とある本丸の審神者日記 (Sillver)
しおりを挟む

チュートリアル
プロローグ


私は今、政府の玄関前にいる。何故ここにいるのかというと、数時間前に遡る。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

こ「こんにちは、審神者様!私、政府の式神でこんのすけと申します。今日は審神者様にお願いがあって参りました!」

 

葵「えーと?取り敢えず、祓えばいいの?妖怪?あ、式なら祓っちゃだめか。久しぶりにはっきりくっきり視えたもんだから、つい……」

 

こ「つい、で祓おうとしないでください!審神者様は守護霊が役に立たないくらいの霊力をお持ちなんですから……」

 

葵「あー、分かるんだ。ごめん」

 

こ「(この人大丈夫なんだろうか?)で、では本題です。審神者様、本丸に来て頂きたいのです。そこで、刀剣男士を統べる主になってもらえませんか?」

 

葵「刀剣男士?審神者?……ああ、今流行の。私はどんな本丸に行くの?それによっては考えないことも無いよ?」

 

こ「新しく出来た本丸です。引継ぎやブラックというわけではありません」

 

葵「OK。なら、詳細や雇用条件を聞こうか。ちょうど転職しようか考えてたし」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

……という会話をこんのすけと名乗る式神と交わした私は、式神に連れられて政府の玄関前にいる。どうも、担当者が席を外してたらしい。その為、こんのすけが呼びに行き私は待ちぼうけを食らっているようだ。……せめて、玄関前では無くロビーや応接室のようなところで待ちぼうけを食らいたかった……。こんのすけ、恨むぞ。なんでジロジロ見られ無いといけないんだ。祓うぞ!神といえど式、この程度祓えずして……。

 

 

 

こ「お待たせしましたー!」

 

葵「遅い!なんで玄関前で晒し者にならにゃいかんのだ?」

 

こ「あ、すいませんでした!!!」

 

?「まあまあ、落ち着いて。こんのすけも悪気があったわけじゃ無いから」

 

葵「悪気があったら祓ってます。多分、こんのすけなら祓えるでしょうし」

 

?「ははは。さて、中に入ろうか。そこで僕の自己紹介や細々とした事を説明するから」

 

葵「分かりました」

 

そうしてようやく私は政府の中に入る事が出来たのだった。

……やっぱり、こんのすけ祓おうかしら?

 

?「お願いだから、こんのすけを祓わないでね?これでも優秀な式なんだから」

 

葵「あれ?声には出してない筈なんですが?」

 

?「顔に出てたよ」

 

葵「あらら」

 

こ「審神者様、それほどこんのすけを祓いたいのですか!?」

 

葵「さて、そこは審神者のみぞ知るという事で」

 

こ「そんなぁぁぁ」

 

?「さ、応接室に着いたよ」

 

そんなこんなでのんびりとした会話(?)をしているとまだ名乗っていない男性に案内されるままに玄関を通り、応接室と思われる一室に通される。そこのテーブルの上には五振りの日本刀が置かれている。刀に目を奪われていると、男性に声をかけられる。

 

城「えー、ではまず始めに僕から自己紹介しようか。僕は審神者統括官の城田。よろしくね。統括官についてはその名の通り審神者を纏める者と思ってね」

 

こ「わたくしめは式神のこんのすけにございます。本丸にて審神者様方をサポートする者です」

 

葵「最後は私ですか。私は葵。そこら辺にいる禊師です。あ、ついでに言うと、視る事は凶悪な奴しか出来ないけど神降ろししたり祓ったり消し飛ばしたり出来る変な奴です。よろしくお願いします」

 

城「な、なな……」

 

こ「(゜Д゜)」

 

葵「あれ?二人とも私の事を知って声を掛けたんじゃ無いんですか?特にこんのすけ。君、霊力に関しては知ってる風だったよね?なにをぽかーんとしてるの?」

 

城「い、いえ。まさかの禊師だったとは。力を持つ人々が少なくなってきている中、神域の浄化が出来る人が審神者になって下さるのが驚きだったのです。まあ、詳しく調べなかったこちらの落ち度ですが」

 

こ「こんのすけを祓おうとなさったのも納得しました。ですが、お願いですから祓わないでくださいね」

 

葵「あー、うん。二人が動揺してるのはよく分かったから、さくさく話進めようか。どうせ、遡行軍相手には力使うんだしさ」

 

城、こ「「動揺させた貴方がいいますか!?」」

 

葵「あはは、ごめんね?」

 

城「もう嫌だ、この人」

 

こ「こんのすけは、いつか祓われてしまいそうです」

 

そんなこんなで自己紹介が終わり、遂に審神者業務の話をすることになった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

審神者業務と初期刀の顕現

城「審神者は刀剣の付喪神を降ろして時間遡行軍を殲滅するのが役目。これからは、僕が君の担当と言うことになるね。説明としては簡単。本丸にこれから選んで貰う初期刀と行って、鍛刀、出陣、遠征、手入れ、演練を行って欲しいんだ。流行だと言っていたから、知っているんだよね?そして君の場合は禊師だから、亜空間にある神域の浄化もお願いするよ」

 

葵「ええ、知っています。あくまでも噂程度にはですが。浄化は良いんですが、そんなに禊する機会があるんですか?」

 

城「その辺りのことは、こんのすけや初期刀に聞くと良いよ。別の緊急案件が入ってしまっているから、僕は行くね」

 

葵「そうですか。急なんですね」

 

城「すないね。ではまたね」

 

城田が緊急案件の方へ行ってしまうとこんのすけが業務について語り出した。

 

こ「まず最初に初期刀を選びましょうか」

 

葵「初期刀?」

 

こ「はい、初期刀です。初期刀は審神者様が自分で選べる唯一の刀です。どれを選んでも能力に変わりはありません。審神者様のお好きな刀をお選び下さい」

 

葵「ふーん。じゃあ刀の説明よろしく」

 

こ「かしこまりました。では右から。

一振り目の刀は沖田総司の愛刀の一つ。加州清光。

二振り目のこちらは、足利城主の依頼で作られし山姥切の写し。国広の傑作とされた山姥切国広。

三振り目のこちらは、風流を愛す文系名刀、歌仙兼定。

四振り目のこちらは、坂本龍馬の名刀、陸奥守吉行。

そして、最後の五振り目のこちらは、虎徹の真作。蜂須賀虎徹にございます。これらの刀は後から鍛刀や任務中に手に入れる事も出来ます」

 

葵「んー、なら陸奥守吉行にしようかな。きっと、面白い人だろうし」

 

こ「では、葵様。陸奥守殿を顕現させましょう」

 

葵「ほーい。んじゃ、やりますかねぇ。『いでませ、いでませ、陸奥守吉行』」

 

そう私は陸奥守吉行を刀台に置くと唱えた。この言葉は、神を降ろす。すると、辺りが光り、桜の花びらが舞う。花びらが消え去るとそこには、一人の男性が居た。

 

陸「わしは、陸奥守吉行じゃ。折角こがな所に来たき、世界をつかむぜよ!!」

 

葵「おおー、桜が舞うなんて何て綺麗な。陸奥守さん、私は審神者兼禊師の葵と言います。よろしくお願いいたします」

 

陸「ほう。主は禊師なんか。こげんちっこいのにようやるのう。ほいだらよろしく頼むぜよ」

 

こ「では、初期刀も顕現した事ですし早速本丸に行きましょう」

 

葵「どうやって行くの?」

 

こ「政府の地下に専用ゲートがありますのでそこから参ります」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

葵の力

私達は、こんのすけに案内されるまま政府の地下ゲートに降りていった。なんでも、そこは新人審神者専用ゲートらしく、一方通行なのだそうだ。しかしそこは新人審神者達の気分と同じくあかるいはずだった。なのになぜか薄暗く、不気味でいかにもといった感じであった。

 

葵「ねえ、こんのすけ。ここはいつもこんな感じなの?」

 

こ「と言われますと?」

 

葵「ここはいつも薄暗く、不気味でいかにもといった感じなの?」

 

こ「そう言われれば前はもっと明るかったような……?」

 

葵「やっぱりね。ねえ。付喪神である陸奥守さんはわかった?」

 

陸「んー。わしは霊刀や神刀と言われとうもんとちがうけんのう。分からん。主はなんぞ感じたんか?」

 

私は凶悪な奴であれば感じ取り視る事が出来る。そして私のその感覚はそれを悪しき者だと認識していた。ここでこのまま放置してはいけないと。それは人も刀剣男士も喰らいどんどんと成長する。

ここには顕現したての刀剣男士という極上の餌も行き交っている。急がなくてはいけなかった。

 

葵「ねえ、陸奥守さん。ちょーっとやばい奴いるから刀貸してくれない?」

 

陸「お、おう。そりゃまあええがの。刀でどないするんじゃ?」

 

葵「こうするの」

 

そう言って私はおもむろに自分の腕を浅く切りつける。陣も陣などを書くための墨なども呪符も用意している暇もないからだ。血はこの場ですぐに用意できる霊力をたっぷりと含んだ媒体だ。幾ら霊力が強くとも媒体なしでは霊力を纏わせにくい。そうして刀身に血を纏わせる。そうする事により、一時的に私の力が宿り霊刀とかす。

 

 

陸「あ、あ、主いいいぃぃぃぃぃい!?!?!?いきなり腕切りつけよって何しちゅうがか!?!?そげなことしちゅうなら刀を返せ!!」

 

こ「葵様!?!?血が、血が!!血がたくさん出てますよ!?!?」

 

葵「血はたくさん出てるけど浅くしか切ってないし大丈夫。ちょっと黙ってみてて。必要な事だから」

 

私はそう陸奥守さんに告げ、刀を取り上げようと近寄ってくるのを阻止する。十分に血を纏わせられ一時的に霊刀と化した証に淡く青く輝き出す刀。

その状態で私は居合の構えを取り呪を唱える。

 

葵「『禍者よ、禍者よ。いざ立ち帰れ元の住処へ!その手は光を掴み安寧を得ん!!』」

 

唱え終わったところで、一気に斬る。視えているその黒く禍々しいモノは常人も聞える断末魔をあげ消えて行った。

 

陸「なんじゃあ、この不気味な声は!?」

 

こ「葵様が刀を振られたからでしょうか?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お説教と優しさ

役目を果たした刀からは淡く青い輝きは消えていた。

私は一息つくと刀から血を拭き取り言った。

 

