異世界オルガ (T oga)
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第1章 異世界オルガ (元動画:ウィンター、原作:異世界はスマートフォンとともに。)
異世界オルガ1


※初見の方へ

本小説はニコニコ動画のMADのノベライズ化です。
鉄血のオルフェンズ全50話とウィンター氏の異世界オルガを見ていること前提で話が進むので、せめて異世界オルガの動画だけでも見ることをオススメします。

URL:http://sp.nicovideo.jp/watch/sm31599077



P.D.325年。クリュセ郊外。アドモス商会。

 

「なんか静かですねぇ。街の中にはギャラルホルンもいないし、本部とはえらい違いだ」

「ああ、火星の戦力は軒並み向こうに回してんのかもな」

「まぁ、そんなのもう関係ないですけどね!」

「上機嫌だな?」

「そりゃそうですよ!みんな助かるし、タカキも頑張ってたし!俺も頑張らないと!」

「ああ」

 

そうだ。俺たちが今まで積み上げてきたもんは全部無駄じゃなかった。これからも俺たちが立ち止まらねぇかぎり、道は続くっ!

 

 

──その時だった。

 

 

キィィィィィ ガチャン

 

車のブレーキ音と扉を開く音が聞こえた。

何事かと思い、そちらを見た瞬間()()()()()()()()()

 

ズドドドドドド

 

俺は咄嗟(とっさ)に近くにいたライドを(かば)う。

 

「団長!?……何やってんだよ、団長!!?」

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

俺はミカから借りた銃で、謎の襲撃者を追い返す。

 

「なんだよ、結構当たんじゃねぇか……」

「だ……団長?あ、ああっ……」

 

ライドは俺の身体から流れて止まらない血を見て、そんな声にならない声を漏らす。

 

「なんて声、出してやがる……ライドォ……!」

「だって、だってぇ!」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……。こんくらい、なんてこたぁねぇ!」

「そんな……俺なんかのために……」

「団員を守んのは、俺の仕事だ……!」

「……でもっ!」

「いいから行くぞ……!」

 

俺は止まらずに歩き出す。

ライドとチャドに…鉄華団の団員─皆に、俺は止まらねぇ、ってことをこの満身創痍の身体で示してやらなきゃならねぇ……。

それが俺の、鉄華団団長として出来る最期の仕事だ……。

 

「皆が待ってんだ……。それに……」

 

俺が最期の最後に思い浮かべた顔は──やはりミカの顔だった……。

 

「【ミカ、やっと分かったんだ……。俺たちには辿り着く場所なんていらねぇ!ただ進み続けるだけでいい……。止まんねぇかぎり、道は続くッ!】」

 

《謝ったら許さない》

 

(ああ、わかってる)

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「というわけで、お前さんは死んでしまった」

 

そう謝罪する爺さんの背後に広がっているのは輝く雲海。どこまでも雲の絨毯(じゅうたん)が広がり、果てが見えない。

しかし、俺たちが座ってるのは畳の上。卓袱台(ちゃぶだい)茶箪笥(ちゃだんす)、黒電話など古くさい家具が並んでいる。

 

そして、目の前にいるのは自らを神と自称する爺さん。

 

その爺さん(いわ)く、

 

「ちょっとした手違いで神雷を下界に落としてしまった。本当に申し訳ない」

 

ということらしい。

 

神雷というのはすなわち『ダインスレイヴ』

俺たち鉄華団を苦しめたあの禁止兵器だ。

 

この爺さんは俺が死ぬ三百年前、厄祭戦時代に元々神界の武器だったダインスレイヴの技術を誤って下界に落としてしまった。そのダインスレイヴのせいで俺たち鉄華団の未来は大きく変化した。

 

つまり、この爺さんのせいで鉄華団は壊滅した。

 

「この落とし前……あんた、どうつけるつもりだ?」

 

俺がそう聞くと、この爺さんは即答した。

 

「すぐに生き返らせる」

「わかった」

 

生き返れるなら申し分ない。これで俺は鉄華団をやり直せるし、うまくやれば火星の王にだってなれる。

……そう思っていた。しかし。

 

「ただのう……元の世界に生き返らせることは出来んのじゃよ。そういうルールでな。別の世界で生き返ってもらいたい」

 

何っ!?元の世界でやり直せるってことじゃねぇのか?

 

俺は内心焦ったが、冷静を(よそお)って、爺さんにこう聞くと、またもこの爺さんは即答する。

 

「……そういう不利益はどうする?」

「そうじゃ、罪滅ぼしに何かさせてくれんかの?」

「……あんた、正気か?」

「うん。君の望みを聞きたい」

 

俺の望みはただ一つ。鉄華団の再興だ。

この望みは元の世界に戻らなければ、達成することは出来ない……。

 

 

気がつくと後ろにミカが立っていた。

 

《おぉ、ミカ。お前も来たのか?》

《気がついたら、ここにいた》

《そうか》

 

俺はミカと心の中で最低限の会話をした後、目の前にいる爺さんを睨みつけた。

ミカにも色々聞きてぇことはあるが、それより今はこの爺さんだ。

 

「俺は落とし前をつけにきた。最初にそう言ったよな?」

 

俺がそう言うのを合図にミカが左ポケットから無造作に拳銃を取り出した。

 

「待っ!!」

 

パンパンパンパン

 

自称『神』は死んだ。

 

「さてと、帰るか」

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

目覚めると、空が見えた。左右の壁の間から見える青空に雲がゆっくりと流れている。

そして、背中にはコンクリートの冷たい感触が伝わる。

 

……ここはどこだ?

 

確か、俺は神を自称する爺さんに落とし前をつけて、ミカと一緒に神界の出口を探していたはずだった。

 

それがなんでこんなとこに?

 

ミカもいつの間にかいなくなっちまってるし……。

 

……とりあえず、この路地裏を道なりに進んでみるか。

 

 

 

路地裏を進んでいくと、突き当たりで四人の男女が言い争っていた。

 

「約束が違うわ!水晶鹿の角、金貨一枚だったはずよ!」

「見ろ!ここに傷があるだろ?だから銀貨なのさ」

 

チャリン、と一枚の銀貨が二人の少女の足元に転がる。

 

「たったの一枚!?そんなの傷の内に入らないわよ!」

「お姉ちゃん……」

「……もういい。お金は要らない!その角を返してもらうわ!」

「おっと、そうはいかねぇ。もうこれはこっちのもんだ!」

「邪魔するぜ~」

 

突然声をかけた俺に全員の視線が集まる。

 

二人の少女はキョトンとしているが、男たちの方はすぐに険悪な態度をこちらに向けてきた。

 

「なんだ、てめぇ!?」

「なんの用だ~!?」

 

俺は険悪な態度を向けてきた男たちに睨みを効かせる。

 

すると男の一人が怒ったのか、(ふところ)からナイフを取り出し、俺を襲ってきた。

 

「野郎っ!!」

 

ミカはここにはいないが問題ない。

こんなチンピラなんかに負けるかよ。

 

 

 

「う"う"っ!」

 

 

 

……気がつくと、俺の左胸にナイフが突き刺さっていた。避けようとしたが失敗したようだ。

 

二人の少女はまだキョトンとしている。

 

「分かってる」

 

一度死んだ経験のある俺には分かる。

これはもう死ぬ。

 

だが、助かる方法も何となくだが浮かんでくる。

 

……アレをやればいいんだろ。

 

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

希望のはな♪

 

繋いだ絆を♪

 

力にして♪

 

明日を強く♪

 

咲き誇れ♪

 

 

 

 

そして、再び目覚めると、そこは神界だった。

 

「というわけで、お前さんは死んでしまった」

 

神の爺さんは銃弾対策に仮面を被っていた……。

 

 

 




読んでいただいてありがとうございます!

ウィンターさんに許可をいただきましたので、第1話を小説化しました!

PCを使わずにスマホでサクサクっと書いてしまいましたので、読みにくい等あればご指摘下さい。

駄文ではありますが、せめて第1章だけでもお付き合い下さると嬉しいです。

感想等も募集しています。次回もお楽しみに!


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異世界オルガ2

神様の手違いで死んでしまった僕────望月冬夜は違う世界で新しい人生を送ることになった。

そこは魔法や魔物が存在するファンタジーな世界。

 

でも大丈夫。僕には神様がくれた能力とこのスマホがあるから。

 

 

 

 

 

宿を探して、町中を散策していた時、道端から争う声が聞こえてきた。野次馬が集まり、何やら騒ぎが起きているようだ。

 

「何だ?」

 

興味を引かれた僕は人混みをかき分け、騒ぎの中心に辿り着く。そこには数人の男たちに取り囲まれた一人の少女がいた。

 

「ん?何だありゃ」

「あの子……変わった格好をしてますね……」

 

僕の隣に居合わせた、大きな一房の前髪を(たずさ)えた銀髪の青年と同じく銀髪の双子の少女たちは騒ぎの中心にいた少女の姿を見て、そのような感想を述べる。

 

「侍だ……」

 

僕は騒ぎの中心にいた少女を見て、そう呟いた。

 

 

十数人の男たちは剣やナイフをその侍の少女へ向けて、取り囲んでいた。

 

「姉ちゃん、俺らの仲間を可愛がってくれたそうじゃねぇか」

「……あぁ、この前警備兵に突き出した奴らの仲間でござるか。あれはお主たちが悪い。酒に酔い、乱暴(らんぼう)狼藉(ろうぜき)を働くからでござる」

「やかましい!やっちまえー!」

 

男たちが一斉に襲いかかる。侍の少女はそれをひらりひらりと避けながら、男の一人の腕を取って、軽く投げた。地面に叩きつけられた男は悶絶(もんぜつ)して、動かなくなる。

 

「あんな技、見たことないわ!」

「合気道?いや柔術か!」

 

侍の少女はその後も何人か投げ飛ばしていったが、なぜか不意に体がよろめき、動きが(にぶ)る。

 

「……お、お腹が減って力が……」

「あの子、急に動きが!」

「何なんだアイツ、急に動きが……」

「構わねぇ!今のうちだ!」

 

動きが(にぶ)った隙を突いて、背後から剣を構えた男が斬りかかった。

 

「危ない!後ろ!」

 

双子の妹であろう少女が叫ぶ。

 

僕は魔法を使って助けようとしたが、その前に動いた人がいた。

銀髪の双子の少女と一緒にいた大きな一房の前髪を(たずさ)えた青年だ。

 

その青年が身を(てい)して、侍の少女を守ったとき……希望の花が咲いた。

 

「う"う"っ!……こんくらいなんてこたぁねぇ!」

「何であんたはそんなに平然としているのよ!」

 

双子の姉とおぼしき少女の言う通りだ。胸に剣が突き刺さっているのに、何で平然としてるんだ?

 

その答えは後に分かった。彼────オルガ・イツカは僕と同じく転生者で神様から何度死んでもよみがえる力をもらったらしい。

 

 

「ああもう、やっかいごとに首を突っ込んで!」

 

そう文句を言いながら、戦いの輪に飛び込み、パンチやキックを男たちに喰らわせていく双子の姉とおぼしき少女。

 

まぁ首を突っ込んだんじゃなくて、胸を突き刺されたんだけどね。

 

よし、僕も参戦しよう!

 

「【砂よ来たれ、盲目(もうもく)砂塵(さじん)、ブラインドサンド】!」

 

僕は土属性の砂による目潰しの呪文を唱えて、男たちの動きを封じた。

 

 

数分後、警備兵が騒ぎを聞きつけてやって来た。

 

「警備兵だ~!」

「お姉ちゃん、ここは離れよう!」

「分かったわ、そこのあんたも一緒に来なさい!」

「えっ!?僕?」

「そうよ!あんたも首を突っ込んだじゃない!」

 

確かに、このままここに残ると僕らも事情聴取を受ける。

 

双子の少女たちの言う通り、ここはめんどくさいことになる前に逃げた方が懸命か。

 

「わかった!君も!早く!」

 

僕は侍の少女の手を引いて、双子の少女たちの後を走る。

 

あれ?誰か一人忘れてるような……。まぁ、いっか。

 

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】(……忘れるんじゃねぇぞ)」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

現場から離れた人通りの少ない路地裏へやって来た僕らは自己紹介をし合う。

 

銀髪の双子の姉がエルゼ・シルエスカ、妹がリンゼ・シルエスカというそうだ。そして……。

 

「ご助勢かたじけなく。拙者、九重八重と申す「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカd…」あっ、ヤエが名前で、ココノエが家名でござる」

 

八重の自己紹介の途中で現場から戻ってきたオルガが自己紹介をしたが、華麗にスルーされた。

 

どうやらオルガはこういう扱いらしい。じゃあ僕もスルーしとこう。

 

「僕は望月冬夜。トウヤが名前でモチヅキが家名ね」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

数日後、僕らは冒険者ギルドに登録して、パーティを組み、依頼を受けることにした。

 

「これはどうですか?」

「王都への手紙配送。交通費支給。銀貨8枚か。いいんじゃない!丁度四人で割れるし」

 

リンゼが見せてくれた依頼書を見て、僕が冗談混じりにそう言うとオルガはすぐさまツッコミを入れてくる。

 

「俺は無視か!」

「冗談だって(笑) レディーファーストってことで、余りの3枚は女性陣に渡すよ!」

「……まぁ、それが妥当か」

「そう?じゃあ、ありがたく頂くわ!」

 

全員が納得したようなので、僕たちは足早に諸々の準備を始め、その日の内に王都へ向けて出発した。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

王都への道を走る馬車に乗りながら、僕は最近新しく覚えた無属性魔法を試していた。

 

感覚拡張魔法【ロングセンス】だ。

 

【ロングセンス】は最大で一キロ先の様子を見たり、音を聞いたりする事が出来る。

 

調査に使えると思い、習得したのだが、女性陣には絶対に覗きに使うなと釘を刺された。あのな……。

 

この【ロングセンス】はもちろん嗅覚も拡張出来る。おや……。

 

「この匂い……鉄?」

「鉄華団……決して散ることのない鉄の華」

「いや、血の匂いだ!」

「鉄血のオルフェンズ!じゃねぇか……フヘッ」

 

長い静寂が訪れる。オルガがスリップした。

 

「まぁ、これっぽっちも面白くなかったがなぁ……」

 

落ち込むなよ。オルガ。

 

そう心の中でオルガを慰めつつ【ロングセンス】で視覚を拡張し、先ほど血の匂いがした方を注視する。……っ!!

 

「この先だ!人が魔物に襲われてる!」

「……っ!承知!」

 

 

血の匂いがした方向へ馬車を走らせると、視界の先に高級そうな馬車と鎧を着た数人の兵士を取り囲むリザードマンの群れが見えた。

 

「【炎よ来たれ、渦巻く螺旋、ファイヤーストーム】」

 

荷台でリンゼが炎の魔法を放つ。それを合図にエルゼと八重が馬車から飛び降り、自分の武器を構えてリザードマンの群れに向かっていく。僕もそれに続く。

馬車の守りはオルガに任せた。

 

僕らはリザードマンを一匹ずつ確実に仕留めていき、リンゼが魔法で僕らの援護をする。

 

その戦いの最中、八重が路傍(ろぼう)の石に(つまづ)いて転倒した。その隙を突いて、一匹のリザードマンが転んでいる八重に剣を振り下ろした。危ない!

 

「【ミカァ!】」

 

そんな時、馬車の御者(ぎょしゃ)台に座っていたオルガがそう叫ぶ。

その瞬間、地面から巨大なロボットが出てきて、リザードマンを一掃(いっそう)した。

 

「あれは!?」

「オルガさんの召喚魔法です!」

 

僕の疑問にリンゼが答える。

 

あれがオルガが神様に与えられたもう一つの力。

異世界のモビルスーツ『ガンダム・バルバトス』とそのパイロット『三日月・オーガス』の召喚である。

 

《ねぇ、次はどうすればいい。オルガ》

《決まってんだろ……行くんだよ》

何処(どこ)に?》

《ここじゃない何処(どこ)か……俺たちの本当の居場所に!》

《うん。行こう!俺たち……みんなで!》

 

いや、行くのは『王都』ですけど……。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

オルトリンデ公爵家の馬車を助け、公爵家の娘 スゥシィ・エルネア・オルトリンデと共に王都へやって来て、公爵様にお礼の賃金をもらった後、ギルドの依頼であった手紙を届けた。

 

その帰り道、八重が僕らへ向かってこう言った。

 

「皆の人となり、この数日間で見せていただいた。強大な力がありながら、決して(おご)らず、常に人を救う道を選ぶ。その姿勢、感服致した!……だから拙者、修行のため、冬夜殿たちと行動を共にしたい!」

「えっと……どうする?」

 

僕はエルゼやリンゼ、オルガに確認を取る。

 

「いいんじゃない。私たちとおいでよ」

「せっかく仲良くなりましたし、これでお別れは寂しいです」

「鉄華団はお前を歓迎する!」

 

どうやらみんな、僕と一緒の意見のようだ。

 

「よし、じゃあ一緒に行こう!」

「改めてよろしくね。八重」

「よろしくでござる」

 

僕の力で人が笑顔になるのっていいもんだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼らを木の影から覗いている一人の男がいた。

 

その男の名は榊遊矢。悪魔ズァークであるという自覚がなく、自分をエンタメデュエリストだと思い込んでいる精神異常者である。

 

 

 




この2話と前回の1話の間にオルガが再び転生した後、エルゼやリンゼと再会する話とオルガがミカを初めて召喚する話、そして冬夜が原作よりも多少スペックが高い状態(魔法についての知識やこの世界の地理歴史文化を最初から全て把握している&この世界の文字が普通に読める)でこの世界に転生される話がありますが、それらの話を書く予定は今のところは一切ございません(笑)


それとこの2話の最後に出てきた男は死んでいいやつです


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異世界オルガ3

「【トランスファー】」

 

冬夜の無属性魔法【トランスファー】によって、冬夜の魔力が俺に流れ込んでくる。

 

「これくらい魔力が増えればいい?」

「あぁ、多分大丈夫だろ」

 

俺は自分の魔力量が多くなったことを確認する。

 

……よし、これならいけるだろ!

 

「【ミカァ!】」

 

俺は召喚魔法でミカを呼び出す。魔法陣から『ガンダム・バルバトス』のパイロット、三日月・オーガスが現れた。

 

「よう、ミカ」

「オルガ。どうしたの?」

「いや、お前をずっとこっちに居れるようにしようと思ってよ。冬夜に頼んで俺の魔力量を高めてもらったんだ」

「へぇ~、そっか、ありがとう」

 

通常、術士が魔物を召喚し、存在を保つときはその術士の魔力が必要になる。

そのため、召喚した魔物がずっとこちらの世界に存在し続けると、術士は魔力切れを起こしてしまう。

 

しかし、俺はミカをずっとこっちに居られるようにしたかった。

だから魔力量が無限にある冬夜の魔力を【トランスファー】で分けてもらって、その魔力を使い、ミカをずっとこっちに居られるようにしたのだ。

 

俺の顔を見て、ミカがこう聞く。

 

「どうしたの?オルガ」

 

俺は小さく笑っていたようだ。

 

「これで生まれ変わってもミカと一緒だな」

「うん。俺も嬉しいよ。それに……」

 

ミカは魔法陣を出てきて、()()()()

 

「体も元通りに動くようになったし」

「そうか。そりゃあ、よかった」

 

 


 

 

ミカもこちらに来れたところで、俺たちは王都の街を散策することにした。

 

体が元通りに動くようになったミカのリハビリも兼ねて、だ。

 

「どうしたんだろ?あの子」

 

エルゼがそう言って、指差した方向を見てみると、そこにはキョロキョロと辺りを見渡す小さな狐の獣人の女の子がいた。その女の子は今にも泣きそうな目をしている。つまり……

 

……迷子か。

 

冬夜が狐の獣人の女の子に声をかけにいった。

 

「あの、どうかしました?」

「じ、実は連れの者とはぐれてしまって……待ち合わせの場所は決めておいたんですけど」

 

やっぱり迷子か。めんどくせぇな!

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!!」

「ここがどこかもわからなくて……」

「連れてきゃいいんだろ!」

「えっ?」

「途中にどんな地獄が待っていようと、お前を……お前らを……俺が連れてってやるよ!」

「……何キレてんの?オルガ」

 

 

冬夜の無属性魔法【サーチ】で女の子が決めていた待ち合わせ場所の位置を調べて、そこまで案内する。

 

スマホの地図を頼りに歩くと、待ち合わせ場所が見えてくる。

その場所にいた獣人の女性を見ると、女の子はその女性目掛けて走り出した。

 

「お姉ちゃん!」

「アルマ!心配したのよ!」

「ごめんなさい」

 

俺は隣にいたミカと拳を合わせる。

 

「終わったな」

「うん」

 

 

「会えて良かったです。それじゃ」

 

冬夜が獣人の姉妹に別れを告げ、俺たちは王都のギルドへとやって来た。

 

「ここが王都のギルドでござるか~」

「依頼の数も多いです」

「この依頼はどう?」

 

冬夜がそう言って、俺たちに依頼書を見せてくる。えっと……。

 

デュラハン一体討伐。報酬は銀貨10枚か。悪くねぇな。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「八重、そっちに行ったぞ!」

「承知!」

 

崩れかかった城壁を盾にしながら、デュラハンが八重に近づいていく。

デュラハンがその手に持つ禍々(まがまが)しい大剣を振りかざし、それを八重が刀で(さば)く。

 

俺は八重と切り結んでいるデュラハンを捉えた。今だ!

 

「【ミカァ!】」

 

『ガンダム・バルバトス』をLv4(第4形態)で召喚する。

 

ミカの操る『ガンダム・バルバトス』Lv4は刀をデュラハンに突き刺して、その命を奪う。

 

「終わりましたね」

「疲れたでござる~」

 

リンゼが安堵(あんど)の呟きを洩らし、八重が地面に座り込む。

 

「昔の王都って言っても何にもないな……」

 

冬夜がそう呟いた。

 

元々、この廃墟は千年以上前の王都だったそうだ。

だが、辺りを見渡しても、あるのは穴だらけの城壁と町の形をかろうじて残す石畳と建物、そして完全に崩壊した王城らしき瓦礫(がれき)のみであった。

 

なんだよ……。隠し財宝とかねぇのかよ……。

 

俺がそう思ったとき、エルゼが全く同じことを言い、それに冬夜が弁便した。

 

「王の隠し財宝とかあったら面白いのにね」

「確かに、一理ある。【サーチ:歴史的遺物】」

 

冬夜が【サーチ】で財宝を探す。

 

「引っかかった……」

「どっ、どっちでござるか?」

「……あっちの方から感じる」

 

どうやら反応があったようで、その反応のある方向を冬夜が指差す。

俺とミカもそちらを見ると、そこには瓦礫(がれき)の山があった。

 

「何あれ?」

 

ミカが瓦礫(がれき)の間からほんの少し見える何かを指差して、そう呟く。

 

「何だありゃ」

 

俺は手で持てる瓦礫(がれき)をひとつひとつ剥いでいく。

 

すると、そいつの全貌がほんの少しだが見えてきた。こいつは…………!

 

「モビルアーマーじゃねぇか!!」

 

モビルアーマーとは俺たちの世界で厄祭戦の引き金となった殺戮兵器。

人工密集地を優先的に狙うようプログラミングされており、俺たち鉄華団がクリュセで見つけた『ハシュマル』もイオクとかいう馬鹿が誤って目覚めさせてしまい、農業プラントを一瞬で焦土(しょうど)に変えた危険な兵器だ。

 

「なんで今まで発見されなかったんだ?」

 

それになんでモビルアーマーがこの世界に?

 

「大きいな、何だこれ?」

「モビルアーマーっつってんだろ!」

「「「大きい!」」」

「無視すんなよ!」

 

冬夜たちがモビルアーマーに近づいていく。

 

「でも、この瓦礫(がれき)どうしたら?」

「待ってろよ!」

「任せて、下さい!!」

「待てって言ってるだろ!!!」

「【炎よ爆ぜよ、紅蓮の爆発、エクスプロージョン】!!」

 

リンゼが爆裂魔法で瓦礫(がれき)を吹き飛ばす。

 

…………その衝撃でモビルアーマーが起動した。

 

「勘弁してくれよ……」

 

 

起動したモビルアーマーが暴れまわる。

 

「まずい!逃げるぞ!【ゲート】」

 

冬夜が【ゲート】を開いて、そこにエルゼ、八重、リンゼ、ミカそして冬夜が飛び込んでいく。

 

「待ってくれ!」

 

俺も慌てて【ゲート】まで走る。

しかし、俺が飛び込む前に【ゲート】が閉じた。

 

「勘弁してくれよ……」

 

俺は逃げ遅れた……。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

【ゲート】で安全な場所へ避難した僕たちはそこから、一キロくらい先にいるモビルアーマーを狙う。

 

「【エンチャント:ロングセンス、ブースト】」

 

僕はリンゼに【ロングセンス】を与え、一キロ先のモビルアーマーを確認出来るようにし、また魔法の威力を【ブースト】で底上げした。

 

「リンゼ!」

「分かりました!」

リンゼは魔法の詠唱を始める。

 

「【炎よ爆ぜよ、我が真紅の咆哮(ほうこう)を望みたもう。覚醒の刻来たれり、無久の境界に落ちし(ことわり)。無形の歪みと成りて現出せよ】!」

 

魔法は詠唱呪文が長いほど、その威力が増していく。

リンゼはエクスプロージョンの長詠唱を唱え、確実にモビルアーマーを破壊するつもりなのだ(オルガ含めて)。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

……逃げ遅れた俺はモビルアーマーから逃げながら、呪文の詠唱をしていた。

 

おそらく、冬夜は安全な場所へ避難してから、【ロングセンス】かスマホでモビルアーマーの位置を確認しながら、長距離高威力魔法を喰らわそうという魂胆なのだろう。

 

ということは俺はその長距離高威力魔法に巻き込まれて、死ぬ。

 

魔法がこちらに届く前に俺はよみがえるための呪文を唱えなければいけない。

 

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!】」

 

「【紅蓮の爆発、エクスプロージョン】!!」

 

「【……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 




ミカはあくまでも召喚獣という扱いなので、魔力を使って召喚しないと現界する事が出来ないのです。

オルガ一人の魔力量も決して少ない訳ではないですが、それでもミカの現界は数日ほど、バルバトスルプスを召喚して戦わせると一気に魔力量が減ってオルガが魔力欠乏症で希望の花を咲かせてしまうので、冒頭のように冬夜から魔力を分けてもらってなんとかミカを現界させている形になります。

この先描写する事はありませんが二日に一回くらいのペースでオルガはミカを現界させるために冬夜から魔力供給を受けています。


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異世界オルガ4

※イセスマパート多め
前半は冬夜目線、後半はオルガ目線です。


僕とオルガ、そしてミカさんは先日倒したモビルアーマーのことを話すため、オルトリンデ公爵の屋敷へと向かっていた。

 

屋敷の前にやって来たとき、正門が開いて、中から馬車が出てきた。

 

あれ?お出かけかな?タイミングが悪かったか。

 

「冬夜殿にオルガ殿か!ちょうど良かった!君たちも馬車に乗ってくれ!」

「え?ちょ……、えっ!?なんですか!?」

 

馬車の扉を開けて、出てきた公爵に腕を引っ張られ、馬車の中に引きずり込まれた。

 

「このタイミングで冬夜殿とオルガ殿が訪ねてくるとは……!おそらく神が君たちを遣わせてくれたのだろう!感謝せねばな」

 

確かに、この世界に僕とオルガを送りこんだのは神様ですけど……。

 

「なにかあったのか?」

 

オルガが公爵にそう聞く。すると公爵は切羽詰まったような声で口を開いた。

 

「兄上が毒を盛られた。幸い対処が早かったので、まだ持ちこたえてはいるが……」

「国王の暗殺未遂か……」

「うむ」

 

オルガの言うように、国王陛下の暗殺未遂があったらしい。

 

「それで僕は何を?」

「急ぎ、兄上の毒を消してほしい。エレンにかけたあの魔法【リカバリー】で」

 

万能回復魔法【リカバリー】。以前、公爵の妻であるエレンさんの失明を治したこともある。

確かに、その【リカバリー】を使えば、国王陛下の毒を取り除けるかも知れない。

 

「分かりました」

 

僕らは国王陛下のいる王城へ向かった。

 

 

 

慌ただしげに公爵に連れられて、王城へ入り、吹き抜けのホールの正面にある階段を掛け上がる。

そして長い回廊を抜けた先にあった大きな扉を開ける。

 

「兄上!」

 

公爵が部屋の中に飛び込む。

部屋の中にある豪華な天蓋付きのベットの周りには多くの人が集まっていた。

あのベットに横たわる人物が王様なのだろう。

 

「冬夜殿!頼む!」

「【リカバリー】」

 

柔らかな光が僕の手のひらから王様に流れていく。やがて、それが収まると王様の呼吸が穏やかなものに変わっていき、顔色も良くなった。

 

王様は勢いよく起き上がる。

 

「なんともない……。先ほどの苦しみが嘘のようだ。アルフレッド、その者たちは?」

「エレンの目を治した望月冬夜殿とその仲間達です。彼なら兄上を救ってくれると思い、お連れしました」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「三日月・オーガス」

「そうか。助かったぞ、礼を言う!」

「……あー。どうも」

 

王様から礼を言われ、どう返したらいいか分からず、間の抜けた返事をしてしまった。

オルガやミカさんはすごいな。王様の前でも全く緊張してない。

 

 

そんな僕にお姫様(確か、ユミナ姫と言ったか)が王様に続けて礼を言う。

 

「お父様を助けていただき、ありがとうございました」

「いえ、気にしないでください。元気になられて良かったです」

 

お姫様に礼を言われるのもなんか気恥ずかしいので、誤魔化すように僕は笑顔を浮かべた。

しかし、お姫様はじっ……と僕の方を見つめ続ける。

 

「な、なんでしょうか?」

「年下はお嫌いですか?」

「……はい?」

 

質問の意図が分からず、困惑しているとき、ふと王様と公爵の会話が聞こえてきた。

 

 

「ミスミドが私を殺して何の得がある?私を邪魔に思う者の犯行だ」

「私もそう思いますが、証拠があっては……」

「証拠だと?」

「はい。陛下が大使から贈られたワインを飲んだ直後に倒れられた現場を多くの者が見ております」

 

ワインを飲んで倒れた……?なるほど。

 

「ちょっといいですか?」

 

僕はそういって会話に割り込む。

 

「なんだ?」

「王様が倒れた現場はその時のままですか?」

「ああ、誰も触らぬようにしてある」

「ではそこに連れて行ってもらえますか?」

 

 

王様が倒れたという大食堂まで案内された僕は部屋の真ん中に立ち、毒物を【サーチ】する。

 

「だいたい分かりました。関係者をみんなここに集めてください」

 

 

大食堂で待っていると、王様に王妃様、ユミナ王女と公爵、将軍、伯爵、宮廷魔術師、そして最後に狐の獣人の女性が入室してきた。あれ?あの人って……。

 

「オリガ・ストランド、参りましてございます」

「アルマのお姉さん?」

「あなた方は!?」

 

やっぱり。アルマのお姉さんだ。オリガさんって言うのか。オルガと名前が似てるな。

 

「ほう。君達は大使の知り合いなのか」

「迷子になっていた大使の妹さんを助けたことがありまして…………そんなことより」

 

 

たっぷりと間を空けてから、僕はこう宣言する。

 

「犯人はこの中にいます!」

 

決まった~!このセリフ一度言ってみたかったんだよな~!

 

「では、一から事件を検証してみたいと思います」

 

僕はミカさんから一本のワインを受けとる。

 

「ここに毒の入ってないワインを用意しました」

 

僕はそのワインを大食堂に置いてあった新品のグラスに入れ、一気に飲む。未成年だけどいいよね、異世界だし!

 

「うん、うまい!」

 

未成年だから、正直味は分からなかったんだけどね。

 

「毒が入っていないことを確認していただいたところで、このワインを国王のグラスに注ぎます。国王陛下はまだ体調が優れないようなので……代役はオルガにやってもらおうかな」

「俺が王の代わりか!」

 

なんか、嬉しそう。

 

オルガはグラスを手に取るとそのワインを一気に飲みほした。その時、希望の花が咲いた。

 

 

「どういうことだ」

「つまり毒はオリガさんの送ったワインにではなく、国王陛下のグラスの中に塗られていたんです」

「グラスに!?」

「卑劣な!」

「他の国王陛下のグラスにも同じ毒が塗られているんで、それの指紋とかを調べれば、犯人も分かると思いますよ」

「くそっ!」

 

僕がトリックを見破った途端に、伯爵が逃げ出した。

馬鹿なのか?あれじゃ、自分が犯人だと自白したようなもんじゃんか。

 

「【スリップ】」

 

逃げ出した伯爵を【スリップ】で転ばせる。

転んだ伯爵はそのまま兵士に捕らえられた。

 

 

無事解決して良かった。呆気なかったな。

そう思っていた僕にミカさんが話しかけてきた。

 

「ねぇ、冬夜」

「何です?ミカさん」

「オルガが生き返らないんだけど」

「えっ!?」

 

倒れたオルガの脈を図る……。本当に死んでる……。

……そっか!毒の入ったワインを一気に飲んだから、即死で呪文の詠唱が出来なかったんだ!しまったな……。

 

まぁ、いっか。【リカバリー】で生き返らせれるし。

 

「【リカバリー】」

 

僕が【リカバリー】をかけると、オルガは目覚めた。

 

「おお、ミカ」

「あっ、オルガ生き返った」

 

良かった。これで一件落着か。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「……どうしてこうなった……!?」

 

帰りに冬夜がそう呟く。それはこっちのセリフだ!

 

冬夜がちょっと考えれば子供でも分かるようなクソみたいなトリック(俺は分かんなかったなんて言えねぇ……)をドヤ顔で解明した後、なぜか冬夜はユミナ王女に逆プロポーズされた。

 

そして、何とか結婚は先伸ばしにしたものの花嫁修行ということで、ユミナ王女が俺たちに着いてきたのだ。

 

意味分かんねぇ……。

 

 

「ユミナ・エルネア・ベルファストです!今日からこちらでお世話になります!」

 

宿屋に帰ってきた俺たちはユミナ王女のことをエルゼやリンゼ、八重に説明するために皆を集めた。

 

「冬夜殿が結婚でござるか」

「……びっくり、ですね……」

「ったく、なにやってんのよ……」

 

皆、同じような反応をする。いや、リンゼは違うな。なんか顔が怖え。

 

「世間知らずではありますが、足手まといにならないように頑張ります!まずはギルドに登録して依頼をこなせるようになりたいと思います」

「「「「えっ!?」」」」

 

ギルドに登録だぁ。王女様にそれは無理なんじゃねぇか?

 

俺はそう思ったが、どうやらユミナ王女は魔法と弓を少々使えるらしい。

 

 

「っていうか、ユミナが冬夜と結婚したら次の王様って冬夜になるの?」

 

エルゼがふと思ったことを口にした。待ってくれ!

 

「王になる。地位も名誉も全部手に入れられるんだ。こいつはこれ以上ないアガリじゃねぇのか……?」

「僕が王様?ないないないない。そんな、ありえないよ」

「ないよ」

 

もったいねぇな……。なら俺と代わってくれよ……。

ってか、ちゃっかりミカまで否定してやがる……。

 

 

「とりあえず、ユミナの実力を図るために一つ依頼を受けてこようか」

 

話がまとまったところで冬夜はそう言い、席を立った。

 

「オルガとミカさんも行くよね」

「いや、俺たちは行かねぇ」

「えっ?なんで」

「俺たちが行ったらバルバトスが全部片付けちまって、ユミナ王女の実力を図れねぇだろ」

「あっ、そっか」

 

今までの魔物討伐もほとんどがバルバトス1機で倒してしまっている。

俺たちが行くとユミナ王女の実力は分からない。だから俺は冬夜の誘いを断った。

 

 

「じゃあ、今日は男一人に女の子四人か……」

「何か問題なの?」

 

冬夜の呟きにエルゼが疑問を問う。

 

「三人とも気づいてないと思うけど、ギルドで目立つんだよ君たち」

「なんででござる?」

「そりゃ、やっかみも受けるよ。エルゼにリンゼ、八重も特に可愛いんだからさ」

「「「えっ?」」」

 

冬夜がさも当然のようにそう口走った。

その瞬間、三人とも体が固まって、顔が赤くなった。

 

「何言ってんだぁぁっ!」

「な、何言ってんのよ冬夜。……可愛いとか……冗談ばっかり」

 

ったく、イチャつきやがって……早く冬夜を追い出すか。

 

「いいから早く行けよっ!」

「分かったけど……なんでオルガは怒ってんの?」

 

分かんねぇのか?冬夜の鈍感クソ野郎が!

 

 

冬夜を宿屋から追い出した後、今まで黙って火星ヤシの実を食っていたミカがこう口を開いた。

 

「なんで怒ってたの?オルガ。別に普通じゃん」

「は?」

 

俺はミカから前世での話を聞いた。

 

♪オ~ルフェ~ンズ ナミダ~♪

《な、なっ……何!?……何っ!?》

《可愛いと思ったから》

 

《クーデリアさんも一緒に作りましょう!三日月の赤ちゃん!》

《はい?》

《クーデリアも欲しいの?》

《えっ!?》

 

「何やってんだ、ミカァァァ!!」

 

 




♪オ~ルフェ~ンズナミダ~♪ とは、接吻(せっぷん)、キスなどの同義語。愛情表現や友愛表現の一つ。
愛情や友愛を示すときや、遺伝子採取の際に自分の唇と相手の唇を接触させる行為。


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異世界オルガ4.5

今回は元動画にないオリジナルです。



「あっ!しまった」

 

国王の暗殺未遂事件を解決した後、ユミナをパーティに加えてから数日後、ふいに冬夜が何かを思い出したかのように声を上げた。

 

「どうしたの?冬夜」

「なんかあったのか?」

 

ミカと俺が声を上げた冬夜に質問すると、冬夜はこう答えた。

 

「うん。公爵にモビルアーマーのこと話すの忘れてた」

「何やってんだぁぁっ!」

「ごめん、ごめん。今から行ってくるね。【ゲート】!」

 

冬夜はそう言った後、【ゲート】に入っていった。

 

 

そして、次の日──

 

俺とミカ、そして冬夜の三人は現場を見たいと言い出したオルトリンデ公爵を連れて、モビルアーマーの現れた旧王都へとやって来た。

 

「……ここが冬夜殿の言うモビルアーマーとやらが現れた場所か」

「はい」

「しかし、来てみたはいいが何もないな……」

「だから言ったじゃないですか」

 

モビルアーマーを倒すために威力を底上げした【エクスプロージョン】で辺り一面を焼き払ったため、元々は穴だらけの城壁と町の形をかろうじて残す石畳と建物、そして完全に崩壊した王城らしき瓦礫(がれき)しかなかった場所が更地になってしまっている。本当に何もない。

 

 

「ん?ミカはどこ行った?」

 

公爵と冬夜が話している間にミカがいなくなっていた。

 

「オルガ」

 

俺を呼ぶ声がした方を見てみると、ミカが地面を指差していた。

 

「ミカさん、この下になにかあるんですか?」

「なんか気になった」

「三日月殿は勘が鋭いからな。調べてみよう」

「わかりました。【ロングセンス】!」

 

冬夜が【ロングセンス】で、ミカが指差した地面の下を()る。

 

「どうだ?なんか見えるか」

「……鉄の扉と……その下に……階段?」

 

鉄の扉と階段……地下通路か何かか?

 

「オルガ、連れていって!」

「勘弁してくれよ、ミカ……」

「ダメだよ、オルガ。俺はまだ止まれない」

「待ってろよ」

「連れてってくれ、オルガ」

「待てっていってんだろ!」

 

俺がそう叫ぶと、ミカは俺の胸ぐらを掴む。

 

ピギュ

 

「え"え"っ!?」

「ここが俺たちの場所なの?そこに着くまで俺は止まらない。止まれない」

「放しやがれ!!」

 

こうなると、もうミカは止められねぇ。

俺は胸ぐらを掴むミカの手を払いのけて、こう言った。

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!連れてきゃいいんだろ!!お前を、お前らを俺が連れてってやるよ!!」

 

四人で力を合わせてその鉄扉を開ける。なぜか()び付いていることもなく、すんなりと開けることが出来た。もしかしたら鉄じゃないのかもしれねぇ。

 

そしてその下には、地下へと続く石の階段が、俺たちを迎えたのであった……。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「【光よ来たれ、小さき照明、ライト】」

 

宙に作り出した明かりを頼りに、僕たちは石の階段を踏みしめ、地下へと進み出した。

 

階段は緩やかな角度で螺旋を描き、どこまでも地下へ続いている。歩いているうちにまるで地獄にでも続いているかのような、そんな馬鹿げた不安が湧いてきた。

 

やがて長い階段の終わった先に、広い石造りの通路が現れた。

 

魔法の【ライト】で通路を照らしながら進んでいくと、だんだんと通路の天井が高くなっていき、やがて大きな広間に出た。

 

 

「なんだこれ……?」

「なんだこりゃ?」

 

部屋の中央には(ほこり)と砂にまみれた物体が置かれていた。

 

それはなんと表現したらいいのか……。僕がまずイメージしたものは虫だ。コオロギ。アレに似てる。頭部のようにも見えるアーモンド型の物から、六つの細長い足のような物が伸びている。数本折れてはいたが。

 

大きさは軽自動車くらいあるだろうか。手足をもがれ、死んだコオロギを想像させる。

 

しかし、そのフォルムは流線型のシンプルな形で、生物というよりは機械のようにも見える。

 

 

よくよく見ると、頭部に見える部分の奥に、うっすらと野球ボールほどの赤い物体が透けて見えた。

 

表面の(ほこり)や砂を払うと、この謎の物体は半透明な物資で出来ていることがわかった。……ガラスだろうか。薄暗くてよく見えないな……ん?

 

「あれ?光が弱くなっているような……」

「ような、じゃねぇ。確実に弱くなってるぞ。これは……」

「冬夜殿!」

 

公爵の叫びに視線を戻すと、コオロギの頭部、奥に見えた赤いボールが輝き始めていた。

コオロギの体が細かく振動している。

 

「冬夜!【ライト】の魔力があいつに吸収されてるぞ!」

 

光が弱くなったのはそれでか!

 

ボールの輝きはどんどん増し、コオロギは体を少しずつ動かし始めた。

 

まさか……生きているのか、これは!?

 

折れていた足がいつの間にか再生している。魔力を取り込み、活動を再開させたというのか!?

 

 

キィィィィィィィィィン!

 

 

「うぐっ……これは……ッ!」

 

耳鳴りがしたときのような、甲高い音が辺りに響き渡った。部屋中に反射してビリビリと身体中が震えるほどの衝撃。ピシッと壁に亀裂が入り出す。まずい! このままでは生き埋めになる!

 

「【ゲート】!」

 

僕は目の前に【ゲート】を出現させ、みんなを次々と地上へと送る。僕も門をくぐろうとしたその時、コオロギが立ち上がり、足の一本を僕目掛けてものすごい速さで伸ばしてきた。五メートルは離れていた僕のところまで、槍のように足を伸ばしてきたのだ。

 

「うわっ!?」

「冬夜!」

 

オルガが僕を庇い、……希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

「ごめん、オルガ。ありがとう」

 

僕は転がるように【ゲート】を抜け、地上に出た。

 

すぐに【ゲート】は閉じ、目の前に地上の廃墟が広がる。どうやら生き埋めにはならずにすんだようだ。

 

しかし、オルガは生き埋めだ。あの状況じゃ助けられない。仕方ない。

 

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「何だったんだろ、あれ?」

「まだ来るよ」

 

ミカさんが地下への入り口を眺めながら、緊張した面持ちでそう呟く。

 

その後、ゴゴゴゴゴ……と地鳴りが響き渡ってすぐ、ドカァッ!と地面を突き破り、そいつは地上へと現れた。

 

 

アーモンド型の頭部、そこから伸びた細長い六本足。太陽の下で水晶のような体が光り輝く。半透明のその生物は結晶生命体とでもいうのだろうか。

 

「公爵は出来るだけ遠くに離れて下さい!【炎よ来たれ、赤き連弾、ファイアアロー】!」

 

公爵をミカさんに任し、炎の矢を連続でコオロギに向けて打ち出す。しかし、コオロギはそれを避けることもなく、平然と受け止めた。炎の矢が次々とコオロギに吸い込まれるように消えていく。

 

「魔法が吸収された!?くっ……なら!」

 

僕は落ち着いてそいつの動きを読み、それに合わせて腰の刀を抜き放つ。

 

だが、その攻撃で奴につけることが出来たのは、わずかなかすり傷ひとつだった。

 

「硬っ!」

「ならこいつでどうだ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

復活したオルガが銃を発砲する。やはり大した傷をつけることはできないようだ。

 

「【ミカァ!】」

 

次はミカさんのバルバトスをLv1(第1形態)で召喚し、メイスでコオロギを叩き付ける。

 

「ギィィ!」

 

()びついたドアのような(きし)みをあげて、コオロギが(ひる)む。

しかし、バルバトスの攻撃でも、あの硬さには軽度のダメージしか与えられないようだ。

 

「なら……こうだ!」

 

バルバトスをLv4(第4形態)に変化させて、コオロギの細長い足を目掛けて太刀を振るう。

 

次の瞬間、ガラスが砕け散るような音と共に奴の足が一本砕けた。

 

よし!やっぱりミカさんはすごいや!

 

傷を与えられないわけじゃない。少しでもダメージを与えることができるのなら、いつかは倒せる!

 

 

「ギ……ギィィィィィィィィ!」

 

突然、コオロギが(うな)り声を上げ、頭部の赤いボールが輝く。それに反応するかのように、砕けたはずの足が再生されていく。おい、嘘だろ……。

 

「再生した……」

「勘弁してくれよ……」

 

魔法を吸収し、非常に硬い強度……なにか弱点はないのか?

 

「どうすんの、冬夜?再生するんじゃどうしようもないよ」

 

ミカさんがなんとか抑えてくれてはいるが、決定打を与えられなければ意味がない。

 

僕達の魔力を奪って再生か……フッ……まるで将棋だな

 

「は?」

「何言ってんの、冬夜?」

 

……そういえば……あいつを見つけたときは体が砕けたままだったな……。どうしてだ……?

 

確か……僕の魔法を吸収して、それから再生した……。再生するのに魔力を必要とするのか。そういえば、あの時も頭部の球が光っていたな。ひょっとしてあの頭部にある赤い球が核になっているんじゃ……。

 

「……そうか、()を取れば!」

 

 

「オルガ、ちょっと……」

 

思いついたことをオルガに伝える。

 

「は? そんなこと出来んのか!?」

「わからない……。でも試してみる価値はある」

「……わかった」

 

フーッと息を整えると、僕はコオロギに向けて魔力を集中し、その物体を思い浮かべた。体が透明だからよく見えるな!

 

「【アポーツ】!」

 

僕の手の中に鈍く光る赤い水晶が現れた。よし、成功だ!

 

「オルガ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

僕が放り投げたその球をオルガの放った銃の銃弾が撃ち抜く。

 

「なんだよ……結構当たんじゃねぇか」

 

そして、その物体はパキィンッと粉々に砕け散った。

 

「これで……どうだ!?」

 

核を撃ち抜かれたコオロギが動きを止める。やがて全身に亀裂が入り、ガラガラと崩れ落ちていく。キラキラと太陽に反射しながら、水晶の魔物はついに倒れた。

 

僕たちはしばらくの間、また再生するんじゃないかと注意を向けていたが、いつまで()っても水晶の魔物がよみがえることはなかった。オルガと違って。

 

 




読んでいただいてありがとうございます。

今回の話は第3章『デスマーチから始まる異世界オルガ』の伏線にもなります。


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異世界オルガ5

その城は王都から少し離れた丘の上にあった。

 

俺たちはギルドの依頼でその城に棲む魔物の調査をしに行くため、馬車を走らせていた。

 

しかし、女性陣はあまりやる気ではないようだ。

なぜなら、今から調査に行く魔物というのが、服を溶かしてくるスライムだからだ。

 

「せっかく琥珀も入って、みんなでやる最初の依頼なのに……」

「楽しみです!」

 

冬夜は喋る白い虎のぬいぐるみを胸に抱きながらやる気のない女性陣に対してそう言った。

 

ん?なんだこの白い虎。

 

「誰なんだよ。そいつは」

「冬夜さん。琥珀ちゃんのこと、オルガさんには話してなかったんですか?」

「あっ、忘れてた」

「忘れるんじゃねぇぞ……」

 

冬夜とユミナは数日前にその白い虎(西の聖域を守護する神獣『白帝(びゃくてい)』)を召喚した時のことを話した。

 

《白い虎……白帝(びゃくてい)……!》

《少女よ、もう私は白帝(びゃくてい)ではない。琥珀(こはく)と読んでくれんか》

《これが『()』で虎、これが『(はく)』で白。それで横にあるのが王という意味》

 

王の横に立つ白い虎ってことか。

 

つまりこいつの横に立てば火星の王に……。

 

「オルガさん、よからぬことを考えてはいませんか?」

「勘弁してくれよ……」

 

ちょっと心の中で言ってみただけじゃねぇか……。

 

 

スライム城へとやって来た俺たちは玄関ホールの大きな両開きの扉を静かに開けた。

 

女性陣は怖がって中へと入ってこないので、俺とミカ、そして冬夜が先に城の中へと足を踏み入れ、城内の様子を探る。

 

「ちょっと薄気味悪いけど、大丈夫だ。みんなも入ってきなよ」

 

冬夜がそう言った瞬間、俺の頭の上に()()()()が落ちてきた。

 

「う"う"っ!……こんくらいなんてこたぁねぇ!」

「全然、大丈夫じゃないじゃない!」

 

まぁ、金たらいで頭を打っただけだ……。こんくらいなんてこたぁねぇ……。いや、なんか意識が朦朧(もうろう)としてきた。こりゃ、やべぇな……。このままじゃ死ぬぞ……。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「冬夜さん!たらいが……!」

 

ユミナが俺を殺した金たらいを見て、驚きの声を上げる。

俺を殺した金たらいは灰色のスライムへとその姿を変えた。

 

「スライム?」

「でも、見たことも聞いたこともないスライムです」

「新しく作り出したのでござろうか?」

「なんの役に立つんだ?」

 

俺を殺すのに役立ったじゃねぇか……。

 

 

その後、俺たちは調査のため、城の奥の方へと進んでいった。

 

「と、冬夜さん……」

 

進んでいる途中、リンゼが怯えた声で冬夜の名を呼んだ。

 

リンゼがゆっくりと指を差した方向にいたのは、緑色のスライムの群れだった。

 

「うわっ!?なんだこれ」

「ひぇっ……」

「グリーンスライム……」

 

女性陣が皆、怯えて後ずさる。

 

「琥珀!」

「お任せを!」

 

冬夜が琥珀の名を呼ぶと、小さな虎のぬいぐるみが大きな白虎へと姿を変え、口から衝撃波を放つ。

グリーンスライムはその衝撃波で吹き飛んで、壁に打ちつけられたが、ダメージは与えられていないようで、すぐにこちらを追ってきた。

 

「二階だ!二階に避難しよう」

 

冬夜は近くにあった階段を指差して、そう叫ぶ。

 

ミカが最初に逃げ、次にエルゼ、八重、リンゼ、ユミナ、そして冬夜が階段の方へ走っていく。

 

「待ってくれ!」

 

俺も慌てて、冬夜の後を追うが、後ろからグリーンスライムがものすごい勢いで迫って来る。

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

銃での応戦も虚しく、俺はグリーンスライムの餌食となった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「助かった……」

 

階段を登り、二階に逃げた僕は安堵(あんど)の息を吐く。

 

「いえ、しかし……」

 

そんな僕に琥珀は1階にいるグリーンスライムの餌食となったオルガを見るよう促した。

 

「うげっ!」

 

僕はその惨状を見て、吐き気を(もよお)すほどの感覚に襲われた。

 

 

そこにはグリーンスライムによって服を溶かされ、あられもない姿になっているオルガがいた。

 

溶けかかっている赤いスーツの破けた大きな穴から、スライムが分泌する体液でヌルヌルに輝くその鍛え上げられた体の(なまめ)かしい肌が露出している。

 

 

「……【ゲート】……みんなも行こ……」

「賛成っ!!早く、こんなとこ出ましょうよ!」

 

流石に見ていられなくなった僕は【ゲート】を開いて、みんなと一緒にスライム城を出る。

 

……今回のギルドの依頼は失敗だな。

 

 

「【炎よ爆ぜよ、紅蓮の爆発、エクスプロージョン】!!」

 

スライム城を出たとき、リンゼが城へ向かって【エクスプロージョン】を放った。

 

えっ!?そこまでするの!

 

「浄化よ」

「浄化……です」

「浄化でござる」

「浄化ですね」

 

女性陣はみんな、浄化だと言い張っている。

 

あの……中にオルガがまだ残ってるんだけど……。

 

「オルガはもう居なくなった……」

 

ミカさん……。ちょっとオルガに辛辣(しんらつ)過ぎやしませんか。

 

まぁ、オルガは生き返れるからいいか。

 

「なんか、散々だったね」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

気がついたら、俺の周りにいたスライムは居なくなり、辺りが燃え盛っていた。

 

どうやら、俺がスライムに襲われている間に冬夜たちは【ゲート】で逃げて、リンゼが【エクスプロージョン】で俺とスライムもまとめて城を燃やしたらしい。

 

……またも俺は逃げ遅れた訳だ……。

 

 

このまま、スライムと運命を共にする訳にはいかない。

 

俺は城の出口へと歩きながら、もし焼死したときのためによみがえるための呪文を口ずさんでいた。

 

 

「【ミカ、やっと分かったんだ……。俺たちには辿り着く場所なんていらねぇ!ただ進み続けるだけでいい……。止まんねぇかぎり、道は続くッ!】」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 




私もイセスマのエンディングは好きです。


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異世界オルガ6

冬夜が家をもらった。

 

先日の国王の暗殺未遂事件の謝礼として受けとるはずだった爵位を冬夜が辞退したことで、その代わりとして家をもらったのだそうだ。

 

もったいねぇな……。俺だったら喜んで、爵位を貰うぞ……。そして、火星の王になる!

 

 

 

俺たちは今、その冬夜がもらった家に来ていた。

 

白塗りの壁に青い屋根の三階建ての屋敷。

その屋敷には昨晩、徹夜で俺が書いておいた『あるモノ』があった。

 

「これが鉄華団のマークだ!なかなかいいだろ!」

「ないないないない!【モデリング】!」

 

俺が親切心で書いてやった鉄華団のマークを冬夜は【モデリング】で一瞬にして消し去りやがった!

 

「何やってんだぁぁっ!!」

「あたりまえじゃん」

 

……ミカにまで否定された……。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

冬夜がもらった屋敷で過ごし始めてから、数週間が経ったある日、屋敷にオルトリンデ公爵が訪ねてきた。

 

「この度、我が国はミスミド王国と同盟を結ぶことが決定した。ついては国王同士の対談の席を設ける必要があるのだが……」

 

俺たちが住んでいるベルファスト王国は三つの国に囲まれている。

三つの国とは西のリーフリース皇国、東のレグルス帝国、そして南のミスミド王国である。

西のリーフリース皇国とは長年、友好的な関係を築けているが、東のレグルス帝国はいつ攻め込まれてもおかしくない状況にあるらしい。

 

対帝国の勢力増強のため、ミスミド王国との同盟が結ばれることになったとのことだ。

 

「会談するには、どちらかの王都へ行くのが一番なのだが……それは必ず危険がつきまとう。そこで……だ」

 

その同盟のための国王同士の対談をミスミドで行うため、俺たちにミスミドまでの道中の護衛をしろ。ってことだろ!分かったよ!

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!!連れてきゃいいんだろ!!」

「まぁ、待ちなさい」

「冬夜さんの【ゲート】ですね」

「流石ユミナ、話が早い」

 

……そういうことか。俺たちだけでミスミドまで先行して、冬夜の【ゲート】でベルファスト王国の王都とミスミド王国の王都を繋げちまえば、両国の王都を安全に行き来できる。

 

「あの魔法は一度行った場所にしか移動出来ませんよ?まさか……」

 

冬夜が分かりきったことを公爵に尋ねる。

 

「そう。君たちにミスミドへ行ってもらいたい」

「やっぱりか」

 

 

そして、数日後。ミスミドへの先遣(せんけん)部隊が組織された。

ミスミド側からはミスミド大使のオリガとその妹のアルマ、そしてガルンという男の率いるミスミド兵士隊。

ベルファスト側からは、ベルファスト王国第一騎士団…………!!??

 

その騎士団を率いる男を見て、俺は驚きを隠せなかった。

その金髪の男は、生前俺たち鉄華団を破滅の道へと(いざな)った男ーーーー『マクギリス・ファリド』と瓜二つであった。

 

「あんた、まさか……」

 

俺はポケットの中に手を突っ込み、そこに入っている銃を握りしめる。

 

「ベルファスト王国第一騎士団所属 リオン・ブリッツです」

「なんだよ……」

 

どうやら、他人の空似というやつだったらしい。

……結構似てんじゃねぇか……。

 

俺はポケットの中で握りしめていた銃を手放した。

 

 

「今日はここまでにしましょうか」

 

マクギリスに似た金髪の男がそう言うと、暗くなってきた森を進んでいた三台の馬車が動きを止めた。

 

止まった馬車から人が降りていき、火を()いたり、夕飯の準備を始めたりして、皆が一斉に働き出す。

 

俺も馬車を降りて、一度大きく伸びをした後、森の奥へと歩き出した。

 

「オルガ、どこ行くのさ?」

 

俺に気づいた冬夜がそう声をかけてくる。

 

「便所だよ!」

「そう、わかった。あんま離れすぎないでよ」

「分かってるっつーの」

 

俺はそう言って、再度歩き出した。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「何者かが複数、近づいています」

 

オルガが用を足しに行ってから数分後、ミスミドの兵士の一人が立ち上がり、そう言った。

 

「おそらく、街道の盗賊でしょう」

 

ミスミドの兵士隊長ガルンさんがそう予想する。

僕もスマホで盗賊を【サーチ】してみる。

 

すると、スマホの地図上にいくつかのピンが表示された。しかし、妙なことが一つあった。

 

「……あれ?僕の隣にも盗賊が一人いる」

「それ多分、俺だ」

 

僕が疑問に思ったことを口にすると、僕の隣にいたミカさんがそう発言する。

スマホの地図上のピンは確かにミカさんを示していた。

ミカさん曰く、「鉄華団も盗賊みたいなもんだから」とのこと。じゃあ……。

 

「【エンチャント:マルチプル】……【パラライズ】!」

 

僕は連続詠唱省略魔法【マルチプル】をスマホに【エンチャント】させて、マルチターゲットの機能をスマホに追加。そして【サーチ】で表示されているミカさん以外の盗賊を選択して、【パラライズ】で麻痺させた。

 

すると、周りの森からは盗賊であろう者たちの悲鳴が聞こえてきた。

 

「うぐっ!」

「ぬあっ!」

「ぎゃっ!」

「うわっ!」

 

その悲鳴を聞きながら、僕はある事を失念していることに気がついた。

ミカさんが盗賊として認識されたのだから、当然 森の奥へ用を足しに行ったオルガも盗賊の一人として認識されているはずだ。

しかし、僕はミカさん以外の全ターゲットに【パラライズ】をしてしまった。

 

ということは…………。

 

「ヴァアアアアアア!!」

 

やっぱり、オルガも【パラライズ】に巻き込まれていた。

 

 

 

 

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

それから数日間は何事もなく、平和な旅路が続いた。

 

しかし、国境を越えてミスミド王国へ差し掛かった頃、急に森の動物たちが騒ぎ出した。

 

「何か、大きなものが来ます!」

 

ミスミドの兵士の一人がそう言って、空を見上げる。

 

「あれは何だ?ドラゴンか?」

「まさか!?ドラゴンがこんなところにいるはずが……」

 

俺たちも皆と同じように空を見上げる。

空を飛ぶそいつを見て、冬夜も俺も驚きの声を上げた。

 

「あいつは、あの時の!」

「モビルアーマーじゃねぇか!!」

 

俺たちの真上にいたのは以前、旧王都で倒したはずのモビルアーマーだった。

 

前回、リンゼの【エクスプロージョン】を喰らった後、壊れた部品が妙に少ないと思っていたのだが、やはり仕留め損ねていたようだ。

 

 

「あいつ、エルドの村に真っ直ぐ向かってるぞ!」

 

冬夜がスマホで地図を確認しながら、そう叫んだ。

モビルアーマーは人工密集地を優先的に狙うようにプログラミングされている。

この辺りで一番人が密集しているエルドの村をターゲットに選んだのだろう。

 

このままじゃエルドの村が崩壊するぞ!

 

 

「ユミナと、騎士団の皆さんはここで待ってて下さい!」

「モビルアーマーと戦った経験があるのは俺たちだけだ。だから俺たちだけで様子を見てくる!」

 

冬夜の言葉に続けて、俺も両国の騎士団へ命令する。

 

無駄に人を引き連れて行って、被害が増えるのは勘弁だからな。

 

「よし、エルドに向かおう!」

 

 

エルドの村に辿り着くと、村はすでに炎に包まれていた。

 

「村人の避難を優先させろ!」

 

俺たちに着いてきたごく一部の騎士団員が村人の避難誘導を始める。

 

 

「どうする、オルガ?」

「まずはモビルアーマーを村から離さなくちゃなんねぇ!なんとかしてあいつを引きつけるぞ!」

「わかった!【光よ穿(うが)て、輝く聖槍(せいそう)、シャイニングジャベリン】!!」

 

冬夜は俺の指示を聞いた後、モビルアーマーへ魔法を放ち、やつの注意を引く。

 

「琥珀!!」

 

次に琥珀を大虎サイズで呼び出し、モビルアーマーを引き付けながら、逃げる。

 

モビルアーマーが砲撃。その方角には……リンゼがいた!危ねぇ!

 

「リンゼ!」

「は、はい!」

 

冬夜がリンゼの手を引いて、琥珀の背に乗せ、再び逃げる。

 

「いいぞ……ついて来い!」

 

 

村から充分に離れたところまで、モビルアーマーを誘導出来た。

よし!ここなら、ミカを暴れさせられる!

 

「【ミカァ!】」

 

自らの魔力のほとんどを使って、『ガンダム・バルバトス』をLv7で召喚する。

『ガンダム・バルバトス』はLv7で、機体名称が変化する。

俺が限界の魔力で召喚したこいつの名は『ガンダム・バルバトスルプス』。

こいつならモビルアーマーと渡り合える!

 

 

召喚した瞬間、モビルアーマーに出鼻をくじかれたが、ミカのバルバトスルプスはすぐに持ち直し、反撃に打って出た。

 

バルバトスルプスはその手に持つソードメイスでモビルアーマーを叩いては離れ、叩いては離れとヒット&アウェイを繰り返す。あまり決定打は与えられていないようだが……。一応、今はバルバトスルプスが優勢だ!

 

しかし、そのバルバトスルプスの猛攻も長くは続かない。

バルバトスルプスが離れたタイミングを狙い、モビルアーマーが砲撃を放つ挙動を見せた。

 

「【水よ来たれ、清洌(せいれつ)なる刀刃(とうじん)、アクアカッター】」

 

モビルアーマーが砲撃を放ったのと同時にリンゼも魔法を放つ。リンゼの【アクアカッター】がモビルアーマーのビームの軌道を変化させた。

 

モビルアーマーはその後、何度も砲撃を放つが、攻撃を捨て、回避に専念したバルバトスルプスにモビルアーマーの攻撃が当たることは無かった。

 

だが、反撃に打って出なければ、勝機はない……。

 

 

そんな時、冬夜が何か閃いたようなので、俺は冬夜に賭けてみることにした。

 

「エルゼ、八重!時間を稼いでくれ!」

「わかったわ!」

「了解でござる!」

 

「リンゼは大きな氷の防御壁を僕の方に!琥珀はリンゼを守れ!」

「はい!」

「御意!」

 

 

モビルアーマーの砲撃を避け続けるバルバトスルプスだったが、モビルアーマーの尻尾が伸びてきて、バルバトスルプスを突き穿つ。

 

「あっぶねぇ……なあ!!」

 

モビルアーマーの尻尾がバルバトスルプスのコクピットに突き刺さるが、ミカとバルバトスルプスは止まることを知らない。

 

モビルアーマーを左腕で殴り付けた後、バルバトスルプスは後退するが、モビルアーマーの尻尾がバルバトスルプスを追尾して来る。

 

九重真鳴流(ここのえしんめいりゅう)奥義・龍牙烈斬(りゅうがれつざん)!」

 

その時、ものすごい勢いで飛び出してきた八重が刀でモビルアーマーの尻尾を一刀両断した。

 

「必ッ殺ッ!キャノンナックル!!」

 

続けて、エルゼが右手のガントレットをロケットパンチの要領で飛ばし、モビルアーマーを攪乱する。

 

「二人共やるじゃん」

「行くわよ!三日月!」

「冬夜殿に言われた通り、時間を稼ぐでござるよ!」

 

 

「【氷よ来たれ、永遠(とわ)氷壁(ひょうへき)、アイスウォール】」

 

リンゼが魔法で分厚い氷の壁を作り上げる。

 

「【モデリング】、【エンチャント:グラビティ、プロテクション】!!」

 

冬夜はその氷の壁の形状を【モデリング】で変化させて、巨大な両刃の剣を作り、【グラビティ】を【エンチャント】することで重さを、【プロテクション】を【エンチャント】することで耐久度を底上げする。

 

「ミカさん!」

「借りるよ!」

 

冬夜が作った巨大な両刃の剣『バスターソード』を受け取ったミカは、モビルアーマーの砲撃を避けながら、全速力で近づいていく。

そして、目にも止まらぬ勢いでモビルアーマーを何度も叩き伏せる。

 

「あんな技、見たことないわ!」

「あれは……!?」

 

あれは、試し斬りだ。今、ミカは冬夜の作ったバスターソードの使い勝手を確認しているんだ!

 

「ちょうどいい、これなら……殺しきれる!!」

 

ミカのバルバトスルプスがバスターソードを水平に構え、そのままモビルアーマーへと突き刺した。

 

そして……モビルアーマーは、完全に機能を停止した……。

 

 




読んでいただいてありがとうございます!

皆さんのおかげで日間ランキング入りしました。本当にありがとうございます!
ウィンターさんにランキング入りを報告したところ「めでてぇ」とコメントを頂きました。
これからもこの調子で頑張っていこうと思います!

……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。


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異世界オルガ7

モビルアーマーを倒した後、バルバトスルプスのコクピットからミカが降りてきた。

 

ミカは地面へ着地しようとしたが、失敗して転倒する。

……ん?何か、ミカの様子がおかしい……!?

 

「どうした!ミカ!」

「何か、足が動かなくなった……」

「なっ!?」

 

生前もバルバトスの性能を限界まで解放した時に同じような事が起きた。

生前は右半身を失ったのだが、今回は下半身が動かなくなったようだ。

 

だが、そうなる事は予想済みだ!対策案も考えてある!そう、この異世界には魔法がある!

 

「冬夜!」

「任せて!【リカバリー】!」

 

冬夜が【リカバリー】をかけると、ゆっくりとミカが立ち上がった。

 

「おお……!ミカ……!」

「やっぱり、あんたなら出来ると思ったわ!」

「無属性魔法、全部使えますもんね!」

「さすがは冬夜殿でござる!」

 

エルゼやリンゼ、八重も俺と同じようにミカの回復を喜んだ。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

モビルアーマー撃破から数日後、ついにミスミド王国の王都へと到着した。

 

馬車から降りて、真っ白な宮殿へと入っていく。

大理石で出来た長い廊下を進んでいくと、奥には大きな扉があった。

 

「どうぞ、お入り下さい」

 

ミスミドの兵士がそう言って、大きな扉を開ける。

そして、俺たちは謁見の間へと足を踏み入れた。

 

 

謁見の間の奥の少し高くなった玉座にこの国の王────獣王が座っていた。

 

俺たちは全員、獣王の前に片膝をつき、頭を垂れる。

 

「オリガ・ストランド、ただいまベルファストより帰還致しました」

「うむ、大義であった。……それで、そなたたちがベルファストの使いのものか。なんでも旅の途中、エルドの村の襲った竜を討ったとか」

「竜じゃなくて、モビルアーマーだ」

 

俺は獣王の言葉を訂正する。

俺の獣王への態度に対し、冬夜は頭を抱え、エルゼたちは唖然(あぜん)としている。そしてミスミドの宰相たちは怒りを(あらわ)にした。

 

「獣王陛下になんと言う口の聞き方だ!」

「良い。……そうか、そなたが竜を討った勇者か!ハッハッハッハ!久しぶりに血が(たぎ)るのう!どうだ、ひとつ儂と立ち会わんか?」

 

どうやら、この国の王は血気盛んな性格のようだ。

……あと、竜じゃねぇって言っただろうが……。まぁ、それはどうでもいいか。

 

「……わかった」

 

俺は獣王による決闘の申し込みを受けることにした。

 

 

そして、俺と獣王は王宮の裏手にある闘技場へとやって来た。

 

俺は審判役から木剣と盾を渡されたため、とりあえず、受け取っておいた。

……まぁ、使うつもりはねぇけどな……。

 

「勝負はどちらかが真剣ならば致命傷になるであろう打撃を受けるか、あるいは自ら負けを認めるまで。魔法の使用も可。ただし、本体への直接的な攻撃魔法の使用は禁止。双方よろしいか?」

 

……魔法の使用も可。本体への直接的な攻撃魔法の使用は禁止。……つまり、召喚魔法は使用可能だな!

 

「ハッハッハ、手加減は無用!」

「あんた、正気か?」

「実戦と思ってあらゆる手を使い、儂に勝ってみせるがいい!」

 

……なら、お望み通り手加減なしで行くか!

 

「ミカァ!やってくれるか?」

「いいよー」

 

 

「では、始めっ!」

「【ミカァ!】」

 

俺は審判の合図と同時に『ガンダム・バルバトス』をLv1で召喚する。

急に地面から出てきたバルバトスに獣王は驚き、慌てふためき、そして……待ったをかけた。

 

「ちょっと待った!なんだ今のは!」

「『ガンダム・バルバトス』……こいつの名前だって」

「いやいやいやいや!もう一回だ!次はその魔法なしで!」

 

……全く、注文の多い獣王様だな……。

 

 

Take2

 

「あの魔法は禁止だからな!」

 

獣王が念を押す。……わかってるっつーの。

 

「始めっ!」

 

パンパンパン

 

ミカは審判の合図と同時に、銃を構え、銃弾を獣王に叩き込む。

 

……おいおい。あれは死んじまったんじゃねぇか……。

 

「【リカバリー】」

「……なんだ今のは!」

 

冬夜が【リカバリー】をかけて、獣王が生き返った。

 

「よかった……。殺さないようにって難しいな……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

僕たちは、獣王陛下の(はか)らいで、ミスミドに何日間か滞在することになった。

 

その滞在期間中、僕は自分用に新しい武器を作っていた。

 

スライム城でオルガが、獣王陛下との決闘でミカさんが使った銃を僕も欲しいと思ったからだ。

 

僕は生前にも、じいちゃんや組長(オヤジ)さんに銃を見せてもらったことがある。小さい頃はその銃を分解して遊んでいたため、銃の構造もわかっている。

 

わからないところもちょっとあったので、そこはスマホで調べて、銃の部品を一つ一つ【モデリング】で作っていき、組み上げた。

 

「よし、完成!」

 

僕は完成した銃の試し撃ちをする。

 

パン!

 

「う"う"っ!」

 

僕が木に向けて放った銃弾は木には当たらず、木の向こうを歩いていたオルガに当たった。

 

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

また、オルガが死んでる(笑)

 

まぁ、それはどうでもいいんだけど……なんで外したんだ?

 

僕は自分が作った銃の銃口を覗いてみて、あるモノが無いことに気付いた。

 

「あっ、ライフリングがない……」

「何やってんだぁぁっ!!」

 

ライフリングとは銃口の内側にある螺旋状の溝のことだ。それがないと、銃弾に回転がかからず、真っ直ぐ飛んでいかないのだ。

僕は【モデリング】でライフリングをつけ加えて、再び銃の試し撃ちをした。今度は大丈夫だ。

 

 

「何を作ったんですか?冬夜さん」

 

先ほどの発砲音とオルガの叫びを聞いて、買い物から帰ってきていたユミナとリンゼが様子を見にきた。

 

ちなみにエルゼと八重は、ベルファスト王国第一騎士団とミスミド兵士隊の合同訓練に参加しているため、ここにはいない。

 

「これは銃って言ってね。遠距離攻撃の武器なんだ」

「オルガさんや三日月さんも使っていましたね」

「それで、この銃の名前はなんと?」

 

僕が銃の説明を二人にすると、僕が生前見ていたアニメ『けものフレンズ』のサーバルちゃんのような顔をしたリンゼが僕にそう聞く。

 

一応『レミントン・ニューモデルアーミー』という銃をモデルに作ってはいるが、連射性が欲しかったためシングルアクションをダブルアクションに変えたり、接近戦も行えるよう、【ブレードモード】、【ガンモード】の詠唱で銃に取り付けたナイフが伸縮するように【プログラム】したから、本来の『レミントン・ニューモデルアーミー』とは別物なんだよな……。

 

「う~ん。『ブリュンヒルド』とかにしとこうかな」

「は?」

 

オルガ曰く、僕のネーミングセンスは悪いらしい。

 

 

 




生前のスマホ太郎について知りたい方はイセスマ原作『#447 過去、そして番外編。』をなろうで是非ともご一読ください。


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異世界オルガ8

元動画のアバン(スマホ太郎が風呂に行こうとして、榊遊矢に会うところ)がどうしても小説で補完・再現出来ませんでした。すいません。



ミスミドから帰ってきて数日が経った。

 

自分の部屋からリビングに出てきて、ふと庭を見るとまた何かを作ってる冬夜がいた。いつの間にか来ていた公爵もそれを見ている。

 

「よぉ、公爵。あんた仕事はいいのか」

「おお、オルガ殿か。お邪魔してるよ。ミスミドの件の礼に来たのだ」

「そうか。で、冬夜は何作ってるんだ」

「自転車だよ」

「……じてんしゃ?」

 

どうやら冬夜はなにか乗り物を作ってるらしい。

 

 

三十分くらい経った後、その乗り物は完成した。

乗り手がペダルを回すことで、車輪の方も回転して進むことが出来る乗り物のようだ。

 

その自転車に興味を示した公爵は冬夜から乗り方を教わっている。

 

 

その時、俺は全く別の事を考えていた。

それは俺自身についての事だ。

 

俺はこの異世界に来てから、死ぬ確率が非常に多い。

普通なら怪我程度で済むような場合でも、意識が朦朧(もうろう)としてきて、死にそうになり、復活の呪文を唱えている。

 

最初に疑問を感じたのはスライム城でたらいが落ちてきた時だ。たらいが頭に当たった程度で死んでしまうなどあり得ない。

その後も、冬夜の【パラライズ】やブリュンヒルドのゴム弾を食らった時も、普通なら麻痺や怪我で済むはずなのに、俺は死にそうになった。

 

……この自転車は、実験にちょうどいいかも知れないな……。

 

俺は公爵が練習している自転車にぶつかりにいった。

 

「お、おぉっ!おぉ、おぉぉおおぉ!あぁ~!」

「う"う"っ!」

 

シャカリキクリティカルストライク!

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

やはり、俺は死んだ。

 

 

「叔父様!?」

「なにそれ?」

「……乗り物……?」

「なんと、奇妙な……」

 

リビングから出てきた四人は自転車の練習をする公爵を最初は奇妙な目で見たが、その後、すぐに自分たちも乗ってみたいと言い出した。

 

 

「真っ直ぐ前向いて」

「は、はい……きゃっ!」

「おっと、セーフ!」

 

……冬夜がリンゼに甘いな……。

 

エルゼは公爵同様、一人で何度も転びながら、練習している。八重は部品が足りず、もう一台の自転車が作れなかったため順番待ち。

 

ユミナは……。

 

「ど~ですか~冬夜さ~ん!もう庭を回ることも出来ますよ~!」

 

もう乗れてんじゃねぇか……。

 

「ユミナは呑み込みが早いな」

「えへへ……」

「……冬夜さん!私も、こんなに!」

 

冬夜に褒められているユミナに嫉妬したからか、リンゼが急に自転車に乗れるようになった。

それに対抗するようにエルゼもリンゼと並走する。

 

「お姉ちゃん!?」

「い、意外と簡単に乗れるわね~これ!」

「……私だって!」

 

あいつら、前を見てるようで見てないな。

……完全に冬夜に褒められたいっていう欲望に任せて、乗ってやがる。

一応、よみがえるための呪文を唱えながら、注意喚起してみるか……。

(この時の俺にはなぜか、避けるという選択肢が頭になかった)

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!】」

 

エルゼとリンゼが乗る自転車の進む先に居た俺とぶつかって、二人は転倒し、俺は……。

 

「きゃっ!」

「うわっ!」

「う"う"っ!」

 

シャカリキクリティカルストライク!

 

やはり、希望の花が咲いた。

 

「【……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

実験結果……俺は死を引き寄せる運命にあるらしい。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「すいません、ミカさん。買い物に付き合ってもらっちゃって」

「別にいいよ。冬夜は俺の足を治してくれたし」

 

僕とミカさんは、足りなくなった自転車の部品を買いに町へ出ていた。

 

「……それに、オルガもなんか考え事してたから……こういう時は、俺はオルガの近くにいない方がいいんだ。俺がいるとオルガは止まれない」

「そうなんですね……」

 

確かに、今日のオルガは変だった。

自転車の練習をしてるところに、急にぶつかりにいって、一人で死んでた。

オルガが死ぬのはいつものことだけど、今日はいつも以上に様子がおかしかった。

 

そんなことを考えながら歩いていたら、ドン、と人にぶつかってしまった。ボーイッシュな子供の女の子だ。

 

「っと、ゴメンよ。前を見てなかった」

「ボケっとしてんなよ、兄ちゃん。気をつけな」

 

女の子がこういう言葉使いなのは、どうなんだろう。

そう思いながら、女の子の後ろ姿を見ていると、ミカさんが僕の袖を引っ張った。

 

「どうしました。ミカさん」

「あいつ、スリ」

「えっ!?」

 

僕がポケットの中に、手を入れてみると、そこにあるはずの財布とスマホがない。

スリの女の子は、僕らが気づいたのを見て、慌てて逃げ出した。

 

「あっ!?待て!」

 

 

スリの少女が逃げた路地裏を進んでいくと、ガラの悪い男の声が聞こえてきた。

 

「また俺たちの縄張りで仕事しやがったな、このクソガキ! テメエのおかげで警邏(けいら)が厳しくなっちまったじゃねえか!」

「好き勝手にやられるとこっちが迷惑なんだよ。覚悟は出来てるだろうな」

 

どうやら、二人のガラの悪い男がスリの少女を寄ってたかって痛めつけてるようだ。

一人がナイフを取り出し、少女の腕を押さえる。それを見て少女の顔が恐怖に染まった。

 

「やめて!勝手にスリしたのは謝るから!」

 

少女は涙を流し懇願(こんがん)するが、二人の男はせせら笑うだけで、押さえる手をどかそうとはしない。

 

「もう遅ぇんだよ」

「いや……いやあぁぁ!!」

「そこまで!」

 

チンピラ二人は声をかけた僕の方を睨んでくる。

少女は涙を流しながら、目を見開いていた。

 

「なんだ、てめぇ!」

「邪魔すんじゃねぇよ!」

「子供を寄ってたかって痛めつけてたら、止めるに決まってるだろ!会話から察するにあんたたちもスリのようだね」

「だったらどうだってんだ!」

「いや、別に。撃つのに躊躇(ためら)いが無くなるな~って思っただけ」

 

僕はそう言って、腰から『ブリュンヒルド』を抜こうとしたが、その前にミカさんが発砲した。

 

パンパン!パンパン!

 

「こいつは死んでいいやつだから」

 

 

ちなみに、助けたスリの少女レネはうちでメイドとして雇うことにした。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「ここがミスミドか!賑やかじゃのう!」

 

冬夜が自転車を作ってから、数日後。

公爵の娘スゥシィがミスミドに行きたいと駄々をこねたため、冬夜の【ゲート】を使って、スゥシィをミスミドへと連れてきた。

 

大勢で行動すると目立つため、ついてきたのは俺とミカに冬夜、スゥシィとユミナ、そしてミスミドの案内役としてオリガの妹アルマの六人だ。

 

「珍しいものが売っておるのう!父上と母上になにかお土産を買っていくのじゃ!……そうじゃ!あの仮面などよいじゃろう!行くぞ冬夜!」

「はいはい」

 

スゥシィが冬夜の手を引いて、走っていく。

ああいうのを見てると、鉄華団の年少組を思い出すな……。いやでも、十才っつーと、クッキーやクラッカの一つ年下か……。そういや、あいつら元気かな……。

 

 

「冬夜さん!あそこにいるの、オリガさんとリオンさんじゃないですか?」

「えっ!?お姉ちゃん!」

 

ユミナがそう言って指差した先には、ミスミド大使のオリガとマクギリス似のベルファスト騎士リオンがいた。

 

「ホントだ」

「デート、ですかね?」

「たぶんね」

「追いかけないと!」

 

アルマはそう言って二人の後を追う。

 

「えっ!?尾行するの?」

「妹として、姉の恋路は知っておくべきです!」

「面白そうじゃ!わらわも!」

 

スゥシィも面白がってアルマの後を追う。

 

「ちょっとスゥ!」

「ったく、仕方ねぇな」

 

俺たちもアルマとスゥシィの後を追った。

 

 

デート中の二人を見失わないように足を早めたアルマが、曲がり角で体格の大きいフードの男性とぶつかってしまった。

 

「おっと、すまんな。怪我はないか?」

「あ、はい。すいません。急いでいたもので……」

 

アルマの手を引いて、立ち上がらせるフードの男を見て、俺と冬夜は驚いた。

 

「獣王陛下!?」

「獣王じゃねぇか!」

「なっ!?冬夜殿にオルガ殿!?それにユミナ王女まで!ベルファストに帰ったのではなかったのか?」

 

 

どうやら獣王は、城下へ気晴らしに来たらしい。

 

「それで、お前さんたちは何をしとるんだ?」

「あれだよ」

 

獣王の質問に対し、俺はデート中の二人を指差して、返答する。

 

「あれは……オリガとベルファストの騎士か……なるほど。そういうことか」

「そういうことです」

 

 

広場のベンチに座ったリオンがオリガの肩に手を回そうとして、引っ込めるという挙動不審な行為を繰り返してる。

 

「すいません、リオンさん。……ちょっとお花を摘みに」

「は、はい」

 

オリガがベンチを離れる。リオンは自身の不甲斐なさにへこたれている様子だった。

 

「情けねぇなぁ、儂が若い頃はもっと男がグイグイと……」

 

獣王が自分語りを始めたとき、何やら騒ぎが起こった。

 

騒ぎのした方を見ると、ガラの悪い男たちが屋台を壊し、店主に暴行を加えていた。

 

「やめろっ!」

「なんだ、てめぇは」

「その人を離せ!一人に対し、寄ってたかって恥ずかしくはないのか!」

 

その騒ぎを見たリオンはチンピラたちを止めに入る。

ユミナ、スゥシィ、アルマもそんなリオンの姿を見て、「お~カッコいい」と騒いでいる。

俺たちがつけてんのがバレるぞ。もっと静かに見守ってろよ。

 

しかし、チンピラ十数人に対し、リオンは一人。

数で勝ってるチンピラが素直に従うわけがねぇ。

 

「この野郎!やっちまえ!」

 

ナイフを構えたチンピラがリオンに襲いかかろうとした。……その時、リオンがこう呟いた……。

 

「バエルを持つ私の言葉に背くとは……」

「は?」

 

リオンはモンタークの仮面を被って、召喚魔法で『ガンダム・バエル』を呼び出し、バエルの力でチンピラをねじ伏せる。冬夜と獣王もスゥシィがお土産用に買った仮面を借りて、参戦した。

 

「見せてやろう!純粋な力のみが成立させる。真実の世界を!」

 

 

そして、チンピラは一人残らず、地面に伏した。

 

「ちょっとやり過ぎましたかね?」

「いや、構わんだろ」

「バエルを手に入れた私は、そのような些末事(さまつごと)で断罪される身ではない」

 

リオン・ブリッツはついに正体を現した。

 

「マクギリスじゃねぇか……」

「リオン・ブリッツです」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

 

 



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異世界オルガ9

「マクギリスじゃねぇか……」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

俺はリオン・ブリッツを名乗るマクギリスに向けて銃を発砲するが、その銃弾はどこからか飛んできたカードによって防がれる。

 

「君の相手は私ではない」

「は?」

 

マクギリスがそう言うと、カードが飛んできた木の陰から隠れていた男がその姿を現す。

 

レディース エーン ジェントルメーン!

