、五十年も前に開かれてるなんて初めて知ったわ」

「といってもそれ以外は父上よりも前の時代のことだから詳しくは知らないんだがな」

「五十年前に開いた人間って誰かしらね」

「さぁ、知らないがおそらくアズガバンにいるんじゃないのか?」

 

アズガバン?僕の頭に疑問符が浮かんだがロンもハーマイオニーも特にリアクションしていなかったため大人しくしていた。

 

「ところでエリス、単刀直入に聞くけど君が『継承者』なんじゃないのか?」

「私?」

「あぁ、純血で能力もある。ハリー・ポッターよりもよっぽど君の方がふさわしいよ」

「あら、でも私劇団に所属してるのよ。アイクやステフも襲われてるのよ」

「てっきり君が劇団に入ったのは他の寮にも自分の支配下の人間を作ろうと思ったからだと考えたんだが違うのか」

 

マルフォイの返事に一瞬引きつったような顔をするハーマイオニーだったがなんとか持ち直して、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「秘密よ。それにしても私、てっきりあなたが継承者だと思っていたのに違うの?」

「残念なことに僕じゃないんだ。でもあの二人が石になったって聞いたときは笑えたね。『継承者』も僕に手伝わせてくれればいいのに、そうすればあの憎きハーマイオニー・グレンジャーを石にしてやるのに」

 

その言葉に明らかに怒りを露わにしそうなっているハーマイオニー。だが綺麗な黒髪がすこし栗色の爆発したような髪に戻っているのに気がついて慌てて口を閉じた。

 

「急用を思い出したわ、またねドラコ」

「そうかい、残念だ。またね、エリス」

 

本当に残念そうな顔をしてマルフォイはハーマイオニーを見送った。その後すぐに僕たちも腹痛を訴えて、スリザリンな寮から駆け足で出ていった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「全く、何よ!あの態度気持ち悪いったらありゃしないわ!!」

「見たかよ、あのマルフォイのデレデレした顔」

「それにしても『継承者』がマルフォイじゃなかったなんて」

 

元に体が戻り、急いで女子トイレで着替えて鍋を囲んでみんなで座り込む。

 

「どうしよう、これで振り出しに戻っちゃったよ」

「全くの無駄って訳じゃないわよ、少なくとも五十年前にも開かれてることはわかったもの」

「その時の犯人も調べた方が良さようだね」

 

苦労して得た情報が大したことなかったせいか、みんなどこか元気がなく揃ってため息をはく。

 

「にしてもデレデレだったな、マルフォイ。見たかよあの面」

「普段は嫌悪の表情しか見てない私に向けてきたときの苦痛を考えてみて」

「でも、どうしよう」

 

ポツリと漏らした僕の言葉に二人が反応する。

 

「どうしようって一体何がだい、ハリー」

「本当にエリスが継承者だったらどうしようって思って」

「ま、まさかそんなことないわよ!エリスはアイクやステフとも仲良しだもの」

「で、でもそれが本当とは限らないだろ?」

「ロンまで?!」

「マルフォイが言ったことがもし本当だったら」

「そんなことする訳ないわよ、劇団のみんながとっても仲が良いのは知ってるでしょ!!」

 

疑問を次々と言う僕たちに反論していくハーマイオニーだったが、少し動揺しているのか声がどんどん大きくなっていく。ハーマイオニーの声が女子トイレに響いて虚しく木霊した。誰も何も言わずに己の考えに没頭している。するとどこからともなく足音が聞こえ始める。突如聞こえた足音に僕らは立ち上がり困惑し始める。

 

「ど、どこから」

「とりあえず急いで鍋を隠しましょう」

「どうやって?!」

 

ドタバタと慌てていると足音が止まる。するとばさりと音がして僕らの目の前の空間が揺らいだ。透明マントだ!!驚いていると一人の女子生徒が現れた。

 

「こんにちは、『継承者』の敵たちよ」

 

そういいながら登場したエリスは、ハーマイオニーが変身して浮かべていた優しい笑みではなく、氷のように鋭く冷たいものであった。

 

 

 

 

 




思いの外早く長く書き終えました。今まではなんだったのか……。

誤字報告大変助かっています。ありがとうございます。


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キンギョソウ

セドリックとエリス視点です。
花言葉は「おしゃべり」「でしゃばり」「おせっかい」「推測ではやはりNO」


クリスマス休暇となってからしばらく経ったある日、今日も事件について調べているとエリスが一人でどこかにふらっと消えてしまった。エリスの独断行動は別に今に始まったことじゃないから誰も気にしていなかったけど。僕の親友たち、アイクとステフが石化してからしばらく経ってだいたいの事件の全容が少しずつ見えてきた。いや流石にこれは過言かな。わかったのはどうやってアイクとステフ、それとコリン・クリービーがどうやって石になってしまったかだけだし。それが発覚してから僕たちは開発した投影眼鏡の着用を徹底している。アイクたちも発見された時に眼鏡を掛けていたので、おそらく効果はあるはずだから。学校に残った純血の生徒たちだけで今度は学校中を歩き回り秘密の部屋の位置と継承者が誰なのか捜索することになった。

 

そんなクリスマス休暇の真っ最中である今日、『お喋りな巻物』にエリスからの記述があった。

 

『一度全員部室に集合』

 

書いてあった指示に従って僕たちは集まって、エリスの登場を待っているとようやくエリスは現れた。だが様子がどこか変である。まるで見えない何かを重そうに掴むようにして動いており、とても疲れているようだった。

 

「あ、ちゃんとみんな揃っているようね。よかったわ」

「どうしたのエリス。というかその、君は今一体何を持っているのかい?」

「目くらましの術をかけたデミガイズの毛で織った透明マントに包んであるのよ。拡大呪文を掛けて広げたものに更に防音術をかけたから聞こえないはずよ」

「えっと中に一体何が入ってるんだい?」

「元気がいいわよ。みんな気をつけてね!全員白いローブと帽子をつけなさい、それと杖を構えて!!」

 

真剣な顔で叫ぶエリス。その表情と緊迫した声に何事か事態が掴めていない僕たちは指示されるままローブを着て、マントを羽織り、杖をエリスの抱えていた何かに向ける。そんな僕たちの様子を見て真剣な顔をして鷹揚に頷くエリス。

 

「それじゃ、開けるわよ。もしかしたら知ってる人物に変身してるかも知らないわ。気を引き締めなさい」

 

誰が唾を飲む音が聞こえた気がする。僕も顔が引き締まるのを感じた。エリスがばさりとマント開く。すると中からハリー、ロン、ハーマイオニーが現れた。いや変身した姿かもしれない。依然として油断出来ない。皆真剣な顔つきで杖をハーマイオニーたち(仮)に向ける。急に視界が明るくなったのかハーマイオニーたち(仮)は眩しそうに目を細めた。しかし、杖を構えた僕たちが目に入ると途端に絶望したような顔をする。

 

「そんな?!」

「まさか、マルフォイが言っていたことが本当だったの?!」

「やばい、どうしようハリー?!」

 

慌てふためくハーマイオニーたち(仮?)を見ながらエリスは悪役らしい笑みを浮かべて嘲笑した。

 

「ふふふふ、気づいてしまったのだったら、もう遅いわ。貴方たちはステフやアイクのように石になってもらうわ」

「そんな?!」

「ひどいわ!エリス!!信じてたのに!!」

ゾッとするよな表情でハーマイオニーたち(おそらく本物)を見下すエリス。そんな様子を見てヒイッと三人のうち誰かが悲鳴を短くあげた。……なんとなく事態がわかってきた気がする。僕以外のみんなも雰囲気から事情を察したのか、このまま乗るかどうか迷っている顔をしてる。僕は内心でそっと呆れたようにため息をつく。

 

「さぁみんな石化呪文よ、ペトリフィ……」

「はい、エリス。そこら辺でもうやめようか」

 

そう言いながら僕はエリスの手から杖を引き抜いた。呪文が来ると思っていたハーマイオニーたち(本物)はぺたりと座り込んで目を瞑っている。エリスが僕にきょとんとして、それから不服そうな顔を浮かべてきた。

 

「あらセド、もう少しで終わるところだったのに。せっかくだまし杖まで使おうと思ったのよ」

「いやいや、本気でハーマイオニーたちも怯えてるでしょ。悪戯にも限度があるからね、エリス」

 

少し怒ってますというような声を出すと、顔に不満ですと書いたエリスが杖を振る。すると彼女の言った通りフレッドとジョージ作のだまし杖だったようでゴム製のにわとりに早変わりした。それをぽいとハーマイオニーたちに投げると潰れてグェっと音が虚しく響く。間抜けな音とぽかんとした顔をした三人の表情が可哀想だけど確かに少し面白かった。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「全く信じられないわ!!」

 

ハーマイオニーは激怒した。そんな彼女を宥めるようにしてフローラやフレデリカたちが紅茶やお茶菓子などをポンポンと運んで来る。

 

「ごめんねぇ、エリスってたまにお転婆になるんだよぉ」

「なんかアイクの悪影響な気がしないでもないけどね」

「……朱に交われば赤くなる」

 

ハリーとロンは怒りよりも安堵のほうが強かったからか、ほっとして力が抜けてしまっていた。まぁハーマイオニー、エリスも反省してるみたいだから許してあげてほしい。

 

「まぁ落ち着きなよハーマイオニー。良かったじゃないか、エリスが継承者じゃなくて」

「それはそれ、これはこれよ!!本当にもう!!最悪だわ!!!」

 

ロンが宥めるように声をかけるが、かなり怒り狂っているようで最早怒りを表現する語彙すら出てこないようである。ごめんね、なんだかお互いに騙された身とはいえ、ここまで怒っているハーマイオニーを見てるとなんだかこちらまで申し訳なってくる。

 

「最近張り詰めていたから、ちょっとした冗談よ」

「いや俺らは楽しかったけどよ、ハーマイオニーブチ切れてるぞ」

 

いやエリスが理由もなくそんなことするわけ無いと思うし、なんとなくわかってるけどね。

 

「セド、説明よろしくね」

「わざわざ悪役にならなくても良かったんじゃないの?」

「一度痛い目見た方が学ぶと思ったからよ」

 

それじゃと言ってエリスは颯爽と部室から出て行ってしまった。本当に偽悪者だね、エリスは。

 

「えっと、とりあえずわかってることをお互いに共有しようか」

 

 

* * * * *

 

 

「バジリスク?!まさかそんな危険な生物をホグワーツに遺すなんてどうかしてるよ」

「アイクたちが無事なのって完全に偶然ね」

「僕が聞いた声ってバジリスクの声なんだ……」

 

ポツリポツリと三人が感想を述べる。と同様に自分たちよりも詳しい情報を入手していることにもショックを受けたようだ。

 

「ドラコ・マルフォイは継承者じゃなかったんだね。でも五十年前に秘密の部屋は開かれたと。また調べることが増えたね」

「うん、マルフォイはそう言ってたよ。それにしてもエリスはどうして僕たちにあんな悪戯したんだい?」

「あー、あれかい。あれはねエリスなりの優しさというか警告だよ」

 

僕がそういうと三人は揃えて首をかしげた。理解していない様子である。まぁあのエリスの行動じゃわからないのも無理がないか。

 

「エリスは君たちが心配だったんだよ、危ないことに首を突っ込んでいたし、ポリジュース薬なんて難易度の高くて危険なものにまで手を出して」

「それがどうして私たちを脅すことに繋がるのよ」

 

憤慨したようにハーマイオニーが言う。

 

「繋がるよ、もし君たちが本物の継承者を追い詰めたらどうなっていたと思う?」

「僕たちはマルフォイが継承者だと思ってたから」

「それでも君たちは石化の謎を解いてなかっただろう。多分仮にマルフォイが継承者だったら君たちはどうなっていたと思う?」

「バジリスクに丸呑み?」

「その前に目を見ただけで死んでたかも」

「まぁもっと慎重に周りの人間も頼って行動したほうがいいってことだよ。エリスは不器用だから上手く伝えられないけどね」

 

というか素直じゃないだけかな、そう呟いてセドリックは端正な顔に笑みを浮かべていた。

 

 

* * * * *

 

なんてセドリックは説明したかしらね。まぁそういう意図もあったけど、悪戯というのをやってみたかったというのが大半である。それにしてもこれからどうしようか、赤い本を開いてペラペラとページをめくる。幾ら何でも今バジリスクを倒すには早すぎる。しかも剣に毒を吸わせなきゃいけないし、バジリスクを倒したところで分霊箱を壊さなくては意味がないのだから。私ではダンブルドアの信頼を勝ち取っていないし、ヴォルデモートから目をつけられるのはごめんだもの。トムを倒すのはやっぱり物語の主人公(ハリー・ポッター)でないと。

 

そう考えて私はローブに本をしまった。



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モンステラ

セドリックとハリー視点です。
花言葉は「うれしい便り」「壮大な計画」「深い関係」


クリスマス休暇が終わると再び学校に生徒たちが戻り、各々が家族と過ごしていたせいかクリスマス前よりは活気が戻ってきた。時間は過ぎても誰が継承者かはわからず捜査は続いていた。

 

「継承者って誰なのかしら?」

「やっぱりハリー・ポッターじゃないの」

「ハリーはありえないよ」

「じゃあドラコ・マルフォイが嘘ついているとか?」

「ドラコ・マルフォイってエリスにベタ惚れなんでしょ、あの子の性格からむしろ自慢すると思うわ」

 

そうスリザリンの女子生徒がいってため息をつく。継承者についての手がかりはあれ以降増えずに、そもそも五十年前に誰が開けたのかもよくわからないままだった。

 

「ねぇ、エリス。ドラコ・マルフォイに好かれてるらしいけど、貴女の方は彼をどうも思ってるの?」

「私?」

「あぁ、それ私も知りたぁい」

「ええ?」

「ねぇ、ナタリア顔色悪いわよ?大丈夫?」

「あぁ、ちょっとぉ話し逸らさないでよぉ」

「でもナタリアさん本当に具合悪そうですよ?本当に平気?」

「少し横になってくるわ……」

 

フラフラとソファに横になったナタリア。彼女とは対照的に、にこにことシアンとフローラがぐいぐいとエリスに迫る。エリスは困ったような顔をする。ナタリアは最近体調を崩しているのか、ここのところずっと具合が悪い。彼女以外にもみんな疲れてきたのか別の方向に話が進んでる。そんな様子に苦笑していると、他のグループではちゃんと継承者についての話をしていた。

 

「ブース?」

「……違う。別に彼は純血主義者じゃない」

「ベルは?」

「その人確かアイクさんに惚れてましたよ」

「マジかよ?!」

「愛しさ余って憎さになったとか」

「ないない」

「マロンとかー?」

「彼、大の爬虫類嫌いよ」

 

最近最早虱潰しに適当に名前を挙げては否定するといったような流れになってきていた。完全に八方塞がりである。そもそもパーセルマウスである可能性が高いのに、ハリー以外では学校で誰がパーセルマウスか聞いたことがなかった。

 

「……そもそも学校には継承者がいないのかも」

「何だその意見?」

「新しい見解だな」

「ホグワーツ外部から誰かがバジリスクを操っているってことかい?」

 

僕がフレデリカにそう質問すると横からキースが否定してくる。

 

「えー、無理あるよーそれー。だってここの防御魔法ってもうなくなった古い魔法もあって外部からそう簡単に手は出せないんだよー」

「……知ってる」

「「ならどういうことだよフー」」

 

双子がフレデリカに疑問を呈するとこくりと頷いてからフレデリカは答えた。

 

「……外部から内部の人間を通じて無自覚のまま操っているとか」

「えっと、つまり?」

「……例えばふくろう便などを通じて簡単な指示だけ出しているとか、あらかじめ時間指定で決まった動作をするようにしてるとか」

「……なるほど」

 

確かにフレデリカが今言ったような可能性を考えていなかった。でもその可能性を考慮すると容疑者は広がっていってしまう。僕の口からは自然とため息が漏れていた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

劇団も僕たちもあれから何も進展がないまま、事件も起きず、生徒の中にはもしや事件は終わったのではという雰囲気がホグワーツを満たしていた。そんな中、ロックハートが2月14日、バレンタインデーにまた騒動を起こした。

 

クィディッチの朝練で少し寝不足のまま大広間に入ると、僕は部屋を間違えたかと思った。壁という壁がけばけばしい目を惹く大きいピンクの花で覆われて、天井からは趣味の悪い淡いブルーのハート形の紙吹雪が舞い降りてきていた。

 

グリフィンドールのテーブルについてあたりを見渡すと多くの生徒が顔色を悪くしたら不愉快そうな顔をしていた。そんな様子の生徒たちとは対照的に少なくない女子生徒が目を輝かせていた。(ハーマイオニーもその一人である)

「これ何事?」

 

吐き気を催しているような顔をしたロンに尋ねてもふるふると首を横に振るだけでどうやら彼も知らないようだった。薄々感づいていると、大広間のドアからファンファーレが響いて一人の教師が入ってきた。彼の姿を視認して自分の予感が間違っていないことを確信した。ロックハートである。

 

「バレンタインおめでとう!!!」

 

腹立たしいほど整った顔に笑みを浮かべ、輝く歯を見せたロックハートはそう叫んだ。

 

「今までに既に46人のみなさんから私にカードをくださいました!!ありがとう!!そうです、みんな驚かせようとした私からのちょっとしたサプライズですよ!!」

「ちょっとしたがこれかよ」

 

ロンがポツリと隣で呟いた。そんなことにももちろん気がつかずにロックハートは演説を続けていた。無愛想な顔をした天使のような格好をした小人たちも入ってくる。

 

「一体何事ですかこれは?」

 

そう大広間にいる全員の気持ちを代弁したかのようにマクゴナガル先生が驚いた声をあげながら入ってきた。

 

「おはよう、ミネルバ。いや、なんだい、今このホグワーツに必要なのは盛り上がりだと私は考えましたね。なにせ一連の事件の犯人は私を恐れたのか身を潜めましたので!!」

「事件はまだ終わっていません!!それにホグワーツを盛り上げる役には貴方よりも適任がいます!!」

 

そう噛みつくようにマクゴナガル先生は言った。それにしてもホグワーツの盛り上げ役?疑問に思っていると紙吹雪を吹き飛ばすように色々な花が吹雪のように舞ってきた。花びらはテーブルに落ちる前に空気に溶けるように霧散して空に文字を描く。

 

【劇団エリュシオン 見参!!!】

 

やっぱりと思い、大広間の出入り口に視線を向けると花吹雪の合間にいたのは白いローブと白い帽子を見に纏った集団がいた。その中心にいた一人の女子生徒が一歩前に出て、喉に杖をつけて喋り始めた。

 

『おはようございまぁす、みなさぁん』

 

ゆったりとした間延びした口調。ハッフルパフのフローラである。

 

『今年は団長や副団長の身に不幸な出来事が起きてしまいしたぁ。そのせいでろくに公演もできずにいましたぁ……。ですがぁ、私たちはここに活動の再開を宣言しますぅ!!』

 

柔らかくも力強い声が大広間に響いて、その台詞の意味を理解した生徒たちがざわざわと騒ぎ始めた。僕も少しワクワクしていた。あの素晴らしい劇が今年も観れるとは嬉しいことだ。ざわつき始めた制するように空にあった文字が動いて別の文字となる。

 

【静粛に】

 

その文字を見てに少しづつ静かになっていく大広間。その様子を確認してからもう一人生徒が前に出てくる。

 

『私たちの活動は再開しますが、初めは劇をやるのではなく別のものをやろうと計画しています。それは……』

 

【寮対抗FOC最強決定戦!!!】

 

空の文字が動いて輝き始めた。その文字を確認すると先ほどよりも大広間は活気付いて賑やかになる。FOC?聞いたことがある気がするが何かは思い出せない。

 

「ロン、FOCってなんだい?」

「えっとなんか最近できたら遊びらしくてね……」

 

それから簡単にロンは僕とハーマイオニーに説明してくれた。なんでもチョークを使った対決らしく、これも劇団が発祥らしい。

 

『四月までに各寮の代表者を五人まで絞り、その後代表者同士で対決してもらいます!大会の主催は私たち劇団が務めます!!また寮代表者を決める予選に出場したい人たちはハッフルパフのセドリック・ディゴリーかフローラ・ボスロイドのどちらかに相談してください』

 

わぁぁっと割れんばかりの拍手が大広間を埋め尽くす中、彼らは満足そうに笑って去っていった。

 

 

 

 

 

 



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ヒヤシンス

セドリックとハリー視点です。
花言葉は「スポーツ」「ゲーム」「遊び」「悲しみを超えた愛」


 

 

FOC大会の予選のために集めた紙は想定よりも大幅に多かった。部室に紙を整理していてフローラがてんてこまいになっている。

 

「うわぁぁん、めちゃめちゃ多いよぉ〜」

「……泣き言言わない。私も手伝っている。トーナメント作成まで終わらせたセドリックを見習いなさい」

 

部室のソファに横になり、毛布にくるまるフローラとそんな彼女を呆れたように見ているフレデリカ。

 

「……元々言い出しっぺなのはフローラ。頑張って」

「私はただ暗い学校の雰囲気を明るくしようと思っただけで、ここまで忙しくなるなんて聞いてないよぉ」

 

うう、とフローラは嘘泣きをした。実際彼女の提案は良い案だと僕も思った。最近盛り上がることと言えばクィディッチぐらいだし、元々楽しかったロックハート先生の授業はアイクがいなくなってから彼の自慢話が延々と続くだけのものになって、みんなの好きな授業から嫌いな授業へとあっさり転落してしまったし。そもそも他の学年ではあんまり好かれていないようだった。

 

「まぁまぁお茶でも飲んで頑張りなさいよ」

「ナタリアァ〜」

「はいはい、よしよし」

 

そっとお茶を運んできたナタリアにフローラはがばりと起き上がって抱きしめた。ナタリアはフローラの頭を優しく撫でている。

 

「すっかり調子戻ったね、ナタリア」

「ええ、なんとかね。心配かけて悪かったわ、セドリック」

「何が原因だったの?」

「さぁ?それがよくわからないのよ。一応保健室にも行ってマダム・ポンフリーにも相談したんだけど原因がわからなくて、なのに最近になって急に楽になったの。不思議よね」

 

原因がわからないと言うと少し不気味だが完治してもう元通りの調子に戻ったナタリアの様子に少しホッとした。部室の雰囲気もアイクとステフがいないせいで暗いままだったが、最近は安定してきており、いつものようにはしゃいでいる人たちもいる。

 

「マーカス、勉強教えて」

「いいですよ、リアム。科目は何ですか?」

「変身術。俺あれがすごい苦手でさ」

「「やぁ、ターニャ」」

「これ中にお菓子入ってるんだ」

「良かったらいるかい?」

「本当?ありがとう。フレッド、ジョージ」

「きゃああ?!ちょっと箱が爆発したわよ?!フレッド、ジョージまた貴方たちね」

「シアンが怒ったぞ!」

「逃げるぞ兄弟!」

 

勉強を教えあっていたり、フレッドとジョージが悪戯仕掛けてそれから追いかけ回されたり、みんなでゆっくりお茶飲んだりお菓子を食べたり至って普段どおりである。みんながそうしようと務めているというのもあるかも知れないが。

 

そんな部室の様子を見て僕は1つの違和感を覚える。スリザリンの男子生徒を捕まえて質問してみた。

 

「ねぇ、デューク、エリス知らない?」

「なに?」

 

そう僕が尋ねるとあたりを見渡すスリザリンの男子生徒。僕も同じように周りを見るがどこにもエリスの姿はない。

 

「ふむ。確かにおかしいな、エリスがいないのは」

「うん。だいたいいつも来てるでしょ」

「ああ。だけど最近は来ていない気がする、特にここ何日かは」

「え、そうなの」

「忙しかったから気づかなかったのだろう、セドリックは。ここ数日来ていないぞ、エリスは」

 

そうなのか、列車の中で絶対に参加すると言っていたエリスは予選のエントリー用紙すら出していない。その上最近エリスは部室にも来ていないのか。具合でも悪いんだろうか。

 

「たまに個人行動をとりたいと言っていた、エリスは。おそらく今はただの気まぐれだろう」

 

うーん、そうなのかな。いまいち納得がいかなかったが、キャパオーバーしたフローラが頭から煙を出しているのを幻視して僕は彼女の手助けにいった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

三月下旬に入って、ようやく劇団で集計と会場準備が終わった。というのも集計自体はそこまで時間もかからず、なおかつトーナメント作成までも一悶着はあったもののスムーズに終わった。ではなにに時間がかかったのかというと会場準備である。当初、舞台で使っている特設用ステージを設置して行う予定だったが、そこでまず躓いた。特設用ステージや照明など舞台装置関連は倉庫にまとめてあるのだが、その鍵を開けるには部長と副部長二人の三人の中から二人の許可がおりないといけないのだ。だがしかしアイクとステフが石化しており、残る副部長はエリス一人のみ。この倉庫は悪戯に使われるのを防止するためステフが一人で作ったもののため強制解除が誰もできない。結果、僕たちは特設リングを一から作ることになったのだった。

 

それ以外にもルールの明文化、チョークや核の準備、不正防止の魔法をかけるなど様々な苦労を経てようやく予選の開始ができたのだった。

 

『レディースアンドジェントルメン!!お待たせしました。本日、今この時よりFOC大会、予選の開幕を宣言します!!まずは初日、グリフィンドールの代表者決定戦です!!!!張り切ってどうぞ!実況は私、ケビン・カウリー。そして解説は』

『……フレデリカ・ファーガス。ケビンのさっきまでのテンションの差に引いてる。さっきあんなに緊張してたのに』

『バッカ!そういうのバラすなよ!』

 

2人のやりとりに会場が笑いに包まれる。

 

『ごほん。えー、では気を取り直して、第一試合、我らが劇団の一人、リアム・リッジウェルVSコレット・ファランドール!!』

 

わぁぁっと歓声がおきて、男子生徒と女子生徒が入場してくる。二人の頭上にはチョークの粉できらびやかに名前が描かれた。二人がそれぞれ周りに手を振ったりしてから緑の球体、核を投げる。すると粉が集まっていき二人の人形が形成された。リアムの方は一般的な騎士。青い盾と赤い片手剣を持っている。コレットは青い鎧に身を包み、赤い鞭を装備している。

 

『それでは両者準備はよろしいですか?』

『……レディ、ファイッ!!』

 

二人が操る人型が激突して、会場は歓声をあげた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

戦い始めた二つの人型たちの様子が会場の前のスクリーンに拡大して投影されているらしく派手に写っていた。その熱い戦闘を僕たちは興奮しながら見ている。すると見知った顔が僕たちの方に近づいて来た。

 

「やぁ、ハリー、ハーマイオニー、ロン。君たちも見に来たのかい」

「セドリック」

「今日これを見にこない人の方が少ないよ」

「セドリックは運営じゃないの?」

 

去年以来何かと話したり、クィディッチの練習を一緒にしてくれたりしてくれるセドリックだ。いつもと違って珍しく一人である。

 

「うん、一応僕もトーナメントに参加するからね、ケビンとフレデリカは参加しないからずっと解説と実況だけどね」

「そういえばフレッドとジョージも参加しないって言ってた気がするけど運営側ってことか?」

「あはは、いや二人は今回は全く劇団に関係ないよ。ほら」

 

セドリックが指をさす方にフレッドとジョージがいた。二人は派手な格好をして看板を掲げている。どうやら賭けをやっているらしく、どちらが勝つのか、誰が代表者になるのか集めていた。

 

「あれいいの?」

「うーん、フレデリカが積極的に協力してくれた理由の一つが賭けによる利益だからね」

 

困ったようにセドリックは笑っていた。そんな中、僕は一人会場のどこにも見かけない人物には気づく。

 

「あれ、セドリック、エリスは?」

「あー。なんか最近見かけなくてさ、三人は知らない?」

 

そう言われても僕たちは首を横に振るだけである。一方で試合は決着がついたようで男子生徒の人型が女子生徒の人型の首を切り飛ばして勝利していた。

 

『おおっと?!とうとう決着がつきました!!リアム・リッジウェルの勝利です!!』

『……劇団員には初戦敗退は許されない』

『フレデリカ、怖いこと言うなよ……』

 

「やっぱり劇団員はみんなよりも強いのね」

「そうだね、普段から粉を操ってるから他よりも操作が上手いからね。まぁ、ともかく楽しんでね。じゃあまた」

 

そう言ってセドリックは笑って去っていった。会場はまだ初戦を終えたばかりで未だに熱気が渦巻いている。

 

