ヤンデレ☆イリヤ (鹿頭)
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一話

SNイリヤっぽいような気もしないでもない。しなかった。暖かい目で見てくだされば幸いです。一応原作前。


 

 

「ん…ふわぁ…えへへ、おはよ、お兄ちゃん」

 

朝起きると、イリヤが隣で寝ていた。

最早慣れきった光景だ。

確かに一人で寝たはずなのにイリヤが一緒に寝ているなんて。

 

「え?どうして…って?昨日は、なんかちょっとさみしかったからじゃ…ダメ…かな…」

 

仄かにイリヤの眼に涙が溜まる。

不安な気持ちを押し殺すかのように、ベットのシーツを握りしめている。

こうなると厄介だ。昨日はとか言ってる割にほぼ毎日なのは一体どう言う事なんだ、と色々言いたい事はあるが…

なんとかこの微妙に病んでる義妹をなだめる為に、横顔にそっと手を添える。

 

「あ…」

 

髪を耳にかけてやり、そのまま手を後ろになぞらせ、優しく撫でる。

経験則からこうするのが一番ベタな選択肢だと理解しているからだ。経験上。

 

そして、構わないと言う旨を述べる。

 

「…そっか。えへへ、よかった」

 

イリヤは安心したのか、微かな笑みを浮かべる。

とは言え、このままズルズルとベッドで横になっていても、セラが怖いので、起き上がる。

 

「あ……むぅ」

 

イリヤが不満そうな表情を浮かべているが、気にせずに起き上がる。

部屋に戻って欲しいと言う事も伝える。

 

「え…?」

 

この世の終わりを垣間見たかの様なイリヤの表情。着替えたいからだ、とすかさず伝える。さも無いと面倒な事になる。

 

「あ…うん、わかったよ、お兄ちゃん。………別に良いのに

 

何やら最後に小声で呟いたのが聴こえたが、気にしていては生きていけない。

数回チラチラと振り向いては、口を僅かにへの字に曲げ、名残惜しそうに出て行くイリヤを見送ると、今日も地雷を回避出来たか、と溜息をつく。

 

どうしてこんな事になってしまったのか、と常々思うが、自業自得な気がする上に不毛な思考故に早々に打ち切る。

 

着替え終わり、リビングに向かう。

起きて例にも漏れずセラから家事を取り上げ勝手にこなしつつ、口論を交わす我が兄弟と挨拶を交わす。

 

セラから「貴方からもシロウに言ってやって下さい!」とかなんとか催促を受けるが、家事のできない家庭内ヒエラルキー底辺の自分が士郎に何か言える訳もなく。

適当に相槌を打ち躱す、が。態度がセラの何かに触れたのか、だいたい貴方も、と矛先がこちらにも向く。

 

今日も平和だ。

 

さて、今日は休日だ。どこに行こうか…

泰山でも行こうか、などとソファーに座りつつ思っていると、イリヤがやって来る。

「おはよ〜」などと挨拶をそれぞれにするイリヤ。

こちらにも挨拶をもう一度してくる。

 

「えへへー、おはよっ、お兄ちゃん」

 

と言いつつ隣に座って来るイリヤ。

距離が微妙に近い。

セラに何か(こっちが)言われるか言われないかの距離だ。把握しきられている。

 

「今日はお休みだけど、お兄ちゃんはどっかいくの?」

 

なんてこった。泰山に行けない。

元々そんなにない予定を変更し、新都方面にでも連れて行こうか。そうしよう。

前はもっと一人で外出出来た気がするんだけど…こればっかりは、何とも。

一先ず新都方面へかな?と明かす。

 

「あっ…そうなんだ…。じゃあ私も一緒に行って良い?」

 

じゃあ私も一緒に行って良い?

疑問形の皮を被った命令形である。

断ったが最後、眼からはハイライトは消え失せ、「どう…して?」と言われ、そのまま「ひどいよ…お兄ちゃん…一緒に居るって、言ってくれたのに…」と泣きに入られる。

そして弁護士無しの裁判が開廷され、セラに殺されるに違いない。

セラから見た我が立場は底辺なのだ。

故に実質選択肢は一つしかなく。

もちろん、と答える他ないのだ、が。

 

「イリヤさんをまた何処かへ連れ回す気ですか?」

 

セラの死刑宣告が下る。

てか気にしてたのね。

いや、だから殆ど自分の意思じゃないんだって。と言いたいのをグッと飲み込み、またとは何か、ととぼける。

 

「な…あくまで、とぼける、と」

 

セラが冷たい眼をこちらに向ける。

発言権が無くなった。

 

「違うよ!セラ、私が無理に着いてってるだけだよ」

 

イリヤがセラに反論する。

無理に着いてってる自覚有ったのか。なんともはや。

 

「イリヤさん…!」

 

セラがますます冷え切った眼をこちらに向ける。何故?

 

「正直に言ってください、このロリコンに何か弱みでも握られているのですか?」

 

このヤンデレに生殺与奪を握られてるのはこっちですーーーーー

 

セラは家庭内の立場をフル活用しこちらに圧政を敷いているじゃないか!

しかし心に留めておく。

 

「お兄ちゃんはそんなんじゃないよ!」

 

いつになく真剣な眼と語調で反論するイリヤ。

 

「おいおい、二人とも、なに朝から喧嘩してんだよ」

 

流石に重くなった空気を察したのか、依存系義妹と立場が圧倒的に我が方より上なメイドと我が道を往く系メイドと帰ってこない義理の両親と言う、なんともカオスな家族構成の中で唯一無二と言っていい、我が心の清涼剤のこの男が口を挟む。

こういう時は空気を察せる男。

 

「セラ、ちょっとヘンに考えすぎじゃないのか?イリヤが別に悪い事された訳でも無いんだしさ」

 

士郎のターン。確かにそうかもしれない、とセラは押され気味になる、が

 

「それにしても、距離感が近過ぎでは!?」

 

「気のせいだろ?気にし過ぎだって」

 

察せない男だったか。

いや、察されても困るような気もするが。

 

そして我関せずとばかりに黙々と一人勝手に朝食を食べているリズ。

貴女のそのゴーイングマイウェイっぷりは見習いたい。

そのまま士郎とセラが完全に二人だけの世界に入ってしまったので、無事に追求を切り抜ける事に成功した。

 

イリヤに出かけないで家でのんびりしてよう、と伝えようとするも、イリヤはもう出かける気なのか、少々浮ついている。

ふむ。

どうしようもないので外に出る。

取り敢えず朝食摂ってから。お腹空いたし。

 

ーーー

 

「お兄ちゃん、あのさ…」

などと道中頬を朱に染め、言葉を濁しつつ言うのは、手繋いで欲しいのサインである。

昔はよく自分から手を繋いできたというのに、一体なんなんだ。

 

ちなみに無視すると「えっ…」と呟いたかと思うとその場に呆然と立ち尽くし、瞳孔が狭められ震える瞳がこちらに向けられ続け、「イヤ、いか、…な、いで…」などと消え入るような声が聞こえ始める。

手をほどいてもそうなる。

どうしてこうなった。

お兄ちゃんはそんな風に育てた覚えは…覚えは…ない。ないったら無いってば。

 

現実から眼を逸らすのも程々にして、ほら、と手を繋ぐのだが、そのままイリヤは腕を絡める。

まだイリヤが小さい頃はなんとか微笑ましい光景で済んだかもしれないが、今となると冷や汗モノである。

 

えへへ、とにこやかに実に幸せそうな表情を浮かべるイリヤ。こういう時はかわいい。心の底からそう思う。

 

新都に着くも、何をしようかなんて決めていない。ゲーセン…は却下。

この歳の子を連れてくにはちょっと。

てかこの時代何あるの?

映画…今何やってるか知らない。却下。

 

なんとなく答えが予想出来るが、イリヤに何処に行きたいか聞いてみる。

 

「え?うーん…私は、お兄ちゃんと一緒なら別に何処でもいいかなー」

 

あらま、手のかからない事。

イリヤは本当に何処でも良いのだろう。

でも今はどっか行きたいとこ言って欲しかったなー。思いつかないし。

 

泰…は方向も違うし辞めとくとして…そうだな、うん、偶には甘いものでも良いか。

 

そんな訳でファミレスにやって来た。

向かい合わせに座れば良いものを、自然な流れを作り上げ、隣に座って来る。

ひと昔は店員からの眼も、あらあらうふふ仲良いのね位だったが、心なしか眼が冷たくなって来たような気がするので、最近通報されないか心配になる。

 

パフェを二人分注文する。

イリヤが提案していた大きいの一つを別ける、というのは財布に少しやさしい提案だが、必然的に店員からの眼が痛いのは目に見えているので、いいや、大丈夫だよ、から始まり兎に角頑張って地雷を踏まぬように説き伏せ先手を取って注文する。

 

少々不機嫌になったようななってないような、という微妙なさまだが、ここまでは誤差の範疇。

だと思う。

 

ーーー

 

まあ、店なんでね。何事も無く食べ終えましたよ。割とTPOは弁えてくれるのよね。基準が不明だが。

…まだ時間あるな。

と言っても、他にやる事も無いからその辺をゆっくり彷徨く位だけど。

 

我ながら良くもまあこんな事を、と思う。

何処かで止めなきゃいけない、そんな事はわかっている。

義理とは言え妹だ。

軽く依存してるのはお前に責任があるだろう?と自嘲する。

 

切嗣()さんとアイリ()さんが何やら海外を飛び回ってるわで、まあアイリさんは良く帰ってくるけど。まあ色々忙しい、と、なるとだ。

所詮甘える相手が居ない、だから精一杯甘やかした。

セラもリズも居るし、なんなら士郎も居たから大丈夫だとは思ったんだけどなぁ…

 

うーん…

 

でも、今ならまだ、この頃独特のアレで終わらせる事が出来る筈だ。

でも、隣でこうやって幸せそうに笑ってるイリヤを見ると、もう少し、もう少しこのままでいいかも知れない、と思う。

イリヤは他の世界に眼を向けてれていないだけ。

ひょっとしたら、きっと、誰かに恋をするかもしれない。そうすれば、このはしかの様なモノも終わるだろう。

それまでは、まだ、いいかな。

 

「…お兄ちゃん、どうしたの?」

 

イリヤの紅い瞳が此方を見つめている…。

どうも長考に過ぎた様だ。イリヤがこちらの様子を疑問に思ってしまった。

そういう時は、なんでもないよ、と空いている方の手で頭を撫でてやる。

 

「あ…そっかー」

 

うん、取り敢えず気をそらす事には成功した。この方法を取る度に何か肝心か何かをド忘れしている様な気がするけど、気がする位だから大した事はないだろう。

 

「…お兄ちゃんってさ」

 

おや?

 

「その…す、好きな人とか…居たり…するの?」

 

む、違ったか。

だがしかし好きな人とな。どういう意味だ…と聞きたいが、恐らくは学校で、とかそこら辺の類だろう。

…けれども、そんな事考えた事も無かったので、正直にそう伝える。

 

「!…本当に?」

 

無言で頷く。

 

「そっか、そうなんだ…」

 

と言ったっきり何か伏し目がちに何かを考え始めた。

………もしや墓穴か?嘘でも居るって言った方が良かったか?

いやでも、こんな事に初めて嘘を吐くと言うのも中々に屑のような所業だと思うので、しないが。

 

…無言で家までの道を歩いて行く。

今さっき帰ると決めた。

その間、ずっとイリヤは無言だった。

珍しい事もあるものだ。

嵐の前の静けさに違いない。

そうこうしてる内に、アインツベルン邸…自宅が見える路地に差し掛かる。

イリヤに声をかける。このまま行くとね、色々とね、怖いからねー。

 

「ほぇ!?あ、そっか、もう着いたんだ」

 

随分とまあかわいらしい声を上げて驚く。

イリヤは手を離し、先に行く。それにこちら側もついて行く。

セラは…家か。

 

「ただいまー」

 

「お帰りなさい、イリヤさん」

「お帰りー」

 

ナチュラルに省いた人が居た気がするけど、慣れたので平気です。

む?士郎は部活かな?休日なのにまあ。

…と言う事は桜ちゃんはフラグ建築士を落とす作業に入っているのかな?

きっと良いお嫁さんになると確信している。頑張れ。

 

「…イリヤさんに何かしてないでしょうね?」

 

してません。

もう、セラったら過保護なんだからー。

 

「……まあ、良いですけど」

 

今日は比較的やさしい方だった。

うむ。このまま平和で安らかな穏やかな日が続きますように。神にそう祈らざるを得ない。届くかはわからない。

 

士郎が帰って来るまでの間、何してようかな…勉強でも

 

「お兄ちゃーん!一緒に視よー!」

 

と言われたのはマジカルブシドームサシちゃん。勉強するから、と断ってもリズも視るから大丈夫そうな気もするが…

そうだな、一緒に見るか。勉強はしてもしなくても同じだ。

 

ちなみに士郎が帰って来るまで一話と半分くらいだった。

 

ーーー

 

夕食も食べた。唯一の完全プライベート時間(勉強もした)。メル友は相変わらず役に立たない。後は寝るだけ。

 

明日も平和な一日が訪れますようにーーー

 

「お兄ちゃん…まだ起きてる…?」

 

ノックの音。

おっと、今日は最初っからか。

ドアを開ける。

 

「あ、良かった、まだ起きてた…」

 

さて今日は一体どんな理由が飛び出るのかな?

 

「特に…理由は無いんだけど、一緒に寝ても…ダメ、かな?」

 

そう来たか。雷、怖い夢見そう、寂しい、不安、色々有ったがとうとう理由が消失したぞ。頼むー!アイリママ!早く帰って来てくれ!ください。

 

断る理由もある事にはあるが、セラにはバレないよな?バレると折檻)と思いつつ中に入れる。

ホッとしたような溜息が聴こえる。

ベッドに入り横になる。

 

「おやすみ、お兄ちゃん」

 

おやすみー。

 

…溜息を吐きたいのはこちらの方だ。

隣で心の底から安心しきった妹の寝顔を見ながら思う。

 

現状の維持を図っている節が我が方にはあるのではないか?と脳内会議を始める。

だとしたら、このまま益々イリヤの依存が深まるのでは?とりかえしのつかない所まで行ったらどうするつもりなんだ、主に両親への対応。

いくら考えてもコレだ!となる妙案は出なかった。

明日から少しずつゆっくり自立を促そう(結果先送り)

そう思いながら眠りについた。

 

 

 

 

 




お兄ちゃんの明日はどっちだ!


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二話

カレンさんってプリヤでもない限り扱えないと思うんだ。
ごめんなさい。
容認できない人はバックして下さい。
ツヴァイまではもうちょっと待って。


 

 

 

最近、イリヤが余所余所しい。

具体的に言うと、家の前にエーデルなんたら家の豪邸がかの秀吉公の墨俣城の様に一夜で建立された前後くらいか。

一人で寝る時も多いし。

ふむ…察しはつくけど…

 

《これはこれで存外、寂しいものです》

 

《知りません》

 

メル友からは辛辣なコメントが返ってくる。

 

それはそれとして、まさか転校生ダブルセットにフラグ建設するとは思わなかったぞ士郎。

何をどうしたらラッキースケベからフラグが立つんだよ…

ふしぎよね、ホント。

と、言うわけで。休日である本日、紅州宴歳館・泰山へとやって来たのであった。

 

む、珍しく混んでる…と、言うことは相席になる…おや。

 

奥の方の席に、知り合いの姿を認める。

向こうもこちらを一瞥する、が、また黙々と麻婆豆腐を食べ始める。

…相席良いですかな?

 

「…どうぞ」

 

この人は、休日ないし放課後、夜くらいに泰山に行くと大抵居る。

名前も何やってる人かも知らないけど。

あ、麻婆豆腐で、と店主に注文し、一応礼儀かと目の前の相変わらず奇抜なファッションをなさるお人に挨拶をする。

 

「…貴方はほんの少しだけ会話を交わした程度の間柄の人に何のためらいもなく挨拶をする様な恥知らずなんですね」

 

手を止め、口を開いたかと思うとこの言葉である。

うーん辛辣。以前より対応が心なしか柔らかくなった様な気がするけど、気がするだけな気がするんだ!

 

「沈黙、ですか。声を掛けて来たのはそちらだと言うのに、まったく貴方は」

 

畳み掛けるなぁ…どう返して良いのか判断つかねぇよ。

ニコニコ、いや、ニヤッと嗤う様な笑みをたたえたこの人は、相変わらずの様子の様だ。

 

「何を考えているのかは興味ないですが、一言言うなら、鏡でも見て来たら良いですよ」

 

麻婆豆腐が非常に良いタイミングで来たので、無視して食べ始める。これ以上の話は精神衛生上悪い。

 

「……いつもなら、面白い反応を返してくださるのに。何か愉快な悩み事が有りそうですね」

 

…判るのか?

 

「普通、悩みと言うものは一人で抱えていてもその重みに耐え切れずに押し潰されていくモノ。誰かに告解してみるのも、良いかもしれませんよ?」

 

そう柔らかく微笑む彼女は。

表情、声音。それは、どれ一つ取っても、聖女のようで。

 

「まあ、ただのシスコンにロリコン併発して重症化させた気持ち悪いモノなんて自分から

言うとは到底思えませんけど」

 

…はい?

 

「あら、知らなかったのですか?」

 

蔑み嗤う彼女。

それにしても何を根拠にそんな事が言えるのか?

 

「私、こう見えても小学校の保健医でして」

 

個人情報保護とは一体何だったのか。

驚き呆れる。

それにしてもこんな事を思われていたのか…そんな訳ないだろう、と言うなり、彼女は「ふふっ」と笑みをこぼす。

 

「今の方が、良い表情してますよ。…必死になって言い訳して…ええ、本当、佳い表情です」

 

タチが悪い。

何を言ってもズタボロにされてお終いになる。会話の主導権は完全に制圧されている!

どうなってしまうんだ。

 

「あら、捨てられる寸前の仔犬みたいな怯えきった表情をしてますね。男の癖に情け無いとは思わないんですね」

 

そう言い切ると、彼女は溜息を吐く。

そして、

 

「…アドバイスの一つでもするなら」

 

と前置きをしてから。

 

「貴方はそうですね…別の何かに夢中になったら直ぐにでも世間で言う所のマトモになるでしょう」

 

保健室の先生、と言うよりは教会のシスター、とでも言わんばかりの口ぶりで話し始めた。

 

「とは言え、趣味らしい趣味を持ち合わせているようでも無いし、貴方の兄弟の様に部活をやっている訳でもない」

 

おい個人情報。

 

「今から趣味に没頭するにも時間…は兎も角金銭面では少々心もとない。新しく始めれそうにもないですね」

 

待て。

 

「では学校ではどうでしょう?」

 

おい待て。

 

「貴方はクラスではそこそこ、と言った地位。男子からはある程度の好意を持たれているが、まるで女子との接点はない」

 

待て、待て、待て。

 

 

何故、そこまで知っているのか。

 

「更に同居人は女性の方が多いし、発言権が多い。更には家に常駐しているメイドも居るから、そう言った本を買ったり、行為に耽ける事も出来ない。…義妹に走るのも当然、と言うよりは只の代替案、なのでしょうね。貴方にとっては」

 

色々と聞き捨てならない事を言ってはいるが…今直面している事実に比べれば些細な事だ。

 

「今の貴方はどうしようもない状況に置かれている、とでもいいましょうか」

 

あまりにも、あまりにもこの女はこちらの事を()()()()()()()

 

「そんな目で睨まれると…いえ、睨んでどうするつもりなんしょうか?」

 

貴方に私をどうこう出来る様な胆力もないでしょう?そう言った彼女はクスクス嗤う。

全てを見透かした様な目で。

貴方の事はなんだって知っている、と言った様な口振りで。

 

コイツは一体何が目的なんだ。

お前は一体、何の目的で、こんな事を話すのか。

 

 

「お前…ああ、そうでした。名前を、貴方にまだ、名乗っていませんでしたね」

 

肝心な事を忘れていました、ととぼける様な口振りで。

しかし、その顔は。

 

「私の事は華憐…そう、カレン、とお呼びください」

 

そう彼女…カレンは、狂おしい程のナニカを、押さえ込みきれないような切なさが滲み出る表情で、そう囁いた。

 

「では」

 

席を立つカレン。

ーー待て。

 

「はい?」

 

一体、何が目的なんだ。

 

「目的…ですか。そうですね…」

 

そう言うと、カレンは席を立つ。

質問には答えず。

ただ、

 

「また、会いましょう、と言うのは?」

 

誘惑する様に。そう、耳元で囁いた。

 

 

 

 

あ、アイツサラッと会計押し付けやがった。

…麻婆豆腐追加で!

 

ーーー

 

絶対許さねぇ。財布の中身丸っと消えたぞ。

一皿食い損ねた。そんな感情を抱き、泰山を後にする。

 

 

しかし、大変な事になった。

もう泰山行けない。だってあんな怖い人がいるんだもの。

 

しかしあのおいしい麻婆豆腐が食べられない、と言うのは精神衛生上よろしくない。

自炊…ダメだ、初めて作ったら、黒焦げの肉じゃがを一度作ってしまって士郎にすら「お前は絶対厨房に立つな」って言われてるし…。

 

我慢するしかないのか?

 

まあ、追い追いそこは考えるとしてだ。

 

一つ漸く爆弾が自然解体されそうだ、と言う時に爆弾が新たに追加された。

これは由々しき問題だ。

 

しかも小学校の保健医、と来た。ふとした弾みで遭遇する可能性を考慮しなければならない。

しっかし数回位しか会話した覚えないのに、どうしてこうなった。

士郎の事言えないなコレじゃ。

 

さて、どうする…む。

スーパー付近にて見覚えのある人影。

士郎!士郎じゃないか!

買い物…帰りか。

おーい。

 

「ん?お、奇遇だなぁ、そっちも帰り…辛っ」

 

辛い?

 

「ちょっ、お前辛いぞ!何処行って…泰山か!また泰山行ってたんだな!?そうだな!?」

 

もちろん。

 

「…家に帰ったら直ぐに着替えてくれよ、家中辛くなったら困る」

 

了解。

 

「………そういえば、最近行ってなかったよな、当然といえば当然、か」

 

そう言うと、家に向けて歩き始める士郎。

帰る場所は当然同じなので、それに着いて行く形で歩き始める。

 

「…良くあんなの食べれるよな…俺は絶対無理だ……前々から気にはなってたんだけどさ」

 

そう言う士郎の顔はやけに真剣な顔つきだ。

余程重大な事らしい。

 

「お前さ、ちゃんと…俺やセラが作った料理とか。味、判ってるのか?」

「極端なモノしかわからない、とか…だったりしないよな?」

 

失礼な、ちゃんと味は判るぞ。

 

「本当か?遠慮しているとかじゃなくて?」

 

勿論。

 

「そっか、なら良いんだ」

 

安心した様な。そんな穏やかな笑みを浮かべてみせる士郎。

どうやら要らない気を回させてたらしい。

 

「なんで食えるんだろうな…」

 

知らねぇよ。

最初は興味本位で食べてみたら凄く旨かったってだけの話だし。

 

「はは…」

 

今度は先程とは裏腹に、乾いた笑みがこぼれている。

 

「ほら、着いたぞ」

早く着替えろよ、と言って、暗に先に行けと促す士郎。

 

ただいまーと挨拶を流しつつ部屋に直行する。

途中何やら聴こえた様な気がするけど、キリがないので無視する。

 

ーーー

 

「お兄ちゃん、泰山行ってたんだって?」

 

夕食後、イリヤが苦笑いしつつ話しかけて来た。

そんなにおいしいの?なんて聴いてきた事もあるが、その時は確か士郎が「早まってはいけないぞ!」とか言ってたっけ。

梅昆布茶でも流し込んでやろうかと本気で思ったぞ。

 

「あー、そっか、そうだよね。最近行ってなかった…もんね」

 

目を下に向け、言い淀む様にそう言った。

…変な責任感じてんだったら、それは違うからな、イリヤ。ただの飯屋だぞ?

 

「お兄ちゃん…うん。お兄ちゃんが言うんだったら、気にしないよ」

 

えへへ、と笑うイリヤ。同じ笑顔でも、ここまで違うのかとあの保健医(カレン)を思い出す。まったく今日はひど「お兄ちゃん?」

ん?

 

「ねぇ、何考えてたの?」

 

一見、先程の笑顔を維持している様に見えるが、目が笑ってない。

まるで射殺す様な目線だ。言い訳の有無を許さない。適当な事を言えない物々しさ。

 

「あ…いや、なんでもないよ、お兄ちゃん。ヘンな質問してごめんなさい」

 

 

突然そんな質問を投げかけられて面食らっていると、申し訳無さそうな顔をしたイリヤから引き下がって行った。

 

「あっ…今日は、友達と遊んで疲れちゃったかなぁ…もう寝るね」

「おやすみなさーい」

 

お、おやすみ。

……今日はもう寝よう。

 

 

ーーー

 

翌日。イリヤが熱を出した。

疲労的なヤツってセラは言ってた。

特段気にする必要も無い、そうで、士郎といつも通り登校する。

 

ーーー

 

士郎は部活だそうなので、此方も帰宅部の活動を始める。

それにしても、ほぼ毎日の様に遠坂とエーデルフェルトの喧嘩に巻き込まれているのに、よく身が持つなぁ…

 

 

そのまま自転車を漕いでいると、小学部に差し掛かる。小学部…うっ頭が。いや、流石に小学部とは言え、この時間帯に上がる教員は居ない。

…良し、居ないな。

 

何事も無く、自宅に着く。

玄関のドアを開けると、見舞いに来ているのか、数名分の靴がいつもより増えていた。

 

邪魔しても悪いし、自室に籠ろうとした時、妙な格好をしたセラ。

 

「お帰りなさいませ」

 

当然コレをスルー。

 

「不本意ですが」

 

まずい!メンタルが強化されている!

 

「衛宮家の……長男…長男…長男、どちらなんでしょう…」

 

困惑するセラ。

なんだいつものセラだったか

 

そんなのこっちが知りたいです。

そもそも正確な誕生日不明だし。

…法的には士郎らしいし、士郎でええんじゃないの?イリヤも周りにはそう説明してるらしいし。

 

「まあそうなんでしょうが…」

 

じゃ、と自室に向かう。

 

「あ!待ちな…」

 

気にしない。

 

イリヤの部屋を通り掛かろうとした時、ドアの向こうからはわいやわいやと賑やかな声が聞こえる。

お見舞いの定義が崩れる!

 

そんな時、勢いよくドアが開かれ顔面に激突する。

 

顔がすっごく痛たい。

 

「あっ…イリヤの兄貴その2じゃん」

「ちょっと、タッツン、先に謝らないと…」

「あっ、わりーわりー」

「そんなんで良い訳ないでしょ!?」

 

良いよ、別に。純粋に痛いだけだし。

イリヤの友達だし。無問題。

…まだ純粋な頃の四人。三人か?

 

「…貴方がイリヤのお兄さん、ですか」

 

はじめまして、と挨拶をしてくる少女。美遊・エーデルフェルト。エーデルフェルトと言えばあの士郎がフラグ立てた金髪ドリルだけど、まあ、うん。

はじめまして。

 

 

「ちょっとタツコ!」

 

そう言うのは心なしか怒ってるように見える我が妹である。

 

「げっ…イリヤそんな怒らなくても…ああいや、ごめん」

 

「私じゃなくて、お兄ちゃんに謝って」

「ごめん!」

 

さっきから別に良いって言ってるじゃん!?

 

「おー、さすがイリヤの兄貴その2は優しいなー」

「その2ってどうなのさ、タッツン」

 

…小学生って元気だよね。

話がこう、永遠に続くって言うかさ。

愛想笑いも程々にして自室に入る。

 

そんな時、一人美遊が、遠くを見つめて居た気がした。

………。

気付いたからと言って、何かが出来る、と言う訳でもないが。

 

しばらくすると、美遊や小学生四人組と入れ違いになる様に士郎が帰ってきた。

当然のようにセラに絡まれ…絡まれるが、リズの言葉に割とあっさり撃沈したりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに主人公は、単に辛味に極端に弱くて、逆に脳が辛味を認識してないだけだったりする。
クロエ出すまでが難しい。
カレンさんは私の趣味だ。今では反省も後悔もしている。
キアラさんが頭をちらつきまくった。


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三話

くぅ疲。
これにて終了!お疲れ様でした!
展開がちょっと無理矢理な気もするけど…。

ヤン…デレ…?って感じです。すみません。


 

 

………深夜、玄関のドアが開く音で起きる。

逡巡する事も無く、戸を開け、玄関へ向かって下りていく。

するとそこには、土間から床にもたれかかる様にして、イリヤがぐったりと倒れていた。

 

倒れているイリヤを抱き寄せ、意識を確める。

 

「っ…お、にいちゃん…?」

 

イリヤがうわ言の様に呟く。

すわどうしたものかと考えていると、後ろから、階段を誰かが下りてくる音がしてくる。

首をその方向に向けると、セラの姿があった。

 

「な…あ…あ、貴方!と、とうとう!」

 

アホか!良く見ろ!漫才に付き合ってる場合じゃないぞ!

そんな事を吐き捨てる様に言うと、セラは怪訝な顔をしながら向かってくる。

 

「!これは…」

 

イリヤの容態を認めるや、流石に真剣な顔つきに変わる。

 

「…後は任せてください」

 

と言い、有無を言う前に、此方からイリヤを抱き上げる。

 

あ…と呻く様な声をイリヤは漏らすが、気にせずセラはイリヤの部屋へと向かっていく。

 

一人残される。

 

…任せろとは言え、流石に放っておく訳にはいかない。

セラが自室に戻るまで、暫しの時間がある。

 

その場に座り込み、考える。

 

…はっきり言えば、だ。

この件はイリヤの問題なんだろう。

時間が経てば解決するとか、その類ではなく、本人の意思が左右するような。

 

つまりは、今やろうとしている事は蛇足。

必要なぞ、そこには無い。

 

この後にどんな影響が生じるかなんて、遠くを見通せる訳でも無い、この身ではわからない。

けれど、それでも。

 

例え、誰かが不幸になろうとも。遠くの誰かの願いを踏み躙ったとしても。妹を。イリヤを、優先してはいけないのか?

 

醜いエゴ、だと自嘲せざるを得ないが。

 

そう、思わずには、いられなかったーーーー

 

 

 

セラは部屋に戻った様だ。音が聞こえた、間違いない。

さ、て。

 

階段を上がり、イリヤの部屋の前に着く。

一応、マナーとしてドアをノックする。

 

「……何」

 

起きてるか?

 

「え?」

 

入るぞー。

 

ガチャリ、とドアはあっさり開いた。

イリヤは、ほんの少し驚いた様な、期待が叶った様な、様々な感情が入り混じった表情を見せていた。

 

視界の端に、動くモノを認めた気がしたが、そんなのどうでもいい。

 

ベッドの上で縮こまって座っているイリヤの隣に、無言で座る。

 

「………」

 

何も喋らないイリヤ。

しかし、別に問いただそう、なんて事は毛頭無い。

 

頭を撫でてやる。優しく、ゆっくりと。

 

次第に、イリヤは重く閉ざしていた口を開く。

 

「……聞かないの?」

 

どうして?

 

「どうしてって…私、こんな遅い時間に、帰って、更に玄関で倒れてたんだよ?!」

 

イリヤは悪い事をしたのか?

 

「それは……してない。うん。してないよ」

 

じゃあ十分。

 

「……お兄ちゃん」

 

声が上ずり始めた。

 

「私っ…わ、たし…っ…」

 

泣きたい時には泣いた方が良い。

 

大丈夫。ずっとそばに居るからさ。

 

「怖かった…こわかったよぉ……」

 

イリヤは縋るように抱きついてきた。それから、堰を切った様に、泣き始める。

 

「ひ…っく…えっ…」

 

 

それから、イリヤは結構な間、泣いていた。

 

 

 

 

とは言え。

途中途中、吐き出す様に、美遊やら遠坂やらルヴィアやら、果たして聞いて良かったの?って聞きたくなるような事もあったが…

 

常識的な範疇には収まっているから、大丈夫なのだろう。

 

泣き止んだのを見て、声をかける。

 

 

落ち着いたか?

 

「うん…」

 

……どうするつもりなんだ。美遊ちゃん、友達なんだろ?

 

「………」

 

「……して」

「どうして、そこでミユの名前が出てくるの?」

 

………あれ?

 

「ねえ、お兄ちゃん。どうして?」

 

イリヤがこちらを上目遣いで見つめるが、その目はとても暗く、地雷を踏んでしまったのだと瞬時に察する事が出来た。

 

言葉を選び、慎重に答えなければいけない。

 

 

詳しい事情はわからない。けど、美遊ちゃんとなんかあったんだろ?

 

「……それは、そうだけど…」

 

途端目を伏せるイリヤ。

 

 

どうすれば良いと思ってるんだ?

 

 

「………お兄ちゃんは、やっぱり優しいね」

 

うん?

 

「だって、私の事じゃなくて、美遊や、他の人の事もちゃんと考えてるんだもん。優しくて、頼りになる、自慢の、お兄ちゃん」

 

微妙に話が噛み合っていない。

…嫌な予感がする。

 

イリヤは話し続ける。

 

「うん。わかってるよ。それくらいさ。ずっと一緒に居るんだもん」

 

「でも…でもっ、でもっ!」

 

「今だけは…他の人の事を考えて欲しくなかった…私の、私だけのお兄ちゃんでいて欲しかった!」

 

「おに…」

わかった。もういい。

 

思わず抱き締める。

わかった、わかったから。ごめんな、こんなお兄ちゃんで。

 

ここまで追い込んでいたのか。

ああ、本当に不甲斐ない兄だ。

 

 

 

 

 

「…すき」

 

イリヤ?

 

「好き、ううん、大好きだよ、お兄ちゃん」

 

イリヤ…それは…

 

 

「お兄ちゃんの為なら私、なんだって出来るし、なんだってするよ」

 

 

 

「でもね、もう、嫌…なの」

 

 

 

 

 

 

 

「義妹で居るのは、嫌」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この気持ちが、オカシイのは知ってる。でも、それでも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなただけのイリヤに、シてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣きながら、けれども先程までとは別の意味を持つソレは、彼女の想いを如実に語っていた。

 

思ってもいなかったーー否、見て見ぬ振りをしていたのかもしれない。

義妹だから。小学生だから。

麻疹のようなものと、タカをくくっていたんだ。

 

けれど、目の前の彼女は。

歪んでいると自覚をしている。それでも、真っ直ぐに、自分の気持ちと向き合って、想いをぶつけてくれている。

 

 

 

ああ、それなら、言おう。言ってしまおう。言わなければならない。

 

 

 

 

それが、目の前の、女の子に対する、誠意なのだろう。

 

 

例え、後戻り出来ないとしても。

 

 

 

 

 

「イリヤ、俺はーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ夢か。

 

盛大に溜息を吐く。朝からなんて夢見てんだろ。

部屋を見渡せば、そこは何の変哲もないマイルーム。

ベッドの隣にも誰も居なーい!

…本当に夢だよな?

 

念の為記憶を辿る。

確か、イリヤを深夜に倒れているのを見つけて、セラに渡して、部屋に戻って寝た。

アレ?どうしてこんな事思い出してんだ?

 

 

奇妙な感覚を覚えながら、部屋を出る。

 

階段を下りると、セラとリズが居て、朝練だからか、少しだけ慌しい士郎。

 

何の変哲も無い。唯の日常だ。

 

少し、ホッとしたような、残念だった様な。

 

 

「あ、おはよう。すまん、俺朝練だから」

先行くぞ、と出て行く士郎。

 

「おはよー」

「おはよう…うむむ…」

 

リズとセラ。

しかしセラはいつにも増して渋い顔をしている。

どうしたんだ?

 

「いえ…貴方に何か一言、いえ、ものすごーく言いたい事がある様な…無いような…」

 

「セラ、ボケた?」

 

「な、リズ!私はそんな歳じゃありません!」

「誰も歳のことなんて言ってない」

 

「な…あ、ああ!」

 

…ま、いいか。

 

暫くすると、学校へ行く支度を済ませたイリヤが来た。

 

 

「おはよー…」

 

「あ、イリヤさん…」

「うん、おはよー」

 

「大丈夫ですか?」

「うん…そっちよりね、なんかもっと大切な

事があったような…無かったような…うーん…」

 

「はぁ……本当に大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ、セラ。じゃ、いこっ、お兄ちゃん」

 

はいよー、と一緒に出ようとするが、途中でセラに呼び止められる。

 

「………イリヤさんに何もしてませんよね?」

 

何の話だよ…

 

「いえ、貴方より士郎さんの方が余程信頼できるだけの話です」

 

そんな、ひどい…いやまあ、士郎だもんな。

 

 

「お兄ちゃん、早くー!」

 

はいはい。

 

 

 

士郎は相変わらず女子とイチャイチャして居た。一成ともして居た。

なんだこれ。

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

夜になって、突然の母襲来。

 

「うおっ、母さん、どうしたんだよ」

 

ほんとほんと。

 

「うーん、ちょっと休暇とれたから、かな?はい、コレお土産」

 

と言って渡されたのは、なんか良く分からんガラクタ。東南アジアやらエジプトやらのが入り混じっている。エジプト……まあいいや。

 

「うーん…」

 

どうしたんです?じっとこちらを見つめて。

 

「なーんか心配なのよねー。…イリヤとなんか有った?」

 

なんかって何さ。

 

「…杞憂だったかな?あ、所で、今イリヤどこなの?」

 

「イリヤ様なら、お風呂かと」

 

「もー、そんなに硬くならないの、セラ」

 

「しかし…」

 

「あーもー!」

 

暫く言い合いが続く。

 

…よし、そろそろ寝るか!

 

 

 

 

翌日。

昨日とは打って変わって、元気な。と言うかいつも通りのイリヤだった。

 

母さんはまた仕事に行ったらしい。てかいつ帰って来るんだファーザー(切嗣)

 

 

いつも通りの日常。

 

いつものように過ごして、学校行って、士郎のラブコメ見て頭抱えて、帰って、の繰り返し。

 

 

今日も一日が、穏やかでありますように。

 

 

 

 

 

 

 




知らなかったのか?ツヴァイからはクロエが登場する!
修羅場が始まる。カレンさんもいる!穏やかな日常なぞ過ごさせない。

あ、ちなみにイリヤの様子を見に来たサファイヤがギリギリで記憶処置してくれました。ルビーとは違って出来る子。
あのまま行ってたらイリヤルート攻略完了になるし。
魔法少女やめちゃうし。

コメント欄見る限り、キアラさんお好きですね皆さん。


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四話

クロエ可愛さに筆が盛大に滑った。……まさか火種を増やさないといけない展開になるとはこの海の(ry


 

 

 

我が兄弟とは違い、朝練なんかとは無縁の生活を送っているから、基

本的にイリヤと一緒に登校している。

 

そこに、最近になって、美遊ちゃんが加わった。

仲良くなった…と見えるが、美遊ちゃんが俺に向ける目が多少の嫉妬やらが混じっている様な気がする。

イリヤの他に友達居ない(自己申告)らしいし…

 

しかし、それはそれとして、目に見えてイリヤの依存は減っていった。

 

…そういえば、何かあったようななかったような。

うーむ思い出せない。

 

 

そんな思い出せないほどどうでもいい話なんて兎も角、イリヤが自立していくのは美遊ちゃんが友達で居てくれているからなのだろう。

 

今では普通の兄妹…と言って差し支えないだろう。

ほら、やっぱり環境だったんだよ!