 

「俺の名前は榊遊矢!」

 

榊遊矢と名乗った赤と緑のまるでトマトのような色をした奇抜な髪型の少年は、カードを媒体にして、ドラゴンを召喚する。

 

「【吹き荒ぶ次元に垣間見る新たな力!今再び超越(ちょうえつ)せよ!『覇王烈竜(はおうれつりゅう) オッドアイズ・レイジングドラゴン』!】」

 

「何っ!?」

「あれは……?」

 

冬夜もこんな魔物は始めて見るといった様子で驚愕(きょうがく)している。そんな中アルマは……。

 

「カッコいいー!」

 

と叫んでいた。「カッコいいー!」じゃねぇよ……。

 

 

とにかく、このパッと出の意味わからん奴に手間取る訳にはいかねぇ……。

 

俺はユミナにこう声をかける。

 

「ユミナ!たしかお前は召喚魔物が使えたよな!」

「……はい。私の契約している魔物はシルバーウルフですけど」

「そいつを一匹、貸してくれ!」

「いいですけど……何に使うんです?」

「とりあえず、召喚してくれや」

「わかりました。【闇よ来たれ、我が求むは誇り高き銀狼 シルバーウルフ】!」

 

ユミナが銀狼(シルバーウルフ)を一匹召喚し、その銀狼(シルバーウルフ)がオッドアイズ・レイジングドラゴンと対峙する。

……よし、準備完了だ!

 

「俺は、場の銀狼(シルバーウルフ)と手札のミカを融合!【自在に形を変える神秘の渦よ、闇に(うごめ)く亡霊を包み込み、今ひとつとなりて、新たな王を生み出さん!融合召喚!生誕する!『Lv8 ガンダム・バルバトスルプスレクス』!】」

 

「銀狼を融合し、狼の王を生み出したか」

 

マクギリスの言う通り、俺は自身の限界の魔力とユミナの銀狼(シルバーウルフ)を触媒にして、『Lv7 ガンダム・バルバトスルプス』を『Lv8 ガンダム・バルバトスルプスレクス』へと昇華させたのだ。

 

「どうすればいい、オルガ」

「……潰せ」

「うわぁ~~~~!!」

 

榊遊矢はバルバトスルプスレクスに吹き飛ばされ、地面に頭を打ちつけた後、まるでゴムのように、ポン、とバウンドした。

 

 

「さて、腹割っていこうじゃねぇか!大将!」

「……久し振りだね。オルガ・イツカ、そして三日月・オーガス君」

「チョコの人ひさしぶり」

 

榊遊矢(邪魔者)を倒し、改めてマクギリスと対峙する。

 

「なんで、てめぇがここにいる」

「君やそこの望月冬夜君と同じだよ。私もこの異世界に転生した一人さ。さっき倒された榊遊矢もね。私と君たちの違う点は、転生時に記憶を失ってしまったことくらいか……」

 

 

マクギリスの話によると、マクギリスはガエリオ・ボードウィンによって殺された後、気がつくと記憶を失ってベルファストの王都に倒れていたらしい。

 

そして、同じく隣で倒れていた榊遊矢と共にベルファスト王国の将軍 レオン・ブリッツに拾われ、マクギリスはブリッツ家の養子として迎え入れられた。

その時に与えられた名前がリオン・ブリッツだ。

 

その後、リオン(マクギリス)は闇属性の適性があることが分かり、召喚魔法を試したところ、召喚されたのは『ガンダム・バエル』だった。

『ガンダム・バエル』を見た瞬間、前世の記憶がよみがえり、それ以降はレオン・ブリッツの息子リオン・ブリッツとしてベルファスト王国第一騎士団に入団し、力が支配する真実の世界を作ろうと尽力しているらしい。

 

騎士の座につきながらも力で物事を解決する……。

その時、正体を隠すためにモンタークの仮面をつけるのだそうだ。不祥事がバレるとやっかいらしい。

 

 

「じゃあ、オリガとはどういう関係なんだ?」

「オリガ殿はどことなくカルタに似ているんだ……」

「あぁ~、確かに声が似てるかもな」

「そして、オリガ殿の妹君のアルマ殿はアルミリアに似ている」

「最初の二文字だけな」

「カルタとアルミリア……。彼女たちは生前の私が傷つけた女性だ。この異世界では幸せにしなければ、と思ってね」

 

 

……どうやらマクギリスはこの異世界で自分のすべきことが見つかったらしい。

 

だが、俺たちはどうなんだ?

本当にこの世界が俺たちの居場所なのか?

 

 

マクギリスと別れて、スゥシィやアルマを家へ返した後、ベルファストの屋敷へと帰ってくると屋敷の前に一人の少女が立っていた。

その少女を見て、冬夜が少女の名を呼ぶ。

 

「あれ?リーン?」

「遅かったじゃない、冬夜」

「誰なんだよ。そいつは」

「彼女はリーン。ミスミドの妖精族の(あるじ)だよ」

「火星の王か!」

「ちがうよ」

「……なんだよ」

 

 

リーンとかいう妖精の王は、俺たちにとある依頼をしに来たらしい。

 

「それで、僕らに依頼ってなんなのさ?」

 

ユミナたち四人を呼び、皆がリビングに集まったところで冬夜がリーンにそう聞いた。

するとリーンは冬夜にこう質問を投げかける。

 

「貴方【ゲート】は使えるのよね?」

「使えるよ。一度行ったところにしか跳べないのが難点だけどね」

「無属性魔法【リコール】って知ってる?他人の記憶を読み取る魔法なんだけど、この【リコール】と【ゲート】を併用すれば、読み取った他人の記憶からその場所へ跳べるはずよ」

 

そんな魔法があったのかよ……。

もっと早く知ってれば、ミスミドへもその【リコール】で行けたじゃねぇか……。

 

「その【リコール】と【ゲート】を使って貴方に連れていってほしい場所があるのよ。その場所にある古代遺跡に興味があってね」

「その場所というのはどこなんですか?」

「遥か東方の島国、イーシェン。そこの……八重、だったかしら?その子がイーシェンの生まれでしょう」

 

……そういうことか。八重の記憶を【リコール】で読み取ってイーシェンへの【ゲート】を開き、その国にある古代遺跡まで連れていってほしいというのがリーンの依頼らしい。

 

 

話している間に日も落ちて夜になってきたので、リーンは屋敷の空いてる部屋に泊まり、イーシェンへは明日の朝に向かうことになった。

 

 

そして朝、イーシェンへの【ゲート】を開くためリビングに集まったとき、俺の顔を見て、冬夜がこう言った。

 

「どうしたの、オルガ。ちょっと顔色悪いよ」

「……なんでもねぇよ」

「こいつ、昨日の夜に酒飲み過ぎたのよ」

 

エルゼの言う通り、昨日の夜はリーンに誘われて俺とミカ、リーン、エルゼの四人で飲みに行った。

その時に少し酒に飲まれてしまい、今の体調は万全の状態ではない。

 

……だが、問題ねぇ。鉄華団でも酒飲んですぐにイサリビを動かすことなんてざらに有った。

 

……こんくらいなんてこたぁねぇ……。

 

「まぁ、オルガが大丈夫って言うならいいけどさ。呪文の詠唱だけは出来るようにしといてよ」

「分かってるっつーの」

 

そして冬夜は【リコール】で八重からイーシェンの記憶を読み取り、【ゲート】を開いた。

 

【ゲート】を抜けると、そこは森の中だった。

冬夜が八重に確認を取る。

 

「【リコール】で思い浮かべた通りの場所だけど、ここがイーシェンなの?」

「間違いござらん!ここが拙者の生まれ故郷イーシェンでござる!実家のある徳川領の外れ、鎮守(ちんしゅ)の森の中でござるよ」

 

どうやら、無事イーシェンに辿り着いたようだ。

ここがイーシェンだと確認出来た冬夜は次はリーンにこう聞いた。

 

「それで、リーンの行きたい古代遺跡って? 」

「場所は分からないの。ただ『ニルヤの遺跡』としか……」

「『ニルヤ』……。うーん、父上なら知っているやもしれませぬ」

「俺たちに辿り着く場所なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇかぎり、道は続くッ……!」

「置いてくわよ!酔っ払い!」

 

エルゼが俺にそう言った。ま、待ってくれ!

 

 

リーンの行きたい古代遺跡『ニルヤの遺跡』の手がかりを探すため、俺たちは八重の実家にやって来た。

しかし、八重の実家には父と兄が居なかった。

八重の母に話を聞くと、どうやら今は徳川軍と武田軍の(いくさ)の最中で八重の父と兄は(いくさ)に出陣しているらしい。

 

「真玄公がなぜ侵略を……?」

「噂では真玄公は病で無くなっており、今は山本完助なるものが武田を裏で操っているとか……」

「なるほど、それで戦況はどうなってるんですか?」

「……我が徳川の砦が落ちるのも……時間の問題だと聞き及んでおります」

「……っ!冬夜殿!また【リコール】とやらで!」

「うん!行こう!」

 

【リコール】と【ゲート】をもう一度使い、俺たちは戦場へとやって来た。

 

戦場では赤い鬼の仮面を被った武田兵と蒼い鎧の徳川兵がぶつかり合っていた。

赤い鬼の仮面を被った武田兵をよく見てみると、あれは人ではなくゾンビであった。

 

冬夜と八重たちは八重の父と兄のいる徳川軍の砦へ【ゲート】で向かい、俺とミカは戦場に残って、徳川の増援として武田兵のゾンビを倒しに向かう。

 

「酔い醒ましにはちょうどいい!行くぞ【ミカァ!】」

 

俺はポケットから銃を取り出しながら『ガンダム・バルバトス』をLv1で召喚し、戦場のど真ん中に飛び込んでいった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

僕らが【ゲート】を抜けると、左頬に刀傷のある青年が僕に剣を向ける。

 

「……っ!何者だ!?武田の手の者か!?」

「違うでござるよ、兄上!」

「……八重!?」

 

八重のお兄さんである九重重太郎さんは自分の妹を見て、ゆっくりと剣を納めた。

 

「八重……本当に、八重なのか?」

「はい!」

 

兄妹の感動の再会を見た後、僕は重太郎さんに気になっていたことを聞いてみる。

 

「ところで、あの鬼の仮面の被った奴らはなんなんです?」

「分からない。あやつらはすでに死んでいるはずなのに……。面を壊せば動きも止まるらしいのだが……」

 

あの鬼の仮面については重太郎さんも知らないらしい。するとリーンがこう言った。

 

「アーティファクト、かしらね?」

「アーティファクト?」

「古代文明の遺産、強大な魔法の道具のことよ。あなたのそれもアーティファクトなんじゃないの?」

 

手に持っていたスマホを指され、僕は思わず誤魔化し、苦笑いを浮かべた。

 

 

「まぁ、なんにしろ仮面の奴らは厄介だ。一気に殲滅した方が良さそうだな」

「そんなことが出来るのか?」

 

不思議そうに重太郎さんが僕を見ているのをよそにスマホで仮面の武田兵を【サーチ】すると、スマホの地図上にピンがストトトトッ、と落ちた。

 

「でも、結構数いるなぁ~。まぁいいや【マルチプル】っと」

「冬夜殿、まさか……」

「【光よ穿(うが)て、輝く聖槍(せいそう)、シャイニングジャベリン】!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「なんだありゃ?」

 

俺とミカが武田のゾンビ兵と戦っていると、空に無数の魔法陣が展開された。

そして、その魔法陣に混ざっている、とある兵器を目にする。あれは……。

 

「……ダインスレイヴじゃねぇか……」

 

俺がそう呟いた瞬間、ミカが急にバルバトスを後退させる。その後、空から【シャイニングジャベリン】とダインスレイヴが落ちてきて、希望の花が咲いた。

 

ヴァアアアアアア!!

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「此度の助太刀、心より御礼申し上げる」

 

砦の天守閣に案内された俺たちは、徳川の領主 徳川家泰(いえやす)にそう礼を述べられた。

その礼に対し、冬夜が答えた。

 

「いえ、どうかお気になさらずに。ですが武田軍があれで引き下がると思いますか?」

「また、態勢を整え攻めてくるやもしれぬ。しかし、此度の鬼面兵と突然の侵略……。噂は本当なのだろうか……」

「噂って、真玄公はもう死んでいて山本完助が裏で糸を引いてるとかいう……」

「そうだ」

「じゃあ、その山本完助を捕らえてしまえば、丸く収まりますかね」

 

冬夜はさも簡単そうにそう発言した。

だが、そういう男はあまり人前に姿を現さないんだよな……。ラスタル・エリオンもそうだった。

徳川家泰(いえやす)は俺が思っていた通りの返答を冬夜に返した。

 

「しかし、完助は本陣の館に(こも)ったきり、姿を見せぬのだ」

「ではその案内、私が務めましょう!」

 

その時、どこからか声が聞こえた。

そして、天守閣の屋根裏から黒装束の女が現れた。

 

 

その女の名は椿。武田軍のくノ一で武田四天王の一人高坂政信からの親書を届けに来たらしい。

その親書によると、山本完助は『不死の宝玉』というアーティファクトを使い、死んだ武田真玄と武田兵たちを操っているのだそうだ。

高坂政信も含めた武田四天王は現在、地下牢へ放り込まれており、徳川に助けを求めて親書を送ったのだという。

 

俺たちは夜になるのを待ってから、椿の案内で敵の本陣へと侵入することにした。

 

 

「リーン、透明化の魔法を頼む」

「透明化じゃなくて、視覚の……。まぁいいわ。【光よ(ゆが)め、屈曲(くっきょく)の先導、インビジブル】」

「お前……消えろよ!」

「消えた!」

 

夜になり、冬夜の【リコール】と【ゲート】を使って、山本完助のいる敵の本陣までやって来た俺たちはリーンの【インビジブル】の魔法で姿を消して、敵の根城へ侵入する。

 

そして、地下牢に閉じ込められていた武田四天王を助け、山本完助のいる天守閣へと向かった。

 

 

「誰かと思ったら、武田四天王の皆さんじゃありませんかぁ。どうやって地下牢から脱出を?」

「テメェに教える義理はねぇよ、さっさとくたばりな!」

 

山本完助のいる天守閣へとやって来ると、すぐに武田四天王の一人 山県政景が完助に斬りかかる。

 

 

しかしその刀は赤い鎧武者に止められた。

 

「御屋形様……」

 

武田四天王の一人 馬場信晴がそう呟く。

じゃあ、あいつが武田真玄か……。

同じく武田四天王の一人 内藤正豊も弱気な声を上げた。

 

「これじゃどうすることも出来ない……」

「御屋形様に刃を向けられないのは分かってるんですよぉ」

 

完助がそう言った瞬間、冬夜が武田真玄に向けて『ブリュンヒルド』を発砲するが、その銃弾は真玄に避けられ、真っ直ぐ俺に向かってくる。

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

Take2

 

「御屋形様に刃を向けられないのは分かってるんですよぉ」

 

完助がそう言った瞬間、ミカが武田真玄に向けて発砲する。

武田真玄は銃弾を喰らい、その場に崩れ落ちた。

 

「なっ!?……なかなかやるじゃないですかぁ。だが、私にはまだこれがある!」

 

完助はそういって、懐からカードを取り出す。

あのカードは榊遊矢が『覇王烈竜(はおうれつりゅう) オッドアイズ・レイジングドラゴン』を召喚したときに使ったアーティファクト『モンスターカード』だ。

 

「【出でよ!『ブルーアイズホワイトドラゴン』!】」

 

だが、こちらにも『モンスターカード』はある!

ミカの『ガンダム・バルバトスルプスレクス』が榊遊矢を倒した後、奴が落としたカードを俺は拾っていたのだ!

 

「【混沌たるこの世の行く末を見極める王よ。未来に流れる血を吸い、竜をも倒す勇者となれ!融合召喚!『DDD剋竜王(こくりゅうおう)ベオウルフ』!】」

「粉砕してくれるぅ~!」

 

『ブルーアイズホワイトドラゴン』と『DDD剋竜王(こくりゅうおう)ベオウルフ』のデュエルは相討ちに終わった。

 

 

Take3

 

「私にはまだこれがある!この『不死の宝玉』があるかぎり、私が死ぬことはない!」

 

完助は目に埋め込まれたアーティファクトを見せつけながらこう続ける。

 

「絶大な魔力と死の力を与えてくれる素晴らしきアーティファ……」

「【アポーツ】」

 

完助が台詞を言い終わる前に、その『不死の宝玉』が冬夜の手の中に吸い込まれる。

 

「えっ!?……貴様いつの間に……!?」

 

あの宝玉が無けりゃ、あいつもただの人だ。

完助へ向けてミカが銃を構え、発砲した。

 

「待っ!?」

 

パンパンパンパン

 

そして、武田軍を操っていた闇の軍師 山本完助はこの世を去った。

 

 

「アーティファクトは貴重な物だけど、これは破壊した方がいいわね」

 

リーンはそう言って、『不死の宝玉』を空へと投げ捨て、それを冬夜が『ブリュンヒルド』で撃つ。

しかし、その銃弾は『不死の宝玉』に当たらず、ロフテッド軌道(高高度に達してから、落下する軌道)を描いて、俺に着弾した。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 




冬夜がダインスレイヴを使えた理由は第3章で明らかになります。お楽しみに。



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異世界オルガ10

八重の父 九重重兵衛から『ニルヤの遺跡』の場所を聞き、俺たちは遺跡の近くの孤島へとやって来た。

 

どこまでも広がる青い海と白い砂浜、そして海で波乗りするバルバトス……。は?

 

「何やってんだ、ミカァァァ!!」

「ミカさんがはしゃいでる……」

「……俺が、楽しんでる?まぁいっか」

「うーん、でも遺跡の調査が目的だし……」

「私はちゃんと調査もしてくれるなら別に構わないわよ」

「そう?じゃあせっかくだし、楽しんじゃいますか!」

 

ということで、俺たちは遺跡の調査の前に海で遊ぶことになった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

僕らは【ゲート】で水着を買いに行くついでに王様や公爵たちにも声をかけた。

するとみんな暇なのか二つ返事でついてきた。

 

僕も水着に着替えて準備体操をしていると、後ろから声をかけられた。

 

「冬夜さん!どうでしょうか?」

 

そこにいたのは水着に着替えたユミナたち四人だった。

 

「うん、みんな似合ってるよ!」

「ありがとうございます!」

 

 

その後、少しみんなと話していたが、「時間がもったいないから早く遊びましょ」とエルゼが言って、みんな海の方へ走っていった。

 

 

「冬夜!」

「冬夜兄ちゃん!」

 

次にスゥとレネが水着に着替えてやって来た。

 

「どうじゃ?わらわたちの水着は」

「うん、可愛いよ!」

「ねぇ、冬夜兄ちゃん!海ってすごいんだね!こんなにおっきいんだ~!」

「レネは海を見るのは始めてなのか?」

「うん!たくさん砂を持って帰って忘れないようにする!」

 

砂って甲子園じゃないんだからさ。

僕は荷物の中に入れてあったスマホを取り出して、カメラアプリを立ち上げながらレネにこう言う。

 

「こっちの方がすぐに思い出せるよ」

 

パシャ!

 

そうして撮った写真には…………以前ミカさんとオルガが倒した榊遊矢の霊が写っていた……。

 

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!

 

スゥとレネがユミナたちと海で遊んでいるのを眺めていると、オルガの声と銃声が聞こえた。

なんだ?またオルガが死んだのか?

 

僕は声と銃声がした方へ様子を見に行くと、そこではベルファスト国王陛下とオルトリンデ公爵、レオン将軍そしてオルガが競泳をしていた。

先程の銃声はスタートピストルの音だったようだ。

 

「兄上にはなんとしても負けませぬぞ!」

「ベルファスト国王としての意地、ここで見せる時!」

「はーっはっはー!話になりませぬな!」

「その先に俺はいるぞ!」

 

あの人らいっつも元気だな……。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

冬夜が遺跡を【サーチ】で調べたところ、スマホの地図上でピンが示したのは俺たちのいる砂浜から100メートルほど先の海の中だった。

それを見たリーンがこう呟く。

 

「遺跡は完全に海の底ってわけね……。さて、どうしましょうかね」

「前にオルガが言ってた」

 

ミカはそう言って、イーシェンに旅立つ前日の酒の席の話を持ち出してきた。

 

《遺跡だかなんだか知らねぇが、俺が連れてってやるよ!》

《何言ってんのよ……》

 

「連れてってくれるんだろ?オルガが」

「あれは酔っ払った勢いでだな……」

「ダメだよオルガ。俺はまだ止まれない」

「勘弁してくれよミカ……」

 

俺がそう言うと、ミカは俺の胸ぐらを掴んだ。

 

ピギュ

 

「ねえ、連れてってくれるんだろ」

「放しやがれ!!」

 

俺はミカを払いのけて、自暴自棄になってこう叫んだ。

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!連れてきゃいいんだろ!!お前を、お前らを俺が連れてってやるよ!!」

 

ヴァアアアアアア!!

 

俺は叫びながら、海へと潜っていく。

そして、海底遺跡が見えてきたところで息が続かなくなり……希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

俺が意識を取り戻すと、冬夜とリーンが海底遺跡にどうやって行くかを話し合っていた。

他の皆は遊んでいる。

 

「ねぇリーン、海の中で活動出来る魔法ってないの?」

「聞いたことはあるけど、興味なかったから覚えてないわ」

「そこは覚えといてくれよ……」

(あるじ)!」

 

冬夜とリーンの会話に琥珀が割って入る。

 

「水中で活動したいのですか?」

「何かいい方法ある?」

「あらゆる水を操り、(あるじ)たちの悩みを解決出来る者に一つ心当たりが」

「誰なんだよ。そいつは」

 

俺がそう聞くと、琥珀は自信満々にこう答えた。

 

「この白帝(びゃくてい)と同格の存在、玄帝(げんてい)です!」

 

 

ということで、俺たちは何があるかも分からない海底遺跡を調べるためだけに北を守護する神獣『玄帝(げんてい)』を召喚することにした。

 

「【冬と水、北方と高山を司る者よ、我が声に応えよ。我が求めに応じ、その姿をここに現せ!】」

 

冬夜が玄帝の召喚詠唱を唱えると魔法陣から黒い大蛇に巻きつかれた巨大な亀がその姿を現した。

 

「あっらぁ? やっぱり白帝(びゃくてい)じゃないのよぅ。久しぶりぃ、元気してた?」

「久しぶりだな、玄帝(げんてい)

「ん、もう、「玄ちゃん」でいいって言ってるのにぃ、い・け・ず」

 

軽いな……。なんだこの蛇。喋り方が元のグシオンのパイロットに少し似てる。誰だっけなあいつ……。……そうだ!ブルワーズのクダル・カデルだ!

 

……そういえば、俺の召喚魔法って昭弘と『ガンダム・グシオンリベイク』も召喚出来るのか?

 

「それでそちらのお兄さんはぁ?」

「我が(あるじ)、望月冬夜様だ」

(あるじ)じゃと?」

 

ギョロッと亀の方が値踏みをするような視線を冬夜に向 ける。その容貌から厳ついおっさんか爺さんの声を想像していたが、聞こえてきたのは女性的な声だった。若干キツめの印象ではあったが。

 

「このような人間が(あるじ)とは……落ちたものだな、白帝(びゃくてい)よ」

「何とでも言うがいい。じき、お前たちの(あるじ)にもなられるお方だ」

「……よかろう、冬夜とやら。お前が我らと契約するに値するか、試させてもらう」

「いいけど、何すんのさ?」

「我らと戦え。日没までお前が五体満足で立っていられたのなら、力を認め契約をしようではないか」

「わかった。じゃあやろうか」

 

冬夜はそう言って、『ブリュンヒルド』を構える。

そして【スリップ】の効果が切れるのをスイッチにして別の【スリップ】が発動する自己保持回路を【プログラム】して、銃弾に【エンチャント】し、発砲した。

 

その時、俺は悟った。冬夜との付き合いも長くなってきて、あいつが何を考えているのかがなんとなく分かるようになってきた。……分かりたくはねぇがな……。

 

あいつが今、しようとしているのは『神獣虐待』だ!

 

俺は気がつくと、玄帝(げんてい)を庇って銃弾を受けていた。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!

 

「俺は止まれねぇからよ、お前が止めねぇかぎり、俺は回り続けるッ!……だからよ、止めて……くれよ……」

 

俺は無限【スリップ】を受けながら、冬夜に止めるように頼むが冬夜は……。

 

「なwにwやwっwてwんwのwwwオルガwww」

 

と笑い続けている。うぜぇ……。

 

 

そんな俺の姿を見た玄帝(げんてい)は冬夜に畏れを抱き、冬夜との契約を認めた。

 

そして、冬夜は俺を無視して、玄帝(げんてい)と共に海に潜って行った。

 

「……止めて……くれよ……」

 

 

その後、俺は無限【スリップ】を抜け出すために……自ら銃を俺に向けて撃ち、希望の花を咲かせた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 



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異世界オルガ11

「海に潜ってから、大分経つけど……冬夜さん、大丈夫……かな?」

 

冬夜が海底遺跡の調査に向かってから数時間が経ち、空が赤みががってきた頃、リンゼがそう呟いた。

国王や公爵たちは皆、冬夜が【ゲート】を【エンチャント】した姿見からベルファスト王都へ帰った。

今、海に残っているのは、俺とミカ、リーンとユミナたち四人の全七人だけだ。

リンゼの呟きに対し、リーンがこう答える。

 

「上がってこないところを見ると、上手くいってるんじゃない?」

 

リーンの言う通り、冬夜なら大丈夫だとは思うがな。

 

そんなことよりも俺はずっと空を眺めているミカの方が気になる。

 

「どうした。ミカ?」

 

俺がミカにそう聞くと、ミカは空を指差してこう言った。

 

「何あれ?」

「ん?」

 

ミカが指差した方向を見ると、空に巨大な岩が浮かんでいた。

 

「何だありゃ?」

「古代文明パルテノの遺産、といったところかしら?」

 

リーンが空に浮かぶ巨大な岩を見てそう言った。

それを聞いた八重はリーンの背中の羽を見て、こう聞く。

 

「リーン殿の背中の羽で飛んでいけないでござるか?」

「無理よ、退化してしまっているから。ちょっと浮く程度しか出来ないわ」

「そうでござるか……」

 

冬夜が調査に行った海底遺跡も気になるが、あの空に浮かぶパルテノの遺産も気になるな。

 

どうしたものか……と考えていたらミカが無邪気な声で俺にこう言った。

 

「オルガ!連れていって!」

「勘弁してくれよ、ミカ……」

「任せて下さい!」

 

リンゼが妙案を思いついたという顔でそう言い、嬉々とした顔で【エクスプロージョン】を放つ。

 

もしかして……。

 

「ま、待ってくれ!」

「【炎よ爆ぜよ、紅蓮の爆発、エクスプロージョン】!」

 

ヴァアアアアアア!!

 

俺は【エクスプロージョン】の爆風で勢いよく空へと打ち上げられ、そして、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

ヴァアアアアアア!!

 

俺は空に打ち上げられながら、よみがえるための詠唱呪文を唱え、空に浮かぶパルテノの遺産を見下ろせる高度まで上昇したタイミングで『ガンダム・バルバトスルプス』を召喚する。

 

「【ミカァ!】」

「慣性制御システム、スラスター全開」

 

バルバトスルプスはパルテノの遺産に落下しながら、腕部200mm砲を収納状態のまま真下に発砲する。

 

パルテノの遺産は下から見ると、ただの巨大な岩であったが、上から見ると、まるで農業用のビニールハウスのように見える。

 

そのビニールハウスの天井を破壊して、バルバトスルプスはパルテノの遺産に突入する。

俺もバルバトスルプスの肩に掴まり、ミカと共にその空中庭園へと降り立った。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

僕は海底遺跡にあった魔法陣に魔力を込めた後、気がつくとここに来ていた。

 

この場所の管理人を名乗る謎のアンドロイド『フランシェスカ』によると、ここはレジーナ・バビロンなる者が造った『バビロンの空中庭園』らしい。

 

「アンドロイドってことはシェスカは機械なのか?」

「全てが機械ではありませンが。魔法で造られた生体部品や、魔力炉なども使われてイルので、魔法生命体と機械の融合体……とでも申しましょウか」

 

そのようにシェスカが話しているとき、シェスカの後ろのガラス張りの壁の向こうに広がる雲海を飛ぶオルガが見えた……。

 

いやいや、オルガが空を飛ぶ訳ないし、多分見間違いだろ……。

 

そう判断して、シェスカとの会話に戻ろうとした時、大きな発砲音が聞こえ、『バビロンの空中庭園』の天井を覆うガラスのドームの一部が割れた。

 

しかし、シェスカは気にせず会話を続ける。

 

「そういえバ、貴方のお名前は?」

「あ、え……えっと、冬夜。望月冬夜だよ」

「望月冬夜様。あなたは適合者としテ相応しいと認められまシた。末永ク、よろしくお願いいタします。マスター」

「えっ?適合……者?」

「あの魔法陣は普通の人では起動出来ませン。多人数での魔力を受け付けるコトが出来ないよウになっているのでス。つまりあの魔法陣を起動しテ、ここに転移出来る者は、全属性を持つ者だけ……。博士と同じ特性を持つ者だけなのでス」

 

そう言いながら、シェスカが魔法陣を指差した瞬間、その魔法陣が『ガンダム・バルバトスルプス』のソードメイスで叩きつけられた。

そして、『ガンダム・バルバトスルプス』の肩に掴まっていたオルガが降りてくる。

 

「オルガ!?」

「なんで冬夜がここにいるんだ?海に潜ったはずだろ」

「海底遺跡がこの空中庭園に繋がってたんだよ」

「お知り合いでスか、マスター?」

「ああ、うん」

「でハ、改めて自己紹介ヲ」

 

そう言って、シェスカはオルガにも僕にしたのと同じ自己紹介をした。

 

「私はフランシェスカ。この『庭園』の管理端末として博士に造られましタ。今から5092年前のことでス」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!」

「そンなことより、マスター。もう一度申しまスが、あなたは適合者としテ相応しいと認められまシた」

「だから、なんの適合者だよ!?わけわからん!」

「火星の王じゃねえか!」

「違いまスよ」

「なんだよ……」

 

がっくり、と項垂(うなだ)れるオルガを余所にシェスカはこう宣言した。

 

「これヨり機体ナンバー23、個体名『フランシェスカ』は、あなたに譲渡されまス」

「いらねえ」

 

うん。僕もいらない。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

フランシェスカとかいうアンドロイドのマスターになった冬夜は【ゲート】でリーンやユミナたちをこの空中庭園へ連れてきた。

 

その後、冬夜とリーンの二人はこの空中庭園の話をフランシェスカから詳しく聞くため東屋(あずまや)に座ったが、特に興味の無い俺とミカ、ユミナたちは思い思いに庭園を見て回っていた。

 

 

俺とミカが庭園を散歩していると、ユミナの声が聞こえてきた。

 

「皆さんで冬夜さんのお嫁さんになりませんか?」

「「「えっ!?」」」

 

ユミナの突然の提案にエルゼ、リンゼ、八重の三人は顔を赤くしたまま固まった。

そして数秒後、最初に元に戻ったエルゼがユミナにこう確認した。

 

「っていうか、ユミナと冬夜が結婚して私も冬夜と結婚したら、私も王女ってことになるの?」

「待ってくれ!」

 

俺は『王』という単語に思わず反応してしまい、ユミナたちの話に割って入った。

ユミナと冬夜が結婚して俺も冬夜と結婚したら、俺も王になれるんじゃねぇか?

 

「王になる。地位も名誉も全部手に入れられるんだ。こいつはこれ以上ないアガリじゃねぇのか」

「よからぬことを考えてはいませんか?」

「すいませんでした」

 

 

そして俺とミカ、ユミナたちは一緒に冬夜とリーン、フランシェスカの元へと戻った。

 

空中庭園についての話は終わり、あとはこのフランシェスカをこれからどうするかという話に移る。

 

「それで、この子これからどうするの?」

「どうするって言ってもな……。シェスカはどうしたい?」

 

冬夜がそう聞くと、フランシェスカは即答した。

 

「私はマスターと共にいたいと思いまス。おはよウからおやすみまデ、お風呂からベットの中まデ」

「お風呂から……ベットの中まで……」

「いや、勝手に言ってるだけだから」

 

フランシェスカのその回答に冬夜は頭を抱え、リンゼは嫉妬する。

俺もフランシェスカのその発言に思わずこう呟いてしまった。

 

「……ここに置いてっちまえばいいんじゃねぇか」

「それだ!」

 

俺のその呟きを聞き、冬夜はフランシェスカにこう言った。

 

「シェスカがここから離れるのはマズいんじゃないのか?管理人不在じゃ何かあったら困るだろ?」

 

しかし、フランシェスカは問題はないといった様子でキッパリとこう答えた。

 

「ご心配なク。『空中庭園』に何かあったラすぐに分かりますシ、私にはここへの転移能力もありまス。管理はオートで充分ですカラ、何も問題はありませン」

「あぁ、そうなの……。……もう引き取るしかないのか……」

 

泣くなよ、冬夜。

 

 

「つきまシては庭園へのマスター登録を済ませテいただきタク。私はすでにマスターの物でスが、庭園もきちんとマスターの物とシなければなりませン」

「登録? どうするのさ?」

「ちょっと失礼しまスね」

 

そう言ってシェスカは椅子に座る冬夜の前へと回り込む。そして冬夜の頬に両手を添えて、なんでもないことのようにそのまま唇を合わせた。

 

♪オ~ルフェ~ンズ ナミダ~♪

 

「ふむッ!!???」

「「「「ああぁああーーーーーーーッ!!!!」」」」

 

ユミナたちの四重奏の叫び声が庭園に響き渡る。俺も嫉妬と憎悪が入れ混じった、今までで一番大きな叫び声をあげた。

 

「何やってんだぁぁっ!!」

 

 

「登録完了。マスターの遺伝子を記憶しまシた。これより『空中庭園』の所有者は私のマスターである望月冬夜様に移譲されまス」

「ちょっとなにしてるんですかぁ!!いきなり、きっ、きっ、キスするとか!私だってまだなのに!私だってまだなのに!!」

 

真っ赤な顔でユミナがシェスカに迫り寄る。小さい腕を振り上げて、ガーッと全身で怒りを表していた。

 

そして、リンゼも険しい顔で腰に手を当て、冬夜の目の前に立った。

 

「……冬夜さん!」

「……っハイ!」

「…………私は、冬夜さんが好き……です」

「は?」

 

俺は怒るだろうと思っていたのだが、リンゼは俺の予想を裏切り、冬夜に告白をした。

 

そしてリンゼは何かを決意したかのように目を(つむ)り、勢いのままに冬夜の唇に自らの唇を押し付けた。

 

♪オ~ルフェ~ンズ ナミダ~♪

 

「っむぐっ!?」

「「「ああぁああぁあーーーーーーーッ!!!!」」」

「何やってんだぁぁっ!!」

 

先程よりも一人足りない三重奏の叫び声と俺の人生最大の叫び声が庭園にこだまする。

 

 

叫ぶ俺とユミナ、エルゼ、八重の中。俺だけがなぜかミカに胸ぐらを掴まれる。

 

ピギュ

 

そしてミカはきわめて冷静にこう発言した。

 

「別に、普通でしょ」

「え"っ!?」

「普通でしょ!」

「……放しやがれ!!」

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございました!

次回の異世界オルガ12は冬夜目線の『Episode of Smartphone』とオルガ目線の『Episode of Orphans』に分けます。次回もお楽しみに!


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異世界オルガ12 Episode of Smartphone

序盤、オルガもミカもいないただのイセスマになってしまった件について



リンゼの告白の後、よくわからないまま僕らはシェスカを連れて、屋敷へと帰ってきた。

 

頭がパニックになっていた僕は、執事のライムさんにシェスカのことを頼んでそそくさと部屋に戻り、頭を抱えてベッドへ倒れこんでしまった。

 

 

《私は、冬夜さんが好き……です》

 

リンゼは確かに可愛い。お(しと)やかだし、物静かで他人を思いやれる子だ。

ちょっと人見知りがあるけど、努力家だし、彼女にするなら文句なしの女の子だろう。

 

だけど、一応、僕はユミナの婚約者という立場だ。

ユミナはユミナで可愛いし、まだ十二歳だというのに歳に似合わず落ち着いていて、頼りがいがある。そのユミナがたまに見せる年相応の仕草や態度に最近ドキッとすることもある。

 

どうしたらいいんだろ……。

 

枕に顔を埋め、ため息をついていると、コンコン、と部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「冬夜さん、ユミナですけど……」

「え!?」

 

ドアを開くと普段着に着替えたユミナが立っていた。なんとなく気まずい。

 

「中に入ってもいいですか」

「ど、どうぞ」

「…………」

 

ユミナは無言のまま部屋に入ると中央に置かれたソファに腰掛けた。

何気なく僕もユミナの正面に腰掛けるが、なぜか視線を泳がせてしまうのは、後ろめたい気持ちが僕にあるからだろうか。

 

「冬夜さん」

「は、はい!」

「私、怒ってますよ?」

 

それはそうだろう。仮にも婚約者という立場のユミナからしたら、僕が他の女の子に告白されて面白いわけがない。

しかし、ユミナが続けて発した言葉は僕の予想の斜め上をいっていた。

 

「私だってまだキスしてもらってないのに、先に二人にも奪われるなんて!」

「えっ!?そっち!?」

「当然です!」

「その……リンゼの告白のことを怒ってるんじゃなくて?」

「リンゼさんが冬夜さんを好きなのなんて見てればわかるじゃないですか!」

 

すいません、見ててもわかりませんでした……。

 

「この際だから言っておきますけど、私は冬夜さんがお妾さんを十人作ろうが二十人作ろうが、文句はありません!それも男の甲斐性だと思ってます」

 

この世界では一夫多妻制も珍しくないらしいが、その考え方はどうなんだろうか?

 

「ですが! でーすーが! 正妻である私がまだしてないのに、キスされるなんて油断しすぎです! 隙だらけです! そこは防御してくださいよー! 完全防御!!」

「いや、でもさ……」

「言い訳禁止!」

「はい……」

「……抱きしめてキスしてくれたら許してあげます!」

 

ちょ! それは難易度高くないですか、ユミナさん!

 

しかしこの場からの撤退は許されない雰囲気だ。……仕方ない。

 

おずおずと肩に手を伸ばして、小さな身体を引き寄せ、僕の顎の下に彼女の頭がくるような形で、しっかりと抱きしめた。柔らかい身体と漂う髪の香りに僕の心臓の高鳴りは止まらない。

 

ユミナは僕の腕の中から少し身を起こすと、顔を上に向け、静かに目を閉じた。

 

僕も覚悟を決めて、ユミナの小さな唇にキスをする。軽く触れ合うだけの、ささやかなキスだ。

唇を離すと、目を開けた彼女がにこやかに微笑み、もう一度強く抱きついてきた。

 

「えへへ。してもらいました! 冬夜さんからしたのは私が初めてですよね!?」

「え? あー……そうか、そうなるのか……」

 

確かにされたのは二回だけど、自分からしたのは初めてか……。

 

僕がそんなことを考えていると、ユミナは嬉しそうな表情を真剣な表情に変えてこう聞いてきた。

 

「それで冬夜さんはリンゼさんのことどう思ってるんですか?」

「どうって……。可愛いと思うし、告白されて正直嬉しかったよ。でも、ユミナのこともまだ決められないのに、リンゼまでとなると……」

「好きか嫌いかで言ったら?」

「それはもちろん好きだよ。大切に思ってる」

 

僕がそう言った途端、腕の中のユミナがニンマリと笑い、部屋の隅に向けて声をかける。

 

「だ、そうですよ、リンゼさん」

「え!?」

 

ユミナが声をかけた場所からぼんやりと顔を真っ赤にしてうつむいているリンゼの姿が浮かび上がった。

 

どうやらリンゼはリーンに頼んで透明化の魔法【インビジブル】をかけてもらい、今までの一部始終を全て聞いていたらしい。

 

「冬夜さんが悪いんですよ? なにも返事してあげないで部屋に閉じこもってしまうんですもの。嫌われた、ってリンゼさん、ずっと泣き続けてたんですから」

「それは……ごめん」

「あ、あの、あのときはすみませんでした。シェスカさんのキスを見たら、負けられないって、思ってしまって……気がついたら、あんなこと……冬夜さんの気持ちも考えずに、ごめん、なさい……」

 

そう言ってスカートを握りしめながら、ぽろぽろと涙を流すリンゼに僕は近寄り、そっと手を取った。

 

「いや、その……さっきも言ったけど、僕はリンゼを嫌ってなんかいない。可愛いと思うし、好きなんだと思う。どうしたらいいのかわからないけど、大事にしたいって思ってるよ」

「冬夜さん……」

 

リンゼが少し笑ってくれた。うん、やっぱりこの子は笑っているときの方が断然似合う。それを泣かせてしまった僕は、エルゼに殴られても文句は言えないな。

 

「お互いの気持ちがわかったところで、どうでしょう。リンゼさんもお嫁さんに貰うというのは?」

「え!?」

 

ユミナがさらりととんでもないことを言い出した。

お嫁さんって……リンゼをですか?

 

リンゼの方を見るとまた真っ赤な顔をしてもじもじとうつむいている。

 

「王族や貴族、大商人とかなら第二、第三夫人とか普通ですし。リンゼさんは問題ありませんよね?」

「わっ、私も、冬夜さんのお嫁さんに、なりたい、です」

「急にそんなこと言われても……」

「……ダメ、ですか?」

 

リンゼが今にも泣き出しそうな顔になる。泣かせちゃいけないと思った僕は慌ててリンゼにこう聞いた。

 

「でも第二夫人とか、リンゼはいいの?それで?」

「……私はユミナと仲良くやっていけると、思ってます。同じ人を好きになって、一緒に幸せになれるなら、こんなに嬉しいことはありません」

「……わかった。ユミナとリンゼがそれでいいって言うのなら」

 

僕はそう言って話を一度終わらせ、二人をそれぞれの部屋へと帰したが、正直言うとまだ迷いがある。

 

……本当にこれでいいんだろうか?

 

 

僕は気分転換するため、ベランダへとやって来た。

 

すると、庭で『ガンダム・バルバトス』の整備をしているミカさんを見つけた。

 

そうだ。ミカさんに相談してみよう。

ミカさんは前の世界でクーデリアさんとアトラさんという二人の女の人に好意を向けられ、それに答えたという話を聞いたことがある。

ミカさんなら、いい答えを出してくれるんじゃないか?

 

「あの、ミカさん」

「ん?あ、冬夜か。何?」

「ちょっと、相談したいことがあるんですけど……」

「…………リビングで待ってて」

 

ミカさんに言われた通り、誰もいない夜のリビングで数分待っていると、『ガンダム・バルバトス』の整備を終えたミカさんが帰ってきた。

「おやっさんがいないと、自分でバルバトスの整備をしなきゃいけないからな……。オルガがおやっさんも召喚してくれればいいのに……」

「はい?」

「いや、こっちの話。それで、相談って何?」

「えっとですね……」

 

僕はミカさんに、ユミナとリンゼのことを話した。

先程、僕の部屋でユミナから言われたこと、リンゼとも話したこと、僕がユミナとリンゼのことをどう思っているのか。そして僕は……これからどうすればいいのか。

 

 

僕が話し終えたあと、ずっと黙って僕の話を聞いていたミカさんがゆっくりと口を開いた。

 

「これは……あんたが決めることだよ。……これはあんたの……これからの全部を決めるような決断だ。……だからこれはあんたが、自分で決めなきゃいけないんだ」

 

そのミカさんの言葉が僕の胸に深く刺さった。

 

……そうだよな。結局、決めるのは僕なんだ。

 

後悔のない決断をしようと心に誓い、僕は寝床についた。

 

 

そして、朝。僕はドアを叩き破るような音で目を覚ました。

 

寝ぼけた目で周りを見渡すと、ベットの横に腕を組みながら僕を見下ろしているエルゼがいた。

 

「ちょっと話があるんだけど」

「えっ?」

 

 

エルゼに連れて来られたのは屋敷の庭だった。

庭では、八重とオルガが僕とエルゼを待っていた。

 

エルゼは八重とオルガのいる場所に並んで立ち、僕と向かい合う。そして、こう話し始めた。

 

「……リンゼをお嫁さんにするんだってね?」

「あー、ハイ。そういうことになりました」

「あんた、リンゼのことどう思ってるの?本当に好きなの?」

「その……愛してるとまではいかなくとも大切にしたいと思ってるのは本当だよ」

「それをあの子は受け入れたの?」

「ああ」

 

僕がそう言うと、エルゼと八重は小さな声で何かを呟く。

その後、エルゼはガントレットを装着し、八重は刀を抜き、オルガは銃をポケットから取り出した。

 

……えっ!?どういうこと?

 

「冬夜。あんたにはこれから私たちと戦ってもらうわ!」

「は?」

 

意味がわからない。なんで僕がエルゼたちと戦わなきゃいけないんだ?

 

「あんたが勝ったらもう何も口を出さない。でも私たちが勝ったら言うことを一つ聞いてもらうわ」

 

エルゼがそう言う。僕がリンゼに相応しい男かどうかを姉であるエルゼが確かめるってこと?

 

でもなんで八重とオルガも?やっぱり意味がわからない。

 

「この刀の刃は落としてあるでござるが、骨ぐらいは折れるから気をつけてくだされよ」

「あんたの『ブリュンヒルド』も【モデリング】で刃を無くしておいてよね。あと攻撃魔法も禁止」

 

向こうはとっくに臨戦態勢だ。こうなったら仕方ない。始まったと同時に【スリップ】で転ばせて早く終わらせてしまおう。

 

「じゃあ覚悟はいいわね」

「ああ」

 

僕が小さく(うなづ)いた瞬間、エルゼが右から、八重が左から僕を攻め、オルガが真っ直ぐ銃口を向ける。

 

「【マルチプル】、【スリップ】!」

 

僕は【マルチプル】と【スリップ】を使い、まとめて三人を転ばせた。

 

「【アポーツ】」

 

そして、【アポーツ】でエルゼのガントレット、八重の刀、オルガの銃を奪い取る。

 

「これで僕の勝ちだ」

 

そう言って、エルゼに『ブリュンヒルド』の銃口を向ける。

すると、エルゼはこう口を開いた。

 

「甘いわね」

「やっちまえ!【ミカァ!】」

 

エルゼの言葉を合図にオルガが『ガンダム・バルバトスルプス』を召喚した。

 

「うげっ!?」

 

ミカさんのバルバトスは反則でしょ!

僕は召喚術士との戦いの定石通り、魔物を無視して、術士を狙い撃つ。

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

オルガはこれで終わり。

しかし、ミカさんの動きは止まらなかった。

 

……そうだった。ミカさんは【トランスファー】で僕の魔力をオルガに分けることで現界させている。

つまり、オルガの魔力と僕の魔力の両方を用いて現界させているのだ。

オルガの魔力供給を断っても、僕の魔力をミカさんが吸って無理矢理現界することは可能だ。

 

僕はミカさんへの魔力供給を断とうと試みるが、やはり僕には魔力の細かい調整は出来そうにない。

魔力調整は諦めてバルバトスに発砲したが難なく避けられ、ツインメイスの餌食となった。

 

ツインメイスの乱撃から逃れられずに僕は息絶えた。

朦朧(もうろう)とする意識の中、ミカさんの声が聞こえる。

 

「殺さないようにって、難しいな」

 

 

 

「というわけで、お前さんは死んでしまった。……まさか、また君たちを迎えることになるとはのう」

 

気がつくと、僕とオルガは神界へ来ていた。

 

……なんでオルガも?よみがえりの呪文で生き返ったんじゃないのか?

 

そんな疑問を余所に、オルガと神様の交渉(?)が進められ、僕とオルガはユミナたちのいる世界によみがえることになった。

 

 

 

「私たちも、ユミナやリンゼと同じ立場に置きなさい!」

「は?」

 

意識が回復して、負けた約束に何を言われるのかと構えていたら、そんなことを言われた。

 

ちなみにオルガはもういなくなっていた。どうやら屋敷に戻ったようだ。

 

「だからでござるな、その、拙者たちも……やっぱり、こういうのはエルゼ殿から!」

「うえっ!?いや、私は……!……と、とにかく、私も冬夜が好きだってこと!」

「拙者も同じで、ござるよ!」

 

顔を真っ赤にして二人とも俯いてしまった。……なんだこれ?

いきなり決闘されたと思ったら、今度は告白された。しかも二人同時に。

 

「ユミナやリンゼと同じ立場にって……それってつまり……」

「拙者たちも、その、冬夜殿のお嫁さんにしてほしい……でござる……」

「っていうか、しなさい! あんた負けたんだから!」

 

それを伝えるためにこの決闘を?オルガはそれを知っていて手伝ったってだけ?

 

「こうでもしないとダメだと思いましたので」

 

その時、屋敷の方からユミナとリンゼがこちらへ向かってきた。

 

どうやらこの決闘はユミナが二人に入れ知恵したことだったらしい。

 

《これは……あんたが決めることだよ》

 

僕はミカさんに言われたアドバイスを思い出す。そしてみんなに向けてこう言った。

 

「ごめんみんな!ちょっとだけ時間をくれないか?ちゃんと考えを整理したいんだ」

 

 

僕は逃げ出すように【ゲート】を開き、『バビロンの空中庭園』へとやって来た。

 

噴水に腰掛けて、昼食のサンドイッチを食べながら、みんなのことをどうするか考える。

 

何分経ったのだろうか?気が付くと、そこにオルガとシェスカがやって来ていた。

 

「こちらにいまシたか」

「ほらな。俺の予想通りだったじゃねぇか」

「オルガにシェスカ?どうしたのさ?」

「こいつがお前のことを探してたぞ」

「え?」

 

どうやらシェスカが僕を探して屋敷を歩き回っていたところをオルガが拾ってここまで連れてきたらしい。

 

「昨日いい忘れていたコトがありまシた」

「いい忘れていたこと?」

「マスターにメッセージがありまス」

「誰からなんだよ。そのメッセージっつーのは」

 

オルガがシェスカにそう聞くと、シェスカはその名を口にした。

 

「レジーナ・バビロン博士でス」

「博士?」

 

 

シェスカの腕から伸びたケーブルをスマホに繋ぐと、一人の女性が写った。

 

その人は白衣を着た二十代くらいの女性で、眼鏡を掛けて、煙草のようなものを咥えていた。髪は長くボサボサで、せっかくのブロンドも台無しといった感じがする。白衣の中の上着とスカートもだらしなく着込んでいて、その無頓着さに拍車をかけている。彼女がこの『バビロンの空中庭園』や『フランシェスカ』を造ったレジーナ・バビロン博士らしい。

 

《やあやあ、初めまして。ボクはレジーナ・バビロン。まずは『空中庭園』及び、『フランシェスカ』を引き取ってくれた礼を述べよう。ありがとう、望月冬夜君》

「……え?」

 

スマホに写る映像の中で博士はそうしゃべり始めた。

 

どういうこと?なんで古代文明時代の博士が、僕の名前を知っているんだ!?

よくよく考えてみると、なぜこのコネクタは僕のスマホと同じタイプなんだ?まるで最初から知っていたかのような……。

 

《わかるよ。君の疑問はもっともだ。それを知りたくなるのも当然だよね。まず、なぜボクが君のことを知っているのか?それはボクが未来を覗くことができる道具を持っているからだ》

 

未来を覗く道具?アーティファクトか?そんなものまで造ってしまうほどの天才なのか……この博士は……。

 

《時空魔法と光魔法を組み合わせて、そこに無属性魔法の……まあ、細かいことは省くが、とにかくそれを使って君のことを見つけた。興味本位で君と君の仲間の冒険を楽しく眺めていたのさ》

「えっ!?全部見てたってことですか?」

「まぁ、これっぽっちも面白くなかったがな」

《一時見えない時があった。未来が不確定になってしまってね》

「不確定に?」

《ああ、突如……まさに突如現れた『フレイズ』が原因さ。君と君の仲間達は『モビルアーマー』と呼んでいたかな。予想できない出現だった。ボクも色々手は尽くしたんだけどね……。結局、パルテノ文明は崩壊してしまったよ》

 

モビルアーマーがオルガたちの世界からこの異世界へやってきたことで、古代文明は崩壊してしまったってことなのか?でもなんでモビルアーマーがこの異世界にやって来たんだ?どうやって?

 

そんな僕の疑問を余所に博士は話を続けた。

 

《ボクの遺産『バビロン』はその『フレイズ』に対抗するために造ったものだった。しかし、ある時を境に『フレイズ』達が世界から消えてしまったんだ。理由は分からないがね。まぁ、そのおかげでまた未来を見ることが出来たわけだ。『フレイズ』がいなくなった今、この『バビロン』は必要なくなったのだが、壊すのももったいないのでね。未来を覗かせてもらったお礼ということで君に託すことにしたんだよ》

 

色々と疑問の残る話ではあったが、博士はこういって話を切り上げる。

 

《では話はこれで終わりだ。またいつか会おう。望月冬夜君》

「は?」

 

「またいつか会おう」という言葉に疑問を覚えた僕であったが、それの説明もないままメッセージは終了した。

 

 

博士の言っていたことも気になるが、今の僕にはそんなことを考えている余裕はない。

ユミナやエルゼたちのことの方を考えるのに手一杯だ。

 

「う~ん。ミカさんには自分で考えろって言われたけど、やっぱり誰かに相談してみようかな」

「じゃあ、あの爺さんに相談してみりゃいいんじゃねぇか?」

 

僕の隣で博士のメッセージを聞いていたオルガが、僕にそう言う。

 

そっか!神様ならいい答えを出してくれるかも知れない。

 

僕は【ゲート】を開いて、オルガと一緒に神界へ向かった。オルガも改めて神様に聞いてみたいことがあるらしい。

 

 

神界へ来た僕はオルガの話が終わった後、神様にユミナたちのことを相談する。自分自身どうすればいいのか、そもそも自分はこれから彼女たちととどう接していけばいいのか。そこらへんを交えて詳しく。

 

「そう深く考えんでもいいんじゃないかのう。好きと言ってくれてるんじゃから、素直に喜べばいいと思うが。それにこれは君が自分で答えを出さなきゃいかんのじゃないか」

「同じようなことを別の人にも言われましたけど、やっぱり色々考えてしまって……」

「ふむ、そういった話なら専門家に聞いてみるか」

「えっ?」

 

神様は(かたわ)らに置いてあった黒電話に手を伸ばし、ダイヤルを回してどこかにかけ始めた。

 

しばらくすると雲海の中から一人の女性が浮かび上がる。年は二十代前半くらい、ふわふわの桃色の髪に、これまたふわふわの薄衣を白い衣装の上に(まと)って、宙を漂いながらこちらへやって来る。

 

神様曰く、彼女は恋愛神らしい。

 

「恋愛神って恋愛の神様ってことですよね?」

「そうなのよー!でも、人の気持ちを操ったりはしてないのよ?ちょっと雰囲気を盛り上げたり、お約束をしたりするくらいなのよ」

「お約束?」

「そうなのよ。「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ!」とか言う奴は結婚できなくするのよ」

 

そう恋愛神が言った瞬間、オルガと勝手に召喚されたミカさんが怒りを(あらわ)にし、オルガの新しい召喚魔法によって恋愛神は殺された。(まぁ、その後すぐに生き返って僕の相談には乗ってもらったけど)

前の世界でなにかあったのかな?

 

 

その後、オルガたちは神殺しの罪で別の世界へと旅立つことになった。

あの異世界の住民はオルガやミカさんの記憶を失うらしいが、僕は大丈夫とのことだった。

 

「なんか急な話になっちゃったけど……」

「そうだな。だがよ……。博士のメッセージのときはああ言ったが、ホントはお前らといるのも別に悪くはなかったぜ」

「冬夜も元気でね」

「はい。ミカさん!オルガもまた会えたら会おう!」

「ああ、帰ってこれたらまた顔を見せるわ。じゃあな」

 

そう言ってオルガとミカさんは旅立っていった。

僕はあの二人のことを決して忘れない。たとえユミナたちの記憶からオルガやミカさんと過ごした日々が消えてなくなったとしても、僕だけは覚えている。僕のスマートフォンには彼らとともに撮った写真も残っているし、絶対に忘れることはないだろう。

 

オルガたちの旅は止まることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夕方。告白してくれた四人にリビングへ集まってもらった。

正面のソファには四人が並んで座り、僕の言葉をじっと待っている。

みんな僕にはもったいないくらいの素敵な女の子だ。だからこそ嘘はつきたくないし、自分の気持ちを知ってもらいたいと思う。

 

「えっと……。まず、今の僕には結婚するつもりはない。あっ、でも近い将来、みんなが嫌じゃなければ四人ともお嫁さんにもらう。その約束は必ず守る。……でも今じゃない。このまま流されたままでみんなと結婚するわけにはいかないと思って……。僕はまだ他人の人生を背負えるほど大人じゃないし、深い考えもない。だからもう少し待ってほしい」

「……ずいぶんと勝手な言葉よね。でも言いたいことはわかったわ」

「もちろん、その間に見限ったなら僕を見捨てても構わない」

「それ出来ないってわかってて言ってない?」

「先に惚れた方が負け、とはよく言ったものでござるなあ……」

「お姉ちゃんが冬夜さんを見捨てても、私はいつまでも待ちます。冬夜さんが、お嫁さんにしてくれるのを」

「ちょ、別に見捨てるなんて言ってないでしょ!?」

「ふふふ」

「私もそれで構いません。みんな気持ちを確かめ合ったんですから、あとは高めていくだけです。私たちのことを、好きで好きでたまらなくなるまで」

「僕ももっと好きになってもらえるよう頑張るよ」

 

 

そして、僕と彼女たちの物語も続いていく。スマートフォンとともに。

 

 

 




次回、真の最終回
『異世界オルガ12 Episode of Orphans』

俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に連れてってやるよ! ……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。



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異世界オルガ12 Episode of Orphans

『バビロンの空中庭園』から帰ってきた俺は、エルゼと八重に呼び出され、エルゼの部屋に来ていた。

 

「で、なんだよ話って」

「その、えっと……何をどう話せばいいのかわからんでござる……」

「たっ、単刀直入に言うわね。…………あんたも冬夜と戦いなさい!」

「は?」

 

エルゼはその後、ゆっくりと事情を説明していった。

 

 

……つまり、今ユミナとリンゼは冬夜の部屋で先程のリンゼのキスの件について話し合っていて、その冬夜の返答次第ではあるが、エルゼと八重も冬夜の嫁に立候補したい。

 

しかし、二人共ユミナやリンゼのような積極性は無く、告白するにしても何かのきっかけが必要。

そのきっかけとして、冬夜との決闘という形を取ることにした。

ちなみにこの決闘はユミナの入れ知恵らしい。

 

だが、冬夜は全属性の魔法の使い手で、全ての無属性魔法も操ることも出来る。

正面から堂々と戦っても勝てるかどうかわからないため、俺の手も借りたいと……。

 

「でも、それでいいのか?バルバトスを使って冬夜に勝っても意味無いだろ?お前らが自分の力で勝たねぇと…… 」

「うるさいわね。とにかく勝てばいいのよ!!」

「確かに武士の心得からは外れてしまうやも知れませぬが、拙者は武士であると同時に女でもあるのでござる!」

 

こりゃ、何言っても無駄だな……。

 

「……はぁ、明日の朝、庭に行きゃいいんだな」

「ええ、私が冬夜を呼びに行くから。あんたは八重と庭で待ってて」

「ああ、わかった」

 

 

そして、次の日。エルゼは俺と八重が待つ庭へと冬夜を連れてきた。

 

エルゼは俺と八重と並んで立ち、冬夜にこう話し始める。

 

「……リンゼをお嫁さんにするんだってね?」

「あー、ハイ。そういうことになりました」

「あんた、リンゼのことどう思ってるの?本当に好きなの?」

「その……愛してるとまではいかなくとも大切にしたいと思ってるのは本当だよ」

 

愛してるとまではいかないのか……。それでいいのかよ?冬夜も、リンゼも。

 

「それをあの子は受け入れたの?」

「ああ」

 

そんな冬夜の返答を聞いた二人はこう呟きを漏らす。

 

「昔っからあの子、そういうところあったのよね……。普段はビクビクと怯えてるくせに、ここぞというときには大胆でさ。私と全く逆なのよね……」

「拙者も似たようなものでござる。なにかきっかけがないと踏ん切りがつかない性格でござってな……」

 

その呟きとため息の後、エルゼはガントレットを装着し、八重は刀を抜く。

俺もそれに続くようにポケットの中から銃を取り出した。

 

「冬夜。あんたにはこれから私たちと戦ってもらうわ!」

「は?」

「あんたが勝ったらもう何も口を出さない。でも私たちが勝ったら言うことを一つ聞いてもらうわ」

「この刀の刃は落としてあるでござるが、骨ぐらいは折れるから気をつけてくだされよ」

「あんたの『ブリュンヒルド』も【モデリング】で刃を無くしておいてよね。あと攻撃魔法も禁止。……じゃあ覚悟はいいわね」

「ああ」

 

冬夜が小さく頷いた。あいつも覚悟を決めたみたいだ。

戦いが始まると同時にエルゼが右から、八重が左から冬夜を攻める。俺も真っ直ぐ冬夜へと銃口を向けた。

しかし、銃の引き金を弾こうとした瞬間、足下が急に滑り、転倒した。……冬夜の【スリップ】だ。

 

「【アポーツ】」

 

次に冬夜は【アポーツ】で俺たちの武器を奪い、無力化させた。

だが、俺にはまだ召喚魔法がある!

 

「やっちまえ!【ミカァ!】」

「うげっ!?」

 

俺は『ガンダム・バルバトスルプス』を召喚し、冬夜へ向けて突貫させる。

冬夜は驚きの声を上げながらも『ブリュンヒルド』を構え、俺に向けて発砲した。

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

意識を取り戻すと、戦いは終わっていた。ってか冬夜が死んでいた。

庭に倒れる冬夜の死体とその目の前に立つミカの『ガンダム・バルバトスルプス』。そして、その状況に慌てふためくエルゼと八重。

 

「エルゼ殿!オルガ殿がよみがえったでござるよ!!」

「ちょ、ちょっとオルガ!冬夜が、冬夜が……」

「落ち着け」

 

死んだ後、俺たちがどこにいくのかは分かってる。あの爺さんのところだ。

おそらく冬夜も今頃、神界についている頃だろう。

 

「……ちょっと呼んでくるわ」

「は?」

 

エルゼが「何言ってんのこいつ」とでも言いたげな顔をしたが、それを無視して俺は自らの頭を銃で撃ち抜き、自殺した。

 

 

 

「というわけで、お前さんは死んでしまった。……まさか、また君たちを迎えることになるとはのう」

 

予想通り、俺は再び神界へとやって来た。

雲海に浮く畳の上でちゃぶ台を囲んでいるのは俺と神の爺さん、そして冬夜だ。

冬夜はうまく状況を飲み込めていないらしい。俺は冬夜を無視して神の爺さんにこう言った。

 

「おい、爺さん。ちょっと今、そこの冬夜が立て込んでてな、さっそく生き返らせてくれや」

「前にも言ったがのう、元の世界に生き返らせることは出来んのじゃよ。そういうルールでな」

「は?」

 

俺はそんなことをぬかす神の爺さんに睨みを利かせる。

そして、ミカを召喚し、初めてこの神界に来た時と同じ状況を作り上げた。

 

ミカは無言で銃を構える。すると、神の爺さんは脅えながら前言を撤回した。

 

「す、す、すぐに生き返らせる!」

「わかった」

 

俺と冬夜の体になにやら力が流れ込んできて、気がつくと元の場所に帰って来ていた。

 

 

 

生き返った俺を見て、エルゼと八重はキョトン、とした顔でこちらを見る。

 

「もうそろそろ、冬夜も生き返るだろうから待ってろ」

「「えっ?」」

 

俺はそう二人に告げて、屋敷の中へと帰った。

 

 

「終わりましたか?オルガさん」

 

屋敷に入ると、玄関ホールでユミナにそう話しかけられた。

 

「ああ、冬夜の負けだ」

「ありがとうございます」

「おう」

 

俺に礼を告げたユミナはリンゼを連れて庭の方へと向かっていった。

 

 

自室に戻って少し寝て、その後、食堂で昼食を摂った。

そして、食堂から自室へ戻る廊下で俺はメイド姿のフランシェスカとすれ違った。

 

俺はあまり関わりたくなかったため無視したのだが、そんな俺の意図を知ってか知らずか、奴はこう話しかけてきた。

 

「あ、オルガさん。マスターを見ませンでしたか?朝から姿を見ないのでスが」

 

俺は小さく舌打ちをしてから、歩みを止めること無くフランシェスカにこう返した。

 

「ちっ、ああ……冬夜な……。冬夜はてめぇのせいでめんどくせぇことになっちまってるんだよ。今日は顔を見せない方がいいと思うぞ」

「そういう訳には参りませン。火急の要件があるのでス」

 

そう言いながら、フランシェスカは俺の後をついてくる。俺が歩くスピードを早めても無駄のようだ。

……はぁ、仕方ねぇな……。

 

「冬夜なら、自分の部屋にいるだろ!」

「行きまシたが、いませンでしタ」

「……じゃあ、外に出てるんじゃねぇのか?」

「どこに行っているのか、わかりませンか?」

「『空中庭園』は探したのか!」

 

俺がそう言い放つと、フランシェスカは「あっ」と呟いた後、こう言った。

 

「探していませンでした……」

 

この、ポンコツアンドロイドが……。

 

 

俺はフランシェスカの転移能力で『バビロンの空中庭園』へとやって来た。

庭園を見渡すと、噴水に腰掛けてサンドイッチを食べている冬夜を見つけた。

 

「こちらにいまシたか」

「ほらな。俺の予想通りだったじゃねぇか」

「オルガにシェスカ?どうしたのさ?」

「こいつがお前のことを探してたぞ」

「え?」

 

俺がフランシェスカを指差して冬夜にそう言うと、フランシェスカはその要件とやらを冬夜に話した。

 

「昨日いい忘れていたコトがありまシた」

「いい忘れていたこと?」

「マスターにメッセージがありまス」

「誰からなんだよ。そのメッセージっつーのは」

 

俺がフランシェスカにそう聞くと、フランシェスカはその名を口にした。

 

「レジーナ・バビロン博士でス」

「博士?」

 

 

フランシェスカの腕から伸びたケーブルを冬夜のスマホに繋ぐと、一人の女性が写った。

 

この女が『バビロンの空中庭園』や『フランシェスカ』を造ったレジーナ・バビロン博士のようだ。

 

《やあやあ、初めまして。ボクはレジーナ・バビロン。まずは『空中庭園』及び、『フランシェスカ』を引き取ってくれた礼を述べよう。ありがとう、望月冬夜君》

「は?」

 

スマホに写る映像の中で博士はそう話し始めた。

俺は博士が冬夜の名を呼んだことに疑問を覚える。それは冬夜も同じのようだった。

そして、博士は俺や冬夜の疑問に対する答えを告げる。

 

《わかるよ。君の疑問はもっともだ。それを知りたくなるのも当然だよね。まず、なぜボクが君のことを知っているのか?それはボクが未来を覗くことができる道具を持っているからだ。時空魔法と光魔法を組み合わせて、そこに無属性魔法の……まあ、細かいことは省くが、とにかくそれを使って君のことを見つけた。興味本位で君と君の仲間の冒険を楽しく眺めていたのさ》

「えっ!?全部見てたってことですか?」

 

博士の「興味本位で君と君の仲間の冒険を楽しく眺めていた」という言葉に対して、俺は反射的にこう呟いていた。

 

「まぁ、これっぽっちも面白くなかったがな」

 

俺の言葉など聞こえていないのだろう。博士はそのまま話し続ける。

 

《一時見えない時があった。未来が不確定になってしまってね》

「不確定に?」

《ああ、突如……まさに突如現れた『フレイズ』が原因さ。君と君の仲間達は『モビルアーマー』と呼んでいたかな。予想できない出現だった。ボクも色々手は尽くしたんだけどね……。結局、パルテノ文明は崩壊してしまったよ。ボクの遺産『バビロン』はその『フレイズ』に対抗するために造ったものだった》

 

俺たちの世界ではモビルアーマーに対抗するためモビルスーツが造られたが、この世界では対抗手段として、この庭園が造られたらしい。この庭園でどうやって戦うのかは分からないが……。

 

《しかし、ある時を境に『フレイズ』達が世界から消えてしまったんだ。理由は分からないがね。まぁ、そのおかげでまた未来を見ることが出来たわけだ。『フレイズ』がいなくなった今、この『バビロン』は必要なくなったのだが、壊すのももったいないのでね。未来を覗かせてもらったお礼ということで君に託すことにしたんだよ》

 

パルテノ文明があったのは五千年前だというのをリーンから聞いたことがある。俺たちの世界で厄祭戦があったのは三百年前の話だから、元々この世界に居たモビルアーマーが何かの拍子で世界を超えて俺たちの世界に来た。ということなのだろうか?そうだとしてもどうやってこの世界から俺たちの世界へやってきたのかはという疑問が残るが、まぁ、それももう終わった話だ。

 

《では話はこれで終わりだ》

 

こう言って、博士のメッセージは終了した。

 

 

「う~ん。ミカさんには自分で考えろって言われたけど、やっぱり誰かに相談してみようかな」

 

博士のメッセージを聞き終えた冬夜が数分の静寂の後にそう呟く。

どうやらこいつは博士の話より自分の今置かれている状況のが重要らしい。まぁ、そりゃそうか。

俺は冬夜にこうアドバイスした。

 

「じゃあ、あの爺さんに相談してみりゃいいんじゃねぇか?」

「そっか!神様ならいい答えを出してくれるかも知れない!」

 

俺のアドバイスを聞いた冬夜はそう言って【ゲート】を開く。

俺も神様に聞きたいことがあったので丁度いい。

 

 

【ゲート】をくぐり抜けると、輝く雲海と古びた卓袱台(ちゃぶだい)が視界に飛び込んできた。

 

「邪魔するぜ~」

「おー。君たちか。来るなら来ると連絡してくれ」

「さっき振りです、神様」

「それでどうしたのかね?」

「相談があるんだよ。俺も冬夜も」

「ふむ? まあ、話してみなさい」

「オルガからでいいよ」

「そうか、じゃあ……」

 

俺は神の爺さんに相談する。

 

俺の相談というのは、異世界に来てから死にやすくなっていることについてだ。

以前行った自転車の実験でも分かったが、俺は死を引き寄せる運命にあるらしい。

 

なぜ俺の体が死を引き寄せるのか、この爺さんなら分かるかも知れないと思い、そのことについて相談してみた。

すると、神の爺さんは当たり前のようにこう言った。

 

「ああ、その話か。それは神殺しの呪いじゃよ」

「神殺しの呪い?」

「うむ。お前さんが始めてこの神界に来たとき、ワシを殺したじゃろ。その時の呪いでお前さんは死にやすい身体になっておるんじゃよ。まぁ、何度死んでもよみがえる能力を与えてやったから問題はないと思うがのう」

「まぁ、確かに何とかなってはいるが、……何度も殺されるこっちの身にもなってくれよ……」

「その言葉、そのままお前さんに返すぞ」

「はぁ……」

 

どうやら、俺が死にやすいのは神殺しの呪いで、治すことは出来ないらしい。

俺はこれからも死に続け、よみがえり続ける。ということになりそうだ。

 

 

俺の話が終わった後、冬夜は神の爺さんにユミナたちのことを相談した。

すると、神の爺さんはこう言った。

 

「そう深く考えんでもいいんじゃないかのう。好きと言ってくれてるんじゃから、素直に喜べばいいと思うが。それにこれは君が自分で答えを出さなきゃいかんのじゃないか」

「同じようなことを別の人にも言われましたけど、やっぱり色々考えてしまって……」

「ふむ、そういった話なら専門家に聞いてみるか」

「えっ?」

 

神の爺さんは(かたわ)らに置いてあった黒電話に手を伸ばし、ダイヤルを回してどこかにかけ始めた。

 

しばらくすると雲海の中から一人の女が浮かび上がってきた。

神の爺さん曰く、彼女は恋愛神らしい。

 

「恋愛神って恋愛の神様ってことですよね?」

「そうなのよー!でも、人の気持ちを操ったりはしてないのよ?ちょっと雰囲気を盛り上げたり、お約束をしたりするくらいなのよ」

「お約束?」

「そうなのよ。「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ!」とか言う奴は結婚できなくするのよ」

「は?」

 

恋愛神がそういった時、俺は思い出した。……ラフタが殺された時のことを……。

 

いつのまにか召喚され、俺の隣にいたミカは怒りを露にする。

 

「お前が……!」

 

俺は昭弘と『ガンダム・グシオンリベイクフルシティ』を召喚し、彼に復讐をさせる。

 

「やっちまえ!【昭弘っ!】」

「お前かぁぁぁぁーーーーーー!!!!」

 

昭弘の『ガンダム・グシオンリベイクフルシティ』はグシオンペンチで恋愛神の上半身と下半身を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

そして、恋愛(を弄ぶ邪)神は死んだ。

 

 

 

 

 

恋愛神を殺した俺たちは、また神殺しの罪を背負うことになった。

次の神殺しの罪は、同じ異世界に何年間も滞在出来なくなるというものだった。そのため、俺たちはこれから何度も何度も異世界を巡る旅に出ることになった。

 

この異世界での旅はこれで終わり、今から次の異世界へと旅立つことになった。

神殺しの罪を言い渡された俺たちに冬夜はこう言った。

 

「なんか急な話になっちゃったけど……」

「そうだな。だがよ……。博士のメッセージのときはああ言ったが、ホントはお前らといるのも別に悪くはなかったぜ」

「冬夜も元気でね」

「はい。ミカさん!オルガもまた会えたら会おう!」

「ああ、帰ってこれたらまた顔を見せるわ。じゃあな」

 

何度も何度も異世界を巡っている内に以前いた世界に帰ってこられることもあるらしい。

俺は冬夜にそう別れを告げ、別の世界へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オルガ、次は俺どうすればいい?」

「……勘弁してくれよ。ミカ。……俺は……」

「ダメだよ、オルガ。俺はまだ止まれない」

「……待ってろよ」

「教えてくれ、オルガ」

「待てって言ってんだろ!」

「ここが俺たちの場所なの?そこに着くまで、俺は止まらない。……止まれない」

「ああ、……分かってる。……ミカ。やっと分かったんだ。俺たちには辿り着く場所なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい」

「ここが俺たちの場所なの?」

「ああ、ここもその一つだ。止まんねぇかぎり、道は続くッ!」

「そっか……」

「俺は止まんねぇからよ……」

「連れていってくれるんだろ?」

「ああ……! お前らが止まんねぇかぎり、その先に連れてってやるよ!!!

 

 

「終わったな。……なぁ、ミカ。次は何をすればいい?」

「そんなの決まってるでしょ?」

 

 

……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……

 

 

 




読んでいただいてありがとうございました!

『異世界オルガ』第1章ついに完結です!

お付き合い下さった読者の皆様、本当にありがとうございました!!

これからもオルガ作品が増え続けていくことを期待しております。


……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。



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第2章 祝福オルガ (元動画:メガネ脚フェチケモナー、原作:この素晴らしい世界に祝福を!)
祝福オルガ1


※本小説はニコニコ動画のMADのノベライズ化です。
動画を見ていること前提で話が進むので、先に動画を見ることをオススメします……が動画が消されてしまいました。残念です……

URL:http://sp.nicovideo.jp/watch/sm32086920



俺は二人の神を殺した罪で二つの呪いを受けた。

 

世界神を殺した罪で『死を引き寄せる呪い』を

 

恋愛神を殺した罪で『同じ異世界にずっと滞在出来ない呪い』を

 

だが、たとえ呪いを受けようとも、俺は止まらない……止まれない。

 

「俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

冬夜の世界から旅立った俺は真っ暗な場所に立っていた。

 

……ここで待ってれば、女神が次の異世界へ連れて行ってくれると神の爺さんは言っていたのだが、いくら待ってもその女神とやらは現れない。

 

 

仕方なくその場で数分間待っていると、真っ暗な場所に二つの椅子がどこからともなく現れた。

片方は高価そうな白銀の椅子。もう片方は普通の茶色い椅子だ。

 

「ここは……?」

 

茶色い椅子の方にはジャージ姿の少年が座っており、急に連れてこられたからか困惑しているようだった。

近くで立っている俺にも気付いていない。

 

佐藤和真(サトウカズマ)さん。ようこそ死後の世界へ」

 

その少年の後ろから水色の髪を(なび)かせ、優雅に歩いてきた羽衣(はごろも)(まと)う少女が声をかける。

 

彼女が神の爺さんが言っていた『女神』だろう。

 

水色の女神は高価そうな白銀の椅子に腰掛けた後、もう片方の茶色い椅子に座っている少年へとこう告げる。

 

「貴方はつい先程不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、貴方は死んだのです」

 

この少年もまた、望月冬夜と同じく『転生者』であった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

そして、俺と転生者の少年『サトウ カズマ』は女神アクアと共に異世界へと転移した。

 

なぜ、女神も一緒になって転移してきてしまったのかというと……。

 

《貴方は記憶を引き継いだまま人生をやり直せる!しかもなにか一つだけ好きなモノを持って!》

《……じゃあ、あんた》

 

と、カズマが異世界転生の特典に『女神 アクア』を選んだからだ。

 

 

「あ……ああ……ああああっ」

「なんて声……出してやがる!」

 

『駆け出し冒険者の街 アクセル』という街で目覚めた後、女神が奇声を発しながら、カズマに掴みかかった。

 

「ああああああああああああーーっ!」

「うおっ!なっ、なんだよ!やめろ、やめろよ!分かったよ、悪かったって」

 

涙目でカズマの首を絞めようとする女神の手を振り払いながら、カズマはそう言う。

 

「ってかそんなに嫌ならもういいよ、帰ってもらって。後は俺とオルガでなんとかするから」

 

面倒くさそうにシッシと手を払うカズマを見て、女神は手を戦慄(わなな)かせる。

 

「あんた何言ってんの!?帰れないから困ってるんですけど!」

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!!連れてきゃいいんだろ!」

 

カズマに責任を追求する女神に対して、俺は半分キレぎみにそう答える。

 

「どうやってよ!?」

「死ねば神界に戻れるだろ!」

 

冬夜との決闘の後、死んだ冬夜を連れ戻すために自殺して神界へ行ったことがある。

 

その経験から俺はそう言ったのだが、女神はそれを否定した。

 

「だから無理なのよ!自分で異世界に降りたなら帰れるけど、私はカズマの異世界転生の特典で連れてこられたからカズマが魔王を倒してくれないと帰れないの!神は元々死なないし!」

 

……神は死なない。そうだった。

 

世界神を殺した時も、恋愛神を殺した時も、奴等はすぐに生き返った。

 

神は殺す事は出来ても、死ぬことはないのだ。

 

 

「どうすんの!?ねぇ、どうしよう!私これからどうしたらいい!?」

 

女神は泣きながら取り乱し、頭を抱えてバタバタしている。

 

その状況を見かねたカズマは女神にこう言う。

 

「おい女神、落ち着け。こういうときの定番はまず酒場だ。酒場に行って情報収集から始めるもんだ」

「ああ、酒場の近くに冒険者ギルドがあるはずだ。冬夜の世界はそうだったし、この世界も多分同じだろ。そこでギルド登録すりゃあいい」

 

俺もカズマの意見を肯定して、二人で酒場を探し始めた。

 

「なんでこの二人頼もしいの?あっ、それと二人共、私の名前はアクアよ。女神様って呼んでくれてもいいけど、出来ればアクアって呼んで。でないと人だかりが出来ちゃって魔王討伐の冒険どころじゃなくなっちゃうわ。住む世界は違っても一応私もこの世界で(あが)められてる神様なの!」

 

そんな感じでべちゃくちゃ話しながら、女神……アクアも俺たちの後ろをバタバタとついてきた。

 

 

街行く人に冒険者ギルドの場所を聞いて、教えてもらった道を進むと大きな建物が見えてきた。

 

「邪魔するぜ~」

 

冒険者ギルドへと入ると食べ物のいい匂いが(ただよ)ってくる。

 

生前はクリュセやイサリビの食堂で鉄華団の団員みんなでこんな風に(めし)食いながらバカ騒ぎしてたな。

 

などと懐かしんでいるところに、金髪のウェイトレスが愛想良く出迎える。

 

「いらっしゃいませー。お食事なら空いてるお席へどうぞー!お仕事案内なら奥のカウンターへ」

「ありがとう」

 

カズマがウェイトレスにお礼を言って、俺たちは奥のカウンターへと足を向けた。

 

 

「おい!見掛けねえ顔だな!」

 

奥のカウンターへ三人で向かうと、荒くれ者の男が話かけてきた。

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!」

「いや~俺たち遠くから来たばかりで今この街についたところなんだよ。俺たちも魔王軍と戦う冒険者になりたいんだ((イケボ」キリッ

「ああ、そうかい。命しらずめ……。ようこそ、地獄の入り口へ!ギルド加入の受付ならあそこだ」

 

親切な荒くれ者が指差した方向にいた受付の女性に声をかける。

 

「はい、今日はどうされましたか?」

「えっと、冒険者になりたいんですが……」

「わかりました。ではまずこちらの書類に必要事項の記入を願います」

 

俺たちが書類に名前や年齢等を書き終わると、受付の女性は冒険者の説明を始めた。

 

「冒険者とは街の外に生息するモンスター……人に害を与えるモノの討伐を請け負う人の事です。とはいえ、基本は何でも屋みたいなものです。……冒険者とはそれらの仕事を生業(なりわい)にしている人達の総称。そして、冒険者には『職業』というものがございます」

 

職業?冬夜の世界の冒険者ギルドにはそんなものなかったけどな……。

 

カズマが言うには、ゲームによくあるもので、ようは戦闘スタイルを選ぶものらしい。

 

「そして、これが登録カード。冒険者がどれだけの討伐を行ったかも記録されます。レベルが上がるとスキルを覚えるためのポイントが与えられるので、頑張ってレベル上げをして下さいね」

 

登録カードは分かる。冬夜の世界にもギルドカードがあった。それと同じようなものだ。

 

次に受付の女性は水晶を持ってきた。

 

「では、こちらの水晶に手をかざして下さい。それであなた方のステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んで下さいね」

「ああ、分かったよ!」

 

カズマとアクアが触った時は何ともなかったのだが、俺が水晶に手をかざした瞬間、ふいに水晶が爆発して、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

なぜか、俺が触った時だけ水晶が爆発したが、俺たち三人のステータスと職業は決まったようだ。

 

俺は筋力と魔力が平均以上、知力と幸運が平均以下で生命力が最低レベル。それ以外は普通。職業は多少選べたのだが『召喚士』にした。

 

カズマは知力が平均以上で幸運が非常に高い以外はどれも普通。職業は基本職である『冒険者』。

 

そして、アクアは……。

 

「はっ!?はああああっ!?何です、この数値!?知力が平均より低いのと、幸運が最低レベルな事以外は、残り全てのステータスが大幅に平均値を超えてますよ!?特に魔力が尋常じゃないんですが、あなた何者なんですか……っ!?」

「えっ!?そ、そう?なになに、私が凄いってこと?」

「凄いなんてものじゃないですよ!?高い知力を必要とされる魔法使い職は無理ですが、それ以外なら何だってなれますよ?……最初からほとんどの上級職に……!」

 

ということでアクアはあらゆる回復魔法と支援魔法を使いこなす『アークプリースト』を選んだ。

 

 

「さあ!今日から冒険者生活よ!」

「上機嫌だな」

「お前、心底嫌がってただろ」

「……そうだったかしら?」

 

こうして、俺たちの素晴らしい異世界生活が始まった。

 

 




メガネ脚フェチケモナーさんに許可を頂いたので、祝福オルガも書くことにしました。

デスマオルガの前にこちらをお楽しみ下さい!