 

 

 

 



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ルピナス

セドリックとハーマイオニー視点です。
花言葉は「想像力」「いつも幸せ」「貪欲」「あなたは私の安らぎ」


『決まったーー!!スリザリン代表者決定トーナメント、最後の試合、敗者復活戦の勝者はグスタフ・グラント選手です!!さぁ皆様大きな拍手を!!』

 

ケビンの実況と共に、拍手が会場中に響き渡った。僕もみんなと同様に手を叩く。

 

『さぁ、五月下旬、これにて各寮の代表者がようやく決まりました!!』

『……いよいよ来月から最強の寮を決定する戦いが幕を上げる』

『えー、みなさん頑張ってください!!!!』

『……ファイト』

『ふぅーようやく実況終わったわー』

『……ケビン、オフにしてないよ』

『あ、やべ』

 

わぁぁっと割れんばかりの歓声の中、代表者となった生徒たちが前に出てそれぞれお辞儀をして舞台の幕は降りていった。これでようやく予選が終わったのだ。クィディッチの試合や天候の関係もあって試合期間も伸びてしまってなかなか全ての予選トーナメントが終わらなかったのだ。各寮によって立候補者数が異なりグリフィンドールはなんと三日もかかった。流石である。

 

「お疲れ様、二人とも」

「いやぁ、めっちゃ緊張してたわ」

「そう?堂に入ってたよ、ケビン」

「お、そうか。ありがとなセドリック」

 

そういってお互いにハグをする。その隣に目を向けると死んだ目をしたフレデリカがいた。

 

「……顎が痛い」

「あはは、お疲れフレデリカ」

「……疲れた」

「お前言うほど喋ってないだろ」

「……バカと違って考えて喋ってるから。その分頭も使ってる」

「ほう、それは俺がバカだと?」

 

なんというか仲が良さそうで何よりである。去っていく二人を見送り、片付けの指示を始めていると、スリザリンの女子生徒シアンが近づいてきた。

 

「代表決定おめでとう、シアン」

「ありがとう、セドリック。あなたも代表者でしょ、お互い頑張りましょうね」

「そうだね、手加減はしないよ」

「あら女性に優しくしなさいと教わらなかった?」

「ゲームや試合は別だよ」

 

僕がそういうとシアンがクスクスと笑った。それから笑みを消して真剣な表情に変わった。

 

「それでエリスについてなのですが」

 

僕は静かに首を横に振る。シアンはぐっと唇を噛み締めて悲しいような悔しいような顔をした。

 

「一体どこへ消えたのでしょうか、エリスは」

「それは……」

「私もちろん色んな所を探しましたよ、それでも手がかりも見つからずもしかしたら、もう既に……」

「シアン……」

 

今にも泣き出しそうなシアンの肩をそっと掴んで安心させるようにできるだけ優しい声を出す。

 

「大丈夫だよ、シアン。エリスはきっと無事だよ。彼女は純血だし、スリザリンの生徒だ。継承者に襲われて亡くなったわけじゃないって」

「セドリック……」

「エリスの悪戯じゃないかな、きっとひょっこり戻ってくるよ」

「そう、ですよね……すみません、親友全員が消えてしまったあなたが一番辛いというのに」

「いや大丈夫、辛いのはお互い様だよ」

 

そう笑いかけるとシアンは目尻の涙を拭いて、笑顔を作って去っていった。

 

事の始まりは二ヶ月前、スリザリンは全員が完全に個室らしくいつまで経っても起きてこないエリスをシアンが起こしに行ったところベッドはもぬけの殻だった。最初はまた勝手にどこかへ行ったのかと考えていたのだが、その日の授業にも現れず、数日経ってからも姿は見えなかった。不安に思ったシアンは先生に相談したのだが先生方も何も知らず、石化した彼女も見つからなかったため彼女は行方不明となったいる。ただでさえ不安な校内にこれ以上悪影響をもたらす訳にもいかず彼女は家の事情として一時帰宅しているということになった。

 

先生たちに手伝ってもらいながら僕たちは舞台装置を片付けたので想定していたよりも早く片付いた。どうやら先生たちもこのイベントに賛成らしく、色々な協力をしてくれている。

 

 

* * * * *

 

 

片付けが終わったその足で僕は保健室へと向かう。保健室に入るとマダム・ポンフリーはまたかといったような顔をしたけれど何も言わずに通してくれた。僕は二つのベッドの間に入り、花瓶の水を変えてから、硬く冷たくなってしまった二人の手を握った。

 

「やぁ、アイク、ステフ。今日、ようやく全寮の代表者が決まったんだ。ここまで長かったよ」

 

アイクとステフの手を握りながら今日あった出来事をつらつらと述べていく。楽しいことだけでなく、愚痴や大変だったことも。エリスが部室に来なくなり、失踪してしまったから保健室に通うことはすっかり僕の日課になってしまった。誰にも言えないような弱音や不安もここでならすらすらと言えた。二人がいなくて纏めるのが大変だとか、早く元に戻ってほしいとか、エリスがどこに行ってしまったのかとか、周りには不安が漏れていないかとか……例をあげればきりがないが概ね僕の胸の中を素直に正直に話していた。

 

「……君たちがいない学校生活はさみしいよ……」

 

涙が出てきそうになるのをそっと堪えて僕は二人のベッドを後にした。

 

 

* * * * *

 

 

 

部室の隣の教室で、外から聞こえてくる歓声に耳を貸さずに私たちは本に目を通していた。ある程度読んで一息をつき、疲れた目を休めるように揉み一緒にいる子たちに声をかける。

 

「シェルビー、何かわかったかしら?」

「私はさっぱり。お手上げよ」

「マーカスは?」

「僕も特に見つかりませんでした」

「ハーマイオニーはどうだったの?」

「私もないわ」

 

はぁぁあっと三人深いため息を吐く。私は今FOC大会にも目もくれず、劇団所属であるレイブンクローのシェルビーとマーカスの三人で調査を続けていた。

 

一連のマグル出身の石化事件について犯人に対してわかっていることは石化させたのはバジリスク、犯人は蛇語使い、純血主義者であるということだけである。更に手掛かりを増やすため、これ以上被害者を出さないためにもマグル出身である私たちは必死に調べていた。

 

もちろん、セドリックたちがおふざけでやっている訳ではないことはわかっているし、今の暗い空気を持ち上げることが必要だということもわかっているので文句がある訳ではないんだが。

 

シェルビーは疲れたのかぐったりと机にうつ伏せになり、マーカスはだらけて椅子に座っていた。そんな二人を見て私は叱咤する。

 

「ちょっと二人ともしっかりしなさいよ」

「なんであなたはそんな元気なのよ、ハーマイオニー。私たちの倍は本読んでるわよ」

「君がレイブンクローに入らなかったことが僕には不思議でなりません」

「あなたたちね、これはマグル出身の立場や人命が関わっているのよ。休んでいる暇なんてないわ」

 

バンと机に本を叩きつけるように置いて二人に向かって怒鳴る。

 

「でもそうはいうけどハーマイオニー。これ以上どうやって調べるのよ?」

「秘密の部屋の位置はわからないし、継承者に関する書籍はほとんどない」

「バジリスクの弱点の雄鶏は全て殺されちゃったし」

 

そう聞かれると答えに困る。確かにがむしゃらに本を読んだり記録を漁っても意味がない。考えるのよ、ハーマイオニー。何か有利な手がかりになるものは一体何かしら?本を閉じて一人で熟考(じゅっこう)を始める。秘密の部屋は?どこにも記録がない。あることは確からしいけど。継承者は?今以上のヒントがない限り特定は無理。…………。いや、あと一つの調べることができるものがあった。

 

「五十年前の事件」

「へ?」

「は?」

「そうよ、五十年前の事件と同一犯の可能性があるわよ!!」

「あー」

「でもそれって犯人は無実の罪で誤認逮捕だったってダンブルドアに聞いた人は言ってたよ」

「うそ!?」

 

ようやく浮かんできたアイデアも実は他の人がすでに疑問に思い、解消しているらしくかった。テーブルにぐったりと伸びる。一体どうすればいいのかしら……。そう考えていると、シェルビーが隣でブツブツとつぶやき始める。

 

「……犯人はハ…リッ……でも原因は……ク……だし………いや…でも被害者は……あれ?……バジ……スク、確……そ……考え……なるほど!!!」

 

バンと先ほどの私同様机を思い切り叩いて立ち上がった。

 

「まだ調べていないことがあったわ、五十年前の事件の被害者よ!!」

「そういえば確かに」

「記述も記録もないわね」

 

そうと決まれば善は急げ。私たちは図書館に新聞を借りに駆け足で向かった。

 

 

 



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アリウム

セドリックとハリー視点です
花言葉は「深い悲しみ」「正しい主張」


予選を全て終えた次の週、六月にもなったその日、ざわざわとした大広間は普段と様子が大きく変わっていた。マクゴナガル先生の協力によって古代ローマの闘技場のようになっている。観客席も全て石でできているかのようになっていた。

 

「いやー流石先生、すごいもんだな」

「……多分、劇団総出でも不可能」

「もうそろそろ時間だよね、とりあえず準備しようか。僕、選手の誘導してくるね」

 

待合室に待機している選手たちを舞台の中心に移動するように話しかける。

 

「みんな、もうそろそろ開会式やるからステージによろしくね」

「おー」

「さぁいっちょ蹴散らしてやるぞぉ」

「いんや勝つのはグリフィンドールだ」

「脳筋どもに負けるレイブンクローではない」

 

みんなが火花を散らしながら会場へと入っていく。演出としてはまずは舞台に幕をかけておき、幕が上がると寮ごとに集まってそれぞれ何らかのパフォーマンスをやってもらう、ということにしている。みんなが進む中で一人だけ具合の悪そうな人物がいた。

 

「えっと、確か、ジニーだよね。顔色悪いけど大丈夫?」

「っ……だ、大丈夫、問題ないわ」

 

一年生ながらも天才的なまでの操作で僕たちよりも上級生を破っており、もはや「劇団にスカウトしないか」とか話していたのだ。なんでもウィーズリー家の一番下の子で紅一点らしい。フレッドとジョージとは似ても似つかぬほど静かな子で、体が弱いのか常に顔色が悪い。

そんな彼女は体を抱えるようにして待合室を去っていった。

 

みんなが会場に行った後で僕だけは残っていた。僕はみんなのパフォーマンスの後に選手の代表者として、劇団の一員として挨拶をした後、実況であるケビンの宣言により開会するというプログラムである。

 

心臓がばくばく脈打っていのを感じた。クィディッチの試合よりも緊張している気がする。アイクはいつもこんな感覚なんだろうか?巻き物を取り出して実況席にいるケビンとフレデリカに『準備完了』とメッセージを送る。すぐに『オーケー』と返事が返ってきた。

 

ドスンというような振動音が聞こえた。幕が降りたのだろう。僕は拍手の方へと一歩踏み出して

 

「え……?」

 

目の前の惨状に言葉を失った。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「ハリー、早くしろよ。ディーンたちが席取ってくれてるんだって」

「待ってよロン」

 

先を行くロンを追いかけるように走り、大広間に着くと部屋を間違えたのか僕は思った。そこにはみんなが食事をしたりするような部屋ではなく、古代ローマのような闘技場になっており、雄々しくも繊細に豪華な装飾がされた石で観客席も中央にあるステージもできていた。辺りにはそんな雰囲気に見合ったように筋肉隆々な男たちの石像が囲んでいる。

 

「すごい……」

 

そんな感想が思わず自然と口からこぼれ落ちていた。これもまさか劇団の人達がやったのだろうか。

 

「ハリー、ディーンたちを見つけた。こっちだ」

 

ロンの案内に従って人集りを抜けて席に着くとディーンやトーマス、ネビルたちがいた。みんなそれぞれクィディッチのときのように応援グッズを着たり手に持ったりしている。

 

「すごい大勢いるね」

「そりゃそうだろハリー。今までの予選大会では自分の寮以外見ないってやつもいたけど今回はそんな予選大会を見てたやつだいたい全員来てんだろうからな」

 

そんな風に解説されたあと、誰が強いとかどこが手強いとか(僕らはみんな勝つのはもちろんグリフィンドールと信じていた)を話して盛り上がっていた。

 

「そういえばロン、お前の妹代表になってただろう。そんなに魔法が上手いのか?」

「僕だって初めて知ったよ。そんなこと」

 

そういうロンはどこか拗ねているようだった。まさか妹がグリフィンドールの代表になるなんて想像もしていなかったのだろう。そんなロンとは打って変わってフレッドとジョージは大喜びしていたが。まさか一年生が代表になるなんて誰も考えていなかったのでかなり大儲けしたらしい。

 

「あ、始めるよ」

 

ネビルがそういうと中央にあるステージにかかった段幕に文字が映る。

 

《開会式》

 

『あー、あー。放送できてる?あ、問題ない?オーケー』

『……これより寮対抗FOC大会、開会式を始めます。まずは選手入場。カウントダウンスタート』

『あ、ちょっ、俺の台詞』

 

段幕の文字が動いて数字へと変わる。《10》と表示された数字が小さくなって行く。

 

「「「「5!!……4!!……3!!……2!!……」」」

 

会場中が一体となって小さくなって行くカウントダウンに合わせて叫んでいく。会場中がみんなの熱気と動きに合わせて揺れ動いていた。表示される数字が《0》になった瞬間、段幕がさぁっと霧になるようにして消えて全て蝶に変わって羽ばたく。

 

そしてステージの上には各寮の代表選手が集まって立っていた。みんなが揃いも揃ってピクリとも動かずに立って固まっている。歓声と応援が爆発するように響いた。しばらくそんな状態が続き観客は思い思いに叫び始める。

 

「負けるなーグリフィンドール!!」

「元祖の力を見せつけろ!!ハッフルパフ!!」

「レイブンクロー、蹴散らせ!!」

「ぶっとばせ、スリザリン!!」

「頑張れ、リアム!」

「グスタフ一回ぐらいは勝てよ」

 

 

個人に対するものから寮に対するものまで。拍手喝采とともにエールが送られた。そんな音声にもピクリともニコリともしない人々流石に不審に思ったのか、会場近くの人がとんと強く押すと抵抗なくパタンと倒れた。転がった生徒は身じろぎもせずにそのままころがる。奇妙な沈黙が大広間を支配した。ひぃっと短い悲鳴が押した生徒から聞こえ、それから伝播するように会場中から悲鳴が聞こえた。

 

「きゃあああああ」

「え、うそだろ」

「みんな石になってる?」

「おいおいおい」

「スリザリンもなってるぞ!」

「純血は大丈夫じゃなかったのかよ!?」

「うわぁぁああ」

 

みんなが悲鳴をあげて逃げるように大広間から走り去っていく。

 

『おい、どうなってんだよ!?』

『……いいから幕を元に戻して!早く!!!』

 

聞こえた実況席からの声に反応してすぐに段幕が元に戻る。そんな中でマクゴナガル先生の声が響き渡る。

 

「各生徒はそれぞれの寮に避難しなさい!!良いですか、教師の許可が出るまで一切の出入りを禁止します!!!」

 

僕たちも人の波に流されるように寮へと動かされる。しかしそれに逆らうようにしてロンは会場の方へ行こうともがいていた。

 

「ロン?!何してるんだよ!!寮はこっちだよ?!」

「違う、僕、戻って確認しなきゃ!!」

「確認って何を!?」

「居なかったんだよ!!」

「誰が!?」

「僕の妹、ジニーがだよ!!!」

 

 

 

 

 




そういえばエマ・ワ◯ソンの弟がめっちゃイケメンでした(こういうのってここに書いていいのかね、ダメならそっと教えてください)


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スイセン

ハリー視点です
花言葉は「うぬぼれ」「自己愛」


あの人混みの中では結局戻ることが出来ずに僕とロンは流されるように寮へと戻った。しかし諦めきれなかったロンはどうしても行くと聞かず、僕とロンは2人で透明マントをまとって大広間に行くことにしていた。焦って走ろうとすふロンを諌めながら大広間に着くと、そこには劇団の生徒数名と教師が大勢いる。

 

「本当に犯人が誰なのかわからないのですね」

「すみません、俺らも幕の中で何が起きているかさっぱりで」

「……そもそもあの場にいた当事者たちはみんな石化している」

「幕が上がる前に何か違和感はありませんでした?」

 

先生たちがあの場にいた劇団の生徒たちに質問しており、状況をきっちりと把握しようとしていた。そんな様子を尻目にこっそりと段幕の下をくぐり、中を確認にする。現場はどうやらそのままにしていたらしく、固まってしまった各寮の代表が微動だにせずにいた。

 

「ほら、やっぱりジニーがいないじゃないか?!」

「本当だ……」

 

人数を数えると確かに足りない。だけど僕は更に2つのことに気づいた。

 

「なんでこんなにステージか濡れてるんだろう」

「多分バジリスクをここに呼んだとき誰かが水の膜で選手たちを覆ったんじゃないかな?そうじゃないとみんな石じゃなくて死んでるし」

「なるほど。ねぇ、ロン。もう1つ疑問があるんだ。」

「なんだい、ハリー?」

「確か代表って各寮に5人だよね?」

「そうだよ、だからここには全員で20人いるはずだよ」

「でもよく見てみてよ」

「?」

 

2人で順番に指をさして数えていく。

 

「……17……18……あれ?」

「やっぱり、ジニー以外に1人足りないんだよ!!」

「じゃあもしかしてその人が継承者ってこと?」

 

僕たちは顔を見合わせる。一体どこの寮の生徒だと、全ての寮を確認していった。グリフィンドールは1人いないけど、それはジニーだ。レイブンクローはみんないる。可能性が高そうなスリザリンも全員いた。ならばと思い、ハッフルパフを確認すると1人足りなかった。

 

「嘘だろ、まさかハッフルパフだなんて……」

「でも誰がいないの?ハッフルパフの代表ってみんな劇団の人達だよね」

「うん、えっと……」

 

代表が誰なのかを思い出しながら1人ずつ確認していく。

 

「ナタリア……フローラ……キース……ヒューゴ……」

「まさか……」

 

継承者はもしかしてこの場にいないハッフルパフの代表、セドリックなのではないか。僕たちは自信が導き出した真実に震えていると、ばさりと音がして段幕を通って先生たちがステージに上がる。どうやら他の生徒たちはもう寮に帰らせたようだった。

 

「まさかこんなことになってしまうなんて」

「みなが楽しみにしていたイベントでこんな出来事が起きてしまうとは」

「もうホグワーツは終わりです。こんなことが起きてしまっては閉校は免れないでしょう」

「ダンブルドアは今理事会の緊急会談に出席しています。まだ諦めるには……」

 

先生たちが口々に悲しみを言い、嘆きを露わにしている。すると段幕が再度音を立てて1人の教師が中に入ってきた。僕はダンブルドアが会談を終わらせて来てくれたに違いないと考えたが、そちらを見るとロックハートが立っている。

 

「遅れてすみません。少しうとうとしていたもので」

 

そうへらへらというロックハートの顔をどう見ても憎しみとしか言えないような目つきで先生たちは睨みつける。そんなことにも気がついていないロックハートにスネイプが一歩前に出て声をかける。

 

「なんと適任者がいるではないか。まさに適任者だ。ロックハート、女子生徒が怪物に拉致された。なんでも『秘密の部屋』に連れ去ったのだとご丁寧に伝言を残している。いよいよあなたの出番ですな」

 

そう皮肉めいた口調でロックハートに声をかけた。どこに伝言がと疑問に思うと段幕の内側に大きな文字で《白骨は永遠に『秘密の部屋』に横たわるでしょう》と書いてあった。

 

「そうですね、確かあなたこの前『秘密の部屋の場所がわかった』なんて言っていましたよね」

「『秘密の部屋にいる怪物と対決出来なくて残念ですね。もし私が対峙していたなら私の素晴らしい著作がもう一冊増えていたというのに』ともおっしゃっていましたよね」

「そ、それは……」

 

しどろもどろに答えるロックハートを石のように非情な顔で見つめていた。

 

「ならばギルデロイ、あなたにお任せしましょう。今回あなたの偉業を邪魔をする者は誰もいません。お好きなように怪物を煮るなり焼くなりしてください」

 

ふんと鼻で笑うようにしてマクゴナガル先生が最後通牒を突きつけて、ロックハートは絶望したような表情に変わった。

 

 

 

* * * * *

 

 

その後僕たちは寮に戻った。フレッドやジョージ、パーシーまでもがじっと黙って座り込んでいた。ロンも憔悴しており見ていてじっと胸が痛んだ。そのままただ時間は過ぎ去っていくかに思われたが、談話室のドアがいきなり開いた。みんながざわめき、ドアから少しでも遠くに行こうと移動する。僕もそっと唾を飲み、身構えていると現れたのはハーマイオニーだった。

 

「……なんだハーマイオニーか……」

 

安心したように自然と空気が胸から漏れた。そんな僕の様子や談話室の安堵している様子も意に介さずハーマイオニーはどこか興奮した様子で僕とロンの腕をとってズカズカと進んでいく。

 

「ハーマイオニー?!急にどうしたんだい!?」

「今は君の説教くさい会話を聞くような気分じゃないんだ」

「見つけたのよ!!」

「何を?」

「『秘密の部屋』よ!!五十年前の被害者は嘆きのマートルだったの!!彼女は『秘密の部屋』から出て来たバジリスクの目で死んだのよ!!」

 

その発言に僕とロンには衝撃が走る。なら今から秘密の部屋に行けばジニーを助けられるじゃないか!!!それから僕たちはハーマイオニーに先ほど起きたことやこれからロックハートがバジリスク退治に出かけることなどを話した。そうと決まったら急げと僕たち3人は急いでロックハートの部屋へと透明マントを被って向かった。

 

 

* * * * *

 

 

ロックハートの部屋を訪れると彼の名誉や著作が他人のものであったことが判明して、彼を盾にするようにして3人で秘密の部屋に入った。ハーマイオニーもあれほどロックハートを見るたび顔を赤くしていたというのに軽蔑した目つきで今はロックハートを睨みつけていた。その後、ロンから杖を奪ったロックハートはロンに向けて魔法を使ったが壊れていた杖で使った魔法は暴発して僕とロンやハーマイオニーを分断した。

 

「ハリー!!」

「どうしましょう!?ハリーだけ向こうに!!」

 

岩の壁の向こう側で慌てている声が聞こえてくる。だけど取る道は1つだけだ。

 

「僕だけ先に行くよ」

「そんな!ハリー!?」

「……わかった」

「ロンまで!?何言ってるのよ、今すぐこんな岩の壁に穴開けて」

「ダメだよ、そんなのいくら時間があっても足りないよ。今は一分一秒がもったいないんだ。ジニーが危ないんだ、僕だけでも先に行かなきゃ」

「……わかったわ。私たちもすぐに追いかける。それまで頑張って」

「ジニーを頼むよ、ハリー」

「それじゃまた後でね」

 

震える声と足を必死に抑えて僕は岩の壁を背後にまっすぐ進んだ。

 

 

 

* * * * *

 

 

僕が部屋に入ると2人の女子生徒が横たわっていた。赤い髪と黒い髪が地面に広がっている。

 

「ジニー!?それとエリスも!?」

 

急いで2人に駆け寄り体を揺らす。ジニーからは何も反応が返ってこなかったがエリスはゆっくりと目を開けた。しばらくパチクリしてからあたりを見渡す。

 

「……ハリー?それとジニー……?」

「そうだよ!!エリス何でここにいるんだい!?いや、とりあえずバジリスクが来る前にここから逃げよう」

「それには少し遅かったかな」

「誰だ!?」

 

がばりと振り返るとそこには知らない青年が立っていた。

 

 

* * * * *

 

 

半透明な好青年、トム・リドルは過去のヴォルデモートであり、記憶を封じた日記を通じてジニーを利用して一連の事件を起こしたという。

 

「なら一体エリスはどうしてここにいるんだ!」

 

僕が大声をあげて質問するとトムは冷たい微笑みを浮かべ楽しそうに答える。

 

「彼女はジニーに入っていた僕を監視していた。不完全な透明マントを使ってね。ある日そのことに気がついて僕はエリスに接触した。そしたら驚くべきことに彼女は僕の支配に抗った!!二年生の女子生徒の体とはいえ、闇の帝王の力に!!彼女を操ろうと干渉すると必ず『何か』に阻まれる。僕にも正体が掴めない『何か』だ!!それから彼女をこの部屋に監禁してその『何か』の正体を暴こうとしていた。それでも何も知らずに学校生活は進んでたけどね」

「二年生の女子生徒の体に入って、四年生の女子生徒を監禁とはど変態ねトム・リドル」

「黙れ!!僕をその名前で呼ぶな!!僕はヴォルデモート卿だ!!」

「そうね、マグルの父と同じ名前なんて貴方には耐えられないでしょう」

「貴様どうして知っている!?」

 

激昂したトムとは対照的に疲弊しながらもどこか余裕のあるエリス。なんというかいつもとどこか様子が違う気がした。

 

「まぁいい、まずはお前からだ、ハリー・ポッター。君を殺して未来の僕の失敗はただの偶然にすぎないと証明し、再度もっとも偉大な魔法使いは僕であると宣言しよう」

「違うな」

 

トム・リドルを否定して向けられた杖に怯えながらも必死に対峙する。

 

「最も偉大な魔法使いはダンブルドアだ。君じゃない」

「黙れ!!ダンブルドアは過去の記憶にすぎないと僕に追放され、今はこの城にいない!!ただの二年生である君は僕に殺されて、この事件はおしまいだ!!君1人で何ができる!!」

 

「いいや1人じゃないよ、少なくとも僕は間に合った」

 

そう声が聞こえた方を振り向くと白いローブ、白い帽子を着た灰色の瞳の生徒、セドリック・ディゴリーがそこにはいた。

 

 

 



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リンドウ

セドリックとハリー視点です。
花言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」「正義」「誠実」


時刻は少し前に遡る。

 

事件が起こってからケビン、フレデリカたち運営側は説明役として残されたが、僕は他の生徒と同様に寮に返されてしまった。寮の談話室は静まり返っている、僕は談話室ではなくて自室へと戻ってベッドによこになった。でも目は瞑れずにいた。もし目を閉じたらさっき見たみんなの石像が頭に浮かんできそうだった。

 

それからスプラウト先生がやってきて生徒みんなに寮から出ないことを伝えて、先生は事故現場へと向かっていった。僕の胸にはぐるぐると感情が巡っており、吐き気がこみ上げてくる感覚がずっと支配していた。

 

どれだけそうしていたかわからないが、しばらくすると実況をやっていたケビンが戻ってきた。彼も僕同様に顔色が悪い。

 

「なぁ、何が起こったんだろうな……。俺たちただみんなに楽しんでもらおうとしただけなのに……」

 

苦しそうに呟くケビンに何も言えずに僕はずっとうつむいていた。

2人でずっと無言になっていると『お喋りな巻物』が揺れ動いた。誰かが何かを書き込んだのだろう。目の前に見た惨劇や悲鳴についてだろうか。億劫になりながらも開いた。

 

《秘密の部屋発見!!今こそバジリスクを討伐せよ!》

《時は満ちた、ここに決戦の開幕を告げる!!》

 

 

「ケビン!!これ!!」

 

僕はすぐさまケビンに見せると彼も驚いたような顔する。僕たちが驚いていても文字はすぐさまどんどん書き込まれていく。

 

《マジかよ》

《団員の敵討ちじゃあ!!》

《バジリスクってどう倒すの》

《私に考えがある》

《爆発だー》

《取り敢えず1回集まろう》

《場所は?》

《秘密の部屋があるとこってどこー?》

《三階の女子トイレ》

《そこ集合?》

《いや、1回部室に集まろう》

《ラジャー》

《張り切っていこう》

《フレッドとジョージは急いで来て》

《了解》

《了解》

《あ、先生たちの監視はどうするの?》

《今はみんな大広間》

《オッケー、じゃあ今の内だね》

 

僕たち顔を見合わせてから、体に漲るやる気とともに駆け足で部室へと向かい走った。

 

 

* * * * *

 

 

僕とケビンが部室に着くと、部員たちは僕らを除いてみんな揃っていた。

 

「……遅い」

「ごめんって」

 

ポカリとフレデリカに殴られてるケビンを尻目に僕は部員みんなの中心に出る。……あらためてこう見るとこの劇団は随分と減ってしまった。団長のアイクと副団長のステフは石化しちゃったし、副団長のエリスは表向きは家の都合、本当は行方不明、その上今回各寮の代表者となったのはほとんどが劇団員だったこともあり石化。