葵「ごめんね。血を吸わせてしまって。けど、陣も呪符も無い状態であれの相手は無理だったから。私に視えたという事は相当だよ。私は凶悪な奴しか視る事が出来ないから。」

 

そう、あれは凶悪な奴だった。まだ完全に力を蓄える前であったから祓えた。一撃で祓えたのも、正直運がよかったのだろう。もしくは、あの人達やあの子達が手をこっそり貸してくれたのか……。

つらつらと考えていると、傷が相当によろしくないと思ったのか陸奥守さんとこんのすけが焦って話しかけてきた。

 

陸「そがな事よか主!!傷は、傷はどうなっちゅう!?!?はよ見せてみい!」

 

こ「そうですよ。そんなことよりも傷の手当てをしなくては!!」

 

葵「大丈夫。もう血は止まってる。怪我の治りは早い方だから」

 

陸「ええい、そがいな事はええんじゃ。女子(おなご)が傷ついとうのがいかんのじゃ!」

 

そう言って彼は自分が巻いているさらしを刀で切ると包帯代わりに私に巻く。江戸時代、坂本龍馬が手当を受けているところを見ていたのだろうか。手慣れていて綺麗に私が自分で斬りつけた所にさらしを巻いてくれた。

 

葵「……ありがとう」

 

普段は、よほどうっかりとしていて深く斬ってしまった時以外は包帯やさらしなどは巻かない。ティッシュやガーゼなどで血が止まるまでしっかりと押さえるくらいだ。しかも、巻くときは自分で全てをやっていた為、他人に巻いて貰うのは何だかとてもくすぐったかった。

 

陸「主は自分を大切にせい。わしと約束じゃ」

 

葵「えー。付喪神といえど神と約束はしたくないからやだ✩」

 

そう。神との約束は絶対の契約。たとえ口約束だったとしても破ればどうなるかはその契約相手の神次第なのだ。当然、私は陸奥守さんと約束をしない。術者として基本中の基本である。

 

陸「むう。主はその辺詳しい奴じゃったのう。なら、努力はしてくれよ?」

 

葵「分かった。努力はする。絶対とは言えないけど」

 

こ「では一段落もつき、葵様の手当も済んだ事ですし、気を取り直して本丸に参りましょう!!」

 

こうして、私はようやく自分が担当する本丸に行く事が出来た。

 

葵(しかし、おかしいな。幾ら人通りが比較的少なく、かつ霊的素養のある人が中々通らないといえどああなるまで誰も気が付かないなんて……。少し、警戒を強めておくか。その内、報告があの子達から来るだろうし)

 

そっと、心の中で警戒をしながら。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本丸解説と不安

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

こ「さあさあ、葵様、陸奥守殿。ここが本丸ですよ!」

 

ゲートをくぐり抜けた先に見えたそこは、優美な日本家屋だった。庭には桜の木があり、満開の桜が咲き誇っている。池の中には鯉がのんびりと泳いでいた。敷地内には、倉、道場、母屋、離れ、馬小屋があり、さらには畑もあるようで自給自足が出来るようだ。

 

こ「中々、広いでしょう?今は葵様と陸奥守殿しか居られませんがじきに刀剣男士の方々も増え、賑やかになりますよ」

 

そんな会話をしつつ、本丸の中を案内され各部屋の説明を受けていく。厨房等の扱いについても説明を受けた。何でも見た目に反し、オール電化なのだそうだ。……無駄にハイテクだった。そもそも、ここは亜空間でありどうやって電気をこちらに送っているのだろうか。そんな事を考えているとこんのすけから鍛刀部屋、手入れ部屋、審神者の部屋について詳しく説明を受けた。

 

こ「こちらは鍛刀部屋です。後で、鍛刀の詳しい説明を致しますので部屋の機能だけご紹介します。ここでは、鍛刀をし新たな刀剣男士を顕現する事が出来ます。隣は手入れ部屋です。傷ついた刀剣は手入れをしなくては癒える事はありません」

 

葵「おーい、こんのすけや。私が何か忘れとりゃせんかー?」

 

こ「あ」

 

葵「思い出したのならそれでよろしい」

 

こ「えー……。最後に、こちらは審神者部屋になります。葵様の執務室兼寝室となります。中のレイアウトは現世のお部屋と似た雰囲気にしておきました。以上で各部屋。の説明は終わりですね。何か質問はございますか?」

 

陸「おーる電化とはなんぜよ?」

 

葵「使っていけば分かるよ。きっと驚くだろうね」

 

こ「説明が難しいので、葵様が仰った通りです」

 

陸「応えになっちょらんのう……」

 

こ「質問はもうなさそうなので、いよいよ出陣と参りましょう!出陣は、門にある時の歯車を使って時間を遡行します。このまま、陸奥守殿は出陣なさって下さい」

 

葵「ちょっと待って。顕現したての陸奥守さん一人で行くの?何振りか鍛刀してからじゃ無いと危険でしょう。もしくは、私も行くか」

 

陸「主、心配いらんぜよ。わしは頑丈じゃき。それに、主はさっきの祓えで怪我しちゅう。無理は禁物じゃ」

 

こ「陸奥守殿もこう仰ってますし、大丈夫ですよ」

 

陸奥守さん一人で戦場に行ってしまった。ここで、なんとしても私が一緒について行っていればあんな事にはならなかっただろうに……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

陸奥守吉行の初陣

陸奥守さんの一人称視点です。ついでにいうと、土佐弁もかなり怪しい雰囲気になっていますがスルーして楽しんでいただけると幸いです。
これからも、視点が変わったりしますがよろしくお願い致します。


陸「ほー、ここが戦場なのか。中々の雰囲気じゃのう。早速、敵ば探さないかんな」

 

わしはそう言いながら索敵を開始した。ふと思い返す。主がいきなり腕を斬りつけた時のことを。あの時、胸の辺りが可笑しゅうなった。……あれが、驚きという事なんじゃろうか。

それはなんかちっくと違う気のするがいずれ分かるか。今は敵を探さにゃいかんと言うのにわしは……。

 

 

 

ガサッ、ガサガサッ

 

 

 

陸「!!」

 

茂みが揺れ、一度近くにあった木の陰にわしは慌てて身を隠した。見ていると出てきたのは短刀の時間遡行軍二体じゃった。

 

陸「敵の陣形は……?ダメじゃ、ここからでは陣形まではようわからんのう。ま、わし一人やきこちら側は陣形も何もないがのう」

 

そう言ってわしは一気に時間遡行軍の前に姿を現す。刀は抜いておく。奇襲を仕掛けるに絶好のチャンスじゃからな。

 

陸「よう狙ってバン!!!」

 

軍1「キシャッ」

 

軍2「キシャシャア!!」

 

一体目には当てられたが、二体目の方は逃してしもうた。そのせいで、今度はこちらが防御するはめになった。防御をしても奴らは二体。こちらは一人。主が「ちょっと待って。顕現したての陸奥守さん一人で行くの?何振りか鍛刀してからじゃ無いと危険でしょう」ちゅう言い寄ったんも分かる。連携されてしまうと厄介じゃった。

 

そうこうしゆううちに、一体の遡行軍を倒した。けんど、わしも無傷ではすまんかった。重傷一歩手前まで攻められてしまった。

 

軍2「キジャジャ!!」

 

陸「のうが悪いぜよ」

 

時間遡行軍の片割れからの攻撃を避け損ねてしまいとうとう重傷の傷を追ってしまう。その時わしが思っちょとたのは、出会ったばかりの主の元に返らなくてはいかんゆう気持ちじゃった。

 

陸「……わしに抜かせたな!!!」

 

そう叫んでわしは今までの攻撃の中でも最高の抜刀をし、相手を斬り捨てた。

何処からか、目の前に『誉』という文字が浮かんだがわしは満身創痍。気に掛ける余裕もなかった。じゃが、次の瞬間聞えてきた声には反応せざるをえんかった。……今にも泣きそうな主の声じゃった。

 

葵「陸奥守さん!!聞える!?葵です!!生きてる!?生きてても死んでても返事をして!!!!」

 

陸「おー、主。そげん泣きそうな声ださんでもわしは生きちゅうよ。死んどったら返事せんきにの」

 

葵「もう、そんなことはいいから早く帰ってきて!!治療するから!!」

 

陸「おう。わかったがやき主」

 

そこまでなんとかわしは意識を持たせたが、そこから先の記憶は無い。

遠くで主の声が響いたのを最後にわしは倒れたのじゃった。




読んで頂きありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

治療と約束

占いツクールでは細かいところや削ったところがありますがこっちではそのままWordからコピペしてます。誤字等ありましたら教えてくださると嬉しいです。


葵「こんのすけ!!!!!!!」

 

こ「はい、分かっています、葵様!!!!!!」

 

葵「分かっているなら、手入れ部屋の準備!それと、手伝い札とか言う奴あるんでしょ?それも用意して」

 

こ「それが……。申し上げにくいのですが、手伝い札は無いのです……」

 

葵「どう言う事??取り敢えず準備しながら聞くから」

 

そうして、準備を行いつつ聞いたのは政府の怠慢とも言うべき事態だった。こんのすけによると、刀剣男士の生命線とも言える手伝い札が無くなったのは、手入れには使用されないケースが相次いだ為だという。

その為、本霊に掛け合い手伝い札の配布や資源として手に入れる事も無いようにしたのだという事だった。

これにより、多少ではあるがブラック本丸の摘発に役立っているらしい。しっかりと手入れしていれば刀剣男士達は主である審神者の霊力を纏うようになるからだ。日々上がってくる戦績報告と合わせる事で刀剣男士達の審神者の霊力がどれほど纏うか分かるらしい。中には当てはまらない特殊ケースも存在するようだが、そこは配慮するそうな。そうしていても、腐った役人やブラック本丸化する本丸が後を絶たないのと言うのだから政府の苦労が偲ばれるという事だった。勿論、ブラック本丸と分かったら調査の後潰されるそうだ。

 

こ「こういった訳で、手伝い札は無いんです……」

 

私は、こんのすけの話を聞いているうちに落ち着きを取り戻していた。

 

葵「話は分かった。……どうしよう。そうなると治療用の符が足りない。直接霊力を注ぎ込みむにしても、注ぎ込んだ霊力を神気に変換しないと陸奥守さんは治らないのに」

 

こ「……申し訳ありません……」

 