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祝福オルガ2

俺は佐藤和真(サトウカズマ)

 

トラック(本当はトラクター)に引かれそうになった幼女を助けて、(本当は助けなくても幼女が引かれることはなかった)事故で死んでしまった(本当は引かれると思ったことによるショック死)。その後、死後の世界で女神アクアと出会い、そのアクアと、なんやかんやあって俺達と行動を共にすることになったオルガと一緒に異世界へとやって来た。

 

異世界生活一日目は冒険者ギルドに登録して、オルガが神様からもらったという金を使って、全員の武器を揃えるところまでやった。(金が少なかったので最低限の装備のみだが……)

 

そして、宿屋で宿泊して、今日が異世界生活二日目だ!

 

「おはようございます」

「さて、じゃあ早速討伐クエスト行きましょう!」

「おっ!いいねー!」

 

ということで、最初のクエストだ!

 

 

〈3日間で「ジャイアント・トード」を5匹討伐せよ(1日目:クエスト達成率0/5)〉

 

 

「何やってんだぁぁっ!」

 

雲一つない晴れやかな青空の下、オルガの叫び声が響き渡る。

 

「どうした、オルガ?」

「スキルポイントがないから、ミカを召喚出来ねぇ」

「はぁ?」

 

オルガが『召喚士』の癖に何も召喚出来ないことが分かったその瞬間、ふいにオルガが姿を消した。

 

ふと、ジャイアント・トードの方を見てみると、ジャイアント・トードの口の端から、二本の足が見えた。

 

「って、食われてんじゃねえええええ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

俺はショートソードで、オルガを捕食中のジャイアント・トードに止めを指す。

 

「助かった」

「いや、いいけど」

「それで、アクアはどこにいったんだ?」

 

……そういえば、さっきからアクアの姿が見えない。

 

ジャイアント・トードを良く見てみると、一匹のジャイアント・トードの口の端から何かがぷらんと生えている。

 

……あれはアクアの足だ……。

 

「アクアー!お前も、食われてんじゃねえええええ!」

「食われんじゃねぇぞ……」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

 

 

街に帰還した俺達は、真っ先に大衆浴場へ行って汚れを落とし、冒険者ギルドにてカエルもも肉の唐揚げを食べながら、作戦会議をしていた。

 

「あれね、二人じゃ無理だわ!(課題提示)」

「二人ってアクアは何もしないつもりか!(叱責)」

「当たり前でしょ!私は女神よ!(ドヤ顔)」

「はぁ、……ならどうする?(丸投げ)」

「仲間を募集しましょう!(安直)」

「仲間ったって……駆け出しでロクな装備もない俺達とパーティ組んでくれるやつなんて居ると思うか?(冷静な分析)」

「散々考えた()けど、それ以上のやり方が思い付かねぇんだ」

「なにも不安がる事ないわよカズマ!仲間なんて募集かければすぐよ!なにせ、私は最上級職の『アークプリースト』よ?あらゆる回復魔法が使えるし、補助魔法に毒や麻痺なんかの治癒、蘇生だってお手のもの。どこのパーティも(のど)から手が出るぐらい欲しいに決まってるじゃない。カズマのせいで地上に堕とされ、本来の力とは程遠い状態とは言え、仮にも女神よ!ちょろっと募集かければ「お願いですから連れてって下さい」って(やから)が山ほどいるわ!分かったら、カエルの唐揚げもう一つよこしなさいよ!」

 

と言って、俺の皿から唐揚げを奪い取る自称女神を、俺とオルガは不安気(ふあんげ)に眺めていた。

 

 

そして、翌日。

 

「募集の貼り紙、見させて頂きました」

 

俺達に声をかけてきたのは、黒マントに黒いローブ、黒いブーツに杖を持ち、長い黒髪の上にトンガリ帽子を被った典型的な魔法使いだった。

まるで人形の様に整った顔をした赤い瞳のロリっ子である。

 

「誰なんだよ」

 

オルガがそう聞くと、その少女はバサッとマントを(ひるがえ)して自己紹介を始めた。

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業(なりわい)とし、最強の攻撃魔法『爆裂魔法』を操る者っ!」

「……冷やかしに来たのか?」

「ち、ちがわい!」

 

女の子の自己紹介に思わず突っ込んだ俺に、その子は慌てて否定する。

 

いや、めぐみんってなんだ?

 

「……その赤い瞳。もしかしてあなた、紅魔族(こうまぞく)?」

 

アクアの問いにその子はこくりと頷くと、アクアに冒険者カードを手渡した。

 

「いかにも!我は紅魔族随一(ずいいち)の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く!……という訳で、優秀な魔法使いはいりませんか?」

 

その前に、俺は気になっていることを聞いてみた。

 

「あのさ、仲間にするのはいいし、こっちもありがたいんだけど……その眼帯はどうしたんだよ?怪我でもしてるならアクアに治してもらったらどうだ?」

「……フッ。これは、我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテムであり……。もし、これが外される事があれば……。その時は、この世に大いなる厄災がもたらされるだろう……」

「厄祭戦じゃねぇか……」

「いえ、違います」

「勘弁してくれよ……」

 

意味分かんない事言ってるオルガは無視して、俺はめぐみんに確認してみる。

 

「ようは封印みたいなものか」

「まぁ、嘘ですが。単にオシャレで着けているだけ…………、あっあっ、ごめんなさい、引っ張らないで下さい!やめっ……ヤメロォー!」

「あのね、彼女達紅魔族は生まれつき高い知力と強い魔力を持ってて、大抵は魔法使いのエキスパートで、みんな変な名前を持ってるわ」

 

めぐみんの眼帯を引っ張ってる俺にアクアがそう説明した。それに対し、オルガは……。

 

「フミタンじゃねぇか……」

 

やはり、意味分かんない事を言っていた。

 

 

「あー、ちょっとやめて下さい。あー、でも離したらそれはそれで痛そうだから、そのままゆ~っくり私の元に戻して下さい。いいですか?ゆっくりですよ?ゆっくりってば、ちょっt……」

 

俺はめぐみんの眼帯から手を離す。

 

「ア"ァ"ァ"ァ"!!イィッ↑タイ↓メガァァァ↑」

 

 

〈3日間で「ジャイアント・トード」を5匹討伐せよ(2日目:クエスト達成率2/5)〉

 

 

俺達はめぐみんを連れて、ジャイアント・トード討伐クエストのリベンジに来ていた。

 

「爆裂魔法は最強魔法。その分、魔法を使うのに準備時間がかかります。準備が整うまで、あのカエルの足止めをお願いします」

「分かったよ!やるよ!」

 

オルガが銃を片手にジャイアント・トードの群れに突っ込んでいく。

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「……なんだよ。結構当たんじゃねぇか」

 

おっ、オルガが一匹倒したぞ。

 

 

オルガがジャイアント・トードの相手をしている間にめぐみんは魔法の詠唱を始める。

 

「黒より黒く、闇より暗きしもの、我が真紅の咆哮(ほうこう)を望みたもう。覚醒の刻来たれり、無久の境界に落ちし(ことわり)。無形の歪みと成りて現出せよ!」

 

めぐみんの杖の先に光が(とも)った。

膨大な光をギュッと凝縮(ぎょうしゅく)した様な、とても眩しい小さな光。

 

めぐみんが赤い瞳を鮮やかに輝かせ、カッと見開く。

 

「【エクスプロージョン】!」

 

平原に一筋の閃光が走り抜ける。

 

 

めぐみんの杖の先から放たれた光は、オルガが戦っている戦場へと一直線に向かう。

 

その魔法がジャイアント・トードに届いたその瞬間、一匹のジャイアント・トードがオルガを頭から丸呑みした。

 

「離しやがれ、ヴァアアアアアア!!」

 

オルガを頭から丸呑みしたジャイアント・トードにめぐみんの放った魔法が直撃。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

爆炎が晴れると、オルガとジャイアント・トードのいた場所には巨大なクレーターが出来ており、その爆発の(すさ)まじさを物語っていた。

 

「……すっげー。これが魔法か……」

 

俺がめぐみんの魔法に感動していると、地中から一匹のジャイアント・トードがのそりと()い出てきた。

 

雨も降っていない上に水源もないこの平原で、太陽の下、このカエル達はどうやって乾かずに生存出来ているのだろうと疑問に思ってはいたが、まさか地中とは予想外だった。

 

「めぐみん!一旦離れて、距離をとってから攻撃を……」

 

そこまで言いかけて、俺は動きを止める。

 

俺の目の前でめぐみんが倒れていた。(その先のクレーターの中心にはオルガが倒れていた)

 

「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大。……要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません。……あっ、地中からカエルが湧き出るとか予想外です。……ヤバいです。食われます。すいません。ちょっと、助けて」

 

俺とアクアが、めぐみんを助けに行こうとしたその時、めぐみんの魔法が作ったクレーターの中心に倒れていたオルガがポケットから冒険者カードを取り出して、スキルポイントを割り振った。

 

そして……その場でこう叫ぶ。

 

「【ミカァ!】」

 

その叫びと共に、巨大なロボットが地中から現れ、めぐみんを食べようとしたジャイアント・トードをメイスで叩き潰した。

 

《ねぇ、次はどうすればいい。オルガ》

《決まってんだろ……行くんだよ。ここじゃない何処(どこ)か……俺たちの本当の居場所に》

《うん。行こう!俺たち……みんなで!》

 

 

 

 

クエスト達成の報告をした後、俺達はオルガの召喚した三日月さんと一緒に大衆浴場へとやって来ていた。

 

俺と三日月さんは先に風呂から出て(すず)んでいたのだが、その時、一人の金髪の女騎士が声をかけてきた。

 

「すまない、ちょっといいだろうか?」

「……なんでしょうか?」

「私の名はダクネス。クルセイダーを生業(なりわい)としている者だ。私を、是非、パーティに加えてもらえないだろうか」

「もう盾役は間に合ってます」

 

 




元動画と話が変わっているけど、メガネ脚フェチケモナーさんからは自由に書いていいって言われてるから問題ないよねっ!


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祝福オルガ3

「なあ。聞きたいんだが、スキルの習得ってどうやるんだ?」

 

カエル討伐の翌日。ギルド内の酒場で昼食をとっている時、ふいにカズマがそう聞いた。

 

「オルガは昨日、三日月さんを召喚するとき、なんか冒険者カードを触ってたよな」

「ああ、カードにある習得可能なスキルを選んだんだ」

 

俺が今、習得可能なスキルは

 

悪魔召喚(バルバトスルプス) 習得ポイント26

悪魔召喚(バルバトスルプスレクス) 習得ポイント41

悪魔召喚(グシオンリベイク) 習得ポイント17

悪魔召喚(グシオンリベイクフルシティ) 習得ポイント28

悪魔召喚(フラウロス) 習得ポイント37

 

昨日はスキルポイントを1ポイント使って『悪魔召喚(バルバトス)』を習得したのだ。

 

 

「カードの『習得可能スキル』って欄だよな。そこ何も書いてないんだけど……」

 

カズマはそう言って、カードを俺たちに見せる。

カズマの冒険者カードには確かに習得可能スキルが無かった。

 

それを見ためぐみんがカズマにこう説明する。

 

「初期職業と言われる冒険者は誰かにスキルを教えてもらうのです。まずは目で見て、そしてスキルの使用方法を教えてもらうのです。するとカードに習得可能スキルという項目が現れるので、ポイントを使ってそれを選べば習得完了なのです」

「なるほど……それなら誰かスキル教えてくれよ」

「じゃあ盗賊スキルなんてどうかな?」

 

カズマがスキルを教えてもらおうとした時、横から突然、声をかけられた。

 

声のした方を見ると、隣のテーブルに二人の女性がいた。

 

カズマに声をかけたのは頬に小さな刀傷がある革の鎧を着た身軽な格好の銀髪の少女。

もう一人は重そうな鎧を着た金髪の女騎士だった。

 

少し話を聞くと、銀髪の盗賊はクリス。もう一人の金髪の方は昨日ミカとカズマが会ったっていう俺たちのパーティに入りたがった女騎士で名前はダクネスというらしい。

 

 

アクアとめぐみんはこのまま酒場で昼食を食べているとのことなので、俺とミカとカズマはクリスとダクネスについていって、冒険者ギルドの裏手の広場へとやって来た。

 

「盗賊系のスキルには色々あるけど、特にあたしの一押しはこれ!行くよ、良く見てて」

「ウス!よろしくお願いします!」

 

カズマにそう説明したクリスは手を前に突き出して、こう叫ぶ。

 

「【スティール】!」

 

クリスがそう叫んで手を握ると同時に俺はなぜか頭が軽くなったような感覚を覚えた。

 

最初は気のせいかと思っていたのだが、すぐに気のせいではないと気づいた。

 

クリスが握った拳を開くと、そこには…………俺の前髪があった。

 

「あっ!オルガの角」

「何やってんだぁぁっ!!」

 

その後、カズマはスティールを無事覚えることができ、俺の前髪も蘇生魔法で回復させた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者各員は至急冒険者ギルドに集まって下さい!繰り返します!街の中にいる冒険者各員は至急冒険者ギルドに集まって下さい!」

 

カズマがクリスにスティールを教えてもらった日の午後、街中に大音量のアナウンスが響いた。

 

「なんだ?」

 

宿屋で休んでいた俺たちは冒険者ギルドへと向かうため、外に出る。

俺たちの目の前には街中を悠々(ゆうゆう)と飛び回るキャベツの姿があった。

 

 

〈全員参加クエスト 街に飛来したキャベツを全て収穫せよ〉

 

 

「は?」

 

俺とカズマが困惑していると、アクアがこう説明した。

 

「あのね。カズマ、オルガ。この世界のキャベツは飛ぶのよ。味が濃縮してきて、収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりにね」

 

そのアクアの説明を聞きながら、冒険者ギルドに到着した俺たちは、次にギルド職員の説明を聞く。

 

「皆さん、突然のお呼び出しすいません!もうすでに気づいてる方もいるとは思いますが、キャベツです!今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです!」

「一万エリス!?」

 

カズマがその値段に驚く。

 

「すでに街中の住民には避難して頂いております。では皆さん、出来るだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めて下さい!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我しないように気を付けて下さいね」

 

その言葉を聞いた冒険者たちは一斉に駆け出していった。

 

「よし、じゃあ俺たちも始めるか」

「うん!キャベツの収穫ならあっちの世界で桜ちゃんと良くやったしね!」

 

珍しくミカが笑顔だ。

キャベツが街から離れ、平原までやって来たタイミングで俺は悪魔召喚スキルを使う。

 

「【ミカァ!】」

「違うっ!それじゃ収穫出来ない!」

 

 

カズマに(さと)され、バルバトスでの収穫を諦めた俺とミカは生身での収穫を始めた。

その頃、カズマはダクネスにこう言われていた。

 

「カズマ、ちょうどいい機会だ。私のクルセイダーとしての実力、その目で確かめてくれ」

 

 

「はあああぁぁぁぁぁ!!」

 

ダクネスがキャベツの群れに突っ込んでいく。

そして、ダクネスが剣を振るおうとした時、剣がダクネスの手からすっぽ抜け……俺の胸を貫いた。

 

「わかってる」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

「騎士の(かがみ)だ!」

「あんなになってまでキャベツたちを守るなんて!」

「皆、誤解してるぞ!」

 

 

〈スペシャルボーナス キャベツ大豊作〉

 

 

このキャベツ収穫にもう一人の転生者 フミタン・アドモスも参加していたのだが……。

 

それに気づいたのは、それから数日後だった。

 

 

 




悪魔召喚のスキルポイントは鉄血のオルフェンズでのガンダムフレームの初戦闘回の話数となっています



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祝福オルガ4

緊急のキャベツ狩りクエストから数日が経過した。

 

ダクネスやフミタンをパーティに加えた俺たちは順調にクエストを重ね、レベルを上げていった。

 

 

「皆さん!早速討伐に行きましょう!それも沢山(たくさん)の雑魚モンスターがいるヤツです!新調した杖の威力を試すのです!!」

 

とある日、めぐみんがそんな事を言い出した。

 

俺もあともう少しレベルが上がれば、バルバトスルプスの召喚スキルに必要なスキルポイントも貯まるため、めぐみんの意見には賛成だ。

 

「俺たちに辿り着く場所なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇかぎり、道は続く」

「……とりあえず、掲示板の依頼を見てから決めませんか?」

 

そのフミタンの意見で俺たちはぞろぞろと冒険者ギルドの掲示板へと移動する。

 

そして……。

 

「あれ?何だこれ、依頼が(ほとん)どないじゃないか」

 

カズマが言ったように、普段は所狭(ところせま)しと大量に貼られている依頼の紙が今は数枚しか貼られていなかった。

 

「カズマ!これだ!これにしよう!ブラックファングと呼ばれる巨大熊討伐を!」

「勘弁してくれよ……」

 

そんな高難易度クエストを受けたら、俺は確実に殺されるぞ、確実にな……。

 

 

ギルド職員の話によると、最近、魔王軍の幹部らしき者が街の近くに住み着いた影響で仕事が激減しているらしい。

 

そのため、文無しのアクアは毎日アルバイトに励み、フミタンはギルド職員の手伝いを、そしてダクネスは「しばらく実家で筋トレをしてくる」と言っていた。

 

特にやることの無くなった俺たちは、めぐみんの爆裂魔法の練習の付き添いで街の外れにある廃城に通い続けた。

 

 

廃城に通い続けるようになって数日が経った頃、ミカが俺の胸ぐらを掴み、こう言った。

 

ピギュ

 

「ここがオルガ・イツカの場所なの」

 

つまり、ミカは俺に廃城まで行って、爆裂魔法を食らってこいと言っているのだ。

 

「俺は確実に殺されるぞ、確実にな……」

「そこに着くまで、オルガ・イツカは止まれない」

 

……俺の存在意義は死ぬことによって見出だされる。

 

めぐみんが一日に一回、爆裂魔法を撃たなければいけないように、俺も一日に一回、希望の花を咲かせなければいけない、ということか。

 

「ああ、分かってる」

 

 

「【エクスプロージョン】!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

爆裂魔法を食らい、希望の花を咲かせることが日課になって、一週間が経った。

 

その日の朝もいつも通り、廃城へ向かおうと、準備していたのだが……。

 

「緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに街の正門に集まって下さいっ!」

 

キャベツ狩りクエストの時と同様に街中にアナウンスが響き渡った。

 

そのアナウンスを聞いた俺たちは、一応戦闘準備をしてから正門へと向かった。

 

そして街の正門に着くと、そこには一匹のモンスターがいた。そのモンスターとは……。

 

「デュラハンじゃねぇか……」

 

左脇に(おのれ)の首を抱える漆黒の騎士、デュラハン。

冬夜の世界でもデュラハンと戦った経験があるが、目の前のデュラハンは冬夜の世界のデュラハンとは全く異なる(すさ)まじい威圧感を放っていた。

 

「この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……」

 

冒険者が集まった事を確認したデュラハンはくぐもった声でそう言った後、首を小刻みに震わせながらこう叫んだ。

 

「毎日、毎日!毎日っ!!俺の城に爆裂魔法撃ち込んでくる頭のおかしい大馬鹿は誰だああああああーーーー!!!!」

「爆裂魔法?」

「爆裂魔法って言ったら……」

 

デュラハンの叫びを聞いた冒険者は皆、めぐみんの方へと視線を向ける。

 

周囲の視線を寄せられためぐみんはフイッと俺の方を見た。

 

俺に()(ぎぬ)(なす)り付けるつもりのようだが、ここはしっかり否定した方がいいな。

 

「俺は爆裂魔法なんざ使えn……」

 

そこまで言ったところで俺は突然、背中をドンッと押されて、デュラハンの目の前に無理矢理押し出された。

 

「勘弁してくれよ、ミカ……」

 

俺の背中を押したのはミカだった。

 

 

「お前が毎日、毎日!俺の城に爆裂魔法ぶち込んでくる大馬鹿者か!」

 

どちらかというと、俺も被害者側なんだが……。

こうなってしまったからには仕方がない。

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだ!」

「鉄華団って、何だ?」

「鉄華団……決して散ることのない鉄の華」

「……まぁいい。ここは一つ団長を苦しめてやろうか」

 

デュラハンは左手の人差し指を俺に突きつけてこう宣言した。

 

(なんじ)に死の宣告を……お前は一週間後に死ぬだろう」

 

ヴァアアアアアア!!…………いや、なんともないな。

 

「その呪いは今はなんともない。しかし、その団長は一週間後に死ぬ!日に日に苦しんでいくことだろう!自殺することも出来ない!団長を誰かが殺す事で、その苦しみから救済するという方法もあるが、仲間思いの冒険者がそんな事出来る(はず)もないだろう。団長の呪いを()いて欲しくば、俺の城に来るがいい。城の最上階の俺の部屋まで来る事が出来たなら、その呪いを()いてやろう!……だが、城には俺の配下のアンデットナイト達がひしめいている。ひよっ子冒険者のお前達は果たして俺の所まで辿り着く事が出来るかな?クククククッ、クハハハハハハッ!」

 

喋るだけ喋って、デュラハンは帰っていった。

 

 

デュラハンが帰った後、アクアがこう言う。

 

「デュラハンの呪い解除なんて楽勝よ!」

 

アクアの言う通り、デュラハンの呪い解除は簡単だ。

 

デュラハン自身も言っていたように、誰かに殺してもらえばいいだけの話だ。

 

「なぁ、ミカ。やってもらいたい事がある」

「オルガが決めた事ならやるよ」

 

パン!パン!パン!

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【復活魔法】!」

 

俺の蘇生魔法だと呪い解除が出来るか不安だったため、アクアの復活魔法でよみがえることにした。

 

 

 




最後、アクアの復活魔法でよみがえるかオルガの止まるんじゃねぇぞ……でよみがえるか悩んだんですが、動画通り、アクアの復活魔法にしときました。


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祝福オルガ5

今回は語り部がコロコロ変わりますが、ご容赦下さい。
オルガ→カズマ→ミツルギ→カズマの順になっております。

オルガもカズマも一人称が同じ「俺」だからわかりづらいかもですけど、このすば原作が一人称「俺」だから仕方ないんです。


デュラハンの襲撃から数日後、アクアが一つの依頼を見つけてもってきた。

 

「街の水源の一つである湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが棲みつき始めたので、水の浄化を依頼したい。湖の浄化が出来ればモンスターは棲息地を他に移すため、モンスターの討伐はしなくても良い。報酬三十万エリス!私にピッタリのクエストじゃない!」

 

水の浄化だけで三十万か、確かに美味(おい)しいクエストだ。おまけにアクアは水の女神だしな。

 

「いいんじゃねぇか」

「じゃあそれ請けろよ。ていうか、浄化だけならお前一人だけでもいいんじゃないか。アクアはアルバイトが嫌だからクエストを請けたいかも知れないけど、別に俺達は無理して高難易度クエストを請けたいわけじゃないしさ」

 

今だデュラハンは廃城に住みついており、ギルドに貼り出されているクエストは高難易度クエストしかない。

 

俺たちは何事もなく平和に過ごしていたのだが、アクアが「アルバイトはもう嫌だ」と言ったため、仕方なく冒険者ギルドにクエストを見に来たのだ。

 

カズマの言うように、水の浄化のクエストならアクア一人でもなんとかなるかも知れない。

 

そう思ったのだが、それをミカが否定した

「ダメだよ、オルガ。アクアが水を浄化してる間、オルガの護衛が必要でしょ」

「……勘弁してくれよ、ミカ」

 

ミカは無言で俺の胸ぐらを掴む。

 

ピギュ

 

「すいませんでした」

 

 

〈水源の湖を浄化せよ〉

 

 

街から少し離れた所にある大きな湖。

 

街の水源の一つとされているその湖からは小さな川が流れており、それが街へと繋がっている。

 

依頼にあった通り、湖の水は(にご)り、(よど)んでいた。

 

「ねぇ……本当にやるの?」

 

希少なモンスターを閉じ込めておく鋼鉄製の(おり)の中から不安げなアクアの声が聞こえてくる。

 

「俺と三日月さんの考えた隙のない作戦の一体何が不安なんだよ」

 

ミカとカズマの考えた作戦はこうだ。

 

アクアを(おり)の中に入れて、安全な(おり)の中から水に触れて湖を浄化する。その間にアクアに近づくモンスターを俺が倒すというものだ。

 

「……私、ダシを取られている紅茶のティーバッグの気分なんですけど……」

「勘弁してくれよ……」

 

 

アクアの入った(おり)を湖に浸けてすぐに湖の一部に小波(さざなみ)が走る。

 

ブルータルアリゲーターというワニの群れが湖から現れた。

 

「なんか来た!ねぇ、なんかいっぱい来た!アァー↑ハァー→ハアアア↓」

「オルガ」

「わかったよ、やるよ!」

 

俺はピストルを片手にワニの群れに向かっていく。

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

浄化を始めてから、四時間が経過。

その間、俺は希望の花を咲かせ続けた。

 

アクアも早く浄化を終わらせて帰りたいらしく、一心不乱に浄化魔法を唱えまくっている。

 

「【ピュリフィケーション】!【ピュリフィケーション】!【ピュリフィケーション】!」

「【……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、七時間が経過した。

 

「浄化は完了したみたいですね」

 

めぐみんの言うように、浄化は確かに完了した。……オルガの犠牲と引き換えに……。

 

途中からオルガの蘇生魔法が追い付かず、オルガは死んでしまったのだ。

 

浄化された透明な水の上に元々オルガだったものが分解されてプカプカと浮かんでいる。

 

「オルガ?」

 

三日月さんも哀しそうだ。

 

俺はアリゲーターに噛まれてボロボロになった(おり)の中で体育座り状態で膝に顔を(うず)めているアクアの様子を(うかが)う。

 

「……おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーター達はもうどっか言ったぞ」

「……ぐす……ひっく……えっく……」

 

そんなに泣くぐらいなら、とっととクエストをリタイアすれば良かったのに……。

 

「アクア、すまんがもう一つ仕事があるんだ。オルガに復活魔法をかけてくれ」

「……ぐす……【復活魔法】」

「おお、ミカ」

「あっ、オルガ生き返った」

 

良かった。これで一件落着だな。

 

「あのさ、アクア。めぐみんとダクネス、それにフミタンとも話し合ったんだが、俺達は今回、報酬はいらないから、三十万はオルガと話し合って二人で分け合えよ」

「……わかった」

「ん、じゃあ帰るぞ。早く(おり)から出てこいよ」

 

俺の言葉にアクアが小さく呟くのが聞こえた。

 

「……まま……連れてって……」

「……?なんだって?」

「……(おり)の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

 

どうやら今回のクエストはカエル討伐に続けて、アクアにまたトラウマを植えつけたようだ。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

僕の名前は御剣(ミツルギ)響夜(キョウヤ)

 

何処にでもいる平凡な高校生であったが、死の(ふち)で美しい女神に出会い、選ばれし勇者として、この世界に転生した。

 

職業は『ソードマスター』。武器は異世界転生の特典でもらった神々が作ったとされる神器『魔剣グラム』。

 

今日は魔王軍の幹部が住んでいるという城の調査のため、始まりの街アクセルまで帰ってきた。

 

「さっすが、あたしのキョウヤだね!エンシェントドラゴンを一撃で倒しちゃうなんて!」

 

パーティメンバーの一人である盗賊の少女フィオが僕の左腕にしがみつきながらそう言う。

 

この街に来る途中、僕らを襲ってきたドラゴンを倒した時のことを言っているのだろう。

一撃で倒せたのは、僕の力ではなく、神器の力なんだけど……。

それと左腕にしがみつくのはやめてくれないかな?ちょっと歩きづらい……。

 

「い、いつからアンタのになったのよ!」

 

そうフィオに反論する少女はもう一人のパーティメンバーで戦士職のクレメア。

 

フィオは僕の腕を放して逃げ、それをクレメアが追う。

 

「お、おい!やめろって」

 

こんな感じでいつも二人はなぜか争っている。

僕はなんで争っているのか見当もつかない。

 

 

「ルールルルー、売られていーくーよー」

 

そんな時、なにやら歌のようなものが聞こえた。

 

歌が聞こえた方を見てみると、そこにはボロボロの(おり)に閉じ込められた────女神様がいた。

 

「女神様ああああーーーーーー!!!!」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

無事にクエストを終えて街に帰ってきた俺達は、すっかり(おり)の中に引き(こも)ってしまったアクアを馬で引きながら、生温かい注目を集めつつ、ギルドに向かっていた。

 

「女神様っ!女神様じゃないですか!?」

 

そこに、突然叫んで、(おり)の中に引き(こも)っているアクアに駆け寄る一人の男が現れた。

そいつはあろうことか、ブルータルアリゲーター達が噛みついても破壊出来なかった(おり)鉄格子(てつごうし)をいとも容易(たやす)くグニャリと()じ曲げ、中からアクアを引っ張りだした。

 

「何をしているのですか、女神様!?貴女は女神ですよ!それがこんな……!」

 

そして、その男はアクアの両肩に手を置き、放心状態のアクアを揺さ振りながら、俺を睨みつけた。

 

……言いたい放題だな、コノヤロウ!

 

少し話を聞いてみると、こいつは俺やオルガと同じ転生者で名をミツルギ・キョウヤというそうだ。

アクアがこの異世界に送った人間の一人らしい。

 

そのミツルギという男は、オルガやめぐみん達を見て、こう言った。

 

「君はこんな優秀そうな人達がいるのに、恥ずかしいと思わないのか?」

 

こいつらが優秀?

そんな片鱗(へんりん)、一度も見たことがないんだが……。あっ、三日月さんは別ですよ!

 

「さてと、帰るか」

 

オルガがそう言って、俺達はミツルギを無視して帰路につく。

それに対して、ミツルギはこんな提案をしてきた。

 

「待て!勝負をしないか?僕が勝ったら、女神様を譲ってくれ!」

 

俺は、オルガと三日月さんを一瞬見る。

二人共小さく(うなづ)いた。オッケー!作戦Bだな!

 

「よし乗った!行くぞ!」

 

俺がそう言って、剣を構えたと同時に、三日月さんが銃で発砲。

 

それをミツルギは、魔剣グラムを抜いて防ぐが、魔剣に弾かれた銃弾がオルガに当たることでカウンターが発動する。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

オルガが放った銃弾は、ミツルギの脳天に直撃した。即死だな。

 

「結構当たんじゃねぇか……」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

倒れたミツルギにアクアが【復活魔法】をかける。ついでに【スティール】で魔剣を奪っておいた。

 

意識を取り戻したミツルギに三日月さんがこう告げる。

 

「俺らが勝った場合はどうなんの?アンタそれ言ってなかっただろ。気に食わなかったんだ」

 

……すげえ、迫力。ミツルギもパーティメンバーであろう二人の少女も脅えて何も言えないようだ。

 

流石、元そのスジのプロは一味違うな。

 

 

帰り道、俺はミツルギから奪った魔剣グラムを三日月さんに見せて、こう尋ねる。

 

「三日月さん、これ使います?」

 

三日月さんはその魔剣を片手で軽々と持ち、ブンブンと振り回した後、舌打ちをしてこう言い放った。

 

「チッ、使いづらい」

 

…………じゃあ、売るか!

 

 

 




ラストの「流石、元そのスジのプロは一味違うな」や「チッ、使いづらい」等は元動画にあったコメントを拾わせてもらいました。
元動画のコメントも出来るだけ拾っていこうと思いますので、こちらを読むだけでなく、元動画にもコメントをお願いします!


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祝福オルガ6

前半がオルガ目線、後半がカズマ目線となっております。



「緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、街の正門まで集まって下さい!」

 

俺とカズマが異世界に来てから三度目の緊急アナウンスが街中に響き渡る。

 

「またかよ……。行かなきゃダメか?」

 

アナウンスを耳にした俺は気怠(けだる)げにそう呟くが、それに対し、ミカがこう言った。

 

「ダメだよ、オルガ。アナウンスは最後まで聞かなきゃ」

「は?」

 

ミカの言うように、俺は最後までしっかりアナウンスを聞く。冒険者ギルドの緊急アナウンスはこのように言っていた。

 

「緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、街の正門まで集まって下さい!……特に()()()()()()()()()()()()()()()()()大至急でお願いします!!」

「勘弁してくれよ……」

 

 

俺たちは慌てて正門前に駆けつけた。

 

正門前にはすでに多数の冒険者が集まっていた。

 

多くの駆け出し冒険者たちが遠巻きに見守る中、街の正門前にはヤツがいた。

 

「お、やっぱりな。またあいつか」

「デュラハンじゃねぇか……」

 

魔王軍の幹部のデュラハンである。

 

 

「聞けっ!愚か者共!我が名はベルディア!仲間を庇って、呪いを受けた騎士の(かがみ)の様なあの者の死を無駄にするなど……!?」

 

そこまで言い掛けたところで左脇に抱えられている兜の中に見えるデュラハンの目と俺の目があった。

 

「………………あれ?生きてる?」

「なんて声を出してやがる……」

「なになに?このデュラハンずっと私たちを待ち続けてたの?簡単にあっさり呪い解かれちゃったとも知らずに?プークスクス!うけるんですけど!ちょーうけるんですけど!」

 

アクアが心底楽しそうに、デュラハンを指差しクスクス笑う。

 

そのアクアの様子にデュラハンはプルプルと肩を震わせ、わかりやすく激怒する。

 

「アンデットナイト!この連中に地獄を見せてやるがいい!」

 

デュラハンは自らの配下であるアンデットナイトを召喚した。そのアンデットナイトの中には、俺の姿を模したゾンビもいた。

 

「俺じゃねぇか……」

 

そして多数のアンデットナイトを召喚したデュラハンはゆっくりと右手を掲げ……。

 

「街の連中を……皆殺しにせよ!」

 

その右手を振り下ろした!

 

 

〈緊急クエスト デュラハンを討伐せよ〉

 

 

アンデットナイトはゾンビの上位互換モンスター。

 

ボロボロとはいえ、鎧をしっかり着込んだそいつらは駆け出し冒険者にとって十分な脅威となる。

 

「おわーっ!プリーストを!プリーストを呼べー!」

「誰かエリス教の教会行って、聖水ありったけ貰ってきてくれえええ!」

 

あちこちから、そんな切羽詰まった冒険者の叫びが響く中、アンデットナイトの群れが街へと向かってくる。

 

街の中には入れまいと、何とか迎え撃とうとする駆け出し冒険者たち。

 

そして、それを嘲笑(あざわら)うかの様なデュラハンの哄笑(こうしょう)が響く。……のだが。

 

「クハハハハ!さあ、お前達の絶望の叫びをこの俺に……、俺……に……?」

「わ、わああああーっ!なんで私ばっかり狙われるの!?私、女神なのに!神様だから、日頃の行いも良い筈なのに!」

 

アンデットナイトの群れは他の冒険者には目もくれず、なぜかひたすらにアクアだけを追いかけ回していた。

 

それを見たダクネスは(うらや)ましそうにこう言う。

 

「ああっ!?ずっ、ずるいっ!私は本当に日頃の行いは良い筈なのに、どうしてアクアの所にばかりにアンデットナイトが…………っ!」

 

 

アクアを追いかけ回すアンデットナイトの群れに向けて、めぐみんが爆裂魔法を放つ。

 

「魔王の幹部、ベルディアよ!我が力、見るがいい!【エクスプロージョン】!」

「ヴァアアアアアア!!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

ゾンビとはいえ、自分が死ぬ姿をこの目で見る日が来るとは思いもしなかった……。

 

 

街の正門前の平原に巨大なクレーターを作り上げ、アンデットナイトを一体残らず、消し飛ばした爆裂魔法。

 

その魔法の威力を目の当たりにしたデュラハンは、目を見開き驚いていたが、やがてその驚きは笑いへと変わっていった。

 

「クハハハハ!面白い!面白いぞ!まさかこの駆け出しの街で、本当に配下を全滅させられるとは思わなかった!よし、では……」

 

デュラハンは右手に大剣を構えて、こう言った。

 

「この俺自ら、貴様らの相手をしてやろう!」

 

 

デュラハンが俺たちのいる街の正門へ向けて駆け出した。それに対して、一人の戦士風の男がこう叫ぶ。

 

「一度にかかれば、死角が出来る!全員でやっちまえー!」

 

その叫びと同時に皆が一斉に駆け出す。

 

「オルガ」

「わかったよ、行くよ!」

 

ミカに背中を押され、俺もデュラハン討伐に向かう。

 

 

俺を合わせて六人程でデュラハンの回りを取り囲む。

 

「どんなに強くても後ろに目はついちゃいねぇ!囲んで同時に襲いかかるぞ!」

 

そう言った冒険者の一人の指示の元、俺たちはデュラハンへと攻撃を仕掛ける。

 

しかし、デュラハンは自らの首を空高くへと放り投げると、大剣を両手で握り直し、攻撃を仕掛けた俺たちを(またた)く間に斬り捨てた。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

ドシャリと音を立てて崩れ落ちるオルガ達。

 

ベルディアは満足そうにその音を聞くと、片手を空に掲げる。

 

その手の平の上にベルディアの首が落ちてきた。

 

その一連の動きは何でもない事だったかの様にベルディアは気楽に言った。

 

「次は誰だ?」

 

その言葉に一瞬(ひる)んだ俺達冒険者だったが、そんな中、冒険者の男がこう叫ぶ。

 

「ビビる必要はねぇ!すぐにこの街の切り札がやってくる!」

「ああ!魔王軍の幹部だろうが何だろうが関係ねぇ!」

 

……この街の切り札?誰だろう、有名な腕利き冒険者だろうか?

 

その疑問はすぐに解消(かいしょう)された。一人の少女の叫びによって……。

 

「そうよ!あんたなんか、今にミツルギさんが来たら一撃で斬られちゃうんだから!!」

「は?」

 

俺は思わず、脳が止まる。

 

「止まるんじゃねぇぞ……」

 

オルガは黙ってろ……。

 

ミツルギって、俺達で魔剣を取り上げて売り払った……。

 

「おう、あと少しだけ持ち(こた)えるぞ!あの魔剣使い兄ちゃんが来れば、きっと魔王の幹部だって……」

「ベルディアとか言ったな?いるんだぜ、この街にも!帰ってきてるんだ、高レベルで凄腕(すごうで)の冒険者が!」

 

……ヤバイ、マジヤバイ……。

 

俺が真っ青になっていると、そこに三日月さんが話しかけてきた。

 

「ねぇ、カズマ。俺はどうすればいい?」

 

……いや、まだ策はあるぞ!

 

それは死中に活を見出だした瞬間だった。

 

 

ダクネスを含む冒険者達が一斉にベルディアに飛びかかるが、ベルディアはまるで後ろに目が付いているかの様に全員の攻撃を難なく(かわ)す。

 

あの回避力は相当のものだ。まずは動きを止めなきゃな。

 

「【クリエイト・ウォーター】!」

 

俺は水魔法をベルディアに向けて放つが、それはいとも簡単に避けられてしまった。

 

だが、攻撃が避けられることは想定済みだ!

 

「【フリーズ】!」

「フリージアじゃねぇか……」

「違うわっ!」

 

倒れていたオルガが変な事を口走りながら【フリーズ】に巻き込まれて凍った。

 

そして、ベルディアの足元も同じように(こお)らせることが出来た。

 

「!?……ほう、足場を凍らせての足止めか……!なるほど、俺の強みが回避だけだと思っているな?だが……!」

「回避しづらくなればそれで充分だ!」

 

足元を凍らされたベルディアが何かを言うよりも早く、俺は本命のスキルを使う。

 

「本命はこっちだ!」

 

そう、先日オルガから教えてもらった『悪魔召喚スキル』だ!

 

「【三日月さん!お願いします!】」

 

 

俺がスキルを使った瞬間、空から悪魔が舞い降りた。

 

「なんだありゃ?」

「何って、三日月さんに決まってんだろ!」

「勘弁してくれよ……」

 

三日月さんの操るバルバトスルプスは落下しながら、腕部200mm砲で牽制射撃(けんせいしゃげき)。その後、着地と同時にベルディア(と近くで凍り()けにされていたオルガ)をソードメイスで叩きつけた。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「オルガは……死んでいいヤツだから」

 

そりゃ、死んでも生き返るからな……。

 

〈緊急クエスト デュラハン討伐 クリア〉

 

 




3月は年度末なんで仕事が忙しくなりそうです。

投稿ペースは落ちるが俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。


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祝福オルガ7

佐藤和真(サトウカズマ)さん……。そして、オルガ・イツカさん。ようこそ、死後の世界へ。私は、あなた方に新たな道を案内する女神、エリス。この世界でのあなた方の人生は終わったのです」

 

目を開けると、俺とオルガは真っ暗な場所で椅子に座っていた。

 

自分に何が起きているのかも分からないまま、俺達の目の前に立つ少女にそんな事を告げられる。

 

ゆったりとした白い羽衣(はごろも)に身を包み、長い白銀の髪と真っ白な肌。

どこか儚げな美しさを持つそのエリスと名乗った女神は、俺達を哀しげに見つめていた。

 

その女神の言葉を聞き、俺は自分が死んだことを自覚する。

 

この感覚には覚えがあった。

俺があの世界へ行くきっかけとなった自称女神(アクア)にあった時も、そういえばこんな感じだったっけ。

 

…………なるほど、俺はまた死んだのか。

 

 

 

 

──数時間前──

 

 

 

 

魔王軍幹部ベルディアとの戦いの後、季節は冬になった。

 

いつものようにクエストを受けるため、アクア、めぐみん、ダクネス、オルガ、そして、俺達のパーティが誇る最大戦力、三日月さんの計六人(フミタンはギルド職員として働いてる)で、ギルドの掲示板を見ていると、俺はとある依頼を見つけた。

 

「なあ、この雪精(ゆきせい)討伐って何だ?名前からして、そんなに強そうに聞こえないんだけど」

 

雪精(ゆきせい)を一匹討伐する(ごと)に十万エリス。

 

今まで、倒してきたモンスターの中でも随分(ずいぶん)高額な報酬だが、名前的にはあまり強そうには感じられない。

 

雪精(ゆきせい)雪原(せつげん)に多く棲息していて、一匹倒す(ごと)に春が半日早く訪れると言われています。とても弱いモンスターで簡単に倒すことが出来ますが」

「いいんじゃねぇか?」

 

めぐみんの説明を聞いて、オルガもそのクエストを請けることに同意する。

 

「じゃあ、これにするか!」

「その仕事を請けるなら、私も準備してくるわね!」

 

張り紙を剥がした俺に、アクアが「ちょっと待ってて」と言い残してどこかに行った。

 

アクアを待つ間、ダクネスがぽつりと呟いた。

 

雪精(ゆきせい)か……」

 

日頃、何かと強いモンスターと戦いたがるこのドMクルセイダーが何故だか嬉しそうな顔をしていた。

 

そんなダクネスの様子に違和感を覚えながらも、俺達は冬場セミ採りに行く馬鹿な子供みたいな格好をしたアクアを待って、厚着に着替えてから雪精(ゆきせい)討伐に出発した。

 

 

街から離れたら所にある平原地帯まで、列車で向かうこと数分。

 

街にはまだ雪は降っていない筈なのに、到着した平原は雪で一面真っ白に輝いていた。

 

そして、その雪原(せつげん)のそこかしこに白くてフワフワした手の平くらいの大きさの丸い(かたまり)(ただよ)っていた。

 

「これが雪精(ゆきせい)か」

 

 

〈討伐クエスト 雪精(ゆきせい)たちを討伐せよ!〉

 

 

「四匹目の雪精(ゆきせい)捕った!カズマ、見て見て!大漁よ!」

 

嬉々としたアクアの声を聞き、そちらを見てみると、アクアは捕中網で捕まえた雪精(ゆきせい)を小瓶にぎゅっと詰めていた。

 

アクアは雪精(ゆきせい)を捕まえて、保冷剤代わりに使いたいらしい。

 

まぁ、後でアクアの捕まえた雪精(ゆきせい)も討伐するがな。

 

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「結構当たんじゃねぇか……」

 

オルガは大丈夫そうだが、どうも俺は雪精(ゆきせい)に攻撃が当てられない。

攻撃しようと近付くと、突然素早い動きで逃げるのだ。何とか三匹まで倒すことは出来たが……。

 

めぐみんとダクネスも攻撃が当てられないのは同じだった様で、めぐみんがこう提案してきた。

 

「カズマ、私とダクネスで追い回しても、すばしっこくて当てられません……。爆裂魔法で辺り一面ぶっ飛ばしていいですか?」

「ま、待ってくれ……!」

「おーし、まとめて一掃してくれ!」

 

オルガが何か言おうとしたが、気にしない。

 

めぐみんの日に一度しか使えない必殺の爆裂魔法が雪原(せつげん)に放たれる。

 

「【エクスプロージョン】!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

爆裂魔法を放っためぐみんがうつ伏せに倒れたまま、冒険者カードを自慢気(じまんげ)に見せてきた。

 

「八匹、八匹やりましたよ!レベルも一つ上がりました!」

 

おぉ、やるなあ。

 

これで俺が三匹、オルガが五匹、めぐみんが八匹で現在討ち取った総数は十六匹。

 

アクアの捕まえた四匹も加えると、総額二百万エリス。五人で分けると一人四十万か。

 

まだ一時間しか経ってないのに、この稼ぎ。

 

「こいつはこれ以上ないアガリじゃねぇのか」

 

オルガの言う通りだ。なんでこんな弱くて美味しい雪精(ゆきせい)討伐を誰もやらないんだ?

 

 

……そんな、俺の疑問に答えるかの様に、俺達の前に、そいつは突然現れた。

 

「オルガ、何か来る」

「は?」

 

ダクネスがそいつを見ると、嬉しそうに大剣を構えた。

 

「おぉ~!ふ、冬将軍!雪精(ゆきせい)達の(あるじ)にして、国から高額賞金をかけられている特別指定モンスターの一体!」

「モビルスーツじゃねぇか……」

 

三日月さんのバルバトスと同じくらいの大きさの水色の騎士が三体。雪精(ゆきせい)討伐をしていた俺達の前に突然現れた。

 

特別指定モンスターなんて勝てるわけないだろ!

 

そう思った瞬間、俺は目の前が真っ暗になった……。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

俺たちが雪精(ゆきせい)討伐をしていると、そこにグレイズリッターが現れた。

 

そのグレイズリッターはこの世界では冬将軍と呼ばれているらしい。

 

三機いるグレイズリッターの一機が急に動きだし、カズマの首がはねられた。……一瞬の出来事だった。

 

「何を……やっている!」

「ミカ、お前っ!」

 

ミカのバルバトスがグレイズリッターに向かって突貫する。グレイズリッターは二機でバルバトスを相手にし、もう一機は俺を狙って攻撃を仕掛けてきた。

 

召喚士である俺を殺そうという魂胆(こんたん)らしい。

 

……ここは、素直に殺されておくか……。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「オルガは……まぁ、いっか」

 

さてと、カズマを連れ戻しに行かねぇとな。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

そして、冒頭へと戻る。

 

 

 

……そうだ。俺は冬将軍に殺されたんだ。

 

「あなたがこっちの世界の女神様ですか?」

 

俺は目の前のエリスと名乗った女神に確認を取る。

 

「はい。異世界から来た勇敢(ゆうかん)な人。せめて私の力で次は平和な日本で、裕福(ゆうふく)な家庭に産まれ、何不自由無く暮らせるように転生させてあげましょう」

「地位も名誉も全部手に入れられるんだ。こいつはこれ以上ないアガリじゃねぇのか」

 

オルガはいつも通り無視して……。

 

「マジか~!じゃあ、で、出来れば、魅力と知力と体力のパラメーターが平均以上で美少女の幼馴染(おさななじ)みのいる人生だと(なお)嬉しいです!」

「マクギリスじゃねぇか……」

 

これはきっと今までこの世界で頑張ってきたご褒美なんだ!

 

今まで、ホント酷い人生だった……。

ゲームみたいな胸踊る冒険が出来ると思って転生したのに……。

 

転生特典でついてきた駄女神(アクア)は態度がデカイばっかで使えないし、仲間を募集しても、やって来たのは魔法撃つ度にぶっ倒れる頭のおかしい爆裂娘(めぐみん)とドMで変態で、攻撃が全く当たらないクルセイダー(ダクネス)だった。

 

「結構当たんじゃねぇか……」

 

あと、変な前髪のオッサン……。

 

「俺は十九だ……」

「十九?嘘だろ!」

「嘘じゃねぇ!鉄華団立ち上げたときは十七で、最初に死んだときはそれから二年後だから十九だ!正確な年齢はわかんねぇが、そんくらいのはずだ!」

 

そうオルガと言い争っている間、ふと自分の頬を熱い物が(つた)っていくのに気がついた。

初めて死んだ時はこんな事はなかったのに。

 

「あれっ?何で……」

「生まれ変わったあなたにまた良き出会いのあらんことを……」

 

ああ、そうか……。

 

俺は大嫌いだと思っていたあのろくでもない世界の事が、案外気に入っていたらしい。

 

 

その時、アクアの声が響いた。

 

「さあ帰ってきなさいカズマ!」

「えっ?」

 

突然鳴り響いたアクアの声に俺は驚きの声を上げた。

 

「なんだよ……結構遅いじゃねぇか、アクア!」

 

オルガはこの展開を読んでいたみたいだ。

 

「なっ?この声はアクア先輩!!」

 

エリスは目を見開き、信じられないといった表情を浮かべ、虚空(こくう)を見つめて大きな声を出していた。

 

「アンタの身体に【復活魔法】かけたから、もうこっちに帰ってこれるわよ!」

 

おお……!マジかよ女神様!じゃあ俺もオルガみたいに(よみがえ)られるのか!

 

「おし、待ってろアクア!今そっちに帰るからなっ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!あなたは一度生き返っていますから天界規定により、これ以上の蘇生は出来ません!」

「お前状況わかってんのか?その台詞(セリフ)を言えるのは、お前か、俺か、どっちだ?」

「あっ、あなたは世界神(せかいしん)様の管轄(かんかつ)で……」

 

エリスがオルガに何かを言うよりも早くアクアがこう言う。

 

「ちょっと、カズマ!」

「はい」

「エリスがそれ以上ゴタゴタ言うのならその胸パッド取り上げていいから……」

「胸パッド?」

「わ、分かりましたっ!特例で!特例で認めますから!!今、門を開けますから~っ!」

「パッドでも構いませんよ?」

 

そのアクアの(わめ)き声を(さえぎ)ると、エリスは顔を赤らめて指を鳴らした。

 

それを合図に俺の身体は宙に浮いた。

「全く、アクア先輩は相変わらず理不尽(りふじん)な……」とエリスはぶつぶつ呟きながら。

 

「さあ、これで現世と繋がりました。……全く、こんな事は普通は無いんですよ?本来なら、二回目以降の蘇生は世界神(せかいしん)様の許可が必要なんですからね!……全く。カズマさんといいましたね?」

「えっ、あ、はいっ!」

 

エリスに名前を確認され、俺は上擦(うわず)った声で返事をする。

 

ウチのなんちゃって女神と比べて、こちらは本物の女神様だ。

 

しかもとびきりの美少女、どうしたって緊張はする。

 

今まで、ずっと哀しげな表情をしていたその女神は、しばらく困った様に頬をポリポリと()きながら、やがてイタズラっぽく片目を瞑り、少しだけ嬉しそうに囁いた。

 

「この事は、内緒ですよ?」

 

 

 

……遠くから、声が聞こえる。

 

「……ズマ……!カズマっ!カズマ、起きて下さいっ!カズマっ!」

 

俺にすがって泣くめぐみんの声。

 

それに、なんだろう?右手が温かい。

 

そちらに視線をやると、ダクネスが俺の右手をギュッと両手で握り、祈るように目を閉じていた。

 

俺は頭の上に気配を感じ、そちらに目を移すと、俺を見つめるアクアと目が合った。

 

「……あ、やっと起きた?ったく、エリスは頭固いんだから」

 

俺はそんなアクアの声を聞きながら、後頭部が温かいのが気になっていた。

 

……どうやら、アクアが膝枕(ひざまくら)をしてくれたらしい。

 

俺が目を覚ました事にめぐみんとダクネスが気付き、二人は無言で俺を抱きしめてきた。

 

生き返れた事を喜んでくれるのはいいんだが、なんだか無性(むしょう)に照れくさい。

 

照れて動けなくなっている俺の様子に気づいたアクアはにやにやと笑みを浮かべ、こんな事を言ってきた。

 

「ちょっとカズマ、この私があなたを生き返らせてあげたのよ。照れてないで何とか言いなさいよ。感謝の言葉とか~、今まで高貴(こうき)な女神様に舐めた態度取って申し訳ございませんとか~」

 

この駄女神とさっきの可愛い方の女神様を、取替(とっか)えっこできないかな?

 

「女神チェ~ンジ!」

「上等よこのクソニート!そんなにあの子の会いたいなら、今すぐ会わせてあげようじゃないの!」

 

額に血管を浮かべたアクアがそう叫んで、拳を光らせ、俺を殴りかかろうとする。

 

「喧嘩?」

「喧嘩じゃねぇよ、これくらい」

 

俺は近くにいたオルガを盾にして、その暴力女神の一撃を防ぐ。

 

「【ゴッドブロー】!」

「こんくらいなんてこたぁねぇ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

蘇生魔法を発動させたのに、なぜか俺は神界にいた。

 

どうやらエリスから何か話があるらしい。

 

「あの~、ひとつ言ってもいいですか?」

「あんまりゆっくり出来る時間はないんだが」

「こんなくだらないことで死なないで下さい」

「勘弁してくれよ……」

 

 




冬将軍(グレイズリッター)は全てミカが倒しました。



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祝福オルガ7.5

今回は元動画にないオリジナルです。



街から外れた丘の上。

 

そこには、死んでいった者たちが埋葬(まいそう)されている共同墓地がある。

 

今回請けた依頼は、夜中に共同墓地に湧いて出るというアンデットモンスターの一種ゾンビメーカーの討伐だ。

 

ゾンビメーカーはゾンビを操る悪霊で、自らは質のいい死体に乗り移り、手下代わりに数体のゾンビを操るモンスターらしい。

 

 

夜道を歩きながら、カズマがこうぼやく。

 

「何で、夜中にクエストを請けなきゃいけないんだよ……。こんなの時間外労働じゃないか……」

「何よ!女神である私の決定に(そむ)くわけ?」

 

そのカズマのぼやきに対して、アクアがそう言う。アクアの台詞(セリフ)に俺は既視感(デジャヴ)を覚えた。

 

《バエルを持つ私の言葉に(そむ)くとは》

 

「マクギリスじゃねぇか……」

 

 

デュラハンの討伐や雪精(ゆきせい)、冬将軍の討伐で高収入を得た俺たちがなぜ、こんな真夜中のクエストを請けたのか……。簡単な話だ。

 

 

雪精(ゆきせい)討伐クエストで俺たちのパーティが冬将軍を倒した事はギルド内であっという間に噂になった。

 

《おいおい、冬将軍倒したんだってな!(おご)れよカズマ!》

《お前、あのベルディアとかいう魔王軍の幹部を倒した時の金も残ってんだろ~!(おご)(おご)れ~!》

《うひょー!カズマ様~!(おご)って、(おご)って~!》

《あ~、もううるさい!いいよ、(おご)ってやるよ!!皆、好きなだけ飲め~!》

 

そして、朝になると金は無くなっていた……。

 

 

真夜中のクエストは雑魚モンスターでも高収入を得られるようなので、この依頼を請けたという訳だ。

 

 

「……冷えてきたわね。ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカーの討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデットが出そうな予感がするんですけど」

 

そう言ったアクアにカズマがつっこむ。

 

「おい、そう言った事言うなよ。それがフラグになったらどうすんだ。今日はゾンビメーカーを数体討伐。そして、取り巻きのゾンビもちゃんと土に(かえ )してやる。そして、とっとと帰って宿で寝る。計画以外のイレギュラーが起こったら、即刻(そっこく)帰る。いいな?」

「ああ、俺らがこれ以上危ない橋を渡る必要はねぇ」

 

カズマの言葉にパーティメンバーが皆、こくりと頷く。

 

「いいかお前ら。今までみたいに誰かを殺しゃ終わりって戦いじゃねぇ。この戦いは俺ら全員が生き残ること、それが目的なんだ。生きて、生き延びることで、あいつらに一泡吹かせてやるんだ。いいな、絶対に引くんじゃねぇぞ!」

「オルガ、言ってることめちゃくちゃだぞ」

 

 

墓地に向かって歩いていると、墓場の中央で青白い光が見えた。

 

「……あれ?ゾンビメーカー……ではない……気が……するのですが……?」

 

めぐみんが自信無さげに呟いた。

 

遠くに見えるその青い光は大きな円形の魔方陣。その魔法陣の中に黒いローブの人影が見えた。

 

そして、その黒いローブの周りには、ユラユラと(うごめ)く人影が数体見えた。

 

それに対してダクネスは、大剣を胸に抱えたままこう言う。

 

「突っ込むか?ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓場にいる以上、アンデットに違いないだろう」

「まっ、待ってくれ!」

 

 

その時、アクアがとんでもない行動に出た。

 

「あーーーーーーーーっ!!!!」

 

突然、叫んだアクアは何を思ったのか、ローブの人影に向かって走り出す。

 

「ちょ、アクア止まれ!」

「止まるんじゃねぇぞ」

 

カズマの制止も聞かずに飛び出していったアクアはローブの人影に駆け寄るとビシッと人影を指差した。

 

「リッチーがノコノコとこんな所に現れるとは、不届きなっ!成敗してやるっ!」

 

アクアの言葉を聞いた俺はカズマにこう質問する。

 

「なぁ、カズマ。リッチーって何だ?」

「ああ、リッチーって言うのは……ヴァンパイアと同じくらいメジャーなアンデットだよ。…………なんて説明すればいいかな?…………めぐみん頼む」

「リッチーとは、ヴァンパイアと並ぶアンデットの最高峰で、魔法を極めた魔法使いが自らの身体(からだ)を捨て去り、ノーライフキングと呼ばれるようになったアンデットの王です」

「火星の王か?」

「違います」

「なんだよ……」

 

つまり、強い未練(みれん)(うら)みで自然にアンデットになってしまったモンスターとは違い、自らの意思で自然の摂理(せつり)()じ曲げて神の敵対者になった者。らしいのだが……。

 

「や、やめやめ、やめてええええええ!誰なの!?いきなり現れて、なぜ私の魔法陣を壊そうとするの!?やめて!やめて下さい!」

「うっさい!黙りなさいアンデット!どうせこの妖しげな魔法陣でロクでもない事企んでるんでしょ!なによ、こんな物!こんな物!」

 

そのリッチーは、ぐりぐりと魔法陣を踏みつけるアクアの腰に泣きながらしがみつき、魔法陣の破壊を食い止めていた。

 

「やめてー!やめてー!!この魔法陣は今だ成仏出来ない迷える魂を天に(かえ)してあげる為の物です!(あや)しげな魔法陣じゃありません!ロクでもない事なんて企んでません~!」

 

確かにリッチーの言う通り、青白い人魂(ひとだま)のようなものが魔法陣に入ると、その魔法陣の光と共にその人魂(ひとだま)が天へと吸い込まれていく。

 

「リッチーのくせに生意気よ!そんな善行(ぜんこう)はアークプリーストの私がやるから、アンタは引っ込んでなさい!」

 

アクアな杖を構えながらこう続ける。

 

「見てなさい!そんなちんたらやってないで、この共同墓地ごとまとめて浄化してあげるわ!」

「ええっ!?ちょ、やめっ!」

「まっ、待ってくれ!」

 

慌てるリッチーに構いもせず、アクアは杖を掲げ、大声で叫ぶ。俺もなぜか嫌な予感がしたため、アクアを制止しようとするが、……遅かった。

 

「【ターンアンデット】!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

……なんで、アンデットじゃないのに、俺まで……。

 

 

墓場全体が、アクアを中心に白い光に包まれた。リッチーの作った魔法陣に集まっていた人魂(ひとだま)もその光に包まれて、消えていった。

 

そして、その光はもちろんリッチーにも(およ)び……。

 

「きゃー!体が、体が消える!やめて、やめてっ!消えちゃう!成仏しちゃう~!」

「あはははははは!愚かなるリッチーよ!自然の摂理(せつり)に反する存在、神の意に(そむ)くアンデットよ!さあ、私の力で欠片(かれら)も残さず消滅するがいいわ!あはははははは!」

「アクア……まるで悪役だな」

 

《まるで将棋だな》

 

冬夜じゃねぇか……。

 

 

「って、おい!やめてやれ」

 

カズマがアクアの後頭部を手刀(しゅとう)で叩く。

 

「ッ!?い、痛っ!痛いじゃないの!アンタ何してくれんのよ、いきなり!」

 

後頭部を叩かれ、集中が途切れたアクアは光を放つのをやめ、頭を押さえながら、涙目でカズマに食いかかる。

 

カズマはそんなアクアを無視して、リッチーにこう話しかけた。

 

「おい、大丈夫か?えっと、リッチーでいいんだよな?あんた」

 

リッチーを良く見ると、体は半透明になっていて、軽く消えかかっていた。

 

やがて、半透明になっていた体もくっきり見えるまでに戻り、リッチーは涙目でフラフラしながらもカズマにこう答えた

 

「は、はい……、だ、だだ、大丈夫です……。危ないところを助けていただいてありがとうございます」

「こんくらいなんてこたぁねぇ」

「えっと、(おっしゃ)る通り、私はリッチーです。リッチーのウィズと申します」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!」

 

ウィズと名乗ったリッチーにカズマはこう言う。

 

「えっと、……ウィズ?あんた、こんな墓場で何してるんだ?魂を天に(かえ)すとか言ってたけど、アクアじゃないが、リッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないか?」

「ちょっとカズマ!リッチーと話す事なんて何もないわ!早く私に【ターンアンデット】かけさせなさい!」

 

カズマの言葉にアクアがいきり立ち、ウィズに【ターンアンデット】をかけようとする。

 

ウィズはカズマの背後に隠れ、(おび)えながら、こう言った。

 

「その……、私は先ほども言った通り、リッチーです。ノーライフキングなんてやってます」

 

火星の王……。

 

ピギュ(ミカが俺の胸ぐらを掴む)

 

「すいませんでした……」

 

 

「アンデットの王である私には、迷える魂たちの話が聞けるんです。この共同墓地の魂の多くはお金がないため、ロクに葬式(そうしき)も上げてもらえず、天に(かえ)る事なく、毎晩墓場を彷徨(さまよ)っています。それで一応、アンデットの王である私としては、定期的にここを訪れ、天に(かえ)りたがっている魂たちを送ってあげてるんです」

 

なんだよ……、いい奴じゃねぇか……。

 

「それは立派な事だし、良い(おこな)いだとは思うんだが……。アクアじゃないけど、そんな事はこの街のプリーストとかに任せとけばいいんじゃないか?」

 

カズマの疑問にウィズは言いにくそうにアクアをチラチラ見ながら、こう言った。

 

「そ、その……。この街のプリーストさんは拝金主義(はいきんしゅぎ)……いえ、お金が無い人は後回し……と言いますか、その……、あの……」

 

アークプリーストのアクアがいるので、言いにくいのだろう。カズマがウィズの言いたいことを要約して言葉にする。

 

「つまり、この街のプリーストは金儲け優先の奴がほとんどで、こんな金の無い連中が埋葬されている墓地なんて供養(くよう)どころか、寄りつきもしないって事か?」

「え……、えっと、……そうです」

 

俺とミカも含めたその場にいる全員が無言の視線をアクアに向ける中、当の本人はばつが悪そうにそっと目を逸らす。

 

「そういうことなら仕方ないんじゃねぇか?」

「ああ、でもウィズ。ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか?俺達がここに来たのも、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを請けたからなんだが……」

「あ、そうでしたか……。その呼び起こしているつもりじゃないんですけど、私がここに来ると、まだ形が残ってる死体は私の魔力に反応して、勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬されている魂が迷わず、天に(かえ)ってくれれば、ここに通う必要もなくなるのですが……」

 

俺とミカを含めたその場にいる全員が無言の視線を再びアクアに向ける。

 

「わ、分かったわよ!私が定期的にここに来て、【ターンアンデット】をかければいいんでしょ!」

 

 

ということで、この件は解決した。

 

その後、ゾンビメーカーを数体討伐した俺たちは宿に帰って、寝床(ねどこ)についたのだった。

 

 

 




希望の花ノルマ達成が難しい……。


私に動画作成は無理だなと自覚しました。

それと同時に素晴らしいオルガMAD動画を作って下さる動画投稿者の皆様に感謝を!


……あと、感想等も下さると嬉しいです。(今回はオリジナルだからちょっと自信ない)



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祝福オルガ8

ゾンビメーカー討伐の翌日。俺達はとある魔道具店へとやってきた。

 

「おし、着いたぞ。いいか、アクア。今の内に言っとくが、絶対に暴れるなよ。喧嘩するなよ。魔法使うなよ。分かったか」

「ちょっと、カズマ。何で私がそんな事しなきゃなんないのよ?一度言っておきたいんだけど、カズマって私を何だと思ってるの?私、チンピラや無法者じゃないのよ?女神よ、神様なのよ」

 

俺の注意に文句を言うアクアと三日月さん、オルガを連れて、俺は店の扉を開けて店内へと入った。

 

「邪魔するぜ~」

「いらっしゃ……ああっ!?」

「ああーっ!出たわね!昨日のクソアンデット!アンタこんな所で店なんて出してたの?女神である私はあんな貧相(ひんそう)な宿に寝泊まりしてるってのに!アンタはお店の経営者って訳!?リッチーのくせに生意気よ!こんな店、神雷(じんらい)を落として(つぶ)してやるわ!」

「ダインスレイヴじゃねぇか……」

「おい、やめろ!あと、貧相(ひんそう)な宿も言うな!宿主に悪いだろ!」

 

店に入るなり、いきなり俺の注意を忘れて暴れだしたアクアの頭をダガーの柄で軽く殴る。

 

そのまま後頭部を押さえてうずくまるアクアをよそに、俺は(おび)える店主に挨拶した。

 

「ようウィズ。約束通り、会いに来たぞ」

 

 

彼女の名はウィズ。

 

普通の女の人に見えるが、その正体はリッチー。アンデットの王である。

 

「火星の王……」

 

ピギュ

 

「勘弁してくれよ……」

 

ウィズはリッチーなのにやさしい子で、毎夜(まいよ)墓地を彷徨(さまよ)う魂を天に(かえ)してあげていた。

 

いろいろあって、俺達はその仕事を代わりに引き受けて、彼女を見逃してあげたのだ。

 

俺はその時、ウィズにもらったメモを頼りにこのウィズが(いとな)んでいる魔道具店までやってきた。

 

「……ふん。お茶も出ないのかしら?この店は」

「あっ、す、すいませんっ!今すぐ持ってきますっ!!」

「持って来なくていい!いや、客にお茶出す魔道具店なんてどこにあるんだよ」

 

陰湿(いんしつ)なイビリをするアクアの言う事を素直に聞こうとするウィズを止める。

 

「止まるんじゃねぇぞ」

「あっ、こら!オルガ!」

「すいません!やっぱり、持ってきます~!」

 

オルガの追い討ちでウィズは涙目になりながら、お茶を()れにカウンターに走っていった。

 

 

「ど、どうぞ……」

 

ウィズが()れてきてくれたお茶に全く口をつけないのも悪い。仕方なくお茶を一口飲んだ俺は早速、本題に入る。

 

「ウィズ。ポイントに余裕が出来たから、スキルを何か教えてくれないか?」

「わかりました!それでは私のスキルをお教えしますね」

 

 

俺はウィズに【ドレインタッチ】というスキルを教えて貰い、それを覚えるため冒険者カードを取り出した。

その冒険者カードには【ドレインタッチ】以外に【止まるんじゃねぇぞ……】というスキルも習得可能スキルの中に入っていた。

 

「これは?」

「それは、団長さんの宴会芸スキルです」

「あんた……。この店で働いてたのか?」

 

俺の疑問に答える形でカウンターから出てきた女性はなんと、フミタンだった。

 

フミタンに話を聞くと、彼女はこの世界に転生して右も左も分からず、困惑している所をウィズに助けられ、ウィズの住むこの店に厄介になっていたらしい。

 

 

「って言うか、オルガの蘇生魔法って宴会芸スキルだったのか!?」

「ああ、もう少し持つかと思ったんだが……そうだな……丁度いいのかもな」

 

オルガは俺にも【止まるんじゃねぇぞ……】スキルを覚えて欲しいみたいだが……。

 

自力蘇生にしろ、アクアの蘇生魔法にしろ一度、天界を経由する必要があるため、俺が覚えるには魔力が非常に高い。それに前回の冬将軍の時も俺は即死してしまったので、詠唱が必要な【止まるんじゃねぇぞ……】スキルは相性が悪い。そのため、この【止まるんじゃねぇぞ……】スキルの習得にスキルポイントを使うメリットは少ない。

 

また、俺はどこに行っても、基本はアクア同伴(どうはん)なので、もし死んでしまった時の蘇生はアクアに任せた方がいい。

 

「これはいらないな」

 

俺は【止まるんじゃねぇぞ……】スキルは覚えずに【ドレインタッチ】だけを覚えた。

 

「習得完了!」

「何やってんだ~!」

「あたりまえじゃん」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「ごめんください。ウィズさんはいらっしゃいますか?」

 

俺たちがウィズの魔道具店でお茶を飲んで休んでいた時、一人の男がウィズを訪ねて来た。

 

「最近、この街の空き家に何故か様々な悪霊が住み着いてしまったのです。何度(はら)ってもすぐに新しい悪霊が住み着いてしまって……。冒険者ギルドにも相談したのですが、対処出来ないと断られてしまいました……。それでウィズさんに何とかしていただけないかと……」

 

悪霊の討伐クエストを出して退治しても、またすぐに新しい悪霊が住み着いてしまう。確かに冒険者ギルドじゃ対処出来ねぇ問題だな……。

 

「なんでウィズのとこに相談に来たの?」

 

ミカが疑問に思ったようで、その男にそう質問する。

 

「ウィズさんは店を出す前は高名な魔法使いでしてね。商店街の者は困った事があるとウィズさんに頼むのですよ。特にアンデット(がら)みの問題に関してはエキスパートみたいなものでして……。それでこうして相談に来たのですよ」

 

なるほどな。ウィズはリッチー。火星の王……じゃなくて、アンデットの王だ。アンデットに関する問題は冒険者よりもウィズのがプロフェッショナルだ。

 

その話を聞きながら、カズマが何か思い付いた様で、男にこう話を切り出した。

 

「その依頼、俺達に任せてもらえませんか!その代わり、悪霊を(はら)った後の空き家を買いたいんですけど……」

 

 

街の郊外に(たたず)む一軒の屋敷。そこに俺たちはやってきた。

 

宿で寝ていためぐみんとダクネスの二人にもウィズの店を訪ねて来た男の話をして、七人全員で悪霊が住み着いたという屋敷までやってきた。

 

七人……俺とミカ、カズマにアクア、めぐみん、ダクネス、そしてフミタンの七人だ。

 

フミタンはこれ以上、ウィズの店に世話になる訳にはいかないと言い出して、俺たちについてきたのだ。

 

「ここか~」

「悪くないわね。ええ、悪くないわ」

「しかし、除霊(じょれい)の報酬として、ここに住んでいいとは……太っ腹な大家さんだな」

「でも、大家さんが言うには、(はら)っても、(はら)ってもすぐにまた霊が現れるらしいぞ」

「いいから行くぞ!」

 

俺たちは屋敷の中へと入っていった。

 

 

そして、夜半過ぎ。

 

俺たちは、各自の部屋割りを決め、屋敷でくつろいでいた。ちなみに俺はカズマと同室だ。

 

俺は部屋のベットで寝転がっているカズマにこう質問する。

 

「カズマ、この屋敷の悪霊はどうするんだ?」

「ああ、それなら俺らは何もしなくても問題ないよ。この屋敷に女神であるアクアが住み着けば、朝までには悪霊の(たぐ)いは出ていってくれるんじゃないかって思ってる」

「もし、出ていかなかったらどうすんだ?」

「あいつのアンデットホイホイな性質で逆にアクアの部屋に悪霊が集まって、キレたアクアが悪霊をまとめて浄化してくれるだろう。多分」

「確かに……そうだな」

 

なんとかなりそうだ。そう思ったその時、アクアの叫び声が聞こえた。

 

「あああああああっ!わああああああーっ!」

「なんだ!?」

 

その叫び声を聞いて、カズマはベットから飛び起きた。

 

 

慌ててアクアの部屋に駆けつけたカズマは勢い良く部屋の扉を開けながら、こう言う。

 

「どうしたっ!おいアクア、何があった!大丈夫かっ!」

「慌てんな、落ち着けカズマ」

 

部屋には大事そうに(から)酒瓶(さかびん)を抱え、泣いているアクアがいた。

 

「うっ……、ううっ……。カ、カズマぁぁ……」

「おい……」

「これは大事に取っておいた凄く高いお酒なのよ。お風呂から上がったらゆっくりちびちび大事に飲もうと楽しみにしてたのに……。それが、私が部屋から帰って来たら、見ての通り(から)だったのよおおお!」

 

その酒は以前の雪精(ゆきせい)討伐の後、冒険者ギルドでやった飲み会の時に、俺が()けた酒だった。

アクアは「部屋から帰って来たら(から)だった」と言っているが、それは実は一昨日(おととい)くらいから(から)だったのだ。

 

「……そうか、じゃあお休み。また明日な」

「これは悪霊の仕業(しわざ)よ!ちょっと私、屋敷の中を探索して、目につく霊をしばき回してくるわ!」

 

そう言って、アクアは部屋を飛び出していった。

 

「【ターンアンデット】【ターンアンデット】!【ターンアンデット】!!【ターンアンデット】!!!【ターンアンデット】!!!!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

一体どれほど眠ったのか。俺は、ふと夜中に目が醒めた。

 

隣のベットではオルガがまるで死んでいるかのように寝入っている。

 

屋敷の中は静まり返り、深夜はとっくに回っているだろう。

 

尿意を感じた俺はベットから起き上がろうとしたのだが、その時、部屋の隅からなにやら音が聞こえた。

 

カタンッ!

 

その音は静まり返る屋敷の中にとても大きく響き渡った。

 

その音がした方を(おそ)(おそ)る見てみると、そこには小さな西洋人形が置かれていた。

 

……怖っ!あんな人形、この部屋にあったっけ?

 

カタンッ!カタンッ!

 

その音は何度も何度も繰り返し響き渡る。俺は恐怖を感じ、きつく目を(つむ)った。

 

カタンッ!カタンッ!カタンッ!

 

…………だ、大丈夫だ……。この屋敷にはアクアがいる。俺達には女神がついてるんだ。

 

悪霊?何それ、おいしいの?そんなもんアクアさんにかかれば、チョロいもんだろ。なんせウチのアクアさんはリッチーですら浄化させた女神ですぜ?大丈夫だ、問題ない。

 

カタンッカタンッカタンッカタンッ!!

 

ああ、朝になったらアクアに今までの事を謝ろう。俺は確かに女神様に対してちょっと扱いが雑過ぎたな。

うん、あれだ。反省してる。反省してます。

 

カタカタカタカタ、ガタガタガタガタッ!

 

ああああああああああマジで今までの事謝るから!

 

謝るから、どうかアクア様、助けて下さいっ!

 

 

………………俺の懺悔(ざんげ)と祈りが届いたのか、部屋に響いていた音はピタリと()んでいた。

 

はぁ、良かった。やっぱり悪霊なんていなかったんだ。さっきのはきっと俺の勘違いだったんだ……。

 

俺は少しだけ安心する。

それと同時に、ある欲求が湧き上がった 。

 

目を開けたい。

 

目を開けて、さっきの人形が今どうなってるのか確認したい。

だが、俺の(かん)みたいな部分が全力でそれは()めとけと(ささや)いている。

 

どうしよう、マジで気になる。だが、目を開けるのは怖い。でも、このままも怖い!

 

俺はしばらく悩み、このままではトイレにも行けない事を思い出す。

 

俺は意を決して、ゆっくりとその目を開け…………。

 

すぐ目の前で俺の顔を覗きこむ西洋人形と目が合った。

 

「はあああああ!わああああああああああ!!」

 

俺は魂を(しぼ)りだす様な絶叫(ぜっきょう)を上げ、ベットから飛び起きて部屋を飛び出した。

 

 

俺はアクアの部屋へ続く廊下を裸足(はだし)でひた走っていた。

 

背後からはさっきの人形達が追ってきている。

 

ガタンッ!ガタタタタタタッ!カタカタカタカタッ!

 

背後に嫌な音と気配を感じながら、アクアの部屋に着くと、ノックもせずに部屋に飛び込んだ。

 

「アクアー!アクア様~!助けt……!」

 

部屋に入ると、そこにアクアの姿は無く、目の前には両目を(あか)く輝かせた黒髪の少女が暗闇の中、ベットの上に座っていた。

 

「ギィヤァァァァァァァァァァ!」

「ファァァァァァァァァァ!」

「ワァァァァァァァァァァ!」

 

思わず悲鳴を上げる俺につられて、目の前の黒髪の少女も悲鳴を上げる。

また、部屋の隅からも悲鳴が聞こえてきた。

 

だが、その声には聞き覚えがあった。悲鳴を上げた二人を良く見てみると…………めぐみんとフミタンだった。

 

「って、めぐみんとフミタンか……。脅かすなよ。危うく漏らすとこだったぞ。おい」

「それはこちらの台詞(セリフ)です」

「なんでカズマがこの部屋に飛び込んでくるんですか、アクアが帰って来たのかと思ったのに」

「そういや、なんでアクアの部屋にめぐみんとフミタンがいるんだ?」

「……いや、その……」

「人形が……ですね。あちこちで……動いておりまして」

「それと……アクアに、ですね。……トイレまで着いてきてもらいたくて……」

「めぐみん、お前もか……」

 

フミタンは人形が怖くてアクアに助けを求めて、めぐみんはそれに加え、トイレに着いてきてもらいたくてアクアの部屋に来たようだ。

 

しかし、冷静に考えて見ると、今アクアは徐霊(じょれい)のため、屋敷内を探索しているはずだ。ここにいるはずもない。

 

……という事は、このまま部屋でじっとしてればアクアが徐霊(じょれい)を完了させるはずだ。

 

悪霊の問題はアクアに任せるとして……もう一つの問題はなんとかしないといけない。

 

「なあ、めぐみん、フミタン。ちょっとあっち向いて耳を(ふさ)いでてくれないか?ちょっと失礼して、ベランダから……」

「っ!///……わかりました」

 

フミタンが照れて、目を(つむ)り、耳を(ふさ)ぐ。

 

しかし、めぐみんは行かせまいと俺の手を掴んだ。

 

「おい、めぐみん。何してんだよ。放してくれ。さもないと、俺のズボンとこの部屋の絨毯(じゅうたん)が大変な事になる」

「行かせませんよ。何一人でスッキリしようとしてるんですか。私達は仲間じゃないですか?トイレだろうとどこだろうと逝くときは一緒です」

 

めぐみんはそう言って、笑みを浮かべる。

 

「ええい、放せ!こんな時だけ仲間の絆を主張するな!お前、紅魔族はトイレ行かないとか言ってたじゃねーか!なんならそこに()いた酒瓶(さかびん)が転がってるから!」

「今、とんでもないことを口走りましたね!」

「さぁ!さぁ!やれよ!やってみろよ!」

「その()いた酒瓶(さかびん)で私に何をしろと!?」

「お○っこだよ!」

「させませんよ!私でもカズマが用を足そうとしている所を、後ろから揺らしてやるぐらいはできますからね!」

「騒がしいな」

「どうしたの?」

 

俺とめぐみんが言い争ってる所にオルガと三日月さんも騒ぎを聞きつけ、やってきた。

 

 

「カズマ、いますか?」

「いるよ」

「俺もいるぞ!」

「本当にいますか?」

「いるぞ!」

「いるって」

 

オルガと三日月さん、そしてフミタンにも着いてきてもらって、俺達はトイレにやってきた。

皆で集まっていれば、霊も寄ってこないだろうと思ったからだ。

 

先に用を済ませた俺は、めぐみんが出てくるのをトイレのドアの前で待っていた。

 

 

「さすがにちょっと恥ずかしいので、大きめの声で歌でも歌ってくれません?」

 

めぐみんが突然、そんな事を言い出した。

 

それを聞いた三日月さんは銃を取り出しながらオルガの名前を呼ぶ。

 

「オルガ!」

 

パン!パン!パン!

 

「団長さん!?」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

♪キボウノハナー♪

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

……やっぱすげぇよ、三日月さんは。

 

 




元動画のクーデリアの叫び声やライドの例のセリフはフミタンに変更しました。

あと、最後の死んだオルガの魂が人形と混ざり合うところが再現出来ませんでした。許して……。

「許さない」
「え"っ!」

パン!パン!パン!