 

ちなみに、私生活と言えばだ。

今日、学校では士郎が相変わらず遠坂とエーデルフェルトを始めとした女性陣にフラグを建てたりしたり柳洞一成とイチャイチャ(自己主観)するのを見ていて、だんだん胃が痛くなり、これ幸いと早退をした。

 

 

士郎からは「俺も早退しようか?大丈夫か?」などと言われたが、数人名の視線が突き刺さる。

このまま敵に回したく無いので、これを固辞した。

 

 

 

それから、家の自室のベッドの上にて、のんびりと何故我らが冬木市には神社が無いのか?と言う至極どうでも良い事を考えていたら、ドアがノックされた。

 

「お兄ちゃん?居るー?」

 

と言うや否や、ドアが開く事となった。

はて?イリヤ?この時間に?何で?と思っていると、そこには褐色の肌の、ふしぎな格好をしたイリヤが居たんだ。

 

「お兄ちゃんー!」

 

あー…なるほどね、こんな時期かーと、思っている最中、ボフっ、と寝転がってるこの身に向けてダイブされる。腹筋がなければ即死だった。

 

「お兄ちゃん、早退しちゃったの?……ねぇ?私が居なくて寂しかった?私は寂しかったかなー」

 

猫撫で声、とでも言うのだろうか。

甘える様に、こちらを上目遣いでじっと見つめながら言う。

しかし、本当に僅か、ごく僅かだが、肩が震えている。やっと。やっとだ。そう言った様な気持ちと同時に不安を感じているのが見て取れる。

 

寂しかったのは、紛れも無い本当なのだろう。

 

そんな彼女(イリヤ)に対して、特に変わった様な態度は取らず、ただ普通に、何時もの様に接する事に決めた。

 

手を伸ばす。刹那、体が硬直したのが伝わってくる。

そのまま、手を頭に乗せ、ゆっくりと、慈しむように撫でる。

 

「お兄ちゃん…!」

 

ホッとしたような、と言うよりは、心底安心したような声に聞こえた。が、その後に。

体を上によじらせたかと思えば、そのままギュッ、と頭を抱きしめられる。

 

「お兄ちゃん…ずっと、ずっと前から、待ってた!」

 

「無理矢理閉じ込められて、ずっと見てるだけしか出来なかったけど、今、こうしてお兄ちゃんと…!」

 

おっとこれは

 

あの子(イリヤ)なんかに渡さない…!渡しはしない!」

 

抱き締める力が強くなる。だんだん首が締まっていく。

ギブ、ギブギブ、

 

「でも、お兄ちゃんは、あの子が居なくなっても、きっと貴方は悲しむ…そう思ってたけど」

 

「貴方は(イリヤ)を選んでくれた…」

 

お、おう、ちょっと待て

 

「私をちゃんと、見て、抱き締めてくれた…!」

 

話をね、話をしよう、な?な?それから首を、首を

 

「それだけで十分。私を捨てたママやパパなんかと違って、私にはお兄ちゃんが居るから」

 

「私は迷わない」

いいから話をっ……ん…!?

 

「えへへ…シちゃった♡」

 

首の拘束が急に緩んだと思うと、唐突に唇が重なった。

 

余りの出来事に頭がついていかない。

 

「大丈夫、ちょーっとだけ待っててね?私のお兄ちゃん♡」

 

そう言うと起き上がり。

 

「終わらせてくるから」

 

と言って部屋から出ていく。ちらりと見えたその顔は、決意に満ち溢れていた。

 

………もしかしなくてもトンデモなくマズイのでは…?

 

えっ、ちょ、どうしよう。

だ、誰かに、相談…そ…誰に?

 

暫し右往左往していると、玄関のドアが開く音がする。

 

「ただいま…」

 

イリヤの声だ。

先程の事もあるので、心配になり向かう。

 

「ふぇ!?お、お兄ちゃん!?ど、どうして??!」

 

驚き叫ぶイリヤ。しかしよく見なくても怪我をしている。

こっちのセリフじゃないか!

 

「あー…うーんと、これには色々とありまして…」

 

色々!?

 

「学校で、ちょっと…ね」

 

そ、そうか。

とは言うものの、明らかに原因はさっきの、だろう。

しかし幸いにも大事には至ってない、ようだ…良かった。

 

「ど、どうしたの?お兄ちゃん。なんかヘンだよ?」

 

あー、いや。なんでもない。

 

「本当に?」

 

ほんとほんと。

 

「………嘘」

「お兄ちゃん、昔っからそうだもん。大丈夫じゃない時の誤魔化し方が下手だよ」

 

「ねぇ、そんなにやだ?そんなに頼りない?お兄ちゃん…やっぱり、今の私じゃ駄目なの?」

 

……何か言われたな。

 

益々思考の坩堝に入る。

どうすれば。どうすれば。

泣きながら話しかけてくれているであろう、イリヤを、直視出来ない。

 

「お兄ちゃん…そんなのやだよ…」

「お兄ちゃんが居なくなったら、私…私…」

 

 

きっと、今の俺は、凄く酷い顔をしているのだろう。

 

 

「…信じてる。私、信じてるから。ちゃんと、私の、(イリヤ)だけのお兄ちゃんだって」

 

「たとえどんな事が有っても、最後には私の側に必ず居てくれるって」

 

「きっと、変な女に誑かされたんでしょ?大丈夫だよ、お兄ちゃん。そんな奴は私がやっつけちゃうよ!」

 

「お兄ちゃん」

 

「大好きなお兄ちゃん、私だけのお兄ちゃん。待っててね?」

 

そう言うと、イリヤは自室に向かっていった。

 

 

堪らず、俺は家から出て行った。

 

ーーーーー

 

冬木市内を当てもなく彷徨う。

夕方になり、家路を急ぐ学生の姿が見え始める。

しかし、帰る気にはなれなかった。

 

なんども。何度も。

 

後悔が続く。

 

イリヤと、イリヤ。

 

二人のイリヤは。こうして、今にも殺し合いに突入しようとしている。

 

全ての責任は、こちらにある。

そう言っても良い。

 

二人仲良く暮らせる様になる…と言うのが、本来の定められた道筋。

しかし、ここに異物が混入した事により。

どうなるかわからない。

 

このまま二人共共倒れになるのでは無いか?

そうだ。もう一方のイリヤは、存在しているのが奇跡。

定期的な魔力供給が無ければ、消えてしまう。

それなのに、どうするつもりなのか?

肝心な時に、メル友からは返信が来ない。

 

ああ、本当に。俺は。

 

 

 

「随分と、酷い顔をしてますね」

 

一度聞いた声。

振り向くと、そこには、カレンが居た。

 

「ほら。やっぱり」

 

こちらに近づいてくる。

 

「ーー話をしましょう」

 

 

泰山。

現状財布を持ってきて居ない今、全て目の前のこの女性に払ってもらう事になる。

その事を問うと、

 

「気にしないでください。食事代を女に払ってもらう様な情け無い男に情けを施しているだけですから」

 

との様な返答が返ってきたので、甘んじる事にした。

 

 

ーーーーー

 

 

 

「ハァ…妹二人が、貴方の取合いを。ですか」

 

あからさまに気持ち悪いです、と言った様な顔をする。

 

「一度頭の中を診てもらったらどうですか」

 

そうかも知れない。側からすると、警察呼ぼうか?と言われる様な話をしている自覚がある。

 

「…冗談はさておき。本当に悩んでそうですからね。今の貴方は何言っても真面目に受け止めてますし」

 

「だれも、ふたりの主人に仕えることはできません。……あなたがたは、神にも仕え、また富にも仕えるということはできません。」

 

 

「何処ぞの福音書の一節です。貴方向けに位階を落として話すと、二兎追う者は一兎も得ず、と言う意味でしょうか」

 

……おい、それは!

 

「貴方の話を信じるとしましょう。考えても見てください」

 

そう言うカレンは、有無を言わせぬ口調で話す、言うより一方的に喋る。

 

「一人は貴方を信じ切っている。必ず戻ると。そしてもう一方も貴方を信じ切っている。こちらを選んでくれた、と」

 

「はっきり言って不毛です。どっちか切り捨てましょう」

 

は?

 

「お互いがお互いとも自分が選ばれたと信じているんですよ?両方取るなんて選択肢なんて有る訳ないでしょう?」

 

それは…

 

「どちらかを捨て、どちらかを取る。二つに一つ。貴方は、規模こそ小さいですが、人類の命題に直面している、と言っても過言では有りません」

 

「………何も言い返しませんか」

 

「無様ですね。それとも貴方が死んでみますか?ま、貴方が死んだらあの二人も確実に後を追いに地獄へ落ちていくでしょうけど」

 

「それとも、私と逃げますか?」

 

思わず顔を上げる。

 

「何もかも捨てて、私と」

 

微笑みながら彼女は言う。

それもいいかも知れない、と言う自分がいる事を否定出来ない。

 

「………ま、冗談ですけど」

 

どうやらまた馬鹿にされた様だ。

 

「多分私達を殺して自分も死にますよ。無駄に死体を積み上げる程罪深い事は有りません」

 

手を組み、祈る様な所作を見せるカレン。

しかし別に神を特別信じている訳ではない、と聞いた後じゃ、なんだかなぁ、とは思う動作で有る。

 

私は兎も角、貴方が死ぬのは嫌ですし…

 

何か言いました?

 

「いいえ、何も」

 

そう言うと、立ち上がるカレン。

 

「では、お先に失礼します」

 

退店するカレン。

しかし去り際に、こんな事を言い残して言った。

 

「人類と言うのは、共通の敵が現れて結束するものです」

 

「ま、貴方にそんな女性が居るとは思えませんし。それに、私ではーー」

 

 

 

ーーーーー

 

 

店から出て、柳洞寺の方面をフラフラと覚束ない足取りで歩く。

 

ふと時計を見ると、門限は過ぎて居る。恐らく心配をかけて居るのだろう。

 

けれども、帰りたくない。

愚かな男は、結論を出すのが一番嫌なんだ。

どちらかを棄てるなんて、出来ないし、したくない。

 

これは代償だ。

何の力も勇気も持たず、只々己が欲望を優先させた愚かな男への。

お前は何も出来はしない。

何も選べやしない。

 

ほら見ろ。余計な事を。

 

お前なんて、最初から最後まで異物。邪魔者だったんだ。

 

地獄の業火に身を包まれてれば良かったんだ。

 

その事を今になって後悔する。

 

救いようの無い愚者はその場に思わず倒れこむ。

 

夜の帳に冷やされたコンクリートの感触が死体の様にひんやりと冷たい。

 

ああ、このまま。何も考えず。

 

意識を手放しーーーー

 

「あの、あの!そこのお方、大丈夫ですか!?」

 

朧げな視界で声の先を見つめる。

 

「まあ…これはいけません…大丈夫ですよ、ですからどうか、しっかりなさっーー!?ー!ーー、ーーー!…!」

 

耳が遠くなる。

 

視界が閉じていく。

 

ああ。俺のことなんて、どうか構わず。

 

そのまま、意識を手放した。

 

 

 

 

 




もうどうなってもしらないぞ
ちなみに精神的にぶっ壊れると簡単に気絶します。念のため。



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五話

ゼパる


 

 

 

ーー意識が浮上する。

 

最初に目に映るのは、見慣れぬボヤけた木の天井。

 

体を起こし、辺りを見渡す。障子襖らしきものが確認できた。

一体何処に居るのか。その問題は直ぐに解決に向かう事になる。

 

「む…!目が覚めたか!」

 

襖が開いたかと思うと、柳洞一成の、だろうか。声が聞こえる。

…よく視えていない。

声の方を向いても、上手く焦点が合わず、まるで靄がかかった様な感じだ。

目を細めて見ても変わらない。まるで脳が視る事を制限しているかの様。

 

「やはり、視えて無いのか」

 

やはり?何か知っているのか?

 

「いやなに。ここの付近で倒れていたお前を運んで来た者がその手の類に詳しくてな。精神的なモノが原因で倒れたのだろう、と言っていたか」

 

精神的…な、か。

思い当たる節がありすぎて、逆に反応に困る。

 

「それに付随して、心因性視力障害、つまりは今の状況が引き起こされるやもしれん、とは言っていたが…」

 

的中だったか。と一成。おそらく頭を抱えているのだろう。

と言うより、何故病院ではなく、ここに連れて来たのか。

 

「その方はこの寺に逗留されていてな。別に病院でも良かったそうだが、嫌われているかも知れないし、急を要するかも知れなかったから、だそうだ」

 

すまん、話が読めない。

 

「無償で人助けをして回っている方でな。その手の利権団体には嫌われているそうだ」

 

つまり。

 

「そういうことだ」

 

余計なお世話だ、此方にはやらなきゃいけない事がある、そう言い、起き上がろうとした。しかしどう言うことか。

身体に力が入らない。

 

「ハァ…事情は存ぜぬが、そんなボロボロの心で何が出来るか!」

 

「良いからここで今は休め。お前は少し俗世から離れた方が良い。兄貴も歓迎しているし、学校にも家にも連絡はしておいた」

 

学校?

 

「一、二週間くらいは安静にした方が良いそうだ」

 

………そうかよ。

 

「ああ、そう言えばだ。衛宮が着替え等を持って来てくれた時に言っていたが…」

 

士郎が?

 

「妹さん…イリヤだったか。「大丈夫、わかってるから」、と言っていたらしいが…何か有ったのか?」

 

全然わかってねぇ…!

どうにか。どうにかして止め…っ!?

 

頭痛が走る。今の身体は思考すらも拒否すると言うの、か。自嘲の笑いが溢れでる。

 

「おい!だから今は休め衛宮弟!お前に何かあったら衛宮に合わせる顔がない!」

 

あ、心配なのは士郎の方ね、そうなのね。

………これは考えても大丈夫、か。

 

「取り敢えず、横になってろ、俺は所用があるのでな」

 

では、と去って行く一成。

持つべきものは何とやら、とは言うが…今はっ…!今…

 

諦めて布団に体を預ける。

深呼吸。

務めて冷静になろうとする。

 

しかし、頭痛は一向に引かない、と言うよりも、2人の事を考えるな、と言う方が無謀なんだ。

 

どこで間違えたのかね。

最初っからか。

分かり切ってる事を問答する。

その間にも、頭痛は止まない。

 

拒絶してればこんな事にはならなかった(頭が割れる)

 

第一お前に何が出来る?言葉でどうにかなる段階は過ぎたぞ。

 

カレンの言うように一人だけを選んでいれば(吐き気がする)

 

気持ち悪い。手前の勝手な事情で、二人をーーーー「あの…御気分はいかがでしょう…?」

 

声のする方に振り向く。

気が付かなかった。

 

「まぁ…安静に、と言われたでしょうに……成る程、相当、苦悶なされていると見えます」

 

女…なのだろうか。よく視えないが…

随分と心の距離感が近い。それでいて、土足で心の中に入って来る訳でもない。

 

「喉が乾かれたのでは?一先ず、肩の力を抜いて下さいな」

 

湯飲みが差し出される。多分、冷えたお茶だろう。

払い除けても良かったが、そこまで荒んでいる訳では無いので、言葉に甘んじる。

 

「良かったです、偶に…なのですが、そのまま払い除けられる方もいらっしゃるものでして…」

 

見透かされてる様で、本当気味が悪い。

 

「少々不躾な事と存じますが…ここまで追い詰められるとは…一体何が有ったのでしょう?もし宜しければ、聞かせて下さいな」

 

何を言っとるのだか。

話せる訳もないし、頭が割れる様に痛い。

それを察したのか、彼女は非常に申し訳なさそうな声音で謝罪をしてきた。

それから。

 

「ああ…そうです、私の事は殺生院祈荒。キアラ、とどうぞ気兼ねなくお呼び下さって結構です」

 

手の中の湯飲みを握り砕いた。

 

「きゃあ!あ、あの、大丈夫です…手を切ってるじゃありませんか!そのままお待ち下さい!」

 

と言いつつ、救急箱でも探しに行ったのか、何処ぞへと消えて行く。きちんと襖を閉めるのは忘れずに。

 

ーー鮮明に蘇る記憶。とんでもない厄ネタが生えてきた。

 

いやいやいやいやいやいやいや、え?キアラ?え?

何?今?なんだって?

いや待て、魔性かどうかはわからない。あの可能性はごく僅かだった気がする、

 

よし、逃げるかーー!

 

案外あっさりと動いてくれる我が肉体。

頭痛も無い。未だ嘗て無いほどに澄み渡る思考。晴れ渡る視界。

 

襖は二つ。

ならばキアラが出て行った所とは逆の、いや、同じ所から脱出を図るーー!

 

「もう!待ってて下さいと言ったではありませんか!」

 

予想通り逆から入って来た、が一足遅かった!

 

「やはり、私の様な怪しげな女は信用なりませんか…?」

 

僅かに溜まる涙。そして悲しげな表情。それを見て、思わずドキッとする。

 

…まあ、安静にしろ、と一成に言われてる…し?

いや、寝っぱなしだったから、ちょっと体を動かしたくて…

なんてちょっと苦しい言い訳をする。しかし、彼女は、「まあ…そうだったのですね!」と朗らかに笑う。

素直に可愛い、と思った。こんな感情を抱くのは(イリヤを除いて)初めてだった。

 

「ほら、そこに座って下さい、手当をしませんと」

 

手当を受ける。一成がなんかすっ飛んで来そうな気がしたが、来ない。単にいないのか、それともこの女性の為せる技か。

 

「はい、終わりましたよ」

 

手慣れているのか、割と直ぐに終わる。

 

ベタな展開の様に、包帯で手がぐるぐる巻きになるとか、そういうのも無く、的確な処置、と言えるだろう。

 

「それにしても…悪い噂でも聞いてらしたんですか?その…私の名を聞いた途端、でしたので…」

 

まあ、色々、と。

嘘は言っていない。

 

「やっぱり…先程のも?」

 

……はい。

 

「まあ…やはり、そうでしたか…」

 

落ち込むキアラに対し、素直に謝罪をする。

 

「いいえ、大丈夫ですよ、気になんてしてません。ええ、してませんとも」

 

気にしてたな。コレは。

……いや待て。どうしてこんな事に必死になっている?

そもそも、キアラは…キアラは………アレ?なんだっけ?ま、良いか。忘れるって事はどうでもいい事なのだろう。

 

「まあ、そんな事よりも、です。そうですね。少し、世間話など、如何でしょう?」

 

 

それから、最近はどうこう、と。まあ、たわいも無い話を交わした。

世間話、とは言うものの、恐らくはカウンセリングの一環なのだろう。

 

頭の上では承知していたが、それすらも忘れさせる程に、彼女との話は充実していた。

それこそ、思わず、どうして倒れる事と相成ったのかを、自分から話し始める位に。

 

「まぁ…そうだったのですね…」

 

「それは、難儀な事です…貴方様が苦悩されるのも、無理は有りません…でも、それは、本当にあなた様がやらなければいけないことなのでしょうか?」

 

「子が誤った道を往くと言うのなら、それを正すが親の役目。兄では些か分不相応と言うものです」

 

「貴方が思い煩う必要なぞ、どこにも有りません」

 

真剣な表情で言うキアラ。

 

しかし、それでは…

 

「貴方様の親御様は、こう言う時に、来ない訳ではないでしょう?」

 

確かに、そうだ。

こう言う時は、必ず居る。

 

「ですから、親に華を持たせると思って、貴方様はお休み下さいな」

 

そう、華が咲いた様な笑みを見せる。

 

それもそう、だな。

 

「それと…」

 

それと?

 

「話を伺う限り、貴方様はあまり…他の人に甘えられなかった、のではないか、とお見受けしましたので」

 

「本来、歳上扱いは、苦手なのですが…」

 

恥じらうキアラは。

 

「今くらいは、私に身を委ねられても、佳いかと」

 

脳が溶ける様な、そんな蠱惑的な表情で、彼女は。

 

 

彼女はーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ちょっと待ったぁーー!」」

 

 

 

 

 

 

 

勢いよく襖が開かれる。

そこに居るのは、イリヤが2人。

 

「お兄ちゃん、ごめん!」

 

そう言うと、イリヤはその手で持ったステッキで頭を殴りーーーー。

 

意識が途絶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらまあ…可愛らしい事」

 

どこか余裕のある笑みを見せる()()()()()()

 

「お兄ちゃんの事、誑かした癖によく言うわね」

 

そう言うのは、褐色のイリヤーーーー、クロエ・フォン・アインツベルン。

 

「誑かしたなんてそんなはしたない真似…私はただ、彼を救って差し上げようとしただけです」

 

「ふぅーん。そんな事言うんだ。兎に角、お兄ちゃんは返してもらうわよ」

 

「あぁ…本当に可愛らしい…!思わず此方が妬けてしまいそうな程…!」

 

「クロ、相手にしちゃダメ、早く行こう」

 

イリヤがそう促す。

 

「っ…そうね、今はお兄ちゃんが最優先だもの」

 

「あら、もう行ってしまうのですね…少々残念です…」

 

無視してクロエは兄、と呼ばれる人物を抱え、イリヤと共に走り去っていく。

 

「ふふふ、お大事になさいませ」

 

しかし彼女は、最後までその慈愛に満ちた不敵な笑みを崩さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…危なかった…間一髪だったよ…」

 

「ええ、本当。まさか、貴方の所為でお兄ちゃんがこんな事に巻き込まれているなんて思わなかったわ」

 

「ちょっとクロ!貴方の所為でしょ!?」

 

「は、どうだか!それに、馴れ馴れしくしないで!今はお兄ちゃんを助ける為の一時共闘。それにこんなの(痛覚共有)まで無かったら協力なんてしてないわ」

 

「私でだってそうですよーだ!」

 

「ああ!何よそれ!イリヤの癖に生意気なんだから!」

 

「何なのそっちこそ!」

 

「あの、イリヤ。頼まれてた事、終わったんだけど」

 

言い争うイリヤとクロエの間を割って入る様に、窓から入ってくる美遊。

 

「ミユ!本当!?」

 

イリヤが美遊に聴く。

 

「本当。と言うより、サファイアがやってくれた」

 

「お安い御用ですが、これで良かったんでしょうか…」

「うーん、ルビーちゃん的には、記憶を弄るのは反対なのですよー!」

 

「ルビー、ちょっと黙ってて」

 

サファイアが、兄や柳洞寺今回の件に関する()()()()()()()()()()を消した事をルビーは抗議する。

しかしそれは届く事はない。

 

「お兄ちゃんが私達のせいであんなに苦しんでたんだから、それくらいしてもいいでしょ?」

 

「ううー。ルビーちゃんは最近の扱いの低さが悲しいです…」

 

「私は別にイリヤが構わないなら、構わないけど…そう言えば、アレは何なの?」

 

美遊は殺生院キアラの事を思い出す。

彼女の記憶も消そうとしたが、効果は無く。

それどころか、自分の意思でこの街を離れて行く、と言い去って行った事をだ。

 

()()()()()()()()、あまりに異質な存在。そう美遊は認識していた。

 

「わからないわよ、そんなの。お兄ちゃんを誑かしてた悪い女。それで良いわよ別に」

 

クロエが吐き捨てる様に言う。

 

「それで?私達は最初っから喧嘩してない事になるのよね?」

 

サファイアの方を向くクロエ。

 

「はい、そうです」

それに肯定の意思を示す。

 

「ふーん。ま、せいぜい仲良くしましょ?お姉ちゃん?せめて、お兄ちゃんの前ではね」

 

クロエが冷たい目を向けてイリヤに言う。

 

「貴方に言われなくてもわかってるわよ、クーロ?」

 

「あー!もー!生意気!こうしてやるんだから!」

 

「ちょ、クロ!くすぐったい!」

 

「はぁ…」

 

 

なお、サファイアが記憶を消せると言う記憶もその後消された模様。




ドライはやりようがないからツヴァイで終わりかなー?
主人公泰山の麻婆食えるだけで特別ななんかあるわけじゃないし

キアラさんはどっちなのかは任せます


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もしもカルデアに飛ばされたら

筆安めに書いた。
特に本編とは関係無い。
設定とか然程考慮してない。
そしてイリヤとクロエは今回居ない


「あ、衛宮くん、これ運んどいてくれるかな?それ終わったら休憩していいから」

と、Dr.ロマニは頼んで来る。

 

因みにあれから彼とは数年来の付き合いだ。

 

()()()()()()()に巻き込まれて、どう言うわけかこのカルデアにぶっ飛ばされて来た時、侵入者という事で、記憶処理だの抹殺だの何だのされそうだったのを、こちらのバカみたいな主張を信じて、先陣切って弁護してくれた、命の恩人だ。

 

その事を、偶に持ち出すと、

「いや、ね。どうにもほっとけなくてね?本当に突然ここに飛ばされて来たっぽいし?流石に、異世界から来たってのは驚いたけど。まあ、そんなのもあるんだろうなぁ、って」

 

その前によく信じたよな、ロマニ。

レフもロマニが言うなら、って事で渋々引いたし。

 

ただ、所長が難関でなぁ…

あん時は「魔術回路も無い一般人を置いとける訳ないでしょ!?しかも何よ異世界って!?魔法よ魔法!?あり得る訳ないでしょ!?」

 

とかヒステリックに騒がれてなぁ…戸籍もないってわかった時はもう発言権はこっちに無かったし、ロマニ、本当にありがとう。

まあ、「そこまで言うならロマニ!アンタが責任持ちなさいよ!」って話で、Dr.ロマニの雑用的な事をやっている訳だ。

 

戸籍も偽造…用意してもらったし。

 

と言うか、本当に雑用でしか役に立たない。魔術師組からは針のむしろって奴である。一般組はある程度あたりは柔らかいんだけどね。

これでも最初よりは出来る仕事は増えたんだけどなぁ…

 

それにしても。

イリヤ、クロエは今頃どうしてんだろう。

大丈夫かな。

 

士郎もなぁ…心配だなぁ…刺されてねぇかなぁ…

 

「…また、家族の事を考えているのかい?」

 

あ、やっぱりわかります?

 

「いやね、流石にここまでの付き合いだと、多少はね?」

 

「寂しいのはわかる。でも、残酷な事を言うけどね、そろそろ割り切った方が良いと思うよ、衛宮くん」

 

「ぶっちゃけた話なんだけどね?その妹たちって実在してるのかなー?って事を…ああ、ゴメンゴメン、冗談だよ!だから無言でボクのアカウント削除しようとしないで!」

 

もう、マギ☆マリに会えなくなったらどうするのさ!と頬を膨らませるロマニ。男のあざとさなんて求めてない。

思い出したくも無いが、一度マギ☆マリに相談してみた事がある。一応マーリンだし。

 

《えー?今の状況を楽しめばいいんじゃないかな?》

 

あんの花咲アヴァロンクソニートめ。適当な事言いやがって。

絶対ほくそ笑んでるんだろ、わかるぞ。

 

しかし、その日以降、時々同志フォウが側に寄ってくる様になった。

やはりあの野郎は殴るべきと我らの心は一致したのだ。

 

 

 

「お詫びと言っちゃあなんなんだけどさ…」

 

 

「秘蔵のケーキをご馳走するから、それで許してくれないかなー?なんて」

 

絶対サボりたいだけでしょう?

 

「あ、バレた?はははー!お願いだから白い目で見ないでくれるかな!」

 

ファーストオーダーは良いんですか?

 

「うーん、そうなんだけどね?少しくらい休んでもバチは当たらないと思うんだ」

 

それもそうですね。

 

「珍しい事もあるもんだね、僕がサボる事を黙認するなんて!明日は槍でも降るのかな!?」

 

一体人を何だと思って

 

「まあまあ、ハイ、ケーキ。コーヒーで良かったかな?」

 

「うーん、それにしてもさ」

「衛宮くんってシスコンなの? 」

 

藪から棒にどうしたので?

 

「うん、スルーか!いやね、偶にする妹さんの話を聞いているとね、そうとしか思えなくてね!」

 

否定…否定…まあ良いや別に。もう会えないし。

 

「だってさ、好きなタイプとか頑なに喋らないでしょ?」

 

二次ドルオタが何を言う。

 

「マギ☆マリをそんじょそこらのヴァーチャルアイドルと一緒にしないでもらおうか!」

 

あーハイハ…お?

 

その時、ドアが開いた。

 

「はーい、入ってまー ―――って、うぇええええええ!?」

 

叫び声を上げるロマニ。

どうやら、その時が来たようだ。

 

藤丸立香くん、ただの雑用係です!よろしく!気軽に衛宮って呼んでね!

 

「ハイ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

ただの雑用係にそんな硬くならなくて良いんだよ!

 

「え、でも…」

 

良いの良いの。役に立たない雑用係だもの。

 

「えっと…」

 

「衛宮君、立香君が困ってるよ」

 

あー、ゴメン。反応に困るよね。

 

「あ、あはは…」

 

《ロマニ、ちょっと良いかな》

 

と、レフ教授からコールが掛かる。

なんでも、鎮静剤だか何だかをAチームだかBだかにキメて欲しいんだそうだ。

 

まあ素直に直行する様なロマニではなく。

藤丸君も交えて無駄話に花を咲かせる。

 

するとどうだ。

突如として大きな爆発音が響く。

 

「うわぁ!なんだ!?」

 

緊急事態を知らせる緊急放送が流れる。

 

「ボクは管制室に行く!衛宮君は炉心を頼む!」

 

了解!

 

プロメテウスの炉心に向かう。

この数年でまあ、ある程度の仕事は覚えた。

爆発の規模にもよるが…まあ。対処出来ない事はないだろう。

 

よし、通路は無事だな。

肝心の中は…無傷?

 

花が落ちている。

 

拾い上げると、花はまるで最初から存在していないかの如く、霞の様に消えていった。

 

………良いんだか、悪いんだか。まあ良いさ、管制室に行こう。

 

ロマニぃ!炉心は無事だったぞ!

 

「え?そうなのかい?でも助かった、これで最低限の生存ラインは確保できる!」

 

「ありがとう、取り敢えず今は手伝ってくれ!確か操作出来る筈だよね!?」

 

本当に操作出来るだけだけどな!

 

「それでも今は構わない!藤丸君やマシュの存在証明を急げ!」

 

作業をしつつ、ロマニの方を見やる。

必死、と言うか。自分でやれる事をやってるだけなのだろう。

 

モニター越しに所長に叱責されつつも作業の手を止める事は無い。

こちらの数倍の仕事量をこなしている。

ただ、知っているだけで。良くわからないけど、何とかしなければならないと思ったからーーーー。

 

 

それにしても。冬木、か。

知らない冬木だけど、知っている街が燃えているのは、モニター越しとは言え、見ていて気分の良いものではない。

 

「あー…衛宮君、無理しなくても良いからね?」

 

しまった、顔に出ていたか。

良いや大丈夫、一人でも今ここで抜けたら大変なんだろ?

 

「っ…ゴメン、衛宮君、君には苦労をかける」

 

苦労をかける、か。

まさか。貴方が居なければ、今この場に立てている訳でもないのに。

この命は、貴方がくれた様なものだ。

こんな事で止まる訳にもいかないでしょうに。

 

見れば、アーチャーと戦っているらしい。

何処か懐かしい面影を感じる。

まあ、無論向こうはこちらの事なんて、知る由も無いのだが。

他人とは言え、数年ぶりに見る事が出来たのは、なかなかに感慨深い。

 

一旦引いて体制を整えるのか?

藤丸君一行は南西の方へ走っていく。

その間にも激闘は止まない。

 

待て。

その先には。

確か。

 

その瞬間、モニター越しにも聴こえる、狂える戦士の声。

バーサーカーだ。

バーサーカー、ヘラクレスは辺り構わず攻撃してくる。

アーチャーにも攻撃を。これを狙っていたのか?だとしたら無くは無いあ、んーーーーーー。

 

紫色の帽子が眼に映る。

城の片隅に、墓場の様に佇む、焼け焦げた帽子。

ソレを自分は知識の上で、誰のものだか、知っている。知ってしまっている。

 

動悸が激しくなる。だが、アレは別人のモノだ。

次第に呼吸が乱れる。脳では理解出来ている。だが、それでも、意識せざるを得ない。

アレはーー!アレはーーーー!

 

「おい!おい!しっかり!しっかりするんだ!」

 

…ロマニ。

ああ、いい、だいじょうぶだ。そのまま、しごとをしていてくれ。

そう言う自分のからだは、震えが止まらない。不安で不安で不安でたまらない。

しらないひと(イリヤ)が、どうなったのか、想像してしまう。

 

 

 

「誰か!鎮静剤は!」

 

「一本だけ!」

 

「十分!」

 

っ!何を

鎮静剤を受け取ったロマニは、躊躇なく首筋に突き刺してくる。

 

「すまない、誰か衛宮君を医務室…クソっ、隔壁を閉鎖したのは僕か!クソっクソっクソっ!ーー悪い、看ていてくれ、僕はやらなきゃいけない事が山積みだ」

 

その声を皮切りに、強制的に意識が暗転する。ああ…、役に立たないなぁ……。

 

 

 

 

っ…あ?ここは…?

確か、鎮静剤打たれて…アレ本当に鎮静剤か?

 

「やあ!調子はどうだい?」

 

ダ・ヴィンチちゃん!迷惑かけてごめんね!

 

「いやいやいや、冬木市出身だったんだろ?そりゃああーなるのも無理はない。まあ、倒れたーって聞くまでは本当にキミが冬木市出身なのか疑ってたんだけどねー」

 

「戸籍も何も無かったし。異世界から来た、って言うのが仮に本当だとして、自分の状況を瞬時に把握出来るヤツなんて、はっきり言って頭でもおかしいの?って聞きたくなるしね」

 

何やら器具をガチャガチャと弄りながら話すダ・ヴィンチちゃん。見た目だけなら割と綺麗なんだけど、中身がいかんせんおっさんだからか、頭がおっさんとして認識している。

 

「ま、大丈夫だろ。出てって良いよ。多分作業は山積みだ!覚悟したまえよ」

 

そりゃあもう。分かってますよ。

 

「医務室の復旧を頼むよ、多分、ロマニの奴も居ると思うからサ」

 

と言われて来たものの、誰も居な…!

 

「おや、ここのスタッフかね。手伝えそうな事が有ったので、やって置いたが…?どうした?」

 

いや、なんでもない、ありがとう。

 

「何、礼には及ばんよ」

 

なんかすっげえキモい。なんか作ってますよー感が溢れ出ている。いや、確実に別人だからなんとも言えんけどさ。

 

「あ!衛宮君!」

と、入ったのはロマニ。

 

「ちょうど良かっ……一体どうしたん…あ」

 

「衛…宮?」

 

こちらを鋭い眼光で見つめるエミヤ。

 

「あー、そっか、両方音はエミヤ、なんだよね…どうしてこんな面倒な事に…アーチャーで良いかい?」

 

「ああ、構わないとも。………まあ、そんな事もあるさ。珍しい苗字だが、ない訳では無いからな」

 

「え?アーチャー、君って日本の英霊だったのかい?」

 

お前黙ってろよぉ!ロマニィ!

 

「……………すまない、他の所を見てくる」

 

うん、いってらっしゃい。

そう言うや否や、霊体化して消えるエミヤ。

 

 

「あー…何この空気。まあいいか。それにしても、他にアーチャーの英霊が呼ばれたら、彼の事なんて呼べば良いんだろう…今更君のことを名前で呼ぶのもなぁ…ボクにとっては、衛宮君呼びの方が慣れ親しんでるし」

 

「ま、そん時に考えればいいかな、医務室は…粗方片付いた様だし、他の所をやって来てくれよ、ボクはやる事がここであるから」

 

…はい、わかりましたよ。

 

そう言われて来たのは、居住区フロア。

現状、外と隔離されたカルデアにとっては、他人の物だが、使える物資を掻き集めねばならない。

 

「おや、キミは…」

エミヤが居た。遭遇率高いな。

 

「いや、驚いたよ。まさかキミもエミヤ、と言うとは。参ったな、これではどちらがどちらだか区別がつかんよ」

 

ニヒルに笑うエミヤ。しかし、髪の毛を下されるとますます士郎にそっくりだ。いや、別の世界の士郎なんだけどね?いやね?

 

適当に返事を返す。

 

「私にも下の名前が有ったんだがね。生憎忘れてしまってね…いや、本当に参ったよ」

 

嘘だろ士郎。あっ、やべ。

 

「今、なんと?」

 

返答如何では殺す、そんな殺意のこもった眼で見つめてくる。エミヤ。

 

あー、ね、いや、ね。兄弟にシロウ、って名前の人が居てね、ついついね、口にでちゃって…

 

苦しい言い訳を続けていると、次第に顔が暗くなっていくエミヤ。等々頭を抱え始めた。

 

「…もしや、キミらの父親の名前は、キリツグ、とか言わないだろうな」

 

無いよな、と余裕を取り戻すエミヤ。

だが残念、ここまで来たからには死んでもらう。

 

そうだよ、なんで知ってるんだ?

 

「………なんでさ」

 

完全に意気消沈するエミヤ。

おーい。士郎ー。

 

「つまり平行世界の顔を知らない弟……ふ、フフ」

 

ブツブツと独り言を言い始める。

おっと心は硝子だったか。

 

なあなあ兄さん兄さん。

 

「……私はキミの兄では無いのだが」

 

いいじゃないのいいじゃないか。

士郎って呼ぶには成長しすぎだし。別にそう呼んでも。

 

「だから……ハァ、わかったわかった、負けたよ」

 

頭を撫でてくるエミヤ。

いや、始めてされたんだけどこんな事、とは言わず、少々照れ臭かったが、甘んじるとしよう。

 

「おーいアーチャー!居、るん…だろ」

 

ランサーのクラスで現界しているクーフーリンに目撃される。

 

「あー、何、そう言う趣味が有ったとはな弓兵。すまん、邪魔したな」

 

キレよく踵を返し、来た道を戻っていくクーフーリン。

 

「…待て、キミは色々と誤解をしている!待ちたまえ!」

 

「いやいや、別に隠さなくたっていいんだぜ?オレら(ケルト)からすると別におかしな事はないしな」

 

「だから誤解だ!」

 

「む、そこの二人、また会いましたね。…ところで何が?」

 

「お!セイバーか!いやなに、コイツがなぁ…」

 

「やめろォ!やめろ!」

 

 

ーーーーー

 

「平行世界の…ねぇ?」

 

「そんな事が…」

 

「だから、彼とはそう言う関係では無い、わかったかランサー、セイバー」

 

「義兄弟ねぇ…別に珍しい話じゃ…ああ、わかったよ、悪りぃ」

 

あくまでも茶化すクーフーリン。

 

「って事は、あの嬢ちゃん達も居るのかねぇ」

 

いや、多分居ないと思いますよ?

 

「あぁ?どう言う事だ?」

 

こことは違う世界から来ましたし。

 

「……ふむ」

「…ハァ?本気で言ってんのか?」

(少しホッとしたオレが居る…)

 

事情を説明する。

 

「へぇ…珍しい事もあるもんだ。来てみるもんだな、カルデア」

 

「なるほど、事情はわかりました。大変だったのですね、貴方も」

 

(話が更にややこしくなった)




エミヤくんの胃が痛めつけられるお話


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もしもカルデアに飛ばされたら2

やったぜ!2話連続だ!


 

 

 

数ヶ月後。

 

冬木で起こった特異点修復後、天の衣とエミヤ(殺)が召喚された。

 

「えっと…貴方も、エミヤ、なのよね」

 

「…血の繋がりは無いがな」

 

「じゃあ、貴方も私の子供よ!」

 

「だから、血の繋がりはないし、私は面識が無い」

 

「もう、そんなつれないこと言わないで!」

 

 

わーたいへんそうだなー。

そんな会話が、食堂前で交わされている。

食事を摂ろうと思ったが…後回しにしよっ…わっと。

 

人にぶつかってしまった。

 

「あ、すみませ……!ん」

 

エミヤ!エミヤ(殺)じゃないか!

 

「別に、気にしてない」

 

「あ!キリツグ!キリツグじゃない!」

 

「…だから、僕は君の知っている僕じゃないと」

 

あ、エミヤ(弓)が此方に気付きやがった!

あー!ニヤニヤしやがって!

 

「アイリスフィール、少し良いかな」

 

「うん?なーに?シロウ」

 

おっとお前待ちなさい

 

「彼処に居る彼も衛宮、と言ってね」

「平行世界の、私の弟に当たるのかな」

 

「まあ!そうなの!」

 

ああ!シロウてめぇ!めっちゃ良い顔しやがって!

 

あのすいません、かあ…アイリさん、離して貰えます?

 

「ちょっとちょっと!今なんて?なんて言おうとしたの?母さんって!ちょっと聞いた?キリツグ!」

 

「僕はこの中の誰とも面識が無いんだが…」

 

「私もないさ」

 

俺もない。

 

「もーう!どうしてみんなしてそんな事言うの…」

 

泣きそうになる天の衣。

 

「その、なんだ、悪かった」

 

「私も大人気なかった」

 

ごめんなさい、母さん。何とか機嫌を直してくーー

 

「今なんて?もう一回言ってくれる?あ!シロウもホラ!母さん、って」

 

エミヤ(弓)がすごい顔をして此方をみる。

先ほどのお返しさ。

そう言わんばかりに笑顔を見せる。

 

「なんでさ…」

「あー!ほら、シロウ!お願い!」

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

ファーストレディが創り出した特異点修復が終わった。

 

お兄さん、と藤丸君の事を呼ぶイリヤをモニター越しに見て、何度も何度も血反吐を吐きそうになったが、アレは俺の知ってるイリヤじゃない…クロエも違う…違うんだ…と自己暗示をかけてなんとか乗り切った。

乗り切ったんだ!

 

あー、仕事楽しー!

 

「あの…衛宮君。頼むからさ、少し休んでくれないかい?」

 

なんでですか?こんなにも仕事が楽しいのに!