葵「無いんじゃ仕方無いよ。政府にしたって苦渋の決断だっただろうし。(本当は、神気ならあるんだけど、まだ政府に知られる訳にいかないしな……。)とにかく、転送をお願い」

 

こ「承知いたしました。では、転送を開始致します」

 

私はこんのすけによって転送され陸奥守さんの元へと着いた。陸奥守さんは全身から血を流し意識を失って倒れていた。

 

葵「陸奥守さん、葵です。迎えに来ましたよ。帰りましょう」

 

そう声を掛けながら血まみれの陸奥守さんに触れる。

 

葵「こんのすけ、私達を本丸の手入れ部屋に転送して」

 

こ「分かりました。葵様」

 

私はこんのすけに頼んで直接手入れ部屋に転送してもらった。

そうしないと、気を失った成人男性である陸奥守さんを運ぶ事が出来ないからだ。

 

葵「無茶をして……。いきなり陸奥守さんが居なくなるとかそんな展開望んでなんかいないですからね?」

 

私は、そうそっと呟いた。こんのすけも申し訳なさそうな顔で見ていた。知っていた審神者業務では手伝い札の存在があったからだろう。

 

こ「葵様……」

 

葵「大丈夫。私の霊力は多いから。心臓の上に触れて、と。『血の雫 ヒトの涙 災禍 幸福 治癒の手の願いよ 気の廻りと力 傷知った身体に癒やしの想いを立てよ 治癒術式開始』」

 

そう唱え終わると三角形に配置した治療用の符から柔らかな光が昇り始め、その代わりに符に書かれていた墨文字が消えていく。それと同時に私の身体から出ていく霊力も増えていった。やはり、本来の符の量よりも少ない事と付喪神といえど神を癒やすと言う事で負担も増えているようだ。

 

 

1時間ほど陸奥守さんの心臓の上に触れていただろうか?呻き声を出して陸奥守さんは目を覚ました。

 

陸「う……ぐ、ぅ………ここは……」

 

こ「葵様、陸奥守殿が!!」

 

葵「良かった、陸奥守さん。目が覚めたんですね。神に対して治癒術式を使うのは初めてだったから心配だったんです」

 

そう言いながら私は心臓の上から手をどける。そして、陸奥守さんに尋ねる。

 

葵「これ、何本に見えます?」

 

陸「一本じゃろ?主は心配性なんか?」

 

葵「そりゃ、顕現して頂いていきなり破壊寸前までいったら心配性にもなりますよ。見え方に問題も無いようですし大丈夫ですね。さて、では」

 

私はそう言って切り出す。『約束』をして貰うために。もう、二度とこんな思いをしないために。

 

葵「『約束』してください。二度と破壊寸前まで頑張らないと。……また、大切に思えそうな人や物を無くしたくないんです」

 

少しだけ、過去を混ぜ告げる。神に知られ過ぎると隠されやすくなるから何も教えないし言うつもりも無かった。けれど、あの祓えの時のお説教のせいか信頼し始めてしまっていた。そうなると、何も言わないのも教えないのもフェアじゃ無いと思うようになった。

私は、約束をする事を拒んだ。それでも、願ってしまった。

 

『傷つかないで欲しい』と。

 

葵「『約束』、出来ますか?」

 

陸「そうじゃな、それを主も『約束』してくれるんじゃったらな。主は平然と無茶しそうじゃけんの」

 

葵「出来る限り、でいいなら。人間も神だって完璧にやるのは無理だから」

 

陸「分かった。なら、『約束』じゃ」

 

こうして、私は陸奥守さんと『約束』を結んだ。勿論、後であの子達に怒られたのは言うまでも無い。




お読み頂きましてありがとうございます。あの子達は占いツクールでも出てきてませんのでご安心を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あの子達との会話と秘密

陸奥守さんの治療やその他が終わり、私は審神者部屋に戻ってきていた。事前に陸奥守さんには休むから好きに過ごして良いと伝えてある。まだ、ほかの刀剣を鍛刀しなければならないけれど、陸奥守さんはあれほどの大けがをした直後だ。明日に回すべきだろうし、何よりも「あの子達」が五月蝿い。と、くればさっさとすませるに限る。

 

葵「ねぇ、みんな。ここに来る前に祓ったアレ、なんだったの?」

 

ロープ「それよりも、葵。よくもさっきは心配させてくれたよねぇ……」

 

トワレ「そーそー。しかも、符が少ない状態で高位の治癒術式使うし」

 

ユノー「何気に神気変換してたし」

 

イグニス「腕切るし」

 

コルク「付喪神といえど神と約束するし」

 

ディン「癒すし」

 

ティア「しかも、さらっと話してたといえど正体バラしそうになるし」

 

ディーネ「血は使うし」

 

アンリ「キミ、ただの祓い屋じゃないんだよ?」

 

ノート「能力と諸事情のせいでやってるだけで」

 

クリア「本来、こういった事に手を出していい人じゃないんだよ?」

 

ゴング「そこんところ、分かってる?」

 

ライエン「分かってないんだろーけどさ」

 

ダルク「自覚持ってよ?」

 

千晶(ちあき)「一応かっこかりの月読みの娘さん?」

 

……そうなのである。一応、私こと葵は月読尊の娘だったりする。

それがなんでかっこかりで、祓い屋なんぞをやっているかと言うと少し前に遡る。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

葵「あつい……。こんな日はネットでもしてよ……」

 

最近、私はのんびりとしている。正社員だったが、先輩にミスを押し付けられ上からそれとなーく辞めるよう言われてしまい、今は有給休暇を消費中なのだ。

ネットでは様々な配信をしているので中々楽しめる。ふと、一つの配信が目に止まった。配信タイトルは「視聴者参加型ひとりおにごっこ」である。

 

葵「ふーん。こういう事やる人、まだ居るんだ。止めて欲しいんだけどなぁ。こちら側(・・・・・)としては、さ」

 

私は、視る事は凶悪な奴しか出来ないけど祓ったり消し飛ばしたり出来る変な奴なのである。その上、式神(術者が力を使って作り出したり精霊だのとなんだのと契約することで使役できる)が何の因果か14人居たりする。幼い頃よりそばに居るロープ、引越し先で仲良くなり契約したトワレ、雨が凄くてどうにかならんかと思って交渉しているうちに仲良くなったディン等々。五代元素プラス光と闇なので最低でも各属性に二人居る計算である。

ちなみに、各々の名前と属性は

風……ロープ、トワレ、ユノー

火……イグニス、コルク

水……ディン、ティア、ディーネ

土……アンリ、ノート

金……クリア、ゴング

光……ライエン

闇……ダルク、千晶

である。

千晶は友人から貰った式だ。中々可愛い子である。そんな各式達との出会いを思い返しながら一人鬼ごっこを見ていた。案の定、霊障が起き始め、助けを求め出す配信者。オカルト枠のためか、自称術者や本物の術者も動き出していた。

 

葵「はぁ……。やっぱ、ろくな事起こらないのに。これに懲りたらもう二度とこちら側に手を出したり踏み入らないこと。いいね?」

 

他の術者が上手くいかない中、私は式達を画面の向こう側へと派遣して祓い、スマホの画面を消した。

この時、仲良くなった人の中に今の友人が居り、私の力の強さの秘密、神の娘であるのではないかということを教えて貰った。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ロ「……い、葵!!聴いてる?僕たちキミにお説教してるんだよ??」

 

ト「聴いてないなんて、良い度胸だね?」

 

葵「あー、ごめんごめん」

 

イ「まあまあ、二人とも。一応葵は僕たちの主だからね?これくらいにしてさっきの妖モノについて話した方が良くないかい?」

 

ロ「う、ぐぬぬ……。それを言われると……」

 

ト「引き下がらざるを得ない、かぁ……」

 

イ「わかってくれて嬉しいよ。さて、風の皆の方が詳しいだろうから頼むよ。僕は火だし」

 

ユ「はいはーい、んじゃ私が説明するねー。さっきの妖モノはね、虐げられてきた刀剣男士の残滓なんだ。本人達はもう大元に戻るか消えるかしてる。けど、恨みや悲しみなんかは凝って彷徨っていたみたい。審神者を、力を得る前の審神者を殺すために。けど、うちの主には敵わないからさくっと祓われたんだけどね〜」

 

葵「いちいちほめなくていいよ、ユノー。けど、情報ありがとう。これからはそういう残滓も相手にしないといけなさそうだね。はぁ……陸奥守さんには話せないな。皆、こっそり動いてね?じきに神刀や霊刀も来るかもだけど出来るなら秘密にしておきたいし。引き続き、情報収集お願いね。じゃ、解散」

 

式全員「はーい」

 

式達を情報収集に送り出して、やっと私は布団に入ることが出来たのだった。

 

葵「けど、刀剣男士の残滓か……。それほどまでにブラック本丸は多いって事なのかな……」

 

先行きに、不安を感じながら眠る私だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小夜君との出会い

不安を感じながら眠ったにもかかわらず案外すっきりと起きられた私は、朝食を用意しようと台所に向かうことにした。

 

すると、そこには陸奥守さんが既に居た。私よりも早く起きたようだった。

 

 

 

 

葵「おはよう、陸奥守さん。早いんだねー」

 

 

 

 

陸「おお、主か。主も早いんじゃのう。なに、折角人の身を得たがやき、ちっくと朝食でもとおもっての」

 

 

 

 

葵「そかそか。ありがとう、陸奥守さん。けど、いきなり料理ってチャレンジャーだねぇw」

 

 

 

 

陸「なんでもやってみないともったいないぜよ」

 

 

 

 

葵「そうだね。よし、作ろうか」

 

 

 

 

そんな会話の後に私と陸奥守さんはThe・日本の朝食!!というモノを作ったのだった。……陸奥守さん、なんで初めてやったはずなのにあんなに包丁捌きがキレッキレだったんだろ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食後、私と陸奥守さんはこんのすけに連れられて鍛刀部屋に来ていた。本来は、鍛刀部屋は赴任直後は二部屋なのだそうだけどこんのすけ曰く、「昨日の祓えの報酬として、鍛刀、手入れ部屋を最初から四つに増やしておきました」とのこと。貰えるモノは素直に有難く頂くようにしているので、こんのすけにお礼を言っておく。

 

 

 

 

こ「さて、では審神者様。鍛刀を致しましょう。鍛刀は、資材の量を決める必要があります。資材の種類は玉鋼、木炭、冷却水、砥石です。これら四つは全て999まで一度に使うことが出来ます」

 

 

 

 