「団長!何やってるんだよ、団長!」



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祝福オルガ9

屋敷の幽霊騒動から数日後、俺は特にすることもなく街をふらついていた。

 

「……ここか……」

「……ああ……」

「ん?」

 

街を歩いていると、裏路地から見知った声が聞こえてきた。

 

裏路地に入ると、道の往来(おうらい)でコソコソしながら、一軒の店の様子を(うかが)っているオルガとシノがいた。

 

「目の前のおっ○いの方がずっといいけどな!」

「お前ら、何やってんの?」

 

 

 

 

 

カズマが俺たちに声をかける数分前。

 

俺は数日前に新しく召喚出来るようになったシノに連れられ、とある店へとやって来た。

 

シノは俺に召喚され、この世界に来てすぐにこの店を見つけ出したらしい。

 

「……ここか……」

「……ああ……。飲んで食ってだけじゃ物足りねぇよ。やっぱここは女だろ、女!乳ブラブラさせてる女が目の前にいんのに、手が出せねぇんだぜ!なぁ、オルガ!」

「……シノは、ラフタを探しに行った昭弘とはえらい違いだな……」

「俺は遠くにいて会えない女よか目の前のおっ○いの方がずっといいけどな!」

 

シノとそんなやり取りをしていたその時、カズマに声をかけられた。というわけだ。

 

「お前ら、何やってんの?」

 

 

俺はシノ、そしてカズマと共に、若干(じゃっかん)の緊張を(にじ)ませながら、その店の中へと入る。

 

「いらっしゃいませー」

 

店に入ると、エロい格好のお姉さんが魅惑(みわく)的な笑顔で出迎えてくれる。

 

席に案内され、ソファに腰掛けると、お姉さんはこう切り出した。

 

「お客様」

「あ……はいっ」

「こちらのお店は初めてですか?」

「は、はいっ」

 

カズマは緊張してDT丸出しの応対をしているが……俺は……。

 

「あぁ……あるに決まってんだろ!」

 

と、見栄を張った。

 

そんな俺の虚勢(きょせい)を知ってか知らずか、お姉さんは微笑(びしょう)を浮かべ、説明を始めた。

 

「それではご説明しますね」

「……ぉ願いします……」

「オネガイシマス!」

「私たちサキュバスはこの街の男性冒険者と共存共栄の関係を築いています。冒険者の方々は馬小屋暮らしの方が多いですよね」

「はい」

 

俺たちは馬小屋暮らしとは違うが……どうでもいいな。

 

「そうなると男性は色々と溜まってくると思います。しかし周りには他の冒険者が寝ているので、ナニすることも出来ません」

 

他の冒険者……ミカのことか……。

 

「そこで、私たちサキュバスが男性冒険者たちにスッキリする夢をお見せするんです」

 

一通りの説明を終えたサキュバスのお姉さんから一枚の紙を手渡される。

 

「ご注文はこちらのアンケート用紙に希望の夢の内容をご記入下さい」

「おっしゃ、待ってました~!今日はどうすっかな~!」

 

そのアンケート用紙を一番に受け取ったシノは何やら色々と書き始めた。

 

俺もアンケート用紙に目を落とすと、気になる点があった。質問しようとしたのだが、その前にカズマがこう尋ねる。

 

「え?……あの、夢の中での自分の状態、性別、外見って項目が有りますけど……これは?」

 

カズマも俺と同じ事が気になったようだ。

 

「王様や英雄になってみたいなどですね」

「火星の王になる……」

「女性側になってみたいというお客様もいらっしゃいます」

 

女性側……ということは、俺もダクネスみたいなドMクルセイダーに……。

 

「年端もいかない少年になって、押し倒されたいというお客様もいらっしゃいました」

「マクギリスじゃねぇか……」

「……大丈夫なのだろうか?この街の男達は」

 

その後、アンケートを記入し終わった俺たちは店を出た。

 

シノは相部屋の相手がミカだから今日は一人で宿に泊まりたいと言い出したので、途中で別れたが、俺とカズマは足早(あしばや)に屋敷へと帰った。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

屋敷に戻って来て、夕食と入浴を手早く済ませた俺とオルガは自分の部屋へと草々(そうそう)に引き()もった。

 

部屋に閉じ()もって、鍵を掛け、窓の鍵を外しておく。

 

別に鍵を外せと言われた訳ではないが、念のためだ。

 

わざわざ、サキュバスのお姉さんに来て頂くのに、これ以上お手数かけては申し訳ない。

 

時計がないので正確な時刻は分からないが、アンケート用紙に記入した就寝(しゅうしん)予定時刻は(せま)ってきている。

 

それまでに眠らなければいけないのだが、色々な興奮と緊張で眠れない。

 

ヤバイ、ドキドキしてきた!

 

ああ、どうしようどうしよう、緊張と期待で興奮して眠れない!

 

 

……俺はベットから這い出て、風呂場へと向かった。

 

体を温めれば、良く眠れるかも知れないと思い立ったからだ。

 

 

俺は浴場の(あか)りをつけ、扉に入浴中の札を掛けて、風呂に湯を張り、浴槽の中でのんびりと手足を伸ばす。

 

そのまま深く息を吐き、何となく眠くなって目を閉じた。

 

 

……俺は一体どれくらいの間そうしていたのだろうか?

 

脱衣場の外からカラン、と何かが落ちる音がして目を開けた。

 

気のせいかと思ったが、こんな静かな中で聞き間違えるとも思えない。

 

扉に掛けてあった札が落ちたのだろうか?

 

それに知らない間に風呂場の(あか)りも消えている。なんでだろう?

 

……まあ、いいか。俺は暗視スキルを持ってるし、月明かりだけでも充分明るいしな。

 

そう、呑気(のんき)に構えていると、……脱衣場に人影が見えた。

 

誰だ?シノは宿に泊まっているし、三日月さんはあまり風呂に入りたがらないから違う。

 

俺が部屋から出てくる時、オルガはすでに寝ていたので、オルガも多分違うだろう。

 

ということは……。考えられるのは、アクアかめぐみん、ダクネス、フミタンの内の誰かだ。

 

って、おいおいおい!

 

俺は慌てて声を上げようとして気がついた。

 

明らかに誰かに仕組まれたようなこの展開に(おちい)る前、俺は眠気を感じて目を閉じていた。

 

つまり、この状況は……。

 

「夢か!」

 

俺がそう判断したと同時に風呂場の扉が開く。

 

誰だ!アクアかめぐみんかダクネスかフミタンか……!

 

「お、おう」

 

……オルガじゃねぇか……。

 

「何だよ、カズマ。お前も眠れねぇのか?」

 

……何これ、おかしい。本当におかしい……。

 

 

「この曲者(くせもの)ー!皆、出会え、出会え!」

 

その時、屋敷にアクアの声が響いた。

 

俺とオルガは腰にタオルを巻いて、アクアの声が聞こえた広間まで様子を見に行く事にした。

 

 

タオル一丁で広間に出ると、そこには昼間見たお姉さんのサキュバスより幼げな、小柄なサキュバスの女の子がアクアの手によって、押さえられていた。

それにめぐみんもパジャマ姿のまま、サキュバスを威圧(いあつ)している。

 

「カズマ、見て見て!私の結界に引っ掛かって身動き取れなくなった曲者(くせもの)が…………。って、こっちにも曲者(くせもの)がいた!」

「誰が曲者(くせもの)だ!俺達は眠れないから風呂に入ってただけで……ってサキュバス!?」

「ええ、サキュバスよ!このサキュバス、きっとカズマ達を狙ってやってきたのね!」

「勘弁してくれよ……」

 

つまり、このサキュバスの子は俺達に夢を見させる為にコッソリ枕元(まくらもと)に立とうとしたが、アクアの張っていた結界とやらに引っ掛かって、捕まってしまったということらしい。

 

「さくっと悪魔(ばら)いしてやるわ!」

「大人しく(めっ)されるがいい!」

「ひっ!」

 

(おび)えるサキュバスの子を退治しようとするアクアとめぐみん。

 

「観念するのね!今飛びきり強力な対悪魔用の……!」

 

俺は無言でサキュバスの前に立ち、両手を広げ、(かば)いながらこう言った。

 

「ニゲロ……」

「えっ!?で、ですが……」

「何やってんの、カズマ?その子はアンタたちの精気(せいき)を狙って襲ってきた悪魔なのよ!?」

「正気ですか、カズマ!?可愛くても、それはモンスターなんですよ!」

「どうしたというのだ、カズマ!?はっ!?まさか、サキュバスに魅了(みりょう)されて……」

 

アクアとめぐみんは俺に(するど)く叫び、ダクネスは見当違いの事を言っているが、何を言われようとも俺はサキュバスを(かば)うのを止めるつもりはない。

 

そんな俺にサキュバスが皆に聞こえないように小さい声でこう言う。

 

「お客さん、こんな状況になったのは侵入出来なかった未熟(みじゅく)な私が悪いんです……。お客さんに恥をかかせる訳にはいきません……。私は野良サキュバスとして退治されますから、お客さんは何も知らないフリを……」

 

それを聞いていたオルガがサキュバスの手を引き、こう叫ぶ。

 

「いいから行くぞ!」

「団長さん!?」

「イケッ……オルガ……」

「すまねぇ、この恩は忘れねぇ」

 

オルガがサキュバスの手を取って、玄関まで走る。

その様子を見たフミタンはオルガもサキュバスに魅了(みりょう)されたと勘違いしたようだ。

 

俺はサキュバスが逃げた事を確認した後、アクア達に向かって、拳を構え、ファイティングポーズを取った。

 

「オルガまで……。どうやら、アンタたちとはここで決着をつけないといけないようね」

「イクゼ……」

「アンタたちをけちょんけちょんにした後、そこのサキュバスに引導(いんどう)を渡してあげるわ!」

 

俺とアクアの闘いが始まろうとした、その時だった。

 

部屋から出てきた三日月さんが、無言で銃をポケットから取り出して……。

 

 

パン!パン!パン!

 

 

…………俺は死を覚悟した。

 

三日月さんに殺される。直感的にそう(さと)った。

 

 

しかし……。

 

 

「何だよ、結構当たんじゃねぇか……」

 

俺は死ななかった。

 

サキュバスを玄関口まで逃がしたオルガが、俺を(かば)い、三日月さんの銃弾を全て背中で受け止めたのだ。

 

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

オルガ、ありがとな……。

 

 




オルガインキュバスの所はこのすばの原作通りサキュバスに変更しました。



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祝福オルガ10

冬夜の世界から旅立って、この異世界に来てから、一年が過ぎた。

 

そんなある日

 

「デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!住人の皆様は(ただ)ちに避難を!冒険者の皆様は装備を整えて冒険者ギルドへ集まって下さい!」

 

デュラハン討伐以降、久し振りの緊急アナウンスが街に響き渡った。

 

 

 

カズマたちと冒険者ギルドに入ると、すでに数多くの冒険者が集まっていた。その冒険者の中にはクリスやウィズもいた。

 

ギルド内が(やかま)しくざわめく中、ギルド職員が声を張り上げてこう言う。

 

「お集まりの皆さん!本日は緊急の呼び出しに(こた)えて下さり、本当にありがとうございます!只今(ただいま)より、機動要塞デストロイヤー討伐の緊急クエストを行います。このクエストにはレベルも職業も関係なく全員参加でお願いします。クエスト失敗と判断した場合には、街を捨て、全員で逃げることになります。皆さんがこの街の最後の(とりで)……。どうか、よろしくお願い致します!!」

 

いつもより、シリアスな雰囲気だ。空気が尋常(じんじょう)じゃない。何と言うか、張り()めている。

 

「では、作戦会議を始めます。まずはこちらをご覧下さい」

 

ギルド職員の手伝いをしていたフミタンがリモコンでなにやら操作すると、冒険者ギルドの天井から巨大なスクリーンが降りてきて、とある映像を見せられる。

 

そこに映っていたのは……。

 

「モビルアーマーじゃねぇか……」

 

 

ギルド職員の説明によると、現在、モビルアーマーは街の北西方面からこちらに向けて真っ直ぐ進行中で到着まではあと一時間くらいらしい。

 

その説明を聞いた魔法使いの少女がこう質問する。

 

「あのっ!デストロイヤーって、古代の魔法王国が造ったんですよね。造った人は何か対抗策を用意してなかったんですか?」

 

俺はマクギリスの言葉を思い出した。

 

《モビルスーツとは元々、モビルアーマーを倒すことのみを目的として造られた兵器なのだ》

 

つまり……。

 

俺が何かを言う前に、冒険者の一人がこう言った。

 

「いるだろ……。頭のおかしいのが」

 

それを聞いた冒険者達も思い当たる(ふし)があるのか、こう呟き始める。

 

「そうか……。いたな、頭のおかしいのが……!」

「いたな、倫理観(りんりかん)のおかしい子が……!」

 

そして、冒険者ギルドにいる冒険者全員が…………ミカを見た。

 

「なるほど……、やるしかねぇだろ……」

「止めるよ、ここにくる前に」

「頼むぜ!遊撃隊長!」

「うん」

 

やるぜ、鉄華団の大仕事だ!

 

 

ギルド職員から作戦指揮を頼まれた俺は、冒険者たちの前に立ち、全員にこう告げる。

 

「聞いてくれ、もう時間がねぇ!上手くいこうがいくまいが、この作戦が最初で最後の作戦だ。お前らの『命』って名前のチップをこの作戦に賭けてくれ!」

 

 

街の前には冒険者たちだけじゃなく、街の住人たちも集まって即席(そくせき)のバリケードを造っている。

 

作戦準備の途中、カズマが俺にこう聞いてきた。

 

「大丈夫か?出来るのか、これ?」

「本体と細けぇのを分断出来れば、今回の作戦は十分成功なんだ」

 

今回のモビルアーマーは冬夜の世界にいたモビルアーマーよりも俺たちの世界で戦ったハシュマルに近い。モビルアーマーの近くには小型機のプルーマが随伴(ずいはん)している。

 

俺の考えた作戦はこうだ。

 

まずはシノのフラウロスの砲撃とめぐみんの【エクスプロージョン】でプルーマの軍勢を一掃する。残ったプルーマはこの街の冒険者たちに任せ、本体はミカのバルバトスにやってもらう。

 

俺たちの世界の時のように戦った後、体のどこかが動かなくなるなんてことが起きないようにミカにバルバトスの本気は出さないように忠告してある。

 

ミカのバルバトスはルプスレクスにしてあるし、昭弘のグシオンも援護に当たらせるからそれでなんとかしてもらうしかねぇが……。一応、もしもの時のことを考えて、奥の手も用意してあるしな……。なんとかなると思いたい。

 

……いや、やらねぇとこの街は終わりだ。やるしかねぇ!

 

 

「以上が団長からの指示だ。何か質問はあるか?」

 

ユージンがいないので、副団長代理は昭弘にやってもらった。

 

「ありませーん」

「あのさ」

 

シノは特に質問はないようだが、ミカは一つ質問をする。

 

「昭弘、ラフタは見つかったの?」

「いや、見つからなかった……。他の世界に転生したのかも知れねぇな……」

「そっか」

 

 

そして、決戦の時がやって来た。

 

魔法で拡声(かくせい)されたギルド職員の声が広い平原に響き渡る。

 

「冒険者の皆さん、そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます!街の住人の皆さんは、(ただ)ちに街の外に遠く離れて下さい!」

 

その放送を聞いた俺は第二監視ポイントで待機しているシノに連絡をとる。

 

「シノ、やれるか」

「もうかよ!くそっ!準備は……!」

「まだですよ!」

「仕方ねぇ、俺だけでもぶっ(ぱな)すぞ!」

「私を忘れないでもらいたいですね」

「そうだな……。じゃあ行くぜ!めぐみん」

「はい!シノさん!」

 

「呪われし漆黒の夜を(まと)いし爆炎よ。紅魔の名の元に原初の崩壊を顕現(けんげん)する!【エクスプロージョン】!!」

(うな)れっ!ギャラクシーキャノンッ!!」

「「発射ぁっ!!」」

 

フラウロスの砲撃とめぐみんの【エクスプロージョン】でプルーマの大半を一掃すると同時に崖を壊して、プルーマとモビルアーマー本体の分断に成功した。

 

「来たぞー!」

 

監視ポイントで待機していた冒険者たちがプルーマの討伐に当たる。

 

「こちら第二監視ポイント!デストロイヤーの通過を確認!」

 

監視ポイントの通信からまもなく、門の前で待機していた俺たちの前にモビルアーマーが現れた。

 

「それでは、冒険者各員、戦闘準備をお願いします!」

 

 

モビルアーマーを見たアクアが取り乱して、こう叫ぶ。

 

「ほんっと、大丈夫なんでしょうね!」

「俺が本気なら、ミカはそれに(こた)えてくれる。ミカを信じろ、駄女神」

 

……頼んだぞ、ミカ!昭弘!

 

「昭弘・アルトランド。ガンダム・グシオンリベイクフルシティ!」

「三日月・オーガス。ガンダム・バルバトスルプスレクス」

「「行くぞ!」」

 

 

ミカ、昭弘とモビルアーマーの戦いは熾烈(しれつ)を極めた。

 

昭弘のグシオンリベイクフルシティは敗れ、ミカのバルバトスルプスレクスはテイルブレードと片腕を失った。だが、モビルアーマーも足を失い、動きが(にぶ)くなっている。

 

モビルアーマーがビームを放とうとしたタイミングでバルバトスルプスレクスがメイスを投げ、ビームの発射口を封じる。しかし、モビルアーマーは無理矢理ビームを放ち、メイスを溶かし、バルバトスルプスレクスを狙う。

 

武器を失ったバルバトスルプスレクスは逃げることしか出来ない。

 

……ここは奥の手を使うしかないか。

 

「カズマ!」

「よーし、ここは手筈(てはず)通りに行くぞ!【スティール】!」

 

カズマの【スティール】で、かつて冬夜が【モデリング】で作り上げたバスターソードを呼び出す。

 

このバスターソードは冬夜の世界でモビルアーマーを倒す時に使ったもの。リンゼの【アイスウォール】を材料にして、【モデリング】で形をメイス風に作り上げ、【グラビティ】を【エンチャント】することで重さを、【プロテクション】を【エンチャント】することで耐久度を底上げした対モビルアーマー用決戦兵器だ。

 

「借りるよ」

 

ミカのバルバトスルプスレクスはバスターソードを手にモビルアーマーへ特攻する。

 

「ちょうどいい。やっぱり、これなら……殺しきれる!!」

 

ミカのバルバトスルプスレクスはバスターソードを水平に構え、そのままモビルアーマーに突き刺した。

 

そして……モビルアーマーの動きは停止した……。

 

 

「ふぅ」

「さあ、帰って乾杯よ!報酬はおいくらかしらね!」

「このバカッ!なんで、お前はそうお約束が好きなんだ!」

「へ?」

「は?」

 

お約束?なんだそりゃ?

 

俺とアクアはカズマの言った意味が良くわからなかったが、その答えはすぐにわかった。

 

《この機体は完全に機動を停止しました。被害甚大につき、自爆機能を作動します。この機体は……》

 

動きを止めたモビルアーマーから流れ出したその機械的な音声は何度も、何度も繰り返される。

 

「ほら見たことか!お前ってやつは、毎度、毎度足を引っ張らなきゃ気が済まないのか!」

「……全く、恋愛神といい、お前といい、女神ってやつは、どいつもこいつも……!」

「待って!ねえ、待って!これ私のせいじゃないからっ!私、今回はまだ何もしてない!」

 

何もしてないってのも、それはそれで問題だろ……!

 

 

冒険者たちがざわめく中、冒険者の一人が何かに気づいてこう叫ぶ。

 

「お、おい!ダクネスさんが一人で突撃してるぞ!」

「え?」

 

何やってんだ、ダクネス~~~~!

 

「そうか、爆発前に破壊するつもりなんだ!」

 

多分、違うぞ。

 

「街を守るために!」

 

違うぞ!あのドMクルセイダーは……!

 

「びびってんじゃねー!俺達も続くぞー!」

「勘弁してくれよ……」

 

自爆しようとするモビルアーマーに突撃していく冒険者たち。

それを見たアクアはカズマの後ろに隠れながら、こう言った。

 

「この分だと任せても大丈夫よ。帰ろ。帰ってまた明日頑張りましょ」

 

そんなアクアの手を引いて、決心したカズマはこう言う。

 

「……。くそっ!行くぞ、駄女神!」

「ふぇっ!いや、いやぁぁぁぁ~~~~!!」

「仕方ねぇ、俺たちも行くか。ミカ!」

「うん。行こう!俺たちみんなで!」

 

 

突撃したダクネスと冒険者たちをなんとか説得して、街の外に避難させた後、俺とミカ、カズマとアクア、そしてウィズはモビルアーマーの最深部へとやって来た。

 

「コロナタイト……暴走してますね」

 

コロナタイトとは、モビルアーマーの動力源。

モビルスーツで言うエイハブリアクターと同じようなものだ。それが今、暴走して、自爆しようとしている。自爆まであと数分しかない。

 

「ちょっと、ウィズ。なんとか出来ないの!」

「えっ!?うーん。転移魔法でどこかへ……」

「それよ!!」

「問題は転移先を選ぶのに、制限がありまして……。ランダムテレポートならすぐに跳ばせるのですが……」

「じゃ、じゃあそれだ!」

「ですが、下手したら人が密集している場所に送られることも……」

「世の中ってのは広いんだ!大丈夫!全責任は俺がとる。こう見えて、俺は運がいいらしいぞ!」

 

俺もカズマに便乗して、こう言った。

 

「そこまで言うなら見せ場は譲ってやるよ!」

「ダメだよ、オルガ」

 

しかし、流れるようにミカに否定された。

 

「勘弁してくれよ、ミカ。俺は……」

 

ピギュ(胸ぐらを掴む音)

 

「それはダメだ」

「え"え"っ」

「決めたんだ、あの日に。決まったんだ」

 

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 第48話 「約束」 (2017年3月19日)

 

「ああ、わかったよ!連れてってやるよ!どうせ、後戻りは出来ねぇんだ!コロナタイトを連れてきゃいいんだろ!」

 

 

俺は、出来るだけ街から離れた人のいないところで待機する。

 

「【テレポート】!」

 

すると、俺の頭上から何かが降ってきた。……コロナタイトだ。

 

ヴァアアアアアア!!

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「というわけで、お前さんは死んでしまった」

 

気がつくと、俺は神界にいた。

 

「久し振りだな。神の爺さん」

「元気にしておったか」

「ああ、俺なりに上手くやってるつもりだ」

 

アクアやエリスとあった時の、真っ暗な部屋ではなく、背後に輝く雲海が広がる世界神の部屋だ。

 

四畳半の畳の上で卓袱台(ちゃぶだい)を挟んで俺は神の爺さんの目の前に座っていた。

 

「で、何のようだ?」

「オルガ君にはそろそろ次の異世界に行ってもらう」

「そうか……」

 

せめて、カズマたちに別れの挨拶くらいはしたかったが仕方ない。

 

「大丈夫じゃよ」

「は?」

 

神の爺さんは、部屋にあるアナログテレビの電源をつける。

 

すると、そこには、アクアとカズマが写った。

 

《カズマ、カズマ、写ったわよ!ほら!》

《おっ、ホントだ。よう、オルガ!》

「カズマ、アクア!?」

《アクアと世界神さんから話は聞いた。神殺しの罪で同じ世界にずっとはいられないらしいな》

「ああ、すまねぇな。カズマ」

《謝るなよ、仕方ないだろ。こっちは大丈夫だ!オルガのおかげで()()()()デストロイヤーを無力化出来た!》

《報酬もガッポガポよ!しばらくは遊んで暮らせるわ!》

「……そうか」

 

なぜか、涙が出てくる……。俺はあの街のみんなを守れたんだな……。

 

《何、泣いてんだよ!こっちまで湿っぽくなってくるだろ……。バカ野郎……!》

 

そういう、カズマの目にも涙が(にじ)んでいた。

 

 

「すまんが、そろそろ通信も終わりじゃよ。最後に何か言うことはあるかの?」

 

神の爺さんが、そう言うと、俺とカズマはお互いにこう言った。

 

《元気でな、オルガ!》

「ああ、そっちも変わらずやれよ、カズマ!」

《あっ、最後に一つ言わせて!次の異世界にもカズマと同じようなのが、転生される予定らしいのよ!》

「ああ、それで?」

《それでアンタには、その転生者と行動を共にしてほしいってこと!》

「ああ、わかったよ。やりゃいいんだろ!」

《ええ、よろしく~》

 

と、そこで通信が切れた。

 

「アクアに全部言われてしまったのう……」

「……さてと……じゃあ、行くわ」

「うむ。気を付けてのう」

 

そして、俺は次の異世界へと旅立った。

 

 




読んでいただいてありがとうございます!

このすば世界でのオルガの旅も終わりました。
最終回まで読み続けてくれた皆様、本当にありがとうございました!

次は第3章『デスマーチから始まる異世界オルガ』です。こちらも良ければどうぞ



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第3章 デスマオルガ (元動画:ウィンター、原作:デスマーチからはじまる異世界狂想曲)
デスマーチから始まる異世界オルガ0


(祝)異世界オルガ ミリオン達成!!

※本小説はニコニコ動画のMADのノベライズ化です。
動画を見ていること前提で話が進むので、先に動画を見ることをオススメします。

URL:http://sp.nicovideo.jp/watch/sm32613951




カズマの世界から次の異世界へと転移してきた俺は荒野(こうや)にいた。

 

赤茶色の岩肌がむき出しになっていて、大小の岩や絶壁に囲まれた渓谷(けいこく)など、全体的に高低差のある地形だ。

 

大きな高台の渓谷(けいこく)が東と西に二つあり、俺は東側の高台にいた。そして、西側にも一人の男がいた。

 

……あいつがこの世界の転生者か……。

 

俺はこの世界に来る前にアクアから言われた言葉を思い出した。

 

《次の異世界にもカズマと同じようなのが転生される予定らしいのよ!それでアンタにはその転生者と行動を共にしてほしいってこと!》

 

俺は西側の高台にいるその転生者に自己紹介をした。

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!」

 

 

一番近くにある崖の影から、砂煙を上げて何かが近づいてくる。あれは……リザードマンだ。

 

「なんだよ……。なんてこたぁねぇじゃねぇか」

 

リザードマンは冬夜の世界で戦ったこともある。

ミカさえいればあんな奴ら、なんてこたぁねぇ。

 

 

「●●●●●●●!●●●●●●●●●●!●●●●●●●●!」

 

リザードマンたちが知らない言葉で何かを叫んでいる。……何言ってんだ?

 

その後、リザードマンたちは手にしていた大弓をこちらに向けて構え、力強く弦を引き絞る。

 

そして、リザードマンたちの放った矢は俺と西側にいる転生者に向けて、弧を描いて飛んだ。

 

西側にいる転生者は怯えてこう叫ぶ。

 

「ヤバイ!!このままじゃ死ぬぞ!」

「死なねぇ!!」

 

俺は怯える転生者に渇を入れるため、そう叫んだ。

 

「死んでたまるか!このままじゃ……こんなところじゃ……終われねぇっ!!」

 

俺はリザードマンの群れに向かって走り出す。

 

走りながら、俺は召喚魔法を使った。

 

「【ミカァ!】」

 

…………しかし、なにもおこらない。

 

「【ミカァ!】、【ミカァ!】」

 

…………やはり、なにもおこらない。

 

「何やってんだ、ミカァァァ!!」

 

 

この世界には召喚魔法はないのか!?

 

勘弁してくれよ……。

 

 

近くにいたリザードマンが俺に向けて弓を引く。

 

だから、勘弁してくれよ……。

 

リザードマンの放つ矢が真っ直ぐ俺に向けて飛んできた。

 

俺は自暴自棄になって、召喚魔法の詠唱を何度も続けるが……。

 

「【ミカァ!】【ミカァ!】【ミカァ!】」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

>【止まるんじゃねぇぞ……】スキルを得ました。

>【止まるんじゃねぇぞ……】スキルを使用しました。

 

蘇生魔法を使ったら、なにやらメッセージが出てきた。

 

どういうことだ?このスキルはカズマの世界では、最初から覚えていたんだが……。

 

 

「管制制御システム、スラスター全開」

 

俺が意識を取り戻すと、ミカのバルバトスルプスが無数の流星と共に空から舞い降りた。……遅いじゃねぇか、ミカァ!

 

 

ミカがリザードマンを駆逐していく。

 

それと同時に、>レベルが上がった。というメッセージが無数に流れていく。途中に >竜神アコンカグラを倒した。というメッセージも出て、その次に >称号『神殺し(竜神)』を得た。というのも出た。

 

……また、神を殺したのか……。次の神殺しの呪いは何だ?

 

 

そして、ミカが敵を全滅させた後、俺のレベルは500になっていた。……ついでに言うとミカのレベルは3474だった。

 

 

>称号『鉄華団の悪魔』を得ました。

 

 




異世界オルガのミリオン達成を記念して、デスマオルガを早めに投稿しました。
しかし、これは1話ではなく、0話ですのであしからず……。

次回からノベライズ版デスマオルガ本編が始まりますが、デスマオルガの1話を投稿する前にオリジナルの異世界オルガ4.5をデスマオルガの伏線回として投稿する予定です!

異世界オルガ4.5の内容はVS水晶の魔物になります。冬夜の例の迷言が生まれた回です(笑)






「まるで将棋だな」


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デスマーチから始まる異世界オルガ1

サトゥー目線の1話です。



ロボットアニメが好きな者は少なくはないだろう。

 

だが、そのロボットが間近で戦う様を、その目で見た事はないのではないか?

 

もちろんアニメでは良く見る光景だとは思う。それでも、それが間近で戦う光景を見た者は現代社会には居ないはずだ。

 

しかし、今オレはその光景を目の当たりにしている。

 

大人は誰も笑いながら「アニメの観すぎだ」と言うだろう。オレもその大人の一人だったのだから。

 

だが、オレは絶対に、そう絶対に嘘など微塵もついていない。

 

 

 

時は少し(さかのぼ)る。

 

 

オレは遅れに遅れているプロジェクトを納期に間に合わせるために休日出勤していた。いわゆるスマートフォン用のゲームアプリやPC用のブラウザゲームなどを大手から依頼されて作成する下請け外注会社のプログラマーをしている。

 

いかにブラックな会社とはいえ普通一人に2プロジェクト以上割り振られることは無い。しかし仕様変更とバグの多さに後輩の若いプログラマーが納品間際に失踪してしまったのだ!

 

離職率の高い職場故、この会社にいたプログラマーは後輩氏とオレの二人のみ。急な補充など見込めるはずもなくオレは自分のプロジェクトだけでなく後輩氏の炎上プロジェクトの後始末までする羽目になっていた。

 

OJTする暇も無く実践に投入された後輩氏に文句を言っても仕方ないが、後輩氏が入社したばかりのときには四人いたプログラマーが今やオレ一人というのは、会社としてどうかとは思う。

 

「さ……、鈴木さん、『WAR WORLD』の難易度が初心者には難しいから直せってクライアントからクレームが来たんですがどうしましょっか」

 

振り返るとディレクター兼プランナーのメタボ氏が困った顔でそう聞いてきた。

あと今、佐藤って言いかけたなコノヤロウ。半年もチーム組んでるのに間違えかけるな!

 

「う~ん。前にボツったキャラ初回作成時のみマップ全索敵と三回分くらいのマップ殲滅ボムをボーナスにつけてやるのでいいんじゃない? 使わずにクリアしたらレア称号プレゼントとかにして得意な連中には自分から使わない方向へ持って行っとけば?」

「もう時間もないし、それで行っときますか~。じゃ鈴木さん実装よろしく」

 

 

そこからは独り言を呟きつつ黙々と作業を進めた。

 

後輩氏の残した無数のケアレスミスを深夜まで修正し、デバッグチームに後を任せる。

 

翌朝までチェックは続き、奇跡的にMMO-RPGのクライアントプログラムは納品された。

 

勿論まだバグは残っているだろうが、ネット配信には「アップデートパッチ」という伝家の宝刀があるので心配はいらないだろう。ユーザーからの罵声が聞こえてきそうだがオレは眠い。デバッグチームの作業中に修正した『WAR WORLD』の実行パッケージをメタボ氏に社内メールで転送して、机の下の安住の地で30時間ぶりの安眠についた。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

そして、目覚めるとオレは荒野にいた。

 

そう荒野だ。アメリカのグランドキャニオンあたりを想像してもらうのがいいか。

 

 

ふと、ポケットに入っていたケータイを取り出して、操作してみるが……。

 

「使えるわけないか」

 

そう独り言を呟いてケータイのブラック画面を見ると、そこには高一くらいの自分の顔が映った。

 

……おそらくこれは夢だ。明晰夢(めいせきむ)とかいうヤツだ。

あまり深く考えないことにしよう。

 

 

次にオレは視界の下にある四つのアイコンとメニューと書かれたガジェットを見る。

 

先ほどまで作業していた『WAR WORLD』のものと同じようなガジェットだ。

 

そのアイコンやメニューは考えただけで操作できるらしい。

 

 

メニューはタブに分かれ、『INFO』『MAP』『ユニット管理』『ストレージ』『交流』『ログ』『設定』といったいつもの項目に『ステータス』『装備』『魔法』『スキル』といった『WAR WORLD』には存在しない欄が増えていた。

 

名前は『サトゥー』。『WAR WORLD』で使用するテストキャラと同じ名前だ。

 

ステータスを見るとレベルは1で、HP、魔力(マジックポイント)、能力値の各値は全10ポイント。これはボーナスポイントを割り振らない場合の基本ステータス値だったりする。

 

年齢は十五歳……潜在心理でもう一回学生生活でもしたいと思っているのかもしれない。

 

 

右下の四つのアイコンは『全マップ探査』が一つと『流星雨』が三つ。メタボ氏との打ち合わせで適当にでっち上げた初心者救済策だ。

 

『全マップ探査』は名前の通りマップ内の全ての範囲が索敵済みになる。また全てのユニットの弱点を初めとする詳細情報の閲覧が可能になる。

 

 

試しにスマホみたいに指でタップして実行してみる。

 

レーダーが全て索敵済みになり無数の敵が赤い点で表示される。レーダーの倍率を下げて広範囲を映す。

 

「赤ってことは、こいつら敵だな」

 

 

敵の詳細情報を閲覧してみる。

 

「リザードマンか、あれ?……うん。やっぱりそうだ。……ん?」

 

敵の中にリザードマンではないユニットがいた。……名前は『鉄華団団長 オルガ』。年齢は十九歳で、職業は召喚士?

 

まぁ、敵だからリザードマンと一緒に倒しちゃいますけどね。

 

 

さてと、ではゲームスタートと行きますか!

 

自軍の『ユニット』は多数を相手にしやすいのを選ばねば!

 

寡兵(かへい)で大軍を撃破するのって燃えるよね!

 

 

 

……そんなことを考えていた時代がありました。

 

『ユニット作成』……作成可能ユニットなし。

『ユニット配置』……作成済みユニットなし。

 

「レベル1のキャラで突撃しろとでもwww」

 

さすがは夢。理不尽にも程がある。

 

 

そんなことを考えている間にリザードマンが接近してきていたようだ。

 

「●●●●●●●!●●●●●●●●●●!●●●●●●●●!」

 

リザードマンが聞いたことのない言葉で何かを叫ぶ。何を言っているのかは分からないが、明らかにオレがここに居る事を確信しているかのような振る舞いだ。

 

これも夢らしい不条理さといえるだろう。

 

 

奴等はオレからの返答をしばらく待っていたが、オレは何も答えなかった。だって怖いじゃん。

 

オレが何も答えないことに(しび)れを切らしたのか、奴等は行動に移った。その手に持つ弓で矢を放ったのだ。

 

夢だから死ぬわけ無いんですけどね。怖いものは怖いけど。

 

綺麗に弧を描いて飛ぶ矢はオレの頬を(かす)めて地面に突き刺さった。

 

 

……死ぬわけない。そう言ったオレの先程の言葉を撤回しよう。頬が焼けるように痛い!!

 

ここは、本当に夢の中なのか?もし違ったとしたら…………!

 

 

「ヤバイ!!このままじゃ死ぬぞ!」

 

オレは死を覚悟した。しかし……。

 

「死なねぇ!!死んでたまるか!このままじゃ……こんなところじゃ……終われねぇっ!!」

 

オルガとかいう召喚士がまるでオレに渇を入れるかのようにそう叫んで、一人でリザードマンの群れに飛び込んでいった。

 

そして……「ミカァ!」と何度も叫びながら……死んだ。

 

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

ザァ、という土砂降りの豪雨のような音が、耳朶(じだ)を打った。

 

リザードマンの群れから放たれた弓矢が、弧を描いて絶えず飛んでくる。

 

この状況に対するオレの選択肢は多くない。このまま座して死ぬか、矢の雨の合間を狙って逃げるか────()()するかだ。

 

 

視界の端に表示されたままだった三つある『流星雨』のアイコンの一つを選択する。

 

消滅パターンを残して、アイコンが消えた。だがそれだけだ。

 

「そんなっ!未実装でしたってオチなんて最悪じゃないか……」

 

焦るオレを更に(あお)るように、矢の雨が降り注ぐ。そしてついに矢の一本がオレが盾にしていた岩を削り、オレの肩を(かす)めた。

 

「くそっ!バグで敗北とか、バッドエンドにもほどがあるぞ!」

 

 

その時だった。空から無数の流星と共に白いロボットが舞い降りたのは……。

 

「管制制御システム、スラスター全開」

 

オレは(ほう)けたようにその光景に目を奪われる。

 

 

 

おまたせ。

 

ようやく冒頭のシーンに戻るわけだ。

 

本名、鈴木一郎。キャラ名、サトゥーの異世界生活はこんな感じで始まった。

 

 

 




次回の『デスマーチから始まる異世界オルガ2』は前編(1.5話)と後編に分けます。

それと前回の話の後書きで予告した通り、オリジナルストーリーの異世界オルガ4.5をデスマオルガの伏線回として投稿しましたので、そちらも読んで頂けたら嬉しいです。



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デスマーチから始まる異世界オルガ1.5

サトゥーです。働きアリと言われる日本人らしく、仕事漬けの日々を送っていましたが、「ここではない何処(どこ)か」に逃げたいと思うほど、思い詰めてはいないはずです。忙しい分、やりがいも感じていたのです。本当ですよ?

 

 

 

《ねぇ、次はどうすればいい。オルガ》

《決まってんだろ……行くんだよ。ここじゃない何処(どこ)か……俺たちの本当の居場所に》

《うん。行こう!俺たち……みんなで!》

 

 

 

 

 

どうやらオレは流星雨とあのロボットの戦闘で、地面を(えぐ)った余波と思われる土埃(つちぼこり)の波にさらわれる直前の激痛で少しの間、気絶していたらしい。

 

半ば土に埋もれていた体を起こそうとしたその時……。

 

カシャン

 

と、金属音が聞こえた。

 

表示しっぱなしだったマップを見ると、一つの赤い光点が目に写った。

 

金属音の聞こえた方向とマップに写った赤い光点の場所は一致している。

 

ということはあのロボットの猛攻に耐え抜いたリザードマンがいたという訳だ。

 

流星雨の方も距離がオレに近すぎて有効打にならなかったんだろう。

 

 

オレはその生き残りのリザードマンの方へと目を向ける。

 

ヤツは全身から血を流し、(かろ)うじて壊れずに済んでいるボロボロの青い鎧を赤く染めていた。槍を杖のように使い、折れた足を引き()って、こちらへと近寄ってくる。

 

そして、腰に差していた剣を(さや)ごと抜くと、オレの足元に投げつけてきた。

 

「●●●●!●●●!」

 

何を言っているかわからないが、言わんとしている意図は通じた。

 

「この剣を取って戦えって事か?」

 

オレは剣を抜いて、構えるが、これまでの人生で剣道や剣術を習った事はない。

 

素人のオレがヤツを剣で斬りつけても、簡単に避けられてカウンターでヤツの持つ槍に突かれて終わるだろう。

 

(さいわ)いヤツは満身創痍(まんしんそうい)で移動するのもつらそうだ。なんとか隙を作ってしまえば、逃げられるかも知れない。

 

 

オレは剣を投げて、(ひる)んだ隙に逃げることにした。

 

「えいっ!」

 

>【投擲(とうてき)】スキルを得ました。

>【投擲(とうてき)】スキルを使用しました。

 

「……えっ?」

 

投げた瞬間に逃げ出すつもりだったのだが、目の前の光景がそれを制止した。

 

オレが投げた剣はリザードマンには避けられたが、異常なほどの速度で飛んでいき、リザードマンの奥にいたオルガとかいう男に突き刺さったのだ。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

オルガが死ぬ間際に放った銃弾を食らい、リザードマンは倒れたが、その代わり、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

……オルガの話によると、ここは異世界でオレはこの世界に転生してきたらしい。オルガは神様の使いでオレを助けてくれるのだそうだ。

 

「そうか……。じゃあオレは過労で死んだのか?」

「死因は知らねぇが、とにかくここは異世界でお前はこの異世界に転生したんだ。それ以外は俺も特に聞いてねぇ」

 

まぁ、異世界に来てしまったなら仕方ない。せっかくなので、異世界観光でも楽しみましょうかね。

 

 

確認のために開いたステータス画面のHPは全回復していた。というかHPの最大値が増えている。HPだけじゃない。レベルも1から310まで上がっていた。

 

(ちな)みにオルガはLv.500、オルガの召喚獣の三日月はLv.3474らしい。

 

(ただ)しオルガのHPはなぜか1しかない。「神殺しの呪いだ……」とオルガは言っていたが、あまり詮索(せんさく)はしない方がよさそうだ。

 

 

次に使えるスキルや魔法についてだが、オルガは【止まるんじゃねぇぞ……】スキルという固有スキルをもっているらしい。ようは蘇生魔法だ。

 

また、オルガは三日月と三日月の乗る『ガンダム・バルバトス』を召喚する事が出来るらしい。こちらの召喚魔法は戦闘で役立ててもらおう。

 

オレには先程使った初心者救済アイコンの技が魔法欄に登録されていた。

 

全マップ探査と流星雨だ。

 

とりあえず、試せる時に試しておこうかな。窮地(きゅうち)になってから使おうとして、「魔力(マジックポイント)が足りません」とか言われたら泣くに泣けない。

 

魔法欄で流星雨を選択して、『使用』する。

 

>目標を選択して下さい。というログが表示されたので、『WAR WORLD』で施設破壊系の大魔法を使う時の要領でマップに目標地点をマーキングした。

 

巻き込まれないように出来るだけ遠くに設定しよう。

 

……これくらい遠くなら大丈夫か?

 

>【流星雨】を使用しました。

 

どうやらこの手順で良かったらしく、魔力ゲージがグググ~ッと減っていく。

 

魔力ゲージが全体の三分の一、丁度1000ポイント減ったところで止まった。

 

 

空を見上げる。発動するまで、少しタイムラグがあるようだ。

 

ボーっと空を見上げていると、雲を裂いて流星群が降ってきた。

 

「どうした?ミカ」

「何あれ?」

「ん?何だありゃ?」

「デカイ……何これ!?」

 

降ってきた隕石は、バルバトスと一緒に降ってきた時の百倍くらいの大きさだった。

 

「逃げろっ!」

 

オレはオルガと三日月にそう言いながら、隕石の落ちる方向と逆側へ駆け出した。

 

「何やってんだぁぁっ!!」

 

三日月は霊体化して消え、オルガは焦って走り出す。

隕石というにはあまりに大きな塊が大地を打つ連続音を背後に聞きながら、オレも懸命に足を動かし続けた。

 

ヴァアアアアアア!ヴァアアアアアア!ヴァアアアアアア!!

 

 

 

……それから、どれくらい経っただろう。

 

オレは何とか逃げ切れたが、オルガは爆風に巻き込まれてしまい……希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「ここどこ?」

 

霊体化を解いた三日月がそう言った。確かに先程までとは周りの景色が違う。オレは現在地をマップで確認して見ることにした。

 

「戦士の……(とりで)?」

 

どうやらここは先程までいた『竜の谷』の結界を越えた先にある『戦士の(とりで)』という場所らしい。

 

近くにはすり鉢状の闘技場らしき広場が付随(ふずい)した石造りのこじんまりとした(とりで)があった。

 

「街はねぇのか」

「街?……ちょっと行ったところに『セーリュー市』って街があるな」

「じゃあまずはそこに行こうぜ……」

 

ということで、オレ達はその『セーリュー市』を目指すことにした。オルガはお疲れのようだし、ゆっくり歩いて行きますかね。

 

 

セーリュー市に向かう途中に急接近する赤い光点がレーダーに写った。マップを参照してみると、Lv.30のワイバーンだった。

 

姿を見るため、近くの岩の上に飛び上がる。

 

「げっ?!」

 

出会い頭にワイバーンと激突し、跳ね飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられた。

 

「痛っ……くないな……。苦痛耐性スキルのおかげか?それとも耐久力が高いから?」

「俺にはさっぱり分かりませんね」

 

再び空に舞い上がったワイバーンが、空を旋回してこちらを襲うタイミングを見計らっている。

 

「このっ!あっち行け!」

 

オレはワイバーンを追い払う為、近くに落ちていた小石を二つ右手に握って投げ飛ばす。

 

一つはワイバーンの翼を突き破って空の彼方へ。もう一つはワイバーンの(うろこ)に当たって、こちらに跳ね返ってきた。

 

その跳ね返ってきた方の小石がオルガに当たり、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

翼を突き破った小石もワイバーンを撃退するほどの威力では無かったが、追い払うのには成功したようだ。

 

ワイバーンは遠くに見える崖の向こうへ、ふらふらと頼りない軌道を描いて飛び去った。

 

「ねぇ、オルガ。何か嫌な予感がするんだけど」

「どうした?ミカ…………っ!サトゥー!マップ開け!」

「えっ?何で?」

 

訳が分からないまま、オルガに言われるままにマップを開く。

 

「……マズイな。セーリュー市の軍隊がいる」

 

マップを開いて確認すると、ワイバーンの逃げた方向に百名程の軍隊がいた。平均レベルは7くらいだが、軍隊を率いる騎士のレベルは31だった。……もしかしたらなんとかしてくれるんじゃないか?

 

「いいから行くぞ」

「……分かったよ」

 

オルガに(さと)されたので、オレは軍隊を助けることに決めた。

 

 

ワイバーンの後を追っている間に、オレは気になった事をオルガに聞いてみた。

 

「オルガ、何でワイバーンの逃げた方向に軍隊がいるってわかったんだ?」

「足音だよ。耳を澄ましたら、軍隊の足音が聞こえた」

「ああ、そういうこと」

 

納得した所で、オレ達はワイバーンに追い付いた。

 

ワイバーンはすでにセーリュー市の軍隊と会敵(かいてき)しており、軍隊の指揮官が(おび)える兵士達を激励(げきれい)していた。

 

「兵士達よ、恐れるな!」

「セーリュー魂を見せてやれ!」

 

兵士達は円陣を組んで、ワイバーンと対峙している。

 

「来たぞ!槍兵よ、石突きを浮かすな!地に付け、足で踏みつけて固定しろ!浮かせるとワイバーンの勢いに負けて、跳ね飛ばされるぞ!」

「弓兵はもっと引きつけろ!ヤツが槍を恐れて、速度を落とすのを待て!」

 

兵士達が(おび)えつつも浮き足立たないのは、指揮官の的確な指示があるからだろう。

 

ワイバーンは幾度も陣を襲うが、槍に(はば)まれてしまってなかなか攻めきれずに空中に押し戻されている。

 

しかし、弓矢での攻撃はワイバーンの外皮に(はば)まれてダメージを与えられないでいるようだ。

 

「このままじゃ……こんなところじゃ、終われねぇ!」

 

そんな状況にオルガが痺れを切らしたのか、ワイバーンと軍隊の戦いの間に突っ込んでいく。

 

しかし、それは余計なお世話だったようだ。

 

 

「行け、ゼナ!」

「はい!」

 

弓矢が利かないとわかった軍隊の指揮官は、小柄な魔法兵の少女に指示を出す。

 

「【……■ ■■■ 気壁(エア・クッション)】!」

 

ヴァアアアアアア!!

 

軍隊の円陣に突撃してきたワイバーンがオルガを巻き込みながら、見えない壁に激突して動きを止める。

 

ワイバーンが見えない壁に激突した時の衝撃で、小柄な魔法兵の少女とオルガが勢いよく宙に跳ね飛ばされた。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

オルガは【止まるんじゃねぇぞ……】スキルがあるから蘇生出来るが、小柄な魔法兵の少女はそうはいかない。どうすれば……。

 

「【……■■■ ■■ 稲妻(ライトニング・ボルト)】!」

「【……■ ■■■ 落下速度軽減(レジスト・フォール)】!」

 

軍隊の魔法兵が二つの魔法を放つ。

 

一つはワイバーンに止めを刺す、稲妻の魔法。

もう一つは宙に舞う魔法兵とオルガの落下速度を遅くする魔法だ。

 

だが、これではまだ助からない。落下速度は落ちたが、水平方向の速度は落ちていないのだ。

 

このままだと、彼女は二十メートル近くも宙を飛び、オレの頭上を越えて、崖の向こうに飛び出してしまう。

 

だが、これならオレが彼女を抱えればまだ助かるかも知れない。

 

オレは必死になって手を伸ばし、彼女の胸を抱くようにして持ち上げた。

 

>称号『救命者』を得ました。

>【運搬】スキルを得ました。

 

 

その横をオルガが落下していき、地面に叩きつけられた時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 




今回の内容は『デスマーチから始まる異世界オルガ1』のCパートと『デスマーチから始まる異世界オルガ2』のOPまで(アバン)に当たる部分です。

『デスマーチから始まる異世界オルガ2』の残りについてはまた出来次第投稿します。

次回もお楽しみに!


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デスマーチから始まる異世界オルガ2

「助けて頂きありがとうございます!私はセーリュー伯爵様の家臣で魔法兵のゼナです」

「ご丁寧にどうも。私は旅の行商人のサトゥーと申します」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……。団員を守んのは俺の仕事だ」

「誰もそこまで聞いてないけど……」

 

サトゥーがゼナを助けた後、俺たちはお互いに自己紹介をした。

 

 

サトゥーと話し合い、ゼナを仲間のところまで連れていくことに決めたその時、ふいに矢が飛んできて、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

矢が飛んできた方向には、石弩(クロスボウ)を構えた小柄な女兵士とダクネスみたいな女騎士がいた。

 

「貴様、何者だ!仲間を放せ!」

「ちょ、ちょっとリリオ。この人達は大丈夫だよ」

「ゼナっちは黙ってて」

 

ゼナが必死に取り成すが、向こうは警戒を解く気は無いらしい。

 

「はじめまして、兵士の方。私は旅の行商人でサトゥーと申します。それでこちらは護衛のオルガです」

 

サトゥーが兵士たちに弁明を始まる。俺が喋ると余計に疑われる可能性があるため、黙って見ていることにした。

 

「行商人というわりに手ぶらのようだけど?」

「……お恥ずかしい話ですが、先程の隕石に驚いて、荷馬が逃げてしまいまして……」

「隕石というのはさっきの『星降り』のことね」

「はい。祖父の恩人のお墓がある『戦士の(とりで)』という場所に寄った時に、あの『星降り』がありまして、逃げ出した荷馬を追いかけたのですが、追い付ける筈もなく……」

「そう、災難だったわね」

 

どうやら上手くいったようだ。サトゥーは良く口が回るな。

 

「では、身分証があるなら出しなさい」

 

身分証……?カズマの世界にあった冒険者カードみたいなもんか?

 

「それが荷馬に(かぶ)せていたマントの隠しに私とオルガの身分証も入れていたので、二人とも手元に無いんです」

「……いいでしょう。セーリュー市で発行して貰えばいいわ」

「お願いします」

「すまねぇ」

 

 

俺とサトゥーはリリオと呼ばれた小柄な女兵士とイオナという女騎士、そしてゼナと共に荷馬に乗ってセーリュー市へと向かう。

 

「サトゥーさんとオルガさんはセーリュー市に着いたら、誰か知り合いの方でもいらっしゃるんですか?」

 

セーリュー市へ向かう途中、ゼナが俺たちにそんな話題を振ってきた。

 

「いえ、残念ながら居ません。とりあえず、宿でもとろうと思ってます」

「それなら門前宿がいいですね。正門を入ってすぐのところにある宿で、少し高めですけど、清潔で食事も美味しいと評判です」

「それはいいですね。オルガ、そこにしよっか」

「ああ」

 

そんな話をしている間に、セーリュー市へと到着した。

 

「では、サトゥーさん!……とオルガさん。後でお礼に伺うので、ちゃんと門前宿に泊まって下さいね」

 

ゼナが別れ際にそう言う。……俺のこと一瞬忘れてたじゃねぇか……。

 

 

その後、俺たちはイオナに連れられて、詰め所へとやって来た。

 

イオナが詰め所にいた男(イオナからは騎士ソーンと呼ばれていた)に説明して、俺たちの身分証を発行して貰うよう打診している。

 

その時、俺はカズマの世界で、冒険者カードを発行して貰った時のことを思い出した。

 

《では、こちらの水晶に手をかざして下さい》

《【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】》

 

あの時、水晶が爆発したのはもしかして……。

 

何か嫌な予感がした俺は、サトゥーのアイテムストレージを見せてもらい、そこにあったステータス偽装用のアイテムを使った。

 

 

イオナと騎士ソーンの話が終わり、身分証を発行して貰うことになった。

 

「じゃあまずはボウズからだ。一応、聞いておくが、指名手配されてたり盗みを働いたりしてないな?」

「はい」

 

……危ねぇ。嫌な予感が当たっていたな……。

 

 

「ここが門前宿か」

 

俺とサトゥーの身分証を無事発行出来た後、イオナの言っていた門前宿までやってきた。

 

「やっぱ冬夜の世界やカズマの世界で泊まった宿と変わんねぇな……」

 

そんな事を感じながらも、サトゥーと共に宿へと入る。

 

「いらっしゃい。お客さん!」

 

宿に入ると、茶髪で恰幅(かっぷく)のいい女将(おかみ)のモーサさんとその娘のマーサ、小間使いのユニの三人で出迎えてくれた。

 

宿で簡単な食事を済ませた後、俺たちはマーサに市場を案内してもらうことになった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「このガボの実三つでいくら?」

「三つで賤貨(せんか)二枚だよ」

「高い、賤貨(せんか)一枚ってところでしょ」

「お姉さん、それじゃこっちが干上がっちまうよ、四つで賤貨(せんか)二枚でどうだい」

「五つで賤貨(せんか)二枚」

「仕方ない、お姉さん美人だからその値段でいいよ」

 

市場の露店のおっさんと女の人の会話が聞こえてくる。

 

「値切るのが基本か」

「みたいだな」

 

 

そんな市場の雑踏の中から何やら争っている声が聞こえた。

 

「きったねぇ獣人風情が、東街まで来てんじゃねぇよ」

 

声の聞こえた方へ歩いていくと、金髪の若い男が(まき)を運ぶ犬耳の獣人の幼女を蹴り飛ばすのが見えた。

 

蹴り飛ばされた犬耳の獣人の幼女の近くに猫耳の獣人の幼女も駆け寄って来て、二人でペコペコと頭を下げるが、金髪の若い男はその子供たちを再び蹴りつける。

 

「何やってんだぁぁっ!」

「止まれ、オルガ」

「俺は止まれねぇ!」

 

金髪の若い男に殴りかかろうとした俺をサトゥーが止める。

 

止めるんじゃねぇぞ……。

 

「ここはオレに任せて」

 

サトゥーはそう言って、金髪の若い男と獣人の子供たちの間に割って入った。

 

「この子達が何か?」

 

>【無表情(ポーカーフェイス)】スキルを使用しました。

 

「はっ!アンタの奴隷か!?……ちゃんと縄付けて西街の奥に突っ込んどけ!」

 

金髪の若い男はそう言い捨てて、去っていった。

 

 

その後、俺とサトゥーは地面に散乱していた(まき)を拾い集めて、紐で(くく)り、獣人の子供たちに返してやった。

 

「……ありがと、なのです」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……。こんくらいなんてこたぁねぇ……」

「怪我はないかい?」

「あい」

「大丈夫、なのです」

「そうか、表通りは人が多いから気を付けてね」

 

サトゥーがそう言うと、獣人の子供たちは、俺たちにペコリと頭を下げた後、同じく獣人の蜥蜴(とかげ)の尻尾が生えた女の元へ走っていった。

 

 

獣人の子供たちと別れた俺たちは、市場の衣類エリアへやって来た。俺やミカ、サトゥーの服を買うためだ。

 

「あ、ほら、アレ見て」

 

服を探しながら、市場の衣類エリアを歩いていると、マーサが何かを見つけて、走っていく。

 

マーサは露店に並べられている仮面の一つを取って、顔に(かぶ)る。

 

「これはね、竜面だよ。収穫祭のお祭りに(かぶ)るんだ」

「どうかな。三日月・オーガス、オルガ・イツカ。無病息災家内安全の竜面だ。鉄華団には持ってこいだろう」

 

露店を出していた仮面の男はそう言って、竜面を(すす)めてくる。……ってか、この声は……。

 

「って言うか、なんでチョコの人がいんの?」

 

ミカが露店の店主である仮面の男を見て、そう言う。

それを聞いたサトゥーが俺とミカに質問したが、俺たちが答える前に露店の店主である仮面の男が答えた。

 

「?三日月とオルガの知り合い?」

「始めまして、モンターク商会と申します」

 

モンターク商会と名乗った仮面の男を試すように俺はこう尋ねた。

 

「ところでモンターク商会さんよ。あんたの本当の名前は何て言うんだったか?」

「モンタークで結構。それが真実の名ですので」

 

は?

 

「……マクギリスだろ!」

 

>称号『アグニカの魂』を得ました。

 

「ははははっ!今ので気付いたのか。凄まじいな、その感覚……」

「……明らかにトラブルを呼びそうな称号だな」

「別に、普通でしょ」

 

 

その後、マクギリスと別れた俺たちは服を買って(サトゥーはマクギリスの売っていた竜面も買った)、宿へと帰り、夕食を食べて寝床につく。

 

 

……そう言えば、なんでマクギリスがこの世界に来てるんだ?……まぁ、また会う機会もあるだろうし、その時に聞きゃいいか。

 

そう自己完結させた俺は、ゆっくりと目を閉じた。

 

 



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デスマーチから始まる異世界オルガ3

サトゥーです。昔から年下の女の子には懐かれるのですが、いつも友人止まりで恋人になったことはありません。

 

「止まるんじゃねぇぞ……」

 

……なぜか、惚れる相手は必ず年上なんですよね。

 

 

 

 

部屋の扉を無遠慮に叩く音で目を醒ます。

 

「サトゥーさん、起きてる?」

「今、起きた」

「おはようございます」

 

オルガと三日月はオレより先に起きていたようなので、部屋に起こしに来たマーサちゃんの相手をしてもらう。

 

その間に、身だしなみを整えて、オレも部屋を出る。

 

「おはよう。マーサちゃん」

「サトゥー。ゼナが来てるらしいぞ」

「え?」

 

そういえば昨日、お礼に来るって言ってたっけ。

 

オルガ達と階下に降りると、そこではゼナさんが朝食を食べながら待っていた。

 

「あっ!おはようございます。サトゥーさん!……とオルガさん」

「忘れんじゃねぇぞ……」

「ふふっ、すいません」

「おはようございます。今日は可憐な衣装ですね」

 

今日のゼナさんは非番らしく、昨日の兵士の格好はしていない。

 

白いブラウスに水色のスカートで、肩には少し大きな萌黄色(もえぎいろ)のシュールを掛けている。

 

「今日はどうしたんですか?昨日言ってたお礼なら気にする事ないですよ」

「えっと、き、今日は非番なのでっ!サトゥーさんにこの街を案内しようと思いまして!」

「ありがとうございます。だったら一度行ってみたい場所があるのですが……」

 

 

朝食を食べ終えたオレ達はゼナさんの案内で市壁(しへき)の塔の一つへとやってきた。一応、軍事施設なので、魔法兵のゼナさんが一緒じゃないと見学出来ない。

 

「風が気持ちいいね、オルガ」

「そうだな」

「本当にこんな場所でいいんですか?」

「はい。でも頼んでおいてなんですが、軍事施設に部外者を入れて良かったんですか?」

「はい。セーリュー市のような田舎の都市を攻めてくるのはワイバーンくらいですから」

 

それ、フラグじゃなきゃいいんですがね……。

 

 

市壁(しへき)の塔を歩いていると、視界の先に大きな風車が見えてくる。その風車を見たオルガがゼナさんにこう質問した。

 

「ゼナ、あの風車は何の施設なんだ?」

「あれですか?あれは粉()き用です。ワイバーンが攻めてきたら、砲台に早変わりですよ」

「?砲台って……街中だぞ?」

「あんな場所から大砲を撃ったら、民家に被害が出ませんか?」

「砲弾もありますけど、ワイバーンに撃つのは網とか空砲ですから」

「なるほど、追い立てる用の施設なんですね」

「良かったら、見に行ってみますか?」

「いいんですか。ありがとうございます」

「すまねぇ」

 

 

最寄りの風車に行く途中に、パリオン神殿があるというので、寄ることにした。

 

神殿の中は奥行き十メートルほどの天井の高い部屋になっていた。天井にはステンドグラスこそは無いが、明かり取りの窓があり、壁の上半分には、剣を持った騎士と角の生えた悪魔が戦う壁画が描かれている。

 

「なんだありゃ」

「あの青いのは聖剣なんです。勇者様が持つと青く光りますから、あの壁画には勇者様が描かれている。と解釈されています」

「じゃあ勇者以外が持っても青くは光らないんですか?」

「そうですね。でも聖剣に認められれば、青い輝きを放つ筈です」

 

確かオレも何個か聖剣を持っていたな。

 

アイテムストレージを調べてみると、『エクスカリバー』と『デュランダル』があった。

名前で検索すると『虎徹』や『村正』といった刀もある。神剣もあったが、それには固有名はない。

 

『エクスカリバー』を出してみるが、オレが持っても青く光らなかった。残念だ。

 

三日月が触りたそうだったので、渡してみる。

 

すると、聖剣が青く光りだした。

 

「何これ?」

「すげぇよ、ミカは……」

「別に普通でしょ」

 

 

風車の見学を終えたオレ達は街へと戻ってきた。昼食を屋台で食べる為だ。

 

屋台でセーリュー揚げや竜翼揚げを食べた後、せっかくなので気になっていた事をゼナさんに聞いてみた。

 

「ゼナさんは魔法の呪文ってどうやって唱えてるんですか?」

「そうですね~、風魔法だと大抵は「■■■■」から始まるんですけど、無理に言葉にしようとするなら「りゅ~リぁ(略)ラ~るれりら~オ」ってなるんです」

「なかなか難しそうですね……」

「俺は♪キボウノハナー♪だぞ!」

「う~ん……オルガの【止まるんじゃねぇぞ……】は使いたくないなぁ」

「死ぬほど痛いぞ……」

「いや死んでるし」

 

オレとオルガがそんなやり取りをしていると、何故かゼナさんがふいに笑いだした。

 

「あははははははっ!」

「何で笑ってるんですか?」

「なんだよ?これっぽっちも面白くなかったじゃねぇか」

 

そんなに面白かったのだろうか?一頻(ひとしき)り笑い終えると、ゼナさんはオレにこう訊ねる。

 

「はぁ……。それでサトゥーさんはどうして魔法を練習しようとしてるんですか?」

「宿屋に風呂がないので、生活魔法があったら、屋外で行水(ぎょうずい)しなくて済むかなって」

「あはははっ!そ、そんな理由で魔法使い目指す人始めて見ました!」

「は?だから、これっぽっちも面白くなかったじゃねぇか」

 

 

次の目的地の荘園は歩いていくと遠いので、中央通りで辻馬車を拾った。

 

馬車で荘園に向かう途中、話題は神殿で見た壁画の話になった。

 

「その魔王って、やっぱり魔物を率いて襲ってくるんですか?」

「それが魔王によって違うみたいです。自分だけで戦う魔王も居たそうですが、その中でも恐いのが……」

「火星の……王?」

「魔族を率いる魔王ですね」

「なんだよ……」

 

 

外壁沿いには、等間隔で広めの公園があるんだが、その一つに沢山の人が集まっているのが見えた。

 

「ちょっと止めてください」

「止まるんじゃねぇぞ……」

 

人だかりの奥を見ていたゼナさんが強い口調で馬車を止める。

 

「止めるんじゃねぇぞ……」

「どうしたんですか?ゼナさん」

「サトゥーさん、オルガさん。あれを見て下さい」

 

ゼナさんが指差した方から何やら声が聞こえてくる。

 

「こいつら亜人は魔族の出来損ない、いや、魔王の眷属だ!こいつらに聖なる裁きを与える事で徳が積める!この聖なる石を購入し、悪魔の眷属にぶつければ徳が積めるのだ!」

 

デブな神官が左手に石を持ち、右手で鎖に繋がれている三人の獣娘(犬耳族、猫耳族、鱗族の娘達)を指差して、そう言っていた。

 

「買うぞ!!」

「売ってくれ!!」

「並べ並べ~!」

 

それを聞いた民の皆さんは聖石を買い求めた。嘘でしょ?

あのデブ神官、精神操作の魔法でも使ってるのか?

 

 

聖石を買った人々はその石を遠慮無く獣娘達に投げつける。

 

「う"う"っ!」

 

いつの間にか、獣娘達の前に立っていたオルガが石を投げつけられ、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「もう見ていられません!ちょっと、行ってきます!」

 

ゼナさんも颯爽(さっそう)と馬車を降りて騒ぎの中心へ駆けていく。

 

「オオオオオ!」

「魔族に鉄槌を!!」

 

ゼナさんがオルガと同じように、獣娘達の前に立ってこう叫ぶ。

 

「非道なマネは()めなさい!」

「なんだ小娘、貴様は魔族の味方か!?」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……!こんくれぇなんてこたぁねぇ……」

 

 

……いかん、オルガとゼナさんに見惚れてて出遅れた。

 

でも、オルガやゼナさんと同じことをオレがしても、意味ないよな……。

 

獣娘達を見ていると、詳細情報がAR表示される。

 

彼女達の主人は、デブ神官ではなく、ウースという男のようだ。

 

そのウースとかいう奴の所属ギルド『ドブネズミ』の構成員をマップ上で検索。この広場にギルド『ドブネズミ』の構成員はウースを含めて九人。

ウースは広場の端で、木箱の上に腰掛けて、広場の騒ぎをニヤニヤと眺めている。ウース以外の八人がサクラになって街の人達を煽っていたようだ。

 

という事は、やることは一つしかないな。

 

さあ、行動開始だ!

 

>【暗躍】スキルを得ました。

>【陰謀】スキルを得ました。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

……どうやら、サトゥーも動き始めたみたいだ。

 

なら、俺はゼナと一緒にこいつらの目を惹き付けておこう。一応、保険としてミカにサトゥーのフォローをしてもらう。

 

「頼んだぜ、遊撃隊長」

「……わかったよ」

 

何故か不機嫌だが、気にしないでおこう。

 

 

ゼナが風魔法で石を防いでいる所に、金髪の神官も加勢しに来た。

 

()めろ!」

 

金髪?まさか?……マクギリスじゃねぇのか……?

 

「亜人が魔族などと貴殿が言っているだけではないか」

「フン! 博愛主義のガルレオン神殿の神官殿か。そんなに獣娘がいいなら、打擲(ちょうちゃく)が済んだ後なら前でも後ろでも好きに使っていいぞ」

「……バエルを持つ私の言葉に背くとは…………」

「……マクギリスじゃねぇか…………」

 

 

俺たちが時間を稼いでいる間にサトゥーとミカが害虫(ドブネズミ)駆除を終えたようだ。

 

「あいつらも魔族だ~!」

 

パン(サトゥーが手刀を繰り出す音)

 

「貧血か~?あっちで休もう」

 

>【演技】スキルを得ました。

>【拉致】スキルを得ました。

>【暗殺】スキルを得ました。

 

 

「ひっひっひ……。あの奴隷達のおかげで今日はかなり儲かりそうだな」

「あんたの出番だよ」

「な、なんだキサマ!おいバンゼ!こいつを叩き潰せ!」

「バンゼ?そいつはさっき貧血で倒れたから介抱しておいたよ」

 

サトゥーはそう言いながら、そいつの鳩尾(みぞおち)を爪先で蹴り上げて悶絶(もんぜつ)させ、そこにミカがすかさず、銃弾を叩き込む。

 

パンパンパン

 

>【断罪】スキルを得ました。

 

 

「クククククッ!」

 

サトゥーとミカが倒したこの事件の首謀者がいきなり笑い出す。

 

そして、その男の体から黒い腕が伸びてきて、デブ神官を引き裂いた。

 

「フシュルルルル~。コレデ喋リやすクなた。ワテクシ感激」

「現れたか、レレスを滅ぼした魔族よ!」

「は?」

 

あの魔族を知っている様子のマクギリスは、バエルを召喚し、民衆に向けてこう宣言する。

 

「皆、ギャラルホルンの真理はここだ!バエルの元に集え!」

 

……しかし、民衆は我先にと逃げて行く。

 

「……彼らの協力が得られないのは想定外だった」

「……」

 

俺は無言で、このバエル馬鹿を殴った。

 

 

 

その後、魔族を中心に黒い魔法陣が出現し、足元の地面が歪む。暗い紫色の光を放ちながら、地面は歪み、ねじれ、引き伸ばされていき、……閃光が世界を黒く染めた。

 

 

 

光が収まると、俺たちは洞窟(どうくつ)のような場所にいた。

 

この場所にいるのは、俺とミカとサトゥー、そして先程の獣人たちだけである。ゼナやマクギリスとは別れてしまったようだ。

 

『ワテクシの(あるじ)の迷宮にヨウコソ。マダ名前は無いガ、魔物ハ今から創っテあげル。感謝スルガよイ。ワテクシ、勤勉!』

 

どこかから先ほどの魔族の声がする。

 

「ゲームでいうところの強制イベント『迷宮からの脱出ミッション』発生!って感じか」

「は?」

 

>称号『迷宮探索者』を得ました。

 

 

俺とサトゥーは不安そうにこちらを見ている獣人の少女たちに自己紹介をすることにした。

 

「オレはサトゥー」

「俺は……鉄華団「ねこ~」「犬、なのです」「蜥蜴(とかげ)です」団長、オルガ・イツカだぞ……」

「そ、それだと呼びづらいな」

「では、呼びやすい名前をつけて頂けませんでしょうか?」

「う~ん。じゃあ……」

 

……サトゥーも冬夜に負けず劣らずのネーミングセンスらしい。

 

「ポチ~!」

「タマ~!」

「「リザ~~!!」」

「ミカァァァァァ~~~!!!」

 

ピギュ

 

「うるさいな……何!?」

「え"え"っ!?」

「何!?」

「……勘弁してくれよ、ミカ」

「許さない」

「え"え"っ!?」

 

ピギュピギュピギュピギュピギュピギュ

 

 

俺たちは、このポチ、タマ、リザと共に、洞窟(どうくつ)を進むことに決めた。

 

「いいか、オレが命令するまで戦闘に参加しないように、これは絶対厳守だ」

「あい」

「はい、なのです」

「かしこまりました」

 

>【指揮】スキルを得ました。

>【編成】スキルを得ました。

 

 

「タマ、何か通路の先に見えたら、小声で教えて」

「あい」

「ポチ、何か変な匂いや物音がしたら教えて」

「はい、なのです」

「リザ、後ろの警戒は任せた」

「わかりました」

 

サトゥーがポチ、タマ、リザに指揮しながら、洞窟(どうくつ)を進んでいく。

 

 

通路を進んでいると、顔を暗闇の向こうに突き出して、鼻で何かを嗅いだ様子のポチがこう報告する。

 

「通路の向こうから血の臭い、なのです」

 

それを聞いたミカが俺の胸ぐらを掴み、こう言った。

 

「オルガ、連れていってくれるんだろ?」

「放しやがれ!」

 

俺はミカを払いのけて、自暴自棄になってこう叫んだ。

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!どうせ後戻りは出来ねぇんだ。連れてきゃいいんだろ!!」

 

俺は先行して、ポチの嗅いだ血の臭いを確認しに行くため、駆け出した。

 

 

そして、その先にいた魔物と(はち)合わせになり、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

先行したオルガを追って、洞窟(どうくつ)を進んでいくと、部屋から漏れる明かりが見えてきた。

 

ポチ、タマ、リザ、そして三日月を待たせて、部屋を覗き込む。こちらに気が付いていないのか、巨大な昆虫型の敵がオルガを無心で食べていた。……うわっ、グロ……。

 

オレも負けたら、あんな風に食われるんだろうか?レベル差から考えて負けそうにないとは思うが、気が進まない。

 

そんなことを考えていたオレにリザがおずおずと、こう切り出してくれた。

 

若旦那(わかだんな)様、僭越(せんえつ)ですが、魔物がオルガさんを食べている間に後ろを通り抜けるか、背後から不意打ちを仕掛けるのが良いと思うのですが」

「逃げるのはダメ、なのです。オルガが可哀想、なのです!」

 

レベル一桁の彼女達でさえ、何をしたらいいか考えられるのに、後ろ向きになりすぎていたかもしれない。

 

接近戦は嫌なので、遠くから魔法銃で狙い撃つ作戦で行こう。

 

オレはアイテムストレージの中に入っていた魔法銃を取り出して、魔物へ向けて連射する。

 

この銃のおかげで魔物は倒すことが出来たが、何発か撃ちもらした為、オルガが被弾したようだ。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

>【射撃】スキルを得ました。

>【狙撃】スキルを得ました。

>【照準】スキルを得ました。

>称号『(むし)殺し』を得ました。

 

 

「すごく、すごいのです」

「つよい~!」

「お見事です!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

俺が意識を取り戻すと、リザが俺を囮にして倒した魔物の頭部と背中に短剣を突き刺して、何か作業をしていた。

 

その行為を食事だと勘違いしたサトゥーがリザに対してこう言う。

 

「リザ、そんなの食べたら腹を壊すぞ」

 

(その頃、ミカはまた火星ヤシの実を食べていた。)

「また食ってんのか?」

「うん」

「うまいか、それ?」

「いる?」

「いや、いいや」

 

「違います。魔物なら、魔核(コア)を持っているはずなので、回収しようと思って」

魔核(コア)って何なんだ?」

魔核(コア)はお金になります。魔物の中に必ずある物で……」

 

ん?リザが魔物から取り出した赤い玉を見た俺は既視感(デジャブ)を覚えた。

 

《まるで将棋だな》

《【アポーツ】!》

 

「何これ?」

 

ミカも同じく既視感(デジャブ)を覚えたようで俺の胸ぐらを掴んでこう質問してくる。

 

「教えてくれ、オルガ。オルガ・イツカ」

 

知らねぇよ……。

 

「……いいから行くぞ!!」

「あい!」

「はい、なのです!」

「はい!」

 

俺たちの旅はまだまだ続く……。

 

 







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デスマーチから始まる異世界オルガ4

個人的にこの回が異世界オルガで一番好きかもしれない。


「ポチ、オルガがあの魔物を引き付けている間にヤツの側面から石を投げつけろ。石がなくなったらリザ達の元に戻れ」

「はい、なのです」

 

洞窟(どうくつ)を進んでいる途中で出会ったイモ虫みてぇな魔物を倒すため、サトゥーがポチに命令する。

 

その様子を見ていたミカが俺にこう質問した。

 

「俺は出なくていいの?」

「まだ、その時じゃねぇ。ミカの使いどころはちゃんと考えてある」

「そっか」

 

そうだ。ミカにはあの魔族が言っていた、ヤツの(あるじ)を倒してもらうっていう大事な役目がある。そのためにも、今は温存だ。

 

 

その前にまずは俺の仕事だな。

 

俺は無造作にイモ虫の前に出て、銃で牽制(けんせい)する。

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

俺がイモ虫を引き付けている間にポチはサトゥーの指示通り動き、石を投げつけた。

 

しかし、石はイモ虫に避けられ、俺に命中する。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

イモ虫は石を投げたポチに反撃しようと毒液を放つが、サトゥーが素早く膝蹴(ひざげ)りをしたため、毒液の出る方向がズレた。サトゥーのその攻撃でイモ虫は倒れたようだ。

 

毒液がポチにかかることは回避出来たのだが、毒液に驚いたポチは慌てて、逃げ出してしまった。

 

「リザ、タマ、助けて、なのです~!」

「ポチ、止まれ!」

「はい」

 

慌てて逃げ出すポチをサトゥーが止める。

 

「止まるんじゃねぇぞ……」

 

俺がそう言うと再びポチは逃げ出す。

 

「助けて、なのです~!」

「ポチ、止まれ!」

「はい」

 

再び逃げたポチをまたサトゥーが止める。

 

「止まるんじゃねぇぞ……」

 

またポチは走り出す。

 

「うぇぇぇん~!」

「ポチ!」

 

サトゥーはまたも走り出したポチにダッシュで近づき、襟首(えりくび)を掴んで持ち上げた。

 

「ポチ、止まるんだ」

「なのです?」

 

ポチは止まったが、俺は止まらねぇ。

 

「俺は止まらねぇぞ!」

 

そうサトゥーたちに言い残して、俺は洞窟(どうくつ)の先を見に行くため走り続けた。

 

 

そして、その先の部屋でクモの魔物と(はち)合わせになる。

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

俺の放った銃弾でクモの魔物は撃退したが、魔物が死の間際に放ったクモの糸を受けて、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

止まらなかったオルガを追って、洞窟(どうくつ)を進むと、地面に白い粘糸(ねんし)が張られていた。

 

「ネチャネチャ~」

「足がくっつくのです」

蜘蛛(くも)の糸でしょうか?」

 

部屋に近づくほど厚みを増す蜘蛛(くも)の糸を、ポチとタマに小剣で切り開いて貰う。

 

そして入った部屋の入り口にはオルガが倒れていた。

 

「オルガ、なのです」

「だいじょぶ~?」

「こんな所で寝たら風邪ひくよ、オルガ」

 

部屋には(まゆ)のようなものがいくつかあり、その内三つの中には生存者がいるようだ。

 

「人が閉じ込められてる。手分けして助けるぞ」

 

 

復活したオルガも含めたオレ達で(まゆ)の中に閉じ込められている人達を助けた。

 

「助かったぞ。私は王祖ヤマト様の代から続く名家、ベルトン子爵家の当主をしている、ジン・ベルトンだ」

「助けてくれて、ありがとさんです。奴隷商人のニドーレンと言います」

「私は駆け出しの行商人、サトゥーと申します」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「オルガ・イツカだと……」

「は?」

 

ベルトン子爵がオルガの名前を聞いて、何故か驚いていたが、それについて(たず)ねる前に、最後の生存者とポチが言い争っている声が聞こえた。

 

「ちっ、獣人が触るんじゃねぇよ!その短剣を寄越(よこ)せ!」

 

そう言っている金髪の男には見覚えがあった。昨日、東街で(まき)を運んでいたポチを蹴り飛ばしたヤツだ。

 

「ダメなのです。この短剣はご主人様のなのです」

「なんだと!獣人が偉そうに!」

 

そう言えば、知らない間にオレの呼び方が若旦那様からご主人様に変わっている。

 

そんなことを考えていたら、オルガがポチの助けに入った。

 

「お前状況わかってんのか?その台詞(セリフ)を言えんのは、お前か、俺か、どっちだ?」

「は?わかんねーよ!とっとと助けろよ!」

「黙れ平民。それ以上騒いで魔物を呼び寄せるなら、我が炎で骨の芯まで消し炭にしてくれるぞ」

 

オルガの言葉を聞いてなお、立場を(わきま)えずにがなり立てる若者をベルトン子爵が一喝した。

 

若いのに大した迫力だ。やはり、普段から使用人に(かしず)かれている人間は違う。

 

その後、静かになった若者はニドーレンが救出した。

 

 

ベルトン子爵やニドーレン、金髪の若者と共に、この先にいる軍の集団と合流するため、洞窟(どうくつ)を進んでいると、前方の喧騒(けんそう)が聞き耳スキルで敏感になった耳に届く。

 

ゼナさんのいる軍の集団はどうやらスライムと交戦中のようだ。

 

「向こうで誰か戦ってるよ」

「せんと~!」

「タマと三日月さんの言う通り、なのです!あっちから戦う音が聞こえるのです!」

 

三日月やタマ、ポチにも聞こえたようで、音の方を指差して報告してきた。

 

オレはそれに頷き、ベルトン子爵達に先行する事を伝える。

 

「この先で誰かが戦ってるようです。我々が先行するので、皆さんは後方を警戒しつつ後を追って下さい!」

「行くぞ、サトゥー!」

 

オルガの声と同時にオレ達は駆け出した。

 

 

「ポチ、タマ、リザ!そっちは任せた!オレとオルガはゼナさんを助けに行く!」

「ミカもポチたちに付いてやれ!」

「わかった」

 

ポチ、タマ、リザ、三日月の四人に軍の人達を任せて、オレはオルガとゼナさんを助けに行く。

 

ゼナさんは負傷していないようだけど、魔力の残量が少ないから、心配なんだよ。

 

 

レーダーに表示されているゼナさんのマーカーを頼りに、スライムと混戦を続ける人達の間を駆け抜ける。

 

居た!視線の先に果敢に長杖(ちょうじょう)でスライムを殴るゼナさんの姿が見えた。

 

「サトゥー!杖で戦ってるっつうことは!」

「ああ、やっぱり魔力が枯渇(こかつ)してるんだ!」

 

遠距離からナイフを投げてスライムの核を狙おうかと思ったが、角度が悪い。下手したらゼナさんを傷つけてしまう。

 

……オレはオルガのカウンターを使う事にした。

 

 

ナイフを横で走っているオルガに投げる。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

オルガの銃弾がスライムの核を撃ち抜く。

 

「なんだよ……結構当たんじゃねぇか……」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

ゼナさん、今行きます!

 

 

「大丈夫ですか?」

「さ、サトゥーさん!?」

 

ゼナさんはオレの顔を見ると、驚きの声を上げて抱きついてきた。

 

「サトゥーさん!よくぞ、ご無事で!」

 

そこまで親しい間柄でもないと思うんだが、可愛い女の子に抱きつかれるのは大歓迎だ。再会を喜んでいるのはオレも一緒だしね。

 

 

その時、兵士や商人達から歓声が上がった。どういう事だ?

 

「おい宝箱があるぞ!」

「おお!迷宮では時折、宝箱が湧くと言うぞ」

「俺だ!俺が見つけたんだ」

 

そんな浅ましい主張は、ヤツの声と共に悲鳴に変わった。

 

「ストリッパー!コンナに大勢でやってクるとハ、ワテクシ感激!」

 

宝箱の中からあの目玉の魔族が飛び出てきた。

 

「いないと思ったらミミックの真似事か!」

 

 

 

「総員配置に付け!円陣ではなく三方に陣取れ!ヤツは魔法を使うぞ!ベルトン子爵とゼナの二人は前衛に防御魔法を!」

 

軍の隊長さんが素早く陣形を指示する。魔力の回復したゼナさんが【風防御(ウインド・プロテクション)】や【気壁(エア・クッション)】の魔法を順番に展開していく。

 

「やはり出たか!魔族め!悪いが火魔法には守りの術は無い。【豪炎柱(ブラスト・ポール)】の魔法を使う。時間を稼げ!」

 

ベルトン子爵は防御魔法はないようなので、攻撃魔法の詠唱を始めた。

 

「人の魔法は遅い、ワテクシ退屈」

 

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「【……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】」

 

数分の戦闘の末、オルガは数えきれない回数の希望の花を咲かせたが、ようやくベルトン子爵の詠唱が完了し、目玉魔族の下から炎が吹き上がった。

 

「魔族よ!いつまでも人族が貴族達に蹂躙(じゅうりん)されるだけの存在だと思うな!」

 

長杖(ちょうじょう)を構えて決めゼリフを言うベルトン子爵を嘲笑(あざわら)うように、目玉魔族は平気な様子で炎の中をヒラヒラ飛んでいる。

 

AR表示で「火魔法ダメージ75%カット」と出ているので、直前に防御系の魔法を使っていたんだろう。

 

アイツ自身も言っていたが、子爵が魔法を唱え始めてからでも対抗魔法が間に合うのだろう。

 

「熱い!アツい!素敵に熱い!ワテクシ常夏(とこなつ)

「なんっ、だと……!?中級魔法が効かない!?」

「ああ、ゼツボウが心地ヨイ!ワテクシ至福」

 

その様子を見たオルガがオレにこう言う。

 

「サトゥー!このままだと損害が出るのも時間の問題だぞ」

「わかってる!」

 

オルガの言う通りだ。ここは目立ってもいいから戦うべきだな。

 

 

その時だった。

 

「【光よ(ゆが)め、屈曲(くっきょく)の先導、インビジブル】!」

 

急にオレの体が透明化した。

 

「透明化じゃなくて、視覚の……。まぁいいわ」

「今の内に変装を!」

「モンターク商会で買った竜面(りゅうめん)があるはずだ」

 

そうだ、あの時買った竜面(りゅうめん)をつければ!……でも、この人達は?一人は三日月とオルガの知り合いの人だった……確か、マクギリス?他の人もオルガ達の知り合いなのか?

