メインキャラと同年代じゃないオリジナル主人公は間違っているだろうか? (反町龍騎)
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一話

 新作書きました!
 Lonelinessまだそこまで進んでいないというのに⋯⋯

 そしてなぜかこちらの方が筆の進みが早いという


 二年前、インターミドルチャンピオンシップ世界戦決勝。

 対戦しているのは刀を持つ少年と徒手空拳の少女。

 ライフポイントで勝っているのは少女の方。だが、少女は苦い顔をして防戦一方。少年の方は、苦い顔こそしているものの、少女に攻撃をさせないでいた。

 現ラウンド残り時間三二秒。

 少女にバインドを掛けた少年は、持っていた刀を鞘に納め、腰を落とし構える。所謂居合の構えだ。

 

「――ッ!」

 

 少年の、濃密な殺気が、少女の元に届いた。

 その殺気を感じた少女の雰囲気が変わる。

 

「――ガイスト・クヴァール」

 

「白虎、白銀ノ――ッ!!」

 

 少女の腕に纏う黒い腕が、少年を襲う。

 

「があぁッ!!!」

 

 少年は吹き飛び、壁に激突する。

 そこで、少年の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺、小鳥遊宗二、一五歳。学生兼管理局嘱託魔導士だ。

 今俺は、愛しのギンガさんと通信をしていた。

 

「⋯⋯連続傷害事件、ですか?」

 

『ええ。ああ⋯⋯まだ事件ではないんだけどね』

 

「ん?どういう事です?」

 

『被害者は主に、格闘系の実力者なのね。そういう人に街頭試合を申し込んでは⋯⋯』

 

「ボッコボコのフルボッコ、ですか?」

 

『ええ、そう。そういう人たちの間で、話題になってるんだって。被害届が出てないから事件扱いではないんだけど、宗二君も、襲われたりしないように気を付けてね』

 

「分かりました。愛するギンガさんのご忠告、しかと胸に刻み込んでおきます」

 

『あはは⋯⋯。それで、これが容疑者の写真よ』

 

 エメラルドグリーンの髪を二つに纏め、バイザーを付けた女性が映った画像が現れる。

 

『自称「覇王」イングヴァルト』

 

「ん?なんか聞いた事あるんですけど。確かそれって、古代ベルカの」

 

『そう。古代ベルカ――聖王戦争時代の、王様の名前』

 

「ふむ。ねぇギンガさん」

 

『どうかした?』

 

「この人、良い体してますね」

 

『もしもしお父さん?管理局嘱託魔導士小鳥遊宗二の逮捕を――』

 

「わー!待って!あの人に通報しないで!いつも以上にこき使われる!」

 

 俺が嘱託として管理局に勤めて以来、ギンガさんの父親――ゲンヤ・ナカジマのヤローに使われっぱなしなのだ。恨むぜジジイ。

 

『ふふっ、冗談よ』

 

「その冗談は心臓に悪いのでマジで止めてもらえます?」

 

『ふふっ、ごめんごめん。今日連絡したのはそれだけだから。⋯⋯あ、そうそう。今年もインターミドルに出るんでしょ?』

 

「はい、出ますよ」

 

『シグナムさんが、練習がてら、一戦交えないかって言ってたわよ』

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 シグナムさんか⋯⋯。綺麗でスタイルもいいんだがな。いかんせん、戦闘狂なんだよなぁ。Sランクの魔導士だから練習相手としては申し分ないんだが。⋯⋯逃げるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日は変わって朝となり、学校へ行く時間だ。

 

「父さん、母さん、行ってきます」

 

 今は亡き両親に挨拶をし、俺は学校へと向かった。

 

 学校に着き、教室に入ると、見知った少女が居た。

 

「おはよーハリー!」

 

 彼女はハリー・トライベッカ。赤髪ポニーテールで、インターミドル都市本戦常連の実力者だ。

 ただ、可愛い子なのだ。だから俺はハリーに抱き付いた。

 

「ふえっ、お、おい宗二、いきなり抱き付くなよ!恥ずかしいじゃんか!」

 

 そうは言うがハリーさん、嫌がっていませんね。顔が赤いですよ?

 

「まあいいだろハリー。久しぶりに会ったんだぜ?」

 

「金曜日に会ってんだろ!久しぶりな訳ねぇだろうが!」

 

 うん、正しい反応だね。

 

「ところでハリー。週末何してますか?暇ですか?デートしてもらっていいですか?」

 

「なに某ライトノベルのタイトル風に言ってんだよ!暇だよ!デートするよ!」

 

「よし決まりだ!じゃあ、いつもの場所で待ってる!」

 

「おうよ!」

 

 と、俺達が話していると、

 

「あの、リーダー、宗二、結構周りの迷惑になってるんで、あんまり騒がない方が⋯⋯」

 

 と、ハリーの舎弟?友達?まあどっちでもいいか、の三人の内の一人、長髪長身の少女、ミアが声を掛けてきた。

 この子はこの子で可愛いのだ。だから俺はハリーから離れてミアに抱き付いた。

 

「おはようミア!週末デートしようぜ!」

 

「は、はぁ!?」

 

「な、宗二テメェ!その日は俺とするんだろうが!」

 

「ふふはは、ハリーよ。俺は一人の女だけしか愛せないほど不器用な男じゃあないんだぜ?」

 

「テメェ表出ろコラァ!」

 

「だが断る!小鳥遊宗二はクールに去るぜ」

 

 俺は全速力でその場から逃走する。

 ハリーが俺に怒鳴り、そのとばっちりをミアが受けている声が聞こえるが、俺はそれを無視する。

 ハリーの事だ。そこまで大事にはしないだろう。

 南無阿弥陀仏、ミア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 俺を追いかけるハリーを振り切り、とある場所へと来ていた。

 そこは豪邸だった。

 

「何度来ても慣れんな、この豪邸には」

 

 俺はインターホンを押す。

 

『少々お待ちを』

 

 成人男性の声が聞こえ、家の門が開く。

 少しして、ドタドタという足音が聞こえ、勢いよく扉が開け放たれた。

 

「宗二ーー!」

 

 言いながら、俺に抱き付いて来た金髪巨乳美女は、ヴィクトーリア・ダールグリュン。こちらもインターミドル都市本戦常連の実力者で、古代ベルカ、「雷帝」の血をほんの少し(笑)引いているのだそうだ。

 

「おうヴィクター、久しぶり」

 

「ええ、本当に久しぶりですわ!」

 

 頬を擦り付けるヴィクター。ハリーと同じで金曜に会ったばかりなのだが、この反応の違いだ。可愛い。ヴィクター可愛い。

 

「と、ヴィクター。ずっとここにいるのもあれだから、中に入ってもいいか?」

 

「はっ!も、申し訳ありません。勿論ですわ」

 

 ヴィクターは俺の首に回していた腕を俺の腕に回し換え、家の中へ入っていく。

 

「エドガー。私と宗二にお茶を入れて頂戴」

 

「あ、俺の奴には砂糖とミルク入れといてね」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

「今日は何の用で来ましたの?」

 

「ああ、ん、ありがとエドガー。今日来たのは今週末暇か聞くためだ」

 

 俺とヴィクターに一礼したエドガーを見て、ヴィクターに今日来た理由を説明する。

 

「今週末は暇ですが、何かありますの?」

 

「ああ。なら、俺とデートしよう」

 

「それなら今すぐにでも!」

 

「いや今週末な」

 

「むう、いけずですわ」

 

 不満に頬を膨らませるヴィクター。やっぱ可愛い。可愛いよヴィクター。

 俺はヴィクターの頬を押して空気を抜く。

 

「今週末だからな。それまでは忙しいから無理だ」

 

「管理局の仕事ですの?」

 

「まあ、そうだな」

 

 またあのジジイにこき使われる。おらこんな局嫌だ~。

 まあ、あのジジイの事は今は忘れよう。その思いで紅茶を一気飲みして立ち上がる。

 

「じゃあ、用も済んだし、帰るわ」

 

「も、もう帰りますの?もう少しここに居ても⋯⋯」

 

「これから今年のインターミドルに向けての練習だよ」

 

「な、なら!私と一緒にやりましょう!」

 

「ダメに決まってんだろ?俺とお前はライバルなんだ。手の内を見せるような真似してどうする」

 

「ううっ⋯⋯」

 

 目に涙を浮かべて俯きましたお嬢様。そんなに一緒に居たいのか、愛い奴め。しかし、俺も男だ。ここはハッキリと言わねばならん。

 

「明日も来るから、な?」

 

 ハッキリと言えなかった!言えるわけないだろ!こんな可愛い子が泣いてるのに!俺言えるよ~って言う奴出て来い!ぶん殴ってやる!

 

「⋯⋯分かりました。約束、ですわよ?」

 

「おう」

 

 ヴィクターの頭を撫でてダールグリュン家を後にする。ヴィクターの髪サラサラしてていい匂いだな。

 ヴィクターの頭を撫でた手を一嗅ぎ。うん、いい匂いだ。

 え?気持ち悪い?宗二さんの耳は都合の悪い言葉は聞こえないのである。



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二話

 俺が次に訪れた場所は、とある道場だ。

 古き良き雰囲気のある道場だな。なんだろう、落ち着くぜ。

 石の階段を上り、道場の扉を開ける。

 

「たのもー――あっぶなっ!!」

 

 扉を開けた瞬間に、刀が横に薙ぎ払われた。

 あ、あぶねー。間一髪だぜ。

 今の俺は体を反っているためなんだか時でも止めそうな格好になっているぜ。

 

「おや、邪気を感じたから刀を振ってみれば、宗二君じゃないか」

 

 このいきなり俺を殺そうとしてきた、おっかなびっくりな黒髪長髪の巨乳美人さんは、ミカヤ・シェベル。インターミドル都市本戦常連者で、抜刀術天瞳流の師範代だ。

 

「あ、ああ、ミカヤさん。あなたの宗二さんに対して、随分な扱いですね」

 

「おや、いつから私たちはそんな関係になったのかな?」

 

「そうですね。あれは五年前、俺達の試合後からその関係は始まった⋯⋯」

 

「記憶の捏造は良くないな、宗二君。五年前私たちは戦わなかったはずだがね」

 

「おや、そうでしたっけ?いやぁ、最近物忘れが激しくて」

 

 よくあるよね。あれやっとこうって思って他事してたら、何しようとしてたか忘れちゃうみたいな。

 

「はぁ⋯⋯。それで?宗二君、君は何をしに来たのかな?」

 

「ああ、今日来たのはですね、今週末暇か聞く為なんですよ」

 

「ん?なんだ、そんな事か。それなら別に通信でも良かったんだよ?」

 

「ハハハ、ゴジョウダンヲ」

 

 そう言われたから、通信で済ました時、晴嵐を振り回して追いかけてきたのを俺は忘れない。忘れたくても忘れられない。

 

「今週末、だね。――うん、予定はないよ」

 

「そうですか。ならデートしましょう」

 

「ああ。待ち合わせはいつもの場所でいいのかな?」

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯ねえミカヤさん」

 

「どうしたんだい?宗二君」

 

「あのね、僕今動けないんだ。この状況説明してもらってもいいかな?」

 

 今俺は、服の上から荒縄で亀甲縛りされていた。

 ねぇこれ誰得なの?男の亀甲縛りとか需要ないよね?