葵「なるほど。そして最初はそんなに資材も多くストックできないんだね。なら、溜めておこうか。最初の鍛刀はオール50かな」

 

 

 

 

こ「では、その様に妖精に頼んで下さい」

 

 

 

 

葵「了解。妖精さん、オール50でお願いします」

 

 

 

 

金床やその周辺にいた妖精さん達に頼むと、20分という札を渡された。

 

 

 

 

こ「その札は、鍛刀があとどの位の時間で終わるかを示す物です。その時間が過ぎれば、鍛刀した刀を顕現させることが出来ます」

 

 

 

 

葵「ふうん。かなり早いんだね」

 

 

 

 

こ「まあ、早いに越したことはありませんからなぁ。それに、身もふたもないことを申しますと本来の鍛刀方法では戦力増強には向きませんから」

 

 

 

 

そんな、本当に身もふたもない事をいうこんのすけ。……本来の鍛刀方法で作られた刀があって初めて刀剣男士が生まれ、その力を借りてやっと時間遡行軍とまともに戦えているという事をこんのすけは忘れているのかと思ってしまった。

 

 

 

 

葵「本来の方法で作られた刀があってこその今、だよ。こんのすけ」

 

 

 

 

そう言った後、初めての鍛刀という事もあり、そのまま30分程度なので陸奥守さんやこんのすけとともに鍛刀部屋で待っていることにした。少し、気まずかったけれど、しばらく雑談をしているとそれも薄れて行った。その後30分が過ぎ、妖精さんに渡された札が光り出した。

 

 

 

 

こ「札が光り出したという事は鍛刀が終了した合図です。これから新たな刀剣男士を顕現させましょう!!」

 

 

 

 

妖精さんから出来たばかりの刀を受け取る。大きさからみて短刀のようだ。

 

 

 

 

陸「新入りはどがな奴じゃろなぁ」

 

 

 

 

葵「分かった。じゃあ、顕現して貰うね。『出でませ、出でませ。新たなる器を得られし付喪神よ』」

 

 

 

 

わたしの言霊に反応して依代となる刀が輝き、桜の花びらが辺り一面に舞い散る。桜の乱舞が収まった時、そこに立っていたのは大きな笠を背中にやっている小さな少年だった。

 

 

 

 

?「……僕は小夜左文字。貴女は……誰かに復讐を望む?」

 

 

 

 

葵「……いきなり、物騒な事を問うんだね。私・・・は(・)復讐・・・・を(・)望んで(・・・・)望まない(・・・・・)よ」

 

 

 

 

小夜「??」

 

 

 

 

そう、言葉遊びをしておく。式達が騒めいている。……ああ、なんて厄介な置き土産をあの人は残していったんだろう。暗く、呼吸が出来ない苦しみを思い出す。

 

 

 

 

陸「……主、大丈夫がか?顔色が悪うなりゆう。何ぞ、嫌な事でも思い出したか?」

 

 

 

 

葵「大丈夫。何でもないよ」

 

 

 

 

そうして、新しく顕現した小夜君に笑顔を向ける。彼は、何か不味い事をしてしまったのかと不安そうにしていた。まだ、私が乗り越えられていないだけで彼は何一つ悪いことをしていない。

 

 

 

 

葵「自己紹介がまだだったね。私はここの審神者をやっている葵。これからよろしくね」

 

 

 

 

陸「わしは陸奥守吉行じゃ。折角、人の身を得たがやき一緒に楽しくやるぜよ!」

 

 

 

 

一通り自己紹介を終え、広間に移動し一息ついた時、こんのすけが話しかけて来た。

 

 

 

 

こ「では、このままリベンジと参りましょう!!」

 

 

 

 

葵「却下」

 

 

 

 

こ「何故です!!」

 

 

 

 

こんのすけは今にも飛び掛かってきそうな勢いで来た。少し考えれば簡単な事なのに。

 

うちに配備されているこんのすけは少々残念な仕様なようだ。

 

 

 

 

葵「まず、理由一つ目。鍛刀が出来るようになったのだから最低限第一部隊の六枠は埋めておくべき。数はそのまま力になるからね。二つ目。戦闘をするなら全て(・・・)の準備を整えてからやる。当り前の事だけどね。こんのすけ、まだ審神者がやるべき事全て教えてくれた訳じゃないでしょう?」

 

 

 

 

こ「あ、はい……。まだお話できていないことがあります。刀装作り、内番、演練です」

 

 

 

 

葵「刀装、と言うからにはそれは戦闘用品なの?」

 

 

 

 

こ「そうです。戦闘時、銃兵、投石兵、弓兵であれば先手を取り攻撃する事ができ、騎兵や重歩兵と言ったものは刀剣男士の各ステータスを上げます」

 

 

 

 

葵「……ねえ、こんのすけ。私が今何を考えているか分かる?」

 

 

 

 

親友にもよく言われる、笑っているのに笑っていなくて怖いと評判の笑顔をこんのすけに向ける。

 

 

 

 

こ「分かりますがしかし、これはこんのすけにはどうしようも出来ない事なのですが……」

 

 

 

 

陸「主、殺気がすごいぜよ……」

 

 

 

 

私が何に対して怒っているのか分かっていない陸奥守さん。すると、ここまで黙っていた小夜君が口を開いた。

 

 

 

 

小夜「やっぱり、貴女は誰かに復讐を望むの??」




ハーメルンとツクールのログインが上手くできなくなって仕方なく先になろうの方を更新しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思ったよりも大惨事

私の怒りを感じ取って復讐をしたいのかと問いかけてくる小夜君。笑顔に何か思うところがあるのかかなり真剣だ。自己紹介の時もそれなりに本気だったけれど、今は思いの密度が違う。とは言え、このまま「そうだよ」だなんていう事はない。それがどんなに虚しいか知っているがために。

 

もしかしたら、小夜君は刀であった時に復讐に使われるか、もしくはその主が復讐に囚われていたのかも知れない。そして、その主は思いを果たせず儚くなったのだろうか。故に、復讐にこだわるのかも知れない。……本人に確かめていない現状、これ以上はただの邪推になる。が、せっかく人の身を得たのだからのびのび出来る限りは生きて(・・・)欲しい(・・・)と思うのはエゴなのだろうか。

 

そんな事をつらつらと考えていた私は、陸奥守さんの「主?」の声に我に返った。どうやら、黙り込んでいたから心配をかけてしまったようだ。

 

私は、陸奥守さんに心配ないと答えたあと小夜君に話しかけた。

 

 

 

 

葵「小夜君、私は怒っているだけで復讐する気は無いよ。そんな事をしても大して意味がないしね。それに、復讐を果たした後は目的も目標も何も無くなるから、ただただ、ひたすら心が凪いで感情ごっそり抜け落ちて生きた屍になるが関の山。そんなのになるのは勘弁願いたいから復讐はしないよ。因果は廻るしね」

 

 

 

 

小夜「因果?」

 

 

 

 

葵「そう、因果。業とか運命とかって言われているモノ。よく、情けは人の為ならずとか良い事をすれば巡り巡って己に返って来るというのもその一種。……まだ初日なのにものすごくお説教ぽくなってごめんね」

 

 

 

 

小夜「大丈夫」

 

 

 

 

葵「ありがとう」

 

 

 

 

少し、雰囲気が重くなってしまったのを誤魔化す為に私はパンと打ち合わせた。

 

 

 

 

葵「さー、こんのすけ。さくさく教えてくれてない事を吐いてもらえるかな?あとは内番、演練だったよね」

 

 

 

 

こ「内番とは、馬当番・畑当番・手合わせの事です。これは、二人または一人で二十四時間行います。当番中も出陣や演練等も行えますのでご安心ください。審神者様によっては、この他にも生活に必要な事を当番制にして回していらっしゃることがあります。主には、食事・掃除・湯殿管理です。近侍も当番制にされている方がほとんどです。理由として、近侍は練度が上がりやすいからですね。ただ、ステータスが上がるのは馬当番・畑当番・手合わせだけで、他の当番を作られてもステータスが上がる事はありません」

 

 

 

 

葵「なるほどね。じゃあ、演練は?」

 

 

 

 

当番はもっと人数が増えてからみんなと相談しつつ決めようと頭のメモに書き込みながら、思う。こういう、大事な事を教えられる前に陸奥守さん一人で戦いに赴かせたのはやっぱり納得出来ないけど言っていても仕方ないし進まないから政府に呪いを何時か贈る事にして演練について説明をしているこんのすけを見る。

 

 

 

 

こ「演練とは、簡単に言ってしまえば審神者様同士での模擬戦闘になります。全国から審神者様方が集まり、戦闘相手が決まります。演練では破壊されることはありませんし、敗北したとしても経験値を得る事ができます。何よりも、他の審神者様方と情報交換したり交流したり出来る事も魅力の一つですね。何より、日々の任務にもなっていますから積極的に参加をお願いします」

 

 

 

 

葵「こんのすけ、任務って?」

 

 

 

 

また、聞かされていない言葉が出て来た。確かに、城田さんは細かい事はこんのすけに聞くように言っていたけれども、もう少し事前に話して欲しい……。いくら、流行で知ってるったって限度が有るのに。すると、こんのすけは携帯端末を出し私に渡すと見るように言った。肉球なのにどうやって、という突っ込みは式神ですからの一言で片付けられそうなので飲み込んでおく。

 

端末を言われた通り起動させると中にアプリが入っており、名前が『戦果記録帳』となっていた。

 

 

 

 

陸「ほー。ほんに龍馬の時代とは比べ物にならんほど発展したんじゃなぁ。龍馬にも見せてやりたいぜよ」

 

 

 

 

横から覗き込んでいた陸奥守さんは心底感心したように言い、小夜君は「板が光った!?」みたいな反応をして、少し怖そう。

 

……面白そうだから少しからかってみようかなぁ。小夜君、きっといい反応をしてくれるだろうし。

 

 

 

 

葵「小夜君、小夜君。この板はね、閻魔帳なんだよ。悪いことをしていると判断されたら私も小夜君も、みーんなこの板から顕現した閻魔様に食べられちゃうかもね?」

 

 

 

 

陸「!?」

 

 

 

 

こ「審神者様!?」

 

 

 

 