 

その疑問を問う前に白いコートの少年がこう名乗った。

 

「始めまして、サトゥーさん。僕は望月冬夜です」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「サトゥー!このままだと損害が出るのも時間の問題だぞ」

「わかってる!」

「【光よ(ゆが)め、屈曲(くっきょく)の先導、インビジブル】!」

 

その瞬間、サトゥーが消えた。……今、リーンの声が聞こえなかったか?

 

もし今のが本当にリーンの声ならもしかして…………よし、時間を稼いでやるか!

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

 

それから数分後、サトゥーが消えた空間から巨大な岩が飛んできて……希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「騎士達よ、魔族の始末は任せろ!」

「ふざけるな!貴様らのような怪しげな仮面連中の手助けなどいらん!」

「貴方達は、一体?」

 

明らかにサトゥーの声だが、ジン・ベルトンもゼナも気付いていないようだ。

 

仮面を被ったサトゥーの他にあと二人、仮面の男たちがいた。……やっぱりな。

 

「ま、待ってくれ!」

「どうした、オルガ殿?」

「アイツらは俺の知り合いだ!」

 

そう言いながら、俺は仮面の男の一人、モンタークの仮面を被ったマクギリスを殴りつける。

 

「ははははっ、勇ましいな!」

「何やってんだぁぁっ!」

「久しぶり、オルガ」

 

そう言って、最後の一人が仮面を外す。仮面の下はやはり、冬夜だった。

 

「【ゲート】」

 

冬夜が【ゲート】を使うと、リーンを先頭に、エルゼ、リンゼ、八重、ユミナが【ゲート】の向こう側から現れた。

 

「っていうか、なんでいんの?」

 

ミカが冬夜たちにそう質問する。するとリーンが一から説明していった。

 

「ミスミドの西側にあるレレスという村から急使がきたの。数日前から空中に奇妙な亀裂があるってね。興味を持った私は、戦士団一小隊と共にその村に向かったわ。だけど、そこで見たのは潰滅(かいめつ)に追い込まれた村だった。魔物が村人たちを殺し、蹂躙(じゅうりん)の限りを尽くしている現場だったのよ。私と共にいた戦士小隊も戦ったのだけれど、歯が立たなかった。剣は通じず、魔法は吸収され、たとえ傷をつけられたとしても再生する……まさに悪夢だったわ。戦士たちは半数が再起不能、村は完全に潰滅(かいめつ)したわ。その魔物は村を滅ぼした事に満足したのか、空中の亀裂の中へと帰っていった」

「……俺たちはこの件とはもう無関係だ」

「ちなみにそこにいる魔族がその魔物よ」

「何っ!?」

「リーンからその話を聞いた僕たちはその魔物がこの世界の魔族だということを嗅ぎつけて、ここまで来たんだ。オルガは僕たちの世界にいるときに戦った山本完助って覚えてる?」

 

《御屋形様に刃を向けられないのは分かってるんですよぉ》

《なかなかやるじゃないですかぁ。だが、私にはまだこれがある!》

 

「ああ」

「あいつにアーティファクトを渡したのもあの魔族らしいんだ」

「何っ!」

 

ってことはあの魔族もあのアーティファクト……確か『不死の宝玉』だったか……それを持ってる訳か。

 

 

冬夜たちと話している最中に、目玉魔族がこちらに対し攻撃を仕掛けてくる。

 

「ワテクシを無視スルナ!ワテクシ不快」

 

そう言いながら、黒い光の玉を飛ばしてくる目玉魔族。その攻撃を難なく避けた冬夜がこう言った。

 

「何にしろ、この魔族は厄介だ。一気に始末した方が良さそうだな」

 

冬夜はそう言って、地面にあった小石を魔族に投げつける。

 

「えっ、エッ、エえェェぇぇ!」

 

その小石は尋常じゃないスピードで魔族に向かっていき、魔族の体を貫いた。

 

「ああ、人族に倒さレル?倒さレル!?ワテクシ無念」

「凄いな!このまま止めを……っ!」

 

サトゥーが止めを刺そうとしたその時、倒れた魔族を中心に黒い魔法陣が生まれる。そして、その魔法陣から湧き出すように漆黒の巨人が現れた。

 

「ギニャーーーー!あるじサマは魔王の側近!神にも近き、魔族の君主(デーモン・ロード)!」

「迷宮の設置とワガハイの召喚ゴクロウでアッタ、ワガハイ慰労(いろう)……シカシ、世界神の眷属を連れてキタのハ感心しナイ。ワガハイ立腹」

 

デーモン・ロードと呼ばれた魔族の(あるじ)は目玉魔族を掴みあげて、そのまま(かじ)り付いて食べ尽くした。

 

「雑魚共ヨ!恐怖せヨ!強者ヨ!立ち向かってくるがヨイ。ワガハイ選別」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「必ッ殺ッ!キャノンナックル!」

九重真鳴流(ここのえしんめいりゅう)奥義・龍牙烈斬(りゅうがれつざん)!」

「見せてやろう!純粋な力のみが成立させる世界を!」

 

冬夜君の仲間達に続いて、オレもアイテムストレージから聖剣を一つ取り出し、魔族の君主(デーモン・ロード)と対峙する。

 

ヤツは自分に立ち向かってくるオレ達の姿を(あざけ)るように睥睨(へいげい)するが、オレの持つ聖剣に気が付くと見下すような表情を改めた。

 

「まさか世界神の眷属の他に勇者もイルとハ。貴様も神の啓示を受けた者か?ワガハイ立腹」

 

その言葉を無視して、オレはヤツの足を斬る。しかしヤツの体力ゲージは全くと言っていいほど動いていない。

 

やっぱり『勇者』の称号がないと、聖剣は扱えないようだ。

 

「ドウシタ勇者?聖剣も(ろく)に使えヌのか?ワガハイ落胆」

 

……AR表示に「物理ダメージ90%カット」って出ているし、聖剣がダメなら後は魔法しか無いけど……。

 

「【……■■■ 気壁(エア・ハンマー)】!」

「【水よ来たれ、清洌(せいれつ)なる刀刃(とうじん)、アクアカッター】」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「【……■■■■炎の槍(フレイム・スピア)】」

「【雷よ来たれ、白蓮の雷槍、サンダースピア】!」

「【■■聖なる槍(セイクリッド・ジャベリン)】」

「【光よ穿(うが)て、輝く聖槍(せいそう)、シャイニングジャベリン】!」

「ダインスレイヴじゃねぇか……」

 

皆が一斉に魔法(オルガは銃)を放つが、冬夜君の【シャイニングジャベリン】以外は吸収されてしまった。

しかも、魔法を吸収した瞬間に、何とか与える事が出来ていたダメージも全回復してしまった。

 

「世界神の眷属の魔法はナカナカだが、それ以外は惰弱(だじゃく)な魔法ダ!ワガハイ選別」

 

さっきからヤツが言ってる世界神の眷属ってのは何なんだ?冬夜君の事を言ってるんだろうけど……。

 

 

「魔法を吸収し、非常に硬い強度……なにか弱点はないのか?」

 

冬夜君が弱点が無いかを必死に考えている。確かに魔法は吸収して自らの体力に変えてしまうし、物理ダメージ90%カットの特殊効果もある。手の打ちようがない……。

 

オルガはいつまで三日月を温存するつもりなんだ?

 

「フッ……僕達の魔力を奪って再生か……」

「将棋か?」

「違います」

 

オルガは何を言っているんだ?何で今、将棋が出てくるんだよ……。

 

「まるで将棋だな」

 

えっ!?

 

「ほら、将棋じゃねぇか……」

 

意味がわからない……。

 

「……そうか、()を取れば!」

 

王って、魔核(コア)の事か?魔族も魔物同様に魔核(コア)を持ってるなら、それを砕けば、倒せるだろうけど、どうやって?

 

「【アポーツ】!」

「……何も、起きませんね……」

「は?」

「大きすぎてダメとか?」

「なるほど」

「勘弁してくれよ……」

 

よくわからないが出来なかったようだ。

 

「仕方ねぇな、【ミカァ!】」

「バルバトス、出るよ」

 

やっとオルガが三日月を召喚した。ここまでの流れは何だったんだ?漫才か?

 

 

 

召喚と同時にバルバトスルプスのツインメイスを投げつける。

 

「ぐぬぬウ、ワガハイ油断」

 

ダメージは与えられたが、決定打にはならない。魔王を倒すには、『勇者』の振るう聖剣が必要だ。

 

上級魔族は、魔王の側近にして()()()()()魔族の君主(デーモン・ロード)

 

だが、オレには聖剣はあるが、『勇者』の称号がない。だから有効打を与えられない。

 

いくら三日月のバルバトスが()()()()()くらい強くても……。ん?

 

「サトゥーさん、アイテムストレージから聖剣を全部出して貰えますか?」

「冬夜君!もしかしたら、なんとかなるかも!……って、えっ?」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

ミカのバルバトスルプスがデーモン・ロードの攻撃を食らい、吹き飛ばされる。

 

「ミカァ!」

「大丈夫」

 

 

 

 

《俺は落とし前をつけにきた。最初にそう言ったよな?》

《待っ!!》

《パンパンパンパン》

 

>『神殺し(世界神)』の称号を得ました。

 

 

《竜を討った勇者か!ハッハッハッハ!久しぶりに血が(たぎ)るのう!》

 

>『勇者』の称号を得ました。

 

 

《でも聖剣に認められれば、青い輝きを放つ筈です》

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「行くよ!ミカさん!」

「任せた、冬夜」

「【モデリング】!」

 

オレのアイテムストレージにあった何本もの聖剣を冬夜君の【モデリング】で一つにまとめ、巨大な聖剣を造り出す。

 

「ミカさん!」

「借りるよ」

 

冬夜君が作った巨大な両刃の聖剣……名付けるなら『セイクリッド・バスターソード』。それを三日月が受け取り、魔力を流したその瞬間、『セイクリッド・バスターソード』が青い輝きを放った。

 

「冬夜が作ったんだ、これなら……殺しきれる!」

 

三日月のバルバトスルプスは『セイクリッド・バスターソード』を水平に構え、そのまま突撃し、魔族の君主(デーモン・ロード)の胴を突き穿つ。

 

刺した所から黒い塵が吹き上がり、魔族の君主(デーモン・ロード)の体が崩壊していく。

 

「ナンダ、その剣は!?……ワガハイ……敗……北」

 

その言葉を言い終わるのを待って、黒い塵は(かすみ)のように透けて消えてしまった。

 

今ここに『鉄華団の悪魔』三日月・オーガスとバルバトスルプスの下に魔族の君主(デーモン・ロード)は討ち取られた。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

ミカの活躍に周りの奴等は呆気にとられている。

 

「あれは……モビルスーツ、なのか?」

「バカな!『マクギリス・ファリド事件』は3万年前の出来事では無かったのか!?」

「あんな、古代兵器で……」

 

いくつか気になる台詞(セリフ)があったが、それよりまずは冬夜たちについてだ。

 

「お前ら、なんでこの世界にいるんだよ!?それにリーンたちは俺らの事は記憶から消えたって聞いたぞ!」

「それはワシが説明しよう」

「は?」

 

その台詞(セリフ)は空から聞こえた。

 

頭上を見上げると、まばゆいばかりの輝きに包まれて、一人の老人が降りてきた。

 

「神の爺さんじゃねぇか……」

 

 

 

 




次回の序盤、オリ展開になります。

あと、オルガーベイベーを書いて欲しいとリクエストを頂きましたが、私のノベライズ版ではなろう系アニメとのクロスオーバーだけ書く予定でいますので、申し訳ありませんがオルガーベイベーは書きません。


それと、転スラアニメ化決定しましたね!

転スラアニメ化を記念して、ニコニコ動画になろう作品のOP集を上げました。動画初投稿です。

音量調整が出来てないなどの至らぬ点もありますが、良ければ見てやって下さい。



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デスマーチから始まる異世界オルガ5

頭上を見上げると、まばゆいばかりの輝きに包まれて、一人の老人が降りてきた。

 

「神の爺さんじゃねぇか……」

「やあ、神様じゃよ」

 

軽いな。もうちょっと(おごそ)かな台詞(セリフ)はねぇのかと、心のなかでツッコミを入れていると、ミカが俺の服の袖を引っ張る。

 

「ねぇ、オルガ」

「どうした。ん?」

 

気がつくと、近くに立つゼナやジン・ベルトン、他の兵士たちの動きが止まっていた。変装を解くためにこっそりこの場を立ち去ろうとしていたサトゥーも全く微動だにしていない。止まるんじゃねぇぞ……。

 

止まっていないのは、俺とミカ、そして冬夜たちだけだ。

 

「お祖父(じい)様!お久し振りです」

 

神の爺さんを見て、ユミナがそう挨拶する。お祖父(じい)様って何だよ……。そのツッコミに神の爺さんがこう答える。

 

「ワシは冬夜くんの祖父の望月神之介ってことになっておるんじゃよ」

「ユミナたちには神様だって説明したけどね。それよりまた時間を止めたんですか?神様」

「ああ、ちょっとこの世界の時間を止めたぞ。他の者に見られると面倒じゃしな」

「何しに来たんだよ?爺さん」

「君の質問に答えるためじゃよ。なんで冬夜君たちがこの異世界に来れたのか。という質問にの」

 

そういや、そうだったな……。

 

「で、どういうことなんだよ」

「あー……。君や冬夜君、それにマクギリス君も元の世界で一度死んだ。それをワシが生き返らせたわけだが……」

「ああ」

 

今さら、何言ってやがる。

 

「本来、死んだ肉体を修復させるとき、体の損傷部分や霊体の欠損部分をその世界の構成物質を使って女神に作り直させておるんじゃが、君たちが死んだ日は生憎、女神が皆、休暇を取っておってな……。代わりにワシが君達の体を修復したんじゃが……」

 

ここまででもう何言ってんのか、さっぱりなんだが……。

 

「正直ピンと来ませんね。魂が生まれ変わって云々(うんぬん)とか」

「人間の体の修復が久しぶり過ぎてのう。肉体を神界に呼び寄せてから修復してしまったんじゃ……」

「それが何か不味いのか?」

「つまり、君の身体を形作っている物質は神界の物質なんじゃよ」

「……なんの話をしてるんだ?」

「わかりやすく言うと君の体は神の体に近いということじゃ」

「……俺にはさっぱり……」

「だから!僕とオルガ、それにリオンさんは半神ってこと!」

 

半神……。俺の体の半分は神ってことか?

 

「実際には七分の三くらいじゃがな」

「神に近しい体になると、神力を使えるようになり、その神力を使って【ゲート】を開くことで【異空間転移】が可能になるのだそうだ。私も冬夜君から【ゲート】を教えてもらって【異空間転移】を使えるようになった」

「僕のダインスレイヴも【シャイニングジャベリン】に無意識で神力を流してるから出せるみたい」

 

そうマクギリスと冬夜が説明する。

つまり冬夜とマクギリスはその【異空間転移】を使って、この異世界に来た。ということらしい。

 

 

「じゃあ俺もその神力っつーのと【異空間転移】も使えるのか」

「君は無理じゃよ」

「は?何でだよ?」

「この異世界に来てすぐに、竜神を殺したじゃろ。その時の神殺しの罪で君の神力は使えなくなっておる」

「勘弁してくれよ……」

 

三つ目の神殺しの罪は神力の封印だった。

 

 

「それで、もう一つの質問じゃが……」

「私たちが何でオルガのことを覚えていたか。よね」

「ああ」

 

神の爺さんの言葉を(さえぎ)ってエルゼが確認する。俺が相槌を打つと、リンゼが話し始めた。

 

「オルガさんが私達の世界から旅立った後、私とお姉ちゃんと八重さんもユミナと一緒にお嫁さんにしてもらったんです」

「そっか、よかったね。みんな」

「ありがとうでござる。三日月殿!」

「そのついでに私も婚約者にしてもらったわ。四人も五人も同じでしょ、って言ってね」

 

何やってんだ、リーン……。

 

「お前らのノロケ話を聞きに来た訳じゃねぇんだよ」

「わかってるよ、ここからが本題。……でもやっぱ僕からは言いづらいな……」

 

なんだよ、言いづらい話なのか?

 

「じゃあ、私が説明します!」

 

冬夜の代わりにユミナが説明を始める。いや、お前らが説明しちまったら、わざわざ降りてきた神の爺さんの立場がねぇんだが……。

 

「私たちは半神である冬夜さんのお嫁さんなので、神の愛を受ける事が出来るんです!」

「は?」

 

神の愛?なんだそりゃ。

 

「ようは神の加護を受けておるんじゃな。『眷属化』と言ってもよいじゃろう」

「僕は無意識なんだけどね」

 

ようはリーンたちは半神である冬夜の加護を受けて、神の眷属になったから、神や転生者しか記憶に(とど)めることの出来ない俺たちのことも思い出すことが出来た。ということらしい。

 

とりあえず、聞きたいことはこれで全部聞けたか。

 

 

神の爺さんが帰った後(ゼナやサトゥーたちも元に戻った)デーモン・ロードの持っていたアーティファクト『不死の宝玉』をどうするか。という話になった。

 

「アーティファクトはとても貴重な物だけど、これは破壊した方が良いわね」

 

そのリーンの台詞(セリフ)に俺は既視感(デジャヴ)を覚える。

 

「待っ、待ってくれ……」

 

俺の制止を待たずにリーンは『不死の宝玉』を空へと投げ捨てる。

 

「サトゥーさん!」

 

冬夜はブリュンヒルドを構えながら、サトゥーにも魔法銃を撃つように促す。

 

「待てって言ってんだろ……!」

 

やはり、俺の制止を待たずに冬夜とサトゥーが引き金を弾く。

そして、その銃弾は想像通りの軌道(ロフテッド軌道)を描き、俺に着弾した。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「なんだよ……結構当たんじゃねぇか……」

 

俺が『不死の宝玉』を撃ち抜いたその時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「じゃあ、しばしのお別れだな。冬夜」

「冬夜君、今回は助けてくれてありがとう」

「いえいえ、会えてよかったです」

「これからもちょくちょく遊びに来るからよろしくね」

「勘弁してくれよ……」

「冗談よ」

「それじゃ!」

「じゃあな!」

「【ゲート】!」

 

そして、冬夜たちは帰っていった。

 

「……さてと、帰るか」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

冬夜君達と別れた後、オレはポチとタマの二人と手を繋ぎながら、出口へと繋がる螺旋階段を上っていた。民間人の中では一番最後だ。

 

地上に出ると、奴隷商人のニドーレンが迷宮内で助けたお礼代わりにポチ、タマ、リザの契約手続きを無料でしてくれると言うので、彼の奴隷市場へと向かうことになった。

 

ニドーレンと一緒に行きたかったのだが、辻馬車の御者が獣人の乗車を拒否したので、オレ達は歩きで向かうことにした。オルガが怒っていたが、トラブルは避けたいので致し方ない。

 

 

「おい、そこの犬耳族」

 

その途中、ベルトン子爵やニドーレンと一緒に助けた金髪の若者がポチに声をかけた。

 

「ポチに何か用か?」

「アンタじゃない。そっちのガキに用があるんだ」

「……また罵声でも浴びせるつもりか!?」

「あの様子は……多分、違ぇな」

「えっ?」

「その……助けてくれてありがとう。蹴って悪かった……」

 

金髪の若者はそう言い、去って行った。

 

「良かったな、ポチ」

「はい、なのです」

 

 

そして、ニドーレンのところでポチ、タマ、リザの主人として正式な契約を結んだ。

 

すぐにお(いとま)するつもりだったのだが、奴隷オークションで売れ残った者達を見て欲しいと懇願されたので仕方なく付き合うことにした。

 

 

「はじめまして、()()様。わたしはアリサと申します」

「……ルル、です」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「いや、オルガには聞いてない」

「なんだよ……」

 

奴隷オークションで売れ残った二人の少女の内、一人がオレを()()と呼んだ。

 

もしかしたら、と思ったオレは二人の耳元でとある言葉を(ささや)く。

 

ルルと名乗った黒髪の少女は知らない言葉を聞いたように困惑していたが、アリサと名乗った紫髪の少女は……。

 

「ぎゃー!取って~!蜘蛛はダメなの!!もう最悪~!!」

 

と慌て叫んだ。

 

そう、オレは彼女達の耳元で「蜘蛛が髪についてるよ」と()()()(ささや)いたのだ。

 

ルルは違ったが、アリサはオレやオルガと同類と見ていいだろう。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

ポチ、タマ、リザ、そしてアリサとルルも連れて門前宿に帰る途中、ミカが俺の胸ぐらを掴み、こう言った。

 

ピギュ

 

「腹減った。ねぇ、オルガ。仕事の後は腹減るんだよ」

「放しやがれ!」

 

俺はミカを払いのけてこう言った。

 

「ああ、わかったよ!連れてってやるよ!(めし)、連れてきゃいいんだろ!」

 

その時、ルルの腹の音が鳴った。

ルルは恥ずかしそうに赤面している。

 

それを見たサトゥーが「何か食べさせてあげようよ」と小声で(ささや)き、目で訴えてくる。

 

「連れてきゃいいんだろ!」

 

その俺の台詞(セリフ)を待っていたかのようにポチとタマが手を上げた。

 

「にく~!」

「肉がいいのです!」

「ああ、わかったよ」

 

そのポチとタマを抱えていたリザは……。

 

「何でも構いませんが」

「なんだよ……」

()えて選べと(おっしゃ)るなら鳥肉が至高だと思います」

「まぁ、予想通りだ」

「ああ、わかってる」

 

ポチ、タマ、リザはやはり、肉……か。

 

何故かラスタル・エリオンの顔が思い浮かんだ。

 

 

そんな俺たちのやりとりを不思議そうに見つめながら、アリサがこう尋ねる。

 

「奴隷の食事など、与えてもらえるだけで上等だと思うのですが……?」

 

その時、再びルルの腹の音が鳴った。

ルルはやはり恥ずかしそうに赤面する。

 

「いいから行くぞ!」

 

 

サトゥーのマップで確認すると近くにモツ料理の店があるようなので、そこで夕食を取ることにした。

 

その道すがら、サトゥーがアリサたちにこう質問する。

 

「今までだと、どんなものを食べてたんだい?」

「奴隷の間で覚えているのは主に黒パンでしょうか」

「温かいスープが一番のご馳走(ちそう)でした」

「日に一度食べられればいい方で、空腹を紛らわす為に公園の木の実や草花、それこそ食べられるものならなんでも口にしました」

「どんぐり~!」

「ざっそ~!」

「そ、そうなんだ……」

 

なんだよ……、ヒューマンデブリじゃねぇか……。

 

「お前らを、俺が連れてってやるよ!」

「ああ、そうだよ。連れてってくれ」

 

 

そして、モツ料理の店にやって来た。

 

羊のモツ煮を全員分とカルトッフェルを大皿で注文すると、数分も待たない内に料理が運ばれてきた。

 

その料理を見たアリサたちは目が輝いている。

 

リザに至っては尻尾をピタピタと地面に叩きつけていた。尻尾は正直なようだ。

 

「アチチ、なのです」

「フゥー、フゥー、フゥー。ぐにゅぐにゅ~!」

「実に美味(びみ)です!」

「こっちはコリコリしているのです!」

「うん!少し塩味がキツめだが、なかなかうまい!」

 

皆、楽しそうに食事をしている。その食事中、ミカがずっと俺を見ているのに気が付いた。

 

「ん?なんだよ、そんなに見られてたら食えねぇだろ」

「……痩せた?」

「そうか?」

 

俺を見て、痩せたかと聞いてきたミカは次に自分のポケットから火星ヤシの実を取り出して、俺のモツ煮の中に入れる。

 

「おい、ミカ。お前……」

「どんぐり~!」

「ざっそ~!」

 

そこにタマとポチもどんぐりと雑草を入れてきて、俺のモツ煮はもはやモツ煮ではなくなった……。

 

「勘弁してくれよ……」

 

だが、店の料理を残すのももったいねぇ。

 

俺はその火星ヤシの実とどんぐり、雑草が入った羊のモツ煮を一口食べる。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

「あれ?ハズレ?」

 

食あたりだよ……。

 

夕食を食べ終えた俺たちは、門前宿へと帰った。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

寝苦しさに目を覚ますと、裸の幼女が腰の上に(また)がっていた。

 

「あら?起こしちゃった?」

 

オレが起きた事に気が付いた紫髪の幼女────アリサが(ついば)むようにキスをする。

 

「うふふ、キスしちゃった」

 

悪戯(いたずら)っぽく(ささや)き、オレの胸に手をついて体を起こし、少し恥ずかしそうに微笑(ほほえ)む。

 

……おかしい。アリサと一緒に寝た記憶がない。

 

アリサの幸せそうな顔が(いと)おしくなって、優しくアリサを撫でる。

 

……(いと)おしくなって?

 

確かに愛らしい顔立ちだが、こんな幼い子に抱く感情ではない気がする。

 

しかし、アリサが(いと)おしい。(いと)おしくて堪らない。……欲しい。アリサが欲しい……。

 

…………って、待て!オレはいつから幼女趣味(ロリコン)になった!?

 

 

幼女相手にこの思考はおかしい。幾らなんでも違う。

 

ぼやけていた思考が少しクリアになる。オレは思考操作でメニューを開き、ログの表示をオンにする。

 

……あった。ログの中に

 

>精神魔法【魅了(チャーム・パーソン)】を掛けられました。

>精神魔法【誘惑空間(テンプテーション・フィールド)】を掛けられました。

>精神魔法【発情空間(ヒート・アート・フィールド)】を掛けられました。

 

という三つの項目を見つけた。

 

オレはゆっくりと体を起こし、こちらを見上げてきたアリサの両脇に手を差し入れて持ち上げ、首筋に顔が来るように抱きしめる。

 

少し慌てつつも、(いと)おしそうにオレの頭を抱きしめるアリサ。

 

オレはその耳元でアリサに()()する!

 

「アリサ!魔法とスキルの使用を禁止する!これは命令だ!」

 

そのオレの声は隣の部屋まで届いていたようで、オルガと三日月が部屋に飛び込んできた。

 

「何があった!」

 

そして、上半身裸のオレの腰の上に(また)がる全裸のアリサを見て、オルガはこう叫んだ。

 

「何やってんだぁぁっ!」

 

 

「じゃあ、お前は劣情に負けて、オレを襲っただけなのか?」

「そうよ」

「オレを操って惚れさせた後に洗脳しようとしたとかじゃないんだな?」

「だから、違うってさっきから言ってるじゃない!」

 

オルガと三日月が部屋に飛び込んできた後、アリサに精神魔法を解いてもらって、今に至る。

 

アリサはオレに一目惚れして、誘惑しようとしただけらしい。

 

「全く……なんなんだ、お前は……」

 

オレがそう呟くと、アリサは悪戯(いたずら)っぽくこう答えた。

 

「わたしは(たちばな)亜里沙(ありさ)。あなたと同じ日本人よ」

 

やっぱり……。

 

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「あなたたちも転生?いいえ、ご主人様のその黒髪からしたら勇者として召喚されたのかしら?」

「ああ、そうだよ」

「は?」

 

アリサ曰く、この異世界に来た日本人は『転生者』か『転移者』しかいないらしい。

 

アリサは『転生者』らしいのだが……。

 

「それはどう区別するんだ?」

「待ってくれ」

「転生者は元の世界で事故とか寿命で死んで、この世界に生まれ変わった人」

「なんの話をしてるんだ?」

「この世界の転生者は赤ん坊からしかないらしいわ。神様が言ってたもの」

「正直ピンと来ませんね。魂が生まれ変わって云々とか」

「転移者は召喚魔法で無理矢理この世界に連れて来られた人。勇者とかは転移者ね」

「先に逝った仲間はどうせ死んだら会えるんだ」

 

オルガが話についていけていないようだが、説明はとりあえず後だ。

 

「オレは……どちらでもない、と思う」

「えっ?」

「ああ、そうだ」

 

オレの場合は仕事場で仮眠を取って、気が付いたら荒野に立っていた。(過労で死んだのかも知れないが……)赤ん坊からやり直した訳じゃないので、『転生者』ではない。荒野に召喚陣らしきものもなかったので、召喚された『転移者』でもない。

 

「神様には会わなかった?」

「神様?会ってないな」

「神様か……。俺たちがひでぇやり方で一人残らずぶっ殺した。と思ったんだけどな……」

 

アリサは腕を組んで(うな)っている。そろそろ服着せないとな。

 

「じゃあ、この世界に来た時に、召喚陣の中にいた?」

「いや、荒野に一人だけだ」

「待ってくれ!俺もいたぞ!」

 

オルガは途中から、荒野に来たのかと思っていたのだが、違ったらしい。俺と一緒に荒野で目覚めたようだ。

 

「なら、最初から高レベルとか?魔力が無限にあるとか?スキルがたくさんあるとか?」

「最初はレベル1だったし、魔力も10だった。スキルも無かったな……」

「鉄華団団長、だぞ……」

「何ソレ?」

 

アリサと出会って何か手掛かりが掴めるかと思ったが、謎が深まっただけであった。

 

 

 




一応、これで冬夜達の説明は出来たとは思いますが、わからない点がありましたら、感想やメッセージで聞いて下さい


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デスマーチから始まる異世界オルガ6

目玉魔族とデーモン・ロードを倒し、迷宮を脱出してから、アリサとルルという二人の奴隷をなりゆきで買った次の日、俺とミカとサトゥー、そしてゼナは『なんでも屋』にやって来た。

 

なぜゼナも一緒なのかは説明すると長いからやめておく。まぁ、なんだ。色々あったんだよ……。

 

「邪魔するぜ~」

「ごめん下さい」

 

なんでも屋の一階には誰もいなかったので、二階に聞こえるような声で人を呼ぶ。

 

すると二階から「はーい」と落ち着いた声が聞こえ、その後に階段を駆け降りてくる足音が聞こえた。

 

「お待たせしました。なんでも屋のナディと申します」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「本日は、どのようなご用件でしょう?」

「あんたに話があって来た」

「宿か借家(しゃくや)を紹介して頂きたいのですが……」

 

今住んでいる門前宿は亜人は入室禁止となっているため、リザやポチ、タマは厩舎(きゅうしゃ)で寝泊まりさせている。いつまでも厩舎(きゅうしゃ)に置いておくわけにもいかねぇからこうして亜人でも泊まれる宿か借家(しゃくや)を紹介してもらいに来た訳だ。

 

サトゥーは亜人でも泊まれる事と防犯対策がしっかりしている事という条件を提示した。

 

するとナディはファイルを広げながら、こう言う。

 

「亜人が一緒となると、西街か職人街の西街よりの場所になりますね。西街の宿ですと、防犯面で不安が残りますので、借家(しゃくや)(よろ)しいかと存じます。それで、ご予算は如何(いか)ほどでしょう?」

「そうですね。銀貨二枚程度を考えています。足りなければ金貨一枚くらいまでなら出せますよ」

「それでしたら何軒かあったはずです」

 

サトゥー曰く、ちょっと高い宿の宿賃が、一泊大銅貨一枚で、大銅貨五枚で銀貨一枚の計算だから、八人で泊まるには銀貨二枚くらいが妥当なのだそうだ。

 

俺はその説明を聞いても正直ピンとこなかった。

 

「この三軒ですと、先ほどのご用件にお応えできると思います。ただ……」

 

ナディが口ごもってから、続きを話す。

 

どうやら、どの家も曰く付きの物件らしい。

 

せっかくなので、一度現物を見て、借りるかどうか決める事にした。

 

鉄華団のマークが書けない家は勘弁してくれよ。

 

 

一軒目。

 

「持ち主が犯罪ギルドの人間に暗殺されたというお屋敷です」

 

カズマたちと暮らしていた幽霊屋敷みてぇな屋敷の前でナディがそう説明した。その説明を聞いたミカが俺にこう言う。

 

「オルガだろ」

「は?……違うぞ」

「オルガ・イツカだろ」

「違うって言ってんだろうg……」

 

ピギュ

 

「鉄華団も犯罪ギルドみたいなもんだろ」

「俺じゃねぇって言ってんだろ!」

 

 

二軒目。

 

「この借家(しゃくや)は娼館の立ち並ぶ通りのすぐ裏にあります」

「は?」

 

娼館……。

 

「サキュバスの店じゃねぇか」

「オルガ」

「すいませんでした」

 

 

三軒目。

 

「このお屋敷は幽霊が出ると噂なんです」

 

カズマたちと暮らした幽霊屋敷はこっちか……。

 

アクアが入れば【ターンアンデット】してもらえたんだがな……。

 

「ここは何か不穏な気配がします。やめておきましょう」

 

サトゥーがそう言う。

 

後で聞いた話だが、この屋敷には市外に抜ける地下道があり、それを犯罪ギルドが密輸に使っていたらしい。

 

 

結局、見に行った借家(しゃくや)のすべてが問題のあるものだったので、ナディにもう少しまともな宿を探しておいて欲しいと伝えると……。

 

「銀貨二枚の予算なら、きっと他にも出物があるはずです。私は午後から商会の方を回って良さげな物件を探してみます」

「頼んます」

 

 

ということで、用件も終わり、午後からは暇になった。

 

どうやら、この先の広場で(のみ)(いち)が開かれているらしく、俺たちはポチたちを連れて、(のみ)(いち)に行く事に決めた。

 

 

「見て見て~!」

「にあう~?」

「なのです?」

 

アリサとタマ、ポチがテプタ通りで買った新しい服を見せてくる。

 

「みんな、可愛いよ。ところでその髪は?」

 

サトゥーがアリサにそう聞く。アリサが服と一緒に金髪のカツラを買って、被っていたからだ。

 

マクギリスの髪色に良く似ている。

 

「あぁ、こっちじゃ紫色は不吉って言われているからその対策なの」

「なるほど」

「でさぁ~、ちょっとおねだりしたいものがあるんだけどな」

 

アリサがサトゥーにくっつきながら甘えた声でそう言う。

 

ゼナがすげぇ顔で見てるぞサトゥー。

 

「くっつくな。それより何が必要なんだ?」

 

 

アリサが欲しいものは露店に売っているらしい。

 

その露店の商品を手に取ってサトゥーがこう言った。

 

「カードか」

「は?」

 

カード……?まさか、遊矢じゃねぇのか……?

 

サトゥーが遊矢かも知れねぇ露店の若い店主にこう話しかける。

 

「面白いカードだね」

「故郷の子供達に文字を教えようと思って」

「なんだよ……」

 

どうやら遊矢とは何も関係ない青年だったようだ。

 

表には絵が描いてあって、裏には文字が書いてある文字を覚えるためのカードらしい。

 

ポチとタマ、そしてミカに文字を教えるため、一セット買うことにした。

 

 

その後も露店を見て回っていると、相変わらず露店で竜面を売っているマクギリスを見つけた。

 

「マクギリスじゃねぇか……。なんだよ、冬夜と一緒に帰ったんじゃなかったのか?」

「彼女達が気になってね」

 

どうやら、マクギリスはポチとタマがいるからこの世界に残ったらしい。

 

 

「これなんかゼナさんの金色の髪に似合いますよ」

 

マクギリスと話しをしていると向かいの露店でゼナにイヤリングを薦めるサトゥーの声が聞こえた。

 

そこにアリサもやって来て、サトゥーに再びおねだりをする。

 

「ご主人様~!私はこれ欲しい!」

 

アリサが欲しいと言ったのは『ガンダム・バエル』のフィギュアだった。

 

「は?」

 

なんでバエルのフィギュアがここにあるんだ?

 

「このロボットのフィギュアでいいのか?」

「私も欲しくなった」

「は?」

 

何言ったんだ?マクギリスの奴。

 

「じゃあ、皆にも欲しいものを買ってやるか」

「ヤッタ!」

 

サトゥーはマクギリスにも『ガンダム・バエル』のフィギュアを買ってやった。優しいな。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

(のみ)(いち)の野外ステージで演劇がやっているとマクギリスさんから聞いたオレ達はリザに人数分の観劇券を買ってきてもらって、見に行くことに決めた。

 

 

「にく~」

「にく、なのです~」

 

野外ステージでやっている演劇を見に来たのだが、ポチとタマは劇についていけなかったらしく、オレの膝を枕にして眠っていた。

 

この演劇は()()に基づいた伝承らしく……。

 

《『マクギリス・ファリド事件』と呼ばれた一連の騒動はマクギリス・ファリド本人の死によって幕を下ろした。一時は社会的信用を失いかけたギャラルホルンだが、その抗争を早期に解決したことで、改めてその力を世界に示した。『誰にも等しく権利を与えられる世界』マクギリス・ファリドの目指した理想の一端は()しくもラスタル・エリオンの手によって、成し遂げられようとしている》

 

という訳の分からない展開で劇は終了した。

 

「鉄血のオルフェンズじゃねぇか……」

 

今思えば、さっきの露店で『ガンダム・バエル』が売っていた事やベルトン子爵がオルガの名前を聞いて驚いていた事、三日月のバルバトスが魔族の君主(デーモン・ロード)を倒した時に兵士の人達が言っていた台詞(セリフ)など、ヒントは幾らでもあったんだよな。

 

なんで気付かなかったんだろう。

 

 

劇が終わった後、熱心に見ていたアリサが(のど)の渇きを訴えたので、オレはオルガと三日月と一緒に果実水を買いに行った。

 

少し小腹が空いたので、ついでに近くの屋台で何か買って行く。

 

注文待ちの間、後ろから中年女性に話し掛けられた。

さっきの劇の時に、オレの前に座っていた人だ。

 

「あら、後ろの席にいらした方ね。外国の方かしら?」

「ええ、行商人のサトゥーと申します」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「あの劇の真似かしら。面白いお友達ね」

「は?……違うぞ」

 

オルガはさっきの劇の真似をしていると受け取られたみたいだ。

 

「さっきの劇の最後の方(ひど)かったでしょう」

「勘弁してくれよ……」

「ええ、まぁ」

「は?」

「あんたにだけは言われたくないよ」

 

彼女は注文待ちの間、さっきの劇の最後の茶番の理由を教えてくれた。

 

「貴族から物言いがあってこんな流れに変更されたのよ」

「なんだよ……やっと分かった」

「なるほど。後からねじ曲げられたから、微妙な展開だったのか」

「あぁ、そうだ」

 

 

焼きたてのパンを人数分注文して、皆の元に戻るとオレ達が買い物に行く前はまだ夢の中だったポチとタマがすでに起きていたようで、オレの方へと駆けよってきた。

 

「あっ!ご主人様~!」

「三日月さんとオルガも、どこ行ってたのです?」

「ごめんごめん。ちょっと買い物にね」

「何買ってきたの?」

「果実水とパンを人数分」

 

 

オレ達は木陰でパンを食べながら、雑談に興じる。

 

「劇はお約束の熱い展開の連続で堪らなかったわ~!」

「「止まるんじゃねぇぞ……」するところで泣いちゃいました」

「いや……ありがとな」

「え~。死んだら何もならないじゃん」

「すいませんでした」

 

 

その時だった。

 

市壁塔の一つから警報が上がる。

 

「なんだ?緊急クエストか?」

「緊急収集です!行って来ます!」

 

警報を聞いたゼナさんがそう言って走り出す。

 

「何があったんだ?」

 

オレもマップを開いて確認してみると、正門の外に広がる森林の奥から敵を示す赤い無数の光点が近付いて来ていた。

 

どうやら大羽蟻(フライング・アント)という巨大な蟻のようだ。

 

マップの詳細を見る限り、大羽蟻(フライング・アント)はレベル3程度しかない。単体の強さとしては武装した兵士達より弱い。

 

しかし、この大羽蟻(フライング・アント)は鋭い爪と普通の蟻とは違う硬い外殻がある。その上、空を飛ぶのだ。普通の市民からしたら十分脅威だろう。

 

市壁の上には魔物払いの結界があるらしいので、壁を乗り越えて大羽蟻(フライング・アント)が街に侵入することはないが、門を早く閉めなければ門から街に侵入してしまう。

 

兵士達は慌てて、正門を閉じようとするが、発車のベルが鳴った電車に駆け込むマナーの悪い客のように、閉まりきる寸前の正門の間に大羽蟻(フライング・アント)が体を滑り込ませる。

 

「一匹くらいの魔物など押しつぶしてしまえ!」

 

門衛の詰め所から、兵士達を叱咤(しった)する声が響くが、大羽蟻(フライング・アント)は一匹だけではない。

 

ほんの少し門の閉鎖が止まった隙に一匹、また一匹と大羽蟻(フライング・アント)達が次々と体を割り込ませて門を()じ開け、結局大羽蟻(フライング・アント)達の侵入を許してしまった。

 

「何やってんだぁぁっ!」

 

 

「【……■■■ 落気槌(フォールン・ハンマー)】」

「放て!」

 

市内への侵入を果たし、空へ舞い上がろうとした大羽蟻(フライング・アント)達をゼナさんの【落気槌《フォールン・ハンマー》】の魔法で叩き落とし、魔法から逃れた大羽蟻(フライング・アント)は兵士達が石弩(クロスボウ)で撃ち抜く。

 

その石弩(クロスボウ)の一つが大羽蟻(フライング・アント)に突撃していったオルガに当たる。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

ゼナさんの魔法やオルガの銃、兵士達の石弩(クロスボウ)を警戒した大羽蟻(フライング・アント)達は迂闊(うかつ)に飛び上がらなくなった。

 

低空で飛ぶ七匹程の大羽蟻(フライング・アント)が兵士達を迂回して、オレ達を襲って来る。

 

「来たか」

 

オレは低空で飛ぶ大羽蟻(フライング・アント)賤貨(せんか)指弾(しだん)で撃ち抜こうとした。

 

しかし、その射線上にオルガが入ってきて……。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

再び、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

「ごめん」

「こんくらいなんてこたぁねぇ」

 

 

オルガの銃弾で三匹、リザも一匹は倒すことが出来たようだが、残りの大羽蟻(フライング・アント)が門前宿に近寄ってしまった。

 

「ここは通さないのです!」

「通行禁止~!」

 

宿に侵入しようとした三匹の大羽蟻(フライング・アント)の前にポチとタマが立ちふさがる。

 

「とー、なのです!」

「や~!」

 

ポチとタマが腰溜めに構えた小剣(ショート・ソード)で一匹ずつ仕留める。

 

しかし、動きの止まったポチの背後から最後の一匹が襲いかかった。

 

それをオルガが庇い、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

「ありがと、なのです!」

「団員を守んのは俺の仕事だ……。こんくらいなんてこたぁねぇ」

 

最後の一匹はリザの槍で仕留めた。

 

これでこっちは大丈夫だろう。だがナディさんのいるなんでも屋の方に何匹かの大羽蟻(フライング・アント)が侵入しているのが見えた。ナディさんは地下室に隠れているみたいだから大丈夫だと思うが、一応助けに行こう。

 

「リザ、少しの間、ここを任せる」

「承知!」

「俺も行くぞ!」

 

なんでも屋に進入した所で、ストレージから『バールのようなもの』を取り出し、大羽蟻(フライング・アント)撲殺(ぼくさつ)する。

 

「ナディさん、大丈夫ですか?」

「は、はい、大丈夫です!」

 

地下室への階段は大羽蟻(フライング・アント)の吐いた酸で黄色くなっている。

 

どうやってナディさんを地下室から脱出させるか悩んでいると、一人の少年が部屋に飛び込んできた。

 

「■■■ ■■■ ■■ 蔦操作(アイビー・コントロール)

 

少年が魔法を使うと、室内にあった観葉植物の(つた)が触手のように(うごめ)いて、地下室へと伸びていく。

 

しばらくして、胴に(つた)を巻き付けられたナディさんが地下室から出てきた。

 

「店長!」

 

どうやら、彼がこのなんでも屋の店長らしい。

 

「ありがとうございます。サトゥーさん、オルガさん!それに店長も」

「おまけ?」

「違います。ちゃんと感謝してますよ」

 

なんでも屋の店長らしき少年は俺とオルガの顔を見てこう聞く。

 

「誰?」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

借家(しゃくや)探しを依頼して下さった方々で、命の恩人ですよ。彼らがここに侵入した魔物を倒して下さったんですから」

「感謝」

「こんくらいなんてこたぁねぇ」

 

AR表示でもたらされた彼の情報にオレは驚きを隠せなかった。

 

彼がファンタジー世界随一の有名種族『エルフ』だったからだ。

 

 

ユサラトーヤ・ボルエナンと名乗ったなんでも屋の店長やナディさんと話している間に大羽蟻(フライング・アント)との戦闘も終了していた。

 

ゼナさんの話しによると怪我(けが)人の(ほとん)どが軽症で死者は一人も出なかったらしい。

 

その後、ゼナさんは市外に哨戒に出掛けるとの事だったのでそれを見送った後、宿へと帰った。

 

 

その日の夜、頭痛がするというルルのため、オレとオルガは近くの薬屋に頭痛薬を買いに行った。

 

頭痛薬を買い、すっかり暗くなった街の通りを歩いていると空から影梟(シャドウオウル)の羽が落ちてきた。

 

意外と立派な羽だったので、ポチやタマのお土産にしようと決めたその時、路地裏から何やら金属同士がぶつかる音が聞こえた。

 

「どうした、サトゥー」

「向こうの通りで誰かが争ってるみたいだ」

「何っ!?行くぞ!」

 

オルガの後を追って街灯の無い薄暗い路地に足を踏み入れると、人の形をした影が見えた。

 

その影は這い寄る影(シャドウ・ストーカー)というレベル11の魔物のようで、物理攻撃が無効らしい。

 

オルガの銃では攻撃を与えられないため、魔法銃で仕留めようと発砲するが、射線上にオルガがかぶってしまい、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

その隙に這い寄る影(シャドウ・ストーカー)が接近してきて黒い刃をオレに向かって振り下ろしてきた。

 

【立体機動】スキルを使って空に逃げ、空から魔法銃を連射する。

 

「ま、待ってくれ」

 

這い寄る影(シャドウ・ストーカー)は全滅させたが、オルガにも誤射してしまったらしく、再び、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

どうやら這い寄る影(シャドウ・ストーカー)達はこの路地裏にいた灰鼠人族の男と彼が庇っていた布の中にいる子を襲おうとしていたようだ。

 

「誰ダ……」

 

灰鼠人族の男がそう詰問してくる。

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「ぐぬ、ギザまはヤツの手下なのクァ?」

 

灰鼠人族の男は先程の這い寄る影(シャドウ・ストーカー)にやられたようで瀕死の重症だった。

 

聞き取りにくい声でそう言うが、その『ヤツ』というのが誰なのか分からない。

 

分からないが、その『ヤツ』があの這い寄る影(シャドウ・ストーカー)達を送り込んだ張本人なのだろう。

 

「いや、違うよ」

「違うぞ」

 

オレとオルガが否定すると、灰鼠人族の男は最後にこう言って眼を閉じた。

 

「ワッシは、もう()たヌ。シ、姫を頼む」

 

 




ミカが何もしてない……。

鉄血のオルフェンズもウィンター兄貴もメガネ脚フェチケモナー兄貴も再び動き出したからよ、止まるんじゃねぇぞ……。


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デスマーチから始まる異世界オルガ7

サトゥーが赤い兜を被ったネズミ男に応急手当てをした後、そのネズミ男とそいつが「姫」と呼んだ少女をなんでも屋へと連れて行った。

 

何故、なんでも屋へ連れて行ったのかというと……。

 

ネズミ男が「姫」と呼んだ少女をサトゥーがAR表示で確認したところ、彼女の名が『ミサナリーア・ボルエナン』と出たからだ。

 

種族はエルフでなんでも屋の店長であるユサラトーヤ・ボルエナンと同じ名字でもあるから間違いなく店長の知り合いだろうとのことらしい。

 

どうやら、そのサトゥーの読みは当たっていたようだ。なんでも屋のナディと店長に彼らを任せ、俺たちは宿に戻った。

 

 

そして、朝。

 

ルルの体調も良くなったようなので、俺とミカとサトゥーは再びなんでも屋へと向かった。

(昨夜はついてこなかったが、今日はミカもついてきた)

 

「邪魔するぜ~」

「こんにちは、様子はどうですか?」

「はい、もう大丈夫ですよ。今は二人とも眠っています」

 

二人の看病で寝ていないのだろう。少し眠そうなナディが二人の容体を教えてくれた。

 

ネズミ男の方は神官に治療をしてもらい、何とか一命を取り留めたようだ。

 

「ミーアちゃんは怪我(けが)とかはないんですけど、(ひど)く疲労していて衰弱(すいじゃく)気味なんです」

 

ミサナリーア姫の愛称はミーアというらしい。

 

ナディが話している途中、二階から何やら物音が聞こえた。サトゥーもそれに気付いたらしく、ナディにこう言う。

 

「何か二階で物音がしましたけど、目が覚めたんじゃないですか?」

 

 

サトゥー、ナディと一緒にミーアの部屋を訪れる。

 

「ミーアちゃん、具合はどう?」

「誰?」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「この店の店員でナディと言うの。店長……ユサラトーヤのお店よ」

「ユーヤの」

「は?」

 

遊矢?

 

あのトマト野郎の顔を思い浮かべたその瞬間、ミカが何かを感じたようで窓の外を見る。

 

「何あれ?」

「ん?」

 

ミカと一緒に窓の外を見ると、なんでも屋の目の前に何故か黒い渦があった。

 

「何だありゃ?」

 

レディース エーン ジェントルメーン!

 

「何っ!?」

 

その瞬間、黒い渦から奴が出てきた。

 

「俺の名前は榊遊矢!」

「チッ」

「【シノォォォ!!】」

(うな)れっ!ギャラクシーキャノンッ!!発射ぁっ!!」

 

俺はシノを召喚して、奴を黒い渦の中へと還した。

 

ちなみに、昨日寝た時に夢の中に出てきた神の爺さんにカズマの世界にいた時に最終的に使えた召喚魔法をそのまま使えるようにしてもらった。

 

これで、シノと昭弘も召喚出来るようになった訳だ。

 

 

サトゥーは、眠るまでミーアの傍にいてあげるようなので、俺とミカは先に宿へと戻った。

 

 

宿ではポチやアリサたちが昨日の(のみ)(いち)で買ったカードを使い、字を覚える練習をしていた。

(何故かマクギリスもいるが、気にしないでおこう)

 

「俺もやる」

 

その輪の中にミカも入っていく。そういえば生前言ってたな。

 

色々な本を読んで、野菜のこととか勉強したい。いつか、農場をやってみたいって……。

 

すげぇよ、ミカは……。今度は読み書きまで……。

 

 

「よーし、十枚目ゲット!」

「にゅ~!」

「アリサ、強すぎるのです!」

「すごいな」

 

そこになんでも屋から帰って来たサトゥーもやって来て、声をかける。

 

「楽しそうだね」

「字~覚えてた~!」

「デュエルで」

 

文字の面のカードを見て、そこに書かれた単語を正解出来ればそのカードを獲得出来るというデュエルだ。

 

先ほどまでは、俺がカードを選んでいたのだが、サトゥーが来たため、サトゥーにカード選びを任せ、俺もデュエルに参加する。

 

 

オルガ・イツカ LP1

 

「は?」

 

乱入ペナルティ 200ポイント

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

サトゥーがカードを一枚選び、皆に見せる。

 

「じゃあ……これは何のカードだい?」

「それは『肉』なのです!」

「残念、『山羊(やぎ)』だ」

 

サトゥーが再びカードを一枚選び、皆に見せる。

 

「こっちは?」

「それも『肉』~!」

「違う」

「『狼の王』か?」

「違う」

「と思ったが、違ったようだ」

「教えてくれ、オルガ。オルガ・イツカ」

 

ミカがそう聞いてくる。あの目は裏切れねぇ。

 

「『宇宙ネズミ』!」

「違う、『(うさぎ)』だ」

 

ピギュ

 

「勘弁してくれよ、ミカ……」

 

リザも勘違いしていたらしく、驚いてサトゥーにこう聞いた。

 

「では、このカードも『鶏肉』ではなく『鶏』なのですか?」

「『鶏』ではないよ。あれは『天使』だ」

「残念、『鳥』だ」

「違ったようだ」

 

 

その後、再びナディに呼ばれたため、なんでも屋に戻ってきた。

 

アリサがミーアに会ってみたいと言ったので、アリサやポチたちも一緒に連れてきた。

 

アリサ、ポチ、タマにミーアの相手を任せ、俺たちはナディの話しを聞く。

 

「サトゥーさん達は馬車はお持ちなんですか?」

「いえ、荷馬を連れていたんですが、例の星降りのせいで逃げられてしまったんですよ」

「それは災難でしたね……」

 

そういえば、そんな設定だったな。

 

「それよりも俺らを呼びつけた用件を聞こうか?」

 

俺がそう尋ねると、ナディはこんな話しを持ち出してきた。

 

「あの、資金に余裕があればなんですが。馬車を買われませんか?」

「馬車ですか!?」

 

ナディは借家(しゃくや)の代わりとして馬車を買うのはどうかと提案してきた。

 

「あんた、正気か?俺らみたいなチンケな組織にする話じゃねぇな」

「せっかくのお話ですが、御者の経験がないので……」

「……待ってくれ」

 

サトゥーは断ろうとしたが、俺たちの話を聞いていたルルが何か言いたそうにしていたので、俺はサトゥーの言葉を(さえぎ)ってルルに話を振る。

 

「ルル、なんか言いてぇ事があんならはっきりしろ」

「えっ?」

「……お前ら奴隷は今まで何も考えてこなかったのかも知れねぇ、自分じゃ何もな……。今までどうだったかは変えられねぇ。ただこれから先は変えられる」

 

俺がいつか昭弘に言った台詞(セリフ)だ。

 

それを聞いたルルはゆっくりと、何度も()んだり詰まったりしたが、一生懸命に言葉を紡いで自分の出来る事を伝えてくれた。

 

「あ、あの私、一頭引きの荷馬車なら扱った事があります。二頭引きは扱った事はないですけど、馬車の運転を教えるくらいなら……なんとか……」

「じゃあルルに教えて貰おうかな」

「分かった。鉄華団はあんたの側に乗ってやる」

「ナディさん、そういう事なので購入させて頂きます」

「即決ですね」

 

ということで馬車を買うことになった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「旅の前に野営の練習をしましょう!」

 

アリサのそんな一言から西街の空き地で野営の練習をする事になった。

 

草を刈ったり、テントを張ったりしている内にオレは色々なスキルを覚えた。ログにはこのように出ている。

 

>【草刈り】スキルを得ました。

>【耕作】スキルを得ました。

>【開拓】スキルを得ました。

>【採取】スキルを得ました。

>【石工】スキルを得ました。

>【野営】スキルを得ました。

 

作業中、笛付きケトルのピーッという音が聞こえて来た。

 

その音を聞いたポチとタマが驚いて、こっちに走ってくる。

 

「やかん怒った~?」

「助けてなのです!やかんの人が怒るのです!」

「誰だ、そいつは?」

 

やかんの人って……。オルガも困惑してるし。

 

ポチとタマ、そしてオルガと三日月も笛付きケトルを見るのは初めてだったようだ。

 

「あれはお湯が沸いたよって、笛の音で教えてくれているんだよ」

「怒ってない~?」

「どうして沸いたらピーッてなるのです?」

 

オレはポチ達に蒸気の仕組みを教えたが、なかなか通じない。

 

「正直ピンと来ませんね」

「当たり前よ。理系の学生に教えてるわけじゃないのに水が気化したら体積が千倍になるのとか言っても理解出来る訳無いじゃん」

 

違うぞ、アリサ。1699倍だ。

 

「ホント上から目線だよな……おばさん……」

「聞こえてるわよ」

「なっ!……くっ」

 

アリサはやかんの(ふた)を外しながら、オルガ達にこう説明した。

 

「水は熱くなると、この白い煙みたいなのになるの。この煙は力持ちだから(ふた)くらいの軽いものだったら動かしちゃうのよ」

 

次にアリサは近くの草を千切(ちぎ)って風車を作る。

 

それを蒸気に当てて回転させた後、自分でも息を吹きかけて回転させる。

 

「人が息を吹きかけるのと同じ事を、この白い煙がやるから笛の音が出るのよ」

「正直ピンと来ませんね」

「アリサすごい~」

「やっと分かった」

「良くわかったのです!」

「何っ!?……散々、考えたけど、正直ピンと来ませんね」

 

オルガ以外にはアリサの説明で通じたようだ。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

野営練習という名目のピクニックの帰りに寄ったなんでも屋で、馬車を購入した。

 

「これでこの馬車はサトゥーさんの物です」

「ありがとうございます。これでたくさん荷物を運べます」

「ねぇ、この馬車でミーアを故郷に送ってあげましょうよ!」

 

アリサがそう提案する。それに対してサトゥーはこう質問した。

 

「故郷?ミーアの故郷って何処(どこ)なんだ?」

「エルフの里はシガ王国の南東にあるそうですよ」

「オルガ」

 

それを聞いていたミカが俺の名を呼ぶ。

 

ミカの目が俺に聞いてくるんだ。「連れていってくれるんだろ?」ってな。……あの目は裏切れねぇ。

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!どうせ後戻りは出来ねぇんだ。連れてきゃいいんだろ!!途中にどんな地獄が待っていようと、お前を、お前らを俺が連れてってやるよ!!」

「ああ、そうだよ。連れていってくれ。次は誰を殺せばいい。何を壊せばいい。オルガが目指す場所へ行けるんなら、何だってやってやるよ」

 

 

サトゥーがルルに馬車の操車を教えてもらっていた時、急に天気が崩れ、雨が降ってきたので、俺たちはとりあえずなんでも屋に入る。

 

 

ちょうどいいので、この際になんでも屋の店長にミーアを故郷に送り届ける事を話す事に決めた。

 

「あんたに話がある」

「店長、実は……」

 

サトゥーが話しを切り出そうとした声を断ち切るように雷の音とナディやミーアたちの悲鳴が聞こえた。

 

「何があった!?」

「どうした?」

「て、店長……」

 

サトゥーがマップで周囲を確認したが、「敵影はなし」だそうだ。

 

じゃあ、さっきの悲鳴は一体?

 

その疑問はすぐに解消された。

二度目の落雷と同時に再び悲鳴がこだまする。

 

ナディやミーアたちは雷に怯えて、悲鳴を上げただけだったらしい。

 

「はぁ、雷に弱いだけか……」

「なんだよ……」

「雷はとても危ないの、危険なのよ?」

「そうか?」

 

雷なんて、なんてこたぁねぇだろ。神雷(ダインスレイヴ)に比べりゃあな。

 

俺は外の様子を見るため、なんでも屋を出る。

 

その時、雷が俺に直撃し、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「竜だって、雷に当たったら墜落しちゃうの、落ちちゃうの、本当よ?」

 

ミーアが必死に雷の危険性を(うった)える中、タマとミカは野外の雨を見つめていた。

 

「タマ、どうした?」

「どうした、ミカ?」

 

俺とサトゥーもタマとミカが見ている方を注視してみる。

 

するとそこには一匹のフクロウがいた。

 

そのフクロウが四度目の落雷とともに人の姿へと形を変える。

 

そして、その黒いフードを深く被った男はこう言った。

 

「迎えに来たのだよ、ミーア」

 

 




デスマオルガもあと2話ですね。(動画通り9話で完結とします)

デスマオルガの次はナイツ&オルガに決めました。いのきさんにも許可を頂いています。
ナイツ&オルガの次はRe:オルガです。その後は祝福オルガ2期になるか、百錬のオルガになるか、別の作品になるかわかりませんが、とりあえずはRe:オルガのノベライズまで頑張ります!


……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。


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デスマーチから始まる異世界オルガ8

※注意! 語尾が気持ち悪い敵が登場します。苦手な人はスキップしてください。by愛七ひろ(デスマ作者)



サトゥーです。ホラー映画は苦手なサトゥーです。

お化けや幽霊は平気なのですが、恐怖に引きつる登場人物達の顔が怖いのです。

 

「そうか?……正直ピンと来ませんね」

 

 

 

突然、湧いた敵。それはさっきの梟(影梟(シャドウ・オウル))のいた方向だ。

 

影梟(シャドウ・オウル)の背後に伸びる影から、湧き上がってくる黒いローブの人影。

フードが付いた袖口の長いローブのせいで顔が見えない。

 

「迎えに来たのだよ、ミーア」

 

横にいたミーアがビクッと震える。

 

「おい、勝手にうちの団員スカウトしてんじゃねぇよ」

 

オルガがそう答える。ミーアは恐怖から声を出せないでいるようだ。

 

「はじめまして、魔術士殿。私は行商人のサトゥーと申します」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「ふん。商人風情に用はないのだよ。だがさすがは勇者の末裔(まつえい)だ。我が恐怖を浴びて平然と喋れるとは驚嘆(きょうたん)に値するのだよ」

 

誰が勇者の末裔(まつえい)だ。

 

「鉄華団団長、だぞ……」

 

オレの黒髪と名前から勇者の末裔(まつえい)だと判断したのなら、やはりコイツも転生者か?

 

「見逃してやるつもりだったが、刃向かうなら容赦(ようしゃ)はせぬぞ」

 

その言葉を証明するデモンストレーションなのだろう。この魔術士(AR表示には『ゼン』と出ている)が木のカウンターの上に手を置くと、そこから変色し、干からび、腐っていく。

 

「荒事は遠慮したいのですが……ミーアは友人なのです。意思に反する略取(りゃくしゅ)を見過ごす訳には参りません。どうしても引いてはくれませんか?」

「ミーアを守りたいのならば、武勇を示せ。言葉で止められるほど我が狂気は軽くないのだよ」

「あんた正気か?俺らみたいなチンケな組織にする話じゃねぇな」

 

「止めたいならば力づくで」と、この魔術士殿は仰せのようだ。

 

「では、お言葉に甘えよう!」

 

オレはその言葉と同時に、一撃必倒の打撃をヤツの鳩尾(みぞおち)に向けて放つ。

 

しかし、ヤツは近くにいたオルガを盾にして、打撃を防御する。

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

その後、オレの足首を何かが掴み、持ち上げた。

 

オレの足首を掴み上げたものの正体は、ヤツの影から伸び上がった幾本もの黒い触手だった。

 

「こいつは影を操るのか!?」

 

>【影魔法】スキルを得ました。

>【影耐性】スキルを得ました。

 

【影耐性】スキルって何だよ、と突っ込みたいが、今はそんな場合でもない。【影耐性】スキルにポイントを割り振って、ヤツの魔法への抵抗力を上げておく。

 

「驚いたのだよ。商人を(かた)る格闘家か。よもや、そのレベルでそれだけの動きが出来るとは世の中狭いようで広いのだよ」

「お前、状況わかってんのか?その台詞(セリフ)を言えんのはお前か、俺か、どっちだ?」

 

オルガがヤツにそう言い放つ。確かにオルガのレベルは500で、オレのレベルが310。それに対し、ヤツのレベルは41(ちなみに三日月はLv.3474)。

 

それを知っていれば、オルガの言う意味が分かるだろうが、オレもオルガもヤツから見れば、レベル一桁台だ。

 

ヤツはオルガの言う意味が分からず、困惑している。

 

その一瞬の隙をアリサは見逃さなかった。

 

「うちのご主人様から手を離せぇぇぇ!」

 

アリサが【精神衝撃波(ショック・ウェーブ)】を放つと、ヤツが一歩後ろによろめいた。

 

ヤツのHPに変化は無いが、(わず)かな後退(ノックバック)効果があったのだろう。

 

のけぞらせた頭からフードがずれて、ヤツの顔が白日(はくじつ)の下に(さら)される。

 

その顔は白骨(はっこつ)

 

(うろ)のような眼窩(がんか)の奥に紫色の炎が瞳の代わりに鎮座(ちんざ)している。

 

幽鬼(レイス)?」

「そのような下級のアンデットと一緒にされるのは、いささか不愉快なのだよ」

 

ヤツがアリサに影の拳を放とうとする。

 

オレは空中で体を(ひね)り、ストレージから取り出した魔法銃でアリサを攻撃しようとするヤツを狙う。

 

だが、それはヤツに見抜かれていた。

 

ヤツは影の触手でオルガを掴み、再びオルガを盾にして、オレの魔法銃の銃撃を防ぐ。

 

しかし、ヤツはその先までは想像出来なかったようだ。

 

オレの魔法銃の銃撃を浴びたオルガのカウンターが発動し、オルガの銃弾がヤツの影の触手を全て消し去った。

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「なんだよ……結構、当たんじゃねぇか……」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

「……影魔法で作り出した影鞭(シャドウ・ウィップ)に、魔法やマジックアイテム以外で干渉するなどありえん。……まさか、貴様が噂に聞く世界神の眷属?……いや、まさかな、なのだよ」

 

ヤツが何を言っているのか良く分からない。

 

世界神の眷属?以前、魔族の君主(デーモン・ロード)が冬夜君の事をそう呼んでいたが、オルガも冬夜君と同じって事か?

 

 

その後、何度もヤツにダメージを与えようと(こころ)みるもヤツのHPは全く減らない。

 

こんな部屋の中で、三日月のバルバトスを使う訳にもいかず、膠着(こうちゃく)状態が続いていた。

 

そんな中、ミーアが震える声でこう呟いた。

 

「……もういい、逃げて」

「アンタを置いて逃げてどうするのよ。アンタを逃がすのは友達だからだけじゃないわ。わたし達のご主人様の望みがアンタを逃がす事だから、それを最優先するの」

「そうだな。俺はあいつの話しに乗った。途中でそれを変えるのは筋が通らねぇ」

「ちゃんと逃げる隙は作ってあげるから」

 

アリサは固有(ユニーク)スキルを使うつもりのようだ。

 

俺はアリサの固有(ユニーク)スキル発動までの時間稼ぎをする事にした。

 

「魔術士殿。悪いが無学なオレ達にアンタの正体を教えてくれないか?」

 

もっとも正体はもう分かっている。ヤツは最高ランクのアンデット『不死の王(ノーライフキング)』だ。

 

「……いいとも、答えてやろう、なのだよ。我の正体は『不死の王(ノーライフキング)』なのだよ」

「火星の……王?いや、リッチーか?」

「ご主人様、横に跳んで!」

 

オルガの言葉のすぐ後に、アリサの声が割り込んだ。

 

「いっけぇぇぇ!」

 

オレが飛び退()くのとアリサの絶叫は同時だった。

 

アリサの攻撃がヤツに直撃し、ヤツはよろめいた。……だが、それだけだ。

 

「今のは危なかった。まさか固有(ユニーク)スキルとは!そして、その髪。()()()()転生者だったのだな。カツラを使っているとは思わなかったのだよ」

 

「キサマも」って事は、やっぱり予想通りヤツも転生者だったのか。

 

「くぅ、抵抗さ(レジら)れた」

 

ドサッ、とアリサの体がソファに沈む。今の一撃にスタミナと魔力を全て消費したのだろう。

 

オルガは逃げ遅れて、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

アリサが作った隙をついて、オレも魔法銃のトリガーを引くが、やはりオルガを盾にして防がれてしまう。

 

「こんくらいなんてこたぁねぇ」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「分を超えた力は破滅を呼ぶ。その娘を神の玩具(がんぐ)にしたくなければ、先ほどの固有(ユニーク)スキルは使わせぬ事だ」

「起きたら伝えておくよ」

「それが良い。では去るとしよう」

「まっ、待ってくれ!」

「?……ミーアを諦めるのか?」

「誰もミーアを諦めるとは言っていないのだよ」

 

ヤツのその言葉とともに地面から無数の影鞭(シャドウ・ウィップ)が伸びてきて、ミーアを掴み、影の中へと沈んでいく。

 

「待てって、言ってるだろうが!」

「ミーア!」

 

オレはミーアの腕を掴み、影の中から引き抜こうとするが、影鞭(シャドウ・ウィップ)がミーアを引きずり込む力が思いのほか強い。

 

「無駄なのだよ。我のような超越者に敵わぬのは世の理不尽な(ことわり)と思い諦めるのだよ」

 

ヤツはそう言いながら影に沈んでいく。

 

それに対して、オルガはこう言った。

 

「そのつもりはねぇ!あのおっさんの言葉がどこまで本当かわからねぇしな。簡単には乗れねぇよ」

 

オルガのその言葉にオレは決断する。

 

「アリサ、リザ、ルル!ポチとタマを頼む!何かあったらゼナさんを頼れ!オレはオルガ達とミーアを助けに行く!」

「死を恐れぬなら揺り篭(クレイドル)を訪れるがいい。知恵と勇気とやらを振り絞って突破してみせるのを期待しているのだよ」

「ミカ!やってくれるか」

 

オルガが三日月にそう頼む。

 

ピギュ

 

しかし、三日月は何も言わずにオルガの胸ぐらを掴んだ。

 

オルガは胸ぐらを掴む三日月を払いのけて、こう叫ぶ。

 

「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!連れてきゃいいんだろ!!」

「ああ、そうだよ」

「オレ達の事は心配するな!ミーアと一緒に必ず帰る!」

 

皆の返答を待たず、オレ達は影の中へと飛び込み、沈んでいった。

 

 

沈み込んだ先はまるで深海ような空間だった。

 

少し息苦しい。どうやらこの空間にいるだけでスリップダメージを受けるようだ。僅かずつだがHPが減っている。

 

俺は【自己治癒】スキルのおかげで減ったHPを回復出来るが、HPが1しかないオルガは希望の花を咲かし続けた。

 

「【……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

久々に全マップ探査を使ってみる。マップには、こう書かれていた。

 

『マップの存在しないエリアです』

 

…………。

 

「ゲームか!」

 

俺は全力で()えた。

 

そして、その声に呼応するかのように、その空間は砕け、ガラスのような破片となって消えていく。

 

 

そして、オレ達は『謁見の間』という場所へとやって来た。

 

その『謁見の間』の玉座には眠らされたミーアがいる。

 

「ミーア!」

 

オレがミーアへと駆け寄るより早く、玉座の横の譜面台のような装置に指を走らせていた『不死の王(ノーライフキング)』がこちらに気付く。

 

「バカな!そう、バカな!なのだよ。どうやって我が影の牢獄から抜け出した!?あれは貴様らのような低レベルの輩にどうこう出来る代物では無いはずなのだよ」

「あんたに話しがあって来た」

「試練は公正でなくてはならない。ズルは許容出来ないのだよ。この部屋には揺り篭(クレイドル)を攻略したものだけが訪れる事が出来る。そういう決まりなのだ」

「あんた、何言ってんの?」

 

ヤツの長話を聞くつもりはない。

 

オレは四十メートルほどの距離を一瞬で踏破し、ミーアの目前に迫る。最優先事項はミーアの救出だ。

 

オレの指先がミーアの服に触れる直前、ヤツが指を鳴らしながらこう言った。

 

「では、そろそろ(あるじ)の間から退場してもらうのだよ」

 

 

その言葉と同時に目前の景色が変化する。

 

どうやら、魔法か何かで転移させられたようだ。

 

オレ達の目前に(そび)え立つ大樹に目をやる。

 

その大樹の横にはAR表示で『トラザユーヤの揺り篭』と表示されている。

 

「これは世界樹というやつなのか?」

「何だっていいよ」

 

オレの疑問に三日月がつまらなさそうにそう答える。

 

「オルガ、連れてってくれるんだろ?」

「ああ、わかったよ。連れてってやるよ!連れてきゃいいんだろ!……【昭弘っ!】行けるか!?」

「行けるか、だと?行くしかねぇだろ!」

 

オルガが『昭弘・アルトランド』と『ガンダム・グシオンリベイク』を召喚する。

 

「うおぉぉぉ!」

 

バン!バン!

 

ガンダム・グシオンリベイクの滑腔砲(かっこうほう)で『トラザユーヤの揺り篭』の真ん中くらいに穴を開ける。

 

「道は(ひら)けた!」

「ああ、行こう!」

 

オレとオルガは三日月のガンダム・バルバトスの手の平の上に乗り、『トラザユーヤの揺り篭』の中へと入っていった。

 

 

「邪魔するぜ~」

 

オレ達はガンダム・グシオンリベイクの滑腔砲(かっこうほう)で開けた穴から『トラザユーヤの揺り篭』の中へと侵入する。

 

マップで確認してみると、ここは『トラザユーヤの揺り篭』の100階層のようだ。

 

そこにいた三人のホムンクルスの女性の一人がオレ達に対してこう言う。

 

「少し待て、と宣言しまs……」

 

バン!

 

「撃っていいんだよな?」

「当たり前じゃん」

 

……言おうとしたが、ガンダム・グシオンリベイクに攻撃されてしまい、最後まで言う事が出来なかった。

 

「バカな!と驚愕(きょうがく)します!」

「だから弱点は隠すべきと進言したと蒸し返します」

「それよりも進退を決定すべきと具申します」

「ごちゃごちゃうるさいよ」

 

彼女達の喋り方に三日月は苛立(いらだ)っているようだ。

 

「No.5、No.6、ここは私に任せて先に行けと宣言します!」

「あんたらが誰だってどうだっていい……」

「No.7!貴様の事は忘れませんと撤退を開始します」

 

彼女達三人はオレ達を囲んで、額の上に光の魔法陣を生み出し、その光の魔法陣から【魔法の矢(マジック・アロー)】を放つ。

 

「撃てぇー!」

「う"う"っ!」

 

オレと三日月は難なく避ける事が出来たが、オルガは避ける事が出来ずに、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「あんたが敵だってことに変わりはないんだろ」

 

No.7以外の二人は壁際にあるロープを使い、上階へと逃げたが、No.7は三日月のバルバドスの攻撃を受けて倒れた。

 

この部屋には色々な種類の武器や魔法薬(ポーション)が置いてあった。値段もなかなかのものだ。

 

適当に貰っていこうと思う。

 

 

オレが部屋を物色していると、先ほど三日月にやられたNo.7が小さくこう呟いた。

 

「マ、マスター……謝罪、します」

 

その呟きに真っ先に三日月が反応する。

 

「へぇー、まだ生きてる」

 

三日月はポケットから拳銃を取り出しながら、オルガのこう問いかける。

 

「オルガ、次は俺どうすればいい?」

「待ってろよ。今はミーアの救出が最優先だって言ってるだろうが!」

 

ピギュ

 

「放しやが……」

 

ピギュ

 

「え"え"っ!?」

 

 

その後は、大した障害も無く(あるじ)の間に辿り着けた。

 

(あるじ)の間の奥には『不死の王(ノーライフキング)』が待っていた。

 

「まさか、これほど早くここまで来るとは思わなかったのだよ」

「そうかい?出来れば、このまま戦わずにミーアを返して貰えないか」

「否、それは否なのだよ。ここに来る事で君達は資格を示してしまった」

「あんた何言ってんの?」

「だが、我と相対するには称号が足りない。君達はこれから決して勝てない難敵と戦って『勇者』の称号を得て貰うのだよ」

「俺は落とし前をつけに来た。てめぇの下らねぇお喋りを聞きに来たんじゃねぇんだよ」

 

オルガは一枚の請求書をヤツに見せる。

 

「うちが()った被害額だ。まずはその倍を賠償金として払って貰おうか」

 

うちが()った被害?……ああ、なんでも屋のカウンターのことか。それより、いつの間にこんな請求書を?

 

「あっ……」

 

不死の王(ノーライフキング)』が「しまった!?」と反省の声を上げる。

 

「……『聖剣ジュルラホーン』を与えよう!」

「あんた正気か?……払えねぇ場合どうなるかくらい、わかってんだろうな?」

 

(これじゃ足りないなのだよ……?)

 

オルガには聞こえないくらい小さな声でヤツがそう呟いた。なんだか、可哀想にも思えてくるな。

 

 

「君の戦う相手は彼らなのだよ!」

 

話しをすり替えた!?

 

ヤツの言葉に遅れて彼の影が部屋の中央まで伸びる。そして影の中から三体の巨大なモビルスーツが現れた。

 

さらに柱の影に隠れていた七人のホムンクルスもモビルスーツの後ろに並ぶ。

 

ホムンクルス達の中には、さっき逃走したNo.5とNo.6もいる。No.7の代わりはNo.8のようだ。

 

「すごい数だ」

「まさかエドモントンで戦ったあのでけぇグレイズが三体とはな……」

 

ヤツは手元の譜面台のような『揺り篭の核(クレイドル・コア)』を操作して、玉座の間と広間との間に壁を作る。

 

「では、良き死闘を期待するのだよ!」

 

そして、玉座の間のあるブロックがエレベーターのように樹上の展望台へと移動してしまった。

 

「相手するんじゃないの?」

「ミーア!」

「こんだけ囲まれちまっちゃあな……」

 

 

その時だった。

 

オレ達の後ろから一人の男の声が聞こえた。

 

「革命は終わっていない!諸君らの気高い理想は決して絶やしてはならない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々とともにある!ギャラルホルンの真理はここだ!皆、バエルの下へ集え!」

 

バエルだ!アグニカ・カイエルの魂!

 

そうだ。ギャラルホルンの正義は我々にあり!

 

うおおおおおおおおおお!!

 

 

……っと、(のみ)(いち)の劇で聞いた台詞(セリフ)を思わず、心の中で叫んでしまった……。

 

 




自分で語尾が気持ち悪いって言うならそんなキャラ出さなきゃいいのにって思いました。

次回、最終回です。7/19に投稿します。




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デスマーチから始まる異世界オルガ9

祝!異世界オルガ一周年! 



「では、良き死闘を期待するのだよ!」

 

ノーライフキングとかいうおっさんがミーアを連れて上に逃げ、それをエドモントンで戦ったでけぇグレイズ三体とホムンクルス七体が行く先を(はば)む。

 

「相手するんじゃないの?」

「ミーア!」

「こんだけ囲まれちまっちゃあな……」

 

その時、俺たちの後ろからアイツもやって来た。

 

マクギリス・ファリドだ。

 

アリサたちから助けを()われたマクギリスは【ゲート】を使い、ここまでやって来たらしい。

 

 

「一時的に包囲網を突破する事は可能かも知れない」

「は?」

 

マクギリスがそう言う。

 

「私は今から包囲網を単独で突破する」

「何っ!?あんた……俺たちのために……」

「勘違いしないでほしい。バエルを手に入れた返礼としては安いくらいだ」

 

バエルって、(のみ)(いち)で買ったバエルのフィギュアのことか?

 

それでいいのかよ……。

 

 

マクギリスはバエルに乗り込み、こう宣言する。

 

「ギャラルホルンの真理はここだ!皆、バエルの元へ集え!」

「あんた正気か?」

 

しかし、誰もバエルの元に集わない。

 

「あんたは何がしたいんだ?」

「バエルを持つ私の言葉に(そむ)くとは、想定外だった」

 

俺はマクギリスを殴りつけた後、ミカにこう言う。

 

「ミカ、待たせた。立ち(ふさ)がるヤツは全部ぶっ潰す!でけぇグレイズは任せたぞ!」

「ああ、任された!」

 

ミカのバルバトスルプスレクスがエドモントンで戦ったでけぇグレイズ三体と対峙する。

 

俺とサトゥーはホムンクルスの相手だ。

 

「行くぞ、サトゥー!」

「ああ!」

 

 

途中、マクギリスのバエルが参戦したお陰もあり、でけぇグレイズは全滅、ホムンクルスも全員HPが残り少ない状態だ。

 

槍を持ったホムンクルスが槍からビームを放つが、それを避けたバルバトスがホムンクルスをメイスで叩き潰す。

 

しかし、ホムンクルスは槍を杖にして、無理矢理立とうと試みる。

 

「へぇーまだ生きてる」

「駒として扱う主人の為にどうしてここまでして……」

 

サトゥーが諦めずに戦い続けるホムンクルスにそう告げる。

 

「こ、れは……」

「私達の……」

「……望み……」

「うああぁぁぁぁ!!」

 

ボロボロのホムンクルスたちが、無数の光の弓を放つ。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

光の弓を食らった俺はカウンターでホムンクルスを三体倒す。

 

「何だよ……結構当たんじゃねぇか……」

 

残りはあと一体。そいつはサトゥーが倒した。

 

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

戦闘が終わると、ノーライフキングのおっさんが逃げて行った玉座の間へと続く道が開けた。

 

玉座の間に着くと、ノーライフキングのおっさんが拍手して俺たちを出迎える。

 

「素晴らしい!素晴らしいのだよ!ようこそ、新たなる勇者諸君!」

「なぁ魔術士、それとも不死の王(ノーライフ・キング)と呼んだ方がいいか?」

「あんたは何がしたいんだ?」

「我の望みか……」

 

ヤツは少し考えた後、こう話し始めた。

 

「……勇者を見極め、我を殺させる事だ。前世の我は理不尽な暴力で命を奪われた」

 

このまま放って置くと、ずっと喋り続けそうだったので、俺はヤツの話しを中断させる。

 

「俺は落とし前をつけに来た。てめぇの下らねぇお喋りを聞きに来た訳じゃねぇって言っただろ」

 

ヤツは俺のその言葉を聞いた後も「民の祝福」がどうこう言っていたが、それもミカが制止する。

 

「もう良いよ、喋らなくて」

「……さ、さあ勇者よ!語るべきは語り終えた。せめて心まで魔王となる前に我を滅してくれ」

 

ミカがノーライフキングのおっさんに銃口を向ける。

 

「感謝すr……」

 

パン!パン!パン!