 

「遅いぞセドリック」

「何やってたんだよ」

「ごめん、ごめん。ちょっと落ち込んでてさ。それで状況は?」

「作戦はもうフレデリカが大まかに作った。あとはそのための準備だけ」

「……いぇい」

 

黒板にはイラストと文字が描かれている。黒板に書かれたものに目を通していく。……なんというか、結構命がけである。だがそれは必要なリスクだろう。とくに一人が囮役となることなど。

 

「……セドリック」

「うん、わかってる。この囮役は僕がやるよ」

「……いいの?」

「大丈夫、自惚れじゃないけど僕は今残ってる団員の中で一番強いから」

 

心配そうに見つめるフレデリカに笑いかける。自分の立案であるくせに不安そうにしていた。そんな不安を紛らわすように別の話題を提供した。ローブの中から持ってくるように頼まれた魔法道具を手渡す。

 

「そうだ。これ、持ってきたけど役に立つの?」

「……保険のようなもの。制限などはある?」

「1日に使えるのは3回まで、今朝使ったからあと今日は二回かな」

「……なら大丈夫」

 

僕が持ってきた魔法道具を点検するように確認したあと、何か作業しているフレッドとジョージの方に声かける。

 

「……頼んでたものは」

「できてるぜ」

「でもいいのか、片方は試験品、もう片方は欠陥品だぞ」

「……劇団のものは今使えない。使えるものはなんでも欲しい」

「そうか」

「……可能稼働時間は?」

「こっちは15分。それ以降は自壊する」

「こっちは20分前後。一回使ったら再起動は無理だ」

「……充分」

 

3人が会話しているとレイブンクローの一個下の下級生、シェルビーとマーガスが部室に入ってきた。それぞれ2個ずつ、計4個大きな袋を持っている。

 

「寮の研究室から持ってきましたよ」

「こっちは厨房から。誰か魔法かけるのよろしくお願いします」

「僕がやるよ」

 

入ってきた二人に近づいて、持ってきた袋に倍加の魔法と色付けの魔法をかける。疲れたのか、座って休んでいる二人に労いの言葉をかけた。

 

「シェルビー、マーガスありがとうね、君たちのおかげ僕たちはこうして反撃に出られるよ」

「い、いえ、そんな」

「ハーマイオニーも手伝ってくれましたから。3人でなんとか」

「ありがとう。本当に感謝してるよ」

 

そう微笑みかけるとシェルビーは顔を赤くして、「お茶もらってきます!!」と言って去って行ってしまった。疲れたのだろうか。見送っていると呆れたような視線でマーガスが僕を見ていた。

 

「えっと、何かな?」

「……いえ別に。団長が言ってたことと被りますけど、そのうち本当にあんた一回刺されるぞ」

 

小声で何か言ったあと、魔法をかけ終わった袋をどこかに運んでいった。

 

それから準備を全て終えて、作戦を確認し、白いローブと白い帽子身につけたみんなに声をかける。

 

「今年は色々大変な年だったし、今も団員がすごく減ってしまった。そんな原因である怪物、バジリスクを僕らは倒しに行く。作戦は立てたけど命の危機があるかもしれない。それでもみんな覚悟はいいかい?」

「「「「おう」」」

 

僕がみんなを見渡すと一息もつかずに肯定の返事が返ってくる。そんなみんなが緊張している中で、僕は安心させるように精一杯笑みを浮かべた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

そして秘密の部屋、ハリーたちが先に着いていることや天井が崩落してることは完全に予想外だったけど、なんとか人が通れる隙間を見つけて僕だけが通ることができた。僕が通ったあとに隙間は崩れてしまったが、それでも問題はない。重要なのは誰かが秘密の部屋に行くことである。そのあと僕は持って来た魔法道具を確認して走り、なんとか秘密の部屋についた。話し声だけは部屋中に響いていたので把握している。

 

「セドリック!!」

「君は確か劇団の人間か。確かに優秀だったな。だがそれだけだ。下級生と杖をなくした女を庇いながら僕とバジリスクの相手を出来るかな!!」

「くっ」

 

トムの杖から魔法がハリーたちに向かって放たれて、それから守るように盾の呪文を使う。

 

「ハリー!ジニーを背負ってくれ!エリス、君は歩けるかい?」

「わかった」

「肩貸してくれるかしら」

 

ジニーをハリーが背負って、僕がエリスに肩を貸してトムから離れるように動く。飛んでくる呪文に反対呪文をぶつけたり、盾の呪文で防いだりして妨害をさせない。それと並行しながら出口へと向かうがそうはさせまいとトムが叫んだ。

 

「バジリスク、奴らを逃すな!!」

 

部屋の奥から何かが蠢き近づいてくるのを感じた。トムが僕には理解できない言葉で何かを言っている。パーセルマウスであるハリーにはわかるのか僕に警告をした。その間にも手を休めず呪文は飛んでくる。だがいくら闇の帝王といっても本調子ではないらしく、僕では充分対応できた。

 

「ハリー、ロリコン変態野郎はなんて言ってるのかしら」

「出口を塞ぐように遠回りしてバジリスクを襲わせるみたい!どうしよう?!」

 

そんな悲鳴をかき消すように歌うような鳴き声が聞こえてくる。燃えるような橙とも赤ともとれるような色の不死鳥が僕らの頭上を飛んでいき、僕の頭上に校長室で見たぼろぼろの組み分け帽子を落とす。

 

「一応連絡したんだ、ダンブルドアに」

「でも帽子を使ってどうしろって!?」

「さぁ、わかんないけどダンブルドアが贈ってきたってことは意味があるはずだよ」

 

そう言ってから僕は帽子をひょいとハリーに被せた。そしてエリスを壁に寄りかからせて杖を構える。そんな僕の様子を不安そうにハリーは見つめた。

 

「多分このままじゃ僕たち誰も逃げ切らない」

「なら私とジニーを置いていきなさい。まだその方が逃げれるわよ」

「まさか?!僕たちは助けに来たし、バジリスクを倒しに来たんだ!」

「ハリーの言う通り、諦めたわけじゃないよ。ハリーはバジリスクをよろしく。僕はトムを足止めしてくる」

「僕だけじゃ無理だよ、セドリック!?それに相手はヴォルデモートだよ!?」

「大丈夫、さっきの撃ち合いで問題ないことはわかった。それと、ここに来れたのは僕だけだけど、援軍は僕だけじゃないよ。君たちならきっとできるから」

 

帽子の上からハリーの頭を撫でて笑いかける。それからエリスにも話しかけた。

 

「エリス、ハリーのサポートお願い」

「杖が折られた魔女に出来ることなんてあるかしらね」

「あるよ、この道具たちを使えば」

 

僕はエリスに持って来た魔法道具、4枚の紙と目覚まし時計を手渡して、トムがいる方へと向かった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

去って行くセドリックを見ながら、僕の心境は不安であふれていた。そんな僕の感情を見抜いたかのようにエリスが声をかける。

 

「ハリー、自信を持ちなさい。あなたが願えば武器は手に入るわ。その帽子はゴドリック・グリフィンドールのもの。二年生で勇敢にもジニーを助けにここまで来たんでしょう。もっと自信を持ちなさい」

 

不安を消すような優しい声だった。ふぅと息を吐いて帽子に意識を集中する。するとごちんと頭に衝撃が走った。たまらず頭を押さえてうずくまる。帽子に手を入れて何かを掴むと装飾のされた剣が出て来た。校長室で見たことがある。

 

「ゴブリン製の剣ね、多分これならバジリスクの鱗も叩っ斬るわよ」

「でもバジリスクの目を見たら死ぬんじゃ……」

 

どこかでフォークスの鳴き声とバジリスクと思われる怪物が暴れたような振動で思わず体が揺れる。

 

「多分これで目は潰れたわよ」

「でも……」

「あなたが心配なのはわかるけど、多分バジリスクを倒すのは1人じゃないわよ、ほら」

 

視線で指示された方へと顔を向けると、秘密の部屋の扉の向こうから赤、青、緑、黄色のあざやかな色の洪水がこちらに流れ込んで来ていた。

 

「随分と大盤振る舞いね」

 

呆れたように、楽しそうにエリスは笑う。さらさらと砂のように、水のように、どこからか流れてきた四色の川はやがて姿を変える。

 

「私たちがサポートするから、あなたはバジリスクを叩っ斬りなさい」

 

そう不敵に宣言するエリス。秘密の部屋に幻のように美しく儚い四体の巨獣たちが顕現した。

 

 



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ナスタチウム

ハリーとセドリック視点です。
花言葉は「愛国心」「勝利」「困難に打ち克つ」


燃えるようなたてがみの真紅の獅子。

 

穢れのない翼を持った紺碧の大鷲。

 

宝石のように美しい新緑の大蛇。

 

陽だまりのような淡い黄色の穴熊。

 

それぞれが儚げに、だが圧倒的な存在感を持って現れた。そんな四体の前に驚いている僕を他所にエリスは力のない足取りでペタペタと一頭ずつに先ほど渡された紙を貼った。

 

「使い方はこれであってるはず。というか本当に大丈夫でしょうね」

 

パンパンと獣を叩くエリス。今貼っていた紙にはよくわからない魔法陣が描かれており、おそらく何らかの魔法道具なのだろう。貼った紙の中心を押すと、獣たちの全身に文字が回っていき、光って消えた。すると突如として目がキラリと光る。

 

『あーあーテスト、テスト』

『おっ、ちゃんと繋がってるな』

『さすが俺たち、試作品としては完璧だな』

『……いいから15分しかないのだからバジリスクを倒すよ』

 

獣たちが一斉に口を開くとそれぞれから聞き覚えのある声が聞こえた。獅子からフレッド、蛇からジョージ、穴熊からは実況の確かケビン、大鷲から解説のフレデリカというか生徒との声が聞こえた。といってノイズが混じっているような声ではあったが。

 

「この作戦立てたのはフレデリカかしら?」

『……エリス?』

『どうしてここにいるだ?』

『家の都合で帰ってたんじゃ』

「なるほど、外ではそうなってるのね。実際は違うわよ、継承者サマに監禁されてたの」

『ヒュー!スリザリンの高嶺の花は継承者サマまで魅了したのか』

『流石エリスだな!!』

『お前ら茶化してないでやるぞ。お前らの妹もそこにいるんだし』

『……来た』

 

鷲からの声で前を向くと目から血を流した大蛇、バジリスクがそこにいた。《殺してやる》なんて物騒なことを喚いている。

 

『……手筈通りに』

『『任せろ!!』』

 

緑の蛇と赤い獅子がバジリスクに向かって襲いかかった。それを尾でなぎ払うように体を動かすが蛇はすれすれを避けて、獅子は飛び越えて回避した。それからそれぞれ牙を剥き出して攻撃を始めた。

 

『……エリス、ハリー。ジニーを連れて3人とも私の背中に乗せて』

 

言われた通り二人でジニーを抱えるようにして大鷲の背中に乗る。乗り上がると柔らかい砂のようであったが、ある程度沈み込むと全く沈まなくなった。僕らが落ちないようになったのを確認すると大鷲は勢いよく飛び上がった。

 

「それでフレデリカさん、僕たちはこれからどうするの?」

『……フレデリカでいい。エリスに渡した目覚まし時計を5分後にセットして。それまでに私たちがバジリスクを止める』

「止めてからはどうするつもりよ?」

『……簡単。丸焼きにする』

「え!?」

『……いいから私たちの指示に従って。捕捉されないように飛ぶからしっかり掴まって』

 

僕が疑問を口開く前に鷲は一層加速して僕たちに圧力がかかった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

トムと呪文の応酬をしながら、自分たちとは少し離れたところで繰り広げられる怪獣大決戦を横目に見る。バジリスクが獅子を噛み付くが噛み付いた部分から霧に変わって移動して少し離れたところで再構築された。剥き出しになった核を壊そうと動くが、それを防ごうと穴熊がかばい、蛇が妨害する。本物の生物であるバジリスクと人が操っている獣たちでは反射神経や速度で大きく劣っていた。しかし、それを補うために四体でお互いにカバーしながら戦っている。

 

そんな風に横見をするほど余裕がある僕が気に入らないのか、トムは獅子に向かって魔法を放つが、それを横から落としていく。

 

「くっ、忌々しいものだな」

「闇の帝王にそんなこと言われるとは光栄だ、ねっ!!」

 

トムに向かって魔法を放ってみるが、本来彼がいるはずの場所を通過して魔法はすり抜けていった。やはり攻撃は効かない。ということはやはり本体はあちらの黒い日記なのか。

 

「コンフリンゴ!!」

「プロテゴ!!」

「アグメンティ!」

「インセンディオ!」

「ステューピファイ!!」

「インぺディメンタ!!」

 

放たれた呪文に丁寧に魔法をぶつけて、流れ弾が周りに向かないように注意しながら戦う。

 

「全く。素晴らしいね。君がここまで出来るとは想定外だよ。だが気づいているだろう、僕に攻撃しても意味がないと」

「そうだね、おそらく君の本体はあそこの日記なのだろう」

「ああ、そうだとも。だが君ではきっと壊せない」

 

鮮やかな光線がトムと僕の間を行き交っていく。徐々に僕の疲労はたまり、トムの力は上がっていく。なぜ?ジニーから遠ざけたはず。

 

「僕とジニーの間に物理的な距離は関係ないよ。魂で繋がっているのだから。さぁどうする?諦めて降参するかい?」

 

からかうような口調で出された提案をすぐに一蹴する。

 

「やだね。後輩と仲間が頑張ってるんだ。僕だけが諦めるわけにはいかないだろう?」

「ふん、その強がりはいつまで続くかな?」

 

一層勢いを増した呪文に対抗するため、強く杖を握りしめて挑んだ。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

色鮮やかな霧が広がりそれが再び獣となる。その光景をこの数分間で何度見たのだろうか。今度は穴熊がうねりの加わった一撃を真正面から受け吹き飛んだ。

 

『うっわ、超こぇえ』

『情けないな、ケビン』

『なんとなく慣れてきたぞ』

『じゃあ、お前らだけできっちり押さえ込めよ』

『……喧嘩しない』

『『はーい』』

『ラジャ』

 

一度もこちらは優勢に立てず、どちらかといえば劣勢に立っている気がする。それでも軽口を叩く劇団メンバーに最初は驚いていたが、段々とそれが虚勢に近いものだとわかってきた。先ほどよりも緊迫感が増した声で大鷲が尋ねてくる。

 

『……エリス、時間まではあとどれくらい?』

「あと30秒ってとこ」

『……オーケー。ハリー、インパービアス(防火せよ)は使える?』

「ごめん、まだ習ってない……」

『……そう。ならそれでいい。エリス、5秒からカウントダウンして』

「了解」

 

勢いよく飛ぶ大鷲の背中で大声で僕とエリス、大鷲は会話する。風を切る音が大きく聞こえた。突如大鷲は停止してぐんと慣性が体にかかる。一瞬後に前をバジリスクが大口開けて過ぎ去った。

 

『……あと15秒しっかり抑えて』

『おっと我らがお姫様がお怒りだぞ』

『しっかりしたまえ、ケビン君』

『俺のせいかよ』

『……全員』

 

バジリスクの体を縛り付けるようにして緑の蛇が絡みつくが、お互いにもつれ合って暴れまわる。それを抑えようと上から獅子と穴熊が覆いかぶさる。

 

「5!!!」

 

エリスが大声でカウントダウンが始まったことを宣言をした途端、獅子と蛇が粉に戻った。ふわりと赤と緑の煙が辺りに広がっていく。だがそれは拡散することなく、球状にバジリスクの周りを回っている。

 

「4!!!」

 

急に拘束が解けたバジリスクは空回りしてぐるりとその場で一回転する。

 

「3!!!」

 

バジリスクはその場から離れようと動くが、穴熊も黄色の霧と変化して、それは赤と緑の球体の周りを格子状の檻のように囲って脱出を防いだ。

 

「2!!!」

 

格子状の檻を歪ませながら霧の中でもがくバジリスク。そんな中でセドリックめがけて大鷲は急接近する。こちらに放たれた魔法を回避しながら、セドリックを足で掴み、トムの攻撃範囲から離脱する。

 

「1!!!」

 

それから今度はバジリスクを捕らえた檻に向かって、飛行する。

 

「0!!!」

 

エリスが叫んだと同時に目覚まし時計、セドリックが持ってきた変声目覚ましが大声をあげる。

 

《コケコッコーーー!!!》

 

この緊迫した場面には似つかない間抜けな雄鶏の声が響き渡った。【バジリスクにとって致命的なのは、雄鶏が時をつくる声】そんな魔法生物の本の一節が思い浮かんだ。声を聞いたバジリスクは動きが完全に停止する。

 

『……セドリック!!!』

インパービアス(防火せよ)!!インセンディオ(燃えよ)!!!」

 

何かの膜に包まれたような感覚の後に炎がセドリックの杖から迸り、バジリスクの檻に向かう。檻も霧となり消えているように見えたが、そんなことや着火したことを確認する前に乗っていた大鷲が崩れ僕らを守るように囲う。

 

「え?」

「ちょ、これは流石に想……」

「こらえて!!」

 

飛べなくなった僕たちは重力に従って落下していく。青い壁の向こうから熱が伝わり、轟音が鳴り響いた。

 

 

* * * * *

 

 

凄まじい衝撃と轟音、それと熱が青い壁の向こうから伝わってくる。地面に落下したのか壁にぶつかったのかはわからないが、天地がわからなくなった状況にて衝撃が伝わって、床をゴロゴロと転がった。やがて僕らを覆っていた壁が崩れて明かりが見える。大鷲を形成した粉が口に入った。

 

「げほげほ」

「ゴホッ、うえっ」

「コホコホ、ちょっと粉塵爆発なんてやりすぎじゃないかしら。私てっきり普通に抑えつけて首を飛ばすかと思ったんだけど?」

 

僕らはよく見えない煙の中から立ち上がる。エリスが文句を言うように大鷲に貼ってた紙に怒鳴る。

 

「燃え尽きたからフレデリカに文句を言っても聞こえてないよ」

「ちょっと周り見てみなさいよ、大爆発よ、辺りが煤けてるわよ」

 

セドリック曰く、今回は獣たちを作ったのは大鷲を除いてチョークではないらしい。獅子は石炭、蛇は小麦粉、穴熊は金属粉によって出来たものらしく最初から爆発をさせることを目的にしていたらしい。大鷲には防火魔法を重ね掛けして僕らを守るためだったらしい。

 

辺りに立ち込める煙の中でセドリックがジニーを抱えながら疲れたように笑った。そんなセドリックを見て、つられたように僕もエリスも笑った。3人で疲労感からかこみ上げてくる笑いに身を委ねていると、煙の向こうに何かが揺らめいて動くのが見えた。セドリックやエリスに避難の指示を出すよりも早く、僕は両手でしっかりと剣を握って襲いかかったバジリスクの頭に刃を突き立てた。ぐにゃりと焼けた肉を断ち切る不愉快な感触が僕の手に伝わり、頭を途中まで切り裂かれバジリスクの動きは停止した。

 

「まさかこんなに黒焦げになってでも動くなんて……」

 

エリスとジニーに覆いかぶさるようにしていたセドリックが立ち上がり、バジリスクの様子にびっくりしたのかぽつりと感想を言った。セドリックの言う通り、バジリスクの体はズタボロになっており、鱗は剥がれ落ち、体は焼け爛れ、黒くなっていた。それでも襲いかかるとはなんて生命力だ。

 

「元々馬鹿みたいに長生きですものね」

「これでようやく終わった……よね?」

「いえ、まだね」

 

そういってエリスが指差す方には爆発に巻き込まれたはずなのに無傷で転がっている日記があった。

 

「闇の帝王が死んだふりとはね、滑稽だわ」

「ますます君に興味が湧いたよ、エリス。どうしてわかるんだい?」

 

笑い声と共にトムの体が再度虚空に浮かんだ。

 

「虚勢はいらないわよ。ハリー、日記を切りなさい。バジリスクの毒を吸収した剣ならあの日記を壊せるわ」

「っやめろ!!インペディメンタ!!」

「プロテゴ!!」

 

剣を構えた僕を妨害するかのようにトムは呪文を唱えるが、それをセドリックが防御した。振りかぶった剣を真っ直ぐ振り下ろし日記を叩き斬る。すると、セドリックがどれだけ攻撃しても、爆発に巻き込まれても無傷だった日記はあっさりと切れた。

 

「馬鹿な!!このヴォルデモートが!!闇の帝王が!!ただの学生どもに負けるなど!!……」

 

トムは喚きながらも体が崩れていき、やがて何もなくなった。

 

 

 

 



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クロユリ

アイクとエリス視点です
花言葉は「恋」「呪い」


目を覚ましたらなぜか朝だった。ぼんやりとした頭で霞みがかった思考回路を働かせる。確かフレッドとジョージに深夜限定ででる怪獣がいるとか言われて、寮出ようとしたら眠れなかったステフと会ってそっから……あれどうしたんだっけ?いまいち覚醒しない意識に光が沁みる。

 

「やぁ久しぶり、アイク」

「んぁ?セド?」

 

セドリックがここにいるということは、自室なのだろうか?いや、ここまで天井は高くないし、こんなに明るい日差しは部屋に入ってこない。ホグワーツ城にある保健室かな?というかよくよく考えると城に学校ってなかなかすごい気がする。どうでもいいことに思考がそれて、再度意識が遠くなっていく。

 

「いやいや、寝ないでよ」

「ねむたい……」

「全く、今まで散々寝てたのにリアクションがそれかい」

 

笑い混じりのセドリックの声に目をうっすらと開ける。その笑い声がいつもと少し違ったようなので不審に思いセドリックへと目を向ける。

 

「セド?なんで泣いてんの?」

「嬉し涙だよ、君たちが元に戻ってきてくれてよかったよ、本当に」

 

流れていく涙を指で拭ってやり、ようやく体をベッドから起こすと隣のベッドにはステフが寝ていた。反対側には見知らぬ生徒がいる。赤と金のネクタイだからグリフィンドールだろう。喜びながら笑い泣きするセドリックを相手に俺は困惑していた。

 

ベッドサイドを見ると俺とステフの間の机に大量の花が置いてあり、所狭しと果物やお菓子、それに心配したという手紙が大量に置いてあった。周りを見ていると誰かが花瓶の水を入れ替えていた。

 

「あらアイク。ようやく目を覚ましたの?」

「おはよう、エリス。ん?あれ?なんか雰囲気変わった?」

「ちょっと色々あってね。今度話すわ。セドリック、ステフが起きる前に顔を洗ってきなさい。びっくりするわよ」

「あ、うん。そうだね」

 

セドリックは立ち上がり、保健室を去っていった。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

それから俺たち石になってしまった人たちは今回の事件について教えられた。バジリスクによる石化だったことや若きヴォルデモートが犯人であったことなどを教えてもらった。そんなことを教えてもらい、石化が解けて初めて迎えた日曜日俺は頭を抱えていた。

 

「なぜ休日である土日にも勉強しなくてはいけないのか」

「仕方ないですよ、私たち半年以上の石化してて勉強遅れてたのですから」

「今ちゃんとやらないと来年大変だよ」

 

ぼやく俺をたしなめるようにステフとセドリックが声をかける。俺たちはようやく1日の勉強が終わり談話室で喋っていた。俺やステフなどの石化していた生徒には今年の勉強の遅れを出さないように放課後と休日にみっちりと補習が組み込まれていた。

 

「せっかくテストがなくなってハッフルパフが優勝したというのになんたる仕打ち……」

「テストがなくなったのは正直僕たちも助かったよ」

「セドリックたちやハリーが頑張ったおかげですからね。本当に感謝ですよ」

 

劇団やハリーたちの活躍に褒美として、一連の事件が幕を閉じようやく安心できたとして、今年の学期末のテストはなくなった。そして生徒一人につき50点を各寮に与え、その結果ハッフルパフに所属している劇団生徒が多かったためハッフルパフが今年はこのまま行けば優勝。しかし、そうなったとしても俺やステフたちの勉強の遅れは無くならない。ここのことろほぼ毎日勉強しており、劇団に顔を出すこともできないでいた。しかも……

 

「なんで俺がいないうちにFOCの大会やっちゃったの?!めっちゃ面白そうなのに!!!俺めちゃめちゃ楽しみにしてたのに!!」

「……それに関しては私も同意ですね……やりたかったです……」

「まぁ雰囲気が暗かったからね、フローラの案だったけどなかなか良かったと思うよ。最後の石化さえなければ」

 

石化しているうちに開催された大会はかなり大好評で、なおかつかなり賭けなどで儲かったらしい。各寮毎のトーナメントは大盛り上がりをして、雰囲気払拭にかなり貢献したんだとか。だがしかし最後に起きた石化のせいでトラウマとなった生徒もいるかもしれないということで今後は先生の許可が下りるまでFOC自体が禁止されてしまったのだ。

 

「まぁまぁそんな落ち込まないでよ、アイク。そのうちできるようになるから」

「前向きに捉えた方がまだマシですよね。それに一応顧問はできましたので」

「んー、そうなんだけどさぁ……」

 

俺たちには特別顧問として記憶を失ったロックハート先生がつくことになった。というのも俺がノリでお願いして書いてもらった未完成の脚本が先生が記憶を失ってから見つかり、それがかなり面白かったということで劇団全員の署名とロックハート先生自身がその脚本の続きを書くことで記憶を取り戻す刺激になるかもしれないということで特別にホグワーツ雑用係兼劇団エリュシオンの顧問として学校に在籍することとなった。給料は学校から以外はステフが支払っている。両親に写真を見せたところかなり感動したらしく、多少は出費してくれるらしい。残念ながら闇の魔術に対する防衛術の教授ではなくなったが、今までとは違って穏やかな先生は見た目と相まってかなり人気らしい。(主に女子生徒から)

 

「あーやりたかったなぁー。優勝したチームに向かって五体人形作って強制団体戦とかしてラスボスみたいに振る舞いたかったのになぁー」

「アイクらしい発想ですね。多分そんなことしたら運営側は止めるか乗るかで割れそうですけど」

「多分みんな乗ると思うな、ほらなんだかんだみんな面白いこと好きだし」

 

ひそかに劇団の人にも相談して衣装等も作る予定だったというのに。残念である。そんな風に話していると微笑ましいというような目つきでセドリックが俺たちを見ていた。

 

「なんだよ、セド。そんな優しい目をして」

「わかりますよセド。アイクの発想がアホらしいですよね」

「また傷つくようなことを……」

「いや違うよ。また喋れて嬉しいのと、この感じが懐かしくて」

「またか。もういい加減慣れなよセド」

「どれだけ心配したと思ってるのさ」

 

こんな感じでふとした拍子にセドリックは俺たちがいることを噛みしめるように実感しているようだった。このリアクションをされ続けて流石に罪悪感が湧いてくる。悪いのは例のあの人だけどな!ちらりとステフを見るとどうやら俺と同じように罪悪感を覚えているようだった。

 

「んー、なら俺とステフで叶えれることならなんでも聞いてあげるよ。それでそんなこと言うのもお終いってことで。いいよね、ステフ」

「ええ、ですのでセドもこれ以上引きずるのはやめてくださいね」

「うん、わかった。何か考えておくよ」

 

3人でゆったりとした時間を談話室で過ごす。俺たちにとってはついこないだもにもしたことではあるが、セドリックにとっては半年ぶりの出来事であるという。なんだか浦島太郎のような気分だ。

 

「ねぇアイクー。今日の勉強終わったのぉ?」

「うん。ようやくな。フローラ、褒めて」

「よしよしぃー、えらいぞぉー」

「うんうん。いやー今日も疲れたよ」

 

談話室にひょっこりと現れたフローラに声をかけられる。後ろからソファを飛び越えるようにして上から座り、頭をよしよしと撫でれた。

 

「そうだねぇ、これがキースかぁナタリアだったらもっと悲惨だよねぇ。アイクとステフでよかったよぉ」

「あら、そういう安心?」

「もちろん、二人は心配だったよぉ。劇団は暗いし、劇はできなかったしぃ」

「……すまんかった」

「私がセドリックだったらぁ、ストレスで倒れてるかもぉ?本当に大変だったんだよぉ」

「それに関しては後でなんでもいうこと聞くって言った」

「ええ、私たち二人でできることでしたら。ですけどね」

「ふーん。何か決めたのぉ?セドリック?」

「まだだよ。そのうち決めるよ」

 

のんびりとした会話は続き、時間は過ぎていった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

薄暗い静かな自室でため息を一人つく。私の机の上には真ん中に穴が空き、角が溶けた赤い本が置いてあった。母から渡された本であるのだが、バジリスクとの戦いの途中にどうやら毒牙にあたり壊れてしまった。

 

「ありがたいことだけど、今後がわからなくなったわね」

 

元々精神が汚染されてて疑問に思わなかったことなどがあり、今回偶然壊れたことには感謝している。この本に原作の記憶は封じてあったため、ほとんどの記憶を私は失ってしまっている。残った記憶もぼんやりとしか覚えていないし思い出せない。明確に覚えているのはシリウス・ブラックの無実とヴォルデモートの分霊箱について、それとセドリックが死ぬことである。

 

「全くまさかこの本が分霊箱になってるとは、我が母ながらも原作に対する執着心には引くわ」

 

この本は私の母、ディスノミア・グリーングラスの分霊箱である。彼女は()()()であり、彼女の目的はシンプルに「原作を間近でみること」ただそれだけである。私は「死傷者を減らしたい」ことが目標であるのに対して、今思い返すと矛盾した行動を何度か取っていた気がする。そういったことに気がつかなくなるとはやはり分霊箱による干渉は強力なのだろう。流石にこれ以外は分霊箱がないことを祈る。

 

「それにしてもどうしたものか……一応破壊手段は入手したけど……」

 

バジリスクの毒が入った小瓶を見る。何重にも防御魔法や封印魔法をかけているため簡単には開かないように工夫してある。バジリスクの毒であるなら分霊箱は破壊できる。ふうとため息をついて机に飾ってある写真を見る。劇団のみんなで撮った写真だ。撮るまでにみんなが好き勝手に動いていたせいでかなり大変だったな。そんな写真を手にとる。

 

「絶対に死なせない」

 

写真に映る人物を指でそっとなぞり、私はそう決意した。

 

 




久々のアイク視点大変でした。リアルが多忙なこともあって何度も書き直ししました。難産。
実はエリス転生者ではなかった!