少し、笑いを堪えつつ、二人にそう言ってみた。こんのすけは私が突然意味不明なことを言い出したからあわあわしている。冷静に考えればこの端末にそんなに大きな力がないことは分かる。けれど、顕現されたての小夜君、陸奥守さんはどうも真に受けたようで、小夜君は大きな瞳がだんだんうるうるして来ていた。陸奥守さんはじいっと端末を見て閻魔様が出てくる前に破壊するべきかを考え始めていた。これに焦ったのは私だ。突っ込みを期待していたら泣かれ始め、端末を破壊するか検討され始める。焦らないはずが無い。

 

 

 

 

葵「さ、ささささっ小夜君!?な、泣かないで!?!?!?!む、むむむ陸奥守さんもこれ壊す検討始めたりしないでぇぇっぇぇぇ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後_______

 

 

 

 

葵「あの、本当にごめんね。ちょっとからかいたくなっただけなんだ。ちょっとしたイタズラ心からだったんだ。だから、端末から閻魔様は出てこないから泣かなくていいし、壊す必要も無いよ!!」

 

 

 

 

陸「おう、そうか。主はあんがいいい性格しとるんじゃのう」

 

 

 

 

小夜「本当に、閻魔出てこない……?」

 

 

 

 

葵「出てこないよ!!」

 

 

 

 

小夜「ん……」

 

 

 

 

この一時間ほど、泣き出してしまった小夜君を宥め、壊そうとする陸奥守さんを落ち着かせ、政府に確認を取ろうとするこんのすけに待ったをかけ、というように思った以上に大惨事になったからかいの後始末をしていた。そもそも、顕現から一週間もたっていない二人をからかったのがいけなかったと盛大にスライディング土下座を敢行したところ、さらに阿鼻叫喚になってしまいこの時間になったのだ。

 

そしてようやく、先ほど和解が出来たのである。……今度からは、もう少し笑えそうなからかいや冗談にしようと、心底誓った。

 

 

 

 

ロ「(ねーねー、葵って本当に懲りないよね。それ、僕たちにもやったよね)」

 

 

 

 

念話でロープが話しかけてくる。どうやらこの騒ぎを聞いていたらしい。

 

 

 

 

葵「(るっさいよ、ロープ。私だってこんな大騒ぎになると思わんかったわ!!)」

 

 

 

 

ロ「(あ、逆ギレー。いけないんだー、仮にも神の娘なのにー)」

 

 

 

 

葵「(今は、神の娘とか関係ないから!!いいから情報収集してきて!)」

 

 

 

 

ロ「(はいはい。んじゃ行ってくるけど。勘の鋭い子が来るだろうから気をつけなよ?)」

 

 

 

 

葵「(分かった)」

 

 

 

 

ロープとの念話を終え、陸奥守さんと小夜君、こんのすけの会話を聞くともなしに少しぼんやりする。こんのすけは、さっき出来なかった端末の説明をしているようだ。刀剣男子にも支給される端末があり、それは各部隊の隊長と近侍に渡されるらしい。

 

そして、私のものは審神者専用であり、刀剣男子が触れても通り抜けて持ち上げることが出来ないらしい。

 

 

 

 

葵「さて、皆。そろそろ端末については分かっただろうしアプリにヘルプがあるからいいとして。次は戦力増強のために鍛刀しようと思うんだ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦力増強〜別名、ちみっ子パラダイス〜

陸「けんど、資材が少ないからゆうて貯めるんじゃなかったがか?」

 

 

 

 

葵「それはそれ。正直、昨日の陸奥守さんの怪我を思い出すと腸が煮えくり返って仕方ないんだよね。んで、あんな腹立つことが起こるくらいなら資材が少なくて大変な思いする方がマシ。みんなの治療は私が符を作っておけばどうとでもできるしね」

 

 

 

 

私はそう言って、符を作るために下準備を済ませておいた紙を見せる。下準備と言っても、ただ力の通りと力の蓄えられる量を増やすために暫く身につけておくだけの事。だから、それほど大した手間でも無いし、やらなくても最悪どうにでもなる。

 

 

 

 

小夜「……符??」

 

 

 

 

小夜君は小夜君でそこか分らなかったらしい。そう言えば、私の力についてまだ説明していなかった。式や神の娘云々は黙っておくとしても、禊師であり祓い屋である事は話しておくべきだった。

 

 

 

 

葵「あー、ごめん。まだ話して無かったよね。私は禊師であり祓い屋なんだ。だから、普通の人だと刀剣男子の治療に資材が必要だけど、私は最悪無くても治せるし、力の込め方ややり方次第で普通よりも早く治したり出来るんだ。符は、その時に使う道具だね」

 

 

 

 

私の力についてざっと話す。これは人数を増やすたびにやらないといけない事だけど、何度も話すのは少し大変な気もしてきた……。

 

が、これもコミュニケーションの一環になるし、まあいいか。

 

 

 

 

葵「まあ、分らない事はその都度聞いてくれればいいから」

 

 

 

 

小夜「分かった」

 

 

 

 

小夜君はそういうと、おもむろにこんのすけを抱きしめた。突然の事でこんのすけもあわあわしている。なんだか、こんのすけはさっきからあわあわしている事が多い。こんなんで本当に大丈夫なのかと思いつつもちみっこがぬいぐるみ(実際は式だし隈取やらで少々不気味)を抱いている姿にほっこりする。

 

 

 

 

小夜「?」

 

 

 

 

どうやら、ずっと小夜君を見ていたから不思議に思われたようだ。なんでもないよと笑って誤魔化しておく。

 

 

 

 

葵「さて、陸奥守さん。戦力増強は私たちにとっての急務。鍛刀に付き合ってくれる?」

 

 

 

 

陸「まーかしちょけ、主!」

 

 

 

 

心強く、快く引き受けてくれた陸奥守さんとともに鍛刀部屋へ行く。その時に、小夜君に好きにしていて良い事を言うとこんのすけとともにあちこち見て回ったりしたいと言うのOKする。こんのすけはいまだに小夜君に抱かれていて、「小夜殿、そろそろ離して欲しいのですが」と言っている。かわいいのに分かっていない式である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りをした後、鍛刀部屋についた私と陸奥守さんは早速妖精さんに鍛刀を依頼する。

 

 

 

 

葵「妖精さん、さっきぶり。小夜君を鍛刀してもらったばかりで申し訳ないのだけど、また鍛刀を頼めますか?」

 

 

 

 

妖精さんに、申し訳なく思いなからお願いする。すると、妖精さんは実にいい顔でサムズアップし、任せろというように腕まくりもする。実に頼もしい妖精さん達である。何となく、ちらっと陸奥守さんを見るとやはりにこにこしている。やっぱり、かわいいは正義だな、なんて思いつつ本題である四本の鍛刀をやる。資材の量は、一振りだけお試しで玉鋼を100にした他は全てオール50。なんといっても、まだ着任したばかりでそこまで一息に資材は使えないのである。

 

妖精さんから渡された札は30分が一枚に20分が三枚。30分の1振りが出来上がるのを待ってから一斉に顕現する事に。その間、まったりと陸奥守さんとおしゃべりをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後―――

 

 

 

 

札が光りだし、刀剣男士が顕現するための器ができ上がる。既に、20分のものは手元にある。四振りの短刀を鍛刀部屋の刀掛けに置き、顕現のための準備を整える。そして、呼びかけた。

 

 

 

 

葵「『出でませ、出でませ。新たなる器を得られし付喪神よ』」

 

 

 

 

辺り一面が不意に起こった桜の花びらの乱舞と光で埋め尽くされる。一気に四振り顕現するからか、桜の量は小夜君の時よりも多い。光と桜が収まった時、そこには四人の人影が。全員小学生くらいの背丈で、一人だけ女の子のようだ。何故なら、私よりも長く綺麗な髪と美貌である(私の顔はモブ。綺麗だとか言う奴は信用ならん)。ほかの男の子たちは、それぞれ別系統の将来が楽しみな美形、いやイケショタと言える風貌である。ひとしきり、お互いが観察をし終えたあたりで口を開く。

 

 

 

 

葵「こんにちは。新たに顕現された付喪神様。私はここの本丸の審神者をしています葵です。どうぞよろしくお願いします」

 

 

 

 

?「オレは、厚藤四郎だ。兄弟の仲だと鎧通しに分類されるんだ」

 

 

 

 

?「ボクは乱藤四郎……。ねぇ、ボクと乱れたい?ふふっ」

 

 

 

 

?「乱、いきなりその挨拶はどうかと……。前田藤四郎と申します。末永くお仕えします」

 

 

 

 

?「まあ、いいんじゃねえか? 前田。よう、大将。おれっち、薬研藤四郎だ。兄弟共々、よろしく頼むぜ?」

 

 

 

 

葵「ご丁寧にありがとうございます。皆様、名前に『藤四郎』が付いておられますが?」

 

 

 

 

名前を確認したところで、疑問に思っていたことを尋ねる。今回顕現した刀剣男子の皆に、『藤四郎』が付いているのだ。そして、ちらほら出ている兄弟と言う言葉。隣に居て、まだ口を開いていない陸奥守さんも不思繊に思っているらしく、少しいぶかしけだ。

 

 

 

 

薬研「あー、おれっち達は同じ刀工やその弟子に打たれたんだ。だから藤四郎兄弟って呼ばれている。おれっち達、藤四郎兄弟は人数が多いんだ。あと、大将。おれっち達にそんな敬語なんざいらねえよ。普通にしゃべってくんな」

 

 

 

 

薬研と名乗った少年がそう教えてくれる。教えてくれたついでに、言葉遣いも直すよう求められる。一応刀剣男子の主なのは分かっているが、相手は神。しかも初対面。陸奥守さんや小夜はどういう事なんだと言われるとあれはタイミングというか、なんというか。

 

などと思っていると、厚、乱、前田の三名からもつっこみが入る。

 

 

 

 

厚「そうだな。大将、薬研の言うとおりだぜ?」

 

 

 

 

乱「ボクも普段の言葉遣いしてる主がいいなー」

 

 

 

 

前田「主君に敬語を使わせるなど、付き人失格ですしね」

 

 

 

 

四人からこうまで言われてしまってもなお口調を変えないのはどうかと思い、普段の調子に戻す。丁寧な口調でも平気は平気だか、長く使っていると少し厳しいものがあるために言葉に甘える。

 

 

 

 

葵「分かった。じゃあ、普段通りにするね。刀剣男子同士で知っているかもだけれど、こちらは陸奥守さん。私の初期刀であり、今は近侍をお願いしてるの」

 

 

 

 

陸「陸奥守吉行じゃ。紹介通り、主の近侍じゃな。これからよろしゅう頼むぜよ」

 

 

 

 

陸奥守さんが挨拶をしたところで、折よく小夜君が通りかかる。こんのすけはまだ抱えられたままらしく、諦め顔だ。ぐるっと本丸を見て元の部屋に戻る途中だった。そのまま小夜君にも声をかけ少し待ってもらい、鍛刀部屋の五人とともに広間に行く。広間につくと早速、小夜君とこんのすけに藤四郎兄弟を紹介する。紹介が終わり、雑事の当番やもろもろのローテーションを決めている時、事件は起こる。

 

 

 

 

葵「乱ちゃんがいるなら、男子だけってわけじゃないし、お風呂とかの順番考えなきゃいけないね。私一人だと隙間時間か審神者部屋で良いけど、乱ちゃんはそうもいかないし」

 

 

 

 

乱「ん?」

 

 

 

 

厚「え?」

 

 

 

 

前田「あれ?」

 

 

 

 

薬研「あー……」

 

 

 

 

小夜「??」

 

 

 

 

陸「あー」

 

 

 

 

こ「葵様がべたな事を……」

 

 

 

 

小夜君以外の全員か何かを察したように遠い目をする。兄弟刀である藤四郎の4人組とそもそものサポート役のこんのすけはともかく、なんで陸奥守さんも何かを察しているの?審神者、置いてけぼりなんですが?え、なんか小夜君と二人して引きこもるよ?