 

「何日も徹夜して働く君の事を怖がるスタッフが出てきてね…最初は申し訳なさそうだったけど、今では恐怖だよ!なんなのさ日本人!どうしてそんなに働くんだ!」

 

働きたくて働いてるんじゃない!働かないとやっていけないんだ!

 

「訳がわからないよ!とにかく、これは命令だ!君には3…5日分の休息を取るんだ。あ!持ち帰りもダメだからね!フリじゃないぞ!」

 

チッ…はーい。

 

「舌打ち!?今ボクに舌打ちしたよね!?」

 

あの頃の素直なキミは何処へ…

嘆くロマニを無視して、渋々ながらも部屋に向かう。

 

イリヤとクロエがこのカルデアに召喚された。けど、知っている二人では無いのだろう。

……今ならエミヤの気持ちが何となく、いや、理解できる。

キッツイもん。

おのれカルデア。

 

む、アレは…

 

「イリヤちゃん!?イリヤちゃんなのね!?」

 

「「ママ!?」」

 

「クロエちゃん…で良いのよね?会いたかったわ!」

 

善哉善哉。

迂回しよ。

 

そうだなぁ…ラウンジでゆっくり…したいなぁ…

 

 

あ、エミヤじゃん。ラウンジなんかでどうしたの。

 

「見るに見かねてな。キミは英霊では無いんだ。頼むから、無理をしてくれるな」

 

二人に会った?

 

「まあ、な。……妹、いや。姉がああ言った形で生きている世界もあるのだ、と思うと少し感慨深いものがある。………魔法少女、には驚かされたがね…」

 

「クロエ、と言った少女は…少なくとも、オレの記憶には居なかったな。ただ、どうして彼女が()()を使えるのか、が気になるが…まあ、そう言った世界もあるのだろう」

 

やけに割り切りがいいんだな。

 

「それくらいしないで、ここでやっていけると思うかね?」

 

それもそう、か。

 

……イリヤもクロエも、元いた世界に居たんだ。

 

「ふむ」

 

あの二人は、性格も、話し方も、同じだった。

だからこそーー

 

「怖い、か」

「彼女達が、果たして()()()なのか。いや、と言うよりは、自分が居ない世界を知っている故に、かな」

 

!?

 

「何、少々縁が有ってね…まあ、直接出向いた訳では無いが…」

 

あっそうですか…

 

「まあ何、会えばわかるだろう。当たって砕けると良い」

 

他人事だと思って…

 

「他人事だからな」

 

了解。地獄に落ちろ、エミヤ。

 

「…何故それを?」

 

秘密だ。

 

「フッ、そうか」

 

ニヒルに笑いやがって…

まあ、少し気は紛れたかな。

 

「まあ何にせよ、今日は、もう寝ると良い」

 

え?

 

「目の下のクマ、強制的に体を起こした様な節々に見られる体の不調、見るに耐えん」

 

まあ、多分もう居ないだろうし、今回は顔を立てると思って寝るよ。

 

「私ではなくDr.の顔を立ててやったらどうかね…」

 

ロマニ?ロマニ…か。うん、そうだな。そうする。

 

「やけに素直だな…」

 

うっせ。

 

踵を返して、自室に戻る。

家具だのなんだの爆破されて居たため、元居た部屋ではなく、殺風景な空間にベッドとロッカー、つまりは最低限の調度品しか置いて居ない。

そんな自室で休養とは、と言いたくもなるが、心配かけているんだ。従わざるを得ない。

 

先程、見かけた道に差し掛かる。案の定移動していてもう居ない。

そのまま進む。

 

途中途中、すれ違う同僚からは、「やっと休んでくれるのか…」と感慨深いものを込み上げられながら見送られる事になる。

 

自室入ろうとして気づく。

あ、パス…

管制室に忘れたらしい。相当疲れて居るな。

戻ると仕事しに来たのか!と言われる事は疑いも無いので、面倒になったと思う。

 

仕方がないが、取りに行くか。

なに、事情を話せばわかるさ。

そう思い、管制室に行こうとしたまさにその時。

 

「お兄…ちゃん?」

「そんな訳でないでしょ…確かに良く、似てるけど…」

 

声を方を振り向く。

信じられない。まさか、まさか。

知っている。あの二人は、知っている。

想定外。望外。

ああ、それでも、何だろうと良い。

 

再び、再び会えたのだ。

それだけでいい。そうだろう?

イリヤ。クロエ。

 

「「え?」」

 

「また会えて、嬉しいよ」

 

「お、おおお兄ちゃん!?お兄ちゃんなの!?ど、どうしてカルデアに!?」

 

「え?嘘!ホントにお兄ちゃんなの!?」

 

二人が駆け寄って来る。

ああ、懐かしい、なーーーー

 

「お兄ちゃん?お兄ちゃん!?どうしたの!?しっかりして!」

 

「ちょっと!何?何なの!?」

 

二人が、慌てふためいている姿を最後に、意識は途切れてーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「意識覚醒が後3秒遅かったら頭部を切除してました」

 

何言ってんの!?

ナイチンゲール女史が死刑宣告を下す直前だった。

恐らくは医務室…いや、自室か。

 

「心身ともに過度なストレスを張り詰めていたのが急に緩んだ性です。暫くの間安静にして、仕事は休みなさい。大丈夫です、貴方の穴は他の人が埋めます。いいえ、医療に携わる者として、そうさせます」

 

はい。

 

「それと」

 

 

「妹さん達…ですか。とても心配されていた、とだけ言っておきます」

 

「では」

 

努めて事務的に対応し、去って行くナイチンゲール女史。ああ言う仕事人って尊敬しちゃう。

 

「「お兄ちゃん!大丈夫!?」」

 

入れ違いさまに入ってくるイリヤとクロエ。

信じられないが、本当の本当に、あの二人なのだ。

 

?…二人にしては大人しい?

 

「お兄ちゃん…。数年前からここに居たって本当なの?」

 

伏し目がちになりながら話すイリヤ。僅かに涙が溜まっているのが見える。

 

「お兄ちゃん…」

 

本当だ。

隠す事でもないし、カルデアの面々なら誰もが知っている事実だ。それを否定するのは違う。

 

「ごめん、なさい…」

 

なんでイリヤが謝るの?

それにクロエも。どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?

 

「だって…だってぇ…」

 

あーあーあー、泣くなよ、イリヤ。

一人、孤独な生活を送ってた訳でもないし、別にお前らが数年間そんな生活を送ってた訳でも無いだろ?

 

「ウソだ。お兄ちゃん…寂しがってたってドクターが言ってたもん」

 

お前後で覚えてろよロマニ。話をややこしくしやがって…!

 

「ねぇお兄ちゃん。大丈夫だから。私も、イリヤも居るから。一人にはもうさせないから…」

 

クロエ…

 

「だからね?安心してよね、お兄ちゃん」

 

手を握ってくるクロエ。

離さない、と物語って居る様に。ぎゅっと、強く。

 

「クロ、ちょっとずるい…」

 

「こう言うのは早い者勝ちなのよ」

 

 

ーーーーー

 

「やあ!衛宮君!すっかり復活したようだ…ね?」

 

言葉が濁ってるけど、どうしたんロマニ。

 

「その…二人は確か、イリヤちゃんとクロエちゃん、だったっけ。どうして管制室(ココ)に?」

 

「お兄ちゃんが」

 

「心配だから!」

 

クロエとイリヤが元気良く言う。あのさ、あそこの同僚がざわついてるからね。ギスギスしちゃうよお兄ちゃん。

 

「うーん…まあ、いっか。二人共、他の職員の邪魔にらならない様にね?」

 

「「はーい」」

 

「衛宮君」

 

なんです?

 

「何というか…うん、ボクは君を誤解してたよ、うん。……頑張って。アーチャーのエミヤくんもそう言ってたよ」

 

お前ら…人ごとだと思って…

別に良いけど。

 

「じゃあ皆!第七特異点の捜索、今日も頑張ろうか!」

 

 

 

 

とは言うものの。

 

「あのーイリヤさーん、お兄さんとモニター眺めて楽しいですかー?ルビーちゃんはもっと、こう魔法少女らしい事をですねー」

 

「とっても楽しいよ?だから黙っててルビー」

 

「そうよバカステッキ。黙ってなさい、迷惑かかるでしょ」

 

「とほほ…」

 

同僚の配慮によって、左右が空いてる席を譲られている。一応、二人分の椅子が置かれて、そこにアレコレ小一時間は座っている。

 

最初はチラチラ見てくる同僚が最早こちらを見ていない。と言うより目に入れまいとしているのを感じる。

 

「あのー、衛宮君?」

 

はい?

 

「少し、休んで良いよ。うん、休んで?」

 

えっ

 

「おにーちゃん。いこー」

 

「ほらほら」

 

イリヤとクロエに腕を引っ張られ、無理矢理廊下に連れて行かれた。

 

すると途中。

「あ、お兄さん!」

 

「む…?あぁ…」

 

エミヤ(弓)!

 

「その、なんだね、良かったじゃないか」

 

あーうん、それは思うよ。

 

「ああ、そうだ、快気祝いに何か作ろう、何が良いかね?」

 

激辛麻婆豆腐。

 

「え?」

 

激辛麻婆豆腐。

 

「あー…お兄ちゃん…」

 

「…そ、そうか。麻婆豆腐、か。なんとまあ…」

 

やっぱ無理?

 

「まさか。やるからには腕によりをかけて作ろうとも。2人は普通の麻婆豆腐でいいかな?」

 

「うん」「お願いするわ」

 

 

 

エミヤの麻婆豆腐は、美味しかったとだけ、言っておこう。




本編もうちょっと待って、剣豪の所為でシリアス書きたい症候群抑えるの必死なの!

多分別の作品で解消すると思う


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六話

ちょっと難産だった


 

 

「一緒に暮らすことになった従姉妹のクロエちゃんです」

 

ある日の夜、なんの前触れも無く帰ってきていた母さんによって紹介されたクロエ。

 

アレ?なんか昨日一昨日と一悶着あったような…?なかった様な…

なんだったっけ?うーん、不思議だ。

 

なんか、とてつもない何かが有った様な…

 

 

「まさか従姉妹が居るなんてな…知ってたか?」

 

従姉妹が居たのは初めて知ったよ士郎。

 

「それにしても、そっくりだな…!まさか隠し…」

 

母さんの鉄槌で強制的に黙らせられる。

それはアカン。

 

クロエがこちらをチラチラと見てくる。

イリヤはクロエを敵視した目で見ている。

 

うーん、どうしよう!

士郎!大丈夫か!

 

「なんでさ…」

 

いや、隠し子とかなんだの言ったのはそっちじゃない。

 

「それもそうか……寝るかな、もう」

 

そうしときなさい。

士郎に続いて寝るとしよう。

 

 

 

 

 

しかし夜中、何者かがベッドに潜り込んでくる感触で目を覚ます。

 

「あ…起こしちゃった!?」

 

クロエ、か。一体どうしたん?母さんと一緒に寝てたんじゃないの?

 

「いや、そうなんだけど…ね?なんか寂しいなーって」

「それとも…お兄ちゃんは、一緒に寝るの嫌?」

 

祈る用に手を組み、上目遣いでおねだりするクロエ。

 

寂しいって母さん一緒に居るでしょうに…と思ったが、口には出さない。

代わりに右側のスペースを空けて返事に代えるものとする。

 

「お兄ちゃん…!」

 

嬉しい!と言わんばかりに抱きついてくるクロエ。

 

構わず、右手を頭の上から滑らせるようにして撫でる。

ちょっと無理な体勢だけれど、クロエが喜ぶんだったら、いいかな。

 

「…ねぇ、お兄ちゃん」

 

うん?

 

「ヘン、なお願いなんだけどさ…」

 

「二人っきりの時は…イリヤって呼んで欲しいな?」

 

それ、は…

 

ちら、と右の彼女に目を見やる。

どうするべきーーむ。

その時。()()()()

 

「ーー前にも似た様な事、有ったよな」

 

「え?」

 

いやね、かなり違う状況だけどさ。

イリヤは、不安がってたなーって。

 

「ーーーーー」

 

瞠目するクロエ。

驚きのあまり声が出ないのだろうか。

 

「お…ぼえ、て……」

 

さて、どうだったか。

 

「お…」

 

お?

 

「お兄ちゃんっ!」

 

馬乗りに乗ってくる。

ちょっと待つんだイリヤ!な?な?

 

「これはもう、イイって事よね?そうよね?お兄ちゃん!」

 

「ダメに決まってるでしょーー!」

 

イリヤが部屋に入ってくる。

 

「何よイリヤ、もう来たの?」

イリヤをジト目で睨みつけるクロエ。

 

「もうって何なのよ!さっきから見てれば好き勝手に!」

「お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ!どうしてクロのお願い聴いちゃうの!?」

 

どうしてって…言われても…

 

「お兄ちゃんは、私の事の方が大切だからなのよねー?」

 

クロエは体を前に倒し、そのか細い手をこちらの首へ這わせ、頭を抱えるように回してくる。

 

「そんな事有る訳ないでしょ?お兄ちゃん?私の方が大切だよね?」

 

イリヤは、どこか虚空を思わせる様な眼でこちらをじっと見つめてくる。

答えは決まりきっている。そう訴えかけてくる様な眼だ。

 

お兄ちゃんは二人共仲良くして欲しいんだけど…

 

「ほえっ!?」「ええっ!?」

 

イリヤとクロエは同時に驚いた!って感じの声を上げる。

 

「えー…お兄ちゃん。それはないでしょー」

クロエ。

 

「お兄ちゃん…」

イリヤ。

 

どっちか選べって言われても…

二人共大切な妹だし。選べないって。

 

「ふーん。そっか。お兄ちゃんらしい、と言えばお兄ちゃんらしいけどねー。妹、ねぇ…

 

「お兄ちゃんがそう言うんだったら…私は構わないけど…そっか、妹なんだ…

 

あ、あの?何か?

 

「ううん、なんでもないわよ、おにーちゃん。でしょイリヤ?」

 

「うん、なんでもないよ」

 

笑顔で答える二人。しかし何やら確執めいたものが見え隠れしている…。

クロエは手を解き、右側へと転がる。

 

「ホラ、イリヤは左側ね」

 

「うん」

 

左側にイリヤが寝転がる。

兄は意思表示をしていない。

嫌なワケ無いけど。

 

「うーん…ちょっと狭い…」

 

「お兄ちゃんに抱きつけばいいでしょー?」

 

「あっ、そっか」

 

左右から挟むように二人に抱きつかれる。

腕が絡みとられる。

そして益々狭くなる。あの、夏場も近いんですけど、暑さとか、気にならないんです?

 

「?お兄ちゃんと居るのに暑さなんか関係ないよ?」

 

イリヤが本気でわからない、と言った様な表情で返す。

 

そっかー。

 

「そうだよー。えへへ」

 

頭を撫でようか、と思ったけど、両腕は動ける状態に無い。

頭を乗っける事でそれに代える。

 

「ふぇ!?わ…わわ…ふにゅう…」

 

イリヤ!?…ダメだ、返事がない。

 

「むー…ちょっとお兄ちゃん!私にも!わーたーしーにーもー!」

 

あーハイハイ。

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

「うーん…仲良いのは良いんだけど…ちょっと距離、近すぎない?」

 

ごもっともでございます。

 

朝、部屋から出てくる我々を目撃した母さん(アイリ)

そのまま説教…おはなしが始まった。

 

「そうですアイリ様!何度も言っても変わらず…イリヤさんだけでは飽き足らず、従姉妹のクロエさんにまで毒牙に掛けようとするとは…」

 

そんな事してないよ!?

セラの中のイメージってどうなってるの!?

 

「変態です」

 

ひでぇ事言いやがる

 

「ま、まあまあ2人共、そんな手を出した訳じゃないんだし、そんな説教しなくても…」

 

「そういう訳にはいきませんシロウさん!貴方も須らく説教の対象です!」

 

「!?一体オレが何をしたって!?」

 

「貴方は美遊さんや他の子に手を出そうとしてるでしょう?」

 

「誤解だ!」

 

「イリヤさんやクロエさんにも少々怪しいですし…それに、犯罪者は往々にしてそういうものです」

 

「ツッコミ所が多過ぎる!弁解を!弁明の余地を!」

 

「有ると思いですか?」

 

「なんでさぁぁぁあ!」

 

士郎とセラの舌戦は、圧倒的優位でセラの勝利に終わった。

 

 

「マ、ママ、私がお兄ちゃんに甘えてるだけだから…」

 

イリヤが割って入る。

 

「うん、わかってますよーイリヤちゃん。問題はそこじゃないのよねー」

 

なんと

 

「キリツグ、なんて言うかしら…」

 

「だからお兄ちゃんは何もしてないよ!」

 

「そうよママ。お兄ちゃんは何もしてないわ!」

 

「小学生二人にこんな事言わせるなんて、なんて罪作りなのかしらねー」

 

あっこれ話通じそうで通じないパターン…

 

「まあ、イリヤちゃんとクロエちゃんの言う事だからママ信じるわ」

 

「ママ…」

 

「キリツグは怖いわよー」

 

だからこっち見て言うのやめてって!

 

 

 

 

 

 

 

 

はて、あれから数週間が経った。

 

料理対決だの何なのあったり、バゼットさんと遭遇してみたりと色々な事があった。

 

そんな今日は、海に来ています。

 

今日はイリヤとクロエと、美遊ちゃんの誕生日。

 

前々から誕生日プレゼントを用意する、はずだった。

 

実際にはそうではない。寧ろ大変な目に遭った。

 

確か、あの時は……

 

 

「話があるんだけどさ」

 

どうした士郎。藪から棒に。

 

「いやな、そろそろ誕生日だろ?」

 

あー、そうだね。

 

「誕生日プレゼント、何にするつもりなんだ?」

 

まだ決めてない、そっちは?

 

「あー、遠坂に相談して決めたんだけど。ブレスレットにしようと思ってる」

 

誕生日プレゼントにしては重くない?

 

「いや、割と軽いぞ?」

 

そっちじゃねぇよ…

しかし、か。

そうなんだよなー奴はブレスレットなんだよー。

どうしよう。

 

指…辞めとこう。どうなるか知れたもんじゃねぇ…!

 

うーん…。

 

 

 

 

「それで、私の所、へ。ですか、そうですか」

 

本当にすみませんカレンさん!許してください!

 

「確かに、女性への贈り物を女性に聞きに来る兄弟共々、デリカシーが無いのは火を見るより明らかな事でした」

 

……仰る通りです。

 

「そう思っているならもうちょっと姿勢を低くしなさい。具体的には、額が地面に着くまで」

 

ぐふぅ…だからって踏まなくても…ああ、すみません、なんでもありません。

 

「まあいいでしょう、それは置いといてです。妹達+αへの誕生日プレゼント、でしたか。……そうですね、私と一緒に、新都へ行ってみましょうか」

 

え?どゆこと?

 

 

 

 

 

「ふふ、久々に来てみましたが、色々有りますね」

 

新都のとある大型複合施設に、カレンと2人で来ている。

一体これはどう言う事なんだ…

 

「せっかく歳上の女性と来ているんだから、ちょっとくらい楽しそうにしたらどうなんですか?」

 

いやいやいや。

 

「無粋な人ですね…ハァ…」

 

「ま、興も削げたので本題に入りましょう。指輪で良いのでは?」

 

考えたけど、どうなるか解らないし、美遊どーすんよ、って話だからナシ。

 

「え?本気で考えてたんですか?警察呼びましょうか?」

 

勘弁してくれ…

 

「ブレスレットは?」

 

士郎がプレゼントするよ、それは。

 

「…兄弟揃ってシスコンでロリコンなんて…ああ、どうしたらこんな罪深い兄弟が…」

 

遠坂に相談した結果だから。士郎は。

 

「……遠坂の娘はブレスレットに込められた意味も知らないのですか…」

 

やれやれ、と言わんばかりに頭を抱えるカレン。やれやれ言いたいのはコッチだって。どうしてぬいぐるみとかにしなかったのだ、遠坂よ。

 

「まあ、対抗してネックレスでいいんじゃ無いんですか?」

 

何に対しての対抗なのか知らないけど、そうしよう。

 

「本当に自分の意見が有りませんね」

 

ひでぇ事言いやがる。

 

「お金は?」

 

有るよ、割と。

 

「露骨な金持ち自慢ありがとうございます。見栄を張らないで下さいね。見ている限りバイトとかやっている形跡はありませんよね?」

 

なんでそんな事知っているのかは一先ず置いといて、当店特製激辛何某、時間以内に食べ切れたら賞金出すって言う店があってね…

もうそのイベントやってないけど。

 

「あー、成る程、あの店ですか。でしたら納得です。結構な額でしたよね。アレ」

 

そうそう、懐がかなり潤った。

 

「それなら…多少高くても問題有りませんね。全額使いましょう」

 

そうしましょう。

 

 

 

 

 

購入したが、カレンは

「少し余りましたね」

 

などと言っている。

 

いや、マイナスなんですけどー?口座から引き出したよ?何が余ったんです?

 

「ここまで付き合ったお礼に何か買って欲しいんですけど、いいですよね?」

 

えー…食事じゃダメ?カレーとかさぁ…

 

「絶対に嫌です!なんでよりによってカレーなんですか!そこは麻婆豆腐でいいでしょう!?」

 

あっ、ごめんなさい。

 

「冗談に過ぎます!」

 

機嫌をそこねてしまった…。

何とか機嫌を取り直してもらわないと…ん?

 

ふと目に留まるのは簪。

百合の花がモチーフにされている。

 

百合、か。果たして良いのか?

 

「簪ですか。ふむ…これ、お願いしますね」

 

えっ、あっ

 

「だめですか?」

 

…わかった。

 

観念して、簪を買う。その場で差し出すと、そのまま髪を何処からか出した髪留め等でポニーテールめいた形に結い上げ、簪を挿した。

 

「…ありがとうございます」

 

どういたしまして。

 

「さて、帰りま……おや」

 

どうしたん?

 

「……いいえ、何も。さ、帰りましょうか」

 

と言いつつ、腕を絡めて来る。

へ!?な、何してるんです!?

 

「別に良いではありませんか?こんな美人に擦り寄られているんですよ?もっと鼻の下でも伸ばしたらどうなんですか」

 

それ自分で言っちゃう!?

 

「ふふ、なかなか新鮮な反応です。さ、行きますよ」

 

割と強引だな!

 

「おや。こう言うのがお好きだと思ったんですけど…違いましたか?」

 

そう言う問題じゃない。

 

「やはり妹じゃないと興奮出来ない、と。本当に救いがないですね」

 

そんな事一言も言ってませんけどぉ!?

 

「言ってない、と言う事は…うわぁ…」

 

やめろ!もうやめてくれ!

 

「…ふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はすみませんね、なんだか。

 

「いいえ、構いません。私も愉しかったですし」

 

楽しかったですか。それは何より。

 

「では、いつかまた。貴方が生きていたらお会いしましょう」

 

なんて事言うんだよ…

 

一応、見送ってから家路に着くのであった。

さて、帰りますか!

 

 

 

ただいまー…?

アレ、イリヤとクロエが来ない…?どこか出かけてるのか?

 

「あ、おかえり。それで、買ってきたのか?」

 

ああ、うん、買ってきたぞ。

 

「お、そうなのか」

 

イリヤとクロエは?

 

「え?居ないのか?ちょっと前に帰って来たと思ったんだけど…またどっか行ったんじゃないか?」

 

ふーん。そっか。セラとリズは?

 

「買い物だ」

 

なんで士郎が料理してんの?

 

「あー…別にいいだろ?なんだって。そう言う気分なんだ」

 

なら仕方がない。

 

「だよな?」

 

うんうん。

セラとまた言い争うが良い。

じゃ、自室に戻るかな。

あ、これ、士郎預かっててー。

 

「おう、いいぞ」

 

どうもー。

 

 

 

自室に戻ると、背後からドアが勝手に閉まる音がする。

振り返る。そこには。

 

「おにーちゃん」

 

え?イリヤ?どうした…の?

 

「クロ、お願い」

 

「はいはーい」

 

いつの間にやら背後に居たクロエに足を取られ、そのままベッドに転ばされる形で寝かされた。

そこに左右、添い寝する形で2人が横になる。

 

「おにいちゃん、しょーじきに答えてほしいかなー?」

 

イリヤ?何に?

 

「あの人。私たちの学校の保健室の先生だけど、どうしていっしょにいたの?」

 

え?あー…うんとね?それはね?

 

「随分仲よさそうだったねー。お兄ちゃん?腕なんか組んでさ」

 

【さて、帰りま……おや】

 

この事だったのかー!ちくしょう!嵌められたぁ!

 

「どう言う関係なの!?お兄ちゃん!好きな人、いないんじゃなかったっけ?」

 

どう言う関係も何も…付き合ってないし。

なんだろうな?相談相手?

 

「相談相手と腕組んだりする?ふつー」

クロエが発言をする。

 

向こう側が勝手にやって来た事…なんですけど…。

 

「ふーん…勝手にねぇ…」

クロエのその目は実に冷たい目だった。

 

「おにーちゃん」

顔を手で挟まれ、引っ張られ、強引に、と言うより、強制的にイリヤの方を向く事になる。

 

「何しに行ってたの?」

 

紅い瞳が、射抜くように見つめている。

いつもはかわいいイリヤが、獲物を縊る寸前の目をしている。

あ、これ誤魔化したら死ぬやつだ。

本当は、秘密にしておきたかったんだけど…

 

「ひ、み、つ?」

 

顔にかかる力が強くなる。目からハイライトが消えていく。

待て待て待て。違うから、想像してるのと絶対違うから。

いやね、イリヤとクロエと美遊ちゃん、誕生日近いじゃん?

 

「え…?」「あっ」

 

だからさ、誕生日プレゼントの相談に…ね?

人に聴くのはどうかとは思ったけど。センスあんまりないから…

 

「あー…うん、そ、そっかー。誕生日、プレゼント。プレゼント…」

 

「あ、アハハー…」

 

頭の拘束が解ける。…ちょっと痛かった。

 

「あっ、待った!」

 

クロエが何かに気づいたように言う。

 

「腕組んでたでしょ!アレ!アレはどうなのよ!?言い逃れ出来ないわよ!?」

 

「あっ、そう、そうだよお兄ちゃん。先生と腕組んでたー!」

 

アレは向こうから組んで来たと言っているでしょうに。

 

「ソレ、本当なの?」

 

本当だよ、クロエ。嘘なんかついてない。

 

「お兄ちゃんの事だから、嘘はついてないんだろうけど…つまり、そうすると……」

 

クロエとイリヤが顔を見合わせる。

 

「「…………………」」

 

「「……ごめん!(なさい!)」」

 

「私、ヘンな事考えてた…うん、ごめんなさい…」

 

「私も。ごめんね?お兄ちゃん」

 

いや、別に怒ってないから良いんだけど…

あー!ほんとほんと怒ってないって!だからイリヤは泣きそうな顔しないの!

 

「でも…疑ったのは事実だし…」

 

だから気にしてないって言ってるでしょ!

そんなね、気に病む事ないんだよ?

 

イリヤを引き寄せ、抱き締める。

 

「お、お兄ちゃん…」

 

イリヤもそれに答えるように、抱き返して来る。

 

「私も泣いとけば良かったかなー…」

 

あー、クロエお前も、ホラ来い。

 

「あーもう!お兄ちゃん大好き!」

 

「わ…私だってお兄ちゃんの事は大好きだから!」

 




誕生日プレゼントもといルビーちゃん暴走は次回。

これでロリコンないしシスコン扱いされない方がおかしい


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七話

R-15とは。

そして逸般人になりつつあるお兄ちゃん。


 

 

 

何処までも、何処までも広がる。大海原。

天候にも恵まれ、まるで吸い込まれそうな蒼さを湛えている。

 

「きゃーーッ!?タッツンが車にはねられたーッ!?」

 

ふと横を見やると小学生組が騒いでいる。

元気だねぇ。最後にはしゃいだの最後いつだっけ。

所で轢かれたことに関しては誰も突っ込まないのね。士郎、一成、無事とか関係なく犯罪だぞ…?

冬木の人間の倫理観はすごい。

流石九州。

 

「あの!」

 

背後から声がかけられる。はて、と思い振り返って見ると。

む、えーっと…スズカ、だったか。

一体なんの様だい?

 

「三人はどのような関係で?」

 

「と言ってもだな…兄弟と普通の友人、としか答えようが…」

 

「だが衛宮、普通の一言だけと言うのもいささか寂しいな…」

 

そこから、二人だけの空間が形成されるのには、早かった。

周りがざわめいている。スズカは喜びに震えている。

うん、アイスでも食うか。

 

「ああ!ちょっと待ってください、まだお兄さんの話を聞いてません!」

 

兄弟と友人。残念だが、あの二人は兎も角、此方には薔薇は咲いてないし咲かないぞ。

 

「なっ…!?いいや!ノンケの弟、情熱的に迫る兄とその親友…!イケる!」

 

あ、何言っても妄想できる筋金入りだったか…アイス食べよ…。

 

イリヤ、クロエ…は美遊ちゃんを始めとしたお友達と遊んでるな。善哉善哉。

 

 

 

アイスが無くなった!士郎!一成!買いに行ってくる!

 

「ああ、わかった」「了承した」

 

二人の許可も得たことだし…と。

さて、歩こう。

 

 

アイスー、アイスはどーこに売って…あ。

 

「あ、貴方は!」

 

バゼッ…ダメットさん!ダメットさんではないですか!

 

「バゼットです!!」

ものすごい剣幕で怒られる。

人を殺めてそうな目つきだ!

 

 

「まさかこんな所で…」

 

頭を抱えるバゼット。

まさかアイスキャンデー売ってるとはねー。

一本下さい。

 

「3000円です」

 

「嘘だろぉ!?」

 

「いいえ、貴方にはこれくらい妥当です」

 

何か嫌われる様な事したっけ!?

 

「とぼける気か!?」

 

そんな親の仇を見つけたような目で見ないで下さい!

あとアイス安くしてください!

 

「嫌です!」

 

そこをなんとか!

 

「おにいちゃーーん!!なにを言い争って…っええええ!?」

 

クロエが近くを通ったのか、声をかけて来た。しかし、なにやら驚かれる。

 

「バゼットーー!?」

 

「なんで!?なんでここに!?」

 

 

「は…?お兄、ちゃん?」

バゼットがクロエのお兄ちゃん呼ばわりに疑問を覚えたのか、訪ねて来た。

 

どうも、イリヤとクロエの兄です。

 

「貴方が兄…いや、しかし…」

 

こちら養子なんですよ。

 

「それは…すみません、聞き辛い事を」

 

いや、良く説明する機会あるから気にしないけど…。

 

「ちょ、ちょちょちょちょっと待って!?お兄ちゃん、この人と知り合いなの!?」

 

うん?ああ、知り合いと言えば知り合いだな

、イリヤ。

 

「いつ!?どこで!?なんで!?」

 

「そこまで露骨に驚かれると少し落ち込み…ませんね。最悪の出会いでした」

 

なーにを宣うか、道端で半分行き倒れだった所を拾い上げて飯まで奢ったとゆーに、あまり言いたくないが、恩を仇で返すとは…。

 

「飯!?アレを食事と!食事と言いますか!」

 

失礼な!謝れ!店主と全国の辛いモノ好きに謝れ!

 

「辛いモノ!?アレを辛いと言うレベルで済ませる気か!?」

 

 

「あー…なるほど…だいたい読めて来た…」

イリヤが引きつった笑みで零す。

 

「お兄ちゃんとバゼットが知り合いだった、って事に関してちょーっとおはなししよっかなーって思ったけど…アレを食わされたバゼットを哀れむべきか…悩みどころよねー」

 

目を閉じ、指先を唇の下に当て、考え込むクロエ。

 

「そんなに、辛いの?」

美遊が、素直に疑問に思い、イリヤとクロエに尋ねる。

 

「辛いってもんじゃないわよ、アレは。地獄よ。…本当、お兄ちゃん良く食べれるわよね、アレ。ひょっとして辛いのがわからなかったりして」

 

「そうかもしれない…」

 

(どんなのなんだろ…)

 

 

結局、バゼットに10000円支払い、アイスを4本手に入れた。

財布が軽くなった。畜生。

 

「さて、そろそろ会場に移動しようか」

 

との士郎の声で、「海の家がぐまざわ」に移動する事なった。

「イリヤ&クロ&美遊、お誕生日おめでとー!!」

 

とまあ、誕生日会が始まったのだが、暫くしないうちに。

 

「誕生日って祝うようなものなの?」

 

美遊の言った一言に、会場は凍りついた。

どうも、誕生日を祝って貰った事がない、と言う。地雷を踏んでしまった、と思われている。

が、士郎のナイスフォローで場が取り直される。

そうそう、正確な誕生日が判明していない奴だっているしな!

 

「……あー…それは、今言うのは…マズかった、かな」

 

「お兄ちゃん…」

「そっか、お兄ちゃん、わからないのよね…」

 

「イリヤのお兄さんって一体…」

 

「誕生日わかんねーってどう言う事なんだよ?」

 

「タツコ!なななに聞いてんのー!?」

 

文字通りの意味だよ。わからない。覚えてないし、記録もない。戸籍上は冬になってるらしいけど…

 

「ま、まあ、兎に角、三人とも、誕生日おめでとう」

 

と、士郎が誕生日プレゼントを取り出す。

 

「こっちの箱が…オレか」

 

はい、と渡した箱からはブレスレットが出てくる。

五芒星…ふむ、遠坂にも助力を仰いだそうだから…何らかの意味が…意味が…ないな。

 

「士郎お兄ちゃんからもあったんだ!」

 

「驚いたわ…意外とセンス良いし」

 

「オレだけじゃなくて、遠坂にもちょっと、な…ひょっとして誕生日プレゼントの事事前にバレたのか?

 

あー、すまん。バレちゃった。

 

「おいおい…」

 

誕生日おめでとう。はい、どうぞ。

 

「これは…ネックレス?指輪…じゃないか…そう、だよね…

 

「うわ、ひょっとして三人それぞれをイメージしてるの?指輪は…美遊が居るから仕方ない、とは言え…

 

「お兄さん…コレ」

 

首を横に振る。違うよー。

 

アレ、ひよっとして本…

士郎が耳打ちしてくる。

違います。本物ではありません。良く似た奴です。口座まで下ろすほど何で金かけてません。

 

「まあ、良いけどさ……今度から一緒にしないか?」

 

それも良いかもなぁ…

 

イリヤは銀にルビーっぽいの。

クロエは黒曜石っぽいのにガーネットっぽいの。

美遊はサファイアっぽいのに琥珀っぽいの。

小ぶりだけど、これらを使って、ネックレスを仕立てました。

喜んでくれて嬉しいです!

 

「ありがとう、ふたりとも!大切にするね!」

 

「私も、大切にするわ!」

 

イリヤとクロエ。そうしてください。指輪?あーあーきっこえなーい。

 

うん?

美遊ちゃんは、イリヤに、みんなに、士郎に感謝か!

美遊ちゃんの感謝の言葉が重いぞ!

さらっと士郎が別枠だぁ!

 

む、すごい音。工事かな?

外に出てみると、

遠坂と、エーデルフェルトが。

そしてバゼットが。

士郎が、一成が。

 

なんとフルメンバーが集結してしまった。

 

 

呆気にとられて居ると、遠坂とエーデルフェルトがバゼットと一触即発の空気を醸し出しした。

しかし、直後、士郎にエーデルフェルトが気づき、一成が小姑ムーブを始め、森山奈菜巳の恋路が云々、と士郎争奪戦が幕を開けた。

 

「おい、ちょっと…」

 

なぜこっちをみるんだ士郎!やめろ!巻き込むな!巻き込まないでください!

 

「つまり…」「最初に…」

 

「「「「弟を落とした方が、(衛宮)(衛宮くん)(シェロ)(義兄さん)を…!」」」」

 

あ、やべ。逃げ…痛っ!

頭上から、何かが降って来た。

そうするとどういう事だろう、士郎に言いたい事がどんどん湧いてくる。

 

士郎!

 

「なんだ!?」

 

誰を選ぶんだ!?遠坂か?エーデルフェルトか?…桜ちゃんか!?まさか一成と言うのも…ハッ!美遊ちゃんか!?

 

「なんでさ!一体何の話をしているんだ!やめろ!両肩を掴むな、揺らすな!顔が近いぞぉ!!!」

 

いけない、いけない、美遊ちゃんはいけないぞ、士郎。それはマズイ。色々とマズイ。

桜ちゃんにしときなさい。そうしなさい。

 

「何の話だああああ!!!」

 

 

痛っ…「あ、間違えましたー!」

 

「ま、いいです。士郎さんの方にしちゃいましょー!」

 

 

 

 

その時、 私は悟った。

 

成る程、そういう事だったのか。

 

我々は。

 

 

世界とは。根源とは。

 

 

 

ああ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが───その時、脳裏に浮かぶのは一人の女。

 

思わず魅入る。

 

本能が女を求め、理性がそれを後押しする。

 

 

いや、待て。そうじゃないだろう。

 

 

よく考えてみろ。

 

今の自分が、こんな女に興味を抱く訳が無い。必要がない。

 

ああ、そもそもの前提が違ったのだ。

何故、この女を想う必要がある、と。

疑問に思うべきなのだ。

こいつじゃない、と。

 

知っている。

この女は()()()だ。

だけど、お前に溺れるのは御免だ。

だから去ね。疾く去ね。

 

そう言ったような気がした、その時。

 

 

 

 

 

 

 

女が、顔を歪めた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ!?

 

なんだ?何だったんだ、一体。

何があったん…む!

 

士郎がイリヤに迫ってる…?

いや、士郎はとても正気とは思えない。

雰囲気が明らかに尋常ではないもの。

 

ならば!

 

兄を正気に戻すは弟の務め!

本当はどっちが年上なのかはしらねぇけど!

 

よいしょ!

 

 

「あー!士郎さんが頭から砂浜にー!……え?お兄さんなんで動けて…涅槃の境地に軽く至るはずなんですが…」

 

 

 

「お…、おにい、ちゃん…」

 

変な音したけど…士郎…は、生きてる…な。

なら良いや。

 

イリヤを横目でみやる。

顔が真っ赤なのは、どういう意味なのかは伺い知ることは出来ない。

 

…まあ、当人同士がどう思っているのかは知らないけど、お薬とかむりやりとかそういうのはいけないと思うんだ。

 

「うーむむ…!不思議なこともあるもんですねー。まあいいです!当初の計画道理に行くだけです!今度こそイっちゃいましょう!」

 

痛っ

 

「ちょっ…ルビー!」

 

「いいじゃないですかー!イリヤさん!貴女だって…ねぇ?」

 

「そうだけど…いや、やっぱりそういうのはちゃんとした形で…」

 

「ルビーちゃん的には面白ければどっちでもいいんですけどねー。やっとマトモに保存できる機会が来てくれて感動です!」

 

「なんなの!?保存って!?……お兄ちゃん…」

 

イリヤ……っ、戻るぞ、あそこで固まってる連中叩き起こすの手伝ってくれ。

 

「ほえっ!?」「アレー?」

 

ああっ!頭がボーッとする!なんなんだ今日は…ああ、イリヤ、大丈夫だ。ああ、大丈夫だ。

 

「お兄ちゃん…?」

 

「うーん間違えたんですかねー。もう一発いってみましょ…「姉さん?何してるんですか…?」あー!これにはですね!深いわけが…アッー!」

 

なんか聞こえる…幻聴かな?

まあいいや、士郎を担い…

 

士郎を持ち上げた腕とは反対の腕を掴まれる。その手は、力強い。けれど、単純に力が強いだけ。そう思わせる掴み方だった。

 

…どうしたんだ、イリヤ。

 

「……あのね、お兄ちゃん。聞いても…いい?」

 

物憂げな、と言うよりは。絶望の淵に立たされるか否か。と言った方が適切だろうか。気丈に振る舞ってる様に聴こえなくも無いが。

一度担ぎかけた士郎を再び地面に投げ飛ば……置く。よし、無事に着…置けたな。

 

 

イリヤの方を向こうとしたが、手を離さなかった。そのまま声に耳を傾ける。

 

「ほんとうは、どう思ってるの」

 

どう、って?

 

「……お兄ちゃんのいじわる」

 

 

 

 

「でもいっか」

 

ぐいっ、と腕を引かれる。油断していた為、していなくても、するが。簡単に砂浜に転がされる。

 

 

「別にいいよ、お兄ちゃん。勝手にするから」

 

イリヤが馬乗りになる。

このまま放置すると絶対に後戻り出来ない。

いや、もう後戻り出来ないのか?

なんとか、説得を試みる。

 

イリ…ヤ?