 

「需要はあるさ。私は好きだよ?男の、⋯⋯いや、君の亀甲縛りは」

 

 ワーオ、ココロヨマレテーラ。

 それよりもだ。

 

「女の子が亀甲縛りなんて口にしちゃいけません!天瞳流の師範代ともあろうお方がはしたない」

 

「構わないよ、はしたなくて。君の前でなら、こんな私も見せられる」

 

 おいおいおいおいどうしたミカヤさん。何故にあなたは服を脱ぎ始めるの?

 道着がはだけて立派なお山が見えてますよ?

 

「そりゃあ、見せるためにやっている事だからね」

 

 ワーオ、マタココロヨマレテーラ。

 はっ!駄目だ!股間が熱く!

 いけない!このままではR指定がかかってしまう!

 

「ミカヤサン。ハヤクフクキテ、ソレカラナワホドイテ」

 

「ふっ、宗二君。言葉と感情が矛盾しているぞ」

 

 ちくせう!この状態は惜しい!実に惜しい!

 もう少しでミカヤさんはサラシを解こうとする。だがしかし!それでは駄目なのだ!初めては自分からと決めている!

 それにだ!

 

「そんな淫乱なミカヤさんは俺が好きなミカヤさんとは違うんだぁ!」

 

「あ、おい!」

 

 気づけば俺は走っていた。亀甲縛りのままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畜生!酷い目にあったぞ!

 亀甲縛りがなかなか解けなかった所為で、道行く人々から白い目で見られちまったぞ。

 だがもう大丈夫だ!縄は解けた!

 

 

 

 おやここは河川敷。

 そうです、私はむやみやたらに走っていたわけではありません。

 もう一人、デートに誘わねばならない人が居るのです。

 ただその子ね?俺を避けてるの。まあ、二年前のあの事が原因なんだろうけど。

 あ、あの子のテントを発見。

 まったく、あの子は世の中の防犯システムに喧嘩を売る気ですかね?そう思いたくなるほど無防備なんだが。

 テントの入り口を開けてみる。案の定いない。

 ならば、とテント周辺を探してみる。こちらもいない。

 ふむ、草陰に隠れていやがる。

 バレないとでも思ったのかね。君のその長い髪が草陰からはみ出しているじゃないか。

 まあいい。ここは安心させるために、一度この場を去っておこう。

 

 

 

 

「――ふう、やっと行ってくれた。合わせる顔が無いって言うたのに」

 

「やっと会えたねジークぅぅぅ!!!」

 

 俺はジークにダイビングハグをかましてやった。俺がヴィクターにされたダイビングハグの比ではない。

 しかもそれを、腹部目掛けてしたのだ。

 

「グハァ」

 

 勿論ジークはくの字に折れて再起不能だ。

 

 

 

「さてと、ジーク。理由を聞こうか。俺から逃げていた理由を」

 

「えっと、その前に縄解いて?」

 

「断る。縄を解いたらお前、逃げるだろ?」

 

「ううっ⋯⋯」

 

 今、俺の目の前で、縄でぐるぐる巻きにされて目元に涙を浮かべている黒髪ツインテールの少女は、ジークリンデ・エレミア。

 彼女もインターミドルの選手であり、過去に俺を破って世界戦優勝を果たしたこともある、格闘技の世界王者だ。

 しかし、彼女は俺から逃げる逃げる。

 詳しい理由はまた語るとして、今はジークの言い分を聞こう。

 

「で?なんで俺から逃げる?」

 

「⋯⋯だって、あの時宗二に酷い事したもん。宗二に合わせる顔、無いやんか」

 

「――ていっ」

 

「あたっ!」

 

 俺はジークにチョップをした。

 

「ずっと言ってただろ。あれはお前が手加減できなかったから起こった、言ってみりゃ事故みたいなもんで、お前が気に病む必要はない」

 

「でもっ――」

 

「それに、お前のその力は、呪いなんかじゃない。お前の先祖たちが積み上げて、子孫のお前に託されたギフトなんだ。その力は誇るべきものであって、忌むべきものじゃない」

 

「でもっ、この力の所為で、怪我させたんは事実やし」

 

 チッ、うるせぇな。いつまでもくよくよと、過去の失敗引きずりやがって。

 

「でももだっても聞きたくねぇ。あの時、お前が俺に全力を使ってくれたから、俺は清々しく負けることが出来たんだ。もしお前が、あの場所で手加減して俺に負けてたら、俺はお前と、距離を置いてたかもしれねぇよ」

 

 それはそうだろう。真剣勝負の場で手加減されてたなんて、侮辱もいいところだ。

 

「⋯⋯」

 

「それに、だ。お前があの時、あの力でもって俺を倒したからこそ、俺は胸を張れるんだぜ?」

 

「え?」

 

「俺が一度倒した相手は、俺を二度も倒した相手は、こんなに強い奴なんだぜってな」

 

「――宗二」

 

 ジークは一粒の涙を零し、その後、満面の笑みを見せた。

 

「ありがとう、宗二!」

 

「おう」

 

 俺はジークの縄を解く。するとジークが抱き付いて来た。

 

「宗二ー、宗二ー!」

 

 俺に頬を擦り付けるジーク。可愛い。ジーク可愛い。

 そう言えば、本題を忘れていたな。

 

「なあ、ジーク」

 

「ん?どないしたん?」

 

「今週末って暇か?」

 

「勿論暇やで」

 

 勿論ってなんだよ。

 

「そっか。ならその日、俺とデートしよう」

 

「うん!ええよ!」

 

 またも満面の笑みで笑うジーク。可愛い。ジーク可愛い。

 

「じゃあ、いつもの場所でな」

 

「うん!⋯⋯あ、そや。なあ宗二」

 

「ん?」

 

「今日からしばらく宗二の家に泊まってもええか?」

 

「ダメに決まってんだろ」

 

「そんなっ!?」

 

 ガガーンッ。という効果音が似合いそうなほどにがっくりと項垂れるジーク。

 だってさあ、男女が一つ屋根の下で暮らすって、危ないだろ。主に俺の貞操が。

 怖いんだよ、この子達。人のベッドに忍び込んでは人の貞操奪おうとすんの。

 やだよ。こんな子達と一緒に暮らすの。

 はじめてはちゃんとしないといけないでしょ。

 

「じゃあ、俺は帰るから」

 

「え?もう帰るん?もっと一緒におってや。⋯⋯やっぱり、ウチは嫌いなん?」

 

 涙目で俯いちゃったよ。まったく、ジークはこのガラス・ハートをなんとかしないといけないな。

 

「嫌いなわけないだろ?もう暗くなってきたから帰るだけだ」

 

「なら!ここで一緒に!」

 

「⋯⋯テントで一夜は勘弁してくれ。また明日来るから、な?」

 

 言ってジークの頭を撫でる。ジークの髪サラサラしてる。

 

「⋯⋯約束、やで?」

 

「おう」

 

 ジークとも約束を交わし、河川敷を去る。

 ジークの頭を撫でた手を一嗅ぎ。うん、いい匂いだ。

 聞こえない、聞こえない。気持ち悪いなんて聞こえない。



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三話

 翌日。

 

 ふう、とりあえず、四人とデートの約束は交わせた。

 まだ増やしたいなぁ。今の時点で両手に花どころか両手に花束だがな。

 増やすとなると、管理局メンバーかなぁ。

 ただなぁ、あの人たち身持ちが固いからな。むつかしい。

 

 おや?あんなところにハリー達が。とりあえず声を掛けよう。

 

「ようハリー、おはよー」

 

「ん?ああ、宗二か。おはよう」

 

 まあ、ハリーの事だから心配してはいなかったが、案の定気にしていないようだ。

 ミアが何かしたのだろう。

 

「おはようミア」

 

「⋯⋯ああ、宗二」

 

 ミアがやつれた感じがするんだが、気のせいか?

 

「昨日、お前が逃げてから散々だったんだぞ。リーダーにどやされて、落ち込んで、泣かれて⋯⋯。あれはお前の冗談で、お前はリーダーにぞっこんだって言い聞かせるのに何時間かかった事か」

 

「そうかミア、お疲れさん」

 

 俺はミアの頭をポンポンと叩く。

 おや?ジジイから通信が。

 

「ああー!やっぱり宗二はミアにも気があるじゃねえか!ミアテメェ、騙しやがったな!」

 

「ち、違うんですリーダー!これは――」

 

 

 

「なんです、ジ――ゲンヤさん」

 

『今ジジイって言おうとしなかったか?』

 

「さすがのナカジマ三佐も歳には勝てないようですね」

 

『うるせえやい。ところでよ、宗二、ちょっとばかし出てこれねえか?』

 

「今度はなんですか?」

 

『まあ、来れば分からぁ』

 

「すげぇ行きたくないんですが?」

 

『まぁ来ねえなら仕方ねえ、今週末なにかと理由を付けてお前を引っ張り出してやる』

 

 止めてくれジジイ!そんな事されたら四人に殺される!

 一度だけあったんだよな。ジジイじゃなく狸に引っ張り出された翌日、俺は地獄を見た。

 あんなの思い出したくもない。

 ああ、思い出しただけで足が震える。

 

「分かりましたよ、行きますよ」

 

『そうかい、じゃあ、108まで来てくれ』

 

「はーい」

 

 さてと、あそこで言い合いしてる子達に話しとかなきゃ。

 

「おい、ハリー達」

 

「あ、宗二!」

 

「おい宗二!テメェ――」

 

 とりあえず二人を抑えるために抱きしめておく。

 

「お、おい、宗二!」

 

「な、なんで私も」

 

 うるさいやい。とりあえずハリーの肩を掴み、ハリーの目を見て話す。

 

「ハリー?言ったろ。俺はハリーが好きなんだって」

 

「――っ、そ、宗二⋯⋯!」

 

 頬を赤らめ俯くハリー。単純なやつだ。だがそこがいい。

 

「なあミア」

 

「な、なんだ」

 

 どうしてミアさん顔が赤いの?