 

ノーライフキングのおっさんは死んだ。

 

「さてと、帰るか」

 

>称号『不死王殺し』を得ました。

>称号『揺り篭(クレイドル)の踏破者』を得ました。

 

 

その後、揺り篭(クレイドル)内にこんな放送が響いた。

 

《システムメッセージ、この『揺り篭(クレイドル)』の自壊シーケンスが実行されました。職員ならびに訓練生は直ちに脱出して下さい。繰り返します》

 

「は?」

 

サトゥーが気絶しているミーアに魔法薬(ポーション)を飲ませると、ゆっくりとミーアが目を開いた。

 

「ミーア、オレが分かるかい?」

「……サトゥー」

「俺もいるぞ!」

 

スタミナの回復が足りていないからか、ミーアの瞳に力がない。

 

サトゥーはミーアに状況の説明をしている。

 

「……でも、もう大丈夫だよ、彼はもういない。二度と君の前に姿を現さないよ」

「本当に?」

「本当だよ」

「……あんまりゆっくりしてる時間はないんだが」

 

俺がサトゥーにそう言うと、サトゥーは「そうだった。急がないと」と呟いた後、ミーアにこう尋ねる。

 

「ミーア、この『揺り篭(クレイドル)』の自爆を止められるかい?」

「やってみる」

 

ミーアが操作板を少し操作してみたが、自爆シーケンスが止まる様子はない。

 

「無理」

「何やってんだぁぁっ!」

「何とかここから脱出するしかないな」

 

サトゥーのその言葉を聞いたマクギリスは少し逡巡(しゅんじゅん)した後、こう言った。

 

「ここからの脱出を選択するか。私の出番だ」

「は?」

()()()()()()、可能かもしれない」

「あんた正気か?」

「可能かもしれない」

 

少人数……。オレとミカとサトゥーとミーアだけじゃねぇか。

 

「待って下さい。マクギリスさん。あのホムンクルス達は……」

「少人数ならって言っただろうが!」

 

サトゥーがホムンクルス全員を助けたいと言うが、そんな大人数は助けられない。

 

そんな時、今まで操作板をジーッと見つめていたミカが口を開いた。

 

「ねぇ、オルガ。良くわかんないけど、この転移装置使えばいいんじゃない」

「すげぇよ、ミカは」

 

ミーアやサトゥーが見ても、気がつかなかった転移装置をミカが見つけた。

 

ノーライフキングのおっさんもどうやらミーアを犠牲にするつもりは無かったようだ。

 

ミーアとこの階下にいるホムンクルスは転移装置で助けられるが、下にいるNo.7は助けられない。

 

オレとサトゥーはマクギリスのバエルに乗り込み、No.7を助けて、ここから脱出することに決めた。

 

「わかった。鉄華団はあんたの側に乗ってやる」

「では、ともに駆け上がろうか」

 

 

そして……。

 

「作戦は成功した」

 

俺たちは揺り篭(クレイドル)の脱出に成功した。

 

 

しかし、そう簡単にはいかなかった。

 

「さてと、帰るか」

「ねぇ、オルガ」

「どうした、ミカ」

「なんかバルバトスが動かなくなった」

「何っ!?」

 

ミカのその言葉とヤツの出現はほぼ同時だった。

 

「……モビルアーマー、じゃねぇか」

 

竜の形をした巨大なモビルアーマーが空から現れる。

 

「モビルアーマー『ドレイク』……」

 

サトゥーがAR表示に書いてあることを読み上げる。

 

その『ドレイク』というモビルアーマーは今まで戦ってきたハシュマルや黒竜、デストロイヤーより一回りも二回りも大きい巨大なモビルアーマーだった。

 

それを見た俺は、こう決断する。

 

「サトゥー!俺とミカとマクギリスでヤツを止める。お前はNo.7を連れて先に行け!」

「でも、バルバトスが動かないんじゃ……」

 

俺たちを心配して、その場から動こうとしないサトゥーをマクギリスが無理矢理バエルのコクピットから放り出し、バエルの手の平の上に乗せる。

 

「モビルスーツとは元々、モビルアーマーを倒すことのみを目的として造られた兵器なのだ」

「心配すんじゃねぇぞ、サトゥー!鉄華団は負けねぇ!なぁ、そうだろ【シノォ!】【昭弘っ!】」

「「ああ!」」

 

俺はシノのフラウロスと昭弘のグシオンリベイクフルシティも召喚し、バエルを合わせたガンダムフレーム三機でモビルアーマー『ドレイク』を待ち受ける。

 

どうやら、動けないのはミカのバルバトスだけで、他のガンダムフレームは問題なく動くようだ。

 

「俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、サトゥー。ミーアを故郷に送り届けるまで、止まるんじゃねぇぞ……」

「……わかった。必ずミーアを故郷に送り届ける!」

 

それが俺とサトゥーが最後に交わした『約束』だった……。

 

 

 




第3章 デスマーチから始まる異世界オルガ はこれで終了になります。

次回からは第4章のナイツ&オルガが始まりますが、その前に幕間を2話程投稿したいと思います。

幕間はデスマーチから始まる異世界オルガとナイツ&オルガを繋げるためのオリジナル回です。



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幕間
幕間1


デスマーチから始まる異世界オルガとナイツ&オルガを繋げるためのオリジナル回です。

今まではオルガや各作品の主人公(冬夜、カズマ、サトゥー)の目線で一人称で書いていましたが、この幕間とナイツ&オルガは三人称で書いていこうと思います。




『トラザユーヤの揺り篭』から脱出したオルガ・イツカ一行はシガ王国のセーリュー市へと帰る途中、モビルアーマー『ドレイク』に襲われた。

 

「さてと、帰るか」

「ねぇ、オルガ」

「どうした、ミカ」

「なんかバルバトスが動かなくなった」

「何っ!?……モビルアーマー、じゃねぇか」

 

今まで戦ってきたモビルアーマーとは何かが違うと直感で感じ取ったオルガはサトゥーへとこう告げる。

 

「サトゥー!俺とミカとマクギリスでヤツを止める。お前はNo.7を連れて先に行け!」

「でも、バルバトスが動かないんじゃ……」

「モビルスーツとは元々、モビルアーマーを倒すことのみを目的として造られた兵器なのだ」

「心配すんじゃねぇぞ、サトゥー!鉄華団は負けねぇ!なぁ、そうだろ【シノォ!】【昭弘っ!】」

「「ああ!」」

 

オルガはノルバ・シノの『ガンダム・フラウロス』と昭弘・アルトランドの『ガンダム・グシオンリベイクフルシティ』を召喚し、マクギリスの『ガンダム・バエル』を合わせたガンダムフレーム三機でモビルアーマー『ドレイク』を待ち受ける。

 

「俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、サトゥー。ミーアを故郷に送り届けるまで、止まるんじゃねぇぞ……」

 

そのオルガの言葉でサトゥーは決意した。

 

「……わかった。必ずミーアを故郷に送り届ける!」

 

そう言ったサトゥーはNo.7を肩に担ぎ上げ、【水上走破】スキルを用いて後ろを振り返る事なく駆け抜けていった。

 

 

 

──数時間後──

 

 

 

モビルアーマー『ドレイク』との戦いは…………オルガ達の劣勢であった。

 

フラウロスのダインスレイヴ(スーパーギャラクシーキャノン)は惜しくも決定打にならず、バエルの剣は折れ、そして、昭弘のグシオンリベイクフルシティはドレイクの放つ雷に討たれた……。

 

「昭弘っ!!」

「クソッ……すまねぇ。先に還るぜ……」

「チッ、どうすんだよ、オルガ。このままじゃ……!」

「私の知る鉄華団ならば当然戦いを選ぶものと思っているが?」

「どうすんの?俺、出ようか?」

「たまには横で見てろって言ったろ。今までの戦いでバルバトスはモビルアーマーたちに警戒されちまってるんだ。あの特殊な妨害電波を何とかしなきゃ出したくても出せねぇよ」

 

モビルアーマーには自己修復、自動補給能力に加え、『自己学習能力』がある。モビルアーマーが破壊されると、その破壊された時の戦闘データが他のモビルアーマーに伝達され、その情報を元にモビルアーマーが対策を講じるのである。

 

今回、会敵したドレイクはハシュマル、黒竜、デストロイヤーと鉄華団との戦闘データから三日月のバルバトスを危険分子と判断し、バルバトスのエイハブ・ウェーブと逆位相の妨害電波を流す事でバルバトスの動きを停止させたのだ。

 

 

「それで?何とかなるの?」

 

三日月がオルガにそう問う。

 

「それは……」

「オルガがやれって言うなら、何だってやってやるよ」

「だから!バルバトスなしでどうするってんだ!!?」

「……」

 

オルガの怒りと焦りが混ざりあった乱暴な怒鳴り声に三日月は口を閉ざしてしまった。

 

その間にも、バエルとフラウロスはドレイクの攻撃を必死に堪え忍んでいる。

 

そして、ついに……。

 

「ダメだ……、もう終わりだ!」

「俺が……負ける!?」

 

シノのフラウロスとマクギリスのバエルもドレイクに止めを刺されようとしていた。

 

「オルガ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

オルガは自暴自棄になって、単身ドレイクに突っ込んでいく。

 

そして、希望の花が咲いた時、『希望』は現れた!

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

「【異空間転移(ゲート)】!」

 

 

【止まるんじゃねぇぞ……】して倒れたオルガの目の前に光の粒子が集まっていく。

 

次の瞬間、集まった無数の光の粒子は一体の巨人の姿へと変貌した。

 

全身に水晶の装甲を纏い、透明なその部分に幾つかの金色のラインが走る。大きさは標準的なモビルスーツと同じ。背中には折り畳まれた翼のようなものがある。

 

左右の腰に幅広の刀を装備しており、頭部の角は二本後ろへと伸びていて、肩も突き出すような鋭角さを持っていた。

 

「こいつは……?」

「これは僕専用の多様戦万能型フレームギア『レギンレイヴ』だよ」

 

神々を継ぐもの(レギンレイヴ)』の名を冠したそのフレームギアは、太陽の光を受けて煌めいていた。

 

「大丈夫?オルガ、ミカさん、リオンさん!」

「……冬夜?」

「なんでいんの?」

「望月冬夜……なのか? これは、まるで……」

 

マクギリス・ファリドはその言葉を最期に、息を引き取った……。

 

 




おお!マクギリス。死んでしまうとはなさけない!

次回、スマホ太郎無双


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幕間2

二話連続投稿!



「……飛操剣(フラガラッハ)起動!」

飛操剣(フラガラッハ)、起動しまス》

 

フレームギアを操作するためコクピットに備え付けられたスマホの音声とともに、空中に浮かぶレギンレイヴの折り畳まれた背中の翼が開き、羽根のような水晶板が外れた。左右合わせて十二枚の長い水晶板が機体の周りに規則正しく並ぶ。

 

形状変化(モードチェンジ)球体(スフィア)

飛操剣(フラガラッハ)球体(スフィア)モードに移行しまス》

 

長い板状だったものが一瞬で球体に変化し、水晶の球となって衛星のようにレギンレイヴの周りを回転し始める。この飛操剣(フラガラッハ)には【モデリング】の魔法が【プログラム】されている。望月冬夜の持つ銃(ブリュンヒルド)と基本構造は変わらない。

 

「いけっ!」

 

弾丸のように十二個の水晶球がドレイクへと飛んでいく。

 

球体となった飛操剣(フラガラッハ)一個一個の大きさは直径一メートル以上もある。加えて【グラビティ】の効果もつけてあるため、ドレイクの装甲はまるで事故を起こした自動車の様に凹み、歪み始めた。

 

形状変化(モードチェンジ)晶剣(ブレード)

飛操剣(フラガラッハ)晶剣(ブレード)モードに移行しまス》

 

次に十二個の水晶球は十二本の剣へと形を変化させる。水晶の剣が縦横無尽に飛び回り、凹み、歪んだドレイクの装甲をズタズタに切り裂いていく。

 

グワァァァァァ!!!

 

ドレイクも黙ってやられている訳ではない。

全身から放電し、飛操剣(フラガラッハ)を打ち落とす。

 

「くっ……ならっ!【グラビティ】【スリップ】!」

 

飛操剣(フラガラッハ)を打ち落とされた冬夜は、【グラビティ】でドレイクを地面に叩きつけ、【スリップ】で転倒させる。その隙をついてレギンレイヴの腰に下げている二本の刀を抜き、ドレイクを斬りつける。

 

「これで、最後だ!」

 

冬夜がレギンレイヴの二本の剣を納刀しながら、そう言うと、打ち落とされた全ての飛操剣(フラガラッハ)が再びレギンレイヴのもとに集い、天に掲げた右腕の周囲に円を描くように浮かべる。

 

形状変化(モードチェンジ)突撃槍(ランス)

飛操剣(フラガラッハ)突撃槍(ランス)モードに移行しまス》

 

十二本の水晶剣が次々と腕に重なっていき、やがて大きな水晶の突撃槍(ランス)を形作った。

 

そのままレギンレイヴは空中へと飛び上がり、その後、急降下しながらドレイクへ向けて落ちていく。

 

「【アクセルブースト】!」

 

そして、【アクセル】と【ブースト】を併用したレギンレイヴが突撃槍(ランス)と化した右腕をドレイクへと突き刺し…………ドレイクは動きを止めた。

 

 

その圧倒的な力にオルガと三日月は驚愕する。

 

「何なんだ……こいつは……」

「すごいな」

 

そんな語彙力を失った感想を漏らす二人の前にレギンレイヴは鎮座し、そのコクピットから冬夜が降りてくる。

 

「昭弘さんとシノさん、リオンさんは……間に合わなかったか……ごめん」

「いや、大丈夫だ。あいつらも神の爺さんのとこに戻っただけ、またいつか会える」

「そうだね」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

その頃、マクギリス・ファリドは……。

 

(カルタ、アルミリア……ガエリオ……。オリガ殿、アルマ……すまない……)

 

暗く深い闇の中、死の間際に彼は傷付けてしまった者達や異世界で愛そうとした女達の顔を思い浮かべていた。そして、懺悔の言葉を口にする。

 

(……皆、幸せにしてやれなくて、すまなかった……。そして、ガエリオ。お前は俺にとって……)

 

ただ理想のみに生きた最初の人生とは違う。やり直そうと誓った二度目の人生も……終わってしまった。

 

 

そして、再び彼が目を醒ました時、視界の端に写ったのは己の小さな手脚だった。首は据わっていないし起き上がることも出来ない。

 

彼は女性に抱きかかえられており、その腕の中で泣き叫んでいた。

 

その状況から彼は察する。

 

(……私は、赤ん坊になっているのか?)

 

輪廻転生。死んであの世に還った魂が、この世に何度も生まれ変わってくる、という考え方。

 

Post Disaster世界でも信じてはいなくともその考え方自体は知っているものは多い。

 

「ああ、泣かないで、エル。いい子いい子」

 

彼を優しく抱く女性────セレスティナ・エチェバルリアの胸の中で彼は眠気を覚え、静かに瞳を閉じた。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

ドレイクを倒した後、オルガと三日月は冬夜からとある話を聞かされる。

 

「何っ!一つの世界にモビルアーマーが三体も!」

「うん。名前は陸皇亀(ベヘモス)女皇殻獣(クイーンシェルケース)、そしてドレイク。ドレイクは今倒したから後二体だけど、オルガたちにはその異世界に行ってモビルアーマーを全て倒して欲しいんだ」

「冬夜はどうすんの?」

「僕はちょっと色々あって、向こうの世界の『ブリュンヒルド王国』って国の国王になっちゃってさ、あまり自由に動けないんだ。今もお忍びで来ちゃってるから、ユミナたちに見つかる前に早く戻らなきゃいけないんだよ」

「ああ、わかったよ。行けばいいんだろ!」

「うん。よろしく」

 

そして、オルガと三日月も新たな異世界へと旅立つ事になった。

 

「【異空間転移(ゲート)】!」

 

 

そして、舞台は新たな異世界『セッテルンド大陸』へ。

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「オルガ・イツカ、三日月・オーガス、両名。セッテルンド大陸への転移を確認。モビルアーマーを集めた甲斐がありましたね」

「報告、ありがとう。でだ、君はこれからどうするのか──それをボクに教えて欲しい」

「アンタに言われた『試練』の準備ですよ。必要なのは『ユージン・セブンスターク』『チャド・チャダーン』『アジー・グルミン』『ガエリオ・ボードウィン』でしたか?」

「うん。それで間違いない。でも『ガエリオ・ボードウィン』に関しては彼女に任せるから君は手出し無用だよ」

「お姫さんに?」

「その後は彼女もセッテルンド大陸に転移させる。彼女がいればマクギリス・ファリドも安らげるだろう」

「……わかりました。最後までアンタの『強欲』に付き合ってやりますよ」

「君ならやってくれると信じてるよ、ライド・マッス君」

 

 




次回から、ナイツ&オルガです。

お楽しみに!

後、感想のGood/Bad欄解放しました


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第4章 ナイツ&オルガ (元動画:いのき、原作:ナイツ&マジック)
ナイツ&オルガ0


※本小説はニコニコ動画のMADのノベライズ化です。
動画を見ていること前提で話が進むので、先に動画を見ることをオススメします。

URL:http://sp.nicovideo.jp/watch/sm32840579



ここではないどこか、異なる世界。

 

この世界を表す名前はない。人々はいまだ世界のすべてを知らず、ただ自らが暮らす大地をそのすべてと考えていた。そんな大地の一つが『セッテルンド大陸』である。

 

セッテルンド大陸の中央にある陸地を大きく東西に分割する大崚嶺(だいしゅんれい)『オービニエ山地』の西側には人類が暮らす数多の国ひしめく『西方諸国(オクシデンツ)』が、東側には強大な力を持つ魔獣────モビルアーマーが数多く生息する『ボキューズ大森海(だいしんかい)』が存在している。

 

ここでオービニエ山地の東側に人類の居場所がないかと言えば、そうではなく、ただ一つだけ人類の国家が存在する。

その国の名は『フレメヴィーラ王国』。魔獣(モビルアーマー)達の領域であるボキューズ大森海(だいしんかい)と国境を接しているがゆえに、人口密集地を優先的に襲う魔獣(モビルアーマー)達との戦いの最前線となっている国である。

 

国内のあちこちに出現する魔獣(モビルアーマー)に対抗するための力を有し、西方諸国(オクシデンツ)と人類の盾としての誇りを持つ、民曰く『騎士の国』。

 

時に、西方暦一二六八年。このセッテルンド大陸で鉄華団団長、オルガ・イツカは目覚める。

 

「う、うぅっ……」

「オルガ」

「……おう、ミカ」

 

 

時は夕刻。フレメヴィーラ王国第十代国王アンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラとの謁見を終えたライヒアラ騎操士学園の学長ラウリ・エチェバルリアとその娘セレスティナ・エチェバルリアは馬車で屋敷へと帰宅する道中であった。

 

「陛下のご様子は如何(いかが)でしたか、お父様」

「お変わりなくご健勝であらせられる。このフレメヴィーラが魔獣の脅威に晒されつつも繁栄をことおいでいられるのは一重にアンブロシウス陛下の御意向あればこそだ。此度も我がライヒアラ騎操士学園には過分の御言葉と賜金(しきん)を賜った。騎操士(ナイトランナー)を更に育てよということだ。婿殿も忙しくなるな」

「マティアスなら心配は入りませんわ」

「エルネスティの成長も気掛かりな事よのう」

「エルは確かに他の子供達に比べれば小柄ですが、きっと大きな事を成し遂げる。そんな気がするのです」

 

セレスティナは自らの胸に抱く幼子(おさなご)────エルネスティ・エチェバルリアを見つめながらそう言った。

 

 

その時、突如として馬車を襲う『何か』が現れた。

 

「何あれ?」

「何だありゃ?」

 

それをいち早く見つけた三日月とオルガはその『何か』の姿を確認するため、馬車の後を追う。

 

そして、その姿を目撃する。

 

「……プルーマ、じゃねぇか……」

 

プルーマとは、モビルワーカーに似たモビルアーマーの子機と呼べる存在であり、モビルアーマー同様、人を殺す事に特化した殺戮兵器である。

 

そのプルーマに必要以上に近づき過ぎてしまったが故に、オルガはプルーマのレールガンに撃たれ、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

馬車から降り、オルガがプルーマに襲われているのを目撃したラウリは剣を持ち、プルーマの背後をとる。

 

「お前は下がっておれ!うおおおお!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

オルガが襲いかかってくるプルーマへ発砲する。その隙にラウリが背後から剣で斬りつける。

そして、セレスティナが魔法で追撃し、プルーマは動きを止めた。

 

 

しかし、そこへ二機目のプルーマが襲来し、エルネスティの乗る馬車を襲おうとした。

 

「っ!エル!……エル!!」

 

プルーマがドリルで馬車を攻撃したその時、森の奥から放たれた一筋の光がプルーマを吹き飛ばす。

 

その光が指した森の奥からは白き巨人が姿を現した。

 

その白き巨人の正体は『幻晶騎士(シルエットナイト)』、全高はおよそ10メートル、金属製の骨格(インナースケルトン)結晶質の筋肉(クリスタルティシュー)を持ち、魔力(マナ)を動力として動く、魔導と機械仕掛けの巨人騎士。フレメヴィーラ王国が魔獣(モビルアーマー)に対抗するために生み出した地上最強の戦闘能力を持つ兵器である。

 

 

その白き幻晶騎士(シルエットナイト)を見たエルネスティは心の中で驚きの声を上げる。

 

(なっ!?これは……)

 

 

森の奥からは一機、また一機と幻晶騎士(シルエットナイト)が続々と現れる。

それに対抗するかのようにプルーマも増殖し、幻晶騎士(シルエットナイト)とプルーマの多対多の戦闘が始まった。

 

 

幻晶騎士(シルエットナイト)の一機が拡声器を使い、ラウリへこう告げる。

 

「父上!ここは我々が!」

「なんと!婿殿か!」

 

その白い幻晶騎士(シルエットナイト)を操る騎操士(ナイトランナー)はセレスティナの婿、エルネスティの父であるマティアス・エチェバルリアであった。

 

 

「ミカ、やってくれるか?」

「いいよー」

「【ミカァ!】」

 

 

三日月のガンダム・バルバトスも参戦し、数分後にはプルーマは全滅した。

 

「奇妙な幻晶騎士(シルエットナイト)騎操士(ナイトランナー)よ。協力感謝する」

「別に、普通でしょ。それより、アンタの子供がなんかずっとこっち見てるけど?」

「おぉ、エル~!怪我はないか?」

 

白き幻晶騎士(シルエットナイト)『サロドレア』から降りてきたマティアスの金髪を見たオルガはこう疑いをかける。

 

(マクギリスじゃねぇのか……?)

 

「うわぁ~、もびうすーう(モビルスーツ)だぁ!」

「モビル、スーツ?幻晶騎士(シルエットナイト)の事か?」

「しるえっと、ないと?」

「そうだ。魔法で動く騎士の事だ」

 

それを聞いたエルネスティは幼子(おさなご)特有の回りきらない舌で、はっきりとこう言った。

 

「……バエル!」

「は?」

 

その言葉を聞き、オルガは自らの過ちに気がついた。

 

「マクギリスじゃねぇか……」

 

マクギリス・ファリドはマティアス・エチェバルリアではなく、エルネスティ・エチェバルリアであった。

 

 

これが、エルネスティ(マクギリス)生涯の友となるオルガ・イツカ、三日月・オーガスとの出会いである。

 

 




メガネ脚フェチケモナーさんの祝福オルガ2が始まりましたので、異世界オルガノベライズも第4章に突入です。

今までとは毛色の異なる章となりますが、読んでいただけると幸いです。




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ナイツ&オルガ1

エルネスティ(マクギリス)の住まう街『ライヒアラ』には一つの目的があった。

それは幻晶騎士(シルエットナイト)を操る騎操士────ナイトランナーを育成する事である。

 

当然の如くエルネスティ(マクギリス)騎操士(ナイトランナー)を目指して、三日月・オーガスともに『ライヒアラ騎操士学園』に入学する事となった。

 

時に西方歴一二七四年。オルガ・イツカ、三日月・オーガスがエチェバルリア家の食客となって六年後の事である。

 

 

『ライヒアラ騎操士学園』の入学式は大講堂を包む初々しい緊張感の中で静かに始まった。

エルネスティ(マクギリス)の祖父である学園長ラウリ・エチェバルリアを始めとする学園上層部による様々な話が続く。

 

「君!入学式で何を食べとるんだね!」

「火星ヤシ」

「何だね、それは!没収する!」

パンパンパン

 

そして昼頃、入学式は終了し、大講堂の中から新入生達がぞろぞろと出て来て、彼らはそのまま学園の食堂へと流れ込んでいった。

 

その食堂でエルネスティ(マクギリス)と三日月は二人の新入生と親交を深めた。

 

黒髪をぼさぼさとゆるいウェーブで流し、肩丈にした双子の少年少女、アーキッド・オルターとアデルトルート・オルターである。

 

アーキッド達は以前魔法の練習をしていたエルネスティ(マクギリス)を街で目撃した事があったらしく、彼らからエルネスティ(マクギリス)に声をかけた。

 

「ここいいか?」

「ええ、構いませんよ」

「いいよー」

「黒髪のお前、入学式で先生に向けてなんか魔法使ってたよな」

(これ)のこと?」

「ああ、それに銀髪のお前もいつも屋根の上をすげぇ早さで飛んでたヤツだよな。あれってよ、どうしてんのか、ずっと気になってたんだ」

「あ、ああ……。見られていたんですか……」

 

エルネスティ(マクギリス)はこの六年間、並の子供なら嫌がるであろう座学と地道な訓練を決して(いと)わず、むしろ耽溺(たんでき)した。

身体強化(フィジカルブースト)】で屋根の上を駆け抜けるのもその魔法の訓練の一つである。

彼にとって日々の学びは全てアグニカ・カイエルとバエルに通ずる王道なのであった。

 

「あの魔法、俺たちにも教えてくれよ!」

「簡単に身に付くものではないですよ。まず本人の魔力(マナ)を鍛える事から始めないと」

「やるやる!任せな!すぐ追い付いてやるって」

「覚悟があるなら、教えるのはやぶさかではありませんが……」

「やったー!君可愛いのに頼りになる~!」

「その君というのはやめて頂けますか?僕はエルネスティ・エチェバルリア。エルと呼んで下さい」

「三日月・オーガス」

「んじゃ、俺もキッドでいいぜ!よろしくな、エル、三日月!」

「私もエル君って呼んでもいい?呼ぶわね?私のことはアディでいいから!でも本当に可愛いんだ~エル君。あっ、それと三日月君もこれからよろしくね!」

 

エルネスティ(マクギリス)はそんな彼ら(キッドとアディ)かつての友人(ガエリオとカルタ)の姿を重ねていた。

そして、今度こそは裏切らぬようにと心に誓うのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

それから数日が経過したとある日の放課後。

学園内を楽しげな一団が駆け抜けていく。その一団の後方には一人だけ、大きく遅れてくる生徒がいた。

 

「ま、待て~!このヤロー!それ返せよ~!」

「新品の金槌なんて生意気だ!」

「そうだ、そうだ~!」

「ドワーフのクセに!」

 

それを目撃したエルネスティ(マクギリス)達はその遅れて来た赤茶色の髪の少年に声をかける。

 

「どうしたんですか?」

「なんかあったの」

 

ドワーフ族の少年────バトソン・テルモネンの話によると、どうやら先ほど走り去った彼らはバトソンの足が遅いのを理由にいつも悪戯を仕掛けてくる者達らしい。

今回はバトソンが貯めたお小遣いで買った新品の金槌を盗って逃げているようだ。

 

そのバトソンがドワーフ族で騎操鍛冶師(ナイトスミス)だと聞いたエルネスティ(マクギリス)はこう思考する。

 

(ふむ、騎操鍛冶師(ナイトスミス)か……。私が将来バエルを作るためには必要な人材だな)

 

「僕は幻晶騎士(シルエットナイト)に関わる人々には敬意を抱いています。是非、あなたの手助けをさせて下さい」

 

 

「「「ここまでおいで~!ノロマのバトソン!!」」」

 

バトソンの金槌を盗った悪戯っ子達はライヒアラ学園街の市街地の中央に位置する周りに建物のない大きな広場にいた。その広場はなんのひねりもなく中央広場と呼ばれている場所である。

 

「あいつら~!」

「二人とも行きますよ!これも魔法の訓練です!」

「「オッケー!」」

 

エルネスティ(マクギリス)とキッド、アディはニヤリと笑って(ふところ)から杖を取り出し、【空気弾丸(エアスラスト)】の魔法を放つ。

 

「「「【空気弾丸(エアスラスト)】!バトソン発射!」」」

 

エルネスティ(マクギリス)達はその【空気弾丸(エアスラスト)】の魔法でバトソンを悪戯っ子の方へと放り投げた。

小柄とはいえ筋肉質で重量のあるバトソンの身体が宙を泳ぎ、中央広場の清掃のアルバイトをしていたオルガを巻き込んで、悪戯っ子へバトソンの石頭が炸裂する。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

勢いあまって壁に激突。悪戯っ子達はそのへんでのびたままだが、頑丈な身体を持つドワーフ族のバトソンと復活魔法【止まるんじゃねぇぞ……】を使えるオルガが真っ先に復活した。

 

「オルガ、こんなとこで寝たら風邪ひくよ」

「寝てねぇ、広場の清掃のバイト中だ……」

「お前ら何もんだ!?」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

 

 

街の中心地から少し離れたところ、住宅地ではなく商店が並ぶ区画。そこには周囲の建物よりも一回り大きな建物がある。外観を整えるよりも頑丈さを追求しているその建物は鍛冶屋である『テルモネン工房』だ。

 

バトソンに『テルモネン工房』へと連れてこられたエルネスティ(マクギリス)達はそこで彼から魔法などについて根掘り葉掘り聞かれた。

 

「つまりお前達二人とも、あいつから魔法を教わったのか?」

「そっ!大したもんだろ」

「こんくらい、なんてこたぁねぇ!」

 

中央広場の清掃のアルバイトを終え、エルネスティ(マクギリス)達に同行したオルガがそう答えているが、エルネスティ(マクギリス)から魔法を教わっているのはキッドとアディだけである。

 

三日月は見栄を張るオルガの胸ぐらを掴む。

 

ピギュ

 

「すいませんでした……」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

それからまた数日後、入学して最初の『魔法学基礎』の授業が行われた。

記念すべき初回となるこの日の授業内容は、座学ではなく生徒達の魔法能力の測定だった。

 

先導する教師のあとについて、生徒達はがやがやと騒がしく運動場の一角へと集まった。

そこは壁に覆われた専用の魔法訓練場。日本の弓道場のように的がズラリと並び、その的へ生徒達が自分の得意とする魔法を撃ち込んでいく。

 

「【爆炎球(ファイヤボール)】!」

 

爆炎球(ファイヤボール)】は火の基礎式(エレメント)系統では中級に位置する魔法である。

 

入学当初から中級魔法(ミドルスペル)を扱える生徒は少ない。生徒達の魔法を見ながら、教師達はこう話し始める。

 

「今年の生徒はなかなか粒揃いだねぇ」

「まことに」

「もっとも中には(いささ)か自己評価の高すぎる者もいるが……」

 

教師から「自己評価の高すぎる」と言われている者の一人、三日月・オーガスはポケットから無造作に銃を取り出して的を撃ち抜き、()()()()

 

パンパンパン

 

 

そして、もう一人の「自己評価の高すぎる者」────エルネスティ(マクギリス)は的へ向けて魔法を撃ち込む前に教師に対し、こう提案を持ちかけた。

 

「先生!一つお願いがあります!」

「何かね、エチェバルリア君」

「もしこの魔法能力測定で授業内容を超える結果を出せたら魔法学基礎の受講を免除して頂けませんか?」

「……はぁ、エルネスティ・エチェバルリア君。どういうつもりだね?いきなり授業を拒否するのか?冗談にしてもたちが悪い」

「いいえ、いたって真面目な話です!僕には別に受けたい授業があります。だからこの授業を受けずに済むならとても助かるのです!」

 

エルネスティ(マクギリス)が受けたい授業というのは『幻晶騎士(シルエットナイト)設計基礎』。この授業は中等部から受けられる授業であるが、彼がこの世界でバエルを手にするという目的のためにどうしても必要になる授業なのであった。

 

「魔法学基礎を免除するという事はすでに君には中等部に匹敵するほどの魔力(マナ)と知識があるという事になるが?」

「もちろんです!」

「……よろしい。では見せてもらおうか、君の自信のほどを」

 

その言葉を聞いたエルネスティ(マクギリス)は腰の鞘に納められていた銃杖(ガンライクロッド)────仲良くなったバトソンとその父親に作ってもらった銃剣風の杖を抜き放つ。

 

「ん?」

「なんだよ、あれ?」

「杖?」

「へんなの~」

 

銃杖(ガンライクロッド)を見てそのような感想を漏らす教師や他の生徒を他所に、エルネスティ(マクギリス)は思考上に存在する仮想領域、魔術演算領域(マギウス・サーキット)上に魔法術式(スクリプト)を構築し始めた。彼の最初の転生時にリオン・ブリッツとして習い、覚えてきた魔法の経験を活かし、演算を開始する。

 

「【徹甲神雷槍(ダインスレイブ)】」

 

爆裂魔法を圧縮し作った炎の槍【徹甲炎槍(ピアシングランス)】に雷の基礎式(エレメント)系統を複合させて、【神雷(ダインスレイヴ)】を再現したエルネスティ(マクギリス)のオリジナル魔法【徹甲神雷槍(ダインスレイブ)】。

エルネスティ(マクギリス)銃杖(ガンライクロッド)を振り抜いた軌跡に沿って、その【徹甲神雷槍(ダインスレイブ)】を同時に何本も展開し、的へ向けて一斉に撃ち放つ。

 

放たれた【徹甲神雷槍(ダインスレイブ)】は的の中心を寸分(たが)わず撃ち抜き、的を跡形もなく消し去った。

 

口を開けて驚愕する教師の方へと振り向き、エルネスティ(マクギリス)は会心の笑みを見せる。

 

「それで先生、如何(いかが)でしょう?授業の免除を認めて頂けますか?」

 

 

初等科新入生が自作上級魔法(オリジナルハイスペル)を披露して、一気に中等部の受講資格を得たという噂はその日の内に学園中に知れ渡る事となった。

 

だが、それは後にこのセッテルンド大陸で革命を起こすエルネスティ(マクギリス)の活躍の始まりの一歩に過ぎなかった。

 

 

 




三人称で書くの難しい……。

オルガの出番ほとんどないし……。



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ナイツ&オルガ1.5

西方暦一二七七年。エルネスティ(マクギリス)とアディ、キッド、三日月は騎士学科中等部へと進学していた。

入学直後から幻晶騎士(シルエットナイト)に関する知識を求め、この三年間で鍛冶師学科の授業を満足するまで履修し終えたエルネスティ(マクギリス)は現在、高等部の騎操士学科の授業に紛れ込み始めていた。

 

高等部の騎操士学科の授業から自らが所属する中等部の教室へと帰ってきたエルネスティ(マクギリス)はそこでクラスメイトから野外演習について聞かされた。

 

「野外演習?」

「あぁ、なんか二週間後にやるらしいぜ」

「魔獣と戦って実戦経験を積むために騎士学科の中等部と騎操士学科の高等部が合同で遠征に向かうそうよ」

「なるほど」

 

ライヒアラ騎操士学園は実習と実戦を重視する。

騎士学科中等部と騎操士学科高等部が向かう先は比較的小型の魔獣────プルーマが生息すると言われる森林地帯であった。

 

そして、その二週間はあっという間に過ぎていき、エルネスティ(マクギリス)達が野外演習に出発する日が訪れた。

 

「オルガ、なんでいんの?」

学園長(ラウリのオッサン)からの仕事だよ。教師と一緒に学生の護衛だ」

「そっか」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

ライヒアラ騎操士学園・騎士学科の一行が馬車に揺られ、目的地であるクロケの森に到着したのは、日の落ちた時刻であった。

 

「よーし、荷物を降ろしたら各班まずはテントを作れー!それが終わったら夕食にするぞ」

 

教師の号令一下、生徒達が寝床となるテントを設営する。

 

エルネスティ(マクギリス)達の班(エルネスティ(マクギリス)と三日月、アディ、キッド、そして引率役としてオルガ・イツカ)は他の班よりも早めにテントの設営を終えていた。

アディ、キッドはその後、他の班の設営を手伝いに行き、エルネスティ(マクギリス)と三日月、オルガは野営地の外れへと足を向けた。

 

「おい、マクギリス。どこに行くんだよ?」

「ノルマはこなしている。サボりではない」

「どこに行くのかって聞いてんd……!」

 

ピギュ

 

「え"え"っ!?」

「うるさいなぁ」

「勘弁してくれよ……」

 

 

中等部の野営地の隣、そこは高等部の騎操士学科の生徒達と彼らの幻晶騎士(シルエットナイト)の駐屯地になっている。

片膝をつく形の駐機体勢をとる真っ白な幻晶騎士(シルエットナイト)を目にしたエルネスティ(マクギリス)はこう呟きを漏らす。

 

「やっと会えたな、バエル……。いや、新しい時代の夜明けだ!目を醒ませ、アグニカ・カイエル!」

「は?」

「あんた、何言ってんの?」

「おい、そこの銀色、……マクギ……いや、エルネスティか?」

 

その時、エルネスティ(マクギリス)達の背後から声がかかる。エルネスティ(マクギリス)達が振り返るとそこにいたのは、真っ白な幻晶騎士(シルエットナイト)────アールカンバーの騎操士(ナイトランナー)であるライヒアラ騎操士学園・高等部の騎操士学科の生徒、エドガー・C・ブランシュであった。

 

「エドガー先輩!じゃあ、これがエドガー先輩のアールカンバーですね!」

「ああ、アールカンバーが俺の物になってもう二年だからな。修理と改修が積もってこうなった。……って、オルガと三日月じゃねぇか……!?」

「あんた……」

「俺だよ、昭弘だ。昭弘・アルトランド」

 

モビルアーマー『ドレイク』との死闘で再度、命を落とした昭弘・アルトランドはこのセッテルンド大陸でエドガー・C・ブランシュに転生していたのだ。

 

オルガ、三日月と昭弘は九年振りの再会を果たした。

 

「おぉ、昭弘!」

「あのモビルアーマーとの戦いの後、どうなったのか心配していたんだが、大丈夫だったようだな」

「ああ、なんとかな」

「昭弘も元気そうでよかったよ」

「ありがとな、三日月」

 

篝火(かがりび)の明かりが揺らめく中で、談笑を交える鉄華団。その談笑が終わるタイミングを見計らってエルネスティ(マクギリス)エドガー(昭弘)にこう尋ねた。

 

「エドガー先輩は見回りですか?先輩お一人で?」

「はぁ……、相方のディートリヒが面倒がってな」

「誰だ、そいつは?」

 

ディートリヒ・クーニッツ。ライヒアラ騎操士学園・騎操士学科の騎操士(ナイトランナー)の一人。エドガー(昭弘)の同級生であるが気分屋な性格のため、待機任務を面倒がり、盛大に愚痴を漏らしているらしい。

 

「奴の愚痴に付き合うのも面倒になったのでな。気分転換がてらこいつを見に来たんだ」

「先輩も幻晶騎士(シルエットナイト)が好きなのですか?」

「まぁ、お前ほどじゃないが、多分好きなんだろうな」

 

そう言ってエドガー(昭弘)は愛機────『ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバー』を見上げる。

 

「こいつは俺の武器であり、鎧であり、かけがいのない相棒でもある」

「良くわかります!僕も早く相棒(バエル)を手に入れたいです!」

 

恍惚(こうこつ)とした表情でそう言うエルネスティ(マクギリス)を見たエドガー(昭弘)はこう提案する。

 

「どうだ、乗ってみるか?」

「えっ?」

「操縦しろ、とは言わない。(くら)に跨がってみるだけだ」

「いいのか、昭弘?」

「エルネスティならまぁいいか、と思ってな」

「ありがとうございます!」

 

エドガー(昭弘)の許しを得たエルネスティ(マクギリス)は『ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバー』の操縦席(コクピット)へと足を踏み入れる。

 

「三百年だ……。もう休暇は十分に楽しんだだろうアグニカ・カイエル。さぁ、目醒めの時だ!」

 

操縦席(コクピット)(あぶみ)に足を伸ばすエルネスティ(マクギリス)だが……。

 

「目醒めの時だ……」

 

エルネスティ(マクギリス)の身長が平均以下の為、足が(あぶみ)まで届かない。

 

「目醒めの……」

「やはり、(あぶみ)には届かないか……」

「はぁ……」

「どうした?」

「……聴け!今、三百年の眠りから、マクギリス・ファリドの下にバエルは甦った!」

「あんた、何言ってんの?」

「甦ってねぇぞ……」

 

 

 

中等部の野営地へと戻り、夕食を摂った後、テントで就寝したエルネスティ(マクギリス)達を目覚めさせたのは、緊急を知らせる鐘の音だった。

 

「どうした?何があった?」

「バエルが甦ったのか?」

「アディ、おい起きろ!」

「う~ん、エルく~ん……zzz」

「オルガ、チョコ、キッド!アディも起きて!なんか嫌な予感がする」

 

その後、やってきた教師の説明によると、突如として大量の魔獣(プルーマ)が出現し、夜間演習中の騎士学科中等部三年生が襲撃を受けたとの事であった。

 

 

「一年、二年は荷物を持たずに直ちに避難しなさい!高等部は幻晶騎士(シルエットナイト)で前進!襲撃された三年生の生徒達の救援に向かえ!」

 

避難誘導をする教師の声が響く。

 

「ミカ、やってくれるか?」

「いいよー」

 

三日月も『ガンダム・バルバドスルプスレクス』を呼び出し、高等部と共に三年生の救援へ向かう。

オルガは中等部一年生である三日月を救援に向かわせる為、教師に説明する。

 

「俺たちの班は学園長(ラウリのおっさん)から緊急時の単独行動が認められてる。エルネスティとアーキッド、アデルトルートも高等部と一緒に三年生の救援に向かわせるぞ。幻晶騎士(シルエットナイト)より、俺らのが早ぇしな」

「うむ、わかった」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「【大気円刃(エアロリッパー)】!」

 

魔法現象に特有のやや甲高い飛翔音を残し、【大気円刃(エアロリッパー)】の魔法が魔獣(プルーマ)を切り裂く。

 

「すり抜けた魔獣が来ます!前列、盾構え!」

 

凛とした女性の声────生徒会長の指示に従い、騎士学科中等部三年生の生徒達が盾を構え、魔獣(プルーマ)を止める。

 

「止まるんじゃねぇぞ!その先に俺はいるぞ!」

 

その生徒達の前に現れたオルガが魔獣(プルーマ)の攻撃を全て吸い取る。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

魔獣(プルーマ)の攻撃を全て吸い取ったオルガはカウンターで魔獣(プルーマ)を倒す。

 

「なんだよ……。結構当たんじゃねぇか……」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「生徒会長!第二波来ます!」

「……っ!」

 

オルガが復活するよりも先に森の奥から再び魔獣(プルーマ)の群れが現れる。

 

(どうしてこんなに魔獣が?まさか、近くに師団級魔獣でもいるというの!?)

 

生徒会長はこの異常な魔獣(プルーマ)の数に師団級魔獣(モビルアーマー)の存在を疑い始める。

そう生徒会長が逡巡(しゅんじゅん)した刹那……。

 

「生徒会長っ!?」

「えっ!?」

 

魔獣(プルーマ)が生徒会長へ襲いかかる……。

 

「いやっ!」

 

その時、銀髪の小さき騎士が空から現れた。

 

「……【火炎弾丸(ファイヤトーチ)単発拡散(キャニスタショット)】!」

 

銀髪の騎士────エルネスティ(マクギリス)は【身体強化(フィジカルブースト)】で空を駆け、上空で身をひねるようにして、魔獣(プルーマ)へと向けて多数の【火炎弾丸(ファイヤトーチ)】の魔法弾を一斉に撃ち放つ。

 

「エルネスティくん!」

「生徒会長!ここは任せろ!行くぜ、【真空衝撃(ソニックブレード)】!」

「姉様、ここは任せて!【雷撃投槍(ライオットスパロー)】!」

「俺もいるぞ!」

 

そこにキッドとアディも駆けつけ、魔獣(プルーマ)達を殲滅していく。

 

「皆さん、落ち着いて馬車の方へ!」

 

 

そして、エルネスティ(マクギリス)達が援軍に来て数分が経過した頃(その間、オルガは希望の花を咲かせ続けた)、奴は現れた……。

 

────師団級魔獣(モビルアーマー)。『陸皇亀(ベヘモス)』である。

 

「し、種別確認!陸皇亀(ベヘモス)、師団級魔獣です!」

「下級生が避難し終えるまで我々が奴を足止めする」

 

遅れてやってきた高等部騎操士学科の生徒達が陸皇亀(ベヘモス)と対峙する。

エルネスティ(マクギリス)とアディ、キッドは中等部三年生の護衛についた。

 

「昭弘ももういいよ」

「ふざけるな、お前が残ってんのに俺が退けるか!」

「そう、じゃあ足引っ張んないでね」

「俺のアールカンバーの実力、お前に見せてやる!」

 

「エドガー・C・ブランシュ!ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバー!」

「三日月・オーガス。ガンダム・バルバトスルプスレクス」

「「行くぞ!」」

 

 

そして数分後、陸皇亀(ベヘモス)との戦いは──泥沼化していた。

 

十分に勢いのつけた陸皇亀(ベヘモス)の突撃を受ければ、幻晶騎士(シルエットナイト)の機動性をもってしても逃げられる保証はない。その為、騎操士(ナイトランナー)達は誰かが狙われそうになる(たび)に逆側から集中放火を浴びせ、注意をそらす事で時間を稼いでいた。しかし、彼らの攻撃は陸皇亀(ベヘモス)に何の損傷も与えられずにいた。まさに泥沼化である。

 

その状況を壊したのは騎操士学科高等部三年生のディートリヒ・クーニッツであった。

 

「はーはっは!何だ、このデカブツめ!図体ばかりデカくても、手も足も出ないじゃないか!何が師団級だ、この程度なら私一人で退治してやる!」

 

ディートリヒはそう吼えた。その巨体から放たれる威圧感に押され、すくんでしまったからこそ彼は現在の自分の優位を自分自身に言い聞かせていた。それは彼自身を奮い立たせる為の方法であったが、あまりにも時間稼ぎがうまく行き過ぎた事によって油断が生じてしまった。

 

「待てよディー!」

「待ってろよ……」

 

油断禁物と他の生徒(とオルガ)が口にするが、ディートリヒはこう思考し、単身突撃してしまう。

 

(この魔獣はデカいだけのウスノロだ。大して恐れる事はない!)

 

実際には一回でも陸皇亀(ベヘモス)の突撃が当たれば、幻晶騎士(シルエットナイト)は破砕されかねないのだが、この巨獣を足止め出来ているという事実が彼の判断を鈍らせていた。

 

「はーはっは!はーはっは!」

「待てって言ってんだろうが!」

 

その時だった。突如、動きをゆるめた陸皇亀(ベヘモス)が大きく息を吸い込む。

そして、その直後、その口から猛烈な炎の息吹(ブレス)が唸りを上げて放たれた。

 

ヴァアアアアアア!!

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

オルガの死────人の死を初めてその目で見たディートリヒは悲鳴を上げて逃げ出した。

 

「ヒッ、う、うわっ……。うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ディートリヒ、何処へ行く!?」

「逃げた奴は放っとけばいいよ。それでどうするオルガ?」

「……全員、正面は避けろ!まずは回避を優先するんだ!あと少し、あと少しだけ粘ってくれ!」

「俺はどうすればいい、オルガ?」

「ミカの使いどころはちゃんと考えてある」

「そっか」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

陸皇亀(ベヘモス)の魔法の暴威により、オルガ達が窮地に陥っていた頃。

 

エルネスティ(マクギリス)達は中等部の生徒を全員送り出し、最後の馬車へと飛び乗っていた。

彼は走る馬車の後部から遠ざかる戦いの様子を見ている。

 

(鉄華団ならば、この状況を打破してくれるはずだ。……ん?)

 

そう思考するエルネスティ(マクギリス)の視界の端に紅い影がよぎった。

急いで振り向き、その正体を確認した彼の表情が驚愕に彩られる。

 

紅い影────それはディートリヒの幻晶騎士(シルエットナイト)『グゥエール』であった。

 

「アディ、キッド。ここは任せます」

「えっ?エル君?」

「どこ行くんだよ、エル?」

 

エルネスティ(マクギリス)はその問いには答えず、馬車から飛び出し、森の奥へと消えていった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

真夜中の暗い森の中を紅い幻晶騎士(シルエットナイト)が駆ける。

周囲には森が広がるばかりで何者の姿も無い。

紅い機体は脇目も振らず、速度を緩めずにまるで何かに追い立てられる様に全力で駆けていた。

 

そして事実、紅い幻晶騎士(シルエットナイト)────グゥエールとその騎操士(ナイトランナー)、ディートリヒ・クーニッツは完全に追い詰められていた。

 

ディートリヒを駆り立てているのは恐怖の感情だった。

陸皇亀(ベヘモス)にオルガが殺される光景が彼の脳裏にこびりついて離れない。

 

しかし、突如としてグゥエールの動きが止まる。魔力貯蔵量の枯渇(バッテリー切れ)だ。

 

「動けぇ……、動けぇ……」

 

動かないと分かったディートリヒはひとまず陸皇亀(ベヘモス)に追われていない事を確認し、荒れた呼吸を落ち着ける。

 

いざ立ち止まって少しでも冷静さを取り戻すと、次に彼を襲ったのは猛烈な後悔の感情だった。

 

「俺は皆を見殺しにした?……で、でも!仕方ないんだ!あの場にいたんじゃ、無駄に殺されるだけだ!無駄死にすべきじゃないんだ!……皆を見殺しにした訳じゃない……」

 

自らの思考に振り回されていたディートリヒは、突如聞こえてきた音で我に返った。

 

圧縮空気を噴出する鋭い音。幻晶騎士(シルエットナイト)操縦席(コクピット)へ乗り込む為、胸部装甲を外部から開閉する時の音だ。

その音とともに外の空気が操縦席(コクピット)内に広がり、操縦席(コクピット)を外部から開けた張本人が姿を現わす。

 

「やっと見つけましたよ。先輩」

 

その声の主は月光に冴える銀髪の少年────エルネスティ・エチェバルリアであった。

 

「単刀直入にお伺いします。先輩は逃げ出したのですよね?」

「くっ!?……あぁ、くそっ!そうだ!生き延びる道を選ぶ方が利口なのだ!」

「よかった」

「……えっ?」

「先輩からなら僕も遠慮なくグゥエールを強奪(お借り)出来そうです」

 

エルネスティ(マクギリス)銃杖(ガンライクロッド)を引き抜く光景を最後にディートリヒの意識は途絶えた。

 

 

「我慢して下さいね。森に放り出して行く訳にもいきませんから。さてと……」

 

気絶したディートリヒにそう言ったエルネスティ(マクギリス)はグゥエールの操縦席(コクピット)に乗り込み、銃杖(ガンライクロッド)を二丁用意する。

 

左右のコンソールを破壊し、その下から操縦桿へと伸びる銀製の配線──銀線神経(シルバーナーヴ)を引っ張りだし、それを用意した二丁の銃杖(ガンライクロッド)に巻き付ける。

 

銃杖(ガンライクロッド)魔力(マナ)を伝えやすいホワイトミストーで作られている。そこに銀線神経(シルバーナーヴ)を直結する事で、銃杖(ガンライクロッド)自体を簡易の入出力端末としたのである。

 

「ぶっつけ作業のぶっつけ本番もいいところですけど、成功させるしかありません」

 

幻晶騎士(シルエットナイト)は大気中のエーテルを魔力転換炉(エーテルリアクター)魔力(マナ)へと変換し、銀線神経(シルバーナーヴ)はその魔力(マナ)を用いて魔法術式(スクリプト)を制御システムたる魔導演算機(マギウスエンジン)へと伝達する。大気中のエイハブ粒子を用いてエイハブリアクターを動かすモビルスーツとは異なり、幻晶騎士(シルエットナイト)はエーテルがなくとも魔力(マナ)さえあれば動くのである。

 

つまり、銀線神経(シルバーナーヴ)に直接魔力(マナ)を送り込み、頭の中で魔法術式(スクリプト)を組んでしまえば、幻晶騎士(シルエットナイト)は動かす事が出来るのだ。

 

また、幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦桿と(あぶみ)幻晶騎士(シルエットナイト)の動きを分かりやすくイメージさせる為のもの。

頭の中で幻晶騎士(シルエットナイト)を動かすイメージが固まっていれば、別に操縦桿と(あぶみ)を使わなくとも、幻晶騎士(シルエットナイト)を動かす事が出来る。

 

そのエルネスティ(マクギリス)の仮説はグゥエールが動く事で立証された。

 

 

エルネスティ(マクギリス)魔力(マナ)を吸い、幻晶騎士(シルエットナイト)が再び大地に立つ。

 

「聴け!ギャラルホルンの諸君!今、三百年の眠りから、マクギリス・ファリドの下にバエルは甦った!」

 

《バエルだ!アグニカ・カイエルの魂!》

《やったぞ、みんな!作戦は成功だ!我々の勝利だ!》

《そうだ。ギャラルホルンの正義は我々にあり!》

《うおおおおおおおおおお!!》

 

エルネスティ(マクギリス)の脳内にはそのような幻聴が響き渡っていた。

 

 




ナイツ&オルガはこの後もこれくらいの長さになると思われます。長いですけど、飽きないように作りますのでお許しを。

また、なろう系以外の異世界オルガ作品のノベライズについて活動報告の方に記載させて頂きました。



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ナイツ&オルガ2

P.D.331年。火星連合代表自治国『クリュセ』

「てめぇ、ライド!なんでクリュセを……お嬢を狙う!何が目的だ!」
「火星の王になる。団長がなりたかったものを俺も目指すんだ」
「それがなんでお嬢を狙う事になるんだよ!?」
「今の火星連合の指導者はクーデリア・藍那・バーンスタインだ……。彼女を殺せば、俺たち鉄華団が火星の王になれるんだ……。団長を目の前で殺されたあの光景を見たチャドさんなら俺の気持ちわかってくれると思ったのに……」
「ライド……、お前は間違ってる……!」
「目を醒ませ!ライド。今のお前はオルガの亡霊に取り憑かれているにすぎない!」
「アジーさんまで、俺を否定するのか!!……もういい、鉄華団の邪魔をする奴は皆……潰す!」





クロケの森では陸皇亀(ベヘモス)とライヒアラ騎操士学園・高等部の生徒達との戦いが続いていた。

 

金属同士が衝突する重々しい打撃音が響き、一機の幻晶騎士(シルエットナイト)が吹き飛ばされ、宙を舞う。

 

「ぐぁっ!」

「大丈夫か!?」

「昭弘、前!」

「何っ!」

 

吹き飛ばされた味方機に一瞬、気を取られたエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーを陸皇亀(ベヘモス)の尾が襲う。

(むち)のようにしなる陸皇亀(ベヘモス)の尾を避けきれないと直感したエドガー(昭弘)はアールカンバーを下がらせながら左手の盾で尾を防ぐが、防ぎきれず、盾が弾き飛ばされてしまった。

 

「くっ!盾をもっていかれたか!」

「まだだ、炎の息吹(ブレス)が来るぞ!」

 

ヴァアアアアアア!!

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「昭弘、生きてる?」

「あぁ、どうにかな……。しょうがねぇ……死ぬまで、生きて……命令を果たしてやろうじゃねぇか!!」

 

エドガー(昭弘)が死を覚悟して、陸皇亀(ベヘモス)に向かっていこうとしたその時、不気味な笑い声が森の奥から聞こえてきた。

 

「あははははははっ!ふっははははは、いましたいました。見ぃつけた~!!」

 

狂気じみた哄笑(こうしょう)とともに紅い幻晶騎士(シルエットナイト)──グゥエールが戦場へと現れる。

 

「ディートリヒ、戻ってきたのか?」

 

エドガー(昭弘)のその問いには答えずにグゥエールは戦場を見渡せる小高い丘に立つと両手を広げ、こう宣言する。

 

「聴け!ギャラルホルンの諸君!今、三百年の眠りから、マクギリス・ファリドの下にバエルは甦った!」

 

「チョコ?」

「マクギリスじゃねぇか……」

「……飛翔しろ!バエル!」

 

瞬間的に速度を上げたグゥエールは走りながら抜剣し、陸皇亀(ベヘモス)の脚部──装甲の薄い関節部を斬りつけようと試みるが、斬る事は出来ず、剣は跳ね飛ばされてしまった。

 

斬れないと判断したエルネスティ(マクギリス)はただちに後方へ跳躍し、跳ね飛ばされた剣を拾いに戻る。その後、先程と同じ脚部の関節を狙い、突きを穿つ。

 

しかし、その手応えは彼の予想以上に固かった。

 

(ふむ、ほとんど刺さっていないな……。関節を破壊する事は出来なかったが、甲羅を攻撃するよりはまだましか)

 

そう思考し、クスッと笑みを浮かべるエルネスティ(マクギリス)はこう呟きをもらす。

 

「これは持久戦になりそうですね。……ならば、見せてやろう!純粋な力のみが成立させる真実の世界を!」

 

激情に猛る巨獣と紅き騎士の輪舞(ロンド)が今、幕を開けた。

 

 

(む……うぅ……?)

 

陸皇亀(ベヘモス)とグゥエールの戦闘の最中、『彼』が意識を取り戻す。

 

彼の視界に広がるのは薄暗い空間。ぼんやりとしていた意識がハッキリするにつれて、にわかに無理な体勢をとっていた全身を痛みが襲う。

 

「ぐっ……こ、ここは……」

 

狭き空間でなんとか体勢を整えようとしていると、目の前の壁に押し当てられるような独特の圧力が彼に襲いかかった。

この圧力の正体は慣性──騎操士(ナイトランナー)ならば誰でも感じた事のあるお馴染みの感覚だった。

 

(ここは幻晶騎士(シルエットナイト)操縦席(コクピット)か?……たしか俺は……)

 

そこまで考えて彼──ディートリヒ・クーニッツは記憶にある最後の光景を思い出した。

 

(そうだ。エルネスティが目の前に現れて、それで……)

 

完全に記憶を取り戻したディートリヒは慌てて体勢を立て直し、座席の後ろから首を持ち上げるが、その時に彼の目に入ったものは幻像投影機(ホロモニター)に写った陸皇亀(ベヘモス)の姿だった。

 

「ぎゃああああああ!」

「あっ、おはようございます先輩。今は戦闘中なので、出来ればお静かにお願いしますね」

「お前っ!なんてことを、正気なのか!?いや、そもそもなぜ戦っている!?」

「私の言葉はアグニカ・カイエルの言葉」

「はぁ?」

「バエルは甦った!」

 

エルネスティ(マクギリス)の言動に混乱を覚えるディートリヒ。

エルネスティ(マクギリス)はそんな彼に()()()()をかけた。

 

「【バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル…………】」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

陸皇亀(ベヘモス)とグゥエールが戦い始めて数時間が経過した頃。

オルガ、三日月とエドガー(昭弘)達、高等部三年生が一時撤退し、援軍を要請していたクロケの森から最も近くに位置する街『ヤントゥネン』の守護騎士団が現場に到着した。

 

ヤントゥネン守護騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)──カルダドアを見たディートリヒは歓喜する。

 

「カルダドア!援軍だ!守護騎士団が来てくれた!」

「予想よりも少し早い。鉄華団の差し金か」

「紅の騎士!よくぞ、健闘した!」

「私の言葉はアグニカ・カイエルの言葉。あなた方もギャラルホルンの一員と名乗るのであれば、ただ私に従えばいい」

「ギャラル……ホルン?」

「まずは保有する地上戦力を全て、私に差し出して頂く」

「我がヤントゥネン騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)を総動員しても百機にも満たない。果たして師団級魔獣に対抗出来るものか……」

「バエルを手に入れた私はそのような些末事で断罪される身ではない」

「何を言っているのだ?」

 

エルネスティ(マクギリス)はヤントゥネン守護騎士団の全員に伝えるように拡声器を使い、こう宣言する。

 

「革命は終わっていない!諸君らの気高い理想は決して絶やしてはならない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々とともにある!ギャラルホルンの真理はここだ!皆、バエルの下へ集え!」

「良くわからんが、皆!バエルに続け!」

「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」

 

守護騎士団のカルダドアが陸皇亀(ベヘモス)に向けて、突貫する。

しかし、やはり傷一つつける事が出来ず、蹂躙されてしまった。

 

「くっ……ならば……!対大型魔獣用破城鎚(ハードクラストバンカー)、用意!」

 

対大型魔獣用破城鎚(ハードクラストバンカー)』とは巨大な金属の塊を杭の形状に成型させた大型魔獣(モビルアーマー)用の決戦兵器だ。

四機もの幻晶騎士(シルエットナイト)が持ち上げてようやく動かせるその破城鎚(はじょうつい)はその名の通り、堅牢(けんろう)な城壁すら容易に打ち砕く程の破壊力を持っている。

 

その対大型魔獣用破城鎚(ハードクラストバンカー)を計四基用意し、陸皇亀(ベヘモス)を左右に挟み込むような形で、破城鎚(はじょうつい)を打ち込む陣形を保つ。

 

「穿てぇぇ!」

 

騎士団長の指示の下、破城鎚(はじょうつい)を抱えた幻晶騎士(シルエットナイト)が一斉に走り出す。

 

しかし、その破城鎚(はじょうつい)陸皇亀(ベヘモス)に命中する事はなかった。

 

陸皇亀(ベヘモス)はあろうことか、顔を下へ向けて、全力で炎の息吹(ブレス)を放ったのだ。

至近距離の地面へと放たれた炎の息吹(ブレス)は荒れ狂うままに大地を(えぐ)り、岩石を撒き散らしながら爆発する。

命中を目前にした破城鎚(はじょうつい)部隊はそれを避ける暇などなく、爆発に巻き込まれてしまった。

 

 

それから数時間後、決定打を無くしたヤントゥネン守護騎士団は為す術なく──全滅した。

 

「……彼らの協力が得られないのは想定外だった」

 

グゥエールの操縦席から拡声器を閉じる事も忘れ、そのように呟くエルネスティ(マクギリス)

そのエルネスティ(マクギリス)の呟きを耳にしたオルガはグゥエールの外部装甲を外から開け、操縦席(コクピット)に座るエルネスティ(マクギリス)を殴りつけた。

 

「てめぇの無駄な演説のせいで死ななくてもいいはずの騎士団のやつらが死んだ!十把一絡(じっぱひとから)げにすんじゃねぇ!」

「バエルを手に入れた私はそのような些末事で断罪される身ではない」

「あんた正気か?……こいつはバエルじゃねぇぞ……」

 

オルガはエルネスティ(マクギリス)に真実を叩きつける。しかし、エルネスティ(マクギリス)はグゥエールをバエルと呼び、真実を認めない。

 

「勘違いしないで欲しい。アグニカ・カイエルの意思は常に我々とともにある!」

 

オルガはエルネスティ(マクギリス)を再び殴りつける。

 

「こいつは……こいつはバエルじゃねぇぞ……」

「バエルを持つ私の言葉n……」

 

なおもグゥエールをバエルと呼ぶエルネスティ(マクギリス)をオルガは何度も、何度も殴りつけた。

 

 

オルガに殴られ続けたエルネスティ(マクギリス)は『彼女』の声を幻聴()く。

 

《おかしいわ……。マッキーの言ってることはすべておかしいわ……》

 

(アルミリア……。全く、困った女だ……)

 

 

オルガを操縦席(コクピット)から追い出したエルネスティ(マクギリス)はグゥエールを加速させる。

 

「私は今、機嫌が悪くてな。少々、八つ当たりに付き合ってもらう!」

「おいっ!そいつと一緒に俺も降ろせっ!……って、何を、お前っ、やめっ!……むーーーーりーーーー!!!!」

 

跳躍しながら抜剣したグゥエールは眼球を狙い、突きを穿つ。しかし、陸皇亀(ベヘモス)はグゥエールの剣が直撃する前に瞳を閉じ、眼球を守った。

グゥエールの一撃は眼球を穿つ事は出来ず、硬い(まぶた)に阻まれて剣が砕けてしまった。

 

エルネスティ(マクギリス)は鉄華団に助けを請う。

 

「……鉄華団ならば、この状況を打破出来るはずだ」

「あんたが俺らの力をあてにするってんなら、俺らのやり方に従ってもらう」

「ああ……それでいい」

 

作戦指揮が再びオルガへと戻る。

しかし、オルガにももう作戦などなかった。

オルガが放った一言はただ「奴に突っ込む」それだけだった。

 

「敵に突っ込むの?」

「ああ……ミカ、露払いを頼めるか」

「もちろん。それがオルガの命令ならね」

 

三日月はオルガを信頼している為そう言うが、他の生徒達は違った。

 

「何言ってるか分かってるの?相手は師団級魔獣なのよ。がむしゃらに突っ込んでいって勝てる相手じゃないわ!」

「無理だ、むりむりむり!!」

 

しかし、そんな生徒達をエドガー(昭弘)が一蹴する。

 

「だったら、他に策はあるのか?……ないだろう。だったら団長の指示通り、死を覚悟し、突っ込むより他はあるまい」

「無茶を言ってんのは分かってる。だが、やるしかねぇ!お前らの『命』って名前のチップをこの作戦に賭けてくれ!」

 

 

───その時だった。

 

 

(うな)れっ!ギャラクシーキャノンッ!!発射ぁっ!!」

 

陸皇亀(ベヘモス)がどこからか来た砲撃の雨に突如、曝される。

 

「なんだ!?」

 

オルガのその問いに懐かしい声が返ってくる。

 

「准将ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「っ!?……石動か!?」

「待たせたな!てめぇら!」

「シノ!」

「ヒーローのお出ましだ!」

「その声……ユージン!?」

「俺もいるぜ!」

「チャド!」

「それにタービンズも一緒だぜ!」

「ごめんごめん、装甲の換装に時間かかってさ~!」

「……っ!ラ、フタ……なのか!?」

「うん。久しぶり、昭弘……」

「あたしもいるんだけど、仕方ないね。……まぁ、遅れた分の仕事はするよ」

「アジーまで、……なんでいんの?」

転生した理由(その話)は後、まずは陸皇亀(ベヘモス)を倒すよ」

 

懐かしい面々を前にエルネスティ(マクギリス)とオルガ、三日月、エドガー(昭弘)の士気が上がる。

 

「さーて、反撃開始と行くかぁ!」

 

 

幻晶騎士(シルエットナイト)より幾分か性能の良いモビルスーツの攻勢により、陸皇亀(ベヘモス)は徐々にだが確実に傷をおっていった。

 

「やったぞ!どうだ化け物め!」

 

グゥエールの操縦席(コクピット)の後ろからディートリヒがそう吼える。

 

「とどめを、准将!」

「さあ、大詰めです!」

 

グゥエールが陸皇亀(ベヘモス)にとどめを刺そうとしたその時、エルネスティ(マクギリス)とディートリヒをガクッと沈み込むような感覚が襲う。

 

「な、なんですか!?」

「機体が軋みをあげている……!」

 

機体の首をめぐらせて脚を確認してみると、関節の各部が異常な軋みをあげ、装甲の隙間からは結晶筋肉(クリスタルティシュー)の欠片がこぼれ落ちていた。

 

「なるほど……。これは所謂(いわゆる)、金属疲労。残りの魔力(マナ)も二割を切っています」

「何っ!?」

「足を止めるなぁ!」

 

グゥエールが動けないことを悟ったオルガは単身、陸皇亀(ベヘモス)へと向かっていく。

それを見たユージンはオルガを止めようとするが、彼はもちろん止まらない。

 

「生身じゃ無理だ、また死んじまうぞ!」

「死なねぇ!!死んでたまるか!このままじゃ……こんなところじゃ……終われねぇっ!!」

 

陸皇亀(ベヘモス)の前に立ち、オルガはこう叫ぶ。

 

「【ミカァ!】」

 

その叫びとともに、彼の目の前の地面から砂塵を巻き上げ、『ガンダム・バルバトスルプス』が再召喚された。

 

バルバトスルプスは召喚と同時に、ツインメイスを陸皇亀(ベヘモス)へと投げつけ、ふい打ちで陸皇亀(ベヘモス)の目を穿つ。

 

「おい!武器を投げてどうする!」

 

グゥエールの操縦席(コクピット)の後ろからディートリヒが慌ててそう言うが、その声は三日月には聞こえていない。

 

「あそこだ!あの剣を使え!」

「借りるよ」

 

三日月のバルバトスルプスは石動のヘルムヴィーゲ・リンカーの持つバスターソードを借り、そのバスターソードで陸皇亀(ベヘモス)を叩き斬る。

陸皇亀(ベヘモス)の反撃がくると、それを事前に察知して避け、再びバスターソードで叩き斬る。その繰り返しだった。

 

「こんなもんかよ、お前の力は」

「なんだ!?あれが幻晶騎士(シルエットナイト)の動きだと!?」

「これが、厄祭戦を終わらせた力……」

 

そして、陸皇亀(ベヘモス)が弱りきったところにとどめを刺す為、三日月のバルバトスルプスはバスターソードを水平に構える。

 

「これなら……殺しきれる」

 

三日月のバルバトスルプスは陸皇亀(ベヘモス)のもうひとつの目をバスターソードで突き穿ち、両目を無くした陸皇亀(ベヘモス)はついにその動きを停止した。

 

 

昇ってきた朝日を浴び、陸皇亀(ベヘモス)の死骸の前に荘厳と立つガンダム・バルバトスルプスを見て、エルネスティ(マクギリス)は三日月・オーガスに300アグニカポイントを譲渡しようと心に決めるのであった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

そして、陸皇亀(ベヘモス)との死闘の後、鉄華団とライヒアラ騎操士学園の生徒達の前にはボロボロになったグゥエールが倒れていた。

 

エルネスティ(マクギリス)の行った無理な動きにグゥエールが耐えきれず、自壊してしまったのだ。

 

「ダメだ。開かねぇ……」

 

オルガが外部装甲を開こうと試みるが、グゥエールの装甲は剥離し、結晶筋肉(クリスタルティシュー)も粉砕されてしまっていた。

 

そんなグゥエールを見たエドガー(昭弘)黙祷(もくとう)を捧げ、こう言葉を紡ぎ始める。

 

「エルネスティ、いやマクギリス。今度こそは、と思った三度目の人生だったはずだ。それがこんな形で終わってしまうとは……。この世界でなら、お前ともこれからやり直せると思っていたのだがな……。それに、許してくれディートリヒ。俺はお前が逃げ出したものと誤解していた……。まさかエルネスティを援軍に連れてきてくれるとは……。二人とも良くやってくれた。お前達が犠牲になって俺達を……」

 

 

──その時、ふいに外部装甲が開いた。

 

「は?」

 

突然グゥエールの操縦席(コクピット)からエルネスティ(マクギリス)とディートリヒが飛び出してきた為、外部装甲を開けようとしていたオルガがエルネスティ(マクギリス)達の下敷きとなってしまう。

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「やれやれ、正面装甲が歪んでいて開かないなんて。おかげで外に出るのに苦労しました。……って、ええと?皆様、どうなされたので?」

「え?」

「……何やってんだ、マクギリスぅぅっ!!」

 

そんなオルガの叫び声が青く澄んだ大空に響き渡った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「彼らは無事合流出来たみたいだね。良かった、良かった。ライド・マッスの演技力も大したものだよ……。やはり、彼は面白い存在だ」

「あの……」

「なんだい。アルミリア・ボードウィン──いや、アルミリア・ファリドかな?」

「今の私の名はモンタークだと前にも言いました。それより、私の声はマッキーに届きましたでしょうか?」

「ああ、その事か。届いたよ、届いたとも。彼も自分の異常性に少しは気づいたんじゃないかな」

「貴女に……言われたくはありませんが……」

「魔女とはそういうものだよ。ボクは悪い魔法使いなんだぜ?……と、そんな事よりも『試練』の話だ。ガエリオ・ボードウィンはどうした?」

「…………」

「……君には荷が重かったか。やはり、ライド君にやらせた方がいいかな?」

「いえ、私がやります……」

「出来るんだね?」

「……はい」

「────期待しているよ。ボクの知識欲を満たす為にも」

 




いつもの事ではありますが、元動画から多少改変させてもらっています。


援軍に来たユージン達の搭乗機は

石動→ヘルムヴィーゲ・リンカー
シノ→ガンダム・フラウロス
ユージン→オルガ専用獅電改(王様の椅子)
チャド→ランドマン・ロディ
ラフタ、アジー→獅電(テイワズ仕様)

となっています。


ユージンが乗ってきたオルガ専用獅電改は次回からオルガに返却される予定です。




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ナイツ&オルガ3

フレメヴィーラ王国の王都、カンカネン。

そのカンカネンの中央にそびえ立つフレメヴィーラ王国の王城『シュレベール城』にエルネスティ(マクギリス)達はやって来ていた。

 

ヤントゥネン守護騎士団の生き残りとライヒアラ騎操士学園の騎操士(ナイトランナー)達の叙勲式にエルネスティ(マクギリス)達(エルネスティ(マクギリス)とオルガ達『鉄華団』と石動、そしてタービンズの二人の計九人)も呼び出されたのだ。

 

ライヒアラ騎操士学園の学園長であり、エルネスティ(マクギリス)の祖父でもあるラウリ・エチェバルリアが此度の陸皇亀(ベヘモス)討伐の功労者であるエルネスティ(マクギリス)と鉄華団を紹介する。

 

「国王陛下、この者が我が孫、エルネスティ・エチェバルリア。そして、我が家に食客として招いております、鉄華d……」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「三日月・オーガス」

 

オルガと三日月はラウリが国王陛下へ紹介しようとしたのを(さえぎ)り、自ら挨拶をする。

 

それが良い事なのか、悪い事なのかは置いといて……。

 

 

「本日、こうして呼び立てたのには訳がある。此度の功績に対して、果たしてどれ程の褒賞を取らせるべきか、考えが浮かばなかった為だ。それで率直に聞こう。そなたら、何が欲しい?」

 

その国王の言葉にエルネスティ(マクギリス)は生前の記憶を思い出す。

 

《よお、坊主。欲しい物はあるか?》

《……バエル》

 

そう彼が欲する物は『バエル』それだけだった。

 

しかし、バエルをねだったところで意味はない。

 

これは彼にとって千載一遇のチャンスなのだ。

出来れば、この機を逃すと二度と手に入らない最高難易度の褒賞を得ようとエルネスティ(マクギリス)は深く、深く考えこむ。

 

その間、オルガと三日月もそれぞれの思惑を頭の中に浮かべていた。

 

(王になる。地位も名誉も全部手に入れられるんだ。こいつはこれ以上ない俺たちのアガリじゃねぇのか)

(チョコレート)

 

時間にすればさほどの事なく、エルネスティ(マクギリス)は思考から浮上する。

 

彼は陛下に次のように伝えようとするが、オルガは自らの思惑をなんとかして叶える為、エルネスティ(マクギリス)の言葉を止めようとする。

 

「では、陛下にお願い致します。僕が今、一番欲しているのは知識……」

「待ってくれ……」

幻晶騎士(シルエットナイト)の心臓部『魔力転換炉(エーテルリアクター)』の製法に関する知識にこざいます!」

「何やってんだぁぁっ!」

「き、貴様っ!己が何を言っているのかわかっておるのか!?」

 

エルネスティ(マクギリス)の願いを聞いたディクスゴード公爵が混乱のあまり激昂する。

 

それもそのはず、幻晶騎士(シルエットナイト)魔力転換炉(エーテルリアクター)の製法は一般には流布していない国家の秘事であったからだ。

 

しかし、そんな事など露知らず、三日月はオルガとディクスゴード公爵の声の大きさに不快感を抱く。

 

「うるさいなぁ」

 

ピギュ

 

「チョコレート」

 

火星ヤシに飽きてきた三日月はオルガの胸ぐらを掴み、自らの好物の一つであるチョコレートをねだる。

 

「放しやがれ!」

 

しかし、オルガはチョコレートなど持ってはいない。

胸ぐらを掴んできた三日月を彼は無理やり引き剥がした。

 

すると三日月は懐から銃を取り出す。

 

「え"え"っ!?……すいませんでした」

 

殺されると直感で悟ったオルガは三日月に頭を下げるが……。

 

「謝ったら許さない」

「勘弁してくれよ……」

 

パンパンパン

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

オルガに希望の花を咲かせた三日月はエルネスティ(マクギリス)にこう問う。

 

「っていうか、俺のおかげだよね?」

「勘違いしないで欲しい」

「あんた、倒してないでしょ~」

「ちゃんとレコーダーに残ってんだよ」

 

三日月やラフタ、アジーの言う通り、陸皇亀(ベヘモス)を最終的に倒したのは彼のガンダム・バルバトスの活躍によるところが大きい。

エルネスティ(マクギリス)はディートリヒのグゥエールを強奪し、バエルと偽り、無理な機動をして破壊させただけである。

エルネスティ(マクギリス)が一人で褒賞を決めるのは間違っている。復活したオルガがエルネスティ(マクギリス)にこう言った。

 

「マクギリス、あんたが一人で褒賞を決めんのは筋が通らねぇ。だからよぉ……、火星の王n……」

 

パンパンパン

 

再び、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

次に三日月はその銃口をエルネスティ(マクギリス)へと向ける。

 

「待って欲しい」

 

エルネスティ(マクギリス)はそう言って、ポケットの中に入っていたチョコレートを差し出す。

 

「受け取ってもらえないだろうか」

「……いいよー」

「ミカ、お前っ……!」

 

 

そんな彼らの漫才を間近で見た国王は我慢出来ないとはがりに破顔する。

 

「ふははははっ!!なんと馬鹿馬鹿しい!」

 

たまらず笑い続ける国王を貴族達が呆然と見やる。

その様子から付き合いの長いラウリは国王が本気で面白がっている事を感じ取り、胸を撫で下ろしていた。

 

「よかろう。その願い聞き入れた!『魔力転換炉(エーテルリアクター)』の製法、教えてやらん事はない!」

「陛下!」

「ただし、陸皇亀(ベヘモス)ごときでは国家の秘事に釣り合わん。『魔力転換炉(エーテルリアクター)』の製法を得て、それを活用出来るという証を見せよ!」

 

エルネスティ(マクギリス)の表情が怪訝なものへと変化する。そして、ゆっくりと彼は国王にこう問いた。

 

「それはどのようにお見せすれば良いのでしょう?」

 

エルネスティ(マクギリス)と国王の視線が絡む。

 

「容易い事だ。実際に幻晶騎士(シルエットナイト)を作ればよい!炉を除き、おぬしの思う最高の幻晶騎士(シルエットナイト)筐体(きょうたい)を作りあげてみせよ!」

 

それを聞いたエルネスティ(マクギリス)はゆるりと笑い、その可憐な表情の中に獲物を見つけた肉食獣のそれを含ませる。

 

そして、こう宣言した。

 

「拝命致します。必ずや国王陛下のお目にかなう幻晶騎士(シルエットナイト)を作り上げる事をバエルとアグニカ・カイエルに誓いましょう」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「という事で、良い幻晶騎士(シルエットナイト)を作り、陛下にお見せする事になりました!」

 

その翌日、ライヒアラ騎操士学園の中庭で昼食をとるエルネスティ(マクギリス)はバトソン・テルモネンにこう告げた。

 

「「なりました!」じゃねーよ!いきなり国王陛下に直訴とかどういう事?お前も本当になんというかさー、もうちょっとこう順番にさ……」

 

野外演出の話を聞こうと思っていたバトソンは予想外の話の展開に驚きを隠せないでいた。

それに対し、三日月やキッド、アディはこう返す。

 

「仕方ないじゃん、チョコなんだから」

「仕方ねーだろ、エルなんだから」

「そうだよ、エル君なんだから」

 

彼らの言う通り、エルネスティ(マクギリス)の行動は大半が突拍子のない事なのだ。いちいちツッコミを入れていては疲れるとばかりにバトソンは大きく息をついた。

 

「……まぁいいや、エルだし。で、どーすんだよ?幻晶騎士(シルエットナイト)を作るっていったって当てはあるのか?」

「バトソンの家で作れちゃったりしませんか?」

「んなもん無理に決まってんだろ!」

「じゃあ、当てはありませんね」

「おい」

 

全高およそ10メートル、金属と結晶と魔導の集合体たる幻晶騎士(シルエットナイト)。技術や材料以前の問題として、その製造には専用の施設が必要だ。

間違っても街の鍛冶屋で気軽に作れるものではない。

 

「どうしましょうか?」

 

エルネスティ(マクギリス)がそう言うと、アディがこう言った。

 

「ねぇ、エル君。騎操士学科の工房は?」

「そうだよ、工房だ!こないだの戦いで幻晶騎士(シルエットナイト)がいっぱい壊れたんだろ?だったら今修理の真っ最中だと思うし、見学させてもらえばいいんじゃね」

「なるほど、それは名案です!今日の放課後、早速向かいましょう!」

 

 

ライヒアラ騎操士学園はフレメヴィーラ王国で最大の規模を持つ学園施設である。課程として騎操士学科を擁し、幻晶騎士(シルエットナイト)を運用しているこの学園には当然の事ながら、幻晶騎士(シルエットナイト)を整備する為の施設がある。

金属内格(インナースケルトン)外装(アウタースキン)といった金属部品を加工する鍛冶場や結晶筋肉(クリスタルティシュー)を接続し、全身の組み付けを行う作業場等を合わせたこの施設は『工房』と呼ばれていた。

 

その工房に運び込まれた幻晶騎士(シルエットナイト)の残骸を見て、鍛冶師科のとある生徒がこう呟いた。

 

「なんだ、こりゃ……」

 

彼は鍛冶師科の取りまとめにあたる生徒『ダーヴィド・ヘプケン』。他の生徒達から「親方」と呼ばれ、慕われるドワーフ族の生徒である。

 

そのダーヴィドの目の前にあるのは、先日の陸皇亀(ベヘモス)との死闘で完全なるスクラップと化したグゥエールであった。

 

「この機体の結晶筋肉(クリスタルティシュー)は先月新品にしたばかりだ……。どんな使い方をしたら、こんな有り様になる……?」

「バエルを手に入れた私はそのような些末事で断罪される身ではない」

 

グゥエールの残骸を手に取り、破損状況を確認するダーヴィドの隣に突如、現れた銀髪の小柄な美少年──エルネスティ(マクギリス)がそう言った。

 

「何だと!?」

「すいません親方……じゃなくてダーヴィド先輩!」

 

バトソンがエルネスティ(マクギリス)の口を塞ぎ、鍛冶師科の生徒達の邪魔にならないよう引き摺っていく。

 

しかし、ダーヴィドは彼から出た『バエル』という単語に興味を示す。

 

(……そういや、さっき呼び出したグゥエールの騎操士(ナイトランナー)のディートリヒも「バエル」やら「アグニカ」やらと口にしてたな……。あの男はそれ以外何も語らんし、この銀色坊主なら何か知ってるかもしれんな)

 

そう思考したダーヴィドは彼らを引き留める。

 

「待て!そのバエルとやらについて詳しく聞かせて貰おうか。それとこの幻晶騎士(シルエットナイト)がこんな有り様になった理由についてもな」

 

 

 

エルネスティ(マクギリス)がグゥエールを操り、陸皇亀(ベヘモス)と戦ったあの時、ディートリヒはその操縦を後ろから見ていた訳だが、彼はエルネスティ(マクギリス)が行った操作内容まで詳しく把握している訳ではない。

ダーヴィドがグゥエールの破損状況をディートリヒに確認したが、答えが得られなかったのはその為だ。

結局のところ、エルネスティ(マクギリス)の操縦は他人が見て理解出来る類いのものではなく、エルネスティ(マクギリス)自身が説明する他なかったのである。

 

そうして、エルネスティ(マクギリス)が説明を始めたまでは良かったのだが、間を置かずに様々な問題へと突き当たりまくっていた。

 

「……すまんが、もう一度言ってくれ」

「はい。ですから……」

 

エルネスティ(マクギリス)は両手を広げ、工房内に響き渡る大声でこう宣言する。

 

「三百年の眠りから、マクギリス・ファリドの下にバエルは甦った!」

「いや、バエルじゃなくて、その次に言った魔導演算機(マギウスエンジン)内の魔法術式(スクリプト)がなんだってとこだ」

「ああ、そちらですか。僕の体格上幻晶騎士(シルエットナイト)に乗っても操縦桿や(あぶみ)に手足が届きません。なので、魔導演算機(マギウスエンジン)内の魔法術式(スクリプト)を転写して、()()()()()()()幻晶騎士(シルエットナイト)を動かしたのですけど」

「はぁ……」

「もう、エル君……」

「…………百歩譲って、そいつはまぁいい。で?それとグゥエールが自壊してるのとはどういう関係があるんだ?」

魔導演算機(マギウスエンジン)の代わりをするという事はあらゆる安全装置(リミッター)を解除して操作出来るという事です」

「つまり、昔俺がバルバトスの鎖を外してやったのと同じってこと?」

「三日月君の言う通りです。ガンダム・フレームは阿頼耶識システムの関係上、安全装置(リミッター)を解除するとそれが自分にフィードバックされますが、幻晶騎士(シルエットナイト)の場合は魔力を使いすぎて構造強化を維持出来なくなり、自壊してしまったのです」

「今の言葉に間違いないか?グゥエールの騎操士(ナイトランナー)殿!?」

 

そのエルネスティ(マクギリス)の説明を聞いたダーヴィドは話し合いをしているこの部屋──会議室の隅っこで(うずくま)っているディートリヒに声をかけた。

 

グゥエールの破損状況を確認する為、ダーヴィドが呼び出したディートリヒだったが、彼は「わからない」と言ってこの工房の会議室の隅っこに(うずくま)り、「バエル」「アグニカ・カイエル」と呟くのみであった。

 

そこで八方塞がりになっていたダーヴィドとエルネスティ(マクギリス)達が出会ったのが先程のことだ。

 

何故、ディートリヒはこのような状態になっているのか。それはエルネスティ(マクギリス)の洗脳魔法を受けたからである。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ぎゃああああああ!」

「あっ、おはようございます先輩。今は戦闘中なので、出来ればお静かにお願いしますね」

「お前っ!なんてことを、正気なのか!?いや、そもそもなぜ戦っている!?」

「私の言葉はアグニカ・カイエルの言葉」

「はぁ?」

「バエルは甦った!」

 

「【バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル…………】」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ああ……、彼の言う通りだ」

「話を戻すが、つまり坊主が本気を出せば、どんな機体でもぶっ潰れちまうって事か」

「バエル以外ならば、その可能性が高いですね。なので、僕は一刻も早くバエルを手に入れる必要があるのです!」

「バッカ野郎!一体どんな対策を取れって言うんだよ」

「バエルを手に入れれば全て解決します」

「そのバエルとやらはどこにあるんだってんだ!?」

「まぁまぁ、ダーヴィド先輩落ち着いて……」

 

エルネスティ(マクギリス)の言葉にダーヴィドは口調を荒くし、彼のしでかした無茶にしきりに頭を振っている。

 

そんな時、工房に鉄華団がやって来た。

 

「邪魔するぜ~」

「仕事中すまねぇが、おやっさんはいるか?」

「私達のモビルスーツは幻晶騎士(シルエットナイト)と設計構造が違うから一応、説明しておきたいんだけど……って、何で、三日月とマクギリスがいるのさ?」

「何やってんだ、ミカァァッ!」

「オルガ、それにユージンとアジーも。どうしたの?」

 

 

工房にやって来たオルガ、ユージン、アジーに幻晶騎士(シルエットナイト)安全装置(リミッター)解除にも耐えられる対策案について聞くとアジーからこんな答えが返ってきた。

 

「要は結晶筋肉(クリスタルティシュー)の耐久性を上げればいいんだろう」

「あん?結晶筋肉(クリスタルティシュー)の耐久性を上げるだとぉ?」

「あぁ、少し言葉が足らなかったね。耐久性を上げるとは言ったけど、結晶筋肉(クリスタルティシュー)自体に手は加えないよ」

「正直、ピンときませんね」

「要は使い方さ。こんなのはどうだい?」

 

アジーが提案した方法は、結晶筋肉(クリスタルティシュー)の繊維を束ねて、()る事で『綱』としてから使う。というものだった。一本一本では脆弱な繊維も()り合わせて使う事で耐久性は向上する。

さらに編み込む事で繊維を直線的に使うよりも長い収縮距離を確保出来、出力の増大へも繋がる。

 

「……名付けるなら、網型(ストランドタイプ・)結晶筋肉(クリスタルティシュー)ってところかな」

 

この網型(ストランドタイプ・)結晶筋肉(クリスタルティシュー)は早速、修理中の幻晶騎士(シルエットナイト)全てに試してみる事に決まった。

 

 

「んじゃあよ、俺もちょっと考えてた事があんだか……」

 

アジーの対策案が通った事を理由にユージンも前々から気になっていた事を彼らに伝える。

 

「人型の幻晶騎士(シルエットナイト)には腕が二本だけしかねぇだろ?グシオンリベイクフルシティみてぇに補助腕でもつけりゃ、魔法による遠距離攻撃と剣での近距離攻撃を同時に出来て便利だと思うんだよ。なんでやらねぇのかなって……」

 

 

こうして鉄華団はP.D.世界の技術を提供して、新たな計画をいくつも打ち出し、学園全体を巻き込み始めた。

 

 

実験中の事故で何度もオルガの希望の花を咲かせ続けながらも、研究と失敗、改良を繰り返して、半月後、ついに改良型幻晶騎士(シルエットナイト)『テレスターレ』の試運転の日を迎えた。

 

「やれやれ、ただの模擬試合だと言うのに……お祭り騒ぎじゃないか」

 

そう呟きを漏らしながら、テレスターレと対峙する白き幻晶騎士(シルエットナイト)エドガー・C・ブランシュ(昭弘・アルトランド)の乗る『ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバー』である。

 

「今さらやめるなんて言わないでよ!」

 

張り切った声でそう言うテレスターレの騎操士(ナイトランナー)はヘルヴィ・オーバーリ。

彼女はエドガー(昭弘)やディートリヒの同級生で密かにエドガー(昭弘)に恋愛感情を抱いていたのだが、最近転校してきたラフタ・フランクランドにエドガー(昭弘)を取られそうになり、焦っている恋する乙女である。

 

「ヘルヴィもエドガーも準備はいいな!じゃあ、始め!」

 

その合図と同時に飛び出したのは、ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーでもテレスターレでもなく────ガンダム・バルバトスであった。

 

「ミカ、お前っ!」

「おい、オルガ!なんで三日月が乱入してんだよ?」

「勘弁してくれよ……」

「それは私から説明しよう」

 

模擬試合を見ていたオルガとユージンの会話に割って入ったのはエルネスティ(マクギリス)であった。

 

「三日月・オーガスが陸皇亀(ベヘモス)を倒したその時、私はそこにアグニカ・カイエルの姿を見た」

「アグニカ?」

「その力を再び見せて貰いたいのだ」

「だから、ミカを模擬試合に乱入させたって事か」

 

その問いに首を縦に振ったエルネスティ(マクギリス)をオルガは勢い良く殴り付けた。

 

 

そして、模擬試合はガンダム・バルバトスの圧勝で終わった……。

 

 

そして、その日の夕刻。反省回が行われた。

 

「お前達のおかげで、新型機テレスターレは無事、試運転を終えた」

「ヘルヴィ、なんか……ごめんな」

 

オルガに散々怒られた三日月はヘルヴィにそう謝る。

その様子を見てダーヴィドは一度、咳払いをしてから話を戻す。

 

「まぁ、それはそれで、とにかく今日は……」

「今日はとことんまで行くぞーー!」

 

ダーヴィドの前置きが長いと感じたオルガが強引に回の始まりを告げる。

 

「「「「「「乾杯(プロージット)っ!!」」」」」」

 

 

 

 

 

その反省回の後、オルガは飲み過ぎで嘔吐し、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「お呼びでしょうか。お父様」

「お前達はエルネスティ・エチェバルリアと友人らしいな。国王陛下が彼の事をいたく気に留めておいでだ。エルネスティが何かしら成果を上げるような事があれば、私に知らせて欲しいのだ。先んじて陛下のお耳に入れたい」

「それって、エル君のためになることですか?」

「無論だ。だが、この事はエルネスティには伝えずとも良い。彼の使命の妨げとなってはいけないからな」

「わかりました。お父様」

 

 

 



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ナイツ&オルガ4

何度か実験を繰り返している内に新型幻晶騎士(シルエットナイト)『テレスターレ』には魔力(マナ)の消費量が激しいという欠点がある事が判明した。

 

網型(ストランドタイプ・)結晶筋肉(クリスタルティシュー)を使用し、出力が上がったゆえの必要魔力(コスト)の増大と魔力貯蓄量(マナ・プール)の消費速度の増大。考えてみれば当然の結果であった。

 

このままでは実戦には投入出来ない。ダーヴィドと鉄華団達はこの改善策を検討していた。

 

魔力貯蓄量(マナ・プール)はどうやって増やしてるんだっけ?」

「ラフタ……騎操士学科の授業で習っただろ。結晶筋肉(クリスタルティシュー)の量と魔力貯蓄量(マナ・プール)は比例するんだよ」

「あ~、よくわかんねぇけどよ、その結晶筋肉(クリスタルティシュー)?を増やせばいいんじゃねぇの」

「おめぇはホントバカだな、オルガ。結晶筋肉(クリスタルティシュー)を増やしたんじゃ、結局魔力(マナ)の消費量もでかくなっちまうじゃねぇか」

「堂々巡りだな……」

 

ユージンの言葉を最後にその場にいる全員が悩み、静まり返ってしまう。

その静寂を破ったのは三日月だった。彼は中等部の幻晶騎士(シルエットナイト)設計基礎の教科書を読みながらこう発言する。

 

「なんで?結晶筋肉(クリスタルティシュー)は増やすけど、別に人間の筋肉みたいにする必要はないんでしょ」

「……そうか!結晶筋肉(クリスタルティシュー)を増やしても別にそれを動かす必要はねぇ!つまりは銀線神経(シルバーナーヴ)で繋いで外装(アウタースキン)の内側にでも積んで、結晶筋肉(クリスタルティシュー)()()()増やしゃいいって訳か!」

「すげぇよ、ミカは……」

 

 

魔力貯蓄量(マナ・プール)を増量させる為、結晶筋肉(クリスタルティシュー)の量を増やそうと考えたダーヴィドと鉄華団達は板状にした結晶筋肉(クリスタルティシュー)──板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を用意し、それを幻晶騎士(シルエットナイト)外装(アウタースキン)の内側に設置した。のだが……。

 

「かっこわる~い!おデブちゃんになってる~!」

 

見学に来たエルネスティ(マクギリス)についてきたアディが板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を積んだテレスターレを見てそう言う。

 

「確かに、元のグシオンみてぇになっちまってるな」

 

この改善案は問題点が多かった。

とにかく機体重量の増加が激しすぎる為、網型(ストランドタイプ・)結晶筋肉(クリスタルティシュー)による出力の増大でも補えないほど機動性が低下したのだ。

厚みの増した装甲は動きを阻害し、格闘戦能力への悪影響も大きい。

防御力の向上というメリットもあるが、デメリットの方が多いと判断され、この方法は却下された。

 

「とりあえず、重すぎる!なんとかこいつを痩せさせねぇといけねぇな!」

 

そう言って、再び鉄華団と開発会議に入るダーヴィドにエルネスティ(マクギリス)がこう言った。

 

「すいません親方。オルガ団長を借りていってもいいですか?僕の方でも作ったものがありまして、それの実験にオルガ団長を使いたいんです」

「待ってくれ……」

「いいよー」

「ミカ、お前っ!」

「別にオルガがここにいても正直役に立つと思えねぇしな、大丈夫だろ」

「ユージン!」

「では、借りていきますね」

 

ヴァアアアアアア!!