 

……などととっちらかった思考をしつつ、こんのすけに視線で「説明しろやゴルァ」と言うと、消されると思ったのか少し顔色を悪くしながら説明を始めた。

 

 

 

 

こ「乱殿はれっきとした男性なのです。この見た目で……」

 

 

 

 

沈黙が広間に落ちる。藤四郎兄弟も、誰も声を出さない。

 

暫くして、私はようやく声を絞り出す。

 

 

 

 

葵「……嘘、だよね?こんな『可愛い女の子が実は男の子でしたー☆』なんてゆータチの悪い冗談なんだよね!?!?!?!」

 

 

 

 

こ「残念ながら、嘘でも冗談でもありません」

 

 

 

 

こんのすけは無慈悲にもう一度宣告する。

 

 

 

 

こ「乱殿はれっきとした男性です。女性ではありません」

 

 

 

 

さらに、気まずげに当の本人からもトドメを刺される。

 

 

 

 

乱「なんかボクの事、女の子と勘違いさせちゃったみたいでごめんね?そこのこんのすけの言う通り、ボクは男の子なんだ」

 

 

 

 

私は、真っ白になりながら叫ぶ。

 

 

 

 

葵「NooooooooooO!!!初めて見た瞬間、妹が出来たって思ったのに!少しずつ仲良くなってお姉ちゃんって呼んでもらったり着せ替えたり双子コーデとか、一緒にお風呂とか、そもそもリアルボクっ娘KI・TA・KO・RE!てにやけずに出来る審神者感を出そうと巫女さんの雰囲気醸し出して懐いて貰おうと思ったのにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

 

 

 

 

色々台無しな事を叫びつつ、広間の畳に撃沈する。そこに、陸奥守さんが若干引きつつも声を掛けてくれる。

 

 

 

 

陸「あー、主?大丈夫か?」

 

 

 

 

葵「だいじょばない……。もー、審神者のライフは0だよ……。燃え尽きたよ、真っ白にね……」

 

 

 

 

そう言いながら、ご丁寧にも術を使って白くなってみせる。が、すぐに白から普段の状態に戻る。流石に藤四郎兄弟が増える前の大騒ぎがまた起こるのは困る。からかうのは好きだし辞められないけれど私だって一応反省はするのである。

 

 

 

 

葵「なんか、ものすごーく納得いかないし神様って理不尽だー!って叫びたいけどやめとく……。けど、乱ちゃんほんとに可愛いから!そこまで来るともー性別は『乱ちゃん』だね。そっちのが精神衛生上いいし。他のみんなも、遅くなったけどこんな私の元に顕現してくれてありがとう!」

 

 

 

 

そして、私の力の事と途中になってしまっていた諸々のローテーションを決めて陸奥守さんと共に執務室へと引き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

side 薬研

 

 

 

 

 

 

 

薬研「……『神様って理不尽』ね」

 

 

 

 

大将が陸奥守の旦那を伴って執務室に引き上がったのをみて、つい引っかかってしまった言葉をもらしてしまった。

 

 

 

 

前田「どうかしたのですか?薬研」

 

 

 

 

薬研「いーや、なんでもねーよ。ま、中々愉快な大将みたいだな」

 

 

 

 

たまたま、隣にいた前田に聞かれてしまった。ま、大した事じゃねーのはホントだしな。

 

 

 

 

厚「だなー。ちょっと変わった所はあるけどなー」

 

 

 

 

前田「そうですね」

 

 

 

 

乱「ほんとにー。ボクの事も、みんなの事もきっと大切にしてくれるよ」

 

 

 

 

兄弟達からの評判はそれなりに良いようだ。

 

ま、変わってるのはともかくこんな所に居ていい人なのかっつー疑問は出て来るがな。

 

 

 

 

薬研「(診る転じて視る。まー、気が付いてるのはまだおれっちと陸奥守の旦那だけみたいだし、どっかのタイミングで旦那とサシで話すかな)」

 

 

 

 

そんな事をつらつら考えながら遊び出した兄弟達を眺めそのまま昼寝と洒落こんだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

演練に行こう!

 今日、私は演練会場に来ている。昨日の鍛刀でどうにか第一部隊の編制六枠が埋まったからだ。そして、先にリベンジをしないのは一日の回数制限があるとはいえ、安全にレべリングが出来る機会があるのにやらないでどうする!と言う少々過保護な理由だったりする。刀に過保護も減ったくれもないと言われそうだが、よく考えてみてほしい。実年齢はさておき、人の身を得てそんなに時間も経っていない、己の身がどのような物でどのように動かすといいかもいまいち把握していない状態で歴史修正主義者と戦えるだろうか?自分に置き換えてみればよく分かるが、断じて否なのである。それを、幾ら人外であり戦うための存在である刀剣男士とて例外ではない!!

 

……というような事をこんのすけに立て板に水と言った風情でぶちまけたところ、「わ、分かりましたから!お願いですから、霊気を揺らめかせてこんのすけにぶつけないで下さい!」と、実に物分かりの良い返事を貰ったのだ。あのときのこんのすけは見るものに憐れみを持たせるような青ざめてぷるぷる震えると言った様子を見せていたが、自業自得なのである。私はまだ、あの破壊寸前までいった陸奥守さんを忘れていない。それだけでも、こんのすけと政府を軽く脅す理由にはなる。神とそれに類するものは基本的に理不尽なのである。特に、敵に対しては容赦しない。慈悲は無い。

 

乱「主さん、どうしたの?ものすごーく悪い顔してるよ?」

 

陸「なんぞ、またなんか企んどるのか?それとも、何か視えるんか?」

 

葵「んー?何にも企んでないし、神刀や霊刀がいるだけあってこの辺りは悪霊とかその類は居ないよー」

 

 悪霊の類は居なくても、それ以外のモノは居るのかもしれないけどねーなどと思いつつ、懐に忍ばせている符を確かめる。この符は、私の神気を隠すものだ。流石に、政府に半神半人であることを知られたくはない。何故なら、研究材料扱いやそれこそ最前線に送り込まれ兵士扱いされかねないからだ。その割には、陸奥守さんを癒したり禊師であることを城田さんに言っているではないか、と言われそうだが禊師は完全に後衛であり、戦闘能力は皆無なのだ。私は色々とあって前線に立ち、前衛としてやれなくはないが本来は後衛なのだ。

 

薬研「ま、なんにせよさっさとその演練とやらをやって陸奥守の旦那が破壊寸前までいったってゆー時代に殴り込みに行こうぜ?大将がおれっち達を呼んだのだって最大限安全に練度を上げたいからだって言ってたろ?」

 

 薬研の言葉に、うっかりまだ受付を済ませていないことに気が付く。演練は、転移ゲートの近くにあると言う受付で参加刀剣を登録してから自動的に相手がマッチングされ、支給されている端末に試合を行う会場と相手が通知される仕組みらしいのだ。こんのすけは、「今日は調整の日で政府に行かねばなりません」と言ってこの演練についての仕組みを説明してから政府に転移して行った。

 

乱「それで、主さん。受付は?」

 

 乱の指摘で辺りを見回す。受付は見当たらない。あまりの人ごみの多さに紛れて通り過ぎてしまっていたようだ。

 

葵「あ、うん。多分こっちだよ」

 

陸「主の多分っちゅーのにそこはかとなく不安が出て来るのは何でじゃろなぁ……」

 

 

10分後―――

 

前田「主君……」

 

陸「やっぱりなぁ……」

 

薬研「やれやれだぜ」

 

厚「大将……」

 

小夜「……」

 

乱「主さーん……」

 

全員「方向音痴だったんだね(じゃな)」

 

 広い演練会場。ゲート近くのハズなのになかなかたどり着けない。といか、すでに現在地ですら分からない。どうにも人が多くて見通しが悪い事もマイナスに働いているようだ。正直、もう帰りたい気持ちでいっぱいなのだが、帰ろうにもそのゲートが見つからない。

 

陸「主は、わしを顕現させた直後から方向音痴と迷子の片鱗だしちょったからなぁ……」

 

乱「へー、そのお話詳しく聞かせてよ」

 

葵「ちょ、乱ちゃん。それは恥ずかしいから……」

 

陸・乱「もう既に迷子になっている現状で言う(がか)?」

 

葵「しょぼんってしとくね……」

 

 そんな雑談をする事2時間。異変を察したか、周囲の審神者から連絡が行ったのか、城田さんとこんのすけが私たちのそばに現れた。今更ながら、さっさとこんのすけを召喚するなり周囲の審神者にゲートまで連れて行って貰えばよかったと思う。普段、迷子上等なだけに周囲の人に道を聞く能力は高いと自負していただけになかなかテンパっていたのだなと自覚する。

 

城「やあ、葵さん。本丸に赴任して早々僕に会う事になった審神者って珍しいんだけど、そこの所大丈夫?(意訳:お給料の査定、楽しみにしててね?黒笑)」

 

こ「葵様……。こんのすけはなんだか悲しいのです……」

 

葵「あ、はははは。なんか、ごめんね。こんのすけ」

 

 二人からのお小言(城田さんは初めて会った時の仕返しの脅し含む)を受けて一度謝罪しておく。ただし、こんのすけだけ。私は脅しなんぞには屈しないのである。

 

城「葵さん、こんのすけに謝罪はするのに僕にはしないのかな?(意訳:いい度胸だね。本当にお給料の査定が楽しみだね?)」

 

葵「……城田さんもわざわざありがとうございます」

 

 ……お給料を人質にするのはずるいと思う。ぐぬぬ、屈しないと言った傍から。このリベンジはまたいつかしてやる!!