 

「俺今から管理職の方に行くから、ノート取っといてくれ」

 

「それならオレが!」

 

「お前の字は可愛すぎるから駄目だ」

 

「どういう意味だ!?」

 

「じゃあ頼んだぞ、ミア」

 

「ああ、分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管理局、陸士108にて

 

 

「用事ってなんです?」

 

「おう、宗二。用事ってのはだな――」

 

「私と模擬戦をしないか?宗二」

 

 奥から現れた女性はシグナムさん。

 ピンク色の長い髪を後ろで一つに纏めた美人さんだ。

 いや違うな、残念美人さんだ。

 ていうかジジイ。貴様が俺を呼んだ理由ってこれかよ。

 戦闘狂の残念美人さんと戦いたくないのでとりあえず逃げる。

 

「待て、何故逃げる」

 

 止めて!俺の腕を掴まないで!

 

「だってシグナムさん、手加減って言葉を知らないじゃないですか。アギトとのユニゾンやカートリッジは反則ですよ」

 

「それは仕方のない事だ」

 

「どこがだ!?」

 

「お前が強いのがいけないんだぞ。お前が強い所為で、私はアギトとのユニゾンやカートリッジを使わなければならなくなる」

 

「そのダメな子の言い訳は止めてくださいよ!」

 

 まったくこの人は。

 普段は凛々しく面倒見のいいお姉さん然としているのに、戦いになったらそれしか考えられないダメな子になっちゃう。

 

「ふむ。そんなに私とやるのは嫌か?」

 

「はい」

 

「即答か。いっそ清々しいな」

 

 そのまま諦めてくれると助かるんですが?

 

「ならこうしようか?模擬戦で、お前が私に勝てたら、私はお前とデートしてやろう」

 

 なん⋯⋯だと!?

 何を言っても受け流すことしかしなかったシグナムさんが、俺と、デート⋯⋯だと。

 

「勿論、私はアギトとのユニゾンはしないし、カートリッジも使わない」

 

「よしやりましょう!すぐやりましょう!今すぐやりましょう!」

 

 その条件なら俺にも勝ち目はあるはず!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちは模擬戦場に移動した。

 

「さて、始めるか。――と、そういえば、私が勝った時の事を言っていなかったな」

 

「シグナムさんは、俺に何を求める気で?――はっ!駄目よ私の貞操は」

 

「そんなものは要らん」

 

「そんなもの!?」

 

 そんなものとは酷い事を!大切に取っているからそれなりに価値はある⋯⋯はず。

 

「私が勝ったら、お前との真剣勝負をしたい。勿論、私もお前も、持てる力の全てを使った全力全開で、だ」

 

「そんな事はしない」

 

「そんな事!?」

 

 そんな事はどうでもいいんですよ。

 

「では、やりましょうか?」

 

「ああ」

 

 俺は自分のデバイス、白銀一色の刀「白虎」の柄頭をシグナムさんの方に向け、

 

「セットアップ」

 

 白と黒、ホワイトタイガーのような模様のバリアジャケットだ。

 それを見て、シグナムさんはレヴァンティンを構える。

 

「白虎裂斬一刀流、小鳥遊宗二。――参ります!」

 

 俺はその場で剣を振る。

 俺とシグナムさんの距離は、腕を伸ばしても切っ先すら届かない。

 何故その距離で刀を振るのか。

 答えは、白虎裂斬一刀流の技の一つ、「衝裂斬」だ。

 この技は、集束魔法の一種で、集束した魔力を刀身に纏わせ、さらに魔力で刀身を伸ばし、離れた相手にも攻撃することの出来る技。

 しかし、シグナムさんは戦闘狂なだけあって実力者だ。

 俺の衝裂斬を防ぐ。

 しかし、俺の攻撃はこれだけでは終わらない。

 二撃、三撃と、衝裂斬を繰り出していく。

 

 なるべくシグナムさんを近づけたくない。近づかせたら、勝ち目が薄れる。

 ただ、近づかなくちゃ勝ち目がもっと少なくなるんだよな。

 俺の衝裂斬を掻い潜り、シグナムさんが俺の懐に潜り込んできた。

 

「はあぁっ!」

 

 シグナムさんの横薙ぎ一線。それを俺は魔力で伸ばした刀身を引っ込め、魔力を纏わせた白虎で防ぐ。

 

「んなろッ」

 

 シグナムさんのレヴァンティンを弾き、横っ腹に蹴りを入れる。

 

「すああぁぁ!」

 

 また距離が開いたため、衝裂斬を何度も繰り出す。

 

「――いい加減、見飽きたぞ」

 

「ッ!」

 

 いつの間にか、目の前までシグナムさんが迫っていた。

 碌な防御も出来ず、シグナムさんに吹き飛ばされる。

 

「ぐああっ」

 

 シグナムさんは、レヴァンティンを構え直し、

 

「近づかせたくないのがバレバレなんだ、お前の剣は」

 

「――でしょうね。シグナムさんを近づかせたら、俺すぐ負けるから」

 

 言いながら、白虎を杖代わりにして起き上がる。

 そして白虎を構え、

 

「それじゃあ、そろそろ決めますよ」

 

「ふむ、あれをするか。いいだろう、受けて立つ!」

 

 あえて真っ向からの勝負に出たシグナムさん。

 後悔しないでくださいよ?

 

 俺から、濃密な殺気が漏れてしまう。

 それを感じ取ったシグナムさんは、険しい表情をする。

 俺は白虎を鞘に納め、腰を落として居合の構えを取る。

 

 

 いくぞ、白虎裂斬一刀流・奥義!

 

「白虎、白銀の穹ッ!!!」

 

 眼で追う事の不可能な斬撃。それをシグナムさんは、勘で受ける。

 しかしこの技は、単に早いだけではない。技の威力も相当なものなのだ。

 一度この技で、なのはさんのエクセリオンバスターを斬ったことがある。

 それほどの威力の技を、ただの防御のみで受け切ることは、さしものシグナムさんでも出来ないだろう。出来ないはずだ。出来ないといいな。

 

「――グッ、があぁっ!」

 

 案の定、受け切ることが出来なかったシグナムさんは、吹き飛ばされ壁に激突した。

 パラパラと、小粒のコンクリートが落ちる。

 よろよろと立ち上がったシグナムさんは、少し口角を上げる。

 や、ヤヴァイ!これは戦闘狂モードに入ってしまったか!?

 

「宗二」

 

「は、はい!」

 

 駄目だ!怖くて声がうわずった。

 

「――今回は、私の負けだ」

 

「いや駄目ですシグナムさん!これ以上は――へ?」

 

 普通だ。シグナムさんが普通だ!

 いつもなら、「面白い!面白いぞ宗二ぃッ!来い!もっと来おおおぉぉぉいッ!!!」みたいな感じになっているはずなのに。

 

「ん?何か失礼な事を考えていないか?」

 

「イイエナニモカンガエテイマセンヨ」

 

「うーん、なにか引っ掛かるが、まあいい、とにかく私の負けだ。約束通り、デートをしようか」

 

「やったぜ!じゃあ今週末、〇✕ショッピングモールの西側に待ち合わせで!」

 

「ああ、分かった」

 

 やったぜ!シグナムさんとデートだ!

 現状、同年代四人に大人美女一人。最高にハーレムじゃないっすか。



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四話

 シグナムさんと模擬戦した後、「もっとやらないか?いや、殺ろう!今すぐにィ!!!」と言われるかもしれないとびくびくしていたが、特に何を言われる事も無く、解放された。

 ジジイの用事というのがシグナムさんとの模擬戦だけだったのでもう暇になったな。

 どうしようか?帰ってもいいんだが、授業受けるの面倒臭いな。⋯⋯休むか。

 急遽管理局の仕事が入ったので学校を休む、と連絡しとこう。

 ミアにも連絡しとくか。

 

 

 

 

 

 

 ミアに連絡すると、ハリーが後ろでギャーギャー騒いでいた。

 とりあえずそれを無視して休む旨を伝える。

 

「じゃあ頼むわ」

 

「あ、ああ、分かった。⋯⋯なあ、宗二」

 

「あ?」

 

「こういうのはリーダーに連絡してくれないか?」

 

「なんで?俺がノート頼んだのお前なんだが」

 

「いや、リーダーがへこむんだよ」

 

 ハリーのガラス・ハートはジーク以上だったの忘れてた。

 

「分かった。次からそうする」

 

「ああ、頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミアに連絡し終え、暇なので局内をうろうろする。

 確かこっちは航空戦技教導隊の訓練場だったな。そこには管理局の白い悪魔こと、エース・オブ・エース高町なのは一等空尉がいるはずだ。

 ちょっかいかけに行こーっと。

 

「おはようございます、なのはさん」

 

 茶色のサイドポニーの女性、高町なのはさんに挨拶をする。

 

「ああ、宗二君。おはよ~」

 

 手を振りながら笑顔で答えてくれるなのはさん。もう二三だというのに可愛さが残っているとは。

 心が幼いという事か、幼さを忘れないという事か、体が幼いという事か。

 なのはさんの、一般的に見れば大きいほうの胸を見る。

 

「――はっ」

 

 おっと、つい笑ってしまった。なのはさんの胸は大きい方なんだろうが、シグナムさんやフェイトさんを筆頭に、胸の大きい人が周りにたくさんいるので、なのはさんの胸は小さいほうというカテゴリに入ってしまうのだ。可哀想に――

 

「――あっぶなッ!」

 

 俺がなのはさんの胸を見て思考の海に沈んでいると、突然なのはさんのアクセルシューターであろうものが、俺の鼻先を掠める。

 

「ああ、ごめんね。失礼な事考えられてた気がしてつい」

 

「ハハハ、ソンナコトオモウワケナイジャナイデスカ」

 

 さ、流石はエース・オブ・エース。勘のいいことで。

 

「そう言えば宗二君、今日学校は?」

 

「休みました」

 

「ダメだよ?あんまり学校を休んじゃ」

 

「面倒臭いんですよ、局に来ちゃうと」

 

「まあ、分からないでもないけどね。でもちゃんと学校には行きなね?学生の本分は勉強なんだからね」

 

「分かってますよお母さん」

 

「お母さん!?」

 

 はっ!母親のような事を言われてつい言ってしまった。でも間違ってないよね、局に入ってからお母さん的立場で面倒見てくれた人だから。

 

「ごめんなさい、ついうっかり」

 

「う、うっかりって――」

 

「そういえばなのはさん。教導隊の仕事は?」

 

「今は休憩中だよ。そうだ、宗二君も一緒に練習する?」

 

「謹んで遠慮します」

 

「ええ~、やろうよ~。ほら、インターミドルの練習にもなるし」

 

 ならねぇよ。俺がいつもあんたの訓練すると決まって模擬戦やろうって言ってくるじゃん。ただの模擬戦ならまだしも、ブラスターにカートリッジ使ってくんの。

 しかもあの人、「なんか楽しくなってきちゃった!」とか笑顔で言いながら、本気で落とそうとするし、挙句ゼロ距離SLBですよ?僕死んじゃう。

 

「死ぬの嫌なので遠慮します」

 

「死なないよ!?⋯⋯ああ、そうだ。ねえ、宗二君」

 

「はい?」

 

「今年からヴィヴィオもインターミドルに出るんだ」

 

 ヴィヴィオ?どなた?