 

 

エルネスティ(マクギリス)達に連れられ、オルガはテルモネン工房の庭へとやってきた。

 

「お待ちしておりました、准将。工房主からこの庭を自由に使って良いと許可はとってあります」

「いつもすまんな、石動」

「ありがとう石動さん」

「いえ、アディ様もお気になさらず」

「で、エル。これは何なんだよ?」

 

腕に新装備を搭載した幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったキッドがエルネスティ(マクギリス)にそう尋ねる。

 

ちなみに幻晶甲冑(シルエットギア)とは幻晶騎士(シルエットナイト)の練習をする為、エルネスティ(マクギリス)が発案し、開発したパワードスーツである。

 

そして、その幻晶甲冑(シルエットギア)の腕に搭載された石弩(クロスボウ)風の新装備は……。

 

「これは網型(ストランドタイプ・)結晶筋肉(クリスタルティシュー)を応用した『携帯用大型弩砲(スコルティウス)』という武器です。操作に関しては、実際に動かしてもらった方が早いですね」

「おう」

「オルガ団長、出番ですよ」

「俺は何すりゃいいんだ?」

「そこに立っていて下さい!」

「は?」

 

幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったキッドが携帯用大型弩砲(スコルティウス)の引き金を引く。

 

「その先に俺はいるぞ!」

「発射!」

 

結晶筋肉(クリスタルティシュー)の収縮によって、携帯用大型弩砲(スコルティウス)から矢が放たれる。

 

その矢はオルガへと真っ直ぐ飛んでいき、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「キッド、それは連射も出来ますよ!」

「マジか」

 

キッドは結晶筋肉(クリスタルティシュー)の収縮を連続させて数本の矢を連射する。

 

再び、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「連射可能な攻城兵器です!」

「攻城兵器って……お前、どっかの城でも攻めるつもりなのか?」

「っていうか、エル君はこれを何に使うつもりで作ったの?」

 

エルネスティ(マクギリス)がこの携帯用大型弩砲(スコルティウス)を作った理由は小型化したダインスレイヴをこの世界で作りたいという単純な理由であったのだが、用途については彼は何も考えていなかった……。

 

 

 

──数日後──

 

 

 

「てなぁわけで、不満はあるが、もうどうしようもねぇ!これで完成だ!」

 

新型幻晶騎士(シルエットナイト)『テレスターレ』の魔力(マナ)消費量は腰周りにポーチのように小さくまとめられた板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を配置するという形で改善された。今までの幻晶騎士(シルエットナイト)よりも稼働時間が短くなるという欠点があるのだが、これ以上の改善は見込めないという事で妥協したのだ。

 

その新型幻晶騎士(シルエットナイト)『テレスターレ』の視察にやってきたライヒアラ騎操士学園の学園長、ラウリ・エチェバルリアは完成された新型機(テレスターレ)を見て、こう言った。

 

「ワシは精々、サロドレアの改良程度とたかを(くく)っておった。だが、これは全くの別物だな」

「はい、まごう事無き新型機です!」

「うむ……。何かしらの報告はしておくべきであろう」

「陛下とまで言わなくとも、国機研(ラボ)にはあげとくべきだろうな」

 

国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)』──通称、国機研(ラボ)。その名の通り、国の下で幻晶騎士(シルエットナイト)の技術を管理する為の組織である。

 

ダーヴィドの言ったその提案にユージンも乗る。

 

鉄華団(俺ら)はそれで異存はねぇぜ」

「では、報告させてもらおう」

 

ラウリの不安は新型機が国機研(ラボ)に与える影響にあった。本来、幻晶騎士(シルエットナイト)の開発は国家事業である。それを騎操士学園の生徒達が成し遂げたと知った時、国機研(ラボ)側がどんな反応を見せるのか見当もつかなかったのだ。

 

 

 

 

 

そんな彼らの様子を見ていた双子の兄妹は……。

 

「ねぇ、どうする?お父様との約束。今がその時、なんじゃないの?」

「……そうだな。国機研(ラボ)がどう出てくるかわかんねぇし、知らせといた方がいいかもな」

 

 

 

 

 

そして、セラーティ侯爵家の屋敷。

 

「お呼びでしょうか、旦那様」

「至急、この書類をディクスゴード公の邸宅へ。確実に公本人にお渡しするように」

「かしこまりました。ただちに手配致します」

 

「……ディクスゴード公、これは思ったよりも厄介な事になるやも知れませんぞ」

 

 

 

──数日後──

 

 

 

「全く、よく降る事じゃのう」

 

ライヒアラ騎操士学園の学園長であるラウリ・エチェバルリアは窓の外を見ながら、途絶える気配のない雨に眉間を寄せ、髭を撫で擦っていた。

 

そんな時、学園長室の扉から唐突にノックの音が聞こえてくる。

 

「ふむ、どなたかの?」

「邪魔するぜ~」

 

扉の外からは学園の用務員を務めるオルガが入ってきた。

 

「オルガ殿か、どうしたんじゃ?」

「あんたに話があるらしい。来客だ」

「……客が来る予定は今日は入ってなかったはずじゃが……まぁいい。通してくれ」

「ああ、分かったよ。連れてきてやるよ!」

 

その来客は近くに待機していたようで、返答からまもなく学園長室の扉が再び開かれる。

 

その来客の姿を見て、ラウリは目を細め、顔の(しわ)を深くした。

 

「その紋章、ディクスゴード公爵配下の騎士殿とお見受けしますが……」

「いかにも、我らはディクスゴード公爵閣下配下、朱兎騎士団に所属する者です」

「その朱兎騎士団の騎士殿が、かような悪天候の中、当学園にいかなるご用ですかな?」

「本日は公爵閣下の命により訪れました。閣下より文を預かっております。お改め下さい」

 

ラウリは差し出された文を受け取り、中に書いてある内容を確認する。

 

そして、読み終えた後、彼らへとこう告げた。

 

「……承知した。すぐに関わった生徒達を集合させる」

 

 

工房へ集められたのはダーヴィドやバトソンなどの鍛冶師科の生徒達と鉄華団にタービンズ、石動、アディ、キッド、そしてエルネスティ(マクギリス)であった。

 

「我々はディクスゴード公爵より遣わされた朱兎騎士団。そして私は団長のモルテン・フレドホルムである」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

 

(ディクスゴード公爵?セラーティ侯爵じゃなくて)

 

アディの疑問を他所にモルテン・フレドホルムは話しを続ける。

 

「公爵閣下は新型機に興味を示され、実物をご覧になりたいと仰せだ。そこで諸君には新型機全てをカザドシュ砦まで搬送してもらいたい」

 

その騎士の言葉に対しての返答は沈黙。外の天候も相まって気まずい空気が漂う中、おずおずと親方が挙手をした。

 

「あー、一つ質問いいか?」

 

モルテン・フレドホルムが目配せで許可を示すと、彼はそれに応じて、豊かな顎髭(あごひげ)を撫でながら疑問を(てい)する。

 

「なるべく急いで新型機が見てぇ、って考えにゃ異存はねぇが、何せこの天気だ。どう考えたって幻晶騎士(シルエットナイト)を動かすのには向いちゃいねぇが、それでもか?」

「当然だ。これは公爵閣下より直々に下された命令である。この学園で騎操士課程まで上り詰めた者ならば、雨天行軍の修練も積んでいるだろう。外の天候などでは手を止める理由にはならない。直ちに準備にかかってほしい」

「どうする、オルガ?」

 

ユージンがオルガにそう問う。

オルガは少し逡巡した後、ゆっくりと口を開いた。

 

「分かった。鉄華団はあんたの側に乗ってやる」

 

 

目的地であるカザドシュ砦──フレメヴィーラ王国の北側にあるディクスゴード公爵領の玄関口に位置する朱兎騎士団の駐屯基地に辿り着いた後、この新型機開発の代表者を選出して、公爵閣下と対談をして欲しいとモルテン・フレドホルムから告げられた。

 

「この新型機(テレスターレ)の発案者はユージンとアジーが主だ。つまり発案者は鉄華団という事になり、その代表者はオルガって事になるが……」

「ああ、分かったよ。行ってやるよ!」

「待ってほしい、オルガ団長。ここは……私の出番だ!」

「お供します、准将!」

「は?」

 

ディクスゴード公爵との対談はエルネスティ(マクギリス)(と石動)が引き受ける事に決まった。

 

 

「暫く振りだな、エルネスティ・エチェバルリア」

「再びお目にかかれて光栄です。ディクスゴード公爵」

「お前の話しが聞きたい」

「残念ながら、我々には話し合う必要も、心を通わせる必要もないのです」

「何?」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

エルネスティ(マクギリス)達がカザドシュ砦へと出発してから一週間以上が経過した頃、ようやくカザドシュ砦へ向かった生徒達がライヒアラ学園街へと帰ってきた。

 

「帰ってきたぞーーーー!!!!」

「おお!」

 

バトソンのその叫びを聞き、アディとキッドも街へと帰ってきた馬車へと駆け寄る。

 

「野郎共、変わりはねぇか?」

「親方ーー!…お帰り!」

「エル君は~?」

 

アディがそう言いながら、周りをキョロキョロと見渡すその様子を見て、騎操士学科の生徒達が顔をしかめる。

 

「あ~、それなんだが……」

「エルネスティはテレスターレと一緒にディクスゴード公爵預りとなった。付き添いの石動もな」

「え?」

 

 

所変わって、カザドシュ砦。

 

ディクスゴード公爵とエルネスティ(マクギリス)の二人はこの一週間と数日、他愛もない話しを繰り返して友好を深めていった。その胸の内にお互いの真意を隠しながら……。

 

そして、騎操士学科の生徒達がライヒアラ学園街に辿り着いた頃、彼らの対談はついに動き出した。

ディクスゴード公爵のこの言葉を発端として……。

 

「現行機カルダトアの前身はサロドレア。サロドレアからカルダトアまでの世代交代には実に()()()という年月を必要とした」

「運命か……。三百年だ!」

 

エルネスティ(マクギリス)は両手を広げ、大声でこう宣言する。

 

「三百年の眠りから、マクギリス・ファリドの下にバエルは甦った!」

 

(何を言っておるのだ、この坊主は……?)

 

クヌート・ディクスゴードはいきなり大声を出す彼に困惑していた。

 

「この資料をご覧下さい。そこに記されている通り……」

 

クヌートは彼から手渡された「バエル」や「アグニカ・カイエル」と書かれた資料へと目を向ける。

 

「ギャラルホルンにおいてバエルを操る者こそが、唯一絶対の力を持ち、その頂点に立つ!」

 

彼は休む事なく、アグニカ・カイエルとバエルの説明を続けた。

 

新型機(テレスターレ)の話を聞きたいクヌートは何度も彼の話を中断させようと試みるが、彼のアグニカ・カイエルとバエルの説明は止まらない。

 

三時間ほど話し続けた後、彼に『THE LIFE of AGNIKA KAIERU』という題名のアグニカの伝記(をエルネスティ(マクギリス)がこのセッテルンド大陸の文字で翻訳した物)を差し出された。

 

「ディクスゴード公爵!こちらをご覧下さい!!」

「いい加減にせぬか!!」

 

ついに堪忍袋の緒が切れたクヌートがそう言って机を叩くが……。

 

「バエルを持つ私の言葉に背くとは……。仕方がない、もう一度最初から説明するとしよう」

「えっ!?」

「この中に書かれたアグニカ・カイエルの思想に私は救われた……」

 

そして、再び彼は三時間ほど、喋り続けた。

 

「アグニカの魂は、私を選んだのです!ギャラルホルンの正式なるトップとして。そして、バエルはその玉座に私が腰を掛ける事を許した。あなた方は私に従わなければならない。それを拒否するのはアグニカ・カイエルを否定する事になる」

 

(バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル…………)

 

クヌート・ディクスゴードはエルネスティ・エチェバルリア(マクギリス・ファリド)に洗脳されつつあった……。

 

 

 

──数日後──

 

 

 

「おっそ~~~~い!!!!」

 

工房にアディの声が響き渡る。

 

「んも~!!何で、エル君戻って来ないのよ~!そんなに公爵と意気投合したってわけ!」

 

アディのその言葉を聞いた三日月はバルバトスの通信回線を石動に繋げる。

 

《どうした、三日月・オーガス?》

「ねぇ、まだなの?」

《すまない、カザドシュ砦本部の完全掌握まであと少しだ》

「チョコは?」

《……()()は今、最後の仕上げの最中だ。妙な渾名で呼ぶな。あと少し、我々の勝利は目前だ!》

(チョコレート……)

 

彼は以前エルネスティ(マクギリス)からもらったチョコレートの予備が切れた為、少し機嫌が悪かった。

彼はオルガのいる学園の用務員室へ足を運ぶ。

 

「おお、ミカ。どうした?」

 

彼は無言でオルガの胸ぐらを掴む。

 

ピギュ

 

「チョコレート」

「え"え"っ!?」

「買ってきて」

「離しやがれ!」

 

オルガは三日月を払いのけるが、機嫌が悪い彼はポケットから無造作に銃を取り出す。

 

また殺されると直感で悟ったオルガは謝ろうとするが、その刹那、以前の国王陛下の御前での出来事を思い出した。

 

《謝ったら許さない》

《勘弁してくれよ……》

 

《パンパンパン》

 

《【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】》

 

「謝ったら許さない」

「ああ、分かったよ。買ってきてやるよ!買ってこりゃいいんだろ!途中にどんな地獄が待っていようと、俺がチョコレートを買ってきてやるよ!」

 

そう言ってオルガは用務員の仕事を放り出し、街へ飛び出す。

 

しかし、オルガはチョコレートがどこで売っているのか検討もつかない為、テレスターレや幻晶甲冑(シルエットギア)と同時に作ったモビルワーカーでカザドシュ砦にいるエルネスティ(マクギリス)の元へと向かった。

 

 

オルガがカザドシュ砦へ向けて飛び出していったという話はすぐに皆に知れ渡った。

 

「じゃあ、俺たちもオルガさんの後を追ってエルを迎えに行こうぜ!」

「賛成ーー!」

 

そう言って興奮する双子を押し留めたのは、エドガー(昭弘)だった。

 

「それは出来ない!」

「エドガー先輩!」

「何で、オルガさんは良くて私たちはダメなの!?」

「オルガは……その……。と、とにかく、エルネスティは公爵の正式な招聘(しょうへい)によって砦に留まっているんだ。正当な理由なく連れ戻すなど許されない」

 

エドガー(昭弘)の正論であった。その言葉の中に悔しさが滲み出ているのを察したキッドとアディは大人しくエドガー(昭弘)に従ったが、やはり納得はしていないようだ。

 

「でも、オルガはどうする?今から止めに行く?」

《俺は止まらねぇぞ!》

「いいよ、連れ戻さなくても(チョコレート欲しいし)」

「そう言う訳にはいかねぇんだよ、三日月。確かに俺らが作った新型機(テレスターレ)が公爵に取られちまったのは悔しいけどよ、個人の感情と学園の使命をごっちゃには出来ねぇんだよ。分かってくれ、な?」

 

ユージンが必死に三日月を説得しようとするが、三日月は聞く耳は持たないといった様子だ。

どうしても、チョコレートが欲しいらしい。

 

エルネスティ(マクギリス)を連れ戻したい三日月とアディ、キッド。学園の使命を優先しようとするエドガー(昭弘)とユージン達の対立により、気まずい空気が漂いだした工房に、ダーヴィドの台詞が響いた。

 

「……そういや、ディートリヒ。あいつの改修が終わってなかったな」

「あいつ……グゥエールか?」

「あれだって、言うなりゃ新型だ。改修が終わったらここには置いて置けねぇ。なんたって、新型機は全部公爵の管理下に入るんだからな」

 

ダーヴィドの言わんとしている事を理解し始めた皆の顔に笑みが浮かぶ。

 

「てことは、新型機をカザドシュ砦まで届けなきゃいけない訳だ!俺達の手で!」

「おお!」

「それならば問題ない!」

「ありがとう、親方!」

「ついでに、道の途中でオルガも回収して行かなくちゃな!!」

「皆で、エルネスティを迎えに行くぞ!!」

 

 

 

 

 

それより数日の後、カザドシュ砦近隣に位置するダリエ村にて、複数の決闘級魔獣(モビルアーマー)が出現。

その村を救おうとしたオルガが希望の花を咲かせた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

 




2週間振りの投稿です。遅くなって申し訳ない……。

実は、再来週の10月4日でノベライズ版異世界オルガも一周年になります。異世界オルガ完結から祝福オルガ投稿まで空白の期間もありましたが、読者の皆様のおかげで一年間書き続けられました。ありがとうございます!

これからのノベライズですが、だんご氏の熱い要望もあり、『オルガ細胞』のノベライズも始める事にしました!この『ナイツ&オルガ』も勿論続けます。

詳しくは活動報告の方をご参照下さい。



長くなりましたが、最後に……。

……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。




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ナイツ&オルガ5

P.D.331年。ギャラルホルン・ヴィーンゴールヴ軍病院、特別病室。

「まさか、アルミリアが見舞いに来てくれるとはな。てっきり、またジュリエッタのやつが来たものだと勘違いしたぞ」
「ジュリエッタさんと仲睦まじくて何よりですわ。それでお兄様、阿頼耶識の除去手術はまだかかるのですか?」
「簡単に出来るものではないし、仕方がないだろう」
「…………」
「どうした、アルミリア?」
「いえ……。そうだ、お兄様!気分転換に屋上にでも出ませんか?」
「ああ、そうだな。では行くか」

ギャラルホルン・ヴィーンゴールヴ軍病院、屋上。

「……お兄様……」
「どうした、アルミリア?さっきから様子が可笑しいが?」
「…………マクギリス・ファリドを覚えていますか?」
「何?」

パンパンパン

「…………」

prrrrrrrr

「……はい」
《お姫さん、大丈夫か?》
「何が、ですか?」
《えっと……家族を……殺した、こと》
「お兄様は……マッキーの(かたき)ですから」
《無理……してないか?》
「ライドさんは、やさしいですね」
《よしてくれ。……どうしても無理だったら俺が()ろうと思ってたんだが……》
「いえ、問題ありませんわ。「ガエリオ・ボードウィンは送った」と、あの魔女にお伝え下さい」
「ああ……分かった」



「野郎ども!出発だ!」

 

背面武装(バックウェポン)を装備したグゥエールをディクスゴード公爵のもとへと送り届ける(という名目でエルネスティ(マクギリス)を迎えに行く)為、ライヒアラ騎操士学園・騎操士学科の生徒達と鉄華団一行はカサドシュ砦へと出発した。

 

 

その道中、ふいに三日月の姿が消えた。

馬車で談笑をしていた途中、不意に三日月が姿を消した為、アディとキッド、そしてユージンが慌ててこう言う。

 

「ミカ君!?」

「ミカ!?どこいった!?」

「……おい、シノ、昭弘!三日月がどっか消えちまったんだが、どういうことだ!?」

 

ユージンはそれぞれガンダム・フラウロスとガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーに搭乗するシノとエドガー(昭弘)に説明を求める。

 

「こりゃあ、オルガになんかあったな……」

「どういうことだよ?」

「三日月はオルガの召喚獣だからな。ここから消えたという事はオルガが三日月を召喚したんだろう」

 

シノとエドガー(昭弘)はサトゥーとともに過ごした異世界でドレイクにやられるまではオルガの召喚獣だった経験がある為、その経験に基づいて、ユージンにそう説明する。

 

その説明を聞き、理解したユージンは馬車の御者を務めているダーヴィドへ向けて、こう叫んだ。

 

「親方!オルガが乗ってったモビルワーカーの反応は!どこを指してる!?」

「ちょっと、待てよ……。分かった!カサドシュ砦の近くの村『ダリエ村』だ!」

「よし、ダリエ村まで急行するぞ!」

 

 

その頃、カザドシュ砦近隣に位置するダリエ村では、複数の決闘級魔獣(モビルアーマー)とオルガが希望の花を咲かせながら戦い続けていた。

 

「【……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「このままじゃ、こんなところじゃ終われねぇ!【ミカァッ!】」

 

オルガの詠唱と同時に、地面から三日月とガンダム・バルバトスルプスレクスが現れ、メイスで決闘級魔獣(モビルアーマー)を叩き潰す。

 

「どうすればいい、オルガ?」

「全部……潰せ」

 

バルバトスルプスレクスのメインカメラが獲物を見つけた狼のように赤く光った。

 

 

──数時間後──

 

 

ダリエ村に騎操士学科の生徒達と鉄華団一行が到着した時には、複数の決闘級魔獣(モビルアーマー)の残骸と立ち尽くすバルバトスルプスレクス、そして希望の花を咲かせたオルガがいた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

その村の状況を見たラフタとアジーはこう感想を述べる。

 

「まぁ、三日月が召喚された時点でこうなるとは思ってたけどね」

この子(オルガ)が死なないように手伝うしかないね」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

ダリエ村の決闘級魔獣(モビルアーマー)をバルバトスルプスレクスが殲滅したのと同じ頃、カザドシュ砦には一機の幻晶騎士(シルエットナイト)が近付いていた。カルダトアだ。

 

「お、ありゃあ、カルダトアか。ダリエ村に向かった中隊か?早かったな」

 

ダリエ村の決闘級魔獣(モビルアーマー)はバルバトスルプスレクスが全て殲滅してしまったのだが、そんな事など知りもしないカザドシュ砦の騎士団は一個中隊をダリエ村へ向けて出撃させていた。

 

「一機だけか?随分、やられちまったんだな」

「今、確認した。あの紋章はうちので間違いない」

 

『朱兎騎士団』の紋章が書かれた旗を掲げながら、近付いてくるカルダトアを見た門番はカサドシュ砦の門を開く。

 

「三番の整備台に入ってくれ~!」

「あいよ」

 

カルダトアの後ろには一台の馬車が続いていたが、カサドシュ砦の兵士達は物資の補給かまたは、幻晶騎士(シルエットナイト)を失った騎操士(ナイトランナー)が乗っているのだろうと気に止める事はなかった。

 

カルダトアが整備台に入っていき、カサドシュ砦の工房で働く騎操鍛冶師(ナイトスミス)は慌ただしく動き始める。

 

鍛冶師の班長が整備班に指示を出し、整備班は慌ただしく部品を運んでいく。そこまでは特に問題はなかったが、カルダトアの後ろに追従していた馬車も工房へ入ってきた為、鍛冶師の班長はその馬車に誰何(すいか)しようと近づいた。

 

その瞬間、風切り音とともに数本の矢が馬車から飛び出してきた。

 

「ぐあっ!」

 

その矢が鍛冶師の班長の胸を貫き、彼が血を吐いて倒れるのと馬車から武装した集団が飛び出してくるのはほぼ同時だった。

 

さらに時を同じくして整備台へと入っていったカルダトアもその本性を(あらわ)にする。

馬車から武装する集団が飛び出していくのを確認したカルダトアは素早く剣を抜いて工房の入り口を破壊し、カサドシュ砦の増援を断った。

 

武装した侵入者達は工房に残った整備班の鍛冶師達を素早く排除していき、そして、最後に馬車から姿を現した女──銅牙騎士団の団長であるケルヒルト・ヒエタカンナスがこう叫ぶ。

 

「ぼやぼやするな!さっさとお宝を戴くよ!」

 

瞬く間に工房を占拠した銅牙騎士団はカルダトアに見張りをさせながら、工房内に鎮座するテレスターレに乗り込んでいく。

 

「お前たち、始めるよ!動ける奴からついてきな!」

 

時に西方歴一ニ七七年。カサドシュ砦に運び込まれたテレスターレが銅牙騎士団に奪取される事件。後に『カサドシュ事変』と呼ばれるこの事件はこうして幕を上げた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「これは……もしや動乱の兆し!?」

 

工房より火の手が上がるのを部屋から目撃したエルネスティ(マクギリス)はディクスゴード公爵の部屋へと走る。そして、公爵の部屋の扉を勢い良く開けた。

 

「ディクスゴード公爵!」

「エルネスティか。お前は部屋に戻っておれ」

「事態は一刻の猶予もありません!及ばずながら僕も……」

「ならん!!」

「バエルを持つ私の言葉に背くとは」

「……い、いや。わかった!好きにするが良い!」

「ありがとうございます」

 

 

エルネスティ(マクギリス)が動き出した頃、銅牙騎士団は新型機(テレスターレ)を奪取し、カサドシュ砦の城門を突破して、夜の(とばり)が落ちた街道へと逃亡を開始していた。

 

混乱の只中にある砦を突破した今、ケルヒルト達を追う者はおらず、あとは予定していた逃走経路へ入るだけだった。全ての新型機(テレスターレ)を奪取するには至らなかったが七機はほぼ無傷で離脱する事が出来た。逆に銅牙騎士団の大半は時間稼ぎの為にカサドシュ砦に残っているが、それは彼女にとって想定内の事態である。

 

七機の新型機(テレスターレ)は無言のまま街道をひた走り、仲間との合流地点である森へと向かう。その道中、ケルヒルトの視界の先に六つの機影が映った。

 

(援軍!?まさか、早すぎるよ!)

 

距離が近づくにつれ、その姿も明確になっていく。

紅色と白色の幻晶騎士(シルエットナイト)と標準の幻晶騎士(シルエットナイト)より大きめの機体が四機。その四機の内、一機の機体の姿をケルヒルトは知っていた。

 

(あれは……、まさか幻晶騎士(シルエットナイト)じゃなくてモビルスーツだとでも言うのかい!!?なんであの悪魔が……ガンダム・フレームがいるんだい!!!!)

 

その悪魔(ガンダム・バルバトス)を見たケルヒルトはこの異世界(セッテルンド大陸)に転生する前の自分──カルタ・イシューだった頃の自我を取り戻した。

 

そして、彼女の部下達も同様に、ギャラルホルン地球外縁軌道統制統合艦隊の兵士であった過去を思い出す。

 

「カルタ様、あれは……!」

「ああ、あれは幻晶騎士(シルエットナイト)じゃない……。モビルスーツ──ガンダム・フレームだよ!」

 

 

この頃、ダリエ村の決闘級魔獣(モビルアーマー)の残骸回収をカサドシュ砦から来た朱兎騎士団に任せ、グゥエールをカサドシュ砦まで搬送する為、夜道を進んでいたライヒアラ騎操士学園・騎操士学科の生徒達と鉄華団一行もカサドシュ砦の方から走ってくるテレスターレを見て疑念を抱いていた。

 

「あれはテレスターレ!?この夜更けにどういうことだ?」

「邪魔するやつは全体潰す」

「待て、ミカ!まだ敵か分かんねぇし、……とりあえず訳を聞くしかねぇだろ。昭弘、頼めるか?」

 

オルガがエドガー(昭弘)へ馬車からそう指示を出す。

 

「我々はライヒアラ騎操士学園の者。所用故、カサドシュ砦へ向かう最中である」

 

エドガー(昭弘)がそう名乗ると、相手からも返答があった。

 

「我ら地球外縁軌道統制統合艦隊!面壁九年!堅牢堅固!」

 

バン!

 

その相手の名乗りを聞いたエドガー(昭弘)は本能的に彼女らを敵だと判断して、魔法で砲撃をした。

 

「あ、すまん。撃っちまった」

「別に、普通でしょ」

「なんと、無作法な!!」

 

綺麗に整列した七機のテレスターレが三日月やエドガー(昭弘)達へ向かって背面武装(バックウェポン)で牽制射撃をしながら突っ込んでくる。

 

その攻撃をガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの大盾で防ぎながら、エドガー(昭弘)は各機に指示を出す。

 

「ここは俺とディートリヒ、シノと三日月でやる!オルガたちは馬車でカサドシュ砦へ行け!タービンズの二人は馬車の護衛についてくれ」

「エドガーさん!俺にも戦わせてくれ!」

 

エドガー(昭弘)の指示を聞き、幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったキッドがそう提案する。

 

「馬鹿を言うな!敵は幻晶騎士(シルエットナイト)幻晶甲冑(シルエットギア)では相手にならん!三日月からも何とか言ってやってくれ!」

「別に、いいんじゃない?」

「何っ!?」

「俺が先行するからキッドは踏まれないように適当に着いてきて、無理はしなくていいから」

「ありがとよ、ミカ!」

「……仕方ないか」

 

話し合いの結果、七機のテレスターレと対峙するのはエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーとディートリヒのグゥエール、シノのガンダム・フラウロス、キッドの幻晶甲冑(シルエットギア)、そして三日月のガンダム・バルバトスルプスレクス。カサドシュ砦へと向かうのは馬車とタービンズの獅電二機となった。

 

「了解だ。頼んだぞ!昭弘っ!」

「昭弘!死なないでね。帰ったら、またギューってしてやるから!」

「だから、なんで絞められなきゃいけないんだ?」

「……っ!昭弘のバカっ!」

「話済んだ?」

「あ、あぁ」

「済んでない!」

「ラフタ、いいから行くよ!」

「まっ……待って!待ってってばぁ!」

「んじゃあ、いくかぁ!!」

 

三日月のその言葉で、エドガー(昭弘)達、五機がテレスターレと交戦を始め、オルガやユージン、ダーヴィド達を乗せた馬車とタービンズの獅電二機は戦線を離脱していった。

 

 

「生まれかったグゥエールの姿を披露するにはうってつけの舞台だ!行くぞ、エドガー!」

「了解した、守りは任せろ!ディートリヒ!!」

 

エドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーが大盾を前に先行し、その後ろからディートリヒのグゥエールが飛び出した。

 

「何っ!?」

 

不意をつかれた一機のテレスターレの右腕をグゥエールが剣で斬り落とす。

 

「しゃらくせぇんだよぉ!!」

 

その後、テレスターレが背面武装(バックウェポン)でグゥエールを攻撃するが、それはグゥエールに難なく避けられてしまう。

 

背面武装(バックウェポン)の使い方がなっちゃいない!」

 

ディートリヒはそう叫びつつ、背面武装(バックウェポン)から魔法を放つ。グゥエールの持つ魔導兵装『風の刃(カマサ)』はオーソドックスな爆炎の魔法を放つのではなく、真空の断層を刃として発射する魔導兵装である。その風の刃(カマサ)は二発目を放とうとしていたテレスターレの背面武装(バックウェポン)を真空の断層で切り裂いた。

その後、ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの魔法による援護射撃で残った左腕も破壊され、まずは一機、テレスターレの武装を全て破壊し無力化させた。

 

「「あと六機!!」」

 

 

その頃、カサドシュ砦ではケルヒルト(カルタ)達を逃がす為、砦内に残った銅牙騎士団(地球外縁軌道統制統合艦隊)と砦に常駐している騎操士(ナイトランナー)達が操る幻晶騎士(シルエットナイト)が戦い続けており、その戦いは佳境を迎えていた。

 

エルネスティ(マクギリス)はカサドシュ砦陣営に味方する石動のヘルムヴィーゲ・リンカーの手の平の上に立ち、戦うカサドシュ砦の騎操士(ナイトランナー)達に大声でこう告げる。

 

「革命は終わっていない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々とともにある!皆、バエルの下へ集え!」

 

しかし、その声は砦内で繰り広げられている戦闘の音に書き消されてしまう。

 

「想定外だった……」

「准将!あれを!」

 

落ち込むエルネスティ(マクギリス)に石動が見せたものは砦へと近付いてくる馬車と二機の獅電だった。

 

「あれは、鉄華団か!?」

「おそらく」

「よし、石動!あの馬車の近くで私を下ろせ!」

「はっ!」

 

 

時を同じくして、オルガやユージン、ダーヴィド達を乗せた馬車とタービンズの獅電二機はカサドシュ砦へと到着した。

 

そこに石動のヘルムヴィーゲ・リンカーが近付いてくる。

 

「久しぶりだな、オルガ団長」

「エルく~ん!」

 

ヘルムヴィーゲ・リンカーの手の平から下りたエルネスティ(マクギリス)に馬車から出てきたアディが抱きつく。

 

エルネスティ(マクギリス)はアディに抱きつかれたまま、オルガやユージン、ダーヴィドと話を始める。

 

「おい、銀色坊主!何だこの有り様は!?一体全体どうなってやがる!?」

「マクギリス、話を聞かせてもらおうじゃねぇか」

「私も正確なところはわからないのだ。朱兎騎士団が使用するカルダトアになりすました賊が砦を襲撃したようでな。さらに工房が占拠され、騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)が奪われた事がこの苦境の原因といったところだ」

「さっき、ビスケットを()ったギャラルホルンの女がテレスターレに乗ってたが、あいつらが賊って訳か?」

「ギャラルホルンの女?……カルタか!!フッ……、まさか彼女も転生しているとはな。だが、なるほど!カルタ達の目的はテレスターレ……いや、新型機自体と考えれば、辻褄は合うな……」

 

そこまで話した時、エルネスティ(マクギリス)の視界に、馬車に積んである幻晶甲冑(シルエットギア)が映った。

 

「……っ!それは私の『バエル』!!」

「バエル?幻晶甲冑(シルエットギア)のことか?こいつはバエルじゃねぇぞ……」

 

オルガの声を聞くより先にエルネスティ(マクギリス)幻晶甲冑(シルエットギア)を纏って一人飛び出していってしまった。

 

「やっと会えたな……。目を醒ませ、アグニカ・カイエル……。見せてやろう!純粋な力のみが成立させる真実の世界を!!」

「あの野郎……!仕方ねぇ、俺達も行くぞ!ユージン、俺の獅電を出せ!!」

「あっ!すまねぇ……。持ってくるの忘れた」

「…………何やってんだぁぁっ!!」

 

 

幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったエルネスティ(マクギリス)は腕部のワイヤーアンカーを使い、立体機動で空を舞いながら、幻晶甲冑(シルエットギア)の拡声器を使い、再度こう叫ぶ。

 

「革命は終わっていない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々とともにある!皆、バエルの下へ集え!」

 

その叫びを聞いたカサドシュ砦の騎操士(ナイトランナー)達は高揚した。

 

「バエルだ!アグニカ・カイエルの魂!」

「そうだ。ギャラルホルンの正義は我々にあり!」

「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」

 

このカサドシュ砦の騎操士(ナイトランナー)達も漏れ無くエルネスティ(マクギリス)の洗脳魔法を受けていたのだった。

 

「そうだ……。それで良い」

 

 

エルネスティ(マクギリス)のバエル鼓舞によって、カサドシュ砦の騎操士(ナイトランナー)の士気が上がったこの時、ケルヒルト(カルタ)達は鉄華団を()いて逃げようと必死だった。

 

「ヤバイね、このままだと追い付かれちまう」

「もう、追い付いてるよ」

「逃がすか!」

 

逃げるケルヒルト(カルタ)達三機の後ろには、三日月のガンダム・バルバトスルプスレクスとエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの姿があった。

(ちなみに、シノのガンダム・フラウロスとディートリヒのグゥエール、キッドの幻晶甲冑(シルエットギア)は二手に別れて逃げたもう一方の三機を追っている)

 

「ちぃっ!あたしとバッカスで正面からこいつらを押さえる。ベルナルは谷側から回り込みな!」

「「了解!!」」

 

敵のテレスターレ三機のうち一機が戦線から離れるのを見た三日月は「逃がすわけないだろ」と呟いた後、エドガー(昭弘)に指示を出す。

 

「悪い、昭弘!前の二つは任せていい?」

「ああ、任せろ!」

 

エドガー(昭弘)の返答を聞いた三日月はバルバトスルプスレクスの腕部200mm砲を発砲しながら、逃げたテレスターレを追撃する。

 

テレスターレはその砲擊で左腕を失ったが、何とか森の中へとその巨体を隠す事が出来た。

 

(幻晶騎士(シルエットナイト)はモビルスーツよりも小柄だ。この森の中なら幻晶騎士(シルエットナイト)の隠密性が有利になるはず)

 

銅牙騎士団(地球外縁軌道統制統合艦隊)の兵士はそう考えていたのだが、バルバトスルプスレクスの行動は彼の斜め上をいっていた。

 

三日月はバルバトスルプスレクスのテイルブレードを森の中に射出し、テイルブレードのワイヤーを森の木々に巻き付けていった。

 

何の注意も払わずに全力で踏み込んだテレスターレの足首にワイヤーが絡まり、その巨体は転倒して、海の中へと落ちていった。

 

「何っ!?バ、バカな!うわぁぁぁぁぁ!!」

「うるさいな……。オルガの声が聞こえないだろ……」

 

 

その頃、エドガー(昭弘)もテレスターレを一機撃墜させ、ケルヒルト(カルタ)と一対一の状況を作り出していた。

 

「俺はあいつに任されたんだ。ここは引けねぇ!引くわけにはいかねぇんだよ!!」

 

ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの猛攻にケルヒルト(カルタ)のテレスターレは押されていた。

 

手に持つ魔導兵装と背面武装(バックウェポン)の三門の砲塔を駆使して、魔法攻撃でエドガー(昭弘)の動きを押さえようとしたケルヒルト(カルタ)だったが、その攻撃はガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの大盾によって全て防がれてしまう。

 

その後、大盾からすぐさま剣を抜き、その剣でテレスターレが手に持つ魔導兵装を真っ二つに斬る。

 

「ちぃっ!!」

 

ケルヒルト(カルタ)は手に持つ武器を真っ二つに斬られた魔導兵装から剣へと切り替える。エドガー(昭弘)はその剣の攻撃を大盾で防ぐ。

 

「鉄華団!あの日の屈辱!今、ここで返させてもらう!!」

 

そう叫んだケルヒルト(カルタ)はガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの大盾を掴み、ゼロ距離で背面武装(バックウェポン)から魔法を撃つ。

 

「ぐわぁぁぁぁ!!」

 

ケルヒルト(カルタ)のテレスターレの魔法攻撃をもろに食らったエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーはその衝撃で大盾を手放し、後方へと吹き飛ばされた。

 

吹き飛ばされながらも、何とか体勢を立て直したエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーが剣を構えるも、その剣はすぐさまケルヒルト(カルタ)のテレスターレの剣で弾き飛ばされてしまい、丸腰になったガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの左脚がケルヒルト(カルタ)のテレスターレに斬られた。

 

「なっ!?」

「これ以上魔力(マナ)を使いたくないからね……。これでおしまいにするよ!!」

 

倒れたガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの目の前でケルヒルト(カルタ)は剣を無慈悲に振り下ろした。

 

 

遠くより微かに響いていた、鋼の打ち合う音が──()んだ。

 

それはつまり、戦闘の終了を意味する。

 

「終わった……ようだな」

「……だな。おい、ディー!早く三日月と昭弘のとこに戻ろうぜ」

「そうだな、シノ。だが、その前にこれだけ言わせてくれ。フラウロスの援護射撃助かった。ありがとう」

「いいってことよ!おい、キッド~!そっちは大丈夫か?」

「俺、何の役にも立たなかったな……」

「そんな事ねぇよ。おめぇの幻晶甲冑(シルエットギア)がやつらを撹乱(かくらん)してくれたおかげで楽に賊どもをやれたんだ。マクギリスの奴に自慢してやれよ!」

「そっか、そうだな!ありがとう、シノさん!」

「よっしゃ、んじゃ戻るぞ~!」

 

ディートリヒのグゥエールとシノのガンダム・フラウロス、そしてキッドの幻晶甲冑(シルエットギア)は三日月、エドガー(昭弘)と決めた合流地点へと向かった。しかし、その合流地点には三日月のガンダム・バルバトスルプスレクスしかおらず、エドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの姿はなかった。

 

「三日月。昭弘はどうした?」

「分かんない。途中であいつらまた二手に別れたから俺と昭弘も別れたんだ」

「……なんか、嫌な予感がするな。道を戻るぞ!」

 

そう言ったディートリヒに続き、他の機体も走る速度を上げていく。

 

そうして、走り続けた四機は、エドガー(昭弘)の元へと辿り着いた。そこで四人が見たのは、倒れ伏したガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの姿だった。

 

「あれは?……アールカンバー!」

「……っ!!?」

「エドガー!無事か!?」

 

グゥエールから降りたディートリヒは焦りを隠せないまま、倒れたガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーに駆け寄る。

 

「……う、ディー……か?すまない、あの女を……取り逃がして、しまった……」

「あ、ああ、そうか。それより無事なのか!?待ってろ。今、砦まで運んで……」

 

安堵の息をついたディートリヒの提案をエドガー(昭弘)の鋭い声が(さえぎ)る。

 

「俺に構うな!!テレスターレを……賊に……渡す、訳には!!」

「エドガー!!」

「先輩!あれ……」

 

エドガー(昭弘)を心配して、その場を動こうとしないディートリヒにキッドが何かを指差してそう言った。

 

そのキッドが指差した先には……。

 

「何っ!?決闘級魔獣だと……!」

 

決闘級魔獣(モビルアーマー)の群れが道を塞いでいた。

 

「先輩!数が多すぎる!逃げよう」

「逃げる……?」

 

ディートリヒはキッドのその言葉を聞き、こう思考する。

 

(逃げる!?逃げる……にげる……にげル……ニゲル……ニゲ……バエル!?)

 

「ダメだよ、キッド」

「オルガなら、こう言うだろうな。「どこにも逃げ場なんてねぇぞ」「止まるんじゃねぇぞ…」ってな」

 

そして、ディートリヒは『あの日』の出来事を思い出す。

 

《ぎゃああああああ!》

《あっ、おはようございます先輩。今は戦闘中なので、出来ればお静かにお願いしますね》

《お前っ!なんてことを、正気なのか!?いや、そもそもなぜ戦っている!?》

《私の言葉はアグニカ・カイエルの言葉》

《はぁ?》

《バエルは甦った!》

 

《【バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル…………】》

 

 

「ああ!逃げるなど我々には出来ない!私は二度と騎士の矜持(きょうじ)を捨てはしないと誓ったのだ!」

 

エルネスティ(マクギリス)の洗脳魔法を受けたディートリヒの頭の中にある辞書には「逃げる」という文字はすでに存在しない。

 

再びグゥエールに乗り込み、決闘級魔獣(モビルアーマー)の群れへと剣を向けてそう叫ぶディートリヒの後ろから一機の幻晶甲冑(シルエットギア)が彼らの頭上から現れた。

 

「では、僕がお手伝いしましょう!!」

 

その声の主は、エルネスティ・エチェバルリア(マクギリス・ファリド)

 

「エル!」

「待たせたな!」

「私たちもいるよ!」

「准将ぉぉぉぉ!!」

 

彼の後ろからは銃を片手に持つオルガと幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったアディ、ヘルムヴィーゲ・リンカーに乗った石動も現れた。

 

「ミカ、シノ!何があった!?あの(ギャラルホルン)は?この魔獣は?それに昭弘は!?なんで倒れてる!!?」

「説明は後だ!まずはこいつらを片付けるぞ!喰らえ!ギャラクシーキャノン!!」

「いいから寄越せ!お前の全部、バルバトス!!」

「フッ、では、参りましょう!!純粋な力のみが成立させる真実の世界のために!!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

ダリエ村の災害をはるかに上回る決闘級魔獣(モビルアーマー)の群れもエルネスティ(マクギリス)達の夜を徹した活躍で完膚なきまでに駆逐された。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 




更新、遅くなりました。

ちょっと書く気力を無くしかけていたのですが、ウィンター兄貴の百錬オルガ10話を見たらやる気が出てきました。

俺は止まらねぇからよ、お前らも読むのを止めるんじゃねぇぞ……。


P.S. オルガ細胞のノベライズも書いたのでそちらも良ければ読んでみて下さい!11月4日に2話投稿します!



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ナイツ&オルガ6

魔女のお茶会にて──

「お呼びですか?」
「魔女のお茶会に招かれるなんて、ボクの世界では羨望の的なんだけど、君は不機嫌そうだね。……まぁいいや、聞いたよ彼から。ガエリオ・ボードウィンは無事送り出せたようだね」
「…………はい」
「それじゃ御望み通り、君もセッテルンド大陸に送ってあげるよ」
「えぇ……。お願いします。そこにマッキーはいるんですよね?」
「あぁ、彼は今、エルネスティ・エチェバルリアという人物として異世界生活を送っているよ」
「あの……一つ頼みたい事があるのですが……」
「いいよ、言ってみたまえ」
「……私をセッテルンド大陸へ送るなら「召喚」ではなく、「転生」という形をとって頂きたいのです。今の私の姿のままではマッキーに顔向け出来ません」
「何故だい?自分の成長した姿を彼に……エルネスティ・エチェバルリア(マクギリス・ファリド)に見せてあげればいいじゃないか」
「嫌です!……今の私は穢れているから……
「……いいだろう。そのくらいはやってあげようじゃないか。その代わり……」
「わかっています。六連星(むつらぼし)の導き手に相応しい者を選べばいいのでしょう」
「その通り。理解しているならもう言う事はないね。……じゃあ、行ってくるといいよ」

そして、ノーラ・フリュクバリ(アルミリア・ファリド)はセッテルンド大陸へと旅立った……。




後に『カサドシュ事件』と名付けられた一連の事件の数日後、テレスターレの開発に関わった鉄華団とライヒアラ騎操士学園の学生達は国王アンブロシウスの命により、シュレベール城へと集められた。

 

「此度の新型機開発、大義であった。しかし、そのうちの一機が何者かに持ち出された以上、今後さらなる向上と秘密の固持が求められるだろう。そこで任務の円滑な遂行の為、新たな騎士団の創設を命じる」

 

玉座より語りかけられる威厳にあふれる国王の声を聞き、オルガはこう思考する。

 

(ついにこの世界で鉄華団が国の騎士団として認められる訳だ……。ここが俺たちの辿り着くべき場所だったんだな……)

 

そう感傷に浸るオルガはその次に続く国王の言葉に耳を疑った。

 

「……エルネスティ・エチェバルリア!おぬしが団長となり、皆を導くのだ!」

「は?……まっ、待ってくれ!」

 

オルガはすぐさま、立ち上がり国王へ向けてこう告げる。

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……!」

「それを決めるのはお前じゃないんだよ……」

 

三日月はそう言って、オルガへと銃口を向ける。

 

「勘弁してくれよ……」

 

パンパンパン

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

オルガが希望の花を咲かせたのを見た国王は笑いを堪えながら、見てみぬ振りをして話を続ける。

 

「フフフッ……さて、名前を決めねばならんのう……」

「鉄華団」

「エルネスティ、お主にちなんで銀……」

「鉄の華……決して散らない鉄の華だ」

「ワシからは(おおとり)の名を贈ろう!」

 

そして、国王は少しの間を置いてからこう言った。

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団!それが今日からお主らが名乗るべき名前だ!」

 

「何やってんだぁぁっ!」

 

 

──数日後──

 

 

「つい、勢いで乗っちまったけど、騎士団だとよ!俺達が!」

 

ライヒアラ騎操士学園の工房でダーヴィドがそう笑った。それに対し、エドガー(昭弘)がこう言う。

 

「親方はその場に居合わせただけまだましだ。俺など倒れてる間に入団が決まっていたのだぞ」

「「俺は入れてもらえないかも……」なんて悲壮な顔してた癖に。ねぇラフタ」

「ホント、あの時の昭弘の顔すっごい面白かったよ。あんな悲しそうな顔もするんだね」

「ラフタ、ヘルヴィ、お前らなぁ……」

 

 

彼らがそんな談笑をしていた中、オルガは一人、用務員室に引きこもっていた。

 

《……エルネスティ・エチェバルリア!お主が団長となり、皆を導くのだ!》

 

その国王の言葉がずっと彼の頭の中で響き続ける。

 

昨日のエチェバルリア家でもこのような会話があった。

 

「「「騎士団長!?」」」

「はい!僕を団長として、銀鳳(ぎんおう)騎士団が新設されたのです!」

「はははっ!じゃあオルガくんは団長を下ろされてしまったということか?」

「そういうことになりますね」

「勘弁してくれよ……」

 

(俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……!)

 

彼が一人で自問自答を繰り返している所に三日月が入ってくる。

 

「ミカ……」

「何やってんの、オルガ?」

「……鉄華団を解散する……。俺たちはこれから銀鳳(ぎんおう)騎士団として進み続けなきゃいけねぇ……」

「ダメだよ、オルガ。それはダメだ」

 

そう言った三日月はオルガの胸ぐらを掴む。

 

ピギュ

 

「前にオルガが言ってた。「鉄華団は家族だ」「みんなの帰るべき場所だ」って。家族って解散するようなものなの?教えてくれ、オルガ。オルガ・イツカ」

「…………っ!」

「待ってるよ、みんな」

 

その三日月の言葉を聞いたオルガは再び立ち上がる。

 

「あぁ……分かってる。俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……。最高にイキがって、かっこいいオルガ・イツカじゃなきゃいけないんだ!そうだろ、ミカァッ!!」

 

再び立ち上がったオルガに三日月は笑みを漏らしながらこう答える。

 

「あぁ、そうだよ。連れていってくれるんだろ?」

「あぁ、そうだ。俺たちが今まで積み上げてきたもんは全部無駄じゃなかった。これからも俺たちが立ち止まらねぇかぎり、道は続くっ!……俺は止まんねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先へ連れてってやるよ!

 

そのオルガの言葉は異世界で旅を続けていくと誓ったあの日の言葉。その言葉をもう一度、口に出す事で彼らは再び契約を結ぶ。──決して散らない鉄血の契約を。

 

「すまねぇな、ミカ。みっともねぇとこ見せちまってよ」

「謝ったら許さない」

「あぁ、頼むわ」

 

パン!パン!パン!

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

「鉄華団を解散する」などという言葉を口にしてしまった弱気なオルガ・イツカは今、ここで命を落とした。この希望の花はこれから決して弱気な態度は見せないというオルガの誓いでもあった。

 

 

オルガと三日月が工房の会議室へやって来るとそこには銀鳳(ぎんおう)騎士団の面々が集合していた。

 

その銀鳳(ぎんおう)騎士団の団長であるエルネスティ(マクギリス)が皆へ向けてこう言葉を発した。

 

「皆さんお集まりですね!では……聴け!ギャラルホルンの諸君!」

「それはいいから本題を話せ」

 

ダーヴィドがそう言うと、エルネスティ(マクギリス)は少し不服そうな顔をしながらも本題に入る。

 

「いよいよ我ら銀鳳(ぎんおう)騎士団がその使命を果たす時が来ました!」

「新型機の開発だな?」

「はい。国王陛下が最高と認める機体という大目標はありますが、それだけではありません!十ヶ月後、国機研(ラボ)開発の新型機との模擬試合を執り行います!」

 

国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)』──通称、国機研(ラボ)。その名の通り、国の下で幻晶騎士(シルエットナイト)の技術を管理する為の組織である。

 

その国機研(ラボ)との模擬試合が行われるとエルネスティ(マクギリス)から聞かされた銀鳳騎士団の団員達は各々反応を示す。

 

「何っ!それは本当か!?」

国機研(ラボ)との勝負か~」

「それは大物だな」

「相手にとって不足はねぇ!」

国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)を驚愕せしめる機体を作りましょう!」

「「「「おおっ!!」」」」

 

 

そして、季節は巡り、銀鳳(ぎんおう)騎士団は新たな学生達を迎えていた。

 

「今年度から学園の各施設は国王陛下直属である我ら銀鳳(ぎんおう)騎士団に徴用された状態にある。君たちは騎操士学園の学生であると同時に我が騎士団の見習い騎士の身分になると心得て欲しい」

 

ライヒアラ騎操士学園の新入生達にエドガー(昭弘)がそう告げる。その後、団長の紹介へと移る。

 

「そして、銀鳳(ぎんおう)騎士団の団長が彼、エルネスティ・エチェバルリアである」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

 

 

その新入生の中には……。

 

「三日月さん!」

 

かつて、三日月のたった一人の部下として鉄華団の遊撃隊に所属していたハッシュ・ミディの姿があった。

 

「ハッシュ!?何でいんの?」

「俺もこの世界に転生したみたいなんすよ。俺、この世界でも三日月さんに着いていくって決めたんで」

 

ハッシュのその言葉を聞いた三日月はその顔に笑みを浮かべる。

 

「また一緒に仕事だな」

「っす!」

 

そして、エルネスティ(マクギリス)もまた、とある新入生の視線を感じていた。

 

 

説明会の後、ライヒアラ騎操士学園の新入生達がぞろぞろと解散していく。その新入生の中の一人、エルネスティ(マクギリス)に視線を送っていた長身の女性は目立たぬようにさりげなく集団から離れると、全員が移動した隙を見計らって工房へと戻ってゆく。

 

「……エチェバルリア騎士団長」

 

エルネスティ(マクギリス)は彼女を見ると、笑顔で頷き返し、先に歩み始めたオルガと三日月、ダーヴィドとエドガー(昭弘)へと声をかける。

 

「すいません、先に戻っていてもらえますか?僕は少し話がありますので」

「どういうことだ?」

「いいから行くよ、オルガ」

 

オルガは三日月に連れていかれ、ダーヴィドとエドガー(昭弘)も顔を見合せ、そのまま工房の奥へと戻っていった。

 

それからエルネスティ(マクギリス)とその新入生は誰も使用していない会議室へと向かう。

 

「意外ですね。藍鷹(あいおう)騎士団に所属する貴女が騎操士学科の新入生になっているとは」

「もともと私は()()()()としてこちらに向かうことになっていました。そこで他にもいくつかの目的があり、こういった形での派遣となったのです」

 

エルネスティ(マクギリス)は身長差のある相手を見上げながら、何かに納得するような表情を見せる。

 

彼女の名はノーラ・フリュクバリ。エルネスティ(マクギリス)の言葉通り、藍鷹(あいおう)騎士団に既に所属している騎士の一人だ。

 

藍鷹(あいおう)騎士団──その名前は一般には知られていない。そもそもどこの砦を調べたとしても、そのような名前の騎士団は存在しない。

 

実体なき騎士団、つまり彼女らは先日のケルヒルト・ヒエタカンナス(カルタ・イシュー)の率いる銅牙騎士団(地球外縁軌道統制艦隊)と同じく、いわゆる()()の集団なのだ。その藍鷹(あいおう)騎士団が名前を出して動く理由は、彼女たちの任務に大いに関係があった。

 

「こうして報告に来たということは、例の事件解明に何か進展が?」

「はい。まずは先日の調査の結果についてですが、銀鳳(ぎんおう)騎士団、及び学園に所属する者全員の素性の洗い直しについては完了しました。結果として経歴に不審な点のある者が数名見つかりましたが、彼らの処置についてはすでに完了しております」

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団の結成と前後して国王アンブロシウスから彼女達、藍鷹(あいおう)騎士団に下された命令は『ライヒアラ騎操士学園の徹底調査』であった。

 

「ライヒアラ全市街に人員を配置、結界を敷きましたので今後同様の事態が起きる心配はありません。しかしテレスターレ強奪の首謀者はいまだ不明」

「ふむ……カルタがどこの国の者かまでは分からなかったと……。ご苦労だった。今後もこの件は貴女方藍鷹(あいおう)騎士団に一任する」

 

報告を終えた彼女は丁寧な一礼をした後、こう呟く。

 

「それよりもまだ気づかないんですか?」

 

その呟きにエルネスティ(マクギリス)は首をかしげる。

 

「?」

「やはり気づきませんか……。私ですよ、()()()()!」

 

「マッキー」。彼女は確かにエルネスティ(マクギリス)の事をそう呼んだ。

 

生前、彼を──マクギリス・ファリドの事をそう呼んだのはただ一人。

 

(まさか……ノーラ・フリュクバリは……)

 

「アルミリア……君なのか……」

 

エルネスティ(マクギリス)は恐る恐る彼女にそう問いかける。

すると彼女は先ほど調査の報告をしていた時とは別人のような満面の笑みを浮かべ、こう言った。

 

「はい!マッキー!!」

 

その後、彼女の死の経緯などを聞き出そうとしたエルネスティ(マクギリス)であったが、その真実の答えを知るのはもっともっと先の未来の話である。

 

 

──数日後──

 

 

ライヒアラ学園街より少し離れた人気のない森の中。まばらな木々の合間を縫って、重量感溢れる足音を立てて歩く二機の巨人がいた。

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団所属の制式量産型幻晶騎士(シルエットナイト)『カルダトア』とP.D.世界の厄祭戦時末期に開発された「ヘルムヴィーゲ」のデータを元にモンターク商会の所持していたヴァルキュリア・フレームのMS「グリムゲルデ」を偽装する形で改修した『ヘルムヴィーゲ・リンカー』。

『カルダトア』を動かしているのはエルネスティ(マクギリス)、『ヘルムヴィーゲ・リンカー』を動かしているのは石動だ。

 

その足元には三機の幻晶甲冑(シルエットギア)が後について歩いていた。キッドとアディ、そしてもう一人はバトソンである。

 

森の中の開けた場所に着いた彼らは持ってきた荷物を広げ、中から奇妙な()()()()()エルネスティ(マクギリス)のカルダトアに取り付け始めた。

 

「よーし、取り付け終わったぜ~」

「あとで怒られないかな?勝手に新品のカルダトアを使って」

「私がバエルを動かす為です!」

 

カルダトアに取り付けられたこの筒状の装置は『魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスター)

 

バエルに最も必要なのは、機動力の高さだと考えたエルネスティ(マクギリス)幻晶騎士(シルエットナイト)の機動力を底上げする為にスラスターを後付けする事を思い付き、早速石動、アディ、キッド、バトソンとともにこの『魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスター)』を開発した。

 

今はその『魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスター)』の機動実験を行おうとしているところだ。

 

「四人は観測と計測を」

「は!」

「はーい」

「オッケー」

「あいよ」

「では……」

 

たっぷりと間を空けてから、エルネスティ《マクギリス》はこう言った。

 

エルネスティ・エチェバルリア(マクギリス・ファリド)、ガンダムゥ?バエル!出るぞ!!」

 

エルネスティ(マクギリス)は不敵な笑みを浮かべると、操縦桿の周りに増設したスイッチを一斉に押し込んだ。

 

 

──その瞬間、世界が切り替わった……。

 

 

最初に発生したのはまばゆい光、次に機体背後に長く伸びる炎の尾、少し遅れて(つんざ)くような轟音。

 

 

その轟音はライヒアラ学園街にも響き渡り、その轟音をライヒアラ騎操士学園の用務員室で耳にしたオルガは慌てて学園を飛び出す。

 

「何があった!?」

 

その時、上から落ちてきた割れたガラスの破片が刺さり、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

エルネスティ(マクギリス)により目醒めを告げられた魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスター)は全く停滞なく、猛然とその本性を剥き出しにした。圧縮を経た大気の塊が連続して爆発膨張し、強烈なジェット噴流による反動がカルダトアへと圧倒的な加速を与える。……いや、それはすでに加速などという生易しいものではなく、言うなれば()()()()()()という表現のが正しいか。

 

「うおっ!おおおぉぉぉぉぉぉう!?」

「准将ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

暴走するエルネスティ(マクギリス)のカルダトアを何とかして止めようと、石動のヘルムヴィーゲ・リンカーが飛び出す。

 

しかし、石動もどうすることも出来ずに、カルダトアに追突され、そのまま加速を続ける。

 

そして、急激な魔力(マナ)の消費に対し、魔力貯蓄量(マナ・プール)が枯渇する寸前のところでカルダトアの安全装置(リミッター)が作動し、カルダトアは停止した。ヘルムヴィーゲ・リンカーはそのカルダトアの下敷きになっている。

 

それを端から見ていた三人は……。

 

「うわぁ……こりゃヤベェことになったな」

「エル君と石動さん、生きてるかな?」

「いや、今のはまずいだろ!助けに行くぞ!」

「うん!エルく~~~~ん!!」

 

 

 

結果的にいえば、エルネスティ(マクギリス)は無傷、石動も軽症で済んだのだが、もちろんダーヴィドからは新品のカルダトアとヘルムヴィーゲ・リンカーを壊したことについてこっぴどく怒られることとなった。

 

「こっの、バッカ野郎!!」

 

ダーヴィドの声が工房中に響く。

 

「貴重なカルダトアとヘルムヴィーゲ・リンカーを大破させた上に死にかけただとぉ!!?一体何を考えてやがる!」

「何を、と言われましても……。新しい幻晶騎士(シルエットナイト)を作る為の前準備です。幻晶騎士(シルエットナイト)でバエルを作る為にはまず空を飛ばせなくてはいけませんから。機動力を上げる為にあのスラスターを……」

「そういう事を言ってるんじゃねぇよ!!ちょっとは反省しろ!!」

「バエルを持つ(予定の)私は、そのような些末事で断罪される身ではない」

「それの!どこが!!反省してるってんだ!!!」

「すみません。しかし、幻晶騎士(シルエットナイト)の機動力を上げるのは重要な事だと思うのです」

「まぁ、それはそうだが……」

 

エルネスティ(マクギリス)は工房の隅でチョコレートを食べながら、エドガー(昭弘)、ラフタ、アジーと話している三日月へと声をかける。

 

「三日月・オーガス。君が今まで戦ってきた相手の中で機動力の高いと思った機体を教えてもらっていいかな?」

「ん?うーん。ラフタが最初に乗ってたやつと……」

「百里ね」

「あとは……ガリガリかな」

 

「ガリガリ」、三日月がそう呼んだ男の名は『ガエリオ・ボードウィン』。ギャラルホルンを束ねるセブンスターズの一家門ボードウィン家の嫡男であり、マクギリスとカルタとは幼馴染の関係であった。

 

「ガエリオ……キマリスか……」

 

エルネスティ(マクギリス)の言う通り、そのガエリオの搭乗機は『ガンダム・キマリス』。各部に搭載されているバーニアによって、高い推進力と機動力を両立させている。

キマリスは長距離飛行・低軌道戦闘を想定して専用に開発された「キマリスブースター」や地上戦を想定した「キマリストルーパー」などのバリエーションがある。

 

そこまで思考したエルネスティ(マクギリス)は気が付いた。空を飛べない幻晶騎士(シルエットナイト)の機動力を上げる方法。それは……。

 

「人馬型だ……」

「は?」

 

エルネスティ(マクギリス)はそう言うと、ホワイトボードに設計図を書き上げた。

 

ホワイトボードに書かれた幻晶騎士(シルエットナイト)の姿はキマリストルーパーと同様『半人半馬(ケンタウロス)』のような見た目だった。

 

 

「……こりゃああれか、銀鳳騎士団(うち)はひょっとして、ゲテモノ専門になるのか?」

 

数分の沈黙の後、ようやく搾り出されたダーヴィドの感想はこうだった。

 

P.D.世界の者はキマリストルーパーを見ているのでそこまでの驚きはないが、セッテルンド大陸出身の者はやはり驚きを隠せないでいた。

 

「ゲテモノというか……いや……その、何といったものか。結局、何だいこれは?」

「脚が速くて、見た目にもわかりやすい機体です」

「え?いやそうかもしれないが、え?」

 

思考が迷走を始めたディートリヒに対するエルネスティ(マクギリス)の答えは簡潔だった。

 

「これくらいやれば、国機研(ラボ)の方々の度肝を抜くこともできると思いますし」

「頭に血が上りすぎるか、心臓破裂して死ぬんじゃねぇか、国機研(ラボ)の連中。……百歩譲って“馬”はいいとしようや。逆にだ、何故“上半身”をつけた!?」

 

いっそこれが完全に馬の姿をした幻晶騎士(シルエットナイト)を作ろうというのならば、この馬鹿馬鹿しい発想に呆れはしてももう少し抵抗は少なかったかもしれない。

 

このセッテルンド大陸(世界)にも人の体と馬の体をもつ生物、ケンタウロスは実在しない。やはり御伽噺や、空想上の存在なのだ。

 

幻想と空想の中にある存在を形にしようとするエルネスティ(マクギリス)。ひょっとして彼はかなり詩的メルヘンチックな趣味を持っているのだろうか、そんな別種の心配が鍛冶師達の背筋を寒くしていた。

 

そんな中でエルネスティ(マクギリス)はこう説明した。

 

「普通に馬の形をしただけでは格闘しづらいですし、それでは機動力だけ高くても意味がないではないですか。だからと言ってわざわざ他の機体を乗せて走るのでは、単に二度手間です。そこで高速で移動しながら単体で戦えるように、人と同じ上半身を備えつけたのです。つまりこれの目的は一機の幻晶騎士(シルエットナイト)で騎馬兵と同様の運用を再現する、と言う事になりますね」

 

一応真っ当な理由があったことに、鍛冶師達はそろって胸をなでおろした。手段が常識を一欠片も考慮していないだけで、彼の目的自体は極めて具体的なものである。過剰にメルヘンチックになることも無いだろう。

 

「あー、まぁ言いたい事とやりたい事はわかった。間違った方向に正しいが、とりあえずは置いてやる。だが、だからって馬に体くっつけるかよ普通……」

 

そう言いながら、ダーヴィドは覚悟とも諦めともつかぬ心境の中でその人馬型の幻晶騎士(シルエットナイト)の具体的な構想を考え始めた。

 

 

そして、十ヶ月後、国王アンブロシウスが定めた国機研(ラボ)との模擬試合の期日は後三日に迫った。

新型の幻晶騎士(シルエットナイト)も完成し、準備は万端である。

 

「それでは皆さん、陛下と国機研(ラボ)の度肝を抜きに行きましょう!」

 

皆の前でエルネスティ(マクギリス)はこう言った。

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団、王都へ向けて出発です!」

 

 




やはり遅くなりました。

おそらくですが、これからの更新はオルガ細胞と同様の更新速度(一ヶ月に一話ペース)になりそうです。

遅くはなりますが、頑張って書いていくので皆さんも感想等で応援よろしくお願いします!


次回のナイツ&オルガ7は二話に分けます。
一話はまるまる戦闘回にする予定です。



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ナイツ&オルガ6.5

あけましておめでとうございます!

遅くなりましたが、どうぞ



王都カンカネン。

オービニエ山地のゆるい傾斜を生かした、砦としての風格を色濃く残す街である。

 

この街を守る騎士団は『近衛騎士団』と呼ばれ、都市守護騎士団の一つではあるが特例的に国王直属の騎士団として扱われる。当然、カンカネンには彼らのための設備があり、郊外に存在している演習場もそのひとつだ。

 

その演習場で(くだん)の模擬試合が行われようとしていた。

 

 

演習場の中央はむき出しの地面が平らに(なら)されており、それを取り囲むようにしてすり鉢状に観覧席が並んでいる。

 

そしてその観覧席の一角、特に高くなっているところが貴賓(きひん)席である。その貴賓(きひん)席の中、一段と豪華に飾られた大きな椅子に座っているのが国王アンブロシウスであった。

 

「参れ!国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)!!」

 

国王アンブロシウスのその言葉とともに演習場にファンファーレが響き、国機研(ラボ)の開発した幻晶騎士(シルエットナイト)四個小隊(十二機)が国王の目の前に並ぶ。

 

観覧席に国機研(ラボ)の所長オルヴァー・ブロムダールと第一開発工房長ガイスカ・ヨーハンソンが上がって来て、国王の横に控える。

 

「国王陛下、ご機嫌麗しゅうございます!この模擬試合に相応しい最高の乗り手を用意致しました!そして、あれなるがテレスターレの技術を応用・発展して我が国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)が総力を挙げて開発した次期正式量産機。その先行試作機体である『カルダトア・ダーシュ』にございます!!」

 

ガイスカは嬉々として国王へ新型幻晶騎士(シルエットナイト)カルダトア・ダーシュのプレゼンを行った。

 

カルダトア・ダーシュは見た目こそカルダトアと似た形状であるが、中身はほとんど別物といっていいものである。金属内格(インナースケルトン)はある程度流用できる以外はほぼ新造しており、テレスターレに搭載された新機能──綱型(ストランドタイプ)結晶筋肉(クリスタルティシュー)背面武装(バックウェポン)も調整に調整を重ね、問題視されていた燃費と魔力貯蓄量(マナ・プール)の改善されたものを積んでいる。

テレスターレに比べ、その操作性は雲泥の差であった。

 

プレゼンを聞き終えた国王は笑みを浮かべながら好評する。

 

「うむ。さすがは我が国が誇る騎操鍛冶師(ナイトスミス)の最高峰よ、見事である。このカルダトア・ダーシュは素晴らしき力を持っておる。おぬしらの自信のほども当然の事であろう。して、此度(こたび)の催しにはその力を見せるに相応しい()()を呼んでおる!」

 

その国王の言葉に会場が喚く。皆この後、何がやってくるのかは周知の事実であった。

 

「来い!銀鳳(ぎんおう)騎士団よ!!」

 

そして、彼らが現れた瞬間、絶叫の唱和が大地を揺らした。

 

「なんだ、この足音は?」

「何っ!?あれは!」

「あれはなんだ!?」

 

観客席にいた者、控えの工房にいた者、その場にいた全ての者が驚愕のあまり声をあげて立ち上がった。立ち上がらない者は単に腰を抜かしていただけである。

 

()()は堂々と大地を揺らす轟音と土煙を引き連れ、門をくぐった。

会場中の全ての人の視線を奪った()()は人であり、馬でもあった。──本来、馬の頭部が備わっているべきところに()()()()()()が生えている。

 

驚きのあまり思考を凍らせていた会場の皆は徐々に冷静さを取り戻していく。

 

人馬の騎士が纏うは鋼鉄の鎧。額に突き出た一本の角。右手には巨大な斧槍(ハルバード)、左手には盾を持つ──それは異形ではあるが、やはり幻晶騎士(シルエットナイト)であった。

 

「ふふ、ふはははは……やりおったわエルネスティ! それでこそわしが見込んだものよ!いや予想以上か、これほどとは!まったく、まったく楽しいぞ!!」

 

熱に浮かれたようになっていた会場の皆を正気に戻したのは、国王の高らかな笑い声だった。

 

人馬型の幻晶騎士(シルエットナイト)()荷車(キャレッジ)から幻晶騎士(シルエットナイト)二機、モビルスーツ二機がそれぞれ姿を表し、その中の一機、深紅の装甲と兎の耳のように伸びたアンテナが特徴的なモビルスーツの操縦席(コクピット)から出て来た少年がその場の全員を代表するように前に出て、優美に騎士の礼をとった。

 

「陛下より御命を受け、銀鳳(ぎんおう)騎士団団長エルネスティ・エチェバルリア、同一番中隊隊長エドガー・C・ブランシュ、同二番中隊隊長ディートリヒ・クーニッツ、同遊撃隊隊長三日月・オーガスおよび最新鋭の人馬騎士『ツェンドルグ』ここに揃いましてございます」

 

銀色の髪を翻し、エルネスティ(マクギリス)は顔を上げて満面の笑みを見せる。

 

そのエルネスティ(マクギリス)の乗るモビルスーツは『グリムゲルデ』。P.D.世界にて厄祭戦後期に開発されたヴァルキュリア・フレームのモビルスーツだ。

大破したヘルムヴィーゲ・リンカーの修理はこの模擬試合にまで間に合わなかったため、偽装解除を施したグリムゲルデをエルネスティ(マクギリス)の乗機としたのだ。

 

他の三人の乗機はいつも通り変わらず

エドガー(昭弘)は『ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバー』

ディートリヒは『グゥエール』

三日月は『ガンダム・バルバトスルプス』

 

 

「ま、待ってくれ……」

 

そして、その後ろから遅れてやってきたモビルワーカーからも一人の青年が現れた。

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

 

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団が全員、会場に揃ったのを確認した国王は改めて彼らの紹介をする。

 

「さて改めて紹介しよう。()の者こそが、エルネスティ・エチェバルリア。新型機の設計者にして銀鳳(ぎんおう)騎士団の団長である」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「両雄並び立つこの場にてこれ以上の長口上は無粋であろう。これより国機研(ラボ)銀鳳(ぎんおう)騎士団による模擬戦を行う。双方支度を整えよ!」

 

国王の命に従い、国機研(ラボ)銀鳳(ぎんおう)騎士団の双方が模擬試合の準備を始める。

 

 

──そして、数十分後。

 

 

「これより国機研(ラボ)銀鳳(ぎんおう)騎士団による模擬戦を始める。なお戦力は均衡を取るため、銀鳳(ぎんおう)騎士団は幻晶騎士(シルエットナイト)二機、モビルスーツ?二機、モビルワーカー?一台、騎馬一騎とし、国機研(ラボ)幻晶騎士(シルエットナイト)三個小隊とする」

 

幻晶騎士(シルエットナイト)三個小隊つまり九機である。

ガンダム・バルバトスルプスとグリムゲルデは幻晶騎士(シルエットナイト)二機分、ツェンドルグは幻晶騎士(シルエットナイト)三機分と判断されたのだ。

 

 

「俺のモビルワーカーを無視するんじゃねぇぞ……」

 

何故、オルガは獅電ではなくモビルワーカーなのか。その理由は単純である。ツェンドルグの()荷車(キャレッジ)に四機しか乗らなかったからだ。

 

 

「それでどうすればいいの、チョコ?」

 

三日月がエルネスティ(マクギリス)にそう問うと、それに便乗してアディとキッドもツェンドルグのコクピットから身を乗り出してこう質問した。

 

「俺達はどう戦えばいいんだ?」

「やっぱりエルくんとミカくんが二機、私たちが三機相手にするの?エルくんとミカくんは大丈夫かもしれないけど私たちは自信ないよ?」

「それについては僕に考えがあります」

 

エルネスティ(マクギリス)の作戦指示を聞いた彼らは操縦席(コクピット)の中で不敵な笑みを浮かべた。

 

「んじゃあ、行くかぁ~!」

「俺も行くぞ!!」

 

 

高らかな喇叭(ラッパ)のファンファーレが演習場に並んだ双方の部隊の間を駆け抜けてゆく。

 

さらに戦闘の始まりを告げる銅鑼(ドラ)が打ち鳴らされ、大きな歓声が後に続く。

 

「戦闘、はじめぇーーーー!!」

 

直後、大地を揺らしながら巨人の騎士が突撃を開始した。

 

最初に動きを見せたのは銀鳳(ぎんおう)騎士団側だ。バルバトスが先陣を切り、それに追従して二機の幻晶騎士(シルエットナイト)とモビルワーカーが走り出る。そして、ツェンドルグはその後ろを速度をあわせてついてゆく

 

その後方で一歩も動かず止まっているのがエルネスティ(マクギリス)のグリムゲルデだ。

 

「止まるんじゃねぇぞ……」

「これも作戦のうちです。それよりも……」

「あぁ、わかってる……。やっちまえ!ミカァッ!!」

 

国機研(ラボ)のカルダトア・ダーシュは全機横並びにして、盾と長槍を構えようとしたが、その前に猛スピードで突っ込んできたバルバトスの奇襲を受け、陣形を乱してしまう。

 

「ばっ……なんだこいつは!?」

「槍では間に合わん!撃て!!」

 

カルダトア・ダーシュが背面武装(バックウェポン)で砲撃するが、それはバルバトスに軽々と避けられてしまう。

 

「ごちゃごちゃうるさいよ」

 

そして、バルバトスのメイスでカルダトア・ダーシュの一機が吹き飛んだ。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

「フィリア!!」

「くっ、悪魔め……」

「まずいな、私があれを抑える!ユンフは後ろを……」

「ゼルクス、敵はあれだけではない。下手に動くな!」

 

同僚の言葉にゼルクスは自分たちがもともと何と対峙していたのかを思い出す。

銀鳳(ぎんおう)騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)二機とモビルワーカー、そして人馬の騎士はもはや眼前に迫って来ていた。

 

「ミカが戦線を撹乱してくれた今が好機だ!行くぞ、お前ら!」

「ツェンドルグはとにかく走り回って場をかき乱すんだ!私とディーで奴らを抑える!」

「させるかぁ!!」

 

土煙を跳ね上げながらツェンドルグが密集しているカルダトア・ダーシュへと突撃、国機研(ラボ)騎操士(ナイトランナー)達はそれを慌てて避ける。

 

ツェンドルグはそのまま戦線を走り抜けていき、その隙をついてオルガのモビルワーカーとエドガー(昭弘)のアールカンバー、ディートリヒのグゥエール、三日月のバルバトスがカルダトア・ダーシュを追い詰める。

 

「俺は止まらねぇぞ!」

 

そう言って一番最初に突っ込んだオルガのモビルワーカーはカルダトア・ダーシュの剣の一閃を受け、木っ端微塵と化した。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

「……オルガは死んでいいやつだから」

「勘弁してくれよ……」

 

 

エドガー(昭弘)のアールカンバーとディートリヒのグゥエール、三日月のバルバトスがカルダトア・ダーシュを三方向から挟み込み、カルダトア・ダーシュは密集して方円陣形を取る。

 

そのまま互いに見合っている時、国機研(ラボ)騎操士(ナイトランナー)の一人が()()()に気付いた。

 

その()()()とは────

 

 

「……っ!エチェバルリアの紅色の機体は何処へ行った!!?」

 

その問いに答えるかのようにエルネスティ(マクギリス)の鳴き声がこだまする。

 

「バエルッ!!」

 

その声が聞こえたのは────

 

「エリック!上だ!」

「何っ!?うわぁぁ!!」

 

……空の上からだった。

 

 

後方から跳躍して、方円陣形を取るカルダトア・ダーシュの上空の隙をついたエルネスティ(マクギリス)のグリムゲルデが両腕部に装備されたヴァルキュリアシールドの裏面にマウントしてあるヴァルキュリアブレードをシールドに装着したままラッチを回転して展開し、そのブレードでカルダトア・ダーシュを捌いていく。

 

「このまま一気に畳み掛けるぞ!三日月、エドガー!」

「いいよー」

「相手はあの国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)だ。油断はするなよ、ディー」

「あぁ!分かっているさ!」

 

方円陣形の内側からエルネスティ(マクギリス)のグリムゲルデに、外側から三日月のガンダム・バルバトスルプスとエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバー、ディートリヒのグゥエールに挟撃され、国機研(ラボ)のカルダトア・ダーシュは全滅寸前へと追い込まれた。

 

「ちぃっ!このまま負ける国機研(ラボ)ではないぞ!」

 

国機研(ラボ)騎操士(ナイトランナー)の隊長、アーニィスは辛うじて銀鳳(ぎんおう)騎士団の包囲網から逃げ仰せるが……。

 

「アディ、回り込んで仕掛けるぜ!旋回始め!」

「りょーかーい!ツェンちゃんの足さばきを見せてあげるわ!」

 

戦線から少し離れた所で待機していた人馬騎士ツェンドルグが演習場の土を蹴り立て駆ける。

リズミカルな馬蹄(ばてい)の音とともに降り掲げられた斧槍(ハルバード)による奇襲を受け……。

 

「何っ!? か、【風の刃(カマサ)】はっ! ……間に合わなかったか……」

 

 

────国機研(ラボ)のカルダトア・ダーシュは全滅した。

 

 

 

「そこまで!この模擬戦は銀鳳(ぎんおう)騎士団の勝利とする!新型機の力、しかと見せてもらった。そして騎操士(ナイトランナー)達よ、見事な戦い振りであった」

 

その国王の言葉に(三日月とオルガ以外の)全騎操士(ナイトランナー)操縦席(コクピット)から出て、国王に礼をした。

 

 

この模擬試合を見た国機研(ラボ)の所長オルヴァー・ブロムダールはこう感想を述べる。

 

「これは……ハハッ、聞きしに勝る常識破りですね」

 

そして、国機研(ラボ)の第一開発工房長ガイスカ・ヨーハンソンは模擬試合が終わると同時に慌てて、貴賓(きひん)席から演習場へと駆け降りた。

 

「エルネスティ・エチェバルリア!!」

 

止まらずにエルネスティ(マクギリス)たちの元へ駆けてくるガイスカを見たキッドとディートリヒはこう言う。

 

「誰?」

「さぁ?国機研(ラボ)騎操鍛冶師(ナイトスミス)のようだね」

 

ガイスカはエルネスティ(マクギリス)の元へやって来ると開口一番、模擬試合の好評などもなく、こう質問をしてきた。

 

「あの人馬型はどうやって動かしている!?四本足の連携は!?あんな巨体が何故動く!?どんな秘密を隠してる!?教えろ!!」

 

その問いに対するエルネスティ(マクギリス)の答えは簡単なものだった。

 

「残念ながら、我々には話し合う必要も心を通わせる必要もないのです」

「んぬぬ……!!おのれ、小童(こわっぱ)!!」

 

 

 

 

 

この模擬試合を少し離れた所から見ていた一人の男がいた。

 

「こいつはぶったまげた!しばらく留守にしている間にフレメヴィーラはすごいもんを作ったなぁ……」

 

その男は近くにいた少年にこう問いかける。

 

「あの銀髪、名前は何と言ったか?」

「たしか……エルネスティ・エチェバルリアと……」

「エルネスティ・エチェバルリア……フフッ、面白い奴だ」

 

 




読んで下さってありがとうございます!