 

「気づいてるクセに。知ってるクセに。私の気持ちなんてとっくの昔にわかってるんでしょ?」

 

「それなのに。それなのに。それなのに!それなのに!それなのに!!」

 

「なんにも知らないフリして、私の事をもてあそんでるお兄ちゃんが悪いんだよ?」

 

そんな事…「してるもん」言葉に詰まる。 そんな事言われたら何言っても同じじゃないか。

 

「それに突然クロが現れて…お願い聞いちゃったりして…知らないよ、そんなの。だからなんなのさ。お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなのにね。おかしな話だよね?」

 

話が根本的に通じない、と言うより。

答えがもうイリヤの中で決まっている、と言った方が適切だろう。

段階はすでに力づくで何とかするしかなくなっている。

 

「ねー?お兄ちゃん…♡」

 

イリヤは自分の身体を押しつけるように倒し、腕を首に回してくる。そしてがっちりと離さない。

 

 

「おに…ぃ、ちゃん…っん…」

 

吐息が聞こえる。耳にかかる。

 

「はむ…」

 

耳たぶを甘噛みされる。

押しのけるべきなんだ。でも、ここで押しのけようとも、しなくても。もう、元には戻れない。

 

だけど同時に、妹に手を上げる兄なんて、死ねば良いと思っている。

その事が、いつまでも、いつまでも。

優柔不断だと。頭の中で繰り返される。

 

「んくっ…ぇろ、ぁむ…んっ…」

 

そうしている間にも、変わらずこの少女によって噛まれ、舐られ、吸われる。

か細く、別の生き物の様に動く舌が、我が物だと示すように耳を蹂躙する。

 

「あむ…っん…っふぅ…ねぇ、お兄ちゃん、キモチいい?好きでしょ、お兄ちゃん。こーゆーの」

 

いや知らねぇよ。

好きかなんかも初めて体験したわ!

ああ、いや、何を言っているんだ俺は!こんなの…こんなの───

 

「そっか…ハジメテか…えへへ、嬉しいな」

 

微妙にニュアンスが違う。そんな気がする。

 

イリヤの顔が近づく。

何を、と言おうとしたが、その言葉は紡がれる事なく。イリヤによって塞がれる。

 

「んっ…お兄ちゃん、クロとはしたんだっけ?そんな事言ってたな、クロ。でもさ…」

 

「はむ…んっはぁ…っ……、んむ…ちゅ、れろ…ちゅ…」

 

唇を、唇でこじ開けられられ、そのまま舌が押し入ってくる。

思わず舌を引っ込めるが、こんな至近距離での接触。

抵抗虚しく、侵入者によって絡め盗られる。

 

 

口内が蹂躙される。歯の裏をなぞられ、舌と舌が絡み合い、唾液が混ざり合う、淫猥な音が響く。

 

 

義理とはいえ、妹と、こんな場所で、こんな事をしていると言う背徳感。しかしそれと同時に罪悪感と、こんな事を許容している自分への嫌悪に苛まれる。

 

「っはぁ…はぁっ…はあ…っ…ふう」

 

 

離れる口の間には、銀色の糸が引いている。

 

 

「これは…シた、ことないっ…よね?」

 

熱のこもった目。朱がさす頬。

呼吸に釣られ上下する肩。

 

 

思わず見惚れる。こんな事をされている。妹に、こんな事をしている。

 

そう述懐していると、首に回されている腕が解け、徐々に下に伸びていく。

 

 

「おい…それは、それはダメだ、イリヤ。それだけは、それだけは───「うるさい、お兄ちゃんは黙って私の好きにされてて」

 

手が胸板を滑る。腹の筋をなぞっていく。

そして、その手は下腹部へと────────物音。岩の一部が崩れ落ちる、そんな音が鳴る。

 

「誰!?」

 

「あっ…まずっ…」

 

確か、あの子はイリヤの…クラスメイトの…ダメだ、名前が出てこない。

 

岩陰に隠れていたのだろうか。

思わず身を乗り出して、崩した、と言った感じだろう。

 

「どうして…どうして…いっつも…いつも!肝心なところで!」

 

慟哭するイリヤ。その顔は憤怒に満ちている。

 

「あっ…ご、ごめ、イリヤ、わざと覗いてたわけじゃ…」

 

「なんで…なんで…こんな…わかんない、わかんないよ…」

 

伺い見るイリヤの表情は、苦悶、焦燥、憤怒、嫉妬。憎悪。そういったような負の感情を煮詰めた様な。

 

 

「申し訳ありません、イリヤ様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?何だっ…け?

 

「おかしいな…2時間分の記憶がないような…?」

 

「俺もだ、衛宮…何があったんだ?」

 

何か、とりかえしのつかなさそうな事が有った気がする。なんだ?なんだこの感覚は?

 

「あーつかれたー!」

クロエが手を高く伸ばす。

 

「うーん…なんか、怖い事があったような…やってしまった感があったような…」

 

「ミミ、頭でもぶつけたか?」

 

「タッツンに言われたくない…」

 

そんな中、右で歩いている、イリヤだけが、暗い表情をしている。

 

イリヤ、どうかしたか?

 

「っ!…いや、なんにも。うん、なんにもなかったよ、お兄ちゃん」

 

?引っかかる言い方だな。何だ?この違和感は。

 

「お、バスは丁度だな、良かった」

 

そうだな、士郎。

 

違和感を片隅に置く。

このまま、何も起こらない。

 

 

そう、願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、なんにも、なんにもなかったよ、お兄ちゃん。なんにも、最初っから無かったことにされちゃった」

 

 

「アハハ、どうしたらいいんだろうね?おにーちゃん…」

 

「本当に、どうしたら…どうしたらいいのかな、お兄ちゃん」

 

 

自分の中に、抑えきれないようなドス黒い感情が渦巻くのを感じていた。

 




決まったよ!ラスボス!やっばり伝統に倣うべきなんだよ!



当初の予定とは全然違う方向に向かっている…


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八話

時系列的には無人島辺り…?

だがしかし、お兄ちゃんは無人島には行かないんだ。
と言うわけでカレンさん回です。



 

 

 

《最近、義妹の様子がおかしいんですが、どうすれば良いと思いますか》っと。

 

実際、最近イリヤの様子がおかしい。

声を掛けても、上の空。何か考え事、と言うか悩み事があるらしい。

 

かと言って、だ。誰かに相談できる相手が居ない。出来る訳もない。こういう時の士郎は役に立たない。カレンにはボロクソにこき下ろされて終わる。こっちが。

 

ので。携帯メールの文通相手に相談する事にした。

 

 

以前、携帯電話を入手した時、メールを送る相手が居ない事に気付いて金の無駄遣いだったか、解約してやろうと思っていたら。《相談に乗ってもらえませんか?》と突然メールが送られてきた。

 

なんの詐欺だよ、この黎明期にと思ったが、暇つぶしがてら《良いですよ》と送った事がある。

 

しかし、本当に恋の悩みだったらしく、彼のハートを射止めるにはどうすれば良いか、だのなんなの送られてきた。

 

なんだ女だったか…

ふざけんなどうして恋愛相談なんかに乗らんといけないんだ!と思いつつも、お互いがお互いの事を現実で知らない為、普通相談できない事も相談できる様になった、と言うわけだ。

奇妙な関係だとは思うが。

 

 

お、返信だ。

 

《前も最近おかしいとか言ってましたね、貴方の最近とは一体なんなんでしょう。そんな事よりどうすれば彼の心を取り戻す事が出来ると思いますか》

 

知るかっ!!

《そもそも手に入ってたんですか?そんな事より私の妹が心配です。》っと。

 

む?今日は返信早いな。

 

《手に入ってました。それと妹とかよくわかんないです。私の彼はどうして私を選ばないのでしょうか》

 

《愛が重すぎたんでしょう》

 

《重くないです、軽いと思います》

 

なんとこいつ自覚無しか。

 

《病院行け》

 

《お前が行け》

 

携帯を閉じる。何の意義も生産性もないままこの名も知らぬ女性とのやり取りは唐突に終わる。

まあ、ほっとくとまた送られて来るんだけど。

 

いやホント、どうしようね。

まあ今日は、イリヤとクロエは美遊ちゃん達とエーデルフェルトに連れられてどっか行ってるみたいだから。

 

それは兎も角、目に見えてイリヤの雰囲気が変わるとやはり心配する。

 

こう、何だろう。危なかっしいのはいつもの事だが、何というか。思い詰めてると言うか。上手く言語化出来ない。第六感に近いモノだ。第六感が何かはよくわかんないけど。

士郎も居ないしね。今日。

エーデルフェルトがなんか島…だか何だか。よくわかんねーけど。

 

ハブられたからって泣いてる訳ではない。

と言うか、イリヤとクロエ良く説得出来たなエーデルフェルト。

なんか握ってんのか?

まあいいや。

 

 

それにしても、久し振りに、一人で外出か。

 

一日中外でるとかいつ振りなんだ。

 

冬木を歩く。

いつもなら、泰山にでも行くのだろうけど、今だけ。今だけは、ただ歩いていたかった。

 

 

そんな中。

 

ふと擦り減った記憶を辿る。

 

孤児院をたらい回され。

周りのオトナの眼は、冷たかったような気がする。

それもそうだろう。子供らしくない。

自分でもそう思う。

 

孤児にしても、それ相応の態度だってあるだろうに。

それが出来なかった。

人生なんて無価値だと思ったから。

他人なんて、どうでも良いと考えたから。

 

全てに於いて無感動だった。

 

そこでお節介な士郎と出会って。

子供の癖に面倒見がいい、と言うか、隅で転がってたら、必ず此方の方に来て。

 

ああ、お前はそう言う奴だったな、なんて。勝手に知りもしないのに思った。

 

 

そこから、切嗣とアイリさんが士郎を引き取りたい、と言ってきた。「オレだけは嫌だ」と渋る士郎に、「じゃあ二人一緒に」とアイリさんの鶴の一声に引き取られて。

 

そう、引き取られた先。

イリヤと出会って。

 

 

その時、抱いた筈だったんだ、何か、大切なモノを。

 

 

なにぶん昔の記憶だからか。

その時抱いた感情なんて覚えてない。

 

その所以かはわからないけど、イリヤは多分。

 

甘やかし過ぎたのか、それとも、別の感情を注いでいたのか。

過去の事なんてわからないけども。

 

 

 

気がつくと、高い所まで来ていた。

ここだとこの冬木がよく見える。

 

10年前から再開発事業が進んで、すっかり高層ビル群の立ち並ぶこの都市を、ガードレールに手をつき、もたれかかってただ眺める。

 

血流の様に流れ去る車。

疎らながら飛んでいる航空機。

ふと、海を見やると、船舶が航行している。

 

そんな風景を眺めていると、聞き覚えのある声がする。

 

「随分と、暇を持て余してる様ですね」

 

何故、ここに?

そう、いつも、こう言う時に限ってカレンはやって来る。こんな奴のどこが良いのか。

 

「妹が居ないからってこんな所まで歩いて来るなんて、なんと言いましょうか」

「泰山にいつまでも来ないので、探しましたよ」

 

どうしてワザワザこんな事を、と愚痴を零すカレン。

 

どうして、なのはコッチの台詞だ。

何故、何故?なんでこんな事を?

こんな奴の何処が良いのか?

 

「何処が、良いのか…ですか。それ、普通本人に聞きます?」

 

……悪かった。聞かなかった事にしてくれ。

 

 

「いえ、構いません。答える機会なんて、そうそうないでしょうし…ええ、そう、ですね」

 

恥じらう乙女の様な表情をしてから。

 

「別に、貴方にはいい所なんてありません」

 

至極事務的にそう返された。

 

ん?

 

 

 

「だって、ロリコンですよ?シスコンですよ?こんな男の何処が良いんでしょう…?かと言って、それしかない様な歪な人間でも無い。なんなんでしょうね、本当」

 

「良い要素なんて、有りません…ね…考えて見れば、見るほど…ただの変態、としか」

 

罵倒に次ぐ罵倒。

心が折れそうである。

もうやめてください。悪かったです。全面的にこちらが「でも」

 

「でも、貴方はマトモなんです。綺麗なままなんです」

 

変態が?

 

「ええ、変態なのに。いつ本性を現して妹に手を出すのかと期待していたのに、結局自分()()は絶対にしない。不思議な人です、貴方は」

「普通男なんて性欲の塊の筈なんですけど…」

 

やれやれと言わんばかりに肩を竦めるカレン、

 

「だからこそ、羨ましいです。貴方の妹が。純粋に愛されていて」

 

「私は、そう言う事は、なかったので…貴方なら、私をちゃんと愛してくれたのかな、って」

 

 

その感情は、恋愛と言うよりは、もっと別のモノなのではないのか?

訝しむ。しかし───。

 

 

「そうかもしれません。けど、それでも構いません。焦がれてるだけで、私は幸せなのですから」

 

 

「───そう、か」

 

「はい」

 

本当に優しい笑顔で。

なんの屈託もなく。

彼女は微笑んでいた。微笑んでみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ。妹を押しのける事も出来ない兄ってのは心底どうかと思いますけど」

 

なんの話!?

 

「……いえ。こちらの話です」

 

え?

 

「あまり女性のプライベートは詮索しない事です」

 

それを言われると、引き下がる他無くなる、実に便利な言葉である。

 

ん?さっきの発言って、よく考えなくても…

 

「どうせこの後暇でしょう?歩きましょうか」

 

そう言うとこちらの腕をグイッと引きよせ、新都方面へと向かう。

 

いや、あの、それはちょっとまずいのでは…?

 

 

「ああ、安心してください、貴方の妹達に遭遇する事はありませんので。どうかお気になさらず」

 

そうなの?

 

「はい、信じてください」

 

こちらに笑顔を向けるカレン。

…こんな顔もするんだな。

てかなんでそんな事が言えるん?

 

「ご存知ない?……なら。秘密です」

 

と言うやいなや、カレンは腕をガッチリと自分の両腕で絡め、ホールドしてしまった。

 

 

 

 

あのー…新都近いですし、そろそろ周りの目がイタイんですけど……?

 

「妹とは平気なのに、私では恥ずかしいんですか。ふふ、それは良い事を聞きました」

 

そう言うと、肩に頭を乗っけてきた。

 

いったいなにがおきているんだ

何故こんな事に…?

 

「あ、見てください。これ前から気になってたんですよ」

 

そう指差すのは、先週から公開された映画…エクソシスト的な奴だっけ?

え"っ、観るの?

 

「はい」

 

 

 

飲み物を買い、チケットに指定された席に座る。

ポップコーンは要らないそうだ。

 

映画自体はなんか良くわかんなかった。

良くある聖書とか読んで祓うアレじゃなくてなんか物理でぶっ飛ばしてた。

 

うーんハズレか?と思ってカレンを見てみると食い入る様に見ていて、終わった後には「一体誰が…」などと独り言を呟いていた。面白かったのか、そうじゃないのか、どっちなんだ。

 

 

「……手を繋ぐ暇もありませんでしたね」

 

手を…そこは置いといて、アレ、面白かった?

 

「面白い…ええ、そうですね。色々と面白かったです。ええ、色々と」

 

 

 

そういう割には不機嫌そうだけど…

 

「そういう風に…見えますか?」

 

まあ、ね。

 

 

「それでしたら、私の機嫌取りに付き合っていただきますね?」

 

えぇー…

 

「ハァ…本当に貴方は…いいです。勝手にします」

 

そう言うが先か、後か。手を絡ませ、腕をガッチリと絡ませ…

俗に言う恋人繋ぎって言う奴だけど…?!

 

あの…カレン?

 

「なんですか?」

 

えーと、何をして…?

 

「何を、とは?」

 

クスクス、と聞こえてきそうな笑みを浮かべているカレン。

完全に遊ばれている。

 

「振り払っても良いんですよ…?」

 

耳元で囁いたかと思うと、ふー、と息を吹きかけてくる。

周りの目は刺々しくなる。

 

「ま、貴方には出来ないでしょうけど?フフフッ」

 

振り払うも何も指の関節極められてるんですよ、コレ。このままカレンに身を委ねると楽だけど、ちょっとでも力を入れるとめっちゃ痛い。

どうなってんのコレ。

 

「さて、まだまだ付き合ってもらいますからね」

 

 

 

と言っても、ただ当てもなく歩いているだけ。時々ちらりと横目で見る彼女の顔は、僅かに頬に朱が差していたのは、気のせいか。

 

…それにしても、知り合いに見られて居ないか、心配である。

 

「あの、夕食の予定は…?」

 

外の予定だったけど。

 

「じゃあ、泰山で良いですね」

 

まあ……うん。いっか。

 

 

 

「麻婆豆腐2つ」

 

「アイヨー」

 

夜だからかはわからないけど、客はいなかった。

ガランとした空間に2人(店員は居るけど)と言うのは不思議な感覚だった。

 

「思えば、初めてお会いしたのもココでしたね」

 

相席したのが最初だったっけ。

ぼんやりと霞んでいて思い出せない。

 

声かけたのは…

 

「私です」

 

あっ、そっか。

どうして声かけたんだっけ?

 

「そう、ですね…近所で有名なシスコンが目の前に偶々居たものですから、つい」

 

何それ初耳なんだけど!?えぇ!?

正に青天の霹靂。数年間、俺は一体どう言う目で見られて…?

 

「冗談ですよ」

 

心臓に悪いからやめて下さい。

とは言え胸を撫で下ろす。

あ、だとするとどうして声を?

 

「秘密です」

 

なんだよ、それ。

答える気はない、のか。

ま、それでも良いんだけど。

ここまで来ると今更だし。

 

「おや、嬉しいですね、詮索する必要もない程の仲だと言ってくれるなんて」

 

そんな事言ってな…そう言う意味になるのか。

 

「ふふ」

 

頬杖をつき、優しい笑みでこちらを見つめるカレン。何というか、うん。何でもないや。

 

「はい、麻婆豆腐2つ」

 

あ、来た。

 

「……頂きましょうか」

 

そうしましょう。

 

 

 

終始、無言の時間が流れた。

 

 

 

「ご馳走さまでした」

 

美味しかった。

 

 

「時間は…遅い、ですね」

 

帰らないとなぁ…

 

「あら。妹さんは本日は帰らないのでは?」

 

何故…はぁ…もう聞くまい。

 

「どうします?これから私の家に来ますか?」

 

何を仰っているのです…?

 

「どうせ愛しの妹達は居ないんですよね?なら泊まっていっても…」

 

あー、いや、セラ怖いし…リズもいるし…

 

 

 

「………ああ。居ましたね、そんなの」

 

そうそう、今日は帰ります。

 

「……残念、いえ、貴方らしくて寧ろ安心しました」

目を閉じ、何かに浸る様に。自分に言い聞かせるような、独り言の様だった。

 

それから店を出て、分かれ道の所で、

「本日はありがとうございました。また、お逢いしましょうね?」

 

と言って別れた。

 

今日は大変だった…色々。

 

 

 

ただいまー。

 

「あ!お帰りなさい、あの、イリヤさん達が遭難したのって何か聞いてますか?」

 

は?

 

「……知らない、ですか」

 

え、何それどうなってるの

 

「ああ、でもアイリ様が発見した様ですので、心配の必要は無いですが」

 

あー…成る程ね…なら良い…のか?

 

 

「ま、一応伝えたので。…シスコンの貴方の事だからもっと焦燥するかと思ったんですけど、やけに冷静ですね」

 

「彼女でもできた?」

リズが合いの手を入れる。

 

「いいえ、リズ。あり得ません。いえ、もしも彼女だとしたらどこぞで攫ってきた少女でしょう。通報しましょう!」

 

 

攫っても無いし彼女も出来てません!!

今日は単純に疲れただけですぅー!

 

 

「………まあいいでしょう、ブタ箱に放り込むのはまたの機会にします」

 

「そうしよう、セラ」

 

寝る!!!もうヤダ!!!

 

 

 

ベッドに転がる。

イリヤとクロエ…と言うか。誰かしら居ない日って本当にいつ振りだ…?

 

 

 

 

次の日の昼。

 

 

 

 

「「おにーちゃん!ただいま!」」

 

 

 

 

 

一日振りに会った2人は、非常に元気が良かった。

 

 

あれ、士郎、美遊ちゃんとなんかあった?

 

「イイエ、ナニモ」

 

そっか。




後数話かな…?


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イリヤエンド

取り敢えず最終回。
駆け足だったのは否定しない。


 

 

「イリヤ、今日は久々に2人でどっか行かないか?

 

「……ほえ!?え、わ、きょ、今日!?」

 

あー…用事有ったんなら、そっち優先した方が良いと思うけど。

 

「ううん!大丈夫!大丈夫!行こ、早く行こう!お兄ちゃん!」

 

焦っている、と言うか。何が何でも、と言う様な雰囲気。

…なんかしっぽが見えそうな勢いだな、との感想を抱いた。

 

「え…お兄ちゃん、イリヤと2人なのー?ずーるーいー!ずるいー!」

 

クロエはまた今度な?

 

「えー…ちゃんと約束してよ?」

 

わかった。約束な。約束するから、さ?

と言いつつ、頭を撫でる。

そろそろ安売り感が否めなくなってきた。

 

「むむむ…わかった。いってらっしゃい、お兄ちゃん」

 

「お兄ちゃん!早く行こ!」

 

はいはい。

 

 

玄関のドアを開け、家を出る。

 

さて、何処に行こ………イリヤ?

 

「………」

 

イリヤにしては珍しく、手を繋ぐでもなく、腕を絡めてくるでもなく、袖を引っ張るだけ。

疑問を抱いていると、イリヤはこちらを一瞥したかと思うと、何も言わず黙っているままである。

 

本当にどうした?

 

「………とりあえずさ。歩こ、お兄ちゃん」

 

…ああ、そう、だな。

 

特に当てもなく歩き始める。

方向としては…そう、だな。冬木大橋辺りで良いだろうか。うん。

 

 

 

 

冬木大橋辺りまで来た。

が、しかしだ。

 

いつもだったら満面の笑みを浮かべて楽しそうな顔をしているイリヤが、どうしたことか。

物憂げな表情なのだ。

その上、物理的な距離こそ近いが、密着はしていない。これもどう言う事なのか。

兄離れか。はたまた気になる人でも出来たか。

 

「あのさ、お兄ちゃん」

 

思考の坩堝に陥ろうとした最中、イリヤが唐突に口を開く。

 

「………ううん、やっぱりなんでもないや」

 

イリヤ…何か、話があるならさ、ちゃんと聞くぞ?本当にどうしたんだ?

 

「なんでもないよ、うん。本当になんでもないんだ、お兄ちゃん」

 

そう言って笑うイリヤ。

しかし、その笑顔は明らかに無理をしている。

そう思うには十分すぎるほど不自然な笑顔だった。

と言うよりも、先程までの態度で一目瞭然なのである。

 

 

イリヤ。

 

「!っ…」

 

そっか。なんでもないんだな?

抱き締めて、慈しむように、愛おしむ様に、ゆっくり丁寧にその銀髪の頭をなぞる様に撫でる。

 

「………もし」

 

もし?

 

「もしも、私がさ」

 

「何もかもぜーんぶ棄ててさ、お兄ちゃんと一緒に居たいー、って言ったらさ、お兄ちゃんは来てくれる?」

 

突然の問い。しかしそれは、軽く話すのには重すぎる。

…どう言う意味?

 

「うーん…例え話だよ、そう!例え話」

 

例え話にしては重い話だなぁ…うん、でもそうだね。

 

「………」

 

時と場合によるとは思うけど…多分、行くのかなー。

 

「……ほんとに?」

 

そうなって見ないとわかんないけどねー。スケール感がでかいからね。

 

「そっか…お兄ちゃんは、付いて来てくれるのかぁ……そっかー」

 

にへー、と先程までの作り笑いとは違って、

ちゃんとした笑顔だった。

 

良かった様な、悪い様な。

いや、イリヤが笑ったんだし、悪くはないさ。

 

「おにーちゃん、水族館いこー?」

 

そういえば、ここら辺近くにあるのか。

わかった、行こっか。

 

「うん!」

 

 

何気に初めてなんだよなぁ…ここ。

 

「そうなの?」

 

うん…そういえばそうだ、うん。

 

「ふーん。初めてなんだー」

 

行く機会もなかったしねぇ…

 

 

水族館は常識的な範疇のものだった。

気をてらった展示はなかったかーとちょっと残念に思った。

 

「楽しかった?」

 

イリヤが楽しそうだったから、楽しかったよ。

 

「えへへ、そんな事言われると、ちょっと恥ずかしいかも」

 

…イリヤがショートせずに素直に恥ずかしい、だと…?一体何が…

機嫌でも良いのかな?

 

「お兄ちゃん、次はどこいこっか?」

 

うーん…お腹空いてたりしない?

 

「お兄ちゃんはどうなの?」

 

一番困る奴きた。

どう、って言われてもねぇ…

 

「私は、お兄ちゃんが居たらそれだけでお腹いっぱいなんだ」

 

微笑みながら言うイリヤ。

前言撤回、手のかからない良い子です。

イリヤは本当に良い子。かわいい。

 

紅茶…うん、軽い感じで良いか?

 

「お兄ちゃんがそれでいいなら」

 

 

 

喫茶店は結構良かった、とだけ。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、ちょっと歩かない?」

 

ああ、良いぞ。

 

「えへへー」

 

腕をギュッと絡めてくるイリヤ。

機嫌がここまで良くなった様だ。

 

 

「最近、お兄ちゃんに会えてさ、幸せだなーって思うんだよね」

 

どうしたの突然?

 

「お兄ちゃんが居なかったらどうなってたんだろうなーって思ってさ」

 

……あんまり変わらないと思うぞ。うん。

 

 

「そんな事ないよ!」

突然語気を強めるイリヤ。

何か彼女の琴線にふれてしまったらしい。

 

「お兄ちゃんが居ないなんて私、考えられないもん」

 

………。

 

「だからずーっとずーっと居れればいいのにーって考えてたんだよね」

 

それで、どんな答えが出たんだい?

 

「うーん…まだ出てないんだよね、それが。良く邪魔も入るし…

 

そっかー。

 

「出たらお兄ちゃんに教えるね!」

 

おー、うん、あんまり期待しないで待ってるよ。

 

「何それ…どういう事?」

 

ずっとなんて居られるわけないでしょうに…俺の方が多分先に死ぬんだしさ。

人間、必ず死ぬ。死を想って生きているんだ。

 

そう。人間は、必ず死ぬ。死ななければならない筈なんだ。

 

「………させないよ」

 

「お兄ちゃんは、私と()()()()()の!」

 

はいはい、そっかそっか。

 

「本気だもん」

 

唇を僅かに尖らせて言うイリヤ。

冗談半分で言ってるくらいわかる。

 

まあ、そうだなぁ…

もしそうなったら、良い事なのかなぁ…。

 

「お兄ちゃん?」

 

ああ、いや。なんでもないよ、イリヤ。少し遠くの事を考えてたんだ。

 

 

「それ、何でもないって言うの?」

 

ははは、そうだな、言わないな!

 

 

 

 

 

 

「あ、お兄ちゃん、そろそろ…」

 

…やっぱりなんか用事有ったの?

 

「あー…うん、まあ…そうだ…ね」

 

じゃ、帰ろっか。

 

「……うん、そうだね」

 

……?なんだ、今の感覚。

まあ良い…のか?

放っておいたらいけない気がする。

けれども、どうすれば良いのかなんて皆目見当もつかない。

 

家路を急ぐ。

「…………」

 

その間イリヤは無言だった。

何かを考えている様な。

何かを、思い悩んでいる様な───。

 

 

もしも、この時気づけたのなら。

どうなっていたんだろうか。

 

 

 

今となっては、最早どうでも良い事だった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

夜中。

イリヤとクロエは出かけたのだろう。

暫くは帰って来ない…筈だ、確か。

 

明日からどうすんのかねぇ。主に士郎。何もできないしなぁ…俺も士郎も。

 

……寝るか。

 

明日への不安を殺し、夢の世界へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツン。コツン。

 

 

 

窓に何か当たる音。

 

 

 

コツン。コツン。

 

 

何だ?一体。何の音だ?

 

 

 

コツン。コツン。

 

 

恐る恐るカーテンを引く。

すると其処には───

 

「カレン…?」

 

窓を開ける。

こんな夜更けにどうしたの。石投げないで。

 

「説明は移動中にします。今すぐに来てください」

 

 

はぁ?

 

 

「早く!」

 

 

何故呼ばれる必要が有るのか、疑問に思いつつも、カレンの元に駆けつける。

 

 

「今から円蔵山に行きます」

 

は?どうして?

 

 

「……貴女の妹さんについてです」

 

 

 

それは、耳を疑う様な─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、スゴイよ、まさか僕とここまで渡り合うなんて!」

 

ギルガメッシュ。

黒化しているとは言え、自我を明確に持つ。

まさしく、英雄の中の王に相応しい。

 

そんな王と、現状互角に渡り合っている存在が有る。

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

2つのカレイドステッキを束ね、擬似的に体中のありとあらゆる器官を魔術回路と誤認させてフル運用している。

 

そうまでしなければ渡り合う事すら叶わないギルガメッシュの脅威を論じるべきか。

それとも、渡り合える手段が有る方を褒め称えるべきか。

どちらにせよ、些細な事だった。

 

「それにしても驚いたよ、まさかソレにそんな能力があるなんてさ!」

 

「まあいいさ、僕達の聖杯戦争を始めようか!」

 

ギルガメッシュが言った言葉。ソレに、イリヤは違和感を感じた。

 

否。

 

感じてしまったのだ。

 

【聖杯…?】

 

【アインツベルンの聖杯戦争─────】

 

【えー、カレイドステッキって言うのはですねー。もともとは平行世界の自分の可能性を引っ張って来るって─────】

 

【イリヤさんは結果を先に持って来て─────】

 

 

 

【聖杯とは、万能の願望器。あらゆる願いを叶えるものである】

 

そっか…そうだ。

これだ。

これがあれば、お兄ちゃんとずっと。

 

 

「イリヤさん?イリヤさん!どうして止まるんですか!?危険ですよ!イリヤさん!」

 

カレイドステッキは叫び問う。

真意が解らない。このまま止まる理由がわからないからだ。

しかし、イリヤは。

 

 

夢幻召喚(インストール)

 

この呪文を持って、返答とした。

 

 

 

「何を…?」

 

突如辺りへ吹き荒れる魔力の奔流。

それは、イリヤを中心に発生している。

 

「待て、待てイリヤスフィール。何を、キミは一体()()()()()()()だ?」

 

ギルガメッシュが、真意に気付いたのか、思わず尋ねる。尋ねる、とは言うが。彼の場合は殆ど独り言に近い。

 

「イリヤ!?あんた何しようとしてんの!」

遠坂凛が叫ぶ。

 

「───イリヤ。まさか」

クロエが、気づく。

 

 

「───ごめんね、美遊。私、ワガママで」

 

 

「イリヤさん!何処に繋げようとしてるんですか!?危険ですよ!?このままじゃ焼き切れてしまいます!」

 

「構わない…!いいから、良いから寄越せ!()!私が、わたしが聖杯だって言うなら、この願い、叶えてよ!」

 

 

辺りが光に覆われる。

光が明けた先。存在していたのは────

 

 

「あはは、あはははははは!!!」

 

「イリヤ…?ひょっとして、あ、あんた!」

 

狂笑するイリヤ。しかし、纏っている空気は以前とは比べ物にならない。

そして、クロエは理解する。理解してしまえる。

 

「なぁに?クロ?やっぱりわかった?」

 

「─────聖杯(イリヤ)、なの?」

 

 

とある世界に於いて、《天の衣》と呼ばれる服。イリヤは、魔法少女としての服装ではなく、ソレに良く似た服装を纏っていた。

それはさながら、彼女のウェディングドレスの様で。

 

「ええ、そう。元々()()()が小聖杯として造られた、って言うんだったら、こう言う世界の私もあるんじゃないかな、って。だから、チカラだけ貰って来ちゃった」

 

 

「──ッハ、そんな事をしてまで美遊(聖杯)を取り戻したい、と?自分が聖杯になってまで?それは可笑しい、ああ、傑作だ!」

嘲笑するギルガメッシュ。

しかし。

 

 

「ほえ?違うけど?」

 

「ハハハハハ───は、何?違う?違うだと?」

 

「こうなったのはね、別にオマエを倒したい訳でも、美遊を取り戻したい訳でもないよ?」

 

 

「─────」

 

絶句するギルガメッシュ。いや、()()()()()。とある世界、自分の欲望の為に神にまで変生した、第三魔法の亜種に辿り着いた女を。その女と、目の前の()は。

 

英雄王のその眼には。同じに視えていた。

 

 

「だって、こうでもしないと、お兄ちゃんと一緒に居られないでしょ?」

 

 

「イリヤ!!」

 

その両手に双剣を投影し、飛び出すクロエ。

ダメだ。その願いは、危険過ぎる。

自分の中の()()()がそう警鐘を鳴らしたからだ。

 

「あは。クロ?あなたが今の私に勝てる訳ないでしょ?」

 

指を鳴らす。

それだけで、それだけでクロエの意識は消えていく。

 

「本当は殺したかったんだけど…人を殺したー、ってお兄ちゃんが怒っちゃいけないからね」

 

「イリヤ」

 

「ああ、凛さん、ルヴィアさん。居たんだ」

そんなのも居たな、そんな感想を覚える。

 

 

「貴女、本当にそれで良いの?」

 

「何がですか?」

何やら蠢いて喚いている。うん、黙ってていいよ。

 

また指をひとつ鳴らす。それだけで、ヒトの意識が過程を吹き飛ばして消える。

 

 

「殺しちゃったら怒られちゃうからね、いけない、いけない」

 

 

「ハハ───イシュタルと言い、あの菩薩と言い、どうしてこう()は理解出来ないんだ」

 

 

「うるさい、消えちゃえ」

 

 

暴力的なまでの質量、を誇った英雄王が、一瞬して掻き消えた。

 

第三魔法、否。根源と言うのは、その気になれば全知全能の権能にすら及ぶ。

それを、外敵を。自分と愛する兄を邪魔する存在を消す為だけに振るう。

 

「うーん…まだちらほら誰か居るなぁ…もう!めんどくさい!みんなでてけ!」

 

再び、魔力の奔流。

まるで生まれたばかりの赤児の様に、聖杯の嬰児は乱雑にチカラを振るう。

もはや、この空間には聖杯が一つ、有るのみ。

 

 

「これでよし、と。うーん…まだ馴染んでないなぁ…」

 

カラダの節々に、不調が見られる。

このままでは、ちょっとした弾みで夢幻召喚が解除されるかもしれない。

万全を尽くす必要がある。

 

「本当は今すぐにでもお兄ちゃんを迎えに行きたいんだけど…仕方がないか」

 

 

「待っててね、お兄ちゃん。ちょっとだけ、ちょっとだけだから」

 

 

聖杯()は眠る。

その時まで。真にあらゆる願いを叶えるモノとなるまで。

しかし、その願いは、一人の為に。自分の愛欲の為にのみ、振るわれる。

 

ああ、どうしてこんな事を早く思いつかなかったんだ。

 

お兄ちゃん。大好きなお兄ちゃん。

もうすぐ。もうす───

 

気配。人の気配。

聖杯が創り上げる一種の特異点と化したこの鏡面界に、人の気配がする。

 

しかも、その気配は。

 

「お兄ちゃん!」

 

そう。最愛の()。兄が来たので有った。

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!ああ、お兄ちゃん!来てくれたんだ!」

 

駆け寄る。

兄はどう思うか。喜ぶか。

ねえ。お兄ちゃん。ずっと一緒に居る方法、見つけたよ?

 

早く伝えたい。今すぐ伝えよう。

 

どうしてここに来てくれたのなんてどうでもいい。

どうせあの女(カレン)だろう。いつか殺してやろうと思ったが、存外役に立つ。

 

「イリヤ」

 

「っ〜!!!」

 

最愛の人に、名前を呼ばれた。声をかけられた。それだけで、その身体を多大なる快感。多幸感が襲う。

 

「お兄…ぃちゃん」

 

縋り付く。兄に。

男を求める。ただひたすらに。自分の欲望のまま。

男は、それを拒絶する事もなく。

女の求める儘、されるが儘。

女もまた、男の求める儘に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて、とある世界、第三魔法に至った魔法使いは、世界の裏側に排斥されたと言う。

 

 

勿論、この女(イリヤ)も例外ではない。排斥される運命にある。

 

 

 

 

 

───だが、排斥される直前、聖杯(イリヤ)は、とある一つの器から、魂を取り出し、その魂と共に、世界の裏側へと旅立って行った。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、これで、ずっと、ずーっと一緒だね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 




と言うわけで、メリーバッドエンドって奴でございます。

あと何本かそれぞれのルートやるかなぁ


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クロエエンド

分岐条件
あの日、クロエと出かける。


 

 

クロエ、そう言えばさ。2人で出かけた事って有ったっけ?

 

「うーん…ない、わね…」

 

やっぱりな。よし、今から出かけないか?

 

 

「ええっ!?い、今から?」

 

あ、なんか用事あった?

驚くクロエに、やはりか、と再確認する。

 

「あー、いや、うん。ないわ!お兄ちゃん」

 

しかし、予想とは、否。ある意味では予想どうりに、クロエは賛同の意を示す。

そっか。じゃあ行くか。

 

「はいはーい!」

 

「お兄ちゃんとクロ、2人で出かけるの…?」

 

イリヤ。

 

「へっへーん。なぁに?イリヤ、羨ましいんでしょー?」

 

「何さクロのくせに!」

 

ま、まあまあイリヤ。クロエはこれが初めてだからね?イリヤはまた今度2人で出かけよう、な?

 

「………そう、だね。うん」

 

 

「ホラホラ、お兄ちゃん!早く行こうよ!」

 

玄関からクロエに押されるように出る。

外は然程陽射しが高くなく、過ごしやすい。

 

さて、どこに行きますかね。

 

「お兄ちゃん、私新都の方に行きたいかなー」

 

よし、わかったぞイリ…「あー…そこなんだけどね」

 

 

「クロエでいいわ、もう」

 

…そっか。決着ついたん?

 

 

「ま、そんなとこね。改めてよろしくね!おにーちゃん!」

 

言い切ると、クロエは抱きつく、と言うよりは、飛びついてくる、と行ったほうが適切だろう。

 

うおっ、あぶね、いきなりくっつくなって。

 

「それくらい構わないでしょ?お兄ちゃん」

 

はよ行くぞ。

 

「はーい」

実に自然な動きで腕を絡め組む形に変更するクロエ。

それでいて歩きにくくないように考えられている。

 

それにしてもねぇ…新都かぁ…

…ファンシーショップ有ったな、そこでいいか?

 

 

 

 

にしても色々あるんだな、…なんだこの《せーはいくん》って。キモい。

 

 

「ぬいぐるみかぁ…」

 

あー、やっぱそう言う感じじゃない?

 

「そういえば私、持ってないわ…」

 

よし、セーフだったか。

 

 

「何にしよっかなー」

 

楽しそうでなによりだ。思わず安堵の溜息をつく。

 

それにしても、《せーはいくん》の圧が凄い。

てかショーケース半分以上圧迫してるじゃん。

どうなのさソレ。

しかもすんごい高いのね。

 

「お兄ちゃん、見てこれ!イリヤにそっくりじゃない?」

 

と言って見せてきたのは、クマのぬいぐるみ。

……確かに似てる、な。うん。

 

「これにするわ!」

 

お買い上げありがとうございまーす。

 

 

 

 

 

 

 

冬木中央公園。

 

曰く付きと専ら穂群原学園の生徒には有名。別に人が死んだ訳でもないんだけどね。

ふしぎだね。

 

 

「なーんもないわね…」

 

そりゃまあ、自然公園だからな。

 

「まあ、お兄ちゃんが居るから別にどーでもいいんだけどねー」

 

おいおい、曲がりなりにも自然公園だぞ…

 

「そんなのどーでもいいわよ、お兄ちゃんがいるところに意味があるんだから」

 

ンな訳ないだろ、こちとらただの一般人だぞ?

 

「そんな事ないわ!」

 

何気なく言った一言に、声を張り上げてそれを否定するクロエ。

 

「お兄ちゃんはいつもそう。自分の事になると途端に卑下しちゃって…そりゃあ、ね?私らの事を大切に想ってくれてるのはわかるんだけど…」

 

んな事言われてもなぁ…

()()()()()()()()()()…うーん

 

「お兄ちゃん…」

僅かに涙を浮かべるクロエ。

どうやら、悲しませてしまったようだ…。

 

悪かったよ、うん。

頭を撫でる。自分で言うのもなんだが、いつもよりぶっきらぼうな感じがした。

 

「……まあいいわ、うん。追い追い考えればいい事だし…うん」

 

何を考えるって?