 

「ヴィヴィオって?」

 

「あれ?言ってない?私の子供の――」

 

「なのはさんの子供!?そんなひどい!俺と子供を作る約束してたのに!相手は誰!?まさか、ユーノさん!?」

 

「違うよ!ヴィヴィオは養子だし、私ユーノ君とそういう関係になってないし、それにそんな約束なんてしてないよ!?」

 

 そうだったのか、そのヴィヴィオって子はなのはさんの養子か。てっきり誰かと作ったのかと⋯⋯。ユーノさん、なのはさんとそう言う関係になってないのか、――チャンス!

 

「なら今約束しましょう!ほら指斬り!」

 

「約束しないし、なんか言葉の意味違くない!?」

 

「おや?そうですか?」

 

「はぁ⋯⋯。それで、ヴィヴィオが出るんだけどね?宗二君には練習相手になってほしいんだけど」

 

 練習相手、ねぇ。

 

「いいですけど、条件があります」

 

「条件?」

 

「今週末俺とデートを――」

 

「じゃあ宜しくね~」

 

 あれぇ?そそくさと何処かに逃げやがった。

 まあ、お母さんの頼みだ。やってあげるか。

 

 

 

 

 

 

 

 なのはさんと話した後、そこら辺をウロチョロしていると、綺麗な金色の髪をおろした女性の後ろ姿が見える。

 金色の髪をしているのは局の中で二人しかいない。

 あの人はフェイトさんではないだろう。

 だってスタイルが違う。フェイトさんは、制服の上からでも分かるほど素晴らしいスタイルをしているんだ。

 だが彼女は違う。フェイトさんのようなボンキュッボンではなく、ツルンストーンとしたスタイルだ。

 だからこの人だろう、という確信のもと、声を掛ける。

 

「よう、アリア」

 

「え?ああ、宗二君」

 

 当たりだった。

 声を掛けたのが俺だと分かり、微笑みかけてくれる彼女はアリア・ハシャトルテ。金色の髪に綺麗な赤い瞳。無い訳では無い慎ましやかな胸を持っている。全体的にスレンダーという感じを受ける女性だ。

 ちなみに、フェイトさんと似ている部分が多々あるために、フェイトさんに振られた局員たちが、今度は彼女に乗り換えたという話を多く耳にする。

 

「今から仕事か?」

 

「うん、ティアナさんとね」

 

 アリアは執務官補佐だったりする。

 

「そうか、頑張れよ」

 

「うん、ありがとう。宗二君」

 

「おう」

 

 おっとっと、忘れるところだった。

 

「なあ、アリア」

 

「うん?」

 

「今週末暇か?」

 

 俺が言うと、どうにも言葉にし難い表情をした。少なくとも、俺の言葉の意図を理解しているはずだ。

 

「はぁ、まだやってるんだ。いい加減にしないと、誰からも相手にされなくなっちゃうよ?」

 

「大丈夫大丈夫」

 

「どこから来るの?その自信」

 

 大丈夫だよ。あの四人だけは絶対に俺を嫌いにならない。

 

「それで?今週末暇?」

 

「暇じゃないよ、その日は」

 

「そっか。じゃあ来週末は?」

 

「ねぇ、いい加減諦めてくれない?私今仕事が恋人って感じだから」

 

「そんな事言ってると、なのはさん達みたいに婚期逃すぞ?」

 

 俺の周りでのあの人たちのキャッチフレーズは、「未だ、誰のものでもありません」だからな。

 可哀想に。

 

「大丈夫。私婚約者いるから」

 

 は?今なんと?この子は今なんて言ったの?婚約者?婚約者がいるって言ったの?

 

「なるほど、そういう夢を見たんだな」

 

「現実よ!ホントにいるんだから!」

 

「そうかそうか」

 

「もうっ、信じてないでしょ!」

 

「信じてるよー、じゃあな」

 

 俺はアリアに手を振り、その場を去る。

 可哀想に。勤勉に仕事をしてきたから、夢と現実がごちゃ混ぜになってしまったのか。

 南無。




 アリア・ハシャトルテはオリキャラです


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五話

 あの後ほんの少し、アリアに「本当にいるんだからっ!」と言われ続けたが、それを華麗にスルーしてある所に向かった。

 何処へ向かったかと言うとだ。先ほど会ったアリアが執務官補佐ならばだ。もう執務官へ会いに行くしかないよね。

 でも死神さんは怖いからあまり局内でお近づきになりたくないので、もう一人のほうへ行こう!となったのだ。

 もう一人というのが、今机に向かってパソコン仕事をしている人だ。

 とりあえず、

 

「おはようございますティアナさん!!!」

 

「ファントムブレイザー!」

 

「うお、あっぶなッ!」

 

 いきなりこんな強力な魔法、パンツめくれ――もとい、ファントムブレイザーを局内でぶっ放した人はティアナ・ランスター。執務官試験を満点合格した天才であり、なのはさんを魔王たらしめた人物である。

 ちなみにこの人、綺麗な顔立ちと抜群のスタイルで男性局員をたぶらかして弄んでいるとかいないとか。

 

「たぶらかしても弄んでもいないわよ!」

 

 ワーオ、ココロヨマレテーラ。

 ミカヤさんに続いてティアナさんまで俺の心を読み出すとは。

 

「何を言っているのかさっぱり分かりませんが、とりあえず今週末デートしましょう」

 

「なに言ってんのか分かんないのはこっちよ!」

 

「そんなに怒ると綺麗な顔に皺ができますよ?あと禿げますよ?」

 

「怒らせてる張本人がそれ言うな!」

 

 ふむ。やはりティアナさんが相手だと、ボケがはかどる。

 それはさておき、さっきの答えを聞いていない。

 

「今週末デートしましょう?」

 

 上目遣いで言えば、大抵の人は断れないと聞いたので実践してみる。

 

「する訳無いでしょ、あんたなんかと」

 

 おい!上目遣いで言えば大抵の人断れないとか言った奴誰だよ!瞬殺されちゃったじゃねぇか。

 まぁティアナさんはツンとデレを使い分ける匠と聞いている。もしかしなくてもそれだろう。

 

「もしかしなくても違うわよ、バカ」

 

 ワーオ、マタココロヨマレテーラ。

 流石、執務官なだけはある。人の心を読むのが得意なようで。

 

「ツンの答えは聞いたので、デレの答えを」

 

「私にツンもデレも無い!」

 

「なん………………だと…………ッ!」

 

「なんでそんなに驚くわけ!?」

 

 いやまあ、言ってみただけだ。分かっていたとも。ティアナさんがツンもデレも持っていないという事ぐらい。

 ところで、

 

「ティアナさん。デスクワークばっかりで肩こってませんか?」

 

「え?なによいきなり。そりゃこってるけど……」

 

 うん、でしょうね。そんな立派なお山二つもぶら下げてたら、肩もこるでしょう。

 

「肩、揉みましょうか?」

 

「しなくていいわよ」

 

「ファッ!?」

 

 な、何故だ!?肩を揉むフリをしておっぱいを揉むという俺のパーフェクトな作戦が。ばれたか?いや、ばれてないよな?

 

「どうせあんた、肩を揉むフリして変な事するつもりだったんでしょう?」

 

 バレテーラ。

 あんたのことなんか何でも分かるんだから、とでも言わんばかりのドヤ顔を向けてくるティアナさん。

 そのドヤ顔百万ボルト!

 しかしこの人は、どうやって人の心を読んでいるのか。

 と、ティアナさんの七不思議について考えていると、ティアナさんは大きな溜息を吐き、

 

「用事が無いならどっか行ってよ。私暇じゃないんだから」

 

「俺だって暇じゃないですよ」

 

「じゃあさっさと行きなさいよ!」

 

「今やってるのが用事なんですよ!」

 

「私の邪魔をすることがか!」

 

「ティアナさんとデートの約束をすることですよ!」

 

「あーもう、うるさい!」

 

 そう言い、クロスミラージュを俺に向けてくるティアナさん。

 な、何をする気なの?

 

「早くどっか行かないならあんたを消し炭にするわよ!」

 

 はっ!魔力がクロスミラージュへと集まっている!こ、これは、愛と勇気と魔法の力を込めて放つ、超強力な収束砲撃魔法、SLBさんじゃないですか!

 いや!だめよそんなの!そんなことしたら俺死んじゃう。

 

「だめですよ、SLBなんて!しかもこんな所で」

 

「うっさい!」

 

 だめだ。話聞かなくなってる。

 しょうがないか。

 

「いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 一目散に逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう、危ない。もう少しで殺されるところだった。

 さてどうしたものか。今のところ誘えたのはハリー、ヴィクター、ミカヤさん、ジーク、シグナムさんの五人。

 他はどうしようか。なんか、これ以上誘っても意味が無い気がするのは気のせいだろうか。

 

 おや?あんなところに藍色で長い髪の女性が。間違いない。あれは、

 

「おはようございます、ギンガさん!」

 

「あ!――ああ、おはよう宗二君」

 

 俺に後ろから抱きつかれたというのに、嫌な顔せず、むしろ笑顔を返してくれた女性はギンガ・ナカジマ。あのジジイの娘さんだ。あのジジイに似ず、綺麗で優しい人に育ってくれたらしい。

 あのジジイに似ていたら、腹黒女になっていたところだ。……それはそれでアリか。

 

「どうしたの?宗二君」

 

 今まで局の誰も向けてこなかったはずの優しい笑みを向けてくれるギンガさん。ギンガさんマジ天使。

 

「週末俺とデートしてくれないかな、と思いまして」

 

「嫌だよ」

 

「ファッ!?」

 

「だって宗二君、いろんな人誘ってるでしょ?私独占欲強いから、一対一じゃないと嫌なの」

 

「なら来週末!一対一でデートしましょう!」

 

「ホントに?」

 

「ホントに!」

 

「――なら、いいよ。デートしようか」

 

「わーい!」

 

 やったぜ!ギンガさんとのデートの約束ができた!