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人物紹介

今回は今章の説明と人物紹介、それとちょっとした裏話です。本編には何ら関係がないため、読み飛ばしてもらっても結構です。


順番は今章について→人物紹介兼裏話となってます。

二話同時投稿です


【今回の章について】

 

まずはじめに今回の一連の話、原作における『ハリー・ポッターと秘密の部屋』に該当する期間での本作について説明します。

 

元々拙作『魔法のお城で幸せを』は『ハーマイオニーに兄がいて、その人物が明るく社交的、ただし成績は優秀でありコンプレックスを抱き、喧嘩したり仲良くしたりといった物があったら面白そう』という考えから出来ました。

 

まぁ結局、『喧嘩とかより仲良くしてほしいなぁ』とか『社交的といえばハッフルパフかな』とか『寮関係なく仲が良い団体とかあったら微笑ましい』とかそんな案も思いつき、その結果出来たのがアイクであり、劇団です。

 

この作品はほのぼのをメインにしていこうと書いていたのですが、秘密の部屋に関しては誰かしら被害者でてもおかしくないのでは?とか思い、主人公を石にしてみました。というのも、例え主人公が石になったとしても世界は終わりませんし、物語には他の人間がいますので当然進みます。彼らはその世界で生きているのですし、一人の死が世界の終わりというわけではないですから。そういったことが伝えたいなと思って私は今回の章に置いて主人公を早々に退場させました。

 

 

 

 

 

 

というのはこの文章の冒頭を書き始めてから浮かんだもっともらしい適当な真っ赤な嘘です。本当はノリで「オリ主がオリ主のくせに何にも出来ないで早々に退場したら面白くねwww」という頭の悪いノリでこんなことになりました。低脳作者のせいであっさりと主人公は退場。たがしかし困った。「これ……主人公ポジどうすんの?」そう考えても、悩んでもノリで投稿してしまった話と時間は巻き戻らない。ええい、なるようになれ!!と書いていった結果、「面白かったのは最初だけ」「エリスが御都合主義過ぎ」「アイクいらなくね」「登場人物一人一人が薄い」「今回の章に入って一層つまんなくなった」「エリスが意味わかんない」「アイク空気ww」「セドリック、イケメン!!抱いて!!」(全て意訳)という傷つくものから嬉しいものまでお声をいただきました。(ちなみにセドリックは作者のものだ、誰にもやらん)

 

まぁそんなノリで書いている文章なので低評価も仕方ないなぁと思いつつ書き進めました。次章からはちゃんとアイクに主人公させる(予定)なので待っていてください。

 

基本ほのぼので進めたいと思っており『賢者の石』のよう原作とあまり関わらないことも発生すると思うので「二次創作物なんだからもっと原作に絡めや」「お前の話つまらん」「こんな駄文読むに耐えない」なんて方はそっとこの物語を閉じてください。

 

 

色々書きましたが結局言いたいことは今後とも『魔法のお城で幸せを』よろしくお願いいたします。

 

 

 

【人物紹介】

 

〈ハッフルパフ〉

 

アイザック・グレンジャー

 

本作の主人公。そのくせ作者の低脳が原因で早々に退場した人。石化の原因はフレッドとジョージに深夜限定モンスターが出ると嘘つかれてのこのこ寮を出ていき、バジリスクに遭遇した。

 

ステファニー・ペンテレイシア

 

早々に退場したオリキャラ。元々この子は退場させる予定だった。というかこの子だけ退場させる予定だった。……みなさん、覚えてます?

 

セドリック・ディゴリー

 

原作ではネズミ男にワンパンされたくせにこの作品ではイケメン力が天元突破。ほぼ今回の章の主人公と化す。親友である団長、副団長が石化により行動不能、失踪とストレスがマッハ。しかしながら劇団を見事まとめ上げていた。

 

フローラ・ボスロイド

 

のほほん系女子。マイペースのくせして成績はそこそこ良い。フレデリカ(後述)とは静と動のマイペースコンビで親友。沈んだ劇団と学校の雰囲気を盛り上げるためにFOC大会を提案。しかしあまりの手続きの多さに知恵熱をだしてフレデリカにその後の運営は丸投げした。ハッフルパフの代表選手になるも石化。

 

ケビン・カウリー  

 

良いやつ。そこそこカッコ良く、劇でも主役を何度もやっているか振る舞いや雰囲気は三枚目。FOC大会ではこれ以上セドリックに負担をかけまいと運営主任になり、試合の実況を務める。フレデリカに恋してる。

 

キース・ダーウィン  

 

ゆったり男子。今回はあまり活躍はなく、代表選手になったが石化。

 

ナタリア・オルグレン 

 

常識人。紅茶好きな美脚の人。本当はこの人にリドルの日記を持たせる予定があったが、話が長期化する予感とそもそもこいつ誰?という読者からの声が聞こえそうであえなく断念。

 

 

 

〈レイブンクロー〉

 

フレデリカ・フォーガス

 

発明家。フローラ(前述)とは劇団を通じた親友。フレッドとジョージとは3人でよく何らかを開発、実験している。頭が良くて発明もできるという便利なキャラであり前回の章では名前とかがちょろっと出た程度で、出番はないと思ったが低脳作者は頼ってしまった。FOC大会ではフローラに頼られ断りきれず運営に。解説は的確であり人気だった。

 

シェルビー

 

ハリーと同い年。1年次に劇団を見て感動。入団するとセドリックに一目惚れ。しかも性格も良くてさらにベタ惚れ。半純血で実家はかなり金持ち。

 

マーガス

 

ハリーの一個上、アイクの一個下。賢い。

 

 

〈スリザリン〉

 

エリス・グリーングラス

 

実は非転生者。彼女の母が転生者であり、所持していた赤い本は分霊箱。母の記憶と意識がエリス自身のものと混濁しており、日本語等は母由来のものである。彼女の母の目的は「原作を間近で眺めること」であり、一方エリスは「死傷者を減らすこと」矛盾した行動を取ったとしても疑問に思わないように精神汚染されていた。原作知識は今回でほぼ失った。覚えているのはシリウスの無罪、セドリックの死、分霊箱の存在とその在り処。

 

賢者の石に不干渉は両方の意思、秘密の部屋を解決しようとしなかったのは母の意思、ハリーたちに警告もどきの脅しをしたのはエリスの意思。

 

元々ちょっとお茶目でわがままな性格である。

 

シアン・スプリング

 

マグル出身。所作、口調は丁寧だが実はバイオレンス系女子。前の章でフレッドとジョージのマウントポジションを取ったのはこの人。セドリックに気があるのでは?と見せかけて実は好きな人はエリス。一年生の派閥結成直後から憧れを抱いていたが、その感情が変化して恋心となった。本人は自覚してるが、エリスを困らせるだけと思っており墓場まで持っていくつもり。

 

デューク

 

倒置法で話す人。純血。別に純血主義者ではない。今後の出番も多分ない。

 

 

〈グリフィンドール〉

 

フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリー

 

悪戯双子。フレデリカという開発厨が積極的に関与してるせいで原作よりも色々作っている。劇団では舞台装置などの裏方担当。劇団に所属してるせいで原作よりも成績が静かにやばくなっている。

 

リアム・リッジウェル

 

脳筋に見せかけて意外と脚本も書ける(ただし戦闘系のみ)。グリフィンドールの代表になるが石化。

 

〈その他〉

 

ギルデロイ・ロックハート

 

忘却術だけは一流な元闇の魔術に対する防衛術の教師。アイクと授業が被っていた生徒からはアイクのストレス発散を兼ねた劇によって人気であった。物語を書く才能も確かであり、アイクからお願いされて喜んで脚本を書くとそれがかなり面白かったことと、記憶喪失の影響で人格が変わったこともあり劇団の顧問兼脚本家となった。入院することもなく定期的に通院することや自身の書きかけ物語を執筆することで記憶を戻そうとはしている。容姿端麗、性格も温厚ということで女子生徒から前よりも人気が出ている。

ホグワーツではフィルチと同じような役職であり、雑用係である。

 

ディスノミア・グリーングラス

 

転生者。体は弱かったが、かなりの魔女であり死喰い人。この世界を物語としてしか見ておらず、ただ本と同じものを見たいだけでありあまり感情を抱いていない。自分の死期を悟り、分霊箱を作り自身の娘、エリスに入ることで死後も物語を見ることを望んだ。しかし自身が想定していたよりもエリスが原作に関わった結果、分霊箱は破壊された。

 

 



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がんばる五年生
お泊まりと黒犬


アイクとハリー視点


俺とハーマイオニーは父親の車に乗ってある家の前に来ていた。

 

「ねぇ、アイクこの服変じゃないかしら?」

「全くもって変じゃないとも!!いつだってハーミーは最高にキュートだよ!」

「もう!そういうことじゃないの!パパ、大丈夫?私、変じゃない?きちんとした人に見えるかしら?」

「もちろん大丈夫だよ」

 

いつもの膨らんだ髪の毛はサラサラと流れるような茶髪になっており、服装にもそこまで頓着していないハーマイオニーの服を俺プロデュースでいつものキュートな感じを封印して知的なイメージを前面に出している。流石俺の可愛い可愛い妹である。可愛い(語彙力皆無)。

 

俺たちは今ハリーの家に向かっており、一緒にお泊まり会をすることを提案しに行ってる。なんでもハリーはあんまりいい扱いを家で受けていないらしく、去年はウィーズリー家に行ったりしていたらしい。どうやら魔法世界の英雄様はマグルの実家でのヒエラルキーの最下層らしかった。不憫に思ったハーマイオニーは今年は彼女と遊ぼうとすでに手紙は出していた。

 

厳格であるが一応礼節をわきまえて行けば、マグル出身であることも含めて俺たちにそこまで酷い対応をされないだろう。そんなハーマイオニーの考えに乗っかり俺たちはいつもよりも圧倒的にちゃんとした服装にしたのだった。

 

「アイク、ハーマイオニー。多分着いたよ」

「ありがとう、パパ」

「行こうか、ハーミー」

「ええ」

 

二人で車から降りて一般的な住宅街にある一軒の家の前に歩く。それから顔を見合わせて深呼吸し呼び鈴を鳴らした。しばらく待っているとほっそりとした女性がドアを開けてやってくる。

 

「この辺りでは見かけないようですけど、どなたですか?」

「えっと、こんにちは。突然お邪魔して申し訳ありません。私、ハリー・ポッター君の友達でハーマイオニー・グレンジャーと言います」

「俺はその兄のアイク・グレンジャーです」

「あの子の友達……?」

 

女性は俺たちに対して険しい表情を浮かべる。やはり魔法関連の人間には厳しいようだった。どこか忌々しそうに俺たちを見つめる。そんな女性の様子にハーマイオニーは少し怯えていた。

 

「そんな子は我が家には居ませんよ。おそらく家を間違えたのでしょうね」

 

む、やはり予想通りガードが固い。だがここで諦めるわけには兄としていけない。可愛い妹とその友達である後輩のためだ。ここは簡単に引き下がれない。さて、どうしようと考えていると運良くドタドタと階段からハリーが降りて来た。ハリーは俺たちを視界に入れた瞬間目を輝かせて玄関に足早にやってくる。

 

「ハーマイオニー!!アイク!!」

 

喜色満面の笑みを浮かべるハリーとは対照的に苦々しい顔をハリーの叔母はしていた。それだけでなんだかハリーがどんな印象をこの家で受けていたかわかる気がする。よくもこんなに露骨に疎まれている環境の中で歪んだ性格に成長しなかったものだ。

 

「こんにちは、ハリー」

「やぁ、久しぶりだね、ハリー」

「久しぶり二人とも!!」

 

俺たちが再開を喜んでいると、叔母さんが腹立たしげにしていた。そんな様子に俺は思い出したように紙袋を叔母さんに手渡す。

 

「あの、ダーズリーさん、こちらをどうぞ」

「……あら。……どうも」

 

叔母さんは俺が手渡した紙袋と中身を見て、眉間のシワが少し取れた。ふふん、どうだ。可愛い可愛いハーマイオニーとハリーのために貯金をはたいて美味しいと有名な銘柄のお菓子を買ったのだ。ちなみにハーマイオニーには言ってなかったので隣で目を見張ってる。

 

「玄関で立ち話を何でしょう。特にお構いはできませんが中へどうぞ」

「ありがとうございます」

「お邪魔します」

 

俺とハーマイオニーは頭を下げて女性の案内で家に上がる。中に入るとこちらをおずおずと伺う太った男の子が目に入った。彼がダードリー君だろう。 階段を上がり、ハリーの部屋に入る。なかなかに手狭である。

 

「それでハリー手紙でも伝えたんだけど、良かったら私たちとお泊まり会しないかしら?」

「少なくともこんな狭い部屋にいるよりも退屈はしないと思うよ」

「もちろん、いいよ!喜んでいくよ!!」

「叔父さんと叔母さんには話したの?」

「………」

 

そういうとハリーは俺たちの提案には喜んで賛成していた口を途端に閉ざす。

 

「ダメじゃないハリー。きっちりと保護者の方には説明しないと」

「だってあの人たちが僕のお願いを聞いてくれると思うかい?絶対無理だよ、ロンが変な電話したせいでホグワーツには頭のおかしい人しかいないって思ってるから」

「ロン……」

 

ハリーの言い訳を聞いてハーマイオニーが頭を抑えた。まぁあそこの家の人たちは完全に魔法族の人たちだけだからなぁ。仕方ないここはお兄様が人肌脱ごうじゃないか!!

 

「よし、なら俺が説得しよう」

「え?!」

「そうね」

「え!?」

 

驚くハリーをよそに俺は下の階に挨拶をしに降りて行った。

 

 

*****

 

いい笑顔で去っていったアイクに僕はぽかんとした表情をしていた。そんな様子にハーマイオニーは苦笑する。

 

「大丈夫よ、アイク色々と考えて来たみたいだから」

「でも……」

「大丈夫だって、こういう服装とか髪型をちゃんとしようとかもアイクの提案なのよ」

 

そういってサラサラとした茶髪を揺らしながら笑うハーマイオニー。確かにいつもの彼女とは雰囲気が大きく異なる。あまり容姿に頓着していない彼女の髪は特に手入れをしていないのかボサボサとなっているが、今日はサラサラとした綺麗な髪になっている。服装も休日に見るものとは異なり落ち着いた知的な感じを受けるものとなっている。

 

「わざわざステフにどこの銘柄がいいか多分聞いてたのよ、あのお菓子も。全くまた勝手にして」

「あはは……」

「そういえばハリー宿題はきちんとやったのかしら?」

「それが……」

 

なんてしばらく二人で近況について話して過ごしていると階段から音が聞こえた。

 

「ハリー!」

「アイク、どうだった?」

「許可が下りたよ。俺たちと一緒に行こう!!」

「流石アイクね!」

「むふふ、もっと褒めてくれハーマイオニー!!」

 

むぎゅーとハグをする二人を視界に入れながら驚いていた。まさか本当にあの二人が僕の外出を許可するとは?!

 

「アイク……すごいね……。魔法薬とか使ってないよね?」

「もちろん使ったとも!」

「「え?」」

「え?」

「「……え」」

「いや冗談だよ」

「もう!!」

 

ケタケタと笑うアイクと少し怒った顔をするハーマイオニー。仲睦まじい兄妹を見ていて少し羨ましくなった。

 

「普通に真摯にお願いしただけだよ。ちゃんと説明すればわかってもらえたから。俺たちがマグル出身ってことが一番効いた気がするな。バーノンさんってマグルの会社の社長だろ。流石に礼節をわきまえてたらそこまで頭ごなしに否定はされなかったよ」

 

にこにこと話すアイクに僕は再度呆けた顔をしていた。わずかな間にあの頑固な叔父さんから許可を得たりするなんて考えたこともなかった。

 

「アイクは人と仲良くなるのが得意よね。羨ましいわ」

「ハーマイオニーが褒めてくれることが俺にとっては何よりのご褒美だよ。ありがとう」

「はいはい、それでハリー荷物をまとめたら?アイク、ちゃんとホグワーツに向かうまで泊めていいって許可は得たんでしょう?」

「もちろん。ハリー、荷物を運ぶの手伝うよ。どこにあるんだ?」

「あ、うん、ありがとう」

 

こうして僕は退屈なダーズリー家を抜け出すことに成功したのだった。

 

 

* * * * *

 

 

そうしてしばらく俺とハーマイオニー、ハリーの3人で宿題をやったり、ゆっくりテレビを見たり、ゲームしたりと学生の夏休みらしいことをして過ごしていた。俺的にはハリーは魔法世界の遊びや箒に乗ったりすることもないため暇なのでは?と危惧していたが、そんなこともなく自分の好きな番組が見れることや仲良くテレビゲームをできることに感動しており、俺とハーマイオニーはそれが逆に不憫に思えて仕方がなかった。

 

そしてそれから時間は経ってホグワーツに出発する日を迎えた。

 

『……脱獄から数日経ちましたが先日放送した大量殺人犯は未だ捕まっておらず……』

 

テレビから流れるニュースを聞きながら俺たちは母作の朝ごはんを食べていた。

 

「物騒ね、連日このニュースばっかりだわ」

「早く逮捕してもらいたいね」

 

両親が耳に入るニュースに対してそうぼやくが、それに対してハーマイオニーがコメントする。

 

「多分捕まらないわよ」

「どいうことハーマイオニー?」

「だってその人、魔法使いよ。日刊予言者新聞に書いてあったもの。多分魔法省がマグルに警告を出してるのよ」

「魔法世界で犯罪者についてとか初めて聞いたなぁ」

「アズカバンから脱獄者が出たのは初めてらしいわよ」

「名前はなんていうんだ?」

「シリウス・ブラック。例のあの人の右腕らしいわ」

 

そんなことを言いながらお茶を飲むハーマイオニー。

 

「ハリー、もしかしたら脱獄してきた目的は君かもね」

「え?!」

「冗談だよ、冗談。ハリーがホグワーツに入学したことはもっと前から知ってるんだろう?多分別の理由だよ」

 

俺の冗談で顔を青くするハリー。まさかここまで怯えるとは済まないことをした。そのあとみんなご飯を食べ終わって駅へと向かった。ホームに着くとハリーとハーマイオニーはロンと合流すると言うので俺は別れてステフやセドリックを探しに歩いていた。

 

「アイク!やぁ久しぶり!」

「久しぶりセド。また背伸びたか?」

「そうかな?自分じゃわからないからなぁ」

 

俺に声を掛けてきたのは灰色の瞳のイケメン、セドリックである。この夏休み、連絡は取っていたが遊びに行く回数は多くなかったのでなかなかに久しぶりである。二人でカートを押しながら空いているコンパートメントを探す。

 

「セド、アイク。こちらにどうぞ」

「あ、ステフ。久しぶり」

「こんにちはステフ」

 

そこそこ早くきたのでまだ列車の中は空いており空席が目立った。その中で滑らかな金髪を見つけると、我らが友、ステフであった。俺とセドリックはステフのコンパートメントに入る。するとある異変に気づいた。

 

「ねぇステフその犬どうしたの?」

「え?ああ、ノワールですか?」

「ノワールっていうのその犬の名前」

「かっこいいね」

「はい。フランス語で黒の意味です」

 

そういって足元に座る大きな黒い犬の頭を優しく撫でる。

 

「私が夏休み中に拾ったのですよ。雨の中で横たわってるのを見たんです。体も痩せてましたし、可哀想に思えたので両親の許可ももらって育てることにしたんですの」

「ステフ動物好きだもんね」

「にしても大っきいな。ホグワーツに連れていっていいのか?犬って」

「手紙出してありますので、ちゃんと許可も貰ってますよ」

 

そう言いながら自作のクッキーを取り出して食べるステフ。僕たちにも手渡して来た。パクリと食べると、相変わらず美味しい。そんなクッキーの匂いに惹かれたのか、ノワールは尻尾をパタパタと動かして欲しいとアピールしている。

 

「ダメですよ、ノワール。あなたは犬なのですから。人間のものを食べては体に悪いのですから」

 

ステフがはっきりとノーと言うとしょんぼりとノワールはうなだれた。

 

「賢い犬だね、話してる内容を完璧に理解してるみたいだ」

「ええ、自慢の愛犬ですよ」

「かっこいいなぁ」

「そう思いますよね。でも食い意地が張ってて私が食べてるものも食べようとするんですよ?」

 

ステフはクスクスと楽しそうに笑う。いーなー犬。まぁ俺にはタラリアがいるもんね。飼っているフクロウに餌を手渡すと甘噛みよりもやや強めに俺の指ごと噛んできた。……こやつめ、飼い主を舐め腐っておる。

 

「アイク、1つ提案があるのですが」

「ん?」

「よろしければこの子を劇団の部屋で飼ってもいいですか?大人しいと思いますし」

「お、いいね。俺は全然構わないよ?セドは」

「僕もいいと思うよ。ただチョークまみれになりそうだけどね」

「そこはきっちり洗いますよ」

「あとは犬がアレルギーとか苦手な人がいなければな」

「今聞いておきなよ、ステフ」

「そうですね」

 

ステフは荷物から巻物を取り出して書き込みを始めた。しばらく待っているとみんなからぽつりぽつりとOKの返事が返ってきた。

 

「多分大丈夫そうだね、これなら」

「ええ、良かったです」

「どうせなら劇団のマスコットにでもするかい?」

「あぁ。でも劇団のイメージカラーって白って感じするからなぁ」

 

なんてどうでもいい話や宿題についてや、夏休みの出来事などを語って俺たちを乗せたホグワーツ特急は進んでいった。



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吸魂鬼とパジャマ

アイクとステフ視点です。


「そういえば私監督生になったんですよ」

「そうなの?」

「あ、そういえば僕もなったんだ」

「二人とも監督生かすごいな」

「ということはセドリックはクィディッチのキャプテンも兼任ですか」

「俺の親友たちが優秀すぎてつらい……」

「まあまあ、ホグワーツ特別功労賞を取ったのはアイクだけだよ」

 

よよよと泣き真似をする俺にセドリックが慰めるように声をかける。ステフがぽつりと「アイクは監督生を名乗るには威厳が無いですよね」とこぼした。聞こえてるからな。身長は結局そんなに伸びなかったのだ。悲しいことに二個下のハリーと同じくらいである。でもそこそこイケメンにはなった気がする。前よりも幼さが抜けた感じである。

 

「……ここいいかしら?」

 

出発してからしばらくして俺たちのコンパートメントに一人の女子生徒が現れた。劇団にも所属しているフレデリカである。

 

「やぁフレデリカ」

「久しぶりです」

「……久しぶり」

 

挨拶を交わしながら彼女の荷物をみんなでコンパートメントの中に運ぶ。中にはよくわかない動物の死骸や見るからに危険そうな薬品などが目に入ったがそっと頭の中から記憶を消した。

 

「……それがステフの犬?」

「はい、ノワールです。かっこいい男の子ですよ」

「オスなんだ」

 

フレデリカはそういっておずおずと犬に触れる。何事にも躊躇いがないフレデリカにしては珍しい行動である。

 

「フレデリカ犬苦手なのかい?」

「……違う」

「にしては恐る恐るだね」

「……生きている動物を優しく触る経験があまりないから」

 

OK、俺は何も聞いてない。

 

「……もふもふ」

「はい、柔らかい毛並みでしょう。最近一緒に寝たりしてるんですよ。もふもふして気持ちいいのですよ?」

「……うらやましい」

 

ノワールを優しい手つきでフレデリカは撫でる。そんな様子をステフが微笑ましそうに見ていた。普段の無愛想な表情とは裏腹に優しげな顔をしている。これはレアだな。

 

「良かったらフレデリカも今度添い寝してみますか?」

「……流石に寮に連れて行くのは」

「なら部室でみんなでパジャマパーティーをしましょう!楽しいですよきっと」

「おー、いーねー俺も行きたい」

「男子禁制ですよ」

「ですよねー」

 

なんてふざけた会話をしてると突然電車が止まった。慣性の法則に従って俺は正面のセドリック、ステフはノワールとフレデリカにダイブする。

 

「のわっ」

「いっ」

「……うっ」

「きゃっ!?」

「わふっ」

 

それぞれが短い悲鳴をあげて抱きつき合う。一体なんだと思っていると突然列車の電気が消えた。

 

「あれ停電かな」

「今までこんなことってあったっけ?」

「……電車が止まることも停電も初めて」

「とりあえず灯りをつけますね、ルーモス」

 

ステフがそういうと杖先から白い光が照らす。薄明かりの中にみんなの顔が浮かび上がった。おお!なかなかに怖いなこれは。全員美形なのがなお恐怖を強めている気がする。

 

「ソノーラス」

 

暗がりの中でセドリックは辺りを見渡してから、首に杖を当てて立ち上がる。

 

『僕はハッフルパフの監督生、セドリック・ディゴリーです。これから運転士のところに向かい調査してきます。みなさんそのまま待機していてください』

 

そう言い終わると杖をしまった。

 

「それじゃ僕は運転士のところに向かってくるよ」

「おーけー」

「……気をつけて」

「私たちは大人しく待ってますね」

 

去って行くセドリックに声をかけながら俺たちは談笑していた。他のコンパートメントからは不安そうな声や人同士がぶつかり合うような音が聞こえたが俺たちはいたっていつも通りである。というか停電やら爆発やらは部室で過ごしているとたまに起きることなので、劇団員は総じて事故に慣れている傾向がある。今までで一番酷かったのは部室で誰かが練習していた双子の呪文が暴発して近くにいた虫に運悪く命中して、B級ホラーのように虫が部室に大量発生した時である。あの時のことは今思い出しても悪寒が走る。

 

「そういえばギルデロイ先生の脚本読んだ?」

「……読んだ。彼に顔面以外に秀でていた部分があるとは驚いた」

「アイクも天才だと思っていましたが、脚本に関しては彼はそれを上回っていると思いましたよ」

「はっきり言うのね、ステフ……。まぁ俺もそう考えたからいいけどさ」

「……演出に関してはアイクが考えたの?」

「ん、そこらへんは先生には難しそうだしね。そこに関してはまだ負けないから」

 

なんて話していると急にノワールが低い声で唸り始める。まるで見えない何かがそこにいるようかに一点を見つめて唸る。

 

「どうしたんですか、ノワール」

「……犬は霊感が強いと聞く。幽霊でも出たのかもしれない」

「今更ゴーストじゃビビんないけどね」

「ひぃっ!!」

 

みんなで軽口を叩いているとドタバタと大きな音を立てて誰かが怯えたように慌てて俺らのコンパートメントに入ってきた。どうしたのだろうか。

 