 

「こっちの話よ。お兄ちゃんにはナイショ!」

悪戯が成功したような、そんな柔らかい笑顔を浮かべる。何を考えているのかな?

だけど内緒と言われてしまったからには聞くわけにもいかないだろう。

 

「お兄ちゃん、次はどこ行くの?」

 

道を当てもなく歩き始めて、少しすると言われてしまった。

当てもないんだよねー。

 

「あは、イジワルな事聞いちゃ…お兄ちゃん!危ない!」

 

路地に差し掛かった時、死角になっている右側から車が突っ込んでくる。

咄嗟に、クロエを突き飛ばす。

 

「きゃっ!…お兄ちゃん!!」

 

 

死の寸前には時間が須臾の如く引き延ばされると聞く。

前回は、そんな事もなく死んだので、これがそうかー。走馬灯は無かったなぁ…などと割と呑気な事を考えていた。

 

うーん、これ死んだ…か…アレ?

 

気がつけば、先程とは違い、出逢った当初の様な、露出の割と高めな格好をしたクロエに俗に言う、逆お姫様抱っこをされて宙に浮いて居た。

 

お兄ちゃん!何してるの!

 

鬼懸かった形相で怒鳴られる。

先程から時間もそんなに経たない。

その事が益々怒りを煽っている。

 

適当な所に着地する。

クロエはゆっくりと地面に腰を下ろしてくれたが、上半身は離す事は無く、寧ろ。より強く抱きしめられる。

 

「なんで…どうして…」

 

抱きしめられながら、伝わって来る震え。

 

「お兄ちゃん!私なんか轢かれても別に死にはしないのよ!?なんで庇うの!?」

 

いや、幾ら何でも限度があるでしょ。

 

「…もういい!わかった、わかったわ!私がバカだったわ!」

 

自分が轢かれても構わないって事?

 

「ちーがーうー!お兄ちゃんはアレね、まるで赤ちゃんね。目を離すとどうなっちゃうのかわかんないんだもん」

 

赤…士郎じゃないけど、なんでさ。

 

「だからね、お兄ちゃんは私がずーっと守るわ」

 

妹に守られる兄とか…嫌なんだけど…

 

「ダーメ!いくら大切なお兄ちゃんの頼みでもそれだけは譲れないわ!」

 

何故か得意げな表情を浮かべるクロエ。

不意に逆に頭を撫でられる。

 

「大丈夫、お兄ちゃんがしっかりするまで、ちゃーんと私が側にいるわ」

 

顔をしっかりと見て、微笑むクロエ。

その顔は、今まで見た事のない表情だった。

 

 

 

「あ!」

 

あ?

 

「うーん…時間…よね」

 

やっぱりなんか用事あったの?

 

「まあ、ね…。ああ、お兄ちゃんが気にする事じゃないから安心して?」

 

お、おう。

 

「まーでもそうねー。私の用事なんだけど…帰っても良いかな?お兄ちゃん」

 

いや、クロエが用事ある、ってんなら別にそれでも構わないけど。

 

「……私に合わせてない?」

 

と言うより、この後の予定は無いからね。

 

「それなら良かった!あー、またお兄ちゃんが無理してんのかなーって考えたらさ、不安で不安でしょーがないのよねー」

 

妙にそわそわするクロエ。その表情も相まって、不安そうな感じが伝わってくる。

そこまで不安にならなくても…とは思ったが、口には出さない。

 

「じゃ、帰りましょ?お兄ちゃん」

 

うい。

 

 

「あ、気をつけてね!お兄ちゃん、またさっきみたいに車が来るかもしれないし、マンホールの穴に落っこちるかもしれないから…」

 

いや、流石に落ちないし、そこまで過敏にならなくても…

 

「ダメダメ!お兄ちゃんはちゃーんと私が見てないとダメなの!」

 

……そうなの?

 

「そうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ってこれた。

その間、クロエが心配に心配を重ねていた。

心配してくれるのは有り難いけども。流石にコレは…

 

寝る前なんか。

 

「お兄ちゃん、ちゃんと寝てね?もしも次の日起きた時に体調崩してたりするといけないから…そうなったら…私…私…」

 

泣く事か!

ふっつーに寝るよ、言われなくても!

 

 

なにやら大変な事になってしまったぞう!

 

もういい、寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリヤ…!」

 

聖杯としての自らを夢幻召喚(インストール)したイリヤ。

 

あれ程苦戦していたギルガメッシュを煩いの一言で消しとばし、自分の意のままにその権能を振るっている。

 

しかし、それは兄と一緒にいる為、と言う。

 

「なによ…それ…」

 

 

「あは、クロ?まだいたんだ?」

 

イリヤがクロエの方を向く。しかしその眼は細く、睨みつけている様だった。

 

 

「ねぇ、イリヤ。お兄ちゃんと一緒に居るって、具体的にどうするのよ」

 

クロエは冷静にイリヤの真意を問いただす。

 

「ほぇ?そんな事聞くんだ…いいよ。最期だと思って、教えてあげるよ」

 

最早眼中に無い、と言った様子だ。

 

「私ね、多分このままだとね、世界から追い出されちゃうと思うから…その時にお兄ちゃんの魂をね、一緒に連れてくの!」

 

そう笑顔で。狂った様な笑みで無邪気に言うイリヤ。

クロエは、許せなかった。

 

そんなことはさせない。

 

させてなるものか。

 

兄を守らないといけない。この妹から。

 

だって、それは余りにも、本人の意思を無視している。

けれども、あの兄なら、確実に肯定するだろう。そう確信していた。

 

「……ぃで」

 

「うん?」

 

「……ないで!」

 

「なぁに?クロ。もう煩いから消えていいよ」

 

そう言って指を鳴らすイリヤ。

 

────しかし。

 

「ふざけないで!イリヤ!あんたの心中にお兄ちゃんを巻き込むなんて…」

 

そんなの、許さない。

 

 

 

「一発ぶっ叩くわよ、イリヤ」

 

 

それが、兄の妹の。この(イリヤ)の姉としての役割だ。

 

 

「……おかしいな、消えるはずなのに…まあいいか、殺しちゃおっと」

 

イリヤの背後に魔力の塊が収縮して行く。

 

 

それを前にクロエは棒立ちとなっている。

 

「?まあいっか」

 

しかし。それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている。)

 

この詠唱の為の、準備だった。

 

 

「死んじゃえ!」

 

収縮していた魔力が、極光となってクロエに向かって行く。

その光は、禍々しくも、かの聖剣に劣らぬ質量を持っていた。

 

────熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

魔力の極光を六枚の花弁が防ぐ。

しかし、一枚、また一枚と徐々に消えて行く。

 

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子。)

身体が軋む。とある無銘の英雄へと繋がるカードを触媒に現界しているとは言え。

起源は剣では無い。

 

 

本来なら到底不可能。そんな事はクロエとて知っている。

 

しかし。

聖杯、否。第三魔法(イリヤ)は、世界に容認されていない。つまりは────

 

I have created over a thousand blades.

(幾たびの戦場を越えて不敗。)

 

 

今の彼女(クロエ)は、アラヤによる後押しを受けていると言う事に他ならない。

 

 

Unknown to Death.(ただの一度も勝利はなく、)

 

Nor known to Life.(我が人生は偽りで。)

 

「何よ…何よ何よ!なんなのよ!ソレ!!!」

 

イリヤは気づく。その権能を持って。目の前の敵は、自らへに対する抑止力だと。

その上クロエが、だ。

 

現実を突きつける様に、今もあの忌々しい楯を破壊しきれていない。

 

 

 

My hands will never don't hold anything.(故に我は剣を打てず。)

 

 

「────ふざけないで!」

 

極光を追加する。

いやだいやだいやだいやだいやだ。

 

認めない。認めれない。

 

 

 

 

 

 

「────yet,(でも)

 

 

 

それでも、何故楯は砕けない。花弁はあと一枚の筈なのに。

 

 

 

 

 

 

My whole life was dedicated to you.(この生涯は一人のために。)

 

 

 

しかし。時は既に遅く。

 

 

 

So as I pray,UNLIMITED BLADE WORKS.(だからこの体は、きっと剣で出来ていた)

 

 

 

世界が、塗り潰される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼下に広がるは、辛うじて回る、壊れかけた歯車に。

 

曇天の切れ間から僅かに日が荒野を照らしている。

 

それは、彼女の心象風景、と呼ぶには、余りにも歪だった。

 

 

「行くわよ、イリヤ」

 

 

「魔力の貯蔵は充分かしら?」

 

 

 

「────クロ!!!」

 

 

イリヤは自らの力である第三魔法を最大限に引き出す。

 

無尽蔵の魔力を、一つに。無限を束ねて、無と為す。

 

 

落とす。堕とす。陥とす。

 

全ては、あの忌々しい敵を屠る為。

自らの恋路を邪魔する外敵を滅するが為。

 

 

 

 

 

 

そんな中、クロエは、一振りの聖剣を投影する。

 

 

 

「エクスカリバー…?なーんだ、クロ。コレははただのこけおどしだったの?」

 

騎士王の聖剣なぞ役に立たない。

たかだかがバーサーカーを屠る位だ。

無限の魔力を誇る天の杯()には芥も同然。

 

 

しかし。

 

「ええ、そうよ」

その嘲笑に肯定するクロエ。

 

 

「────は?」

思わず憮然とする。何を言っているんだ。

訳がわからない。

嫌な予感がする。

 

 

「この空間はね、とある抑止の代行者の心象風景。」

 

 

「───だからね」

 

 

抑止の力が、最大限発揮される。

言外に、そう言っていた。

 

 

そしてクロエは、それを今から実証する。

 

 

 

「こう言う事が、可能なのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

十三拘束解放(シール・サーティーン)――偽証開始(ディシジョン・スタート)!」

 

 

 

 

心の善い者に振るってはならない

 

 

この戦いは誉れ高き戦いである

 

 

是は、生きるための戦いである

 

 

是は、己より強大な者との戦いである

 

 

是は、一対一の戦いである

 

 

是は、人道に背かぬ戦いである

 

 

是は、真実のための戦いである

 

 

是は、精霊との戦いではない

 

 

是は、邪悪との戦いである

 

 

是は、世界を救う戦いである

 

 

 

 

 

 

「13のうち10個。うん、十分!」

 

それは、とある世界の騎士王が、忠義の騎士達と共に定めた、13の拘束。

真実の力をこの贋作が発揮する事は無いが───

 

 

「いくわよ、イリヤ!歯ぁ食いしばりなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

そう。この戦いは、世界を救う戦い。いまやイリヤは、世界の敵となってしまったのだ。

 

故に、模倣とはいえ星の聖剣は、拘束を外し、かつて遊星の巨神を吹き飛ばした力に近づく───!

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)ーー!

 

 

正面からなぎ降ろされた聖剣が、比類なきその極光が光線となって向かう。

 

イリヤは、全力の一撃を持ってそれに向かうも───

 

 

「なんで…!なんで!なんで!なんで!なんでなんでなんでなん「決まってるじゃない」

 

 

イリヤの慟哭をクロエが割って入る。

 

 

 

「お姉ちゃんに勝とうなんて、千年早いのよ」

 

 

 

曙光の光が、辺りを包んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうしようかしら」

 

「………何よ、クロ」

 

「うん?いやね、勝ったからには敗者は勝者の言う事を聞くのが当然じゃない?」

 

 

「………勝手にすれば?」

 

 

 

「ふーん…言っちゃうんだ」

 

 

「あ、じゃあ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おはよう、お兄ちゃん!よく眠れた?」

 

あ、クロエおはよう。うん、よく眠れたよ。

 

「そう!なら良かった。早く降りてきてよ?お兄ちゃん」

 

と言って部屋から出て行くクロエ。

 

……とりあえず、降りるか。

 

リビングに降りると、そこには衝撃的な光景が!

 

 

「おはよー、イリヤ?」

 

「おはよークロ…お、お姉ちゃん…」

 

「はーい、よくできましたー!」

と言ってイリヤに抱きつくクロエ。

 

「むうぅ…」

それを受けて、なにやら不服そうに唸るイリヤ。

 

なんだコレ。

 

「あ、お兄ちゃん、おはよー」

 

「お、おはよー…お兄ちゃん」

 

何これ何がどうしたの?

 

「今日から私がお姉ちゃんって事に決まったの!」

 

「むー…私まだ認めたワケじゃ…むぐぅ」

 

「なぁーに?イリヤ」

 

「なんでもないよ、お、お、お姉ちゃん…」

 

「はーい、お姉ちゃんですよー?」

 

 

 

 

 

 

 

士郎、どうしたのコレ。

 

 

「オレに聞いてもわかるか…!」

 

 

 

 

 

 

 

本日も、平和である。




病み…?
いやね、なんか、うん。

色々とごめんなさい。細かい設定とか見逃してください!姉妹喧嘩がやりたかっただけなんです…


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カレンエンド

分岐条件
カレンとの関係を追及された際に、相談相手と断じるのではなく、言葉を濁す。


 

 

 

「おにいちゃん、しょーじきに答えてほしいかなー?」

 

イリヤ?何に?

 

「あの人。私たちの学校の保健室の先生だけど、どうしていっしょにいたの?」

 

え?あー…うんとね?それはね?

 

「随分仲よさそうだったねー。お兄ちゃん?腕なんか組んでさ」

 

【さて、帰りま……おや】

 

この事だったのかー!やられたぁ!

 

「どう言う関係なの!?お兄ちゃん!好きな人、いないんじゃなかったっけ?」

 

どう言う関係も何も…付き合ってないし。

 

別にいいだろう、なんだって。

 

 

「別…」「に…?」

 

固まるイリヤとクロエ。

 

「そう、ね。わかったわ、お兄ちゃん」

 

「ほえ!?ちょっとクロ!何言ってんのさ!

「……お兄ちゃん、今日はごめんね?おやすみ。ホラ、イリヤ。行くわよ」

 

「えっ、ちょ、クロ!?」

 

クロエはイリヤを引っ張りながら、部屋から出て行った。

なんとも言えない静寂が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日が経ち、海水浴の日が訪れた。

男は士郎と一成との3人だけである。

相変わらずと言っていいのか。士郎と一成は独特の空気感を醸し出し、一部の女子陣に好評を博している。

 

そんな中。

 

「きゃ───ッ!?タッツンが車にはねられた───っ!?」

 

タツコが車に撥ねられたので有る。

受け身をとれただか、頑丈なんだか、よくわからないけど無事、との事。

車の主は一万円を握らせ、その場を後にして行った。

 

いや、ダメだろ。

 

 

「車に撥ねられた、と聞いてやって来たんですが…期待ハズレでした」

 

「うお!華憐先生!」

思わぬ人の登場に驚いたタツコが叫ぶ。

 

「…ここまで来たんだ」「うっ…わ」

 

イリヤとクロエは、忌み嫌うかのような言葉を漏らす。

 

「えーっと?」

 

一体この女性が誰なのか。色々と事情が飲み込めていない士郎。

 

説明するとだな、イリヤたちの保健室の先生だ。

 

「へぇ、先生。そうなのか」

なら安心した、と胸をなでおろす士郎。

一成もそれに同意する。

 

「おや、奇遇ですね。貴方も来ていたので?」

 

カレンがこちらへ話しかける。

しかし、その口角は釣り上がっており、奇遇などではない、と言う事を明確に示している。証拠はないが。

 

「水着かと思いました?残念でしたね」

 

そう言うカレンの服装は、サングラスにウィンドブレーカー、ホットパンツにビーチサンダル。

海に来る格好では有るが、水着では無かった。

 

てか何故それをこちらに聞くのか。

 

「生憎、救護の仕事でここに来てまして」

 

と、言いつつブレーカーのジッパーを僅かに下げる。

そこから僅かに見える、水着。

着てるじゃねぇか。

 

救護の仕事なんて絶対嘘だ。そう言いたくなるのをグッと堪える。

 

「……イリヤのお兄さんってもしかして…」

 

「ナナキ!何考えてるの!?」

ナナキ、と呼ばれた少女が思わず呟いた言葉をイリヤが拾い、それを否定する。

何時もならどうでもいいと断ずるところだが…

 

しかし、今はまずい。今は二人きりではなく、多数の目が有る。

下手な事を言うのは、避けなければならない。多大なる誤解を招く。

 

「なぁ、一成…」「ああ、衛宮…」

 

なにか得心した様に互いを呼びあう二人。

おい、何を考えた、おい。

 

「あー、ほら、イリヤにクロにみんな、行くぞー」

 

「うむ、色々準備もせねばならぬからな」

 

士郎と一成が小学生組を纏めて何処かへ移動しようとする。

やめろ!何を忖度している!そんなのしなくていい!やめろ!

あぁ!士郎テメェ!サムズアップしてんじゃねぇ!

一成!お前はニヤついてんじゃない!

 

まさか歳上が趣味だったとは…

 

オレも驚いたぞ、一成。それにな小学部の養護教諭だしなー

 

なんと業が…

 

 

イリヤ…とクロエ…はうわぁすっげえ怖い顔してる。

違うんだ。だから睨まないでく…

 

「……フッ」

 

イリヤとクロエが睨んでいるのに気づいたのか、カレンが鼻で笑う。

火に油を注ぐ行為でしかない。

 

「な…な、ななななななな」

 

「まずいよクロ!このままじゃお兄ちゃん盗られちゃうよ!?」

 

ここからでは聴き取れないが、イリヤとクロエが何やら深刻そうな顔で話し合っている。

 

 

「ま、救護の仕事、と言うのは本当です。ちょうど良い所に人手が増えてくれました」

 

ニヤニヤしながらこちらを見るカレン。

やめろ、まさか───!

 

「さて、こちらに来て下さい」

 

 

 

「良い感じに傷を負った人達が転がってません…ね」

 

そらそうでしょう。救護室とは言え、そんなに怪我人が転がってたまるか。海だぞ。

 

想定していなかったのか?と言いかけた所、カレンの雰囲気が違うものになっていた事に気づく。

 

「……そう、ですね。貴方は怪我などしていませんか?」

 

見ればわかるだろうに、突如として不思議な事を聞いてくるカレン。

意図が読めない、と思っていた。

 

「そんな事聞いていません。さ、そこに座って下さい」

 

目を軽くとじ、投げやりに話すカレン。

そして、仕切りなどで簡易に設置されているとは言え、ここは人目につかない。

 

つまり。

 

「ほら、診察…してあげますから」

 

じっと顔を覗き込んでくる。その金色の瞳が、こちらの目を捉えて離さない。

 

が、その時。

外から、騒音が響く。

 

アイスいりませんか?、と。

 

次第に大きく、近づいてくるその声は、聞き覚えがあった。

 

「………バゼット。こんな所で何を」

 

仕切りから身をのりだすようにして、カレンは外の様子を覗き込み、声の主と会話する。

バゼット?

 

「な…!カレン・オルテンシア!貴方こそ何故ここに!」

 

うーわ、あん時のダメットさんじゃん。お久しぶりです。

 

「バゼットです!って、貴方は!……2人はどう言う…」

 

知り合いの登場に次ぐ登場に混乱するバゼット。

それだけならまだしも、なんら接点が見出せない2人が、()()()()から出て来たのだ。混乱するのも無理はない。

 

「貴方には関係の無い事だと思うのだけど」

 

機嫌を損ねたのか、食い気味になって話すカレン。

いや、こっちとしては、色々と危なかった様な気がするんだけど。

 

「……シスターは、その、そういったのはご法度では?」

 

「はい?シスター?何の事ですか?」

 

顔をほんの少し赤らめながらカレンに対して問うたバゼットに対して、取りつく島もなく切り捨てる。

 

「何の事って…ああ、そう言う…」

 

こちらを一瞥するバゼット。勝手に質問して勝手に得心したらしい。

 

「でも歳下…しかも高校生に手を出すのは…」

 

待て何の話だ。

 

「えっ」

 

え?

 

「……ハァ」

 

「………いえ、何でもありません。しかし、何と言いますか。人は変わるものなんですね、カレン」

 

先程の言葉を撤回し、話を逸らすバゼット。

 

 

 

「貴女には言われたくないわ、バゼット。生活の為にプライドをゴミ箱に投げ入れれるなんて」

 

「何を言いますか!」

 

相変わらずの毒舌っぷりだ。どうやら誰に、とかそう言うのはなく、万人に等しくキツイようだ。

 

「お兄ちゃん!ちょっとこっち…に…って」

 

「バゼットーー!?」

 

「なんで!?なんでここに!?」

 

イリヤ達がやって来た。

 

どうやら呼びに来たらしいけど、開口一番はバゼットに対する驚きの声だった。

 

 

「おに…い、ちゃん…ですと…?」

 

バゼットが信じられないモノを見るかの様な眼でこちらを見てくる。

頼む、違うと言ってくれ。などとでも思っているのだろうか。

 

ざんねん!イリヤとクロエの兄なんです。

 

 

「世界はこんなにも狭いモノだったとは…」

 

くっ…と頭を抱えるバゼット。

 

 

「お兄ちゃん、バゼット……さんと知り合いなの?」

 

イリヤが尋ねてくる。

今回は純粋な疑問、と言った様な表情だ。

普通に答えても良さそうだ。

 

路上に転がってるバゼットを見かねて食事を奢っただけだし。

 

「食…事…?アレが?」

 

失礼な奴だなぁ…

店主に謝れ!

 

「一種の拷問ではないので?」

 

「泰山に連れて行ったのですか……なかなかやりますね」

 

「貴女もアレを食事と言うのですか…」

 

抱える頭は低く、露骨に落ち込む、と言うか、常識が信じられない、と言った様子。

 

「イリヤスフィール、貴女もアレを食事と言うのですか?」

 

縋るような声音でイリヤに尋ねるバゼット。

最早威厳も何もない。

 

「いや……流石に、アレは…ね、クロエ」

 

「確かに…うん。いくらお兄ちゃんでも…」

 

「よかった…!おかしいのはあの2人だけか!」

 

安堵を通り越して歓喜するバゼット。

 

失礼な奴だ…な…?

 

カレンは無言のままだった。

 

「……ねぇ、イリヤ」

 

「うん、まずいね」

 

クロエとイリヤが何やら耳打ちをしている。

 

「何がまずいの?イリヤ」

 

「うーん…ミユには悪いんだけど…こっちの話…かな」

 

「……ずるい」

 

 

沈黙。

 

 

「……では皆さん、仕事があるのでこれで失礼します!」

 

頃合いを見計らったのか、それとも何も考えていないのか、沈黙を破り、バゼットが離脱して行った。

 

 

「おーい、みんなー!そろそろ時間だぞー!」

 

そんな気まづい空気の中、士郎が遠くから声をかけてくる。空気は入れ替わった。

 

うん、行くか。

 

あ……カレン?

 

「私も仕事が有りますので」

 

では、と戻って行くカレン。

 

「お兄ちゃん、はやくいこー!」

 

「ほらほらー!」

 

イリヤとクロエに押される様に向かう事になった。

 

 

「イリヤ、クロ、置いてかないで」

 

 

 

 

 

 

突然ですが会場の空気が勝手に重く感じています。

 

美遊ちゃんの誕生日祝った事ない発言も良い。

しかし、プレゼントが…圧倒的、致命的に失敗した…!

 

表面では嬉しそうな顔をしているが、あの女と選んだ…とか聞こえたんだ。

士郎と一成は聞こえてなさそうだが…

 

「ありがと、お兄ちゃん」

 

笑顔が怖い。

 

「大切にするね!」

 

だから怖いって。

 

 

どうしよう…いやほんと。一見和やかな空気が流れているが、イリヤとクロエから感じるプレッシャー。

これに気づくか気づかないかで違う。

 

ナナキちゃん…だっけ。うん、彼女は只ならぬ空気を感じ取っているようだ。

わかる。

 

そんな中、大きな音がする。

どうやら隣で工事か何かが行われているようだ。

しかし、今現状ではまさしく救いを齎す福音に他ならなかった。

 

ちょっと見てくる、と称して席を離脱する。

 

「あ、まってお兄ちゃん!」

 

「私たちも行くわ!」

 

イリヤとクロエが着いてくる。

 

「ちょっと待って、イリヤ、クロ」

 

美遊ちゃんもだ。

 

「おいおい、オレも気になるぞ」

 

士郎もか!もういい!全員で行くぞ!

 

 

 

 

結論から言おう、遠坂とエーデルフェルトが居た。

 

エーデルフェルトは士郎に惚れている。間違いない。遠坂もだろう。

 

するとそこにバゼットが通りかかったりともうカオスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおやー、イリヤさーん、お困りのご様子ですねー!」

 

「なによ、ルビー」

 

ルビーがイリヤの様子を察したのか、それとも自分の愉悦の為か、イリヤに悪魔のささやきをしようとする。

 

「ズバリ!お兄さんの心が、盗られそうかもしれない…それでお悩みでしょう!ルビーちゃんにはわかりますともー!」

 

 

「ルビーに言われるのはなんか腹立つけど…まあ、うん」

 

「よろしい!イリヤさんに頼まれて製作を開始したこの惚れ薬!これをお兄さんに撃ち込めばイチコ「ガンド」ろぉぉぉお!ナニするんですか!」

 

「薬で人の心を操ろうとは、感心しませんね」

 

「カレン…先生」

 

「ナニすんですか!痛いじゃないですかー!いきなりそんなモンブッパさないで下さいよー!凛さんじゃないんですからー!」

 

さほど痛くもないのに、大袈裟にわざと痛そうにするルビー。

 

 

「イリヤスフィール」

 

凍てつく刃の様な、冷たい表情をするカレン。

 

 

「な、なんですか」

 

その気迫に気圧されるイリヤ。

 

 

「フッ」

 

しかし、カレンは先程の表情とは打って変わって小馬鹿にする様に、鼻で笑った。

 

 

「な…!」

 

その反応を見届けると、踵を返し、来た道を戻って行くカレン。

 

 

「あちゃー、コレは一本取られましたねー。オトナの余裕?って言うんですかねー」

 

 

「……なによ

 

 

「負けない、負けないんだから」

 

 

固い決意に漲るイリヤ。

果たして、その決意は届くのか。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は疲れたな、一成」

 

「うむ、まあ年甲斐もなくはしゃいだ結果だな」

 

「おいおい、まだ高校生だぞ?」

 

帰り道、士郎と一成は2人でなにやら親密そうな空気を醸し出している。

スズカはよだれを垂らしている。

 

イリヤとクロエは…なんかひそひそ話し込んでるな。そこに美遊ちゃんがボソボソと合いの手を入れて…。

 

まあ、気にしない気にしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、数日後、イリヤとクロエ。そして美遊ちゃんは、失踪した。あと遠坂とエーデルフェルトにバゼット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その事を知っているのは、この家では士郎以外全員。

一応、父さんやエーデルフェルト家と海外旅行に行った、事になっている。

 

しかし、知っている。そうではない、と。不思議な話だが、知っているんだから仕方がない。

 

不安で不安で堪らない。それ以降、どうなるかわからないからだ。

空虚な精神は、より脆くヒビ割れ始めるのを実感している。

 

部屋に籠る様になっていた。

 

そんな折に。

 

コンコンコン、とドアがノックされる音。

どうぞ、と声をかける。

しかし、声は無い。

 

疑問に思っていると、ドアが開く。

そこには。

 

「陰鬱な部屋…まさに貴方を如実に表していると言っていいですね」

 

カレン…?どう、して…?

あり得ない。ここに来るなんて、想定も想像もつかない。

そも、どうして家に入って来ている!

 

「ああ、それはですね。貴方に会いに来た、と言ったら、衛宮士郎は喜んで貴方の部屋がここだと教えてくれましたよ」

 

 

おのれ士郎、今すぐ殴り飛ばしてやる。

立ち上がろうとするが───

 

「ああ、この家には現在、貴方と私の二人だけですよ」

 

は?

 

「気を利かせてくれました。いい兄ですね、彼は」

 

お前……余計な所で気がきく癖にどうしてフラグの一つも解体ないし回収出来ないんだ…!

思わず頭を抱える。

 

 

「フフッ、少しは元気になりましたか?」

 

その言葉に思わずカレンの方を向く。

すると、すぐ近くに顔があった。だいぶ近寄られていたらしい。

 

「……貴方は、生きる意味、と言うのを理解していますか?」

 

唐突にそんな禅問答めいた事を問われる。

生きる、意味。

確か。

 

「妹だけ、なんでしょうね。貴方の場合」

 

背筋に寒気が走る。

ああ、確かにそうだ。俺には、イリヤ、それにクロエ。二人の幸せ以外に、何もなかった。

むしろ、考えてはいけないと思っている。

 

「妹がもしも、帰ってこなかったら、貴方はどうしますか?」

 

その時、は……考えてもみない、いや、考えたく、無かった。

 

「死んでみますか?」

 

 

………。

 

顔をそらし、俯く。カレンの顔を見たくない。直視したくない。

いや、現実を見たくないのか。

 

 

 

「ま、後を追う人が居るかもしれない、とだけ考えてから死んでくださいね」

 

 

後を?

突如として、カレンは奇妙な事を語り始めた。

 

 

「例えばの話ですけどね。貴方が自分から死ぬ事で、結果的に2つの命を奪う事になるとしたら、それでも貴方は死にたいですか?」

 

 

…………。

 

 

「答えが出ません、か。ええ、結構。それで死にたいなんて言われてたら、今ここで貴方と死んでましたよ」

 

それは、つまり。

 

 

「さあ?」

 

蠱惑的な表情で笑みを浮かべるカレン。

おちょくっているのか。果たして。

 

 

「ま、簡単に言えば、人間、()()()()()()()()()()()()()()()()そうそう死なないって事ですよ」

 

 

と言うと、背中に身体を押し付けてくる。

 

柔らかな膨らみが背中に当たるのを感じる。

 

「ナニカおかしな事でも…?」

 

後ろから囁かれる。

囁き声特有の吐息が耳にかかる。

 

カレンはその手を下に伸ばしてゆく。

 

「どうします…?良いんですよ……?」

 

頭が真っ白になる。

何が一体どうしてこうなっているのか、脳が理解を拒んでいる。

 

 

「っ……ええ、わかりました。もういいです」

そう言うと、無理矢理に身体を引き倒されてしまい──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……キズモノにされました」

 

 

もうおれしらない。

あれ?ってかキズモノってどういうことなの。え?

 

 

「……普通そんなこと聞きますか。このバカ」

枕に顔を埋めるカレン。

 

 

あれれー?どうしてこうなったー?おかしいぞー?

 

 

 

「もう一度、分からせないとダメみたいですね」

 

 

えっ、あっちょっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日から数週間後。

 

 

「やっと、やっと帰ってきた……」

 

「美遊も救った、世界も救った…お兄ちゃん…褒めてくれるかなぁ…」

 

「どうやって説明するつもりなのよ…」

 

玄関のドアを開ける。そこには────

 

知らない人の靴が、一足。

 

 

「え…」「誰の…?」

 

嫌な予感がする。

走って物音がするリビングにかけよる。

 

すると、驚くべき光景が広がっていた。

 

 

「お帰り、イリヤ、楽しかったか?」

 

事情を知らない士郎。

料理をしている。その、横には──。

 

「カレン先生!?」

 

「ああ、料理を教えて欲しい、っていうからな。それにしても、良い人と知り合ったよなぁ…」

 

 

「まさか…まさか…」

 

 

 

 

「お帰り、イリヤ、クロエ」

待ち望んでいた筈の。兄の、声。

 

 

しかし、聞きたくない。

聞いてはならない。

けれども。

 

 

 

 

「イリヤスフィー…いいえ、イリヤ、クロエ」

 

カレンが。

 

 

「今度から、お義姉ちゃん、って呼んでもいいんですよ?」

 

 

勝ち誇った笑みで、そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「お兄ちゃん…盗られちゃった……」」

 




ある意味ハッピーエンド


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3rei !
3rei ! 一話


(エインズワースにとっての)ラスボスルート。
完全に見切り発車。やりたくなったからやる。
病みかは……うーん
更新の間隔は結構開く。

分岐条件
カレンルートから分岐。
■■■■との()()()が一定以上


 

 

 

《妹達が居なくなって数日経ちます。どうすれば良いですか》

 

《妹、そろそろ殺してもいいと思いませんか?》

 

《いろんな意味で妹すげぇな》

 

 

《二人も男がいるのにその上私の彼を盗ったんですよ?》

 

《だからすげぇなって、普通修羅場や》

 

《彼の気持ちは私だけに向いていれば良いのに、どうしてなのかしらね?》

 

《話通じてないですね、こっちは精神的に大変なんですよ》

 

《やっぱり、封じておくのは悪手だったかしら》

 

 

もういいや、やめよう。話が通じない。

携帯を閉じ、ベッドに放り投げる。

 

はぁ、と大きな溜息を吐く。吐かざるを得ない、と言ってもいい。

 

 

イリヤとクロエが円蔵山にて消失してから数日経つ。

 

一応、海外旅行という事にはなってはいるのだが……。

まあ、そうではない、という事を勝手に知り得ている。

 

その事が胸を突いてくる。

 

再び溜息を吐く。溜息を吐くと幸福が逃げていく、などと巷では言う所もあるらしいが、現状不幸のドン底に居るので至極どうでも良い。

 

ふと窓を見やる。

雲一つなく、青く、蒼く。何処までも澄み渡る空。

その事が一層気分を陰鬱とさせる。

 

そろそろ外に出よう。

最小限の身体能力は維持しないといけない。

不自然に引き篭もっていると面倒臭いからな。

 

適当に歩いてくるわーなどと極力不自然にならない程度に間延びした声をかけつつ、玄関に向かう。

すると大抵は士郎辺りが「わかった」と返事を返してくれる。

 

空は青い。窓越しで見るよりも、一層澄み渡って見える。

 

そんな時、着信音がする。

 

《ねえ、困ってるのよね?》

 

思わずゾクッとする。今までにない文脈。

かつてこのメールが自分の想い人以外の事を届ける事があっただろうか。

 

そして、また通知。

 

《妹に会いたいのよね?》

 

待て、一体何を、何が起きている?

まるでこれじゃあ、あの世界に行く方法を知っているような───

 

《会いたいんだったら、アーネンエルベって喫茶店に来てくれるかしら》

 

アーネンエルべ…だと?

なんだ?何者なんだ?

 

《じゃあ、待ってるわ》

 

冬木大橋の近くに存在するトンデモ喫茶店の筈。見た事ないから、本当に存在するのかもわからない。

 

 

まさか、アーネンエルベ…よりによってアーネンエルベと来たか……

 

待て?このメール、何処と繋がっているんだ?

……いや、行けばわかる、か。

 

しかし、拭いきれない不安がある。

 

 

 

 

うっわ本当にあった。

ドイツ風の重そうな扉が見える。

 

ここ……で良いんだよな。

 

意を決してドアを開ける。

 

「いらっしゃいませー。お一人様で良いのかにゃ?」

 

 

うわぁ…猫、いやヒト?ナマモノが動いている…。マジかー。

 

 

「ああ、その人はこっちよ」

 

「はいにゃー」

 

声のする先には、紅茶を飲んでいる少女。

 

「へぇ……あなたが…ふーん」

 

ま、座りなさい、と促された。

内心とんでもない事になってしまったと思いながら座る。

 

「本当なら、彼以外の人にこんな下らない労力を割きたくないのだけれど」

 

「まあ良いわ。あなたとのやり取りは嫌いじゃなかったし」

 

そう言うと、紅茶に口をつける。

 

「お客さーん、ご注文は決まりましたかにゃ?」

突然、ウェイターから声をかけられる。

背の低さに近寄ってきている事に気がつかなかった。

 

……同じ紅茶で。

 

「了解だにゃ」

注文を受けると、奥の方へ消えて行った…。

 

 

「で、妹に会いたいのよね?」

 

うん。

 

「良いわよ、会わせてあげるわ」

 

……どうやって。

 

「ああ、普通にこの店を出れば()()()()よ。と言っても、帰ってこれるかは知らないわ」

 

本当に飛ばすだけなのね、そうなのね。

 

「あら、何か不服かしら?」

 

良いや、そんな訳もない。

 

「ふふ、でしょうね」

 

「お待たせだにゃー」

 

頃合いを見計らって飲み物が届く。

相変わらず目の前の少女はゆっくりと紅茶を嗜んでいる。

 

「じゃ、ごゆっくりー」

 

紅茶の味は…うん、美味い。

酸味と言うか、クドくない。

こんな紅茶は、なかなかありつけない。

凄い。

いやまあ、色々とめんどいからもう来ないけど。

 

「ところで……」

 

はい?

目の前の少女は、唐突に口を開く。

 

「彼、振り向いてくれると思う?」

 

不安げに言う少女。

まさしく、その雰囲気は恋する少女だった。

が、が、しかし。その恋は■■■■■■。

その筈だ。

果たして、どう答えたものか。

 

 

 

 

「そう、あなたはそう思うのね」

 

あっ思考を

 

「良いわよ、別に。こんな所で殺したりなんてしないわよ」

 

外だったらわからないけどね、と呟く少女。

首の皮一枚繋がったようだ。

ってか危ねぇ。

 

 

「あなたは、わたしの事を知ってるみたいね……まあ、読まないけど」

 

あっ、うん、もうなんでもいいです。うん。

 

「そう」

 

妙な沈黙が続く。

気まずい空気に耐えかねて、辺りを見渡す。

店の雰囲気はドイツ風、いや。ほぼドイツと言うべきか。

これで店主はイタリア料理が得意らしいからなんともはや。

 

客は……誰も居ないな。

 

「その方がお互い都合がいいでしょう?」

 

そうですね。

 

「もう、どうしてそんな固くなるのよ?メールでは軽いじゃない、あなた」

 

流石に殺しに来るかも知れない方とフランクに話せってのは…

 

「あら、そんな事言ったかしら」

 

えぇ……

 

「ふふふ、大丈夫よ、もう会う事もないだろうし、殺しなんてしないわよ」

 

会う事もない?

花が開いたような笑顔でそんな事を言う彼女。

 

「ええ、本来なら貴方と会う気なんてさらさらないもの」

 

笑顔で断言されると胸にクルものがあるなぁ!

 

「さっきも言ったけど、いろいろ楽しかったし?妹なんてわたしには良くわからないのだけれど、友人が困ってる、って言うものだし…」

 

友人……か。

メールだけの関係で友人とは…さてはオメー友人居ないな?

 

「あら。貴方も似たようなものでしょ?」

 

うん、そうだな。

 

「あ、そうね。コレあげるわ」

と言って渡されたのは、中身の入った巨大な紙袋。

それは見た目道理にズッシリとして重い。

何これ。

 

「ああ、ここでは開けないでね?危ないから」

 

危……ない?

 

「ええ。拾ったのだけれど……()()()()()扱えないものだったの。でも、あなただったら使えると思うわ」

 

拾ったものを渡すとかどうなんです、それ。

 

「要らないなら棄てるわよ?」

 

あーいや、ありがたく貰っておく。

 

「そうしなさい。ええ、損はさせないわ」

 

そんなシロモノなの?

 

「そうかもね」

と言ったっきり、紅茶を飲んで、二度とその事について話す事は無かった。

 

一つ聞いても?

 

「何かしら?」

 

メールって最初に送って来たの、どうして?

 

「不粋な人。そんな事を聞くなんて」

 

不快感が露わになる。グッバイ我が人生か。

 

「だから、そんな事しないわ。……そうね、答えるとしたら…うん、適当に送っただけなのよね」

 

適当に。

 

「ええ、適当に」

 

それでこの携帯に繋がった、と。

 

「暇だから、面白そうな所に繋がらないかしらーって思って…ね」

 

相談を求めるのが最初のメールだったじゃないか。それはどう説明するので?

 

「あら、そんな文面だったかしら」

あくまでもシラを切られる。

追求するのは藪蛇だし、面倒だし手間がかかるからしない。

 

「いいじゃない、なんだって。別に支障があるわけではないでしょう?」

 

それもそうか。

苦笑する。

 

「……ええ、そろそろ時間ね。彼が待ってるから、行くわ」

 

そう言って立ち上がる。

所で本当に待ってるんですかね〜?

 

「調子に乗ると消すわ」

 

誠に申し訳ございませんでした。以後気をつけ…以後無いのか。

 

「自分で言っててなんだけれど…そういえばそうね…メールはするのかしら?」

 

こちらに尋ねられても…そちらから飛ばすじゃん。

 

「まあいいわ、その時の気分ね。じゃあ、さよなら。これでお別れね」

 

と言って、店から出て行く。

おい、待て勘定……あぁっ!クソ!やられた!

 

……紅茶、もう一杯。

 

「まいどー」

 

 

 

……しかし。

外に出ればすぐ、だったか。

規格外と言うべきか。持つべきものは友、と言うべきか。

 

さて。

 

───行くか。

 

ドアを開けて、外に出る。

そこには───

 

……雪?