 

「ああ、ところで。例の自称覇王とは会ってない?」

 

「ええ、会ってないですよ」

 

「そう。なら気を付けてね」

 

「分かってますよ」

 

「じゃあ、来週末ね」

 

「はい」

 

 そう言って俺はギンガさんと別れた。

 いやーよかった。ギンガさんとデートの約束ができて。

 さて、あと残ってるのははやてさん、シャマルさん、スバルさんか。はやてさんはいいか。腹黒狸は断る時も腹黒であった。シャマルさんもいいか。あの人とデートすると、弁当作ってくるんだ。その気持ちは嬉しいんだが、ダークマターを持ってくるのは止めてほしい。とするとスバルさんか。あの人は人柄もいいし、料理も上手い。何よりギンガさんの妹である。誘わない手は無い。

 

 

 

 

 

 と、そう俺が決意をした時だ。

 

「見つけたよ~、宗二君」

 

「は、白い悪魔!」

 

「誰が悪魔!?」

 

 そうです。二度目のなのはさん登場なのです。そのなのはさんは、俺の肩を掴んでいる。

 

「ティアナから聞いたよ?お仕事の邪魔してるんだって?」

 

 駄目だ。目に光が無い!これは、「O☆HA☆NA☆SHIしようか」の合図。とりあえず言い訳を。

 

「いやまあ、結果的にそうなっただけであって、俺自身は、邪魔する気など毛頭無く……」

 

「問答無用~」

 

 いやああああああぁぁぁ!有無を言わさず連れて行かないでぇぇぇッ!



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六話

「は〜い、それじゃあ訓練再開するよ〜」

 

 なのはが教導隊訓練生達に声を掛ける。そのなのはに訓練生の中の一人の男性が手を挙げる。

 

「はい、ファウロン君」

 

「あの、高町教導官。小鳥遊嘱託魔導師は放っておいていいのですか?」

 

 ファウロンと呼ばれた男性が見つめる先、それに釣られてその場にいたほぼ全ての者が見た先には、体育座りで光の宿っていない目を小刻みに震わせ、何事かをブツブツと呟いている、小鳥遊宗二がいた。

 

「あ〜いいのいいの。宗二君は今はまだあのままでも」

 

「今はまだってどういう事ですか!?」

 

 先程まで生きた人間とは思えないほど死人臭がしていたのに、何故――ええいうるさい!第三者目線の地の文め!何が死人臭だ!俺は生きてる!

 

「どういう事って、宗二君は私と模擬戦だよ〜」

 

 ファッ!?そんな可愛い顔で死刑宣告をするなんて!酷い!酷いわお母さん!

 

「ごめんなさい許して下さい俺まだ死にたくないんですぅぅぅッ!」

 

「だから死なないってば!」

 

「そんな悪質な嘘は通用しませんよ!」

 

「悪質な嘘って酷い!」

 

「ゼロ距離SLBとか殺す気満々じゃないですか!」

 

「そんなこと無いもん!それは宗二君に手加減出来ないだけだもん!ちゃんと非殺傷設定で撃ってるから死ぬ事なんて無いもん!」

 

「もんとか言ってんじゃないよ!あんたもう二十三でしょうが――あっぶなぁッ!」

 

 ついつい言い合っていて頭に来たからなのはさんに対しての禁句を言ってしまった。ワオナニアレジメンエグレテル。

 だ、駄目だ!足が震える!震えるのは脳だけで充分ですよ。

 

「今なにか言った?」

 

「イイエナニモイッテマセンヨ。イウワケナイジャナイデスカ、ハハハ」

 

 ヤベェ、目が笑ってねぇ。逆に俺は首から下が笑ってる。恐怖によって。

 

「そう?なら良かった」

 

 ホッと胸を撫で下ろす。納得してくれて良かった。流石は処女。

 

「宗二君、O☆HA☆NA☆SHIする?」

 

「エンリョシテオキマス、コロサナイデ」

 

 なのはさんまで心を読んでくるとは⋯⋯。俺にプライバシーはなくなりつつあるようだ。

 

「は〜い皆、今からいつもと同じメニューをこなしてね。それが終わった人から休憩です」

 

 なのはさんの言葉に、元気よく返事をする彼ら彼女ら。若いっていいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オゥフ、ミンナバテテーラ。

 可哀想に。鬼教官高町によってしごかれてしまったのか。南無南無。

 

「じゃあ今から、宗二君と私で模擬戦するから、皆見ててね〜」

 

「いやあああああぁぁぁぁぁァァァァァッッッ!!!」

 

「逃げちゃダメだよ〜」

 

 やめてぇッ!バインドかけないでぇッ!まだ死にたくないのにぃッ!

 

「ほら早くセットアップして」

 

「うぅ⋯⋯。分かりましたよ」

 

 しょうがない。ここは死地に飛び込むしか無いようだ。

 俺は自分のデバイスである白虎を目の前で持つ。

 

「セットアップ」

 

 白と黒で構成されたバリアジャケットを着て、刀の柄を握る。

 

「では始めましょうか、お母さん」

 

「だからお母さんじゃないって!」

 

 おっと、また間違えた。おや?俺のお母さん発言を聞いた訓練生達がざわめき立つ。

「お母さんって?」「なのはさんの子供はヴィヴィオちゃんだけのはずだろ?」「まさか隠し子!?」「実の息子だったりして」「いやいや、なのはさんまだ二十三だよ?」「それに小鳥遊君は十五だ」「八歳差か」「八歳で産んだってことか」などなど。

 

「ちょっと待って!?ホントに宗二君とはそういうのじゃないからぁッ!」

 

 なのはさんが困っている。面白いからこのまま行こう。

 

「じゃあ行きますよお母さん!」

 

「だからお母さんじゃないってば!」

 

 俺の不意打ちの衝裂斬をレイジングハートで受けるなのはさん。流石はエース・オブ・エースだ、不意打ちを受けるとは。

 

「アクセルシューター」

 

 なのはさんの周りに桜色の球体が数十単位で出現する。さすがにあれを全て撃たれたら逃れられんな。向こうが来るより先にこっちが行く!

 

「シュート」

 

 という事でなのはさんの元へ肉薄している最中の俺に、数個のアクセルシューターが向かってきた。それを刀で切り落とし、なのはさんへ切りかかる。なのはさんはレイジングハートで防ぎ、アクセルシューターを放とうとする瞬間、なのはさんの顎を蹴り上げる――事は魔法陣に阻まれて出来なかった。

 

「シュート」

 

 蹴りを防がれたのでその場から飛び退いた俺に、なのはさんがアクセルシューターを十個ほど放ってきた。それをなんとか全て切り落とし、なのはさんに技を放つ。

 

「白虎裂斬一刀流 空の御霊ッ!」

 

 白虎裂斬一刀流空の御霊。この技は、純粋な剣技により斬撃を飛ばす技。ただこの技は、使い手の熟練度や技量だけでなく、得物によっても威力や飛距離が変わってくる。俺の使う白虎の場合、最長で二十メートル飛ばす事ができ、その斬撃は鋼をも切り裂く。試した事は無いが、防御魔法も切れる筈。

 

「――ッ!」

 

 案の定切れたようで、なのはさんは驚愕しもう一度防御魔法を使い、なんとか防ぐ。斬撃によって生じる隙を見逃さない俺。すかさずなのはさんへ詰め寄り突きを放つ。首を動かし避けたなのはさん。だが間に合わなかったのか、頬が少しだけ切れて血が流れている。

 突きをすれば刀を引く、と思ったらしくなのはさんは攻撃の体制に入る。その予想を裏切るように、俺はそのまま刀を振り下ろす。

 

「ッ!そんな!」

 

 間一髪レイジングハートで防いだなのはさんは、魔導師のメリットを活かし、俺にアクセルシューターを放つ。残りの全てだ。それをなのはさんから飛び退きながら切り落とし、衝裂斬で攻撃を仕掛ける。

 無論それは防がれ、反撃の砲撃魔法が放たれる。

 

「ディバイン、バスターッ!」

 

「チャージの時間どうしたのおおおぉぉぉッ!?」

 

 ギリギリで避けることが出来た。お、おかしい。あれは威力が大きい分チャージが長いはず。なのに何故?

 

「これはチャージの時間を短縮する事を目的とした魔法、ショートバスターだよ」

 

 俺の疑問を孕んだ絶叫に、可愛い笑顔で答えるなのはさん。それにしても、それをディバインバスターって言うのは卑怯だ。焦っちゃったじゃねぇか。

 

「なんという恐ろしいハッタリをかますんだお母さん」

 

「だからお母さんじゃないって言ってるじゃん!」

 

「酷い!俺なんか息子と認めない訳!?俺はお母さんの事、こんなにも愛しているというのに!」

 

 顔を両手で隠し、オロオロと泣いてみせる。その光景を見て訓練生達はまたざわめき立つ。

「やっぱり親子だったんだ」「ならなんで苗字違うの?」「それはあれだろ?なのはさんが小鳥遊君の事子供として認めてないんじゃ?」「え?なのはさんってそういう人なの?」「ファン辞めよっかな俺。今までゆかりんに声が似てるから高町なのはファンクラブに入ってたのに」

 

「ちょっ!だから違うってば!皆も宗二君の嘘に騙されないでぇ!」

 

 計画通りだ。俺の精神攻撃によりなのはさんは焦っている。しかし一人変な事言ってなかったか?

 

「俺はなのはさんの息子になりたいですよ」

 

「こんな言うこと聞かないおませな子供はお断りかな」

 

「じゃあ恋人で」

 

「もっと嫌かな」

 

「なら今週末デートしてください」

 

「絶対に嫌だよ」

 

 わあ、全て断られてしまった。僕泣いちゃう。

 目尻に涙を浮かべながら、なのはさんへ突っ込んでいく。

 斬って斬って斬りまくる。攻撃は最大の防御と言うだろう?それをしていると、なのはさんのバインドが来るんだよ。

 うわぁん忘れてた。俺の非力な腕じゃ、バインドを千切ることは出来ない。

 

「集え 星の輝き」

 

 なのはさんが手をかざすと、そこから桜色の魔力が勢いよく膨れ上がる。

 こ、これは、皆大好き愛と勇気と勝利の一撃、SLBさんやないですか!いや!駄目よそんなの!せめて距離を取ってよ!なんでこんな所でチャージを始める!?