「君大丈夫かい?」

「……尋常でない脅えよう」

「違う……奴が来る……なんだあれは……」

 

恐怖に滲んだ声で誰かが言う。ステフがそっと杖灯りを誰かに向けるとスリザリンの少年だった。あれ、この子たしか、ドラコ・マルフォイ君だよな?プライドの高いマルフォイ少年がこんな風になるとは一体どうしたのか。そう疑問に思っていると答えは直ぐにやってきた。

 

コンパートメントの扉の向こうにぼんやりとした人影が見える。しかしそれは人と呼ぶにはあまりにも生気が無く、幽霊と呼ぶにはあまり禍々しかった。その何かがコンパートメントをゆっくりと開けると体の芯から冷えて来るような感覚が生まれる。

 

「……吸魂鬼……」

 

誰かが呻くようにそう呟いた。体に生まれた虚無感と絶望感に抗いながら俺は杖を握りしめて呪文を唱える。

 

「エクスペクト・パトローナム!!」

 

俺がそう唱えると杖の先から銀色の靄が生まれてやがた一匹の穴熊へと変わる。穴熊は空を駆けるようにして吸魂鬼へと向かい、俺たちから吸魂鬼を追い払った。先ほどまで暗くなっていたコンパートメントが明るくなり、空気が温かくなる。

 

「ふぅ……ちゃんと使えた……」

「助かりました、アイク」

「……あれは吸魂鬼。アズカバンの看守が一体なぜここに……」

「う……」

 

あれが本物の吸魂鬼か……怖いもんだな……。幸福が全て無くなり生きる気力が全て奪われていくような感覚が俺たちを先ほどまで包んでいた。練習ではエリスが持ってきた本に封印されていた模倣吸魂鬼を使っていたため、ここまでのプレッシャーは感じなかった。そのため練習ではできていたステフもとっさに守護霊を出さないでいた。

 

「……アイクもステフも凄い。まさか守護霊の呪文が使えるとは」

「練習しましたので。それでも本物はやはり恐ろしいですね」

「これってシリウス・ブラックのためか?わざわざ汽車の中にまで呼んでいたのかな、大袈裟だな」

 

俺がそう言うとノワールもわふと鳴いて肯定した。まったく、フクロウと犬と学生しかいないこのコンパートメントのどこにシリウス・ブラックがいるといるのだ。……ちなみに怯えて入ってきたマルフォイ少年に関しては彼の名誉のため誰も触れなかった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

新学期も始まってしばらくしたある日、夜中に私たち劇団の女子生徒は全員寮を抜け出して部室で集まっていた。汽車の中でも話していたパジャマパーティーを開催していた。部室にはクッションやらソファやらが大量にあり、寝ることには困らない。私たちハッフルパフ生が運んできた軽食や淹れた紅茶を楽しみながら姦しくパーティをしていた。目下の話題は女子学生らしく恋バナである。例えば恋人にするなら劇団の中で誰が良いかなど。

 

「やっぱりセドリックじゃないの?」

「セドリックかっこいいよねぇ」

「でも完璧過ぎて友達としてはともかく恋人してはハードル高過ぎない?」

「あぁ、確かに。自分とは釣り合わないかもとか考えちゃいそう」

「でも王子様みたいで素敵だよね。去年も頑張ってたし」

「あ、そういえば去年のバジリスク退治今度劇にするらしいよ。アイクとギルデロイ先生が今制作中だって」

「面白そうだねぇ、それ」

「フローラたちは石化してたし知らないでしょ」

 

それぞれが好きなお菓子を摘みつつ話は止まることなく進んでいく。

 

「じゃあアイクはどう?」

「アイクねぇ?可愛かった昔知ってるし弟って感じが強いのよね」

「団長としてしっかりもしてるんだけど、どっか愛嬌あるからかっこいいって感じじゃないのよね。昔よりも断然イケメンになったけど」

「団長!って感じで恋愛対象としては見れないわよね」

「面白くて好きだけどねぇ、箒と喧嘩した話とかぁ」

「ありましたね、そんなことも。それとは対象的にこの前の魔法生物学の授業ではヒッポグリフにとても懐かれてましたけどね」

「ハグリットがビックリしてたよね」

 

残念ながらアイクは劇団女子から恋愛的には興味を持たれていないようだった。

 

「それではギルデロイ先生はどうでしょうか?」

「ギル先生めっちゃイケメンだよね!!」

「前はナルシスト気味で苦手だったけどぉ今の穏やかな感じは好きだよぉ」

「そう?前のギル先生の方が私好きだったな」

「えー?趣味悪いなぁ」

「忘却術の暴発だっけ。あんなに人格変わったのって」

 

やれ誰々はどうだ、誰が誰を好きとかで盛り上がり夜は更けていく。私は少し疲れて一足先に静かに寝ていたり、もう少し落ち着いた会話しているテーブルへと移動する。エリスたちが静かに喋っており、近くでフレデリカがノワールにしがみついて寝ていた。

 

ノワールも随分と活力が湧いたものである。私が見つけたときは雨の中で痩せ細った犬が本宅の近くで横たわっており驚いたものだ。ご飯を食べる気力も湧いていおらず、散歩にも乗り気にならない変わった犬であった。といっても私の弟妹がご飯を与えたり、積極的に遊んでいると次第に気力も回復したのかすっかり元気になった。もふもふした毛並みはとても柔らかくて温かく、撫でたりするのが楽しかった。最初は寝室にいっしょに眠ることを頑なに拒否されていたが、やがて根負けしたのか寝てくれることを許してくれるまで懐いてくれた。

 

そんなノワールをどこか怒気を滲ませながらエリスは睨みつけていた。

 

「どうしたのですかエリス?貴方犬とか嫌いでしたっけ?」

「いえ、動物は好きですよ、本当に動物ならば……」

「?」

「無罪なのは知ってるけど淫行で吸魂鬼に渡してやろうかしら」

 

最後のつぶやきは小声すぎてよく聞き取れなかった。困惑してる私や何故か怒っているエリスもやがてみんなの輪へと戻り夜は賑やかに、姦しく、更けていった。

 

 

 



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役決めとお散歩

ステフとハーマイオニー視点です。


今年もハロウィンパーティ前に第一弾の劇をやることになった。今回は初めてギルデロイ先生作の脚本である。

 

「えー、私の脚本が採用されたということで大変恐縮に思いますが」

「別にそんなこと誰も思ってないですよ、先生」

「先生の脚本が面白かったから、みんな先生を選んだのですから」

 

たくさんあるソファに各々が自由に座り、そんな劇団員の前にギルデロイ先生が一人立っていました。前の傲慢な性格は好きになれませんでしたが、こう落ち着いていると高身長でイケメンと目の保養ですよね。

 

「ありがとう、みなさん。えーそれで、私が今回書いた物語の役とその希望者を発表していきますね」

 

端正な顔に緊張の色を滲ませてギルデロイ先生は話していた。私たちは巻物に書かれた物語に軽く目を通して、役を確かめている。ギルデロイ先生が役を発表していき、それに立候補する名前が次々と書き込まれていた。私も脇役の一人に名前を記入する。それをギルデロイ先生とエリスが二人で集計している。今回の話は中世の騎士団と化け物の戦いやお姫様との恋愛などをモチーフにした超大作であり、何週間かかけてやる大掛かりな一幕である。

 

「あれぇ?ステフ、アイクはどこいってるのぉ?」

 

そうフローラがノワールを抱きつつ(身長が足りないため引きずりながら)話しかけてきた。そう、フローラが疑問に思った通りにアイクは今この場にはいないのです。その代わりとしてギルデロイ先生とエリスが代理として指揮をとっている。今回アイクは大勢のモブ役やら背景の細かい動きを担当するとして元から決まっていたのでそこまで影響はない。

 

それにフレデリカ、フレッドとジョージの3人による破天荒な実験同様に、団長であるアイクが突発的に行動をとったりすることには慣れているため大して支障はない。一番酷かったのは「限界に挑戦したい!!」といって有りっ丈のチョークを使って一人で人型を大量生産して部室で一人戦争ごっこをしていた。かなり細部まで凝っており、途中から劇と化していたが。

 

「なんでも『ハーマイオニーとデートだぁ!!』と叫んでたので」

「なるほどぉ、それなら絶対に来ないよねぇ」

 

妹に対する溺愛っぷりは団員みなが知っていることであり、妹が誘えば絶対に行くだろう。

 

「それにしてもハーマイオニーも珍しいねぇ、今まであんまり頼ってこなかったでしょぉ?少なくとも突然にはぁ」

「そうですね。なんでも勉強の相談と言ってましたよ」

「成績良いもんねぇ、アイク。魔法史以外はぁ」

 

アイクのスペルミスは未だに治らないのですが、不思議でなりませんよね。実技系も完璧ですし、箒と魔法史以外は大抵なんでもできますから。要領がいいんでしょう。

 

私たちは手持ち無沙汰なのでノワールを撫でたりして戯れる。このもふもふ感がたまりませんね。

 

「……私も触りたい」

「私も!!」

「ノワールくんぎゅー」

「あ、いーな。俺もしたい」

「もふもふ!」

 

すっかり大人気ですね、ノワール。次々と集まる生徒と私の黒く柔らかい愛犬をほっこりした気分で見つめていた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

るんるんと楽しそうなアイクに少し苦笑しつつ私たちはお菓子を片手に二人で喋っていた。そばにはクルックシャンクスがのんびりと伸びをしたり近くをうろちょろと歩いている。

 

「この前の習った新しい魔法薬についてなんだけどね、私授業で一番早く作れたの」

「流石!!賢いね、ハーマイオニー。君は間違いなく首席になるよ!!何を作ったの?」

「くたびれ薬よ。完璧に調合できたわ」

「あーあれか。ふむふむ。確か途中でヒガナ草とアナコンダの目玉を使うよね」

「えぇ、そうよ。ちゃんと覚えているね、アイク」

 

こういうときに普段ははっちゃけているような兄が確かに頭が良いことを思い出す。先ほどまで話していた別の科目、呪文学や変身術の知識も正確であったし、私がまだ習い始めたばかりの科目についても的確なアドバイスをしてくれた。

 

「うん。それで確か、その目玉を入れた後にヒガナ草を少しずつ加えていくんだと思うけど、目玉を入れる前からヒガナ草を少量ずつ入れていくとより早く完成するよ。それ以外にも確か色々コツがあったと思うけど」

「そんなこと考えたこともなかったわ。教科書通りにやれば作れるもの」

「ハーマイオニーは言われたことは完璧にできるのだから、もう少し余裕を持った方がいいと俺は思うよ。なんでも正攻法だけが正解じゃないないからね」

 

正攻法だけが正解じゃない……。なるほど、確かに言われてみれば少し私は教科書通りになりすぎたかもしれない。アイクの言う通り自由にやることもときには重要なのかも。まぁ今年はそんな余裕ないのだろうけど。

 

「そういえばシリウス・ブラックが脱獄した理由ってハリーを狙ってらしいわ。アイクもハリーに注意して、何かあったら手を貸してあげてね」

「うわー、マジだったのか。冗談で言ってたのに。ハリーはよく厄介事に巻き込まれるね。大変だ」

「本当にね。少し同情するわ」

「まぁダンブルドア校長も吸魂鬼もいるから、誰かが手引きしたりすることをしなければホグワーツに入ってこれないと思うよ」

 

窓の外はいつものこの時期に比べると暗く、遠くに黒い靄のようなものが飛んでいるのが見えた。私たちが汽車でも見た吸魂鬼たちである。

 

「ハリーがホグズミードに行けないのは良かったかもしれないわね。校外は危険だと思うし」

「確かにね。それでどうして急にハーミーは俺に相談をしに来てくれたの?」

 

いつもこうである。私の不安や心配に対してアイクはすごく敏感だし、最優先してくれる。アイクは少し真面目な顔をして私の顔を心配したように覗き込んでいる。そんな彼の表情は幼いときから変わっておらずじんわりと安心感が私の胸に生まれた。

 

「少し勉強に疲れちゃって。それだけよ」

「そうかい?それに関してはハーマイオニーはいつだってパーフェクトだよ!むしろ今年はいつも以上に気負いしすぎてる気がするから少しは肩の力を抜いたほうがいいと思うな」

「そうかしら」

「うん。でもそれだけじゃないよね?」

 

確信しているようにそう言い切るアイク。小さい時からこうである。やっぱり隠し事は無理ね。それに見破られることを期待している私も確かにいた。

 

「何か困ってることがあるなら迷わず俺に相談してくれていいんだよ?もちろん、無理にとは言わないけどね」

「いいわ、言うわよ。私今少しだけロンと喧嘩してるの、クルックシャンクスが原因でね」

 

そういって陽だまりのように温かいオレンジ色をした毛並みの愛猫を膝に座らせる。クルックシャンクスは私の体に甘えるようにすり寄って来た。

 

「なぜかロンのネズミを捕まえようとするのよ。それでロンと少し仲が悪くなっちゃって」

「そうなのか。ロンのネズミだけ?他の、例えばホグワーツにいるネズミは捕まえようしないの?」

「え?そういえばそうね、なぜかロンのネズミだけだわ。ホグワーツの他のネズミたちを捕まえようとしたところを見たことないわね」

「んー、なんでだろうね。賢い猫なのになぁ。どうしてロンのネズミなんだよぉー、クルックシャンクスー」

 

アイクがクルックシャンクスをくすぐり、気持ちよさそうに身を捻っている。言われてみれば不思議なことである。ロンのネズミに何か特別な要素があるのかしら。

「それ以外に何かあるの?不安に思ってることならなんでも聞くよ?なんて言ったって俺は君のお兄ちゃんだからね!!」

「あとは占い学の教授とソリが合わないのよ」

「あー、あの人か」

 

ハリーに死神犬が取り憑いているだの信憑性の無いような不幸な内容をもっともらしく告げることなどをアイクに愚痴る。アイクはそれをうむうむと頷いてくれていた。

 

「あの人は必ず毎年誰か死ぬとか予言してくるからなぁ。ちなみに俺たちの年はフローラだったけど全く本人は気にしてなかったし、結局今も生きてるからね。気にしなくていいよ。それにそんなに気にくわないなら履修やめて他の科目にすればいいんだから」

 

そう言ってアイクは朗らかに笑う。それからローブを探りながら立ち上がった。取り出したのは鮮やかな青色をした笛である。その笛って確かデザインが気に入ったからっていってこの前の家族旅行でフランスの露店で買ったものはず。それから私に向かって手を差し出す。

 

「『お嬢様、わたくしがあなたにとっておきの魔法を見せてあげましょう』」

「ふふふ、それ前にやってた劇のセリフよね。アイクが主演だった」

 

確か一昨年の冬にやったものであり、魔法使いの青年がマグルのお嬢様に一目惚れして執事として仕えるといった恋愛劇であった。アイクが今言ったセリフは終盤でお嬢様に向けて言ったものであり、同時に桜の雨が舞台だけでなく会場中に降り注ぎ、まるで夢のような景色であった。

 

「それでアイクは私に何を見せてくれるの?」

「見せるってよりは体験するかな。ひと時の空の旅をお楽しみくだいってね」

 

そう言って取り出していた青色の笛を吹く。綺麗に澄んだ音色が辺りに響き渡った。何かを待っているか遠くを見ている。訝しんでいると動物の嘶きが聞こえ、それと同時に何かが空からやって来た。

 

「おーい!!こっちこっち!!」

 

ばさりと風を切る音とともに一匹の幻獣が現れた。美しい白銀の毛並み、橙色に輝く一対の瞳。これは、ハグリッドの授業で見たあのヒッポグリフじゃないかしら。驚いている私を他所に白銀のヒッポグリフにアイクはじゃれついている。

 

「やぁ!!バックビーグ!相変わらず綺麗だね!最高に美しいよ!!プラチナのような毛並み、琥珀のように澄んだ瞳!!力強い四肢に空を掴むその気高き翼!!最高!!!」

 

わぁぁっと降りてきたヒッポグリフにしがみつき、丁寧な手つきで体を優しく、しかし激しく撫でている。気難しいと言われているヒッポグリフにそんなことをしては襲われるのではと不安に思うがヒッポグリフもそんな賛辞を当然と毅然とした態度で受け入れており、アイクのじゃれつきを気持ちよさそうにしていた。

 

「アイク、ヒッポグリフで事件が起きたからしばらくハグリッドは生徒が近づけるのはやめたと思うけど」

「俺からじゃなくてバックビーグから来たから問題ないよ。ねぇ」

 

そういってヒッポグリフの首をアイクは優しく抱きつき。なんでも授業で仲良くなりその時に吹いた笛の音を気に入ったようで授業外でも遊んでいるのだとか。アイクはヒッポグリフに跨って再度私に手を差し伸べる。

 

「ハーミーおいでよ!!とっても楽しいよ!」

「……ええ、わかったわ」

 

私はアイクの手を取ってヒッポグリフに跨る。

 

「よし行こう!!バックビーグ!」

 

アイクがヒッポグリフに声をかけると大きく鳴いて、青空に私たちは飛び立った。

 

 

 

 

 

 



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歌とハロウィン

ハリーとセドリック視点です。


 

マクゴナガル先生から叔父さん叔母さんからの署名が無いためホグズミード許可が下りずに一人で城内をうろついていた。ハーマイオニーやアイクが僕をあの家から連れ出してくれたのはとても嬉しかったが、それでも保護者の氏名が手に入る機会を潰してしまったのは失敗だったと思う。

 

ハーマイオニーたちの両親に書いてくれないかと相談したがアイク曰く魔法的な防御が掛かってるからちゃんとした保護者以外記入できないと言われしぶしぶ諦めることになってしまった。

 

そんな中でたまたまルーピン先生と出会ってしばらく彼のオフィスで話をしていた。途中スネイプが何かの薬を持って来たことは以外は楽しく和やかに話していたが、ルーピン先生にも仕事はあるため部屋を出て暇になってしまった。

 

劇もこの前終わってしまい、楽しみにするようなことも、目的もなく、ただぶらぶらと無気力に城の中を彷徨っているとどこからか歌が聞こえる。美しくも力強く、聴いているものを魅了するものような感情が篭った声が豊かに響き渡っている。声の方向に向かっているとどうやら外から聞こえてくるようだった。美しき声に導かれるように、惹かれるように、不思議な引力を持っている歌声の元へと歩んでいく。

 

たどり着いた先には一本の木が厳かに生えており、その根元には目を閉じて歌声をあげている滑らかな金髪の少女と一匹の黒い犬が静かにそばでひっそりと眠っていた。まるで1つの儚く繊細な絵画のようであった。

 

歌はやがて終わり金髪の少女、ステフはゆっくりと目を開ける。目を開けたステフは壊れ物を触るかのように優しげな手つきで黒い犬を撫でた。やがて僕の視線に気がついたのかステフと視線があった。

 

「やぁステフ」

「こんにちは、ハリー。今日は良い天気ですね」

 

手でこちらへと来るように指示されて、彼女の元へと歩きポンポンと叩かれた横に座る。花のような自然を思わせるような優しい良い香りが隣から漂う。いつものようなにっこりとした笑みを浮かべながら僕の顔を覗き込んできた。

 

「今日はホグズミード村に行く日だと思いますが、ハリーは行かなかったのですか?楽しいらしいですよ」

「僕は保護者から許可がもらえなくてマクゴナガル先生から行ってはいけないって言われちゃったから」

「そうですか、残念ですね。あ、これ私が作ったサンドイッチですよ、食べますか」

「うん、ありがとう」

 

ステフから手渡されたサンドイッチを受け取り一口含む。シャキシャキとし瑞々しいレタス、カリカリに焼かれたベーコン、甘酸っぱいトマト、それらの食感と味が見事に調和していた。アイクがステフのお菓子は美味しいと言っていたが、普通の料理もかなり美味しい。

 

「美味しいよ、ステフ」

「ありがとうございます。そう言っていただけると作った甲斐がありますね。ホグズミードにみんなが行く日はいつも一人でしたから」

「ステフはどうして行けないの?」

 

諦めたように笑うステフに僕とは違って本当の両親がいるのに許可が下りないのが不思議に思い尋ねてみる。意地悪な両親なのだろうか。

 

「あのですね、自分で言うのはなんというか恥ずかしいのですが、私の実家、つまりペンテレイシア家はかなり裕福でして。私はそこのお嬢様なのですよ」

「うん」

 

確かにペンテレイシアという名前は僕でも知ってるくらい有名な服のブランドがあるし、アイクやセドリックからかなりのお金持ちであると小耳に挟んだことがある。恥じらいながらステフは続ける。

 

「そして同時に親がとても心配症でして、私をあまり外出させたくないのでホグズミード村に行く許可が下りなかったのですよ」

「厳格な家も大変なんだね」

「ええ。まったく困ったものですよ」

 

しみじみと呟くステフ。叔父と叔母は僕に対する嫌がらせで、ステフの両親はステフに対する愛情でホグズミードに行くことを許してくれなかった。愛憎の結果が同じとは少し皮肉なものである。僕は話題を変えようとステフに別のことを振る。

 

「それはそうとステフ、さっきの歌声、綺麗だったよ。僕、感動したよ!!」

 

僕がそういうとステフは顔を赤らめて、ひどく恥じたような表情をしてみせた。笑顔以外のステフは珍しい。少なくとも僕が見たことのない表情であった。

 

「そ、そうですか。あ、ありがとう、ございます。私、歌を歌うのが好きなのですが人前で歌うことは苦手でして」

「劇とかではちゃんと喋ってるのに?この前の劇も素晴らしかったよ。お姫様の侍女役だったよね」

「よくわかりましたね。ありがとうございます。ですが劇は舞台裏から操って声を出してるのに過ぎませんから。私自身が人前に立つのは凄い苦手なのですよ」

「もったいないよ、あんなに綺麗な声をしてるのに」

 

そういうとステフははにかんで笑ってみせる。

 

「なんだかアイクと話しているようです。彼もあなたのように素直に褒めてくれますから。それが少しこそばゆいですけどね」

 

そう言いながらステフは隣で眠っている黒い犬を優しい手つきで撫で回す。柔らかそうな毛並みがほっそりとした女性らしい手によって動く。

 

「そういえばその犬、ステフの犬なの?去年までは飼ってなかったよね?」

「そうですよ。今年の夏に出会ったのです。名前はノワール、賢い男の子ですよ。あまり吠えないし、性格も穏やかですから」

「ねぇ僕も触ってもいい?」

「もちろん。どうぞ」

 

おずおずと手を伸ばして柔らかい黒い毛並みな触れる。温かい。そして当たり前だが生きているという感覚がした。僕がゆっくりと撫でているとノワールは目を覚ましたようで、瞼を開ける。それから僕の方を見ると驚いたかのように目を見開いた。そして時が止まったかのようにこちらを向いて微動だにしない。

 

「?」

「ノワール?」

 

ステフの呼びかけにも応えず、そのままじっとこちらを見つめてくるノワール。なせか彼の黄色い目から目を離すことができずそのままお互いに見つめ合う。

 

するといきなりノワールが僕めがけて飛び込んできた。

 

「うわっ!?」

「ノワール?!」

 

ノワールはそのままぶんぶんと尻尾を大きく振りながら顔を覗き込んで舐めてくる。ノワールの体は大きく、僕は押し倒されたまま起き上がれなくなっていた。ステフが後ろから引き剥がそうと奮闘するがノワールの力が強いのか全く効果はなかった。

 

「くすぐったいよ、ノワール」

「ちょっとノワール!!ハリーから離れなさい!!ノワール?!どうしたのですか!?っこの!アレストモメンタム!!」

 

ステフの杖から呪文が発射されてノワールに当たり、動きが止まる。停止したノワールを重そうにステフが僕の前から動かす。申し訳なさそうな顔をしてステフが頭を下げていた。

 

「すみません、ハリー。普段はこんなことをしない子なんですが。人からされる行為をそのまま受け入れはしますが自分から積極的に何かをするような子ではないのですよ。本当にすみません」

「別に、大丈夫だよ。ちょっとは驚いたけど」

 

それからステフがノワールを落ち着かせて、二人で最近の話をした後にみんなが帰ってくる時間だということで僕たちは別れた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

ハロウィンの宴会が幕を開けた。大広間には何百ものかぼちゃ、ジャックオーランタンに蝋燭が灯されており、生きたコウモリが飛んでいた。燃えるようなオレンジ色の奔流がくねくねと動いていた。

 

「いつも派手で楽しいね、ハロウィンパーティー」

「そうだな。どうせなら俺がもっと派手にハロウィンらしいモンスターを作ってだな……」

「やめてくださいアイク。あなた凝り性なのですから、おそらく下級生が泣いちゃいますよ」

「えー」

 

アイクは残念そうにふわふわと漂わせていた粉を元の袋に戻していく。ちなみに彼が用意したのは今回宴会なのでチョークではなくて小麦粉である。

 

「そういえば去年までやってた眼鏡の怪獣捕まえるゲームは無くなったのかい?」

「去年は盛り上がってましたよね、あれで」

「あー。あれなー。あれ、何でも一年限定だったらしくて。今じゃただの魔除け眼鏡だよ。かぼちゃパイおいしい」

 

もぐもぐと頬張りながらアイクは応えた。何というか、見た目はすっかりカッコよくなったというのに、こういった動作が幼いというギャップがある。行儀が悪いと指摘するステフの声にも「ふぉーい」と口に入れたまま返事をしてステフにため息をつかせた。その後アイクは他の劇団の子に呼ばれて去っていった。

 

「アイクらしくてイイんじゃない?」

「セドはアイクに甘いですよ。かぼちゃプリン取ってください」

「はい」

「ありがとうございます」

 

ぷりぷりと怒った様子でステフはプリンに手をつける。何だか少し珍しいと思ったが、原因ははっきりしている。

 

「まぁまぁ、落ち着きなよステフ。ホグズミードに行きたいのはわかるけど許可が下りないんだから仕方ないじゃないか」

「べ、別にそれは関係ないですよ?!」

 

ステフは魔法使いだけの村に大変興味を持っていたが、行けないと判明すると、とても落ち込んでいた。誰かに名前を書いてもらったりするなど色々試したが、結局全てダメであり、大人しく引き下がっていた。それからみんなの前では不満を出さないが毎回みんながその年初めてホグズミード村から帰ってきた日には少し荒れているのだ。

 

「怒った顔よりいつもの笑顔の方が素敵だよ、ステフ」

「……アイクの言う通り本当にいつか刺されますよ、セド。それと別に怒ってませんから」

「……そんなあなたにとっておきの商品がある」

「うわ!フレデリカ?!」

「こんばんはフレデリカ」

「「俺たちもいるぜ」」

「フレッド、ジョージ」

 

劇団の縁の下の力持ち(兼トラブルメーカー)が現れる。といってもフレデリカの口ぶりからして商品紹介だろうけど。

 

「……じゃん」

 

フレデリカがそう覇気のない声を出しながら取り出しのは一枚の紙である。まぁ彼女たちが来て紹介しているということは普通の紙ではないかとは確かである。

 

「この紙は俺たちが開発したものでな」

「名前を『指揮紙』っていうんだ」

「なんとこの紙に名前を書いてから何かに貼るだけで」

「自分とその何かの感覚を共有できて遠隔操作できるのだ!」

「例えば人形に貼ればその人形を自在に動かすことができて」

「なおかつその人形から周りを見たり聞いたりもできる優れもの!」

「……お値段たったの25シックル」

「「買うなら今!!」」

 

確かこの紙はバジリスク退治で使用したものであった気がする。ちゃんと商品化したのかな。制限時間とかあったけど。

 

「それって確か15分とか20分しか効かないんじゃなかった?改良したの?」

「あっ」

「バカ!セドリック言うなよ」

「……とんだ裏切り」

「いえ、この後言及するつもりでしたから。それより友達からお金を巻き上げようとはどういうことですか、まったく」

「……商売」

「そうそう」

「別にお金を巻き上げようとはしてないって」

「開発費を出しますので3時間は持たせてください」

「……わーい」

「良いんだそれで……」

 

こんな感じのふざけた会話もしつつ宴は過ぎていった。楽しい時間はあっという間に過ぎて行き宴も終盤となりみんなが散り散りに解散していった。僕たち五年生の監督生は忘れ物などの確認のために最後に残っていた。

 

「こんばんはセド。今夜は楽しかったわね」

「やぁ、こんばんは。エリスも監督生になったんだね」

「ええ。もう一人はデュークよ。それにしてもステフから聞いたわよ。クィディッチのキャプテンも兼任してるでしょ」

 