 

見慣れぬ、見慣れた風景。

雪が積もっている。

失念していた。夏服で来てしまった。

これは寒い。

 

……てか何処に行け「客か」

 

は?

思わず後ろを振り返る。

そこには、ドイツ風の扉など無く。

代わりに存在していたのは、ラーメン屋の暖簾。そして長身の店主。

 

「今日は多いな。入れ」

 

肩をがっしりと掴まれ、店に引きずり込まれる。

 

力づくで座席に座らされる。

巨大な紙袋は椅子に立て掛けた。

 

「注文は……麻婆ラーメンで良いな」

 

まだ一言も言葉を発していないのに、メニューを強引に決められる。

 

いや、あの。

 

「食え」

 

ドン!と力強い音と共に麻婆豆腐の海に埋没したラーメンが出てくる。

 

「残せば殺す。良かろうな?」

 

はい、いただきます。

 

うん、麻婆豆腐の旨味がラーメンに良く絡んでいる。

中々の腕前だ。

 

「ほぅ……」

 

 

 

余りの美味しさにもう食べ終わってしまった。

 

「良い食べぶりだ、少年。もう一杯くれてやろう」

 

そう言って先程よりも美味しそうな赤黒い麻婆豆腐を出してきた。ラーメン?見かけではわからないなぁ…

 

それにしても美味い。

一体どうしたらこんな旨味だらけの料理が出来上がるんだ…?

啜るたびに旨味が口いっぱいに広がって行く。

手を休める暇が無い、否。休めたく無い。

 

あっ、もうない…!

名残惜しいが、ご馳走さまでした。

 

「そうか。二杯合わせて5600円だ」

 

「高っけ!なんだそりゃあ!?」

 

「自家製だ。高いのは当然の事だろう」

 

財布を恐る恐る取り出す。

……足り…無い。

不味い。

 

「よもや払えぬ、と言う訳は無かろうな」

 

……ある程度払うので…ツケ…とか出来ませんか。

 

「ほう…足りない、と。そう言うか貴様」

 

店主は頭巾を解き、厨房からゆっくりとカウンター席。つまりこちら側へと近づいてくる。その手に包丁を握り締めて。

 

「誤魔化しとはいい度胸だ……!」

「ならばその身体を持って贖ってもらおう…!先程豚骨を取り損ねたのでな…!」

 

 

やっべ…逃げないと…殺される!

思わず立ち上がる。その時、椅子に立て掛けてあった紙袋が倒れ、破れる。その破れた穴から中身が飛び出る。

銃だった。

そう、銃が出てきた。

 

「貴様……!それを何処で!?」

 

え?あ、貰い物。その人曰く拾った、と言う話らしいです。

 

「貰い物……?」

 

貰い物。

その言葉に、目を細め。なにやら思案する様な様子を見せる。

 

「……気が変わった。少年。名前は?」

 

えっ……衛宮───ですけど。

 

「衛宮……か。そうか」

ニヤリ、と口角を上げる怪しい店主。

 

「払えぬなら働け、衛宮」

 

え?

 

「働け、と言っているのだ」

 

え、探さないといけない人が「さもなくばこの場で麻婆豆腐の具材に変えてやろう」

 

わかりました、喜んで働かさせていただきます。

 

「喜べ少年。食住は保証してやろう」

 

「これからは私の事は店長と呼べ」

 

あ、どうも。わかりました。

そんな時、店の電話が鳴る。

 

「ああ、五人前だな。承った」

店主…店長は電話を取って、そんな事を言った。出前だろうか。

 

「出前だ、行ってくる。皿でも洗え」

 

わかりました。

 

店長は、ラーメンを作り終えると、出前用の箱、岡持ちに入れて店を出て行った。

 

皿を洗え、とは言われたが、数枚程度だったので、簡単に終わった。

 

余った時間で、このライフル、とでも形容すべき巨大な銃を弄る。

曲銃床、と中々古風な出で立ちをしている。

マガジンには、銃弾が入っていない。

コッキングレバーを引くと、薬室に入っている弾薬が飛び出る。一発装填式か?

マガジンに入れ直す。

 

紙袋をひっくり返すと、中から銃弾が数発程出てくる。

 

……ただの銃だな。しかもライフル。狙撃銃として無理矢理使えなくも無い銃…だな。うん。

対人戦では役に…役に…無いよりはマシか。

 

元のように紙袋にしまい直す。

 

なんだろうな、コレ。

損はしない、けれど…かさばるな。

 

 

曇りガラスの扉を眺める。

端に霜が走っており、凍てつく外の世界を感じ取れる。

 

イリヤとクロエが居る、のは知ってるけど…。

 

「前途多難だ……」

 

恐ろしいのに捕まった。

探しには愚か、外に出る事すら怪しい。

銃で先にヤろうぜ!とか思っても、この取り回しの悪さだと先に食材に変えられて終わりそうだ。

 

金……そう、金がないんだよなぁ…ハァ。

まさしくハサンよなフハハハハ!とか聞こえてきそう。

 

「戻ったぞ」

 

お帰りなさーい。

店長が戻ってきてしまった。

 

「衛宮」

 

はい?

何を考えて居るんだかわからない、仏頂面の顔が向けられる。

 

「本当に、ソレが何か知らぬのか」

 

ソレ、と言われた目線の先には、紙袋。

寧ろ知ってるんですか、店長。

 

「……さあな。見覚えがあるような気がしただけだ。他意はない」

 

と言うと厨房に入り仕込みを始めてしまった。

鬼気迫る表情で湯切りをするのは、何ともシュールだった。

 

「出来たぞ。食え」

 

そう言うと、普通の麻婆ラーメンが出てきた。

 

あの、店長、金取る気じゃ…?

 

「金などとらん。貴様はここの従業員だ。賄い代わりに実験台にする程度、私の自由だ」

 

実験台…人権はどこへ行ったのか。

 

「食い逃げ泥棒を見逃しているだけでなく、剰え雇用までしていると言うのに、か?」

 

腕を組みながら堂々と言う。その目線は、見られているだけで射殺されそうだった。

正論が耳に痛い。堂々と目を逸らす。

 

「理解したか?なら食え」

 

と包丁を握り締められたので、大人しく食べる事にした。

いただきます。

 

あっさりしている……。かといってコクがないわけではない。なんとも不思議なラーメンだ。豆腐は絹を使っていて、喉越しにも優しい。

美味しい!

 

「そうか」

と言って新たな丼が目の前に置かれる。

 

「コレも食え」

 

あの、そろそろ食べる量がエゲツない事に「具材にされたいか?」

 

いただきます。

 

 

限界を迎えようとしている胃に鞭を打つように食べていると、唐突に店長は尋ねてくる。

 

「時に衛宮よ。何故こんな何も無い僻地に足を運んだのかね?」

 

妹たちを探しに…かな。

 

「妹、かね」

 

うん。妹。見てない?銀髪で赤目の子と、銀髪で金がかった琥珀色の目で、褐色の子なんだけど。

 

「両者共に見たぞ」

言い澱むことも無く答える店長。

 

何処で!?

 

「この先にある校舎でだ」

 

行ってもい「断る」

 

えぇ…

 

「貴様はここで暫く働いて行け、衛宮」

 

嘘だろ…。

 

「嘘だと思うなら、この店の門を出ると良かろう。その瞬間、貴様の五体は十七に刻まれているだろうがな」

 

わかりました、働きます。

 

「最初から働けと言っているぞ、私は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…麻婆抜きの醤油ラーメンを頼んだ筈なんだけどなぁ…」

ギルガメッシュは愚痴る。

 

「さっきもそうだけど…お兄ちゃんを思い出すな…」

 

「お兄ちゃん?キミのかい?」

 

「うん……こーゆーの、平気な顔して食べてたからなぁ…」

ギルガメッシュの質問に、イリヤは遠い記憶を辿る様な趣で答える。

 

「ええ、ホント。どうやったら食べれるのかしら…」

クロエも何か思い出す様に呟く。

 

「田中さんはお腹がズンガズンガするです…」

 

「キミ達のお兄さんって……」

 




言峰ルートが開拓されつつある……!


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二話

続いた。
この後の展開はオリ設定にしようか原作待とうか悩む


 

 

「起きろ」

ドアが音を立てて強く開けられたかと思うと、いくつもの包丁が飛んでくる。

その包丁は、綺麗に人型をなぞる様に床に刺さった。

 

殺す気か!?

 

「腕が鈍っていないかの確認だ」

 

人で試すなよ!

鈍っていたらどうするつもりだったんだ!?

 

「その為の確認だ」

 

………どうしてこうなったのか。

 

と、言うのも。

昨日、店長から店の奥の倉庫で寝ろ、と寝袋を渡されたので寝ていたのだ、が。

一体誰がモーニング包丁で起こされる事になると予想出来たのだろうか。いや、出来ないだろう。

 

「朝は出来ている。早く来い」

 

周りに刺さっている包丁を一本ずつ回収すると、店の厨房へと戻って行った。

 

もうちょっとゆっくりしたいが、包丁がいつ人体に当たるとも限らない。

そうなっては事だ。

早く行こう。

 

寝袋から出て、畳んで、しまう。

店の方に行くと、丼が置かれていた。

 

「今日はこれだ。食べると良い」

 

朝からキッツイなぁ…流石にこってこてなのはな、とは思うが。実際食住を保証してもらっているのは事実。

有り難く頂こうと思う。

 

うん、やっぱり美味しい。

ガタイは妙に良いし、性格はアレだけど。

その腕前は本物だ。

 

「旨いか?」

 

勿論!

 

「……そうか」

と返事を返したと思うと、さっさと振り返って、仕込みを再開した。

 

店には麺を啜る音、麻婆豆腐のラーメンの仕込みの音のみが響く。

その間、美味しいなー、と思いつつも一体こんな所で何をやっているんだろうか、と一人思い直す事となった。

 

食べ終わり、ご馳走さま、と返すと、間髪入れずに皿とレンゲが置かれた。

 

「麻婆の余りだ。食せ」

 

どう言うわけだか、ぶっきらぼうに置かれた様な気がした。

 

ええ、勿論。いただきます。

 

食べながら考える。

 

どうしようか。

この店にいる限り、イリヤとクロエには会えない。向こうから来る…と良いけど……

それも望めそうに無い。

 

かと言って、食い逃げになりそうだった事実が有る。

本当に困った。

 

そんな時。

 

「すみませーん。まだやってます……おや、他の客なんて珍しいですね」

 

金髪に赤い眼をした身なりの良さそうな少年がやって来た。

その手には5枚の丼を持っている。

どうやら、返却に来た様だ。

 

「従業員だ」

 

「……いつの間に雇ったんですか?」

 

「昨日だ、ギルガメッシュ」

 

「そりゃあ知らないはずだ」

 

肩を竦める。

ここに置いときますねー、と丼を置くギルガメッシュ。

 

「名前はなんて言うんですか?」

 

ギルガメッシュはこちらに顔をを向ける。

美少年。そう言うのが適切だ。

そう思わせるくらいに、恐ろしい程に整っている顔をしていた。

 

「衛宮だ」

答える前に店長が先に言う。

 

「衛宮……ですか」

その紅の眼がこちらを睥睨する。まるで、何かを見定める様だった。

 

「ふーん…」

軽く横目で見てきたかと思うと、一人で何やら勝手に納得しては、一人で勝手に頷く。

幾らなんでも、ちょっと不快になる。

 

「コレはそう言う奴だ。気にするだけ無駄だ」

 

「ひどい事言ってくれますね、これでも僕は優しい方だと思うんですけど?」

 

「ならば私を助けると思って麻婆を喰っていけ」

 

「えー…アレ食べるなんて嫌ですよ…」

 

軽口を交わす二人。その様子はまるで数十年来の知己の様でもあったが、絵も言われぬ違和感の前には、とても友人などとは言えない。もっと別のものなのだろう。

 

「衛宮は旨そうに喰っているが?」

 

こちらに視線を軽く向ける。

 

「えぇ……辛くないんですか?お兄さん」

 

美味しいよ?食べる?

 

「いえ、丼を返しに来「出来たぞ」ただけ……えぇ…仕方ないなぁ…」

 

ため息をつき、席に座るギルガメッシュ。

心なしか、箸を取る手は重く見える。

嫌なら食べようか?

 

「あぁ、お兄さん。それなら「案ずるな、貴様の分も用意してある」……いいですやっぱり」

 

丼が追加される。

冷めてしまうともったいない。

早く今手をつけている麻婆を食べ終えて、次の丼へと手を伸ばす。

 

「……としても、良く食べれるなぁ」

横目でこちらを見るギルガメッシュがそんな事を呟いた。

何が?と問うた所、「僕にはそんなに食べれませんよ」と返ってきた。

 

あらまあそれは残念。との感想を抱いた。

 

会計時、ギルガメッシュはどうみても金塊。そう、金の塊で支払いをしていた。

ぼったくりとかそう言う次元じゃねぇ!これが真の金持ちか…!と戦慄する事になった。

 

「あ、お兄さん。これチップです」

 

目の前に金塊が置かれた。

チッ…プ……?

 

「じゃあ、また」

紅顔の美少年は退店して行った。

 

…そうか!この金塊で未払い分の支払いができ「断る」えぇ…

 

「一度働いて返済に充てるとの契約を交わした以上、不可能だと知れ」

 

……詭弁とかではなく、正論。はっきり言ってやられた。

金収入が入った場合、それで返済するとか言う話は一切無かった。

このニヤついた笑みを浮かべている店主に、一杯食わされたのだ。ラーメンなだけに。

 

金塊を持て余す事になった。

一先ず奥へ行き、金塊を紙袋の横に置く。

今一使い道の無い銃に使い道が潰えた金塊。

無駄だらけである。

 

結局、今日は彼以外には客は来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

ある事に気づく。

情報について、だ。

 

この街について、正規の方法では何一つ知らない。

このラーメン屋かある事と、小学校が近くにある事位しか知らない。

だから、これで話を聞こう。

 

金塊を再び持ち、カウンターへ行き、店長へこの街に関して知っている事を余さず教えろ、と言う。

 

どだい情報とは、入手経路が重要なのだ。

出所の解らない情報なぞ、何の価値もないし、信用もされない。

 

その為の金。彼は知ってて渡したのだろうか。

だとすると、一体何処まで。

 

「余さず、と来たか」

 

金を受け取らず、手を後ろに組み、ゆっくりとこちらへ向かう店長。

 

「ならば仕方あるまい。私が知っている事ならば全て話そう」

 

口角を僅かに上げた店長がそう言って語るのは、10年以上前の聖杯戦争から始まる悲劇。

神稚児。

エインズワーズ家。

その目的。

マナの急速な枯渇。

前回の勝者が、衛宮士郎だった、という事。

 

「さて、どうする?無知は罪だが、知っていて何もしない方が重罰だ。と言っても、貴様は魔術師でも魔法使いでも無かろう」

 

こちらの出方を伺うかのように真横に立つ。

確かに、魔術回路なんてもんは存在しない。いや、あるのかも知れないが。

使えない以上はどうしようもない。

と、すると。

現状己の持つ最高攻撃手段の、あの銃しかない。

 

「あの銃……かね」

 

目を細め、途端に厳しい表情になる。

やはり、と言うべきか。

あの銃が何なのか、知っているかのようだ。

 

「……私の想像が合っているのならば、確かに貴様でも何がしかの役には立とう」

 

疲れたのか何なのか、横の椅子に座る。

この人に限ってそれはあり得ないとは思うが。

 

「だがどうする?アレは世界を救う為に世界を滅ぼす禁忌の兵器。貰い物、とは言っているが……」

 

目を閉じ、深呼吸する店長。

 

「問おう。貴様は何のために世界を滅ぼす?」

 

「───愚問。十字架を背負う為」

 

「ほう。何故に」

 

「美遊と、世界。天秤にかけたところで、あの子は優しいから、どちらか選べないだろう。むしろ両方取ろうとするかも知れない。だから、迷わなくて良いように、選択肢が多岐に渡り、重くならぬ様にせんがため」

 

「それで滅ぼしても構わない、と?」

 

「そんな事で滅びる弱い世界なんて滅んで当たり前だ」

 

「ッ……ハハ、フハハハハ!!!」

 

堰を切ったように笑う。

一通り笑うと、口をゆっくり動かし始めた。

 

「愉快だ。世界は違えど、貴様ら兄弟はその道を行くと言うのか。……ならばこの言峰綺礼。神の御名に於いて汝が道を言祝ごう。君の道に幸あらん事を」

 

神父の様に、十字架を切る言峰綺礼。

その様は、実に絵になっていた。

 

「止めないので?」

 

「何故止める必要が?」

 

世界、滅びるのに?と言外に言ったつもりが、こう言われるとペースが崩れる。

 

「……エインズワーズとの約束とか、こう、色々あるでしょう?」

 

「知らんな。私が破る訳ではなかろう」

 

「食えませんね」

 

「麻婆は食わせるが?」

 

「一本取られました」

 

お互いに鼻で笑う。

その後、微妙な沈黙が場を漂う。

 

「───ついてこい。渡したい物がある」

 

バンダナを外し、出口へと向かう言峰。

 

「渡したい物?」

 

「弾薬と……その格好では寒かろう。コートだ。ああ、銃も持って来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのさ、これ何処から?」

 

「秘密だ」

 

朽ち果てて荒れ放題になっている、とある神の家。その地下に案内されたが、そこには大量の弾薬と、武器が有った。

 

 

「その銃は基本的にはどの弾薬でも第五架空要素で構成されているモノならば絶対の天敵と成り得る。本物ならばな。……災厄にも効くだろう」

 

持ってきた銃の弾を確認すると、その口径に合った弾薬を渡しつつ、そんな事を説明してきた。

 

「災厄?」

 

「こちらの話だ。……例え贋作だとしても、私がどうこうなる話ではあるまい」

 

「それもそう、か……で、このコートは?」

 

埃を被った、硝煙と、薄れたタバコの臭いが染み付いたくたびれた、黒いチェスターフィールドコート。

どう見ても、どう見てもだ。

 

「拾った」

 

「拾った」

 

「拾ったのだ」

 

「……そう言う事にしますよ」

 

追求をやめ、埃を払いつつコートを着る。

これ以上は面倒臭いだろうし、話す気もないだろう。

 

「似合っているぞ」

 

「気色悪い」

 

言峰が妙にニヤついていたので、思わず言ってしまったのは、悪くないだろう。

 

「行く先は真逆だがな」

 

何処か遠い所を見つめる言峰。

何かの幻影を見つめているのか。

 

「こっちの世界では同じ道を歩いたさ」

 

意図していないが、自然とそう口に出てしまった。

 

「………そうか。あのホムンクルスが真っ当に生きてる時点でそう考えるべき、か

 

「何か言った?」

 

「独り言だ」

 

「所で、エインズワーズの工房…だっけか。結界とかってどうすれば良いの?」

 

「さて、な」

 

「駄目?」

 

「そこまでするのは過干渉だろう」

 

「いや、道具が強いだけの劣化AUOですら無いパンピーなんですけど」

 

「どうせ鋼の大地は訪れるのだ。神秘の隠匿などと些細な事を言っている暇は無かろう」

 

横に顔を向ける言峰。

鋼の大地、と来たか。

 

「結界を撃ち抜け、と」

 

「そうだ、衛宮。どうせなら派手にやれば良かろう。それに、この地域には人の影は見られぬ」

 

こちらに再び顔を向け、片手を大仰に上げる。

 

「案内はしよう。来い」

 

そう言って、階段を上がって行った。

弾薬を粗方ポケットに仕舞い、スリングを新たに取り付けた銃を肩にかける。

そして、階段を上がって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徒歩で暫く歩くと、大きな一本道に出た。

 

「この先だ。私は戻らせてもらう。……では、幸運を祈る」

 

そう言って、道を反対側へ進んで行く。

その背中を見る事なく、道を真っ直ぐに歩いて行く。

そうすると、大きな、大きなクレーターが見えた。

 

 

「ここ、か」

 

次に装填する弾薬を口に咥え、肩に掛けていた銃を構える。

呼吸が荒い。緊張している。

落ち着け。お前は何の為に銃を握る?

 

そうだ。それでいい。

呼吸が整って行くのを感じる。

 

刹那、呼吸を止める。

そして、銃の引き金を引き、撃鉄を下ろした。

 

一発の銃声が、辺りに鳴り響く。

 

銃弾は真っ直ぐに進んで行き───

 

 

 

 

 

 

結界が、壊れた。

 

 

 

 



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最終話

原作終わってないし、しゃーない。



「困るなぁ…焚きつけたの、貴方でしょう?綺礼」

 

「誰かと思えば、英雄王か」

 

道を歩く事峰の背後から、鈴の音を鳴らすような。けれども威厳のある声がする。

 

「どーしてくれるんですか。せっかく面白い事になると思ったんですがねぇ……アレじゃあなぁ…」

 

頭を掻くギルガメッシュ。

さほど困っている、と言うわけではない。

 

「一つの世界が滅び、一人の剪定者が産まれただけの事。産まれるからには、私はそれを祝福せねばなるまい。まして、【衛宮】なら尚更の事」

 

さも当然だろう?と言わんばかりの不適な態度を取っている。

 

「あんな物まで持ち出して、大人の僕が見たらどう思うかなぁ……」

 

「フン、裁定と剪定は領分を侵害する事も無かろう。それと、アレは私が与えた物では無い」

 

「ふーん。ま、どっちでもいいんですけどね」

 

「……所で、戻らなくて良いのか?」

 

 

 

「目的は果たしたんで、大丈夫ですよ。それに、観ていても面白くないし、これからはもう僕の役目は無い。大人しく帰りますよ」

 

「………そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結界が……消えた?」

 

「というより、壊された…?」

 

凛とルヴィアが各々の感想を述べる。

 

 

「……オイオイ、どーゆー事だぁ!?」

 

「何者……おい、待て。馬鹿な。何故だ?何故

()()が此処にある?」

 

ベアトリスが首をかしげる。

対照的にジュリアン、否。ダリウスは確信めいた物を抱く。

 

 

「イリヤ……あそこ…」

 

クロエが震える手で、人影を指差す。

 

「………うそ、でしょ」

 

「切……いや、格好は似てるけど……あの顔は…」

 

視界に人影を収めた美遊が思う。

 

「居ても可笑しくは無い、とは思ってましたが……どう見ても、()()は…」

 

バゼットが、クロエらの注目する方へ、目線を向け、その正体を見る。

その持つ兵器も。

 

 

「爺さん……?」

 

朦朧とした意識で、衛宮士郎は男の影を垣間見る。

例え、違うとしても。

 

 

 

「どう言う事だァ!!聖堂教会!!!互いに不干渉の筈だろう!?」

 

馬鹿な。

あり得ない。

あの銃を持ち出すなんぞ、代行者位のモノ。

そう思っているからこそ、そう知っているからこその発言。

しかし、可笑しい。来る訳がない。

そう、あの神父とは約束がある。

 

 

 

 

 

「───地獄を見た」

 

燃え盛る業火。

街を埋め尽くす泥と炎を見た、と。

 

 

男は、ダリウスの言に答える事なく。

一人歩きながら告解する。

 

「未来を視た」

 

再び行われた戦争の行く末を、死の間際に垣間見た。

 

「可能性を視た」

 

戦争の可能性。数多の死。

大戦。月の戦争。偽りの戦争。

 

様々な世界の可能性を視た。

 

新たに生まれ落ちた世界も、例に漏れず。

 

「結末を視た」

 

全てが行き着く先。

死んだ大地。飛来する星の化身。

そして───。

 

「ああ、全てが無価値。どうでも良い。

どいつもこいつ(根源接続者)も、さっさと死ぬ理由が理解出来るよ」

 

未来だの世界だの強制的に視せられて、狂ったり、無感動にならない方が可笑しい。

現に、アトラスの院長は発狂している。

 

「質問に答えろ!」

 

「沙条愛歌。ああ、お前の話は共感出来るよ。視るのと、実際に見るのとじゃ、訳が違う。セイバーに執着する訳だ」

 

《視るのと、見る、という事の違いって、素晴らしいモノよ?》

 

確か、そんな事を言ってたな。

 

 

 

無価値。無感動。

 

全てに飽きる。

 

それでも。

確かに無色だった世界は、運命によって色彩鮮やかに彩られたんだ。

 

 

 

「……ああ、俺が代行者か、って話……だったか。違うな」

 

「何…?」

 

ダリウスは疑問を抱く。

そんな筈はない。アレは、あの銃は、そんな簡単なシロモノでは無い。

 

 

 

「俺は、通りすがりのお兄ちゃんだ」

 

銃を構える。

狙うのは、ダリウスでは無い。

銃口は、箱に向けられる。

 

「───ッ!殺せ!ベアトリス!」

 

「遅い」

 

撃鉄は下された。

弾は進んで行くのみ。

真っ直ぐ。一直線に。

 

音速で対応する汚泥の英霊。

しかし、銃弾は意に介す事なく、泥を消し飛ばしながら突き進む。

 

 

そして、人類は。

 

ここに、最後の希望を打ち砕かれた。

 

 

 

 

「あ……ああ…」

 

空いた穴から溶けて崩れ落ちるピトス。

穴を穿ったのにも関わらず、中からは何も這い出る事はない。

 

ただ、消えて行く。

 

「テメェ!!」

 

破れかぶれになったベアトリスは、男を圧殺せんと蛮神の槌を振り下ろそうと───!

 

「させないわ!」

 

そこにクロエが投影した双剣を投げつけ、軌道を逸らす。

外れた槌は、空を叩く。

そこを逃さず、クロエは追撃に出る。

 

「ありがとう、クロエ」

 

「え?……今、私の名前を……」

 

すれ違い様に、クロエはそんな言葉を聞いた。

 

 

 

男は銃から薬莢を排出し、再び弾を込める。

そして、膝をついている、ダリウスの元へ歩み寄る。

 

「貴様!一体何をしたか……何をしたかわかっているのかぁ!?」

 

半狂乱になり、目の前の男に掴みかかるダリウス。

 

「知っているさ」

 

「……は?」

 

「遍く全ての星々には、終わりがある。それがこの世界は早かっただけの事。それなのにダラダラと無駄に延命しようとして……」

 

「オイ……オイ、なんだよ、それ」

 

ダリウスなのか、ジュリアンなのか。

今まで築き上げて来た物を、横から蹴飛ばされて、誰が誰だか解らなくなっている。

 

「そもそも、聖杯一つで星が救えると思ったのか?高々英霊七騎分。それに、箱にしても、欧州の一部の話だろう」

 

「…………辞めろ」

 

話を遮る。

 

「おめでたい頭だ。この世界はな、パンドラがほんのちょっと素直だった時点で、21世紀での滅びは確定していたんだよ」

 

「辞めろ!」

 

話を聞きたくない。

 

正義の味方(エインズワーズ)。大いに結構。だけど、“宙”は残念ながら不変のものを嫌う。お前らは、大海に漕ぎ出す事を目指すべきだった。つまりは、無駄骨だ」

 

「辞めろと言っ───」

 

その後の言葉は紡がれる事はなかった。

 

顎下から撃ち抜かれたからだ。

第五架空要素に寄って置換されていた人格は消え失せる。

無論、撃ち抜かれた肉体も、生命の鼓動を止める。

 

 

「ジュリアン様───!」

 

クロエと戦っていたベアトリスは、惨状に気づき、男を殺しにかかる。

 

しかし、距離が離れていた。

その為に。

 

「死人は寝てろ」

 

再び銃声。

所詮は第五架空要素で出来た身体。

何かを遺す事なく、崩れ去る。

カードすらも、残らない。

 

泡滴を無感動に眺め終え、イリヤらの方を向こうとして───。

 

「待ちなさい!」

 

横から、遠坂凛の声。

指先をこちらに向けている。

手には高価そうな宝石が握られている。

 

「なんだい?」

 

「……貴方、何者なの」

 

「何者、ね。言ったでしょ、通りすがりのお兄ちゃんだ、って。イリヤとクロエの兄だよ。俺は」

 

「本当に、お兄ちゃん…なの?」

 

クロエが縋るように呟く。

 

それとは対照的だが。

 

「…………」

 

イリヤは何も喋らない。

どこか怯えが混じっている様にも見える。

 

兎も角、イリヤ達の方へと歩き始めようと足を上げたその瞬間。

 

「ダメですわ!」

 

ルヴィアがそれを制止する。

 

「どうして!?」

 

思わず抗議する。

 

「まだ、話は終わってませんわ」

 

 

「兄なのは置いといて。貴方、どうやって来たの?いえ、それよりもソレ。何処で手に入れたのよ!」

 

「あー……コレ、か…」

 

握りしめた銃をもて遊ぶ。

 

「動かないで!」

 

「ひどいなぁ!」

 

「その銃。私の推測が正しければ、持ち出せる事はほぼ不可能よ。それなのに、何故持っているの?」

 

「貰った」

 

「とぼけないで!」

 

「とぼけて無いよ!貰ったもんは貰ったんだから仕方がないでしょ!?」

 

「じゃあ誰から!」

 

「……メル友?」

 

「あー、ハイハイ。メル友ね。それなら納得……出来るかぁ!」

 

「じゃあどうしろと!」

 

「ソレ置いてゆっくり離れなさい!」

 

「なんでそこまで過剰になるのさ!?」

 

「……だって貴方、なんの感情も抱かずに人を殺せる奴を信用しろ、なんて方が可笑しいとは思わない?」

 

「魔術師なんて俺よりロクでも無い奴、一山いくらで売るほど居るでしょ?」

 

「うっ……それを言われると」

 

「何を引き下がってるんですの!遠坂凛!」

 

「煩いわね!図星突かれたら貴女だってこうなるわよ!」

 

「貴女と一緒にしないでくださいな!」

 

言い争いが勝手に始まった。

抜け目が無い。とでも言うべきか、此方への警戒は忘れていない。

 

敵じゃないんだけどなぁ…。

そう思いながら、イリヤとクロエの方を向く。

 

しかし。そうではない。

 

「おい、カレイドステッキ」

 

「はいはーい、何ですかー?お兄さーん。それとですねー。私の事は!ルビーちゃんとお呼び下さい!」

 

「元の世界に、全員帰れるか?」

 

「うーん、まあ難しいですけど……出来なくはない、です」

 

「今すぐにやれ。間に合わなくなったら知らん」

 

「ハイ?」

 

 

「───来た」

 

 

頭上から、天体が堕ちて来る。

否。正確には天体では無いが……星そのもの、と言っても差し支えない。

 

落ちて来たソレが、城を踏み潰す。

 

踏み潰され、崩れた城の瓦礫が水晶へと変貌していく。

 

「何……アレ」

 

「蜘蛛…?」

 

凛とルヴィアが恐怖に腰を抜かす。

無理もない。

何故ならば、目の前のソレは───

 

「おい!早くしろルビー!全員此処で死ぬ事になるぞ!」

 

「……サファイア!」

 

「わかりました、姉さん」

 

ルビーとサファイア。二つのカレイドステッキが、円の軌跡を描き始める。

足下には、見慣れぬ魔法陣が次々へと展開していく。

この世界の衛宮士郎も陣の中に入っている。

 

……ま、何とかなるだろう。

銃弾を装填する。

 

「お兄ちゃん!?」

 

クロエが叫ぶ。

何をしようとしているのか、察したのだろうか。

 

「ちょっと!お兄ちゃん!どうしてそんなモン弄ってんのよ!」

 

クロエが腕を掴んで来る。

けれど。

 

「悪い」

 

腕を振り払い、魔法陣の外へ出る。

悪いな、俺は一緒には行けない。

血に濡れたこの手で、お前らを抱きしめる訳にもいかないだろうし、俺には為すべきことがある。

 

「お兄ちゃん!待って!お兄ちゃん!」

 

クロエが叫ぶ。

 

「お兄さん!銃を棄てて入ってください!もうすぐ飛びます!」

 

ルビーが真面目な様子で喋る。

銃を捨てろ、と言うのは干渉して飛べなくなるかもしれないからだ。

 

 

 

「───お兄ちゃん…ダメだよ、お兄ちゃんが来たのに、嬉しかったのに、なんだか怖くて無視しちゃったの、あやまるから、ねぇ、いっしょに、いっしょに…帰ろうよ!!!

 

今まで口を閉ざしていたイリヤが叫ぶ。

 

その事に瞠目する。

そんな事気にしてたのか。

ははっ。最後に、悪い事したかな。

 

振り返える。

 

「イリヤ、クロエ」

 

せめて、笑顔で。

 

「ありがとう。出逢えて幸せだった」

 

 

 

 

 

 

「だ─め──!────」

 

誰との声とも知れぬ声が何もない空間に木霊する。

 

「行った、か」

 

大蜘蛛の方を向き直す。

侵食していく水晶の渓谷は、直ぐ近くまで来ている。

 

滅びの確定したこの地球との約束を果たすため。

現状最も滅びの原因に近い俺を殺す為。

 

水星のアリストテレス。

タイプ・マーキュリーが、動きだす。

 

「AAAAAAaaaaaaaaa───!!!!」

 

 

「さて、水星。俺の知っている知識には、少なくともお前は何処かで退場する筈だ」

 

銃を構える。

足が震える。

呼吸が荒くなる。

怖い。

 

人類が逆立ちしても勝てぬ敵。

だけど、この銃の次の持ち主は、コイツの存在を知らない。

 

つまりは、世界の滅びを早めたケジメとして、此処で倒さねばならない。

 

恐怖を呑み込み、引き金に手をかける。

 

「悪いが、此処で俺と心中して貰うぞ。────ORT!!!」

 

 

 

 

 

 

銃弾が、放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「……って事が有ったんだよ」

「そうなのか?」

「そうだよ。だから水星のアリストテレスは居ないんだ」

「………兄は強…なんか違くないか?」

「うーん……彼が銃を握ってからの事しか解らないから…」

「……そうかい。で、そいつは結局どうなったんだい?」

「あ、それはねぇ……」

「あー、自分で聞いといてなんだが…スマン、仕事だ。行ってくる」

「うん、いってらっしゃい、ゴドー」


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ドライ!の鯖化マテリアル

完全にネタ。
一応、ドライ!その後のお兄ちゃんを想定している。



真名 エミヤ

 

クラス バーサーカー

 

召喚時

「……アンタが、俺を呼び出したマスターかい?俺はエミヤ。バーサーカーのクラスで顕現した。え?エミヤはもう三人位居るって?……あー、うん。多分、どれでもないと思うぞ」

 

 

宝具

 

「■■固有結界 ■■■■」

 

 

スキル

 

「根源接続(−)」(喪われている)

 

「■■の一(仮)」

 

霊基再臨

 

一段階目

 

「お?左腕の水晶がそんなに珍しいか?マスター。え?水晶が勝手に動いてる?……仕方ねえだろ」

 

二段階目

 

「人理、か。俺が修復の手伝いなんて、皮肉なモンだよ。え?今なんて言ったか、って?……覚えてないよ。すまない」

 

三段階目

 

「……マスター。あ?この水晶、か?……さて、な。別に、左半身が呑み込まれる事なんて、些細な事だろう。気にするな」

 

最終再臨

 

「……誰、だ?…ああ、マスター、か。そっ…か。……すまん。もう、俺には何も、わからないよ」

 

絆セリフ

 

1

「マスター、か。ああ、大丈夫だ。お前のその手に令呪が刻まれる限り、俺はお前に従おう」

 

2

「うん?何してるのか、って?……そうだな。思い出したくても、思い出せ無いものを考えてたんだ」

 

3

「マスター。俺は誰だ?……そうか、エミヤ、か。うん。そうだよな、うん」

 

4

「マスター。そうだな、手遅れにならない内に俺を座に叩き返した方が良いぞ。……?なんでそんなひどいこと言うのか、だって?いや、今の何が酷いんだ?」

 

5

「マスター。怖いんだ。俺が俺じゃなくなっていくのが。頼むよ。俺が俺の内に、殺してくれないか。え?前にも同じ事を言ってたけど、女の子に止められてた?……は?」

 

 

好きなもの

 

「好きなもの……?うーん…麻婆豆腐…だったような…」

 

嫌いなもの

 

「嫌いなもの……?邪魔する奴と、困らせる奴、かな。え?何の、かって?……さあ?考えた事もない」

 

聖杯について

 

「うん?ああ、掛ける願いなんて無いよ。……聖杯、か。なんか、懐かしい気がするよ」

 

誕生日

 

「誕生日……?そんなものがあるのか…あ、いや。当然だよな。おめでとうマスター。……なんだろうな。感慨深いものがこみ上げるよ」

 

 

会話

 

「え?女の子が近くにいた?……寝ぼけているんじゃないか?」

 

「どうした?俺の左腕が気になるのか?俺も気になる」

 

「抑止力…?いや、俺は…あれ、どうしてサーヴァントになれたんだ?」

 

 

 

イベント

 

「祭り……か。どうするんだ?行きたくないなら行かないでいいし、行くんだったら行く。任せるよ」

 

勝利時ボイス

 

「終わった、か」

 

敗北時

 

「ああ…結局、思い出せなかった……」

 

マテリアル

 

かつて、別の地球を滅ぼした種族の一人。

 

絆1で解放

 

身長 「さて、何だったっけな」体重 左手の水晶の重さによる。

出身 冬木市? 属性 中立・中庸 (星)

性別 男

 

レベル2で解放

 

本人が何故か所有しているブラックバレルは、一体どのような経緯で入手したかは不明。本人曰く、貰ったような気がする、との事だが……

 

レベル3

 

「根源接続(−)」

本来、両儀式「」の様に根源に接続している様な人物が持っている筈だが、この者は根源より得た叡智は摩耗しきっている為に、喪われている。

しかし、両儀式曰く、そんな事では繋がりは断てない、との事。

 

レベル4

 

「■■の一(仮)」

本来、地球の冬木出身である彼が持つ筈のないスキル。左半身を覆う水晶に由来している、とは黄金の王の言。本人は全くその自覚は無い。

時々、再臨状態を変更していないにも関わらず、水晶が消えている時があると、とあるカルデア職員の談。

 

レベル5

 

「■■固有結界■■■■」

大地を水晶で侵食していく、惑星のテラフォーミング。

一度解放したが最後、本人の意思で止める事は出来ない筈だが……?

 

絆礼装

 

「破れた写真」

 

あー、マスター。この写真か?

うん、俺にとって大切な人達が映ってた様な気がするんだけど、見ての通り、破れてしまって、俺しかいないよ。

え?それなのにどうして持っているのか、だって?

……そうだな、なんで何だろうな。

 

 

????で解放

 

彼は良く夢を見る。

サーヴァントは基本的に睡眠を要しないが、彼は眠る。

幸せな想い出に浸る為に。かつての自分を想起する為に、眠り続ける。目覚めた時に、全て忘れるにも関わらず。「本人からしたら実に幸せな夢なんだろうさ。僕からするととっても怖いけどね!」とはとある夢魔の言。

想い出は美しいままに。かつて人類種の百年規模での延命を果たした彼への贈り物である。

 

 

イリヤ

 

「あ、マスターさん。……そう言えば、あの人、良くわたしの事見てくるんだけど……あ!黒髭さんの様な感じじゃないよ!?……ただ、なんか、すごく、哀しい顔してるの」

 

 

「あの子はイリヤスフィール、と呼ぶのか。……不思議だな。会ったこと無いはずなのに。なんだか、無性に懐かしくなるよ。え?俺が泣いてるって?……可笑しいな…」

 

クロエ

 

「うーん、あの人、話があるなら言えば良いのに。ただ見てくる、いや、眺めてくるだけなのよね。……どうしてエミヤって、あーゆー人ばっかなのかしら」

 

 

「クロエ……か。イリヤスフィールの姉妹なんだって?………そっ、か。ああ、いや。こちらの話だよ。だから、今は放って置いてくれないか。頼むよ」

 

天の衣

 

「エミヤ…ええ、あの人もエミヤ、なのよね。格好とかなんてもうキリツグなのよねー!……だけど、雰囲気はオルタの方に似てるのよね」

 

「アイリスフィール?いや、聞いたこと無いな。うん。ああでも、懐かしい気分だよ」

 

エミヤ(殺)

 

「……いや、知らない。別人だ。……だからマスター。僕に手掛かりを求められてもその、困る」

 

「アサシンのエミヤ……?いや、知らないな。と言うか、俺自身、あんまり自分の事覚えてないんだよなぁ……そういえば、なんでだ?」

 

エミヤ(弓)

 

「爺……あ、いや。なんでも無いぞ、マスター。…確かに、知り合いには似て居るが、顔は知らない。もしかしたら、何処かの世界では縁が有ったかもな」

 

「料理、得意なんだって?……麻婆豆腐、って作れる?え?出来るけど気が乗らない?……そっか」

 

エミヤ・オルタ

 

「フン、嫌な奴だ。見ていて吐き気がする」

 

「……同族嫌悪…って奴なのかなぁ…いや、違うな。在り方は似ている癖に、致命的に選択した道が違うんだろうな」

 

キアラ

 

「彼、ですか?……ええ、一度お会いしてますよ。……ただ、今の彼は味気が無さそうですけど。ああ、でも。地球以外の星は、未だ知りませんね…」

 

「殺生院キアラ……?そんな奴と会った事が……?いや、言われてみれば見覚えが……ないな」

 

子ギル

 

「うわ、どうしてこんなのがカルデアに呼ばれているんだろ。どっちかって言うと、敵ですよ、彼ら」

 

「英雄王…?へぇ、それは凄い。うん。……何も出来なかった俺よりは、遥かに凄い」

 

両儀式(剣)

 

「あら。似た様な気配ね……。でも、法則が違うわ。……哀しいヒト、ね」

 

「何か、貴女に似た雰囲気に行った事がある様な…?人に行った事がある、ってのも不思議なものだが」

 

アーサー

 

「……?僕の顔になにか付いているかい?