 ない腕力で、必死にバインドをちぎろうとする俺に、なのはさんが無慈悲に告げる。

 

「スターライトブレイカーッ!」

 

「いやああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 目の前が桜色一色となり、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺死んだかもしれん。




空の御霊(からのみたま)です


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七話

 あれ?ここは何処?私は小鳥遊宗二。真っ白な空間に俺はいる訳だが⋯⋯。ホント何処ここ?

 え?何ここ噂に聞くあれ?死後の世界ってやつ?生前に悔いを持って死んだ奴が訪れるというあの?

 てことは奏ちゃんいるの?ハンドソニックを可愛い感じに言って欲しい。ゆりっぺ何処!?ライフルのスコープ覗きながらようこそって言って欲しいんだけども。

 ⋯⋯ん?あそこにいるのは、誰?二人だな。顔は見えないが二人の人物が俺に手を振っている様だ。取り敢えず俺も手を降ってみよう。

 すると二人は手招きをし始めた。こっちに来いという事か?なるほど、行こうじゃないか。

 俺が歩き出すと、ピチャリという音が聞こえた。これは水の音か?ホントにここ何処なの?なんか不安になってきた。

 水辺と思しき場所で歩を進めると、手招きしている二人の顔がぼんやりと見えた。

 

「――え?父さん?母さん?」

 

 なんで?なんでいるの?あなた達死んだ筈よ。

 ⋯⋯なるほど。やはりここは死後の世界。そして今俺が立っている場所は三途の川の中心あたりと考えていいだろう。

 そうか。俺はなのはさんのSLBで死んだのか。そうかそうか。物凄く心残りはあるけど、死んでしまったものは仕方がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今行くよ!父さん!母さん!」

 

「あ、やっと起きた」

 

「イケメン死すべし慈悲は無し!」

 

「いきなり危ないじゃないか」

 

 くぬぅ。このイケメンは、俺の渾身の右ストレートをニコニコ笑顔で簡単に受け止めやがったよ。

 

「いやぁ、君がなのはちゃんに倒されたと聞いた時はまたかと思ったけど⋯⋯、まさか精神状態のせいで生死の瀬戸際に立たされるなんてね」

 

「そっすか。ハーシャさん、俺が倒れてからどれくらい経ちました?」

 

「んー、小一時間ってところかな」

 

 生死の瀬戸際ってその程度の時間しか経たないの!?と俺が驚愕していると、ハーシャさんが誰かと通信していた。

 

「やあなのはちゃん。宗二君が起きたよ」

 

 なのはさん⋯⋯だと!?

 

「いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

「ッ!?どっ、どうしたんだ、宗二君!」

 

「なのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖いなのはさん怖い⋯⋯」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯なのはちゃん、何をしたのかは知らないけど、やり過ぎだよ」

 

『ご、ごめんなさい⋯⋯』

 

 ひぇぇっ!なのはさんの声が聞こえたぁ!怖い怖い怖い!なのはさんに殺される!!

 

「宗二君。取り敢えず落ち着こうか。なのはちゃんは、ここに来てくれるかな」

 

 なのはさんの返事は無く、通信が切れる。頷いたのだろう。というより、なのはさんがここに来るのか!

 

「嫌だああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!生死をさまようのはもう嫌だああああぁぁぁぁッッ!!」

 

「落ち着くんだ宗二君。なのはちゃんはここへ来ても君には何もしないし、しようとすれば僕が全力で止めるから」

 

「⋯⋯本当ですか?」

 

「勿論だ」

 

 アニキ!一生ついていきます!

 

 

 

 

 程なくしてなのはさんがやって来る。

 逃げ出したくてたまらない俺はというと、ハーシャさんのバインドによってグルグル巻にされている。

 

「なのはちゃん。君は宗二君に何をしたの?」

 

「えっと⋯⋯。二人で模擬戦をして、その過程で手加減出来なくてゼロ距離SLBを――。えへへっ」

 

 ハーシャさんが大きな溜息を吐き、やれやれと首を振る。

 

「あのねぇなのはちゃん。模擬戦に熱くなるのも分かるけど、それで死者を出したら意味が無いだろう?もし宗二君が芯の弱い人間だったら、すぐに三途の川でも渡っていたかもしれないんだよ?」

 

 ごめんなさい。途中まで渡りました。むしろ渡る気満々でした。てへへっ。

 

「ごめんなさい⋯⋯」

 

 なのはさんが申し訳無さそうに俯いた。

 

「謝る相手は僕じゃない」

 

 ハーシャさんが言うと、なのはさんは俺の方を向き、頭を下げる。

 

「ごめんなさい宗二君。気を付けようとは思ってたんだけど、つい撃っちゃって⋯⋯。本当にごめんなさい!」

 

「⋯⋯⋯⋯カミナのアニキ。この人怖い」

 

「ええっ!」

 

「止めてくれ。僕はそんなに出来た人間じゃ無いよ。あんな男気があれば、医者じゃなく、ガンメンの操縦者になっていたさ」

 

「それはそれで危険ですね。カミナのアニキはすぐに死ぬから」

 

「ネタバレは言っちゃいけない事だと思うよ。まだ見てない人だっているんだから」

 

「ちょっ、二人とも、なんの話ししてるの!?」

 

 と、なのはさんがツッコんだところで脱線した話を戻す。

 

「許しませんよ。なのはさんがデートしてくれるまで」

 

「い、いや、それはちょっと」

 

 この後に及んでもまだ断るかね。ならば仕方ない。大人が子供になるのであれば、子供が大人になろうじゃないか。

 

「ならせめて、なのはさんのお友達紹介してくださいよ。魔導師じゃなくて普通の人。なのはさんの故郷のお友達とか」

 

「うん!それならいいよ」

 

 あ。この人友達売るタイプだ。

 

「すずかちゃんとアリサちゃんって言うんだけど」

 

 言いながら、なのはさんは俺にその二人が映った画像を見せてくれる。右の藍色の長い髪の人が月村すずかさんで左の金髪ロングの人がアリサ・バニングスさんだという事だ。なるほど。

 

「二人ともいい声ですね」

 

「聴いたこと無いよね?」

 

 そこは気にしない。時間や時空の歪み何ていう都合のいいものを使う作者なんていくらでもいるさ。

 取り敢えず、その二人の連絡先を教えてもらい、俺は今日初めてなのはさんに会った時に言われた事を思い出す。

 

「あ、そうだなのはさん。確かお子さんの練習相手になって欲しいって言ってましたよね」

 

「ああ、うん!お願いできるかな?」

 

「勿論ですよ。なのでお子さんの名前と学校名と学年を教えて下さい」

 

「は〜い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、俺は今St.ヒルデ魔法学院に来ていた。

 取り敢えず、ここに入る為には入校証というのがいるらしいので、それを貰いに事務室に行く。

 

「すみません。入校証が欲しいのですが」

 

「はい。本日はどのようなご要件で?」

 

「初等科四年の高町ヴィヴィオさんに用があって来ました」

 

「⋯⋯失礼ですが、身分証はお持ちですか?」

 

 ふむ。ヴィヴィオちゃんなる子に用があると言うと警戒心が強くなった。噂によれば一度攫われているらしいから、警戒するのも頷ける。俺は事務室のお姉さんに言われるまま、身分証を出す。管理局嘱託魔導師としての身分証だ。

 

「っ!失礼しました。管理局の方とは知らず」

 

「いえ、いいんですよ」

 

「それでは、それが入校証になります。良く見えるように、首にかけておいて下さい」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 お姉さんから入校証を受け取り、事務室を出る。

 

 

 

 と、ここがヴィヴィオちゃんなる子がいる教室だな。流石に昼休みとなると、生徒達で廊下がごった返してやがる。

 名前などは教えて貰ったが、写真までは見せて貰ってないので、教室から出てきた一人の生徒に声を掛ける。

 

「ねぇ君。高町ヴィヴィオちゃんってどの子?」

 

「ヴィヴィオちゃんですか?その子ならあそこに居ますよ」

 

 少女が指差した先、そこには楽しそうに談笑している女生徒が三人。オッドアイって言ってたからあの子だな。

 俺は三人に近づき、声を掛ける。

 

「君が高町ヴィヴィオちゃん?」

 

「え?はい、そうですけ⋯⋯ど。――ッ!」

 

 俺の顔を見た瞬間、ヴィヴィオちゃんの可愛い顔が驚愕に染まる。え?俺そんなに驚く顔してる?

 

「た、た、たた⋯⋯、小鳥遊宗二選手!?」

 

 ヴィヴィオちゃんが叫んだ事によって、周りがざわつきだす。

 

「ん?俺の事知ってるの?」

 

「も、勿論ですよ!今まで出場した回数は五回。都市本戦常連選手でしかもその戦績の中で、世界戦優勝を果たした事もある、超有名選手じゃないですか!!」

 

「そうですよ!同じ都市本戦常連のミカヤ選手と同じ純粋な剣士でありながら、熟練者であるミカヤ選手すら圧倒してしまう程の実力者!」

 

「そんな凄い人、インターミドルを目指す人が知らない訳無いですよ!」

 

「お、おう」

 

 熱い!熱量が半端なくて熱い!ていうかヴィヴィオちゃんだけじゃなくて栗色ツインの子や黒髪ショートの八重歯っ子も知ってるんだ。しかも、八重歯っ子の言い方だと、自分もインターミドルを目指してるのん?