久々にエリスに出会って会話が二人で弾ませていると、大広間の扉が突然開いて一人の生徒が飛び込んでくる。制服を見るとグリフィンドールだった。彼は一目散に教師たちのテーブルへと向かっていく。

 

「た、大変です!!ふ、婦人が、太った婦人が切り裂かれてたんです!!」

「テンションの上がった生徒ですか?まったく宴会はもう終わったのですよ?」

「違います!やつです!!シリウス・ブラックです!!」

 

その一言で大広間に残っていた生徒たちが大きくどよめく。傍にいるエリスも頭を抱えていた。

 

「あの淫行駄犬め……!!」

 

何かを忌々しそうに呟いていたが、喧騒で僕の耳には入らなかった。

 

 

 

 




アイクの出番がなかった……。そして気がつく、今回なんもプロット練っていないと。


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殺人鬼と料理

アイクとハリー視点


第三弾の公演も終わり、最近の劇団の活動はひと段落していた。そのため、みんなが割と自由に行動したり、もしくは何らかの企画を立てて大勢で遊ぶ機会が多くなっている。例えばお化け屋敷を作って遊んだり、今までの脚本ランキングをつけて大討論したり、休日にみんなで外でご飯を食べたりと和気藹々と過ごしていた。仲が良いことは良いことである。みんながそれぞれ寮を問わずに遊べることがこんなに楽しいとは思ってもいなかったことだ。

 

そうして企画した遊びを日々過ごしていたのだが、ある日エリスに呼び出されてしまった。何でも二人っきりで会いたいのだとか。巻物にて集合時刻が告げられて一人で部室に向かう。

 

喋っていたセドリックとキースはクィディッチの練習に向かってしまい、ケビンとフローラはフレデリカ、ジョージ、フレッドの実験に手伝うと言って去ってしまった。ステフにも「すみません、今日は先約がありまして」と言われてしまい、ギルデロイ先生との打ち合わせもこの前済ましてしまったので俺は暇になってしまった。

 

手持ち無沙汰になった俺は時間よりは早いが部室に向かうことにした。最近、部室にはお菓子だけでなく料理がおいてあるので小腹が空いた今にちょうど良いだろう。談話室を出てから階段を登っていき部室へと向かう。ノワールが部室にいるはずだしアニマルセラピーしてもらおう。といっても今年はそこまでストレスが無いけど。どうせならエリスにも変身してもらおう。

 

るんるんとした足取りで階段を上っていく。各寮のシンボルである動物たちが描かれた扉の前に立ち、この扉が作られてからもうかなり経つなぁと今更ながら感慨深くなる。それから巻物を見せてからドアを開ける。ノワールと戯れつつ何かつまもう。

 

「ん?」

 

ドアを開けて中を見渡すがどこにもノワールが見当たらない。おかしいな。この前のシリウス・ブラックが太った婦人を襲撃した事件から安全のために、ノワールが勝手に部室から出て城内をうろつかないためにも、団員が同行していないと部室から出れないように首輪をつけたので一人で出れるはずがないのである。ちなみにエリスとフレデリカたち3人による合作である。前々から思っていたがエリスは何というかステフを大事にしている傾向が強い。

 

がさがさとどこからか音が聞こえる。お菓子の包装紙でもノワールが破ろうとしているのだろうか。最近は保管している戸棚に近づこうとしているので、勝手に食べれないように料理やお菓子を入れてる位置を上げたのでノワールには届かないはずである。まさか諦めきれずに暴れて上からお菓子を落としたのだろうか。まったく、やんちゃな犬である。

 

悪戯っ子なノワールを逆に驚かしてやろうと俺は足音を消してそぉっと戸棚へと向かう。ふふふ、リアクションが楽しみだ。

 

粉が入ってこないように仕切られた食器や食料が置いてあるスペースへと向かい、入ると同時に声を上げる。

 

「わぁっ!!」

「うぉ?!」

「うえ?!」

 

ステフの愛犬、ノワールを驚かそうとした俺の視界に入ったのはボロボロの服を着た長髪の男性であった。男は戸棚から食料を取って食べていたのだろうか、腕を棚に向けて固まっている。対して俺もフリーズしていた。

 

え?どういこと?誰だこのおっさん?何勝手に部室の物食べてんの?しかもそれこの前俺が残しといたやつやん。あれ、そういえばノワールが見当たらないな。どこいったんだろ。つかこのおっさん誰だ?何か見たことがある気がする。どこだっけ?てかホグワーツにこんなおっさんいたか?そもそも部室になんで入れたんだろ。あれ、もう時間だよな、エリスまだ来ないのか。あっ、このおっさんの顔どこかで見たことがあるか思い出した。新聞だ。

 

ぐるぐると高速回転する脳みそがようやく答えを出す。

 

「シリウス・ブラック!?」

 

俺が大声を出すとようやくお互いの硬直が解けて俺も相手も動き出始める。とりあえず俺は部室から出るためドアに向かってダッシュし始める。なんでシリウス・ブラックがここにいる?!伝えなきゃ!!いや、でも誰に?ダンブルドア校長?吸魂鬼?てか吸魂鬼ってあんな見た目で喋れるの?思考を続けながらも俺は足を動かす。

 

シリウス・ブラックも一瞬遅れて俺を追いかけようと後ろからかけてくる。元囚人とは思えないような運動能力だ。普通もう少し筋力とか衰えてたりするんじゃないの?!

 

「待て!!アイク!!」

 

なんで俺の名前知ってんの?!驚きながらも走ることを止めない。捕まったら殺される。そんな一心で駆け抜けた。何とかドアの手前に着いてドアノブに手をかけようとする。がしかし、俺の手がドアノブを掴むことはなかった。俺の手は空を切り、バランスを崩す。と同時に誰かが部室に入って来ようとドアを開けたようで、俺は不自然な体勢のまま転がるようにして部室から出た。

 

飛び込むような姿勢のまま、入って来た誰かに衝突する。

 

「あだ?!」

「きゃ?!」

「ぐっ」

 

俺は入って来ようとした人物、エリスを押し倒す形で止まった。

 

「アイク、何やってるのかしら?」

「エリス!!どうしよう!伝えなきゃ!あと吸魂鬼も呼ぼう!ここは封鎖しないと、あと巻物でみんなにも連絡を!!あれ?巻物がない!部室に置いてきたかも!?」

「とりあえず落ち着きなさいよ。何が言いたいの?というか何があったの?」

「居たんだ!!」

「誰が?」

「シリウス・ブラック!!」

「ああ。それって彼のことかしら?」

 

そうエリスが指差す方にはシリウス・ブラックが何故か吹き飛んだようにして部室に横たわっていた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

僕は今日、ステフに連れられて厨房設備のある部屋にいた。何でも料理の練習をするにあたって味見役を僕にしてほしいんだとか。ステフと僕はシンプルな灰色のエプロンを身につけている。

 

何故劇団の人たちじゃないかと尋ねたところ、「劇団の子たちにバレたら全員食べたいってうるさいんですよ。流石に全員分作るのは大変ですし、練習の段階で大勢来られても困りますので。ですから私とあなたとの秘密ですよ」と温かく微笑まれた。

 

「それでステフ、何作るんだい?」

「えっとたしか名前は『チャワンムシ』だったと思います。東洋の料理だそうですよ。前にアイクが美味しい、食べたいと言ってたので興味を持ちまして」

 

そう言いながら普段のゆったりとした所作からは想像できないほどテキパキと素早く準備を始めていた。図書館からレシピを見つけたらしいが、東洋の料理のレシピまであるとは凄まじい蔵書である。

 

「チャワンムシって面白い名前だね」

「何となく可愛い響きですよね」

「どんな料理なんだい?」

「作り方は少しプリンに似てますかね。味はレシピを見る限り大きく異なると思いますが。それでは作っていきますね」

 

そう言ってステフは杖を取り出して、材料を出していく。まずはじめに乾燥した昆布を鍋に入れて火にかける。続いて鍋が煮立つまでの間に他の材料、しいたけ、しめじ、鶏肉を切ったり、エビやカニの身を取り出していた。

 

「本当は『かまぼこ』と『銀杏』という具材も入れるらしいのですが、入手できませんでしたので今回は省略します」

 

それから卵を二個取り出してコンと軽快な音で軽く叩き、割ってとろんと落ちてきた卵をしゃかしゃかとリズムよくステフはかき混ぜる。そして僕にはよく分からないが、様々な調味料を計測して卵をといたボウルに入れていく。調味料だけでとてもいい匂いである。

 

「実家にお願いして入手したり、ホグワーツにいる屋敷しもべ妖精さんに分けてもらいました」

「ホグワーツにも屋敷しもべ妖精がいるの?」

「ええ、厨房にいますよ。ホグワーツで出される全ての料理はそこで彼らが作っていますよ」

 

へぇ、知らなかった。僕が感心していると先ほど昆布を入れた鍋の中身を卵液にいれる。細かい目の網に卵液を通していき漉して、その工程が終わった後に、2つのマグカップに均等になるように卵液を入れていく。

 

「ハリー、これらの材料の中で苦手なものはありますか?」

「いや、特にないよ」

「良かったです。それじゃあ好きなように具材を入れてください」

「わかった」

 

僕たちはそれぞれが自身の好みに合うように好きなように具材を自分のマグカップにいれる。優しい黄色をした卵液と鮮やかなカニの赤や薄ピンクのエビがとてもおいしそうである。わくわくしながら、僕は具材を入れ終えたマグカップをステフに渡す。

 

「ありがとうございます」

 

受け取ったステフは鍋に水を注いで杖を振り、火を点ける。青い鮮やかな炎が鍋の下でゆらいでいた。

 

「そういえばステフ」

「はい。どうしましたか、ハリー」

「どうして味見役に僕を選んだの?ハーマイオニーとか、あとはセドリックとかでも良かったんじゃない?セドリックは劇団員だけど今年はクィディッチのチームに参加してるし」

「うーん、確かにその二人は考慮したのですが、ハーマイオニーに任せると何処からかアイクが現れそうですし、セドリックは何を食べてもよほど酷くない限りマイナスな点を言ってくれませんから」

 

そう話していると水が沸騰したようで、再度杖を振って火を弱める。それから鍋にマグカップごと入れていく。

 

「なんでも日本という国では容器の一種に『茶碗』というものがあるらしいですよ。おそらくその容器ごと蒸すから『チャワンムシ』というのでしょうね」

 

面白そうに笑ってからステフは鍋に蓋をして、火を強めた。それからステフは時間を計り始めた。その間二人で適当に喋っていると、キッチンタイマーが鳴る。

 

「出来ましたね」

 

ステフはそう言いながらミトンを装着してから、トレイの上にマグカップを載せた。優しい淡い黄色に薄ピンクのエビや綺麗に切られたしいたけが見えた。

 

「何だか可愛いね」

「そうですね。エビやしいたけが甘いものでしたら完全にスイーツに見えそうですね。はい、スプーンです」

「ありがとう」

「お熱いのでお気をつけて」

 

クスクスと笑ってからスプーンを手渡される。スプーンで一口掬うとチャワンムシはぷるぷるとしおり、光を弾いていた。とてもおいしそうである。息を吹きかけて冷まして口に含む。プリンのような食感だが、味は全くもって異なり、ほんのりとした昆布の香りと風味のある卵の味がした。美味しい。

 

「これ、すごく美味しいよ!ステフ」

「ええ、そうですね。予想以上、期待以上です。見た目はプリンのようなのに味は全くもって別。深みのある味ですね」

 

それから僕らは舌鼓をうちつつ、茶碗蒸しを食べすすめていく。プリッとしたエビやほろほろと柔らかく崩れる鶏肉、香りの良いしいたけもとても美味しかった。

 

「美味しかった。ステフ、ありがとう」

「そう言っていただけると良かったです。ふふ、始めて食べましたがとても面白い料理でしたね。意外とレシピも簡単でしたし。……そういえばハリー。先日はすみませんでした」

「え?」

「ノワールの件です。彼は普段自分から誰かに構いに行くことはないのですが、何故かハリーを特に気に入ったようでして。飼い主として謝罪します」

「あぁ。大丈夫だよ別に。ちょっと驚きはしたけど」

「そうですか。なら良かったです。できれば仲良くしてあげてくださいね」

 

部屋には和やかな雰囲気に優しい茶碗蒸しの匂いが漂っていた。

 

 

 

 




茶碗蒸し食べたい


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嘘と真実

アイク視点


エリスは横たわったシリウス・ブラックの体を縛り上げて椅子に座らせる。今、部室には俺とエリス、それと何故か部室にいたシリウス・ブラックの3人のみがいた。

 

「エリス、シリウス・ブラックが見つかったんだ。校長先生に伝えに行こう」

「その必要はないわよ、別に彼、殺人鬼じゃないもの」

 

はい?今さらっとすごいこと言われた気がする。

 

「でも日刊予言者新聞が言ってたよ、『彼はたった一度の呪いで13人も殺した』って」

「新聞に書いていることだけ信じたら痛い目見るわよ」

「……ねぇこれってもしかして原作の流れなの?」

 

エリスのやけに確信めいた言い方に俺はそう推測した。

 

「ええ。今年の話は端的に言うと『ハリーの父のジェームズ・ポッターの元親友であるシリウス・ブラックがハリーを狙って脱獄、と見せかけて別の人物が実は裏切り者だった』って感じかしら?」

「は?!」

 

軽く言われた情報の衝撃にめまいを起こしそう。シリウス・ブラックがハリーの父親の親友?しかも冤罪!?

 

「え?どういうこと?というかさっきから気になってたけどどうやってシリウス・ブラックはホグワーツに入ったの!?」

「ステフが手引きしたのよ」

「え?ステフが?!うそ!?」

「ステフに自覚はないけどね」

「は!?」

 

さっきからずっと驚きっぱなしな気がする。慌てふためく俺にエリスはため息をつく。そして視線を気絶してるシリウス・ブラックに呆れたような視線を向けてため息をつく。

 

「本当はあなたが混乱しないように順番にゆっくり説明するつもりだったのよ」

「いや、いつ言われても混乱してたと思うよ、こんなこと言われたら」

「確かにそうかもね。まぁ詳しい話をする前にもう一人、来るべき人がいるわよ」

 

そう言って部室のドアに視線を向けるエリス。こんこんとノックの音がしてドアが開かれる。現れたのはリーマス・ルーピン先生だった。

 

「やぁ、ミス・グリーングラス。僕に見せたいものって一体なん……」

 

入ってきたルーピン先生の顔がセリフの途中で固まる。いつも温厚そうな笑みを浮かべている顔から表情が抜け落ちた。来るべき人とはルーピン先生のことか……。それにしてもどうしてルーピン先生なんだろうか。疑問に思っているとルーピン先生が表情を引き締めて懐から杖を勢いよく取り出し、気絶したシリウス・ブラックに突きつける。

 

「二人とも私の後ろに!!」

 

覇気のこもった口調に俺とエリスは素直に従って彼の背後に回る。チラリとエリスは俺の方を見た。それから震えた声を出してリーマス先生に話しかける。

 

「す、すみません。ルーピン先生。あの、私たち、えっと、今度の劇に登場させる予定の魔法生物の質問をしようと思って……」

 

そう不安そうに俺にしがみつきながら言った。……俺たちの劇団で培った演劇の技術を先生に嘘をつくためにつかないで欲しい。ぎゅっと腕には抱きつきながらエリスは「合わせて」と俺に囁く。なるほど、こういう流れなのね。

 

「そうなんです。俺たち、その、生態とか特徴をまとめてたら、なぜか戸棚から、誰も居ないはずなのに、音がして、それで近づいたら、シリウス・ブラックがいたんです。それで、襲われそうになって、エリスが咄嗟に助けてくれたんですけど、俺たちどうすればいいかわからなくて……」

 

できるだけ不安そうな声音を作り、エリスに乗っかるように詳細を語る。詳しすぎず、つっかえつっかえで話してそれっぽくする。いや本当にリーマス先生すみません。

 

「大丈夫だよ。すまないがしばらくここに居てくれないか」

「え?」

「彼には聞きたいことがあるんだ」

 

部屋を出ようとするエリスを静止して、俺たちにこの場にいるように促す。リーマス先生は相変わらず表情が固いままでいる。

 

「エネルベート」

 

リーマス先生が気絶したシリウス・ブラックに魔法をかけて意識を回復させる。

 

「……う」

「やぁ、シリウス。まさか君とこんな形で再会するとは学生時代には思わなかったよ」

「………!!リーマスか、久しいな」

 

ぎらりと普段の顔からは想像がつかないような、まるで狼のような目つきで椅子に縛られたシリウス・ブラックを睨みつける。睨まれているシリウス・ブラックは苦しそうにだがどこか懐かしそうな表情を浮かべる。

 

「君のせいでジェームズとリリーは死んだ。なぜ裏切った!!シリウス」

「私は裏切ってはいない!!ジェームズたちを裏切るくらいなら死んだほうがマシだ!!!」

「ならばどうして二人は死んだ!!」

 

二人の怒号で空気が震える。かなり重要な話が目の前で繰り広げれているが、完全に俺は置いてきぼりだった。エリスを盗み見ると、納得したような、穴埋めクイズを解いているときと同じ顔をしている。

 

「……私が二人を殺したのも同然だ。私は秘密の守人のままであったら二人は死ななかったかもしれない」

「……まさか、君は、君たちは私に何も言わずに入れ替わっていたのか?」

 

ルーピン先生の問いかけに対して無言で下を向く。その態度を肯定ととったのか、部屋に入ってきて初めて緊張を解いた。それからゆっくりと杖を下ろして、シリウス・ブラックを縛っていた縄をほどいた。それから二人は握手をしてからハグをした。

 

 

 

ふむ、完全に置いてきぼりである。何を話していたかも分からないし、何故納得したのかも理解できない。

 

「雰囲気を壊すようですみませんが、なぜリーマス先生とシリウス・ブラックはそのような態度なのですか?」

 

俺と同様に疑問に思ったのか、俺に対して気を遣ったのかエリスが質問を投げかける。

 

それから二人は解説を始める。

 

忠誠の術。学生時代に悪戯仕掛け人として四人は親友であった。もう一人の親友であったピーター・ペティグリューがシリウス・ブラックに濡れ衣をかけた犯人であること。そしてピーター・ペティグリューが今ホグワーツに潜んでいること。

 

ふむふむ、展開が衝撃的すぎて感情が追いついていないが、状況は理解した。

 

「シリウス・ブラック、どうしてアズカバンで平気だったんだ」

「私のことはシリウスでいい。私は動物もどきなんだ。吸魂鬼は人間の感情しか吸えない」

「へぇ、動物もどき。あれ?でも20世紀中に登録されたのは7名しかいないんじゃ」

「いや、非合法だ。そしてピーター・ペティグリューも。私は犬、奴はネズミだ」

「ふむふむ、シリウスは犬、ピーター・ペティグリューはネズミか……。……ん?」

 

………………あれ?

 

「なぁシリウス?ノワールってもしかして……」

「あぁ、私だ。ステフには感謝している。アズガバンから逃げてきて疲弊していた私に良くしてくれた」

「……ふむ」

 

そう感謝を述べるシリウス。俺はローブから杖をそっと抜き出す。

そして。

 

「死ねぇぇぇえええ!!!」

「うぉ!!」

 

すぐさま俺が杖から失神呪文を放つと、それをすんでのところでシリウスは避けた。

 

「お前、ステフと同衾したり、女子にモフられてただろ!!!この野郎ぶっ殺してやる!!淫行でアズガバンに戻してやるこのロリコン犬め!!」

「仕方がなかったのだ!!ステフも劇団の生徒たちも私のことをただ犬と思っていたのだから!!」

「うるせぇ!!態度で断れ!!」

「もっとやりなさい、アイク」

「………シリウス……」

「私に味方はいないのか!?」

 

煽る声と軽蔑する視線にシリウスが悲鳴をあげるが、呪文をやめない。ぶっ殺してやる!!!

 

 

 

 

 

飛び交う呪文がいくつかあたり吹っ飛ばされるシリウスにようやく多少落ち着いて杖をしまった。正直もっとやってやりたかったのだが。

 

「それで今後は私たちはどうするの?」

「ピーター・ペティグリューを捕まえよう」

「今はロンのネズミなんだっけ?」

「ならば彼から奪えばいい」

「まぁ、とりあえずはロンのネズミを捕まえればいいんだろ」

「エリス、そういえばこの首輪を外すことはできないのか?」

「飼い主しか無理よ。ステフに外してもらうしか外せないわ」

「そういえばなんで気絶してたんだい?」

「首輪でこの部屋から出れないようになってて、もし出ようとすると強制的に気絶させるそうですよ」

「物騒だね……」

「私は所在がわかればいいって思ったんだけど、フレデリカがかなりノワールを溺愛してたから何が何でも危険に合わせたくないみたいで」

「……やっぱシリウスもっかい吹っ飛ばさせて」

 

それからしばらく俺たちは話し合っていた。




難産でした


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暴風雨と箒

アイク視点




豪雨が振り続ける中、俺はロッカールームにいた。

 

「セド、断ればよかったのにどうしてこんな悪天候の試合受けちゃったのさ……」

「いや、スリザリンのシーカーが怪我してるらしいから」

「絶対嘘だよ、完全に。こんな天気だと勝ち目が薄いから駄々こねただけだよ」

「だけど僕、今いるキャプテンの中で一番年下だし、力関係的に弱いんだよね」

「ぐぬぬぬ……」

 

俺が歯噛みしてると、セドリックは諦めたように笑う。優しさにつけ込みやがってスリザリンのキャプテンめ……!!

 

「それに天気が悪いのは相手も僕らも同じだからね。問題ないよ。ハリーたちも苦労することになるだろうしさ」

「セドらしいけどさ……」

「大丈夫だよ、アイク、応援しててね」

「もちろんするさ!!負けんなよ!!あと怪我すんな!!それと……」

 

ロッカールームにいるみんなに向けて魔法を放つ。

 

「インパービアス!……ほい、これで防水できたよ。服とか濡れたら重くなるだろ」

「ありがとうーアイクー」

「どういたしまして、キース、ゴールきちんと守れよ」

「もちろーん」

「んじゃがんばれ!!」

「ありがとうね、アイク」

「がんばるわ!」

「ありがとうございます」

 

クィディッチのチームの生徒たちから感謝の言葉を受けながら俺はロッカールームを後にした。それから観客席へと向かう。席にはステフやフローラたちが席をとっていてくれていた。

 

「おぉーい、こっちだよぉ、アイク」

「ありがとう。みんな」

「おかえりぃ」

「セドたちは緊張してました?」

「いつも通りだったよ」

「にしてもすごい雨だね」

「ほんとそれな」

 

ハッフルパフの上級生何人かが客席に先ほど魔法をかけたようで、俺たちの上には水のベールがはってあり、雨は防いでいるが風が凄まじい。自身だけではなく全体を気遣って魔法をかけるのが我々の寮らしい。すると、ステフの隣に黒い毛むくじゃらが目に入った。ほう……。

 

「ステフ、ノワールも連れてきたんだ」

「ええ。どうやらクィディッチに興味があるんですかね。私が観戦に行くと知るとついていこうとしたので」

「へぇー、そうなんだ」

 

そう言いながら俺はノワールとステフの間を入るようにして座る。ロリコン犬には誰も触らせん。きょとんとした顔をするステフとニヤニヤした顔をする周りの人。違う。別に「犬にまで嫉妬してるんだ」とかそんな微笑ましい理由じゃない。犬に見えるがおっさんなのだ!!そんな俺の考えは露知らずステフはカバンから段幕を取り出した。

 

「アイク、防水魔法を段幕にかけてくれませんか?」

「ラジャー。インパービアス!!……ほい、オッケー。にしても凄いな。これステフが作ったの?」

 

黄色と黒で絵が描かれた段幕に『頑張れハッフルパフ』と書かれており、その上先ほどから定期的に文字が変わっていたり、デフォルメされた穴熊のイラストが歩いている。可愛い。

 

「ええ。フローラにもお手伝いしてもらいましたが。あと各選手がゴールした際には文字が変わるようになってますよ。ナイスプレイの時などにも」

「いやぁ、大変だったなぁ」

「相変わらず凝ってるね」

「器用だな、本当に」

「あ、始まるわよ」

 

激しい雨の中では見づらいが、セドリックとグリフィドールのキャプテンが握手を交わしているのが視界に入った。さぁ試合が始まった!

 

 

 

 

試合は苛烈を極めた。視界が良好とは言えない中で両選手は健闘し、お互いにゴールを決めて、点数が変動し続けていた。試合はグリフィンドールがわずかにハッフルパフを上回っている。

 

雨にも負けないように叫ぶ歓声がひときわ大きく湧き上がり、ハッフルパフの観客席からセドリックの名前をコールする声で盛り上がる。スニッチをセドリックが見つけたのだ!

 

「行けー!セド!!」

「負けんなぁ!!」

「逆転ですよ!!」

「加速しろ!」

「頑張れ!!」

 

そんなセドリックの様子に気がついたのか、ハリーも遅れてスニッチのいる方向へと飛び上がる。ぐんぐんと上空へと加速する二人に会場は大きく盛り上がっていた。

 

しかし、突然ハリーの動きに変化が現れる。ハリーの加速が終わり、何故か下降し始めたのだ。しかもその様子はどう見ても自身の意思とは思えない。完全に重力に従って落下しているように見えた。隣でノワールが大声で吠え始める。

 

「え?」

「ど、どうしたんですかねハリー!!」

「わかんねぇよ!」

「あ、あれって!!」

 

そう誰かが指差す方向には黒い靄が見える。あれってもしかして……。

 

「吸魂鬼じゃないのか!?」

「あいつらなんでクィディッチの会場に?!」

「あのままじゃ怪我するぞ!!」

「バカ!!怪我じゃすまねぇよ!死ぬぞ最悪!!」

 

落ちていくハリーとは対照的にセドリックがスニッチを掴んだらしい。審判が試合終了のホイッスルを吹いた。そしてセドリックがようやくハリーが吸魂鬼に襲われていることに気がついた。

 

セドリックが守護霊の呪文を使い、銀色のホッキョクグマが現れて吸魂鬼を蹴散らす。それからセドリックはぐんと下に向かって加速し、落下していくハリーを抱えた。会場が安堵の声に包まれる。

 

「よかった……」

「グッジョブセド!!」

 

すると突然怒号が会場に響き渡った。ダンブルドア校長である。雨に邪魔されてはっきりとは聞こえないがどうやら本気で憤っている。こんなに怒っているダンブルドア校長は初めて見た。銀色の不死鳥が空を飛び回り、会場に静かに集まっていた吸魂鬼が逃げ去っていく。

 

「……あんなに怒ってる校長初めて見たわ」

「私も」

「ていうかハリーは無事なのか?」

「今、保健室に運ばれてるよ。多分マダム・ポンフリーが何とかしてくれるよ」

 

みんなで安心していると隣から袖を引っ張られる。ノワールがグイグイと引っ張って主張してくる。どうしたんだろうか、知能まで犬に落ちたのだろうか?疑問に思いつつ俺はステフたちに断りをいれて会場を後にした。

 

 

 

そうして歩き始めてからしばらくすると、ノワールは姿を変え、人に戻った。

 

「人に戻っちゃっていいの?ノワ……シリウス」

「呼びづらいならノワールでもシリウスでもどちらでも構わないぞ」

「オッケー、ノワールで」

「それと今は会場に釘付けだろうから問題はないだろう。吸魂鬼が来たならアイクが追い払えるのだし」

「ナチュラルに俺をこき使う気満々だよね。まぁいいけどさ。それでどこに行くのノワール」

「ハリーの箒を探してるんだ。あっちに会場があるということはこちらの方角に消えたのだろう」

「なるほど」

 

それからしばらくチラチラと後ろを確認しながら歩いて方角に沿って歩いて行く。

 

「そういえばアイク。エリスの姓グリーングラスだったな。ということは彼女の母はミアか?」

「確かにエリスの姓はそうだけど、母親の名前は知らないな。そのミアって人だったら知り合いなの」

「遠縁の親戚ではあるな。名前をディスノミア・グリーングラスという女性だ」

 

ディスノミア・グリーングラス。ふむ、聞いたこともないな。いや待て、エリスが前まで持ってた赤い本の表紙に確かにその名前が書いて合った気がする。

 

「あー、たしかにエリスのお母さんだった気がする。それでその人がどうしたの?ノワールの初恋の人?」

「違う。確かに美しかったが、彼女のことは苦手だった」

「緊張するから?」

「そうではない。あの人はまるで人形のようだったのだよ。作り込まれたように手足はほっそりとして色白で、顔立ちもはっきりしていて美人だったのだか、彼女のその表情が変わったことを見たことがない。それに私は彼女の目がひどく気味が悪かったよ」

「目?なに紫とか虹色とかだったの?」

「いや色は普通だ。だが周りの映し方が異常だった。風景かのように周りの人間には接しているのに、まるで私たちを一種の絵画か何かのように眺めて来たのだよ。当時いたずらばかりしていた私たちをさも美しい物であるかのようにじっと。他に何をするでもなくただひたすらに見ていた。それがかえって不気味でな。自慢じゃないが私はそれなりにモテていたので視線にはあんまり頓着していなかったのだが、彼女の視線ははっきりわかった。異質だったからな」

「へぇー」

 

さりげに自慢混ぜたなこの野郎。というセリフを飲み込んで適当に相槌を打つ。エリスのお母さんねぇ。俺は会ったこともないし、ていうか故人だし。そうこう話しつつ俺たちはハリーの箒を探す。

 

「見当たらんな」

「そうだね。ここで今気がついた残念なお知らせをしたいんだけど、いい?」

「ほう」

「この方角、このまんま行くと暴れ柳なんだよね」

「…………」

「…………」

「……いや、まさかな。そうだ、呼び寄せ呪文だ!アイク、それを使えばさっさと戻せるぞ」

「あー失念してた。そうだね、そうだよ、そうしよう。アクシオ、ハリーのニンバス2000」

 

杖を取り出して呼び寄せ呪文を使う。ハリーが持っているニンバスを思い浮かべながら呪文を言った。………何も現れない。いや、まさかと思いつつ、イメージを変えて再度杖を振った。

 

「アクシオ!」

 

すると暴れ柳からニンバスが飛んで来た。……イメージ通りの粉々になった姿で。

 

「…………うわ」

「…………」

 

空中に浮く元ニンバスの粉塵やかけらを挟んで俺とシリウスは見つめ合っていた。

 

 

 

 



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地図と露見

ステフ、ハリー、アイク視点です



私たちはあの試合のあと、ハリーのお見舞いに行きました。彼はひどく落ち込んだ様子でしたので、お菓子や花束を渡し、ハリーに声をかけましたが、返事は希薄でした。

 

ハリーの落ち込みを助長するようにホグズミード行きの日となり、ほとんどの三年生以上の生徒が行ってしまいました。私はせめて退屈しないようにと、ハリーと前回のようにお話したり、料理を作ることを提案しましたが、曖昧な返事でした。どうすれば元気になってくれますかね。

 

空き教室で静かに一人悩んでいると、外からドタバタと走ってくる音が聞こえて、勢いよくドアが開かれる。

 

「ステフ!!」

「こんにちは、ハリー。どうしたのですか?そんなに慌てて」

 

笑顔でハリーが入って来る。おや、どうやら元気になってくれたようですね。何があったのでしょうか?