え、少女?……いや、知らないな。そう言う君こそ、水晶の様に透き通った瞳をした少女が近くで目撃されているけど、どうなんだい?」

 

「お前……なんか、少女に付きまとわれていたりしない?」

 




ヒロインが生えた気がする

それはともかくなんでこんなことしたかって?
SNがあるじゃろ?
いや、冗談だけど


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番外編
夜中、イリヤとクロエと。


R-15は何処までやって良いんだ……?

ドライ兄が辛いからね。仕方がないね。


「お兄ちゃん、まだ起きてる……訳ない、よね」

と言いながらゆっくりドアを開けて部屋に入ってくるイリヤ。

 

先程まで寝ていたし、時計を見ると深夜だ。

そのまま狸寝入りをしてもいい。

だけどそれは嫌なので、ゆっくりと手を上げる。

 

「……!起こし…ちゃった?」

 

ゆっくりと起き上がり、布団を軽く畳む。

それから、ちょうどベッドに腰掛ける形を取りつつ、別に構わないと言う事を伝える。

と言うか、こんな時間にどうしたの。

 

「え、ええっと…そ、それは…」

 

やましい事でもあるのか。それとも言い訳を思いついていなかったのか、言い淀んでいる。しかし、追求する気なんてさらさらない。してどうなると言うのか。

だからイリヤには、おいで、と。それだけ言う。

 

「〜っ!うん、うん!」

 

眠い目でもはっきりとわかるくらいに笑顔を浮かべたイリヤ。

それから、近寄ってきて、寝起きだし、寝汗とか気になるだろうから、隣に座るのかと思いきや、膝に座ってきた。

ちょうど、向き合う形で。

 

「えへへー、お兄ちゃんだー」

 

両手を回し、ぎゅっと抱きしめ、胸のあたりに顔を埋めてくる。

けれど、何処か脆く、危ない感じがした。

その姿を見て、思わず頭に手が伸びる。

 

「お兄ちゃん…?」

 

目を閉じ、その存在を確かめるように撫でる。そうでもしないと、何処かへ行ってしまいそうな、或いは、自分がどうにかなってしまいそうな。そう言う形容しがたい不安に襲われたからだ。

 

「むー…お兄ちゃんはいっつも撫でるだけなんだよね…あ!いや、別に、イヤって訳じゃないよ?違うからね!……それでも、やっぱりもっと……

 

撫でるのは飽きたと来たか。

確かに、そればっかりやっている記憶はある。

しかし、だからと言って他に何をすれば良いのか。抱き締める?「ほえ!?……ぁ…おにーちゃん………えへー♡」うーん、それくらいだよなぁ…他に何をすればいいのか、わからない。

 

困った。

困り果てたので、取り敢えず抱き締めたままベッドに横たわる。

腕を下敷きにしないように、痛くないよう注意しながら、ちょうど横向きの姿勢になる。

 

「………」

 

イリヤは何も言わない。

ふと、再び眠気が襲って来た。

このまま寝ようか。ただ、次の日のセラが怖い。セラ怖いホント。

 

クロエもなぁ…うん。説明が大変だ。

機嫌を取らないといけない。

来てくれれば一番早いんだけど…それはそれでイリヤが拗ねる。

 

どうして、複雑怪奇な事態ではない「お兄ちゃん、誰の事考えてるの?」……か?

 

「ねぇ、何でいま他の人の事考えてるの?誰なの?その人」

 

視線を下にずらしていくと、上を向いている。つまり、此方へ目を向けているイリヤ。

その目は、何時もの赤い瞳だが、何処か闇を感じさせるようなモノだった。

 

「セラかな?うーん…まあ、バレちゃうとたいへんだけどさ、大丈夫だよ?お兄ちゃん。バレなきゃいいんだもん」

 

バレたら困るから考えてたんです。

とは言えども、イリヤの表情を伺うに、本気で何とかなると考えている。

或いは、何とかなる方法があるのか。

 

「もしかして、クロの事だったりするのかな。だったら、お兄ちゃんはわたしの事を見てくれないの?」

 

イリヤの抱き締める力が強くなる。

 

「イヤだよ…そんなの……」

 

とうとう胸に顔を埋めて泣き出してしまった。

 

それでも、離れようとしないのを鑑みるに、随分と信頼されているらしい。

イリヤの心は、弱っていたのか。

気づけなかった自分が嫌になる。

 

このままふて寝する迄放って置く、と言うのも良いのかも知れない。

 

ただ、それをしてしまうのは、大切な何かを失いかねない。

まあ。今からしようとしている事も何かを失うのだろうが。

 

「イリヤ」

 

「……何さ」

 

首の横にある、僅かな隙間に手を伸ばし、顎に触れる。

 

「えっ!?」イリヤも思わぬ出来事に力が緩む。

 

そのまま空いている手でイリヤの身体を支え、抱き起す。

泣き止み、僅かにその目に涙をを湛えるだけの瞳を見つめる。

顎に触れていた手をゆっくりとなぞらせ、親指で下唇に触れ、そのまま下になぞる。

 

「おにぃ…ちゃん……」

 

ゆっくりと顔を近づける。

互いの吐息がかかる位の距離まで近づく。

ピントが合わずにボヤけて見えているイリヤの表情は、熱に浮かれたように真っ赤だった。

 

引き寄せ、お互いを重ねる。

 

軽く、微かに触れる様に。

 

「……っあ…もう、ダメ……」

 

顎にかけていた手を払われ、今度は逆に、強く引き寄せられる。

貪られるように舌を絡め取られる。

 

「んむっ…ぢゅる…っはぁ、っん……」

 

一度、息が苦しくなって離れる。

けれど、間にできた銀の橋を辿る様に、イリヤは追いかけてきて、捕まえられる。

 

「んっ…ぇれろっ…ふぁ……ぉ、兄ちゃん」

 

自分から離れたかと思うと、

振り払われ、手持ち無沙汰になっていた右手を両手で取られる。

 

「おねがい……」

 

取った手を、イリヤは自らの胸に押し当ててくる。

お互い、熱に浮かされていて、どうかしている。

一時の夢と想い、服に手をかけようと───

 

 

 

 

 

 

 

はい!しゅーりょー!おしまーい!お疲れ様でしたー!」

 

 

いつの間にやら部屋に入ってきたクロエ。

イリヤとの間に割って入って、引き剥がされる。

 

「な、なななな……何すんのさクローー!」

 

クロエの両肩を掴み、前後に揺するイリヤ。

 

「ナニすんのさー…はこっちのセリフよ!なーんかヘンな感じするなーと思って心配になって探してみれば!あーもー呆れた!生意気にも抜け駆けなんかしてこのバカイリヤ!」

 

肩を掴む手を払い除けつつ、怒るクロエ。

その表情からは、どちらかと言うと呆れの方が強い様に見てとれる。

 

「抜け駆け!?何よ……何なのよそれ!元はと言えばっ…むー!んむ……っ!?」

 

はいストップ。

 

頭を冷ましつつ、二人のやり取りを眺めていると、イリヤが勢いに任せて取り返しのつかなさそうな事を言いそうだったから、口を手で塞いで止める。

 

「………ま、アンタが何思ってようと自由だけどー?お兄ちゃんは私だけのって言うのには変わりはない……ちょっと、ナニしてんのよ!何口塞がれてトロンとしてんのよ!?」

 

「ん……っん…っはぁ…お兄ちゃん…」

 

塞いでいた掌が湿っていくのを感じる……。

先程ならいざ知らず、冷静になった思考では、口を塞ぐのを止めると言う判断を下す。

……名残惜しそうに見つめられても、困る。

 

「あー!もー!ずーるーいー!……お兄ちゃん!」

 

クロエがこちらを向き、生唾を飲んだ。

そして、両手をこちらの頰に添え、顔を近づけて行き。

 

 

「んちゅ……じゅる…っは、はむ…んっ」

 

クロエに絡め取られる様に、口の中で舌が這い回る。

貪られる様に、強引に舌が絡み合う。

 

「……ん、……っはぁ!…はぁ」

 

「……ハッ!ちょっとクロ!どさくさに紛れてナニやってんの!?」

 

正気に戻ったイリヤがクロエの両肩を力強く掴む。

 

「何よ!そっちだってヤったんだからお互い様でしょ!?」

 

手を振り払って逆に胸ぐらを掴むクロエ。

 

「何よその理屈!わかんない!お兄ちゃんとわたしの邪魔しないで!」

 

「ハァ!?どーゆー事よそれ!?お兄ちゃんと私の邪魔してるのはアンタの方でしょ!?」

 

キャットファイトとが始まってしまった……!

どうしよう。

 

「「お前なん……」」

 

二人共抱き寄せて、横抱きにしつつベットに横たわる。

 

「きゃっ」「ぃやっ」

 

「おにい……ちゃん?」

 

イリヤが意図を問う。

そんなの、喧嘩はいけない。位しかない。

これでおしまい。もう眠いし、このまま三人で寝るよ。

 

「……うーん…まだちょーっと納得いかないけど…まぁ、お兄ちゃんが言うなら…」

 

クロエは渋々賛同の意を示す。

ほら、イリヤもそれで良いね?

 

「……ゎかったよ…むー…」

 

と言いつつも、二人共しっかりと抱きついてきて離さないのは、愛嬌か。

 

取り敢えず、何とかなった……。

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?何か弁明はありますか?変態」

 

「滅相もございません」

 

【私は妹に手を出した変態です】と書かれた紙を持たされている。

 

「ま、まあまあ、セラ。三人で寝てただけだろ?そんな変態扱いしなくても……」

 

「シロウさん。ダメです。彼は有罪です」

 

「あのね、セラ…わたし達は何もして…」

「夜中に喧嘩するのが何もして居ない、と?」

 

「うぐっ」

 

「喧嘩してた……ってなら、仲裁してたんだろ?それを変態って」

 

「……キスから始まる喧嘩って、有ると思いますか?」

 

「えっ」

 

「やばっ」「マズっ」

 

【私は妹に手を出した変態です】と書かれた紙を持たされている。

 

「旦那様にご報告、させていただきますね?」

 

 

 

 

 

 

その後、なんやかんや(サファイア)あって何とかなった。

 

 

 

 



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クラスメイトから見た彼

とあるクラスメイトから見た彼。
それだけ。


この穂群原において、衛宮兄弟と言うのは、話題に事欠かない。……悪い意味で。

 

あの同い年の兄弟の兄。衛宮士郎は兎に角女性運というモノが良い……悪いのか?

まあ、兎も角、だ。

後輩に恋慕の情を寄せられていたり、同学年にも懸想する女生徒も数人居る。牽制しあって告白に至らない、そうだが。

 

転校生にセクハラしといてどう言う訳だかフラグを建てていたのは記憶に新しい。

私を含めて全生徒が疑問に思っている。

これがイケメン……いや、イケメンと言うにはちょっと違うな。ごっついし。

 

それよりも、だ。

 

衛宮兄弟の中で悪名高きは弟の衛宮何某である。最早名前を呼ぶのも憚られる、誰もが口を揃えて言う冬木一のシスコンだ。最も、本人は否定しているがね。

 

彼もそれなりにモテる。

 

それだけなら、ただの嫉妬で済む。

 

おのれ衛宮ども、と。

 

だが、シスコンだと露呈した時、彼の評価はゆっくりと下降を始め、比例的に悪名を馳せていった。

まずは、だ。

 

それは確か、一年の梅雨明けだった。

 

段々と陽が長くなり始め、じめっとした空気も失せ始め、俗に言うカップルがぽつぽつと出てくる頃。

 

彼は朝のHR前に大勢の前で「好きです、付き合ってください」と告白を受けた。

 

その時の周囲の反応は様々だった。

囃し立てるもの、衛宮への非難をするもの。

因みに私は、あ、断ったらめんどい奴だ、策士だな、と思ったよ。

 

彼の思考は斜め上を逝っていたがね。

 

「え、無理。放課後に妹と出かける約束があるんだ」

 

即答だった。

 

「付き合って、ってそう意味じゃないでしょ!」

 

「何考えてんのさー!」

 

呆然とする彼女。

周りはそう言う意味じゃない、と援護のつもりだったのだろうが……

 

「その上で言ってる」

 

とそれを尻目に真顔で返事した時、あ、コイツヤバイ奴だ。と一体となった空気を感じたね。

 

その子はその日、早退した。

ま、無理もないだろうがね。

 

今では別に彼氏が出来てる、との話で何よりだ。

 

その時以降、衛宮はシスコン呼ばわりされる事になった。

 

ま、断る為の方便に妹を引き合いにしたんた。当然だろう、と女性陣は思ってたし、男性陣は合法的に弄れる格好の玩具を見つけた、と思っていた。

 

ま、方便じゃなかったんだけど。

 

放課後に、妹が校門前で待っていたのを目撃した時は、何か違うぞ、と誰もが違和感を抱いたんだ。

だって手繋いでんだもんな。

 

どう見ても血の繋がりの無さそうな女の子と。

 

周りの目を知る知らず、平然とそのまま帰っていく彼を見て、誰もが犯罪の臭いを嗅ぎ取った。

 

 

時々、衛宮士郎も一緒にいた時も有ったが、衛宮士郎の方は手を繋いでいない。

 

だが見てみよう、彼は手を繋いでいる。

 

それにしても、兄の士郎はどうして無反応なんだろう。見慣れているにしても、違和感を抱……かなさそうだな。だって衛宮士郎だ。

 

 

それだけなら話はシスコンでロリコンで終わるが、その件の妹。イリヤ、と言うらしいが……彼女はどうだろうか、と言うと、実に幸せそうな笑顔で手を繋いでいるんだ。

 

一度、親切心からか正義感からかなんなのか、イリヤちゃんに、あのアホと居て危なくないの?変なことされてない?みたいな事を尋ねた人がいたらしい。

 

そうすると、イリヤちゃんは「なんでそんな事を聞くんですか?」と言ったらしい。

 

その人は続けざまに、アイツ、変な事してそうで心配だから。なんかされたりしてない?と言ったのは良いが、それがイリヤちゃんの異常性を確認することになる。

 

「お兄ちゃんになら別に何されても良い。関係ない人は黙ってて」と。

 

普通なら、洗脳か何かを疑うべきなのだろうが、あまりの剣幕に引いてしまったそうだ。

 

つまりはシスコンとブラコンの兄妹、と。

なんと業の深い。

 

一部界隈は騒ついていたけど、個人的にはいつ過ちを犯さないかとヒヤヒヤしている。

 

案外踏み外してたりして。

 

時々、休日などで街で見かける二人は、何というか、その。

恋人同士、とでも言うべき距離感なんだ。

 

どう見ても、普遍的兄妹の距離感ではない。

 

普通に左手で彼女は手を繋ぎ……指を絡めつつ。

 

その上に彼の右腕に自分の右腕を絡め、引き寄せつつ、自分の胸元に押し当てている。

 

どう見ても犯罪ですよ。なにかの現場ですよ、コレ。

 

実際に、警察に声を掛けられる事も結構有ったらしいが、今となっては声すらかけられないそうだ。

 

仕事しろ警察。

お前らの逮捕すべき犯罪者がそこに居るぞ!

 

 

しかし、それすらも噂と斬り捨てるのか、それでも構わない、と言う変人はいるようで、ラブレターが机の中に入っていた事がある、らしい。

 

 

彼は非道にも封すら開けなかった。

故に真偽の程は不明だからだ。

 

ただ、その事に対して詰め寄る者は居なかった。……休んだ子は居たけど。

 

 

ただ、彼の偏愛を悟るにとどまった。

 

彼は異常だ。

ロリコン、とかシスコン、とかの域じゃない。

 

妹以外()()()()()()()()

そう思った時から、彼がとても空虚で、どこか哀しく見えた。

 

兄である衛宮士郎には、健全な対応を見せている。

嫌な事は嫌だ、と言うし、都合の悪い時はちゃんと断る。

 

けれど、妹であるイリヤちゃんには全てを優先している。

 

どんな用事が先にあろうと、必ず妹を取る。

人としては屑そのものの所業だが、彼は余計な心配をさせまいと、その事を一切妹には悟らせない。

 

上手いことやってる、と素直に思った。

 

 

 

 

二年次に妹が増えなければ。

 

 

 

 

あれは夏前だったか。

 

最早コイツを妹ネタで弄らない事が暗黙の鉄則になっていた時か。

 

妹に近づきそうな男、と言うか真性の犯罪者を捕まえただか半殺しにしただか殺してしまった、と言う噂が流れて以降、そんな鉄則が生まれた気がする。

 

それはともかく。

突然、校門で待っている女の子が2人に増えた。

 

しかも良く似た。

 

 

なんでも、従姉妹だと言う。

従姉妹、とは言うが、明らかに対応が自分の妹に対するものである。

 

その事に気づいた時、我々は同じ感想を抱いた。「あ、アイツいつか死ぬんじゃね?」と。

 

それを証明するかの様に、3人で出歩いている光景の目撃例が増えていった。

 

身体は一つしかないのに……妹が2人のとうとう両手にロリの犯罪状態が誕生した。どっちが犯罪者なんだ。

 

一応、見慣れぬ少女を連れ歩いている、と言う事で警察のお世話になったらしい。

従姉妹、と聞いてから生温かい眼をしながら見送る様になったそうだが。

 

ブタ箱にぶち込んどけよ。

汝らの眼は節穴か警察。

 

しかし、従姉妹、か。クロエ、と言うらしい。

 

イリヤちゃんとクロエちゃん。

2人の仲は、あのアホの前では良さそうに見えるが、2人と同じ小学部に妹がいる友人曰く、「どっちが姉なのか」で争ってるらしい。

 

それだけならまだ微笑ましいのだが、やはり、と言うべきか、「どっちが兄に相応しいか」だの「結婚するのはどっちか」だのなんだのとでも穏やかとは言えない争いを日々繰り広げているらしい。

 

 

クロエちゃんもブラコンだったのか。

 

 

 

やっぱお前いつか死ぬって。

 

 

 

 

だが、私は見たのだ。信じられない光景を。

 

あの阿保が、()()()()()()()()()光景を。

 

驚天動地。

正しく青天の霹靂。

空前にして絶後。

 

これ以上ない衝撃。

 

言葉をあまり連ねると、陳腐に聞こえるが、兎に角驚いた。

 

顎が外れたのではないか、と言う程口も開いた。

 

指を絡め!腕を組み!あの!阿保が!女の人!見るからに年上と!!!!

 

しかも公衆の面前でイチャつく。

 

私はこれを好奇心から観察する事にした。

 

あの阿呆の対応は妹に対するソレ、と言うよりは、矢張り何か違う。けれども、女性の方がぐいぐい来ると言うか、なんと言おうか。

 

ああ、アイツ強引に行ったら落とせたんだなぁ、と言う事が判明した。

 

…………今まで、なんだったんだろうな。

 

私は、心底呆れながらその場を後にした。

 

 

その次の日、それはそれとして気になったので、彼に直接聞いてみた。

 

「昨日、妹以外の人と歩いていたようだが、誰なのか?」

 

その瞬間、教室内に緊張が走った。

そして一気に騒々しくなる教室。

 

「嘘だろ……」「ありえん……」

 

「はは、この星も今日限りか」

 

「諦めるのはまだ早い……いや、お終いか」

 

「遺書は……いらないな」

 

教室はまるで今にも終末が来るかの様な光景を描いている。

彼は少しばかり瞠目したかと思うと、腕を組み、「あー……」と頭を掻きつつ、声を漏らす。

 

その様子を見て、教室は益々騒つく。

 

「……もっと、上手いもん食っときゃ良かった……」

 

「到達出来なかったのが心残り…」

 

「こんな事なら士郎に……!」

 

おい、大丈夫か。本当に地球が滅びる訳じゃ無いんだぞ、おい、最後。

 

「俺にも、よくわかんない、んだよな」

 

途端、水を打ったように静まり返る教室。

 

「……と言うと?」

 

私は尋ねる。

 

「何というか、からかわれているのか何なのか。どう接して良いのか良くわかんないんだよ」

 

あ、これ付き合ってねえ。

向こうが物凄い勢いでグイグイ来てるだけだ。

 

「はい、お疲れ様ー」「かいさーん」

 

「良かった、まだ生きてる……!」

 

「放課後になんか食いにいくか」

 

「士郎に……いや、やっぱやめとこ。死にたくない」

 

教室はいつもの喧騒を取り戻していく。

私は何とも言えない気分になった。

 

「でも、見てたのか、人が悪いな」

 

彼が抗議するような素振りでそう話す。

 

「ごめんなさい」

 

私は素直に謝罪をする。

私の勘違いはこれにて終い。

 

コイツはこれからもロリコンでシスコンのド変態だ。

 

……あの女の人には、頑張って欲しい様な気もする。

 

 

 

 

 

 

 



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縁日、花火の日の事。

時系列的にはカレンルートあたりか?多分


「なあ」

 

ソファーに座って漠然とテレビに映し出される映像を眺めて居たら、士郎が後ろから声をかけて来た。

 

「屋台の手伝いに行かないか?」

 

「パス」

 

「おい、世話になっといてそれは無いと思うぞ?」

 

「良いだろ別に…。用事ならこっちもあるんだ」

 

「……カレンさんと縁日行くのか?」

 

「違うよ!?士郎、お前は何を言い出してんの!?」

 

「え?付き合ってんじゃ……」

 

「付き合ってねえよ、今度お前の目の前でこれ見よがしにジャンクフード食うぞこの野郎」

 

「それはやめてくれ……で、本当に付き合ってないのか?」

 

「士郎。お前だってどうなんだ?遠坂とかエーデルフェルトとか間桐とか色々居るでしょ?」

 

「はぁ?なんで今その話になるんだよ?」

 

「……正直こっちが悪かった」

 

「?…結局、行かないんだな?」

 

「そうだ」

 

「そうか……」

 

「なんでお前が残念がってんだよ」

 

「弟の将来だぞ?気になるのは当然じゃないか」

 

「こういう時だけ兄を持ち出すな!第一、人の事言えないぞ士郎!お前が誘える人なんて、それこそ雲霞の如く居るだろうに…屋台の手伝いって…おまえ、お前ー!」

 

「話を逸らすな!俺は心配だったんだぞ!割とモテるのに悉くフってるのが!そしたらあんな人連れて来たんだぞ!?普通その後どうなるか気になるだろう!?

 

「海になんて連れて来てない!偶々居ただけですーぅ!」

 

「偶々で居るわけないだろ!?……と、悪い、そろそろ行くよ」

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

「用事なんてないんだよなぁ……」

 

なんとか時間まで粘る事に成功した。

というかあんな暑苦しい空間に行きたくない。

良い人、なんだけどなぁ、親父さん。

 

昼寝、でもしようか。

イリヤとクロエは美遊ちゃん達と遊びに行くし…それに、いろいろ疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドアがノックされる音で飛び起きる。

どうぞ、と声をかける。

 

そうすると、浴衣を着たイリヤ。

ん?……浴衣?セラか?

 

「うん!そうだよお兄ちゃん」

 

くるっと一回転して浴衣を見せるイリヤ。

へー、セラ、そんな事も出来るのか、と感想を抱くが、それと同時にある種の違和感を感じ、じっと見つめる。

 

「な、なに…?」

 

………帯、緩くない?と言うより変じゃない?

 

「え?そ、そうなのかな」

 

うん。これじゃあ少しの衝撃……で

 

帯を軽く叩いた途端、物理法則を無視した様に弾け飛ぶ浴衣。

露わになる裸の肢体。

 

つまり。

 

「……下着、穿いてない、のか。……誰から聞いたのか知らないけど、それ、デマだぞ」

 

「えー!そうだったのー!?」

 

驚くイリヤ。本当に知らなかったと見える。

 

「と、取り敢えず…穿いてこな…」

 

弾け飛んだ浴衣を羽織って外に出ようとするイリヤ。

 

「あー!待て待て待て!そのまま出るのはマズイ!万が一セラに見られたら死ぬ!一回着ないと」

 

慌てて引き止める。

バレたら不味い。

イリヤに何かしたと確実に認定される。

 

「あっ、そう、だね……でも、わたし、着付けできないよ?」

 

自分がやるから、イリヤは手を広げて伸ばすように、と言うことを伝える。

 

「お兄ちゃん、出来るの?」

 

「当たり前だ。セラに出来て俺に出来ない事は無い……料理以外は」

 

「アハハ……うん。おねがいする……ねっ」

 

立ち上がろうとすると、イリヤが飛びついてくる。

 

「……イリヤ?」

 

軽く浴衣を羽織っているだけなので、捉えようによっては扇情的な格好。

左手を此方の頭へ回し、右手は頬に添えられる。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。わたしじゃ、その……ドキドキ、したりしないの?」

 

熱を帯びた表情から漏れ出る吐息がかかる程の距離。

僅かな膨らみが胸板に当たる感覚。

 

だがしかし。

 

「……これから縁日だぞ?」

 

「うっ……それを言われると…」

 

途端自信がなくなる様に見える。

 

「……取り敢えず、着せるぞ?」

 

「ハイ……」

 

素直に引き下がるイリヤ。

ひとまず、回避したと言えるだろう。

 

「あ、お兄ちゃん、お、思い出したんだけど、わたしの下着、そこにある……から…」

 

「は???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、ホントにどこで覚えたの……」

 

我ながらよく出来たと思える着付け。

帯は叩こうが引っ張ろうが弾け飛ぶ事はない。

 

……取り敢えず、下着は穿くという事、伝えてこいよ

 

「うん、わかったよ。お兄ちゃん」

 

「楽しんでこいよ」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

「行ったか……」

 

危なかった。

あの流れは確実に危なかった。

縁日の後だったら押し切られてたかもしれない。

ホント、流されやすいよなぁ…俺。

 

もうこんな事ありませんよう……

目を閉じる。

 

 

 

 

 

「失礼、一つ伺いたい事があります」

 

「セ、セラ?」

 

ドアが強く開けれる音で思わず目を醒ます。

其処にはセラが口だけ笑った表情で立って居た。

 

「浴衣の下に着物を穿く、という知識をイリヤさんに教えたのは、言うまでもなく、貴方ですよね?」

 

言うまでもなく。

それは裏が取れた、という事。

下手に否定せず、きちんと肯定する。

 

「それに関しては構いません。何故その話を知っているか、も問いません。何かある前に知る事が出来て安心しました」

 

「じゃ、じゃあ、なんの用事で此処に来られたのでしょうか」

 

そうだ。問わない、と言うのならば此処に来る理由が無い。

 

「帯の結び方が悪かった……ええ。紛れもなく私の落ち度です」

 

「………あっ」

 

「「わたしはもう穿いたから大丈夫」なんて言われると、話は変わってきますよね?」

 

 

 

 

 

「おや、どちらへ?」

 

「ちょ、ちょっと、水を飲もうかと」

 

苦しい言い訳をしながら、ベットに放り投げている携帯をゆっくりポケットに入れる。

 

「ご安心ください。二度とそんな事もする機会はないでしょうから」

 

「えっ」

 

「旦那様は「イリヤに手を出す輩は、例えそれが自分の息子でも殺す」と言明されてますので」

 

「……弁護人は」

 

「ロリコンでシスコンの変態にそんなもの、居るとでも?」

 

「……そんな事をして良いと?」

 

「イリヤさんの身の安全が最優先です」

 

「さらば!」

 

網戸を開け、窓から飛び降りる。

 

「あっ、待ちなさい!」

 

 

 

 

やや高いとは言え、無事に着地に成功した。

 

待てと言われて待つ馬鹿は居ない。靴も履かずに出て行ったが、ほとぼりが冷めるまで……冷めるのいつだ?

 

兎に角走る。

 

夜のくせに地面が熱い。

裸足で歩く変質者の誕生である。

縁日だか祭りだかで人が集中しているので、ちょっと路地を外れたら人目は皆無に等しい筈だが、寝てる間に花火が終わったのか、人が割と色んなところに居る。

 

 

靴が欲しい…けど、財布置いて来たし、どうしよう。

電話は有るけど。

 

このまま官憲のお世話になったら……お?

 

 

「この真夏、裸足で歩くとは……とうとう其方の趣味まで目覚めたのですか?」

 

 

これには深い事情が……

 

 

 

 

「……事情は把握しました。なんと言いますか、本当に救い難いですね」

 

カレンに連れられ、彼女の家へと着く。

なんだかんだで、人目を避けてくれたのは彼女の僅かばかりの優しさなのだろうか。

 

椅子に座って、ある程度隠すが、事情を話す。

話を聞いたカレンは、頭が痛い、と言わんばかりに頭を抱える。

 

「まあ良いでしょう。ほとぼりが冷めるまで、此処に居ても構いません…ああ、外に出ないでくださいね?もしも生徒の親に見られると色々と面倒ですから」

 

ああ、そう言えば教員だったな。

 

 

「……それにしても… 貴方から…」

 

?どうかした?

 

「いえ。こちらの話ですよ。靴は……要りませんね。ほとぼりが冷めるまで居れば良いのですから」

 

いや、サンダルくらい欲しいんですけど。

 

「知りません。さて。足の裏、見せて下さい」

 

はい?

 

「ですから、火傷してるでしょう?処置しますから」

 

何処からか取り出した救急箱。

中身は異様に豊富な種類が取り揃えられてある。

保健医だったか。

 

「ええ、ですから」

 

それなら…うーん…はい。

多少の羞恥は有るが、医療処置と割り切って足を出す。

 

「あら。思ったより……つまらないですね」

 

途端表情を暗くするカレン。

 

「そこまで酷くはないです。軽度、と言ったところですね。消毒だけで大丈夫そうです」

 

そう言うと、慣れた手つきで消毒液を含ませたガーゼで拭いてくる。

エタノール独特の刺激が、足の裏にしみてちょっと痛い。

 

「ふふ、そんな顔もするんですね…次いでです」

 

と言いつつ足の裏に指先を食い込ませてくる。

途端走る激痛。

思わず声を上げる。

 

「足ツボマッサージです」

 

絶対違う!なんか別の痛っ!痛い痛い痛い!

 

「……ふくらはぎ、揉みますね」

 

うん…?うん…

慣れた手つき、とは言い難いが、打って変わって優しく揉みほぐしてくる。

 

「……意外としっかりしてるんですね」

 

そりゃあ、イリヤとクロエ抱えて走る時があったら困るし。鍛えないと。

 

 

「貴方の行動原理は……ハァ」

 

溜息を吐きつつも、その手は休む事はない。

太腿に差し掛からずに通り越して、ズボンの裾に入り、鼠蹊部へと近づく。

 

あの、すいません。

 

「何ですか?」

 

そろそろ……その、ねえ?

もう良いかなー?って思ったりして

 

「すみません、そう言う行為では無いので……」

 

「だからだよ!?もう良いですよ、十分ですから」

 

「むう……わかりました」

 

と言いつつも、手は一向に引かずに、寧ろ……

 

「わかってない!わかってないでしょ!?」

 

「はて?何の事……ハァ」

 

自分の電話が鳴る。

確認すると、自宅とある。

 

「……出ても良いですよ…むぅ」

 

漸く手が引いていったのを認めると、電話に出る。

 

《おお、今どこだ?……セラ、怒ってたけど、なんかしたか?》

 

《してねえよ》

 

《だよな!ま、説得はしといたぞ。靴も履かずにどこに行ったんだよ?みんな心配してるぞ?イリヤ達なんか探しにいっちゃって…まあ、セラ達が行ったから大丈夫だとは思うが》

 

《……知り合いに会って…まあ、家に》

 

《知り合い……?お前に知り合いなんて居た……ハッ!今日は泊まりか?》

 

《違うわ!》

 

「えっ…あんなにも…熱かったのに…?」

 

何もしてねぇ!

 

《……へぇ、水臭いじゃないか!……よし、こっちは任せろ。上手いことするよ》

 

《おい!そんな事はしなくていいから!おい!おい……》あの野郎後で覚えとけ

 

 

「据え膳喰わぬは……何でしたっけ?」

 

「……俺は、兄だ。2人の兄ちゃんなんだ。こんな事に耽るわけには……」

 

「(あの小聖杯、無意識に暗示でも掛けたんでしょうか?)今は…今だけ、忘れてもいいんですよ?」

 

「う……う、ぐぐ…」

 

「好きにしても……良いんですよ」

 

ワイシャツのボタンを自分から数個開ける。

扇情的な黒いランジェリー、とでも言うような下着が見える。

 

強気に言っているが、その実顔は紅潮しているし、横に逸らして目を合わせない。

しかし、その事が一層……

 

「せめて優しく……してください

 

最後の方は消え入る様に小さくなって行く。

理性をフル動員させるも、微かに漂う色香に理性が奪われていく。

 

その時。

鳴り響くインターフォンの音。

 

何度も。何度も。

 

連打される。

 

 

「……チッ」

 

カレンは舌打ちをすると、ボタンを留め直し、玄関のドアを開けに行く。

 

「はい」

 

「あ!どうもカレン先生!ここにお兄ちゃんいるって聞いて来たんです!」

 

イリヤの声が聴こえる。

 

「どうして此処を?」

 

「将来、アンタが泥棒するかも、と思って…ね?藤村先生にちょっと適当な事言えばすぐ教えてくれたわ」

 

「あの人ですか……ハァ」

 

どうやらクロエも居るようだ。

玄関に向かう。

 

「お兄ちゃん!大丈夫だった!?」

「まだ何もしてないわよね!?」

 

2人は浴衣姿のままだった。

花火が終わって、家に帰った後、そのまま来たのだろうか。

 

 

「素直にシた、と言えばどうです?」

 

カレンが路傍の石を見るかのような目でこちらを見つめる。

 

「それは無いわ。お兄ちゃんの事は一眼見ればわかるもの」

 

「……余計な所で…」

 

ますます表情に冷たさが走る。

 

「ほら、お兄ちゃん。靴、持ってきたよ!ほら、こんなところにいないで帰ろっ!」

 

イリヤに手を引かれる。少し体勢を崩すが、サンダルを履いて外に出る。

 

「ほらほら、お兄ちゃん!こっちよ」

空いていた手をクロエに掴まれ、2人に同時に引かれ、家路へと強制的につくことになる。

 

ふと、カレンの方を見る。

一瞬、目の開きが大きくなり、僅かに微笑んで、「また来てくださいね」と。そんな事を言った。

 

「ほらお兄ちゃん!耳を貸さない!イリヤ、早く連れて帰るわよ!」

 

「クロに言われなくてもそうしますよーだ」

 

 

 

 

途中、セラとリズと合流する。

やはり、セラからは塵を見るかの様な目を向けられる。

リズはどうでも良さそうだ。

 

「もう、セラお姉ちゃん、お兄ちゃんはそんな事してないってさっきから言ってるでしょ」

 

「そんな事はないでしょう?イリヤさん。貴女が着付け出来ないのは知っています。それなのに着直して尚且つ帯をしっかり締めてくるなんて、この変態以外に居ません」

 

「別に良いでしょ、お兄ちゃんがどうなんて。問題はこの暑い中追い出すのが悪いのよ。流石にセラ、やり過ぎじゃない?」

 

部が悪くなって来たイリヤの代わりに、クロエが話をすり替える。

 

「旦那様ならもっと強い対処をしたと思いますが?」

 

「パパはそんなセラお姉ちゃんみたいに頭の固い人じゃ無いと思うなー」

 

イリヤがすかさず口を挟む。

でも割と固いと思う。

 

「……それは…」

 

「お、居た居た。こんな所に居たのか」

 

士郎の声がする。

 

「「士郎お兄ちゃん!」」

 

「あー、何だ。見つかった、んだな?」

 

「うん!」

 

士郎の確認に

イリヤが元気よく返事を返す。

 

「そっか……」

 

何故か憐れむ様な目をこちらに向ける士郎。

だから誤解だって。

 

「よし、帰ろう。セラもそんな怒らないでさ。結局、何かした訳じゃないだろ?」

 

「それは、そうですけど…」

 

「なら良いだろ?とりあえずはさ。ここら辺の人の迷惑になるから帰るぞ」

 

有無を言わせぬ様に丸め込む話術。

我が兄ながら実に素晴らしい。

 

「ほら、行こうぜ」

 

そのままセラの手を取る士郎。

お前ほんと刺されるっていつか。

 

「な……なな」

 

「シロウ、たらし」

 

「たらしって何だよリズ!?」

 

「いや、否定は出来ないかも…」

 

「イリヤもか!?」



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兄との出逢い

そう言えば書いてなかった


 

 

 

 

 

とつぜん、ママが「一緒に暮らす事になった」なんていって、パパといっしょにしらないひとをふたり、つれてきた。

 

こわい。

 

でも、ママもパパもむこうにいる。

どうしようもなくなっちゃった。

 

セラとリズは、おかいものにでかけたらしくて、いまはいない。

こまっていると、ひとりこっちにくる。

 

「えーと…怖がらせちゃった、かな?」

 

わたしのまえでしゃがんだそのひとは、こまったかおをしてた。

 

「はじめまして、イリヤ。僕は……うん。君のお兄ちゃん、になるのかな?」

 

「おにい……ちゃん?」

 

「うん。お兄ちゃん」

 

おにいちゃん、っていうのが、ちょっとよくわからない。

 

でも、やさしそうなひと。

 

「ああ、あっちのは士郎。ほら、こっち来いよ士郎」

 

「あ、ああ」

 

あかいかみの、しろう、ってよばれたひとがくる。

 

「ほら座れ。それと挨拶も」

 

「はじめまして。オレは士郎。よろしく!……なあ、ところで、オレの方が兄貴なのになんか納得いかないんだけど」

 

「別にいいじゃないの、 士郎。お前もお兄ちゃんなら、それくらい気にしない、気にしない。俺がそっちの立場だったら気にしないぞ」

 

「そうなのか?」

 

 

 

「しろうも、おにいちゃんなの?」

 

おにいちゃんってなんだろう。

いっぱいいるの?

よくわかんないや。

 

「そうそう、士郎お兄ちゃんって呼んでやれ」

 

「しろう、おにいちゃん。……これでいいの?」

 

「そそ。それで良いの」

 

「よろしく!」

 

しろうおにいちゃんがてをのばしてくる。

 

「ああ、そういう時は握手するもんなんだよ、イリヤ」

 

おにいちゃんがわらいながらおしえてくれる。

 

「ほら、僕とも」

 

てをのばす。

そういうものなんだな、っておもって、わたしはあくしゅ?をする。

 

 

 

「大丈夫そうだね、アイリ」

 

「ちょっと心配したけど、ええ」

 

 

 

ちなみに、わたしがお兄ちゃんってのがなんなのか、理解するのはもうちょっと後の事だった。

 

 

 

 

 

この事から、ちょっと過ぎた頃。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、あーそーぼー!」

 

「うん?何するんだ?」

 

「うーん…おままごと!」

 

「オーケー、士郎は……何してんの」

 

「ちょっと料理の練習を……」

 

「鬼の居ぬ間になんとやら、ってヤツか。焦がさないでよ?」

 

「焦がさねーよ!?いつの話してるんだよ!」

 

「はは、悪い悪い。頑張ってくれ」

 

「勿論だ」

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

士郎お兄ちゃんと話こんでる所悪いけど、わたしにもかまってほしい。

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 

 

 

お兄ちゃんはみんなにやさしい、すごい人。

 

わたしにもちゃんとやさしいし、わがまま言っても、なんだかんだで聞いてくれる。

 

わたしがお兄ちゃんのやさしさに甘えてる、ってのは、良くセラに注意されるけど……。

 

そんな時にも、お兄ちゃんは「気にするな」って後で言ってくれる。

 

おおきくなったら、お兄ちゃんみたいな人と結婚したい……ううん。お兄ちゃんと結婚したいなー、なんて思う。

 

だから、おもいきってお兄ちゃんに言ってみる!