 

「そ、それで、そんな凄い人が、私なんかに何の用なんですか?」

 

「ああ、君のお母さんに、練習相手になって欲しいって頼まれてね」

 

「え!?なのはママに!?」

 

 ヴィヴィオちゃんは驚くと、どうして頼んでくれたんだろう、と顎に手をやりながら考えている。うん。動作の一つ一つが可愛いな。

 

「あ、あの時の事かな!でもあんなの冗談で言っただけだし⋯⋯」

 

 この子表情がコロコロ変わるな。可愛い。

 

「あーっと、迷惑だったり?」

 

「え!?いや、そんな事無いですよ!凄く嬉しいです!むしろこちらから行かなければならないのに」

 

「ああ、そんな事はいいよ。それより今からやらないか?練習」

 

「え?今からですか?そんな場所ありましたっけ?」

 

「大丈夫。教員に頼んで用意してもらった。場所は体育館だ」

 

 俺が言うと、八重歯っ子がヴィヴィオちゃんに話しかけた。

 

「ええー。いいないいな。ヴィヴィオだけズルいよぉ〜」

 

「へっへーん、いいでしょぉ」

 

「あの、もし宜しければ、私達にもお相手して頂いて宜しいですか?」

 

「ああ、いいよ。ま、取り敢えず、体育館に行こうか」

 

「「「おー!」」」

 

 三人が拳を掲げ、返事をした。なんだろう、やっちゃいけないって分かってるのに、違う扉を開けてしまいそうな自分がいる。耐えろ俺よ!この子達に手を出したら、本当になのはさんに殺される。



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八話

 ヴィヴィオちゃんらと共に体育館へと足を運んだ俺。

 俺達が戦うという噂でも聞きつけたのか、幾人もの生徒が足を運んでいた。

 

「さて、やろうかヴィヴィオちゃん」

 

「はい!」

 

 ヴィヴィオちゃんは元気に返事をすると、

 

「クリス、セットアップ」

 

 おや?ずっとフワフワ浮かんでいて気になっていたそれは、デバイスだったのねん。

 セットアップが進むにつれて驚きが一つ。

 おっきくなってる!!

 背丈だけじゃなくて色んなところが!特におっぱいが!

 

「さあ、やりましょう宗二さん!」

 

 あああ。おっぱいだけじゃなくお尻も大きくなってる!すごいムチムチな太ももやんけ。素晴らしい。母親であるなのはさんを超えたな。可哀想になのはさん。娘にすらプロポーションで負けてしまうなんて⋯⋯プッ。

 

「あの、宗二さん?」

 

「――ん?うわッ!」

 

 びっ、ビックリしたぁ。俺が思考の海に沈んでいる隙をついて俺の顔付近で上目遣いをするとは。しかも何気に名前呼びになってる。いや嫌いじゃないよ?むしろ好き。成程、なかなか侮れん娘だ。こんな事までやってくるとは⋯⋯。

 っと、ヴィヴィオちゃんもびっくりしたようで、驚いた表情で一歩引いている。

 

「だ、大丈夫ですか?宗二さん」

 

「あ、ああ、大丈夫だよ」

 

 そう応えて俺もセットアップする。白と黒で構成されたバリアジャケットを着て、愛刀白虎を構える。

 

「いつでもいいよ、ヴィヴィオちゃん」

 

「押忍!」

 

 という掛け声とともに俺へと距離を詰めるヴィヴィオちゃん。おう、速いな。もう目の前まで。

 ヴィヴィオちゃんのジャブを柄で受け流し、ヴィヴィオちゃんの顎に掌底を放つ。短く呻き声を上げて後方へ滑る。

 いやしかし速いなヴィヴィオちゃん。あんな一瞬で目の前まで来るなんて⋯⋯。歩法かな?単なる身体能力かな?

 

「あ、あの、これって魔法ありでしたっけ?」

 

「俺は構わないよ」

 

「ならッ」とヴィヴィオちゃんは掌に魔力で球を作り、俺に投げつける。それを華麗に切り落とすと、またもヴィヴィオちゃんが俺の目の前に。

 

「ジェットステップ!」

 

「うおッ」

 

 あぶねえ。ヴィヴィオちゃんのスラリと伸びた足から繰り出された上段蹴りを屈んで避ける。ウッホーイ!いい眺めだ。

 安心しろ、俺はただの変態じゃあない。白虎の鞘でヴィヴィオちゃんの軸足を払いにかかる。だがヴィヴィオちゃんは飛び上がることで避けると、

 

「痛ッ!?」

 

 な、なに!?なにが起きたの!?

 なにが起きたか分からない顔でヴィヴィオちゃんを見ると、やってやったぜというような顔をしていた。ヤバイ。なにあの子可愛い。しかも大きな胸を張ったため胸が揺れたのだ。

 

 オッパイプルンプルン!!

 

「はっ!なんだか邪気が!」

 

 流石はなのはさんの娘だ、勘が鋭い。俺の邪気に気付くとは。ていうか今何したの?

 

「このソニックシューターを撃ったんです!」

 

 言いながら掌に魔力で球を作る。ソニックか⋯⋯。青いハリネズミを思い出す。

 そんなことよりヴィヴィオちゃん、いちいち可愛いな。やってやったぜって顔からドヤった顔からいちいち可愛いんだよな。――いけない、本当に開けちゃいけない扉を開けそうになってる。

 耐えろ俺よ!今はバインボインなヴィヴィオちゃんでも、元の姿はロリロリしたロリっ子だ。そんなヴィヴィオちゃんに手を出せば犯罪だぞ。真面目になのはさんに殺されるからな。ただ見つめる分には構わんだろう。眼福眼福。

 

「ええっと⋯⋯。宗二⋯⋯さん?」

 

 俺が手を合わせて拝んでいると、ヴィヴィオちゃんは困った顔をした。可愛い。

 

「いや、なんでもない。続きやろうか」

 

「押忍!」

 

 ヴィヴィオちゃんが返事をしたのを確認して、衝裂斬で斬り掛かる。

 おおっ!?スウェーと呼ばれるボクシングの防御法で俺の攻撃を避けまくってますよ。やはり動くと胸はお揺れになられるのですね。眼福眼福。と、俺がヴィヴィオちゃんの胸に気を取られていると、ヴィヴィオちゃんが俺の懐に潜り込んできた。ってか速っ!?

 ヴィヴィオちゃんがアッパーカットを繰り出そうとしているのを見て、拳に足の裏を当て拳の威力を利用して後方へ飛ぶ。

 そして構えを取り、技を放つ。

 

「白虎裂斬一刀流 空の御霊ッ!」

 

 一応峰で放っているため、飛ぶ斬撃も切れ味は鈍くなっているだろう。まともに食らっても血飛沫が舞う、なんてことは無い⋯⋯だろう。分からん、やった事が無いから分からん。だが多分ない⋯⋯⋯⋯⋯⋯筈だ。まぁ、その時はその時だ。

 ヴィヴィオちゃんは斬撃を避けて俺に迫る。そのヴィヴィオちゃんに鞘で攻撃。勿論避けられる。そんなものは想定済み。本命は左足へのローキックだ。

 

「――ッ!」

 

 ローキックが命中して、ヴィヴィオちゃんが苦痛に顔を歪める。そのヴィヴィオちゃんに追い打ちをかけるように、鞘で殴る。

 

「――ぅあッ!」

 

 それが見事にクリーンヒットしたために、ヴィヴィオちゃんは後方へ吹っ飛ぶ。

 うん。ここら辺でいいかな。いいおっぱいも見られたし。

 

「よし、じゃあ今回はこの辺にしとこうか」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 元の姿に戻り、俺に頭を下げる。うむ。礼儀が正しいのはいい事だ。

 

「――す、凄いです小鳥遊選手!」

 

「ぬ?」

 

 栗髪ツインの子と八重歯っ子が俺の下へと駆け寄り、キラキラとした純粋無垢な目を俺に向けている。や、やめて!俺にそんな綺麗な目を向けないで!自分が虚しくなる!

 

「いつも映像でしか見てなかったんですけど、生で見ると迫力が段違いですね!」

 

「凄い技術ですよね!衝裂斬とか空の御霊とか!」

 

 おぅ、熱いよ。君ら熱量が半端なくて熱いよ。焼けちゃう溶けちゃう。

 

「宗二さん!今のって何割くらい出してました?」

 

「ん?」

 

 ヴィヴィオちゃんが聞いてきた訳だが⋯⋯。どう答えよう。正直に言うか、お世辞を言うか⋯⋯。

 

「⋯⋯」

 

 や、やめて!そんなキラキラした目で見ないでよ!俺が汚れてるのが分かっちゃうから!

 

「まぁ、三、四割くらいかな」

 

「あれで三、四割ですか!?――やっぱり上位選手の壁は厚いなぁ⋯⋯」

 

 可愛い。ヴィヴィオちゃん可愛い。凹んでる姿も可愛い。

 

「あの、小鳥遊選手」

 

「ん?どした?」

 

「今度は私と手合わせお願いしてもいいですか?」

 

「ああ、いいよ」

 

「あー!ずるいコロナ!次は私だよ〜」

 

 栗髪ツインの子はコロナちゃんっていうのか。

 

「でもリオ、こういうのは早い者勝ちだよ?」

 

 八重歯っ子はリオちゃんというのか。

 

「ずるいずるい!私もやりたいのにぃ〜」

 

「私だってやりたいもん!」

 

「ああ、コロナ、リオ、あんまり宗二さん困らせちゃダメだよ」

 

 うーん。子供三人の絡みは可愛いな。

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯もう開けちゃっていいんじゃないかな。

 

 コロナちゃんとリオちゃんが言い合っていると、ヴィヴィオちゃんが一つの案を出したらしい。

 

「こうなったら、宗二さんにどっちとしたいか聞くのが一番だよ」

 

 この言葉が卑猥に聞こえるのは俺だけじゃないはず。なあそうだろ?

 

「小鳥遊選手は私としてくれますか?」

 

「宗二さんは私と先にしてくれますよね?」

 

 やめて。主語を言って。それだけ聞くと本当に卑猥に聞こえちゃうから。

 

「とりあえず、名前呼びしてくれたリオちゃんから手合わせしようか」

 

「やった〜!」

 

「そんな!?」

 

 リオちゃんは飛び跳ねて喜び、コロナちゃんはガックリと項垂れている。そんなに嬉しい?そんなに残念?

 いやでもやっぱり、名前呼びで距離を縮めてくれる人っていいじゃん?好感度上がるで。

 

「じゃあやろうか」と言おうとした時に、チャイムが鳴った。

 

「あ、もう昼休み終わりかな?」

 

「あ〜そうですねぇ」

 

「ええ〜」

 

「残念です」

 

 ヴィヴィオちゃんはあまり残念がってはいないな。リオちゃんとコロナちゃんがすごく残念がってるね。

 

「まぁ、また暇な時で構わないから手合わせしようよ」

 

「「「はい!」」」

 

 うむ。いい返事だ。

 

「そうだ!宗二さん。連絡先交換しておきましょうよ」

 

 ファッ!?ロリっ子の連絡先だと⋯⋯!?犯罪じゃないよね?ないな、よし!