 私がそんな気合を入れているのを露知らず、城田さんはあっさり許してくれた。

 

城「ん、よろしい。さて、それじゃ案内するから受付を済ませて演練をしようか」

 

 城田さんとこんのすけに案内を受け、ようやく受付を済ませることが出来た。そのまま、しばらくその場でマッチング結果を待つことに。すると、相手が1日の制限回数である5回ともベテラン審神者という猛者だった。

 当然、昨日顕現したての五振りと一日しか顕現してからの長さが変らない陸奥守さんでは歯が立たずストレート負けを喫してしまった。相手の審神者からはものすごく申し訳なさそうにされてしまった。なんでも、マッチング結果によってはこういう事は普通に起こるのだそうだが、一度もいい試合が出来ない、と言うのはなかなか珍しいらしい。そして、安全に練度を上げることが出来る関係上、相手が格下だとしても全力でやらねばならない。手加減をしつつ相手をしたり技量などを伸ばすのは本丸での訓練で、と言う事を教えて貰った。

 

胡蝶「ねえ、貴女は知ってる?なんでも一昨日着任したばかりの審神者が本丸と政府を繋ぐ専用ゲートに巣喰っていた妖を退治たって言う噂。しかも、隠蔽がすごかったのらしいのに見破って霊刀でも神刀でも無い顕現したての初期刀で一刀の元に切り伏せたらしいよ」

 

 演練が終わり、最後の演練相手である胡蝶さんとしばらく雑談しているとふと思い出したのか胡蝶さんがそんな噂を教えてくれる。幸い、まだ容姿までは噂として流れていないらしく、一昨日着任した私のほかに三人いるうちの誰だろうと目下の話題になっているらしい。その二人も、まだ演練に出向いていないらしく、噂の三人のうち一人と言うことでこの話題を振られたようだ。

 

葵「へぇ、凄い人もいるものですね。私はなかなか視るのが苦手なので頑張らないと。しかし、何故話題になっているのですか?」

 

 無論、この手の話題に関わって良い事など余り無い私としては誤魔化し嘘を嘘として悟られぬように細心の注意を払い、噂になっている理由を聞く。もし、自分だとバレようものなら面倒事になる気配がひしひしとするからだ。

 

胡蝶「ああ、そっか。まだ知らないよね。あのね、審神者は霊力や神力の高い相手と結婚して子を成すと生まれた子供が両親の力を引き継いで生まれてくるの。審神者不足な今だと、なるべくそういう力のある子供が政府としては欲しい訳だから奨励金とか諸々が凄いらしくて、囲い込みとかあるの。……中には、摘発されてない無駄に能力の高いブラック本丸の審神者がそういった審神者を、とかもあるらしいし。貴女も結構力は強い方だから、気を付けてね?」

 

 とまあ、こういったものすごーく胸糞が悪くなるような理由で話題になっていて、互いに自衛を促すため、と言う事だった。これは教えて貰えてすごく助かる事だった。

 

葵「先輩、ご忠告ありがとうございます。知らないとどう動けばいいのかも分からないので本当に助かりました」

 

胡蝶「いえいえ。それじゃ、気を付けて帰ってね♪」

 

葵「はい。それでは失礼します」

 

振り返り、ゲートに向かおうとした時。ふいに胡蝶さんが後ろから耳元でそっと、

 

胡蝶「貴女が噂の本人だって言う事、黙っておくわ。……腕の傷、お大事に」

 

そう言って、少し離れた彼女は近侍の石切丸と共に離れていき、彼女の国へと繋がるゲートの中へ消えて行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これからの事と露呈した秘密

私にとって不吉な気配がする胡蝶さんとの演練が終わり、少し経った。二回目の調整のため政府に言っていたこんのすけがどろんと転移してきた。なんでも、調整が終わったらしい。

 

こ「これで、もっと葵様のお役に立てる様になりますよ!!ナビゲーション機能も付きましたし!」

 

葵「私って……」

 

こんのすけのナビゲーション機能の言葉にがっくりしていると、前田君が「主君、しっかりなさって下さい。人間だれしも不得意なことはありますよ!!それこそ、神だって完全ではないのですから!」と、それ仮にも神の末席に連なる付喪神が言って良い事なのかと疑問になるような事を実にいい笑顔で言ってくれた。刀剣男士は顕現した審神者の性格で本丸ごとの個性が出るらしい。……これ以上は考えるのをやめた方が幸せになれそうだ。慰めてくれている前田君にありがとうと言いながら頭をよしよししてあげるとにこにこしてくれた。やはりショタはいい。

 

葵「さてさて。一通りの事は体験した訳だけども。これから何を重視してこの本丸を運営しようかってゆー話し合いをしたいんだよね。こんのすけ、悪いんだけど皆を呼んできてくれない?」

 

こ「承知いたしました。場所はどこにいたしますか?」

 

葵「面倒だから、この広間でいいよ」

 

こ「では、そのように」

 

話が纏まるとこんのすけはさっさと広間から出て皆を呼びに行ってくれた。五分後、広間に私を慰めてくれていた前田君以外の五振りが揃った。皆、話し合いするとしか聞いていないからかちょっといぶかしげだ。なんだったら、ちょっと敵意と言うか警戒もされてる感じだ。流石に二、三日でブラック化するとか無いと思うんだけどなぁ。そもそも、私の前職的にそれやると不味いしゲームとか敵とか以外にフルボッコきめるのは趣味じゃない。冗談とイタズラの範囲のフルボッコはやるけど。

とゆー事をつらつらっと語ってみた所、皆は逆にそれはそれで嫌だなぁと言う雰囲気を出し始めた。まあ、神も人もイタズラとかやられるよりもやる方が楽しく感じるという事なのだろう。盛大に話がずれて収拾がつかなくなった頃、こんのすけが割って入りようやく本題に入った。

 

葵「これからの事って言うのは、何をメインにするかって事なんだよね。練度を上げる事を優先にするのか、仲間を増やすことを優先するのか。はたまた、畑とかの手入れを優先して自給自足体制を整えるのか。任務はこなさないとお給料の査定が悪くなるから、そこは申し訳ないけど、皆も協力して欲しい」

 

そう言って、六振りを見やる。皆、それぞれも考えていたのだろうけど、改めて問われると迷うらしく、それぞれ仲のいい刀剣と囁きあっている。すぐに意見が出てこないのもある意味当たり前だ。これからの生活が懸かっているのだから。

 

葵「私が居ない方が良さそうだから、執務室にいるね。纏まったら、それを踏まえてまた話し合いしようか。その後、本丸のルールとかも作った方がいいだろうしね」

 

そのまま、皆は難しい顔をしたまま私が執務室に行くのを見送ってくれた。さてさて、話し合いはどうなるかなぁ。むしろ、皆の自主性に任せるって本丸はあるのかちょっと気になる。調べてみようか?いや、足りていない治療用の符、神気を貯めておく符、祓え用の符を用意しよう。忘れずに、神気を察知されないように結界を張って残滓を残さないようにしないと。

 

 

Side 刀剣男士

 

 

さて、葵が不足している各種術用の符を作り始めた頃の刀剣男士たちとこんのすけ。葵が立ち去ってから、話し合いは一向に進んでいない。いや、二つの意見に纏まる事は出来たのだが進んでいない。何故なら、意見が真っ二つに割れて収拾がつかないのだ。

陸奥守、厚、小夜は「練度を上げる事を優先」するべきだと言い、薬研、前田、乱は「仲間を増やすことを優先」するべきだとなかなか意見が互いに合わないのだ。

 

陸「練度ば上げにゃーまたわしの二の舞になるぜよ?」

 

薬研「しかし、腹が減っては戦はできねーぜ?」

 

 こう言われては、坂本竜馬が似たような事を姉に言われたのを知っている陸奥守としては一度黙らざるを得なくなってしまう。その状態に負けたくはないと厚が反論を試みる。

 

厚「大将が居るんだからその辺は大丈夫じゃねーか?」

 

前田「厚、主君にその様な事をさせるのですか?」

 

が、これも前田の上に立つ者とその指示に従う者の差を言われてしまい撃沈。復習に取りつかれている小夜はと言うと、

 

小夜「働かざるもの喰うべからず……」

 

このような意見を出し、練度上げと言うよりは自給自足体制を整えたいような風に聞こえる意見を出し。そこに陸奥守と厚がまた突っ込みを入れる。

最終的に、乱の

 

乱「けど、主らしさもいるよね?それに、本丸の状態を整えてから練度上げてもよくない?これからもどんどん仲間は増えるんだろうし。あんまり差が付いても主さんが苦労しそうな気がするしなー」

 

と言う練度がある以上常に審神者の頭を悩ませ続けるであろう根本的な問題を口に出したことで混沌とした刀剣たちの話し合いは纏まり、今後の方針として「仲間を増やす」を目的に動くことになったのだった。

 

陸「そいじゃ、こんのすけ。ちっくと悪いがのぅ、主ば呼んで来てくれんかの?」

 

こ「分かりました」

 

 

Side こんのすけ

 

 

 葵様の初期刀、陸奥守殿にお願いされ私はこの本丸の主、葵様を呼びに執務室に参りました。お部屋の襖を私の前足でとんとん叩いて声を掛けて来訪を知らせました。

 

こ「葵様、刀剣男士様達の話し合いが終わりました。広間にお越し下さいますか?……葵さま??」

 

しかし、呼びかけても返事が無く、もう一度とんとんと襖を叩いてみますが物音すらしません。……まさか、中でお倒れになっているのではないでしょうか!?そんな嫌な想像が頭をよぎります。

 もう、居ても経ってもいられず失礼を承知で襖をあけるとそこには、色取り取りに煌めく高位精霊様達とそれを従え神気を発しながら深く集中して何やら書き物をなさっている葵様がいらっしゃいました。

 

 

Side 葵

 

 