 

「一緒にホグズミードに行こうよ!!」

「ホグズミードに?いえ、行きたいのは山々なのですが、私は署名が無いですから……。ハリーはおじさんたちからもらえたのですか?」

「ちがうよ。そうじゃないんだけど、ホグズミードに行く抜け道をフレッドとジョージが教えてくれたんだ」

 

ほう、フレッドとジョージがですか。彼らは基本はっちゃけてますが、落ち込んでいる人間を騙すような性根はしてないので、おそらく本当なのでしょう。

 

「お誘いは嬉しいのですが、私は両親が心配して署名をくれなかったのです。なんだかその気持ちを裏切るようで……」

「で、でもホグズミードに行けるんだよ?!ステフは行きたくないの?」

「…………」

 

ホグズミードに行くこと、両親に対する考えが天秤に乗せられる。ふむ、どうしましょうか。……………。

 

黙り込む私に期待したような眼差しでこちらを伺うハリー。……仕方ないですね。可愛い後輩だけでは不安ですしね。もしかして双子が嘘をついて、ハリーに悪戯を何か仕掛けてる可能性もなくはないですしね。

 

「わかりました。私も行きますよ。一緒にホグズミードに行きましょう、ハリー」

 

しょうがないと微笑みながらこう言った私に、ハリーぱぁああと笑顔を見せた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

ジョージとフレッドが忍びの地図というものを渡してくれたので、僕とステフはホグズミードに行ってみることにした。滅入っていた気分も吹き飛ぶような心地である。

 

忍びの地図にはステフはとても驚いていた。なんでもこんな複雑で優れたものは見たことがないとか。

 

二人で透明マントに包まって、抜け道を通って行く。ステフの花のような主張の強くなく、仄かに甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐった。

 

抜け道はどうやら相当長いらしく、僕とステフは囁くようにして話していた。

 

「ハリー、そういえば最近ハーマイオニーが人狼についてかなり勉強しているようですが、課題でも出されたのですか?」

「人狼について?」

 

確か、スネイプが宿題を出していたが、結局ルーピン先生の計らいで課題は無くなったはずである。

 

「課題出てたけど結局無かったことになったんだよ」

「そうなのですか。私たちは五年生でOWL対策で最近勉強会を開いているのですが、集中できるといってハーマイオニーもよく勉強会に参加するのですよ」

 

ハーマイオニーが今年はよく勉強しているのは知っているが、まさか上級生の勉強会に参加するほどとは……。

 

「今年は去年より勉強してるんじゃないかな」

「三年生になると科目が増えますからね。ですが多少は息抜きさせた方がいいですよ。詰め過ぎはよくないですから」

「伝えておくよ」

 

暗がりの中を二人で会話しながら進んで行く。

 

「ハリー、あくまで噂なのですが」

「なに?」

 

先ほどよりもやや固い声に変わっている。僕も少し緊張しながら答える。

 

「何でも『殺人鬼シリウス・ブラックが脱獄したのはハリーを狙っているからだ』と聞きましたが、本当ですか」

「そんな噂流れてるの?!」

「当人には意外と流れてこなかったりするものですから。それが悪いものなら尚更。知らないのも無理はないかもしれませんね。それで本当なのですか?」

「……うん。シリウス・ブラックは僕を狙ってるって色んな人から聞いたよ」

「そうですか……」

 

相槌をうってから、しばらく無言に二人ともなり、暗い抜け道の中にただ歩く音だけが響く。それから言いづらそうにしてステフは切り出した。

 

「だとするとホグズミード行きは少し危険だったかもしれませんね」

「…………あ」

「シリウス・ブラックがいる外は危険ですから。ですが何かあったならすぐに私に知らせてくださいね。私があなたのことを吸魂鬼からもシリウス・ブラックからも守ってみせますよ」

 

ステフはそう楽しそうに、頼もしそうに笑った。やがて抜け道も終わり、僕たちはハニーデュークスに到着した。そして駆けるようにして地下室を抜け出す。ハニーデュークスの中は様々なお菓子で満ち溢れていた。甘い砂糖の匂いが広がっている。感動していると、ステフに袖を引っ張られた。

 

「ハリー、私を連れて来てくれてありがとうございます。私は劇団の人達を見つけたのでそちらに向かいますね。くれぐれも一人になっては行けませんよ」

 

透明マントの中で軽くステフは感謝のハグをして、僕の元を去っていった。僕もロンたちを探そう。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

俺たちはホグズミードに行かずにどうやってピーターを捕まえるか思案していた。

 

「さて、今後どうやって奴を捕まえるか」

「できれば生け捕りがいいわよね。シリウスを無罪にするためにも」

「だけどどうするの?ロンを部室に呼び出すとか?」

「いや、それは無理だろう。おそらくだが、既にピーターはシリウスがノワールだということに気がついてる」

「でもずっとロンが持ってるからなぁ。部室にロンを誘うとその時だけ逃げ出すし、それ以外ではフレッドとジョージ以外接点あんまりないんだよな」

 

はぁと四人でため息をつく。基本的にずっとロンが連れて歩いてるのはハーマイオニーが愚痴を言ってるから知っているのだが、汽車の中だか校内だかどこで見られたのか知らないがピーターはシリウスがノワールだと見抜いているようだった。

 

「あなたは何か案がありますか?ギル先生」

 

ちらりとここにいる5人目、我らが劇団エリュシオンの顧問であるギルデロイ・ロックハート先生に声をかける。

 

そもそもなぜ彼がここにいるか端的に言うと、彼にノワールがシリウス・ブラックだとバレてしまったのである。

 

先日深夜に部室に集まって今日のように話していたのだ。今後の方針や、ノワール、俺、エリスが動物となり城の中や校外などを探した結果をお互いに話し合っていたのだが、その日たまたま夜遅くまで執筆していたギル先生は資料の一部を部室に忘れたらしく取りに部室まで戻ってきてしまった。そしてノワールがシリウスの姿でいるところを見られてしまい、慌てて失神呪文で気絶させたのだった。

 

どうしようかと俺たちが悩み、結果ルーピン先生に忘却呪文をかけてもらおうとしたのだが、元々ギル先生は忘却呪文の暴発で記憶を失っているので、そこに重ね掛けした結果なにが起きるか分からないというエリスの意見で記憶の消去は行わずに事情を説明することにした。

 

事情を説明し、理解してくれたギル先生は俺たちに協力すると言ってくれた。もしもこれが記憶を失う前のギルデロイ先生ならおそらく騙し討ちでもして自分が捕らえたフリでもしてただろう。

 

エリスがノワールがいない時に教えてくれたのだが、ギル先生の記憶を消さなかったのは別の理由があるという。いわく、「もしも、最悪ピーターが捕まらなかった場合、シリウスはノワールとして生活するか、身を隠す必要があるわ。そうなった場合ステフの元で、犬の姿をしてるとはいえ、自分の親と同い年くらいのおっさんを暮らさせるのは完全に事案よ。それに私がそんなこと絶対に許さない。だから捕まらなかった場合はギル先生にシリウスをノワールとして匿ってもらうわ。ステフは私が説得させるから」とのこと。

 

確かに人間の姿で考えてみたら完全に犯罪である。確かにそこは考えていなかったが、仮に捕まったとしてもステフに何と説明すればいいのだろうか。そこも気がかかりである。ちなみにもしステフが説得に応じなかったら去勢させるらしい。流石に同情である。

 

「ふむ。そうだね、こういう時に一番役立つのは人海戦術なのだろうが、私たちは人数が少ない上に、仮に劇団の生徒たちに事情を伏せてピーターを探してもらったとしてもネズミでは見つけることが難しいだろう」

「ネズミっていうのがまた面倒だわ。小さいし、城に大勢いるもの」

「全く忍びの地図を作ったときには役だったというの……に………あ!?」

「そうだ!!忍びの地図だ!!」

 

急にルーピン先生とノワールが立ち上がり歓喜した。

 

 

 

 

 



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悪戯と喧嘩

アイク視点です


俺は今普段はやらないことをやっている。申し訳程度の変装としてデフォルメされたアナグマのお面を被っている。

 

「おりゃあああ」

「いいぞ、アイク」

「もっとやれ!!」

「名前を呼ぶな!!」

 

フレッドとジョージと共にクソ爆弾やら球状に固めたスライムやらを廊下にてぶん投げる。あたりは完全にひどい臭いと粘液で完全に大惨事である。

 

「また貴様らか!!」

「お、フィルチが来たぞ」

「逃げるぞ」

「派手なのは好きだけどこれは趣味じゃないんだよなぁ」

 

フィルチを廊下の端に見かけたフレッドが知らせて、俺たち3人はその場を走り去って行った。

 

そもそもなぜこんなことをしているかというと、俺は忍びの地図をフィルチの部屋から奪取するためにフィルチの部屋に忍び込もうとしていた。

 

そこで騒ぎを起こしてフィルチを動かして、しばらくそこに清掃等で釘付けさせ、その間に部屋に侵入して忍びの地図を盗もうとした手筈である。騒ぎを起こすことには定評がある双子を誘って俺は騒動を起こし、没収された物を取り返したい双子と俺の利害は一致していたので3人で部屋に向かった。どうやら二人は何度も侵入しているようでナビもバッチリである。

 

ジョージはフィルチの部屋の前に立ち、ごそごそと針金のようなものでドアをこじ開けた。

 

「それコソ泥の技術だよね」

「マグル式のな」

「意外と役に立つんだぜ」

 

悪びれもしない二人に苦笑しつつ開いたドアから部屋に入る。中には様々な物が転がっていた。湿気った花火、ドギツイ色をした薬品や液体、用途のよく分からない巨大な置物、様々である、

 

「大体の没収品はそこに入ってるから」

「やばいやつは特にな」

「ありがとう、二人とも」

 

俺たちは別れて探し物を始めた。確か、一見するとただの羊皮紙と言っていた。それに呼び寄せ呪文も弾くようにしてあるとかでアクシオも使えない。指差された書類棚をごそごそと漁る。色々とツッコミを入れたくなるような品がたくさんあるのだがそれを無視して羊皮紙を探す。がしかし、どこにも見当たらない。

 

本当にあるんだろうか。若干不安に思っていると1ついやな考えが頭をよぎる。もしかして、もう燃やしてしまっているのでは?これはあり得る考えだ。だって学生時代に散々手を焼かせていたスーパーアイテムなのだろう、憎くてしょうがないはずである。まさかそのままとっておくわけがあるまい。仕方ない、諦めるか……。

 

フレッドとジョージの方の様子を見ると、どうやら二人とも目当てのものを見つけたようで、毒々しい蛍光色の液体を持っていた。

 

「あ、アイク、終わったのか」

「こっちも無事に見つかったぞ」

「あー……。俺は見つかんなかったけど、もしかしたらもう無いかもしれないからさ。とりあえず逃げよう」

「そっか、残念だったな」

「どんまい、何だったら作ってやるよ」

 

ポンと二人に肩を叩かれて落ち込んだ様子で俺は部屋を出て行った。

 

 

 

 

忍びの地図が手に入ろうが入りまいが、やがてやって来てしまうものがある。OWL試験である。ということで五年生の割合が多い劇団の部室は軽く勉強部屋と化していた。触発された下級生も宿題やら質問やらでわりと真面目に勉強している。

 

「きゃあああ!!」

「どうしたシェルビー?!」

「り、リアム。どうしましょう、マーカスが突然女の子に……」

「ちょっ?!フレッドさんとジョージさんですよね!?これ!!」

「「フレデリカもいるぞ」」

「……嘘。私は勉強中。一緒にしないで」

「でもほとんど作ったのはフレデリカだろ?」

「俺たちはあんまり性転換薬には関わってねぇからな」

「……それは認める」

「ちょっとぉぉ?!」

 

……一部例外がいるが。

 

「団長、ここ質問なんですけど」

「お、何だい」

「この魔法薬の作り方でこの手順の意味が分からないんですけど」

「ああ、それはだね……」

 

問題を起こしている一部を除けばみんなかなり真面目に勉強をしている。俺は基本的に軽く復習をしておけばテストは大丈夫なので、下級生や同級生の質問を受けていた。

 

「アイク先生ぇー、私も分からないんですけどぉ」

「どうしたフローラ」

「なんかぁ、某劇団の某団長がぁ、この前廊下で騒動起こしたって聞いたんですけどぉ、理由ってわかりますかぁ?」

「…………さぁ?」

「クソ爆弾とかスライムボールとか投げまくってたらしいんですけどぉ、何か知りませんかぁ?」

「…………何も知らないなぁ」

「そうですかぁ、何でも一緒にいた双子がアイクと呼んでたらしいんですけどぉ」

「…………アイク?誰それ?俺アイザックだから、アイクじゃないから」

「…………」

「そんなじとっとした目で見んなよ!違うよ!あれは、あの、そう、野生仮面ワイルド・アナグマンだよ。そう縄張りを広げるために人里に降りて来たと巷で噂の!何でもマスクの下はイケメンだとか!」

「…………ハッ」

「鼻で笑った?!」

「うるさいですよ、アイク」

「え、俺だけ」

 

この前の事件については理由は説明できないので適当にはぐらかしていると注意された。解せぬ。というか俺だってあんなことは趣味じゃないのだ。

 

「アイク、魔法生物学について何だけど質問いいかしら?」

「あぁ、いいとも是非とも何でも聞いて!!」

 

ぐるんと天使の声が聞こえた方へ急いで向かう。

 

「あのね、このページにはこういう特徴が………」

 

ハーマイオニーの質問を聞きながらちらりと彼女の様子を盗み見る。どうにか普段通りを装っているが、この前は俺に泣きついて来たのでとても心配である。何でもロンのスキャバーズがいなくなり、なおかつハリーに届いたファイアボルトが罠かもしれないとマクゴナガル先生に報告したところ決定的なまでにロンと仲違いし、3人組で動いていないらしかった。

 

スキャバーズ、つまりピーターの行方が分からずじまいになってしまったのはとても残念だ。おそらくノワールに怯えて何処かに逃げることにしたのだろう。ノワールのせいであり、ハーマイオニーは何も悪くないのだ。

 

ファイアボルトが送られて来たのは有名で学校でも噂になっていたが、誰だってこの状況でハリーに匿名で送られてきたのだったらシリウス・ブラックを疑うものだ。実際にシリウス・ブラック、ノワールが送ったわけだし、その通りである。それをマクゴナガル先生に報告するのは至って当然のことだ。またロンにとってはクィディッチや箒はかなり特別なものであるし、分解に憤ったのは幼いし仕方ない。これも全てノワールが悪い。

 

従って考え無しの変態ロリコン犬野郎には軽く折檻をして説教した。しかしいくら考え無しの変態ロリコン犬野郎を怒ったところで3人の仲が元に戻るわけではないのだ。ハーマイオニーの為にも一刻も早くピーターを捕まえなくては。俺は決意を強めた。

 

「ねぇ、アイク聞いてるの?」

「あぁ、聞いてるとも。それで何だっけ?」

「もう聞いてないじゃないの!!全く、いい?私が聞いているのは……」

 

彼女の空元気が元通りのただの元気に戻ることを誰よりも俺は強く祈っている。

 

 

しばらく勉強していると、思い出したようにハーマイオニーが声を上げた。

 

「アイク、思い出したことがあるの」

「何だい、ハーミー?」

「あのね、バックビーグが今訴訟起こさせれてるの。助けてくれない?」

「……なに?」

 

あれか、確かスリザリンの男子生徒を傷つけたとかで訴訟になりそうとか噂になっていた気がする。まさか本当になってしまうとは。こうしてはいられない。

 

「ステフ!!バックビーグが訴訟になった!!助けなきゃ!!」

「本当ですか!?」

 

動物大好きステフがこんな事件に黙っているはずないのである。下手したらドラゴンですら猫や犬と同じ感覚で可愛いというステフがヒッポグリフという気高く美しい動物の処刑となることに手を出さないわけがない。

 

こちらのテーブルに駆けてくるステフはハーマイオニーから事情を聞くと憤慨した。

 

「全く!!どういうことですか!?授業中に講師の言うことを聞かなかったお坊ちゃんのせいでヒッポグリフが刑に処させるとは!?どうなっているのですか魔法世界の司法は!?」

 

普段の優しそうな表情は消え、怒ってますと全身で表現するステフ。かなりキレているな、コレ。ステフが俺を上回る怒気を発しているせいで、俺は少し冷静になっている。が、処刑させたくないのは俺も同じである。たとえこれがハーマイオニーのお願いじゃなかったとしても俺は気がついていたならもっと早くから調べるだろう。

 

「アイク!!絶対に勝ちますよ、この裁判!まずは資料集めからです!」

「ステフー、勉強はぁ?」

「そんなもの後回しですよ!!何としてでも勝ちます!!」

「……ええ。ありがとう、ステフ」

 

熱意にハーマイオニーが若干押されている。

 

「よし、じゃあとりあえずは資料集めから始めようか」

 

苦笑しつつ俺も勝たせる為に努力をすることを決めた。



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幸福と練習

ハリーとアイク視点です


ハリーは困っていた。ルーピン先生に吸魂鬼対策に魔法を教えてもらって少しずつ前進して僕には心配事が1つ減っていたのだが、別の面で心配事ができてしまった。ロンとハーマイオニーである。

 

スキャバーズがいなくなったことや、ファイアボルトを分解されたことのせいでハーマイオニーとロンの友情は最悪といっていいほどの状況となっていたのだ。そんな胸中でもルーピン先生との吸魂鬼対策は続いていく。

 

「それじゃ、準備はいいかい?」

「はい、大丈夫です」

 

僕が返事をすると、ルーピン先生が箪笥を開ける。するとボガードが箪笥から出てきて、吸魂鬼へと姿を変えた。ぐらりと体から力が、幸福感、生命力が吸い取られるのを感じながら意識が遠のいていつもの悲鳴が聞こえる。僕は必死にこらえながら考えうる限り幸せな記憶を呼び起こして呪文を唱えた。

 

「エクスペクト・パトローナム!!……エクスペクト・パトローナム!!……エクスペクト・パトローナム!!」

 

何度も呪文を唱えるが今日も何もできずに意識が遠のいていった。女性の悲鳴と、初めて聞いた男性の叫び声。おそらく両親のものと思われる声を聞きながら僕は倒れた。

 

 

 

「……リー、ハリー!!」

 

自身の名前が呼ばれることを聞きながら僕の意識は浮上した。どうやらまた気絶してしまったようだった。どうして僕はこんなに吸魂鬼に弱いのだろうか。

 

「ハリー、大丈夫かい?」

 

差し伸ばされた手を掴み、引っ張りながら立ち上がらせてもらった。すぐさまチョコレートが差し出されてそれを口に含む。食べながら、無意識に出ていた涙を拭った。

 

「父さんの声を初めて聞こえました……。多分ヴォルデモートから母さんと僕を逃がそうとしたときの……」

「ジェームズの?」

「? ルーピン先生は父を知ってるんですか?」

「ん、あぁ。それでハリー今日はまだ続けるかい?この呪文は13歳の魔法使いには荷が重いものだ。無理に習得しようとしなくてもいいんだよ」

「やります!!やらせてください!!僕、これ以上みんなの前で倒れたくないです!!それにクィディッチの試合もある!!」

「そうか。じゃあその前に少し休憩しようか、今日はもう一人特別講師として呼んでいる人がいるんだ」

 

特別講師?先生だろうか?ならば一体誰だろう、スネイプではないことを祈るばかりである。すると、コンコンとドアがノックされた。

 

「ちょうどいいタイミングだね。開いてるよ、どうぞ」

 

ドアが開いて入ってきたのは最悪なことにスネイプであった。おそらく僕の表情は今まさに蒼白となっているだろう。

 

「おや、セブルスどうしたのかね?」

「私は伝言をしにきただけだ。明後日だろう。例の薬は机に置いておいた」

「そうかい。ありがとう」

「フン。それでミス・グリーングラス、案内は済んだ。私はもう行かせてもらおう」

「ええ、ありがとうございます」

 

去っていったスネイプの背中からひょっこりとエリスが姿を見せる。ノワールも一緒だ。パタンとドアが閉じて一人と一匹は入ってきた。

 

「こんにちは、ハリー、ルーピン先生」

「やぁエリス」

「こんにちは、エリス。不躾ですまないんだがなぜ君がここに?アイクを呼んだつもりだったんだが」

「アイクはどうやらバックビーグ、もといヒッポグリフの審問会対策と劇団の準備で忙しいようだったので私が代理として来ました。ノワールはついて来たがっていたので」

 

そう言ってエリスは微笑む。とことことノワールは僕に近づいて来て足元をウロウロしている。尻尾は元気よく振られていた。

 

「そうかい。確か君も守護霊の呪文を使えるんだよね?」

「ええ、ステフやアイクたちと練習しましたので、エクスペクト・パトローナム」

 

言いながら杖を振るい呪文を唱えると銀色のカラスが現れてぐるりと教室を一周して空に溶けるように消えた。こうも簡単にやられると少し自尊心が傷つく。

 

「それじゃ練習を始めましょうか」

 

エリスはそう言いながら杖を振りながら丸いテーブルとイス、ティーポットとカップを用意し始める。なんでお茶会の準備をし始めたのだろうか。守護霊の練習は?

 

「ハリー、ルーピン先生、どうぞ」

「ええっとエリス、僕たち練習するんだよね」

「ええ、もちろん」

「ふむ、なるほど。ハリー席につこうか」

 

え、と驚いているとルーピン先生がイスに座ったので僕も続いて席に着いた。どういうつもりなのだろうか。ノワールが僕の椅子の近くに大人しく座り込んだ。

 

「それじゃハリーお話ししましょう」

「え?」

「出来るだけ楽しかった思い出をね。守護霊を作り出すには必要でしょう?はっきりと話したり、言葉に出すことはとっても重要よ」

 

ここでようやく目的を僕は理解した。僕は早く作ろうと焦っていたが、そのせいで僕の幸福な記憶というのははっきりしていなかったかもしれない。

 

「分かった。ええっとそうだね、僕が最初に幸せだなって思った記憶はね……」

 

少しずつだが、語り始めた僕を二人は微笑ましそうに見ていた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「あ、あと最近だと、ステフと一緒に茶碗蒸しって料理を食べたのが楽しかったよ」

「チャワンムシ?不思議な響きだね」

「あらステフの手料理を食べれたの?良かったわね、彼女の料理は美味しかったでしょう?

「それでどんな料理なんだい?そのチャワンムシってものは」

「えっと、見た目は何だかプリンに似てて……」

 

二人はとても聞くのが上手で僕はスラスラと楽しかった記憶や幸福だった思い出を話すことができていた。かなり長い間話していたようで、エリスが最初に用意したティーポットもすっかり冷めてしまったようである。僕の話も一区切りつき、今度は実際に試してみることになった。

 

 

お茶会のために出していたものを全てしまって、タンスの正面に僕は立った。杖を握る手にじんわりと汗が滲む。

 

「用意はいいかい?」

「はい、先生」

「いい?集中することが重要よ、頑張って」

「わかったよ、エリス」

「いくよ、3……2……1……0」

 

開かれたタンスから靄が湧き出してくる。それはやがて僕の恐怖心から一体の吸魂鬼へと姿を変えて襲って来た。僕は体から力が抜けて、精神から幸福が消え去っていくのを感じた。どんどん力が抜けてしまい、再度失敗してしまいそうになるが、僕は先程までの会話を思い出して記憶に集中する。初めて魔法使いと分かったこと、箒に乗ったこと、スニッチをゲットしたこと、鏡に映った両親を見たこと、ステフと料理を一緒に食べたこと、ホグズミードでロンとハーマイオニーとバタービールを飲んだこと。様々な楽しかった記憶や嬉しかった思い出を力に変えて呪文を唱える。

 

「エクスペクト・パトローナム!!」

 

叫ぶように唱えると僕の杖先から銀の靄が出て吸魂鬼との間に壁をつくあげ、やがて壁は一体の牡鹿に姿を変えた。吸魂鬼は怯えたように、タンスへと急いで戻っていった。へたりと僕はその場にしゃがみ込んで、体から力を抜くように息を吐く。……できた。僕、出来たんだ!!