活動報告にも書きましたが、今年はナイツ&オルガとオルガ細胞の完結を目指して頑張って書いていこうと思います!

今年も変わらず応援のほどよろしくお願いいたします!



P.S.
ニコニコ動画の方に異世界オルガMADを投稿したのでそちらも合わせて見て下さると嬉しいです。

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm34407724




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ナイツ&オルガ7

(祝)デスマオルガ一周年!



セッテルンド大陸の中央にある陸地を大きく東西に分割する大崚嶺(だいしゅんれい)『オービニエ山地』

 

その険しい山々の間を縫うようにして西方諸国(オクシデンツ)とフレメヴィーラ王国を繋ぐ、比較的通りやすいように山の谷間に沿って作られている街道が『東西街道(オクシデント・ロード)』である。

 

その東西街道(オクシデント・ロード)を進む馬車の一団があった。

 

護衛として幻晶騎士(シルエットナイト)を従えた、そこそこの規模を持つ集団である。

 

馬車の装飾は質素なものだが、実にしっかりとした作りであることを見れば、中に乗る者はそれなりに身分のある人物であることが一目瞭然だ。

 

粛々(しゅくしゅく)と街道を進んでいた一団であったが、峠を越えたところで馬車の中から荒々しい一人の男の声が飛んだ。

 

「おい、馬車を止めてくれ!!」

 

その声がした後、すぐに馬車が停車し、護衛の幻晶騎士(シルエットナイト)が馬車を守れるように配置についた。

 

そして、その声の主が馬車から降りてくる。

 

彼は品良く仕立てられた高価な布地を惜しみなく使った上等な服を身に包んでいるのだが、少しばかり()()()()()()()()()()()

 

身の丈は二メートルにも迫り、さらに全身くまなく鍛えられている。

 

まさに野生的・圧倒的といった表現がしっくりくる風体の彼は獅子の(たてがみ)のように豪快に伸ばされた赤髪を風に(なび)かせながら、深く息を吸い込む。

 

「うまい!!オービニエの空気はやはり澄みきっているな。せせっこましいクシェペルカの城とは大違いだぜ!」

「まったくですね、殿()()!こいつも普段より調子がいいって言ってますよ」

 

背後に控える護衛の幻晶騎士(シルエットナイト)騎操士(ナイトランナー)がそう答える。

 

「はは、そうだろう!おおっ、見ろよ!懐かしき我が故郷だ!」

 

「殿下」と呼ばれたその大男が指差した先にはフレメヴィーラ王国の王都カンカネンとシュレベール城があった。その遥か向こうにはライヒアラ騎操士学園と学園街までもが小さく(かす)んで見える。

 

「おお、素晴らしきかなフレメヴィーラよ。それでは殿下、目前まで来たところですし、さっさとカンカネンに入ってしまいましょう」

「そうケチケチするなよ、こっちは城と馬車の中でずっと窮屈や退屈と戦ってたんだ!ちょっとは体をほぐしとかなきゃ、街についたとき動けなくなるぞ」

「そのまま動けなくても結構ですよ。シュレベール城の中まで護衛致します!」

「おいおい、勘弁しろよ。せっかく帰ってきた故郷なんだ。一人で街の散策くらいさせてくれ」

「とりあえず、馬車に戻って下さい」

「へいへい……」

 

そう言ってフレメヴィーラ王国第一王子『リオタムス・ハールス・フレメヴィーラ』の次男である『エムリス・イェイエル・フレメヴィーラ』は不満そうに馬車の中へと戻っていった。

 

 

それから二ヶ月後──

 

 

国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)は二ヶ月前の御前模擬試合のデータからカルダトア・ダーシュを改良し、最新鋭の制式量産型幻晶騎士(シルエットナイト)『カルディトーレ』を完成させた。

 

そのカルディトーレはすでに十分な稼働試験を終え、すぐにでも量産態勢に入ることが出来る。

シュレベール城の護衛を任される近衛騎士団にはすでにカルディトーレを用いた訓練も実施されており、今後は他の騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)も順次この新型へと以降していくだろう。

 

 

そんな中、国王アンブロシウスとその息子──フレメヴィーラ王国第一王子リオタムスはシュレベール城の内城とも呼ばれている城の最奥部。中央に向けて高さを増す構造をした城の中で最も高い塔の部分。シュレベール砦と呼ばれる場所に集まっていた。

 

そこに彼──『エムリス・イェイエル・フレメヴィーラ』も姿を現した。

 

「おぉ、じいちゃん、親父(オヤジ)、待たせたな!騎士団の連中に稽古つけてやったらついつい熱くなっちまってよ。しばらく留守にしてる間に連中、ずいぶん(なま)っちまったんじゃねぇか~」

 

エムリスは肩にタオルを掛け、半裸のまま部屋へと入ってくる。

 

「しかし、いい機体だなカルディトーレは!やっぱ新型ってやつは男の……」

「エムリス!黙ってここに座れ!!」

 

そんなエムリスの言葉を遮って、アンブロシウスが叱責する。

 

「はいよ」

 

エムリスが服を着て、席に座ったのを確認したアンブロシウスはこう話し始めた。

 

「今回お前達を呼んだのは他でもない……」

 

少し間を置いてからアンブロシウスは静かにこう宣言する。

 

「リオタムスに国王の座を譲る」

 

その宣言に二人は驚きを隠せなかった……。

 

「……っ!」

「じいちゃん……」

 

 

西方歴一二八〇年。フレメヴィーラ王国、国王アンブロシウスは王位を退き、新王リオタムスが即位した。

 

 

同じ年、銀鳳(ぎんおう)騎士団は新たに建造されたオルフェシウス砦へと拠点を移した。

 

それから程なくして──。

 

「え?カンカネンから呼び出し?」

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団はフレメヴィーラ王国の王都カンカネンに呼び出された。

 

 

シュレベール城へとやってきたエルネスティ(マクギリス)とアディ、オルガ、三日月は謁見の間とは別の場所へと案内された。

 

彼を呼び出したのは現王リオタムスではなく、先王アンブロシウスであるからだ。

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団団長エルネスティ・エチェバルリア、召喚に応じ()せ参じました」

「同じく団長補佐アデルトルート・オルター、参りましたっ!」

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……」

「あ、これ、俺も言わなきゃダメなの?」

「いや、三日月・オーガス、君はそれでこそだ」

「?ありがとう、チョコ」

「多分だけどよ……褒めてねぇんじゃねぇか?」

「そんなことはありませんよ?」

「こういう時だけエルネスティに戻るんじゃねぇぞ……」

 

 

その会話の途中、奥の部屋から国王アンブロシウスとその孫、エムリスが出てきた。

 

「うむ、よく来たな。皆、まずは楽にするがよい」

「おう、お前がエルネスティ・エチェバルリアか!以前の御前模擬試合の時に一目見たきりだったが、本当にちっこいな!」

「誰なんだよ、そいつは?」

「お目にかかれて光栄です。()()()()殿()()!」

「……火星の王?」

 

ピギュ

 

「すいませんでした……」

「謝ったら許さない」

「勘弁してくれよ……」

 

パン!パン!パン!

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「ふははははっ!やはりお前達はおもしろいな」

 

先王アンブロシウスは希望の花を咲かせたオルガをひとしきり笑った後、本題に入る。

 

「さて、エルネスティよ。おぬしに頼みがある」

「頼み、ですか?」

「うむ、一つワシの為に幻晶騎士(シルエットナイト)を作ってくれぬか?」

「それは構いませんが……何故?」

「隠居の身とはいえ、何もないでは退屈しのぎも出来ん。そこでせっかくならばお主に(こしら)えて貰おうと思ってのう」

「あぁ、分かったよ!やるよ!」

「チョコの人がね」

「あ、だったらついでに俺のも作ってくれよ」

「は?」

 

自分にも幻晶騎士(シルエットナイト)を作って欲しいと言うエムリスにエルネスティ(マクギリス)達は困ってアンブロシウスの方を一目見る。

するとアンブロシウスはため息混じりにこう言った。

 

「ふうむ、二つ用意出来るか?」

「問題ございません。それでどのような機体をご所望でしょう?」

 

エルネスティ(マクギリス)がそう聞くと、アンブロシウスが何か口を開きかけるが、それに先んじてエムリスが勢い良く立ち上がって力強くこう告げた。

 

「そうだな!まず何と言っても重要なのは『(パワー)』だ!!」

「はい!」

「そして、『(パワー)』だ!!!」

「は、はい」

「さらに『(パァゥワァー)』だ!!!」

「は、はぁ……」

「脳筋……?」

「昭弘じゃねぇか……」

 

 

その頃、オルフェシウス砦では──

 

「ハックション!」

「ちょっと~!大丈夫、昭弘?」

「お、おう……。どうしたんだ?エドガー?」

「何?風邪?どっちでもいいけどこっちに移さないでよね」

 

大きなくしゃみをするエドガー(昭弘)を心配するラフタとディートリヒ、そしてヘルヴィ。

その様子を見ていたアジーはため息をついてこう言った。

 

「全く……。筋トレのし過ぎなんじゃないか?()()()でもガチムチになるつもりかい?」

「よく分からんが、誰か噂でもしているのかもな」

「「こっち?」」

 

ディートリヒとヘルヴィはアジーのその言葉に首を傾げていた。

 

 

それから、数日後。オルフェシウス砦に戻ったエルネスティ(マクギリス)達は早速、アンブロシウスとエムリスの為の幻晶騎士(シルエットナイト)製作に取り掛かった。

 

そして、季節は巡り──

 

アンブロシウスとエムリスの専用機は完成した。

 

 

「おお!」

「これはまた……遊んだのう、エルネスティ」

 

アンブロシウスが笑いを押し殺しながら呟く。

彼の言葉の通り、その二機の幻晶騎士(シルエットナイト)は実に仰々(ぎょうぎょう)しい意匠を備えていた。

 

片方が持つのは獅子の(すがた)。胸の装甲を含む胴体周辺が獅子の顔を模しており、装甲も獅子の(たてがみ)を意識している。さらに各所が金色に仕上げられており、とても目立つ機体だ。

 

もう片方が持つのは虎の(すがた)。こちらは胴体周辺が虎の顔を模した意匠となっている。それ以外は簡素なものであるが、全体が銀仕立てになっている為、金色の機体にも引けを取らない。

 

「如何でしょう!『金獅子(ゴルドリーオ)』と『銀虎(ジルバティーガ)』と申します!」

 

その二機を前にエルネスティ(マクギリス)は嬉々として幻晶騎士(シルエットナイト)のプレゼンを始める。

 

「お申し付け通り、両機とも力に(ひい)でているのはもちろんですが、さらに守りについても重視した(こしら)えとなっております!」

 

そのプレゼンを聞いて二人とも異論はないようだ。

エムリスはまるで子供のようにはしゃぎながら「気に入ったぜ!」といって満面の笑みで片方を指差す。

同時に、両機を見比べていたアンブロシウスも「ふむ」と(うなづ)いて片方を指差した。

 

「よーし、そんじゃ俺は……」

「それでは、ワシが……」

 

「「こっちを貰おうか!」」

 

二人とも指を差したのは『銀虎(ジルバティーガ)』ではなく、『金獅子(ゴルドリーオ)』だった……。

 

アンブロシウスとエムリスは同時に言葉を止めて見つめ合う。張り詰めたような沈黙が両者の間に落ちた。

 

「おいおい……ちいとばかし、年を考えてくれよ。こんなに派手な機体は似合わないぜ?」

「お主こそ、獅子と嘘吹くにはまだまだ未熟……。中身が羊とあっては王族の恥というもの」

「待ってくれ……!!」

 

見えない火花が二人の間に飛び散っていたところにオルガが仲裁に入r……

 

「王になる。地位も名誉も全部手に入れられるんだ。こいつはこれ以上ないアガリじゃねぇのか……?」

 

否、仲裁ではなく『金獅子(ゴルドリーオ)』強奪戦への参加表明であった……。

 

「ならよ、じいちゃん。それにオルガだったか? 一つ手合わせしようぜ?」

「実力でもぎ取ろうというのか?……ふむ、よかろう!格の差を思い知らせてくれるわ!!」

「オルガもそれでいいな?」

 

エムリスから模擬戦の提案を受けたオルガは不敵な笑みを浮かべてこう言った。

 

「ミカァ!やってくれるか?」

「何言ってんの?」

 

無慈悲な代理拒否。当たり前である。

 

 

しばし後、場所は王城に併設された近衛騎士団用の訓練所。

 

赤茶色の地面の上を熱気を孕んだ風が吹き抜けていく中、二機のカルディトーレと一機の獅電が睨みあっていた。

 

「言っとくが、手加減しねぇぜ!」

「今生の名残に我が武技、特と味わっていけ!」

 

二機のカルディトーレから声が響く。

それに対するように白い一角の獅電からもオルガの声がした。

 

「テイワズからもらった俺の獅電の力、見せてやろうじゃねぇか!!」

 

P.D.世界では乗る事の叶わなかったオルガの専用獅電『王様の椅子』。

その『王様の椅子』はようやく本来の主を座らせる事ができ、愉快げな様子で猛っていた。訓練所に快調な駆動音が響き渡る。

 

そんな音の高鳴りが最高潮に達した時、喇叭(ラッパ)のファンファーレが訓練所を駆け抜けた。

始まりの合図を受けて、三機が同時に動きだした。

 

「行くぜぇ!!」

 

エムリスのカルディトーレが剣を振りかざし、アンブロシウスのカルディトーレが両手に持つ槍でそれを防いで、鍔迫り合いの状態になる。

 

そこへ離れた位置まで後退したオルガの獅電が手に持つライフルで二機のカルディトーレを狙う。

 

「ふんっ!!」

「はぁっ!」

 

ライフルの銃弾が着弾する前に即座に後退する二機のカルディトーレ。その内の一機、アンブロシウス機が後退しながらも槍を伸ばし、エムリス機を突き穿つ。

 

「何っ!」

「俺は止まらねぇぞ!」

 

槍の攻撃を受け、バランスを崩したエムリス機に直ぐ様、オルガの獅電が銃口を向ける。

 

ダダダダダダッ!!

 

「ちぃっ!!」

 

獅電の銃擊を何とか剣で(しの)ぎながら、エムリスはカルディトーレの操縦席(コクピット)の中でこう思考していた。

 

(訓練用の得物(ペイント弾)でなけりゃ、とっくにやられてるな……)

 

しかし、そこに文字通り()()が入る。

 

「このワシを忘れてもらっては困るのう!!」

 

エムリス機に集中放火を浴びせるオルガの獅電の横からアンブロシウス機の槍が伸びてきて、オルガの獅電が吹き飛ばされる。

 

ヴァアアアアアア!!

 

 

「勝機は剣の中にありだ!!」

 

オルガの獅電の銃擊が止まったと同時にエムリス機が動き出す。

 

「攻め気に(はや)り、足元が疎かではなぁ!」

 

がむしゃらに突っ込んでくるエムリス機へと槍を向けるアンブロシウス機。

 

しかし、その瞬間エムリス機はアンブロシウス機が突き出した槍を踏み台にし、高く跳躍。

踏み台にされた衝撃でアンブロシウス機は槍を地面に落とし、エムリス機はその隙をついて自重で落下しながら剣を振り下ろし、アンブロシウス機の面を打った。

 

「ア、アンブロシウス機!戦闘不能!!」

 

そう審判の声が響く。アンブロシウスは(やぶ)れた。

 

「……ふっ、我が身も老いたものよのう」

「さて、後はお前だ!オルガ!!」

 

アンブロシウスを負かしたエムリスが次の標的(オルガ)にそう吼える。

 

「王になる。地位も名誉も全部手に入れられるんだ。ここで引き下がる訳にはいかねぇ!!」

 

ヴァアアアアアア!!

 

叫びながらライフルの引き金を引くオルガの獅電。

 

……しかし、獅電のライフルから銃弾は射出されなかった……。『弾切れ』である……。

 

「もらったぁぁ!!」

「やられてたまるか!このままじゃ……こんなところじゃ……終われねぇっ!!」

 

そして、オルガはこう叫ぶ。

 

「【ミカァ!】」

 

…………しかし、なにもおこらない。

 

「【ミカァ!】、【ミカァ!】」

 

…………やはり、なにもおこらない。

 

「何やってんだ、ミカァァァ!!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

「オルガ機、戦闘不能」

 

金獅子(ゴルドリーオ)』を巡る争いはエムリスの勝利で終わった。

 

 

 

その様子を観客席から見ていた三日月は──

 

「オルガは……死んでいいヤツだから」

 

そう呟いてエルネスティ(マクギリス)から貰ったチョコを口に頬張っていた。

 

 

 

戦いを終え、訓練所を後にしたエムリスは早速、金獅子(ゴルドリーオ)操縦席(コクピット)に乗り込む。

 

「じいちゃんから勝ち取ったこの金獅子(ゴルドリーオ)でみっともない姿は見せられないな!」

 

 

そんなエムリスの後ろからゆっくりと歩いてきたオルガを見て、三日月はこう言った。

 

「ははっ、色男になってんね」

「まぁな。だがよ……この戦いでやっぱ俺の機体はこの『王様の椅子』なんだって事がよく分かった。なんつーかこいつがミカでいうとこのバルバトスみてぇな……『相棒』だってことがな」

「うん。こいつもやっとオルガを乗せられたって嬉しがってるよ」

「ふっ、……そうだな」

「ということは、この銀虎(ジルバティーガ)はワシが貰ってもよいということじゃな」

 

そう言いながらアンブロシウスも訓練所から戻ってきた。

 

「あぁ、それで構わねぇ。俺の機体はやっぱ、この獅電だからよ……」

「うむ。……さて、エルネスティよ」

「はい」

「もう一機の銀虎(ジルバティーガ)だが、金獅子(ゴルドリーオ)に遅れを取ることはあるまいのう」

「ご心配には及びません。元より外見以外は全く同じものでございますので」

 

その言葉を聞いてアンブロシウスは安堵する。

 

「ならばよし!」

 

 




地味に私の異世界オルガで初めてオルガが専用獅電に乗りました(笑)


あと、前書きにも書きましたが今日はデスマオルガの一話が投稿された日になります。一周年おめでとうございます!その記念に時間も合わせての更新です。

時の流れが経つのは早いですね。



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ナイツ&オルガ8

遅くなってすみません許して下さい、何でもしま…………せん

便利な言葉「そして」




その日、シュレベール城に御前会議を中断させるほどの(しら)せが届いた。

 

「アルチュセール山峡関(さんきょうかん)要塞より特秘一級指定の書状です。殻獣(シェルケース)の大規模な群れが森都(アルフヘイム)に迫っている。とのこと」

「なんだと!?」

 

殻獣(シェルケース)とは、巨大な殻で全身を覆われた魔獣(モビルアーマー)の一種である。その生態は蜂や蟻に近く、群れの中に一匹だけの女皇殻獣(クイーンシェルケース)が繁殖を担う。

 

かつてオルガ達がP.D.世界で戦ったハシュマルやカズマ、アクア達の世界で戦ったデストロイヤーと同タイプのプルーマ随伴型モビルアーマーである。

 

 

そして、銀鳳(ぎんおう)騎士団の拠点である『オルフェシウス砦』へと、時ならぬ来客が現れたのは、王都へと凶報がもたらされたその次の日であった。

 

砦へと二機の幻晶騎士(シルエットナイト)が駆け込んでくる。

その姿を見た駐機場にいた者たちは例外なく、心底から驚愕した。

何しろ現れたのは、黄金に輝く獅子の意匠を(かたど)った幻晶騎士(シルエットナイト)金獅子(ゴルドリーオ)』と銀色に煌めく虎の意匠を(かたど)った幻晶騎士(シルエットナイト)銀虎(ジルバディーガ)』であったからだ。

この『金獅子(ゴルドリーオ)』と『銀虎(ジルバディーガ)』の騎操士(ナイトランナー)が誰であるか、改めて言うまでもないだろう。

 

「先王陛下とエムリス殿下!?こんな所までいらっしゃるとは、一体どのようなご用件でしょうか!?」

 

駐機場へ飛んできたエルネスティ(マクギリス)がそれぞれの幻晶騎士(シルエットナイト)より降り立ったエムリスと先王アンブロシウスにそう問う。

 

「どうした、マクギリス?んな慌ててよ」

「ん?何で王様がいんの?」

「違うぞ、三日月。元王様だ」

「シノ……言葉使いに気を付けろよ。先王陛下だ」

「固っくるしいんだよ、ユージンは」

「仕方ねぇだろ、お前らが死んじまった後に俺はお嬢のボディーガードやってたんだ。言葉使いとかはそりゃ気にするだろ」

 

騒ぎを聞きつけた面々が集まってくる。

やがて、十分に人が集まったのを見計らってアンブロシウスはこう口を開いた。

 

「エルネスティよ、いや、銀鳳(ぎんおう)騎士団よ!これより伝えるは現陛下より下される『王命』である!!」

 

アンブロシウスは厳しい表情のままそう叫んだ。

その並々ならぬ気迫に満ちた様子を感じとったエルネスティ(マクギリス)は真剣な顔でこう言った。

 

「……会議室で詳しく聞きましょう」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

工房の隅に作られた会議室にエルネスティ(マクギリス)とアディ、キッド、オルガ、三日月、石動、エドガー(昭宏)、ディートリヒ、ヘルヴィ、ユージン、チャド、シノ、ラフタ、アジー、ハッシュ、ダーヴィドとワトソン、そして、エムリス、アンブロシウスが一同に集う。

 

そんな中でアンブロシウスがこう話し始めた。

 

「先に言っておく。今より話す事は一切の他言無用である。……端的に言おう。殻獣(シェルケース)…多数の群れを作る魔獣が現れた」

「モビルアーマー、じゃねぇか……」

「あれは……天使だ。その群れはプルーマと呼ぶらしい」

「うむ、確かに古文書にはプルーマと記載されておったな。……その殻獣(シェルケース)共が向かう『森都(アルフヘイム)』は我が国の魔力転換炉(エーテル・リアクター)の生産地なのだ」

「何っ!?エイハブ・リアクターの生産地だと!!?」

「エーテル・リアクターだよ、オルガ」

「すいませんでした……。それで、止める方法は!?」

「起動してしまった以上、破壊するしかない。出来るものならな……」

 

その言葉を聞いたオルガはすぐに行動に移す。

 

「くっ……ミカ、急ぐぞ!」

「うん」

幻晶騎士(シルエットナイト)よりモビルスーツのが起動力は上だ。昭宏とユージン以外の鉄華団とタービンズは先に現場に急行する!!俺も獅電で出る!!」

「分かった」

「よっしゃあ!」

「了解」

「任せてよ!」

 

オルガの指示にチャド、シノ、アジー、ラフタが答える。

 

同様にエルネスティ(マクギリス)銀鳳(ぎんおう)騎士団に次のような指示を出す。

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団、総員出撃準備!石動はヘルムヴィーゲで鉄華団とともに先行しろ!」

「はっ!」

「ユージンさんはヘルヴィさんの三番中隊に入って下さい!!」

「おう!こういう時のために幻晶騎士(シルエットナイト)も使えるようにしといたんだ!やってやるよ!」

荷馬車(キャレッジ)の準備が整い次第、急行します!オルガ団長、三時間後に合流を!」

「わかった」

 

そこにハッシュの声が響く。

 

「三日月さーん!バルバトスルプス、来ました!」

「止めるよ、アルフヘイムに行く前に」

「頼んだぜ、遊撃隊長」

「うん」

 

そして、エルネスティ(マクギリス)はこう呟いた。

その呟きをオルガが耳にする。

 

「……アグニカ・カイエルはモビルアーマーを倒して、ギャラルホルンを築いたのだ」

「は?」

「この状況下でこそ、私が本当に望んでいたバエルを手に入れられるかもしれない!」

「あんた、正気か?」

 

 

それぞれの思惑が交差する中、旅団級魔獣(モビルアーマー)女皇殻獣(クイーンシェルケース)』との戦いが始まった。

 

 

 

約三時間後──

 

 

ガチャガチャと無機質な音が森中にこだまする。

 

森の奥から涌き出るように現れるプルーマをチャドのランドマンロディとオルガ、ラフタ、アジーの獅電が迎え撃つ。

 

「耐えろ!お前ら!!」

「あと少し……あと少しで!!」

「あと、ちょっと!何とかなる!!する!!」

「あぁ、この調子なら……!」

 

 

森都(アルフヘイム)を護る最終防衛拠点である『アルチュセール山峡関(さんきょうかん)要塞』をいきなりプルーマの群れに晒す訳にもいかず、鉄華団は現場で戦っていた騎操士(ナイトランナー)達と協力して、プルーマの殲滅に当たっていた。

 

辟邪を駆るハッシュも同様に事に当たっていたが──

 

「くっそ……前に出過ぎた!この機体、やっぱ地上戦のデータが少な過ぎて、まだセッティングが……」

 

辟邪のコンソールを弄っているその時、コクピット内に警告音が響く。

 

ハッシュが機体操作に今だ慣れず、生じてしまった隙をついて死角から接近したプルーマが襲い掛かって来た。

 

その状況にハッシュは既視感を覚える。

 

(これじゃ、俺が前死んだときと全く同じじゃねぇか……。このままじゃ、また死んじまう……。怖ぇぇ!!)

 

 

──その時、襲い掛かってきたプルーマが何者かに振り払われた。

 

 

思わず閉じた目を恐る恐る開いた時、ハッシュの目の前にあったのは──白い悪魔の後ろ姿だった。

 

「生きてる?」

「三日月さん!!」

 

(やっぱ、かっけぇなぁ……)

 

ハッシュの三日月への忠誠心がさらに強まった瞬間であった。

 

 

「フィリア、ユンフ、ゼルクス!俺達も彼らに続くぞ!!」

 

国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)(通称、国機研(ラボ))の騎操士(ナイトランナー)の一人、エリックも同僚達とともにプルーマと交戦中であった。

 

エリックの目の前にはシノのガンダム・フラウロスと石動のヘルムヴィーゲ・リンカーがプルーマを破壊していく光景が映る。

 

以前の模擬試合で負けてから、彼は銀鳳(ぎんおう)騎士団に憧れを抱いていた。

 

(いつか俺も彼らのように強く……)

 

そう心の中で願いながら、自身の朱色のカルダトア・ダーシュを駆り、戦い続けるエリックはふと、迫る殻獣(シェルケース)の背後に奇妙なものを見つけた。

 

これまでに戦っていた殻獣(シェルケース)とは異なる鮮やかな色合いの()()がはためいている。

 

(ん?)

 

それは……『旗』だった。

 

剣と盾、そして草木を示す葉を組み合わせたフレメヴィーラ王国の国旗。

 

その下には剣を抱き、翼を広げる銀の(おおとり)と角笛を吹く男、そして赤い華を模した紋章が記されている。

 

その『旗』をエリックは知っていた──。

 

「援軍か!?」

「あぁ、あれは……!!」

 

 

その『旗』を掲げる青いカルディトーレ『トイボックス』が拡声器を使い、こう宣言する。

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団、ここに参上!!」

 

そのエルネスティ(マクギリス)の声を聞いたエリック達は安堵の息を漏らす。

 

「彼らが集った……。銀鳳(ぎんおう)騎士団が……!」

 

 

そして──

 

「突撃!」

 

エルネスティ(マクギリス)のその声とともに、銀鳳(ぎんおう)騎士団は一斉に動き出した。

 

 

 

到着した銀鳳(ぎんおう)騎士団の中で最初に動いたのは、幻晶騎士(シルエットナイト)開発主任であり、騎士団長でもあるエルネスティ(マクギリス)達だ。

トイボックスが乗る戦馬車(チャリオット)を牽引する二機のツェンドリンプル。アディとキッドの二人がプルーマの群れを蹴散らしながら進んでいく。

 

 

「三番中隊、砲撃用意!」

 

そして、次にヘルヴィの号令でツェンドリンプル部隊が動く。

 

「先行する騎士団長周辺の魔獣を一掃する」

「了解っ!!」

 

そのツェンドリンプル部隊のうち一機を操るのは、最近、魔法と幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦を覚えたユージンだ。

 

ヘルヴィ、ユージン達の駆るツェンドリンプルが魔法で砲撃する。

 

 

その法撃はオルガの獅電の戦闘区域に真っ直ぐ向かい──

 

ヴァアアアアアア!!

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「よっしゃ、行くぞ!金獅子の初陣だ!!」

 

停車した荷馬車(キャレッジ)に積まれていた幻晶騎士(シルエットナイト)が大地に立つ。

 

その中の一機、エムリスの『金獅子(ゴルドリーオ)』はそのまま目前に群れるプルーマへ向き直ると、大剣を無造作に構えた。無限にも見える魔獣の数に怯む様子はなく、むしろ楽しげですらある。

 

「くらえっ!!獣王轟砲(ブラストハウリング)!!」

 

エムリスがそう叫びながら、操縦桿に備わったトリガーを押し込むと、金獅子(ゴルドリーオ)の肩の装甲が開き、内臓されていた紋章術式(エンブレム・グラフ)(あらわ)となった。同時に背後の魔導兵装(シルエットアームズ)も展開し、その全てが一斉に駆動を始める。

 

これこそが複数の魔導兵装(シルエットアームズ)を連動させる事によって大規模な魔法を放つ、金獅子(ゴルドリーオ)特殊魔導兵装(ワンオフ・シルエットアームズ)獣王轟砲(ブラストハウリング)』だ。

 

「あれはまさか……ビーム兵器!?」

 

チャドは勘違いしているが、獣王轟砲(ブラストハウリング)に刻み込まれた戦術級魔法(オーパード・スペル)は大気操作。

金獅子(ゴルドリーオ)の周囲の大気が渦を巻いて収束する。そのまま圧縮された大気を解き放ち、激烈な衝撃波を繰り出した。

 

放たれた轟風はまさに獣王の咆哮のごとし。

その獣王轟砲(ブラストハウリング)は狙い(あやま)たず目前にいたプルーマの群れを一掃した。

 

その威力にエムリスは満足げな様子で高笑いをあげるが……

 

「はっはっはっは!見たか!!……っておい!!魔力貯畜量(マナ・プール)が底つきかけてるぞ!!」

「それはまぁ、威力相応の代償といいますか……」

 

そう笑うエルネスティ(マクギリス)にアンブロシウスがこう言った。

 

「エルネスティ!ここは任せよ!お主はクイーンを探せ!好きに暴れてこい!!」

「そうか、ではお言葉に甘えさせてもらおうか」

 

エルネスティ(マクギリス)がそう答えると、アディとキッドのツェンドリンプルは再び走りだした。

 

 

それを見ていたオルガはシノへ向けてこう告げる。

 

「シノォ!マクギリスの援護頼む!」

「おうよ!んじゃ俺は砲撃ポイントに向かうぜ」

「頼んだぞ!!」

 

 

プルーマを叩き潰しながら、エルネスティ(マクギリス)のトイボックスを乗せた戦馬車(チャリオット)が森の奥へと進んでいく。

 

 

その途中──

 

「ん?」

 

アディが何かを感じ取った。

 

 

アディの駆るツェンドリンプルの真上から巨大な()が落ちてくる。

 

「ぎゃああああ!!」

「うわっ!?お、おい!」

 

急旋回するアディのツェンドリンプルに引っ張られるキッドのツェンドリンプルとエルネスティ(マクギリス)のトイボックスを乗せた戦馬車(チャリオット)

 

急旋回の後、急停止した戦馬車(チャリオット)の目の前には──

 

「なんだよ、急に」

「あ、あれ……」

「……あっ!」

 

目の前に立つ旅団級魔獣(モビルアーマー)女皇殻獣(クイーンシェルケース)』は彼らの予想外の巨体を備えていた。

 

六本の歩行脚と二本の鋏脚(きょうきゃく)を備えているのは他のプルーマ──殻獣(シェルケース)と同様だが甲殻(こうかく)に覆われた身体は海老のように反り返っており、胴体の数倍にも達するであろう巨大な球状の腹部が胴体から吊り下げられるようにして存在していた。

 

その吊り下げられているものは『孵卵(インキュベート)(シェルター)』と呼ばれる殻獣(シェルケース)の産卵器官である。女皇殻獣(クイーンシェルケース)が産み落とした卵は内部で孵化し、幼生体の間を孵卵(インキュベート)(シェルター)で過ごした後、成体となって初めて外の大地に足を踏み入れる。

 

人間でいう『赤色骨髄』と似たような器官である。

 

つまり、この女皇殻獣(クイーンシェルケース)はプルーマ随伴型モビルアーマーの中でも、自身の体内でプルーマを産み出すモビルアーマーであるのだ。

 

まさにプルーマの『巣』そのもの。あるいは『群れ』そのもの。

 

 

そんな女皇殻獣(クイーンシェルケース)を見上げるキッドとアディ、エルネスティ(マクギリス)は各々、感想を呟く。

 

「女皇……陛下……?」

「おっきぃ……」

「かなり特殊なタイプのモビルアーマーのようですね……」

「どうする、エルくん?」

「素直に弱点を狙いましょう!」

 

エルネスティ(マクギリス)の言う弱点とは、もちろん孵卵(インキュベート)(シェルター)のことだ。

 

戦馬車(チャリオット)は大きく弧を描いて旋回。

エルネスティ(マクギリス)の『トイボックス』は女皇殻獣(クイーンシェルケース)の腹部にある孵卵(インキュベート)(シェルター)目掛けて、魔法の砲弾『轟炎の槍(ファルコネット)』を連射する。

 

多少乱雑に撃ったところで、この大きさの的を外すことなどない。朱の法弾が垂れ下がった腹部へと直撃する。

 

やがて女皇殻獣(クイーンシェルケース)の腹部は音を立てて、崩れ落ちた。

 

それまで泰然としていた女皇殻獣(クイーンシェルケース)が初めて体勢を崩し、苦悶(くもん)の叫びを上げ、暴れだす。

 

「おっと、女皇陛下がお怒りのようですね。一旦、距離を取りましょうか」

 

エルネスティ(マクギリス)の呟きを待つまでもなく、アディとキッドはツェンドリンプルを動き出させ、そのまま女皇殻獣(クイーンシェルケース)の元から離脱を図っていた。

 

それを見た女皇殻獣(クイーンシェルケース)も動き出す。動きを制限していた孵卵(インキュベート)(シェルター)という重りが無くなった今、それまでの動きが嘘のように、素早い動きでエルネスティ(マクギリス)達を追い詰めていく。

 

しかし、その勢いは遠距離から放たれた砲撃によって、殺された。

 

(うな)れっ!ギャラクシーキャノンッ!!発射ぁっ!!」

 

シノのガンダム・フラウロスの放ったギャラクシーキャノンが女皇殻獣(クイーンシェルケース)の足の一本を撃ち抜き、足の折れた女皇殻獣(クイーンシェルケース)はバランスを崩して、その場に倒れる。

 

その一瞬をエルネスティ(マクギリス)は勝機へと変えた。

 

「ふっ……数奇な巡り合わせもあるものだな……」

 

戦馬車(チャリオット)から突撃用の斬獣剣『ビーストスレイヤー』を取り出したエルネスティ(マクギリス)のトイボックスはその斬獣剣(ビーストスレイヤー)にワイヤーを括りつけ、それを女皇殻獣(クイーンシェルケース)の頭上に投げ刺す。

 

「ギャラルホルンの始祖であるアグニカ・カイエルが戦った人類の敵(モビルアーマー)。それを私が一人で葬る!!」

 

そのワイヤーを括りつけた斬獣剣(ビーストスレイヤー)に電撃の魔法術式(スクリプト)を流し込み、女皇殻獣(クイーンシェルケース)を麻痺させた。

 

「俺の勝ちだ!!」

 

そして、女皇殻獣(クイーンシェルケース)は電撃により痺れ果て、その機能を停止させた。

 

 

数日後──

 

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団の活躍により、森都(アルフヘイム)を襲った未曾有の危機は退けられた。

 

先王アンブロシウスはエルネスティ(マクギリス)を王都に呼び出し、褒美を与える事にした。

 

その褒美とは……

 

「本当ですか!!?」

陸皇亀(ベヘモス)に続き、女皇殻獣(クイーンシェルケース)退治。そして、数々の新型機開発……成果としては充分過ぎよう」

 

陸皇亀(ベヘモス)を退治したのは三日月で、新型機開発もエルネスティ(マクギリス)一人の力ではないのだが……

 

そんな事を先王アンブロシウスは知るよしもない。

 

エルネスティ(マクギリス)も勿論、本当の事を話すつもりもない。

 

(かね)てよりの約定通り、魔力転換炉(エーテル・リアクター)の製法をお主に授ける

 

 

 

そして──

 

 

 

西方歴一二八一年。森都(アルフヘイム)殻獣(シェルケース)が襲来してから、半年が過ぎた。

 

フレメヴィーラ王国には、(うら)らかな春の陽気が溢れ、山野の緑も命を増し、旺盛に枝を伸ばす。

 

そんな心地良い気候の中で、オルフェシウス砦だけが熱気に包まれていた。

 

そこかしこで怒号のごとき指示が飛び交い、普段よりも一層慌ただしげな様子で騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が走り回っている。

 

「ゆーっくり降ろせーっ!傷つけたら承知しねぇぞ!!」

「吸排気機構の取り付け完了!」

銀線神経(シルバーナーヴ)の接続完了!」

「ありがとうございます!!」

 

その謝罪の言葉が聞こえてきたのは、熱気の源である一機の蒼き幻晶騎士(シルエットナイト)からだった。

 

声の主はエルネスティ・エチェバルリア(マクギリス・ファリド)。彼はコクピットの中からその幻晶騎士(シルエットナイト)を操作し、試運転を開始する。

 

「主転換炉から魔力(マナ)の伝達を開始。……最低魔力(マナ)容量確保。大型炉『皇之心臓(ベヘモス・ハート)』の起動を確認。出力最低、休眠状態へ移行。制御を主転換炉『女皇之冠(クイーンズ・コロネット)』へと譲渡、通常出力で立ち上げます」

 

この機体は二基の魔力転換炉(エーテル・リアクター)を積んでいる。師団級魔獣(モビルアーマー)陸皇亀(ベヘモス)』の心臓を用いて作った魔力転換炉(エーテル・リアクター)皇之心臓(ベヘモス・ハート)』と旅団級魔獣(モビルアーマー)女皇殻獣(クイーンシェルケース)』の心臓を用いて作った魔力転換炉(エーテル・リアクター)女皇之冠(クイーンズ・コロネット)』。

 

先王アンブロシウスより伝えられ、森都(アルフヘイム)で半年間学んだ魔力転換炉(エーテル・リアクター)の製法をもとに、エルネスティ(マクギリス)が自分で作り上げた、このセッテルンド大陸に一つだけの特別な魔力転換炉(エーテル・リアクター)だ。

 

二体の強大な魔獣(モビルアーマー)の心臓を用いた魔力転換炉(エーテル・リアクター)による圧倒的な魔力の供給を受け、力が満ちた機体が目醒める。

 

「やっと会えたな……バエル」

 

そのエルネスティ(マクギリス)の呟きとともに、機体の各所から結晶筋肉(クリスタルティシュー)が収縮する、まるで弦楽器を掻き鳴らしたような音が響き出した。

蒼き機体の腕が、足が、己の力を確かめんとするように動き出す。

 

「三百年だ……。もう休暇は十分に楽しんだだろうアグニカ・カイエル。さぁ、目醒めの時だ!」

 

この機体の名は──

 

「ガンダム・バエル・斑鳩(イカルガ)!!」

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

なんとか、オルガの命日に投稿出来ました。良かった……


この場を借りて、また宣伝をば

本日、インフィニットオルフェンズの公式外伝「三無を束ねし、煌めきの雲海」の0話が投稿されました!!

↓こちらから読めますので、是非ご一読下さいませ。

https://syosetu.org/novel/185357/


また、本日完結した「殺戮のオルガ」もノベライズされることが決定しました!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=210475&uid=164288


この2作品も含めて、これからの異世界オルガノベライズも読んで下さると幸いです。

だからよ、止まるんじゃねぇぞ……


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ナイツ&オルガ9

令和になっても、俺は止まんねぇからよ……



この場所は西方諸国(オクシデンツ)にその名を轟かせる大国の一つ『ジャロウデク王国』の王都である。

 

その王宮のバルコニーに立つジャロウデク王国の国主である『バルドメロ・ビルド・ジャロウデク』の息子である『カルリトス・エンデン・ジャロウデク』は黒く染め上げられてた大地を見下ろした。

 

冷たく、鈍い輝きに満ちた黒。硬質で重厚な金属質の黒。

 

この地を黒く染め上げているモノ……

 

それは全身に黒鉄の鎧を纏った巨大な騎士──幻晶騎士(シルエットナイト)だ。

 

その黒い幻晶騎士(シルエットナイト)の大部隊が整然と並ぶ前でカルリトスはこう宣言する。

 

「諸君らも知っての通り、我が父、バルドメロは病に倒れた!我らはその志を継がねばならない!……かつて、この西方の地はただ一つの国、ただ一人の王の元にあった。我らがジャロウデク王国こそ、その正当なる後継!…………時は来た!!再び我らの手で大いなる一つへと戻す時が!!」

 

「「「うおおおおっ!!」」」

 

 

この日、西方歴一二八一年。カルリトス・エンデン・ジャロウデクは周辺諸国に宣戦布告を行った。

 

後世において『大西域戦争(ウェスタン・グランドストーム)』と呼ばれる大乱の火蓋が切られた瞬間である。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

フレメヴィーラ王国と西方諸国(オクシデンツ)を繋ぐ街道『東西街道(オクシデントロード)

 

今日もその東西街道(オクシデントロード)を越えようと馬車を走らせる一組の()()がいた。

 

数多くの荷馬車(キャリッジ)を隊列させるその商隊の先頭の馬車から、ふと停車の合図が下る。

 

「どうかされましたか?()()()

「…………おかしいぞ。関所に掲げられた旗が違う」

 

街道の先の関所はフレメヴィーラ王国と友好的な関係にある西方諸国(オクシデンツ)の一国──クシェペルカ王国への入り口だ。

しかし、その関所に掲げられた旗はクシェペルカ王国のものではなかった。

 

「そうですか……旗が……。それで如何致しましょうか?」

 

若旦那と呼ばれた男にそう問いかけるのは仮面の少年。

 

「……決まっている。さっそく()()を始めるぞ」

 

それに対し、若旦那と呼ばれた男は眉間に皺を寄せて、そう返す。

 

そして、商隊は関所を目指して歩みを再開したのであった。

 

 

 

「やれやれ、俺たちゃあ本当に外れクジ引いちまったなぁ」

 

関所の門の上で警備に立つ兵士の一人がそうぼやく。

 

彼らの鎧にはジャロウデク王国の者であることを示す紋章が記されている。

 

それはつまり、クシェペルカ王国がジャロウデク王国に支配されてしまったことを意味していた……。

 

「だな。こんな関所の警備など……ん?」

 

関所の警備をする三人の兵士の内、一人が視線の先に異変を見つけた。

 

馬車馬(ばしゃうま)馬蹄(ばてい)の音にしてはどうも()()()()響きを耳にし、双眼鏡を覗くと、その目に映ったのは馬ではなく、人馬の騎士であった。

 

「なんだあれは?」

「馬ではない……幻晶騎士(シルエットナイト)なのか?」

「あんな形の幻晶騎士(シルエットナイト)見たことも聞いたこともないぞ」

 

関所の警備をする兵士達が混乱している間に人馬の騎士──ツェンドリンプルが牽く馬車は関所の前までやって来ていた。

 

「突然申し訳ない。モンターク商会と申します。代表者とお話がしたいのですが……」

 

馬車から降りてきた小柄な仮面の男が関所の兵士達にそう告げる。

 

すると、関所の兵士達はこう返答した。

 

「み、見え透いた嘘をつくな!!そ、そんな化け物みたいな馬を使う商人がいてたまるか!!」

 

その返答にモンターク商会と名乗った小柄な仮面の男は……

 

「バエルを持つ私の言葉に背くとは……」

 

そう呟いた。

 

異形の馬車や小柄な仮面の男、そして意味不明な呟き……ジャロウデク王国の兵士達が怪しむのも至極当然のことであった。

 

やり取りの裏で密かに戦闘態勢に移行していた黒い幻晶騎士(シルエットナイト)『ティラントー』の小隊がモンターク商会を取り囲む。

 

「ふざけるのも大概にしろ!積み荷と身元を調べさせてもらおう!!」

「……一つ、お伺いしたいのですが、その旗はクシェペルカのものではありませんよね?」

「クシェペルカなど、とうに滅んだわ!この関所は我らジャロウデク王国の支配下にある!」

 

そのジャロウデク兵士の言葉を荷馬車(キャレッジ)の中で待機しながら聞いていたエムリスと金獅子(ゴルドリーオ)がこう言いながら出撃する。

 

「滅んだというならば……貴様らと問答している暇などない……っ!」

 

そして、金獅子(ゴルドリーオ)は出撃と同時に肩の装甲と背後の魔導兵装(シルエットアームズ)を展開し、高威力の大気砲を放った。

 

獣王(ブラスト)ォォォ轟砲(ハウリンーーグ)ッッ!!」

 

放たれた大気の渦は圧倒的な衝撃波へと変わり、その衝撃波が関所の門へと押し寄せる。

 

圧縮された高圧の衝撃波に耐えかねた門は(たわ)み、砕け、破壊され、……門は破られる。

 

「バカなっ!鉄の門を一撃だとっ!!」

 

 

その様子を馬車の中から見ていた三日月はとある任務についていてここにはいないオルガにバルバトスの操縦席(コクピット)から通信でこう尋ねる。

 

「俺は出なくていいの?」

《まだその時じゃねぇ。ミカの使いどころはちゃんと考えてある。……まぁ、今回はアイツに見せ場を譲ってやろうぜ》

「だね」

 

オルガは三日月と会話した後、通信機を片手にこう言った。

 

《そろそろバエルが出る。そっちは頼んだぞ!》

 

 

 

エムリスの出撃と同時に馬車に戻っていた仮面の少年──モンタークはその通信を聞いて、仮面の裏に笑みを溢す。

 

そして、関所の手前に停車していた荷馬車(キャレッジ)からもう一つの()()が動き出した。

 

それは空へと高く舞い上がり、ティラントー隊の目の前に着地する。

 

蒼き鬼面の幻晶騎士(シルエットナイト)『ガンダム・バエル・斑鳩(イカルガ)

 

その操縦席(コクピット)に座る少年は仮面を脱ぎ、その美しき銀髪と純白の柔肌を晒す。

 

そして彼──エルネスティ・エチェバルリア(マクギリス・ファリド)はこう言った。

 

「君たちの相手は私がしよう」

 

 

斑鳩(バエル)を手に入れて気分が高揚しているエルネスティ(マクギリス)に同調するかのように主動力炉『女皇之冠(クイーンズ・コロネット)』と副動力炉『皇之心臓(ベヘモス・ハート)』がうなりを高める。

 

二体の強大な魔獣(モビルアーマー)の心臓を用いた魔力転換炉(エーテル・リアクター)が生み出す荒れ狂う魔力のうねりがエルネスティ(マクギリス)の操作に従い、魔導噴出推進器(マギウスジェットスラスタ)へと流れ込み、斑鳩(バエル)は再び飛翔する。

 

「己が持つ牙の使い方を知らず、ただ(うずくま)るだけの獣が一斉に世に放たれる」

 

そう呟きながら、空を駆ける斑鳩(バエル)はティラントー目掛けて落下の勢いもそのままに両手に持つ二本の剣──真・バエルソードを振り下ろした。

 

二本の真・バエルソードがティラントーの両腕を破砕。

両腕を失ったティラントーはバランスを崩し、倒れる。

 

まずは一機目。

 

「クッ……こいつっ!!」

 

斑鳩(バエル)の背後に立つティラントーが攻撃しようと動くが、斑鳩(バエル)はそれよりも早く振り向き二本の真・バエルソードでティラントーを薙ぎ、三枚下ろしにした。

 

これで二機目。

 

「邪魔だ」

「この野郎ぉぉ!!」

 

またティラントーが背後から手に持つメイスで斑鳩(バエル)を殴り付ける。

 

しかし、斑鳩(バエル)の背に折り畳まれた四本のサブアームが展開され、サブアームでメイスを止める。

 

このサブアームはP.D.世界において、ガンダム・グシオンリベイクフルシティが愛用していたサブアームだ。

 

エドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アルディラッドカンバーにサブアームを付属したついでに斑鳩(バエル)にも同様のサブアームを取り付けたのだ。

 

このサブアームは、斑鳩(バエル)の高機動戦闘にも有効活用することが出来た。

 

「何っ!たかがサブアームに!」

「ハハハハハッ!ハハハハハッ!」

「このティラントーが力負けだとぉ!」

 

ティラントーがサブアームに押さえこまれている間に、斑鳩(バエル)はサブアームでティラントーのメイスを地面に叩きつけつつ振り返り、真・バエルソードで一刀両断。

 

三機目のティラントーもこれで大破。

 

「もっとお前の力を見せろぉぉ!!」

 

残るティラントーは三機。

 

ジャロウデク王国の騎操士(ナイトランナー)達は完全に恐慌状態に陥っていた。

 

彼らもこれまでに少なくない回数を戦い抜いてきたが、この斑鳩(バエル)はあまりにも異常過ぎた。

 

想像を絶する脅威を前にして、彼らはどうしても勝利を得る手段を思い付くことが出来ずにいた。

 

それでも彼らは、一縷の希望を残し、背面武装(バックウェポン)を乱射して距離を取る。

 

しかし──

 

エルネスティ(マクギリス)が作った『ぼくのかんがえたさいきょうのばえる』の持つ剣がただの剣であるはずがない。

 

斑鳩(バエル)が剣の持ち手にあるレバーを引いて操作した瞬間、その剣の刀身が真っ二つに割れた。

 

そして、その刀身の割れ目から魔法の法擊が放たれる。

 

その法擊をエルネスティ(マクギリス)は「バエルビーム」と呼んだ。

 

バエルアローは超音波

バエルイヤーは地獄耳

バエルウイングは空を飛び

バエルビームは熱光線

 

バエルビームの熱光線がティラントー目掛けて発射され、三機中二機のティラントーが吹き飛ばされる。

 

「「うわぁぁぁぁぁ!!」」

 

これで残りはあと一機。

 

最後に残されたティラントーは……

 

「ば……化け物だぁぁ!!」

 

そう叫んで、逃げ出した。

ある意味賢明な判断だったのかもしれない。

 

しかし、エルネスティ(マクギリス)がそれを見逃すはずもなかった。

 

「見ろ!純粋な力だけが輝きを放つバエルに奴らは圧倒されている!!」

 

斑鳩(バエル)は目にも止まらぬ高機動であっという間に逃げ出したティラントーに追い付き、真・バエルソードでティラントーの背面装甲と背骨を砕いて、串刺しにした。

 

僅か数分……いや、数秒でジャロウデク王国のティラントー隊は全滅した。

 

「ひぃぃぃ!お、お助けをぉぉ!!」

「ふんっ!口ほどにもない」

 

エムリスの金獅子(ゴルドリーオ)も何体かのティラントーを撃破し、戦闘は終了した。

 

「バエル…(恍惚)」

「エルくんが出たと思ったら、あっという間に終わっちゃったね……」

「まっ、予想通りだな」

 

オルガの命令で待機していたアディやキッドたちは完全に蚊帳の外だった。

 

 

 

東西街道(オクシデントロード)銀鳳(ぎんおう)騎士団第三中隊のツェンドリンプルが次々と下っていく。

 

それを横目に幻晶甲冑(シルエットギア)部隊がテキパキと関所に残ったジャロウデク兵士を拘束していた。

 

目の前で易々とティラントー隊を全滅させられた様を見せられたジャロウデク兵士達は、心底震え上がっており、さしたる抵抗を見せることなく降伏し、捕虜となっていた。

 

そんな中、エドガー(昭弘)が何かを見つけ、皆を呼んだ。

 

「お前たち、ちょっとこれを見てくれ」

「なんだい?」

「昭弘、何か見つけた?」

「どうしたのエドガー?」

「ん?」

 

作業の手を止めて集まったのは、アジーとラフタ、ヘルヴィ、そしてディートリヒ。他の皆はそれぞれ別の作業をしており、中断することが出来なかった。

 

エドガー(昭弘)が指差した先、ティラントーの残骸を見て集まった彼女らは驚愕する。

 

「この構造、見覚えはないか?」

「なっ!?」

「『背面武装(バックウェポン)』と『網型(ストランドタイプ・)結晶筋肉(クリスタルティシュー)』か!?」

「アタシたちの作った技術を盗んだってワケ?」

「敵の強さのカラクリが見えてきたわね」

 

 

それから程なく──

 

「東の街道に異形の牙と鬼面の死神が現れ、ティラントーを狩る」

 

ジャロウデク軍の間にそんな噂が流れ始めた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

旧クシェペルカ王国は、大まかに五つの地域に分けることが出来る。

王都のある中央部と東西南北それぞれに存在する四方領だ。

 

そのうち東の地には、王弟『フェルナンド・ネバレス・クシェペルカ』大公が治める大公領が()()()()()()

 

()()()()()()と過去系であるのは、ジャロウデク軍の侵攻の際に大公本人は死亡し、所領は接収されたからである。

 

かつては大公の居城であった『ラスペード城』もジャロウデク軍の支配下にあった。

 

そのラスペード城の一室に物憂げな様子で視線を彷徨わせる少女がいた。

彼女の名は『エレオノーラ・ミランダ・クシェペルカ』クシェペルカ国王の血を受け継ぐ正統なる王女である。

 

()()()()()()()()()に用意されたこの部屋の唯一の入り口である扉から重いノックの音が響く。

 

その音に彼女はびくりと震える。

 

やがて、その扉は開かれ、一人の男が部屋の中へと入ってきた。

 

「ご機嫌は如何か?()クシェペルカの姫」

 

彼女は小さく震えながら、怯えの混じった視線を上げる。

 

そこにいたのはジャロウデク王国第二王子『クリストバル・ハスロ・ジャロウデク』だった。

 

「単刀直入に言うぞ。お前には俺の妻になってもらう」

「い、いやっ!」

「嫌だと泣いて暴れるか!?お前を殺して、捕らえたもう一人の娘を王女に仕立て上げても良いのだぞ!?」

「うっ…うぅ……」

「ふんっ!……俺にも慈悲はある。返事は少しだけ待ってやろう。だが、なるべく早く決めることだな。俺は気まぐれだ。気の長い方ではないことを忘れるな」

 

クリストバルはそう言い残して部屋を出ていった。

その間、エレオノーラはただ涙を流すのみであった。

 

(お父様……わたくし……エレオノーラはどうしたら……)

 

 

王女を幽閉する部屋に再び施錠がされる音を背に、クリストバルはこう言いながら廊下を歩く。

 

「ふんっ!辛気臭い女だ。刃向かいでもすれば痛ぶりようがあるものを」

「殿下。まさか婚姻をお止めになるおつもりですか」

 

部屋の外で待機していたクリストバルの参謀を務める男、ドロテオ・マルドネスは呆れた声でそう言った。

 

それに対し、クリストバルはあくまで冷静に返答した。

しかし、彼は幽閉しているクシェペルカの王女よりも気になる話題があり、ドロテオにこう確認をとる。

 

「そこまで馬鹿ではない。姉上が捻り出した方策を無下にはしない。そんなことより例の噂は?鬼面の死神とかいう」

「クシェペルカの残党共でありましょう。いずれ立ち消えるものかと……」

「手緩いっ!俺なら今すぐ叩き潰し……」

「なりませんぞ!殿下!御大将がそのような些事に関わっては兵に示しがつきませぬ」

「些事というなら、さっさと片付けてみせろっ!!」

 

そのクリストバルとドロテオの会話をメイドに扮して潜入していたノーラ(アルミリア)とオルガが耳にしていた。

 

オルガがついていたとある任務と言うのは、ジャロウデク王国への潜入捜査のことだったのだ。

 

 

藍鷹(あいおう)騎士団のノーラ(アルミリア)と鉄華団団長のオルガの報告により、王女エレオノーラの置かれた状況はエルネスティ(マクギリス)達の知るところとなった。

 

 

「ちっ!クリストバルめ……許さん!」

「ホント最悪!そのバカ王子!!」

「絶対懲らしめてやるわ!!」

「そうよ!そんな奴、アタシたちでギッタンゲッチョンにしちゃいましょう!!」

 

ノーラ(アルミリア)とオルガの報告を聞いたエムリスとアディ、ヘルヴィ、ラフタが怒りを露にする。

 

しかし、エルネスティ(マクギリス)はさほど興味はないようで……

 

斑鳩(バエル)を手に入れた私はそんなものに興味は無い」

 

そう言った。

 

《は?》

《マ……マッキー?》

 

通信の向こう側でオルガとノーラ(アルミリア)が肩透かしを食う。

 

それは三日月やエムリス達も同様だったようで、皆で必死にエルネスティ(マクギリス)の説得を試みる。

 

「アンタ、何言ってんの?」

「いや、エルネスティ……あのな。クシェペルカは俺の叔母のマルティナやその娘のイサドラの故郷でエレオノーラも俺の知り合いなんだ……。助けてやっちゃあくれねぇか……?」

「そうだよ。エルくん!力づくで女をものにしようとするやつなんだよ!」

「そうゆう奴はアタシらタービンズの敵も同然なんだ」

「そーなのよ!アジーの言う通り!だからお願い!マクギリス!協力してよ!!」

「生温い感情は私には残念ながら届かない」

「だから、アンタ何言ってんの?」

「ダメみたいだな」

 

アディやアジー、ラフタ達の必死の説得も虚しく、エルネスティ(マクギリス)は優雅に茶を飲むだけだった。

 

その様子に三日月もキッドも呆れている。

 

そんな中、オルガがエルネスティ(マクギリス)を焚き付ける一言を呟いた。

 

《なぁマクギリス……》

「どうした?オルガ団長」

《これは……斑鳩(バエル)の実力を見せ付けるチャンスじゃねぇのか……?》

「……っ!」

 

どうやら今の一言でエルネスティ(マクギリス)はやる気になったようだ。チョロい男である。

 

「それでは皆さん!王女救出作戦の会議を始めましょう!」

 

 




とりあえず、ここまで。

ナイツ&オルガ9の続きの部分はガエリオ初登場回で、追加カット増し増しになりそうなので、分割することにしました。


オルガの出番ほとんどないし、ノルマも達成してないけど……この章の主人公はマクギリスだから問題ないよね?大丈夫だよね?



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ナイツ&オルガ9.5

銀鳳(ぎんおう)騎士団が王女救出へ向けて動き始めた頃、ジャロウデク軍もまた、エルネスティ(マクギリス)達の居場所を探していた。

 

「グスターボ特務三佐!噂にあった『死神騎馬団』とおぼしき一団を確認しました!」

「おっ、マジか~」

「はっ!銅牙騎士団(地球外縁軌道統制統合艦隊)の情報通りです」

「ふっ……カルタのやつも隠密任務が板についてきたな」

 

部下の報告を聞いて飛空船(レビテートシップ)の船長席から立ち上がった男はグスターボ・マルドネス。

 

船橋に立つ彼の視線の先には異形の馬車の群れが見えた。

 

「あれが噂の『死神騎馬団』か~。まぁ、相手が何だろうと、このグスターボ・マルドネス様がぶちのめすことに変わりはねぇさ!」

 

異形の馬車──ツェンドリンプルを見ても彼はあまり驚きはしなかった。それは何故か……

 

グスターボの本当の名は『ガエリオ・ボードウィン』

 

自身が転生した理由や、転生前での自分がどのような男であったのかの記憶は定かではないが、自分が『ガエリオ』という名の男であったことなど、一部ではあるが転生前の記憶が残っているため、彼はツェンドリンプルを自身の搭乗機であったキマリストルーパーと無意識に重ねていたのだ。

 

 

空をゆくグスターボ(ガエリオ)達が銀鳳(ぎんおう)騎士団を見つけたのと時を同じくして、銀鳳(ぎんおう)騎士団側も迫りくる飛空船(レビテートシップ)の存在に気付いていた。

 

「ん?」

「どうした、ミカ?」

「何あれ?」

「ディータイチョ、船が空飛んでます」

 

三日月が空を見上げ、その後銀鳳(ぎんおう)騎士団の兵士の一人が飛空船(レビテートシップ)を見つけ指を差す。

 

報告を受けたディートリヒはその飛空船(レビテートシップ)を確認し、あることに気付く。

 

「ジャロウデクの紋章がある。つまりは敵ということだ!各員騎乗!戦闘準備!先頭車のエルネスティ達にも伝令を回せ!」

「伝令は俺の仕事だ……」

「任せたぞ!オルガ」

「んじゃ、バルバトス出るよ」

「先手必勝!砲撃開始!!」

 

滑腔砲を装備したバルバトスと、兵士達の赤いカルディトーレが荷馬車(キャレッジ)上から飛空船(レビテートシップ)目掛けて砲撃を浴びせる。

 

その砲撃を浴びても、グスターボ(ガエリオ)は余裕の態度を崩さなかった。

 

飛空船(レビテートシップ)を見てもビビんねぇとは、根性座ってんじゃねぇか!こっちも幻晶騎士(シルエットナイト)出すぜ~!」

 

そう言いながら、グスターボ(ガエリオ)も船橋を飛び出して、格納庫へと向かい、己の機体へと搭乗する。

 

次の瞬間、飛空船(レビテートシップ)の底面装甲が開き、クレーンで吊り下げられたティラントーが一斉に地上へと降り立った。

 

 

そして、ジャロウデク軍のティラントー部隊と三日月のバルバトス、ディートリヒのグゥエラリンデ、銀鳳(ぎんおう)騎士団のカルディトーレ部隊が相対した。

 

「盗んだ技術を使っての乱暴狼藉!その代償は高くつくぞ!!」

 

ディートリヒのグゥエラリンデと三日月のバルバトスが真っ先に先行する。

 

「ふん、このティラントーに真っ正面から挑むなど!身の程を教えてやろう!!」

 

ティラントーの操縦席(コクピット)で、騎操士(ナイトランナー)がほくそ笑む。

 

突出した防御力と強烈な筋力を誇るティラントーにとって、正面からの戦いはむしろ望むところであった。

 

事実、クシェペルカ王国の量産幻晶騎士(シルエットナイト)『レスヴァント』を相手に少数機で余裕をもって撃破してきたのだ。

 

ティラントーは何の捻りもなく真っ正面から突っ込んでくるバルバトスの一撃を同じく正面から迎え撃ちにいった。

ティラントー自慢の装甲で横薙ぎに振られたバルバトスのメイスを腕で押さえ、攻撃を弾いてからの反撃(カウンター)が狙いだ。

 

しかし、もちろんティラントーの騎操士(ナイトランナー)の思った通りにはならない。

 

バルバトスのメイスを押さえようとしたティラントーの腕部装甲は砕け散り、機体ごと吹き飛ばされる。

 

「ば、馬鹿なっ!」

「邪魔」

 

三日月は一言そう呟いて他のティラントーも狩りにいった。

 

その横を魔導噴出推進器(マギウスジェットスラスタ)を起動させたディートリヒのグゥエラリンデが駆け抜け、圧倒的な速度に任せて、両手に持つ双剣がティラントーを斬る。

 

初手で虚をついたバルバトスとグゥエラリンデはそのまま、圧倒的な強さを見せ、ジャロウデク軍のティラントー部隊を全滅まであと一歩というところまで追い込んだ。

 

「やるじゃん。腑抜けの人」

「腑抜けの人はやめろっ!私は二度と騎士の矜持(きょうじ)を捨てはしないと誓ったのだ。このくらいやってみせるさ」

「ふーん。まぁ、足引っ張らないでね」

「…………」

 

 

残ったティラントー部隊の小隊指揮官が驚愕を噛み殺し、後退に転じる号令を出そうとした時、彼のティラントーの隣に()()()()()が降ってくる。

 

それは──白き悪魔(バルバトス)によって破壊された部下のティラントーの……叩きつぶされた『腕』だった。

 

「ヒイィィ…」

 

声にならない悲鳴とともに後退(あとずさ)る小隊指揮官の操縦桿を握る手には汗が滲み、心臓は早鐘を打つように激しく鼓動する。

 

そんな彼の後ろから、溌剌(はつらつ)とした若い男の声とともに一機の幻晶騎士(シルエットナイト)飛空船(レビテートシップ)から飛び降りてきた。

 

「ここは俺っちの出番だぜぇぇ!!」

「グスターボ特務三佐!」

「とっとと退きな!お前らじゃ無理だ」

 

ジャロウデク軍の増援にやってきたその黒い機体はジャロウデクの汎用幻晶騎士(シルエットナイト)とはまた違った異質な姿の幻晶騎士(シルエットナイト)だった。

 

その機体を異質たらしめているのは『剣』だ。

剣とは多くの幻晶騎士(シルエットナイト)が標準装備として携行している武器であるが、この機体──ソードマンはその剣を()()()()()()装備していた。

 

そんな突飛な特徴をしたソードマンにディートリヒは目を剥き、絶句した。

 

「なっ……何だ、それは?……そんなに剣ばかりつけて、どういうつもりだ!?」

 

ディートリヒのその問いにグスターボ(ガエリオ)は至極当然の事のようにこう答えた。

 

「んなもん決まってっだろ!『剣は強い』!『強いのいっぱい持ってるやつがいっぱい強い』!当たり前じゃねぇか!」

 

拡声器で響き渡ったグスターボ(ガエリオ)の声を聞いた三日月が反応を示す。

 

「その声、チョコの隣の……」

「ガエリオ・ボードウィンだ!」

「……ガリガリ?」

「貴様、わざとか!!」

 

三日月とグスターボ(ガエリオ)がそのようなやり取りをしている間にディートリヒのグゥエラリンデが動いた。

 

「三日月!こいつの相手は私が受け持つ!お前は残りのティラントー部隊をやってくれ」

「やれんの?」

「やってみせるさ!」

「……んじゃ、任せた」

 

 

白き悪魔(バルバトス)は再びジャロウデク軍の兵士達に悪夢を見せるために後退していったティラントー部隊を追い、

双剣の紅の騎士(グゥエラリンデ)連剣の黒い騎士(ソードマン)が激突。二機の騎士は息つく間もなく斬撃の応酬を繰り広げ始めた。

 

相手より優位な位置を狙うために、より強力な一撃を相手に浴びせるために、互いに目まぐるしく動き回るこの二機の戦い方はある意味で似通っていた。

 

共に極端に攻撃に偏重した型を持ち、さらに研ぎ済ました必殺の一撃よりも嵐のような連撃を好む。

 

「こいつ!バカだが、使い手だな……っ!」

 

グスターボ(ガエリオ)の戦い方を見たディートリヒが思わず、そう口にする。

 

実際には互角に見える二機の戦いであったが、実はディートリヒのグゥエラリンデの方がやや押され気味であった。その差は魔力貯蓄量(マナプール)の使い方の差だ。

 

グスターボは転生前、ガエリオ・ボードウィン(ヴィダール)であった頃──かつてジュリエッタに「綺麗…」だと「あなたの太刀筋はとても復讐を起因としているとは思えませんでした。強くとても美しい」とそう言わせた頃の戦い方を活用し、魔力貯蓄量(マナプール)に出来るだけ負担のかけない動きをしている。

 

対するディートリヒは双剣による連撃と背面武装(バックウェポン)による射撃を使い分ける戦術。

 

背面武装(バックウェポン)の法撃により魔力(マナ)を消費しているディートリヒのグゥエラリンデの方が先に動きが鈍くなるのも当然の結果であった。

 

「ははははっ!そんなすっとろい動きじゃ、俺っちの相手は務まらないぜっ!」

 

徐々にソードマンの剣の連擊に押されていくグゥエラリンデ。

 

「……くっ!このままでは……」

「フッ……。そろそろ決着つけっちまおうかね!」

 

その時、ディートリヒはソードマンの頭上から飛翔してくる()()を視認した。

 

それと同時にオルガの獅電も遅れて出撃してきた。

 

「すまねぇ、遅れた!だが、そろそろアイツが来るぞぉ!」

「あぁ……こちらでも確認した」

 

グスターボ(ガエリオ)はまだ()()には気付いていないようだ。

 

オルガの獅電を見て、グスターボ(ガエリオ)はこう言った。

 

()()増えたところで俺っちのソードマンには敵わねぇよ!」

「確かにオルガが増えたところで対した戦力ではない」

「おい!」

「だがな……」

 

グゥエラリンデの操縦席(コクピット)の中でディートリヒが不敵の笑みを浮かべる。

 

「何考えてんのか知らねぇが……俺っちは攻めるのみだ!!」

 

ソードマンが突っ込んでくる。

 

それをオルガの獅電がアサルトライフルを片手に迎え撃つ。

 

グゥエラリンデは少し後退。

 

 

そして──

 

 

ソードマンがアサルトライフルの射撃を回避しながら突撃し、オルガの獅電を斬りつけようとする。

それをパルチザンで防御し、鍔迫り合いの状況になった時、その頭上から()()が勢いよく落下してきて、ソードマン──ではなく、オルガの獅電に剣を突き刺した。

 

「何やってんだぁぁぁ!!」

「あっ、間違えましたw」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「な、何が起こった?今のは」

 

グスターボ(ガエリオ)がその状況に混乱して、そう口にする。

 

そして、空から降ってきて、目の前に立つ幻晶騎士(シルエットナイト)──『ガンダム・バエル・斑鳩(イカルガ)』を見たグスターボ(ガエリオ)は敵意を向けた。

 

「キサマか……俺の邪魔をしたのは!」

 

その操縦席(コクピット)に座る騎操士(ナイトランナー)エルネスティ・エチェバルリア(マクギリス・ファリド)はこう言った。

 

「君の相手は……私がしよう」

 

二本の真・バエルソードを構えた斑鳩(バエル)がソードマンと対峙する。

 

「君には我々──銀鳳(ぎんおう)騎士団が追い求める理想(バエル)を具現化する為の(いしずえ)となってもらう!」

 

そのエルネスティ(マクギリス)の言葉にグスターボ(ガエリオ)が反応する。

 

()()()だと……。まさかキサマ……!」

 

そして、拡声器で聞いたグスターボ(ガエリオ)の声にエルネスティ(マクギリス)も反応する。

 

「ん?その声……まさか……!」

 

 

この異世界(セッテルンド大陸)で彼らは再会を果たした。

 

 

「マクギリスゥゥゥゥ!!!!」

「ガァエリオォォォォ!!!!」

 

 

過去の遺恨を叫びにのせて、両者共に激しくぶつかり合う。

 

グスターボ(ガエリオ)のソードマンは跳躍し、落下の勢いにのせて、手に持つ二本の剣を振るった。

 

エルネスティ(マクギリス)斑鳩(バエル)はそれを真・バエルソードで受ける。

 

ソードマンはそのまま二本のサブアームを展開し、サブアームに持つ二本の剣で斑鳩(バエル)を突き穿つが、斑鳩(バエル)はそれを素早く回避し、一度距離を取る。

 

ソードマンはすぐさま距離をつめ、手に持つ二本の剣と四本のサブアームに持つ剣を合わせた計六本の剣で連続突きを繰り出した。

 

それを斑鳩(バエル)の高機動ですべて避け、捌きながらエルネスティ(マクギリス)はこう口を開く。

 

「何故死んだのか、転生の理由は知らんが……。俺の行く手を阻むのならば、今度こそ殺してやろう!」

「やはり、お前の目には俺は見えない。お前には俺の言葉は届かない」

 

両機とも頭突きを繰り出す。

 

「俺を見ろ!!」

 

そして、ソードマンの膝部にあるドリルニーを展開。

 

しかし、そのドリルニーも難なく避けられ、斑鳩(バエル)は空高く飛翔。

 

斑鳩(バエル)は太陽の影となり、グスターボ(ガエリオ)は少し目を瞑る。

 

「くっ……」

 

その一瞬が斑鳩(バエル)の勝機となった。

 

太陽を背に空から舞い降りる斑鳩(バエル)の真・バエルソードの一刺はソードマンの操縦席(コクピット)を穿つ。

 

しかし、エルネスティ(マクギリス)操縦席(コクピット)を突き、操縦者を殺すことが大の苦手であった。

 

転生前もガエリオ、イオクという二人の機体の操縦席(コクピット)を刺し穿っておきながら、その両者とも生き長らえていた。

 

──そして、それは今回も同様であった。

 

 

「…………あと、少し右にズレていたら即死だったぜ……」

 

四本のサブアームでソードマンに刺された真・バエルソードを引き抜き、後退するグスターボ(ガエリオ)

 

「ちっ…!」

「エルネスティでも倒しきれないか……」

 

ディートリヒがそう言った直後、三日月から通信が入る。

 

《雑魚は片付いた。そっち手伝うよ》

「ふっ……」

 

その三日月の通信にエルネスティ(マクギリス)は笑みを浮かべた。

 

 

そして、ジャロウデク軍にも通信が入ってきていた。

 

その通信を聞いたグスターボ(ガエリオ)は額に汗を滲ませる。

 

「何っ!ティラントー部隊が全滅だとっ!……ちっくしょう!……さすがにこのまま逃がしてくれるはずもねぇよな……。まぁずいねぇ……。……とりあえず船を戦域に戻せ!それまでは何とか俺っち一人で時間を稼ぐっ!!」

 

そう言ってグスターボ(ガエリオ)が剣を構えたその瞬間、()()()()()()予想外な事態が発生した。

 

突如、何の前触れもなく、希望の花を咲かせて倒れていたオルガの獅電が大爆発を起こしたのだ。

 

ヴァアアアアアア!!

 

その時、再び希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

「……っ!?」

「何っ…!?」

「何だ!?目潰しか!?」

「どういうことだよ、こりゃ!!?」

 

戦場に居た三日月、エルネスティ(マクギリス)、ディートリヒ、そしてグスターボ(ガエリオ)がその爆発に巻き込まれる。

 

しかし、この爆発には全くと言っていいほど威力がなく、その代わり周囲には数歩先も見えない程の黒く濃い煙が立ち込める。

 

「後退です!下手に撃っては同士討ちになりかねません!まずは煙の外まで後退を!!」

 

エルネスティ(マクギリス)は視界を失ったことで、敵の奇襲を警戒し、防御を強め、後退していった。

味方の位置も把握出来ないこの状況では、迂闊に法擊することも出来ない。そう判断しての後退だ。

 

「だが、助かったぜ。ここは仕切り直しだ!」

 

グスターボ(ガエリオ)もまた戸惑いながらも、退く好機と見て、撤退を始める。

 

そんなグスターボ(ガエリオ)のソードマンの背後から隙を狙っていたかのごとく、突風が吹き荒れる。

 

戦場に横たわっていた煙が風に乗って吹き飛んでいった。

 

「なっ……これは、空飛ぶ船が戻って来たのか!?」

 

エルネスティ(マクギリス)が警戒していた奇襲はなかった。

 

その代わり銀鳳(ぎんおう)騎士団の前に現れたのは、ジャロウデク軍の飛空船(レビテートシップ)の姿だった。

 

低空で飛ぶ飛空船(レビテートシップ)から垂らされたクレーンの鎖を掴み、グスターボ(ガエリオ)のソードマンはそのまま空へと舞い上がる。

 

「おい、紅いの!アンタなかなかだったぜ!それにマクギリス!!お前を倒すのはこの俺だ!!今度やる時まで死ぬんじゃねぇぞ!」

 

飛空船(レビテートシップ)はソードマンを船内に収めると、起風装置のうなりも高らかに速度と高度を上げ始めていた。

 

銀鳳(ぎんおう)騎士団もそれを黙って見ているつもりはない。

 

三日月のバルバトスは滑腔砲、ディートリヒのグゥエラリンデは背面武装(バックウェポン)で、エルネスティ(マクギリス)斑鳩(バエル)もバエルビームで飛空船(レビテートシップ)を撃ち落とそうと試みるが……逃げられてしまった。

 

「空飛ぶ船か……。あんなものが相手だとすると……」

 

ディートリヒはグゥエラリンデの操縦席(コクピット)の中で隣に立つ斑鳩(バエル)を見ながら、こう独りでに呟く。

 

「何か有効な武器をエルネスティに用意してもらう必要があるな……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

飛空船(レビテートシップ)に乗って、ソードマンの操縦席(コクピット)から降りたグスターボ(ガエリオ)は格納庫で待っていた一人の女性から、徳利(とっくり)を投げつけられる。

 

それを受け取り、中の酒を一気に飲んだグスターボ(ガエリオ)にその女性が声を掛けた。

 

「珍しく追い込まれてたね。ガエリオ」

「ありゃ、アンタの仕業か。カルタ」

 

その女性の名はケルヒルト・ヒエタカンナス(カルタ・イシュー)

四年前。カサドシュ砦に運び込まれたテレスターレが奪取された事件──『カサドシュ事変』を引き起こした銅牙騎士団(地球外縁軌道統制統合艦隊)の団長を務める女性である。

 

「いつから船に乗ってた?」

「さーてね」

「フン……余計なマネを!」

 

そう言ってグスターボ(ガエリオ)ケルヒルト(カルタ)へと中の酒を飲み終えた徳利(とっくり)を投げ返す。

 

「だが、今日は感謝しておく!二度目はないぜ……」

 

そう言い残し、船橋へと戻っていくグスターボ(ガエリオ)の背中を見送りながら、ケルヒルト(カルタ)はただ笑みを深くしたのであった。

 

 




今回はナイツ&オルガ9の後半部分に追加カットを多数盛り込んだ感じになりました!

ソードマンは原作では確かサブアームは二本だったと思うんですが、このナイツ&オルガでは、斑鳩(バエル)と同じくサブアームを四本に変更しています。

そして、キマールの武装であるドリルニーも追加してます(笑)

次回も今回同様早く投稿出来るようにガンバラナイト!



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