 符を書くことにした私はまず軽く己の穢れを祓う。符は霊気を宿し神聖な物。そのため、扱うときはともかく作成する時は一度穢れを祓う必要があるのだ。そして、下準備をした和紙と墨を用意する。今回は、墨も使い切っていたので墨をするところから始める。この場合、綺麗に聖別した水を使用する。まあ、聖別した水を作るところからでもあるのだが。

 

葵「さてさて。鳥居マークを書いた容器、神社の手水場の水は無いからここの水道水を用意して。……ここの水、下手な神社の手水場の水より霊的な意味で綺麗だよねぇ。衛生面は言うに及ばず」

 

 そう。ここの水は亜空間にある神域と言うことを差し引いても綺麗なのだ。それこそ、日常使いのちょっとした符に使うくらいならわざわざ聖別しなくてもいいくらいに。

 

「これ、下手に聖別しない方がいいのかなぁ?けど、きちんとしといた方が効きはいいし。……聖別するかぁ。出来上がった奴がどうなるかちょっと怖いけど」

 

 容器に水を入れ、陣を敷く。この時、水の式であるディン、ディーネ、ティア、金の式であるクリア、ゴングにも協力をしてもらう。五行思想で、金は水を生じさせるからだ。そして、金に結露した水は粋水となる。これを利用し、今までも十分綺麗だった水をさらに浄化する。

 

葵「………この段階で既に、ちょっとした瘴気とか邪気祓えそうになってるなぁ……」

 

ディン「そりゃまー、そうじゃない?」

 

ディーネ「葵がやるんだし」

 

ティア「むしろ、これくらいで収まってるのが不思議」

 

クリア「本気になればもっと凄いの作れる癖に今更?」

 

ゴング「どうせ、これからの事を考えたらどれだけでも強力なのはあった方が楽なんだから全力出しちゃえばいいのに」

 

 口々にそんな勝手な事を言ってこちらのライフを削ってくる式達。まだ、SAN値を削られていないだけましと言い聞かせ、本気を出して水を聖別する作業の仕上げをする。

 

葵「『伏して希(こいねが)い奉(たてまつ)りまする、水波能売命(みずはめのみこと)。この水を、天之忍岩(あめのおしは)の長井の清水と幸いたまへ』」

 

 柏手を打ち、祝詞を口にする。すると、陣と容器から光があふれる。光が収まった時、そこには聖別された(聖別され過ぎた)水が出来上がっていた。

 

葵「ねえ、これやっぱ不味くない?」

 

ロープ「うわぁ……」

 

葵「だから本気出すのは止めときたかったのに」

 

ロープ「……けど、これ使わないと。ほかの人とかそこらに流したとして、扱いきれる術者少ないよ」

 

 仕方なく、私はこの聖水を使って各種符を作る事に。そして、開き直って神気も出しつつ(結界は張ってある)深く集中し、式達の力も借りて仕上げていたとき……。

 

こ「葵様……?」

 

葵・式全員「(やべぇぇぇぇっぇぇぇぇぇ!!!!!)」

 

 こんのすけが皆の話し合いが済んだからと呼びに来てくれたのだ。おそらく、返事が無かったために部屋の襖をあけたのだろう。張っている結界も神気を隠す為だけの物で出入りが出来なくなったりする訳じゃない。しかし、今の私は半分神としての力も開放していたため政府に知られたくないと思っている現状、こんのすけにこの状態を見られたのは不味いとしか言いようがない。仕方なく、声を掛ける前に式達にはそれとなーく私の神域に隠れてもらう。一応、半分神なのでそういったものも作れるのだ。

 

葵「こ、こんのすけ。皆の話し合いは終わったのかな?!」

 

こ「そうです。しかし、先ほどの高位精霊様達とこの神気はいったい……」

 

 やはり聞かれた。ここはそんなに誤魔化せるとも思っていないけど誤魔化しを試みよう。やらないと、私の平穏な禊師ライフが送れなくなる。

 

葵「高位精霊?神気?何のこと??」

 

こ「葵様……。誤魔化しきれるとお思いですか?」

 

 いつも、ポンコツなこのお狐様はいつものポンコツ具合を発揮することなく突込みを入れて来た。最悪、神としての権能を使って縛ることも視野に入れて話すべきだろうかと考えていると、一番付き合いの長いロープが神域から出てきた。

 

ロープ「葵は嘘が下手だよねぇ。まあ、いいや。こんのすけだっけ?僕、葵と一番付き合いの長い式神のロープ。位階は一応精霊王だよ。ちなみに、葵は半分神。それも、月読命(つくよみのみこと)の娘さ」

 

 こんな事をさらりと話してくれてしまったロープ。ほんとにどうするんだろうと見守っていた私が愕然として絶句しているのを尻目にドンドン話していく。

 

ロープ「こんのすけ君には、悪いんだけどこの事を政府にも出来れば刀剣男士にも内緒にして居て欲しいんだけど、出来る??」

 

こ「申し訳ありません。葵様が高位精霊を扱えるほどだという事や半分が神だという事は政府に報告せねばなりません。そして既に、担当の城田審神者統括官にも緊急報告としてこちらに来てもらえるように手配済みです」

 

ロープ「ありゃりゃ~。さっさと通信系の能力潰しておけばよかったなぁ……」

 

イグニス「ロープ、後手後手だな」

 

ロープ「むう。まあいいや。じゃあ、その統括官ってゆー人にも僕らの怖さと葵の怖さ思い知って貰おうよ。そうしたらきっと政府に報告しようなんて思わないよ」

 

イグニス「そう上手くいくか?」

 

ロープ「上手くいかせるのが僕らと葵だよ。葵、腹くくってね♪」

 

 いつの間にか、勝手に火の式イグニスも出てきていたらしく、実に滑らかに話が進んでいた。式達には自重と言う物は無いのだろうか。

 

トワレ「僕たち、それは葵に言われたくないなぁ。ねー、皆?」

 

式全員「うむ」

 

 式達の裏切り(?)を受けて愕然としていると、外から前田君が「主君、お客様です。審神者統括官の城田様と仰る方です」と呼びに来てくれた。前田君にお礼を言いつつ、動くのめちゃくちゃ早くないか??と思わなくないがこんのすけが緊急報告としてこちらに来てもらえるように手配済みと言っていたからか。それにしても早すぎると心の中で文句を言いつつ城田さんを迎えに前田君と行く。

 

前田「こんのすけ、主君を呼びに行くのに随分と時間がかかっていましたね。何かあったのですか?それに、今回のお客様も随分急ですし」

 

葵「それは、城田さんが来てから説明するよ」

 

前田「分かりました」

 

 城田さんは既に玄関で待っていた。その顔はまるで般若のようで、やっぱり隠してやがったかと言わんばかりだった。いくらなんでも、ちょっと初めて会った時に度肝を抜いて色々誤魔化して二回目の時は盛大に迷子になっただけでこれは無いと思う。

 

葵「こんにちは、城田さん。ようこそ」

 

城「……やってくれましたねぇ?貴女は。こちらの度肝を抜いて、盛大な迷子で私の手を煩わせるだけでは飽き足らず、こんのすけが緊急連絡を入れてくる。本丸着任一週間以内でこれほどの人は居ませんよ。ブラック化した本丸だって三か月過ぎるまではまともだったのに……。いや、むしろ早く分かってよかったと思うべきか」

 

葵「まあまあ。落ち着いてください。立ち話もなんですし、広間に行きましょう。そこに皆も揃ってますから」

 

穏やかに、にこやかに城田さんに話しかけて促したのに、帰って来たのは深い深いため息だった。納得がいかなくて少しいらっとしていると前田君が「では、主君を僕がエスコートします!」と言ってくれたのであっという間に城田さんへの遺憾の意はどこかへ行ってしまった。城田さんはこんのすけがエスコートをしている。少し面白いなと思いつつもそのまま前田君にエスコートされるまま城田さんとこんのすけと共に広間に向かった。

 広間に着くと皆にこやかに笑ってから薬研と陸奥守さん以外は私の後ろの城田さんに怪訝な顔をする。薬研と陸奥守さんは少し納得顔でお茶を飲んでいる。私はと言うと、怪訝な顔をしている皆に笑顔を見せておいた。何かしら納得顔をしている二人は案外気が付いていて知らない振りをしていてくれたのかも知れない。私が、式神を扱い自身も半分神だと言う事を。政府に知られると不味い。それは正しい。けど、刀剣男士の皆まで隠しているのは良くないんじゃないかって思う自分がいるのも事実。今回の事はいい機会だったのかもしれない。そうやって腹を括っていると、席に着いた城田さんが口を開く。

 

城「今回、私がこちらに来たのはこんのすけからの緊急連絡があったからです。ここの本丸の主、葵は本丸の主人としては不適格だと。理由は、意図的に重大な事実を隠蔽していたからです。内容は、己が精霊王クラスを使役できること、半分神である事。これは、時の政府すらを危うくし、ひいては時間遡行軍との戦いにも大きな影響を及ぼします。厄介な事に親が月読様だそうなので」

 

厚「なっっっ、そんな事ある筈ねぇ!!葵は、大将はまだ日も短いが一生懸命にやってる!!式神だって使役してるところ見た事ねえし!!!」

 

城田さんの言葉に真っ先に反応したのは厚君だった。そこから、乱ちゃん、小夜君、前田君も続いて反論をしてくれた。しかし、小夜君が途中で陸奥守さんと薬研がこの反論に加わっていないのに気が付いた。

 

小夜「……薬研、陸奥守さん。どうして黙っているの?」

 

 小夜君に問われても、二人はまだ沈黙を守っている。そして、私に視線を向けてきた。「どうか、話して欲しい」そう、二人の視線は雄弁に語っていた。

 二人の視線に負けて、私は溜息を吐くと諦めて話す事にした。そして、こっそり神降ろしの用意もしておく。あまりやりたくないけど、皆との平穏な生活と自分の生きた時代を遡行軍なんかにめちゃくちゃにされない為にも。更に、自分の神格も開放する準備をしておく。こうすれば、日本三貴神が一柱の身内の証明になるし七光りの様と言っても神格からすれば刀剣男士よりも高い。古来より、半分神と言う存在は枚挙に暇が無いほどだし、その神格も高いことが多い。

 諸々の準備が整い(神格解放、神降ろしの準備とかはこっそり結界を張って隠した)、もう一度腹を括るために前田君がいつの間にか用意してくれたお茶で喉を潤し、私は話し始めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。