 

「先生!!エリス!!ぼ、僕、今!!」

「素晴らしい、素晴らしいぞハリー!!」

 

力が抜けた僕にルーピン先生が近づいて来てバンバンと肩を叩かれた。エリスも微笑んでパチパチと拍手してくれている。ノワールが嬉しそうに吠えながら近づいて来た。

 

僕は初めて呪文が成功した喜びを胸に抱えて談話室へと戻っていった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「ハグリッド氏、それでヒッポグリフに対する安全策は充分であったと言えますかね」

「えーと、それはですな、えっとハーマイオニー」

「ハーマイオニーに助けを求めないでください。ダメですよ、ちゃんと覚えなきゃ」

 

バンバンとステフが机を叩く。その迫力に負けたのかハグリッドは大きな体をしょんばりと曲げている。

 

「ステフ、少し休憩しましょう。これだけきっちりと調べたんだから最悪資料を審問会で見せれば対応できるはずよ」

「そうだな、俺ぁお茶淹れよう」

「クールダウンして、ステフ」

「ふぅ……。すみません、少し熱くなりすぎました」

 

机の上に広がっている山のような資料をハーマイオニーと二人でまとめて、飲み物が置けるだけのスペースを作る。これら全てはバックビーグを処刑から回避するために集めた資料である。これらは全て俺たちが協力して集め、それから質問を予想して、ちゃんと反論できるようにまとめたものである。

 

日程も決まり、俺たちは資料の整合性を確認して、続いてハグリッドがちゃんと裁判で喋れるように練習していた。

 

「すまねぇ、ステフ。俺が頭悪くてちゃんと覚えられなくて」

「いえ、すみません。こちらもヒートアップしてました。少しずつでもいいのでやっていきましょう」

「大丈夫だよ、ハグリッド。カンペとかも作れるし、それにステフのハードルが高いだけで最初に比べたらかなり進歩してるから」

 

コポコポと音を鳴らしながらお茶が入れられる。

 

「そういえばハグリッド、当日はどんな服装なの?魔法世界の正装ってどんなものかしら」

 

話題を変えようとハーマイオニーが疑問を言う。確かにここにいる3人はみんなマグル出身のため魔法世界については疎い。

 

「あぁ、これだ」

 

そう言いながらタンスから引っ張り出したのは毛のもこもこした巨大な茶色の背広とやぼったい黄色と橙色のネクタイだ。となりからプチリと何かが切れた音が聞こえた。

 

「ハグリッド!!」

 

バンとイスを倒すような勢いでステフが立ち上がり、ビシッと取り出した洋服に指さす。

 

「私が新しい背広とネクタイを用意します!人間というのは内面が大事ですが、外見というのは内面の一番外側です!少なくとも軽んじられないような服装にすべきです!!」

 

またもや迫力に負けたように仰け反るハグリッド。

 

「ステフってこんな人だったかしら?」

「服と動物には情熱がすごいから」

「二個ある地雷を同時に踏み抜いたのね」

 

俺たちはそんな様子に疲れたように溜息をついた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

深夜。再び俺たちは集まっていた。パトロールの結果と方針会議である。今日も今日とて見つからなかったのだ。

 

「ふむ、どうしたものか」

「ハグリッドの小屋も今日調べたけど見なかったよ」

「となるともしかしたら常時移動しているのかもしれないな」

「最悪なことに、噂だけどシリウスに対する『吸魂鬼の接吻』の許可がもうすぐ下りるかもしれないわ。魔法省にいる親戚のコネで聞いたの」

 

はぁぁと重いため息が静かな部室に満ちる。それから3人でああでもないこうでもないと色々と潜伏地の候補を上げる。

 

「どうしよ、このまんま見つからなかったら」

「もしや私はこのまま犬の人生を送らなくてはいけないのか……」

「そうなる場合は去勢するわ」

「なに!?」

「それは流石にやめたげようよ」

 

ノワールにとっては深刻な話をしていると部室のドアが開いて、この場にいなかったルーピン先生とギル先生が入ってくる。

 

「どうですか?手がかりとか解決策とか思いつきました?」

「いやピーターに対するものは特に見つからなかったよ」

「だが私たちに案があるのだ。いや、正確に言うと私たちではなくギルデロイ先生なのだが」

「いや、あるにはあるのだ。それもかなり前から考えていたものなのだが。しかし本当に良いのかね。これはおそらく君を……」

「構わないさ。今まで助けてくれた友の汚名を晴らすためだ」

 

二人だけで話が進み、置いてきぼりになる俺たち。えっと前にもあった気がする。

 

「ルーピン先生がそういうならば良いだろう。軽い決断ではあるまい。みんな、私には案があるのだよ」

「えっと、どんなものですか?ギル先生」

「ことわざがあるだろう。『ペンは剣よりも強し』と」

 

そう言いながらポンと机にあるものが置かれた。

 

 

 

 

 

 

 



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劇準備と夢

アイク視点


柔らかく差し込む温かい日差しの中、親友の呼ぶ声だけが遠くから聞こえる。

 

「おーい、アイク、起きなよ。もう朝だよ」

「…………土曜日」

「そうだね、土曜日だよ。だけど劇団の練習があるから起こしてくれって言ったのは君だよ」

「……んー」

「んーじゃなくてさぁ。もう、しょうがないな」

 

布団が強制的にめくられて体温によって温められた空気が逃げてしまった。ぶるりと体を震わせて四肢を体に寄せて丸まる。うう、寒い。あぁ、目覚まし時計が壊れなければなぁというセドリックの愚痴が聞こえた。

 

「ほら、アイク顔洗うよ」

「うー」

「赤ん坊じゃないんだから、言葉喋ってよ」

「おー」

「全くもう」

 

ぐいっと体を引っ張られて広い背中に体を預ける。ため息をつかれながら何処かへと向かう。いまいち覚醒しない頭でぼんやりと考えるがおそらく洗面所だろう。

 

「おはようー。セドリックー」

「おはよう、キース」

「背中に背負ってるのはーアイクー?」

「うん。そうだよ。劇団の朝練があるらしくて休日なのに起こしてくれって」

「朝弱いからなー。そういえばケビンも早く起きてたなー。でももう10時だよー」

「だから流石に無理にでも起こそうと思って」

「だから杖出してるのかー」

「うん」

 

セドリックは喋りながら脱力した俺の体を洗面器に預けさせる。周りからクスクスと笑い声が聞こえる気がするがそれも気にならなかった。

 

「えっと先に言っておくけど、何としてでも起こしてくれっていったのはアイクだからね」

「あー」

「ごめんね。アグアメンティ」

 

 

 

* * * * *

 

 

 

突然の洪水(局地)により俺の目は覚めて、俺は部室に向かった。集合が9時だというのに、部室に着いたのが10時30分を回っているとはかなりの重役出勤である。まぁ実際に劇団の内では団長なので重役なのだが。

 

劇団は突如として公演が決まり、劇団の部室は今大慌てである。

 

「主要キャラ用のチョークできたよ!!役者組集まれ!」

「あ、団長、ようやく来た。ここの演出なんですけど」

「誰だー!!ここにあった青使ったの!!背景用だぞ」

「ええ?本当に?やばい、計算が合わない!!」

「……あ」

「フレデリカ、あんた何か知ってるでしょ」

「……黙秘権を行使」

「この背景はこっちのほうがいいよぉ」

「嘘だろ、こっちのほうが断然良いだろ!」

「誰だよ!ここに積んだやつ!」

「ちょっと勝手に動かさないでくれますか!?」

 

部室に入ると喧嘩一歩手前で準備が急ピッチで進んでいた。白いローブと帽子を身につけたみんなが忙しそうに動いている。着いて早々団長である俺はてんてこ舞いであった。俺が朝苦手なのは周知の事実であり、最早諦められていたのか、誰からも文句はない。

 

演出の相談、脚本やセリフの手直し等最終チェックは全て俺である。しかもギルデロイ先生は現在出版社に出張中であるため、最近はギルデロイ先生に任せていた部分の責任もかかり忙殺されかけていた。

 

「その演出のお手本はあとで見せるから、ちょい待って。袋にそれぞれどのチョークが何用か明記しろっていつも言ってるだろ!ちゃんと書いとけ!それでフレデリカはあとでこっち来なさい。そこは通路の妨げになるから置いちゃダメ。ほいほい、テキパキ動く。喧嘩はすんなよ。ほい、こっちついて来て、演出についてってどのシーン?」

「え、あ、はい。ここのルティが初めて変身するシーンなんですけど……」

「ほうほう。えっと、ナタリア。ここのチョーク借りるよ」

「待って、それはダメ。もう一個隣にして」

「おっけー」

 

積まれていた袋を1つ浮かして比較的空いているスペースに移動する。

 

「んっとだな、ここはこう急にガラガラ開くんじゃなくてな、こう夜風に煽られて開くように変えるって形にしよう。だからカーテンとかもつけるか」

「なるほど。わかりました。えっと色の変換の魔法はどうするんですか?」

「それはフレデリカか双子が魔法薬や魔法道具作ってるからそこらへんは別で用意してる」

「アイク!こっち来てください!!」

「おーい。んじゃ残り任せた」

「はい。ありがとうございます」

 

移動する人々の合間を縫って呼ばれた方へと向かっていく。

 

「おはよう。ステフ」

「おはようございます、アイク」

「もうほとんどこんにちはの時間だけどねぇ」

「最近寝不足続きだから仕方ねぇだろ」

「それでステフ、何すんの?」

「貴方、今回はちゃんと主要キャストですから、みんなで試運転ですよ」

 

そういって自身の役名、『ジャスパー』と書かれた袋を渡される。普段は複数の色のチョークを混ざらないように複合させて人物を描いているのだか、今回はそこらへんの設定を変えてチョークの像の形の変化によって色付けされるようにしてある。

 

「おっけー。んじゃ、やろっか」

 

そうケビン、ナタリア、ステフに声をかける。今回の劇での主要キャストは7人。

 

明るい悪戯好きな『ジャスパー』

シニカルな美人『ポーラ』

優しく賢い『ルティ』

気弱な女の子『シャルロット』

強く美しい悪い魔女『アテラドール』

動物好きの少女『エマ』

少年『ベンジャミン』

 

この7人を中心に物語は進んでいく。今回の劇は本来やる予定のなかったものであり、そもそも次の脚本も決まっていたのだが急遽変更。劇団のみんなは驚いたのだが今回の演目のほうが面白いと乗り気だったので、急ピッチで進めることになった。

 

舞台装置や核、魔法道具の準備、チョークの調達、セリフの暗記や裏方との連携。今回いつもとは気合の入り方が違う。というのも、ギルデロイ先生が演劇と一緒に脚本を原作とした本を出版するため、有名な作家であるギルデロイ先生原作の劇と知り、外部の出版社から俺たちの劇を見学を希望する人たちがやって来たのだ。これを知ってみんなのやる気は充分である。

 

俺たちが芝居の練習をしていると、部室のドアが開かれてセドリックが入って来た。

 

「やぁみんな。順調かい?」

「こんにちは、セド。何とか上手くいってますよ。スケジュール的にはギリギリですが」

「そうなんだ。頑張ってね。あ、これ差し入れ」

 

そういってバスケットの中に山盛りに入ったパンを見せる。どうやら厨房からもらって来てくれたようだった。朝から何も食べてないためお腹がぐうーと訴えてきた。

 

「ありがとう!!セド!!」

「ぐっ!?」

「ちょっとアイク急に抱きつくのやめなさい。軽く首打ってたわよ」

「あははは」

「うわ、マジか。すまんセド」

「ごほっ、だ、大丈夫。あ、そうだエリス」

「何かしら?」

「ちゃんと校長から許可取って来たよ。これ署名」

「署名?」

「あれ?アイク知らないの?」

「アイクが忙しそうだったから私が手を回したのよ」

「なるほど、道理でアイクにしては気が利くなって思ったわけだ」

「ちょっと置いてきぼりにしないでくれますぅー?」

 

なんか最近多いぞ、この展開。

 

「アイク、貴方多分考えてなかっただろうけど、今ホグワーツ周辺には吸魂鬼がいるでしょ。劇なんかやったら奴らを集める餌になるだけよ」

「あ……」

「そうなると困るから先生方にお願いして守護霊の呪文で会場を守ってくれるようにしようと思ったの。ちゃんと追い払えるようにね」

「神!!」

「ダンブルドア校長はそもそも会場に近づかないように指示を出してくれたよ。外部から人が来るってことで他の先生方も喜んで協力してくれるって」

「ありがとう、セド!エリス!」

「まぁダメだった時も考えて会場を覆う巨大ドームの設計も考えてたんだけどね」

「それってフレデリカに頼んでたやつ?『……将来絶対に建築関係には就職しない』って言ってたよぉ」

「……あはは」

「ちょっと団長!セドリックといちゃついてる暇あるならこっち手伝って!!」

「もう練習に戻るよ!!そっちはそっちで頑張れ!!ありがとな、セド」

「うん。頑張ってね」

 

賑やかに、元気よく、活気にあふれた部室は準備のために時間は過ぎていった。

 

 

* * * * *

 

 

 

1日の練習を終えて忘れ物の確認や、ちゃんと整理整頓ができているかどうかの確認を俺とステフが残ってしていた。

 

「この照明、使うものですよね」

「ん?あ、それこっちの棚入れといて」

「はい。そういえば今回かなり細部までこだわってますよね。光が当たって映る影とか、風によって揺れ動く様子とか。裏方組が悲鳴を上げてましたよ」

「んー、まぁほら、外部の人来るから。より良い物を見せたいじゃん」

「フレッドとジョージが一度ブチ切れてましたよ。『こんな細かく設定できるか!!』って」

「そう言いつつ結局やってくれるから、本当に感謝してるよ」

 

杖を振って練習で周りに散ってしまったチョークの余りを集める。うぉ、結構出てくるな。勿体無い。

 

「話は変わるのですが」

「ん?」

「アイク、貴方は卒業したらどうするのですか?」

「何になるかってこと?」

 

確かにそんな会話もちらほらみんなし始めている。OWLの結果は将来に大きく関わるのだから当然といえば当然だろう。

 

「それなら魔法省に入るつもりだよ」

「魔法省に?アイクが?」

「何?そんな驚く?」

 

え、若干傷つくんだが。

 

「ええ。貴方がお役所仕事を希望するとは思ってなかったですから。理由を聞いてもいいですか?」

「お金稼げるから」

「…………。まぁ人それぞれですから強くは言いませんが、私としてはお金なんてあってもそこまで嬉しくないですよ」

「……そりゃステフはお嬢様だからね」

「そもそもあなたの両親は歯科医ですし、別にお金目当てで働くほど困窮してないですよね」

 

んー、これ言うの少し恥ずかしいんだけどな。

 

「まぁね。お金欲しいのはさ、劇団を続けたいんだよね」

「?」

「ほら、仮に劇団を生活にするにはさ、給料とか、まぁそれ以外にもだけど、お金が必要だろ。だからバリバリ魔法省で働いて貯金して、もしみんなが乗り気だったら卒業しても劇団を作って、みんなでやりたいんだ。きっと楽しいと思うんだよね」

 

自身の夢を語るとは恥ずかしいものである。おそらく俺の顔は真っ赤になっているだろう。ふいとステフから視線を逸らしつつ俺は作業するフリをした。もっと後にみんなには話そうとしていたんだけどな。

 

「それは、素晴らしいですね!多分みんなも参加してくれますよ。ダメだったとしても、きっと新しい劇団に参加してくれる人もいるはずですよ!!」

「あー!!あー!!それで、卒業したらステフはどうするつもりなの?」

「私ですか?私は癒者になりたいですね。ケガや病気を治す人です」

「へぇーステフらしいね」

「ですが、アイクがもし劇団をするというのなら喜んで参加しますよ」

「できたらいいなくらいの願望だけどね」

 

クスクスと楽しそうに笑うステフ。恥ずかしかった俺は無言になり、ステフも静かに掃除を続けた。無言のままお互いが部室をウロウロとしていた。

 

しばらくして、全ての掃除も確認も終わってようやく一息ついた。

 

「ふう、終わったね」

「アイク」

 

静寂を破ってステフが俺の名前を呼ぶ。振り向くとさっきまでの楽しそうな表情は消えていた。いつも浮かべている柔らかな笑みは消えて、真剣な表情である。

 

「えっと、何?どうしたのそんな真面目な顔して」

「いきなりですが、今回の演目について、いくつか疑問があります。嘘をつかずに答えてください」

 

 

 

 




会話ばっかりになってしまったかも


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『Fight For Friendship』1

ハリー視点と三人称


娯楽に乏しいホグワーツにおいて劇団『エリュシオン』は話題の中心となることが多い。そして、その劇団の新作の劇がもうすぐ発表となっていた。僕たちは特設された会場にて一番見やすい位置に座っていた。

 

「セドリック、わざわざこんないい席をありがとう」

「アイクに頼まれてたからね。『ハーマイオニーたちを必ずよく見える席に座らせて』って」

「なるほど」

 

ロン、僕、セドリック、ハーマイオニーの順番で座っており、先程から喋っているのは僕とセドリックだけである。僕らの会話が終わる周りの騒がしさが嘘のように沈黙が周りに落ちる。セドリックが気まずそうに小声で僕に話しかけてきた。

 

「ねぇ、ハリー。どうしてハーマイオニーとロンは一言も喋んないの」

「……ちょっと喧嘩してて。最近ずっとお互いに怒鳴りあうか無視するかのどっちかだよ」

「……大変だね」

 

こうやって話す間もロンはどこか別の方を向いているし、ハーマイオニーはずっと本を読んでいる。セドリックは同情するような視線を向けてきた。それからだんまりし続けるロンとハーマイオニーはそのまま、僕とセドリックは劇が始まるまで、最近の授業についてやクィディッチについて話していた。

 

「あ、そうだ。ハーマイオニー」

「何かしら、セドリック」

「アイクから伝言があったんだ。よくわかんないけど『今日もし会いたくなったらギルデロイ先生の部屋で』だって」

「どういうことかしら、私別に今日会いに行く約束なんてしてないわよ」

 

しばらくそうしていると会場の照明が徐々に暗くなってきた。

 

「始まるみたいだね」

 

セドリックがつぶやき、僕たちは舞台の方へと視線を向けた。舞台に掛かっている幕に文字が浮かび上がった。

 

《Fight For Friendship》

 

今回の劇の名前である。舞台に集中していると、幕の前に白い渦が現れた。そして、その渦の中から1人の男性が姿を現した。ギルデロイ・ロックハートである。彼は白いローブと白い帽子を身につけていた。隣のロンは嫌そうな顔、ハーマイオニーは嬉しそうな顔をした。

 

『えー、本日会場にお越しくださった皆様。誠にありがとうございます』

 

ロックハートがそういうと万雷の拍手と女子生徒からの黄色い声が会場に響く。

 

「ロックハートが司会やるの?」

「アイクは今回メインキャストだからね。脚本も書いたのはギルデロイ先生だから」

 

セドリックに聞くとそう答えが返ってくる。隣にいるというのに大声を出さないといけないほど周りは盛り上がっていた。

 

『此度皆様にお見せ致しますのは友情と裏切り、正義と悪、嘘と真実の物語。激しく、儚く、美しく、切なく、力強い。そんな物語をお楽しみください……』

 

そう言い切るとローブをばさりと広げ、再度白い渦が上がり、終わると同時に幕が上がっていった。

 

 

* * * * *

 

《1人の少年が汽車に揺られていた。少年の名前は『ジャスパー』。今年入学する一年生である》

 

眼鏡をかけた黒髪の少年がコンパートメントにひとり座っていた。汽車の内部を模した舞台には車窓があり、実際に移動しているかのように風景が過ぎ去っていた。

 

ジャスパーが1人楽しそうに窓の外を眺めているとこんこんとドアが叩かれた。ジャスパーがそちらを向くと1人の少女が荷物と共に立っている。勝気そうな目をした同年代にしては高い背の少女は見た目通りの快活そうな声で話しかける。

 

『ここ、空いてるかしら?』

『そう見えないなら君は僕のように眼鏡をかけるべきだね』

 

くいっと眼鏡を上げるジャスパーの軽口にクスクスと笑いながら少女はコンパートメントに入る。それからジャスパーの目の前に座り、すっと手を伸ばす。

 

『初めまして。私はポーラ。新入生よ』

『初めまして。僕はジャスパー。よろしくね』

 

彼らはぐっと握手をした。

 

『さっきから熱心に外を見てたようだけど何か面白いものがあったのかしら?』

『あったよ。少なくとも代わり映えのないコンパートメントの椅子よりは』

『あら知らないの? この椅子の模様は1分に1回変わるのよ』

『へぇ。知らなかったよ。ちなみに君には今何色に見えてるの?』

『そうね、カメレオンのような緑色かしら』

『うん。やっぱり君は眼鏡をかけるべきだね』

 

2人がそんな軽口の応酬をしていると、再度コンパートメントのドアが叩かれる。そちらを見ると、ドアの外には背の高い少年とその背後に隠れるようにして小柄な女子生徒がいた。少年は困ったような笑顔を浮かべて話しかけてきた。

 

『話してる途中にごめんね。どこのコンパートメントも満席で、ここに良かったら入れさせてもらえないかい?』

『ご、ごめんね、ルティ。私が迷子になっちゃったばっかりに……』

『大丈夫だよ、シャルロット。えっとダメかな?』

『もちろん、どうぞ』

『入りなよ』

『ありがとう』

『あ、ありがとうございます』

 

そう言いながら2人がコンパートメントに入ってきた。少女はポーラの隣に座り、少年はジャスパーの隣に座った。

 

『2人ともありがとう。僕はルティ』

『わ、私は、シャルロットです……』

 

ルティは優しそうな笑みと共に、シャルロットは緊張からか声を震わせながらそう言った。差し出された手をそれぞれジャスパーたちは掴み、挨拶する。

 

『僕はジャスパー。それでこっちは』

『ポーラ。よろしくね』

 

4人はお互いに自己紹介をして、これからの学校生活がとんなものになるかを語り合っていた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

それから四人は入学して、仲良くなった。

 

共に授業を受けて、共に運動して、そして共に遊んでいた。

 

嫌がらせをしてくる生徒に仕返ししたり、学年別決闘大会で優勝したり、いまいち成績が良くないシャルロットのためにみんなで勉強したりと、とても仲良く過ごしていた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

一度全ての景色が崩れ落ちて、別の風景が再構成される。今度は学校の廊下である。そんな中で怒号が響いた。

 

『おい、また貴様らか!!』

『逃げるぞみんな!』

『了解!』

『また随分と派手になったね』

『ま、待ってよ!』

『遅いわよ、シャルロット!!』

 

騒ぎながらも彼らの足は止まらず、廊下を駆け抜けていく。その後ろでは大量の色とりどりのカエルがバケツから溢れ出ていた。怒髪天の老人の怒号は走る彼らの背に届きながらも、留めることができずに彼らは去って行った。

 

彼らは入学してから二年が経ち、『悪戯仕掛け人』として有名になって、知らぬ者はいないほどである。

 

背景の廊下がジャスパーたちの動きに合わせて、実際に学校の中を動いているかのように変化していき、ようやく離れたところで足を止めた。

 

『いやー、我ながら面白い悪戯だったんじゃないかな』

『ああ。あのカエルってあとで爆発して体と同じ色を辺りに撒き散らすんでしょ』

『ルティが細かい設定やったんですよね』

『うん、意外と楽しかったよ』

 

それからケタケタと笑うジャスパーとポーラ、それに対して純粋に魔法の技術に尊敬しているシャルロットと照れるように笑うルティ。四人は楽しそうに話をしていた。

 

それからしばらくして、シャルロットが思い出したように声をあげた。

 

『あ!! そういえば』

『ん? どうしたの? シャルロット』

『何かしら? 面白いことでも思いついたの?』

『えっと、この前ジャスパーとポーラが作ろうと思ってた魔法薬の材料になる薬草の群生地を見つけたんです』

『本当かいシャルロット!?』

『へぇ! どこで見つけたの』

『え、えっと湖の近くで……』

 

小さな体で身振り手振りでシャルロットは説明した。その話を興味深そうに三人は聞いていた。

 

『お手柄ね、シャルロット!! 早速採りにいきましょ!』

『そうだね、今夜行こうか。ルティもいいだろう?』

『あ、えっと……ごめん。今日夕方から……』

『お母さんが病気なんだっけ?』

『うん、ごめんね。今日は三人でお願い』

『しょうがないわね。お大事にね』

 

 

* * * * *

 

 

 

月明かりが照らす夜更けにルティを除く三人はこそこそと学校を抜け出していた。

 

『それでシャルロット、どっちのほうだい?』

『う、うん。えっとこっちです』

『暗いと周りが良く見えないわね』

『でも杖灯りを使うと目立っちゃうからね』

『目が慣れれば多分大丈夫……だと思いますよ』

 

暗がりの中、三人は息を潜めながら進んでいく。日中の力強い日差しとは異なり、優しい柔らかな月の光が辺りを照らしていた。水面に映る月が波に揺られる。

 

『んと、ここら辺だったと思います』

『ええと、あ、あったわ。こんなにあるのね』

『必要な分だけ取ろう。メモを持ってきたんだ』

 

ごそごそとジャスパーがポケットを探る。その間、シャルロットとポーラは話していた。

 

『毎月お見舞いに行ってるよね、ルティ。親思いだわ』

『そうですね。ルティは優しいですから。私は両親が健康で良かったと思いますよ』

『そうね』

『あ、ちょっ』

 

二人が会話してる間にジャスパーがメモを取り出したが、風に煽られてメモが宙を舞って湖に浮かぶ。

 

『ちょっと何やってんのよ、ジャスパー』

『は、早くしないと濡れちゃいますよ!?』

『あ、うん』

 

ジャスパーが懐から杖を取り出してメモに向かって振るとメモが宙を舞った。濡れた紙がふわふわとジャスパーの元へ向かって空を飛ぶ。飛んできたメモを取りつつ、なぜかジャスパーは固まってしまっている。

 

『びしょ濡れですね』

『あー。でも辛うじて読めるわよ。……ジャスパー? どうしたの、固まって』

『……わかった』

『え?』

『わかったよ!! そういうことだったんだ!!』

『どうしたのよ、急に』

『ええっと、何がわかったんですか?』

 

 

『ルティが来ない理由だよ!!』

 

 

水面に浮かぶ満月が儚く揺れた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

それから月日は流れて彼らは四年生となった。賑やかな大広間で大勢の生徒たちが食事をしていた。

 

『明日はクィディッチの試合だわ。準備は万端かしら、ジャスパー』

『もちろんだとも!! 明日の試合でも素晴らしいプレイをしてみせるとも!!』

『気合十分だね』

『が、頑張ってください』

 

それぞれが好みのものを皿に乗せて、パクパクと食べながら話す。やる気に満ちたジャスパーを三人が鼓舞していた。ポーラがそのあとチラリとシャルロットの方を見る。

 

『シャルロットも頑張んなきゃね』

『う……はい』

『ん? 何を頑張るんだい?』

 

その言葉に三人がぎくりと体を固める。

 

『え、あぁ、えっと変身術の課題よ』

『う、うん。この前授業の課題が上手くできなくて』

『あぁ、そういえばそうだったね。僕も教えようか?』

『大丈夫だよ、ポーラだけで』

『そ、そうです。ルティまで手伝わなくても大丈夫ですよ』

『それに女の子同士の会話っていうのもあるのよ』

 

悪戯っぽくポーラは笑みを浮かべて、誤魔化すように遮る。そんな三人の様子にルティが首を捻っていると別のテーブルから一人の女子生徒が近づいてきた。

 

『相変わらず賑やかなことですね。貴方方の寮は』

『げっ!?』

『ひっ!?』

『何しに来たのよ、あんた』

 

ジャスパーが呻き、シャルロットが短く悲鳴をあげた。ルティも困ったような表情をしており、ポーラが敵意に満ちた顔で苦々しく声をかけた。四人は総じて別々ながら嫌そうな表情を浮かべていた。

 

『あらあら、お姉様。いらしたのですか?』

『相変わらずムカつくわね。アテラドール』

 

険悪なムードの中でポーラと他の寮の少女、アテラドールは睨み合っていた。ポーラとアテラドールは不仲な双子の姉妹である。

 

『いえいえ、一族の使命に逆らったら愚姉が目に入りませんでしたので』

『頭でっかちのカビ生えた連中のために人生を棒に振るつもりがないのよ、あんたと違って』

 

フンとお互いに顔を逸らす。それから顔の向きを変えてジャスパーの方を向いて手を取った。

 

『え、えっとアテラドール?』

『次のクィディッチの試合は私たちの寮とですわね。是非とも正々堂々と勝負いたしましょう』

 

綺麗な笑みを浮かべてアテラドールは去って行った。そんな様子をルティとジャスパーは苦笑気味に、シャルロットは怯えたように眺めていた。

 

『あー、朝から嫌なもの見たわ。行きましょう、シャルロット』

『え、あ、はい。ポ、ポーラ、ちょっと待ってくださいよ』

 

綺麗な顔を歪めてポーラは足早に去って行き、シャルロットは慌てて追いかけていった。

 

『相変わらず仲悪いんだね、あの双子』

『んー、詳しいことはわかんないけど家の事情らしいからね。ポーラの家は闇の魔術に傾倒してるらしくて、ポーラはそれが嫌で逃げ出してるらしいから』

『アテラドールっていい噂話を聞かないよね。闇の魔術に関心のある人々を集めて集会を開いてるとか人体実験を定期的に行ってるとかね』

『え、そんな噂あるんだ』

『うん。といってもどれも噂で確証はないんだけどね。ところでジャスパー』

『ん?』

『時間大丈夫? もうクィディッチの選手の人たちはみんな練習に行ったみたいだけど?』

『え? うわ! ありがとう、ルティ。また後で』

 

慌てて駆けていくジャスパーを苦笑しながらルティが眺めていた。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
リアルが多忙なのと内容が難しくてここまで空いてしまいました。
リクエストや質問にはこの章が終わってから書きたいと思います。
あとタグに今更ながら群像劇を追加しました。


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