 

「いいよ」

 

 ヴィヴィオちゃんと交換すると、リオちゃんとコロナちゃんもしたいと言ってきたため、二人とも交換して、三人と別れる。

 

 

 いやぁ、可愛かったな。扉は開かなくて良かった。



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九話

 ヴィヴィオちゃん達と別れて時間は過ぎ、現在は午後五時を回ったところ。俺は今、ヴィクターの家に来ている。理由は昨日明日も来ると言ったからだ。この約束を破れば俺は死ぬのだ。一度殺されかけたからな、もう次は無いだろう。

 震える手でインターホンを鳴らすと、エドガーがでた。

 

『少々お待ち下さい』

 

 門が開くと、いつもの如くドタドタと足音が聞こえる。だがいつもと違うのは、足音が二つあるという事だ。二つ?

 

「「宗二ーーーッ!」」

 

 一人は勿論ヴィクターである。いつものように大きな胸を揺らしながら俺へダイビングハグを繰り出す。ああいい匂い。ああ柔らかい。

 もう一人はジークだった。ジークはインターミドルでチャンピオンになれる程の実力者。無論タックルだって、レスリングの霊長類最強より上のはず。その彼女のタックルを腹部目掛けてされたのだ。

 

「グハァ」

 

 胃液を吐き出す。が、俺は足と腹に力を入れ、後ろに下がらないようにする。久しぶりに飼い主が帰ってきた飼い犬のように俺の頬と腹部に頬ずりをする二人。あかん、可愛い。何この二人。

 

「⋯⋯とりあえず離れてくれ。俺死ぬ」

 

 ダイビングハグを二人にされてから、一瞬たりとも腕の力を緩められていないのだ。首を締め付けられ腹部を締め付けられ⋯⋯。俺を殺す気ですか?

 

「はっ!も、申し訳ありません!私とした事が、つい」

 

 そう言ってヴィクターは離れてくれたのだが、

 

「おいこらジーク。早く離れろ」

 

「嫌や!離れて欲しいならウチを貰って!」

 

 何この子!?この子こんな強引な子だったっけ?

 

「うるせぇ!いいからさっさと退きやがれ!俺のエクスカリバーが暴発寸前なんだよ!」

 

「ならもっと刺激してあげる!」

 

「いい加減になさい」

 

 言ってヴィクターがジークの襟首を掴み持ち上げる。ありがとうヴィクター、助かったよ。あのままじゃ本当に危なかった。

 

「ちょっ!なんで止めるんヴィクター」

 

「貴方が見境ないからじゃありませんの」

 

「見境なくないもん!こんなん宗二にしかせんもん!」

 

 そう言ってくれるのは嬉しいんだが、時と場所と雰囲気とその他もろもろを考えて行動してくれ。

 さて、今もまだ言い合いをしている二人。二人を止めるべく声を掛けようとすると、

 

「「宗二はどっちの方がええん!?」どちらの方がいいんですの!?」

 

 あれれぇ?おっかしいぞぉ⋯⋯。ジークの行動云々はどこへやら。なんだか別の話になっている。――いつからそんな話になったの?

 

「おい待て話が変わってるぞ。俺は二人とも好きだからな」

 

「「はっきりして!」下さい!」

 

「そんなことより中に入れてくれ」

 

「お嬢様方。その辺で」

 

 と、いつの間にか背後に立っていたエドガーが二人を諌めてくれた。ありがとう、我が救世主。エドガーに目礼し、中に入る。

 その間も二人はギャーギャー言っていたが、宗二さんの耳はオンとオフを使い分ける事が出来るのだよ?そんな声は聞こえないな。おいジーク、今変態とか言ったな。自分の事を棚に上げてこの野郎。

 

 

 

「さて、今日はゆっっっっっ⋯⋯くりしていって下さいな」

 

 エドガーにお紅茶を出してもらい、ヴィクターが最初に言ったのがそれだ。凄い溜めるね。

 

「そんな言い方しなくてもゆっくりさせてもらうよ」

 

「なら今夜ここに泊まろ!」

 

「なんでそうなる」

 

「ゆっくりするんやろ?」

 

「いやそうは言ったけどね?俺は夜にはお家に帰るよ、あったかハイムが待ってるんだから」

 

「何処があったかいんよ。一人暮らしに温もりなんかないやん」

 

 やめて!寂しい一人暮らしの悲しいところを言うのはやめて!

 

「それくらいになさい」

 

 ジークを止めたのはヴィクターだった。

 

「それよりも宗二」

 

 と、俺の方に画面を向け、

 

「貴方が写っているのですがこれは?」

 

 それを見ると、昼間ヴィヴィオちゃんと手合わせをした写真がネット上に上がっていた。

 

「ああ、局の先輩の娘さんと練習試合してたんだよ」

 

 俺の言葉に、二人――特にジークが目を見開き、

 

「なんで!?なんで他の子とはするのにウチとはせんの!?」

 

「そうですわ!練習なら私達が手伝います!他の子とやる前にまず私達に言ってくれれば」

 

「違うんだよ。先輩に相手になってあげてって頼まれたんだよ」

 

 と言ったのだが、二人はまだ納得いかない表情でいる。

 

「その人にお世話になってるから断れないし断りたくないから」

 

 と言うと、ならしょうがないという感情にでもなったのか、二人は落ち着いた雰囲気になる。

 

「それで?どうだったのかしら?」

 

「筋は悪くない。フォームは綺麗だし戦い方も綺麗だと思う。そこら辺は師匠のお陰なんじゃない?――ただね、これはあくまで個人的な意見だけど、彼女は泥臭い戦い方は出来ないな」

 

「ふむ。綺麗すぎる戦い方のせいか性格のせいか、ね」

 

「で、宗二的にはその子はどこまで行くと思うん?」

 

「まぁ、まだ時間はあるからどうとも言えんが⋯⋯。俺の予想が正しければいいとこスーパーノービスに入れて、くじ運良ければ本戦まで行けるよ」

 

 俺の言葉を聞いた二人は驚いた顔をする。

 

「貴方がそこまで言うとは⋯⋯」

 

「てことは、期待してええっちゅう事やね」

 

「あくまで個人的な意見だし、知り合いの娘っていう事での贔屓目とその人の娘ならって期待込みの、だからな」

 

「ええ。勿論理解しているわ」

 

「いつか戦いたいもんやね」

 

 それで?とジークが続け、

 

「宗二はどうなん?」

 

「インターミドルの練習なら順調だぞ。お前らと当たった時のためにとっておきを用意している」

 

「なら、それを楽しみにしておきましょうか」

 

「はっはっはっ。楽しみにしてると瞬殺だぞ?」

 

「あら?それ程の技なのかしら?」

 

「モチのロンでございます」

 

 俺がサムズアップすると、二人は面白いと笑む。

 

「なら、ウチはそれの出鼻を挫くの楽しみにしとくわ」

 

「言ってろ」

 

 そんな会話を夜まで三人でしていた。

 

 

 

 

 

 

 ヴィクター家からの帰り。夜道を歩いていると突然、

 

「このバカったれがッッ!!!」

 

 という咆哮が聞こえた。なに!?何事!?

 一心不乱に声が聞こえた方に走っていくと、赤髪短髪の女性――ノーヴェさんが、もう一人のツインテールの女性と戦っていた。

 ツインテールの女性は、ノーヴェさんの攻撃に対し防御を捨ててバインドを発動させる。あのノーヴェさんの攻撃を受け切るとは⋯⋯。出来る。

 そしてツインテールの女性は腕を掲げると、勢いよく振り下ろそうとする。

 はっ!何を呑気に実況しているんだ俺は!

 

「今行きますよノーヴェさん!」

 

 叫び俺はセットアップを済ませ、ツインテールの女性へと走っていく。

 

「――ッ!?」

 

 間一髪、ノーヴェさんへの攻撃を防ぐことが出来た。

 

「なっ!宗二!?」

 

「大丈夫ですか?ノーヴェさん」

 

「貴方は――」

 

「やいやいやいやい!テメェ俺の大事なノーヴェさんによくも乱暴しやがったな。ぶっ飛ばしてやる!」

 

 言いながら、抜刀し斬り掛かる。何度か斬り掛かるが、どれも紙一重のところで避けられる。

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

 女性が気合いとともに掌底を放つが、それを鞘で軌道を逸らす。そして女性の腹部目掛けて白虎を横に一閃。

 

「ストップだバカ」

 

 一閃しようとしたら、ノーヴェさんに受け止められる。ノーヴェさんはもう片方の手で女性の襟首を掴んでいた。

 

「なんで止めるんです」

 

「止めるわ!こんなところで流血沙汰なんかされてたまるか」

 

 一理ある。しかしね?この人はノーヴェさんを襲ったのよ。乱暴したのよ。酷いことしたのよ。ちょっとぐらい痛い目に合わせてもバチは当たらないかと⋯⋯。

 そんな目で見つめるも、ノーヴェさんは知らん顔で女性の方へ向く。

 

「おいお前。諦めて私と一緒に来い」

 

「遠慮しておきます」

 

 と言うと女性は、体の回転を利用してノーヴェさんの襟首掴み攻撃から逃れる。なんという身軽な。

 む?女性が俺の方を向いている。

 

「――貴方はもしや、小鳥遊宗二さん、ではありませんか?」

 

 え?誰?俺こんな人と知り合いになった覚え無いのに。いや待てよ。これがヴィヴィオちゃん方式なら、俺のインターミドルの活躍を知っている人ということになる。つまり、この女性もインターミドルを目指している人、という事か?だとしたらこんなストリートファイトはしないよな。――ああ、格ゲーしたい。KOFとかしたい。

 

「そうだけど⋯⋯。あんたは?」

 

「失礼致しました。私はハイディ・E・S・イングヴァルト、覇王を名乗らせて頂いています」

 

「確保ーッ!」

 

「ええっ!?」

 

 自称覇王がいたから捕まえてやったぜ。これでギンガさんに褒めてもらえる。

 

「おい宗二」

 

「なんです?ノーヴェさん」

 

「お前そいつをどこへ連れて行こうとしてるんだ?」

 

「そんなの決まってるじゃないですか。俺の家に連れてひとつ屋根の下で――」

 

「リボルバースパイクッ!」

 

「フクヤママサハルッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、邪魔者は消えたな」

 

 ノーヴェは女性を見ると、

 

「一緒に来てもらうぞ」

 

「警察になら行きませんよ」

 

「そうじゃねぇ。私の姉の家だ」

 

 満面の笑みでサムズアップし、女性に告げる。

 

「なら、いいのですが⋯⋯」

 

 女性は突然言い淀む。何故かはノーヴェには予想がつく。

 

「この方はどうするのですか?」

 

「引きずって連れてく」

 

 可哀想に。宗二は起きた途端、不自然な下半身の痛みに悶えることになるだろう。



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