 

「お兄ちゃん」

 

「うん?」

 

「わたしね、おおきくなったらお兄ちゃんと結婚したいな」

 

一瞬、お兄ちゃんは驚いたような顔をしてから、優しくほほえむ。

 

「ああ、待ってるよ」

 

そう言って、頭をなでてくれる。

えへへ、お兄ちゃんもわたしと結婚したいって!やった!

 

 

「……嘘…だろ…」

 

「父さん!?帰ってきたのか!?」

 

士郎お兄ちゃんの声も気にせず、真っ直ぐお兄ちゃんの方に向かうパパ。

 

「僕はね」

 

「お、おう」

 

「イリヤと結婚する男は、どんな男でも消すと決めているんだ。例えそれが、自分の息子であろうと例外ではない」

 

「なんだそれ!大人気ないぞ親父!肩を掴む手が本気だぞ!痛い痛い痛い!目が怖い!本当に殺す気か!?」

 

 

「…………じゃあ「もう!パパ!お兄ちゃんをいじめないで!」

 

 

「イ、イリヤ……」

 

「そんな事するパパなんてキライ!」

 

パパも好きだけど、大好きなお兄ちゃんをいじめるパパは嫌いになっちゃうもん。

 

「な……」

 

「今のは……確かに大人気ないわね、キリツグ」

 

「アイリ……」

 

「もう…まだイリヤはちっちゃいのよ?第一、こーゆー時期は誰にでもあるわよ」

 

「僕は、僕は……」

 

「それとも、もしかして言われたかったのかしら?」

 

「うっ」

 

「……ホント、わかりやすいんだから、もう。ほら、謝って。嫌われちゃうわよー?」

 

 

「……ごめん」

 

「わたしじゃなくて、お兄ちゃんに!」

 

「…………すまなかった」

 

「…う、うん。良いよ……うん」

 

 

「パパ、もうお兄ちゃんの事いじめない?」

 

「あ、ああ。いじめないよ、イリヤ」

 

「ふーん…ならパパもすきー」

 

「イリヤ…!」

 

「おひげ痛い」

 

 

だっこするのはいいんだけど、おひげ痛いのはヤダ!

 

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 

 

「キリツグったら……あら、シロウ。セラに内緒で料理?」

 

「内緒って……いやまあ、そうだけどさ」

 

「ちょっと食べちゃおっかなー……あら、上手」

 

「練習してるからな」

 

「なんど黒いの食った事か……」

 

「あん時は悪かったって、オレも未熟だった」

 

「失敗はなんとやら、だし。気にしてねーよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時、わたしは迷子になった。

 

パパはお仕事に行っちゃったけど、ママやお兄ちゃん達一緒にお祭りに来てた時、想像以上にすごい人で、はぐれてしまった。

 

たくさんの人に紛れて、方向がわからなくなるし、人に押されて自分で思った方向とはぜんぜん違う所で押し流されて行く。

 

 

人混みから弾き出される。

流れ行く人は、わたしなんかには目も止めない。

 

今ここはどこなのか。

辺りを見回す。

 

ますます、わからなくなる。

 

 

「何、ここ……どこ?どこに行けばいいの…?」

 

「ママ……?お兄ちゃん……どこ…?」

 

 

ママやお兄ちゃんの事を呼んでみるけど、と結局変わらない。

 

「士郎お兄ちゃん……セラお姉ちゃん…リズお姉ちゃん……みんな…」

 

わたし、どうなるんだろう。

帰れるのかな?みんなにまた会えるのかな?

 

不安で胸がいっぱいになる。

どうしようもなくなって、涙が溢れてくる。

 

「こわい……こわいよぉ……」

 

あんなに人が居るのに、ここにはわたし一人だけみたいな感覚がして、とっても寂しい。

 

ああ、帰れないんだ。もう会えないんだ。

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、心配かけた」

 

よく知ってる声が聞こえてくる。

涙を拭って、顔を上げる。

 

「おに……いちゃん…!」

 

 

お兄ちゃんは、駆け寄るわたしを力強く抱きしめてくれた。

 

お兄ちゃんの温もりに包まれて、安心からか涙が出てくる。

 

「こわかった……こわかったよ…」

 

「だろうな、こわかったよな。うん、俺が悪かった」

 

「おに…いっ……「あー、わかったわかった。わかったから。な?抱っこしてやるから、帰ろう」

 

「………」

 

あんまり声が出ないから、うなづいて返事をする。

 

 

お兄ちゃんはひょい、と簡単にわたしを持ち上げる。

 

ちょうど、お姫様抱っこに近い。

 

ホントは恥ずかしいハズなのに、今はなんだかそんな事はなくて、安心した、って気持ちの方が強かった。

 

 

しばらくして、わたしもだいぶ落ち着いてきて、心配してた事を聞く。

 

「ねえ、お兄ちゃん。……叱らないの?」

 

「なんだ、叱って欲しいのか?」

 

「いや……そういうワケじゃ…ない、けど……」

 

「はぐれたのはイリヤが悪いワケじゃない。ちょっと油断してた俺が悪いんだ。どうして俺が叱れるんだよ」

 

「……そう、かな」

 

「だから気にするなよ」

 

「………」

 

とは言うけど、やっぱり、心の中でモヤモヤしたような、胸が痛いような、不思議なものを感じる。

 

叱って欲しかったのか、なんなのか。

自分でも、なんて言えばいいのか、なんだかよくわからない。

 

「……そうだな」

 

お兄ちゃんが真剣な顔をする。

 

 

 

「側にいるよ、俺が」

 

「え?」

 

「イリヤがもうはぐれないように、怖がらないようにさ。俺がずっと側にいれば、こんな事、起きないだろ?」

 

「そばに……」

 

「うん、そう。もう、一人にはさせはしないよ。だから、イリヤもどこかへ行かないでくれよ」

 

 

「そばに…そっか。 ずっと一緒に……」

 

心の中のモヤモヤがきれいになっていく。

 

お兄ちゃんがずっといっしょにいるって言ってくれたのが、なんだかとっても嬉しくて、自然と笑顔になる。

 

「うん、行かないよ、お兄ちゃん。わたしも、ずっと、ずーっとそばにいる!」

 

「ああ、そうしてくれると嬉しいよ」

 

 

お兄ちゃんが笑った。

お兄ちゃんのそんな笑顔をみると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。

 

「お、居たのか!」

 

まばらになって、もう人混みとは言えない場所に、士郎お兄ちゃんが居た。

 

「ああ、居たぞ」

 

お兄ちゃんはそう言うと、わたしを下ろしちゃう。

 

名残惜しいけど、お兄ちゃんは立ち上がっちゃった。

せめて、と思ってお兄ちゃんの手を握る。

すると直ぐに、お兄ちゃんは握り返してくれる。

 

「イリヤ、無事だったか?」

 

「うん、わたしは大丈夫だったよ」

 

士郎お兄ちゃんは、わたしの近くに来て、そう聞いて来た。

 

「心配したんだぞ?」

 

「うん、ごめんなさい」

 

「よし、ちゃんとごめんなさいが言えるならいい。向こうに母さんたちも居ると思うから、二人共行こう」

 

士郎お兄ちゃんに案内されて歩く。

 

お兄ちゃんはゆっくりとわたしに合わせて歩く。

手を繋いでるからあたりまえなんだけど。

 

 

そのあと、ママたちと合流した。

当たり前だけど、みんな心配していた。

 

ママがちょっと泣いていたのが、ああ、大変なことだったな、と改めて思った。

 

 

 

お兄ちゃんが見つけてくれて、本当に良かったと思う。

それと……いっしょに、えへへ。

 

思い出すだけでなんだかにやけちゃう。

 

そんなわたしは今、お兄ちゃんといっしょに寝てます。

 

今日はお兄ちゃんといっしょに寝る!って言ったら、ママはちょっと悲しがってた。

 

「悲しいなー、イリヤはママよりお兄ちゃんの方が好きなのねー…」

 

なんて言われたら、ちょっと困っちゃう。

 

確かに、ママも好きだけど、ママへの好き、とお兄ちゃんへの好き、ってなんか違うような気がする。

 

そこらへんをうまく言えなくて、あたふたしちゃったけど、士郎お兄ちゃんが「まあ、あんな事も有ったし、イリヤの好きにさせてやればいいじゃないか?」って言ってくれたお陰でなんとかなった。

 

「えへへー…お兄ちゃん」

 

「うん?どうした?」

 

「何でもないー、呼んだだけー」

 

「はは、こやつめ」

 

お兄ちゃんが頭を撫でてくれる。

それだけでなんだか幸せなキモチになる。

 

「ほら、もう寝るぞ」

 

「はーい」

 

お兄ちゃんに抱きつく。

すると、お兄ちゃんも抱きしめてくれる。

 

今日は、よく眠れそう。

 



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深海電脳楽土

「ここ、は?」

 

辺りを見渡す。

床は透き通っていて、透けて見える底は深海の様に深く、暗く……いや、事実深海か。

先に泡が浮かんでいる。

 

天井は光の届かぬ暗闇。

床が大規模な光源と化していなければ、辺りはとても見れないだろう。

 

 

「……感覚に齟齬がある」

 

左手は無い。

右手の動きに若干のズレが有る。

 

「パスは健在、されどマスターは見当たらない、ふむ。何らかのイレギュラー状態だと推察される、か」

 

銃は取り出せる。

問題は無い。

 

「それに知識も不十分。抜け落ちてる部分がある、か」

 

恣意的なものを感じない、と言うわけではないが。

 

一先ず、召喚者を捜索する事にしよう。

 

 

床に接地する足裏の感覚は、ガラス張りの天空床を踏んでる様で───といっても靴越しだが。

 

「む」

 

タコのような、イカの様な。帯状の物が垂れ下がったなにやらよくわからない物体が数台、隊列を為して佇んでいる。

 

「敵、か?」

 

まあ良い。取り敢えず撃ってみよう。

当たれば死ぬし。

狙いを定め、引き金を引く。

 

「アレ?」

 

死なない。いや、効いてはいるんだろう。

ただ、わかったことがある。

 

「アイツら、第五架空要素で出来てねぇ……」

 

その証拠に、生き延びた二体がこちらへ迫ってくる。

 

「クソッ、左手は……無いんだよなぁ…」

 

銃が効かなかった相手を確実に屠る為の左腕。だがどういう訳かな、そんなものない。

 

「マズイマズイマズイ!!!つまり今の俺は普通の人間と変わらねぇぞ!」

 

耐久力はゴミ。

一部の輩に対してちょう強い銃を持ってるだけ。

しかし効かないので火力はゴミ。

何で召喚された、俺。

 

「お、座に帰る時間か。早かったな」

 

迫り来る触手。

世界がスローに見える。

それは正確に我が脳天を貫こうとして───

 

「セイッ!」

 

背後から突如として現れた、白銀の騎士が、大剣にてその触手を斬りとばした。

 

「お?」

 

斬り飛ばした勢いそのままに、横薙ぎに斬りつける。

目の前の敵は、颯爽と現れた騎士によって退治されたのだった。

 

「お怪我は?」

 

爽やかな笑みでこちらへ安否を問う騎士。

男の俺でも惚れてしまいそうな、ないけど。

優雅な所作だった。

 

「ああ、大丈夫。無事だ。助かったよ、えーと……」

 

 

「ガウェイン、と申します」

 

「おお。ありがとう、ガウェイン」

 

「いいえ、礼には及びません」

 

ガウェイン。

確か円卓の騎士の一人。太陽の現し身のガラなんとかってのが得物だった様な。

 

「えーと、貴方は一体?」

 

「……カルデアのマスターか」

 

ガウェインと背後から合流する様にやってきた四人。赤髪と、狐?と愉快な黒人枠と脚が槍っぽいの。あと人間。そいつは、知識によるとカルデアのマスター、らしい。

 

 

「俺は……エミヤ。クラスはバーサーカーだ」

 

「えっ」「おや」「ムム」「はぁ!?」「ポロロン」「……」

 

エミヤ、と名乗っただけでこの反応。

どうも同姓の同僚がいる様だ。

 

「エミヤ……うーん…」

 

「なんだ、知り合いにエミヤがいるのか?」

 

「はい、まあ……いるって言うか、彼がエミヤって言うか……」

 

「ならバーサーカーで良い」

 

 

「キャットは異議アリ!ワタシとネコ被っているのだナ!そのままボブはデミヤで良いのだな」

 

「オイ貴様……」

 

デミヤ、と言われたボブがあからさまにキレ……まてコッチにもキレてないか?

 

 

「ホントよ!!」

 

足が槍っぽい少女が何故かキレ気味だ。

 

「なんなのよエミヤって!どんだけ増えれば気がすむのかしら!!」

 

「あー……悪い」「悪かったな、増えて」

 

俺は兎も角、同じくエミヤ、と呼ぶであろう男が少し機嫌が悪そうになっている。

 

「いや、エミヤもオルタも誰が悪い訳じゃないからね?」

 

「そうです。気に病む必要はありません」

 

向こうはオルタ呼びになりそうだ。

他にオルタ居たらどうするつもりなのか、わからないけど。

 

「すまんな……えーと」

 

「藤丸立香です。あっちの狐っぽいのが」

 

「タマモキャットだ!よろしくなのダナ」

 

「で、赤髪のがトリスタン」

 

「ポロロロ-ン……」

 

「まあ察してるとは思うけど、彼がエミヤ・オルタ」

 

「………」

 

随分と嫌な目線を送ってくる彼。

初対面のアンブッシュが致命的に悪かったし、仕方ないね。

 

 

「で、最後が……メルトリリス」

 

「最後ってなによそれ。もうちょっと相応しい紹介があるんじゃないかしら?」

 

「ゴメン、どう説明したら良いのかわからなくて……」

 

「あらそう。ま、当然よね。アルターエゴですし?最後に回しても……」

「すまん、アルターエゴってなんだ?」

 

「……はい?」

 

なにやらクラス名っぽいが、生憎と現在の自分にはわからない。

与えられた知識が随分と適当だからだ。

 

「……そんな事も、あるのですか。流石に私でもそこまで酷くはありませんでした」

 

 

楽器を弾く手をやめて口を開くトリスタン。

わりと良い声をしている。

 

「あるも何も……そうだな、藤丸立香。召喚者も何処にいるかわからないが……同行しても良いか?」

 

「待って?召喚者が居るの?ここに?」

驚いた顔をした藤丸立香が疑問を呈する。

 

「いや、パスはあるがマスターは見当たらない、からそう判断しただけだが…」

 

『BB───、ちゃんねる───!』

 

突如として視界が変わる。

なにやらBGMがかかり、たちまちニュース番組の様なセットの前に少女が立っている。

 

「もう!ダメですよ黒くない方のエミヤさん!ネタバレはいけません!」

 

「黒くない方の……って」

 

エミヤ・オルタと安直に比較されてしまった。

俺は兎も角、彼はなんと思うか。

 

「今回は見逃しますが、次回からはペナルティですからね?わかりましたね!」

 

「それではー!また次回ー!」

 

視界が元に戻る。

なんだアレ。

BBちゃんねる……?

 

 

「えーと……」

「だ、そうだ。これ以上の詮索はいけないらしいぞ、藤丸立香」

 

「うーん……今は心配だけど、わかった!よろしくね、エミヤ!」

 

「え?コイツ連れてくの?」

 

メルトリリスに異論を唱えられた。

言わずとも、なにが言いたいかはよくわかるが…。

 

「火力もゴミ、耐久もゴミで悪かったな!ホントにすみません!だからその目ヤメて!?」

 

「ダメダメなのだワン」

 

「気に病むことはありません。貴方も一廉の英雄なのです。もっと誇りを持ってください」

 

「ガウェイン……」

 

円卓の騎士はこんなにイケメンだったのか。

俺が女だったら思わず惚れていたね。

なお下半身事情は知らん。なんだこの知識。

 

「大体、キャラがダダ被りの上にそんな役に立たない銃なんか……」

 

「メルトリリス、お願い!」

 

「もう!良いわよ!着いて来たければ勝手にすれば良いでしょ!?」

 

プイ、と横に顔を逸らしてしまったが、同行しても良い様だ。

 

「このガウェイン。どうして貴女が決めている風なのかには全く理解が及びませんが……何はともあれ、よろしくお願いします、エミヤ」

 

「ああ、上手くやるさ。所で、そちらはどう言う状況なのかな?」

 

「あー、それはね……」

 

「此処では何ですし、教会に戻られては?」

 

ガウェインの意見。

どうやら教会がこの不思議な空間にはあるらしい。

 

「あ、賛成」

 

藤丸立香も賛同する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程……裏返す、ねぇ…」

 

一通りの説明を受け、此処の状況を把握した。

はっきり言ってそこまで話を真剣に聞いて居たわけではないけど。

 

「本当に出来るのか?」

 

「今はBBの言う事を信じるしかないよ」

 

と言うわけで、やって来たセパレータ。

そんな中、やはりと言うべきか、BBちゃんねるとか言う巫山戯た番組が始まる。

 

妨害、が有るそうだ。

なんでも急増だからセンチネルは真っ黒なのだが。

 

試しに一発撃ってみる。

無論外れる事なく命中するが、やはりただ銃弾が当たっただけの効果しかない。

 

「はは、すまん。ロクに効かねーわ」

 

「なら下がってろ!」

 

オルタに罵倒される。

いやね、本当にそのとうりですわ。

電脳体で構成されてりゃ効かないって。

 

此処が電脳空間だと知った時、どうして俺みたいの呼んだんだよ、って思ったね。

 

お、流石に円卓二人ではセンチネルも分が悪いか。

あっさり倒された。

 

「BBちゃんねるー!」

 

もう良いよ。強制的に見せられる事の何が苦痛ってね。

こんなの聴き流すならぬ見流すことにして、思考時間として割り切るとしよう。

 

 

「ダメに決まってますよ?そんな事は許しませーん!」

 

強制的に思考を向けられる。

どうやら絶対に見なければならない様だ。

 

 

纏めると、今回の妨害はもう無いらしい。

 

そんなこんなで、ひっくり返そうと───

 

 

「アアアアアアア───!!!!」

 

 

妨害は無いどころか統制出来てねーじゃねえか。

 

「早く急いで藤丸立香!早くひっくり返さないと!

 

メルトリリスが叫ぶ。

 

本当な、どうしようもねえもん。

 

強いし電脳体に銃はそんなに効かねえし。

あ、こっち来た。

 

 

「ホラ来いよお嬢ちゃん!こっちだ!!」

 

ろくに効かない銃を撃ってこっちに誘き寄せる。

その間、視界に入らない様にしなきゃいけない。

 

「ちょっとエミヤ!?どこ行くの!!?」

 

「生憎と役立たずはこれでお別れだ!頑張れよ!!!」

 

「お待ちなさい!此処は私が……」

 

「騎士様はお呼びじゃない!」

 

ガウェインが此方へ加勢しそうになるのを銃で牽制する。

 

「まだ貴方のマスターに会ってないでしょう!?」

 

「悪いな、俺はそこまで忠義者じゃないんだ」

 

どうにかこうにか、パッションリップに銃を当てつつ、誘導する。

 

にしてもスゲェなあの胸。弾が吸い込まれていくぞ。

 

 

「おし、行った、か」

 

藤丸立香らは無事に裏側に辿り着いた様だ。

 

「さて、逃げれ───ないかぁ」

 

眼前には巨大な鉤爪。

ま、良しとしよう───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、何をしているんですか」

 

「アレ、生きてる」

 

気がつくと、教会に転移してた。

 

「まあまあ、アンタ、ロクな奴じゃないみたいだし?このまま───」

 

 

「駄目に決まっています。今の貴方は(わたくし)のサーヴァント。主人を置いて逝こうなどとは……」

 

「悪かったよ、キアラ」

 

 

先程教会に行ってわかったが、マーブル何某と言う女性からパスが伸びていた。

故に声をかけようとしたら、念話で拒否された。

 

 

何を考えているのかわからなかったが、まさか人の皮を被る様なイカレたマスターだったとは……

 

「もう、気をつけてくださいな。令呪を切らないと、貴方は───」

 

「あーハイハイ、わかってますよ。こんな事はしませんって」

 

先程、記憶をぶち込まれた。

突然の事に死ぬ程驚いたが。

 

 

ゼパル様の応用、だそうで。

しかし、サルベージするには僅かな記憶しかなかった、と残念がってた彼女とは第三者視点から見るに、浅はかならぬ仲だったらしい。

 

と言っても、目の前の彼女は記憶を持ってるだけの同一人物、と言う理屈だが。

 

 

「それで……あの…」

 

「おいおい、教会なんですけど」

 

「菩薩なら此処にいるでは有りませんか」

 

「ああいや、そう言う事じゃなくてだな……なんか、うん。教会に何か思い入れが有ったような……」

 

どこか朧げな記憶が何かを訴える。

まあ、今の俺には関係ないが。

 

 

「……良いでは有りませんか…どうせ、そう言う仲でしたのですし、快楽の儘、めくるめくこの世の西方浄土へと、共に……それとも、外でするのがお好みですか?」

 

「そう言う訳……っ」

 

口を塞がれる。

それどころか、蛇のように絡みつくように彼女の舌が入ってくる。

 

「っ……はぁ…ええ、我慢出来そうにありません。私を、はしたない女だと咎めますか……?」

 

「……いいや、マスター。君は悪くない」

 

「まあ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は進み、殺生院キアラは追い詰められていた。

 

「よもやここまで、とは……ええ、認めましょう。私の不覚です」

 

「は、やけに殊勝な態度、ね!」

 

メルトリリスが、魔性菩薩から、ヘブンズホールまで堕ちた殺生院キアラにその脚で肉薄する。

 

斬りつけた側から、魔神柱めいた肉が飛び散るのが見える。

 

 

「っ……ええ、こう言う時の為の彼です」

 

「何のこ…と………?」

 

 

銃弾に倒れる、後ろに下がっている筈の、藤丸立香。

其の儘、崩れ落ちる。

 

 

 

メルトリリスは訳が解らなかった。

 

キアラパニッシャーであの女をここまで堕とした。

今度こそは、上手くいくと思った。

なのに、なのに、どうして。

 

「エミヤァァァァァ!!!」

 

藤丸立香(あの人)は、此処で死ななきゃいけないの?

 

せっかく乗り越えたと思った。

殺生院キアラを、同じ土俵まで引きずり落とした。

 

するとどうだろう。結果は同じ。

 

死んだ。

死んだのだ。

あっけなく、死んだのだ。

 

「悪いな、マスターの頼みなんでな」

 

「───うるさい!」

 

貫く。

 

先にどうにかすべき相手はいるだろうが、どうしても、今此処でコイツを殺したかった。

復讐したかった。

 

「か……はっ……」

 

「そんなんで、私の気が済むとでも!?」

 

「ああ、そう、だな……お前の怒りは正当だ」

 

と言って、手に持つ銃を背後に投げるエミヤ。

 

「は!?何よそれ!今更情を引こうってワケ!?」

 

ふざけるな!ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!!

 

怒りが爆発する。

死に体のコイツをもう一度貫こうと───

 

「退け、射線に被る」

 

「は?」

 

違う声。一発の銃声。

その弾は───。

 

「は、い?」

 

殺生院キアラに、命中していた。

 

「……カハッ」

 

あまりの出来事に思わず脚を引き抜くと、血を吐いて倒れ、そのまま消滅するエミヤ。

 

 

確かに殺す気だった。

けれど、なんだこれは。

 

ますます訳が解らない。

 

 

「何故……何故です…【エミヤ】!!」

 

 

 

「オルタ、貴方、死んだはずじゃあ!?」

 

 

「勝手に人を殺すな」

 

呆れたように吐き捨てるオルタ。

 

 

「何故【エミヤ】は……!ああ、崩れる。体が…どうして、何故……?!!?」

 

キアラの身体が崩れていく。

醜い魔神柱のパーツが、溶け落ちる。

 

「この銃は第五架空要素で出来てる全ての物質を破壊する。魔神柱の血肉に、第三魔法。つまり、だ。最初っから詰みだ。その上付け加えるなら───」

 

 

「オレもコイツも抑止力。つまりは、アラヤが本当の雇い主だ」

 

「なんです───なんですそれ───!」

 

 

「さよならだ」

 

再び引き金を引くエミヤ・オルタ。

 

 

「い───や……」

 

正確に脳天を貫かれたキアラは、呻き声を立てながら溶けるように崩れ落ちていった。

 

 

「……!そうよ、立香!!」

 

 

「メルト……リリ…」

 

「ダメ、喋らないで!!」

 

「ふむ、ご丁寧に弱装弾か。処置すれば何とかなるな」

 

「ホント!?良かった……!」

 

「それでしたら、私が」

 

藤丸立香の危機、とあって駆けつけてきたBB。

 

「BB!出来るの!?」

 

「ハイ。退去までの間は絶対に持たせます」

 

「フン。オレは先に行く」

 

粒子となって消えるエミヤ・オルタ。

 

「取り敢えず、大丈夫でしょう」

 

「そう、なの。ええ、安心したわ」

 

BBの言葉に安堵するメルトリリス。

しかし、彼女はある事に気づく。

 

「弱装弾……って言ってた、わ、ね……」

 

「メルトリリス……貴女…」

 

BBが白い目でメルトリリスを見る。

 

「いいえ、立香は現に命の危機に晒されたのよ!私は悪くないわ!」

 

「まあ、もしも次に会えたら謝ったほうがいいと思いますよ?」

 

「それは……そう、だけど…」

 

「それに、貴女は消えるはずでした。それなのにこうして居るのは彼ら2人のお陰、と言っても過言ではありません。その事は覚えておく様」

 

「ええ、わかってる。わかってるわ!だから罪悪感に苛まれているんでしょうが!!」

 

「罪悪感があるなら結構。ほら、そろそろ退去です。この人のカルデアに召喚される事でも祈ってなさい。私も待ってます」

 

「ええ、そうするわ。()()()BB」

 

そう笑顔で言うと、メルトリリスは消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

無事にカルデアに召喚されたアルターエゴ・メルトリリスは、ある時カルデア内を散歩していると、ベンチに枯れ木の様に座っているバーサーカー・エミヤの姿を認める。

 

「……?君、は……?」

 

見られている事に気付いたエミヤは、誰何する。

 

「何です、その初対面みたいな態度は」

 

目の前まで進み、その高身長で見下ろして、思わず高圧的に接する。

 

違う。そう言う事が言いたいんじゃないのに。

 

「………悪い、君は俺を知っているのかも知れないけど、俺は君を知らない」

 

「……!そ、そう。なら良いわ。ええ、何も言う事はありませんとも」

 

何処か悲しい顔をするメルトリリス。

 

覚えてなかった。それなら謝る事なんて無い。

だったら、それで良いだろう。

けれども、どうしてこんなに胸が苦しいのか。かつて得る事の無かった罪悪感に、戸惑う。

 

「……申し訳ない。何処かで会ったのだろうに」

 

「そう。なら忘れて」

 

踵を返し、この場を後にする。

最悪の出会いだった、などと感想を抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ああ、そうするよ。その脚でぶっすりと貫かれた事はな」

「エミヤッ───!!!」

振り返り、自慢の脚で蹴りを入れる。

「うおっ、あぶねっ、辞めろ!俺はアリさん並の耐久力なんだ……ガクッ」

一発目を回避されるが、続けて放つ二発目は見事に命中する。
「ふん!何よ、人の心を散々弄んといて!そのまま暫く座に帰ってなさい!」

メルトリリスは今度こそ、この場を後にする。
どこか頰を緩めながら。


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カレンルートあふたぁ

なんで今更かって?それはな、PC版に手を染めてしまってな……


「「第16回、お兄ちゃん奪還作戦会議ー!!」」

 

(……もう諦めた方が良いと思う)

 

 イリヤとクロエの両名によって目出度く16回目を迎える事となったこの作戦会議。

 全てが悉く失策に――失策してなければここまで続かないが――終わっている。

終わっている。

 

 この不毛とも言える会議に全出席を半ば強いられている美遊は、何度心の中で反芻したか判らない定型文を浮かべる。

 

 一度口に出そうとしたが、両名の殺気とも形容出来そうな圧に押され、二人にとって余計な事を言うまい。心にそう固く誓っているが故に。

 

「前回は惜しかったんだけど……」

 クロエが爪を噛む。

 軽く、なんてモノではなく、放っておいたら血が出るのでは無いか、と錯覚する勢いで。

 

「あとギリギリ、って所で……」

 

 悔しさに耐え、歯噛みするイリヤ。

 その目は見ようによっては血走っているのかもしれない。

 そんな感想をふと美遊は浮かべた。

 

「そんなに惜しかったの?」

 

 毎度毎度不毛な展開に終わっている二人の口から、()()()()()と言う言葉を聞いたのは初めてだった美遊は、思わず口をついて出てしまった。

 

「そう!!! ほんっっっとうに惜しかったんだからー!!」

 

 

イリヤはその「惜しかった」回の事を思い返す……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん……お願い」

 

 

いつとも知れぬある日。

 

 

「わたし……ううん、わたし達のキモチ……知ってるんでしょ?」

 

 

 二人は、兄の部屋に入ったかと思うと、そんな想いの丈を打ち明け……否、再度迫っていた。

 

「………………まあ、そう、だけど……」

 

 

「だったら……」

 

イリヤが言ったのか、クロエが言ったのか。

今となっては最早あやふやではあるが。

 

兎に角、その言葉を皮切りにして、二人は自らの衣服をはだけさせ始める。

 

 

「何……を……!?」

 

 

思わぬ展開に狼狽える兄。その予想道理の反応に思わず口がほころびそうになるのを抑える。

良いぞ、子供の戯言などとは思われていない。わたし達を()()()()()()

 

特殊性癖だ、と社会常識的には謗るべきなのだろうが、想いを寄せる相手にそんな事をするなんてあり得ないし、そんな事をする相手は鏖殺だってしよう。

 

 

 

狼狽える兄の身体に枝垂れかかり、自分達の肢体を触れさせる。

 

「ねぇ……」「お願い……」

 

「「だい「ストップ!

 

 

 

「………ミユ、話の途中だよ?」

「いやいや、ちょっと待って、二人とも一体何を……」

 

危うい展開に突入しそうな話に、思わず待ったをかけてしまった美遊。

 

わたしは悪くない。

うん。誰だってそうする。

そんな言い訳を、心の中で何度も何度も繰り返す。

 

 

「何って……ナニ?」

 

あっけらかんと美遊の問いに返すイリヤ。

クロエもうんうん、と頷くのを見て、もしや可笑しいのは自分なのでは?と錯覚をしてしまう勢いだ。

 

 

「まあいっか、それじゃあ話を続けるね」

 

───ちょっと待って。

そんな美遊の心の叫びも虚しく、話が再開される。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、それは……ちょっと、マズイんじゃあ……」

 

 

二人の爆弾発言と言える()()()にたじろぐ。

以前だったらつゆ知らず。

今は裏切れない人が居る。

 その事も相まってか、今は以前よりかは比較的健全な倫理観を備えていた――否。躾けられた。

 

その事にやや歯噛みする。

あの泥棒猫め。余計な事を……と、姉妹の抱いた思いは一致していた。

 

「マズくなんて……ないんだよ、お兄ちゃん。士郎お兄ちゃんも、セラお姉ちゃんもリズお姉ちゃんも、今は居ないし……」

「それに、わたし達は義妹よ。血が繋がってるワケじゃないんだし、それに―― 」

 

 

 

「……お兄ちゃんが」「すき、だから……」

 

「………………」

 

兄は手で目を覆い、こめかみを揉んでいる。

動揺、と言うよりは困惑、と言った方が良いのだろう。

困らせたくない、とは思うが、今回ばっかりはそんな事を言っている場合ではない。

 

 そうでもしないと――

 

「私に盗られっぱなし、とでも思ってそうね、お二人さん」

 

「「!?」」「………カレン」

 

腕を組んだ女が、ドアの枠にもたれ掛かっている。

その女は、二人にとっては正しく怨敵、だった。

 

「………ど、どうやっ「合鍵です。貰いました」なっ……」

 

「ウソ、ちょっと、どういう事!?」

 

まさかの展開。

合鍵、なんて物は、想定すらしていなかった。

一体誰が───?

 

「邪魔です。さっさと散りなさい」

 

右手で軽く払うような所作をするカレン。

その表情は呆れが浮かび上がっている。

いやが応にも、憎らしいまでの余裕を感じる。

 

一々腹正しいその所作に、思考が乱される。

だがしかし、ここで引き下がるわけにもいかない───のだが。

 

「ハァ………これなら、私達が出てった方が早いですね」

「あー……うん、そうだな」

 

立ち上がる兄。

2人を押し退け、迷い無くカレンの元へと歩み寄っていく。

今までとは、全く違う兄の行動に、戸惑いが隠せない。

 

「え」「ちょっ」

 

「では、行きましょうか」

 

そう言うと右手を取り、二人は部屋から出て行く。

その間際に、カレンがこちらを、嗤った様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「惜しかっ……た?」

 

事の顛末を聞いた美遊は、素直な感想を漏らす。

これのどこが惜しいのだろうか。

寧ろ完全に負けているのではないだろうか。

 

「惜しかったの!邪魔さえ入らなければ、あのまま押し切れたのよ、絶対!」

 

クロエが断言する。

美遊はどうしてそこまでの自信があるのか疑問に思ったが、藪をつつく様な事はしまいと口には出さなかった。

 

「そ、そうなんだ……」

 

取り敢えず首肯しておく。そうするのが一番無難と、悟ったからだ。

虚空を見つめるのも得意になった。

 

「そう言えば、ママはこの件に関しては一応反対、なんだよね」

 

「そうらしいのよねー。その場に居た訳じゃ無いから、詳しくは知らないけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

付き合ってる人が出来たって話を聞いて……飛んで帰ってきた……の…だけれど……

 

突然帰って来たアイリスフィールこと母さん。

義理とは言え、我が子の吉報(?)に、野次馬、もとい出歯亀精神を抑えることが出来ずに帰って来たらしいのだが……

 

 

一体どんな子か、と思いを巡らせていたが───それは予想だにしない人物だった。

 

「…………何故貴女が此処に?」

 

「おや、これはこれは義母様。お邪魔しています」

 

「…………へ?」

 

射抜く様なアイリの視線を物ともせず、あっけらかんと返すカレンに、思わずアイリは呆気にとられる。

 

 

「ふふ、そう言う事ですよ」

 

僅かに笑みを浮かべるカレン。

それとは対照的に真剣な表情へと変わっていくアイリ。

 

「………どう言うつもり?」

「どうも何も、清く正しい交際をさせて頂いている、と言う事ですよ」

 

強い語調で問いただすアイリ。

カレンはいかにも予想できていました、と言わんばかりに目を閉じて返答する。

 

「ふぅん……聖堂教会のシスターが良いのかしらねぇ……」

 

アイリは目を細める。

ギスギスとした空気が流れる。

 

俺がどこまで知って居るかを把握せずに聖堂教会まで出す辺り、相当頭に来ているとみた。

 

帰りたい。いやここが家だった。

 

「シス……ター?はて、何の事でしょうか?私は、小学部の養護教諭をさせてもらって居ますが……」

とぼけないで!

 

暖簾に腕押し、と言ったようなカレンに苛立ったのか、大声を上げるアイリ。

 

何気に怒ってる義母を初めて見た気がする。

 

 

「いや、あの、母さん」

 

流石に雲行きが怪しくなってきたので口を挟む。

 

「なぁに?」

 

口こそ笑っては居るが、目は全く笑っていない。

あ、これヤバイやつだ。

理解するのに1秒とかからなかった。

 

「何にそんな怒ってんのか知らないけど、カレンは俺の………俺、の…」

 

「俺の?」

 

 

「………恥ずかしい……いっそ殺してくれ……」

 

思わず両手で顔を覆う。

イリヤとクロエは俺の大切な妹だ!

これなら幾らでも叫べる自身が有るのに、どうしてこう、カレンだとこんなにも恥ずかしいのだろうか。

 

 

顔が真っ赤になってる自信がある。

 

「あら甘酸っぱい。言わせられてるの?」

 

暖簾に腕押しとはどちらの事なのか。

取り付く島も無い。

 

「………ま、真偽はどうあれ私は反対。何を考えてるのか判らないし、何より信用出来ないわ」

 

明確に否定し、拒絶の意を示すアイリ。

 

「ええ、それで構いませんし、別に認めようが無かろうが関係ありません。………彼は貰っていきます」

 

自らの与り知らぬ所でどんどんと話が進んでいく。

どうも貰われる事になった様だ。

 

「正気?」

 

「正気で無くて、誰がこんな事を言うので?」

 

アイリの問いに対して、僅かに笑いつつ返すカレン。

 

「………ふーん…まあいいわ。出てきなさい」

 

「ええ、そうさせていただきます」

 

アイリの要求に応えるカレン。

だが、玄関に向かう際に、俺の服の裾を摑んで、引っ張ってくる。

 

「行きますよ」「置いて行きなさい」

 

「何故?」

 

本気で判らない、と言わんばかりに首を傾げるカレン。

 

「私に一人で帰れ、と?」

「当たり前でしょう?」

 

「異教徒は殲滅だー!とか言うように洗脳されないと言う保証が無いもの」

「そんな事は絶対にしません」

 

アイリの眼を見据えて断言するカレン。

その気迫に、アイリは何も返せなかった。

 

少々空気が気まずくなる。

 

「あー……送ってくる。ほら、行こう」

「ええ、行きましょう」

 

頃合いを見計らって、と言うか、この後のアイリさんの追求が大変そうなので、逃げる意味も込めて、だけれども。

 

 

 

 

「…………」

 

二人を見つめるアイリは、ただ、複雑そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり無理だと思うけどな……)

 

美遊は益々確信に近いものを抱く。

 

 しかし、それを尻目にあーでもないこーでもないと議論する2人。

その姿は方向性こそ危ういものの、いつだって真剣に恋をする女の子だった。

 

だけど……

 

「もう、諦めたら……?」

二人の想いは知っている。

どれだけ努力しているかも知っている。

その上で、言うのだ。

そうでもしなければ、余りにも、あんまりだ。

 

「…………なんで?」

 

地の底から鳴り響く、死者の怨嗟の様な声が、イリヤから聞こえる。

思わず背筋に薄ら寒いモノが走る。

 

ふとクロエの方を見ると、やはり、と言うべきか。凄まじい気迫を感じる。

 

余りの圧に思わず謝りそうになるのを、グッと堪え───

 

「だ、だって、考えてもみてよ、イリヤ、クロ。確かに、頑張ってきたのはわかるけどさ、そこまで数を重ねても無理、って事は……」

 

「………よ」

「イリヤ?」

 

「……るよ…」

 

「そんな事……わかってるよ…」

 

「…………」

 

泣き出すイリヤ。押し黙るクロエ。

美遊は、何も言う事が、出来なかった。

 

「それでも……すき、なんだから…しょうがないでしょ……!」

 

しゃくりあげ、思いの丈をぶちまけるイリヤ。気がつけば、クロエの眼にも涙が浮かんでいた。

 

どうしようもない現状に美遊はただ、2人を慰める事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………夢を、見たんです」

 

隣に寄り添っているカレンが、唐突に奇妙な事を言い始めた。

 

「なんと言いますか、別の私、とでも言うんでしょうか?兎に角、不思議な夢なんです」

 

「どんな?」

「以前、私の体質については、打ち明けたじゃないですか」

「………ああ」

「ソレがもっと酷い、私を見ました」

「そうなんだ」

 

何が言いたいか、概ね把握した。

一体どう言う訳なのかは判らないけど、そんな事があり得るのか、と少々驚いた。

 

「私はこうしてそれなりに自由に過ごしてますが、その私は、修道院から出れず、ただ悪魔祓いの時だけに外に出る事を許される。お陰で右目はほぼ見えず、満足に走る事も出来ない。他にも被憑依者に────いえ、これは関係ありませんね」

 

「……………」

 

「その上、この年齢まで生きているかどうか、と言った感じでした。ただ、どちらの私が幸福か?と問われたら、向こうは最期に望みが叶ったので、何とも言う事が出来ませんが……まあ、そんな夢です」

 

「夢にしては、色々濃い内容だな……」

「ええ、実に。でも───」

 

「やっぱり、貴方が居ないので、こちらの私で、良かったと思います」

 

今まで、見た事有ったか?

彼女の、カレンの、こんな笑顔。

そんな、そんな顔も出来るなんて、卑怯じゃないか。

 

「きゃっ」

 

思わず抱きしめる。

これで抱きしめない人が居るだろうか、いや居ない。

 

「も、もう………そ、その…イイ、ですよ……?」

 

今日も家に帰らなかった。

 



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